エア・ギア【RTA風】 (八知代)
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天空の塔
1話 キャラクリエイト


 流行りにのった(のれてるとは言ってない)


 エア・トレック(A.T)を使ったハイスピードストリートアクションゲームのRTA実況はーじめーるよー。

 

 

 はい、はじめまして。私が今回実況させてもらうのは、大暮維人先生のエア・ギアが原作のゲーム「エア・ギア~鳥達の舞う空~」です。

 

 最近部屋の掃除をしていたら出てきましてね~、久々にプレイしたら楽しくてヤリこんでしまいました。

 

 

 知らない皆様のために軽くこのゲームを説明しますと、A.Tという凄いインラインスケートを履いて走ったり飛んだり、敵の服をボロボロに引き裂いて裸にしたり血達磨にしたりします。

 さらにチームを作って青春したり、好きな相手ときゃっきゃうふふなことをしたりもできます。今回は(RTAなので勿論)ないです。

 

 また、このゲームは原作キャラを使っての原作追体験や、逆にオリジナルキャラを使っての原作ブレイクも可能です。

 特にオニギリを使って女性キャラにセクハラしまくっての「BUTA☆BAKOエンド」はとても面白かったです(愉悦)

 

 

 さてさてゲームの簡単な説明も終わったところで……今回は最速で【空の王への鍵】のトロフィー獲得を狙ってイクゾ。

 

 ……というか誰も走ってないようなので、完走すれば必然的に私が世界一位です。みなさんもっと走って、どうぞ。

 

 

 タイマースタートは「はじめから」を選択時、トロフィー獲得と同時にタイマーストップです。

 

 

 それでは「はじめから」を選択して……よーいスタート(棒読み)

 

 

 残念ながら「はじめから」のため、世界観説明やOPなどのムービーは飛ばせません。ん、RTAなのにそんなんでいいのかって?文句あんなら表出な(逆ギレ)

 

 はーい。じゃけん今のうちに皆様方にチャートの説明をしましょうね~。

 

 

 今回目標のトロフィーは【空の王への鍵】!このトロフィー獲得の条件は、オリジナルキャラで「王」になる&「オリジナル玉璽(レガリア)」を所持することである!!

 

 

 選択肢は二つ。一つ目は原作キャラに勝利して「王」の称号と「オリジナル玉璽」を手に入れる、所謂「下剋上ルート」デス。

 

 しかし、原作に出てくる王はどいつもこいつも強いんですよね~……ええまあ、しっかりとしたキャラ育成とPSがあれば勝利することは可能です。可能ですが時間が掛かります。

 

 ふつーに(RTA的にありえ)ないです。下剋上がそんな簡単にできると思うなよ(ガチギレ)

 

 そもそも王に挑戦するには幾つか手順を踏む必要があります。

 

 まずA.Tを買います。A.Tは非常に高価で、安いものでも10万前後します。さらに交換パーツも高いです。未成年の場合これらを買うためにバイトをしたり、親を説得しなければなりません。ちなみに話術などのスキルがないと失敗することがあります(7敗)

 

 次にチームを作ります。五人以上のメンバー集め、縄張りの確保やチームウェアの準備、チーム名や族章もきめなければなりません……もうすでに面倒になってきました(絶望)

 あぁ、既存のチームに入ることも可能ですが、加入にはステータス面や好感度面で条件がついてたりしますのでやっぱりロスです。

 

 さらにパーツ・ウォウに参加してランクを上げて有名にならねばいけません。王は無名なんぞ相手にしてくれませんからね(13敗)

 

 ん?イッキは序盤にシムカとかスピット・ファイアにあってるじゃないかって?……お前は主人公じゃないんだよ!!(無慈悲)

 

 

 はーい、面倒ですね。なので今回は、もう一つの選択肢を採用します。

 

 

 

 ズバリ「第一世代重力子ルート」

 

 その名の通り、第一世代重力子でプレイするというものです!……はい、それだけです。あっ、やめてください!ゴミを投げつけないで!すいません許してください!なんでもしますから(何でもするとは言ってない)

 

 

 ……いやね、出自やスキルはガチャなのでそれなりに時間はかかるんですが、それでも「下剋上ルート」と比べたらこっちの方が早いんですよ~。

 

 

 

 あ、OP終わりましたね。チャートの説明はここまでにして……それじゃキャラクリ、イクゾ-

 

 

 

 はい、まずはプレイアブルキャラクターの選択です。「小烏丸」や「眠りの森」などの項目をすっ飛ばして、一番下の「オリジナル」を選んでキャラクリを開始します。

 

 

 最初に決めるのは出自ですね。先程も言った通り、ここで「第一世代重力子」を引かなきゃ話になりませんよ。出るまで脇目もふらずガチャガチャします。

 

 

「一般家庭中学生」

「一般家庭中学生」

「富豪家庭高校生」

「貧困家庭小学生」

「一般家庭高校生」

「富豪家庭中学生」

「大学生」

「一般家庭中学生」

 

 

 出ませんね……リセマラを続けながら出自ガチャについて説明します。

 

 

 有志による攻略wikiによると60%で一般家庭、10%で富豪家庭、10%で貧困家庭、10%で大学生、5%で社会人……これで95%ですね。ちなみに年代で1番出やすいのは、主人公のイッキ達にあわせて中学生だそうです。

 

 

「一般家庭小学生」

「社会人」

「一般家庭中学生」

「一般家庭中学生」

「一般家庭中学生」

「一般家庭高校生」

「一般家庭中学生」

「第二世代重力子」 

 

 

 チッ、第二世代ですか……もちろんガチャ続行です。

 

 

 さて、残りの5%です。まず4%で第二世代重力子。残りの1%が第一世代重力子……ではなく、0.5%が石油王、0.3%で研究者、0.1%で脳基移植、そして残りの0.1%が第一世代重力子です。くそガチャですね。

 

 

「一般家庭高校生」

「一般家庭中学生」

「社会人」

「社会人」

「第二世代重力子」

「一般家庭中学生」

「一般家庭中学生」

 

 

 ……でないですね。それじゃ、なぜ第一世代重力子を狙うのかを説明しましょうか。

 

 

 理由は簡単です。よっぽど酷いステータスじゃない限り「王」の称号と「オリジナル玉璽」が必ず貰えるからです。

 

 

 そもそも重力子とは、「天空の塔」の中でロスト・エネルギー問題解決の切り札としてのA.Tをより効率良く扱うために実験的に生み出された子供たちのことを指します。

 

 重力子は普通のライダーとは比べ物にならないほどのA.Tの腕前です。さらに全員が生まれながらに特殊能力を持っていて、目に見える全ての物体を三次元的に捉え完璧に近い精度で相手の次のアクションを予測する「立体把握幹(ソリッド・センシティブ)」と「生体羅針盤(バイオマス・ジャイロスコープ)」の能力を使うことによってA.Tの能力を最大限に発揮することができます。

 

 ちなみにこの二つの能力、この後ガチャをするスキルとはまた別に保有できます。お得ですね。

 

 

 また、このゲームでは「王」の称号はある一定の戦レベルに達すると名乗れるようになります。

 

 つまり第一世代重力子であれば初期値で戦レベルが普通のライダーより高くできるため、比較的鍛練の時間が短くできるのですよ!

 

 何の王になるかはそれまでのプレイングによって変わります。現在の攻略wikiでも100以上の項目が確認できますね……公式の頭おかしいんじゃねえの?(歓喜)

 

 

 

「富豪家庭小学生」

「富豪家庭高校生」

「貧困家庭中学生」

「一般家庭中学生」

「大学生」

「大学生」

「一般家庭中学生」

 

 

 

 ハァーーーッ……(クソデカタメ息)こんなんじゃRTAにならないよ(棒読み)

 

 

 えっと、気を取り直して次は「オリジナル玉璽」について説明します。そもそも玉璽は第一世代重力子ひとりひとりのために調整されたパーツです。つまり第一世代重力子でスタートすれば勝手に手に入ります。楽勝ですね。

 

 

 

 つーまーりー!第一世代重力子であれば簡単に【空の王への鍵】のトロフィーが手に入るんですよ!(QED)

 

 

 まぁ、それなりのステータスがないとラスボスである武内空に玉璽を食べられちゃう可能性が出てきますが……その前にトロフィー取っちゃえば問題ないですね。

 

 

 

「一般家庭中学生」

「一般家庭中学生」

「一般家庭高校生」

「第二世代重力子」

「大学生」

「富豪家庭中学生」

「一般家庭高校生」

「一般家庭中学生」

「一般家庭中学生」

「一般家庭高校生」

「一般家庭中学生」

「社会人」

「第一世代重力子(成功)」

 

 

 や っ た ぜ 。

 

 

 ツモりました!20分くらい無心でガチャしてましたからね!いやいやこれでも全然早い方ですよ!試走してたときには、な~んか沼ってガチャっても全然出なかったこともありましたし!(35敗)そう考えるとツモれた時点で神憑ってるといっても過言では……ん?

 

「第一世代重力子(成功)」

 

 こマ?

 

 やりました!やりましたよ!完全勝利です!0.1%の壁をぶち抜いて0.01%にたどり着いてやりましたよ!

 

 

 第一世代重力子は全部で28人(ゲームはプレイヤーも含めて)なのですが、キリク以外は出来が悪いと研究者たちに評価されていました。あのラスボスの武内空でさえもです!お前それでもラスボスかよぉ!

 

 「第一世代重力子(成功)」はキリクと同レベルなので初期ステータスに振れるポインヨが並外れてます。私も見たのは初めてです。

 

 

 いやーガチャに大分時間を使いましたが、これは良いタイムが期待できそうですよ。

 

 

 

 出自が決まったら次はスキルガチャですね。保有できるスキルの数は3つで固定です。ここはあまりに酷いスキルでもない限りリセマラしません(腱鞘炎)……しませんよ(鋼の意思)

 

 それじゃあ、ガチャガチャっと。

 

 

「感情欠落」「魅力」「求メル者」

 

 

 なるほどなるほど……ざっくりと説明します(wikiガン見)

 

 

「感情欠落」

 喜怒哀楽が欠落している。怒りなどの感情による実力の向上(バフ)がないが、緊張などによる実力の下降(デバフ)もない。

 

「魅力」

 他人に好かれやすくなる。

 

「求メル者」

 練習及びバトルによる経験値がアップする。低いステータス項目では経験値がさらにアップする。

 

 

 こんな感じですね。

 

 

 「感情欠落」はRTA的には他者との交流を極力減らせるためうま味です。

 

 「魅力」は一見すると感情欠落のメリットを打ち消す悪い子のようですが……このチャート、とある人物の好感度が必要になるので、むしろ必要です(マッチポンプ)

 

 「求メル者」は走者にはお馴染みのスキルですね~。経験値増加のスキルとしては「天才」とか「経験値倍加」とかの方が優秀なのですが……高望みはやめましょう。

 

 

 あまりに酷いデメリットでもないですし、どうにかなるでしょう。何てったって「第一世代重力子(成功)」ですからね(余裕の笑み)

 

 

 

 決定して!次!

 

 

 

 性別は男。年齢は23歳にして、外見はちゃちゃっとランダムで決めます。

 

 お、一発目にしてなかなかのイケメン君が出来上がりました。と言っても別に容姿の良い悪いはステにもタイムにも関係ないんでどうでもいいです!

 

 

 ちなみに、この容姿は原作開始時のものになります。原作開始前にトロフィー獲得する予定なので、もう二度とこの姿を見ることはないでしょう……悲しいなぁ(諸行無常)

 

 

 

 はい、次ぃぃいい!

 

 

 ステータスにポインヨを振るゾ。「第一世代重力子(成功)」だから100ポインヨ振れます。なので……こう!やって!振り!ます!

 

 

耐久力(タフネス)」 →1

持久力(スタミナ)」→96

攻撃力(オフェンス)」→1

技術(テクニック)」→1

機動力(スピード)」 →1

「調律」 →0

 

 

 

 説明は後で!次ぃ!!

 

 

 

 キャラクリ最後は名前です。これはもう決めてます。

 

 

栖原 椎名(すばら しいな)

 

 

 すばら→ばら→薔薇。略してほも君!……にしたかったのですが、エア・ギアには既に左安良というレジェンドホモがいます。

 

 仕方ないのでスシ君とでも呼ぶことにします。私は炙りサーモンが好きです(隙自語)

 

 

 はい、決定押したらキャラクリ終了!

 

 

 

 

 オートセーブが入りましたね。

 

 区切りが良いので今回はここまで!ここまで見てくれて、ありがとナス!

 

 

 



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2話 チュートリアル

みんなRTA好きだろ?俺も好きだったんだよ!(突然の告白)



 日常から一転、いつのまにか世界の命運を掛けた戦いになっている系ハイスピードバトルアクションゲーム、はーじまーるよー!

 

 

 はい、じゃあ今読み込みしているのでちょいとチュートリアルの解説をば。

 

 第一世代重力子のチュートリアルは、天空の塔(トロパイオンのとう)所属の研究者からのA.Tや重力子(グラビティ・チルドレン)──略してグラチルについての説明から始まります。

 

 その後は軽くA.Tの走り方をならって、そのままA.Tをプレゼントしてもらったらチュートリアルは終了です。

 

 

 ちなみに第一世代グラチルの成功体でスタートすると諸々の説明をしてくれるのは“黒幕”こと南林太博士になるそうです(wikiチラ見)おう博士、ちょっくら死んでくれや(丁寧な挨拶)

 

 

 お、読み込み終わりましたね。

 

 

〉〉目を開けるとそこには白衣を纏った女性が一人、此方を観察するようにじっと見つめていた。

 

 

 あれ?女?黒幕じゃないですね……まあ別に黒幕である必要はないのでどうでもいいですが。そもそも成功体でのプレイデータが少ない訳ですから誤差ですよ、誤差。

 

 

「おはよう、栖原椎名くん。気分はどうかしら?」

 

 

〉〉少し思考に靄がかかったような感じはあるが特に問題はないことを伝える。それを聞くと彼女は少し目を伏せたが、直ぐに顔をあげて淡々と語りだす。

 

 

 はい。ムダなテキストが挟まりましたが、ようやくA.Tとグラチルの説明をしてくれましたね。これは何回も聞いた説明なんでスキップ(ボタン連打)です。

 

 前回も軽く説明しましたが、とりあえず原作をよく知らない皆様は「A.T=凄い技術の詰まった凄いインラインスケートっぽいもの」「グラチル=A.Tをうまく扱うために産み出されたガキども」とでも覚えといてください。

 

 え、もっとちゃんと教えろって?でもこれRTAだから(無慈悲)

 ちゃんと知りたかったら原作買ってね(ダイマ)

 

 ……私は読んでも良く分かりませんでしたが。はぁー、つっかえ。やめたらこのRTA?

 

 

〉〉説明を終えた女性に連れられて場所を移動する。暫くして辿り着いたのは、何もない真っ白な四角くて広い部屋だった。彼女からA.Tを渡される。

 

 

「椎名くん。君の好きなように走ってみなさい」

 

 

 おかのした。まぁチュートリアルは、走ったり止まったり跳んだりと同じことしかしないので飽きました。なのでちゃっちゃと終わらせます。

 

 

〉〉一通り走り終わった後に女性を見る。彼女は口元に手をやり考え込んでいる。暫くすると部屋を出ていく。彼女が帰ってくるまでここで待っていなければいけないらしい……さて、何をしようか?

 

 

 はい、自由時間はA.Tの練習です。当たり前だよなぁ?

 

 取り敢えず、全速力で壁走り(ウォールライド)をしますよ。はーい、光の速さで転けました~。さっさと立ちあがって再トライ。あくしろよ。

 

 

 これを繰り返します(鋼の意思)

 

 

 壁を走っては転け、走っては転けを繰り返すという見所さんの欠片もない時間なので、ステータスについて説明しましょう。

 

 キャラクリ時のスシ君のステを改めてのせます。

 

耐久力(タフネス)」→1

持久力(スタミナ)」→96

攻撃力(オフェンス)」→1

技術(テクニック)」→1

機動力(スピード)」→1

「調律」→0

 

「耐久力」は体力やHPと呼ばれるものです。練習時やバトル時に攻撃をくらったり、壁にぶつかったり、転んだりしたら減っていきます。0になったら練習中断や、バトル終了になりますね。戦レベルに少し影響します。

 

「持久力」は行動力です。つまるところ、変なドリンク飲んだり林檎かじったら回復するアレです。練習やバトルができる回数に直結します。あと、長時間全力で練習やバトルをしてもジリジリ減ります。戦レベルにほんのちょっと影響します。

 

「攻撃力」は解説不要でしょう?戦レベルにそこそこ影響します。

 

「技術」は技に関係するステータスです。ただ走るのも技ですし、跳ぶのも飛ぶのも技です。さらに言うと戦レベルに一番影響を与える項目となっています。つまり!ごっつ大事やねん(突然の関西)

 

「機動力」も解説不要でしょう?疾走感のないエア・ギアなんて見たくないですね。アニメのOP?知らない子ですね。戦レベルにかなり影響します。

 

「調律」は「道具屋(トゥール・トゥール・トゥ)」で調律者にでもならない限り必要ありませんし、戦レベルにも関係ありません。

 

 

 さーて、一通り解説したので初期スシ君のステータスを見てみましょう。

 

 地面や壁に突っ込めば一撃でノックアウトするほどの「耐久力」!

 

 しかし!すぐさま起き上がり何度でも行動できる、達磨を彷彿とさせる「持久力」!

 

 「攻撃力」はクソ雑魚パンチ!

 

 跳んだり跳ねたりが精一杯の初心者丸出しの「技術」!

 

 安全運転!「機動力」!

 

 「調律」ぅ?知らん!

 

 

 総括!戦レベル2の実力者!!(クソ雑魚モブ並)

 

 

 

 あっ……(察し)

 

 なるほど、トロフィー獲得のことしか考えてませんでしたが、端から見ればこれはグラチルとして失敗どころか一般ライダーと比較してもダメダメですね。

 

 

 そりゃ、黒幕も出てきませんわ(呆れ)

 

 

 まあ、いいです(掌ドリル)

 「求メル者」のスキルをもつスシ君は、このステ振りでこそ輝くのですから!

 

 

 見とけよ見とけよ~

 

 

 ──もっかい!───はい、もういっちょ!─────まだまだ!──────よっし!見てください!この短時間で壁走りを完璧にモノにしていますよ!

 

 

 …………はい。(初期の個人練習の見所さんなんて)ないです。

 

 そもそもこの部屋はチュートリアル用のトレーニングルームなんで広さも大したことないし、障害物だってありません。

 

 まあ走り出したばっかだしね、しょうがないね。

 

 

 じゃけん、お暇な皆さんにスシ君のスピーディーな壁走りを見てもらいながらステータス上げについて説明しましょうね~。

 

 基本的なステータスの上げ方は単純。使えば成長する!

 

 練習で転けたり、バトルでタコ殴りにされれば「耐久力」UP!

 

 練習やバトルを沢山こなせば「持久力」UP!

 

 ……みたいな感じで、成長していきます。ちなみに経験値の効率は、個人練習(短時間)<格下とのバトル<個人練習(長時間)<格上とのバトルといった具合でしょうか。さらに言うと、「耐久力」が0になって練習を中断したり、バトルに負けたりしてもそれまでの経験値は貰えます。

 

 

 ま~だ女研究者は帰ってこないようですね。仕方ありません、それではスシ君のステータスの上げ方について少しお話ししておきましょう。

 

 先程もいった通りスシ君は「求メル者」のスキルを持っています。

 

 練習やバトルでの経験値が増えることも勿論大事ですが、一番重要なのは低いステータス項目は経験値がさらに増えることです。ガリ勉かよ。

 

 「持久力」は練習やバトルをするために必ず使うので経験値が入ります。練習やバトルのなかで「耐久力」「攻撃力」「技術」「機動力」を使って経験値がドーンと入ります。

 

 わかりましたか?あとは「持久力」の数値をそれ以外のステータス項目の数値が追い抜くまでヤるだけの簡単な作業です(おめめグルグル)

 

 普通はもっと均等に割り振るんですが、あのスキル構成になった一瞬で割り振った私を誉めてください……誉めろよ(豹変)

 

 

〉〉壁を走っている最中に扉が開く。

 

 

 おっと、スシ君ストップ~。

 

 

〉〉ぶつからないよう急ブレーキをかけ、そのまま扉の近くの床に降り立つ。入ってきたのは先程出ていった女性だった。彼女は部屋の中を見渡し、最後に此方を見た。

 

 

「少しA.Tの調律をするわ。脱いでくれるかしら」

 

 

 やだよ(即答)

 

 

〉〉言われた通りA.Tを脱いで女性に渡す。明日の朝には返してくれるそうだ。彼女に自分の個室──最初に目覚めた部屋に戻るように言われた。道は覚えている。戻ろう。

 

 

 やだ!小生やだ!かえらない!

 

 

 ……このゲームの魅力でもあり唯一の不満と言えばこれですかね。スキルにある性格特性に行動や選択肢がひっぱられること。

 

 普通にプレイしてるぶんにはね、オリキャラが正しくその世界に存在しているかのように振る舞ってくれるので嬉しくもあるんです。あぁ、こいつはここで生きているんだってね。

 

 でも走者にとっては別です(おこ) 思い通りの選択肢がでなかったり(まじおこ) 勝手に原作キャラと険悪になったり(激おこ) 勝手にぃ!原作キャラと!フラグ建てて!あまつさえ付き合ったり!!(激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム)

 

 

 ……失礼、取り乱しました。ふぅ、大丈夫っすよバッチェ(頭)冷えてますよ。

 

 

 まあ、これくらいは問題ないです。チュートリアル初日はどうせ大したこと出来ませんからね(情緒不安定)

 

 

 そうと決まったらこんなところに用はありません。さっさとマイルームへ帰りますので倍速!

 

 

〉〉部屋に帰ってきた。部屋のなかにはベッドや机、本棚が置いてある。生活感が感じられない部屋の中で、様々な種類の本が納められているその本棚だけが少し異様に見えた。……少し本棚を物色しようか?

 

 

 やだよ(即答)……と言いたいところですが、持久力も大して減ってないのでスシ君の好きにさせましょう。

 

 

〉〉適当に本を1冊手に取る。「世界の鳥図鑑」を読もうか?

 

 

 なんでもいいから、あくしろよ。

 

 

 ハーーーーッ……(クソデカタメ息)

 

 本当はさっさと寝て明日に回(スキップ)したいのですが、実はこのゲームには様々なマスクデータがあるんですよ。好感度とかストレス度とか。

 

 あまりにもそのキャラクターの特性から離れたことをしすぎると、ストレス度がグングン上がっていきます。

 ストレス度が上がるとプレイヤーの手を離れて好き勝手することがあります。そして大体ろくなことになりません。

 

 

 例えばイッキで全然A.T使わないで勉強とかさせてたら、ストレスで頭禿げるわ真っ裸で公道をA.Tで走り回ってマル風Gメンに捕まったりします。

 

 オニギリで禁欲生活しようとしたら1日ともたず、性犯罪を犯してお縄になりました。

 

 ウスィーのでイッキより目立ちすぎる生活をしたら胃に穴が開きます。

 

 

 そんな感じなので、ある程度キャラクターの意思を尊重してさしあげろ……こんなんじゃRTAになんないよ~(棒読み)

 

 

〉〉「世界の鳥図鑑」を読み終わった……もう寝ようか?

 

 

 そうしてください(半ギレ)

 

 

 オートセーブ入ったんで今日はここまで!次回はちゃんと進みますから!許してください!なんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 壁を見て、そこにつけられた真新しい傷の数々に手を添える。密室なはずのそこで、風が頬を撫でた。

 

 

 悪い気はしなかった。

 

 

 少し目線を上げる。自身の身長と同じくらいの高さに出来た、さきほどより深い壁の傷に指をあてがい、その傷に沿って壁際をゆっくり歩く。

 

 特殊な素材で出来た壁は頑丈で冷たいはずなのに、指先は暖かさを感じていた。

 

 途切れることのない傷に導かれるように部屋を一周する間、指の位置は一切変わらなかった。

 

 先程より強い風が頬を撫でる。

 

 

 涙が一筋、すぅっと流れた。

 

 

 今度は優しくて暖かい風が全身を包むように吹いた。

 

 

 

 

 

 それでも、頬が乾くことはない。

 

 

 

 

 

 




 
 見きり発車で書いてるゾ(小声)



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3話 経験値だっ!囲めっ!

この小説、行き当たりばったりで書いてます。
頭空っぽにして読んでください。

評価入っててビックリしました。ありがとナス!




 イッキが中学生だってことをついつい忘れちゃう系ハイスピードバトルアクションゲームのRTA、はーじまーるよー!

 

 まぁ、このRTA(小説)じゃイッキ出てきませんけどね(マジキチスマイル)

 

 

 ホンジャマカ、やっていきましょうかね。

 

 

 

〉〉目が覚めると同時に、扉をノックする音がする。

 

 

 入って、どうぞ。

 

 

〉〉入室を促すと扉が開く。入ってきたのは昨日の女性だった。

 

 

「おはよう椎名くん。約束通りコレ、返すわね。あと今から塔の中を案内するから準備してくれるかしら……それと私のことは“アナタ”ではなく“先生”と呼ぶように」

 

 

 はいはい、モブの呼び方なんてどうでもいいから。ほらいくどー!さっさとトレーニングルームに連れてけよ、ほら倍速だ。

 

 

 というわけで、施設をまわっている間に「天空の塔(トロパイオンのとう)」の説明をざっくりしましょう。

 

 

 こ↑こ↓はスシ君たちグラチルが生み出され、育てられている場所です。その全長はな、な、な、なんと2万4000m!はえ^~すっごい大きい……

 

 あっただし、そんな立派なナニが地球にハえてるわけではありません。その逆、地球の内核の方に掘って建設されています。

 ……つまり、地球はメスだった?(迷推理) 塔とは?(哲学)

 

 えっと真面目な話をすると、元は死火山である東雲山の安定したマグマだまりを利用した永続的な地熱発電施設なんですよね。

 

 そして将来的には(原作では)「眠りの森」のエリアであり、「究極の玉璽(レガリア・オブ・レガリアス)」である「空の玉璽」が封印されている場所でもあります。

 

 

「それじゃ、あとは自由にしていいわよ。もちろん、立ち入り禁止区域以外でね」

 

 

〉〉此方が頷くのを確認すると先生は去っていった……さて、何をしようか?

 

 

 お、案内が終わったようですね。ではトレーニングを始めましょうか。

 

 えー、障害物多目なトレーニングルームは……はい、空いてますね。それじゃあイクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)

 

 

 そんでもっていきなり倍速ぅ!

 

 様々な(トリック)を決めますが、たいした見所さんなんてありませんから!

 むしろヒーリングソングを流して、皆様に癒しを提供する私は走者の鏡では?(自画自賛)

 

 

 うーん……「求メル者」のお陰でステータスの伸びは悪くないですが、やっぱバトルに比べるとイマイチですね。

 やっぱりこ↑こ↓は手当たり次第にヤツを探すしかないでしょうか?でも少し「技術」の数値が低くて壁登り(クライミング)が安定しないんですよね……壁系の技がないと行けない場所があるから、1回で探しださないとロスになるし……仕方ないですね、もう少しステータスをあげてから探索しに──ってなんで等速に戻すんですかね!

 

 

〉〉トレーニングルーム内に ポーン という音が響く。誰かが入室を求めているようだ……どうする?

 

 

 入ってまーす。全く、誰ですかこんなことをするのは!?またお前か、女研究者か!

 

 

〉〉無視して練習の続きをしようとすると再び ポーン と聞こえた。

 

 

 ンアッー!もう誰だよ!邪魔すんな!(ガチギレ)さっさと用事終わらせて帰れ!

 

 

〉〉急な用事だろうか?手元のスイッチで扉のロックを解除する。扉が開くとそこにいたのは一人の少年だった。整った顔立ちの白髪の少年。彼の瞳には十字が浮かんでいる。パッと見では此方と同じくらい……いや、もしかしたら少し幼いかもしれない。

 

 

 ファッ!?

 

 

「邪魔をしてすまない。能力検査以外でこの部屋が使われているのが珍しくてね。思わず誰がいるのかを確かめたくなってしまったんだ」

 

 

〉〉構わないと伝える。少年は微笑みながらこちらに寄ってきた。

 

 

「それは良かった!僕のことは番号ではなく、キリクと呼んでほしい。君のことはなんて呼べばいい?」

 

 

〉〉番号?のことはよく分からない。とりあえず栖原椎名と呼ばれていることを伝える。

 

 

「いい名前だね。シイナって呼んでもいいかい?」

 

 

〉〉此方が頷くとキリクは右手を差し出してきた……どうする?

 

 

 確保ぉぉおおお!握れ!光の速さで握れ!経験値を逃がすな!

 

 フハハハハハ!勝ったッ!第3部完!

 

 はい!先程探しに行こうか悩んでいたのは、グラチルNo.1の能力の持ち主キリクのことだったんですね!

 

 そのキリクが!向こうからやって来ました!カモネギ!カモネギ!

 

 いやー、やりました。これでステータス上げがスムーズにいきます。

 

 キリクは真面目なヤツです。こちらが一生懸命練習してるのを馬鹿にしないでくれます。未来のラスボスではこうはいきません(ディス)

 

 キリクは密かに処分されそうになっていたグラチルを助ける優しいヤツです。最終的には鬼のような回数のバトルに付き合ってもらう予定ですが、優しいのでなんやかんや付き合ってくれます。未来のラスボスではこうはいきません(ディス)

 

 そしてなにより!キリクは!経験値がうま味なヤツなのです!未来のラスボスでは(今は)こうはいきません(ディス)

 

 

 さぁ!そんなわけでスシ君!キリクには全力で媚を売っていけ!(ホモ) しかし、親友にまでなってはいけない!!(戒め) 何故なら未来のラスボスに目をつけられるから!!!(迫真)

 

 

「よろしく、シイナ。ところでシイナは、能力検査でもないのに此処で何をしてるんだい?」

 

 

〉〉A.Tの練習だと端的に言う。ついでにA.T歴2日の初心者だとも。それを聞いたキリクは少し首をかしげる。

 

 

「真面目なのは良いことだね。でも……2日?確かに僕たち重力子は見た目通りの年齢ではないこともあるけど、それにしたって……ちなみに、その前までは何を?」

 

 

〉〉覚えていない……が特には支障はないと素直に告げる。それを聞いて少し気まずそうなキリクに、そんなことより練習に付き合ってくれないかと尋ねる。

 

 

「う、うん!わかった。僕でよければ付き合うよ」

 

 

 スシ君、やりますねぇ!スキルに「魅力」があるだけありますよ!

 

 

 

 それでは スシ君vsキリク ゴーファイッ!終了!スシ君の負け!

 

 はい、というわけで倍速入りまーす。いいゾ~コレ。こんな感じでスシ君には光の速さで負けてもらいます。

 昨日の個人練習で多少はステータスが上がったとはいえ、まだまだクソザコですからね。キリクに一撃入れるどころか追い付けもしません。

 

 なので バトル開始→戦う→光の速さで敗北→経験値獲得→バトル開始 のゾンビ戦法でステータスを上げてもらいます。

 

 「耐久力」と「持久力」が別だからこそできる方法ですね。バトルで「耐久力」が0になっても、改めてバトルを始めると「耐久力」全快でスタートできるんですから。

 

 キリクからみれば気味悪いでしょうね。ボコった相手がけろっと起き上がって再戦申し込んでくるんですから。

 

 

 

 

 

 

 そろそろ終わりそうですね。等速に戻します。

 

 

「……シイナ。この辺で切り上げないか?もう晩御飯の時間だし、君も疲れたろ?」

 

 

 ま、まぁまだまだ余裕ですが?キリクが?そう言うなら?許してあげないこともないですよ?(震え声)

 

 

〉〉キリクの言葉を地面に倒れながら聞き、無言で頷く。疲れた。一体何時間、彼と走っていたのだろうか?

 

 

 スシ君は素直すぎますね。もう少し虚勢をはってください。私が馬鹿みたいじゃないですか(馬鹿)

 

 ……まあ「持久力」残り5%切ってますし、バテバテでも仕方ないですね(掌クルン)

 

 

「ほら、立てるかい?」

 

 

〉〉キリクが此方に手を差しのべている。彼は息切れ一つしていない様子だ。実力に天と地ほどの差があるのは間違いない……今日みたいに彼と走っていれば、いつかは追い付けるだろうか?

 

 

 おっ、そうだな。

 

 

〉〉キリクの手を握り、立ち上がらせてもらう。肩を貸してもらい自室の方へ向かう。

 

 

「え、シイナの部屋こっちじゃないの?」

 

 

〉〉自室はどうやら他の重力子の部屋とは少し離れた所にあるようだ。此処までで良いことを伝えて、キリクから離れる。

 

 

「本当に大丈夫かい?……いや、やっぱり最後まで送るよ」

 

 

〉〉問題ないと改めて伝える。ついでに、良かったら明日も付き合ってくれないかと図々しいお願いをしてみる。

 

 

「君ってヤツは……わかったよ。明日、ちゃんと来いよ」

 

 

〉〉キリクはそう言うと、振り返ることなく去っていった……部屋に帰らなければ。

 

 

 キリクさん!オナシャス!

 

 よーし、約束も取り付けたからさっさと帰ります。

 それにしても失敗しました。本当はもうちょっと「持久力」残しておくはずだったんですが、最後のバトルでキリクがなかなかスシ君を倒してくれないから微妙に計算が合わなかったんですよ……

 

 

 あ、暗転した……これはスシ君ぶっ倒れましたね。

 

 

 まぁ、いいです。「持久力」は部屋で寝ないと全快しないのですが、廊下で寝ても7割くらいは回復するのでどうにかなるでしょう(ガバ)

 むしろ移動距離が減るので……まあ、多少はね?

 

 

 

 

 とりあえず、オートセーブ入ったんで今回はこの辺で区切っておきましょう。閲覧ありがとナス!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「キリク、何かあった?」

 

「シムカか……どうしてそう思う?」

 

「だって、いつもだったらご飯のあとは本を読んでるのに今日はA.T見ながら笑ってるから」

 

 

 僕は妹のその言葉でようやく顔をあげる。

 

 

「笑ってた?」

 

「うん、だからなにか良いことあったんじゃないかなーって」

 

 

 僕は、もう一度目線を自分の足……正確にはA.Tをみた。

 

 栖原椎名。僕より少し高い身長。襟足の少し伸びた黒髪。前髪の奥に隠れた眠たげな目。その漆黒の瞳には、僕たちと同じ十字が浮かんでいた。

 

 

 

 そんな彼は……A.Tが引くほど下手くそだった。

 

 

 

 初心者丸出しの走り(ラン)―20点

 

 跳躍(ジャンプ)(トリック)も拙い―30点

 

 一発で倒れる、男にあるまじき身体(フィジカル)の弱さ―50点

 

 

「……ふっ」

 

「なに?」

 

「いや、今のは思い出し笑いと言うヤツだね」

 

「やっぱりなにか面白いことあったんだ」

 

 

 シムカが座っている僕の正面にまわり、肩を掴んで揺らしてくる。

 頭が揺れる。やめてくれ。

 

 

「……面白いことっていうか」

 

 

 シムカの手がとまる。まったく、髪がぐちゃぐちゃだ。

 

 

 

 

 

 シイナ……瞳の中に十字を持つ、僕らの仲間(グラビティ・チルドレン)。僕らはA.Tをうまく使うためだけに生み出されたはずなのに、どうしてあんなにド下手クソなのか分からない。

 

 わからないけど……

 

 

 

 

────「もう一回、頼む」

 

 

 

 

 その不屈の精神だけは認めよう(+30点)

 

 

 

 

「……楽しみなことは、見つけた」

 

「?」

 

 

 

 

 赤点ギリギリだけどね。

 

 

 


 

 

 

 

 カッ!カッ!カッ!カッ!

 

 

 ハイヒールの音が、静かな廊下に反響する。

 

 

 音の主は薄暗い廊下の片隅に転がっているモノを見つけた。

 ソレに近づいて傷がないことを確かめると、ソレを拾って再び歩きだす。

 

 

 コツ……コツ……コツ……

 

 

 静かに、ゆっくりと。

 

 




実況風と一人称と三人称と……これもう(何書きてぇか)わかっんねぇな!



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4話 貴様!みてるなッ!

感想が来ていることにビビり、評価バーに色がついていることにビビり、日間のランキングに載っていることにビビりました。

そんなに人を悦ばせてさぁ、あんたら誇らしくないの?


 世界一位の男に媚を売るRTA!もう始まっている!!

 

 

 南米の主婦層の辺りには八位だと言っている男もいるが、とんでもない世界一位は世界一位なんだよ。

 

 

 失礼。変な電波を受信しました。

 

 

 

 はい、というわけで現在倍速にてキリクとのバトルをお茶の間にお送りしております。

 

 

 てゆーかなんでかよくわかんないんですけど、スシ君が目覚めたのが廊下じゃなくてマイルームだったんですよね……スシ君、寝てる間に歩いたの?ホラーじゃん。

 

 

 まあ、なんであれ「持久力」全快なのは良いことなので問題はありません!

 

 

 

 さあさあさあさあ、スシ君!鬼のようにキリクにバトルを申し込むのです!!倍速で!

 

 

 

 そうですね~、A.T歴三日目のスシ君の戦レベルはようやく20に到達って感じでしょうか。具体的に言うと“小烏丸”結成当時の仏茶といい勝負ですね……クソ雑魚過ぎぃ!

 

 そんなわけでスシ君は限界までキリクに挑んで、どうぞ。もちろん倍速で!

 

 

 

 

 うーん……時間があるので、このゲームでの「(バトル)レベル」についての説明を簡単にしましょうか。

 

 ズバリ「戦レベル」とは!ライダーの強さの指標である!終わり!以上!閉廷!皆解散!……だめですか?そうですか。

 

 

 詳しいことは有志の攻略wikiを見てもらいたいのですが……まあ、いいです。

 

 このゲームで戦レベルを手っ取り早く上げる方法は「技術」のステータスを上げることです。

 有志の分析によって「技術」「機動力」「攻撃力」「耐久力」「持久力」の順番で戦レベルに影響しやすいことがわかっています。計算式は難しくてよくわかりませんでした(小並感)

 

 まあ、ステータスを上げる以外にも方法はあります。「道」を極めることによっても戦レベルは上がりますし、感情などによっても一時的に上下します。

 

 ちなみにオニギリは原作のラストバトルで、怒りとエロの力で戦レベル36から360まではねあがりました。えぇ……(ドン引き)

 

 

 

 あ、ところで!皆様は私が目指しているトロフィーである【空の王への鍵】の獲得条件を覚えていらっしゃるでしょうか?

 

 そう!オリジナルキャラで「王」の称号と「オリジナル玉璽」を入手することです。

 

 この「王」の称号を得るには、戦レベルが80前後なくてはいけません。なので、こ↑こ↓を出るまでに少なくてもそのレベルには到達しなければならないのです。

 

 がんばれスシ君!まけるなスシ君!

 

 

 

 ちなみに試走では、脱走までのタイムリミットは一年くらいに設定されていました。成功体でもその辺は変わり無いみたいです(wikiチラ見)

 

 目標まで上げれたならば、そのあとは寝て過ごすなりして時間を潰(スキップ)します。

 

 

 しっかり最速で駆け抜けてやりますから!見とけよ見とけよ~。

 

 

 あ、等速に!

 

 

「シイナ!君の力はこんなものか!?」

 

 

〉〉目の前を走るキリクに追い付けない。一体、キリクと何が違うのだろうか。わからない。わからない。わからないなら……シらなくては。

 

 

「そうだ!食らいついてこい!」

 

 

〉〉あぁ、そうか。こういうことか。

 

 

 おっ、どうやらボーナスイベントだったようですね。「技術」と「機動力」が素晴らしくのびました。いいゾ~コレ。

 

 

「……今のは悪くない走りだった。+5点だ」

 

 

〉〉キリクに褒められた。走りのコツを掴んだ。

 

 

「それじゃあ、続きを……って言いたいところだけど、このあと先生たちに呼ばれてるんだ」

 

 

 流石No.1。底辺グラチルのスシ君と違って忙しいようですね。ていうか、あの女研究者以外に接触されて無いんですが……え、なに?もしかしてスシ君、嫌われてるの?ヤメロォ(建前)ナイスゥ(本音)

 

 まま、ええわ。とりあえず、好感度は下げたくないので素直に見送ってさしあげろ(ホモ)

 

 

「ありがとう。また明日」

 

 

〉〉キリクを見送った……さて、どうする?

 

 

 練習(即答)

 

 

 走って!飛んで!殴って!蹴る!この繰り返しなんでもう一回倍速……あれ?できないですね。なんでですかね~、頭に来ますよ~。

 

 

〉〉練習をしていると、何処からか視線を感じる。周囲を見渡すが誰もいない。気のせいだったのだろうか?練習を再開する。

 

 

 お前の自意識過剰なんじゃねぇか?

 

 

〉〉やはり気のせいじゃない。やはり誰か……風?

 

 

 ヒェッ!まっまさか!?やべぇよ…やべぇよ…風とか激ヤバじゃないですか。まさかの未来のラスボス登場ですか?

 …………ンアーーー!やめてください!タイムが壊れるどころかゲームが終わってしまいます!もう一回ガチャをするのは嫌なんですぅう!(発狂)

 いや馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前(天下無双)

 

 

「君がキリクの言ってた楽しみ?」

 

 

〉〉背後から声がする。振り返ると此方の目と鼻の先に、女の子の目と鼻の先があった。近い。 少し離れるとようやく彼女の全体が見えた。此方よりも少し低い身長。膝まで伸びた桃色の髪。彼女の整った顔を見てキリクを思い出したのは、その瞳に浮かぶ十字のせいだろうか?

 

 

 ハァーーーー……(クソデカタメ息)

 

 心配して走者の寿命が五年縮みました。縮めるのはタイムだけでいいんですよ!(半ギレ)

 なのでとりあえず †悔い改めて† どうぞ。

 

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

 

〉〉キリクの言った楽しみが何かを知らないことを伝える。

 

 

「ふーん、そっか。まあそれはいいや。君、名前はある?それとも番号で呼ぶ?」

 

 

〉〉なぜそんなことを聞くのだろうか?とりあえず、栖原椎名と名乗っていると教える。

 

 

「へー、シイナっていうんだ。私はシムカ。シイナとシムカなんか似てるね」

 

 

 は?(威圧) 一文字しかあってないんですが、それは?(ノンケに厳しいホモ)

 

 

〉〉彼女───シムカに何の用か尋ねる。

 

 

 「別に。ただキリク──あぁ、キリクと私は双子なの。キリクがお兄ちゃんで私が妹。でね、昨日キリクの様子が変だったからあとをつけてきたの……途中で見失ったから、ここから出てきたキリクを見つけられてラッキーだったよ。それで……君はキリクと何してたの?」

 

 

 (そんな細かい経緯きいて)ないから。やっぱり女は駄目だな(ホモ)

 

 

〉〉隠すことでもないので、キリクにはA.Tの練習に付き合ってもらっていたことを話す。

 

 

「じゃー、私がキリクの代わりに相手してあげようか?」

 

 

〉〉……どうする?

 

 

 スシ君に丸投げされてしまった……まぁ、いいです。提案に乗ってさしあげろ。

 

 

 と言うわけでバトル開始です。

 

 

 さきほどシムカ自身が言っていた通り、キリクとシムカは一卵性違性双生児───つまり、双子です。ついでに彼女もキリクと同じく、グラチルのなかでも数少ない成功例です。

 

 そんな彼女、A.Tの技術は高いのですが、戦闘力はありません。ステータス的に「調律」に高い数値振ってるからですね。

 

 

 なので、経験値的には正直おいしくありません。

 

 じゃー、なんでわざわざ付き合ってる?RTAにならないじゃん?馬鹿なの?死ぬの?

 

 そーんな声が画面の向こう側から聞こえてきますね。大丈夫です、意味はあります。

 

 

 必要なのは彼女のカリスマ性による人脈です。

 

 

 現在のシムカは原作開始時と比べて、落ち着いた性格です。たぶん広い世界に出て刺激されたらイッキを魅了する小悪魔に進化するんじゃないですか?(適当)

 

 それでも、カリスマ性やコミュ力の片鱗はみられます。彼女の好感度を上げれば スシ君強くなりたい→スシ君練習相手を求めてる→シムカ皆を紹介してあげようか?→スシ君オナシャス! というコンボが繋がるんですよ。やったねスシ君!家族(経験値)が増えるよ!

 

 

 Q.いやいや、世界一位さんがおるやんけ!

 

 

 はい、もちろん経験値がもっともうま味なのはキリクです。しかし、今回のようにキリクがいないことは残念ながら今後もあります。

 その時のために、練習相手はいくらいても困りません。

 

 さらにいうなら、同じ相手とばかり連続してバトルしていると得られる経験値が徐々に減っていきます。飽きてくるんですね。

 なので途中で別のヤツを挟んでリセットさせましょう!

 

 

 ちなみにキリクも性能No.1グラチルなんでカリスマ性はあるんですが、紹介とかはしてくれません。別にコミュ力が無いとかそういう訳じゃないんですが、自分が相手をするのが(経験値的に)一番効率的だって分かっちゃってるんですよね。

 

 キリクが唯一紹介してくれるとすれば、一番仲のいい未来のラスボスくらいです。おいヤメルルォ!

 

 

 今のクソ雑魚の状態で未来のラスボスと会ってしまうのはヤバイです。

 

 キリクの紹介か、どないなヤツや?→なんや、くっそ弱いやんけ(憤怒)→コイツいる?いらんやろ?→(バトル中に)すまんのぉ、力加減まちごぉて思わずプチッと潰してもーたわ(笑)

 

 というコンボが成り立ちます。関西こわっ(偏見)

 

 

 そんなわけで、シムカとはある程度仲良くしときましょう(QED)

 

 

 

 

「ねぇ、シイナは重力子なんだよね?なのにどうしてそんなに下手くそで弱いの?」

 

 

 ぐはぁっ!(critical)

 

 

〉〉そんなこと聞かれてもわからない。むしろ此方が聞きたいくらいだ。

 

 

 せ、センセンシャル。かわりに光の速さで強くしてあげるから許して?許せよ(豹変)

 

 

〉〉シムカはキリクほど強くはないが、動きの一つ一つが洗練されている。参考になりそうだ。

 

 

 おう、スシ君はやっぱりガリ勉ですね。ぐいぐいステータスがあがりますよ。

 

 

「……シイナって、体力だけはあるんだね。私疲れちゃった。もう晩御飯の時間だから帰らない?」

 

 

〉〉気づかなかった。シムカの動きに集中して、時間を忘れてしまっていたようだ。今日はもうこれくらいにして自室に戻ろう。

 

 

「シイナの部屋、ついていってもいい?」

 

 

 え、なんで?

 

 

〉〉なぜ?

 

 

「何となくだよ。それとも、知られたら困ることでもあるの?」

 

 

〉〉特にそういうことがあるわけではない……さて、どうする?

 

 

 正直、気乗りしません。しませんが、好感度……ひいてはタイムのためです。許可しましょう。

 

 

〉〉特に面白いことはないぞ、と前置きをしてから自室に向かう。後ろからシムカがついてくる。ちらりとそちらを振り返ると、彼女がうっすら笑っているのがみえた……なぜ?

 

 

 大丈夫大丈夫、そいつ誰にでも大体そうだから。

 

 話し掛けてくるシムカに適当に相づちイれてたら、そこはもうマイルーム。

 嫁入り前の女の子が異性の部屋に入るもんじゃありません!とかなんとかいって追い返しましょう。

 

 

〉〉シムカは文句を言いながら帰っていった。本でも読もうかと思っていると、扉がノックされる。

 

 

「私よ。開けるわね」

 

 

〉〉そう言って入ってきたのは先生だ。何の用だろうか。

 

 

「A.T見せてくれる?……あぁ、やっぱりボロボロね。たった二日でよくここまで酷使できたものだわ。そういうわけで、また預かるわね……そんな顔しないの。ちゃんと明日の朝には返してあげるから」

 

 

〉〉先生はA.Tを持って無い方の右手で、此方の頭を撫でてくる。先生の顔を見上げると、彼女はひどく驚いたような顔をしていた。すぐに頭から手を離し、足早に扉から出ていった。今のは何だったのだろうか?

 

 

 うん、本当になに?研究者は基本的に事務的なことしか話してきません。A.Tの調律だって月1くらいでしかやんないですよ。

 

 なに?好感度高いの?モブの癖にチョロいの?無駄にイベントおこすようなら再走案件なんですが(ガチギレ)

 

 

 ……考えた結果、続けることに決定しました。キャラクリの貯金もありますし、なにより「第一世代重力子(成功)」を捨てるには勿体無いです。

 

 取り返しのつかないガバをするまでは駆け抜けようと思います。ほら、他に記録がない今なら走り抜ければ自動的に最速だから。

 

 

〉〉本を読んでも集中できない……もう寝ようか?

 

 

 おう、寝ろ寝ろ!

 

 

 はい、と言うわけでオートセーブが入ったんでここで区切りまーす。見てくれてありがとナス!

 

 

 


 

 

 

「栖原椎名って、自分でつけたの?」

 

「いや、先生がそう言ったから名乗っているだけ」

 

「職員の人が名前をつけてくれたの?」

 

「そういうことになる」

 

 

 会話が止まる。数時間一緒にいてわかった。この栖原椎名という少年は、口数がひどく少ないうえに、表情が動かない。無表情で地に倒れ伏している様には軽く引いた。

 

 

「シイナは何歳?」

 

「知らない」

 

「いつもは何してるの?」

 

「三日前にA.Tを貰ってからはほとんど練習」

 

「……じゃあ、それより前は?」

 

「覚えてない」

 

 

 何でもないように彼は言った。

 私たちは人工的に生み出された存在。だから見た目の年齢そのままかと言われると、一概にそうとは言えない。

 

 それでも一年程度の誤差だ。

 

 彼の見た目は十歳前後に見える。明らかにおかしいだろう。

 

 しかし、彼の言葉に嘘は無さそうに感じる。そうであるのならば、彼は今まで何処で何をしていたのか。

 

 本当に何も無い?それとも何も無いようにさせられた?

