ポケモンと現実の混ざった世界で (チュロッシー)
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幼少・小学生編1.なんか違わない?

ポケモン二次創作を読んで書いてみました。


 

「あれ…指輪がない…。どこいった!指輪!」

 

「ちょっと、タツキ!朝から何騒いでるの!起きたんなら降りて来なさい!朝ごはん出来てるからね!」

 

「志穂か?…いや、志穂の声じゃねぇな。てかよくよく見るとここ実家の俺の部屋?それにこの二段ベット学生の頃に捨てたよな…。」

 

ゆっくりと部屋を見回し自分の記憶と照らし合わせる。おかしな事に部屋の内装は自分が小学生低学年の頃の内装をしていた。

 

「てか、そんなことより指輪!大事な結婚指輪がない!」

 

左手の薬指にしていたはずの指輪がない事を思い出し、このままでは、妻の志穂に絶対零度顔負けの冷たい目線で睨まれる可能性が高い為すぐに探さなければと体を動かしたその時

 

「朝からうるさいわよ!起きたならさっさとご飯食べなさい!」

 

ドアから若かりし頃の母が姿を見せた。

 

 

北陸地方に住む俺こと神原達樹(かんばら たつき)は今年で30になる。2年前に結婚し、娘も最近2歳の誕生日を迎えたばかりだ。昨日も家族3人で休日を過ごし、妻と娘の寝る横で眠りについたはずだった。

 

若かりし母の襲来の後、自室を調べてみると驚く事が山のように出てきた。まず、どうやら今日は、俺の5回目の誕生日らしい。(誕生日が以前の人生と同じであるならばだが…)更に今回の人生では以前と同じ名前だが漢字表記ではなくカタカナ表記のタツキである事。

本当に5歳ならまだ志穂とも出会っておらずもちろん結婚もしていない為、指輪も無くて当たり前なのだ。

さらに前世ではこの歳の頃は本棚なんて部屋になかったが今回は本棚があり、何冊か本が収まっている事。中でも1番驚いた事は、本棚に収まっている本全てがポケモンに共通している事である。しかも題名[ポケモンとの触れ合い方]や[強いトレーナーに必要な事][旅で失敗しない10のコツ]と書いてあるのである。

 

思わず手に取り中身を確認する。読み進めると今までの現実とはかけ離れた世界がそこにはあった。

 

・10歳からトレーナーIDの発行が可能

・トレーナーIDを持っている人は年齢に関係なくポケモンを鍛える旅に出る人が大半だという事

・ポケモンはあらゆるところに生息しておりタマゴが発見される事もある

・各地方により特色は異なるものの手持ちのポケモン同士を戦わせるポケモンバトルが大人気

・持ち歩けるボール数に制限はないがバトルで使用出来るのは6個である

 

などなどその他にも色々と書いてあったが、そのどれもがまるで現実にポケモンが存在しているかの様な書き方だったのだ。

 

本を手に取り呆然としていると窓から朝日が差し込みタツキの顔を照らしていく。

 

「眩しっ!」

 

そう言いながら腕で窓から入る朝日を遮りながら窓の方を見てタツキは、持っていた本を床に落とす。窓から外を見てみればポッポやオニスズメ、マメパトなどの鳥ポケモン達が囀りながら大空を飛んでいたのだ。

 

「嘘だろ…。ポッポにオニスズメ、マメパトまで。本当に飛んでる。生きてる!!」

 

現実にポケモンが存在し興奮したタツキの声が大きくなる。窓に張り付き外にいるポケモン達を食い入る様に見つめていると

 

「何度も言わせない!起きたなら朝ごはん食べなさい!今日はおじいちゃんの所にポケモンのタマゴをもらいに行くんでしょ。早く準備しなさいね!」

 

案の定、母の襲来を受けてしまう。しかし母の話を聞きまたもや思考が鈍くなる。

 

(タマゴ?もらいに行く?…えっ?タマゴもらえるの?しかも今日?)

 

「母さん!今日タマゴもらえるの⁈」

 

「何言ってるのよタツキったら、おじいちゃんの家の小屋にいつの間にかタマゴがあって、あんたの誕生日が近いからくれるって言ってたの忘れたの?昨日もやっとタマゴが貰えるって言ってはしゃいでたじゃない。」

 

「…そうだったね。ちょっと寝ぼけてたみたいだ。でもタマゴ楽しみだよ!でもさ母さん。何で小屋にタマゴがあったの?」

 

「それがわからないのよね。律儀にシートの下に隠すみたいに置いてあったからきっと人が捨てたんだと思うんだけどね。最近増えてるみたいよ。」

 

かつての世界では達樹もポケモンファンであった。主にゲームが主体ではあったが、初代から最新作の剣盾までしっかりとプレイしておりポケモンの孵化活動から型を分けての同種ポケモンの育成など所謂廃人というヤツである。そんな延々とタマゴを産ませ、孵化させ理想の個体のみを育てる事をしていた達樹だが現実の世界で実際にポケモンが生きている事を目の当たりにしその考え方に一種の忌避感を感じていた。

 

(もうポケモンはデータ上の存在じゃないんだ。それぞれがひとつひとつの命なんだ。そう考えると厳選作業は鬼畜の所業だな。)

 

「こういう時こそカリンさんの名言を思い出さないとな!『つよいポケモン よわいポケモン そんなのひとのかって ほんとうにつよいトレーナーなら すきなポケモンでかてるように がんばるべき』まさにその通りだよな。とりあえずまだIDがもらえるまで後5年ある、その間にいろいろな事を調べないと。それに今日貰うタマゴのポケモンも鍛えないとだしな。」

 

今後の何となくの予定を立て、朝食へ向かう。

今日の朝食はご飯に味噌汁、目玉焼きにウィンナーだった。朝食を掻き込み、身支度を整えたところで父の準備が出来るのを二階にある自室で本を読みながら待つ。

 

「おーい、タツキ。準備出来たから行くぞー!」

 

一階から父の声が聞こえ、それまで読んでいた本を閉じ棚に戻す。

部屋を出て玄関で待っている父の元へ向かうのであった。



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2.初めてのタマゴ

駄文で短いですが読んで頂きありがとうございます。


父の車に揺られる事10分程、父の実家である神原家へと到着した。

祖父の家は、元は農家だったが曽祖父が大工もしていた関係で曽祖父亡き後父の弟、タツキからすると叔父が大工を継ぎ神原建設として建築業以外にも手広く事業を展開している。また祖父は農家として田んぼや畑をしており日に焼けた肌は黒く逞しい。

代々続く農家であるため家自体も大きく、農機を入れる納屋も大きなものとなっている。

 

父と2人で車を降り母屋の玄関へ歩いて行く。玄関前の庭にもポケモンがおり、池にはトサキント、木の上にはエイパム、植木鉢の周りにはナゾノクサやマダツボミなどがいた。さらに納屋の方を見ると畑仕事の準備をしているゴーリキーが見える。

 

父の話では祖父のポケモンはゴーリキーだけでトサキントは父が小さい時にお祭りで祖父から買ってもらったと言う。今の家に水槽か池でも用意出来れば連れて行きたいそうだ。他のポケモンは勝手に住み着いた物だが基本的には、人里に降りてくるようなポケモンなのでイタズラをしない限りはいい子達だそうだ。

 

父が玄関の引き戸をガラガラと開ける。

 

「親父〜。来たぞ〜!」

 

「おぉ、まぁ入って茶でも飲んでけや。」

 

奥の部屋から祖父が急須を持って出てきた。その言葉に父は「どんが?すじまき終わりそうら?」と田植えの準備の話をしながら框を上る。

それについて俺も同じく框を上がり、テーブルの前に置いてある座布団の上に座る。以前の世界ではこの歳の頃は正座は苦手だったが、そこは中身30歳のオッサン、特に正座も苦にならず祖父の淹れてくれたお茶を飲む。

 

(あぁ〜、緑茶うま〜。子供の頃はこのほのかな甘味がわからなかったんだよな。)

 

呑気にお茶を飲んでいると

 

「タツキや、しかし本当にあんな拾ったタマゴが誕生日のプレゼントで良いんか?他のでもいいんだぞ。」

 

祖父がお茶を飲みながら聞いてきた。

 

「タマゴがいいんだ。どこにあったとかそんなの関係ないよ。今日ここにあるって事が大事だから。プレゼントはタマゴがいい。」

 

そう祖父の目を見て伝えれば

 

「そこまで言うなら持って来るら。…もっといい物を買ってやりたかったんにの。」

 

と最後の方は、ボソりと呟きながら腰を上げ奥の部屋へと消えて行く。

少しすると祖父が大きな楕円形のものを抱えて戻ってきた。

 

「ほれ、タツキ。誕生日おめでとう。」

 

タツキは目を輝かせ目の前のものを見つめる。バスタオルに巻かれた楕円形の球体。触るとほのかに温かく生きている事を感じる事が出来た。ゆっくりとタマゴを抱き寄せ自らの腕で落ちないようにしっかりと固定する。

 

「じいちゃん、ありがとう。大切にするよ。まだタマゴだけど初めてのポケモンだ。じいちゃん本当にありがとう!」

 

タツキは満面の笑みで祖父へ感謝の気持ちを伝える。

その言葉に父と祖父の2人が固まる。

 

初めてのポケモン…

 

その言葉の意味に気が付いた大人2人。

 

「なぁ、タツキ。やっぱりタマゴじゃなくて他のものにしないか?タツキも初めてのポケモンは好きなポケモンがいいんじゃないか?」

 

「なーにを言っとる。タツキはこのタマゴがいいと言っとるんだ。親がそれを取り上げてどうする。全くお前は…。」

 

両者の表情は対照的で[初めてのポケモン]とはその名の通り人生で初めて貰うポケモンのことで、人生のパートナーとも呼ばれる存在。昨今誰が子供にその役割を行いポケモンを渡すかで大喧嘩をする家庭も少なくないのだ。

 

そんななかお互いにそこまで考えていなかったのだろう。祖父の顔は、初孫に初めてのポケモンをタマゴではあるが渡す事が出来たことにより緩みきりだらしなく笑っていた。

逆に父はと言うとタマゴとしか認識していなかったらしくタマゴの先にポケモンの孵化がある事を認識し、慌てていた。息子には自分が初めてのポケモンを渡そうといろいろと構想を練っていただけに思わぬ落とし穴だった。

 

なんとかタマゴを諦めてもらえないかと息子に声をかけるが、息子の気持ちは固いようだ。更に自らの父も孫の為とは言っているが転がり込んできた初めてのポケモンをあげるチャンスを逃すものかといつになく優しい声で孫の援護射撃をしている。

 

普段は、仕事にも真面目な父の事は尊敬していた。しかし今日の父は自分の息子の人生で一度きりの記念すべき役割を掻っ攫っていった憎むべき相手であるが、息子の表情や話を聞く限りあのタマゴを手放しそうにないことはわかる。

 

恨めしくも父の顔を見れば60近いのおっさんがデレデレと勝ち誇ったような顔で自分を見ていた。このクソ親父が!と叫びそうになるも息子の手前なんとか心を落ち着かせる。

 

「よし、タツキ。タマゴももらったしそろそろ帰るか。」

 

「うん。じいちゃん、本当にありがとう。」

 

「おぉ。なんて事ないわ。また遊びに来いよ。」

 

祖父に頭を撫でられて玄関を後にする。

前の人生では身長も既に祖父を超しており、自分の成長とは逆に小さくなっていく祖父の背中を思い出す。だが、今はまだ祖父の方が大きく力強さも見てとれた。タマゴを貰えた事と元気な祖父の姿を見れた事がタツキは嬉しかった。

 



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3.初めての図書館

タマゴをもらった日から1ヵ月が経った。

あの日驚く事にタマゴを抱えて家に帰ったら母からもプレゼントと称してタマゴをもらった。まさかいきなり2つもタマゴがもらえるとは思っておらず呆然としながらも嬉しさからニヤニヤとしてしまう俺を横目に父が玄関前で崩れ落ちていた。

 

どうやら実の父以外にも妻にも先を越された事での精神的なダメージが大きかったのだろう。今のところ俺には、よくわからないが…。なんとなくそんな気がする。

 

この1ヵ月、幼稚園に行く以外はずっと2つのタマゴと一緒にいた。風呂に入る時も一緒に入り、寝る時も一緒。休みの日は、公園なんかにも散歩に出た。一番のお気に入りは、父が庭に敷いてくれた芝生の上でタマゴを抱え本を読む事。幼稚園ではゆっくりと本が読めない為、体力作りの為に走り回っている。

一方、家ではこの世界の常識やポケモン関連の知識の吸収の為読書をしている事が多い。

 

そして、多くの本を読んだりTV中継されるバトルを観て「あれ?」と思う事がある。

 

ポケモンの技には、大きく分けて攻撃技と変化技の2種類が存在する。これは、前の世界ではポケモンのゲームに少しでも触れた事がある人なら誰でも知っている事である。

しかし、この世界ではどの本を読んでも、どんなバトルを観ても全くと言っていい程変化技が出てこない。たまに目眩し程度にフラッシュや砂かけを使っているのを観るくらいである。

この事を不思議に思い、休みの日に母に町の図書館に連れて行ってくれとせがんだ。

 

母も息子が本をよく読む事は、もちろん知っており特に変な目をされる事もなくあっさりと連れて行ってくれた。

 

「…マジか。この世界、変化技の効果が解明されてないのか…。」

 

調べてみると変化技については、全くと言っていいほどに研究がなされていなかった。

この世界でのバトルは攻めて攻めて攻めて最後に立っていた方が勝ち、みたいなまるで脳筋全開なバトルが横行しており、バトルが強い=脳筋。変化技を使おうにも効果がよくわからず、その間に脳筋に攻め込まれる為、単純に一手の損になるようだ。

そのためバトルに勝ちたいなら脳筋になるしかなく、誰も積極的に変化技を使ったり研究したりしようと思わなかったらしい。

 

「なんと嘆かわしい。この世界の人達は力押しのバトルしか知らないのか…。特性・性格・技構成、そしてそれらを活かす戦略に基づいた綿密なバトルを知らないなんて…。」

 

俺は、この世界のバトル事情に憂鬱な気分になりながらも、それなら俺がこのバトル界の流れを変えてやると意気込むのに他に理由は要らなかった。それに検証やらをしたら論文でも書いてオーキド博士あたりに送ってみようと思う。

この世界、以前の世界とポケモンの世界が良くもまずくもごちゃごちゃになった世界のようで原作キャラクターの方々もしっかりと存在していた。

 

オーキド博士はもちろんポケモンの研究と言えば真っ先に名前が挙がるほど有名な研究者で日本のカントー地方のマサラタウンに研究所を構えてらっしゃる。マサラタウンは長閑な町とガイドブックに書いてあったがそれでも前世では位置的に伊豆が近いので人の数も多い事だろう。

 

国や地方も混ざり合っているようで、以前の世界の関東地方にそのままカントー地方がすっぽりと収まっている。町の名前は基本的にゲーム内の名前と変わらないらしい。国名はニホン。首都はトウキョウト。そしてカントー地方はトウキョウトを含む周辺一帯を指す言葉で、そして何故かカタカナ表記である。

 

ジョウト地方は関西方面に収まっており、変わらず賑やか、はんなりしているらしい。

シンオウ地方も存在しており、以前の世界の北海道にそのまま収まっている。ホウエン地方はもちろんモデルとなった九州・沖縄地方に収まっている。

 

ポケモンリーグやチャンピオンはどうなっているかと言うと、ニホンポケモンリーグ協会がニホンのトップである。その下に地方ポケモンリーグ協会があり、チャンピオン達はこの地方ポケモンリーグ協会所属となる。

そのため現在ニホンでは、国内に3つの地方リーグが存在している。

カントー・ジョウトリーグ、シンオウリーグ、ホウエンリーグの3つである。

リーグ挑戦の為には、ゲームなどと変わらずその地方のジムに挑戦しバッチを8つ獲得しなければいけないようだ。

 

この他にもトーホク地方や俺の棲むホクリク地方、シコク地方なども存在するが未だジムの規定を満たしていなかったりとリーグの整備が出来ていない地方もある。

 

「なるほどね。地方関係は前世?からの知識として知ってるし、ポケモン関係も最新作までプレイしてたんだから油断は禁物だけどこの世界の人よりは、圧倒的なアドバンテージだろうな。」

 

と独り言を呟きながら借りていた本を棚に返し、ソファで雑誌を読んでいた母に近づいて行く。

 

「母さん、ありがとう。読みたい本読んじゃったからもう良いよ。」

 

「もう良いの?なら夕飯の買い物しながら帰ろうかな。荷物持ちお願いね。」

 

「任せてよ!幼稚園でも一番の力持ちなんだよ!」

 

買い物も済ませ、母の運転する車に揺られながら俺は、これからの事を考えていた。

 

(10歳になったら旅をしたいけど現実的に考えて難しいよな。となると夏休みを利用して一つの地方を重点的に周った方が効率的かな。

この世界のバトルと俺の知ってるバトルなら一月もあればバッチを8つ集めるくらい何とかなるだろう。ネックは、ゲームの様にターン制じゃないって事だけどこれは、10歳になるまでに慣れておけば良いな。

あと、どの地方から行くかは産まれたポケモンを見て決めよう。

カントー、ジョウトは夏休みじゃなくてもゴールデンウィークでも行けそうだから候補はホウエンかシンオウだな。)

 

「ほらタツキ、荷物下ろすの手伝って。」

 

長々と考え事をしていると車は、既に自宅へ着いていた様だ。

 

「今手伝うね(まずは、この子達が産まれてからだな。)」

 

リュックに入っている2つのタマゴを撫で、荷下ろしの手伝いに向かうタツキであった。

 

 




すいません。
全然ポケモンが出てこない…


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4.ありがとう

図書館での情報収集から更に1ヵ月。

最近の日課は、過去のポケモンリーグの録画を観ながら指示出しの練習をすること。何度も観ている映像の為、次の行動がわかってしまうので今後どうやって練習をしようか悩んでいるところだ。

 

    コツ…コツ…

 

「タツキ。タマゴ、コツコツいってるわよ。」

 

母の言葉に驚いで抱えているタマゴを見る。

 

「えっ⁈本当だ!!産まれる!」

 

テレビのバトルに集中し過ぎてタマゴの変化に気が付かないとは何たる不覚…

どうやら動きが活発になってきているタマゴは祖父がくれた方のタマゴのようだ。もう一つのタマゴも鈍くも動いている為、少し間を開けて孵化すると思われる。

 

 

タマゴ達に出会って2ヵ月。

常に自分以外の命が近くにいるという感覚は、初めは慣れないものであった。しかし、日が経つとそこにあるのが当たり前だと感じるほどに愛おしく思っている自分がいた。寝る時も風呂の時も一緒にいられる時はずっと一緒にいた。

さぁ、早く顔を見せてくれ。ずっと待ってた相棒達。

そして、俺の元に産まれて来てくれてありがとうと言わせてくれ。

 

   バリ…バリバリ…

 

タマゴの穴が少しずつ大きくなり頭らしきものが見えている。

赤みがかった黄色とオレンジ色が見えている。

 

俺は、この配色を見て腰を抜かしそうになった。

何故ならまだタマゴから完全に出てきた訳ではない為、そうとは言い切れないが限りなく近いのだ。全800種以上いるポケモンの中で俺が最も長い時間を共に(ゲーム内で)過ごし最も信頼したエースの幼体のその頭頂部に。

 

(もし違っても嬉しい事には変わりないが、ここまで期待させたんだ、そうであってくれ!)

 

殻を破るのに必死なポケモンをジッと見ていると、それまで一心不乱に殻を壊そうとしていた顔を止め、こちらを見返して鳴きかけてきた。

 

「チャモチャモ!チャーモ!」

 

一際大きな声を出したかと思うとタマゴから勢いよく飛び出し、俺の前に着地かと思うと

 

「チャモ!」

 

と両脇の赤みがかった黄色い羽?を動かしてこちらを見ている。

ゆっくりとしゃがみ、産まれたばかりのアチャモを丁寧に抱きしめる。

 

「チャ、チャモチャモ。」

 

くすぐったかったのか身を捩らせるアチャモ。

 

「俺と出会ってくれてありがとう。俺はタツキ。これからよろしくなアチャモ!」

 

「チャモ!」

 

俺こと神原達樹の初めてのポケモンは、ホウエン地方の御三家、アチャモだった。

これは、本当に嬉しかった。ホウエン地方が初めて登場したのはゲームボーイアドバンスのソフト、ポケットモンスター ルビー・サファイアだった。

このゲームが発売された当時確か小学4年生だったと思う。少年誌に掲載される発売前の情報を読み耽った記憶がある。砂地を歩くとつく足跡や水面に写るキャラクター達、バトル画面でのポケモン達の動き。そのどれもが自分の心を掴んで放さなかったのを覚えている。

 

そして、ポケモンというゲームを理解した後に初めてプレイしたソフトでもある。

初代は、流行っていたからとりあえずやってみた。金・銀・水晶は初代からの流れでプレイしたがやり込むまではいかなかった。

しかしルビー・サファイアは、違った。年齢的にもゲームの内容を理解出来るだけの脳の発達に加え、前作まで無かった特性という新要素の追加。

最もらしいことを言ったが俺がルビー・サファイアに嵌った最も大きな理由は、何より少年誌に掲載されたアチャモのイラストが可愛かったからである。

実際にプレイする中で可愛いアチャモが少しずつ逞しくなっていく姿はとても嬉しかった。それ以降、常にエースとして自分を支えてくれたバシャーモ。世代が進むにつれ、新特性や新ポケモンの追加もあり使用者が減少したバシャーモだが夢特性の解禁で息を吹き返すことになる。

 

「寝返った奴らがお前(バシャーモ)に帰ってきたぜ。」

 

恥ずかしい事に前世の俺のいつかの口癖である。

もちろんゲーム画面に向かって呟かれる言葉である。

しかし、第8世代の開発時の発表で俺は血の涙が本気で出るかもと思ってしまう程の事態と直面する。

ポケモンのリストラである。ポケモンは、既に総数が800体以上おりその全てを新作の為に新たなデータとして作り直すにはあまりにも時間が足りなかった。

その為に行われたのが大規模なポケモンのリストラ、単純に新作には出てきませんよって事だ。

悲しいかなそのリストラリストにマイエースであるアチャモ一族の名前もあったのだ…

 

そんな自分の山あり、谷ありなポケモンライフを共に(勝手にそう思っている)過ごしたバシャーモの幼体であるアチャモが初めてのポケモン。

さらにどんな事があれ、ポケモンを本当に好きにさせてくれたのは、この目の前にいるアチャモというポケモンなのだ。

特別な子になって欲しいと願うのは、いけないことだろうか…

しかし、この子自分の中の特別である事には違いない。

 

「なぁ、アチャモ。」

 

「チャモ?」

 

俺の呼びかけにこちらを見つめながら首を傾げるアチャモ。

 

「ニックネームを付けようと思うんだ。お前が俺の特別なんだって証をさ。」

 

「チャモ!チャモチャモ!」

 

ニックネームと聞き、産まれたばかりでわかってるのかは、謎だがどうやら喜んでくれてはいるらしい。

 

「お前の名前は、シャモだ。お前が大きくなるとバシャーモってポケモンになる。簡単だけどそこからとらせてもらった。どうかな?」

 

「チャモ?…チャモチャモ!」

 

初めは、思案顔だったが喜んでくれた様だ。

 

シャモを抱きしめながら体を温かいタオルで拭いてやっているともう一つのタマゴからコンコンと音がしてきた。

 

シャモと2人でジッとタマゴを見入る。コンコンと音が続き、ズボッと殻を突き破り白い手の様なものが出てきた。その手の様なものは、殻に開いた穴を広げようと殻を叩いている様だ。

 

殻に開いた穴から緑色の傘の様なものとそこから飛び出た赤い突起が見えた事で俺は、アチャモの時と同じ衝撃を受けた。

前述した特徴から産まれたポケモンはラルトスでほぼ間違いないだろう。

 

このラルトスも初登場はアチャモと同じ第3世代のルビー、サファイアである。

出現率の低いポケモンで裏ライバルのような存在のミツル君のパートナーとして登場するポケモンで、ミツル君のラルトス捕獲イベントで全プレイヤーが目にするポケモンなのだ。

さらに元々は、エスパー単タイプだったが第6世代以降タイプにフェアリーが追加されている。

この事からドラゴンタイプへ対抗も出来、技範囲も広い事から多くのパーティーで活躍したポケモンである。

 

そしてもちろん、第3世代をやり込んだ人間としてとても馴染み深いポケモンである。

最新作の第8世代では、新たなキョダイな姿も発見されている。

 

ラルトスについての考えを頭でまとめていると、どうやら頭が出るほどの穴を開け終わったらしい。

ゆっくりと自らのサイコパワーを使いタマゴから出てくるラルトス。

俺とシャモの前に降り立ちこちらをジッと見てくる。

 

「はじめまして。俺はタツキって言うんだ。よろしくな!」

 

「チャモチャモ!」

 

「ラ、ラル!」

 

シャモの勢いに押されながらもペコリと頭を下げてくる。

ゆっくりとラルトスの頭に手を伸ばし優しく撫でてみる。

初めはビックリしたようで体がビクついたがその後はされるがままだ。

心なしかラルトスの目もトロンとしてきたように思う。

 

「なぁ、ラルトス。お前も俺の特別なんだ。ニックネーム付けさせてよ。」

 

ラルトスの目を見て自らの気持ちを伝える。

 

「ラル!」

 

ラルトスは、元気に頷き笑顔を返してくれた。

 

「じゃあ、ラルトスは今日からフェルだ。妖精みたいに見えるしさ、フェアリーとラルトスって名前からとったんだ。どうかな?」

 

「ラル!ラルラル!」

 

俺の目の前で産まれたばかりのラルトスが笑顔で万歳をしている。

 

「あぁ…母さん、父さん、先に逝く息子をお許し下さい。2人のこの様子を見たら最早思い残す事は何もありません。」

 

  パシッ!

 

「なにバカな事言ってるの!!もう少しでお父さんが帰ってくるからシャモちゃんとフェルちゃんの3人で先にお風呂入ってきなさい。その間にご飯仕上げておくから。」

 

どうやら心の声が口に出てしまっていた様だ。しかし、この2体初めてのポケモンフィルターがかかっているからか想像の範疇を超えてくる可愛さをしている。

これから先の2体の可愛さを真剣に考えながら2体を抱え風呂場へと向かうタツキであった。

 



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5.やっとスタートライン

シャモとフェルが産まれてから早いもので5年が経ち俺は、遂に10歳の誕生日を迎えた。

 

「タツキ、誕生日おめでとう。ほらプレゼントだぞ。」

 

笑顔で小さな箱を渡してくる父。シャモもフェルも気になるのか体を乗り出し俺の手の中にある箱を見ていた。

箱を開けると1枚のカードが入っており、俺の生年月日や氏名、性別などが書いてあるうえに顔写真まで印刷されている。

前世の免許証みたいだと思いながら父の顔を見る。

 

「トレーナーカードだよ。裏にIDが書いてあるだろ。それを見せるだけでポケモンセンターでの食事・宿泊料金が無料になるんだ。これでタツキもポケモントレーナーの仲間入りだな。」

 

父の言葉を聞きながらもう一度手元のカードを見る。

 

「これがトレーナーカード。これで俺もポケモントレーナー!!父さんありがとう。」

 

父からのプレゼントに喜んでいると

 

「母さんからはこれよ。」

 

と少し大きめの袋を渡される。

包装紙を外していくと少し大きめの肩掛けバックが出てきた。

 

「きっと今まで以上に外を走り回ると思って鞄にしたのよ。」

 

今まで使っていた鞄は、つい先日天寿を全うされたので鞄は本当にありがたいものであった

 

プレゼントのカードと鞄を抱きしめながらタツキは両親に話だす。

 

「俺も今日で10歳になった。だから今年の夏休みは、出来れば1人でホウエン地方でジム巡りがしたいんだ。」

 

俺が最初に巡る事にした地方はホウエン地方。シャモとフェルを見れば分かると思うがどちらもホウエン地方のポケモンである。

何より自分が最もやり込んだ地方でもあり、シャモとフェルを見た時からデータではないホウエン地方をこの目で見たくなってしまったのだ。

 

当初の予定通り、夏休み中に行くことにした。1人旅を希望したが自分の年齢を考えればこの希望は叶わない事は百も承知。それだけの覚悟があるとわかってもらう為の布石。

 

「良いんじゃない。タツキもずっとこの時に向けて勉強してきてたみたいだし。」

 

「だが、さすがに1人旅はなぁ…」

 

母の思わぬ援護射撃に頬が緩みそうになるもののお許しが貰えていない現状で真剣な表情を崩すのは下作。

真剣な表情で父の言葉を待つ。

 

「きっと大丈夫よ。シャモちゃんにフェルちゃんも一緒なんだもの。」

 

「そうだな。2人も一緒だしな。わかった!夏休み中だけだぞ。それに宿題もしっかりやる事!何かあったらすぐに連絡してきなさい。」

 

まさか1人旅までOKが出るとは夢にも思っていなかった為、呆然としてしまった。そんな中

 

「良いなぁ!お兄ちゃんばっかり。オラも行きたい!」

 

いきなり声を出したのは2学年下の妹のミオリだ。

 

「お前が行ってもポケモン持ってないから危険だぞ。」

 

父が注意をするが妹は気にした様子はない。

 

「お兄ちゃんがいるじゃん!」

 

まさかの妹が俺頼みとは…

 

「いや歩くの遅ければ置いていくし特に助ける様な事もしないけど。」

 

「えぇー、オラも行きたい!」

 

「10歳になってから行きなよ。それに夏休み期間の一ヵ月の間にバッチを8個獲らなきゃいけないんだ。お前がついて来れる訳ないだろ。」

 

「ミオリも諦めなさい。タツキの言う通り10歳になってから自分で行けば良いだろ。」

 

「はーい。」

 

さすがの妹も父からの援護を受けれないとなると諦める他ない様で素直に引き下がった。

 

何はともあれ無事に旅の許可が下りた。

ホウエン地方の予習はしっかりと行なっている。

ジムリーダー達も概ねゲームと変わらずチャンピオンもあの石が大好きなツワブキ ダイゴである。容姿もアニメやゲームでの顔が現実的な立体感を持つとこうなるなと納得するほどのものである。

所謂イケメンである。石に対しては変態的だが…。

 

気になる点は、ジムリーダーだ。

トウカジムのジムリーダーがセンリではないのだ。他のジムリーダー達が同じ人物で1人だけ違うという事は考えにくい。となるとゲームストーリーは始まっていないと言う事だ。

逆にトウカジムのジムリーダーにセンリが就任した年にグラードン・カイオーガ・レックウザイベントが起こる可能性が高い。

今後も気を配らないと全世界の海が干上がるか大雨によって海に大陸が飲み込まれるかしてしまう。

 

 

さらに個人的な話をするとカイオーガが好きなのである。

前世では、大人になってからは所謂伝説や幻と言った希少なポケモン達はバトルで使う事はなかった。

しかし、小学生時代は種族値も高くゲームのタイトルにもその姿が出てくるポケモンがカッコ良くて仕方がなかった。

 

当時の俺のパーティーは、バシャーモ・サーナイト・カイオーガの3体は固定で他の3体をその時の気分で替えて使っていた。と言う事もあり、可能ならばカイオーガをゲットしたい。できなくてもせめて友達にでもなりたいと思っている。

可能性としては、どちらも限りなく0に近い確率だとわかっているが諦める事が出来ないのだ。

 

 

*** ***

 

 

ここでこの5年間の成果を伝えようと思う。

 

シャモ(アチャモ ) ♂ ようき  かそく

レベル 14 ニトロチャージ つじぎり 砂かけ つつく

 

フェル(ラルトス) ♀ おくびょう トレース

レベル 11 ねんりき チャームボイス テレポート あやしいひかり

 

 

と5年もあったのに、と思った人が大半だと思う。

しかし、それにはしっかりとした理由がある。あまりレベルを上げ過ぎてしまうとゲームでお馴染みの『言う事を聞かなくなる』のだ。

解決方法は簡単。ジムバッジを獲得する事だ。ジムバッジには、その材料にドラゴンポケモンの抜け落ちた毛や生え変わった鱗などが使われているらしい。

ポケモン達は、その素材から感じる気配を身につけているトレーナーに対し生物の本能からトレーナーの事を強者と認識し言う事を聞く様になるとの事。

 

なので未だバッジ0個の俺はレベルを上げ過ぎると言う事を聞いてもらえなくなる可能性が高い。だからこそあえてレベルを上げずに戦略や戦闘中の動き方について重点的に鍛えてきたのだ。

 

 

*** ***

 

 

予習はばっちり!

このために5年間鍛えてきた。

レベルは低いかもしれないけど変化技を知らないトレーナーならレベルの差があってもひっくり返せる可能性が非常に高い。

ただ、何事もやってみなくちゃわからない。

 

さぁ、早く夏休みになれ!

さぁ、早く!! 

