Persona5 side-Detective (核心)
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Case1-暴飲暴食事件簿
第一話 The Itsy Bitsy Spider
書きたい小説のプロットが多すぎて1話しか作れない病気を患っています。
誰か助けて。
追記:矛盾が生じていたため、少し時系列や年齢などに追記・変更を入れております。
「ひぃっ、ひぃっ…!」
走る。走る。
廃坑のように暗く寂れた、雑多な線路の上を、道もわからないまま走り続ける。
左、右、また左。どこまで続いているのかも検討がつかない。
「はっ、はっ、ふぅっ…!」
自分が情けない声をあげてしまっていることに今更ながら気づいた彼は、息を整えて逃走を続ける。
彼には、自分が
そういった、自分の弱みを見せたくないという、この状況では一見場違いと言えるようなプライドの高さこそが、今彼の精神を支えている唯一の柱だった。
「……撒いたか?」
しばらく走った後、ふと後ろを振り返ってみると、そこには彼を追いかけていた「化け物」は影も形もなかった。ふぅっ、と息を吐く。
辺りを見回しても、見慣れた景色なんて一つもない。ただ廃坑のような、暗い線路が続いているだけだ。
どうやら、あの「化け物」から逃げ切ったとしても、彼が元の世界に帰ることができるわけではないということらしい。
「…戻るか」
とはいえ、彼は欠片も心配していなかった。何せ、彼は自分がどういった道をどこでどのように曲がったのか、
覚えていた通りに、彼は線路を進む。
周囲の風景は相変わらず雑多で様変わりすることもないが、順調に自分が走ってきた道を戻っていることを実感する。
「……っ!」
そしてついに、「エスカレーター」が見える位置までたどり着いた。最初にあの化け物に会った場所だ。
思わず走り出す。やっとこのクソみたいな廃坑から抜け出せる!
「あ、待ってたよぉ♡」
「ひっ…!?」
ついに抜け出せる…そう思った矢先に、「ソレ」は目の前に現れた。
「ソレ」は、間違いなく化け物だった。
人の形はしている。暗がりのせいか、顔はよく見えない。声にもノイズがかかり、男のようにも女のようにも聞こえる。
しかし、相対した彼にはわかる。どんな形をしていようが、「ソレ」は、根本的に人間とは何かがズレているのだと。
「待ってた甲斐があったよぉ。よく言うでしょ?『犯人は現場に戻ってくる』って♡」
ちょっと違うかなァ、と笑って 顔は見えないながらも、ソレが心底愉快そうに笑っていることはわかった 、ソレはゆっくりとした足取りで彼に近づく。
足を後ろに動かそうとして、気付く。いつの間にか、彼は腰を抜かしていた。彼にはもう、ずるずると後ろに下がりながら、何かを叫ぶことしかできない。
否、「ソレ」に向かって意味のある言葉を叫ぶことができた彼を、寧ろ褒めるべきなのかもしれないが。
「な、なんなんだよテメェは!?」
「そういうのってなんて言うんだっけ?最後の抵抗?孤軍奮闘?」
少しだけ何かを考えるように腕組みした後、ポン、と手を打つ。と同時に、腰を抜かしながら後ろに下がっていた彼は 壁によってその退路を絶たれた。
「あ、アレだ。『負け犬の遠吠え』ってやつだ♡」
直後、「ソレ」は人一人飲み込んでしまえそうな大きな口を開き、
「それじゃ、イタダキマース♡」
「 あ」
彼を、食った。
Case1-暴飲暴食事件簿
「ふぁ〜あ」
「春眠暁を覚えず」というが、確かにその通りで、こんな穏やかな春の日はついつい寝過ごしてしまう。とはいえ、寝過ごしたところで今日の予定があるわけでもないのだが。
大きなあくびをしながら、その辺に投げてあったリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。
跳ねた髪の毛を整えることもなくコーヒーを淹れ、どっかとソファに座り新聞を開く。
『またまた大手柄・探偵王子 明智吾郎!』と大きく書かれた見出しに「ちぇっ」と一つ舌打ちをかまし、新聞を投げてテレビを見れば、そこにも一字一句違わぬ文字が踊る。
既にテレビを切る気も失せ、気分のよろしくないニュースをコーヒーで流し込む。
最近はこんな日ばかりだ、と一つため息をついた。
みなさんは、「閑古鳥」という鳥を知っているだろうか。
カッコウ、と言えばわかりやすいかも知れない。
閑古鳥とはカッコウの別名であり、静かな山奥などでその声を聞くことができることから、「
何が言いたいかというと、この探偵事務所の主人、『
それこそ、静かすぎてカッコウの鳴き声が聞こえてきそうなくらいに。
『水瀬探偵事務所』と言えば、この辺りでは知る人ぞ知る隠れた探偵事務所だ。
「いや、探偵事務所が隠れてちゃダメだろ」って?
