天地無用!魎皇鬼 ~アナザー~ (ロン)
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紫の瞳を持つ青年
一話
都会の汚れた空気や騒がしい喧騒が嘘の様な澄んだ空気に自然豊かな風景を横目にバイクを走らせている。
「ここが山田商店か」
現代の検索ツールでは正確な場所まで探しきれなかった正木村にあると言う柾木神社を目指す旅路。
東京からバイクで岡山県に入り近くの町役場にて確認しこの山田商店で詳しい場所を聞くように言われた。
小さな村にある個人商店だとばっかり思っていたら、辺鄙な村に不釣り合いな大型マーケットだった事に驚かされた。
「どうかなさいましたか」
「あっ、こんなへ…長閑な村にある商店のイメージと違っていて驚いてしまいまして」
「くすっ。昔はご想像される様な小さな個人商店だったんですよ」
名前とはかけ離れた店舗に驚いていると、村に住んでいるであろう荷物を持った女性に声を掛けられた。
「失礼しました。この村の方でよろしかったでしょうか、宜しければ柾木神社の場所を教えていただきたいのですが」
「あら、うちの神社に御用の方でしたか」
「神社の方でしたか、ヘルメットも脱がず失礼しました。俺は神城遥一といいます、柾木神社におられる宮司の方にお逢いてしたくて東京からきました」
「ぉ…そうでしたか、遠くから大変だったでしょう。私は宮司をしている祖父柾木勝仁の孫で柾木天女と申します」
ヘルメットを脱いだ俺の顔を見て一瞬驚いた表情を浮かべたが直ぐに元の柔和な表情で彼女も名乗った。
目指す神社の関係者と会えるとは運が良い、俺は彼女をバイクの後ろに乗せ神社までのナビゲートを頼んだ。
「神城さんは、どうしてこんな辺鄙な村の神社にいらしたのですか」
「柾木神社って遥照って方が建立された神社で間違いないですよね」
「はい。祖父からはそう聞いております」
「俺はその遥照って方の子孫らしいのですが、普通ではない事で困ったら柾木神社の宮司さんに相談にしなさいと言う手紙が残されていまして」
「普通ではない事ですか…」
それは数か月前に遡る、大学の講義中に突如大きな地震に見舞われ建物が倒壊し、瓦礫に潰されるかと思った時、突然光の羽の様な物が講堂内に居る人々を包み込み人々を守った。
直後に凄まじい脱力感に襲われ意識を失い一週間入院した。目が覚め看護婦さんに聞くと建物の倒壊での死者重傷者0軽傷者が数名で入院者したのは俺1人だった。
それで終わっていればここに来る事もなかったのだが、その後も数回光の羽に命を助けられることがあり今回の柾木神社に来る事にした。
「光の羽ですか…それで祖父に会いに態々」
「はい、両親の遺産とかを管理してくれている弁護士の方に相談したら必要だろうからと渡されたんです」
「おぉ、柾木さんあの大きな木はなんですか」
「この村には柾木姓が多いから私の事は天女で良いわよ。あれは柾木神社の御神木ですよ、近くでご覧になりますか」
「はい、ご覧になります」
「ふふ。では参りましょう」
いきなりこんな滑稽無形な話をして、彼女の声が僅かに硬くなり空気も重くなり何か別の話題に変えようとしたところに樹齢何百年も経過した見事な大木が目に映った。
彼女曰く、柾木神社の御神木らしいがあの見事な姿を見ると祖母の言っていた先祖の話も眉唾ではないのかもしれないと思った。
「でかいだけじゃなくて、この辺は空気も違いますね」
「この御神木も遥照様が植えられたと言われているわ。この水は周囲の山々から流れる湧き水が溜まって出来た湖だから飲める位澄んでいるわ」
「あの御神木に触れても大丈夫ですか」
「ご利益があるかは分かりませんが構いませんよ」
御神木を見てから不思議な感覚に襲われ続けた俺は、確認し浮石を伝い御神木に触れた瞬間木々が騒めき出すと葉先から光のシャワーが巻き起こった。
「うわぁ」
「嘘…神城君って何者なの」
暫くして落ち着いたところで先程の現象を天女さんに尋ねると、祖父で柾木神社の宮司に聞く様言われ長い階段を昇ると境内には既にメガネを掛けた老人が待ち受けており社務所へと通された。
「天女よ、そちらが先程船穂に触れた青年で良いか」
「はい、お爺ちゃん」
「初めまして、神城遥一と言います」
「天女の祖父で柾木神社の宮司柾木勝仁じゃ、先程の事が気になるかもしれんが先にここを訪れた理由を聞かせてくれるかの」
先程の件も気にはなるが、当初の目的である自身に起こった不思議な現象について話した。
「ふむ、数か月前に突然起こりそれから命の危険に直面すると度々起こる様になったか」
