ホップステップジャンパーズ~空へと翔る道~ (羊merry羊)
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新人ジャンパー現る!
1.新人ジャンパー誕生!?


 2092年、宇宙より謎の生き物が飛来した。

 

 この生物は空気だけで生き、衝撃を与えると分裂するが、すぐに集まって元に戻るという強い不死性と興味を持ったものに擬態するという性質を持っていた。

 

 人々はプリズムの様に輝きを放つ擬態者、『プリズミック』と呼ぶようになった。

 

 多くのプリズミックは無害であったが、年月の経過とともに増えるプリズミックの中に怪物のような非日常の生物に擬態するものが現れるようになり、徐々に人々に災害をもたらす存在として認識が切り替わっていくこととなった。

 

 2105年、危険なプリズミックを撃破駆除を生業とするプリズミックハンターという職業が誕生し、プリズミックの中には高値の宝石となるプリズミックプリズムを保有する存在が確認され、プリズミックの存在そのものが一大ビジネスとなっていた。

 

 この物語はそんなプリズミックハンターとして生きる者たちを描いたストーリーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ2115年、渋谷

 

 

 

「もう遅い!何してたのカケル!」

 

 赤髪にクリッと大きな目をした快活そうな少女が街中で憤慨していた。白を基調としたワンピース姿に大きなウサギの耳が生えた特徴的な服が非常に魅力的である。

 

「悪いソラ、寝坊した。今日が最終試験だと思うと興奮して明け方まで眠れなかったんだよ」

 

 対するは黒髪の少年、これまた赤いシャツの上に白いジャケットを羽織り手には黒いグローブを嵌めていた。

 

「そんな子供みたいな言い訳は聞きたくないよ!それで試験に落ちたらどうするつもりなの!」

「悪かったって。お小言は後で聞くから許してくれ。結構ギリギリの時間だし、まずは会場に入ろうぜ」

「全くもう!遅れて来たのは自分の癖に偉そうにしない!これが終わったらスイーツ奢ってもらってそのままお説教だからね!」

 

 ハイハイという言葉を背に、カケルは建物の中へと歩いていく。そのマイペースにため息を付くが、気分を切り替えようと思ったソラは一度深呼吸をした後、これから待ち受けるだろう困難に胸を躍らせ、笑顔を浮かべてカケルを追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「スミマセン、今日こちらでジャンパー試験を受けることになっているカケルと言います。これからどちらへ向かえばいいでしょうか?」

 

 ソラが追い付くとカケルが受付のお姉さんと話をしていた。

 

「カケルさんとソラさんですね、話は聞いています。只今担当者を呼んできますので少々お待ちください」

 

 受付の奥へと消えていくお姉さん。そのまま何事か僅かな話し声が聞こえた後、新しく一人の女性を伴って戻ってきた。

 

「こちら今回の最終審査を担当するルイカと言います。後はこの娘の指示に従って下さい」

「やっほー後輩君たち、ルイカだよ!今回はよろしくね。分からないことがあったら何でも聞いてね♪」

 

 ルイカと呼ばれた女性はピンクの髪に青いバンダナを巻きゴーグルを掛けていた。おまけに背中には酸素ボンベのような物を背負っており、そこから伸びる二丁の水鉄砲らしきものが非常に特徴的で……はない。

 

 カケルやソラの出で立ちも一般的なものでは無いように見えるが、現代においては見た目の特異さというのはさして問題視されないようになった。

 

 これはプリズミックハンターという職業柄、自身の能力を発揮するために各々特殊な装備を必要とする者たちが多く存在し、世界中で活動しているためであった。

 

「よろしくお願いしますルイカさん。僕たちはこれからどんな試験を受けるんですか?

「よくぞ聞いてくれた!では今回の試験内容を発表するよ」

 

 デレレレレレレレレレレと口でドラムロールを披露するルイカと課題の発表に期待と不安を膨らませるカケルとソラ。そしてジャンという掛け声が。

 

「最終試験の内容はズバリ!街のゴミ掃除です!」

 

 胸を張って腰に手を当てるルイカ。それに対するはポカーンとした表情の二人。

 

「え?あの、ゴミ掃除ですか?」

「そうだよゴミ掃除。いやぁ最近プリズミックが暴れたあと街に結構散乱しててね。うちはほらソラちゃんのお父さんが居るから知ってると思うけど、何でも屋みたいなところがあってね。依頼さえ受ければ大抵のことはやっちゃうんだよね。殆ど依頼料が発生しないほぼボランティアみたいなのもあるし、その辺の事もキチンとこなせる人が欲しいって訳」

 

 ルイカの説明に納得はする二人だが内心、『最終試験がゴミ拾いって……』と気落ちしてしまった。

 

 そんな二人に気付いてかどうかは分からないが、努めて明るく振る舞うルイカは先に進みつつ『とりあえず歩きながら話そう』と出口へと向かって行った。

 

 後を追う二人、思っていたものとは全く方向性の違う試験に渋い表情が張り付いている。

 

 楽しそうなのはルイカと受付のお姉さんだけであった。



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2.最終試験開幕

「どうするソラ?最終試験がまさかのゴミ拾いとは」

「どうするもこうするもないよ。それが試験っていうならやるだけだよ。まあ色々とガッカリだったのは認めるけどね」

 

 互いに顔を見合わせため息一つついた後、仕方がないやるかと頬を両手で叩く。

 

「考えてみればそれだけで合格出来そうなら簡単でよかったよ。気を取り直して受かった後の事でも考えながらやればちょっとはマシに感じるんじゃない?」

「それもそうか、そんじゃまあ行くか」

 

 急いでルイカの後を追いかけた二人。来たばかりの道を戻って街へと飛び出すとルイカが口を尖らせてこちらを見ている。

 

「遅いよ後輩君たち。ちゃっちゃと片付けなきゃ日が暮れちゃうよ」

「すみませんルイカさん、ちょっと気合いれてました」

「お、やる気満々だね。それなら許してあげよう。何たって私は心が広い先輩だからね」

 

 得意げな顔をして笑う様子に二人はルイカがどんな人物なのか早くも理解出来た気がした。

 

「それで、ゴミ拾いって具体的にはどんな感じにすればいいですか?」

「ゴミ拾いじゃなくてゴミ掃除ね。街に落ちてるゴミを無くすのも仕事だけど、汚れてる箇所があったらそこも綺麗にするんだよ。袋や箒とかの道具は今渡すけど、水を撒くような必要があったら私に言ってね」

 

 わかりましたと返事をした二人に渡されたのは言われた通りのビニール袋に箒、そして火バサミ。

 

「とりあえずニ時間くらい作業しようか。私は君たちから付かず離れずくらいの距離で見守りながらやるけど、二人はある程度一緒に行動するなら自由にやってていいよ」

 

 軽く手を振りながら離れていくルイカを見送ると一つ気になることがあった。

 

「ルイカさんって最初ボンベ背負ってたよな?」

「そうだね」

「今籠背負ってたよな?」

「あ、拾ったゴミを入れてるね」

「「…………忘れよう」」

 

 今見た物の事は記憶から抹消し、カケルはソラへと向き直る。

 

「じゃあ始めるか」

「そうだね、付かず離れずって事は作業の様子を評価するんだろうし、さっさと始めよう。そしてこんな課題終わらせて正式なジャンパーになろう!」

 

 頷き一つ交わしてゴミ拾いを始めるソラ達。普段街を歩いていても特段ゴミが多いとは思わないが、いざ作業を始めてみると意外にも纏まった量が出るものである。缶など分別しながらの腰を曲げる作業は若者であっても堪えるもので、一時間が経過した所でカケルが音を上げた。

 

「駄目だー!腰が痛え!」

 

 火バサミや箒があっても中腰になる事が多い慣れない作業は体が悲鳴を挙げる。

 

「カケル文句言わない、ボクも頑張ってるんだからあと半分頑張ろう」

「そうは言っても、これ割とキリがないぞ?片付けても片付けても風で飛んできたりするし」

 

 そうなのである、見える範囲にゴミがなければ腰も真っ直ぐ伸ばしていれるのだが、拾うごとに視界の端に別のゴミが映ってしまうのだ。

 

「普段は気付かないけど、ボクらの街って結構汚れてるんだね」

「ポイ捨てもあるんだろうけど、ゴミを荒らすカラスとかもいるし、一人一人の意識改革でもしない限りずっとこのままなんだろうな」

 

 平時であれば気にしない事も視点を変えれば見え方が変わる。少しセンチメンタルな気持ちになった二人は、地面を見つめて何事か思いを馳せる。

 するとそこに『キャー』という叫び声が聞こえてきた。

 

「プリズミックよ!プリズミックが出たわ!」

「パトカーに擬態しているぞ、轢かれるぞ逃げろ!」

「誰かー!助けてー!」

「ジャンパーは!?ジャンパーはいないのか!」

 

 ほんの少し前まで賑やかだった街は一転して阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。逃げ惑う人々、押して押されて転び踏みつけられプリズミックよりも混乱による人災の方が大きいのではないか。

 

「お、やっとお出ましだね。それじゃあ最終試験と行きますか後輩君たち」

 

 いつの間にか背後にルイカが来ていた。

 

「ルイカさん最終試験ってどういうことですか?ゴミ拾いをしてたんじゃ?」

「だから何回も言わせないでね。私はずっと『ゴミ掃除』と言っていたよ。ボランティアで街の清掃をする事も確かにあるけど、ジャンパーとしての本業、そして掃除屋『スイーパー』といえば?」

 

 ニチャアと粘着質な笑みを浮かべるルイカにカケルは、

 

「性格悪いですよルイカさん、てっきり俺はずっとゴミ拾わされるのかと思ってました」

「ぬっふっふっふっふ、まだまだ甘いねえ後輩君。修行が足りないよ。っと、そろそろ動かないとヤバそうだね。私も手伝ってあげるから三人で協力してアイツを倒そう。一応確認するけど、二人とも試験受ける為に戦闘用の装備は持ってきてるよね?」

「はい、持ってきてますけど。あれ、ルイカさんいつの間にかボンベ背負ってる。籠は?」

「プリズミックと戦うのに籠なんか持ってくるわけないじゃん。きっと見間違えたんだよ」

 

 いやそれはないないと心でツッコミを入れるカケルとソラだったが、実戦を前にしてあまりふざけるのもどうかとグッと堪える。

 

「それじゃ最終試験プリズミック実戦討伐始めるよ」



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3.実戦開始

 ソラの目の前に佇むは、後にパトランプリズミックと呼ばれるようになった個体。一般的にガーディアンと呼ばれるタイプに酷似していたが、それと違うのは文字通り頭部にあるパトランプの存在だった。

 

 通常のガーディアンは色や大きさこそ多少の違いはあれど、見た目としてはほぼ同一であった。それがこの敵は目に見えての違いがあった。

 

「ガーディアンタイプは基本遠距離での砲撃、銃撃に加えて近距離での放電現象や爆破攻撃がメインなんですよね」

「その通り。あとは腕で直接殴ってくることもあるけどこれは稀だね。でも重機で殴られるのと同じだから、常に警戒はしておくこと。でないと授業料は命って事になりかねないよ」

 

 油断はするなという警告に気を引き締める。三人で散開しパトランプリズミックを取り囲むとルイカが口を開いた。

 

「今まで確認されていないタイプのプリズミックと戦うときの基本は様子見をすること!相手がどんな攻撃パターンをしているか、どう潜り抜けて攻撃に転じればいいか、弱点は何処か。その他もろもろを回避と牽制をしつつ見極めるんだよ!」

「相手のパターンを把握するのはわかります。けど弱点の見つけ方ってどうやるんですか?」

「プリズミックには必ずコアが存在するんだ。これは常に発光しているんだけど体の中に隠し持つのと外に露出しているのに分かれる。露出している場合はそれが弱点その1。そしてその2は攻撃して一番苦しんだり、明らかに他とは違う手ごたえがするもの。まあ戦いながらそれっぽい所を探すってわけ」

「コイツはコアと思しきものは見当たらないから、出たとこ勝負って事か。どっちにしろ様子見だね」

「伝えることはこれくらいかな。あとは戦いながらアドバイスするから攻撃開始するよ!」

 

 言うが早いか、ルイカの二丁拳銃が火を噴く、もとい水を噴く。高圧の水を噴射するシンプルなものだが、圧や大きさを意のままにすることが出来、大玉の水球をぶつけることも可能なのが彼女のハイドロシューターという武器であった。そしてこれの最大の特性が、

 

「ルイカさんが攻撃した箇所が変色してるんですけどこれは?」

「よく気付いたね。水鉄砲と聞くと一見弱そうに感じるけど、この水には相手のプリズミックコーティングを洗い落とす効果があるんだよ。つまり、表面の色が変わってる部分は疑似的な弱点となるのさ!」

「すげー!パイセンパネェっす!」

「ぬっふふーん♪もっと褒めてくれても良いんだよ?ってうわわわわわわわわわっ!」

「ルイカさん!」

 

 コーティングを剥がされたのが気に障ったのか、ルイカ目掛けてミサイルとマシンガンの応酬が飛んできた。間一髪回避に成功したものの、あと一歩違えば大怪我をしていた事だろう。

 

「ふー危なかった。こういう事があるから戦闘中は気を抜かないようにね。それじゃこっちも反撃だ。ソラちゃん、変色した所にありったけぶちこんであげて」

「任せてください!これでもくらえっ!」

 

 ソラの持つ銃から多量の人参を模したミサイルが飛び出す。着弾した箇所が爆発し、次から次へと弾幕が襲い掛かる。

 

「いいねその調子だよ。カケル君、爆煙が収まったらソラちゃんが攻撃した場所にガツンとダメ押しの一撃を与えてね」

「了解です!もう少ししたら収まるか?よし、行きます!」

 

 煙が晴れる頃にはカケルが肉薄し、思いっきり腕を振りぬこうとしたとき、

 

 ウゥゥゥゥウウウウゥゥウウーーーー!

 

「くっ、なんだ、これ……」

 

 バチヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

 

「ぐはっ、体が……」

「カケル!」

 

 先の報告にもあった放電攻撃。それをモロに喰らってしまったカケルは全身が痺れて動けなくなっていた。そこにパトランプリズミックの腕が振り下ろされようとしていた。

 

「いけない!早く助けなきゃ!ってあれ?」

「カケル歯食いしばれ!」

「な、に、を、ってえええええええええええ!?」

 

 ちゅどおおおおおおおおおおおおおんっ!

 ソラは咄嗟に大型のミサイルを放ち、カケルの手前で起爆することによって敵から弾き飛ばすことに成功した。

 

「えほっ!ゴホッ!ったく、ちょっと乱暴すぎるだろ今のは」

「助かったんだから文句言わない!それよりまたアイツの攻撃が来るよ」

「いや、あれはすぐには来ない奴だね。チャージして大きいのを仕掛ける気みたい」

 

 いつの間にか三人が集結する形になったが、そこでルイカからの提案があった。

 

「さっきカケル君が動きを止められたのはサイレンだね。多分身に危険が迫るとあれで威嚇して敵を委縮させるんだと思う。そしてその後の放電するのに少し体を曲げたんだけどその時、頭のてっぺんにコアが埋まってるのが見えた。あれなら一発重い攻撃をお見舞いすれば倒せるはず。だからまず近づく為にサイレンを破壊、その後改めて頭に攻撃をしよう」

「それならボクがまた攻撃して壊すよ。カケルはトドメよろしく」

「俺がトドメ刺しちゃっていいのか?勝負は?」

 

 キョトンとした顔のカケルにソラは笑って、

 

「いいの、勝ち負けなんかより確実に倒す方が重要だよ。僕の装備じゃ一点攻撃するのは不向きだからね」

「それじゃ私は先輩らしくカケル君の進む道を作ってあげるとしますか。サイレンが破壊されたら一気に近づくから遅れないで付いてきて」

「わかりました。それじゃあこれで本当に終わらせよう」

 

 パトランプリズミックに向き直ると向こうも準備が出来たとばかりに大きなミサイルを何基も構えていた。

 

「さあまずは弾幕回避ゲーからだよ。これは手助けしないから各自、自分の力で乗り越えてね」

「俺、この戦いが終わったら……」

「カケルこんな時にフラグ立てない!」

「いや悪い悪い、結構耐えてたんだけどシリアスな展開続きすぎて緊張の糸が張り詰められて苦しくってさ。ちょっとリラックスしたくなったんだ」

「まあガチガチになってるよりはこのくらいの方がいいパフォーマンス発揮できるだろうし、それもいいんじゃない?」

「先輩までそうやって……じゃあボクも言おうっと。この戦いが終わったらボク……」

「プロポーズでもするのか?」

「カケルにジェラー堂のスペシャルジャンボパフェ奢ってもらうんだ……」

「ちょっ!?ソラさん!?」

 

 慌ててソラに振り向くとジト目が待ち構えていた。

 

「ボクまだ遅刻してきたこと許してないし、その時もカケル『はいはい』って言ったよね?約束は守って貰うから。男に二言はないんでしょ」

「いやでもあれ5000円するじゃん!ちょっと高すぎるだろ」

 

 狼狽するカケルをみて爆笑してるルイカだが、顔はそのまま笑い、言葉だけは真剣に向き直る。

 

「それじゃ美味しいパフェを奢ってもらうためにもさっさと倒しちゃおうか。くるよ!」

「援護してくれソラ。一か所に弾を打ち込んでくれたらそこを突破する」

「了解、今度こそちゃんと決めてよね」

 

 新人ジャンパー二人の初陣は佳境に入る。



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4.初勝利

「いっけえ、キャロットマシンガン!」

 

 プリズミックから発射された数々のミサイルは、ソラの振り撒く弾幕により誘爆させられる。そうして作られた空白地帯にカケルとルイカが飛び込む。

 

「ソラちゃん、残りの迎撃はこっちで受け持つから、パトランプの破壊をお願い」

「はい!おりゃりゃりゃりゃりゃ」

 

 砲口を上へとずらし頭部のパトランプを狙うと、嫌がるように体を捻り、腕でガードをするように弾幕の前に突き出す。

 

「負けるもんか、てりゃあああああ!」

 

 ソラも移動しながらの射撃に切り替え、多角的に射線を取る。するとどの方向に向かってガードをすれば判断がつかなくなったのか、腕をブンブン振り回して追い払うかのような動きを見せる。

 

「ここだ!人参フルバースト!」

 

 ビルの壁を三角跳びの要領で駆け上がり、捉えた一瞬を逃さず残弾を撃ち尽くす勢いでの攻勢に、流石のガーディアンの名も陥落せざるを得なかった。

 

 ドガアアアン!ビキィッ!

 

 慌ててガード姿勢を取り直そうとするも、蓄積したダメージに加え、無茶な角度からの急制動により腕は爆散し、その向こうのパトランプも砕け散った。

 

「やってくれたねソラちゃん、あとは私達にまかっせて。カケル君はトドメの一撃用に力を貯めておいて。私が道を切り開く」

「わかりました、はぁあああああああっ」

 

 カケルの拳に光が集まるのを横目で確認しつつ、目の前に迫るミサイルを銃で受け流していくと、鞭のようにしなるロープが襲いかかった。

 

「中から飛び出した配線をそのまま武器にするとか頭良すぎでしょ。でもまだ甘い!」

 

 これまで二丁それぞれ別々に操っていたルイカがここに来て一つに重ねて発砲した。一瞬で巨大な水球が形成され、そこに飲み込まれるコード群。

 

「水ってのは結構重いんだよ。それだけ抵抗が強ければこっちに届く前に回避できる」

 

 目にも止まらぬ攻防はルイカに軍配が上がり、紙一重で回避した。そしてそのままの勢いで相手の頭上へと駆け上がる。

 

「ペインティングショット!」

 

 ルイカの銃からそれぞれ色の付いた液体が飛び出し、ある一点で交差する。

 

「後輩くん、あの印がアイツのコアの位置だよ。決めちゃって」

 

 続いて登ってきたカケルにバトンタッチと言わんばかりに視線を飛ばし、体の位置を譲る。その頃にはカケルの両手には眩い光が携えられており、込められたエネルギーの大きさを物語っていた。その両腕が弓のように後ろに引き絞られると気合烈迫と共に突き出される。

 

「これで終わりだ!ゼノディザスター!」

 

 ルイカの付けたマーカーに全力で叩き付けられた拳。更にそこから撃ち出された力の奔流はガーディアンの装甲を完全に穿つらぬき、貫通した衝撃波が別の部位から溢れ出す。

 パトランプリズミックは光を放ちながら膝から崩れ落ち、光が収まった後に残ったのは金色に輝くプリズミックキューブとヒビ割れたパトランプであった。

 

「勝った、のか?」

 

 バシッ!

 

 疑問混じりの呟きに返された返事は背中に伝わる衝撃。

 

「おつかれ!初めてな割には良い動きしてたよ。新人とは思えないくらい、優秀な人材が後輩に来てくれて私も鼻が高いよ」

「ルイカさん、ありがとうございます。そして痛いッス」

 

 ジト目で睨んだ先にあるのはドヤ顔でふんぞり返る先輩の姿であった。戦闘中は結構格好良かったのに、もう少し余韻に浸らせてほしいものである。

 

「カケルお疲れ、プリズミック初討伐だね」

「ソラもお疲れ、これで俺達も立派なプリズミックハンターって訳だな」

 

 初の実戦、初の討伐と初めてづくしだが、達成感が強く、今はやり遂げたという気持ちが胸を満たしていた。

 

「ひとまずこれで最終試験は終わり。二人共文句なしの合格だね、おめでとう」

「ありがとうございます。でもジャンパー試験って大変なんですね。こんな強い敵をいきなり倒さなくちゃいけないなんて……」

 

 先程までプリズミックがいた場所を見つめながらカケルがしみじみと呟くと、ソラから叱咤しったが飛ぶ。

 

「情けないこと言わないの。初めての実戦なんだから危険が少ない敵に決まってるでしょ。もっと強い敵がこれから沢山出てくるんだよ。ですよね、先輩?」

「そのとおり。この程度の敵はまだまだ序の口に過ぎないのだよ」

 

 うんうんと頷くルイカであったが、急に困ったような顔になる。

 

「って言いたいところなんだけどね。正直に言うと今回の敵は想定していた強さよりかなり強い部類だったんだよねえ」

 

 頬をポリポリ掻きながら目線を逸らすルイカ。

 

「いやはや、よく皆生きてたね。運が良かったよ」

 

 はははと渇いた笑いを浮かべ気まずそうにするルイカ。そしてその隣に突然現れた者が語りかけてきた。

 

「本当に危なくなった時は手を貸そうと見守っていたが、そんな事にはならずにすんだ。期待の新人って所かな?二人とも良くやった」

 

 ネイビーブルーの短髪に萌葱色(もえぎいろ)の外套を羽織る青年。手に握られた大鎌から威圧感を放っているが、それに反して表情は穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「え、この人ってもしかして」

「超有名人の疾風のシオンさん!?」

 

 スカイジャンパーズにこの人あり、かつて世界最強とも謳うたわれた強者が二人を讃えていた。



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5.疾風のシオン登場

 かつて三大プリズミック事件と呼ばれる大規模災害があった。ヨーロッパを襲った神殿事件、アメリカを襲った海神事件、そして日本を襲った神龍事件の三つである。

 シオンはそのうちの一つ、神龍事件を解決に導いた立役者であり、救世主でもあった。

 

「知っていたか。改めて名乗らせてもらおう。俺の名はシオン、君たちの先輩に当たるジャンパーだ。よろしく頼む」

「キャー、カケルどうしよう!凄い人に挨拶されちゃったよ」

「俺に聞くなよ!えっとあの!ジャンパーの先輩として憧れてます!握手してください!」

「あっカケルずるいボクも!」

 

 先を争うように押しのけあって手を前に差し出す若者に苦笑を浮かべながらもそれに応じるシオン。

 

「別に俺はアイドルでもないし偉い立場でもないからそんなに恐縮することもないぞ。これからは同じ職場で働くんだから、もっと気を抜いてくれ」

「そんなこと言ってもシオンさんは世界的にも有名な人ですし、凄い人じゃないですか」

「そうそう、ボク達シオンさんみたいな立派なジャンパー目指して頑張ります!」

 

 シオンは目を輝かせて熱弁する二人にどう扱ったものか考えを巡らせていたが、意外な人物からの援護によりそれは杞憂(きゆう)に終わる。

 

「二人とも私の時とはエライ反応が違うねえ?私も先輩なんだけどなあ?」

 

 ジト目を通り越してべっちょり目とでも言えそうなくらい粘着質な視線が向けられた二人は慌てて言い訳をまくしたてる。

 

「え、いや別にルイカさんが凄くないとかそんなこと思ってるわけじゃないんですよ?先輩」

「そうそう、シオンさんがちょっと眩しかったから見えなくなってただけで、忘れてたわけじゃないんですよ?先輩」

「そう!私は先輩なのだ!だからどんどん頼ってくれても良いんだぞふふんっ」

 

(え、先輩呼ばれただけで機嫌直るのこの人)

(ちょろい。ボク達むしろ貶すようなこと喋っちゃた気がするのに)

 

話が可笑しな方向に進みそうだったので、シオンはパンパンと手を鳴らし、再度注目を集める。

 

「皆一先ず本部に戻るぞ。本番であれば報告をするまでが任務だからしっかりとな。その後正式な登録なんかを済ませたら君達の歓迎会が準備してある。楽しんでいってくれ」

「本当ですか!よーし腹いっぱい食うぞ」

「わざわざ気を使ってもらってすみません。もしもボクらが試験落ちてたら無駄になっちゃうかもしれないのに……」

「そんなことは無い。この試験はあくまでも実戦に置ける行動を把握するための練習の場という意味合いが強い。今回はイレギュラーが発生して想定していたよりも強い敵が現れてしまったが、討伐出来なくても合格だった。万が一、この試験で落ちるような例を挙げると、自分・他者含めて命を軽んじる行動や、周囲の被害を一切省みない様子が確認された場合審議されるくらいだろう」

 

 あっさりとネタ晴らしをするシオンにルイカは面白くなさそうに頭の後ろで腕を組む。

 

「なんでバラしちゃうかな、黙っていた方が自力で合格した達成感とかあるのに、シオンはその辺わかってないなあ」

「そ、そういう物なのか?」

 

 気まずそうにカケル達に確認の視線を向けると、こちらも気まずそうに微妙な表情を浮かべる二人。

 

「すまない二人とも。どうやら俺はその辺の機微に疎い方みたいでな、無神経に人を傷つける節があるようだ。悪かった」

「そんな謝らないでください。別に悪いことをしたわけじゃないんですし」

「そうそう、今後調子に乗って痛い視線向けられるより、よっぽどいいですよ」

 

 お互いフォローしあい、丸く収まった所でルイカが何かを見付ける。

 

「あれ?なんか変わったプリズムが落ちてる。なんだろこれ」

「七色に輝くプリズム?俺も見たことが無いタイプだな。いや待てよ、何処かで似たような物が……?」

 

 大きさは直径2cm程度のプリズム。決して大きいものでは無いこれを目ざとく見付けたルイカは評価に値する。が、誰もその事について触れてあげる事は無かった……

 

「とりあえずサンプルとして持ち帰ろう。ソフィに解析してもらえば何かわかるかもしれない。今回のプリズミックが強かったこともこれに由来している可能性がある」

「ソフィさんって俺のナックルやソラのジャンパースーツを開発してくれた人ですよね?」

「そうだ、スカイジャンパーズでプリズミック関係の研究と兵器の開発を一手に引き受ける優秀な人材だ。所属メンバーについては後程歓迎会で本人達から紹介があるだろうからここまでにして、早いとこ戻るとしよう」

「「はーい」」

 

 一行はそのまま雑談を交わしながら本部への道を歩いていく。戦いの緊張感とは無縁な笑顔が零れ、各自戦闘後の余韻を堪能するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャリッ!