 

 



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人物紹介①

初めてのポケモンは、やっぱり思い入れのある子にしました。
全く違う地方のポケモンにしようかとも思いましたが自分の原点であるアチャモ にしました。

拙く読みにくい文章ですがお付き合いいただきありがとうございます。


 

 

神原 タツキ(本作主人公)

 現時点で10歳 男 ホクリク地方出身

 

 前世では30歳間近な会社員

 結婚しており、妻と娘と寝ており起きたら現実とポケモンが混じり合った世界の5歳の自分自身に転生していた。

 前世からポケモンのファンで全作プレイ済み。たまにアニメも観ていたが基本的にはゲームのポケモンが好き。

 転生後の世界の脳筋バトルを観て変化技の有用性を証明し、バトル界に戦略的なバトルを広めようと考えている。

 より多くのポケモン達と触れ合う為には、トレーナーと並行して研究者としても活動しようと考えており、その為変化技をテーマに論文を書く事で手っ取り早くオオキド博士とのパイプを作ろうと頭の片隅で考えている。

 

手持ち シャモ(アチャモ )、フェル(ラルトス)

 

ニックネームは、自分がタマゴから孵したポケモンに付けようとかんがえている。

 

 

神原 ヒロト(主人公の父)

 現時点で34歳 ホクリク地方出身

 

24歳で実家の遠縁にあたるアズサと結婚。タツキとミオリの2子をもうける。治水関係の仕事をしており普段は気さくだが怒ると怖い。

父に息子の初めてのポケモンをあげると言う一大イベントを掻っ攫われ精神的に大きなダメージを受けた。

チュウゴク・シコク地方に存在する鯉の野球チームの大ファン。

 

手持ち コイキング(ヒロトが小さな頃からの相棒で既にギャラドスへ進化出来るがヒロトとコイキングは進化する気はない。)

 

 

神原 アズサ(主人公の母)

 現時点で31歳 ホクリク地方出身

 

21歳で遠縁にあたるヒロトと結婚。タツキとミオリの2子をもうける。

結婚前までは、実家が美容室と言う事もあり美容師だったが結婚を機に専業主婦となる。普段は、どこか抜けている様に見えるもののとにかく忍耐強い。

 

手持ち レパルダス(実家の弟のレパルダスが持っていたタマゴを譲り受け孵化。)

 

 

神原 ミオリ(主人公の妹)

 現時点で9歳 ホクリク地方出身

 

兄のタツキとは学年は2つ離れているものの歳の差は1歳。これは、タツキが早生まれであるため。

家族など親しい人も前だと一人称が『オラ』になる。その他では普通に『私』になる。人見知り。

 

 

神原 カズト(主人公の祖父)

 現時点で60歳 ホクリク地方出身

 

実の父が戦死後、父の弟が継父となる。継父は大工として生計を立てており一時期は、自分も大工の道に進むも合わず。元々の稼業である農業を行いながらタクシーの運転手として家計を支えた。

その職歴から顔が広く他業種への伝手が多い。

 

手持ち ゴーリキー(大工時代にゲットしたワンリキーが進化した姿。大工を辞めてからは、一緒に畑を耕している。)

    

    故 キレイハナ(ヒロトが13歳の時に病没した妻ノブコの手持ち。妻亡き後、カズトと一緒にタクシーに乗りあまいかおりで客達を癒していた。タツキが3歳の頃に天寿を全うし、ノブコと同じ墓地に埋葬される。)

 

 




頑張って作り込んでみました。
ストーリー進めろよって方、すみません。
頑張ります。


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6.初めてのホウエン地方

 

 

「ふぅ、やっぱホウエンは暑いな。」

 

俺は、今ホウエン地方はトウカシティの空港にいる。

トウカシティはゲームでは、長閑な小さな町だったが前世の地理的に言うと福岡周辺なのだ。どう考えてもホクリク地方の都市よりも明らかに大きい。

 

(こりゃ、ミツルくんもシダケタウンへ療養に行く訳だ。)

 

とゲームのストーリーの事を思い出す。

 

「ゲームでは、自然が豊富で豊かな地方って言われてたけど、色々と混ざるとやっぱり街も大きくなるんだな。」

 

タツキは大都会トウカシティを眺めながら一息付く。

とりあえず今の自分の力がどこまで通じるのかを試す為にもトウカジムを目指すことにした。

ゲームでは、バッチを獲る順番があったが現実の世界ではそんな事なくどこのジムから周ってもいい。

挑戦者の所持バッチ数でジムリーダーが使用ポケモンを調整する事になっているそうだ。

 

「着いて早々だけど暑過ぎる…。少し休もう。」

 

と近くにあったカフェに入る。

椅子に腰掛け、冷たい飲み物とシャモとフェル用の軽食を注文する。2体をそれぞれの膝の上に乗せる。

こうする事でシャモは嘴が、フェルは手がテーブルの上にとどく。

知らない所に来て緊張しているのか2体は、キョロキョロと辺りを見回している。

そんな2体の頭をゆっくりと撫でる。すると2体が見上げる様にこちらを見てくる。見上げる様に…、て、天然の上目使い…。そして満面の笑み。

 

(か、可愛い過ぎるでしょ…。俺には効果抜群だよ、もう…。)

 

不意の効果抜群の攻撃を受け、体力は既にレッドゾーンに突入しているタツキ。

注文した飲み物が届き、喉の渇きと少なくなった体力を回復する。

2体は、綺麗にデコレーションされたポロックに目を輝かせながらモシャモシャと食べているところだった。

 

そんな2体を見ながらトウカジムでの戦いの事を考えていた。

 

ジムリーダーは、センリではないものの調べていた情報から同じノーマルタイプ使い。

エースはバクオングらしい。俺は所持バッジ0の挑戦者。

となると用意してあるジム戦用のパーティーの中で1番弱いパーティーとのバトルになるはずだ。

選出ポケモンは、エースがバクオングだと言う事を考えればゴニョニョとドゴームの2体が有力だな。

特性は、ぼうおんの可能性が高いが音系の技はフェルのチャームボイスだけだが本当にぼうおんかどうかは、対戦するまで分からない。

油断は禁物だな。

 

考え事をやめて、目線を上げると窓に貼ってあったポスターが目に入る。

 

『店長にバトルで勝てたら半額!!さらに次回使える2割引きクーポンプレゼント!  8月31日 16時まで』

 

(半額か、節約もしたいしシャモ達も鍛えたいからな。やってみるか。)

 

店長さんとバトルする事を決め、伝票を持ってレジへと向かう。

 

「すいません。会計前にあのポスター見て店長さんとバトルしたいんですけど。」

 

「えっ⁈店長と?店長リーグのチャンピオン大会にも出た事あるくらい強いんだよ!君大丈夫⁈」

 

チャンピオン大会とは、バッチを8つ集めチャンピオンロードをクリアした者達で行われる大会の事だ。この大会の優勝者が四天王への挑戦者となり、四天王全員に勝つとチャンピオンとのバトルが可能になるのだ。

 

「やってみないとわからないですよ。(チャンピオン大会出場者か…。ポケモンのレベル差が凄いが脳筋バトルに負ける気はしないし、万が一負けても経験値としてはおいしいだろうな。)」

 

「わかったわ。付いてきて。」

 

店員さんの後に付いていくと店の裏に出た。そこには店の雰囲気に寄せたお洒落なバトルフィールドがあった。

 

「ここで待ってて。今店長を呼んでくるから。」

 

と言い残し、店員さんは店に戻っていく。

少しするとさっきの店員さんの様に白いシャツに黒ズボン、黒く長い腰から下のエプロンを着けた30代だろう男性が近づいてきた。

 

南の地方だからだろうか、顔は少し濃く感じる。髭も生えているがしっかりと整えられておりワイルド系イケメンと言えるだろう。

この容姿でバトルが強く、カフェの店長、この人モテるな。

なんて考えていると

 

「お前さんか?ポスター見てバトルしたいってのは?」

 

渋く、大人の男!みたいな声で話しかけられた。

 

「はい。今日ホクリク地方からジム巡りの為にトウカに来まして、節約と経験の為にチャレンジしました。」

 

「ホクリク地方から、また遠いところから来たもんだな。節約ってお前さん一人か?」

 

「はい。両親から夏休み期間だけ一人旅の許可が出たので。」

 

「なるほどな。そんなちっこい身体で一人旅か。 親御さんも心配してるだろうが俺も売り上げがかかってるからな。負けてやるつもりはないぜ。」

 

店長さんはニヤリと笑いながらそう口にした。

 

俺達はそれぞれバトルフィールドの端にあるトレーナーゾーンに入る。

 

「使用ポケモンは1体、道具の使用はなし。先に倒れた方が負けです。」

 

俺をここまで連れてきてくれた店員さんが審判をするらしい。

 

「任せた、シャモ」

 

俺はシャモの入ったモンスターボールをフィールドに投げる。

中からやる気満々といった鋭い目で飛び出すシャモ。

 

「チャモ!!」

 

店長さんもボールを投げる。

 

「行ってこい、エネコロロ」

 

「バトルスタート」

 

 

「ねこだましだ!」

 

「目を瞑って後ろへ跳べ!」

 

ねこだまし回避のため、目を瞑らせ後ろへ下がらせる。目を瞑ると案外怯まないみたいである。

 

「目を瞑ったまま周りに砂かけ!」

 

「しまった!エネコロロ直ぐに離れろ!」

 

店長さんから指示が出るもエネコロロは顔にかかった砂のせいで1テンポ反応が遅れてしまう。

 

「目を開けてニトロチャージ!」

 

そんなエネコロロにニトロチャージがクリンヒットし、大きく弾き飛ばされる。

 

「エネコロロ、シャドーボール!」

 

濃い紫色をした球体が2つ、不規則に動きながらシャモに向かってくる。

 

「1つ目を右に避けろ!回り込んで2つ目につじぎり!」

 

「おんがえし」

 

シャドーボールを打ち消したシャモの身体が吹き飛ばされる。

 

「チャーモ!」

 

相手を睨み付けながら立ち上がるシャモ。

 

「相手の周りを走りながらすなかけ!」

 

「全方向にどくどく!」

 

「シャモ、一旦離れろ!」

 

指示を出すがエネコロロのどくどくの方が早く、シャモを捉えてしまう。

 

「チャモー!」

 

自らを奮い立たせようと声をあげるもその身体は、猛毒の液体に濡らされている。

 

しかしエネコロロも砂埃で視界がわるくシャモの居場所を特定出来ていなかった。

 

「シャモ、もう少しだ!真っ直ぐニトロチャージ!」

 

ニトロチャージの熱量で幾分か付着した毒液を弾きながら炎を纏った小さな身体はエネコロロを弾き飛ばす。

 

「そのまま追いかけろ!」

 

弾き飛ばされたエネコロロを追いかけるシャモ。

 

「踏ん張れエネコロロ!正面におんがえし!」

 

「しゃがんで懐に入れ!そこでつじぎり!」

 

つじぎりを受けてよろめくエネコロロ。

 

「りんしょうだ!」

 

大きな音に吹き飛ばされるシャモ。

 

受けたダメージと猛毒によるスリップダメージで体力も少ないだろう。

 

「シャモ、まだいけるか?」

 

「チャモ!!チャモチャモ!」

 

と俺の声にシャモが元気に応えた瞬間、シャモの身体が光出した。

30秒ほどで光が収まるとそこには、可愛らしいヒヨコの姿はなく凛々しく格闘家としての空気を感じさせる若武者が立っていた。

 

「進化か。シャモ!進化してすぐだが後一押しいけるか?」

 

「シャモ!」

 

短くも気合の入った声が聞こえた。

 

「エネコロロ、踏ん張れ!」

 

「…エネ、コォォ!」

 

エネコロロも最後の力を振り絞る。

 

「エネコロロ、ギガインパクト!」

 

エネコロロが強大な力の塊をぶつけようとこちらに向かってくる。

 

「ニトロチャージで後ろに回れ!」

 

特性とニトロチャージの副次効果で高められた素早さでエネコロロの裏を取る。

 

「そのままにどげり!」

 

進化して新たに覚えたにどげりを背後へと叩き込まれた事でエネコロロは遂に目を回して倒れてしまった。

 

「エネコロロ、戦闘不能!チャレンジャーの勝ち!」

 

勝ち名乗りを受けると俺の方へと戻ってくるシャモ。しゃがんで目線を合わせ、頭を撫でる。

 

「シャモ、ナイスバトルだった。良くやったな!進化も出来たし、新しい技も覚えたしな!」

 

「シャモシャモ、シャーモ」

 

バトル中とは打って変わって笑顔を見せるシャモだった。




バトルの表現が難し過ぎる


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7.一つ目

 

 

 

カフェでのバトル後、タツキは店長さんと話していた。

 

「ありがとうございました。」

 

「いや、こちらこそありがとう。楽しいバトルだったぞ。

それにしても、まさかトレーナーに成り立ての子に負けるとは思わなかったな。それに進化の場面も見させてもらえたしな。」

 

「そうですね。俺もまさか進化するとは思ってなかったです。」

 

「いいもん見させてもらったよ。じゃあ、これ会計の時に見せれば半額になるからな。」

 

とエネコが彫られた小さな木版をもらった。

 

「それから、これな。次来た時に使える2割引きチケットだ。」

 

こちらは、映画のチケットほどの大きさの紙にカフェの名前、電話番号、20%OFF と印刷されており、その上からエネコのスタンプが押されている。

 

「にしても、お前さんのワカシャモって♂だよな?」

 

いきなりの店長さんの質問に首を傾げながら はい と答える。

 

「いやな、♂であれだけ物理技で接触してたのに全くメロメロにならなかったなと思ってな。」

 

「んー、たぶんですけどなってましたよ。」

 

俺が自分なりの見解を口にすると店長さんは驚き詰め寄ってきた。

 

「どういう事だ⁈お前さんのワカシャモはしっかり指示通り行動してただろ。メロメロになってればそうはいかない筈だろ。」

 

「確証はないですけど、今日のシャモは途中から指示を聞いてから行動へ移すまでの速度が落ちてました。なので何らかの影響でメロメロ状態を抑え込んで行動していたと考えられます。」

 

「だが、そんな事今まで聞いた事ないぞ。俺も長いことトレーナーをしているが初めての事だ。」

 

といつの間にか俺と店長さんは腕を組みながらお互いにうんうんと唸っていた。

そこで俺は、一つの事を思い出しシャモを再度ボールから出してみる。

 

「シャモ⁈」

 

シャモも突然の呼び出しに驚いている様だった。

 

「どーしたんだ?いきなり。」

 

「いえ、確かに店長さんのエネコロロのどくどくで猛毒液を浴びた筈ですよね。」

 

「そうだな。しっかり浴びてたと思うぞ。それがどーしたんだ?」

 

不思議そうにこちらを見てくる店長さんにマルチナビの体調管理ナビでシャモをサーチした画面を見せる。

 

「どくどくを受けた筈なんですが毒状態にも猛毒状態にもなってないんですよ。」

 

「そうだな。状態異常の欄に異常なしって出てんな。でもそしたらおかしいだろ。あんなしっかりどくどく受けておいてよ。」

 

「そうなんです。どくどくの後に進化しているので可能性として進化に伴い状態異常も改善されたのか、それとも全く別の要因があったのか…。」

 

二人ともこのよく分からない状況に頭を悩ませていた。

 

「もう!店長!まだここにいたんですか?早く戻って下さい。」

 

「あぁ、悪いな、すぐ戻る。じゃあ、ボウズまたやろうな!バトル!それにチケットやったんだ、ご贔屓にしてくれよ。ポケモンセンター行くなら店出て左の公園を突っ切ったら近道だぜ。」

 

と言いながら肩をポンポンと叩き、店長さんは店に戻って行った。

 

「ここで考えていても仕方ない。とりあえず店長さんの言う近道でポケモンセンターまで行こう。回復してからジムへ向かうか」

 

 

   *** ***

 

ポケモンセンターでも調べてもらったがやはりシャモは、状態異常になっていなかった。

カフェを出たのが13時前、今の時間が16時過ぎ、ジム戦をすると流石に時間が遅くなると考え今のうちにポケモンセンターで宿泊用の部屋を予約する。

トレーナーカードを出すと無料で予約が出来た。

 

カフェを出てポケモンセンターまでなぜ3時間もかかったかと言うと単に街がデカいからって理由ではない。

単純に道行く人たちにバトルを申し込まれていたのだ。後で調べて気が付いたが店長さんの教えてくれた近道の公園は、トウカでも有名なバトルスポットのようであちこちでバトルが繰り広げられていた。

 

シャモも起用したがどくどくの事もあったため、フェル主体でバトルをしていたが時間にして3時間弱である、見事にフェルも進化した。

 

シャモ(ワカシャモ)レベル25 でんこうせっか、にどげり、ビルドアップ、ニトロチャージ

 

フェル(キルリア) レベル26 めいそう、ドレインキッス、テレポート、マジカルリーフ

 

この3時間弱でお金と経験値をたんまり稼いだ結果、しっかりとレベルが上がってしまった。

恐れていた事態だ。レベルが上がり過ぎるとトレーナーの言う事を聞かなくなるのがゲームでの設定で、この世界でも同様の事が確認されている。

しかし、何故かシャモとフェルもしっかりと言うことを聞いてくれている。今までに一度も指示を無視した事はなかった。

これは、早々に研究しないといけなそうだ。バッジを取ってしまってからでは研究出来ないテーマである。明日にでも情報を探そうと思う。

 

レベルも上がった、調べたい事も何個か出来た。

待ってろトウカジム!

 

 

*** ***

 

 

タツキは、ポケモンセンターの予約していた宿泊用の部屋で持って来た小型ノートパソコンに今日調べた事をまとめていた。

 

ジム戦?

 

ポケモンは、予想通りのゴニョニョとドゴームの2体。

ちょうおんぱくらい使ってくるかと思っていたが、バトルしてみるとどちらもエコーボイスの連打のみ…

こちらはシャモがビルドアップを使い能力を上げ、にどげりでそれぞれワンパン。

これでいいのかジムリーダー…

と思ってしまったのも仕方ないだろう。

ジムに入ってから10分でバッジを獲得し、外に出てきたのだ。

正直なところバトル自体にかかった時間は、4分程で残りはバッジの説明などである。

こうして全く苦戦する事もなくスルッと人生初バッジを手に入れたのだった。

 

想像以上の脳筋バトルに頬を引き攣らせながらも、マップナビを使用し図書館までやって来たのである。

 



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8.これ読んで頂きたいのですが

 

図書館では、状態異常の自然治癒とレベルによる指示の拒否について調べて来た。

 

研究している人が少ないのであろう事がわかる蔵書の少なさだった。しかし、その中で目についたものが『ポケモンの感情と生態の関係性』と言う題名の論文だった。著者はオダマキ博士となっていた。幸運な事にオダマキ博士は、ホウエン地方のミシロタウンに研究所を構えており、明日行ける距離の所なのだ。

 

(これは、直接話を聞きに行っても良いかもしれないな。でもまずは、まとめよう。)

 

・ポケモンは自身の感情的な要素により部分的な体調の回復が可能

・ポケモンは基本的に強者に従うものだがごく稀にそうでない個体が存在する。

・自分とシャモ達はシャモ達が産まれた時からずっと一緒

・家族意識が体調や従うものを変えさせる?

・野生の他種間でも同様の事が確認されている

・他種間となると家族意識とは言い切れない

・親愛の情であれば他種間でも考えられる

・トレーナーとポケモンに置き換えるとどれだけ懐いているか

 

上記の事が情報を整理し考察したものである。

早速これで小論文みたいな物を書いてしまおうと思っている。今日のうちに書き上げ、明日にでもオダマキ博士に読んでもらいたい。

(まぁ、会えればになるが…

 オダマキ博士、フィールドワーク好きだからなぁ…)

 

その前にシャワーを浴び、夕食を摂ろうとシャモとフェルの入ったボールと鞄を持って食堂を目指す。

 

(確か、センター内の食堂ならトレーナーカードで無料なんだよな。)

 

適当に食事を済ませ腹を膨らませる。シャワーでさっぱりとした頭で3時間で論文を書き上げる。

時計を見ると22時を少し過ぎた所。論文も書き終わり、机の上を片付けベッド入る。

タツキがベッドに入ると2つのモンスターボールからそれぞれポケモンが飛び出してくる。

 

「シャーモ。」

 

「リーア。」

 

小さい頃から一緒に寝ていた事もあり一緒に寝たいようだ。

2体とも布団の端を小さく引っ張っている。

 

「進化してお兄さんとお姉さんになったってのにな。」

 

笑いながら布団をまくりベッドの中に入れてやるとシャモが俺の左、フェルが俺の右側といつもの定位置につく。

 

「おやすみ。」

 

「シャモ。」

 

「リア。」

 

いつものように声を掛け合い就寝する。

 

 

 

 

     *** ***

 

 

 

 

タツキは眩しい朝日で目を覚ます。

左にはシャモが、右にはフェルが未だ眠っていた。

2体を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出し、少しカーテンを開け朝日を直に浴びる。

部屋が少し明るくなった事でシャモとフェルも身動ぎ、目を覚ます。

 

「ごめん。起こしちゃったか。」

 

「シャーモ、シャモ。」

 

「リーア。」

 

2体とも首を横に振り、眠そうに目を擦りながらテトテトとこちらに向かって歩いてくる。

時計を見ると6時を指している。

 

「よし2人とも今日は、午前中のうちにミシロタウンへ行くぞ。バスが出てる筈だから朝ご飯を食べたらバス停を探そう。」

 

今日の簡単な予定を告げてタツキは着替え始める。

 

センターの食堂で3人で朝食を食べ、ジョーイさんにミシロタウン行きのバスが出てる場所を聞く。

トウカシティからミシロタウンへ行くには、一度コトキタウンで乗り換えなければいけないらしい。

とりあえずコトキタウンへ向かうバスが出るバス停は、センターから徒歩5分程らしい。ジョーイさんにお礼を言い、早速バス停へ向かう。

 

太陽の位置も少しずつ高くなり、仕事に向かう人達が街を進んでいく。

街を行く人達を見ながら歩いているとバス停が見えてきた。

既にバス停には仕事や学校に行くのだろう、スーツや制服・ジャージを着た人達が4人おり、バスを待っていた。

 

5分程待っているとバスがやって来た。

順番に乗り込み、空いていた席に座りノートパソコンを取り出し昨日書いた論文に誤字や脱字がないかを確認する。

 

いろいろなバス停に止まりながらバスに乗る事1時間。

タツキはコトキタウンへ到着した。

現在9時まであと3分、近くのバス停を見ているとミシロタウン行きの文字が目に入る。これ幸いと時刻表を見てみるとちょうどミシロタウン行きと書かれたバスがやってくる。

どうやら9時発の便があったようだ。

 

バスに乗り込み、バス内の液晶画面を見るとミシロタウンへの到着時刻は30分後となっており終点のようだ。

もう少しで本物の博士に会えると思うと緊張してしまう。

しかしそれ以上にこれからの事を考えると興奮してしまう。

今回は、論文を見てもらう事が大きな目的だ。

しかしいつか共同研究をしてみたいと思っている。博士達は、専門にしている事が違うため変化技などの技の事は、アローラのククイ博士にも話をしたい。

それには、まずはこれからオダマキ博士にしっかり会って論文に目を通してしただけるかが今後の鍵である。

 

(頼むから研究所にいてくれよ、博士)

 

フィールドワークで研究所を空けることが多いオダマキ博士に念を送っているとそれまで動いていたバスがゆっくりと減速しバス停に止まる。

バス停には、ミシロタウン・フレンドリーショップ前 と書いてある。

 

バスを降りフレンドリーショップに入る。喉を潤すためにお茶を買い、論文を印刷する。

印刷した論文をファイルに入れ鞄にしまう。

フレンドリーショップの店員さんにオダマキ研究所の場所を聞くと町もそう大きくないとの事でショップを出て右方向へ5分程歩くと着くらしい。

店員さんにお礼を言い早速研究所へ向かう。

 

天気も良いため、2人をボールから出し一緒に歩く事にする。

 

「シャーモ!」

 

「リアリーア。」

 

暖かい陽気で外に出られたのが嬉しいのか2人とも笑顔である。

 

「車も来るから離れないんだぞ。」

 

と気をつけるように声をかけ歩き出す。

トウカシティから比べると流石に自然が多く感じる。

 

(やっぱり緑が多いと気分が穏やかになるよな。まぁ、生まれがホクリクって田舎だからかもしれないけど。)

 

なんて事を考えていると

 

「ぎゃーーーーーー、いててててて、だれかー、だれかいませんかーーー?」

 

どこからか叫び声と助けを求める声が聞こえる。

声色ならして成人男性である事がわかる。さらにこの町でこんな声が聞こえる理由が頭に浮かんでしまう。

 

(こんな初対面、主人公かよ…。きっとフィールドワークで何かに追われてるんだろうな…。)

 

とりあえず、声の聞こえた方に向かって走る。

どうやら、声の主は予想通り男性でタツキのいた場所から路地に入り少し茂みに入った所にいた。腰を抜かし木を背に目の前で牙を剥き出しにし唸るポチエナにまるで『こっちに来るな』と言うかのように両手を前に出し首を横に振っている。

 

「シャモ、でんこうせっか!」

 

「シャモ!!」

 

俺の指示に一緒に隣にいたシャモが高速でポチエナに突っ込んで行く。

横からぶつかられたポチエナは近くにあった木にぶつかり目を回してしまう。

 

(このポチエナ、ミオリにあげようかな…。ホウエン地方に来たがってたし。前世では、高校生くらいの時のミオリは男運無かったからな。番犬だな。)

 

そう考えたタツキは、人生初ゲットを妹の為にポチエナを捕まえる事に使うのだった。

聞く人が聞けばシスコンと言われるだろう考えである。

 

ポチエナが入り、揺れの止まったモンスターボールを手に取り振り返ると先程腰を抜かしていた男性がこちらに近づいて来る。

 

「いやぁ、ありがとう。本当助かったよ。僕はオダマキって言うんだけどこの町でポケモンの研究をしていてね。フィールドワークをしていたら鞄を置いたところから離れてしまったみたいで、あんな事に…。君は、命の恩人さ。」

 

「いえ、そんな。でもお力になれて良かったです。実は、この町にはオダマキ博士にお会いしに来たんです。さっきバスで着きまして、研究所に向かっていた所にオダマキ博士の声が聞こえてきまして。」

 

本人が目の前にいるのだ正直に会いに来た事を言った方が良いだろうと思い口にする。

 

「えっ?僕に会いに来たの?」

 

「はい。実は先日博士の『ポケモンの感情と生態の関係性』と言う論文を読みまして…。」

 

「君が?あの論文を?」

 

訝しげな目で見られる。

そりゃ、小学生が論文読んだって言って一回で信じる大人の方がどうかしてるよな。

 

「はい!自分も気になった事があり調べていたら博士の論文に行き当たりまして。とても参考になりました。そこで博士の論文と自分の考えをまとめてみたんですが読んで頂けないでしょうか?」

 

と鞄から自分の論文の入ったファイルを博士に渡す。

俺からファイルを渡された中の紙束を掴み出す。

変わらず訝しげな目で見られてはいるものの軽い調子で手に持った紙束を2枚3枚とめくる。

次第に真剣な表情に変わり、論文から目を離しこちらを見てくる。

 

「君、名前はここに書いてある 神原 タツキ 君で良いかな?あといくつ?」

 

「はい。神原タツキです。歳は、今年10歳になりました。」

 

「君これから時間ある?すぐに僕の研究所に行こう。」

 

(そんなに興味をそそられる内容だったかな?)

なんて考えながらオダマキ博士に返答する。

 

「大丈夫です。この町に来たのは博士にお会いする為だったので時間はあります。」

 

「なら、早速行こう。」

 

と俺の手を引き走りだすオダマキ博士。

予想外な展開もありながら目的のオダマキ博士に会えた事喜ぶタツキだった。

 



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9.おいでませポケモン図鑑

 

オダマキ博士に手を引かれ走る事5分程。オダマキ博士と俺は、博士の研究所の中で机を挟んで向かい合っていた。

 

「読ませてもらった論文だけど凄い面白かったよ。これから更に検証しなければいけないけど論文内の仮説は辻褄が合っているし、この仮説なら僕の研究の今まで謎だった部分にも対応しているように思う。何よりその歳でこれだけのもの、もう研究と言っていいレベルのものを検証不足といえ完成させるなんて凄い事だよ。」

 

単純にべた褒めされている。

憧れの“博士”に褒められていると言う事に思わずニヤけそうになるものの自制心を総動員して表情筋を制御する。

 

「オダマキ博士にそう言って頂けて嬉しいです。自分もいつか博士の様に研究所を構えて研究者としてポケモン史に貢献したいです。」

 

「タツキ君なら可能だろう。僕にも娘がいるんだ。君より5歳下だが既に将来パパのお手伝いすると言ってくれていて嬉しい限りだよ。」

 

(ハルカ?ちゃんが5歳と言うことは、後5年はホウエンの主人公ことユウキ君はこっちに来ないと考えられるな。)

 

「それにしてもタツキ君はどこから来たんだい?」

 

博士からの質問に5歳の頃からの話を簡単に説明した。

 

「なるほどね。じゃあ君は、今ジム巡りの最中なのか。それにホクリク地方とはまた遠いところから来たんだね。」

 

「まぁ、遠いですがホウエン地方には、1番に来たかったので。」

 

「この地方に何か思い入れでもあるのかい?」

 

と聞かれたので博士に許可を取り、ボールからシャモとフェルを出す。

この子たちをタマゴから孵した事、この子たちが生息する地方を見たいと思った事を話した。

 

「なるほど、たしかに2体ともこのホウエンのポケモンだね。ワカシャモ君、さっきは助けてくれてありがとう。」

 

博士は、先程助けられた事へのお礼をシャモに伝える。

 

「シャモ!」

 

シャモも気にするなと片手を軽く振る。

そんな事をしていると博士は驚くべき事を言い始めた。

 

「そうだ、タツキ君。君は夏休みが終わる前にホクリク地方に帰るんだよね。」

 

「はい。学校もあるのでその予定ですが…。」

 

「ならこれもらってよ。去年のモデルだけど、あちこち色々な地方に行くなら持っておいた方がいいよ。それに君が持っててくれたら僕はこの研究所にいながら色々な地方のポケモンの情報が集まって来るんだ。これがwin-winてやつじゃない?」

 

と言うと赤い電車辞書の様な物を渡してくる。

そう、ポケモンをアニメでもゲームでも知っている人なら誰もが知っているあの機械である。その名もポケモン図鑑である。

もちろんこの世界にもポケモン図鑑は存在しているが超ハイテク機械であり、その所有者は限られている。

基本的には有名な博士達、その博士が認めて所有を許したトレーナー、技術提供元の大企業の社長やらそれに連なる人くらいしか所有者がいないのである。

 

(貰えるのは、素直に嬉しいが…)

 

「博士、とても嬉しいのですがさすがに高価すぎる物ですのでいただけません。」

 

もらえないのは、残念だがこればかりは仕方ない。自分が博士になるまで我慢だな。

と決心してからすぐのこと。うんうん唸っていたオダマキ博士が再起動した。

 

「わかった。ならタツキ君、僕の助手にならない?」

 

「は?」

 

オダマキ博士の突飛な提案に思わず失礼な声が出てしまった。

 

「いやね。君のポケモン達はしっかり鍛えられていたし。これから更に強くなるだろう。それにジム巡りをすると言うことは、このホウエンの中でもいろいろな土地に行くと言う事だ。それは、この研究所にいる僕よりも色々なポケモンに出会うチャンスは多い。違うかい?」

 

「いえ、まぁ違わないでます。」

 

「そうだろ。それに君はホウエン以外の土地にも行くとなればこのホウエンには、生息していないポケモンの情報も僕の所に集まる事になる。そうすれば更に研究が捗ることだろう。ね。もらってよ。」

 

(イラストでは、どこか鈍臭そうなイメージなのになんて強引なんだよ。)

 

「はぁ、わかりました。ご好意に甘えて、ありがたく頂戴します。」

 

俺がそう言うと先程までの真剣な表情を崩し、朗らかに笑いながら

 

「そうか。もらってくれるか。これからよろしく頼むよ。」

 

とニコニコと笑っている。

 

(この博士、狸だ。政治家にもなれんじゃねぇか?)

なんて事を考えているとオダマキ博士は、ニコニコしながら更なる爆弾を放り込んできた。

 

「そうだこの君が書いた論文なんだけど、オーキド博士にも送っておいたから。」

 

と言いながらお茶を飲んでいた。

 

「はぁっ⁈オーキド博士?えっ?」

 

(いや、オーキド博士に?いやいや、意味わからんし、てかいつ?いやこの人行動力ありすぎじゃない?)

 

タツキは、忘れていた。オダマキ博士はフィールドワークでポケモンに襲われるくらいに行動力がある人だと言う事を…

 

「だって、君の論文にはそれだけの価値があるよ。この仮説が証明されれば僕の研究以外にも色々な人の研究が一気に進む可能性だってあるんだよ。そんな物が有ればお互いに報告し合うくらいにみんな繋がりがあるんだよ。」

 

「まぁ、そりゃ俺もいつかオダマキ博士やオーキド博士に認められたいって思ってますよ。あわよくばタマムシ大学の推薦もらえればなぁ、なんて思ってますけど、早すぎませんか⁈」

 

あまりのオダマキ博士の予想の斜め上に突き抜けて行く行動に精神年齢35歳近い自分でも色々本音が漏れてしまう。

 

「おや、それが本性かい?」

 

ニヤニヤしながらオダマキ博士が聞いてくる。

 

「まぁ、素ですかね。オダマキ博士は歳上ですし、博士として社会的地位もあるので色々抑えていただけですよ。」

 

「なるほどね。あの論文を読んで思ったけど、タツキ君は10歳とは思えないほど精神が大人びているね。まぁ、それは良いとしてタマムシ大学に行きたいの?」

 

「そりゃ、行きたいですよ。博士号とりたいですしね。出来れば通信課程ですぐにでも博士号とりたいですよ。」

 

俺の考えを聞いて興味深そうに聞いてくる。

 

「なんでまたすぐに博士号が欲しいんだい。君なら正規で入学しても取れると思うけど。」

 

「だって博士って簡単に言うとポケモンの研究が仕事じゃないですか。だから仕事と称してポケモンと触れ合えるなって、それに俺みたいな子供が論文出すのと子供だけど博士号もってるやつが論文出すのだとやっぱり博士号持ってる方が論文を読んでもらいやすいじゃないですか。

少しでも多くの人にポケモンの事をもっと知ってもらいたいんですよ俺は。」

 

思わず自分の考えをそのまま言ってしまった。

言い終わってヤバイと思い、言い直そうと博士と言おうとしたその時

 

「はか「そうか、なら僕が推薦しよう。」

 

オダマキ博士がまた予想の斜め上をいく事を言い始めた。

 

 



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10.プレゼント

 

「あの、博士…。」

 

あまりの博士の突飛な提案でタツキの頭は絶賛パニック中である。

 

「僕もタマムシ大学を出ているし、オーキド博士みたいに強い発言権はないけどそれなりの権力は持ってるんだよ。」

 

ニコリと人の良さそうな顔をしながらそう口にするオダマキ博士。

 

(オダマキ博士から権力なんて言葉が聞けるとは…。やっぱりゲームはゲーム、現実は現実なんだな…。)

 

と遠い目をしながら視線を空中に向け、深呼吸をする。

そんなタツキの姿を見てまたオダマキ博士が口を開く。

 

「その為にもオーキド博士の協力は尚必要だと思うよ。この話を更に現実的なものにする為ね。ただ、いくら僕とオーキド博士の推薦があっても君は、まだ10歳であの論文があっても通信課程という所謂特別扱いを受けるには、いろいろと足らない。そこで1番手っ取り早いのは、君が誰が見ても功績とわかる事をしなければいけない。何かわかるかい?」

 

と真剣な目で問いかけてくる。

 

(功績、それも誰が見てもわかるもの…。)

 

少し考え、自分の中の答えを口にする。

 

「リーグチャンピオンですか?」

 

タツキの考えた誰もがわかる功績とは、ポケモンリーグのチャンピオンになる事であった。

ポケモンリーグのチャンピオンとは、地方リーグのトップと言えどポケモン関連の事に関してではあるが、前世で言うところの県知事くらいの権力・発言権があるのだ。

簡単に言ってその地方の紛れもないトップである。

タツキの回答を聞いたオダマキ博士は笑顔で頷いた。

 

「そうだね。今の君にはそれが1番近く、確実な功績だと思うよ。僕も色々とサポートさせてもらうよ。」

 

「でも、そんなにお世話になって良いんでしょうか?」

 

さすがのタツキも色々してもらいすぎなのではないかと思っていた。

が、オダマキ博士は笑いながらあっけらかんと話をする。

 

「何を言ってるんだい? 君は、僕の助手だよ。言わば、僕の部下だ。部下が上司のサポートをする様にその逆もまた然りだと僕は思ってるよ。」

 

オダマキ博士のその言葉を聞きタツキは思わず涙が出てくる。

シャモとフェルが心配そうに寄り添ってくる。

 

「大丈夫。2人ともありがとう。それからオダマキ博士もありがとうございます。こんなに早く夢へのきっかけを掴めるとは思ってもいませんでした。」

 

「気にしなくて良いよ。初対面でこんな事になるとは僕も思っていなかったけど、君には期待しているんだ。まだまだ話したい事もあるし、君を他の職員にも紹介しないとだからね。今日の宿は決まってるのかい?」

 

「ありがとうございます。宿は、ポケモンセンターに泊まろうと思ってました。トレーナーIDで無料なので。」

 

素直にポケモンセンターに泊まろうと思っている事を伝える。

 

「そうかい。なら今日はウチに泊まると良い。」

 

オダマキ博士の提案に驚く

 

「いえ、でもご迷惑じゃ…。」

 

「そんな訳ないだろう。それに新しい助手と親睦を深めたいしね。」

 

「そう言って頂けるのならお言葉に甘えてお邪魔させていただきます。」

 

オダマキ博士の提案は驚くものだったがタツキとしても嬉しいものだった。タツキもオダマキ博士とは、色々と話してみたいと思っていたからだ。

 

(そうだ、話し込んですっかり忘れていた。ポチエナを回復させて実家に送らないとな。研究所に回復装置と転送装置あるかな?)