「怪我など危険を免れるので悪い事ではないんでしょうが、凄い脱力感に襲われ気絶すると言うのを放置しておく訳にもいかなくて」
「事情は理解した。こちらで色々調べるので暫くこちらに留まる事は可能かの」
「長期休みに入りますので可能ですが、この村に宿泊施設ってありますか」
「それには及ばんよ、天女達が住む家に部屋の余裕があるからそこに泊るとええ。天女、先に言って天地達に伝えてきくれるかの」
勝仁さんの言葉に彼女は席を外した。
「さて、神城君は手紙で知りここを訪れたと言ったがどんな風に聞かされた伺ってもよいかな」
「はい、遥照様の子孫の1人に遥照様と同じ瞳の色を持つ子供が生まれ、その子の名前に『遥』の一文字と遥照様の扱ったと剣術が伝えられたのが始まりだと聞いています。
以降、一族は剣術を継承し続け紫の瞳を持つ子供は剣の型に加え名前に『遥』の一文字か付けるのが習わしになったと、亡くなった祖母遥歌からはそう伺っています」
「ん、お婆様のお名前は遥歌殿と申されるのか」
「はい、戦国時代に関東で一旗揚げた方の先祖の名前をいただいたと言ってました」
「…そうか、時に神城君も遥照様の剣術をマスターしておるのか?」
「祖母から一通り手ほどきを受けております」
「折角じゃから一つ腕前を見せては貰えないだろうか」、
祖母に及第点を貰えなかっただけに偉大な先祖の祀られる場所で見せるのは気が引けたが、勝仁さんの熱心な誘いに俺は木刀を受け取ると境内に出て型を披露する事にした。
遥照から受け継いだ剣術に固有の名称は伝えられておらず、戦いに使うだけではなく祭りや祝いの席で魅せる為の華やかな型も存在していた。
「そ、それは樹―『お兄ちゃん凄い』―」
一心不乱に木刀を振るい最後の礼を終えると落ち着いた感じの女性と声変わり前の女の子が声を掛けて来た。
「見事じゃ。ずっと鍛錬を続けておったのじゃろう、亡きお婆様もきっと認めてくださるはずじゃ」
「お粗末様でした、柾木神社の宮司様にそう言われると少し恥ずかしいですね」
「いいえ、その様な事はございませんわ。まさかこの地で全ての型をそこまで扱える方にお目に掛かれるなんて驚きました」
「砂沙美もこんなに綺麗なの始めてみた」
落ち着いて感じの女性と女の子は天女さんの親戚で柾木阿重霞、柾木砂沙美と名乗った。
柾木の家の人らしく、剣の型を見た事があるらしく絶賛された。
どうやら天女さんが急用で来られなくなり、家主の天地と言う人物も不在の為に2人が迎えに来てくれたらしい。
「疲れただろうから今日はゆっくりすると良いじゃろう、何かわかり次第連絡するゆえ。二人とも彼の事を頼んだぞ」
「よろしくお願いします」
「「おまかせください(うん)」」
俺は阿重霞さんと砂沙美ちゃんを伴い下にあると言う家へと向かった。
「紫の瞳を持つ一族か、先程の見事な型といい船穂の事といいまた騒がしくなりそうじゃわい」
2人と話しながら階段を降りてゆく自分と同じ瞳の色をした青年の事を考えながら、勝仁も社務所へと向かった。
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二話
「さっきの遥一お兄ちゃんの型、本当に綺麗だったよ」
「あはは、ありがとう」
「ご謙遜なさらずとも良いのですわ。私どもも何度か拝見した事はありますが、勝仁様にも劣らないと思いますわ」
「勝仁さんの他にも全ての型を扱える方はいるんですか」
「天地お兄ちゃんは勝仁お爺ちゃんのお孫さんだから一通り出来ると思うよ」
これからお世話になる家の人か、祖母以外で剣の型を扱える人が居なかったから楽しみだ。
2人は知識として知っていても剣を扱うのは苦手なの用で、勝仁さんのお孫さんで柾木神社の跡取りの人が扱えるようだ。
そんな話をしているうちに目的地である柾木邸に到着した。
「遥一お兄ちゃん着いたよ」
「ようこそいらっしゃいました、神木ノイケと申します。この子は魎皇鬼みんなは魎ちゃんと呼んでいます」
「みゃみゃ」
緑色のショートカットの妙齢な女性神木ノイケさんと茶色い小動物魎皇鬼に出迎えられ家にあがらせてもらった。
天女さん、阿重霞さん、砂沙美ちゃん、それにノイケさん、他にも2人いるらしいが本来の家主である天地さんの父親は仕事場のある岡山にいるらしく
6人の女性と住んでいるとは世間の男が知ったら嫉妬の嵐だろう。
「家主の天地様はまだ畑から戻っておりません。天女様を除いて後3人いるのですが夕飯までには戻ると思いますのでごゆっくりしてください」
「すいません、お世話になります」
阿重霞さんは作業の途中だったらしく二階へと上がっていき、俺はノイケさんと砂沙美ちゃんと共にまったりとお茶をしながら、俺に興味津々な魎皇鬼と言う小動物を砂沙美ちゃんと撫でながら談笑していると、
