ダンジョン▶カプリチオ 〜TS三人娘のダンジョン動画投稿〜 (井戸ノイア)
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第一回【動画投稿開始!】

昔、なろうで書いてたのを読み返したら
改稿しつつ、続き書きたくなったので投稿
4話までは改稿するだけで、すぐ投稿予定



 えーとこれでいいのかな?

 

 少女が小首を傾げる。

 その少女の頭の両脇には真っ黒な手の大きさほどもある角が頭上に向かって伸びており、背中には皮膜の張ったこれまた真っ黒な翼が、そして後方でゆらゆらと揺れる艶やかな黒い尾。

 それらが、彼女は普通の人間では無いことをこれでもかと言うほど主張していた。

 

 そしてその少女の言葉に同意するかのように、後ろを向いた彼女へコクコクと肯首するもうひとりの少女がいた。

 一人目の黒とは対照的に白い髪とその天辺にピンと立った二つの白い耳。巫女装束のような、動きやすさを意識している和装に合わさるは二本の鞘。

 どちらも黒い簡素な鞘であるが、そこに収まっている刀からは抜かれていないにも関わらず鋭利な雰囲気が漂っている。

 刀に目線がいきそうになるが、その後ろにはこれまた小さく揺れる真っ白なふさふさの尻尾があり、彼女もまた普通の人間では無いことが分かる。

 

 

 ……大丈夫。麗は心配性。

 

 別に心配って訳じゃないさ。誰でも初めて触るモノには慎重になるだろう? 骨折り損のくたびれ儲けは嫌だからね。

 

 

 そうして話す二人に緊張感は無い。

 突如、麗と呼ばれた黒の少女の背後の通路から何かが姿を現した。

 それは一頭の人牛、二足歩行で歩く3mを優に超す牛だった。麗は気付いていないのか、そちらに目を向けることすらしない。

 

 人牛は口元を緩め、右手に持った己の身長と大差無いほどの大きさを誇る大木を振りかぶる。

 狙いは少女二人。

 この距離ならば一撃で二人とも葬ることが出来るだろう。

 話に夢中なのか、二人ともこちらに気付く様子は未だに無い。

 

 人牛は存分に狙いを定め、大木を振り下ろした。

 

 はずだった。

 振り下ろした大木は気付けばどこにも見当たらず、少女達は未だに会話を続けている。

 

 どうして、どうしてこいつらは潰れていないのだ。

 

 狼狽する人牛は何テンポも遅れて、ようやく痛みに気付いた。

 右腕が、痛い。

 意識すればするほどに右腕が熱を持ったかのように熱くなり、耐えきれず悲鳴を上げる。

 が、その悲鳴はすぐに止んだ。

 

 

 攻撃して来なければ逃がしたのに、馬鹿だねぇ。

 

 ……仕方ない。ここの奴らはそういう風にしか出来てない。

 

 

 人牛が知覚するよりも早く、頭が細切れになった。

 重い音を立てて倒れる人牛の身体を一瞥し、二人は何でも無かったかのように会話を続けた。

 

 

 まー大丈夫かな? じゃ本番いこっか。雅は準備オーケー?

 

 ん。いつでもいいよ。

 

 それじゃ、始めますか!

 

 

 麗が壁に突き刺した板の上にカメラを乗せた。

 そしてスイッチを入れる。

 カメラの前で手を振りながら、画面を覗き、撮れていることを確認してから麗は雅の隣まで戻った。

 

 

 あー、初めての試みで大分緊張してます。麗です。

 

 緊張はしてないかな。雅。

 

 えーと、今回ちょっと私たちの所属している企業の方からお願いされてこのような動画を撮る運びになりました。

 本当はもう一人来る予定だったのだけど、恥ずかしがっちゃって。次回までには説得して連れて来るので許してください。

 

 もう一人の名前は凜。とても明るい娘だよ。

 

 それでこの動画の目的ですけど、最近ダンジョンに一般人が入るための規制がだいぶ緩くなってきたじゃないですか。

 

 ちょっと前に、高校生まで認可されるかもしれないって話題になった。

 