 

 

「シイナはどうしてそんなに一生懸命練習するの?」

 

「重力子だから。そうあれかしと生み出されたのに、下手くそなままでは存在価値がないだろう」

 

「……」

 

「ついたぞ」

 

 

 彼は一つの扉の前で止まる。

 

 

「入っていい?」

 

「駄目」

 

「なんでー」

 

「シムカは女だろ。自重しろ」

 

「べぇーだ。シイナのケチ」

 

 

 私はそう言って元来た道を駆け登る。

 

 シイナの居場所は、私たちのところよりもずっとずっと深いところにあった。

 

 

 


 

 

 

 ボロボロになったホイールなどの部品を新しい部品と交換し、組み立てる。

 

 組み立て終わり、古い部品をみる。

 

 

 ホイールは摩擦ですり減り、中のパーツも熱や衝撃で変形しかけている。

 

 

 それらを持って立ち上がり、部屋の隅にあるボックスに丁寧にしまう。

 

 

 

 

 また増えてしまった。

 

 

 

 

 




RTAとエア・ギアの人気を思い知りました(小並感)

そんでもって貯金がなくなりました。

暫く時間が空きます。許してクレメンス。



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5話 普通のえあ・とれっくさせてーな……

前4話分の一部を変更しました(7月17日時点)
科学者→研究者
キリク「椎名→シイナ」
シムカ→「椎名君→シイナ」


評価、感想ありがとナス!
ランキングのったり赤バーだったりでビビってます。

とりあえず、書けたので投稿。(面白いかどうかは知ら)ないです。



 強いやつでもバッタバッタと死んでいく……悲しいけど、これ戦争なのよね……な、ハイスピードアクションバトルゲームのRTA、はーじまーるよー!

 

 

 いつも通り、前回の続きからなんで読み込み画面からスタートです。

 

 なんかいつも読み込んでないかって?仕方ないじゃん!結構前のゲームなんだから!(ガバ)

 

 

 はい、読み込み終わりましたね。とりあえず昨日預けたA.Tを女研究者から受け取ってから、ダッシュでトレーニングルームにいかな……い、と?

 

 

〉〉目を開けるとすぐそこにシムカの顔が見えた。

 

 

「おはよう」

 

 

〉〉何故部屋のなかに彼女がいるのだろう?確かに鍵は昨日閉めたはずなのに。

 

 

「キリク、朝から用事あるから途中から来るよって言ってたから、それを私が伝えに来たの。でも鍵がかかってて部屋の前で困ってたら、先生が開けてくれたんだ。ついでにコレ渡してって」

 

 

〉〉そう言ってシムカが手渡してきたのは、綺麗になったA.Tだ。

 

 

 まあ、職員なら部屋のカードキーくらいもってても不思議じゃないですけど……余計なことを。

 スシ君はラノベの主人公じゃないんですから、可愛い女の子が朝から起こしてくれるリア充イベントなんてフヨウラ!

 

 

 ほら!シムカを連れてトレーニングするんだよ!倍速だ倍速っ!

 

 お、キリクも途中から参戦してきましたね。二人まとめてかかってこいやっ!(瞬殺)

 

 

 

 多少は善戦出来るようになりましたが、まだまだ求めるレベルには達してません。じゃけん、二人にどんどんバトルを挑んでいきましょうね~。

 

 

 

 ……見所さん、どこ……ここ?

 

 

 

 見てる皆様の時間は有限です。なにか特別な動きがあるまで、倍速で日付もぶっ飛ばしていきましょう。

 

 

 

 ……そうですね、暇潰しに私がこのゲームをプレイしてて面白かったのをいくつか紹介します(隙自語)

 

 

 まずは「BUTA☆BAKOエンド」です。オニギリで女性にセクハラしまくって、カルマ値(マスクデータ)が貯まると最終的には警察のご厄介になるというものです。大丈夫大丈夫、オニギリ未成年だから。

 一般のモブからネームドキャラまで選り取りみどり。ノンケの方なら是非一度はプレイしていただきたいですね!

 

 次は「疑似家族ルート」です。出自ガチャで研究者を引き当てると、天空の塔で働くことができるんですね。そこでグラチルの好感度を稼いだ末に「パパorママ」とよんでもらえるのです。み゛ん゛な゛がわ゛い゛い゛な゛ぁ゛。

 ちなみにラスボスのデレがみれる貴重なルートです。ただし、自分が廃棄される側の人間だと知るまでの間でしかみられません。知ってしまった後は憎悪増し増しで殺しに来ます(トラウマ)

 

 あと、このゲームを最速クリアできる「さよなら、友よ エンド」も感動的でした。キリクを使って「旧・眠りの森」が解散する切っ掛けとなった戦闘で打倒ラスボスするルートです。本来ならラスボスの足の腱を切るだけなんですが、このルートでは御命頂戴しちゃいます。ヤっちゃった後のキリクはストレス値がMAXになって病みます。つまりはバッドエンドの一つですね。

 ……キリクの独白にはホモの波動を感じました(小並感)

 

 

 他にもたくさんのルートがあるから、みなさん走って、どうぞ。

 

 

 

 

 お、等速に戻りましたね。倍速で流した結果、現在スシ君はA.T歴7日、戦レベルは40です。いいスピードできてますよ、これぇ。

 

 

〉〉意識が覚醒に向かっていくと同時に、頬への違和感。目を開けるとシムカが頬を人差し指でつついているのが見えた。何がしたいのだろう? というか、何故毎朝部屋にくるのか……理解できない。

 

 

「おはよう。今日はシイナにちょっといいお知らせがあるんだけど……聞く?聞きたい?」

 

 

〉〉……どうする?

 

 

 …………倍速で分かりにくかったとは思いますが、あれからシムカは毎朝来てるんですよね……「魅力」効きすぎじゃありません?ガバなの?(走者として)死ぬの?

 てか、さっさと話せよ。無駄に引きのばすんじゃねぇ!(半ギレ)

 

 

「うんうん、素直なのは良いことだね。実は今日は…………うーん、やっぱり内緒。知りたかったら早く来てね」

 

 

〉〉そう言ってシムカは部屋を出ていった……準備をしてトレーニングルームに行こう。

 

 

 は?(威圧)

 

 失礼、あまりの面倒臭さに我を忘れてしまいました。

 

 とりあえず、さっさと行きましょう。

 

 

〉〉トレーニングルームにはシムカともう一人、見知らぬ少年がいた。此方よりも少し背が高い、白髪の天然パーマ。彼は此方に気づき、微笑みながら歩み寄ってくる。

 

 

「やあ、君がシイナだね。シムカから話しは聞いてるよ。強くなりたいんだってね……僕でよければ付き合うよ」

 

 

〉〉彼の後ろで、シムカが此方に向かってピースしてくる。したり顔の彼女を無視して彼に名前を尋ねる。

 

 

「あぁ、すまない。自己紹介がまだだったね。僕のことは炎の魂(スピット・ファイア)と呼んでほしい」

 

「長いからみんなスピって呼んでるよ」

 

「いや……まあ、それでいいけど」

 

 

 Foooo↑ようやくシムカが仕事をしてくれました!それも、おホモだちだなんていいチョイスしてますねぇ!

 

 初対面のこの感じ、好感度も悪くありません。あぁ~いいっすね~。

 

 

 

 あっ、そうだ(唐突) エア・ギアって、強いやつほど死んでいく説あるよね……あるくない?

 

 そこんとこどう思うよ、スピット・ファイアぁ?

 

 

「ん、どうかしたかい?」

 

 

〉〉なんでもないと首を横に振る。始めよう。

 

 

 はい、バトルを承諾して……スシ君vsスピット・ファイア ゴーファイ! はい負け~。し っ て た。

 ほら、もっかい挑戦するんだよ!あくしろよ!

 

 シムカが見守るなか、スピとのバトルを行います。もちろん、皆様には倍速でお届けしますよ。

 

 

 今のスシ君の戦レベル40ってどんなもんなの?って言われますとね、最終決戦時のオニギリ(EP(エロ・パワー)なし)より強いくらいです。

 つまり一般ライダーのなかでは中堅くらいでしょう。

 

 

「いいガッツだね、シイナ。シムカからはスッゴい下手って聞いてたけど……うん、とても愚直で悪くない走りだ」

 

 

 ありがとナス!

 

 

「君はキリクとシムカとしか走ってないんだろう。だったらもっと君が強くなるために……こんなのはどうかな?」

 

 

〉〉そう言ってスピの姿が消える。熱い、そう感じたときには、右側に炎が一直線に伸びていた。そして、その炎の先……此方の遥か後方にスピはいた。

 

 

「“炎の道(フレイム・ロード)”……なかなか格好いいネーミングだと思わないかい?」

 

 

〉〉見えなかった。あの動きが捉えられるように……いや、使えるようになれば……

 

 

 はーい!これで“炎の道”の特急券、ゲットだぜ!

 

 

 んー?もしかして私ったら「道」についての説明してませんでした?

 

 

 説明しよう!「道」とは!個人の持つ技の特徴を表したものである!道は一人一人に開かれているため、ライダーの数だけ道は存在すると言われているのだ!

 

 

 たとえばキリクは“大地の道(ガイア・ロード)”、シムカは“閃律の道(リィーン・ロード)”を走っています。

 

 このゲームでは、AIがオリジナルキャラクターの「道」を決めてくれるんですね~。プレイヤーのプレイングである程度方向性は決められるのですが、最終的にはAIに一任されてしまいます。(変な道にされないよう)祈るのです。

 

 このAIによる「道」の判定は、戦レベル10~60で出ます。(レベルの範囲)ガバガバかよ。

 

 なんで、戦レベル40のスシ君もいつ判定が出されてもおかしくありません。ちなみにさっき言った特急券と言うのは、まんまの意味です。

 ほら、お手本があったほうが早く習得できるでしょ?そういうことだよ。

 

 

 スシ君にはできれば“風の道”と相性の良い“炎の道”か、その派生の“道”を走っていただきたいですね。

 

 

 さぁ、倍速倍速倍速っ……て、今度は何のイベントですか?

 

 

〉〉そうか、あの炎は超高速で動くことによって摩擦熱を生み出し、大気の温度差によって現れるもの……こう、か?

 

 

「なっ!?」

 

 

〉〉一瞬。たった一瞬全力で走っただけで、足が悲鳴をあげる。でも、それでも────後ろを振り返る。そこには小さな火があった。

 

 

 ポポン──“炎の道”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 

 ああ~いいっすね~。まるで走者の走りを見ているかのようで気分が上がりますよ~。

 

 ……ただですね、ちょっとシステムメッセージの内容が……うーん。

 

 

 タイムロスですが、バトルをちょっと中断してステータス画面を確認します。

 

 

【NAME】栖原 椎名

【ROAD】────

 

 

 はい、閉じてバトル再開です。うーん、やっぱりありませんでした。

 本来、走る道が定まった場合【ROAD】のところに“○○の道”って表記されるんですよ。システムメッセージだっていつもなら「“○○の道”の称号を獲得しました」って出るんですけど……まま、ええやろ(適当)

 

 

 考えたってタイムは縮みませんからね(鋼の意思)これがバグとかで、再走にならないことを祈るばかりです……やめろよ!絶対ヤメロよ!(ダチョウクラブ)

 

 

 あ、やっべ。スシ君まーたぶっ倒れて暗転しちゃいましたね。そら(「機動力」が足んないのに“炎の道”をムリに走れば「持久力」がガリガリ減って)そうなるよ。

 

 走者は悪くありません。普通に走ろうと思ってたのに、スシ君が意地で“炎の道”を走ったんです。スシ君さぁ、こっちの事情も考えてよ(棒読み)

 

 

 

 今回の動画はここまでにします。みてくれてありがとナス!

 

 

 


 

 

 

「びっくりしたよ、この短時間で“炎の道”を不完全ながらも走ってみせた。彼、才能あるんじゃない?」

 

「そう、だね…………ごめんなさい、正直私も驚いてるの」

 

 

 シムカはシイナの横に膝をつく。彼女はハンカチを取りだし、シイナの顔についた土や汗、血を拭っていく。

 

 

「……それにしたって、ここまでする必要あったの?シイナ、血が出てる」

 

 

 下を向いているシムカの表情は見えないが……少なくとも笑っていないことは分かる。

 でも、僕も言っておきたいことはあるんだよ。

 

 

「逆に君たちは少し過保護なんじゃないか?確かにキリクと君がシイナに会ったときは、信じられないくらい弱かったかもしれない。でも、彼も重力子で……何より男の子なんだよ」

 

 

 シムカはこちらを見ない。しかし、ハンカチを持つ手が止まっていることから聞いてはいるのだろう。

 

 

「彼は一人じゃ何も出来ない赤ちゃんじゃない。もっと信じてあげなよ」

 

 

 その言葉を聞いて、シムカはバッと顔をこちらに向ける。うわー、凄い不機嫌そうな顔。彼女にこんな顔させたと知られたら、他の重力子に怒られそうだ。

 

 

「ほら、いつまでも彼を床に転がしておくのも可哀想だろ。僕が背負うから彼の部屋に案内してくれないか?」

 

 

 これは決して彼女への点数稼ぎではない……断じて違うよ?

 彼女は表情を変えないまま、僕を先導してくれる。

 

 

「結構深いところまで行くんだね」

 

「……疲れたからって落とさないでよ」

 

「もちろんさ」

 

 

 しばらくしてシムカは一つの扉の前で足を止める。なるほど、ここか。とりあえず、カードキーを探すためシイナを床に下ろそうとすると、誰かが走ってこちらに向かってくる音がした。

 

 

「シイナ!」

 

「先生……」

 

 

 シムカが小さく呟く。息を切らして走ってきた、白衣の女性は僕の前で止まる。

 息を整える時間も惜しいのか、彼女はすぐさま僕の背中で寝ているシイナの体を観察し始めた。

 すいません、それ僕のせいです……とは流石に言えなかった。

 

 

「……ふぅ。シイナ君はこちらで預かります。あなたたちはもう戻りなさい……送ってくれてありがとう」

 

 

 そう言って彼女は僕の背中からシイナを取りあげ、そのまま何処かへ行ってしまった。

 

 

「ねぇ、シムカ。あの人は」

 

「……ここの研究者。それでいいでしょ」

 

「いや、でも…………そうだね」

 

 

 これは僕が首を突っ込むべきことではないのだろう。

 

 

「……明日は彼、来るかな?」

 

「来るよ……いつもそうだもん。ヘロヘロになるまでやった次の日でもケロッとしてる」

 

「そっか、じゃー明日も行こうかな。予定ないし」

 

「駄目」

 

「えっ……」

 

「しばらくスピは駄目」

 

「……もしかして、まだ怒ってる?」

 

「最初から怒ってないよ」

 

「じゃー明日「駄目」……えぇ……」

 

 

 


 

 

 

 ボロボロのA.Tの手入れを行う。摩擦熱によってホイールは焦げ、中のパーツも一部溶けている。“炎の道”を走るのに最適な作りにしてはいないのだから、それも仕方のないことだろう。

 

 

 

 ……結局こうなるのか。

 

 

 

 メディカルポッドの中に浸された彼を見て、思わず歯噛みした。

 

 




ところでこの小説の感想欄、同窓会かってくらい「懐かしい」が多いですよね……おれも混ぜろよ(満面の笑み)


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6話 チェンジでっ!

“翼の道”と“風の道”の違いがよくわかんなかった。だから“翼の道”なんて無かったことにします(容赦ない切り捨て)
→とりあえず「風」のなかに「翼」あるということにします(「炎」のなかに「時」がある的な)(7月25日時点)


 今日も今日とて全力疾走なRTA、はっじまーるよー!

 

 

「判断が遅い!―10点!僕の走紋をよめ!癖を把握しろ!君にも眼十輝(トゥインクル・アイ)があるからには、立体把握幹(ソリッド・センシティブ)で僕の動きを予測できるはずだ!」

 

 

〉〉キリクの言っていることはわかる……しかし、追い付けないのだ。まだ壁は高い。

 

 

 見ての通りキリクとバトってまーす。

 

 

 さて、スピとの初体験(バトル)から二週間が経ちました。……二週間分のプレイ動画はちゃんと記録用に別に上げているのでそっちを見てください。お願いします、なんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)

 

 

 ポポン──“大地の道(ガイア・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“轢藍の道(オーヴァ・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“紫電の道(ライジング・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“血痕の道(ブラッディ・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ

 

 ポポン──“荊棘の道(ソニア・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“泡翠の道(ラザー・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“日輪の道(ソル・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“音の道(ソニック・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──ポポン──ポポン─ポポンポポンポポポポポポポポン

 

 

 ん、これですか?この二週間分にきたシステムメッセージです。

 

 え?見所さんがありそうな部分省いてんじゃねーゾって?

 

 大丈夫ですよ。「ドーモ。ドントレス=サン。スシです」「ドーモ。スシ=サン。ドントレスです」くらいの軽いやり取りして、バトルしてただけですから。

 

 

 

 

 ……は?(威圧) 何でこんなことになってんの?

 

 キリク以外の練習相手は何人いても良いとは言いましたが、限度があるでしょ限度が!なんで二十五人(・・・・)とバトルしちゃってるんですかねえ!?

 その上、ポンポンポンポンいろんな「道」走っちゃってさぁ、スシ君恥ずかしくないの?

 

 

 大体、これもあの女狐が悪いんですよ!スピとバトルする前から毎朝マイルームに来てましたけど、あの後からベッドに潜り込んでくるようになったんですよ!

 

 夜はちゃんと鍵閉めて、一人で寝てるんですよ?でも朝になったら絶対横に居るんです!「左手が温かい。自分のではない、いい香りがする」なんてテキスト!タイムロスでしかないんですよ!(絶許)

 そして!朝から「今日は練習に○○が来てくれるって」なんて言ってくるんです!

 あろうことか、こちらが断っても「ん?よく聞こえない」て言ってくるんです!エンドレスに!

 こんなん(タイム的に)断るに断れんやろがい!(突然の関西)

 

 その時のシムカの顔といったら……殴りたいあのドヤ顔。

 

 

 チカレタ……(小声)

 

 

 まあ、この調子なら試走よりもかなり早く戦レベル80に届きそうなので、このまま走ります。そのあとは誰にも会わずにステイルームするので、無駄におきたイベントのタイムも帳消しになる予定なので構いません。

 

 

「……時間だ。あとは頼んだよ、シムカ」

 

「はーい、いってらっしゃい」

 

「僕も居るんだけどなー」

 

 

〉〉シムカを真似して、キリクに手を振る。キリクはトレーニングルームから出ていった。

 

 

「それじゃ、久々に僕とやるかい?」

 

 

〉〉スピの言葉に頷く。時間が惜しい。

 

 

 はい、バトルはじめー。残念なことにこ↑こ↓最近、スシ君が瞬殺されなくなってしまいました。ゾンビ戦法がガガガガ。

 

 まあ、いいですけど(手のひらクル)

 

 

〉〉練習はしているが、まだスピのような炎は出ない。“時の道”の走り方も教わったが、追い付けない相手には意味がない。

 

 

「いいね、悪くない!もっとペースを上げようか!」

 

 

〉〉スピの姿がぶれる……が、見えた。正面から、ミドルキック。それを迎え撃つように右足を振るう。

 

 

「なんや、おもろいことしとるやないか……ワイらも混ぜてーな♡」

 

 

 あっ……(察し)

 

 

〉〉全力で出した右足が、風に押し返されるように吹き飛ばされる。バランスをなんとか整え、声の方を見る。此方とスピの中間に二人の少年がいた。

 

 

 おいヤメルルォ!描写するな!シュレディンガーの猫なんだよ!(錯乱)

 

 

〉〉身長は此方とあまり変わらないくらい。歳も同じくらいだろう。襟足が肩まで伸びた黒髪の癖っ毛。二人とも全く同じ姿に見える。あえて違うところを探してみるなら、片方は少し不機嫌そうな顔をしていて、もう片方は笑顔なのに笑ってない……ような感じがすることだろうか。どちらも糸目であることは変わらないが。

 

 

 あ゛あ゛も゛お゛お゛お゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛!!!

 

 

 わかっています、知っていました!こいつらにあわないなんてことは、ストーリー的に不可能であるということは!だって脱走時に「お前だれや?」なんてことなったら興醒めですからね!

 

 だから!できるだけ出会わないように試走の時にお前らのことストーキングしまくって!この辺りのトレーニングルームには来ないって!何回も確認したのに!!

 

 重力子らしい戦レベルになってから会えば「ほーん、よろぴく」くらいの軽い感じで流してもらえるから!それを!狙ってたのに!

 

 

 それなのに……なんでこんな時に来るんだよ!今戦レベル59やぞ!弱いものイジメ反対!!しかも、なんの「道」走るかも決まってないのにっ!!

 

 

〉〉不機嫌そうな方の少年がシムカに近づいていく。

 

 

「シムカ、最近全然見かけんと思ったら、こないな場所に居ったんか」

 

「……そうだよ。二人は何しに来たの?」

 

「そんな言い方すんなや、シムカ。聞いたで~、ワイら以外で楽しそーなことしとるらしいやないか……なぁ、お前も仲間はずれはよーないと思うやろ?」

 

 

〉〉笑ってるのに笑ってない方が、此方に話しかけてきた。どちらでもいい、と答える。

 

 

「はー、つまらんのぉ。もうちょい言葉のキャッチボールっちゅうのを楽しんだらどーや?」

 

 

〉〉───風。それを感じたときにはすでに少年が目の前に立っていた。「まー、キャッチボールなんぞしたことないけどなー!ほーれ、笑えや。仏頂面がぁ」と此方の両頬を引っ張っている。

 

 

「シイナも困ってるからその辺でやめないか?」

 

「あぁん?シイナ?こいつ一丁前に名前決めとるんか」

 

 

〉〉苦笑まじりのスピの言葉に少年は反応する。此方の頬から両手を離し、少し後ろに下がる。

 

 

「俺はSA-503B、ほんであっちで童貞くさくシムカに絡んどるのが弟のSA-503Cや」

 

「ドーテー言うなや!てかお前もやろが!」

 

「あー、聞こえん聞こえん。ところでお前、ここでみんなと楽しく走っとるらしいな……ワイとも走ろうや、シ・イ・ナ・く・ん」

 

 

〉〉断る理由はない。

 

 

 ああ逃れられない!(カルマ)もうやだあああああ!!うー☆うー☆うー☆(カリスマブレイク)

 

 

 どうする?再走?再走なの?結構いい感じで来てたのに?こんな序盤で?またリセマラしなきゃなの?

 

 

 ンガーーーー!

 

 

 私だって走者の端くれ!!この程度の試練!私の華麗なるPSで!のりきってみせますよ!

 

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!(天下無双)

 

 

 ほら!バトル始めだコラァ!(ここまでの思考時間1秒)

 

 

 今回は空との一騎討ちですね。とりあえず、あいつは耐久ゲージ半分までは舐めプしてきます。

 そこまで減らすことが出来れば、ある程度実力があるものと判断してくれるます……このレベル差で削りきれるかわかりませんが。

 

 使うのは一番使いなれている“炎の道”にしましょう。「風」との相性も悪くありませんから。

 

 

 Q.なんでいろんな道走れるくせに限定するの?舐めプなの?馬鹿なの?死ぬの?

 

 A.嫉妬されて要らない(死亡)フラグがたちます。才能の使い方にはご注意ください。

 

 

 

 

 オラ!クラエッ!アッイタイヤメテッ!ヨワイモノイジメハンタイッ!…ト!オモワセトイテ…シネヤコラーッ!!

 

 

 

 あー、ようやくゲージの四割を削れました。まじで腱鞘炎になりそうです……ちなみにスシ君のゲージはもう一割もない(真っ赤)です。

 

 

「ほれほれ!もっときばらんかい!」

 

 

〉〉……風を読んで。

 

 

 ファッ!?やめろスシ君!それだけは本当にいけない!

 

 

〉〉……掌で風を掴んで。

 

 

 ンアーーーッ!!そんな(面倒な)ことしなくていいから!

 

 

〉〉彼との間にある風の壁を──抉じ開ける!!

 

 

「なっ、ワイの風をっ!」

 

 

〉〉一瞬の動揺。SA-503Bと此方に遮るものはもうない。超高速移動により炎を灯しながら肉薄する。相手の頭部に向かって右足を振り抜き、体を数m先まで吹き飛ばす。右足に残る確かな感触……浅くはないだろう。

 

 …………。

 

 

〉〉土埃がはれる……いや、風により強制的に排除された。彼の体には掠り傷がいくつか見えるが、何事もなかったかのようにしっかりと立っていた。隙をついたと思ったが、また風の壁に阻まれてしまったらしい。此方はこれまでの戦闘で体中傷だらけだし、足を酷使してしまった……限界だ。片膝を地面につける。勝敗は明らかだろう。

 

 

「……「炎」だけやなくて、ワイと同じ「風」を使ったやて?」

 

 

〉〉そう呟いた彼の顔。ひそめられた眉、ひきつった口元。細い目から少しだけ覗かせた瞳は、酷く濁って見えた。背筋に冷たいものが走る。空気も重い。

 

 

「……まあ、ええわ」

 

 

〉〉その一言で、空気が弛緩する。SA-503Bは最初に会ったときのように笑っている。さっきまでの表情が幻だったかのように感じてしまう。

 

 

「なあ、名前。もっかいちゃんと教えてーな」

 

 

〉〉息を切らしながら、栖原椎名と呟く。

 

 

「スバラシイナ……覚えたで」

 

 

〉〉SA-503Bは此方にきて、耳元に顔を寄せる

 

 

「仲良くしようや、な?」

 

 

〉〉そう言って此方の肩をポンと叩き、そのまま出口の方に向かう。「ちょっ!置いていくなや!」とその後にSA-503Cも続く。二人が出ていったあとのトレーニングルームは、静寂に包まれてた。

 

 

 

 

 ポポン──“風の道(ウィンド・ロード)”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 ポポン──“虚の道(ヴォイド・ロード)”の称号を獲得しました。

 

 

 

 …………………………。

 

 

 

 

 ふざけんじゃねぇよお前これどうしてくれんだよ!(ガチギレ)

 

 

 


 

 

 

 ボロボロになった彼を問答無用でメディカルポッドの中に放り込む。

 

 思わず頭を抱える。

 

 

「記憶が消えても、結局は同じところに辿り着くんだねぇ」

 

「異性の部屋にノックもなしに入るなんて、神経を疑いますね……大した用がないなら出ていっていただいてもよろしいですか、南博士」

 

 

 あぁ、人が入ってきたことにも気づけなかった。しっかりしなさい。

 

 

「つれないなぁ……まぁ、いいや。ちゃんと用事はあるさ。彼の様子を見るっていうね」

 

「……」

 

「おお、怖い怖い。そんなに怒らないでくれたまえ。ちゃんとデータを渡してくれるなら、君達を引き離したりしないさ。私は優しいから、ね」

 

 

 引き出しからUSBメモリを取りだし、机の上に置く。

 

 

「どうぞ。あの子が起きてからの三週間分の記録です」

 

「ありがとう。ところで、今回は改竄はしてないよね?」

 

「……まるで、以前に私が改竄したことあるかのような言い方ですね」

 

 

 彼は眼鏡の奥でキョトンとした目をみせる。三秒ほどしてから右手でハットを持ち、顔を隠すような位置に動かす。クックックと小さく笑っているようだ。肩の動きは隠す気が無いらしい。

 

 

「あー、そうだったそうだった。彼の記憶喪失は、A.T訓練中に頭を打ってしまった事によるもの。つまりはただの事故だったね。うん、覚えてるよ」

 

「……」

 

「じゃー、用事は済んだので私はこれで。またね栖原君」

 

 

 

 

 

 ……さて、塩は何処だったかしら?

 

 

 

 




どんどんキンクリしていくぞー(RTAにあるまじき行為)


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7話 ガバチャート が ガバガバチャート に しんか した

 お気に入り、評価、感想、誤字脱字報告、本当にありがとナス!
 改めて、頭空っぽにして懐かしさに浸って読んでください。

 あ、後書きにアンケート入れてますので、よろしかったらお願いします(土下座)


 あ、どうも。攻略wikiみても“虚の道(ヴォイド・ロード)”なんて項目が見当たらなくてうんざりしたゲームのRTAはじめてます……(無気力)

 発売して結構経つのに、まだ新しい発見があるの?(恐怖)

 

 

 さて、今日はシムカやキリクの誘いを蹴りました……逃げたわけではありません。えぇ、いつも通りの場所に行ったらWソラに会いそうだからとかそんなんじゃありませんから……そんなんじゃねぇから!(強硬姿勢)

 

 代わりに女研究者に声をかけて、気圧調整部屋(仮)に連れてってもらいます。

 おら、渋んな。部屋があるのは(試走で)わかってんだ、あくしろよ(棒読み)

 

 

 ほれ、さっさと気圧を上げ↑下げ↓するんだ。こっちは勝手に走っとくから……早速気圧上げられて、スシ君苦しんでますね。頑張れ(無慈悲)

 

 

『四気圧……シイナ君。流石にこれ以上は貴方の体がもたないわ』

 

 

 おい馬鹿、勝手にやめるんじゃーない。

 

 

〉〉苦しい。気圧が上げられ、肺のなかに許容量を越えた濃い空気が入ってくる。空気に溺れているような感覚。スピーカーから聞こえる先生の声に、続けてほしいと息も絶え絶えに答える。これは強くなるのに必要なことなのだから。

 

 

 “荊棘の道(ソニア・ロード)”を使いこなすためにも、ラスボスの風に対抗するにも必要です。

 正確には“荊棘の道”で必要な肺への圧へ慣れるため、つまり補助輪みたいな効果を期待してのもの。それとラスボスの風への予行演習です。相手の壁に阻まれて動けないとか恥ずかしいじゃないですか。

 

 

 おーおー、立ってるだけでガリガリ「持久力」が減っていきますね。

 おじさんはねぇ、君みたいなショタのねぇ、悶絶顔が大好きなんだよ(ネッチョリ)

 

 

 見所さんもない……いえ、スシ君の悶絶顔は見所ではありますが……やっぱり、倍速にしましょう(手のひらクルッ)

 

 

 

 あー、倍速中に自分ちょっと昔語りいいっすか?

 

 あれは一人のプレイヤーがまだ走者になる前、エンジョイ勢であったときの話です(突然の過去回想)

 

 たまたま出自で「第一世代重力子」が初めてでて、エンジョイマンは嬉しくてはしゃいでたんですね。

 

「せや!ワイが“風の道”走って天下(空の玉璽)獲ったる!」

 

 これが絶望の始まりです。狙い通り“風の道(ウィンド・ロード)”をゲットし、塔脱出時には戦レベル130に達していました。

 

「ガキの段階でこれだろ?いける!大人になったら天下とれるで!」

 

 ウハウハで外の世界に飛び出して、一人になってすぐにアサシネイションされました。

 

「ワイと同じ道走んな、このドアホ」

 

 すぐさまロード。次は脱出後、全速力でその場を離れます。その日の夜、アンブッシュされました。

 

「手間かけさせんな、このドアホォ」

 

 エンジョイマンは何度もロードしては逃げ、ロードしては逃げました。でも、その度に双子の死神が追ってきたのです(4545敗)

 

 はい、そんなこんなでエンジョイマンは鼻っ柱を折られると同時にトラウマを植え付けられ、走者になった今もチキッているわけです。

 

 ちなみに試走でも“風の道”を走ってしまったことがあります。その時は媚を売りまくりました。

 脱出後、容赦なくコロコロされました(4敗)

 

 ていうかこいつ、目的のためには手段を選びません。原作では邪魔する友を頃し、愛する女でさえも洗脳したり起爆スイッチを他人(イッキ)にポチっと押させちゃったり……どんだけ好感度あげれば殺すのが惜しいと思ってくれるんですかね?(憤怒)

 カズへの当て馬にされた弟君?知らんよ(無慈悲)

 

 

 

 

 あ、そうだ(唐突)

 今さらですが、私が本来走るはずだったこの先のチャートを説明します。

 

 

 戦レベル80を越えるまでステータス上げ

   ↓

 上げ終わったら脱出までの残りの日付はステイルーム(スキップ)

   ↓

 「天空の塔」脱出イベント

   ↓

 運命のダイスロール(違う)

   ↓

 「(約10年分)スキップしますか?」で Yes を選択

   ↓

 「眠りの森」に参加(トロフィー獲得)

   

 

 という流れです……流れでした、流れるはずでした(激おこ)

   

 

 

 さて、ここで先程のトラウマの話に戻ります。

 

 原作で「旧・眠りの森」を結成する際、「オリジナル玉璽」は8個しかこの世に残っていませんでした。

 残りの20個はどうなったのかといいますと「武内空が食べた」という表現をされます。この「食べた」が正しくはどういうことなのかはわかりません。ルーン(フサルク)を取り出した後、破壊してしまったのか自分の玉璽に組み込んだのか……まぁ、大事なのは武内空が「旧・眠りの森」結成前に手を出したということです。

  

 

 先程紹介したチャートにおける、運命のダイスロール(違う)……Wソラに襲われる場合はこ↑こ↓でやられます。

 

 

 Q.絶対襲われるの?回避できないの?

 

 A.お答えしましょう(wikiガン見) 襲われる条件としてはこんな感じです。

 

 1.【ROAD】が風系の道だと100%襲われます。逃げられません(南無三) この時、Wソラは創造主(ゲーム制作会社)によって護られているので、オリキャラがどれだけ強くても頃せません。なので大人しくバッドエンドを迎えてください。風系の道をどうしても走りたいなら「第一世代重力子」以外で走って、どうぞ。

 

 2.弱いと襲われます。雑魚は大人しく栄養にな~れっということでしょう……体感的に戦レベル80あると襲われる確率は下がります。

 

 3.ラスボスに嫌われるようなことをしてると襲われます。好感度はマスクデータですので、どれだけ低いと襲われるのかはよくわかってません(ガバ)

 

 

 つまり、風系の道以外を走っていて、戦レベルが高くてラスボスに好かれてると襲われにくくなります……好かれ方全然わからんけど(ガバ)

 

 

 

 それでは、今後のスシ君(ガバチャー)の話です。

 

 スシ君は【ROAD】こそ“風の道”ではありませんが、ラスボスの前で“風の道”の十八番「風を感じて操る」をやってしまいました……えぇ、確りとやりました(絶望)

 100%かはわかりませんが、狙われる可能性はありますねぇ(震え声)

 

 

 こうなったら走者に出来ることは一つです。ラスボスの好感度を下げないようにしつつ、戦レベル80なんて言わず上げられるとこまでとことん上げることです。

 

 

 いえ……もちろんRTAですから、タイムは気にしなければなりません。しかし!完走できなければ記録にもなりません!(涙)

 

 

 大胆なチャート変更は走者の特権らしいので、この程度のチャート変更はうんちでしょう(錯乱)

 

 

 え、黙って再走しろよボケェ?

 

 

 ……………………。

 

 

 

 聞こえませんねぇ!(不屈の意思)

 

 

 

『シイナ君っ!聞こえる!?ねぇ!』

 

 

 おっと、そんなこんなしている内にスシ君が倒れてしまったようです。暗転してオートセーブ入りました。

 

 

 結局まともに走れたの、最後の方だけでしたね。まったく、これだから戦レベル60にも満たないヨワヨワだん、し……は……?

 

 戦レベル70?一日で10以上あがったの?なんで?

 

 ちなみに、試走でこの部屋使ったときにはこんな爆上がりしたことないので、関係ないと思います。

 

 

 

 じゃー、あのよくわからない「道」のせい?

 

 

 

 

 ……んにゃぴ、よくわかんないですね。保留にしときましょう(ガバ)

 

 

 (強くなる分にはwelcomeなので問題は)ないです。

 

 

 

 ちょっと早すぎるかもしれないですけど、一旦区切ります。見てくれてありがとナス!

 

 

 

 


 

 

「ごめん、しばらく一人でやるから」

 

「へ?」

 

「じゃ、そういうことで」

 

「え?はっ、ちょっとシイナ!」

 

 

 

 

 

 そういわれたのが、かれこれ一ヶ月前。

 

 

「それで本当に一回も顔を見せないって、もしかして嫌われた?」

 

「そんなことないと思うけど」

 

「だって先生、シイナの部屋にも入れてくれなくなったし……」

 

 

 前は朝に行くと「また来たの?」って呆れながらも鍵を開けてくれてたのに、この一ヶ月は「あの子も疲れてるから」って言って開けてくれなくなった。

 

 

「シイナは強くなることに一途なだけさ。大丈夫、また前みたいに会えるよ」

 

「何を根拠にそんなこと言えるのよ……」

 

「だって、シイナが三日前にそう言ったから」

 

「……え、ちょっとキリク!シイナに会ったの!?」

 

「う、うん。もうそろそろ終わるからまた相手頼むって言われた。言いたいこと言ってさっさと行っちゃったから、何してるのかとかは聞けなかったけどね」

 

「…………」

 

 

 面白くない。なんでキリクなの。

 

 

「あははっ、そんな膨れっ面しないで。今度会うときに存分に構ってもらえばいいじゃないか」

 

「そんな顔してない」

 

「素直じゃないね」

 

「……キリクのばーか!」

 

 

 キリクの視線から逃れるようにベッドの中に潜り込む。

 

 それにしても、そっか……もうそろそろ会えるんだ。

 

 

 あぁ、今日はよく眠れそう。

 

 




 えっとですね~この小説なんですが、本来の予定として本当に書きたかったのは、塔脱出後のお話だったりするんですね。つまりこのRTA部分は導入なんですよ。
 ちなみに塔脱出後はゲーム実況でやるつもりでした。RTAじゃありません。

 でですね、質問なんですが……タイトル変えた方がいいですかね?


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8話 走者の困惑

 アンケートの回答ありがとナス!この調子だと、あらすじをちょちょちょっと変えて実況形式で第二幕をやる感じになりそうです。


 何がなんでも走り抜けるという強い意識を持って走るRTA、もうはじまってる!

 

 

 えー、画面には蝶☆倍速でスシ君の練習の様子を流しております。気圧調節室(仮)で女研究者としか会話もしないんで、等速で流す必要性は皆無です。ほらいくどー。

 

 

 

 

 おかしいんですよねぇ(唐突) ナニがかといいますと、スシ君の戦レベルの爆上がり具合とA.Tが馬鹿みたいにブッ壊れることです。

 

 重力子のぉ、A.Tってぇ、各々に最適に作られてるんじゃないんですかぁ?そこんとこどうなってるんですかねぇ、女研究者さん。クーリングオフするぞ(豹変)

 

 いやまあね、スシ君がいろんな道を走ったり、ビックリする速度で成長してるから直ぐにA.Tが合わなくなるっていうのは分からなくは無いんですが、それにしたって毎日毎日整備し直す必要があるっておかしいでしょ。

 

 まあ、最後にはちゃんとしたのを貰えるなら……許しましょう。私の心は空より広いのです(ラスボスにあらず)

 

 

 さて、ぼちぼち一ヶ月もこもってますね。もう良いでしょう。流石にWソラもスシ君のことを忘れて……じゃないです。間違えました。気圧調節室(仮)でやれることはやりつくしたので、キリク達とのバトルに切り替えます。

 

 

 はい、等速。

 

 

〉〉久々にトレーニングルームに足を踏み入れた。既に部屋の中にはキリクとシムカがいた。此方から頼んだというのに待たせてしまっていたようだ。キリクは笑っているが、シムカは頬を目一杯膨らませており、分かりやすく機嫌が悪そうだ……とりあえず、キリクに再び付き合ってくれることへの感謝を伝える。

 

 

「僕は全然構わないよ。君と一緒に走るのは楽しいからね……それより」

 

 

〉〉キリクは目線だけを自身の横へ向ける。その視線の先には不機嫌なシムカ。目が彼女と合う。その責めるような視線に思わず、目を泳がせてしまう。たしかに二人を待たせてしまったが、別に時間に遅れたわけではないというのに……どうする?

 

 

 お前(スシ君)さてはコミュ障だな?こんな時ばっか選択権を委ねてきやがって……こっちもわかんねぇよ!

 なんでシムカが怒ってるのかよくわかりませんが、とりあえず謝っとけ。大体のことは素直に謝れば解決するんだよ、あくしろよ。

 

 

〉〉すまない、と謝罪した。

 

 

「何がすまないなの?シイナは何が悪いと思って謝ったのかな?」

 

 

 えぇ……

 

 

〉〉……余計に怒らせしまったようだ。謝ったのになぜ怒ったのだろうか?キリクに助けを求めようと目を向けるが、彼は触らぬ神に祟りなし、とでも言わんばかりに顔を明後日の方向へ向けている。

 

 

「どこ見てるの」

 

 

〉〉両手で顔を挟まれ、強制的に顔を合わせられる。

 

 

「今話してるのはキリクじゃなくて私だよ。で、さっきの続き。私が怒ってるのは分かったから謝ったんでしょ。シイナは私が怒ってる理由を理解してるの?」

 

 

〉〉……分からないけど謝ったことを素直に伝えた。

 

 

「はぁ……もういいよ」

 

 

〉〉怒気を幾分減らしたシムカの手が此方の頬から離れる。解放されたと思ったのも束の間、シムカの右手の人差し指が此方の鼻先に突きつけられる。

 

 

「ただし!今度からはもっとこまめに顔を見せること!いい?同じ塔の中にいるんだから、そんなに手間でもないでしょ?」

 

 

 え、やだよ(即答) 普通にロスじゃん。

 

 

〉〉しばらく会わなかったことに怒っていたようだ……なぜそんなことで怒るのか尋ねたら、また怒られそうな気がするのでやめておく。素直に頷き、事なきを得る。此方の様子に満足したのか、シムカは満足げな顔をして離れていく。それと入れ替わるようにキリクが此方に来た。

 

 

「それじゃあ、始めようか」

 

 

〉〉……よくわからないが、無性にキリクを負かしてやりたいと思った。

 

 

 はい、バトルスタートと同時に倍速だぞ~。

 

 ていうか何?シムカはスシ君を束縛したいの?止めてください何様ですか!我々が縛られるのはタイムだけで充分なんですよ!

 

 

 さて、一ヶ月の個人訓練はもちろん無駄ではありません。具体的に言うと戦レベル121にまでなりました。やりますねぇ!

 空母戦での(アギト)といい勝負ができます……あ、凛鱗人(リンド)は混ぜちゃダメですよ?流石にそれは勝てませんから。

 

 

 体格や経験といったものは戦レベルにだいぶ影響を与えます。なので、塔時代でこれ程強ければ将来は安泰と言っていいでしょう。

 

 ……まあ、まだまだ足りませんけどねっ!Wソラから逃げ切るためです。妥協なんて出来るわけねーだろ!(号泣)

 

 

「驚いた……いつの間にこんなに強く……」

 

 

〉〉『士、別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし』と答える。全く越えられないと思っていたキリクという壁の天辺に指一本……ようやく掛けられたような気がした。

 

 

「これは僕もうかうかしてられないようだ」

 

 

〉〉キリクの気配が好戦的なものになる。少しは此方のことを脅威だと思ってくれたのだろうか?

 

 

 はい、ふたたび倍速バトルですよ。相手が本気モードに切り替わりましたので、経験値もさらにうま味です。ありがたや~(拝み)

 

 

 倍速中暇なんで、スシ君の“虚の道”についてわかったことをお話ししますね。

 

 何となく察している方もいらっしゃるとは思いますが、この道……いろいろな道を走れる複合型なんですねぇ。

 vsニケで魅せてくれた「扉」を開いたカズみたいなもんです。

 カズの方はサ○ーウォーズでコイコイしてるのに対して、スシ君は写輪眼で勝手にコピーして使ってるくらいの違いはありますが。まあ、似たようなもんですよ(ガバ)

 

 ただですねー、いろんな道走っていると最初に言ったようにA.Tが馬鹿みたいにブッ壊れます。これ脱出までにちゃんと玉璽作ってもらえるんですかね……いや、作ってもらえなかったことは無いんですが、普通に心配になってきました。

 

 

 お、一日が終わったようです。特に何もないのでさくさく日付を倍速で進めていきましょう。

 

 おうおう、スシ君が久々に出てきたからか他のグラチル達(経験値)も数日に分けてトレーニングルームに来ましたね。じゃあオラオラ来いよオラァ!

 

 

 

 等速でお届けするのは面倒なので、以下ダイジェストでお届けします(手抜き)

 

 

 

「なんやお前、面白いことしとんな。ワイとスピの道だけやのーてキリクの道まで走れるなんて……お前の本気、ちょっとワイに見せてみろや」

 

 

 あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!お客様困ります!割り込みなんてあきまへん!

 一週間くらい音沙汰なかったから油断してた……ていうか、覗き見なんてしてんじゃねぇよ!それでもラスボスか!(偏見)

 

 あ~あ~、見られたからには仕方ないですよね。道縛りなんて止めて全力でやりましょう。

 色々できるのに黙ってたことで好感度下がってるでしょうからね、これより下がるようなことがあったら目も当てられませんよ。

 

 

「……また相手したるわ」

 

 

 二度と来んじゃねぇ!ぺっぺっ!塩まけ、塩!

 

 

 また別の日。

 

 

「今日はワイが相手や。ボコボコにしたるから覚悟せぇよ」

 

 

 あぁ、兄貴がスシ君に構うので面白くないんですね、わかります……もうほんと来ないでください!

 

 またまた別の日。

 

 

「なんか疲れてない?シイナはもう少し自分に甘くてもいいと思うよ」

 

 

 やっぱりスピ(ホモ)はいいやつだなぁ(しみじみ)まあ、休みませんが。ほら、お前にはもうちょっとで勝てるんだよ!あくしろよ!

 

 さらに別の日。

 

 

「ねー。今日は久々に私と走ろうよ」

 

 

 え、いやだよ(即答) シムカ全然経験値美味しくないんですもん……あ、スシ君止めなさい!そんな生温い走りはもうしなくて良いんです!

 私はきみをフェミニストに育てた覚えはありませんよ!(ロス)

 

 

 

 

 はーい、こんな感じで二週間ですね。

 

 戦レベル172……これって勲章ですよぉ!正直、キリクにももう負ける気がしませんね。というか実際、一回勝ちましたし……まぐれですが(小声)

 

 いやーそれにしても、まだゲーム内の時間的に三ヶ月経ってないのにこれですよ?まだ子供ですからこれ以上はあまり伸びないかもしれませんが、塔脱出まであと半年以上ありますからね。いやはや、今後が楽しみです。

 

 

 

──コン、コン

 

 

〉〉夕食後、自室で本を読んでいるとノックの音が聞こえた。誰だろう?先生にはさっきA.Tを渡したばかりだし、シムカは朝方に勝手に侵入してくる、というか彼女はノックなどしない……どうする?

 

 

 入って、どうぞ。

 

 

〉〉ロックを解除し、扉を開ける。目の前には少し顔を伏せたキリクがいた。珍しい。

 

 

「少し……部屋に入れてもらってもいいか?」

 

 

〉〉顔を伏せたまま、そう言ってきた……どうする?

 

 

 夜這いか!?入れよ(歓迎) あ、でもケツとかは……勘弁してくださいね(棒読み)

 

 

〉〉とりあえず、部屋の中へ招き入れる。部屋には椅子が一脚しかないので、キリクにはそっちに座ってもらい、自分はベッドに腰かける。早速用件を聞くことにした。

 

 

「あぁ、実はね……聞いてしまったんだ」

 

 

 ナニを?

 

 

「……研究者の一人が外部と連絡を密かにとっていたんだ。内容は、僕たち重力子について。アイツは、僕たちのデータを外の人間に売るつもりらしい」

 

 

〉〉俯きながら話しているためキリクの表情は伺えない。しかし、正面で組んだ指に力が入っているのがみえる。

 

 

「大人は勝手だ。僕たちを勝手な理由で産み出しておいて、使えないと判断したら勝手に処分しようとする……あげくの果てに僕たちを裏切るだって?冗談じゃない。僕たちは“ヒト”なんだ、決して意思なき“モノ”なんかじゃない」

 

 

〉〉キリクは椅子から立ち上がり、此方へ歩み寄る。ようやく見ることのできたキリクの瞳には、決意の色が浮かんでいた。

 

 

「シイナ、力を貸してくれないか。このまま大人達の行動に唯々諾々と従ってるだけでは、いつか本当に取り返しのつかないことになってしまうかもしれない」

 

 

〉〉キリクが右手を此方に伸ばしてくる。何故か先生の姿が脳裏を掠めた。その顔は一度も見たことが無いような、悲しげなものだった。

 

 

「シイナ」

 

 

〉〉……どうすれば?

 

 

 いや、脱出しなきゃだから握るよ?握るけどさ……

 

 

「信じていたよ、シイナならわかってくれるって……他のみんなにも話さなきゃいけない。三日後、アイツが外部に接触する日に僕らも動く。心の準備をしておいて欲しい」

 

 

〉〉握っていた右手をゆっくりほどくと、キリクは部屋から出ていった……三日後、か。

 

 

 

 

 

 

 ……何がどうなったら半年以上先の予定が三日後になるんですかねぇ!?(発狂)

 

 

 


 

 

 

 その日は小さな違和感から始まった。

 

 

「あら、今日は彼女いないのね……珍しい」

 

 

 彼の一ヶ月の無茶苦茶な個人訓練の間以外は毎朝訪れていた彼女が居なかった。別に毎日来る約束があるわけでも無いので問題ないが……なぜか釈然としない。

 

 考えても仕方ない。とりあえず、彼にA.Tを渡すためにノックをして部屋に入る。

 

 ここでも違和感。

 

 私を見つめる彼の瞳が、僅かながら揺れていた。

 

 

「シイナ君どうかしたの?」

 

 

 動揺を隠して尋ねる。あの日から感情を表に出すことが殆ど無くなったはずの彼。しかし、今彼の瞳には疑念や困惑、躊躇のようなものが確かに浮かんでいた。

 

 

「なんでもありません」

 

「うそ、何もなくてそんな顔しないでしょう」

 

 

 棒立ちしている彼の前に立ち、持ってきたA.Tを床に置く。膝をつくと、彼を少し見上げるような形になった。

 左手を肩、右手を頬に添える。

 

 

「話してくれないかしら」

 

「……」

 

「大丈夫、私を信じてちょうだい」

 

「───」

 

 

 彼の言葉を聞いて思わず固まる。

 

 彼は私の手を振り払い、床に置いてあったA.Tを乱暴に拾い上げ、走って部屋を出ていった。

 

 

 

 直ぐに言葉をかけてあげることが出来なかった自分が、酷く情けなかった。

 

 

 

 

 

『先生は僕を裏切ったりしませんよね?』

 

 




 あと二、三話かなぁ……


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閑話:あなたが知らなくていいこと

 いつの間にか増えていたお気に入り登録者を振り落とすようなRTAはーじまーるよー!