暫くして階段の脇にある扉から赤い髪を頭の後ろで纏めた少女が姿を見せた。
「おやおや、お客さんかい」
「そうだよ鷲羽お姉ちゃん。天女お姉ちゃんが言ってた東京から来た天地お兄ちゃん達の親戚に当たる人だよ」
「みゃみゃ」
「天地殿の親戚の方かい、始めましてわたしは白眉鷲羽」
「初めまして、神城遥一と申します」
白眉鷲羽と名乗った女性が右手を出したのでその手を握り挨拶を返した。
背丈は砂沙美ちゃんと同じ位だが、その瞳は見掛けと違い理性的で見掛けとは違う感じがした。
「ノイケちゃんと砂沙美ちゃんは、そろそろ夕飯の支度もあるし休憩がてら天地殿が戻られるまでお客人の相手は私が務めておくよ」
「よろしくお願いします(鷲羽お姉ちゃんお願いね)」
ノイケさんと砂沙美ちゃんと魎ちゃんが台所に向かい、鷲羽さんと話していると御神木の逸話や正木村についてなど色々な事を教えてくれた。
「あの御神木も遥照様が植えられたんですね」
「そうさね、凶悪な2匹の鬼が蘇らない様に建てたのが柾木神社で戦いで荒れた土地を癒す為に植えたのが御神木だよ」
「ただいま、お客さんが来てるんだって」
やはり見掛けに騙されちゃいけないな、鷲羽さんの話す内容の豊富さに改めてそう感じた。
台所の方から男性の声が聞こえ、ノイケさんと砂沙美ちゃんが俺の事を伝えると居間と台所を仕切る扉が開き一人の男性が姿を見せた。
「はじめまして、柾木天地と言います」
「えっと…はじめましてですよね。すいません、神城遥一と言います。お爺様の勝仁さんにご相談があり東京から来ました。暫くの間お世話になります」
作業着を着た170センチ後半の短髪、服の上からでも分かる農作業と鍛錬で鍛えられた締まった感じの体躯の持ち主この人が勝仁さんのお孫さんでここの家主の天地さんだろう。
目があった時に妙な既視感を覚えた。
「神城殿、どうかしたかい」
「天地さんと会うのは初めてのはずなんですが、どこかで逢った事がある気がするんです」
「神城さんもですか、俺も同じ様な感想を持ちました」
「天地殿はここ数年岡山を離れた事はないはずだけど、神城殿も岡山に来たのは今回が初めてで間違いないかい?」
鷲羽さんの問い掛けに自分が覚えている限りは無い事を告げる。
考えても思い出さない以上、何かの間違いなんだろう。
「天地殿も戻られた事だし私は部屋に戻らせて貰おうかね。砂沙美ちゃんちょっと調べたい事が出来たから悪いけど夕飯はあっちに持って来て貰えるかい、それじゃ神城殿失礼するよ」
「はい、機会があったらまた話をきかせてください」
「ああ、直ぐにいろいろあるさね…」
そう言うと鷲羽さんは階段脇の扉に消えていった。
その後、天地さんに誘われ一緒に風呂に向かったのだがどんな技術で出来ているのか空中に浮かぶ巨大な浴場にとても驚かされた。
「始めて入った人は驚きますよね、土地だけは空いているのでお風呂ぐらいは贅沢しようかなと思って作ったんですよ」
「そう言えば、神城さんは先祖である遥照が使った剣術の型を一通り扱えるんですよね。今度見せて貰えませんか」
「それは構いませんが、砂沙美ちゃん達から天地さんも一通り扱えると聞いていますよ」
「お恥ずかしい話なんですが、一通り習ってはいるんですが基本の型以外は全然でして…」
「折角二人いることですし相対もやりましょうか。アレは1人では出来ないですし」
相対とは鍛錬で使われると同時に祝いや祭りごとなど神事で披露する事もある2人で行う物だ。2人が相対し剣を合わせながら一通りの型を行うのだがこれは相手がいないと出来ない。
剣の事で打ち解け歳も近い事でお互い敬称無しで呼び合おうと言う事で一致し、後は普段どんな生活をしてるのかなど話していると突然裸の美女が現れ天地に抱き着いた。
「て~んち」
「魎呼!」
「…突然女の人が現れた」
「誰だコイツ」
「姉さんが言ってただろ、お客様が来るって」
「ワリィ、すっかり忘れてた。あれ?コイツの瞳ジジイそっくりじゃねえか」
「いいから女風呂に戻れ」
「へいへい、じゃまたな」
突然現れ嵐の様に去って行った美女に混乱する俺に天地が平謝し間もなく夕飯の時間だと急いで湯に浸かった。
魎呼と呼ばれた美女が突然現れた事を問い詰めると、物陰から出て来たと言う言い訳で誤魔化された。
「天地様、神城さんも間もなく用意が終わりますので席におつきください」
「よっ、さっきは悪かったな。てっきり天地一人だと思っちまって名前は知っていると思うけど魎呼だ。まあよろしくな」
「魎呼さん、また天地様が入ってる時にワザと間違えましたわね」