 そうそう。ダンジョン探索も人手不足なのかなぁ。

 まあ、そんな訳でこれからダンジョンに入る人が急増することが見込まれます。

 そこで、ダンジョン内での活動や、知識を少しでも知って貰えたら無用な犠牲者も減らせるかな、ということなのです。

 

 本音で言えばこういう動画に需要が出そう。

 なら、作ったらいろいろ宣伝にもなるんじゃないかと。

 

 というわけで、これからちょくちょく動画上げて行く予定なので良かったら見てねー。

 で、一回目だしダンジョンの雰囲気を伝えようかなと思って、今ここ、ダンジョンの中です。

 

 67層だったかな。

 

 うーん。まあちょっと初心者向けでは無くなっちゃうんだけど、いつかはこんなとこにも来るのだと思って見て貰えれば嬉しいかな。

 それじゃ、移動するので一旦区切ります。

 

 

 

 

 こんなもんでいいのかなぁ。

 

 いいと思う。あんまり長くなっても面倒。

 

 じゃ、次行きますか。

 

 

 麗はカメラを構えて目の前の扉を映す。

 その扉は周囲の洞窟の中のような雰囲気とは違い、明らかな人工物の様相をしており、景色に馴染めずにぽつんと浮いて見える。

 

 

 たぶん、知っている人も多いと思いますけど、これは各階層に必ず一つあるボス部屋とか言われてる扉です。

 で、何でこんな深いところで撮影してるかと言うと、最初は一層とかでやろうと思ってたんだけどね。

 出てくるボスがね……。

 

 弱すぎた。

 

 あんまり簡単に倒しちゃって、ダンジョンは危険で無いなんて間違った印象を与えるといけないからね。

 それで67層っていう中途半端な階層なのには理由があって。

 このボス部屋って極稀に何も出てこない安全部屋みたいなのがあるんだよね。

 それで、このダンジョンは66層が安全部屋だったからそこに転移の巻物(スクロール)設置していつでも来れるようにしてる訳。

 

 すごく便利だけど、貴重品。

 

 まあ、その辺りの事情は置いといて、だから67層のボスで第一回やろうと思った訳。

 それにここなら雅一人でもなんとかなるからね。

 

 がんばる。

 

 というわけで、開けます。雅が。

 ここのボス厄介で、先に開けて貰わないと最悪カメラ落としちゃうかもしれないからね。

 で、今雅が既に戦っているのだけど、たぶんカメラには黒い影くらいしか映ってないよね。

 雅ー、ちょっと一匹ちょうだい。

 

 ん。

 

 よっ、と。

 これがここのボス。

 ダンジョンのモンスターってほとんど名前が付いてないけど私たちはスカイフィッシュって呼んでるよ。

 まあ、見た目まんまだしね。

 映ってないと思うけど数十匹単位で前方から次々に飛んでくるのを雅が撃ち落としてるところ。

 説明すると、こいつの口元鋭く尖ってるでしょ。高速で迫ってきてこいつらは敵にこの口先を突き刺すの。すると、口の中から小っちゃいフライフィッシュの赤ん坊みたいなのが体内に射出されて、身体の内側から食い破られるって寸法。

 弱点としてはこいつら自身は紙耐久なのと、突き刺す攻撃は大して強くないこと。

 全身鎧とかなら完全に防げるんじゃないかな。

 

 隙間通って入ってくるから、完全には無理。

 

 ま、そうなんだけどね。

 生身に喰らわなければ平気な攻撃ではあるよ。

 刺された部分をすぐに全力で叩けばこいつらの赤ん坊ごと倒せるけど、出来なかったら喰われてそのまま死ぬと思う。

 最初に挑んだ時は本当に死ぬかと思ったくらいだし。

 

 凜が一番やばかった。

 

 そうそう、もう全身血だらけで。

 この先に孵卵器みたいなのがあって、そこから無限湧きするからそれを壊せばここは終わり。

 その時助かったのは、ここのボスが全快の巻物(スクロール)を落としたからだよね。

 どうも、20~30回に1回くらい落とすらしくて今でもちょくちょく集めに来てるよ。

 

 深層はアレがあると無いとでは生存率が全然違う。

 