 

「ふむ、あの検体がノアですらない、そんじょそこらにいる三人ばかしの奴等に始末されてしまうとは。まだまだ改良が必要ということか。まあいい、このデータを使ってより強い物を作ればいいだけだ。次はどういったものにするか……」

 

 ひと気が失せた現場に佇む、陰湿な笑みを浮かべるその者の存在に気付いた者は、この時点では誰もいなかった。



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6.いざ凱旋!

「皆さんお疲れ様、その顔を見るに試験は大成功って所かしら。シオンまで一緒に帰って来たのはちょっと意外だったけど。何か予定外の事でもあったのかしら?」

「ロージア、その辺については後で報告書に纏めて渡すから、目を通しておいてくれ。それ絡みで新人たちの気分転換を早くしてあげたくてな、今日は試験の事務手続きだけさっさと済ませて歓迎会に移りたいんだ。俺は人を集めてくるからそっちはそれ以外の事をやってもらいたい」

「あらあら、何か事情がありそうね。わかったわ、最低限のことだけ処理してそっちに移るわ」

「それじゃ俺はここで一旦お別れだ。改めて二人ともお疲れ様、そして合格おめでとう。ロージア、後は頼む」

 

 そう告げるとシオンは颯爽(さっそう)と去っていった。

「二人とも合格おめでとう、私はロージアと申します。ジャンパーとしても戦えますが、最近は受付や事務作業がメインって感じよ。これからは同僚としてよろしくお願いしますね」

「「こちらこそよろしく願いします」」

「本当なら幾つかやって貰うことがあるんだけど、誰かさんにせっつかれてしまったから、今は登録確認の書類だけで後は追々済ませましょうか」

 

 差し出された書類にサインをして返す。それを上からじっくりと確認するとにっこりと笑うロージア。

 

「はい、問題ないです。これでお二人は正式にスカイジャンパーズに登録されたことになります。これが証明ライセンスです。お疲れさまでした」

「よっしゃーっ!念願のジャンパーライセンスを手に入れたぞ!」

「殺してでも奪い取る!」

「なんでっ!?」

 

 ケラケラとロビーに響き渡る笑い声。それにつられてか金髪の少年が近付いてきた。

 

「おいおいなんの騒ぎだ?オレ様のいない所で楽しいことしようってんならちょっと酷いんじゃねえか?」

「あらガンマ君、こちらたった今うちに所属する事になったカケル君とソラちゃんよ。仲良くしてね」

 

 ロージアから紹介を受けたガンマという少年。モノクルのような片目しかないアイシールドに腰にこしらえた大きな銃が目に付く。

 

「新入りか、オレ様を目指して精々頑張んな。ま、ヒヨッコがいくら頑張ってもオレ様に追い付ける訳無いんだけどなハッハッハ」

「何偉そうなこと言ってるかね君は。ガンマだって先月に受かったばっかりの新入りじゃん」

「なっ!それは言わない約束ッスよルイカさん!」

 

 はぁ、と重たい溜め息を吐くルイカ。

 

「大体ね?君が試験で戦ったのは暴れてると言っても擬態前の通常プリズミックだよ。それに比べてこの二人はついさっき、初めての戦闘でガーディアンを倒したんだよ。それも通常よりも強い特異体をね。君だったら倒せたのかな?そんな心構えじゃ追い付くどころか直ぐに追い抜かれるよ」

「そ、そんな……」

 

 冷静な指摘を受け愕然とするガンマはよろけて数歩後退る。そうして俯き、体を震わせ始めた。

 

(ちょっと、泣いちゃったよ?どうするのこれ)

(俺に聞くなよ。ルイカさんが原因なんだから先輩がどうにかしてくださいよ)

(嫌だよ面倒くさい。形だけ繕ってる人って嫌いなんだよね、私)

 

 本人そっちのけで交わされるひそひそ話。するとそれ等が聞こえたのか分からないが、突然ガバッと顔を上げ、そのまま指を付き出してきた。

 

「カケルって言ったな!お前をオレ様のライバルと認めてやる!置いて行かれないよう精々頑張るんだな!」

 

 ふんっ!と鼻息荒く立ち去るガンマだったが、そこに待ったを掛ける者がいた。

 

「ストップ!ガンマ、これから二人の歓迎会開くんだけど、シオンが皆を集めるために動いてるんだ。バラバラになってまた探すのは面倒だし、このまま一緒に会場準備手伝ってね。先輩命令だよ」

 

(うわ~この先輩エゲツねー)

(格好つけて立ち去ろうとしたのに引き止めた上、一緒にいろとか拷問だよね)

(空気読めない人って怖いわー)

(ほら、顔真っ赤にしてぐぬぬ言ってるよ可哀そう)

 

「そこなにコソコソ喋ってんだ!俺様は忙しいんだからさっさとやっちまうぞ!」

 

 そう言ってヤケクソ気味に先導していく姿は哀愁が漂っていた。

 

 

 

 ~一方その頃~

 

「シオン様、この飾りはこっちでいいんですか?」

「ああ、問題ない。料理の方も準備していてくれて助かった。ありがとう」

「キャーッ、シオン様に感謝されちゃったどうしよう溶けちゃいそう」

 

 人を集めていたシオンだが、あの場に居なかったメンバーはガンマを除いて全員招集出来ていた。

 また、当初買い出しや出前等でどうにかしようと考えていた宴会の料理についても既に完成しており、それならばと会場設営に従事することにしたのである。ガンマについては賑やかにしていればどちらかの場所に勝手に現れるだろうという目論見の元、気にしないことにした。いざとなったら携帯に連絡すればいい。

 

「ところでリズ、今回の歓迎会は突然繰り上げたから時間がなかったはずだが、何故こんなに準備がいいんだ?」

「それは勿論、お兄ちゃんが念願のジャンパーになれるって言うんだから祝ってあげたいなって思ったからです」

 

 このリズという少女、何を隠そうカケルの妹なのである。赤い瞳に茶色がかった短い髪をバレッタで留め、肩から肘にかけて露出した肌とスカート下のスパッツが健康的で大変よろしい。リズはシオンに対し強い憧れを持っており、その思いと勢いで試験に合格した過去を持つ乙女である。とは言え、ジャンパーには年齢規定があるせいで、現在はジャンパー見習いとして籍を置いている形になる。

 

「先日のガンマの歓迎会ではここまで大仰な準備はしていなかったが、やはり家族ともなれば違う物か」

 

 妹の微笑ましい家族愛に頬を緩めるシオンだったが、それに反してリズの表情は影を落とす。

 

「ちょっと違いますね……お兄ちゃんは小さいころからジャンパーに憧れていました。でもなんやかんやあって先にジャンパーになれたのは私。あまり私に見せないようにはしてましたけどお兄ちゃん、私を見る目がたまに羨ましそうだったり、悔しそうだったりしたんです。でもそれについて自覚もあるようで、自分の問題で妹にそういった感情が沸き上がることが恥ずかしいというか、情けないというか……とにかく心がちょっと不安定になったりしてたんです」

 

 家族だからこその思い、家族だからこその距離。そういったものがないまぜになって溢れてくると、不純な思いで一足先にジャンパーになった自分自身の軽率さに嫌気が差す。

 

「だからこそ、今回ジャンパーに成れたことを心からお祝いしてあげたい。もう妹なんかに負い目を感じる必要なんてないんだよって教えてあげたい」

「そうか、リズはカケルが好きなんだな。俺は兄弟がいないからわからないが、仲がいいのは素晴らしいことだと思うぞ。それに相手の事を思いやれるのは優しい人の証拠だ」

「優しいかどうかは自分じゃわからないけど、シオンさんにそう言ってもらえて嬉しいです」

 

 そういってはにかむリズの姿がとても眩しく見えたシオンであった。

 

 

 

 

 

「ロウセ~ン、ビールもう一本取って」

「まだ皆が集まっていないのに、これ以上のアルコールは不味いと思う。闇から忍び寄る(かいな)に引き寄せられ、深淵たるカオスに(いざな)われるぞ」

「うっさい、たかがビール二本で酔っぱらうわけないじゃない。いいから寄こしなさい」

 

 結構いい雰囲気だったのに、それをぶち壊した元凶に殺意を込めてガンを飛ばすリズと呆れ果てるシオンだった。



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7.ようこそスカジャンへ

「カケル君、ソラちゃん。スカジャンへようこそー!カンパーイ!」

「「「「カンパーイ」」」」

 

各所にてすったもんだあったが、何はともあれ歓迎会開演である。

リズの提供してくれた料理に舌鼓を打ちつつ、皆楽しく飲んでいる。

 

「カケルはなんでスカジャンに入ったんだ?ジャンパー目指した理由じゃなくて所属決めた方な。ゴードンとか別の場所もあっただろ?」

 

カケルに質問をしたのは何を隠そうガンマである。

 

「俺はシオンさんに憧れたってのは勿論あるけど、それ以上に大きかったのはリズが居るってことかな。普段はお互い色々思う事あるだろうけど、何かあった時、妹は兄貴が守ってやらなくちゃいけないって思うんだ。ウチ両親居ないから尚更な」

「そうか……妹か」

 

先程まではいがみ合いと言うには(いささ)か一方的なものであったが、あまりいい空気ではなかった二人。しかし性格的には似ているのか、今ではすっかり意気投合してダベっている。

 

「そういうガンマはどうなんだ?」

「オレ様か?オレ様は偉大な野望の為、とだけ今は言っておこう」

「何だそれ、お前は悪の組織の幹部かよ」

 

別の席ではソラ、ルイカ、リズ、ロージアが集まって女子会を開いていた。

 

「それでちょいちょいシオン様にアピールしているつもりなんだけど、そういう物に興味がないのか、私に興味がないのか分からないけど相手にされてない感じ」

「それは切ないね。うーん、どうやったら意識してない相手を振り向かせるかねぇ。ボクはアイドルとかミーハーな物は熱狂したりもするけど、恋愛に関してはイマイチわかんないや」

「シオンは鈍いから強引にでも既成事実作るくらいじゃなきゃダメかもねー」

「そもそもあの人は色んな人から慕われてるけど、ただの一人もそういう感情を向けてきてると自覚してない節があります。今まで何人の女性が泣かされてきたか……」

 

 

 

一方その頃シオンはというと。

 

「ったく、テンカイさんもここをほっぽり出して一体何処ほっつき歩いてるんだか」

「親っさんは大事な仕事があるからな、それが一段落するまでは仕方がないさ」

「俺は会ったことがないがどんな人物なんだ?」

 

ソフィ、シオン、ロウセンの大人グループで愚痴を聞きつつ酒を煽っていたのだが、テンカイの話題が出て普段口下手なシオンも饒舌になる。

 

「親っさんは凄い人だ。強くて思慮深く、人望もある。俺の憧れの人だ」

「それはアンタだけでしょ。強いってのは認めるけど、人として親としてダメダメだし、人望ってのもねぇ。まあ妙なカリスマみたいなのはあるけど。とりま、今のやりたいことが終わるかこっちに協力してほしい案件が出てきたら勝手に帰ってくるわよ。そういうとこだけはしっかりしてるから」

「随分扱いが違うな。参考にしづらい、実際に対面してみるしかないか」

「それがいい、所詮は他人の意見だ。それが全てって訳でもないし、何事も自分の考えを持つのは大切だな」

 

大人組は大人らしく、話が丸く収まったが、テーブルに突っ伏しながら飲んでいたソフィがそういえばと体を起こした。

 

「テンカイさんの話題で思い出したんだけど、新人二人には組織についての説明ってもう済ませてあるの?」

「いや、今回はちょっと試験でトラブルが起きてな。早めに気分転換をして貰おうかと、普段の手続き何かは後日という事にして、早急に歓迎会を開いたんだ。だからこそ事前準備する時間がなかったとも言えるが」

 

通常であれば、試験後の手続きやオリエンテーションを行ってる裏で段取りが組まれていたのだが、今回に限っては諸々の工程をすっ飛ばしての宴会であった。そのため組織に関する話等もすり抜けていたのだ。

 

「それもそれでどうかと思うわよ?明日からは新人だろうが任務に当たるんだし、他の人の時間を潰すのもアレだから、この場でパパッと済ませましょ」

「そうは言うが俺もソフィも酒が入っているだろう。そんな状況でまともな話なんて出来るのか?」

「硬くなくて良いのよこんな席なんだもん。概要だけ伝わりゃいいでしょ。元々堅っ苦しい現場でもないから、案外こういう時の方が分かりやすいかもよ」

 

投げやりな言動に若干呆れつつも、そんなものかと納得した気になって反論するのは控えることにした。

 

「そんなものか、それじゃ説明よろしくな」

「何言ってんのよ、アンタが説明するに決まってるでしょ」

「はぁ?言い出したのはそっちだろ。なんで俺に振る」

「だって私飲みすぎて立てないんだもの」

「だから飲みすぎだと準備の際にも警告しただろう」

 

ロウセンにすら呆れられるが当のソフィは何処吹く風、笑って軽く受け流す。

 

「全く、仕方がない俺が説明するか。ロウセン、ソフィを頼んだ」

「分かった」

 

正直に言うと面倒だと内心思っているシオンだったが、可愛い後輩のために一肌脱ぐと考えれば諦めもついた。ならばさっさと終わらせて、また飲み直そうと切り替えるのだった。



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8.宴もたけなわ

「皆楽しんでるところちょっと悪いが聞いてくれ」

 

 皆が見える位置に移動したシオンはおほんと咳払いを入れて話し始める。

 

「まずは改めてカケル、ソラ、試験合格おめでとう。そしてようこそスカイジャンパーズへ。今回の試験はちょっと不測の事態が発生してしまって、そのお詫びも込めて諸々の手続きをすっ飛ばしての歓迎会となった。その為、説明の行き届いてない事があった。明日からは普通の任務が始まってしまうから、今日のうちに言葉で説明出来ることはしておくべきだとソフィが言うので、この場を借りてさせてもらう。あの酔っ払いの代わりにな」

 

 全員の視線がある一点に集まるが、当の本人は軽く手を挙げてグラスを煽っている。

 皆ああはならないようにしようと心が一つになった瞬間である。

 

「とは言う物の、俺も幾らか飲んでしまっているので上手く伝えられなかったり、変な発言が混じるかもしれないがそこは知らん顔して流してほしい。疑問があったら話の途中でも割り込んでくれて構わないからな」

「具体的にはどんな話が始まるんですか?」

「組織についての話だ。自分たちがどんな場所にいるのか、どんな任務をするのか。それを心得た上で今後活動して貰いたい」

 

 酒が入っているとは思えない真剣な表情で語られると、自然と全員の背筋が伸びていた。

 

「まず俺達が所属しているのはスカイジャンパーズという組織だ。これは神龍事件のあとに親っさん、テンカイさんが『ジャンパーは個々でいるよりも集団でいた方がより大きな成果を挙げられる』と言う思想の元に発足した物だ」

「神龍事件の時には他のジャンパー組織は無かったんですか?」

 

 ソラからの質問に神妙な顔で頷くシオン。

 

「そうだ、当時は個人の繋がりこそあったものの、それを纏める機関が存在していなかった。だからこそ事件は大事になったし、それを防ぐ人員も不足していた。それを(うれ)いた親っさんは、事件解決後に協会に一人掛け合って組織制度案を提出。見事協会に必要性を認められたが、それにより他の力を持った集団も同じ様に自前の組織を発足していった流れとなる。まあ一部は違うがそれについては今は置いておこう」

「お父さんが制度を作ったの!?アレが!?」

 

 驚愕の事実に目を見開くソラ。他のテンカイを知る面子もそりゃ驚くわといった顔である。

 

「自分の親をあまり卑下(ひげ)するものじゃないぞ。身内からすれば色々と思うところもあるのかもしれないが、少なくとも外部に対しては立派な人だ。家族の前であまりいい姿を見せないのだとしたら、きっと甘えているのだろう。家族には飾らない、ありのままの自分を見せることが出来る、掛け替えの無い空間なのだろうさ」

 

 そんなもんなのかなあと頭を傾げるソラ。だがこれ以上この件に対して突っ込んでくることは無かった。

 

「親っさんの考えはこうだ。『俺の愛する家族と仲間たちを守りたい。だからこそその者たち、及びその周辺の環境を守るのが、平穏な日常に繋がる』。つまりただプリズミックと戦うのではなく、暮らす街の安全も守ろうと言うのが主張だ。今日も二人が試験前半でやってくれていた街の清掃活動もその一環。街の美化運動をしつつ、パトロールをして異常はないかと目を光らせる重要な仕事だから、今後とも皆よろしく頼む」

 

 憧れであった英雄が頭を下げて頼む姿に、最初はゴミ拾いと馬鹿にしていたカケルとソラも、理由を聞かされて甘い考えだった自分を反省する。そして明日から頑張ろうというやる気に満ちた瞳を向けた。

 

「良い顔になった。これなら安心して任せれるな。次に組織メンバーについてだ。俺達スカイジャンパーズは新入りを含めて現在12名となる。実際は事務作業や医療関係などもっといるんだが、所属しているジャンパーはこれで全部だ。この場に居ないのは親っさん以外にスズ、アンジュの二人がいる。どちらも任務で遠征しているが、その内帰ってくるはずだ」

「シオンさん、ジャンパーが12人っていうのは他の組織に比べて多いんですか?少ないんですか?」

「多い方だと思う。俺も他所(よそ)の全てのを把握してるわけじゃないから正確なことは言えないが、ゴードンコーポレーション何かは8人位だったと思う」

「うちって結構大所帯なんですね」

 

意外そうにカケルが話す。まさかそこまで大きな組織に所属したとは思わなかったのだろう。

 

「そうだな、そもそもの成り立ちが違うんだが、他の組織は殆どが母体となる別の集団がある。話に出たゴードンで言えば世界規模で運営してる会社の中にあるジャンパーズ課って扱いだ。それに引き換えうちは、ジャンパーを援助する集団だから特化していると言えるな」

「へぇプロフェッショナルって訳か。格好良いよな、ガンマ」

「あ、ああ。そうだな」

 

 ただ同意を得ただけなのに、何故か動揺を見せるガンマ。

 

「どうした?何か気になる事でもあったらカケル達以外も質問してくれて構わないぞ」

「いや、いいッス。気にせず続けてください」

「そうか、なら続けよう。とは思ったんだが、他に説明することはもう無かったな。質問がなければ宴会を続けたいと思うが何かあるか?」

 

 見渡したが、特に反応を見せる者は居なかった。

 

「よし、では引き続き楽しんで……」

「ちょっと良いかしら。何も無いなら私から一つ忠告を」

 

 誰の発言か、皆が首を向けるとそこにはスタスタ歩いてくるソフィの姿があった。

 

「お前酔っ払って立てない言ってただろう」

「あれっぽっちの酒で潰れるわけないでしょ」

「テメエ面倒くさくて俺に押し付けやがったな」

 

 呆れと怒りでキャラが変わってるシオン。こちらは少し酒が回っていたのだろう、先程までの落ち着いた話し方とは別物になって、若干ガラが悪い。そんな珍しい姿を写真に納めてる約一名がいる事には触れないでおく。

 

「まあまあ、楽しい席で怒らないの。場の空気悪くなるわよ?」

「誰のせいだと思ってるんだまったく……」

「話を戻すわね。今後任務を受けてもらうわけだけど、その時に一つ心得ておいて欲しいことがあるの

 」

 

 あーあれかと呟く声が聞こえたので、皆は既に教えられているのだろう。

 

「率直に言うわね。ジャンパーとしての活動をしている最中に発生した人命、及び公共物の破損についてなんだけど、プリズミックによる被害であれば賠償金はジャンパー協会から支払われるわ。でも、」

「「でも?」」

「ジャンパーの攻撃や不注意による被害の場合、所属する組織に請求が来るの。だからなるべくは街を破壊したりしないようにしてね。ある程度ならこちらで負担するけど、あまりに頻度や額が多いと自分達で支払って貰うことになるわよ」

「「ひぃっ!」」

「ソフィが言ってることは半分以上が脅しだが、被害を抑えれるようなら小さくすることにも尽力してくれ。人命は掛け替えの無いものだし、破壊された施設だって修復費用を払ったところで一朝一夕では直すことは出来ない。その間、不自由を強いられる人達がいる。人々の生活を守るという事はそういう事だ」

「ってわけで、綺麗に纏まった所で酒飲みなおすわよー」

「オンオフが激しすぎるだろっ!ったく、それじゃ皆、あとは気楽にやってくれ」

 

 シオンに促されて宴会は再開される。

 この日、夜更け過ぎまで部屋の灯りが消えることは無かった。




公式二コマの消火栓の請求書を見るシオンネタを取り入れてみましたがいかがだったでしょうか?
覚えてない人、見たことない方は今一度公式サイトに行って懐かしんでみては?


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9.初任務だよ

 今日からカケルとソラの初任務である。午前中は昨日省略した事務手続きに時間が掛かってしまい精神的にもグッタリな二人だが、今は昼食も食べてモチベーションも回復したようだ。

 

「確か午後からは先輩と一緒に行動するんだったよな?」

「そうだね。私たちの教育係ってことで、最初のうちは三人でチーム組むんだって。早く一人前になりたいな」

 

 食堂から今後の活動予定を確認しながら歩いていると、その先にルイカが立っているのが見えた。予定の集合時間にはまだ早かったが、何かあったのかと思い駆け足で近寄る。

 

「先輩早いっすね、何かありましたか?」

「あっ二人とも。もうご飯は食べた?」

「はい、今しがた食堂で済ませてきたところです」

「なら良かった。本当は急ぎってわけじゃなかったんだけど、念のためにって事でなるべく早く調査に行ってほしいって言われてね」

 

 ハイと差し出された一枚の紙。そこには『近頃発生している連続小火(ぼや)事件について』と書かれていた。

 

「私は知らなかったけど、最近街でちょいちょいボヤが起きてるらしいんだよ」

「言われてみればサイレンを聞く頻度が多かった気はするね?」

「でも大規模火災じゃないし、ボヤなら騒ぐほどでもないんじゃないっすか?」

 

 若者の意見を聞いて頷くルイカだったが、眉をひそめている。

 

「私もそう思うんだけどね、ロージアさんはそうは考えてないみたいで、というか警戒してるって言い方が正しいかな」

「というと?」

「事件の裏にプリズミックが関係しているのを懸念してるみたい。もしも本当にプリズミックが関わっていたら、今後大規模火災が発生する可能性は高いかもってね。だからその辺りを含めての調査任務って事らしいよ」

「単純なプリズミック被害よりも火事のほうが大事(おおごと)だし、何かあってからじゃ遅いって事なんだろうね」

「分かりました。調査は直ぐ行くんですか?」

「うん、私の方は準備済ませてあるから、そっちが良ければこのまま行こうと思うんだけど」

「ボク達は問題ありません」

「よし、それじゃ出発しよう」

 

 ロビーを抜けて街へ向かう背中に『頑張ってくださいね』とロージアから応援が掛かり、三人は手を振り返えしながら見送られて行くのだった。

 

 

 

 

 

「さて、イッチョ調査開始するよ」

「調査って具体的には何をすればいいんですか?」

「普通ならボヤが起きた現場に行って燃焼規模とか出火原因を特定するんだろうけど、私たちは専門家じゃないからその手の事は分からない。それにその程度の事はもう終わってるだろうから、もしプリズミックに関係してそうと判断されていれば、正式に依頼が来ていると思うんだよ」

「考えてみればそうですよね。となると普通とは違うアプローチを掛けるって言う事ですか?」

「そういうこと。それで今回はこれを借りてきたんだ」

 

 ルイカが取り出したのは時計のような見た目の機械だった。

 

「これはプリズミックスカウター。プリズミックの強さを大まかに測れる機械なんだ。とは言っても正確には強さではなくて反応の大きさを測るもので、近くに行けば針は大きく振れるし、反応が大きい小さいから戦闘能力とイコールではなかったりもするから目安でしかないんだよね」

「もしかして、試験の時に予想とは違ったって言ってたのはこれが原因ですか?」

「鋭いねソラちゃん。あれは前もって反応が弱そうな個体をこれで探しておいて、活性化しそうな日に(あた)りをつけてやってたんだよ」

 

 それにしてもあれはちょっと特殊な例だったけどね、と付け加えながらスカウターを見つめるルイカ。その目は細く引かれ、眉間にしわが寄っている。

 

「どうしたんスか先輩。難しい顔してますけど」

「うーん、普段より針が安定してなんだよ。それに0から1を行ったり来たりするような振れ方じゃなくて、5から6を行ったり来たりみたいに通常より高い位置を中心にして動いてる……」

「つまり?」

「こりゃロージアさんの予感的中しちゃったかなぁ。これは私のカンだけど、今日にでも活性化して一波乱ありそうな気がする」

「昨日の今日でまたですか」

「どうなるかは分からないけど、とりあえずパトロールしようか。私はこれ見るのに集中するから、カケル君は周囲の警戒専門、ソラちゃんは軽く警戒しながら前見ない私を誘導してね」

「「了解です」」

 

 一行はそのまま街を歩き、たまに反応が変わった地点を観察しながら時間が経過していった。

 そして一時間が経過したころ……

 

「二人ともストップ!大きい反応が出たっ」

 

 突然声を荒げたルイカに驚きながら、二人は周囲を見渡す。すると数百メートル先の建物から白い煙が上がっているのが見えた。

 

「先輩!前方のビルから煙が出てます」

「このタイミングでってことはやっぱりこれは……」

「そうだね、多分プリズミックによるもので間違いない。あ~あ、今回は見回りだけの楽な任務だと思ったのになぁ。面倒だけど二人とも行くよ!」

 

 

 

 

 

 急いで現場付近に駆け付けると、先ほど見えた煙はより勢いを増し、黒煙を吐くようになっていた。しかし周囲の人々はあれだこれだと言いながらもスマホで動画や写真を撮影しており、緊張感は薄く見える。

 

「ちょっとこれはヤバいかもね」

「何がですか?」

「今、ここにいる一般人には危機感が無い。この状況でもしプリズミックが現れたら、状況の変化に着いて行けずにパニックが起こるかも。おまけに火事ってことはプリズミックが何かしなくても被害が広がる可能性があるから、色々被ったらどうなるのか想像したくないわ……」

 

 うわぁ~……とその様子を想像してしまった二人は顔を歪ませる。と、その時

 

 ガシャアァァァァンッ!