同感である。いや、居を構えた当初は隠れた名店なんぞにするつもりは微塵もなかったのだ。
立地は悪くない。東京は蒼山、駅まで徒歩3分。近くに他の路線の駅もあり、好条件だ。もちろん土地代だって安くない。
探偵としての腕も、自分で言うのもなんだが、悪くないと思っている。現役の探偵に弟子入りし、一人前と認められて田舎から出てきて、高校卒業後に鳴り物入りで……とまで言うと言い過ぎだろうが、とはいえ若くして「ちゃんと」事務所を設立したのだ。
それから2年。最初の方はちょくちょく依頼も来ていたのに、なぜこんなにカッコウの声がうるさい事務所になってしまったのかと言うと、
「……いやいや。他人のせいにしちゃダメだよね、うん」
師匠も言ってたし、と独りごちる。
そう、いくら
「いやぁ、でも、ねえ?」
しかし、その探偵王子とやらには違和感しかない。
いや、嫉妬云々ではなく、いくら頭が良いにしても、「どうやってその事件を解決した?」というような件がいくつかあった。
特に、最近目立ってきた「精神暴走事件」。大半は、確かに精神科医からの正式な精神鑑定結果が出ている。逆に言えば、
にも関わらず、探偵王子 明智吾郎とやらは、精神暴走事件を
「やっぱりおかしいよねぇ……ね、そう思うでしょ?大五郎くん」
そう話しかけながら後ろを振り向くと、一人の青年がコーヒーを淹れながらこちらに近づいているところだった。
声をかけられた青年は少しだけ鹿撃ち帽を目深に被った顔を向けると、そのまま向かい合った2人がけのソファの、葉折とは
『は?』
あまりにもそっけない返しに、葉折は少し気圧される。
「ごめんって。説明不足なのは謝るけどさ、そんなに怖い顔しないでよー」
またも、大五郎と呼ばれた青年はメモ紙に書き始める。
それを見せた後、青年は目深に被った鹿撃ち帽を取ってみせた。
『この顔のどこが怖いって?』
帽子を取って顕になった青年の顔。
そこにあったのは
「いや、やっぱり怖いよ?その顔…」
第一話
The Itsy Bitsy Spider
・水瀬 葉折
主人公。探偵。名前は5秒くらいで決まった。8月生まれ。
現在20歳(誕生日で21歳)。高卒。酒もタバコもやらない、ハードボイルドの欠片もない現代っ子探偵。
顔は悪くない。人と関わる仕事なので小綺麗にはしてる。
・小林 大五郎
探偵助手。顔が真っ黒。なんでだろうね?
