魔女兵器 Another Story(書き直し中) (にえちゃん)
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設定集(未完かつ、追加、変更予定)

主人公

レイ・フォン・ブラウン年齢15歳

男の子の時

身長:170cmぐらい

体重:65kgほど

視力:右0.5 左0.8

握力:右68 左60

50m走:6.34

 

髪は短く白髪にほんのり朱がある(髪色は変えるかも…?)

ゲームのし過ぎか薄ら隈があり、目は少し鋭い

普段はメガネをかけているが時々コンタクトの時もある

運動をそこそこ(主人公基準)してるので筋肉はある方(主人公基準)

走るのは早い

6年前の七年戦争の際に両親と妹を失っている

家族の唯一の形見はいつも首にかけているペンダント(形は未定だけど何か球状のものにする予定)

その後幼馴染であるレンの家族に引き取られ、レンの義理の兄として生活している

レンとは同い年だが若干主人公の方が誕生日が早い

 

好きなこと

読書(ラノベや漫画等)

ゲーム(ムービーが長くない、又はスキップできるやつならだいたい好き)

ランニング と言っても気が向いた時だけ

 

嫌いなこと

泳ぎ スポーツは割とできるのに何故か泳げない

料理 別に下手ではない、ただめんどくさいだけ

 

女の子の時

(名前は未定)

身長:165cmぐらい

体重:55kgぐらい

バスト:85ぐらい(これアンダーいるの?)

ウエスト:63ぐらい

ヒップ:79ぐらい

視力:右2.0 左2.0

握力:右55 左50 ???時:右108 左98

50m走:8.29 ???時:3.45

 

髪はTSして地面に届くか届かないかぐらいまで伸びた(予定)

隈は消えて、目つきも多少マシになった

???時には髪が炎の様に煌めく(髪の色が濃くなってマリル程ではないが赤くなる予定)

胸を邪魔だと感じている(D)

よくマリルに揉まれている

 

 

原点(オリジン)

身長150cmぐらい(状態により変化)

体重45kgぐらい(状態により変化)

スリーサイズ(状態により変化)

他能力値(状態により変化)

アルビノ

 

レン・フォン・ブラウン(――)年齢15歳

男の子の時

身長:

体重:

視力:

握力:

50m走:7.53

 

短髪黒髪で、裏(?)が赤くなっている

ゲームが大好きでよく――に挑んでは返り討ちにされている

よく夜中までゲームをしているが大抵寝落ちして、寝坊する

なんだかんだ言いつつ世話を焼いてくれる――のことが好き(家族として)

運動は平均少し下ぐらい

 

好きなこと

ゲーム

――と一緒にいること

 

嫌いなこと

早起き

運動

勉強

 

女の子の時

身長:161cmぐらい

体重:unknown

バスト:unknown

ウエスト:unknown

ヒップ:unknown

視力:右2.0 左2.0

握力:unknown

50m走:8.28

 

ロス・ゴールドによって女の子になった

身長が若干縮んだのを気にしている

 

マリル・フォン・ブラウン年齢unknown

身長:unknown

体重:unknown

バスト:unknown

ウエスト:unknown

ヒップ:unknown

視力:unknown

握力:unknown

50m走:unknown

 

「あまり女性のことを探るのは関心しないなぁ」

「コレはお仕置きが必要か?」



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1章 始まるもう1つの物語
PART.1 有り得たかもしれないもう1つのお話


注意!
この小説はもうすぐ魔女兵器がサービス終了するので前に書いてたやつを書き直してなんとか完結だけはさせたいなぁと見切り発車してたものです
一応初見向けにするつもりですが説明が抜けていたりするかも知れません。
ネタバレ…は気にしなくていいや
性転換、ガールズラブという名のボーイズラブ等があります。(多分)
そして駄文です。
それでもおkという方のみご覧ください


とある記録――

 

 

 

『異質物』

 

 

 

それは超常現象を引き起こす情報、又は媒介

 

ソレは人類が関知しうる原理の集合体であり、ソレは人々の暮らしに多大な影響を与えた。

 

『異質物』の力は現代科学の既存解釈を一変し、新たな時代へと導いた。

 

『異質物』の力は数々の事件・騒動を引き起こし、七年戦争と呼ばれる大戦の切っ掛けになった。

 

その為、人々は『異質物』の力を『神の力』と恐れ崇め、『聖痕』と呼ばれるようになった。

 

『聖痕』の中でも最も強力とされたもの――XK級『異質物』と呼ぶ。

 

異質物研究技術の進歩によって、それらは人類の手に負えぬ脅威として認知された。

 

その後、六大国家と呼ばれる勢力が所有する切り札として保管された。

 

その結果、強力な力は核に取って代わる抑止力なり、皮肉にも六大国家間での平和条約の締結に至った。

 

それ以降、各国は戦争の拡大を防ぐため『異質物』の講究に重きを置く方針を世間に発表。

 

後に六大国家はそれぞれの首都の名前を「学園都市」(Academy City)へと改名した。

 

各国の表面上は世界の安定化を保ちつつ、水面下では世界中の技術研究をさらなる進出・発展へと向かわせた。――

 

 

 

―時代は流れ、ある推論が注目を浴びた。

 

それは『特定の媒介』の影響下において『異質物』と媒体となる個体が共鳴し、『異質物』の超常現象の力を意のままに操れるようになる、というものだ。

 

 

 

『異質物』の超常現象において、最も多く知れ渡った媒体となる個体

 

通称『魔女

 

貴方は知っているだろうか?

 

『魔女』の人智では計り知りえぬ力の根源となる『異質物』を――

 

貴方は知っているだろうか?

 

それは嘗て(かつて)魔導器』と呼ばれていた事を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本第五学園都市新豊洲 某所

 

 

 

「おい起きろ――、遅刻だぞー」

 

 

 

今俺が起こそうとしているのは――、俺の両親が数年前の事故で亡くなり、両親の友人である――の親に養子…――の義理の兄として迎え入れられた

 

まあ別にそれで関係が変わった訳じゃあないが

 

ちなみに幼馴染と聞けば可愛い女の子を想像しがちだがコイツは男だ

 

そして俺も男だ、男同人だから気が楽だが、コイツの両親は仕事の都合でよく家を空けているのでコイツと二人きりなんだがそのせいで周りから薔薇園だのなんだの言われるのが欠点だ、俺はノーマルだっ……

 

にしても、コイツは今日は朝から講義があるってのに昨日の晩に新作のゲームを取り出したかと思えば「一緒にやろうぜ、今日は寝かせないからよ!」とか言い出した挙句、いの一番に寝落ちしたのにまだ寝ているのか、もう俺は準備は終えているんだがなぁ

とりあえず起こすか

 

ユサユサ…

 

 

 

「五月蝿いなぁ、後5分位いいだろ~……」

 

 

 

そう言いながら――は目を擦りながら視線を頭の横に置いてある時計に注ぎ、パチパチと目を瞬かせた後、まるで石像の如く硬直した

 

 

 

「――?」

 

 

 

名前を呼ぶと硬直が解けたのか飛び上がり

 

 

 

「うわぁぁぁ!遅刻だ遅刻ー!――、早く行くぞ!!」

 

 

 

と叫びながら慌てて着替えながら講義の準備をしていく

 

どうでもいいが、事前に準備ぐらいしておけよ……というか

 

 

 

「お前が中々起きないからこんな時間になったんだろうが……」

 

「ゲームの『次のラウンド』ってのは…ゲーマーにとって押さなければいけないという使命があってだな……」

 

「だからと言って寝落ちするまでやる必要はないだろう、常識的に考えてみろよ」

 

「1番遅くまで起きていたくせにコイツッ」

 

「起きない方が悪い」

 

 

 

そんな軽口を飛ばしあっているとどうやら準備が終わったようで

 

 

 

「よし――、早く行くぞ!!」

 

「だからお前が寝坊したからだろうが……、後これ朝食のサンドイッチだ。これなら走りながらでも食えるだろ、てか食え」

 

「飲み物は?」

 

「その辺の自販機で適当に買えばいいだろう。ほら、さっさと行くぞ」

 

「ま、待ってくれぇ~」

 

 

 

俺が家を出ると――が情けない声を出し転けそうになりながらサンドイッチを咥えて走ってくる

 

まるで一昔前の漫画やアニメでよくあるヒロインみたいな感じだな

 

コイツ男だけど

 

 

 

「じゃあどっちが先に研究センターに着くか競走だな、負けたら今日の晩飯当番で」

 

「おいっ、食べながらの俺が不利じゃないか!」

 

「寝坊する奴が悪い」

 

「ぐっ…正論過ぎて何も言い返せない……」

 

 

 

俺は言いたいことを言うと――を置いて走り出した

 

――もサンドイッチを食べながら必死に着いてくる

 

これが俺のいつもの日常、のはずだった……

 

 

 

そうして今日が始まった

 

 

 

全ての始まりが

 

 

 

もう1つの有り得たかもしれない物語が――

 

 

 



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PART.2 襲撃

寝坊した幼馴染とそれを起こす主人公
その結果講義に遅刻することが確定に
それは幸運だったのか不幸だったのか……


機械音声

認証完了、ログインを完了致しました。

 

ユーザーID:――――――

名前 :――――

年齢 :15歳

性別 :男性

 

ようこそ――、第五学園都市スティールマウント研究センターへ、

こちらは『異質物』の収容、研究を目的とした施設です。

新豊洲境界内では最大規模の施設です。

『異質物』は別称『聖痕』とも呼ばれていて、特定の状況下において一般常識、現代科学を超えた超常現象を引き起こす道具などの総称です。

本日は研究センター内での『学園解放日』となっております。

場所は二階、東にある第四講義室です。

研究センターは市民の皆様と他の学園都市の視察団に対して開放されております。

公共教育における重要な役割の一環として、本日講義が行われており――

 

 

「はぁ……はぁ……なんとか閉館前に、間に合った、みたいだ……」

「誰かさんがゲームのし過ぎで寝坊しなきゃな」

「まだ言ってるのかよ……」

 

――の寝坊のせいで遅刻したもののなんとか閉館前は間に合ったみたいで思わずホッと胸をなで下ろした

――は走り疲れた、というより食べながら走ったせいで酸欠なのだろう、近くの壁にもたれかかって必死に呼吸をしている

――が息切れしていて俺がしてない理由?