 

「博士、すみません。この研究所にポケモンの回復装置と転送装置はありますか?」

 

タツキの質問に首を傾げながら何故と聞いてくる。

博士を襲おうとしていたポチエナを回復させ、妹へのプレゼントにしたいと話すと回復装置の所まで案内してくれた。

 

「ここにボールをセットして、このボタンを押すと回復してくれるから。君もここの一員なんだ好きに使ってくれて良いよ。」

 

「すみません。ありがとうございます。とても助かります。」

 

タツキは、回復している間に研究所の中を一通り見せてもらいながら色々な機器の操作方法を教えてもらっていた。

 

 

    *** ***

 

 

 

 

回復が終わりボールを受け取る。

その足で紹介された中庭へと向かう。博士は少し前に研究に戻ると言って部屋から出て行っていた。

 

中庭に出ると色々なポケモンが各々好きに過ごしていた。

大きな木の根本に腰掛け、ポチエナのボールを開ける。

 

「エナ!」

 

元気よくポチエナが出てきてタツキの手に頭を擦り付ける。

先程まで敵意を剥き出しにしていたがゲットしたからなのかポチエナからは敵意のような負の感情は感じられない。

変わらず頭をタツキの手に擦り付けているポチエナと目を合わせ話しだす。

 

「いいか、ポチエナ。これから大事な話がある。」

 

タツキの声を聞き、真剣な顔でタツキの顔を見返すポチエナ。

 

「実は、お前に頼みたいヤツがいるんだ。」

 

ポチエナは何?と言うように首を傾げる。

 

「エナ?」

 

「俺の妹でミオリって言うんだが勝気な癖に危なっかしいヤツでな、色々兄として不安なんだ。そこでお前に俺の妹を守ってほしいんだ。」

 

「エナ!エナエナ!」

 

「やってくれるか?こことは違う遠いところに住んでてお前の仲間にも会えなくなるんだぞ。それでも良いのか?」

 

伺うように聞く。

 

「エナ!」

 

まるで任せろと言わんばかりに胸を張り力強く一鳴きする。

 

「そうか。なら早速妹のところに送るけど大丈夫か?」

 

「エナ!!」

 

力強く鳴いたポチエナをモンスターボールに戻し、転送装置の元へ向かう。

 

転送装置の前に着き、まずは先に連絡してポケモンセンターに行ってもらわないといけないと思い携帯から家に電話をする。

数回のコール音が聞こえ、2日ぶりの母の声が聞こえる。

 

『はい、神原です。』

 

「母さん、タツキ。」

 

『あら、タツキ。ちゃんとご飯食べてるの?』

 

「大丈夫だよ。基本的にIDがあるから宿も食事もタダだから。そんなことよりバッジ1つ獲ったよ。」

 

『そうなの?早いわね。それでも気を抜いちゃダメよ。調子が良いと思う時ほど警戒しないとだからね。』

 

「わかってるよ。それよりミオリいる?いたら代わって欲しいんだけど。」

 

『はいはい、今代わるわね。』

 

『お兄ちゃん、何?』

 

「お前ポケモン欲しいか?」

 

『ポケモン⁈欲しい!くれるの?可愛い子?』

 

ポケモンと聞いて大きな声で捲し立てて来るミオリ。

 

「こっちでゲットしたポケモンをやるよ。ちゃんと可愛いから安心しろ。母さんに代わってくれ。」

 

そう言うと騒ぎながら母に代わってくれた。

 

『良いの?タツキが捕まえたんでしょ?』

 

「良いの、良いの。こっちは、すぐにでも転送出来るから良かったらすぐにポケモンセンターに行って欲しいんだけど。」

 

『わかったわ、すぐに行くわね。ミオリはもう車に乗ったみたい。』

 

「こう言う時は行動が早いからなぁ…。まぁ、センターに着いたら連絡頂戴。じゃあね。」

 

そう言って電話を切ると母からの折り返しを近くの椅子に座って待つ。

待つこと10分、マナーモードにしている携帯が震える。液晶画面を見ると案の定母からの着信だった。

 

『お兄ちゃん着いたよ。いつも行くポケモンセンター。3番の転送装置。』

 

「はいはい。じゃあ、いつもの所の3番な。送るぞ。」

 

そう言うとタツキは、転送装置にポチエナの入ったボールをセットし、装置を操作する。装置が起動しセットしたボールがその姿を消していく。

 

『来た!お兄ちゃんありがとう。早速出してみる。』

 

『きゃーー、可愛いー!!お兄ちゃんありがとう!』

 

「ポチエナって言うポケモンでかみつきポケモン。とりあえずいろんなものに噛みつくから、何か噛んでもいい棒とか用意してやってくれ。可愛がってやれよ。じゃあな。」

 

『ありがとう。大切にするね。バイバイ。』

 

(無事ミオリにポチエナを渡す事に成功したし、次は研究所のメンバーに自己紹介だなお昼の食事前にするって博士が言ってたし、食堂って紹介された部屋に向かうか。)

 

タツキら、一仕事終えた感を出しながら食堂に向かって歩きだす。

 

 



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11.とびさそり

 

 

タツキが研究所の職員に自己紹介をして一緒に食事をしてから1時間、オダマキ博士から話があると中庭に呼び出されていた。

 

「博士、話とは何ですか?」

 

「ごめんね。資料を読んでいたみたいだったのに。」

 

「いえ、オダマキ博士が助手として迎えてくださった事でいつでも見れますから。」

 

と特に気にしていないことを伝える。

 

「タツキ君の手持ちは、ワカシャモとキルリアだよね。これから仲間にするポケモンで何か拘りとかあるのかな?」

 

まさか、自分手持ちの話をするとは思っておらず流石のタツキも返答に困る。

 

「えっ?手持ちですか、特にこれと言った拘りはありませんけど。あぁっとでもユキワラシは今後の研究の為にもゲットしたいですね。」

 

「なるほどね。ユキワラシじゃなくて申し訳ないんだけど、タツキ君このポケモンもらってくれないかな?」

 

そう言ってボールから出したのは一体のグライガー。じめん・ひこうタイプのとびさそりポケモン。そんなに珍しいポケモンではないが、ホウエン地方には、生息していないはずのポケモンである。

グライガーはボールから出るとススっと博士の後ろに隠れチラチラとこちらを見てくる。

 

「グライガーですか。ホウエン地方では珍しいポケモンですね。野生での生息地が新たに発見されたんですか?」

 

「いや、カナシダトンネルの中で倒れているのを保護したんだよ。トレーナーに捨てられた可能性が非常に高いんだ。」

 

博士は、捨てられた可能性が高いと考えているらしい。単純に新たに生息地が出来た可能性もあるがそちらの可能性は限りなく低いと教えてくれた。

 

「まず、トンネルの中にはこのグライガーが一体しかいなかった。さらに周辺でもグライガーの目撃情報はないんだよ。そして僕が捨てられたと思う1番の理由はこれさ。」

 

そう言うと博士は、白衣のポケットからある物を取り出し見せてきた。

 

「これは、するどいきばですか?」

 

このするどいきばと言う道具は、グライガーに持たせて夜にレベルアップを行う事でグライオンに進化する事が出来る。

 

(なるほど、これは確かに捨てられたと考えた方が辻褄が合うな。)

 

「確かにその道具を見ると捨てられた可能性が高いですね。」

 

タツキの言葉に博士も同意する。

 

「そうだろう。さっきも言ったけどこの子を君に任せたい。この研究所にいるよりも君と旅に出た方が気分も晴れると思ってね。」

 

「なるほど。そう言う訳だったんですね。俺は、全然構わないですけどグライガーが何と言うか…。」

 

博士は、そう言いながら足にしがみ付いているグライガーの背中を押して前に出してくる。

その姿を見ながらタツキはポケモン図鑑を使い、目の前のグライガーの特性を調べていた。

 

「おぉ!君、特性めんえきじゃないか。グライガーを育てるならこの特性が良いなと考えていたんだ!どうかな、一緒に強くならないか?君なら四天王相手でもそう簡単には負けないと思うよ。」

 

「グ、グラァ?」

 

いきなりテンションの上がったタツキに若干引きながらも、まるで本当に?と言うように首を傾げながらタツキを見るグライガー。

 

「本当さ! 君の特性はめんえき、進化するとポイズンヒールって特性になるんだ。」

 

タツキは、今後どのようにグライガーを育てたいのかを直接伝えていく。

 

「ポイズンヒールは、自身がどく・もうどく状態の時ダメージをくらわずに逆に回復するんだ。さらに回復するとはいえ、どくと言う状態異常になっているから他の麻痺や火傷なんかの心配をしなくても良いんだ。

それを活かしてどくどく玉って道具を持ってもらう。」

 

この話を聞いてオダマキ博士も反応する。

 

「なるほど、普通ならどくどく玉は持っているポケモンをどく状態にするだけの道具。しかしグライオンの特性、ポイズンヒールと共に使うのなら状態異常を恐れなくて良くて、ついでに回復も出来ると言う事か。」

 

「そう言う事です。技構成は、まもる・どくどく・みがわり・じしんを考えています。みがわりとこおりのキバで悩むかもしれませんが、基本的な構成はこんなところです。立ち回りとしては、早いうちにみがわり・どくどくを使いあとはじしんで沈める感じですね。厳しそうな時は、時間を稼ぐまもるで相手のスリップダメージで落とします。」

 

タツキの話を聞き、オダマキ博士は苦い顔をする。

 

「確かに理に適っていると思うが、今の世界のバトルスタイルと全く違う攻め方じゃないか。それにみがわりなんて効果の良くわからない技、大丈夫なのかい?」

 

心配そうに聞いてくるオダマキ博士に対し

 

「すぐには、大丈夫じゃないですね。でもやりようはいくらでもあります。博士もご存知でしょう?ポケモンの技の約半数ほどの効果が解明されていないのを…。」

 

タツキの話を聞き今度は、目を見開き驚いたように声を震わせるオダマキ博士。

 

「き、きみは、その技たちの、こ、こうかが、わ、わかるのかい?」

 

「今のところ全てではありませんが、旅に出るまでの5年間に身近で調べられるモノは一通り調べてあります。」

 

タツキのその話を聞きオダマキ博士は思わずタタラを踏み腰が抜けた様に座り込む。

その際に博士の足元にいたグライガーは、博士に潰されない様にしっかりとタツキが抱き抱え避難済である。

 

「そ、その論文は出来ているのかい?これは、世紀の大発見だよ!!」

 

冷や汗を流しながらも興奮しているのか、大きな声でまくし立てる。

 

「いえ、実はこの研究が博士号をとった後に発表したい研究でして…。こんなガキが発表しても信じてもらえそうにないので、せめて博士という地位で多少無理やりにでも多くの人に論文を読んでもらわないと、と思いまして。それに多くの人がこの研究を認めて自分の力にしてくれれば、バトルはもっと楽しく白熱したものになると思うんです。ただの力と力のぶつかり合いではなく、いかに相手の裏を読み、相手を罠に掛けるか、そんな駆け引きの末の力のぶつかり合い。きっと今以上に盛り上がる事間違いありません。」

 

「なるほど。確かにこれは、一般人が今の君の年齢で発表しても笑われて終わってしまうだけだね。この為に博士号の取得に急いでたんだね。」

 

タツキの話を聞いて納得した様に目を閉じ、何度も頷いているオダマキ博士。

 

「いろいろあったけど俺たちと一緒に来ないか?」

 

自身の腕の中で大人しくしていたグライガーに話しかけるタツキ。

 

「グラァ⁈グラッ!!」

 

はじめは、いきなり話しかけられた事に驚いたのかビクッと身を縮こまらせたがタツキの問いかけに笑いながら元気に右手を振り上げた。

 

「よし、ならこれからよろしくな!」

 

こうしてタツキの手持ちに新しい1体が追加されたのである。

 

いろいろと考えていたオダマキ博士が顔を上げ口を開く。

 

「タツキ君、決して発表しないと約束する。少しだけでも技の効果を教えてくれないか?」

 

「えぇもちろん大丈夫ですよ。とりあえず、中に戻りますか。」

 

タツキはグライガーをボールに戻し、オダマキ博士と一緒に研究所の中へと歩いて行く。

 

 



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12.はじめまして

 

 

 

タツキは研究所でオダマキ博士に変化技の効果を説明出来る分だけ説明していた。

前世の廃人知識もあり、基本的にほぼ全ての技の効果がわかるのだが、この世界では未だ解明されていない部分。それをいきなり全て解明してしまえば、自分みたいな子供が何故知っているのかと問題になる可能性が高い。

そこでタツキは、身近にいるポケモンの変化技をまずは解明したという体で研究を進めて、多くのポケモンと触れ合えるようになってから全技の解明をしようと決めていた。

その為、本当はわかっているのだが一部分だけの情報提供をオダマキ博士にしているのだ。

また、タツキの話を聞くオダマキ博士も今まで謎に包まれていた部分が少しずつ明るみに出てくることで研究者特有の高揚感を感じていた。

 

タツキの解説も一息つき、お茶を飲んでいたそんな時。

助手の1人が部屋のドアをノックする。

 

「オダマキ博士、お客様です。」

 

「あぁ、お通しして。」

 

オダマキ博士に客人と聞き、退席する為、席を立とうするタツキにオダマキ博士が手の動きでそれを制する。

タツキもとりあえず博士に従いそのまま部屋の中で客人を待つ。

 

「久しぶりじゃな、オダマキ君。そして君があの論文を書いた神原タツキ君かな。」

 

「お久しぶりです。オーキド博士。彼が例の論文の…。」

 

オダマキ博士に紹介され、客人と目が合う。

タツキの脳は、今日何度目かわからない驚きという感情で包まれていた。

オダマキ博士を訪ねて来た客人とは、午前中にも話に出ていたその人オーキド博士その人である。

本名、オーキド・ユキナリ タマムシ大学携帯獣学部名誉教授を務めておられ、ポケモン研究の第一人者である。

 

「はじめまして。神原タツキです。私の拙い論文を読んで頂きましてありがとうございます。」

 

とオーキド博士に論文を読んでもらえた事の嬉しさから素直に頭を下げる。

 

「何を言っとる、あれだけの論文が書ける人間は、専門の研究者とてそうはいまい。何よりテーマの着眼点がいい。君の書いた論文が他の博士達の研究の助けになるやもしれん。ワシもオダマキ君から送られて来た論文を読んだ時はもう、夢中じゃった。気が付けば論文を書いた君と話したいと飛行機のチケットまでとっておったのじゃ。」

 

オーキド博士の話を聞き、博士達の行動力に寒気を覚えるタツキだった。

 

「あの論文の事や他のことでも君と話してみたい。時間は、あるかのう?」

 

目をキラキラさせながら話しかけてくるオーキド博士の背後からニヤニヤとした顔をしながら近づいてくるオダマキ博士。

 

「オーキド博士、申し訳ありません。彼は今日から我がオダマキ研究所の助手として雇っていまして、彼には、これから資料の整理を頼んでいたんですよ。申し訳ありませんが時間の都合が今日はつかないかと。」

 

変わらずニヤニヤしながらオダマキ博士はオーキド博士に対してそう口にする。

 

「なんと⁈どうにかならんかね、オダマキ君!」

 

とニヤニヤとしたオダマキ博士にオーキド博士が詰め寄ったその時

 

「助手…?助手⁈オダマキ君、彼を助手にしたと言った様に聞こえたんじゃがワシの難聴のせいじゃよな?」

 

「いえ、オーキド博士は難聴ではなさそうですよ。彼を助手にしたのは本当の事ですから。」

 

と悪戯が成功した子供の様な顔で笑っているオダマキ博士。

対照的に床に跪き、床を叩き付けるオーキド博士…。

 

(カオスだ…。)

 

タツキは、遠い目をしながら時間が解決してくれるのを待つしかなかった。

 

「まぁ、冗談はこの辺で終わりにしましょう。」

 

といつもの朗らかな笑みを浮かべたオダマキ博士がオーキド博士に声をかける。

 

「なら、助手の話も「それは、本当ですよ。オーキド博士。」

 

オーキド博士の発言にガッツリと被せてオダマキ博士が喋った。

その内容にオーキド博士が再度項垂れそうになるものの

 

「話す時間があるだけでも今日の収穫じゃな。」

 

と気持ちを切り替え、タツキと話す為に席に着く。

オーキド博士との話の中でオダマキ博士に説明した事と同じ事を説明し、今後の展開なども話した。

変化技の事、タマムシ大学の事、チャンピオンの事も話した。

オオキド博士も黙って聞いており。タツキの話が終わってお茶を一口飲み、腕を組み考え込まれる。

 

「なるほどの。通信課程の推薦のぉ。」

 

ここでまたお茶を一口飲む。

 

「それなら、オダマキ君とワシの2人で推薦しよう。今回見た論文を提出し、ワシら2人の推薦ならまず認められるだろう。が、ここではそこまでしか言えんの。詳しく決まったらまた連絡させてもらおう。」

 

トントン拍子で推薦して頂けることが決まってしまった。しかも、そこからの流れでオーキド博士の連絡先を手に入れる事に成功。

 

(あのオーキド博士の連絡先が俺の携帯に入ってるなんて…。感動。)

 

タツキが感極まっているところに

 

「タツキ君、君が可能ならチャンピオンにもなっておくといい。チャンピオンとのバトルは中継されないんじゃ。君がチャンピオンに勝ってすぐに辞退してもリーグの記録には、君がチャンピオンであった事が記録されるはずじゃ。それなら大多数の人に騒がれる事なくチャンピオンになるだけの腕がある事の証明になるんじゃよ。」

 

とありがたい助言を頂く。改めてさっさとバッチを8つ集める事に集中出来そうだ。

 

その夜は、オダマキ博士の家にお邪魔し、夕食と風呂をご馳走になった。

夕食時は、オダマキ博士の娘さんのハルカちゃんとも話をした。ポケモンとお父さんの事が大好きらしい。

ただ、やはりまだ体が小さいからか夕食を食べ終わると眠そうに船を漕ぎはじめた。

オダマキ博士の奥さんが部屋に連れて行く。

 

就寝までオーキド博士・オダマキ博士と3人でポケモンについてあーでもない、こーでもないとか話をしていた。

 

 



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13.二つ目


グライガー レベル15 ♂ しんちょう めんえき
 つばめがえし、どくどく、まもる、でんこうせっか

記載忘れでした。すみません。


 

 

翌朝、タツキはオダマキ博士から借りた部屋で荷物の整理を行なっていた。

 

「これで最後だな。よし!今日は、カナズミシティでバッジをゲットだな。出来ればムロにも行きたいしな。でもその前に…。」

 

と言いながら鞄を肩に掛け、部屋を出て行く。

リビングには、オダマキ夫妻、ハルカちゃん、オーキド博士の4人が待っていた。

 

「タツキ君もう行くのかい?」

 

穏やか顔でオダマキ博士が声をかけてくる。

 

「えぇ、可能ならば今日で2つバッジを取りたいので。」

 

「おぉ、1日で2つも⁈若いとは良いのぉ。羨ましい限りじゃ。気をつけるんじゃぞ。」

 

オーキド博士もバッジを2つと聞き、驚いた様に声が大きくなる。

 

「オダマキ博士、あればで良いんですが釣り竿とか貸して頂けませんか?」

 

「ちょっと待ってね。確かあったと思うんだ。少し探して来るよ。」

 

と、オダマキ博士は自宅裏の物置の方は歩いて行った。

オーキドも釣り竿と聞き欲しいポケモンでもいるのか?と聞いてくる。

 

「実は、サメハダーが欲しくてですね。その為に進化前のキバニアを捕まえようと思いまして。」

 

なんてオーキド博士と話をしていると手に釣り竿らしき物を持ったオダマキ博士が戻ってきた。

 

「このいいつりざおしかなかったけど大丈夫かい?」

 

「はい!こちらからお願いしてるのでどんな竿でも大丈夫です。」

 

「なら、よかったよ。どうせ僕が持ってても使わないし君にあげるよ。」

 

まさかのくれる宣言に驚くタツキ。

慌てて手を振りそこまでしてもらう訳にはいかないと伝えるもオダマキも引かず、結局はタツキが折れることとなった。

 

「では、2日間お世話になりました。またお世話になる時があるかと思いますがどうかよろしくお願いします。」

 

「君には、期待してるからね。無茶しない程度に頑張ってね。」

 

「タツキ君、君の推薦の話はしっかり進めておくから安心してチャンピオンになってくるんじゃ。」

 

「御二方の期待に応えられる様に精進します。」

 

4人に見送られタツキは歩き出す。

 

(キバニアの生息地はキンセツシティを超えた先だった筈、となると先にカナズミシティか)

 

 

 

*** ***

 

 

 

無事カナズミシティに到着し、ジムに向かおうとも思ったが、経験値とお金の為に野良バトルをしようと相手を探して歩き出す。

 

2時間ほど手持ちを満遍なくバトルさせて経験値をある程度稼げた。

今の手持ち達はこんな感じだ。

 

シャモ レベル29 かそく 

  ビルドアップ、でんこうせっか、ニトロチャージ、にどげり

 

フェル レベル30 トレース

  めいそう、ドレインキッス、サイコキネシス、テレポート

 

グライガー レベル20 めんえき

  つばめがえし、どくどく、まもる、でんこうせっか

 

確認して思う、こりゃバッジ1つの手持ちレベルじゃないでしょ…。と。

 

(まぁ、レベルが上がる事はいい事だから気にしない事にしよう。ただ、グライガーはなつききってないはず、今の段階であまり鍛えすぎるのも良くないかもな。)

 

手持ちの事を考えながら歩いているとジムが見えてきた。

 

(サクッと勝って来ますかね。)

 

タツキは、軽い足取りでジムの中に入って行った。

 

 

 

     *** ***

 

 

 

 

「いや、楽なのはいいけどやっぱジムリーダーも脳筋バトルってどうなんだろ…。」

 

もちろんジムリーダーのツツジをシャモのみで完封し、バトル戦術の乏しさにテンションが下がる。

溜息を吐きながらポケモンセンターを目指し、歩いていると建物の陰から歩いて来た人とぶつかり、転んでしまう。

 

   ドン!!

 

「痛っ!」

 

「おっと、大丈夫かい?」

 

ぶつかった人は転んだタツキに手を差し出し、立ち上がる補助をしてくれる。

タツキも差し出された手をとり起き上がる。

 

「すみません。考え事をしていて前を見ていませんでし…た。」

 

(えっ、この人って…)

 

「ボクの顔に何か付いているかい?」

 

タツキとぶつかった人、それは白銀の髪、青いスーツを着こなす大企業の御曹司であり、石に対し異常に思える程の興味を持っている男。

もっと簡単に紹介するなら、現ホウエン地方ポケモンリーグチャンピオン、ツワブキ・ダイゴである。

 

「いえ、すいません。まさかぶつかった人がチャンピオンだとは思わなくて。」

 

「そういう事だったんだね。ボクも良く前を見ていなかったからね。怪我はないかい?」

 

(流石御曹司、営業スマイルが上手いな。これ、前世がなかったら気付かないレベルだぞ。)

 

「どこも怪我はありません。ご心配をおかけしました。」

 

(さっきのジム戦を思い返しても何の楽しみもなかった。この人のバトルも録画で何回も見た事があるがこの人も脳筋バトルだった。この人とはもっとヒリヒリした楽しいバトルがしたい。いっちょ吹っかけてみるか…。)

 

「そうかい。それは、良かった。でももしって事があるからどこか痛む所が出て来たら遠慮なくここに電話してね。それじゃ、気を付けて。」

 

そう言ってダイゴは、タツキにチャンピオンの名刺に自分の連絡先をその場で記入し渡して来た。

タツキは、名刺を受け取り背中を見せているダイゴに声をかける。

 

「チャンピオン。今年は俺がチャレンジャーになります。そして完封して俺が勝ちますので首を洗って待っていて下さい。」

 

タツキは、そう口にすると振り返るダイゴを気にせずポケモンセンターへ向かう。

 

 

 

*** ***

 

 

 

(チャンピオンになってバトル以外であんなに挑戦的な言葉をかけられた事は初めてだ。自分よりも更に幼い子供に…。今年のチャンピオンリーグは面白くなりそうだね。)

 

ダイゴは今日カナズミシティでぶつかった少年を思い出し、獰猛な笑みを浮かべるのだった。

 

 



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なんちゃって設定集

 

ポケモンリーグ

 

ニホンポケモンリーグ協会

 ニホンの地方ポケモンリーグの統括組織。

  毎年12月下旬にニホンポケモンチャンピオンリーグ大会を開催。

  この大会は、ニホン国内の各地方チャンピオン同士のガチンコ勝負。前座として各地方の四天王同士のチーム戦も開催され、その年のNo.1地方が決まる。現在ニホンには地方リーグが3つ存在するため、昨年の優勝者・チームがシードとなる。

 

 

地方ポケモンリーグ協会

 リーグの存在する地方をまとめる組織。

  毎年10月から各地方で地方チャンピオンリーグ大会が開催され、その年の9月30日までに該当地方のジムバッジを8つ全て獲得している事が出場条件。10月3日から1週間予選が開催され、その間に各地方で設定されているチャンピオンロードを踏破する事が出来たトレーナーは、チャンピオンリーグ大会(チャンピオン大会とも言われる。)へ出場が決定する。同じくチャンピオンロードを踏破したトレーナー同士で戦い、優勝者を決める。ここで優勝するとようやく四天王へ挑戦する事が出来る。四天王、一人一人とのバトルの合間は1日の休息がチャレンジャーへ与えられる。見事4人に勝つとチャンピオンとのバトルとなる。

 

 

 

国際ポケモンリーグ協会

 主要国のポケモンリーグ協会の統括組織。

 現在 ニホン(カントー・ジョウト地方、シンオウ地方、ホウエン地方)・アメリカ(イッシュ地方、アローラ地方)・フランス(カロス地方)・イギリス(ガラル地方)

 

 

 

ワールドポケモンチャンピオン大会(WPC)

 4年に一度、国際ポケモンリーグ協会が主催するポケモンバトルの国対抗戦。メンバー選出は、各国のポケモンリーグ協会に一任されている。開催時期が夏季の為、ニホンでは、前年度のニホンポケモンチャンピオンリーグ大会での優勝者が一番の選出権を持っている。

 ニホンは、国内に地方リーグが最も多く存在する事やポケモン先進国としてWPCでも好成績を残している。

 開催国によってZ技やダイマックスも可能となっており、各国対策と見識を深める為に留学などが多く見られる。

 

 

 

ポケモンボックス

剣盾に近い仕様でミニボックス(ポケモンを預ける・引き出すのみ)が存在し、販売されている。

ポケモンセンターのパソコンで操作するボックスでは、ポケモンの整理から道具の交換まで可能である。

ミニボックスはポケモンセンターのボックスの簡易版。

 

 

神原 タツキ

前世の厳選時の記憶があるため基本的にポケモンは番いで捕獲する。その為妹のミオリにポチエナをプレゼントしたため、新たに番いで捕獲している。ストーリー内の裏側でコツコツとポケモンを捕獲している。

 

 



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14.三つ目

 

 

ダイゴに宣戦布告したタツキは、ポケモンセンターでポケモンの回復後、ポケモン達と軽食を食べながらムロタウンの事を考える。

 

(ムロに行ったらとりあえず石の洞窟で全体的にポケモン達を鍛えてジム戦だな。)

 

食事を終えるとポケモン達をボールに戻し、トウカシティの外れの船着場へ向かう。途中トウカの森があるが比較的に小さな森で迷う事もないとの事で手持ち達を鍛えながらサクサクと進んでいく。

 

トウカの森を抜け、船着場へ到着。

この船着場は、ハギという老人が取り仕切っておりカイナシティ・ムロタウンへの定期便が出ている。

定期便が出ているからか、お土産売り場や食堂などもあり、多くの人で賑わっていた。

 

タツキは、ムロタウン行きの定期便のチケットを買うと既に乗り込みが始まっていた船へと乗り込む。

 

船に乗る事30分程、タツキはムロタウンに降り立ち町をみる。

 

(やっぱりここも現実だとそこそこ建物があるな。)

 

ゲームではフレンドリィショップも無く、民家も数軒しかなかったがこちらの世界では、しっかりとした町としてフレンドリィショップはもちろんのこと役場などの公共機関の建物もあり、港町として賑わいを見せていた。

 

(ポケモンセンターで一度回復してもらってから石の洞窟だな。)

 

と当初の予定通りにポケモンの捕獲、手持ち達の育成の為動き出す。

 

石の洞窟に着くと早速予定通りに育成を開始。

今回のジム戦では、グライガーを主体に戦う予定の為グライガーを中心にバトルを行なっていく。

 

(ルビー・サファイアが出た時は、ココドラとか新ポケモンに心躍ったよなぁ。)

 

と石の洞窟に懐かしさを覚えながら、洞窟の中を奥へと進んでいく。

 

(確か、この先にカイオーガとグラードンのゲンシカイキの壁画があったんだっけ?)

 

と石室に入るとそこには、先客がいた。

タツキは、まさかダイゴか⁈と思うもその姿は帽子を被り大きなリュックを背負ったただの山男であった。

お互いに会釈をし、山男が先に石室を後にする。

石室に1人になったところでゆっくりと壁画を見る。

 

(この壁画があるって事は、エピソードΔ《デルタ》があるって事だよな。とすると隕石とデオキシスをどうするかが問題だな…。いっその事こと、ホウエンでチャンピオンになったらあいいろのたまとべにいろのたまを少し借りて先にカイオーガとグラードンを捕まえるか?こんげんのはどうとだんがいのつるぎで隕石が壊せるか?安全牌でレックウザのガリョウテンセイも必要になるな。レックウザ…。そらのはしらか…。チャンピオンの権限で入れるだろうが果たしてレックウザが現れるかどうか…。一度調べる必要があるな。)

 

タツキは壁画を見ながら今後の事を考える。

隕石が本当に落ちでもしたらゲームではホウエンが消滅すると言われていたが、実際はそれどころかニホンの危機だ。

前世の知識でこの先の、大まかな未来がわかる為最悪の事態を回避しなければいけない。幸いまだ5年程時間があるため準備はしっかりと出来る。本音を言うと伝説のポケモンと言われる存在を近くで研究したいと言った研究者魂みたいなものが動機の大半を占めているがそれは秘密である。

 

(さて、見るもの見たし捕まえるポケモンも捕まえた。手持ち達の育成も今の段階での部分は終わらせた。ジム戦行きますか。確か、カイナシティへの定期便は最終が18時だったな。今が16時半か。余裕で間に合うな。)

 

タツキは、そう考えると足早に洞窟の出口目指し歩いて行くのだった。

 

 

洞窟から出たタツキは、一度ポケモンセンターで回復してもらいジムへ向かう。

 

 

 

 

    *** ***

 

 

 

 

「やっぱグライガーのつばめがえしでワンパンか…。」

 

ムロジムでのジム戦をサクッと終わらせたタツキは、船着場でカイナシティへの定期便を待ちながらため息を吐く。

 

戦略的なバトルをしたいが相手がタツキのポケモンの技に耐えられずワンパンと言う展開が続いている。

 

(こりゃ、チャンピオン大会までお預けかな。このままじゃ俺まで脳筋みたいだ…。)

 

そう思うとまたため息が出てしまうタツキ。

気がつくとカイナシティ行きの定期便が来ており、乗り込みまであと少しとなっていた。ゆっくりと乗り込み用のドアの所まで歩いて行くとその途中でドアが開き、係員の乗り込み開始の声が聞こえる。

そのまま定期便に乗り込み、空いたスペースに横になる。

カイナシティまでは30分と室内の電光掲示板に表示されており、タツキは静かに目を閉じたのだった。

 

無事カイナシティに到着したタツキ。

船着場を出たところで自らの失敗を悔やんでいた。

 

(すてられぶね、ORASだとニューキンセツだったか?見忘れたよ。前世では位置的に軍艦島だもんな。一回は見てみたいと思ってたのに。予想より疲れてたのかな…。まぁ、後で行けばいいんだけど船から見たかったよなぁ…。)

 

と考えながらもポケモンセンターを目指し歩き出す。

海岸沿は砂浜になっており、夏休みという事で海の家も盛況だったのだろう。従業員が複数砂浜に出ている椅子やテーブルなどを片付けている姿が見える。

少し進むと朝市をする区画なのだろう、祭りの出店の様な骨組みが見え、ブルーシートが掛けられている。朝になると多くの人で賑わうのが想像できる。

 

(明日は、少し早く起きて来てみても良いかもな。)

 

そんな事を考えながら歩いていると目的のポケモンセンターへ到着した。

タツキは、ポケモン達を回復してもらっている間に設置されているパソコンでオダマキ研究所へ連絡を入れる。

数回のコールでパソコンのモニターにオダマキ博士の顔が映し出される。

 

『タツキ君、今朝ぶりだね。どうだい?順調かい?』

 

「オダマキ博士、こんばんは。目標通りバッチを2つ手に入れました。」

 

『さすがタツキ君だ。1日に2つか。順調じゃないか。それで、何かあったかい?』

 

「博士にお願いしたい事がありまして。」

 

『お願い?僕に出来ることなら何でも言ってよ。』

 

「実は、どくどくだまをお持ちであればいただきたいのですが…。」

 

タツキは、今後グライオンに持たせるためのどくどくだまを持っておらず、ホウエン地方で手に入れる為にはバトルフロンティアに行かないと行けないのだ。しかし、バトルフロンティアは一部の強豪トレーナーのみ立ち入りを許される特殊な施設であり、今のタツキでは実績がなく入場出来ない為、博士の力を借りたいのだ。

 

『どくどくだまか…。以前研究所で助手の誰かが使い道について研究していた筈だから聞いてみるよ。返答は明日でも大丈夫かい?』

 

まさか身近に研究していた人がいた事に驚いたタツキだがこれも巡り合わせと思い、感謝の念をその助手へ送る。

 

「大丈夫です。明日の10時頃にこちらからまた連絡するかたちで良いですか?」

 

『あぁ、それまでに確認しておくよ。』

 

「すみません。よろしくお願いします。それでは。」

 

『いや、こちらこそ多くのポケモンのデータをありがとう。じゃあ明日ね。』

 

通話が終わり、ホッと息を吐くタツキ。

 

(これで譲っていただければグライオンの戦略が完成する。後は、ムラっけオニゴーリだな。)

 

前世でバトル環境を荒らした新たな手持ちへとタツキは思いを馳せる。

 

(ただ、ムラっけは夢特性。この世界で厳選はしたくない。うまく出会えるかが鍵だな。)

 

「そろそろみんなの回復も終わったはず、飯食って休むか。」

 

そう口にすると椅子から立ち上がり回復窓口へと歩いていく。

 

 



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15.四つ目

タツキはカイナシティのポケモンセンターで朝を迎えた。食堂でポケモン達と朝食を済ませ、市場へと向かう。

 

(今後の事も考えてお香とか買っておきたいけど、あれって一つ一つが高いんだよな。お金がある時にまとめて買う事にしようかな。)

 

ぶらぶらと市場を見るタツキ、お香の他にも技マシンや模様替えに使えそうなブロック、新鮮な野菜や魚介類まで売られている。タツキの他にも観光客や地元の人で賑わっていた。

 

(博物館とかも見たいけどさすがにまだ開いてないしな。開くまで待ってる時間もないから後だな。)

 

市場を見るついでに散歩もしてゆっくりと朝の時間を過ごしポケモンセンターへ帰ってくる。センター内の食堂でお茶を飲み、約束の時間が近づいてきたので昨日のモニターを使いオダマキ研究所へ連絡を入れる。数回のコール音の後オダマキ博士がモニターに映し出される。

 

『おはよう。タツキ君。』

 

「おはよう御座います。博士。」

 

『さっそくだけどどくどくだまは譲っても良いそうだよ。』

 

研究していたと聞いて、研究材料を譲ってもらうのは厳しいかも、と考えていたタツキは嬉しさ以上に驚いた。

 

「良いんですか?一応研究材料ですよね?」

 

『その事なんだが、一度研究所まで来てくれるかい?実際に使い方を見てみたくてね。これで今までデメリットしかわかっていなかったどくどくだまのメリットと言ったら変かもしれないが、新たな使い道かな?それが確立出来れば新たな可能性があるじゃないか。』

 

オダマキ博士の言葉を聞いて、タツキは確かに、と思っていた。

 

(確かに研究者ならそう思うよな。と言うか研究者としては当たり前か。それに俺としてもこれで今まで使い道がないと思われていた道具に新たな使い道が見出されるのは嬉しいしな。)

 

「確かにそうですね。わかりました。一度そちらに戻りますがキンセツシティを経由しますので到着は遅くなってしまいます。構いませんか?」

 

タツキは、今日も一つバッジを獲るつもりだったのでキンセツ経由となり、ミシロタウンに着くのは日が暮れてからになるだろう。

 

『構わないよ。ついでと言っては何なんだけどね。かえんだまについても何かアイデアとかないかな?』

 

「かえんだま…ですか?今すぐに使い道は出てきませんがそちらに着くまでに何か考えてみます。」

 

『そうかい、助かるよ。じゃあ待ってるね。気を付けて帰ってくるんだよ。』

 

「ありがとうございます。それでは夜に。」

 

そう言って通話が切れた。

 

(かえんだまか、持っているポケモンがやけど状態になる道具だよな。ミシロに着くまでに何か考えよう。)

 

 

ポケモンセンターを出たタツキは110番どうろへ向かう。

110番どうろはカイナシティとキンセツシティを結ぶ道で公共交通機関もあるが捕獲とレベリングの為歩いて移動する。

 

110番どうろはゲームではライバルとバトルをする事になる場所の一つで当時、ライバルのヌマクローのマッドショットにお世話になった方も多いと思う。

 

何度目かわからない野生のポケモンとのバトルの後、唐突にその時はきた。

シャモの身体が光出したのである。眩い光を放ちながら徐々に大きくなっていくシャモ。

光が収まるとそこには、今までのどこか可愛さの残るシャモは居らず、力強く地面を踏みしめる凛々しい姿のシャモが立っていた。

 

「バッシャーモ!!」

 

両手首から炎を吹き出しながら雄叫びを上げるシャモ。

 

「おめでとうシャモ。一段とカッコよくなったな。」

 

タツキがそう声をかけると

 

「シャッ!」

 

と答えてくる。

腰に付けていたボールからフェルとグライガーが飛び出してきてシャモに近付き何か話している様だ。

シャモの隣でフェルは微笑んでおり、グライガーはシャモに飛び付く。

シャモは最初飛び付いてくるグライガーに驚いた様だが、今は笑ってグライガーを抱き抱えている。

側から見ると父(シャモ)と娘(フェル)、その弟(グライガー)の様に見えてしまい、タツキは思わず笑ってしまう。

タツキの笑い声が聞こえ、3体はタツキの方を振り向く。

 

「昔は、俺の後ろをちょこちょこと付いてきていたあのシャモがまるで父親みたいじゃないか。フェルもそう思わないか?」

 

俺にそう声をかけられたフェルは一歩下がりシャモとグライガーを見る。

 

「キル、キルリー」

 

まるで「あら、ほんとね。」とでも言っている様にシャモ達の姿を見て笑い出すフェル。

 

「シャ、シャモシャー!」

 

「昔の事は言わないでくれ。」とでも言うように慌てるシャモ。

その姿を見て、タツキとフェルは顔を見合わせまた笑うのであった。

 

その後、何度かバトルを行なっているうちにフェルも無事進化する事が出来た。

フェルも進化した事で父と2人の子供達だった構図が夫婦と子供の様に見える。

グライガーは進化したフェルに抱かれるのが好きらしくフェルと一緒に外に出ている時は、フェルに抱かれている。

いよいよ幼子を抱く母にしか見えない。

 

そうこうしている内にキンセツへ到着した。

ポケモンセンターで回復と昼食を済ませる。ジム戦前にサイクルショップへ向かう。

ゲームでは、じてんしゃの宣伝の為に無料で貰えたのだが、この世界ではそんな事はないだろう。

 

タツキは、サイクルショップでは販売とレンタルをしているとの事でレンタルでじてんしゃを借りる事にする。

捕獲やレベリングの為にも公共交通機関にばかり乗っていられない為、移動速度の確保の為に手に入れておきたかったのだ。

正直な話、各街でサイクルショップは存在していたがやはり、キンセツシティのショップが良いといったポケモンファン故のこだわりである。

 

無事じてんしゃをレンタル出来たタツキはキンセツジムへと向かう。

 

 

 

*** ***

 

 

 

なんの緊張もなく、もはや作業の様にジムリーダーのテッセンを叩きのめしバッジを獲得したタツキはミシロタウンへのバスを調べていた。

 

バスセンターの職員に聞くと直通バスも有る様だが図鑑の為にも普通のバスを選びバスに乗り込む。

 

 

 

 

シャモ(バシャーモ) レベル40 とびひざげり ブレイズキック でんこうせっか ビルドアップ

 

フェル(サーナイト) レベル41 めいそう マジカルシャイン サイケこうせん ねがいごと

 

 



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16.可能性

独自の設定があります。ご了承下さい。


タツキは公共交通機関を乗り降りし、まだ見ぬポケモンを捕獲しながらミシロタウンへ戻ってきた。博士に連絡した様に日も暮れてきている。夏なので空は未だ明るいがあと30分もすれば辺りも暗くなる事だろう。

 

「タツキです。ただいま戻りました。」

 

そう言いながら研究所に入っていく。

 

「タツキ君、待っていたよ。もう少し遅くなるかもと思っていたが案外早かったね。」

 

出迎えてくれたオダマキ博士がそう口にする。

 

「思いの外スムーズに戻って来れました。」

 

「無事で何よりだよ。着いて早々に申し訳ないがお願いしても良いかな?あっちの部屋に皆んな揃ってるよ。ついでにオーキド博士もね。」

 

「オーキド博士もいらっしゃるんですか?」

 

既にカントーに戻られていると思われたオーキド博士まで居ると言うオダマキに驚いた表情のタツキ。

オダマキは、タツキの顔を見て悪戯が成功した少年の様な顔でその訳を話す。

 

「ここの所、休みが取れていなかった様でね。ご自分の研究所に連絡をされて休みを捥ぎ取られていたよ。モニター越しに助手の人達の慌てる様が見えて、見てる方としては面白かったけどね。」

 

と朗らかに笑いながら話すオダマキ博士にタツキは思わず苦笑いが漏れる。

 

(本当行動力があると言うか何というか…。オーキド博士の助手の人達には同情してしまうな。)

 

話ながら歩く内に目的の部屋に着く。部屋に入るとこの研究所に勤める研究員とオーキド博士が椅子に座り待っていた。

 

「皆さん、遅い時間にも関わらず残って頂き感謝します。まず話をする前にグライガーを進化させようと思いますので裏のポケモン用のスペースまで同行願います。」

 

タツキがそう言うと皆席を立ち、研究所の裏にあるポケモンを放し飼いにしている庭の様なスペースまで移動する。

このスペースはタツキとグライガーが初めて会った場所でもある。

 

目的の場所に到着するとタツキは腰のホルダーからモンスターボールを2つ外し間隔を空けて投げる。片方からはグライガーがもう片方からはシャモが飛び出してくる。

シャモとグライガーのバトルが始まりバトルの途中でグライガーが光に包まれる。進化の光である。

光が収まると小さなグライガーを一回り程大きくした身体を持つグライオンがそこにはいた。

 

