恋姫夢想 御使いの友(凍結) (秋月 了)
しおりを挟む

黄巾編
設定


 

人物設定

 

 

この話での主人公及びその周辺の人物の独自設定を紹介します。

この話は恋姫夢想革命を元に話を展開してゆきます。

なお原作に登場した人物も一部変更を加えています。

キャラの中には史実及び原作設定をがん無視したキャラもいます。

オリキャラは当時の常識などを無視した名前が多いです。

ほぼモブで一度しか出ない(予定)のキャラもいます。

それでもOKな方はどうぞ。

若干のネタバレあり。

今後追加の可能性あり。

 

 

現代人

 

水燕 白英(すいえん はくえい)

 

真名 総司(そうじ)

性別 男性

性格 真面目でも少し面倒くさがりな所がある。

   仲間思い。

武器  槍 見た目蜻蛉切

    刀    鶴丸国永

    銃    スペンサー銃(ほとんど使わない。)

 

主人公。本名は水城 総司。一刀とは幼馴染で歳上の先輩で大学生。

一刀が来る十五年前に幼い姿で来た。

現在二十歳。

本名は不自然だと言われて董卓に新しい名前を貰った。

物語開始時の見た目は現代と同じだが一刀は気づいていない。

張遼の影響でお酒が好きになり時々決まった店で飲んでいる。

それ以外の趣味は楽器を弾く事。

大体現代の曲をカバー曲として弾いていて

これは洛陽の家で弾いていたら住民達が集まってくるほど人気である。

先祖は雑賀衆に連なりそれにあやかって第四師団のシンボルは

八咫烏を使っている。

いきなり三国世界に飛ばされて倒れていた所を董卓とその父に

助けられて以降武官として過ごす。

董卓軍第四師団一万五千人を率いていている。

董卓軍の中の規模としては最小だが董卓軍ではまとめ役

(本来は呂布が付くべき地位だが本人が辞退。周りに押される形で就任)

で武の実力は呂布と同等、今まで何度も戦ったが勝率は五分。

大将軍が大陸徴用に董卓が応じた際に共にこれに同行した。

その後五胡討伐や反乱鎮圧などで功績を上げ

呂布同様驃騎将軍の地位を大将軍からもらい

敵味方とわず必勝の神使や常勝将軍の異名で呼ばれている。

いつも指揮は軍師に任せて自分が前線で戦うことが多い。

部下はほとんどが元ならず者が多いが身分や過去ではなく

今の信念や実力で見ることから部下からの人望は非常に高い。

いつも狼を一匹連れている。因みにこの狼の名前はリン(命名者呂布)

子供はいないが妻がいる。

 

 

 

 

 

北郷 一刀

 

武器 日本刀二本(秋月、照月)

服装見た目 原作まま

 

天の御使いとして飛ばされてきた。

容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能そしてなにより優しいと

四拍子そろった見た目も中身もイケメン

それ故に元の世界でも女子にはかなりモテた。

ただそのせいなのか男友達は少ない。

総司は数少ない男友達で幼馴染。

北郷二刀流剣術の免許皆伝。

愛刀である秋月と照月は祖父から貰った。

元々強いが関羽や張飛と死合いの中で更に強くなった。

飛ばされて来た時に劉備に助けられて義勇軍に加わる。

現在は劉備と共に義勇軍の共同代表を務める。

劉備の理想は甘いと考えていながらもそれに出来るだけ

近づけるように努力している。

どこまでも明るく夢想家な劉備と幼い故に楽天的な張飛と

忠義故にすぐ怒る関羽に振り回されがち。

でも結構楽しく生きている。

優柔不断で非情な判断が中々出来ない劉備の代わりに非情な判断を下す。

 

 

 

 

 

 

孫尚 文陣(そんしょう ぶんじん)

 

真名 瑠香(るか)

性別 女性

武器 スナイパーライフル、

   剣

 

本名は神崎 瑠香。総司と一刀の幼馴染。総司と共に三国世界に来た。

中国人の父と日本人の母を親に持つハーフ。

でも両親が離婚して母方の性を名乗っている。

孫尚 文陣の名前は父親の名前のパクリ。

発明好きで科学に関する知識が凄い。

他にも手芸にも興味が有りこれも腕はプロ顔負け。

母方の祖父に土下座して鍛治技術を教えてもらった。

(DR,STORNの杠に千空の知識とカセキの腕が混ざった様な存在

だとイメージして貰えば良いかと。)

三国世界ではこの腕を生かして現代の服をはやらせて大儲けした。

今でも発明の傍ら幾つか新作を出している。

集めた資金を元手に発明を開始。

だが最初は総司が連れてきた職人気質な周りの大人たちに苦労した。

しかし気合で乗り切って意気投合した。

総司の武器と服を作り上げたのも彼女である。

第四師団の装備を幕末程度まで発展させた。

第四師団の装備は大体彼女が作ったものが多い

発明意欲が強く電気や通信機器を作ろうとして総司に止められるほど。

董卓軍の中での役職は董卓軍技術部部長兼第四師団銃士大隊隊長。

 

 

第四師団師団員

 

 

荀彧 文若

真名 桂花(けいふぁ)

性別 女性

見た目服装 原作まま

 

董卓軍次席軍師兼第四師団軍師。

元々は袁家に仕えていたが余りの酷さに見切りをつけて

家に帰ろうとしていた所を盗賊に襲われ

犯されそうになっていた所を総司に助けれてそのまま

客将としてその配下に収まった。大の男性嫌いで

総司に仕えたのも総司の立場を利用して経歴と経験と都でのつやがりを増やして

曹操に仕える時に少しでも有利になる様にする為だったが

総司の真面目さと人柄に人として惚れ込み正式に配下となる。

でも総司以外の人間には未だ全方位敵対政策をとるなど極端な所がある。

それでも部隊員にはまだ優しいほう。

総司に恋心を抱きながらも癪なので一切表に出さない。

普段は書類整理などをしていて戦場では全体の指揮を担当する。

銃への理解も早かった。だが制作方法は全く知らない。

 

 

 

 

 

姜維 伯約

 

真名 玲(れい)

性別 女性

武器 剣

服装 董卓軍一般兵の鎧ただし兜なしでマント有

   普段着はカジュアルなものを好む。

 

董卓軍第四師団の副官。

物語開始の八年前に飢えて道端で倒れていた時に

総司に拾われてから従者として働いてきた。

総司が師団長に任命された時に副官に任命された。

孫乾が入ってくると忙しくどうしてもおろそかになりがちな

従者の職を孫乾に譲った。

総司に対して絶対の忠誠を誓う一途な少女。

剣は総司に教わり、軍略は桂花に教わっている。

真面目で王朝の腐敗と宦官の専横とを見てかなり怒っている。

あまり感情を表に出すことは無いがかなりの激情家。

最近胸が大きく成長してきて戦場で剣を振るうのに邪魔になる事が悩み。

 

 

 

 

孫乾 公祐

 

真名 美花(みーふぁ)

性別 女性

武器 剣 暗器 

見た目、服装 原作まま

 

董卓軍第四師団隠密部隊隊長。隠密調査や奇襲時の指揮官や

離間の計や暗殺など妨害工作を担当する。

いつもメイド服のような服を着ている。

袖の中にはアサシンブレードという暗器を付けている。

(アサシンブレードを作ったのも瑠香)

普段は穏やかで物静か。皆から頼りにされるお姉さん。

他人のことにはよく気がつくが、

自分については比較的無頓着なところがある。

副官として忙しい玲の代わりに従者を務める事になる。

青州で生まれたが幼いころ奴隷商人に捕まり徐州の有力者の奴隷として育った。

暗殺技術もそこで教わった。

ある時総司が件の有力者の家に訪れた時に有力者の指示で総司を暗殺しようとして

近いたが総司のやさしさに触れて主人の悪行を総司に告発。

直ぐに総司の指示を受けて桂花がその告発をもとに調べた所数々の悪行が発覚。

有力者の一族は調べが出た日のうちに処刑。

関わっていた者も全て処刑された。

美花自身は最初は他の元奴隷と共に徐州刺史の陶謙に保護される事になったが

それを拒否。無理を言って総司のに仕える。

以来配下百人と共に第四師団の裏方を務めている。

 

 

 

 

 

馬鈞 徳衡

 

真名明石(あかし)

性別 女性

武器 スナイドル銃 

   剣

 

董卓軍技術部副部長兼第四師団銃士大隊副隊長。

鍛冶屋として働きながら裏で色々な発明を構想していた。

それを瑠香に見られて技術部にスカウトされる。

瑠香同様最初は職人気質な大人たちに苦労するが

技術と持ち前の明るさで直ぐに周りに溶け込んだ。

今では技術部の皆から娘のような存在として扱われている。

銃の腕は相当高いが剣はからっきしで持ち歩いているのも見栄えの為。

 

 

 

 

 

趙雲 子龍

 

真名 星(せい)

性別 女性

武器 槍 見た目原作まま

見た目服装 原作まま

 

クールで皮肉屋。道化のような、本心の窺いづらい言い回しを好む。

戦場においても常に美しく、優雅に、そして鋭く、舞踏をするかのように敵をなぎ倒していく。

総司同様無類の酒好き、そしてメンマ好きであり、

唯一これを奪われた時にだけ、豹変した姿を見せる総司の酒飲み仲間。

第四師団第二旅団二千人を率いる第二旅団長兼第四師団副師団長。

高い確率で先陣を総司と共にこなす。

元々は流浪の旅をしながら時々路銀目的で客将として働くを繰り返していた。

偶々司隷に立ち寄った際に店で酒を飲んでいた総司と相席しメンマの話と

世の情勢の話で意気投合しそのまま董卓軍第四師団に入った。

入隊後黄巾の乱で実力を見せつけてあっという間に旅団長に出世した。

総司に恋心あり。

 

 

 

 

 

周倉 元福

 

真名 悠(ゆう)

性別 男性

武器 槍

 

黄巾党に金でやとわれて参加していた傭兵。

総司に挑んで返り討ちになり捕らえられるが実力を認められて入隊。

その後黄巾討伐で功績を残し最初は一兵卒だったが

黄巾の乱の終盤には戦死した者の穴埋めとはいえ中隊長にまで出世した。

バトルジャンキーで強い者を見ると一騎打ちを挑まずには居られない。

時々星や他のものに挑んだりしている。

総司の事は大将と呼んで忠誠心を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他

 

 

 

 

 

何進

 

真名 傾 (けい)

性別 女性

見た目・服装 原作まま

武器 鞭

 

漢の大将軍。

もとは市井の肉屋だったが、妹が宮中に入ったことをきっかけに、

武官として取り立てられた。

全くの無能というわけではないが、酷薄で権力欲が強く、

保身を第一に考える性格。

妹の何太后(瑞姫)に頭が上がらず

しかも既に裏切られていることも気づいていない。

 

 

 

 

何太后

 

真名 瑞姫(れいちぇん)

性別 女性

見た目服装 原作まま

 

霊帝の后。何進(傾)の妹。

もとは市井の娘だったが、霊帝に見初められて皇后となった。

朝廷で本物の贅沢を覚えてからは、それに執着するようになる。

自らの目的を遂げるためには平気で色仕掛けもする。

が姉の何進の為に当時勢いのあった総司を何進の派閥に鞍替えさせようと

色仕掛けを仕掛けるが逆に返されて惚れて総司に何でも尽くす女になった。

現在彼女の中の優先順位は第一に総司、第二に姉、第三に霊帝になっているが

第二以降はどうなろうとどうでもいいと考えている。

しかし献身的に総司に仕えようとするが総司からは便利な女としか思われていない。

 

 

 

朱儁 公偉

 

真名 琴(きん)

性別 男性

武器 剣

 

霊帝に忠誠を誓う年齢三十五歳の車騎将軍。

揚州会稽群上虞県出身で性格はまじめな男。

前線で戦うより指揮官タイプの人物だが前線でもかなり強い。

派閥間の争いを馬鹿らしいと考えていて何処の派閥にも属していない。

今の地位も自力で昇り十常侍や上司であるはずの大将軍何進でさえ

彼に下手に手を出せない程影響力を持つ。

今の漢の在り方を正したいと考えている者達の筆頭格。

将軍とは国にそして民に奉仕する存在と考えていて、

ほぼ同じ地位に就いたばかりの総司に国のあるべき形や

その中での将軍とは何たるかを教えた。

妻と一人息子を溺愛している。

 

 

 

徐栄

 

真名 創花(そうか)

性別 女性

武器 偃月刀

   弓矢

 

洛陽太守になってから董卓に仕え始めた将。

董卓に忠誠を尽くす董卓直属の近衛兵三百人の指揮官。

真面目な性格で手を抜くという事を知らない。

指揮もできるが指揮はいつも賈駆がとることが多いので

大抵前線で戦う事が多い。

しかし他の師団が強すぎるためあまり活躍の機会が少ないのが悩み。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話

 揚州のとある平原。

そこでは二つの集団が集まっていた。

片方は黄色の布が目立ついわゆる黄巾党約五万、

片方は都から派遣された総司(水燕の真名)率いる董卓軍六万五千、

呉から孫堅率いる呉軍約二万、

陳留から曹操率いる陳留軍約二万、

更に幽州から来た劉備義勇軍約五千、計十一万の官軍。

既に一戦交えて黄巾党に勝利した官軍は休息をを取りつつ

各軍の大将と軍師達が軍議を重ねている。

だが今日の朝から始まった軍議の場にいる者たちの空気は暗い。

 

曹操「今こちらが優勢な状況になっているけど

この状況になっても敵の士気は旺盛だわ。」

 

周瑜「確かに数は此方が上回ったとは言え、

敗北してもこの士気の高さは驚異だな。」

 

張遼「せやな。だがこれを破らん事には勝利は難しいで。

どうしたもんか?」

 

総司「士気を崩すのは難しいだろう。外に出れば先ほどから大きな声が聞こえてくる。

敵陣から聞こえてくるこの歓声。この歓声を生み出している奴が

存在する限り士気を折るのは無理だろ。」

 

総司が天幕を開けながら言う。

 

総司「しかもこっちは士気が下がりかけてる。

どれだけたたいても士気が落ちない軍隊と言うのは厄介すぎる。」

 

彼はそう言いながら天幕を占めて元の位置に戻る。

 

一刀「なんかまるでライブだな。」

 

劉備「ライブ?ご主人様?ライブって何?」

 

一刀「今、敵陣で行われていることだよ。

数人の人が舞台に立って歌ったり踊ったりして

それを観客は見て楽しむ行事だよ。」

 

劉備「わ〜楽しそう。」ウキウキ

 

孫堅「そんな事はどうでもいいだろ。今はあれをどうするかだ。」

 

一刀の一言で脱線しかけた話を孫堅が戻す。

 

孫策「ちょっと母様。今それを話し合ってるんじゃない。」

 

孫堅「んなもん。突っ込んでぶちのめしゃ勝手に下がるだろ。」

 

総司「それだとこちらの被害も増えるんだがそれしかないか。」

 

荀彧「はい。総司様。ではこういうのはどうでしょう。

正面から突っ込んでこちらに惹きつけます。十分惹きつけたら

後ろと横の三方からから包囲する。いかがでしょうか。」

 

孫堅「いいじゃねえか。気に入った。」

 

猫耳の頭巾をかぶった少女桂花(荀彧の真名)の説明に

この中で最年長の女性孫堅が賛成する。

それに続く様に他の者達が賛成していく。

 

総司「ならそれで行こう。肝心の布陣だが曹操殿の軍が

敵後方からの攻撃の担当でどうだろう。

速さも力もある貴方の軍ならこの策も不可能じゃないだろう。」

 

曹操「構わないわ。行けるわよね、郭嘉。」

 

郭嘉「可能です。でも出来ればもう少し欲しいところですね。

先ほどの条件に合う部隊が。」

 

孫堅「ならうちから部隊をだそう。

おい雪蓮 。お前は曹操殿について挟撃部隊に加われ。」

 

孫策「わかったわ母様。という訳で曹操殿よろしくね!」

 

曹操「ええ。それで荀彧殿。

荀彧殿は作戦開始はどれぐらいだと思うの?」

 

荀彧「今は朝ですから昼ごろから行えば夜には片付くかと。」

 

曹操「わかったわ。ならそれまでに準備を進めておくわね。

で肝心の誘因役はどうするの。総大将?」

 

総司「布陣は。数が一番多い俺の隊と張遼の隊で中央を引き受ける。

孫堅殿は左を、呂布右を頼む。」

 

孫堅「任せろ。」

 

呂布 コクッ「分かった。」

 

総司「劉備殿の義勇軍は我々と共に行動していただく。」

 

劉備「分かりました。」

 

総司「では解散とする。北では朱儁将軍と袁家の軍が

もう一つの黄巾党を追い詰めているはずだ。

此方も負けられない。各々よろしく頼む。」

 

全員「「「「「おう。」」」」」

 

そしてそれぞれがそのまま天幕を出ていく。

 

それを見送り荀彧はある事が気になり今も地図を見ながら

何かを考えている総司に尋ねた。

 

荀彧「総司様少々お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

総司「何?」

 

荀彧「はい。なぜ義勇軍を我々と共に布陣させることにしたのですか?

適当なところに布陣させてもよかったのでは?」

 

荀彧はこの時ある程度予想はしていた。

総司の考えは天の御使い、北郷 一刀の力量。

そして幽州で旗揚げし朱儁将軍や盧植将軍の窮地を救ってきた劉備達の実力。

これまでの黄巾討伐で曹操、孫堅などと共に戦いその技量を確かめてきた。

その延長だと思っている。

余り表では言わないが総司は漢王朝もそう遠くない未来終わると考えており、

総司は十年無いと考えている。

これには荀彧も同じ考えであった。

だからこそ総司は次に使えるに相応しい人間を探している。

そう荀彧は考えていた。

でも今の理由では天の御使いや劉備の事を見極める意味はない。

この乱が終わったとしても精々地方の長官がいいところだろう。

そこから出世するには至難の業だ。

つまり奇跡でも起こらない限り出世することは無い。

そんな所にこんな大勢で仕えるなんて不可能だ。

自分の主がそんなことを考えているとは思えない。

それが桂花の考えだった。

 

総司「この先の事を考えてだよ。この先漢はきっかけ次第で直ぐに滅ぶ。

   なら今の内からこの大陸を制するだろう勢力を見極めておこうと思ってね。

   これは前話したか。

   天の御使いを見極めようと思ったのは彼を見た時確実にこれから荒れる

   この大陸を治めるだけの力があるか?それだけさ。

   短期的に乱れを治めることができるなら力を貸してもいいと思っている。

   でもこれが長期的に続くなら天の御使いの意味は余り大きくないと

   俺はそう考えている。桂花はどう?」

 

荀彧「全くその通りかと。」

 

実際に桂花もそう考えていた。

短期的な解決が出来るならそれも意味があるだろう。

だが長期的な解決なら別に天の御使いは要らない。

永遠に続く戦いはないのだから。

戦争をするにも金が掛かる。

そしてそれで帰ってくるのは微々たるものだ。

戦時中は糧食や武器の調達に金がかかり、

戦後は荒れた大地の復興や戦死者の家族への見舞いなどむしろ負担の方が多い。

その事から一部の例外を除き、最終的に国力が高い方が大陸を制覇する。

なら短期的に戦争を終わらせる事が出来ない限り天の御使いは意味をなさない。

ただし乱世においてはそれを手に入れたことによる恩恵はとても大きい。

全ての行為が正当化するのだから。たとえそれがどんなに外道な行為でも。

その影響は皇帝より大きいだろう。

 

総司「だから劉備も見極めたかったんだよ。劉備がとんだ外道なら

   この戦場で戦死に見せかけてでも御使いを保護する。いいね、桂花。」

 

荀彧「はっ。」

 

総司「(ま、一刀なら大丈夫だろう。一刀は決して馬鹿じゃない。

   しかしご主人様か。ナチュラルに女の子を落とすのは相変わらずみたいだ)」

 

総司と一刀、そしてこの場にはおらず都で研究開発に没頭しているもう一人の

三人は幼馴染だった。

一刀は気づいていない様だが総司はすぐ分かった。

この時代にはないあの服と殆どの女子に受けるあの容姿。

そして彼が使う島津の九に十の字の家紋が入った旗。

極めつけは彼が使うこの時代にはない言葉。

まず間違いなく幼馴染の北郷 一刀だ。

だからこそ一刀を利用している輩は許せなかった。

だが本当のことを言って桂花や周りを巻き込むわけにもいかない。

だからこそ彼は嘘をついた。

 

総司「とにかく俺達だけ遅れるわけにはいかない。

   準備は怠らないで。それと周倉と孫乾を読んでくれ。桂花、頼んだよ」

 

荀彧「お任せを。総司様。」

 

桂花はお辞儀を一つして出ていく。

それから数分。周倉と孫乾がやって来た。

 

周倉「よう大将、荀彧から大将が呼んでるって聞いたからきたぜ。」

 

孫乾「お待たせいたしました、総司様。」

 

総司「悪いな。いきなり呼んで。」

 

周倉「気にすんな。でなんか用かい?」

 

孫乾「何なりとお申し付けくださいませ。

 

総司「ああ。二人に頼みたいことがあってね。」

 

周倉「なんか知らんがまかせな。」

 

周倉の言葉に孫乾も頷く。

 

そうして戦までの時間が刻一刻と過ぎていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

どうもいつも読んでいただきありがとうございます
真恋姫夢想 御使いの友第二話です。
話を始める前に一話と設定を変えました。(2020年7月20日15時点)
混乱するところもあると思います。良ければ読み直してもいいかもしれません。
ではどうぞ。


 昼になり両軍が動き出す。

董卓・劉備の四万と黄巾党五万が睨み合う。

先頭にいた総司は相手の部隊を見ていた。

 

???「いかがいたしましたか?総司様。」

 

隣にいた少女、姜維が総司を見て尋ねる。

 

総司「いや彼らは何の為にここまでの事をしたのかなって思ってね。」

 

???「何の為とはどういうことかな?隊長」

 

反対側にいた女性、趙雲が声をかけてくる。

 

総司「彼らは漢の転覆を狙って蜂起したんだろ。

おそらくだが陛下に成り代わって自分たちがこの国を導こうと考えてるんだろうな。」

 

姜維「恐らくそうでしょうね。」

 

総司「だが彼らがやってることは盗賊とそう変わらない。

そんな状態で仮にここから逆転してこの反乱が成功したとしよう。

そんな形で出来た国に未来があると思うか星(趙雲の真名)、玲(姜維の真名)?」

 

趙雲「ないな。そんな国すぐ別の反乱が起きて滅ぶだけだ。」

 

姜維「全くですね。」

 

総司「そうだ無い。もし首領とされている張角にとって略奪が不本意もしくは

末端の人間が勝手にやっている事だとしても同じだな。

だから何の為にここまでの事をしたのかと思った。」

 

趙雲「最初はもっと高潔な思想の元集まったのかもしれないぞ?」

 

総司「なら最後までそれを貫かなきゃ意味はないよ。

一度でも略奪に走ればどれだけ見事な思想を持っていたとしても

その価値はその辺に落ちている石ころより軽いものになる。

誰も聞くことは無い。結果がこれだろ。」

 

総司は自分の推測を述べながら前面に展開する黄巾党を指さす。

それは遠目でも分かるくらい飢えており士気ばかり高い集団。

恐らくここ数日ろくに食べていないのだろう。

官軍はこの地に追い込むまで執拗に追い立てた。

糧食を持つ時間も略奪を行う時間も休む時間も与える事無く

この地に追い込むことに成功したのだ。

当然黄巾党の兵士たちは疲れ果てている状態だ。

そんな中でも士気を保てていること自体官軍からしたら

不思議で仕方ないのだが。

 

姜維「そうですね。」

 

玲が心底うんざりしながら敵集団を見る。

今にも戦いが始まりそうな空気がこの場に流れているが

敵は全くといっていいほど陣形が組めていない。

ただ並んだだけの烏合の衆である。

 

趙雲「敵の指揮官は兵法というのも知らんようだ。」

 

総司「だな。あの集団を見ただけでも分かる。」

 

その時後方から伝令と張遼がやって来た。

 

伝令「水燕様。荀彧様よりです。全部隊準備整いました。」

 

張遼「待たせてすまんな、総司。第二師団も準備完了や。」

 

総司「了解。伝令戻って荀彧に伝えろ。俺の突撃後銅鑼を鳴らせ。以上だ。」

 

伝令「承知。」

 

総司の指示を受けた伝令兵が後方に下がる。

少ししてから張遼が

 

張遼「よっしゃこれが黄巾討伐最後の決戦や。総司、一発決めたれや。」

 

総司「そうか。さて仕込みは上々・・・・・・・戦闘を開始しよう。」

 

そこで一度大きく息を吸い叫ぶ。

 

総司「聞け――、今日この場に集いし英雄たちよ。

この乱が始まりより我らは各地で戦ってきた。

数で劣ることも少なくない戦の中で我々は数々の勝利をつかんできた。

後一戦、この一戦で全てが決まる。この一戦に己の全てを賭けよ。

行くぞ。全軍突撃ー!」

 

全兵士『おおおおおおおおーーーーーー

 

総司は檄を発すると共に愛馬を駆り全速力で突撃する。

その後を董卓軍、劉備義勇軍が雄叫びをあげて追従する。

遅れる様に黄巾党の兵士がゆっくり動き出す。

やはり疲れがたたり動きが遅く、いつも叫んでいる言葉が聞こえてこない。

総司と黄巾党の最前列の兵士がぶつかる。

その瞬間総司は槍を突き出した。

馬の突破力と槍の勢いで兵士は胴を貫かれそのまま倒れる。

それを繰り返しだがその時間はやって来た。

後方から銅鑼の音が聞こえる。

 

総司「合図だ。全軍後退せよ。後退だ。」

 

その声と共に董卓軍が後退し始める。

少し遅れて義勇軍も後退し始めた。

好機と見たのか黄巾軍はそれを追いかける。

それを後方で見ていた桂花は小さく舌打ちする。

 

荀彧「チッ義勇軍の動きが遅い。くれぐれも遅れるなって言っておいたのに。

所詮は民兵、仕方ないか。太鼓を鳴らせ。両翼に合図を送りなさい。」

 

兵士「はっ。」

 

兵士は返事と共に太鼓を鳴らす。

そうすると近くの森と平原に幾つかある丘の上から軍隊が現れる。

呂布率いる第一師団と孫堅率いる呉軍である。

 

孫堅「はっ。流石水燕だ。上手い事おびき出したじゃねえか。祭(黄蓋の真名)。」

 

黄蓋「はっ。弓隊構えい。」

 

一方反対側に隠れていた第一師団は

 

呂布「さすが総司。ここからは恋(呂布の真名)の出番。ちんきゅ~。」

 

陳宮「了解なのですぞ!恋殿。弓隊構えるのです。」

 

両軍の弓隊が弓矢を構える。

 

黄蓋・陳宮「「放てー。」」

 

合図と共に弓隊が一斉に矢を放つ。

放たれた矢は黄巾軍の前軍を襲う。

 

総司「良しうまくいったな。全軍反転包囲するぞ。」

 

孫堅「水燕達に遅れるな。全軍行くぞ、敵を包囲する。」

 

呂布「行く。」

 

陳宮「ハイなのです。呂布殿に遅れず敵を包囲するのですぞ。」

 

各軍の指揮官の合図と共に三方向からの包囲を行う。

 

黄巾兵「だめだ。逃げろ。」

 

黄巾兵「さがれ。下がるんだよ。」

 

黄巾軍は混乱でただでさえそろっていない足並みがさらに乱れる。

だがその中でも後方にいた者たちは下がる事が出来た。

だがそれもすぐ不可能になる。

新たに現れた軍によって逃げ道を塞がれる。

 

曹操「ここまでうまくいくなんて驚きしかないわね。そう思わない伯符。」

 

孫策「全くだわ。これは何が何でも成功させないといけないわね。」

 

曹操「合図、一緒にどう。伯符。」

 

孫策「いいわね。のったわ。」

 

孫策・曹操「「包囲の穴を埋める。全軍進め―。」」

 

二人の号令と共に両軍の兵士達が大規模包囲網を完成させるべく動き出す。

 

少しの間に包囲網は完成し一方的な戦闘が繰り広げられていく。

だが数人だが包囲網完成前に何とか逃げ切った者達や

一番弱い劉備義勇軍を突き破り逃げた者が居た。

それらは別動隊として動いていた周倉と孫乾の部隊によって倒された。

それとは別のかなり離れた丘の上に三人の少女がいた。

 

???「もう何でこんなことになったの。」

 

???「張宝姉さん落ち着いて。とにかく今は逃げるしかないわ。」

 

張宝「そうはいうけどさー。張梁も悔しいでしょう?」

 

張梁「別に。私たちは巻き込まれただけだもの。あの人達は私達の事を

利用して好き放題やってたみたいだし。」

 

悔しがる張宝に張梁が淡々と答える。

彼女たちこそこの乱の首謀者とされている張三姉妹である。

それを見ていた一番背が高い女性が叫ぶ。

 

???「ねえそんなこといいから早くここを離れようよ~。お姉ちゃんお腹すいたよ~。」

 

張宝「はあ~張角姉さんも相変わらずだね。でもまた一からまたやり直しだね。

また頑張ろう。」

 

張角「そうだね!」

 

三人・???「「「「お~~。」」」」

 

三人しかいないはずなのにもう一人声がする。

三人は声がする方を見る。

 

三人「「「?」」」

 

???「?」

 

そこにはもう一人、金髪縦巻きサイドテールの女の子が立っていた。

 

張角「えっと~だれ?。」

 

???「? 華侖は華侖っす。」

 

張角「そっかー華侖ちゃんていうんだ~。」

 

張梁「姉さんそれ多分真名。」

 

華侖「華侖は気にしないっす。あ、そうだ三人に華琳ねえからお話があるっす。

付いてくるっす。」

 

三人「「「えっ?」」」

 

華侖「安心するっす。変に抵抗しなければ痛い事はしないっす。

でも抵抗すれば。」

 

張角「す、すれば~?」

 

華侖「華琳ねえからどんなことをしてでも連れてこいって言われてるっす。」

 

張角「お姉ちゃん痛い事はいや~。」

 

華侖「ならついてくるっす。」

 

三人「「「はい。」」」

 

他のものがみていたらそれでいいのかと突っ込んでしまいそうだが

三人とも武の経験は全くない事なので仕方ない。

同時刻北に追い詰めた朱儁将軍、皇甫嵩将軍と袁紹と馬家、公孫瓚が

多大な犠牲を払いながら

軍黄巾党を殲滅を完了していた。南もすぐに終わるだろう。

ここに黄巾の乱は終結した。

 

 




いかがだったでしょうか
戦術とか戦略の話を入れて話を盛り上げようとしましたが
これが結構難しいですね。
軍師の皆さんは本当にすごいですね。
偉そうなことすみません。
ではまた三話で御会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

 包囲網が完了してからは早かった。

前衛は槍や剣をで向かってくる敵を倒しつつ突破させないための壁を形成し

その後ろから弓隊が攻撃する。それで敵は殲滅された。

殲滅が完了すれば後処理にかかる。

その間指揮官と幹部の一部が集まる。

桂花は周辺警戒の指揮の為おらず孫堅は戦闘の後すぐ天幕で寝てしまった。

 

総司「先ずは曹操殿、首領張角三姉妹討伐感謝する。奴らが逃げていたらこれからも

   被害が増えるところだった。」

 

曹操「気にする必要はないわ。此方も偶々見つけただけだから。

   それより聞きたいのはなぜ死体を全て焼却させてるの?」

 

孫策「それは私も気になってたの。何でわざわざ?」

 

そう今連合軍が行っているのは死体の検分と火葬。

これから死体を全て焼き、黄巾の物はその場で埋めて塚にしてそれぞれの軍の人間の死者は

それぞれ簡易的な箱や壺に入れられる為の準備がなされている。

これらは全て総司の指示で各軍が協力しながら行われている。

彼女らはその理由がわからなかったのだ

 

総司「質問に質問で返すようで悪いが生きとし生ける者が死んで

   その死体が腐ると何が現れると思う?」

 

この質問に誰も答える事が出来なかった。

指揮官や将達は答えが出ず、

軍師たちは精神的なものか、もしくは宗教的なものかを考えるが

総司の聞き方からそうではないと思うだけ。

結局皆亡骸が腐ったとしても大地に還るだけではないのかと

考えるも答えは出ない。

一人一刀だけは何となく分かったが明確に答える事が出来ない。

この中で恋、陳宮、張遼だけは前に同じ質問をして答えを聞いていたので黙って聞いていた。

 

総司「答えは蛆だ。腐肉を苗床にして蛆が生まれ、成長し蝿に

   なれば腐肉で発生した病を街や村に運んでくる。」

 

答えが返ってこないと判断した総司は周りにいる者達が思いも寄らない答えを

口にする。それを聞いてこの場にいる者達がまさかと驚く。

この時代、病は病原菌などではなく呪いや怨霊などの心霊的な事だと考えられていた。

唯一五斗米道が「違う。ゴット・ヴェイドーだ。」ん?なんか聞こえた気がする。

まあいい。ゴット・ヴェイド―だけがその知識に近い考えを持っているが

まだ総司の考えび至ることはまだ先だろう。

総司の答えはこれまでの己の考えを根底から覆すものだった。

 

総司「ここは街から遠いが何らかの方法で例えば食物連鎖つまり

   病原菌を持った蝿を強い何かが食い、病にかかり、それをまた強い何かが食う。

   この繰り返しでいつか人間に行きつく可能性が十分あり得る。

   だから根源の時点止める。その為に燃やしているんだ。」

 

孫策「そうだったのね。感謝するわ。」

 

総司「というのもあるがそれはこの行為の理由のほんの四割ほどだ。」

 

全員『えっ。』

 

そこで総司は死体の方を見る。

 

総司「これは俺の勝手な思い込みだし奪った俺が何を言うのかと思うかもしれないが、

   ここにいる奴らの大半は自分達の家族が生きていく為に戦った。

   そりゃ私利私欲の為の盗賊もいただろう。だが中には家族の為、友の為、村の為に

   戦った奴の方が多いと俺は信じてる。だから魂を肉体から解放し、

   魂は(そら)に肉体は土に思いは俺達の胸に残して見送ってやる。

   それが残された者の・・・いや奪った人間がするべきことだと俺は思っている。」

 

劉備「それが敵だったとしてもですか?水燕さん。」

 

総司「そうだ。恨みもあるだろう、許せない事もあるだろうさ。

   それだけの事を彼らはした。でももう死んだんだ。

   なら死んだ後まで苦しめる必要はないだろう。

   死んでまで頑張ったんだ。ならもう休ましてやってもいいじゃねえか。

   少なくとも俺個人はそう思う事にしている。あんたはそうは思わないか?」

 

劉備「そうかもしれませんね。」

 

劉備は穏やかに微笑みながらそう答えた。

答えを聞いた総司は少し笑って作業を手伝う為にその場を離れる。

張遼、恋、陳宮はそれについていく。

 

劉備「私も手伝ってくる。朱理(孔明の真名)ちゃん後お願いしてもいい?」

 

朱理「はい。周辺警戒はお任せください。」

 

劉備「お願い。」

 

一刀「俺も行くよ。」

 

関羽「桃香(劉備の真名)さまご主人様お待ちください。朱理何かあったら呼んでくれ。

   行くぞ鈴々(張飛の真名)。」

 

鈴々「うんなのだ。」

 

劉備達は総司を追いかける為に駆け出す。

 

孫策「行っちゃった。あなたはどうするの?曹操。」

 

曹操「悔しいけどさっきの水燕の言葉は私も感動してしまった。

   確かに死んだ者をこれ以上痛めつけるのは覇を目指すものとして

   取るべき行動じゃ無いわ。むしろ彼らに私はこの場で誓う。

   私がいる限りもうこんな事はさせないと。」

 

郭嘉「はい。我々も全力を尽くします。」

 

曹操「稟(郭嘉の真名)、警戒を任せるわ。

   孔明達や既に警戒に出ている第四師団と協力して

   ここには誰も近づかせないで。いいわね。

   春蘭(夏候惇の真名)。貴方も周辺警戒の方へ行きなさい。

   他の者は私を手伝って。」

 

曹操軍幹部『はっ。』

 

命令を下すと曹操は部下を伴い総司を追いかける。

 

周瑜「どうするのだ雪蓮(孫策の真名)。私達だけ見ているか?」

 

孫策「そんなわけないでしょ。蓮華(孫権の真名)、冥琳(周瑜の真名)後任せた。」

 

雪蓮は走って総他の者達同様総司を追いかける。

 

黄蓋「おい策殿。全く。でどうするのだ?公瑾。」

 

周瑜「全員で向かう訳にはいきません。

   なので黄蓋殿と明命(周泰の真名)は残ってくれ。

   蓮華様、それでよろしいでしょうか?」

 

孫権「構わないわ。皆頼んだわね。」

 

孫呉の幹部『はっ。』

 

その場にいた者達が行動を開始する。

 

 

死体を一つずつ木の板を張り合わせただけの棺桶に入れられて並べられ

その前に所属と名前が書かれた札が置かれる。

これが約六万人ほどあるので大変だ。

だが各軍の将まで協力したことで作業が早く進み本来かかると考えられていた

半分の時間で完了した。

今は各軍が大将を先頭に全軍が整列している。

 

総司「曹操殿、孫策殿、劉備殿ご協力いただき有難う御座いました。」

 

曹操「気にしなくていいわ。戦死者の中には当然わが軍の人間もいたのだから。」

 

孫策「そうね。それにあなたの考えは正しいとも思ったし。」

 

総司「有難うございます。ではあと少しだけお付き合いください。桂花。」

 

荀彧「はっ。点火して。」

 

兵士「はっ。」

 

数人の兵士達が走っていきそれぞれ火をつけていく。

やがて全てに火がつけ終わった事が報告される。

 

総司「この地で戦死した全ての戦没者に哀悼の意を表する!黙祷。」

 

その言葉を合図に一人の兵士が小太鼓をゆっくり叩く。

その瞬間この場にいる全ての者が頭を下げた。

 

総司(君たちはよく頑張った。つらかっただろう、苦しかっただろう。

もう苦しむ必要はない。ゆっくり休んでくれ。)

 

劉備(お疲れ様でした。皆、私の為に戦ってくれてありがとう。

黄巾の皆さん。私、絶対皆が笑って暮らせる国を作って見せるから見ていてください。)

 

曹操(あなた達に誓うわ。この私がいる限りもうこんなことは起こさせない。

そんな国を作って見せるわ。天から見ていなさい。)

 

孫策(お疲れ様。私たちの為に戦ってくれて有難う。ゆっくり休んでね。)

 

己の意志をこの場の死者に誓うもの、ただ哀悼の意を示すもの。

それぞれがそれぞれの思いを胸にしながら頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に何か問題が起こることもなく追悼式が終わり、一つずつ

箱に詰めて札を張り付て荷馬車に乗せる作業が終わると各軍がそれぞれの

領地に戻る為に引き上げて行く。

 

総司「劉備殿貴方にはこのまま漢までご同行お願いします。」

 

劉備「え?どうしてですか?」

 

総司「先程皇帝陛下から褒美として役職を与えるので直ぐに洛陽に来いと

伝令が参りましてご同行願います。」

 

劉備「こっ皇帝陛下から!!」

 

関羽「良かったですね、桃香様。これで夢に一つ近づきました。」

 

劉備「うん。」

 

総司(ああこんな純粋な子もあの魑魅魍魎が跋扈する場に連れて行かなければ

   行かなければならないのか。)

 

喜ぶ劉備達を見ていて総司はつらそうな顔をする。

だが未来を此処でつぶすわけにはいかない。

 

総司「劉備殿、これを。」

 

総司は意を決して金が入った袋を劉備に渡す。

 

劉備「水燕さんこれは?」

 

総司「洛陽に着いて役職が言い渡され退出したのち十常侍か大将軍が

   訪れるでしょう。その際にその金子を使って難を逃れてください。」

 

劉備「水燕さんそれは賂ということですか?」

 

総司「はい。」

 

明らかに劉備の顔は怒っていた。

劉備だけじゃない。関羽も同様である

当然だ。総司が進める行為は劉備の理想とする世界とは全く逆の行為だ。

 

劉備「このようなものいりません。そういう事なら褒美もいりません。」

 

総司「しかし。」

 

劉備「貴方も分かっているはずです。この行為が今回の乱を引き起こした

   原因の一つだという事を。なのになぜこのような事を進めるんですか?

   こんなことでは何も変わらない事位分かっているはずです。」

 

それにうつむく総司。すると我慢が限界を迎えたのか

隣で聞いていた桂花が叫んだ。

 

桂花「さっきから聞いてたら結構なこと言ってくれるじゃない。

   そんな事あんた達なんかより総司様の方が何倍も分かってるわよ。

   知らないようだから、教えてあげる

   今の洛陽は魑魅魍魎が跋扈する妖の巣窟と言っていいわ。

   それはもう董卓様や賈駆がどれだけ頑張っても意味ないくらいね。

   だから能天気なあんた達がそこに向かえばまさに

   餌によりついてきた魚も同然。骨の髄までしゃぶりつくされる。」

 

関羽「しかしご主人様がいる限りそのようなことは。」

 

桂花「甘い!甘すぎるわ関羽。あいつらからしてみれば天の御使いなんて

   大した存在じゃないわよ。それに予言の事は私も聞いてるけど

   容姿に関しては何も言ってなかったわ。なら適当に罪を

   でっち上げてあんた達を拘束して殺す。

   その後自分達の配下に彼の服を着せて傀儡にすればいい。

   そんな事簡単にできるのよ。

   今の洛陽は隙を見せれば即終わる。

   だからそうさせないために水燕様は金子を渡してあんた達を守ろうと

   してるんじゃない。それともそうなりたいの?