 そうそう。と、話が逸れちゃったな。

 まあそんな感じだね。

 ダンジョンって上のほうは子供でも頑張れば倒せるくらいのしか出て来ないけど、下のほう行くとこんな感じの魔境になるの。冒険が好き、一攫千金を狙いたいっていう夢は分かるけど、覚悟が無いならあんまりオススメはしないかな。

 

 私たちはやるしかないから、やってるだけ。命は大事に。

 

 というわけで、孵卵器も見えたし、もう壊しちゃっていいよ。

 

 

 そう言った瞬間、これまでモンスターが後ろに抜けないように刀を当てるだけに留めていた雅が二本の刀をほとんど同時に振り下ろした。

 刹那、宙を飛んでいた全てのフライフィッシュが真二つになり、まだ距離のあった孵卵器も同時に弾け飛んだ。

 孵卵器のあった場所を見れば、そこには既に残骸などは存在しておらず、何枚かの薄く透明な羽が落ちているだけだった。

 

 

 今回は外れだね。これ耐久性も無いし、綺麗なだけの使い道が無い羽だね。元が何に付いてたか知ってるからあんまり触りたくも無いし。

 

 元の見た目って大事。

 

 そうだね。それじゃあ、ボスも倒したことだしそろそろ終わるかなぁ。第二回は何やるかは未定だけど、絶対やるから見てねー。龍ちゃんこと、麗と、

 

 狐の雅。

 

 じゃあねー。



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過去1

始まりの物語


 世界に一斉にダンジョンが出現した日。

 世界からそれと同じ数の人間が消えた。

 

 

 凄まじい暑さと共に目を覚ましたそこは、自室では無かった。

 周囲を見れば、草一つ生えていない赤茶けた地面と、至る所に亀裂の入った大地。いくつかの大きな亀裂の中には、沸々と流れる溶岩の海が見える。

 それらを認識すると同時に、身体中から汗が吹き出して来る。

 暑い。たまらなく暑い。

 思わず着ている服を脱ごうとして、何も着ていないことに気がついた。

 そして、生まれたままの姿の身体は、これまで慣れ親しんできたモノとは別物になっていた。

 

 丸みを帯びた身体と、確かな膨らみ。そして消失した下の物。

 明らかに異常事態であるというのに、こんなものかという感想しか浮かび上がって来ない。

まるで、初めからこれが当たり前だったかのように。

 思い返してみれば、昨日までの自分の行動は分かるのに、親の顔も自分の名前も、友人の事も、おおよそ自分を定義する周囲の環境の全てが思い出せなかった。

 なのに恐怖心は湧いてこない。これも、当たり前に思ってしまっている。

 

 

 どちらにせよ、行動を起こさなければ。

 周囲は人の住めるような環境では無い。

 食糧も無ければ、水も無いのだからここに留まっていてはいずれ死を迎えるだろう。

 

 立ち上がって、一歩を踏み出して、地面のあまりの熱さに飛び退いた。

 ふと、地面を見れば何かの動物の皮の上に座っていたらしい。この動物の皮らしきものが、熱さから身を守ってくれていたようだ。

 

 移動が出来なければ、待っているのは死だけだ。助けなどという来るかも分からない曖昧なものに縋るのは、自分の命を賭けるにしてはあまりに分が悪過ぎる。

 

 意を決して、焼けた鉄のように熱い大地を進もうとしたところで、振動を感じた。

 ズシン、ズシン、と音を立てながらも、その振動の主は確実に近づいているようである。

 振動の方角を見れば巨大な亀のような生物が見えた。

 まだ、遠くに見える程度だというのにその大きさは常識を覆すようなものであることが伺える。

 迫る亀の目線はこちらを捉えているように見える。次の瞬間、巨体とは言え、亀とは思えないほどの速さで、それは一直線にこちらに向かってきた。

 

 拙い。

 

 俺は地面に敷かれていた動物の皮を持ってすぐに走り出した。

 素足が地面に触れて、灼けたように熱い。

 だが、それも命に比べれば安いものだ。

 振り返れば亀はやはりこちらに首を伸ばし、進路を変えて追ってきている。その足取りは心なしか最初に見た時よりも速くなっているように感じる。

 

 

