耐性スキルのために100回死んだら、死神になりました (暁月 聖人)
しおりを挟む

1話

 辻褄が合わないことやオンラインゲーム上ではあり得ないことが書いてある可能性があると思います。できれば、温かい目で読んでくださると助かります。


 『NewWorld Online』。最新のVRMMORPGで、王道とも言えるファンタジーゲームだ。

 販売開始から数週間で多くのプレイヤーを迎えるほどの人気があり、現状品薄が発生しまくって買うのは難しい。

 しかし、俺は粘りに粘って何とか買うことに成功した。まだ一度もイベントを開催していないため、初回イベントが始まるまでに強くなろうと思う。

 学生だから親からはいい成績を納めていればやってもいいと言われている。そのため、一定の時期(テスト期間が主だろうが)になるとログインが落ちていくが、問題はないだろう。

 そして、俺は初期設定を終わらせて、城下町の広場にいた。

 名前はブレイブにした。武器は大剣で、ポイントの割り振りはAGI寄りにした。

 容姿は現実はそんなに変わらない。だが、リアルバレは嫌だから髪の色は銀色にした。

 ステータスは以下の通りだ。

 

 ブレイブ

 

 Lv1

 HP 38/38

 MP 16/16

 

【STR 20〈+9〉】

【VIT 20〈+28〉】

【AGI 50】

【DEX 10】

【INT 0】

 

 装備

 頭 【空欄】

 体 【初心者の鎧】

 右手 【初心者の大剣】

 左手 【空欄】

 足 【空欄】

 靴 【空欄】

 装飾品 【空欄】

    【空欄】

    【空欄】

 

 さて、まずはダンジョンに行こうか。手に入れたいスキルがあるんだ。

 ダンジョンなんて早い? 戦闘すら行っていない駆け出しは経験値を失うデスペナは気にしなくていいから気楽じゃん。

 それに、手に入れたいスキルは受けることに意味があるから死んでも問題ない。

 俺が欲しいスキルは耐性スキルだ。ネットの情報によると毒や麻痺と言った状態異常は何回も何回も受け続けることで手に入るようだ。

 さらに、攻撃力こそないが状態異常攻撃しかしてこないダンジョンがあるらしい。耐性をある程度あげておきたい人はそこに通いに行くらしい。尤も死なないようにするためにポーションをたくさん買わないといけないため、行こうと思う奴はいないらしいが。

 さて、そんな俺は【地獄神殿】に着いた。中に入るといきなり【ポイズンスライム】という紫色のスライムが出てきた。

 

「よっしゃ、来い!」

 

 俺は手を広げて、攻撃を受ける準備をとる。

 ポイズンスライムは俺に向けて毒液を放つ。俺はそれを受けて毒状態になった。

 

「本当に威力はそんなにないんだな」

 

 さっきの攻撃で受けたダメージは1だ。だが、毒のせいでHPは徐々に減っていった。

 ポイズンスライムはその間もひたすらに毒液を放つ。しばらくして俺は全損して死んでしまった。

 気がついたら城下町の広場にいた。死んだらどうやらここに戻るようになってるらしい。

 

『スキル【死罰軽減】を取得しました』

 

 へ? 何かスキルが手に入った? 何で?

 

【死罰軽減】

 デスペナルティによる経験値減少数を軽減する。

 取得条件

 初戦闘で死亡すること。また、魔法、武器によるダメージを与えないこと。

 

 へぇー。デスペナルティ緩和か。こんなスキル普通手に入らないよな。だって、初戦闘で死亡するどころか攻撃すらもしない奴なんていないはずだからな。

 これ、公開しない方がいいよな。結構有用なスキルだし。

 何より、公開したら色んなプレイヤーに恨まれそう……。これから始めるプレイヤーは大喜びしそうだろうけどな。

 

「しかし、いちいちダンジョンまで行かないといけないのか……」

 

 まあ、いっか。地道に行こうじゃないか。

 俺はそのあともレベルをあげることをせず、ひたすらポイズンスライムの毒を受けて、死亡することを繰り返した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

 毒を受け続けて死にまくった日の翌日。俺はログインして城下町の広場でスキルの確認をした。

 もう何回死んだか分からないがその甲斐はあった。【毒耐性中】を獲得したのだ。それ以上上げるには猛毒を受ける必要があるな。確か、奥に進むとデスポイズンスライムなるモンスターが出るらしい。そいつが吐く猛毒液を食らい続ければ、また上がることだろう。死にやすくなるだろうけど……。

 でも、今回は別の耐性を手に入れよう。そう、麻痺耐性を手に入れよう。

 麻痺は厄介きわまりない状態異常だ。だって、麻痺になったら動けなくなるんだから。俺が最も手に入れたい耐性スキルである。

 

「こいつだな」

 

 だから、昨日よりも少し奥に進んで、【パラライズウルフ】という麻痺攻撃ばかりしてくる狼モンスターを見つけ、攻撃を受けた。

 確率がそんなに高くないのか麻痺になるまで少しかかった。

 

「マジで動けない」

 

 麻痺状態になっているため、倒れて動けなくなる。その間もパラライズウルフは俺に攻撃してきた。

 と言っても、パラライズウルフの攻撃は俺にあまり効いてないのだが。1しか受けてないし。

 

「おかしいな。レベルは1のままだぞ?」

 

 よほど攻撃力がないらしい。掲示板でボスと状態異常以外は初心者向けと書かれていただけはある。

 しかし、もう麻痺は解けてもいいのに、まだ動けない。どういうことだ?

 

『スキル【麻痺耐性小】を取得しました』

 

 え? まさかとは思うけど、麻痺をかけられ続けてるから麻痺が治らないってことか?

 

「……あー、暇だ」

 

 しばらくしてHPは全損され、城下町に転移された。そして、すぐに麻痺耐性を強化するために再度パラライズウルフに挑み、麻痺を受け続ける。

 昨日も思ったが、この作業は根気がいるな。だって、城下町とダンジョンを往復しまくるのだから。

 

「さて、張り切っていきますか」

 

 俺は再び例のダンジョンに向かった。そして、麻痺を食らって城下町に死に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何回毒や麻痺を食らい続けたのだろうか? 数えるのが億劫になり、30くらいから数えなくなった。

 しかも、耐性スキル獲得の道は毒と麻痺で終わらない。凍結、睡眠、スタンとあるのだ。特殊な状態異常もあるそうだが……それは諦めよう。

 凍結に対する耐性はアイスマン(雪色のビックフット)、睡眠に対する耐性はウトヒツジ(眠そうにうとうとした羊)、スタンに対する耐性は超光虫(めっちゃ眩しい蛍)で上げていった。

 そして、【毒無効】、【麻痺無効】、【氷結無効】、【睡眠無効】、【スタン無効】を手に入れた。

 さらに、死亡回数は100回は超えているらしかった。

 というのも、【起死回生】というスキルを手に入れた時、取得条件にそんなことが書いてあったのだ。

 

 【起死回生】

 1日1回に限り、HPが1残った状態で復活する。また、今まで受けてきたダメージを倍にして相手に与える。

 取得条件

 レベルが1の状態で死んだ回数が100回に到達すること。また、それまでに魔法、武器による攻撃を一切行わないこと。

 

 え? 何このチートスキル? 取得条件おかしい! こんなことするやつなんて普通いないし!!

 

「【死罰軽減】もそうだけど、何で運営はレベル1前提で手に入るスキルを実装してるんだよ……」

 

 レベル1なんて1回でも戦闘に勝てばすぐに上がってしまう。そして、初めてログインした大体の人は戦闘して勝ってみたいはずなので、俺みたいに長期間レベル1の人はいない。

 

「ゲーマーに恨まれる要因が増えちまった……」

 

 ただ耐性スキルを手に入れたかっただけなのに、何でこんなスキルが手に入るんだ?

 

「そんなことより、ようやくレベルを上げられる……」

 

 苦労した……いや、マジで。始めてから1週間は経ってるぞ。

 だが、どうするかな……。

 

「防具はおろか武器も金もない」

 

 デスペナルティで失うのは経験値だけではない。金や所持品も失くなってしまう。だから、持っていた所持金は失くなったし、装備も失くなった。いや、装備は耐久値が全損したからか?

 

「仕方ない……素手で倒すか」

 

 掲示板で素手で倒したとか自慢したやつがいた。素手で倒すことは可能なのだろう。時間はかかるだろうが。

 場所は……森? いや、あのダンジョンでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 運営はとあるプレイヤーによって騒ぎになっていた。

 

「嘘だろ!? 【起死回生】を手に入れたやつがいる!?」

「馬鹿な!? レベルを上げずに何をしてるんだ、そのプレイヤー!?」

 

 【起死回生】は運営が悪ふざけで実装したスキルだ。手に入るわけないと踏んで凶悪なスキルに設定してしまったのだ。

 そもそもの話、初めてすぐにレベルをあげることをせず、攻撃もすることもなく、ただやられまくって死んでいくプレイヤーが出てくるなんて誰も想像できないだろう。いたとしても100回も死ぬなんて普通ではない。

 

「名前は?」

「ブレイブというらしい」

勇者(ブレイブ)って……相応しい行動しろよ」

 

 勇者とは思えないプレイしているブレイブに運営は首を横に振る。

 因みに、彼がブレイブという名前にしたのは自分の名前が『勇気』だからなのだが、運営がそれを知る由はない。

 

「【地獄神殿】を周回してる!? よ、よりにもよって、地獄神殿……」

「え? マジで? あそこってあのギミックがあるよな?」

「だ、大丈夫だろ? 多分……」

 

 運営が話題に上げているギミックというのは地獄神殿での死亡回数に応じてボスが変動すると言うものだった。

 地獄神殿のボスは【地獄鬼】という棍棒を持った鬼だ。だが、それが死亡回数が10回なら【地獄豪鬼】、30回なら【ツインヘッドウルフ】、50回なら【ケルベロス】と言った具合に強いモンスターへ変動していくのだ。当然、100回も地獄神殿で死んだブレイブが戦うボスは【地獄鬼】ではない。いや、それどころか変動するボスの中でも最強のボスになっている。

 ろくにダメージが通らず、毒くらいしかまともに死ねないダンジョンで何でそんなギミックを実装したのだろうか?

 

「……見守るか」

「だな。もし万が一あれが単体で倒されたら……そのときになったときに考えよう」

「そもそもあいつは倒されないって。HPが一定以下になったら1回限りの即死確定攻撃するんだぜ?」

「いや、そんなボス実装するとかバカだろ」

 

 あれ、あいつと呼ぶボスを作った運営の一人が親指をたてて言う。そいつに対して全員が冷たい視線を送るのだった。

 無理もあるまい。そんなボスがいるとプレイヤー側に知られたらクレームが殺到すること間違いなしなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は地獄神殿で経験値稼ぎを始めた。

 

「ふぅ。レベルが上がった」

 

 素手でポイズンスライムを倒して、ようやくレベルが上がった。

 しかし、初めてレベルが上がるのに1週間以上かかるって……。

 

「とりあえず……レベルを10くらい上げておきたいな」

 

 ボスに単体で勝つにはそれくらいは欲しいよね。

 ということで気張っていこう。

 俺はモンスターを素手で倒していき、経験値やお金を稼ぐ。

 攻撃を受けてもそんなにダメージは受けないし、状態異常にならない。なにも装備してなくても倒せるっていいね。時間はかかるけど……。

 ある程度狩り、レベルが8になったところでログアウトした。

 

「うわ。またすごい時間になってるな……」

 

 時間は夜の8時。ガッツリプレイしちまった。

 

「お兄ちゃん。いい加減にゲームを止めないとって戻ってきてる」

 

 俺は被っていたVR専用ハードを取ってベッドから降りたところで、妹の桜が俺の部屋に入ってきた。

 

「おう、桜。母さん、怒ってる?」

「怒ってるよ。激おこ。もう、勇気お兄ちゃん、ゲームは程程にね」

「うぇーい」

「はいでしょ? 私も怒るよ?」

 

 つめたい目で桜は俺を見て叱る。俺ははい、分かりましたと適当に返事した。

 

「それにしても、そんなに面白いの?」

「面白いぞ。レベルも8になったし」

「え? お兄ちゃんってそのゲームを始めてもう1週間になったよね?」

 

 おかしくない? と目で訴えていた。うん。俺もそう思う。

 

「色々あるの。スキルの獲得とかスキルの獲得とか」

「私、ゲームのことはよく分からないけど、お兄ちゃんのゲームの遊び方がおかしいってことはわかったよ……」

 

 桜は呆れのため息をついて、部屋から出た。俺もその後を追いかけるように部屋から出た。

 尚、母さんにゲームのやりすぎとかゲームにかまけて成績が悪かったらどうなるか分かってる? とか説教されたのは言うまでもない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 最初、ちょこっとだけ現実の話があります。
 そして、ようやく戦闘……まともに書けてるといいなぁ。


 レベル上げ活動が始まった日の翌日。俺はだるそうに登校していた。

 昨日は日曜日だ。つまり、今日は月曜日。学校がある日。休み明けの学校ってなんでこうもダルいんだろうね?

 

「あー……おぶっ」

 

 教室に入って、席に着いたその瞬間、俺は力尽きるように机に伏せた。

 ゲームで死にまくった影響だろうか? ダルいし、力がでない。

 まあ、いいか。HRが始まるまで寝てよう。どうせ、声をかけるやつはいない。だって、友達いないし。

 ……ぐす。悲しくなってきた。ボッチは辛い。

 

「おはよう、多々野君」

「…………」

「返事くらいしろ!!」

「ぐぼっ!?」

 

 誰かに声をかけられたと思ったら後頭部に衝撃が!?

 

「誰だよ! 人の頭を痛め付けるやつは! 脳細胞が死滅したらどうしてくれる!?」

「折角挨拶したのに、無視する方が悪い」

 

 顔を上げるとアワアワしてる本条さんと少し怒ってる白峯の姿があった。

 

「あ、おはよう、本条さん。そして、白峯ぇ。てめぇ、俺の頭に何するんだ! 無視したのは悪かったが、暴力はないだろ!」

「うるさい! 折角楓がボッチのあんたに声をかけたのに、返事しないとはどういうことよ!」

 

 ボッチとは失礼な! 事実だけど、言うな!

 

「それで、俺になんか用か?」

「ううん。挨拶しただけだよ。私の隣だし」

「いつも思うんだが、隣ってだけで挨拶しなくていいんだぞ」

 

 周りを見ると俺に視線を合わせないように目をそらすやつばかりが視界に映る。

 俺の目付きが悪いせいだ。この二人を除けば俺を怖がるやつばかりなのである。

 

「それに、俺のこと怖いだろ?」

「?」

 

 本条さんは何を言ってるか分からずに首をかしげていた。

 

「楓はそんなこと気にしないって前にも言ったでしょ?」

「分かってるけどな。周りを見ると……」

「放っておきなさい。見た目でしかものを判断できない人ばかりだから」

 

 白峯が呆れた顔で周りを見ながら俺に言う。いや、最初は俺のことを怖がっていたお前が言うか?

 それにしても、何で二人は俺に声をかけてくるんだろうな。ただ、隣の席ってだけなのか?

 そんな疑問を抱いているとチャイムが鳴った。

 本条さんと白峯が各々席に着き、しばらくして先生が入る。そして、HRが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ログインした俺は戦いによって得られた金で鎧と剣を購入した。レベルをある程度上げたらボスに挑戦しようと考えたのだ。

 スキルも金で手に入れた。【パワーアタック】と【スラッシュ】というスキルだ。

 ポーションも買えるだけ買い、地獄神殿に挑む。

 俺は地獄神殿に来るとモンスター狩りを始めた。

 もうね。大剣があるかないかで全然違うね。素手とは大きく違う。

 

『レベルが20上がりました』

 

 そして、数日間レベリングした結果、レベルが20になった。ポイントを割り振ろう。

 

「こんなものか」

 

 ブレイブ

 レベル20

 HP 338/338

 MP 216/216

 

【STR 40〈+10〉】

【VIT 20〈+20〉】

【AGI 55〈+5〉】

【DEX 10】

【INT 0】

 

 装備

 頭 【空欄】

 体 【鉄の鎧】

 右手 【鉄の大剣】

 左手 【装備不可】

 足 【空欄】

 靴 【布のブーツ】

 装飾品 【空欄】

    【空欄】

    【空欄】

 スキル

 【死罰軽減】【起死回生】【毒無効】【麻痺無効】【氷結無効】【睡眠無効】【スタン無効】【大剣の心得Ⅱ】【パワーアタック】【スラッシュ】

 

 うん。かなり強くなれたな。これで、ボスに勝てる……のか?

 

「うーん。スキルが心許ない。何とかなるか」

 

 俺はボス部屋に向かうため、奥へ進撃する。

 

「VITが高いお陰かダメージが全くない。状態異常がないとか楽勝過ぎて笑える」

 

 敵を倒しながら進んでいくと赤い大きな扉の前まで到着した。

 

「ボス部屋だな」

 

 情報によると【地獄鬼】という棍棒を持った鬼らしい。攻撃力はあるが動きは遅く、単騎で攻略した人がたくさん出ていると言われてるくらい弱い。

 俺は楽勝だなと心の中で言って扉に触れる。

 

「え?」

 

 その瞬間、俺の体がドス黒く輝きだし、黒い塊がいくつも出てきた。

 黒い塊は扉に吸収されていき、赤から青へ、青から藍色へ、藍色から紫へ、紫から黒へ変化していった。

 

「なにこれ? こんなこと情報には……」

 

 体が元に戻る。何かしらのギミックが終わったらしい。

 何か嫌な予感がする。この先にいるのって本当に【地獄鬼】なんだろうか?

 扉を開けて、慎重な足取りで中に入っていく。

 

『罪人よ。待っていた』

「え?」

 

 ボス部屋にいたのは漆黒の外套を纏い、大きい鎌を持った骸骨だった。

 その見た目は一言で表すとすれば、死神だろう。おかしい。鬼はどこ行った?

 

『怨念を溜め込み、地獄神殿を汚す。その所業を許さない』

「な、何のこと?」

『汝ら冒険者は死んだら魂を特定の場所へ移動させて肉体を再生させる』

 

 ゲームの蘇生措置のことだろうか? 冒険者というのはプレイヤーのこと?

 

『ここは特殊でな。死んだ場合、ここに彷徨う怨念もついていってしまう。そして、肉体を再生させるときに中に蓄積させていく』

 

 え!? じゃあ、あの黒い塊はここを彷徨う怨念!?

 

『本来、別の場所で死ねば怨念はその場所で散る。だが、あろうことか汝は何度もここに訪れては死んでいった』

 

 だから、怨念が蓄積されていったと……。

 

『怨念を吸収する扉のお陰で汝の怨念は消えた。だが、その怨念のせいで、鬼達が苦しんでいる。ケルベロスさえも伏せてしまった』

 

 鬼というのは【地獄鬼】のことか? ケルベロスってなに? 知らないんだけども!?

 

『同じことを汝は繰り返すだろう。なら、我の手で葬ってくれる!』

 

 死神は俺に向かって飛んでくる。そして、鎌を振り下ろした。

 俺は横に転がって鎌を避ける。大剣を抜いて、死神と対峙した。

 

「バトル開始ってか! やってやる!」

 

 俺は振るってくる鎌を避けたり、大剣で受け止めたりして、すれ違いに切りつける。

 

『くっ。なら、これを食らうがいい!』

「いっ!? うおっ!?」

 

 死神は俺から少し離れると青い火の玉をいくつもの出現させる。そして、俺に向けて放った。

 何個かは避けれたけど、やはり数が多いので食らってしまう。

 

「くそ。こんの!」

 

 俺は避けるだけでなく、大剣で切り捨てた。火球はそこまで速くないからできる。でも、数が多い。

 死神はしばらく火の玉を放っていたが、やがて、俺に向かって突撃してきた。

 俺はその突撃するわずかな時間を利用してポーションを取り出して、飲み込んだ。

 死神は鎌を振るい、火の玉を放つ。その攻撃に隙はない。なんだこいつ!? 強すぎ!?

 俺は避けたり、剣で防いだりして相手の攻撃を防ぐ。そして、一瞬の隙を見抜き、通常攻撃や【パワーアタック】、【スラッシュ】でダメージを与えた。

 途中で、毒の息吹や凍える息吹を放ってきたが、俺には効かない。無効スキルがあるからな。

 

『ぐぬっ。まさか、これほどの強さとは。だが、我は負けるわけにはいかんのだ』

 

 体感的に1時間経ったころだ。死神のHPが1割近くになったところで死神は俺から大きく離れてそんなことをいった。

 死神の鎌が漆黒になり、ドス黒い靄が蓄積されていく。ものすごくヤバい予感がする。

 とんでもない攻撃が来る。俺はポーションを飲んでHPを回復させつつ、大剣を構えて、死神の攻撃に備えた。

 

『この鎌は汝の魂を狩る! いかに、防御力があろうと、いかに、強力な肉体であろうと無意味!』

 

 防御力はVITで肉体はHPだとすると……即死攻撃!?

 ふざけるな!! そんなものなにやっても死ぬじゃねぇか!? 運営め! 何を考えてやがる!?

 

「避けるしかない!!」

 

 俺は集中して、敵の攻撃を避けることだけを考える。

 鎌が靄によって見えなくなった。力がたまったのだろう。

 死神はすぐに俺へ接近すると鎌を一瞬で振り下ろす。

 

「あっぶな!?」

 

 速すぎない!? しかも、一度で終わらない!?

 死神は即死攻撃を絶え間なく行う。俺は攻撃を見切って攻撃を避けていった。

 防戦一方であった。攻撃しようにも鎌が速すぎて避けるので精一杯である。

 しかし、俺はやってしまった。床に足を引っ掻けてしまい、転んでしまったのだ。

 

「しまっ」

 

 死神はその隙を見逃すはずもなく、無防備な俺に向けて即死の鎌を振るう。

 

「ぐっ!」

 

 鎌は俺の腹を切った。終わりだ。そう思ったが、HPが全損することはなかった。

 何とか1残ってる。何で……そうか! 【起死回生】!

 俺は立ち上がり、死神に向かって笑みを浮かべた。

 

『何……?』

「運がなかったな。これで、終わりだ!」

 

 【起死回生】の効果か、剣が白いオーラを纏っていた。

 

「倍返しだぁー!!!」

 

 俺は剣を勢いよく死神に向けて振り下ろした。

 【起死回生】の一撃は見事死神に決まり、HPを全損させた。

 

「終わった……」

『我が……負けた、のか……。止めをさせ。さすれば、汝は死神の力を得るであろう』

 

 死神は跪き、首を俺に差し出した。これを切れば、ダンジョンはクリア。報酬をゲット! ってなるんだろう。

 

「……因みに、お前が消えたら、どうなるんだ?」

 

 何となく気になって聞いてしまった。だって、死神って地獄だと最上位にいる人だろ?

 

『我が消えたら、この地獄神殿は荒れるであろう。鬼達も悲しむ』

「そっか。なら、切らない」

『何?』

「この神殿にはお前が必要だ。だから、切りたくない」

 

 ゲームのシナリオだから、気にしなくていいんだろうが、良心が傷つくんだよ。

 

『見逃すというのか? 強力な力はいらぬと?』

「強力な装備は欲しい。でも、力はいいよ。それと、すまなかったな。もう怨念を持ってこないよ」

『不思議なやつよ。ならば、我の力の一部、そして、配下であるケルベロスの召喚権を与えよう』

 

 死神は俺に向けて手をかざす。すると俺の体が赤く光出した。

 

『スキル【地獄魔法】を取得しました』

『スキル【ケルベロス】を取得しました』

『スキル【鎌の心得Ⅰ】を取得しました』

『スキル【死への誘い】を取得しました』

『スキル【即死無効】を取得しました』

 

 うおぉ。たくさんスキルが手に入った。

 

「あ、ありがとう」

『これも受けとるがよい』

 

 今度は下に翳すと漆黒の宝箱が出現した。

 

『我の装備一式だ。予備として用意していたが、汝に使ってもらいたい』

 

 宝箱を開けると鎌と黒い外套、白い手袋が入っていた。

 

【ユニークシリーズ】

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。

 一ダンジョンに一つきり。

 取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

『魂狩ノ鎌』

【STR+30】

【破壊成長】

【魂の共鳴】

 スキルスロット空欄

 

『地獄ノ黒衣』

【VIT+10】

【AGI+10】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

『生者ノ手袋』

【INT+20】

【破壊成長】

 スキルスロット空欄

 

 これもスゴいな。ユニークシリーズって……。

 しかも、鎌だと? 【鎌の心得Ⅰ】ってスキルがあるからまさかとは思ったが……。

 鎌なんて武器カテゴリーにはなかった。つまり、ユニークウエポンの可能性がある。スゲェ。

 

『では、さらばだ』

 

 死神はそういって消えていった。俺は疲れてその場に倒れ込む。

 

「疲れたー!! 少し休憩だ」

 

 スキルの確認とかは明日にしよう。

 俺はしばらく寝転がるとダンジョンから出てログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、運営はまた騒いでいた。【死神】がブレイブの手によって葬られたのだ。

 

「ブレイブが死神を倒した!」

「誰だよ! 倒されないとか言ったやつ!!」

「お前だ!!」

 

 運営はとりあえずブレイブの戦闘動画を再生した。

 

「火球を切ってる!?」

「ペイン以外で魔法を切ってるやつ初めて見た」

 

 そこまで速くないとブレイブは思っていたようだが、実はそんなことは全然ない。

 目で追うことはできるだろうが、それを剣で切るのは至難の技だ。しかも、大剣だと重い分難しい。

 本人は自覚ないが、ブレイブは人よりも動体視力が優れている。火急と鎌の攻撃を掻い潜りながら隙を見つけるところから何となく運営も察した。

 

「しかも、和解ルートを進みやがったよ。どうしよ?」

「修正するか?」

「イベントがあるんだぞ!?」

「無理だよなぁ」

 

 こんなに騒ぐのに理由がある。

 【死への誘い】というスキルのせいだ。このスキルはあらゆる攻撃に即死が付与される。確率こそ低いが、範囲の広いスキルを使った場合、運が良ければレベル差関係なく一掃されてしまう。ゲームバランスの崩壊が予想されるスキルだった。

 不幸中の幸いは即死はボスには効かないことだ。ボスにまで効いたら目も当てられない。

 

「イベント後に修正をかけるか」

「第1回イベント……まともに終わってくれ」

 

 運営が全員思ったことを誰かが呟いた。




 【死への誘い】はかなりチートなスキルです。気に入らない方はいるかもしれませんが、第1回イベントが終わるまでは待ってくださると助かります……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

 死神と戦った日の翌日、俺はログインするとすぐに宿に入り、自室でスキルを確認した。

 

【地獄魔法】

 【地獄の業火】、【猛毒の霧】、【地獄火球】、【針地獄】、【極寒の息吹】、【氷炎地獄(インフェルノ)】が使えるようになる。

 

【地獄の業火】

 前方に地獄の炎を放つ。

 

【猛毒の霧】

 自分の周囲に猛毒の霧を5分間展開する。

 

【地獄火球】

 球状の地獄の炎を複数放つ。

 

【針地獄】

 指定範囲に巨大な剣山を召喚する。

 

【極寒の息吹】

 相手を凍らす風を前方に放つ。10秒間受け続けた相手は凍結状態になる。ただし、ボスには効果がない。

 

氷炎地獄(インフェルノ)

 指定範囲に炎と氷の柱を出現させる。

 

 【地獄魔法】、思ってたよりも強力だった。でも、消費MPは大きいな……。

 次も見ていこう。

 

【ケルベロス】

 2分間ケルベロスを召喚することができる。

 

【死への誘い】

 あらゆる攻撃に即死を付与する。即死は5%の確率で発動する。

 

 待って。【死への誘い】はダメだろ! 下手したらゲームバランスが崩壊するよ!?

 

「運営は何を考えて……いや、もしかして、手に入ることを想定してなかったとか?」

 

 死神の口振りからして地獄神殿の死亡回数に応じてボスが変わるのかもしれない。そして、よほどのことがない限りは死ににくいあのダンジョンではギミックが発動しない。そもそもデスペナを恐れて進んで死のうとするやつはいないはずだ。

 だからってやりすぎだよな。

 

「えーっと、他には……」

 

【即死無効】

 即死を無効化する。

 

 予想通りだな。

 

「そもそも即死にならないけどな。っと、次は装備だな」

 

 俺はメニューを操作して手に入れたユニークシリーズを装備した。勿論、スキル確認も忘れずに行う。

 

【破壊成長】

 この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。

 

 スキルスロット

 自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。

 付与したスキルは一日に5回だけMP消費0で発動出来る。

 それ以降は通常通りMPを必要とする。

 スロットは15レベル毎に一つ解放される。

 

【魂の共鳴】

 触れているものの魂を共鳴させる。共鳴させる対象によって効果は変わる。

 プレイヤー:MPを消費してプレイヤー、あるいは、自分が使おうとするスキルを強化する。

 物体:MPを消費して物体を自在に操ることができる。

 モンスター:成功すれば従わせることができる。ただし、10秒毎にMPを1消費する。

 鎌:MPを消費して強力な鎌鼬を放つことができる。

 

 魂の共鳴ってスキル面白いな。サポート兼必殺技とはな。モンスターをテイムできるみたいだし。戦闘の幅が広がる。

 スキルスロットも有用だ。とりあえず、【地獄魔法】、【ケルベロス】はスキルスロットにつけよう。

 

「うーん。これからどうするか……」

 

 レベル上げと金稼ぎ、スキルの熟練度上げがメインだろうな。でも、装備ももう少し欲しいし、新たなスキルも欲しいな……。やることがたくさんある。

 

「装備は金がたくさん手に入るまで後回し。スキルも後でいいか。だとするとやっぱりレベル上げと金稼ぎか」

 

 方針は決まった。動くとしようか。

 

 

 

 

 

 

256:名無しの大剣使い

 鎌使いを見つけた

 

257:名無しの魔法使い

 は?

