愛の炎に、恋焦がれる (ほろほろぼんぼん)
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第1話 誰かの、温もりを。

初めまして。
或いは、この作品も読んでいただけてありがとうございます。

終わりまでのプロットはあるので、不定期更新とはなりますがゆるりとお付き合い頂けると幸いです。
FGOしか知らない人も、ダブルクロスしか知らない人も楽しめる作品を目指します。

清姫ちゃんカワイイヤッター!!!!


ーー誰も、許してくれなかった。誰にも許される事はなかった。

 

目に焼き付くすべては、泣く人、怒る人、悲しむ人、絶望する人、ただそれだけ。

俺の行く所には、誰かの負の感情が付きまとう。

 

 

ーー誰も、聞いてくれなかった。話してくれることはなかった。

 

耳にこびり付くすべては、悼む声、嘆く声、叫ぶ声、助けを乞う声、隠す気もない隔意の雑言。

俺の行く所には、誰かの苦しみが付きまとう。

 

 

ーー誰も、笑ってくれなかった。笑いあってくれることはなかった。

 

人生で受けたすべては、憎しみだった。恨みだった。悲しみだった。誰かの、不幸だった。

アイツを殺せ。なぜ彼を殺した。彼女を殺したお前は死ね。俺はまだ死にたくない。

 

 

すべてすべてすべて、すり潰した。押し潰した。声ごと、言葉ごと、想いごと、人間ごと。

ゴミクズのように、踏み潰した。

 

自分の本心でさえ、そうだった。

 

欲しかった力ではない。望んでいた力ではない。

求めていたのはそんなものでは無い。

 

 

 

 

すべて無くした俺の中で、何故か残る一つのこと。

ある時、いつかの任務をこなしている時に、その妻がターゲットを庇った逢魔時。

 

死体がひとつ増えるだけなのに、自分が死ぬ必要もないのに、身代わりになっても意味などないのに。最後の時まで寄り添って、死ぬその時まで分かたれなかった彼らを思い出す。

 

 

羨ましかった。……考えるな。

妬ましかった。……考えるな。

ああ、なりたかった……寂しかった。

添い遂げる誰かとは言わない……寄り添ってくれる誰かが欲しかった。

 

 

妬ましかった。

ーーーー命に替えられるほど、思われたかった。

羨ましかった。

ーーーー力よりも、あんな終わりが欲しかった。

 

 

 

やるしかなくて、それしか分からなくて、求めることの無意味さを知っていて、一人きりで変わらぬ毎日を過ごす孤独を常に感じていて。

 

 

 

 

ーーーーーーこんなことを繰り返した先にある在り来りな結末など、最初から見えていたのに。

 

 

口から血が漏れる。

再生回数は限界に達しようとしている。いや、既に達していたのだろう。

 

それでも、なお生に縋る。息が漏れる。涙が溢れる。

なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!こんな、こんな目に合わなくてはならない。

 

 

嫌だった。嫌だった。

何かが、訴えていた。叫んでいた。

このまま終わってしまうことだけは、それだけは、どうしようもなく嫌だった。

 

 

突破口を見出そうと周囲を見ても、こちらに絶え間なく飛来する剣閃(殺意)、銃弾(殺意)、炎(殺意)、雷(殺意)、光線(殺意)、殺意殺意殺意殺意!!

 

敵しかいなかった。それは、まるで俺の人生そのもので。

 

俺の終わりには、相応しいものだったのだろう。

そう思った時、手から力が抜けた。

 

 

いや、手だけはない。全身から力が抜けたのだ。

手から刀を取り落とし、浮遊していた魔眼はすべて消え、体を起き上がらせることすらままならず、泥人形へ水を掛けたように、無様に座り込む。

 

 

 

もう嫌だった。死ぬのは嫌だった。抵抗しないのは嫌だった。痛いのは嫌だった。

 

ずっと嫌だった。殺すのは嫌だった。抵抗するのは嫌だった。苦しめるのは嫌だった。泣かせるのは嫌だった。

 

最初から嫌だった。1人なのが嫌だった。寒いのは嫌だった。

 

何よりも、誰かを不幸にしか出来ないのが嫌だった。

 

 

……ここで無抵抗になれば、1人ではなくなるのだろうか。誰かを幸せに出来るのだろうか。

俺の死でもって、誰かを笑わせられるならーー……

 

 

欲しかった。感情を受け止めてくれる誰かが。

好きだった。俺の知らない愛の話が。

望んでいた。誰かを幸せに出来ることを。

 