それは――はサンドイッチを食いながら走ってるせいで何度か喉に詰まらせそうになってたから――がギリギリ何とか走りながら食べられる速度で走ってたからだろうな

 

「とりあえず出席の捺印押してもらう為にさっさと指定された講義室に行くぞ」

「はぁ…ふぅ…でもエレベーター止まってるみたいだぞ?」

「うげっ、マジか…二階だから走れば間に合うかもしれないけど走ってきたから流石に厳しいか」

 

エレベーターはどれも動いていないのかボタンを押しても反応がない

走って行こうにも二階と言えど階段は今いるロビーから遠く、更に指定されている講義室も階段から遠い

流石にスタミナが持ちそうにないし――はまだ息が切れてるし、どうするべきか…

そう俺が悩んでいると――が何かを見つけたようで手招きしてくるので――に近寄ると――がもたれかかっていた壁に付いている小さな扉を指さしてきた

 

「どうしたんだ?」

「見てみろよ、この貨物エレベーター動いてるぞ」

 

扉を開けてみるとそこには確かに動いている貨物用エレベーターがあった

予備なのか小さいが2人ぐらいならギリギリ乗れそうだ……

 

「これに乗って行こうぜ」

「いや、いくらなんでもコレは不味いだろ、それに小さい」

「んなもん単位を取れないよりかはマシだろ、さぁ行くぞ」

「おい、ちょっと…」

 

ただでさえ遅れそうってか遅れてるのにこんな事してみろ、バレたらどうなることか……そう――に文句を言おうとする前にエレベーターに押し込まれる。俺を押し込むと――もエレベーターに入ってくる

やはり小型の貨物用エレベーターに二人も乗るのは無理があり、身動き一つ取れない

無理な体勢のせいで身体の節々が痛み思わず顔をしかめる

――はエレベーターに入れた事を確認すると外側にある昇降ボタンを押した

 

「おい――、もう少し詰めろ」

「こんな狭いのに身動きとれるかよ」

「なんで男と2人密室にいないといけないんだ……」

「まあまあ、動いていた予備の貨物用エレベーターを見つけられたんだから文句言うなよ。さっさと講義聞いて、捺印貰って、サクッと単位を貰っちゃおうぜ」

 

そんなことを言っているとどうやら目的の二階に着いたらしくエレベーターのドアが開いた

やっとこのクソ狭い空間から出られる……

 

「さっさとどけっ」

「ぐえっ」

 

ゆっくりとエレベーターから出ようとしている――を蹴飛ばし外に出る

カエルが潰れたような声を出しているが多分大丈夫だろう

少ししかエレベーターに乗ってなかったが腰が痛い

帰ったら湿布でも貼るか

 

「ったく、で?講義室は東の第四だったな」

「いてて…そうだけどよぉ、なんで蹴られなくちゃいけないんだ?」

「お前が男なのが悪い、美少女になって出直せ」

「理不尽だ……」

 

にしても人通りが全くないな……

今、2階の渡り廊下を歩いているのだがコレはおかしい

普段も人通りは少ないが全く人がいないという事は1度もなかった

廊下には消毒液のような匂いがしていて、まるで閉館後、または開館前なのではないかと思えてくる。

――も不思議に思っているのかしきりに辺りをキョロキョロしている

 

「これって閉館前には間に合ったけど、講義には間に合っていない感じか?」

「いや、予定ではまだやっているはずなんだが……」

「やっぱりあのゲームはあの時やるべきじゃなかったんだ……」

「はいはい…もう何回目だ、その話。とりあえず講義室に向かうぞ」

 

この世の終わりかのような顔をした――を適当に流しつつ進んでいると

突然首を誰かに捕まれ、素早く廊下の隅に引っ張られていく

急なことに驚いたのとかなり強い力で引っ張られバランスを崩して後ろに倒れると後頭部に何か柔らかいモノが当たったのを感じた

その感触を気にしつつ辺りを見回すと、ここは狭く周囲が薄暗い通路だと言うのがわかった

まだ日は出ているが研究センターの窓は少なく何故か最低限の非常灯しか点いていない為、かなり見通しが悪い

――がどうなっているのか確認する為に声を出そうとしたが、素早く手で口を押さえ付けられ、思うように声が出せない

ってか片手だけなのになんて力だっ

いや、俺が非力なだけか……――でもサンドバッグにして鍛えた方がよかったな……

アホな事を考えていると隣からくぐもった声が聞こえてきたので様子を見ようと全力で顔を横に向けると――がジタバタと抵抗していて、それを赤髪で白衣をきた女性が片手で押さえ込んでいるのが確認できた

白衣の女性は背を壁に預け、俺達の口を押さえ続ける

女性が腕に力を込めると後頭部の感触が主張を増し、香水の甘い香りが鼻を、いや、俺の理性を揺さぶる

美人、美人だぁぁぁぁぁ!!!胸やわらけぇぇぇぇぇ!!!めっちゃいい匂いがするぅぅぅぅぅ!!!もう死んでもいいや(遠い目)

隣を見ると――はこの状況に混乱しているのか頬を赤く染めて必死に拘束から逃れようとしている

そういや――は女性に対する免疫無かったな

俺?暴れるのをやめて色々楽しんでるよ

 

「しー、声を出すな……」

 

白衣の女性は声を抑えながら話す

その雰囲気からはとてつもない威圧を感じた

とりあえず頷くと、それにつられてかアイツも小刻みに頷いた

未だに状況が理解出来ないがこの女性は悪い人ではなさそうだ、多分

俺達(主に――)が暴れないのがわかったのか、女性の腕の力が少しだけ弱くなった

若干痛かったが胸に頭を押し付ける口実が無くなってしまったのが痛い

多少頭を動かしても大丈夫そうなので俺達を拘束している女性を見てみると女性の胸元にネームプレートがあり、そこには小さな文字で『首席科学者』と書かれていた

正直科学者と言えば非力なイメージだが偶にめちゃくちゃ鍛えている人もいるから多分この人もそんな部類なのかただの変人なのか

……若干拘束が強くなった気がするが気のせいだろう

そもそも白衣の女性は俺達を見ておらず、俺達が歩いていた廊下の方を見ている

位置的に何を見ているのかは分からないが少しの間、感触とかを楽しんでおこう

 

――しばらくすると白衣の女性が見ている廊下の奥、俺達が来た方向から1人分の足音が聞こえてきた

どうやら男性のようで何か話しているようだ

 

「報告だ、そちらの言うとおり予備の貨物用のエレベーターが動いていたから停止させておいた。特に誰か居た様子もない。」

 

男性以外の声はしない。研究センターの警備員なのだろうか

確認しようにもこちらからは男性のいる廊下が見えないが、どうやら――からは少し見えているようで、そちらをじっと見つめている

 

「この研究センターはテロリストによって占拠された、死にたくなければ黙ってここでじっとしていろ」

 

そう言うと白衣の女性は俺達を解放すると、廊下へと飛び出して行った

占拠…つまりさっきの人はテロリストということか

それも六大都市の首都の研究センターに潜入し、武器まで持ち込める奴らか……恐らくかなり大きな組織なんだろう

ここから無事に脱出するにはどうすれば……

 

そんなことを考えていたら何かがグシャッとひしゃげたような音が聞こえてきた

恐る恐る廊下を覗いてみると、覆面姿をした男、恐らくコイツがテロリストなんだろう、が白衣の女性に引きずられていた

白衣の女性はこちらに気絶しているテロリストを引きずってくると、慣れた手つきでテロリストから拳銃と弾倉を奪った

 

「この人は……?」

 

――は未だに状況が理解出来ていないのか不思議そうに首を傾げている

正直俺も首を傾げたい状況だが、テロならそんな事は言ってられない

本当にテロだとしたら、爆弾が至る所に設置されているか、もしくは……

いや、ありえないだろう

テロリストが『異質物』を持っているだなんて

 

ガタン、という音が聞こえ、そちらに視線を移すと

白衣の女性が覆面男を配電盤の中に蹴り入れていた

配電盤に人が入れるスペースなんかあったか?いや、見たことないけど

にしても、白いシャツにスカート姿なのによくあんな大胆な動きができるな……そして見えなかった、畜生!

 

「ふう……まあしばらくは誰も来ないだろう」

 

白衣の女性は汚いモノでも触ったかのように両手をはたくとこちらへと振り返り俺達を見る

鋭い視線に思わず背筋を伸ばしてしまったが、隣でポカンとバカみたいな顔をしている奴よりかはマシだろう

というか、コイツは何を考えているのだろう

さっきから表情がコロコロ変わっているが……

にしてもこんな美人な女性この研究センターに居たか?

何度か足を運んでいるが見たことがないぞ、まあ最近来た人なのかもしれないが……

白衣の女性は俺達の視線に気が付いたのか拳銃の弾倉を抜き、弾数を確認しながら話しかけてきた

 

「おい小僧、どこを見ている?」

 

怪しんでるのがバレた?いや、俺じゃなく――のようだ

まあアイツは割と純情だからなぁ

綺麗なお姉さんがいたらそりゃあ気になるよな

 

「こ、ここここんにちは、あ、あなたの名前は?」

「……マリルだ。今日はクs、めんどうな教鞭を持たされた挙句、クソどうでもいい講義をする予定だったんだが……」

 

マリル、そう名乗った女性は弾倉を拳銃に装填し、白衣のポケットにしまった

さっきのクソ発言は聞かなかったことにしておこう、指摘でもしたら理不尽な目に合いそうだ

 

「さっきの覆面姿のテロリスト達が講義室を占拠した。有難いことにめんどうな講義はキャンセル……」

「マ…ママ…マリル・フォン・ブラウン!?」

 

――がマリルと名乗る女性のフルネームを聞いて変な声をあげる

そんなに有名な人なのか?――と違って俺は全然ニュースとか見ないから全く分からない

 

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、俺達の受ける予定だった講義の講師だぞ!しかも元老院が認定した数少ないSS級科学者だぞ!」

 

うーん、そうだったっけ?

