奉仕部の助っ人さん (ヒューキ)
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第1話 邂逅

「…あの、平塚先生?」

 

「何かな?」

 

 コツコツと音を鳴らしく鳴らして歩く目の前の女教師……平塚静先生に先生に声をかける。

 

「俺、いきなり職員室に呼ばれた挙句、今からどこに行くかも聞いていないのですが」

 

 はぐらかされるのは承知の上で聞いてみる。

 

「なに、行けばわかる」

 

「……説明する気はないんですね」

 

 ほら。自然と溜息が出るが、この人から逃げると後々面倒くさいのはよく知っているので大人しく従っておくのが吉だ。

 

 中庭が見える渡り廊下を超え、特別棟に向かっている。控えめに言って嫌な予感しかしない。

 

 あれから会話もなく、プレートに何も書かれていない部屋の前で平塚先生が立ち止まる。

 

「さ、着いたぞ。中に入ろうか」

 

「…分かりました」

 

 事前説明もされていない今の気分はまさに処刑前の囚人だ。

 

 意を決して扉を開け、そこに飛び込んできた光景は……

 

「……あれ?八幡に雪乃……?」

 

「「……!?」」

 

「おい二人して同じリアクションな挙句、『うわまた面倒なのがきた』みたいな顔するのをやめてもらおうか怒るぞ」

 

 こいつら失礼すぎでは……

 

「ああ、そういえばこいつと君たちは面識があるのか。なら話は早い」

 

 俺の後ろからスッと教室に入ってきた平塚先生。チラッと俺を見て不敵に笑った。

 

「こいつは君たち奉仕部の助っ人だ」

 

「「「……は?」」」

 

 平塚先生を除くこの場の人間の声が重なる。いや待て、そも奉仕部とは何だ?そんな部活聞いたことがない。

 

 あれこれ考えてるのがお見通しとでも言わんばかりに平塚先生からの説明が入る。

 

「この部活の目的は簡単に言ってしまえば自己変革を促し、悩みを解決することだ」

 

 自己変革を促す…つまり、単に手助けというよりは解決するための方法を教える、という解釈の方がよさそうだ。

 

「そして私は、改革が必要だと判断した生徒をここに導くことにしている」

 

「……なるほど、大まかには理解しました。……それで、助っ人、というのはどういうことですか?」

 

 ここだ。俺が一番引っかかったポイントは。この人ならそんなまだるっこしい立場ではなく、強制的に部員にするとかしそうなものだが。というか八幡はそんな気がする。

 あいつが部活に入っているわけがないからな。

 

「……そのことについて、私からも質問があります。彼にも勝負は適用されますか?」

 

 勝負…?

 

「ああ、こいつには勝負のことは関係ない。あくまで非正規部員のお手伝いさんだ」

 

 めっちゃ気になるんだけど。え何、勝負に勝った方の言うことに負けた側が何でも言うことは聞くみたいなの?まさかそんな漫画みたいなことじゃないよな?

 

「そして助っ人についてだが…毎日部室に顔を出さなくてもいいが、奉仕部に依頼が来た際、それに全面的に協力するというものだ」

 

 何その都合のいい存在……。

 

「俺承諾してませんけど」

 

 小さな抵抗を図る。だがしかし

 

「却下」

 

 知ってた。そして理由もわかる。

 

「もともとお前がやっていることと変わらないだろう」

 

 ばっさりと真顔で言い切る平塚先生。俺のやっていること……校内のボランティア。もともとそんなつもりでやっていたわけじゃない。

 ただ、目の前で誰かが困っていて、自分なら解決できると思ってやってきた。まぁそういうのが嫌いなやつらからはやっかみもあって、しばらく自粛していた。

 具体的に言うと、放課後はダッシュで帰っていた。何も見なくて済むから。

 そのことについては八幡も雪乃も知っていたみたいで、ちらりと様子をうかがってみたところ、二人とも顔色変えず、眉一つ動かさずに俺を見ていた。

 

「お前は奉仕部の手伝いという大義名分を得る。奉仕部としては勝負に左右されない実績ある協力者が増える。どちらもウィンウィンだろう?」

 

 いたずらっぽくウィンクしてみる平塚先生。……ほんと、この人にはいろんな意味で勝てる気がしない。

 ここまでお膳立てされているのなら、乗らないわけにはいかないか。

 八幡と雪乃に向き直り、告げる。

 

「必要ないと思うが、改めて。奉仕部の助っ人をすることになった四之崎碧唯だ。よろしく頼む」



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