 

258:名無しの弓使い

 見間違いじゃないのか?

 

259:名無しの大剣使い

 いや、間違いない

 

260:名無しの弓使い

 鎌なんて武器カテゴリーはないはずだが

 

261:名無しの槍使い

 ユニークウエポン?

 

262:名無しの魔法使い

 あり得る……のか?

 

263:名無しの弓使い

 本人に直接聞いてみたい

 

264:名無しの大盾使い

 俺、話しかけたぞ

 

265:名無しの槍使い

 kwsk

 

266:名無しの大盾使い

 ごめん。口止めされてる。喋ったら魂を狩られる

 

267:名無しの魔法使い

 それは比喩?

 

268:名無しの大剣使い

 死神みたいな格好してたから比喩ではない可能性が……

 

269:名無しの槍使い

 マジかww

 

270:名無しの大剣使い

 男? 女? 外套のせいで、顔がわからなかったんだよな

 

271:名無しの大盾使い

 男だ。しかも、目付きが悪い

 

272:名無しの槍使い

 何だ。男か

 

273:名無しの鎌使い

 名無しの大盾使い。目付きが悪くて悪かったな。てめぇ、魂狩られたくなかったら、いい鍛冶屋紹介しろ

 

274:名無しの大剣使い

 本人、見てたww

 

275:名無しの槍使い

 ドンマイww

 

276:名無しの大盾使い

 ごめんなさい。いい鍛冶屋紹介するので、魂を狩らないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は大盾使いであるクロムに鍛冶屋を紹介してもらった。

 クロムは俺が森でモンスターを狩っているときに話しかけてきたプレイヤーだ。鎌を使うプレイヤーは俺だけだし、珍しいと思ったのだろう。

 クロムがどのように手に入れたか聞いてきたので、口止めすることを条件に鎌を手に入れた経緯を話した。スキルは話してないけどな。

 そして、その日の夜。あろうことかクロムは掲示板で俺のことを話していた。しかし、口止めの約束を守っていたため、見逃そうとした。が、俺のことを貶しやがったので、脅して鍛冶屋の紹介をしてもらうようにしたのだった。

 

「いらっしゃい。あら、クロムじゃない」

 

 鍛冶屋に入ると青髪の女性がクロムに気づいて声をかけた。

 

「イズ。実は紹介したいやつがいてな」

「その銀髪の子?」

 

 イズと呼ばれた女性が俺の方を見る。自己紹介した方がいいか?

 

「ブレイブだ」

「イズよ。シンプルな装備ね。ここに来たのは新調のため?」

「まあ、そんな感じ。あ、この装備のメンテはいらないよ」

「あら? 何でかしら?」

「…………」

 

 クロムに信用できるかどうか視線で問う。クロムはそれに対して頷いてくれた。

 

「俺の装備は破損しても再生するんだ」

「そうなの? 何とも生産職殺しの装備ね」

「でも、それはこの外套、手袋と武器だけでな。それ以外の装備は違うんだ」

「へぇー。因みに、どんな武器を使うのかしら? 何故か武器が見えないのだけど?」

 

 そう。イズが言うように俺は武器を出さないようにしてる。だって、鎌を持っていたら目立つでしょ?

 

「あー、鎌だ」

「あら。鎌? そんな武器があるのね」

「ユニークウエポンだと思う。地獄神殿の隠しボス? を倒したら手に入った」

「あそこ、隠しボスがいたのね。興味深い情報だわ。触らせてもらっても?」

「ああ」

 

 俺は鎌を出すとイズに渡した。

 イズは楽しそうに鎌を触り、俺に返してくれた。

 

「中々に面白いお客を連れてきたわね」

「あはは。脅されて案内したんだよ……」

 

 あれはお前が悪い。人が気にしてることを言いやがって……!

 いや、目付きを普通にすればいいんだろうが、それだと自分を否定するようで嫌だったんだよな。

 

「それにしても、ブレイブ、ね。勇者というより、悪魔よね」

「それは俺も思った」

「くそ。こんな姿になるならこんな名前にするんじゃなかった……」

 

 本当は騎士っぽい格好になる予定だったのに……! だから、武器は大剣にしたんだぞ!

 

「ところで、装備を作るとして、どのくらいかかるんだ?」

「100万Gは最低でもかかるわ。それに、素材も必要よ」

「マジか」

 

 素材は予想していたが、お金が思ってたよりも高い! 全然足りないよ……。

 

「その顔だとまだそんなにお金に余裕はないみたいだな」

「すぐに貯まるわよ」

 

 そうだとしても、ポンと出る額じゃないよ……。よく考えてお金を使わないとな。

 俺はイズとフレンド登録し、お金が貯まったら装備を作ってもらう約束をつけるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 俺がNWOを初めてから2ヶ月が経過した。

 俺は格好のせいか死神の異名を得てしまった。まんま過ぎて初めて聞いたときは吹いた。だが、クロムが言ったらムカついたため、殴り殺した。……つまり、即死で殺してしまったのである。運がないやつめ。……そして、ごめん。ヤるつもりはなかった。

 尚、その後、軽いメンテで街中での即死無効という意味不明な修正が入ったのだが、明らかに俺のせいだろう。ごめんね、運営。ありがとう。

 さて、話を変えよう。

 本日はついに第1回イベントが開催される。

 俺は今日のためにスキル集めと経験値集めを頑張ったんだ。お陰で、レベルが40まで上がった。徹夜しまくった。その分、母さんに怒られたけども……。

 以下が今のステータスだ。

 

ブレイブ

 レベル40

 HP 338/338〈+30〉

 MP 316/316〈+30〉

 

【STR 40〈+45〉】

【VIT 20〈+25〉】

【AGI 75〈+25〉】

【DEX 20〈+10〉】

【INT 35〈+35〉】

 

 装備

 頭 【空欄】

 体 【地獄ノ黒衣】

 右手 【魂狩ノ鎌:ケルベロス】

 左手 【装備不可】

 足 【地獄ノ黒衣】

 靴 【風の草履】

 装飾品 【パワーリング】

    【魔法の腕輪】

    【生者ノ手袋:地獄魔法、ヒール】

 スキル

 【死罰軽減】【起死回生】【毒無効】【麻痺無効】【即死無効】【睡眠無効】【氷結無効】【スタン無効】【大剣の心得Ⅱ】【鎌の心得Ⅴ】【パワーアタック】【スラッシュ】【死への誘い】【筋力強化小】【HP強化小】【MP強化小】【MPカット小】【MP回復速度強化小】【跳躍Ⅰ】【気配感知Ⅴ】【気配遮断Ⅲ】【魔法の心得Ⅲ】【火魔法Ⅱ】【氷魔法Ⅰ】【毒魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】【しのび足Ⅱ】【体術Ⅴ】

 

 かなり強くなったと思う。一番苦労したのは体術スキルだ。丸々1日使って上げたからな。お陰で、独特な戦闘スタイルが確立できたんだが。

 だけど、それでもトッププレイヤーに通用するか分からないんだよなぁ。

 

「やるだけやってみるかね」

 

 俺は周りを見てそう呟く。

 この場にいるプレイヤーは多い。100人は超えてるな。

 ペイン、ドレッド、ドラグ、カスミ、シンなどトッププレイヤーも参加していることだろう。

 

『ガオ~! それでは、第1回イベント! バトルロワイヤルを開始するドラ!』

「「「「「「オオォォォォォ!!!」」」」」」

 

 ヘンテコなチビドラゴン、ドラぞうのアナウンスにイベント参加者が盛り上がる。

 マスコットキャラらしいが、緩すぎないか?

 

『それでは、もう一度ルールを説明するドラ! 制限時間は3時間。ステージは新たに作られたイベント専用マップドラ! ポイントは倒したプレイヤーの数と倒された回数、被ダメージと与ダメージで算出されるドラ! ポイントが高い上位10名には記念品が贈られるから、皆頑張るドラよ?』

 

 ドラぞうからの説明が終わると各プレイヤーはスタート地点に転移された。

 俺のスタート地点は森だ。

 

「さて、始めようか。魂狩りの時間だ」 

 

 俺は鎌を両手に持ちつつ、森を駆け始めた。

 【気配感知】を利用してプレイヤーを探す。

 

「よぉ」

「し、死神!」

「お前の魂、いただいた!!」

 

 俺はプレイヤーを見つけると鎌を振るう。

 草陰から俺が現れたせいかプレイヤーは俺の動きに反応できなかった。

 首を切られ、プレイヤーは全損して消滅した。

 

「ふぅ。っと」

 

 俺は何かを感じて後ろに跳ぶ。すると、俺のいたところにナイフが刺さった。

 

「まさか、避けるとはな。【気配遮断】のレベルは高いはずだから気付かれないと思ったんだが……」

 

 ナイフが飛んできた方を見ると木の幹に緑の衣を纏ったアサシン風の男がいた。

 【気配感知】に引っ掛からなかった。直感が働かなかったらやられてたな。

 

「ドレッド……」

「お? 俺のことを知ってるのか?」

「AGI特化の中で、強いプレイヤーであるお前は注目していたからな」

「そりゃ、光栄だ」

 

 ドレッドは幹から降りて、俺に向かってナイフを振るう。俺は鎌で受け止めた。

 

「鎌使いなんて初めて戦うぜ。楽しませてくれよな」

「はっ。上から目線かよ。生意気だぞ!」

 

 俺はナイフを横に流し、体を捻って鎌をドレッドを振るった。ドレッドがすぐに下がってしまい、空振ったけど。

 ドレッドはまた距離を詰めて、ナイフの連撃を繰り出す。

 

「くっ。この野郎!」

「ぐぉ!?」

 

 俺はナイフの連撃を鎌で防ぎ、がら空きの一瞬をついて()()()()()()()()()()

 

「おまっ。よ、容赦無し……! 卑怯だぞ……!!」

「知るか。【魂の共鳴】!!」

 

 俺は鎌に向けて【魂の共鳴】を発動させる。

 鎌の刃が漆黒に染まる。そして、漆黒の鎌鼬を股間の痛みで倒れてしまっているドレッドに向かって放った。

 ドレッドは鎌鼬を食らい、消滅した。レベル的にHPが残りそうなものだが……。

 

「即死か。不運だな。……はぁ」

 

 ドレッドを倒して一息かと思ったが、そうもいかないらしい。

 【気配感知】で次のプレイヤーを補足した。どうやら、今度は複数らしい。

 

「死神だ!」

「やってやるぞ!」

「倒せ倒せ!!」

 

 しかも、あちこちでプレイヤーがこっちに近づいてる。何でだ?

 ……あれを試してみるか。

 

「【ケルベロス】!!」

「「「ワウゥーン!!」」」

 

 俺の目の前で魔方陣と炎が出現し、三つ首の狼、ケルベロスが姿を現した。

 

「ケルベロス! 敵を食らえ!」

 

 ケルベロスは俺に命令に従い、プレイヤー達へ攻撃していった。

 食らい、爪で凪払い、炎を吐き出す。壮観だなぁ。

 勿論、俺も攻撃してるよ?

 

「【地獄の業火】!【針地獄】! オラよ!」

 

 青い炎を放射して、剣山を出現させる。近づいてきたら鎌で切り、蹴り、殴る。

 飛んでくる魔法は鎌で切ったり、避けたりして凌いでいた。ノーダメージとはいかないが、HPは八割を切ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、観客席では、ペインやブレイブ、そして、とあるプレイヤーを注目していた。

 

「ペインはスゴいな。あれ、人間?」

「同時に飛んでくる魔法を難なく防いでる。あり得ねぇ」

「ブレイブもヤバイな。ケルベロスか、あれ?」

「どうやら、長時間召喚できる訳じゃないみたいだな。でも、すぐに再召喚してる。ケルベロス扱いの荒いやつだな」

「いや、魔法もヤバイぞ。八大地獄を想像させるな」

「見ろよ。あのプレイヤーもヤバイぞ!」

「メイプル? 知らないプレイヤーだな。てか、何、あの防御力?」

「ハンマーを頭に当ててるのに弾き返したぞ!?」

「盾が魔法どころか武器で攻撃してきたプレイヤーすらも吸収してる……」

「魔法もえぐいな。猛毒の魔法とか……」

 

 ペインはどんな攻撃も冷静に防ぎ、次から次へとプレイヤーを切っていく。

 ブレイブはケルベロスという獣を召喚し、炎でプレイヤーを燃やし、鎌や体術で敵を倒していく。

 メイプルという聞いたことのないプレイヤーはどんな攻撃も無傷で、盾は魔法も武器もプレイヤーすらも吸収する。

 しかも、吸収したMPを使って毒魔法を使う。猛毒に犯され、麻痺で体を動かせないでいる相手プレイヤーは不憫に思える。阿鼻叫喚という言葉がふさわしい光景だ。

 

『ガオ~! 現在の1位はペインさん、2位はブレイブさん、3位はメイプルさんドラ! これから1時間、上位3名を倒した際、得点の三割が譲渡されるドラ! 三人の位置はマップに表示されるドラから、一発逆転が狙えるドラよ! それじゃあ、最後まで頑張るドラ!』

 

 ドラぞうからの経過報告のアナウンスが響き渡る。イベントの終わりが近づいていく。ペイン、ブレイブ、メイプルの3人の戦場は激化することが予想された。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の位置がマップに表示されるようになったせいか、次から次へとプレイヤーが襲いかかってきた。

 【ケルベロス】と【地獄魔法】で魔法使いと弓使い、遠くにいるプレイヤーを殲滅し、近づいてきたプレイヤーは鎌と拳と蹴りで対応した。

 

「ちっ! 本当に多いな!」

 

 周りはプレイヤーで埋まっていた。うざいったらありゃあしない。

 

「【猛毒の霧】!」

 

 俺は自分の姿を見えにくくするため、【猛毒の霧】を展開した。

 プレイヤー達は猛毒状態になり、それでも、俺を狙おうとした。

 

 

 しかし、俺の周りにいたプレイヤー達は次々と消滅していった。

 

 

 へ? 何で? 猛毒ってそんな強力だったとか?

 そう思っていたが、明らかにタンカーっぽい鎧のプレイヤーも消滅した。これはどういうことだろうか?

 

「あ」

 

 【死への誘い】のせいか? あれは霧にも作用されているとしたら、納得がいく。

 だが、確率は5%だ。こんなにあっさりと即死がかかるなんて……。

 

「もしかして、霧にいる状態が攻撃を受け続けている状態だから……?」

 

 今霧にいるプレイヤーは全身に超加速的に弾が放たれ続けるガトリングガンを受けている状態なのではないか? だから、確率は低いが即死をうけてしまうのではないのだろうか?

 何てこった。これは酷すぎる……。

 【死への誘い】は想像以上に凶悪なスキルだ。完全にゲームバランスを崩壊させてしまった。

 絶対修正されるな。というか、【猛毒の霧】と【極寒の息吹】は使わないようにしないと。これは卑怯すぎる……。

 【死への誘い】について色々と考えているうちに霧が晴れた。

 【気配感知】から霧の外にいたプレイヤーがこちらに向かって走ってくるのが分かる。

 

「【ケルベロス】!!」

 

 プレイヤーを視認した俺はケルベロスを召喚させ、襲ってくるプレイヤー達を殲滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガオ~! 終了~! 結果は1位から3位の順位変動はなかったドラ! それでは、これから表彰式に移るドラ!』

 

 ついに、イベントは終了した。

 俺は広場に転移されると表彰台に立つ。

 

『では、まずは、3位のメイプルさん。どうでしたか?』

 

 3位に入賞していたメイプルというプレイヤーがマイクをもってコメントしようとしていた。

 緊張しているけど、ちゃんとコメントできるのか?

 

「えっと……いっぱい耐えられてよかったでしゅ」

 

 あ、かんだ。

 その後は特にコメントが出てこず、メイプルが恥ずかしさで悶える。

 

「……ん?」

 

 あれ? メイプルってプレイヤー……どこかで見たような……。

 どこで見たんだろうか? ゲーム内? 違う。だとすると……リアル?

 

『次に2位のブレイブさん! お願いするドラ』

「え? あ、はい」

 

 そうだった。次は俺の番だ。

 俺はドラぞうからマイクを受けるとコメントを考える。

 

「皆さん、お疲れ様でした。色々なプレイヤーと戦えて楽しかったです。悔しいと思った人はたくさんいると思います。ですが、イベントは今後も出るはずです。レベリングやスキル獲得を頑張り、トップを目指して頑張ってください」

『ブレイブさん。貴重な言葉、ありがとうドラ!』

 

 コメントが終わり、俺はドラぞうにマイクを渡した。

 その後、ペインからコメントをもらい、イベントは終了した。

 俺は記念のメダルをもらって現実世界に帰り、イベントの疲れを取るために眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イベント終了後、運営は大慌てだった。

 

「くっそー!! 何でこうなった!?」

「やっぱり対処すればよかった!」

 

 理由はブレイブとメイプルの2人の問題児が原因だった。

 まず、ブレイブの【猛毒の霧】と【死への誘い】のコンボだ。まさか、霧の中にいるとほぼ確実に即死が発動するなど思いもしなかったのだ。

 因みに、【死への誘い】を作った運営の1人は罰として始末書を書かされたらしい。それほどまでに凶悪だったということだろう。

 

「メイプルもメイプルだよ。何あれ!?」

「【悪食】がああも強力とは思わなかった!」

 

 【悪食】によってどんな攻撃も飲み込む盾も十分にゲームバランスが崩壊している存在だ。しかも、吸収した力を蓄えているからたちが悪い。

 

「大型メンテナンスのときに徹底的に修正するぞ!!」

『オォー!!!』

 

 今日も運営は忙しなく動く。ゲームのバランスを調整するために。




 因みに、書かれてませんが、ドレッドはイベント後半でブレイブに再戦しよう接近していました。【猛毒の霧】にやられたけどね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

 お気に入りが100を超えたぜ! 皆さん、お気に入り登録ありがとうございます!


 イベントの翌日、俺は装備のメンテをしにイズの店に来た。

 俺の戦闘スタイルのせいで一部の装備の耐久値が大分削られたのだ。

 魔法で遠くの敵を殲滅、近くまで来られたら鎌や手足で攻撃する。それが今の俺の戦闘スタイルだ。荒っぽい? それがいいんじゃないか。

 それにともない、手袋や草履の耐久値が削られていくのだ。イズに怒られるな。でも、仕方ない。この戦闘方法楽しいんだもん。

 

「イズ~。装備のメンテナンスをお願いしたいんだけど……およ?」

「いらっしゃい。来ると思ってたわよ。もう、あんな戦い方をして……装備が可哀想じゃない」

「うん。ごめん。でも、その前に、さ」

 

 イズの店に入ると見たことのあるプレイヤーの姿もあった。だから、イズの叱りの言葉に謝りつつ、そのプレイヤーに視線を向けた。

 プレイヤーの名前はメイプル。イベントで三位入賞したヤバイやつである。掲示板情報だけど、あらゆる攻撃は効かず、盾は魔法も武器もプレイヤーも飲み込んでいったらしい。

 

「えっと……あっ、2位の人!」

 

 メイプルは俺のことを必死に思い出していたらしく、頭を捻らせていたが、ようやく思い出して、俺のことを2位の人と呼んだ。

 

「俺はブレイブ。君、メイプルでいいんだろ?」

「はい!」

 

 まさか、イズの店の常連とはな。多分、誰かに連れて来てもらったのかもしれない……。

 あれ? 何でか掲示板で俺のことをバカにした大盾使いが浮かんだんだが?

 

「メイプルも装備のメンテをしに? それとも、装備の新調か? その盾だと、受けることで手に入る系のスキル手に入らないだろうし」

「スゴい!? エスパー……?」

「いや、エスパーって訳じゃないんだが……」

 

 簡単な推測である。なんでも吸収するということは受け止めることはできないと考えられるからな。

 しかし、何だろう。この天然ほんわかな感じ……やっぱりどこかで見たことがあるぞ。

 

「あ、そうだ。メンテの価格安くするからメイプルちゃんを手伝ってくれないかしら?」

「ん? 手伝い?」

 

 なんの話だ?

 

「メイプルちゃんはブレイブの言う通りスキルを手にいれるために装備を新調しようとしてるの。でもね。その素材がメイプルちゃんにとっては厄介なの」

「というと?」

「白い装備がほしいらしいんだけど、素材が釣りか採掘でしか手に入らないのよ」

「あー……もしかして、VIT極振り?」

「そうだよ! よく分かったね」

「そりゃあな。イベントでの戦闘の様子を聞いていたら、誰だって……」

 

 どんな攻撃もノーダメージなんて、VIT極振りで、VITを上げるスキルやダメージカットスキルを詰みまくらないと無理だろ。

 それにしても、極振りか。なら、釣り、採掘、採取と言った素材集めは難しいだろうな。AGIとDEXが欲しいから。

 

「分かった。手伝うよ。イズ、風の草履を置いていくから、メンテしておいてくれ」

「代金を払ってよね」

「分かってるよ」

 

 俺はイズにメンテ代を支払い、メイプルと店を出た。

 

「ごめんね。手伝ってもらって……」

「プレイヤー同士は助け合いだからな。行こうか」

「おー!」

 

 俺はできるだけゆっくりと歩く。AGIがないのだから、意識的に歩く速度を遅くしないと離れていっちゃうからな。

 

「ま、待って~」

「え?」

 

 だが、途中で結構後ろからメイプルの声が聞こえてくる。俺は振り返るとメイプルが予想よりもずっと遅く俺を追って来るのが見えた。

 まさか、ここまで遅いとはな……。

 

「お、追い付いた……」

 

 メイプルは俺が立ち止まってる間にようやく俺のところに追い付いた。俺が離れていったからかホッと安堵する。

 

「すまん。もうちょっと遅く歩かないといけないな……」

「それだと目的地まで着くのが遅くなる!」

 

 確かに、遅くはなるが……どうしようもないのでは?

 

「だから、おんぶで移動しよ!」

 

 …………はい?

 

「ごめん。もう1回言ってくれる?」

「おんぶで移動だよ! 私が装備を外して軽くなった状態になる。それで、ブレイブが私をおんぶして運ぶ!」

「いや、それは……」

 

 天然にもほどがあるよ、この子!? いや、女の子と触れられるし? 俺得な提案だが……ダメだろ!

 

「君は女の子なんだから、そういうのは……その、ね?」

「?」

 

 何で首をかしげてるのかなぁ!? 普通、恥ずかしくて顔を赤くすると思うんだけど!? ちくしょう、可愛いな!

 

「とりあえず、装備を外すね」

「お、おい!?」

 

 え? やらないといけないの? マジで? この大観衆の中で?

 …………バツゲームデスカ?

 

「いやいやいや! おんぶは止めよう! お願い! 300Gあげるから!!」

「え? なら、お姫様抱っこ?」

 

 何でそうなるのかなぁ!?

 周りから視線が集まってるぅ! 主に嫉妬の視線が俺を突き刺してくるぅ!!

 

「男ならやりなさいよ!」

「みっともないぞ!」

 

 うわ!? ついに、野次が飛んできた!?

 

「ちっ。リア充が」

「氏ね! 爆発しろ!!」

「その位置変われよ!」

 

 嫉妬の罵詈雑言まで飛んできたよ!? あーもう!!

 

「し、失礼するぞ!」

 

 俺は自棄になり、装備をはずした状態のメイプルを抱える。

 その時に、女の子の体の感触が胸に伝わってきて、いい匂いもする気がする。

 はっ!? いかん。いかんぞ! 煩悩退散!!

 

「さあ、レッツゴー!」

「くそ! 人の気も知らないで……あいあいさー!!」

 

 俺は一刻も速くこの場から逃げ出したかったため、疾風のように走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイプルを抱えた俺は町から出て、草原を駆けていた。

 

「あ、モンスターだよ!」

 

 メイプルが言うように前方に猪がいた。このままだとすぐに接触することになる。

 俺は接触する前に立ち止まり、メイプルに視線を向けた。

 

「メイプル、お前の大盾は当てさえすれば吸収するのか?」

「そうだよ」

「そうか。……すぐに、大盾を出して、俺の体に当ててくれ」

「え? 分かった」

 

 メイプルは黒い大盾を出すと俺の腕に当てた。

 

「【魂の共鳴】」

 

 大盾に向けて【魂の共鳴】を発動させる。しばらくすると大盾に黒い靄がかかった。

 物体に【魂の共鳴】を行う場合、数秒間触れる必要がある。これは相手の武器を操れないようにする処置なのだろう。相手の武器を操れたら相手は戦えなくなるからな。

 

「な、何!?」

「メイプル、大盾から手を離してくれ」

「おぉ!!」

 

 メイプルから離れた大盾はふわりと浮かんでいた。俺が自分の体を回るように念じると大盾はその通りに動いて見せた。

 

「スゴい!」

「これなら立ち止まることなく進めるな」

 

 俺は走ってる間も前に大盾がいるように操り、猪に向けて走り出した。

 猪は俺に気付き、突進してくる。俺は猪に大盾をぶつけさせた。

 大盾は猪にぶつかった瞬間に吸収する。おお、噂には聞いていたが、これはスゴいな。

 

「この調子でどんどん行くぞ」

 

 俺は大盾を使ってどんどんモンスターを吸収しつつ目的地まで駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地に到着した俺はメイプルを前に出させて、奥へ進む。

 場所は町から西南に離れた洞窟だ。そこで採れる白結晶がほしいんだそうだ。

 

「あ、そういえば、ブレイブ」

「んー?」

「私達、どこかで会ったことがあったりしない? 私、顔に見覚えがあるような……」

 

 敵を大盾に吸い込ませながらメイプルが俺に聞いてきた。

 メイプルも俺と同じように俺の顔に既視感を感じてるらしい。こりゃ、本格的に知り合ってる可能性があるな。

 

「実は俺もなんだよ。ゲームってことはないはずだから、リアルだろうな」

「現実かぁ……」

 

 俺達はどこで会ったか思い出そうとした。

 家、いきつけの店、たまに出掛けるデパート、そして、学校……学校?

 

「……時に、メイプル。リアルに関する質問はマナー違反だろうけど、学生か?」

「うん。ブレイブも?」

「ああ。高校生だ」

「私も!」

 

 …………まさか……?

 

「メイプルって本名から来てる?」

「え? もしかして、ブレイブもなの? ブレイブってどんな意味か分からないけど」

「勇気って意味だ。お前のは楓でいいんだよな?」

「はい。あれ? 勇気?」

「…………本条さん?」

「……多々野君?」

「「えぇー!?」」

 

 俺達はお互いのリアルについて確信して驚愕の声を上げた。

 本条さんってゲームするんだな……。意外だ。

 

「多々野君ってゲームするんだね」

「意外か? それと、正体が分かってもリアルネームで言わないように」

 

 メイプルが同じことを思っていたらしく、俺をリアルネームで呼んで、頷きながら言った。

 

「私は理沙に誘われたんだ」

「あいつ、ゲーマーだったな」

 

 納得だ。そして、白峯がNWOの面白さを語ってゲームを誘ってくるところが簡単に想像できる。別のゲームでも本条さんを誘ってたからな。

 

「でも、いないよな? 風邪か?」

「成績を上げるまでゲームできないんだって」

「そういや、赤点とりそうになったって言ってたな……」

 

 俺も気を付けないと。白峯と同じようにゲーム禁止を言い渡しされかねない。

 

「着いたな。メイプル、入り口は任せたぞ」

「分かった!」

 

 採掘場に到着する。俺はメイプルにモンスターの退治をお願いし、ピッケルを持って採掘を始めた。

 白結晶、鉄鉱石、ルビライト鉱石など様々なものが採掘できた。

 

「ふぅ。久しぶりにやったけど、楽しいものだな」

 

 白結晶が出てくる確率が高いのか白結晶ばっか出るな。それが目的だからいいんだが……。

 ある程度採掘をするとモンスターを吸収しているメイプルのところに向かった。

 

「メイプル、お疲れ」

「あ、ブレイブ! 終わったの?」

「それなりに集まったぞ。他のも俺には不要だからあげる」

「い、いいの?」

「気にするな」

「ありがとう!」

 

 メイプルはトップレベルのプレイヤーになるはずだ。恩を売って損はない。まあ、クラスメートのよしみってのもあるけど。

 俺はメイプルに別れを言ってログアウトした。

 

「ふぅ……。しかし、まさかだな」

 

 ベッドの上で寝転がりながら、メイプル……本条さんのことを思い出していた。

 ゲームに誘われていた身なのにあそこまで楽しんでいたとはな。意外だった。

 

「お兄ちゃん? よかった。ゲームからこっちに帰ってきてる」

 

 桜が俺の部屋に入ってきた。その手には何故かVR専用ゲーム機を持っていた。

 

「桜、それは……」

「いや、その……お兄ちゃんがあんまりにも楽しそうだったから」

 

 つい買っちゃったのか。珍しいな。桜が俺のやっていることに興味を持つなんて。

 

「それで、どんな風にやればいいか分からなくて……」

「分かったよ。でも、明日な」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 妹が自分がはまっているゲームに興味を持ってかれたことが嬉しくて頬がつい緩んでしまった。

 

「お兄ちゃん」

「何だ?」

「その笑み、気持ち悪いよ……」

 

 ……何でこう妹ってのは兄に対してとことん冷たいかね……。

 桜の言葉にグサッと突き刺さった俺は俯いて落ち込んでしまうのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

 俺は欠伸をしながら通学路を歩いていた。

 

「桜はどう育っていくかなぁ」

 

 桜のビルド構成について考えていた。

 ステータス、武器、魔法、PS(プレイヤースキル)によって戦い方は千差万別。どんなプレイヤーになるか楽しみだ。

 ……メイプルみたいなプレイヤーにならないといいが。痛いのが嫌だからという理由でVITに極振りしたり、ウサギと小一時間遊んでいたり、モンスターを食べたりした結果があれだからな……。

 

「……メイプル、か」

 

 教室に行けば、リアルのメイプル、本条さんがいるんだよな。

 しかも、白峯と一緒にかなり早く登校してきている。教室に着いている頃には談笑していることだろう。いないとしても、トイレに行ってるだけってくらいだ。

 

「んで、あいつのことだから……」

「あ! 噂をすれば!! 多々野君! こっちこっち!」

 

 俺が教室に入ると本条さんが跳びながら俺を呼んでいた。そのお陰で全員が俺に注目してる。

 

「こうなるんだよな……」

 

 予想通りの展開に俺はため息を漏らす。

 視線に気にすることなく、自分の席について、本条さんと白峯に顔を向けた。

 白峯はどこか訝しげだ。半信半疑といった感じだな。

 

「あんた、ゲームをやってるんですって?」

「言ってなかったけど、俺はそれなりにゲームを嗜んでるんだ。白峯ほどやりこんでないけど」

「知らなかった。喧嘩三昧の日々ってイメージだったから」

 

 ひでぇ……。いくら目付きが悪いからってなんという偏見を抱いてるんだ。

 俺は平和主義者だぞ。喧嘩なんてやらないし、売られた喧嘩はゲーム以外では買わない。

 

「えぇー。それは酷いよ。多々野君、優しいよ? 理沙だって助けられたでしょ?」

「それは……まあ、そうだけど」

 

 助けられたって言っても、大したことした覚えないが?