年齢、わからん。学歴、わからん。でも書類仕事は早いよ。
常に鹿撃ち帽で顔を隠してる、水瀬探偵事務所のマスコット。
・明智吾郎
美食探偵。食いタン。
超絶イケメン高校生探偵。幼なじみで同級生の毛○蘭と遊園地に遊びに行って、 黒ずくめの男の怪しげな取り引き現場を目撃した。
みんな大好きパンケーキ。
モチベが上がるまで失踪します。
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第二話 The Encounter Smells of Coffee
前回は全く原作キャラが出ませんでしたが、今回は……
怪盗団と出会えるのはいつになるのやら……
桜が咲き、街がピンクに色付く頃。
入学、入社の時期だ。新しい生活に不安や興奮を覚える人もいるだろう。
「ふぁ〜あ」
そんな中でも、やはり水瀬探偵事務所の中は代わり映えしない。
冴えない探偵・水瀬葉折は、今日も殆ど自宅と化してしまった事務所で寝坊する。
いつもの事務所、いつものコーヒー、いつものトースト、いつもの顔無し助手。一つ変なのが紛れこんだ気がするが。
いっそ部屋の模様替えでもすれば、学生時代のワクワクする気持ちを取り戻せるのだろうか。
「そこんとこどう思う?大五郎くん」
『もう少し説明を入れてから話を振れ』
今日もこの顔のない助手は、筆談で
言葉のキャッチボールとはどれだけ素晴らしいものだろうかと実感する。まあ、返ってきたのはモヤットボールなのだが。
「いや、部屋の模様替えでもすれば新生活の気分があじわえるのかなーってさ」
『知らん。やるなら一人でやれ』
『勤務時間外にな』と付け加え、コーヒーを啜り始める助手。なんとも薄情である。
まあ、本気で新生活気分を求めているわけでもないので別に気にはしない。
「とは言ってもさー、探偵としての仕事は求めていかなきゃだよねぇ」
その独り言に、もはや大五郎は筆談すらしない。
その代わりに、「どうするんだ」とでも言いたげな顔を向ける。顔無いけど。
「う〜〜ん。広告を出すにしてもお金がねー。かと言って、今使えるコネがあるわけでもないし」
うーん、と一頻り悩んだ後、すっくと立ち上がり、葉折は宣言した。
「よし、今日はもう寝よう!」
『おう待てやコラ』
「なんだい大五郎くん、所長の僕になにか?」
大五郎は手を額に当て、いかにも「呆れてます」といったポーズをした後、メモを書き始めた。
『・勤務時間中に寝るな 客が来たらどうする
・仕事は探せバカ
・やることがないなら備品の確認くらいしろ
・コーヒー切れてたぞ買ってこい
・探偵なら足で稼ぐくらいしろバカ
・バカ』
まさかの箇条書きである。あとバカって言い過ぎなのでは?ボブは訝しんだ。
とは言え、探偵だから足で稼げ、というのはど正論である。コーヒー豆を買ってくるついでに、何か事件でも起こってないか聞き込みしてくるのもいいだろう。
「確かにそうだよね!ちょっとコーヒー買いがてら聞き込みでもしてくるよ!」
「じゃあ大五郎くん、留守番お願いね!」と言って意気揚々と玄関に向かって行った葉折は、ドアの手前で急に止まり、何かを思い出したかのように大五郎の方に向き直った。
「あのさ、大五郎くん…
やっぱりバカって言い過ぎなのでは…?」
事務所から叩き出された。
葉折の行きつけの店は、蒼山駅から渋谷で乗り換えた先の四軒茶屋にある。
それまでは電車の中だが、葉折は電車の中で無駄な時間を過ごすつもりも無かった。葉折の目的はつまるところ、電車の中で聞くことのできる「うわさ話」である。
「うわさ話」というだけなら、SNSの方が集めやすいのではないか、と思われる人も多いだろう。
しかし、だ。探偵業というのは、「事件を見つけたから解決した!報酬ちょーだい!」というわけにもいかないのだ。
正式に依頼主から依頼され、その成功によって報酬を得る。依頼主と直接交渉しなければ、報酬を得ることなんてできない。
そういう時に、SNS上で困っている人を見つけて「私が解決しましょうか?」と言うのと、
実際に困っている人を見つけて「私はこう言う者なんですが、その件を私に任せていただけないでしょうか?」と顔を合わせて交渉するのとでは、まるで信用度が違う。
さらに、顔を合わせるから、こちらが報酬を取りっぱぐれるリスクもSNS上よりは少なくて済むのだ。
そのあたりの金銭問題の怖さは、この2年の探偵業で身に染みてわかっている。
それに、SNSというのは自分の「見たい情報」が優先して目に入ってくるものである。これを俗に「フィルターバブル」というのだが、このフィルターバブルのせいで、見たくない情報は手に入りにくいというのが実状だ。
とまあ、長くなったが、足で稼ぐことにも大きな意味があることはわかってもらえたと思う。
そう、決してペーパードライバーなせいで車が運転できず、仕方なく電車で移動しているわけではない。無いったら無いのだ。
閑話休題。
そういうわけで、葉折は電車の中でうわさ話に耳を傾けていたのだが、耳に入る情報は同じようなものばかりだった。
「探偵王子、ほんとかっこいいよねー!」
「明智に全部任しとけばいいでしょ。他の探偵って要る?」
「また精神暴走事件?これで何件目よー」
「電車の運転手だって。この電車大丈夫かなぁ?」
「そろそろだよね、斑目画伯の展覧会!」
「あとひと月くらいだっけ?由美子、楽しみにしてたもんね」
…なるほど。
明智に、精神暴走事件。そして…斑目?