タツキがバトルを止め、シャモをボールに戻す。

タツキがグライオンに近付き、あらかじめ預かっていたどくどくだまをグライオンに渡し、するどいキバを預かる。

 

研究員達は、専用の機械を使いグライオンの状態を把握する。

 

「本当だ、先程のバシャーモとのバトルで減った体力が徐々に回復している!」

 

「毒状態の筈なのに…。」

 

などあちこちで声が上がる。

それを聞き、タツキはグライオンを撫でる。撫でられたグライオンも目やや細め気持ち良さそうにしている。

 

「おめでとうグライオン。良く頑張った。ゆっくり休んでくれ。」

 

そう言いながらグライオンをボールに戻し、博士達を先程の部屋へ誘導するタツキ。

 

「それでは皆さん詳しい説明をしようと思いますので先程の部屋へお願いします。」

 

その声を聞き、それぞれ先程の部屋を目指し歩き出す。

 

「タツキ君。これは凄い発見だよ。」

 

今目にした事に若干興奮気味なオダマキ博士が声を掛けてくる。

 

「そうじゃぞ。ここまで画期的な特性ポイズンヒールの運用は今後のポケモン界に一石を投じる事になるじゃろう。」

 

オダマキ博士と同様にオーキド博士も声をかけてくる。

2人と話ながら先程の部屋へ戻る。

 

「それでは、詳しくお話しさせていただきます。特性ポイズンヒールは特別な特性である為個体数は少ないですが既に発見されている特性です。ですが、現在その運用は敵からの攻撃を受けて毒状態になった時の保険といった意味合いが強いと思われます。が、敵が毒状態にしてくれない場合は全くの無意味。そう考えられてきた筈。しかし、どくどくだまをポケモンに持たせる事で意図的に自らを毒状態にしその恩恵を得る事ができます。」

 

周りの人達の反応を見ながらタツキは続ける。

 

「そして、なげつけるやトリック、すりかえ等の技で相手にも道具の効果を付与することが可能と思われます。」

 

タツキの話を聞き、今まで話を聞いていた人達が騒めきだす。

この世界でも説明した技は使われているが基本的にどくどくだまなどの自分にデメリットのある道具は持たせない為、この戦術は研究されるどころか発想すらなかったようだ。

 

「タツキ君、それは本当かい?もしそうだとすれば更なる発見だよ。」

 

「そうじゃな、積極的な検証の必要があるじゃろう。」

 

オダマキ博士、オーキド博士の両名の目も先程とは違い幾分か真剣度が増している様に感じる。

 

「勿論、要検証ではありますが…。もともとトリックやすりかえはお互いのポケモンの持っている道具を強制的に交換する技です。そうなると相手にどくどくだまを押し付ける事が出来、さらに相手はどくどくだまの効果で毒状態になると考えられます。また、毒タイプは毒状態にならない為、ポイズンヒール持ちのポケモン程ではないですがアドバンテージは取れると思います。なげつけるはその名の通りポケモンの持っている道具を相手に投げる技ですので相手に当てなければいけませんが同様の効果が望めます。」

 

タツキの説明を聞き、部屋の中からなるほどと声が聞こえてくる。

 

「さらに、ここからは私の“更なる”個人的な考えですが毒状態と言うのは、本当に体力が減っていくだけなのでしょうか?」

 

この発言にオーキド博士が姿勢を正しながら聞き返す。

 

「どう言う事じゃ?毒状態にそれ以外の効果はないはずじゃが…。」

 

「皆さんも研究者であれば、常識の中にこそ非常識が存在する事をご存知の筈。過去の大発見は常識を見直した先にあったものも多いのです。例えば、ポケモンが火傷状態になると攻撃力が下がるのは周知の事実ですよね?毒状態はポケモンが毒に侵されており、その影響で体力が減っていくものです。人であれば毒に侵されれば、その患部に出来るだけ触れたくない・触れて欲しくないと思うはずです。ではなぜポケモンにその理屈を当て嵌めないのか、おかしくありませんか?ポケモンも人と同じ生物の筈。」

 

タツキのこの話を聞きオダマキ博士が納得した様に声を出す。

 

「確かに僕らも怪我なんかしているとその場所を庇ったり、出来るだけ使わない様にするよね。」

 

「そう言う事です。足が毒に侵されれば移動速度が落ち、腕が侵されれば出来るだけ使わない様にする。これはポケモンでも同じ事が言えると思われます。ですので、例えば足などの機動部位が毒に侵されれば移動速度や瞬時の踏ん張り、それらの部位を使用した攻撃などを行い難くなる可能性があります。ですのでポケモンのステータスに当て嵌めると、機動部位から毒状態になると素早さ、回避率、一部の攻撃力の低下が考えられます。次に腕やそれに近しい攻撃・防御部位から毒状態になると攻撃力、防御力、命中率の低下が考えられます。」

 

タツキの考えを聞き、室内の皆が考え込む。

 

「確かにタツキ君の言う通りかもしれない。火傷や麻痺に比べて数値上の変化は小さいかもしれないが十分可能性として考えられる。」

 

タツキにどくどくだまを提供してくれた研究員が声をあげる。彼の名前は立花サク、今年20歳になった青年でこの研究所でタツキと1番歳の近い研究員である。

 

その声を聞き他の面々も全く新しい可能性が出てきた事で目が輝いている様に見える。

 

「確かに理に適ってるように思う。ポケモン達は人よりも圧倒的に力強く、人の概念に当て嵌めるという事はして来なかったが、タツキ君の話を聞いて、それも考え直さねばならんかもしれんな。」

 

オーキド博士も頷きながらそう口にする。

そこでタツキは更なる個人的な意見を述べる為に口を開く。

 

「ただ、この考えが通用しないポケモンも考えられます。」

 

「特性とかのことかい?」

 

オダマキ博士が聞き返す。

 

「それもありますが、研究をする者として数値に出来ないものや目に見えないもの、証明出来ないものなどは引き合いに出したくないのですが…。所謂精神論です。」

 

タツキの精神論という言葉にオーキド博士が首を傾げる。

 

「精神論がどう関係するんじゃ?」

 

「とても簡単な話、状態異常になっていようがポケモン自身が勝負に負けたくない、自分のトレーナーを勝たせたいと思っている場合、多少の痛みや身体の動かし難くさなど関係なしにトレーナーの指示に従う可能性が高いからです。格闘漫画などをお読みになられるかわかりませんが、それらの中に「精神が肉体を凌駕する」と言う表現があります。肉体の損傷などで立つ事もままならない者が意志の力を元に自らのベストパフォーマンス以上のパフォーマンスを行う様な時に使われる表現です。トレーナーとの付き合いが長く精神的に強い繋がりがある場合や相手のポケモンと何らかの因縁のようなものがあるポケモンにも、この現象が起こり得ると思われます。逆にトレーナーとポケモンとの間にそれ程の精神的な繋がりのない場合、例えば捕まえたばかりのポケモンなどでは、このような現象は起こり難いと思われます。」

 

「なるほど。確かに精神的なものでは証明が難しいがこれは一つの論文として発表していいくらいじゃ。人も誰かの為になら頑張れる事もあるものじゃ。ポケモンも同じと言うことか。」

 

「オーキド博士の言われる通りだよ!タツキ君。これは論文にするべきだ!確かに精神論では証明なんかがネックになってくるけど、毒状態に対する考察を主として、トレーナーとポケモンの精神的な結びつきが強い場合にこれらに対抗し得ると記載しても良い。」

 

オーキド博士の発言にオダマキ博士も食いつく。

 

「そうじゃな。精神的なところはすぐには証明出来んじゃろうし、まずは論文でその事に触れる事で触発されたもの達が研究を始めるじゃろう。そうすれば検証件数も増えより多くの情報が集まるじゃろうな。どうじゃ?タツキ君、論文を書いてみんかね?」

 

部屋中の目がタツキに注がれる。

タツキもまさか自分が論文を書く流れになるとは思ってもいなかったが今後のポケモン界の事を考え書いても良いかとも思う。しかし自分は夏休みを利用してバッジを集めに来ている為、論文に必要な資料や情報の用意をしている時間はない。

 

「大丈夫さ、タツキ君。情報収集なんかは僕たちがする。君はその中から論文の構築に必要な物を使えばいい。こんな研究の手伝いが出来るなんて、こんな嬉しい事はないからね。」

 

悩んでいたタツキの背を押すように面倒な作業をしてくれると言うサク。彼の言葉を聞いて他の面々も任せろ!なんでも言ってくれ!と意気込んでいるのがわかる。

 

「わかりました。なんとか書いてみます。お忙しい中お力を貸していただきありがとうございます。」

 

深々と頭を下げるタツキ。

そんなタツキの頭を撫でながらオダマキ博士は言う。

 

「それは、僕らの言葉さ。これは今後のポケモン界を変える可能性のある論文だ。その手伝いが出来るなんて夢のようだよ。」

 

「全くじゃ!この歳になりこんな歳の離れた少年に常識を疑うと言う研究者としては当たり前な事を言われるとは思わんかったわ。ワシも出来る限りサポートしよう。」

 

オダマキもオーキドも気持ちのいい笑顔でそう言ってくれる。

再度頭を下げるタツキ。

 

「皆さん、本当にありがとうございます。」

 

「良いんだよ。こちらこそありがとう。さて、皆んな興奮している所悪いがお腹が減らないかい?今日はここでお開きにしよう。この話はまた明日にしようか。きっとこれ以上話して興奮して眠れなくなると困るからね。主に僕が。」

 

最後の一言で部屋の中は大きな笑い声が響く。真面目な雰囲気を一気に緩める絶妙なタイミング。

 

「タツキ君、今日もウチに泊まりなさい。明日も早いからね。皆んなもしっかり休むんだよ!」

 

その声でこの日は解散になり皆、近くの人と話しながらそれぞれの家へと帰って行く。

 

 




誤字、脱字が多くて申し訳ありません。
見つけたら報告いただけると嬉しいです。

気が付けばこんな展開になりました。反省はしていますが後悔はありません。

ちなみにここまで書いてますが未だプロローグあたりです。
頭の中で出来ている本編は社会人になってからなので気長に書いていきます。


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17.もう一つの方は

 

オダマキ家で朝を迎えたタツキ。

 

客間から出ると朝食の支度をしていたオダマキ夫人に挨拶をし、日課の散歩に出かける。

玄関を出ると朝という事もあり、程よい暖かさの風が頬を撫ぜる。

いつもの様にポケモン達を外に出す。グライオンがシャモとフェルに近付き進化して一回り大きくなった身体を見せる。昨晩はオダマキ家にお邪魔していた事で3体共大人しくしていたが今は外という事もあり嬉しそうにシャモとフェルの周りを飛び回るグライオン。それを見てシャモとフェルも微笑ましい表情をしており、進化してもグライオンの末っ子気質は変わらないらしい事がわかる。

 

その後は、グライガーの時と変わらずフェルに抱き抱えられておりこちらも進化して変わらないらしい。側から見たら種族こそ違えど家族にしか見えない。

タツキとしても種を超えた親愛の情がある事は嬉しく思う。

そして今後後輩が出来た時、グライオンはどんな対応をするのか楽しみでもあった。

 

朝の散歩を終えてオダマキ家へ戻ってくると家主のオダマキ博士、オーキド博士。娘さんのハルカちゃんが食卓に着いていた。

 

「おはよう御座います。オダマキ博士、オーキド博士。ハルカちゃんも。博士は良く休めましたか?」

 

「タツキおにーちゃん、おはようございます!」

 

今日ハルカちゃんは元気いっぱいだ。

ハルカちゃんは5歳で未だ自分のポケモンを持っていないにも関わらず1人で草むらなどに突撃して行く事もある程パワフルな子で、常にオダマキ夫人が目を光らせその動向を見守っている。

 

「おはよう。タツキ君。しっかりと休む事が出来たよ。これで今日からの研究もバッチリさ!」

 

新聞を広げながらサムズアップするオダマキ博士。

すかさずキッチンから朝食を持ってきたオダマキ夫人に頭を小突かれる。

 

「何言ってるの…。寝るまでずーっとタツキ君の研究が!とか、これは学会が震撼するぞ!とか騒いでいたじゃない。この人なかなか寝なかったのよ…。」

 

と疲れた表情で溜息を吐くオダマキ夫人。

まるで遠足前の子供じゃないか…。とタツキは思ってしまうがそれも仕方ないかもしれない。

そんな話をしているとテーブルの上に朝食が揃い、食事を始める。

朝食後、博士らと一緒に研究所へ向かう。

 

 

「皆んなおはよう。昨日はしっかり休めたかな?僕はしっかり休んで英気を養ったよ。」

 

と揃った全員の顔を見てドヤ顔でオダマキ博士は言う。

 

「ちなみにオダマキ夫人の話だと遅くまで騒いでいたらしいですよ。」

 

タツキの裏切りに物凄いスピードで首を回しタツキを見るオダマキ博士。

 

「何が英気を養ったよ!ですか…。」

 

サクも一言ツッコミ、全員が笑顔になる。

 

「ンンっ!まぉ、それは置いておいて。今日から我等オダマキ研究所では昨日聞いたタツキ君の理論の検証や類似した情報などがないか調べて行く事となる。これは皆んなもわかっていると思うけど学会を震撼させる程の論文になる事が大いに予想される。常識を打ち破り新たな常識を作る手助けをして行こう。オーキド博士からは何か?」

 

そう口にすると隣にいたオーキド博士に話を振る。

 

「そうじゃな、オダマキ君の言った通り悔しい事に今の時代の最先端がこの研究所で立証されようとしておる。研究者としての本音を言うと、なぜワシがこの研究の中心にいないのかと悔しく思う限りじゃ。じゃが、ワシの様に長い事ポケモンの常識という不確かなモノの中におったからこそワシには気付かんかったと思っとる。ワシもそうじゃが皆タツキ君に良い刺激を受けておる筈じゃ。この研究で凝り固まった考えでは新たなモノは見えてこないと学会に殴り込んでやる気でやるぞ。」

 

オーキド博士の目は、ポケモン研究の権威と呼ばれる人のものではなく、1人のポケモンの事をもっと知りたいと思う少年の様に輝いていた。

オーキド博士からの言葉でより一層研究所内の空気が引き締まるのがわかった。

 

「さぁ、主役のタツキ君からは何かあるかい?」

 

オダマキ博士から話を振られたタツキは少し考え込んでから話始める。

 

「…。皆さん。昨日も言いましたが私の為に貴重な研究の時間を割いて頂きありがとうございます。私もどこに出しても恥ずかしくない論文を書くつもりですのでお手伝いよろしくお願いします。ただ、わがままを言わせて頂くと私のジム巡りの事もあり3日程しか時間がとれません。予定通りにジム巡りが進まなかった時のことを考えて数日は残しておきたいので過密スケジュールになるかと思いますがよろしくお願いします。」

 

そう言い頭を下げるタツキ。

頭を上げるとさらにおずおずと話し始めた。

 

「実は、かえんだまの使い方についても思いついた事があるんですが…。」

 

そう口にすると、慌てたオダマキ博士が捲し立てる。

 

「ちょっ、ちょっと待って、タツキ君。これ以上は流石に僕も皆んなも受け止めきれないから!それはこの論文作成が一段落したら教えてくれないかな?」

 

そうだろうなと思っていたタツキは素直にわかりましたと話を止める。

それからはオダマキ博士の号令のもとそれぞれが資料探し、毒ポケモン達との検証なとが行われた。

タツキもグライオンと共に検証に参加し、その結果を資料としてまとめていく。

気が付けば昼時だったらしく、オダマキ夫人とハルカちゃんが全員分のお弁当を差し入れしてくれた。

タツキも資料の整理を一旦やめ、夫人のところまで向かい、お礼を口にする。

 

「すみません。差し入れまでいただいて。」

 

「良いのよ。昨日のあの人の様子を見たら、研究に夢中になって時間なんか忘れちゃうんじゃないかって思ったのよね。」

 

笑いながら話す夫人。

 

「夫婦の勘ですか?」

 

「そうね…。そうかもしれないわね。あの人ハルカが産まれる前は今日みたいに時間を忘れて研究に熱中しててね。まぁ…、そんな何かに一生懸命になれるところを好きになったんだけどね。これ、あの人には内緒よ。恥ずかしいんだから。」

 

と恥ずかしそうに笑いながら話してくれた。

 

研究所は、お昼休憩となり一旦作業が中止された。

ハルカちゃんは研究所のポケモン達と遊んでおり皆がその姿を微笑ましい表情で見ていた。

 

 

休憩が終わり各々作業に戻り出す。

タツキも資料の整理を再開する。色々な論文や違った実験・検証の結果も転用出来そうなモノがありなかなか進まないのが現状である。

技の事であればアローラのククイ博士が何か情報を持っていそうなものだが、いかんせんアローラはアメリカ合衆国であり、日本語は通じないと言っても過言ではないだろう。さらに資料を見せていただくにも事情の説明などで時間をとってしまう為、今回は断念する事となった。

 

(今後他国の博士達との共同研究の可能性も考えれば、英語・フランス語ら辺は習っておきたいな。)

 

と旅を終えた後で言語教室に通いたいと思うタツキ。

 

皆んなが急ピッチで資料を作成してくれている為、タツキは論文の作成に取り掛かった。

どくどくだまなどのデメリットのある道具の使い道や毒状態からのステータスの変化など自分なりにまとめて記入して行く。

 

そうしている間にもどんどんと資料が運ばれてくる。

 

タツキも夕食の時間までに論文の骨組みを作成し終え、後は検証結果などを記載し論文の骨組みに肉付けして行く作業である。

 

気が付けば窓の外から見える景色は暗くなっており1日が終わる事を教えてくれる。

 

(今日はここまでか。)

 

そう思いパソコンの前で座ったまま背伸びをするタツキ。

パソコンに論文を保存し、電源を切りオダマキ博士のもとへ向かう。

 

「オダマキ博士、失礼します。」

 

「どうぞ。」

 

オダマキ博士の部屋の扉を開ける。

そこには、タツキと同じく読み込んだ資料を整理し片付けているオダマキ博士とオーキド博士がいた。

 

「お疲れ様。これを片付けたら帰ろうか。」

 

「久しぶりのこの手の作業は、老体には堪えるわい。」

 

そう笑いながら口にするオダマキ博士とオーキド博士。

タツキは博士らを待ち、一緒にオダマキ博士の自宅へと向かう。

他の研究員たちもきりの良い所で資料を整理し帰宅すると言う。

 

この日も食事に寝床とオダマキ家にお世話になる。

 

(明日、明後日で完成させられるか分からないがやるだけやって見よう。)

 

と論文に思いを馳せながら就寝するのだった。

 

 



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18.完成

 

 

論文作成二日目、この日もタツキは資料の選別と論文の肉付けに追われていた。

 

(昨日の今日で実験データが鬼の様に増えてる…。皆さんの頑張りも無駄に出来ないからな。俺も頑張らないと!)

 

気合を入れ直しパソコンに向かうタツキ。

増える実験データから使用するものを選び、論文を作成していく。

食事もデスクから離れなくて良いものにしてもらい、食事の時間を削り論文を仕上げていく。

寝泊りも使用していた部屋のソファーをお借りし移動の時間を短縮する。

 

三日目の夕方、気合で完成させた論文を持って両博士のもとへ向かう。

 

(終わった…。よくよく考えると三日で論文書くって無理あり過ぎるだろ。明日は、キンセツまで行ってそこで休もう。)

 

「博士、失礼します。」

 

博士の部屋の扉をノックしながら、そう声をかける。

 

「タツキ君か、どうぞ。」

 

ドアを開けると両博士が資料を片付けている所だった。

 

「なんとか書き上げる事が出来ました。」

 

そう言い、オダマキ博士へ論文を手渡す。

 

「すみません、オーキド博士。先に読ませて頂いてよろしいでしょうか?」

 

「構わんよ。ここは君の研究所じゃ、遠慮する事はない。」

 

「すみません。ありがとうございます。」

 

とオーキド博士へ感謝を述べるとオダマキ博士は視線を論文へと落とした。

オダマキ博士が論文を読んでいる間にオーキド博士が声をかけてくる。

 

「よく頑張ったの。」

 

「いえ、皆さんの協力があっての事ですので。自分はただ考えを文字にしただけですので。」

 

とオーキド博士と他愛のない会話をしていると

 

「タツキ君。素晴らしい出来だよ。毒状態の新たな可能性やポケモン達との信頼関係についてとてもわかりやすく書いてある。それに信頼関係のところでは微妙に濁す書き方になってて研究意欲をそそられるよ。オーキド博士もどうぞ。」

 

と感想を口にしながらオーキド博士へと論文を手渡し、オーキド博士も真剣な表情で読み始める。

 

興奮もひと段落し始めたオダマキ博士が部屋の片付けを再開しだす。タツキも手伝いながら部屋を2人で片付けていく。

ほとんど部屋の片付けが終わった頃にオーキド博士も論文を読み終わる。

 

「タツキ君。ワシはこの論文の作成に携われた事を嬉しく思っとる。これはまさにこれからの新しい常識になるじゃろう。そんな発見の近くに居れた事、考え方に触れられて研究者としてこれ以上ないと言うくらい幸せな気分じゃ。この前の論文とこの論文はワシとオダマキ君で責任を持って提出しよう。」

 

タツキはその言葉を聞き頭を下げ、一つのお願いを口にする。

 

「実は、論文の著者として名前を公にしたくないんです。もちろん学会などでは大丈夫ですが、その他の方々にはまだ知られたくなくて。」

 

そのお願いを聞きオーキド博士も頷く。

 

「そうじゃな。確かにこれだけの内容じゃとマスコミ連中も騒ぎ立てる筈じゃ。さらに著者が、10歳の子供とくれば尚更じゃな。その為には、タツキ君を守る為にも学会に著者の情報を口外しない事、無闇に詮索しない事を言い含めておくかの。そこら辺は、ワシに任せなさい。」

 

タツキは再度お礼を述べ頭を下げる。

 

「じゃあ、今日はこれくらいにして広間に行きましょうか。」

 

と広間へ向かうオダマキ博士。その後を着いていくと研究所のメンバーが揃っており、オダマキ夫人にハルカちゃんまでいる。

テーブルには色とりどりの料理が所狭しと並んでおり、ドリンク類も多くの種類が準備されていた。

 

「論文完成パーティーだよ。この三日間の健闘を祝して騒ごうじゃないか。」

 

笑顔でそう口にするオダマキ博士。他のメンバーもそれぞれ好きな物を食べ、飲みながら三日間の苦労を笑いながら話していた。

 

 

(こんなポッと出の俺の手伝いまでしてくれて、本当に感謝しかないな。)

 

と会場でどんちゃん騒ぎをしている研究者達を見る。

パーティーは夜遅くまで続き、広間でそのまま寝出す者まで出始める始末だった。

タツキは、そもそもアルコールを飲んでない為、オダマキ夫人やハルカちゃんと一緒にオダマキ家で一夜を明かした。

 

 

翌朝、オダマキ研究所に入ると死屍累々と表現してもおかしくないと思う光景が広がっていた。

皆、体は動かしているが動作が遅くまるでゾンビにしか見えない。

 

「オダマキ博士。本当にお世話になりました。」

 

「あぁ、頭が痛い…。タツキ君、もう行くのかい?」

 

二日酔いだろう、顔を真っ青にし頭に手をあてているオダマキ博士。

 

「今日はキンセツまで行き、明日からジム巡りを再開する予定です。」

 

「そうか、気をつけてね。何かあったらいつでも言ってね。」

 

オダマキ博士と話していると

 

「おや、もう行くのかね。」

 

案外平気そうな顔でオーキド博士が奥から出てきた。

 

「オーキド博士は、二日酔い大丈夫なんですか?」

 

タツキも感じていた疑問をオダマキ博士が問いかける。

 

「そんなに飲んどらんしの。途中でお茶に変えとったから大丈夫じゃ。」

 

と二日酔いに注意しセーブしていた様である。

 

「オーキド博士も大変お世話なりました。」

 

「なに、ワシの方こそ勉強になった。有意義な休暇じゃったよ。それから、タマムシ大学の推薦じゃがの。ワシとオダマキ君で必ずもぎ取るつもりじゃ。来年からは小学5年生・タマムシ大学学生の二足の草鞋じゃ、頑張るんじゃぞ。」

 

「はい。ご期待に添える様出来る事を最大限頑張りたいと思います。」

 

「うむ、期待しておるからの。」

 

「はい!それでは皆さん、行ってきます。」

 

研究員達にも挨拶をし、お世話になったオダマキ研究所を離れる。

バスでキンセツまで向かう。

移動中も椅子に背中を預け目を瞑る。

 

車内のアナウンスで目が覚め、外を見るともう少しでカイナシティに到着する頃だった。時間を見れば昼過ぎ。

 

(腹も減ってきたしカイナで一回降りて飯にするか。)

 

そう考えたタツキは、バスを降りて食堂に入る。ポケモン達と少し遅めの昼食を摂り、街を歩いていると博物館が見えて来る。

 

(前回入れなかったし、寄っていくか。)

 

と博物館の方へ歩いていく。

博物館と言うだけあり、大きく綺麗な建物であった。ゲームでは二階建ての建物だったがこちらでの博物館は三階建てらしい。チケットを購入し中に入る。ゆっくりと博物館を見て周るのだった。

 

博物館を堪能したタツキは、キンセツへ向かうバスに揺られていた。

 

今タツキが攻略したジムは、トウカ・カナズミ・ムロ・キンセツの四ヶ所。

次に狙うはフエンジムだが、その前にキバニアを捕まえようと、頭の中で予定を立てていく。そうこうしているうちにバスはキンセツシティへと入って行く。

バスから降りるとポケモンセンターへ向かい部屋を取る。

 

部屋に入り荷物を置く、疲れたと呟きベットに倒れる様に横になる。

 

(あぁー、このままだと確実に寝るな。せめてシャワーだけでも…。)

 

と考えるが疲労から来る強い眠気に耐えられずそのまま寝入ってしまうのであった。

 

 

 

 



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19.五つ目

キンセツシティのポケモンセンターで目覚めたタツキはシャワーを済ませ、ポケモン達と朝日を浴びていた。

昨日は疲れからか部屋に帰って来るとすぐに寝てしまい汗を流せなかった為、今朝目が覚めてからシャワーを浴びたのだ。

 

ポケモンセンターでポケモン達と朝食を済ませ次のジムのある町、フエンタウンを目指し、自転車を漕ごうとして止まる。

 

(ゴーグルが無いと砂漠のポケモンを捕まえられないな…。売ってるかな?)

 

とキンセツシティのショッピングエリアへ移動する。

幸いな事に観光でタツキと同じくゴーグルを求める人が多いらしくここ最近取り扱う様になったとの事だった。

 

無事ゴーグルを購入したタツキは、今度こそフエンタウンを目指し自転車を漕ぎ出す。

 

途中砂漠には寄るつもりは無かったが、今後ほのおのぬけみちの探索もする事を考えると先に探索しておいた方が良いかもしれないと寄り道をする事にした。

 

(フライゴンは種族値的に見たら微妙だけど何か好きなんだよな。この世界、バトルでは6体選出しなきゃだけど持ち歩ける上限がないからなぁ。ナックラー捕まえたら育てようかな。)

 

そんな事を考えながら砂漠を探索し、ナックラーを手持ちに加える。

化石を探してみたが見つからず断念した。

 

タツキは、ナックラーを含めた手持ち達のレベリングを行いながらフエンタウンを目指す。

 

砂漠はやはり暑く、砂漠から離れ少し暑さが和らいだ所で木陰を探して昼食にする。ポケモン達をボールから出し、それぞれの食事を用意する。用意が終わるとナックラーの紹介を行う。

 

「みんな、今日から仲間になったナックラーだ。仲良くしてやってくれ。」

 

「シャモ!」「サーナイ」「グラー!」

 

「クラァッ!」

 

古参組を前に右前足?をヒョイっと振り上げて挨拶するナックラー。

先輩になったグライオンが甲斐甲斐しく世話を焼いている。同じく地面タイプで何か感じるものがあるのだろう。

 

食事と休憩を終えるとフエンタウンへと進んでいく。

 

道中何度かバトルも挑まれ、ナックラーのいい経験値になってもらった。少しでも早く進化したいらしく多くのバトルをナックラーに頑張ってもらっている。

どうやら先程の昼食の際に古参組と話している様だったがその時に何か思う事があったのだろう。

 

(やる気がある事はいいが、オーバーペースにならない様に見てやらないとだな。)

 

小さな身体で大きな相手に向かっていく姿は見た目以上に逞しく見えた。

 

そうしながら道を進んで行くと前方にロープウェイの乗り口が見えて来た。チケットを買い一度ロープウェイでえんとつやまの山頂を目指す。

 

ゴンドラ内はタツキしかいなかった為、ポケモン達を出し一緒に景色を楽しむ。

 

グライオンはフェルに抱かれており、ナックラーはタツキが抱えていた。

 

「ナックラー。」

 

タツキが話しかけると景色を見ていたナックラーがタツキの方に顔を向ける。つぶらな瞳と視線がぶつかる。

 

「俺がロープウェイを使うのはこれが最初で最後だ。次は、お前が大きくなって俺を乗せてこの景色を見せてくれ。」

 

タツキがそう言うと先程よりも目を輝かせ何度も頷き

 

「クラァーー!」

 

やる気に満ちた声を上げる。それを見ていた古参組の目は幼子を見守る親の目の様だった。

 

山頂に着き、すぐにフエンタウンへ向け下山を開始する。

登山道の途中でも捕獲、レベリング共に欠かさず15時頃にはフエンタウンに到着した。

ポケモンセンターでポケモン達を休ませ、タツキも一息つく。

 

回復が終わるとすぐにフエンジムへ挑戦する。

 

 

 

 

     *** ***

 

 

 

 

今回は、ナックラーのレベリングも兼ねていた為、若干時間が掛かったものの何の危なげもなくバッジをゲット。

 

(これで五つ目のバッジ。あと三つでチャンピオンリーグ大会へのエントリー資格がもらえる。)

 

ホウエンにタツキが来てから十日、うち三日が論文の作成。その為実質一週間でバッジを五つ獲得している事になる。さらに捕獲などに時間を割かなければもっと早かった可能性がある。

 

夏休みは、後三週間。それまでにバッジをあと三つ。それからポケモン図鑑を貰ったことで図鑑のページを埋める事も目標の一つとなっていた。

 

この後、残すジムはヒマワキ・トクサネ・ルネの三ヶ所。順路的に行くならヒマワキだが流星の滝にも行きたい。とタツキは考えていた。

 

(どのみち分布調査で行くんだけど、今回にするか次の機会にするか…。)

 

と悩んでいたが、ポケモンセンターに併設されている無料の天然温泉に浸かっていると、思い立ったが吉日という言葉を思い出す。

次の目的地は流星の滝に決めた。温泉から出たら明日の準備をしなければいけないなと思いながら、日頃の疲れを取る。

 

温泉から出たタツキはフレンドリーショップで道具の補充を行い、ポケモンセンターで部屋をとる。

荷物を部屋に置き、食堂で食事を済ませる。明日の移動の事を考え、この日は早めに横になった。

 

 

 

*** ***

 

 

フエンジムでのバトルで見事ナックラーは進化した。

手持ちになり砂漠での探索、フエンまでの道のり、そしてジム戦でのバトルでレベルを15近く上げた事になる。

 

 

ーーー   ーーー

 

 

シャモ(バシャーモ) レベル45 かわらわり ビルドアップ でんこうせっか ブレイズキック

 

フェル(サーナイト) レベル45 めいそう ムーンフォース サイケこうせん 10まんボルト

 

グライオン レベル43 ポイズンヒール

   どくどく まもる じしん みがわり

 

ビブラーバ レベル37 ふゆう おくびょう

   とぎすます かみくだく ドラゴンテール じならし

 

 

 

 



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20.流星の滝

気が付けば20話です。


翌朝、タツキはいつものルーティンをこなし、流星の滝との中継地点であるハジツケタウンを目指していた。

 

捕獲とバトルを繰り返しながら進んで行くと、辺りにはえんとつやまから降る火山灰が積もりはじめる。

 

(感覚的にフエンタウンの方が火口に近いと思ってだけど、火山灰が積もってるって事はこっちの方が近いのかな。ゲームの時も画面ではわからない高低差があったのかもしれないな。)

 

と考えながら進んで行く。

手持ち達のレベリングも順調でビブラーバはレベルが40を超え、その他は50を超えた所だ。

フェルのいやしのはどうは、きずぐすり系統の節約に役立っている。

あらかた捕獲を終え、近くのバス停からハジツケタウン行きのバスを待つ。ゲームでは基本的に町と街の間には民家などはなかったが、この世界ではそんな事もなく道中にいくつかバス停があるためとても役に立つ。

 

ハジツケタウンに着き、バスを降りる。

ポケモンセンターで回復をお願いする。早くに出発した事もあり、未だ昼前。少し早めの昼食を摂る。

回復が終わったポケモン達と触れ合い、ポロックをポケモン達に渡し、少し休憩を入れる。

 

休憩を終えるとポケモン達をボールに戻し、流星の滝へ向け出発する。

今度は、初めからバスを使い移動。流星の滝は一部観光地化されており人もそこそこ多かった。

 

流星の滝の内部を探索しながら進む。大きな水脈などはビブラーバの背に乗り進んで行く。

 

(タツベイも捕獲したいし、流星の民の集落にも興味があるんだけど。)

 

と考えていると、足元が僅かに揺れている事に気付く。

 

(滝でも近いのか?でも音は聞こえないしな…。)

 

と思っているうちにどんどん揺れは大きくなっていく。

 

(地震か?だとしたら拙い!)

 

流星の滝は鍾乳洞の様になっており頭上には鍾乳石が幾つもあるため、落下でもしてきたら一大事である。

タツキはすぐさま手持ちをボールから出し、臨戦態勢をとらせる。

 

次の瞬間大きな揺れと共に頭上から鍾乳石が落ちて来る。

すぐさまグライオン以外のメンバーに大きな鍾乳石を砕かせ、グライオンのまもるを使い砕けた破片を防ぐ。

洞窟の奥で大きな音とポケモンの声が大きな聞こえてくる。

 

少しすると揺れが収まり、辺りは落ちてきた鍾乳石の破片でいっぱいになる。

幸い、指示が早かった為かタツキ達一行に怪我などはない。

自分達に怪我がない事を確認したタツキは、大きな音がした方へと向かっていく。ポケモン達も辺りを警戒しながらタツキの後を追う。

 

落石を乗り越えて進んだ先には惨状が広がっていた。

 

確認出来るだけで四体のボーマンダが落石の下敷きになっており、夥しい量の血がクリーム色の大地を真っ赤に染めていた。

 

タツキはすぐに落石を退かそうと近づくも、一体のボーマンダがタツキに向かい鋭い牙を剥き出し威嚇してくる。それを見てタツキのポケモン達が臨戦態勢をとる。

タツキは自身のポケモン達を手で制し、落ち着かせる。

 

「危害は加えない。お前も他の仲間も今のままだと死んでしまう。人間の作った薬で抵抗があるかもしれないが手当てをさせてくれ!」

 

尚もタツキ達に向け威嚇を続けるボーマンダ。

 

「なら、ポケモン達は下がらせる。俺だけがお前の近くに行く。ただしある程度手当てをしたら岩を退かしたい。そうなると俺だけの力じゃ難しい。その時は俺のポケモン達の力を借りる。俺には、お前達を見捨てて行くことは出来ない。」

 

そう口にするタツキにボーマンダも威嚇を解き、ぐったりと地面に横たわる。

その姿を見てタツキはポケモン達に良いと言うまで待機だと告げ急いでボーマンダに近づく。

もう少しでボーマンダのところまで、という所でボーマンダの下に隠れていた一匹のタツベイがタツキの左腕に噛みつく。

衝撃と痛みでタツキの表情が歪む。その姿を見てタツキのポケモン達はタツキに近付こうとするも、痛みに顔を歪ませながらタツキが目線で来るな!とポケモン達の動きを制する。

タツキのポケモン達もタツキの表情を見て、動きを止めるもタツベイを射殺さんばかりの視線で睨み付ける。

 

タツキは痛みに耐えながらタツベイに話しかける。

 

「タツベイ。仲間に近づく俺が信用ならない事はわかる。だが、今ここでお前や動ける仲間達で傷付いた仲間を救えるか?あの大きな岩を動かせるか?それがどれだけ難しい事かお前も良くわかってる筈だ。じゃなきゃ、お前の力で俺の腕は噛みちぎられている筈だしな。それが分かってるからこうやって危害を加えればどうなるかを俺に教えるために噛み付いて来たんだろ?それにお前は俺ポケモン達と自分の力の差もわかってる。だから、俺を攻撃して自分が倒される事で他の仲間達を大人しくさせようとした。お前は強いよ。非常事態と言っていいこの場で自分の力を正確に認識して、この場をまとめる為に犠牲になろうとした。俺がお前達を助けてやる。皆んなとは言えない。俺には、そんな力ないからな。でも出来るだけで多く助けてみせる。お前は俺の後ろで見張ってればいい。俺が変な事したら遠慮なく俺を攻撃すればいい。それが終わったら、次にこんな事が起こった時にお前が皆んなを助けられるくらい強くなればいい。お前なら絶対になれる。」

 

タツキの話の途中からボロボロと泣き出すタツベイ。

 

 

   ーーー   ーーー

 

 

俺は群れのタツベイの中で常に最強だった。コモルーに進化した兄や姉達には勝てなかったが同じタツベイには負けたことがなかった。このまま成長すれば父や母の様に強くなれると思っていた。父や母達大人は空を自由に飛べ自分達では到底敵わない様な敵にも難なく勝っていた。自分もそんな大人になりたいと憧れた。しかしいきなり地面が揺れたかと思えば、憧れた父や母が地面に横たわり血を流していた。自分は母に守られて生きていた。母や兄弟達を護りたいと思っても自分の力じゃどうしようもない事がすぐにわかった。自分は強いと思っていた。母も強いと思っていた。しかし、それ以上に自然は強かった。誰も悪くない。仕方がなかった。自然には勝てるわけない。諦めそうになった。

 

そんな時に1人の人間が来た。

そいつが近付いて来ようとするのを母が止めた。人間の側にいた奴らが母に襲い掛かりそうになったが人間が止めた。

他の仲間達が気付いているかわからないが人間の側にいる奴らは強い。きっと大人達と同じくらいの強さがあると思った。それは、大人達の様な雰囲気をしていたから。何故か、あいつらと戦ったら負けると思った。

横を見ると産まれたばかりの弟達が人間に向かって牙を剥いている。弟達はまだあいつらの強さがわかる程産まれてから時間が経ってない。このままじゃ誰かが突撃して行きかねない。

考え事をしているうちに母と人間の話が終わった様で人間が近付いてくる。それを見て隣の弟が人間に向かって飛び出そうとした。俺は、そいつを押し除け人間に向かって走る。

俺があいつらに倒されれば弟達もあいつらの強さがわかる筈。弱い俺が仲間を護るにはこんな事しか出来ない。そして俺は人間に噛み付いた…。噛み付いてしまった。自分を襲う痛みはない。目の前には痛みに顔を歪ませる人間がいた。必要以上に傷つけない様、力加減をして噛みつく。いつまで経っても痛みが来ない。人間を見ると目が合った。

 

人間は俺のした事をわかってた。人間は言った。俺が強いと。人間は言った。自分を見張ってろと。人間は言った。俺達を助けたいと。人間は言った。次の為に強くなれと。

 

そして優しく撫でてくれた。産まれたばかりの頃母がしてくれた様に。

俺は気がつくと泣いていた。

俺はこの人間なら信じても良いと思った。この人間をもっと知りたいと思った。

そう思うと俺は人間の腕を離し、自分の付けた傷を舐めていた。

 

 

   ーーー  ーーー

 

 

ボロボロと泣いていたタツベイがタツキの腕を離し傷を舐める。

タツキもタツベイの行動に驚きながらも目の前の惨状に視線を戻す。

タツキのポケモン達も近付いて来るがタツベイに攻撃を加えるつもりはないらしい。

 

フェルがよりタツベイに近付く。それを見てタツベイの身体が強張るがタツキが大丈夫と伝える様に頭を撫でると強張りが幾分か解れる。

フェルがタツキの傷口に手をかざし念の様なモノを送ると次第に傷口が塞がり痛みも引いて行く。

タツキが驚いてフェルの顔を見るとフェルはタツキの顔を見て微笑む。

 

(これは、癒しの波動?人にも効果があるのか…?いや、そんな事より今は、ボーマンダ達を!)