 誰得オリキャラ過去回想です。流し読みして、どうぞ。


 

 彼は上ばかり見ていた。

 

 ずっと空に恋い焦がれ、いつも空に憧れ、絶えず空を渇望していた……そんな人。

 

 

 だから彼が戦闘機に乗ると言ってきたことも、予想の範囲内だった。

 争い事は好きじゃないくせに、空を飛ぶことを諦め切れないのだ。あぁ、旅客機は自由が利かないから嫌らしい……戦闘機だって自由では無いだろうに。我が儘め。

 

 

 そう考えると、彼の行動で一番驚いたのは私にプロポーズしてきたことだろう。「恋愛感情以前に、他人に興味があったのね」と思わず声に出してしまうくらいには驚愕した。

 そして、そんな言葉を返されるとは思ってなかったのか、彼のあの時の表情はなかなかに見物だった。

 

 まあ、私は研究があるし、彼も空に舞っている時間が長かったりしてお世辞にも新婚らしい生活が出来たわけでは無かったが、十分楽しいと言えるものだった。

 

 

 二度目に驚いたのは、彼から子供が欲しいと言われたことだろう。別に、そういった行為が今まで無かったわけではない。出来れば良いかな、程度にしか考えていなかった。でも、そう……彼が望むなら。

 

 しかし、欲しいと思ったものほど出来ないもので……二年、自然妊娠、不妊治療ともに成果は無かった。

 

 

 この頃、久々に昔馴染みが会いに来た。一緒に仕事をしないかという誘いだった。どうにもかなりの長期間拘束される研究のようで、なかなか首を縦には振れなかった……せめて、子供のことをどうにかしないと踏ん切りがつかない。

 

 

「じゃー、こんなのはどうだろう?」

 

 

 軽い口調の昔馴染み曰く、その研究には巨大病院チェーンで有名な巻上グループの巻上敏郎教授が携わっているという。彼を紹介して、子供のことがどうにかなりそうなら、研究に力を貸してくれないかと提案された。

 

 不妊治療もしたのだが。まあ、もしかしたら……という気持ちで頷いていた。

 

 結果として、体外受精をするという話になった。前に一度失敗しているからあまり気が進まなかったのだが、真摯な対応をしてくれる巻上教授の言葉を信じることにした。

 

 彼にはいろいろと事後承諾してもらう形になってしまったが、彼は優しく受け入れてくれた。

 

 

「君の望むように」

 

 

 彼の慈愛に満ちた表情を見て、なんだか泣きそうになった。

 

 

 精子を提供した彼は、再び空に戻って行った。いつもよりどこか晴れ晴れとした表情で手を振る彼を見て、私の顔も少し緩んでいた。

 

 

 卵子を提供後。顕微授精によって無事に受精したと巻上教授から直々に連絡があった。

 安心した。思ったより緊張していたらしい……先はまだまだ長いというのに。

 五日後ほどしたら移植するので準備しておくようにと言われた。

 

 

 三日後。急な豪雨で、外に干した洗濯物を慌ただしく取り込んでいた最中に電話が鳴り出した。まだ二日あるが巻上教授だろうか?

 携帯のディスプレイには番号のみの表示。教授ではなかったようだ。

 

 

「もしもし、栖原です」

 

『─────』

 

 

 目眩がして、力なく床に座り込んだ。

 

 

 

 ベランダから太陽の光が射し込む。虚ろな目を向ける。

 

 先ほどまでの雨は何だったのか。雲は散り散りになり、青空が垣間見えた。おまけに虹までくっきりと現れていた。

 

 

「彼は、(お前)を愛していたのに……(お前)は、彼を、愛さなかったのね」

 

 

 返事は勿論無い。

 

 

「……消えなさいよ」

 

 

 無理だとわかっていても、そう呟くしかなかった。

 

 彼は死んだ(空に拒まれた)

 

 涙は出なかった。

 

 

 気づいたときには、知らない部屋でベッドの上にいた。腕には点滴までついている。

 

 

「やぁ、大丈夫……じゃなさそうだね。二日も寝てたんだから」

 

 

 昔馴染みがいた。いつもの飄々とした態度はなりを潜めていた。調子が狂う、止めて欲しい。

 

 

「事情は知っている。彼のことは……残念だったね」

 

 

 巻上教授が昔馴染みの横に立つ。

 あぁ、そっか。そうだった。それで倒れたのか……思ったより私はか弱い存在だったらしい。

 

 

「今の状態の君に、こんな判断を迫るのは酷だとは思うんだがね。我々も本人の了承なしには動けないから……子供についてのことだ」

 

「……」

 

「予定では今日、君の子宮に胚を移植する予定だったが……流石にそれは無理だ。残った手段としては、胚を冷凍することだろうね。心身ともに正常に戻ったときに改めて移植を試みる。ただし、冷凍してしまうと解凍時に異常が発生してしまうこともある……まあ、他所よりは圧倒的に低い確率だがね」

 

「……」

 

「もしくは、諦めるか」

 

「……少し時間をください」

 

「そうだね。君はまだ起きたばかりだ、考える時間は必要だろう……だが、あまり待てないよ」

 

 

 巻上教授はそう言って、部屋を出ていった。

 

 

「あなたも出ていってもらって良いかしら」

 

「……了解」

 

 

 昔馴染みも出ていって、ようやく一人になれた。

 

 

「わたしは……」

 

 

 

 結果として、私は子供を諦めた。今の私には悲しみと憎しみしかない。こんな状態で一つの命を守り育てることなど出来そうになかった。とりあえず凍結という選択肢もあったが……結局私は彼のことだけを愛していたということだろう。

 

 勝手な都合で産もうとして、勝手な都合で諦める……なんて自分勝手なのだろうか。

 

 

 彼と子供のことを考えたくなくて、天空の塔での研究に没頭した。ここは良い。同僚には「こんな穴蔵に閉じ込められて最悪だ」と言うのもいたが、私からすれば忌々しい空を見なくてすむ、最も空から遠い場所(楽園)だった。

 

 

 しかし、環境問題を解決するための研究だったはずなのに、深く知れば知るほど違う面が見えてくる。

 「重力子」なんて最たる例だろう。確かにA.Tを最も効率よく使えるのはこの子達だ。しかし、デザイナーベイビーをこんな人数生み出すだなんて……ガゼルに至っては元々は孤児じゃないか。

 

 いや、やめよう。自分の子供を棄てた人間が今さら道徳を語ったところで空虚なだけだ。

 

 

 

 

 

 天空の塔で研究をして九年。あの子に会ったのは偶然だった。

 

 塔の天辺(地下深く)に昔馴染みに会いに行った。今日中に彼の承認が必要なのに……

 

 

 同僚の研究者達に聞きまわって、ようやく一つの部屋に辿り着いた。中に入ると昔馴染みはいた。彼は此方に背を向け、硝子の向こうの部屋を見ていた。その部屋では誰かがA.Tで走っている。背格好的に重力子のようだ……何番だろうか?

 

 襟足の少し伸びた黒髪。前髪も目にかかるほどに長い。その前髪に隠された顔をよく観察して……思わず息を呑んだ。

 

 昔馴染みの後ろ姿に駆け寄り、肩を掴んで乱暴にこちら側に振り向かせる。

 

 

「おや、栖原君じゃないか」

 

「あれはなに!」

 

「まぁまぁ、落ち着きなよ」

 

「南博士!貴方、分かって言ってるの!?あの子、どう見たって!」

 

 

 言葉に詰まる。だって……そんな、あのとき私は。

 

 彼は肩を掴んでいた私の手を引き剥がす。

 

 

「あの子が、なんだい?」

 

「……私に似ているわ」

 

「おや、言われてみればそんな気も」

 

「……あの人に似ているわっ!」

 

「偶然って凄いね~」

 

「南博士!あなた「ねぇ、栖原君」」

 

 

 私の言葉を遮る。彼の薄ら笑いが酷く恐ろしいものに見えた。

 

 

「うん、正解。大正解さ。一瞬でよくわかったね。でもさ、だからなに?」

 

「っ!」

 

「君はあの日、この()を棄てた。そして僕が拾った。重力子にするには少し胚が成長し過ぎてたから、どうなるかな~って感じだったけど結果は見ての通り、運良く成功した……さて、話を戻そうか。君は何が言いたいんだい?」

 

「そ、れは」

 

「君が棄てたものを僕が拾ってどう活用しようと僕の自由だろう。もしかして、今更惜しくなったのかい?まさかまさか、だよね」

 

「私はあの子の」

 

「おっと、母親だなんて言わないでくれよ?彼からすれば君は自分を見殺しにした人間で、僕は命の恩人だ。反論はあるかな?」

 

 

 何も言えなかった。ただただ歯を食い縛り、彼を睨み付けるのが私にできる精一杯の反抗だった。

 

 

「僕も鬼じゃない。君が望むなら、彼の世話をさせてあげよう。母親だと告げるのも自由だ……君に出来るかどうかは知らないけどね」

 

 

 返答出来ずにいると、彼はあの子を呼び込んでいた。

 

 

「南博士、呼びましたか?」

 

「あぁ、この人に自己紹介しなさい」

 

「……?わかりました。はじめまして、実験番号AG-101Mです」

 

 この子の口から、そんな無機質な番号が出てきたことが耐え難かった。

 屈んで、力いっぱい抱き締める。苦しそうにしているが関係ない。

 

 

───実家に大きな椎ノ木があってね。小さい頃、よく登ったり飛び降りたりして遊んでたんだ。僕に飛ぶことを教えてくれた、先生とでも言うのかな。

 

───だからね、子供の名前は『──』なんてどうかな?男の子でも女の子でも良さそうでしょ?

 

 

「……ナ」

 

「な、何ですか?というか苦しいですよぉ」

 

「あぁ、ごめんなさいね」

 

 

 腕の力を緩める。「ぷはっ」と息を吐く姿は、他の重力子よりも年相応の子供らしさがみえる。

 

 小さな肩に手を置き、改めて正面から見据える。

 

 ストレートの黒髪は私。スッとした鼻は彼。口元は私。眠たげな黒目は彼……十字が浮かんでいなければ、とても良く似ていただろう。

 

 初対面の相手からまじまじと見られてどうしたら良いか分からないのだろう、居心地が悪そうにしている。思わず笑ってしまう。

 

 

「初めまして。今日からあなたの担当になったの。よろしくね」

 

「よろしくお願いします、えぇっと」

 

「……先生でいいわ。ところで、AG-101Mなんて味気無いと思わない?」

 

「特に考えたことありませんでした。僕は会ったこと無いけど、他の重力子にも同じような番号がつけられているんでしょう?南博士が言ってました」

 

「そうね。でも自分自身で名前をつけた子もいるわ。あなたもどうかしら?」

 

「自分で、名前を?」

 

 

 突然のことに、分かりやすく戸惑っている。

 

 

「もし、もしよかったら……お近づきの印に、私からあなたに名前を贈っても良いかしら?」

 

「先生から?……じゃー、かっこいいのをお願いします」

 

 

 あぁ、嫌だと言われないか緊張する。世の親は皆こうなのだろうか?……いや、普通はこんなに大きくなってから名付けることは無いか。

 

 

栖原 椎名(すばら しいな)……どうかしら?」

 

 

 顎に手を当てて思案する。え、ダメ?どうしようかしら他に案は無いのだけど。

 

 

「しいな……うん、いいですね。改めまして、栖原椎名です。よろしくお願いしますね、先生」

 

 

 へにゃっと笑う彼の顔を見て、私の目から涙がぽろぽろとまるで雨のように流れ出てきた。

 

 

「えっ、えっ!僕なにか悪いことしちゃいましたか!?」

 

 

 あわあわとしながらも、指で涙を拭ってくれようとする姿に、また泣けてくる。

 今度は先ほどと違い、優しく、壊れ物を扱うように抱き締める。

 

 

「よろしくね、椎名君」

 

 

 勝手な都合で生み出して、勝手な都合で棄てて……今度は生きて目の前にいると手放せなくなった。

 

 あぁ、私の最期はろくなものにはならないだろうけど……少しでも長くこの子の成長が見られますように。

 

 


 

 

───そんなに鳥が羨ましいなら創っちゃいなさいよ、あんたの翼。そうやってぐちぐちと言ってるより、よっぽど建設的でしょ。

 

 

「君は覚えて無いだろうね」

 

 

 南林太は廊下を一人歩きながら呟く。AG-101M改め栖原椎名の存在を知っているのは、極僅か。彼女に知られないようにするためだけに、塔の最も天辺に近い部分に隠していたのだから。

 

 

「会わせるつもりは無かったんだけど……まぁ、いいか。珍しいものも見れたし」

 

 

 脳裏に浮かぶ泣き顔。

 

 

「アイツの葬式でも泣かなかったのになぁ」

 

 

 今度は彼女が喪服を着て、能面のような顔で立っている姿が浮かぶ。

 

 

「それよりも、シイナ君はどうしよっかな~。もう秘密にする必要もないし……データ晒すか」

 

 

 シイナのデータ。南が直接見られる時間はそう多くない。たまに顔を出しては、助言をしていく。そんなやり取りを何年もしている間に、シイナはみるみる成長していった。

 研究者たちの間で最高傑作と呼ばれるキリクと遜色無い……いや、もしかしたら……映像と少しの助言で他人の道を走れるシイナのほうが上なのかもしれない。

 

 

───飛ぶのってやっぱり気持ちいいね!この『えあとれっく』?ていうの、いつ発売するの?え、一般には売らない?じゃーなんで履かせたのさ!?林太君のドS!

 

───飛ぶのって、すっごく楽しいですよね!今日はどんな飛び方を教えてくれるんですか、南博士!

 

 

遺伝子(そんなもの)になってまで生きてるなんて、お前気持ち悪いよ……うん、晒そう。今すぐってのは流石に彼女が可哀想だからしないけど、絶対晒そう」

 

 

 同じように笑う二人の顔を思い出して、つられて笑った。

 




 今回のアンケートは私個人が気になっているだけなので「教えてやんよ!」って方だけぽちっとしてください。


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9話 気持ち良くできましたか?(小声)

 ねんのためR-15タグを付け足しました(おこ)

 文字数数えた訳じゃないけど、RTAパートと小説パートの比率が逆転してしまった気がします(激おこ)


 予想外のタイム短縮に~嬉しさと驚きでゴチャゴチャしているRTA、はーじまーるよー。

 

 

 はい、キリクのあの会話イベント。あれが発生したので、あと二日で天空の塔ともおさらばですね。下手したらレベルと好感度足りなくてスシ君がこの世からおさらばする可能性もありますが(激ウマギャグ)

 

 まぁまぁ、仕方ありません。おとなしく練習しましょ。

 残念ながらキリク(とおまけのシムカ)は現れません。昨晩キリクが言ったとおり、他のグラチルにお話したり、例の研究者をストーキングしたりで大忙しです。

 

 じゃけん、誰か(Wソラ以外)が来てくれることを祈りつつ、個人練習しましょうねぇ。

 

 と言っても、もう個人練習じゃなかなかステータスも上がんないんですよねぇ。

 

 折角ですからあれ、やってみましょうか。一人合体技(意味不明)

 

 

 まずはあれです。()カズ()の合体技、火の鳥です!正式には「Grand Fang Fire Bird」と言いますが、英語は苦手なので火の鳥で通します(不屈の意思)

 

 まずは“血痕の道”で牙を作ります。すぐさま次の行程です。“炎の道”で先程の打ち出した牙に追いつき、その過程で生み出した炎を牙にブッ掛けます。上手く纏わせることができたら火の鳥完成です!

 

 いやー、三分クッキングも真っ青な調理時間でしたね。

 ……ていうか出来るのかよ、何だお前(素)

 

 まあ、多少足に負担がかかるようですね。よかったスシ君人間だったよ。

 

 でも……オラわくわくしてきたぞ!(悟○並感) 次何させましょうか!?さっきの火の鳥を風を使って自由自在に動かしてみますぅ!?大地×風で砂嵐やりますぅ!?血痕×荊棘でグネグネした牙でもつくりましょうかぁ!?

 あぁ、夢が広がりんぐ!

 

 はっ!……失礼しました。色々できるのが楽しくて思わずはしゃいでしまいました。

 

 でもステータスが普通の個人練習より伸びているので、やっぱり一人合体技の練習を続けます。もちろん倍速で。

 

 おぉ、凄いですね。大技の見本市ですよ。倍速だとなおのこと面白いです。あっ!

 

 

〉〉失敗した。A.Tの限界を見誤っていたようで、壊れてしまった。気は進まないが、先生に見せに行かなければ。

 

 

 そういえば、朝から女研究者との会話ありましたね。まあ実際はスシ君が一方的に気まずさを感じているだけですが。

 ダメですよ、スシ君。玉璽貰えるまでは仲良くしなさい(屑)

 

 

〉〉先生の研究室に着いた。ノックして、名前を告げるとロックが解除される音がする。中に入ると先生と……なぜかシムカがいた。

 

 

 おや?なぜお前がいるんですか?皆への伝達はお前の役目なんだから働きなさい(小姑並感)

 

 

「シイナ……」

 

「丁度良かったわ。呼びにいく手間が省けた……付いてきてちょうだい」

 

 

〉〉先生は此方の返事を聞くこと無く部屋を出る。突然のことで動けないでいると、シムカが此方の手を取り歩きだした。それに引っ張られるように付いていく。

 

 

「大丈夫。危ないことは無いから安心して」

 

 

〉〉大丈夫とか安心しろとか言うわりに、シムカの表情はいつもに比べて暗い。先生も素っ気ない感じだ。一体何がどうなっているのか……それからは誰も口を開くことは無かった。

 

 

 えぇ、どこまで行くんですか?

 ただでさえスシ君と女研究者の部屋は塔の天辺に近いのに、こんなに降りて行ったら地底人になりますよ(錯乱)

 

 

「着いたわ……あなたは向こうで準備してきてちょうだい。シイナ君はこっちよ」

 

 

〉〉シムカと別れ、連れてこられたのは様々な機械で四方を埋め尽くされた部屋だった。中央にはひと一人が座れるような場所がある。先生はそこを指差す。

 

 

「あそこに座るのよ、裸で」

 

 

〉〉裸?なぜ。

 

 

「今からするのは調律よ。シイナ君、あなたのA.Tを完成させるために、あなたの情報を調律者に余すこと無く伝える必要があるの……ちゃんとした設備が使えれば、そもそも調律者(リンクチューナー)に調律してもらう必要性なんて無いのだけど」

 

 

〉〉どうして使えないのか尋ねる。先生は具体的な答えは出さず、曖昧に笑うだけだった。答える気は無いらしい。大人しく服と下着を脱ぎ、背もたれに体を預けるようにして座る。先生はそれを見届けると、部屋の片隅にあるパソコンなどの機材の方に向かった。

 

 

 あっ!このゲーム、選択肢によってはR-18になるんでした。タイムのことしか頭に無くてすっかり忘れてましたよ。

 

 しかし、これはRTAなので(R-18展開は)ないです。安心してくれよ~。

 

 じゃけん、編集して下半身にモザイクかけましょうね~……卑猥度上がってない?気のせい?

 

 

〉〉座ってから一分も経たないうちに扉が開き、裸のシムカが入ってきた……いや、よく見ると体にピッタリと張り付くスーツのようなものを着ている。

 

 

「始めようか、シイナ」

 

 

 顔以外モザイクかける?…………全裸っぽいだけで全裸じゃないからいいか!(面倒くさがり)

 

 

〉〉まさか、調律者というのはシムカのことなのだろうか。先生に顔を向けると彼女は無言で頷いた。正面に視線を戻すと、既にシムカは此方の目の前に立っていた。

 

 

「やり方は知ってるし、イネがやってるのをちゃんと見てたから、シイナは安心して身を任せてくれて良いよ。だいじょーぶ……痛くないから」

 

 

〉〉そう言って、シムカはさらに此方に寄ってくる。此方の腰を挟むように両膝をつき、両肩に手を置いてきた。身長は此方の方が高いとはいえ、流石にこの体勢でお互いの顔を合わせるには、此方が見上げ、彼女が見下ろす必要がある。シムカの桃色の長髪が、まるでカーテンのように周りの景色を覆い隠す。見えるのは彼女の整った顔だけ。

 

 

「……最初ね、先生は巻上教授に頭を下げて、イネにシイナの調律を手伝ってもらおうとしてたんだって。当然だよね、イネはみんなのA.Tの調整に携わってるんだから……私とは経験値が違う。わかってる……でもダメ」

 

 

〉〉内緒話をするように彼女は囁く。そのまま腰を下ろした。つまり、此方の太股の上にシムカがペタんと座る形になっている。

 

 

「手、出して」

 

 

〉〉言われるままに右手を差し出す。その手に彼女は白魚のような指を絡める。

 

 

「調律に必要なのはね、調律者(わたし)パートナー(あなた)に心と体を全て捧げてパートナー(あなた)の全てを識ること」

 

 

〉〉絡めた指が、少し震えている。

 

 

「シイナのA.T()を完成させるために……教えて、あなたのこと、全部」

 

 

〉〉正面に見える彼女の顔は笑っているが、どこか暗い影がある。不安……なのだろうか?……どうする?

 

 

 もう何でも良いから、さっさと調律させなさい(ホモはせっかち)

 

 

〉〉空いている左手でシムカを抱き寄せ、失敗してもいいから好きにしろ、と伝える。

 

 

「失敗って、失礼な……でも、ありがと」

 

 

 はい、ここからは倍速します。やってることはシムカとスシ君が全身ねっとりと隙間無く絡み合う(意味深)だけですからね。

 余すこと無く見たい方は、自分で買ってプレイして、どうぞ(無慈悲)

 

 

 お、データを取り終わったようですね。シムカがスシ君から離れてA.T組み立て始めました。

 

 

「─────♪」

 

 

〉〉シムカの口から紡がれる歌。ただの歌ではなく、この中に数多の情報が組み込まれているもののようだ。

 

 

 ポポン──“閃律の道”ヲ走レルヨウニナリマシタ.

 

 

 はい、なんかおまけのように“閃律の道”を覚えることができましたね。

 私、この道をこんな覚え方したの初めてです。基本的に“閃律の道”をプレイしたいなら、最初のステータス決めのときに「調律」の項目にポインヨ全振りですからね。

 ……こいつ(スシ君)天才か?(今さら) まあ、この道使うことはないでしょうけどね。

 

 

 あ、最終調整入るからって部屋追い出されました……なんでや!

 

 


 

 

「シムカちゃん、ちょっといいかしら」

 

 

 みんなに明後日のことを伝えに行く途中、先生に声をかけられた。

 研究者は信用ならない中で、彼女についていくのは得策ではないだろう。

 

 

「明後日が楽しみね」

 

「っ!……盗み聞きですか?」

 

「あの子も含めて、あなたたちの部屋にプライバシーなんてあると思わない方がいいわよ。まあ、盗聴機能はシイナ君の部屋に私が勝手につけただけだけど」

 

 

 流石にピンポイントで言われてしまったら、逃げることは出来なかった。

 

 案内されたのは先生の研究室。先生は椅子に座り、頬杖をつく。この部屋は来客を想定してないようで、他に椅子はない。私は先生と机を挟んだところに立つ。

 

 

「さて、単刀直入に言うわね。私のお願いを一つ聞いてほしいの」

 

「お願い……私に何をさせるんですか?」

 

「頷いてくれたら言うわ」

 

 

 ……何がなんでも私にお願い事を呑ませたいらしい。

 

 

「じゃあ、私の質問に答えてください。真面目に答えてくれたら、私も先生のお願いをききます」

 

「いいわよ、質問は?」

 

「先生とシイナの関係」

 

「……一応聞くけど、なんでそんなこと気になるの?」

 

「大事な人のことを知ろうとするのはおかしなことですか?」

 

「……あぁ、やっぱりシイナ君のこと好きなの?」

 

「なっ、ちがっ!大事とは言いましたけど、好きとか言ってませんよ!」

 

「じゃー、嫌いなの?」

 

「いや、そんなことも言ってないじゃないですか!」

 

 

 にやにやと私を見る先生。何だろう、凄い敗北感が。

 

 シイナと同じ黒髪。肩口まで伸びたそれを、彼女はかきあげる。

 

 

「ねぇ、シムカちゃん。あの子のことが好き?あぁ、別に恋愛感情とかじゃなくていいわ。人としてとか、友人としてとか、そういうので」

 

「好きですよ」

 

 

 その言葉には迷い無く答える。先生は満足気に笑った。

 

 

「うん。やっぱりあなたで正解なのかもね」

 

 

 一人で勝手に納得したようだ。先生は静かに語りだす。

 

 

 結婚したけど子供が出来なかったこと。

 

 イネのお父さんの協力で子供が産めるかもしれなくなったこと。

 

 シイナのお父さんが死んだこと。

 

 ……先生の身勝手さでシイナを……手放したこと。

 

 色んなことから目を背けるように、この塔の研究に没頭したこと。

 

 今から一年前、思いがけずシイナを見つけて生きていることを知ったこと。

 

 

「なんで母親だって伝えないんですか?」

 

「血は繋がっているけど、私はあの子を一度捨てた。母親なんて……口が裂けても言えないわ」

 

 

 彼女の中でそれは決定事項なのだろう。瞳から意思の強さが滲み出ていた。そう言えば……

 

 

「シイナは三ヶ月前、最初にあったときにそれ以前の記憶が無いと言っていました。それはどうしてですか?」

 

「……出会った頃からあの子はね、凄かった。天才的だったわ、研究者間で成功例と呼ばれたあなたやキリク君よりもね。そうねぇ、私とあの子が塔の奥深くで静かに生活していて……一ヶ月かしら。とうとう南博士が他の研究者にあの子の存在を明るみにしてしまったの。みんな突然のことでてんやわんやしてたわね」

 

 

 その場面を思い出したのだろうか、先生の口角が少し上がった。

 しかし、すぐに不機嫌そうな表情に切り替わる。

 

 

「最初はなんてことない、他の重力子と同じ訓練や検査を受けていたんだけどね……どんどんエスカレートしていったの。あの子もこなせてしまったからなおのことね。次第にボロボロになるあの子を見ていられなくなったわ」

 

「……なんでそこまで」

 

「私には唯一無二でも、他の研究者からすればぽっと出の重力子。もともと居ない存在だったんだから、使い潰しても問題ないという判断だったみたいよ」

 

「そんな……」

 

「でもね、あの子は笑ってたの。『たしかにキツイけど、これでもっとうまく飛べるようになるなら』って……私ね、その時に思ったの」

 

 

 先生は背もたれに体を預け、少し上の方に視線を向ける。

 

 

「あぁ……このままだと、この子まで(あいつ)が奪い去ってしまうって……だから私ね、消したの。記憶を」

 

「え?」

 

「三ヶ月前、訓練中に事故があったの。そのときあの子は頭を打って気絶……丁度いいと思ったわ。南博士がガゼルを作って以来、あそこの設備には誰も近寄らなかったから、他人に見られずにあの子を連れ込むのは容易だった」

 

 

 先生は椅子を回転させ、私に背を向ける。空気がどっと重くなった気がした。

 彼女は私の反応を見ること無く、淡々と語る。

 

 

「施したのは記憶の消去(デリート)のみ。私はあの子から飛ぶ気持ち()をきれいさっぱり忘れさせてあげたの。これであの子は私から離れていかない……そう、思ったのに」

 

「あの子はまた同じ道を辿ってきてしまった。あっという間だったわ。きっと飛ぶことを気持ち(こころ)じゃなくて遺伝子(たましい)で覚えていたのね。流石に……もう殺せないわ」

 

 

 重苦しい空気が霧散する。再び椅子を回転させて此方を見る先生の顔は、とても優しげだった。

 

 

「だからね、今度は全力で生かすことに決めたの。あの子が(あいつ)に拐っていかれないように、全身全霊をもってあの子を重く(強く)する」

 

 

 先生は椅子から立ち上がり、こちらの目の前まで歩いてくると私に目線を合わせるようにしゃがむ。

 

 

「さて、私とシイナの関係を話したところでさっき言ってたお願い。シムカちゃん、あの子の調律者(リンクチューナー)になって」

 

「私が、シイナの?」

 

「そう。本当は巻上教授に頭を下げてイネお嬢さんにお願いするつもりだったけど……シムカちゃん、あなたにあの子の唯一無二の翼をつくるのを手伝ってほしいの」

 

 

 いつもシイナの走る姿を見ていたからだろうか、彼がどこか走りにくそうにしてたのを覚えている。

 

『四対四、残り二』

 

 イネが教えてくれた比率。自身の最高の力を出すには『自身の実力:A.Tの性能=四:四、残り二割は運』この比率が大事なのだという。

 この比率があまりにも狂っていると、体を痛めることになる。

 

 私たちはその割合をあまり意識したことはない。だって最初から、自分たちに合ったA.Tを渡された。しっくり来なかったことがない。

 

 シイナは違うのだろうか。

 

 

「頭を打った衝撃で記憶を無くしてしまったと説明したら、研究者たちはあの子に見向きもしなくなったわ。むしろ処分されそうになったほどよ……まあ、取り下げることには成功したけど、結果的に私とあの子は村八分状態」

 

「だからこの辺り誰もいないんだ」

 

「そう。あちらもこちらも不要な干渉しない。だからちゃんとした設備使えなくて困ってるんだけどね。記憶を消す前に使ってたA.Tじゃ、今のあの子に合わないのよ」

 

「それはわかりましたけど、なんで今なんですか?」

 

「……妻の勘は働かなかったけど、母親の勘は働くのね。明後日、不安で不安で仕方ないの」

 

 

 彼女は立ち上がり、部屋の片隅へ行く。そこには箱が幾つか積み上がっている。

 その箱の表面を、まるで宝物を扱うように優しく撫でる。

 

 

「別に杞憂であればそれでいいの。でももし、あの子に何かあるんじゃないかと思ったら……いま動かずにはいられない。だってもう、あの子のことで後悔するのは嫌なのよ」

 

 

 先生の辛そうな声を聞いて、私はこれが母親なんだと思った。

 私たち重力子には本来両親はいない。遺伝子提供者はいるだろうが、流石にその人たちを親と呼ぶ気にはなれない。

 

 ただこの人なら……

 

 

「いいですよ。私、シイナの調律者やります」

 

 

 義母ってことで、いいよね?

 

 

 

 

 

 イネも着てたけど、このSCってやつぴったり過ぎない?

 いやいや、流石にこれは……あぁでもここで私がやらなかったら代わりにイネがこの格好でシイナと……それもちょっと困るなぁ。

 

 ていうか、これでもしシイナに拒否されたらどうしよう……ムリ、立ち直れる気がしない。

 

 

「別に失敗しても良いから、やるだけやってみたら?」

 

 

 失敗が不安で震えてるんじゃないのよ、ばか。

 

 




 小説はナマモノだからタグは勝手に増えるってばっちゃが言ってた。


 キャラ崩壊のタグも視野に入れてる(意訳:シムカ推しの人に刺されないかガクブルしてる)


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10話 出来ませんでした……

 お気に入り、感想、評価、誤字報告本当にありがとナス!

 ところで、アンケートでエア・ギア読んだこと無い人でもこのRTA見てくれてるみたいで……少しでも布教できてたら嬉しいですね(逆に原作読破ニキネキにガバ設定に突っ込み入れられないかドキ☆ドキしてる)

 あ、今回は繋ぎみたいな話なんで流し読みして、どうぞ。



 昨日調律をしてもらって意気揚々と新しいのを受け取りに行こうと思ったら、道中で黒幕博士に捕まって裸足のまま連行されるRTA、はーじまーるよー!

 

 はい、状況は理解してもらえましたかね?私は理解できてません(憤怒)

 

 

「まあまあ、そんなに警戒しないでって……あぁそっかそっか、今の君と僕は初対面なんだね。なら自己紹介から始めよう。僕は南林太、君のはh……じゃなかった先生、先生の同僚ね。気軽に南博士って呼んでくれると嬉しい」

 

 

〉〉いろいろ胡散臭い。が、この塔の中にいるからには研究者なのは間違いではないのだろう。というか、そんな人間が今更此方に何の用だろうか?

 

 

「なぁに、ちょっと付き合ってほしいんだ」

 

 

〉〉……どうにも拒否権は無いようだ。

 

 

 え、やだよ(即答) どうにか回避は……ダメみたいですね(諦観)

 

 

〉〉連れてこられたのは、いつも使ってるのとは違うトレーニングルームのようだ。

 

 

「それじゃ、そこにあるヤツを右から順に履いてって」

 

 

〉〉指定されたのはノーマルなA.T……いや、どこかスピのに似ている。横に並ぶA.T達を見ても、どことなく他の重力子達が履いているものに似ているようだ。南博士に視線を向けると、彼はニヤリと笑った。

 

 

「おっ、察しが良いね。じゃー、僕が君に何をしてほしいかもわかるかな?」

 

 

〉〉指定されたA.Tを履く。“炎の道”により、床に炎を走らせる。南博士を見るが、特に指示は出ない。まだ走れということだろうか?

 

 

 あふん。突然のミニゲームです。『南博士に(トリック)を十個魅せつけろ!』ですって……走者を嘗めるなよ!(秒速十六連打)

 

 

「流石だねぇ……それじゃ、次行こうか」

 

 

 え、残り全部もミニゲームやるの?…………走者を嘗めるなよ!!(腱鞘炎)

 

 

〉〉全てのA.Tを使って、技を一通りやりきった。

 

 

「じゃ、次はこれね」

 

 

〉〉風呂敷を渡される……地味に重たい。床に置いて中身を見ると、そこには分解されたA.Tが。組み立てろ、ということだろうか?南博士は笑顔で頷く。

 

 

 ……えっと、こういうA.Tを組み上げる場合は、キャラクターの「調律」のステータスがものをいいます。

 ステータスが高ければ高いほど、どのパーツをどこに配置するかとか、あのパーツとこのパーツの相性がいいとかヒントが増えるのです。

 枢のステータスでノーマルなA.Tを組み立てる場合は、十ピースパズルより楽勝な難易度です。ヌルゲーかよぉ!

 

 さてさて、ところ変わってスシ君は昨日“閃律の道”を覚えたばかりなのクソザコ「調律」です。つまりほぼノーヒントで走者が組み立てることになります。ホワイトパズルかな?………………走者を嘗めるなよ!!!(発狂)

 

 

「これはそんなに期待してなかったから、そんなものだろうね」

 

 

 なんだこのオッサン!?(驚愕)

 

 

「じゃー、次の場所へLet's Go!」

 

 

〉〉そう言って引きずられて来たのは、コンピューターに囲まれた部屋だった。部屋の中央にはベッドが何台か円形に並んでいる。

 

 

「はい、このヘッドギアを被ったらベッドに寝て。そうそう……じゃー、行ってらっしゃい」

 

 

〉〉何かのスイッチを入れる、音がして、いしきが、とぎ、れ…………たと思ったら、不思議な世界にいた。パッと周囲を見渡した感じでは、本で見た「コロッセオ」に酷似している。天井部分には真っ暗闇の中に大きな鳥の骨格が浮かんでいた。

 

 

「今度はこれだ」

 

 

〉〉パチンッ!と彼が指を鳴らすと、目の前に人型のロボットが複数現れた。数は……三十体。よく見ると、こちらの足元にも変化があった。裸足だったのが先程履いたスピのA.Tに酷似したものを履いている。

 

 

「次にやることは理解できたかな?」

 

 

〉〉A.Tを装備したロボット達が素早い動きで一斉に襲い掛かってきた!

 

 

 はいミニゲームぅぅうう!内容は『“炎の道”でA.T搭載人型ロボットを三十体撃破せよ!』

 

 Foo↑腕の見せ所さんですね!見とけよ見とけよ~。ガガガガガ

 

 

〉〉苦もなく全てのロボットを撃破した。パチンッ!と再び音がすると、転がっていたロボット達が消えて新たに出現する。此方の足元も当然の如く変わっていた。

 

 

 …………………………。

 

 

 (倍速なう)

 

 

 ぬああああああん!なんなんだよこのイベントぉぉおおお!疲れたもおおおおおおん!

 

 

〉〉ようやく終わった。流石に疲れてしまった。そもそもなぜこんなことをしているのだろうか?

 

 

「んーとね、君はいろいろな道を走れるけれど、やはり得意不得意があるのか気になってね。結果としては“閃律の道”以外はかなりの高水準だった。素晴らしいものを見せてもらったよ……ただまぁ、このデータ収集はおまけみたいなものかな。本当は少し、今の君と話をしてみたかったんだよ」

 

 

〉〉一体なんの話をすると言うのだろうか。南博士はリズミカルに此方の周りを歩き出す。

 

 

「神様ってさ、不公平だとは思わない?鳥だって虫なんかだって飛べるように設計したのに、人間はそうしなかった。ね、不公平だろう」

 

 

〉〉……。

 

 

 スシ君これ、選択肢出してるようで実際は全部おんなじじゃん(呆れ)

 

 

〉〉別に、どうだっていい。

 

 

「君は飛ぶのは楽しいかな?」

 

 

〉〉別に。飛ぶという行為を楽しむ必要性は無い。

 

 

「ならば君は何故飛ぶ?」

 

 

〉〉それが存在理由だから。A.Tを上手く使う生命として生み出されたのだから、その使命を完遂する必要がある。それが自分の魂の価値。

 

 

「そっか……よし、じゃあコレで最後ね」

 

 

〉〉パンッ!南博士が手を高らかに打ち鳴らすと、目の前に一人の少年がいた。此方と同じぐらいの背丈。襟足の少し伸びた黒髪。前髪の奥に隠れた顔には笑顔が浮かんでいた。僅かに垣間見える漆黒の瞳には、キリク達と同じ十字が浮かんでいた。

 

 

「過去の自分と未来の自分に対面してみて、どんな気分だい?」

 

 

〉〉この三ヶ月間、自分の顔というものをちゃんと見たことがなかった。鏡は周辺から徹底的に排除されていたし、別に鏡をねだってまで自分の顔を見たいとも思わなかったから……不思議な気分だ。

 

 

「未来の僕、ですか?たしかに容姿は完全に僕ですけど……なんでこんな仏頂面なんですか?もしかして、そんなに不機嫌になるようなことが未来の僕に待ち受けているんですかっ!?」

 

 

〉〉……なんだこいつは。こんなにお喋りで、コロコロと表情が変わるこいつが過去?……頭が痛い。

 

 

「A.Tの性能は同じものにしている。それじゃあ二人とも……お互いを殺すつもりで頑張ってくれたまえよ」

 

 

〉〉パンッと南博士が再び手を打ち鳴らすと、床が抜けて落ちていく。下を見ても終わりが見えない。まさか、こんな身動きがとれないなかで戦うのか?

 

 

「擬似的な無重力空間だよ。大丈夫大丈夫、君も知ってるはずだよ。だって未来の僕なんでしょ?」

 

 

〉〉ヤツは不敵に笑って、姿が消えた。何処に?と探す前に左から衝撃波が襲ってきた……これは牙か。

 

 

 うおぉぉおおう!?ちょと強くね!?旧スシ君、なんか強くね!?タイム、タイム!!

 

 やだやめて叩かないで叩かないでよ!ンアッーーー!

 

 動くと当たらないだろ?動くと当たらないだろぉ!?動くなっつってんだろぉがよぉ!

 

 こんなときのぉ!魔法の言葉ぁ!馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前(天下無双)

 

 あぁ!ちょっと待ってマジで待て!え、うそーん……あと三割くらいだったって。

 

 

〉〉……負けてしまった。先程のコロッセオに戻っていた。今まで何とも思っていなかった重力が酷く重たく感じる。

 

 

「いやー、危なかった。僕と君の実力に大した差は無かったよ」

 

 

〉〉嘘だ。ならばどうして地面に四肢を投げ出しているのが此方だけなのか。此方の言葉を聞いてヤツは笑う。無理矢理体を持ち上げられ、立たされる。

 

 

「僕たちの違いはただ一つ。ここさ」

 

 

〉〉そう言って、突き立てた親指を自身の左胸に向ける……心臓?

 

 

「あっはは、ベタな答え~……大丈夫、今は少し忘れているだけで、切っ掛けがあれば直ぐに思い出せる」

 

 

〉〉此方の足元が淡く輝き出したことに気付く。どうやら電脳空間とやらとはもうお別れらしい。

 

 

「コレだけは覚えておいて。僕は君の此処にいる……また会おうね」

 

 

〉〉此方の心臓に、拳を軽く打ち込む。それと同時に、意識が、とおのいて、いって……

 

 

「───に───くね、─」

 

 

〉〉こえ、を……き、いた。

 

 


 

 

「母さんによろしくね、(シイナ)

 

 

 大丈夫。僕たちは魂で空の飛び方を知っているのだから。ちょっと忘れてしまったからといって、無くなるものではない。

 

 

「ところで、父さんは会わなくてよかったの?今を生きてる僕なんて超レアだよ」

 

 

 先程まで誰もいなかった筈の僕の横には、二十代半ばの男性が一人立っていた。

 

 

「いやいや、あそこで出ていったら林太君に何されるか分かったもんじゃないからね。パパを殺す気かい?」

 

「もう死んでるじゃん」

 

「……息子が辛辣でパパ悲しい」

 

「キモ」

 

「……」

 

 

 

 




RTAパート、近々終われればいーなー(願望)


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11話 巣立ち

 (変更点)1話目のキャラクリにて:原作開始時のスシ君の年齢を20→23に変更。


 なんか終わり方がよくわからなくなったゾ。



 トロフィー獲得に向かってひた走る、最後のRTAパート!はーじまーるよー!(大声)

 

 

〉〉朝になった……いよいよ今日だ。A.Tを受け取りに先生のところへ行こう。

 

 

 倍速で部屋までいっきまーす。はい、ついた。さっさとA.T寄越せよ!ほれほれ!はよせろや!(恐喝)

 

 

「あぁ、いらっしゃい。コレ、取りに来たんでしょ」

 

 

〉〉先生が新しく出来たA.Tを持ってきた。全体が黒く、赤や青、黄色や白といった線が八本入ったソレは異様な存在感を放っている。

 

 

 はえ^~(ノーマルなA.Tに比べて)すっごい大きい……

 

 

「……私が履かせてもいいかしら?」

 

 

〉〉……別に断る理由もない。黙って頷いた。

 

 

 いや、断りなさいよ。なに履かせてもらってるの?甘えん坊なの?赤ちゃんなの?ばぶーなの?(煽り)

 

 

「ごめんなさい……どうしても設備と材料の関係で完璧にはしきれなかったの」

 

 

 え、うそやろ。雑魚やんけ。不良品渡すとか……訴訟も辞さないゾ。

 

 

「大丈夫。それでも、シイナ君がよく走る“炎”“風”“大地”“紫電”“荊棘”“血痕”“轢藍”は全力で走っても壊れることは無いはずよ」

 

 

 まぁまぁ、いいでしょう。許してあげますよ……今日でお別れですから(にっこり)

 

 

 ポポン──“(から)の玉璽(未完成)”を入手しました。

 

 

 ……あぁん?

 

 

〉〉……そろそろ行かなくては。礼を言って部屋を出る。

 

 

 さて、キリク達と合流するのですが、今のはちょっと……あぁいやでもタイム的に凄くいい感じに来てるから、もう後でもいいか。

 

 はい、ちょっと玉璽の名前に引っ掛かりましたが、これはRTA。ゴールを目の前にして余計なことは考えないようにしましょう。

 

 

「来たね」

 

 

〉〉集合場所にはキリクとシムカ、SA-503Bがいた。

 

 

「すでに他のみんなには配置についてもらった。シイナはSA-503Bと一緒に撹乱を頼む。シムカ、行くぞ」

 

「またあとでね、シイナ」

 

 

〉〉二人は壁を登っていった。

 

 

 えー……なんでこんなタイミングでこいつ()と二人っきり(意味深)なんですか?

 流石に最後の最後まで好感度に気を付けなきゃいけないとか辛すぎません?

 

 

「さてと。ワイらも適当な所で暴れ……ん?シイナ、お前のA.Tってそないにゴツかったか?」

 

 

〉〉今日新しいのを受け取ったことを伝える。

 

 

「ほーん……ワイなぁ、ただ撹乱するのもつまらんと思うとったところや。ちょうどええ、そいつの試走も兼ねてバトルしようや。ついでに周りを適当に壊したったら研究者たちの撹乱もできて一石二鳥やろ」

 

 

〉〉此方が返事をする前に、彼が襲い掛かってきた!

 

 

 おいヤメルォォオオオオ!不意打ちだなんて、お前それでもラスボスかよぉぉおおお!(激おこ)

 

 

 プッツン

 

 

 ……いいぜぇ、お前がその気ならこっちだってヤってやんよ(マジキチスマイル) ふへっ、ふへへへへっ、ふひっ(発狂)

 

 

 正面からの「風」!

 カスが!てめえの生ぬるい「風」なんぞ効かねぇんだよ!(無敵) 「荊」で切り裂いてやらぁ!

 

 ほらほら「牙」!おまけに「炎」も乗っけて火の鳥!おまけのおまけに「風」も追加で大炎上じゃボケぇ!

 

 ちっ。「風」でそらされましたかぁ、やだぁ……ん?トルネードですか。「轟」で吸収してぇ、倍返しだ(ドン)

 

 「石」で空気を固めてぇ、落とす!そうですよね「風」のバリアで対抗しますよね。その隙にワイヤー走らせて……「雷」でビリビリしときな!

 

 

 工事 完了です(達成感) 

 

 まあ、こんな時だからか三割ほど体力ゲージ削ったら強制終了でしたが…………スシ君は無傷ですけどね、無傷ですけどね!(大切なことなので二回言いました)

 

 

〉〉驚いた。思い通りに技を撃ってもA.Tが自壊しないとは。

 

 

「お、お前なー!撹乱のこと頭からすっぽ抜けとったろ、ボケぇ!」

 

 

〉〉……突然襲い掛かってきたのが悪い。SA-503Bは、いくらか傷はあるみたいだが、大丈夫だろうか?

 

 

「……お前のあまっちょろい(トリック)なんぞ効くかいな」

 

 

〉〉SA-503Bは床に座って、壁に背中を預けている。周りを見渡してみる……思っていたより破壊してしまったようだ。研究者たちがあたふたしている。他でも同じようなことがおきていると言っているのが聞こえた。他のみんなも上手くやっているらしい。

 

 

「お、キリクたちや」

 

 

〉〉確かに離れたところにキリクとシムカがいる。その先には階段を登って逃げようとしているアタッシュケースを抱えた男の研究者、そして更にその先には─────。

 

 

「ちょっ、待てや!シイナ!」

 

 

〉〉気づいたときには走り出していた。なんで先生が?

 

 

「───────」

 

「───!──────!」

 

 

〉〉何か言い合っているようだ。男が先生に掴み掛かって揉み合いになっている。何処かの爆発の衝撃が原因か、階段が崩れた。下にいた男が先に落ち、持っていたアタッシュケースは上空に投げ出された。先生も宙に舞う。そのまま落ちて───間に合うか!?

 

 

「シイナっ!?」

 

 

〉〉手を伸ばす。先生の手をつか──ドンッ!

 

 

「あっ」

 

 

〉〉彼女の伸ばした腕の上に先程投げ出されたアタッシュケースが落ちてきて、その手を掴み損ねた────落ちていく。どんどんと。助けに行かなければ。

 

 

「馬鹿か!この下は何千℃の世界だぞ!死ぬ気か!?」

 

 

〉〉キリクが腕を掴んで邪魔をしてくる。振り払ってでも、行こうとして。

 

 

「シイナ!だめ!」

 

 

〉〉今度はシムカが後ろから抱き締める形で、必死に此方を留めようとする。

 

 

「なんかよう分からんけど、流石に間に合わんやろ。ほれ、もう何も見えへん」

 

 

〉〉いつの間にか居たSA-503Bの酷くどうでも良さそうな声で、熱が一気に引いた。二万㎞以上続く、先の見えない空洞を見下ろす。何も、見えない……何も。

 

 

「シイナ……」

 

 

〉〉キリクの此方を労るような声が聞こえる。わかってる、もう無理だ。全速力で駆け降りて彼女に追いつける可能性は零ではない。でもそのあとは?大人の女性一人を抱えて一体どれだけ垂直な壁を登っていける?

 

 

「……」

 

 

〉〉シムカの腕の力が、なお強まる。行かせない、という無言の抵抗だろうか。

 

 

 

 

 えぇっと……なんか、うん。とりあえず、無気力になったシイナ君は見ての通りシムカに手を引かれて移動中ですね。

 

 はい、ここが塔脱出前の最後のセーブポイントなので、このRTA最初で最後のセーブをします。よし、完了したので戻りましょうね~。

 

 

〉〉いつの間にか、皆が集まっていた。

 

 

「……これからどうしよう、キリク。もうここにはいられないよ」

 

「……外だ。空を見に行こう!」

 

「空ってなあに?」

 

「わからない、けど……きっとすごい所だ。図鑑(データ)で見た鳥や……虫とかがいっぱい棲んでいるんだって」

 

 

 はい!それじゃー外に向かってラストスパート、イクゾー!デッデッデデデデ!(カーン)

 

 

 垂直の壁を約四千メートル登っていきます。登っていく、の、ですがっ!クソわよッ!!間違えたお排泄物ですわよッ!(オジョウサマァ)

 

 さっきのマモレナカッタ…イベントのせいでストレス値(マスクデータ)が上がってますね。操作しにくいです。

 普通だったらぶっちぎり一番先頭で行けるんですが、こんな下の方に……あぁ、いけません!いけませんよ、この位置取りは!

 

 

〉〉少し上を走っていた誰かが、バランスを崩して落ちてきた。正面で受け止める……SA-503Cだ。

 

 

 ちっ!無駄イベントを回収してしまった……走者一生の不覚です。

 

 

〉〉疲れたならこのまま抱えていこうかと尋ねる。

 

 

 優しいなぁ!おい!でも、ホモの優しさはそいつに出さなくていいから。

 ぜってぇ恩を仇で倍返しにしてくるから!