気づいてしまった、俺の中にあるゴミ箱の中身に。

ぐしゃぐしゃに潰した、ゴミの価値に。

 

 

 

もう、……どうでもいいか。

 

「バカバカしくなった。もう抵抗はしない。楽に死なせろ。」

手を挙げる。ヒラヒラと手を振り、危害を加える気がないことをアピールする。

 

 

これ以上、誰かを傷つけることはしたくない。誰かを不幸にしたくない。

 

人を笑えなくしてまで、俺を守ることに、いったいなんの価値があるのだろうか。

介錯に身を委ねようと、目をつぶり、体から力を抜く。

 

 

 

コツリと、足音がした。それは、目の前で止まった。

目を開くと、そこには1人の男が立っていた。一方的に知っていた顔。この組織の幹部のひとり。

 

日本の防衛を担うもの。ただでさえ混沌に満ちたこの世界で、激戦区のひとつである日本の長を務めるもの。

 

苦しみも悲しみも、全てを飲み込み歩き続ける英雄。意志の力、ただそれだけで獣の衝動を飲み干した傑物。

旧約聖書になぞらえ、世界を喰らう怪物【リヴァイアサン】と呼ばれる男。

 

 

「最後に聞かせてくれ、【リヴァイアサン】

俺がここで死ねば、みんな笑えるんだよな?」

 

 

俺の視界に移る彼の全身は、何故か震えていた。

固く、硬く握しめすぎた拳から血が流れていた。

強く、激しく食い縛られた唇の端から血が滴っていた。

その強い意志を感じさせる目には、涙が光り輝いていた。

 

 

 

ーーなんだ、俺よりも泣きそうじゃないか。

 

泣いてくれた、俺の話を聞いてくれた。

泣いてくれた、俺に感情を伝えてくれた。

泣いてくれた、俺が1人ではないと教えてくれた。

泣いてくれた、俺の悲しみに、初めて共感をしてくれた。俺の苦しみを汲んでくれた。俺の辛さに、思いを寄せてくれた。

 

……そうだ。俺の為に泣いてくれたのだ。

そうだ。それだけで、俺は良かったのだ。

 

これが、リヴァイアサンか。1つの国を任される男。

優しく、人の痛みを知っていて、人を労る事が出来て……それら全てを背負いながら歩き続ける怪物。

 

 

 

「さっきは最後に、と言ったが撤回させてくれ。もうひとつ、伝えたい。

最後に見るのが、貴方で良かった。

…………俺の為に泣いてくれて感謝する。」

 

 

 

 

彼の【能力】なら、苦しみなく逝けるだろう。

もし処分されずに冷凍処置を受けたとしても、堕ちた俺が正気を取り戻せることは無い。

どちらにせよ、【俺】は死ぬのだ。

 

……名前も知らない彼らのように、最後まで寄り添ってくれる誰かは居なかったけれど。

思ってくれる人が居たのは、間違いなく幸福な事だ。

 

 

 

 

最後の瞬間に知った他者の温もりは、ひどく心地が良かった。

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

こうして、UGNの特殊処理部隊として生まれ、名前すら与えられなかった人間は死んだ。

度重なる任務。募るストレス。増えていく怨嗟の声。

組織へ反抗した彼は、ジャームとして処理された。彼を表すのはコードネームしかなかった。

彼を覚えているのは、たった1人の男しか居なかった。

彼に与えられたのは、最後の瞬間の温もりしかなかった。

けれど、彼はーーーーーーーーーー幸福だったのだ。それは、疑いようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー暗転。

意識が遠ざかるのを自覚した。自分の意識が無くなるのだ。これが、終わりなのか。

 

……その直前に、声が聞こえた。何処かからか。誰からか。何からか。それともーーーー世界からか。

『救われない世界を、助けてみたくはないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降りしきる雨に打たれていた。

頭を疑問符が埋め尽くす。俺は殺されたか凍結されたか。どちらにせよ処分を受けたはずだ。

 

【リヴァイアサン】はひどく優しい人間だと最後に知ったが、彼は危険となりうる存在に手心を加えるような甘い人間ではない。

 

 

周りを見渡す。一面の、竹。竹。竹。

 

 

 

瞬時に【魔眼】を形成する。

重力場を放つ。重力の偏差、それにより影響を受ける磁場、電子の偏差より周囲の全てへ【目を通す】

 

 

ここが何処なのか、看板でも見つければ分かるだろうと思ったのだが……悲鳴が見えた。空気の振動を見た。誰かの助けを、見た。

 

俺がこれからどうすればいいか分からなかった。俺が今どんな状況なのか分からなかった。

 

 

けれど、ああ。知ってしまった人の温もりを、手放すことは到底無理な事だった。

知らなければ、封殺出来た。見殺しに出来た。

 

ダメだ、それではダメだ。

それでは、その人は嘆くだろう、恐怖するだろう、そして、何も無くなってしまうのだろう。周りの人達は泣くのだろう。惜しむのだろう。

あの、冷たさを知る人が増えてしまう。

この世界の温もりがひとつ、消えてしまう?