 時折、小さな亀裂を飛び越えながらも走る、走る。

 亀を振り払うどころか、その距離は徐々に縮まっているように感じる。

 

 周囲の景色は一向に変わらない。

 途中から、足裏の熱さは気にならなくなってきた。

 だが、尖った石が何度も突き刺さって火傷と裂傷で足元はひどい有様になっている。それでも止まる訳にはいかない。

 

 距離が近づいたことでか、亀の口元に生える牙がハッキリと見えるようになった。追いつかれたら、あの牙で丸かじりにされてしまうのだろうか。

 

 途中、子供ほどの大きさをほこる鼠が亀に弾き飛ばされ、溶岩の海に沈んでいくのも見た。喰われなくとも死が待っていることは確かだということが分かってしまった。

 

 

 どれだけ走ったのだろうか。息が苦しくなってきた。

 そして、絶望が目の前に広がった。

 

 ……行き止まり

 

 走った末にたどり着いた場所は高台の行き止まり。下を見れば溶岩の海が広がっており、奥のほうに新しい大地が見える限りである。

 

 引き返そうにも、ここまで一本道。

 その道も巨大な亀に塞がれてもう戻れない。

 止まったことにより、亀の姿がよく認識出来るようになった。

 鋭い牙の生えた獰猛な口元。甲羅の代わりに巨大な山のような岩石を背負っている。その姿は家を想起させるほどに大きく、獲物を追い詰めたと言わんばかりにこちらを見定める瞳が細められる。

 奴はもう逃げられないだろうとばかりに、ゆっくりと距離を詰めてくる。

 

 心臓がドクンドクンと早鐘を打つ。

 

 ジリジリと距離を詰めてくる。

 

 心臓の動きがより早くなる。

 

 距離を詰めてくる。

 

 まだだ。もう少しだ。

 

 もう目と鼻の先だ。

 

 ッ!

 

 俺は手に持っていた動物の皮をバッと亀の目元に投げ、視界を塞いだ。

 刹那、結果を確認することも無く走る。

 後ろから亀の咆哮が聞こえてくる。その音だけで身体が竦みそうになる。

 

 走った先は亀の真下。この巨体、身体の大きさからして駆け抜けてしまえばすぐに方向転換は出来ないはずだ。

 亀の真下をくぐり抜けて、目指すのは視界の端に見えた白亜の扉。

 そこにあるのが不自然なくらい綺麗で、それでいて違和感の塊のようにポツンと扉だけがそこにあった。

 走っている時は気付かなかったが、亀に追い詰められてから気付いた。

 地団駄を踏み始めた亀の足を死ぬ気で躱して、なんとか抜ける。

 扉はもう目の前だ。

 

 そして、扉を乱暴に開け放った瞬間、左手に激痛が走る。その中に転がり込む。そして、見えた光景は……。

 首だけを伸ばし、俺の左腕を咥えて悔しそうな表情を浮かべる亀の姿だった。

 見れば左腕の肘から先が無かった。

 幸いにも傷口は灼け爛れており、出血は無い。

 ひどい痛みを感じる。

 だが、死線をくぐり抜けて気分が高揚しているのか、もう脚と同様に感覚が麻痺しかけているのか、取り乱すほどの痛みじゃなかった。

 だから、俺は残った右手を使って、徐々に閉まっていく扉の向こうの亀に向かって、中指を立ててやった。

 ざまあみろ、と。

 

 しかし、試練は終わらない。むしろこれからが試練と言わんばかりに、背後から別の咆哮が聞こえた。

 振り向いた先にいたのは、身体中に炎を纏った、亀よりも巨大な白い蛇だった。



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第二回【凛のお披露目だよ!】

 第二回はっじめーるよー!

 

 いえー。

 

 はい、という訳で。皆さんがたくさん見てくださったのでこんなにも早く第二回が開催出来ました!

 そして! 約束通り、凜を連れて来ましたー。

 

 

 そうしてカメラに映ったのは凸凹な身長の麗と雅の、ちょうど中間ほどの身長の少女だった。水色を基調とした、一般に浴衣と呼ばれるような動きにくい服装を纏うその姿はとても危険なダンジョンに来るような格好には見えない。

 また、二人と違って彼女には一目で人外と分かるような特徴は見当たらなかい。

 だが、よくよく見ると、彼女の足元にはそこだけが冷えているのか霜が降りており、やはり普通の人間とは一線を画す存在であることが伺われる。

 

 

 あ、えっと凜です。よろしくお願いします。

 

 固い、固い! いつもみたいな明るさはどうしたんだ?

