弾降り注ぐとは露知らず (にんじんsf)
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弾降り注ぐとは露知らず

『弾降り注ぐとは露知らず』

誰か、しかも女子が楽郎くんをずっと待っている。

玲は古武術と柔道で鍛えられた感覚でその視線と思考を敏感に感じ取っていた。

場所は校門前の柱の陰、ちらりと見える制服のデザインからこの学校ではなく隣の学区の高校の生徒であることが分かる。彼女はもう数十分もそこに留まっていた。ちなみになぜそのようなことが分かるかというと玲も珍しく放課後も教室にいる楽郎と「偶然」帰りがかぶったのを装って帰るために下駄箱の陰に数十分いるからである。彼に直接声をかける勇気はまだない。

(どうして隣の高校の人が楽郎くんを…。はっ!!)

そういえば隣の高校はSHOP ロックンロールに近い場所にあった。もし彼女がそこでゲームを買う楽郎くんを見たのなら。…そして買ったばかりのゲームを楽しそうに見つめる楽郎くんの笑顔を見たのなら。

(好きになってしまいますよね…)

しかしこれは不味いと玲の脳内で警鐘が鳴る。

この学校では楽郎に告白するという者はいなかった。学校での彼はあまり目立たない存在だったしあの笑顔も見せなかったから。

でも彼女はきっとあの笑顔を見ていてしかもわざわざ隣の高校まで来てずっと待ち続けるほどの行動力を持っている。このままでは。

(なんとかしないと…!)

 

一方その頃、校門前では。

「あの女…彼を待っているな…やはり私以外にも狙っている者がいたか。わざわざこちらまで来たかいがあった。」

そう言いながら彼女はカバンまで手を伸ばし…

ゴクッゴクッ

中に入っていたライオットブラッド無印(米国版)を飲み干した。

「切れていた集中力が戻っていく…」

そう彼女は暴徒であった。

楽郎を待っている理由も学校からの帰りにすれ違った楽郎からあまりにも濃いライオットブラッドのオーラを感じ取ったからである。

(あれはもはや聖人の域に片足まで浸かっている者のオーラだった。彼と一緒にいれば私ももっと高みを目指せる…!)

つまり玲の考えは全くの見当違いだったのだ。行動力ありすぎるのには変わりないが。

(しかし彼女あそこまで待つのには何かあるのか?やはり…暴徒?なら私の目でカフェインレベルを…何!?)

先ほどライオットブラッドを飲んだことによって強化されたカフェインレベルサーチアイを持って玲を見た暴徒はのけぞった。

(こいつまさか玉露派だと…!!)

玉露派。エナドリ界隈を制し王となったライオットブラッドだが対抗する者は数多くある。コーヒー派、紅茶派などが有名だがあまり知られていないながらも高レベルのカフェインレベルを持つものがある。それが玉露。暴徒の中にも妖しい緑の輝きに魅せられ魂を抜き取られてしまった者がいた。

「つまりこれは…戦争ですね?」

暴徒は玉露のオーラを漂わせる女を見てニヤリと笑みを浮かべる。それは宣戦布告。古来笑みとは攻撃性を示すものだったのだ。

 

(彼女、こちらを見て笑った…?)

玲に対してもその笑みは届いていた。しかしもちろんそんな暴徒のとち狂った思考など玲には分からない。なので

(やっぱり楽郎くんの事が好きなんですね…!)

玲は他にも楽郎を狙うライバルがいると認識した。

そこにはそもそも楽郎の事が好きということを気付いて貰っていないということは頭から抜け落ちていた。

玲は確かに見た目はおしとやかであるがその実中身は斎賀の暴走機関車をしっかり受け継いでいる。

すなわち。

(これは戦争ですね…)

楽郎相手ならばフリーズする恋心も対抗心であるならばスペックと共に暴力となって相手に降り注ぐということだ。

 

暴徒VS恋する乙女。戦いの火蓋は切られたのだった…。

 

一方その頃。

「ハックッショイ!」

教室で雑菌ピアスのポエムをからかっていた楽郎が突然くしゃみをした。

「どうした?風邪か?」

「確かに肩も重いような…鳥肌は別の要因な気もするけど」

「どういうことだそれ」

楽郎は帰りの支度を始める。風邪引いたらゲームに影響が出るから健康管理はしっかりしないとなどと考えながら。

階段の下で自分を巡って火花が散っているとは考えもしていなかった。

楽郎が階段を降りるまであと3秒。

 

 



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