まあとりあえず目的の人は見つけた、捺印を押してもらって帰ろう(現実逃避)

 

「ふん、SS級か……あの老害共は騙しやすいからな。その様子を見るからにお前たち、適当に講義を受けて単位だけ取りに来た口だな?」

「だってよ――」

「いや、お前もだろ!」

「幸運か不運かこんな封鎖状態の中、動いている貨物用エレベーターを見つけるとは……。そんなお前たちを放っておいたらテロリストに占拠された講義室に入っていただろうな」

 

封鎖状態だって?

携帯を確認してみると確かに電波が届いていないし、テロリストと講師しか見ていない

ん?なんでマリルと名乗る講師はここにいるんだ?

実は特殊部隊の隊員とかなのか?

 

「お前たちが乗ってきた貨物用エレベーターも封鎖されてしまった。大人しくここで防衛庁の救助隊を待っていろ。講義室の様子を見てくる、もし誰かが来ても黙って隠れていろ」

 

マリルがそう言って講義室に向かおうとすると――がマリルのことを心配したのか

 

「マ、マリルさん一人で、ですか……?」

「ああ、分かったら隠れていろ」

「…はい!」

 

おー、あの――が女性の心配してるよ

いつもなら恥ずかしがってモジモジしてるのに、珍しいこともあるもんだな

さて、マリルとからいう人は講義室に行ったし、出口でも探そうか

隠れているだけじゃいつかは見つかるだろうからな……



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PART.3 暗転

研究センター 廊下

 

「ここらを見張っていたやつからの連絡が途絶えた。

俺は向こうを確認してくる、お前はあっちを見てきてくれ」

「了解…」

「一応心音センサーを取ってくるから、警戒は怠るなよ!」

 

マリルが講義室に向かって数分後、俺達が隠れている場所の近くにさっきのテロリストの安否を確認しにきたのだろう、男性が2人やってきたが1人はセンサーとやらを取りに来た道を戻っていった

残った1人は辺りを警戒しつつ、少しずつこちらに近づいてきている

 

「ちくしょう、このままじゃ時間の問題だ」

「そうだな、ならテロリストが1人しかいない今のうちに外に出よう」

 

今なら1人しかいないから目を盗んで逃げるぐらいできるだろう……

俺も――も力はあまり強くはないから正面からの逃走は自殺行為だな

それに奴らは銃で武装している、気付かれでもしたらハチの巣だ

そんなことを考えていると――の視線が壁に立て掛けてあるバットを見てめていた

 

(奴らがセンサーを持ってきたら俺達に逃げる術はない

なら今のうちに1人だけでも……大丈夫だ、彼女が素手で倒せるぐらいなんだ……俺にだって……何か武器になりそうなものは……

あった、これはバット?どうしてこんな所に……ん?何か文字が書いてある

『リバーナ 自由光』……展示品か?ちょっと借りるだけ、借りるだけならセーフ!)

 

「――、どうかしたのか?っておい!なにをする気だ!」

 

俺がテロリストから逃げられないかを考えていると急に――は壁に立て掛けてあった青い色をしたバットを手にテロリストへと走り出していった

俺は――を引き留めようとしたが、――は俺の手をすり抜けてテロリストへと近づいて行く

テロリストは――に気付いていないのか背を向けている

そして、テロリストの真後ろまで近づいた――がバットを高く振り上げ、テロリストの後頭部に重い一撃を与えた

ドンッ!!と大きな音がしたが、テロリストは倒れることは無く後頭部を抑えながら覆面越しにでも分かるぐらい苛立った表情をしながら振り返る

 

「お、思っていたのと全然違うしっ!!」

「っう…誰だっ!」

 

テロリストは手に握った銃のグリップで――を殴りつけようとする

それを――は危なげなくバットで防いでもう一度殴りかかろうとする

 

「不味い……」

 

どう見てもテロリストと――では体格が違う

それに、――はバットだがテロリストは銃だ

今は至近距離だから撃たれはしていないがこのままだといずれ……

――も自身の危険が迫っていることを自覚したのか小さく「やば…」と呟いた

見た感じテロリストの力は強く、――は防戦一方だ

――を助けようと飛び出そうとしたその時、テロリストが――の無防備な腹へと強烈な蹴りを打ち込んだ

そして――はすぐ横の階段の手摺を壊して落下していく

それを見た俺は思わず駆け出し、飛び降りた

その際に――を抱き寄せ、自身を下にして――にダメージがなるべくいかないようにした

 

「ぐっ……かはっ……」

「チッ、もう1匹居やがったか……。まあいい、2匹ともぶち殺してやる」

 

――はテロリストの蹴りが余程強烈だったのか、意識がないようだ

――を引きずってでもここから逃げなければ……

ぐっ……足が、痛い……

さっきので骨が折れたのだろうか……

だけどそんなことは関係ない、――を連れて一刻もはやく外へ……

 

「おい待て!隊長からの連絡だ。ブツの自爆防犯装置の解除が完了したらしい。貴重な時間を無駄にする訳にはいかない、すぐに講義室に行くぞ!ガキ共は放っておけ、どうせ何もできないだろう」

「…了解。命拾いしたな、クソガキ共」

 

他のテロリストの声が聞こえる……

ここまでなのか……

意識が、だんだんぼやけていく……――……



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PART.4 地獄

第四講義室

 

「どうやらあのテロリスト共、光学偽装で侵入したようだが……、まさか収容所の対光学監視センサーの点検時期を利用されるとはな。

おそらく身内から情報を流したやつがいるんだろう……。

何者かは知らんが、ここは様子を見るしかないか……」

 

マリルが物陰に隠れ、講義室の様子を伺ってるとテロリストのリーダーらしき人物が突如笑いだした

 

「クックック……フハハハハ……ハーッハッハッハ!!ついに、ついに我々は取り戻した……!」

 

テロリストのリーダーは何かを手にしているようで、どうやらそれは宝石の装飾が付いている黄金の杯のようだ

 

「あれは…『ロス・ゴールド』!?奴らは何の為にあんなものを……」

 

マリルが驚愕の声をあげる

『ロス・ゴールド』とは太平洋のド真ん中から突如として現れた『ロス諸島』と呼ばれる島から視察団が見つけだした『異質物』だ

『ロス・ゴールド』は杯の周りに4つの宝石が装飾されていて、杯の中には赤い液体状の何かが入っている

その液体は杯から出すことも、触れることすらもできない

まるでそこに存在しないかのような……

研究所のイカれたオッサン達がありとあらゆる方法を試したが

あれがなんなのか、解明できなかった

何をしても何も起こらないのでしばらくすると、『ロス・ゴールド』の脅威度レベルが『SAFE』に下げられたが……

 

「液体は兎も角、宝石は無価値じゃないだろうに……」

 

だが宝石は杯と分子レベルで一体化していて取り外すことは不可能だ

そんなどう使うのか不明な『ロス・ゴールド』をテロリストは一体どうするつもりなのか……

マリルが注意深く観察していると、テロリストのリーダーは何かを取り出した

 

「こんな杯に、この石は相応しくない!我が引き剥がそう!この不浄な杯からっ!」

「引き剥がす?一体どうやって……っ!

アイツ、手にしているのはもしや……この間、華雲官城にある大博物館から盗み出された……『異質物』、『第四聖釘』?しまったアレは!」

「これが……『先知の聖物』か……ん、なんだ?杯の液体が……減っていく?」

「何を馬鹿な事を……『異質物』に細工をするなど……」

 

 

 

 

 

……………

「いつっ、頭が痛い……」

 

なんで俺はこんな所で寝ているんだったか……

確か、――を庇って階段から落ちたんだったな……なんとか展示品の影に隠れたんだが、この展示品……石版みたいだな、表面によく分からない絵とか文字が描かれている……

展示品のプレートには『Miskatonic――』と書かれている

それより先は掠れていて読むことはできない

 

「にしても静かだな……――はまだ気を失ってるみたいだし、少し周りを見てくるか……っ!!!」

 

石版から顔をあげるとそこは地獄のような光景が広がっていた

周りは火の海で、その中にまるで生きているかのような人の彫刻がいくつも存在していた

硫黄のような匂いがする中、俺は近くの彫刻に近づいてみた

彫刻は女性のものらしく、白色だがまるで生きているかのようだ

思わず彫刻の頬に触れると、女性の彫刻の首が地面へと落下し、粉々に砕けた

 

「これは……塩、なのか?一体これはなんなんだ?」

 

ごそり……

っ!?

後ろで音がして振り返るとそこには気がついたのか――が立ち上がっていた

 

「――、気がついたのか、よかった」

「な、何が起こってるんだよ……こ、こんな事って……ありえないだろ……」

 

――が周辺を見てパニックを起こしそうになっているので近寄って落ち着かせようと話しかけてみる

 

「落ち着け、今は現状把握している……」

「ひっ、あ、あああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

――が急に叫び出したと思うと、――の視線の先には何かが宙に浮いていた

 

(もし、『神様』が本当にいるなら……お願いだ…これが全て夢であってくれ……)

『ならば我が器になるがいい』

 

意識が再び闇に落ちようとした時

――とナニカの会話が聞こえた気がした



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PART.5 転換

………

システムロック解除

ーNo.1ー……起動確認……

ーNo.2ー……起動確認……

 

………

 

肉体の損傷を確認……

肉体の再生を実行……

 

………

 

ーERRORー

肉体の損傷が激しいため、再生は不可と判断……

永久駆動機関による新たな肉体の再構築を実行……完了……

 

原典(オリジン)』の起動条件を満たしました……

原典(オリジン)』の起動を確認……

 

 

 

 

 

 

………

……………

…………………………ん?

ここは……家…?

もしかしてさっきまでのは夢だったのか……?

目の前にあるのは見慣れた天井

決して知らない天井ではない

周りを確認してみるとやっぱりここは俺の部屋だ

 

「変な夢だったな……」

 

時々変な夢は見るが、今回の夢は一際変な夢だった

まるで本当にあったかのような

まあ、夢は夢はだ…さっさと着替えてアイツを起こしに行こうか

そう思い立ち上がろうとすると胸に違和感を感じた

なんか胸が重い気がするな

それに身体が柔らかくなっている?

とりあえず鏡で確認っと

 

「…………………………はぁ?」

 

鏡には床まで届きそうな長い髪の女の子が写っていた

俺、女の子になった…のか?