確か有名な画家だったか。その展覧会が近日開かれる、と。
電車の運転手の精神暴走事件、これは一番新しいやつだな。これも案の定、明智が解決している。
事件発生は一昨日、明智が解決したと報道されたのが昨日の夕方だ。
相変わらず恐ろしい速さでの解決。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
…いや絶対おかしいって。
正直、明智と精神暴走事件の黒幕(居るのか知らないけど)が繋がってるとしか思えない速さだ。
寧ろ同一人物なのでは?
いや、それは流石に考えすぎか。
とかなんとか考察するが、実のところ、探偵業という意味では明智と葉折はほぼ「同期」だ。葉折の方が2つも年上なのに。そういった部分の
2年前、最初に起こった精神暴走事件。それが当時高校1年生だった明智にとっての最初の事件だった。
奴は理路整然と華麗にその難事件を解決し、一躍時の人となったのだ。
葉折が探偵として事務所を構えたのが、大体その2週間前。地道にペットの捜索や浮気調査を積み重ねていこうと思った矢先に起こった明智の鮮烈なデビューのおかげで、探偵としての仕事は減る一方だ。といっても、今こうして探偵を続けていられる程度には依頼もこなしたのだが。
「そういえば、大五郎くんと会ったのも大体2年前だっけな……」
少しばかり昔のことに思いを馳せていると、電車のアナウンスが、目的の場所に着いたことを教えていた。
慌てて立ち上がって降りると、葉折は慣れた様子で四軒茶屋を歩いて行った。
その喫茶店は、四軒茶屋の住宅地の中にひっそりと立っている。
赤い看板が目印の、「喫茶ルブラン」。それがこの店の名前だった。
葉折がドアを開けようとドアノブを握ると、葉折がドアを引くよりも先にドアが開く。
「おっと、失礼」
「……」
店内から出てきた秀尽学園の制服を着た少年は、葉折に無言で会釈すると、少し急いだ様子で駅の方へ歩いて行った。
葉折は気を取り直して、ルブランの中に入る。
「マスター、こんちはー」
声をかけると、ルブランのマスター、佐倉惣次郎がこちらにいつも通りの無愛想な顔を向けて返事をした。
「…あぁ、お前さんか。らっしゃい」
惣次郎と葉折は、知らない仲ではない。コーヒーを買いに来る客というだけでなく、惣次郎からの依頼を葉折が請け負うこともあった。
「いつもの豆と、あとコーヒーを1杯お願いします」
「あいよ」
マスターがコーヒーを淹れてくれている間に、葉折は世間話を始める。
「ところで。さっき店から出てった彼、どなた?バイトさん?」
葉折がそう聞くと、惣次郎はピクリと反応して葉折の方を向いた。
露骨に嫌そうな顔をしている。
「あ、聞いちゃダメでした?」
「いや、そういうわけでもねぇが……」
別に、話して困るようなことでもないらしい。だが惣次郎の様子からするに、「何といえばいいのか、どこまで話していいのか」を迷っているようだった。
葉折は少し周りを見渡して、他にお客さんがいないことを確かめると、話を続けた。
「朝っぱらからバイトってわけでもないでしょうし…居候とか?」
「あー…あいつはその…何つったらいいんだろうなぁ」
居候、という言葉に惣次郎の目は少し泳ぐ。
「なるほど居候ですか。佐倉さん、そんな顔して優しいんですもんねー」
「そんな顔してってなんだよ…」
そう言いながらも、「お待ちどう」といってコーヒーを出す惣次郎は、少し照れているような様子だった。
葉折はコーヒーを一口飲んで香りを楽しんだ後、もう少しこの話を広げてみることにした。
「なら、彼は佐倉さんのお宅で寝泊まりしてるんで?」
「いやいや、双葉がいるんだぞ!?そんなことできるわけ 」
「え?じゃあどこで……まさか、あの屋根裏?」
「あっ…あー、その、だな……」
またも惣次郎は動揺する。
「あの屋根裏」というのは、この喫茶ルブランの屋根裏部屋のことである。
葉折は一度見せてもらったことがあるが、埃を被りまくっていて酷い有様だった。物は散乱してるし、本はぐちゃぐちゃどころか本棚ごと倒れてるし、何故か置かれてる観葉植物は萎れてるし。
あそこに住んだら、ハウスダストやらなんやらで喉を痛めること間違いなしだろう。
「いや、流石に掃除したんです…よね?」
「ちゃ、ちゃんと掃除したぞ……アイツが」
「アイツが」
それを聞いて、葉折は少しばかり呆れた表情を見せる。
「いやぁ、マスター。その様子だと、誰かに頼まれて預かってるんでしょう?何も手をつけてないあそこに放り込むのはちょっと……」
「仕方ねぇだろ!?