   あんた達なんかいいとこ死刑、最悪一生性奴隷よ。」

 

劉備「でもそんな事が。」

 

総司「本当だ。そこら辺の娼館に出向けば十常侍や大将軍に楯突いて

   失脚した貴族の娘なんかが普通に売られている。

   大変失礼だが劉備殿も関羽殿も大変見目麗しい見た目をされている。

   楽に殺されることは無いだろう。」

 

劉備「そんな。」

 

総司「お願いだ。今回の事は忘れてこのまま褒美の件も辞退するか

   この金子を受け取って俺の言う通りにしながら洛陽で過ごしてほしい。」

 

劉備「分かりました。私たちはこのまま辞退し幽州へ帰ります。

   水燕さん先程はすみませんでした。」

 

総司「お気になされず。こちらこそ申し訳ありませんでした。

   これからの生活や義勇軍の方々への支払いも大変でしょうから  

   その金はお持ちください。では。」

 

総司はそのまま劉備の元を去る。

 

桂花「総司様よろしかったのですか?」

 

総司「いいさ。大将軍には俺から言い含めておく。」

 

桂花「また彼女を使うので?」

 

総司「それが一番効果的だろうな。とりあえず洛陽に戻ろう。」

 

桂花「はっ。」

 

こうして総司達は洛陽に戻っていく。

洛陽に戻る途中かつて董卓と共に守っていた街により、

街から少し離れたところにある

董卓軍の中で戦死した者達を董卓軍共同の墓地に弔った。

 

総司「お前達の働きこの水燕 白英が確かに見届けた。

今はただ眠れ。いつかあの世で再開したらまた盃を交わそうぞ。」

 

董卓軍のまとめ役である総司は水を賭けながら

いつも戦死者が出るとその死者に向けて言う言葉を述べる。

後ろで聞いていた配下の者や第一師団、第二師団の者達も

頭を下げて祈る。

お疲れ様、俺達の大将の事は任せてゆっくり休んでください。

そんな思いを込めて。

それから董卓軍は洛陽にに戻っていったのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

洛陽動乱編
第四話


どうも
第四話です。
よろしくお願いします。


 洛陽に戻った総司はその足で城にいる霊帝の下に向かう。

丁度北で黄巾討伐に出ていた皇甫嵩将軍や朱儁将軍らと城の前で鉢会い共に向かう。

玉座の間に入ると床よりも高い所にある玉座に座り高級菓子を食べる女性、霊帝を中心に

右に大将軍の何進とその派閥の者、左に十常侍が並んでいる。

ただ十常侍の趙忠と霊帝の妻何太后だけは霊帝の少し後ろに控え、

趙忠は霊帝に菓子を手渡し、何太后は霊帝と一緒に菓子を食べていた。

そんな事を気にせず指定の場所に跪き、臣下の礼をとる。

 

何進「水燕、および皇甫嵩、朱儁。黄巾討伐への出兵、ご苦労だった。報告を聞こう。」

 

朱儁「はっ。北の黄巾党。袁家及び馬家、公孫瓚殿との協力により討伐、完了致しました。」

 

総司「南の黄巾党。孫家、曹家、劉備義勇軍との合同で討伐完了いたしました。

此方では曹操殿が首領張角及びその姉妹を始末いたしました。」

 

何進「ご苦労下がれ。」

 

総司・皇甫嵩・朱儁「「「はっ。」」」

 

三人はそのまま退出する。

宮中を出てしばらく進んだ所で総司の右を歩いていた男性、朱儁が口を開く。

 

朱儁「今のいるか?」

 

総司「言わないでくださいよ、朱儁将軍。全員が思ってることを。」

 

朱儁がそう思うのもしかたない事だ。

大将軍である何進や十常侍は勿論、あの場にいた全員が自分の事しか考えていない。

それを皇帝も咎めもしない。というより傀儡と化している。

皇帝の劉宏も治世に興味が無く、ただ美食に耽るだけの毎日を過ごしている。

好奇心は人並みにあるが、人並み外れた世間知らずである。

その性格を利用して皇帝に情報が行かないよう操作し、何も知らない事をいいことに

皇帝の名を使い好き勝手しているのが十常侍や大将軍何進である。

趙忠だけはただ霊帝を甘やかし世話をする事に楽しみ、悪事もしないが善行もしない。

それらのせいで洛陽は腐敗しきっていた。

それを正したいと考えるものも多い。

だがそういうもの達も十常侍によって嘘の罪で殺されて押さえつけられていた。

事実先日も皇帝の目を覚まそうと直接訴えた張鈞という文官が

十常侍の筆頭張譲に殺されるなどの事件が起きていた。

朱儁はそれが気に入らなかった。

本来は皇帝やその妃の世話係が主な仕事である。

つまり本来彼らはあの場にいる資格も権力も無いはずなのだ。

なのに権力を手に入れ好き勝手に振る舞う始末だ。

朱儁はそれが気に入らなかった。

先程、玉座の間でも霊帝は全くこちらに興味を示さずただ菓子を食べていただけ。

それを良しとしている妻の何太后も朱儁の中では気に入らない対象でしかない。

朱儁は真面目な忠義者だ。

彼は十年以上漢に仕えてきた。だからこそこの腐敗しきった世を変えたいと思っている。

だが朱儁には地位も発言力もあるが勇気がなかった。

朱儁には十四の時に結婚した妻と三人の子がおり、

それらを犠牲にしてまで動く勇気がなかった。

 

皇甫嵩「大丈夫ですか?朱儁将軍。かなりお疲れのようですが。」

 

朱儁「かもしれないな。すまんが先に休ませてもらう。」

 

総司「お疲れ様です。」

 

そう言って朱儁は自宅の方へ帰っていった。

 

総司「随分お疲れのようでしたね。楼杏(皇甫嵩の真名)さん。

北の出兵は余程酷かったようですね。」

 

皇甫嵩「ええ。袁家が指示に従わなくてね。命令違反や

逆に彼らが略奪を行うなど酷くてね。馬騰殿や公孫瓚殿、盧植将軍が

頑張ってくれたからどうにか撃破できたけどかなり危い場面が多かっったの。」

 

聞けば黄巾討伐に際し、北方軍は幽州に追い詰めていたらしい。

その中で袁家の兵士が一部の村を略奪を行ったり、

降伏した黄巾兵をむごいやり方で虐殺するなどの行動が見られた。

それで幽州牧が途中で亡くなりその代わりを務める公孫瓚が袁紹に苦情を言い

一触即発な状態が度々あった。

それを止めていたのが朱儁だった。

それ以降連合をまとめるだけで精一杯でかなり被害が出たらしい。

しかもいざ戦いになれば袁家は後ろで見ているだけで決着が就きかけたころ

囲みを無理やり破り、参戦してきて危うく包囲陣形が破れるとこだったらしい。

 

総司「なるほど袁家の世話を朱儁将軍が行っていたのですね?」

 

皇甫嵩「そうよ。しかも頼りにしていた副官が殺されてね。

そのせいもあって余計疲れているのかもね。」

 

総司「お二人は十年来の相棒でしたものね。納得です。」

 

暫く重く静かな雰囲気が流れるが総司はそれを払うかのように話を変える。

 

総司「話は変わりますが盧植将軍は?」

 

皇甫嵩「彼女は既に自宅に戻ったわ。右肩に矢を受けてね。

怪我自体は大したことないんだけど数週間は仕事に出られないそうよ。」

 

総司「そうですか。あの方に劉備殿の事を報告しようと思ったのですが。」

 

皇甫嵩「それくらいなら大丈夫じゃないかしら。」

 

総司「そうですか?なら明日にでも伺ってみます。」

 

すると誰かが走ってくる。

 

???「水燕さまーー。」

 

総司「ん?誰か来ますね。」

 

そうじが振り向いてそちらを見る。

それは宮中に仕える大将軍直属の伝令兵だった。

 

総司「どうした。」

 

伝令「はい。大将軍がお呼びです。直ぐに向かってください。」

 

総司「わかった。報告ご苦労さん。では楼杏さん。」

 

皇甫嵩「ええではまた。」

 

総司は皇甫嵩に礼を言いながら何進のいる部屋まで向かう。

大将軍の部屋に入った総司に待っていたのはうんざりするほどの何進の自慢と文句だった。

総司の事を称賛する言葉から始まりそれを指名した自分の賞賛だったり、

劉備がそれを不意にしたことに関する文句や遂行できなかった総司への罵倒。

これらが繰り返しが聞こえてくる。

何進の隣にいた何太后がうんざりした顔で止めなければいつまで続いたかわからない。

 

何太后「それで姉さま。わざわざこのためだけに将軍を呼んだわけじゃないんじゃ

ないんでしょう?」

 

何進「そうだ。水燕、貴様には幽州の劉備の下に向かい、これを渡せ。」

 

何進は筒状にまかれた紙を渡してくる。

 

総司「これは?」

 

何進「本来劉備に渡すはずだったものだ。安心しろ。特に何か含むところはない。

今回の黄巾討伐で戦死した平原の相を引き受けてもらいたいという事だ。」

 

総司(どうだか。何進は劉備やその取り巻きの事を調べていたらしいし、

大方十常侍を視察に差し向けて関羽か張飛辺りに殺させようとか考えてるんだろうな。)

 

何進の言葉に裏に何かあるだろうと考える。

だが立場上断るわけには行かない。

 

総司「承知いたしました。必ず劉備殿に伝えます。」

 

何進「断るようなら貴様の責で説得しろ。」

 

総司「はっ。」

 

何進に返事を返し執務室を出て洛陽の太守の執務室へ向かう。

その人物は董卓、のちの世で大悪人として書かれることの多い総司の元々の上官だ。

 

総司「お疲れ様、月(董卓の真名)。少しいいか?」

 

董卓「黄巾討伐お疲れ様です、総司さん。どうされました?」

 

総司「ちょっとな。ある人物に政治のやり方とかの事を書いた指南書を

渡したいんだ。だから月が作った指南書を貰いたくてな。頼めないか?」

 

董卓「大丈夫です。まだありますから。ついでにその方に手紙をしたためたいので

名前を教えていただけますか?」

 

総司「劉備 玄徳だ。」

 

董卓「まあ、皇帝陛下や劉協様と同じ劉性を名乗られる方なんですね。」

 

総司「ああ。調べた限りだが中山靖王劉勝の庶子の劉貞の末裔らしい。」

 

董卓「そうなのですね。所で総司さん聞きたいことがあります。」

 

月が真剣な顔で総司を見た。

 

董卓「今回の黄巾討伐で何人の方がなくなりましたか?」

 

総司「・・・・・・・五十人。・・・部下が死んだ。」

 

董卓「そうですか。」

 

月は外を見ながら目を閉じて祈りを捧げる。

 

董卓「どうか。安らかにお眠りください。」

 

総司「すまない、月。あいつらも浮ばれるだろう。」

 

董卓「これくらい何ともありません。むしろこれくらいしか出来ない事に

申し訳なさすらあります。」

 

総司「そのやさしさがあれば十分さ。」

 

董卓「有難うございます、総司さん。これ劉備さんにお渡し願いますか?」

 

総司「お安い御用だ。ところで賈駆はどうした?いつも一緒にいるだろ。」

 

手紙と指南書を受け取りながらこの場にいない少女の事を尋ねる。

 

董卓「詠(賈駆の真名)ちゃんなら何進様の所に向かったわ。」

 

総司「ならさっさと帰るか。どうせ文句たらたらで帰ってくるだろうし。

ありがとな、月。それと・・・えーと・・・がんばれ。」

 

董卓「うん。」

 

総司はそのまま自分の屋敷に戻っていった。

余談だが月は総司が帰った後少しして帰ってきた詠の愚痴を微笑みながら聞いていたとか。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

 総司が洛陽に帰還して三日

今、彼は護衛と共に幽州の啄郡の太守公孫賛の居城に向かっていた。

目的は公孫瓚とその下で厄介になっている劉備に会う為だ。

 

総司「あと少しで公孫瓚殿の元に着くか。」

 

姜維「はい。しかしようやく乱が終わったというのに今度は使者の役目ですか。」

 

総司「言うな。玲。考えただけで頭が痛くなってきた。」

 

姜維「申し訳ありません。」

 

総司「別に攻めている訳じゃないさ。

それに頼りになる副官がいてくれるから

かなり楽な方だと思うし。」

 

姜維「有難うございます。」

 

玲は淡々と答える。

だがその顔は少し赤くなっていた。

玲は元々あまり感情表現が得意な方ではない。

だが表に出すのが苦手なだけで本当は感情豊かな少女だったりする。

それに優秀で周りの事もすぐ気が付く。

今でこそ副官だがかつては総司の従者をしていた。

総司が第四師団師団長になった際副官に就任した経歴を持つ優秀な

少女だ。

 そうこうしているうちに公孫瓚のいる城に着く。

着くと直ぐに総司は門兵に公孫瓚との面会を頼む。

 

総司「洛陽からの使いで来た、水燕 白英だ。公孫瓚殿とこちらにいる劉備殿に面会を頼みたい。」

 

門兵「すぐ公孫瓚様に取り次ぎます。少々お待ちください。」

 

門兵は走って城の中へ消えてゆく。

少し待っていると赤髪の少女が走ってくる。

 

公孫賛「お待たせして申し訳ない。私が幽州啄郡の太守公孫賛だ。

ようこそ幽州へ。奥へ案内しよう。」

 

総司「申し訳ない。ではお言葉に甘えさせてもらう。」

 

総司達は公孫賛の案内で謁見の間に案内される、

謁見の間に着くと公孫賛配下の将が控えその最後尾に劉備殿が控えている。

総司は公孫賛と

 

総司「では早速始めさせてもらう。公孫賛殿前に。」

 

公孫賛「はっ。」

 

総司「公孫賛 伯珪。此度の黄巾討伐での働き真に見事である。

よって幽州牧に任命する。」

 

公孫賛「はっ。拝命いたします。」

 

総司は都からの手紙を公孫賛に手渡す。

 

総司「頑張ってください。この州の民がより良い暮らしができるように。」

 

公孫賛「・・・はい。・・・・・・・頑張ります。」

 

公孫賛は総司の微笑みに少し戸惑いながら礼を言う。

 

総司「次に劉備 玄徳殿前へ。」

 

劉備「はっはい。」

 

公孫賛が下がり今度は劉備が前に出る。

 

総司「劉備玄徳。此度の黄巾討伐に際し、義勇軍を結成しの各地で戦い

誠にお見事である。よって幽州平原の相に任命します。」

 

劉備は受け取ろうとして戸惑う。

 

劉備「水燕さん。これはこの前の話に出た様に賂を求めるという事ですか?」

 

この場にいる全員が劉備を見る。

総司は真面目で賂を一切求めない将軍として有名だ。

そんな人に向けてそんな話が出たのだ。当然驚く。

そもそも総司は帝からの使者だ。

帝からの使者にそんなことを聞けば無礼極まりない。

この場で切り捨てられても文句は言えない。

将達の間にまずい空気が流れる

その空気を察した総司が誤解を解くため口を開く。

 

総司「ご安心を大将軍の件は既に手を打ちました。

ですのでこれにはなんの裏もございません。」

 

劉備「そうですか。わかりました。拝命します。」

 

その後総司は個人的に公孫賛に盧植からの手紙を渡し、

劉備に月からの手紙と指南書を渡し、

総司は翌日また洛陽に帰っていくのだった。

余談だが月が作った指南書をみた劉備の仲間の

孔明と鳳統は自分達の知らない知識も入っていてずっと見続けていたせいで

劉備自身が全く読めなかったとか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

 ここ数日総司は悩んでいた。

理由は洛陽に戻ってきて直ぐに賈駆から聞いた提案。

その提案は失敗すれば彼だけではなく彼の仲間たちも死に直結する提案だった。

既に師団の幹部には話しており総司に一任すると言われている。

故に彼は悩んでいた。

彼は敵に対しては冷徹なところがあるが部下や仲間に対してはとてもやさしい人物だ。

そして彼は仲間や部下の死を許さない。

過去に彼の部下を非道なやり方で殺した五胡の村人がいた。

当時は戦時中ではなく和平交渉が行われている最中だった。

だがその村人は交渉が決裂すれば滅ぼされることも理解しながら奇襲を敢行し惨い殺しを行った。

その時総司はその五胡の村人の出身の村に赴き村人や駆けつけた戦士を一人で皆殺しにした。

仲間や部下を傷つける者を決して許さない。

それがたとえ女、子供であろうと関係ない。

それが総司という人物だった。

それ故に迷っていた。

だが現状の洛陽を見ればもはや迷っている暇もないと理解させられる。

今の洛陽では霊帝直属の西園八校尉が選ばれその式典も行われている。

だがこの西園八校尉は霊帝直属とは名ばかりで実質大将軍直属と変わりは無かった。

このままいけば漢は大将軍に乗っ取られてしまう。

勿論十常侍が黙って見ているとは思えないがどちらが勝とうが

ろくでもない未来が待っているのは想像するまでもない。

困るのが本人たちだけなら自業自得である。

だが彼らは国の中心にいる人物だ。

当然だが彼らが出した影響は民が被ることになる。

総司にはそれは出来なかった。

 

総司「やるしかないか。」

 

溜息を一つはき詠の部屋に向かう。

 

賈駆「来たね。返答を聞かせてくれるかい?」

 

総司「ああ。俺達第四師団は詠の提案に協力する。」

 

賈駆「わかったよ。協力には感謝しているよ。さきほど

朱儁将軍や霞(張遼の真名)も参加の意向を示してくれた。

これでうまくい。それで総司に頼みたいんだけど

何太后に近々行われる黄巾討伐の情報とその警備を

我々にするように頼んでほしい。」

 

総司「わかった。任せろ。」

 

賈駆「ありがとう。いつも裏方ばかり任せて悪いね。」

 

総司「気にするな。月やお前や先代には大恩がある。

それを返したいしな。」

 

賈駆「わかった。ありがとう。」

 

踵を返し扉を出ていく。

 

詠にとって総司は董卓軍主力の中では最も頼りになる存在だった。

恋も霞も華雄も正面からの戦いにおいてこれほど頼りになる存在はいない。

だが搦め手を任せる事が出来ない。

特に華雄は猪が服を着て戦っているんじゃないかと思うほど突っ込むことしかしない。

それでも他三人と負けない位、武功を立てているので全くの無能という訳ではない。

恋も単騎で万の敵を打ち取れるほどの武力(ちから)を有しているし

音々音(陳宮のまな)がいるおかげである程度搦め手のような事が出来ている。

しかし恋が強すぎる為、彼女の部隊を奇襲で使用した場合戦場での連携が難しい。

だからこそ二人に第一師団を任せて董卓軍の武の顔として活躍してもらっているのだが。

霞も部隊指揮は旨く対応力も高く武も恋に近い物がある。

だがやはり搦め手よりも正面から戦うのが得意だ。

一方総司の第四師団はあらゆる面で高い水準を示してくれている。

普段の訓練から凄まじい訓練を行い、練度を高く、臨機応変に行動がとれる。

総司自身も恋と同等の武を持ち、全体の指揮を執る桂花も男嫌いというのが

たまに傷だが能力に疑問は無い。

また師団内には一騎当千の将も多い。

元々懲罰部隊の側面が強い第四師団だがそれゆえなのか武人が嫌がる仕事も

多く受けている。

勿論総司自身や部隊内の武人たちに武人の誇りがない訳じゃない。

だがそれよりも上からの任務の方が大事だと考えているだけだ。

その点からも総司には前準備段階の時点で裏で動いてもらう事が多かった。

そのことも有り詠は総司には絶大な信頼と感謝していた。

 

 

 

 

 

夜、総司の家に一人の女性が入ってくる。

女性の正体は皇帝の妻、何太后だ。

かつて彼女は総司に色仕掛けを仕掛けて失敗し

逆に惚れてしまいそれからは総司に尽くすようになった。

もっとも総司自身は便利な女としか思っていないのだが。

※木乃伊取りが木乃伊になるとはこのことだと思う。by作者

 

何太后「及びと聞き参上いたしましたわ。総司様。

それでいかがいたしましたか。」

 

膝を付いて瑞姫は総司に問いかける。

本来逆なのだが

総司「瑞姫(何太后の真名)君に頼みたいことがあるんだ。」

 

何太后「何なりとお申し付けくださいませ。」

 

総司「来月行われる戦勝記念の祝賀会に華雄以外の元董卓軍の者と

朱儁将軍を警備担当にするように手をまわしてほしい。」

 

何太后「お任せを。」

 

総司「頼んだ。」

 

何太后「はい。」

 

それからすぐに準備を整える。

あっという間に祝賀会当日を迎える。

全ての準備が終わり後はその時を迎えるだけ。

総司達は全く気取られることなくその場に立ち会うのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話

 その日は来た。

準備を整えて宴の警備の担当である総司と朱儁はその時を待つ。

目に前では十常侍が大将軍何進が来るのを今か今かと待っていた。

 

十常侍1「大将軍はまだですかな。」

 

十常侍2「もうそろそろ来られるでしょう。趙忠が呼びに行っている。」

 

十常侍3「そうか。まあいい。この宴もすぐ終わる。」

 

十常侍4「まったくですな。はっはっはっはっは。」

 

この宴はただの宴ではなく何進の暗殺を行うためのものだった。

この暗殺が成功すれば十常侍に逆らう勢力はほぼなくなる。

実際には月の勢力がいるのだが彼らは気にもしていない。

その喜びのせいか総司達が傍に控えているにもかかわらず

全くその事を隠そうとせず話続けている。

彼らの頭の中は何進がいなくなった後の事で頭がいっぱいなのだ。

 

総司(全く。この手の謀は最後まで油断しちゃだめだ。どこに落とし穴があるか

   分かったもんじゃないからな。)

 

総司は目の前の迂闊すぎる者達を見ながらその時を待っていた。

すると大将軍何進が怯えながら入ってきて、

その後ろを瑞姫がついて入ってくる。

最近の彼女は宮廷内に流れる大将軍暗殺計画があるという噂を真に受け、

完全に怯え切っている。

 

十常侍1「何進殿、よくぞ参られた。どうぞ上座へ。」

 

何進「ふん。」

 

何進は不満に顔をしながら上座に座る。

 

十常侍2「ささ、何太后様もこちらへ。」

 

何太后「ええ。」

 

促された瑞姫も何進の隣に座る。

 

十常侍1「では黄巾討伐の祝賀会を始めさせてもらう。

僭越ながら私が何進殿の盃に注がせてもらいます。」

 

一人の男から何進に酒が注がれる。

 

何進「これはどういう風の吹き回しだ?」

 

趙忠「何進殿。我らの間には行き違いも多くございました。

ですがこの盃をもってすべてを水に流しかつての間柄に戻りましょう。

漢を導くには我らが手を取り合う事こそが一番なのですから。」

 

趙忠の言葉を聞いた何進は少し考えた後、

 

何進「妹よ。」

 

何太后「はい。」

 

趙忠「?」

 

何進「毒味役を呼べ。」

 

十常侍1「何進殿それは余りにも無礼が過ぎますぞ。」

 

何進「ほう?なら貴様が飲んでみるか?」

 

十常侍1「うっ!!」

 

何進「飲めるわけがない。なんせこの酒には毒が混入されているのだからな。」

 

趙忠を除く十常侍達は驚いていた。本来この酒はとてもいい香りのする酒なのだ。

毒などの異物が入っていない限り。

彼らが今回使った酒はこの国のはるか西の羅馬から来た商人から手に入れた酒だった。

流石の何進もこの酒は知らないだろうと考えたからだ。

しかし彼らは何進の用心深さを侮っていた。

何進はあらかじめこの宴に使われる食材や酒類、果ては食器や踊り子まで

怪しいところがないか全て事細かに調べ上げていた。

その結果酒が本来の香りを出さずにいる事を突き止めたという事である。

 

何進「出会えーーーい

 

その合図に隠れていた面々が出てきて十常侍達を囲む。

警備をしていた者もそれに続く。

 

十常侍1「き、貴様ら裏切ったか⁉」

 

十常侍2「ひっ。」

 

張遼「動くんやない!」

 

董卓「もう、あきらめてください。」

 

賈駆「宴の間は完全に包囲しているよ。」

 

十常侍3「お、おのれ・・・・・・・!」

 

何進「フハハハハハ。」

 

賈駆「・・・・・・・・・やれ!」

 

十常侍1「待ってくれ。」

 

張遼「潔う往生せい。アンタらが漢にのさばったせいで

   漢の国はここまでだめになってしもたんや。」ザシュッ

 

十常侍1「ギャアアアア」

 

霞が十常侍の一人を切ったのを皮切りに一人ずつ殺されていく。

後の方に残った者は「趙忠が勝手にやったことだ。」や

「私は何も知らない」など見え透いた嘘を並べるが

警備に入っていた総司や朱儁からの証言され無意味と化し

何進は皆殺しにするように命令を出しこの場にいる霞、朱儁、総司によって

殺されていく。

ほどなくして趙忠以外の十常侍は全て殺されてしまった。

 

趙忠「なぜ私は、殺さないのですか?」

 

趙忠は当然の疑問を何進にぶつける。

趙忠自身もこの場で殺されると思っていた。

今回の一軒で彼女自身首謀者ではないが加担していたのは事実だ。

何進からしたら趙忠も粛清対称なはず。

だが何進は一向に趙忠を殺す命令を出さない。

だからこその疑問だった。

 

何進「貴様は霊帝のお気に入りだからな。」

 

趙忠「・・・・・・・・・。」

 

何進「だがあれは無能にもほどがあるのでな。

   そろそろ妹の劉協に、皇帝の座をゆずっていただく。」

 

張遼「っ・・・・・・・・・。」

 

何太后「私はあまり気乗りしないんだけどねー。」

 

何進「それゆえ貴様だけは生かしてやろう。

   隠居された霊帝が大人しくされているように貴様が相手を務めるのだ。」

 

何進「無論嘉徳殿からは一歩も外には出さんがな。」

 

趙忠「・・・・・・・そうですか。なら私にも依存はございませんね。」

 

何進「ああ?」

 

趙忠「私の願いはあくまで、主上様の安らかなお暮らしです。

   俗世から解き放たれ、主上様が平穏無事に過ごせるのなら、

   それは私にとって何より喜ぶべきことです。

   承りました。言われたと通りにいたしましょう。」

 

趙忠は笑顔で答えるがこれには何進も拍子抜けしたような顔になる。

 

何進「ふん。つまらん負け惜しみを。まあいいそれより今はやるべきことがある。

   張遼、董卓、朱儁、水燕、宮殿内にいる十常侍の息のかかった宦官どもを一人残らずとらえよ。」

 

董卓「・・・・・・・。」

 

張遼「・・・・・・・はー・・・。

   傾(何進の真名)・・・・・・・・・悪いけど。」カチャッ

 

そういいながら霞は自身の得物を何進の首元に向ける。

それに続いて総司も槍を瑞姫に向け、周りの兵たちも一斉に

二人へ槍を向ける。

 

何進「なっ。張遼、水燕、気でも違ったか!?

己が今何をしているか分かっているのか?」

 

張遼「どうもしてへんし、アタシが何してるかもわかっているつもりや。」

 

董卓「何進様、もうあなたにこの国の政治を任すわけにはいきません。

   これからは白湯様と共にこの国をよくしていきます。」

 

何進「なっ、その名は劉協様の真名。なぜ貴様がその名を?」

 

???「私が許したからです。」

 

全員「!!」

 

扉の方から一人の少女が歩いてくる。

将軍たちと何姉妹を囲む兵士達以外の兵士は慌てて跪く。

 

劉協「今回の騒動、全て外で聞いていました。

   何進。もうあなたの力入りません。

   更に月の調べで貴方も十常侍の者達とそう変わりない罪がある事は分かっている。

   それでもこれまで漢に仕え、政治を担ってくれていたのは事実。水燕。」

 

総司「はっ。」

 

劉協「せめてもの情けです。そなたの武で楽に殺して差し上げなさい。」

 

総司「はっ。」

 

総司はそのまま槍を部下に渡し、刀を抜いて何進の横に立ち兵士に一つ頷く。

それを合図に一人の兵士が無理やり何進を正座させる。

 

総司「何進殿、お覚悟。」

 

その後何進は礼儀作法に乗っ取り総司によって首を落とされた。

瑞姫は特に動揺することなく見ていた。

 

何太后「これが姉さまの最後か。分かっていたことだけれど、

    いざそうなると寂しい者ね。」

 

劉協「随分他人事なのだな。まあいい。そなたは今回の事で

   協力してくれたと月から聞いている。なので命は預けておく。

   趙忠も今回はその命預けておくが一時牢に入ってもらう。

   このものらを牢に入れよ。」

 

兵士1,2「はっ。」

 

瑞姫も趙忠も特に抵抗することなくそのまま連行されていった。

 

劉協「みなこの度はご苦労だった。暫く自室に戻り休むがよい。

   この後の事は董卓と共に考え指示を出す。」

 

全員「はっ。」

 

その言葉に従い将軍以外は出ていく。

残ったのは月、詠、総司、霞、朱儁と劉協のみだった。

兵士達が出ていくと劉協はその場に座り込む。

隣にいた月と詠があわてて支える。

 

劉協「月、これでよかったんだよね。私は間違えてなかったよね?」

 

董卓「はい。とてもすばらしい御判断でした、白湯様。

   白湯様も少しお休みください。」

 

劉協「それはだめ!一刻も早くこの国を建て直さないと。

   民は今も苦しんでる。」

 

董卓「だからこそでございます。疲れた状態では最善の判断は

   難しいものでございます。ですから今はしっかりとお休みください。

   ご安心ください。我らは決して白湯様を蔑ろにしたいわけではございません。」

 

劉協「分かった。なら少し休ましてもらう。」

 

そういって劉協は自室で休み、翌日から精力的に内政の立て直しに

取り組むと同時に多くに腐敗に関与した者達を粛清していった。

その血の匂いが宮殿内が充満するほどに。

後日西涼遠征に赴いていた盧植将軍と皇甫嵩将軍はこれに

驚き糾弾するも皇甫嵩将軍は理由を聞いて納得し、

それでもなお反対意見を述べた盧植将軍は董卓によって

幽州の劉備の元へついほうされた。

更に董卓は粛清が終わると己は漢の最高位である相国に付いた。

それには袁紹が反発し反董卓連合を立ち上げる檄文を諸侯に送った。

そして諸侯はこれに乗るだろう。

だが彼らは知らない。ここまでの展開が全て総司と詠の計画通りだという事を。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対反董卓連合編
第八話


宮中での騒動から一か月の時間が過ぎた。

今各地の諸将は洛陽と帝を解放するべく兵を結集して連合を形成していた。

事の発端は一か月前にさかのぼる。

洛陽は十常侍と大将軍何進の派閥争いが激化しもはや漢の滅びは目前に迫っていた。

だがそれに待ったをかけた人物がいた。

霊帝の妹、劉協とその家臣、董卓である。

新皇帝となった劉協はその助けとして董卓を相国とした。

そして宮廷内から腐敗の元となる者達を強制的に排除し各部署に手を入れ改革を推し進めた。

そのどれもが民の為になる改革だった。

その時、洛陽の民もこれで漢は良くなると誰もが信じていた。

だが急激すぎる改革は反発を生むのは必定だった。

真っ先に反発したのは冀州の州牧の袁紹だった。

元々袁家は漢において三項を輩出した名門中の名門だった。

そして彼女はそれを誇りに思っていた。

それに妾の子供とはいえ実質当主は彼女だ。

そんな彼女からしたら何進の大陸徴用で洛陽に来た涼州の田舎者が

相国などという漢の最高位についていることが面白くなかった。

その地位は名門袁家の当主である自分こそが相応しいと考えていた。

だが自分達だけでどうにかなると考えるほど袁家も馬鹿ではない。

いや彼女はそのつもりでいたが軍師の田豊が進言し檄文を袁紹に書かせた。

そして彼女自身は各地の州牧達に檄文を送り兵を集めて洛陽にいる董卓を倒し、

自分が董卓の位置に成り代わろうと考えていた。

だがそんな事そのまま書いても州牧達は参加してくれるわけがないので

董卓を悪者に仕立て上げたという訳である。

そして彼女の思惑通り諸侯は兵を集め、連合に参加した。

参加を見合わせたのは益州軍位である。

その結果に袁紹はホクホクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって数日前の洛陽の一室。

この場には連合に対抗する各軍の指揮官と軍師たちが集まっていた。

この場に集まる者達の中で一番位の高い総司が話始める。

 

総司「まず、俺達は決めないといけないことがある。」

 

華雄「何を決めるのだ?布陣じゃないのか?」

 

荀彧「それもだけどそれより大事なことも有るでしょ。」

 

朱儁「ああ、そうだな。」

 

徐栄「ですね。」

 

楼杏をはじめとしたその他の将軍たちも頷く。

 

総司「ああ。この戦、俺達が勝つのはほぼ不可能に近い。

なら俺達が考えるべきは何を得るか。正確には何を捨て何を得るかだな。」

 

張遼「そやな。」

 

朱儁「まず最も守るべきは何と言っても帝だろう。」

 

徐栄「その次は董卓様でしょうね。もしかしたら真っ先に狙われるでしょう。」

 

皇甫嵩「そうね。今回の件だって献帝陛下からの命令だったみたいだし。」

 

総司「ならこちらの勝利は陛下と董卓を守るとして何を捨てますか?」

 

徐栄「私たちが捨てられるものは限られています。」

 

朱儁「というか俺達全員の地位しかなくないか。捨てられるのって?」

 

総司「いや、まだあるでしょう。」

 

朱儁「なにが?」

 

朱儁の問いに総司は人差し指を立てて下をさす。

 

総司「洛陽。董卓様と陛下を同時に守るなら洛陽を捨てるしかない。」

 

朱儁「まさか!本気か。」

 

総司「ええ。本気です。どの道この戦俺達の勝利は一般的な勝利とは別のところにありますし、

この戦が終わればどうせ世は群雄割拠するでしょう。

そんな中で帝をお守りするなら洛陽を捨てるしかありません。」

 

朱儁「仕方ないか。なら帝はどこにお連れする?長安か?」

 

徐栄「長安なら既に防衛に適した施設がありますしそこに至るまでにも

地形戦で有利を取れる土地は多くあります。確かに名案ですね。」

 

総司「いやそれでも数で攻められると持たない。

だから今回は信頼出来る州牧に預ける。」

 

皇甫嵩「本気?」

 

総司「ええ。その選定も根回しも終わっています。」

 

朱儁「その案で行くとして誰に任せる?」

 

総司「徐州牧陶謙殿に。もう少し正確に言えば陶謙殿の後を継ぐ劉備玄徳に任せます。」

 

皇甫嵩「だから盧植将軍を劉備殿に預けたのね。不思議だったの。

盧植将軍程の方を何故、平原の相に預けたのか。」

 

総司「ええ。彼女を通じて既に劉備殿に陛下と董卓様を預ける旨の手紙を

送りました。同様の手紙を陶謙殿送りました。既に快い返事をいただいております。

後は誰かを護衛として付ければ何とかなるでしょう。」

 

朱儁「もし劉備が帝や董卓殿を使って出世を考えていたらどうする?」

 

総司「その時は俺達の負けです。どちらにしろ俺達に取れる選択肢は極端に少ない。

その少ない選択肢の中で取れる行動をとるしかない。」

 

朱儁「仕方ないか。ならその護衛は俺が引き受ける。」

 

総司「正直、朱儁将軍か皇甫嵩将軍か徐栄以外思いつきませんね。」

 

皇甫嵩「それしかないでしょう。」

 

総司「こちらの目標と戦後の動きに関してはこれくらいでいいでしょう。」

細かい事は皇甫嵩将軍にお任せします。」

 

皇甫嵩「任せて。」

 

総司「お願いします。さて今連合軍はこの豫洲の潁川群に兵を集めてる。

このまま行けば敵は河南群から汜水関に向けて兵を進めるつもりだろう。」

 

朱儁「あの袁紹だ、その可能性が一番高いが河内と潁川から攻めて

洛陽を囲む可能性もあるのではないか?」

 

賈駆「その可能性も考えたよ。でも洛陽を守る砦の中で一番堅いのは汜水関と虎牢関の二つだ。

なら諸将はいつか再び洛陽を攻める事を想定して

この二つを今の内からつぶしたいと考えるんじゃないかと思うんだ。」

 

朱儁「なるほど一理ある。献帝陛下も頑張っておられるがこの先はどうあがいても

乱世が来るだろう。なら土地を抑える戦いは一つでも減らしたいと考えるのは当たり前か。」

 

賈駆「その通りだと思うよ。それで布陣だけどまず汜水関には華雄、張遼、水燕、徐栄、

朱儁将軍に出てもらう。

そして残りは虎牢関だ。でも皇甫嵩将軍には今後の事で詰めたいから残ってほしい。

後、まだ陛下はやらなきゃならない事がある。

だから汜水関で十日、虎牢関で十日、計二十日耐えてほしい。虎牢関組は状況次第では他の砦へ

防衛に向かう場合がある。それだけは心得ておいておいてくれ。皆、任せたよ。」

 

武官全員「おう。」

 

総司「出陣は明日の昼すぎとする。それまでに準備を整えておいてくれ。

最後に一言。この戦、勝つぞ。」

 

全員「おーーーーーー!

 

こうしてこの時代を代表する三大決戦の一つにして後に陽人の戦いと呼ばれる戦いに

今総司達は赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話

汜水関

 

戦準備が進められる城壁に二人の男女が立っていた。

二つの筒がつながった道具、双眼鏡で遠くに布陣する

連合軍を見ている。

 

総司「お前の予想通りになったな。桂花。」

 

荀彧「はい。袁紹には誇れるほどの知能も武芸の腕もありません。

いわゆる無能です。誇れるのは家名のみ。

しかも自分に都合のいい進言しか聞かず、

その割に野心の塊のような女です。

そんな女が二手に分かれるなんて方法取るわけありません。」

 

総司「確かにな。でも誰かが勝手に動くかもしれない。

各方面に偵察は出して置けよ。」

 

荀彧「既に各方面に偵察は出しております。」

 

総司「流石だな。師団の状況を確認を頼む。」

 

荀彧「はっ。」

 

桂花はお辞儀をすると第四師団の陣へかけていく。

総司は再び双眼鏡を覗きながら報告の内容を思い出す。

 

総司(攻撃は明日。攻撃は幽州、徐州連合軍で、

それに呉軍が入って計七万五千。

此方は九万五千。此方が数の上ではまだ多いが油断は出来ない数だな。

さてどう来るか。霞には華雄の事を任せてるけどいざという時は俺も出るしかないか。)

 

総司は今後の事を考える。

出来れば徐州軍とは戦いたくない。

戦いになれば手加減などできないからだ。

そのせいで約束がつぶれたら意味がない。

 

総司「はあ~。面倒なことになった。」

 

張遼「そうやな。」

 

総司「ん?もしかして聞こえてたか。」

 

総司はいつの間にか隣に立っていた霞の方を見る。

 

張遼「面倒な事になったって言ったとこだけな。」

 

総司「そうか、悪い。」

 

張遼「で、何があったんや。その様子やと大体敵の状況分かったんやろ。」

 

総司「まあな。攻撃は明日。先方は徐州軍。それに呉軍が加わって計七万五千だな。」

 

張遼「なるほどな。でどうするん?徐州軍やとちとやばいんちゃうか?」

 

総司「向こうとは一応底らへんの事も話し合ってきてる。だから一応大丈夫なはずだ。」

 

張遼「なんや締まり悪い返事やな。」

 

総司「取引が成立した時はそれでいいことになっていたとしても

後からどうなるかわからんからな。」

 

張遼「なるほどな。てか、気になっててんけどどんな取引したんや?」

 

総司「こちらからは月と詠、それと帝の保護。あと撤退時の追撃をしない事。

その代わりあっちはこの戦での手柄と袁紹のこれまでの罪の調査。」

 

張遼「一つ目は予定の日を過ぎればどうにかなるな。

でももう一個の方はどうにかなるんか?」

 

総司「問題ない。美花が頑張ってくれた。既に劉備に渡してある。」

 

張遼「ここ最近おらんなあと思とったけどそれでやったんか?

でその美花はどうしたんや?」

 

総司「監視として劉備の下にいる。勿論彼女にも周倉と数名だが変装させて護衛に付けてる。

正直やらせたくはない仕事だがな。」

 

張遼「美花のこれまでの事考えたら、そうやな。」

 

総司「ああ。だが美花以上にこの任務をこなせる奴を俺は知らない。

美花には悪いがこなしてもらわないといけない。

それより華雄の抑え、頼んだぞ。」

 

張遼「任せとき。しっかりこなして見せるわ。」

 

総司「ああ。頼りにしてる。」

 

張遼「けど華雄隊を抑えるんは無理やで。」

 

総司「分かってる。指揮官に似て猪ばかりだからな。」

 

張遼「全くやで。どうやったら三万も猪ばかりが集まるねん。」

 

総司「そうだな。」

 

張遼「ぷっ。」

 

総司「ふっ。」

 

二人「あははははははははははははは。」

 

二人は暫く笑っていた。

 

張遼「いや~こんな笑ったのはいつぶりやろ。」

 

総司「さあ?少なくとも黄巾討伐の時はそれどころじゃなかったからな。

その前からだろ。」

 

張遼「そんな前からかいな。こりゃ、華雄に感謝やな。」

 

総司「そうだな。なあ霞。」

 

張遼「なんや。」

 

霞は総司の真剣な表情に笑い顔をやめ再び真剣な顔になる。

 

総司「改めて言う必要もないかもしれないが生き残るぞ。何としても。」

 

それはとても力強い言葉だった。

そこで霞は改めて誓う。

総司を始め恋、音々音、月、詠、華雄、瑠香(孫尚文陣の真名)の八人でしたあの日の誓いを。

何としても生き残る。生きてこの国を蘇らせる。

後半はかなわなくなったがせめて前半だけはかなえて見せる。

総司と霞は強く誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劉備「かかれ~。」

 

戦場に良く響く劉備の綺麗な声を合図に汜水関攻めが始まった。

連合軍は選抜された一万五千の兵力で攻めかかる。

それを董卓軍は砦の上から弓矢を射かけ防ぐ。

だが連合軍は一万五千の兵で果敢に攻めるが、董卓軍の弓隊は弓矢だけではなく瑠香によって開発され

更に効率化までされたバリスタや小型の投石器の攻撃で思うように攻める事が出来ない。

 

瑠香「どうよ、どうよ、総司。私たちが作り上げた兵器は?」

 

総司「ほんと助かるよ、瑠香。これで兵の損耗をかなり減らせる。」

 

実際、董卓軍は怪我人すら出ていない一方的な状態だった。

弓矢の射程外からバリスタや投石機で桂花の指示に従い、

撃ち込まれている。

連合軍は攻撃しようにもまず届かせる攻撃手段がない状態だった。

攻城が不可能と悟った連合軍は引いて行った。

 

兵士1「やったー。勝ったー。」

 

兵士2「勝った~。」

 

兵士3「ざまあみろ。連合軍め~。」

 

兵士の間にも勝利に沸き立つ。

 

総司「皆よくやってくれた。だが油断するな。交代で休んで敵がいつ来ても

いいように備えよ。」

 

兵士全員「はっ。」

 

先程の喜びから一転兵士たちは皆真剣な表情になる。

だがその顔は生き生きしていた。

 翌日からは孫呉も攻城に加わる。

黄蓋率いる弓騎馬隊と程普の騎馬隊が縦横無尽に走り回り苦戦させるが

やはり射程に近ずく事が出来ない。

その日も連合軍は敵に打撃すら与えられずに撤退していった。

 

瑠香「少し拍子抜けではあるかな。一刀がいるから

ボウガンとかクロスボウは出てくるかと思ったんだけど。」

 

総司「知識があっても技術がないからな。一刀の方は。」

 

瑠香「私がいたことに感謝しなさいよ、総司。

そしていい加減開発費用と新しい開発の許可出しなさい。」

 

総司「開発については新たな拠点を確保できたらいいよ。

追加費用は考えとく。」

 

瑠香「金に関しては相変わらずね。ま、新たな開発の許可出たからいいとしましょう。」

 

総司「どんなものを作るのかプレゼンを期待しとく。

内容次第で追加費用も期待していい。」

 

瑠香「期待して待っときなさい。それと例の奴は使うの?」

 

総司「華雄の動き次第だな。」

 

瑠香「そう。ならいつでも準備しておくわ。」

 

総司「頼む。」

 

連合軍は翌日の晩に夜戦を仕掛けるがこれも失敗に終わり、

三日目も失敗に終わるのだった。

 

 

 

 

劉備軍天幕

 

そこには孫呉の当主である孫策を始め、軍師の周瑜、陸遜、

武官として宿老の程普、黄蓋が

今後のことを話し合う為、訪れていた。

劉備陣営からは劉備、一刀、関羽、孔明が参加している。

 

孫策「まさかここまで硬いとわね。」

 

劉備「そうですね。」

 

周瑜「このまま正攻法でせめても一か月かかっても抜くことは出来ない。

ならばおびき出すしかない。」

 

孫策「そうね。それしかないわ。で誰をおびき出すの?」

 

周瑜「華雄だな。」

 

陸遜「それしかないですね~。」

 

孫策「そうね。時間はかかるけど華雄が一番確実ね。」

 

劉備「あの、すみません。華雄さんてだれですか?」

 

周瑜「漢の将軍の一人だ。黄巾討伐では洛陽を攻めようとした黄巾党を

汜水関で迎え撃ち追い払ったらしい。飛将軍呂布や必勝の神使の異名で知られる

水燕の陰に隠れているが優秀な将軍だ。だがかなり短気なところがあるらしく

功績と同時に短気を起こしたがゆえの失態も多いと聞く。」

 

一刀「なるほど、それなら可能性はあるかもしれないな。

俺はいいと思うけど桃香はどう?」

 

劉備「うん。それしかないんじゃないかな。」

 

孫策「なら決まりね。陸遜、細かい事は任せるわ。

諸葛殿と話し合って決めて頂戴。」

 

陸遜「分かりました~。」

 

 

 

 

 

それから翌日。

 

 

 

劉備軍による挑発が始まった。

初日は関羽による一騎打ちの誘い、それに華雄は乗ろうとするが

霞に止められる。

二日目も同様に関羽が一騎打ちを誘うが断り、

その後関羽の隣にいた小さな双子、麋竺と麋芳により

罵りあおりが始まる。だがこれまでの失態から流石に学んでいる華雄は

それを大声で笑い飛ばした。

三日目は射程の外で戦をしているふりをして睨み合うだけ。

四日目には前日と同じ位置で酒盛りを始めてしまった。

中には寝ている者もいる。

五日目、六日目も同じような感じで終わる。

華雄は吠えてこそいたがその日も耐えていた。

総司、霞、朱儁、徐栄は明らかなおびき寄せと分かっているので動じない。

 

 

 

六日目の夕方ごろ

 

 

 

総司「瑠香、話がある。」

 

瑠香「なに?」

 

総司「明日の攻撃開始までに砦の中の投石器を虎牢関へ運び出してくれ。

それと例の物を用意しておいてくれ。今日の感じからすると明日は耐えられないだろう。」

 

瑠香「分かったわ。二時間でやる。」

 

総司「頼む。」

 

 

 

そして誘い込み作戦開始から七日目、ついにその時がやって来た。

その日も攻撃開始からすぐ酒盛りを始めた連合軍。

流石に四日目ともなれる華雄にさらに追い打ちをかける出来事が起きた。

酒盛りの途中で参加してきた孫策が張飛と取っ組み合いの喧嘩を始めてしまったのだ。

更に周りの兵士たちはこちらを背に向けて応援を始めてしまう始末。

それに頭に血が上った華雄は張遼や朱儁の静止を振り切って出陣してしまった。

 

 

張遼「行ってしもうた。どうする総司。予想できひんかった訳ちゃうけど、

こうなったら止められへんで。」

 

総司「仕方がないか。俺達で華雄を押さえます。朱儁将軍と霞と徐栄は迎撃を頼みます。」

 

朱儁「わかった。任せろ。」

 

張遼「まかせとき。これぐらいはこなして見せるわ。」

 

徐栄「承知いたしました。」

 

その後すぐに第四師団が集まる。

総司は全員が集まったのを確認すると馬に乗り叫ぶ。

 

総司「これより先行した第三師団を救出する。

救出完了次第即離脱、砦に帰還する。出陣。」

 

師団全員「はっ。」

 

総司を先頭に師団全員がかけてゆく。

黄蓋の隊が足止めを行うがそれを無理矢理突破する。

 

総司(どこだ。華雄。どこにいる。)

 

その時、敵が包囲陣を敷いているのを見つける。

 

総司(あそこか。)「突っ込むぞ。」

 

そのまま総司は突っ込み包囲陣を突破する。

 

第三師団副将「水燕将軍!」

 

総司「華雄は?」

 

第三師団副将「この先です。」

 

総司「お前らはそのまま耐えろ。華雄を救出次第脱出する。いいな!