先程の女性が魎呼さんか。彼女と阿重霞さんの言葉であんな事が度々起こっていると理解し少し羨ましくなった。
2人が喧々囂々やり合っている間にも砂沙美ちゃんとノイケさんが手際よく食卓に料理を並べていく。
「美味い、こんなに美味い物は初めてですよ。こんな料理なお嫁さんが居て天地は幸せだな」
「えへへ、いっぱい食べてね。お替りも沢山あるよ」
「ぶっ…ノイケさんは許嫁で、砂沙美ちゃんにはまだ早いよ」
俺の言葉に阿重霞さんと魎呼さんが揃って自分が天地の嫁だと主張し口論を始めるのを眺めながら、
天地、阿重霞さん、魎呼さん、ノイケさん、砂沙美ちゃんにニンジンを食べている魎皇鬼を含め6人と一匹と言う大勢いる食事など始めての経験だが大変騒がしいものだった。
料理は上手いし、何と野菜は天地が育てている自家製らしいがこんなに野菜が美味しいと感じたのは初めてだった。
「そう言えば、天女さんともう一人同居している人と方はどちらに」
「天女様は社務所にいる勝仁様とご一緒で、もう1人九羅密美星と言う者がいるのですが出張で明日帰って来る予定ですわ」
「遥一は天女姉さんが気になるのかい」
「いやいやいや、柾木家の女性は皆さん綺麗だから全員揃ったら眼福だなぁと思っただけだよ」
「お上手です事、ご飯のお替りはいかがですか」
「みゃあみゃあ」
「勿論、魎皇鬼ちゃんも綺麗だよ」
「まあまあ、神城様は良く分かってらっしゃる」
「阿重霞、お前の本性をみたら遥一もドン引きするぜ」
「なぁんですってぇ~」
賑やかな食事も終わり、家の前にある湖のほとりで月を眺めていると天女さんから声を掛けられた。
「何をしていらっしゃるのですか」
「天地に月が綺麗に見えると聞いたのでお月見です」
両親は物心付く前に亡くなり、唯一の肉親である祖母も高校に入学して亡くなり天涯孤独となった。
親戚もおらず食卓はずっと2人だけだったから大人数での食事がこんなに温かいものだとは思わなかった。
「女の子が多いから騒がしかったでしょ」
「ずっと祖母と2人きりだったし、その祖母が亡くなってからは1人だったので楽しかったですよ」
「親戚の方はいらっしゃらなかったの」
祖母や弁護士から聞いたことはなく、葬式にも参列者はいなかったし手紙を読むまでは親戚筋にあたる家がある事もしらなかった位だしな。
そんな事を考えながら月を眺めていると空から凄まじいスピードで迫る物体が目に入った。
「あれはなんだ」
―おい、美星の奴が帰って来たぞ
―外には神城様達が居るはずよ、知らせないと
―不味いあの馬鹿、また逆噴射忘れてるぞ
あっと言う間に近づいた強大な船の様なものが湖に激突し、衝撃で津波が俺達に迫って来た。
「神城君」
「うわぁぁぁぁ」
津波に飲み込まれると思った瞬間、あの光の羽の様な物が俺と天女さんを包み込み津波から俺達を守ってくれた。
「こ、光鷹翼…」
「「「(ご)無事か(ですか)」」」
「天女さん、ご無事ですか」
「ええ、貴方のお蔭で無事ですわ」
「よ、良かった…」
凄まじい脱力感に襲われ、彼女の無事を確認すると俺は意識を失った。
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三話
~ 柾木家リビング 白眉鷲羽 ~
「鷲羽ちゃん、彼が倒れた原因は」
「…アストラルパターンも異常なし。ふむ、力を発現した事による疲労だね」
自分を守り倒れた青年を心配そうな顔で見つめる天女殿に私はそう言った。
4枚羽の光鷹翼を出現させた青年、遥照殿の子孫であり私達が気づかなかった天地殿と同じ可能性を持つ神城遥一殿。
「鷲羽ちゃん、彼は俺と同じなのかい」
「Zみたいな存在とか言わないよな」
「それはないわね。そう言う存在がいたとして私達3人が揃って気づかないって事は有り得ないわ。検査したところ彼の体に人為的に弄られた痕もないし、考えられるのは天地殿と同じ力を持つ可能性が高いわ」
「昔この村に住んでいたお爺ちゃんと霞お祖母ちゃんの子孫で間違いないと聞いてるし、可能性はゼロじゃないんでしょうけど」
「確かに遥照お兄様の血を引いているのなら天地様と同じ様な方が居てもおかしくはないのでしょうけど…」
「先程調べた限り勝仁殿と霞殿の血を引いているのは間違いないわね。それとは別に気になる情報があったから、今それを訪希深に調べさせているわ」
「姉さま」
噂をすれば何とやら、訪希深からの報告はある意味予想通りでありながら、外れて欲しいかった答えとは別に気持ちの良くない内容が含まれていた。
天女殿や勝仁殿が彼から聞いた力の発現したタイミングに引っ掛かりを覚え、調べさせたがどうやら全宇宙に与えた影響で眠っていた力が目覚めたと推測される。