 

 

「……なんでや。こないキツい思いしてまで、上なんぞ行かんでもええやん」

 

 

〉〉抱えられたまま弱音を吐いている……どうする?

 

 

 選択肢!選択肢を寄越せ!未来のために、こいつ(ニケ)をここで見捨てるという選択肢を寄越せ!……ちっ、無いか。ならばどれでも良いです(投げやり)

 

 

〉〉……弱音を吐いてでも自分の足で走るか、黙って荷物になるか、さっさと選べと催促する。

 

 

「っ!自分で走るわ!バーカバーカ!」

 

 

〉〉腕の中から飛び出ていく。正直そろそろ限界だったから良かった。

 

 

「見て、出口!」

 

 

〉〉眩しさに一瞬目を瞑る。もう一度開くとそこには(自由)がひろがっていた。無限に続く青い空、大きく分厚い白い雲。塔で生まれ育ったから、何もかもが初めての筈なのにどうしてだろう……懐かしさを感じた。

 

 

「キリク、どうして泣いてるの」

 

「わからない……でも、シムカも」

 

 

〉〉その二人は言葉通り涙を流していた。周りの重力子たちも空を見上げて泣いている。自分の目元を触るが、渇いている。

 

 

「決めたで!ワイな、あん中やったらSA-503Bゆう番号で十分や思とったけど……この先、外の世界じゃ必要なんやろ?ワイの名前は『空』や。みんなもそう呼んだって♡」

 

 

 バタバタバタバタバタ

 

 

〉〉ヘリコプターが上空に何機も集まってきた。

 

 

「まずいっ!みんなうまく逃げ切ってくれ!」

 

 

 おかのした!

 

 

「シイナ!」

 

 

〉〉シムカがこちらに手を伸ばしてきた……どうする?

 

 

 無視!(即答)

 

 

〉〉小さく首を横に振って、その場を立ち去る……何処へ行こうか?

 

 

 とにかく遠くへ!双子のいない遥か彼方へ!(全力疾走)

 

 

 はい、移動中に先程のイベントの説明をしておきましょう。

 散開時にシムカが手を伸ばしてきたアレ、それまでの好感度が高いキャラトップ3がランダムで選ばれます。

 選ばれたキャラはあのように「来いよオラ!」してきます。手をとるもとらないも自由です……が、十秒以内に選択しないとヘリから麻酔銃でスナイプされて「鳥籠エンド」になります。二度とお外に出れないバッドエンドですので、プレイする際は気をつけてくださいね(2敗)。

 

 ちなみに手をとると脱出後そいつと共に生活することができますが、これはロスです。

 一人だとその日のうちに「眠りの森」結成時までスキップできます。しかし、行動を共にする相手がいると、しばらくの間スキップできないのです。

 

 

 これはRTAなので、無駄な同行者などフヨウラ!

 

 

〉〉ここは何処だろう。人がたくさんいる……喧しい。人の少ない所へ移動して休もう。

 

 

 さて、みなさんラスボスチェックのお時間です。ここでWソラが来なければ走者の勝ち、そのままスキップしてトロフィーゲットだぜ。

 

 ……来たらロードしてやり直しです。そうですね、十回繰り返し襲われたらこの記録消します。何もかも無に返して差し上げましょう(曇りなき眼)

 

 

 さぁ!どうだ!

 

 

〉〉気づいたら暗くなっていた。どうやら何時間か寝ていたらしい。空を見上げると、暗闇の中に無数の輝きが見えた……あれが星か。そんな風に初めてのものに目を奪われていると、誰かが近寄ってくる気配がする。

 

 

 ぬぅぁ……まじか……ロードかよ……

 

 

「やぁ、探したよ」

 

 

〉〉南博士が暗闇から現れた。

 

 

 ……なんですと?初めてこのタイミングで黒幕が出てくるのを見ました。へぇ、こういうのもあるんですね……え、マジで何しに来やがったテメェ(ビビり)

 

 

「そんなに警戒しないでくれ。別に連れ戻しに来たわけじゃないんだ」

 

 

〉〉では一体?

 

 

「これ、君の先生の研究室から唯一残ったものだよ……いる?」

 

 

〉〉そう言って懐から取り出したのは一冊の本だった。

 

 

「正確には鍵付きの日記帳さ」

 

 

〉〉見るべきだと思う……と同時に見るべきではないとも思う。見れば大切な何かを知れるだろうが、同時に苦痛を味わうだろう……どうする?

 

 

 え、見ませんよ(即答)

 いくら走者がタイムを縮めることにしか興味がないからって、あんだけ匂わされたら流石に先生とスシ君の血縁関係を疑いますよ。

 

 というわけで、余計なイベントはフヨウラ!ほら、帰った帰った。

 

 

「後悔、しないといいね」

 

 

〉〉南博士はそう言うと、此方を振り返ることなく去っていった……疲れた。もうこのまま目を閉じてしまおうか?

 

 

 やった!やりました!これでイエスを選べば未来へひとっ飛びです!悪魔から逃げ切りますよ!

 

 

〉〉欲求に抗うことなく目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──て。────イナ」

 

 

〉〉体が揺すられて、どこかぼんやりと声が聞こえる。

 

 

「起きて、シイナ!」

 

 

〉〉耳元で名前を呼ばれて目を覚ます。シムカの顔が目の前にある……懐かしい夢を見ていた気がする。

 

 

「懐かしい夢?」

 

 

〉〉そう……ところでなんの用だろうか?

 

 

「うわぁ、覚えてないの?今日だよ、空が新しい子をつれてくる日。シイナってばいつまでたっても起きてこないから迎えに来たの。ちなみに、シイナ以外はもうみんな顔合わせ終わってるんだからね」

 

 

〉〉あぁ、そうだったか。シムカに手を引かれて移動する。別に手を引かれなくても大丈夫だと何気なく言うと、彼女の握る力が倍になった。

 

 

「ダメ。私、いまだにあの日のこと後悔してるの。無理にでも掴んで一緒に連れていくべきだったって。だからダメなの、放してあげない。それに……」

 

 

〉〉シムカは足を止め、此方を振り返る。その整った顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

「こういうのは最初のうちにちゃんと主張しておく必要があると思うんだ。勿論、あっちとこっちでは縄張りが違うことはわかってるんだけど、ついうっかりあっちが惑わされちゃうことがあるかもしれないでしょ?だから間違ってこっちに入ってこないよう念押ししておくの……念入りに、ね」

 

 

〉〉なぜだろう……暑くもないのに額に汗が一筋流れた。……結局、集合場所までシムカに手を引かれることになり、彼女の手から放されることなく扉の中に連行された。

 

 

「遅かったじゃないかシイナ。約束の時間に遅れるなんて-80点だ」

 

 

〉〉キリクの言葉に軽く謝罪する。部屋の中には見慣れた九人と初めてみる女の子が一人。あぁ、彼女が珍しく空が推薦してきた人物か。彼女が此方に歩み寄ってくる。

 

 

 

「初めまして。一応『荊の王』って呼ばれてます、野山野 梨花(のやまの りか)です。えっと、あなたの名前をきいても?」

 

 

〉〉いつの間にか呼ばれるようになっていた『虚の王』という称号と栖原椎名という名前を告げた。

 

 

「よろしくお願いしますね」

 

 

〉〉花が咲いたような笑顔を向けられると同時に左手に痛みが走る……ただ和やかな挨拶をしていただけだというのに何故なのか。

 

 

「こんなかでリカがチームに入るのに反対っちゅーヤツは?」

 

 

〉〉空からの問いかけ……どう答える?

 

 

 (タイムのために)反対なんてするわけ無いじゃないですか、やだぁ!

 

 

「……居らんみたいやな。そんじゃ、今日からこの面子で『眠りの森』ってことで……楽しくやろうや♡」

 

 

〉〉空の宣言の下、今ここに『眠りの森(スリーピング・フォレスト)』が結成された。

 

 

 ポポン──トロフィー【空の王への鍵】を獲得しました。

 

 

 

 

 はい!タイマーストップぅぅううう!

 

 タイムは……うん!しっかり最速更新してますね。流石走者、嘘はつかない。

 

 

 じゃー、完走した感想(激ウマギャグ)ですね!

 

 ……チャートが全然お仕事してなかったけど、結果が最速なので良かろうなのだ。

 

 まぁ、あれですね。単純に半年以上の無駄が省けたのと、ラスボスに襲われてリセットの流れが無かったので妥当と言えば妥当なタイムです……二度と同じことできないけどな!(断言)

 

 

 よし、これにてRTA終了!

 

 ここまでお付き合いしていただき、本当にありがとナス!

 

 


 

 

Character

 

【Name】栖原(すばら) 椎名(しいな) 

 

【Road】虚の道(ヴォイド・ロード)

 

【Age】16歳

 

【Height】177㎝

 

【Weight】60kg

 

 

Status ※( )は走者の独断と偏見の注釈

 

【戦レベル】295

 

耐久力(タフネス)】252 (犬山のド魂を平然と受け止められるぞ!)

 

持久力(スタミナ)】398 (天下無双の起きあがりこぼし)

 

攻撃力(オフェンス)】235 (パンチングマシーン550㎏越え!蹴りなら999kg(エラー)いくかもね※参考:イッキ415㎏、ウル目999㎏(エラー))

 

技術(テクニック)】336 (まあ、いろんな道走るんだからこれくらいはないとね)

 

機動力(スピード)】290 (残像だ)

 

【調律】20 (市販のノーマルA.Tを組み立てられる程度……つまり自分のA.Tを整備することも儘ならないクソザコ)

 

 

Skill

 

【感情欠落】

 喜怒哀楽が欠落している。そのため感情による実力の変動がみられない。スキルを変化させるには“─────”が必要。

 

【魅力】

 他人に好かれやすくなる。

 

【求メル者】

 練習及びバトルによる経験値がアップする。低いステータス項目では経験値がさらにアップする。

 

立体把握幹(ソリッド・センシティブ)

 目に見える全ての物体を三次元的に捉えることが可能な重力子としての能力。

 

生体羅針盤(バイオマス・ジャイロスコープ)

 完璧に近い精度で相手の次のアクションを予測することが可能な重力子としての能力。

 

 

Equip

 

【Head】───

 

【Hair】───

 

【Face】───

 

【Clothes】白衣

      黒のハイネック

      黒のチノパン

 

【Hand】グローブ(ワイヤー内蔵)

 

【A.T】虚の玉璽(からのレガリア)

 

【Other】───

 

 

Item

 

・財布

・家の鍵

・携帯電話

 

 




 これにてRTAパート終了です。いつぞやの後書き通り、第2章は実況風になります。RTAタグに引き寄せられてきた方には大変申し訳ない……。
 
 それでももし、もし良ければ……今後ともお付き合いしていただけると幸いです。


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空白期
1話 実況はじめました


 とりあえず、こんな感じで進みますよっていう導入回。

 ※途中ルーン文字使ってますが、端末によって読めなかったらすみません。


「キリク、どうして泣いてるの」

 

 

  (倍速中)

 

 

「シイナ!」

 

 

〉〉シムカがこちらに手を伸ばしてきた……どうする?

 

 

 手を  握る

    ▼握らない

 

 

  (倍速中)

 

 

〉〉気づいたら暗くなっていた。どうやら何時間か寝ていたらしい。空を見上げると、暗闇の中に無数の輝きが見えた……あれが星か。そんな風に初めてのものに目を奪われていると、誰かが近寄ってくる気配がする。

 

 

「よぉ、探したで」

 

 

〉〉SA-503B改め、空が暗闇から現れた。さがしてた?なぜ?

 

 

「そないに不思議そうな面すんなや。にしてもお前、こんなところで寝とったんかいな」

 

「おーい、おったか?」

 

(ソラ)か。見ての通り居ったで」

 

 

〉〉空が宙と呼んだのはSA-503Cだった。双子で『そら』と『ソラ』だなんてわかりづらい、なんて寝惚けた頭で考えていると……

 

 

「眠いんやったら寝かしたるわ……永遠にな」

 

 

〉〉その言葉とともに足の痛みを自覚する。右太股にナイフ……そして、そのナイフの柄を握るのは空。

 

 

「寝惚けるにしたって限度があるやろ。なんや?知り合いやからって安心しきっとったんかいな、マヌケ」

 

 

〉〉今度は宙の握るナイフが胸に突き刺さる。宙はひきつったように笑いながら、此方を罵倒する言葉を吐き捨てる。さらには突き刺したナイフで肉を抉るようにグリグリと動かす。早く心臓に届けと言わんばかりに…………どうして?何故こんなことを?

 

 

「お前の成長速度は異常や。このまま放っておいたら将来的にお前はワイの邪魔()になる……必ずや。せやからなシイナ……はよ()ねや」

 

 

〉〉空の言葉が理解できない。なぜ此方が空の邪魔になるというのか……しかし、彼はそうなると確信してこのような行動をとったことは紛れもない事実だ。

 

 

「……今さらやけどお前、抵抗せんのかいな」

 

 

〉〉抵抗……あぁ、そういえばそうか。考えもしなかった……そう小さく呟くと空が呆れたような顔をした……と思う。どうにも目が……。

 

 

「はよ死ねはよ死ねはよ死ねはよ死ねはよ死ねはよ死ねはよ死ねはよ死ねはよ死ねワイをバカにしよってシイナのクセにザコのクセにはよ死ねはよ死ねシムカに付きまといよってからにムカつくおちろおちろおちろおちろおちろや!」

 

 

〉〉……そんなに嫌われていたとは……出来れば先に耳がダメになってくれれば良かったのに。

 

 

「別に怨んでくれてええで。赦しは請わん」

 

 

〉〉……自由を謳歌出来なかったことは怨めしいが、今イけば先生に追いつけるかもしれない……あぁ、抵抗しなかったのはそういうことだったのだろう。そんな言葉を聞いた空はどんな顔をしているだろうか。

 

 

「……ワイはお前のこと大っ嫌いやった(眩しかった)で、シイナ」

 

 

〉〉その言葉を最後に、首に何かが触れ────。

 

 

 

-Game Over-

 

 セーブデータをロードしますか? ▼Yes

No

 

 

 

 

 

 

  (倍速中)

 

 

「シイナ!」

 

 

〉〉シムカがこちらに手を伸ばしてきた……どうする?

 

 

 手を  握る

    ▼握らない

 

 

  (倍速中)

 

 

〉〉気づいたら暗くなっていた。どうやら何時間か寝ていたらしい。空を見上げると、暗闇の中に無数の輝きが見えた……あれが星か。そんな風に初めてのものに目を奪われていると、誰かが近寄ってくる気配がする。

 

 

「やぁ、探したよ」

 

 

  (倍速中)

 

 

「正確には鍵付きの日記帳さ」

 

 

〉〉見るべきだと思う……と同時に見るべきではないとも思う。見れば大切な何かを知れるだろうが、同時に苦痛を味わうだろう……どうする?

 

 

 

 

 

 

 

 はい!と言うわけでお待たせしました!RTAで使用したデータを再利用して実況プレイする動画(小説)、はーじまーるよー!(形式美)

 

 冒頭部分はちょっとしたおまけです。興味ない?そうですか……(残念無念)

 

 

 まぁ、いいです(手のひら返し) さてさて突然ですがみなさんに、この動画の内容の説明をしておきたいと思います。

 

 え?聞きたくない?…………すいません聞いてください!何でもしますから!(何でもするとは言ってない)

 

 

 私、最近良いこと何も無いんです!(隙自語) 心が折れそうなんです!(隙自語) 自分が折れ無いようにするには他人の心をへし折ってやるしか無いんです!(人間の屑) でもリアルじゃそんなこと出来ません!(ビビり) だからラスボスの邪魔をします(ん?)

 

 

 というわけで、今回の動画(小説)の目標はトロフィー【その手は空に届かず】を獲得することです。

 このトロフィーの獲得条件は、ラスボスである空に『空の玉璽』を手に入れさせずに打倒する、というものです。

 

 一つ注意すべきなのは、『旧眠りの森』解散の切っ掛けとなった戦闘で空を倒しても、このトロフィーは獲得できません。

 空にとってあの戦いは、ルーン詩を手に入れるためのもの。つまり未来への布石です。勝っても負けてもどちらでも良いというスタンスでしたので、残念ながらあそこで空に勝っても空の野望を打ち砕く要因にはなり得ないのです。

 

 ちなみにあの時点では、どう頑張ってもキリクが邪魔をするので空を頃すことができません。諦めましょう。

 あの戦いでどーしても決着をつけたいというせっかちさんは、前に紹介したようにキリクでプレイするのがいいでしょう。唯一あそこで空を頃せるキャラですから。

 

 

 さて、動画(小説)の概要説明終わり!ゲームの続きをしましょうか。

 

 現在、スシ君が黒幕に迫られてる真っ最中(意味深)ですね。

 

 今回は読む方を選択してみましょう……ちなみに私の二次目標は“虚の道”について調べて攻略wikiに追記することです(隙自語)

 

 

〉〉南博士から日記を受け取る。ロックはすでに解除されていた。中身を読む。最初は大学生活についての内容を週に一回、一行程度で書かれていた。しばらくするとある男性のことについての記載が多くなる。毎日書いているわけではないが、一回の内容は少し増えていた。その後、結婚したことの喜びや子供の出来ない不安について綴られていた。暫くして男性が死んだとだけ書いてあり、暫くの間日記はとまっていた。次に書かれていたのは九年後の日付だった。内容は栖原椎名について……頭が、痛、い。

 

 

「お、いい反応だね~。さあさあ続きを読んで読んで」

 

 

〉〉関、係性を隠して、成長観、察。実験、過激化。事故で昏、倒。喪失、恐れて記、憶の消去、を実行。成功。しか、し驚異的な、成長速、度を確認。わずか三ヶ月、で消去以、前の能力値と遜、色ないまでに。路線変更、玉璽の完、成を急ぐ。他重、力子の力、を借りるも、完成に、至ら、ず。

 

 

 あぁそういえばあの人、玉璽くれるときに未完成云々言ってましたね。後で確認しておきましょう。

 

 

〉〉最後だ『不安が拭えない。やはり見に行くことにしよう。愛しい我が子に何事もありませんように』

 

 

「おやおや、泣いているのかい?」

 

 

〉〉南博士の言葉で、頬が濡れていることに気づく。頭が割れるように痛い。胸が締め付けられるように苦しい。口から吐き出されるのは、あの時救えなかったことへの謝罪ばかり…………自分のなかの何かが壊れる音がした。

 

 

 ポポン──スキル「感情欠落」が変化します。

 

 

 えっと、玉璽とともにこれも後で確認しておきましょう。

 

 

「『(ニイド)』欠乏とは鎖。満ち足りた時を知り、求める者を縛る呪いなり」

 

 

〉〉一体どれ程の時間慟哭していたか。激しく泣き疲れ、最早眠気が襲ってきた頃に南博士は再び語りだした。それは何のことか尋ねる。

 

 

「君たち28人の重力子、一人ひとりに与えた『ルーン(フサルク)』」

 

 

 そういえばそんなものもありましたね(棒読み)

 

 

「君に与えたのは欠乏のルーン……君にはガゼルと同様に期待しているんだ。いつか神へ挑戦しうる戦士になることを」

 

 

〉〉詳しく説明する気などさらさら無かったのだろう。言いたいことだけ言って南博士は去っていった。独りになるとドッと眠気が強くなった……もうこのまま目を閉じてしまおうか?

 

 

 はい、RTAでは時間短縮のため寝ましたが今回は寝ません。

 

 

〉〉流石にここで寝るのは危険だろう。人目につかず、雨風が凌げる場所を探そう。

 

 

 寝床の探索中に少し補足説明をしましょう。先程の寝る寝ないの選択で、寝た場合はもう皆さんご存知でしょう?

 では寝なかった場合はどうなるか…………答えは単純。スキップしません。スシ君の成長を見守るんだよ、あくしろよ!

 

 この「地道に毎日コツコツルート(仮)」は、やりこみ要素の一つですからね。時間がない人には無縁なものでしょう。

 

 

〉〉良さそうな場所を見つけた……ここで寝ようか?

 

 

 はい、二回目の選択肢は寝て構いません。さっさと寝て次の日にしましょう。

 

 オートセーブ入りまーす。

 

 

 

〉〉辺りが明るくなり目が覚める。そうか、ここは外(自由)だった……何をする?

 

 

 はい、とりあえずメニュー画面開いて確認ですね。

 

『虚の玉璽(未完成)』

 栖原椎名に合わせて作られた玉璽。様々な道を走れるように調律されているが、その影響で他よりサイズが大きくなっている。

 部品不足などにより「無限の空(インフィニティ・アトモスフィア)」が発動できない状況。改善可能。

 

 

 これはあれですね。必殺技が使えないようです。まあ、改善可能とのことなので気長にやっていきましょう。

 

 

『飛ぶ心』

 何処かから湧き出て来る気持ち。蓋をされたそれは外からは見えなくなっても確かにそこにあった。

 蓋が無くなった今、再び溢れだす。

 効果:ステータス値を大幅に加算。

 

 

 うん、良いんじゃないですか(適当)

 

 

 さて、確認が終わったところでスシ君を操作していきましょう。

 

 最初の方にやることは一つ……kin☆sakuです。

 

 見ての通り、スシ君を含めたグラチルはその身一つで塔から出てきました。ゆ~えに~、スシ君は素寒貧です。どげんかせんといかん!(県知事並感)

 

 というわけで金策ですが、13歳のジャリボーイにはできることが限られています。戸籍ないからバイトなんてできませんから。

 

 

 今回は善の道をいきましょう。すなわち、困ってる人を助けてお駄賃をねだります(物乞い)

 ん、悪の道?……狩りにいこうぜ!(マジキチスマイル)

 

 

 それでは倍速にして流しましょう。

 

 とりあえず困ってる人間は片っ端から助けます。おら、なんか寄越せよ!

 

 

 東に親とはぐれて泣いている子供があれば、行って親を探してやり。

 西に重い荷物を持って疲れた婆があれば、行って荷物を背負い。

 南に突然の持病の悪化で死にそうな爺があれば、行って病院まで担いでいく。

 北に狩られている親父があれば、行って助けてやる。

 

 そういうことを、三日間やってきました(現在所持金4545円)

 

 今季節夏なんですよね。だから一応外で寝泊まりしても死にはしません。ご飯だって半額弁当とかでどうにかやりくりしてるんですが……なかなか貯まらないですね。

 

 そりゃね、いくら助けてもらったからと言ってガキにお礼で大金なんて渡さないよね、ふつうね。仕方無いのでコツコツ頑張りましょう。

 

 ちなみにこの三日間での一番の大きな買い物は衣服です。

 塔脱出時に来ているこのピッチリ黒スーツは早めに変えるのをおすすめします。じゃなきゃ、助けてもスゲェ変に見られっから!……実際、カツアゲから助けた学生に逃げられました(憤怒)

 

 

 さてさて、どこかに困ってるひ~とはいっないかな~?

 

 あっ!信号が赤なのに凄い勢いで横断歩道に突っ込んでいきそうなトラック発見!

 親方!横断歩道に女の子が!(普通)……突然のことに固まってしまい逃げられないようなので助けます(見境なし)

 

 

〉〉全速力でトラックに轢かれそうな少女のもとへ。少女を抱き抱え、安全な建物側までいって彼女をおろす。止まることなく暴走車の目の前へ。被害が出る前に何とかしなければ、と思い「風」を使ってトラックの勢いを削ぐが、足りない。運転席の扉を開け、意識のない運転手を外に出す。多少離れたところに雑に転がす。申し訳ないが一秒といわず一瞬も惜しいのだ。

 

 

 はい、これでトラックは無人なので……やっちゃえスシ君!

 

 

〉〉もう一度正面へ。今度は運転手を気にする必要がない。「石」の振動で動きを止めようとするも足りない。さらに「風」を思い切りぶつける。数m後ろへ押されるも、何とかトラックを止めることができた……運転席部分は見るも無惨なほどに大破してしまったが、人的被害が無かったことでチャラにならないだろうか。

 

 

「あの、さっきは助けていただいてありがとうございました!」

 

 

 さっき助けた少女ですねって……こいつ!

 

 

 野山野梨花(のやまの りか)やんけ!(いまさら)




話のストックはないし、ソシャゲの水着イベも全然できてないんでしばらく失踪します。


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2話 風になった日

 イベ終わったらとりあえず投稿。

 設定ガバガバだから、作者がスシ君を把握するためにこの話を書いたといっても過言じゃない(意訳:キャラぶれぶれだけど許してクレメンス)


 

 あの一瞬、私は確かに風になった。

 

 

 

 

 学校が終わり、急いで帰路につく。

 ミカンはもう帰っただろうか?隣の家のお爺さんとお婆さんに預けているイッキとリンゴとウメは迷惑をかけていないだろうか?

 

 そんなことばかり考えていたからか……右側から猛スピードで迫ってくるトラックに気付くのが遅れてしまった。

 

 避けなければと頭ではわかっていても足が動かない。

 あっ、死ぬんだ……そう思ったとき、私は黒い風にさわられて、私自身が風になったように錯覚した。

 

 

 黒い風の正体は私と同い年くらいの少年だった。私を抱えていた少年は、歩道の片隅に私を座らせると一瞬で姿を消した。

 何が何だかわからないうちにパンッ!パンッ!と大きな衝撃と音が私を襲う。

 

 音のした方を見ると、さっきのトラックが止まっているのが見えた。

 

 何かにぶつかって止まった?まさか人!?

 

 そう思うといてもたってもいられず、立ち上がってトラックの正面に回り込む。

 

 目に入ったのは前方部分が大破したトラック、歩道の奥の方に横たわっている運転手らしき人、そのトラックの正面に何事も無いように立つさっきの少年。

 

 え、まさか止めた?……いやいや、まさかね。

 

 あぁでも、とりあえずお礼言わなきゃ。

 

 

「あの、さっきは助けていただいてありがとうございました!」

 

 

 走り寄って頭を下げる。視線を下げたときに、彼の手から血が出ていることに気が付いた。

 

 

「手、怪我してます!もしかしてトラックのガラスで切ったのかも……救急車を!」

 

「怪我?……あぁ、さっき迷子の猫を捕まえたときに引っ掻かれたやつか。こんなのかすり傷だから気にしなくて良い……まあ、あっちの人のために救急車は呼ぶけど」

 

 

 ……トラックは避けられても猫の爪は避けられないのか。

 

 どこかちぐはぐした彼は、近くにいた野次馬の1人に声をかけて救急車を呼ぶよう頼んでいた。

 

 最後に運転手が息をしていることを確認するとその場を離れようとして……。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!怪我してるんですからあなたも病院にいってくださいよ!」

 

 

 逃がすまいと彼の肩を掴む。

 

 

「だから大した怪我じゃないからほっとけば治るよ」

 

「猫が病気持ってたらどうするんですか!……とにかく病院へ行きましょう。それとも行きたくない理由でもあるんですか?」

 

「ある」

 

「例えば?」

 

「………………戸籍がない。金もない」

 

「……」

 

 

 思ったよりも重たい事情があった。それでも命の恩人をこのまま帰すわけにはいかない。

 

 

「だったら……せめて家で消毒を。命を助けて貰ったんですからそれくらいさせてください」

 

「……わかった」

 

 

 彼はしぶしぶといった感じに頷く。やった。彼の気が変わらないうちに行かないと。

 彼の手……は怪我しているから二の腕辺りを掴んで歩き出す。

 

 無言で歩いて、家に着いたのはそれから5分後くらい。

 

 

「ただいまー。さあ、あなたも入って」

 

 

 彼を家に招き入れる……ずっと気になっていたのだが、彼が履いているのはインラインスケートだろうか?お金が無いと言った割には上等そうなものを持っている。

 

 

「リカ姉お帰りー。イッキとリンゴは上で遊んで……そいつ誰?」

 

 

 居間ではミカンがウメをあやしながらテレビを見ていた。

 

 

「さっき危ないところを助けてくれた人よ。手を怪我していたから少し手当てをしようと思って連れてきたの」

 

「ふーん……で、結局どこの誰なのさ?」

 

「……」

 

 

 困った。ミカンの問いに私は何も答えられない。彼を見ると、彼はミカンとウメを見つめながら何か考え込んでいるようだった。

 

 とりあえず、話は手当てをしながらにしよう。彼に声をかけて座ってもらう。私も救急箱を持って彼の前に腰をおろした。手を動かしながら話しかける。

 

 

「ごめんなさい、ちょっと沁みるかも」

 

「問題ない」

 

「なら良かった……えっと、改めてさっきはありがとうございました。私、野山野梨花。あなたの名前を聞いても?」

 

「……シイナ。栖原椎名」

 

「シイナね。歳は?私は12歳だけど、あなたもそう変わらないように見えるわ」

 

「たぶん13歳……だった気がする」

 

「たぶんってなんだよ。お前、自分の歳も分かんないとか変なやつだな」

 

「ちょっとミカン!」

 

 

 ミカンの失礼な言い方に注意する。あの子の発言に怒っただろうか?と思い彼の顔色を伺うも、彼は相変わらず無表情……いや、よく見ると少し笑ってる?

 

 

「少しばかり特殊な環境で育ってね。あまりそういうことが重要視されなかったんだ。許してほしい」

 

「いや……別に許すとか許さないとかそんなんじゃねーだろ、ばっかじゃねーの……」

 

「……」

 

 

 ばつの悪そうなミカンの言葉を最後に会話が途切れ、テレビの音だけが響く。

 作業だけに集中すればあっという間に手当ては終わった。

 

 

「上手なものだな」

 

「下の子がやんちゃでよく怪我をするんです。それで自然と」

 

「そうか……とりあえず、俺はもう行くよ。これ、ありがとう」

 

 

 彼は包帯を巻いた左手を軽く上げたあと、立ち上がる……残念だけど彼を引き留める理由は……ない。

 

 ……ん?残念?何で?

 

 ふと沸き上がってきた感情が理解できないでいると、階段の方からドタドタと騒がしい音がした。彼が居間を出ようとするのと同時に───。

 

 

「リカ姉!腹へったぶへっ!」

 

 

 我が家の小さな嵐が、彼に体当たりしていた。後ろから走ってきたリンゴが追いつく。

 

 

「イッキ!大丈夫?」

 

「心配すんなリンゴ、俺様は無敵だからな……てか、あんた誰?」

 

「お客さん?」

 

 

 イッキとリンゴの襲来に彼の動きが止まる。代わりに私が間に入る。

 

 

「彼はシイナ、私の命の恩人よ。シイナ、よかったら晩御飯食べていかない?」

 

「えっ、いや、でも手間が「一人増える程度大した手間じゃないわ」……だが、邪魔だろう?」

 

 

 申し訳なさそうな彼の様子に思わず苦笑してしまう。

 

 

「馬鹿ですねぇ。邪魔だと思うなら最初から誘わないですよ。あなたは私を助けてくれたヒーローなんですから、これくらいのお礼はさせてください」

 

「……えっと、じゃあ……いただき、ます?」

 

「ぷっ、何で疑問形なんですか」

 

 

 あぁ、今日はうんと腕によりをかけて作らなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拍子抜けするほどシイナは家に馴染んでいた。

 

 

「うっひょー!みろよリンゴ、俺飛んでるぜ」

 

「いいなイッキ!次私も!」

 

 

 両腕を伸ばしてその上にイッキがうつ伏せに乗っている。あのポーズからして、イッキはウルトラマンを真似ているとわかる。

 要望通りリンゴにもしてあげるあたり、彼にとってさほど疲れることでも無いようだ。

 

 

「そうそうそこにうつ伏せに寝て、腕はここな……よし、やるぞー。スリー、ツー、ワン!キャメルクラッチ!」

 

「うっ……」

 

 

 ミカンのプロレス技に付き合ったり。いや、流石にやめさせたけど。

 

 

「子供の面倒をみるの案外上手なんですね」

 

「いや、そうでもないだろう」

 

「ウメをあやすのも上手じゃないですか。経験あるんですか?」

 

 

 はしゃぐイッキ達から離れるように、ぐずるウメを抱えて台所の方に来たシイナ。ウメはすでに気持ち良さそうに彼の腕の中で寝ている。

 

 

「赤ん坊をあやす経験か?ないない。抱き抱えたのだって初めてだ」

 

「それにしては様になってますよ」

 

「……まあ、街中を観察してれば親子連れくらい見る機会はあるからな」

 

 

 それはつまり見て覚えたということだろうか。まあ、出来なくはない……か?

 

 

 

 

 

「うおー!ハンバーグだハンバーグ!」

 

「美味しそう!」

 

「ハンバーグだなんてリカ姉、えらく奮発したじゃん」

 

「まっ、まあ、命の恩人へのお礼ですから……お礼にしては少し物足りないでしょうが……」

 

 

 なにせ家は貧乏だ。親からお金は貰ってはいるものの、5人も子供がいればすぐにカツカツになる。食費、水道光熱費、生活必需品、私やミカンの学費や文房具、ウメのオムツ……数え出したらキリがない。イッキとリンゴには欲しい玩具も買ってあげられない、我慢を強いている状況。

 

 何だか急に恥ずかしくなってきた。お礼とか言っておきながら出てきたのが粗末なハンバーグで落胆させてないだろうか?

 あぁ、こんなことなら無理をしてでも出前を取るべきだったのかもしれない。

 

 

「なーリカ姉、もう食べてもいいか?」

 

「え?あ、そうね。じゃあ皆手を合わせて、いただきます」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

「……いただきます」

 

 

 イッキ達が美味い美味いとご飯をかきこむ中、私はシイナの食べる様子を観察していた。

 

 黙々と食べている。美味しい、のだろうか?食べる手は止まっていないが……いや、美味しくないからこそさっさと食べ終えてしまおうということかもしれない。

 

 

「……そんなに凝視するほど俺は可笑しなことをしているか?」

 

「ご、ごめんなさい。その……お口に合いましたか?」

 

 

 ……見ていたことを指摘されて焦ったあげくに何の捻りもなく感想を求めてしまった。馬鹿じゃないの?と内心頭を抱える。

 

 

「あぁ、なるほど。振る舞われたものには感想を言うのが礼儀なのか」

 

 

 いや、別にそうじゃないけど。そんなことを私が言う前に、彼はハンバーグを見ながら口を開いた。

 

 

「俺が今まで食べてきたのなんて最低限必要な栄養素を含んだ食べ物とか、廃棄された弁当とか……よくて半額弁当だけど」

 

 

 シイナはそこで言葉を切ると、顔を上げて私を見た。

 

 

「こんな温かいご飯は初めてだ。これは美味しいってはっきりと言える……ありがとう、野山野梨花」

 

 

 胸が熱くなったのは純粋に料理を誉めてもらえたからか、感謝の言葉を聞いたからか、初めて名前を呼んでもらえたからか。

 それとも……その時の微笑みが思いのほか綺麗だったからか。

 

 

「野山野梨花?」

 

「うぇっ!?あっ、その!お口に合ったなら良かったです!あと長いからリカで結構です!」

 

「そうか」

 

「見たか?あのリカ姉がたじたじだぜ」

 

「リカ姉かわいいね~」

 

「どぅぇきてる~」

 

「そこ!聞こえてますよ!」

 

 

 好き勝手言う弟妹達を黙らせる。

 

 何事も無かったかのようにご飯を食べ進めるシイナを見て、無性に悔しくなった。

 

 そちらがそのような態度をとるなら私だって気にしませんとも。

 

 ようやく自分の目の前にあるハンバーグに箸をつけ、口に運ぶ。

 

 あー美味しい!

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、雨降ってきた」

 

 

 切っ掛けは食後のイッキの言葉。

 

 

「結構酷いな……アンタ傘なんて持ってないだろ?今出ていったらずぶ濡れになるぜ」

 

「お兄ちゃん、帰るって言ってたけどここから遠いの?ちゃんと帰れる?」

 

 

 ミカンとリンゴの言葉。問題はこれに対するシイナの返答。

 

 

「傘はないが問題ない。近場で雨風凌げる場所を探すだけだからな」

 

「ん?いやいや、傘くらい貸すのでちゃんと家に帰ってくださいよ」

 

「ない」

 

「え?」

 

「帰る家などない」

 

「……宿は?」

 

「金がない」

 

 

 本当に何でもないように答える彼。自分のことなのに何でそんなにも無関心なのか……少しムカッとする。

 

 怒りとか心配とか呆れとかお節介とか、いろいろぐちゃぐちゃした感情を引っくるめて。

 

 

「泊まっていきなさい」

 

 

 出てきた言葉はこれだった。

 

 

 思った通り「でも、だって、しかし」とグダグダ言ってきたが、全部叩き伏せてやった。少しスッキリしたのは内緒。

 

 

 




 幕間のくせに長くなったから分割させちゃった阿呆がいるらしいですよ。


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3話 家族になった日

 続きだよ。

 ただ主人公を野山野家に居候させるだけでこんなに文字数かけてしまうとは思いませんでした(憤怒)


 イッキとリンゴは遊び疲れたらしく、お風呂に入ったあとにすぐに寝てしまった。ミカンも珍しく早めに部屋に戻っていったし、ウメもぐっすりと寝ている。

 

 日付が変わる前。ウメを起こさないように静かに自分の部屋を出る。

 

 めざすは二階の一番奥の部屋。本来なら両親の部屋なのだけど、使用されたことは一度もない。あの人たちにとってここは帰ってくるべき家ではないのだろう。

 

 扉の前に立つ。いつもはないはずの人の気配が今はある、そんな不思議な感覚。

 

 

「シイナ……寝ました?」

 

「いや、起きてる」

 

 

 聞こえるか聞こえない程度の言葉に返答がある。良かった。まだいた。

 

 

「入っていいですか?」

 

「どうぞ」

 

 

 許可を得て中に入る。部屋の中にある家具は新品同様のベッドと机と椅子のみ。

 

 窓のそばにある机と椅子。そこにシイナはいた。何かを磨いているようだ。

 

 

「何してたんですか?」

 

「手入れ。まあ、道具もないから軽く汚れを拭うことしか出来ないけど」

 

「インラインスケート?」

 

「いやこれはA.T……と言ってもわからないか。まあ、ちょっとすごいインラインスケートでいいさ」

 

「……聞かなくてもわかります。馬鹿にしてますね」

 

「してないさ。単純に説明しづらいだけ」

 

「そうですか」

 

 

 無言。ベッドに腰掛けて彼の作業を眺める。とても大切なものなのだろう、それを拭く手つきは宝物を扱うように丁寧なものだった。

 

 

「……何か用があったんじゃないのか?」

 

 

 作業が終わったのだろう。タオルの上にA.Tを優しくおき、不思議そうな顔をこちらに向ける。

 

 

「あなたがちゃんといるか確認しに。だってほら、小雨になりましたし」

 

「流石にそんな逃げるような真似はしないさ。一宿一飯の恩は返す」

 

「それはトラックから助けてもらったお礼ですから返さなくて結構です」

 

「それはコレであいこだろう。ご飯と寝床はまた別だ」

 

 

 コレ、と言って左手の包帯を見せてくる……本気で言ってます?

 

 

「いやいや、明らかに釣り合ってないでしょう。むしろ私がまだ返さなきゃいけないくらいです」

 

「いやそれはおかしい。一つしかやってないのに三つを返されるなんて変だろ」

 

「……」

 

「……」

 

 

 15分の論争の末、勝ちをもぎ取ったのは私。疲れた……。

 あちらも疲れたのだろう、部屋が静寂に包まれる。

 

 

「……戸籍もない、お金もない、帰る家もない」

 

 

 彼との沈黙は苦ではないが、もったいないという気持ちの方が勝った。ずっと気になっていたことを尋ねる。

 

 

「栖原椎名、あなたは何者ですか?」

 

「…………俺はずっと隔絶された研究施設の中で生まれ育ったんだ」

 

 

 彼は少し間をおいて語りだした。

 

 驚いた。きいておいてなんだが、正直教えてくれないと思っていたから。

 

 

「施設の中には俺と同い年くらいのやつらが何人もいた。たしか俺を含めて28人。数日前……そう、いろいろあって俺達はそこを出たんだ。着の身着のまま。だから住むところも金もない」

 

 

 彼がぼかした部分。気になるところではあったが尋ねることはできなかった。

 かわりに別のことをきいてみた。

 

 

「出てきてからは何を?」

 

「とりあえず金がなかったから働こうと思ったんだが……戸籍もないし、この歳じゃなかなか上手くいかなくてな」

 

 

 彼は片手を顔の前でひらひら振る。

 

 

「廃棄されたモノをあさってたべたり、森にいって水浴びしたりした。暇潰しで困ってそうな人に片っ端から恩を売っていった……恩返しを期待しなかったといえば嘘になるがな」

 

「……お金の方が良かったですか?」

 

「自分より餓鬼にタカるつもりはない。そもそも、ここだって余裕ないんだろ……お前の弟が言ってたぞ」

 

 

 あの子は余計なことを、と思うと同時に珍しいとも思った。初対面のシイナにそんな弱味を晒すなんて……なついたんだなぁ。

 

 …………。

 

 

「……私達、みんな血が繋がってないんです」

 

「急にどうした?」

 

 

 怪訝そうな彼。ごめんなさい……少しだけ私の愚痴にも付き合って?

 

 

「みんな私の両親が私に預けていったんです。あの子達は自分の親を知りませんし、私も知らされてません」

 

 

 シイナの疑問に答えずに話を続けた。彼は黙って聞いてくれているようだ。

 

 

「両親は帰ってきません……不仲なわけじゃないんですよ?ただ仕事が忙しいみたいです。父さんは年に一回会うか会わないか程度ですけど、母さんはもう少し頻繁に会います。住む家は用意してくれてるし、お金だってある程度振り込んでくれるので問題はありません」

 

「寂しいのか?」

 

「……いいえ。あの子達がいるので寂しさとは無縁ですね」

 

「そう、か」

 

「ええ。ふぅ……なかなかこんなこと、誰にも話せないので少しすっきりしました。ありがとうございます」

 

 

 突然のお礼にきょとんとする彼。なんとなくわかってきた。これは「なにもしていないのにどうしてお礼を言われたのかわからない」って顔だ。

 私がくすくす笑うと、さらに彼の頭に疑問符が浮かび上がるのがみえた。

 

 

 またしばらくの沈黙。それを破ったのは、部屋の外から聞こえてくるウメの泣き声だった。

 私は弾かれたように自室へ。ベッドで寝ているウメを抱き抱える。

 

 

「……何かあったのか?」

 

 

 後ろからついてきたシイナが困惑したように尋ねてきた。

 

 

「心配しないでください、いつものことですから」

 

「いつも……赤ん坊とはそんなにも泣くものなのか?」

 

「もちろん。赤ちゃんは泣くのが仕事なんですから……ねぇ、ウメ?」

 

 

 揺りかごのように体を揺らしてウメが泣き止むのを待つ。

 

 ようやくウメが寝つき、ベッドに寝かせる。

 そういえばシイナの声がしないことに気づく。後ろを振り返ると、腕を組んで顎に手を添えて考え込んでいる彼がいた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

 私の声に反応するようにこちらを見る。口を開いて……眉を顰めながら閉じる。もう一度小さく開いたと思ったら、目を泳がせながらまた真一文字に。

 

 

「言いたいことははっきりといった方が良いと思いますよ」

 

 

 そう言うと、シイナは意を決したように真っ直ぐ私を見て近づいてきた。

 目の前に立ち、私の頬に両手を添える。

 

 ビクッ、突然のことに小さく体が反応する。

 

 

「な、なんですか急に?」

 

 

 戸惑いが隠せていない。黙ったままのシイナの顔がゆっくり近づいてくる。

 

 え?うそ?全然そんな雰囲気じゃなかったのにというか急にそんなの困るというかいや興味はあるけど流石にまだ早いっていうかこういうときは目を閉じるべきだって誰かが言ってた気がする!

 

 思わずギュッと目を閉じる。

 

 が、なにもおきない。もう少し待ってみるもやはり何もない。ゆっくり目を開く。

 

 やはり顔は近い。しかし微妙に目は合わない……目の下を見てる?

 

 

「目の下のクマがひどい。寝てないのか?」

 

「え、えっと……ウメを放置も出来ないから、少しだけ夜更かししちゃいますね、はい」

 

 

 予想外の展開に面食らう。彼は私の返答に眉間にシワを寄せる……なにかおかしなこといっただろうか?

 

 

「お前、まだ小学生なんだろ。毎日こんなんじゃキツいはずだ」

 

「……」

 

 

 キツくなんてない、私は大丈夫だ……ワラって言うのは簡単。だっていつも周りにいってる言葉だから。

 

 でもどうしてだろう。口からなかなか言葉が出てこない。

 

 あぁ……真正面から、そんなに心配そうな顔されたら、ちょっと……揺らいじゃいますよ。

 

 

「……まあ、正直キツくないとは言いがたいです。でも、私はあの子達の姉であり母ですから」

 

 

 どうだろう。上手く笑えているだろうか?

 

 あ、あれ?なんか余計にシイナの眉間のシワが深くなった気がする。

 

 

「なるほど、ほっとけないとはこういう気持ちか……おい、リカ」

 

「は、はい」

 

「お前は俺にまだ恩を返しきれてないと言ったな」

 

「言いました、けど?」

 

「なら一つ俺と契約をしろ。それで完全に相殺だ」

 

「契約?」

 

 

 突然のことばかりで頭が働かないが、契約とは一体何なのか。

 真面目な顔をしたシイナは、右手の人指し指を立てる。

 

 

「その一、俺をここに住まわせろ。対価はお前に代わってお前の兄弟の世話をする」

 

 

 続いて中指が立てられる。

 

 

「その二、飯をくれ。対価は金だ」

 

「いや、ここに住むならもちろんご飯くらい出しますし、お金とか別に「衣・食・住はそれぞれ別に決まってるだろ」え?あ、はい」

 

 

 なんか押しきられた。

 

 薬指が立てられる。

 

 

「その三……えぇっと……」

 

「無いなら無いでいいのでは?」

 

「三つくらいないと格好つかないだろ……あぁ、そうだ。その三、勉強を教えてくれ。対価は……金くらいしか思い付かないから金で。大丈夫だ、人間やる気になれば何でもできる。金の工面については気にするな」

 

「はぁ……というか、この契約?は私があなたに恩を返すために結ぶんですよね?なんか私にメリットしかない気がするんですが」

 

「急に居候が増えるんだ、十分デメリットと言えるだろう……さて、恩を返すというならばこの契約を結ぶしかないが、どうする?」

 

 

 何度考えてもデメリットが浮かばない。契約なんて形にしたのは彼なりの優しさなんだろう。

 

 思わず、小さく笑ってしまった。シイナは私の様子を見てキョトンとしている。その姿に、また頬が緩む。

 

 

「いいですよ。結びましょう、その契約。さぁ……右手を出してください」

 

 

 頭に疑問符を浮かべながらも、私の言う通り右手を差し出してくる。

 

 彼の右手の小指に、私の右手の小指を絡める。

 

 

「ゆーびきーりげーんまん、はりせんぼんのーます、ゆびきった」

 

「なんだこれ?」

 

「指切りです。約束を破ったら拳骨一万回と針を千本飲まなくてはならないというものです。まあ、実際破ってもそんなことをすることは無いんですが……それくらいされる覚悟で、約束は守りましょうってことですかね」

 

「お、おう」

 

 

 脅しすぎただろうか?

 

 

「指切りしておいてなんですが、これいつまでの契約なんですか?私としては何時までいてくれても全然構わないのですけど」

 

「まぁ、リカやリカの家族が嫌って言われたらそれまでだしな」

 

「みんななついてるから大丈夫だと思いますよ」

 

「そうだといいが。とりあえず、この子がある程度大きくなるまでだろうな……後のことはその時考えよう」

 

 

 シイナはベビーベッドで眠るウメを見てそう言う。

 

 

「じゃあ、シイナが長男ですね。よろしくお願いします、シイナお兄ちゃん」

 

 

 ひどく嫌そうな顔をされた。私も『お兄ちゃん』は流石に違和感があったのでやめた。

 

 でも。

 

 

「家族なのは本当ですよ」

 

「……まぁ、よろしく頼むよ」

 

 




 凄いキツいのを我慢してた!!
 長女だから我慢できたけど、次女だったら我慢できなかった……これはもはや母。


 やっぱこういうの(キャラ視点)は上手くかけないなぁって再確認した。


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4話 脱☆ニート

 まぁスシ君、そもそも年齢的にニートじゃないんだけどね。

 ※よくよく考えたら「眼十輝」について描写し忘れてた。成功と呼ばれたキリクとシムカは常に眼に十字が浮かんでる状態なので、スシ君も常に浮かんでないとおかしいのですが……スシ君のスーパー学習能力でON/OFF出来るようになったことにします。ガゼルだって眼の模様をON/OFFできるんですから、たしょうはね?


 いつのまにやら野山野家に居候することになったゲームの実況、はっじまーるよー!

 

 これがRTAでしたらもちろん居候なんてしませんが、今回は空の思惑を邪魔することさえ出来ればいいのでその他はスシ君の好きなようにさせてあげましょう。

 

 

「で、どういうことかな?」

 

 

 あー、きこえなーいきこえなーい(棒読み)

 

 

 そういえば前回、街の自由探索について説明してないことがありましたね。

 

 今回のようにリカ姉のような原作キャラと会えるのはそんなに珍しいことではありません。

 

 原作10年前の今なら、渋谷(とくに夜)とかで海人やガゼル、ホモ谷……じゃなかった柿谷にも会えます。北海道にいけばキリクとシムカに、関西ではヨシツネやベンケイに会えます。

 

 しかし、リカ姉との遭遇は少し気をつける必要があります。本当に偶然だったら何の問題もありません……偶然なら。

 ではもし偶然でなかったら?たとえば野山野家に張り込んで、偶然を装って初対面したら?

 

 答えは黒幕がとんできます。とんできた上に消されます。バッドエンドです。東京湾に(チン)されます。

 

 

「おーい、聞いてるかい?」

 

 

 …………今回は偶然出会ったのに居候するせいで黒幕がとんできましたけどね!いい加減にしろよ!