 

「ねえ、聞いて! 理沙がゲームできるようになったって!」

「そうなのか。それはよかった。で? どんなプレイヤーを目指すんだ?」

「回避盾よ! メイプルが無敵なら、私は回避して当たらないプレイヤーを目指すの」

「無敵コンビってわけか」

 

 でも、難しいよな。今はまだメイプルは無敵だが、運営が放置するわけない。

 

「メンテナンス次第だが、メイプルがダメージを負う場面は増えるはずだ」

「何で?」

「本条さんはゲーム初心者だから知らないだろうけど、ゲームによっては防御貫通攻撃っていうものがあるんだ」

「あ、そっかー……」

 

 白峯は俺がいいたいことを察し、頭を抱えてしまった。

 

「どういうこと?」

「俺の予測だと大規模なメンテがある。それも3日以上かかるメンテだ。俺もやらかしたからな」

「何をやったの? 楓は天然でやったみたいだけど、多々野は真っ当にやってるのよね?」

 

 俺は自分のプレイを2人に話す。本条さんは楽しそうに聞いていたが、白峯は固まってしまっていた。

 

「ユニークウエポン! カッコいい!!」

「ま、待ちなさい。レベル1の状態で100回死んだ? あらゆる攻撃に即死が付与されるスキル? 出鱈目もいいところよ……」

「俺も少し自覚してる……」

 

 桜にも言われたからな。おかしいって……。

 

「そうだ! 多々野君、一緒に釣りに行かない? あ、ゲームの中でだよ?」

「えぇー。こいつも連れてくの?」

「こいつって何だ、こいつって」

 

 白峯は本条さんの提案に露骨に嫌そうな顔をする。そこまで嫌か。何が嫌なんだ。目付きか? 終いには泣くぞ。

 

「理沙はそうやってつんけんするんだから。私が多々野君がゲームやってるって言ったら満更でんぐっ!?」

「な、何を言ってるのかしらぁ? あは、あははは!!」

 

 本条さんが何かを言おうとしたら白峯が口を塞いでしまった。誤魔化しの笑いの上げているから俺に聞かれたくないことなんだろ。

 

「ぷはっ。もう、本当に素直じゃないよね」

「し、知らないわよ」

「素直じゃないのは仕方ない。白峯ってツンデレだし」

「だーれがツンデレよ!!」

「ぐおっ!?」

 

 白峯が俺の頭にノートの角をぶつけた。マジで痛い! 今、絶対頭がへこんだ!

 

「大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇよ。あ! 何かつむじ部分がへこんでる!?」

「へ!?」

「つむじ部分は元々へこんでるわよ」

 

 そうだった。焦ったわ。

 

「てか、無理だ。妹がゲームを始めるらしくてな。面倒を見ないといけないんだ」

「妹?」

「妹がいたの?」

「言ってなかったな。桜って言うんだ」

 

 俺はスマホに保管している家族写真を2人に見せた。

 

「どれが妹さん?」

「この子」

「へぇー。可愛い」

「……目付きが悪くない」

「家族全員、目付きが悪い訳ないだろ」

 

 よく見ろよ。目付きが悪いのは俺と父さんだけだろ?

 

「桜はゲームなんてやらない子なんだが、俺が楽しくやってるもんだから興味を持ったらしくてな」

「そっかぁ。仕方ないね。あーあ、昨日みたいにお姫様抱っこで抱えてもらってあれをやれば楽なのに」

「……楓? 今、何て言ったの?」

 

 本条さんの言葉に白峯が反応して眉が僅かに動いた。

 俺も本条さんの爆弾発言に反応して冷や汗をかきはじめる。

 

「え? あ、言ってなかったかぁ。私、AGIが低いから多々野君にお姫様抱っこしてもらったの」

「へぇー。お姫様抱っこ。へぇー、そうなの」

 

 白峯の目がどんどん冷たくなっていく。絶対零度の視線で俺の心は一撃で瀕死だ。

 本条さんが他にも色々言っているが耳に入ってこない。汗が止まらないぞ!

 ……待て。周りの嫉妬の視線も加わったこの視線地獄で現実逃避しそうになったけど、おかしいぞ。

 

「白峯、お前、何でそんなに不機嫌になってるんだ?」

「別に……」

 

 白峯は俺の問に答えずにそっぽを向く。怒られるようなことはしたかもしれないが、白峯が不機嫌になるようなことはしてないぞ。

 んー、不機嫌の理由は明らかに本条さんの発言だよな。でも、本条さんに被害がある話で、白峯には関係話だよな。

 男連中と同じで女の子をお姫様抱っこしたことに嫉妬? まさか、白峯は百合!?

 

「ぎゃいん!?」

「今、失礼なこと考えたでしょ!」

 

 白峯に脛を蹴られて変な声を上げてしまった。っつぅ、じんじんするよぉ……。

 俺が脛を押さえて痛がっている間に先生が入ってきてHRが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると俺は自室に向かった。桜は帰ってきているのだろうか?

 

「お兄ちゃん、おかえりなさい」

「もう来てる……」

 

 漫画を読みながら寝転がる桜が俺の部屋にいた。こいつ、兄の部屋をさも自分の部屋のように寛いでるな……。

 桜は俺が帰ってきたのを確認すると漫画を適当なところに置いた。

 

「初期設定があるんだよね? どうやるの?」

「ああ、教えてやるよ」

 

 俺は桜に初期設定について説明する。そのついでにゲームのマナー、ステータス、武器なども説明した。

 

「で、桜は何を目指すんだ?」

「魔法使いかな。考えて動くタイプな私は遠距離の方がいいと思う」

 

 なるほどな。でも、遠距離攻撃は魔法以外にもある。

 

「弓とかは?」

「いいと思うけど……折角のVRなら魔法を使いたい」

「あー」

 

 ロマンがあるってやつか。魔法少女に憧れがあるもんな。

 

「あ、極振りは止めとけよ。成功することは稀だからな」

「極振り?」

「ステータスポイントを一つのステータス一点に集中することだ」

「稀って言ってたけど、成功した人いるの?」

 

 ……確かにいる。しかも、身近にいる。

 

「……成功するとしたら、そいつは相当な天然か頭のネジが飛んでる奴だ」

「? よく分からない」

「いや、それでいいよ。何か聞きたいことは?」

「スキルの獲得条件って何があるの?」

「そうだな。色々ありすぎるが……一番簡単なのは買うことだな」

「買えるの?」

「ああ。他にも……」

 

 俺は桜に獲得方法を教えた。いくつかおかしいのが混じっているが……。

 それを聞いて桜は何かを考えていたが、俺にお礼を言って自室に帰った。初期設定をしに行ったのだろう。

 俺はベッドに寝転がり、VR専用のハードを被ってNWOにログインした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

 すみません。感想から原作とは間違った知識で執筆していたため、修正しました。消して、申し訳ありません


 噴水広場で桜を待つ。あいつには名前と見た目のことは伝えてあるのですぐに気付いて声をかけてくれるだろう。

 あー、暇だぁ。

 

「ブレイブ」

 

 誰かに声をかけられて俺は振り返る。

 そこには髪の色をピンクに変えた桜がいた。

 

「来たか。プレイヤーネームは?」

「ハナだよ」

 

 なるほど、桜→花→ハナってなったわけか。

 

「それで、杖ってことは宣言通りの魔法使いの予定なんだよな?」

「うん」

「ステータスは? INTかMPに寄らせて振ってるんだろうが」

「振ってないよ」

 

 ……え?

 

「振ってない?」

「うん」

「……待て。嘘だろ?」

 

 確かに、ステータスポイントを残してゲームを始めることはできる。でも、全く振らないなんて……意味が分からない。

 

「何で振らないんだ? せめて、INTに振れよ」

「スキル」

「は?」

「スキルが手に入るかもしれないから」

「……ん……?」

 

 ハナは何を言ってるのかな?

 

「ブレイブはレベル1で攻撃を行うことなく100回死んだ結果強力なスキルが手に入ったんだよね?」

「……ステータスポイントを振らないで何かすればスキルが手に入ると?」

「可能性はあると思ってる」

 

 いや、ないだろ。仮にあったとしたら大変な事実だよ。今プレイしてる全プレイヤーに謝るべき事態だよ。

 

「ブレイブ、世の中やってみないと分からないよ」

「……そもそも、どうやってモンスターを倒すんだよ」

 

 STRとINTは装備補正があるとしてもほぼ0だからまともにダメージが与えられない。初期値のHPや低いVITでは一撃もらったら即死する。AGIは0だから避けることは無理。一番弱いとされる白兎でも倒すのは厳しいだろう。

 

「うん。それなんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハナは俺から金を借りてスキルやアイテムを買い込んでいった。後は装備だ。

 曰く、装備で無理矢理強くなり、攻撃される前に一撃で葬ればいいということらしい。

 理屈は理解できるが、本当に可能なのだろうか?

 

「イズ、いるか?」

 

 装備に関してはイズので何とかなるだろうとイズの店を訪れていた。

 

「いるわよ。あら?」

「ハナです」

「そう。よろしくね。この店の店主のイズよ」

 

 イズはハナに自己紹介した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「待ってくれ。こいつはそういうじゃないから」

「そういうのってどういう?」

「お前が想像してるようなことはない」

「こんな可愛い女の子を連れてきても説得力に欠けるわねぇ」

「拉致なんてしてないからな。それに、こいつは高校生だからな。見た目は小学生だけれど、も゛!?」

 

 こ、このアマ! 俺の息子を杖で思いっきり殺りやがった……! STRが0の癖に何この痛み……。

 

「ブレイブ? 何か言ったかしらぁ?」

 

 息子の痛みで倒れる俺にハナは冷たい視線を向けた。

 その目はこう語っている。『次言ったらキン○マを潰す』と。

 流石、わが妹。色々恐ろしい……。

 

「何を言おうとしたかは分からないけど、リアルの知り合いってことはわかったわ」

「そうです」

「だから、その俺にとって危険なそれをしまってくれ……」

「うふふ。分かったわ」

 

 イズは表示しているウィンドウをしまう。冗談でも止めてくれよ……。

 

「それで、何か用かしら? ハナちゃんの紹介だけじゃないんでしょ?」

「ん、くっ。ま、まあな。金は俺が払う。こいつにINT特化の装備を譲ってくれ」

 

 俺はカウンターテーブルを支えに立ち上がり、親指でハナを指しながら言った。

 

「あらぁ。そうなの。見たところ魔法使いの初心者よね。INTはどれくらいあるの?」

「何も振ってないです」

「え?」

「マジだぞ。ステータスを見せてもらったが、あらゆるステータスが初期値だ」

「何でかしら?」

 

 イズが不思議なものを見る目でハナを見つめる。ゲームの常識から逸脱した行為だから当たり前だな。

 俺はハナのやろうとしてることについてイズに説明した。

 イズは面白そうに話を聞いて、快く協力してくれた。無償で装備を譲ってくれたのだ。

 

「で……これですか」

「うーん! バッチリね!」

 

 イズが言うには非売品のお気に入り装備一式の1つらしい。

 白い服。フリフリの赤いスカート。黒いブーツ。赤い宝石が頭についた杖。

 

「可愛いわ!」

「魔法少女……」

 

 見た目が小柄なだけに余計に似合うな……。

 

「はぅ……!」

 

 ハナは顔を手で覆ってしゃがみこんだ。コスプレっぽい格好だからか恥ずかしいようだ。

 しかも、実の兄に見られているのだから余計に恥ずかしいはずだ。俺も中二的な格好を桜に見られたら自殺するかもしれない……。

 

「も、もう少しまともな格好はないんですか!?」

「いいじゃない! 可愛いわよ?」

「嬉しくありません!!」

「メイプルちゃんだったら喜んで受け入れるのに……」

 

 確かに、メイプルなら素直に喜ぶだろうな。その光景が目に浮かぶよ……。

 

「で、INTはどのくらい上がったんだよ?」

「えっと……60も上がってる!?」

「この装備って武器、体装備、足装備、靴装備の4つだけだろ? どんだけ高性能なんだ……」

「私作だからね!」

 

 イズは生産職の中でもトップクラスのプレイヤーだ。これくらいの装備を作ることは朝飯前なのだろう。

 

「……この件が終わったら絶対に脱いでやる」

「勿体無いわね」

「撮らないでぇ!?」

 

 自然な動作で写真を撮るイズにハナは肩を揺さぶった。俺もハナに気づかれないようにその光景を写真におさめた。

 いつかあの2人に見せよう。面白いし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イズの店を後にした俺とハナは初心者なら誰でも通う森に来た。

 余談だが、俺はハナを背負い、走って森まで来た。メイプルとちがい、中身は妹なので羞恥など皆無なのである。当然嫉妬視線はあったけどね。

 

「装備は手に入れて、魔法のスキルも手に入った。この後は?」

「決まってるよ。モンスターを倒してレベルを上げる」

「んで、スキルが手に入らないか検証する……。何もないと思うがやってみるか」

 

 でも、どうやって倒す気なんだ? 火力は十分確保できたとしても鈍足で、紙装甲なんだぞ。

 

「ここで一番弱いのはモンスターは?」

「白兎っていうモンスターだな。突進と言う攻撃手段しか持っておらず、そこまで速くないからな」

 

 と言っても、AGIが0じゃあ避けるのは難しいと思うが……。

 

「魔法なら一発?」

「その装備ならそうだろ……ってそうか」

 

 やっとハナの狙いが分かった。

 どんなに遅かろうと、どんなに打たれ弱かろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、暗殺をすればいい。

 

「まずは気づかれないようにしないとね。ブレイブ、町に戻ってて」

「何故?」

「死に戻ったらここにまた運んでもらうから」

 

 俺は納得してハナと別れて町に帰った。

 しばらくするとハナからモンスターを倒したというメッセージが届いた。

 




 アンケートは8月中旬くらいに締め切ります。記入してくださると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

 俺はハナを迎えに森に行くとハナを背負って町まで走った。

 その後は宿に入り、ハナの成果確認である。

 

「それで、スキルは手に入ったのか?」

「うん。いくつかね。やっぱりステータスポイントを振らないって取得条件は存在してた」

 

 え? マジで?

 どんなスキルが手に入ったかをハナに説明してもらった。

 

 【賢者】

 このスキルの所有者のINTを2倍に、MPが200増加する。【STR】【VIT】【HP】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の4倍になる

 取得条件

 MP、INTが初期値であり、特定の魔法だけで敵を倒すこと。かつ、魔法を放った回数が3回以内であること。

 

 【四元素魔法Ⅰ】

 【フレアドライブ】【激流】【ガイアタワー】【テンペストボール】が使えるようになる。火属性、水属性、氷属性、土属性、風属性、雷属性の魔法の消費MPを3%カットする。

 取得条件

 【賢者】取得時に【火魔法】、【水魔法】、【氷魔法】、【土魔法】、【風魔法】、【雷魔法】を所持していること。

 

 【聖魔魔法Ⅰ】

 【聖魔砲】【聖魔剣】が使えるようになる。光属性、闇属性の魔法の消費MPを3%カットする。

 取得条件

 【賢者】取得時に【光魔法】、【闇魔法】を所持していること。

 

 【強き弱者】

 STR、VIT、AGI、DEX、INTを1.2倍にし、HP、MPを10増加、かつ、レベルが上がる毎に5増加する。

 取得条件

 ステータスを上げるために必要なポイントを一切使わずに敵を倒すこと。

 

大物喰らい(ジャイアントキリング)

 HP、MP以外のステータスのうち4つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが2倍になる。

 取得条件

 HP、MP以外のステータスのうち、4つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

 はい? 何、このチートスキルの山は……。

 

「つーか、【賢者】の取得条件厳しすぎだろ!」

 

 特定の魔法というのが【ファイアボール】とか【ウィンドカッター】とかの威力の低い魔法のことだという。ハナみたいに装備で無理矢理強くしないと手に入らないな。

 

「とりあえず、【大物喰らい(ジャイアントキリング)】は廃棄かな」

「極振りにしないのな」

「当たり前だよ。魔法威力ばかり上げても動けなきゃすぐ死ぬよ?」

 

 正論だな。だとすると……。

 

「MP、INT、AGIを中心的に上げるって感じか?」

「だね。HPやSTR、VITは上げにくくなってるし……DEXはしばらく20で固定かな?」

「DEXは命中率に関わるからある程度でいいってことだな」

「うん。えっと、こうして……できた」

「どんな感じなんだ?」

「はい」

 

 ハナが俺にステータスを見せてくれた。

 

 ハナ

 レベル2

 HP 18/18〈+15〉

 MP 38/38〈+215〉

 

【STR 0】

【VIT 0】

【AGI 55】

【DEX 20】

【INT 30〈+60〉】

 

 ふむ。AGIに少し寄ってるな。スキルの効果でINTは100を軽く超えてるが……。

 

「しかし、大丈夫か? このステータスだと当たらないように心掛けるってことだよな?」

「仕方ないよ。VITを上げたくても1つ上げるのに4ポイント消費するんだよ?」

「そうなんだよなぁ」

 

 ……それよりも……。

 

「その服、脱ぐのか?」

「……本音を言うと脱ぎたい。でも、高性能なだけに脱ぐのに躊躇いがある……」

 

 分かるよ。いかにコスプレっぽい装備でも性能がよければ、な……。

 

「ブレイブ、いい装備っていくらかかるの?」

「オーダーメイドの場合は高いぞ。その装備、下手したら200万は超えてる」

「に、にひゃっ!? た、高すぎない……?」

「イズのところが高いだけだ。装備一式で最低100万Gだからな。ま、他のところでも50万はいくけどな」

「えぇー……」

 

 予想外な高さにハナは四つん這いになって落ち込んだ。

 

「NPCのところで買えば安く済む。が、性能は圧倒的に劣るんだな、これが」

「うっ。それは嫌だ」

「後は……モンスターのレアドロップを期待するか……ダンジョンで手に入れるかだな」

「それだ!! ダンジョンで装備を探せばいいんだ。お金も稼げるし……一石二鳥だよ!」

「まあな。俺の装備もダンジョンで手に入れたものだし」

「そうなんだ」

 

 単騎で初回での初攻略者になったときにもらったユニーク装備だけどな。

 

「ダンジョンっていくつあるの?」

「俺が知る限りだと3つだな。まだ未発見のダンジョンがありそうだけど……」

「ふーん……」

 

 ハナは俺の話を聞いて考え始めた。何か変なこと企んでないか?

 

「よし。とりあえず、レベルを上げよう」

「そうだな」

 

 俺達は宿を出ると森に行ってレベリングに努めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

268:名無しの片手剣使い

 死神が女の子を抱えていやがった

 

269:名無しの大剣使い

 は?

 

270:名無しの槍使い

 な、に……?

 

271:名無しの短剣使い

 ……kwsk(怒)

 

272:名無しの片手剣使い

 見た目が魔法少女な子(身長から察するに小学生)を背負っていたんだ

 

273:名無しの槍使い

 死神がロリコンだった件について

 

274:名無しの片手剣使い

 しかも、かなり自然にやってたぞ。いつもやってあげてたかのような感じだ。

 

275:名無しの短剣使い

 GUILTY!!

 

276:名無しの大剣使い

 落ち着け

 

277:名無しの槍使い

 前にめっちゃ恥ずかしそうにメイプルを抱えていたが……

 

278:名無しの短剣使い

 は?(ブチギレ)

 

279:名無しの大剣使い

 それ、見間違いじゃないのか?

 

280:名無しの片手剣使い

 あ、それは俺も見てた。リア充爆発しろって言ったww

 

281:名無しの槍使い

 俺は氏ねって言っちゃったww

 

282:名無しの短剣使い

 ちっ。ふざけやがって。見せつけてんのか?

 

283:名無しの片手剣使い

 やっちゃう?

 

284:名無しの槍使い

 次のイベントで?

 

285:名無しの大剣使い

 いやいや。第1回イベントを見る限り無理ゲーじゃね?

 

286:名無しの短剣使い

 知ったことか。俺はやるぞ

 

287:名無しの片手剣使い

 お?名無しの短剣使いはヤル気満々じゃん

 

288:名無しの大剣使い

 よっしゃ。やったるで!

 

289:名無しの槍使い

 有志を募ろう!

 

290:名無しの短剣使い

 覚悟しろよ! 死神!!

 

 

 何か知らない内にブレイブは色々なプレイヤーにヘイトを集めていた。男の嫉妬というのは恐ろしいものである。

 後、何気にロリコン認定されてしまってるが、ブレイブがこの事を知る由はないのであった。

 さらに言うと自分が色々なプレイヤーから小学生と誤認されていることをハナは知る由はないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 掲示板から視点は運営に変わる。ここも別の意味で騒いでいた。

 騒ぎの中心は新規プレイヤーのハナである。

 

「【賢者】を取りやがった!?」

「それはまだいい! 【強き弱者】はまずいぞ!!」

「レベル上がる毎にHPとMPが上がっていくからなぁ」

「チート過ぎる。誰だ、こんなスキル考えたやつ」

『てめぇだろ!!』

 

 はい。やらかしたのは【死への誘い】を作った運営の1人である。因みに、【賢者】も彼が作ったスキルだ。

 

「だって、普通ポイントを振らずに始めるかぁ?」

「それな」

「あっ!? こいつ、ブレイブの知り合いだ!?」

「はぁ……マジか……」

 

 ハナの行動を確認してるときにブレイブと合流してるところを見て運営は俯く。

 

「あ、マジかぁ……ないわ……」

「どうした?」

「現実逃避に掲示板漁っていたらとんでもない事実が……」

「現実逃避するなよ。分かるけど。それで?」

「ブレイブ、メイプルと繋がってるかも」

『…………』

 

 それを聞いた運営は一斉に顔を手で覆う。あの2人は混ぜてはいけないと思っていたからだ。

 しかも、リアルで知り合っていたのだから余計にたちが悪い。

 

「化け物が揃っちゃう……」

「もう、嫌……」

「……兎に角、メンテ内容の追加だ。はぁ、仕事が増える……」

 

 運営全員が思った。もうこれ以上仕事を増やさないでくれと。

 だが、運営は知らない。ペインと同等かそれ以上のPSお化けがメイプルのところにいることを。

 大規模メンテの開始日が近い。運営は今日も忙しなく働くのだった。




 やっちゃったぜ! でも、後悔はしてない。
 次回はハナ視点を予定しています。お楽しみ。

 最後に、アンケート回答ありがとうございます! 8/10に締め切ろうと思います。アンケートに回答してない方はご協力をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

 予告通りハナ視点で話を進めていきます。では、どうぞ。

 追記
 レベリングを1週間近く行った後でダンジョン探しという風に変更しました。
 原作を確認したら、サリーがユニークシリーズを手にいれたときには2週間もかかっていました。ボス戦前はレベル12だったらしいので、数日でレベル20はおかしくね? と思い、修正しました。


 ハナが1週間くらいかかっているレベリングを行った翌日に1人になりたいと言い出した。何でもソロでも活動できるようにしたいのだとか。

 何か嫌な予感がするが、ハナのプレイに口を出すなんて無粋だからな。俺は了承してソロ活動の注意点を言うだけにした。

 そんなわけで、俺はハナとは別で行動していた。いくつか言われたハナの実験に付き合っているのであった。

 

『スキル【格闘術】を取得しました』

「ほ、本当に手に入った……」

 

 ハナから言われた内の1つが装備無しで敵を倒すことだ。

 そんなことはレベリングを初めて行ったときにやったのだが、その時は【体術】を手に入れてなかったため、なにもなかったのではないかとハナは考えたのだ。その結果がこれである。

 

 【格闘術】

 【破拳】、【飛脚】、【魔神拳】、【怒涛連撃】か使えるようになる。格闘時、手装備、足装備の耐久値が減らない。

 取得条件

 【体術】を所持しており、武器装備無しの状態で敵を倒すこと。

 

「なるほど」

 

 そういえば、【体術】を手に入れてから徒手で戦ってなかったな……。

 

「……しかし、【魔神拳】ってどっかで聞いたことがあるような……」

 

 おい、運営。著作権とか大丈夫だろうな? 何か多作品からパクってきてるような気がするぞ!

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっくしょん!」

「うおっ! 風邪か?」

「ふむ。誰か著作権に関わることで俺を噂してるな」

「お前、そういや何個かゲーム会社に許可を取ってパクったんだったな」

「パクリじゃない! オマージュだ」

「技も名前も何もかも同じなのになーにいってんだか……」

 

 

 

 

 

 

 何はともあれ。1つ目は完遂した。

 

「後は……1割以下のHPで1時間耐え抜くことか……」

 

 ハナのやつ、どこからこんな発想が生まれるんだ……。

 

「ダメージを受けて1割以下にすることから始めるか」

 

 ……ハナは今頃何をしてることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、ハナはNWOにログインする。今日の方針は決まっていた。

 

「ダンジョンを見つけること。それがこれからの方針かな」

 

 ダンジョンを見つけるというのはとても困難というのはブレイブの話を聞いてるだけで分かる。だって、ゲームが開始されて数ヵ月は経ってるはずなのに、3つしか見つかっていないのだから。

 どうやって探すか。闇雲に探し回っても見つかるものでもない。

 

「とりあえず、聞き込みからか」

 

 情報は足で稼ぐものだ。

 聞き込みの対象はプレイヤー……ではなく、ゲームキャラ、えっと、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)だったかな? それに聞いてみよう。

 

「あの、すみません」

「いらっしゃい」

 

 まずは武器屋だ。気前の良さそうなおじさんが私を見つけると元気良く応えてくれた。

 

「聞きたいことがあるんだけど」

「ん? なんだい?」

「近くにダンジョンとかない?」

「ん? なんだい?」

 

 あれ? さっきと同じ言葉が返ってきた?

 

「近くにあるダンジョンがあったら教えてくれない?」

「ん? なんだい?」

「……おすすめの武器は?」

「それなら、鉄の剣がおすすめだ! おっと、お嬢ちゃんは杖使いか。なら、この木の杖がおすすめだよ!」

 

 特定の内容しか拾ってくれない……。分かりきってたけど、会話のキャッチボールをしてほしいよ。

 その後も聞き込みを行ったが成果は0。やはり、探し回るしかないのかな?

 そんなことを思っているとある店に視線が止まった。

 

「『占いの館』?」

 

 黒いテントにそんな名前が書かれた看板があった。町にこんな店もあるんだね。

 

「……占いで新しいダンジョンのありかを見つけるのも一興かもね」

 

 ほぼないだろうけど、可能性は僅かにはある。

 私は気分転換も兼ねて占いの館に入った。

 

「雰囲気あるなぁ」

 

 薄暗く、物寂しさを感じさせる内装に私は小さく呟いた。

 そして、ローブの人と青い水晶のところまで来る。

 

「何を占って欲しいのですか?」

 

 ローブの人、思ったよりずっと若い声をしてる。この手の占い師っておばあさんがやってるイメージだったのに。

 

「未だ見つかっていないダンジョンのありかを知りたいの」

「……では、この水晶に触れてください」

 

 ……え? 私が触るの?