 

「カケルあそこ!」

 

 ビルの窓が割れ、何者かが飛び出してきたのをソラが指さす。そこに居たのは赤い肌に蝙蝠のような翼、角を生やした異形の怪物。見た者に恐怖を与える悪魔が降臨した。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」

 

 耳障りな甲高い叫び声に身が(すく)む一同。そしてその口から吐き出された火炎放射が野次馬に襲い掛かる。

 

 あ……という声を誰かが発した。

 

 カケルとソラは目の前で人が死ぬ瞬間という物を初めて見ることになる。守るべき存在だった人を力が及ばず守り切れなかったのなら、悔しいだろうが健闘したとは言えるかもしれない。少なくとも戦うことで時間を稼ぎ、何人かが逃げることは出来たかもしれない。

 

 だが、敵の威嚇に怖気づき、棒立ちのまま何もしなかったのではなんの為にここに来たのか、ジャンパーになったのか分からない。

 

 カケルの眼には涙が浮かんだ。

 

 何かを思ったのではなく、ただ自然と溢れていた。

 

 走馬灯のようにゆっくりと流れていく世界で、とうとう人々に炎が到達する、

 

 直前、

 

「させない!ウォーターキャノン!」

 

 ジュバァアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 間一髪、炎と人集(ひとだか)りの間に飛び込んだルイカから打ち出される高水圧砲により、敵の攻撃は受け止められ、この攻撃による被害は出さずに済んだ模様。

 

「皆早く逃げて!二人ともいつまでも呆けてない!アイツを倒すよ!」

「「は、はいっ!」」

 

 ここにきて体感時間が現実に追いつき、体が動くようになったカケル達も戦線に加わるのだった。



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10.炎の化身プリフリート

「やぁ!これでどうだ!」

「オラオラオラオラオラ!」

 

カケルとソラが戦線復帰してから既に5分が経過していた。しかし、二人の攻撃は余り効いているようには見えず、実質ルイカと敵の一対一であった。

 

「私の攻撃しか有効打が無いってもの辛いね。相手もそれが分かってるから、二人にはそれなりの対処で済ませて私の攻撃だけしっかり見切ってる感じだし」

 

火と水の相性は、正に火を見るよりも明らかという表現がピッタリであろう。敵の火による攻撃は全てルイカによって相殺され、そのままの勢いで迫る。しかしギリギリの所で躱すかガードをして、決定的なダメージは入らない。どうしたものかと思案するルイカだったが、

 

「ぐあっ!アッツ!」

「カケル大丈夫!?こなくそおおお!」

 

倒れたカケルに近寄らせまいと銃弾をばら撒くソラ。

これまでカケルはヒット&アウェイで戦っていたのだが、敵の攻撃を躱そうと大きく飛びずさった。しかし、その着地点には運悪く、敵の炎によって赤熱化し融解したアスファルトがあったのだ。

 

急いでルイカが水をかけて冷やすものの、焼け爛れた肌が痛々しかった。

 

「大丈夫!?これはちょっとヤバそうだね。一度下がって……」

「大丈夫です!行けます!」

 

患部を見てカケルを戦線から外そうかとしたのだが、それを押しのけて無理矢理立ち上がるカケル。

 

「そんな怪我してまともに戦える訳ないでしょ!」

「戦わないから大丈夫です!」

「はあっ?どういうこと?」

 

怪我のショックで頭が逝っちゃったのかと思ったが、ルイカを見返す目には正気が見て取れた。だからその続きを促す。

 

「先輩に冷やして貰って思い付きました。火を消すには水を掛ければいいんです」

「そんなの当たり前じゃない。やっぱり逝っちゃってたか」

「失礼な事言わないでください。俺は正気ですよ。つまり先輩の水だけじゃ足りないなら、俺達も水を使います」

「そんなこと言っても何処にも水なんてないし、仮にあっても水道の水程度じゃ全然足りないんだよ?」

「大丈夫!たっぷりありますから!とにかく先輩は敵だけ狙って攻撃してください。俺等で弱らせるから、トドメは任せます」

「こらっまだ話は終わってない!」

 

引き留めようとするルイカの手をすり抜け、カケルは足を引きずりながらもソラに近寄って何かを伝える。

そうしてそのまま離れていき、何かを探す。

 

「ったく、何をする気か知らないけど終わったらお説教だからね」

 

今は少しでも敵の注意を惹き、カケルの作戦らしき何かを阻害されないようにサポートする。そう決めたルイカは水鉄砲を連射して攪乱を行う。

するとソラも銃撃を止めて何処かへと走っていく。

 

「一体何を始める気やら」

 

牽制の最中、去っていくソラ背中を横目で見るが、突然それとは反対の方向から何かが飛び出した。

 

「えっ雨?違う、これは!?」

 

ソラとは反対の方向で何かが起きた。それ即ちカケルが向かった方向である!

 

「は……はは。アハハハハッ!そう来るか、やるねえ後輩君!」

 

視線の先、そこにはカケルが消火栓を殴り壊し、上方へ高々と吹き上がる噴水が立ち昇っていた。

 

また、ドガーンと音がした方でもソラが別の消火栓を破壊して水を振り撒いている。

先程まで赤熱化していたアスファルトも、降り注ぐ水で冷やされ固まっている。肝心の敵は、肌を濡らす水を何とか振りほどけないかと藻掻くが、雨を躱す方法など何処にもない。更には、濡れるたびに体が少しずつ縮んでいるように見える。

 

「水を掛ければ火は消える。特性もそのまま受け継いじゃったのかな?カケル君、そこから昨日見せてくれた遠距離攻撃って出来そう?」

「強いのは無理ですけど弱めのなら何とか」

「じゃ、それでよろしく。ソラちゃんもありったけ叩きこんで」

「了ー解!うりゃあああ」

「私ももう一回あれをっと」

 

カケルにはルイカが何か準備しているのが見えた。昨日の自分と逆だと思えた。だからこそ、力を溜めている間は邪魔をさせない。

 

「こんな体じゃゼノディザスターは打てないし踏ん張りも効かない。でもこれならああああああ」

 

カケルが戦闘中にも見せている乱打攻撃。接近戦だとより効果が高いが、遠距離でも拳圧を飛ばすことが出来る。それがカケルのもつ対プリズミック兵装ビートナックルの能力だった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

先程までは無視しても大してダメージを受けていなかった敵も、水で弱ったのか今度はダメージを受けている様だ。油断していたため、まともにラッシュを浴びたから一溜りもない。

何とかガードを試みようとするが、その腕を銃弾が弾き飛ばす。逆の手を出そうとするが、それも弾かれる。そうやってガードを上げながら胴体にも攻撃を加えていく。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 

そしてとうとう相手は態勢を崩され、地面に膝を付いた。その前に立ちはだかるはパイセンことルイカ。

 

「グ、グギャ……ガァッアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

忌々しそうに睨み付け、至近距離から放たれた業火の奔流。しかしそれに動じる者は誰一人おらず、勝利を確信していた。

 

「さっきのとは違う、全力を見せてあげる。(うな)れ!ウォーターキャノン!」

 

ジュバアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

迫りくる炎など介在しないかのように一瞬でかき消される。そして直撃する豪水。

 

「グギャアア!グギャギャギャアアアアァァァァァ……」

 

怒涛の放水が終わる頃には、プリズミックの姿はそこに跡形も無くなっていた。

 

「これにて一件落着!二人ともお疲れ様」

「流石ですね先輩。凄かったです」

「本当、先輩って強いんですね!」

「ぬっふっふっふっふ。そうだろうそうだろう、もっと褒めてくれてもいいのだよう?」

 

すぐ調子に乗ってしまうのが玉に(きず)だと思う二人だが、今回ばかりはそのことにツッコミ入れないでおこうと、アイコンタクトを送りあうソラとカケルだった。



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11.渋谷駅地下調査

 火を放つプリズミックとの戦いから早二日が経過していた。

 

 あの後、カケルはすぐスカイジャンパーズの医療班に回収され、処置が施された。残されたルイカとソラによって現場検証が行われ、先日見つかった虹色のプリズムと非常に似通ったものが発見されたこと以外は特筆することは無かったようだ。

 

 そして今日はカケルの退院日兼、新たな任務が与えられる日であった。

 

「おはようございます!この間は心配かけてすみませんでした」

「おはよー。すっかりいいみたいだね。後遺症とか無い様でなにより」

「カケルはもっと周りに注意して行動するべきなんだよ」

 

 軽口を交えた挨拶も早々に済ませ、本日の任務の詳細を聞くことにする。

 

「今日の任務はこれだ」

 

 ジャジャーンとルイカが取り出した紙にはこう書かれていた。

 

『地下鉄にて目撃されたプリズミックの調査、及び討伐』

 

「最近、地下鉄で目撃情報が後を絶たないプリズミックの調査だね。駅のホームで見つかったり、走行中に線路や壁に居るのを見たって噂だよ。走ってる最中に見えんのかって私は思うけど。動体視力どんだけあんねん!ってね。まあそれについても複数情報が寄せられてるらしいから、完全に否定するのは調査が終わってからでいいかも」

「先輩、今回はプリズミックスカウターは使わないんですか?」

「うん、ああ見えて結構貴重なものだったりするんだよアレ。だから基本的には本部に置きっぱなし。前回持ち出せたのは、どこで発生するか分からない代物の調査だったのと、二人にこんなものもあるんだよって見せる意味合いが強かったかな。今後は余り期待しないようにね」

 

 そうして軽く打ち合わせしながら進む一行がたどり着いたは地下鉄渋谷駅。他の駅でもプリズミックの目撃情報はあったが、一番集中していたのがここであった。

 

「さて、早速調査しようと思うんだけど……あっ、すみませーん!」

 

 駅員を見付けたルイカはパタパタと走っていき、何やらやり取りしているようだ。話が纏まったのか、こちらに戻ってくると補修点検用の通路を使って調査をするとの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 三人は点検通路に降り、薄暗い坑道を懐中電灯を片手に歩いていた。

 

「ボクこういう所入るの初めてかも」

「どういう場所でも裏口を使えるのは内部の人達だけってのが基本だからね。折角なんだし、色々じっくり見てみるのも良いんじゃない?どうせプリズミックの痕跡を探すのにガン見しなきゃいけないんだし、楽しみながら行こう」

「なんか社会科見学みたいになってきたな!男子たるものメカとか好きだし、オラワクワクしてきたぞ」

 

 暫くやいのやいの騒ぎながらの行軍だったが、ここでポツリとカケルが言った。

 

「でもよく俺達だけでの調査が許されましたね?普通こういう場所だと監視役と言うか案内役が居るものじゃ?」

 

 そうなのである。この場にいるのはスカジャンの三名だけであり、先程の駅員は通路へ案内した時点で駅構内へ戻って行ったのだ。

 

「そこはウチが普段どれだけ社会に貢献してるかっていう信頼の証だね。あとはいざプリズミックが出た場合、非戦闘員が居るのと居ないとでは皆の動きが全然違うから、そこも考慮してもらってるのだよ。雑に言えば向こうも死にたくないからね」

「そんなハッキリ言わんでも……」

「餅は餅屋、プリズミックはジャンパーにってね。プロに任せるのが何事も一番なんだよ」

 

 普段おちゃらけてるルイカが摂るサバサバした態度に、カケルとソラは自分達がもうプロとして活動している事を意識させられる。

 あのルイカの自然な様子は、先輩として良いところを見せようという素振りは全く感じられない。

 ありのままで自分が解決してやるという佇まいにまだまだ一人前とは言えない二人も、志はしっかりと持とうと思うのだった。

 

 するとそこへ突然、カツカツと足音が聴こえてきた。

 

「二人共注意して!」

 

 支持に従い警戒態勢へ移行するカケルとソラ。前方の暗闇を睨みつけ、いつでも反撃できるよう意識を凝らす。

 そしてライトの範囲に侵襲してきた者は……

 

「あん?なんだテメエら。どういう要件でここにいやがる?」

 

 切れ長の眼に無精髭を携え、小紫(こむらさき)色のジャケットを羽織り、中から覗くシャツには時計の金属ベルトや蹄鉄(ていてつ)等が描かれ両手はズボンに入れた男。

 

 893(ヤクザ)がガンを飛ばしてきていた……



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12.その名はハルタ

(なにあの人こっわ!カケル、相手してよ)

(無理無理無理!胸倉掴まれてジャンプしてみろやとか言われるに決まってる)

 

流石は幼馴染。アイコンタクトだけで会話を成立させているのは長年の掛け合いがなせる業である。

 

「おうコラっ!なんか言ったらどうなんだ!」

「「ひいっ」」

「あんまり威嚇しないで貰えないかな。この子たちが怖がってるじゃん。私たちはスカイジャンパーズ。ここにプリズミックが現れるって話で調査依頼を受けてきたって訳。逆にお宅はどこの誰で何してるのさ」

 

(すげえー。パイセン、ヤクザ相手に一歩も引いてないぞ)

(こういう時に空気の読めない人ってある意味尊敬するよね)

 

「二人とも何コソコソしてるの?言いたいことがあったらハッキリ言った方がいいよ」

 

何でもありませんと直立した二人とは裏腹に、ダルそうに頭を掻くヤクザが口を開いた。

 

「スカジャンだと?現場被ってんじゃねえか……俺はハルタ。ゴードンの……あー、まあゴードンのハルタだ」

「そのゴードンのハルタさんはここで何してるの?」

 

更に問い詰めるルイカに眉間に皺を寄せて一瞥を寄こすが、自分から振った以上答えないと言うのもバツが悪いのか、渋々といった感じに説明を始めた。

 

「この地下鉄はゴードンが出資管理してる場所なんだよ。こっちも最近プリズミックに関する情報が寄せられてな、テメエらみたく事実確認に来てるって訳だ」

「ゴードンの人だったんだ。ボクてっきり"ヤ"の人だと思ってたよ」

「俺も。どうみても堅気じゃない雰囲気出てたよな」

「聞こえてんぞクソガキども!人が名乗ったんだからお前たちも名乗れ!」

 

急に凄まれ再び直立姿勢になる二人は、そのまま自己紹介をする。

 

「サー!自分はスカジャン新人のカケルです!サー!」

「同じくソラです!サー!」

「サーサーうっせえぞサー!」

 

口は悪いがこのノリに付き合ってくれた事で、見た目より悪い人じゃないかもとちょっと安心した二人だった。

 

「お互い打ち解けたところで本題に入りたいんだけど、どうやら同じ件を追ってる者同士の様だけど、意見交換や捜査協力とかは出来るのかな?」

「否定する理由は無いが、肯定する理由もねえな」

「人手が増えた方が早く解決できますよ!」

「それに強そうな人が居てくれた方が俺達も安心できますし」

 

ふむ、と顎に手をあて思案顔のハルタ。逡巡(しゅんじゅん)した後、二人に向けて視線を戻す。

 

「クソガキ共、テメエらの獲物はなんだ?」

「俺はナックルでソラは銃火器です」

 

 

もう一度考えにふけったハルタが再び顔を上げた時には纏まったようだ。

 

「遠近両方が居るならどうにでも立ち回れるか。今だけ手貸してやるから感謝しろよクソガキ共」

「「サー!ありがとうございます!サー!」」

「うるせえぞサーッ!」

 

ぶっからぼうながら兄貴肌で頼れそうな存在にカケルとソラは顔を見合わせて笑うのだった。

 

 

 

 

 

「それで、今って何処まで調査進んでる感じ?私達は全く手掛かりが無いんだけど」

 

同行が決まったあとルイカから現状確認が行われていた。

 

「お前らの方にはアイツ等が乗りもん乗ってる時に見たって情報はあるか?」

「あったよ。だからこそホームじゃなくてこの線路を調査してる訳だし。でも仮に乗ってる時に何かが見えても、何がって言うのは認識出来ないんじゃないかと思うんだけどね。ってどったの?怖い顔になったけど」

 

先程話題に出た事を繰り返し説明するルイカだったが、それを聞いたハルタは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「こっちにも同じ情報が来てる。で、口を出してくる奴等は今のと大差ねえ考えを言うが、こっちとそっちに寄せられた事を纏めるならそれはマジな話って可能性が高えだろ?」

「うん、まあ寄せられてる情報の数だけ信憑性が増すしね」

「なら移動中に見れると仮定すんなら、一般人の目に見える位の相対速度でアイツ等も横走ってたって考えれねえか?」

 

カケルとルイカはプリズミックがそんな早い速度で走れるわけがないだろうと顔に書いていたが、ソラだけはハッとした顔になる

 

「プリズミックが汽車に擬態していたら?」

「やっぱりそこに行き着くわな。こりゃあ面倒な事件に首突っ込んだもんだぜ」

 

ハルタによると今まで調べてきた所でホームや通路では特に目ぼしい発見はなかったのだと言う。そんな中唯一プリズミックの物とおぼしき痕跡を見付けたのが線路上であったらしい。その上で目撃情報等を考慮すると、擬態による速力強化、ぶっちゃけ新幹線にでも化けてる可能性を睨んでいたと言う。

 

「予想でしかねえが、その線が濃いだろうよ。そうじゃなくても、スピードに特化した何かになったのは間違いねえ」

「じゃあそれに遭遇した場合ってどうすれば?」

 

不安げに尋ねるカケルに今日一番の笑顔を浮かべてハルタは言い放った。

 

「そりゃおめえ……ハリウッド映画みてえに跳び移って、屋上バトルに決まってんだろ!」

「「死んじゃうううううっ!!」」



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13.迫り来るプリズミック

 ハルタの冗談とも本気とも取れる言動に大騒ぎしたカケル達だったが、現在は落ち着きを取り戻して線路の上に降りて各自調査を再開していた。

 

「ハルタさんが見つけた痕跡ってどんなものだったんですか?」

 

 ソラからの問いかけに面倒くさそうな顔をするハルタだったが、それでもキチンと説明はしてくれた。

 

「普通の電車なら線路の上を走るから、普通と違った点ってもの自体がねえんだよ。全部が同じ場所走んだ、当たり前だ。だが俺が見つけたのはその線路の横に沿って(はし)った何かの跡だ。それも100メートルはあった長えのがな」

「それってやっぱりプリズミックがそこを走ったってことなんですかね?」

「恐らくはな。線路じゃねえ所を走ってるなら電車乗ってる奴らも窓から見えるのも頷けるってっこった」

「「おお──!」」

 

 ハルタの推理に感心した様子の二人。

 

 

「ハルタさんって見た目によらず頭いいんですね」

「見た目によらずは余計だゴラァ!」

 

 強面(こわもて)な割に中身は意外と面倒見がいいハルタに、すっかり慣れた様子の二人は冗談も言えるほど打ちとけたようである。

 

「ちなみにその線って最終的には途切れたりしてたんですか?」

「そうだな。線路に近い所から始まって、最後はぷっつりと消えちまってた。勿論その周りは良く調べてみたが、特になんも見つからねえからその先調べてたらお前らとカチ合ったって感じだな」

「どういうことですかね?まさか銀河に向かってスリーナインした訳でも無いでしょうし」

 

 三人であれこれ考察をしながら探ってはいたものの、これといって進展もない。そんな時、あることに気が付いたカケルは口を開いた。

 

「ルイカ先輩、さっきから難しそうな顔してやけに静かですけどお昼ごはんでも食べ過ぎました?」

「カケルデリカシー無い!女の人にそんなこと言ったらダメなんだよ!例え食べすぎによる腹痛でも」

「失礼な!食事の調節位普通にしてるよ!私だって乙女なんだからね?いやそうじゃなくて、ハルタさんの言ったことやその他を諸々考えてたらさ、もしかして逆なんじゃって思って」

「逆ってどういうこと?」

 

 問いかけられた疑問に答えるべく、顔の横に人差し指を添えて首を(かし)げるルイカ。

 

「ドラマとかでも前後関係とかが食い違ってて真実と違う見え方がするってパターンがあったりするじゃない?そんな感じで私なりに逆の考え方をしてみたんだけどさ」

 

 ふんふんと相槌を打ちつつ続きを促すと、予想だにしない事を告げられる。

 

「ハルタさんが見たっていう消えた跡があった場所だけどね?あそこが終着点じゃなくて出発点なら?」

「「出発点?」」

「最初の『線路から近いところから始まった』をひっくり返すと『線路に合流した』って解釈出来るんじゃないかなって」

「「つまり?」」

「擬態したプリズミックが今は線路を走行してたりするのかなって……」

「おいおいおい、それがマジだったら笑えねえぞ。他の電車と同じ速度で走る訳じゃねえし、ましてやソイツは律儀に駅で停車してくれねえだろう。急いで駅の奴らに教えてやんねえと」

 

 黙ってルイカの考察を聞いていたハルタもこれには焦りを顕わにし、詰め寄ってくる。

 

「落ち着いて、もしかしたらって私の予想だから外れてる可能性もあるよ」

「それこそ合ってる可能性もあんだろうが!何が起こるかわかんねえなら、注意出来る事だけでも対処しといた方がマシってモンだろ」

 

 そこへ、ピピピピピピっと電子音が鳴る。どうやらルイカの持っている通信機の受信音らしい。

 

「はいこちらルイカ。ロージアさんどうかした?」

『ルイカちゃん、こちらで地下を高速で移動するエネルギーを感知したの。そちらではなにか変わったことは無いかしら?』

 

 どうやら本部のロージアが異常を知らせてくれたようだ。するとルイカと端末の間にずいっと割り込んだハルタが声を張り上げる。

 

「おうネーチャン、緊急事態だ!擬態したプリズミックが線路を走行してる可能性がある。すぐ地上の奴らに教えて線路上から他の電車をどかせ!」

「えっ?どちら様ですか?」

 

 突然知らない者が割り込み、大声で(わめ)かれて戸惑いを隠せないロージアに、尚も詰め寄らんばかりに息を荒げるハルタ。

 

「俺はゴードンのハルタだ!たまたまコイツ等と同じ目的で行動してる。いいから言うとおりにしろ!死人が出るぞ」

「そ、そんなこと言われても、走行中の電車をいきなりどかせってどうしたらいいか……」

 

 困惑するロージア、ハラハラと見守るカケルとソラ。何かを考えこむルイカと三者三様を見せる。そんな中打開策を挙げるのはハルタだった。

 

「線路には何かあった時に退避できるよう、一定区間ごとに避難用線路があんだ。見回りの最中それらしい所も確認した。そこに入れてやればポイントを切り替えない限り安心d……」

 

 ハルタが言葉を言い切ろうかというタイミングで、ファアアアアアアア!っと汽笛を鳴らしながら近づいてくる影があった。実はこれまでも調査中、何度も一般の電車が走ってきて避難するという事態はあったのだが、それらは走行音とライトにより接近を感知していた。汽笛はあくまで近くに来てから、車掌がこちらを認識してから鳴らされるものであった。

 しかし、今回近づいてきた物はこちらが認識するより前から鳴らしている。まるで自己顕示をするかのように。

 

「音鳴らしながらこっちに来るって今まで無かったよね?」

「こりゃあ嫌な予感が当たっちまったな。間違いなくプリズミックだろうよ」

「だったら直ぐに止めないと!」

 

 電車の前に駆け出そうとするカケルだったが、ガシッと肩を捕まれ動きを遮られてしまう。

 

「馬鹿野郎!テメエ死ぬ気かっ!?」

「でも止めないと沢山の人が死ぬかもしれないんですよ!」

 

 手を振り払って尚も向かおうとするが、より強い力で引っ張られて体制を崩す。そのまま胸ぐらを捕まれお互いの顔が急接近した。

 

「テメエ一人命掛けたところであのスピードは止まらねえんだよ!ちったぁ現実見やがれ!」

「それでも誰かがやらなきゃ……」

 

 本気で叱られ意気消沈したカケルだが、まだ納得しきれていないと態度が物語る。そうこうしている内に、プリズミックは一行の側を走り抜けていく。通過するのを見送った事で全体の大きさも把握する事が出来たが、一般的な電車4両分といったところか。ハルタの言うとおり高速で動くあの質量だと、例えカケルが何をしようとも無駄に終わった可能性が高かった。

 

「この先で事故が起きちゃうのかな?……止める方法って無いのかな?……」

 

 ソラの独白にも似た疑問に答える者は…………居た。

 

「焦んな、なんとかならねえ事もねえ」

「え、何かあるんですか?」

 

 ソラヘ答える事ははせず、再び通信機と向かい合うハルタ。

 

「で、ネーチャン。さっきの話の続きだが、他の車両は避難出来そうなのか?」

「駅とは既に連絡を取って、6割程度は退避済みよ。残りの4割も少しポイントと離れているのが原因だけど、プリズミックに追い付かれる前には避難出来そうだわ」

 

 なんと現場が混乱している間に手を打っていたというロージア。それを聞いたハルタはニヤリと笑みを浮かべ、掌に拳を打ち付ける。

 

「しゃあっ!仕事が早えなネーチャン!だったら問題ねえ」

「どういう事ですか?」

「さっきはテメエ一人の命掛けてもって言ったな?今でもその身を犠牲にする覚悟はあんのか?」

「は、はい!」

 

 スパンっ!