「おっと?そういうことですか…」
葉折がそう呟くと、惣次郎は「しまった」とばかりに口を噤む。
「いやすいません、ここまで立ち入った話を聞くつもりはなかったんですが。
安心してください。誰にも口外しませんし、これ以上突っ込む気もありませんよ」
葉折は残っていたコーヒーを飲み干してお金を置き、「コーヒー、ご馳走様でした」と言って席を立つ。
惣次郎はコーヒー豆を袋に詰め、葉折に無愛想に渡してきた。
「…ほら、さっさと持って帰れ」
「いや、ほんとすいません。もう帰りますよ。
あ、でも最後にひとつだけ。
居候の彼、そんなに悪い人には見えませんでしたよ?」
「じゃあこれで」と店を出る葉折を見送ったあと、惣次郎はカウンターでコーヒーを一口飲んだ。
「……わかってんだよ、そんなこと」
だから困ってんだろうが、という、誰に言うでもない言葉は、閑古鳥の鳴く喫茶店の中で消えた。
(
帰りの電車の中で、葉折は先ほどのルブランの「居候」、仮称「レンくん」について考えていた。
惣次郎は言葉を濁していたが、
惣次郎は強面だが、かなり優しいおじさんであるというのは、今までの交流から葉折の知るところである。頼まれたらぐちぐちと文句を言いながらも断り切ることができず、なんやかんやで引き受けてしまうのだ。
その上、惣次郎は元お役所仕事のエリートだ。確か法務省の出身だったはず。今は喫茶店のマスターだが、法務省出身なら保護観察官の経験があってもおかしくないし、なんらかの事情で「レンくん」の保護観察を任されてしまった、という可能性は大いにある。
何か……例えば暴行事件をやらかした「レンくん」のツテには他に誰も引き取り手がおらず、巡り巡ってお人好しの惣次郎が引き取ることになってしまった。ついでに、流石に前歴がある「レンくん」を双葉ちゃんと一緒に住まわせるのは気が引けたから、屋根裏に押し込んだと。
まあ、ことの顛末はこんなものなのではないだろうか。
惣次郎としては、厄介な悪ネコを引き取ってしまった、と言った感じか。
「そういえば、うちにも一匹いるねぇ。厄介な『ネコ』が」
渋谷駅で降りた葉折は、その『ネコ』を拾った時のことを思い出していた。
渋谷駅近くの路地裏。
そこは、葉折が「
「そう言えば、あの時もコーヒー豆を買った帰りだったっけか」
彼を見つけたのは偶々だった。
2年前のある日、四軒茶屋でコーヒー豆を買った帰り道に、ボロボロになった彼をこの路地裏で見つけたのだ。
最初に見た時は本当にびっくりした。なんせ、彼は
目、口、鼻。そのどれもが顔に存在するということはわかるのに、何故かその顔立ちは認識できない真っ黒。間違いなく異常だった。
すぐに救急車を呼ぼうとしたが、彼自身に止められた。「やめてくれ」と、血で書かれた筆談で。
それで当時の自分は何を思ったのか、彼を自分の事務所まで連れ帰り、手当てしたのである。
事務所を開いてまだ数日しか経ってなかった頃のことだった。
最初は、一応保護しただけで、元気になったら勝手に出ていくだろうと思っていた。路地裏に倒れていたのも何らかの事情があったのだろうし、それに深く突っ込むつもりは無かった。
なので、食事や寝床は提供すれど、基本的に話すことはほとんどなかった。
しかし、暫く経っても彼は事務所から動こうとはしなかった。それどころか、『行く場所がない』『ここで働かせてほしい』と言い出したのだ。彼が話すことができず、筆談しかできないことを知ったのも、この時が最初だった。
「まあ、行く場所が見つかるまではいいか」と軽い気持ちで彼を採用してみれば、彼の能力は驚くほど高かった。
計算、法律、心理学など、彼は探偵として必要な能力は全て持っていたのだ。
それに、「独りでいなくていい」ということは、葉折の精神を大いに助けていた。何か言葉を発すれば、筆談とは言え返事が返ってくる。それは、長く独りで暮らしていた葉折にとっては心のオアシスにも等しかった。
仕事・プライベートの両面で、葉折は彼に助けられたと言っても良い。