 私は戸惑いつつ水晶に触れてみる。

 その瞬間、水晶が白く輝きだした。

 

「な、何!?」

「これは……」

 

 クエスト【エルフの遺跡調査依頼】

 そんなウィンドウが表示され、下にYES、NOの選択が表示された。

 

「クエスト?」

 

 ブレイブが言ってたっけ? 特定の条件を満たすと受けられるミッションだって。

 

「とりあえず、YESっと」

 

 私がYESを選択すると水晶の輝きが消えて、フードの人は頭巾を脱いで素顔を見せてくれた。

 長い耳で金色の髪の女性……正直、きれいな人だなぁと思った。

 っていうか、エルフじゃないの? このゲームってエルフがいるんだ。

 

「魔導士様、貴女ならあの遺跡の調査を頼めます。こちらを」

 

 エルフの女性は私に紐が結んである紅色の宝石を渡してきた。

 

「これは?」

「遺跡の場所を示してくれる魔法石です」

「遺跡?」

「はい。私は見た通りここより遠方にあるエルフの森から来たエルフです。実は私の先祖がこの町の近くに遺跡を作り、隠したのです」

 

 へぇー。つまり、こうして特定の条件を満たさないと見つからないダンジョンがあるってことね。聞き込み活動して良かった。

 

「それで、私に調査して欲しいってこと?」

「はい」

 

 でも、解せない。相手はNPCなわけだから答えてくれるか分からないけど……。

 

「貴女が調査すればいいんじゃないの? だって、その遺跡は貴女の先祖が建てたんでしょ?」

「無理ですよ。私は魔力はなく、武器も扱えない……」

 

 そう苦笑して言う。その顔がどこか悲しげに見えてしまった。

 

「……私が守るよ。一緒に調査しましょ?」

「よろしいのですか?」

「ええ」

 

『プレイヤーがエルフへ同行願いをしたことにより、エクストラクエスト【エルフとの遺跡調査】へ変化しました』

 

 え? クエストが変わった……? 難易度が上がったのかな……? ま、何とかなるでしょ。

 

「申し訳ありません。お願いします。準備がおありでしょう? 整い次第南にある町の出入口に来てください」

 

 エルフは頭巾を被ると占いの館から出ていった。

 準備か……とりあえず、ポーションとかを買い込まないと。

 

 

 

 

 

 

 

「うんぎゃー!!」

 

 カタカタとキーボードを叩く音しか聞こえない職場で運営の1人の悲鳴が響き渡った。

 

「何だ?」

「どうした?」

 

 その人こそ色々とヤバいスキルを開発しまくり、それで始末書を書かされた運営の者だった。

 

「占いの館のクエストを受けたやつがいる!」

「何だ」

「むしろ、遅いくらいだな」

 

 占いの館のクエストはINTが装備補正含めて70あれば受けられるクエストだ。難易度は少し高めだが、パーティーで挑めばクリアできるものだ。しかも、単騎で挑めばユニーク装備が手に入る可能性があるという特典付きだ。

 クリア報酬は装飾品とお金だ。それほど騒ぐほどではない。

 そう……通常ルートであれば、だ。

 

「特殊ルートに行ったんだよ!」

「マジか!?」

「あり得ない……」

 

 運営が特殊ルートに行ったことに対して驚きを隠せないでいた。

 

「誰だ!?」

「ハナというプレイヤーだ」

『くっそ! やっぱり三大問題児プレイヤーかよ!!』

 

 運営が一斉に叫んだ。

 三大問題児プレイヤーとはメイプル、ブレイブ、ハナの3人のことである。

 

「ま、待て。落ち着け。エクストラクエストになった分難易度は上がってる」

「おう。そうだな。なにもできない同行者という荷物がある中でどこまでやれるか楽しみだ」

 

 運営の全員が失敗を祈る。

 ……しばらくして、ブレイブが【逆境】というかなり相性のいいスキルを手に入れたことにより再度悲鳴を上げることになるのだが……それは別の話である。




 アンケートは予定通り本日の24時に締め切ります。たくさんの投票をありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

 気づいたら日間ランキングに入ってた。ビックリ!
 これからもよろしくお願いします。
 今回は少し長いです。


 私は準備を整えるとエルフが待つ出入口に向かう。

 

「あれ?」

 

 出入口についたはいいけど、誰もいない?

 いや、プレイヤーならたくさんいるんだけど、肝心のエルフが……。

 

「待っていました」

「うわっ!?」

 

 突然後ろに声をかけられて私は思わず驚きの声を上げた。

 後ろに振り返るとそこには頭巾で素顔を隠したエルフがいた。

 いつからそこに……? き、気にしないでおこう。

 

「では、行きましょ」

「はい」

 

 私は赤い宝石を出し、紐で吊るしながら歩き始めた。

 エルフが言うには赤い宝石が引き寄せられている方向に進めばいいらしい。しかも、近づいていくと光っていくのだとか。

 赤い宝石を基に私達は遺跡を目指す。途中でモンスターに何回も遭遇するけど、魔法で倒していった。

 そして、ついに遺跡に着いた。その証拠に赤い宝石は全体的に赤く光っているし、ピクリと反応しなくなったのだから。

 着いた場所はのどかな森。だが、遺跡はどこにもない。

 

「どこにあるの? あ」

 

 宝石がバリンッとガラスが割れたような音を出して塵となる。その瞬間、地震が起きた。

 

「きゃっ!?」

「遺跡が現れます!」

 

 エルフが言うように建物が下から現れる。

 古代ギリシャに出てきそうな見た目の遺跡が現れて、ほぇ~と私は気の抜けた声が出てしまった。

 

「魔導士様、入りましょう」

「え? あ、はい」

 

 遺跡の現れ方にカルチャーショックを受けてしまっていたからかエルフの言葉につい生返事をしてしまった。

 私はエルフと一緒に遺跡の中に入った。

 

「気を付けてください。中には特定の属性でないとあまり効かない浮遊ゴーレムがいる言われています」

「なるほど……」

 

 エルフの助言に耳を傾け、周りを警戒する。

 

「あれかな?」

 

 正六面体の浮遊する結晶を見つけた。

 数は1。色は赤色……。

 結晶は炎の魔法を放った。

 

「【激流】」

 

 それに対して私は水の放射を解き放つ。相手の魔法をのみこみ、そのまま結晶にぶつけた。

 結晶はそれでダメージを受け、消滅した。

 

「なるほどね。結晶の属性に対して相反属性をぶつければいいんだ」

 

 ブレイブから聞いたことがある。このゲームには属性の相反関係が存在するって。

 炎は水に弱く、水は土に弱く、土は風に弱く、風は炎に弱い。光は闇に、闇は光に弱い。

 それと、結晶の属性は色で判別が出きるかも。赤は炎。青は水みたいにね。

 

「魔導士がいることが前提のダンジョンなんだ」

 

 私は面白いと純粋に思い、小さく笑った。

 そのあとは何も問題なく結晶を倒していきながら、先に進んでいく。

 因みに、モンスターは単発の魔法(ファイアボールやウォーターボール、ウィンドカッターなどの魔法)で対応している。魔法は複数発動できないので、すぐに発動できる単発魔法は使い勝手がいい。

 何より、結晶は相反属性でないと倒しにくいから複数の結晶が違う色で出た場合範囲魔法より単発魔法の方が対処しやすいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 というハナのダンジョン攻略を運営は仕事を放っておいて観察していた。

 

「マジか!? 結晶ってワンパンできるほど脆いのか?」

「んなわけあるか。INTが100あっても2発当てないといかんだぞ!」

 

 結晶がハナの魔法一発で倒されていくところを見て各々呟く。実際、結晶はINT特化とはいえ、ある程度のVITが備えられている。

 だが、忘れてはならない。ハナは【賢者】によってINTが2倍に、【強き弱者】により1.2倍になっているのだ。

 ハナはAGIとINTにステータスポイントを振っているから今はもう200は超えている。結晶が一撃なのは仕方ないのである。

 

「うげっ。もうボス部屋」

「エルフはノーダメージかよ」

「そりゃそうだろ。魔法を打たせることなく速攻だぜ?」

 

 ハナ達はボス部屋までたどり着いた。運営はボス戦がどうなるかワクワクしながら見る。

 

「そろそろ仕事しろ」

『へーい……』

 

 ……ことはなく、結果が気になりながらも仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく進んでいくと大きな扉の前までやってきた。ボス部屋まで来たのだろう。

 

「この先にきっとボスがいる。できれば残って欲しいところなのだけど……」

「いえ、私も行きます」

「そっか。分かった」

 

 私は扉を開けて中に入る。 そこにはダンジョンに彷徨っていた結晶達とその親玉と言わんばかりにデカく、黒い結晶だった。

 

「う、嘘……」

 

 私はエルフを見て冷や汗をかいた。

 まずい……! ボス単体なら何とかなると思ったけど、こんなに結晶がいるなんて……!

 

「私のことは気にしないでください」

 

 いや、無理! ゲームのことでも死なれたら後味が悪いって!!

 どう戦えばいい? うーん……。

 

「ここから動かないで。多少傷つくかもしれないけど、覚悟してね」

「はい」

 

 私はエルフがダメージを負うことを覚悟で戦うことにした。

 まずは周りの結晶の討伐だ。数は20体。

 赤が4体、青が4体、緑が4体、橙色が4体いて、各々が固まっていた。せめてもの救いだね。

 

「【フレアドライブ】!」

 

 エルフから離れた私は緑の結晶4体に縦回転する火球をぶつける。ぶつかった火球は爆発を起こし、緑の結晶4体を消滅させた。

 その間に攻撃の準備をしていた全結晶が私向けて魔法を放った。

 

「当たらないよ!」

 

 私は自前のAGIを活かして素早く動いて魔法を避けた。

 

「げっ!?」

 

 親玉結晶が赤、青、緑、橙色の魔方陣を展開する。しかも、方向がこちらに向いていた。

 嬉しいような嬉しくないような……!

 

「【激流】!」

 

 私は水の放射で4体の赤い結晶をまとめて倒して、その直後に放たれた親玉結晶の魔法を避けることに専念した。

 できるだけエルフのところにいかないように気を付けながら走り回る。

 魔法が途切れたと思ったら今度は結晶達の魔法だ。面倒だなぁ。

 私は結晶達の魔法をさっきと同じように走り回って避けきると橙色の結晶に近づいた。

 

「【テンペストボール】」

 

 嵐のように風が動き回る球体を橙色の結晶4体に向かって放つ。

 ぶつかった球体は強風を周囲に撒き散らす。そして、橙色の結晶4体を倒した。

 これで、後は青の結晶4体だけ。

 

「って、もう親玉結晶の魔法が!?」

 

 親玉結晶の魔法の嵐が再び始まる。私は再度走り回って避けていった。

 疲れる……。でも、これで……!

 

「【ガイアタワー】!」

 

 青の結晶が固まってるところを指定して巨大な岩を出現させた。

 下から出現した岩は青い結晶4体を攻撃して倒す。

 これで、後は親玉結晶だけね。

 親玉結晶はいくつかの魔方陣を展開する。

 炎、水、風、土の魔法がまるで要塞の砲台のように放たれてくる。私は当たらないように走り回った。

 しかも、周囲の結晶を倒したからか絶え間なく放たれ続ける。

 

「こんの! 【聖魔砲】!!」

 

 隙を見て魔法を放つ。

 白と黒が混じりあう極太なビーム砲が色々な魔法を巻き込んで親玉結晶を襲う。

 

「おう……」

 

 その威力は高く、親玉結晶のHPを半分も削った。その分、消費するMPは120と高いため、もうすっからかんだ。しかも、再使用まで3時間かかるし……。

 初めて使ったけどスゴいね。必殺魔法だよ、これ……。

 

「とりあえず、回復しないと……」

 

 私は走り回りつつ、何とかMPを回復させるアイテムを取り出してMPを回復させる。

 安いやつだから満タンまで回復しない。そのため、何回もアイテムを使って回復した。

 

「一気に決めよう。【聖魔砲】でこの威力なら……」

 

 MPを満タンまで回復すると魔法をかわしながら親玉結晶に接近する。

 

「【聖魔剣】……!」

 

 持っていた杖が形が歪む漆黒の剣に変化した。

 剣の周りには真っ白な稲妻が纏わり付く。正に聖と魔が融合した剣である。

 

「やあぁぁぁ!!!」

 

 私は剣を親玉結晶に向かって切りつけた。

 親玉結晶のHPは削られ、全損に至る。親玉結晶はそれにより、倒され、消滅した。

 

『レベルが20に上がりました』

「や、やったー……」

 

 私はボスを倒せたことに安堵して尻餅をついてしまった。

 倒せた……。強力な魔法だよ。流石、200も消費するだけはあるよ。

 

「あ、宝箱」

 

 ボスを倒したことにより宝箱が出現する。中にはお金や装備が入っているはず……。

 

「大丈夫ですか?」

「え、ええ」

 

 エルフが私に手を差し出してくれる。その手を取って、私は立ち上がった。

 

「宝箱を開けてもいい?」

「はい。何が入っているのでしょうか?」

 

 私は宝箱を開ける。中には杖や白い衣服、うす緑のブーツ、そして、虹色の宝石が入っていた。

 

【ユニークシリーズ】

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。

 一ダンジョンに一つきり。

 取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

『スピリットロッド』

【INT+20】

【MP+10】

【破壊不可】

【魔力操作】

 スキルスロット空欄

 

『精霊の加護服』

【VIT+10】

【INT+20】

【破壊再生】

 スキルスロット空欄

 

『風精霊のブーツ』

【AGI+30】

【破壊再生】

【風精霊の衣】

 スキルスロット空欄

 

 ユニークシリーズ!? スゴいの手に入っちゃった。……装備が魔法少女っぽいのはき、気のせい……だよね?

 それで、別であるこの宝石は……【精霊石】?

 

【精霊石】

 伝説の魔導士が数多の精霊を封じ込めた石

 

 説明これだけ? 誰よ、伝説の魔導士って!

 

「それは……!」

「これ?」

「は、はい。それは精霊石。私の先祖が力欲しさに禁忌を犯した結果できたものです。文献でしか知りませんでしたが……」

「禁忌?」

 

 君の先祖、そんなとんでもない人だったの?

 

「私達エルフ族は精霊を愛しています。ですから、こんな石に精霊を封じ込めるなんてあり得ないはずなのです」

「……欲に目を眩んだ人って何をするか分からないからね」

「……ですから、私はあなたに遺跡調査を依頼したんです。先祖の話を聞いて、精霊を解き放ちたいと思ったから」

「でも、どうやって?」

 

 封じ込めてるんだよね? しかも、エルフは魔力がないし。

 

「お願いがあります。私に魔力をくださいませんか?」

「いいけど、どうやるの?」

「私の手に触れてください」

 

 出された手を私は触れた。その瞬間、何故かMPが満タンになると思ったらすぐに空っぽになった。エルフに魔力を吸われたということか?

 

「……実は話していなかったことがあります。私の家系はある呪いが掛かっています。魔力不所持の呪いです。ですが、魔力を待つ例外があるんです。それが他人から魔力を借りること」

 

 つまり、魔力がないのは呪いのせい? でも、何で呪われてるの?

 

「先祖がこのように精霊に酷いことをしたせいで私達は呪われてしまったのです」

「そうなんだ……」

「ですが、先祖を恨んではいません」

「え? 何で?」

 

 本来あるはずの素質を先祖のやった悪行のせいで無くされたのだから、恨みそうなものだけど?

 

「だって、魔力なんてなくても生きていけるでしょう?」

 

 この人……スゴいポジティブだ。

 

「では、精霊を解放しましょう。Unleash my thy seal」

 

 エルフが精霊石を胸に抱き抱えて英語で何かを唱える。

 うーん。どういう意味なのかよく分からない。何て言ったのかもよく分からないし……。

 

「あ」

 

 精霊石が輝きだし、精霊石から色とりどりの光が広がる。

 

「うわー」

 

 スゴく綺麗。この光が精霊何だろうな。

 

『ありがとう』

『助けてくれてありがとう』

 

 精霊の声がこの広間に響き渡る。

 

『エルフのあなた、あの忌々しい魔導士の子孫?』

「はい。先祖が誠に申し訳ありませんでした」

『あなたが謝っても……』

『やったのはあくまであの魔導士』

『助けたお礼。呪いを解いてあげる』

 

 エルフに光が纏う。呪いが解かれた証拠なのかも。

 

「ありがとうございます! 魔力を感じる……」

「よかったね」

「はい!」

『あなたにもお礼しないとね』

『精霊石だったものを私達に翳して』

 

 私はエルフから透明になってしまった精霊石を受け取り、精霊達に向けて翳した。

 精霊達は精霊石に集まりだし、精霊石が光り出す。

 光が止むと虹色に輝く正六面体の結晶ができていた。

 

『精霊結晶。あなたの魔力と共鳴して同じ魔法を放ってくれる』

『あなたの助けになってくれることでしょう』

『スキル【精霊結晶】を取得しました』

 

 スキル獲得のアナウンスと同時に結晶が消える。

 ……とんでもないスキルを手に入れた気がする……。

 

『では、さよなら』

『本当に助けてくれてありがとう』

 

 精霊はその言葉を最後に消えていった。その瞬間、私達は光りに包まれて遺跡の入り口へ転移させられた。

 

「入り口に戻っちゃった」

「魔導士様、ありがとうございました。私の長年の悲願が叶いました」

「いや、気にしないで」

「私からのお礼もあげないとですよね。少し待ってください」

 

 エルフは懐から何かを取り出し、両手で包み込む。すると、エルフの体が光だし、その光が手に集まり始めた。

 

「なにをしているの?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え!?」

 

 どういうこと!? 何でそんなことを!?

 エルフの体にある光が全て手に集まり、吸収された。

 

「これで、私の所持魔力をお守りに注ぎ込められました。私はもう魔力を持っていません」

「何で……?」

「魔力は無くても、人は生きていけるのですよ。それに、今更呪いが解かれても魔法を使おうとは思いません。先祖のようになりたくありませんから」

 

 エルフはそう言って穏やかで満面な笑みを浮かべた。

 

「受け取ってください。これはエルフに伝わるお守りです。いえ、私の魔力を込めていますから護符になっていますね」

 

 私はエルフからお守りを受け取った。

 

『エルフの加護符』

【MP+100】

【INT+20】

 

 せ、性能いい……。エクストラクエスト報酬だからかな?

 

「では、私は失礼します。本当にありがとうございました」

 

 エルフはそれを最後に立ち去っていった。フッと消えたけど、ゲームの仕様なんだと思う。

 そのあと、ゲームクリアの表示が出て、クエストが終わったことを確認した私は疲れてしまったため、町に戻る気力も湧かずその場でログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エクストラクエストをハナがクリアした通知が運営に届いたその瞬間、運営全員仕事を中断してハナのボス戦闘を確認した。

 

「え?」

「何でこいつらエルフに攻撃してないの?」

 

 まず思ったのは魔法全てがハナに集中してしまっているのは何故かということだった。

 本来、エルフにも魔法が飛んでいくはずなのだが、そんなことは一切起こらなかった。

 

「……ヘイトだ」

「どういうこと?」

「ほら、まずここでハナがまとめて結晶を4体も倒してるでしょ?」

「あ、それで、ヘイトがハナに集中したのか」

「後、戦闘開始時はエルフのヘイト値がプレイヤーよりも低いことだよ」

「なるほどなぁ」

 

 ヘイトとは簡単に言えば敵に狙われやすさであり、敵に多大なダメージを与えたり、短時間に多く敵を倒したり、派手な攻撃をしたりするとヘイト値というものがたまっていく。当然、値が高ければ高いほどヘイトが集中……つまり、狙われやすくなるのである。

 因みに、クエストでの同行者で、戦闘できないNPCは戦闘開始時では0未満のヘイト値である。これは戦闘開始時で同行者に攻撃が集中されないようにするための処置である。同等のヘイト値のせいで同行者がすぐに死んでしまうのでは難易度が格段に上がってしまうからだ。……クエストの中には毎回戦闘開始時は通常よりもずっと多い状態から始まるものも存在するのだが……。

 

「それにしても、何、このハナの回避能力……」

「次々と放たれる魔法をすいすいかわしてる」

「でも、ギリギリスレスレだよな」

 

 運営が見ているのは最後の攻撃場面である。

 運営は【聖魔砲】で半分近く削られていることを完全にスルーしているのだが、そこは予想通りだと思っているからだ。

 ボスは周囲に複数の結晶がいることもあって、そこまでHPを高く設定していなかったし、何よりも、【聖魔砲】の威力と【賢者】によるINTの高さからそれくらいはできてしまうのは分かってはいたのだ。

 その理屈から【聖魔剣】によって一気に倒されたのも全く驚いていない。

 今運営が驚いているのは一発も魔法に当たること無く接近に成功したその回避能力である。

 

「どう思う?」

「予知……じゃないな。見てかわしてる感じ」

「既視感があるよな……」

「……ブレイブの死神戦?」

「あ、それだ」

 

 ハナの回避はどこかブレイブに似ていた。あの2人は兄妹なのだから、似てしまうのは当然なのかもしれないが。

 

「しかし、どうしようか」

「どうしようね」

「どうしたもんかね」

 

 さて、ハナの戦闘動画を見終えた運営だが、問題なのはハナの回避能力ではない。彼女が獲得したスキルである。

 

「【精霊結晶】……その上、ユニークシリーズにある【魔力操作】のことを考えると……」

「下手したらメイプルやブレイブよりもヤバい」

「【精霊結晶】ってどのくらいMPを消費するように設定したっけ?」

「確か……100くらいだったはず」

「しかも、一度出したら出っぱなし」

「うへぇ。チート臭」

「調整が必要か……?」

 

 つまるところ……仕事がまた増えるのである

 

「……多分、ハナは最優先でマークする必要があるな」

「あの2人よりもやらかす可能性がある」

 

 そう言って運営全員がため息を吐くのだった。




 因みに、通常ルートでは【エルフのお守り】というものがもらえて、INTが15増えます。
 しかし、ハナはブレイブよりも強力になってしまった……。挽回するために、ブレイブには凶悪なスキルをさらに付けようか……。

 アンケートの結果、第2回イベントではブレイブ、ハナ、メイプル、サリーの4人行動することになりました! アンケートのご協力本当にありがとうございました!
 途中で4人ではなく2人だけになったり、ブレイブが単独行動になったりする場合があるので予めご了承しておいてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

 10話を多少修正しました。内容としては1週間のレベリング後にダンジョン探しという流れに変えただけです。


 ハナから言われた実験をこなして、スキル検証した翌日。俺はハナから成果報告したいと言い出したのでログインして噴水広場で待っていた。

 

「お待たせ」

「来たか、ハ……ナ……?」

 

 ハナが来たから声をかけられた方を見ると別の魔法少女コスしたハナがいた。

 まるで花をイメージしたようなヒラヒラした白い衣装だ。赤、青、緑、橙色の宝石がスカート部分にはめられており、ブーツも黒からうす緑に変わっている。

 杖は宝石が付いているものではなく、透明な蝶々に似た羽が付いた木の杖に変わっている。

 何があったんだ、お前!?

 

「ハナ……その装備……」

「お願いです。何も言わないでください……」

 

 あのハナが俺に向けて敬語を使うほどに恥ずかしがっていた。イズにまた変な衣装を渡されたのかと思ったが、何か違うな。

 

「とりあえず、行こうか」

「うん……」

 

 俺達は宿に向かい、一室借りた。

 部屋に入るとしばらく無言になる。何か話さないといけないが如何せん気まずい……。

 

「あー、俺の方から行くぞ」

「わ、分かった」

 

 俺は【格闘術】と【逆境】について話した。

 

「技スキルが内包されてる【格闘術】にHPが少なくなる程にSTR、VIT、AGI、DEX、INTが増していき、スキルの威力も高くなる【逆境】か」

 

 因みに、【逆境】はHPが50%から発動するスキルで、HPが5%減る毎にSTR、VIT、AGI、DEX、INTが5%ずつ増加していき、さらに、HP残量が50%の時はスキルの威力が1.5倍、25%の時は2倍になる。

 そして、HPが1になるとSTR、VIT、AGI、DEX、INTが2.5倍、スキルの威力が3倍になる。【起死回生】との相性が滅茶苦茶いい。だって、今まで受けてきたダメージを6倍になって返せるのだから。

 だが、デメリットも存在する。危なくなって回復したとき、【逆境】によって上がった分がなくなってしまうことだ。回復するタイミングを誤ると余計なダメージを負うかもしれない。

 

「【逆境】は十分凶悪だよね」

「うん。それは俺も思った。かなりチートだよな。でも、ピーキーなスキルとも思う」

「そうだね」

 

 ……俺の報告は終わったわけだが……。

 俺はハナの格好を改めて確認して、一昨日言ってたことを思い出した結果、ある可能性にたどり着いた。

 

「それ、ユニークシリーズか?」

「そう。ダンジョンを攻略した時にね」

 

 ってことは単騎でダンジョン攻略したのか。スゴいな。

 

「占いの館って知ってる?」

「ああ、いつも不在の」

「え?」

「誰がいっても誰もいないってことで有名だぞ」

「私が入ったときは普通にいたけど……」

 

 そうなの? じゃあ、何かしらの条件があったんだろうな。

 

「そこで、ダンジョンについて占うように頼んだのか?」

「うん。でも、占ってくれたわけじゃないんだよね。そもそも、設定的に占えるかどうかも怪しいし……」

「どういうこと?」

 

 俺はハナから占いの館で起こったこと、その後の事も聞いた。

 そうか。クエストが発生するのか。それに、聞いた感じだと出現条件にはステータスが関わってそうだな。下手したら、杖使い限定って可能性もある。

 

「その結果、ダンジョンを見つけ、攻略した、か。しかも、同行者つきで」

 

 つうか、ボスが二撃で倒されるって……威力高すぎだろ!

 

「それで、手に入れたスキルと装備の詳細は?」

「うん。まず、【精霊結晶】はMPを消費して結晶を出現させる。その結晶は自身が唱えた魔法を同時に放ってくれるんだって」

「それはまた……」

 

 消費MPは同じなのに2発同時撃ちするとかチート過ぎだ。

 

「結晶にはHPとかVITとかが設定されてて、HPは1000、VITは30で固定されてるみたい」

「INTは?」

「ない。多分魔法の威力は私が放つ魔法と同等ってことなんだと思う。結晶の動く速度はINTによるらしいから速いかも。使ったことないから分からないけど……」

 

 ヤバいな……。只でさえ【賢者】のせいで高火力なのに……。

 

「装備はスキルを付与するスキルスロットってものがあるみたい」

「だろうな。俺の装備もついてる」

「それもユニークシリーズなんだね。それなら、スキルスロットの説明は不要か。各々にはスキルがついてて、杖には【破壊不可】と【魔力操作】、服とブーツには【破壊再生】、ブーツはそれに加えて【風精霊の衣】が付いてるの」

 

 ……え? 【破壊成長】じゃないの?

 

「【破壊不可】はその名の通りどんな攻撃を受けても破壊される事がなくなるスキルで、メンテとかでいらないみたい」

「へぇー。【破壊再生】は?」

「……【魔力操作】は放った魔法を操ったり、爆発させたりできるスキルで、【風精霊の衣】はAGIを5分間20%上げるスキル」

 

 おー、すげぇな。チート臭いぞ、【魔力操作】。

 

「それで、【破壊再生】は?」

「【破壊再生】は……装備が再生するスキル」

「うん?」

 

 理解できるけど、納得できない。何でだ?

 ハナの説明に違和感がある。というより、【破壊再生】の存在に違和感がある。

 

「何で、全部の装備に【破壊不可】がつけられてないんだ?」

「…………」

 

 何でハナは涙目になって俯いてるの? え? 意味が分からないんだけど?

 

「……ってやる……」

「は?」

「運営に……訴えてやるぅー!!!」

「何でェー!?」

 

 ハナは拳を強く握りしめ、声を荒げて叫んだ。その目には怒りが灯っていた。

 

「だって、【破壊再生】はダメージを負うことで破れるんだよ!? 再生するのは戦闘終了後だし!!」

「いや、普通じゃね? 再生するのは遅いくらいじゃ……」

「違うの!! これを見て!!!」

 

 ハナが俺に見せたのは【破壊再生】の説明ウィンドウだった。

 それを読んだ俺は声が出せず絶句する。

 

 【破壊再生】

 受けた攻撃のダメージ量、残りのHP量に応じて破ける。(尚、破けたところは素肌が見えます(笑))

 戦闘終了後に徐々に再生されていく。

※完全に破けることはありません。胸や局部周辺は靄で隠されるので、安心してください。

 

 これは……うん。訴えてもいいんじゃね?

 運営の悪意が感じ取れる別の意味で凶悪なスキルだ……。つうか、セクハラだよ、これ。よく通ったな。

 それに、説明に何で(笑)が使われてるんだよ。笑えねぇよ。そして、安心もできねぇよ。

 

「だったら、着ないようにすれば? 服には【破壊再生】以外だとスキルスロットくらいしかついてないんだろ?」

「そのスキルスロットが強力じゃない!」

 

 うぐっ。それは確かにな……。

 

「それにね。私今思ったの……当たらなければいいんじゃないかって」

「いやいやいや! それは難しいと思うぞ!?」

 

 ハナの戦い方を見たことあるが、俺と同じように見て動く後手タイプだからいつか当たるぞ! AGI特化型が相手だと避けきれない可能性が高いし! 敵の数が多ければ、囲まれたときにやられるのが目に見える。俺がそうだし。そりゃ、攻撃がよく見えてるからか今のところ攻撃が当たってないけどな……。

 ハナもそれは分かっていた。だから、一発で死なないようにVITを装飾品装備で補ったり、まだ取得していないが、【HP強化小】を手に入れる予定なのだ。

 

「何とかなるよ」

「おい。目に光がないぞ。大丈夫かぁ?」

「ワタシ、コウゲキガアタラナイヨウニガンバルネ」

「落ち着け! ハナァー!」

 

 完全に現実から意識を遠ざけていたハナを俺は肩を揺らすことで正気に戻そうとした。

 正気を戻すのに数分を要したのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後、いつものように登校していると本条さんと白峯から進捗の事を聞かれていた。

 

「……進捗……進捗なぁ」

 

 何て言えばいいんだろうか……。順調でいいとは思うけど、どうもな……。

 

「何よ? うまくいってないの? まあ、多々野の妹はゲーム初心者だから仕方ないと思うけど、あんたがフォローを入れるべきじゃないの?」

「あ! なら、手伝ってあげようか? 一度会ってみたいし!」

「…………初心者……そっか。そうだよな。初心者だからだよな」

 

 俺は本条さんを見ながら小さく呟いた。

 本条さんはVITを極振りして、モンスターを食べて、変なスキルをバンバン獲得する。それは痛いのが嫌だからとか何かスキルが手に入るかもとかそんな理由なのだが、どこか桜と似ているような気がする。

 初心者とベテランは感覚が違うんだろうな。だから、あんな火力が馬鹿にならない高機動魔導士が誕生してしまっているのだろう。

 

「……そ、その遠い目は何?」

「え? うん。初心者って怖いな~と思ってさ」

「? 何で?」

「…………まさか」

 

 白峯は察しがいいな。こんな少ない情報で桜の進捗を理解するなんて。

 

「桜さ。杖を選んだよ」

「ってことは魔法使いかぁ」

「うん。そうそう。魔法使い。でも、本条さん並みかそれ以上の化け物が出来上がってるんだよ。紙装甲なのが弱点ってくらいで」

 

 あり得ないよなぁ。どこのモンスターもほぼワンマジックだぜ? 桜の持つ魔法は範囲魔法ばかりだから質が悪い。

 しかもだ。 魔法を避けられても【魔力操作】で軌道を変えて当てにいってるんだから恐ろしい……。

 

「楓以上!? ちょっと、何したのよ!? 相当おかしいことしてないとそうはならないわよ!?」

「り、理沙? それって遠回しに私がやってることはおかしいって言ってるんじゃ……」

「「いや、だっておかしいし」」

「ハモった!? 私、普通にやってるんだけどな」

「「いやいや。普通じゃないから……」」

 

 俺と白峯が首を横に振って否定する。本条さんは納得がいかず、口を尖らせた。

 

「それで、妹さんは何をしたの?」

「……あー、そうだな。あいつ、俺と本条さんのスキル獲得方法を話したら、スキルポイント振らずにゲームを始めてきたんだよ。スキルが手にはいるからって」

「はあ?」

 

 白峯が目を丸くして驚く。分かるぞ。その気持ちはよく分かる。

 俺はハナの始めてから1週間くらいのことを2人に話した。白峯は唖然とし、本条さんは目をキラキラして聞いていた。

 

「それで、AGIが高く、INTは普通の人よりも倍以上にあるから高機動で超火力魔法使いが誕生していた、と」

「ああ。つい最近、ボスを一撃で倒したから下手したらメイプルを倒す火力を持っていても不思議はない……」

「スゴい!」

「スゴいというか……一周回って笑えてくるわね……」

 

 その気持ち、本当によく分かるわよ。

 

「あー、悔しい! ゲーム初心者に先を越された!」

「は?」

「実はね。理沙もダンジョンを見つけたんだ」

 

 そうなの!? すげぇな……。

 

「慎重に進んでるから仕方ないか。ダンジョンの場所も厄介だし。だって、水中にあるのよ?」

 

 白峯や本条さんが言うには地底湖を潜水探索してる時に横穴を見つけたらしい。その横穴がダンジョンの入り口だったそうだ。

 それで、ダンジョンの探索をしているのだが、如何せん水中ダンジョンだ。スキル【潜水】、【水泳】のレベルを最大まで上げ、初回踏破をするためにレベル上げ、スキル獲得をしまくっているんだそうだ。

 

「あ、そうだ! 理沙がユニーク装備を手に入れたら4人で行動しない?」

「そうだな。二層へ行けてないし……理沙のやっていることが終わったら、二層へ行くためのダンジョンを4人で攻略するか」

「そうね。妹さんへ説明お願いね」

「はいよ」

 

 こうして、俺は白峯がユニークシリーズを手にいれ次第、白峯と本条さん、桜の4人でプレイすることになった。

 ……あれ? 何でかその時、俺は影が薄くなりそうな気がするのは気のせいだろうか……?