 

 直後カケルは頭を(はた)かれていた。

 

「簡単に命なんて掛けんじゃねえ、死なずに解決しろ」

「す、スミマセン……」

「掛けるなら他の奴らもまとめて掛けて、リスク減らしやがれ」

「へ?」

 

 呆けた顔で見上げる先には笑ったハルタが居た。

 

「全員で協力して無事に帰るぞクソガキ共」



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14.ハルタの作戦

感想投稿して頂いた方ありがとうございます。
指摘された2話3話の内容重複を確認し、各話数を調整しました。
本文に変更はありませんので、引き続きお楽しみください。


カケル達は現在、走り抜けた電車の後を追っていた。とは言え徒歩で追いつける訳はなく、正確には追うというより同じ方向に進んでいるといった表現の方が的確である。

 

何故そんな事をしているのかと説明するには少し時を遡る。

 

 

 

 

 

「全員生きて帰るって、口で言うのは簡単だけど何か考えはあるの?」

 

ルイカのから零れた疑問は至極もっともであり、皆の視線がハルタに集中する。

 

「一応はな。まず根本的な話として、ここの地下鉄は環状線だ。アイツが線路の上を走っている限り、その内一周してきてもう一度オレ達の前にツラ見せるから、そこを叩く」

「なるほどね。で、その叩く方法ってのも勿論考えてあるんだよね?」

「ああ、俺の対プリズミックデバイス『バイオレットブローヴァ』の特性は蹴りの増幅だ。こいつを使って地面を踏みぬくと局所的な地震が起きる。そうすればアイツを脱線させることが出来るはずだ。後は動きが止まった所をタコ殴りにすりゃいいだろう」

「脱線した本体がそのまま突っ込んできた時はどうするの?」

「そん時は……そん時だな」

「「ひいいいいいいいいいいいいいっ」」

 

表面上は良く練られたように感じた作戦も、いざ蓋を開けてみたらとんでもないデンジャラス展開にソラ達の悲鳴が木霊した。どうでもいい事だが流石は地下トンネル内、声がよく反響する。

 

「はぁ、仕方がない私がリスク減らす役になるから、皆は倒すことに専念して。その代わり戦闘が始まったら私の力は当てにしないでね」

 

ルイカ曰く、彼女のハイドロシューターから発射される液体にはいくつか種類があるとの事。以前パトランプリズミック相手に使用されたペインティングショットも同様で、その性質によって作用も変わるとの事。今回はそれを利用して、なるべく粘度の高い液体を放出し、相手の駆動部を弱らせスピードを落とす様に仕向けるとの事。しかし、正面から一瞬浴びせた程度では相手のスピードと巨体によって大半が弾かれるのを危惧して、線路上に広域散布し、走行する度に次々と車輪に絡んでいくイメージでのアプローチを試みるのだそうだ。

 

「どれくらい効果があるかは分からないけど、何もしないよりは安全になるでしょ。私は逆方向に進むから、目標がそっちに着いたころには遠くで追いつけないと思うから頑張ってね」

 

そう言ってルイカは暗いトンネルに謎の液体を振り撒きながら消えていくのだった。去り際に「でもどうやって線路に乗り入れ出来たのかなぁ」という不穏なセリフを残して。

 

 

 

 

 

そうして時は現在へと至り……

 

「さっきの水が弾かれるって、プリズミックコートなら45キロで雨吹っ飛ぶとかそんな感じなのか?」

「カケル何言ってるの?意味わかんない」

「えっ!?わかんないの?」

「馬鹿なこと言ってないでさっさと行くよ」

 

同じ時代を生きてきたはずなのに何故……とブツブツ言ってる約一名は放っておき、ルイカは独り線路を逆走して出来るだけ長い距離に放水する手筈となった。一方ハルタ含む三人は、同じく距離を稼ぐためにプリズミックを追う形となったのである。なお、ただ距離を稼いでもルイカの出発地点からこちら側に向かっては放水されないため、気休めでも撒けたらと粘液を入れたぺットボトルを2本渡されてた。既に一本目は空になり、二本目の口を切った所である。

 

「お前ら今のうちに作戦を確認しておくぞ。奴さんが音ならして近づいてきたら戦闘準備、まず俺が脱線させて足止めするから、お前らはそのまま突っ込んでくるのに注意しながら上に飛び乗れ。一度取り憑いちまえば安全だろうし、逃げられる心配もねえ。地面が揺れるから、お前らまで動けないなんて事ならねえように気をつけろよ」

「地震が起きる瞬間にジャンプして回避とかまるでゲームだな」

「あんまり大きく飛びすぎたら、空中で身動き取れないまま敵が突っ込んでくるかもだからカケルしっかりね」

 

冗談で言っていた映画の様なアプローチをまさか本当にやるハメになるとは想像していなかった一同だが、いざやると決めてしまえば腹を括るのは早かった。

 

 

「そういえばハルタさん、今回の作戦思いつくの早かったですけど、いつもこんな修羅場潜ってるんですか?」

「あん?んな訳ねえだろ。普段はもうちょい安全だ。それに俺はやばいと思ったヤマはなるべく回避してるからな。お前にも言ったが、簡単に命なんて掛けもんじゃねえ。俺は周りに卑怯だなんだと言われようが無理そうならさっさと手を引く。死んでいい事なんか何一つねえんだからな」

「だとしたらちょっとおかしくない?普段よりヤバイと思ってる案件に付き合ってくれるって言ってることがちぐはぐなような」

 

矛盾した主張に食いつくソラ。思わず顔を(しか)めたハルタだったが、仏頂面のまま理由を語る。

 

「一人でだったらって話だ。俺は普段一人で行動するのが基本だから他の奴等の事を考える必要がねえ。だが今はあっちで別行動してるネーチャン含めて三人。こんだけいりゃ出来る事は増えるし、リスクも軽減できる。全体で見りゃ極端にやべえ事にはならねえだろうってハラだ」

「ツンデレ?」

「ツンデレだね」

「ごちゃごちゃうっせーぞテメーら!そろそろ撒く水も切れんだから配置についとけ!」

 

完全に照れ隠しなのはわかりきっていたが、これ以上揶揄(からか)うと後が怖い気がしたので大人しく従う二人だった。

そうしてポジショニングや装備の点検をしているうちに、遠くから再びフォオオオオオオオオと甲高い音が聞こえてきた。

 

「さて、チキンレースの始まりだ。当たり前だが、地震の威力は俺に近いほど強くなる。なるべく引き付けて確実に道外させるから、お前らも気をつけろよ」

 

言うや否や、線路上に踊りだす。衝撃に多少の指向性を持たせることで、より多くの振動を伝えようというのである。

 

「やっぱり危険なんじゃないっすか!無理はしないでくださいよ」

「馬鹿野郎、誰に向かって言ってる。危機管理能力なら世界有数の俺だぞ。自分たちの心配だけしてろ」

 

言葉を紡ぎ終わるとゆっくりと片足を持ち上げていくハルタ。正面を見据えて呼吸を整える。暗闇を切り裂く魔物の眼光がカーブの向こうから飛び出し、視線と視線がぶつかる。

 

「来ましたハルタさん!」

「いちいち言わなくてもわかってる。黙って見てろ」

 

迫りくる双眸(そうぼう)と対するは細く引き絞られた眼差し。咆哮に応えるは沈黙。高く掲げられた脚が紫炎を纏い穿(うが)つ獲物を待ち受ける。

一人と一匹の距離が50メートルまで近づいた瞬間、それは起きた。

 

「沈めっ!地撃震!」

 

振り下ろす過程すら見えない速度で打ち込まれたそれは、周囲にプリズミックから鳴る音を凌駕して爆音を掻き鳴らす。それと共に激震が走り、地は荒れ狂い、線路は波打っていた。二つの揺れによってトレインは宙に舞い、連結車両は蛇の様にくねっていた。そしてそのままの勢いで地面へぶつかっていった。

 

ガシャアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

激突した際、曲がった後部車両が衝撃で衝突しあいジョイント部からバラバラに散った。くわんくわんと残響を残す惨状に「今だ飛び移れ!」と叫びが飛ぶ。そして見事本体に取り着いたカケルとソラの姿が見えた。

 

「さて、それじゃあゆっくりと料理してやるかってなんだありゃ?」

 

危険な工程を終えて一安心したハルタの目に映ったのは、トレインから飛び出したアームであった。決して長いわけでもなく、車両の上に乗る二人に届くようにも見えない。そもそも電車型の物体には凡そ不必要にしか思えない。それが起動するまでは……

 

「オイオイ、マジかよ」

 

トレインは完全に脱線してノロノロと地面を走っていたが、線路に近づいた所でなんと自身を持ち上げ線路に復帰したのである。そう、これこそ外部から線路上に合流することが出来た秘密だった。

 

「マズイ!こいつを止めないと!」

「カケルもっと力入れて!」

 

当初、下からハルタが攻撃を加える予定でいた為、車上の二人は敵を逃がさないのと安全面を考慮していただけに有効な攻撃手段という物を持ち合わせていなかった。というのもその筈、ソラは有限なフィールドにおいては跳弾や爆発に巻き込まれフレンドリーファイアの恐れがあり、派手な攻撃は出来ないのだ。

一方カケルは、拳で殴るという単純なものだがこれまた制限があった。ゼノディザスターは溜めが必要なうえ足元を攻撃して爆発する危険がある。ではプリフリート戦で使われた衝撃波を飛ばす技『バスターブロー』ではどうか?しかしこれもダメ。放たれる拳圧に比例して威力が上がる性質は踏ん張りが効きづらいこの場では効果が薄い。なにより真下へ向かって振るうパンチには腕の力しか乗らないために子供の駄々っ子パンチと大差ないのである。

手ぐすねを引いているとトレインが再びフォオオオオオオオオと汽笛を鳴らし、加速を始めた。揺れによって転倒したカケル達だがハルタから声がかかる。

 

「テメー等しっかりしがみ付いてろ」

 

ドンドン加速していくプリズミックだが、スピードが上がりきる前にハルタは追いつき跳躍。ズシンと車体を揺らしながら二人のそばに着地した。

 

「予定にはなかったがこのまま走りながら戦うしかねえ。テメー等サポートしろ」

 

戦場を移し、第二ラウンドの幕が開ける。



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15.屋根上での死闘

走行を再開したプリズミックはどんどん加速していた。

 

「ハルタさん、ここからどうやって攻撃します?威力があり過ぎると自滅しかねませんし、かといってちまちまダメージを与えてたらスピードが上がりきって、倒した後放り出されてお陀仏って事にも……」

 

早く倒さなくてはいけないがそれ相応の火力が求められる。(さいな)まれるジレンマにカケルが急かしてくる。先ほどまでと筋書きか変わったことで、ハルタにも余裕は感じられなかった。しかしそれでも(つちか)われてきた経験から打開策を捻りだす。

 

「プリズミックってのはな、擬態したものの特性を強く引き継ぐんだ。生物に擬態したときは元の生物についての知識がなけりゃ分からない事が多いが、幸いこいつは機械に化けた。それを踏まえて、なんでこいつがこんなに早く走れるのかを考えろ。何でもいい、思いついたことから話せ」

「えっと、電車が早く走れる訳?あまり考えたこと無かったけど、電車って言うくらいだから電力でバーッて動いてる?」

 

あまりに大雑把すぎる表現にカケルがツッコミを入れようとしたが、意外にもハルタはそこに着目した。

 

「悪くねえ考え方だ。ただその電力に相当するものは残念ながらプリズミックの持つパワーだな。そこから先に電力、パワーをどうしてる?」

 

どうやらいきなり核心を探そうとするのではなく、ブレインストーミングの様に次を想定して本質に迫っていこうという考えだと二人も悟る。

 

「電力なら普通は増幅する場所に送られるか、もしくはモーターに行くんじゃないですか?」

「なるほど、モーターから車輪を動かしてスピードを出してる可能性は高そうだな」

「じゃあそのモーターか車輪までの伝達部分を破壊出来たら減速して行くって事ですね!」

「ああ、ついでに機械なんだから大事なもんは箱の中に仕舞ってるのが定石だ。俺が脚を振り下ろせばダメージも問題ないだろう」

 

三人寄らばなんとやら。短い時間で解決策が見つかり希望が見えてきた。しかし安心したのもつかの間、バラララララっと突如一堂に銃弾が降りかかった。

 

「あっぶな!何これ何処から撃たれたの?」

「あそこだ!奥の小さい奴!」

 

カケルが指差す先には黒い帽子を被ったプリズミックが居た。

 

「何アイツ、コスプレしてる?」

「車掌さんだな。でもなんでいきなり攻撃してきたんだ?」

「無賃乗車はおやめくださいって事だろ。お前らはアイツを相手しろ。俺はモーターを探す」

「わかりました、気を付けてください」

 

後ろを二人に任せるとハルタは床に這いつくばって地面に耳を当てる。ガタンゴトンと音が響き、それに合わせて揺れが起きる為脳味噌をシャッフルされる幻視をしつつ耐える。

そして小さな移動を繰り返しながら暫くすると、何か反応見つけたようだ。

 

「この真下にありそうだな。ちょっとツラ見せろや」

 

モーターらしき反応に向けて脚を振り下ろすハルタ。だが直前に青白い光がプリズミックを覆い、それに弾かれたような感覚を受けた。

 

「あん?手応えがねえ……オイ!そっちで今何かあったか」

「車掌がなんかレバー操作してました!」

「その瞬間に光が出たから、何かの切り替えスイッチだと思います!」

 

再度踏み付けをしてみるが、鉄壁の守りになったようでまるで効いてる気がしない。

 

「先にそっちを始末しねえといけねえか」

 

ハルタがカケル達の元に向かおうとするが、今度は赤い光に包まれる。

 

「次から次へと何だってんだ」

「多分今度は攻撃主体の変化だと思います!相手の攻撃が激しくなってます!」

「手数は同じくらいだけど、このままじゃ(らち)が開かないよ!」

 

急いでハルタも救援に向かおうとしたが、ある事に気付く。

 

(なんだアイツ?体の傷がドンドン増えてやがる)

 

真新しいボディーだった車掌プリズミックだが、それに次々と傷が増えていっているのである。恐らくはソラの弾幕や跳弾、爆風なのだろうが、目に見えて増えていく。

 

(さっきからアイツらとはドンパチやってた筈だ。その時から傷なんて増えてる筈……なんで今このタイミングで次々増えやがる?)

 

一瞬考え、とある予想が浮かぶ。

 

(パワーは上がってるが防御はペラくなった?それなら!)

 

突如軸足を元に華麗なターンを極める。そして烈迫の気合と共に大きく足を振ると、ドンッ!と大きな音が鳴る。そして数瞬の間を開けて、ガーン!と聞こえたかと思うと車掌プリズミックが遥か彼方へ吹き飛んでいった。

 

「へ?ハルタさん今何を?」

「飛翔脚って技でな、防御ペラそうだから空気の塊ぶつけて弾き飛ばした。もう追ってこれねえし、切り替えレバーも圏外だろ」

「ボク達結構苦労してたのにこんなオチって……」

「しょげんなって。お前らの攻撃があったから変化がわかったんだ。それに一人じゃ片方しか相手出来なくて対処出来なかった。まあそれは置いといて、さっさとコイツをぶっ壊して帰るぞ」

 

気落ちしているソラのフォローをしつつも足元をつま先で小突く。先程とは違い、よくある金属の感触を確認すると口元を吊り上げる。

 

「少々手間取ったが、改めてご対面といこうや」

 

振り上げた脚を勢い良く下ろすと、破砕音を上げながら大きな穴が出現した。穴の中には高速で回転するモーターが見え、駆け寄って来たカケル達も覗き込む。

 

「あれがモーターか。結構大きいですね」

「でもあれを壊せば止まるんだよね。早くやっちゃおう」

 

ダダダダっと早速マシンガンを打ち込むが、どうやら頑丈な保護枠に阻まれており、またしても思うような結果が得られなかった。

 

「しゃあねえ、もう一働きするか」

 

穴から飛び降りたハルタは保護枠の硬さを確かめると、脚に紫焔を纏う。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「ハルタさん俺も手伝います」

 

カケルも降りてきて双拳に光を溜める。

 

「二人共急いだほうが良いかも!レールがルイカ先輩の水で色変わってるの!この調子で進んだら、壊したレールの所でまた脱線事故起きちゃう!」

「少しくらい余裕持たせやがれってんだ!カケル!そっちはチャージ終わるか!?」

「はい!いけます!」

 

腕全体が輝いたゼノディザスターの時とは違い、拳だけが光っている。貫通力を上げ衝撃を周囲に洩らさない攻撃法なのだろう。

 

「だったら合わせて行くぞ!いち!にーっの!」

「「さんっ!」」

 

ズドン!と重い一撃が保護枠を貫通し、モーターに突き刺さる。半端な攻撃であったなら回転するモーターに身体を巻き取られミンチにされるであろう未来もあったが、そんな心配を他所に深々と二人の手足が機械を貫いていた。

直後、ガクンとスピードが落ちていく。

 

「これで一安心ですかね」

「いや、まだ油断すんな。動力が消えただけで慣性はまだ効いてる。どこで止まれるかはわかんねえぞ」

「そんな……」

 

ショックを受けたカケルを置き去りに、ハルタは上に登りソラに問いかける。

 

「今どんな感じか分かるか?」

「スピードはドンドン下がってます。恐らくですけど半分って所です。ただ何処まで線路が無事かは全然予想出来ないから……」

 

目算でしかないが現在の走行速度は60kmほど。周囲は明かりもまばらで、飛び降りるには少々危険に思える。

 

(仮にぶっ壊した線路が見えるギリギリまで我慢したとして、何処までスピードが落ちる?そこから飛び降りても俺達自身が慣性持ってたんじゃ流れで荒れた事故現場に着地しちまう。それならいっそ見切りを付けちまった方が……)

 

最悪を想定しているハルタだったが、ふとした疑問が浮かんだ。

 

「そういやソラ、別行動したネーチャンって見たか?」

「ルイカ先輩ですか?いや、今のところは覚えが無いですが」

 

それを聞いたハルタは笑みを浮かべる。

 

「二人共!事故現場までスピードが落ちきるかわからねえ。だからどっかで見切りを付けて飛び降りる」

「どっかってどこで?」

 

下からよじ登りながら問うカケルに自信ありげに返答するハルタ。

 

「ルイカのネーチャンとすれ違うまでだ」

 

ハルタが言うには、ソラが線路の水を見た所が元々いた位置。だがそこに姿が無かったなら、最初にプリズミックが走り抜けたあとに事故現場迄引き返してる筈だとの事。事実彼女も間に合うのを期待するなと言っていたので間違いないかと思われた。

つまり、ルイカを追い越してしまったらその先には事故現場だけだが、仮にルイカが事故現場まで辿り着いていたのなら、あの水鉄砲で受け止めてくれる可能性がある。そこをデッドラインと定めるには確たる理由付けになろう。

 

「わかりました。腹くくります」

「ボクはまだ怖いけど、それが一番マシなんだよね」

 

全員前方に集中していつでも飛び降りれるよう身構える。そしてその時が訪れる。

 

「見えた!先輩があそこに立ってる!」

「お前ら準備はいいか、なるべく速度が落ちるように、後ろに走って飛び降りる。オラ走れ!」

「ちょっ、聞いてないんすけど!」

 

慌ててハルタの跡を追うカケル。最後の瞬間までバタバタしたが全員が飛び降りた。固い地面に手足からつき勢いのまま転がっていきやがて止まる。全員が顔を上げたタイミングで、奥の方から爆発音が聞こえてきた。

 

「イッテテ、間一髪って所か」

「かなりギリギリの所だったね」

「もうこんな危ない任務はこりごりだ」

 

愚痴を言い合う三人にルイカが駆け寄りタオルを渡す。

 

「皆おつかれ。大丈夫だった?」

「大丈夫じゃないッスよ先輩。何回死にかけたことか」

「そうそう、ボク達危ない橋渡ってきたんですからね!」

「そう言ってやるな二人共。なんだかんだで地面に着地した時の勢いって予想してたよりも少なかったろ?」

 

まあ確かにと言うよく分かってない二人。なので仕方なく説明を続けてやる。

 

「スピードがあそこまで落ちた理由ってのはな、多分だがネーチャンがまた粘着液ばら撒いてくれてたからだと思うぞ」

「その通り!この私が皆を追いかけてる最中も再び放水していたのだ!だから二人共私に感謝するように」

 

(一言余計に言わなければ素直に感謝出来るんだけどな)

(ほんとほんと。縁の下の力持ちって喜ばれる筈だけど、縁側ごと持ち上げるのはちょっとね)

 

「どうしたキミタチ?反応がないぞ~?」

「アリガトウゴザイマスルイカサン」

「タスカリマシタカンシャシテマス」

「はっはっは、気にしなくていいよ。後輩を助けるのは先輩として当然だからね」

 

なんであんなに感情がこもってないセリフだったのに、この人は有頂天になれるのだろうと心底理解できない二人であった。

 

「とりあえずこれで事件解決だな。テメー等最初は足手まといかと思ったが、思ったより見込みがあったぞ。うちの三馬鹿もちったあ見習えっての……」

「ありがとうございますハルタさん!」

「ボク達ハルタさんみたいなカッコいいジャンパー目指して頑張ります!」

「俺を目標にするのはどうかと思うが、まあ精々頑張れよ」

 

そう言ってハルタはポケットに左手を突っ込み、右手はひらひら振りながら去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「あれー?なんか私と扱いが違う?まあそんな筈ないか」



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閑話1

今回はちょっとした息抜き話を2編ほどご用意しました。
ジャンパーズっぽさをより意識してもらえたら幸いです。
ちなみに一本目の方は公式漫画「消火栓の悲劇2」を元にしております。
知らない方がいましたら、そちらを先に確認して頂くとより楽しめると思います。

https://hopstepjumpers.jp/special/


~カケル達がプリフリートを倒して数日後のお話~

 

 

 

「カケル~元気にしてる?」

 

ソラが見舞いに来た。俺は今スカジャンの医務室で入院しているのだ。火を吐くプリズミックと戦いで負った火傷は酷くて、あの時は戦闘中だったからハイになってて耐えれたが、すぐに治療するべく搬送されたのだった。幸い事件後すぐ処置したのと、医療チームの腕の良さもあって数日中には回復するだろうと言われた。

 

「おおソラ、来てくれたのか。やること無くて暇してたから助かる」

 

入院してから今まで、ソシャゲをしたり漫画を読んだりして暇を潰してきた。最初の頃は一日中自堕落な生活が送れると思っていたので、足の怪我は辛いがベッドに寝てればあまり関係なかったので、不謹慎だけど楽しみでもあった。でもそんな事を言っていられたのは初日だけで、目は疲れるし何より作業を繰り返すというのが如何に苦痛であるかを思い知らされた。廃人の人達ってスゲエ……

そんなこんなでついに暇を持て余した俺は昼寝をすることにしたのだが、これが困ったことに夜に眼が冴えるという結果をもたらした。夜は基本スマホや携帯ゲームなど光を発する物を触るのが禁止されているため、昼間以上にキツかったよ、とほほ。

 

「そんな事だろうと思って、報告書作る仕事持ってきてあげたよ。感謝してよね」

「仕事って聞くとテンション下がるけど、今は時間潰せるならなんでもいいや。これって今回の奴をまとめればいいんだよな?ソラは提出してないのか?」

「カケルは知らないかもしれないけど、最近街でプリズミックがいっぱい目撃されてるんだよ。まあ確認されてるのは全部雑魚だから、どっかに住み着いていた奴が何かの拍子に溢れてきただけって考察されてたよ。多分火災があったビルの下とか、地下から湧いてきたっぽいね。とにかくそっちの処理に忙しくて、書類書いてる暇もないんだよ。そんなわけでボクも忙しいから、それよろしくね!また来るからー」