 

 凜、いつもみたいにのののの言う。

 

 ちょ、雅ちゃん! それは違うの!

 あッ、えっと……あー凜なの。よろしくなの!

 

 そうそう。どうせ、カメラがある以外は普段と変わらないんだから気楽にやればいいんだよ。

 

 うぅ。分かってはいるの!

 だけど……

 

 そういえば募集。

 

 おぉ、忘れるところだった。

 冒頭で第二回としか言っていないように、この動画にはまだ正式な名称が決まっていない。

 そこで、皆にその名前を募集したいのだ。

 

 あうあう……

 

 凜、緊張し過ぎ。

 

 だってぇ。

 えっと、見事選ばれた名前を付けてくれた方には景品をプレゼントするの。

 何を贈るかはまだ決まってないけど、どんどん応募して欲しいの!

 

 じゃ、早速だけど告知はこれくらいにして、動画の方に移って行こうか。そういえば、前回の動画で紹介し忘れたから、凜も含めて今回紹介するぞ。

 まず、私は龍の変異者(メタモルフォシス)の麗だ。よろしく。

 

 狐の変異者(メタモルフォシス)、雅。よろ。

 

 雪女の変異者(メタモルフォシス)の凜です!

 

 で、まぁ変異者(メタモルフォシス)のことは、聞いたことはあるけど詳しくは知らないって人が多いんじゃないかな。

 なので、ダンジョンを攻略しながら変異者について説明しようと思うよ。

 

 今回もボス倒す。

 

 前回の動画で要望が結構あったらしくて、今回も深層で撮影してるの。

 ……凜は前回いなかったから関係無いのだけど。

 

 まぁしばらくは適当に雑談しながらダンジョンのいろはや、私たちのことを説明して行くことになるかなあ。

 もし要望があれば今回みたいにどんどん反映していくけどね。

 

 深層の動画はほとんど無い。

 

 そうそう、まあ私たちは需要に応えるだけさ。

 最高到達階層付近は流石に無理だけどね。

 

 あそこは動画撮ってる余裕なんてないの。気を抜いたら一瞬で死ぬの。

 

 動画が投稿されなくなったら、私たちは死んでる。

 

 縁起でもないこと言わないでくれよ……。

 さて、だいぶ話もずれてることだし戻ろうか。

 今回は凜がモンスターを倒してくれるよ。普段は後衛なんだけど、これくらいの階層なら問題無いからね。

 

 今は58層に来てるの。

 前回よりも浅い階層だけど、ここのボスは珍しいタイプだから期待してていいの。

 

 そういうことだ。

 さて、早速モンスターが来たな。

 あれは、えっと、何言おうとしたんだっけな。

 

 巨大カブトムシ……

 

 そうそう。ダンジョンにおける虫系統モンスターは気をつけるんだぞ。

 奴らは仲間の体液に反応して集まってくるから全部捌ききるか、体液を流させずに倒す工夫が必要だからな。

 

 ふふん、凜なら余裕なの。

 なんたって凜は雪女。体液ごと凍らせてやるの。

 

 ん。

 

 

 と、意気込む凜の隣から雅が一歩前に出て刀を一閃。

 刹那、巨大なカブトムシは細切れになり、その体液を周囲に撒き散らした。

 

 

 ちょ、何してるの!