第四師団は援護しろ。趙雲任せるぞ。」

 

趙雲「任せろ。」

 

第三師団副将「華雄さまをお願いします。」

 

総司は頷きながらさらに進む。

その先には傷ついた華雄ととどめを刺そうとする関羽がいた。

 

「董卓軍の華雄、この関羽が討ち取ったー。」

 

関羽は華雄にとどめをさすために得物を振り下ろす。

 

ガキィィン

 

が振り下ろされた得物は華雄を殺すことは出来なかった。

総司によって防がれた為に。

 

関羽「貴様、武人の戦いを邪魔するな。」

 

総司「知らねえな。」

 

総司自分の槍では関羽の得物を跳ね上げて、腹のあたりに蹴りを入れる。

 

「ぐっ。」

 

辛うじて腕で防ぐが衝撃で体制を崩し、馬から落ちる。

その間に傷だらけの華雄を自分の馬に乗せ引き返す。

 

総司「引くぞ。」

 

董卓軍兵士全員「はっ。」

 

第三師団の生き残りと第四師団が一点突破で囲みを突破する。

 

孫策「くそ、囲みを突破された。追え!そのまま汜水関を攻めている程普隊に合流する。」

 

囲みを突破されたのを確認した孫策が追撃の号令を出す。

 

華雄「総司………なぜ?」

 

総司「仲間が危機。助けなければならない。それ以上に重い理屈がこの世にあるかよ。」

 

華雄「済まない。」

 

董卓軍はそのままの速度を維持したまま汜水関へ退却し始める。

その汜水関では孫呉の程普隊、黄蓋隊と劉備軍の張飛隊、本隊が汜水関を攻めるが

バリスタによる的確な狙撃で未だ取りつけずにいる。

 

程普「かったいわねー。流石董卓軍というとこかしらね。」

 

黄蓋「粋怜(程普の真名)。感心している場合ではないぞ。」

 

程普「分かってるわよ。」

 

それでも少しずつ進んでいく。その時、

 

兵士1「程普様、後方より敵です。」

 

程普「あれは華雄の隊に水燕の隊。まさかもう突破されたの。

もう関羽は何やってるのかしら。」

 

黄蓋「仕方あるまい。劉備の兵は見ていた限り、それほど強い者らはおらんかった。

その点、水燕の隊は兵士はよう鍛えられておる。

その差が出たんじゃろう。」

 

程普「公瑾、どうする?このまま通す?」

 

周瑜「このままでは水燕に背後を突かれます。

直ぐに雪蓮もおって来るでしょうがこちらの被害も増します。

通してしまってください。」

 

程普「分かったわ。全軍後方の兵を通しなさい。」

 

孫呉が道を開け水燕がそこを通る。

だがそれが理解できない劉備。

 

劉備「なんで?」

 

唯一理解している一刀が答える。

 

一刀「このまま抑えれば砦と水燕さんの隊で挟み撃ちになって身動き取れなくなるからだよ。

それよりもうすぐ孫策さんと愛紗の隊が来るから合流して一気に攻めるよ。準備して。」

 

劉備「わかった。ご主人様。」

 

その後すぐ孫策や関羽の隊と合流した連合軍は追撃をかける。

 

孫策「このまま攻城戦になる。皆、心してかかれ。」

 

連合軍兵士達「おおー。」

 

連合軍の士気はこれまで攻撃さえ出来なかった砦にあと少しのところまで近づいていることもあり高い。

そのまま突っ込む。

一方砦に帰還した総司は華雄の治療を医療班に任せ、

砦の塀に昇り防衛部隊にいる、瑠香に指示を出す。

 

総司「桂花、弓隊の弓の攻撃を絶やすなよ。

   瑠香、あれを使う。準備しろ。」

 

瑠香「待ってました。大隊を二つに分けるわ。

   第一、第二中隊は私についてきて、第三、第四は師団長の指示があるまでこの場に待機せよ。」

 

大隊兵士全員「はっ。」

 

瑠香の普段からは全く聞く事の出来ない凛とした声に従い兵士たちは二手に分かれ

一方は残り、もう一方は瑠香に付き添い門の外へ出ていく。

 

朱儁「何故彼女は出ていく。それよりあの兵器はなんだ?」

 

総司「説明するより見てもらった方が早いです。

   それより朱儁将軍。この後轟音がなるので馬のさばき注意してくださいよ。

   それとこの後の事です。俺達の攻撃が終われば敵はひるむはずです。

   状況次第ですが手筈通り敵に突っ込んでください。」

 

朱儁「分かった。準備しよう。」

 

朱儁は階段を走りながら自分の部隊の所へ向かい配置に着く。

朱儁が配置に着いた事を確認した総司に伝令兵が報告に来る。

 

伝令兵「報告します。孫尚様、配置に着きました。」

 

総司「ご苦労。孫尚の元に戻れ。」

 

伝令兵「はっ。」

 

伝令兵が下がるのと同時に桂花から報告が来る。

 

荀彧「総司様、敵が来ます。城壁の鉄砲隊も配置完了です」

 

総司「分かった。鉄砲隊、構えろ。

   この世界で初めての銃火だ。お前達がその先駆けだ。お前達は今歴史の

   先頭に立っている。お前達の後ろには何億丁もの銃が続く。

   お前達は今歴史の上を立っている」

 

総司の号令と共に壁上の鉄砲隊と門前の鉄砲隊が敵に向けて鉄砲を構える。

 

総司「まだ、まだだ。まだだぞ。」

 

瑠香「まだよ、まだ。まだ駄目。」

 

騎馬隊を先頭に連合軍が砦に迫る。

その迫力はすさまじく門前で構える兵士たちは恐怖に駆られて鉄砲を撃ちそうになるが

瑠香が抑える。そしてついに、

 

総司「はなてーー。」

 

バンババンバンバン

 

総司の号令と共に壁上と門前の兵士達が一斉に鉄砲の引き金を引く。

轟音が響き、弾が打ち出される。

打ち出された弾はそのまま連合軍の兵士の身体を貫く。

当たりどころが悪かった者はそのまま死に

腕や足を撃たれた兵士は倒れる。

その悲鳴に連合軍全体が混乱する。

それは指揮官である孫策や一刀も同様だった。

だがそれでもいち早く立ち直った二人は退却の合図を出す。

その合図を聞いた兵士達は退却をし始める。

怪我人も多いのでどうしても遅いがその後、董卓軍から追撃はなかった。

 

 

 




どうも秋月です。いかがだったでしょうか?
もう一人の現代人孫尚 文陣こと瑠香の初登場。
それと鉄砲の登場。
三国時代に鉄砲を持ち込むのはどうかという人も多いかなと思います。
ですがこういうものだと思って楽しんでいただければ幸いです。
次は荀彧をもう少し出せたらと思います。
では次回またお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話

反董卓連合劉備軍陣地。

 

そこでは所属は関係なく負傷者の手当てが行われていた。

負傷者は多く、怪我をしていない人間は後方で待機していた予備部隊が必死に

怪我を治療し包帯を巻く。だがそれでも亡くなる者が多い。

そんな中、呉軍と幽州、徐州連合軍の主だった者達が集まっていた。

 

劉備「雷みたいな音が鳴ったと思ったら皆が前の方からに倒れた。あれは何だったの?」

 

劉備が口にした事はその場にいる全員が思っていた疑問だった。

その場にいる先の戦闘に参加した誰もが動揺の色が顔に出ている。

それは孫呉の当主である孫策も同じだった。

表向きは冷静さを保っているが内心は動揺しまくりだった。

殆どの者があんな兵器を前にどうやって攻城しろというのかと絶望している中

一刀は違う理由で動揺があった。

何故あの兵器がこの時代にあるのか?そういう動揺だった。

本来火薬兵器が初めて登場するのは少なくとも後千年は先の話だ。

火薬だって生まれるまでおおよそだが百年は先なのでまさかここで

出てくるとは思ってもいなかったのだ。

沈黙がその場を支配する中孫策が口を開いた。

 

孫策「黙ってても仕方ないわ。それより聞きたい事があるの。

北郷殿。これに見覚えあるわよね。」

 

いいながら孫策はずっと持っていた物を中央の地図が置かれた机にのせて周りに見せる

それは血が付いた弾丸だった。

 

孫策「これは負傷者や死者の傷口から出てきたの。触った感じ鉄でできている。

そしてさっきの大きな音が鳴る前あなた大声で伏せるように叫んだわよね。

そんな事知らない人間には出来ないわ。ま、私も周瑜もそのおかげで助かったのだから

攻めるつもりはないわ。でも知っているなら話してほしい。」

 

孫策はまっすぐに一刀の方を見た。

一刀自身説明するつもりだったので

 

一刀「あれは鉄砲もしくは銃と呼ばれる兵器だ。俺の世界で使われている

主な武器でそれはその銃から打ち出された弾丸もしくは銃弾と呼ばれていて

銃で火薬を爆ぜさせてその銃弾を撃ちだす兵器だ。

距離にもよるけど鎧なんて簡単に貫通する威力はあったと思う。」

 

孫策「なるほどねー。弱点はあるの?」

 

一刀「まっすぐしか飛ばないから大きくて分厚いの鉄の盾を壁にすれば近づけるかもしれない。

でも目に見えない速さで撃ち出されるし銃弾がこの形状なら連射してくるかもしれないし

中々難しいかも知れない。」

 

孫策「なるほど有難う。だからと難しいからと言って出来ませんでしたとは言えないわ。

私達は洛陽に攻め入ってる。負ければ反逆者にされかねない。

つまり何としても勝たなければならないという事よ。」

 

劉備「でもだからと言ってこのまま無策で突っ込むわけにはいきません。

それこそ無駄に死者を出すだけです。」

 

それから長い時間話し合われたが特にこれと言って解決策が出るわけではなく、

その場は解散となった。

 

 

 

孫策は自陣に帰りながら今後の事を考えていた。

 

孫策(ただ突っ込むことは出来ない。それをすれば甚大な被害がでる。

それで攻略できればいいけどもしかしたら出来ないかもしれない。

あの御使い殿もそんな感じで話していたものね。なら方法は一つしかないわ。)

 

孫策「冥琳。」

 

周瑜「どうした、雪蓮。」

 

孫策「直ぐに私の天幕まで将達をよんで。」

 

周瑜「わかった。」

 

周瑜は部下に呼びに行かせた。

 

孫策(さて。攻略する気満々の玄徳ちゃんには悪いけどこっちはあまり被害を出すわけには

行かないわ。向こうもこんな戦いをいつまでも続けようとは思ってないはず。

ならやれることはあるわ。)

 

孫策はそのまま自分の天幕まで戻った。

しばらくして孫策の天幕に将達が集まる。

 

孫策「さてまずは先の攻城戦はご苦労だったわね。祭、粋怜、梨晏、まずは無事だった事を

喜ばせてもらうわ。前の方にいた者はかなりの被害だったから心配してたの。」

 

黄蓋「危なかったがの。轟音で馬が跳ねて馬から落とされていなかったら死んでたわい。部隊の者も同様じゃ。」

 

程普「同じく。運が良かったとしか言えないわ。」

 

梨晏「私も―。正直あれを攻略するとなるとかなりの被害になるんじゃないかな。」

 

張昭「うむ、儂も同意見じゃ。今後の孫家の事を考えるとここでこれ以上大きな被害は出せん。」

 

孫策「その事なんだけど私は相手側に交渉を持ち掛けたいと思っているの。」

 

黄蓋「何と。策殿本気か。」

 

孫策「本気よ。私の勘だけど向こうはあくまで時間稼ぎをしている感じがするの。

つまり相手は私たちを本気で負かす気はない。」

 

孫権「本気ですか?姉さま。相手はこちらの兵をこれだけ殺しに来てるのですよ。」

 

孫策「私は何も根拠のない事を言ってるわけではないわ。蓮華(孫権の真名)。

彼らが本気なら最初から使ってこれたはず。

恐らくだけど私たちが華雄を挑発しておびき寄せるなんてしなければ

使うつもりはなかったでしょうね。」

 

周瑜「私もそう思います。蓮華様。事実、前にいた隊でも指揮官の周辺の兵士は

軽症や無傷の兵が多いです。これがわざとならその可能性があります。」

 

黄蓋「しかし「軍議中失礼します。」なんじゃ今は忙しい。後にせよ。」

 

黄蓋が軍議中に入ってきた兵士に怒鳴る。

孫策はそれを治めて兵士に内容を聞く。

 

孫策「まあまあ落ち着いて。でどうしたの?」

 

兵士「孫策様に面会を求める方がいらっしゃっているのですが?」

 

孫策「そう。そのまま通して頂戴。」

 

兵士「はっ。」

 

黄蓋「策殿、話は終わっておらんぞ。」

 

孫策「その話はあとで聞くわ。今は客人に会わないと。」

 

兵士は案内されてやって来たのはフードが付いた黒い服を着た青年。

そしてもうもう二人は背丈に差がある。

更にそれぞれが服にその上からフード付きのマントを着た女性だった。

二人ともフードで顔が隠れて顔は分からない。

 

黄蓋「なんじゃ。顔を隠すとは礼儀も知らんのか。」

 

???「顔を出してもいいのか?孫策殿。」

 

孫策「構わないわ。」

 

その人物はフードを取る。顔を見た瞬間その場にいた孫呉の将達は驚いく。

それもそのはずそこにいたのは総司と趙雲そして荀彧。

つまり先ほどまで敵として戦っていた人物なのだから。

 

黄蓋「なぜ貴様れがここにおる?」

 

程普「そうね。いくら何でもここにあなたがいる事はおかしいんじゃない?」

 

孫策「皆沈まれ。」

 

騒ぎ出す将達に孫策が一言で静かにさせる。

 

総司「言いたいことは分かるが随分な歓迎だな。孫策殿?」

 

孫策「ごめんなさい。まだ皆には話していないのよ。」

 

総司「なるほど、なら少し待とう。」

 

孫策「感謝するわ。」

 

会話が終わったのを見計らい孫権は姉を問いただす。

 

孫権「姉さまどういうことですか?なぜ敵がここに?」

 

孫策「それは私が呼んだからよ、蓮華。」

 

孫権「何故ですか?」

 

孫策「孫呉の未来の為、何よりこれ以上損害を出さないためよ。」

 

孫権「ですが?」

 

周瑜「蓮華さま。今回の件は私の発案なのです。」

 

黄蓋「公瑾、どういう事じゃ。」

 

周瑜「今日の戦で我々は二千五百の兵を失いました。

戦は汜水関で終わりではありません。

虎牢関、そして洛陽とまだまだ続きます。それにこの戦が終わっても

戦乱の世が続くでしょう。それをこんなところで大幅に失うわけにはいかないのです。

水燕との取引の場を設けました。」

 

張昭「納得じゃな。じゃがその前に水燕よ。一つ聞きたい。」

 

総司「なんでしょう?」

 

張昭「帝の事じゃ。わしが集めた情報では霊帝陛下は董卓に退位させられたと聞いた。

それはどうなのじゃ?」

 

総司「半分正解です。ですが今回の一件は全て献帝陛下の御指示の元、

董卓様が行われた事でございます。」

 

張昭「誠じゃな。」

 

総司「はい。我が真名と命にかけて。」

 

張昭「承知した。」

 

黄蓋「おい雷火、良いのか?」

 

張昭「もとより儂は周瑜の意見に賛成じゃ。

勿論取引の内容にもよるがな。」

 

程普「まあ、聞くだけ聞いてみればいいと思うわ。」

 

黄蓋「おい、粋怜!」

 

程普「勿論聞くだけよ。水燕君の性格はそれなりに分かっているし

全く信用出来ない程悪人という訳でもない。

そもそも私はずっと疑問だったの。

いくら古い知り合いとはいえ水燕君の性格からしてもし董卓が檄文通りの悪人なら

何があろうと水燕君は参加しないだろうと考えていたの。

なら檄文は嘘で都では圧政など行われていないと考えた方が

水燕君の行動にも納得できると思わない?」

 

黄蓋「ふむ。」

 

孫策「祭の気持も分かっているわ。でもここは孫呉の未来の為に

折れてくれないかしら。」

 

黄蓋「策殿もずるいお方じゃ。そう言われたら聞くしかあるまい。」

 

孫策「有難う。蓮華も他の者もいいわね。」

 

孫権「はい。」

 

その他の者達も頷く。

 

孫策「待たせたわね。水燕。で取引の事だけど

此方からの要求は汜水関の突破と戦後の孫呉への帰順。

でどうかしら?」

 

総司「構わない。孫呉への帰順はこちらとしても

願っっていた事だからな。

此方からはこの戦の中でのある程度の相互不可侵だけだ。」

 

孫策「それだけでいいの?」

 

総司「構わない。もとより多く望める立場にないからな。

もしかなうならそうだな戦後に帰順後の待遇の交渉の場を設けるでどうだ?」

 

孫策「私は構わないわ。皆はどう?」

 

誰も否を唱える者はいなかった。

 

孫策「ならこれで決まりね。雷火直ぐ文書にして。

この場で締結とするわ。立会人は此方からは張昭と孫権でいい?」

 

総司「構わない。此方からは趙雲と荀彧を立会人とする。」

 

孫策「構わないわ。それじゃ、少し待ってね。」

 

それからしばらくして張昭により文書が完成し、

それにそれぞれ署名しそれを立会人が確認し締結とした。

そして翌日孫呉と劉備軍は汜水関に突入。見事汜水関を奪った。

また更に欲張った劉備軍の部隊数隊が制止を無視して追撃をかけ、

第四師団の殿部隊に死に物狂いの攻撃を受け殿部隊は全滅したが

同時に追撃部隊も壊滅的な被害を受けた。

生き残りの報告を受けた劉備と一刀と孫策は

殿部隊の攻撃方法に背筋が凍る思いだったと言う。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話

 虎牢関

 

汜水関を孫呉と劉備軍に約束通り突破させ後退した総司は虎牢関まで戻っていた。

 

総司「着いたか。皆ご苦労だった。各自休息をとってくれ。」

 

総司の指示の元あらかじめ用意してた天幕で寝たり、

自分で持って来た軽食を食べるなど各自で休息を取り始める。

それを確認した総司は虎牢関の部隊を指揮する賈駆のいる部屋に入る。

 

総司「賈駆、今戻った。」

 

賈駆「お疲れ様、報告は霞から聞いてるよ。物資は全て回収したんだよね。」

 

総司「ああ、それは大丈夫だ。それは回収してある。」

 

賈駆「分かったよ。被害は?」

 

総司「華雄が暴走した時に華雄隊から数人と俺の隊からも数人

追撃を受けてここでも二部隊分失った。」

 

賈駆「なんで?劉備とはそこら辺も取引してたんじゃないの?」

 

総司「恐らく、劉備はまだ徐州軍を完全に掌握出来てないんだろ。

そこからの暴走だと思う。ま、全て俺が汜水関でやりすぎたせいだな。」

 

賈駆「大丈夫かな。月が攻撃されないといいけど。」

 

総司「その為に朱儁将軍を護衛とするんだろ?」

 

賈駆「そうだね。過剰に心配してたみたいだ。」

 

総司「それより俺達はここの守備だ。汜水関で十一日稼いだから残り約九日。

行けそうか?」

 

賈駆「修繕は終わってるよ。三日後には敵も攻めてくるだろうから

それまでにバリスタや小型投石器の配置頼んだよ。」

 

総司「分かった。任せろ。」

 

総司は賈駆の部屋を出て壁上の状態を確認する。

 

総司「瑠香。状況はどうなってる?」

 

瑠香「もう少し、もうメンテは終わってるから後は設置だけ。

追加の矢も作ってるし部品も今明石の輸送隊が持ってきてるから大丈夫かな。」

 

総司「頼んだ。」

 

瑠香「任せなさい。月の為だもんね。しかしあの子も可哀そうだ。

まだ十代なのにこんなことになって。」

 

総司「ああ。てか瑠香それを言えば今戦場で指揮を執ってるのは

殆ど十代だ。それと少し年より臭いぞ。」

 

瑠香「生きてる時間だけなら私もあんたも既に三十五歳だよ。

というかほんと、総司は昔から遠慮なく言うよね。女に対して少し遠慮を覚えたら。

いやそんな事私に対してしか言わないよね。て事はわざとかこのコノヤロー。」

 

総司「やっと気づいたか。気づくのが遅いんだよ。」

 

瑠香「何をー!」

 

総司「少しは気がまぎれたか?」

 

瑠香「えっ?」

 

総司「お前、前の戦のあとから気負いすぎ。指揮官として責任感じてるんだろうけど

いくら何でも気負いすぎだ。もう少し肩の力を抜け。でないと指揮に影響するぞ。」

 

瑠香「ごめん。総司有難う。」

 

総司「気にすんな。俺も最初はそうだったし。」

 

瑠香「まじか。何でもそつなくこなす癖に。」

 

総司「そつなくこなすのと気負わないのは違うだろ。

指揮するなら環境が違うとはいえ、親父の会社でやってたけど

此処じゃそれが直接生き死にがかかわるからな。流石に何も感じねえ訳じゃない。」

 

瑠香「そっか。でもそれでも総司はすごいよね。

私は総司みたいなことは出来ないや。」

 

総司「こればかりは慣れだからな。

それよりだ。お前この後どうするんだ?」

 

瑠香「どうとは?」

 

総司「劉備の所に行くのか。それか俺と孫呉に行くのかだ。

それか曹操に雇ってもらうっていう手もあるが?」

 

瑠香「その事?それなら一択だね。総司について行きつもり。

総司以上に私の作る物を理解してくれる人はいないだろうし。

それに劉備は聞いた限りかなりの甘ちゃんだろうからね。」

 

総司「だろうな。でもいいのか?お前一刀の事好きなんだろ?」

 

瑠香「それはそうだけどさ。それとこれとは別。戦場に覚悟もなく甘いこと言いながら

出るような奴に私の兵器を使わせたくない。」

 

総司「そうか。分かった。ならこれからも頼む。」

 

瑠香「任せなさい。てか何で私が一刀が好きって知ってるの?」

 

総司「は?お前、一刀に告白した後振られてさんざん一緒に飲んだろ。」

 

瑠香「そうだった。ありがとね。気使ってくれて。」

 

総司「気にすんな。」

 

さわやかな笑顔を向ける総司。

 

瑠香(この笑顔、こいつのこういうとこ一刀の無自覚女落としに似ているんだよなあ。

既に何人か餌食になってるし。)

 

無自覚なのは総司も一刀と変わらないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

汜水関劉備陣営

 

 

 

一刀「で、なんで追撃したんだ。麋芳の隊だよね。」

 

麋芳「ごめんなさい。」

 

劉備「まあまあ、ご主人様。今回の事は電々ちゃんが

直接指揮したわけじゃないんだし。」

 

関羽「ですが桃香様。今回の事は取引に支障が出かねません。

此方から出した条件は既にかなえてもらっているのです。

しかし今回の追撃で此方は真名まで使った約定を破ったのです。

もし敵が全力で此方を潰しに来ても文句は言えませんよ。」

 

劉備「うーん。そこまでしないと思うんだけどなあ。」

 

一刀「甘いよ、桃香。水燕さんはそんなに甘くない。

約定が破られたとわかれば容赦してくれないよ。

水燕はそういう人なんだ。」

 

相変わらず考えが甘い劉備に溜息を吐きながら咎める一刀。

 

孔明「あまり知られていませんが過去にも

約定を破って味方を攻撃した敵を皆殺しにしたという話を聞きます。

う、噂ですけど」

 

劉備「大丈夫かな~。」

 

急に心配しだす桃香に関羽と一刀は溜息を小さくこぼす。

 

一刀「こうなるともうどうしようもない。あちらに使者を送れない状況だし

こっちとしてはそうならない様に祈るしかないよ。後各部隊長はこれまで以上に

部隊の統率を徹底してくれ。」

 

劉備軍幹部『はっ。』

 

 

 

 

 

孫呉陣営

 

 

孫呉では出陣前の最後の軍議を行っていた。

今は劉備軍の追撃を監視していた周泰と甘寧の報告を聞く。

 

孫策「思春(甘寧の真名)、明命報告してくれる?」

 

甘寧「はっ。劉備軍の恐らくは麋芳隊だと思うのですがその一部が制止を振り切り追撃を

行い第四師団から二部隊が殿に出て殿部隊は全滅。

数で追撃部隊は殿部隊の三倍~四倍ほどの人数が居ましたが

追撃部隊は壊滅、生き残ったのは数人ほどです。

その数人も怪我人ばかりです。」

 

周泰「その殿部隊も異常ですよ。

最初は武器で戦ってたんですけど武器が壊れると素手で相手の首の骨を折に行って

腕がだめなら相手の頸筋をかみちぎったり、

それでもだめならしがみついて自分ごと仲間に槍で攻撃させたり、

ほんと見てて鳥肌が立ちました。ねえ、思春殿。」

 

甘寧「ああ。あそこまでの事が出来るのは驚いた。」

 

黄蓋「ふむ。思春たちの報告が嘘とは思わんがにわかに信じがたい事実じゃな。

余程うまく教育しておるのだろう。」

 

程普「教育でそこまで出来るならそれは洗脳の域よ。祭。」

 

孫策「二人とも報告有難う。出陣まで少ししかないけど休んでて。」

 

甘寧・周泰「はっ。」

 

雪蓮の声を聞いて二人は退出する。

 

孫策「でも驚いたわ。そこまで出来るものなのね。」

 

黄蓋「中々できる事ではないがな。だがそれが味方になる将来的には歓迎ではある。

策殿があの場で取引をしていたことが兵の損失の軽減と将来的な戦力向上につながった。」

 

程普「そうね。仮に第四師団だけだとしてもそれだけの忠誠心がある者達の集まり

なら臣下として頼りになるだろうし無碍に扱わなければ裏切らない。

それに水燕君自身もとても強い。戦力向上は間違いないでしょうね。」

 

孫権「しかし姉さま。これは異常です。今回の取引少し考え直すべきでは?」

 

孫策「蓮華には異常に映った?私は凄いと思ったわ。

配下にそこまでさせる人徳は見習うべきものだわ。」

 

孫権「はい。」

 

黄巾討伐の際、総司は長く孫呉と共に行動していた時期があり

その際蓮華も何度か総司と話す機会があった。

だからこそ蓮華自身総司の性格はよく分かっていたし好感を持っていた。

それに加えその技術力はこれからの孫呉に必要なことだとわかっている。

最初こそ異常だと思ったが宿老二人や姉である雪蓮の話を聞いて納得できた。

 

孫権「分かりました。では私も準備があるので。」

 

そう言いながら蓮華は天幕を出ていく。

それを皮切りに軍議を終え、虎牢関へ向けて出陣する。

それぞれの思惑を胸に。

だが彼らはまだ知らない。

この虎牢関で自分たちの掲げる正義が崩れ去る事になるのを。

そしてそれを味方が行うのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話

 虎牢関

 

その城壁が見える位置に陣を構えた連合軍は到着した数刻後、

軍議を行っていた。そこには各勢力の将達が集まっている。

その中には汜水関攻めの際には出席が出来なかった孫策の姿もある。

汜水関攻めの功績を曹操が評価して出席させるべきだと主張、

それに袁術や劉備が賛同した為である。

 

袁紹「劉備さん、孫策さん。」

 

劉備・孫策「はい。」

 

袁紹「時間はかかったようですけど……まっ汜水関の奪取はお見事でしたわ。

   連合の盟主として、褒めて差し上げましょう。」

 

劉備「ありがとうございます。」

 

袁紹「しかし敵将である水燕、朱儁をはじめとした将は討ち取れず、

   また敵兵のほとんどは虎牢関へ逃げてしまいましたわ。」

 

袁紹は最初二人を褒めていた時とは違い、厭味ったらしく将を討てなかった事を責める。

 

袁紹「だからこそ次の戦いこそ真の決戦となるでしょう。そこで……。」

 

そこで桃色の帯で髪をまとめた女性、馬超孟起が名乗り出た。

 

馬超「袁紹殿!先鋒は是非とも我らに!」

 

袁紹「はい?」

 

馬超「この戦がはじまって以来、我らは周辺の警戒ばかり。

   これでは連合に参加している意味がない。」

 

馬超「今こそ、我が西涼兵の勇猛さをお見せしましょう!

   どうか先陣のお役目を!」

 

袁紹「ゴミは黙っていなさい!」

 

馬超「!ゴミだと。」

 

袁紹「涼州の片田舎の物などゴミ同然のではないですか?」

 

馬超「なにを~~。」

 

袁紹と袁紹の一言に怒った馬超、が喧嘩を始める。

そこに袁紹が自分こそが先鋒で出ると言い出した。

呆れて見ていた孫策が袁紹が先鋒で構わないといい、

理由を察した曹操と劉表の名代である黄祖が賛同したことで

明日の戦の先鋒は袁紹軍で決まった。

それを聞いていた外で警備兵に変装して聞いていた孫乾は部下に命じて

総司の下に走らせた。

 

 

 

 

 

同時刻洛陽城

 

汜水関が落ちたという情報を聞いた献帝は心配しながら董卓に話しかける。

 

献帝「董卓よ。し、汜水関が落ちたと聞いたが……?」

 

董卓「御心配には及びません。殆どの兵が虎牢関に退きました。

   それにこれはこちらの計画に乗っ取ったもの。全て予定通りです。」

 

献帝自身今回総司が立てた計画は知っているし賛同すらしている。

献帝自身短い間だが政治にかかわってきた。だからこそ漢が今の形を保ったまま

立て直すのは不可能だという事は分かっている。

劉家とは別の人物による全く新しい政治体制を取るしかないと考えていた。

だからこそ自分は政治の世界から身を引く事にした。

既に姉やそのお世話係をしている趙忠にも都を出る準備を整えてもらっている。

だが何としても次代に残してはならない仕事がまだある。

だからこそ心配してしまう。

別に守っている将を信頼している訳じゃない。

自分が皇帝として最後の使命を完遂しなければならないという使命感からくるものだった。

 

董卓「ご心配には及びません。彼らは必ずや役目を完遂してくれるでしょう。

   御無礼ですが白湯様もご自分のお役目を果たしてくださいませ。」

 

献帝「分かった。どれくらい進んでいる?」

 

董卓「全て予定通りでございます。明日には賈駆が戻るので更に早くなると考えております。」

 

献帝「分かった。」

 

董卓は心の中で無事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、袁紹軍による攻城が始まった。

だがノロノロと遅い行軍に攻城兵器どころか梯子すらも持ち出さず

ただ突撃してくる彼らに呆れる総司。

 

総司「攻城兵器持たずに虎牢関を攻めようとするとは愚かという言葉でも生ぬるいな。」

 

荀彧「はい。ですが数は侮れません。」

 

総司「分かってる。桂花、頼んだ。」

 

荀彧「はっ。弓隊構え。撃て――。」

 

荀彧の合図で弓隊が矢を射かける。

しかも弓兵たちが使っているのはこの時代では一般的な装備で

バリスタなどの兵器は一切使われていない。

使う必要すらない程に袁紹軍は行動が遅い。

事実袁紹軍は弓矢を受けた場所から全く動けていなかった。

この日は一時撤退。翌日もその次の日も同じような攻撃を仕掛けたが結局失敗に終わった。

攻撃開始四日目、顔良と文醜が指揮を執り攻城を開始。

その日はこれまでと違い攻城兵器を使用。ここで総司はある切り札を使う事を決める。

 

総司「恋!」

 

呂布「?」

 

総司「出番だ。」

 

呂布「分かった。陳宮~。」

 

陳宮「ハイなのです。全軍呂布殿が出れば続くのです。」

 

陳宮は全軍に指示した後呂布と二人で門へ出ていき

その小さな見た目からは想像できない大声で叫んだ。

 

陳宮「聞け――――い、弱賊ども!

   最強を名乗る物はこの世に数いれど!まことの最強は天下にただ一人!

   ここにおわす呂奉先こそ、まさしく古今未曾有!天下無双の達人なのです!」

 

呂布「………………」

 

顔良「呂布!出てきた。」

 

文醜「へ……あれが呂布?なんかボーっとした奴だな。」

 

陳宮「さあ、呂将軍!袁紹の弱兵どもを蹴散らし、

   我が董卓軍の恐ろしさを思い知らせて下されー!」

 

呂布「うん………………ちんきゅ………………出る。」

 

陳宮「御意なのです!呂将軍御出陣!者ども、深紅の呂旗を掲げよー!」

 

呂布隊「「「おおーーーっ!!」

 

顔良「敵が来る。全軍攻城兵器を後ろへ。防御を固めろ。文ちゃん!」

 

文醜「よっしゃあ!前は任せな。斗詩(顔良の真名)!」

 

董卓軍は呂布を先頭に防御を固めた袁紹軍へ突っ込み、

一振りで十人単位の兵士を一気に蹴散らして防御を蹴散らして突っ込む。

袁紹軍が敷いた何重もの防御の壁が全く意味をなしておらず

呂布が通る所で大の大人たちが吹っ飛ぶ。

 

顔良「だめ。全然抑えられていない。仕方ないか。撤退の合図を。全軍撤退。」

 

顔良の判断で袁紹軍はその日も撤退。

何も成果を得られず戻ってきた顔良と文醜を自分の天幕で何もせず見ていた袁紹は叱咤する。

 

袁紹「斗詩さん、猪々子(文醜の真名)さん、何をしていますの?

   なぜ何も成果を得られずに戻ってきましたの?

   虎牢関を落とすまで戻って来るなと言ったはずですわよ。」

 

顔良「申し訳ありません、麗羽(袁紹の真名)様。しかし。」

 

袁紹「言い訳など聞きたくありませんわ。」カンッ

 

袁紹は飲んでいた酒の入った盃を投げつけて顔良の発言を遮る。

盃が顔良の顔に当たり額から血が流れる。

 

「もういいですわ。明日は(わたくし)自ら指揮を執ります。よろしいですわね。」

 

その場にいる者達は不可能だとわかりながらも誰も止める事が出来ず従う。

 

だが翌日袁紹がほぼ全軍を率いて出陣、しかし第四師団のバリスタや鉄砲の前に手も足も出ず

撤退を強いられるのだった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話

ここで原作との違いが出てきます
それでもOKな方どうぞ。


袁紹「きいいいーーーー。なぜ私の完璧な策でなぜ落ちませんの?」

 

袁紹は策というが実際は攻城兵器を持って突撃させただけ。

攻城兵器を持っていた分まだましだがそんな策で落とせるわけがない。

そんなことこの場にいる者達は分かっているが言えない。

迂闊なことを言って袁紹を怒らせるとどんな目に合うかわからない。

過去にもそんな事があった。だから苦言は言わず黙っている。

顔良と文醜も今でこそ袁紹の側近だが元は青州の出身で両親は既に高いしており

二人とも頼れる人間がおらずここを追い出されると行く場所がない。

その為袁紹に対して強く言えないところがあった。

二人は黙っているが他の者達はご機嫌取りをする者もいる。

 

顔良(真直ちゃんが居ればこんなことにはならないのになあ。)

 

顔良が言う真直とは田豊という女性の真名だ。

彼女は筆頭軍師ではないが幼いころから袁紹に仕えてきたことも有り、

袁家で唯一袁紹に遠慮なく意見できる存在だった。

だからこそ袁紹には嫌われている節もあったのだが。

普段は出陣すれば絶対についてくる彼女だが今回はこの場にはいない。

何故かと言えば出陣前に袁紹に大量に仕事を任せられてしまい出陣どころではなくなってしまったのだ。

だからこそ袁紹は好き勝手出来るし誰も彼女を止める事が出来ない。

 

許攸「袁紹様ではこのような策はいかがでしょう。」

 

袁紹「何かありまして?」

 

許攸「はい。少々お耳をよろしいいでしょうか?」

 

軍師の一人である許攸(きょゆう)が袁紹の耳元でささやく。

 

袁紹「良いですわね。許可します。直ぐにやりなさい。」

 

許攸「はっ。」

 

袁紹の許可を得た許攸は数人の将の名を呼び指示を出していく。

この時顔良の名は呼ばれなかった為、彼女は作戦内容を特に気にすることは無く流した。

この時流したことを翌日に深く後悔することを彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

翌日袁紹軍の前衛には妙な袋と棒が配備された。

顔良と文醜は参陣しなくていいと命じられたので部下と共に遠くから不思議に思いながら見ていた。

周りには各勢力の主だった将や当主達がいて今度はどうするのかと話し合っている。

複数の兵士が棒の先端で何か作業をしているのが見えた。

 

文醜「なあ、斗詩。姫と許攸の奴は何をしているんだ?」

 

顔良「さあ?」

 

不思議に思いながら見ていると棒が立てられる。

そこで二人は信じられない者を目にした。

棒の先端に人が括り付けられはりつけにされていたのだ。

はりつけにされている者達は皆傷だらけでぐったりしている。

全員が明らかに生きている者もいる。

言葉が出なかった。普段から自分たちの主が他の人間を過度に見下しているのは知っていた。

だがここまでするとは思わなかったのだ。

それは他の勢力の人間も同じようで各勢力の当主達が動き出す。

 

孫策「何なのあれ。ふざけてる。あんなのもはや戦ではないわ。」

 

周瑜「全くだな。それに策としても最低だ。」

 

黄蓋「公瑾。あれは策ではない。単なる侮辱だ。」

 

孫策「全くだわ。冥琳、直ぐに全軍に後退を指示して我々はこの件に一切関係ない事を

   内外に示す必要があるわ。祭も協力お願い。利晏は私についてきて。」

 

太史慈「分かったよ。雪蓮。」

 

周瑜「分かった。任せろ。黄蓋殿まずは程普殿を探してください。」

 

黄蓋「直ぐに探してくる。」

 

周瑜と黄蓋は行動を開始する。

孫策はそれを見送った後太史慈を伴い袁紹のいる天幕へと向かっていった。

他の勢力の当主達も同じ行動をとっていた。

 

曹操「麗羽、昔から他人を見下した態度を取っていたけどここまで落ちたか。

   稟、直ぐに全軍を後退させなさい。あと袁紹からの申し出はすべて断るように。

   例外は認めないわ。いいわね。秋蘭(夏侯淵の真名)も協力なさい。」

 

郭嘉・夏侯淵「はっ。」

 

郭嘉も行動を始め夏侯淵も付いて行く。

 

曹操「春蘭、ついてきて。」

 

夏候惇「はっ。」

 

曹操もまた行動を開始する。

劉備軍の共同代表である一刀は少し困惑していた

 

一刀「なんだよあれ?あれが人間のすることか?愛紗、皆、これは俺がおかしいのか?」

 

一刀は隣にいる仲間に問いかける。

戦争を経験したことが他の仲間より少ない自分がおかしいのかと

一刀自身戦争というものの悲惨さは知識として分かっているつもりでいたし実際此方に来てから

何度も経験していた。だがまさかここまでの事をするとは思っていなかったのだ。

目に見えて困惑する一刀に即座に関羽と孔明が否定する。

 

関羽「いえ、あれは違います。あんなもの人がすることではありません。」

 

孔明「はい。それに策としては愚策。敵をあおる事しか出来ません。

   ご主人様、直ぐに全軍を後退させ無関係であることを内外に示すべきです。

   それに直ぐに虎牢関の水燕将軍が報復に出るかと。下手をうてば巻き込まれます。」

 

一刀「そうだな。直ぐ動こう。軍の事は朱里に任せるよ。

   愛紗、手助けしてあげて。鈴々は僕についてきて。」

 

孔明「お任せを。愛紗さん。よろしくお願いします。」

 

関羽「ああ。直ぐ行おう。」

 

張飛「分かったのだ。」

 

劉備軍また行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

困惑していたのは虎牢関側も同様だった。

攻撃範囲外で何か作業をしていると思っていたら急に棒が立ちその先端には

第四師団の先の追撃戦で殿を務めた部隊の部隊長とその部下数名、

そして第三師団の部下数名がはりつけにされている。

殆どが死んでいるようだがわずかだが生きている者もいる。

見れば拷問を受けたであろう傷が無数に見える。

生きてはいるようだが今すぐ治療しなければ死んでしまうだろう。

 

張遼「なんやねん、あれ?あれが人間のすることか?」

 

華雄「あれは私の部下だ。それに隣は総司の部下だろ。」

 

総司「ああ。殿についてくれた奴らだ。

   美花から数人生きているとは聞いていたがまさかこんなことになるするとは。」

 

その時袁紹から警告が発せられた。

 

袁紹「反乱軍のゴミの皆さん。今すぐ降伏なさい。さもなくばこの場にいる者を

   一人残らず皆殺しにします。そうなりたくなければ今すぐ降伏なさい。

   皆やっておしまい。」

 

そういうと袁紹は後ろに下がっていった。

袁紹軍の兵士達は一斉に石を投げだす。

これを見ていた董卓軍兵士たちが騒ぎ出す。

 

兵士1「水燕将軍。打って出ましょう。奴らに自分達が何をしたのか

    身をもって分からせるべきです。」

 

兵士2「そうです。彼らを取り戻し奴らに思い知らせましょう。」

 

兵士3「将軍!」

 

兵士4「将軍!」

 

張遼「総司やるで。うちも賛成や。」

 

華雄「部下の無念思い知らせてやる。」

 

呂布「やる。」

 

朱儁「やるべきだ。ここで動かなければいつ動く?」

 

総司「ああ。やるぞ。だが忘れるな。我々の勝利は彼らを取り戻し、奴らを皆殺しにすることだ。

   生死を問わず全てを救え。そして奴らに自分たちが何をしたか、思い知らせてやれ!」

 

全員「おおおおーーーーーー。」

 

その場にいた全員が武器を掲げて叫ぶ。

この日袁紹は最も触れてはならない者の逆鱗に触れてしまったのだった。

 

 

 

 




第十三話いかがだったでしょうか?
袁紹ファンの方には結構辛い話です。
書いてて自分でもこれはやばいかなと思いましたが初期構成でもこの話は
入れようと考えていたので入れる事にしました
後は他にも同じ感じのストーリーの方がいない事を祈るのみです。
次回も読んでもらえれば幸いです。
では次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話

曹操「袁紹!これはどういう事?」

 

袁紹「あら、華淋さんもおかしなことを仰いますわね。

   私はただ汚いゴミを下郎共に返しただけはありませんか?」

 

曹操の問いかけに対して袁紹は董卓軍兵士を侮辱し続ける。

そこに他勢力の指導者達が駆け込んで来た。

 

馬超「袁紹‼あれはなんのつもりだ‼」

 

公孫賛「死体をあんな風にしやがって⁉」

 

袁術「麗羽‼いくらなんでも酷すぎるのじゃ‼」

 

馬超、公孫賛、張勲を連れた袁術も叫ぶ。

 

孫策「全くやってくれたわ。本当に忌々しい。」

 

一刀「ああ、解せないな。」

 

怒り爆発一歩手前の雰囲気を醸し出す孫策と一刀が立っていた。

その雰囲気に曹操すらも息を呑んだ。

二人と総司は同じ考えを持っていた。

それは仲間、家族、何より民の為に戦う。

だからこそ2人からしても袁紹の行動が許されるものではない。

対して袁紹は明らかに震えているが、両腕を組んで尚も威張ろうとする。

 

袁紹「ふ・・・・・・ふん‼この可憐な私に指図するおつもりですの⁉

それによれしいではありませんの‼相手はゴミなのですから・・・。」

 

ここまで言われてなお態度を変えない袁紹に怒りを超えて呆れる曹操達。

それでも孫策と一刀の怒りは収まらない。

 

孫策「貴様の行動などただ無駄に死者を増やし、

   民の事を何も思わない貴様が指導者だと⁉反吐が出る‼」

 

一刀「お前は彼等をゴミ呼ばわりしているが、俺から見て貴様がゴミだ‼」

 

2人からの凄まじい覇気を前にして袁紹は体を震わすしかできなかった。

しかし丁度そこに袁紹軍の伝令が走り込んで来た。

 

伝令「伝令‼虎牢関開門‼」

 

袁紹「そら見なさいな。私の素晴らしい策で愚民どもが降伏のために出てきましたわ。

   ほら早く報告をなさい。降伏の使者は誰ですの?」

 

伝令「いえ、降伏ではありません。奴ら一斉に打って出ました。

   既に前衛は壊滅しております。直ぐにこの本陣まで到着します。」

 

袁紹「なっ・・・なんですってぇ⁉」

 

信じられないような目で伝令兵を見返す。

耳を澄ませば袁紹軍の兵士の悲鳴が聞こえてくる。

直ぐ近くまで来ていることが分かる。

袁紹は慌てて諸将の方に見返す。

 

袁紹「こうしてはいられませんわ。皆さん!直ぐに迎え撃って・・・・何処に行きますの⁉」

 

袁紹が何処かの陣営に命じる前に、大将達は本陣を後にし始める。一刀と孫策も同様だ。

 

孫策「袁紹、今回の戦で私達は後方に下がるわ。自分の始末は自分でつけなさい。」

 

一刀「俺達も協力を拒む‼無理に行かせようとすれば遠慮無くお前の首を斬り落としてやる‼」

 

袁紹「味方が危機の時に何を言ってますの?それに私は総大将なのですよ。総・大・将。

   ならばそれを守るのは当然の事ではなくて?」

 

これまで自分が敵、味方にしてきた事を棚上げして袁紹は喚く。

が遂に切れた一刀が袁紹の胸倉を掴み叫んだ。

 

一刀「自業自得だ。恨むならこれまでの自分を恨め。」

 

そう言うと袁紹を投げ捨て本陣を出ていった。

後の曹操の手記にはこう書かれている。

この時の御使いはまさに英雄だったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話

総司「全軍準備はいいか?」

 

張遼「いつでもええで。」

 

朱儁「ああ。早く行くぞ。」

 

呂布「行く。」

 

荀彧「総司様。」

 

総司「どうした?」

 

荀彧「とにかく人質から敵を排除してください。救出は我々が。」

 

総司「任せる。それと潜入中の美花に生き残りがまだ捕らえられていないか

   調査した後に戻るように伝えろ。」

 

荀彧「はい。」

 

総司「開門。」

 

声にこたえる様に門が開く。

開閉され切った時点で総司が叫ぶ。

 

 

総司「行くぞ。全軍全速力でかけろ。彼らにこれ以上苦しませるな。」

 

張遼「そうや。まずはあの石を投げとる奴らを蹴散らすで。」

 

総司「全軍突撃~~!」

 

合図と同時に総司、呂布、張遼、華雄を先頭に留守居役の徐栄を残して

怒りに燃える兵士達が虎牢関を出ていく。

徐栄もあの中に加わりたかった。でも辞退して総司に自分のこの想いを託した。

出撃ぎりぎりで無理を言って同行させてもらう条件として全軍出陣の際は

徐栄が留守居役になる事を賈駆に約束させられた。そしてそれを自分から申し出る事を。

ド真面目人間の彼女は自分の想いよりもそちらを優先した。

 

兵士「徐栄様一つよろしいですか?」

 

徐栄「何ですか?」

 

兵士「何故我々だけ留守なのですか?」

 

兵士は叫ぶ。彼もあの場に行って自分の中にある恨みを晴らしたかったのだ。

 

徐栄「その気持ちは分かります。私もあの場に行きたかった。」

 

兵士「なら。」

 

徐栄「ですがそれは出来ません。我々はこの砦を守らなければならないのです。」

 

兵士「しかしあいつらは。」

 

徐栄「だからその怒りは次に取っておきなさい。

   この戦だけが怒りをそして恨みを晴らす場ではありません。」

 

そこで兵士は気づいた。徐栄の手が血に染まっているのを。

彼女も悔しいのだと。そこで兵士は黙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出撃した董卓軍は袁紹軍が休憩している間に一気に攻めあがった。

袁紹軍の誰もが降伏するだろうと思っていたので真剣に見張りをせず

寝転んだり喋ったりして油断しきっていて馬の足音が聞こえる距離まで

近くまで誰も気づかなかったのだ。

そこに総司達は攻め込んだ。

 

張遼「良くもやってくれたな。覚悟しいや。」

 

華雄「部下達の無念‼貴様等の命で償わせてやる‼」

 

呂布「お前達・・・・・・恋を本気で怒らせた‼死ね。」

 

総司「全軍、袁紹軍を囲め。決して逃がすな。

   趙雲!姜維!許攸を探せ。奴が提案者だ。奴だけは逃がすな。」

 

全員「おう。」

 

趙雲・姜維「「はっ。」」

 

趙雲と姜維がそれぞれ少数の部隊を率いて許攸を探しに行く。

その間も包囲網は完成した。

攻撃が始まってすぐ逃げ出した後衛五千の兵士を残して

そのほとんどが包囲網に置き去りになってしまった。

その後は簡単だった。

もはや戦意を喪失して降伏を指揮官が申し出る。

やったのは許攸と袁紹だと。自分達は指示に従っただけだと

だが総司は降伏を無視。その指揮官を己の槍で突き殺す。

 

総司「捕虜を散々嬲っておいて武器を捨て降伏するだけで助かると思うたら大間違いだ!