 

そっちはそっちで大変なんだな。動けない俺の分まで頑張ってくれ。よし、俺も任された仕事をするとしますか。

 

あれから数時間、黙々と報告書を作成していたがやっとの事で作業に終わりが見えた。

 

「その為、消火栓の水を、相手に吹き付けることにより、弱体化させる事に成功し、無事討伐することが、でーきーまーしーたっと。終わったー!」

 

ふう、ずっとパソコンとにらめっこして眼が痛いが、いい疲労感だ。成し遂げたぜ。急ぎの仕事ではないはずだけど、油断して忘れないうちに書類提出してくるか。

 

 

 

その日の夜……

 

「なるほど、そういう事だったのか」

 

カケルから提出された書類を確認していると、何かが腑に落ちた様子のシオンがいた。

 

「街から消火栓の賠償請求の紙が来てると思ったらそういう訳かよ。普通なら故意の破壊だから自己負担してもらう所だが……本人達も危ない目にあってるし、結果的に周囲の炎上被害も軽微で済んだ。仕方が無い、今回だけは組織の費用で払ってやるか。ったく、また今月も資金繰りに難儀しそうだ」

 

渋い顔で頭をかくシオンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハルタと共闘した翌日のお話~

 

 

 

「いやー今回も死にかけたし大変だったなソラ」

「そうだね、ボク達試験の時から身の丈に合ってない敵とばっかり相手してる気がするよ」

「パトランプリズミック、プリフリートに続いてプリズミックトレインだろ?新入りが担当するには分不相応すぎるだろ、これ」

 

やれやれとジェスチャー付きで気持ちを表現するカケルにソラが(いぶが)しげな視線を送る。

 

「プリズミックトレインって何?シルバースタンピードでしょ」

「いやいや何言ってんのはそっちだろ。どっからそんな名前出て来たんだよ」

「テレビで普通に報道してたよ。ネットニュースや掲示板でもそう書かれてるし」

「そんな馬鹿な……」

 

慌ててスマホを取り出し検索を始めるカケル。見る見るうちに表情が怪しくなっていく。

 

「どういうこと!?どっからこのシルバースタンピードさんは出てきたの!?」

「どこって、ボク達が戦ってる最中に上でやり取りしてた人達が決めたんでしょ。こういうのって早いもん勝ちだし」

「じゃあプリフリートってどっから来たの!?入院してる時にみたニュースでは『火を吐くプリズミック』とか『火炎魔人』とか呼ばれてたぞ!?」

「カケルが決めたんじゃないの?スタンピードの時みたく外部と連携した時以外は、基本的に報告書を提出した人に命名権あるんだよ。そういうの好きそうだからボクが決めずに譲ってあげたのに。名前付けなかったなら多分ロージアさん辺りがそれっぽいの付けたんだろうね」

 

膝から崩れ落ち真っ白になるカケル。そのままプルプルと震えたかと思うと、大声で喚き始める。

 

「俺も名前付けたいーーーー!やだやだやだー、インフェルノプリズミックとかプリズミックゴッドブレイズとか厨二染みた奴付けるんだい!」

 

五体投地して手足まで振り回し始め、完全に駄々っ子モードである。良い歳した男がする姿は見苦しいことこの上ない。

 

「うるさーい!折角機会あげたのに不意にしたのはそっちなんだから諦めなさい!」

「だってだってだってぇぇえええええええ!」

 

この幼馴染とチームを組んでやっていくと思うと、今後に不安しか感じられないソラだった……



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16.地下水道探索作戦

 シルバースタンピード事件からはや一週間が経過していた。

 命名権についてあれだけ騒いでいたカケルも、今では記憶をさっぱり無かったことにして気持ちの切り替えに成功している。そんな彼らに次の調査依頼が出されたのが数時間前。聞けば渋谷の地下を走る巨大送水管があるのだが、最近そこでプリズミックが多数目撃されているそうだ。今回はプリズミックの一掃と何故そこに群生しているのか調べるという訳である。善は急げと一行は渋谷地下水道へと向かったのだが、これまでとは一つ違いがあった。それは、

 

「現場に出るのは久しぶりだ。足を引っ張らないよう努めるが皆よろしく頼む」

「そんなシオンさんが頼むなんて言わないでくださいよ。俺達の方がよっぽど足手まといですよ」

「そうそう、ボク達シオンさんと一緒に仕事できるなんて光栄です」

「なんだいなんだい、二人とも私だって先輩なのにまるで扱いが違うじゃないのさ」

 

 何を隠そう、スカイジャンパーズ最強と名高い疾風のシオンが同行しているのである。かつて世界を救った英雄と肩を並べる事に感動している二名。その後方には面白くなさそうに頭の後ろで手を組んでいるのが一名。以上四名が今回の探索チームとなる。

 

「いや本当にあまり期待しないでくれ。古傷のせいであまり自由に体が動かなくてね。動きにキレがなくてイマイチ上手く立ち回れないんだ。攻撃も大振りになりがちな割には威力に欠けるしな」

 

 数年前、神龍事件を解決した立役者であるシオン。当時の彼は間違いなく世界最強のジャンパーであった。しかし、事件での負傷により第一線を退いてしまい、今では後任の育成とデスクワークが主な仕事となっていた。

 

「だったらどうして今回に限って俺達と一緒に来てくれたんですか?」

「事務作業ばかりしていたんじゃ体が鈍ってしまうからな。時折こうやって運動がてら随伴(ずいはん)させて貰ってるのさ」

「すみません、『ずいはん』って何ですか?」

 

 申し訳なさそうにカケルか尋ねる。するとシオンは苦笑いして説明してくれた。

 

「堅苦しい言い方してすまなかった。一緒にって意味だ。親っさん……テンカイさんが居ない時は俺が仮の代表として色んな所と顔を合わせなきゃならないから、テンカイさんに恥を掻かせない様に普段から面倒な話し方をしてるんだ。仲間と話す時くらいもっと砕けろとロージアにも言われているんだが中々使い分けられなくてね」

「シオンさんに余計な気を使わせて……うちのお父さんは一体どこほっつき歩いてるんだ!」

「ぶっ!はっはっはっはっは!」

 

 ぷんすか怒るソラを見たシオンは思わず噴き出し笑い出した。あのシオンの思わぬ反応に、つい先ほどまでの怒りも消え去り、呆然と眺める。

 

「はっはっは。いや悪い悪い、宴会の時のソフィーと同じこと言うもんだからつい。心配しなくても俺は好きでやってることだし、親っさんも俺達が本当に困った時にはふらっと帰ってきてくれるから大丈夫だ。心配ないさ」

「困った時ですら、ふらっと帰ってくるから腹立つんですよ。どっちかというなら慌ててバタバタ帰って来た方がまだ許せます」

 

 唇を尖らせてむくれる姿にシオンは先程とは違う笑顔で話しかける。

 

「ソラは親っさんが大好きなんだな。年頃の女の子だと帰ってくるなとか、野垂れ死ねばいいなんて言葉が出る場合もあると聞くが、ソラから出てくる言葉は帰ってくると信頼してるものばかりだ」

「そ、そんなことありません!あんな放蕩親父、野垂れ死ねばいいんです!」

 

 顔を真っ赤に染めてオウム返しにすることしか出来なかった自分に気付き、ますます気恥ずかしさに紅潮させ、ついには俯き口をつぐんでまった。

 

「シオン、女の子苛めてそんなに楽しい?」

「人聞き悪いこと言うな。これは後輩たちと円滑なコミュニケーションを取るための馴れ合いだ。それに親っさんを慕う者同士反発する必要もないしな」

「はぁ、シオンは親っさん親っさんとそればっかだねえ。テンカイさんが色んな意味で凄い人なのは私も認めるけど、あまりにも身内を褒めちぎられるのも具合が悪いってものなんだよ」

「うーん、そんなものなのか?カケルもそうか?」

「はえっ!?お、俺ですか?」

 

 突然話題の矛先が向いて焦るカケル。しかし自分自身が同じ立場になったことを想像した上で返答する。

 

「俺は家族がリズしか居ませんからね。褒められれば兄として嬉しいとも思いますけど、どうなんでしょうね?まあ程々にしておくのが無難なんじゃないですか?」

「成程、過ぎたるは猶及(およ)ばざるが如しという事か。今後の参考にさせて貰う。ソラもすまなかったな」

「いえ、お気になさらず……」

 

 未だ顔に挿した朱は完全に抜けきってはいないものの、平静さを取り戻した様子。それを確認したシオンは、空気を変えるためにも仕事の話をする。

 

「それじゃ気を取り直して今回のミッションについて再確認だ。任務は二つ、一つはここ地下水道にいるプリズミックの生態調査。もう一つはこれらの討滅だ。皆怪我の無い様気を引き締めてくれ」

「「はい!」」

 

 こうして一行は長い時間をかけ、探索を開始したのであった。



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17.シオン先生の課外授業

「一掃って言われるだけあって結構な数がいるね」

 

 現在は出発から約一時間、プリズミックと遭遇した回数は5回目で、総数は20匹を超えている。

 

「そうだな。だが出てくるのは雑魚ばかりだから、油断さえしなければ不意打ちをされても怪我をすることもないだろう。何よりこの人数だ。危ない面はいくらでもカバー出来る」

「でもキリがないから肉体はともかく精神的に疲れますね。そもそもどこまで倒したら一掃って言えるんですか?」

「そうか、カケル達は最近活躍が目覚ましいから忘れがちだったが、まだ入って間もないんだったな。折角だから少しレクチャーをしよう」

 

 今までは中盤か最後尾で殿(しんがり)を努めていたシオンが前に出て来て、先導しながら話をする。

 

「まずプリズミックの発生には基本的に2種類がある。突発型と繁殖型だ。突発型は以前の火を吐くプリフリートやパトランプリズミックが例に挙げられる。これらは予測がしづらく、仮に予想や捕捉することが出来ても、実際に出現した時にこちらの予想を上回る事態に発展しやすい特徴がある」

「確かにどっちも予想されたものより強かったみたいですし、俺達は毎回ピンチになってますね」

「毎回ハラハラドキドキの連続だよ」

 

 冗談混じりではあるが危ない場面を何度も切り抜けてきた自分達。それを誇りこそせず事実と受け止める。これからそれを自信へと昇華出来るか自惚れと繋がるかは今後の成長、もとい先輩である自分の指導によると考えているシオンは軽く頷き続きを語る。

 

「次に繁殖型だが、これはプリズミック同士が集団で集まり巣のようなものを形成する。そこで仲間を増やしていくというものだ。今の研究ではプリズミックが実際に繁殖行為や分裂により増殖しているのか、それともあくまで個として周囲から集まって増員しているのかはハッキリしていないが、放置していると際限なく増え続ける可能性あるとされ長期的に見た場合はこちらの方が危険度が増しやすい。特徴としては群れのボスに当たる存在が居て、それを倒すことにより統率が取れなくなって解散する。少し前にあったシルバースタンピードがこれに挙げられる」

「でもアイツの時って他にプリズミックを見た記憶無いんですけど、それでも繁殖型なんですか?」

「そうだ。あの後現場調査を行ったら、複数のプリズミックの形跡が確認された。これについては環境の関係でな、どうやら集まってきたはいいがその殆どが電車に撥ねられて消滅していたようだ。電車の運転手にも確認を取ってみたが、小石を撥ねたような違和感や音を複数人から聴取できた」

 

 プリズミックが交通事故で死亡したと聞いてそんな事もあるんだなと思ったカケル。その様子をイメージするとまぬけでシュールな絵面が浮かんできてツボに入りかけて(むせ)た。そんなカケルに冷たい視線で一瞥だけくれて、気にしない振りをしてソラが答えた。

 

「つまりは雑魚を蹴散らしながらそのボスを見付けて退治すればいいんですね」

「その通り。ついでにその調査の方法も一つ、今から教える」

 

 そこまで言うとシオンは歩くのを止め、皆を手で制する。前方には曲がり角があり、その先に顔を覗かせ様子を探る。顔を戻すとゆっくりと二人にこっちに来るよう手招きをし、小声で話す。

 

「最初のうちは目につく奴を倒していくが、ある程度まで数を減らしたり奥まで進んだ場合には残ってるプリズミックには手を出さずに後をつけるのが有効だ。戦闘中の敵ならボスの居るところまで逃げる可能性があるし、巡回しているような奴は重要な箇所に案内してくれる可能性が高いからだ。丁度目の前に一匹だけいるから後をつけてみよう」

 

 そういうとシオンは曲がり角の奥に消えていくプリズミックを気付かれないよう追う。なるべく音を立てないよう振る舞っており、これを見ていたカケルはテンションが上がってきた。

 

「こういうのスニーキングミッションみたいでちょっとワクワクするな」

「ワクワクするのはいいけどもうちょっと声小さくしてよね。気付かれたらどうするのさ」

 

 悪い悪いと手を顔の前に立てて謝るが、あまり反省しているようには見えないカケル。言っても無駄だとため息一つだけつき自分だけでもしっかりしようと思うソラであった。

 その後10分程後をつけていると、とある扉の前にたどり着く。

 

「どうやらこの中に入っていったようだな。二人とも警戒を怠らない様にしてくれ」

「わかりました」

「よし、それじゃ開けるぞ」

 

 ギギっと重い音を立てながら開けられたドア。その先は水路のメンテナンス用の資材置き場であるようだ。そこにプリズミックが10匹ほど集まっていた。

 

「いっぱい集まってるね!まとめて蹴散らしちゃおう」

「まて、様子がおかしいぞ」

 

 こちらに気付いたプリズミック達はお互いに身を寄せ合い、なんと次々合体していった!ボウンッという音と煙を上げて新たに生まれた個体は、これまでのプリズミックとは違い2メートルはあろうかという巨体に、どうやって調達したのか不明だが王冠のようなものまで携えている。

 

「まるでキングスラ〇ムだ……」

「こいつはキングプリズミックだ。稀に目撃されることがあるタイプで、合体前後の強さが個の足し算と釣り合わないから気をつけろ。あとなるべく周囲に被害が出ないよう立ち回ってくれ」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで終わったな。二人とも怪我はないか?」

「はい、まあこれといって……」

「ほとんど何もしないままシオンさんが一人で倒してくれましたので……」

 

 二人の言う通り、カケルとソラは周囲に展開してタイミングをみて攻撃していただけである。肝心のシオンはを言うと、接近戦で敵の攻撃を難なくかわし、自身のデスサイズの形状をした武器『風牙』で相手の体力を文字通り削り取っていった。鎌を振るごとにプリズミックは体積を減らし、時に柄で殴られ吹き飛んでいた。

 

「あのーシオンさん。今回のシオンさんってリハビリなんですよね?」

「そうだな、全盛期の四分の一も動けていない。かといって傷が完治ことはもうないと医者も言ってるから、現在の体で動きを最適化していく他ないのが辛い所だ」

 

(あれで四分の一以下ってどういう体してんの!?)

(きっと任務遂行のために作られた強化ジャンパーなんだよ!)

 

 失礼な奴らである。幸いにもシオンには聞こえていない様子で、仮に聞こえていても特に怒ったりもしないだろうが。

 

「でもキングプリズミックって、安直な名前だよな。この調子だとメタルプリズミックとかゴールデンプリズミックとかも出てきたりしてな」

「そんなの居る訳ないでしょ!カケルはゲームのやり過ぎなんだよ!」

「いや、メタルプリズミックもゴールデンプリズミックも両方居るぞ」

「うそぉおおおおおおおおお!」

 

 シオンから衝撃の発言をされて目を剥くソラ。シオンの事だから冗談などではないとは思うがにわかに信じがたかった。

 

「ゴールデンプリズミックを倒すとプリズミックキューブが大量に手に入るんだ。滅多に会うことは出来ないが、遭遇したら是が非でも倒しておくといい」

「あの虹色の奴が沢山出てくるんですか?」

「いや通常の金色のプリズミックキューブだ。そういえば二人とも、これまでキューブを回収してるそぶりが無かったがいいのか?」

「いいのかって何がです?」

「なんだと……」

 

 

 信じられない言葉を聞いたと眩暈がしたシオン。一人で何やらブツブツと言い始め「歓迎会が……」とか「オリエンテーションはどうだ……」等の単語が聞こえる。やがてバッと顔を上げたかと思うとある者に問う。

 

「プリズミックキューブの役割について話していないのか!?ルイカ!」

「はえ?私?私はしてないよ」

 

 そう、これまで最後尾でずっと黙っていたパイセンことルイカである。居たんだとか忘れてたというつぶやきが聞こえてきたが気にしたらいけない。

 

「なんでだ!二人は普段と経緯が違うから説明を聞いていなかったんだ!プリフリートの時もシルバースタンピードの時も拾ったり説明する機会はあっただろう!?」

「そんなこと言われても説明を聞いてないとか聞いてないし、そもそもその事件は火の時はカケル君が火傷で緊急搬送されたのに付き合ったし、電車は後から調査班が全回収してたじゃん。私だってその時は拾ってないからね?」

「うぐ、そうなのか……まあ今気づけて良かったと思っておこう。二人とも大事な話だ、聞いてくれ」

 

 真剣な表情で向き直ったシオンにカケル達は息をのむ。

 

「プリズミックを倒すともれなくプリズミックキューブという物を落とす。これは様々なエネルギーに変換出来る事に加え、対プリズミック兵器の強化や改造にも使えるんだ」

「え、確かに敵を倒したら出てきたのを見てはいますが、誰も反応しなかったからちょっと綺麗なゴミかと思ってました……」

「ボクも似たような感想だった。最初の虹の奴しか皆反応しなかったし、こっちは要らないんだろうって」

「すまない、最初の時は変わった物が発見された影響で、そっちに頭が回っていなかった」

 

 カケル達は説明を受けていないのに加え、周囲の反応から不要なものと断じていた事に改めて責任を感じてしまうシオン。

 

「それでだ。このプリズミックキューブだが、兵装の強化に使えることからもジャンパーにとって重要な物だとはわかると思うが、もう一つの役割もある」

「もう一つ?ちょっと想像つかないですね。ソラは分かるか?」

「うーん、ちょっとわかんないや。どんな役割なんですか?」

 

 素直に聞かれたシオンは眉間に皺を寄せて、言いづらそうにしつつも答えてくれた。

 

「金だ……」

「「え……」」

 

 周囲が静まり返り、配管を流れる水の音だけが響き渡る。

 

「さっきも言ったが、これは電気やガス等の代替えエネルギーもなるんだ。だからこれを機関を通して国に売ることで、組織と個人に対価が支払われるんだ。これはジャンパーにならなきゃ知らされない事項だ。素人が小遣い稼ぎにプリズミック狩りをして怪我をするといけないからな。仮に手に入れても組織を通さないと売買できないから、どっちみち無駄な徒労に終わるがな。まあそんな訳で、お金と組織に対する貢献度が稼げるアイテムだったという事だ」

「つまり俺達は……」

「お金を道に投げ捨ててた……」

「残念ながらな」

 

 余りに残酷な現実を突きつけられた二人は深呼吸をし、そのまま大きく息を吸った。そして……

 

「「そんなのあんまりだよぉおおおおおおおおおおおおおお」」

 

 地下水道に悲しみの慟哭(どうこく)が鳴り響いた。



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18.誰だお前は!?

 一同の足取りは重い……

 さっき知らされた衝撃の事実に、一部が幽鬼の如き面持ちと足取りでの行軍となっているためである。

 

「ま、まあそんなに落ち込まなくても、今回は事情を鑑みて組織から幾らか出るよう交渉しよう。少なくとも現場処理を全部任せたスタンピードについては回収された数は把握できるから、そこから分配しておく」

「それって幾らくらいになるんですか?」

 

 提案された二次案により少し回復できたソラが聞く。

 

「実際に書類を確認するまではわからないが、あの規模のプリズミックなら恐らく一人頭1万から2万って所だろう」

「2万円!?それなら欲しかったアヤネちゃんの限定版CDも買えるぞやったー!いでっ」

 

 現金なもので、既に皮算用を終えているソラは嬉しさに飛び跳ねる。そしてそのままの勢いで天井へと頭をぶつけてしまった。この地下水道は通路の高さは三メートル程確保しているが、忘れてはいけない、彼女たちはプリズミックを上空から攻撃できる性能を持ったジャンパースーツを着ているのだ。本気で跳べばビルの五階位まで跳べる者もいるのだ。

 

「大丈夫か?一応仕事の一環だからあまりはしゃぎすぎるのは良くないぞ。あと水を差すようで悪いが、スーツや武器の改修や修理にも費用は掛かってしまう。限定版というのがどれ程の値段かは知らないが、ある程度は手元に残すようにはしておいた方が後々苦労が少なくなるとは助言しておく」

「気を付けます……」

 

 耳を垂れ下げシュンとうなだれるソラ。さっきから頭をぶつけたりテンション下がったり忙しい奴である。シオンも可哀そうだとは思うが、この辺りはしっかり財布の紐を管理しておかないと、本人の為にならないので下手なフォローも入れる気はないようだ。

 ともあれ一通りの説明も終わったので、改めて部屋を見渡す。鉄パイプやボルト、角材やら何に使うか分からない布等様々なものが置かれている。その中でシオンは、隅のテーブルに乗っていた一枚の紙を手に取る。

 

「ここの地図の様だな。配管同士の経絡や注釈も書かれている。任務を終えるまで借りるとしよう」

「俺も見せてもらって良いですか」

 

 ほれと差し出された地図をのぞき込むカケル。細かいことはよく分からなかったが、気になる事はあった。

 

「この奥にある大きいスペースってなんですかね?」

 

 地図の中心から上の方に他の配管や通路が集中する大きなスペースが見られた。

 

「恐らくだが水源からの水を分配する起点になる箇所じゃないか?想像でしかないが、分配するなら一度貯めておく貯水槽のような物があった方が何かと都合がいい筈だ。そう考えると大きなスペースを取っているのも納得はいくな」

「ゲームだとこういう重要な場所にボスって居がちですよね。ソラはどう思う?」

「なんでもゲームを基準に考えるのやめてよね。でもボクもちょっと気になるな。シオンさん、これから何処に向かうか決めてるんですか?」

「いや、元々地図なんてない行き当たりばったりの予定だったからな。折角だからまずそこに行ってみるか。外れても他のルートに枝分かれしてるから行き止まりで引き返す必要もない」

 

 全員一致したことで、次の目的地は大広間へとなった。

 

「いや、私意見言ってないからね?」

 

 全・員!一致で決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資材置き場を後にすること二十分、現れるプリズミックを一蹴しながら進んでいたが、先行するシオンが止まれとハンドサインを送り警戒態勢を取る。前方の薄暗い道を凝視し身構えていると、暗闇の向こうから対象が姿を現した。

 

「だからあんな奴等俺にかかればちょろいもんだって」

「ふん、俺の作戦が素晴らしいからこその結果だろう」

「……どうでもいいから早く帰ろう」

 

 白い短髪、赤い長髪、茶色のショートヘアという統一性の無い男女三人組だ。全員見るからに若く、高校生くらいの印象か。

 

「俺達はスカイジャンパーズのハンターだ。君たち何者だ、ここで何をしてる」

 

 誰何(すいか)の声を掛けるシオン。相手はこちらに気付いていなかったようで、驚きながら答えた。

 

「おわっビックリした!こんなとこで人に会うもんなんだな」

「驚いてないで返答しろ。俺達はゴードンのハンターだ。ここのプリズミックを始末しろと指令を受けてたった今終わらせてきた所だ」

「……おなかすいた」

 

 三者三様の反応であるが、赤い長髪のおかげで現状は掴むことが出来た。

 

「終わらせた所って、もう全部倒したのか?俺達も同じような指示をだされて来たんだけど」

 

 今度はカケルが問うと、白髪が自慢げに啖呵を切る。

 

「応とも。俺達期待の新人の活躍によりここのプリズミックは全部倒したぜ!俺の名前はハク、すぐ有名になるから今のうちに覚えててくれよな。ついでにこっちの眼鏡の赤い奴がセキで女のほうがイズミな」

「人を勝手に紹介するな。あとついでみたいな扱いはやめろ。俺の作戦があってこそと理解しろ」

「…………人いっぱい苦手」

 

 なんとも賑やかなチームの様だ。だがお陰で情報は仕入れることが出来た。

 

「俺達は一応自分たちの目で確かめてから帰るが君たちはこれからどうするんだい?」

 

 シオンはそのまま鵜呑みにせず、あくまでも自ら確認をする模様。他のグループが終わったというから何もせず帰ってきましたでは、社会人としてもありえない事なのでさもありなん。対してゴードンの新人グループの反応は、帰りたいという思いが聞くまでもなくあふれ出ていた。

 

「俺達はこのまま帰るつもりですよ。折角早く終わったんだから、さっさと引き上げて遊びに行かなきゃ損ってもんです。ちなみにこの先に進んでも何もないっすよ。十匹以上居たプリズミックの集団を俺達が全部倒しちゃいましたからね」

「そうか、引き留めて悪かった。ゆっくりと楽しんできてくれ」

「あざーっす。そんじゃ二人とも行くぞ」

「勝手に仕切るな。迷子になっても捜索願出さないからな」

「……さよなら」

 

 そう言って三人組は去っていった。水路の奥へと消えていったのを確認してからカケルが口を開く。

 

「シオンさん、アイツ等ああ言ってましたけど信じていいんですかね?」

「情報に虚偽は無いと思うぞ。但し、それだけで終わるとは思えない」

「ですよね。アイツ等が十匹倒してても、ボク達が倒したの三十匹以上超えてますもんね」

 

 人数の差というのはあるだろうが、それ以上に遭遇数自体が違う。ならばもっと良く探せば更なる数が現れてもおかしくは無いのだ。それに別の懸念もシオンにはある。

 