 

 動画映え、がんばれ。

 

 

 と、通路の奥から地響きが鳴り始める。

 それは、目の前の光景を見れば何が来ているのか容易に想像が出来た。

 奥から目を光らせながら迫り来る。カブトムシの大群。

 凜が瞬時に最前列の集団を凍らせるが、その氷を砕いて後続が迫ってくる。

 

 

 いやぁぁぁぁ

 

 凜が動画栄えのために犠牲になったところで、そろそろ変異者についての説明をしようか。

 うーん、しかしいつ見てもこの光景は度し難い気持ち悪さだな。

 

 虫系統は危険。

 気をつける。

 

 うんうん。教訓にもなって一石二鳥だな。

 さて、変異者だがどこから話したものか。

 そうだな、始まりはダンジョンが生まれた日だな。私たちはその日、人間を辞めさせられ、ダンジョンで新たな身体を得たんだ。

 

 記憶も元の身体も奪われた。

 

 そうだな。そして、ダンジョンに放り出された。

 幸い、私たちは普通の人間よりも頑丈だし、力が強かったり、凜のように特殊能力が使えたりもする。

 だが、それでも衣類一つ無くダンジョンに放り出されて生還出来る確率は非常に低かったな。

 まあ当然と言えば当然さ。一層や二層ならともかく、生存者は大体20層付近に投げ出されたからね。

 モンスターに殺される者、水も食糧も無く衰弱して死んでしまった者。たくさんいたと思う。

 

 火山の地形だった。あれは最悪。

 

 ダンジョンが生まれた日に大勢の人間が行方不明になっただろう? 

 あれが私たち変異者だ。正確に言えば私たちなのかは分からないけどね。

 それぞれの人生の軌跡を記憶として覚えているだけだから本人であると証明することが出来ないんだ。

 今だってこんな話し方をしているが、これも意志とは別の話し方さ。

 気付いたらこんな話し方しか出来なくなっていた。私なんかはまだマシだが、雅は長文を話せなくなって不便だっただろう?

 

 もう慣れた。

 ……もう、慣れた…の。やっぱり、きつい。

 

 雅ちゃーん!? 凜がきついみたいに言うの止めてよー!

 

 こんな感じに誰かの口調を真似ることも出来ないんだ。

 その後になるが、なんとかダンジョンから生還出来た者達は国に保護されたり、ダンジョンを攻略しだすんだが、その辺りの動きは話し出すと長いからなぁ。

 もう凜も終わるだろうし、これくらいでいい、のかな?

 

 いいんじゃない?

 

 や、やっと終わったの。途中から黒いアレに見え始めて本当に散々なの。

 

 前回休んだ罰。

 

 うぅぅ。雅ちゃんそんなちっちゃくて可愛い見た目してるのにひどいの。

 

 

 と、凜の後ろを見れば大量の黒い虫が、霧になって消えていくところだった。

 その後にはキラキラと光る白い石が大量に表れる。

 

 

 虫系統が嫌われているもう一つの理由だな。こいつらは大抵何も落とさない。いや、そう言うと語弊があるんだが、この魔石しか落とさないんだ。

 魔石自体はどの階層のモンスターも落とすからな……。

 

 売値格安。

 

 深層に潜ってるとしょうがないの。

 

 まあ、格安と言えどこれだけ量があれば多少にはなるんだけどな。

 持ち帰るかって言われたら遠慮したいな。重いし嵩張る。

 最も、これが新エネルギーとして注目されてまだまだ数が足りないらしいからな。最近の入場規制の緩和もこれのためだろう。

 

 今回は動画撮るために来てるだけだから回収するの。麗ちゃんよろしくなの。

 

 ああ、うん。まあ任せろ。

 さて、凜がこの階層に出現していたカブトムシは全部倒してくれたはずだから邪魔されずにボスまで行けるな。

 じゃ、ボス部屋まで数分かかるからカット!

 

 

 というわけでボス部屋に着いたぞ。

 編集さんは頑張ってくれ。

 

 ここは攻撃飛んでこないし誰が開けても大丈夫なの。

 もちろん、初めて行くところは前衛が開けなきゃ即死するところもあるから注意なの。

 

 凜、早く開ける。

 

 雅ちゃん今日冷たくない!?