 

 

護らなくてはーー!!!!

 

考えるよりも先に、体は動いた。

魔眼のひとつを頭上に形成。

地球と同じだけの重力を発生させ、自らの重量を軽減。魔眼を更に重ね、重力赤方偏移効果をこの身へ再現する。

加速しろ。ただ、速さのみを求めろ!加速度に身を委ねろ!!!

 

 

通り抜けられそうにない隙間を、空間ごと無理やり広げる。

一直線に向かえ!高速で、最速で、俺の出せる全力で。手遅れになったら、誰かが悲しむのだから!!

 

 

空を翔けた。

 

 

 

瞬きひとつの間。

発せられた誰かの悲鳴が、音として捉えられるようになる前に、俺は【彼女】の前に降り立った。

 

能力を得てから、無駄に高速化された思考でこの状況を考える。

 

 

眼前には、ひどく大きな、黒々とした蜘蛛のようなシルエットを誇るものの、醜悪な人の頭部を持つ怪物が1匹。

 

キュマイラシンドロームを発症しているようにも見えるが、体が感じている。

こいつらは、【同族】ではない、と。

人でないなら、人を殺そうとしているなら……殺してもいいか。

 

 

魔眼のひとつを用いて、謎の怪物へ【目を走らせる】

極限まで効率化され、寧ろ機械的な印象すら受ける歪な臓器を【見ていく】

胸部の中央に、他の動物には存在していない臓器が【見えた】

 

それは非実在と実在の間とでも言うのだろうか。

おそらく、目視では確認できないだろう。

しかし、なんらかのエネルギーを発していることは事実でありーーーーエネルギーを発しているなら、原子や中性子の揺らぎから観測が可能ということだ。

 

 

おそらく、これがこの非科学的な怪物を支える主要な臓器なのだろう。魔眼をそこへ撃ち込む。

 

怪物も少女も、目の前に降り立った俺へ、理解が追いついていない。

魔眼に撃ち抜かれた怪物は咄嗟に咆哮を上げ、こちらを威嚇してきたが……時既に遅し、だ。

 

 

弱点は既に、【俺の目の中】にある。

 

 

「潰れろ」 手を握る。

 

それをトリガーに、撃ち込んだ魔眼の【目が開く】。重力場が怪物の体内に作り上げられた。

周辺に存在する物質を、その構成単位から軋ませる。歪ませる。変形させる。

 

非物質の臓器を、その空間ごと粉砕する。瞬間的とはいえ、時間の停止を成し遂げるだけの出力が、俺の魔眼にはある。

 

核爆発ですら壊れることがあるという【空間】など、俺になら容易にすり潰せるものだ。

 

 

 

ドパァンと、怪物は体内から血飛沫とともに弾け飛んだ。

その血飛沫すら重力場へ吸い込まれて行き、残った物は、体内を丸く刳り貫かれた怪物の体。

 

その巨体を支えるための背骨と、情報伝達を担う脊髄を破壊されたその体は、支えを無くして倒れ込む。

 

さて、非物質がこれで壊れるのか?それとも、耐えているのか?この怪物は死んだか?まだ生きているのか?再生して襲いかかってくるか?

 

 

 

念の為、反撃に備える。

己の眼前を同心円状に回る、複数の高密度な魔眼を展開する。

 

景色が歪む、光が曲がる。

重力レンズ効果を起こすほどの密度の物質が高速で回転することで、目に映る全てのものは捻れ狂った。

 

が、能力で相手を【見通し】ている俺には、それは一切の妨げにならない。もし相手が目視に頼っているのなら、多少の撹乱にはなるだろう。

 

 

手の中へ魔眼を形成。そして、変形。刀の形に整えていく。

相手はこの世に干渉できる物質、つまり質量を持っているのは間違いない。万有引力がその体から発せられていたことも、その裏付けとなる。

 

この刀は、当たった物質の質量そのものを、エネルギーへ強制的に変換出来てしまう程に、超高密度な重力体そのものだ。

余りにも高いその密度から、手元でなければ制御が安定しない。

 

それを正眼に構え、怪物を睨めつける。

相手を、その細部まで注意深く観察する。

 