「彼らの証言にはボスと戦闘したという気配は感じられなかった。ならばまだこの任務は終わっていない」

 

 シオンは地図を取り出し、現在地を確認。それから三人組が通ったであろうルートを数パターン考える。予測された経路を確認すると顔をあげる・

 

「俺達は地図を見ながら最短で大広場に向かっている。この先、大広場に行けるルートは入り組んでいて、闇雲に歩いているようでは辿り着くには時間がかかる筈だ。それを踏まえると、あの三人は恐らくここには行ってない。でなければ遭遇したプリズミックはもっと居たはずだからな。やはりここは大広場を目指すのが良いと思う」

 

 一様に頷き反対意見が出ない事を確認すると一行は途中プリズミックを蹴散らしながら進んでいくのであった。



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19.地下水道の奥に潜むモノ

「ここが大広場の様だな」

 

 ハク達三人組と別れてから約一時間が経過していた。広場に近づくにつれプリズミック達との遭遇頻度も増えていき、これまでの戦闘回数は優に二桁に上る。それでも誰一人として負傷者を出していないのは個々の力の高さは無論の事、シオンによる戦況全体を見渡す力が一番大きいであろう。幾度かカケルとソラが襲われそうになった場面もあったのだが、これを予測していたのか将又(はたまた)驚異的反射神経かは本人のみぞ知るところ、瞬時にフォローに入り無傷と相成った。

 

「ふぇえええ、やっとついた。私クタクタだよ」

「そうは言ってもルイカ先輩は後衛だから比較的動かないじゃないですか。俺とかシオンさんのほうがよっぽど疲れてますよ」

 

 カケルの非難は疲れたもんは疲れたんだもーん等という子供じみたセリフと共に流され、その場に腰を降ろす。

 全くこの人は……と残りの者達の心がシンクロしているのもいざ知らず、常にマイペースを貫くのがルイカたる所以である。

 

「まあ確かにここまで休憩らしい休憩も無かったからな。二人も少しここで休んでいるといい」

「二人はってシオンさんは休まないんですか?」

「俺はそんなに疲れていないからな。少しこの辺りを調べて回るさ。それまでゆっくりしているといい」

 

 すぐさま踵を返して遠ざかるシオン。

 

「ここまで結構連戦続きだったのにシオンさんは凄いね」

「俺達とは鍛え方が違うって事なんだろうけど。そうだ、折角だから俺シオンさんに色々話聞かせてもらってこよう。現場じゃなきゃ聞けないこともあるだろうから。ソラは休んでろよ」

「頑張ってねー」

 

 とたとた小走りでシオンを追ったカケルはすぐシオンに追いつく。

 

「どうしたカケル、何かあったか?」

「いえ、この辺りは広い割にパッと見た感じではプリズミックも居ないから、散歩がてらさっきみたいに捜査の方法とか心構えとか色々教えてもらえないかと思いまして」

 

 カケルの言葉を聞いたシオンはふっと笑い、表情を緩める。

 

「流石兄妹だけあって似ているな。リズも向上心が高くてよく俺に指導を願い出ているんだ。飲み込みが早くて教えた技術をすぐ覚えてしまうし、教えてない技だって稀に使っている時もあるから驚かされる」

「アイツはセンスありますからね。元々運動神経がいいから大概のことは出来ますし、シオンさんに教えてもらってるなら尚更でしょう」

「上手く教えられているのかは自分ではわからないからな。ロージアの方が向いてる気はするが」

 

 そういう意味じゃないんすけどねと小さな声でツッコむがよくわからないといった顔をされてしまった。

 

「ところでシオンさん、こういう場所ではどういった事を気を付けて調査すればいいんですか?」

 

 余計な事を喋って馬から蹴られるだけで済むならまだしも、リズに蹴られるのは勘弁と話題を切り替える。勿論これは元々聞きたい事でもあったのだから、真面目に聞くことにする。

 

「そうだな、まず全体の広さや構造を把握。その後大きな物から順にといったところか。正直調べる順番については近い場所からや右から左へ等個人の自由で構わないと思う。ただ、全体の把握に関しては何か起きた時の避難経路や有効活用出来る物を知っておく為にも先にするのを薦める」

「群れに襲われて逃げた先が行き止まりとか洒落にならないですからね」

 

 早速周囲を見渡すカケル。今までの通路とは違い、階段や梯子を登っていく箇所やバルブにレバーなど工場の中に居るかのような構造である。全体の広さは今歩いている通路が100メートル程もある。奥行きについては機械や壁阻害している為詳しくは分からないが、50メートル程ではないかと思う。しかしそれ以上に目を向く物があった。

 

「この下って何ですかね?」

 

 奥へと向かう途中に大きな穴が空いており、下層を見渡す事が出来た。ここから地面までは10メートルほどで下にはスペースがあるようだ。

 

「近くまで行かなきゃ分からないが、ここは貯水槽があるとされる場所だ。ならあの奥にある可能性があるな」

「言い方を変えれば中枢って事ですか。行ってみる価値はありそうですね」

 

 二人は近くに掛かっていた梯子から下へと降りた。そこは上よりも配管等が整理された区画であり、見通しが良かった。なので目的であった貯水槽もすぐに見つけることが出来た。

 

「パッと見た感じ特に異常はなさそうですね。専門知識ないから詳しい事わかんないっすけど」

「ふむ、俺もこういった事には疎いがおかしな点は無いように見えるが……待て、あの溝はなんだ?」

 

 貯水槽の上1メートル程に謎の窪みがあった。正方形の穴で、何かを嵌めこむ様な雰囲気だ。そう思っていると、視界の端に何かが横切った。

 

「あっプリズミックがあそこに!」

 

 シオンがすぐに迎撃しようと構えたが、タンクに纏わりついた為に咄嗟に手が出せなかった。そうしているうちにプリズミックは先程の窪みへよじ登っていく。

 

「シオンさん、俺なんか嫌な予感がするんですけど」

「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ」

 

 手出し出来ずに眺めていると、とうとうプリズミックが窪みに到達した。体を反転させると器用に後ろ向きに穴の中に納まっていく。そして完全に収まった時、眩い光が放たれ────

 

 ガッシィィィイイイイイイイイイン!

 

 何処からともなくマンホールのような物が飛来し、派手な音を立てて窪みの位置に被さる。すると貯水タンクから機械のパーツのような物が次々飛び出し、辺りを占拠していくではないか!これにはカケル達も一旦退避することを選択し、急いで道を引き返す。そのまま休んでいた女子組まで走ると息を荒げながら状況説明をした。

 

「つまりプリズミックが施設と合体したって事!?」

「状況を考えればな。ただ、あのタンクに元々あんな窪みは無い筈。それを考慮すると──」

 

 途端ズシン、ズシンと大きな音がした。何かを言いかけたシオンだったが苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「話は後だ。皆まずはアイツを止めるぞ」

「止めるって"アレ"をですかっ!?」

 

 カケルとシオンが昇ってきた梯子のある場所、つまり中央の吹き抜け空間からこちらを睨むモノが居た。穴から飛び出すは巨大な上半身。下から伸びているであろう下半身を考慮しなくても、優に10メートルはあろうかといういで立ちに圧倒されるソラ。青いタンクをボディーとして配管が複雑に絡み合い、ロボットのような見た目のソレは、体から伸びるこれまた巨大な腕を振り上げスカイジャンパーズへと襲い掛かった。

 かくして戦いの火蓋は落とされた。



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20.巨大な敵との戦い方

 上方から振り下ろされた脅威は圧巻の一言に尽きた。

 地を揺らす振動、空に響く轟音、そして何より震源地に残された巨大なクレーターが破壊力を物語る。

 

「これ洒落にならんでしょう。掠っただけでも死んじゃいますよ」

「総員回避を最優先に動け!攻撃は二の次で良い、なるべく固まらずに常に動いて狙いを付けさせるな!」

 

 一瞬の油断が即、死につながる緊張感にソラの額に冷や汗が伝う。拭う手に違和感を感じ目を向けると、小さく震えていた。こんなコンディションではいつ不測の事態に陥るかわからない。

 

(今はとにかくシオンさんの言う通り回避に専念して気持ちを落ち着かせながら様子を見よう)

 

 余裕なんて無い筈の頭にふと思い出されるのは初の実戦を行った時の事だった。

 

『今まで確認されていないタイプのプリズミックと戦うときの基本は様子見をすること!相手がどんな攻撃パターンをしているか、どう潜り抜けて攻撃に転じればいいか、弱点は何処か。その他もろもろを回避と牽制をしつつ見極めるんだよ!』

 

 ルイカに教わった対プリズミック戦の基本。普段はあんな性格の割に、決めるべきところだけはしっかりと決める先輩の姿が浮かび、そして今また傍で一緒に戦っている。真剣な表情で必死に牽制をしつつ動き回るルイカを見ていると、何故か笑みが零れふっと肩の力が抜けた。

 

(先輩たちが居るんだ。ならサポートをするだけでも力になれるはず。シオンさんだっているんだ、言われた通りにしてればきっと上手く行く。神龍事件に比べたらこんなの楽勝な筈だもんね)

 

 もう一度手を見つめるとそこにもう恐れはなかった。

 

「ほーらこっちだよ!人参ミサイルをくらえ!」

「いきなりどうしたソラ?テンション上がってるな」

「ちょっとビビってたけど、先輩たちがいるならいつも通りにしてれば上手く行くって気付いただけだよ。おりゃりゃりゃりゃ」

 

 完全に調子を取り戻したソラは広くて障害物のある空間を利用して縦横無尽に跳ね回る。白い軌跡が駆けた後には無数の弾幕が張られ、誰よりも目立っていた。それに釣られてか、敵もソラをターゲットにして拳を振るうが全くついていけてないようだ。

 

「ソラ!その調子で左手方向に誘導してくれ。こっちに考えがある。ルイカも念のためそっちに回ってくれ」

「わかりました!ついてこいウスノロ!」

 

 言われた通りソラは敵の左手側だけで立ち回っている。ルイカも合流し、弾幕戦を醸し出している。

 

「シオンさん、どうするんですか?」

「この手のデカブツには火力が物を言うのは分かると思うが、それだけでは倒せない敵もいる。そんな時に使える手段をレクチャーするから見ていろ」

 

 シオンの武器である風牙に風が集まっていく。それはどんどん威力を増していき、今では小型の台風の様に渦巻く。

 

「ソラ!そのまま奥へと進んでくれ!あとなるべく高い位置に陣取るように」

 

 はーいと返しつつ直ぐに壁を蹴って上へと駆け上がる。するとそのタイミングで敵の右手が体の動きに合わせて捻るように打ち出される。縦ではなく横の動きに加えリーチも伸びるこれにカケルは「あぶないっ」と叫んだが、その瞬間暴風が吹き荒れる。ソラへと襲い掛かる筈だった拳はそのまま軌道を逸らされ、その勢いを保ったままあらぬ方向へとすっぽ抜ける。途端────

 

 ビキィィィイイイイイイイイイイッッッ!

 

 敵の腕が異音をあげてへし折れた。呆然とするカケルにシオンが解説する。

 

「デカい奴はそれに合わせて防御力も高い傾向が強い。自身の火力だけでは突破出来ない場合もあるだろう。そんな時に使えるのが今の敵の力を利用して攻撃に転換する方法だ。ついでに言うなら今の攻撃で敵の腕の中身が見えている。どうやらアイツは複雑な機械の組み合わせではなく、材料を寄せ集めて束ねた存在のようだな。ロボットではなくゴーレムに近いか。この手には電気や火器が効きづらいから覚えておくといい」

「そんな事も分かるんですね。まあ火器はともかく電気は使える場面が中々ないと思いますが留めておきます」

 

 ゴーレムの右腕は肩から脱臼したように伸び切って動かなくなっており、振り回そうと体を動かすが力なくプラプラ揺れている。とは言っても伴う質量が並ではないだけに、それはそれで怖いのだが。

 

「もう一本の腕も同じように破壊するんですか?」

「いや、敵が学習して同じ戦法が通用しない可能性がある。ならこっちは正攻法で単純火力で落とそう」

「単純火力って……あれを真正面からぶち抜くんですか!?」

 

 驚愕の発言に口を開けて固まるカケルにシオンは更なる爆弾を投げる。

 

「以前ならもっと威力が出せたが、さっきの手ごたえなら今の力でもなんとかなる筈だ」

 

 開いた口が塞がらないカケルは『アンタ一体どんだけ強かったんスか』と言いたかったが開きっぱなしの口では話すことが出来なかった。

 

「よし、今度はカケルが注意を引き付けてくれ。ソラとは違って遠距離からチクチク削る感じでいい」

「了解です。シオンさんはどうするんですか?」

「俺は懐に潜り込んで一発かましてくる」

 

 あんな物を相手に接近戦とは信じられなかったが、あのシオンが言うのだから勝算があるのだろう。迂回しつつ接敵していくのを見送りながらカケルは気を取り直して拳を振るうのだった。



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21.繰り出される二つの奥義

 一陣の風となって疾走するシオンは先程のソラよりも更に早く、最早残像しか追えない。これはシオンの持つ風を操る特性により、追い風を身に纏い加速する技であった。これにより高速移動を可能にし、跳躍力の上昇、果ては擬似的な飛行能力まで得ることが出来るのだ。とはいえこの障害物が多い空間では宙を飛ぶ事は無いであろう。

 一気に接近して鎌で切りつけているようで、躯体(くたい)に次々と傷跡が刻まれていく。カケルはその光景に驚いているが、シオンは思ったより硬く刃の食い込みが浅い手応えに渋い顔をしていた。

 

(やはり大技を使わなくては効果が薄いか)

 

 シオンは一度敵から離れると腰を深く落とし、力を貯める。その際カケルの方へ向くと、引きつけるようアイコンタクトをする。指示を理解したカケルは攻撃を激化していく。それに釣られてゴーレムもカケルの方へと攻撃をしようとするが、遠くにいるため攻撃が届かなかった。苛立つように何度も拳を叩き付けるが、届かないものは届かないのである。そうやって拳を振るっていると、ビキッと嫌な音がカケルの耳に聴こえた。

 

「ん?なんかこっちから変な音が、ってぶほっ!」

 

 突然カケルに大量の水が叩きつけられた。どうやら壁を通る配管が破裂したようなのだ。

 

「ぶっは!なんでいきなり水が……」

 

 するとゴーレムが肩を揺らして喜び始めた。察するに先程の乱打はただ叩きつけていたのではなく、施設の特定箇所にダメージを与える事によって配管を破壊する計算された攻撃のようだ。

 

(コイツ、そんなことも出来る知能があるのか。さっさと片付けないと何をしてくるかわからないぞ)

 

 改めてカケルは気を引き締め、全方向に注意を向けつつ牽制を繰り返す。先程までと違い、移動をしながら一つ処に留まる事をしない。そんな様を見つめていたシオンはほっと胸を一撫でし、より力を溜める。渦巻く力が体全体を覆い、小規模な竜巻が形成される。ここにきてゴーレムもこちらの意図に気付いたのか、狙う相手を変えるべく態勢を切り替えようとしたが既に遅かった。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「くらえ、風牙断空陣」

 

 突如シオンがその場から消えた。その身に纏っていた竜巻は今やゴーレムの全身を取り囲み、身体をねじ切らんばかりに軋ませる。いやこれはシオンが形成し制御している暴風、正しくねじ切ろうと意思を持って襲い掛かっていた。その証拠に関節を極めるようにゴーレムの残された腕がいびつに歪む。必死に抵抗しようと藻掻くが、その力を受け流し逆方向へと誘導する陰がいた。これこそがシオンであり、荒れ狂う空間を自在に飛び回り敵を滅多切りにするのがシオンの持つ奥義『風牙断空陣』であった。風の流れに乗じて繰り出される連撃にどんどんあらぬ方向へ曲がる腕。そうしてとうとう終わりを迎える。

 ゴギンッと甲高くも鈍い音が響き、ゴーレムの左腕も折ることに成功した。これにより敵の攻撃手段は無くなり、後は安全に本体を潰す作業をする……筈なのだが、

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

 ゴーレムが天高く咆哮を挙げた。カケルは身が竦む思いをしたがパトランプリズミックとの戦闘による経験が活きた。咄嗟に片耳を塞ぎ地面を殴りつけ自身の周りに音の壁を作ってこれを相殺、なんとか恐慌状態にはならずに済んだ。

 

「アイツ喋れたのかよ。マジビビるわぁ……」

 

 遠巻きに窺っていると、再び咆哮が挙がる。しかし今度は様子が違う。胸元に光が収束していくのだ。

 

「これってまさか……」

 

 頬を伝う一条の雫、それが顎から地面に落ちたのを皮切りに全力で横っ飛びするカケル。

 

 ピチュ────ン!

 

 その跡を光が通過する。放たれた奔流は壁へと吸い込まれ、消失させた……

 

「ビームとか反則じゃん……」

 

 相手に残された攻撃手段等精々頭突き程度のものだろうと思ってた。だが現実はそんなに甘くなく、まだ奥の手が残されていたようだ。

 

「大丈夫か!」

「はい、間一髪でしたがなんとか」

 

 シオンが駆け寄って心配をしてくれたが、ギリギリ回避に成功したので問題はなかった。

 

「それよりアレの対処ってどうすれば……」

「難しいな、チャージも短かったしスピードもある。どうしたものか」

 

 流石のシオンもこれには直ぐ対応策を練るのは難しい様だった。その反応に事態の重さを受け止めたカケルだったが、ふと疑問が湧いた。

 

「でもなんで今まで撃たなかったんですかね?チャージに時間が掛かる訳でも無いなら最初から撃ってもよさそうですよね」

 

 ハッとしたシオン。確かにその通りだ。片腕を機能不全にされた時もやったのは遠隔での配管破壊で、その時に撃っても良さそうなものである。それが行われなかったという事はつまり……

 

「一発限りの大技、もしくは何らか制約が掛けられたものである可能性が高い、か?」

「だったら次撃たれるまでの間に警戒しながら攻撃すればいいってことですね」

「油断は禁物だがそれで行くのがいいだろう」

 

 策とは言えないもののやるべきことは決まった。ならばあとは実行するのみ!と息巻いていた所に、ダダダダダと銃弾が降り注ぐ。

 

「うりゃりゃりゃりゃ!こっちを忘れるな!」

 

 左サイドに回り込んでいたソラが跳び回りながら銃撃していた。厚い装甲に覆われて効果は低いようだが、相手の気を散らすという点では有効なようだ。

 

「こちらから意識が逸れたな。今のうちに俺達も接近して攻撃に加わろう」

「了解です」

 

 共に駆け出しシオンは右サイド、カケルは正面に分かれて攻撃を再開する。身の回りを飛び交うジャンパー達に苛立ちを感じているのか身をよじるものの、既に機能していない腕では振り払う事も出来ず悲しき声を上げるゴーレム。と、その時ある箇所に掠ったソラの弾にビクンッと身体を引き攣らせた。

 

「なんか今変な反応したよ!」

 

 他の者にはよく見えなかったが、正面にいたカケルには被弾した部位がしっかりと見えていた。

 

「あそこは確か最初にプリズミックがハマった場所だよな。もしかして……ソラ!ミサイルで胸のマークを集中攻撃してくれ!」

「アイアイサー!」

 

『渋』と書かれた鉄板に次々攻撃が命中していく。

 

「ガ、ガガガ、ガガ」

 

 先程マシンガンの弾が掠るだけで反応した場所に銃撃よりも威力のある攻撃を連続で叩きこまれたゴーレム。体を痙攣させながら途切れ途切れの言葉を紡ぐ。そうしたかと思うと、バッと頭を下に向けて体を折りたたみ防御しようと試みる。が、そんな思惑も叶うことは無かった。

 

「折角うちの新人が見つけた弱点なんだ。隠してないで大人しく見せてくれよ」

 

 いつの間にかシオンがゴーレムの顔の下に陣取っている。風を纏った一撃を顎目掛けて打ち込むと、その威力と風の推進力により大きく仰け反らすことに成功した。そこに追い打ちをかけるかの如く降り注ぐミサイル。とうとうその威力に耐え切れず『渋』の鉄板が吹き飛んだ。そこに残されるはハマって身動きの取れないプリズミック。現れし影は両手に光を(たた)えし者、それ即ち────

 

「こいつで終わりだ!ゼノディザスターッ!」

 

 カッ!

 

 光がプリズミックに吸い込まれる。一瞬遅れてドオンッと激しい爆発が起こり、全身の至る所から炎と煙が立ち上る。ゆっくりと前倒しになるゴーレムは、粒子へと姿を変えていくのであった。

 

「二人ともよくやった。新人がこのクラスのプリズミックを撃破するとは信じらん。凄いぞお前たち」

「よっしゃー!シオンさんに褒められた!頑張った甲斐があるぜ」

「ありがとうございます!いけない、キューブ拾わないと!」

「ソラ、ズルいぞ!俺も拾う!」

 

 戦闘していた時よりも必死な顔でキューブ集めをする新人二人に苦笑いしてしまうシオン。と、カケルが何やら拾ったものを見せてきた。

 

「シオンさん、これってあの時の奴と同じですかね?」

 

 その手にはパトランプリズミックの時に拾った虹色のプリズミックキューブに酷似した物が握られていた。

 

「またこれか……一体何が起こっているんだ」

「そういえば勢いと流れで倒したって喜んでましたけど、これ本当に俺達が倒せたんですか?俺最後に中のプリズミック殴っただけですし、俺よりシオンさんの方が攻撃力も高いじゃないっすか。あれであの巨体を壊せるのか自身無いんですけど」

 

 今になって冷静に分析をするカケルにシオンから解説が行われる。

 

「恐らくカケルが倒したプリズミックはあのゴーレムの操縦士か核となる存在だったんだろう。プリズミックを倒すとその支配下にあるものはコントロールを失い自壊する。操縦士なら自身と繋がりのある機体も消滅するし、核であるならアレそのものがゴーレムの命と言える。どちらにせよあれを倒す事でゴーレムを倒したことは間違いない」

 

 そこまで説明を受けたことでカケルも納得することが出来たようだ。

 

「良かった、これで今倒したのはコピーで本物は別にいるとかいう漫画的な展開も無いわけですね」

「そうだな、倒したのが所謂(いわゆる)中ボスでもっと強いボスがいるといった場合も無きにしもあらずだが、今回はその心配も無さそうだ。これでミッションコンプリートだ」

 

 話を聞いていたソラが身震いして「ここからボス連戦とか考えたくないよ」とこぼすが仕方が無いことだろう。シオンも言っていたが、二人はまだ新人なのだ。カケルももう暫く戦いはいいや等とクタクタのようだ。

 

「まだまだ独り立ちは早いと思っていたがこの調子なら少し早めに次の段階に進んでも良いのかもな」

 

 シオンの独り言は二人に届く事はなく、彼方へ流れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜新宿某所〜

 

 薄暗い部屋の中、モニターを見つめる人物がいた。

 

「地下に放った実験体の反応が消えたか。アイツは半端な力では倒せない筈だが大物が動いたか?最近はプリフリートといいシルバースタンピードいいイレギュラーが多い。早急に研究を進めなくてはこちらが成果を出す前に認識されてしまうかのうせいもあるな……忌々しいジャンパー共め」

 

 紡ぎ出される言葉の真意は不明。だがカケル達を待ち受ける事件は着実に進行している様だった……



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期待の新人から一歩先へ
22.一人前を目指して


「よっと、これで十匹目だな」

「そんなに強くないけどエンカウント率がかなり高いね。この間の地下水道と同じくらいかも」

 

地下水道でゴーレムと演じた大立ち回りから早や一週間が経過していた。あの時の功績と実力をシオンに認められ、カケルとソラは監督役の居ない任務を任されるようになった。これは実質的な一人前であると認定された事に他ならず、二人も言い渡された時は大いに喜んだ。

しかし、そうは言ってもいきなり大きな事件を任せるというのは難しいため、まずはお試しといった具合に『植物園で目撃されたプリズミックの調査』をする事になった。報告ではここ二、三日でプリズミックらしき姿を見たとの証言が数件お客から寄せられ、その調査と可能なら解決を依頼されたものである。とは言っても恐らく何処かから侵入したプリズミックがそこを寝床にしただけで事件性や危険度は低いであろうと推察されている。なればこそ、二人のキャリアアップに指定されたのだった。

だが実際に現場に来てみると、知らされていた以上にプリズミックと遭遇していた。

 

「数は居るけど弱いって動物の赤ちゃんみたいだな。稚魚とかそんな感じ」

「もしかしたら本当にそうなのかもよ?昨日聞いた時点ではここまでの遭遇率は絶対に無かった、なのにこれっていうのはここで孵化したとかそういう可能性が考えられない?」

 

カケルもソラの意見に頷き、改めて周囲の確認をする。

現在、訪れた植物園にて入り口から間もない地点である。高い天井には採光として全面ガラスがはめ込まれ、それに届かんと木が数本伸びている。枝には見慣れない花が咲いており、来場した人々に新鮮な感動を与えてくれるだろう。

他にも地面には様々な花が植えられており、こちらは落ち着いた雰囲気で楽しませてくれる。しかし、その花の一部は所々潰れていた。

 

「折角の綺麗な花がプリズミックに踏み潰されてる……」

「仕方がないさ。ここは密閉空間って訳じゃないけど基本的には閉じられた場所だから、もし本当にここで繁殖しているなら、増えた分だけ被害が出やすいんだと思う」

「だったら早く解決しなきゃね」

 

気合を入れ直して二人は奥へと向かう。これまでの経験やシオンに教えて貰った情報等により、群れの中に大物が居るなら深い所にいる場合が多いと知っているためだ。植物の踏み荒らされた様子を観察したり軽い戦闘を繰り返しながら30分が経過した頃、突如耳に届く声があった。

 