 

 と、じゃあ開いたし説明しようか。

 今回のボスは無機物系統の鏡だな。

 見た目はちょっと豪華な感じのする鏡だし、向こうから攻撃もして来ない。

 けれど、その性質はまさしく鏡で、厄介極まりない性質をしている。

 じゃ、凜よろしく。

 

 オッケーなの。

 

 

 と、凜が手を前に翳し、小さな氷の粒を生成、鏡にぶつける。

 氷が鏡に当たる瞬間、目の前で氷は消滅し、鏡から全く同じ形、大きさの氷が放たれる。

 凜はそれを軽々と手で受け止めて、放り投げた。

 

 

 今みたいに攻撃を反射してくるんだ。

 この鏡の機能は主に二つ。

 一つが今見せたような攻撃の反射。そしてもう一つが一定以下の威力の攻撃の無効化だな。

 元々耐久力は高いうえに、近接で攻撃しようものなら避ける暇すら無く反撃が来るからな。

 

 遠距離攻撃が無ければ、詰み。

 

 正確には詰みに近い、なの。

 いちおう一撃で倒せば反射もされないし、仲間が防御出来れば近接攻撃だけでも倒せなくはないの。

 

 仲間は大切。

 

 そういう訳だな。あとは、こいつが耐えれる範囲内の攻撃を利用すれば反射は訓練にもなるぞ。

 こんなふうに。

 

 あっははは。弾幕なの!

 

 

 凜は大量の小さな氷の礫を飛ばしながら、反射されて帰ってきた礫を避けて笑っている。

 器用に反射された礫と自身が放った礫を当てることにより、辺りにキラキラと氷が舞う。

 そして、ニヤリと笑みを深めた凜は、周囲のあらゆる角度から氷を放ち、無差別に反射させ始めた。

 それを見た雅は鬱陶しそうな表情を浮かべる。

 

 

 凜、こっちまで飛んできてる。

 

 どうせ大した攻撃じゃないから問題ないの!

 当たっても痛くも痒くもないの!

 

 

 と、地面の三脚に置かれたカメラの前に氷が迫る。

 すっかりカメラを意識していなかった三人はそれに気付かず。

 ガシャリ

 

 あっ

 

 慌てて駆け寄る麗と雅の姿と、顔を青ざめた凜の姿を最後に、映像は途切れた。

 



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第三回【自宅配信なの!】

書き溜めもとい、なろう投稿済みはここまで
順次、続き書いていきます



 第3回、ダンジョン深層チャンネル始めるぞ。

 

 おー。

 

 たくさんの応募ありがとうなの。

 いろいろ捻った素晴らしいアイディアもあったけど、動画のタイトルは分かりやすいのが一番ということでこうなったの。

 

 景品に関しては現在企画中だ。もう少し待ってくれ。

 で、背景を見て気付いたかと思うが、ここは私たちの家だな。

 今日はダンジョンに潜っていないぞ。

 

 さっそくタイトル詐欺なの。

 

 いつも同じじゃ、飽きる。

 

 まあそれもあったのだけど、今日は凜達に寄せられた質問の一つに答えようと思ってここにいるの。

 

 ずばり、どれくらいの実入りがあるかだな。

 そのくらいの事ならダンジョンに潜るまでもないかと思って今は家にいる。

 それに元々私たちはそんなにダンジョンに行く頻度は高く無いからな。

 

 週に二日くらい。

 

 これが多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれだと思うの。

 でも、この二日は命懸けで階層更新したり、最高到達階層付近で訓練に当ててる時間だから、凜としては多いほうだと思うの。

 

 休息は大事。

 

 他の日は今まで自由時間だったけれど、今はこうして動画撮ったりする時間に当てているぞ。

 とまあ、話題を戻して、私たちの実入りについてだな。

 うーん、これは正確な数字が分からないんだよな。

 

 そうなの。私たちはとある企業に一任しているの。

 だから、ダンジョンで得たものの大半はそっちに流しちゃうの。

 

 面倒だから。

 

 私たちが流してる物は、世界的に見ても両手の指で数えられるくらいの人数しか得られていない物が多いからな……。

 価値が高すぎる云々の前に価値が分からない。

 ちょっとくらい利益を損しても、そっちに任せるほうが楽なんだ。

 

 だから、原価とかはあんまり気にしてないの。

 あくまでこんなものなんだってくらいに思って欲しいの。

 