確かにTS系の小説読んで面白そうだとは思っていたがまさか自分がTSするとはな

とりあえず胸を触ってみたが……うん、凄い柔らかくてクセになりそうだ

髪もサラサラだし、息子(意味深)も付いていない

 

「ハハハ……夢だな、夢。寝よ……」

 

そうやって布団に潜り込もうとすると隣の部屋から甲高い叫び声が聞こえてきた

 

「うわあぁぁぁぁぁあああああ!!!ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

――の部屋からか

まあいいや、寝よ

そう思い布団をかぶろうとすると、ドタドタと廊下を走る音が俺の部屋に近づいてきて

 

 

バンッ!!

 

 

大きな音を立てて勢いよくドア開いき、ぶかぶかの服を着てる変わった髪色の女の子が部屋に入ってきた

 

「おいっ、――!俺、女の子に……って誰だお前!?」

 

……この展開、エロゲかな?

これは悪い夢だ、きっと疲れているんだ…早く寝よう…

 

「まって、まってくれ!もしかして――か?」

「……まさかとは思うが――なのか?

お前まで女になってるとは…やっぱり疲れてるんだな」

 

まさか自分が女の子になるだけじゃなく、――まで女の子になる夢を見るとは……

夢の中で変な気を起こさない内に寝るか

 

「まてまて、これは夢なんかじゃない!」

「うるさいっ、俺は寝るっ!」

「あぁ、クソっ!ならこれでどうだ!」

 

俺が寝ようとすると――らしき女の子が俺の頭を殴ってきた

それもバットで、だ

 

「…っ、いってぇなぁ……」

「これで目は覚めたか?」

 

確かに目が覚めたが人を起こすのにバットで殴る馬鹿がどこにいるっていうんだ

下手したら二度と目が覚めないぞ

あっ俺の目の前にいるやつか……

 

「にしても――も女の子になってたなんてな。

俺、信じられなくて何度も頬を抓ったり、何度もトイレで確認したんだが……どうやら現実みたいなんだ……」

 

確かにあれだけ痛かったんだ、現実なんだろう……

じゃあ、あの夢は?

あの夢の時もかなり痛かったけど……

それにアイツの持っているバット、あれは夢でアイツが使っていたやつだ

 

「そうだ――、ニュースを見て見ないか?なにか分かるかもしれない。もしかしたらあの事も載ってるかも」

 

確かに――の言うことは一理あるが、あの時、街は火の海だった

あれが現実に起こったなら、今のこの状況は一体何なんだ?

時が巻き戻ったとでもいうのだろうか?

 

 

ニュース

『ロス・ゴールド』厳重な監視の中、突如消える!?

『ロス・ゴールド』は多数の警備機器による厳重な監視体制があったにも関わらず、突如として展示場所から消失しました。

研究センターは原因を特定中だが、盗難の可能性は非常に低いとされています。

次のニュースです。

 

 

他のニュースも確認してみたがテロリストによる研究センターの占領を取り上げているものは無かった

ただ、代わりに俺達のいた研究センターから『ロス・ゴールド』という遺失物が消失したというニュースが目に入った

 

「『ロス・ゴールド』?確かにあの時俺達は研究センターに居たけど、そんなものあったか?

まあ研究センターに行けばなにか分かるかもしれないな……

よし――、研究センターに行くぞ!」

 

そう言って俺が立ち上がると――は俺の胸の辺りを見つめて石像の如く固まってしまった

そういえば上の服を脱いで寝てたな、と思いつつ何故今頃アイツが動きを止めたのか……おそらく長い髪の毛のせいで見えてなかったのだろう

まあいいや、さっさと着替えて研究センターに行ってみよう

 

「お、お前……しゅ、羞恥心ってものがないのかよ」

「別に性別が違うことを除けばいつもの事だからな。っと、背が縮んだせいか服がぶかぶかだな。そうだお前の服貸してくれよ、お前俺よりちっちゃかったからいけるだろ」

「ちっちゃいは余計だ……、ホラよっ…!」

「サンキュー」

 

――が恥ずかしいのか全力で投げてきた服を着ていく

思った通り、ピッタリだ……男物だという事を除けば、だが……

まあ――なんて俺の服じゃ大きすぎるから自分の服を着ているが……

なんて言うか……彼氏の服を着ているみたいだな、なんて思ったがコイツのメンタルを考慮して言うのはやめておいた

 

「よし、着替えたし行くか。――、研究センターに行くぞ」

「お、おい!待ってくれ、まだ準備が!俺の格好、どう見ても不審者だよな……

 

研究センターへ向かいつつ、ビルの硝子に写った俺達を見てみると

男装をしている女の子と、同じく男装(ぶかぶかだが)をしてバットを持った妹(?)のように見えた

バットは研究センターで見つけたものだからなにか手掛かりがあるかもしれないと――が勝手に持ってきたものだ

多少人の視線を感じたが問題なく研究センターの近くまで来ることができた

 

「んー…特に何も考えずに来たけど、どうしよっか?

テロなんかの事件が起こっている訳でもなさそうだしなぁ……。

極めつけは警備をどうするか、『ロス・ゴールド』っていう異質物がなくなったせいで警備員が沢山いるな」

 

どうやって研究センターに忍び込もうか考えていたらガタイのいい警備員の男性に声をかけられた

 

「……止まりな、そこのお嬢ちゃん達」

 

流石に男装女子2人がこんな所にいるのは怪しいか

どうやってやり過ごすか悩んでいると――が警備員を無視して研究センターに向かおうとしているので慌てて腕を掴む

 

「そこのお嬢ちゃん達、止まりな!」

おいっ、見つかったぞ!どうする?

えっ?俺達の事なのか?

馬鹿野郎、今俺達は女だろうが!

 

短髪でガタイのいい警備員の男性がこちらに向かってくる

身体は鍛えられているからか大きいが、親切そうな笑顔で話しかけてくる

青いツナギでも着たら似合いそうだな……

 

「誰がお嬢ちゃんだって?俺は、俺…?」

だから今の俺達は女だって言ってるだろ……

 

お嬢ちゃん扱いに納得がいかない――が声を荒げようとしたが今の状況を思い出したようだ

警備員の男性は――が大人しくなると俺達に向かって話し始めた

 

「そう、君たちの事だ。

昨日、ここから大切なものが無くなっちまったんで、上の方からここら辺一帯を封鎖するように言われてるんだ」

 

俺達も大切なものが無くなったよ、息子とか息子とか息子とか……

 

「と、いうわけでだ、ここは立ち入り禁止だ。また別の日に来てくれ、お嬢ちゃん達。……後1つ!」

「まだなにか?」

「?」

 

何かおかしいところがあったのだろうか……おかしいところしかないけど

まさか犯人だと疑われているのだろうか

 

「そっちのちっちゃいお嬢ちゃん、バットを持っているのは別に構わねぇが、その格好じゃ風邪引いちまうぜ?お姉ちゃんに憧れるのはいいが、早くお家に帰って着替えな!」

 

警備員の男性は俺達にニカッと笑い、白い歯を見せてくる

 

「はい、それでは」

ちっちゃいって言われた、ちっちゃいって言われた、ちっちゃいって言われた、――とは数センチしか変わらないのに……」」

「まあ俺達はまだ15歳だ、背は伸びるさ」

 

――を慰めつつ家に帰ろうとすると周りの景色がおかしい事に気がついた

まさか道を間違えたか?そんなはずはないのだが……

ん?あそこに人がいるな、ガラが悪そうだが道ぐらい教えてくれるだろう

 

「あー、すみません、道を訪ねたいんですが」

「チッ……」

 

なんだ?変な奴らだな……何か言っているが聞き取れないな。

英語……じゃないな、もしかして海外の人だったか?

ん?奥から何人かがこっちに向かってきてる!?

不安になったのか――がバットを握る手に力を込める

 

「おい――、なんかヤバそうじゃないか……?」

「……Mors……!!!」

 

今、なんて…?

 

「――、は、早く逃げそうぜ?」

「……っ!そうだな、行くぞっ!」

 

そうしてしばらく走り続けたが、変な奴らはずっと追ってくる

このままじゃあ追いつかれるっ!

 

「アァァァアアアアア!!!」

「も、もう無理っ!追いつかれ………え?バットが……?」

 

――が追いつかれそうになると突然、――の持っていたバットがだした

そして、光が収まるとそこには青髪の少女が突如として現れた

 

「ふぅ、やっと…出られた……私はアニーって言うの。私のバットを持っているなら、魔女の事は分かってるみたいかな?ん?なにこの連中?出てきて直ぐに面倒事に巻き込まれちゃったみたいね!」

「――!今お前の持ってたバットが女の子にっ!?」

「俺もわからねぇよ!アニー?魔女?全然わからないよ!」

 

――も混乱しているようでバットを握っていた手とアニーと名乗る女の子を交互に見つめている

すると女の子は――の服が気になったのか

 

「いろいろと聞きたいんだけど、まずはアイツらから片付けようかな!

っていうか、その服……デカくない?動きにくいだろうから…

はい!私が貴女にピッタリな服装にしてあげる!それが終わったら……LET'S 喧嘩よっ!」

「け、喧嘩!?」

 

女の子が――に腕を向けると――の服が一瞬で学校で着るセーラー服……というより、コスプレイヤーが着ているセーラー服みたいな服装になった

 

「な、なんだよこれ!?」

「どう、動きやすいでしょ?」

 

確かにさっきより動きやすそうだが…アレはないな、肌面積が大きすぎる

スカートも短いし、胸も動きによっては見えるんじゃないか?

