力の賢者&風の覇者の昔語り (マガガマオウ)
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タイタス ザ ビギニング前篇

ここは民間警備会社イージスのオフィス、タイガたちトライスクワットの三名がまた何時もの様に他愛の無い話をしていた。

 

「そういえば、タイタスとフーマは地球人との同化はヒロユキが初めてだったのか?」

 

唐突に戦友二人に質問をしたタイガに、タイタスとフーマが言った気に顔を見合わせた。

 

「毎度の事だが急にどうしたんだよ?」

「君からそう言う類の質問をされるのは初めてじゃないが、今回は如何いった経緯でその質問に至ったんだ?」

 

タイガが時たまに意図の読めない質問してくる事があり、そういった場合タイタスかフーマが自身の体験を話す流れが出来ていた。

そのため今回も何時ものアレが来たと思い二人は、質問の意図と敬意を求め質問を返す。

 

「いや、俺がヒロユキと同化してから意識のコンタクトが図れるまで結構かかったのに、二人は割とすぐに意思疎通が出来たから気になってさぁ。」

 

タイガとヒロユキが一体化したのヒロユキが幼少の頃、近所の河原でひっそりと飼ってたゲスラの幼体を宇宙人に連れ戻されそうになり抵抗して高所のから落とされた時に一体化しそれから十年以上の時を経て漸くファーストコンタクトを取る事が出来たのだ。

これがヒロユキの精神がまだ幼く対話するに至ってなかっただけなら話はそれで片付く、しかし初代ウルトラマンがハヤタと同化した時も、一年近く同化していたにも関わらず完全にコンタクトを取るには至ってなかった、原因に人間とウルトラマンとの魂の波長が噛み合わず、その為肉体の同化は出来ても魂までの同調に至るには同化したウルトラマン側がその人間の波長を読み解き合わせる必要がある。

だがその調整は至難の業であり、ベテランのウルトラマン戦士ですら短くて5年長くて10年の歳月が必要だと言われている、例外として複数回別々の地球人型の異星人と同化した経験があれば一体化して直ぐ意思疎通を図る事が出来るがそう言った経験があるのはウルトラ警備隊の中でも少数で、尚且つ自分からのコンタクトを余りしない戦士が殆どだった。

それが故、タイガは自分よりも同化している期間が短いタイタスとフーマがあっさりそれも正確なコミニケションを取れていた事に疑問を持った。

 

「あ~ぁ、そう言う事か……なんつーか、偶に妙な所で鋭いよなお前って。」

 

以前もそんな素朴な疑問から自分達の過去に繋がる質問をしたタイガに、フーマは呆れ半分関心半分の小言を溢す。

 

「ふむ……そう言う事ならば、確か私はヒロユキと同化する前にも一人の若者に力を貸した事はある。」

 

タイガの質問の意図を確り推し測ったタイタスが、彼の質問に対して期待通りの返答を返す。

 

「うお!本当かタイタス⁉よければ聞かせてくれよ!」

「うん!良いだろう、私も少し彼の事を思い出したくなった。」

 

そして、タイタスがこうして返すと乗って来るのがタイガである。

 

おいタイガ!お前また、この後は話が長くなるってお決まりのパターンだろ!

 

無邪気な態度で話の続きを促すタイガに、フーマは小声で待ったをかけタイガの短慮を指摘した。

 

あっ!そうだった、でもタイタスの話は気になるし……あぁもう!この際だとことん着き合おう!」

「うん?何にだタイガ、もし予定があるならそっちを優先してもらっても構わないが?」

 

フーマからの助言に一瞬委縮したタイガだったが自身の好奇心には勝てずこのまま話の続きを聞く事を決め大声を出した、するとタイタスはタイガが何か用事を思い出し慌ていると勘違いして話を中止しようと提案してきた。

 

「いや、話してくれ!タイタスがヒロユキ以外で力を貸していた人間の事を!」

「ちょ、タイガおま!……はぁ、まあいいか。俺も気になるしな、旦那が前にどんな人間に力を貸していたか。」

 

吹っ切れたタイガは勢いのままにタイタスに続きを促すと、フーマも根負けしてタイタスに話の続きを求めた。

 

「むっ?そうか、ではアレは私がまだ君達と出会う前の事だった……。」

 

タイガとフーマ両名の温度差が多少気になりはしたが、口が語る口になっていたいた事もあり昔を懐かしむ様に語り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そう、アレはU-40の大賢者の命でとある狂暴な宇宙怪獣を追っていた時の事だった。

 

「待て!今すぐ止まりなさい!」

 

本来なら私の様な若輩者が出る幕の無い単独で任務だったが、生憎その時は私以外の巨大化できる戦士たちは別任務で星を離れ、残っていたのは私だけだった。

その為、臨時であるがスターシンボルを一時的に拝領し凶悪宇宙怪獣ベムトラスの追跡の命が出され、私は浮足立っていた。

早速私は、ベムトラスの潜んでいると言う宙域の小惑星帯に調査に向かい幸先よく目標を見つけ出した、今にして思えばここで監視に注力し他の戦士の応援を待つべきだったが、その当時の私はまだ若く巨大化できる体質にある事もあり多少自分に驕っていた、だから一人でベムトラスに挑みそれに気が付いた相手に逃げれると言った不始末を犯してしまった。

 

「くっ!流石に向こうが早いか、これならもう少しウルトラマッスル以外も鍛えて置けば良かったな。」

 

力であるならば私でも怪獣と互角以上に渡り合えるが速さでは違う、元々大柄な体に加え長年に渡り鍛え続けたウルトラマッスルが私の体を重くしていた、その為身軽な向こうが宇宙での移動速度では勝る。

そして、ベムトラスの追跡を続けていると私の視界の端に青く美しい星が移り始め、思わず焦りの声が漏れる。

 

「ん!あれは地球⁉追跡に夢中でこんな所にまで来てしまったのか!拙い、このまま地球にベムトラスを向かわせる訳にはいかない!」

 

嘗てヘラー軍を共に退けた盟友の星に私の失態で被害を出す訳にはいかない、そう強く思った私は全身に力を籠めベムトラスの追い付こうと猛加速を懸けて接近した。

 

「捕まえたぞベムトラス!私と付き合ってもらおうか!」

 

決死の追跡で如何にかベムトラスに取り付いた私は、そこから如何にか地球から距離を取ろうとしたがベムトラスが暴れ中々うまく抑え込めない。

 

「こら……暴れるんじゃない!……なっ!くっ、このままでは地球に……!」

 

ベムトラスと取っ組み合いをしている内自分たちが地球に近づいてしまった、そして染ま間地球の重力に引かれ星の大気圏内へと侵入してしまった。

 

「何と言う事だ!こんな筈では……うわっ!」

 

大気圏突入後、私は自分が不甲斐なさと短慮さに落胆し一瞬腕の力が緩んだ、それを感じ取ったベムトラスが大きく暴れ拘束を逃れると、人々の暮らす街へと進路を取る。

 

「っ!確かに私は若輩者だ……だがU40の戦士としての誇りはある、その誇りにかけてそれだけはさせん!」

 

人の街にベムトラスが降り立てば奴は必ず破壊の限りを尽くすだろう、ここまで散々戦士としての失態を犯し続けたが人々の安寧のクラスを脅かす事程許されない事は無い、処罰は免れないと覚悟しそれでも戦うと決めて私はベムトラスを追った。

それでも中々追い付けずベムトラスが街に先に降り立ってしまい懸念した通り暴れ始める、人類側も応戦するがベムトラスの堅い皮膚が砲弾を弾き口から出る破壊熱線の前に一方的に蹂躙される、悲鳴を上げ逃げ惑う人々と建物の残骸が街に散乱する地獄絵図を前に私は呆然としていた。

 

「うぅぅぅ、間に合わなかった……すべて私の所為だ、くそっくそー!」

 

ここでも自分の愚かさを嘆いていた私は、こんな惨状を作り上げてしまった責任を取ると言う自分勝手な理由でベムトラスと交戦する。

私達の戦いの余波で更に破壊が加速し悪化していく惨状を目にしながら、それでも未熟な私は戦う事しか解決法を知らなかった。

 

「俺は良いよ兄貴……兄貴だけでも逃げてくれ。」

「バカ野郎!こんな所で諦めんな!おら、立て肩貸してやるから!」

 

そんな時、視界の端で片足にケガを負い早く動けなくなった弟とそれを庇い、ともに逃げ延びようとする兄の姿が見えた。

その姿に嘗ての自分と今は亡き盟友マティスの影を重ねた私は、無情にも彼らに熱線を浴びせようとするベムトラスとの間に入ると背中で熱線を受け彼らを庇う。

 

「こいつ、俺達を庇って……。」

「兄貴、今の内に!」

 

背中に受けた熱線に藻掻き苦しむ中で、私を見つめ足を止めた兄を促し避難を急ぐ弟の二人を見つめ私はただ願った。

 

『どうか二人で生き延びてほしい……私の様に最愛の友を兄弟を失わないでくれ。』

 

やがて私のエネルギーは底をつき始めた、私はここで死ぬのかっと覚悟を決めたその時だった。

 

「おい!起きろよ、こんな所で倒れないでくれよ!立ち上げってくれ!」

 

先程弟を連れて逃げていた兄が一人、私の顔の前で私に呼び掛けていた。

 

「アンタ、ウルトラマンなんだろ⁉ずっと前……俺達が生まれるより、ずっと昔に地球を守るために遠い星からやってきてくれた戦士なんだろ⁉立って……立ってくれよ、立ち上がってアイツを倒してくれよ!」

 

『私はウルトラマンじゃない、ウルトラマンはもっと偉大な戦士だ……。』

 

そう伝えたいのに言葉に出来ない、途方もない無力感を味わいながら彼の必死の叫びを聞くしかない自分に今日何度も味わったどれよりも大きな絶望感を感じた。

そして、私を倒し機嫌がいいベムトラスが彼を見ると不気味な笑み浮かべたような気がした次の瞬間、私諸共彼を消そうと熱線を吐き出す準備を始める。

 

『っ!早く……遠くへ……逃げるんだ!』

 

力の入らない体に鞭を打ち如何にか両腕に力に込めて上半身だけ立ち上がらせると彼を覆うように庇い、彼の避難まで時間を確保しようとする。

だが彼は逃げる様子を見せない、それどころか肝を据えた顔でただ黙って私を見つめ、自分もここに居ると言っている様だった。

 