 

 

〉〉……流石にこれ以上無視するのは無理なようだ。どういうこと、とは一体何のことか南博士に逆に尋ねる。

 

 

「質問を質問で返すものじゃないよ。まったく、早朝に娘から珍しく連絡がきたと思ったら居候が増えると言うじゃないか。それも男だというから飛んできてみたら見知った顔がシラウメをあやしてるとか……どういうことか聞きたくもなるでしょ」

 

 

〉〉此方としてもリカの親に聞きたいことがあったからちょうどよかった。昨日の居候するまでの経緯をかいつまんで伝える。そして、あんな子供だけで生活させるなんて何を考えているのか、と詰問する。

 

 

「あれあれ、もしかして怒ってる?え、もしかしてうちの娘にゾッコンラブなの?ふ~ん、そっかそっか~……じゃー、いいよ。シイナ君があの家に居候するの許可してあげよう」

 

 

 なんだこの黒幕!(驚愕) うぜぇ!

 

 

「ついでに戸籍もどうにかしてあげるよ」

 

 

 なんだこの黒幕!(再) 最高じゃねぇか!(手のひらクルー)

 

 

〉〉此方の否定の言葉を完全に無視して、高笑いしながら南博士はさっさと消えていった。というか、質問にも答えてもらっていない。追いかけようと思ったが今はシラウメを抱えているし、家のなかにはイツキとリンゴがいる。離れるわけには行かない。残念だが今回は諦めるしか無いようだ。

 

 

 とりあえず、イッキ達と遊んでるだけなんで倍速します。

 

 それにしても黒幕様々ですね。戸籍をつくって貰えれば働くことができますよ。

 やったねスシ君!(労働時間が)増えるよ!

 

 スシ君、お金を対価にいろんなことをリカ姉と約束しましたからね。稼がなくちゃ……(大黒柱感)

 

 

 

 はい、というわけで戸籍作りは黒幕(ジェバンニ)が一晩でやってくれました。いいゾ~コレ。

 

 さて……就活しますよ(鋼の意思) 

 

 といってもスシ君は13歳。本来なら中学生です。そんなガキをどこが雇ってくれんだよーって思いますよね?

 お金も稼げて、ステータスも上げられるちょうどいい仕事があります。

 

 

 その名も『新聞配達(朝)』です!

 

 

 それじゃあ面接イクゾー!デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 

 

 (倍速)

 

 

 はい、無事に雇用してもらえましたね。スシ君には配達オンリーで3時からの2時間働いてもらいます。なお歩合制ですので、バリバリ働きましょう(社蓄予備軍)

 

 

 リカ姉にも話しておけば準備オッケー(事後承諾)

 

 

 というわけで、ミニゲームです(唐突)

 

 やることは簡単。マップを把握してA.T装備で最速で駆け巡り、新聞紙を相手のポストにシュゥゥゥーッ!!超!エキサイティン!!……するだけです。

 

 画面見てもらえたらわかる通り、A.Tで地面だけでなく建物の壁や屋根、道なき道を行くため原チャリなんかよりもクッソ速いです。

 朝早いので目撃者もほとんどいないのでやりたい放題やってしまいましょう。

 

 

 スシ君の配達場面はさっさと倍速します。これから毎日毎日、晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も見るとこになるんですからいらないでしょ?

 

 

 はい!任された分は配り終わりましたね。初日なので数が少なく、普通に時間が余ってしまいました。追加のお仕事貰いに行きましょう。おら、早く寄こせよ!

 

 あがる時間になりましたら、お偉いさんに頼んで今度からはもっともっと任せてぷりーず、と伝えて帰ります。残業はしません(キリッ)

 

 

 

 んー、ついでに居候スシ君の1日を見てもらいましょうか。どうせすぐにこの辺も倍速で流しちゃうようになるんですから……そう!ヒーローの変身シーンみたいにね!

 

 

 というわけで、早朝5時に仕事が終わってみんなを起こさないように静かに帰宅します。この時A.Tは子ども達に見つからないように自室に保管しておきましょう。大事なことなので忘れないように!

 

 ん?理由ですか?そりゃあイッキに見つかったら欲しい欲しいの大合唱で大変なことになるからですよ。A.Tは高いですからね、しょうがないね。

 

 ……本当はイッキが早い段階からA.T始めると、原作開始時には手をつけられないほど強くなっちゃうからなんですよね(心狭い) 

 ただの天才を育てたならともかく、化物育てておいて後方腕組師匠面するなんて私にはとても出来ません(ちっぽけなプライド)

 

 というか流石にラスボスはスシ君で打倒したいじゃないですか、したくない?(主役交代を許さない)

 

 

 さて6時まで軽く寝ます。ウメが起きるようなら即座に飛んでいきましょう。

 

 6時になったら朝食を用意しましょう。と言っても大したものは(食材的につくれ)ないです。

 せいぜい味噌汁と卵焼き、良くてウインナーとかですよ。

 

 6時30分ですね。リカ姉とミカンを起こしましょう。おら、学校だぞ。

 

 7時になったらイッキとリンゴを起こしましょう。イッキの二度寝は許しません。担いで洗面所に突っ込んでおきます。あとはリンゴがどうにかしてくれるでしょう。

 

 7時30分にはリカ姉とミカンを送り出します。いってらっしゃ~い。

 

 というわけでお昼までに洗濯物と掃除を終わらせましょう。6人もいれば中々の洗濯量ですのでちゃちゃっとやりますよ。

 

 お昼ご飯を食べたらイッキとリンゴ、ウメを連れて外に遊びに行きましょう。履くのは普通のスニーカーです。間違えないよう気を付けましょう。

 ウメは前で抱えて、後ろにはリュックを背負います。水分とかお金とか、もしものためのA.Tも突っ込んどきます。大丈夫です、履き替えとか一瞬でできるように訓練されてますから。

 

 夕方になったら帰りましょう。高確率でリカ姉達が帰ってきてますので、ミカンにイッキとリンゴを任せてリカ姉とウメと買い物へ。スシ君は荷物持ちですね。

 

 リカ姉の作った晩御飯をたべたら、イッキやウメとお風呂に入ります。リンゴはリカ姉にまかせましょう。

 

 21時までリカ姉に勉強を教えてもらったら、23時まで自由時間です。

 

 A.Tを履いて……I can fly!

 

 ステータス上げのため闇夜に紛れて街を疾走します。ついでに以前のように困ってる人をお助けしながらだとなお良いですね。

 ほらほら2時間しかねーんだよ、あくしろよ!

 

 門限までにはちゃんと帰りましょう。ブッチしたらリカ姉に禁止されかねませんからね。

 シャワーを浴びたら就寝!

 

 

「う~、うぁ~、ふっふぇ、ふぇーん!」

 

 

〉〉シラウメが泣いている。あやさなければ。

 

 

 ……スシ君睡眠不足でぶっ倒れない?

 

 あっ、重力子は身体が丈夫にできてるから問題ないか(白目)

 

 


 

 

「すぅ…………すぅ…………」

 

「ふふっ」

 

 

 日曜日。朝の配達から帰ってきてぐっすり眠るシイナを見る。

 

 シイナが来てくれてから私の生活は大分楽になった。

 朝の準備や家のことは彼がやってくれるようになった。日中にイッキ達の心配をすることが無くなった。荷物を持ってくれるし、お風呂も手伝ってくれる。ウメの夜泣きにも付き合ってくれる。

 

 

「ありがとう」

 

 

 小さく小さく呟く。

 

 シイナの部屋で寝ているウメを抱き上げる。扉を静かに開けて、部屋を出ていく前に一度振りかえる。

 

 

「おやすみ、シイナ」

 

 

 私の学校が休みの日くらいは、ゆっくり寝てくださいね。

 

 




 凄く大変だった。
 長男だから我慢できたけど、次男だったら我慢できなかった……これはもはや専業主夫。


 面白いのを書きたいって思うけど、無い頭捻って捻ってねじ切れて書けなくなるより、書ける程度のものを書いた方が良いって再確認した(遠い目)


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5話 久しぶりだなウンコクズ

 お気に入り登録、評価、感想、誤字報告、本当にありがとうございます!!
 
 


「ワリぃな、ウンコクズ」

 

 

〉〉トラックに轢かれそうになっていた男性を助けたら、罵倒かお礼か分からない言葉をかけられた。リカとは大違いだなと思った。

 

 

 

 あっというまに季節が変わったゲームの実況、はーじまーるよー。

 

 

 野山野家で居候をはじめて、はや数ヶ月ほど。季節は夏から秋になりました。

 

 ここまでのプレイ内容?大したことはしてませんので編集でカットしてます。

 あぁ、でも新聞配達の給料が入ってきたことにより大分生活は潤ってきましたね。具体的に言うと食卓にお肉が増えました(歓喜)

 

 

 さて、現在の状況を軽く説明をば。

 スシ君は夜の自由行動で、いつも通りヒュンヒュンピョンピョンしていたのですね。

 そしたらいつぞやのリカ姉のようにトラックに轢かれそうになっていた男性を発見、即座に救出。

 

 助けた相手は、お口ワルワル『鰐島海人(わにじまかいと)』君でした!以上、説明終わり!

 

 うーん別に助けなくても良かったなあ、これ。こいつ自力でどうにかできちゃうし。

 

 

〉〉口の悪さに驚いたが、気を取り直して男性に怪我の有無を尋ねる。

 

 

「あぁ、問題ねェ……にしてもナンだってこんな時間にクソガキが一人でうろついてんだァ?」

 

 

〉〉……口が悪い。長髪の男性は立ち上がり、壊れたスケボーを拾っていた。体内時計的には……そろそろ帰る時間だ。特に問題は無さそうだから帰ろうか。

 

 

「おい、クソガキ……おい、聞いてんのかァ?テメェだよオイこら聞けよクソガキ……何関係ありませんってェ顔で帰ろうとしてんだ!テメェに言ってんだよクソガキィ!」

 

 

〉〉足を止めて振り返る。もしかして此方に言っているのだろうか?

 

 

「そうだ。オマエそのA.Tをどこで「海人クンッ!」……柿谷ァ」

 

 

 あ、裏切り者感を出すだけ出しといて実は海人を凄い慕ってるだけの聖人ホモ谷くんだ(悪気なし)

 

 

〉〉バイクからアフロの男性──柿谷が降り、長髪の男性──海人に話しかける。二人して何か話してるから手持ち無沙汰になってしまった。やはり帰ろうか……いや、もう少し待っておこう。

 

 

 まあ、ヤンキーにあんな呼び止められ方したら流石に、ね?

 

 

〉〉柿谷が海人に何か紙を渡している。どうやら英語で書いてあるらしく、海人が読み上げるようだ。

 

 

「『木々は腕をからめ天へと伸ばす……群がる葉々は光を喰らい 森の闇をいよいよ深くする 狩人は気付かない 闇に潜むケダモノ達の双眸も牙も 今日は狩人が狩られる夜 ここは眠りの森』……?どういう意味だァコレ」

 

「さァ?あんまりにも詩的表現が強すぎてナンもわかんねェスネ……つーか海人クン、このガキ知り合いッスカ?」

 

「あー、そうだったぜ。続きだガキ、そのA.Tはどこで手に入れた?」

 

 

〉〉海人はA.Tについて訊きたかったらしい。どこで手に入れたも何も最初から自分のものであると主張する。

 

 

「あぁん?テメェどっかのボンボンかよ」

 

 

 まあ、この時期ようやく一般人にA.Tが知られ始めたくらいですからね。すげー高いからお坊ちゃんが親に買ってもらった、と思われても仕方ないね。

 

 

〉〉首を横に振る。残念ながら金に余裕のある家ではないことを伝える。

 

 

「……テメェもしかして「海人ぉ!」うぉっ!」

 

 

〉〉話の途中で海人が横から飛んできた何かに吹っ飛ばされた。

 

 

「おっ、お前!なんで」

 

「海人が全然帰って来ないから迎えに来てやったんだぜ。感謝しな!」

 

 

〉〉飛んできたのは女性だった……見たことある──ガゼル?そう呼び掛けると、女性は此方を振り返る。

 

 

「ん、おぉ!シイナじゃねェか!元気にしてたかよ、ウンコクズ!」

 

 

 おおっとこれはこれは。鬼畜ショタ双子に狙われる運命にある『Virgin Blade(はじまりの翼)』ことガゼルさんじゃないですか、ちーす(煽り)

 

 

〉〉またウンコクズ……。左腕で此方と肩を組み、空いた右手で此方の頭をガシガシと撫でまわすガゼルの言葉遣いに言葉がでない。

 

 

「ガゼルサンの知り合いッスカ?」

 

「おう、そうだぜ!なぁシイナ、おまえ今何してんだ?どこに住んでるんだよ?」

 

 

〉〉矢継ぎ早に質問される。むしろ此方からも聞きたいことがあるのだが……後5分で帰らないとリカに怒られる。肩に回されたガゼルの腕から逃れ、帰る旨を伝える。

 

 

「じゃー明日の夜、あそこの天辺で待ち合わせな!」

 

 

〉〉ガゼルが指差したのは東京タワー。分かった、と短く伝えてそのまま空に舞う……早く帰らねば。

 

 

 明日の予定が出来てしまいました……どうでも良いけどよほどリカ姉に怒られたくないんですね。スシ君尋常じゃないスピードがでてますよ(呆れ)

 

 しかも本当に5分で間に合うのかよ(驚愕) 

 ギリギリだったため多少リカ姉にお小言をもらいますが、外出禁止を言い渡される程ではありませんでしたね。

 

 

 (倍速なう)

 

 

 はい、次の日の夜ですね。なんか凄いリカ姉に見られてるけど、気にせずガゼルとの待ち合わせ場所に行きましょう。

 

 

「シイナ!遅いぞ!俺達ここで2時間も待ってたんだぜェ?」

 

 

〉〉指定の場所にはガゼルと煙草を吸う海人がいた。

 

 

「そういえば昨日は海人の危ないところを助けてくれたんだってな。ありがとよ」

 

「……別に俺だけでもどーにでもなったけどな」

 

「馬鹿、こういう時くれェ素直にお礼をいえよな……ワリぃなシイナ、海人は素直じゃねーだけで悪いヤツじゃ無いんだぜ」

 

 

〉〉別に気にしていないし、一応お礼なら昨日言われたことを伝える。それよりも彼のことを紹介して欲しいのだが。

 

 

「あぁ、わかった。アイツは鰐島海人、今俺が一緒に住んでる相手だ。海人!昨日も説明したけど、コイツは栖原椎名。俺の昔馴染みだぜ」

 

 

〉〉鰐島海人に向けて軽く頭を下げる。彼も此方に軽く右手を上げて応えてくれた。

 

 

「で、シイナ昨日話せなかったこと教えろよ」

 

 

〉〉興味津々といった調子で聞いてくるガゼル。今日は時間がある。足場の端に座わり、足をぶらぶらさせる。ガゼルも同じように横に座る。鰐島海人は少し後ろの方で相変わらず煙草を吸っていた。

 

 

 ……ていうかこの人なんでいるんですかね?え、もしかして束縛強い系?……よくよく考えたらコイツ子供(アキアギ)を檻の中入れるような人だった(絶望)

 

 

〉〉大都会の夜景を眺めながら、今日までの生活をガゼルに聞かせる。彼女は「ヘェー」「それでそれで?」と適度に相槌をいれてくれる。さらにガゼルは此方と同じ塔の出身。雀を見つけたとか綺麗な花が咲いていたとか雨が降ったとかハンバーグがおいしかったとか……そんな外に出てからの些細な発見や幸せに共感してくれるため、余計にいろいろ話してしまった。

 

 

「なんか兄貴っていうよりも親父って感じだな、シイナ」

 

 

〉〉カラカラと笑いながらガゼルは言う。嬉しいような嬉しくないような……結局言葉にならず微妙な表情を作るしかなかった。

 

 

「でもまァ、変わったなおまえ。あそこに居たときは強くなることしか頭に無いようなヤツだったのに、今じゃ一家の大黒柱ッてか?」

 

 

〉〉ガゼルの右手が此方の頭を撫でる。その手つきは昨日よりも大分優しいものだった。昨日といい、今といい……子供扱いしてないか?

 

 

「そりゃ、俺の方が年上だからな。ガキは黙って撫でられてりゃーいいんだよ」

 

 

〉〉一つ二つ程度じゃないか……というか、後ろからの視線が痛い。ガゼルの腕を頭から退けるも、再び戻ってくる。視線の鋭さがさらに増した。二、三回同じことを繰り返し、結局此方が折れた。

 

 

「……正直心配だったんだぜ。あそこでる前にシムカに手を引かれて来た時のおまえの顔、そりゃあもうヒッデェもんだったからな」

 

 

〉〉あぁ、あの時は……そうだったかもしれない。

 

 

「あの時何があったかは、俺はよく知らねーけど」

 

 

〉〉ガゼルと目が合う。

 

 

「おまえ、今幸せか?」

 

 

〉〉その言葉にすぐさま返答することができなかった。目蓋を閉じる。今でも先生──母さんを救えなかった時のことは鮮明に覚えている……あの時感じた後悔や虚無感といったものも一緒に。

 

 

 (目の前でママンが死んだら)そらそうなるよ。

 

 

〉〉そんな感情を奥底に抱えていても、この数ヶ月は確かに充実していた。楽しかった。それはきっとあの家族のおかげなのだろう。ゆっくり目蓋を開けると、再びガゼルの視線と交わる。

 

 

「答え、出たみたいだなァ」

 

 

〉〉あぁ、俺はいま……幸せだよ。

 

 

「おう!おまえの顔見りゃわかるぜ!」

 

 

〉〉ニカッと笑うガゼル。俺もいま、うまく笑えているのだろうか?

 

 

「じゃー今度は俺の話に付き合ってもらおうかァ?」

 

 

〉〉当然だ。むしろ何があったらそんな変な言葉遣いになってしまうのか気になっていた、と軽口をたたく。

 

 

「あぁん?おまえ海人を馬鹿にしてんのか?いいぜェ、とことん海人の良さを語ってやるヨ!」

 

「いや、俺を巻き込んでんじゃねーゾォ!自分の話をしやがれガゼル!」

 

 

〉〉後ろから鰐島海人が割って入ってきた。まだ時間はある。楽しい夜になりそうだ。

 

 


 

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま。わざわざ玄関で待ってたのか?」

 

「……えぇ、まあ」

 

 

 昨日、いつもと様子が違ったから心配して待ってました……なんて流石に恥ずかしくて言えない。

 

 

「そうか、ありがとう」

 

 

 ぴくっ

 

 いつもよりやわらかい微笑みを浮かべるシイナに思わず反応してしまう。

 

 

「えっと……何か良いことあったの?」

 

「あぁ。昔馴染みと会ってたんだ。以前といろいろ変わってたけど……元気な姿が見れて良かった」

 

「そっか」

 

 

 彼が嬉しそうに語るものだから、私も思わず笑顔になる。

 シイナはA.Tを脱いで、部屋に持っていこうと私の横を通り抜け───

 

 ふわっ

 

 ───る前に腕をつかむ。

 

 

「え、なに?」

 

「煙草臭い。今すぐお風呂に行ってきて」

 

「いや、コレ部屋においたら「い ま す ぐ!A.Tは私が部屋に持っていくから!」は、はい……」

 

 

 「煙草は俺じゃなくて別の人がっ」と弁解する彼をお風呂場に叩き込む。あなたがそんなことする人じゃないことくらい分かってます!

 

 A.Tを2階の彼の部屋に持っていき、ついでに着替えもタンスから取り出す。それをもって1階へ戻り、扉を開けて脱衣場にはいる。

 

 

「着替え、ここに置いとくわよ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

 扉の向こう、シャワーの音と共にシイナの声が聞こえた。

 

 そのまま出ていこうとすると、籠の中に入った彼の脱いだ服が見えた。

 サッと手に取る。やっぱり煙草くさい。

 

 とりあえず、洗濯機の中に放り込んでおいた。

 

 

 




↓以下、没案。

『そのまま出ていこうとすると、籠の中に入った彼の脱いだ服が見えた。
 サッと手に取る。やっぱりにおう。彼の汗と煙草のにおいに隠れるように混じった────。

 とりあえず、気に食わないから洗濯機の中に放り込んでおいた。』


 ……無いな。リカ姉は純愛枠に決まってんだろいい加減にしろよ!!



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6話 見えない所にあるものは触れない

一部分で掲示板形式あります(タグ追加済み)

それと先に謝っておきます。

ゴメンネゴメンネ~!……いや、ほんとすいません(土下座)


 ガゼルと海人に会って1ヶ月。いつのまにやら週3でガゼルと海人に会いに行ってるゲームの実況、はーじまーるよー。

 

 その度に手土産(海人の奢りで買ったお菓子)持って帰ってくるとか、飲み会帰りの親父かよ……。

 

 

 さて、スシ君と野山野家のほのぼのな日常を画面で垂れ流しながら、今後の方針をお話します。

 

 

 まず皆様はガゼルの今後をご存知でしょうか?…………そうですね、鬼畜ショタどもに追い詰められて自ら頭を拳銃でパーンしますね(南無)

 

 もう少しちゃんと説明するとWソラがガゼルが一人の時に襲撃。黒幕にガンダム(仮)を渡された海人がガゼルを救出して東京を離れます。

 二人は北海道のさびれた港町にしばらく潜伏して、このゲームでは日付はランダムなのですが──2月中に再びWソラの襲撃をうけます。

 追い詰められたガゼルは、お前らの思い通りにさせるかよ、といった具合に海人の拳銃を使って自らの頭をパーンします。

 その後、ガゼルの履いていた【棘の玉璽】はWソラが回収。こいつガゼルのバックアップなんじゃね?という推測のもと、玉璽はリカ姉の元に渡ります。

 冷たい海で仮死状態でプカプカしていた海人くんは無事救助され、ガゼルの死体は黒幕の手に渡り、彼女の腹のなかにいた子供は無事生まれました。

 

 っていうのが大体の流れですね…………クソがッ!(ガンバレルーヤ感)

 

 

 失礼、少々荒ぶりました。

 

 

 Wソラの好きにさせるのも面白くないので、ちょっと邪魔したいですね(ニッコリ)

 なのでガゼル生存ルート狙ってみましょうか。

 

 

 さてさて、このゲームではガゼルを救うことは可能です。まぁいろいろな条件がありますが。

 今回はオリキャラ操作時のものを紹介しますね。

 

 

 まずは通称『翼の守護者』ルート。

 ガゼルからの好感度が一番高いときに発生するものです。

 どんなルートかと言われれば、単純なWソラ撃退ルートです…………ただし、生半可な覚悟ではクリアできません。こいつらマジで執拗に襲ってくるので、ちょっとガゼルを一人にしたらコロッとイッちゃってる可能性が多々あります。

 鬼畜ショタどもが諦めるまで守りきれるかの勝負ですね!私は無理でした!(挫折)

 

 以前から言っているように好感度はマスクデータなのでハッキリと確認できる訳では無いのですが、ガゼルから好感度一番であるかどうかは簡単に判別できます。

 ずばり、ガゼルがオリキャラを真似ること……分かりやすく言えば海人のポジションにオリキャラがいれば良いのです。

 

 この時点でスシ君はダメですね。

 

 

 次に一番現実的な選択肢、通称『海人の協力者』ルート。

 ガゼルと海人の両方から高い好感度を得ており、なおかつ海人から実力を認められていると発生するものです。

 

 一度目の襲撃の後、北海道に潜伏している海人から協力を求められ、それを承諾することで二度目の襲撃戦に参加することができます。ここで鬼畜ショタどもを撃退して、無事にガゼルと海人を国外へ逃がすことができればガゼル生存に繋がります。

 逃亡できればヤツらも簡単には追えないですし、海人のカリスマで人脈を作ってガゼルを守ることができます。

 

 

 そんなわけで、現在週3でせっせこ好感度を稼ぎにいってる訳なんですね。ちなみに、これ以上頻回に行くと「二人の時間を邪魔するな」ってむしろ好感度が下がります。

 

 めんどくさいなぁ!もう!っと言いたくなるのを我慢して頑張りました。その結果ガゼルはもちろん、海人の方も好感度はそこそこ高くできたと思います(推定)

 

 

 さて、スシ君と海人が出会うきっかけとなった、海人がトラックに轢かれそうになった事件から1ヶ月。そろそろWソラがガゼルを襲いに行く頃でしょう。

 

 時期を正確に把握するため、給料で買った携帯を使って情報収集をします……二つ折りのパカパカガラケーやぞ!

 なお、リカ姉にはまだ買ってあげられてないので、自宅とバイト先と海人くらいしか連絡先が登録されて無い模様(悲しみ)

 

 

 気を取り直して情報収集です。某掲示板サイトなどで『ロボットが空から降ってきた!』や『ガンダムを見た!』などの書き込みがないか探しましょう。

 ちなみにテレビや新聞には載りません。なぜなら黒幕が揉み消してしまうので。さらに付け加えるなら掲示板などの書き込みも、数時間しないうちに消されてしまうので注意しましょう。

 

 

 おっ、それっぽいのみっけ!

 

 

【速報】ガンダムが舞い降りたぞっ!【東京都】

1:名無しの都民 ID:SDB756G6/

なんてこった!夜中の渋谷にガンダムが出現したぞ!

 

『画像』

 

2:名無しの都民 ID:b4lMmc6Nu

嘘乙

 

3:名無しの都民 ID:IZ1841nyG

どうせ合成なんでしょ?し っ て る

 

4:名無しの都民 ID:xYu9iO5si

俺も見た

『画像』

『画像』

『画像』

 

5:名無しの都民 ID:KvONopEEi

>>1>>4 マジなのか?

 

6:名無しの都民 ID:wGUBNr87T

>>1>>4 全然ガンダムちゃうやんけ やりなおし

 

7:名無しの都民 ID:xMcOgVBZf

>>1>>4 かっけぇぇぇえええ!!

 

8:名無しの都民 ID:XPfeApoc4

この周りでひらひらしてるビラなんなの?

 

9:名無しの都民 ID:mHkoT9sXM

>>8

『画像』

よwwwめwwwなwwwいwww

 

10:名無しの都民 ID:amdEpouOX

>>9

やめろ!そんなアルファベットの羅列をみせるな!頭痛くなるだろうが!(受験生)

 

11:名無しの都民 ID:D+3izaW9X

>>10 勉強しろ

 

12:名無しの都民 ID:zLEeJGnr0

ていうかなんで急にそんなロボットでてきたわけ?

 

13:名無しの都民 ID:o6ChJkAgp

>>12 なんかいろいろ言ってたけどよく分からなかった

 

14:名無しの都民 ID:kOem7LlpB

>>12 ダンディなおっさんボイスが「はじまりの翼がー」「戦いこそが世界をかえるー」みたいな少年漫画みたいなこと言ってた

よくわからんけどな!

 

15:名無しの都民 ID:TUVpMHf96

広告モニターのほうもよくわからない映像出てたけど、数秒だったしロボットに夢中で撮れなかった

 

16:名無しの都民 ID:Yk0V0IpAf

>>15 俺も

 

17:名無しの都民 ID:/uGH91eBx

>>15 自分も

 

18:名無しの都民 ID:LSTBGcb26

>>15 アチキも

 

19:名無しの都民 ID:uyZffxSky

>>15 我輩も

 

20:名無しの都民 ID:MBK8avmBk

>>15 おいちゃんも

 

21:名無しの都民 ID:YmbrP7Da6

>>15 拙者も

 

22:名無しの都民 ID:PvMg+mzfw

>>16-21 ええい!どいつもこいつも!ここには無能しかいないのか!

 

 

 

 画像を確認した限り、写っているロボットもA.Tアーマーで間違いないようですね。

 書き込みの時間的には今頃海人がガゼルを連れて飛び去っていったくらいでしょうか?

 

 

〉〉寝る前に見つけたスレッド。その荒い画像のなかに、A.Tの技術を流用したと思われるアーマーが写っていた。他の画像も確認すると、そのアーマーに乗り込む人影……海人?……電話してみるか?

 

 

 とりあえずしてみましょう。

 

 

〉〉……出ない。もう一度かけ直す……やはり出ない。しかたない。折り返し連絡をくれ、と留守電を残して寝ることにしよう。

 

 

 今はバタバタしてるでしょうから仕方ないね。

 

 上手いこと条件を達成できていれば、そのうち海人から連絡があるでしょう。

 無かったら?無かったら……どうしましょう?

 

 いや、別にガゼルが死んでも最終目標のトロフィー獲得には関係ないので問題はないのですが……この1ヶ月の好感度上げの努力が無駄に思えてきて嫌になるんですよね(自己中)

 

 

 まあまあ、きっとどうにかなるでしょう!(適当)

 

 

「見て見てイッキ!サンタさんからプレゼントが届いたよ!」

 

「まじだ!見ろよリンゴ、新品の靴だぜ!ピッタリだ!」

 

「私のはポシェットとヘアゴムが入ってた!かわいいでしょ!」

 

 

 ……どうにかなるでしょう。

 

 

「兄貴兄貴。ありがたいんだけどさ、まじでお年玉こんな貰っていいわけ?……さっすが!太っ腹ぁ!」

 

「えっと、私も貰っていいわけ?……うん、ありがとう。今年もよろしくね」

 

 

 ……どうにか……。

 

 

「ミカンは~外!(あん)ちゃんは~内!」

 

「イッキ、てっめぇ!鬼の面かぶってんのは兄貴なんだからちゃんと兄貴に投げろ!」

 

「豆撒いて悪いモン追い出すのが節分なんだろ?なら俺間違ってないね」

 

「……ドロップキックぅぅぅうううう!」

 

「ぶへっ!」

 

「そこ、喧嘩しないの!」

 

 

 ………………。

 

 

 どうにかならずに2月なっちゃった(絶望)

 

 これまで定期的に電話かけてるんですが全然出ないんですよ……仕方無いので今日も電話かけるんですけどね!

 

 

〉〉あれからガゼルと海人の行方がわからない。海人のチームメイトである「イエローレイン」のメンバーに聞いても誰も連絡がつかないという……やはり心配だ。何度もかけている番号、今日は出てくれるだろうか?

 

 

──Prrrr....Prrrr....Prrrr....Prrrr....Prrrr....ガチャ 

 

 

『もしもし』

 

 

〉〉出た!ガゼルの声だ。連絡がつかなくて心配したこと、今どこで何しているのかを矢継ぎ早に尋ねる。

 

 

『うるせェな、そんなに心配すんなよ……ただの旅行だッつーの』

 

 

〉〉旅行?みんなに黙って急に?

 

 

『あぁ、いろいろ急なことでな。あいつらにも……おまえにも……ワルいと思ってる』

 

 

〉〉……いつ帰ってくるんだ?

 

 

『……サァな。正直言ってすぐには帰ってこれねーと思う。でも心配すんな。いつか……いつか、ゼッタイ会いに行くから』

 

 

〉〉何かを覚悟したようなガゼルの声。旅行、の話なんだよな?……本当に?胸の奥がざわつく。今を逃したら決定的に違えてしまうような、そんな感覚に襲われる。

 

 

『いいかァ、シイナ?次会うときまで、ちゃんと家族と仲良くしてるんだぞ?してなかったらブン殴るからな!……じゃあ……元気でな、シイナ』

 

 

〉〉ガゼル待て!っという言葉も届いたかどうか。通話が切られた。即座にかけなおすも、携帯の電源を切ってしまっているようだ。

 

 

 あ、あれー?こんなん知らんぞ、旅行とかウッソやろおまえ!……え、ウソよな?

 

 

〉〉どうにも腑に落ちない……どうする?

 

 

 どうするもこうするもねーよ!(激おこ)

 

 ……こうなってしまった以上、こちらから打つ手はありません。 

 海人たちが拠点としている場所はランダムなため、教えてもらえない限りそうそうたどり着けません。まあ、隠れ家が簡単に見つかるわけにはいかないですからね、当然です。

 

 では戦闘が起こりそうな場所で張り込む?

 

 はっ!ナンセンスです。襲撃日時はランダムな上、あんな極寒の地で何日も張り込みなんてありえませんよ。

 いや、出来ないことはないんですよ?ただ体調崩して足手まといになる可能性が微レ存。

 ついでに戦闘前に海人に見つかったら「テメェ、実はアイツらとグルだったのかっ!」てな具合に敵認定されます。やってられませんよ!

 

 ……つーかよくよく考えたら、今のスシ君あんまり家を空けるのをよしとしないでしょうね。空けれて3日くらい?

 

 うーん、やっぱ無理ですね。諦めましょう。

 あーあ、せめてさっきの電話でガゼルが場所のヒントを言ってくれてればもう少しやりようがあったんですがね。

 

 

「うぁ、うぅー、んぎゃ、んぎ、んぎゃあーー!」

 

 

〉〉シラウメ……いまは、やるべきことをやるしかないようだ。

 

 


 

 

「ありがとな、海人。アイツの電話に出させてくれて」

 

「別に……なぁ、やっぱりアイツにも手伝ってもらった方が「それはナシだ」ガゼルッ!」

 

 

 海人、おまえが不安に思うのはよくわかるぜ。でも、それはダメなんだよ。

 

 

「言ったろ?アイツ、今すげェ幸せそうなんだ……俺とアイツらの争いなんかに巻き込んだら可哀想じゃねェか、シイナも……アイツの家族も」

 

「ソレは……そうだけどよ……」

 

 

 海人もシイナのことを気に入ってくれていた。そして、シイナの幸せを壊したくないと思ってくれている。

 

 

「お前だって……幸せにならねェと、ダメだろうがよっ」

 

「……」

 

 

 同時に、俺の幸せも願ってくれている。やっぱ優しいなァ海人。

 

 海人を正面から抱き締める。

 

 

「シイナとソラとキリクってヤツな、端からみてて結構仲良かったんだよ……ソラは否定するかもしれねェけど」

 

「……」

 

「俺、シイナにダチと闘わせるなんてさせられねェよ……それにたぶん、今のシイナはアイツらを殺せない」

 

「……だろうな。アイツ、あめェからな」

 

「フフッ、素直に優しいからッて言えよ……だから、シイナにはアイツらのことはヒミツにしてェんだ」

 

「……そうか」

 

「大丈夫。アイツらは二人、俺達は三人いるんだ。負けねェさ」

 

 

 体を少し離し、自分の腹部に手をあてる。浮かない顔をしている海人に笑いながらそう言ってやれば、少しだけ笑い返してくれる。

 

 

「そう、だな」

 

「おう。生きて、シイナにいろいろ教えてもらわなきゃな」

 

 

 シイナがいれば確かにソラ達にも勝てるだろう。でも俺は、アイツの(こころ)をこんなことで汚したくない。

 A.Tだって、人を殺すようなことに使うんじゃなくて、ただ純粋に空を飛ぶためだけに使ってほしい。

 

 

 ピッピピピッピピピピピ…ピーーー!

 

 

 メールアラートが鳴る。海人は血相変えてパソコンに向き合う。

 

 

 

 シイナ、俺頑張るけどさ………約束守れなかったらごめんな。

 

 

 言葉にはゼッタイしないと決めた弱音。ソレは俺の心の底で、消えることなくずっと燻っている。

 




 僕はね、正義の味方になりたかったんだ(なれるとは言ってない)

 ワイには無理やった……すまん……誰か!全員救済ハッピーエンドエア・ギア書いてくれ!(他力本願寺)


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7話 協力者

 ……うん、まあそうなるよね(感想欄みながら)
 大丈夫大丈夫。あらかじめ構えていればそんなにダメージは……ゴバァ(吐血)

 前回あんな終わりかたしたのは、原作にある部分をまんま書くのが億劫だったからです。もしかして…みたいなことはねぇからな!(無慈悲)


『シイナさん!海人さんがっ!』

 

 

〉〉海人やガゼルが行方不明になったとき、「イエローレイン」のメンバーの何人かと情報をやり取りするために連絡先を交換していた。そのうちの一人から、かかってきた電話。

 

 

『場所は総合病院のっ─────』

 

 

〉〉わかった、そう言って通話を切ろうとしたが、まだ向こうには伝えたいことがあるらしい。

 

 

『そ、それとガゼルさんが───』

 

 

〉〉手から携帯が滑り落ちる。家のどこかにいるはずのリカに聞こえるように出かける、とだけ声をかけて、まだ明るい街中をA.Tで一直線に走り出した。

 

 

 

 モブキャラから予想外な事実を告げられてしまうゲームの実況、はじまってる!

 

 うへぇ、速すぎて画面酔いしそう……。

 

 

〉〉目的地に着いた。都内の総合病院、電話で教えてもらった病室に向かう。『鰐島海人』……ここだ。

 

 

──バンッ!

 

 

 たのも~(道場破り)

 

 

「なっ、シイナ!?お前なんでここにッ!」

 

 

〉〉ベッド上で体を起こしていた海人が驚いた声をあげる。その周りを囲むように「イエローレイン」のメンバーがいた。海人に手が届く所へ行くため、そいつらを押し退ける。

 

 

「シイナ……」

 

 

〉〉患者衣の間から見える包帯が痛々しい。前に会ったときよりも少し痩せてしまったようだ。そんな怪我人に対して──肩を掴んでベッドに叩きつけた。

 

 

 うぇっ!?シイナくんが怒りに任せてバーサーカーに!?

 

 

「かはっ!」

 

 

〉〉ガゼルが死んだってどういうことだ?

 

 

「シイナさん!何を!?」

 

「おい、何トチ狂ったことしてんだ!」

 

 

〉〉その場にいたヤツら総出で海人から引き剥がされ、そのまま取り押さえられる。抵抗すれば簡単に抜け出せるが、別にコイツらに怪我をさせたい訳じゃない……用があるのは海人だけなのだから。

 

 

 流行らせ、流行らせコラ!流行らせコラ!!

 

 ……え?黙れ?自分シリアス苦手だからちゃちゃいれたくなるんですが……そうですか(ショボン)

 

 

「くっ……シイナ、おまえ」

 

 

〉〉答えろよ、鰐島海人。

 

 

「……テメェらは外せ」

 

「でも海人さん!」

 

「いいから!……大丈夫だ」

 

 

〉〉渋々出ていくメンバー達。病室には正真正銘二人きり。海人はおもむろに煙草とライターをとりだし吸い始めた。あまりのことに面食らう。病院だぞ、と呆れ混じりに注意する。

 

 

「……窓開けとくか」

 

 

〉〉後で死ぬほど病院の人に怒られればいいやと思い、止めさせることを諦めた。

 

 

「さて、さっきの話……チームのヤツらにしか話してないんだがナ。いつの間に連絡なんぞ取るような仲になってんだよ、テメェら?」

 

 

〉〉……アンタとガゼルが黙ってどっかに消えたからだよ。みんなで協力して方々探し回ったんだぞ。

 

 

「そう、か」

 

 

〉〉なぁ、教えてくれよ。ガゼルは……本当に……死んだのか?

 

 

「……あぁ」

 

 

〉〉頭が真っ白になる。海人がガゼルのことでこんなタチの悪い冗談を言うわけがない。なぜ、どうして、そんな言葉ばかり海人にぶつける。

 

 

「……聞くな。それがガゼルの願いだ」

 

 

〉〉ガゼルの名前を出されて、一瞬言葉につまる。しかし、聞かずにはいられない。教えてほしいと懇願する。

 

 

「ガゼルはテメェに傷ついてほしくなくて黙ってイッちまったんだ……そんだけの覚悟があったんだよ。シイナ、テメェはそれを蔑ろにする気かァ?」

 

 

〉〉閉口。……それでも俺は……。

 

 

 ヒェッ!選択肢の中に『拳で聞きだす』とか『A.Tで聞きだす』とか怪我人に対して殺意高すぎません!?

 文明人なんだから対話するに決まってるでしょ!

 

 

〉〉海人に頭を深々と下げて、口を開く。頼む、教えてほしい。

 

 

「…………はぁ」

 

 

〉〉頭をあげる。海人は左手に煙草を持ち、右の手のひらで顔を覆ってため息を吐いていた。指の隙間から目が合う。

 

 

「……ガゼルの思いを踏みにじることになるぞ」

 

 

〉〉……そう、なるのかもしれない。いつかあっちに行ったとき、許してもらえるまでガゼルに頭を下げることにするよ。

 

 

「ショック受けるぞ」

 

 

〉〉ショックを受けることより、姉貴分がどうして死んだかもわからない事の方がよっぽど嫌だ。

 

 

「ガキがワガママばっか言いやがって……アニキとアネキの言うことは聞くもんだぞ、バカが」

 

 

〉〉悪いな、反抗期なんだよ。そう言うと鼻で笑われた。

 

 

「……テメェのことをもっと信じてりゃー変わってたのかもな。まあ、今さら後悔してもおせェか」

 

 

〉〉海人は疲れきった顔で、小さく笑っていた。

 

 

「最後だ……本当に聞くか?後戻りは出来ねェぞ」

 

 

〉〉適当に答えることは許さない、海人の目はそういっている。覚悟はいいか?

 

 

 犯人がWソラってことを聞くんでしょ?つまりラスボスとの敵対フラグってことですよね?

 

 となったら聞くしかないですよねぇ!キクキクゥ!

 

 

「……俺もあの世でガゼルに謝る覚悟をした方がいいみたいだなァ」

 

 

〉〉海人は電話が繋がらなくなったあの日からのことを話してくれた。襲われて逃げたこと。潜伏先でまた襲われたこと。勝てないと判断したガゼルが自ら命を断ったこと。ガゼルのA.Tが持っていかれたこと。海人は救助されたが、ガゼルの死体は無かったこと。そして…………その一連のことに、空とその弟──(そら)が関わっていたこと。

 

 

「流石にショックだったか?顔色スゴいぞ」

 

 

〉〉言葉がでない。どうしてあの二人がガゼルを襲った?ガゼルのA.Tがほしかったのか?なぜ?

 

 

「覚えてるか?ヨシトと柿谷……二人はアイツらに殺られた。シイナ、俺はサツになってアイツらのやってきたこと、洗いざらい調べあげて刑務所に叩き込む。俺の手は汚さねェさ……ガゼルに会いに行けなくなっちまうからな」

 

 

〉〉空……お前は、本当に、そこまで堕ちたのか?無言のままでいると、海人は更に此方に問い掛けてきた。

 

 

「シイナ、お前はどうする?」

 

 

〉〉おれ、は……。

 

 

「……」

 

 

〉〉……もう少し、考えさせてほしい。

 

 

 むむむっ、スシ君は優柔不断ですねぇ。こんなもんラスボスが悪いに決まってるんですから、さっさと協力しとけばいいんですよ!

 

 

「ハッ、構わねェよ……悩んで悩んで、テメェのココロに従って決めろ」

 

 

 

 

〉〉その後のことは曖昧だ。どこをどう走ったのか、街中をあてもなくさまよっていた。辺りはすっかり暗い。

 

 

──~~~♪~~~♪~~~♪

 

 

〉〉リカからだ……どうする?

 

 

 出なかったら家に帰ってからが恐いので、出てどうぞ。

 

 

『もしもし、シイナ!今どこにいるの!?もう晩御飯冷めてるわよ!……イッキ達も心配してるわ』

 

 

〉〉ごめん。日付越えるまでには帰る。

 

 

『えっ、シイ』──プツ

 

 

〉〉……もう少しだけ一人で風になっていたい。

 

 

 お、おう……お年頃かな?(適当)

 

 


 

「……ただいま」

 

「シイナ!こんな時間まで、どこ、に……シイナ?大丈夫?顔真っ青よ」

 

 

 心配させたことを怒ろうと思って待っていたのに、帰宅した彼の顔を見てぎょっとした。

 本当に顔色が悪く、足取りもふらふらしている。転けるんじゃないかと不安で部屋まで付き添う。

 

 部屋に戻ったシイナはベッドに腰かけて俯いていた。

 流石に放ってはおけない。彼の正面に膝をついて、手を軽く握る……冷たい。

 

 

「シイナ、何かあったの?」

 

「……」

 

「私に話したくないこと?」

 

「……いろいろあって頭のなかぐちゃぐちゃでさ……言葉に出来ない、が正しいんだと思う」

 

 

 か細く、少し掠れた声もあいまって、その姿がひどく痛々しく見えた。

 

 

「辛い?」

 

「……あぁ」

 

「悲しい?」

 

「……あぁ」

 

「苦しい?」

 

「……あぁっ」

 

「泣きたい?」

 

「……」

 

 

 そっか……泣きたいんだね、シイナ。

 

 正面から彼を抱きしめる。

 

 

「泣いていいよ」

 

「……」

 

 

 ……まだ足りないらしい。月明かりに照らされている濡れ羽色の髪を優しく撫でる。

 

 ぴくっ

 

 肩が少し揺れた。優しく優しく、宝物を扱うようにゆっくり撫でる。

 

 

「……ぁ、ぁぁ」

 

 

 シイナから漏れ出てきたのは、小さな小さな()

 

 もっと、もっと出していいんだよ。音ではなく、熱で訴える。

 

 

「……ぅぅ、ぅぅっ、ぁっ……」

 

 

 まだダメ、まだ足りない。こんな中途半端じゃ、シイナは苦しいままだ。

 

 

 ふと、微かに煙草のにおいが彼に染み付いていることに気づいた。

 ここしばらくは無かったもの。そう、たしかこの臭いの元の人に会っていたのは去年の秋頃。

 

 

「昔の知り合いにあってきたの?」

 

「あっ……」

 

 

 ……みつけた。

 

 

「煙草のにおい。海人さん……のだよね。えっと、ガゼルさん…だったかな?昔馴染みさんにも会えた?去年の秋以来だっけ」

 

「……あぁ、ちがっ…あぇなっ、おれ、はっ!」

 

 

 ガッ、彼の両手が私の服を掴む。肩がじんわりと濡れていく。

 

 

「あえなかった……しんでたっ!なんで!ただのりょこうだって、あのときいってたじゃないかっ」

 

「うん」

 

「ずっとずっと!あぶないって!わかってたはずなのにっ!おれなら、きっと!ぜったい!にがせたはずのにっ」

 

「……うん」

 

「なんでっ!おまえが、おまえがっ!よんでくれればとんでいったのに!」

 

「うん」

 

 

 嗚咽に紛れて吐き出される断片的な言葉の数々。固有名詞は出てこなかったが、何となくの事情は察せられた。

 

 

「やくそく……したじゃないか……」

 

「うん……ごめんね」

 

 

 泣き疲れたのか、目が虚ろになっていく彼にそんな言葉をかけてしまった。

 彼を慰めるためだけに、顔も知らない昔馴染みさんの言葉を代弁しようとする愚かな行為。

 

 

「……あそこからでてきて、またあえてうれしかった」

 

「私も嬉しかったわ」

 

「くちがわるくなってて……びっくりした……」

 

「そ、そう?」

 

「でもあそこにいたときより、ずっとずっとげんきそうで……あんしんした」

 

「……うん、私も」

 

 

 夢現の彼と、勝手に作り上げた昔馴染みさんを演じる私。ふわふわとした会話が続く。

 

 彼の身体が少しこちらに傾く。床に落ちないように、さらに強く抱きしめる。

 

 

「おれ……そんなにたよりないかな?」

 

「そんなことない。いつも頼りにしてるわ」

 

「どう、すれば…いいのか………もうおれ……わから、ないん…だ」

 

「シイナの心の赴くままに。それがきっと、一番後悔のない道なんじゃないかな?」

 

 

 これらはきっと……私の言葉。

 

 

「なぁ……おまえは…ちゃんと、たよれ…よ……じゃなきゃ……たすけ…れ、ない…………」

 

「ぇ?」

 

 

 それは、誰への言葉?

 

 

 すでに寝息をたてている彼には聞けなかった。

 

 


 

『海人。俺、やっぱり心のどこかでそんなはずないって思ってるんだ』

 

「俺が嘘をついてるとでも?」

 

『違う、海人の言ったことを嘘だなんて思ってない!……ただ、もしかしたらアイツらにも何か理由があったのかもしれない。俺はそれを自分の目で見て判断したいんだ』

 

「つまり?」

 

『空達がこれまで何をしてきて、今何をしているのか……調べたことを教えてほしい。もちろん、調べるために協力できることがあれば協力する。その結果、もし救いようのない理由だったら……必ずこの手で』

 

「テメェが手を汚そうとしてんじゃねぇよ。つーかサツになるって言ってる人間に殺害予告なんていい度胸してんじゃねェか、シイナ?」

 

『……警察になる前にその口調、どうにかしたら?』

 

「ハッ倒すぞテメェ…………まァ、いい。これからよろしくな、協力者(マイ・バディ)

 

 




 「はぁ?」そんな声が画面の向こうから聞こえてくるような……こないような(自意識過剰)

 とりあず、このお排泄物はキチンとトイレに流したいと思います。(訳:完結まで頑張りたい)


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閑話:小話まとめ

 実は作者はこういうほのぼの家族を書くのが~結構やりたかったり~するんですよね~。

 まあ、過激派バーサーカーニキネキには申し訳ないけど、ちょっとだけ付き合って?