お腹なんてどう見ても防御力0だぞ

女の子は――の服装に満足しているのか笑みを浮かべると

 

「じゃあ喧嘩しましょう!」

 

と言い――にバットを手渡した

 

「ちょっとまて!一体どうやって……」

「そんなもの決まってるじゃない、バットで殴るのよ」

「そんなこと言ったって……」

 

――が戸惑っている間にも怪しげな表情の人は近づいてくる

怪しげな表情の人は――に接近すると――を殴ろうと拳を握る

攻撃も防御もしようとしない――に女の子は大きな声で注意を促す

 

「ほら、来るよっ!」

「アアアァァァァァ!!!」

 

――は何とか反応することができ、バットで怪しげな表情の人の拳を防いだ

――は少しよろめいたが大丈夫そうだ

対して相手は拳をバットに打ち付けたというのに平気そうにしており、続けて攻撃しようとする

――は攻撃しないとやられると分かったのかもう一度拳を防いだ後に攻撃を仕掛ける

 

「クソッ!どうにでもなれっ!」

 

――がバットを振りかざすと相手は避けようとしなかったために頭に直撃し、鈍い音が鳴る

すると相手はバタリ、と倒れて動かなくなった

 

「やったのか……?」

 

――が心配そうに倒れた人を見つめていると突如、光の粒子となって消えていった

まるでそこには誰もいかなったかのように……

 

「消えた……?」

「っ!――、後ろだっ!!」

 

――が倒れていた人がいた所を見つめていると――の後ろから別の人が複数現れた

さっきの人と同じような格好をしてる人や、銃らしいものを持っている人もいる

何が何だか分からないが一つだけ言えることがある

それは、さっきの人と同様に全員の表情がおかしいという事だ

 

――は咄嗟にバットで応戦するが相手の数が多い

俺も応戦するが、素手ではあまり効いてなさそうだ……

特に銃を持っているやつが問題だ

――は服のおかげなのか、打撲程度で住んでいるようだが恐らくアレは実弾なのだろう

当たったらと思うと……やめよう、今は目の前の相手の事だけ考えよう……

女の子は――に渡したのと似たようなバットを使って応戦しているが――に近いやつを蹴散らすと――に話しかける

 

「数が多くてめんどうだね。ねぇ、バットを持つ手に力を込めてみて」

「こ、こうか?」

「そうそう、いい感じ。それじゃネジをしっかり締めてっと……処刑執行ッ!」

 

――がバットを握る手に力を込めると突如、女の子が何もない空間からピッチングマシンを出し設置した

すると女の子が置いていったピッチングマシンは勝手に相手の方へと向き、ボールを射出していく

ボールが当たった相手は面白いようにバタバタと倒れていく

しばらくすると他の人達も光の粒子になって消えていった

 

「終わった…のか?」

 

――は呆然と呟く

目に見える範囲には――と俺以外は誰もいなさそうだ

俺、あんまり役に立ってないな……

と思っていると、パァン!と乾いた音がした

音の発生源は正面の建物のすぐ横、そこから銃を持った人が俺に銃口を向けていた

あぁ……死ぬのかな……

そう思った時だった

 

 

適合者(マスター)の生命危機を確認……』

『『原典(オリジン)』起動します……』

 

 

突然首から下げていた今は亡き妹から貰ったペンダントが光を放ち、一冊の本に姿を変える

それと同時に弾丸が頭に直撃するが、薄皮すら傷つけることもなく地面に落ちてゆく

 

「一体何が……」

「『原典(オリジン)』による肉体の再構築を完了、戦闘モードに移行」

「本がしゃべった!?」

「敵性反応を確認、自動攻撃システム作動」

 

本が急に喋り出したかと思えば本が開きいて光線のようなものを放つとそれに当たった相手は光の粒子になって消えていった

それと同時に周りの景色も変わっていく……

さっきまでの暗い場所から、明るく見慣れた場所へと変化した

変わらないのは――の格好と、本の形になったペンダントだ

 

本当になにがどうなっているんだ……?

 

 

 

「終わった……のか?」

「おそらく、な」

「…そうみたいね」

 

戦闘が終わり、景色が戻ったことに安堵しつつ、謎の本の表紙見つめていると――がさっきのことを女の子に早口で質問していく

 

「きみはだれっ!?急に出てきたよねっ!?アイツらは一体なにっ!?こ、このバットはなんだよっ!?ここはどこなんだよっ!?」

 

さっきアニーって自己紹介してなかったか?それとここは研究センター裏の通りだな

まあ、あんなことがあったんだし混乱するのも仕方がないか

俺もアニーに聞きたいことがいくつかあるし、とりあえず落ち着かせるか。アニーも――に質問攻めにされて何から答えればいいか分からなくなってるようだしな

 

「――落ち着け、アニーも困ってるだろ?」

「あ…ごめん…」

「気にしなくても私は大丈夫、ただ…私も状況が把握できていなくてね。とりあえず改めて自己紹介からしましょ、私はアニー・バース。アニーって呼んでくれたらいいよ」

「俺は――、そっちの無表情なやつが――」

「よろしくな」

 

そんなに俺は無表情だろうか?目つきが悪いとはよく言われるが……

まあ――みたいに感情丸出しよりはマシか

 

「こちらこそよろしくね。そういえば二人とも男の子みたいな話し方なんだね」

「………」

「あー…」

「あれ、私なにか変なこと言った?」

 

いや、変なことは言ってない、言ってないんだがそれは色々と返答に悩むな

父親の話し方がうつった、とでも言えばいいのだろうか

俺がどんな返答をするか悩んでいると――が変な?ことを聞いてきた

 

「なあ――」

「なんだ」

「よく考えたら俺たち、今は女の子だよな?」

「……そうだな」

 

男物の服を着ていても俺達は傍から見ても女の子にしか見えないだろう

現に警備員の男性もアニーも俺達のことを女の子扱いしている

アニーは俺達の会話が聞こえていたのか困ったように首をかしげている

 

「二人ともどう見ても女の子だよ?ほら、君に着せてあげた服もよく似合ってるし。う~んすごく可愛い……せっかくだからその『戦闘服』はあなたにプレゼントしてあげるね~!」

「……えっ『戦闘服』?」

 

――は今着ている痴女みたいな服装のこと思い出したようで赤面しながら丈の短いスカートを両手で抑えうずくまってしまった

時折胸の辺りを触って何かを確認したりしていたが脳の処理がオーバーしたのか羞恥心に耐え切れずに頭を抱えて動かなくなってしまった

流石におかしいと感じたアニーが――に声をかける

 

「大丈夫?何かあったの?」

「うぅ……だって、これじゃあ痴女じゃないか……」

「そう?私は可愛いと思うけど、あなたはどう思う?」

 

何故か俺に服の感想を聞いてくるアニー

服のセンス皆無な俺に聞かれてもな……

――には悪いが下手に答えて藪蛇したら怖いのでアニーに同意しておこう

 

「アーウン、ニアッテルニアッテル」

「適当すぎるだろ!」

「そうよね、流石私!ということで少し移動しましょうか。またアイツらに襲われたら面倒だしね」

「確かに。――、さっさと移動するぞ」

「ちょっ!俺の元々着てた服は!?」

 

叫ぶ――を無視して移動を始める

何か忘れている気がするが……まあ大丈夫だろ



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2章 (タイトル未定)
PART.1 包囲


疲れた()
7月22日22時誤字修正


とある暗号化された通信チャンネル

そこでは2人の男性が言い争いをしていた

1人は防衛庁長官、もう1人は軍部長官である

防衛庁長官は怒り心頭のようで声を荒げている

 

「どういうことだっ!『イージス』の防御範囲圏内は今まで我々都市防衛庁(MD)の管轄区域のはずだ!何故軍が私の指揮権を接収するのだ!?我々は上から何も聞いていないぞ!少なくとも我々が納得できるような説明がなければ監視封鎖の解除など到底認められん!!」

「防衛庁長官、これは機密事項であるため貴方に説明することができません!それに本件は上からの指示で既に軍の管轄下となっていますので迅速に、ご協力を願いします!」

 

防衛庁長官は説明を求めるが機密事項、それも上からの指示であるために説明を拒否される

上からの指示は絶対ではあるが、防衛庁長官は自身の仕事を盗られるのをよしとはしなかった

認めてしまえば自分は無能だと主張するようなものだと考えたのだろう

 

「認めん……認めるものか!この件は軍ではなく、我々防衛庁が指揮をとるのだっ!元老院の行政命令でもない限りは……っ!」

 

防衛庁長官の我儘に軍部長官が頭を抱えていると暗号化された、それも2人しかいないはずのチャンネルから突然女性の声が聞こえてきた

 

「――――んんっ、話の途中に失礼するが……お前たちはいつまでそんなどうでもいい事に貴重な時間を無駄にするんだ?」

「こ、この声はまさか……」

「マリル長官殿!?お、お疲れ様です!」

秘密情報局(SID)は既に軍部から独立しているのだ、私を長官と呼ぶ必要は全くない」

 

突然暗号化されたチャンネルに割って現れたマリルに驚いた軍部長官が挨拶しているのを聞いて防衛庁長官は不快に感じた、またお前か、と

 

「マリル、貴様……この通信はレベル4暗号化通信だぞっ!いったいどんな手を使って……」

「そんな事はどうだっていいだろう?些細な事だ。それよりも今現在起こっている問題をどうやって処理するか考えていこうじゃないか。レベル4暗号化通信なら盗聴の恐れもないだろう。早急に持ち得る全ての情報を開示願おうか……今すぐにっ!」

「は、はい!かしこまりました、長官!」

 

マリルが情報の開示を求めると軍部長官は次々に情報を読み上げていく

防衛庁長官は不快そうにしながらも大人しく話を聞いている

 

「現在確認できる限りでは研究センターの監視システムが全て動作不良…画面が映らない、操作ができないなどの状況に陥っています。また、当該区域からは大規模な時空波動を観測しています」

「時空波動?なんだねそれは?」

「『都市災害対策法』に明記されているが……防衛庁は世間に公表されてないとは言え、機密条例を読んでいないのか?」

 

マリルの呆れた声に防衛庁長官は墓穴を掘ったことに気が付いたが何とか思い出して答える

 

「まさか、『異質物』の収容失効についての欄か……?」

「昨夜、『ロス・ゴールド』が何の前触れもなく消失したことは知っているだろう?こういった事態がこの新豊洲で発生するのはおおよそ6年ぶりぐらいだろう。現在我々が論議するのは権限の是非よりも『異質物』または時空波動による最悪の可能性の対象、回避方法を考えるべきだと私は思うのだが?」

「……仕方あるまい。我々防衛庁は速やかに封鎖を解除しよう。民間人の避難は急ではあるが演習ということで避難を促そう」

 

防衛庁長官は少し悩んだが、今回の件はマリルに従った方がいいと考え部下に指示を出していく

それを確認したマリルは軍部長官に軍の状況報告をさせていく

 