天地殿が次元の殻を突き破り掛けた際、私達3人の力の殆どを天地殿に費やしたことで全宇宙に大小な余波が発生していた。
この宇宙に大きな影響を与える物は直接修正し、時間を巻き戻す事で修正される程度の小さい物に関してはあえて手を加えなかった。
「全員が知っておかなければならないから告げたが、巻き戻す前の時間軸で彼は天地様が力を発動した余波が原因で起こった建物の崩落で亡くなっている。しかし今の時間軸では同じ様に建物の崩落が発生したが、彼が光鷹翼を発現させた事で軽傷者は出たけど死者は0で彼も生存していると言う事だ」
彼の側で起こった事故もこの小さい部類に入る物で直接介入はしなかったのだが、報告を聞けば巻き戻す前は何名もの死者や重軽傷者を出す大惨事だったが巻き戻した後は軽傷者はいたが死者は1人も出ていなかった。
訪希深により最後に伝えられた内容に全員が沈んだ気持ちになった。
「本来の時間軸だと遥一が死んでいた…」
「参ったわね。生きていてくれた事は素直に嬉しいんだけど、皇家の樹の力を借りずに光鷹翼を生み出せる存在が天地殿やZ以外に存在してしまったのは完全にイレギュラーよ」
「知り合ってしまった以上、再び時間を巻き戻すのは余りにも酷です。それに短期間で更なる巻き戻しをした場合、この世界にどんな影響を与えるか分からない以上好ましくありません。不幸中の幸いは唯一のイレギュラーと思われる彼がここを尋ねて来てくれた事ですわ」
「そうね、津名魅の言う通り私達の元に来た事に何らかの意味が有る訳だし、私も彼が知らないとは言えみすみす殺す様な事はしたくは無いわ。こうなったらしっかりサポートしましょう、それが私達に出来る最大限の贖罪ね」
「ん…」
「思った以上に目覚めが早いけどこれもこの地に来た影響かしら。とりあえず光鷹翼の事などは明日勝仁殿の方から話して貰い暫くここに滞在して貰いましょう。皆も今聞いた事は遥一殿には他言無用よ」
幾ら遥照殿の血を引いているとはいえご両親が地球人の筈の遥一殿が何故力に目覚めたのか、それに力を使った直後に気絶する事からも覚醒が完全では無い事は間違いなくこのまま東京に返す事に不安を感じた。
正木村に住んでいるなら直ぐに駆け付けられるが、そうではない彼の場合は何かがあってからでは目覚めが悪い。
まだまだ不明な部分も多いし詳しく調べる為にも彼の協力は不可欠であり、完全に覚醒させるにしてもまずは自身に流れる血の事をしっかり伝えておく必要がある。
黙って聞いていた天女殿の顔色が悪いのを見て、女神全員が揃ってるのだから安心する様に伝え彼にはそんな顔を見せない様に慰めることにした。
~ 鷲羽サイド エンド ~
~ 柾木家リビング 神城遥一 ~
「ん…」
「これでひとまずは大丈夫だよ、ただ疲労が完全に抜け切れたわけじゃないから早めに休ませるようにね。私はそろそろ研究室に戻るわ」
「ありがとう、鷲羽ちゃん」
段々と意識が鮮明になっていき、気を失う前の事を思い出した。
空から巨大な船みたいなのが落ちて来て湖畔にいた俺と天女さんに…
「そうだ、天女さん無事ですか…うっ」
「急に動いちゃ駄目よ。私はこの通り傷ひとつ無いわ、それよりも神城君が倒れたほうがビックリしたわ」
彼女に再度横になる様に言われ、横になりながら辺りを見回すと先程まで居なかった褐色の女性がノイケさんに引きずられてやって来た。
「神城様、美星が大変申し訳ありませんでした」
「ごめんなさい、まさか人が居るとは思わなくって」
「このお馬鹿、市民を守るGPの人間が逆に迷惑掛けるとか始末書じゃ済まない事よ」
俺に頭を下げる褐色の女性の名前は九羅密美星さん、どうやらこの家に住む最後の1人のようだった。
GPと言う名に聞き覚えは無いがノイケさんの言葉から警察関係の人なのだろうか、空から落ちて来た船の様な物について聞くとノイケさんから機密事項に当たる事柄なので今はお話し出来ないと言われた。
「こ、光の羽の様な物を使うと遥一の体力を大きく消耗するみたいでそれが原因で気絶した様なんだけど、一晩休めば問題ないだろうってもし異常があるようなら教えてくれって鷲羽ちゃんからの言伝」
「鷲羽ちゃんって医師か看護なのか」
「何といえば良いのか下手な医者よりも優れた医療知識を持っているのは保証する。それと明日の昼頃に爺ちゃんから話があるから社務所に来て欲しいってさっき連絡があった」
落下して来た大型の物体の事も含めてと、色々聞きたい事があったが明日勝仁さんに聞けばいいかと思い、疲労感が完全に抜けていないのでそれから暫く休んだ後天女さんに案内され俺が当面寝起きする部屋へと向かい寝る事にした。