 【破壊再生】は色々な意味でギリギリです……。
 魔法少女の服が破壊できないというのは何か違うし、かといって【破壊成長】はやりすぎだし……で、運営が考えたのが【破壊再生】です。中身があれなのは……完全に運営の悪意です。はい。
 いつになったら次のイベントへ行けるのだろうか……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

 ついに、お気に入りが500件超えました! この調子で頑張っていきますね。


 白峯がダンジョンをクリアしたらしく、無事にユニークシリーズを手にいれたようだ。

 俺は予定通りに4人で行動するため、ハナと2人で噴水広場で2人を待っていた。

 

「……それで、そのフードは何?」

「……だって、恥ずかしいし」

 

 ハナは素顔こそ見せているが、服を覆い隠すためにフードを着ていた。俺の知り合いということもあって服を見せたくないようだ。

 

「それにしても、驚きだよ。ブレイブにリアルで友達がいたなんて。今でも信じられないもん」

「友達というよりもクラスメートって関係の方が強いけどな」

 

 プライベートで関わることはないからな。メアドとか知らないし……。

 

「おーい!」

「来たな」

 

 メイプルの声が聞こえて顔を向けると青い服を着た少女に背負われてこちらに来るメイプルの姿があった。

 

「な、何で背負われて……?」

「メイプルはAGIが全くないんだ」

「あ、そういうこと」

 

 メイプルは俺達のところまで来ると少女から降りた。

 

「お待たせ」

「えっと、あんたがブレイブね。それで、こっちが妹さん」

「そう。そういうお前はサリー……でいいんだよな?」

「ええ」

「ハナです。不甲斐ない兄が迷惑をかけていませんか?」

「ううん。迷惑なんてないよ」

 

 青い服の少女、サリー(白峯のプレイヤーネーム)にハナが自己紹介して、社交辞令をとる。

 

「……本当ですか?」

「社交辞令じゃなくて本音かよ!? 失礼な妹だな!?」

「だって、まともに人と接してないだろうから変なこと言いそうだし」

「少しは兄を信用しような……」

 

 ボッチなのは事実だけど、失礼がないように接するくらいはできるわ。

 

「ハナちゃんは何年生?」

「……ブレイブ?」

 

 メイプルがハナを撫でながら質問する。その接し方が子供扱いなためかハナが俺に冷たい視線をぶつけた。

 そういや、ハナが高校生だってこと、説明するの忘れてた。

 

「あー、メイプルにサリー。ハナは小学生じゃないから」

「え? 中学生?」

「高校生ですよ!!」

「「……嘘ぉ!?」」

 

 まるで体に雷が当たったかのような驚きを見せる2人。学校内でも低身長であるメイプルよりもずっと低いからな……。140どころか135もいってないし。

 

「高校1年だ。間違いなくな。子供扱いすると機嫌が悪くなるからやめてあげてくれ」

「う、うん」

 

 メイプルはハナの頭から手を離した。そして、フードの方に目を向ける。

 

「ハナちゃんは何でフードをつけているの?」

「……恥ずかしいからです」

「何が恥ずかしいのよ?」

 

 2人はよく分からず首をかしげていた。メイプルやサリーのと比べてコスプレ感が強いからなぁ……。

 サリーは気になるのか自前のAGIを活かしてハナに急速に接近する。

 

「えい!」

 

 そして、フードを外して服を露にした。

 

「うわー! スッゴく可愛い!!」

「……え、ええ。可愛いわね……」

「いやー!」

 

 ハナは恥ずかしくなってしゃがみこんだ。メイプルはいいなぁと羨ましがっているが、サリーは申し訳なさそうな顔をした。気持ちを何となく察したからだろう。

 

「運営の悪意を感じさせられるわね」

「服はまだいいさ。付与されてるスキルがもっと酷い……」

「それは強力って意味よね?」

「……羞恥の意味でだ」

「ど、どんなスキルよ……」

 

 攻撃を与えれば分かるんじゃないか? ハナはやられないように必死に抵抗すると思うが。

 

「う、うぅ。お嫁に行けない……」

「何で恥ずかしいのかなぁ? ね、サリー? 着てみたいくらいだよ!」

「私は遠慮するわ……」

「ハナ、早々に慣れとかないと精神が持たないぞ」

「分かってる……」

 

 ハナはどこか暗い雰囲気で立ち上がった。

 この後、次の階層へ行くためのダンジョンへ向かう。その時に、AGIやSTRの関係で俺がメイプルを背負うということになりかけたが、俺が反論する前にサリーが猛反対して、サリーが運ぶことになった。助かったぜ……。

 

「しかし、あれだな」

「うん。ブレイブが言いたいことは分かるよ。色々おかしいよ、あの盾」

「あんたの【魂の共鳴】を組み合わせたからもっと凶悪になってるのがまた……」

「楽だねぇ」

 

 今はダンジョンの廊下を進んでいる。出てきたモンスターは全て【魂の共鳴】で空中を自由に動いているメイプルの大盾によって倒されている。

 正確には食われている、か。当たるだけで吸われていくんだもんな。【悪食】が強力すぎる。

 俺達はただ歩くだけでいいという。仮にあの大盾がなくてもハナの魔法で殲滅するだけなんだが……。

 

「そういえば、メイプルってVITはどれだけいってるんだ?」

「4桁はいってるよ」

「「4桁!?」」

 

 ハナの魔法でもダメージは与えられるか……?

 

「流石、ノーダメでイベントを乗り切っただけはある」

「今あるどの攻撃も効かないよ。存在が卑怯だよ……」

「あんたら、兄妹のスキルも大概だと思うわよ」

 

 サリーが俺とハナをジト目で見て言った。ダンジョンを歩き回ってるときに俺達のスキルを開示した時に化け物兄妹か! と言われたからな……。

 何の苦労もなく、あっさりとボス部屋に俺達は到着する。メイプルが大盾で防いでもらいたいため、大盾を返し、ボスの方に顔を向けた。

 今回のボスは大きな鹿だ。角にはリンゴがついている。何かありそうだな。

 

「まずは一発! 【フレアドライブ】!」

 

 ハナが炎の魔法を鹿に向けて放つが、シールドに阻まれてしまった。

 

「効かない!?」

「どうしよう……」

「【地獄火球】!」

 

 俺は試しに角に向けて青い火球を放つ。

 やはり、角には効くらしく、一部のリンゴが焼け落ちた。

 

「角が効果的だ! 多分、リンゴを落とせばダメージが通る!」

「了解! 【ウィンドカッター】!」

「【毒竜(ヒドラ)】!」

「【フレアドライブ】!」

 

 サリー、メイプル、ハナの順番で魔法が放たれる。それらによって全てのリンゴが落ちる。

 

「【魂の共鳴】!」

 

 俺は攻撃が通るかどうかを鎌鼬で確認する。

 鎌鼬は体を貫き、HPが減った。

 

「攻撃が通ったぞ!」

「それじゃ、一気に決めるよ! 【精霊結晶】! 【聖魔砲】!!」

 

 ハナは【精霊結晶】を召喚し、結晶と共に白黒のビームを鹿に向かって放つ。

 9割はあったはずのHPが一気に全損し、鹿は倒れて消滅した。HPバーの減り方が速かったからオーバーキルだな、多分。

 

「やっぱり火力高いなぁ」

「一気に削りきったわね……。あーあ、私、今回全然戦えてないじゃない」

 

 サリーが不完全燃焼な顔で呟く。メイプルはハナの魔法が気に入ったのかかなり目をキラキラさせて、カッコいい!! とか叫んでいた。

 だが、あれでも2番目に強い魔法らしいから恐ろしい……。

 こうして、俺達はあっさりと二層へ行く権利を獲得した。

 

 

 

 

 

 

411:名無しの大盾使い

 メイプルちゃんなんだが、何かまたパーティー組んだ表記がが出た

 

412:名無しの槍使い

 お? 今度は誰だ? 誰か情報ない?

 

413:名無しの大剣使い

 知らないの? 死神と破壊魔法少女がメイプルちゃんともう一人の子と一緒にいたらしいよ

 

414:名無しの弓使い

 例のスレだろ? 俺も見た

 

415:名無しの魔法使い

 例のスレとは?

 

416:名無しの大剣使い

 死神滅殺委員会って組織が最近掲示板内でできてるらしい。そのメンバーの一人がカキコして炎上してるんだよ

 

417:名無しの大盾使い

 こわっ!? 何でそんな組織ができてるんだ?

 

418:名無しの弓使い

 男の嫉妬

 

419:名無しの槍使い

 あ、察し

 

420:名無しの大剣使い

 次のイベントの時に死神を襲うつもりらしいんだよ

 メイプルちゃんに害がないといいが……

 

421:名無しの弓使い

 いや、メイプルちゃんなら大丈夫だろ。むしろ、返り討ちにあう

 

422:名無しの槍使い

 それな

 

423:名無しの大盾使い

 心配なのは友達の方だな

 

424:名無しの魔法使い

 メイプルちゃんの友達だから、もしかしたらと思うけど……

 

425:名無しの弓使い

 そもそも、死神がメイプルちゃん達と組むかだよな

 

426:名無しの槍使い

 破壊魔法少女とは間違いなく組むと思うぞ

 

427:名無しの魔法使い

 いざとなったら助けよう

 

428:名無しの大剣使い

 入る隙があればだけどな

 

429:名無しの大盾使い

 とりあえず、見守るしかないか

 

430:名無しの弓使い

 そうだな

 

 

 掲示板内で色々なことが巻き起こっていることがこの掲示板から分かる。

 まず、死神と呼ばれてるブレイブが女と仲良く遊んでいるのを見て嫉妬したプレイヤーだけで構成された『死神滅殺委員会』。どうやら、ブレイブを倒すために動いているらしい。

 次に、いつの間にかハナに二つ名が追加されていた。『破壊魔法少女』と言う名前だ。

 これはハナが魔法でモンスターを蹂躙し、一部を荒れ地に変えたところを見たプレイヤーが付けたのだとか。ハナが知ったら羞恥のあまり泣き叫びそうである。

 ブレイブ、ハナ、メイプル、サリーの4人がさらに注目されていっているのだが、そんなことを4人が知るわけがないのであった。




 後少しで第2回イベントにいける……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

 二層に到達したその翌日、ついに、やってきた。そう大規模メンテナンスである。

 メンテが終わり、俺はすぐにログインし、4人でメンテナンス内容を確認した。

 メンテ内容はフィールドモンスターAIの強化とスキル修正だ。

 そして、予想通りの防御貫通スキルの実装である。どうやら、スキルの追加だけでなく、スキル修正により防御貫通スキルに変化したものもあるようだ。

 それに伴い、痛みが軽減。特に、()()()()()()()()()()()()

 局部に関しては俺のせいではないと思う。確かに、ドレッドに股間を蹴り上げた結果、悶絶して動けなくさせたことはあったが、そんなの誰もがやってることだろ? だって、俺もハナにやられたし。

 

「防御貫通スキルは完全にメイプル対策よ。あんたの予想通りの実装ね」

「全くだ。メイプルみたいなやつが何らかの要因で増えたら、マンネリ化するだろうからな……」

「魔法にも防御貫通があるみたいだから助かります」

「私、無敵じゃなくなっちゃった……」

 

 無敵ではなくなったメイプルが落ち込む。こうなることは分かっていたため、フォローすることにした。

 

「いいか、メイプル。イメージしろ」

「イメージ……?」

「これから先、メイプルに対峙=防御貫通スキルと言うのがテンプレになる。だが、それでも尚お前は倒れない。そして、プレイヤーを蹂躙して、恐れられるんだ。どうだ? カッコいいんじゃないか?」

「おぉ!! た、確かに!!」

「……痛い」

「しっ。分かっていても心の中に留めておくのよ」

 

 そこ! うるさいぞ! メイプルの気持ちを上げるためにフォローしたんだから!

 

「まあ、防御貫通スキルはいいとしては問題はスキル修正による弱体化、フィールドモンスターAI強化か」

「AI強化は【絶対防御】と【逆境】の取得防止でしょうね」

「両方とも凶悪ですからね」

「【逆境】に関しては狙おうとしたら難しいんだが、【絶対防御】の方は……スキル内容に対して簡単過ぎるんだよな」

「え? どういうこと?」

 

 メイプルだけが理解できていないようだ。

 

「だって、白兎と1時間遊ぶ……じゃなかった。なにもせずダメージを受けずに耐えきることだろ? ハナがやったように装備で補えばできちまうんだよな」

「その結果、擬似的なメイプルが可能になってしまうってことよ。そうしたら、みんな取っちゃうじゃない」

「そっかぁ」

「それで、スキルの弱体化だけど……」

「う、うぅ……」

「メイプルさんがまた落ち込んでいますが」

 

 防御貫通スキルの実装を知ったときみたいに落ち込むメイプル。サリーはあやすように肩を叩いた。

 

「仕方ないわよ。そういうハナも弱体化されてるんでしょ? そして、ブレイブも」

「まあな」

 

 今回弱体化されたスキルはメイプルが所持する【悪食】、俺が所持する【死への誘い】、【ケルベロス】、ハナが所持する【精霊結晶】が対象である。

 

「つうか、メイプルやハナはいいじゃんか。ただ、1日に回数制限が設けられただけだろ?」

「【悪食】は1日に10回。【精霊結晶】は1日に3回になったんだよね」

「何で、イベントに参加してないハナのスキルが弱体化されてるのかしらね」

「まあ、運営の気持ちがよく分かるぞ。ハナ、【精霊結晶】の怖いところを教えてやれ」

「分かった。いいですか、サリーさん。【精霊結晶】は独立します」

「独立?」

 

 ハナは店で買った【ハナのノート1】というノートとペンのアイテムを出して、サリーに図で説明し始めた。

 

「結晶は私の意思で動かすことができます。そして、結晶だけで魔法を出せることが判明しました」

「それってもはや結晶という形の分身じゃない!?」

「はい。だから、私が遠くで結晶を操作して、私が持つ魔法を結晶が放つことができます。そして、修正前は破壊されてもMPがある限り再召喚できてしまうんですよ」

 

 安全地帯で高みの見物ができてしまうのが【精霊結晶】の恐ろしいところだ。無限に再召喚できたら、悪食と同等くらいに卑怯(チート)だろう。

 後もうひとつ、ハナだからこそ恐ろしい要素がある。それは結晶の速度がINTによって決まることだ。

 恐らくだが、結晶のAGIはハナのINTなのだろう。だから、【賢者】や【強き弱者】によってINTが強化されているから、AGI特化プレイヤーと同等の速度が出てしまうのだ。

 しかも、結晶の大きさは推定80cmくらいなので、当てにくい。素早くて小さくて当てにくくて火力が高いとか本人以上に最悪である。

 

「運営はそれだとまずいと判断したからこの修正だ。というか、誰かが手に入れるとは思わなかったんだろうな」

「なるほどね。それで、あんたの方の弱体化は?」

「【ケルベロス】は2人と同じで回数制限が設けられて、10回までになった。さらに、30分のリキャストタイム……再使用までにかかる時間が設けられた。【死への誘い】は完全に内容の変更だな」

「というと?」

「修正前は全ての攻撃になっていたが、武器と体で攻撃したときになってる。しかも、プレイヤーのレベル差によって発動しないみたいだ」

 

 レベルが同等以上なのは当たり前として、レベル差が5より大きいプレイヤーにしか即死が発動しないようになってるな……。まあ、無理もない。運が良ければ当てるだけで最強プレイヤーを即死できるなんて運営側からしたら面白くない。

 

「だが、部位によって確率が変動するみたいだな。しかも、レベル差が関係なく発動するらしい」

「例えば、どこ?」

「頭、首、胸だな。胸の方は心臓がある中央だけだが」

「え? 心臓って左じゃないの?」

「そう思われがちですが、心臓は中央にあるんです」

「こらこら。そういう雑学は今はいいから。具体的にはどう変動するのよ」

「頭は10%、首と胸は20%に変動するらしい」

 

 とはいうが、当てるのってほぼ無理じゃね? ワンチャン心臓だけど……中央部分のみを貫いたときって限定されてるな。鎌は突くのは向いてないから難しい。

 

「弱体化が激しいけど……即死が付与される時点で凶悪よね」

「私にとって、天敵かも。レベル差あるし」

「即死はVIT(防御力)の高さなんて関係ありませんからね……」

「まあ、俺のスキル弱体化はそんな感じだな。さて、イベントまで1週間あるけど、引き続き4人で動くか?」

「ううん。分かれて行動しましょ? 取りたいスキルはバラバラでしょうし」

「そうですね」

「よーし! 各々でがんばろー!」

「「「おー!!!」」」

 

 俺達はそれを最後に各々分かれて行動することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 運営の人全員が一仕事終えたかのような顔でお茶をすすっていた。

 実際、メンテナンスという仕事を終えたのだから間違ってない。

 

「今回のメンテは大変だったな」

「防御貫通スキルの実装だもんな」

「メイプルみたいなプレイヤー対策のためにな」

 

 第1回イベントみたいな無敵はこれで避けられただろう。

 

「そういや、ステータスポイントの設定も変えたな」

「【強き弱者】を取らせないための対策としてだろ? 非公開だけど」

 

 その対策というのはゲーム開始前に初期ステータスポイントを最低でも50ポイント振るという設定に変更したことだ。

 ハナのようなプレイヤーは流石にもう現れないとは思うが、念のための処置である。

 

「さて、1週間後にはイベントが始まるな。どうなるか楽しみだ」

「不安な要素はあるけどな」

「メイプルとブレイブ、ハナの3人だろ?」

「掲示板によるとメイプルの友達? と一緒にいたって話だが……」

「げっ!? マジか!?」

 

 運営の何人かがないないと首を振る。だが、事実彼らは4人で行動していたし、イベントでも一緒の予定なのだ。

 

「……第2回イベント、もう少し詰め込むか」

「そうだな……」

 

 メンテが終わったと思ったら今度はイベントの内容製作。運営に仕事は途切れずに続くのだった。




 次回からは第2回イベント編に突入です。予定通り4人で行くつもりなので、よろしくです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

 ついに、念願の第2回イベント編です。では、どうぞ。


 メンテ明けから1週間が経過した。ついに、イベント開始日である。

 各々でレベリングやスキル獲得を行っていったら、もうイベント当日である。

 俺達4人は会場である二層の広場で周りを見渡していた。

 

「それにしても、たくさん来てるねぇ」

「前回よりも多くないか?」

 

 俺とメイプルは周りを見渡しながら呟く。

 前回から日が開いてる。その分、新規ユーザーは増えてるため、当然の結果と言える。

 

「……なあ」

「何?」

「俺達……いや、俺、注目されてね?」

「あんた、前回イベント2位でしょ? 当然じゃない」

「まあ、そうなんだけどな」

 

 だったら、この突き刺さる視線は何? 聞こえてくる舌打ちは何? 全身から感じ取れる殺意は何!?

 

「いえ、おかしいですよ。だって、ここに3位がいるじゃないですか」

「え? でも、私、そこまで目立ったことはしてないよ?」

「……そうね。確かに、ハナちゃんの言うとおりね。どうしてかしら?」

「あれぇ?」

 

 完全にメイプルの発言をスルーして、サリーは疑問を口にした。

 まあ、俺は薄々感づいてる。どうせ、男の嫉妬だろう。

 こんな美少女(内1名は妹)3人に囲まれているのだ。女に餓えてる男なら嫉妬するだろうな。

 

「よう」

「あ! クロムさん!」

「おう、クロムか」

 

 周りを気にしてるとクロムが話しかけてきた。そして、そっと俺の肩に手を置いた。

 

「頑張れよな」

「え? 何? どういうこと?」

 

 クロムは憐れみを込められた声で励まされる。俺は戸惑っていたが、すぐに何かを察した。

 

「クロム、教えろ。掲示板内で俺はどんな評価なんだ!?」

「し、知らぬが仏って言葉があるぞ……」

 

 視線をそらして答えようとしない。それだけでも、俺の評価がどんなものかある程度察しされた。

 時々、ロリコン神とかタラシ神とか聞こえてくるから聞きたくないくらい最低な評価なのだろう。これ以上クロムに聞くのを止めた。

 あはは。おかしいな。女性プレイヤーと組んでる男性プレイヤーなんてたくさんいるだろ? 俺だけ目の敵にされるなんて……理不尽だ。

 クロムと軽く会話していると前回も登場したヘンテコドラゴンが出てきた。

 

『ガォ~! 今回のイベントは探索ドラ! 目玉は転移先のフィールドに散らばる300枚の銀のメダルドラ! これを10枚集めると金のメダルに、金のメダルはイベント終了後にスキルや装備品に交換できるドラ』

「金のメダル?」

 

 そういえば、第1回イベントでもらったような……。

 そう思っていると金のメダルと銀のメダルの所持枚数のウィンドウが全プレイヤー一斉に表示される。

 俺の思った通り金メダルには1枚所持表示がされていた。

 

『前回イベント10位以内の方は既に金のメダルを一枚持っているドラよ。倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしドラ!』

 

 全損しても装備品は落とさないがプレイヤーに倒されたらメダルは落ちること。リスボーン地点は転移初期地であること。イベント期間は1週間だが、時間を加速させているため、現実では2時間しか経たないことと説明が続く。

 全ての説明が終わり、俺達はスタート地点に転送された。

 

「草原だな」

 

 俺達が転移したのはちらほらとゴブリンがいる見渡す限りの草原だった。

 

「きれー!」

「本当ね」

「これから1週間4人で活動していくわけですね」

「現実は2時間しか経ってないんだがな」

 

 とりあえず、ゴブリンを倒しつつ草原を探索する。そして、2時間が経過したが一向に成果はない。

 

「……ここ、焼け野原にしましょうよ?」

「ちょっ!? 草原ばっかりでつまらないのは分かるけど、それはなしよ!!」

「そうだよ! こんなに綺麗なのに!」

 

 何かハナの目のハイライトが消えてる。物騒な発言もしてるし!

 

「はぁ。敵はゴブリンばっかだもんなぁ……ん?」

 

 また見えてくるゴブリンにガックリとしているとゴブリンが地面に消えていった。

 

「え? 何が起きた?」

「どうしたの?」

「ご、ゴブリンが地面に消えたんだよ!」

「ブレイブ。頭おかしくなったの?」

 

 さっきまで物騒な発言してたお前にはいわれたくない。

 

「……もしかして……【ウィンドカッター】!」

 

 サリーは何かに気づいたらしく、ゴブリンが消えていったところに向かって魔法を放つ。

 風の魔法がそこに纏っていた何かを吹き飛ばし、階段が現れた。

 

「え!? 何で階段が現れたの!?」

「蜃気楼……そっか。幻で隠れていたんだ。運営め、いやらしいことする……」

 

 ちっとハナが小さく舌打ちをしたが、俺は聞かなかったことにした。最近、ハナの運営に対する評価が低いなぁ。きっと、今つけてる装備が関係してるんだろうなぁ。

 

「兎に角、入るか」

「メダルがあるといいね」

 

 隠し階段を降りてダンジョンへ入る。

 中に入るとゴブリンが徘徊している。草原にいたのはゴブリンだけだったし、ここはゴブリンのダンジョンなのかもな。

 俺達はメダルを手に入れるためにダンジョンを探索する。

 因みに、メイプルには【悪食】を温存してもらうためにいつもとは違う白い盾を使ってもらってる。

 

「ゴブリンばっかりですね」

 

 自前の魔法でゴブリンを倒していくハナがうんざりした調子で言う。

 

「そうみたいね。っと別れ道」

「どっち行く?」

 

 またも出てきた別れ道に俺は3人に聞く。

 

「右!」

「じゃあ、右な」

 

 メイプルから右に行くという提案が元気よく上がり、俺達は右に進む。

 途中で何回もゴブリンに接触したが、その度に俺達4人で何事もなく倒す。

 その時に気づいたが……サリーが恐ろしく強いのだ。

 学校で体育の時間にサリーが難なく運動をこなすところを見てスゲェ運動神経だなぁとか思っていたが……。

 

「サリーさん、何で予知してるかのように避けれるんですか?」

「んー、経験かな」

 

 自分の回避能力をもっと高めたい(主な理由は装備のせいなのだが……)と思っていたハナがサリーに聞く。

 サリーはゴブリンの顔面に短剣で切りつけながら返事する。いや、経験でどうにかなるもんなの!?

 

「そういうあんた達も避けるのうまいじゃない。私の見立てだと……動体視力が高い?」

 

 周りにいたゴブリンがいなくなったところでサリーが俺とハナに向かってニヤリと笑って言う。

 動体視力が高い? 何の話だ?

 

「はい。どうも、私達は他の人達よりも動体視力が優れてるらしいです。遺伝って話を父から聞きました」

「そうなの!?」

 

 ハナの話に俺は目を丸くして驚く。

 俺、初耳なんですが……。

 

「何でブレイブが驚いてるの?」

「いや、俺が動体視力が高いなんて知らないし……」

「自覚がないだけだよ。心当たりない?」

 

 ハナに言われて俺は体育の時間を思い起こすがやっぱり心当たりはない。

 

「……そういえば、バレーはよくボールを取ってたよね?」

「ん? まあな」

「ドッジボールとかよくボールを受け止めてたし、サッカーでゴールキーパーしてる時も全部拾ってたような……」

「そりゃ、そこまで球は速くなかったし……」

 

 ……でも、中にはプロもいるんだよな。そういえば、渾身のシュートを受け止められた!? とかってうちの学校のサッカー部員が泣いてたような……。

 

「……話はそこまで」

「サリーもそれなりに【気配察知】を高めてるみたいでよかったよ」

 

 サリーと俺が警戒を高める。俺達がいる部屋にゴブリンが集まってきてるのだ。

 メイプルやハナも俺とサリーの反応を見て警戒を高める。

 

「この部屋の出入口は2つか」

「ブレイブはメイプルさんと向こうを、私とサリーさんがもう一つを対応します」

「OK」

「うん、分かった」

「じゃ、行くぞ。メイプル、援護よろ!」

 

 俺はこっちに向かってくるゴブリンの群れに向かって駆け出した。

 

「【破拳】!」

 

 俺はゴブリンの腹に正拳突きを入れて、鎌を大きく振るう。

 

「【毒竜(ヒドラ)】!」

 

 ここで、メイプルからの支援の毒魔法が飛んできた。

 三首の竜はゴブリンを襲い、辺りが毒沼状態に。俺じゃなかったら死んでるぞ!

 味方であっても死にかねない毒沼の中で俺は鎌を振るって戦う。と言っても、ものの数分でおわったが。

 

「うぇー……」

 

 改めて戦い跡を見てみると大分酷い……。毒沼にゴブリンが沈んでいた。こんなところで平気な顔で戦っていたんだな……。

 俺はこのとき、【毒無効】を獲得して本当によかったと思った。

 

「やったー!!」

 

 メイプルが敵を倒せたことに笑顔を見せる。とてもこの現状をやってのけたプレイヤーには見えないだろう。何故かあの笑顔に恐怖を覚えた……。

 

「そっちは終わったの……って」

「これは……流石、毒魔法ですね」

 

 向こうも終わったらしくこちらに来たのだが、毒沼を見て軽く引いていた。

 

「この中で戦ったの……?」

「まあ、俺には毒は効かないし……」

「それにしたって……ない」

 

 しかも、俺のことも引く始末だ。なんでこうなるんだよ……。

 

「【ウォーターボール】」

「ぶぉっ!? な、何しやがる!」

「綺麗にしただけ。ほら、しゃがんでよ」

 

 ハナが俺に向けて水魔法をかけて、びしょ濡れにしたと思ったら、いきなりの命令。俺、兄なのに、扱い酷くね?