そんなこんなして暫く後、葉折はようやくそのことに思い至った。
「彼の名前って何?」と。
何故今まで気にしなかったのか不思議だが、ことここに至って葉折はやっとそれを気にし始めたのだ。
それで、彼にそのまま聞いてみると、彼は事務所にあった江戸川乱歩の小説を片手間に読みながら、こう答えたのだ。
『小林大五郎』と。
・佐倉惣次郎
惣次郎が変換で出てきにくい喫茶店のマスター。元ネタの「そうごろう」だと出てきやすいよ。
ただのお人好しのおじさん。実は元エリート。ハァイジョージィ
・双葉
可愛い。死ぬほどかわいい。
葉折とは実は知り合い。
・「レンくん」
パーマメガネの一見目立たない高校生。あんまり喋らない。というか、喋らなくても自分の言いたいことが相手に伝わる能力持ちだと思う。
2話を無事に投稿できたので失踪します。
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第三話 Serious, but Lonely
これがモチベーションってやつか…。
でもまだ出したいキャラも出せてないし、タグ詐欺も甚だしい。皆さんまだ見捨てないで…(懇願)
何故か事態はプロットに無かった方へ。水瀬探偵事務所の明日はどっちだ。
小林大五郎。
彼から見せられた名前に対しての最初の感想は、「あ、これ偽名だわ」であった。
なんせ、その時彼が持っていたのは江戸川乱歩の小説。つまりは「
問い詰めようとは思わなかったが、なぜすぐに偽名とわかる名前を使ったのかを、葉折は好奇心から聞いてみた。
彼は、どうやら記憶喪失らしいということだった。
なぜ渋谷の路地裏にいたのか、なぜ顔が無いのか、そして以前はどんな人物だったのか。それら全てに、彼は答えることができなかった。
覚えていたのは、以前は確かに顔があったはずだということと、自分が男性であるということだけ。
どう見ても怪しかった。こんな怪しい、しかも顔の無い人間を、誰も引き取ろうとはしないだろうし、どこも雇おうとすら思わないだろう。しかし、葉折はなぜか、この顔のない
させてみれば、勉強もスポーツも完璧にこなし、探偵としての能力どころか、どんな職業になっても一流としてやっていけるほどの能力の持ち主。
最近はちょっと毒も吐くようになったが、独り身が寂しかった葉折からしてみれば、それすらも心地よい。葉折はその様子を、懐かないネコのようだと思っていた。
葉折からすれば、顔が無いだけの好物件を、雇わない理由はなかったのである。
こうして葉折は、事務所を持って数日にして、下手すれば探偵よりも優秀な
それからかれこれ2年。
水瀬探偵事務所は、2人で数々の依頼をこなしてきた。
ペットの捜索から浮気調査、果てはインチキ宗教組織の壊滅まで(正確には壊滅が依頼ではなかったのだが)。ほとんど何でも屋状態だった。
仕事は確かにその多くを明智に取られはしたが、大五郎との2年間は充実していたし、その中で多くの
(うん、やっぱり。大五郎くんを拾って正解だったよねぇ)
大五郎を雇うことができた幸運に改めて感謝した葉折は、意気揚々と、彼の待つ事務所へと帰り始めた。
ポツ、ポツ
「ありゃ、雨降り始めた?」
コーヒー豆を片手に、事務所の前まで帰ってきた葉折。急に降り出した雨に、少しばかり濡れてしまった。
しかし、ドアを目の前にして、葉折は二の足を踏んでいた。
(あーやばい、仕事とって来るの忘れてた…)
「足で稼ぐ」という当初の目的を、少しばかりの情報を手に入れただけで完全に忘れてしまっていたのである。
(大五郎くん、怒るだろうなー)
まあ怒られるくらいは仕方ないか、と切り替えて、「ただいまー」と声をかけてドアを開ける。
そこで葉折の目に入ってきたのは、
鹿撃ち棒を目深に被った大五郎が、
銀髪の女性に取り押さえられ、
今まさにその鹿撃ち帽を剥がされようとしているところだった。
「……ごめんなさい、まさか助手さんだったなんて」