『彼となら……若しかしたら……いや、ダメだ危険すぎる。』

 

この状況を打開できる唯一の手を思い出し、この目の前の勇敢な彼ならと言う思考が頭を過ぎるがそれは余りに危険な手だ、この地球人を私の失態で起きたこの一連の連鎖に巻き込む訳にはいかない。

 

『だが……このままこうしていても、どのみち彼も死んで……しまうなら!』

 

私は意を決して彼に融合する事を決めた……これが、私と岩谷 尚文との出会いだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さって、今日はここまでさせてくれ。今からトレーニングの時間だ。」

 

話も佳境でこれからというタイミングで、タイタスはトレーニングの為に話を打ち切った。

 

「えっ!ちょっ、今結構いいところだったぞ、頼むよ続きを教えてくれタイタス⁉」

「すまないタイガ、毎日の規則正しい日程でのトレーニングが強い筋肉を作るうえでは不可欠なんだ。」

 

これと決めたら意見を譲らないタイタスは、如何にか続きを話してほしいタイガの訴えも空しくトレーニングを始めた。

 

「タイタス~!」

「諦めろタイガ、一旦トレーニングを始めたら微動だにしないんだ旦那は……。」

 

三人の中で一番若輩のタイガが尚も懇願するが、フーマは諭す様にタイガを諫める。

 

「それより、終始旦那の話を聞いてて思ったことがあるんだが……。」

「何だよフーマ?」

 

それとなしに話題をずらしタイガの興味をコチラに移す。

 

「俺達なんかより、よっぽでヤンチャだぜ若い頃の旦那……。」

「……そうだな、若い頃のタイタスって結構無茶苦茶してたんだな。」

 

いつも自分たちを諫めてくれる年長者の若かりし頃が自分たち以上に破天荒だった事を知り、離れた場所で一人黙々とトレーニングを続けるタイタスに何とも言えない視線を送っていた。

 



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タイタス ザ ビギニング後編

「それじゃあ、この前の続きを話そうか。」

 

イージスのオフィスでトライスクワットの三人が集まると始まる談話会、そこで前回途中で終わっていたタイタスの過去話の続きが語られよようとしていた。

 

「待ってました!前回が気になるところで終わってたかたらずっと聞きたかったんだよ!」

 

この前の話の途中が気になっていたタイガは、漸く続きが聞けることに感激して少しばかり反応がオーバーになっている。

 

「ちょっと落ち着けよタイガ、そんなにせかさなくても旦那なら話してくれるだろ。」

「何だよフーマ⁉フーマは気にならないのかこのあいだの続き!」

 

興奮して息巻くタイガを落ち着けようと努めて冷静に語り掛けるフーマ、そんなフーマに対してタイガは沸き上がる好奇心に押され焦れた声で反論する。

 

「いや、そんな事は……旦那、タイガの奴を落ち着けるためにも、早くその尚文って地球人との出会いの話の続きを頼むぜ。」

「何だよ⁉フーマも気になってたんじゃないか、と言う分けで早く続きを聞かせてくれタイタス!」

 

落ち着きのないタイガの幼い子供の様子に、やれやれと呆れた風を装ってその実フーマも興味津々と言った態度を示す。

 

「ははは、タイガもフーマも相当気になっていたみたいだな。それじゃあ、私と尚文がベムトラスの破壊熱線を受ける前からの続きを話そう。」

 

そう言うとタイタスは徐に語りだした、岩谷尚文の最初の出会いを……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私が目の前の地球人との融合を決め体を光粒子に変え始めた時、ベムトラスの破壊熱線が私達に向けて解き放たれ私達を覆いつくした。

 

「ここは……?」

「私と君の精神空間だ、如何やら私の体の粒子化がベムトラスの破壊熱線が君に届くより早かったらしい。」

 

謎の空間の中で疑問の声を出した地球人に私はそう答えた。

 

「なっ!貴方は、さっきほどのウルトラマン⁉と言う事は、俺は……もう……。」

 

自身の目の前に居る私の存在を知って何かを悟ったらしい地球人の若者が症状を暗くさせる、恐らくはあの熱線を受け自分は死んだのだと思い至ったのだろう。

 

「……君は生きている。」

「え?」

 

その認識が誤りであると伝えるために彼が生存している事を簡潔に伝えると、彼は呆けた表情でこちらを見た、

ベムトラスの光線が私と彼を焼き払う前に粒子化した私の体が防壁の代わりとなって光線の威力を殺いだのだ、だから彼の肉体は熱線に焼かれる事は防がれ五体満足で今も生存している事そして、この精神空間に居るのも、熱線が放たれた瞬間を目撃したせいで瞬間的に脳に多大な負荷が懸かり意識だけが体から離れただけ、時間が来れば現実に引きも出されるだろうと、彼に事実を伝えると納得したようだった。

 

「それより私は君に謝らねばならない、私の失態に君を巻き込んでしまい済まなかった。」

「失態?どういう事です、詳しく聞かせて下さい。」

 

彼がある程度落ち着いてきたのを見計らって、私はこの惨状に居てるまでの経緯を出来るだけ詳細に話した。

そもそも私はU40の戦士ではあってもウルトラマンと名乗れる程の活躍や功績はない事、その為今回が星の外での初任務であるにも拘わらず功を焦りかなり独断的な行動を取ってベムトラスを取り逃がし追った先の地球での惨状に至った顛末迄、包み隠さず総てを打ち明け彼に謝罪を続けた。

本来なら謝罪の言葉程度では到底償えない失態だが、今の私にはこれしか出来ない実情の歯痒さが私の拳に力を籠めさせた。

 

「貴方が俺にした謝罪の意味は理解した……それで?」

「!それでとは……?」

 

私の話を黙して聞いていた地球人の彼が沈黙を破って語った最初の言葉は、私を責める叱責ではなかった。

それどころか問いかけに近いものであり、罵倒されるのも致し方ないと覚悟していた私はその意図を推し量れず間の抜けた声でその一言の意味を聞いてしまう。

 

「貴方がこの精神世界の中で俺の前に姿を見せたのは、本当に自分の仕出かした不始末に対して謝罪する為だけですか?……もしそうでは無いのなら、貴方は俺に何を求めて現れたの事にありますよね?謝るだけなら、姿を見せず言葉だけでも良かった筈、なのにこうして目の前に姿を晒したのは何かあるのでしょう?」

「っ!見抜かれていたか……いや、君を侮ったつもりはないのだがだが。」

 

彼から私の思惑の核心を突く言葉が投げかけられ、私の心にはわずかな動揺が走り一瞬口に詰まった。

しかし、彼の協力無くしてあのベムトラスを討伐するなど私の中では考えられない、ここで彼と一体化しなければ私は光と消えこの地球はベムトラスの猛威の前に恐怖と混沌の渦中の沈む事になる、ならば形や振りなど構っている場合ではない。

 

「……私と一つとなって、共にベムトラスと戦ってほしい。」

 

端的に何の誤魔化し言葉も入れずただ私の要望だけを彼に伝えた。

 

「分かりました……それであの怪獣から街を守れるなら、俺は貴方と共に戦います!」

 

目の前の彼からの短い返答の後の僅かな沈黙の間が空き、そして決意の視線で私を見据えそう答えてくれた。

 

「ありがとう……あぁ、まだ名を名乗って無かったな私の名はタイタスだ。」

「そう言えば、俺は岩谷尚文と言います。」

 

私はこれまで行動を気にして名を明かして無かった事に気が付き、これから共に戦う地球人の青年に遅ればせながら互いに簡単な自己紹介をする。

 

「では行こうか尚文!奴をベムトラスの魔の手から街を守るために!」

「はい!タイタスさん!」

 

私たちの決意の感情が重なり精神が昂ぶると、私たちの居る空間もそれに呼応しより強く輝きだす。

 

「ウルトラチェンジだ尚文!」

「ウルトラーチェーンジ!」

 

声高く叫んだ尚文の変身の掛け声と共に私と彼の肉体が一つとなり現実世界へ引きも出される。

 

 

目を開けると自分の身長を超える高さからの景色が広がっていた、半壊したビル群や罅割れた道路のアスファルトと焼け焦げたゴムの匂いの中でそれらを遥か高見から見下ろす視界が自分の物だと認識するのに、俺はそれ程時間は懸からなかった。

 

「これがウルトラマンから見た俺達の街か……こんなにも小さいだな。」

 

そのどれもがミニチュアの造形物に見える普段自分たちが見上げていた建造物が立ち並ぶ光景を眺め、視点の違い一つで堅牢に見えた物が酷く脆弱の見える世界の脆さに悲観しそうになる。

 

「ギャオオオオ!」

 

巨大な身体になり高くなる視界に戸惑っていた俺の強化された聴覚をけたたましい雄叫び刺激し相対すべき現実に向き合わせる。

 

「そうだ!今はこの怪獣を倒さなければ、その為に俺は!」

「「俺達(私達)は一つとなったんだ!」」

 

意識が重なる感覚がして脇を強く締め腰を屈めて前のめりの体制で怪獣ベムトラスに対峙した。

ここまで戦って来た私では無い俺達双方の闘志が高まり合いこれまでに感じた事ない力の昂ぶりを全身で感じる。

これが、これこそが地球人とウルトラ人が一つとなった時の力なのか⁉ならば、倒せる俺達ならばこの惨劇をこの悪魔を止められる!