 あまりにプレイ時間が長すぎて全部を投稿することを諦めたゲームの実況、はーじまーるよー(嘘)

 

 さて、今回はほんへからもれてしまった小ネタをおまけ感覚でさらします。おまけなので(編集に一貫性は)ないです。

 一応、前回のお話以降の夏頃のイベントを時系列順で並べてます。

 

 年齢的にはスシ君(14) リカ姉(13) ミカン(8) イッキ&リンゴ(5) ウメ(1)ですね。

 

 もう言うことはないですかね?よし。はーい、よーいスタート(棒読み)

 

 

 

○授業参観

 

「だーかーらー!無理に来なくていいって言ってんじゃねーかよ!」

 

「だから俺も無理じゃないと言っているじゃないか」

 

「ウメ達はどーすんだよ!」

 

「イツキとリンゴは一時間くらいなら自分達でどうとでもなる。ウメは保健室でしばらく見ていただけると言って下さった」

 

「ほら!自分で見れないから預けるんだろ!?無理してんじゃねーか!」

 

「……ミカン」

 

 

 やめろ。そんな落ち込んだ声で俺の名前を呼ぶなよ。

 

 

「……なんだよ」

 

 

 それまでの勢いを削がれる。兄貴にそんな態度とられたら……俺……。

 

 

「俺が無理してるとかそういうのは考えなくていい。お前が来てほしいか、来てほしくないかで答えてくれないか?年若い俺が保護者として来るのが恥ずかしいというなら、素直にそう言ってくれ」

 

「ちがうっ!恥ずかしいなんてそんなことっ!」

 

 

 あるわけないじゃんか、というのは口から出てこなかった。

 くそっ、バカ兄貴。わざわざ俺が負担を減らしてやろうって気を使ってるのによ。そういう聞き方は卑怯だろう…………来てほしくないわけないじゃんか。

 

 

「……もう知らねぇ。兄貴の好きにすればいいさ」

 

「本当に嫌なら言えよ?」

 

「好きにしていいって言ってんだろ!」

 

 

 あぁ、素直に来てほしいと言えない自分に腹が立つ。そして、兄貴が見に来てくれると分かって喜ぶ自分のチョロさが恥ずかしい。

 

 

 

 ……なんて考えていた俺が馬鹿だった。

 

 

「本当、シイナ君ったら偉いわねぇ」

 

「うちの主人にも見習わせたいくらいよ」

 

「うちのグータラ亭主にもシイナ君の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」

 

 

 おばさん達による、ほんとほんとの大合唱。あー……早く授業が始まって欲しいとか思うことってあるんだな。

 

 

「ねー、あの人ミカンちゃんのお兄さんって本当?」

 

「結構格好よくない?」

 

「野山野ん家は何で親じゃねーの?変なの」

 

 

 普段そんなに仲良くないのにこんなときだけ話しかけてくんじゃねぇ!兄貴に色目使ってんじゃねぇ!その人は既に売約済みだ!テメェの母親の厚化粧の方がよっぽど変だっつーの!

 

 ……なんて、兄貴の顔に泥を塗りたくるようなことを言えるわけもなかった。

 

 

「はぁ……」

 

 

 早く始まんねぇかな。

 

 

 

 

 

 授業参観が終わり、俺は兄貴と兄貴の腕のなかで寝息をたててるウメと下校していた。

 

 

「ミカン、お疲れ様」

 

「ほんとだぜ……」

 

 

 授業参観が始まる前に疲れたと言うのもあるが、授業中も普通に疲れた。

 

 いや、これはまあ、なんというか……兄貴にみっともない姿見せられねーなって思ったから少しだけ頑張ってみたのが原因だけど。とにかく、いろいろ疲れた!

 

 もうこんなのは懲り懲りだ。次からはやっぱり無しの方向で───

 

 

「今日はミカンの頑張っている姿が見れて良かった。ありがとう、ミカン。今日はミカンのおかげで良い一日だった」

 

「……そりゃ、よかったな」

 

 

 そんな嬉しそうにされたら……次から来るなとは言えないよなぁ。しゃーない、諦めるか。

 

 

「ところで、いつから俺の兄貴はアメリカ留学で飛び級して弱冠13歳で高校卒業したエリート帰国子女様になったんだ?」

 

「いや、その……学校を聞かれたものだから……つい。ほら、義務教育受けてないって言ったらお母様方に怪しまれるだろ?」

 

 

 後日、髭オヤジ(リカ姉の父親)の勝手で兄貴の学歴にアメリカの学校が追加されるのはまた別の話。

 

 

 

○人類を越えた日

 

 

『シイナ!シイナ!どうしよう!イッキがっ!!』

 

 

〉〉珍しく動揺しているリカ。なんとか状況を聞き出した……どうする?

 

 

 こっ、これは!イッキが東京タワーからI can fly!するイベントですね!行きます行きます!

 

 いやー、自分ですね原作イベントとかは見に行きたい派なんですよ。聖地巡礼とか大好き(隙自語)

 

 現在ウメを抱っこしながらのお散歩中だったので、A.Tはリュックの中。速攻で履き替えて現場に向かいます。

 

 

 というわけで、つきました東京タワー!

 すでに野次馬がわらわらいますね。リカ姉を見つけたら、彼女が飛び出して行かないようにウメを押し付けましょう。

 

 

 お、救助ヘリがイッキに近づいていきますね。そうそう、そこでイッキが救助隊員の腕を噛んで……Fly!!

 

 落下中にホクト(推定30歳以上。魔神岩周辺の主で胸に7つの傷がある大ガラス)が飛んできてイッキの肩を掴むことによって事なきを得るのですが……掴んではいるものの、なんかフラフラしてますね。

 

 あぁぁああ!なんかやばそう!スシ君いっきまーす!

 ……あっ!飛び立つ前に“紫電の道”で周囲の電子機器をちょっと使い物にならなくさせときましょう。映像残されると面倒なので。

 

 

 はい。それではもうスピードで東京タワーの足から登っていきまして……あ!ヤバい、ホクトが限界そうです!イッキが落ち───たところでダイビングキャッチィィィイイイイ!

 やりますねぇ!(自画自賛)

 

 

 あぁ、これあれですね。たぶんイッキが原作より少し重たくなってます。そのせいでホクトが持ってられなくなったんでしょう。

 ん、原因ですか?食卓に肉が増えたせいじゃないですかね?

 

 

 さて、いつぞや言ったように、原作開始前のイッキにはA.Tの存在をあまり教えたくありません。

 なので現在お姫様抱っこの状態のイッキの注意を空や街並みのほうへ上手く誘導しましょう。

 

 地上に着きましたら、イッキはリカ姉に丸投げしましょう。説教でスシ君のことどころではなくなります。

 

 少し離れたところで靴に履き替えて、みんなのところに戻りましょう。

 

 まーだ説教してますね。

 

 ぼちぼち切り上げさせて帰りましたところで終了しましょう。

 

 ご視聴ありがとナス!

 

 

▽▲▽

 

 

「ねえイッキ。どうして私達のとこって親がいないのかな?私とイッキって苗字が違うでしょ。なんで一緒のとこに住んでるのかな」

 

「別に死んだりとかしてるわけじゃねーって……リカ姉が。タモリが居ねぇのは元気の素だとかなんとか」

 

「それ『便りがないのは元気のしるし』だとはおもうけど……なんで私達ってこんな放ったらかしにされてるの?」

 

 

 リンゴはそう言ったけど、俺はそこまで気にしてなかった。

 俺達の「あたりまえ」が世の中の「あたりまえ」と違うことはいつからか気づいていた。

 でも……。

 

 

 ───帰ろうか……イツキ、リンゴ。

 

 ───お帰りなさい。そろそろご飯ができるから、みんな手洗いうがいをしてきてね。

 

 

 二人がいるから、寂しいなんて欠片も思わなかった。

 

 そんなことを考えているとホクトの縄張りの見廻りが始まった。

 

 

「ホクトー、ホクトー。いってらっしゃーい」

 

 

 リンゴがホクトに手を振って見送りをする。そして、ホクトが空を飛ぶ様をみて何かを思い出したかのように話し出した。

 

 

「イッキ、知ってる?世界はぜーんぶお空で一つにつながってるの。ホクトくらい高く飛べたら、私達の親がどこにいてもきっとすぐ見つかるのにね」

 

「それだっ!!」

 

 

 リンゴの制止を振り切って、この街で一番高いタワーに登りながら考える。

 

 みんながいるから寂しくはないが、少しだけ自分の親という存在が気になったんだ。

 名前は?年は?俺と似ているところはあるのか?……今何をしている?

 

 見つけてくれると思った。てっぺんまで……登ったら。どんなに遠くにいてもこの高さなら、見えないものなんてないと思ったんだ。

 

 

「へへ……どうだコノヤロウ。こんだけ高けりゃ文句ねェだろ。虫眼鏡じゃ……見えねぇか。ちぇっ……もういいやクソ!俺は目ェいいから自分で探してやらぁ!」

 

 

 そう意気込んで街並みに目を向けると……俺は雲の中に……いや、雲の上にいた。

 

 なんだかこのまま雲の上に飛び乗れそうな……そのままどこまでも歩いていけそうな……そんな不思議な感覚に襲われた。この感覚は……悪くない。

 

 

「雲で下、見えなくなっちまった!……しょーがねぇ。自分で探すのはあきらめっか。TVいっぱい来てたっぽいし……TVに出りゃ見てくれっかも」

 

 

 そう考えていた瞬間、後ろから誰かから体を持ち上げられた。反射的に俺の体の前に回された腕に思いっきり噛みつく。

 

 

 腕が離れて、体が自由になる。そのまま雲の上に足が乗る───なんてことはなく、雲を突っ切って落下する。

 

 

 落ちる、落ちてる……このまま……どこまでも?

 

 

 一瞬、恐怖が全身に満ちる。そのとき、肩の辺りが鋭いなにかに捕まれて落下が止まった……ように思えた。飛んでる?

 

 上をみる。ホクトだ!俺、ホクトと空を飛んでるっ!!

 

 空を飛んでいる高揚感。それは長くは続かなかった。

 

 

 ホクトと俺の体が揺れる。俺が邪魔で上手く飛べないのか!?

 肩にあったホクトの足が離れる。

 

 再びの浮遊感。まだ地面との距離は遠い。ホクトは少し離れたところで体勢を建て直している……俺は……どうすれば!?思わず目をつぶる。

 

 

 フワッ

 

 

 風が下から噴き上げる。それと同時に空気の冷たさとは違う、人の温かみに包まれた。目を開けるとこの半年でよく慣れ親しんだ顔があった。

 

 

「あ、ん……ちゃん?」

 

 

 なんでこんなところに?そんな言葉を投げ掛ける前に、兄ちゃんは俺に語りかけてきた。

 

 

「イツキ。上を見てごらん……空、綺麗だろう?」

 

 

 青。ビルも雲も何も遮るもののない綺麗な青が一面に広がっていた。

 無言で頷く。綺麗だ。

 

 

「じゃあ、次は前を見て。皆が暮らす街、凄いだろう?」

 

 沢山のビルや家が建ち並ぶ街の風景。無機質なはずのそれらから、どうしてか人の並外れた生命力を感じた。

 また無言で頷く。圧倒された。

 

 

「……最後だ。少しだけ視線を下げてごらん」

 

 

 人、沢山の人がいた。それでもリンゴとウメを抱えたリカ姉だけはすぐに見つけられた。

 

 

「イツキ、お前を心配してくれた人達だ。覚悟しておけよ、特にリカはお前を心配していたからな……思いっきり叱られてくるといい」

 

 

 兄ちゃんの体温で温かかったはずが、最後の一言で一気に冷や汗が出てきた。

 

 

「……無事で良かった」

 

 

 小さく呟かれた言葉を風が俺に届けてくれる。

 

 空いていた両手は無意識のうちに兄ちゃんの服を掴んでいた。

 

 

 

 

○夏祭り

 

 

「夏祭り行こうぜ!」

 

 

〉〉イツキが夏祭りのビラを持ってきた。ビラを受け取り確認するとどうやら来週の夜らしい。特大花火……少し興味はある。

 

 

「へぇ、良いじゃない。行きましょうよ」

 

 

〉〉後ろからビラを覗いてきたリカがそう言う。他は?

 

 

「俺も別に良いぜ」

 

「私も~」

 

「うーあ!」

 

「もちろんウメも一緒よ」

 

 

〉〉ふむ……じゃあ浴衣、買いに行くか。

 

 

 というわけで、祭りの日当日ですね。リカ姉とかは遠慮してきましたが、粘りに粘った結果、全員浴衣と甚平ですよ。

 

 うーん、原作では見られなかった季節物の衣装……ナイスゥ!

 

 

 スシ君は完全に皆の財布役です。それなりに下ろしてきたので大丈夫でしょう……たぶん。

 

 

 あー、ほら!イッキとミカンが馬鹿みたいに食べ物を要求してきました!

 

 リカ姉とリンゴはもうちょっと要求していいのよ?

 

 あっ、イッキがくじ引き屋台にっ!ダメですよ!そこには闇しかありませんから!(偏見)

 

 背中にいるウメには、わたあめを少しだけ与えておきましょう。

 

 

〉〉みんな夏祭りを楽しんでくれているようだ。

 

 

「兄ちゃんコレ買って!」

 

 

〉〉イツキが此方の腕を引っ張って向かった先は、お面の屋台だった。狐や般若やひょっとこ、国民的な電気ネズミや猫型ロボット、日曜朝のカラフルな戦隊ヒーローや魔法少女など様々な種類のお面が並んでいた。イツキはどうやら今放送されている仮面戦士のお面をご所望のようだ。

 

 

 あー、なにとは言いませんが数字が3つ並んでるやつですね。

 

 形に残るものも1つくらい買ってあげましょう。おや、あれは……。

 

 

〉〉屋台の左上に1つだけ少し古いお面がある。あれも仮面戦士のようだが。

 

 

「あー、あれ?あれ俺の趣味なんだけど、やっぱり古いからあんまり売れないんだよね」

 

 

〉〉店主は色々教えてくれた。この初代仮面戦士は敵に改造手術を施された改造人間で、脳改造される前に脱出し、人類の未来を守るために戦うヒーローになるらしい。改造人間……か。

 

 

「それください」

 

 

〉〉横で一緒に説明を聞いていたリカが買った。欲しかったなら俺に言えばよかったのに。

 

 

「奢ってもらってばっかりだったからね。私はバイトとかしてないから、今はこんなものしか買えないけど……」

 

 

〉〉リカはお面を受けとると、少し屈むように指示してきた。大人しく従う。

 

 

「似合うと思うよ。だってシイナは私のヒーローなんだから」

 

 

〉〉微笑みながらお面を被せてきた。ヒーロー……最初に助けたときのことを言っているのだろうか?

 

 

「さぁ?ま、無自覚でそういうことができるからヒーローなのかもね」

 

 

〉〉よくわからなかった。少し眉をひそめるが、お面のせいで伝わらないらしい。

 

 

「うん、よく似合ってる。ほらみんな、そろそろ花火が上がるから向こう行くよ」

 

 

 ポポン───「縁日のお面(初代仮面戦士)」を手にいれました。

 

 

 はい、このあとしっかり花火のスクショ撮りまくりました。

 

 ご視聴ありがとナス!

 

 

 

Item

・縁日のお面(初代仮面戦士)

 

 数十年前に放送されていた初代仮面戦士を模したお面。「技の初代」の異名を持つ。装備すれば【技術】のステータスが向上するとかなんとか……。

 

 

 

 

○将来的な呼び方(おまけ)

 

「シイナ」

「兄貴」

「お兄ちゃん」

(あん)ちゃん」

(にい)様」

 

 

「リカ」

「リカ姉」

「リカ姉」

「リカ姉」

「リカ姉」

 

 

「ミカン」

「ミカン」

「ミカン姉」

ミカン(ゴリラ)

「ミカン姉」

 

「パイルドライバー!」

「ぐへっ!」

「こら!ミカンもイッキも暴れないの!」

 

 

「リンゴ」

「リンゴ」

「リンゴ」

「リンゴ」

「リンゴ姉」

 

 

「イツキ」

「イッキ」

イッキ(バカラス)

「イッキ」

「イッキちゃん」

 

「ブッコロス!」

「おぉん!?ヤれるもんならヤってみな!」

「……いい加減にしなさい。私がヤるわよ?」

「「すんませんでしたっ!」」

 

 

「シラウメ」

「ウメ」

「ウメ」

「ウメちゃん」

「ウメ」

 

 




 たまにこんなの挟むかもです。いや、旧森結成まで長すぎるから、たしょうはね?


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8話 九ツ首の鐘


 ゲーム実況ってなんだろ?と考えると指が進まなくなる。
 とりあえず、スシ君の主張を減らしてみた(えっ)

 長さはいつもの半分くらい。


 ───リンッ ゴォォオオオン!! 

 

 

〉〉街に響きわたる鐘の音。この鐘の意味を知ったのはごく最近。この鐘は“九つ目”……確かめたいと思った。

 

 

 メランコリーな少年の里帰りを見守るゲーム実況、はーじまーるよー。

 

 

 ことの発端は鐘の音です。今年の春頃から朝だったり昼だったり夜だったりに鳴るこの鐘の音は一体何なの?と疑問に思ったスシ君。

 教えて!海人先生!と電話で質問。答えは以下の通り。

 

①ミッション系の学校の時計塔『九ツ首の鐘(ナイン・フォール)』の音である。

 

②その鐘は数ヶ月にわたって全部で九回鳴る。

 

③九回目が鳴ると、そのミッション系の学校の裏手にある巨大な扉が開くという。

 

④その扉の正体は左財閥が出資していた地熱発電施設に通じる防火シャッター。

 

⑤鐘の音は廃熱のために防火シャッターが開く合図である。

 

⑥地熱発電施設が運用停止した理由は不明。

 

 

 ということだそうです……まあ、つまり『天空の塔』に繋がる『鱗の門(グラム・スケイル)』が開くってだけの話ですね。

 

 スシ君はそれを聞いて、一度中を確認してみることにしたようです。うん、その……最後いろいろありましたしね(白目)

 

 ゲームでの鐘の鳴り方は、原作の年以外はランダムです。今回は夜の自由時間中に九つ目が鳴ったので、すぐさま現場へ急行します。

 

 

 はーい着きましたね。それでは中に侵入していきましょう。

 

 

 下りながら確認しますが人の気配は無いです。

 あの日、グラチル達が破壊したところはある程度修理されているようですが、研究者達はちゃーんとこの施設を破棄したようですね。

 

 

 さてさて、ホールまで下りてきました。ここからは無重力エレベーターを操作して一気に下までいきます。探し物が見つかるように外壁部分は開けてガラス張りにしておいて、外を観察しましょう。

 

 もちろん気密を解除したりなど、トレーニングしながらですよ(鬼)

 

 あっ!見っけ!

 

 

〉〉塔の天辺。内部のコード類に引っ掛かるようにして彼女───母さんはいた。仰向けに眠る彼女の腹部にはあの時のアタッシュケースが乗っている。

 

 

 ちっ、やっぱりそいつもあるかぁ……。

 

 本来そこにいるはずの研究者みたいに抱えて落ちたわけでもないから……ワンチャン、マグマまで落ちて回収不能になってないかなぁと思ったのですが。

 

 ほら、そしたら空も悪さする必要無いじゃないですか!

 

 

 人生そんなに甘くないか……いやまぁ、これゲームだけど。

 

 

 

 うわぁ、スシ君がママン見ながらめっちゃ悲しそうな顔してますね……ストレス値大丈夫?

 しかも今まであったいろいろなことを語りだしましたよ。

 

 いや、本当にスシ君大丈夫?墓参りで近況報告とかよくやるけど、流石に死体(ミイラ風)に直接話し掛けるのは軽くホラーなんだけど……あれ?もしかしてSAN値チェック必要なのは私か?(混乱)

 

 

 

 

 

 

 さてさて、たくさん話していくうちに家に帰る時間になりましたね。さっさと帰りまっせ。

 

 

〉〉……会えてよかった。また来るよ、母さん。

 

 

 はい、エレベーター操作して地上に帰ります……もちろんトレーニングしながらな!!ステータスは上げられるときに上げましょう。

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい。さっき父さんが来てね、シイナへの荷物だけおいて帰っちゃったのよ。とりあえず部屋においてるから後で確認しといてね」

 

 

 え?南博士からの荷物とか厄ネタな気しかしないのですが。

 

 部屋に戻ると、手のひらサイズの正方形の物が机に置いてありますね。どうやら金属製のようです。

 

 特に開くところとかボタンがあるようには見えないのですが……ヒェッ!触れた途端にガシャガシャ音たてながら小人に変形しました!しかも南博士に似てますね、キモチワルっ!!

 

 

「やぁやぁシイナ君、久しぶりだね。君に直接プレゼントを渡すつもりだったんだが、僕もいろいろ忙しくて……代わりにコレ()を置いてきたんだ」

 

 

 ちっこい博士が小躍りしながらそんなことをほざいております。

 

 それで?プレゼントってなんのことですかね?このミニ南博士がプレゼントだったら即座にハンマーで砕いて捨てるんですが(過激派)

 

 

「彼だけにプレゼントを渡すだなんて不公平だろ?前にもいった通り、僕は君にも期待してるんだ」

 

 

 彼?彼って……ラ ス ボ ス のことかぁぁぁぁあああ!(サイヤ人)

 

 あ、いや、嘘です。別に怒ってませんよ?(情緒不安定)

 プレゼントを渡したということは、空の手に風の玉璽たる『バグラム』が渡ったようですね。

 とりあえず、尊い犠牲となったであろう数人の不良と二人の学生君に対して合掌しておきましょう(南無三)

 

 

「それじゃあ、御開帳~」

 

 

 うへぇ……今度はパッカーンと胸の部分が開きました。中から出てきたのは部品みたいですね。

 

 なにコレ?

 

 

「これは君に足りない玉璽の核さ。栖原君……君の母親が構想だけ練っていたが、資材が揃わずに完成に至らなかったものを僕が完成させたんだ。これを組み込めば君の無限の空(インフィニティ・アトモスフィア)が使えるようになる……まあ、僕としては複雑だけどね。重力(カミ)にケンカを売るために作った戦士に重力(カミ)の力を与えるなんてさぁ」

 

 

 最後のほう、ブツブツうるさいですね。

 

 それにしてもペットボトルの蓋くらいのサイズの部品で?そんなパワーでるの?ふーん……

 

 南博士の科学力は世界一ィィィィーーーーッ!(洗脳)

 

 …………はっ!私はなにをっ!?(錯乱)

 

 

〉〉受けとるか、受け取らないか……どうする?

 

 

 いやー、正直胡散臭くはあるんですけどね。将来的にラスボスを倒すために力は欲しいので受けとります。

 

 

「シイナ君。君には期待しているよ……いろいろとね」

 

 

 玉璽の核を取り出したら、そんな言葉を残してミニ南博士は部品一つ一つに別れるように崩壊していきました。

 ちっ、博士(偽)をボコボコにしてやろうと思ったのに残念です(真顔)

 




 うん、まあエタるよりかは良いか(目そらし)


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9話 北海道はでっかいどう(激ウマギャグ)

何話ぶりだろ?


〉〉最近A.Tが足のサイズに合わない。自分自身のA.Tだというのに複雑すぎて、今の「調律」の技量では手におえない……そういえば前に海人が入院していた総合病院。巻上グループの系列だったか。巻上イネ、塔の中ではついぞ会うことはなかったが、彼女は調律ができたはず。シムカの居場所がわからない以上、彼女を頼るしか無さそうだ。

 

 

 子供の成長は早いなぁ、と感慨深くなるゲームの実況、はーじまーるよー!

 

 はい、スシ君の「調律」のステータスがクソザコゆえにこんな状況に陥っています。

 正確に言えば、「調律」の低さとスシ君のA.Tの複雑さが合わさった結果、スシ君ではどうしようもないことになっているんですね。

 

 はぁー、つっかえ。やめたら?暴風族(ライダー)するの。

 

 総合病院につきました。とはいえエロ巻貝が絶対ここにいるとは限らないので、出待ちとかは時間の無駄です。

 

 当たって砕けて、どうぞ。

 

 病院内の案内係に声をかけ、巻上イネがいるか尋ねます。

 おっ、どうやらいるらしいですね。案内係の女性は明らかに此方を不審者を見るような目で見てきますが気にしません。

 おら、早く連絡しろよ!

 

 

「えっと、許可が降りましたのでご案内します……」

 

 

 連れてこられたのは院長室ですね。流石にまだ院長では無いものの、我が物顔で陣取ってるとは……恐れ入ります。

 

 

「入ってちょうだい」

 

 

 かしこまり!

 

 あっ!ウンコ頭に2つも乗っけてる人がいる!(煽り)

 

 

「さて、データではあなたのことは知っていたけど直接会うのははじめてね。わざわざ私に会いに来たのだから自己紹介は不要でしょう……それで、いったい私になんのご用かしら脱走者さん?」

 

 

 A.Tを調整してくださいオナシャス!

 

 おやおや?彼女は頭を抱えてしまいましたね。何ででしょうか?すごく分かりやすくいったのに。

 

 

「さっきの嫌味、伝わらなかったかしら……自分達から逃げ出しておいて、そのお願いはちょっと図々しいんじゃない?」

 

 

 センセンシャル!いや、でもね?そこをなんとかね?イネさんオナシャス!(再)

 

 

「はぁ……頭上げなさいよ。まったく、スピに言われてなかったら突っ返してやるのに」

 

 

 へ?ホモがなんですって?(難聴)

 

 

「『もしシイナが頼ってくるようなことがあったらよろしく頼むよ』……あんな優しい笑顔でこんなこと言われたら頷くしかないじゃない!」

 

 

 スピのモノマネ全然似てない(辛辣)

 

 というか、かなりの熱量でそんなことを言い出すから思わず「そうだな」とスシ君同意しちゃったじゃなですか。

 

 ところでスピは今どこに?

 

 うわぁ……質問しただけであからさまに嫌そうな顔をしてますよ、このエロ巻貝。

 

 

「あなたにだけは絶対教えないわ!!……だいたい何でライバルが男なのよ、ありえない」

 

 

 やっぱり(スピは)ホモじゃないか!!(歓喜)

 

 

「はぁ……でも、私があなたのA.Tをイジるのはナシよ。あのコを怒らせたくないからね。はい、コレ」

 

 

 紙に何かを書くと、無造作に此方に渡してきましたね。書かれているのは……北海道の住所ですね。

 

 

「シムカとキリクが拠点としている場所よ」

 

 

 もしかして全員の場所を把握してます?

 まさか!空達の居場所も知ってたり!?

 

 

「いいえ、あくまで把握しているのはどこかに定住している重力子だけよ」

 

 

 ま、でしょうね。ちなみにそいつらを連れ戻そうとは思わないんですかね?

 

 

「思わないわ。連れ戻そうとすればかなりの被害を被るでしょうからね……あなたたちはお金と時間をかけただけあって、研究成果としては素晴らしいものだったわ。でもね……逆にいえばお金と時間があればあなたたちは作れる。だから無理に連れ戻す必要は無いってことよ」

 

 

〉〉彼女の瞳に温度はない。ただ淡々と事実を語るのみ。あぁ、どこか感じていた違和感の正体がようやくわかった。ミカンとリンゴとシラウメは俺達と同じなのか。

 

 

「そうよ。便宜上、天空の塔で育ったあなたたちを第一世代、その後の継続された研究で生まれた子達を第二世代と呼んでいるわ」

 

 

〉〉A.Tは本来、ロスト・エネルギー問題を解決するためのものだったはず……こんな人の命を軽んじるような研究に成り下がってまで続ける意味があるのか?

 

 

「私に言われても困るわ。でもまぁ、あえて言うなら人の歪んだ欲望には限りがないってことでしょ」

 

 

 まあ、スシ君もその欲にまみれた研究によって生まれ生かされた存在ですからね。何も言えませんわ。

 

 

「スピに言われたから、もう少しだけ手助けしてあげる。あなたの家に速達で一通りのパーツを送っとくわ。あのコの腕ならそれでどうにでもなるはずよ」

 

 

 ありがとナス!スピによろしく言っといてくれよな!

 

 

「絶対にイヤッ!!」

 

 

 

 はい、院長室を追いだされたので家に帰ります。

 

 それにしてもなんだかたらい回しにされた気分です。いいじゃんかよ~、減るもんじゃないんだからお前がやってくれよ~(棒読み)

 

 はぁぁぁ(クソデカため息) 仕方ないですね。北海道に行く準備をしましょう。

 

 

 なにも冬じゃなくてもいいのに!冬の北海道とかくっそ寒いやんけ!(激おこ)

 

 

 さてさてエロ巻貝からの荷物が届きました。あとはバイト先に……そうですね、3日ほど休みをもらいましょう。「君がいないと困るよぉ!」という職場の嘆きは無視です。

 突然こんなことを言っても許されるのは、ゲームの中なのとスシ君が超がつくほど優秀だからです。現実では真似しないようにしましょう(白目)

 

 リカ姉にも家を空けることを伝えます。今は冬休み期間中ですので、笑顔で了承してくれましたね。ものわかりのいい子は好きですよ(ニッコリ)

 

 

 エロ巻貝からもらったパーツ、いつぞや南博士から渡された玉璽の核、地図、携帯、財布等を詰め込んだリュックを背負います。

 全速力で駆け抜けるため、人や車などの障害物の少ない夜中に出発しましょう。

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

〉〉リカに片手を挙げてこたえる。さぁ、行こう。

 

 

 チキチキ!スシ君の北海道まで(移動費)0円で行けるかなツアー!!ドンドンドンドンパフパフー

 

 はい、飛行機に乗らないゾ。

 スシ君の睡眠時間は犠牲になったのだ、ステータス上げのな。

 

 流石に一直線に行って山の中突っ切って行くよりも、整備された高速道路(の端とか仕切りの上)を走った方が早いんでそうしていきます。サービスエリアもあるしね!

 

 え?3日しか休みとってないけど行けるのかって?

 

 そりゃあ、もちのロンですよ!スシ君は影分身できるほどのスピード出せますし、スタミナお化けですからグイグイ行きます!

 

 それじゃーイクゾー!デッデッデデデデ!カーン

 

 

 (倍速)

 

 

 BGMは「天国と地獄」です。

 深夜にコレ聞きながら爆走するとか……んんっーエクスタシー!!

 

 (倍速)

 

 …………ありゃ、尺足りませんでしたか。じゃあ次は「クシコス・ポスト」ですね!(あふれる運動会感)

 

 

 

〉〉夜通し走り続けてようやくここまで来た。すでに日は登り、人々が活動を始めている。あとは海を渡るだけ。

 

 

 すでに青函トンネルを通る鉄道が動いているので、迷惑をかけないように走りましょう。走ること自体が迷惑という正論は無視します(クズ)

 

 ここまで来るのに比べたら、トンネルなんてあっという間でしたね。

 

 北海道にたどり着きましたので、目的の場所へは地図とにらめっこしたり、通りすがりの人に聞いたりしましょう……え?グー○ルマップ?まだねーよ(憤怒)

 

 

 さてさて到着しましたね。少し人里離れたところにある年期のはいった一軒家です。とりあえずインターホンを鳴らしましょうか

 

 

 ──バンッ!

 

 

〉〉鳴らす前に扉が勢いよく開き、人影が飛び出してきた。白い肌に白いワンピース、桃色の長い髪。足下は裸足……よほど急いで出てきたのだろう。灰色の瞳は大きく見開かれている。

 

 

「シ、イナ……?」

 

 

〉〉久しぶり、シムカ。

 

 

「シイナ!」

 

 

〉〉そう言って勢いよく抱きついてきたシムカを受け止める。背中に回された腕は力強かった。

 

 


 

 

「えっと……久しぶりだね、シイナ」

 

「そうだなキリク。会えて嬉しいよ」

 

「僕も嬉しいよ……それよりシムカ」

 

「なに?」

 

「シイナに会えて嬉しいのはわかる。だけどそろそろ離れたらどうだ?家の中にも入れないじゃないか」

 

「むぅ」

 

 

 明らかに不満そうな顔をしながら腕を離す───と同時にシイナの左腕にしがみついた。一分一秒たりとも離れないと無言で主張してくる。

 

 

「まぁ、特に問題ないからいいんじゃないか?」

 

「……君が良いなら構わないが」

 

 

 とりあえず、家の居間に案内する。

 

 

「そこに座ってくれ。シムカ、お茶を……いや、やっぱり僕がやる」

 

 

 3人ぶんのお茶を用意して戻る。

 

 

「それにしてもインターホンを鳴らす前によく出てこれたな。キリク、これお土産」

 

「家の周りには監視カメラを何台か設置していてね。人が来るとそこのモニターに映るようになってるんだ。一応、僕達は逃亡者なわけだからね。へぇ、東京バナナか……あまり遠くには行かなかったんだな」

 

「ちょっとした縁でな、とある家族のところに居候させてもらってるんだ」

 

「そうか……シイナが変わったのはその人たちのおかげかな?」

 

「変わった?」

 

「あぁ。表情が豊かになった。良い変化だ」

 

「……そう、かもな」

 

 

 やはり変わった。塔にいた頃ではこんな照れ笑いなんて絶対に見られなかったはずだ。

 

 シイナの腕にへばりついているシムカは複雑そうにしている。

 少しわかる気がする。彼の変化が嬉しい反面、その変化をもたらしたのが自分で無いことが悔しいのだろう。

 

 

「ところで、どうしてここが?」

 

「巻上イネに聞いた」

 

 

 思わず天を仰ぐ。把握されてたのか。

 

 

「別に連れ戻す気は無いらしいぞ」

 

「あっ……そう、なのか」

 

 

 つまり、ヤツらにとって僕たちはそこまで執着するような存在ではないということか。

 ……僕たちは必死にここまで逃げてきたというのに、相手からはその程度の存在であるということを知り、少し複雑な気持ちになる。

 

 

「それで、イネに聞いてまでここへ来た理由は?」

 

「そんなの私に会いたくて来たに決まってるでしょ。ね、シイナ?」

 

「まあ、あながち間違いではないな」

 

「……」

 

 

 自分で言っておいて、肯定されたら照れるのか……否定されると思ってたんだろうな。

 我が妹は予想外のことに弱いらしい。

 

 

「A.Tのサイズが合わなくなってきてな。自分でどうにかしようと思ったんだが……今の俺の力量では手に余るんだ。シムカ、助けてくれ」

 

「もちろん!」

 

 

 素晴らしい即答をみた。シイナに頼られたのがよほど嬉しいらしい。

 

 

「でも、SCもないし道具もないよ」

 

「パーツや道具の類いは巻上イネにもらったが……さすがにSCは無いな。どちらにせよ高性能コンピューターの解析システムでもない限り、あれは無意味だしな」

 

「えっと……じゃあ、調律どうしよっか。私は全然裸でも構わないけど、シイナもそれでいい?」

 

 

 ……僕は一体何を見せられているんだ?

 

 とりあえず、やることもないのでお土産のお菓子とお茶に手をつける……渋めに淹れてきたのになぁ。

 

 

「調整だけでいいんだが……調律も必要か?」

 

「当たり前じゃない!足のサイズ合わなくなったってことは、前に調律したときとシイナは変わってるってことなんだよ。今のシイナに最適なA.Tにするには調律は必須」

 

「……わかった。シムカがやりやすいように頼む」

 

「うん。まかせて」

 

 

 シムカは艶やかに微笑む。それは兄である僕から見てもひどく魅力的な笑顔だった。

 

 ……。

 

 

「……あー、えっと……僕は外に出てるよ」

 

「なに想像してるの?キリクのむっつり」

 

 

 僕はむっつりじゃない!

 

 




(好きな人だから)恥ずかしくないもん!

(家族みたいな相手だから)恥ずかしくないもん!

うーん、この……


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10話 無限の空

 感想、評価、お気に入り登録、本当にありがとうございます。


 いっぱいちゅき♡



 冬の大地。家の一室。裸の男と女。年若い二人はその肌と肌を重ね合わせて───

 

 

 なーんて調律シーンはカットカットカットォォォオオオ!するゲームの実況、はーじめーるよー!

 

 おぉ、2回目の調律でステータスぐいぐいあがりましたね。コツでもつかんだかな?(すっとぼけ)

 

 え、カットするなって?ごめんなさい。でもこのサイト、全年齢対象版なのよね。気になる人は直接プレイして、どうぞ。

 ……本当に調律してるだけですからね?まだスシ君は立派なチェリー君です。

 

 

 

 そんなわけで、昨日調律してもらいましたA.Tがこちらです(三分クッキング感)

 

 パッと見はサイズが大きくなったくらいしか変化が無いですね。ただ、中身はそこそこ変わっております。

 

 まず“紫電の道”で使う特殊なピアノ線をグローブに移してもらいました。足でピアノ線張るのくっそ面倒くさかったからよかったです(小並感)

 代わりにA.Tの発電ホイールとピアノ線を通電させるために、黒の不思議素材ピッチリタイツ(仮)を服の下に着用せねばならないことになりましたが!……どうにかならんのか!?(白目)

 

 もう一つは玉璽の核を組み込んだことです。というか、これが一番大事なことだったりするんですよねぇ。

 

 

 はい!というで、New A.T装備のスシ君がボッチで来たのは、昼間でも人気のない断崖絶壁です。

 

 何でこんなところに来たのかといいますと、無限の空(インフィニティ・アトモスフィア)を試すためです!

 

 必殺技=切り札といっても過言ではありません。だからボッチでこんな秘境に来る必要性があったんですね……シムカを撒くのに苦労しましたよ、本当に。

 

 

 よーし、それじゃー無限の空発動!

 

 

 ギュルルルルルルーーー!(玉璽稼動音)

 

 ドゴォォオオオンッ!(崖の一部が破壊される音)

 

 

 あ、これアカンわ(真顔)

 

 

 今の見ました?見ましたよね?…………ブ ラ ッ ク ホ ー ル じ ゃ な い か 。

 

 ブラックホールといえばアレです。原作では8本の“道”の玉璽(新森メンバー+リカ)を連結して発動された『疑似空の玉璽』の能力ですね。

 

 それをスシ君はいま、たった一人で発動させました。

 まあ“風”“炎”“棘”“牙”“雷”“轟”“石”の機能を一つのA.Tに搭載してて、それらを玉璽の核によって“(つむ)”いでいることで『疑似空の玉璽』と同じってガバ判定がくだされているのでしょう。

 

 

 とりあえず、素晴らしい切り札であることは事実です。使用はここぞ!って場面にしなくてはなりませんね。主にラスボスと戦うときとか……ね?

 

 

 今のスシ君の「持久力(スタミナ)」と玉璽への負担を考慮すると1日1回の使用が限界のようです。玉璽の方は今のところどうしようもないので、とりあえずスシ君をもっと鍛えなくてはなりませんね(お目目ぐるぐる)

 

 

 

 さてさて、調律と新しいA.Tの試走は終わりました。というわけでもう東京に帰りましょうか。

 

 とりあえずキリク達の家に戻ります。よし、二人とも居ますね。

 

 そんじゃ、ばいなら!

 

 

「だーめ。私はシイナのお願いを聞いてあげたんだから、今度はシイナが私のお願いを聞く番だよ」

 

 

 …………えっ。

 

 

「まだ時間に余裕はあるんでしょ?それに、今のシイナのA.Tならコッチに来たときよりも短い時間で帰れる筈だよ。私、頑張ったんだから」

 

 

 いえーい、とピースしてきやがりました。

 確かにいい仕事してますねぇ!(ヤケクソ)

 

 

「久々に会えたのに昨日はシムカと調律。今日は朝からA.Tの試走……僕は全然相手をしてもらえなくて、流石に少し淋しいのだが?」

 

 

〉〉確かに時間はある。しかし、家のことも心配だ……どうする?

 

 

 くっ、キリクまで乗っかってきました。

 

 むむむっ、シムカは「調律」のステータスの伸び的にあと1回か2回は調律してもらう必要がありますし、キリクもラスボスと敵対するためにもう少し仲良くしておきたい相手です……仕方ありません。

 

 

 今回だけだぞ!べっ、別に!付き合ってあげるのはお前達のためなんかじゃないんだからな!(様式美)

 

 

「100点の素晴らしい返事だ」

 

「シイナ、キリク!カニ食べにいこーよ、カニ!」

 

「あぁ、それなら良い所を知っている」

 

「ほーら。シイナ、行こ?」

 

 

 ドナドナドーナドーナー(以下略

 

 

 

 

 

 はーい。カニ食べたり、観光したり、夜遅くまでお喋りして寝て起きたら朝ですね。

 

 今度こそ!帰りましょう。

 

 

「うー……私もついていく!」

 

 

 ヤメロォ!(建前)マジでヤメロォ!(本音) ええい!しがみついてくるんじゃないっ!

 もう貴様の我が儘には屈しないぞ!

 

 

「シムカ、シイナを困らせるんじゃない」

 

「でもキリクぅ……」

 

「別に二度と会えないわけじゃないさ。そうだろう、シイナ?」

 

 

 キリクナイスぅ!

 

 

 結局、腰まわりに引っ付かれて2時間くらい駄々をこねられましたが、どうにか説得は成功しました。

 

 代わりに週に1回は連絡しなくちゃいけなくなったがな!……毎日という条件は意地で却下しました。シムカがすげぇむくれてますが無視します。

 

 

 なんやかんやで結構時間が押していますね。まあ、向こうに着くときには夜中でしょうから、人に見られないで丁度いいと言えば丁度いいのですが。

 

 

〉〉二人に別れを告げて家を出る。さぁ、急ごうか。

 

 

 というわけで全速力で帰ります。来た道をそのまま帰るだけなので114514倍速しますね。

 

 (少年爆走中)

 

 はい、着きました。114514倍速のため分かりにくかったと思いますがシムカの言う通り、行きの時より速かったですね。具体的に言うと3時間くらい速かったです。いい仕事してますねぇ!(素直)

 

 

 すでに夜ではありますが、日を跨ぐ前に帰ってこれて良かったです。たっだいまぁ~。

 

 

「お帰りなさい、シイナ。ご飯はいる?お風呂は?疲れてるならそのまま寝る?」

 

 

 リカ姉以外は寝てるようですね。数時間後にはバイトがあるのでシャワー浴びて寝ることにします。

 

 

「わかったわ……あぁそうだ、プレゼントありがとう」

 

 

 プレゼント?何のことですかね?

 たしかに北海道土産でカニを買って配達してもらうようにしましたが、流石にまだ届かないと思うのですが。

 

 

「あら?差出人の名前は無かったけど、中身がアレだったからてっきりシイナが贈ってくれたものだとばっかり……どうしよう、もう何回か使っちゃったし、そもそも誰に送り返せば良いのかもわからないわ」

 

 

 ……えっと、ちなみにナニが送られてきたのでせうか?

 

 

「ちょっと待ってて、イッキ達に見られないように部屋に置いてるの」

 

 

 なんだかなー、イヤな予感しかしないなー。

 

 

「お待たせ。コレなんだけど」

 

 

 …………コレ『棘の玉璽』じゃないですか、やだぁあ(白目)

 

 


 

「……っ」

 

「シイナ?」

 

 

 私が届いたものを見せると、シイナはひどく驚いた。

 

 この反応、やっぱりシイナからじゃないんだ。てっきり、一緒に走ろうってメッセージだと思ってたから……喜んで損しちゃった。

 

 

「……いつ、届いた」

 

「え?たしかシイナが出掛けた次の日のお昼頃だったかな。えっと、私てっきり貴方からだと思って……夜に走ってみたりしたんだけど大丈夫かしら?A.Tって高いんでしょ?何処かからお金要求されたりしないかしら?」

 

 

 私の心配をよそに、シイナは送られてきたA.Tから目を離さない。

 

 私の持つA.Tに、シイナはゆっくりと手を伸ばす。

 

 彼の指先がソレに触れた瞬間、苦しそうに小さく呟いた。

 

 

「ガゼ、ル」

 

 

 彼は静かに泣いていた。

 

 


 

「むぅ、振り返らないで行っちゃった」

 

「今のシイナには今のシイナの生活があるんだ、仕方ない。ほら、冷えるから早く中に戻るぞ」

 

 

 キリクは足早に家の中に戻っていった。

 

 たしかにココの冬は寒い。あぁ、でも。

 

 

「あったかかったなぁ……シイナ」

 

 

 両手で自分自身を抱きしめる。思い出すのは調律をした夜のこと。

 

 

 

 明かりを消した部屋にシイナと二人きりで、肌と肌を重ね合わせた。

 

 彼の音を聞いた。落ち着きのある、心地よいリズム。ずっとこうやって聞いていたいと思った。好き。

 

 身長が伸びていた。塔にいた頃は同じくらいだったのに、今日は少し見上げなければならなかった。シイナは成長期だから、これからもっともっと伸びるはず。好き。

 

 細くしなやかな筋肉がついていた。お昼、再会できた喜びで勢いよく抱きついたときもブレずに支えてくれた。好き。

 

 足のサイズが大きくなっていた。今まで窮屈だったね、私がピッタリのA.Tを作ってあげる。好き。

 

 絡ませた指は、私の指よりも長くて、少しゴツゴツしていた。ぎゅっと握ると、優しく握り返してくれた。好き。

 

 平常時より少しだけ速い心音、なのに表情は一切崩れていない。黒い瞳に浮かぶ十字、いつもは目立つからと消しているらしいけど、我が儘を言って表に出してもらった。少しでもお揃いのものがあると嬉しい。

 目が合うと彼の目尻が少し下がった。好き。

 

 声変わりして少し低くなった声。調律が終わったあとに「ありがとう」って耳元で囁かれたときは、正直ゾクゾクした。好き。

 

 彼の下腹部については……あまり深く考えないようにした。ソレのあるがままを機械的に認識した。じゃないと調律ができなくなるから。

 お願い一つこなせなかったら、シイナに嫌われるかもしれない。いや、シイナは優しいから嫌ったりしないかな。

 どちらにせよ、今はまだその時じゃない。私だって女の子なんだから、はじめては彼の方から情熱的に求めてほしいのだ……あまりに遅いようだと待ちきれなくて迫っちゃう可能性が無いとは言えないけどね。

 

 

「でも、ちょっと予想外かも」

 

 

 昨日の夜。三人でカニを食べたり、シイナに北海道を案内したあと、家の一室で夜遅くまでお喋りした時のことが頭をよぎる。

 

 話題は塔を出てからのこと。外に出て初めて見たものの感動を語るキリクとシイナは、ちょっと子供っぽくて微笑ましかった。

 

 

 私たち二人の生活について話したあとは、シイナの生活について。

 

 塔にいたあの先生がシイナのお母さんだったと聞いたとき、キリクは気まずげに目線を下に向けた。

 私たちには親がいない。親を亡くしたシイナに何て声をかければ良いかわからなかったのだ。

 

 「知ってたよ」と私が言ったのはそんな暗い空気を変えるため。実際、二人とも驚いてたから作戦は成功した。

 黙ってたことを謝ると、シイナは「問題ない」と許してくれた。好き。

 

 

 ───いろいろあって、子供四人だけで住んでいる家に厄介になってるんだ。みんな年下なんだけど良い子ばかりでさ。

 

 

 少し自慢気に話すシイナ。今まで見たことも無いような表情をさせた、見知らぬ家族にちょっと嫉妬した。

 でも、これはまだいいよ。

 

 

 ───シラウメはまだ1歳で、すごく可愛い。そろそろ単語も話し出す頃だと思うから、それが楽しみなんだ。

 

 

 これもいい。娘の成長を見守るお父さんみたいな優しさが溢れてて、むしろ好き。

 

 

 ───イツキとリンゴはどちらも5歳で、いつも二人一緒に遊んでるんだ。リンゴは思いやりのある子でね、家事の手伝いをしてくれるから凄く助かってる。イツキはヤンチャでね、目を離すとすぐに何処かに行ってしまうんだ。子供は風の子ってのを体現したような子で、見てて飽きない。

 

 

 これもいい。キリクなんかよりよっぽどお兄ちゃんしてる。

 

 

 ───ミカンは8歳で小学2年生なんだ。運動神経もあるし、頭も悪くない。下の子達の世話を任せたり、家事の手伝いをさせたり、何だかんだと頼りにさせてもらってる……結構苦労をかけてる気がしてきた。少しお土産を増やすか。

 

 

 まあ、これもいい。妹思いの良いお兄ちゃんだ。

 

 

 問題は次。

 

 

 ───リカは俺の一つ下なんだけど、凄いよ。四人の子供を養うなんて容易じゃない、ましてや自分自身も子供なのにだ。人として尊敬するし、そんな彼女を支えたいと思ったんだ。

 

 

 大切にしてるのがよくわかった。直視していたくなくて、思わず視線を下にそらした。

 

 「好きなのか?」とストレートに聞いたキリクをぶん殴りたいと思った私は悪くない。

 その質問にたいして、こともなげに「好きだよ」というシイナの返答に頭を揺さぶられ、思考が全部吹き飛んでいった。

 

 「じゃあ、シムカは?」「好きだよ」

 

 吹き飛んだ思考が即座に戻ってくる。もしかして、と思って私からも質問を投げかけた。

 

 「ミカンちゃんは?」「好きだよ」「イツキくんは?」「好きだよ」「リンゴちゃんは?シラウメちゃんは?」「どっちも好きだよ」「キリクは?」「好きだけど……さっきからいったい何なんだ?」

 

 どうやらシイナの好きは細分化されていないらしかった。

 

 

 

「シイナはまだまだお子様だね」

 

 

 あの時の困惑したシイナの顔を思い出して、小さく笑う。

 

 さて、本格的に寒くなってきた。そろそろ家の中に戻ろう。

 

 

「今は隣にいるのを許してあげる。今だけ、ね」

 

 

 シイナに女として愛してもらうのは私だよ。

 

 顔も知らない彼女に宣戦布告した。

 




 スシ君の玉璽はSkylinkに接続して全てのA.Tを制御できる訳じゃないから、やっぱり空の玉璽の劣化版なんですよね。


 それはそれとして……いっぱいちゅき♡


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11話 棘の玉璽

 (前回のあらすじ)北海道までいってシムカにねっとり調律してもらったゾ!必殺技(ブラックホール)が使えるようになったゾ!我が家に帰ってきたら差出人不明(ラスボス)からの贈り物が!


 生存報告もかねての投稿。感想とかメッセージ見てやる気出しました。ぼちーぼち続けます。


〉〉どうしてガゼルのA.Tがリカの手にあるのか。理解ができなかった。

 

 

 家を留守にしていた間に、爆弾並みに取り扱いに困るブツが届いていたゲームの実況はーじめーるよー。

 

 これは近くにストーカー(仮)がいますね、間違いない。

 

 スシ君とリカ姉、どっちを監視しているかは知りませんが、どっちにしたって有罪(ギルティ)です。

 

 スシ君の警戒レベルがグンッと上がりました。これならストーカー(確定)も容易には近づけないでしょう……二度と近づくんじゃねぇ!ペッペッ

 

 

 ていうかなんでコレがこんなところにあるんでしょうね?原作だと今頃は一般暴風族(モブ・ストームライダー)たちのもとに流れているはずなんですけど。

 

 

「シイナ、大丈夫?」

 

 

 おっと。スシ君は故人(ガゼル)の玉璽をみてポロポロ泣いてしまっているので、リカ姉に心配されてますね。

 

 スシ君はなにかにつけて泣いてない?気のせい?

 

 

 さっさと涙を拭きます。ついでにリカ姉にA.T借りてもっとよく観察させて貰いましょう。

 

 うーん、やっぱり大部分のパーツは新しいものに交換されていますが、このホイールは間違いなく棘の玉璽ですね。

 

 

 で、棘の玉璽(コレ)どうしましょうか。

 

 

 ブッ壊して捨てます?