 それで、まぁ前回倒した鏡のボスを例に挙げると、ちょっと動画は撮れてないんだけど、これが落ちたんだ。

 見ての通り、ただの鏡。

 だけど、これは一度だけどんな魔法も吸収して、反射するという性質を持っているのさ。

 最初は本当にタダの鏡かと思われてて買取り金額すら付かなかったんだけど、今じゃそれなりに高価な物になってるね。

 と言っても、より深層になれば吸収の限界を越えるらしくて使えるのは70層辺りまでだけども。

 

 前回はこれが23枚落ちた。

 

 で、これの今の取引金額が一枚で12万円くらいなの。

 一度限りだけど、急所とかに設置しておけばそれだけで不意な事故を防げるから割と人気なの。

 

 と、一度の攻略でこれくらいは最低限、稼げる訳だな。もちろん流通が増えれば段々と値は下がっていくだろうけどね。

 あとは、第一回で落ちた綺麗な羽は一枚5000円くらいだっけな。当たりが出れば一気に数千万とかも狙えるわけだけど、命懸けでそれしか落ちなかった時は悲しい気分になるだろうな。

 最も、あの羽も私たちが知らないだけで、有用な使い道が眠っているのかもしれないけどね。

 

 低層ではもっと稼げない。

 

 そうなの。低層では前回カブトムシから大量に落ちた魔石が主な収入源になるのだけど、凜達が攻略してた時よりもかなり値が落ちてるの。

 今ではg/円程度の価値しか無いらしいの。

 

 大量に落ちたように見えてあれでも、十数kgにしかならないからな。良くて、数万円といったところだ。

 それに低層では量はもっと減るから、稼げるかと聞かれればバイトをした方がマシ程度としか言えないな。

 

 オススメは全く出来ない。

 

 だから、これからダンジョンを攻略しようとしている人はよく考えて欲しいの。

 それは命を懸けてまでしたいことなのかって。

 

 一攫千金が絶対に狙えないって訳では無いけどね。

 第一回で言ってた、巻物(スクロール)なんかは全階層で落ちることが確認されているしな。

 全快の巻物(スクロール)なんて言えば一枚で二千万はするな。

 

 病気も治せてたらきっと、もっとしてるの。

 あれは精々一時間くらい前までの傷しか完治出来ないからその程度なの。

 でも持ってたら、即死で無ければ絶対に生き残れるし、高価なのも納得なの。

 

 低層じゃ、宝くじを買ったほうがマシ程度の確率かもしれないけどね。

 じゃ、なんか話も世知辛くなってきたし、次の話題に移ろうか。

 えっと、他にもいくつか質問を頂いていて、どうして危険なのにダンジョンに潜り続けるんですか? っていうのが多いね。

 これは、私たち変異者の宿命とも言えることなんだけど前回話するの忘れてたね。

 ごめんね、こういうの本当に慣れてないんだ。

 

 簡潔に言うと潜らなきゃ死ぬ。

 

 頻度はそう多くなくていいのだけど、凜達、変異者の身体は半分くらい魔力で動いてるらしいの。

 あ、魔力っていうのは仮称で、正確にはどうやって生きているかよく分からない状態らしいの。

 例えば、凜の身体とかって常識的に考えれば考えられないくらい低温なの。平熱が-10~0℃とかそれくらいなの。

 

 その影響なのか、長期間ダンジョンに潜らないと段々と体調が悪化して、最後には死んでしまうみたいなんだ。しかも段々と環境に慣れてしまうのか、徐々に浅い階層では効果が薄れていくらしい。

 と言っても私たちは元々、ダンジョンを攻略して行った組だから、そんな風に弱っていく体験をした訳じゃないけどね。

 最初はお金のために潜っていたんだよ。

 

 ……何も無かった。

 

 国がある程度、保護してくれたからと言って、戸籍も友人も親類もお金も何も無かったの。

 だから、凜達だけでも生きられるように、独り立ちしたくて、三人でパーティーを組んでダンジョンに行くようになったの。

 

 また暗い話になっちゃったな。

 まあ要するにいろいろあったけど、今は楽しくやってるってことだよ!

 週休5日だしね!

 なんなら週休7日にだって出来る!

 ふう、何だか今日は暗い雰囲気になっちゃったし、ちょっと短いけどこれくらいで終わろうか。

 龍の麗と!

 

 狐の雅。

 

 雪女の凜でお送りしました、なの!



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