 

「こんな毒沼に入れないんだから、肩車してよ」

「はいはい……」

「え? どういうこと?」

 

 ハナが言いたいことを理解して仕方なく肩車をしてやる。

 メイプルがハナの言いたいことが分からずに戸惑う。

 

「メイプル、魔法やスキルと言ったものは味方にダメージを与えないけど、それによって出来た地形はダメージを食らうの。あの毒沼みたいに」

「そっかー。じゃあ、サリーもブレイブに抱えて運んでもらわないとね!」

「「は、はい?」」

 

 サリーがメイプルに説明したあと、メイプルが爆弾を投下する。これには俺もサリーも顔を赤くしてしまった。

 

「ちょっ!? な、なんで!?」

「いいじゃないですかー。妹の私が許可を出すので、どうぞブレイブに抱えられてください」

「何でお前まで乗ってくるんだよ!?」

 

 肩車してるから顔はよく分からないが、声のトーンや口調からニヤニヤしてるのだけは分かる。

 

「とりあえず、装備を外しておいたら?」

「いや、あの……」

 

 サリーが戸惑いを見せていたが、メイプルが何やら耳打ちした瞬間、さらに、顔が赤くなる。

 サリーはついに装備を外した。

 

「よ、よろしくお願いします……」

「お、おう……」

 

 え? 何でこうなるの?

 俺も戸惑い、サリーを抱える。ハナが肩車をしている関係上お姫様抱っこである。

 

「た、頼むから茹で蛸のように顔を赤くしないでくれ!」

「し、仕方ないでしょ! 恥ずかしいのよ!!」

 

 だったら、これ以外の手段を考えてくれ!!

 毒沼を突破する間だけとはいえ、俺はハナとサリーを運んだ。

 毒沼を突破したあと、ボス部屋まで難なく進み、ボスもあっさりと倒すのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

 サリーのターンが続いて来ました。メイプルとの絡みも考えておかないとですね。
 では、どうぞ。


 ゴブリンのダンジョンをクリアした俺達は再び草原を歩く。

 因みに、あのダンジョンでメダル2枚と強力だがすぐに壊れる片手剣が手に入った。

 片手剣は俺がもらい、メダルは恨みっこなしじゃんけんでサリーとハナがもらった。

 

「……おい」

「……………」

「おいってば」

「ひぅっ!? な、何よぉ!?」

 

 草原を突破して森に入ったのだが、その森が暗い雰囲気があり、如何にも出そうだった。何がって? そりゃあ、あれですよ。

 

「ほら、見て! 綺麗な火の玉がある!」

「赤に緑に青に……色んな火の玉がありますね。あれ、誰かの魂なんですかね?」

「いやー!!! 聞こえなーい!!!」

 

 サリーが俺の服を掴んで涙を流しながら叫ぶ。

 そう、この森は幽霊とか妖怪とかその手の類いが出てきそう……というか、出てきてるのだ。

 

「ねぇ、逃げよう? そうしよう? ね?」

「お前……ホラー苦手だったのか……」

 

 サリーが目をうるうるさせて上目使いでそんなことを言う。その顔に可愛いと動揺するよりも鬼気迫る感じがして憐れに思えてしまった。

 

「ほ、ほほほ、ホラーが苦手? な、なな、何のこと……ひっ!?」

「サリーさん、そんな怯えた様子を見せたら説得力皆無です」

「サリーは本当にこういうのダメなんだー」

「歩きにくいから服を掴むのやめてほしいんだが」

「こ、これは……そ、そう! ブレイブが怖がってるのかと思って!!」

 

 怖がってるのはお前だろ。子犬みたいに体を震わせてるくせに何を言ってるんだか……。

 俺達は幽霊やらゾンビやらを魔法で蹴散らしていきつつ森を探索する。

 その間もサリーは俺の服から離すことがなく、体を震わせていた。

 しばらく探索していると家を見つける。

 

「家がありますね」

「本当だ」

「は、早く入ろう!!」

「わ、分かったから強く引っ張るな!?」

 

 俺達は家の中に入る。

 幸いにも内装がぼろく汚いくらいで、中にはモンスターがいなかった。ゾンビとかいたらサリーが気絶するかもだし助かった……。

 

「ゾンビとか入ってきませんよね? ホラー映画とかだとよくある」

「ハナ、それ以上はいけない」

 

 ハナが余計なことを言うもんだからさっきまで安心していたサリーの顔が青くなっていく。

 

「お、落ち着けよ。入ってこないって」

「そうだよ。とりあえず、トランプをやろうよ!」

 

 メイプルがトランプを取り出した。そんなアイテムもあったなぁ。

 

「他にも、オセロとか将棋とかスゴロクとかいっぱいあるよ!」

「修学旅行か!」

「けん玉まであるんですね……」

 

 遊び道具を次々と出してくる。よくもまあこんなに買い込んだな……。

 

「じゃ、じゃあ、ババ抜きをやりましょうか」

 

 サリーは外にいる幽霊などに怖がりながらも提案する。しかも、食料をたくさん出したのだ。

 

「ど、どうしたんですか、その食料?」

「ゲーム内だから、食事って不要だよな?」

「私、どうも現実と同じように食べないと調子がでないのよ……」

「なるほどな。じゃあ、食べながら遊ぶか」

 

 俺達はババ抜きやポーカー、チェス、スゴロクとたくさん遊ぶ。

 そして、遊んだ後、交代で眠ることにした。俺とサリーが番をして、メイプルとハナが眠りにつく。

 

「大丈夫か?」

 

 2人が眠って静かになると俺はサリーに声をかけた。

 家の雰囲気が暗く、どこか不気味なので、サリーが怖がってるんじゃないかと思ったからだ。

 

「な、何がよ……」

「怖いんじゃないかなと」

「べ、別に……」

 

 そんな椅子の上で体育座りになって、怯えていたら説得力がないな……。

 

「しりとりでもするか」

「何でよ?」

「気が紛れるんじゃないかなって」

「ふーん。まあ、いいけど」

 

 俺とサリーはしりとりをして時間を潰す。やはり、気が紛れるのかサリーは先程とは違い、リラックスが出来ていた。

 そんな時だ。ボソボソと何か聞こえてきた。

 

「ひぃ!?」

「ちょっ!?」

 

 慌てたサリーが椅子から飛び降りると俺の腕を掴み、自分の体に引き寄せた。

 うっ! こんな状況なのに、ドキッとしてしまうとは!?

 サリーの装備はメイプルみたいな鎧ではない。だから、体の柔らかさが直に伝わってくるのだ。……いや、胸の柔らかさだけは伝わらないんだがな。

 

「う、うぅ……」

 

 そんな中でもボソボソと何かうめき声のようなものが聞こえてくる。サリーは顔が真っ青になり、どうにかしてぇーと俺の体を揺さぶった。

 

「わ、わかったから! とりあえず、落ち着け!」

 

 こんなに騒がしいのに、メイプルとハナは起きる気配がない。くそー、俺がやるしかないじゃんかー。

 

「机の下から聞こえてくるな……」

 

 下に何かあると睨んだ俺は腕に引っ付いてるサリーを少し邪魔に思いながら机をどけた。

 

「よいしょっと。お?」

「な、何!?」

「隠し扉発見。下に何かあるな」

 

 床に扉があるのを見つけた。俺は扉を開けると下へと続く階段があった。

 

「んじゃ、行きますか」

「い、行くの!?」

「行きたくないなら残ってくれてもいいぞ」

「…………私も行く」

 

 サリーは変わらずに俺の腕を掴みながら一緒に行くことを決意した。

 俺はサリーと一緒に階段を降り、出てきた部屋に入る。その間も声が聞こえてくる。いや、むしろ、声が聞こえやすくなっていくのだ。

 

「これは……」

 

 部屋に入ると椅子に縄で縛り付けられた男性がいた。若干透けてるように見える。サリーからす、透けてるという呟きが聞こえた。

 男性の体はボロボロで痛い、痛いと呻き声を上げていた。

 

「こりゃいかんな。傷を癒さないと」

「そ、そうね……」

 

 俺は縄をほどいて【ヒール】をかけてやる。サリーも怯えながらも俺と同じように男性に【ヒール】をかけた。

 男性の傷が癒えていき、やがて、俺達にお礼を昇天していくかのように消えていった。

 

「成仏していったな」

「じょ、成仏とかいわないで!? あれはゲームの演出よ!!」

 

 いやでも、状況的にあれは成仏以外に考えられないが……サリーは余程あの男性が幽霊であることを認めたくないらしい。

 俺がふと椅子を見るとメダルと指輪が置かれていた。

 

「HPが上昇する指輪にメダルが1枚か」

「あの男性のお礼……かしら?」

「だな。とりあえず、指輪はメイプルかハナに渡すとして……メダルは」

「ブレイブがもらいなさい」

「え?」

「前回だとあの脆い剣でしょ? 流石に申し訳ないし……」

「あれは実用があるからもらったんだがな……」

 

 俺はそういうも遠慮せずに受けとることにした。

 この部屋でのやることは終わり、メイプルとハナがいる部屋に戻った。

 その後、メイプルとハナを起こし、下で起こったことを話した。

 メダルは予定通り俺がもらうことにし、指輪は話し合いの結果メイプルがもらうことになった。非常に申し訳なさそうな顔をしていたがこの先に欲しい装備があれば譲ることで納得してくれた。

 

「この森のイベントってそれだけかな?」

「さ、さあ? どうだろうね」

「私としては朝になったら出ていった方がいいかもです」

「一部が耐えられないからな……」

 

 俺達は何かイベントが残っていたとしても朝になったら森を抜けることにし、交代での就寝を再開した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

 第2回イベントの2日目です。少しではありますがSMI(死神滅殺委員会)のメンバーの一部が出てきます。では、どうぞ。


 朝になり、俺達は森から出るために走る。幽霊やゾンビは夜限定なのか特に現れることはなかった。

 サリーがメイプルを抱え、俺が木の上に上って山岳地帯を確認しつつ森を抜けた。

 

「森を抜けれたな」

「んー、久しぶりの日の光!」

「日陰ばかりでキノコが生えるところでしたね」

「今度はなにも無さすぎね」

 

 サリーが疲れのため息をついてそう呟いた。

 確かに森からいきなり何もない荒地のような場所に変わった。ゲームじゃなければあり得ないだろう。

 

「とりあえず、山まで……いるな」

「うん。誰かいる」

「3人……みたいですね」

「どうする?」

 

 別方向から3人のプレイヤーが近づいていた。

 

「接触するとしたら俺かメイプルが狙いだよな?」

「うーん。私としてはメイプルだけが狙いだと思うんだけど……だって、戦ってリスクが低いのはメイプルだから」

「機動性がなく、防御貫通が実装した今だと数で挑めば倒せそうですからね」

「なるほどね」

 

 確かに、その通りだ。だとしたら、それをもとに作戦を立てないとな。

 

「…………」

 

 ハナが考える素振りを取る。こういう時は大体ろくでもないことかとんでもないことのどっちかを考えてるに決まってる。

 

「ハナ、何か考えがあるのか?」

「え? ううん。サリーさん、何かありますか?」

「そうね……これはどうかしら?」

 

 サリーが立てた作戦はこうだ。

 メイプルをわざと俺達と離れさせるようにする。そして、孤立したとみた3人が襲いかかったところで【カバームーブ】を発動し、俺達の誰かまで移動するというものだ。悪食が使えるように黒い大盾を装備することも忘れない。

 因みに、【カバームーブ】は使用後30秒、被ダメージを倍にする代わりに半径5メートル以内にいるメンバーへ瞬間移動できるスキルだ。しかも、AGIに左右されないのだからスゴい。その有用さに俺も手に入れたくらいだ。

 俺達は3人が予想通り一緒に付いていっていいかと聞かれたので、快く受け入れた。その際に俺を睨み付けていたが、嫉妬してるだけなので、気にしないことにした。

 さりげなく俺達とメイプルの距離を離していくのだが一向に襲おうとしない。どういうことだ?

 しかも、メイプルには目を向けず、俺ばかりを睨んでいた。

 

「……サリーさん、ちょっと」

「……え? わ、わかった」

 

 何やらハナがサリーに耳打ちをしたと思ったら何故か俺から離れていく2人。訳がわからない。

 

「ん? メッセージ?」

 

 ハナからメッセージが送られてくる。メイプルと少し距離を縮めて欲しいと書かれていた。

 俺は?マークで頭がいっぱいになったが、素直に従うことにした。

 歩く速度を緩めてメイプルとの距離を少し縮める。その瞬間、男3人の目が煌めいた気がした。

 3人は駆け出したと思ったらメイプルを無視して俺に向かって武器を構えてきたのだ。

 

「んなっ!?」

「「「死ねぇ! 死神ィ!!」」」

「【エクスプロージョン】」

「「「「え?」」」」

 

 俺と3人の間に輝く閃光、直後に轟音と共に爆発が起きた。

 爆煙が立ち上ぼり、クレーターができていた。そんな中で俺はヤムチャな格好で倒れ伏せていた。

 

「ふぅ……」

「……ふぅ……じゃねぇよ!?」

 

 やりきったと言わんばかりの息をついたハナに俺は起き上がって怒鳴った。

 

「まさか、本当にやるなんてね……」

「私はやると言ったらやる女です」

「ひでぇ妹だな……」

「私、何が何だかよくわからないんだけど……?」

 

 ……俺もよくわからないんだよな。何でメイプルをガン無視して俺を狙ってきたのやら。明らかに殺意を抱いていたし。

 あれか? やっぱり男の嫉妬か? それにしたってなぁ……。

 

「とりあえず、仲間を犠牲にした魔法攻撃は止めてくれ……」

「善処します」

「それ、絶対またやらかす発言だからな?」

 

 俺達はプレイヤーを警戒しつつ山岳地帯を歩く。

 その間に何回も鳥型のモンスターと対峙して倒していった。

 

「しかし、空にいるから魔法しか攻撃が当たらないわね……」

「MPの消費が……」

「……試してみるか。みんな、攻撃を止めてくれ」

「どうしたの?」

「まあ、見ててくれ」

 

 俺は鎌を置くとあのゴブリンの洞窟で手に入れた剣を取り出した。

 

「【魂の共鳴】」

 

 俺は剣に向けて【魂の共鳴】を発動させ、剣に黒い靄がかかる。それを確認して俺は鳥型のモンスターに向かって投げた。

 剣は横回転しながら鳥型のモンスターへ飛んでいき、何回も攻撃して倒した。

 

「スゴッ!?」

「これなら節約できるね」

「でも、俺の動きが単調になっちゃうんだよな」

 

 剣を操るのだから並列思考でもしないかぎり自分の体の複雑な動きは難しいだろう。

 

「私は【精霊結晶】を操りながら動けるけど?」

「お前は並列思考ができるんだろ。羨ましい限りだよ……」

「いざとなったら私が守るから安心してね!」

「おう。ありがとな、メイプル」

 

 俺達は調子よく進んでいき、吹雪が吹き荒れる雪地帯に突入しても躓くことはなかった。そして、気づけば山の頂上に到達した。

 途中で剣は破損してしまったものの新たに別の剣を出すことで何の支障はなく、魔法をほとんど使うことなく戦闘を行えた。

 

「魔方陣があるな」

「ってことはダンジョンがあるね!」

 

 頂上には祠があり、その前に転移の魔方陣が展開されていた。入ろうとしたときに誰か来る気配を感じ取った。

 

「誰かいる……」

「今度は4人ね」

 

 またも来るプレイヤーに俺達は警戒を始める。だが、その警戒も俺とメイプルは和らぐことになる。

 

「あれ? メイプルにブレイブ?」

「あ、クロムさん」

「クロムじゃん」

 

 何とこっちに近づいてきたのはクロムとそのメンバーだった。

 

「こっちには攻撃の意思はない。だから、その杖を下ろしてくれないかなぁ……」

「ハナ、クロムは一応フレンドだから抑えてくれ」

「わかった」

「サリーもお願い」

「警戒を解くつもりはないけど、私も戦闘したくないからね」

 

 ハナが杖を構えていたため、説得して戦闘態勢を解いておく。サリーも警戒を解かないでいるが短剣の柄に触れていた手を前に動かした。クロムのパーティーはハナが杖を下ろしてくれたことにほっとした。

 

「それで、どうするんですか? 祠前にあるこれって絶対ダンジョンに繋がる魔方陣ですよね?」

「そうだな……」

 

 順当にいけば先についた俺達が先なんだろうな。

 

「攻略した報酬はどっちかしかもらえない……」

 

 サリーのこぼした呟きにメイプルがハッとしてオロオロしだした。まさか、こいつ……。

 

「はぁ。クロム、先にいけよ。譲ってやる」

「ブレイブ!?」

「あんた、自分のいってること分かってる?」

 

 ハナが目を開いて驚き、サリーがジトッとした視線を向けられる。だが、メイプルは目をキラキラさせて俺を見てきた。

 

「メイプルはそのつもりみたいだし」

「そうなの?」

「う、うん」

「えっと……いいのか?」

「まあ、いいよ。な、2人とも」

 

 俺がサリーとハナに振ると2人は仕方ないと息をついて頷いてくれた。

 

「メイプル、ブレイブも、後悔がないようにね」

「うん」

「分かってるよ。クロム、これは貸しだからな?」

「ああ、分かってる。メイプルも何かあれば手伝うよ。ありがとうな」

「はい!」

 

 クロム達パーティーは俺達にお礼を言うと魔方陣に入っていった。

 俺達はクロム達が転移したのを見送ると雪遊びをする。

 だが、それは本格的に始まることはなかった。

 

「魔方陣が……!?」

「ど、どどどういうこと!?」

「これは……」

 

 クロム達が転移してから少し経った頃、ハナの声に反応して祠を見た。

 転移魔方陣が復活していたのだ。

 

「時間的に5分はおろか、1分も経ってないですよね?」

「クロム達がダンジョンをクリアした……ってのは楽観的かねぇ?」

「転移先にアイテムやメダルが置いてあるだけって? それはないでしょうね」

「やっぱり? 魔方陣が復活したってことは俺達はクロムが行ったダンジョンに行けるってことだから、クロム達がクリアした線はないだろうな」

「つまりどういうこと?」

「……先にいる何かにあっさりと倒された……と見るのが妥当ですね。ブレイブ、あのクロムって人はどのくらいの強さがあるの?」

「金のメダルを始めから持ってるくらいの実力は持ってる」

 

 ハナの質問に対して、俺は遠回しに第1回イベントで上位10位以内であることを伝える。だからこそ、俺達は魔方陣の先にいる何かに余計に戦慄した。

 

「行くか?」

「当然でしょ!」

「何が待っていても私が守るよー!」

「頼りになりますね」

 

 俺達は魔方陣に乗り、ダンジョンへ転移した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

 久しぶりの投稿です。【銀翼】の戦いの話ですね。
 【銀翼】は原作より少し強くしてあります。そうしないと簡単に勝ってしまいますからね。
 では、どうぞ。


 転移が完了すると俺達は武器を構えて警戒する。

 メイプルは例の黒い大盾を装備してるし、ハナにいたっては【精霊結晶】を展開していた。

 

「クロムさん、いないね」

「速攻でやられたってことか。どんだけ凶悪なボスなんだよ!」

 

 周りを見渡してもクロム達の姿はない。既に全損したと考えるべきだ。

 

「ねぇ、あれ」

「鳥の巣ですか」

「はい。鳥型確定ですね、分かります」

 

 鳥の巣を見つけて俺とサリーはしかめっ面をうかべる。

 

「【大海】は役に立たないわね」

「面倒なボスになりそうだな」

「慎重に鳥の巣に近づきましょう」

「うん」

 

 俺達は鳥の巣に近づく。鳥の巣の距離が徐々に縮まっていったその時だ。

 

「っ!? 散開!!」

 

 俺の指示で散開し、襲ってきた何かを跳んで避けた。

 俺達がいたところにあったのは氷の塊だ。上を見上げると巨大な怪鳥が俺達を見下ろしていた。

 因みに、散開することは予め決まっていた作戦だ。固まるよりも分かれた方が死ににくいからだ。

 だが、メイプルは機動の面で問題が出るので、サリーが【カバームーブ】の転移先にすることで解決するために、メイプルとサリーはコンビで動くことになっていた。

 

「メイプル!」

「うん! 【挑発】!」

 

 サリーの指示でメイプルが【挑発】を発動し、怪鳥がメイプルとサリーに注意を向ける。

 怪鳥は左右に魔方陣を展開すると氷の矢を無数に射出した。

 

「【カバー】!」

 

 メイプルはサリーにダメージがいかないように【カバー】で守る。メイプルは【悪食】を温存するために大盾を手放したにも関わらず、VITがあまりにも高すぎてダメージが全く通ってなかった。

 

「一気に削ります!」

 

 怪鳥がメイプル達に攻撃してる間に、ハナは後ろから怪鳥まで跳んで近づいた。

 

「【聖魔剣】!!」

 

 杖と結晶が剣に変わる。初めて見たが、ハナの最強の魔法だ。

 どれだけ減るか期待した。この怪鳥はとんでもなく強いと何となく感じていたからだ。

 

「っ!?」

 

 だが、攻撃を与えたハナの顔が驚愕で固まった。

 無理もない。最強の魔法が半分も削れなかったのだから。

 削れたHPは3割。つまり、【聖魔剣】のダメージは1割5分しか削れていなかったのだ。

 しかも、ヘイトがハナのところに向けられる。

 

「【超加速】!!」

 

 俺は速度上昇スキルを発動させた。

 【超加速】は二層にあるクエストをクリアすることで手に入るスキルだ。効果は1分間AGIを50%上昇させるというものだ。しかし、使ったら30分間使えないので、連続発動はできない。

 AGIが上昇した俺は空中にいるハナを抱えた。

 

「ハナ! 【エクスプロージョン】を放て!!」

「【エクスプロージョン】!!」

 

 怪鳥が俺達の方に向いて来たのを確認した俺はハナに【エクスプロージョン】を放つように指示した。

 何も攻撃が狙いではない。【エクスプロージョン】による爆発によって目眩ましを狙ったのだ。

 狙いはうまく決まり、俺達は爆風で吹き飛ばされる。

 着地をうまく行い、怪鳥から距離を取った。

 

「二人とも、大丈夫!?」

「平気だ!」

 

 メイプルから心配の声がかかり、俺は返事を返す。

 しかし、予想外だった。ここまでHPが高いなんて……。

 

「メイプル、サリー! 俺達は避けることに専念する。ヘイトをそっちに向けるように頼む!」

「了解!」

 

 メイプルの【挑発】は再使用に時間がかかる。サリーとメイプルが攻撃してヘイトをためるしかない。

 怪鳥は俺達に向けて氷の塊を放ってくる。俺とハナは避けて、当たらないように体を動かす。特に、VITがかなり低いハナは当たったら即死する可能性があるからな。

 

「【スラッシュ】! 【ダブルスラッシュ】!」

「【毒竜(ヒドラ)】!」

 

 俺達が避ける間、サリーとメイプルが怪鳥に攻撃する。俺とハナはお互いに頷くと左右に分かれた。

 

「【フレアドライブ】!」

「【地獄火球】!」

 

 怪鳥の狙いがサリーとメイプルに向けられるのを確認すると俺とハナは同時に炎の魔法を発動させた。

 

「【ファイアボール】! 【ウィンドカッター】!」

 

 サリーも負けじと魔法を与える。

 怪鳥はサリーを睨み付けると爪で攻撃しようとした。

 

「【カバームーブ】! 【カバー】!!」

 

 メイプルがそれを許すはずもなく、サリーの前まで移動して盾で防いだ。

 その瞬間、今まで微動だにしなかったメイプルのHPが変動した。

 

「貫通攻撃!?」

「いや! 多分、メイプルを貫通させるほどの破壊力があるんだ!」

 

 何てこった! そんな攻撃、俺でも即死だぞ!? 道理でクロム達がすぐに全滅になるわけだ……!

 

「どんどん攻撃して! これは長引くと危険よ!!」

「みたいだな! ハナ!」

「分かってる! 【テンペストボール】! 【激流】!!」

 

 ハナは後ろに下がりながら結晶を操作し、結晶のみで魔法を放つ。

 

「【インパクトサイズ】!」

「【疾風切り】!」

 

 俺はサリーと一緒に【鎌の心得】のレベルアップにより手に入れたスキルで攻撃する。そして、攻撃されないように退く。ヒット・アンド・アウェイという戦法だ。

 そうして、攻撃を当たらないように神経を研ぎ澄ましながら戦っていると怪鳥のHPは半分を切ることができた。

 

「っ! メイプル!!」

「え?」

 

 怪鳥は嘴に巨大な魔方陣を展開する。そして、メイプルに向けてレーザーを放った。

 メイプルは盾でそのレーザーを受け止めた。

 

「うっぐぅ。【悪食】がなかったら、危なかった……。後、3回だよ!」

 

 攻撃に使ったりもしたからか【悪食】の使用回数も残りは僅かだ。早めに決着を付けないと。

 

「【魂の共鳴】!」

 

 俺は鎌鼬で怪鳥に攻撃し、接近した。

 サリーも攻撃を躱しながら接近していた。

 

「「【跳躍】!!」」

「【インパクトサイズ】! 【破拳】! 【クロスサイズ】!!」

「【パワーアタック】! 【ダブルスラッシュ】! 【疾風切り】!!」

 

 俺とサリーがスキルで次々と怪鳥に攻撃を与える。そして、それが功を奏したのか、サリーの【状態異常攻撃】により、怪鳥が麻痺状態になった。

 

「今よ、メイプル!」

「【毒竜(ヒドラ)】!!」

「私も行きます! 【聖魔砲】!!」

 

 サリーの合図でメイプルとハナが一斉に魔法を放った。

 魔法により、2割も削れ、残りは3割くらいだ。

 その時だ。麻痺が治ったらしい怪鳥が空高く飛び、黒く染まっていく。染まっていく度に自身のHPが削れていった。

 

「な、何が起きてるんだ!?」

「嫌な変化が起きてるのは確かですね」

「みんな、警戒して!」

「うん!」

 

 怪鳥が黒く染まった。残りHPは1割。後少しだというのに、冷や汗が止まらない。

 

「ハナ、自バフかけとけ」

「分かった。【風妖精の衣】」

 

 ハナは風を纏い、怪鳥から距離を取った。俺も同じように距離を取る。

 

「来るぞ!」

 

 怪鳥は飛び、メイプルへ接近した。その速さは本当に一瞬。強化したとはいえ、ここまでか!?

 

「メイプル!」

「う、ぐ! だ、大丈夫! あ」

 

 怪鳥の嘴を受け止めたメイプルが大盾を破壊された。

 

「メイプル! 避けて!」

 

 サリーが叫ぶが間に合うはずもなく、追撃として襲ってきた爪をメイプルは体に当たってしまった。

 俺はヤバいと感じ、メイプルへ近づいた。

 

「こっちに【カバームーブ】だ!!」

「か、【カバームーブ】!!」

 

 メイプルは俺のもとへ移動する。しかし、それを怪鳥が逃すはずもなかった。

 

「なっ!?」

 

 先ほどと同じように急接近する怪鳥は爪を俺に向けて振ってくる。

 仕方ない。受けるしかないか。どうせ、【起死回生】で復活するし……。

 そんなことを考えていたら、メイプルが俺よりも前に出た。

 

「【カバー】!」

 

 もうHPは1割を切っているにも関わらず俺を守るために爪を受け止めるメイプル。しかし、どういうわけかまだ消えることなくそこに立っていた。

 何らかのスキルで耐えた……? いや、今はそんなことより……。

 

「ごめん、無理だったかも」

 

 メイプルがそういうのは怪鳥が俺達に向けてあのレーザーを放とうとしていたからだ。

 サリーやハナが必死に倒そうと怪鳥に攻撃しているがダメージは受けていない。あの状態はダメージは負わないらしい。

 怪鳥の黒いやつが魔方陣に集まっていく。きっと、これを受けきれば、勝てるはずだ。

 

「いや、そんなことはねぇよ。【カバー】!!」

 

 ついに、黒いレーザーが放たれる。それを俺はメイプルを守る形で受け止めた。

 

「メイプル! ブレイブ!」

「……いえ、まだですよ」

 

 やられたと思ったからかサリーが俺とメイプルの名前を叫ぶ。それに対して、ハナは俺を信じているのか怪鳥の近くまで近づいてくれた。

 

「【カバームーブ】」

 

 俺はハナに向かって【カバームーブ】を発動させる。一瞬でハナの近くまで移動した俺は怪鳥まで跳んで、白く輝く鎌を構えた。

 怪鳥はさっきの攻撃で黒くなくなり、強化状態が消えたが、それでも、俺を倒そうと魔方陣を展開した。

 だが、遅い。今の俺は【逆境】の効果でAGIが2.5倍になってるのだから、お前の攻撃が始まる前に。

 

「これで、終わりだ!!!」

 

 こっちの攻撃が決まる!

 俺の鎌は確実に怪鳥の体を捉え、HPを削りきった。

 怪鳥は俺の攻撃で倒され、消えていった。それを確認した俺はその場で倒れた。

 

「終わったー」

「お疲れ」

「【カバームーブ】! ぶ、ブレイブ! 大丈夫なの!?」

「俺のことより、お前だよ……」

「私としては2人とも心配なんだけど……」

 

 【カバームーブ】で移動してきたメイプルが俺に駆け寄った。

 サリーはメイプルだけでなく、俺も心配しており、少しオドオドした感じだった。

 むしろ、冷静でいるハナがおかしい。そう思うのは俺だけなのだろうか?