 

痛みの引いたタツキはすぐにボーマンダへ近付くと持っていたすごい傷薬を患部に使いながらげんきのかけらをボーマンダに食べさせる。

ボーマンダの身体の上の岩を手持ち達に退かしてもらう。

徐々に出血も収まり始める。ボーマンダの手当てをフェルに頼み、他のボーマンダの所へ向かう。

 

しかし、他のボーマンダは落石が頭や首、体の中心部を貫いており既に息がなかった。

唯一生きていたボーマンダの所へ向かいその事を伝える。

 

「すまない。他のボーマンダ達は既に息がない。」

 

その報告を聞き

 

「グキャァ」

 

と一鳴きする。まるで気にするなとでも言うかの様に。

ボーマンダの身体の下には、三体のコモルーに六体のタツベイ、四つのタマゴが確認出来た。皆無傷で大人しくしていた。

 

「お前が護った奴らは全員無事みたいだぞ。そこで相談だ。ここで出来る手当てはこれで精一杯だ。本職に任せないと後は回復するかわからん。」

 

タツキの言葉をボーマンダ、その他の仲間達が静かに聞く。

 

「治療が終われば逃す事を約束する。ボールに入ってくれないか?そうすればしっかりとした設備で治療が出来る。お前たちの意思を無視してそのままにはしない。必ず逃すと約束する。」

 

真剣なタツキの目を見るボーマンダ。

そこにタツキに噛み付いたタツベイがボーマンダの前に出る。

 

「ギャー、ギャべベイ!」

 

真剣な眼差しでタツベイを見るボーマンダ。

すると目を瞑りタツキの方へ頭を差し出すボーマンダ。

 

その姿を見たタツキはボーマンダの頭にモンスターボールをそっと当てる。ボーマンダが光となりボールの中に吸い込まれていく。

それを見てコモルーやタツベイ達もタツキに頭を差し出して行く。

最後にタツキに噛み付いたタツベイもボールへ入れると、流星の滝の出口へ向かって走り出す。

ボーマンダは止血出来たとはいえ既に大量の血液を失っているしそれまでの怪我も酷いものだった。

すぐにポケモンセンターに行かねばもしもが考えられる。

 

流星の滝を出るとそこは人でごった返していた。

先程の地震で多くの怪我人が出ていたようだ。

 

(こりゃ、ハジツケタウンのポケモンセンターも似た様なもんだな。少し遠いが安心して預けられるポケモンセンターがいい。)

 

そう言うとビブラーバの背に乗りミシロタウンへ向かい空を飛ぶのであった。

 



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21.何をしてるんですか!

 

タツキは現在猛スピードで空を飛んでいた。

 

流星の滝を出てミシロタウンへ向かう。鞄に入らなかったタマゴをフェルに頼み、俺の体と共にサイコキネシスでビブラーバの背中にくっつけてもらう。後はビブラーバにミシロタウンへ向けて飛んでもらうだけ。方角はその都度指示し飛ぶ事1時間。

ミシロタウンのポケモンセンターへ到着した。

急いで中に入りジョーイさんにモンスターボールを渡す。

ジョーイさんはいつもの回復機にボールをセットすると表情を変え、タツキを別室に連れて行く。

 

「このボーマンダ、どう言う事ですか?話の内容によっては警察に連絡する事になります。」

 

真剣な表情で話すジョーイさん。

タツキは、ジム巡りをしておりそのついでに流星の滝へ行ったこと。そこで地震に巻き込まれたこと。ボーマンダ達はその時に助けたポケモンだということ。治療が終われば野生に帰すこと。近くのポケモンセンターだと混乱していてすぐに治療出来るか分からずミシロタウンまで来たことを話した。

 

ジョーイも地震が起こった事はニュース速報で知っており、流星の滝がボーマンダ種の生息地であることも知っており一応は納得した。ただ、タツキが未成年ということもあり、保護者とも話がしたいと言い出した。

これには、タツキも考え込んでしまう。

 

(保護者って言っても家族はホクリク地方だし…。申し訳ないけどあの人に連絡してみるか。)

 

タツキは連絡してみます。と部屋を出て携帯を使いオダマキ研究所へ連絡を入れる。その際、両親から多くの着信があり、メールで大丈夫。とだけ連絡を入れておいた。

 

『はい。オダマキ研究所です。』

 

電話に出たのは研究員の立花サクだった。

 

「サクさん。タツキです。オダマキ博士をお願い出来ますか?」

 

『タツキ君かい⁈大丈夫なの?流星の滝で地震があったってニュースで観て、研究所はタツキ君は無事か⁈って大騒ぎだよ!』

 

「俺はまぁ、大丈夫です。オダマキ博士にお願いがありまして。」

 

『わかった。無事なら良かった。 オダマキ博士ー!タツキ君からです!』

 

『タツキ君大丈夫かい⁈心配したんだよ!』

 

「俺は、一応無事です。すみませんがミシロタウンのポケモンセンターまで来てもらえますか?」

 

『そこにいるのかい?わかった!すぐに行くよ!』

 

と言うと通話が切れる。5分もしないうちにオダマキ博士がポケモンセンターへ現れた。走って来てくれたのだろう額に汗が浮かんでおり、肩で息をしていた。他にもサクや他の研究員達も来てくれた。

 

オダマキ博士に簡単に事の次第を話しジョーイの元へ戻る。

 

「ジョーイさん、この子の身元は僕が保証しますし、この子はポケモンを虐待する様な子じゃありません。」

 

そう力強く話してくれた。ジョーイもオダマキ博士が言うならとポケモンの治療へと戻って行った。

 

少しすると外傷のなかったポケモン達のボールが戻ってくる。

その中から一つのボールが勝手に開きタツベイが出てくる。

タツキの腕に噛み付いたタツベイだ。

タツベイは、出てくるなりタツキの左腕を舐め始めた。

その場にいた事情を知らない人が首を傾げるなか、ジョーイだけがタツベイの舐めている所に薄らと傷跡があるのに気がつく。

 

「タツキ君と言ったかしら、この傷跡は?」

 

その声にオダマキ研究所の面々も気がつき

 

「どうしたんだい?この前までは無かったよね。」

 

と真剣な表情のオダマキ博士から追求を受ける。

 

「いや、実はボーマンダ達を助ける時にこの子に噛まれまして…。」

 

「「「はい?」」」

 

まさかのカミングアウトにその場が凍り付く。

 

「こうでもしないとこの子達の警戒心が「なぜ早く言わなかったの!あなたもこっちにいらっしゃい!!」

 

タツキが言い終わるより早くジョーイがタツキの腕を引っ張り治療室へ連れて行く。その後を研究所の面々がついて行く。

 

その後をは骨に異常がないかレントゲンを撮ったり、抗生物質を注射され、最後に

 

「いくら、ポケモン達の警戒心を解く為とは言え自分の腕を噛みつかせるなんて!!」

 

とみっちりとお説教を受けた。

 

話の間にタツベイがタツキとジョーイの間に入り抗議らしきものをするも

 

「あなたもあなたです。本当にこの子のポケモン達があなたを攻撃したらどうするつもりだったの!!」

 

と怒られ、タツキの足にしがみ付き隠れてしまう。

 

「お前は気にするな。お前は自分のできる事をしたんだ。俺は気にしてないから。」

 

そう言ってタツキはタツベイの頭を撫でる。

その姿を見たジョーイは2人とももっと自分の身体を大切にしなさい。と呆れた様に溜め息を吐きながら口にする。

ボーマンダの回復には時間がかかる様でこの日は一度オダマキ研究所へ戻る事になった。

 

研究所に着くと今度は研究所の面々からのお説教が待っていた。

 

(皆んなこんなに俺の事心配してくれてるんだな。)

 

と思うと心なしか頬が緩んでしまう。それを見た皆んなから

 

「「本当にわかってるの⁈」」

 

とさらにお説教が長引いてしまった。

俺のその姿にオダマキ博士も呆れながら

 

「ちゃんとご両親にも連絡してあるんだよね。」

 

と聞かれ、メールで大丈夫と伝えたと言うと

 

「「それだけ?」」

 

とまた皆んなに怒られ、皆んなの監視の元研究所のモニターを使い実家へ連絡する事になった。

数回のコールでモニターに父親の顔が映し出される。

 

『タツキか⁈お前、大丈夫って一言じゃわからんだろーが!ホウエン地方で地震があったってニュースで観た連絡しても繋がらない。だいぶ時間が経ってから大丈夫としか言ってこない!怪我とか無いのか?』

 

「大きな怪我とかないから大丈夫。心配かけてごめんなさい。」

 

そう言うと後ろから

 

「僕にも話させてくれるかい?」

 

とオダマキ博士。

 

「はじめまして。タツキ君のお父さん。僕はホウエン地方でポケモンの研究をしているオダマキといいます。」

 

『ホウエンでポケモンの研究のオダマキってあのオダマキ博士ですか?』

 

全国的にも有名な人が息子の後ろから出てくるとは思ってもいなかった父が驚き声が上ずっている。

 

「多分ご存知頂いているオダマキです。実はタツキ君にはポケモンの研究で力を貸してもらっていて、ジム巡りの合間にポケモンの分布調査をお願いしていました。それもあってジム巡りとは関係のない震源地の近くにいたんだと思います。御子息を危険な目に遭わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」

 

そう言うと父の映るモニターに向かい深々と頭を下げる。

 

全国的にもポケモン研究で知られている博士が頭を下げているのだ。

タツキも父もその姿に慌ててしまう。

 

『いえ、無事ならそれでいいんです。所でタツキがポケモンの研究ですか?』

 

「えぇ、最初はちょっとしたハプニングでの出会いでして、その後に彼から独自で調べたというポケモンの生態に関する論文を読んで欲しいと言われたのが始まりでした。」

 

『うちの子が論文?まだ10歳ですよ?』

 

「信じられないかもしれませんが彼の書いた論文は今までの考え方を大きく変えるものでした。そこに私は研究者としての才能を感じ、助手として私の研究の手伝いをお願いしたんです。」

 

さらにオダマキ博士から自身の助手と聞き父は目を白黒させ驚く。

 

『ほ、本当にうちのタツキがですか?』

 

「えぇ。その時に読んだ論文が素晴らしく、カントーのオーキド博士に送った所すぐに会ってみたいとオーキド博士もホウエンに来られまして一緒に研究をした程ですよ。」

 

『うちのタツキがそんな…。』

 

更なるビックネームの登場に信じられない、と言う様に目を見開き固まる父。

 

「実は、タツキ君。先程怪我はないと言っていましたが地震の際に巻き込まれたポケモンに腕を噛まれていまして、骨や神経には異常は見られなかったのですが痕は残るそうで…。」

 

怪我のことを父に伝えるオダマキ博士。

 

『噛まれた⁈ポケモンに⁈本当ですか⁈タツキ!明日には家族でそっちに行く!その時に詳しく話しなさい!』

 

息子が怪我をしていたと聞き、ホウエンに来ると言い始めた父。

 

「父さん、仕事もあるんだし無理しなくていいよ。」

 

『良いわけあるか!!このバカもん!!明日、きっちり聞かせてもらうからな!!』

 

その言葉を聞き青ざめるタツキ。父ヒロトは普段は温厚だが怒ると怖いのだ。

 

「神原さん、こちらに来られるんでしたら我が家に泊まってください。部屋ならありますし、その方がタツキ君の事で色々とお互いに話せますから。」

 

『いや、しかし博士の家にお邪魔する訳には…。』

 

「お気になさらず。その方が節約にもなりますし。」

 

と博士の圧に父が折れる形となり、神原一家がオダマキ家に滞在する事が決まったのである。

 

 



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22.無理でしょう

皆さん、本当に毎度毎度誤字・脱字が多くてすみません。
ご協力感謝します。


 

 

翌朝、いつものルーティンの為オダマキ家から出る。

ポケモン達をボールから出すとタツベイを含む手持ち達が姿を現す。

保護したタツベイ種達は色々と立て込んでいた為、一時ボックス預かりとなっていたがこのタツベイだけは、是が非でも離れない!とタツキの足にしがみ付き離れようとしなかった為、こうしてタツキの元にいた。

 

タツベイは、シャモ達の姿を確認すると手持ち達の前まで行き、勢いよく頭を下げた。

 

その姿に驚くタツキだったが依然として頭を上げないタツベイ。

 

「シャモ、シャーモ!」

 

とシャモが声をかけるとバッ!と擬音が聞こえそうな速さで頭を上げ手持ち組を見る。

ゆっくりと手持ち組が近付きそれぞれコン!とタツベイの頭を小突いていく。

 

「サー、ナイッ!」

 

フェルが一声かけ、微笑みかけるとタツベイは何度も頭を下げ、ボロボロと涙を流す。

その様子を見た手持ち組が慌てだし、それぞれタツベイの頭を撫でていく。

 

どうやら頭を小突いた事で今回の事は水に流すらしい。その対応に感極まったタツベイが泣き出し、他は慌てるといったホームドラマみたいな落ちである。

 

それを見てタツキは笑い出す。

そんなタツキにフェルが近寄り微笑みながら地面を指差す。

 

「どうした?」

 

フェルの隣でシャモが正座しており、厳しい目でこちらを見ている。

 

「正座しろって?」

 

立ち上がったシャモも含め、タツベイ以外の全員が頷く。

タツベイはグライオンの背中から顔を覗かせている。

 

「いや、どうしたフェ「サー!」

 

タツキの声を遮り珍しく語尾を強めたフェルが再度地面を指差す。

何も言わず正座するタツキ。

それから10分ほど手持ち組からお小言を頂き、改めて皆んなに心配をかけた事を理解する。

 

「ごめん。もう、しない。とは言えないけどもっと皆にも頼らせてもらうよ。」

 

タツキは手持ち組に対しそう口にする。

手持ち組は頷きそれぞれがタツキを抱きしめる。

 

(本当皆んなに心配かけちゃったな。)

 

と改めて反省するタツキ。時計を見るとオダマキ家の面々も起きてくる様な時間となり、オダマキ家へと戻る事にする。

 

オダマキ家へ戻ると既に博士もハルカちゃんも起きており、お互いに朝の挨拶を交わす。

 

「そうだ、タツキ君。君のご両親達は昨日の夜の便でこちらに向かうと言われてたから午前中にはミシロに到着予定だよ。」

 

昨日の通話時にお互いの連絡先を交換した父とオダマキ博士が夜も連絡をとっていた様で到着時間の報告を受ける。

 

「そうですか。わかりました。では研究所で待っていた方が良いですね。」

 

「そうだね。それなら入れ違いにならないだろう。」

 

鬼が到着するまであと数時間。

 

朝食を頂いて少しの休憩を挟み、博士と一緒に研究所へ向かう。

昨日のドタバタでボックス預かりとなっていたタツベイ種達を研究所のポケモン用のスペースへ出していく。

初めは、キョロキョロと辺りを見回していたタツベイ種だったが他のポケモン達の少ない木陰に移動して固まりだした。タツキは同じく保護したタマゴを体格の大きいコモルーの周りに置く。

 

「ギャァグ」

 

とコモルーが一鳴きするとタツベイ達がタマゴの周りに座り込み、その周りにコモルーが座り始める。

 

「ボーマンダの治療に時間がかかってる。もう少ししたら様子を見に行ってくるからこれからの話は、ボーマンダが帰ってきてからにしよう。」

 

タツキが体格の良いコモルーにそう告げると

 

「ギャ」

 

と返答がくる。

そんな事をしていると研究所の入り口が騒がしくなる。

タツキが研究所の中に戻ると、神原一家が到着した様で父もとい鬼がこちらに向かって来た。

 

  ゴンっ!!

 

「痛った!」

 

「何が「痛った!」だ!バカヤロー!心配かけさせて!怪我の事だってオダマキ博士が言わなかったらこれからも言わないつもりだったんだろうが!」

 

と久しぶりに会った父から鉄拳制裁をくらい、ガミガミと1時間みっちりと絞られた。

 

「すみませんでした。以後気をつけます。」

 

研究所の床に正座したタツキは、腕を組み仁王立ちする父に向かい頭を下げる。

 

「本当に心配したんだから!生きてて良かったわ。」

 

溜息を吐きながら母からもお小言を頂く。

 

両親からの説教が終わり、タツキはボーマンダの様子を見る為ポケモンセンターに向かいたいと告げる。

研究所の面々以外に何故か神原一家も付いてくる事となった。

オダマキ博士とタツキを先頭にポケモンセンターを目指す。

 

ポケモンセンターに到着するとオダマキ博士とタツキを見たジョーイがこちらです。と治療室へ案内する。

治療室はポケモンを横にする寝台があり、万が一ポケモンが暴れても大丈夫な様に半分から強化ガラスで区切られている。今はボーマンダが寝台に横になっていた。

 

強化ガラス越しにボーマンダの様子を見る。

ボーマンダの身体は血液が拭き取られ、綺麗な青い体色が見える。しかし落石の傷痕は痛々しく、右眼は傷付き白く濁っており左の翼は千切れ右翼と比べても三分の一程の大きさしか無かった。

ジョーイから詳細な説明を受ける。

タツベイをボールから出しタツキが抱え、一緒に説明を聞く。

 

「正直言いまして、タツキ君があの場にいなければ間違いなくあの子の命はなかったでしょう。それほどの重傷でした。見ての通り、右眼は落石で傷付いた箇所から細菌が入り込み、現在は殆ど見えていないでしょう。左翼の状態から見ても今後飛べる様になる事はまず不可能と言えます。もちろんバトルなんてとても出来る状態ではありません。今の状態ではまず野生で生きていく事は出来ないでしょう。どうされますか?」

 

タツキ自身も流星の滝で見た時から何となく予想はついていた。

しかし、専門家ならと淡い期待に縋ったのだが結果は変わらなかった様だ。

タツキが抱えているタツベイも大きな瞳に涙を溜め話を聞いていた。

 

「少し、時間を下さい。」

 

タツキはそう言うとボーマンダのいる部屋へ入っていく。

両親が止めようとするもタツキの方が速かった。

 

「ボーマンダ。すまない。」

 

タツキはボーマンダの目を見て頭を下げる。

ボーマンダはその間目を逸らさずタツキを見つめていた。

 

「助けると言ってお前をここに連れてきた。でも後遺症なんかで野生じゃ生きていけないらしい。専門家にそう判断されたポケモンを野生に帰す事は俺には出来ない。」

 

その話を聞いてもボーマンダは目線を逸らす事はしなかった。

 

「だから俺のところに来い。」

 

タツキの一言にボーマンダは目を見開く。

まさか、そんな事を言われるとは思っていなかった様だ。

 

「約束通り他の奴らは野生に戻す。あいつらはお前が護ったお陰で怪我らしい怪我をしてない。十分野生で生活できる。でもお前は違う。だから俺のところに来い。俺のところでポケモン達の世話をしてくれないか?」

 

するとタツキの腕からタツベイが飛び出し、ボーマンダと会話を始める。

数分会話が続き、笑顔でタツベイがタツキの腕の中に戻って来る。

ボーマンダはタツキに頭を下げ、最初にボールに入った時と同じ姿勢をとる。

壁際の机に置いてあったモンスターボールを手に取り、ボーマンダの頭に当てる。

ボーマンダが光となりボールに吸い込まれていく。

 

ボールの揺れが収まると腕の中でタツベイが大喜びしていた。

 

タツキは皆んながいる部屋へと戻るとジョーイに

 

「ボーマンダは俺が引き取ります。」

 

「良いのですか?」

 

「気にしてません。大丈夫です。」

 

そうジョーイに告げる。ジョーイは一度目を瞑り。

 

「わかりました。あなたにお任せします。」

 

と言ってくれた。

 

一行はポケモンセンターを出て研究所へ戻る。

研究所のポケモン用のスペースへと戻って来た。

タツキが姿を見せるとそれまで横になっていたタツベイ種が身体を起こす。

タツキは近づきボーマンダをボールから出す。

タツベイ種が一斉にボーマンダに駆け寄り声をかける。

ボーマンダも一鳴きし、こちらを見る。タツキは更に近づきボーマンダの隣に座る。

 

「みんなも見てわかるだろうがボーマンダは野生に戻れない。そこまでの力は戻らなかった。」

 

タツベイ種もボーマンダの姿を見てわかっていたのだろう。抗議の様な声は上がらなかった。

 

「ボーマンダは広い場所が確保出来たら、俺のところで捕まえたポケモン達の世話をしてくれる事になった。お前達はどうする?俺は約束通り野生に帰す事も考えてる。」

 

そう言うと、タツベイ種達は皆俺に身体を擦り付けて来る。

 

「良いのか?今は広い場所もなくてこんな風に外に出してやる事も難しい。今までみたいな自由な生活も難しいんだぞ。」

 

タツキの言葉を聞いて体格の良いコモルーがタツキの足に身体を擦り付けて来る。

 

「わかった。なら皆んな俺の所に来い。いつか自由に走ったり飛べる場所を用意すると約束する。」

 

「タツベイ達が良ければタツキ君の準備が出来るまでここにいると良いよ。僕にもそれくらい協力させてくれ。」

 

タツキはオダマキ博士の言葉に驚いて振り向く。

 

「君は僕の助手だろ?」

 

ウィンクをしながらタツキを見るオダマキ博士。

 

(女だったら惚れてたかもな…。)

 

と苦笑いをしながら感謝の言葉を述べる。

 

「そうと決まれば今日はボーマンダ一家の引っ越し記念だ。仕事はやめてBBQでもしようか。」

 

オダマキ博士の提案に研究員達の喜びの声が響く。

 

 

場所を所長室に移しオダマキ博士と神原一家の話し合いが行われていた。

オダマキ博士は昨日伝えた論文の他にもう一つオーキド博士も加わり全く新たな理論の論文をタツキが書き上げ、近いうちに学会で発表される事が決まったと両親へ伝えた。

 

神原夫妻は自分達の息子が?と半信半疑だったが論文を見せ、タツキ自ら説明すると納得せざるを得ず、驚いてばかりだった。

更に2人を驚かせたのは、この論文の功績でタマムシ大学携帯獣学科博士号課程の通信教育課程への推薦が貰える事がほぼ確定していると言う事だった。

この世界では、ポケモンに関してではあるがこの様な飛び級と呼べる事が容認されている。

それは、ポケモンの事をより多く知る為の人材を埋もれさせておくのは世の損失という考えがあるからであった。

 

早ければ来年の4月から通信教育ではあるが小学5年生と大学生の二足の草鞋になる。

両親は大変喜んだがその一方で友達と遊びに行ったりと普通の小学生らしい事もして欲しいと思っていた。

 

そんな話をしていると昼時となり、一行はオダマキ家にて昼食をいただいた。

母のアズサはオダマキ夫人と気が合った様でお互いの旦那のことをあーでもない、こーでもないと話が弾んでいた。

妹のミオリはハルカちゃんが小さく可愛らしい事もあり妹が出来たみたいだと喜んでいた。

 

そんななか、タツキは父から旅の目的の進捗状況を聞かれる。

 

「そう言えば、バッジ集めは順調なのか?」

 

「あと三つ。」

 

現在獲得したバッジを見せながら答える。

これには、神原夫妻が再度驚く事になった。正直、三つでも獲れたら頑張った方だと思っていたがまさかの後三つである。予想と現実が反転してしまっていたのだ。

 

昼食後、神原一家はオダマキ夫人と一緒にBBQの買い出しに来ていた。

研究員やポケモン達を入れると相当な数になる。数人で手分けして荷物を持ち、持ちきれない分はフェルのサイコキネシスで浮かせて運ぶ。

神原夫妻は進化したフェルに驚き、ミオリはフェルがお姉ちゃんになった!と抱きついた。

フェルも抱きついてきたミオリに驚くも優しく受け止め、頭を撫でる。

 

無事研究所まで荷物を運び終える。

神原一家がタツキの手持ち達を見たがりBBQ会場でもある先程のフリースペースに来ていた。

タツキはボールを取り出して一斉に投げる。ボールからポケモン達が出てきてタツキの前に並ぶ。

 

「シャモも進化してる!」

 

ミオリの元気な声が響きシャモに抱きつく。

 

(お前は抱きつかないとダメなのか?)

 

そんな事を思いながら一体ずつ紹介していく。

神原夫妻は進化している事もそうだが一眼見てわかるほどに手持ち達のレベルが高い事に驚いた。

 

「そう言えば、ポチエナは元気か?」

 

タツキはミオリにあげたポチエナが元気にしているのか気になった。

 

「おいで、エナちゃん。」

 

そう言うとミオリはボールからポチエナを出す。

ニックネームはエナちゃんらしい。

ポチエナは出て来るやミオリの足に擦り寄る。タツキの存在に気がつくと尻尾を振りタツキに駆け寄る。

 

(前世では、ハイエナがモチーフと言われていたがこうやって見ると本当に犬だな。)

 

と思わず苦笑いをしてしまう。

 

そうこうしてる間にBBQか始まり人もポケモンも騒ぎながら日が暮れていくのだった。

 

 



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23.価値観と退行と

BBQから二日。

 

左腕の怪我の事もあり両親付き添い、もとい監視の元ジム巡りの許可がおりた。

 

ヒマワキシティを目指しミシロタウンを出発する。キンセツシティまではバスでノンストップで移動。

キンセツシティからは、バスと徒歩での移動となる。

途中、いつものようにレベリングと分布調査をしながら進み、無事キバニアをゲット。

ゲットしたキバニアを見て表情を緩めながら

 

「愛嬌のある顔だよなぁ。」

 

と呟くと

 

「「「いや、ないない。」」」

 

と家族総出で否定される。

この顔が否定されるなんて、世の中歪んでんなぁ。と一般論から著しくズレた事を考えるタツキ。

 

順調に進んでいくとチルットの群れを見つける。

 

(こんなとこにチルット?ゲームじゃここらには出なかった筈…。)

 

タツキは写真に収め先に進もうとするが

 

「可愛い!!オラあの子ゲットしたい。」

 

ミオリがチルットに目を奪われ、捕獲したいと言い出す。

タツキは溜め息を吐きながら

 

「なら、自分で捕まえなよ。ボールやるからさ。」

 

話ながらミオリにモンスターボールを三つ投げ渡す。

 

「お願いエナちゃん!」

 

ミオリの投げたボールからポチエナが飛び出し、チルットを威嚇する。

 

「エナちゃん、ちょうはつ!」

 

「チルッ⁈」

 

うたうを使おうとしたらしいがポチエナのちょうはつの方が早く決まり、チルットはうたえなくなる。

 

「そのままかみつく!」

 

チルットは空に逃げて回避し、チャームボイスを放つ。

 

「避けて!」

 

「多分、チャームボイスだ。必中技だぞ。」

 

「絶対当たるの?ズルい!!!」

 

ミオリは必中と聞き、地団駄を踏む。

チャームボイスがポチエナにヒットしタタラを踏む。

 

「エナちゃん、こわいかお!」

 

(こわいかおで素早さを下げた⁈この世界じゃ使われない戦法だぞ⁈)

 

ミオリは小さな頃からタツキがテレビに向かって指示を出していたのを見ており、その際にタツキからある程度の変化技についての話を聞いていた為、変化技の有用性を知っていた。タツキからポチエナをもらってからは野生のポケモン達と戦ううちに何となくその有用性を理解していたのだ。

 

チルットはポチエナのこわいかおを見て一瞬動きが止まる。

 

「エナちゃん、そこの木を使ってジャンプ!おんがえし!」

 

ポチエナのおんがえしがチルットの急所に当たる。

そのままチルットは地面に落ち、尚も諦めず攻撃しようとしたその時

 

「行け!モンスターボール!」

 

ミオリの投げたモンスターボールがチルットに当たり、チルットがボールの中に入る。コロコロと転がるボールを家族皆んなで見つめる。

 

カチッ!と音がしてボールは動きを止める。

 

「やったーー!初ゲット!」

 

「すごいぞミオリ!」

 

父も娘のバトルを見てテンションが上がったらしい。

ミオリを抱き上げくるくると回る。

 

「ちょっと!お父さんやめて!」

 

ミオリの抵抗に慌ててミオリを地面に下ろす。

 

ミオリはチルットの入ったボールを持ち上げ、チルットをボールから出す。

 

「チルッ!チル?」

 

と首を傾げるチルット、元気良さげに鳴いているが先程のバトルの傷も残っている。

 

「ミオリ、傷薬使ってやりな。」

 

タツキは自分のバックから傷薬をミオリに渡す。

 

「ありがとう。お兄ちゃん。チルちゃん、傷薬だよ。」

 

タツキから受け取った傷薬をチルットにかけてやるミオリ。傷薬のお陰でバトルの傷も大分癒えたように見える。

 

(それにしてもミオリのやつ、この調子で成長したらそこらのジムリーダーより強くなるぞ。)

 

タツキはミオリのバトルに将来の可能性を見て、将来の夢が気になった。

 

「ミオリは、バトルの筋が良い。将来は何になりたいんだ?」

 

「オラね。お化粧とかで色んな人を綺麗にしたい。」

 

将来の夢を話すミオリを両親は微笑ましく見つめている。

タツキはタツキでポケモンに結び付け考えていた。

 

(綺麗にしたい…か。それならこの先にぴったりのヤツがいるじゃないか。)

 

両親はこの時の事を「タツキが悪者の親玉みたいな顔で笑ってた。」と語っている。

 

「ミオリ、それならぴったりのヤツがこの先にいる。そいつも捕まえてみな。」

 

その発言を聞きミオリは勘違いをする。この先に綺麗なポケモンがいると思ったのだ。

 

「本当?それならオラ頑張って捕まえる。」

 

そう意気込むミオリを連れ、一家は道を進んでいく。

歩いていると水辺に出た。上流に滝があるのだろう、水の落ちる音が聞こえて来る。

 

「ここらにいる筈なんだけどなー。」

 

とタツキが水面を眺める。それに倣いミオリも水面を眺める。

少しの間そうしていると水面からお世辞にも綺麗とは思えないポケモンが顔を出す。

 

「いた!ミオリ、あいつだ!」

 

タツキの発言にミオリはタツキの顔をまじまじと見つめる。

 

「お兄ちゃん、この子?」

 

疑うようにタツキに聞いてくるミオリ。

 

「そうそう。この子!」

 

タツキの返答に

 

「えぇー。この子綺麗ってより可愛いって感じじゃん。」

 

ミオリの発言に両親は「「えっ⁈」」と声を出してしまう。

コソコソと夫婦は会話を始める。

 

「タツキといい、ミオリといいうちの子供達の美的センスは壊滅的じゃないか??」

 

「どうしてこうなったのかしら…?」

 

と両親は共に首を傾げるのだった。

 

水面に顔を出したポケモン、ヒンバスは自らの耳を疑った。

それまでは、汚い、気持ち悪いとしか言われなかった自分の事を目の前の子供は可愛いと言った。

ヒンバスは子供に興味が湧き、恐る恐る近づく。

 

「きゃー!こっち来たよ。触っていいかな?」

 

ミオリもヒンバスが近くに来た事で興奮を隠せない。

 

「いいんじゃないか?ゆっくりと手を出してみな。」

 

タツキの助言を聞き、ゆっくりと手を差し出しヒンバスの頭に触れる。

 

「ツルツルしてて冷たくて気持ちいい。」

 

と嬉しそうに笑うミオリ。

 

「そうだろう。この子はヒンバスって言うんだ。こんな可愛い子をもっと可愛く、綺麗にしたいと思わないか?」

 

ヒンバスは驚いた。もう1人いたのだ。自分を可愛いと言う子供が。

ヒンバスは急いで水面に潜り移動する。伝えねば!と

 

水面に潜ったヒンバスを見てミオリが溜め息を吐く。

 

「お兄ちゃん、行っちゃったよ…。」

 

「そんな顔するな。もう少ししたらまた顔を見せてくれるさ。ちょうどお昼も近いし、ここらでご飯にしようと思うけど良い?」

 

クルッと振り向き両親へお伺いをたてる。

 

「そうだな。そろそろ昼にするか。オダマキさんがくれた弁当もらあるしな。」

 

神原一家は近くの木陰で昼食を摂ることにした。

昼食を食べ、食休みとして川に足を入れて涼んでいると何と川から多くのヒンバスが顔を出したのだ。

 

「きゃー!また来てくれた!今度はいっぱい!!可愛いー!!」

 

と大量のヒンバスを見てミオリのテンションが一気に上がる。

タツキはヒンバスにポロックをあげながら話しかける。

 

「良ければ君達、一緒に来ない?今はないけどいつか君達が満足に泳げる池を作るよ。それにもっと可愛くなって世間を驚かせてやろうぜ。」

 

「狡い!オラとも友達になろ!」

 

するとヒンバス達はタツキ達の足に群がる。

 

(これは良いって事かな?)

 

と持っていたモンスターボールを一匹の頭に当てるとヒンバスはボールに吸い込まれ、転がる事なくカチッ!と音がする。

 

(こ、これが俗に言う友情ゲットか!)

 

タツキはゲーム内ではまず見かけない、現実の世界特有の友情ゲットに感極まっていた。

 

「オラも!」

 

とミオリもヒンバスの頭にボールを当てる。

こちらも転がる事なくゲットする事が出来た。

最終的にはヒンバスを6匹捕獲する事が出来た。

とりあえず、お互いに最初の一匹を手持ちにし、他のヒンバス達をボックスに預ける。

 

目的を達成し、一家はまた歩き始める。

途中新入り達のレベリングと捕獲も忘れる事無く進んでいく。

日も暮れかけ、あと少しでヒマワキシティというところでそれは起こった。

 

「そこの君、良かったらバトルしないかい?(コイツで憂さ晴らしでもするか。)」

 

ミオリにバトルの申し出があったのだ。これまではリーグ協会のマナー規定からミオリにバトルが申し込まれる事はなかった。

 

(リーグ協会のマナー規定から外れる行動?)