「キャーーーーーっ!」

「「っ!?」」

 

互いを見て首肯(しゅこう)したのち急いで声の方へ駆ける。幸いすぐそばだったようで垣根を一つ二つ越えるだけで辿り着くことができた。そこには体長50センチ程の二足歩行のトカゲがおり、少女を襲っていた。

 

「うげっ、キモチワル」

「そんな事言ってる場合か!」

 

腰が引けてしまったソラとは違い、カケルは逆に飛び出してトカゲに殴りかかった。とは言っても、トカゲと少女の距離が近かったため大振りな攻撃やましてやゼノディザスター等巻き添えにしてしまいかねない技は放てなかった為に、まずは距離を離させる。腕を水平に伸ばし上へ折り曲げ、突進の勢いを乗せて相手に叩き込む。いわゆるラリアットだ。

 

「クォーラルボンバー!」

 

カケルの必死の攻撃により、激しく宙を舞うトカゲ。そこにソラのマシンガンが撃ち込まれ、地面に激突する前に光の粒子となって消えていった。

 

「大丈夫でしたか?」

 

ソラが倒れたままの少女に声を掛ける。手を差し伸べるとツンとした顔をしながらも握られたので引き起こす。服についた土を軽くほろいながら少女を見ると、金色に靡く髪に宝石を纏めたかのようなバレッタが留められている。服は白を基調としたワンピースに黒をあしらわれ、裏地には髪と同じハニーゴールドを使用している様だ。所々レースの刺繍もされており、どこからどう見てもお金持ちのお嬢様といった風貌だった。

 

「貴方たち少しはやるじゃない。あんな奴、私一人でも追い払えたけど、手柄を譲ってあげるわ」

 

高慢な態度にムッとするソラだったが、カケルがストップをかけて顔を寄せてきた。

 

(落ち着けソラ、どっかのお嬢様を相手にしても良いこと無いし早いとこ退場して貰った方が動きやすい。家まで護衛しろとか言われたら面倒だぞ)

(そんなのボクだっていやだよ。お金持ちってなんでこう嫌な性格なんだろう)

 

「ちょっと貴方たち、何コソコソ話してるのよ」

 

そんな二人に痺れを切らしたお嬢様が声を掛けてきたので、機嫌を損ねる前に対応してこの場から去ってもらおうと視線で会話した。幼馴染とはこういう時便利である。

 

「ここは最近プリズミックが目撃されていて危ないんです。俺達はそれの調査と駆除に来たジャンパーです。お客さんも今みたいに危ない目に合う前に早くここから避難してください」

「こう見えてボク達結構強いんですよ」

 

相手を安心させるため、そして危機感を煽る為の言葉をそれぞれ投げかけ、相手の行動を誘導しようとした。さっさと居なくなってくれるならそれでよし、護衛をしろというならこっちは仕事だと言い訳が出来るので警備員にでも預ければそれで解決するだろう。と甘く考えていた。

 

「なんですって?ここでプリズミックが目撃?そんな事許さないわ。丁度いいから貴方たち私に力を貸しなさい。全部この私が倒してやるんだから」

「ちょっ、ちょっと待って!お嬢様が出て行ったら危ないですよ。ここは俺達に任せて」

 

話がとんでもない方向に進もうとしていたので慌てて(なだ)めようとする。しかしお嬢様の気持ちは固い様で、あれやこれやと捲し立ててくる。そうは言っても素人を戦わせるなんてもってのほかだ。二人はなんとかして引き下がって貰おうと言葉を尽くすが受け入れてもらえず、向こうも聞き分けがないとヒステリックになってきた。そしてとうとう爆発の時を迎える。

 

「いい加減にして!この庭園の持ち主でジャンパーの私が自分の庭を守ろうってだけじゃない!貴方達も私の部下なら黙って命令に従いなさい!」

「庭園の持ち主?」

「ジャンパー?」

 

呆けた返事をする二人に今名乗りを上げる人物、それは……

 

「ゴードンコーポレーション社長令嬢アルマが命じるわ。私に従いなさいっ!」



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23.お嬢様× アルマ〇

ゴードンコーポレーション。それは世界規模で多角的に展開されている超一流企業の名である。先代社長の手により起業、データ通信と機械技術によりシェアを広げ世界進出までも果たす。現社長に世代交代してからは、医療や食品等様々な分野にも乗り出し業績は鰻上りだ。

そして目の前にいる少女がそのゴードンの社長令嬢だと名乗ったのだから二人は大いに慌てた。オマケにこの植物園が彼女の持ち物だというのだ。まだ15歳前後に見えるのに資産を所有しているとは流石超一流のお嬢様である。

 

(カケルどうしよう。超お嬢様だよ)

(そんなこと言われてもそんな人の相手したこと無いからどうすればいいのか俺もわかんねえよ)

 

「ちょっと二人で何コソコソ言ってるの?さっさと退治しに行くわよ」

 

困惑する二人だったが、彼女の中では既にプリズミック退治に同行するのは決定事項のようで、急かしてくる。対応の仕方が分からなかったが何とか落ち着いて貰おうと思いつくことを話すことにした。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「えーっとですね。お嬢様がここの持ち主ってのは分かったんですが、プリズミックは危ないから俺達プロに任せて避難してもらえると助かるんですが」

「だから私が行くんじゃない。さっきも言ったけど、貴方達も私の部下なら私がジャンパーって知ってるでしょ!」

「そういえばそんなことも言ってたような……」

「というかなんでボク達勝手に部下にされてるの?」

 

たまらず疑問を投げかけるソラ。それに対する答えは実にシンプルであった。

 

「だって貴方達ゴードンのジャンパーなんでしょ?見覚えは無いけどうちに所属する以上は私の部下で間違ってないじゃない」

「いやいや、俺達スカイジャンパーズです!勝手に決めつけないで下さいよ」

「なんでスカジャンがここに居るのよ!ゴードンの敷地にプリズミックが出たなら他所よりうちに情報提供と依頼が出されるのが普通でしょ!?」

 

そんなこと言われてもと顔を見合わせる二人だったが、特に返せる言葉もなかったので結局黙り込んでしまう。そんな態度を見かねたのか、アルマは苛立ちを隠さずに悪態をつく。

 

「全くうちの連中は何をやってるのかしら。うちの敷地でどこの馬の骨か分からない奴らに先を越されるなんて職務怠慢だわ」

「ちょっと、どこの馬の骨か分からないのは事実かもしれないけどそこまで言う必要ある?ボク達はれっきとした任務で来てるんだからね」

 

憤りを顕わにするソラ。お嬢様相手に喧嘩を売るのを止めようと落ち着かせるべくカケルがアタフタしたが、意外にも相手は気にした様子はなかった。

 

「ああ、気に障ったなら御免なさいね。そっちを悪く言った訳じゃなくてこっちの組織に物言いたかっただけなの」

「そういう事ならまあ聞き流すけど。とりあえずボク達は調査しなきゃいけないから先に行くね」

「待ちなさい。私の勘違いもあったけど、私の庭を人だろうとプリズミックだろうと勝手に歩き回るのは気持ちのいい事じゃないわ。だから私が同行してあげる」

「そうは言ってもお嬢様が居ると俺達も守りながら戦わなきゃいけないし、動きづらいというかなんというか……」

 

未だ煮え切らない態度を示すカケル。そんな様子にキレ気味に反論が飛ぶ。

 

「だから何度言えばいいの!私はジャンパーなの!それも一流の!自分で言うのもなんだけど、凄い強いわよ。あとお嬢様って禁止」

「色々言いたい事があるけどなんでお嬢様禁止なの?」

 

色々言いたい割にはそこを聞くのかとツッコミを入れたくなるカケルだったが、ここはグッと堪えて見守る。するとアルマの口から出てきた言葉は意外なものだった。

 

「貴方達はうちの管轄じゃないんだから媚び(へつら)う必要ないじゃない。だから一人のジャンパーであるアルマでいいわ」

 

その返答により、プライドは高そうではあるが悪い人ではないと判断したカケル達は納得し、同行してもいいと思えた。

 

「わかった、それじゃあよろしくアルマさん」

「よろしくです」

「ええ、さっさとこの庭からあの気持ち悪いトカゲを排除するわよ」

 

 

 

 

 

土地勘を持っているアルマが仲間になったことで、調査はスムーズになった。遭遇したプリズミックとの戦闘では抱えている日傘からレーザーを放ち援護し、探索では発生元となる場所にアタリを付け軽い集団となっているプリズミックを発見する事に貢献した。そう『貢献』である。『先導』ではない。ここが重要だった……

 

「キャーッ!なんでこんなにキモイのよ!爬虫類なんて進化の途中で立ち止まった不完全生物でしょ!なんで絶滅しないのよ!」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないっすか。だったらなんで着いてきたんすよ」

「こんな気持ち悪いのが私の庭に居るなんて耐えられないじゃない!こっち来ないで!」

 

バキィッと日傘で思いっきり殴打し、吹っ飛んだ体に追撃としてレーザーを放って蒸発させる。文句を言いつつ及び腰になっての攻撃ではあるが、自分で言うように確かな実力が感じられた。

 

「アルマさん凄いですね。的確にプリズミックを倒してるし、次の行動への流れがとてもスムーズです」

「この程度で驚かれても困るわ。普段の私はもっと凄いんだから」

 

そういう割にはふふんと胸を張りまんざらでもなさそうである。聞けば今日はオフだからいつものジャンパースーツを着ていないし、武器もメインウェポンではないとの事。攻防ともに普段以下のスペックで、尚且つ苦手なビジュアルの相手をしてこの活躍はお見事としか言いようがなかった。

 

「それにしてもこんな奴らが私の庭にのさばってるなんて許せない。さっさと親玉でも倒してティータイムと洒落込みたいわ」

 

バシュゥゥゥッ!

そんな愚痴をこぼしたのもつかの間、突如近くの池から水柱が上がった。皆慌てて臨戦態勢を取るが、立ち昇る水流が収まるまでは観察をする。そうして勢いが衰えていき影から現れた者は、

 

「きゃああああああああああああ!むりムリ無理ぃいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

体長三メートルはあろうかという巨大なトカゲであった。



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24.現れた巨大トカゲ

「何なのよアイツ、キモ過ぎるわ。貴方達早くアイツを倒して!」

 

今までの敵よりも大きくあふれ出るインパクトにより半狂乱となるアルマ。目の前に現れた存在は、同じ造形でも大きさによってこうも印象が変わるものかというのをまざまざと見せつけてくれた。大きな眼はより大きくこちらを睨み、肌を覆う鱗は凹凸を際立たせている。そこに拍車を掛ける如く、水で濡れテラテラ光る様は爬虫類が苦手なものに大いなる恐怖を与えるのは誰の目にも明らかであった。

 

「アレは流石にボクもちょっと無理かも」

「まあ分からんでもないけど。ソラはアルマさんを離れたところに誘導してくれ」

 

アルマは後ろを向いてしゃがみ込み、顔を覆っている。ここまで拒絶反応が出ていると戦うどころの話ではないが、このままこの場に居ては敵に狙われたり余波を受ける危険性が高い。ならばまずすることは、避難させることとその時間を稼ぐことだ。カケルは前に出て挑発をしながら攻撃し、注意を引き付ける。その隙にソラはアルマに駆け寄った。

 

「アルマさん、今のうちに離れましょう」

「うう、なんで私の庭にあんな奴らが繁殖してるのよ……」

 

ソラに手を引かれながらその場から離れるアルマ。本来の自分の力なら問題なく倒せるレベルの敵を新人に任せるという屈辱に涙を滲ませ肩越しに敵を睨み付けるが、カケルに向かって伸ばされた舌を見てしまい『ヒイッ』と引き攣った声を出し向き直る。

 

「アルマさん無理しないでここに居てください」

 

二人は離れた位置にあった花壇についた。背が高い花が咲いており身を隠すのに丁度よく、茎の隙間からチラっと覗くこともでき確認しようと思えば戦場の様子も窺うことが出来る。安全面を考えるなら状況が全く分からない所に位置するよりある程度情報があるほうが良いのである。

 

「それじゃボクも参戦してきますから気を付けて下さい」

「それは戦いの場に行く側のセリフじゃないでしょ。気を付けてね」

「はいっ!」

 

言うが早いか自慢のラビットスーツの跳躍力を活かしてあっという間に遠ざかっていく。その姿を見送ったアルマは歯ぎしりをしながら見送る。

 

「この私が駆け出しの奴らに後れを取るなんて……」

 

 

 

 

 

これまでであれば、例え今回と同じような敵が現れても部下に任せれば問題は無かっただろう。だが今回は一緒に戦っているのはゴードンとは関係のない者達だ。その上向こうはこちらを気遣っているばかりで、自分は先達として何も出来ていない。完全にあるべき立場が逆転していた。普段どれだけ周囲に助けられてきたか、アルマはこの時初めて知る。社長令嬢という立場で金と権力を持ち、ジャンパーとしての強さとプライドがあった。しかし今この場においてはそれら全て意味がなかった。それらはそれに対応できる他者が介在しなければ機能しないものだからだ。プリズミックに対する恐怖や嫌悪感ではなく、自身の情けなさに涙が浮かんだ。茂みから現場を覗くと今も必死に戦う二人がいる。苦戦しているようで、ぬめる肌に攻撃の通りが悪いように見える。打撃や銃撃は体を滑り、衝撃波や爆撃は鱗に阻まれて効果が薄いようだ。対するトカゲは大きな体から繰り出す伸びる舌で二人を捕まえようとし、近づく者には爪撃をお見舞いする。負けじとカケルが纏わりつこうとするが、身体を捻り尾を振り回してきた。溜らず距離を離すがそこに好機と見たか一歩踏み出したトカゲが再び爪を振るった。その攻撃を回避しようした結果大きく体勢を崩すカケル。そこに狙いを澄ました敵は尻尾を発光させて振り上げた。

 

「危ないっ」

 

思わず声が出てしまったが、離れた位置にいる自分の声が届くわけもなく、仮に近くに居てもこの震える体ではどうすることも出来なかっただろう。無慈悲に振り下ろされる鉄槌に目を背けたくなった。だがそれは杞憂に終わる。

 

 

 

 

「させないよ!」

 

頭上に敵の影が降りた時、反射的にヤバイと感じたカケルだったが、そこに更なる影が飛び込んできたのだ。白い影は迫りくる尾に向かって人参をばら撒きながらやってきた。だがこれまでのやり取りからこの攻撃では防げないと"二人"は思った。

一人は無茶だと思った。

もう一人はやっぱり無茶だと思った。

だが二人の思いは一緒ではなかった。

 

「おりゃあああああああああああああ」

 

ゲシィィィィィッッッ!

なんとソラは発射したミサイルを後ろから蹴りこんだのだ。そしてそのまま一緒くたに尻尾に押し込み両者がぶつかり合い派手な爆発を起こす。爆風に押され地面を転がるカケルとソラ。どうやら相打ちになったようで、プリズミックも尻もちを付いている。

 

「ソラ!お前なんて無茶すんだよ!」

 

詰め寄るカケルに、あははと乾いた笑いを返すソラ。

 

「いやぁ、ジャンパースーツってジャンプ力上がるから蹴る力も上がるじゃん?私のスーツってウサギがモチーフだからその辺折り紙付きだし、ハルタさんみたいな凄い蹴りなら弾けるかなって思ったの。でも流石にあれは真似できないから別の方法でブースト掛けれないかなぁって思い付きでやったんだけど、咄嗟だったしちょっと無謀だったねえ」

「ちょっとどころじゃないだろ、脚大丈夫なのか?」

 

ソラの脚は装備が焦げて焼け付き、損傷していた。肌は露出していないものの、受けたダメージは多そうに見える。

 

「怪我は多分してないと思う。でもちょっと痺れてて、少しの間立てないかも」

「マジかよ……これは流石にヤバいぞ」

 

戦場で動けないのは致命的である。動けるものは守りに入らざるを得ないし、自分だけではなく他者にも配慮した立ち回りが要求される。だからこそ先程はアルマを離脱させて憂いを無くした訳だが、また振り出しに戻った。いや、正確には先ほどよりも状況は悪い。ソラを避難させる為にはカケルが運ばなければならないが、その為には護衛か敵の注意を引き付けるものが必要だ。だがここにはそれを実行する戦力が残っていない。プリズミックに視線を向けると、向こうも立ち上がろうとしているところだった。が、上手く行かずに再び転んでしまった。プリズミックは不思議そうに自身の体を見ると、先程まで生えていた尻尾が中ほどから消失していた。どうやらソラの攻撃は相手の防御を貫き、ダメージを与えていたようだ。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

のたうち回るプリズミック。だがそれにより起き上がりやすい体勢を見付けたのか、暫くすると再び二足で地を踏みしめた。

 

「これは万事休すか。いや、俺がどうにかしないと今他にやれる奴なんていないだろうが」

「カケル!ボクの事は良いから逃げて!」

 

決死のカケルと必死なソラ。このままではどちらも共倒れになりかねない。互いに相手を守りたいと願うが、そんなことはお構いなしに尾を切られて激昂したプリズミックは二人を屠るべく飛び掛かってくる。せめて後ろにいるソラへ攻撃を通さない様にと腕を交差させ足腰に力を入れるカケル。勢いを載せて振るわれた爪は止めることは出来ないだろうと悟る。だがそれでも退かないと覚悟し構える。そしてカケルの頬を熱いものが撫でる。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

プリズミックが叫び、よろけながら後退する。大きく開けた口から煙を吐き、頭を振り回して悶えていた。

 

「へ?」

 

何が起きたかわからない。自分は攻撃を喰らった筈ではと頬を擦ると、茶色く焦げたものが付着する。ますます疑問が募るが止まった空気はソラによって割られた。

 

「アルマさん?」

 

地面に倒れてまだ起き上がれなかったソラが見つめる先にはアルマが立っており、震える肩で息をしながらパラソルをライフルの様に構えていた。



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25.葛藤の末に

 肩で息をするアルマ。未だ震える腕と脚は思うように動かない。瞳には涙が滲んでいる。それでも立ち上がりここまで戻ってきた、戦場へと。

 そのような状態で正確さを求められる狙撃染みた攻撃をした結果、カケルの頬をレーザーが掠めてしまいあわやフレンドリーファイアを起こしかけたが、ギリギリの所で悲劇を回避したようだ。本来の狙いである敵の口腔内に吸い込まれた光は十分なダメージを与え怯ませることに成功、迫る凶刃はカケルに届かず正に危機一髪であった。目の前で起こった事に呆けていたカケルは、ソラが立ち上がれずに居るのを思い出し、急ぎ引き起こして警戒に努める。

 プリズミックは体内を直接攻撃されたのが余程堪えたらしく、今も口から煙を吐き出しながら右往左往していた。今なら追撃を受けないと判断したカケルはソラに肩を貸しながらアルマの下へ移動した。

 

「アルマさんもう大丈夫、そうには見えないですね」

「……勝手に体が動いていただけよ」

「そんな状態なのに助けてもらってありがとうございます」

 

 感謝を伝えるカケルだが、アルマは苦虫を噛み潰したような表情を更に歪めて悲鳴を上げた。

 

「なんでそんな風にあっけらかんとしてられるのよ!私は現場から逃げ出したし、その上貴方を傷つけたのに何でそんな事が言えるのっ!」

 

 滲む涙を隠そうともせず、感情をそのままぶつけるアルマの目には焼け焦げたカケルの頬が映っている。震える手で放った攻撃によって刻まれたそれは痛々しく、痕が残る可能性もある。それなのに当の本人は叱責することもなくあろうことか感謝を述べてきた。何故そんな事が出来るのかアルマには理解が出来なかった。

 そんなカケルは尚もなんで怒られてるのか分からないとポリポリ頭を掻きつつ口を開いた。

 

「ええと、アルマさんが逃げたって俺は思ってないし、アルマさんが助けてくれなかったら俺、死んでたかもしれないからオツリ来るくらいだと思ってます。女の人じゃないから顔に傷つくくらい大したことじゃないっすよ」

「攻撃はそれで納得するにしても、逃げた理由とは関係ないじゃない!」

 

 今にも掴みかかってきそうな剣幕。いい加減怒られてる理由が理解出来ないカケルは、疑問をストレートにぶつける事にした。

 

「じゃあアルマさんは何で逃げたんですか」

「そんなの決まってるでしょう!トカゲが気持ち悪くて戦えないからよ!」

 

 怖くて、悔しくて、そして何より情けなくて。最早止めどなく流れる涙を拭うこともせずそのまま睨み返してくる。それを正面から受け止めて更に質問を重ねた。

 

「じゃあ何で助けに来てくれたんですか?」

「えっ、そんなの……」

 

 分からない、何故そうしたのか、何故そう出来たのか。足が竦んで動けなかったはず。それでも動けた理由は、動機は、考えれば考えるほど分からない。

 

「わからない、わからないわよっ!気付いたら動いてたのよ!」

 

 狂乱したかのように首を激しく振り回す姿は小さな幼子が駄々をこねる様に見えた。だから子供を安心させるように優しい声を掛ける。

 

「なんだ分かってるんじゃないですか、理由」

「何を言って……」

「だから考える前に体が動いてたんでしょ?敵が怖いとか気持ち悪いって思うよりも、助けなきゃって反射で動いたんですよね?」

「わからないわ……それに例えそうだとしても、私は一度逃げ出したのよ。倒すべき敵を見ることも出来ず尻尾を巻いて」

 

 考えが纏まらず、自己否定をすることで思考から逃避をしようとするがまたもカケルは逃げ道に回り込む。

 

「でも俺達のピンチに来てくれたじゃないですか。襲われる直前までの姿を見てなきゃ咄嗟に動けないし、集中して見ないと狙撃なんて出来ませんよ。しっかりと見れてるじゃないですか。それなのに敵の気持ち悪さよりも俺達を助けたいって思いを優先してくれたって考えたら、感謝こそすれ怒りなんて湧いてきませんよ」

 

 アルマはハッとした。言われて気付いた。自分はプリズミックの口を狙ったのだ。それは勿論相手の顔を凝視せねば出来ない芸当だ。何故そんな事が出来たのか分からないが、今までの自分ではそんな事想像するに(おぞ)ましい。だが現実に先ほどはやってのけたのだ。またも何故、わからないと呟くがそれを止めたのはここまで成り行きを見守っていたソラだった。

 

「アルマさん、ボクにはアルマさんの葛藤がどれ程の物かわかりません。でも良いじゃないですか。アルマさんが助けたのは細かいことに拘らないお人よしで、過去の事なんか覚えてない鳥頭なんですよ。アルマさんも綺麗に忘れて、これからを大事にしていきましょう」

「鳥頭って失礼だな。今朝の朝食メニュー位なら覚えてるぞ」

「じゃあ言ってみてよ」

「ええとパンだろ?あとベーコンにオムレツ、ウィンナー。あと味噌汁?」

「ベーコンと味噌汁は昨日だよ。そもそもパンに味噌汁とか普通合わせないって考えればわかるでしょ。全然覚えてないじゃん」

「ぷっ、何よそれ」

 

 わざといつもの様な掛け合いを交わす二人の姿に思わず吹き出してしまったアルマ。そして一度張り詰めていたものが途切れると、反動により笑いが止まらなくなってしまった。

 

「ふ、ふふふ、あはははははははは」

「そんな笑わなくても」

 

 突然のオーバーリアクションにカケルが恥じ入るが、先ほどまでの暗い表情と打って変わり年相応の少女の顔をしているのを見てしまうとそれ以上言えなくなる。ソラと顔を見合わせ、まあいいかと二人も笑い皆笑顔になる。だがそんな空気に割り込む『ジャリッ』という音が耳に届く。

 

「ふふふふ。折角人が吹っ切れて楽しい気分になってるって言うのに、邪魔をするなんて無粋ね。そんな輩は私の庭から退場してもらいましょうか」

「力を貸しますよ」

「ボクも脚のお返ししてやらなきゃ」

 

 三人の見据える先にはプリズミックが(たたず)んでいる。尾は千切れ、舌は焼かれ満身創痍といった感じだが、眼には敵意を宿してこちらを睨む。

 

「GYURUAAAAAAAAAA!」

 

 舌が回らないのかシューシューと空気を多分に含んだ雄たけびを上げながらこちらへ走ってくる。

 

「貴方達、さっきよりマシにはなったけどまだ苦手意識はあるわ。だから前線は頼んだわよ」

「はい!」

「任せてください!」

 

 己の弱点を自覚する。そのうえで立ち向かうようになった姿には『勇気』というものが宿っていた。



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26.本物を求めて

「アルマさんこの先なんですか?」

「多分ね、この先に水生植物を扱ってる大きい池があるの。"アレ"以上の何か潜んでいるとしたらあそこ以外考えられないわ」

 

 十数分前まで戦っていた気色の悪いトカゲを思い出し、顔を(しか)めるアルマ。

 

 

 

 三人が連携が始まってからは一方的な展開だった。あの時点でプリズミックは部位欠損が激しく満身創痍、攻撃も尻尾や舌が無くては単調になり動きが読みやすかった。そんな状態では前衛で動き回るカケルを捉えることは出来ず、腕を伸ばせばソラによって弾かれ、引こうとすればアルマに足元を焼かれるといった具合で涙目である。最後は再度口の中に攻撃を受けるという拷問のような仕打ちにより光へと還ったのだった。

 これで事件解決と喜んだ一同はアルマ主導の元、庭園を観覧することにした。一応、被害状況と安全面の確認という名目ではあったが、自慢の庭を見せ楽しませることでアルマなりのお礼をしたかったのだろう。二人もこれを承知し案内を受けていたのだが、ここで重大な問題が起きた。

 途中一匹のトカゲ型プリズミックが通りがかったのである。これの何が問題かと諸君は思うだろうが非常に大変な事なのである。以前シオンが解説していたが、集団化したプリズミックが繁殖型だった場合、ボスに当たる者を倒すとコロニーは瓦解する。これは一瞬で起きる訳ではないが、プリズミックは擬態模倣する種族である以上、上位の者が滅ぼされるとそれに関連する擬態は直ぐに解かれるのが一般的だ。これは上位の者が元となった存在を模倣しているのに対して、下位の者は上位者を模倣している事に由来する。噛み砕いて伝えると、真似をする者が居なくなって形を保てなくなったという訳だ。

 ボスを倒した今、トカゲ型プリズミックは消え去り、周辺に逃げ遅れたプリズミックが居たとしても、通常のキューブ型であるはずなのだ。そのことから導き出される答えは『更に上の存在がいる』だった。そしてアルマの予想では、大型トカゲが水場から飛び出してきた事もあり、アレよりも大きな個体がもっと大きな池に生息している可能性が予測されるとの事。

 こうして一同は引き続きプリズミック退治をするべく、水生植物を扱う池へと向かうのだった。

 

 

 

 

「ここがうちの見せ場の一つ『ビクトリアガーデン』よ」

 

 アルマに案内された場所は横幅五十メートルはあろうかという巨大な池だった。大きな蓮の葉が広がっており、薄桃色や黄色、青等様々な花が咲き誇る美しい場所だった。

 

「うわー綺麗。素敵な場所ですね」

「俺この葉っぱテレビで見たことある。上に乗れる奴だ。アルマさん、ちょっと乗っても良いですか?俺夢だったんすよ」

「そんなのダメに決まってるでしょ!これは遊ぶものじゃなくて見て楽しむものなんだよ!」

 

 カケルはソラに叱られちょっと調子に乗り過ぎたかと反省する。だがアルマは意外な返答をする。

 

「あら、いいわよ?私もちょっと興味あるのよね。よく挑戦しようとした人は知ってるんだけど、目の前でやった所は見たこと無いのよ」

「マジっすか!?それじゃお言葉に甘えて」

「気を付けなさい」

 

 この言葉をキチンと聞くか一度振り向けば後の展開も変わったのかもしれないが、カケルは気付くことは無かった。アルマが悪戯っぽい笑みを浮かべている事に。

 

「あの、アルマさん。本当に良いんですか?」

「ええ、貴方もよく見ておくといいわ。多分滅多に見れる光景じゃないだろうし」

 

 こんな素晴らしい景色を玩具にするなんて激怒すると思われたアルマが楽しそうにしている。あれほど自慢の庭だと言っていたのに、その言動とのギャップにどこか違和感を抱きながらも言われた通りカケルを見守ることにした。ああ言ったものの、実はソラ自身も興味はあった。ファンタジーの世界が現実に舞い降りたような光景を喜ばない女の子など居やしないのだ。この場にいる者全員がワクワクとしつつ、カケルがゆっくり歩を進めていく。

 

「そーっと、そーっと。おりゃっ」

 

 池のふちまでたどり着いたカケルは恐る恐る足を差し出し、葉の上に足が掛かると万感の意を込めて飛び移った。しかし、

 

 バシャアアアアアアアアアアアン!