   お前ら、あいつら殺すまんまんだったじゃねえか。

   ならば滅せられても仕方ない道理だろ。」

 

それを聞いていた兵士達は青ざめる。

もはや死ぬ以外の選択肢を失ってしまったのだから。

 

総司「総員・・・・かかれ~~。」

 

全員「おおおおお~~。」

 

殲滅戦が始まるどうにか逃げようとするが降伏を申し出た指揮官の指示で武器を捨てている。

慌てて拾おうとするが壊乱状態で皆逃げるのに必死で押されたりして拾う事が出来ない。

何とか拾う事が出来てとしても多勢に無勢で殺されていく。

結果誰もまともな抵抗できず袁紹軍は殲滅された。

その時間は現代の時間に直すと包囲完成から約三十分の出来事だった。

なお許攸は一人で逃げていた所を趙雲によって打ち取られた。

これがのちの外史の世に袁紹三大悪事に数えられ虎牢関の悲劇として

世界史の授業でも取り上げられる事になる出来事の全貌である。

 

 

 

 

 

虎牢関に戻った総司はその足で医療用の天幕に向かう。

天幕に入ると兵士が傷の治療をしている。

その場に立ち会っていた荀彧が総司が来たのに気付き近寄ってくる。

 

荀彧「総司様。」

 

総司「状況は?」

 

荀彧「はい。命がある物は何とかなるかと。」

 

総司「そうか。治療が終わり次第洛陽に戻す。

   手配しておいてくれ。」

 

荀彧「はい。」

 

指示を出し終わり一度周りを見回すと一人既に治療が終わっていた女性に近ずく。

見れば意識があるようだ。

 

総司「大丈夫か?とは言えないな。瑠偉、済まなかった。

   もう少し早く救援を出していればここまでの傷をうけずにすんだかもしれない。」

 

彼女は殿務めた部隊の隊長で一番ひどい傷を受けて居た。

聞けば捕まってから袁紹軍の兵士にいたぶられていた部下を守るために

身代わりになり散々殴り蹴りを受けたらしい。

 

瑠偉「いえ、水燕様さえ無事ならこの身はどうなってもよいのです。

   なんせ私たちは元山賊というゴミのような存在なのだから。」

 

総司「それではだめだ。俺には弱点が多い。槍や剣を振るしか能がない。

   だが俺一人では軍勢相手に一人で戦えるほど強くない。

   だからこそお前達が必要だ。これまでもそしてこれからもだ。

   元山賊?それがなんだ!今は違うだろう。

   自分が主と決めた俺の為に命張れる、大切な部下の為に自分が

   どうなろうと構わないと覚悟を決められる。そんな奴らが俺には必要だ。

   勘違いするんじゃないぞ。別に俺は肉の壁が欲しいと言ってるんじゃない。

   あの時お前達がくれた意志が俺に、いや俺達に力をくれている。

   だからその怪我を治して戻ってこい。

   俺達の下へ。戦えなくてもいい。そんなこと重要じゃねえ。

   自分が一度決めた意志はどんな硬い鉱石よりも硬くこの世界のどんなものよりも重い。

   だが一度くじければ今まで硬かったものがそこらに落ちているゴミより軽くなる。

   だがお前達は違う。お前達は自分の意志を貫ける奴らだ。こっちの方が何十倍も重要だ。

   俺はお前達を誇りに思う。」

 

瑠偉「はい。う、うう。私達は必ず水燕様の下に戻ります。」

 

怪我人、治療している兵士関係なくその場にいた誰もが感動して泣いていた。

総司の言葉に。自分はまだ必要としてくれている事。もしくはその両方に。

それと同時に自分たちの主が総司で良かったと思うのだった。

   

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話

二日後

 

再び虎牢関攻めが始まった。

攻め手は曹操率いる陳留軍。守る総司はバリスタや小型投石器を使い、数を減らしていく。

その中で活躍したのは夏候惇隊だった。夏侯淵率いる部隊による長距離射撃で援護を受けた

夏候惇隊は彼女を先頭にまっすぐ進んでくる。

まともに当たれば再起不能確実な攻撃をものともせずに突っ込んでくる。

 

総司「驚いたな。まさかここまでまっすぐ突っ込んでくるものがいるのか。」

 

荀彧「感心している場合ではありません、総司様。」

 

総司「分かっているさ、柱花。」

 

荀彧「ならいいのですが。第二弓隊目標を最前列の女に向けなさい。」

 

兵士「はっ!」

 

命令を受けた兵士達はバリスタの目標を夏候惇へ向ける。

 

荀彧「放て。」

 

兵士達はバリスタを打ち出す。

打ち出された大型の矢は夏候惇隊の先頭を走る者達を襲い兵士達を殺す。

だが夏候惇は生き残りまた前へ進む。

 

夏候惇「進め、進め―。我らの手で華琳様に何としても勝利をもたらすのだ。」

 

城壁の上ではまたあわただしく指示が出せれていく。

 

荀彧「何やってるの。ちゃんと当てなさいよ。」

 

総司「違うぞ、桂花。奴は弓の軌道を正確に見切り己の大剣ではじいたんだ。」

 

荀彧「そんなことが可能なのですか?」

 

総司「確かに見た。現に彼女は生き残っている。これは上がられてくるな。

   そろそろ投石器を下げろ。上は俺達が守る。張遼、呂布、下は任せる。」

 

張遼「任せえ。きっちりこなして見せるわ。」

 

総司「趙雲、周倉は左の敵を排除しろ。」

 

周倉「任せな。大将の期待には必ず応えて見せるぞ。」

 

趙雲「やれやれ先に言われてしまいましたな。」

 

反対へ向かう二人を頼もしく思いながら見送りながらまた前面を見る。

既に夏候惇を筆頭に一部の兵士が虎牢関の壁際にたどり着き梯子をかけて昇り始めている。

 

総司「桂花、俺から離れるなよ。」

 

荀彧「はい。」

 

そして最初に昇ってきた夏候惇に槍で突く。

それを夏候惇は自らの剣で受け止める。

 

総司「お久しぶりです、夏候惇殿。まさかあなたが最初とは思いませんでした。」

 

夏候惇「全くだ。どうだ。水燕殿。この私と一騎打ちでも。」

 

総司「武においてかの曹操殿が最も信頼する貴殿との一騎打ちはこちらとしても

   願ったりかなったり。是非受けさせてもらいましょう。」

 

元々夏侯淵を抑えるのが総司の役目だ。

曹純率いる虎豹騎は出ていない。夏候惇以外で目だった将は許緒と夏侯淵くらいだ。

だが許緒は既に馬を失い怪我をして後退しているし夏侯淵は長距離で弓を討つだけで精度はさほど

脅威にはならない。つまり夏候惇さえ押さえれば撤退に追い込むことも不可能ではない。

だからこそ夏候惇を自分に向けさせるために総司はあえて一騎打ちに応じた。

そうしておけば彼の優秀な部下が敵を排除してくれるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

始まった一騎打ちは終始総司の優勢だった。

元々槍と剣では得物の長さに差がありすぎる。

少々メタいかもしれが作者が近所に住む剣道家に聞いたところ

条件次第だが槍使いに剣で勝つには三倍からそれ以上の技量がいるらしい。

そしてこの場所は剣使いである夏候惇より槍使いである総司の方に有利な場所だった。

更に総司が初めて実戦を経験したのは九歳の時だった。

理由は山賊団討伐と己の数倍はある熊の退治だ。総司はそれを一人で行い尚且つ無傷で勝利という

結果を残している。それからも異民族討伐で武の腕を鍛え、

洛陽で働くようになってからも救援部隊として各地の戦に赴いている。

つまり得物の差は勿論だが技量、経験共にも夏候惇より総司の方がはるかに高く

最初から夏候惇に勝てる要素などどこにもなかったのだ。

それでも夏候惇は食らいついた。

周りから見ればもはや勝敗はついているが

そこは彼女の誇りがそうさせるのだろう。

夏候惇は足を怪我して膝を付き肩で息をしながら総司を見る。

その時撤退の合図が鳴る。

 

夏候惇「何故だ!まだ。」

 

総司「周りを見ろ。お前しかいないだろ。」

 

言われて夏候惇は周りを見た。

周囲には味方の兵士はほとんどおらず他の者達も既に撤退を始めている。

 

総司「行けよ。勝負は引き分けって事にしといてやる。」

 

夏候惇「くっ、勝負は次に預ける。」

 

捨て台詞だけ残して夏候惇も撤退していった。

 

総司「ふう、何とかなったな。」

 

荀彧「はい。ですが敵をここまで来させるとは申し訳ありません。」

 

総司「構わないさ。次に生かせ。」

 

荀彧「はい。」

 

総司「反省も大事だが先に負傷者の手当てと現状の把握、頼んだぞ。」

 

荀彧「お任せを。」

 

総司「頼む。少し休ませてもらう。」

 

言うべきことを言って総司は指揮官用の天幕へ下がっていった。

 

総司「夏候惇か。あいつはやばいな。やっぱ、歴史に名を刻む奴は

   それ相応の力があるわな。次が楽しみだ。」

 

総司は唯一怪我をした左腕を見ながら次に彼女との戦いに期待する。

その表情は晴れやかだった。

彼もやはり武人なのだ。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話

 反董卓連合軍議用天幕

その場には袁紹以外の各陣営の代表者が集まっていた。

袁紹はあれ以来自身の天幕に引きこもってしまい震えながら何やらぼそぼそと

つぶやいてばかりで指揮どころではなく生き残った五千程の兵士も

ほったらかしのままだ。指揮は今顔良が代理でとっている。

そんな彼女に代わり現在は曹操が指揮を執っている。

 

曹操「では始めましょうか?今回の攻撃で董卓軍情報収集が出来たわ。

   御使い殿が言うその銃?は使ってこなかったけどあの二つの兵器の威力は

   はっきり言ってあれを越えるためにはそれ相応の犠牲を覚悟しなければならない。

   よく汜水関を超える事が出来たわね。」

 

孫策「まあね。でもどちらかといえば引いてもらったって感じだわ。

   これはおそらくだけど董卓軍は時間を稼いでいるだけだと思うわ。」

 

曹操「それはあるかもしれないわね。でもそれはいいわ。

   でもさすがとしか言いようがないわね。あの防御力

   元々鉄壁だった要塞が彼のせいで難攻不落要塞と化しているわ。」

 

劉備「よくそんな所に攻め込んで砦に取り付けましたね。」

 

曹操「夏候惇隊の全てを犠牲にしてだけど。

   数千の兵士を引き換えに分かったことがあの砦は難攻不落でしたなんて

   割に合わなさすぎるわ。そこら辺もあの必勝の神使殿の策略かもしれないわね。」

 

劉備「ごめんなさい、必勝の神使ってなんですか?」

 

劉備のこの言葉にその場に参加していた全員が驚く。

 

公孫瓚「おい桃香、何で知らないんだ。有名な話だぞ。」

 

黄祖「全くだな世間知らずにもほどがある。」

 

馬超「まあ、黄巾の乱の前まで政治にかかわらなかったんだ仕方ないよ。

   必勝の神使っていうのは水燕白英の異名だよ。負けかけていた戦闘に援軍として

   現れて戦況をひっくり返したことが何度もあるんだ

   それから味方から自然と必勝の神使といわれるようになったんだ。

   他にも漢の狼って言うのもある。」

 

劉備「漢の狼?」

 

孫策「敵となれば息の根が止まるまで徹底的につぶされることから付いたあだ名よ。

   水燕は決して仲間の死を許さないの。勿論戦闘での討死は別よ。

   でも暗殺や騙し討ちは決して許さない。関係者は全て殺しつくした。

   で、着いたのが漢の狼。」

 

曹操「戦死者にはとても丁寧な対応をするけど一度でも他者の尊厳を汚せば

   どんな手を使おうとも地獄を見せる。前にそう言ってたわ。」

 

劉備「実は怖い人なんですね。」

 

曹操「あらそう?こんな時代だもの。つまりは不正なんかは一切やらないってことじゃない。

   そういう人材は貴重よ。」

 

劉備「そうですか?」

 

曹操「上に立つ人間にとって優秀な人間は一人でも多いに越したことは無いの。

   特に戦えば必ず勝てると言える人材はね。」

 

孫策「孟徳ちゃんの言うとおりね。でどうするの?」

 

曹操「とにかく敵にあの矢を使わせ続けて減らすしかないわ。

   そして時期を見て総攻撃を仕掛けるしかないわ。

   幸い今回の攻撃でかなり使ってくれたみたいだしやれないことは無いわ。

   とにかくこちらは全軍で波状攻撃を仕掛けるしかない。」

 

孫策「兵士には多くの犠牲を払う事になるけど仕方ないわね。

   疲労は出てくるだろうからもしかしたら出てきてくれるかもしれないし。」

 

曹操「なら明日からやるわよ。ただ私たちの軍は再編成が終わってないから

   できれば後にしてほしいの。」

 

劉備「それは仕方ないと思います。」

 

孫策「なら先手は私たちがやるわ。」

 

袁術「なら次手はわらわじゃな。」

 

黄祖「では三手目はわあれ我が引き受けよう。」

 

馬超「なら次は私たちだ。」

 

公孫瓚「その次は私達が引き受けるよ。」

 

劉備「白蓮ちゃんの次は私ですね。」

 

曹操「なら最後は私たちね。それで行きましょう。

   次に攻撃の感覚だけれど早朝、朝、昼、夕方、夜、深夜の感覚で

   行きましょう。担当がずれるけどそこら辺は注意するように。」

 

曹操以外全員「おう。」

 

そうして軍議は終わりそれぞれ準備のためにそれぞれの陣へと帰っていった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話

 再び虎牢関攻めが始まった。

連合軍は攻めての多さを利用して昼夜を問わず虎牢関を責める。

それを数日繰り返し今虎牢関内部では会議が開かれていた。

 

朱儁「兵士達の疲労が限界だ。動くなら今しかない。」

 

華雄「私も賛成だ。時間は十分稼いだのだろう?ならもはやこれ以上

   待つ必要はないはずだ。なら一度位此方から攻めて董卓軍の力を世に

   知らしめるべきだ。このままでは世に広まるのは総司の名だけになってしまう。」

 

張遼「華雄の言い分も確かやな。でも朱儁将軍の言う通り動くなら今や。

   出ないと兵士達が全く動けへんで。」

 

総司「桂花。次責めてくるならどこの軍だ?」

 

荀彧「これまでの流れからすると恐らく涼州軍かと。」

 

総司「よし。ならその時の撤退時に此方から攻め込む。

   桂花は涼州軍を足止め後此方の状況を見て撤退の合図を鳴らせ。」

 

荀彧「はい」

 

総司「恋は最初は待機だ。俺が合図を出したら敵をかき乱せ。」

 

呂布「分かった。」

 

総司「朱儁将軍が先陣を切って涼州軍を叩いてください。

   他は俺が曹操軍。霞が呉軍、華雄は劉備軍だ。

   だが敵の動き次第で臨機応変に対応してくれ。

   ある程度戦ったのち洛陽に撤退する。」

 

全員「おう」

 

そして再び攻め手が来る。

攻め手は予想通り涼州軍だった。

元々騎馬戦法を得意としており余り攻城戦が得意ではないという事もあり

責めてはいるがあまり強さを感じない。

その時も涼州軍は攻めきれず下がった。

その時虎牢関の大きな扉が開いた。

 

朱儁「行くぞ。目の前の敵を蹴散らせえー。」

 

兵士達「おお~~。」

 

朱儁率いる軍による突撃。完全に撤退モードで

緊張の糸が切れていた涼州軍は完全に虚を突かれた形になった。

 

馬超「まずい。追撃してきた。全軍緊急反転敵が来るぞ。迎え撃て。」

 

涼州軍は直ぐに反転し迎え撃とうとするが間に合わず攻撃を受けてしまう。

指揮は頭のいい妹に任せて馬超自身が前に出て敵の攻撃をさばくが数で押されている

涼州軍が圧倒的に不利だ。

 

馬超「くっ、このままでは」

 

孫策「私達が支えるわ。下がって涼州軍。」

 

涼州軍の後ろから迂回する形で呉軍が朱儁の隊に攻撃を仕掛ける。

 

馬超「済まない。孫策殿」

 

入れ替わる形で朱儁隊と呉軍がぶつかる。

それから両軍に援軍が到着。

曹操軍と第四師団、呉軍と第二師団、幽州、徐州連合と第三師団を中心に

総司が思い描いた様にぶつかる。

 

総司「そろそろだな。玲、合図出せ。」

 

姜維「はい。」

 

総司の後ろで戦っていた玲が瑠香がこの為に作った煙弾を空に打ち上げた。

その合図を受け取った桂花が恋に指示を出す。

 

荀彧「呂布将軍、出てください。」

 

呂布「分かった。陳宮。」

 

陳宮「ハイなのです。全軍呂布将軍に続けなのです。」

 

兵士達『おお~~。』

 

恋率いる第一師団が突っ込み敵軍をかき乱した。

それにより敵軍は混乱に陥り統制が取れなくなった。

 

総司「よし、今だ。蹴散らせ。」

 

兵士『おお~~。』

 

董卓軍がそこに突っ込んで混乱を助長する。

その中でも曹操、孫策、一刀がいち早く軍を立て直し反撃を開始する。

黄祖、公孫賛、馬超も遅れて軍を立て直した。

そこからは膠着状態が

続き董卓軍は予定通り撤退。

いつの間にか復帰していた袁紹が追撃をかけるが失敗。

こうして虎牢関の戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話

 撤退した董卓軍は洛陽に入る。既に月や献帝はいないがそれでも最後の仕上げを

する為に戻ってきたのだ。

 

総司「楼杏殿、準備は?」

 

皇甫嵩「終わっているわ。」

 

総司「なら予定通りにお願いします。俺と恋、張遼と楼杏殿で残りそれ以外は

   ちりぢりに逃げて、例の城で陛下と合流してください。」

 

朱儁「分かった。なら俺が出来る事もここまでだな。

   水燕殿、ここまでありがとう。君のおかげでここまでこれた。」

 

総司「総司です。俺の方こそ朱儁殿にはいろいろなことを学ばせてもらいました。」

 

朱儁「いいのか?ここで真名を預けて?俺達は高確率で敵になるかもしれないぞ。」

 

総司「その時はその時ですよ。」

 

朱儁「そうか。なら俺の真名も受け取ってくれ。琴だ。出来れば戦わない事を祈っている。」

 

総司「確かに受け取りました。」

 

華雄「私も残りたかったのだがな。」

 

総司「俺達の事より月の方が大事さ。月を頼んだぞ。」

 

華雄「任せろ。きっちりこなして見せる。」

 

第三師団と朱儁隊、徐栄隊は兵士に洛陽に残るかついてくるかの選択をさせ

それぞれの指定された道を通って月の下に向かった。

 

総司「さてこれからの事だ。俺達はこの場で半刻ねばる。

   その後楼杏さんは降伏。後の俺達は目立ちながら逃げる。

   さも俺達が月や陛下と共にいるようにな。そうする事で本来の月達の居場所を隠す。」

 

張遼「分かったで。任せとき。」

 

その他の三人も頷く。

 

総司「なら行こうか。間違っても撤退の時期を見誤るなよ。」

 

張遼「それで華雄を入れんかったんか。華雄は直ぐ熱くなるからな。」

 

総司「そう言う事だ。そこら辺は変装させるから問題ない。

   それより今後の事だ今後俺達は戦ったのち戦場から離脱する。

   その後は自由だ。月達と合流するもよし。俺と繰るもよしだ。

   全く別の道を選んでもいい。だが盗賊にはなるなよ。」

 

張遼「分かっとるわ。さっさと準備しような。」

 

総司「そうだな。さて連合軍を迎え撃つぞ。」

 

それから三日後には洛陽攻略戦が洛陽城は東で始まった。

第四師団は右翼で曹操軍と皇甫嵩隊は左翼で劉備軍と

中央は呉軍と袁術軍や荊州軍や連合本隊(袁紹自称)がそれぞれ第一、第二師団戦っていた。

その中で右翼を担う曹操軍の中に戦において常に先陣を任されてきた夏候惇の姿がない。

今総司の相手をしているのは許緒、典韋、徐晃のちびっこ三人が相手をしている。

連携して攻めてくるが軽くあしらわれている状況だった。

 

総司「夏候惇殿はどうした?怪我でもされたか?」

 

許緒「お前なんか私ら三人で十分だ。」

 

総司「その割に軽くあしらわれ過ぎではないかな?」

 

典韋「くっ、春蘭様から聞いてたけど実際戦うと聞いてたけどそれ以上に。」

 

徐晃「強い。」

 

その様子を遠くから見ていた曹操も苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

華琳「やはりあの三人では水燕を止めるのは不可能か。

   柳琳(曹純の真名)の虎豹騎も趙雲の隊に抑えられている。

   でもそれは向こうも同じ。なら、秋蘭、水燕と戦っている三人を援護して。」

 

夏侯淵「はっ。」

 

夏侯淵は部隊を率いて前に出ていった。

それでも現状を打破することはかなわず総司の計画通り膠着状態が続いた。

一方反対の皇甫嵩隊は押され気味だった。

皇甫嵩の部下には武に秀でた部下がいない。

それ故に張飛の前進を止められない。

それでも疲労のない皇甫嵩隊はこれまでの戦いで疲労がたまっている劉備軍を

押されながらも何とか抑えていた。

そして中央の戦いは熾烈を極めた戦いだった。

呂布一人に夏候惇、孫策、太史慈、程普の四人に黄蓋と黄忠が援護に回るがそれでも抑えられず

膠着状態に手柄欲しさに袁紹軍が無策に突っ込み第二師団による返り討ちに会い後退。

それを袁術軍が張勲が巧みに指揮しカバーする。

第二師団はその後荊州軍とぶつかった。

両軍の軍師による巧みな指揮と各軍の武将達による戦いが始まって半刻。

遂に皇甫嵩隊が崩れた。

張飛により皇甫嵩が捕らえられたのだ。

そこから連合軍は士気を上げる。

それに合わせて董卓軍は皇甫嵩を奪還できず撤退。

それぞれの方向に逃げ出した。

意気揚々と洛陽に入城していく袁紹を見送りながら曹操は考えた。

妙に整った逃走だったなと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話

連合軍が洛陽に入ってみればそこにあったのは静まり返った街並みだった。

聞こえてくるのは袁紹の高笑いくらいだ。

先程まで場外で戦争していたのだ。当たり前と言えば当たり前だ。

街の人たちは静まり返ってこそいるが十常侍や大将軍が洛陽を支配していた時に比べてば

明らかに空気が違う。

それを不思議に思いながらも孫策、曹操、劉備を中心に街の維持にかかる。

一方総大将である袁紹は霊帝と献帝を宮中中を探していた。

だが全く見つからない。

そこで袁紹は曹操、袁術に話を持っていきある少年を新たな帝として祭り上げた。

その少年は少帝と名乗る事になる。

その後全将を集めての論功行賞が行われた。

袁紹はあらかじめ手をまわし自分が大将軍になれるようにしてこの会議に臨んだ。

少帝も自分がお飾りなのは分かっている。

だがこの論功行賞に向かう前に曹操に密会し袁紹のこれまでの事を聞いた。

その上でこの論功行賞を取り行ったのだ。

まず位の高い曹操から始まり袁術、公孫賛、黄祖、孫策と続いて行く。

そして最後が劉備だ。

 

少帝「次が最後だな。劉備玄徳、北郷一刀前へ。」

 

二人「はっ。」

 

二人は何段も高い位置にある玉座に座る少帝の前に立ち

頭を下げる。

その間袁紹は驚いていた。

袁紹自身は呼んだ覚えはない人物だったからだ。

今回の戦で一番功績が大きいのは誰かと問われれば

間違いなく劉備達だろう。

関の突破に皇甫嵩の捕縛。

そのほかにも多く貢献してきた。

だがそれは袁紹にとっては面白い事ではない。

最初の戦闘で捨て駒にするつもりがここまで活躍したのだ。

天の御使いの事もある。

確実に皇帝の目に止まる。

だからこそ皇帝には劉備の功績は報告しいなかった。

だがこの場にいるという事は誰かが報告したのだと袁紹は考えた。

追い出す事も考えたがむりだろう。

周りも反対するだろうし何より皇帝がそうさせてくれない。

いくらお飾りといえどその地位は皇帝だ。

蔑ろにすれば不敬罪で死刑もありうる。

だからこそ袁紹は劉備の発言に耳を傾けた。

 

少帝「此度の戦い、多くの手柄を立てたと聞いておる。大儀であった。

   陶謙の後を継ぎ徐州刺史に正式に任命する。そして北郷一刀、貴方を天の御使いと認める。

   それとそなたらが望むものを朕から送ろう。何がいい?」

 

劉備「では、恐れながら上奏をお許しください。」

 

少帝「聞こう。」

 

一刀「では、こちらにある人物のこれまでの行いを調べたものがございます。」

 

一刀ポケットに持っていた巻物を出した。

 

少帝「ある者とは?」

 

一刀「現大将軍、袁紹でございます。」

 

袁紹「な、何を。」

 

少帝は袁紹を睨んで黙らせる。

 

少帝「それをここに。」

 

兵士「はっ。」

 

一人の兵士が一刀が持つ巻物を少帝に渡す。

巻物を受け取った少帝は暫くそれを読んで一つ溜息を吐く。

 

少帝「曹操。」

 

曹操「はっ。」

 

少帝「読んでみるといい。」

 

巻物を元に戻し一番近くに並ぶ曹操に渡す。

受け取った曹操はその中身を読む。

読み終わったのを確認した少帝は

 

少帝「どう思う?そなたの領地は冀州に近かったな。噂話程度は聞いたことは無いか?

   ああ、攻めているのではない。この内容が正しいのか確認しているのだ。」

 

曹操「事実でございます。言い訳がましいですが私もすぐにやめる様に

   何度も助言したことがございます。この文章の内容は正しいかと。」

 

少帝「との事だが何か申し開きはあるか?」

 

袁紹「そ……そのようなことはすべて身に覚えのないことです‼︎

   でっち上げに決まっております‼︎」

 

少帝「税は通常の20倍。必要外の過酷な労役。物品の横流しに始まり、

   無理な徴兵。それを拒否した者をあらぬ罪をでっち上げて囚人とし、

   その彼らに殺し合いをさせてそれを見物。

   それには飽き足らず捕らえた捕虜に対する虐殺、性的暴行の強要。

   よくここまで出来たものだ。」

 

袁紹「ですからそのような事身に覚えはありません。」

 

少帝「くどいぞ、袁紹!貴様が虎牢関で行った悪逆も耳に入っているぞ。

   敵の捕虜を暴行した挙句はりつけにしたとか?

   ここに書かれている内容も正しいと見える。衛兵!」

 

憤怒、憎悪、そして、嫌悪。

それらの入り混じった表情で袁紹を睨み付け衛兵を呼んだ。

 

衛兵「「はっ。」」

 

少帝「つまみ出せ。」

 

衛兵「「御意‼︎」」

 

少帝が命令すると2m近くある屈強な体格をしている2人の衛兵が袁紹の腕を掴んで連れて行く。

 

袁紹「何をしますの⁉︎離しなさいな⁉︎汚ない手で私に触れたら汚れてしまいますわ⁉︎」

 

少帝「袁紹……貴様に処罰を申し付ける。大将軍就任は取り消し。

   加えて貴様の地位及び領土、財産など全て1年以内に剥奪し、

   然る後に棒打ち1000を行なう。命を取らぬだけありがたいと思うがよい。」

 

袁紹「そ……そんな⁉︎陛下⁉︎」

 

少帝「連れてゆけ。そのような者の顔などもう拝みたくはない」

 

少帝の無慈悲な命令に袁紹は再審を求める叫びを上げながら連れて行かれる。

暫くしてから袁紹の声が聞こえなくなり、玉座は静まりかえった。

 

少帝「北郷よ……そなたの忠義と悪を許さない義心に感謝する。」

 

一刀「とんでもありません。わたしこそ正当な裁きを下してくださりありがとうございます」

 

少帝「朕も彼奴の悪行を裁く機会を伺っていたが、

   そなたのお陰で達成することが出来た……感謝する。」

 

一刀「陛下……」

 

少帝「今夜は宴を開く。戦で散った者達の分まで賑わい、

   ここにいる者達の配下の将も連れて来て構わん。因みに拒否は認めん」

 

全員『御意‼︎』

 

その晩少帝主催のこの時代では珍しい無礼講のビュッフェ形式の宴は豪勢に行われた。

一通り騒いだ一刀は勢いで酒を飲んでしまい

回った酔いを覚ます為中庭に出ておかれていた椅子に座っていた。

 

一刀「つい飲んでしまった。未成年なのに。」

 

少帝「気にすることは無い。むしろ年齢を気にして飲まぬ方が無礼だ。」

 

一刀「陛下‼なぜここに?」

 

少帝「そなたと個人的に話したくてな。

   此度の件本当に助かった。そなたが訴えてくれなければ

   あのまま袁紹を野放しにしなければならなかった。

   そうなれば先帝が行った事が全て無駄になってしまう。」

 

一刀「はい。」

 

少帝「しかし、総司は無事だろうか?それだけが気になる。」

 

一刀「陛下その名は。」

 

少帝「お主なら大丈夫だろう。水燕の真名だ。一時期世話になっていた時期があってな。

   その時貰ったのだ。それに水燕 白英という名は偽名らしい。

   本当の名は水城 総司というそうだ。」

 

一刀「そんな、総司さんまでこっちに来ていたなんて。」

 

少帝「やはり知り合いか?ではあいつが御使いの友だったのだな。」

 

一刀「御使いの友ですか?」

 

少帝「管輅の予言は知っているな?」

 

一刀「はい。」

 

少帝「世間一般に知られているものにはまだ続きがあるのだ。

   御使いは既に来たりし御使いの友と何度も争う。

   だが国を巻き込む戦が起こりし時の前に二人は手を結ぶ。

   それに国が寄り添った時天下は御使いの元一つになる。

   そう言われているのだ。」

 

一刀「そうだったんですね。」

 

少帝「この予言が正しいのなら朕はいずれお主に皇帝の席を譲らねばならぬ。

   だがそれでいいと考えている。」

 

一刀「よろしいのですか?せっかく皇帝になられたのに。」

 

少帝「元々皇帝には興味のかけらもない。それより朕は

   世界を見て周りたい。その方が興味ある。

   だからいずれそなたにこの席を渡すときまで死ぬなよ。北郷。」

 

一刀「はい。」

 

一刀の返事を聞き届けた少帝は宴の間に戻っていった。

だが一刀には心の中にしこりを残したのだった。

なお袁紹は兵士も将も奪われた。

顔良と文醜は褒美として劉備に譲渡。

正式に部下になった。

その他の部下はほとんどが冀州もどることを選択。

殆ど何も持たずに帰っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

祖国解放編
キャラ設定 その弐


今回から新たな章に入ります。

その前に今回以降登場するキャラ、そして前回までに登場したキャラを紹介させてもらいます。

本来なら各章終了時に紹介するものだと思いますが名前にややこしいキャラがおりますので

その勘違いをなくすために最初に紹介させてもらいます。

本編では語られていない内容も含むので見て見るのも面白いかと思います。

 

人物紹介

 

 

・ここまでの登場人物

 

 

少帝

 

 

性別 男性

年齢 十一歳

性格 大人しいが怒るととても怖い。

役職 皇帝

 

 

曹操、袁術、袁紹による説得の末に皇帝になった。

だが皇帝の地位に全くと言っていいほど興味がなく

当初皇帝になる事を拒否していたが三人(主に曹操)の説得により皇帝になる。

霊帝、献帝とは従姉弟の関係。

考え方は献帝に近く責任感が強く大の袁家嫌い。

袁紹を仕方なく大将軍に任命するが、一刀が出した調査結果を見て

袁紹を大将軍から即下した。

その後袁紹貴下の将を全て強制解雇。

行き場のない将は各軍に褒美として配置した。

総司の本名を知る数少ない人物で頼んで総司から政治と責任についてを学び、

それを知って自分には不可能だと感じて皇帝という立場に興味をなくした。

上に立つ者の手本として総司や献帝を尊敬している。

 

 

 

 

 

 

 

顔良

 

 

真名 斗詩 (とし)

性別 女性

武器 大槌→夫婦剣

姿  原作まま

役職 袁紹軍将軍→劉備軍部隊指揮官

 

 

元袁紹軍の猛将で袁紹軍の中では数少ない常識人。

総司のせいで虎牢関ではあまり目立つことは無かったが人並み以上の武勇を誇る。

が普段は部隊の前線指揮を担当するのでそれが発揮されるのは稀。

文醜とは義姉妹の関係。だが特にどちらが上という上下関係はない。

幼い頃に故郷を盗賊に焼かれるが文醜と共に命からがら逃げだす。

その後袁紹の父、袁成に拾われて袁紹に侍女として仕えるが武の才能を開花させて

武官となる。本来は二刀使いだが相棒の文醜が大剣を使う事から

バランスが悪いという理由で大槌を使うように袁紹から言われて使い始める。

特に苦も無く使いこなしている。

洛陽で袁紹が処罰された際にこれまでの袁紹の行動を止めなかった事から

地位と財産を失い暫く牢屋に入っていたが行く場所もないので皇帝の決定に

従って劉備軍に参加する。

劉備軍では最初から部隊指揮官に任命された事に驚くが

劉備軍の指揮官級の人材不足を見て納得。真摯にその職を全うする。

鎧の色も今までの光沢なしの金から白に塗り替えた。

 

 

 

 

 

 

文醜

 

 

真名 猪々子(いいしぇ)

性別 女性

武器 大剣

姿  原作まま

役職 劉備軍顔良補佐

 

袁紹軍の勇将。

面倒事が嫌いで、物事をすべて黒か白かで判断し、張るときは一番大きく張る。

顔良とは義姉妹の関係。だが特にどちらが上という上下関係はない。

戦場では指揮は相棒の顔良に任せて先陣を切る事が多い。

顔良同様故郷を盗賊に焼かれて命からがら逃げだす。

その後袁紹の父、袁成に拾われて袁紹に侍女として仕えるが武の才能を開花させて

武官となる。力持ちという理由から大剣を使うが彼女の性格に会っていたのか

直ぐに使いこなした。

洛陽で袁紹が処罰された際にこれまでの袁紹の行動を止めなかった事から

地位と財産を失い暫く牢屋に入っていたが行く場所もないので皇帝の決定に

従って劉備軍に参加する。

劉備軍では顔良の補佐として突撃隊長のような役をこなすと共に

皇甫嵩と共に新兵教育にせいをだす。

と言ってもほとんど活を入れる事しかしないが。

顔良は自分の嫁だと公言している。

鎧の色も今までの光沢なしの金から白に塗り替えた。

 

 

 

 

 

 

これから登場キャラ

 

 

田豊

 

 

真名 真直(まぁち)

性別 女性

姿  原作まま

 

 

袁紹軍筆頭軍師。生真面目な苦労人。

袁紹(麗羽)に恩を感じ、天下取りのために日々献策に勤しんでいる。

自分に都合のいい話しか聞かない袁紹が唯一苦言であろうと話を聞く人物。(聞くだけだが)

顔良と文醜の話を袁紹が効くことは無いので袁紹軍最後の善意とまで言われている。

それでも聞いてもらえるのは軍に関する事までなので政治に関しては全く聞いてもらえない。

常に身勝手な袁紹の行動に胃を痛める毎日で伽陀からよく治療を受けている。

袁紹が出陣前に大量の仕事を押し付けた為反董卓連合結成の際は参陣しておらず

後から袁紹が虎牢関で盛大にやらかしたと聞いて卒倒。三日間寝込んだ。

その後、皇帝からの通達に従い曹操の下で次席軍師として働く。

 

 

 

 

 

 

 

貂蝉

 

性別 漢女(オトメ)

姿  原作まま

役職 聖フランチェスカ学園校長兼時空間管理局管理官

 

 

マンモス校聖フランチェスカ学園校長。

その実は時空間管理を行う管理官。

一様神的存在に近い。

見た目は超マッチョなおっさん。(こういうと怒る。)

服装も普段から裸に女性もの水着の下のみという変態校長。

学園に通う生徒の中から時空形成を行うに足る人材を探している。

一刀や総司、瑠香を三国世界に送った張本人。

普段は男子生徒に接吻を迫ってくるが

生徒の悩みを真摯に聞いてくれる優しい一面を持つ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話

洛陽を脱した総司達は揚州に向かっていた。

ついてきている第四師団は現在一万三千程。これに総司が雇った工作部隊の

爺さんたちや給仕係の女性達が含まれる。

殆どは故郷に帰ったり洛陽で家庭を築いた為離脱した。

それでも二万人が残ってくれている。

更に張遼の第二師団一万が付いてきている。

此方は元々一万三千で洛陽戦に参加し約三千人を失った。

呂布は洛陽離脱後董卓の下に合流する為分かれた。

 

総司「良かったのか?霞。恋たちと共に月達と合流してもよかったんだぞ。」

 

張遼「ええねん。総司とおるのもおもろいし。月には悪いけどな。

   で、この後どうするんや?」

 

総司「今揚州に向かっている。そう言えばわかるか?」

 

張遼「揚州か。なら孫策のとこに世話になろうと考えてるんやな。

   総司が袁術の世話になろうと考えるはずないし。」

 

総司「そうだ。だがその前にしなければならない事があるな。」

 

張遼「そうやな。だいぶ減ってもうたからな。再編成は必須やろ。」

 

総司「今日は早めに野営して再編成に取り掛かるぞ。」

 

張遼「ええで。ちゃっちゃと終わらせよか。」

 

その後再編成を済ませた総司達は

途中盗賊を退治しながら揚州を目指した

一月後長江渡河に苦戦しながらも揚州に入り

山間の放棄された砦に入った。

部下に積み荷を降ろさせて

総司、張遼、趙雲、姜維は指揮所に入る。

 

総司「暫く待って使者を送ろう。向こうはまだ洛陽の復興だろうし。」

 

張遼「そうやな。特にやることないやろし。すぐかえってくるやろ。」

 

総司「あとは偵察だな。この近くの村や町の代表と会わないと。

   やる事は多い。てかそれ何処から見つけた?」

 

総司は張遼と趙雲が持っていた小さな樽を見たあと外を見る。

外ではまだ荷物はまだ下ろされていない。

 

張遼「酒や。砦に入ってすぐの部屋に置いてあったわ。」

 

趙雲「久片ぶりですからな。主もいかがか?」

 

総司「確実に腐ってるぞ。」

 

二人が悪乗りしているだけだろう事は総司も分かってる。

これまでの行軍でストレスが溜まっているのだろう。

少しはっちゃけるくらい構わないと考える総司

 

張遼「だめかな?」

 

総司「だめに決まってるだろ。下手したら死ぬぞ。」

 

張遼「酒飲んで死ねるなら本望や。」

 

総司「くそまずい酒飲んで死ぬのが本望なのか?」

 

張遼「う、それはちゃう。」

 

総司「はあ~。荷馬車に酒が入ってるはずだ。持ってきていいから。」

 

張遼「さっスが総司や。ほな取って来るわ。」

 

総司「星。一緒に行ってきてくれ。ついでに作業が終わり次第

   休息するように言っといてくれ。酒も許可するともな。」

 

趙雲「承知した。では行ってくる。」

 

総司「ついでに俺のも頼む。」

 

趙雲「分かっております。それを理解しておくのも出来る女なのですぞ。」

 

総司「そうだな。お前はいい女さ。」

 

趙雲「ならばそろそろ私の想いにもこたえてほしいものですな。」

 

そう言って趙雲は出ていった。

 

総司「今のどういう意味だ?」

 

姜維「気づいておられないのですか?」

 

総司「何がだ?」

 

姜維は自分の主の朴念仁ぶりに驚く。

総司は普段は他人の機微を的確に見抜くが

恋愛関連になると途端に疎くなるのだ。

因みに姜維はあくまで主であるとして総司に恋心を抱くことは無い。

意識が総司を恋の対象として見せてくれないのだ。

暫くして酒を持った二人が荀彧と共に帰ってきた。

少しずつ飲みながら軍議を始める。

 

総司「明日には周辺の町や村に使者を送ろう。

   遅ければ盗賊と勘違いされかねない。」

 

張遼「そうやな。それと食料や。あらかじめ相当な量持ってきてるけど

   ずっとは持たへんで。」

 

総司「玲、どれぐらい持ちそうだ?」

 

姜維「昨日の報告時点では持って一か月ですが。」

 

総司「保存がきかないものもある。そう考えたら持って一週間か。

   金はあるが。」

 

趙雲「この辺りには大きな街はありませんからな。

   いっそ建業まで向かいますかな。」

 

総司「できればそうしたいが流石にきついだろう。まだ距離がある。

   それに下手に向かって関係がこじれるのは避けたい。」

 

荀彧「此方との約定はあくまで孫策個人との約定だし、   

   それを留守居組が知ってるとは限らないわ。」

 

趙雲「確かに。」

 

使者は送らずに二日後には建業に向けて移動しつつ使者を送ろうという事になった。

三日後にはまた行軍を開始する。時間がかかったがどうにか最初の砦にたどり着く

 

総司「玲、砦に使者を送ってくれ。」

 

姜維「はい。」

 

姜維は指示に従い兵士の一人を使者に出した。

すると使者と一人の男を連れて帰ってきた。

 

男「水燕様ですね。お話は孫策様より聞いております。」

 

総司「孫策殿はもう戻られているのか?」

 

男「はい。先日戻られました。それで此方をお持ちください。

  これがあれば建業まで間の関は素通りできます。」

 

総司「承知した。対応感謝します。」

 

総司達一行は砦を抜け建業へ向かう。

数日後建業にたどり着き建業の街の外に駐屯し張遼と趙雲を伴い孫策を尋ねた。

城の一室に通され入ったそこには孫策、周瑜。黄蓋の三人が待っていた。

 

孫策「水燕、待ってたわ。」

 

総司「遅くなり申し訳ない。孫策殿。」

 

孫策「ほんとよ。ずっと待ってたんだから。」

 

そう言いつつ孫策は総司に抱き着く。

彼女の豊満な胸が総司の体に当たっている事から総司の顔が赤くなっていく。

 

周瑜「こら雪蓮。いったん離れろ。話が進まない。」

 

周瑜に無理矢理引きはがされた孫策は不満顔でまた席に座る。

 

黄蓋「やれやれ。この場に雷火がおらんで良かった。おれば今頃

   怒鳴り散らして居ったわ。」

 

総司「はぁ。」

 

周瑜「今はそれはいいでしょう。それよりだ。水燕殿。来てくれたという事は

   そう言う事でいいのだな。」

 

総司「ええ。此方としても仕える場所は早い方がいい。勿論待遇次第ですが。」

 

孫策「それについては後でいいわ。まずはそちらの戦力は?」

 

総司「張遼の所と自分の所で二万三千です。既に再編成も完了しておりますので

   要望次第でいつでも出せますよ。」

 

黄蓋「頼もしいな。流石というところか。」

 

孫策「では待遇についての話をしましょう。こっちとしては貴方に求めるのは

   純粋に戦力、そして指揮能力とその身軽さ。

   だからこちらとして出せるのは拠点一つ。

   そして太史慈や甘寧と同じ地位を総司に与える。

   これでどう。勿論それ相応の給金は支払うわ。」

 

総司「構わないですね。その砦の周りに小さくていいので川があれば最高です。」

 

周瑜「分かった。それも考慮しておこう。そちらから望むことは無いか?」

 

総司「こちらは戦力の提供のみとさせてほしい。

   此方が保有する武器、技術の提供に関しては一切提供しない。

   またその手の命令には断固拒否させてもらう。

   更に強奪されようと考えているならこちらもそれ相応の対応をさせてもらう。」

 

黄蓋「理由はなんじゃ?」

 

総司「まず、俺達は戦争屋ではない。あれらは言ってみれば

   確実に勝つことができる兵器だ。その価値は実際に攻撃を

   受けた貴方たちなら分かるだろう。あれはあくまで自衛のための兵器であり

   いたずらに戦乱を生み出すための物ではない。

   二つ目に扱えるわけがないからだ。使い方も分からずに

   自軍が全滅したというのは孫策殿も避けたいはずだ。

   言っておくが全滅は戦う事が出来ないからではないぞ

   此方が扱う兵器は扱いを間違えれば自分達を傷つけるものもあるという事だ。」

 

孫策「分かったわ。それらに関しては一切触らない事を約束するわ。冥琳頼んだわね。」

 

周瑜「分かった。軍内や文官たちにも通達しておく。」

 

総司「こちらからはそんな所だ。」

 

孫策「分かったわ。待遇についてはこれでいいという事で。

   それでここからが本題なの。

   貴方北郷一刀の事は知ってるわね。」

 

総司「天の御使いの事だな。」

 

孫策「彼が言っていたの。貴方たちが私達に汜水関で使った兵器。

   確か銃と言ったかしら?それは未来の兵器だって。

   もしかして貴方、もしくはあなたの軍の中に

   御使いの友がいるんじゃない?」

 

総司「お得意の勘ですか?」

 

孫策「そうよ。」

 

総司「なら正解です。俺と後技術部の孫尚文陣という女性がそうですよ。

管輅の奴に確認したから確かですよ。

   だがそれがどうしたのですか?」

 

孫策「まぁ貴方達が天の御遣いと似たような存在だと言うなら話は簡単なのよ。」

 

総司「簡単とは?」

 

孫策「孫呉に仕え、天の御遣いの血統を孫家ないしウチの女の子達の家に入れること。」

 

総司「なるほど孫呉は天の加護があるという事を民に知らしめる。という事でしょうか?