 

この世界のポケモンバトルにはマナー規定というものがポケモンリーグ協会で定められており、物凄く簡単に言うと15歳以下のトレーナーに15歳以上のトレーナーが自ら野良バトルを仕掛ける事はマナー違反となる。逆は可。

罰則として1番厳しいものでトレーナーIDの剥奪も考えられる。

 

タツキは相手を怪しく思い、これからのバトルを携帯で録画する事にした。

 

バトルが始まる。相手が使ったポケモンはラムパルド、オノノクス、ドサイドン。

この脳筋世界では上位に入る種族値を持つポケモン達だ。

これだけならまだミオリには育成時間がなかったで済んだ。

 

しかし相手は、口では優しそうな事を言っているがバトルは完全な力押し。レベル差などもあり、ミオリに反撃の余地はなかった。そもそもミオリに反撃させるつもりもなかったと思われる。

 

(完全にサンドバッグだな。)

 

とてもバトルとは言えない内容にタツキも不快な思いをする。

 

「ミオリ、気にするな。って言っても気にすると思うけどさ、何もバトルは力が全てじゃない。俺から見たらお前の指示の方が上手かったぜ。しっかりと力の差を理解して変化技で少しでもその差を埋めようとしてたじゃないか。今のスタイルで良いんだよ。間違ってない。」

 

タツキはそう言ってミオリの頭を撫でる。

 

「でも負けちゃったよ。」

 

「今はな。そりゃ見る限り相手の方がレベルも高かった様だし、何より相手はお前より長くバトルの世界にいるんだぞ。相手は力押し、お前は技で工夫しようとした。土俵が違う。でも同じ土俵でやってもきっとレベルなんかもあって勝つ可能性は低かったと思う。」

 

「ほら〜、やっぱり負けるんじゃん!」

 

「だから今はって言っただろ。お前のポケモン達が相手と同じレベル帯だったらお前が勝ってたと思うぞ。お前は俺みたいに細かく戦術やらを研究してないだろ。それでもあそこまで粘れたんだ。お前じゃなくて他の子だったらもっと早く勝負がついてたと思う。ポケモンはレベルが少し違うだけでもそれが大きなアドバンテージになる。今日で良くわかったんじゃないか?確かに好きなポケモンで勝てればそれに越した事はないしその気持ちは大切なものだ。でもな、気持ちだけじゃ勝てなくなるのもポケモンバトルだ。本当に好きなポケモンで勝ちたいならしっかり育てて、その子に合った戦い方をポケモン達と考えないとな。」

 

「わかった。エナちゃん達を勝たせてあげたい。」

 

「わかったらよし。ジム巡りが終わったらゆっくり教えてやるよ。」

 

タツキがミオリを慰めていると

 

「俺の勝ちだね。君も強くなりたいならそんなポケモンじゃダメだよ。でも君みたいにこわいかおとか、良くわからない技を使うようじゃどんなポケモン使っても勝てないかもね。ヒンバスみたいな汚いポケモン使ってたらダメだよ。」

 

相手はミオリのポケモンを馬鹿にし今みたいなバトルをしてると勝てないと言い、歩きだす。

 

これにはタツキもプッツン!とキレてしまったのだ。

タツキは今すぐに相手の胸ぐらを掴んで罵倒したかった。しかし、ここにはミオリや両親がいるためそれが出来ない。

考えたタツキはその場を離れる相手のところへ向かう。

 

「おにーさん。今度俺ともバトルしてよ。今じゃなくてもいいからさ。」

 

「ごめんね。約束は出来ないかな。それに君みたいな小さな子とバトルしてもねぇ…。」

 

断られる事は百も承知。しかしタツキは、先程のミオリとのバトルの一部始終を携帯で動画として保存していた。

ミオリの顔は分からず、相手の顔はしっかりとわかる画角で録画していた。

 

「これリーグ協会に送っても良いんだけどなぁ。小さな子にバトル仕掛けるわ、相手の事やポケモンを侮辱するわ、さっきのバトルにマナーなんて一つもなかったからね。」

 

「チッ!クソガキ!やってやるよ!今からすんのかよ?」

 

「あっ!それが本性ですか⁈まぁ、良いですが。バトルは2時間後にここで!それまでにしっかり回復させてくださいね。負けた言い訳されたくないんで!」

 

「てめぇもあのガキみたいに泣かしてやるよ!ゴミの敵討ち出来ると良いな!2時間後覚悟しとけ!」

 

タツキはブチキレそうになるもミオリや両親が近くにいるため、深呼吸をして自分を落ち着かせる。

 

ミオリはバトルが終わりボロボロと泣き崩れた。

ミオリが泣き止むのを待って一家はヒマワキシティへ向かう。

ポケモンセンターで回復をしてもらい、部屋をとる。タツキはいつも通り1人部屋を希望するが両親に難色を示される。

いつも通りの旅がしたいと押し切り1人部屋を確保。

 

早い夕食を済ませて、タツキはレベリングをすると外に出る。

 

(あのクソガキ、ちゃんと来てるだろうな!!)

 

約束した場所まで戻るとさっきのクソガキ君が逃げずに来ていた。

 

「俺が勝ったらさっきの動画消してもらうぜ!本気でやってやるからなぁ!」

 

「出来るならやってみろや!3タテくらわせてやるよ!」

 

家族がいなくなった事でタツキの口の悪さが大変なことになっていく。

 

「馬鹿かお前?俺はまだ出た事ねぇが、俺のポケモンはなチャンピオン大会常連のトレーナーも使ってる最先端のポケモンだぜ!負けるわけねぇだろ!チャンピオン大会前に勢い付けてやるよ!」

 

「知ってるかクソガキ!最先端は更新されるもんだ!それに俺に言わせれば今の力だけのバトルなんざ眼中にねぇんだよ!魅せてやるよ!完成してねぇが、対策しねぇと3タテされる様な戦術の最先端を!」

 

明らかに相手の方が歳上だがキレているタツキはお構いなしに相手をクソガキと呼ぶ。

 

 

「いけ!ラムパルド!」

 

「いけ!グライオン!」

 

「はっ!グライオン?口だけかよ!ザコが!」

 

ボールから出て来たタツキの手持ち達は哀れみの視線を相手に送る。

グライオンの怖さを1番知ってるのは、普段から共に戦う手持ち達であった。

 

「やりゃ、わかるさ!泣いても許してやんねぇよ!」

 

「「バトル!」」

 

「グライオン、みがわり!」

 

グライオンの身体から光が抜け出し小さなぬいぐるみの様なモノを作り出す。

 

「みがわり?なんだそりゃ!ぬいぐるみ作っただけかよ!ラムパルド!かわらわり!

 

ラムパルドが右手を勢いよく振り下ろすが、その攻撃はグライオンではなくぬいぐるみへ炸裂した。しかしぬいぐるみは未だ健在。

 

「腕に向かってどくどく!」

 

グライオンはラムパルドの周りを旋回しながらその両腕へしっかりとどくどくを命中させる。

猛毒を浴びたラムパルドは苦しそうに表情が歪む。

 

「毒だと⁈」

 

「これくらいで狼狽えるなよ。じしん!」

 

狼狽え、上手く指示が出さないところにグライオンのじしんが炸裂する。

 

「くそ!ストーンエッジ!」

 

ラムパルドの攻撃はまたもやぬいぐるみに向かう。

 

「なんだよ⁈は⁈」

 

「バトル中だろーが!じしん!」

 

再びグライオンのじしんをくらいよろめくラムパルド。

 

「遅くしろ!どくどく!」

 

グライオンはその指示のみでラムパルドの足にどくどくを命中させる。

猛毒の痛みでタタラを踏むラムパルド。

その間もグライオンは高速で動き周りラムパルドを撹乱する。

 

「くそ!しねんのずつき!」

 

指示を出すものの、ラムパルドは動かずゆっくりと倒れる。

 

「ほら、ラムパルド戦闘不能だぜ!」

 

「クソ!戻れ!ラムパルド!次だ、オノノクス!」

 

「遅くだ!どくどく!」

 

足元を狙ったグライオンのどくどくを間一髪で交わすオノノクス。

 

「オノノクス!かみくだく!」

 

オノノクスはグライオンではなくぬいぐるみに噛み付く。

この攻撃でグライオンのみがわりは耐久値を無くし、崩れ落ちる。

 

「ようやく、そのぬいぐるみを壊したぜ!そのままグライオンもう一度にかみくだく!」

 

「まもれ!」

 

グライオンの前に緑がかった半透明の壁が現れオノノクスの攻撃を防ぐ。

 

「どくどく!」

 

技名だけの指示だったが、先程の指示からグライオンはオノノクスの足に向けどくどくを放つ。

接近していた事で交わす事が出来ず、オノノクスは猛毒をくらってしまう。足元から来る猛烈な痛みに思わず膝を着くオノノクス。

 

「離脱からのみがわり!」

 

一度目のみがわりで減った体力をポイズンヒールが癒し、またもやぬいぐるみの生成に成功する。

 

「なんだ、そりゃ⁈卑怯だぞ!正々堂々戦え!」

 

「は?正々堂々と戦ってますが?みがわりもどくどくもまもるも立派なポケモンの技ですが、もしやお知りにならない?辞書にもしっかり載っているれっきとした技ですが?やはり、クソガキはお勉強が足らないみたいですね。もう一度小学校からやり直した方が良いのでは?「先生!みがわりって何ですか?技なんですか?」「クソガキ君、そんなおバカだからチャンピオン大会にも出れないんですよ!居残りしなさい!」あぁー、クソガキは結局小学校でも居残りですね。すみません。アンタみたいなクソガキが同じクラスにいたら他の子供達に悪影響ですね。保育園からやり直してはどうですか?保育士さん達が優しくポケモンの技について教えてくれると思いますよ。これでアンタみたいなクソガキもチャンピオン大会に出られますね。おめでとーございます。パチパチパチ。」

 

 

「こんのクソがぁーー!オノノクス!げきりん!」

 

「クソガキ君のオノノクスはお人形遊びに夢中ですね。グライオン。じしん。」

 

じしんはげきりんで暴れ回っていたオノノクスにクリンヒット。

足元からの猛烈な痛みもあり、オノノクスは地面に倒れてしまう。

 

「立て!オノノクス!」

 

トレーナーから立てと言われるもげきりんを使用した事で混乱しているのに加え、足の痛みもありなかなか立ち上がれない。

 

「毒塗れに!」

 

タツキの指示でグライオンはオノノクスの頭から猛毒を浴びせる。オノノクスは全身を猛毒に侵され、体色が紫へと変化している。

 

オノノクスの混乱は未だ治らず、トレーナーの指示を無視し自らを傷つけていく。

 

「終わらせろ。」

 

タツキの指示の元、グライオンは混乱し自らを傷付けるオノノクスに渾身のじしんを放つ。

攻撃、猛毒と自傷によって減った体力で耐えられる筈もなくオノノクスは倒れる。

 

「クソクソクソ!いけ!ドサイドン!」

 

「全身にどくどく!」

 

ドサイドンの素早さではグライオンの素早さに勝てず頭から猛毒を浴びてしまう。

 

「くそ!毒ばかり卑怯だぞ!」

 

「だから、アンタはクソなんだよ!世界のどこでも毒状態にしちゃいけませんなんて言われてねぇよ!そうさせねぇ様にトレーナーが指示を出してポケモンのサポートをすんだよ!自分が勝ってる時はなんでもありで負けてると文句付けんのか?本物のガキだな!そんなんじゃ一生チャンピオン大会出れねぇよ!ポケモンバトル舐めんじゃねぇぞ!」

 

「クッ!ストーンエッジ!」

 

みがわりがある為、ドサイドンの攻撃はぬいぐるみに向かっていく。

オノノクスのげきりんとドサイドンのストーンエッジでみがわりが壊れる。

 

「チャンスだ!畳み掛けろ!れいとうパンチ!」

 

「躱せ!」

 

持ち前の素早さでドサイドンを翻弄するグライオン。

負けじと全身の痛みに耐え凍った拳でラッシュをかけるドサイドン。

運悪く踏ん張りが利かなくなったドサイドンの拳がグライオンの予想と違う軌道で放たれる。

僅かに掠っただけだったが、そこは攻撃の種族値の高いドサイドン。

トラックに跳ね飛ばされたかの様に飛んでいくグライオン。

何とか体勢を立て直すも左の飛膜が若干凍り付いており、上手く飛べない様である。

 

「もう一度れいとうパンチ!」

 

「まもってみがわり!」

 

半透明の盾が凍った拳からグライオンを守る。その間に3体目のぬいぐるみか完成する。

 

「じしんで揺さぶれ!」

 

グライオンの毒でフラつく足は激しい揺れに耐えられず、倒れてしまう。

猛毒を浴びてから体を活発に動かした事で余計に毒が体を巡って行く。

毒とじしんのダメージはあるものの何とか立ち上がるドサイドン。

 

「ドサイドン!きしかいせい!」

 

きしかいせいは、自分の体力が少なければ少ない程に威力の出る技である。今のドサイドンが使えばどれほどの威力が出るかわからない。

しかしドサイドンの攻撃はみがわりで作られたぬいぐるみへと向かう。

一撃でぬいぐるみが崩れ去った事からどれほどの威力があったのかが良くわかるだろう。

 

肩で息をしているドサイドン。

辺りを見回すがグライオンが見つからない。

 

「上だ、ドサイドン!」

 

「じしん!」

 

グライオンはドサイドンの真上から急降下しじしんを放つ。元々素早さではグライオンに利があり、ドサイドンは猛毒でさらに動きが鈍い。

そんなドサイドンがグライオンに追いつける訳もなく、じしんがドサイドンの体力を削る。

 

じしんを放ったグライオンはドサイドンから離れ様子を伺う。

全身毒塗れのドサイドンは地面に倒れ、動かない。

 

「ドサイドン、戦闘不能だな。」

 

「わかったか!クソガキ!これがポケモンバトルだ!攻撃だけしてれば良いって訳じゃねぇんだよ!」

 

「うるさい!俺が弱いんじゃねぇ!コイツらが使えねぇポケモンだったんだよ!俺は負けてねぇ!」

 

「負けたのはポケモンのせいじゃねぇよ!てめぇが勝たせてやれなかったんだ!その小さなオツムで覚えとけ!同じポケモンでもトレーナーが変われば戦い方が変わる!てめぇは、どんなポケモンで戦っても勝てねぇよ!」

 

「うるさいうるさいうるさい!チャンピオン大会で吠えずらかかせてやるよ!」

 

と走り去る。

 

完全に姿が見えなくなるとタツキはグライオンの顔を見て、よくやったと撫でる。それと同時にかいふくのくすりを使う。

 

バトルを見ていた手持ち組もグライオンに近寄り話をしていた。

キバニアとヒンバスの新入り達はグライオンのバトルを見て力に技で渡り合う、そんなバトルを自分たちも出来る様になりたいと考えるようになる。

 

「うし、やる事やったし帰るか。てか、やっぱり口悪かったよな?良く考えるとあんなヤツにキレたのは恥ずかしいな。あれだけミオリに言っといてムキになるなんて…。」

 

キレたせいで精神年齢は40近い筈が、見事に退行してしまった様に感じる。

 

(めちゃめちゃ、煽ったしなぁ…。ミオリは美容系に進みたいみたいだけどバトルの仕方教えるって言っちゃったしな。チャンピオン大会くらいまで行ける様に教えてやるかな。なんだかんだミオリに泣かれると弱いんだよなぁ。今日のことでバトルを嫌いにならなければいいけど…。)

 

と自分の普段とのギャップに苦笑いし、これからのミオリのトレーニングメニューを考えながらヒマワキシティへ帰るタツキだった。

 

 

 

ーーー   ーーー

 

 

 

シャモ(バシャーモ) レベル64 ♂ かそく

     とびひざげり まもる フレアドライブ かえんほうしゃ

 

フェル(サーナイト) レベル64 ♀ トレース

     ムーンフォース めいそう 10まんボルト サイコキネシス

 

グライオン レベル63 ♂ ポイズンヒール

      みがわり まもる どくどく じしん

 

フライゴン レベル63 ♀ ふゆう

      エアスラッシュ だいちのちから 10まんボルト りゅうせいぐん

 

ボーマンダ レベル62 ♂ いかく

      りゅうのまい げきりん ストーンエッジ じしん

 

キバニア レベル29 ♂ さめはだ

     どくどくのキバ かみつく アクアジェット あくのはどう

 

ヒンバス  レベル30 ♀ どんかん

      りゅうのはどう ねっとう マッドショット なみのり

 

 



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24.六つ目

 

 

家族の知らないところで、タツキがキレて、精神年齢が退行してから一晩が経った。

 

タツキは朝のルーティンを行いながら

退行しながらも行ったバトルを思い返していてタツキは疑問に思う事があった。

どくどくを使用した後の相手の体力の減り方である。

元々、どくどくは相手を猛毒状態にする技で猛毒状態とは普通の毒状態とは違い、時間経過によって与えるダメージが増えると言うものだ。

 

しかし、昨日のバトルでは猛毒状態だとしても相手の体力の減りが早かった様に感じられた。

 

(猛毒状態の中にもランクがあるのか?)

 

そう考え、昨日のバトルをより詳細に振り返ってみる。

昨日のバトルを普段のタツキを知っている人が見れば目を疑う事だろう。普段のタツキとは似ても似つかない言葉使い、タツキは家族から離れてバトルした昨日の自分を褒めたかった。

 

(思い出せば思い出しただけ、黒歴史だな…。そんな事より毒だ。)

 

自らの醜態に目を瞑りながら毒の事を考えていく。

 

ダメージ量の増加を目に見えて感じたのは単純に相手の身体に付いている毒の量が増えた時だった。

ポケモンは毒を受けた場所によって微量にステータスの変化が起こる事は先日突き止める事が出来た。

それを踏まえて考えると、ポケモンは毒に塗れている部分が多くなれば多くなる程継続的な毒でのダメージ量が増えるかもしれない。

 

タツキはそう考え一つの仮説を立てた。

 

(これは、またオダマキ博士達と相談だな。)

 

考えをまとめ、朝食の為にポケモンセンターへと戻る。

ポケモンセンターの食堂を覗くも家族はいなかった。部屋まで呼びに行き、全員揃って朝食を摂る。

 

「タツキ、今日はどうするんだ?」

 

食事をしながら父が今日の予定を聞いてくる。

 

「今日はジム戦して、ミナモシティまで行くつもり。昼過ぎまでにミナモに着けたら高速船でトクサネジムも行こうと思ってるけど。」

 

「ミナモと言ったら大きなデパートがあったでしょ?買い物もしたいわよねぇ。」

 

呑気にそんな事を言う母。

 

「デパートは必要な物だけ見て後は良いかな。もし見たいなら別行動で。」

 

「なら夜はポケモンセンターで会えるのね?」

 

母の言葉にタツキは首を傾げる。

 

「みんな買い物したらトクサネまで来るの?」

 

「ミナモに帰って来ないの?」

 

変わらず首を傾げる母、どう考えたら戻って来ると思うのかが謎である。

 

「戻らないよ。今日トクサネまで行けば明日のルネジムでバッジも八つ揃うしさ。」

 

タツキの話を聞き、考えだす母。

ミオリはデパートと聞いて、行きたいと連呼しているが少し喧しいのでそのままにしておく。

 

「ならジム巡りが終わってからデパートに行きましょう。」

 

ここでタツキは気が付く。うちの家族はいつまでついて来る気なのか、と。

この様子では、しっかりルネまで付いて来そうである。

そんな話をしているうちに朝食を終えていた。

 

「じゃあ、ジム行くよ。」

 

と席を立つタツキ。それに続き皆自分のお膳を返却口に返しに行く。

 

 

     *** ***

 

ジム戦はいつもの事ながら圧勝。

無事六つ目のバッジを手に入れた。

 

めいそうを積み、サイコキネシスで動きを止め、10まんボルトを当てる。もはや作業ではないかと疑うってしまうものだった。

ポケモンセンターで一応回復してもらい、ミナモシティを目指し進む。

 

「お前いつもあんな感じでバトルしてるのか?」

 

歩き始めて10分程経ったところで父が話しかけてきた。

 

「そうだね。正直ジム戦も楽しくないんだよ。ジムリーダー達も押せ押せのバトルしかしないからさ。あのバトルに駆け引きなんかないからね。でも今は、世間がポケモンバトルってそんな感じだと思ってるけどそれは間違ってる。」

 

「俺は、バトルの事はよくわからないがそう言うものなのか?」

 

「まぁ、今みたいな力と力のぶつかり合いは観てる方からすれば面白いんじゃないかな?迫力あるしね。でもだからってポケモンが皆んな力が強いとは限らないでしょ。だからバトル界がどんなポケモンでも、考え方・戦い方を工夫すれば勝てる様になってほしいよね。そうすればみんながもっとポケモンを知りたいって思う筈だしね。」

 

タツキは自分の考えを少し口にする。

確かに戦略的なバトルは今みたいな真っ向勝負より派手さには欠けるだろうが戦略がはまった時の驚きは今のバトルの比ではないだろう。

 

話ながらも分布の調査やレベリングを続け、途中からバスで移動。太陽が真上を少し過ぎた頃にミナモシティへ到着出来た。

時間も昼時であり、食堂に入って昼食にする事にした。

 

食堂内は観光客が多く、浜辺から近い事もあり海帰りの人達も何グループか見受けられた。

 

昼食を済ませて船着場へ向かう。

次のトクサネシティ行きの高速船の時間を見ると一時間後となっており、とりあえずチケットを購入。暇つぶしにとデパートへ行く事になった。

 

「30分後にまたここに集合で。来なくても俺はトクサネに行くからね。」

 

と家族に告げるタツキ。基本的にタツキは予定の時間よりも早く到着したいタイプで船着場で5分程待つ為に移動時間も考え、あと30分なのである。

 

「じゃあ、30分後にね。」

 

それぞれ思い思いの階層に向かう。

タツキは技マシン売り場へ一直線。財布の中は潤っており、今後の事も考えて売っている技マシンを一つずつ全種類買う予定である。

 

技マシン売り場へ行くと盗難防止の為だろう、ガラスケース内に陳列されており近くの店員の元に歩いていく。

 

店員に技マシンをそれぞれひとつずつ買いたいと告げる。

店員はタツキをまじまじと見て

 

「君が?」

 

と疑わしい表情で見てくる。

お金はしっかりとある事を伝えると疑いながらレジへと向かう。

最後まで疑わしい表情は崩れなかったがどうにか購入する事が出来た。

 

集合場所まで戻ってくるが時間まであと10分程ある為、まだ誰も戻って来ていない。近くの椅子に腰掛け家族を待つ。

 

無事集合時間に全員が揃い、乗り遅れる事なく高速船に乗ることが出来た。

 

「お前、毎回こんな感じなのか?」

 

タツキの旅の様子を見て父が声をかける。

 

「どんな感じ?」

 

しかし、タツキは父が言おうとしていることがわからない。

タツキはポケモンに触れ合えるこの旅に不満などこれっぽっちも感じていなかった。

 

「もっと観光とかしたいと思わないのか?」

 

「ん〜、思わないね。ポケモンといる方が面白いから。あっ!でもサッカーとか英会話とかフランス語とかしてみたいな。」

 

タツキの思わぬ希望に両親は驚いき、喜んだ。タツキは昔からポケモンの事では我儘を言うが、今の様にポケモン以外でのお願いはほとんどないのである。

 

「なんでサッカーと英会話なの?」

 

夫婦は息子が興味を持った理由を知りたかった。

 

「サッカーは体力とか足腰の為かな、後はサッカーって野球とかと違って入り乱れてるでしょ?だから判断力とか付くかなって思ってさ。英会話とかフランス語は海外にもポケモンリーグがあるからね。会話出来た方がいいでしょ?」

 

夫婦はタツキの話を聞いて思った。

 

「「あぁ〜、やっぱりポケモン…。」」

 

両親は結局タツキの行動の中心には必ずポケモンがある事を再確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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25.七つ目とゆきんこ

 

 

高速船で無事トクサネシティに着いた神原一家。

 

「さっさとジムに行こう!明日の為に!」

 

「明日何かあるの?」

 

「明日行きたいところがあるから、なるべく長くいられる様にしたいんだよ。」

 

母からの質問に答えるタツキ。

トクサネの近くには浅瀬の洞穴がある。

ここには、タツキの求めるポケモンが生息しており、なんとしてもお近付きになりたいのだ。

 

(待っててくれ!ユキワラシ!俺は明日会いに行くからな!)

 

にやにやしながら明日の事を考えるタツキ。

ことポケモンに関しては変態性が抑えきれず溢れ出して来てしまっている。

 

トクサネジムへ向かい、サクッとジム戦を済ませ、七つ目のバッジをゲットした。

 

家族は宇宙センターなど見てみたいと言う事でタツキは一人ポケモンセンターで休む事にした。

2時間程で観光から帰ってきた家族と合流し夕食を摂る。

タツキは早めに部屋に戻り明日出会えるだろうユキワラシに想いを馳せ横になる。

 

 

 

   *** ***

 

 

翌朝、神原一家は朝食を済ませるとタツキの目的とする場所へ向かっていた。

タツキは進化したばかりのサメハダーの背に乗り海を渡る。

ミオリはチルタリスに乗り、両親はタツキのフライゴンに乗り空から浅瀬の洞穴へ向かう。

 

ミオリのチルットは道中のタツキのレベリング中に似たようにバトルをしていた事でレベルが上がり進化していた。

モコモコの羽で今ではミオリの枕としても大活躍である。

 

浅瀬の洞穴内へ進み、分布の調査を行う。

レベリングは普段から行っている為、特に予定はないがサメハダーとヒンバスは未だレベルが低い為洞穴内の戦闘は基本的にこの二体が行っていた。

一階の調査を終え、地下へ降りていく。分布調査を行なっていくがほとんど一階と変わらない。

 

「あのアザラシ可愛いよねー。」

 

どうやらミオリは途中で見たタマザラシを気に入った様だが全く見かけなくなってしまった。

ミオリの手持ちはグラエナのエナちゃん、チルタリスのチルちゃん、ヒンバスのレイくんの三体。

 

「今の三体でバランスでいいんじゃないか?ここは水・氷タイプが殆どだからなぁ。」

 

「別にオラは、バトルする訳じゃないからバランスとか別にいいし。可愛い子だったらいいし。」

 

と言う事でタマザラシを探しに行く事に。

それから洞穴内を歩き回りタマザラシを捜索するが一向に見つからず、今回は諦める事になった。

 

「さっきお兄ちゃん何匹か捕まえてたじゃん。お願い!!」

 

「嫌です。」

 

ミオリから譲ってくれと言われるがタツキはキッパリと断る。

 

「なんで!いいじゃん!」

 

「俺の夢だから。ダメです。」

 

「何夢って?」

 

「出会えたポケモンと一緒に生活する事。そんで皆を研究する。」

 

「何匹くらいと?」

 

「捕まえられたポケモン全部。」

 

「…今ってポケモンどれくらいいるの?」

 

「800種類くらい。」

 

「無理じゃん!場所ないし。」

 

「どうにかするんだよ!その為に博士の研究とかしてお金稼いだりしてんの!だからあげません!誰になんと言われようが嫌です。」

 

タツキがそう言うと頬を膨らせながら何も言わなくなるミオリ。

タツキからもらう事は諦めた様で静かになる。

 

一応更にタマザラシを探しながら下へ向かおうと考えながら歩いていると奥の方に特徴的な笠の様なモノが見えた。

しかし、その色はタツキの知っているものではなかった。

笠は震えている様に見え、近づいて行くと急に振り返り違う方に走って行ってしまった。

 

(ユキワラシだよな。泣いてた…?てか色違い⁈)

 

振り返るが姿は既に見えなくなっていた。

 

「お兄ちゃん、あの子怪我してたし泣いてたよ!」

 

どうやらミオリも気が付いていた様だ。

近くを探してみるが見つからず、仕方なしに下へ向かう。

 

下の階層を調査していてもなぜかミオリのお目当てであるタマザラシは出てこない。トドグラーはこれまでに何体か見ているがミオリは自分で育てたいからとトドグラーは捕獲しなかった。

 

(あと何部屋かで調査も終わるな。)

 

と洞穴内を歩いていると奥で何かが騒いでいるのがわかる。

近寄って行くとオニゴーリに囲まれているユキワラシが見える。

しかもそのユキワラシは他の個体と大きく体色が違っていた。

 

(あの時の子だ。)

 

と思っている間にユキワラシの近くにいたオニゴーリが大きな口を開けユキワラシに噛み付こうとする。

 

タツキはホルダーからシャモのボールを取り投げる。

 

「シャモ!かえんほうしゃ!」

 

シャモの口から放たれた炎がユキワラシを狙ったオニゴーリに当たる。オニゴーリは不意の攻撃に吹き飛んでいく。

他のオニゴーリ達もタツキとシャモの存在にユキワラシから距離を取り始める。

 

「あの怪我そう言うことか。」

 

とタツキはオボンの実をいくつか取り出し。傷ついたユキワラシの所へ向かう。

シャモはその間も警戒態勢を崩さずオニゴーリ達を見張っている。

ユキワラシは近付くタツキに怯え、離れようとするも痛みからか上手く動けていない。

 

「ほら、食べな。少しは楽になる。」

 

タツキはユキワラシの隣にしゃがみ込みユキワラシにオボンの実を差し出す。ユキワラシはタツキの顔とオボンの実を交互に見る。

タツキはその内の一つを自らが食べ、害がないのをユキワラシに見せる。

ユキワラシは離れたいが怪我の為動けず、仕方なくオボンの実を口にする。

タツキはユキワラシがオボンの実を食べ始めたのを見て、鞄から更にいくつかきのみを取り出しユキワラシの前に置く。

 

「きっと気が付けばさっきみたいに仲間に攻撃されてたんだろ?」

 

タツキの言葉にユキワラシの小さな身体が震える。

 

「人間もそうさ。自分達と少しでも違う所がある人間を爪弾きにしようとする。ポケモンも人間も変わらないよ。」

 

タツキの言葉を聞き、その両目に涙を溜め、震えるユキワラシはタツキを見つめる。

 

「人間はな、小さな時は今のお前みたいに目立つやつはダメなやつって言われるんだ。みんなと同じ子が偉い子だねって。でも大人になると今度は個性がない。凡庸だ。って言われるんだ。おかしいだろ?小さな時は皆にも色んな個性や得意な事があったのにさ、大人達に皆と違う事をする子は悪い子だ!って言われて子供達は自分の個性や得意な事を潰して苦手な事を克服して“普通”になろうと努力するんだ。それなのに大人になると色んな所で個性を出せとか、苦手の少ない人よりも得意な事が一つある人が良いとか言われるんだ。小さな頃に大人達が捨てさせた個性を大人になって要求してくるんだよ。だから、お前のその身体も別に気にしなくて良いさ。俺達の生きる大きな世界で見たらちっぽけなもんさ。」

 

ユキワラシはきのみを食べるのを忘れてタツキの顔をジッと見つめる。

タツキはユキワラシの目を見ながら頭を撫でる。

初めはビクついたユキワラシだったが徐々にタツキの手を受け入れていく。

 

「お前は変わらなくて良い。変わる必要なんてないんだよ。もしお前が良いなら一緒に来るか?」

 

ユキワラシはタツキの言葉を聞き、伏し目がちに頷く。

 

「おし、そしたらあそこにいるお前の仲間達にお別れのバトルだ。」

 

ユキワラシは目を見開き、首を振る。

 

「どうした?戦っても勝てないって?」

 

頷くユキワラシを見てタツキが言う。

 

「今までは勝てなかったかもな。でも今はお前一人じゃないだろ。俺がいる。任せとけ。大抵は一人より二人の方が強いんだぜ。」

 

タツキはそう言うとニッと笑いポケモン図鑑を使いユキワラシの情報を読み取る。

 

『ユキワラシ レベル26 ムラっけ  にらみつける こおりのつぶて まもる こごえるかぜ』

 

「ムラっけ⁈お前ムラっけ⁈マジか⁈」

 

機械を操作したかと思うと興奮するタツキを見てユキワラシは首を傾げる。

そんなユキワラシを見てタツキは再度頭を撫でる。

 

「お前は俺が探してたポケモンて事だよ。行くか!」

 

タツキは立ち上がり、ユキワラシを連れてオニゴーリ達に近付く。

 

「こいつは俺と一緒に行く。だから最後にバトルだ。」

 

そう言うと先程ユキワラシに噛み付こうとしたオニゴーリが前に出てくる。しかし、その後ろから一匹のユキメノコが出てきてオニゴーリを押しやる。

ユキメノコはタツキと目を合わせ小さく頭を下げる。

チラッとユキワラシを見やると微笑んだ気がした。

ユキメノコはそのままオニゴーリ達を押しやり、集まっていたユキワラシ種達と一緒に洞穴の奥へと消えていった。

 



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26.ナルシスト

 

ユキワラシを一度ボールに入れ、再度外に出したタツキはユキワラシを持ち上げ、肩車をしながら家族の元へ戻る。

 

ユキワラシはいきなり変わった目線の高さに驚いた様だったが次第に慣れ、今までキョロキョロと顔を動かして今までとは見え方の違う世界を楽しんでいた。

 

(ノリで肩車したけど重たっ!)

 

タツキはユキワラシの重さに失敗したか?と思うも肩越しに伝わるユキワラシの姿を思い、気合で洞穴の出口を目指す。

 

浅瀬の洞穴を出ると既に13時。

ポケモンセンターで回復をお願いし、遅めの昼食を食べる。

 

「今日は、この後どうするんだ?」

 

と父が食事をするタツキに聞く。

 

「この後はルネシティに向かうよ。ルネシティはここからそう遠くない様だし、ご飯を食べたら移動だね。」

 

「ルネシティねぇ。どんな所なのかしら。」

 

「ルネシティはカルデラ状の街だよ。確か大昔に隕石の影響で出来た窪地に街ができたみたい。」

 

母の質問にタツキが簡単に説明する。

 

「カルデラって、船じゃ行けないだろ。空から行くのか?」

 

「どうやら船着場から専用の潜水艇が出てるみたいだよ。だから海底の様子も潜水艇から見られてツアーなんかもあるみたい。」

 

ガイドマップに書いてある事をそのまま伝えるタツキ。

そんな話をしていると食事も終わり、揃って船着場へ向かう。

 

出発の時間が来るまでは自由行動という事で各々好きに過ごしていた。

 

乗船の時間となり、潜水艇へ乗船する。

 

潜水艇はトクサネから少し離れると海底を目指し潜水を始める。

船内には窓として大きなガラスが嵌め込まれており、そこから海中の様子を見る事ができた。

海中には、たくさんのポケモンが生活しており、時間を忘れ幻想的な景色に魅入っていた。

 

海中を見ている間にカルデラ部分に侵入した様で潜水艇が浮上を始める。

無事ルネシティへ到着し、船着場へ降りる。

 

「まずポケモンセンターで部屋をとってから自由行動で良いんじゃない?」

 

タツキの提案に皆了承し、思い思いに夕食までの時間を過ごす。

 

タツキは家族と離れ、ある場所に向かっていた。

その場所とはルネシティ1のイベントスポットである目覚めの祠である。

ゲームではこの目覚めの祠でカイオーガ・グラードンがゲンシカイキし、ホウエン地方に天災が降りかかるのである。

中に入れない事は百も承知だがこの場所をタツキは自身の目で見てみたかったのである。

 

ルネシティは建物などが基本的に白い建材を使い建てられている為、景観が良く、異国に来た様に思われる。

 

(白い建物に青い海、前世だとギリシャとかに似た様な景観の街があったよな。そっちは行った事ないけどきっとルネみたいに綺麗だったんだろうな。)

 

街並みを見て前世のテレビで観た異国の街の風景を思い出すタツキ。

辺りを見回しながら目的地へと向かい歩いていく。

 

目覚めの祠の場所を地元の人に聞くとルネシティでは年に一回、祠開きという祭りがある様で親切に目覚めの祠の場所を教えてくれた。

 

(祠開きかぁ、どんな祭りなんだろ?読んで字の如くって感じなのかな?)