 

「オォォォォ!」

「ギャォォォォ!」

 

低い体勢のまま勢いをつけて突進すると、ベムトラスは迎え撃つように熱線を吐き出す。

 

「フン!」

 

腕を前に×字に組んで熱線を受け止めながらそれでも突進の勢いは落とさず突き進み、ベムトラスを押し倒し馬乗りになって腹部に拳を打ち込む。

 

「ギャオオオオオ!」

 

俺達の想いが拳に宿り、放たれ続ける一撃の重みがより強くなってベムトラスの巨体を激しく打ち付け苦悶の叫びをあげる様に鳴きだした。

 

「ハッ!」

 

ベムトラスの体力が少なくなり抵抗する力が弱まってきたのを感じ、奴の体の上から離れると両腕の間にエネルギーを溜め光球を作りだす。

 

「「プラニウム……バスター!」」

 

宙に浮いて静止する光球を拳を突き出しベムトラスに向けて打ち出す、弱り切り回避する体力もないベムトラスは光球を体に受け一瞬眩く輝き爆散する。

ベムトラスを倒した事を確認した俺達はベムトラスとの戦いで壊された街を改めて見下ろした。

 

「タイタスよ……。」

「っ!大賢者!」

 

声もなく自分がしてしまった失態の大きさを改めて痛感していると、脳内に威厳に満ちた老人の声が響いて私の星U40の最高指導者大賢者の声であるとすぐに気が付く。

 

「見ておったぞタイタス、お前の行動の一部始終を……。」

「はっ!大賢者、ここまで失態に対する咎ならば如何なる罰も受ける所存です。」

 

この惨状を作り出した原因を辿れば私の行動に責任がある、私の軽率な行いでベムトラスをこの地球に連れてきてしまったのだ、U40に戻れば厳しい沙汰が下されるだろう。

 

「そうか……ならばタイタスよ、お前には私が許可するまでU40への帰還を禁じ、その地球での修行を命ずる。」

「っ!……大賢者何を⁉」

 

大賢者から下された沙汰の内容の意図を推し量れず困惑する私に、あの方はこう続けられる。

 

「タイタス、お前は自らの生い立ちからこれまで他者に負い目を持って接して来た、だがヘラーが討たれた今お前は自らを変えるべき時だと思わぬか?その地球人の若者と共に戦い地球を守り抜いた時、お前は変われるだろう。頼もしきU40の戦士としてな……それまではそのスターシンボルは預けておくぞタイタス。」

 

そう伝えたあと大賢者からのテレパシーは途切れた、未だ伝えられた言葉の要領は得ないがそれでも果すべき贖罪は理解出来た、そしてその場を飛び立ち瓦礫の少ない街の端で変身を解いて改めて精神体の状態で尚文と相対した。

 

「済まない尚文、私の面倒に付き合わせる事になってしまった。」

「気にしないでください。俺でよければ付き合いますよタイタスさん。」

 

彼と対して初めに私から出て来た言葉は謝罪だったが、彼は特に気にした様子を見せず巻き込まれた事に文句を言う事は無かった。

 

「それより、暫くの間よろしくお願いいたします。」

「あぁ、こちらこそ!」

 

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「そこから私と彼の地球での修行が始まったんだが、その後に尚文が再編された科学警備隊のヒカリキャップにスカウトされたり、尚文が変身前の私と同じ位の体型なったり、後はその時に地球で色々と知識を得たりしたな。」

 

そう言ったタイタスは懐かしそうに当時の事を思い浮かべていた、そんな彼の事を見ていた二人はタイタスの言った言葉の中の一部に反応した。

 

「な、なあタイタス……。」

「ん?なんだタイガ、質問か?」

 

一人回想に更けていたタイタスにタイガは話しかけると、タイタスは回想を止めてそちらを向いた。

 

「尚文だっけ、人間体の時かウルトラマンの時どっちと同じ体型に成ってたんだ?」

「ふむその事か、どちらかと言えばウルトラマンの時の体型と似通ってたな。」

「「……。」」

 

タイガの問いに対する答えにフーマとタイガは沈黙する。

 

「あと語れる事と言えば、変身後にやるポーズも尚文との修業時代にボディビルを見に行った時に見たものを参考にしているな。」

「そ、そうだったのか旦那……。」

 

嬉しそうに語るタイタスと横に置き、二人は静かに語り合う。

 

「なぁフーマ……その尚文って地球人ってさ。」

「おぅ、間違いなく旦那と同類だぜ……。」

 

嘗て力の賢者呼ばれる前、ウルトラマンと名乗る前のタイタスが出会った岩谷尚文と言う地球人に今のタイタスのイメージが重なり苦笑いを浮かべ合う二人なのであった。



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フーマ閃風史 序章前半

「……そろそろ聞いても良い頃合いだな。」

「ん?どうしたタイタス?何か聞きたい事でもあるのか?」

 

日課のトレーニングを終え体を休ませていたタイタスは何を思ったのか誰かに問いたい事があると呟いた、それにタイガが不思議そうに反応する。

 

「あぁ、以前君にヒューマノイドタイプの異星人との融合について聞かれたことがあっただろう?」

「あぁ!あの時のヤツか!それでタイタスには前に岩谷尚文って名前の地球人と融合してた経験が有ったんだよな。」

 

タイタスが唐突に言い出したのはいつかの日、タイガが自分とフーマの過去に地球人又はそれに近いヒューマノイドタイプの異星人との融合経験が有るのかと尋ねた時の事だ。

 

「うむ、それであの時フーマは明確に否定していなかったかのを思い出してな、君にも経験が有るんじゃないかと考えに至った訳だ。」

「げっ!忘れてなかったのかよ……。」

 

当時タイガの彼が質問に対して曖昧に答え事を覚えいたタイタスは、フーマにも自信と同じ様に同化の経験が有るのではと踏んでいたが、彼の様子から察するにその読みは合っていたらしい。

 

「なんだよフーマ?やっぱり経験が有ったんじゃないか、何で黙ってたんだよ⁉」

「まぁ待てタイガ、何か語りたくない理由でもあるのかね?そうでないなら、聞かせて貰えないだろうか?」

 

タイガは強く興味を引かれ話を引き出そうとする、それを諫めつつも自身も相当気に掛かっているタイタスが話をする流れに持っていこうとしていた。

 

「お前ら……はぁ、仕方ねぇな!いいぜ、話してやるよ俺とアイツの出会いをさぁ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あれは……そう、俺が以前に話した少女との一件が合ってからそう経って無かった時だった。

当時の俺は、あの一件の事もあってほかの星の種族との交流に消極的になってたんだが、そうは言ってられない指令が入ったんだよ。

 

「今回の仕事はまた、きっついな……。」

 

俺は今ある惑星の大気圏の外に留まっている、と言うのも今回の指令で派遣先がこの惑星だからなんだが……。

 

「こりゃ行ってすぐ終わるタイプの仕事じゃねぇな……クソッ人間体になって活動するしかねぇか?」

 

この星で指令の内容がそれなりに時間が懸かりそうな内容で且つウルトラマン(普段)の姿だと目立ちすぎる、かと言って人間体に戻ればアイツ(ゲルグ)との誓いを反故する事になる。

正直今まではこの姿であっても然して問題なく仕事をこなせた、言ってしまえばこの姿のままでも通用する星系が中心だったからだ、だが今回は違う他の星の種族との交流が無い閉ざされた世界への介入でありこの姿のままだと返って目立ち如いては討伐対象にもマークされ動きずらくなる。

 

「どうしたもんか……ん、なんだ?」

 

どの様に今の姿のまま星の中で活動していくか思惑を巡らせていた時だ、一時的では有れど大気圏の外からでも感じることが出来る程大きな時空が歪んだ反応、俺はその反応の有った地点が気になって一旦体を光子化して向かう事にしたんだ。

 

「こいつは……惑星間テレポートか?それにして余波の規模が……。」

 

反応のあった場所にはこの惑星の文化レベルとはまた違った服装の人間が複数人それも一か所に固まっていた、様子を見るにアイツ等は別の星からこの星に呼び出されたクチの人間らしいな。

 

「しっかし異世界転移ねぇ~。」

 

アイツ等の言う異世界転移と言う単語は多少大袈裟な表現に思えるのは、俺が宇宙を飛び回ってきたせいだろうな、俺達(ウルトラマン)みたいな存在からしたら宇宙全体が一つの世界でありそこに点在する惑星は世界の一部云わば島の様な物だ、確かに小さな島の中で暮らす人々ならば島の中のみが世界であり全てだろう、だが俺から見たら一つの惑星の中の出来事でそれを全く違う世界に来たと感じるのは些か大袈裟だと思えた。

 

「それでもこの状況でのあれは都合が良いか。」

 

俺達ウルトラマンが他惑星で活動する時は二通りの方法で現地の環境に馴染んで行動する、一つは力を押さえ人間の姿で活動する方法そしてもう一つが……。

 

「あいつ等の中の一人と同化すりゃ、俺もこっちの姿のまま潜り込めるって訳だ。」

 

今回の仕事での問題に対する取り敢えずな対処の仕方に光明が見えたか?

 

「まぁそれでも、いざ同化するとなると意外に難しいんだが。」

 

何せ俺達(ウルトラマン)みたいな存在が違う種族、特に遥かに力量差がある相手との同化するには相性ってやつが良くないと上手く行かない、一度でも経験があるなら別だが俺は今回が初であり同化の相手は良く選んでから決めないと不味い、それに同化した人間の性格的な問題も無視はできねぇんだよなぁ……突然己の力量以上の力を得て増長して他の奴を見下す様な奴とは組みたくねぇしな。

 

「よし!ここはアイツ等の事をじっくり観察してから誰にするか決めるか!」

 

その後、俺はその星の大気圏の外側であいつ等の事を見守り続け候補を二人まで絞り込んだ、あと一押し何か切っ掛けがあれば後はソイツと一体化する、だがそのあと一押しが中々見つけられず決めてを欠いていた……そんな時だったなアレが起きたのは。

それは、あいつ等が何時もの訓練場から離れ別の場所に向かっているのが見えた時だ、あいつ等の向かう目的地が地下に続くデカイ洞穴の様な場所だと知って俺は自分の体を光子化して着いて行く事にした。

 

「っ!あいつ何やって⁉」

 

その日もいつもの様にあいつ等の動向を注視して見守ってやるつもりでいたんだ、実際その洞窟探索自体は問題なく進行していたしな、だが集団の内に一人が軽率な行動を取った事で問題が起きた。

 

「テレポート⁉あいつ等の反応は……少し遠い、間に合うか⁉」

 

突如アイツ等が目の前から見失い慌てて気配を探り、見つけたが大分下の方に転移したらしく近くにやばい気配も感知した、これは急がねぇとやべぇ!