   ただ御使いの友の話はあまり知られていないはず。効果は余り期待できないと

   思うのですがそのあたりはどう考えておられるのですか?」

 

孫策「北ではそうでしょうね。でも南では違うわ。揚州、荊州、益州、交州の四つの州では

   御使いの友の話も一定の層まで知られている。

   確かにあなたの言う通り北ではあまり効果は期待できないでしょう。

   でも南ならそれのおかげで民の支持も得られやすくなる。」

 

総司「なるほど、御使いの友のネームバリュー、失礼知名度を利用しようという訳ですか。」

 

周瑜「しかもそれが必勝の神使とまで言われているお前ならなお効果は高くなる。

   どうだろうか?受けてもらえないだろうか?」

 

総司「一つ質問が。その対象には当然話しているのですよね?

   俺は太史慈殿はともかく甘寧殿とは面識すらないのですが。」

 

孫策「太史慈とは会ったことはあるんだ。」

 

総司「数えるほどですが何度か元揚州刺史の下で何度かお会いしたことはあります。」

 

孫策「それでか。特に反対しなかったのよねぇ。とりあえず甘寧以外は反対してないわ。

   甘寧はあった事すらないのに関係を作れという方が無理な話よね。」

 

孫権さえ彼ならいいと言っていた。確かに見た目も性格も悪くない。

鈍感なところもあるらしいがそれでもそれを補える青年なのは間違いないと孫策は考えていた。

 

総司「そちらの考えは理解しました。俺としては構いません。

   ただ俺には好意を持ってくれている女性がいます。

   そこら辺も考慮していただければ嬉しいのですが?」

 

それを聞いた趙雲は驚いた。この男は気づいていたのかと。

実際は姜維に言われるまで気づきもしなかったのだが。

 

孫策「かまわないわ。でもこちらの事も考慮してね。」

 

話は進みその日は解散した。

帰り道趙雲はある事を聞いてみた。

 

趙雲「主は気づいておられたのか?」

 

総司「恥ずかしい話、姜維に諭されるまでお前や桂花に好意を向けられている事に

   気づきもしなかった。済まなかったな。」

 

趙雲「いえ。気づかれたのなら頂上。私とお付き合いいただきませんか?」

 

総司「お前がいいなら俺は構わないさ。お前といると楽しいしな。」

 

趙雲「ありがとうございます。」

 

 

こうして総司は趙雲とそして後日荀彧とも婚姻をむすぶこととなった。

 

 

 

 

 

 




三十一話いかがだったでしょうか?
恋愛関連は難しいですね。マジで。
次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話

今回から今までセリフの前に入れていた名前を消しました。
よろしくお願いします。


孫策に仕え始めて三週間が過ぎた。

現在第四師団改めて八咫烏隊は建業の町はずれに駐屯して指示を待っている状態だった。

それに伴いそれらの盟約が整うまでは客将という扱いになっている。殆ど形だけだが。

本来なら拠点を貰ってそこを改修する予定だったのだがそれは後回しになってしまった。

何故かというと単純に今の孫策は建業城とその周辺の土地以外領土を持っていない。

母親である孫堅が黄祖に討たれた際、袁術が救援に来てくれた。

その時に武力に物を言わせて揚州を占領されてしまったのだ?

と言ってもこれは袁術の指示ではなく他の文官や地位の高い武官の指示で

彼女自身の意向ではない。少し袁術の周りとこうなった経緯を話そう。

元々幼くして両親を亡くした袁術は野心のある者達から無理矢理当主に据えられたが

殆ど指揮権を持たずただのお飾りとして過ごしてきた。

彼女はそれを幼き頃より利用されているだけと理解していたし袁家はもうだめだと

諦めてせめて殺されまいと馬鹿を演じ続けた。

周りで彼女が信じていてまた彼女の演技に気付いたのは付き人であり軍師の張勲と

姉と慕っている紀霊という武官のみだ。

だからこそそんな中で人として対等に接してくれる孫堅や孫策の事も慕っていたし

孫堅や孫策の事を第二の母や姉と言っていたことも有った。

だからこそ孫堅から手を貸してほしいと言われた時も今までの恩を返せると思って

出陣したが孫堅は討ち死にしていた。

それどころか孫策が継承するべき土地を自分達が難癖付けて取ってしまった。

孫堅の死に加え恩を仇で返してしまった。しかもそれは諦めによって野心家たちを放置した結果だ。

彼女は辛くて夜部屋で大泣きしそして泣きながら孫策に手紙を書きそれを紀霊に託した。

武官である彼女なら孫策と接触していても不思議がられないと考えたからだ。

その手紙は軍議で鉢合わせた孫策に紀霊が誰にもばれずに渡し孫策はそれを読んだ。

内容は簡潔に話せばこうだ。

まず孫堅の冥福を祈る内容から始まり

揚州を奪ったことへの謝罪。

そして袁家の現状。

最後にいつか自分事袁家を潰してほしいという願い。

それらが書かれていた。

涙で字がにじんでしまっている箇所もあったがそう書かれていた。

これを読んだ孫策は張勲に一対一で対面し手紙を読ませて内容の是非を確かめた。

手紙を読んだ張勲はこれらを認めた。

そしてどうか力のない自分達の代わりに袁術を助けてほしいと願い出た。

孫策はこれを承認したが当時の孫家にそれほどの力はないので力を貯めるまで待つように頼んだ。

そして今総司達が孫策の下に集い戦力の上では整っている。

だがその前に黄祖だけは撃たなければと考えそして洛陽の井戸で拾った玉璽を

手見上げに黄祖討滅を願い出て許可を得た。

そして総司達は出陣の時を待っていた。

 

「そろそろだな。」

 

「はい。此方の準備は全て整っております。兵士は今回は五千を同行させます。

留守は周倉殿に指示させています。船も孫呉が用意してくれました。」

 

「それは感謝だな。此方としても早めにそれらを整えないと。瑠香に言っとくか。」

 

建業の門が開いた。

 

「来たな。俺達も合流しよう。」

 

孫策たちに合流した八咫烏隊は隊列に加わり船を使って長江をさかのぼり江夏を目指す。

船の中で装備や兵器の再確認をしていた荀彧に総司は話しかけた。

 

「桂花、兵たちの様子は大丈夫か?」

 

「はい。船酔いも心配しておりましたが今のところは大丈夫です。」

 

「分かった。今後も兵の状態には気を配っておいてくれ。

それと俺達は長江での戦いは初めてだ。頼りにしているぞ。」

 

「ありがとうございます。必ず役に立って見せます。」

 

「期待している。」

 

荀彧は満面の笑みを浮かべながら作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

総司視点

 

 

 

 

 

 

甲板に上がると孫策が抱き着いてきた。

露骨に豊満な胸を押し付けてくる。

多分顔は赤くなっているだろう。

 

「孫策様。あまりその行動はよろしくないのでは?」

 

「別にいいじゃない。気にする必要はないわ。」

 

「それよりよく孫呉の兵士全軍を動員出来ましたね。

半分くらいには減らされると思っていたのですが?」

 

「玉璽を差し出した時に張勲と袁術ちゃん以外にも文官たちまで有頂天になっちゃててね。

それでうまくいったわ。それまでも忠臣ぶってたからね。」

 

「これまでの演技のたまものという事ですか。恐れ入りますよ。」

 

「そんなことないわ。それより祭から聞いたわ。王朗攻め大変だった見たいね。」

 

「ええ。袁術の兵が行軍は遅いわ。規律は緩いわで連携に苦労しました。

挙句の果てに攻めきれず一時撤退。その後は黄蓋殿と程普殿の隊と協力して

潰しましたが結局邪魔なだけですね。あれは。」

 

「アハハ!流石よね。なら今回も頼むわね。必勝の神使殿。」

 

孫策はそのまま去っていった。

それに入れ替わるように孫権が此方に話しかけてきた。

 

「随分姉さまと仲がいいようね?」

 

「ええ、良くして頂いていますよ。」

 

「今回の戦は孫呉の威信をかけた戦と言っていい。頼むぞ。」

 

「分かっていますよ。今はまだ客将とは言え孫呉に仕えて始めての戦。

此方としても意気込んでおります。孫策様や孫権様の期待に添える様働きますよ。」

 

「そこは疑ってないわ。それと少し相談させて。思春、いえ甘寧の事よ。

話は聞いているわよね。」

 

「ええ。何でも黄祖が家に直接訪ねてきたとか?」

 

「そうなの。私も甘寧が裏切るわけないと思っているんだけどどうしても疑ってしまうの。

どうしたらいいかわからなくて。」

 

「なるほど。そうですね少し無礼な喋り方をお許しください。」

 

「構わないわ。」

 

「なら自分から言えるのは彼女をしっかり見なさい。そして今まで自分が見てきたものを

全力で信じなさい。疑う必要はありません。それは軍師の仕事です。

それで裏切られたのなら自分の器もその程度だったんだという事です。」

 

「でもそしたらこの後の孫呉が。」

 

「家臣を信じる事が出来ない主が行う治世などたかが知れてます。

そんなものは最初からない方がましだ。真にこれからの孫呉を背負う覚悟があるなら

裏切りの可能性ごときで家臣への信頼を揺らがすな。確固たる意志を持て。

そして自覚するべきだ。今あなたと甘寧殿にとって孫呉を背負う覚悟があるかを

問われている試練の時であると。」

 

「試練?」

 

「そうです。それを見事になせるかどうか?それは誰もが見ていますよ。

貴方が孫策様の後を継ぐに相応しいかどうかを。」

 

「そうね。少し臆病になっていたわ。ありがとう。楽になったわ。」

 

「ならばよかったです。御無礼お許しください。」

 

「構わないわ。全て私の為を思っての事だもの。

それをここで貴方を処断してしまえばそれこそ私の器量を疑われるわ。

そんな主が孫呉にふさわしい訳ない。」

 

「その意気です。頑張ってください。」

 

「ありがとう。」

 

孫権は去っていく。

それからしばらく進み一行は途中黄祖の水軍とぶつかり撤退に追い込むが

中継地点に定めた柴桑の港に到着し積み荷を降ろす。

 

「ここまでは予定通りか。という事はおそらくだが。」

 

その時遠くの方から叫び声が聞こえてくる。

 

「やはりか。積み荷を降ろしている時が一番無防備だもんな。桂花、星、霞」

 

「はい既に部隊を整えております。」

 

「総司様ご命令を。」

 

「よっしゃー!行くで。」

 

「迎え撃つぞ。孫策様に奇襲を警戒を厳にするように頼め。」

 

「はっ。」

 

兵士の一人がかけていくのを見送りながら相手を見据える。

 

「黄祖の直属軍だな。だが数が少ないという事は伏兵もいるのか?

それとも出鼻をくじきたいのか?とりあえず迎え撃つか。総員突撃ー。」

 

『おーーー。』

 

 

三人称視点

 

一方孫呉本陣でも警戒態勢が敷かれていた。

 

「敵の突撃は水燕が抑えてくれるわ。ならこちらは伏兵に素早く対応できるように

警戒を厳にしてそれらの指示は祭と粋怜に任せるわ。それといらないかもしれないけど

援軍として梨晏、言ってくれる?」

 

「任せてー、雪蓮。私が行ってくるよー。」

 

太史慈は意気揚々と出ていく。

それとすれ違う様に八咫烏隊の兵士が本陣に駆け込んできた。

 

「報告。黄祖の軍が此方に攻撃を仕掛けてきました。水燕様が応戦中です。」

 

「数は?」

 

「およそ四千。」

 

「分かったわ。太史慈の隊を援軍に向かわせている。撃退せよ。」

 

「承知いたしました。では。」

 

兵士は本体に合流する為に走っていった。

丁度その頃敵軍は総司達に完全に正面を抑えられていた。

敵の指揮官は黄祖の指示を受けて孫策軍を惹きつける役目についていた。

だがいくら引き付けようとしてもくいついてこない。

それどころか孫策はこの場にはおらず此方ばかりが被害を受ける一方だ。

その間にも指揮官は黄祖の言葉を思い出す。

それは数刻前の話だ。

 

「孫策は此方が正面から攻めれば必ず向かってくる。

足止めしろ。だがあくまでお前の使命は足止めだが機会はあれば討っても構わん。」

 

「はっ。」

 

そう言いながら本陣を意気揚々と出ていった自分を殴りたくなる思いになっていた。

 

「(何が孫策は必ず前に出てくるだ。孫策どころかその将すら出てきていないじゃないか。

一部隊長に負けるだと?この俺が?そんなわけにいくか。だがどうすればいい?)」

 

指揮官は焦りに焦っていた。目的を果たせないどころか逆にいたずらに兵を失っている現状を

どうにかしなければと考えるがいい案は思いつかない。

だが彼は元々経験が足りなかった。黄巾の乱の時も揚州刺史への援軍の時も

反董卓連合の時も留守を守っていた。

だからこそ暫く戦場から遠のいていたし、それ以前もほとんど戦に出ていない。

家格で指揮官になれているがそこまで優秀という訳ではなかった。

黄祖は己の配下の力量を正しく理解している。

だからこそ殆ど捨て駒と言っていいこの役目を彼にやらせた。

足止めできれば良し。討ち取ってくれれば御の字と言うぐわいで。

だが黄祖は致命的な失敗を犯してしまった。

総司の存在である。黄祖は揚州に総司達が居る事は分かっていた。

王朗攻めにも参加していたのだ。調べればすぐにわかるだろう。

だがまさか袁術ではなく孫策に仕えているとは思わなかったのだ。

誰だってそう思うだろう。

実際遠くで長江で奇襲部隊を率いていた黄祖は焦っていた。

 

「(なぜ、程普や黄蓋が補給物資を守っている?まさか正面の誘因が上手くいっていない?

それならこの場で奇襲は意味をなさないな。明日には到着する黄忠達と組んでかかる方が

まだやりようはあるか。)撤退だ。」

 

「はっ。」

 

黄祖は奇襲する事なく撤退した。

なお正面の部隊は援軍として駆けつけた太史慈と総司の隊に蹴散らされ

指揮官は趙雲に打ち取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話

 翌日の夕刻。

黄祖の下に援軍が来ていた。

援軍の将は黄忠、その副将として魏延が来ていた。

 

「援軍感謝する。それと前回の揚州刺史への援軍の際、囮として使ったこと申し訳なかった。」

 

「過去は水に流して荊州の為に戦いましょう。」」

 

「そう言って頂きありがたい。」

 

「それでいかかがされますか?昨日の奇襲が失敗に終わっているのであれば

武昌に戻るべきでは?」

 

「いや、昨日の失敗しているからこそ今夜攻める。」

 

「本気ですか?

武昌に戻るべきです。」

 

「ここで出鼻をくじかなければ復讐に燃える虎の娘を止める事は出来ない。

喰い殺されるだけよ。」

 

「では今宵も夜討を仕掛けますか?柴桑を攻めるにしても

今少し戦力を減らさなければ。」

 

「そうだな。敵の出方にもよるが……。」

 

「申し上げます。敵が柴桑を出航いたしました。」

 

「およそ五百隻。全軍が出航した模様です。」

 

「でも先日の初戦で数隻とはいえ沈められたはず。

数が足りてえいないのはずでは?」

 

黄忠は最初に援軍として状況説明を受けた際そう聞いていた。

勿論それは事実で総司達に火砲の攻撃を待逃れた船舶が数隻を指示めていた。

その事実がある為黄忠は困惑していた。

だが黄祖は冷静に考えを巡らせる。

 

「先ずは水上で我らを打ち破り、しばし間を開けてから輸送船を整え、

武昌への上陸は果たすつもりなのだろう。」

 

「黄祖様我らも迎え撃ちますか?」

 

「待て、編成はどうなっておる?」

 

「戦闘は甘寧の錦帆賊です。

小舟で偵察に出た者によるとその中に妙な筒を確認いたしました。

なお旗艦には孫権が乗船している事を確認しております。」

 

「ふむ。水燕の鉄砲部隊だな。孫呉が全軍出たのだ。当然出てくるか。」

 

「孫権?孫策ではないの?」

 

「はい。孫策は柴桑の本陣に残っているようです。」

 

「ぐぬぬ……荊州軍を甘く見おって!」

 

「よし。」

 

「我らは船団を二つに分ける。黄忠、魏延、お主たちにはこの旗艦を預ける。」

 

「えっ?私たちが旗艦の指揮を?」

 

「さよう。日が暮れるのを待ち二百隻を率いて孫権に攻めかかれ。」

 

「黄祖殿が率いていると敵に思わせるためですか?」

 

「そうだ。そして引き気味に戦いつつ孫権を柴桑から引き離せ。

その間に私が残りを率いて孫策の本陣を襲う。」

 

「分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り柴桑では今後の動きに対しての会議が行われていた。

 

「先ずは水燕、利晏、働きご苦労だった。特に水燕は大手柄ね。」

 

「うむ。初戦の水上戦での正面部隊の撃退に続いて今回の地上戦での敵部隊の撃退。見事ゃ。」

 

「そうね。そのおかげのもあってここまでほぼ無傷で来れているわ。」

 

「はい。あの鉄砲と呼ばれる武器は凄いです。あれがあれば数年で天下を取る事も不可能では

ありません。やはり技術提供はしていただけませんか?」

 

「はい。それだけは出来ません。」

 

「あれがある事で呉軍の被害は格段に下がります。これまで長い時間をかけて訓練してきた

時間を大幅に減らすこともできます。それでもだめですか?」

 

「控えよ、包。水燕とはそう言う約定となっておるのじゃ。」

 

「しかし。」

 

「包の言う事は分かるわ。でもそれが約束なの。

利益ばかり見て約束を蔑ろにすれば敵を作りすぎてしまう。

それとも包は水燕と戦したいの?」

 

「いえそういう訳では。」

 

「魯粛殿の言う事も分かる。確かにそうすれば死者も時間も人員も減らす事が出来るだろう。

それは俺も理解しているつもりだ。だがそうする事でいらぬ戦をしてしまう可能性がある。

この時代でなら漢の統一だけでなくそれこそ世界を取る事も不可能ではないだろう。

だがそれは人の領域を超えた所業だ。必ずどこかでほころびをうむ。

それは歴史が証明している。かつて誰も世界を取る事は出来なかったのだから。」

 

「確かにの。あれほどの武器じゃ。そう夢見てしまうのも納得できる。」

 

「更に言わせてもらえば兵士は戦での手柄で生計を立てている。

鉄砲が広がればその機会は確実に減るだろう。

そうなれば不満が確実に出る。」

 

「なるほど今の軍のあり方ではそれを行った時の

不利益の方が大きいという訳か。確かにその通りだな。」

 

「それはもういいわ。どちらにしろ、約束はもうなされている。

そして水燕はこの戦で約束通りの働きをしてくれている。後は我々が約束を果たすだけ。

それだけよ。それよりも今は今後の事を話し合いましょう。

思春、敵の動きはどうなっているの?」

 

「はっ昨日江夏を出航した船は三百隻以上。先日の奇襲戦の際、河の沖で

黄祖の船団を確認しております。明日、早ければ今晩にも襲撃してくるかと。

また長沙から黄忠、魏延の軍が援軍に参っております。」

 

「黄祖は出ているの?」

 

「はい。」

 

「なら予定通り蓮華様を囮として差し向ける。」

 

「俺達も出よう。そうすれば敵船団を罠事破壊できる。」

 

「頼むわね。」

 

「任せてください。」

 

それから細かい話を詰めていく。

そして夕方ごろ。江夏水軍を主力とした荊州水軍が黄忠の指揮のもと進軍を開始した。

甘寧の指揮のもと江夏水軍の攻撃を躱し、総司の指揮で鉄砲による攻撃で確実に

江夏水軍の兵士は数を減らしていっていた。

しかし黄祖は船体に薄く加工した鉄板を張り付けており思ったほど効果は薄い。

 

「まさか鉄板を張った船が出てくるとはな。さしずめ鉄甲船か?多分一刀だな。」

 

「どうする。大砲使う?」

 

「それはまだよ。使うのはまだ先よ。瑠香。」

 

「気になってたんだけどさ。桂花って何で私にはタメで総司には敬語なの?」

 

「私が仕えているのは総司様だけよ。貴方じゃない。」

 

「そうですか。そうよね。まあいいわ。」

 

「二人ともおしゃべりはそこまでだ。敵が来る。総員、放てーー。」

 

銃声が響く。江夏水軍は矢が届かず、孫呉は決定打を討てずの戦いを続けていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話

 互いに一歩も引かない長江での戦い。

銃を使う孫呉に対し弓で応戦している。夕暮れごろから始まった戦いは既に一刻続いている

だがここで弓と銃の差が出始めた。

一発撃てば確実に誰か殺されて行く。

その恐怖に兵士が耐えられず船員たちが逃げ出し持ち場を離れ始めたのだ。

むしろここまでよく耐えていたと言えるだろう。だが流石に限界を迎えたのだ。

それに追い打ちをかける様に孫呉の船から大砲が放たれた。

一発撃てば数隻がまとまって沈む。

そのせいで江夏水軍は総崩れ。流石の黄忠も立て直すことがかなわず撤退を余儀なくされた。

同時刻長江での戦いが敗色濃厚になっているのを全く知らなず

今も持ちこたえていると考えていた黄祖は孫呉の本陣に攻撃を開始した。

 

「孫策は今悠々と本陣で構えているであろう。今が好機だ。攻めかかれ!」

 

黄祖の合図と共に兵士達が攻めかかった。

だが陣には誰もいない。

 

「何故だ?孫策はどこに行った?」

 

共に進軍した黄祖はもぬけの殻の孫呉本陣を見て疑問を口にする。

 

「ここよ。」

 

後ろから聞こえた声に黄祖は振り向く。

そこには孫策と呉の将兵が黄祖たちを囲んでいた。

当初黄祖の予想では孫呉は兵士のほとんどが船に乗っており本陣には

少数の兵士しかいないと考えていた。

だが実施は船には総司達八咫烏隊の兵士達が各船に三小隊規模ずつ配置されているだけで

殆ど孫呉本隊は陸上で黄祖の奇襲に備えていたのだ。

 

「流石、冥琳の読み通りね。」

 

「ここまでうまくいくとは思わなかったがな。」

 

「何でもいいわ。成功すればね。さて・・・全軍・・・・かかれー。」

 

兵士達は叫び声をあげながら突撃を開始する。

 

「黄祖様を守れ~。」

 

一方黄祖側も迎撃の準備を整える。

数では孫呉が圧倒している。

その数を生かし攻めかかる。

黄蓋隊の援護を得た程普と太史慈の隊を中心に孫策まで先頭に立ち前に進むが

黄祖軍は一兵士までが黄祖を守ろうと戦ってくる。

そのせいでなかなか前に進めない。

 

「はあああああ。全く切っても切っても全然崩れない。」

 

「余程部下に慕われてるって事かもね、雪蓮。」

 

「無駄口、叩いている暇はありませんよ。雪蓮様!次が来ます。」

 

「今どれだけ抜いた?」

 

「五層。でもまだ黄祖までは遠いよ。」

 

「とにかく進むしかないわ。進めえええ~。」

 

孫策に掛け声をかわきりに余りの守りの硬さに落ちかけていた兵士達は士気を取り戻した。

次第に黄祖軍は押されていく。

 

その時轟音と共に河側の兵士が一斉に倒れた。

黄祖が振り向けば河の方から船が近づいてきており

そこから鉄砲により銃撃を加えられているのだ。

黄祖や指揮官級の将校はそこで負けを悟った。

後は全滅するだけだ。

既に黄祖自身も黄蓋の矢を受けて血を流している。

将校たちが考えたのは一つ

 

「黄祖様お逃げください。」

 

「あなた様さえ生きておられればまだ勝機はあります。」

 

「殿はそれがしにお任せを。」

 

何としても黄祖だけは逃がす。それだけだった。

 

「済まない。」

 

黄祖は武昌を目指して西に少しの兵士と共に逃げた。

 

「黄祖が逃げる。追えー。」

 

孫策といつの間にか先程から隣で戦っていた孫権や甘寧を先頭に逃げる黄祖を追う。

だがここでも江夏軍の守りの壁が追撃を遮る。

突破に苦戦する孫策に轟音と共に銃弾が届き次々敵兵士が倒れていく。

 

「孫策殿援護する。進めれよ。」

 

「悪いわね。任せるわ。進め―。」

 

船の上から八咫烏隊の援護をもらい孫策は進む。

だが進んだ先に黄祖はいなかった。」

 

「黄祖がいない。」

 

「街道を西に逃げたな。」

 

「連華。ここは任せるわ。私は追撃の指揮を執る。」

 

「お任せを。必ず黄祖の首をお取りください。」

 

「当然よ。」

 

孫策は追撃部隊と共に走って逃げた黄祖を追った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話

柴桑での戦は終わった。

敵は暫く粘り遂に降伏。今は 全兵士が武装を解かれ座っている。

 

「全兵士の武将解除終わりました。」

 

「お疲れ様です~。流石お早いですね。」

 

「いえ。」

 

「長江の船団はどうなった?」

 

「はい。全て撃ち払い撤退させました。」

 

「流石じゃの。」

 

「それにしてもぉ・・・・黄祖さんの兵は皆、すさまじい戦ぶりがでしたね。」

 

「不思議ですね。皆黄祖さんを逃がそうと必死でした。あんな悪人顔の冷酷そうな人なのに。」

 

「何かしら惹きつけるものはあったのじゃろう。利晏も申して負ったが」

 

「でしょうね。でなければああはなりませんよ。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

陸遜、張昭、魯粛、総司が話している間も太史慈は黙って聞いていた。

 

「あれ?利晏様は残っていたのですか?」

 

「えっ、あ、うん」

 

「ああ。彼女には俺から頼んで残ってもらったんだ。

流石に武官全部を追撃に差し向けてこの場を手薄にするわけにもいかないので。」

 

実際は言っていないが太史慈が今かなり複雑な想いでいる事が簡単に想像できた総司が

嘘をついてその場を収めた。

 

「なるほどそうでしたか。」

 

「勝手なことをして申し訳ない。」

 

「気にするほどではない。お主が言う事も確かじゃ。」

 

「ありがとうございます。張昭様。(張昭様は気づいてるなあ。これ。)」

 

「よい。さてわしらも戻るぞ。」

 

「はい。」

 

「分かりましたぁ」

 

四人は歩き出す。それを追って太史慈も後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 黄祖は逃げる。

既に部下はおらず皆足止めの為に残りやられていった。

黄祖も雨のせいで体力が無くなり怪我を治療もできず血を流し過ぎたせいで視界がかすみ、

満足に歩くこともできず目の前の木の幹に背中を預けて座り込む。

 

「くっ、もはやこれまでか」

 

遠くから孫尚香や孫策の声が聞こえる。

追いつかれるのも時間の問題だろうと黄祖は悟った。

 

「だがこの頸誰にもくれてやるものか。」

 

小刀を取り出して首を切ろうとする。

だがその前に茂みから足音が聞こえてきた。

 

「黄祖殿。」

 

「思春か。」

 

「真名を許した覚えはない。」

 

「ふっ、最後におぬしに追い詰められるとは。天とは慈悲深いのかそうでないのか」

 

「少なくとも私にとっては都合がいい弱き己を断ち切るための舞台を整えてくれたのだから。」

 

「弱さなど人である限り克服など叶わぬよ。故に皆伴侶を求めるのだ。

ああ。その為にこの場に参ったのかならば天に感謝しよう。」

 

「相変わらず己の感情のみで物を語る。私は貴様のそう言うところが・・・嫌いだ。」

 

「私はその抜き身の刃のようなそなたが愛しい。」

 

「やはり貴様との問答は無意味だ。私の一振りで終わらせる。」

 

黄祖は弓を構え、甘寧もまた剣を構える。

その時茂みから新手が現れた。

 

「黄祖ーーー。」

 

甘寧の後ろから孫策や黄蓋が追いついてきた。

 

「思春。黄祖を追い詰めたのね。よくやったわ。」

 

「雪蓮様。」

 

「言わなくても分かっているわ。私が見届ける。黄祖を討ち取りなさい。」

 

「御意。」

 

「如何やら・・・孫策も来たようだな。

だが私を切った所で過去を全て捨て去れると思うてか。

お主が江賊のそなたがまことの孫呉の臣になれるとでも?

変わらんよたとえ私を切ったとしても江賊の狼の血に抗う事は出来んわ。

そしてそなたの中で私はさらに大きくなるだけ。」

 

「ならばそれ事、貴様を切るのみ。」

 

「死ねーーーーーー。思春!」

 

「黄祖っ!」

 

「ぐぅっ…………ふっ!」

黄祖は矢を放つ。

だが甘寧はそれを剣ではじき黄祖の胸に剣を突き刺した。

 

「届かぬか。ぐっ……がはっ。届かなんだか。礼を言うぞ。

最後にお主に手で死ねること・・・・幸せだ。」

 

黄祖はそれだけ言って息絶えた。

 

「お見事。」

 

黄蓋はゆっくり目を閉じた。

黄祖の遺体は傷つけられることなく本陣に持ち帰られた。

本陣では大喝采が起こる。だが誰一人として黄祖を悪く言う人物はいない。

言えばそれに討ち取られた孫堅を貶めてしまうからだ。

それだけ孫堅が民や兵士達から慕われていた証拠なのだろうと

総司は考えて改めて孫堅の偉大さを知った。

 

「一つ肩の荷が下りたわね。」

 

「意外とあっさりしているのだな。」

 

「前の黄巾最後の戦で水燕が言ってたでしょ。

魂は空に骸は土に還す。もう黄祖は死んだのよ。

なのに死んだ後まで黄祖を恨み続ける必要はないわ。

ならもう休ましてやってもいいと思わない?」

 

「そうだな。」

 

「さて後かたずけよ。全て燃やして埋葬するわ。

江夏軍と孫呉の兵士を遺体を集めて頂戴。」

 

『はっ』

 

敵味方関係なくこの場にいる兵士が総動員されて埋葬作業が進められ

戦が終わった朝方から昼まで掛かり全てを埋葬した。

孫呉はそのまま江夏と長沙を制圧。黄忠と魏延は荊州を脱出し

黄忠の友人、厳顔を頼って隣の益州に逃げたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話

 江夏、長沙を制圧した孫呉は荊州牧劉表と和睦を結んだ。

劉表としても好き勝手に動く黄祖が余程邪魔ものだったのだろう。

更に今も驃騎将軍地位にいる水燕がこの和睦を取り仕切った事も大きく

かなり有利な条件で和睦を結んだ。

和睦を結んだ孫呉は建業に戻った。

その建業では領土が増えたと袁家の老人達がのんきに宴を開いている。

 

「いやー孫策はいい仕事をしてくれたものだ。」

 

「これで我らの領土がまた増えましたな。」

 

「孫策が持つ領土はこの建業のみ。一方南陽からも近い江夏と長沙は

我らに任せざるを得ない。」

 

「ほっほっほっ。さよう。わざわざ我らがいずれ敵になるかもしれない奴らに

力をつける要因を与えた本当の理由を気づきもしないまま戦をするとはな。」

 

「傷は孫呉に蜜は我らにじゃよ。」

 

「「「ほっほっほっほっほっ。」」」

 

数人の老人たちが自分の部屋で話している。

いざとなれば玉璽があるのでそれを盾にすればいいと考えているのだ。

その時兵士の一人が駆け込んできた。

 

「大変です。孫策が。」

 

「これ、いきなり飛び込んでくるとは何事じゃ。」

 

「不敬じゃろう。」

 

「それどころではありません。孫策が」

 

「孫策がどうした?まさか落馬でもしたか?」

 

「それは僥倖。祝いの席を設けなければ。」

 

「違います。孫策が急に謀叛しました。」

 

「なんじゃと。どういう事じゃ。」

 

「はよ、防衛体制を整えろ。」

 

「そうじゃ。住民を盾にするのじゃ。そうすれば孫策も動けまい。」

 

「もうすでに外の城壁を越えられ街に侵入されています。後はこの城の城壁のみです。」

 

「なんじゃと。なぜ早く言わなんだ。」

 

「それがいきなり壁門が吹き飛ばされて。」

 

孫策がこの謀叛を企てるにおいて一番懸念していたのは建業の住民を人質にされることだ。

だからこそそこは入念に話し合われていた。潜入や騙し討ちなど地理を知り尽くしている

孫呉には多くはないが策を立てる事が出来た。

だが人質が既に用意されている場合を考えたら時間がかかってしまう。

そこで総司が出した案が大砲による奇襲だ。

まず複数の大砲を城門に一斉に斉射。それでいくら鉄とはいえ城門を破壊。

その後突入。歩兵は城壁を制圧しその間に一気に老害どもを排除し袁術と張勲を保護する作戦だ。

この作戦のかなめは孫呉の騎馬を操る程普と太史慈、黄蓋だ。

そこに総司の騎馬隊も加わる。

それに備えて船上で大砲を空砲で何度も放ち、兵士や馬を慣れさせた。

そして全ての準備を終えた孫呉は城壁近くまで押し寄せている。

 

「さて始めるわ。」

 

「策殿、やってくれ。」

 

「合図は孫策様がだしてください」

 

「あら、いいの?」

 

「今回は戦の前に長く口上を言う事が出来ません。

ならそれに代わりにはなりますよ。

旗が上がれば合図をお願いします。」

 

「分かったわ。さて総員準備はいいわね。」

 

「「「「「おおーーーー。」」」」」

 

整列した孫呉の兵士、全員が声を上げる。

この日を待ちわびたと。それぞれがこれまでの苦労を思い出しながら。

袁家から来る無理難題を何とかこなしながら連戦に次ぐ連戦。

豪族の反乱に領土の拡大。何とか終われば袁家の人間の好き勝手の尻ぬぐい。

その横で馬鹿みたいに金を使う袁家の面々。

一年だが思い出されるだけでも数えきれない。

 

「今までよく耐えてくれたわ。それも今日この日で最後よ。

これより作戦を開始する。八咫烏隊。砲撃準備、照準、建業城門。他の者は突撃準備よ。」

 

八咫烏隊の砲兵が砲撃準備を整えて旗を上げた。

それを合図に孫策は声を張り上げる。」

 

「放てぇーーーーーーーー。」

 

合図を受けて全ての大砲が放たれる。

放たれた弾は全て城門に当たり城門を破壊。

守りの兵士達が慌てだす。

 

「総員突撃。太史慈、程普、黄蓋、八咫烏隊は即座に城へ向かい制圧せよ。

後の者は蓮華の指示に従い外門上を制圧。突入部隊を掩護する。」

 

指示に従い突撃を開始。

孫策を先頭に市街になだれ込み中央通りを突っ切って城の内門に取りついた。

住民は少数が騒ぎを聞きつけて家から出てくるが状況を察して大通りに出てくることは無かった。

それどころか大通りに面した小道から見ていた人から掛け声すら上げている者すらいる。

 

「孫策様だわ!直ぐ後ろに神使様もいるわ」

 

「程普将軍だ!黄蓋将軍もいる!」

 

「太史慈さまもだ。」

 

「ついに袁家から解放されるんだ。」

 

「将軍頑張ってください。」

 

「お願いします。」

 

「でも大丈夫かしら。見ただけだけど袁家の兵士も多いわよ」

 

「馬鹿野郎、神使様もいるんだぞ。勝ちは決まったようなもんだろ。」

 

「そうよね。神使様。どうか我らの未来をお願いします。」

 

そんな声が聞こえてくる。

孫呉の兵士はそれで益々勢いを増していく。

 

「孫呉は民に愛されていますね。」

 

「当然よ。孫呉は常に民と共によ。」

 

「なるほど。」

 

「策殿。内門じゃ。」

 

「ええ。水燕、黄蓋は弓と鉄砲で城壁の敵を攻撃。大砲の手はずは?」

 

「攻城開始と共に城門近くの家に隠してあるのを周倉と馬鈞に運ばせて手筈を整えてある。」

 

「流石水燕君よね。しかしよくばれずに済んだものだわ。」

 

「それだけ袁家の警備がぬるいという証拠じゃ。」

 

城門にたどり着くと数人の兵士と周倉と馬鈞が既に砲撃準備を整えてまっていた。

黄蓋と瑠香がそれぞれ弓騎馬隊と鉄砲隊を率いて城門周りの兵士を排除するべく配置につき

攻撃を開始する。

そして孫策と総司、太史慈は周倉の下にたどり着いた。

 

「大将、孫策様。待ちわびましたぜ!」

 

「既に準備は整えてあります。いつでも撃てますよ。」

 

「撃って。」

 

「了解。総員、城門に向けて撃てーー。」

 

周倉の合図と共に砲撃の一斉射撃を開始する。

内門もあっという間に破壊された。

 

「程普隊、太史慈隊突入。各部署を制圧して。水燕、ついてきて。」

 

「承知。瑠香悪いが一個小隊を回してくれ。星と孫乾は俺と来い。外は桂花に任せる。

霞は程普殿たちに同行。制圧部隊に加われ。」

 

「「「了解。」」」

 

「任せえや。」

 

荀彧、趙雲、張遼はそれぞれ部隊を率いて動く。

孫策は総司、趙雲と計二個小隊を連れて中に入る。

目指すは袁術がいるであろう謁見の間。

途中逃げ出した悪徳文官や権力に笠を着て好き放題していた老害どもを排除する。

 

「せい。」ザシュッ

 

「はああああ。」グサッ

 

「二人を援護だ。放て。」

 

そうしながら進む。謁見の間に付き扉を開ける。

そこには人質にされた袁術と張勲。そして老人数人がいる。

 

「二人を話しなさい。」

 

「二人の命が惜しければ来るな。儂たちを逃がせ。」

 

「そうじゃ。」

 

「大体こんなことして黄祖から助けてやった恩を忘れおって。」

 

「その恩は忘れてないわ。しかし民を苦しめたのも事実。」

 

「うるさい。民などいくらでも湧いて出てくる。どうなろうと知った事じゃないわい。」

 

「そうじゃ。そんなものよりわしらの方が重要じゃ。」

 

「呆れたな。ガキかよ。」

 

「いやいや、主様、童でもここまでは申しませんよ。」

 

「そうだな。鉄砲隊構えろ。いつでも撃てるようにしておけ。」

 

鉄砲隊の兵士は構える。

同時に総司も背負っていた銃を構えた。

 

「だめよ。まだ撃たないで。」

 

「しかし。・・・・分かった。」

 

撃とうにも袁術を盾にした老人が刃を袁術の首元に添えているせいでなかなか撃てない。

孫策は現状を打破する方法が思いつかず焦っている

 

「孫策ーー。妾ごと撃つのじゃああああ。」

 

「お嬢様!」

 

「元々このような状況を生んだのは妾じゃ。その責は妾しかとれぬ。」

 

「黙れーーーーーーー。」

 

老人は持っていた小刀を振り上げた。」

 

「(今だ)」パンッパンッ

 

「うわあああああ、痛い、痛い。」

 

その瞬間総司とは持っていた銃で二人の老人の手を撃った。

手を撃たれた老人は余りの痛みに思わず袁術と張勲を離し叫ぶ。

 

「(離した。)張勲!袁術ちゃんを。」

 

「は、はい。」

 

張勲が孫策の指示の意図をくみ取り袁術を抱えて老人達から離れる。

そこから間髪を入れず銃弾が撃ち込まれて老人たちは死亡した。

 

「ふう。何とかなったわね。」

 

「ああ。一時はどうなるかと思ったがな。」

 

「そうね。そこは袁術ちゃんの勇気に感謝ね。」

 

共に袁術の方へ向かう。

袁術は張勲に抱き着きながら泣いていた。

 

「七乃ーー、怖かったのじゃ~~。」

 

「お嬢様~~。ご無事で何よりです。」

 

「よく頑張ったわ。袁術ちゃん。」

 

「かっこよかったぞ。」

 

孫策と総司は袁術の頭をなでた。

袁術は涙ながらに嬉しそうに笑っていた。

それからほどなくして程普と太史慈から悪徳文官の排除と各部屋の制圧が完了したこと

外から孫権が全ての軍事施設を制圧したことが報告された。

ここに揚州は孫家の手に戻ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回で祖国解放編は終了です。
次回から新しい章に入ります。
よろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常編
第二十七話


 建業。

その謁見の間に孫呉の武官、文官が勢ぞろいしている。

そして一番奥の当主の席に孫策は座る。

その前に八咫烏隊隊長である総司と副隊長の趙雲、第四旅団隊長である張遼が片膝を付いている。

 

「今回の黄祖攻め、および揚州奪還ではとても助かったわ。

約束通りの物を用意したわ。冥琳。」

 

「ああ。会稽群の北にある砦を用意した。場所は後で案内させる。

そして「少々お待ちを。」いかがなされた孫静殿?」

 

「やはり会稽群に与えるのは反対です。盧陵の開いている適当な要塞で良いのでは。」

 

「よせ。いくら先代の妹君と言えどそれはならん。

黄祖攻めや揚州奪還がここまで早く終わったのも水燕のおかげ。

それは紛れもない事実じゃ。それをそのような州の端を与えれば孫家の程度も

知れたともいえるじゃろう。本来なら群を与えてもよい手柄じゃ。」

 

「それは言いすぎでしょう。孫呉でもいきなり高い地位を与えられているのです。

不満はないのでは?」

 

「お主とて水燕のこれまでの活躍は知っておろう。孫呉が受けた恩も多くある。

更に必勝の神使や御使いの友の名を使わせてもらうのじゃ。それ相応の地位を与えなばなら

おかしい事になるし期待する効果を得られる事は出来ぬ。先行投資と思えぬか?」

 

「思えませぬな。そのせいで益々戦が増える可能性すらある。

人は欲には弱いもの。必ず勝てる兵器があるのなら使いたくなるものでしょう。

策がそれを用いて支配領域を拡大しようと考えるのは目に見え得ております。」

 

「黙らぬか。孫静!いくら何でも言っていい事と悪い事があるぞ。」

 

「祭の言う通りだわ。先ほども雷火殿も申していたけど水燕君の活躍は大きい。

彼のおかげで受けたであろう被害をかなり減らせている。

それを無視して揚州の辺境に送ろうなんてよく言えたものね。

更に当主の悪口を堂々と言い放つとは。」

 

「いくら宿老と言えど立場をわきまえろ。私は」

 

「沈まれ!」

 

孫策の声で静まり返る。

 

「おば様。既に決まった事を今更むし返さないでください。

水燕も悪かったわね。冥琳続けて頂戴。」

 

「分かりました。場所は先程の通りにそして地位に関しても以下の通りとする。」

 

結果総司は将軍の地位を得て正式に孫呉の名を連ねた。

それに伴い真名の交換が行われ、主だった武官と孫策、孫権、孫尚香が真名で呼ぶことを

許した。孫静は終始不満そうな顔をしていたが。

そして孫呉として色々決める事があり直ぐに決め得られていく。

その中で一番もめたのが袁術と張勲の扱いだ。

意見は二つ出た。まずは保護派。

まだ幼いとはいえ袁家の人間だ。

孫呉に不満がある人間にうまく使われて旗頭にでもされたらたまらない。

更に幼いという点からいくら張勲がいるとはいえまだ幼い童を野に放つのはあんまりという意見や

更に張勲の有用性も話に出た。張勲は決して無能ではない。

今回活躍できなかったが過去用兵で倍の敵を潰した経験を持っている。

特に砦などでの防衛戦での活躍はすさまじく優秀な人材であることから二人とも保護するべきだ

という意見が主だった。

反対に追放案や処刑案も出た。

此方は孫呉が受けた被害や袁術を内に匿う事の危うさ。

このまま袁術を匿えばいずれ民にばれて不満が広がるというのが主な意見だ。

どちらも意見ももっともだと孫策は理解している。

 

「どちらももっともな意見だわ。総司はどう思う?