「軍部長、軍での作戦はどうなっている?」

「既に異変区域の周囲2㎞圏内に特殊作戦部隊を各所に待機させてあります。しかし現在の段階では脅威は確認できていません」

「報道管制はどうなっている?」

「事前の協議によりC‐13シナリオを実行中です。」

「わかった。これより本件は我々『秘密情報局』が引き受ける。わかったら迅速に行動を開始せよ!」

「了解しました!」

「ふん、精々気を付けてくれたまえ……」

 

会話が途切れた、その時だった

 

「マリル長官殿っ!捜査員から報告、D隊が待機している前方の位相波動が減衰中、各ポジションを防衛するため迎撃態勢をとります!」

「了解した、引き続き警戒を」

「更に報告です。D隊の目視区域内に3体の人型ユニットが出現……」

「なに?ミーム検査はどうなっている?」

 

人型ユニットが出現したという報告にマリルは最悪の事態を考える

1体でも下手をすれば大規模な被害を出す人型ユニット、それが3体もいるのだから

 

「マリル長官!色別反応出ました……3体ともグリーン、全員が少女のようです!」

「わかった、少女たちの保護を優先とし警戒を続けろ。『秘密情報局』から交渉が得意な捜査員を1人迎えに行かせ、本部に連れていくことにする。もしもターゲットが怪しい動きをしたら即射殺するんだ」

「了解!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

戦闘が終わった後、俺達は裏口などを使って元居た研究センターまで戻ることができた

が、そこには軍人達がバリケードを設置してそれを遮蔽物にして銃器を構えていた

さっきのやばそうな奴らは実はテロリストだったとかか?だけど軍人達の銃口は俺達に向いている……

これはさっきよりもやばそうだな……

 

「おい――、なんでこんなにも大勢の人がいるんだよ!?」

「多分さっきの戦闘に関係する、とは思うが……それよりも――、服そのままでいいのか?凄く見られているけど」

 

そう言うと――は今の服装を思い出したようで両手でスカートを抑えたりしながらアニーに服の返還を求めた

なんか――を見ていると意地悪したくなるな

 

「アニー!早く、早く俺の服を返してくれっ!これ以上恥ずかしい格好を沢山の人に見られたくない……」

「え?そこ?大丈夫、心配しないで。あなたの服はちゃんと預かっているからね。まあ、どうしても元のぶかぶかな服がいいって言うなら返してあげてもいいけど……今ここで『戦闘服』を脱いで着替えるの?目の前には大勢の人がいるよね~あなた本当は痴女だったとかなのかな~?」

「ち、痴女じゃない!」

 

なんかアニーが――を虐めているように見えるがまともな意見だ。俺達は今女の子だし、そもそも男でも公衆の面前で着替えるなんて警察モノだ

――の説得?を軽くあしらっていたアニーは何か引っかかったようで真剣な表情になる

 

「そう言えばさっきあなたたちに男の子みたいな話し方だって言ったけど……あなたが着ていた服って男性用だったわね!そっちも男性用の服っぽいし、もしかして……」

「やっと俺達の状況を理解してくれたかアニー。そうなんだ、これには実は深いわけがあってだな」

「なるほどなるほど……その気持ちよく分かるよ」

「分かってくれるのか!?」

 

――はアニーが分かってくれたと思っているのか期待している表情をしているがなんだか嫌な予感がするぞ……

――が期待しているのを感じたのかはたまた自分の推理に自身があるのかは分からないがアニーは自信満々と言った表情をしている

 

「あなたたちって好きな男の子の着ていた服を盗んでこっそり着たりしているのね!」

「違う、そうじゃない!!」

「大丈夫大丈夫、あなたたちは他人の匂いを嗅ぐのが好きな変態……趣味な人なんだよね?私は世の中にはそう言う人がいるって知ってるから……」

「だから違うって!あと変態って言ったよな!?いったいどうしてこうなったんだ……

「あ、俺は匂いとかどうでもいいが、――はよく嗅いでいるぞ」

「噓をつくなっ!」

「やっぱり~?」

「……………」

 

アニーが間違った解釈をして――が必死に誤解を解こうとしているが無理そうなので――を生け贄に捧げて俺は関係ないと主張する

――は諦めたのか光のない瞳で空を見つめている

しばらくするとバリケードの向こうから軍人達の合間を縫ってサングラスをかけた黒いスーツ姿の女性がこちらへと向かってきた

女性の胸には丸にリングのような盾、そしてそこには「SID」と書かれているバッジが付けられている

 

「そこにいる3人、その場で止まって手を挙げなさい!手に持っているバットは地面に置いた後、こちら側に蹴って下さい」

 

黒いスーツ姿の女性は俺達、主に――とアニーが持っているバットを警戒しているのだろう

俺の本?言い忘れていたが戦闘が終わったらなくなっていたんだよな

アニーが器用にバットを相手側まで足で転がしているが――が変な所にバットを蹴ってしまったせいか黒いスーツ姿の女性は警戒を強めてしまったようだ

 

「なあ――、アニー」

「なんだ」

「どうかしたの?」

「あの人の胸に付いているバッジって………」

「3人とも、私はSID、秘密情報局の捜査員です。あなたたちがこちらに危害を加えようとしない限りは攻撃しないのでそのままの姿勢で動かないように」

 

SID、その単語を聞いた――の顔色が青くなっていく。それもそうだろう、SIDはテロリストやスパイなどを相手にする組織でニュースでもよくSIDの捜査員がスパイを逮捕・殲滅したというのが流れてくる。それに加えて「秘密監獄」「洗脳拷問」「暗殺専門部隊」など様々な噂がある組織なのだ

俺達が動かないでいると捜査員の女性は無線でどこか………恐らくはSIDの本部であろう、と連絡を取る

 

「異変区域よりターゲットについて報告します。ターゲットは3名とも大人しく、攻撃の意思は無いと思われます。暫定脅威レベルをDと判断してもよさそうです。はい、了解しました」

 

捜査員の女性が報告をしていると何か指示を受けたのか俺達に質問してくる

 

「少し質問をさせていただきます。あなたたちは何者で、ここで何をしていたの?」

「俺達は学生で……今日は研究センターでの校外学習をしに来たんです」

 

捜査員の女性は――の答えを聞いて眉をひそめる

それもそうだろう、この研究センターは『ロス・ゴールド』が消失して昨夜から緊急警戒態勢で封鎖されていたのだから

それなのに研究センターに勉強しに来た、なんて言い訳など通じるはずがない

捜査員の女性は指示を受けているようであり、俺達が何かしないかじっと見つめている

 

「長官から命令がありました。あなたたちにはSIDまでご同行お願いします」

 

捜査員の女性がそう言うと後ろに控えていたであろう他の捜査員達が俺達を包囲する

元からいた軍人達も俺達を何時でも狙えるように陣形を変えながら銃口を向けてくる

 

「この状況………かなりヤバいんじゃない?2人とも、隙を見て逃げるわよ……」

「落ち着いて下さい。我々SIDはあなたたちの身の安全を保証いたします。抵抗せずにご協力して頂ければ穏便に解決できるようにしますので。『異質物』の消失は想像もできないような常識外の現象を引き起こす可能性があることをあなたたちは知っているはずです。是非我々にご協力を」

 

アニーが逃げることを提案してきたが既に遅い、この状況ではSIDの本部について行くしか選択肢はないだろう

それにあの謎の現象もわかるかも知れないし、もしかしたら男に戻れるかもしれない

ここはついて行ってみるか

 

「分かりました、ついて行きます」

「俺も行きます」

「ちょっと!なんでついて行こうとするの?絶対怪しいよ!」

「まっ、スカートを引っ張るなよアニー!脱げたらどうするんだよ!」

「あなたたちバカなの?こんなにも怪しい奴らなのについて行くだなんて!実は人攫いで売られちゃったらどうするつもりなのよ!」

「その点は大丈夫だアニー。この地区で人身売買なんてしようものならSIDに殲滅されるのがオチだ、勿論SIDを騙ろうともな」

「そうだぞアニー、俺みたいな男を攫うはずがないし、攫うとしてもこんな大人数ではやらないだろ」

「――はともかく――はリバーナ諸島とかのマフィアを見たことがないわね……」

「それにさ、SIDに行けば何かわかるかもしれない。だからここはついて行ってみよう」

「はぁ……分かったわ……あなたたちがそう言うなら私もついて行くわ」

 

何とかアニーを説得できたのでSIDが用意したと言う車に乗り込もうとすると――が捜査員の女性にコートを1枚貸して貰えるか相談していた

捜査員の女性は本部に申請をしてみるといい、顔を下に向けて小声で話していたが話はすぐに終わったのか顔を上げて申請が却下されたことを――に伝えていた。――は「なんでだよっ!」と涙目で訴えていたが決定は覆らなかったようだ

なんでも長官は「可愛いし似合っているからそのままにしていろ」と言ってたらしい

もしかしたら長官は意外といい人かもしれないな………

 



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PART.2 尋問

俺達3人はSIDの捜査員が用意した黒い車の後部座席に乗り込むと運転席と助手席に捜査員が乗り込む。助手席に座ったのはサングラスの女性だ

車の中はアニーのSIDへの警戒心とバックミラーに写る捜査員の警戒の視線のせいか空気が重く感じる

それを不安に思ったのか――は両ひざを抱えている

――の様子を見ていたアニーはどうしてSIDと言う名前に――が怯えるのか気になったのだろう、俺にSIDの事を聞いてきた

 

「――、『秘密情報局(SID)』っていったい何なの?その名前が出てから――が怯えているようにも見えるけど……」

「SIDは元老院っていうお偉いさん直属の情報機関でな、この第五学園都市には防御システム、通称『イージス』があるんだがそのシステムよりも有能なスパイ機関らしい。なんでも『SIDに捕まった人は二度と日の目を見ることがない』って噂があるぐらいだしな。あくまでも噂だけども」

「なるほど~……じゃあその学園都市って何?」

「それもわからないのか……」

 

アニーはあのバットから突然現れた、もしかしたら別世界、平行世界とかから来た可能性もあるのか?