「私も一緒に来る様に言われてるから、そんなに不安そうにしなくて大丈夫よ」
「カッコ悪いところみられちゃいましたね。天女さんも一緒に来てくれるなら心強いです」
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ。お姉さんを揶揄うんじゃありません、それにカッコ悪いなんて思わないわ、普通考えられない様な未知の出来事に触れれば不安になるのが普通よ。そ、それに庇ってくれた時の君はカッコ良かったわ、それじゃおやすみなさい」
頬を染めて早口でそう言った彼女を見送り、部屋に入った俺は既に敷かれていた布団に横になり今日の出来事を思い出しながら不安な気持ちも浮かび上がったが、それ以上の賑やかさと安心感に包まれ直ぐに眠りについた。
「おはようございます。遥一様お早いのですね、昨日はよくお休みになられましたか」
「遥一お兄ちゃん、ノイケお姉ちゃんおはよう。遥一お兄ちゃん体はもう平気?」
「ノイケさん、砂沙美ちゃんおはよう。ぐっすり寝られたお陰で体調もこの通り万全だよ」
光の羽の様な物に守られた翌日は疲労が抜けず朝起きるのも大変なのだが、今日に限ってはそんな事も無く逆に何時もより早く目が覚めた事に驚きながら用意しておいてもらった木刀を片手に体を動かしているとノイケさんと砂沙美ちゃんが起きて声を掛けてきた。
心配をされたが軽く体を動かす事で問題ない事をアピールすると安心した様で5分程言葉を交わすと二人は台所へと朝食の支度に向かった。
2人との会話で分かったのは、炊事とくに食事作りに関しては砂沙美ちゃんとノイケさんが以外の人間は宛にはならないらしい。
阿重霞さん、魎呼さん、美星さんに関しては全くこなせないと言う訳では無いが後始末に多大なる労力が掛かるらしく食事の支度はさせられず、
鷲羽ちゃんに関しては部屋に籠って作業をしている事が多く、砂沙美ちゃんが体調を崩すなどの緊急時にのみ出張って来るレベルらしい。
台所へ向かった二人を見送ると大浴場は24時間入浴出来ると言われ汗を流すべくそちらに向かった。
「すいません勝仁さん、もう一度言っていただけますか」
「天地とアヤツの父を除いて全員がこの星の人間では無い」
「はぁぁぁ~~」
風呂で汗を流した後、午前中はのんびりと過ごし昼を少し過ぎたところで、天女さんと向かった勝仁さんの社務所で聞かされた話は突拍子もない物だった。
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四話
「え~と…すいません勝仁さん、もう一度言っていただけますか」
「お主、天地、天女それとこの柾木村に住む人々の殆どは純粋な地球人ではない。更に柾木家にいる女性陣は全員宇宙人じゃ」
「はぁぁぁ~~」
勝仁さんに呼ばれた俺は天女さんを伴い向かった社務所にて、彼がこの星の生まれでは無く祖先である遥照本人であると聞かされた。
更に柾木家にいる俺・天地・天女さんを除き全員が宇宙人だと聞かされた。
「突拍子も無い話で驚くのも無理ないけど、私と天地そして遥一君もお爺ちゃんの産まれた星である樹雷と言うんだけど、その血を引いた純粋な地球人ではないわ」
「わはは、驚いてるみたいだね」
「・・・わ、鷲羽ちゃんも宇宙人だと認めるわけ」
「地球人から見ればそうだね。見た目はこうだけど実年齢は万を超えるし、他の子にしたって見た目と実年齢が一致しないよ」
気配を感じさせず突然話し掛けて来た鷲羽ちゃんに驚きつつ問いかけるとそんな答えが返ってきた。
外見的には20代に見える天女さんも実年齢は80を超え同級生が存命の為にこの家に居る時以外は歳相応の姿でいるらしい。
「何故いきなりそんな話を…」
「その理由は遥一殿が昨日見せた光の羽…光鷹翼と言うんだけど、基本的にその力は皇家の樹のサポートを受けて初めて扱える物のはずなの。しかし、遥一殿は皇家の樹の力を借りる事なく光鷹翼を使ったこれは大変な問題なのさ」
「光鷹翼については後で話すとして、まずは儂の話をしておこう」
そう言って話し始めたのは勝仁さん遥照がこの星に来た理由だった。
700年程前に故郷である樹雷星が1人と1匹の宇宙海賊に襲われ、それを追って地球まで辿り着いた彼が激闘の末に退ける事に成功したが、乗って来た宇宙船が破壊され帰る宛が無くなり彼は地球で生きる事にした。
樹雷星の文明は地球を遥かに凌ぐ科学技術等を持ち、生体強化や延命調整が可能だったが、あくまで皇家の樹の恩恵があっての事でそれを失った以上は途中で微妙が来ておかしくなかった。
地球で生活を始めて5年経…10年経っても老いる事が無い事を疑問に思い調べた所、力を失ったと思われていた皇家の樹がこの地に根を張り生きている事を知った。