 

と考えながら進んでいると下の方にゲームでも見た橋と祠の入り口の様な建物が見えてきた。

タツキは階段を降り、祠へ向かうと祠の前で二人の男性が話しているのを見かける。

 

「ありがとう、ミクリ。君がいてくれてよかったよ。」

 

「いや、私の方こそ力になれずに済まないね。私達ルネの民は祠の中に入れなくてね。君は私の友じゃないか。私に出来る事なら協力させてもらうよ。」

 

タツキの前方で話をしている男性は一方がこの街、ルネシティのジムリーダーであるミクリ。もう一方が以前、タツキが宣戦布告したダイゴその人だった。

突然の宣戦布告の事もあり、何とも近寄り難いと思うタツキだったが夕食までには戻らないといけない為ここで帰るわけにはいかなかった。

明日もう一度来る、という発想はタツキの中には出て来ず結局二人の所に近付いて行く。

 

近付くタツキに先に気が付いたのはダイゴだった。

 

「おや?君はいつかの少年じゃないか。」

 

「お久しぶりです。チャンピオン。あの時は生意気な事を…。すみませんでした。」

 

「いや、良いんだよ。ボクもいい刺激になったからね。」

 

そう言うダイゴの目が一瞬鋭いモノに変わったが、タツキは敢えて気が付かないフリをしてミクリに話しかける。

 

「すみません。外からでも祠を見せて頂きたいのですが。」

 

「あぁ、構わないよ。祠開き以外でここに地元の人以外に二人も来るなんて、今日は珍しい日だね。」

 

ミクリからの許可をもらい、扉の前まで進むタツキ。

扉には石の洞窟で見た壁画と似た模様が書いてあり、思わず触ってしまう。

 

「何か感じるモノでもあるのかい?」

 

すぐ横に来ていたダイゴがそう尋ねる。

タツキは扉を触りながら

 

「いえ、以前石の洞窟で大きな壁画を見たんですがこの模様がどうにも壁画に書いてあったモノと似ている気がして。」

 

と素直に答える。

 

「キミもダイゴと同じ事を言うんだね。ボクはその壁画を見た事がないからわからないけどきっと私やこの祠の様に美しいんだろうね。」

 

(ミクリってちょっとナルシストっぽいキャラだけど自分と祠や壁画を比べるなんて…。)

 

「そうか、君もボクと同じ事を感じたんだね。」

 

そう言いながらダイゴはジッとタツキを見つめる。

 

(なんか今ダイゴの方見ちゃダメな気がする。)

 

と身震いしながら話を合わせる。

するとダイゴが話を変える。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったね。知っていると思うけど、このホウエン地方のチャンピオン、ツワブキ ダイゴだよ。よろしくね。チャレンジャー。」

 

「チャレンジャー?私はミクリ。華麗にこのルネのジムリーダーをしているよ。」

 

チャレンジャーの部分に圧を感じながらもタツキも自己紹介をする。

 

「私も紹介が遅くなりすみません。神原タツキです。タツキと呼んでください。バッジ集めをしていて、今年のチャンピオン大会で優勝するつもりです。よろしくお願いします。」

 

「なるほど、チャレンジャーとはそう言う事か。でもまずはこの美しい私からバッジを受け取らないとエントリーすら出来ないよ。この私から華麗にバッジを獲れるかな?私もこのダイゴと華麗に凌ぎを削ったトレーナーさ。そう簡単にやられないよ。」

 

(この人の華麗とか美しいとか本当謎だよな…。)

 

「わかってます。ですが私も大会までにしっかり調整したいのでここで足止めされる訳にはいかないんですよ。」

 

思わず好戦的な表情をしてしまうタツキ。

 

「タツキ君。バッジはどれくらい集まってるんだい?」

 

「後は、ミクリさんから頂ければ全て揃います。」

 

「それなら私の華麗な全力でお相手しよう。バトルは明日でも良いかい?流石に今日は遅いしね。」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

「これは、タツキ君がバトルフィールドでボクの前に立つ日が楽しみだね。君はどこか他のトレーナーと違う気がするんだ。君とのバトルを楽しみにしてるよ。」

 

話終わるとダイゴはエアームドをボールから出す。

 

「おや、ダイゴは明日の華麗なバトルを見ないのかい?」

 

「見ないさ。タツキ君のバトルはフィールドで正面から敵として見たいからね。そう決めてるんだ。」

 

と言うとタツキへ視線を送り、他には何も言わずエアームドに乗り飛び去る。

 

「全く、ダイゴは相変わらずだね。顔は私に引けを取らないほど美形なのに頑固なのが玉に瑕だね。じゃあタツキ君明日は9時にジムで良いかい?」

 

「はい。大丈夫です。よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ君に私とポケモン達の華麗なバトルをお見せしよう。」

 

明日のジム戦の約束をするとタツキはその場を離れ、ポケモンセンターへと向かう。

 

 

 



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27.最後のバッジと講義

翌朝、朝食を済ませ、タツキはルネジムへ向かう。

 

(ミオリにバトルの事も教えなきゃだし、早く終わらせよう。)

 

浅瀬の洞穴ではバトルする訳じゃないと言っていたミオリだが、ヒマワキシティへ行く前にボロ負けした時にタツキからバトルを教えてもらう約束をしており、タツキも今後するしないに関わらず知識としてバトルの事を知るのも大切だと思っていた。

 

「待っていたよ、タツキ君。今日は一段と美しい私と最高の華麗なバトルをしよう!」

 

「ミクリさん、華麗に勝たせて頂きます。」

 

ニヤリと笑うとタツキはホルダーのボールに手を伸ばした。

 

 

 

   *** ***

 

 

 

「まさか、一段と美しい今日の私をあっさり破るなんて…。こんなに華麗なバトルは久しぶりだったよ。ダイゴがあそこまで君を気にしていた理由がわかったよ。」

 

「ありがとうございました。私がそんなにダイゴさんに?」

 

「あぁ、じゃなければ昨日帰ったりしない筈さ。君のチャンピオン大会での華麗なバトルが今から楽しみだよ!」

 

「ご期待に添える様頑張ります。」

 

「頑張ってね。これがバッジだ。おめでとう。チャンピオン大会予選へのエントリーは最後のジムで行うことになっているんだ。手続きをするから私に付いてきて。」

 

無事最後のバッジを獲得し、予選へのエントリーを済ませたタツキはポケモンセンターにいた。

これからの予定はミシロタウンのオダマキ研究所で場所を借り、ミオリにポケモン講座を行う予定となっている。しかし、肝心のオダマキ研究所への連絡をしていなかった事を思い出したタツキは、ポケモンを回復してもらうついでにポケモンセンターのモニターを使い連絡を取る事にしたのだ。

 

『はい、オダマキ研究所。おぉー、タツキ君じゃないか。どうしたんだい?』

 

『サクさん。お久しぶりです。実はオダマキ博士にお願いがありまして…。』

 

『わかった。今代わるね。』

 

モニターに映ったのはサクで短い会話からオダマキ博士へと取り次いでくれた。

少ししてオダマキ博士がモニターに映る。

 

『タツキ君、久しぶりだね。何か用があるんだって?』

 

「はい、いきなりで申し訳ないんですが、昼過ぎから会議室をお借り出来ませんか?」

 

『会議室を?特に使う予定もないから大丈夫だけど何に使うんだい?』

 

と用途を聞かれ、素直にポケモン講座に使いたいと告げる。

 

『わかった。気にしないで使ってよ。』

 

「ありがとうございます。こちらから向かうので昼過ぎには着くと思います、よろしくお願いします。」

 

『待ってるね。それじゃあ。』

 

使用許可が出た事を家族に伝え、早速空からミシロへ向かう。

現在、タツキがフライゴン・ボーマンダ、ミオリがチルタリスと飛行機要員は揃っている為、家族全員でのフライトになる。

 

 

  *** ***

 

ミシロの近くで降り、少しの距離を歩く。ミシロに着くと正午を少し過ぎたところだった。研究所へ向かう前に食事を済ませることにする。

 

食事を終え、研究所へ向かう。

 

「お久しぶりです。タツキです。」

 

と扉を開けるとオダマキ博士が出迎えてくれた。

 

「タツキ君、久しぶり。元気そうで良かったよ。さ、皆さんもこちらへ。」

 

タツキ達は会議室へと案内される。

会議室に入るとそこにはオダマキ研究所のメンバーとハルカちゃんまでおり、タツキは首を傾げた。

 

「皆さん、何故ここに?ハルカちゃんまで。」

 

タツキの質問にひときわ仲の良いサクが答える。

 

「そりゃ、タツキ君のありがたいお話を聞けるんだ。みんな研究なんかほっぽり出して集まったんだよ。」

 

と良い笑顔とサムズアップで教えてくれた。

 

「今日はミオリへの講義だったんですが皆さんも聞きたいと?」

 

「「「そう言う事。」」」

 

息の合った研究所メンバーに対して溜め息を吐くタツキ。

 

「で、ハルカちゃんは?」

 

「ハルカは僕が呼んだんだよ。これから先ポケモンと関わる事が増えるだろうからそのためにね。」

 

とサムズアップしながらオダマキ博士が答える。

 

「まぁ、わかりました。て事だけど、父さんと母さんも聞く?」

 

「そうだな。面白そうだし聞いてみるか。」

 

「楽しみね。」

 

と席に着く二人。

 

「では、思ったよりも人数が増えましたが始めますね。これから話すのはポケモンについて私なりに考えたものをまとめたモノになります。簡単に言うとバトルとかコンテストというものを行う上で必要になる基礎知識だと思って下さい。」

 

これから話す内容はこの世界では確立されておらず何となくそう感じる、といった根拠のないものである。

しかし、それらは前世では確立されて考え方でそれらをもとに前世のタツキは厳選を行なってきた。

 

「良いですか?ポケモンとは私達人間と同じ生き物です。それを踏まえた上で、ポケモンには6つのステータスがありますよね。バトルではこのステータスが高ければ高い程有利だと言えます。そしてこのステータスを決定付ける三大要素を三値と私は呼んでいます。まず、三値とは3つの値と書いて三値です。ではこの3つの値とは何の値なのか?と疑問に思われるでしょう。まず一つ目が種族値です。この種族値とはポケモンの種族ごとの得意・不得意な能力を数値として表したモノになります。例えば、攻撃の種族値が高いポケモンは攻撃力が成長しやすく、逆に低いポケモンは成長し難いという訳です。と言っても私も観測データが少ない為、今の段階では明確な事はあまり言えませんが、そこはご了承下さい。動物で例えると、人間もチーターも同じ生物ですが足の速さは圧倒的にチーターの方が速いですよね?つまり大きく動物と言う括りではありますが人間とチーターではそもそもの能力に違いがあると言った考え方です。次に二つ目、個体値です。個体値とはその名の通り、個体の素質の事を言います。先程の種族値は人とチーターでの能力の比較で使う値でした。今度の個体値は同じ人の中での能力の比較に使う値です。これは、人の中にも足の速い人、力の強い人がいると思いますがそれらを比較する際に必要な値です。最後に三つ目、努力値です。この努力値は他の二つよりも圧倒的に情報が少なくうまく説明できませんが、この値はトレーナーがそのポケモンのどの能力を伸ばそうか考える時に使う値であると言えます。人で言うと腕相撲に勝ちたいから腕立てをするとか、足が早くなりたいから走り込みをするとか、ポケモンの能力を見てトレーナーの手でどの能力を伸ばすかを選択できる数値です。こちらも未だ検証不足ですのでそんなもんかと聞いていただけたら幸いです。ここまでで何か質問などは?」

 

タツキが捲し立てる様に説明を行い、質問の有無を確認する。

聞いていた人達は皆瞬きさえ忘れたかの様に固まりタツキを見ていた。

 

「無いようなので続けますね。」

 

「「「いやいやいや!ちょい待てや!」」」

 

「もう!あるなら言って下さいよ。」

 

溜め息を吐きながら再度質問を確認するタツキ。

 

「で、質問は?」

 

「すまない、タツキ君、この三値?はどうやって調べたんだい?」

 

「小さな頃から同じポケモンなのに速い子や遅い子がいて気になって調べてました。あとはジム巡りの途中ですね。博士のお手伝いで図鑑作成をしていたこともあって、ある程度は信用出来る情報は集まっていると思ってます。」

 

「一匹ずつ検証したのかい?」

 

「そうですよ。それ以外にどうやるんですか?私、案外こう言う作業好きなんですよね。」

 

「な、なるほど。ありがとう。続けて。」

 

タツキは話を再開する。

 

「今説明した三値のほかにもう一つ、ポケモンを育成する上で大切な要素があります。それは、ポケモンの性格です。ポケモンも生き物ですのでそれぞれ個体によって性格が違います。同じポケモンでも寝てるのが好きな子、歌が好きな子、おっとりしてる子などポケモンを研究している皆さんなら何となく理解出来ると思います。ミオリとハルカちゃんは同じポケモンでもいろいろな子がいると思ってくれて良い。」

 

「確かに研究をしているなかで思い当たる節はあるけど、それがバトルにどう関係するんだい?」

 

とオダマキ博士が聞く。

 

「性格があると言う事は、同じポケモンにも個体によって得意な事と不得意な事があると言う事です。この性格はレベルが上がる際のステータスの上昇率に関係していると考えていますが正直な話、重要ではありますがそこまで拘る必要はありません。」

 

「お兄ちゃん、大事な事なのはなんとなくわかるけど気にしなくて良いの?」

 

「理想の話だよ。気にしなくても良いと言うより実際にはそこまで非情な判断は難しいのさ。」

 

「どう言う事?」

 

ミオリはタツキの話を聞き、首を傾げる。

 

「じゃあ、ミオリはエナちゃんを育てる上でエナちゃんの育成にそぐわない性格だからと言って違うグラエナを育てようとは思わないだろう?」

 

「そうだね。エナちゃんはエナちゃんだもん。」

 

「そう言う事。この性格まで考慮するなら数多くのポケモンを捕獲し、その中から目的の性格の子だけを育てると言った方法しかない為、必ず気に入った子を育てられる事は稀な事。ポケモンとの出会いは一期一会。バトルでの強さを追い求めるのであれば性格の厳選は必須ですが普通にバトルをしていく分にはそこまで気にしなくても良いと思います。」

 

タツキの説明に聞いていた人達は頷く。

 

「そうだね。そこまで行くと非情だと思ってしまうね。だからこの事を論文として発表するなら性格の事は伏せた方がいいだろうね。」

 

オダマキ博士もタツキの意見に賛成のようでそう、口にする。

 

「ただ、知っておく事で今後の育成の方向性を決める指針の一つになる事は間違いないので頭の片隅にでも置いていて頂けたらと思います。そして、実際にバトルをする際に大切になってくる事はポケモン達のタイプ相性です。ジムリーダーなどは基本的に統一されたポケモンでバトルしていますが、初心者はバランス良くパーティーを構築する事をお勧めします。タイプ相性の相関図は後で用意してお配りしますし、調べて頂いてもすぐに分かると思います。最後にミオリの手持ち達で実際に種族値を考慮し、育成の方向性を出したいと思います。じゃあ、ミオリこっちに来てポケモン達を一体ずつ出してもらえるかな。」

 

タツキに誘導されミオリが前に出てくる。

 

「では、まずこちらのグラエナですが、私の集めた情報では種族値として一番高いのは体力の値だと思われます。しかし、防御や特防といった守りに関する能力は高いとは言えない為、打たれ強いとは言えません。その分攻撃力の値が体力に次いで高い為、物理技で攻めるといいかと思います。しかし、物理技だけでは遠距離の相手に対し対抗策がなくなってしまいますし、素早さの値もそこまで高くない為に素早く近付いて攻撃という事が難しいです。覚える技としては遠距離ではバークアウトやあくのはどう、近距離では三属性の牙、かみくだく、じゃれつくなどですね。変化技ではほえる、いばる、あくびなど能力変化ではないですが勝手の良い技を覚えます。次にチルタリスですが…」

 

とタツキは自身の情報とミオリの手持ちを照らし合わせ大まかな特徴を伝えていく。

 

「今の情報からミオリの現在の手持ちであるグラエナ、チルタリス、ヒンバスでは多くのタイプに対して大きなダメージを与える事が難しく、今後新たにポケモンを育成するのであれば、はがね・じめん・いわ・ゴースト・でんきタイプをお勧めします。」

 

と伝える。タツキはハルカの話をしようとするも現在ポケモンを持っていないとの事で保留となった。

 

「バトルをする上での基礎的な部分をお話しさせて頂きました。今日はこの辺で一旦終わりにさせてもらいます。ミオリは自分のポケモンと触れ合う中でもっと良くポケモンの事を知らないといけないよ。」

 

タツキがそう言うと、研究所メンバーがタツキに押し寄せる。詳しく三値について聞きたい。やそれに近しい記録があるから見てくれ。など四方八方から話しかけられ、タツキも全てに応えきれない。研究所メンバーの話を聞き終わる頃には日が沈み辺りは暗くなっていた。

 

 



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28.久しぶりの帰宅

 

タツキが講義で三値を語ってから三日。タツキがホウエン地方へ来てから三週間が経とうとしていた。

 

三値の講義の翌日からタツキの知っている限りの変化技の効果を説明していった。

 

数年後、とあるトレーナーが父の研究のサポートをしながらバトルで華々しい結果を残す事になる。インタビューで強さの秘訣を聞かれた彼女は「お兄ちゃんがわかりやすく教えてくれたから。」と答えるが彼女に血の繋がった兄がいないことはわかっていた為、質問をしたアナウンサーが首を傾げる事になるのはまた別のお話。

 

タツキ達神原家はホクリク地方へ戻る為にミシロタウンでの別れを済ませ、トウカシティに来ていた。

飛行機の時間までまだ余裕があり、時間を潰す為に初日に入ったカフェを訪れていた。

 

「店長さん。また来ました。」

 

と店内に入り、カウンターで仕事をしていた店長に話しかけるタツキ。

 

「いらっしゃい。ってあの時のボウズか⁈」

 

店長もタツキの事を覚えていたよう驚きながら席は案内してくれる。

 

「で、どうだ?順調か?」

 

と聞かれ、タツキはバッジケースを見せる。それを見て店長が再度驚く。

 

「強いとは思ってたがこうも早く集めてくるとはな。チャンピオン大会楽しみにしてるぜ。チャンピオン大会に出たやつが来てたとなれば客足も伸びる筈だしな。勝ち上がってくれよ!ついでに後でサインでもくれよ。」

 

とニヤリと笑いながら話す店長。

 

「店長もなかなか悪い人ですね。」

 

「なに、客商売だからな。客を呼ぶ為には策も必要だ。」

 

と笑いながら注文をとり、カウンターへ戻って行く。

 

ゆっくりとお茶の時間を楽しみながら飛行機の時間を待つ。

両親やミオリもここのコーヒーやケーキの味が気に入った様で自宅の近くにあれば通いたいくらいだと言っていた。

 

飛行機の時間が近づいてきた為、店を出て空港へ向かう。

店長からサインを頼まれたが、チャンピオン大会の後でと約束しその場を後にする。

 

大きな荷物を空港のカウンターで預け、飛行機に乗り込む。

 

(あと二時間もすればホクリク地方か。なんだか色々あった三週間だったな…。次は10月、チャンピオン大会か。まずは予選を突破しないとな。)

 

とタツキはホウエンでの事を振り返り、次の目標へと頭を切り替えて行く。

 

二時間程の空の旅を終え、タツキは三週間ぶりにホクリク地方の地を踏んでいた。

 

(今日は移動だけって言っても疲れたし、色々始めるのは明日からだな。)

 

と父が運転する車で自宅へと戻るのだった。

 

翌日、タツキは前世でも入っていた地元のサッカークラブに見学に来ていた。

 

前世では五年生の時に一つ上の近所の友達がやっているから、とサッカーを始めたが上手くなりたいと言うより楽しくやりたいと思っていた。しかし、サッカークラブには五年生がタツキのみで後にもう一人入ってくるのだが、六年生になると同時に上手くもないのにキャプテンになってしまったのだ。

タツキは楽しくサッカーをしたいと思っていてもキャプテンとして試合の出場数が増え、自らの能力以上の活躍を求められた。しかしもともと上手くはなかった為、周囲の期待と自らの能力の差に精神はどんどん追い込まれていった。勝つ為には自分は出ない方が良い。しかし、チームとしてキャプテンは出さなければいけないと考えられていたのだろうか?必ず毎試合出場し、思うような活躍を出来ずベンチで監督・コーチ達、仲間、保護者からの落胆の目を向けられる。そんな生活を一年半程続け、遂にタツキの心は折れてしまった。監督やコーチ達に目も合わせられず、すみません。と小さな声で頭を下げ、クラブを辞めたのだ。

 

そんな前世を思い出し、タツキはこれからの考えをまとめる。

まず、はっきりと監督にこのチームに入る目的を伝える事。次に自分は六年生になってもなにがあってもキャプテンはしない事。学年を考慮しての出場機会はいらない事。これをしっかり伝えよう。

今後の素早い情報処理、決定力、足腰のトレーニングに体力の増加。それがこの世界のタツキがサッカーに求めている事である。

 

人生をやり直していて、サッカーが上手くなっていてもタツキはポケモンの研究者になる事が第一優先なのであった。

 

一緒に見に来ていた母にもサッカーをする目的をしっかりと伝えてある為、特に心配する事はないと思う。

 

「はじめまして。私がこのサッカークラブの監督をしている玉井です。」

 

「はじめまして。神原タツキです。来週からよろしくお願いします。」

 

「来てくれるんだね。君は四年生だって聞いているけどうちのチームには四年生はいなくてね。君が入ってくれて良かったよ。」

 

やはり、この世界でもタツキと同い年の子はいないらしく、このままだと前世の二の舞になりかねない。

 

「すみません、監督。初めにお願いがあるんですけど。」

 

「お願い?なんだい?」

 

そう聞く監督にタツキは自身の考えを告げた。

 

「なるほど…。判断力や体力作りの為か。正直に言うと純粋にサッカーを楽しんで貰いたいって気持ちもあるけど、そう言う考え方もあるんだね。…わかった。神原君の思うようにやってみなさい。どんな理由があれ、サッカーをプレイする事に変わりはないからね。」

 

「初めて来て、我儘なお願いをすみません。」

 

「いや、気にしないでくれ。確かに人気の野球なんかよりもサッカーの方が君の考え方には合っている気がするよ。それに今は、君みたいにポケモンを育てる事に熱中する子供達が増えているのも事実だ。これを機にサッカーを第一に楽しむって部門とサッカーを通して他の能力を伸ばすって部門があっても良いかもしれないね。そうすれば、サッカーが好きな子もポケモンの事を考えるきっかけになるかもしれないし、その逆も考えられる。」

 

と言うと。来週から待ってるよとコーチの所へ歩いていく。

それを見送るとタツキは母と自宅へ帰るのだった。

 

 

   ーーー   ーーー

 

玉井監督は、タツキと別れコーチ陣と話をしていた。

 

「さっき、来週から入会したいと言う子供と会って来たんだが、その子が面白い事を言っててな。」

 

「プロと試合したいとか言われました?」

 

コーチの一人が笑いながら聞いてくる。

 

「いや、サッカーは好きだがそれよりもポケモンが好きらしくてな。ポケモンバトルで必要な瞬間的な情報の処理や判断力、体力をつける為に攻守混合型のスポーツであるサッカーをしたいと言ってきた。」

 

「まぁ、確かに野球とかと比べたらサッカーは走り回ってますし、判断力とかもつくと思いますね。その子本当に子供ですか?」

 

「今年四年生だそうだ。その話を聞いて、これはアリだと思ったんだ。」

 

「アリですか?」

 

「そうだ。今、子供達はポケモンに夢中だろ。だからポケモンバトルで必要な力をつける為にサッカーをしないか?と呼びかけるんだ。」

 

「なるほど!そうすればポケモンバトルにしか興味のなかった子が通って来るかもしれませんね。」

 

「そう言う事だ。それにサッカーをしていればサッカーそのものも好きになるかもしれないだろ?」

 

「ですが、俺たちそんなにポケモンの事知りませんよ。」

 

「そこは、うちの息子が知り合いにブリーダーになった友達がいると言っていた。手伝ってもらえないか聞いてみるさ。」

 

と今後のクラブの展開を話すのだった。その成果は、翌週にはポスターとして地域に配られ新たな参加者を集めるのだった。

 

 



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29.多忙

 

夏休みが終わり、二週間が過ぎた。タツキは放課後は友達と遊び毎週末は午前中にサッカークラブ、午後からポケモンの育成をして夜に集まった情報をまとめる。といった一週間予定がビッシリの多忙な生活を送っていた。

 

元々、タツキの家は小学校から2キロ弱。年に一回の学年別のマラソン大会では同じ地区の男の子達が上位に名を連ねる。タツキも毎年5位以内を記録しており、体力はある方だった。それでも今後の事を考えサッカークラブに入ったのだ。

 

サッカークラブも新たに知り合いのブリーダーの力を借り、ポケモンコースなるものを開講。ブリーダーの話を直に聞ける事と体力作りと言う観点から徐々に人気が出て来ている。

 

タツキはポケモンコースが出来てからも基本的にはサッカーコースの練習に参加しており、前世の経験などから今ではチーム上位の選手となっていた。

前世ではDFだったか、今回は判断力を鍛える為、MFとして前線へパスを供給している。

 

いつもの様に練習を終え、帰り支度をしていると

 

「来年の夏の合宿どこだろうな?」

 

と話だし、周りが色々な地名を出していく。

 

「夏休みに合宿に行ったの?」

 

「そうか、神原は夏休みの終わりに入って来たからわからないもんな。」

 

「今年は、トチギ県のニッコウシティに行ったんだぜ!」

 

と別の上級生が教えてくれた。

 

「来年は神原も一緒だもんな。どこが良い?」

 

とキャプテンが聞いてくれるが、来年の夏休みはシンオウ地方へジム巡りをしに行こうと考えており、早々に行かない事を伝えた方が良いと思い予定を伝える。

 

「俺は来年の夏休みにシンオウ地方に行こうと思ってるから、合宿は行かないかな。」

 

するとその場にいた大半の子供達が首を傾げる。キャプテンもよくわからない。と言った顔をしながらタツキに聞く。

 

「シンオウってまた遠い所に行くんだな。親戚とかか?」

 

「いえ、ジムを巡ろうかと思ってまして。」

 

タツキがそう言うと周りが騒がしくなる。

 

「ジム巡りって、俺たちみたいな小学生には早くないか?」

 

と他の上級生が口にするも周りの子供達は年齢からポケモンバトルが好きな子が多く、さらに騒がしくなる。

 

「実は、この前の夏休みでホウエン地方に行ってたんですよ。」

 

タツキの発言に周囲は更に騒がしくなる。

するとキャプテンが周りを静かにさせてから聞いてくる。

 

「ジムを周って来たのか?よく行く気になった。遠かっただろ。」

 

「遠いと言っても飛行機ですぐでしたし、そんなに負担はなかったですよ。ジムもしっかり周って来ました。」

 

タツキはサムズアップしながら伝える。

 

「それでもジムは大変だったんじゃないか?」

 

「ん〜、そんな事もなかったですよ。道中しっかりポケモン達の育成もしてましたから。」

 

「そんな事より、バッジはどうなんだよ!!」

 

前世ではタツキより上の代が抜けた後にエースとなる同じ地区に住む下級生が興奮気味に聞いてくる。前世ではサッカー一筋だったがこの世界ではポケモンにも興味があるらしい。

 

「バッジは一応全部揃えたよ。」

 

そのタツキの話を聞いてその場はお祭り騒ぎになり、監督達や自身の子供を迎えに来た保護者が駆け寄ってくる。

 

「どうした?そんなに騒いで。」

 

声をかけて来た監督に下級生達の興奮が爆発する。

 

「監督!神原バッジ集めたんだって!」

「しかも全部な全部!」

「ホウエンだって!」

「やばくね!やばくね!」

 

「あぁー!一斉に喋るな!よくわからん!一回落ち着け!」

 

「神原が今年の夏休みにホウエン地方でバッジを揃えて来たらしいんです。それで皆んなが騒ぎ出して。」

 

キャプテンが代表して状況を説明する。

 

「バッジを全部⁈本当か、神原!」

 

「はい。小さな頃からの夢だったので。」

 

タツキの話を聞いた監督がある事を思い出す。

 

「バッジを全部集めたって事は、チャンピオン大会に出るのか?」

 

周りのみんながゴクりと生唾を飲み込む。

 

「エントリーはしてきたので10月から少し向こうに行かないとなんです。」

 

タツキがチャンピオン大会に出ると聞き、またもや周囲はお祭り騒ぎになる。

その話を聞いていた保護者達も「こりゃ、壮行会しないとだ!」などと言い始め、タツキは言わない方が良かったかもと思うのだった。

 

子供の口は思いの外軽く、なんとなくの口止めはしていたが翌日学校へ行くとタツキの事は既に学校中に広まっており、朝からクラスメイト達に話を聞かれたり、他のクラスの子達が廊下から教室を覗いて来たりとタツキは本格的に言わない方が良かったと思ってしまう。

 

(面倒だけど後からバレるより良いのか?わからん…。)

 

放課後、帰ろうとしていると校内放送で職員室まで呼び出されるタツキ。

 

(大会の事でなんか言われんのかな?)

 

「失礼します。」

 

「あ、タツキ君。こっち。」

 

とタツキを手招きするのはタツキの担任だった。

タツキが担任の元へ行くと他の先生達と一緒に会議室へと連れて行かれる。

会議室には校長もおり、これから会議が行われるらしい。

 

「それでは、これより体育大会についての会議を始めます。」

 

どうやら今回呼ばれたのは9月の後半にある町内の小学校対抗の体育大会の話し合いをする為らしい。

会議の内容もタツキが聞いても特に問題のなさそうなものであった。

 

タツキの通う小学校では同じ町内にある他の4つの小学校と5・6年生のみの体育大会が年に一回行われるのだ。

種目は通常の陸上大会とほぼ同じで唯一違う部分はポケモンバトルがある事。各校各学年で一人ずつ選手を選出し手持ちポケモン一体でのトーナメントバトルが行われる。

 

会議が始まり、ポケモンバトル部門についての話になる。

するとタツキは校長から話しかけられる。

 

「神原君。今日の朝から学校中で噂になっているのは君も知っていると思うが、噂の内容は本当かな?」

 

「僕がホウエン地方のチャンピオン大会に出るって話ですか?」

 

「その噂で間違いないよ。本当なのかな?」

 

「はい。この夏休み中にホウエン地方へ行ってエントリーして来ました。」

 

「それは、おかしい。私たちも噂を聞いて協会のホームページで調べたんだが君の名前がないんだよ。」

 

と校長が口にする。

それを聞いたタツキは驚いて立ち上がってしまう。

 

「そんな…。しっかりとエントリーした筈です。」

 

とタツキが言うとパソコンを持って来ていた先生がホウエン地方ポケモンリーグ協会のホームページを見せてくれた。

エントリー名簿を見るがホクリク地方からのエントリーは確かになかった。タツキがよく画面を見ているとある事を思い出す。

 

『まだ目立ちたくないと言うなら出身地をここ、ミシロにすれば良いじゃないか。そうすればまだ少しの間は目立たずに済むと思うよ。』

 

オダマキ博士からの提案があり、出身地をミシロタウンで申告した事を思い出した。

 

「すみません。ミシロタウンに知り合いがいてそっちでエントリーした気がします。」

 

ホームページを見ていた先生がすぐに確認する。

 

「あっ!ありました。ミシロタウン出身の神原タツキ。これかな?神原君?」

 

「これ僕のトレーナーIDです。」

 

確認の為、トレーナーIDを記載しているカードを先生に渡す。

先生はパソコンの画面とタツキのカードを交互に見て

 

「間違いないです。しっかりエントリーされてます。」

 

(いくら出身が違うとは言え、同姓同名がいる事に疑問はなかったのか?まぁ、確証が得られるまで迂闊な事は言えないか。)

 

と思うタツキ。

 

それを聞いて他の先生達もざわつく。

いくら教師とはいえ、大半の人がポケモンバトルが強いかと聞かれれば首を傾げる事だろう。

つまり、チャンピオン大会に出た事がある人は貴重な人材で教師で出場経験がある人の方が少なく、いたとしても名門私立で教師をしている人が多数である。

そんななか、自分達が赴任している学校の生徒がチャンピオン大会に出場すると聞けば騒がしくなるのも頷ける。

教頭がざわついていた先生達を静かにさせ、校長が話始める。

 

「神原君、疑ってしまって悪かった。」

 

小学四年生に素直に頭を下げ謝る校長に驚くタツキ。

 

「いえ、良いんです。これで僕もみんなから嘘つき呼ばわりされなくて済みます。」

 

頭を下げる校長にそう声をかけるタツキ。

校長は頭を上げ、再度ありがとうと言うと、タツキにお願いがあると言う。

 

「実は今日神原君に来てもらったのは、あと二週間もしない内にある5・6年生の体育大会についてお願いがあったからです。神原君は出場しませんが、チャンピオン大会に出る程の人です。5・6年生の為に大会まで放課後の練習に参加してコーチと言う立場で力を貸して欲しいのです。神原君が嫌と言えば無理にお願いはしません。」

 

との事。タツキは悩みながらもどうせあと二週間もないし別に断る程の事じゃないと考え、校長からのお願いを聞く事にした。

 

「放課後にポケモンバトルについて話をしたりするくらいだったら大丈夫です。」

 

「本当かい?助かるよ。正直言うと普通の陸上競技なら先生達でも教える事は出来るんだけどポケモンバトルとなると難しいところがあってね。先生の中にも経験がある人は多いんだけどチャンピオン大会となると私立でもない限りいなくてね。こんな事を生徒にお願いするのもどうかと思うが、よろしくお願いしますね。」

 

と言う事でタツキは体育大会までの放課後に選手に選ばれた生徒にポケモンバトルを教える事になった。

 



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30.準備

 

 

体育大会はタツキの手伝いもあり、ポケモンバトル部門で完勝。決勝戦での同校対決は過去初の事だったと言う。

 

タツキは体育大会の手伝いをしながらも自身の準備もしっかりと進めていた。

 

 

   *** ***

 

 

シャモ(バシャーモ) レベル88 ♂ かそく

   とびひざげり まもる フレアドライブ かえんほうしゃ

 

フェル(サーナイト) レベル89 ♀ トレース

   ムーンフォース めいそう 10まんボルト サイコキネシス

 

グライオン  レベル87 ♂ ポイズンヒール

   みがわり まもる どくどく じしん

 

ボーマンダ  レベル88 ♂ いかく

   りゅうのまい げきりん ストーンエッジ じしん

 

サメハダー  レベル87 ♂ さめはだ

   ハイドロポンプ あくのはどう れいとうビーム まもる

 

オニゴーリ(色違い)  レベル85 ♂ ムラっけ

   みがわり まもる ぜったいれいど こおりのいぶき

 

フライゴン  レベル88 ♀ ふゆう

   エアスラッシュ だいちのちから 10まんボルト りゅうせいぐん

 

ミロカロス  レベル86 ♀ かちき

   ハイドロポンプ りゅうのはどう アイアンヘッド ミラーコート

 

 

*** ***

 

 

タツキが手持ちの育成を終え、家族で夕食を食べているところで家の電話が鳴る。

母のアズサが受話器をとる。

 

「はい。神原です。あぁ、オダマキ博士。その節は大変お世話になりました。」

 

どうやらオダマキ博士からの着信らしい。

話を聞き、タツキへ受話器を渡すアズサ。

 

「代わりました、タツキです。」

 

『やぁ、タツキ君。元気そうだね。』

 

「はい。特に変化などありませんが、どうされました?」

 

『実は、この間学会があってね。そこで君の論文を発表したんだよ。もちろん君の名前はごく一部以外には伏せてね。今や学会では状態異常の可能性について、こぞって多くの研究者が研究を始めたんだ。そこで資料として君の論文を貸して欲しいって依頼が多くてね。もちろん謝礼は出してくれるって事なんだけど貸し出しても良いかい?』

 

オダマキ博士の話を聞いて驚くタツキ。

どうやら、学会でタツキの論文を発表してから研究者間で盛んに状態異常の研究が始まったらしい。さらに謝礼を支払うからその資料としてタツキの論文を借りたいと言う。

借りたいと言われる事は想像出来たタツキだったが、まさか謝礼を貰えるとは思ってもおらず戸惑ってしまう。

 

「まぁ構いませんが、謝礼とかって普通なんですか?」

 

『あまり聞かない事ではあるが、ない事じゃないね。特に今回みたいな全く未知の可能性を研究する場合にそれに関しての資料が少ない場合なんかに謝礼をって話はわりと普通の事だよ。』

 

との事。

そんなものか、と納得するタツキ。

 

『それでね、口座を開設するか既にあるなら教えて欲しいんだけどヒロトさんかアズサさんにもう一度代わってもらってもいいかな?』

 

タツキは簡単に説明して父のヒロトへ受話器を渡す。

ヒロトもタツキからの説明の後、オダマキ博士から詳しく話を聞いて驚いていたものの、実際にタツキの論文を読んでいた事もありオダマキ博士へタツキの口座を教えた。

 

これによってタツキは、あずかり知らぬ所で少なくない不労所得を得るのだがそれをタツキが知るのはもう少し先の話。

 

さらにオダマキ博士からの話はこれだけではなかった。

学会での論文の発表やオオキド・オダマキ両博士からの推薦でタツキの来年度からタマムシ大学携帯獣学科通信教育課程での入学が許可されたのだ。

この事には、論文のこと以上に家族が喜び大騒ぎとなった。

これにより来年度からタツキは小学五年生でありなが通信ではあるが大学生となり、二足の草鞋を履くことになる。

 

オダマキ博士からの連絡から数日、チャンピオン大会への出発を明後日に控えたタツキは小学校の体育館のステージの上にいた。

どうやらチャンピオン大会への壮行会らしい。

基本的にチャンピオン大会は大人でも出場が難しく、一般トレーナーから見て、ポケモンバトルの最高峰である。

 

そんな大会に小学四年生が出場するとなると異例の事である。

数年前にはカントー地方でオオキド博士の孫やその幼なじみが出場しているが、ここホクリク地方では地方リーグが未だ設立されていない関係で歴史的な快挙らしい。

その事もあり、TVや新聞などが取材を申し込んで来た。

タツキはチャンピオンに勝っても次のチャンピオンになる事を辞退するつもりだった為、その時の事を考え全ての取材は断っていた。

 

(自由に動けるのは小学生とか中学の途中までだからあんまり騒がれたくないんだよな。)

 

同じステージの上で挨拶をする校長の背中を見ながら溜息を吐くタツキ。

そんなタツキに挨拶の順番が回ってくる。

 

「四年三組、神原タツキです。初めての大会で緊張してますが、がんばります。」

 

(小学生だからこれくらいで良いだろ。)

 

今更な事を思いながら短い挨拶をしてお辞儀をするタツキ。

会場から大きな拍手を受け、司会の先生の言葉の通りに退場する。

他の生徒より早く教室に戻り、自分の席に座っていると続々と体育館から他の生徒が戻ってくる。

タツキの席の周りには男女関係なしに人が集まり、「頑張ってね!」や「負けんなよ!」などの激励の言葉を口にする。

 

チャンピオン大会の事が噂になってからタツキの周りには常に多くの生徒がおり、タツキは時の人となっていた。

 

(子供だから仕方ないんだろうけど喧しいよな…。もう少し静かにして欲しい。)

 

と周りの生徒達を見回し溜息を吐く。

 

この対応で、何か神原って大人っぽいよね。顔もそんな悪くないし良いよね。など女子達からの人気が陰で上がることになるのだがその事をタツキは知らない。

 

そして、いよいよホウエン地方へ出発する日になった。



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31.予選

夏休み同様飛行機でホウエン地方のトウカシティへやって来た神原家。

今回は両親と妹のミオリまで初めから付いてきており、タツキは来なくて良いと言ったものの

 

「「「息子(お兄ちゃん)の晴れ姿だぞ(よ)!」」」

 

と詰め寄られ、タツキもそこまで言われてはNOとは言えず一緒に来たのだった。

 

(ミオリのやつ、晴れ姿なんていつの間に覚えたんだよ…。)

 

小学二年生の妹の語彙力に驚くタツキ。

一行は、バスに揺られオダマキ研究所へ向かう。

今回もタツキが予選や試合に行っている間の家族の宿泊はオダマキ博士にお願いしているようで、タツキの知らぬ間に連絡が完了していた。

オダマキ夫人もちょこちょこと母のアズサと電話をしているようで、いつの間にか家族ぐるみの付き合いになっている。

聞いた話では、今年の年越しはオダマキ一家が雪を見たいとの事で神原家で年越しをするらしい。

 

研究所に到着するとオダマキ博士が出迎えてくれた。

 

「皆さん、よく来てくれました。どうぞこちらへ。タツキ君も元気そうだね。」

 

「電話で話しましたが博士もお変わりないようで。」

 

「はっはっは、最近お腹が出てきてね、妻から痩せなさいと言われてるんだ。それ以外は絶好調さ。」

 

オダマキ博士の自虐ネタに苦笑いを返しタツキも中へ入る。

オダマキ博士の自虐ネタに苦笑いを返しタツキも中へ入る。

ボーマンダを撫でていると、タツキのボールからボーマンダが出てくる。二体は鳴き声で会話しているのだろう、久しぶりの再会でタツキはそっと距離を取り見守る。終わったのだろう、ボーマンダがタツキの前に戻って来て一鳴きする。妙に力の入った声と目でこれからの予選に向けて気合が入ったような気がしたタツキだった。

 

 

翌朝、家族とオダマキ研究所メンバーに見送られたタツキはフライゴンの背に乗りサイユウシティを目指す。

 

サイユウシティに着くとポケモンセンターでチャンピオン大会予選のエントリー確認を行う。

ホウエン地方のバッジとトレーナーIDを見せ、確認が取れると奥の部屋へと連れて行かれる。

連れてこられた部屋には既に少なからず50人以上のトレーナーがいた。

しかし、去年の大会映像を観ても出場者は8人程度。時間的に考えてエントリーしているトレーナーはまだいると思われ、それだけの大人数が参加しても予選のチャンピオンロードをクリア出来る人はごく少数なのだろう。

 

(今日の昼から一週間以内にチャンピオンロードを踏破しないと敗退。地図は配られているから捕獲しながら進んでもどうにかなるだろう。)

 

タツキは基本的にバトルで負けるとは考えておらず、険しい道を歩く事での体力的な面での心配が大きかった。

 

 

    ーーー   ーーー

 

 

「それでは、これよりチャンピオン大会予選の詳しい説明を行います。この説明が終わり次第、予選開始となるので参加者の皆さんは頑張って下さい。」

 

係の人が説明を始めた。集まったトレーナー達が静かに話を聞き、ついにその時が訪れる。

 

「それでは、これより予選開始です。」

 

その言葉を聞き、一斉にチャンピオンロードへ向かって行くトレーナー達。

タツキは混雑を避けてゆっくりと歩いて行く。

 

 

チャンピオンロードを進んでいくタツキ。3時間程歩いているが初見のポケモンが出てこない。初めは捕獲の事も考えていたが今のところ捕獲ポケモンはゼロである。

 

タツキは途中で何人かのトレーナーとバトルし軽々と勝利を納め、着々と歩いて行く。

 

(洞窟の中だから時計がなかったら時間が分からなくなってたな。)

 

この予選、チャンピオンロードを踏破するかリタイアするまでチャンピオンロードから出られない。その為、参加者は一週間分の食糧と簡易テントを持って険しい道を進まなければいけないのだ。

タツキは大量の食糧とテントを持って歩く関係上、以前の旅で使用した肩掛けバックでは容量が足らず、今回は大きめのリュックを使用していた。

 

(暇だし、リュックの肩紐のところに携帯付けて動画でも撮りながら歩くかな。いつか使えそうだし。)

 

タツキは自身の携帯で動画を撮影し始める。

動画を撮影している事もあり、喋りながら歩くこと2時間半。野生のポケモンには出会うものの、他のトレーナーには会う事なくここまで歩いて来た。

時間を確認すると17時半を過ぎた頃で元々薄暗いとは言え、自身は未だ10歳である。精神年齢は大人ではあるが体力的にはまだまだ子供である。その為タツキは早めに休みむ事で疲れをとり翌朝早くから行動しようと決めていた。

 

通路から外れた適当な所に簡易テントを広げる。

休んでいる間に野生のポケモンやトレーナーが来ないとは限らない。野生のポケモンは手持ち達にお願いし、トレーナーはタツキを起こしてくれる様ポケモン達にお願いする。

 

(明日には踏破したい。もらった地図にはいくつかルートが書いてあったけど、ここまで出会ったトレーナーが少ない事を考えるとみんな他のルートを進んだのか?それとももっと先にいるのか?どちらにせよ、今は休める時に休もう。)

 

タツキは軽食で夕食を済ませてると、携帯でバイブのアラームを設定し横になる。

 

ポケモン達に起こされる事なくタツキは携帯のアラームが鳴るまで休む事が出来た。

ポケモン達様の食事と自分の食事を簡単に用意する。

ポケモン達の食事と自分の食事を簡単に用意する。

携帯で時間を確認すると5時半。現在チャンピオンロード内の半分程を過ぎた所で、もう少しで折り返し地点というところだった。

ポケモン達も食事を終えたのを確認し、出発する。

 

二時間程進んでいくとちらほらと他のトレーナーを見かける。

先を進んでいたトレーナー達も休んでいたらしい。

荷物の片付けを優先すれば良いと思うがそこはトレーナーらしくバトルになる。

 

(レベル上げ過ぎたか?いや、レベルは高くて困る事はないから大丈夫か?それにさすがチャンピオン大会、ポケモンのレベルで言うなら俺より高い人がゴロゴロいるな。)

 

ポケモンのレベルは高いがあまりにも他のトレーナーが相手にならずに若干困惑するタツキ。

見たところ他のトレーナーはタツキより、いくつも歳上の様だがポケモンの練度が足らないように感じる。

 

(四天王やチャンピオンならそんな事ないか…。)

 

と気を取り直し先へ進む。

さらに休憩を挟みながら五時間程進むと出口らしきものが見えてくる。

そのまま進むと無事チャンピオンロードから出ることが出来た。

目の前の建物に入るとゲームでも見たポケモンリーグの建物でポケモンセンターとフレンドリーショップ、その間に四天王へと続く扉らしきものがある。

近くの係員に声をかけ、予選突破の手続きをすませる。

予選の日程はあと五日あるため、あの間はフリーになるとの事。

コンディションを整え、ゆっくりと過ごすためにも早々に指定された個室に入り、入浴や食事を済ませて休むことにする。

 

(チャンピオンロードのポケモンも特に苦戦しなかったな。本戦に期待ってところかな。)

 

考え事をしながら横になり、そのまま深い眠りに落ちていくタツキ。

 

ポケモンバトル最高峰と言われる本戦まであと少し。

 

 



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32.ここまでか

誤字、脱字が多く読み難いなか読んで頂きありがとうございます。
誤字、脱字を見つけましたら教えて頂ければ幸いです。
いつもご不便をおかけし、申し訳ありません。


タツキがチャンピオンロードを踏破してから五日が経とうとしていた。

今の段階で予選を通過したのは7人。このままタイムアップとなれば奇数のため一番乗りで予選通過した選手がシードとなり決勝トーナメントが始まる。

タツキの順位は惜しくも二番。残念ながらシードとはならなかった。

 

(俺より早くクリアした人がいるって事は期待出来るぞ!)