ならSIDや学園都市の事を知らなくても不思議じゃないけど……

アニーの素性について考えても全くわからなかったのでこの事は後回しにするとしよう

俺が黙っている間もアニーはニコニコと笑顔を浮かべている

 

「わからないことがいくつかあるけど、No problem(大丈夫)!だって――がいるんだもの」

 

アニーの言葉に励まされた?のか――が顔を上げる

が、やっぱり不安なようで元の姿勢にもどった

 

そんなことをしていると俺達が乗っている車が都市部にある商業地区の目立たない所にある地下駐車場の自動車用エレベーターに乗り込むと捜査員が何か呟いた

聞き取れなかったが、合言葉のようなものだったのだろう。エレベーターが音を立てながら降下を開始する

それからしばらくの間、長距離の降下と短い横の移動を交互に複数回くり返していく

商業地区の地下が迷路のような空間になっていると知らなかったがSIDの都市伝説に似たようなものがあった

曰く新豊洲の東南郊外には光学迷彩でカモフラージュされた建物があるとか

SID関係の建物はシステム上では「存在しない」のでよくマスメディアが言いたい放題している

俺達がいるこの場所も、もちろん「存在しない」場所だ。ここで消されたりなんかしたら噂の通りに二度と日の目を見ることはできなさそうだ

 

しばらくするとエレベーターが停止し、捜査員に車から降りるように言われる

そこには金属プレートで覆われた近未来チックな廊下が広がっていた

俺達がエレベーターから離れるとエレベーターは自動で閉まり、どこかへ遠ざかって行く音だけが聞こえた

廊下は先ほど言ったように近未来チックであるが特に装飾などがされていないからだろう、雰囲気が重く、抑圧されているように感じる

――の表情が更に沈んでいく

 

捜査員について行くと閉鎖的ではあるが明るい部屋に到着した

映画やドラマで出てくるような尋問室にに見えなくもないが机も椅子もなく、一面の壁がガラス張りになっている

何が出てくるのか警戒していると突然――が誰かに背後から腰の辺りを掴まれて引き寄せられていく

 

「ふむ……この程度の身体能力ではスパイというわけではなさそうだな。もしかしたらスキャンに誤りがあるかもしれんと思って直接確認したが……手触りはなかなかだな」

 

そこにはあの時研究センターで出会ったマリルと名乗った女性がいた

だが何故科学者がここにいるのか、軍服らしき服装をしているがこのマリルもSIDの一員なのだろうか……

 

「マリルさん!?なんで!?」

 

マリルが手を放したのでそちらへと振り返った――が驚愕をあらわにする

――のやつ、顔が赤いが……

 

「ほう、私のことを知っているか……自分の正体を隠す気がないのか?そちらの方が好都合ではあるが。ではこちらの質問に答えてもらおうか。言い訳して誤魔化そうとはするなよ?自慢ではないが私は『拷問』が得意なんでね。そんな可愛らしい顔をしても手加減は一切しないぞ~?おっと、自己紹介がまだだったな、私はマリル・フォン・ブラウン、SIDの主任である」

 

マジか……まさか主任だったとは

俺と同じように驚いていた――の視線が気になったのだろう、マリルが――に声をかけると――は「なんでもありません!すいませんでしたマリル様!」と何故か謝っていた

何かやましいことでも考えていたのだろうか

 

「さっきから黙ってるそこの白髪、この状況でボンヤリと考え事なんていい度胸だな~?捜査員の話によればその青ツインテにSIDの色んな噂を流していたそうじゃないか」

 

マリルのターゲットが急に俺に向く

何が楽しいのかマリルは手に持っている鞭を弄びながら威圧感を放ちつつ悪戯っぽい笑顔をしている

コイツ絶対加虐趣味とかあるだろ

アニーは青ツインテと言われたのがショックだったのか落ち込んでいる

 

「私が怖いなら、まずはお前たちの身分を言え」

 

そう言うとマリルはもう片方の手に持っていたタブレットを操作していく

すると部屋の壁に監視カメラで撮影したのであろう写真と、顔認証システムの分析結果が映し出された

 

『特徴照合結果、該当なし。識別不能』

 

「『イージス』システムは入国した記録がなければ認識することはできない。本来ならばこれだけでも新豊洲に不法に潜入したテロリストとして処分するんだが……お前たちはテロリストというには身体能力があまりにも低い……」

 

身体能力が低いと言われた――は自身のお腹をさすっている

アニーはマリルに恐怖を感じたのか顔を青くしている

すると何を思ったのか――が馬鹿正直に自分のことを話し始めた

 

「俺は――、俺自身も混乱していてどこから話せばいいかわかんないんだけど……事情が複雑で聞いても信じてもらえないかも知れないけど……」

「そんな前置きはどうでもいい、早く話せ」

「……俺は、俺達は夢を見たんだ。単位をもらうために研究センターの講義を受けに行って、閉館前に何とか研究センターに入ったんだ。そこで出会ったマリルさんに研究センターがテロリストに占拠されたって話を聞いて……」

「夢の中で私と?」

「あれは確かにあなただった。あなたは元老院からSS級科学者に認定された……マリル・フォン・ブラウン博士であってるよね?」

「そうだがそのぐらいの情報は公開されている。新豊洲科学院を知っているやつなら大体知っていることだ。……話を続けろ」

「マリルさんは俺達を廊下の陰に隠すとテロリストを1人倒し、そいつから拳銃を奪ってそいつを見つからないように隠すと俺達に大人しく救援を待て、と指示して占拠されている講義室に向かっていきました」

「講義室……?」

「元々その講義室ではマリルさんの講義が開催される予定だったんです」

「……………………………」

 

それを聞いたマリルの表情が険しくなる。恐らくはほんとうに講義する予定があったのだろう

その様子を不審に思ったのか――が「マリルさん?」と声をかける

 

「ん?あぁ……何でもない。話を続けろ」

「しばらく隠れているとテロリストが何人かやってきて、俺達は必死に逃げようとしたんだけど……下の階に落とされて……。ごめんなさい。俺はその辺りで気絶したみたいで……気がついたら周囲が火の海になってたんだ。研究センターの廃墟になっていて、硫黄のような匂いがしていた。周りの人は俺と――以外は石像……いや、塩の像になっていて、あとは何かが空中で光を放っていたんだ。それは何かを呼び掛けているような感じがして、一筋の光が…………

そこで夢から醒めた。」

「本当にただの夢か?《small》まるで『創世記』のソドムとゴモラが滅びる儀式のようだな《/small》」

「もしかしたら本当に夢なのかもしれない。ニュースとかを調べてもそんなニュースはないし、街もいつも通りだったけど夢にしてはリアルだったし、――も同じ夢を見ていたんだ。それに1つだけおかしなことが……」

「なんだそれは?」

「目が覚めたら俺達、身体が女の子になっていたんだ……俺達は元々男なんだよっ!」

 

その発言にマリルとアニーは硬直する

それもそうだろう、どこの誰が朝起きたら女の子になっていたなんて突拍子もない事を信じるだろうか

信じるとしたらTS願望のある人ぐらいだろう

 

「ふ~ん?実は男だと?ということはつまりお前たちは女装趣味がある言うことだな」

「そうじゃなくって!……いや、ある意味あっているのか?」

「ほう……この胸の弾力、なかなかいいな。いったいどんな材料と技術が使われているのやら……」

「そういう事なら私も知りたーい」

 

――が混乱しているうちにマリルとアニーはあちこちをまさぐっていく

――はくすぐったいようで抵抗しようとしているが2人には敵わないようであちこちを触られていく

俺?被害がこっちに来ないように部屋の隅でじっとしてるよ

 

「男にしては骨格が女性のように美しい。やはり素材が気になるな。特に……」

「マリルさんストップ!それ以上揉まないで!」

「そう言えばもう1人男だって奴がいたな……」

「……っ!」

「その胸も触って確認してみないとな~」

「ちょっ、まっ……」

 

 

 

――――――――――

 

「うぅ……」

「……………ひどい目にあった」

「どうやら手術などで性別を偽っているわけではなさそうだな。そもそも現在の技術でここまで完璧に性別を変更するのは不可能だしな。ということでお前たちは元から女性だ」

「だから女じゃないって!目が覚めたらこうなっていたんだよ!」

 

正直ここまで言われたら俺達が元男だと証明するのは難しいだろう

没収された持ち物から元男だと証明できるかもしれないが……

 

「マリルさん、俺達から没収した荷物の中に学生証があったはずなんだが……」

「なるほど?部下に持ってこさせよう」

 

しばらくすると部下らしき人がマリルに俺達の学生証を手渡す

 

「う~ん、似てなくはないが……何とも言えないな。」

「そうですか……」

「いや待てよ。監視システムが記録しているお前たちの動画を調べれば……」

 

何かに気が付いたのかマリルはやや興奮気味にタブレットを操作していく

そして目的のものを見つけたのであろう、マリルはタブレットの画面を凝視している

――は現実逃避しているのかさっきからブツブツと何かを呟いている

 

「お前たちの分析が終わった。お前たちだと言う人物に骨格変化の修正を加えたら歩行パターンの一致を確認できた。人間の歩行パターンというのはな、脳が筋肉を動かす際に出る癖のようなものだ。たとえこれがプロの工作員だとしても完全偽装するのは無理だ。

これを鑑みるに現在の科学理論・技術ではお前たちの状態は説明できんが……お前たちはこの学生証に書かれている男だ」

「噓…?ホントに?」

 

マリルは納得できないというような表情をしながらもそう言った

その言葉にアニーは驚きを隠せないでいる

俺達はマリルにそう言われたことによりいくらか余裕を取り戻せていた

 

「お前たちは『ロス・ゴールド』について何か知っているか?」

「『ロス・ゴールド』って確か朝のニュースでやってた気がするが……。――、何か知ってるか?」

「いや、俺も――と同じぐらいのことしか知らないけど……」

 

俺達が『ロス・ゴールド』の事を知らないというとマリルは少し悩むそぶりを見せ、『ロス・ゴールド』について話し始めた

 

「私が1円にもならない、クソどうでのいい講義に出向く理由があるとしたら『ロス・ゴールド』しかないだろう。『ロス・ゴールド』はロス諸島にて発見された『遺失物』で、その外周には4っつの奇跡的としか言いようがない純度の宝石が装飾されている。」

「そう言えばあの火の海で見た光る物体の輪郭がグラスっぽく見えた気が……その光は淡い赤色みたいな……」

「淡い赤色だと?言っている事が事実かどうかの判断は置いておいて、お前たちからはもう少し情報を聞き出さないといけなさそうだな」

 

これ絶対に――が余計な事を言ったせいだろ……

いや、男に戻るにはこの方が都合がいいのか?