 

「俺は問題ない。前に話したろ? 【起死回生】のお陰でHPは1の状態とはいえ、必ず1回は復活する。俺としてはメイプルの方が気になるが……」

「うん。実はあのときにスキルが手に入ったんだ。えっと……【不屈の守護者】……どんな攻撃もHPを1で耐えられるんだって」

「そっかぁ」

「じゃないでしょ!? 【ヒール】! ハナ、回復薬!!」

「はい。さっさと飲んで」

「むぐっ!?」

 

 メイプルはサリーに【ヒール】をかけてもらい、俺はハナに回復薬を口に突っ込まれた。俺だけ扱いが雑!!

 俺とメイプルの回復が終わると俺とメイプルで倒した怪鳥の周辺を探索、サリーとハナで鳥の巣を探索することにした。

 

「いい素材だな」

「だね。あっちの方はどうなったのかな?」

 

 爪や羽を回収している中、メイプルが鳥の巣を気にする。確かに、あっちの方は豪華なものがありそうだもんな。

 

「2人とも! こっちに来て!!」

「面白いものがあります!」

 

 と思ってると鳥の巣探索組からお声がかかった。

 俺達は鳥の巣に向かうとそこには卵と巻物が置いてあった。

 

「卵が3つに巻物が1つ……か」

「卵には『温めると孵化する』としか書いてないね」

「モンスターの卵というからにはモンスターが生まれるんですよね」

「このゲームに召喚師(サモナー)従魔師(テイマー)はいないはずだし……モンスターを召喚するだけなら嫌だな……」

 

 流石に、サリーが想像してるようなことはないと思いたいな。

 

「それで、巻物は?」

「どれどれ? 【暗黒化】ってスキルらしいな。効果は……『発動時にHPの3割を消費する。3分間STR、VIT、AGI、DEX、INTが2倍になる。発動後の30分はSTR、VIT、AGI、DEX、INTが0.5倍になり、被ダメージが2倍になる。1日に1度しか発動しない』」

「強力だけど、デメリットがデカすぎるわ……」

「でも、よくあるパターンじゃん。発動中は全身が黒くなるみたいだし、これってトラ○ザ○の黒い版みたいなもんだろ?」

「それの効果って3倍じゃなかったかしら? というか、ネタが古いわよ」

 

 そうだっけ? あの作品って何年も前だから、よく覚えてない。

 

「? よく分からないけど、強いスキルなんだね!」

「少なくとも、私とメイプルは使えないわね。ステータスが落ちたら死にかねないわ」

「私もパスです」

「なら、俺がもらう。デメリットはでかいけど、【逆境】と組み合わせれば何とかなる」

「じゃあ、私達はこの卵か……」

 

 メイプル、サリー、ハナの3人は緑、紫、黄色の卵に目を向けた。

 

「先に先輩である2人からどうぞ」

「じゃあ、メイプルが先で、次に私。余りがハナでいいわね」

「いいの?」

「いいから、ほら」

「じゃあ……」

 

 メイプルが緑、サリーが紫、ハナが黄色の卵を手に取った。一体何が生まれるか楽しみだな。

 その後、怪鳥の素材を分配して、3つの魔方陣の内の1つに入ってダンジョンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」

 

 運営に悲鳴が上がる。イベントの処理に終われてる中で悲鳴が上がるものだから全員視線を上げた人物に向けた。

 

「どうした?」

「【銀翼】がやられた~!!」

 

 その言葉に動揺が走る。それほどまでに予想外な報告なのだろう。

 

「バカな!? あれって俺達の悪意の塊だろ!?」

「ステータスやHP、MPだけじゃなくて、あらゆる攻撃も異常なくらい高くしたよな?」

「しかも、それでも不安だからって、強化状態には無敵を付与したんだろ!?」

「プレイヤーが倒せるボスじゃないよな」

 

 【銀翼】というモンスターはそれはそれは運営がどんなプレイヤーも倒せないと思うくらいの設定を行った。

 実際、あのペインが率いる最強パーティーでも無理なレベルまで設定してしまっていた。

 さらに、プレイヤーを倒すと1割回復するというスキルも入っていたのだからたちが悪い。尤も、メイプル達は誰も倒れずに【銀翼】を倒してしまったから不発に終わったが。

 

「……うわぁ」

「どのパーティーだ?」

「メイプルとブレイブ、ハナがいるパーティー」

『だと思ったよ』

 

 【銀翼】の戦闘動画を確認していた運営の1人が出したパーティーに全員予想通りという顔をしていた。

 

「でも、メイプルは攻撃が当たらないよな?」

「ってことは残りのメンバーでごり押し?」

「とりあえず、戦闘の動画を見せてくれ」

 

 運営が戦闘動画を確認する。その時、メイプルが瞬間移動した姿を見て運営全員ギョッとした。

 

「おい! 今のなんだよ!?」

「あー、【カバームーブ】だな。それで、メイプルの機動問題を解決したんだな」

「【カバームーブ】ってそういう使い道じゃないんだがな……」

「こういう移動手段として用いるのはメイプルくらいだな……」

 

 その言葉に誰もが頷いた。

 

「それで、誰がメイプルの【カバームーブ】の移動先を担当してるんだ?」

「ブレイブが妥当じゃないか?」

「いや、サリーってプレイヤーだな」

「へぇー」

 

 これには運営は意外と感じた。回避力を見る限りだとブレイブやハナの方がいいと思ったのだ。それに、守ることも考えるとハナの方が効果的のはずだ。

 だが、その考えはサリーの戦闘を見て改めることになる。

 

「……ヤバいな」

「うん。ヤバいね」

「何、こいつ。PS高くね?」

 

 全ての回避するのは当たり前。しかも、攻撃を予知してるかのように躱しているのだ。

 ブレイブやハナみたいに見て回避してる素振りはほぼない。こう来るだろうからこう避けようという感じだった。

 

「下手したらあの3人よりヤバい」

「PSだけ見たらゲームでトップクラスだぞ!?」

「やっぱりおかしい。あいつらの周りにいる奴らはみんなおかしい!」

「って、待てよ。卵を持っていたってことだよな!?」

「やべっ!? もしかして、あのスキルもか!?」

 

 怪鳥を倒した報酬は当初よりも豪華になっていた。というのも、当初よりも凶悪になったものだから、その分良くしようとしたのだ。因みに、当初は卵2つしか報酬はなかった。

 卵は今後実装する予定のテイマーモンスターの卵だ。実は【銀翼】のような倒されることはない強力なボスの報酬として用意していたのだ。結果がこれなのだが。

 

「何を持ってかれた!?」

「亀と狐、イタチだ」

「イタチはマズいな。確か、魔法によるサポートができただろ? 火力増加とか障壁とかバインドとか」

「誰が持っていった?」

「……ハナ」

『最悪だぁー!?』

 

 テイマーモンスターのステータスは主のステータスに影響される。だから、INTが高いハナとは相性がかなりいい。理想的なテイマーモンスターが生まれることだろう。

 

「と、兎に角、メダルスキルの確認を急げ!!」

「くそー! 仕事が増えたー!!」

「もうやだ」

「あいつらがラスボスでいいんじゃね?」

 

 運営は口々に文句を言いながら作業に入る。そして、メイプル達がメダルスキルを変な使い方をしないように祈るのだった。




 ハナが順調に強くなっていく……。ブレイブも強化されたけど、まだ影が薄い気がするのは気のせいなのだろうか……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

 皆さん、お久しぶりです。長らく空けてすみません……。
 少しずつではありますが投稿を再開していこうと思います。これからもこの小説を読んでくださると幸いです。


 魔方陣で転移した場所は廃墟だった。

 場所はちょうどスタート地点から反対に位置していた。

 転移直後は勿論移動中もプレイヤーを警戒した。

 

「プレイヤーがいるな」

「ええ。3人かしら?」

 

 俺とサリーの【気配察知】にプレイヤーが引っ掛かかった。

 

「【ケルベロス】が使えるぞ」

「そういえば、全く使ってなかったわね」

 

 俺はあの戦闘では【ケルベロス】を使ってなかった。というのも、ケルベロスがいるとヘイト管理が面倒だったからだ。

 ケルベロスは派手に暴れてくれるお陰でヘイトを集めてくれる。だが、召喚時間はたったの2分だし、いなくなった後、怪鳥が向けられる矛先のことを考えるとゾッとする。

 

「メイプルさん、【悪食】の残り回数は?」

「1回だよ」

「メイプルに襲ってくることを考えると避けた方が良さそうね」

 

 俺達はプレイヤーとの戦闘を避け、廃墟から森に移動した。

 プレイヤーがうろつく廃墟に対し、森はモンスターが出てくるのだが、あの怪鳥に比べたら雑魚であった。

 だが、歩いてもメダルがありそうな洞窟やら建物やらはなかった。

 

「そういや、あの戦闘でレベル上がった?」

 

 モンスターとエンカウントされないように木の上に上ったところで俺がふとそんなことを3人に聞いた。

 

「当たり前よ! ブレイブは?」

「レベルは上がったけど、ステ振りはしない。貯めてから行うようにしてるから」

「そう。私達はステ振りしましょ」

「うん」

「そうですね」

 

 3人ともステ振りを始めた。と言っても、3人ともどう振るのか決めていたからすぐに終わったが。

 

「さて、これからどうする?」

 

 3人がステ振りを終わらせたところで俺は今後の話をすることにした。

 

「あの森みたいな夜のイベントを探しますか?」

「悪食は12時になったら、回数は回復するし、深夜探索だね!」

「私はそれで問題ないわ。ブレイブは?」

「特に反論はなし」

 

 俺達は日付が変わるまで休憩をとることにする。

 深夜0時を過ぎたところで、木から下り、森探索を開始した。

 探索中は時折梟が襲ってくるが、ダメージがないメイプルを除いて回避して対応した。

 

「あれは……?」

 

 探索してから1時間半、光る何かを発見した。

 

「行きますか?」

「行こう!」

「慎重にね。プレイヤーかもしれないから」

 

 サリーの注意に俺達は頷く。

 俺とサリーは【気配遮断】を使って、忍び足で近づく。そこにあったのは竹林だった。

 

「これは……竹取物語をモチーフにしてんのか?」

「え!? ってことはこれを切ったら、月のお姫様の赤ん坊が!?」

「そんなわけないでしょ」

 

 とサリーは口にしてるが、内心は本当にいたらどうしようと悩んでいるようだ。

 正直、俺も躊躇いがある。メダルだと思うが……それでも、かぐや姫が眠ってる竹に見えてしまうので、中に人がいると思えてしまうのだ。

 

「【ウィンドカッター】」

 

 そんな中、何の躊躇もなしに魔法で竹を割ったのは……ハナだった。それも、中心を水平に割ってみせた。

 

「普通に考えれば、モンスターかメダルに決まってるじゃないですか。何を躊躇してるんですか?」

「お前、本当現実的な頭してるよなぁ……」

 

 もう少し夢というものを持ってほしいよ、兄としては。

 

「な、何はともあれ! メダルゲットぉ!!」

「そうね。でも……そう簡単に終わらないみたいよ」

 

 サリーがそう言うと武器を構える。

 茂みから角兎が現れる。その数は100以上はいるかもしれない。

 

「月の兎が怒ってるってか?」

「数が多いですね。サリーさんはメイプルさんを守ってください。貫通攻撃かもしれません」

「わかった」

「私は?」

「メイプルはサリーを【カバー】で守ってくれ。ようはお互いに守れだな」

 

 メイプルの【毒竜(ヒドラ)】は強力な範囲攻撃だ。だが、毒沼が発生してしまうのが難点だ。俺は問題なくても、サリーとハナはそうはいかない。

 特に、ハナは回避することを意識するためか大振りな回避をすることがある。その際に、毒沼にはまったら大変だ。

 

「今回は俺達に任せてくれ」

「行きますよ」

 

 数はいても、固まって行動しているからか全滅するのに時間はかからなかった。

 

「う、うわぁ……」

「ここら辺、竹林だったのに、荒れ地になってるね」

 

 周りを見てみると竹は殆ど炭になっていたり、バラバラに切られたりしており、茂みはほぼなくなっていた。

 俺とハナがバンバン火の魔法で倒していったのが原因である。竹が邪魔だったから燃やす意味でも使っていたのだ。

 

「まさかとは思うけど、こんなことを他の場所でもしてないわよね?」

「あー……」

「地形が変わったような場所も……あったかもしれませんね」

「……そう」

 

 気持ちは分かるけど、ドン引きするのは止めてくれ!

 大体! 大半はハナの魔法だからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 俺達はメダルが見つかったことを区切りにして、見張りを2人で担当しつつ、交代で木の上で眠ることにする。

 日が昇ったところで、探索を再開する。メイプルより森を突っ切ることを提案された。特に問題がないため、森を真っ直ぐに進む。

 その際に何回もプレイヤーにエンカウントするが……メイプルの【パラライズシャウト】で麻痺状態にして、ハナの範囲魔法で一掃していった。奇襲されることもあったが、同様に麻痺らせて、範囲魔法で終わった。

 しかし、気になることがある。奇襲してきたとき、真っ先に俺を狙ってきたのだ。明らかに、俺を見つけて襲いかかってきてた。死神め! 我らSMIが成敗してくれる! とか言ってたが、何なんだろうな?

 サリーから恨みを買ったんじゃないの? と言われたが、心当たりが全くない。いや、本当にないからな? PKなんてイベントでない限りやらなかったし……。

 

 閑話休題

 

 探索を開始して2時間くらい経過した頃、ついに、森の外が見えた。

 

「やっとかぁ……はぁー……」

「長いため息だね」

「無理もないわ。あれだけ狙われたら……ね?」

 

 めっちゃ疲れた……。俺、ほぼ攻撃してないのに、何で一番疲れてんの? あり得ないんですけどぉ……。

 目の前に広がる渓谷。この中にもプレイヤーがおり、俺を狙う輩がいるんだろうなぁ。

 

「さて! 森から出るためにも下りるか!」

「今、絶対現実逃避した」

「情けないですよねぇ」

 

 そこ! うるさいぞ! 心に刺さるから止めてくれ……。

 

「しかし、どう下りたものか……」

「私達は下りれそうな足場を見つけて下りる。で、メイプルは……」

「【カバームーブ】で移動ですね。安定的に下りれそうなサリーさんが移動先にした方が良さそうですね」

「うーんと……え? あ、うん。そうだね!」

 

 俺達が渓谷の下を見ながら相談して、どう下りるかを決めているとメイプルはなにやら画面ウィンドウをいじっていた。

 

「……?」

「どうしたの、ブレイブ?」

「いや、何でもない」

 

 何だ? 悪寒がするぞ……? まさか、襲われるんじゃないだろうな? ……いや、さすがにないか。

 俺達はメイプルを残して崖を降りていく。足場は意外に見つけにくく、気づけば、俺が一番遅れていた。

 やっべ。急ごう……お?

 

「あれは……」

 

 光る何かを下りる途中で見つけた。メダルかもしれない!

 俺は必死にその光へ続く足場を見つけて移動する。ようやくたどり着き、メダルを拾った。やったね!

 その時、俺の背筋に電流走る。ふと上を見上げると……。

 

「え……?」

 

 紫色の球体が俺に向かって転がってきていた。

 

「ちょっ!? まっ!?」

 

 俺と紫色の球体が衝突し、一緒になって下へ転がっていった。

 僅かずつ削られていくHP。全身に少しだが痛みが走る。

 一体何が起こったと言うんだと心の中で叫び、俺は混乱しながら下っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は崖を下りきるとメイプルに連絡をとった。メイプルからは少し離れてって連絡が来たけど、何かする気よね……。

 

「ブレイブはまだ降りてますよねぇ。どこでしょう……?」

 

 連絡が取り終えた辺りで降りきったハナちゃんが崖を見上げてブレイブを探していた。私とハナはヒョイヒョイと簡単に降りていたけど、ブレイブは手間取ってしまったみたい。

 私も探してるけどいないわね……ん?

 

「なに、あれ……?」

「紫の物体が上から転がってきてます……何かが巻き込まれてませんか?」

 

 確かに、崖の上から紫色の球体が転がってきている。しかも、ハナちゃんが言うように黒い何かが巻き込まれているみたい。

 まず間違いなくだけど、あの球体はメイプルね。じゃあ、あの巻き込まれてるのは……?

 球体はあちこちでぶつかりながらも私達のところまで転がり降りてきた。

 球体は落下の衝撃で粘つく紫の液体を撒き散らし、中からメイプルが出てきて、巻き込まれていた何かの上に乗った。

 

「うぅ……目が回る……」

「ぅ……ぐ……ぁ……」

「「ブレイブ!?」」

 

 巻き込まれていたのはブレイブだった。みつかないわけね……じゃない!

 

「め、メイプル! 早く降りて!!」

「え……? あっ!?」

「ブレイブ、大丈夫? 死んだ?」

「生きてる……わ。ボケェ……」

 

 メイプルは毒液まみれになって、呻いていたブレイブから降りて、すぐに謝った。

 何がどうなったらこうなるのよ……?

 

「怖かった……。メダルを拾ったと思ったら紫の球体が襲いかかってきて……一緒になって転がされたんだぞ……? 何か毒まみれだし、HPが減ってるし、痛かったし……」

「え? メダル? スゴい」

「ハナ? 称賛の前にさ。慰めてくれない? 全然嬉しくないし、泣けてくるよ?」

「本当にごめん! ごめんなさーい!!」

 

 同情するわ……。あんた、本当災難ね……。

 後で聞いた話だけど、あの球体は【ヴェノムカプセル】というスキルによるものだった。

 相手を毒のカプセルに閉じ込めるというスキルで、自分を対象に向け、カプセルに閉じ籠った状態で崖をおりていったみたい。

 メイプルは毒耐性スキルがないと徐々にHPが減るけど、楽しいよ! とか言っていたけど、私は遠慮願いたいわ……。

 あと、崖を下りる時は先にメイプルを行かせよう。そうしよう。ブレイブのような目には遭いたくないもの。




 因みに、ブレイブのHPが減ったのは転がる【ヴェノムカプセル】に巻き込まれたことにより体が地面に擦れたことが要因です。……減りますよね、HP……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

 崖を下りても傾斜は続いていた。厄介なことに濃い霧が広がっており、段差がよく見えなかった。

 段差とプレイヤーの奇襲に気を付けながら、濃霧の中を進む。

 こういうとき、メイプルのVITの高さが羨ましい。何せ、段差で転んだところでダメージは受けないし、痛みはないからな。

 

「この霧はどこまで続いてるんだろうな」

「前が見えないよぉ」

「メダルが地面にあったとしても分からないしね」

「風の魔法で吹き飛ばします?」

「ダメよ。この霧は私達の身を隠す役目があるんだから」

「そもそもこの濃さじゃあ、吹き飛ばしきれないよな」

 

 俺達がそんな会話をしていると水音が聞こえてきた。

 

「近くに水場がある!?」

「あの方向から聞こえてくるな」

 

 俺達は水音を頼りに霧の中を進む。やがて、小さな川が見えてきた。

 川に到着すると岩の裂け目も見つけ、そこを拠点とし、休憩を取ることにした。

 

「卵を確認しよう!」

 

 メイプルがそう言うので、俺を除いた3人が卵を出した。

 

「これって無くなったりしませんか?」

「2時間放置すると消えるって言うゲームシステムか」

 

 基本的にアイテムはしまうし、【魂の共鳴】で操ってるアイテムは2時間経っても消えないから忘れそうになる。

 

「だったら、2時間経ったらしまうことにしましょ」

「そうですね」

「えっと……温めないといけないよね。人肌かな?」

 

 メイプルは装備を外して卵を温め始める。それを見て、2人も卵を温め始めた。

 そして、その間暇な俺は見張りを行いつつ、メイプルから借りたけん玉で遊んだ。別に、寂しいとか思ってない。決して思ってないんだからな!

 

「それで、これからどうする?」

 

 俺は飛行機という大技を決めつつ、外を見て言った。

 外は未だに霧が立ち込めていた。

 

「川沿いに探索なんでどうですか?」

「そうね。それなら拠点に戻ってこれるし」

 

 俺達は1時間拠点で休憩すると探索に出掛けた。

 上流を目指して探索を開始し、メイプルが進むには困難な地形に出くわすも【カバームーブ】で進むことで解決させた。

 そうして開始して1時間で泉に到着した。

 

「結構深そうね……」

「【水泳】と【潜水】が必要になるわけか」

 

 俺達の中でその2つのスキルを持ってるのは最大レベルまで引き上げたサリーと探索するのに役立つと考えて取得した俺だけだ。

 俺とサリーで泉を探索する。俺の方は収穫はなかったが、サリーは杖を手に入れてきた。【水魔法強化】と【火魔法強化】がついている杖で、ハナしか扱えない武器だが……。

 

「いらない」

「え? でも、付与スキルは結構強いよ?」

「ステータスが低いですし、付与スキルは強いですけど、多属性の魔法を使うので……」

「うーん。でも、ボスの中には特定の属性しか効かないなんてパターンがあるの」

「あー、確かにな」

 

 いるな、その手のボス。スッゲェ厄介で、物理でごり押しすることがあるんだよな。

 

「一応持っておいて損はないんじゃないか?」

「……そうですね。では」

 

 ハナは杖をもらい、俺達は一旦拠点に戻ることにする。

 何かあると思い拠点に戻るまで探してみたが、収穫はなかった。この渓谷は多分外れだな。

 拠点につくと再び3人は卵を温める。俺はまたけん玉で遊ぶ。寂しい……。

 

「どんな子が生まれるんだろうねぇ」

「私のは黄色いですからピカ○ュウです」

「そうだったらここの運営、著作権違反で訴えられるわよ……?」

 

 2時間になりそうなところでインベリトリにしまい、再度出してまた卵を温める。そうして拠点に戻って3時間くらい経過したところでそんな会話が聞こえてきた。

 というかハナ、冗談だろうがそれは口にしてはいけない類いのものだからな……。

 

「はっはっはー。案外サリーのは毒竜だったりしてな。紫色っぽいし」

「私もそれは思った!」

「毒竜かぁ……毒沼まみれになって、身動きとれそうにないから嫌だな」

「実用性の問題かよ……」

 

 そこは可愛くないとかじゃないのか? 流石、ゲーマー……。

 

「なら、メイプルさんのは何の卵でしょう?」

「緑だから草食の動物かしら?」

「いや、植物だろ。食肉植物。ほら、薔薇の蔓で、牙が生えた花が咲くようなやつ」

「「「それは絶対にあり得ない!!!」」」

 

 ギろっとした怖い顔で否定される。その顔から何てものを例えに出すんだと訴えていることはすぐに分かった。

 だが、実際にその手の類いが生まれるかもしれないじゃないか。ハナの言うような著作権には引っ掛からないし。当たったら嬉しくないだろうが……。

 

「鹿とかじゃないかな?」

「いえ、緑の動物ですよ。ワニとかじゃないですか?」

「食べられるよぉ」

「いや、メイプルの場合食べられるけど、堅いから牙が折れるわね」

「あり得そうです」

「ん? おい。卵にヒビが!?」

「「「え?」」」

 

 俺がふと3つの卵を見るとヒビが入るのが見えて驚きの声をあげる。

 そして、ついに3つの卵が孵化して3体の動物が生まれた。

 メイプルの卵からは亀。サリーの卵からは狐。そして、ハナの卵からはイタチが出てきた。

 3体とも大きさは卵と同じくらい。親と認識した各々の元へトコトコと可愛らしく歩き始めた。

 

「わぁ! 可愛いね!」

「はい」

「まさか、狐やイタチが出てくるなんて。モンスターだから関係ないのかも」

 

 殻は指輪に変わっており、亀を抱えたメイプルがそれを拾って、『絆の架け橋』という生まれたモンスターと共闘するには必要な装備品らしい。死んでもその指輪で1日休むのだとか。

 

「死ぬと消えるじゃなくてよかったですね」

「本当にね」

「ステータスが見えます」

 

 そう言ってハナはステータス画面を見る。メイプルやサリーも同様に見始めた。

 3匹の名前は共にノーネームとなっており、主が名前をつけないといけないらしく、名付けを始めた。

 

「シロップ! 私がメイプルだから、合わせてメイプルシロップ!」

「私は……朧でどう?」

 

 もうメイプルとサリーは名前を決めたらしく、名前を気に入ったシロップと朧は主と触れ合う。

 残るハナはと言えば……悩んでいるらしい。

 しかし、魔法少女でイタチか……。ハナの見た目や格好のせいかとある魔法少女作品のフェレットのキャラクターを思い出した。いや、あれは正確にはフェレットに変身した人間か。

 

「花の名前……カモミール。私、好きだし。あ、略してカモかな?」

「それは止めとけぇ!?」

 

 ハナがとんでもない名前をチョイスして止めに入る。それにハナが首をかしげた。

 

「何で?」

「いや、その名前は……。これから先このイタチが変態親父に見えてくるから……」

 

 別の作品に出てくるオコジョにちょうどそんな名前のやつがいる。そいつはいろんな意味で酷かった。

 主人公の使い魔ってポジションなのだが、出会い方が下着泥棒戦犯2000件で捕まったところを助けてもらったというものだ。つまるところ、正真正銘の変態である。変態は皆味方という考えがあるくらいだ。

 その反面サポート面では優秀とはいえ、そんなやつの名前を付けるなんてこのイタチが可哀想である。

 サリーはその作品を知ってるのか苦笑していた。メイプルは当然ハナと同じように首をかしげていた。

 

「よく分からないけど、変えるよ。なら、ランタナ」

「ランタナ? それも花の名前なの?」

「はい。協力って花言葉があるんですよ。ランタナ、それが君の名前」

 

 そう言うとランタナと名付けられたイタチはハナに頬を擦り寄せた。

 その後、3匹は主のステータスと同じ偏りがあったことやシロップがメイプルよりAGIが高かったことが判明し、テイムモンスターと楽しく遊んだ。

 そう、3人は各々のテイムモンスターと楽しく遊んでいるのだ。俺? それを眺めてるだけですが?

 

「……【ケルベロス】」

 

 それを眺めていた俺は疎外感を感じて、耐えられなくなってケルベロスを呼び出した。

 

「ちょっ!? なに呼んでるのよ!?」

「うっせぇ! お前らだけ羨ましいんだよ! ケルベロスぅ。2分だけでいいから俺を癒してぇ……」

「「「くぅーん?」」」

 

 いきなりの俺の暴挙にサリーが声をあげる。

 ケルベロスは状況が分からないで首を傾げていたが、俺に三つ首を差し出してくれた。

 

「よしよし。お前らは可愛いなぁ」

「頭がおかしくなってます」

「いいなぁ」

「え? そう……?」

 

 モフモフとした感触はないけど、癒されるんだよなぁ。俺のなでなででケルベロスは嬉しそうだし。

 召喚時間が終わるとケルベロスは消えてしまった。だが、いい気晴らしになったな。ありがとう、ケルベロス。

 因みに、俺がケルベロスの戯れている間、3人はテイムモンスターを育成していたようだ。

 やり方は簡単。メイプルがモンスターを麻痺させ、それをテイムモンスターに倒させるというものだ。レベルも上がったらしく、スキルが増えて喜んでいた。

 俺もほしいな。テイムモンスター……。




 ネタがリ○なのだけだとおもった? いえ、魔法でイタチ系といったらあの子もそうでしょ? 色は白だけども……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

 今回から偽物との戦いになります。戦闘描写がうまく書けてればいいなぁ。


 シロップ、朧、ランタナの3匹が生まれてから翌日、俺達は渓谷の探索を続けていた。

 テイムモンスターの3匹は今は一緒にはおらず、指輪にいる。何でもレベルが上がったことで【休眠】と【覚醒】というスキルを覚えたらしく、【休眠】で指輪に収納し、【覚醒】で呼び出すようだ。あれだ。指輪が某モンスター育成ゲームの某モンスターを収納するボールの役目を担えるようになったんだな。

 昨日は下流を探索して数時間、霧の発生源と思われる壺を発見した。

 泉の水を吸い上げている壺からは白い霧が出続けており、明らかに何かあると分かった。

 

「調べるか」

「メダルがあるといいね」

 

 俺達は泉の中に入ったその時、それがイベントのトリガーだったのか風が突然止み、濃霧が一瞬にして俺達を包み込んだ。

 

「うおぉぉぉっ!?」

「うわっ! あぁぁぁっ!?」

 

 そして、俺の体に浮遊感が襲いかかり、どこかに落下していく。

 

「ぐっ」

「きゃっ」

 

 気づけば俺はどこかの洞窟へ落ちてしまっていた。サリーも同様に落ちてきており、すぐに上を見上げた。

 

「油断した。まさか、ここで落とし穴なんて」

「高そうだな。上るのは無理だ」

 

 俺も見上げると穴はとても小さく見えるほど遠く見えた。

 

「っと敵さんだ」

「みたいね」

 

 俺達の前に現れたのは白銀騎士だ。騎士は俺達に向かって駆け出し、剣を振るう。それを避け、左右から攻撃スキルで反撃して倒した。

 

「余裕余裕」

「あれ? メイプルとハナちゃんじゃない?」

 

 騎士の先にメイプルとハナが見えた。俺達は安堵して近寄る。

 だが、俺は違和感を感じた。あれは本当にメイプルとハナなのか?