「いえいえ、あんまり気にしないでください。しょっちゅうなんで」
『気にしろ』
「まあ確かに、大五郎くん見た目不審者ですもんねー」
『はっ倒すぞ』
「えっと、そろそろいいかしら?」
どうやら依頼人であるらしい銀髪の女性は、事務所に入ったところ、鹿撃ち帽を深く被った大五郎を見て不審者だと思ったらしく、大五郎を警察に突き出してやろうと思っていたらしい。
誤解を解き、謝罪を受けた後、件の女性は本題を切り出した。
「私は新島と言います。仕事は検察官よ」
そう言って名刺を差し出して来る女性に、「あ、これはどうもご丁寧に」と受け取る葉折。名刺には、「検察庁検事 新島冴」と書かれている。
葉折も、「水瀬探偵事務所の所長、水瀬葉折です。こちらは助手の大五郎くん」と紹介を入れながら名刺を渡す。
「ほー、検事さんですか。失礼ですが、まだお若いようなのに中々のやり手なご様子で」
「お世辞は結構よ。早速本題に入りたいのだけど」
「ええ、ええ。構いませんとも。それで、検事さんがこんな場末の探偵事務所に何かご用で?」
葉折がそう言うと、冴は少し首を傾げて言った。
「場末?ここは東京では5本の指に入る事務所だって聞いたのだけれど」
それを聞くと葉折は目を丸くし、笑って言った。
「アッハッハ!そちらこそお世辞は結構ですよ、新島検事。ここは僕みたいな若造と助手一人だけの小さな事務所ですよ」
「多くの探偵事務所は、この2年の間で、明智くんに仕事と評判の大半を取られた。今なおこの東京の中心部で探偵事務所なんて続けていられるのは、古くからの老舗か、人々に必要とされている『本当に有能な探偵事務所』だけよ」
それに、と冴は続けて言う。
「若さと人数は、その組織の能力の指標にはならないわ。大切なのは実績よ」
「私が言うのもなんだけどね」と言うと、冴はいくつかの資料を取り出して葉折たちに見せた。
「貴方たち、水瀬探偵事務所が解決してきた依頼を調べさせてもらったわ。素行調査にストーカーの撃退、浮気調査、探し物など…。どれも後腐れのない綺麗な解決を見ているわ。丁寧な仕事をしている証拠ね。
そしてこれ。宗教組織の調査業務の結果だけど、これが一番目立っていたわ。まさか、資金の流れから不正を炙り出して、依頼人の身内である信者どころか、組織内部の占い師すら説得。挙げ句の果てには壊滅なんて。それ自体が依頼ではなかったのでしょうけど、貴方たちの調査能力の高さが見える結果よ。
……それに、明智くんには頼りたくなくってね。
これが、貴方たちを信におけると判断した理由よ」
そう結論付けると、冴は手元の資料を鞄に片付ける。
「……いやぁ、調査能力が高いのは新島さんの方だと思うんですがね」
葉折は「参った」とばかりに両手を挙げる。
それを納得と見做したのか、冴は本題を語り出した。
「それで、貴方たちに頼みたいことだけど……
この娘の、素行調査をお願いしたいの」
そう言って冴は、一人の女性の写真を取り出す。
秀尽学園の制服を着た少女だ。
「これは……秀尽の?娘さん…では無さそうですから、妹さんとかでしょうか?」
「ええ、そうよ。妹の新島真」
葉折と大五郎は写真をしげしげと眺める。
写っている少女は、とても素行が悪いようには見えない。
「よく知りもしない僕が言うのもなんですが、とても素行が悪そうには見えませんね。なぜ素行調査を?」
そう聞くと、冴は頭を抱えた。
「私もそう思っているけど……私、この頃まともに家に帰れていないの。だから真ともまともに話せていないし、電話越しに話しても、いつも同じことしか言わないし……。今年が受験だから、ちゃんと勉強してるのかとか、変なところに遊びに行ってないかとか、いろいろ気になって」
「なるほど…」
どうやらこの
「期間はどれくらいにしましょうか?」
葉折がそう聞くと、冴は顎に手を当てて少し考えた。
「そうね……取り敢えず、3週間。それで素行に異常が無いようなら、そこで依頼は終了にしましょう。
それで依頼料なのだけど、成功報酬込みでこれくらいでどうかしら?前金として、この半額払うわ」