そこで柾木神社を建て妻を娶るとこの地に村を作り今に至るらしい。
「鷲羽ちゃんが言う様に船穂の樹がこの地に根付いたから存命なんじゃが、皇家の樹は本来樹雷星以外で根付く事がないとされていたのじゃがな」
「そこら辺は地球と樹雷の間に何らかの繋がりがあるのかもしれないわね」
勝仁さん達の話から光の羽…光鷹翼の発現が俺の中に流れる勝仁さんの故郷である樹雷の血が流れている事に端を発するためだった。
皇家の樹のサポートがあって初めて発現出来るはずの力が、そのサポート無しで発揮出来る理由は不明だが天地も同じ様に自力で光鷹翼を発現出来る1人らしい。
ただし、樹雷星の歴史上でその様な人物がいたと言う歴史は存在せず現在確認されているのは俺と天地の2人のみだった。
「落ち着いてから話すつもりだったけど、昨夜の事もあり取り急ぎ話をしたと言う訳じゃが…」
「そこからは私が引き継いで話すけど、遥一殿の危機に際して発現したのは光鷹翼で間違いないわ。天女殿と勝仁殿から聞いた話と直接遭遇した天地殿達の言葉だから間違いは無いわ。気絶した遥一殿には申し訳ないけど検査をさせて貰ったけど、命に関わるレベルまではいかないけど消耗が激しすぎるの」
そう言った鷲羽ちゃん曰く、今までの研究結果から見ても明らかに消耗度が高く完全に力が目覚めておらず、その状態下で光鷹翼を発現させている為に体に大きな負荷が掛かっているのではないかと言うのが鷲羽ちゃんの結論だった。
これは天地と言う俺と同じ事が出来る人間を研究して来たことからの推論だと言う。
天地は初めて発現させてから今日まで幾度も光鷹翼を発現して来たが、ある程度の疲労は観測されるが気絶する様な事は一度も無かったらしい。
「分からない事だらけなんですけど、大変な事だというこだけは理解出来ました。それでこれからどうしたらいいんですか」
「当面の間柾木家に滞在し経過観察かしらね。樹雷の力の研究は何千年とされて来たけど殆ど解明されていないけど、ここには勝仁殿に天地殿を含め樹雷の直系が4名もいるし、この宇宙一の天才科学者である鷲羽ちゃんも居るから何らかの対応は出来るわ」
「それで期間的にはどれ位だと考えてるんですか」
「そうね。ぶっちゃけちゃうと突然解決しちゃう可能性もあるんだけど、とりあえずサポート体制が整うまで2週間位滞在してくれると助かるわ」
先祖が住んで居た場所に興味が無いわけではないし、この村に着いてから不思議と落ち着く様から少しの間ここでゆっくりするのも良いかもしれない。
勝仁さんからも祖先や祖母の事を知る人が存命だしこの機会に少しそれらを知るのも良いかもしれないと言われた。
鷲羽ちゃんの言う2週間と言う期間は、問題が解決せず東京に帰った場合のフォロー出来る体制を作りあげる目安らしかった。
「折角来た故郷とも言える場所ですし、そんな長期の滞在しても良いのでしょうか」
「それなら問題無いわ、事前に天地達にも相談して了承は取ってあるから」
「天女殿の言う通り家主の天地殿には話は通してあるから安心して良いわ。脅かす訳じゃないけど遥一殿のその力は色々な意味で危険も孕んでいるの、準備が整わない内に東京に戻って万が一が起こるのは本意じゃないでしょ」
「儂も鷲羽ちゃんの言う通りじゃと思う、儂らが持つ力は人の身で持つには余りにも強大じゃ、切欠はどうあれ折角ここまで来たのじゃ騙されたと思ってゆっくりしていけばよい」
余りにも突拍子も無い話だが、明らかに自力でどうにか出来るレベルを超え危険も孕んでると言われて俺はこの提案を了承した。
これ以降は都度必要になれば話をすると言う事で、明日からは予定が無い限りは天地と共に修行に参加する様言われ社務所を出た。
「それじゃ、気分転換に天地が耕してる畑に行ってみましょう。この時間なら天地もいるはずだし少し話をしてもいいかもしれないわ」
「ええ」
勝仁さんと鷲羽ちゃんから聞かされた話が壮大過ぎて頭の整理が追い付かない俺を見越して、天女さんが天地が居るであろう畑へと案内してくれた。
今回の話は、この村で育った人間が成人する時に聞かされる話なのだが今ほど簡単に外の情報を得られないご時世だった事もあり聞かされ当時は大層驚いたらしい。
木漏れ日の中を歩いて行く内に落ち着いていくと今度は遥照様の鬼退治の逸話が気になり問いかけると思わぬ事実が分かった。
「お爺ちゃんの話に出た宇宙海賊って、魎呼と魎皇鬼ちゃんなのよ」
「は?魎呼さんと魎皇鬼ちゃんが鬼」
彼女の話だと、700年前に樹雷を襲った魎呼さんを追い掛けて地球に来た勝仁さんが戦いは人知を超えた物で、当時の地球に人々がそれを見て鬼と称したのが始まりだった。