 

「【毒竜(ヒドラ)】」

「【フレアドライブ】」

「「っ!?」」

 

 2人が突然俺達に向けて攻撃してきた。攻撃を避けて後退し、冷や汗をかく。

 あの2人は偽物だ。間違いない。2人が攻撃してくるとは思えない。

 

「「あははははっ!」」

「うっわっ。最悪だよ。尤も戦いたくないタッグが相手とか……」

「初心者コンビと言えば弱く感じるけど、その中身は異常なステータスと異常なスキル持ちだものね……」

 

 片方は機動力は特化型並、火力は超圧倒的の魔法使い。もう片方は防御貫通攻撃でなければダメージを与えることを許さない超堅牢大盾使い。

 お互いの弱点をカバーしあい、大体の敵を無傷で即掃討できる凶悪といえるタッグである。俺達が嫌な顔を浮かべるのは無理のない話だ。

 

「やるしかないか」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧の中、何とかメイプルとは合流できた私はブレイブとサリーさんの声を頼りに歩いていた。

 

「あ、ここから聞こえる!」

「……穴?」

 

 底を覗いてみたけどなにも見えない。だけど、武器がぶつかり合う音と2人の苦しそうな声が聞こえる。

 ……違和感がある。ブレイブがこんな声を上げる? そもそも底が見えないくらいに深いのにここまではっきりと音が聞こえるのはおかしい。

 これって罠なんじゃ……。

 

「今行くね!」

「え!? メイプルさん!?」

 

 メイプルさんは躊躇せずに穴へ飛び込んで行った。私も覚悟を決めて穴へ飛び込む。

 

「サリー!」

 

 穴の底に落ちたところで、メイプルさんが驚愕の声が聞こえた。

 メイプルさんの方を見ると私も驚いてしまう。あのサリーさんがダメージを負ったからだ。

 ブレイブが懸命に騎士と対峙していたが苦戦してるようだった。

 ……やっぱり違和感がある。でも、使ってるスキルはブレイブのものだ。

 

「【激雷】!」

 

 私は今は深く考えず騎士に強力な雷を落とす。その一撃により騎士を倒すことができた。

 

「助かったよ、ハナ」

「……机の引き出しの一番下の二重底」

「?」

 

 反応しない? やっぱりこのサリーさんとブレイブは……!

 

「メイプルさん! 離れて!! そのサリーさんは偽物です!!」

「え?」

「【ディフェンスブレイク】」

「ふふふ。あははは! 【クロスサイズ】」

 

 メイプルさんは心配して駆け寄っていた偽サリーさんに防御貫通のスキルで攻撃された。私も偽ブレイブの鎌で攻撃されたけど、咄嗟に避けて距離を取った。

 

「【カバームーブ】! これ、どういうこと!?」

「【ヒール】。ドッペルゲンガーってやつかもしれません」

 

 【カバームーブ】で私のところへ移動してきたメイプルさんに私は回復させつつそう説明した。

 

「【地獄の業火】」

「【カバー】! ドッペルゲンガーって何?」

「簡単に言えば自分の分身です。もしも出会ってしまったら死ぬと言われてます」

 

 偽ブレイブの魔法を防いでくれたメイプルさんが私の説明に納得の顔を浮かべた。

 

「【フレアドライブ】。まずいですよ。メイプルさん、ブレイブの近接攻撃は避けるか【悪食】で防がないと下手したら即死が発動します」

 

 近づいてくる偽サリーさんに牽制で魔法を放ち、メイプルさんに言う。それにメイプルさんはハッとした。

 

「そっか!? サリーを麻痺で止めて、先にブレイブを倒そう! 【パラライズシャウト】!」

「あはははっ! 【フレアランス】!」

 

 範囲魔法の麻痺攻撃で偽サリーさんを麻痺状態にしようとしたけど、偽サリーさんは何事もなく動いていた。

 

「麻痺に耐性があるの!? サリーには耐性のスキルなんてないのに……!」

「サリーさんが使えなかった魔法を使うところを見るにオリジナルよりも強化されたドッペルゲンガーってことですか。そうなるとブレイブも……厄介極まりないです。笑えないですよ、ホント」

 

 とはいえ、偽サリーさん自体はそこまで厄介ではない。サリーさんの強さの由縁は色んなゲームから培ってきたPS。スキル、ステータスを真似できても異常なPSは真似できないはず。

 だけど、偽サリーさんに集中すると偽ブレイブの即死であっという間に全滅だ。メイプルさんの言うように偽ブレイブを倒すことが先決。

 でも、【起死回生】と【逆境】がスゴい厄介だ。あれで下手したら私どころかあのメイプルさんすらもカウンターワンパンされかねない。

 ……でも、倒す方法はある。私1人なら無理だったけど、メイプルさんと一緒なら……。

 

「メイプルさん。ブレイブへ接近します。【カバームーブ】で移動しつつ、私を【カバー】で守ってください。それと、【悪食】はブレイブの近接攻撃以外に使わないでください」

「わかった!」

「行きますよ! 【精霊結晶】!」

 

 私は精霊結晶を展開して偽ブレイブへ接近した。

 それを偽サリーさんが見逃すはずがない。私達に向けて接近し、攻撃してきそうになるけど、私は精霊結晶による魔法で牽制した。

 偽サリーさんを近づかせてはダメだ。防御貫通スキルで攻撃されて、メイプルさんのHPが減ってしまう。

 

「【サイクロンカッター】」

「【カバームーブ】からの【カバー】!」

 

 偽サリーさんは私へ向けて魔法を放つけど、メイプルさんが守ってくれた。

 

「【地獄火球】」

「【カバームーブ】! 【カバー】!」

「【風精霊の衣】! 【超加速】! 【聖魔剣】!」

 

 私に向けて偽ブレイブの魔法が放たれる。それをメイプルさんが防ぎ、私は【風精霊の衣】、【超加速】でAGIを上げて一気に接近、漆黒の剣で偽ブレイブを切り裂いた。

 普通はこれで終わる。でも、偽ブレイブは【起死回生】で復活して、白く輝く鎌を構えた。

 

「【カバームーブ】! 【悪食】!」

 

 偽ブレイブのカウンターによる一撃はメイプルさんの盾で完全に防がれた。即死も【悪食】で攻撃を吸収されてため発動しない。

 後は簡単だ。HPが1であろう偽ブレイブを倒すだけ。でも、ここからが本番だ。

 

「【二重化(ダブルマジック)】!」

 

 【起死回生】が無駄に終わった偽ブレイブは【逆境】によって高くなったAGIで逃げる。それを私は追う。距離を離れると魔法が当てにくくなるからだ。

 偽ブレイブのAGIは【逆境】の効果で2.5倍。それに対して私は【風精霊の衣】の20%増加、【超加速】の50%増加で、完全に負けてしまっている。

 だけど、【聖魔魔法】の熟練度が上がったことにより獲得した【二重化(ダブルマジック)】が偽ブレイブのAGIを上回せることができた。

 【二重化(ダブルマジック)】は1日1回使用できるスキルで、対象者にかかっている全てのバフスキルの効果を倍加させるというもの。その分、残り効果時間が半減してしまうが、短期決着には向いてる。

 

「【聖魔砲】!!」

 

 近距離からの魔法攻撃。偽ブレイブは避けることができずに魔法を直撃して倒された。

 だが、気は抜けない。まだ偽サリーさんが残っているのだ。

 

「ぐっ」

「メイプルさん! 【テンペストボール】、【操作】!」

 

 メイプルさんが偽サリーさんに攻撃されてダメージを受けていたのを見て直ぐ様魔法を放つ。

 放たれた魔法はすぐに躱された。でも、そんなこと予想していた私は魔法を操作して追撃する。

 

「嘘……」

 

 相手は本物のサリーさんじゃない。躱せるはずはないと思っていたが、速さを全力で活かして躱していた。

 魔法は自然消滅し、偽サリーさんは反撃で魔法を放つ。それをメイプルさんが防いでくれた。

 

「すみません、メイプルさん」

「ううん。でも、避けられちゃったね。当てられそう?」

 

 ……さっきのは偶然ではないと思う。

 精霊結晶はまだ健在している。挟み撃ちで放って拡散させれば当たるはず……。

 

「【フレアドライブ】、【爆散】!」

 

 私は精霊結晶を偽サリーさんを私と精霊結晶で挟むような位置に移動させると魔法を放つ。

 挟み撃ちにあう偽サリーさんは逃げようとするけど、その瞬間に魔法を拡散させた。

 

「【跳躍】」

 

 だが、それすらも高く跳ぶことで避けられてしまった。信じられない……。でも……。

 

「……メイプルさん!」

「【毒竜(ヒドラ)】!」

 

 メイプルさんの三つ首の毒竜が放たれる。空中なら逃げられないはずだ。

 そう思ったのに、毒竜は偽サリーさんを透き通ってしまった。

 

「サリーの【蜃気楼】だ!」

「ここまで厄介だったとは……」

 

 AGIを上げるスキルはまだ使えない。……いえ、使って接近するのは愚策。メイプルさんの【カバームーブ】圏内で行動するのがベストだからだ。【蜃気楼】で避けられてカウンターなんてことが起きるだろうし。

 

「どうする?」

「私が死ぬ前提なら手がありますが……」

 

 メイプルさんの【ヴェノムカプセル】で追い詰めるという作戦だ。でも、私は毒にかかって死んでしまうし、時間がとてもかかる作戦でもある。

 

「それはダメ!」

 

 わかってはいたけど、メイプルさんはこの作戦は却下した。

 なら、どうしよう? もう少し動ける範囲が狭ければすぐ倒せるのに……あっ、それだ。

 

「メイプルさん。作戦があります」

 

 私はメイプルさんに作戦を伝える。それにメイプルさんはやる気を出して、盾を構えた。

 

「【ガイアタワー】」

 

 偽サリーさんの下から小さな山が勢いよく出てきた。だが、それを偽サリーさんはヒラリと避ける。

 

「【フレアドライブ】、【操作】、【ガイアタワー】」

 

 今度は【フレアドライブ】を放って、操作する。それを避けられるも続けて【ガイアタワー】を放つ。

 それを繰り返す。ただ無駄に魔法を放っているわけではない。偽サリーは後になって気づくだろう。

 自分は誘導され、石の山に囲まれてしまい、移動範囲が狭まれていることに……。

 

「メイプルさん! 今です!」

「【毒竜(ヒドラ)】!!」

 

 偽サリーが石の山のせいで移動範囲がほとんど奪われるとメイプルさんの【毒竜(ヒドラ)】が発動する。

 偽サリーさんは石の山を使って壁ジャンプして上へ上へと逃げる。それが狙いに気づかずに。

 

「終わりです。【エクスプロージョン】!!」

 

 偽サリーさんの向かう先に爆発を起こす。偽サリーさんは【蜃気楼】で逃げることもできずに爆発に巻き込まれ、消滅した。

 

「やった!!」

「やりましたね。でも、これは本物のサリーさんじゃないから通用したって感じです」

 

 本物のサリーさんならこうはうまく行かない。途中で気づいて対応してくるはず。

 

「うーん。そんな難しいことはなしで、勝ったことを喜ぼう!」

「……そうですね」

「ハイタッチ!」

「ハイタッチです」

 

 私はメイプルさんとハイタッチを交わし、勝利の喜びを共有した。

 ……さて、向こうは大丈夫かな? きっと、私達の偽物と戦っているんだろうけど……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

 偽物達の戦いはこれで終わりです。


 俺とサリーの2人は苦戦していた。

 相手は偽物のメイプルとハナのタッグだ。しかも、ボス扱いのせいなのかオリジナルよりも強化してるせいなのか、即死が効かないっぽい。

 時間をかけてメイプルの首やら胸やら頭やらに攻撃しまくって即死にならないからほぼ間違いないと思う。

 

「おい、サリー。これ、どうするよ?」

「ハナちゃんを狙うわよ」

「だが……」

 

 相手の基本スタンスはハナが攻撃でメイプルが守りというものだ。ハナを攻撃しようものならもれなくメイプルの【カバー】がついてくる。

 

「【カバー】してくること前提よ。いい? メイプルの【カバー】は異常な程強力だけど、防御貫通スキルは通るの」

「あ、そうか。なるほど」

 

 俺とサリーは頷いて二手に別れ、ハナへ接近する。

 だが、それを許すハナとメイプルではない。

 

「あははっ!【フレアドライブ】」

「【毒竜(ヒドラ)】」

 

 偽ハナは魔法を俺に向けて【精霊結晶】により数を倍にして放つ。それに対して、偽メイプルはサリーに向けて毒竜を放つ。

 サリーは攻撃を避け、近づくが、俺はそうは行かない。避けようとすると魔法を操作して当ててくる可能性がある。遠くなら避けられるが、近くだと流石に無理がある。なら。

 

「切り捨てる!」

 

 俺は鎌を構え、魔法を切り裂いて接近した。

 

「【ディフェンスブレイク】!」

 

 先に接近していたサリーが偽ハナに向けて剣を振るう。

 

「【カバー】」

 

 それを偽メイプルに防がれるが偽メイプルにダメージが初めて入った。俺も空かさずに攻撃する。

 

「【ブレイカーサイズ】!」

「【カバー】」

「【激雷】」

「あっぶな!?」

 

 偽メイプルに防がれた後ですぐに後退する。その直後に雷が落ちた。当たったら死んでたかも。復活するけど。

 

「【ヒール】」

「うっわ! ハナの魔法でメイプルが完全回復!?」

「本当に最悪よ。絶対またやったら繰り返しね」

「【毒竜(ヒドラ)】」

「【激流】、【操作】」

 

 偽ハナと偽メイプルが攻撃してくる。俺とサリーは避けつつ、どうやって攻略するか思考する。

 

「しかし、おかしいだろ、あのメイプル。何でそんなに【毒竜(ヒドラ)】連発してくんの?」

 

 偽メイプルは撒き散らした毒を吸収し、【毒竜(ヒドラ)】を再度放つことができるらしい。本物のメイプルは次の【毒竜(ヒドラ)】を撃つのに時間を少し要するが、偽メイプルはオリジナルが持っていないそのスキルのお陰でそうではないようだ。

 

「唯一の救いは【パラライズシャウト】を使わないことね」

「だが、どうする? 【悪食】は早々に無くしたが、それ以外は健在。ハナは切り札のあの魔法2つ使ってないぞ?」

 

 俺達は相手の攻撃を躱しながら器用に作戦会議する。

 

「……先にメイプルを倒す」

「速かれ遅かれ倒すことになるだろうし、大きな問題だから分かるが、どうやって?」

 

 防御貫通スキルを使って攻撃したらハナに回復されるのがオチだ。

 

「ブレイブ。あんたが頼りよ。何とかして一撃で【不屈の守護者】を発動させて」

「無茶振り要求!?」

 

 俺にそんなことできると思いですか!? いや、マジの目だ。でも、どうやってだよ……?

 というか、偽メイプルを倒すの俺にぶん投げですかぁ? 無責任すぎません?

 

「メイプル1人ならあたし1人で何とか倒せるの。でも、ハナがいるとお手上げよ。私の体力がなくなるまで泥試合」

「そのハナを倒そうにもメイプルの【カバー】のせいで届かない。防御貫通スキルで攻撃しても即行で回復される。だからこそ、メイプルを先に何とかして倒すと?」

「……ねえ。本当に無理?」

 

 サリーに聞かれ、俺は自分のスキルを思い出して考える。

 ……可能性は無いわけではない。だが、俺の死のリスクが高過ぎる……。

 

「【逆境】、さらに、【暗黒化】で強化。その上で、防御貫通スキルを使う……だが……」

「それってHPが1であることが最低条件よね? しかも、【起死回生】を使うこと前提で」

「いや、うまくすればその必要はない。【暗黒化】のデメリットを逆に利用する」

「あ、そっか……」

 

 どのゲームでもそうだが、HPを代償に使用するスキルというのはHPが1になる場合がある。勿論死ぬゲームもあるが大体はHPが1は必ず残るか残ってなければ使えないように設定されてるかのどちらかだ。

 問題はこのスキルがどちらの仕様なのかということだ。これは賭けでしかない。

 

「無理なら【起死回生】だな」

「せめて一発は当たってもいいようにはしてほしいわ」

 

 だが、これには問題がある。HPを3割以下まで態々減らさないといけないということだ。

 

「あはははっ! 【毒竜(ヒドラ)】!」

「くっ!」

 

 偽メイプルが放ってきた攻撃を俺はわざと受けてみる。HPが半分以下まで削られる。それでも3割を切らない。

 

「何やってんのよ!?」

「【ヒール】。HP調整だ。これなら」

「【エクスプロージョン】」

 

 偽ハナによる爆発が起きる。俺とサリーは大きく後ろへ移動することでそれを回避した。

 

「【ヒール】。俺が【毒竜(ヒドラ)】を食らったら作戦開始だ」

「わかった。メイプルが【不屈の守護者】使用した後は任せて」

「おう。任せた」

 

 俺はサリーにサムズアップすると偽メイプルに接近した。

 

「【毒竜《ヒドラ》】」

「ぐっ。勝負だ。【暗黒化】!!」

 

 俺は自分のHPが3割を切ったところで【暗黒化】を発動させる。すると俺のHPが1になり、全身が黒に染まった。

 

「【超加速】」

 

 さらに、ダメ押しでAGIを強化し、【毒竜(ヒドラ)】を放とうとする偽メイプルへ一瞬で接近した。

 

「【テンペストボール】」

「甘い! 【ブレイカーサイズ】!!」

 

 そんな俺に偽ハナが魔法を放つがAGIを大幅に強化された俺はすぐに切り裂き、偽メイプルの背中に防御貫通スキルを当てる。

 【逆境】+【暗黒化】による5倍ステータス強化。さらに、【逆境】によるスキル威力3倍で、防御貫通スキルだ。何とか【不屈の守護者】を発動させてくれ!

 そう願って偽メイプルのHPを見るとほぼ無くなっていた。つまり、【不屈の守護者】を発動させることができたのだ。

 

「【超加速】! 【ディフェンスブレイク】!!」

 

 そこにサリーによる追撃が入り、偽メイプルは消滅した。

 

「「…………後は……」」

 

 俺達はギロリと偽ハナの方に鋭い視線を送る。

 偽ハナは後退りして、弱腰になっているように見えた。ま、気のせいだろう。

 

「【疾風切り】!」

「【クロスサイズ】!」

 

 俺とサリーは容赦なく偽ハナを切り刻む。ハナに当たった直後……。

 

 ハナの服がビリビリに破けた

 

 あ、忘れた……。

 

「えーっと……」

「は? な、えっ?」

 

 服が破け、肌がところどころ露出された姿で偽ハナは消え去る。それを見たサリーは固まってしまっていた。

 俺は秘密にしていたハナに心の中で土下座しながら謝りつつ、サリーに説明する。

 サリーは顔を真っ赤にして、そんな装備があるなんて……と呟き、運営の悪意に戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか偽メイプルと偽ハナコンビを打倒した俺達は偽物達が落としたメダルを回収して転移魔方陣に乗る。そして、転移した部屋にはメイプルとハナがいた。

 ……偽物じゃないよな?

 

「待ってください。確認しましょうか」

 

 ハナは俺達を見て、手で待ったと表す。確認というのは本物かということだろう。

 

「机の引き出しの一番下の二重底」

「お、おまっ!?」

 

 それ、俺のお宝が眠ってる場所じゃねぇか! 何で知ってるし!? バレないように研究に研究を重ねて、フェイクをたくさん用意して隠してたのに!?

 

「メイプルさん、このブレイブは本物です」

「それより、ハナちゃん。さっきのってなに?」

「メイプル! 気にしなくていいから!!」

 

 メイプルには知ってほしくない本だから! というか、ハナのやつ、何という情報を暴露してくれたし!!

 

「あー、大方想像つくわ。ブレイブも男の子だもんねぇ……ハナちゃん。それらは全部燃やしておいてね」

「了解です」

「やめろー!! 俺のお宝を燃やすとか鬼畜か!?」

「?」

 

 この後、俺のお宝の処分について交渉が行われ……いや、土下座で許しを請いまくるのを交渉とは呼ばないが……。その末、燃やされることが確定された。ぐすっ。お気に入りだったのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 偽物達に打ち勝ち、ブレイブ達が合流している中、運営はブレイブ達と偽物の戦闘を見ていた。

 『銀翼』が倒されてから運営はブレイブ達の動向を定期的に確認していたのだ。

 

「ショックだわぁ。ドッペルゲンガーはそれなりに強いんだが」

「この4人はその程度じゃ止められないってことか……」

「その程度って言うけどよ。サリーとブレイブのドッペルゲンガーコンビは兎も角さ。ハナとメイプルのドッペルゲンガーコンビなんて普通は倒せないからな!?」

 

 メイプルにはあらゆる攻撃に対応できる特殊な【カバー】を持っていた。普通は1つの攻撃しか防げないというのに、複数の攻撃を同時に防げるようになっていた。

 そうなると必然的にメイプルを倒さないと絶対にハナを倒すことは不可能だ。だが、防御貫通スキルでダメージを与えようとしてもハナによって回復される。

 そもそも近づくのだって一苦労だ。ハナの即死級の魔法を掻い潜り、メイプルに攻撃しないといけないのだから。

 

「【逆境】が強すぎたんだな。修正を入れるか……」

「あのメイプルを……しかも、強化されたメイプルをワンパンだもんな」

「いや、案外ペインなら……」

「無理だな。攻撃力が足りない。それに、ブレイブが倒せたのは防御貫通スキルを威力3倍にしたり、ステータスを5倍まで引き上げたりしたからだぞ?」

「ステータス5倍って……威力3倍って……おかしくない?」

「HPが1になる状況自体は稀だからこそあの効果にしたんだがな。意図的になることも困難だし……」

 

 HPが1になる状況は大きく分けて2つある。【不屈の守護者】や【起死回生】と言った耐久スキルや蘇生スキルによりHPを1にするか、今回ブレイブがやったようなHPを犠牲にするスキルで無理矢理HP1にするかだ。奇跡的にというのもあるが現実的ではない。

 

「とりあえず、あの問題児達の報告をまた頼む」

「分かりました」

 

 今日も運営は忙しく働く。イベントはまだ4日目である。




 メイプルの倒し方ってこれでよかったのかなぁ? 正直、【逆境】と【暗黒化】を持ってしても強力なスキルで倒せる気がしないんですよねぇ……。これはこれで微妙な気がしますが……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

 仲間の偽物を倒した俺達は休憩をとった後で転移先にあった螺旋階段を上る。この先には森が広がっていた。

 渓谷の向こう側みたいだ。もうあの霧の中を歩かず済むな。

 だが、森は思っていたよりも小規模で、すぐに森を抜け、今は砂漠にいた。

 

「霧の次は砂漠かよ……。ないわ。本当、ないわ……」

「シャキッとしなさいよ。ここはゲームなんだから暑さはあっても喉の乾きはないでしょ?」

「気持ちの問題だ」

 

 だらしない態度で砂漠を歩く俺をサリーが叱責する。

 確かに、ここはゲームなのだから脱水症状になることはない。とはいえ、どこまでも広がる砂漠を見ているとうんざりしてくるんだよ。

 

「何にもないね。プレイヤーに遭遇しそうなのに、それもない」

「あっても奇襲はないわね。見晴らしがいいからすぐ分かる」

「いや、プレイヤー戦はお腹いっぱいです」

「あんたは何もやってないでしょうが」

 

 うるさいなぁ。それでも、俺しか狙われてない状況はこりごりだっての。

 

「……なにか見えますね。【遠見】」

 

 ハナは遠くを見ることが出きるスキル、【遠見】で遠くを見る。その時、ハナの顔が明らかに変わった。

 今までは無表情だったが、喜びに満ちている顔に変わる。

 

「オアシス!! 【風精霊の衣】!!」

「え!? ハナちゃん!?」

「あいつもなにも言わないだけで不満だったんだな……」

「無表情だったから薄々は気づいてたけどね」

 

 俺達も颯爽と駆けていったハナを追いかけ、オアシスにたどり着いた。

 水を飲んだり、顔を洗ったりして休憩をとる。オアシスだからか涼しくて快適な場所だ。

 

「この砂漠は何にもないね」

「ダンジョンに繋がってなさそうだしなぁ」

「いえ、そうとは限らないかと」

「え? というと?」

「表面上にはなにもありません。ですが、ここはどうでしょうか?」

 

 ハナが地面に指を差し込んで聞く。俺達は意味が分からずに首をかしげた。

 

「どういう意味?」

「地下ダンジョンです」

「地下……? あ、あの草原みたいな隠し階段ってこと?」

「いえ。あの運営のことですからもっと見つけづらい可能性があります。ファンタジー小説だと蟻地獄に巻き込まれたと思ったら地下洞窟だったとかあるじゃないですか」

 

 確かに、そういうのはよく聞く。つまり、ハナはこう言いたいのか?

 

「この広々とした砂漠の中に地下へ続く隠し穴みたいなもんがあるって」

「うん」

「それはもはや運ゲーじゃない……」

 

 冗談じゃない。さっさとこの砂漠から出て次のエリアへ行った方がいいんじゃないか?

 

「……話は終わりです。誰か来ます」

「お? あいつは……」

 

 このオアシスへ向けて誰かが駆けてきた。

 女性ソロプレイヤーで、刀を腰に差した和風な女性だった。

 

「よっす。カスミ」

「ブレイブか。それに、メイプルも……私は運が悪いようだ」

「あ!? この人、第1回イベントで6位だった人!」

「え!? 本当!?」

「マジだぞ。あのイベントでは戦ったことないが、聞いた噂だと崩剣のシンに勝ったんだったか?」

「なんだか知り合いっぽいね、ブレイブ」

「まあな」

 

 実はカスミとは前に面識があった。

 とあるクエストではプレイヤー同士の戦いになることがある。その時の報酬がこの『風の草履』だったりするのだが……今は関係ない話だったな。

 で、その時に対峙したのがカスミだ。

 

「あの時は鎌の扱いに慣れ始めていたときだったから苦戦したな。【起死回生】を使ったくらいだ」

「思い出させないでくれ。油断大敵という言葉をよく味わった勝負だった」

 

 当時は鎌一択の戦闘スタイルだったため、カスミの刀捌きを何とか受け止め、HPを全損してしまうも【起死回生】によるカウンターで何とか倒した強者だ。前回で6位というのは納得の実力がある。

 

「……分があまりにも悪すぎる。ブレイブ。見逃してくれないか?」

「別にいいよ。戦うつもりはない。ハナは?」

「砂漠で歩き疲れたのでパスです」

「私は逃がす気はありませんよ。メイプルは?」

「サリーがやるなら私も頑張る! ブレイブとハナちゃんは見学してて」

 

 ヤル気満々のサリーとメイプル。特に、サリーは戦闘したくてウズウズしてるのか楽しそうな笑みを浮かべていた。

 え? こいつ、戦闘狂なの? 俺が余計なことを言ったからヤル気なの? なんかごめん、カスミ……。

 

「……カスミ。逃げることをおすすめするが、どうする?」

「ふっ。決まっている……【超加速】!」

 

 カスミは全力で逃げることを選択した。それしかないもんな。

 

「逃がすか! 【超加速】!」

 

 サリーは逃走したカスミを逃がすはずもなく同じスキルを使用して追いかけた。

 

「行っちゃったよ。どうする?」

「……私、サリーさんのマジ戦闘見たいです。【超加速】」

「あ! 待ってよー」

 

 ハナは自分の回避技術向上のためにサリーVSカスミの戦闘を見に行った。

 うーん。実は俺も見たいんだよな。サリーってPSが異常だからあのカスミのスキルを初見殺しのものも含めて全部避ける可能性あるし……。

 俺は一生懸命サリー達を追いかけるメイプルに視線を送る。……置いていくのはとても心苦しい……が! サリーVSカスミを是非とも見てみたいです!!

 

「すまん、メイプル!! 【超加速】!」

「ふぇ~!?」

 

 後ろからそんな~という悲痛な叫びが聞こえてきたが聞かなかったことにする。

 ハナがいるところまで移動するとちょうど戦闘が始まるところだった。

 場所はサリーとカスミから少し離れた高所で、戦闘を全体的に見える。

 

「うお。初見殺しを易々と……」

 

 カスミの瞬間移動からの一刀を【蜃気楼】で避けて、反撃すらも行って見せたサリー。ここからでは顔は見えないがカスミはきっと驚いているだろう。

 技の名前は……陽炎だったか? 俺は初見で直撃しちまった。あれは無理だろ。【蜃気楼】を使ったとはいえ、避けたサリーが異常なだけだ。

 

「サリーさん、スゴいよ。また避けた。未来予知でも獲得してるって言われたら私信じるよ」

「それには激しく同意するが、あいつが言うには経験が多いだけらしい」

 

 サリーはまたも陽炎を避けた。余裕の回避である。二度目以降は通じないということなのだろうか? 恐ろしい奴である。

 

「お? もうあれが出るのか?」

「何が起こるの?」

 

 カスミは髪を白くして、刀を構える。あれは俺を死に追いやった連撃スキルだ。

 目にも止まらない速さで刀を振るい、相手を連続で切りつけるスキルで、俺が勘で鎌で防いだり、避けたりしたが、それでも、数切りは食らってしまった。

 

「「お、おぉ~。もう笑うしかない」」

 

 兄妹揃って感嘆の言葉が漏れた。サリーは見えてないはずなのに、全てを避けていた。

 何で避けれてるの? 見きってるの? それとも、何らかの情報で予測してるの? それもう武人じゃん。

 

「……私は無理だけど、ブレイブはサリーを当てられる?」

「えぇー。無理だって。あれは無理。いくらAGIを上げても当てられる自信がないぞ」

 

 俺とハナでサリーの攻略について話していると後ろから何か聞こえてきた。

 

「あああぁぁぁぁ!!!」

「あれってまさか!?」

「メイプルさん……またなの?」

 

 トラウマを思い出させる紫の球体が斜面を転がり落ちてくる。【ヴェノムカプセル】で自分の身を包んだメイプルだ。

 恐らくだが、いい下り斜面を見つけて、【ヴェノムカプセル】を使って転がってきたのだろう。

 俺とハナはメイプルの通る道を開けるように移動する。メイプルは止まらないよぉーと叫びながら俺達を通りすぎ、決着がついた2人へ向けて転がっていった。

 メイプルが2人に気づいて【ヴェノムカプセル】を解除する。そして、2人がいるところへ落ちた。

 その瞬間、砂が揺れ始め、3人は砂に吸い込まれ、地下へ落ちていってしまった。

 

「「…………え?」」

 

 俺とハナはそれを見て、ただ呆然とするだけだった。

 ……どうしよ、これ? 分断されちゃったよ……。




 次回はオリジナルです。兄妹に立ちはだかるのはどんなモンスターなのか、お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。