貴方は意見を述べていないようだけど。」

 

「俺は保護です。ただそのまま保護すれば反対派の方々が言われた事も

ありますので全ての権限、地位を取り上げた上で二人には家名などを捨ててもらいます。

その上で新たな名を与えた上で保護すればよろしいというのはどうでしょう。

対外的には戦の最中に死んだという事にすればいいかと。

ただこの案は交州で仕事をされている紀霊殿が勘違いされる可能性があります。」

 

「なるほどそれならば問題はほぼあるまい。紀霊の奴にも文を送れば問題はなかろう。」

 

「そうねなら袁術ちゃんたちはそのように進めるわ。」

 

そうして軍議は終了した。

 

それから数日後総司達八咫烏隊は砦に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話

 八咫烏隊は会稽群北方の砦に移った。

現在は砦の改築作業を行っている。

城壁を更に高くしやぐらを作り、堀を作り、狭間を開ける。

その他にも虎牢関や汜水関でも役に立ったバリスタや小型の投石器のような

本来攻城兵器に使う物を防衛に使える様に改造して設置する。

そして今総司達隊長格はある部屋に集まっていた。

 

「今回総司や皆に提案するのはずばり気球だよ。」

 

「気球?なんやそれ?」

 

「お手軽にそれを飛べる装置だよ。」

 

「空をそんなん飛べるんかいな。」

 

「操縦が難しいのと鳥に注意しないといけないがな。不可能じゃない。」

 

「はあ~~。瑠香や総司の世界は凄いなぁ。人間は空を飛べるんかいな。」

 

「香風が聞けば乗りたがったであろうな。」

 

「確かに安価で作れるな。その全てがだが風次第だ。そこら辺はどうするつもりだ?」

 

「これはまだ試作段階。最終的には飛行船を計画してる。」

 

「燃料はどうする?」

 

「直ぐ近くで偶々油田として使えそうな場所を見つけてね。調べたら燃料として使えるよ。」

 

「どれぐらいの期間をかけるつもりだ?」

 

「気球は既に完成しているから後は実験とか考えたら半月かな。」

 

総司は問題点を次々出してそれを瑠香が答える。

この時点で既に他の人間はついていけてない。

暫く考えた後総司は一つ頷いて答えを出した。

 

「分かった。いいよ。空からの攻略はこの時代においてはかなり有効だ。」

 

「了解。任せてよ。」

 

「費用を後で桂花に出しておいてくれ。」

 

「了解。任せて。それに合わせて必要な武器も作るよ。」

 

「構わないよ。ただし。」

 

「分かってる。安全第一は忘れてないよ。」

 

「ならいい。桂花、後頼んだ。」

 

「はい。瑠香。直ぐに費用計算して出しなさいよ。」

 

「分かってるよ。任せて。」

 

半月後

実際に完成した物に瑠香が乗り込む。

 

「なるほどよくできている。」

 

「先日実際に見ておりますがやはりまだ信じられません。

人が空を飛ぶなど、まさに妖術のようですな。」

 

「飛行機が当たり前にある俺や瑠香からしたら気にすることもないが

やはり星たちから見ればそうだよな。」

 

「はい。主から聞いていても実際見るのとは違いますから。」

 

「さて実験開始だよ。」

 

そう言ってエンジンを入れる。乗り場の左右に取り付けられたプロペラが回り始めて

ゆっくりと空に舞い上がる。

 

「ほんまに飛んだで。」

 

「壮観ですな。」

 

「成功か。あとは着地だが。」

 

結果として試作飛行船は三十メートルほど飛んで着地した。

 

「今回は成功かな。」

 

「ああ。量産の目処が付いたら報告してくれ。」

 

「了解。任せて。」

 

瑠香の研究の日々は続く。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話

「総司はなにか芸とかできるのよね?」

 

それは孫策のその一言から始まった。

なんでも孫家では月に一回ほど武官、文官総出で無礼講の宴会が開かれる。

そこで新人は何かかくし芸的なものを披露しなければならないとか決まりがある。

もとは先代孫堅が言い出したことでそれから新人たちはそれを披露することとなっている。

特に今回は袁家支配の中では宴会などできるはずもなく今回はその袁家から解放されて

初の宴会だという事で特に派手に行うという事だ。

過去には甘寧はナイフ投げを披露し太史慈は槍の演武を披露している。

その宴会が一週間後に行われ今回は八咫烏隊を代表して総司と瑠香が

披露しなければならないという事になったのだ。

 

「どうするよ」

 

「どうするといわれてもな」

 

「あんたならさっといい考えだせるでしょ」

 

「案はある。後はお前次第だな」

 

「私次第?何か作れと」

 

「そうだ。実はな。」

 

総司は瑠香に自分の計画を話す。

 

「そういう事なら任せなさい」

 

「頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間

 

 

 

 

 

 

遂に始まった宴会とかくし芸大会(総司が勝手にそういっている)。

宴会には総司と瑠香以外に趙雲、張遼、荀彧が参加している。

他にも少ないが新人がいるので先に披露される。

成功して歓声を受けるものがいれば

失敗してもそれはそれで笑いが起こる。

だがそれはあざ笑う笑いではない。

そのあたりからも孫呉の人柄が受け取れた。

そして最後のとりとして総司と瑠香がでる。

それと同時に大きな機材が布がかぶせられたまま運び込まれてきた。

布がとられると現れたのはグランドピアノだった。

それとは別にチェロと横笛持ってきていた。

それは瑠香がこの国の楽器職人たちと作り上げたものだ。

総司はピアノの音が出ればいいといったのだがそこは職人。

見たことない楽器を見た瞬間張り切り総司が想像していた以上のものを作り上げたのだ。

そして今日この場にそれを持ってきている。

そしていざ演奏が始まった。

選んだ曲は二曲JupiterとHe's a Pirate

Jupiterではピアノを瑠香が横笛を総司が弾きを

He's a Pirateでは二人でチェロを弾く。

二人は宴会にふさわしいかではなく引きなれているものと好みで選んだ。

そして演奏が始まるまずはJupiter。

これは瑠香が選んだ。

演奏が始まれば全員が黙って耳を傾ける。

演奏が終われば拍手が聞こえてくる。

そして次がHe's a Pirate。

これは総司が選んだ。

総司は曲を選ぶときずいぶん悩んだ。総司は宴会に似合う曲はあまり知らない

そこで完全好みで選んだのだ。

演奏が終わると少しの間を開けて拍手と大歓声が起こった。

特に武官には受けが良かった。若い文官にも受けている。

だが孫静を中心とした年寄り文官たちは面白くないのか静かにしているままだ。

二人で一礼して機材を直し席に戻った。

それと入れ替わるように孫家お抱えの楽曲隊が登場し曲を引き出す。

 

「いやぁ水燕殿、孫尚殿。お見事でした」

 

「ええ。感動しました。また機会があればぜひお願いします」

 

「将軍は武だけでなく音楽にも精通しているとは感服いたしました!!ささっ、どうぞ一献」

 

「いただきます」

 

酌を受けると一気に盃を傾け酒を呑み干した。

 

「よき飲みっぷりですな。さすがは必勝の神使」

 

「とんでもない酒豪ですな!!私の酌もどうかお受け下され」

 

総司と瑠香を中心に武官たちが集まり人だかりができるがそれが二つに割れた。

孫策と孫権が黄蓋と程普を連れて総司の元へやってきたからだ。

 

「談笑中ごめんなさい。とても素晴らしい曲だったわ。総司、瑠香」

 

「ほんと、感動したわ、ねえ祭」

 

「まっこと感動した。特に二曲目がよかった。聞いているだけで武人の一騎打ちを想像した」

 

「確かに。文官たちには一曲目のほうが受けていたけど二曲目は武官たちに受けたんじゃない」

 

「そう言っていただけるならよかったです。」

 

「ほんと。しかも本職の前に披露するから心配でしたし」

 

「むしろ負けじとこの場の演奏に張り切っているようじゃ」

 

「そうよ。自信持ちなさい。ほら」

 

「ありがとうございます」

 

総司は孫策に注いでもらった酒を一気に飲み干す。

 

「ほら瑠香も」

 

「ありがとうございます」

 

瑠香も同様に注いでもらい一気に飲み干した。

 

「さあ、宴会はここからが本番よ。みんな、存分に楽しみなさい。

今夜は無礼講。いきすぎなければ多少の無礼は許すわ」

 

『おおーーーーー』

 

そのあと五人は存分に宴会を楽しんだ。

そして夜も更けたころ孫策の一言で宴会は終了。

総司たちは全く酔うことなく建業の宿に戻って寝た。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話

今回若干グロいです。(たぶん)
そいうの無理という人にはお勧めしません。


 翌日。

総司は朝から孫策に呼び出されてある部屋にいた。

 

「うう~~」

 

「大丈夫?霞?」

 

「近くで声出さんといて響くねん。瑠香」

 

「だから飲みすぎるなって言っただろう」

 

「言うてへんわ。てかいつ言うてん」

 

「言ってなかったか?まあいいんじゃね」

 

そんな言い合いをしている中で孫策が張昭、黄蓋を連れて部屋に入ってくる。

座っていた総司たちは立つ。霞は二日酔いで倒れていて動けないが

それを孫策はおいておいて話し出した。

 

「待たせてごめんなさい」

 

「お気になさらず」

 

「早速要件に入るわ。座って」

 

「はい」

 

言われて全員が座った。

 

「単刀直入に言うわ。あなたたちに内部調査をしてほしいの」

 

途端に総司と瑠香、趙雲、荀彧の顔が険しくなる。

 

「内部調査?」

 

「私たちが?」

 

「そうよ」

 

「質問よろしいか?」

 

「何?総司」

 

「なぜ俺達を使うんです?雪蓮様とて密偵ぐらいお抱えのはず。彼らを使えばいいのでは?」

 

「簡単に言ってしまえば彼らは信用できない。彼らの中に数名密偵が紛れ込んでた」

 

「なるほどだから諜報にもたける俺達を使おうと考えたわけですね」シュッ

 

「ぎゃっ」

 

話しながら総司は持っていた小刀を天井に投げる。

すると悲鳴と共に血が滴り落ちてくる。

 

「少し失礼、瑠香」

 

「ええ。ちょっと待ってて」

 

瑠香はどこかへ行き少しして戻ってきた。男を一人連れて。

 

「これはあなた方が?」

 

「知らないわ」

 

「しばらくは動けないな。例の件は受けさせてもらいますよ」

 

「ありがとう。任せるわ。これが対象の者たちね」

 

受け取った木簡に書かれた名簿を目を通す。

そのほとんどが孫静とその周りの文官連中だった。

 

「儂としても恥ずかしいが頼む」

 

「お任せを」

 

「とりあえずこいつをまず尋問します。では」

 

総司たちはその男を連れて退室した。

 

「祭、さっきの密偵の存在、あなたは気づいてた?」

 

「すまん。策殿。全く気づいておらんかった」

 

「私もよ。今後はもう少し周りに気を付けないとね」

 

「そうじゃな。では雪蓮様。仕事を始めましょうか」

 

「え、雷火。ちょっと待って」

 

「今日中に裁定をいただかなければならない物が多くあります。さぁ行きますぞ」

 

「は~~い」

 

「はいを伸ばさない」

 

「はい」

 

天下の小覇王、孫策と言えど張昭にはかなわなかった。

 

 

 

 

 

 

現在総司は自分の拠点の地下牢に先ほど捕まえた男の尋問のために来ている。

その顔はいつもの優しそうな顔ではない。何処までも冷徹な顔をしていた。

 

「さて、しゃべってもらおうか」

 

「誰が貴様になど」

 

「そうか。ならしゃべりやすくしてやろう。まずはそうだな爪から行こうか」

 

総司の声と共に兵士によって男の手の爪がはがされた。

男は悲鳴を上げる。

 

「どうだ?少しはしゃべる気になったか?」

 

だが男はしゃべらない。

 

「そうか。なら次は足だな」

 

今度は足の指を剥がす。

そうしてしゃばるまで手、右前腕、腕の残り、反対側、右足足首半分、残り、反対と切り落とす。

気絶すれば水をぶっかけて無理矢理意識を覚醒させる。

その頃になれば男も痛みに負けて喋る。

 

「わかった。しゃべるから。もうやめてくれ」

 

「そうか。わかってるだろうが嘘を言えばもっとつらいぞ。で、誰が雇い主だ。」

 

「文官の男だ。確か名前は・・・・・だ」

 

「あいつか。何を依頼された?」

 

「あんたの動向調査とあんたが持ってる技術を手に入れろって」

 

「それで?」

 

「それだけなんだ」

 

「嘘だな。」

 

「本当に本当なんだって」

 

「盗んだ技術をどうするつもりだったんだ?」

 

「知らない。俺はただの雇われた情報屋なんだ。それ以上は知らないよ」

 

「本当か?情報屋ならそれなりの情報を持ってたんじゃないか?」

 

「それは・・・・・」

 

「どうやらまだ足りないらしい」

 

「わかった。しゃべるから」

 

「一つ隠し事をするごとに腹に穴が一つ空くと思え。嘘をついても同様だ」

 

「わかった。確定情報じゃないけどそいつは前々から許貢と連絡を取っていたんだ。

どうも曹操のところに寝返ろうとしてたらしい。

でも所詮は老人で文官だ。高い地位を得るためには曹操が気にいるような手見上げがいる」

 

「それで俺たちの技術が欲しかったわけか」

 

「そうだ。今曹操は皇帝の命令で全州に向けて袁紹討伐指令を発布しようとしている」

 

「まて、なぜそこで袁紹が出てくる?奴は洛陽の都の牢に捕らえられていたはずだろう」

 

「洛陽から各州の軍が撤退して手薄になった時に脱獄したらしい。

それで今は冀州に戻って軍備を整えてる。

それを知った曹操は皇帝に全州に向けて袁紹討伐の指示を出そうと今あっちこっちに声をかけてる。」

 

「そんなときなら俺たちの技術があると聞けば欲しがるだろうな。他には?」

 

「もうこれだけだ。本当にこれだけなんだ」

 

「そうか。ありがとう役に立ったよ。おい、処理しておけ」

 

「はっ」

 

総司は牢から外に出た。

その後ろで悲鳴が聞こえて兵士以外出てこなかったが誰も気にする者はいない。

 




いかがだったでしょうか?
やっと投稿できた。
一か月ぶりです。
今後もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話

今総司は執務室に座りながら仕事している。

今、孫乾から上がってきた報告書を見ていた。

 

「これですべてそろったな。助かった、美花。」

 

「それが我らの役目ですから。かつては忌み嫌ったこの力ですが

今はその力でお役に立てていますわ。」

 

「そう言ってくれているだけでも俺は心が救われるよ。

恐らくだがまだ部隊には働いてもらう可能性がある。それまでしっかり休んでくれ」

 

「わかりました」

 

孫乾は退出する。

それを見送って再び報告書に目を通す。

そこに書かれているのは孫家で不正を働く全ての者たちの名簿と罪状。

孫策から依頼されていた者たち以上の名前が載っている。

どの連中も二回は処刑できる程の罪を犯している。

 

「(ほとんどが文官の老人連中だな。袁家の支配の中で甘い蜜を吸ってたって感じか。

孫策様を筆頭に各地で暴動を鎮めるのに東奔西走してたから後は

武官はそんなことしてる余裕はなかった感じらしいからその手の罪がないのは

当然と言えば当然か。孫静はそこらへん身内には甘そうだし。

張昭殿は外向きの仕事で手えいっぱいだし。

全く真面目に働いてる若い連中を少しは見習えよ)はぁ~」

 

総司は立ち上がり友を連れて建業に向かい孫策に報告書を渡す。

それを見た孫策と周瑜と張昭と陸遜は言葉を失う。

 

「どうしますか?正直孫静殿以外の老人文官連中は揃いもそろって黒です。

隠密に対処するのは不可能ですよ」

 

「ええ。わかってるわ。数こそ少ないけど捕まえれば当然目立つ。しかたないわね。

にしても頭が痛くなってきたわ」

 

「これはいくら何でもひどすぎます~」

 

「まさかここまでひどいとは。儂の責任じゃ。儂がもっと目を光らせとれば」

 

「雷火殿のせいではありません」

 

「そうですよ。罪は当人たちの罪。雷火先生には一切罪はございませんよ」

 

「すまん」

 

「とりあえず夜にでも祭と粋怜と蓮華と梨晏と思春を呼んで話をするわ」

 

「「「「御意」」」」

 

誰もがため息をつきながら仕事に戻った。

 

 

 

 

 

そして夜

 

 

 

 

孫策の部屋に昼間のメンバーと黄蓋、程普、孫権、太史慈、甘寧が集まる。

 

「集まったわね。まずはこれを見て頂戴」

 

孫策の一言で周瑜と陸遜によって総司から報告された内容が全員に周知される。

 

「なんだ、これは!」

 

「それは総司が調べてくれた。内部調査の結果よ、蓮華。

そしてそこに書かれている者たちは全て不正を働いた者たちよ」

 

「雪蓮、これはひどすぎない?」

 

「言わないで梨晏。私も頭が痛いの」

 

「しかしこれはひどい。揃いも揃って老人連中じゃな」

 

「でも武官が全くいないってそっか」

 

「暴動や反乱の鎮圧でそれどころじゃなかったんでしょうね。

勿論彼らの忠誠を疑うわけじゃないけど」

 

「しかし策殿、これはどうする?これでは当初予定していた内密に処理することは出来んぞ」

 

「わかってるわ。私もそのつもりはないわ。これを機に兵を総動員して一斉検挙する。

実行は三日後よ。そのつもりでいて頂戴」

 

 

 

 

 

それから三日の夜。

 

 

 

 

全軍が動いた。

表向き軍事演習という名目で動かしていた全軍は一斉に各所にいる罪人を捕えるために動く。

建業内にいた者は黄蓋、程普、孫権の部隊によって捕まり、

それ以外の者たちは総司、太史慈、周泰の部隊によって全ての罪人が捕まった。

 

「総司様、任されていた者たちの捕縛が完了しました」

 

「ご苦労だったな。美花。そいつらは建業に連行しろ」

 

「はっ」

 

「ま、待て。水燕殿これはどういうことだ」

 

「お前たちが俺に付けていた監視が全部吐いた。

お前たちが曹操に俺達が持つ技術をその手見上げに仕えようとしていたことをな」

 

「なっ」

 

「もういいな。連れていけ」

 

「待て。お主達ほどの腕前ならば、曹操殿は重用する!!」

 

「そ、そうだ。今からでも遅くはない、考え直せ!!」

 

「我等と共に魏へ行こう!!なんなら金も渡しても良い!!一生、遊んで暮らせるぞ!!!」

 

この場で捕まった三人は必死に命乞いする。

だがそれを見た総司はあきれながら扉の前に立つ女性兵士を見た。

 

「だそうですよ。雪蓮様」

 

そこから現れたのは一般兵の服を着た孫策だった。

服についているフードで顔を隠して総司とその部下以外誰も気づかなかったのだ。

 

「なぜ。孫策様が」

 

「すべて聞かせてもらったわ」

 

「孫策様、これは・・・・」

 

「もういい、しゃべるな。むしろ口を開くな。…冥府で我が母、文台へ詫びるが良い。総司」

 

「御意。最後にいいことを教えてやる」

 

「な、何を」

 

「犬は餌で飼える、人は金で飼える。だが、漢の狼を飼う事は何人にも出来ん。

例えそれが誰であろうとこの国を蝕もうとするなら悪・即・斬の信念の元殺す。

二千年後ではそこそこ有名な言葉だ。覚えておけ」

 

総司は三人同時に首を切り飛ばした。

 

「戻るぞ」

 

『はっ』

 

総司は建業に戻る。

孫策と共に建業に戻れば罪人に下知が下されていく。

と言っても捕まった全ての罪人が処刑以外の刑の選択肢はないのだが

当然孫静は反対した。

だが孫策が罪状が書かれた報告書を見せれば黙るしかなった。

そしてそれらが全て処刑され、罪人のほとんどが孫静の部下という事で

孫静は監視下で隠居する事となった。

 

 

 

 




はいどうもです。
今回はるろうに剣心の斎藤一の名言を少し改造して
入れさせて貰いました。
実際その通りかけてるか心配ですが
頑張って行こうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの武将との日常 壱
第三十二話 太史慈 壱


一斉粛清が終わったころ総司は太史慈誘われて飲み屋に来ていた。

 

「お疲れ、総司」

 

「ありがとう、梨晏」

 

たがいに酒を注ぎ飲んでいた。

 

「総司にはお礼を言いたくてね」

 

「お礼?」

 

「ほら、黄祖との戦いの時追撃部隊に加わらなかった事、かばってくれたでしょ」

 

「ああ、そんなこともあったな。ああでも言わないと包が何言いだすか

分からなかったからな」

 

「うん。だからありがとうって言いたくてさ。今日は私が出すから飲んでよ」

 

「ありがとう。」

 

二人はさらに飲む。

そうして世間話や仕事の愚痴を言って笑っていた時総司が神妙な面持ちで口を開いた。

 

「正直な。俺は孫呉の将には嫌われてると思ってた」

 

「え、どうして?」

 

「汜水関でのことがあるからな。それがいきなり表れて

婚姻だ。子供だとか言われたら誰だっていい感じしないだろ?

しかも既に妻帯者だぞ。

戦略として理解できたから受けたがやっぱきついと思ってな」

 

「あはは、確かに。それは雪蓮が悪いね。でも総司の人柄はみんな知ってるし

さすがに高齢の雷火先生やあったこともない思春は断ってたけど

その他の皆は拒否はしてなかったよ」

 

「らしいな。雪蓮様から聞いた。だがふたを開けてみれば

結構受け入れられてて驚いた」

 

「他はどうか知らないけど孫呉は来るもの拒まずって感じあるもんね。

私も最初驚いた。私も総司と似た立場だったからその気持ちわかるなぁ。

雪蓮が受け入れてくれなかったら黄祖の軍に加わって今頃生きてはなかったなぁ」

 

「そうか。劉 繇に仕えてたからそうなってたかもしれないもんな。

何がどうなってたか分からないもんだ」

 

「確かに」

 

二人は笑う。また酒やつまみを食べながら話していた。

そうして夜も更け閉店時間が近づいてきたので店を出る。

 

「ほら、梨晏、ちゃんと立てよ」

 

完全に酔いつぶれた太史慈を肩で支えながら帰る。

 

「うらぁう。私は太史慈子義だ!!怖いものなんてないぞー!

矢でも呂布でも総司の○○○○でも持ってこーい」

 

「何言ってんだ。お前は」

 

酔いながら叫ぶ太史慈に突っ込みを入れつつ歩く事数分。

ようやく太史慈の自宅にたどり着いた。

 

「ほら、梨晏。着いたぞ。寝台に位自分で行け」

 

「あはは、総司が二人いるー」

 

「ダメだこりゃ」

 

そのまま寝台に太史慈を寝かせて帰る。

後ろを見れば寝ながら服を脱ぎだした太史慈の生まれたままの姿がある。

普通の男なら誘ってると勘違いしてそのまま濃い一夜を過ごすのだろうが

総司はそうならない。

 

「総司~。大好きだよ~」

 

「どんな夢見てんだか?」

 

総司はそのまま帰っていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話 孫策、周瑜

 ある昼の出来事。

 

「ぷはぁーーやっぱりお酒はおいしいわ」

 

「まだ昼ですよ」

 

「だからいいんじゃない」

 

「冥琳にどやされますよ」

 

「いいじゃない。ちょっとくらい」

 

木の上で酒を飲む孫策を説得するのを諦めて持ってきた

弁当を開けて中身を食べ始める

 

「それより付き合いなさいよ」

 

「俺はまだ仕事があるんですが?」

 

総司は最近建業で仕事をしている。

というのも先の粛清で文官が大幅に減った。

その穴埋めができるまでの間総司がその補助をしている。

だが出てきたのは文官たちがサボっていた仕事の山。

今日もその関係で山のようにある書類をさばき終えたばかりだ。

因みにこの件で砦から張遼、荀彧、姜維も(半ば無理やり)駆り出されている。

 

「ねぇお願いよ」

 

「少しだけですよ」

 

その孫策に迫られて酒に付き合う。

 

「やっぱり二人で飲むとお酒も格段においしくなるわね」

 

「そうですね」

 

少し総司は笑いながら酒を飲む。

そんな時廊下から走る音が聞こえてくる。

 

「やはりここにいたか、雪蓮」

 

「げっ、冥琳」

 

「お迎えみたいですね。俺は戻ります」

 

「待て、総司」

 

「なんでしょう?」

 

「そちらの仕事は終わったと聞いた」

 

「ええ、張昭先生に渡してあります」

 

「なら手伝え」

 

「なんでですか?」

 

「雪蓮と酒を飲んでいた罰だ」

 

ようは何かと理由をつけて仕事を手伝わせたいのだ。

何を言っても無駄なことを理解している総司は

 

「はぁ~~。わかりました」

 

手伝うことを決めた。

短い酒盛りだったが十分楽しめたと思って雪蓮の執務室に向かう。

そこには大量の木簡に追われて倒れるように机に突っ伏す孫権と呂蒙。

若干焦点が合っておらず少しふらふらと揺れる陸遜だった。

 

「なんかすごいな」

 

真面目で決してだらけた姿を他人に見せない孫権ですら倒れていることから

仕事がどれほどあったかが物語られている。

 

「これを終わらせなければならん。手伝え」

 

「わかりました」

 

別のところから持ってきた机に座り一つずつこなしていった。

 

 

 

翌日の夕方。

 

 

 

「やっと終わった」

 

倒れ伏し疲労困憊の七人。

誰もがまるで激戦から帰還した兵士ように倒れ伏していた。

それだけの事だったのだ。

 

「大幅粛清を一気にしちゃった私たちも悪いとは思うけどこれは多すぎよ」

 

「それだけ粛清した文官たちがサボっていたという事ですね」

 

「そのしわ寄せが俺達に来たというわけですか。

よく今まで問題にならなかったものですね」

 

「全くだわ。とにかくこれで全部終わりよね。冥琳」

 

「ああ」

 

「よし食べに体を綺麗にして行くわよ」

 

「賛成です」

 

「たまにはいいかもな」

 

それから七人で近くの飲食店に出向きお腹いっぱい食べた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話 孫権

いきなりですが今回の話を書くにあたり二十七話を変えました。
どうぞよろしく。


孫権が妹の孫尚香や甘寧と共に砦を訪れていた。

先日の書類地獄の時から真面目に仕事をしていて

ふと思いついた疑問から部隊の隊員に聞いてみたいことがあったのだ。

入口に大きな狼が寝ていたのに驚くが特に何もされないどころか

孫尚香とじゃれだししまいにそのまま背に彼女を載せて案内してくれたりしている。

とても賢い狼だなぁと考えながら辺りを見回しながら出迎えの兵士に案内されながら

砦を見学している。丁度総司が趙雲と一騎打ちしていると聞いて

見学のためにその場所に向かった。

そこで見たのはまさに殺し合いではないかと思えるほどの一騎打ちの試合。

慌てて止めようとした孫権を兵士の一人が止める。

 

「大丈夫です。孫権様。いつもの事なんで」

 

「でも、もしそんなことになれば」

 

「大丈夫ですよ。見ていてください」

 

その後一騎打ちは趙雲の槍が吹っ飛んで趙雲の負けとなった。

 

「あなたたち、いつもあんな試合しているの?」

 

「ええ、死合ですから」

 

しの漢字が違うがこれが八咫烏隊の日常だった。

 

「本日はいかがしましたか?」

 

「少し見学に来させてもらったの」

 

「そうですか。ですがあまりあれこれ触らないでください。

触れただけで皮膚がただれる薬品もありますので」

 

「わかってるわ」

 

それからいくつかの施設を見学して最後に食堂にやって来た。

別にお腹が減ったわけではない。

今回砦にやってきたのは一般兵士と話をする為だ。

 

「食事中ごめんなさい。少しいいかしら。」

 

「これは孫権様。気づかず申し訳ありません。」

 

食事に夢中で彼女に全く気付かなかった一人の兵士が謝るが彼女は微笑みながら許す。

 

「いいの。少し聞きたいことがあったから聞かせてもらえないかしら?」

 

「構いませんよ。なんでしょう。」

 

「どうして総司に従うの?」

 

「それはどういう意味でしょう?」

 

「勘違いしないでね。決して彼を裏切れとかそう言う事を言っているのではないの。

ただ汜水関から撤退するときの殿部隊の行動を報告で聞いていたから聞いただけなの。」

 

「なるほどそうでしたか。これは申し訳ない。

簡単に言ってしまえば俺らにとってあの人は神なんですよ。」

 

「神?」

 

「ええ。今の八咫烏隊の前身である董卓軍第四師団の人間は

殆どが元山賊や元奴隷といった日陰者ばっかなんですよ。自分もそうですし。」

 

「そうなの?」

 

この発言に孫権は驚いて周りを見回せばさぼるような行動をするものはおらず

きちんと規律が行き届いているのが分かる。

とても元山賊や奴隷上がりの部隊とは彼女には思えなかった。

実際目の前の男も粗野な態度は一切取らず丁寧な対応をしてくれている。

 

「信じられないわ。」

 

「随分指導されましたから。」

 

「ならば猶更どうして従っているの?」

 

「俺らは皆あの人に感謝してるんです。

日陰者で他人から無理矢理奪うしかその日を生きる事が出来ない俺らに

しっかり生きる場所と当たり前の生活をくれて人間以下の俺らを

人間に戻してくれたのは総司様や董卓様なんです。

しかも総司様はこんな俺らの為に怒ってくれるんですよ。

仲間って言ってくれるんですよ。

虎牢関で袁紹の野郎が仲間を磔にした時も救出した奴らを手当てしてたんですけど

総司様は俺らの事が必要だって言ってくれたんですよ

その時思いました。この人は俺らのにとって神なんだって。

だからあの人の為になら死ぬことすら惜しくないんですよ。

それが俺らが総司様に従う理由です。」

 

「ありがとう。いい話を聞けたわ。」

 

「いえ、お役に立てたならよかったです。」

 

孫権はそのまま駐屯地を後にした。

聞いた話に感動しながら。自分も配下の者達にとって命を懸けるに値する

君主になれる様に努力していこうと心に決めて

 




はいどうも秋月です。
前々回から個人との恋愛パートに入っております。
今回は孫権でした。
どんな話にしようか悩んだ末、
二十七話で使った話がいいと思い
持ってきました。
全て読んでいただいた方にはつまらなかったと思いますが
お許しを。
次回は陸遜を考えています。どうぞよろしく


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話 陸遜、周泰

その日建業での仕事を終えた総司は中庭で本を読んでいる。

 

「そ、それは」

 

聞き覚えのある声と影で顔を上げた総司の目の前には

陸遜の顔とその豊かな胸がある。

 

「穏殿。どうされました?」

 

目のやり場に困りながら陸遜に聞く。

 

「その書は限定百冊しかない大変珍しい書なのです。

それも何と入手できるのが都だけだったので

発売日に間に合うようにわざわざ孫堅様の許しを得て都に向かったのに

何と私が百一人目だったのですよぉ~

しかも聞いてください。最初に買った方が二冊買ったせいだったんですよ」

 

熱く語る陸遜に軽く引きつつある提案をする。

 

「よかったら差し上げしましょうか?」

 

「いいんですか~」

 

「はい」

 

「あ、でもそれは限定の書ですしいただくわけにはでも~」

 

「(言えない。購入ミスで二冊持ってるとは口が裂けても言えない)」

 

自分のせいで陸遜が買えなかった事実を墓まで持っていこうと心に決めつつ

構わないと言う。

 

「そこまで言っていただけるなら遠慮なくいただきます。

後でやっぱり返せとは言わないでくださいね」

 

「言いませんよ(だって二冊持ってたし)」

 

「ではありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

陸遜はスキップしながら帰っていった。

何となく総司はいいことした感があふれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建業の街を歩いていると

 

「はぁ~癒されます~」

 

という声が聞こえてきた。

声の方に向かってみるとそこにいたのはとろ~とした目をした周泰だった。

 

「お猫様、今日もありがとうございます」

 

どうやら猫と戯れているようだ。

そして恐らく飼い主であろうおばあさんは微笑ましい顔をして

それを見ていた。

 

「(孫権殿から信頼熱い方だがやっぱ女の子か。

ああいう年相応があれば誰だって落ち着くよな)」

 

少々じじ臭いことを考えながら後ろを通り過ぎようとする。

そこに偶々後ろを見た周泰が総司に気付いた。

 

「そ、総司様。どうしてここに?」

 

「偶々通りかかっただけだが?」

 

「そうでしたか。あ、総司様もいかがですか?」

 

「いや、俺はいい。明命がよくしてやるといい」

 

部下からの信頼を一心に受け、戦場を槍を片手に縦横無尽に駆け回り

狼すら飼いならす総司だが唯一にして最大の弱点が猫である。

彼はネコアレルギーで遠くから見ている分には問題ないのだが

触ろうものならくしゃみに鼻水とかゆみといった症状が出て一日寝込む。

だから極力避けてきた。

だが今それが出来ない状況に陥っていた。

この時代にはアレルギーというものが知られていない。

それが知られるようになるのは1700年代になってからだ。

紀元前期に食物は人によっては毒になるという記録があるにはあるが

その道の専門家が知るレベル。一般人が知っているわけもない。

勿論それに漏れず周泰もアレルギーは知らない。だからこそ無邪気に近づいてくる。

 

「悪い。明命。急用を思い出した。失礼する」

 

総司はそう言って速足でその場を後にした。

 

「どうしたのでしょう?総司様。は!まさかお猫様が苦手なのでしょうか?

ならもっとお近づきになって好きになってもらわねば」

 

「にゃ~」

 

違う。そうじゃない。

彼はそのレベルではないのだ。

それからしばらく猫をもって追いかける周泰とそれをさりげなく避ける総司が建業内で

見かけられるようになった。

それらを見た市民は微笑ましい光景としてとらえていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話 程普 黄蓋

「「はぁ~~」」

 

「どうしたんですか?」

 

総司は今、建業の街にある飲み屋に程普と黄蓋の三人と来ている。

理由は建業に来て仕事をしているのだがそれも終わり砦に帰ろうとした時

程普と黄蓋に誘われて二人のおごりという事で来ていた。

飲み始めてから三時間ほど経過しているのだが二人が急にため息をついて倒れ伏した。

 

「聞いてよ。総司君。最近生活に張り合いがないの」

 

「張り合いですか?」

 

「うむ。来る日も来る日も訓練、訓練。

それが決して悪いわけではないがやはり張り合いがない」

 

総司が聞けば袁術がまだ揚州を収めていた頃、

そして孫堅が当主をしていた頃、二人は孫堅が起こしたごたごたや反乱鎮圧に(原因は袁術)に黄巾の乱で

揚州中を駆け回っていたし

反董卓連合に参加していたので本人達曰く張り合いのある毎日を送っていた。

つまりこれまでの人生のほとんどを戦に費やしてきたのだ。

だがここ数か月、戦は起こっておらず、朝起きて新兵を教育して自分の訓練をして

書類をかたずけて家に帰るというマンネリ化した日常を送っていた。

そうなれば戦では常に最前線で戦い激動の毎日を送って二人には平穏はつまらないのだ。

勿論二人も戦が起こらない方がいいと考えている。

だがこれまでの人生が濃すぎるせいでいまいち平穏を楽しめていないのだ。

現代に直せばブラック企業で仕事一筋で働いてきた仕事人間の大人が久しぶりの長期休暇を

どう過ごせばいいのか分からいのと感覚的には似ているのかもしれない。

と言っても規模は全く違うし孫家は決してブラック企業ではないが。

 

「なるほど。それはそうなるでしょうね。」

 

総司にはそれが理解できた。総司自身元の世界では世界的グループ企業。

大学に通いながら水城グループの傘下企業の社長として生きてきた。

だからこそ忙しい日々の中でぽっかり空いた休日の過ごす中で何をしたいと思っているのに

何がしたいのかが分からなくなる事が時々あったのだ。

そしてそういう時の対処法も知っている。

 

「お二人は何か御趣味はお持ちですか?」

 

「趣味?」

 

「簡単なことでいいのです。例えば料理とか読書とかいつもしている事この場合、

武術の訓練ですね。それ以外で自分の好きなことを極めてみればいいのでは?」

 

二人は少しの間考えるそぶりを見せてうなずいた。

 

「なるほどの。それなら少しの隙間時間で出来るし張り合いも出るという者じゃ」

 

「ありがとう。総司君。では行きましょうか?」

 

「行くってどこに」

 

「はっはっ。男と女が酒を飲んだ後にすることなど決まっておろう」

 

「そういう事よ」

 

その後総司は朝まで濃厚な時間を過ごした

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反袁紹連合編
第三十七話


洛陽では少帝が頭を痛めていた。

 

「全く、はっきり言って言葉が見つからない」

 

周りの曹操やその配下たちが同情の念を少帝に向ける。

事の発端は数か月前。反董卓連合が解散してしばらくした時の事だった。

曹操を中心に洛陽復興やこの機会に洛陽を責めようとした少数の黄巾党残党の討伐などに

追われて監獄の警備が甘くなっていた。

その間に袁紹が逃げ出してしまったのだ。

それから捜査の末袁紹は冀州の刺史を切り殺して好き勝手しているとのことだった。

 

「南の袁家はどうにかなったが北は何とも面倒だ」

 

「既に最北端の幽州へ攻め寄せる動きも確認しております。陛下。例の作戦を」

 

「そうだな、曹操。各州の刺史を集め、袁紹の討滅を命ずる」

 

「はっ」

 

曹操は即刻動き出した。

 

 

 

 

 

 

一方孫家では今後の動きについて話し合われていた。

 

「総司報告よろしく」

 

先日の大粛清での働きで各国の諜報を任されることになった総司は手に入れた情報を報告する。

 

「北では今、冀州を奪還した袁紹が幽州へ動きを見せている。

公孫賛と袁紹は遠からずぶつかるでしょう。

劉備はまだその動きを掴んではいないようですが曹操は既に動いています。

遠からず皇帝の勅命を取り付けて反袁紹連合を結成するつもりのようです。

益州では最近南蛮と戦が起こったようです。

結果として南蛮は引きましたが益州側もかなり被害が出たようです。

大まかには以上ですね」

 

「袁紹の兵力は?」

 

「十万程です。ですが完全に寄せ集め部隊ですね。

一方の公孫賛は兵の練度は高いですが兵力は二万程です」

 

「寄せ集めとはどいう事じゃ」

 

「かなり無理な徴兵をしたようです。

下は十歳なりたての子供から上は六十手前の爺さん、婆さんまでかなり広いですね」

 

「何とそれほどに兵が足らんのか?」

 

「それでよく出撃しようと思ったわね」

 

「蓮華様。それが袁紹の愚かなところです。

そして奴の周りにはそれを止めるものは誰もいない。

田豊や顔良、文醜は曹操や劉備に下ったからな」

 

「つまり冀州の袁家には今、狂った奴らしかいないてっわけね」

 

「そういうわけ。さて孟徳ちゃんが連合の打診をする前にするべきことはしておきましょうか」

 

「するべきことですか?姉様」

 

「そう。我が孫呉は劉備と同盟を組む」

 

「土地的には曹操と戦になった時壁になってくれるな」

 

「なるほど囮ですか?」

 

「言葉を考えて喋れ、包」

 

「はわ。申し訳ありません」

 

「俺もその意見は賛成です。ですが劉備の真名による約定はあまり信用するべきでは

ないと言わせてもらいたい」

 

「どういう事かしら?」

 

「汜水関での撤退時一部の兵士が追撃を加えてきたのは知っていますよね?」

 

「ええ。確か殿部隊に壊滅寸前まで追い詰められた部隊よね」

 

「俺達董卓軍は劉備との間で後退時互いに追撃はしないことを真名を

使用したうえで合意していました」

 

「じゃが、劉備は追撃した」

 

「はい」

 

「なるほど、確かにそれはまずいわね。その時点で劉備の

真名の信頼は地に落ちてると言っていいわ」

 

「だがここは劉備と組むことで得られる利益を見るべきだろう」

 

「そうね。総司もそれでいい?」

 

「私が申し上げたいのは決して信用しすぎるなという事だけですので」

 

「他の者たちもいいわね。使者には亞莎に言ってもらうわ。

総司はその護衛を頼みたいの」

 

「わかった」

 

「後何か手見上げがあればいいのだけど」

 

「ならうってつけがいる」

 

「それは何?」

 

「公孫賛だ。袁紹に捕らえられたところを救出してくる」

 

「袁紹が公孫賛を生かすかしら?」

 

「それは確実に生かしますよ。なんたって幽州統一後彼女を公開処刑すれば

幽州の民を従わせることが出来るんだから」

 

「なるほど。虎牢関でのことを考えればありうるな」

 

「そういう事だ。俺達が公孫賛を救出して徐州に向かいます。

護衛には趙雲に任せますがよろしいですか?」

 

「ええ。それでお願い。総司はすぐ行動して」

 

「わかりました」

 

そうして会議は終了し総司は部下と共に幽州に向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話

最後変更しました。
面白いと思います。


今総司は幽州にいる。

数日間情報収集していたが公孫賛が袁紹に負けた。

最初は兵士の練度差で何とか粘っていたが公孫賛の従妹の公孫越と公孫範が戦死したことで

戦況は一気にひっくり返り物量で勝る袁紹が勝った。

そして総司の予想通り袁紹は貼り付けにしたうえで公孫賛を公開処刑するようだ。

 

「ここまで予想が当たるとはな」

 

「驚きはしませんわ。それだけ袁紹が総司様の予想の範囲内の行動しか出来ない女というだけの事」

 

「確かに」

 

「隊長の言う通りですぜ」

 

総司の隣にいる孫乾の言葉にそのほかの部下が同意する。

孫乾の部下のほとんどが元は漢の闇の世界では有名な暗殺組織の団員だった。

権力者、要人、貴族、将軍。あらゆる者を殺してきた。

子供のころから暗殺者として育てられて組織の道具として生き、

老いて使い物になら無くなれば殺される。

そんな組織で生きてきた。

だがあくまで暗殺組織だ。正面の戦闘は無理だった。

正面から総司たち第四師団に攻められて結果棟梁を中心に幹部連中は全員捕らえられたのち処刑。

残ったのは若い連中約百名だけとなった。

食いぶちも居場所もなくあるのは暗殺や諜報の技術だけの彼らに総司が用意したのがこの部隊だ。

孫乾を隊長として諜報や密偵、妨害工作などを担当する為、

彼らにとって自分たちの技術を最大に活かせて更に待遇がいい。

今まで奴隷のように組織から使われ質素な食事と筵一枚寝床という生活だった彼等からすれば

まさに天国だった。

だからこそ彼らはそれを失わない為にしっかり働く。

 

「さて、始めるぞ。目的はあの村のどこかにいる公孫賛の救出だ。それと出来る限り情報を集めろ」

 

総司は指をさして村を指す。

今総司たちは村を見渡たす事ができる丘の頂上に立っている。

村には冀州兵が見張りとして行動している。

更に村の周囲は壁で囲まれていて容易には潜入出来ないだろう。

 

『はっ』

 

だが彼らは何の躊躇もなく返事をする。

 

「行け」

 

総司の合図で隊員は散らばって眼下の村に潜入していく。

その場に残ったのは総司と孫乾だけになった。

 

「総司様はいかれないので?」

 

「あいつらに任せればいい。それに俺は潜入任務の技術はない。

返って邪魔だ。それに俺の故郷には餅は餅屋という言葉がある」

 

「餅は餅屋ですか?」

 

「その道のことはやはり専門家が一番であるという意味だ。さてしばらく待つか」

 

「お供しますわ」

 

 

 

 

しばらくして部隊隊員が戻って来た。

護衛するように紅い髪をポニーテールにした少女を連れている、

 

「公孫賛 伯珪ですね?」

 

「そうだ。あなたは」

 

「俺は水燕 白瑛。これからあなたを劉備殿の元に護衛する」

 

「あ、ああ。頼む。いやそれよりもだ。すぐに琢県に向かってほしい」

 

「理由は?」

 

「桃香、あ、いや、玄徳の母殿が」

 

「なるほど人質ですか」

 

「そうだ」

 

青州を抑えている袁紹にとって次の敵は苑州の曹操か徐州の劉備だ。

そこで劉備との交渉材料にする為に捕まえようと考えたのだろう。

 

「承知しました。琢県に向かうぞ」

 

『はっ』

 

馬に乗り琢県を目指す。

そして着いた先で見たのは信じられない者だった。

 

「遅かったか」

 

琢県の劉備の故郷の村は既に壊滅していた。

冀州軍の姿はないがそこら中に村人であろう人たちの死体がある。

若い女性は特にひどい。

犯され乱暴された跡が残っている。

そして村の真ん中には貼り付けにされた人が何人かいた。

 

「これが人のする事か」

 

「俺らもさんざんなことしてきたがこれはひでぇ」

 

隊員たちは口々に思いを口にする。

 