そう言って冴は電卓を取り出し、数字を葉折たちに見せた。
それを見た葉折は、目を見開く。
「ひゃ!?こ、こんなにですか?少し多いのでは…」
「長めの依頼になるし、これくらいが相場じゃないかしら?他の探偵事務所の同じような事例を調べたら、その倍額くらい取ってるところもあったわよ。
それに私、あまりお金の使い道を思いつかないの」
「そ、そうっすか…」
葉折は少しだけ頭を抱えた後、顔を上げて答えた。
「わかりました。お受けしましょう」
「そう、ありがとう。これは前金よ」
「あ、ああ、どうも。大五郎くん、お願い」
即現金で出て来ると思っていなかった葉折は少し面食らうも、大五郎に封筒を渡した。
大五郎が封筒を持って机に向かっていくのを見ると、冴は「用事は終わった」とばかりに立ち上がる。
「じゃあ、よろしくね」
「ええ…では、3週間後に」
「ええ」
そう答えると、冴は銀髪を靡かせて帰っていった。
そんなわけで素行調査が始まって、3日目。
葉折と大五郎は、揃って同じ結論を出していた。
『新島真は、素行になんの問題もない真面目ちゃんである』と。
[うちの生徒会長、頼りになるよなー]
[生徒会長、今日も生徒会のあとに図書室で勉強してたよ]
[あ、この前スーパーで生徒会長見たよ。食材とか買ってた]
[いやぁ、本当に新島さんは優秀ですね。おかげで私たちは楽できますよ]
噂を聞いたり学校の掲示板、SNSを見れば、「生徒会長・新島真」は優等生の塊だった。
放課後は生徒会の業務、それが終わったら図書室で勉強。その後18時30分頃に学校を出て、スーパーで食料品を買い込んだ後、そのまま帰宅。
絵に描いたような真面目学生である。
ここまで真面目ちゃんだと逆に心配になってくるくらいに。
教員や生徒たちには頼りにされているようだが、友達がいるような様子も無ければ学校や家以外に外出しているようにも見えない。
依頼者である冴さんが心配しているようなことは何一つ無い。高校生くらいの年頃なら、もう少し何かあってもいいだろうに。
「あ、そこの学生さん。ちょっといいかな?アンケートを取ってるんだけどさ 」
少し秀尽の学生に「学校のアンケート」という体で生徒会長のことを聞いてみたが、同じような話しか聞けなかった。
やはり、友達がいる様子もなければ、どこかで遊んでいる感じでも無い。全く面白味のない生活だ。
葉折たちは、調査3日目となる放課後の学校横で、調査の限界を感じていた。
とは言え、約束された日数は3週間だ。一応気は抜かずに見ておかなければならない。
そう思い直して、ふと学校横の路地裏を見ると、如何にも不良っぽい、学校指定ではない服を身につけた金髪の学生と、眼鏡をかけた学生、そしてそれを少し遠目に見るブロンドヘアーの女学生を見つけた。
「ああいう不良っぽい学生からなら、ちょっと違う話が聞けるかもね…どう思う?大五郎くん」
『行ってみる価値アリ』
「だよねぇ」
生徒会長の違った話を聞けるかもしれない、そう思った葉折たちは、彼らに声をかけることにした。
「おーい、ちょっといいかい?君たちに聞きたいことが 」
しかし、その声が彼らに届く前に
彼ら3人は、葉折たちの目の前から消え去った。
「 え?」
・冴さん
どうなのおばさんおねえさん。おばさんって歳じゃないんだけど、ちょっとほら…ケバ
・まこちゃん
鉄 拳 制 裁 !
まだただの真面目ちゃん。だが奴は…弾けた
・パツキンモンキー、地味眼鏡、ブロンド女豹
仲良し2年生3人組。この組み合わせ好き。
・明智
side-Detectiveというタイトルをつけた時点で皆様が期待するのが彼だということをもっと早く理解すべきだった。
出番はもうちょっと先なんじゃよ。
大丈夫!ちゃんと主役級の活躍するから!どっちとは言わないけど
失踪が終わるまで失踪します。
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