 

 

 いやね、すでに「ルーン詩」はとられてる(?)でしょうから、コレを壊したところでラスボスの野望を止められるわけじゃありません。

 でもなんかほら、アイツの掌で踊らされてるとか思うと気分悪いじゃないですか。なので八つ当たりしてやろうかなーと思わないでもないです(過激派)

 

 

 …………いや、流石にやめておいてあげましょう。未だにガゼルが死んだことへの傷が癒えていないスシ君に、遺品をブッ壊させるなんて鬼畜外道なことをさせたら精神(メンタル)がブッ壊れてしまいそうですから(激ウマギャグ)

 

 いくらステータスを強くしたところで、精神がゴミカスでしたら勝てる戦も勝てませんわ。

 

 とりあえず、現役東大生の鰐島海人くんに渡す方向性でいきましょう。だってほら旦那(仮)ですし。

 

 

「ねぇ、一つお願いがあるの」

 

 

 おやおや、なんでしょうか?

 

 

「返す前に……一緒に走ってくれない?」

 

 

 デートのお誘いですね、わかります(曇りなき眼)

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!どう?うまい!?」

 

 

 はー、上手いですねー(棒) 3日間、それも少ない練習時間かつ独学でコレですか……スシ君より才能豊かなのでは?(嫉妬)

 

 

 はい、現在我々は夜の世界を駆け抜けております。

 

 流石はガゼルのバックアップ(ブレイン・チャージャー)、普通に上手です。念のため人や障害物の少ないところを選んで先導していましたが、そんな気遣いは無用だったようですね。

 

 

 ん?ブレイン・チャージャーとは何ぞや、ですって?困りましたね、私もあまり詳しくは無いのですが……。

 

 『脳基移植者(ブレイン・チャージャー)』とは「空の王」(ラスボスの事に非ず)とか存在が不確定な輩が持っていたという「飛ぶ心」を「脳基移植(ブレイン・チャージ)」……つまり脳にインストールされた者たちのことを言うらしいです。「重力子(グラビティ・チルドレン)」とは違って瞳には「斜め十字の眼十輝(オーバークロス・トゥインクル・アイ)」が浮かんでいます。

 

 因みに最初の脳基移植者はガゼルで、そのバックアップとして存在しているのが野山野リカなんですよ。だからリカ姉はガゼルと同じ“荊棘の道(ソニア・ロード)”を走る素質があり、原作でも棘の玉璽を使いこなしていたんですね。

 

 まあ、流石にいまはただ走っているだけで“道”とかの領域にはありませんが。

 

 

 はぁ、横文字多くて疲れました。

 

 

「練習して壁も少しなら走れるようになったのよ、見て!」

 

 

 それはともかく、珍しくはしゃぐリカ姉が普通に可愛いですね。

 

 なので少しだけ意地悪をして差し上げましょう(ニッコリ)

 

 

「え、なに?」 

 

 

 急にスシ君に手を握られて困惑してますね。無視して坂を駆け降ります。

 

 

「し、シイナ?速くない?ねぇ!ちょっと速くないっ!?」

 

 

 おっ、そうだな。大丈夫大丈夫、まかせとけって~。

 

 

「カーブ!シイナ、前!前!カーブだってばっ!!」

 

 

 はい、そのカーブに向かって全速力で突っ込んで行って、ガードレール手前で力強く跳躍。

 

 

 I can fl「キャーーーーーーッッ!!!」うるせぇ!!

 

 

〉〉リカと繋いでいる左手が痛い。離れないように全力で握っているようだ。

 

 

 えぇ、えぇ。そうでしょう。初心者がこの大ジャンプは恐怖でしょうとも!

 

 しかしほら、もっとよく感じるのです。何者にも縛られない自由を!風を!

 

 

「飛ん、でる……」

 

 

 この感覚にはリカ姉も思わずニッコリ。いいゾ~コレ。

 

 

「本当に気持ちいい、んだけ、ど……落ちてない?落ちてるわよね、これ!?」

 

 

 お、正気に戻りましたね。そりゃあ落ちますとも、重力ありますから。

 

 リカ姉の顔が引きつってます。おじさんはねぇ、君みたいな可愛いねぇ、子のそういう顔が大好きなんだよ!(外道)

 

 

 ……またクソデカボイスで叫ばれても困るので、虐めるのはここまでにしましょう。

 

 風を掴んで三回ほど空中を跳躍し、着地しやすい場所へ誘導。体を支えながらリカ姉の着地を手助けしてあげましょう。工事完了です。

 

 

 もう少しだけ時間がありそうですね。デート(仮)の締めはあそこにしましょう。

 

 

 

 

〉〉リカに見せたいところで真っ先に思い付いたのが此処だった。ガゼルが死んでからは近寄ることもなかったが……たぶん、此処が一番街が綺麗に見える場所だから。共有したいと思ったんだ。

 

 

 はい、東京タワーにつきました。今いるのは最上階である展望デッキのさらに上ですね(立ち入り禁止区域)

 

 ほらよく見るのです。眼下に輝く街の光……そうまるで夜空に煌めく星々のような美しさ!(B級ポエム)

 

 

 この光景にはリカ姉も思わずうっとり。いいゾ~コレ。

 

 

 夜景にあてられたのか、珍しくリカ姉がスシ君にお願いごとがあるそうです。要約すると、楽しかったからこれからも一緒に走りたいゾッて話ですね。

 

 

〉〉自分から願いを言うことはほとんどないリカの望みだが……どうする?

 

 

 んーどうしましょうかね?いくらスシ君が新聞配達頑張っているからってA.Tを新しく買えるほど豊かではありません。

 

 まだA.T黎明期とも呼べるこの時代。出回ってるA.Tの数が少ない上に、とにかく値段が高い。マジで高いです。初心者用カスタムが50万とか安い方です。

 そんなんだから親からA.T買って貰ったボンボンを狙うヤンキーとか転売ヤーが後を絶たないんですよ。

 

 一から組み上げようにも、まだショップもありませんのでパーツを探すのも困難です。

 

 そもそもライダーの実力とA.Tの性能は比例していなければいけないといわれます。

 リカ姉は脳基移植者であるため実力はもちろん一級品。その辺に出回っているA.Tでは明らかに釣り合いません。実力が発揮できないだけならともかく、A.Tと上手く噛み合わずに怪我してしまう可能性も否定できませんね。

 

 翻ってリカ姉の足元を見てみましょう。リカ姉に合わせた調律が成されていないため完璧とは言いがたいですが、そこにあるのは確かに一級品のA.T(棘の玉璽)

 惜しむらくはコレが差出人不明(ラスボス)からの贈り物だということでしょうか。

 

 

 うーん、どうしましょう?明らかなマイナス要素がそこしか思い浮かびませんね。

 といってもプラス要素もこれと言ってありませんが。あえていうならリカ姉からの好感度がいくらか上がるくらいでしょうけど、別に一緒に暮らしていけるくらいには高いからもう十分なんですよねぇ。

 

 まあ、どっちにしたってリカ姉に棘の玉璽は渡るんですから遅いか早いかの違いでしょう。だったら今のうちにちゃちゃっと強くなってもらって旧森結成前にステータス上げを手伝ってもらいましょうかね。

 

 うん、その方がいい気がしてきました!決定!(がばがば)

 

 

 


 

 

 

「今日ね、凄く楽しかった。一人で練習してたときも楽しかったけど、シイナと一緒の方がもっと楽しかったの。貴方の見ている景色、感じている風、聴いている音、いろんなものを知れて嬉しかった」

 

「そうか」

 

「……あーあ、もっとたくさん一緒に走りたかったな」

 

 

 シイナは一瞬驚いて、直ぐに難しい顔をして考え始めた。

 

 難しいことくらい分かってる。これは借り物。新品は手がでないほどに高い。

 ちょっと言いたかっただけ。

 

 

 困らせてごめんね?

 

 

 さっきのは冗談だったって笑って言おう。そう決心して改めてシイナに目を向ける。

 目があった彼はいたずらっ子のように小さく笑ってた。いつもは大人びた彼には珍しく、年相応の少年に見えた。

 

 彼はポケットから携帯を取り出しどこかに電話を掛ける。

 

 

「もしもし。……用があるから掛けたんだよ。ガゼルの玉璽が見つかった。…………そう、詳しくは今度話す。それでだ、コレ貰って良いか?使い手の人柄は俺が保証する。…………あぁもちろん。じゃあ、また」

 

 

 電話を切る。

 

 

「というわけでソレ、貰ってしまおうか」

 

 

 さらっと言われた。

 

 

「え?というわけでって、え?」

 

「海人からは犯罪に使わなければ良いって許可がでた。ガゼルだって相棒が後生大事にしまわれてるよりも、リカと一緒に飛ぶほうが喜ぶに決まってる」

 

 

 そういうものなのだろうか?

 

 今一理解が追い付かない。でももし本当に使わせてもらえるなら、それはとても有り難いことだと思う。

 

 

「まあ、わからないこともある。だからといってその事ばかり考えたって答えはでないし、無駄に疲れるだけだからやめるよ……とりあえず、これだけは覚えておいてほしい」

 

 

 彼はそう言うと、私から離れて足場の端の方に向けて移動する。一番端、ほんの少し重心をずらしただけで虚空に身を投げ出すことになるその位置で私の方に振り返る。

 

 

「何があっても、まもるよ」

 

「うん。信じてる」

 

 

 これには即答できた。

 

 私には貴方が何を危惧しているかはわからない。貴方がはぐらかして語るときは、たぶん聞いても答えてはくれないから。

 

 それでも。初めて会ったあの日から。

 

 ずっと信じてるよ、シイナ。

 

 

「そろそろ帰るか……リカ、俺を信じて此処から一緒に飛べるか?」

 

 

 どこかこちらを挑発するような態度で左手を差し出してきた。

 

 250m越えの紐無しバンジーかぁ……

 

 

「エスコート、よろしくね」

 

 

 彼の差し出した左手に右手を重ねる。

 

 ……なぜ提案した彼の方が驚いた顔をしているのか。さきほどの信じているという言葉を軽くみられているようで少しムッとする。

 重ねた手を強く握ることで、撤回の意思がないことを示す。

 

 

「……まかせろ」

 

 

 シイナからも握り返してもらえた。

 

 そのまま二人揃って一歩踏み出した。

 

 



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閑話 : 小話まとめ②

 感想に返事できなくて申し訳ない。でも、めっちゃ喜んで読んでるので感想もらえると嬉しいですっ!!(クソデカボイス)



 日常編、はっじまーるよー。

 

 

 はい、二度目の小ネタ動画集となっております。

 

 前回の小ネタ集同様、おまけなので(編集に統一性が)ないです。

 

 小ネタ集とかいいつつ2パートしかないので、このタイトルも間違ってるとか指摘されそうですが鋼の精神で突き進みます。

 

 

 今回はリカ姉に棘の玉璽が届いた後のイベントとなってます。年齢的にはだいたいスシ君(15)、リカ姉(14)、ミカン(9)、イッキ&リンゴ(6)、ウメ(2)くらいですね。

 

 

 それでは、どーぞ。

 

 

 

○賢い子

 

 

「だからここの問題はさっき解いたのの応用で、この公式に当てはめて……」

 

「あぁ、なるほどね。この値がわかってこっちの式に代入する、と」

 

 

 休日の昼下がり。

 

 ミカンはクラスメイトと遊びに、イッキとリンゴも二人で公園に行ったため、現在野山野家にいるのはシイナとリカとシラウメの三人だけであった。

 

 

 シイナが野山野家に住むようになってから行われている二人の勉強会。

 

 最初の頃は確かにリカがシイナに教えていたが、いつの間にか立場が逆転していた。

 決してリカが勉強が出来ないわけではない。彼女よりもシイナの方が飲み込みが良かった結果である。

 

 

 数日後に迫ったリカの期末テストに向けて、何時もよりも時間をとって行われる勉強会。イッキ達が居ないことも相まって、二人は数学の世界に没入していた。

 

 

「にー、にー」

 

「「えっ……」」

 

 

 集中があっさり切れる。比較的近くから聞こえた舌っ足らずな声に思わずシイナとリカは目を合わせる。

 

 

 君か?

 

 そんなわけないでしょ。

 

 

 アイコンタクトでそんな会話をする。残る選択肢はただひとつ。二人はシラウメに目を向ける。シラウメもじっとこちらを見つめていた。

 

 

 とてとてと歩み寄ってくる。

 

 

「「…………」」

 

 

 その光景を見て口が塞がらない。現在シラウメは一歳と半年が過ぎた頃。子供の年齢としては決して歩くことが珍しい時期ではない。

 

 ではなぜそれほどまでに驚くのか。単純にシラウメがそのようなそぶりを殆ど見せなかったためである。彼女は基本的に自分で移動しようとしない。ハイハイでシイナ、いなければリカに近づいて両腕を上げて抱っこを要求し、抱えて歩いてもらうのがほとんどなのである。

 

 甘やかし過ぎているのでは?と思われるかもしれないが、要求に応じないとシラウメは梃子でも動こうとしない。育児初心者のシイナはお姫様に従うしかないのである。

 

 因みにイッキは目を離していなくてもあっちこっちに動き回り、リンゴもそれについて行くといった赤ん坊だったため、リカにとってもシラウメは初めてのタイプ。よって対応はシイナに似たり寄ったりだったりするのだ。

 

 

 そういうわけで二人はシラウメが捕まり立ちする姿すらまともに見たことないのである。

 

 

「にーに!」

 

 

 椅子に座るシイナの足にシラウメが抱きつく。それを見たシイナは───

 

 

「リカっ!今日は焼き肉パーティーだっ!!松阪牛だっ!!」

 

「わかったからちょっと落ち着きなさい」

 

 

 わりと動揺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、それで今日はえらく豪勢なんだな」

 

「うまし!うまし!」

 

「イッキ!それまだ生焼けだよ!こっち食べていいからおちつきなって!」

 

 

 シイナの宣言通り焼き肉パーティーが行われている……流石に予算的に松阪牛ではないが、奮発してそれなりの量の肉が並んでいる。

 

 

「まー何て言うか、ウメは兄貴にベッタリだからな。『にーに』が最初なのは割りと妥当なところなんじゃねーの?」

 

「そうか?」

 

「飯食べるときの位置だって絶対兄貴の横を譲んないんだぜ?見りゃわかんだろ」

 

 

 実際、シイナの左隣はシラウメが常に陣取っていた。因みにシラウメの左にはリカ、シイナの正面にミカン、その隣にリンゴ、イッキと並んでいる。

 

 

「にーに!」

 

「どうしたシラウメ?」

 

「にーに、にーに!」

 

「あぁ、上手に言えてシラウメは賢いな」

 

「えへへ」

 

「むー……」

 

 

 褒める兄、撫でられて喜ぶ妹。大変微笑ましいこの光景をリカは少し不満げに眺めていた。

 

 

「シイナばかりずるい。私もウメに『ねーね』と呼ばれたいです」

 

「言えば呼んでくれるんじゃないか?ほらシラウメ『ねーね』だ」

 

 

 シイナはリカを指差して教える。シラウメは指の先にいるリカを見て、シイナを振り返る。そしてもう一度リカを見る。

 

 

「ねーね」

 

「ウメっ!」

 

 

 リカは感極まってシラウメに抱きつく。抱きつく力が強いのか「ねーね、むぅ……やー」とシラウメが身じろぎしている。

 

 

「ご、ごめんなさいねウメ」

 

「へー面白そうじゃん。おーいウメ、俺も『ねーね』だぞ」

 

「うぅ?」

 

 

 シラウメはリカとミカンを交互に見て首をかしげる。最終的には助けを求めるようにシイナ見上げた。

 

 

「『リカねーね』と『ミカンねーね』だ。わかるか?」

 

「りかねーね……みかん、ねーね?」

 

「あっ!ミカン姉ずるい!ウメちゃんウメちゃん。『リンゴねーね』だよ」

 

「りん、ご、ねーね」

 

「おっ!じゃー次は俺だな。おいウメ『イッキにーに』だ」

 

「……」

 

「ん?どうしたウメ『イッキにーに』だ。言いにくいなら『にーに』だけでもいいぞ」

 

「やっ!!」

 

 

 さっきまでとはうってかわって強く拒否する。そんなウメの態度にシイナ達は驚いていた。いや、ミカンだけが腹を抱えて笑っている。

 

 

「テメェ!ミカン!なに笑ってんだよ!」

 

「いやー、ウメは賢いなって思ってよ。『にーに』は兄貴だけで充分だよな」

 

「あい!」

 

 

 当然と言わんばかりの返事を聞いて、普通にショックを受けるイッキ。

 

 

「この家ではトップが兄貴とリカ姉、次に俺、リンゴときてウメ、そんで一番下はバカだもんな。よく分かってるじゃねーか、ウメ」

 

「あい!」

 

「なん、だと?」

 

 

 この日から暫くイッキによるウメの好感度上げが行われた。

 根負けしたウメがイッキのことを『いーき』と呼ぶのはもう少し先の話。

 

 

 

 

 

○初めての調律

 

 

 暗い室内。月明かりがシイナの姿を照らす。彼を視界に入れないように真下を向き、上から羽織ったタオルケットをギュッと握りしめる。

 

 弟妹達はとっくに寝てしまった。この部屋、シイナの部屋にいるのは私とシイナだけ。静かすぎて自分の呼吸がやたらと大きく聞こえる。もしかしたらこの激しく脈打つ心臓の音も彼に聞こえているかも。

 

 

「えっと、本当にしなきゃダメなの?」

 

「嫌なのか?」

 

「い、嫌とかじゃなくて」

 

 

 音を紛らせるために彼に話しかけるが、むしろこれからすることを考えてしまい一気に緊張してしまう。失敗した。

 

 

「その、何て言うか心の準備がまだって言うか……」

 

「安心しろ。痛くないから」

 

「は、初めてなんだから分かるわけないじゃないっ」

 

「大丈夫、リカは動かなくていい。全部俺にまかせておけ」

 

 

 羽織ったタオルケットが剥がされる。月明かりに水着姿の私と上半身裸の彼が照らし出される。

 

 

 今から私は、調律というのをされるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、あれだけ言っておいて何だが本当に嫌ならやめるぞ?」

 

「だ、だから嫌とかじゃないのよっ。ただちょっと、その……」

 

「リカが使うそのA.Tは普通のものとは違う。そいつを君が使う上での最適な状態に調整するために調律は欠かせない。ちゃんとした道具もない、調律者の腕も未熟な状態で申し訳ないが許してほしい」

 

 

 不安とかよりも羞恥心の方が勝っているのだけれど……まあいい。

 

 前を向くと、床に片膝をついてしゃがみ私を見上げる彼と目が合う。彼が着ているのは紺色の水着のみ。

 かくいう私も白のビキニを着てベッドの端に座っている。

 

 調律の説明を受けたときに、道具がない状態では肌の接触が多い方が正確に調律ができると言われた。流石に裸は無理。下着も恥ずかしくて却下した結果、水着に落ち着いた。

 

 一応これなら先週海に行ったときにお互い見ているから大丈夫……だと思っていたけど、部屋の中で着ているという状況の違いがあるせいかやっぱり恥ずかしい。

 

 

 あぁもう無理!女は度胸!どうにでもなりなさい!

 

 

 いつまでもこうしていたって仕方がない。私はベッドの中央に移動して座り込む。

 

 少し間をおいてシイナもベッドに上がってくる。彼は私の前に移動し、目線を合わせるようにして座る。

 

 

「始めよう」

 

 

 そういった瞬間、彼の目が無機質なものに変わった気がした。

 

 

 

 まず彼がとったのは私の右手。肩から肘、指先までゆっくりと撫で上げる。指の一本一本まで確認するように触れてくる。少しくすぐったい。

 

 

「─────」

 

 

 歌……だろうか?弟妹達を起こさないようにと小声だし、英語の歌詞みたいだから何と言っているかはわからない。

 あぁ、そういえば調律の説明のときにいってた気がする。たしか調律中に得た情報を凝縮して歌にするとか。なぜ歌にするのかはよくわからなかったけど、わかる人が聞けばちゃんと情報が伝わるらしい。

 

 本来、一人で調律から調整までを行う場合は別に歌う必要はないらしい。今回は歌を録音して後で聞き直しながら調整するために歌うのだとか。シイナ曰く「俺はまだ未熟だから調律中は情報を得るだけで手一杯なんだ」ということでこの方法をとっているらしい。

 

 

「───、─────」

 

 

 そうこう考えているうちに右手と同様左手も終わった。

 

 

 なんだ、楽勝じゃない。

 

 

 そう思っているとシイナの手が私の顔を包み込む。彼の顔が近づいてきてお互いの額が触れる。

 

 普段では無い距離感に、一気に緊張が高まる。なにが楽勝か。馬鹿。

 

 

「────」

 

 

 呟くように歌う彼の吐息がくすぐったい。手は頬だけでなく耳や後頭部、首を撫でてくる。

 

 

 暫くしてシイナの顔が離れる。一息つこうとした瞬間に彼から抱き締められた。

 

 

「っ!」

 

 

 抱き締められたことで彼の方に顔を埋める形になり、意図せずそこで大きく息を吸い込むことになった。

 

 

 当然自分とは違う香りがした。その香りにくらくらしそうになる。

 

 自分とは違う体温を感じた。その温もりにいつまでも包まれていたいと思った。

 

 背中をすっと撫で上げられるとゾクゾクした。声を押さえるために目の前にあった彼の肩に口を押し付ける。少し汗をかいていた。私は大丈夫だろうかと心配になる。

 

 

 後ろに回されていた手がほどかれ、シイナとの距離が少し開く。間を流れる風が冷たく感じた。

 

 

 私はぺたんと座っていたが、足を彼が触りやすいように動かされる。

 両ひざをたてて、足の間を少し開けられる。その間に割り込むように、距離を詰めるようにシイナが体を入れてくる。

 

 

 あ、これ……普通に恥ずかしい。

 

 

 そんな私の羞恥をよそに、足先からゆっくりと触れられていく。

 くすぐったい。そのくすぐったさと同時によくわからない別のものも感じていた。ただ悪いものでは無いと思った。

 

 そのままふくらはぎ、膝へと上がってくる。

 

 

 あれ?どこまで?

 

 

 思考に靄がかかっているのか、はっきりしない。

 

 太ももに手が触れる。あぁ、ダメだ。触れられているところを意識しちゃダメだ。おかしくなる。

 

 別のなにかに集中しなきゃ……

 

 目の前にある彼の顔をみる。これもダメ。彼から触れられていることを意識してしまう。

 

 においもだめ。さっきよりももっとクラクラする。

 

 

 歌……このよくわからない歌のことを考えれば。

 

 

 太ももの付け根に指がかかる。違う。歌の歌詞を。

 

 私より大きい手のひらがどんどん中央によっていく。体が熱い。心臓がばくばくして弾けそう。待ってそばに、もっと近くにいて。

 

 無意識に手を伸ばす。シイナの首の後ろに手を回し、力がうまく入らないながらも精一杯彼を引き寄せる。

 

 中央の筋の部分に軽く指が触れて────

 

 

「あっ……」

 

 

 

 

 

 あとのことはほとんど覚えていない。意識が朦朧としている間に終わっていた。

 

 シイナの部屋でそのまま寝た気がしたが、朝起きたら自分の部屋にいた。机の上に調整の終わったA.Tが置いてあった。

 

 

「───っ!」

 

 

 声にならない声をあげ、頭をかきむしる。

 

 

 いったいどんな顔をしてシイナに会えば良いのか。

 

 

 

 

 

 

 

 朝御飯のために呼びにきた、いつもと変わらないシイナをみて無言で一発ビンタするまで悶々とすることになる。

 

 




 ちょいエロ方面書いてみたけど無理。難しいわ。
 そうはならんやろう、と言われそうですがリカ姉は思春期+感度3000倍の呪いがかけられてたとかそんな感じで許してクレメンス。

 ちなみにスシ君は情報読み取るのにいっぱいいっぱいでそれどころじゃない模様。


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12話 金策

 一年ぶりみたいですね(生存報告)文章の書き方分かんないです(暴露)

 


───カチャカチャカチャ

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 寒い、空気が冷えきっている。

 

 ミカンは温かい鍋をつつきながらそう感じていた。

 

 今の季節は冬。寒いのも空気が冷たいのもあたりまえなのだが、ミカンが言いたいのはそういうことではない。

 

 

───カチャカチャカチャ

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ここ最近、家の中が気まずいのだ。食事のときに限らず、分かりやすく話し声が減っている。

 

 理由は明らかだ。

 

 

「御馳走様」

 

「…………」

 

 

 ミカンが兄と姉と慕う二人が珍しく喧嘩しているのだ。いや、もちろん喧嘩をしたことが無いわけではない。前にシイナがリカに朝食の声かけをしたときに、頬に真っ赤な紅葉をつけて戻ってきたことがあった。あの時はその後しばらく二人がギクシャクしていたのを覚えている。

 しかし、それでもすぐに仲直りしていたのだ。

 

 かれこれ一週間。ここまで拗れてるのはミカンが知る限り初めてだった。

 

 

「シイナ」

 

 

 食器を片付け終わったシイナにリカが声を掛ける。それに対してシイナは何も言わず、右手の人差し指で上を示す。今日も二階で話し合うのだろう。

 

 そのままシイナは二階へ行き、リカも食器を片付けた後で上がっていった。

 

 

「ねぇ、ミカン姉。お兄ちゃん達はなんでケンカしてるの?」

 

 

 リンゴが不安そうにミカンに聞いてくる。リンゴの横にいるイツキは何も言わないが少し元気がなさそうだ。シラウメはシイナに構ってもらえないせいでブーたれてる。

 

 

「……兄貴達には兄貴達の悩みがいろいろあるんだよ」

 

 

 ミカンとしても早く仲直りはしてほしいが、二人の喧嘩の理由が理由なだけに下手に間に入ることもできないでいる。

 

 

「はぁ」

 

 

 宝くじで一億当たんねえかな……

 

 非現実的だと分かってはいても、ミカンはそう思わずにはいられなかった。

 

 


 

 

 制服姿で走りまわるJKリカ姉を見たいがために頑なに意思を曲げないゲーム実況、始まっているっ!!

 

 

 はい。若い男女が二人っきりで部屋にいますが、見ての通り空気がピリピリしてます。下の子達がいたら泣いちゃいますねコレわ。

 

 さてさて、いつもは仲の良い二人が何故にこのようなことになっているのかといいますと原因は金です。

 

 カネですよ、money。

 

 

 なんでや!今まで何とかなってたし、スシ君頑張ってバイトしとるやんけ!!という方のために説明しましょう。

 

 

 まずはじめに現在の年齢の確認です。スシ君(15)、リカ姉(14)、ミカン(9)、イッキ&リンゴ(6)、ウメ(2)といった感じになっています。

 

 お気づきでしょうか?そう!野山野家には来年、つまり数ヵ月後には小学校に入学するガキが二人もいるんですねぇ(ニチャ

 

 現在でもそこまで余裕があるとは言えないのに、さらに出費が増えることは確定。これには流石にちょっと危機感をおぼえたスシ君。

 

 来年にはスシ君も高校生に相当する年齢なので、新聞配達以外のバイトが解禁されます。そのため来年からはもっとバイトの数を増やす宣言をリカ姉にしたんですよ、そしたらね?

 

 

「来年は無理だけど、その次の年には中学も卒業だから。私もシイナみたいに頑張って働くわね」

 

「リカは高校に通うから俺みたいに働くのは無理だし、そもそもバイトなんてしなくていいから」

 

「私行かないわよ?」

 

「?」

 

「高校。そんな余裕もないし、あの子達には我慢させたくないから」

 

「いや、高校は卒業すべきだ。現代日本では最低でも高校くらいは出ておくほうが何かと便利だし、何なら大学にだって行くべきだろう」

 

「……」

 

「……」

 

 

 みたいな話しになりまして、スシ君とリカ姉はどっちの意見も曲げることなく喧嘩に発展したという訳なんですね。

 

 

 うーん、この年齢で金のことばっかり考えてるなんて世知辛いなぁ。

 

 

 ちなみにリカ姉の親である黒幕博士(南林太)は最低限の仕送りしかしてくれません。

 彼にとっての最低限とは義務教育(小中学校)の学費、贅沢をしなければ1ヶ月もつ程度の食費と電気・水道・ガス料金のことなんですね。

 

 いやー、こんなんじゃ足りないっすね(真顔)

 

 この程度の仕送りの中で、衣服とか勉強道具とか消耗品とかまで工面しなきゃいけないとかマ?

 そりゃ学校行事なんてまともに参加できませんわ。

 

 この仕送り金額で黒幕博士の非常識さが伺えますね。

 

 これだから研究者は(呆れ)(クソデカため息)

 

 こんなんで最低限の親としての扶養義務を果たした気になっているのでしょうかねー。

 なんだこのオッサン!?(驚愕)

 

 ついでに母親である野山野博士は血の繋がった娘であるリカ姉には愛情を注ぎます。たまに外食を一緒にしたり、洋服もプレゼントしてくれます。しかし、実験体(グラチル)であるミカン達にはさほど興味がないので黒幕博士に一任してます。

 

 ……この世界の研究職にはロクなのがいないのか(呆れ)

 

 

 そんなわけで、リカ姉が高校に通うためには学費も含めて自分達でどうにかするしかないというわけですね。

 

 いやー、きついっすわ(真顔)

 

 

 それでもスシ君はリカ姉に高校に行ってほしいようです。今時高校くらい出ておかないと将来の就職がきびしくなる……というのは建前で、実際はリカ姉にテレビでみるような普通の青春を謳歌してもらいたいのが本音。

 そのためには自分がボロ雑巾になるまで働くことも厭わないくらいの覚悟の極りっぷりです。たまげたなぁ。

 

 

 ちなみに私の主張は挨拶でも言っているようにスカートをヒラヒラさせながら走るJKリカ姉が見たいので何がなんでも進学させようとしています(早口)

 

 そのうちラスボスとチームを組むんですから、癒しは多ければ多いほど良いのです……私の精神的に。

 

 

 

 えっと、長々語りましたが要約すると金がねえ!ってことです。

 

 

 はい、そんなわけで今から金策を始めます。とは言ってもスシ君の年齢でできることはそう多くありません。

 ウメも大きくなったので、現在の新聞配達を朝だけでなく夕方も入れて、来年になったら昼間に別のバイトを入れまくる。

 犯罪に手を染める以外なら条件的にはこれが一番簡単に稼げる方法になると思います。

 

 

 でも正直コレじゃリカ姉の高校進学資金には物足りないんですよねぇ。

 

 なので!別の方法を試したいと思います!この方法はいろいろと条件が揃わないと解放されないのですが、今のスシ君ならばいけるはずです。見てろよ見てろよ~。

 

 

 それでは、イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)

 

 

 

 

 

「で、俺のところに相談しに来たわけか」

 

 

 はーい、スシ君が会いに行った相手は現役大学生鰐島海人君でーす。

 

 突然の呼び出しに、メンドクセーとか文句いいながらもちゃんと会いに来てくれるとかさてはお前ツンデレだな?

 

 好感度確認、ヨシ!

 

 これが確認できたらあとは頼み込むだけですね。このイベントやったことないのでちょっと緊張しますが、誠心誠意頼みましょう。

 

 なーなーたのむよー。ね?お願いだよー、入れさせてくれよー。ちょっとだけ、先っちょだけでいいからさー(ネットリ)

 

 

「……まぁ、おまえにはいつかヤらせるつもりだったからな。多少準備不足な気はするが、早いにこしたことはネェか」

 

 

 チョロいですねぇ!!

 

 

「明日ここに行け。あとはヤスさんにやってもらう」

 

 

 そう言ってメモを渡すと海人君は帰ってしまいました。

 うーん、海人君の方が画面映えするのですが……まぁ、ヤらせてくれるならオッサンでもかまへんかまへん。

 

 

 ということで、次の日の待ち合わせまでスキップするぞ~。

 

 

 

 

 

飛行靴(ひこうか)

 警察内でのA.Tの呼称。三年程前から都内を中心に空中を飛行する人間の目撃情報が警察に寄せられるようになる。目撃例を調査していく中で判明した共通点は、飛行していた人間は十代前半の少年少女であることと特殊な靴を履いていたという二点。職員のなかにはただの靴一つで飛行が可能なのかという懐疑的な意見もあったが、警察内では「飛行靴」という名称が浸透していく。

 時が経つにつれて警察には、飛行する人間による不法侵入や器物破損、傷害罪などの通報が寄せられるようになる。飛行靴を使用したと思われる犯罪については現在も増加傾向にあり、一早い対処が求められる。しかし飛行靴の速度・機動力に対応することができておらず、逮捕にはほとんど至っていないというのが警察の現状である。

 

 

「というわけでだ、シイナ。目には目を、歯には歯を、飛行靴には飛行靴を。言いたいことはわかるな?」

 

 

 おかのした!まーね、マル風Gメンのない今の警察は無能だからしょうがないね。

 

 新しいスシ君のバイト先として警察にご厄介になろうと思います(意味深)

 

 

 ところでみなさんは目の前にいるこの人覚えてますか?

 

 犯人はヤス……すいません言いたかっただけです!許してください何でもしますから()

 

 気を取り直して。ダンヒルやドルガバのスーツ、ロングコートにハットを身につけたこの洒落乙(シャレオツ)オジさんことヤスさんは現役の警察官で、将来的に海人くんが室長を勤める『警視庁特殊飛行靴暴走対策室(マル風Gメン)』の一員となる人です。今は亡き柿谷君のパッパでもあります。

 

 海人君が室長になるまでは、彼がA.T関係の犯罪をとり仕切ってくれます。やりますねぇ!

 

 

「いい返事だ。お前の仕事は飛行靴が関わっていると思われる通報があったときに現場へ行き犯人を確保をすること。また、巡回中に現行犯を見つけた際にも同様だ」

 

 

 ちなみにこの仕事、受けるには条件があります。それは海人くんからの一定以上の好感度と高い戦レベルです。

 

 スシ君はどっちもあるので余裕ですね、はい。

 

 

 こちら頑張れば頑張っただけ給料に色をつけてくれるみたいなんですよ~。余程困ってるんでしょうね。

 

 

 勝ったなガハハ!

 

 


 

 

 

「ただいま」

 

「おかえり、兄貴……何かいいことあった?」

 

 

 帰ってきたシイナを見てミカンはすぐにそう感じた。

 

 

「そう見えるか?」

 

「あぁ。最近はわかりやすくイライラしてたからな……今はいつも通りの兄貴だ」

 

 

 ミカンがそう言うと、シイナはミカンと目線を合わせるように屈んだ。ミカンからみたシイナの顔は、どこか申し訳なさそうだった。

 

 

「迷惑をかけてごめんなミカン。もう大丈夫だから」

 

「もう……リカ姉と、仲直りするか?」

 

「あぁ」

 

「じゃー、許して…やる、よ」

 

「……ありがとう」

 

 

 シイナは小さく笑ってミカンの頭を撫でる。家族のなかで一番大きくてあたたかい手。普段だったら子供扱いするなと、はね除けるであろうその手をミカンは黙って受け入れる。

 

 金のことで二人が喧嘩しているのは分かっていた。しかし、自分はどうすることも出来ないほど子供だった。

 二人が揉めているのを見て歯痒くて、申し訳なくて、不安で、悲しくて……弟妹達もいる手前、表には出さなかったが、内心はぐちゃぐちゃだった。

 

 だから今こうやって、自分の信頼する兄貴分がいつも通りと言える雰囲気になって帰ってきてくれたことで、問題が解決したんだと悟った。

 

 実際に目の前に金があるわけではない。

 

 それでも『もう大丈夫だから』の一言を無条件に信じられる。頭を優しく撫でてくれる手が安心感を与えてくれる。

 

 あぁ、本当に良かった。

 

 ミカンは安堵からくる涙が止まるまで、しばらくの間その手を受け入れ続けた。

 

 


 

 

「というわけで新しい仕事が見つかった。必要に応じて呼び出されることになるから時間は不規則だが、金の心配はいらなくなりそうだ」

 

「ごめんね。あなたに頼ってばかりで……」

 

「お前たちが諦めたり我慢したりしなくて済むなら、俺はそれだけで満足だ。だからリカがそんな顔する必要はない、むしろ笑っていてくれ」

 

「ありがとう、シイナ……ところで、新しい仕事ってなに?」

 

「それは秘密だ」

 

「は?」

 

「「…………」」

 




 
 このあと、またしばらく喧嘩した。

 というか原作に大家をして家賃収入を得ていた描写があったような無かったような。まあ、この程度の改変は許してクレメンス。


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13話 公僕

 感想が嬉しすぎて残弾数ほぼないくせにさっさと次投稿しちゃうお馬鹿がいるってマ?

 感想感謝!

 ご都合主義的だけど気にしない。このまま突っ切る。


『シイナ、通報だ。ド下手くそが着地に失敗して一軒家の屋根をズタボロにしやがった。多少怪我はしてるみたいだが現在も逃走中。場所は───』

 

『シイナ、道路上で車の進行を邪魔しながら走ってるバカが4人いる。つまみ出せ』

 

『今度は痴漢だ。通りにいる女性の尻を触りながら逃げ回ってやがる。なんてうらやまゲフンゲフン……けしからんからさっさと捕まえにこいっ!!』

 

 

 

 忙しすぎて「ンアッー!!」って叫びたくなるゲーム実況はっじまーるよー。

 

 いや、ほんとうに多い。都内で起きたA.T関係の事件全部連絡くるからね?東奔西走とはまさしくこの事。ついでに夜の通報が8割なんで家族団欒中でも普通にヤスさんから要請が来るから迷惑極まりないんですよねー。

 

 

 まっ!自分凄腕なんで!秒で解決しちゃうんですけどね!!

 

 いやーっ!警察の皆様が手も足もでないところに颯爽と現れるスシ君!観衆も犯人自身でさえも何が起きたかわからないうちに逮捕して事件を解決!!犯人を警察に引き渡し、ヤスさんに達成報告をして一瞬のうちにその場を立ち去る!!

 

 はー、格好いいですわー。これはスシ君が有名人になっちゃいますわー。

 

 

 ……まあ、させませんが。有名になったってデメリットしかないんですよね。

 

 別に有名になっても給料が上がるわけでもないです。むしろ未成年ってのがバレたら、スシ君の来歴をいろいろと調べられて面倒です。

 

 次にいろんな暴風族(ライダー)からちょっかいをかけられます。でも今その辺にいる暴風族(ライダー)って、スシ君からすればみーんなド素人なんですよね。戦闘して貰える経験値なんて雀の涙、むしろ前口上とか語られるぶん時間の無駄です。

 というか家族で出掛けてるときにでもそんなの寄ってきてみなさいよ。リカ姉以外にはA.Tのこと秘密にしてるのが全部パーですよ!!

 

 そして最後に一番問題なのは……『旧・眠りの森(スリーピング・フォレスト)』に加入できないことです。

 

 現在裏でやましいことをせっせと行っているであろう暗黒兄弟の兄貴が、こんな正義の味方を仲間に入れてくれるでしょうか?いや、入れない(反語)

 普通に闇討ちされます。正面から戦闘吹っ掛けてきてくれるならまだいいんです。2対1で勝てるか微妙なラインですが、まだやりようはあります。

 しかし相手は暗黒外道兄弟。人質をとったり、毒を盛ったりなんでもありです(白目)

 

 

 というわけで、ヤスさん以外には身分を伏せましょうね~。

 

 出動時のスシ君の格好は、ダボついたジップアップパーカーで体格のシルエットを誤魔化し、フードと昔縁日で手に入れた初代仮面戦士のお面をつけて頭と顔を見せないようにしています。

 A.Tもスシ君は特徴的なので、初心者用のA.Tを買って手を加えた別のものを用意しました。実力の半分も出せませんが、これで全然事足ります。

 

 あとはヤスさん以外と話さなければOK。

 いま巷で噂の『謎の正義の味方 仮面暴風族(ライダー)』の出来上がりっ!!

 

 

 ついでにスシ君の新生活をご紹介しておきましょうか。

 

 

 正義の味方(仮)は夜遅くにヤスさんに呼び出されることもあります。お金も大事ですが睡眠も大切です。なので睡眠時間の確保のため、朝の新聞配達はやめました。職場の人に泣きながら辞めないように懇願されましたが無視です、無視。

 

 朝の流れは今まで通り、6時になったら朝食を作り出します。準備ができたらウメ以外を起こしましょう。

 おら、イッキ!お前も1年生になったんだから起きるんだよ、あくしろよ!!

 

 

 7時30分には学生共を叩き出すので静かなものです。ウメにご飯を食べさせながら、洗濯物と掃除をしてしまいましょう。

 

 

 10時になったら別のバイト先に行きます。ウメも連れていきますよ。というかウメを預けるためにこのバイトやってます(直球)

 

 こちらは老夫婦が営む小さな古書店。お昼はここでの働くこととなります。

 実はこの老夫婦、どちらも以前スシ君に助けられたことがあるんですよ。いやはや世間は狭いですね~。

 

 その恩返しとして働かせてくれると同時に、かなり融通をきかせてくれました。

 

 給料は安いです。しかし、幼いウメが一緒に店に居ても良いと言ってくれてます。これはウメが大人しくできる子であることも関係していると思いますが……うーん、控えめに言って天使。

 勤務中にたまにあるヤスさんからの呼び出しも行ってOKと言ってくれてます……うーん、控えめに言って神。

 

 流石に長時間抜けられるのは厳しいとのことですが、そこはスシ君。超スピードで事件を解決するのでセーフです。

 さらにお昼ご飯も食べさせてくれるなんて、この老夫婦優しスギィ!

 

 さてさて。スシ君お手製の呪いのにんgゲフンゲフン……もとい愛情たっぷりの人形を使って、店の片隅で遊ぶウメ。それを視界の端に入れながら本棚の整理をするスシ君。いやー、平和平和。

 ナニッ!ヤスさんからの緊急要請!?かしこまり!!店長すいませーん、外出てきまーす。すぐそこなんで10分以内に帰ってくるゾイ。

 

 

 はい、こんな感じで夕方まで古書店で働かせてもらって、終わったらさっさと帰りましょう。

 

 おや?あそこの公園にいるのはイッキですね。一人でなにしてるんだか。

 おい!もう暗くなるから早く帰るんだよ、あくしろよ!!

 

 

 家に帰ったら夕食作りですね。それまでミカンとリンゴとイッキには宿題をさせます。ミカンとリンゴは拒否することなく取り組んでくれるのですが、イッキは全然ヤル気を見せません。

 まあ、こっちとら夕食を人質にとっているので、育ち盛りのイッキは従わざるをえないんですけど。悪い子はお仕置きだど~(ニッコリ)

 勿論イッキも勉強したくないから最初の頃は無理矢理ご飯を食べようとしてたんですけどね、そんなこと許しません。兄の偉大さを知れ(物理)

 

 

 ちなみにリカ姉は最近帰りが遅いです。

 

 ナニをしてるかって?

 

 スッシー知ってるよ!いろんな奴らとヤってるんだってこと!スッシー知ってるよ!節操なく他人の目の有無なんて気にせずおっ始めるってこと!スッシー知ってるよ!複数の男達にちょっかいかけられて仕方なくってのがよくあるパターンだってこと!

 

 

 ……はい、察しの良い方はお分かりでしょう。A.Tバトル仕掛けられて応戦してるだけです。

 

 しばらくはスシ君と練習してたんですが、一定のレベルになったので免許皆伝。しばらくはこちらの対人戦(格下を取り押さえる)練習をしてたんですけど、最近は自主練習をすると断られるようになりました。

 流石に負けてばっかりで面白くなかったんでしょうね。「強くなってギャフンと言わせてやる」と宣言されました。あら、お可愛いこと。

 

 そんな感じで自主練習してたら周りのゴロツキ暴風族(ライダー)にちょっかいをかけられ始めたって感じです。リカ姉は美人だから仕方ないね。その上リカ姉自身が強いから、なんやかんや挑戦者が定期的に訪れるんですよ。

 

 ちなみに何でこんなこと知ってるかと言うとしばらくの間、遠くから見守ってたからなんですよね…………ストーカーとか言わないでください!訴えますよ!(おこ)

 

 まあ、リカ姉はその辺のモブに負けるほど弱くないので好きなようにさせてあげましょう。それに遅くても21時くらいには帰ってきますし、来年の受験のために勉強もちゃんとしてるから問題ありません。

 

 

 夕食を食べて風呂に入ったらあとは自由時間です。図書館で借りた本を読んだり、リカ姉の教科書使って勉強したり、イッキたちと遊んだりして過ごします。途中でヤスさんからの呼び出しもあるので適当に誤魔化してから外に出ましょう。さっさと終わらせて帰ってきたら就寝して1日が終わるって感じですね。

 

 

 

 さて、説明も終わりましたね。それじゃー特に見所さんもないので倍速イクゾー、デッデッデデデデー(カーン)

 

 

 いやー、この仕事は金になりますね。完全歩合制にはなりますが、サッと行ってパパっと解決するので拘束時間自体は短くなっています。まあ当然、スシ君の実力あってのことですが。

 

 それにしても最近ヤスさんからの呼び出しが多いこと多いこと。

 順調にA.Tが普及してきているということですね。時期的にもそろそろラスボスとキリクが『眠りの森』への参加を求めに来るころでしょう。

 

 しんどいですわー。ラスボスと顔を会わせ続けるこの一年が本当にしんどいですわー。

 特に今回はマッポの手先といっても過言ではないのでなおのことしんどいですわー。

 

 でもまあ、この『旧・眠りの森』時代を越えれば原作開始までほぼイベントなんてないんでそれまでの辛抱ですね。

 

 

 

 おや、等速になりましたね?ヤスさんからの電話なんていつものことじゃないですか。

 

 

『実は他の県警から「東京にいる凄腕の協力者に来てほしい」との応援要請が山ほど届いていてな。流石に無視できないことになっちまった』

 

 

 えっと、もしかして手伝いに行けって話ですか?

 

 

『察しがいいな。今回は特にA.Tに関する事件が多発している関西をシめに行く。謝礼はたんまりと出る……やるか?』

 

 

 かしこまりぃ!!

 





 次はさすがにもうちょっと空けます。


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14話 in京都

 すまん!ヨ○ツ○の出番はここじゃないんだ!(ネタバレ)

 京言葉?よくわかんないんで変換してくれるサイトを使いました。なんかおかしかったら教えてください。


 

 端からみたら金の亡者にしか見えないスシ君の地方出張、はっじまーるよー。

 

 

 はい、現在スシ君はヤスさんと共に京都府警でA.T事件の責任者であるオッサンの話を聞いています。

 え、なんでヤスさんも一緒なのかって?そりゃあ、スシ君一人じゃ助っ人だと信じてもらえませんから。

 

 

 さて、なんか「こないな格好のやつが?」とか「こちらに素顔も見せられへんようなやつには任せられまへんなぁ」とか「東京のもんに頼ったのは間違いでしたわ」とか言われてますがスルーです。

 まあ実際に今のスシ君は仕事着なんで、だいぶ礼儀はなってないですからね。仮面つけてますしフード被ってますし。色々言われるのもしゃーなしです。

 

 ついでにヤスさんもボロクソに言われてますけど、涼しい顔してますね。流石ダンディーな男は違うなぁ。

 

 

「あんのクソ眼鏡野郎、好き勝手言いやがって……シイナ、全力だ。アイツの鼻を明かしてやれ」

 

 

 ……府警を出た瞬間これですよ。ヤスさん超怒ってんじゃん(笑)

 

 まあ、適当に終わらせて帰りましょう。

 

 

 それでは京都観光……ではなくパトロールを開始します。

 ヤスさんですか?府警の人と一緒にいますよ。

 

 じゃけんさっさと一人で行きましょうね~。

 

 

 さーて、どこいこっかな~。清水寺、京都タワー、金閣寺、映画村。いろいろあって迷っちゃいますよ。

 

 とりあえず、地図(るるぶ)を確認しましょうか。たしか今いるのがこの辺りで「なぁーなあー、ええやないか。キミも一人で退屈やろ?俺らと遊ぼうや」ヤスさんは南の方に行ったから「わざわざおおきに。そやけど結構どす」逆方向に行きますか。となると「そないなこと言わんとってや。良いホテル知っとるねん、一緒に気持ちよくなろうや」ごはん……はまだお腹はまだそんなに空いてないんですよね「しつこい男は嫌われますえ。というか、そないな粗末なモノで満足させるなんて……ふふっ、冗談やろう?」よし、一番最初は金閣寺に行きましょう「なんやとこのアマって、イッたいなぁ!何やねん!!」

 

 

 何だ、お前(素)

 

 歩きながら読んでたら何かぶつかったみたいです。前を見るとチャラ男が二人と制服を着た背の高い女子が一人いました。

 いやー、うっかりうっかり。初めての京都観光でちょっと浮わついてたみたいですね。

 

 

「おいコラっ!聞いてんのかワレェ!調子ノってるといてこますぞ!!」

 

「てか見てみろや。こいつ、フードでよう見えんかったけどお面着けとるで。仮面戦士とかガキかよ、おもろ」

 

「クッソ気分悪いわ。おいワレェ、俺にぶつかっといてゴメンで済ますつもりやないやろうな?そこで土下座しろ。ついでに有り金も全部出せや」

 

 

 えぇ、なんかいちゃもんつけられた……めーんーどーいー。無視して金閣寺行きましょう。

 

 

「おい無視すんなや!俺を無視してどこ行くきやねん!おいコラっ!おいっ!……テメェっ!!!」

 

 

 おっと、いくら浮わついてるとはいってもソレは当たりませんわ。すれ違いざまに横顔を殴られそうになりましたが、ゆらゆら~っと回避します。

 A.Tは履いて無いですが余裕で避けられますね。

 

 A.Tを履いてない理由は単純。京都府警のオッサンからNGくらったからです。いやー、皆さんよっぽど野良暴風族に手を焼いてるんでしょうね。協力者(スシ君)がA.Tを使うことにも良い顔しなかったですもん。

 

 だから今回A.Tを使えるのは、事件に対処する場合と現場に急行する場合のみですね。観光(パトロール)中は歩くか公共交通機関を使えということです。まあ、ゆっくり見て回りますので全然構わないのですが。

 

 

「クッソ!ヒラヒラ避けんなや!大人しく殴られんかいっ!!」

 

「何やねんコイツ、こっちは二人がかりやぞ!」

 

 

 いや、そろそろ君らも諦めなよ面倒臭いな。ちょっと諦めてもらいましょうか。

 

 右から殴りかかってきたチャラ男の腕を取って足を軽く引っ掛けてやると、チャラ男は一回転して背中を地面に叩きつけられる。

 痛くて起き上がれないみたいなので腕を離して差し上げましょう。

 

 隙を見せたなと言わんばかりに後ろからもう一人のチャラ男が殴りかかってきましたね。振り向きざまにその手を払います。そのまま隙だらけで間抜けな顔面を右手で掴んで後頭部を地面に陥没するほど叩きつける……まではしなくていいですね。痛みでのたうち回る程度にとどめてあげましょう。ほら、今仮面つけてて正義の味方モードだから、多少はね?