魎呼さんが飛べる事にも驚いたが、あの魎皇鬼ちゃんが宇宙船になる事に驚かされた。
人が空を飛びエネルギーを放ち、大型船サイズの物体が空を飛び回る光景を幻視して確かに当時の人々がそう言ったのも頷ける。
「数年前、瀬戸大橋で謎の爆発事故があったでしょ。あれの原因は魎皇鬼ちゃんに乗った魎呼とお爺ちゃんを探しに来た阿重霞さんがドンパチやった余波が原因なのよ」
「当時ワイドショーでUFOを見たとか言う情報もあったけどアレは本当の話だったんですね」
「お父さんから連絡が来て驚いたわよ、地球にいる担当者に連絡を取って魎皇鬼とかの映像を誤魔化すのに苦労したらしわ」
現在の地球は、樹雷などからは初期文明と認知されており外部からの接触は基本的に禁止されていた。
それに銀河最大勢力である樹雷皇の妻が地球人と言う事もあり特別保護地域にも指定されており二重の形で保護されている状態らしい。
とは言え、皇族など極一部の人間は樹雷の存在を認知しており瀬戸大橋の時の様な事が起こった場合には連絡を取り処理をしているのが現状だった。
「それじゃ魎皇鬼ちゃんの方はお姉ちゃんに任せて男同士でゆっくりと話すと良いわ」
「気を使わせてすいません」
「天女姉さん、魎皇鬼のことお願いします」
褐色の肌の幼女姿の魎皇鬼ちゃんの手を引いて柾木家へと戻る天女さんを見送り、突然来た事を詫びると何となく来るような気がしていたと予め準備していた予備の鍬を手渡され初めての畑仕事を手伝うことにした。
「よっと…俺の場合はじっちゃんに内緒で魎呼の封印を解いた事が切欠でなし崩し的だったな。正木村の真実とかゴタゴタが落ち着いて初めて聞かされし、姉さんが居る事だってその時まで知らなかった位だった」
「まじか、んしょっと…その魎呼さんって遥照様が封じたと言われてた鬼って話は本当なのか」
天地によると魎呼さんを含む柾木家の女性陣は生体強化によりやろうと思えば大岩を砕く事も出来なくないらしい、その中でも特に戦闘能力と言う面で突出しており飛翔能力に手からエネルギーを撃ち出すなど、巨大国家樹雷を手玉に取るだけの力を有しているらしい。
そんな人が700年前の地球に現れたら鬼だ何だと伝えがられてもおかしく無いかもしれない。実際のところ勝仁さん当時の遥照による情報操作があってそうなったらしいのだが、宇宙人でも妖怪でも人知を超えている存在であるのは間違いない。
「天地、こんな物でいいか」
「助かったよ、鷲羽ちゃんの技術で普通より楽なはずなんだけど人の手でしないと味が微妙でね。帰り道に魎呼の封じられた祠の前を通って帰ろう」
かなりの広さを誇る畑の殆どが魎皇鬼の大好物だと言うニンジンが植えられているのには驚いたが、先程の天女さんが連れて行った幼女が魎皇鬼の変身した姿であり本体は宇宙船のコンピューターユニットで遥照が倒したとされる2匹の鬼の片割れである事を聞かされた。
ノイケさんも手伝ってくれるようになり大分楽になったと言っていたが、当分の間こちらにお世話になるので基本的に俺も手伝う旨を伝えながら目的の祠の前に辿り着いた。
「て~んち~」
「こら魎呼、遥一だから良いけど少しは注意しろ」
「何言ってるんだよ、この村の連中ならもう周知の事実だし、こいつがじじいから話を聞くまで我慢してたから大丈夫だって、なあ遥一」
「うわっ、いきなり後ろから魎呼さんが…」
上空から天地に抱き着いていた魎呼さんの姿が突然目の前から消えると、いきなり誰かに背後から抱き着かれた事に驚いて顔を後ろに向けると悪戯っ子の様な笑みを浮かべそう言った魎呼さんがウインクすると再び姿を消し天地に抱き着いていた。
天地曰く、所謂テレポートこれも魎呼さんの能力の一つである程度の距離ならこの様な事も出来るらしい。
「それにしてもあんなに小っちゃかったお前がこうしてここに来るなんてな」
「はい?俺はここに来た事あるんですか」
「知らなかったのか、天地を抱えた清音と一緒にお前とそっくりな色の瞳の女性がお前を抱えてここにやって来た事があるぞ」
この祠に封じられてから何百年かして、祠の入り口までなら意識だけ飛ばせる様になっていた魎呼さんはずっとこの祠に来る人間を観察し続けて来たらしい。
その彼女が言うには遥照と同じ瞳の色をした人間がこの地を訪れる事も見ており、直近で天地が生まれた数年後に来た事も覚えていた。
ただ、彼女が言う女性が歳の頃20代半ば天地の母親である清音さんと同年代程度だったと言われ俺は混乱する事になる。
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