 

 

動く気配は、なかった。

細胞のひとつ、細胞膜や神経細胞から電気が発せられる気配はない。

不可視の臓器は空間諸共破壊されたらしく、未知のエネルギーは既に観測できない。

 

 

これは、もう大丈夫だろうか。

 

俺の後ろの彼女に、色々と聞く必要があるだろう。

 

 

が、その前にまずは、だ。

 

「俺は【繰り返しの暁光(アルンティーン)】という。少女よ、怪我はないか?」

この朝葱色の着物を着た少女へと、自己紹介をしようか。言語はおそらく、日本語でいいだろう。

 

 

 

「…………」

 

「大丈夫か?そこな少女よ。君は助かった。もう、あの恐ろしい怪物は居ないのだ。」

 

「…………あ、あの!助けていただき、ありがとうございます!!私は清姫と申します。アンチン様と言うのですね!良いお名前ですわ。

宜しければ漢字もお教え頂けないでしょうか?」

 

 

アンチン、ふむ。考え込んでいた時間は、なんと発音したのかよく聞き取れていなかったのだろう。この国では、その発音が通じやすいのか。

何故か顔の赤い少女からは、アンチンという音が飛び出してきた。

 

ーー思考を走らせる。こう答えよう。

 

 

「漢字で書くと、安らかに珍しいで【安珍】という。」

 

「なるほど、ありがとうございます!……安珍さま、安珍さま……ふふ、うふふふ。

そういえば、安珍さまは如何してこのような場所にいらっしゃるのでしょう?」

 

 

何やら嬉しそうな顔をしている。

俺は、この子を喜ばせることが出来たのだろうか?何が琴線に触れたのかは分からないが。

 

 

「あての無い旅をしていたんだが、恥ずかしながら道に迷ってしまってな……ここまで来てしまった。

申し訳ないのだが、この近くの宿を教えてもらうことは出来ないだろうか?」

 

「まあ、まあ!それは大変です!!安珍さまがよろしければ、私の家に泊まりませんか?助けていただいた礼を返したいのです。」

 

「それは願ってもない事だが、いいのか?」

 

「ええ!勿論です!家はこっちです。」

言うが早いか、彼女は歩き出す。

 

 

了承してもないのだが……まあ、好意を無下にすることは無い。

俺なんかへ礼を返してくれるというのだ。有難く、その温かさを享受するとしよう。

 

2人連れ立って、竹林の中を歩き出した。




清姫ちゃんは最終再臨が好きです。

ダブルクロスのセッションの余韻が体から抜けきらず、衝動的に書き上げました。
ダブルクロスの用語の解説が多いのは、そっちの方がマイナーだからです……

用語解説:
【ダブルクロス】 日常に身を起きながら、超常の力で戦う者達の物語。

【UGN】 ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワークの略。日常を守るために戦う秘密組織。どちらかと言うと正義よりだが、黒い話もよくある。

【オーヴァード】レネゲイドウイルスというウイルスに感染し、超能力に覚醒したもの。
超能力を使いすぎると、段々と理性をなくし衝動だけの怪物【ジャーム】へと成り果てる。が、絆の力があると衝動に耐えることができる。
だから日常を守る必要があるんですね(メガトンコイン)

【リヴァイアサン】UGN日本支部支部長。長く現役でいるが、意志の力で衝動を押さえ込みまくってるメンタルアイアンマン。後述のソラリス・シンドロームの持ち主。

【謎の声】FGO……というか、型月世界においての舞台装置。型月世界の大きな意識として、人類の総体意識と惑星の意識の2つがある。それぞれ自己保全の為に色々話しかけてきたり、支援してくれたり、契約を迫ってくることがある。これがどちらかは……。

【シンドローム】超能力の分類。全部で13つある。

【バロール・シンドローム】重力を操作する。また、重力の発生元や重力そのものである【魔眼】と呼ばれる謎の物質を従え、自由に操作できる。

【ソラリス・シンドローム】 化学物質を体内で生産する人間科学工場。毒ガス〜アドレナリン、果ては惚れ薬まで何でも作れる。

【キュマイラ・シンドローム】身体を獣や他の生き物のそれへ変貌させる超能力。主に怪力を得る。

【ノイマン・シンドローム】超能力らしいことは何も出来ないが、常人ができること(計算・スポーツ・射撃・武術)は、なんでも天才的にこなす事ができる超能力。あらゆる言語を理解出来る。

【清姫】 今作のヒロイン。FGOの第1章のクリアー報酬で絶対に仲間になるので原作でも正ヒロイン。


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