アイツ等の気配を頼りにしてドンドン下層へ降りていく。

 

「クソッ!こうなるならさっさと同化してやるんだった、そしたらアイツを直ぐそばで守ってやれたのに……。」

 

迷うことなど無かった心の何処かではもう決まっていたんだ、だがあれやこれやと理由をつけては先延ばしにしてた、アイツの姿が過去(負け犬)の頃のアイツ(ゲルグ)と出会ったばかりの俺と重なったから……努力するアイツの邪魔をしたくなかった。

 

「もうすぐだ、もう少しで追いつくから……耐えろよ!」

 

自分の判断の甘さを悔いながら急いでアイツの下に向かい、そして辿り着いた時アイツはさらに下層に落ちる瞬間だった。

 

「っ!まだだ、間に合え!」

 

諦めて堪るか、真っ逆さまに落ちていくアイツをギリギリで掴む事が出来た俺はそのまま降下していき、そして縦穴の底に着いた。

 

「あれ?……痛くない?というか生きてる?」

「よう兄ちゃん!驚いたか?」

 

あの高さから落ちて無事だった事に驚いて困惑している相棒に、俺は出来るだけ気さくに声を掛ける。

 

「えっ⁉誰⁉何処から話して⁉」

「落ち着けよ相棒、俺はフーマ一応ウルトラマンをやってる。んで、今はお前さんと一体化して中から話しかけてる。」

 

状況が判らず混乱している時だったからだろうな、俺が話しかけると更に困惑して辺りを見回す相棒を落ち着かせようと、遅ればせながら軽く自己紹介をして現在の状態も簡単に説明してやる。

 

「はぁ、これはどうも僕は南雲ハジメです……ん?ウルトラマン……えぇ~!」

 

一旦冷静になったと思ったらまた相棒は慌てだした、まぁその反応は理解できなくもねぇがちと騒がしすぎるな。

 

「だから落ち着けよ、こんな場所で騒がしくしてるとッ!……敵を呼ぶぞ。」

「えっ?」

 

ここは魔窟、人に世の理が通じない魔物の巣窟、そんな場所で冷静さを欠き騒ぎまわれば当然、敵を引き寄せ異常に発達した両脚を除けば兎に見えなくもない魔物が現れる。

 

「兎……じゃないよな、どう見ても足がデカすぎるし。」

「油断すんな、警戒を止めんな……右へ避けろ!」

 

ゲルグとの修業の日々の中で培った見切りで魔物の予備動作から凡その攻撃の着地位置を読む、魔物の攻撃は威力はあるがその分貯めの動作が独特で先読みしやすく、相手に合わせて動けば大体避けられる。

 

「はっはい!」

 

俺の掛け声に従って右に逃れたハジメの元々いた場所に魔物の蹴りが突き刺さり、着地した場所から蜘蛛の巣状に亀裂が広がった。

 

「嘘だろ……。」

「気を抜くな、次に備えろ!後ろか……伏せろ!」

 

余りの威力に言葉を失うハジメを一括し、背後に別の気配を感じて低姿勢を取るよう指示を出す。

 

「はい~!」

 

咄嗟に体を俯けたハジメの背の上を切れ味鋭い風の刃が擦り剝け、向かい側に居た兎の魔物を引き裂いた。

風の刃を放った攻撃の主である熊のような魔物は、ハジメに攻撃が当たらなかった事を気にしてはいた様子はあるが引き裂かれた兎を方に近づいていく。

 

「に、逃げなきゃ……死にたくない!」

「っ!おい、相手がまだ居る内は背を見せるな!」

 

死の気配が強まった事で生存意識が強くなったハジメ、その場から離れようと熊の魔物に背を向けた時また風の刃が迫る。

 

「全く世話が焼けるぜ!……ハジメ少し体借りるぞ。」

「えっ?」

 

取り敢えず危機を脱しないと落ち着いて話も出来そうにねぇ、だからここは俺が気張るとしますか!

 

『フーマソーサー。』

「いつの間に、それに体が勝手に……!」

 

一時的だが無理やり体の主導権を奪ってしまった事を悔いる気持ちはある、この場を凌げたら幾らでも文句は聞くからこの時だけは貸してくれハジメ!

ハジメの左手に俺の変身する力を宿した手裏剣型のアイテム、ウルトラソーサーを握らせ起動して右腕にはめらえたブレスレット”フーマガンド”にはめ込み刃の部分を掴んで回す。

 

『ウルトラマンフーマ”フラッシュ”!」

 

刃の回転と共に光が渦巻きハジメの姿から、俺のウルトラマンとして姿に変わるが身長はハジメと同じ位に止まった。

 

「やっぱ、同意なしの変身じゃこの位が関の山か……おい熊野郎!お前の斬撃、俺のスピードに付いてこれるかよ!」

 

分かり切っていた事だ今は気にしない、それより目の前のコイツをさっさと片付ける事に集中する!

そこからは俺の光波手裏剣と風の刃がぶつかり合う攻防戦が幕を開けた、相手の攻撃を躱しコチラが撃てば相手も躱す一進一退の勝負を繰り広げる。

 

「中々勝負がつかねぇ、このままじゃ不味い。」

 

一見互角の勝負に見えてもこっちにはタイムリミットがあり残り時間がジリジリ削られ分が悪い。

 

「……あの、フーマさん。」

「ん?何だ、文句なら後で……。」

 

若干焦り出したそんな時に今までずっと黙り込んでたハジメが語り掛けて来た、勝手に体を使って戦っている事に文句でもあんだろうが、そう言うのは後にして欲しいぜ。

 

「若しかしたらこの状況を打開できる作戦、思い付いたかもしれません。」

「っ!……俺は、どうすりゃいい?」

 

俺が言い終わる前に自信なさげに投げられたセリフに、最初は苦情が来ると思っていた俺は面食らいそしてハジメの提案に乗る事にした。

その直後一進一退だった攻防に動きが見える、フーマの胸のカラータイマーが点滅しだし一瞬動きが乱れ緩慢になり隙が出来る、その一瞬を逃さない熊の魔物がフーマに目掛け風の刃を飛ばし捉えた、だが捉えたと思ったフーマは煙と消える。

 

「幻影だ……貰ったぜ、極星光波手裏剣!」

 

フーマガンドから発せられた光粒子が渦を巻き、刃となって熊の魔物の背後を直撃し崩れ落ちた。

 

「フーマさん、あの……。」

「イヤー!助かったぜハジメ、お前の作戦が無けりゃ時間切れで変身が解けてた。」

 

戦いを終えウルトラマンから人間の姿に戻ったハジメは自分の中のフーマに何かを語ろうとし、それを察してフーマは調子を上げて遮り作戦の成功をねぎらう。

 

「いえ僕の命も懸かってましたから、それよりも助けてくれてありがとうございました。」

「それはこっちセリフだぜ。お前が最後に力を貸してくれたからお互い生き残れた、ありがとな。」

 

謙遜した様に俺に礼を言うハジメだが、それはコッチも同じだ俺も助かる為にお前の体を勝手に借りた。

 

「その……助けてもらっておいてこういうこと言うのもアレですけど、やっぱり別の僕より相応しい相手と一体化し直した方が、その僕は一緒に召喚された誰よりも凡庸でありふれた落ちこぼれですから。」

 

後に続いた言葉は、嘗ての俺が抱えていた劣等感を思い出させた、だからこそ俺はあの時ゲルグに出会ったあの瞬間を思い返して、今度は俺の番かっと自嘲気味に内心で呟きあの日ゲルグに言われたセリフをハジメ(新しい相棒)に言ってやる。

 

「なぁハジメ、これは俺の師匠の受け売りの言葉何だが……化け物は何処までも化け物なのか、負け犬は何処までも負け犬なのか、試したくは無いか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ってな事があったんだが……どうしたお前ら?」

 

しんみりと語るフーマの思い出話に聞き入っていた二人は、無言のまま天井を仰ぎ見ていた。

 

「いや……君の話に引き込まれてしまってな、やはりフーマには語り聞かせる才能があるな。」

「あぁ、なんて言うか話の中に自然と入っていけるって言うか、没入感がすごいよな!」

「おま……聞かせてくれって言うから、話してやってるの今回も関心はそこかよ!」

 

タイタスがそんな風に話すとタイガがもその意見に同意して、そんな二人に思わず突っ込むフーマは呆れているのか溜め息を溢す。

 

「それで、その後はどうなったんだよフーマ?」

「うむ、実に気になるな?」

「いや、それは今度にしてくれねぇか?何か昔の事を思い出したら色々疲れた。」

 

続きを促されるす二人だが、当のフーマ本人は疲れた様に日を改めさせて欲しいと言って断ってきた。

 

「お、おぉ……分かった、今日は止めとくよ。」

「無理を言って済まなかったなフーマ。」

「悪いな、ありがとよ二人とも。」

 

そんな様子を見て素直に引くタイガとタイタス、フーマは二人に礼を言うとその日は一人物思いに更けるのだった。

 



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フーマ閃風史 序章後半

「……うっし、そろそろこの前の続きをはなすとすっか。」

「おっ?やっとか、あの後からずっと気になってたんだよ。」

「うん……だがいいのかフーマ、いろいろ思う所があるのではないのか?」

 

以前フーマの過去の話が語られてから数日の時が流れた、タイガとタイタスは前回の続きを聞きたいが催促するのも気が引け、フーマ自身から話してくれるのを待っていた。

首を長くして待っていた甲斐があり、この前の続きが聞ける事を素直に喜ぶタイガと、話してくれる事に一応は嬉しそうにしているが何処か気遣わし気なタイタス。

 

「いいんだ旦那、俺一人の内に止めておくより話して知っておいてくれた方が気持ちが軽くなる。」

「そうか、では心して聞こう君と南雲ハジメと言う少年の出会いのその後を。」

 

そんなタイタスの気遣いにフーマは、彼なりの思いもあっての判断だと言いタイタスはその心の有り様を察して聞きに入る姿勢を取った。

 

「それじゃあ、この前の続きから熊の魔物との戦いの後の出来事を話していくぜ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

師匠(ゲルグ)が俺を変えてくれた言葉をそのままハジメに伝えた直後、ハジメは戸惑っていたと思うぜ。

 

「フーマさん……僕は。」

 

一体化しているから分かる、変わりたいと思う願望と本当に変われるのかと言う不安そしてどうせ自分には無理だと言う倦怠に似た現実へ諦め、この力を得る前の俺も抱いた感情がハジメの中で鬩ぎ合い判断を鈍らせている。

 

「僕は……やっぱり。」

「久ぶりに同族の気配を感じて来てみたら、こんな地下で迷子か少年?」

 

自虐的な発言が出てきそうになった時、聞こえて来る筈のない他の人の声がハジメの耳に届いて遮られた。

 

「えっ?人の声?」

「お~い!こっちだこっち!」

 

まさか他にも人が居たとは思わず辺りを見回すハジメを呼びかける様に、件の声の人物がダンジョンの壁の中から現れた。

 

「はっ?今どこから?というか貴方は?」

「はっはっは!いい反応だな少年。」

 

成程、この壁は光学迷彩になっているのか、それで壁の中は通路になっていてそこを通ってきたと……そんな技術を持ってる事はコイツ、それにさっきも同族の気配を感じたって言ってたな。

 

『おいハジメ、コイツは若しかしたら?』

「おっと!自己紹介は私からをさせて貰おう少年に宿った若い戦士よ。」

 

俺がハジメにコイツの正体を伝えようと声を掛けるた時、目の前に男は俺が続きを話す前に自分から名乗る。

 

「私はジーク、Z95星通称ピカリの国出身のウルトラマン、ウルトラマンジークだ。」

「Z95星?ピカリの国?えっと、そのつまり貴方もフーマさんと同じ……?」

『そう言う事だな、ただ俺はOー50の生まれで出身は違うんだけどな。』

 

目の前の男、ウルトラマンジークと名乗ったコイツからは確かに同じ気を感じる、でも何故違う星の生まれのウルトラ戦士がココに?