 

タツキは自分がシードじゃなかった事を悔しがる事なく自分より早くクリアした人への期待でいっぱいだった。

 

待てど、新たに制限時間までにチャンピオンロードを踏破出来たトレーナーはおらず、明日からの決勝トーナメントは7人で行うことになった。

 

『予選を通過したトレーナーの皆様は明日の決勝トーナメントの組み合わせ抽選を行いますのでお近くの係員と共にスタジアムまでお越し下さい。』

 

どうやら、これから明日の組み合わせの抽選をするようで呼び出しがかかる。

タツキは近くにいた係員にお願いし、決勝トーナメントの舞台であるスタジアムへ案内してもらう。

スタジアムは歩いてすぐであり、中に入ると既に観客で満員のスタンドが見えた。

 

「すいません、今日まで予選だから何か催し物でもあったんですか?」

 

チャンピオン大会の試合もないのに超満員のスタンドを見たタツキは一緒にいた係員に聞いた。

 

「今日は、ジム対抗戦があったんですよ。ホウエン地方最強のジムを決めるチーム戦です。ちなみに今年の優勝はルネジムでしたよ。」

 

「そうだったんですね。それはこれだけの人が集まるわけですね。」

 

納得しながらもルネジムと聞いてタツキの頭にはあのナルシストの顔が浮かんでいた。

 

(ルネってあのナルシストがジムリーダーでよく勝てたな。)

 

ポケモンバトルに全く関係ない要素で今日の勝利に疑問を持つタツキ。

そんな事を考えているとスタジアムの中心に着いていた。他の6人も揃っており、その中から一番乗りしたトレーナーが少し下がり残りの6人で抽選が始まる。

 

抽選の結果タツキは第3試合になった。

説明を聞くと明日1日を使って一回戦の3試合を行い、翌日に準決勝と決勝を行う日程の様だ。

 

(後は、チャンピオンダイゴを倒すだけ!)

 

他のトレーナーや四天王には申し訳ないがタツキの頭には既にダイゴの事しかなかった。

 

(金持ち、イケメンでさらにチャンピオン?社会的地位まで持ってやがる!このリア充め!!)

 

こんな事を考えているが、タツキも別に顔は悪い訳ではない。いろいろと頑張れば有名な某男性イケメンアイドル事務所に入る事も出来なくもない。と言った容姿である。

さらに、貯蓄的な所でも論文や研究関係での収入があり今現在でも社会人の冬のボーナスくらいの蓄えはあるのだ。タツキが知らないだけで。

社会的地位も今現在はただの小学生だが数年後には博士号を取ることがほぼ確定しており、チャンピオンとそう変わらないだけの地位が約束されていると言っていいのである。

さらに、タツキは前世では結婚もしており、子供までいた事でどちらかと言うとリア充側の存在である。

つまり、何故かわからないが勝手に恨まれている悲しいチャンピオンがダイゴなのだ。

 

タツキがそんな下らない事を考えている間にスタジアムのオーロラビジョンには名前と顔写真の入ったトーナメント表が映し出されており、司会者らしき人がカメラの前で何か喋っている。

 

組み合わせも決まったことでこの場は解散となり、タツキは自分に割り振られた部屋へと向かう。

部屋に入ると手持ちの入ったボールをベットに置く。

 

「明日からのチャンピオン大会、四天王、チャンピオンとのバトルは今から言う6体でいく。他の子達は一旦ボックスで待っててくれ。」

 

そうタツキが言うとボール達がカタッと動いた気がした。

 

「シャモ、フェル、グライオン、ボーマンダ、サメハダー、オニゴーリ。この6体でいく。他の子達もバトルで戦えるように育ててきただが、他の子達には大会が終わったら伝えるがそれぞれ違う役割をお願いしたい。ただ一つ言えるのは、お前たちが俺が最初に育てたポケモン達だ。きっとこれから俺が育てるポケモンはとても多くなるだろう。だけどここにいるお前たちが俺にとっての原点で初代だ。それだけはわかってくれ。」

 

タツキはそう言うと選出しなかったポケモンをボックスへ送る。

一息ついて、明日のことを考えながら横になる。

 

 

 

 

    *** ***

 

 

 

翌日、決勝トーナメント一回戦。

タツキは自分の試合まで控え室で他のトレーナー達のバトルを観ていた。

 

「嘘だろ…。ここまでか…。この世界の脳筋バトルは知っていたけどこの大会の出場者でこのレベル⁈」

 

思わず口に出してしまうタツキ。

口に出てしまう程にチャンピオン大会でのバトルのレベルが低かったのである。

ポケモンのレベルは高い。しかし戦術が力押しと言うだけで変化技を使用しないためそう感じてしまうのだ。

 

「こりゃ、本格的に四天王とチャンピオンに期待しないと。」

 

と溜め息を吐くのだった。

 

そうこうしている内に第3試合が始まる。

 

 

   ーーー   ーーー

 

 

『決勝戦、タツキ選手のポケモンにシュンジロー選手、手も足も出なーい!!ここまでタツキ選手はグライオン一体のみ、対するシュンジロー選手は残り一体、それも猛毒に侵され虫の息のバクーダのみ!!誰がこの展開を予想したでしょう!若干10歳の幼武者が新たな歴史を作ろうとしています!』

 

「楽にしてやれ!じしん!」

 

「引いてダメージを少なくしろ!」

 

相手のトレーナーが指示するも猛毒に侵されたバクーダは上手く体を動かせず、グライオンのじしんをくらい地面に倒れる。

 

『決まったーー!!ここでグライオンのじしんが炸裂!バクーダ立てない!バクーダ戦闘不能!!チャンピオン大会優勝、そして四天王への挑戦者はタツキ選手!!!今話題の毒戦法でシュンジロー選手のポケモンを6タテしました!私は今歴史的なこの瞬間に立ち会えた事を嬉しく思います!』

 

実況者の声のあと大きな歓声が地鳴りの様に聞こえてくる。

 

「よくやった、グライオン。戻れ。」

 

(毒の重ね掛けで効果が増大することがわかったおかげで、じしんだけでも勝ち抜けたな。卑怯だとか言われようとこれで力だけじゃ勝てないバトルがあると知ってもらえれば良いんだけどな。)

 

タツキはグライオンのみで決勝を6タテし、見事優勝。

この後、表彰式を終えスタジアムから出るところでインタビューを受けた。

 

いろいろ聞いてくるアナウンサーに

 

「力の強いポケモンで力押ししていれば勝てるバトルはもうすぐ終わります。僕はそんな新しいバトルを皆さんに知ってもらいたい。楽しみにしていて下さい。」

 

とだけ話し、足早に部屋へもどる。

この後の四天王戦とチャンピオン戦は非公開でのバトルになる為、ホウエン地方での公でのバトルはさっきの決勝が最後であった。

それ故に大きなインパクトを与えられたと思ったタツキだった。

 

 



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33.周囲の反応

初投稿で粗さが目立つ文章ですが読んで頂きありがとうございます。


 

タツキがチャンピオン大会で優勝した日の夜、TVではあちこちのチャンネルで特集が組まれていた。

 

『今日のホウエン地方チャンピオン大会は歴史的な結果となりました。若干10歳の幼武者、神原タツキ選手が相手のポケモン6体をグライオンのみで倒しきり優勝!!10歳での優勝はオーキド博士のお孫さんであるオーキドヨウスケ現カントーチャンピオン、その幼なじみのアカサキコウジさん以来数年ぶりとなります。それでは歴史的な決勝戦のダイジェストをご覧ください!』

 

TVでの特集もありネット上でも今回のホウエン地方チャンピオン大会の事で賑わいを見せていた。

 

 

   ーーー   ーーー

 

 

《2.幼武者を語るスレ》

 

0793 名無し武者

幼武者ヤバくね!!

 

0794 名無し武者

>>0793の語彙力のなさwww

 

0795 名無し武者

俺予選のチャンピオンロードで戦ったけどバカ強い

 

0796 名無し武者

詳しく

 

0797 名無し武者

俺はグライオンじゃなかったけどオニゴーリに6タテくらった

 

0798 名無し武者

オニゴーリwww

 

0799 名無し武者

オニゴーリってそんな強いか??

 

0800 名無し武者

>>0795が弱かった説

 

0801 名無し武者

チャンピオン大会の予選出てるだけでも猛者だろ

 

0802 名無し武者

いや、あのバトルを目の前で見ると自分なんか全然ダメだって思う…

 

0803 名無し武者

そう気を落とすな

 

0804 名無し武者

次があるさ!

 

0805 名無し武者

てか、幼武者そこそこ美形じゃね?

 

0806 名無し武者

ショタか⁈

 

0807 名無し武者

ショタか⁈

 

0808 名無し武者

ショタだ!!!

 

0809 名無し武者

逃げろ!幼武者!ヤられるぞ!!

 

0810 名無し武者

ショタじゃねーよ!ヤりもしねーよ!

 

0811 名無し武者

てか、実際どーなん、四天王に勝てるん?

 

0812 名無し武者

四天王は流石に…

 

0813 名無し武者

幼武者でも厳しいでしょ

 

0814 名無し武者

でも勝てたらヤバくね

 

0815 名無し武者

語彙力www

 

0816 名無し武者

それしか言えねーだろ

 

 

   ーーー   ーーー

 

変な方にそれながらもスレが伸びていくが、タツキがこのスレを発見するのはまだ後の話。

 

TVやネットがお祭り騒ぎをしているまさにその時、オダマキ家では…

 

「またタツキ君が出てる!幼武者だって!武者なんてカッコいいじゃないか!!」

 

「武者だ!武者!タツキが武者だ!息子よ、よくやった!」

 

「お父さん達飲み過ぎなんじゃない?」

 

「そうよ、あなた!いくらタツキ君が優勝したのが嬉しいからって飲み過ぎよ!」

 

「いや、オダマキ博士の言う事に間違いはない!タツキは幼いが武者なのだ!」

 

オダマキ博士とお互いの肩を抱きながら意気揚々と杯を掲げるのは、神原家の大黒柱であるヒロトである。

 

この二人、タツキのバトルを観ながら酒を呑んでおり、タツキの優勝が決まった瞬間からペースが上がったらしく、今や完全にベロベロである。

後ろでは妻達が鬼の様な形相で二人を見ていた。二人は気が付いておらず、ミオリとハルカは自分達のご飯を持ちテーブルから離れる。時を同じくして意気揚々と騒ぐ二人に向かって鬼からの雷が落ちたのだった。

 

 

   ーーー   ーーー

 

 

一方、タツキの地元であるホクリク地方でも地元のTV局が特集を放送しており、なんと小学校の名前まで出てしまっていた。

特集の内容は夏休みのジム巡りの旅、所属しているサッカークラブでの話、小学校間の体育大会ではポケモンバトルのコーチとして選手達を指導した。など功績なのか違うのか良くわからない内容の放送となったが、視聴率は抜群に高かった為ホウエンからホクリクに戻ってきたら取材の依頼が多く舞い込むのだがタツキは丁重にお断りした。

 

世論は、搦手のようなバトルを批判する人間と新たなバトルの可能性を見出す人間とで二分され、更にバトルの研究が進む要因となった。

 

同級生達の間でもチャンピオン大会でのバトルは話題となり、華やかな真っ向勝負に憧れる子供達は批判を口にしたがタツキと親しい子供達はタツキらしいバトルだと感じていた。

 

 




今回、だいぶ短くて申し訳ないです。
プライベートで転職するので更新が遅くなるかもしれません。
ご容赦いだだけたら幸いです。


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34.早い認識

 

 

そして、タツキが四天王に挑戦する日がやってきた。

 

「四天王のメンツはゲームと変わってないな。タイプはあく、ゴースト、こおり、ドラゴン。とりあえず、この四人は今のパーティーで負けはないな。」

 

タツキ自身もTVをつければ自分の特集があちこちのチャンネルで放送されていた為、幾つかの番組は観ていた。その中にはコメンテーター達がタツキのバトルについて討論しているものもあり、客観的に見て自身のバトルが変化技を使用していてもこの世界の脳筋バトルの域を出ないモノだと感じた。

 

(このままじゃ、いくら補助技を使っていても結局はレベルや能力の高いポケモンだから勝てたと言われても仕方ない。それなら、ダイゴとの勝負で観てもらおう。力だけが全てじゃないって事を…。)

 

タツキは世論からダイゴ戦に向けて新たなポケモンの育成を始めていた。幸いにもチャンピオンロードには高レベルのポケモンが多く生息している為相手を探す手間もない。

さらに、予選前の期間に母のポケモンがタマゴをくれた事で必要なピースは全て揃っている。

その為にも出来る限り早く四天王を倒し、育成の時間を確保したいタツキはギラついた目で目の前の扉を見るのだった。

 

(チャンピオンには変化技の怖さを知ってもらうじゃないか。)

 

そう考え、ニヤリと笑いながら最初の四天王の部屋へ入っていくタツキ。

 

 

 

   ーーー   ーーー

 

 

タツキは何の不安も感じさせる事なく四天王を突破する。

この事実に世間の反応はやはり二分された。

「攻撃じゃない技を使った方が実は強くなるのでは?」と言ったなんちゃって肯定派と「結局強いポケモン使ってるから勝てるだけだろ。」と言う否定派。

しかし、メディアは賛否あるタツキの快進撃に食いつかない訳もなく、チャンピオン大会以上の盛り上がりをみせた。

 

更に、ホウエン地方ポケモンリーグ協会が驚くべき発表をする。

『今回のチャンピオン対チャレンジャーのバトルをTVで放送する。』と言うのだ。

これはタツキからのお願いであったが、協会もタツキ効果でホウエンへの観光客が増えている事もあり、世間の注目を集めるバトルをTV中継する事で更なる集客を狙っての事だった。

 

快進撃の裏ではタツキによるチャンピオンロードブートキャンプが行われており、着々とポケモン達のレベルも上がっていった。

今回は全てのポケモンをレベル50で育成を切り上げた。

チャンピオンよりも低いレベルのポケモン達で勝ち切ると考えての事だ。しかし、レベル50では覚えない技は技マシンなどを使い戦略を立てた。

 

チャンピオン戦当日、TV中継の為撮影クルーもタツキと一緒に最後のバトルフィールドへ向かう。

最後の扉の前で協会関係者に最後の戦いを前に不正がないかを調べてもらうため、使用ポケモンの検査をお願いする。

 

「タツキ選手、本当にこのポケモン達で戦うんですか?」

 

「はい。もちろん。」

 

それを聞いた関係者は思わず大きな声を出してしまう。

 

「もちろんて、昨日までのポケモンが一体もいないじゃないですか!それにどのポケモンもレベルが低い!このポケモン達じゃ、勝てませんよ!なにより4体しかいないじゃないですか!」

 

関係者は慌てた様に捲し立てる。

 

「大丈夫です。ポケモンバトルは力勝負じゃないって事を教えてあげますよ。」

 

タツキはそう言い切るとボールを受け取り、最後の扉へと歩いていく。

 

タツキが扉を開けるとチャンピオンダイゴが笑顔で待っていた。

 

「ボクは、カナズミで君に宣戦布告された時からこうなる気がしていたよ。」

 

少し大袈裟なジェスチャーをしながらダイゴが話始めた。

 

「君は何か他のトレーナーにはない気配がするんだ。もっともっとボクを楽しませてくれる様な、そんな気配がね。」

 

「チャンピオンにそう言って頂けるなら光栄です。」

 

「大会から四天王戦の全てのバトルを観させてもらったよ。とても興味深かった。特性や技を活かした流れる様なバトル。まるでそうなるのが決まっていたかの様なバトルだったね。あの力強いポケモン達と戦えると思うとボクまで興奮するよ。最高のバトルをしようじゃないか!」

 

興奮気味に話すダイゴにタツキは冷静に応える。

 

「えぇ、楽しいバトルをしましょう。そして更に驚かせてあげますよ。ポケモンの更なる可能性で俺があなたを倒します。強い力が全てじゃないんですよ!」

 

バトルフィールドの両端に分かれ、睨み合うタツキとダイゴ。

この場にあるカメラのレンズを通して多くの人がこの場を観ており、フィールド内は物音一つなく、静寂が支配していた。

 

静寂の支配を破った審判がバトル開始の合図を出す。

 

「いけ!エアームド!」

 

「積んでこい!テッカニン!」

 

 

チャンピオンダイゴ対タツキの戦いが幕を開けた。



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35.リレー

皆さんが考えていたものとは違うと思いますが、ネタも盛り込んでみました。


「テッカニン?ポケモンを悪く言うつもりはないけど、彼でボクのエアームドに勝てるかな?」

 

タツキの選出に疑問を持つダイゴ。

 

「みんな勘違いしてますよ。強いから勝つんじゃない、勝ったと言う結果が残るから強いんですよ。それに複数所持の対戦はチーム戦だって事を教えてあげますよ!」

 

自身の前を飛ぶテッカニンの背中を見ながらダイゴに啖呵をきるタツキ。

 

「なら、その強さを見せてもらおうか!」

 

「舞え!テッカニン!」

 

タツキのテッカニンが空中で独特な舞を始める。

 

「なにをしてるかわからないけどエアームド、つばめがえし!」

 

「シザークロスで弾いて、かげぶんしん!」

 

テッカニンは自身目掛けて飛んでくるエアームドを自らの爪で弾く、若干のダメージはあるもののそれはエアームドも変わらず一合目は痛み分けとなる。

 

「そのままかげぶんしん!」

 

「どくどくで動きを止めろ!」

 

自身の特性により速度の上がったテッカニンを狙おうにも早すぎて狙いが付けられないエアームド。

 

テッカニンはその間にもかげぶんしんで回避率を、特性で素早さを上げていく。

 

「テッカニン、バトンタッチ!」

 

テッカニンがその場にバトンを残し、ボールへ戻る。

 

タツキの指示にダイゴの顔が険しくなる。

 

(バトンタッチ?どんな効果かわからないが彼が使う技だ、油断出来ない。)

 

「行け!クチート!」

 

タツキの二番手は鋼・フェアリータイプのクチート。

 

「エアームド、はがねのつばさ!」

 

交代したクチートにエアームドが迫るも普通のクチートでは考えられない速さで避けるクチート。

 

「クチートがそんなに速いわけが…。」

 

物凄い速さで動くクチートに驚きながらカラクリを探るダイゴ。

 

「てっぺき!」

 

エアームドを翻弄しながら自身の硬度を高めるクチート。

何度かエアームドの攻撃が擦るものの元々の耐久値もあり、致命傷には程遠い。

クチートはその後も何度かてっぺきを使い、自身の硬度を高めていく。

 

「ほのおのキバ!」

 

恐ろしい速度でエアームドに近付いたクチートが炎を纏った顎門を開きエアームドに噛み付く。

つるぎのまいで上がった攻撃力の前になす術無くエアームドが堕ちる。

 

「エアームド戦闘不能。」

 

「くっ、エアームド戻れ!行け!ネンドール!」

 

(今の速さはさっきのテッカニン程の速さだった…。クチートの素早さが上がったのか?しかし違うポケモンなのに何故?)

 

ダイゴはエアームドに代わりネンドールを繰り出す。

そのタイミングでタツキもクチートへ指示を出す。

 

「クチート、みがわりからのバトンタッチ!」

 

クチートは小さなぬいぐるみとバトンを残しボールへ戻っていく。

 

(またバトンタッチ…、バトン⁈まさか、能力の上昇を引き継ぐ技⁈だから攻撃してこないのか⁈それにみがわり?今度はどんな効果なんだ⁈)

 

「頼んだ!レパルダス!」

 

フィールドではレパルダスとネンドールが睨み合う。

 

「つめとぎ!」

 

「させるな!だいちのちからだ!」

 

レパルダスの行動を阻止させようとダイゴが指示を出すも特性によりレパルダスのつめとぎが成功する。

 

ネンドールの攻撃がレパルダスから逸れ、ぬいぐるみに向かう。

 

高まった素早さ、回避率でネンドールを翻弄しながらつめとぎを成功させていくレパルダス。

ネンドールの攻撃は全てぬいぐるみが受け止めており、レパルダスは未だ無傷。

 

「つじぎり!」

 

凄まじい速さで接近し、研ぎ澄まされた爪がネンドールを引き裂く。

衝撃でフィールドの端まで吹き飛んでしまうネンドール。

その間に、レパルダスは最後のバトンを残しボールへ戻る。

 

「薙ぎ倒せ!キノガッサ!」

 

最後のバトンを託されたのはキノガッサだった。

この世界でキノガッサはマイナーなポケモンだった。バトルで弱いわけではない。しかし現在の脳筋環境ではどうしても他のポケモンに目が行ってしまい、使用される事が少なかった。

 

だが、このバトルでのキノガッサは違った。

テッカニンの加速で素早さは6段上昇。攻撃力はつるぎのまいとつめとぎの効果でこちらも6段上昇。命中率は4段上昇。かげぶんしんの効果で回避率も6段上昇。更に防御力もてっぺきの効果で6段上昇しており、能力的に全く別のポケモンと言っても良いほどだった。

 

その結果として、キノガッサは弱ったネンドールをはじめ、ボスゴドラ、ユレイドル、アーマルドをキノコのほうしで素早く眠らせ、立て続けに倒していった。

 

自身に傷一つ付けずダイゴのポケモン達を圧倒した。

キノガッサの速さについて来られない時点でキノコのほうしを防げず、皆夢の中へと誘われていった。

最後のメタグロスもほうしには勝てず眠ってしまい、起きるまでの間にキノガッサの火力に耐えられずに倒れてしまう。

 

これにより、ダイゴの負けが決まり新チャンピオンか誕生する事となった。

 

TVを観ていた人の大半がキノガッサではメタグロスに勝てないと思っていたが、結果はその逆となった。

 

このバトルをきっかけに巷では、タツキのバトンタッチ戦法を使う人が一時的に増えたものの変化技の知識が無いためなんの能力の引き継ぎもないバトンタッチになってしまっていた。

 



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36.反応

タツキがダイゴに勝った事は、瞬く間に全国へと広まった。

今回のバトルはお互いのポケモン達のレベルも公開されており、チャンピオンよりもレベルの劣るポケモン、しかも現在のバトル環境で重用されていないポケモン達で勝ったという事実に多くの人が驚いた。

 

一部の人から「キノガッサがあんなに強いわけがない!不正だ!」と言う声も上がったが、少し時間をおいて各協会から、バトル中にタツキの指示した技の研究結果が発表された事で批判の声は小さくなっていった。

 

これにより、バトンタッチ戦法が確立される事となった。

しかし、変化技の情報が少なく課題はあるものの多くのバトルで使用されはじめていた。

また、技の研究も活発になり少しずつ変化技の効果が発表されはじめる。

 

 

    ーーー   ーーー

 

 

「これで少しは、変化技も普及すれば良いんだけどな。」

 

タツキはそんな事を呟きながら宿泊していたサイユウシティのポケモンセンターから出ようと歩いていく。

 

「チャンピオン、お待ち下さい。」

 

協会の職員に呼び止められるタツキ。

 

「外はマスコミなど、多くの人でごった返してます。裏から出ましょう。」

 

ダイゴとのバトルから一晩。マスコミやファンなどがサイユウシティまで押し寄せており、ポケモンセンター前は大変な事になっていた。

 

「わかりました。案内をお願いします。」

 

タツキは職員の提案にのり、案内されるままにポケモンセンター内を歩いていく。

 

無事に外に出られたタツキはフライゴンに乗りミシロタウンへ向かう。

ミシロタウンのオダマキ研究所ではタツキの祝賀会の準備が進んでいた。

 

「いやぁ、ヒロトさんタツキ君やりましたね!」

 

「それもこれもオダマキ博士のおかげですよ!オダマキ博士がいて下さったからあの子はここまで出来たんです!本当にありがとうございます。」

 

固く握手をしながら話す二人。

この二人、早速飲み始めようとしたものの、「主役が来てからにしなさい!」と夫人達に怒られ、会場の準備が出来るまでの間隅の方でタツキの事を話していたのだ。

 

「いやぁ〜、小さな頃からポケモンが好きでホウエン地方へ旅に出ると言い出した時は不安もあったんですがね。まさかこんな事になるなんて思ってもなかったですよ。」

 

「僕も彼の事は疑っていたわけではないんですが、まさかここまでの早さでチャンピオンになるとは流石に思っていませんでした。彼には煽るような事も言いましたが年齢的な事を考えても些か難しいかなと思っていたんですが、結果は快進撃でしたね。」

 

二人がそんな話をしていると研究所のドアをノックする音が聞こえる。

オダマキ夫人がドアを開けに向かう。

 

「はーい。オダマキ研究所です。」

 

夫人の返事の後、ドアが開く。

 

「タツキです。ただいま帰りました。」

 

タツキがいつもの様にドアから入ってくる。

研究所にいた人達が群がり新チャンピオンへの祝福を口にする。もみくちゃにされながらも父とオダマキ博士の元へ辿り着いたタツキ。

 

「おかえり、タツキ。頑張ったな。」

 

「俺は別に頑張ってないよ。ポケモン達が俺の考えを理解して動いてくれたから出来たんだ。みんなポケモンのおかげだよ。」

 

「はっはっはっはっは!なんともタツキ君らしいね。素晴らしいバトルを見せてもらったよ。これからの時代のバトルは変わっていくだろうね。」

 

「そうですね。そうなってくれると俺も嬉しいです。」

 

タツキが二人と話していると後ろから母や妹、ハルカちゃんも近付いて来て話をする。

その後ゆっくりと話しながら全員で食事をする。

無礼講という事もあり、研究員達も大会の話を肴に酒を飲む。

時間が進むにつれて酒の量も増え、次第に賑やかになっていく。

 

(なんか、こうやってみんなの声を聞くと帰って来たって感じがするな。)

 

たった数日しか離れていなかったものの気が付かない間に緊張していたのだろう、周りを見渡し、ホッと息吐くタツキだった。

 

 

 

   ーーー   ーーー

 

 

一方、その頃のネット掲示板では…

 

 

《19.幼武者を語るスレ》

 

0046 名無し武者

何あのガッサ…

 

0047 名無し武者

ガッサはあんなに強くない

 

0048 名無し武者

メタグロスをタコ殴りにするガッサとは…

 

0049 名無し武者

誰かわかるやつおる?

 

0050 名無し武者

不正か?

 

0051 名無し武者

あの幼武者が?

 

0052 名無し武者

俺は幼武者を信じる!

 

0053 名無し武者

幼武者強ぇぇー

 

0054 名無し武者

語彙力おつ

 

0055 名無し武者

でもあのガッサの強さ何?

 

0056 名無し武者

解析班!

 

0057 名無し武者

ガッサ以外が使ったバトンタッチに謎があると見た

 

0058 名無し武者

協会から発表あったぞ!

幼武者の使ってた意味不な技はポケモンの能力を上げる技らしい。

本来交代させると能力の変化はリセットされるらしいがバトンタッチって技でその効果を引き継いだ結果があのガッサらしい。

 

0059 名無し武者

なんと

 

0060 名無し武者

それなら、直接バトルじゃ弱くても重要な役割を持てるポケモンが出てくるって事か

 

0061 名無し武者

こりゃバトル環境変わるんじゃね?

 

0062 名無し武者

その可能性高いな

 

0063 名無し武者

でも結局はどんな技かわからないとバトンタッチも意味なくね?

 

0064 名無し武者

こりゃ、荒れるで

 

0065 名無し武者

新時代だな

 

0066 名無し武者

こりゃ、これからも幼武者から目が離せねぇな

 

0067 名無し武者

幼武者のこれからに更に期待

 

0068 名無し武者

頑張れ幼武者!

 

0069 名無し武者

更にバトル界を荒らしてくれwww

 

 

 

   ーーー   ーーー 

 

 

 

掲示板でもバトンタッチ戦法についてスレが伸び、掲示板を通してタツキを応援する声が増えていく事になる。

 

 

そして、時は流れ…

 



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37.次へ

なかなか、更新出来ずにすみません。
内容も厚くしようと頑張りますのでこれからも応援お願いします。


タツキがホウエン地方のリーグチャンピオンになってから約半年が過ぎた。

 

この間にタツキは進級し五年生となっていた。

地元に帰ったタツキを待っていたのは取材の嵐だったが「騒がれたくない。」と一切の取材を断った。

学校でも多くの子供達がタツキの周りに集まったがチャンピオンを辞退したと聞くと幾分が取り巻きが減った。

それでもタツキの周りには多くの子供達が集まり、ポケモンの事やその他の雑談などで騒がしい日々を過ごしていた。

 

タツキは一度チャンピオンになるも、ある事をした後すぐにチャンピオンの座を降り、ダイゴへと返還した。

というのもバトンタッチ戦法や変化技が世間に知れ渡った事で自分の役割は終えたと考えたからだ。

 

 

 

 

   ーーー  ーーー

 

 

 

「これからは、純粋にポケモンのいるこの世界を楽しもう。」

 

タツキは自室でオダマキ博士とオーキド博士から送られて来た三つのタマゴを抱え、呟く。

 

タツキの言葉は開いた窓から外へと溶けていった。

 

抱いたタマゴを撫でながらとある冊子に目を通すタツキ。

冊子は何冊かあり、タツキが目を通しているものには『タウンマップ シンオウ』と書かれている。

 

タツキは今年の夏休みに去年のホウエン地方同様、シンオウ地方へ旅に出るつもりで準備を進めていたのだ。

 

更にタツキが抱いているタマゴは進級祝いと言ってオダマキ博士から二つ、オーキド博士から一つ贈られたもので何が産まれるかはわからないらしい。

と言うのも学会で海外の博士達と話す機会があり、その際にもらったとの事。

そんな貴重なタマゴを貰うなんて出来ないと連絡するも二人から

 

「研究所にずっといるのも可愛そうだから色んなものを見せてあげてよ。」

 

と言われてしまい、三つともタツキが面倒を見る事になったのだった。

 

「タツキー。ごはーん。」

 

下から母のアズサがタツキを夕食に呼ぶ声が聞こえてくる。

タツキは冊子を片付け、階段を降りていく。リビングに入ると仕事に行っていた父ヒロトが帰って来ていた。

 

「父さん、おかえり。」

 

「おう、ただいま。タマゴどんなだ?」

 

「少し動くことがあるからもう少しかな。」

 

と答えると大事にしてやれよ。と頭を撫でてくるヒロト。

タツキが自分の場所に腰を下ろすと

 

「お兄ちゃん、今年もどこか行くの?」

 

チルタリスに包まれた妹のミオリが聞いてくる。

チルタリスは体を撫でられ、気持ち良さそうに目を瞑っていた。

 

「今年はシンオウ地方の予定。ナナカマド博士の進化の話も聞いてみたいからね。」

 

「オラも行きたい!」

 

「それは、父さん達に聞いてよ。ただ、別行動ね。」

 

「えぇー、いいじゃん!一緒でもさー!」

 

「1人の方が色々考えさせられるし、良いと思うぞ。ポケモン達とももっと仲良くなれるしな。」

 

タツキの返答を聞き、膨れながらヒロトへお願いするミオリ。

 

「行っても良いが必ず連絡すること!約束出来るか?」

 

「約束する!だから行ってもいい?」

 

「ちゃんと毎日連絡するなら行ってもいいぞ。」

 

「お父さん、ありがと〜。」

 

あまりの嬉しさからヒロトに抱きつくミオリ。

タツキは我関せずと夕食を食べており、ミオリも母のアズサから早く食べなさいとお小言を頂くのだった。

 

ミオリは一緒に旅をしたがったがタツキが断固として拒否。

ナナカマド博士の研究所があるマサゴタウンまでは一緒に行き、その先は別行動となる予定である。

 

 

 

  ーーー   ーーー

 

 

 

ミオリの旅行きが決まった日から一ヶ月。世間は六月になろうとしていた。

この間にタマゴは無事に孵化し三体の可愛らしいポケモン達が産まれた。

うち二体は両親、妹共にどんなポケモンか分からず首を傾げていたがそれもその筈、一体はニホンでは生息地が詳しく見つかっておらず現在海外でしか見る事の出来ないポケモンなのだ。もう一体はニホンにも僅かに生息が確認されているものの珍しくまず見かけないポケモンである。

 

(海外の博士からもらったって言ってたけど、これはいいのか?二体とも600族だぞ…。)

 

タツキも産まれてきたポケモンを見て、その珍しさや系統から鳥肌がたったのを覚えている。

 

産まれてきたポケモンは、ドラメシヤ・モノズ・イーブイの三体だった。まさかの600族の幼体、更にイーブイに関しては、シンオウに行く前に見つけたいと思っていたポケモンで、シンオウ地方の特定の場所での進化を考えていた。

 

ドラメシヤとモノズは竜の血がそうさせるのか、ボーマンダに引っ付いている事が多く、はじめはボーマンダも困惑気味だったが今では諦めた様で溜め息を吐きながら二体にされるがままになっている。

一方イーブイはタツキにべったりで家にいる間はタツキから離れようとしない。タツキの膝の上が定位置となっている。

 

タツキは今回のシンオウ地方では、今までの手持ちも連れて行くが基本的には新たなメンバーを中心にバトルをしていく行くつもりだった。

今のところはタマゴ組の三体のみ確定しており、ほかのポケモンはシンオウ地方で捕まえようと考えていた。

 

タツキの二回目の旅が始まろうとしていた。

 



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