「あ、ああ」

 

その時かすかに声が聞こえた。

 

「おい誰か。まだ生きてるぞ」

 

「直ぐに全員降ろせ」

 

隊員が一人ずつおろして安否を確かめる。

 

「この人だ」

 

その人は劉備と同じ髪色の女性だった。

 

「彼女が?」

 

「ああ。玄徳の母君だ」

 

母親は全身に傷を負い既にかなり血が流れている。

既に治療してどうにかなる段階ではない。

持って二日といったところだった。

 

「急いで徐州に運ぶぞ」

 

「はい」

 

荷馬車を作りそこに母親を寝かせて公孫賛に面倒を任せて馬を走らせた。

 

 

 

 

 

冀州の関を突っ切りあらかじめ曹操に使者を送り通行許可をもらい、

更に馬を走らせる。そして二日目の夜、徐州に入った。

そこから更に馬を走らせる。

そしてようやく徐州の州都にたどり着いた。

だがすでに門は閉じている。

 

「何者だ?」

 

門番が城門の上の通路から声をかけてきた。

 

「俺は揚州の水燕だ。緊急で劉備殿と面会したい」

 

「ダメだ。既に閉門の時間は過ぎている」

 

「劉備殿の御母堂をお連れした。だが既に危篤状態だ。頼む。

最後くらい母親に合わせたいんだ」

 

「それが本当かわからんだろう」

 

全く動こうとしない門番に総司はじれ始めたころだった。

 

「どうした?」

 

「これは華雄様」

 

総司たちにとってこの場の問題を乗り切る救世主が現れた。

 

「華雄。俺だ総司だ。緊急で劉備殿と会いたい。開けてくれ」

 

「総司!なぜここに?」

 

「それは後で話す。急いでくれ」

 

「わかった。すぐ話を通す」

 

華雄は奥に下がっていった。

 

 

 

 

 

劉備はここ数日眠れない夜を過ごしていた。

 

「桃香。寝ないとだめだよ」

 

「ご主人様。でも白蓮ちゃんが心配で」

 

「信じるしかないよ。大丈夫」

 

一刀の慰めの言葉で少し落ち着いた劉備の部屋に兵士が駆け込んできた。

 

「劉備様。水燕将軍が城門前で緊急で劉備様と面会を求めております」

 

それは最初に総司あった兵士だった。

 

「水燕さんが?」

 

「どうした?」

 

「なんでも、劉備様の御母君をお連れしたと」

 

「お母さんを?」

 

「はい。ですが既に危篤状態とのことで」

 

「え?」

 

劉備は城門前まで走った。

そこには既に関羽や張飛など劉備軍の幹部が集まっていた。

そして公孫賛に上半身を抱かれながら寝かせられた母親がいた。

 

「お母さん!」

 

「とう・・・か」

 

既に声はかすれている。

 

「なんで?」

 

「冀州軍が劉備殿の故郷を襲ったようだ。公孫賛殿に聞いて向かった時にはもう」

 

総司の説明を聞いた劉備は再び母親を見る。

 

「桃香。立派になったわね。母さん。誇りに思うわ」

 

「お母さん。いや、死ななないで」

 

「なんだ、なんだ?どうしたんだ?」

 

全員がそちらを向く。

そこに立っていたのは赤い髪の若い青年だ。

 

「む、患者か。俺に見せろ⁉」

 

「その前に貴様何者だ?」

 

「俺は華佗。医者をしている」

 

「「まじか」」

 

「ご主人様?」

 

総司と一刀が驚きながらそちらを見るが

そこで一刻も猶予がないことを思い出して一刀は華佗を近くに来させる。

 

「この人です。治せますか?」

 

「かなり痛めつけられたようだな。だが任せろ。すぐに病魔を退治してみせるぜ‼」

 

そういうと彼は何処からか鍼を取り出し、それで身体を押し始める。

 

「ここか・・・違うか、こっちか?」

 

何をしているのか聞こうとした瞬間、彼は鍼を持った右手を高く掲げた。

 

「見つけたぁ‼かなり厄介な病魔だ・・・だが患者を死なせたりはさせん‼貴様等病魔など‼

この鍼の一撃で蹴散らしてやる‼はああああああああああ‼‼」

 

「我が身、我が鍼と一つなり‼一鍼同体‼全力全快‼必察必治癒‼病魔覆滅‼ゴッドヴェイドゥーー‼‼」

 

「・・・・・・・・・」

 

誰もが目の前の熱血青年を見て大丈夫かと少々不安になる。

 

「げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

凄い掛け声と共に鍼を母親の腹筋付近に突き刺した。

 

「貴様の野望‼もはやこれまで‼病魔退散‼‼」

 

余りの出来事に周りは呆気にとられながらそれを見ていたが

そこで一番近くで見ていた一刀が母親の状態が変わっていることに気付く。

 

「・・・傷跡が・・・無くなってる・・・」

 

「は?」

 

「マジかよ」

 

周りが驚きながら見れば傷口は消え、荒かった呼吸も整っている。

彼女自身も披露こそあるが顔色もよくなっているようだ。

今は眠っているようだが。

 

「これで大丈夫だ。間に合ってよかったな。かなり危ない状況だった」

 

「私のお母さんをありがとうございました」

 

「気にするな。俺は苦しむ人々を救うこそが俺自身の使命だと思ってるだけだ」

 

華佗の印象は一言でいえば熱血のいい奴だった。

 

「(消す奴もいれば直す奴もいる。当然で当たり前だがやはり医者というのは尊いな)」

 

総司は華佗を見ながらそう思っていた。

 

「あんらぁ〜華佗ちゃん♪ここにいたのねん♪」

 

「な」

 

『ば』

 

「ば~?」

 

『化け物~~~~~~~』

 

「だ〜れが一度みたらむこう一月は悪夢に出て来そうな筋肉ダルマですってぇえ⁉」

 

波乱はまだ終わらない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話

『化け物~~~~~~~』

 

「だ〜れが一度みたらむこう一月は悪夢に出て来そうな筋肉ダルマですってぇえ⁉」

 

「いや、そこまでは言ってないですよ」

 

「あら、久しぶりじゃない。総司ちゃん」

 

「そうですね。貂蝉学園長。何でここに?」

 

「私も少しこの時代を見回りたくてね」

 

「そうですか。がんばってください」

 

「あら、ありがとうね」

 

貂蝉は腰をくねくねさせながら華佗と共に去っていった。

一刀は終始口元に手を添えていた。

 

「(貂蝉と言えば三国志でも一二を争う美人として書かれてるからな。

実際そうなんだが。知らないとそうなるよな)」

 

総司は一刀を哀れに思いながら見ていた。

 

 

 

 

 

翌日、呂蒙が趙雲に護衛されて州都に到着し劉備と一刀は気丈にふるまいながら謁見の間に現れた。

 

「内容は水燕さんから聞いています。私としては今回の話受けてもいいと考えています」

 

「ありがとうございます。では細かい話に移りましょう」

 

普段昇進の際の経緯のせいもあり緊張感が抜けないところがある呂蒙だが

今は決して舐められることのないように喋っていた。

話はスラスラ進み同盟の締結となった。

主に相互不可侵と通商条約、更に戦闘発生時、救援を求め、答える内容が記されている。

 

「では双方に名前を記入して同盟の締結とします」

 

同盟締結の文書に双方の名前が書かれ、同盟が締結された。

 

 

 

 

 

 

 

揚州に戻れば待っていたのは反袁紹連合への参加要請。

勿論孫呉がそれを断る理由は無く参加が決まった。

孫呉の他に参加したのは主導した曹操。

同盟相手である劉備。

西涼の盟主、馬騰の娘で盟主代理の馬超。

劉表は病を理由に不参加。

劉璋も南蛮との後始末がまだという事で不参加だった。

孫呉も劉表が不参加という情報を手に入れた際孫権をるすと甘寧、周泰、呂蒙をつけた。

留守にいている時に荊州の領地を取られるわけにはいかないからだ。

孫策は集結地に向かい、総司たちは青州と徐州の州境の砦に向かう。

そこは渓谷になっておりその出口部分に砦はあった。

そこに袁紹軍の部隊五千が向かっているという報告が入った為、

そこに劉備を中心に呂布、朱儁、皇甫嵩の部隊が防衛に向かい、

その援軍として総司が派遣された。

だが劉備軍は本陣に一刀を中心に主力部隊が派遣されておりこの場に残るのは旧董卓軍ばかり

その事もあり劉備はこの場での指揮は総司に任せた。

総司はすぐに準備を始める。

ほどなくして砦に向かってまっすぐ進んでくる袁紹軍を発見。

前面に部隊を配置して降伏勧告を出してきた。

戦場に袁紹の甲高い声が響く。

 

「袁紹はこっちに来たか。てっきり本隊の方かと思ったが。

てことは本陣の方は囮か?」

 

「それが出来るくらいには頭があったのですね」

 

「そうだな。桂花、準備は?」

 

「ぬかりなく」

 

「よし、周倉」

 

「応よ。任せな」

 

周倉と部下三人が砦の壁際に向かい袁紹軍からも見える位置に立つ。

何をするのだろうと劉備は見ていると兵士たちがしゃべりだした。

 

「おうおう、すごい数だな」

 

「でも、袁紹はどこだ?」

 

「ばっか、おめぇ。袁紹が水燕様や張遼様みてぇに前線で戦うと思ってるのか?」

 

「無能な七光りって言われてるあいつが」

 

「ん?それはどういう事でい」

 

「袁紹は家柄だけで偉そうにしてるだけで、本当はなーんも出来んのよ」

 

「そのくせ自意識だけは高いから周りは苦労してんだと」

 

「噂だがあまりに無能すぎて冀州の州牧の座さえ考え直されそうになったとか」

 

「それはさすがにまずいと思った先代である親が大金積んで帝に頼み込んだとか」

 

「それを知らない娘は自分の実力と勘違いしてるって噂だけどな」

 

「その証拠に反董卓連合では総大将にこそなったが何もできてねぇしな」

 

「確かに。悪戯に自軍の兵士を減らして」

 

「捕らえたやつらを磔にして敵の怒りを買って」

 

「味方からも見放されて」

 

「最後は宮廷からも放り出されたとか」

 

「州牧として冀州を発展させてきた先代の最大の失態とか言われているらしいし」

 

「それでよく自分が有能だとおもえたもんでい」

 

「全くもって」

 

「「「哀れだなや~」」」

 

兵士が大声で笑う。

そして今まで黙っていた周倉が声を上げた。

 

「おい、おめぇらあまり不名誉な事言ってやるな」

 

「例えそれが本当の事だったとしても、いや本当の事だからこそ

人には知られたくねぇモンの一つや二つあるじゃん。

でも一回聞いてみたくなる事もあるもんだ。

お~い。今の話聞こえてただろ~。

裏口で州牧なったと知った気分はどうだ?」

 

「本当は恐ろしくて前に出れねぇんだろ?

悔しかったらここまで来てみな。ほれ

おしりペンペンくそくらえってな」

 

「「「おしりペンペンくそくらえ~」」」

 

兵士たちはまた笑う。

完全に馬鹿にされた袁紹は顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「ま~なんて無礼な。あいつらを皆殺しになさい」

 

兵士たちは前進した。

 

 

 

 

 

「あんな感じでよかったのかい?大将」

 

「ああ。ご苦労だったな。周倉」

 

「いいって事よ。だが」

 

「わかっているさ。揚州に戻ったら相手しよう」

 

「よっしゃ。その言葉忘れるな」

 

「当然だ」

 

周倉は自分の隊に戻る。

入れ替わるようにして劉備が総司に近づいてくる。

 

「少々低俗すぎませんか?」

 

「挑発とは単純で下劣な方がよく響くものだ。

それが少しでも身に覚えがあればなおさらな」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものです」

 

劉備は何となく疑問に思いながら納得した。

 

臨戦態勢を取る。最初は弓で迎撃。

それを袁紹軍は盾で防ぎながら進む。

 

「攻城塔が来ます」

 

後ろから来たのは馬にひかせた攻城塔。

鈍重だがそれ故に簡単には倒れない。

そして攻城塔は砦の壁に取りつき橋をかけて侵入しようとしてくる。

 

「今だ。投擲。全員目をつぶれ!」

 

最前列にいた兵士たちが持っている筒を投げる。

筒は攻城塔の橋に落ちその下にも落ちた。

そして次の瞬間筒が弾けて閃光が出る。

 

「ぎゃあああああああ」

 

「目が、目が~~~~~」

 

閃光玉を受けた敵兵は動けずその場に蹲る。

 

「敵の動きが止まった。やれ」

 

兵士たちは攻城塔にいる者たちを殺し下に人一人は入るであろう瓶をおとし

地面にぶつかった瓶が割れ辺りに中身が飛び散った。

 

「な、なんだこれ?」

 

「こ、この匂いはまさか」

 

「あ、油だ~~~~」

 

「火矢放て」

 

弓隊が一斉に火矢を放つ。

油に当たり燃え始める。

火はアッという間に燃え広がり兵士たちを焼き殺す。

 

「に、逃げろー」

 

比較的後ろにいて焼かれなかった兵士たちが逃げ始める。

 

「させると思うか?銅鑼を鳴らせ」

 

銅鑼が鳴らされる。

すると峡谷の上から岩や土砂が流れてきて道をふさぎ

更に燃え盛った巨大な藁玉が落ちてきて逃げ出した兵士たちを焼き殺した。

まさにその光景は地獄だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話

燃え盛る炎。叫ぶ敵兵。袁紹軍五千は全滅した。

劉備だけはこれに激怒した。

 

「こんなのひどすぎます。」

 

「これは戦争です。それはあなたもわかっていたはずだ」

 

「でも追い返すだけでも良かったはずです」

 

劉備は更に怒りをあらわにして追及する。

しかし総司は気にせず反論する。

 

「敵は叩ける時に叩くべきです。叩いて叩いて根まで刈り取らなければ

そのものはまた新たな武器を持って我々に刃を向ける」

 

「でも。」

 

「別に敵であるものを全て滅ぼせとは言わない。話し合いで解決するならそれも有りだ。

だが彼らは間違いなく話し合いに乗らない。それは分かっていたことだ。」

 

総司に言われて劉備はへたり込み下を向く。

総司が言ったことは何一つ間違っていない。

自分達は戦争しているのだ。子供の喧嘩やごっこ遊びではない。

無意識のうちに夫であり共同代表である一刀に甘えていた事に。

何より自分の戦に対する認識の甘さ。現実の見えていないさまを痛いほど理解させられた。

総司の横でへたり込む桃香を更にその横に立っていた朱儁が話しかける。

 

「下を向くな桃香様。目をそれしてはいけない。それは己の未来さえ閉ざし

生きる意味を見失う事になる。自分の正しい事に従った時に下を向いて行う者に

どれ程の者が付いてくる?顔を上げ前を見て、手を伸ばせ、出なければ

今回の事と同じ轍を踏むことになるぞ。また後悔するのか?

その目に焼き付けろ。これが戦争だ。俺たちは戦争をしているのだ。

軍師達はいかに自軍の損害を減らし敵に効率的かつ最大の攻撃を加えられるかを考えている。

それは朱里殿や雛里殿も同じこと。これで分かったろ?これが孫呉のそして総司の本気だ。

孫呉と曹魏は己の理想を叶えるために覇道を進む。

桃香様は王道を進むつもりだろうがそこにも血は流れる。」

 

「でも、それじゃ、今までと何も変わらない。また別の憎しみが生まれるだけです。

また、その憎しみのせいで戦いが起こって悲しい思いをする人が増えるだけ。

それじゃあ、何も変えられない。」

 

「それは………………。」

 

朱儁は黙ってしまう。それと変わるように総司は声を上げた。

 

「それが人という生き物の本質だ。劉備殿。」

 

「え?」

 

「これまでどれだけ屍を積み上げてきた?どれだけ泣いてきた?

この漢という国の下にどれだけの屍があると思う。

それでも人はその真実に気付かない。自分の事しか考えない。

人はいつだって一握りの英雄様がきらびやかな武勇伝をひけらかすせいで

争う事を辞められない。やってることはただの殺人だ。

だがそれをさも科学者が成し遂げた偉業と同じような感覚で語る。

それを聞けば誰だって思うだろう。自分でもあんな偉業を成し遂げたい。

自分こそがそれを成し遂げるのだと。

もっとだもっと欲しい。あいつは自分より持っている。

羨ましい、妬ましい。そういう考えが人の本質だ。

だが自分ではどうすることもできない時どうするか?

一番簡単なのは持っている奴から奪ってしまおう。その考えに行きつく。

そして人はどれだけ技術が進歩しようと本質自体は旧石器時代から

そしてこれから先二千年たとうが三千年たとうが変わらない。」

 

「そんなことはありません!人は変われます。

誰もがより良い明日を迎えたいと思っているから。」

 

「ならなぜ十常侍や大将軍は不正を働いた?

バレれば死はまのがれないとわかっていたはずだ。

そしてなぜそれを止めてより良い明日を未来を創ろうとした月や献帝陛下は

洛陽におらずこの徐州の地にいる?いやそもそもなぜ反董卓連合など結成した?」

 

「それは………………。」

 

「攻めてばかりで悪いがな。それが証拠だ。

そう思うなら献帝陛下の下一致団結すればよかった。

反董卓連合など結成せずにただ唯々諾々と中央に従えばよかった。

施行されることは無かったが出されていた法はこの国をよくする法律だったのだから。

だがお前達は月が相国に任命された事が気に入らない袁紹の口車に乗せられただけだ。

それかより良い地位を得るためか?どちらでもいいがそれが

本質を変えられない証拠ではないのか?」

 

「そうかもしれない。でもこれからは。」

 

「学生の喧嘩とは違うんだぞ。これから?変えられるわけないだろ。

やり直しは聞かない。一度でもその手に剣を持ち血が付いた手を持つ者の声を誰が聞く?

誰が信用する?誰だって信用しないさ。」

 

「なら水燕さんはどうすればいいと考えているんですか?」

 

「俺は徹底的にやる。そして全く新しい王を立てる。

その後は中央集権をなす。軍閥があるからいけない。

軍閥をなくし武力も司法も金も政治に関わる力を全てを中央に集めて

中央主導の政治を取り行っていく。

そして徹底して地方にしっかりとした法と学問を行き届かせる。

出来る限り世襲をなくし実力だけでのし上がれる国を作る。

それでもいずれは腐敗が出るだろうが今よりはマシだ。」

 

「今までとほとんど変わらないじゃないですか?」

 

「大きく違う。抗う力がなければだれもが従う。

そして何より世襲をなくせば誰だって努力する。

今ままでは世襲のせいで努力する事を蔑ろになってきた。  

誰だって思うだろ?努力せずとも地位、金、名誉が親からもらえるんだ。

誰だって努力するのが馬鹿らしくなるだろ?」

 

この時の総司の考えは彼の実家である世界的に有名な企業水城グループの在り方そのものだった。

完全実力主義で彼の曽祖父と祖父が作り上げ父が維持している企業。

彼自身当時の地位を手に入れるために必死に努力し将来的に世襲で自動的に確かな地位が

手に入ると考えて全く努力しない兄二人を蹴落として次期社長候補筆頭にまでのし上がった

経験をしている。だからこそそう言う考えに至るのだと理解した。

 

「だがこれは俺の考えだ。劉備殿がより良い形を作る事が

出来るならその時は手を取る事もできるかもしれない。そうある事を祈っている。」

      

総司はそういいながら戦場を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一話

 総司が袁紹相手に完勝していた頃、曹操の連合軍は官渡の戦いで勝利していた。

と言っても戦が開始されて早々に敵は混乱。結果一騎掛けした夏侯惇をはじめとした

各軍の武官たちによって指揮官たちは打ち取られ袁紹軍は降伏。

捕まえてみればそのほとんどは碌に訓練もされていない者ばかり。

それもまだ十代にもなっていないような子供から果ては立っているのもやっとな老人までいる。

この光景には各軍の武官たちは呆れ果てていた。

そして今、三軍の大将とその軍師たちが軍議を開いている。

 

「随分あっけなかったわね」

 

「確かに。ろくに指揮も取れない烏合の衆だったな」

 

「顔良と文醜のいなくなった麗羽の軍なんてそんなものよ。

それよりも兵士のほとんどが碌に訓練されていない老人や子供だったのが気になるわ」

 

「それに袁紹がいなかったのは気になります。何処に行ったのか?」

 

「青州から徐州に向かったか。并州に向かったか?」

 

「どちらにも守りの軍は配置してある」

 

集まっている三軍の指揮官たちがそれぞれ頭をひねらせている時、一人の兵士が入って来た。

 

「失礼いたします。孫策様に書状が届きました」

 

「私に?」

 

「はい。書状を持ってきた者から急ぎとの事で」

 

「わかったわ。ありがとう」

 

孫策は書状に目を通す。

 

「袁紹の居場所が分かったわ」

 

「どこなの?」

 

「徐州に向けて袁紹率いる計五千の軍が襲来。我、これらを殲滅セリと書かれているわ」

 

「徐州に、なるほどね」

 

「こちらの被害は?」

 

「我らに被害なし。これより青州の開放に向かうと書かれているわ」

 

「わかったわ。我々も奇襲に向かうわ。袁紹を打ち取るのよ」

 

「「「「「おう」」」」」

 

翌朝連合軍は冀州に向けて進軍を開始した。

十日ほどして連合軍は冀州に入る。

そこで見たのは想像を絶する光景だった。

偶々立ち寄った村には女しかおらず話を聞けば男手は兵士にとられたという。

夫が帰らない。息子が帰らない。女たちはそんな事を訴えてきた。

捕虜を探せばこの村出身の者たちがおり村に返した。

またある村は男手だけではなく食料も奪われたという村もあった。

他にも逆らったせいで皆殺しになった村も少なくない。

 

「これが人のやる事かよ」

 

「ご主人様とにかく進みましょう」

 

「わかった。愛紗」

 

一刀は馬を駆り先に進む。

隣の副将としてついてきている関羽の手を見れば血が流れていた。

彼女も悔しいのだ。

 

(こんなことを終わらせる為に旅に出たのに。私はまだ弱い)

 

それが彼女の思いだった。

冀州に入って数日。

連合軍は州都に集結している。

そこに青州を解放した総司たちが合流する。

 

「お疲れ様。総司」

 

「いえ雪蓮様こそ」

 

「まずは報告をお願い」

 

「はっ。袁基などの袁紹親族全て打ち取りました。

また閻柔をはじめとした配下の者たちもそのほとんどを青州で討ち取りました」

 

「こっちでも崔琰達を討ったわ。なら」

 

「ああ。残っているのは袁紹ただ一人という事だな」

 

「そうじゃな。それでどうする?冥琳」

 

「直ぐに本陣から攻城開始の合図が出るでしょう。・・・・・と来たようですね」

 

曹操軍の兵士が駆け込んできた。

 

「伝令です。全軍攻城を開始せよとのことです」

 

「承知したわ。すぐこちらも動く。皆、行動開始よ」

 

「「「「「「はっ」」」」」」

 

将たちは行動を開始した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二話

冀州州都攻城戦はすぐに終わった。

碌に守りの兵士もなく指揮官も全滅している袁紹軍に連合の進撃を抑える力はなかった。

戦闘開始数分で門が開き連合軍がなだれ込み袁紹を捕らえた。

その時の袁紹は部屋の寝台に潜り込みすすり泣いているだけだった。

この後司隷に連行され裁きを受ける事になるだろう。

連合軍は一時州都にとどまっていた。

総司は荀彧と共に酒を片手に外壁の縁に座っている。

 

「終わったか。あっけなかったな」

 

「はい」

 

「柱花。こちらの被害は?」

 

「死者なし。ですが数名怪我人が出ております」

 

「わかった」

 

するとそこに一人の男が近づいて来た。

 

「よう、久しぶりだな。黄巾討伐以来か?」

 

「お久しぶりです。総司先輩」

 

「な、あなた、総司様の真名を」

 

「いいよ。相手は御使い殿だ。こちらの道理は通らないだろ」

 

「はい」

 

「すまないが席を外してくれるか?」

 

「わかりました。ですがお気負付けてください」

 

「わかってるよ」

 

荀彧はその場を後にする。

 

「それにしても久しぶりだな。まさかお前もこっちに来てるとは驚いたよ」

 

「俺の方こそですよ。しかも漢で有名になってるとは」

 

「ま、俺だけじゃないけどな」

 

「じゃあ瑠香先輩も?」

 

「ああ、一緒にの来てるよ」

 

「やっぱり。虎牢関で鉄砲を見てもしかしてと思ったんですよ」

 

「会うか?」

 

「ここに来てるんですか?」

 

「いや、揚州にいる」

 

「なるほど、勧誘してるんですね?」

 

「聡くなったな、お前も。昔なら疑う事もなくほいほいついて来ただろうに」

 

「そうですかね?まあ俺も少しは成長してると思います」

 

「そうか。ま、あの劉備と一緒にいれば嫌でも成長するよな」

 

「桃香と話したんですか?」

 

「同盟相手とはいえ何の躊躇もなく俺に防衛の全権を渡してきた。

そのまま寝返られたらどうする気だったんだか?

あれは俺の事も友達のようにとらえてるんじゃないのか?」

 

「可能性はありますね」

 

「お前はすごいよ。劉備に関羽に張張を始め今の劉備軍は見た感じ旗頭は劉備だが

実質お前の軍と言ってもいいくらいだ。違うか?」

 

「ひ、否定できない」

 

一刀は過去を思い出しながら冷や汗を流す。

 

「もう少しポーカーフェイスくらいしろよ。同盟相手とはいえ俺は他家の人間だぞ。

そんなんじゃ、外交は出来ないぞ」

 

「気を付けます」

 

「まあいい。それでわざわざここまで来た理由はなんだ?」

 

「はい。総司さんは管輅の予言の予言は知っていますか?」

 

「ああ」

 

「あの予言が正しいなら俺達と呉はいずれ戦う事になります」

 

「だろうな。確か三国志演義でもそうだったと思う。

ま、横山先生の漫画しか読んだことはないが」

 

「ええ。俺からの御願いは愛砂、関羽の事です」

 

「殺さず捕虜にしろと?」

 

「ええ」

 

「いいよ。だが勧誘して寝返っても文句は言うなよ」

 

「その時はそれも運命と思って諦めますよ。

彼女は俺達というか桃香の今の在り方に疑問を感じているようですし」

 

一刀は三国志の事はあまり詳しくないがそれでも関羽の最後位は

知っている。そして自分が救う事はほぼ不可能と考えている。

だからこそ一刀は頼れる先輩を頼ることにしたのだ。

 

「元々の彼女の気質と過去を考えればさもありなんといったところだな」

 

「ええ。彼女の考え方はどちらかというと俺達より総司さんの考え方に近いでしょうから。

今は責任ある立場にいるので心配はありませんがきっかけがあればもしかすれば」

 

「齢十八かそこらの女の子に歴史上の人物と同程度の気質を持てというのは土台無理な話だからな」

 

「そうですね。だからこそお願いします」

 

「わかった。そうだ、お前も飲むか?」

 

「未成年ですよ?俺」

 

「周泰達も飲んでるから大丈夫だろ。付き合え」

 

「じゃあ、ちょっとだけいただきます」

 

一刀は渡された酒を一口飲む。

 

「まずっ」

 

「ははは、慣れればこれがうまいんだ」

 

「俺にはわからない世界の話ですよ」

 

「そうか」

 

二人はそれからも語り合っていた。




注意:この話は未成年に飲酒を進める話ではありません。
いないと思いますがこの話を理由に未成年飲酒を始める事はおやめください。
当方は一切責任を負いかねます。     以上。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劉備益州逃亡編
第四十三話


それぞれの勢力が自身の領地に戻った。

皇帝は今回の功績として曹操に袁紹が持っていた領地を、

孫策には武具と攻城兵器類と

正式に現時点で荊州に持つ領地を孫家の領有承認され、

一刀達には黄河における貿易優先権が与えられ、連合は解消。

袁紹は即日処刑された。話では最後まで私は何も悪くないと叫んでいた。

勿論誰も聞き入れる事はなく処刑された。

そんな時一刀が劉備と婚姻を発表した。

理由は反董卓連合解散後にわかった劉備の妊娠。

友人として総司は孫策に願い出て後の代表として瑠香と徐州に地に来て

個人的に話し合いの場がもたれている。

 

「おめでとう、一刀」

 

「ありがとうございます。総司さん、瑠香さん」

 

「ほんと、相変わらずよね。で、何人の女の子を墜としたの?」

 

「え、いや~、その~」

 

「歯切れが悪いという事はそこそこいるまたいだぞ。瑠香」

 

「そうみたいね。でもほどほどにしてよ。未来の男は女を見たら直ぐに口説きにかかるなんて

噂、聞きたくないからね」

 

「失礼な。一刀と違って俺は口説いたことはない」

 

「そうよね。あんたの場合は言葉じゃなくて行動で女を墜とすものね」

 

「そんなことはない」

 

「もういいでしょ。瑠香さん」

 

段々と瑠香に女性関係をいじられ始めて一刀はそれを止める。

 

「ごめん。言い過ぎた。でもこれだけは言わせて。

何人関係を持とうと構わないけど女の子泣かせたら駄目よ」

 

「わかってますよ」

 

三人は笑いながら話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後に開かれた披露宴で正式に婚姻が発表された。

宴会場には孫家、曹家の代表代理が来ている。

孫家の代表代理である総司と曹家の代表代理の夏侯淵が話していた。

 

「お久しぶりですね。夏侯淵殿」

 

「ああ。そちらもな」

 

二人は会話を進めていく。

だがはたから見ていれば笑顔で会話しているが

内容は殺伐としたものだった。

嫌味などは序の口。言葉の端々からの探り合い、騙し合いなどだ。

 

(なるほど、曹操は徐州攻略に動いているのか)

 

影の攻防に勝ったのは総司だった。

夏侯淵は孫呉は動く気がないと偽情報を掴まされていた。

 

「では」

 

「ああ」

 

二人は離れ、他の武官や文官たちと話していた。

 

 

 

 

 

 

 

総司と夏侯淵の会話を私は聞いていた。

ほとんど誰にも悟られず話の中での影の戦いが二人の中で繰り広げられている状況に

私は少し感動していた。

二人が離れた事で視線を桃香様とご主人様に向ける。

ご主人様は現在他勢力や各領主達に挨拶回りをしているが桃香様は笑顔で周りに集まっている

張飛や孔明、法統、麋竺、糜芳などの子供たちと話している。

行動については理解できる。結束強めようとしているおられるのだろう。

桃香様の夢が他人に理解できにくい事もあり、その方面からではなく

こうして楽しい会話で仲良くなり結束を強めるのは私にも理解できる。

勿論本人はそんなつもりがなく無意識でしている事もだ。

だがそれは今すべきことではない。

今すべき事はご主人様の隣に立ち当主として威厳をしますべきだ。

 

「桃香様は何をしているんだ」

 

溜息が出る。

桃香様の夢を聞いて感動して義姉妹の盃まで交わしたはずだったのに。

今はそれを信じられなくなっていた。

公務にかまけ自軍の事の一切を一刀に任せ、兵士の訓練を一切見にくる事もなく、

その公務も孔明や法統や董卓、賈駆に頼らねば早く進まない。

董卓軍参入で最近こそ少しマシになったがそれまでは苦労が絶えなかった。

そんな状況に私はいつの間にか心が離れてしまっていた。

 

「どうも、関羽殿」

 

私が水燕殿に声をかけられたのはそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、関羽殿」

 

「これは水燕殿!この度は参列ありがとうございます」

 

慌てたように答える関羽に総司は違和感を覚えた。

 

(なるほど。今の劉備の在り方に疑問を感じているのは本当なのだろうな)

 

劉備を視線だけで見ながら関羽と話していた。

 

「この度はご主君同士の婚姻おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「ですがあなたは心からは祝福していないようだ」

 

「な、何を?」

 

「いや、違うな。焦っていると言った方がいい」

 

「私は別に」

 

「いや、焦っていますね。ご自分ではお気づきではないようだが。

理由は曹操軍が軍備を整えつつあるという事でしょう?」

 

関羽はバレていると焦った。

一刀が急いで軍備を整えているがまだ整っていない。

恐らく遅くても一月もしないうちに攻めてくる。

そして現状でこんなことをしていていいのか?

それよりも急いで兵士を鍛えた方がいいのではないのか?

そんな疑問が多くあった。

 

「どうでしょう。私に話してみては?」

 

「同盟相手であるとはいえ他国の人間に話せる内容ではないので」

 

総司の申し出に関羽は拒否した。

総司は少し笑いながら話した。

 

「関羽殿、あなたは俺が考えていたよりも優秀だ。

一刀が称賛するのもうなずける」

 

「何を」

 

「どうだろう。俺の元に来ないか?」

 

「な!」

 

「今の劉備に疑問を感じているのでしょう?

ならここでスパッと関係を切ってしまっても誰も攻めやしない。

俺は歓迎しますよ。勿論ただではない。

先日の戦で第四旅団の指揮官が負傷してね。

引退する事が決まった。その第四旅団五千人の指揮をあなたに任せたい」

 

総司のこの誘いに関羽は驚いた。

総司の八咫烏隊の総軍人数は現在二万人。

総司を頭に五人の幹部がいる。

一人は副師団長であり第二旅団長でもある趙雲。

二人目は元董卓軍の第二師団長を務めた張遼。

三人目は軍師の荀彧。

四人目が技術部部長の瑠香。

そこにもう一人はいるのだがその一人が先日の反袁紹連合戦の際に負傷し部隊を引退。

現在、四人目のポストが開いてるのだ。

そこに総司は関羽に任せると言っていた。

 関羽にしてもこの提案は悪くない提案だった。

現在の関羽の地位は彼女自身満足出来る地位では無い

理由は董卓軍と公孫瓚の参入。

武人として優秀だが部隊指揮経験で朱儁や皇甫嵩や公孫賛に、

個人の武力も呂布や張飛に負けた彼女は彼らに出世競争で負けてしまい、

現状、劉備と一刀の近衛隊隊長という地位にいる。

これはかなりの出世なのだが関羽にしてみれば、

滅多に前線で武を振るう機会のなくなった今よりも昔のように己の武を前線で振るい、

その功を持って主たちに忠誠を誓いたいと考える根っからの武人気質だ。

勿論功績が無かったのが悪いと言われればそれまでだ。

それは関羽自身もよくわかっている。

なら一兵卒か一つ下の指揮を指せればいいと考えるかもしれないが

ここで邪魔をするのが関羽自身が劉備軍において最古参だという事。

劉備軍は黄巾の乱の義勇軍を母体としてそこに徐州軍が加わり

大きくなった軍でありそして関羽はその中で最古参の武官だ。

当然関羽を慕う兵士も多い。

ここで失態を犯したわけではないにもかかわらず

降格してしまえば不満が上がる。

それらを加味した結果一刀が出した答えが近衛隊長というわけだ。

だが周りにはお情けで昇進したように映ってしまう。

それが分かる関羽にとってより肩身の狭い思いにさせている。

そんな関羽にとって総司の提案がどれほど魅力的に聞こえたか計り知れない。

だが生真面目な彼女に首を縦に振ることは出来なかった。

 

「ありがたい申し出ですが、今の私は近衛隊の隊長。簡単にその地位を捨てるわけにはいきません」

 

「そうですか。それは残念だ。ですがもし迷いが出たのならいつでも言ってください。

いつでも歓迎しますよ。勿論あなたの居場所は開けておきます。長くはないですが」

 

そう言って総司は関羽から離れていった。

何とか乗り切れたと関羽は安堵する。

だがこの話は関羽の中でしっかりとしこりとなっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四話

徐州から揚州に戻った総司は早速砦で幹部を集めて軍議を開いた。

 

「関羽を勧誘する」

 

「「「「は?」」」」

 

突然の事に幹部四人は固まる。

総司は披露宴でのことを話した。

 

「なるほど。可能性はありますな」

 

「でも、いきなり旅団を任せるの早くない?古参から文句が出るんじゃ」

 

「それは違うぞ。瑠香」

 

瑠香の言葉を総司は頭から否定する。

 

「文句があるなら奪い取ればいいだけの話だ。勿論周りから認められる形でな。

八咫烏隊は完全実力主義の組織だ。それは董卓軍第四師団の頃から変わらない。

努力し競う事で上に行ける。勿論戦闘組織である以上、欠員の繰り上げはある。

だがそれも俺や周りが認める人材のみだ」

 

八咫烏隊には下剋上戦という制度が存在する、

それは下の者が上の者に戦いを挑む事が出来る決闘のようなものだ。

正々堂々戦い挑んだ側が勝てば負けた側の地位を奪う事が出来る。

その代わり挑んだ側が負ければ挑まれた側は挑んだ側から金銭を

給料の30%分受け取ることが出来る。

そう言う制度が存在した。

因みにこの制度を一番利用しているのは周倉である。本人曰く

 

「強い大将や副長に決闘を挑めるとかさいこうのせいどじゃねぇか。

地位に興味はねぇからいらねぇけど」

 

とのことだ。

 

「しかし、そんな事可能なんか?」

 

「可能だろう。丁度もうすぐ報告が入るはずだ」

 

その時、会議室の扉をノックする音が聞こえてくる。

 

「会議中失礼しますわ」

 

「美花か。入ってくれ」

 

入って来たのは孫乾だった。

 

「ご報告します。曹操軍、徐州に向けて進軍を開始しました」

 

「動いたか」

 

「本当に来たで」

 

「わかってたんですか?」

 

「まぁな。でも予想より早かったかな」

 

「そうなのですかな?」

 

「あと一週間はかかると思ってた」

 

「そんな変わらんやんけ」

 

「それはいい。それよりもだ。劉備軍の動きは?」

 

「はい。劉備は徐州を捨てる選択を取ったようです」

 

「それで?」

 

「現在劉備は国境沿いに関羽を大将とした部隊を展開。迎え撃つ準備を取りつつ

逃亡準備を整えて出発。ですが劉備を慕って領民の一部が同行を懇願。

それらを連れている為に進軍が遅れているようです」

 

「馬鹿な事をしたな」

 

「お優しい劉備の事や。断れなかったんちゃうか?」

 

「可能性はあるだろうな。とにかく俺はすぐにこの事を孫策様に

伝えてくる。部隊全員を動かす。装備もだ。準備を頼む」

 

「「「「了解」」」」

 

「美花は更に詳細な情報を手に入れてくれ」

 

「はい」

 

それぞれが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建業、謁見の間。

 

「それは本当なの?総司」

 

「はい。現在、曹操軍は徐州に向けて進軍中です。

劉備は徐州を捨てるように逃亡中、恐らく荊州に向かっていると思われます」

 

「わかったわ」

 

「しかし妙ですね~。同盟でもなければ勢力的弱り気味の荊州を選ぶなんて」

 

「確かに荊州軍は黄祖が死に江夏水軍がこちらに着いた事で衰退気味です。

それよりも呉に逃げる方が確実でしょうに」

 

「呉に遠慮したのだろう。劉備とはそういう女性だ」

 

「それも有るでしょうが、再起を考えた時、呉の存在は邪魔でしかないですからね。

恐らくですが荊州である程度体制を整えた後に益州に向かうつもりなのでしょう。

益州は山々が多く点在した。天然の要害と言っていい州だ。攻めるのは簡単じゃない」

 

「なるほど。総司のいう事も一理あるわね。

でもこちらとしては見捨てるわけにはいかない」

 

「ああ。だが時が悪い事にこちらは交州攻めの為に兵を南に向けて動かし始めた際中だ」

 

孫策の言葉に周瑜が否を唱える。

 

「なら俺達が向かいましょうか?」

 

「待て、今回の進軍には八咫烏隊の兵器を利用した計画も存在はずじゃ」

 

「なら部隊を二つに分けましょう。第三、第四旅団に瑠香の部隊の二中隊つければ

問題はないと考えます」

 

「わかったわ。でもこちらも呉出身の者をつけないとまずいわね」

 

「ならば私が行こう。筆頭軍師が向かえばこちらとしても面目が立つ。

それに今回の軍師役は私ではなく亞莎と包だ。

後進というにはいささか早い気もするが次は今のうちから育てておきたい。

がその指示役は何も私でなくてもいいからな」

 

「わかったわ。なら冥琳。あなたに任せるわ。総司劉備援軍の大将を任せる。

好きにやりなさい。全てあなたに任せるわ」

 

そこで解散となった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五話

長坂坡。

 

八咫烏隊はそこで陣を張り劉備軍の到来を待っていた。

見張りの兵士たちが話していた。

 

「おせぇな」

 

「無理言うな。向こうは民間人の大行列を連れてんだ。自然、遅くなるってもんだろ」

 

「そこまでしてついていくもんかね?」

 

「俺達も水燕様について司隷から揚州まで来ただろうが」

 

「つまり、お前は劉備に水燕様ほどの魅力があると?」

 

「知るか。俺は劉備に会った事ほとんどねぇんだからな。

でも民がそこまでしてついてくるんだ。それなりのもんがあるんだろ?

あるいは御使い様かもな?」

 

「そうかよ」

 

その時、遠くに行列が見え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一つの天幕。

そこで周瑜と総司は話していた。

 

「その後劉備軍の動きはどうなっている?」

 

「美花の報告でもう少しの所まで来ている。

殿に着いた負けて敗走したが国境付近で捕まったようだ。

ま、物量差が違いすぎるからな。無理もない」

 

「曹操軍の方はどうだ?」

 

「関羽捕らえた後、全力で追っている。

劉備軍がこちらに合流するのが先か。曹操軍が劉備軍が先に追いつくかは五分五分だろう」

 

「そうか」

 

周瑜が聞き総司が答える。

 

「さてこの状況どうするか。参謀殿?」

 

「とりあえずこちらは待つしかないそこからは総司に任せてもいいか?」

 

「勿論、荒事は将軍の領分。ただし一つ頼みを聞いてほしい」

 

「なんだ?」

 

「今回の戦で関羽を奪還する。それを劉備に黙っておいてほしい。

少なくともこちらからは話しかけないでくれ」

 

「理由は?」

 

「俺の方で勧誘して戦力にしたい。今後の呉の事を考えると

人材は多くいて損はないからな」

 

「しかしそんなことをすれば劉備との同盟が壊れるぞ」

 

「遅かれ早かれそうなるだろ。同盟だって別に対曹操に向けての同盟だったはずだ。

正直、今の劉備軍に御使いがいなければこっちにとって旨味はほとんどないはずだ。

同盟を維持したいなら俺達は是が非でも彼らに益州を攻略させないといけない。

そうしなければ同盟の意味がないからな」

 

「確かにな。劉表の所でのんびりするならこちらにとって旨味はないに等しい。

勿論曹操に荊州を取られるよりはいいが、どちらにせよ。

劉表の動き次第で荊州も手に入れる計画を立てていたんだ。

確かに遅かれ早かれそうなるな」

 

「そう言う事だ。だから関羽を勧誘するつもりでいる」

 

「わかった。関羽の事は任せる。こちらも沈黙を決めよう」

 

「感謝する」

 

その時天幕に趙雲が入って来た。

 

「主!周瑜殿。劉備軍がこちらに来ているとの報告だ!」

 

「来たか。わかった。第一旅団は敵を迎え撃つ準備だ。

第二師団は天幕を撤去したのちに先行する劉備軍を護衛しろ。

星そちらの指揮は任せるぞ」

 

「わかりました。完璧にこなして見せましょうぞ」

 

総司は出迎えに向かう。

 

 

 

 

 

一方劉備軍はようやく長坂波にたどり着き少し安堵していた。

そこに先頭の兵士が道をふさぐように立つ総司と周瑜に気付いた。

 

「水燕様!」

 

「ん。俺の事を知っているのか?」

 

「自分は朱儁将軍の旗下の兵士です。何度か司隷で集団稽古に参加させてもらいました」

 

「朱儁殿の兵士だったか!悪いな」

 

「お久しぶりです。してここにあなたが来たという事はまさか!」

 

「ええ。援軍として来た。すぐに劉備殿に取り次いでくれ」

 

「直ぐに。皆喜べ!呉からの最強の援軍だ!」

 

『おお~~~~』

 

それだけで兵士たちから安堵と喜びの声が上がる。

それから総司は一刀の所に通された。

 

「援軍、感謝します。周瑜殿、水燕殿」

 

「いえ、とにかく今は時間が惜しい。現状はこちらでもある程度理解している。

これより殿は我ら八咫烏隊が務める。今は進んでください。御使い殿」

 

「わかりました。ご厚意に甘えさせてもらいます」

 

劉備軍は行軍を再開した。

それを見守っていると途中で馬に引かれた誂えのいい車が目の前に止まる。

 

「お久しぶりですね。水燕」

 

「これは献帝陛下」

 

総司と周瑜は慌てて跪いた。

 

「今回の援軍感謝します。頼みますよ」

 

「「は!」」

 

車は再び進みだした。

 

「まさか、ここで陛下に会うとはな。旧董卓の臣下が劉備に仕えいる事から

もしかするととは思っていたが納得だな」

 

「そうか?」

 

「ああ。他の勢力なら既に表に出ているはずだからな。

曹操然り雪蓮然りだ。未だ出ていないのならそれは律儀に約束を守る劉備しかありえない」

 

「黙ってて悪かったな。陛下の命令だったんでな」

 

「陛下からの命令なら仕方ないさ。それよりあとは頼んだぞ」

 

「任せろ!」

 

総司は軍を率いて行列の最後尾に向かっていった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六話

長坂坡を渡り終えた劉備軍を追って、曹操軍が現れた。

それを総司たちは端の反対側で隠れて見ていた。

夏侯惇と曹操、夏侯淵を先頭に橋を渡り始める。

 

「今だ」

 

総司の指示したがって数人の兵士が火矢を撃った。火矢は端に当たり燃え始める。

 

「急いで渡るんだ!」

 

夏侯惇を先頭に橋を渡っていた兵士たちの半分は進み、

半分は後ろに下がった。

しかしどちらも最後尾が橋から落ち流されていく。

総司は川を渡り終えて息をついていた曹操軍へと奇襲をかけた。

 

「敵だ!迎え撃て。夏侯惇隊突撃しろ」

 

夏侯惇は曹操を守るために突撃する。

 

「勝負だ!水燕」

 

「いいだろう。受けて立つ」

 

剣と槍がぶつかり合う。

二合、三合と打ち合って夏侯惇の剣が後方に吹き飛び夏侯惇自身も落馬し兵士数人で捕らえる。

その頃、共に突撃した姜維が夏侯淵の弓を躱しきり捕らえた。

 

「夏侯姉妹は捕らえたぞ。曹操」

 

「くっ」

 

曹操は舌打ちする。

関羽を召し捕り破竹の勢いでここまで来たところで

孫呉が介入してきてこの結果だ。

それでも曹操は魏の王である。

動揺することなくあくまで平然とした態度で臨む。

 

「そう、要求は?」

 

「この場からの撤退。そして捕虜の引き渡しだ」

 

「いいでしょう。現状私は孫呉と事を構える気はないわ。

捕虜もすぐに連れてくる。と言っても関羽だけだけれども」

 

「では交渉成立だ」

 

その後橋が修復され捕虜交換が行われ曹操軍は引いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

天幕の中。

 

「う、ここは?」

 

「お目覚めか?関羽殿」

 

「水燕殿!なぜ?」

 

目覚めた関羽の目の前には総司が座っている。

関羽にしてみれば不思議で仕方がなかった。

夏侯惇に敗れて捕らえられたはずが目の前には総司がいるのだ。

困惑するのも無理もないと言える。

 

「まず、ここは孫呉、もっと細かく言えば八咫烏隊の天幕の中だ。

そして関羽殿は先ほどこちらで捕らえた捕虜と交換された」

 

関羽はすべて理解した。

だがそれでも新たに疑問が生じる。

 

「ではなぜ私は縛られたままなのですか?」

 

「今のお前は八咫烏隊の捕虜だからだ。そしてここからが本題だな。

君には二つの選択肢がある。このまま劉備殿と合流するか?