 

「ウルトラ戦士が居る理由なんて一つだろう、君も同じではないかなフーマ君?」

『仕事……って事でいいんだよな?』

 

ウルトラ戦士は平和を守るの務めそうあの光る輪っかにテレパシーで伝えられずっとソレを守り続けて来た俺自身、コイツがココに居る理由なんてソレ位しかないのは理解していた。

 

「それで、そこの少年は何か悩んでいる様だが何を悩んでいたのかな?」

「え?僕?僕は……。」

 

俺との会話に区切りついて視線をハジメに移すと、少し戸惑った様子を見せた相棒(ハジメ)

 

「言いたくないのなら言わなくてもいいさ、私も無理に聞こうとは思わない……ただ、一人で悩むよりは声に出してみるだけでも変化はあるものだ。」

「……僕は、これまでずっと自分に自信が持てなかったんです……。」

 

ジークに諭され徐に自分の身の上を語り出すハジメ、そのたどたどしい口調の独白をジークも俺もただ黙って聞いく。

 

「僕は、この世界に来る前……正確には呼び出される前、地球で普通の男子高校生をやっていました。いや、普通じゃないな……だって、普通より下の位の人間だったんだから……。」

 

ハジメの自虐的な言葉が空気を重くする、他人と自分を比べ劣っている部分だけが際立って見えたそんな卑屈じみたマイナス思考がにじみ出てくる様にハジメの表情が暗くなる。

 

「ホントはこの世界に来た時ちょっと期待したんです、こんなダメな自分でも異世界なら変われるかなって……でもダメだった、特殊なスキルも特別な職業もなくあったの極ありふれたなんら変わり映えの無い平凡職と使い古されたスキルだった、僕は別の世界でも誰かの影に埋もれて生きるだけの存在だった。」

 

世界は違っても変わらない自分の立ち位置へ絶望と勝手に期待しそれを裏切られた失望、そこまでも平凡で無力な自分と言う現実に苦しんだ日々が伝わってくる。

 

「それでも、ちょっとでも変わろうと色々努力したんです。それで、皆から弄られながらそれでも自分にできる最大限の事をしよう、ほんの少しでも変わろうって!」

 

それでも足掻いた諦めずに変わろうとした、その様子は俺も見ていたから分かる、その姿を見ていたから俺は相棒(ハジメ)を選んだんだ。

 

「……でも、そんな努力をすればするほど現実を思い知らされて、それでさっき必死に皆の助けになろうとして動いて……助けようとした内の誰かに裏切られた。」

 

仲間の為になろうとしてその仲間に裏切られた、生まれたばかり不信感は僅かでも強く確りのその存在感を示していた。

 

「だから僕もはもう……。」

「優しさを失わにでくれ、弱い者を労わり、互いに助け合い、どこの国の人とも友達になろうととする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後まで変わらぬ願いだ。」

 

誰も信じられないと言おうするハジメの言葉を遮ったジークは、俺でも知ってるかの英雄の名言を口にした。

 

「その言葉は……!」

「ハジメ、確かに君のこれまで生い立ちを聞けばその不信感には納得できる、自分の事も信じられなくなっても仕方ない、だが私は君が弱いとは思わない。」

 

ハジメも聞いたことがあるそのセリフに驚きの顔をすると、ジークは正面に立って顔を合わせそう告げた。

 

「本当に弱い人間は窮地の仲間を助ける為に動いたりしない、人より自分を優先して危険から遠ざかろうとするものだ。」

「えっ?」

 

己を顧みない行動、そいつをハジメはやっていた誰にも見向きもされずとも優れた評価をされずとも、相棒(ハジメ)はあの場で誰よりも冷静に誰よりも勇ましく危機に向き合っていた!

そんな奴が臆病で弱い奴だと誰が言えるのか、俺はハジメのその勇気に魅かれ相棒に選んだんだ!

 

『ハジメ、もう一度だけ今度は受け売りじゃない、俺の率直な言葉で言うぞ……お前は弱くない、悪い部分だけを見るなよ、もし悪い所にしか目が行かないって言うなら、俺がお前に信じさせてやるお前自身の強さを!』

「フーマさん!」

 

驚きと喜びの感情が伝わってくる、そうだ誰にも見られてなかった訳じゃない、お前の努力も勇気ある行動も俺はずっと見て来た、だから相棒はお前じゃないとダメなんだ!

 

「その言葉、私にも贈らせてくれ。ハジメ、今のままの自分に自信が持てなくても諦めず努力すればきっと、君の理想の自分になれる筈だ!その片鱗はもう示した、後はこれ迄とは違う形の努力をすればいい。」

『おう!そうだ、俺が師匠(ゲルグ)と出会って変われたように、お前も絶対に変われる!』

「変われる?……僕が、こんな自分が?」

 

まだ信じ切れないだが、信じていいなら変わりたいそう心が訴えて来る。

 

「君が変わりたいと今でも思っているならば、私が……否、私達が変われるための手伝いをしよう!なぁ、フーマ?」

 

最後の一押しにそう続けるジークは、俺にも念押ししてくる。

 

『おうよ!技に自信が無いなら俺が一から教えてやる。』

「力に自信が無いなら、私が体を鍛えよう。」

 

知恵と勇気は備わってる、後はそれ活かす土台だけ……なら、やる事は一つハジメに見付けさせればいい、その心を活かす方法を。

 

「僕は……僕は変わりたい!誰かを疑って怯えるより、全部を信じる事に迷いたくない!変われますか?ジークさん、フーマさん?僕は、こんなどうしようもない自分でも強くなれますか⁉」

 

ついに決心がついたみたいだな、迷いを振り切った顔で聞いてくるハジメに懸けてやる言葉なんて一つだけだ。

 

「『勿論!』」

「っ!やります!僕に教えてください!力も技も全部、その為の労力なら何一つ惜しみません!」

 

最初のハジメとは違う、憑き物が落ちた表情で頼もしい宣言を口にした。

 

『おっし!そんじゃあ、教えてやる!言ったからからには、手加減なしだ一蓮托生最後までミッチリ叩き込んでやる!』

「私も手抜かりなどせず、キッチリ仕上げよう!文字通り全身全霊の特訓だ!」

「はい!よろしくお願いいたします!フーマ師匠、ジーク師匠!」

 

ハジメの瞳に情熱の火が灯る時、その身体は一回り大きく見えこれからの未来を暗示させていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「って事があってだな……その後ジーク先生と二人がかりで鍛えて行ったら心身ともに凄いパワーアップを遂げた訳だ!」

「ふむ、偶然とはいえ違う惑星出身の戦士が居たとは……。」

「……ウッ!」

 

残りをかなり端折気味に語り話を終わらせたフーマ、その事を余り気にした様子も無いタイタスは少しばかり話の中に出て来たウルトラ戦士に触れた時、ずっと静かだったタイガは大きくは反応する。

 

「ん?どうしたんだタイガ、そんなに震えて?」

 

謎の反応をしたタイガの方を見ると、何故だが縮こまり体を震わせている。

 

「いっいや、何でもないゾ!Z95星最凶の鬼教官ジークの事なんて何も!」

「鬼教官?そのジークと言う戦士を知っているのかタイガ?」

「あぁ~、お前もジーク先生に扱かれた質の分類か……。」

 

タイガの様子から全てを察したフーマは若干同情的で、二人から通ずるジークと言う戦士の概要に大体の検討がついたタイタス。

 

「あぁ、父さんのかなり古い付き合いの友人がZ95星で教官を務めているから会ってみろって……それで修行をつけて貰おうとしたら、光線のみで小型隕石一万個打ち落とせとか言われたり、100m級の岩山をギブス付きで登らされたり、組手をしたらしたで今度はいつ隕石が降ってくるか分からない惑星の上で組手をさせられて……。」

「そいつは、何とも……。」

 

その当時の修行風景を思い出し頭を抱えるタイガに、今回ばかりは何と反応するべきか迷うフーマ。

 

「うむ、中々面白い御仁の様だな!一度会って私もご教授願いたいものだ!」

「本気かタイタス⁉やめておけよ、あの人の教練はZ95星の戦士達以外の間でも厳しいって有名で……!」

 

二人で如何にジークの教鞭が如何に過酷であるかを話題にしていた時、その脇でタイタスがそんな爆弾発言をするとので静止しようとするタイガ。

 

「そうなのか!やはり一度顔を合わせておきたい、力が回復したら連れて行ってくれタイガ!」

「タ、タイタス……。」

「諦めろタイガ、旦那がこう言ったら止まらない質なのは知ってるだろ?」

 

タイタスの上機嫌さとは裏腹にドンドン気が落ちていくタイガとフーマ、余談だがZ95星の戦士達の間では怪獣と戦っている時とジークの指導を受けている時どっちが恐ろしいかと聞くと全員がジークの指導と答えると言うある種の常識的な評語となっているらしい。

 




ウルトラマンジーク
出身:Z95星
年齢:1万3千歳
身長:60m
体重:5万8千t
飛行速度:マッハ18
走行速度:マッハ6
水中速度:170ノット
地中速度:マッハ6.5
ジャンプ力:1000m