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PART.3 会議

「今朝方から新豊洲の各地で『時空位相波動』の警報が作動した。まるで何かが覚醒したように、な。監視衛星の記録によるとお前たちは異変区域である研究センターで一時的に姿を消し、しばらくすると別の場所から現れた。何故か1人増えてな。」

 

そう言いマリルはアニーを見つめる

 

「そしてだ、お前たちが現れると同時にその場所の『時空位相波動』の反応が消失した」

「その『時空位相波動』って何なんだ?」

「……『時空位相波動』区域に出入できるのに何も知らないんだな。

説明するとだな、時空位相は物理法則の基礎、例えるならば宇宙の座標系のようなものだ。粒子の動きにかかわらず座標軸は安定していなければならない。もしも座標軸にブレが出てしまうとどんなに小さいブレでも空間内の粒子の秩序に壊滅的な影響を与えてしまうんだ。

簡単に言えば建物を構成する粒子の約5%の座標が不規則に1µ(ミクロン)ずれたとしよう。すると建物の構成のほとんどは破壊され、建物は簡単に崩壊してしまう。

ところがだ、お前たちは何ともなかったかのようにピンピンしているし、お前たちがいた区域内の建物は崩壊していない。

(そもそも聖痕研究によると『GHOST』を持っている人間が時空位相の空間に入ろうとすることは不可能だと結論が出ている)

何が言いたいかと言うとだな、お前たちは鎌鼬を起こすほどヤバい台風に突っ込んだのに無傷で生還し、台風まで鎮めて見せたんだ」

 

異変というのは俺達に襲い掛かってきたやつらのことなのだろうか、そのことをマリルに伝えると

 

「そいつらのことは「未知のエネルギー体」と仮称することにする。そいつらと時空位相波動の関係性は確認中だが情報が足りない。外見については調書を取った後にお前たちに作成してもらう」

「あー…俺さ、絵は苦手で……」

「俺もだ」

「心配するな、別に手書きで描けと言うわけではない。こちらで画像生成用のAIを使用するからな。結構便利だぞ」

 

 

 

――――30分後

 

「ふむ、これだけの情報があればしばらくは十分だろう。もうすぐ元老院との会議があるからな。元老院は会議中にリアルタイム分析ができるソフトなどを使って他人の噓を暴くのが大好きな『――規制――』なやつばかりだからな。今の時点で私が知る情報は少ない方が元老院から隠しやすい」

 

流石にの発言はどうかと思うがマリルだしな……

――も似たようなことを考えていたのか「元老院に対して皮肉……扱いに慣れているんだね……」と発言するとマリルから「お前も女の子なんだから上手く噓をつけるようにならないとな~」とからかわれていた

 

「今まで全世界で観測された『時空位相波動』の記録は4回しかない。その多くは『異質物』の収容ミスにより発生している。それに特性不明の『聖痕』が激発すると大惨事になる可能性が極めて高くなる。最も深刻な状況になると一時被害だけでも死者数は数万人は下らんだろう。そうなった場合は他の学園都市と「協力」して情報を隠蔽し、都合のいい「普通の事故」として報道される。例えばガス漏れ、テロ襲撃などになるんだが……

今回の場合は特別だ。これほどまでに大規模な時空位相の連続爆発は今までにないからな……既に最高レベルの偽装シナリオでカバーできる範疇を超えてしまったからな。」

 

それを聞いた――は自分たちが原因だと思ったのだろう。マリルに何か手伝えることはないかと聞いていたがマリルは

 

「可能性の話をするな。お前たちの身体と『時空位相波動』は関係あるかもしれんが、それだけのことでこんなことにはならんだろう。もしも何かしらの手がかりが欲しいのならば私の部下と一緒に現場に行ってみてもいいぞ。

(例えばの話だがこの小娘たちが今回の事件の唯一の対抗策となるならば……)

大丈夫だとは思うが無理だけはしないように。それと自分の事を絶対に他人には話すなよ」

 

他人には話すな、か……。こんな事を話しても信じてくれる人はそうそういないと思うが、もしも信じる人がいたら……恐らくはモルモットだな

――は深く考えずにマリルに何故ダメなのか聞いているがマリルの事だ『一生研究所暮らし』『研究者のおっさんにあんなことやこんなこと~』『――規制――』なんてことを言ってるんだろうな。――の顔が青くなってるし

 

「では私は会議があるのでな。また後で話の続きをするとしよう」

 

そう言ってマリルは部屋から出ていく

残された俺達はマリルが現場に行ってもいいと言っていたので部下の人に連れていってもらうことにした

 

 

 

――――――――――

 

会議室

 

 

あの小娘たち、なかなか面白かったな……

 

マリルが独り言を呟いていると前方右側にあるスクリーンから接続の際に出るボイスガイドが流れてくる

しばらくすると声などを偽装する為であろう、わざとらしい電子音声が聞えてくる

 

(何度もブリーフィングをしたことはあるが……私からは何も見えず、相手からは見えるこの形式はかなり不愉快だな)

 

そうマリルが心の中で悪態をついていると、通信相手である元老院の1人が要件を述べる

 

「マリル博士、『ロス・ゴールド』が消失した今回の事件、調査の進展はどうなっている?」

「本日午前0時15分、研究センターのセキュリティシステムが『ロス・ゴールド』の消失を確認。

午前6時40分、衛星監視システム『トゥルービジョン』が警告を発令。その後かなり強力な次元歪曲の発生が確認されました。

午前7時現在、『イージス』システムが新豊洲の防衛範囲圏内にて、6件の時空位相波動の警報を検出しました。

その6件の内、数件からは『未知のエネルギー体』を感知。

こちらの画像は目撃者の情報をもとにAIが作成したものになります。暫定的名称■■の未知エネルギー体で特徴としては顔がぼやけて見えてしまう事でしょう。」

 

自動的に暗号化されたことに呆れるマリルであったが顔に出さないようにする

この通信は最高レベルのものであり、暗号化したところでほとんど意味が無いからだ

 

「まず君の見解を聞きたいのだが」

「目撃者の証言によると、未知のエネルギー体は連携をとれる程度の知能を持っているそうです。■■と■■は未知のエネルギー体のリーダー格であると推測でき、■■■■と■■■■は彼らにかなりの頻度で随伴して出現しているとのことです。恐らくは兵隊アリのような役割を持っているのでしょう。これらのことを踏まえると、未知のエネルギー体はある程度の組織性を持ちゆるのは間違いないと思われます」

 

そう言うとマリルは自身の右後方をちらりと確認する。マリルからは何も見えないが話し方で予想はつく。あれは元老院主席執政官様だろう

 

「今回の事件、私はただの盗難事件だとは思いません。恐らくは『異質物』の覚醒及び、それに反応した『異質物』の連鎖反応だと思われます。

位相空間全体の侵入率が最高値を超える11.4%を占めていると『イージス』は計算しています。その他は全て不明です。現段階ではこれ以上の推測はできないためこれ以上のコメントを控えさせていただきます。」

 

マリルが報告を終えると周囲にあるスクリーンからざわめきが走る

そしてマリルの左側にあるスクリーンから低く穏やかな声が聞こえてくる

 

「精神影響型の『聖痕』が連鎖的に発生し、増加していると?」

「いえ、現在はただ同時発生しているだけだと思われますが……『聖痕』ですか、あまり不謹慎な言葉を使うのはあまり慣れていないもので……」

 

(彼は精神影響型の『異質物』の権威ではあるが……『聖痕』ねぇ……このゴリラは放射線でも吸収しすぎたのだろうか)

 

「私は君の意見が聞きたいのだが」

「現状では情報が少ないため結論は出せません。『イージス』でも参考程度にしか結論を出せないでしょう。本件の特異性を踏まえて無期限でのS級調査令を申請します。元老院の皆様、ご理解いただけますようお願いします。」

 

マリルは言い終えると周囲のざわめきを気にせずに手にあるタブレットを見つめる

 

(小娘たちが新しい異変区域に突入したようだな。やはり一度姿が消失してから再出現している。『時空位相波動』の停止も確認……。現場の映像は……身体に血痕?無理だけはするなと言ったのにまさか……)

 

「マリル長官、心ここにあらず、と見えるがどうかしたのか?」

「そんなことはありませんが?」

「君が見ているものはこの会議報告よりも大事なものなのかね?」

「あぁ、ただの子猫の映像ですよ。あなたも見ますか?」

 

マリルの左側から激しい電子音とブザーが鳴る

 

「まあまあ、そんなに怒らないでください。これは効率化のために適度に息抜きしているんですよ」

 

そう言いながらマリルは周囲を警戒する。誰もマリルの動揺は気づかれていないようだ

 

「では、現在判明している情報は報告書の通りということで、事件は今も調査中です。他に問題がなければ、私は現場へ向かわせていただきます。」

 

マリルが会議室から出ようとすると軽薄な声が話し始めた

 

「部下から君が高校生3人を連行したとの報告があったのですが」

「……………(またコイツか)」

「何かあったのですか?マリル閣下…いえ、今は博士でしたね」

「何でもありませんでしたよ。ただ迷い込んできただけの好奇心旺盛な3匹の子猫でした。取り調べも終わったので後ほど家に帰す手筈です」

「それはよかった。この敏感な時期に、我が国が一般人を攫い得体の知れない実験をしたりしている国だと他国から思われるのは大変困りますのでね……」

 

その言葉はどういう意味かと出席者が騒ぎ始める

 

「おっと、これは不謹慎でしたね。場を乱してしまい、すみませんでした。無かったことにしていただけると嬉しいですね」

 

(本当に嫌なやつだな……)

 

「……今回の事件は他の学園都市の注意を引いてしまったことだろう。今後の秘密調査、公共情報統制の指揮はマリル博士、君に頼む。」

「了解しました。」



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