 

 

 というわけで、チャラ男二人の討伐完了。これに懲りたら二度と俺にいちゃもんつけんなよ、ぺっ!……不注意でぶつかったのはこっちだとか言ってはいけない。先に手を出した方が悪なのだ(ごり押し)

 

 

 さーて今度こそ金閣寺に行きましょうかね。

 

 

「ねぇ、アンタ。けったいな格好してるわりに強いんやな」

 

 

 バス……はお金が勿体ないので徒歩ですね。いろいろ見て回りながら行きましょう。えっと、まずはこの通りを真っ直ぐ行って……って進めない。誰ですか邪魔するのは?こっちは急いでるっていうのに。

 

 

「いけずやわぁ。さっきのチンピラみたいにしつこいのも邪魔くさいけど、アンタみたいにあっさりしすぎなのもどうか思いますえ」

 

 

 スシ君の肩を掴んで進めない様にしていたのは、先程のチンピラに絡まれていた制服女子のようです。黒セーラーでロングスカートとかスケバンかよ(偏見)

 というか背高いですね。遅れてきた成長期真っ最中のスシ君が177㎝なんですが、それよりほんの少し高いです。ほんの少しだけな!

 

 てかよく見たら笑顔に見えて目元が笑ってないですね、あら怖い。

 

 

「あら、旅行雑誌……金閣寺どすか。さっき助けてくれたお礼に案内してあげましょか?」

 

 

 いや、別にあなたを助けた覚えも無いし、目的地も自分で行けるんで結構です。というかなーんかこの制服女子見たことある気がしますね、どこででしょうか?

 

 

 まあどうでもいいですね(諦め)

 

 さっさと観光しにいきましょう。

 

 


 

 

「そないな寂しいこと言わんでおくれやす。こないな面白そうな人を逃すなんて勿体な……ちゃうくて、ここで会うたのもなんかの縁、もう少し一緒にいさせてほしいわぁ」

 

「……さっきも言ったけど遠慮する。俺もいろいろやることがあるんだ」

 

 

──Prrrr....Prrrr....Prrrr....Prrrr....Prrrr……

 

 

「もしもし。あぁ、ヤスさん……窃盗ですか。場所は……はい、はい……わかりました、すぐ行きます」

 

 

 電話を切ったシイナは旅行雑誌を開き、地図を確認する。しかし、見通しが甘かったようだと仮面の下で眉をひそめる。雑誌に掲載してある地図では細かい住所までわからなかった。

 まあ、近くまで行ければあとはどうにでもなると思い直して小さく息を吐く。

 

 

「どこにいきとおすか?」

 

 

 女はシイナの両肩に手を置き、後ろから雑誌を覗き込みながら耳元で囁く。

 

 シイナは目だけをそちらに向け、少し考えて先程電話で聞いた住所を伝えた。一応、方向だけ聞いて別れようと考えたのだ。

 

 

「ん、ほな行きましょか」

 

 

 彼女は微笑みながらシイナの手をとり、導くように歩きだす。

 

 

「待ってくれ、方向さえ教えてもらえれば自分でっ」

 

「まあまあ、そんなん言わんと。さっきも言うたやないどすか、ここで会うたのもなんかの縁かて。アンタの用事に付き合いますえ」

 

「いや、なんであんたがそんなに楽しそうなんだ?」

 

「そう見えるんはワクワクしてるから。さ、ついたで」

 

「ここは駐車場?なんでこんなところに……ってバイク?」

 

 

 彼女はバイクの前でようやくシイナの手を離した。シイナはバイクに明るくないため車種などはわからなかったが、女性が乗るにはゴツいなと感じた。

 

 

「おもんない学校を抜け出してきて正解やったわ。今日はええ日になりそうやな」

 

「抜け出した?あぁ、どおりで。平日の昼間なのに制服だからおかしいと思った。学校はちゃんと行ったほうが良いんじゃないか?」

 

「それ、お互い様ちゃう?アンタもウチとそないに変わらへん年や思うんやけど、どや?」

 

「さて、どうだろうな」

 

「いけず」

 

 

 軽口を言い合いながら女はバイクに跨がり、エンジンをかける。シイナはその様子を見ながら先程の感想を少し改める。

 確かにゴツいが、長身の彼女が跨がりエンジンをかける姿は大変様になっている。端的に言うと格好いいと思った。

 

 

「ほな、そろそろ名前を聞かしてもらいましょか。いつまでもアンタじゃ色気があらへんやろう?」

 

「あぁ……名前、な。えっと……仮面、暴風族(ライダー)……だ」

 

 

 シイナは顔をそらしながら、名前とも言えない偽名を告げる。それを聞いた女はきょとんとした顔をして、すぐに破顔した。

 

 

「ふふっ。仮面ライダーねぇ、まあええわ。白昼堂々そないな仮面のつけてるくらいやさかい、いろいろ隠したいことあるんやろ?……オシャレでやってるなら改めた方がええと思うけど」

 

「顔を覚えられると面倒なだけだ。それであんたの名前は?」

 

「ウチのことはベンケイって呼んでおくれやす。一番気に入ってる渾名で、本名とちゃうけどええどすなぁ?」

 

「構わない」

 

 

 シイナの言葉を聞いて、ベンケイは満足そうに頷く。更に自分の座るシートの後ろを叩いてシイナを促した。

 

 彼女は、渋々従ったシイナが自分の後ろに座ったのを確認して前を向く。

 

 

「ほな、ライダー。楽しい楽しい初デートと行きましょか」

 

 

 ベンケイは茶目っ気たっぷりにそう言って、アクセルを回した。

 

 




走者の言い訳↓
「だって若かったし、セーラー服だったし……てか豹柄シャツ+黒ブラ(仮)のアノ服じゃないとわからn(以下略」

作者の言い訳(長文)↓
正直「ベンケイ」って呼び方は「ヨシツネ」が居たからこそのものだとは思うんですよ。「ヨシツネ」の下についてるから「ベンケイ」と呼ばれるようになった、みたいな。

しかし作者はどうしてもベンケイと何かしらの関係を築きたかったんですよ。
でもあんな男前で天才なヨシツネと先に出会ってたらスシ君の印象薄れちゃう!!って思ったので「ベンケイはまだヨシツネとは出会って無い」という設定でいきます。

 ヨシツネ好きの皆さん、許してヒヤシンス。


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15話 道案内

 そろそろ七夕か……この小説が埋没するくらいエア・ギア小説増えろふえろふえろ。

 みんなも試しに一話書いてみません??さきっちょだけでいいから(おめめグルグル)


 

 ベンケイと仮面暴風族(シイナ)を乗せたバイクが京都市内を走り抜ける。道案内を買って出るだけあり、ベンケイは抜け道などを駆使してほとんど止まることなく目的地へ向かう。

 

 

「そろそろ言われた場所に着くけど、何しに行くんどすか?」

 

「仕事だ」

 

「仮面ライダーのお仕事ねぇ」

 

 

 怪人とでも戦うのか、なんて冗談混じりにベンケイは思考する。後ろに乗っている青年が、無駄にゴテゴテした怪人と対峙して『変身!』なんてポーズをとっている様を思い浮かべ、何か似合わないなぁなんて勝手な感想を抱いていた。

 

 そうこうしているうちに、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。

 

 

「ベンケイ、ここまでで大丈夫だ。あとは自分で行く」

 

「自分で行く言うたって……危ない!」

 

 

 ベンケイが大きな声をだしたのも無理はない。後ろに座っていた青年がふわりと走行中のバイクから飛び降りたのだ。

 

 慌ててベンケイはブレーキをかけて後ろを振り返るが、そこにいるはずの青年はそこにはいなかった。

 どこに行った?と疑問がうかぶのと同時に、ベンケイは自分を追い越していく突風に襲われた。思わず目を伏せるが、不自然な影が自分の頭上を通っていったのを感じてすぐさま上に目を向ける。

 

 

「あっ……」

 

 

 ベンケイは目を奪われた。自分の頭上、数メートル上空を悠然と飛翔するソレは、青空と逆光もあいまって何だかとても神々しいものに見えたのだ。

 

 そして、その飛翔物体が先程まで一緒にいた仮面の青年であることを直感的に感じ取っていた。声をかけるよりも先にベンケイは青年に向かって右手を伸ばしたが、青年はベンケイの方を見向きもしない。それどころか何もないはずの空間を蹴ってどんどん上へ上へ、先へ先へと進んでいく。

 

 ベンケイはそれを呆然と見ていることしか出来なかった。

 

 

「そんなんずっこいわぁ」

 

 

 何も掴むことが出来ずに真っ直ぐ伸ばされた右手。その手は、遠ざかっていく青年を捕まえるように重ねられ、強く強く握られた。

 

 

「逃がさへん」

 

 

 そう呟くベンケイの瞳は、まるで獲物を見つけた豹のように鋭く光っていた。

 

 

 

 

 

 

 ベンケイが現場に到着した時にみた光景は、仮面暴風族が数名の警察官に敬礼をされているというものだった。

 少し視線を移すと、地面に伸びている男を二人がかりでパトカーに乗せようとしている警察官たちがいた。よくみると意識を失っている裸足の男の手首には手錠がしてある。つまり、あの男を捕まえたのはこの警察官たちではなく、そこにいる仮面暴風族なのだろうとベンケイは推測した。

 

 いつのまにか仮面暴風族は、ロングコートとハットを身につけた男性と何か話していた。この距離ではハッキリと会話の内容が聞こえないので、ベンケイは歩いて距離を詰めることにした。

 

 青年が男性に頭を軽く下げたり、男性が青年のズボンのポケットから飛び出ていた観光雑誌を取り上げたりしている間に会話が聞こえるようになる。

 

 

「とにかく、場所がわからないからと現場に遅れるのは論外だ。これ以降は自由行動はなし。俺たちと行動しろ、わかったな?」

 

「……わかり「ちょい待ちや」……ベンケイ」

 

 

 思わず割り込んでしまったが……問題ない。聞き取れた部分からしか判断できないが、このままでは青年はこの男性と一緒に行ってしまうのだろう。

 

 それでは駄目なのだ。

 

 ここで別れてしまえば、連絡先も顔も名前も一切知らないこの仮面の青年に再び会うことは困難になるだろう。困る、非常に困る。ベンケイは青年が空を翔ける姿に魅せられ、憧れたのだ。

 

 あの飛翔の方法を教えてもらわない限り、ベンケイは夜も眠れないだろうとわりと本気で考えていた。

 

 

 急に会話に口を挟んできたベンケイの方へ二人は顔を向ける。

 

 

「誰だこのお嬢さんは」

 

「あぁ、彼女は「さっきこの人に危ないところを助けられましてなぁ。お礼にデートする約束なんどす」おいっ」

 

 

 ベンケイは青年の左腕を少し強引に抱きしめる。ベンケイの突然の行動に青年は短く抗議するも、本人はどこ吹く風。むしろ腕に力を込めることによって、絶対に逃がさないという意思表示をする。

 

 

「観光じゃなくてナンパなんてしてたのか。あぁ、だから一人で行動したいって……」

 

「違いますヤスさん聞いてください」

 

 

 仮面のせいで表情は見えないが、雰囲気から焦って弁明しているのが分かる。それが何となく面白くて小さく笑ってしまう。

 自分が笑われているのに気がついた青年は、ベンケイの方に無言で顔を向ける。これは『お前のせいなんだぞ』と伝えたいのだろうか?勝手な想像だがそんなに間違っていない気がする。ベンケイは一層面白くなってしまった。その事に気付いたのだろうか、仮面からの圧が強まった気がする。

 

 

「くっ、ふふっ。やっぱり愉快な人やわぁ」

 

「お前なぁ……」

 

「なんだお前たち、仲良いな」

 

 

 そんなやり取りを眺めていた男性──ヤスはどこか呆れたように言う。

 

 

「でも悪いなお嬢さん。そいつは今、仕事の真っ最中なんだ。デートは諦めてくれ」

 

「あぁ、その事なんやけど一つええどすか」

 

 

 

 

 

 

「……なんでそうなる」

 

「なにいっとるん。ほら、次はこっちですよって」

 

 

 そう言って先導するベンケイの後を仮面暴風族は渋々付いていく。

 

 そう、ベンケイは青年と行動を共にする権利をもぎ取ったのだ。

 

 正確に言えば、ベンケイが青年を道案内する旨をヤスに申し出たが、ヤスはそれを却下。むしろ平日にも関わらず制服でいることに対して言及したところ、旗色が悪いと感じたベンケイは青年の手をとってその場から逃走したのだ。

 

 つまり、彼女は物理的に権利(仮面暴風族)をもぎ取ったのである……ちなみにバイクは近くの駐輪場に置きっぱなしになっている。

 

 その後、ベンケイに連れ去られるがままだった青年がヤスに電話で自身の無事を報告し、そのまま一緒に行動していいと許可がでたのだ。

 仕事をちゃんとしてくれるならもう何でもいい、というヤスのわりと投げやりな思考の結果である。

 

 

「ええやない。アンタ自由に観光したかったんやろ。何がそんなに不満なんどすか?」

 

「まぁ確かに観光はしたいし、ヤスさん達と行動してたら観光は出来なかっただろうけど。だからと言ってベンケイに案内されるのも違うんだが」

 

「我が儘言うたらあきません。というかこんな美人がガイドしとるんやから、もっと有り難がらんとバチが当たりますよって」

 

「……どーもありがとーございまーす」

 

 

 青年の投げやりな返答を聞いて、ベンケイは微笑む。

 

 

「何か笑うとこあったか?」

 

「不貞腐れて子供っぽいなぁ、思ただけどす」

 

「もしかして馬鹿にしてるのか?」

 

「まさか。かわいらしいと褒めとります」

 

「はぁ、もう何でもいいから金閣寺に連れてってくれ」

 

 

 青年は少し疲れた様子で先を促した。

 

 

「そう言うたら何でそないに観光したいんどすか?いえ、もちろん名所は沢山あるんやけど、仕事そっちのけで見るほどでもあらへん思いますえ」

 

 

 ベンケイは目的地に向かいながら何気無く尋ねる。大して気になっていたわけではない。ちょっとした話題として振ってみただけである。

 

 

「えっと、リカ……家族が最近修学旅行で京都に行って、アレを見たコレを見たって嬉しそうに話してたから……少し、俺も見てみたいなって……思ったから。それだけだ」

 

 

 青年はフードを深く被り直しながら答える。

 

 羨ましいからか……いや、共通の話題作りだろうか。名前からして姉か妹だろうが、仲は良好のようだ。

 

 相変わらず仮面のせいで青年の表情はわからないが、かわいらしいなとベンケイは再び笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「金閣寺……あの金箔全部売ったらいくらになるんだろう」

 

「その仮面つけて夢のあらへんこと言わんでもろうてええ?なんか残念な感じがするさかい。ほら、お昼食べに行きますよって」

 

「呼び出しがあったら困るから、テイクアウト出来るもので頼む」

 

「りょーかい」

 

 

 金閣寺の観光を終えた二人は少し早めの昼食をとるために、近場にあった全国チェーンのハンバーガーの店に入り、テイクアウトする。

 

 店を出て、少し歩いた所にあるベンチに並んで座る。

 

 

「モグモグ……さて、ほんならいろいろ気になっとったこと聞かしてもらいましょか」

 

「ジュゴー……身バレするような情報はNGだ」

 

 

 少年は仮面を少しずらして飲み食いをする。やっぱり食事の最中でも外さないか、と横目で盗み見る。

 

 

「それも気になりはしますが、今聞きたいのはちゃいます。ライダーは空飛んどったやろう。アレは何?」

 

「あぁ、A.Tのことか」

 

「えあとれっく……聞いたことはありますな」

 

「細かく説明するのは面倒だ。ちょっと凄いインラインスケートくらいに思っておけばいい」

 

 

 青年はそう言ってリュックの中から自身のA.Tを取り出して、ベンケイに差し出す。ベンケイはハンバーガーを脇に置き、それを受けとった。

 

 白を基調としたそれは、実際に持ってみると見た目よりも軽く感じた。

 ざっと観察してみる。ホイール部分は幾らか摩耗してはいるものの、ブーツ部分は傷一つなく綺麗であった。

 

 

「そういえば、街中でコレ履いて走ってる人見たことありますわ。そやけどアンタみたいに翔んどった人はいてません。特別なのはコレ?それともライダー?」

 

「ジュゴゴゴー……ご馳走さまでした。そのA.Tは比較的安いやつに手を加えたものだから、そこまで特別なモノではないよ」

 

 

 青年はベンケイに左手を差し出す。ベンケイはA.Tを青年に返し、残ったハンバーガーとジュースを手に取った。

 

 

「まぁ、俺はその辺の奴らよりA.Tに触れている時間が長いってだけだから、特別とは言えないんじゃないかな。数年後には大して珍しいものでも無くなってるさ」

 

 

 青年は食べ終わったゴミを纏めながら、そう言う。

 

 

「……そんなもんどすか」

 

 

──Prrrr....Prrrr....Prrrr....Prrrr....Prrrr……

 

 

「はい、もしもし。……暴行事件からの逃走……三人。場所は……了解しました」

 

 

 青年はベンケイに顔を向ける。ベンケイも食べ終わったようで、自分と青年の分のゴミを袋にまとめて立ち上がり、近くに設置されていたゴミ箱に捨てていた。

 青年もベンチから立ち上がり、リュックを背負う。

 

 

「そう言えばバイクはどうした」

 

「置いてきました」

 

「お前、どうやって道案内する気だ」

 

 

 ベンケイはにっこりと笑って青年を指差す。青年はその意図が読めずに小さく首をかしげる。

 ベンケイは笑みを絶やすことなく、無言で指を差したままで青年に歩み寄る。

 

 

「おい、まさか」

 

 

 悪い予感に思わず青年は一歩後ずさる。その一歩さえも無かったことにするようにベンケイは踏み込んで、距離をほぼゼロにする。

 

 コツン、と人差し指を仮面の鼻の辺りにあてる。青年よりも幾らか身長が高いベンケイは、少し前屈みになることで青年の仮面と正面から向き合う。

 

 仮面がなければ互いの吐息が感じられる距離。端から見ればキスをしているようにも見えるその体勢で、ベンケイは笑う。数多の男性を虜にするような、妖艶な微笑。

 

 

「抱えとくれやす。もちろん、お姫様だっこで」

 

 

 仮面の向こうで青年がげんなりしたような気がした。

 




 あらためて、方言おかしかったら教えてください(切実)

 まだ続くんだ。許してクレメンス。


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16話 餌


 これ出すからさっきの間違って投稿したヤツは忘れてくださいお願いします(土下座)


「アンタ凄いわ!ウチら空翔んどりますよ!癖になりそうやわ!!」

 

 

 なにがどうしてこうなった!?なゲーム実況、始まってる!!

 

 

 いや、ほんとうに何してるんでしょう?私はただ観光しながら、たまに仕事をこなすくらいしか考えてなかったんです。それがいつのまにかベンケイ(JKの姿)をお姫様だっこで運搬しながら行わなければいけなくなるとか誰が予想できますか!?

 

 というかベンケイの身長が180cmくらいあって、ボン・キュッ・ボンのナイスバディなせいで普通に重いんですけど。

 

 

「今いらんこと考えよりました?なぁ?」

 

 

 あーあーあー!やめてください!首に回した手に力を込めるな!仮面を取ろうとするな!落とすぞ!!

 

 

「今は機嫌がええさかいこのくらいにしましょ。いらんことされとうなかったら、失礼なこと考えへんことや。ほら、もっと左の方どす」

 

 

 あーもう!どうにでもなれ!(ヤケクソ)

 

 ベンケイに指示された通りに進んでいきます。この際、不法侵入など法を犯してはなりません。当たり前だよなぁ!

 

 はい、サイレンを鳴らすパトカー発見。あれ?一人しかいなくないですか?犯人は三人だったような……まあとりあえず、あいつを捕まえてから考えますか。

 

 加速して、高く飛び上がって、犯人の背中にライダーキーーーック!

 

 楽勝ですね。あぁ、背骨は折らないように手加減したので大丈夫です。

 

 で、残りの二人は?一人はコケて捕まえられたけど、もう一人は逃走中?

 うーん、ちょっと探してみましょうか。“大地の道”で地面、ひいてはそれに接する全ての面から情報を得ましょう。

 

 急いで逃げる荒い走り、隠れるように人気のない方へ移動するような軌道、周囲を気にすることによって生じる無駄な左右へのブレ───

 

 みっけ!そんなに離れてないみたいなんでパパッと行きましょう。

 

 こっちの裏路地を走り抜けて、この壁を乗り越えてショートカットすれば……ほら!犯人(仮)の目の前に先回り!

 

 目の前に風を生み出して撃ち込めば、お馬鹿さんを吹き飛ばして楽々逮捕ってわけですよ。

 血の臭いがするし、暴行事件の犯人って言ってたしたぶんコイツでしょう。さーて、さっきのお巡りさんに引き渡し……あっ。

 

 

「……流石に捕り物の最中もこのままだとは思わんかったわ。まさかとは思うけど、こないな可憐でか弱い女の子の存在を忘れとったわけやあらしまへんよな?」

 

 

 うががががが、首の後ろをつねるんじゃありません!

 

 

「抱き心地良すぎて離しがたかったんやろ、なぁ?」

 

 

 ……ソウッスネェ。

 

 

 

 はーい、そんな感じでベンケイとあーだこーだ言いながら観光と仕事をこなすだけですので、倍速にしましょう。

 

 清水寺、京都タワー、引ったくり、東寺、痴漢、交通違反、器物損壊などなど。一日でなかなかハードスケジュールですね。あっという間に夜ですよ。

 

 

「残念やけど、ウチはそろそろお役ごめんやな。なぁ、やっぱり連絡先交換せえへん?」

 

 

 嫌だよ(即答)

 

 何のためにこんな仮面まで着けて正体隠してると思ってんだよ、あぁん?

 

 

「……せやろうな。あーあ、せっかくウチがA.Tを手に入れたときに扱き使うたろうと思いましたのに」

 

 

 え、マジな顔じゃん。天下のグラチル様を便利道具扱いするのはやめな~??

 

 

「まあ、今日お手本を見せてもろうただけでも良しとしましょ。さてと、ちょっと飲み物買うて来ますわ」

 

 

 行ってら~。

 

 にしてもベンケイとこんな風に一日行動を共にするとは思ってませんでしたよ。いやまあ、好きなんですけどね、ベンケイ。体つきがエロいじゃないですか(直球)

 原作のあの豹柄+黒ビキニはいつみてもワケわからんですが、今の制服姿はとても良い。黒セーラーにロングスカートとかスケバンかよと言われかねませんが、高身長なベンケイには大変良く似合います。花丸!!

 

 なんでわざわざ道案内までかってでてきたのか疑問だったのですが、一日一緒にいてなんとなくわかりました。

 彼女、A.Tについて興味津々だったんですね。簡単な走り(ラン)方から壁走り(ウォールライド)などいろいろ聞いてきましたから、スシ君をハウツー本代わりにしてるのがすぐにわかりましたよ。あの調子だと近々A.Tを買いそうですね。

 

 ……というかベンケイ遅くないですか?さすがに挨拶もせずに別れるのは薄情でしょうし……探した方が良いんでしょうかね。

 

 

「おい、仮面のお前」

 

 

 ん?なんか知らない三人組に声をかけられました。見るからに不良少年って感じの出で立ちで、全員A.Tを履いているようです。私、罪を犯してない野良暴風族には興味が無いんですが。

 

 

「あのデケェ女は預かった。無事に返してほしかったら大人しくついてこいや」

 

 

 ……強要罪???(お馬鹿)

 

 


 

 

 普段であればこんな無様は晒さなかった、というのはただの言い訳だろう。

 

 彼と別れて飲み物を買いに行った途中で、後ろからスタンガンを当てられて動けなくなってしまった。その間に手と足を縄で縛られ、ろくな抵抗もできない内にこの場所に連れてこられてしまった。

 見たところボーリング場のようだが、至るところに落書きがしてあり、ゴミも散乱している。そう言えば、しばらく前に潰れてそのままになっているボーリング場があったなと思い出した。きっとそこだろう。

 

 彼との時間が楽しくて気が緩んでいた、と考えが浮かんだ瞬間ベンケイは己を恥じた。他人を言い訳に使うだなんて最低だ。

 なんとか縄から抜け出せないかと、床に転がされた体を動かす。

 

 

「この糞アマ!!大人しくしろや!!」

 

「がっ」

 

 

 廃屋にざっと三十人以上いる男達の中でも、一番体格の良い大男に腹を蹴りあげられて、数回床を転がる。痛みに耐えながら大男に目を向けると、A.Tを履いているのが見えた。良くみると他の男達も皆A.Tを履いているようだ。

 

 

「おい、止めとけって。この女、喧嘩が馬鹿強いって最近噂になっとる『ナニワの毘沙門天』やぞ。後で報復なんぞに来られたら……」

 

「相変わらずお前はビビりやのぉ!玉付いとるんか!あぁん!?だいたい、こんな女一人で何が出来る?……あぁ、いや。ナニはできるか。仮面野郎をブッ殺した後は、この女に誠心誠意謝罪の気持ちを込めて尽くしてもらわんといかんなぁ。なんてったってあの仮面野郎の仲間なんやから」

 

 

 大男を諌めた細身の男以外から、下卑た笑いが聞こえた。クズが、と内心で悪態をつくが、縛られて動けない状況は変えられない。だが、やられっぱなしは趣味じゃない。

 

 

「なるほどなぁ。つまりアンタらはあの人に逮捕されたお馬鹿さんらの仲間ってことやろ。ほんま、御愁傷様」

 

「なあ、お前!自分の立場っ!分かっとんのかっ!お前は餌やっ!あの糞野郎をおびき寄せるための餌っ!無様に床に這いつくばる雑魚っ!身の程をっ!わきまえんかいっ!!」

 

 

 大男は苛立ちを隠すこともなく何度もベンケイの体を蹴りつけ、踏みつけた。ベンケイは弱っている姿を晒さないように声を出来るだけ抑えて、不適に笑って見せた。

 

 それを見た大男は分かりやすくキレた。床に転がるベンケイの長い黒髪を無造作に掴み上げる。それに引っ張られて上を向いた彼女の顔に大男は顔を近づける。

 

 

「俺は身の程をわきまえろって言ったよなぁ?聞こえへんかった?ならそんな役立たずな耳要らんよな?切り落とすぞ」

 

 

 そう言って大男はナイフを近づける。目の前に突き付けられた刃物にベンケイは本能的に恐怖を抱くが、表情に出してなるものかと挑発的な微笑を絶やさない。

 

 

「ええ度胸しとるやないか……お前、よう見たら綺麗な顔しとるなぁ」

 

 

 落ち着いた声色と裏腹に、大男は掴んでいた髪を投げ捨てるように放った。

 

 

「胸もデカイし」

 

 

 なんの躊躇いもなくベンケイのセーラー服の胸元から真っ直ぐナイフで引き裂く。隠されていたブラジャーが露出した瞬間、周りにいた男達から歓声があがる。

 

 

「こんな綺麗な足なんやから、こんななっがいスカートで隠すなやー、勿体ない」

 

 

 大男の左手が、ベンケイの足首に直に触れる。焦らすようにゆっくりとその手がふくらはぎ、膝、太ももと撫で上げる。大男の手によって少しずつめくり上がっていくスカート。その布に守られていた白く引き締まった健康的な脚が晒されていく。

 

 

「やっぱええわ、めんどくさい」

 

 

 大男はそう言って、先程までの時間をかけていた様子とはうってかわって一瞬でスカートをナイフで引き裂き、ただの布になってしまったそれを剥ぎ取ってしまった。

 

 ベンケイが身に付けているのは靴と靴下、黒のパンツ、切り裂かれたセーラー服と黒のブラジャー。その上、手足を縛られて床に転がされている。

 

 ベンケイもさすがにこの状態には羞恥を覚え、顔を隠すように下を向く。声をあげて取り乱さなかった事だけが唯一の強がりだった。

 

 そんな光景を目の前に男達のボルテージは最高潮に達する。

 

 

「なんかもう仮面野郎のことなんかどーでも良くなってきたわ。久々の上玉やし、俺のコレもこんなんなってしもうたし……責任とってもらわんとなぁ」

 

 

 大男はズボンの中からでも主張するソレをベンケイに見せつける。ベンケイは射殺さんばかりに睨み付けるが、最早これから行われる行為のスパイス程度にしか思われなかった。

 

 ベンケイは無理やり仰向けにされる。抵抗しようともがくも、周りにいた男達数人に押さえつけられてしまった。

 大男はニヤニヤと笑いながら、ベンケイのパンツへと手を伸ばす。この先のことを想像し、思わずベンケイは目を固く閉じた。

 

 

───ガンッガンッ

 

 音が響いた。

 




 
 エロが書けないからこの小説はR15なんだ


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17話 うっかりさん

 戦闘描写なんてかけませーん!


 

───ガンッガンッ

 

 

 それほど大きな音ではなかった。しかし、男達の歓声が響くなか、その音はやけに際立って聞こえた。

 

 大男の手が止まり、男達の声もやむ。

 

 ベンケイも目を開けて音の方を見た。

 

 

───ガンッガンッ

 

 

 もう一度音が鳴る。どうやらボーリング場の外から扉を叩いてる音のようだ。

 

 

───ガンッガンッガンッガンッ

 

 

「うっさいわボケ!今良いとこなんやから邪魔すんなや!」

 

 

───バーーンッ!!

 

 

「呼ばれたから来てみればこの扱い。新手の嫌がらせか」

 

 

 勢い良く壊された扉。暗闇の中から一人の人間が、大きなナニかを肩に担いで入ってきた。

 

 今日一日で見慣れたダボついた白のジップアップパーカー、黒のズボン、足元には白を基調としたA.T。そして、フードから見える安っぽい仮面戦士の仮面。

 

 彼は肩に担いでいたものを床に落とす。落下した際に大きな音と呻くような声がした。良く見たらボロボロの男が三人、縄でぐるぐる巻きにして纏められていた。

 

 

「テメェ!」

 

「道案内にはもっと丈夫なやつを頼む。思わず殴ってしまったら気を失ってな。目的地を聞き忘れてたから、何度か殴って目を覚まさせてと……わりと面倒だったんだ。その後も、場所だけ言って気を失うし。観光名所じゃないから場所が良くわからなくて、此処に辿り着くまでに大分迷ってしまったんだぞ」

 

「なに言ってんだ、お前!」

 

 

 ベンケイが仮面の青年を見ていると、青年もこちらを向いた。仮面のせいでハッキリとしないが、確かに目があった気がした。

 

 

「帰るぞ、ベンケイ。帰り道がわからないんだ」

 

「ふっふふっ、ええですよ。帰りましょ、一緒に」

 

 

 暗に道案内をしろと言われたベンケイは思わず笑ってしまう。現状はたった一人味方が増えただけ。それも三十人以上の男達を前にしては頼りない増援だ。しかし、彼なら何とかしてくれるような気がした。

 

 

「なーなーなーなー!俺を無視すんなや!」

 

 

 ベンケイの側にいた大男が立ち上がり、仮面の青年を睨み付ける。青年もベンケイから目線をはずし、大男を見る。

 

 

「……そいつに怪我させたのはお前か?」

 

「あぁん?なんやねん、急に。せや、ちぃとばかし口が悪うてな。ちょっとしたお仕置きや」

 

「そんな格好にしたのもお前か?」

 

「服ならヤるのに邪魔やさかい、ちょちょいっと切ったったわ。なんや、興奮したんか?そいやったらお前をボコした後、目の前で俺が美味しく戴いてやるさかい、それオカズに床でオナってろこのタコ」

 

 

 発言した大男を含め、周囲の男達はゲラゲラと笑う。青年は不気味なほどに静かだった。

 

 

「……さっきからお前の態度が気に食わん。この人数差やぞ、目ぇ見えてへんのかクソが。余裕ブッこきよってからに、ムカつくわ。そもそも俺の(テリトリー)で好き勝手しよるのがめっちゃどたまにくるねん。あぁ、そうや思い出してきたわ。俺、お前が無様に這いつくばって命乞いをする姿が見たくてしゃあなかったんや。そうやそうや忘れるところやったわ……ちゅうわけで」

 

 

 大男の言葉で周りの男達の雰囲気が変わる。ベンケイを取り押さえていた男達も立ち上がり、皆一様に仮面の青年を取り囲むようににじりよる。

 

 

「さっさとヤッてまえ!」

 

 

 次の瞬間男達が一斉に青年に飛びかかる。

 

 

「あ゛っ!」

 

 

 しかし、青年に攻撃は一つも当たらない。それどころか男達は青年からの攻撃を一つでも受けると、糸が切れた人形のように簡単に倒れていった。的確に鳩尾に一発叩き込んだり、後ろから手刀を当てることによって気絶させているらしい。

 

 

「うわぁ!」

 

 

 決して姿が消えるほどのスピードではない。しかし、相手の視覚から消えるのが上手いのだ。現に端から見ているベンケイには、青年がどう動いているかが見えているのに、相対している男達は青年のことを見失っている。

 

 

「クソッ!どこに、ぐわっ!」

 

 

 一方的な攻撃を受けて膝を折る男達を、青年は次々に縄で拘束していく。

 流れるような動きに目を奪われていると、あっという間に大男以外は拘束されて……いや、最初に大男を諌めようとしていた細身の男が端の方で縮こまっていた。それ以外は彼によって全員縄で縛られ地に伏していた。

 

 数えるのも可愛そうになるくらいの短時間で作り上げられたこの光景に、大男の顔が怒りによって大きく歪む。

 

 

「雑魚っ!雑魚っ!雑魚共がっ!俺に恥かかせよってっ!この仮面野郎を殺したらお前らも全員殺したるからなっ!」

 

 

 怒髪天を衝くといった様子の大男を、仮面の青年はチラリと見てすぐに視線を外した。大男のことなど眼中にないのか、足元に転がっている男達を邪魔だと言わんばかりに放りながら一ヶ所に集めていた。

 

 

「……オイ、ナニ余裕かましとんねん。ちぃとばっかし人より速いからって調子乗んなよ、このタコっ!」

 

 

 大男が青年に向かって殴りかかった。ベンケイは昼間から何人もの暴風族を見てきた。偉そうにするだけあって、大男の走りはその中でもかなりの速さと言えた。

 

 顔めがけてとんできた拳を青年は最小限で避けると、そのままがら空きの大男の腹部へ一発。

 

 

「かはっ!」

 

 

 大男は苦悶の表情を浮かべるも、倒れることはなかった。むしろ先程より怒りに満ちた表情を浮かべている。

 

 

「コロスッ!」

 

 

 大男の猛攻。殴る蹴るだけでなく、ベンケイの衣服を切り裂いたナイフをも振るって青年の命を絶たんとしている。

 

 しかし、その攻撃のどれもが青年には届かない。それどころか攻撃によってできた隙を見逃さず、腹部に拳や蹴りを確実に打ち込んでいく……というか腹部ばかり狙っているようにベンケイには見えた。

 

 

「うぐっ、おぇ……はぁはぁ。なんでや……なんで当たらんのや!」

 

 

 大男の動きは痛みと疲労により精彩を欠いていたが、それでも攻撃の手を休めることはなかった。一方の青年には疲れは微塵も感じられない。

 

 

「俺が恨まれて狙われるのは想定内だし、それでも構わないと思っている」

 

「クソッ」

 

「だがな……そいつを巻き込むのは違うだろ、なぁ?」

 

「黙れっ!クソッ!クソクソクソクソクソッ!!」

 

「……もう充分だ」

 

「ぁぁぁぁああああ゛あ゛!!死ねやぁっ!!」

 

 

 ナイフを持った右手が今までよりも速く、鋭い一撃となって青年の顔に突き刺さらんと迫る。

 

 ベンケイは大男のあまりの気迫に、青年の仮面にその刃が刺さる場面を幻視する。

 青年が痛みにのたうち、苦しむ姿は見たくないと思った。

 

 

───パシッ

 

 

 大男が突き出したナイフの切っ先。それは仮面の数センチ手前で止まっていた。青年の右手の親指と人差し指に挟まれる形で。

 

 

「クッソ!うごっ、けっ!」

 

 

 大男はナイフを動かそうと更に力を込めるも、ナイフはびくともしなかった。

 体格が良く2mはあろうかという大男に、それより20㎝以上は低い青年の力の方が圧倒していた。

 

 

「暴風族ならこんなナイフなんかじゃなくて、お前の“走り”で俺を屈服させてみろ」

 

「何を言ってっ、う"ぼぁ!!」

 

 

 気づけば青年の膝が大男の鳩尾に突き刺さっていた。

 

 

「お前の“道”は見るに堪えない」

 

 

 大男の手からナイフが離れ、そのまま前のめりに崩れ落ちる。青年はさっさと大男も縄で縛り、なぜかチラリと服をめくる。大男の腹部をみて満足げに小さく頷くと興味をなくしたのか、他の男達と同じように端に放った。

 

 

「……終わったんどすなぁ」

 

「そうだな。というかその痣大丈夫か?腹とか酷いぞ」

 

「まあ、痛みはあるけど……骨は大丈夫そうや」

 

 

 青年はベンケイの方に近寄り、しゃがむ。いつの間にか回収していたナイフを手に持ち、ベンケイの手足を縛っていた縄を切る。

 

 ベンケイはお腹の痛みにたえながら、上半身を起き上がらせる。手首や足首に赤く残った縄の跡を自由になった手で撫でるのと同時に、終わったのだという実感も湧いてきた。

 

 

「おおき、にっ!」

 

 

 ベンケイが感謝の言葉を述べている途中に返ってきたのは、頭に被せられた布だった。頭からどけて良くみると、今日一日で見慣れた白いジップアップパーカーだった。

 持ち主の青年を見ると、黒のTシャツ姿になっていた。フードで見えなかった部分も見えている。肩ほどまで伸びた黒髪を邪魔にならないように首もとで結んでいた。

 

 

「なんや、急に」

 

「いやいや、さすがにその格好は駄目だろ。ベンケイの方がほんの少し身長高いとはいえ……サイズは大きめだからある程度隠れるはずだ。着ておけ」

 

 

 身長差を気にしてたんだ、と彼に見えないようにベンケイは服で口元を隠して小さく笑う。小声で言った部分も普通に聞こえていたのだ。

 

 青年はベンケイに背を向けながら電話をかける。

 

 

「もしもしヤスさん、俺です。実は……」

 

 

 どうやらあの刑事にかけているらしい。その様子を見ながら、ベンケイは青年から渡された服を着る。少し暖かく、自分のものとは違う香りがすることに、ついさっきまで彼が着ていたのだと実感した。

 

 まあ、だからなんだという話だが。

 

 前のジッパーを閉めて、ふらふらと立ち上がる。袖は余っていたが、裾の方はギリギリ下着が隠れる程度の長さしかなかった。正直、動けば見えてしまうだろうことは容易に想像できた。

 ベンケイは自分の胸部を見る。ここが布を引っ張ってしまっているのだろう。

 

 青年が電話を終えて、ベンケイの方へ振り向く。青年の仮面がベンケイを見ながら分かりやすく上から下に動く。

 

 青年は拘束した男達のもとへ行く。一通り眺めた後、何を思ったか一人の男のズボンを脱がせ始めた。

 

 

「ちょっ……何してはるん?」

 

「それだけじゃ心もとないからズボンも履いてもらおうかと。ほら」

 

 

 そう言って青年は男から剥ぎ取ったズボンをベンケイへ放る。それをベンケイは一歩横にずれることによって避ける。

 

 ボトッ、とズボンは無情にも床に落ちた。

 

 青年はズボンを一瞥し、そのままゆるゆるとベンケイを見た。

 

 

「ばっちいから嫌や」

 

「いやでも「嫌や」あっ、そう」

 

 

 かなり強めの拒否だった。いくら際どい格好だからといって、自分を襲おうとしたヤツの仲間の服なんて嫌悪感で触れられたものじゃない。青年はその辺りデリカシーが無いようだ、とベンケイは思った。

 

 

「でも、そうやなぁ」

 

 

 少し困らせてやろう、とベンケイの悪戯心が顔を出す。

 

 青年のもとまで歩き、彼の履いているズボンを親指と人差し指でちょこんと引っ張る。A.T装備によって少しだけ高い位置にある青年の仮面を見ながら、甘えるような上目遣い。

 

 

「これやったら……ええで」

 

「そうか、わかった」

 

「えっ」

 

 

 即答だった。

 青年の姿が掻き消えると共に風が吹き、かわりに黒い物体が目の前に現れる。ベンケイは思わずそれを受け止めて確認すると、先程まで触れていた青年のズボンだと気付いた。

 

 

「速く履け」

 

 

 後ろを振り向くと、消えたと思った青年が後ろを向いて立っていた。きちんとズボンを履いて。

 ベンケイは床を見るが、さっきのズボンが見当たらない。

 

 

「まさか……この一瞬でズボンを脱いで、床に落ちてるズボンを拾って履いたやって?」

 

「速着替えは得意なんだ」

 

「んなアホな」

 

 

 これが今日一番の驚きかもしれない、そう思いながらベンケイは青年のズボンを履いた。「終わった」と声をかけると青年は振り返る。

 

 

「さっき警察に電話をした。そろそろこいつらを回収しに来てくれるだろう」

 

「そういうたら電話してましたなぁ」

 

「まぁ……諸々の事情説明はお前が出来るよ、なっ!」

 

「ひっ!」

 

 

 青年がナイフを投擲した先には、這いつくばりながら逃げ出そうとしている男がいた。終始端の方で縮こまっていた細身の男だ。

 

 

「あぁ、そういえばおったなぁ」

 

「説明役として残したんだ。警察に説明、出来るよな?」

 

 

 青年は投擲したナイフを拾って細身の男の前に屈み、仮面を着けた顔を近づける。そのまま青年は怯える男の喉元にそっとナイフの切っ先をあてた。

 

 

「もちろん、嘘偽りなくだ」

 

「はっ、はいぃ!!」

 

「これだけ見たら完全にアンタの方が悪者やな」

 

「余計なこと言うな……ん?来たか」

 

 

 青年の言葉で、ベンケイは微かなサイレンの音に気が付いた。

 

 

「ほな、早めにせんとな」

 

「何をだ?」

 

 

 ベンケイは大男のもとへ向かう。無様に床に転がり、縄で拘束された大男は気絶したまま動く気配がない。

 

 それを見たベンケイは右足を大きく上げ───股関に有るものへ全力で振り下ろした。

 

 

「あ゛あ゛っ!!!」

 

 

 短い悲鳴とともに大男のナニかが終わった音がした。

 

 

「べ、ベンケイ、さん?」

 

「あぁー、スッキリしましたわ」

 

 

 本当にスッキリした笑顔で振り返るベンケイに、青年はそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 そこから先は慌ただしかった。かなりの数の警官がサイレンと共に押し寄せ、男達を連行。ベンケイも事情を聞かれ、怪我のこともあるので病院へ直行した。

 

 

「でもまあ、入院しいひんでいいのは助かりましたわ。じっとしてるのんは性に合わへんさかい」

 

 

 今は青年に家まで送ってもらっている。警察に車で送ってもらうのは拒否した。青年に抱えてもらい、A.Tですぐに家に連れていってもらうのも今回ばかりは拒否した。

 

 青年が明日には京都を発つと聞いたから。少しでも長く話していたくて徒歩を選んだ。多少腹は痛むが、喧嘩で怪我をするのには慣れている。

 

 

「いや、幸い骨も臓器も無事だったみたいだが安静にはしてろよ」

 

「なんや、心配してくれはるん?嬉しいわぁ」

 

「当たり前だろう……そもそも俺に付き合わなければお前が怪我をすることもなかった。本当にすまなかった」

 

 

 青年は立ち止まり、ベンケイに頭を下げる。ベンケイも立ち止まり、青年を見る。

 

 ベンケイは別に謝られる必要はないと思っていた。そもそも青年の仕事に無理矢理ついていったのは自分なのだからと。

 

 あぁでも、と。ベンケイはこれを利用せずにはいられなかった。

 

 

「せやったら、まずはしゃがんどくれやす」

 

 

 青年は言われるがままにしゃがむ。ベンケイはその背中に体を乗せ、首に腕を回した。

 

 

「ほら、レッツゴーや」

 

「え、あぁ。わかった」

 

 

 青年は戸惑いながらもベンケイを背負って歩きだす。それはベンケイの体を労るように、優しい足取りだった。

 

 

「痛くないか?振動が傷に響かなければいいが」

 

「あんまり過保護すぎや。言うたやろう、喧嘩で怪我は慣れてるって。まあ、心配されて嬉しゅうはあるんやけどな」

 

「そう、か」

 

 

 そう言ったっきり、青年は黙って歩みを進める。

 

 無防備だな、とベンケイは思った。今、仮面を取ろうとしたらどうなるのだろうか。あっさり取れてしまうのか。昼間のように抵抗されてしまうのか……ベンケイの体を労るばかりにろくな抵抗も出来なさそうだなとも思う。

 

 

「何笑ってるんだ?」

 

「いいえ、別に」

 

 

 ベンケイは青年の首もとに顔をうずめる。不思議なほどに、心が落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

「ほら、着いたぞ」

 

「ん……」

 

 

 ベンケイは青年の声で目を覚ます。どうやら眠ってしまったらしい。

 

 

……どっちが無防備やねん

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもあらしまへん。にしても、よう一人で辿り着けましたなぁ」

 

「……わりと迷ったがな」

 

 

 青年はばつが悪そうに言う。ベンケイは青年の背中から降りて携帯を見る。

 

 確かに、想定していた時間を二十分ほど過ぎていた。

 

 

「寝てもうて堪忍な」

 

「構わない。今日はいろいろあったんだ、疲れて当然だろう。あとは布団でちゃんと寝ることだ……安静にしてろよ?」

 

「わかってますって」

 

「ならいい。それじゃあ俺はこれで。じゃあな」

 

「ちょい待ちや」

 

 

 あっさりと別れようとする青年の肩を掴む。ベンケイにとって一番大事な目的がまだ達成されていないのに、青年を帰すわけにはいかなかった。

 

 相対する青年に、ベンケイは笑顔で携帯を突き付ける。

 

 

「連絡先、交換しましょ」

 

「それ嫌だって言わなかったっけ?」

 

「ふーん、そないなこと言うんや、へぇ」

 

「な、なんだよ」

 

 

 ベンケイはお腹をすっと押さえて、体を縮こめる。

 

 

「あのとき蹴られたお腹が痛いわぁ」

 

「うっ」

 

「制服もあんなにされて怖かったわぁ」

 

「うぐっ」

 

「何かあったときのために頼れる連絡先が欲しいわぁ」

 

「う、いや、でも俺、この辺に住んでるわけじゃないから頼りにはできないと思うんだけど」

 

 

 ベンケイの演技は微妙なものではあったが、言っていること自体にはなにも間違っていない。そのため青年の拒否はとても弱々しいものだった。

 

 いける、とベンケイは思った。

 

 

「心の拠り所って大事やと思いません?別に絶対に返事を返せなんて言わん……御守り代わりに、な?」

 

 

 青年は黙って下を向き、次に天を仰いだ。その動作を何回か繰り返した後、最終的にベンケイから顔を背けるようにしながら携帯電話を取り出した。

 

 おちたな、とベンケイは思った。

 

 案外チョロくて思わずニヤついてしまいそうになるが、何とか抑える。

 

 

「後からやっぱり嫌や言われんよう、ライダーから送ってや」

 

「……あぁ、えっと」

 

 

 あまり連絡先を交換する機会の無かった青年は、ベンケイに指示されるがまま『プロフィール』を赤外線で送信した。

 

 送られたものを確認して、ベンケイは満足げな顔をする。

 

 

「ほな、お返しや」

 

 

 今度はベンケイから連絡先が赤外線にて送られてきた。

 

 

「それじゃあ、また会いましょな。シイナはん」

 

「なっ!!」

 

 

 青年は仮面を着けていても分かりやすいほどに動揺した。

 

 

「個人情報の取り扱いは気をつけんとあきまへんよ」

 

 

 ベンケイはそう言うと、携帯電話を持つ手をひらひらと振った。ハッとした青年は、携帯電話を開いて電話帳を見る。新しく登録された電話番号、メールアドレス、そして名前。

 

 

「って、お前登録してる名前ベンケイじゃないか!それはズルだろ!」

 

「なに言うてますの。隠すなら徹底的に隠さな……良い勉強になりましたな、シイナはん」

 

 

 青年───シイナは己の失態に両手で顔……というか仮面を覆った。

 

 ベンケイはそんなシイナの耳元に顔を寄せ、小さく呟く。

 

 

「─────」

 

「えっ、それって」

 

「可哀想なシイナはんにお裾分けや。ただ『ベンケイ』って呼ばれるのが好きやから、そっちで頼みますわ」

 

 

 ベンケイはそう言いながら家の敷地に入り、玄関の扉を開ける。

 

 

「ほな。また会いましょ、シイナはん」

 

 

 満面の笑みでそう告げると、ベンケイは家の中に入っていった。

 

 




 赤外線のやつこんな仕様だったような(覚えてない)間違ってても目をつぶって♡つぶらないなら潰すから♡
 ついでに玉潰す予定なかったけど過激派に流されて加筆しちゃった(てへぺろ)

 関西しめるとかいったけどここで終わりです。やりたいことやったしね、しかたない。

 次、眠りの森編。書き留めるので時間が空きます。


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