Z95星に置いては最強と謳われる戦士、その実力は折り紙付きであり噂ではウルトラマンキングの下で修業をつんでいたとも言われている。
また母星では、鬼教官と呼ばれる程厳しい訓練を訓練生にかし、最初にきつく徐々に個々の程度を下げていく方針を取っているとの事、最初から最後までメニューを変えず乗り切った者は数人しか居ないが実はゼアスはその数人の中に含まれている。
タロウとは彼が見習い時代に光の国に修行に来ていた時に知り合っており、その時にはトレギアも光の国に居た為、面識があり二人とは仲良くしたもよう。
因みに、この時ウルトラ兄弟と面会していて彼の教育方針はこの時の各兄弟達との邂逅に因るものが大きいと言う。


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タイタス ザ ブレイブ 前篇

「……フーマ、君は異星の地でハジメやジーク殿と出会ったと話していたな。」

 

ある日のイージスのオフィスでいつものトレーニングを終えたタイタスは、立ち回りの修練をしていたフーマに語り掛ける。

 

「ん?あぁ、そん時はお互いその星では余所者だったしハジメは光の国の戦士が活躍した地球の生まれだった筈だぜ。それがどうかしたのか?」

 

急ではあるが嘗ての相方の事を思い出しつつその時の状況を簡潔に伝える。

 

「そうか、実は私も尚文と同化していた時に似たような経験をしたことがあるんだ。」

「は?それって……。」

「本当かよタイタス!」

 

徐に口にしたタイタスの発言に、修練を止め詳しく聞こうとしたフーマの言葉を遮ったのは二人の様子を観察していたタイガだった。

 

「タイガお前、俺が先に聞こうとしてたんだぞ!」

「何だよフーマ、どっちから先に聞いたって同じだろ!」

 

いきなり話に割り込んだタイガに少し苛立ったフーマが食って掛かり、彼の怒る理由が察せないタイガは言い返し言い合いが始まった。

 

「まぁまぁ二人とも、これから詳しく話すから落ち着いてくれ。」

 

そんな二人を宥めべくタイタスは、自身も体験した異世界での経験を話し出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あの出会いから私が尚文と一体となり一年の時が過ぎた。

私達はとある大きな戦いを終え久しぶりに纏まった休暇を与えられ尚文の実家に戻っていたんだ。

 

「久しぶりだな自分の部屋に戻るのも。」

 

部屋の壁には幾つもの草案図を貼りつけられ本棚にも床にも多種多様ジャンルも量も豊富な専門書が置かれその横にはダンベルが転がっている、防衛軍が彼に与えた研究室も兼ねた自室も同じ様な有様なので特に気にした様子も無いが。

元々、大学でヘンリーニシキ教授の助手をしていた尚文が恩師の勧めで宇宙船の新型推進システムの論文を発表した事がきっかけで大学からの出向する形で科学警備隊の新隊員になった尚文である、彼の恩師に似て変わり者と呼ばれていたジャンルの問わず様々な形式・様式を多角的かつ複数の視点から見て深部まで学び取る洞察力と考察力を持っていた、だからこそ彼は恩師と共にU-40と他にもう一つの星の技術者も交え新型宇宙戦艦ネオウルトリアを建造、再興したヘラー軍団残党を退けたのが先日までの事であった。

 

「ふぅ……ん?伝承の書籍が何故ここに、この関連の書籍類は別の書庫に纏めてあるのに……。」

 

久々に戻った自室の中を見回していた尚文の視界に見覚えのない一冊の本が写る、一見乱雑に思われる空間にも法則がある尚文はここ以外にも複数の書庫と書斎を持っていて、そこにジャンル別に置く各資料を別けていた当然ここには機械工学やエネルギー技術と回路図などの資料が纏められそれ以外は置かれていない。

 

「四聖武器書……こんな題名の本は持っていないはずだが?取り敢えず中を検めよう若しかしたら忘れてだけかもしれん。」

 

得体が知れない本だが多忙を極めた自分に弟か友人だかが差し入れてくれたのかもしれないと思い直し、折角の余暇なのだと本を開き記された内容に意識を向ける。

本の内容の重点を約すると、異世界少なくとも地球上ではない他惑星上での世界に終末の預言が示される所から物語は始まる。

終末とは一遍に纏まってくる災害ではなくある期間或いは周期的に波の様に訪れ対応を誤れば文明社会が滅亡してしまう、それを阻止する為に四人の勇者と呼ばれる異界の戦士を召喚し救済を求める。

四人の勇者には其々、剣・槍・弓・盾の武器が割り当てられ、各々が力を付ける為に修練なり修行の旅に出て、破滅の波に備える。

 

「ふむ、なかは至って一般的なファンタジー小説か……しかし、この物語のベースは何だ?」

 

ここまで中腰の姿勢で読み進めた尚文はやはり読んだ記憶の無い本の内容に小首を傾げた、一般的なファンタジー小説は各地の伝承を基に作られる、つまり物語のルーツとなる伝承が必ずあるのだ。

古今東西地球上の在りとあらゆる伝承や伝説を集め、必要ならば地球外の神話や言伝えにも手を出した彼にもこの本のモデルになった筈のストーリーには聞き覚えが無い。

無論、彼も自分が何でもかんでも知っているとは思っていないし、何なら知らない事の方が多いとする思っている、だがそれでも記憶の枝の端にすら掠るものが無いのは初めてだった。

他にも細々とした設定や節操のない王女と各勇者の活躍なども書かれていたが、肝心の元代に繋がる情報は出てこない、唯一活躍の様子が見えない盾の勇者も居るがそちらも期待は出来ないだろう。

 

「……続きを読めば少しは類似点が見つかるかも知れん、もう少し読んでみよう。」

 

そう思い続きのページを捲ったが、次のページは何も書かれていない白紙のページだけだった。

 

「……白紙か……ふぁ~。」

 

どれだけ捲ろうと一文字も記されてない本に落胆していると、ここ数日の疲れがドッと押し寄せて来る。

 

「少し前までは疲れを感じる余裕もなかったからな、それだけ世の中が平和になったと言うことか。」

 

残党とは言えヘラー軍団との戦いは激戦を極めた、前回の大戦よりも規模はずっと小さかったがその分密度が濃かった、地球ではないかと言ってU-40が舞台でもなかった資源が豊富なとある星の人々を救う為に我が地球からも支援艦隊を送った戦い、結果は無事勝利を収めたが決して少なくない被害も出た、その星の復興と再建に手を貸しようやく訪れた束の間の平穏である。

 

「少しは心身を休めておいた方が良いかもしれん、先ずはコイツのルーツを探すかふぁ~。」

 

手にした本の表紙を見つめ余暇の間の暇つぶしを楽しもうと姿勢を正した尚文はまた欠伸を溢し、その前に一休みするかとドアに向かいドアノブに手を掛けようとした時、自分の意識がぷっつり切れるのを感じた。

次に目を覚ましたのは自宅の部屋ではなく、発光源が謎な幾何学サークルの石床の上で軽く周囲を見回すとフード付きのローブを来た人物が数人と同じ様に陣の中に座り込む三人の若者の姿が確認できた。

 

「ここは……少なくとも日本では無いな。」

 

自分の腕にいつの間にやら現れた盾を見つめ、何か馴れ親しんだ物の気配を感じつつ事の行く末を守っていた尚文と他三人の前にローブに集団の中から一人が進み出る。

 

「おお、勇者様方!どうかこの世界をお救いください!」

「「「はい?」」」

「……そう言う事か。」

 

状況を飲み込めない三人と多くの修羅場を潜っり勘が鋭いが故に察してしまう尚文、暫く休息は望めそうにないと諦めとやる事が出来たと満足気な喜びが入り混じった表情で声を掛けた男を見つめていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「っと言う事が起きてだな……。」

 

昔を懐かしみしみじみと語るタイタスは少し感傷に浸った様に空を見る。

 

「はぁ~タイタスと尚文は直接、その違う世界に行った事があったのか~。」

「まさか旦那にも地球人の言う異世界転移の経験が有ったなんてな……でそれからは?」

 

そんなタイタスの話を聞き入る二人も、より興味を強くして彼に続きを促す。

 

「あぁ、ん?済まないまだやってなかったトレーニングメニューがあた。」

 

促されて続きの話をしよとしたがトレーニングメニューを途中で終えてしまった事を思い出し、未消化メニューを始めるタイタス。

 

「えっ?ここで、これからどうなるのか気になるのに?」

「そうだぜ、いつものトレーニングは話を終えてからでもいいだろ?な?」

「いや、ここからが長くてな悪いがまた今度に語らせてくれ。」

 

早く続きを聞きたい二人は食い下がるが、申し訳なさそうに断りトレーニングを始めてしまう。

 

「「ちょっ!続きはどうなるんだよタイタス(旦那)!」」

 

望みが叶わず中途半端の所で投げ出された二人の叫びが部屋中に響いた。

 



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タイタス ザ ブレイブ 中編

「19997……19998……19999……20000!よし、終わった。」

「終わったのかタイタス!じゃあさっきの続きを早く!」

「おう、早く聞きたいぜ!」

 

未消化のトレーニングを終えたタイタスに、タイガとフーマが詰め寄り彼に前回の続きを催促した。

 

「はは!分かった分かった、そうだなあの世界に召喚されてからの直ぐの事だ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

此方の世界に呼ばれてから少し時間が過ぎ、他三人も落ち着て来たころ召喚部屋から出てある場所に案内されていた。

最初こそ尚文以外の三人は状況に流され若干横柄な態度で上手を取ろうとした、だがこの場合においてそれは下策だと彼は三人を制して詳しい内情を引き出そうと動いた結果、別室で説明をすると回答を受け移動している最中である。

 

「「「……。」」」

 

前を歩く三人はさっきから度々振り返っては尚文の方を見る、見ては前を向き何か声を掛けようとと言うそぶりを見せては押し黙る、尚文の容姿は目立つ一般の成人男性のそれを優に超える背丈と全身に必要以上に着いた筋肉はただ立つだけ歩くだけで重厚な存在感を溢れさせる、突然の頂上的な状況で湧きだした興奮を沈めたのはその存在感に他ならなかった。

 

「ふぅ……さっきは済まなかったな、話を途切れさせて。」

「っ!いっいや、いいんだ俺も冷静じゃなかったし……その、止めてくれて助かった。」

「ぼっ僕も、大分浮かれてました。いえ、急に勇者なんて呼ばれて戸惑い半分嬉しさ半分で……。」

「冷静に考えたら、俺たち拉致されてる様なもんだもんな……相手を挑発したら拙いよな。」

 