それとも俺達と来るか?勿論俺達とくれば先日のそちらを示したままの待遇ではある。どうする?」

 

「どうするも何も・・・・・・」

 

劉備の元に戻ると関羽に言えなかった。

そこまで今の関羽には劉備の信念、在り方に疑問を感じれるものがあった。

あるいは一刀の基本的な考え方がどちらかといえば劉備とは正反対にも関わらず、

劉備に従っている事も関羽にそう言わせられない要素の一つなのかもしれない

 

「どうする?今ここが最後だ。これ以降こちらに付こうがこのような待遇は保証できない」

 

関羽は焦った顔をする。

それを見た総司は小さく笑う。

 

(あともう一押し)

 

「本当にいいのか?このまま劉備の元に戻って一生近衛として生きるのか?

本当は大部隊を率いて前で戦いたいのではないのか?

俺達の元に来ればそれもかなう。

例え近衛であろうとも前線で武を振るう事が出来る。

関羽殿が戦場で望むのはそういう場所ではないのか?

それに関羽殿の理想や考え方は劉備殿とは正反対で

どちらかといえばこちら側なのでは?」

 

「それは・・・・・・・」

 

長い沈黙がその場を支配する。

その間総司は待った。

そして関羽は頭を下げた。

 

「水燕様、この関羽 雲長をあなた様の軍にお加えください」

 

遂に関羽は折れた。

 

「ようこそ、関羽殿、いや関羽。今この場にはいないが約束通り第四旅団は君に預けよう」

 

「ただ、桃香様に最後に挨拶をさせてほしい」

 

「いいだろう。それで君が満足するなら。

それと今日から君にも真名を預ける。総司だ」

 

「私の真名は、愛紗です。なにとぞよろしくお願いします。総司様」

 

この時から関羽は劉備を捨て総司に着いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十七話

 荊州新野城に劉備たちは入った。

そこから送れるようにして総司たちも新野城に入る。

総司と周瑜は話がながら謁見の間に向かう

 

「よく劉表を説得できたもんだな」

 

「劉表は曹操対策として兵力は欲しいからな。特に我らとの戦いで黄忠、魏延を失ったからな。

取れる人材は一人でも多く欲しいという事だろう。

後は同じ劉性というのも大きいのかもしれんが」

 

「なるほど」

 

そして謁見の間に着き、中に入る。

既にそこでは会議が始まっていた。

総司たちが入って来た事に最初に気付いた劉備がこちらを見る。

 

「水燕さん、周瑜さん。護衛と曹操さんの撃退、ありがとうございました」

 

「お気になさらず。徐州に曹操は撤退しました」

 

「そうですか」

 

「それで今後、劉備殿はどういった行動をとられるおつもりか?」

 

「それを話し合っていました。私達は今後、益州攻略に向けて行動するつもりです。

でもその前に私は愛紗ちゃんを救いたい」

 

「桃香いう事は分かるつもりだ。だけど今は無理だ。こちらには愛紗を

救う為の力も方法もない。いくら旧董卓軍が参入してくれたと言っても

こちらの動かせる兵力は今、三万もないんだぞ。

そんな状態で十万近い兵力を持つ曹操とまともな戦になるわけないだろ。

軍事を預かる者としてそれは出来ないよ」

 

対立しているのは劉備と一刀だった。

何としても関羽を助けたい劉備と現実的に見て今はそれは不可能だと考える一刀。

どちらも譲らない。

 

「なら、ご主人様は愛紗ちゃんがどうなってもいいって言うの?」

 

「そうは言ってない。俺も愛紗は助けたいさ。

でも今は俺達にはそれは不可能だ。

まずは益州を攻略して万全な体制と武力を整えれば孫呉とも協力できるようになる。

元々そういう同盟だからね。

そうしないと曹操の強兵は戦えないよ」

 

「そんなの曹操さんと話し合えばいいでしょう!」

 

「曹操がそれをしてくれるとは思えないがな」

 

総司の声にその場にいた全員が総司を見た。

 

「どういう意味ですか?水燕さん」

 

「そのままでしょう。より多くの利益を得られる可能性があるのに

何でその利益を捨ててまで話し合いの席に着く?着くわけがない。

この状況で俺が曹操なら話し合いなんかしないしする理由もない。

今、曹操がこちらを狙わないのは俺達孫呉がいるからだ。

ただでさえ今、徐州の完全平定に力を入れたいのに

孫呉まで敵に回す余裕は曹操にもないでしょうからね」

 

総司の話を聞いて劉備と同じ考えを持っていた者たちが黙ってしまう。

そこに総司は更に話をいれた。

 

「そんなあなた方に会わせたい人がいる。入れ!」

 

扉が開き入って来たのは一人の八咫烏隊の兵士だった。

顔はフードを被っているがそれが女性である事は見ればわかる。

兵士はフードを取り、顔を見せた。

 

「愛紗ちゃん!」

 

それは八咫烏隊の兵士の恰好をした関羽だった。

走って関羽の元に走り抱き着く劉備。

だが関羽は劉備を優しく振りほどきその場に片膝を立てて跪いた。

 

「本日は桃香様、いえ劉備様にお暇を申し上げに来ました」

 

「どうして?」

 

「私は劉備様の理想に共感してこれまでついてきました。

しかし劉備様の行動がそれに伴っていないところが多々存在し

今の私はそれを信じる事が出来ません。

そして私は私自身の理想を追う事にし、同じ理想を持つ

孫呉、ひいては総司様に仕える事にしました。

真に勝手な事ではありますがお許しください」

 

「そんなの嫌だよ。愛紗ちゃん帰ってきてよ」

 

「申し訳ありません」

 

劉備が何を言おうが関羽は謝るだけだ。

そもそも戻るとは言えない。既に下ると決めて臣下の礼まで取ったのだ。

今更反故には出来ない。

 

「失礼します」

 

関羽は劉備の手を再び振りほどきその場を後にした。

劉備はしばらく泣いていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

新野の城壁で酒を飲んでいた総司の元に一刀が訪れた。

 

「どういうつもりです?」

 

「何がだ?」

 

「とぼけないでください。貴方でしょう?愛紗を勧誘したのは」

 

「否定はしないがな、決めたのは彼女だよ。

関羽が劉備殿に対して不信感を持っていたのは事実だろ?

おまえも言っていたじゃないか。それで俺を責めるのはお門違いだろ。

そもそもお前もお前だ。同盟相手と言っても俺とお前は他国同士だ。

自分の弱いところを見せてどうするんだ。そんなの勧誘してくださいって言ってるようなものだ」

 

一刀は片手で顔を覆い空を見た。

 

「あの時か。俺もまだまだだな」

 

「そう言う事だ。でも自分の魂に恥をかかせる生き方はするなよ」

 

「え?」

 

「自分で決めたんだろ?劉備の生き方に共感して支えるって。

俺はこれから先、何度でも劉備の道を塞ぐことになる。

それが物理的なのか心情的なのかはわからんがな。

それでも劉備が前を向けるか、それともそこでくじけるかは

お前次第だろう。だからこそ生き方は選べよ。

狡猾に生きるもよし、真っ直ぐ生きるのも有りだ。

だが自分の魂に恥をかかせる生き方はするな」

 

「総司さんはどうなんです?」

 

「俺か。俺はそうしてるつもりだ。手段は選ばないがな」

 

「そうですか。もう一つ。孫呉はどこまで協力してくれるんです?」

 

「とりあえずはここまでだな。そちらが要請するなら益州攻めにも協力するが」

 

「わかりました」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八咫烏隊殺戮編
第四十八話


 八咫烏隊は揚州に帰還した。

これ以上の援護を劉備は拒否したのだ。

同時期に交州攻略に出ていた孫策も攻略を成功させ揚州に帰還した。

まず問われたのは関羽が八咫烏隊に所属した経緯。

その経緯を聞いた面々の中でまず総司に怒りをぶつけたのは張昭だった。

 

「何という事をしてくれたのじゃ!これではいつ同盟が破られても

コチラは文句を言えんではないか!」

 

「遅かれ早かれ劉備とはぶつかります。それに備えてですよ」

 

「ほう遅かれ早かれと言ったか?ではそれをいつと考える?」

 

黄蓋の質問に総司は冷静に返す。

 

「俺の予想なら劉表次第でしょうね。そこでぶつかる」

 

「なるほど、一理あるな」

 

「どういうことでしょう?」

 

いまいち理解が追いついていない周泰に周瑜が答える。

 

「劉表が自身の後継者に誰を選ぶかという事だ。

劉表の跡取りは既定路線ならば劉琦が継ぐことになるだろうが

それを異母親である蔡夫人が抑えてその弟で夫人の実子である劉琮を擁立しようとしている。

何せ劉琦は病弱だからな。だが劉琮はまだ幼い。確か小蓮様とそう変わらなかったはずだ」

 

「そんな方が刺史など無理ですよ」

 

「そう言う事だ。だからこそ劉表は劉備を後継者に選ぶ可能性が高い。

既に劉備は劉表の許可を得て益州攻略に乗り出している」

 

「こたらで得た情報では巴群で黄忠と魏延とぶつかったが

曹操に負けて益州に逃げてきた馬超達の協力もあり勝利したようです。

益州攻略は時間の問題です。なら、今のうちから敵戦力を削って何が悪いんですか?」

 

張昭は黙ってしまった。

戦略的に考えれば総司の間違っていないから。その中で張昭は張昭で色々と考えていた。

 

「総司のいう事は分かったわ。私もその意見に反対する気はないわ。

総司のいう事にも理解できるしね。その上で冥琳、総司。

貴方達は今後、どうするべきだと思うの?」

 

「私は曹操の動き次第ですが荊州を手に入れるべきだと思う」

 

「俺も同意見です」

 

「わかったわ。なら今後の動きは荊州攻略に動く。

準備は怠らないで頂戴」

 

『はっ』

 

会議は終了し解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

八咫烏隊拠点。

その中庭に八咫烏隊の隊員が並ぶ。

その前に総司と関羽が立つ。

 

「今日から第四旅団を関羽に任せる」

 

「な!」

 

「なんで新入りがいきなり幹部なんですか?」

 

「おかしいでしょ」

 

隊員が口々に叫ぶ。

 

「黙れ~~~~~!」

 

総司が叫ぶと隊員が黙った。

 

「おかしい?なにもおかしくない。俺が調査させて考え決めた事だ。

文句があるのなら、下剋上戦を関羽に挑め。そして勝って実力を全員の前で示せ。

それが俺達八咫烏隊の決まりだ。違うか?」

 

誰もが黙る。

そこに笑い声が響いた。

 

「確かにその通りだ。八咫烏隊は総司さんがルールであり、絶対だ。

その総司さんが決めた事ならそれが決まりだ。

それに総司さんは文句を言う場を用意してくれてる。

お前らもそうだろ?え?関羽はそこにいる。挑もうと思えば

受けてくれるだろうさ。なら俺らは正々堂々挑めばいい。違うか?」

 

叫んだのは周倉だった。

周倉のこういうところが総司は気に入っている。

それは周りも同じだった。

 

「そうっすよね」

 

「その通りだ」

 

「すいません。総司様」

 

『すいませんでした』

 

「わかればいいさ。愛紗。これからこいつらはお前の座を狙ってくる。

覚悟しておけよ。大変だぞ」

 

総司は関羽を見ながら笑う。

 

「はい」

 

関羽は返事を返しながらただ覚悟を決めた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十九話

「ここに母様が眠っているの」

 

「そうですか」

 

江東の虎、孫堅文台。孫策、孫権、孫尚香姉妹の母であり

今の呉の礎を築いた人物だ。

総司が最後にあったのは黄巾討伐の最終決戦の会議の時だ。

その強さは総司自身よく知っている。

今、総司と孫策は護衛二人と共に孫堅の墓参りに来ている。

 

「尊敬に値する人物というのは数少ないと考えていますが」

 

「どうしたの?」

 

「普段の姿は知りませんが孫堅殿の戦場でのあり方は

俺にとって尊敬するに値する人物だったと思います」

 

常に最前線で先頭に立ち、最も多くの敵を倒し

たった一言で味方を鼓舞し、士気を上げる。

その姿を孫策は勿論総司も何度も見てきた。

 

「ありがとう」

 

孫策にとって自分の母を覚えていてくれる人物がいる事はうれしい事だった。

 

「さて、帰りましょうか」

 

「ええ・・・・・・・・・・いや、どうやらお客様のようですね」

 

「その様ね」

 

途端四人は己の獲物を手に持ち振り返る。

 

「死んでもらうぞ。孫策、水燕。許貢様の為に」

 

「はい。馬鹿決定」

 

「何?」

 

「お前ら馬鹿か。わざわざ首謀者明かすとか。馬鹿以外なんでもねえよ」

 

「それもここでお前らを殺せば関係ねぇだろ」

 

「やれるものならやってみなさいよ。はぁ~~~~」

 

四人対十五人の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「案外あっけなかったわね」

 

「所詮、雑魚の使い捨てですよ。それ降り大丈夫ですか?」

 

「私も大丈夫」

 

その時後ろで倒れる音が聞こえる。

 

「漣!泉!」

 

総司が漣を抱き上げ泉を見る。

 

「すいません。どうやらやらかしたみたいです」

 

「どこをやられた?」

 

その時孫策が剣を持ちこちらに歩いてくる。

 

「毒よ。こいつら剣に毒を塗ってるわ」

 

「直ぐに城に連れていくぞ」

 

「無理ですよ。もう目が霞んできてる」

 

「地獄で活躍見てるっす。すぐにこっち来ないでくださいね」

 

「お前ら・・・・・・・・わかった。皆で見ていろ」

 

二人は静かに目を閉じた。

総司は二人の遺体を乗って来た馬に乗せる。

 

「戻りましょう。恐らくですが曹操がこっち来てる」

 

「ええ」

 

総司は孫策を守り建業に戻った。

 

「俺はこのまま砦に戻って防衛体制を整えます」

 

「お願い」

 

総司は自身の拠点に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司様!」

 

「ああ。悪いがすぐに全員を集めろ。今すぐだ」

 

「はい!」

 

隊員が走っていく。

 

「漣、泉。お前らは望んでないかもしれないが

このままだと俺が前に進めない。許してくれ」

 

しばらくして全員が集まった。

 

「漣と泉が死んだ。毒の剣による暗殺だ」

 

隊員に激震が走る。

そして怒りが沸き上がる。

 

「お前らに命令する。これより俺達は北に進軍し

迫り来るであろう曹操軍を迎え撃つ。

そして敵はすべて殺せ。ここに攻める事を決めた曹操に絶望を与えろ!」

 

『おお~~~~~~~~~』

 

全員が叫ぶ。

そして門をくぐり進軍していった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十話

曹操軍の先鋒を任された楽進、于禁、李典を先頭に曹操軍は前進する。

 

「別の城は春蘭様が落として合流しました」

 

「秋蘭様の部隊が合流しました」

 

曹操の元にあらゆる情報が舞い込んでくる。

 

「一部地域からの情報が遅いわね」

 

その時、前衛から伝令の兵士が走ってくる。

 

「報告。前方の丘から敵が現れました」

 

「数と旗は?」

 

「呉の旗と三本足の黒い鳥の旗を確認しました」

 

「水燕ね。迎え撃つわよ。秋蘭を」

 

その時が爆音が響く。

 

「な、なんなの?」

 

「わかりません。ですが今の爆発で一小隊が壊滅しました」

 

「そんな」

 

「水燕ならあり得ない話ではないわ。全員心してかかりなさい」

 

「「「「はっ」」」」

 

曹操の言葉に全員が返事を返す。

この時曹操は知らなかった。

部下の独断のせいで自分が絶望の淵に立たされている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えました。曹操軍です」

 

「わかった。瑠香。ここから砲撃して敵の数を減らせ!」

 

「了解」

 

「柱花は瑠香に指示を出して的確に敵を崩せ」

 

「はっ」

 

「その他の奴らは敵に向けて突っ込め。知らない顔はすべて殺せ。

自身の後ろに敵を残すな。いいな!」

 

『おお~~~~!』

 

「総員、突撃~~~~!」

 

雪崩を打ったように全員が突っ込む。

 

「殺せ!」

 

「よくも俺達の仲間を!」

 

「卑怯者には死を」

 

そう叫びながら八咫烏隊は突っ込む。

先頭を走る総司と趙雲が敵の前衛を突き殺し

それと同じようにして後ろの隊員が敵を突き殺し、切り殺していく。

一方的な戦い。戦闘が開始して五分と経っていないにもかかわらず

既に曹操軍の前衛は壊乱状態に陥っていた。

それを今回初めて部隊を任された楽進達に立て直すことは不可能だった。

 

「一旦下がるで。この砲撃に加えて敵の士気が高すぎるわ」

 

「しかし」

 

「ここで私達がいても出来る事はないの。とにかく部隊をさがらせて

春欄様と合流するの」

 

「くっ。わかった」

 

三人は撤退の合図を出しつつ下がる。

すぐ後ろに総司が迫っていた。

 

「進め!曹操を殺せ!」

 

『おおおお~~~~!』

 

なお進む。ただただ曹操を殺す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「妙だ」

 

張遼率いる第三旅団との戦いを指揮しながら夏侯淵はある疑問を抱いていた。

 

「妙とは?」

 

夏侯淵の言葉に隣にいた曹洪が聞く。

 

「なぜ敵はあそこまで鬼気迫る勢いでこちらに迫っている?」

 

「それは呉が攻められているからでは?」

 

「それも有るだろうがあの水燕がこうなるのはあの時だけだ」

 

「あの時とは?」

 

「虎牢関の悲劇。それに敵の兵士はこの卑怯者共がと言ってこちらを攻撃してきている」

 

「まさか!お姉さまが?あり得ませんわ」

 

「わからないが。もしかするかもしれない。栄華すぐに調べてくれ」

 

「わかりましたわ」

 

その時部隊が崩れ始める。

 

「もう持たないか。本陣まで撤退する。急げ!」

 

別箇所に向かった曹洪を見送りつつ夏侯淵は本陣に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告。前衛部隊。壊滅しました。援軍を」

 

「報告。右翼。夏侯惇様。関羽に敗北。撤退しました」

 

「報告します。左翼夏侯淵様。張遼に敗北。撤退します」

 

戦闘が開始してからそれ程の時間が経っていないにもかかわらず

曹操のいる本陣には凶報ばかりが舞い込んでくる。

 

「どういうことなの?」

 

曹操にはわからなかった。

報告に来た兵士から敵先鋒である八咫烏隊に関する報告を聞いていた。

その誰もがまるで虎牢関での董卓軍のようだったという印象を受けたという報告だった。

 

(なぜ、ここでその報告を受けるの?まさか誰かが?)

 

曹操はある仮説にたどり着く。

だがさらに悪い報告を舞い込んできた。

 

「報告します。中軍。曹純様。敗北、撤退しました。

敵がすぐそこに迫っています」

 

「あり得ないわ。このような事」

 

「華琳さま!」

 

「秋欄!」

 

「直ぐに撤退してください。敵が迫っています」

 

「わかっているわ。それよりも気になることがあるわ。

敵は私を卑怯者と言ってこちらに向かってきていると報告があったわ」

 

「それについても既に栄華に調べさせています。今はとにかく撤退を!」

 

「ぐわっ」

 

「姉者!」

 

本陣を構築している柵が壊れ夏侯惇が吹き飛ぶように転がってくる。

 

「曹操」

 

「水燕」

 

夏侯惇を吹き飛ばし総司は馬を降り曹操のすぐ近くに立った。

 

「あの時は素直に撤退させたが今度はその首をもらう」

 

「取れるものなら取ってみなさい」

 

曹操も自身の獲物である鎌をかまえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

呉軍は全速力で総司たちに合流する為に走っていた。

 

「急ぐわよ。もう遅いかもしれないけど」

 

「どういう事じゃ策殿?」

 

「総司君が負けると思っているのですか?雪蓮様?」

 

孫策の言葉に疑問を持った黄蓋と程普は孫策に聞いた。

責められているとはいえその防衛の先鋒は総司率いる八咫烏隊だ。

黄蓋や程普にしてみれば既に勝って曹操軍は既に追い返されているかもしれない。

それくらいに考えていたほどだ。

勿論それでノロノロしていていい理由にはならないのは理解しているが

だからと言って今の孫策の表情には疑問があった。

 

「総司がまた狂気を解き放つかもしれないのよ」

 

「総司の狂気?」

 

孫策の言葉に太史慈が聞く。

 

「総司は王の器を持ってると思うわ。

どんなことも動じず常にどっしりと構えて

その言葉は聞いたものを引き付ける。

まさに王にふさわしい器よ。

まあ、まだ成長途中とはいえ劉備の所の一刀もそうだけど。

でも総司の器は言ってみれば狂王の器。

そして彼の持つ狂気は周りの者にまで伝染し巻き込んでいく。

その枷なのが八咫烏隊一人一人が持つ命と誇り。

だから八咫烏隊の面々が戦場以外で殺された時は

総司は無意識のうちに狂気を解き放ってしまう。

そして同じ思いを持つ八咫烏隊の隊員を狂気に染めてしまう。

そこに例外はないわ。

そして八咫烏隊はそれを拒まない。

この短い間であの関羽までもがその狂気に染まってしまっている。

だから止めないといけないの。

出ないと八咫烏隊は曹操を殺すか死ぬまで止まらない」

 

孫策の話を聞いていた将の誰もが頷く。

既に孫呉にとって総司たちは無くてはならない存在だ。

ここで失っていい存在ではない。

 

「見えたわ。急ぐわよ」

 

少し離れた丘の上に砲台が築かれ瑠香の指揮の元次々と

砲弾が打ち出されている。

 

「呉軍が来た。道を開けなさい」

 

呉軍の到着と共に砲兵たちが道を開ける。

孫策たちはその間を通り抜け戦場を見た。

 

「何よ。これ?」

 

そこで見たのは一面死体の山と血の匂い。

見ただけで歴戦の勇士である程普や黄蓋、孫策ですら吐き気を覚えて口元を抑えた。

 

「とにかく進むしかないわ。私についてきて」

 

孫策は勇気を振り絞り進む。

そこで見えたのは総司が今にも曹操と戦おうとしているところだった。

 

「双方、その場で剣を収めなさい!」

 

「孫策!」

 

「孫策様!」

 

「総司もういいわ。ここまですれば曹操は退却せざるを得ないわ。そうよね?」

 

「ええ」

 

孫策と曹操の間では話は纏った。

 

「ぬるい!敵は確実に潰さなければならぬのです。その戦意を完全に砕き、

敵対する意思を完全に破壊しなければ敵は再び武器を持ちこちらを襲い掛かる」

 

だが総司はそれをよしとしなかった。

 

「そうして大切何かを失ってから後悔してもおそいのです」

 

誰もが反論できなかった。

曹操の頭には既にどのようにして呉を攻略するかという

考えがあるしそれは孫策も同様だ。

だがこれ以上この場で人死にを出すわけにはいかなかった。

 

「総司のいう事はわかっているわ。それでもここは引いて」

 

「しかし・・・・・グハッ」

 

「いい加減落ち着け。策殿が言っているのだ」

 

「その仲間想いな所は尊敬に値するけど今は落ち着きなさい」

 

尚も反論する総司を黄蓋と程普が当身をくらわし気絶させる。

 

「曹操!今退けば追わない。何も聞かずに速やかに国に帰りなさい。

そして私は忘れない。今回の卑怯な暗殺を」

 

「待ちなさい。孫策。暗殺とは「私は何も聞かずに引けと言ったわよ。

それともこのまま私達と一戦するのがお望みなの?」

 

「わかったわ。その言葉に甘えさせてもらうわ。全軍、撤退よ」

 

『はっ』

 

曹操軍は引いていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十一話

曹操軍はようやく許昌城に帰還した。

だがその様子は誰もがボロボロで無事な人間はほとんどいない。

誰もが傷つき、まだまともに歩ける同僚や上官に肩を貸してもらいながら

行進している。

 

「稟、被害はどれくらい?」

 

曹操は隣を歩く郭嘉に尋ねる。

 

「死者だけで出陣時の八割に上ります。怪我人はそれ以上でしょうが

現在確認中です」

 

「わかったわ」

 

落ち込みながらも曹操は城に入り玉座の間に入り玉座に座る。

 

「華琳様」

 

「何?秋蘭?」

 

「あまり御自分を責められない方が宜しいです」

 

「………そう……」

 

夏侯淵はそういったが相変わらず曹操殿は変わらず落ち込んだ表情をする。

 

「華琳様!!どうか今一度、呉に攻めるご命令を!!このままでは華琳様のお顔が立ちません!!」

 

「姉者………頼むから少しは空気を読んでくれ」

 

「だが秋蘭!!このままでは悔しいではないか!!我等天兵が呉に負けるなどとは……」

 

「だが実際に我等は敗退したのだ。それに今は兵達も疲れきっている。

今の状態で攻め込んだとしても今度こそ奴等は我等を完膚無きまでに殲滅するだろう」

 

「しかしだな秋蘭!?「春蘭……少し黙りなさい」か……華琳様!?」

 

なかなか話を聞こうとしない夏侯惇に曹操がようやく口を開いて黙らせる。

そこに曹操にとって更に落ち込ませる報告が入った。

 

「お姉さま!」

 

「何?栄華」

 

「ご報告すべきことが。水燕殿の隊はお姉さまの事を卑怯者と呼びながら

突撃してきていたのはご存じかと」

 

「ええ、その事で栄華が調べてくれている事も聞いているわ。それでわかったの?」

 

「はい。我らが呉に進行を開始したと同時期に曹操軍旗下の者が

暗殺者を放ったことが判明しました。

そしてその刃が水燕殿の配下を殺した事も判明しております」

 

その瞬間落ち込んでいた曹操の顔が怒りの色に変わる。

 

「直ぐにその首謀者を捕らえなさい!栄華!首謀者は誰なの!」

 

「は、はい。首謀者は許貢です」

 

「直ぐに許貢の首を取りなさい!」

 

「しか「話は聞かないわ、稟。これは絶対命令である。秋蘭。今すぐ許貢の首をはねなさい」

 

「御意」

 

秋蘭は玉座の間を出ていった。

 

「なんてことなの。私はあのような戦いは求めていないのに」

 

誰もが悲痛な思いを顔に浮かべる。

 

「とにかく使者を送らないといけないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした」

 

建業城の謁見の間。

総司は孫策に対して謝罪を述べていた。

理由は先日の曹操との戦で孫策の制止を聞かず逆らったこと。

 

「気にする必要はないわ。あなたの気持ちは私もよく理解できるもの」

 

だが孫策はそのことを特に深く考えていなかった。

理由は自分で言ったとおりだ。

 

「顔を上げなさい。総司。私は今回の件であなたを責める気はないわ。

私ももし冥琳や蓮華達をあんな形で失えばあなたのようになるかもしれないし。

でももう少し自分を抑えることを覚えなさい」

 

「ありがとうございます」

 

総司は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

益州、成都。

 

「先日の孫呉と曹魏の報告が上がりました」

 

会議場として使っている部屋に入ってきたのは黄忠。

薄紫のきれいな髪と胸元が大きく開いた服装が特徴で

先日の劉備たちによる益州攻略戦で巴群を守護していた将だ。

戦闘で敗北を喫した黄忠は捕らえられたのち、劉備軍に下った。

今は劉備軍の将として働いている。

なお、ほとんどが年若い将が多い劉備軍の中でお母さんポジを確立していたりする。

 

「先日の両軍の戦は孫呉が快勝。それも八咫烏隊に

曹操軍八万が壊滅したと報告が上がってきました。

そして孫呉は側に死者はほとんどなかったとの事です」

 

「な!」

 

「そんなのありえるのかよ」

 

一刀と馬超は驚きを口にする。

あり得ないと二万でその四倍に相当する戦力を壊滅させる。

言葉にすれば簡単だが実際実行するのは不可能に近い。

その難しさがどれほどのものか実際に部隊を率いて戦う一刀や馬超には

よく理解できるものだった。

 

「総司なら納得だな」

 

「琴さん?」

 

「あいつはそれができる。

他者を率いて己の意のままに操る。

あいつの恐ろしいのは個人の武じゃない。

その統率力だ。器なんだろうな。あいつも。

だからこそ関羽もその器に魅せられたのだろう。

俺もそんなあいつの器に魅せられたこともあった。

あいつこそ王になるべきだと思った。

一刀殿いなければそうなっていたかもしれないな。

だがあいつの器には狂気が孕んでいる。

その狂気をあいつは制御できていない。

いや、違うなできるわけがないというべきか。

そんな狂気をあいつは持ってる。

その狂気が解き放たれた結果が今回なんだろう」

 

「琴」

 

「それが総司という人物だ。この漢を守る者たちを

勝利に導いてきた男だ。それを忘れるのよ。一刀殿、桃香殿。

あいつはすでにこちらと戦う事も視野に入れて動いているぞ」

 

「はい」

 

「そうですね」

 

一刀と劉備は覚悟を決めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十二話

「今回は訪問、歓迎するわ。朱儁殿」

 

「はい。益州も落ち着いたのでかつての援軍への感謝の為、

訪問させていただきました。孫呉は先日曹操の襲撃を受けたと聞いております。

将兵もご無事とも聞いておりましたが実際は意見させていただいて安心しているところでございます」

 

「(よく言うわ。今回の目的だってい偵察の意味が大きいでしょうに。)孫呉はいまだ健在。

劉備殿にはそう伝えて頂戴」

 

「そうですね。わが主にはそう伝えましょう」

 

孫策と朱儁の間で見えない攻防が繰り広げられる。

並みの人間なら怯んでしまう孫策の圧に朱儁は何喰わない顔で飄々と受け流す。

 

「(流石中央で将軍の地位を実力でもぎ取り十常侍や何進ですら簡単には手を出せないとまで

言われた男ね。威圧しても簡単に受け流してしまう。これは私の負けね。それよりも)

よく顔を出せたわね。どの面を下げてやって来た・・・魏の使者・・・いえ、夏侯淵」

 

「はっ・・・・・・我が主、曹 孟徳様の謝罪の文と今回の暗殺は孟徳様のご意志では無いことを

お伝えに参りました」

 

「そのような言葉が信じられると思うのか?」

 

「こちらがその親書となります。どうかお納め下さい」

 

「総司」

 

「はい」

 

夏侯淵は持ってきた親書を取り出した。傍にいた総司は前に歩み寄り、

それを受け取ると中身を確認する。

 

「内容はどうか?」

 

「・・・・・・・責任転嫁もいいところですね。呉へ勝手に侵略してきたくせに

戦を勝手に終わらせ、更には自分は暗殺に関わっていないとほざいている・・・・・・

はっきり言って孫策様がご覧になられる価値もありますまい・・・・・・だが・・・・・・」

 

「だが・・・どうした?」

 

「打ち首になるかもしれないのに、覚悟を決めてやってきた勇気に称えて

お情けでギリギリ及第点と言った処でしょう」

 

「・・・・・・ありがたき幸せ」

 

そういう夏侯淵の顔は悔しそうな顔をしている。

それを総司は見逃さなかった。

 

「どうやらあなたは曹操殿と違って納得いっていないようだ。

今回の一件、あなたはどうお考えか?夏侯淵殿」

 

「それは・・・・・・今回の侵攻の件はこちらの不手際。

さらに許貢のしでかしたことも同様であり、

誠に申し訳なく思っております」

 

「しかし、あなたの顔はそのように思っていないようですが?」

 

「そのようなことは!」

 

まさに針の筵といったようだった。

執拗に夏侯淵を責める総司に流石にかわいそうになった孫策が止めに入る。

 

「総司、そのくらいにしておきなさい」

 

「はっ」

 

「しかし、そのような紙切れ一枚で今回の非礼が白紙となるとは思うな。

貴様達魏は我等の主を傷付けようとし、更には土足で呉の大地に踏み入った。

それだけ許されないことをしたのだぞ・・・」

 

「承知しております。それとこちらを、楽進」

 

「はっ」

 

楽進は後ろに控えていた部下に指示を出し壺を出させる。

 

「それは?」

 

「今回の一件に関わっていた許貢とその一党の首でございます。

この者供が今回の騒動の発端となった要因となります。

それと魏から謝罪金を用意させていただきました。

どうかこちらもお納め下さい」

 

つまりは首謀者達の首を塩漬けにしたものということだ。

魏は首謀者の首と金で今回の一件を収めようとしていると

孫呉の将兵には見えた

 

「そのようなことだけで帳消しになるとでも思ったか下郎共が⁉ふざけるのも大概にしろ‼‼」

 

周瑜は怒りをあらわにして叫んだ。

彼女の言葉はこの場にいる呉の将の思いの代弁と言えた。

 

「冥琳・・・貴女らしく無いわよ・・・少し落ち着いて・・・」

 

珍しく声を挙げて怒りを見せる周瑜を孫策は宥める。

 

「その首は受けとるわ。でも金はそのまま持ち帰りなさい。

殺されてもおかしくないにもかかわらずこの場に出向いたあなた達に免じて

ここは収めましょう。即刻立ち去りなさい」

 

「はっ」

 

夏侯淵をはじめとした魏の使者団は玉座の間を後にした。

 

「見苦しいものを見せたわね。朱儁。しばらく滞在するのでしょう?

今夜、歓迎の宴を開くからゆっくりしていって頂戴」

 

「ありがたき幸せでございます」

 

朱儁も玉座の間を退出する。

 

「全く、こうも早く使者を送ってくるとわね。

でもなんか納得したわね、あの孟徳ちゃんが暗殺なんて手を

使うとは思えなかったもの」

 

「それは私も思っていた。あの曹操がとる手段に思えなかったからな」

 

「しかし、口惜しいの。どうせなら生かしたままこちらにひきわたしてほしかった。

そうすればわし等の手自ら処断してやっと物を」

 

「黄蓋殿」

 

「いうな。八咫烏隊とてすでに我らが同胞。

その同胞を非道な手段で殺されたのじゃ。怒って当然だろうよ」

 

「ありがとうございます。祭殿。あなたにそう言っていただけるとは

あいつらもうかばれますよ」

 

「よい」

 

その様子を見ていた孫策は小さく微笑んでいだ。

 

 




どうも。第五十二話いかがだったでしょうか?
ここで2021年が終わるまでにここまで読んでくれた方に連絡です。
設定その二で紹介させてもらった貂蟬ですが、
中々登場させられない状況になりこの度
消去させてもらいました。
それに伴い一部変更を加えさせていただいています。
なにとぞご了承ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十三話

総司は拠点の自室で瑠香と定期的に行っている報告会を行っていた。

 

「報告が遅れたわね」

 

「ああ。例の小型飛行船どうだ?」

 

「結果から言えば成功。弓矢の射程の外から爆薬を落とすから

こっちは一方的に敵を倒せるのは大きいみたい」

 

「そうか。だが量産はこれ以上はきつい」

 

「わかってる。完成したのが十でパーツ交換用にあと五隻はつくれる様にしてあるから」

 

「了解。しかしまさか紀霊殿が交州で一軍を率いているとは驚いた」

 

「私もよ。どうやら送った手紙が届かなかったみたい。

それで私らが美羽が殺したと思った感じみたい。

結果として美羽に説得してもらったから何とかなった感じかな」

 

「なるほど。それで冥琳の方はどうだった?」

 

「冥琳の方は専門医じゃないし知識だけだけどほぼ結核で間違いないと思う。

サルファ剤作って置いてよかったよ。

薬は飲ませて何度か聞いたけど最近は症状は出てないって」

 

「そうか。劉備軍撤退戦の時、何度かせき込んでいたから気になっていたんだ」

 

「放って置いたら死んでただろうから危なかったわね」

 

「そうだな」

 

「あとは」

 

「赤壁だな。その前に荊州攻略戦。そして」

 

「恐らくその援軍に出るであろう劉備軍との決戦か。大将は一刀かな~。

正直戦いたくない」

 

「いずれはそうなる。わかっていたことだ」

 

「相変わらずあんたは切り替えが早いわね。ま、それが頼もしくもあるんだけど」

 

「そうか?これぐらい普通だろう」

 

「いやいや、全然普通じゃないからね。もはや才能の域よ」

 

「洛陽ではそうしてないと生きていけなかったからな。それもあるんだとは思うが」

 

「なるほど、経験からくる感じか。そりゃあわたしにはむりだわ」

 

二人は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何太后は今、蜀の土地で働いていた。

 

「ほら、瑞姫。これも早くかたずけてよ」

 

「は~い」

 

上司の賈駆に怒鳴られながら食器類をかたずける。

今の彼女は劉宏と劉協の侍従として働いていた。

本来ならば劉宏の妻である彼女は侍従される側なのだが

その関係も劉協によって切られた為、侍従として

何太后の名を捨てて瑞姫として軍司兼メイドである賈駆の下で働いている。

そもそも彼女がなぜこの場にいるのか?

それは反董卓連合の頃にまで遡る。

牢屋にいた彼女は番兵をたぶらかして牢獄を脱出。

逃げようとしたのだがその頃は丁度総司たちが洛陽に撤退してきたばかりだった。

ばれればさすがにまずいと感じた彼女はとっさに近くにあった荷馬車に隠れて脱出を図った。

結果は脱出には成功。そのまま劉協たちのいる城に入った。

見つかったときは一騒動あったが結局、現在の地位に居ついた。

最も一刀にしてみればいつの間にかいたという感じなのだが。

 

「はぁ~。本当は総司様の所が良かったわ」

 

「瑞姫。早くしてよ」

 

「はいは~い」

 

彼女の多忙な日々は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姜維は兵士の訓練に精を出す。

 

「そこ、遅いですよ」

 

「申し訳ありません」

 

「気をつけなさい」

 

八咫烏隊の中でも副官として働く彼女は総司の直属である八咫烏隊の訓練をしている。

そして今の彼女には一つ不満があった。

 

「最近、総司様と出撃していませんね」

 

そうそれこそが姜維の不満だった。

彼女は八咫烏隊の中で唯一総司の狂気を抑えることができる人材であり、

それを理解している総司は彼女を副官として己のそばに置いていた。

しかし運が悪いことに先日の曹操軍との戦では劉備軍の支援として

現地に残っていたので参戦していなかった。

彼女にはそれが不満だった

 

「本来なら私が止めなくてはならないのに。申し訳ありません」

 

姜維は一人つぶやいた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十四話

孫呉が荊州攻略を開始した。

理由は荊州刺史劉表が後継者に劉備を指名したのだ。

ここまでならば何も問題はなかった。

しかし劉表は孫呉に対して何の相談もなく勝手に後継者を指名しそれを断行した。

本来ならば荊州の南陽、江夏、長沙を領有する孫呉に対して何の相談もなく

これらを行うのは違反行為だ。

それによって元々荊州を狙っていた孫呉は大義名分を得て侵攻を開始した。

その軍議中、

 

「荊州を攻略するわ。蓮華、あなたに侵攻軍の指揮を命ずるから

荊州を取ってきなさい。すべて貴方に任せるわ」

 

「はっ」

 

「亞莎、包。二人は軍師として蓮華を支えなさい」

 

「は、はい。蓮華様のお役に立てるよう頑張ります」

 

「はや、ついに包にその時が」

 

「無論わしも行くがな」

 

「はわ、お師さんもいらっしゃるんですか?」

 

「当然でしょう。あなたは頭はいいのに、その一言余計なところが玉に瑕なのよ。

だから雷火をつけるわ。荊州攻略後の内政も任せるわね」

 

「承知しておる」

 

「い、いや、お師さんもそろそろ年ですし、引退を~」

 

「貴様が叱られるようなことをしておるうちはおちおち引退も出来んわい」

 

「はや~~~~~」

 

落ち込む魯粛だがいつもの事なので誰もが無視していた。

 

「そして将に関してだけど思春、明命は当然として梨晏と総司をつけるわ」

 

「あれ、祭様と粋怜様は参加なさらないのですか?」

 

「おう、われらは曹操を見張らんといかんからの」

 

「情報じゃ、曹操は軍の再組織と再編成中という事だけれど

いつまた攻めてくるかわからないもの。私たちは雪蓮様と国境防衛よ」

 

「そういう事じゃ。若人ども。しっかり蓮華様を支えるのじゃぞ」

 

「うう~。お二人がいないのはちょっと不安です」

 

「おいおい、そちらには必勝の神使殿がいるんじゃ。

油断はいかんがそう不安がることはあるまい」

 

「そうですね。わかりました」

 

そうして荊州攻略軍が組織された。

軍議は解散し出陣準備がなされる中、孫権、呂蒙、魯粛、太史慈、総司は一室に集まっていた。

 

「さて軍議を始めるわ。まず軍師二人の意見を聞かせて」

 

「はい。包は水燕将軍を独立軍として北部を制圧しつつ

最速で魏興群を抑えるべきですね」

 

「私も同意見です。劉備は後継者に指名されています。

必ず援軍を差し向けるでしょう。

ならばこの中で一番機動力のある八咫烏隊が抑えに回るべきです」

 

「なら俺たちは江夏、南陽経由で魏興に向かうとして本軍はどう動くべきだと思う?

襄陽を一気に抑えてそれから周りを落とすか?」

 

「いえ、襄陽に兵士を集めるでしょうから私たちは抑えの兵を置き、

時間を稼ぎつつ南を落としていきます」

 

「その二群に兵を集めると考える根拠はなんだ?包」

 

「荊州軍は黄祖さんが討たれてからは蔡瑁将軍と蒯越将軍が指揮を執っていますが

お二人は仲が悪く、連携もあまりいいとは言えません。

そして劉表自身は武よりも文に重きを置いた政治をしてきましたから

兵士もそう多くありません。

そんな二人が取れる大軍の孫呉に対して選択肢は」

 

「援軍が来るまで襄陽だけを守ろうと考えるわけか」

 

「はい。襄陽さえ守っていればあとは劉備さんが来てくれる。

劉備さん自身、曹操や孫呉と構える可能性を考えているでしょうから

荊州の土地は欲しいはずです。

ですから確実にこのてをとるかと」

 

「包の言う事は分かったわ。そのうえで考えられる懸念はなに?亞莎」

 

「はい。一番の懸念はやはり劉備軍です。

特に将が誰かによってこちらも急ぐ必要があります。

そのあたりは総司様はどうお考えですか?」

 

「用兵を考えれば皇甫嵩か朱儁のどちらかは大将として出てくるはずだ。

あとは黄忠もあり得るな。

そのほかなら張飛、馬超かだろうと考えてる」

 

「呂布は出てこないと?」

 

「五分だな」

 

「総司にしては曖昧ね」

 

「関羽がいなくなりましたから呂布は温存するはずです。

それにさらに西の五胡の事もありますから

そのあたりを呂布に任せてこちらに兵力をまわす可能性が高いと思うのですが

その逆もありえなくもないでしょう」

 

「強くてどこで使ってもそれ相応の働きをするからこそわからないというわけね」

 

「はい。こちらとしては呂布の戦闘参加を視野に入れて動くつもりです」

 

「わかったわ。総司はそれでお願い」

 

「わかりました」

 

「それであり得ないと思うけどもし荊州軍が各群を守る動きをすればそうするつもりなの?」

 

「その場合は各個撃破していくことになります」

 

「わかったわ。この戦は私たちの今後を占うと言ってもいいと私は考えるわ。

姉さまたちも見ている。しっかり勝つわよ」

 

「「「「はい」」」」

 

孫呉は荊州攻略を開始した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。