見るに見かね尚文から三人に会話を切り出すと、三人は一瞬驚き慌てた様に其々で返答を返す。

 

「そうだな、まだ詳しい状況が分かってない内は大人しくして、状況が鮮明になり次第行動の方向性を行けばいい。」

「はは、なんかこの中で一番場慣れしているなえっと……?」

 

強情な態度は却って此方のペースを崩し相手のペースに乗せられる可能性がある、一番無難な対応法は最初は律儀に振る舞い間をおいて臨機応変に動く、他星人との接触も多い現在の立場上で学び身に付けたスキルだ、威勢のいい相手ほど手玉に取り易く反対に常時冷静で隙のない相手は勘ぐり深く且集中力を削られるだから此方も常に冷静な態度を見せるのだ、熱くなってはいけない相手のペースの乗ってはいけない。

他の三人は年齢的に若さが目立つ、所謂血気盛んなお年頃だし英雄譚に憧れもあったのだろう、だからこそ高揚感に乗せられて動いてしまった、尚文は日々の日常の中でそれが満たされ若干過多になっており色々の意味で場に慣れているとも言える。

そんな雰囲気を感じ取ってか槍を持つ青年は、彼に話題を振ろうとして名前を知らない事に気が付いた。

 

「勇者様方、謁見の間に着きました。詳しくは、国王陛下より説明いただけます。」

「承知しました、ここまでの案内を感謝します。」

 

召喚された四人全員が全員其々の名も知らずに出会いからこの時まで打ち解けていたのだ、今更ではあるが簡易的に自己紹介でもと空気が流れそうな時に、案内役の男性から目的地に着いたと告げられ会話を打ち切る。

既に四人の中での立ち位置は尚文を中心に固められつつあり、結果として自然と尚文が代表して了承と感謝の言葉が続いた。

 

「っ!いえ、これが職務ですから……四大勇者様ご到着致しました!」

「入りなさい。」

 

相手の目を真っ直ぐに捉え実直な表情で礼を口にした尚文の顔を見た案内役の神官は何か負い目が有るかのように視線を逸らし扉に向かって問い掛け、扉の向こう部屋の中から落ち着いた声音の男性の声が聞こえた。

 

「皆、これから会うのは恐らくこの国の最高責任者だ、上手を取られまい押柄な態度を取ろうとはせずきちんと相手を立てるんだ、礼節は遜る事とは違い立派な自己防衛になる不遜な態度は逆に足元を晒す事になるぞ。」

「お、おう……分かった。」

「理解した、やはり貴方は冷静だ……。」

「頼りになりますね。」

 

入室する前、尚文は三人に向き合い三人の顔をしっかり見て諭すように語り掛け、彼らはその忠言を聞き入れつつ尚文の平静振りに関心しきっている。

 

「失礼します。」

 

室内は如何にもな王が家臣と謁見する為の部屋といった内装、一番奥の長椅子に腰掛ける男性が国王でその横に控えるのが宰相か他に案内役の男性より高位の神官らしき男性に数人の護衛騎士が部屋の脇に控えるのを、首を動かさず視線を動かすだけでさっと確認すると王の御前に進み出るとゆったりとした所作で最敬礼を見せ尚文に倣うように他の三人も腰を倒す。

 

「っ!……顔を上げよ、良くぞ来てくれた勇者たちよ、先ずはそなた達の名を聞こうか。」

 

尚文の威容に驚いたかそれとも一応の礼儀を踏まえた行動に呆気に取られてか、王は一瞬の間呆気に取られていたが調子を戻し威厳を込めた声で四人に呼びかける。

 

「はい、では私から地球防衛軍アジア支部特殊事件・事故対策チーム科学防衛隊に所属しております岩谷尚文と申します。」

「はっ?あっ!俺は天木錬、高校生だ。」

「俺は北村元康、SRCのパイロット養成所の候補生だ。」

「えっ⁉……はっ!僕は川澄樹、高校生です。」

 

尚文の紹介に気を取られた剣を持つ青年天木錬は一回思考が止まり慌てて自分の紹介を済ませた、それ続いたのは正規隊員では無いにせよ防衛組織の関係者と思われる槍の青年北村元康、その後は少し瞠目して間が空き弓の青年川澄樹は我に返って自分の紹介を終えた。

 

「……れ、レンにモトヤスにイツキか……よ、よろしっ。」

「恐れながら、尚文を忘れておいでですよ。」

 

四人が名乗り終わるのと少し戸惑う様子を見せながら口を開いた王は、三人の名だけを呼び切り上げようとし、その様子を眉だけ僅かに動かした尚文はそれでも静観しよとし空かさず元康が忠言を挟む。

 

「そ、そうであったか?いや済まぬ……気が付かなかっ。」

「いや、それは無いだろ?こんなに圧倒的な存在感を醸し出した奴を気付かないってなぁ?」

「ははは……ええ、正直見なかった事にしたい気持ちは分かりますけど……。」

「キャラもキャリアも濃すぎる……体躯だけでも目立つのにそのうえ防衛隊の正規隊員だなんて。」

 

顔を引き攣らせつつ苦しい言い訳で乗り切ろうとする王を前に、元康が矛盾を指摘し他の二人の同意を求め、二人は元康に同意はしても王の心中に同情的な視線を向ける。

 

「オホン!元康はそれぐらいで、陛下現状の詳細と我々へ要請したい依頼の内容開示を、我々を勇者と呼称したのですから頼みたい事があるのでしょう?」

「う、ウム!すまぬなナオフミ殿、実はだな……今この国いやこの世界全体が滅亡の危機に瀕しておるのだ。」

 

王より話では、現状においてまず終末の預言と呼ばれる伝承があり、その伝承ではいずれ世界を終末へと向かわせる波が幾重も重なり訪れると伝えられてきた、波により引き起こされる災害に対処しなければ世界は終わると、何度も聞いた事のある内容の話ではあるが何度も聞いたからこそ言いたい事も分かる。

そして預言の年となる今年、預言が現実であると古の時代より伝えられてきた遺物、龍刻の砂時計なる物が砂を落とし時を刻み始めたと言う、この遺物は波の余波を予測してきっかり一か月前から掲示されるのだとか、波が過ぎればまた一か月の間砂を落とし次に備える猶予となる。

しかしながら遥かの昔に伝えられた伝承とは総じて軽んじられ気味なモノだ、実際私の世界にも同じ様に伝説を子供騙しと笑い大事になった事例は幾つも存在し、私もその場面に立ち会った経験は何度もある訳でヤハリと言うべきか、当時の王をはじめとした重鎮たちも本気にせず波を迎えたのだとか……。

砂時計の砂が落ち切った当時、この国メルロマルクの空に亀裂が奔り瞬く間に裂け目となって魔獣の群れが溢れ出た、幸いと最初の波だからか国家の騎士と国に在籍する冒険者からなる即席の軍を布いて多数の犠牲を払いながらも退けられたが、次に控える波には耐えられないと現実から危機感を持った首脳陣は伝承の通り勇者召喚の儀式を執行し現在に至ると……。

 

「ふむ……内情については理解できました、それで我々に波の対処を依頼したい旨も。」

「そうかでは!」

「承知したのはこれまでの話についてです、依頼の主に波と呼ばれる事象の規模や起こると思われる場所に時間などより詳細な情報を開示して頂きたく思います。具体的にその地方に暮らすこの国の臣民の安全な避難経路の策定と防衛拠点の設置でいくらか被害は小さく出来ます。さらに言えば被害想定がある程度出来れば具体的な現地の復興支援策も……。」

「わっ分かった分かった!もういい、お主の言い分は理解した!分かり次第、伝える故しばし待ってくれ!」

 

尚文は一瞬だけ王の言い分を理解し承服した風を装いその様子から押し切れると感じた王は畳み掛けるが、次に尚文が口を開いたが最初怒涛の勢いで要望と質問のラッシュにタジタジになる。

 

「そうですか、要望を聞いていただきありがとうございます。それでは次の提言ですが……。」

「まだ何かあるのか⁉」

「えぇ、我々のこの世界での活動における支援の具体案を、第一に衣食住の保証第二に活動範囲が国外に及んだ場合における身元の保証と各国の太守へ通達、第三に国内外での活動時に起きた現地で被害が発生した場合の対処、勿論できる限りこちらでも最大の注意は払いますが其れでも不可抗力と言う物はありますからそこを考慮していただきたく……。」

「あぁもう!そこも心得ておる故心配するな!……もうないかナオフミ殿?」

 

王の言葉を聞き一旦話題を区切った尚文は別の要望をまた怒涛の勢いで話し出し、またしても口を挟む余地すらなく流されて大声を出して回答を返し言葉を堰き止めようとする。

 

「では最後に、我々の活動形態について四人おります私共が一つのチームとして活動するのか、別々のチームを組んで活動するのか、どちらになるかをお聞きしたく。」

「それについては私から。」

 

王が濃い疲労感を滲ませる表情で他に質問が無いか問い質すと、先程と変わるぬ様子で最後の疑問を投げ草臥れた王に変わり傍に控えた大臣らしき男性が答えた。

 

「伝承の中では勇者様は各々で仲間を募り別々に行動していただく事になっておりました、なんでも伝説の武器と称される皆様の武器には互いに反発し合う性質がありそれが皆さま個人での成長の妨げになるとか。」

「成る程、それは今確認出来ますか?」

「それなら、ステータスから見れるんじゃないか?」

 

疲労困憊の王を脇に置き大臣はツラツラと語った説明を聞き終えた尚文、彼は説明された内容の真偽を確認する為に預言を記したであろう遺物の拝見を求めようとして、ずっと聞き手に回っていたレンか初めて意見を述べた。

 

「ステータス?それはすぐ見れるのか?」

「ああ……えっと、視界の端にアイコンが見えるだろ?そこに意識を見ければ見れるはずだ。」

 

レンの主張を信じ自身の視界を端に寄せると確かにそこには不自然に宙に浮くマークが写り、それに意識を集中させれば機械的な音声と共に視界全体に半透明なpcモニターの様な板が表示された。

 

岩谷 尚文

職業 盾の勇者Lv.1 防衛隊員Lv.50 科学者Lv.60 技能者Lv.60 ウルトラマン融合者Lv.測定不能

装備 スモールシールド(伝説武器)

   異世界の服 

   ビームフラッシュ―

スキル 科学知識 化学知識 工学知識 各格闘技術 各武器操術 サバイバル術 ウルトラチェンジ

魔法 なし

 

さらに詳細な項目もあるが大まかに見ればこの様なものだろか、しかし実際に目にしても珍妙なものだただの文面なのだが客観的に自分の能力値を見れると言うのは、視覚からもここが異世界である確証を得られるとはな。

 

「Lv.1?まるでゲームだな……しかし、これで戦えるのか?」

「そこは戦い方次第でどうにかなるだろう、それにレベルと言う位だ数字も上がっていくだろう。それより……ふむ、どうやら本当のようだ。」

 

元康が現実離れした現象に戸惑い項目に些か不安を覚えて小言を溢す、確かに現在の数字で見るなら小さいが結局は指標でしかない数字だ実践に勝る経験はない、それよりも彼らの言う事の真偽を確かめる事を優先して真実であると確認した。

 

「他の武器を使えば行けるか?」

「確かに、今ある物を使う必要はないですね。」

「ここを出たら試してみるか?」

「それは無理そうだ。」

 

俺が他にも目を向けるべき項目はないか調べている時、元康たちが武器を取り換えるか相談し合ってる会話が聞こえた、水を差すつもりはない他の武器の併用は不可能との記載を見つけてしまったので伝えておく。

 

「そうか……じゃあ仲間を集めて、少しづつレベルを上げるしかないか。」

「でも集めるにしたって何処で如何すれば?」

「それも此方に伝手がある、それより今日は日も暮れかけておるようだ。部屋を用意させるゆえ今日は休まれるが良い。」

 

仲間の宛てがない私達には何処へ行ってどの様な手段でどんな手続きをすれば仲間を募る事が出来るのか分からない、どうしたものか頭を抱えていると少し持ち直した王がそう提案され受け入れる事になった。

 

「すみません。休む前に体を仕上げておきたいのですが、どこか広く使える場所をお貸し願えませんか?」

「ん?俺も一緒に行ってもいいか?」

「尚文さんのトレーニングか、何かの参考に出来るか?俺も参加させてくれ。」

「じゃあ僕も。」

「勇者殿……あぁ分かった、城の外の訓練場へ案内させよう……はぁぁぁぁ。」

 

休息前に必ず既定のトレーニングをこなして来た尚文、この世界でもそれルーティンは変わらず続けるつもりで要望すると、元康たちも参加したいと続き諦めの境地に立った王は要望を呑んで訓練場に連れて行かせた。

外はもう大分日が落ち暁の色を見せ始めていたが幸い訓練場には松明が焚かれある程度の明るさがあった。

 

「よしまずは、スクワット腕立て上体起こしを各30回これを目安に、慣れてきたら回数を増やすなりランニングも加えていくなりして各自で自分に合った方法を見付けていきなさい。」

「それだけか?何か普通だな……。」

 

広さも明るさも丁度いいと判断してトレーニングを始める前に一緒についてきた三人に簡単にだがメニューを伝える、その内容の余りに普通さ少々拍子抜けした様子の元康は筈かに落胆した表情をしている。

 

「普段なら専用の器具のあるトレーニングルームを利用するのだがな、さっき呼ばれて代用品もない状況ではなそれに錬や樹の体力がどの位かも分からに内はあまり無理はさせられん。」

「あ!あぁそうか、すまん配慮が足らなかった。」

「気にするな、元康は訓練生なのだからな同程度の自主トレ仲間がいて、そのレベルで馴れてしまっていても可笑しくはないさ。」

「あの……尚文は普段どんなトレーニング量をこなしてるんでか?」

「その体格になるまでだ、相当なんだろうが……。」

 

本当ならダンベルが欲しいそれでなくとも水の入った容器があれば負荷運動には事欠く事は無いだろう、他にも欲しいものはあるが無い物ねだりは出来ない今ある状況最善を尽くす。

さらに言えば普段の私のメニューは五年以上続けた結果辿り着いたもの、訓練生だった元康ならばともかく学生二人に同じ事をして明日に響いたら困る、興味津々で聞いてくる二人の体格は同年代からすれば確かに逞しい方だがこれから戦っていくとなると心許ない、取り敢えず標準値を見てから判断したい。

 

「そんなに大した事はしてないさ防衛組織に居たら当たり前にする事だよ、なぁ元康?」

「あぁ、怪獣や宇宙からの脅威に対応する為なら、不足はあっても過剰は無い。」

「科学防衛隊とSRCでしたか?それって、XIGみたいな組織ですか?」

「XIG?XIOじゃなくてか?」

 

所属は違えど同じ防衛組織に籍を置く者同士だ多少認識にズレは有れど大筋は似通ってくる、お互いまだ分からない事も多いが平和維持の考えは同じだと感じていた。

そう無言の共感とも言うべきものを元康にも抱き始めた時、樹から聞き覚えの無い組織名が出てきてそれに続いた錬からもこれも存じない組織が語られる。

 

「XIGにXIOそれにSRCもそうだが私は聞いた事がない……マリチバースか。」

「多元宇宙論?って事は、俺たちは別々の宇宙から召喚されたって事か?」

 

仮に私の暮らす地球のある宇宙をAとするなら他の宇宙にはそれぞれ別の地球や技術形態が存在する事になる、他の三人も含め科学の発達が近代社会の形成の基になった世界であるならここは魔術が発達した世界と考えられなくもない、実際ステータス魔法と言う自分たちの常識から外れた常識が此方にはあった。

 

「それって普通、特殊な装置や機械が無ければ人間には出来ないんじゃ?」

「それは飽く迄、私達の技術レベルでの話だよ。技術の進歩の度合いは其々だし何に重点を置くかでも進展する分野は変わる、例えば推進系が重要とされれば亜光速レベルの加速が出来るエンジンが作られたり方や医療方面に重きが置かれれば命の固形化なんてトンデモ技術が発明されたりする。」

 

当然発展した技術体系が根本から違えば我々の想像だにしない技術が生まれてる可能性だってある、この世に絶対は無い現状不可能はいずれ可能になると言う前振りなのだから。

 

「……この世界に来た時、俺は普段からよく遊んでるゲームに似てるって思ったが。」

「そうなのか?」

 

ゲームか元康もゲームの様だと言っていたが正しくだったようだ、私は普段が多忙のためそういったものに触れる機会は無かったが。

 

「僕も思いました、レイアウトも似てるからてっきりゲームの世界に来たと思ったんですけど。」

「錬に樹もか……俺はずっとパイロットになる為の勉強と体造りに打ち込んできたからな。」

「私も、あの体験をするまでなら遊んだことがあったかもしれんが……。」

 

元康も同様の様でやや困惑しているらしい、五年ほど前のタイタスと出会う前の私ならばまだゲームにも触れていたがその頃にはRPGには遠ざかっていたしな。

 

「あの体験?」

「何ですかあの体験って?」

「……実はウルトラマンに命を助けられた事があるんだ。」

「「「ウルトラマンに⁉」」」

 

その名を出して通じるかどうか分らなかったが一応話してみると、三人は大きな反応が返って来て彼らの存在を知っているのだと理解できた。

 

「あれは、当時住んでいた街に怪獣が現れた日だった……。」

 

知っているならば問題ない、私は彼らに語ったタイタスとの出会いの日の事を。

平和な日々が崩れるのは一瞬だった、ただ一度人に合わせて作られた街に埒外な存在が現れただけ腕を振っただけ息を吐き出しただけたったそれだけで、人の街は瓦礫の山へと姿を変えた。

人々は圧倒的な力の前には逃げる事しか出来なかった、タイタスが現れるまでの恐怖と絶望から来る悲壮感は忘れる事は無いだろう、あの経験が私に危機感を覚えさせてあらゆる事に懸命に取り掛かる要因になった。

トレーニングに励んだのも勉学に励み研究に打ち込んだのもありとあらゆる武術を身に着けたのも武器の扱い方を習ったのも、全ては自分が後悔しない様に最善を尽くすためだ。

 

「……それが覚悟を決める切っ掛けか。」

「尚文さん……凄い人だなアンタ。」

「ただの天才ではないと思っていましたけど……そんな日々の研鑽を重ねていたんですね。」

「よしてくれ……九死に一生を得る事が出来た私が勝手に自分を追い込んだ結果だ褒められるようなものじゃない。」

 

全ての努力は自分の為にやった事、生き残ることが出来た事実と助からなかった命があると言う現実が怠惰に過ごして来た自分を自分で戒めさせた、罪悪感から逃げる為の言い訳であり突き詰めれば現実逃避の自己満足なのだ。

嘗ての地球に降りたタイタスも同じ心境だったのかもしれない、焦りと後悔を抱え取り戻したいと足掻いて我武者羅に突き進んで出た結果が今のだ。

 

「さぁ、話はこれ位にしてトレーニングを始めよう。」

「おう。」

「あぁ!」

「はい!」

 

長く話し込んでいたせいか空はすっかり闇の帳を下ろし、自分たちの周りを照らす松明の範囲だけが明るさを保っていた。

これ以上の会話は無用、今日も最良の明日を迎える為の悪足掻きを始めよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…………俺、なんだか尚文がヒロユキが悩んでた時の姿とダブって見えったんだけど。」

「……なんか、ヒロユキもそうだったけど責任感のある地球人ってのはどうして自らを追い込むのかねぇ?」

 

当時の尚文の心境が如何に自虐的だったかを知りただ茫然とするタイガとフーマ、その様子を二人はトレギアの策略で闇に囚われかけたヒロユキの姿に重ねてしまう。

 

「その時は私も尚文の後悔を感じてはいたが、その当時の私は自力ではコミュニケーションを取る力を持ってはいなかったからな……。」

 

タイタスも当時の追い込まれた尚文を思い出し沈痛な面持ちで語る。

 

「済まない二人とも今日はこの位で勘弁してくれ……この先は必ず話すから。」

「……分かったよタイタス、今は気を休めてくれ。」

「俺達も、少し考えたいことも出来たしな。」

 

若い頃の後悔はどれだけ時がたっても忘れる事は無い、ヒロユキが闇に呑まれかけた原因の一旦はタイガにもあった、そして焦燥感はフーマとタイタスも感じていた事なき得て強い絆が結ばれたからこそ思う人と交わる強さと脆さを。

 

 



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