 

「えええええええええええええ!」

「あっはははははははははははは」

「ぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」

 

 なんと大方の期待を外してカケルは池の中に沈んでいったではないか。三者三様の反応を見せつつ、慌てて引き上げに向かう。

 無事池の(ほとり)に達したカケルは両手足を付きながら息を整えていた。

 

「ぶはぁ、酷い目にあった……」

「ふふふ、良いものが見れたわ。ありがとう」

「アルマさん、もしかしなくてもこうなる事知ってました?」

 

 ずぶ濡れのカケルを楽しそうに眺めながらアルマは肯定した。曰く、この蓮の葉『オオオニバス』であるが、これに乗る重量は20~30kgが限度であり、子供ならまだしも体重が重い大人はほぼ乗れないのだとか。おまけに葉のふちがせり上がっていることにより揚力が働きやすいのだが、そのまま上に物が乗ると、一部途切れている個所から浸水し、あっという間に沈むのである。よく体験会などで乗る葉では、この部分をテープなどで補強し、浸水しないように工夫されているのだ。それを一切手入れしていない物に乗るとどうなるのかはご覧の有様である。

 

「酷いじゃないっすかアルマさん、お陰で死にかけましたよ」

「そういう割には貴方余裕あったじゃない。親指立てながら沈んでいったの見逃してないわよ。こっちこそ腹筋が攣るかと思ったわ」

「うぐ、よく観察しておいでで」

 

 実はカケルが溺れかけた地点は水深80センチメートルと脚が付くレベルのものだった。焦りはしたものの、落ちてすぐ脚が付いたのでパニックにはならずに済み、折角なのでちょっと遊ぼうとしたカケルだった。

 

「でもそれを置いといてもこの仕打ちはあんまりじゃないですかね?」

「ごめんなさいね。貴方が好奇心を抑えられなかったのと同じで、私も抑えられなかったのよ。それに……」

 

 今までの笑みを消し、スッと引かれた瞼を何処かへ向けるアルマ。二人もその視線の先を見ると、池の中心が波打っていた。

 

「この池は外周部こそ脚が付く位の深さだけど、中心に向かうにつれて深くなっているわ。恐らくボスがいるならソコね。そして大きな音を立てれば縄張りを荒らされたと思うんじゃないかしら?」

 

 ズズズズと低い地響きを唸らせ、池が隆起する。その高さは徐々に増していき、10メートルまでに達した。ドーム状に膨れた水は徐々に流れ落ち、木々に覆われた蒼い格子模様が姿を現す。

 それは巨大な亀であった。甲羅から飛び出す腕は岩のような質感をしており、人間なら肘に当たる部分には棘が生え、鋭利な爪と合わせて対象を薙ぎ払うと容易に想像できた。

 

「GUGYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!」

 

 住処を荒らされ怒りを顕わにする敵を前にし、警戒を強める二人。そう、またしても"二人"である。

 

「なんでトカゲを倒してやってきたのに最後に出てくるのが亀なのよ!折角少しだけ慣れてきたのに台無しよおおおおおおおおおおおおおお」

「そんなこと言ってる場合ですか!来ますよ!」

 

 どこか緊張感が足りずイマイチ締まらないジャンパー達だが、無情にも戦闘は開始されるのだった……



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27.現れた庭園のヌシ

 当初は錯乱していたアルマだったが、戦闘をこなす内になんとか動けるようになった。というよりも、動かなければいけない状況になったのだ。池から地上に上がってきた亀プリズミックは、その大質量から繰り出す強烈な一撃により地を揺らした。(うずくま)ってをかぶり振るアルマだったが、地面を伝う衝撃に驚き飛び上がる。そのまま何が起こったのか確認しようと首を向けると、すぐ傍で巨大な顔がこちらを睨んでいるのを認識した途端、言葉にならない叫びを上げながら飛び退(すさ)るアルマ。

 実際は対象の大きさから遠近感を誤認しただけだったので距離は離れていたのだが、何せいきなりの遭遇では脳の処理が追い付かなかったのは仕方がない。もし本当に至近距離まで接近を許していたのなら、カケルかソラが無理矢理引っ張って助けていたであろうが。

 そんな訳でしゃがみ込んでいる訳にもいかず、少しでも早く倒して平穏を取り戻すべく奮闘するのだった。

 

「ダメです、全然効いてません」

「甲羅を攻撃しても無駄よ。飛び出している頭や手足を狙いなさい」

 

 亀というだけあって守りが非常に硬く、狙いの付けやすい甲羅部分はソラの一点集中攻撃をもってしてもかすり傷を付けるだけに留まっている。かと言って、アルマの指示通りに顔や手足を狙ってはみるものの、顔に攻撃が迫ると甲羅の中に引っ込めるのだ。その為、常に体を支えている手足を狙うのだが、こちらも硬質でありどれ程効いているのか手応えが得づらかった。

 

「結局顔を狙うのが一番って事か」

「そうね。普通に狙ってもダメなら策を使うわ。引っ込めた頭が出てくる瞬間に全員で攻撃を打ち込むわよ。引っ込めてる間は視界が狭まるから、狙い撃ちにしてても気付かれづらいわ」

「了解です。パワー充填します」

 

 まずはアルマの放った攻撃を避けるべく、首が甲羅へと収納された。その間に二人は大技を使うべくチャージモーションに入る。遅れてアルマも傘を構える。これまでは閉じられた傘を狙撃中の様にしてレーザーを放っていたが、今回は開いた状態だった。見る見る光が傘に集まり、正視出来ない程の光量となる。それに伴い、カケル達も準備が整ったようだ。

 

「相手の手足の動きをよく見なさい。首を出す際に必ず力が入るわ。そのタイミングで撃つわよ」

「「はい!」」

 

 今か今かと待ち受ける三人。長く感じる短い時間の中で緊張の汗が頬を伝う。そうしてその時は来た。

 グッとプリズミックの両手が同時に沈み込む。甲羅の空洞から覗く深淵にも似た闇から赤く光る双眸が見えた。

 

「今よっ!ソラーレイ!」

「キャロットバズーカー!」

「ゼノディザスター!」

 

 赤、白、黄の三種の光が今飛び出さんと伸縮するターゲットに飛来する。

 ズガ────────────ンッ!

 虚空へと吸いこまれた奔流は大規模な爆発を生じさせ、土埃が舞い上がる。濛々と立ち込める煙幕は先程とは打って変わって静寂を(もたら)す。

 その光景を見届けた者達は閉じていた口を開く。

 

「やったか!?」

「お約束をありがとう!ボクもう先の展開読めたよ!」

 

 大方の予想通り、薄れていく砂塵からは巨大なシルエットが浮かび上がり、ピジョンブラッドを想起させる瞳がギラついていた。それだけではなく、新たな光点が生まれる。

 ビュイン!

 直後、輪ゴムを弾いた時のような低い振幅音と共に前方の煙が全て吹き飛ばしながら何かが突き抜けた。後方から聞こえる爆発に顔を蒼くする一同。

 

「ビーム打ってくるとかガメラじゃねえんだぞ……」

「ビームはゴジラ、ガメラは火球でしょ」

「貴方達そんな事言ってる場合!?」

 

 緊張感のない二人に思わずツッコミを入れてしまうアルマ。だがそんな彼女たちを敵は待ってくれず、次なる行動に移る。なんとあの巨体を更に大きく見せるかの如く、前足を高々と掲げたではないか。そして勢いよくそれを地面へ叩きつけると、最初に喰らった地震を数倍にした揺れが起きる。皆余りの衝撃に立って居られず転倒してしまうが、追い打ちをかけるかのように地を(えぐ)りながら巻き上がる波が襲い掛かってきた。

 

「ぐあっ!」

「きゃああああああ」

 

 三人は衝撃波に飲み込まれ舞い上げられてしまった。岩と土をミキサーに掛けられているような状態に放り込まれ、全身を隈なく殴打される。せめて頭だけは守ろうと身を縮めて手で覆い耐える。カケルは長く感じた数秒が過ぎて苦痛から解放され気が緩んだのもつかの間、急な喪失感に襲われる。何が起きたと認識するよりも早く体は自由落下を始め、そのまま地面に叩きつけられた。

 

「ぐはっ!げふっ!」

 

 息が出来ない、苦しい、痛い、様々な思いが思考を埋める。ふいにズシンズシンと何者かの歩く音が聞こえそちらに顔を向けると、動けないカケルにとどめを刺そうとプリズミックが歩み寄ってきている所だった。

 

(マズイ、早く逃げないと!)

 

 呼吸も出来ず痛みに悲鳴を上げる体を動かそうと力を入れようとするも、思うように動いてはくれない。それでも踏ん張ろうと試みていると酸欠状態での無理な運動により、ふっと意識が飛びかける。それに伴い、緊張していた筋肉も弛緩し、突き立てていた腕も崩れ落ちてしまった……再び体が地面へと吸い込まれていく。胸にから落ち、肺に僅かに残っていた酸素も放出され、こふっと小さな吐息が漏れる。カケルは反射的に空気を求めて吸い込もうとするがそれは叶わない、と思われたのだが、何故か呼吸が出来た。先程の衝撃によって体内の歯車が噛み合ったのだろうか?そんな事を考えてる暇も惜しいとばかりに必死に息をする。苦しさから解放されたカケルが落ち着いたのもつかの間、プリズミックの大木のような脚が振り下ろされる。悲鳴を上げながら転がるように回避したカケルはすぐさま起き上がり距離を取った。

 

「はぁはぁ、し、死ぬかと思った……」

 

 憔悴(しょうすい)しきり肩で息をするカケル。そこにソラとアルマが駆け寄る。

 

「カケル大丈夫!?」

「自分でどうにか出来たんだから一先ずは無事そうね」

 

 酷く焦った様子のソラと比べるとアルマは幾らか冷静なようだ。しかし表情には焦りと安堵が同居しており、内心穏やかではないようだ。

 

「ぶっちゃけもう駄目だと思ったけど、ギリギリの所でなんとかね。二人も結構派手にやられてるな」

 

 カケルの言う通り、ソラとアルマも先程の土石流に飲み込まれ傷ついていた。白く輝いていたラビットスーツは土で汚れ、手足にも軽い出血が見られる。だがそんなソラはまだ良い方で、アルマはもっと悲惨な姿であった……

 ジャンパースーツではなく、あくまで私服でいたアルマは防御機構が存在しておらず、生身で濁流に飲み込まれた結果ブラウスやスカートは破れ、手足は痛々しい打撲の痕が何ヶ所にもあった。よく見ると足元が覚束ないようで、震えてまともに動けるようには思えない。

 

「ちょっとこれはヤバイかもれしませんね。撤退して救援呼ばないと」

 

 全員が負傷しており、これ以上交戦しても被害が増えるばかりで撃退出来るビジョンが見えないカケルが逃げを提案する。が、それを止めるものが居た。

 

「あら、スカイジャンパーズはこの程度の敵で逃げ出すのかしら?」

「こっちの攻撃はまともに通用してないのに相手のは一発喰らったら致命傷なんですよ!そんな無理ゲー、ゲームじゃないんだからやる意味ないです。それに一番怪我してるのアルマさんじゃないですか。プライド優先して死んだら元も子もないでしょ」

「ボクもカケルに賛成です。もっと攻撃力高い人か大人数でやらないと勝ち目薄いと思います」

 

 不遜な顔で煽ってきたアルマに対し、状況を冷静に分析して逃げを選ぼうとするカケルとソラ。だがそんな二人に対して、不敵な笑みを浮かべて切り返す。

 

「だから勝ち目があるって言ってるのよ。二人ともこれから一気に逆転するわよ」

 

 とんでもない事を言ってのける女傑に、新人二人は眼を大きく見開いて互いの顔を見つめるのだった。



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28.アルマの作戦

「その時が来るまでとにかく逃げ回って!回避に徹すれば躱すのは難しくないはずよっ」

 

 アルマの驚愕発言のあと、三人は短い作戦会議を行った。内容を知らされたカケル達は大胆な策に驚きはしたものの、実現可能と思わせるそれに継戦することを選択した。撤退するのはそれが失敗した後でも問題ないとの判断だった。

 こうして先程までと違い、距離を取りつつ挑発程度の散発的な攻撃を繰り返す三人には焦りという物は見えず、敵の攻撃も落ち着いて対処出来ていた。中でも、アルマが負傷して機動力が落ちている事を考慮して、何かあってもどちらかがカバーできる距離を保ちつつ動けている点が非常に良い。互いにアイコンタクトを取りながら、プリズミックからのヘイトをカケルとソラがコントロールし、その隙にアルマが射線外へと逃れるというパターンを形成するも出来た。そうまでして機を窺うのは勿論、ここぞという反撃のチャンスを見極める為であった。そしてその時は今来たる。

 再び大きく両足を振り上げたプリズミック。アルマはこちらが回避に専念すると相手が動きを阻害するために、また決定的な一撃を与えるため、もう一度あの地震と土石流を撃ってくると予想した。その際に高々と上げられる脚に注目、あれだけ仰け反るように高く足が上がったのなら、後一押ししてやれば重心を崩して倒れるのではないかと考察したのだ。

 

「来たわ!ありったけ叩き込みなさい」

「うりゃりゃりゃりゃ」

 

 顔を中心に撃ち込まれる各種弾幕、爆煙に包まれて尚止まらない砲撃の雨に、徐々に後ろへと傾く巨体。

 

「これでぶっ倒れろおおおおおおおお!」

 

 カケルの渾身の力を込めて放たれた一撃は顎を下から撃ち抜き、良い所に貰った亀のバランスを崩すことに成功した。だがそれでも転倒しまいと必死に手をワタワタと振り回して抵抗する姿はいっそコミカルである。

 

「往生際が悪いよ、大人しく倒れてよね」

 

 その頑張っている両手に無慈悲なミサイルが飛んでいき爆発が起きると、今度こそ完全に倒れていく。ズドーンとけたたましい音を立てながら仰向けにひっくり返った亀、何とか起き上がろうと藻掻くものの、両手脚は甲羅の高さよりも短く、空を切るばかりで地面に届く事はなかった。

 

「さあ貴方達、今のうちに片づけるわよ」

「了解です。こうなっちゃうとちょっと可哀そうにも思えるけど、仕方ないよね」

「さっきは無理ゲーって例えたけど、これじゃ嵌めゲーだな」

 

 二人はアルマの指示で仰向けになった亀の腹の上に飛び乗った。本当ならアルマもここまで来たかったのだが、ジャンパースーツで無いために自力で飛び移るジャンプ力が無いのともう一点、負傷が激しくこの場で予想外の出来事が起きた場合の防御手段が限られているためである。

 

「さて、どうやって攻撃しようか?」

「とりあえず甲羅のつなぎ目を狙ってでいいんじゃないか?他に思いつかないし」

 

 そうだねと相槌を打って亀裂が一番深い箇所へと向かう二人。そこは腹の中心部であり、一際(ひときわ)甲羅同士の結合線が濃い場所だ。カケルがそこを軽く殴ってみると、周囲に比べると少し柔らかく感じられた。

 

「ここなら思いっきりやればダメージ通りそうだな」

「ねえカケル、今思ったんだけどさ、プリズミックってコアがあるじゃん?」

 

 何を当たり前の事を?と(いぶか)しむカケルに思ったことの続きを話す。

 

「今までの戦ってきた奴って殆どコアが目に見える場所にあったでしょ?でもこいつはパッと見て分からない。そういう時は体内に保持してるってルイカ先輩が言ってたよね」

「ああ、多分こいつもそういう類の奴なんだろうな。亀だし甲羅の中にでもあるんじゃないか?どっちにせよ外側が硬くてコアは傷づけられないだろう」

「ボクも最初はそう思ったんだけどさ、蟹ってお腹からカパッと外せて中取り出せるじゃん?亀と蟹じゃ違うだろうけど、この線に沿って攻撃したら外せたりしないかな?」

 

 思わぬ考察だったが、適当に攻撃するより何か指針となる物を決めた方が良いかとカケルもとりあえず頷く。そんな訳でソラはミサイルを大量に床にばら撒き、カケルがそれを亀裂に沿って配置するという作業が始まった。これまで敵に向かって発射してきた物を飛ばさずに置くのは不発弾を処理している気になって少々恐ろしい。現にこれらのミサイルは後程一斉に起爆して大爆発する予定なので、大差ないのであった。

 作業開始から数分、高低差により作業の様子が窺えず、攻撃する音も聴こえないアルマは焦れた声を出した。

 

「ちょっと!何もしてる気配が無いんだけどどうしたのよ!」

 

 すると甲羅の端にひょこっと顔を出したソラが疑問に答える。

 

「今ちょっと作戦の準備してまして!カケルーッ!あとどれぐらい掛かりそう?」

 

 遠くから『もう終わるぞー』と微かな声がした。その返事を受けて向き直ったソラは、そっち行きますねと声を掛けて飛び降りた。

 

「いったい何をしてのよ?」

「実はカクカクシカジカでして」

「本当に『カクカクシカジカ』って喋っても伝わらないでしょ!」

 

 えへへと笑うソラを尻目にプリズミックへ目を向けると、丁度カケルも降りてきた所であった。

 

「ソラ、準備オッケーだ。デカイ花火上げてくれよ」

「了解、特大のヤツ行っちゃうからね!」

 

 出番とばかりに腕まくりをして砲身を構えるソラ。そこへ普段の3倍はあろうかというサイズのミサイル一対を顕現させ、目標へと向ける。そのまま大きく息を吸ってトリガーを引き絞る。

 

「たーまやー!」

 

 解き放たれた鉄製の火種は大きく弧を描き、巨体の陰へと吸い込まれていく。僅かな静寂が訪れ不発かと思われたその時────

 

 ボッッッッッグァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

「ひぃっ!な、なにが起きたの!?」

 

 突如聞いたこともない規模の大爆音が鳴り響き、うろたえるアルマ。ミサイルが向かった先ではもうもうと煙が上がっており、爆発の規模を体現している。かくいうソラとカケルの二人も予想を遥かに超える大爆発に引きつった表情をしていた。

 

「ちょっ、貴方達!本当に何をしたの!?」

「敵の弱そうな箇所に爆弾敷き詰めて爆撃した感じです。まさかこんな事になるなんて思ってませんでしたけど」

 

 先程まではひっくり返ったプリズミックが手足をバタバタとして姿勢を立て直そうとしていたが、今では手足は弛緩しぐったりと放り投げられていた。どうやら至近距離での衝撃により気を失ったようだ。

 ともあれ大きな一撃を与えることには成功したようなので、一連の成果を確かめるべく煙が晴れた後に再び腹の上へと登った二人が目にしたのは凄惨な現場であった。

 腹を覆う甲羅の殆どは消し飛び、僅かにへばり付いている部分もひび割れたガラスのような有様である。中でも一番酷いのは、二人が最初に攻撃しようとした中心部であり、一通り作業を終えたカケルが余ったミサイルを『とりあえずここでいいか』と安直な考えで纏めて置いたの結果によるものだった。

 ここは甲羅だけでは無く、肉ごと抉れて消し飛んでいた。そうして消し飛んだ肉の向こう側から紅く脈動する、心臓に似た物体が露出している。

 

「うわぁ……これは酷いね」

「苦しませるのも可哀想だから、一思いに逝かせてやろうぜ」

 

 幾ら相手がプリズミックとはいえ、何も二人は惨殺したいという訳ではない。争う相手であっても敬意を評して葬ることを選択した。

 

 

 

 

 

 

 アルマの瞳に一条の光と砲撃音が届いた。途端目の前に横たわる山のような物体が光の粒子へと変換されていく。

 

「ふぅ、今日はオフだって言うのに大変な目にあったわね」

 

 ため息混じりに独りごちるアルマ。お気に入りのワンピースはあちこち破れ、髪から爪先まで全身土で汚れている。護身用に持ち歩いていた日傘型対プリズミック兵器だけが綺麗なままでアンバランスさを醸し出している。

 己の満身創痍ぶりに改めてため息を付き、健闘した二人を讃えようと顔を上げようとした時、背後から何者かがやって来るのであった。



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29.報告と約束

「お嬢様!大丈夫ですか!?ああっこんなに傷だらけになって……すみません、私が駆けつけるのが遅くてこんな姿に」

「落ち着きなさいマフユ。かすり傷、とはいかないけど大事にはならない程度のものよ。でもどうしてここへ?」

 

 マフユと呼ばれる女性──全体的に端正な作りで釣り上がった眼と眉は厳しく出来る女と思わせる一方、スカイブルーのショートヘアーは慌てて来た為か癖毛なのか分からないが所々跳ねていた。服のチョイスも上は大きく胸元が開けたスーツでチラリと下着とへそが覗いている。下はピッチりとしたタイトスカートで、その周りを上着から伸びた生地がパニエでも仕込んでいるのかふわりと取り囲んだ特徴的なスタイルだった──にアルマは優しく訪ねた。

 

「今日はお嬢様が休暇でこちらに来られると聞いていました。その上で本社にここでのプリズミック出現の連絡が入りまして、お嬢様の身に危険が及んでないか急ぎ駆け付けたのですが、時既に遅く不甲斐ないです」

「この姿は私自身の失態よ。貴方が気に病む必要はないわ。ところで、失礼だけどそっちの貴方はどちら様かしら?」

「俺の名はシオン、スカイジャンパーズの者だ。後輩から連絡を受けて駆けつけたんだが、チラッとしか見えなかったがあんな大物を君たちだけで倒したのか?」

「"あの"シオン!?嘘、引退したんじゃ?」

 

 なんとシオンが現場に現れたのである。そしてアルマの中では引退した物として扱われていたらしい。

 

「まあ人手不足から駆り出されたって所さ。今は後進の育成に力を入れてるから、間違った認識ではないな」

 

 そこまで話した時、プリズミックキューブを拾い終えたカケル達がやって来た。

 

「ビックリした、シオンさんどうしてここへ?」

「ソラから連絡を貰ったんだ。ボスと思われる個体を撃破したけど、まだ調査の必要がありそうだと。これまでカケル達は色々なプリズミックと対峙してきたが、そんなお前達がボスと勘違いするレベルの敵より上の存在が居るかもとなれば、手に負えないクラスの物が出てきてもおかしくないと思ってな。念の為来てはみたが要らぬ心配だったようだ、良くやった」

 

 険しい表情で説明していたシオンだが、最後の一言は優しい笑みで語られカケルの肩に手を置いて労う。当のカケルは憧れであるシオンから認められ、誇らしいやら照れ臭いやらで頬を掻いている。

 

「状況を理解してもらえたところでもう一度確認する。君たち三人であの大型プリズミックを倒したのか?そんなボロボロになってまで」

「はい、最初は結構マジヤバくて逃げようって話してたんですが、アルマさんが作戦を思いついてくれて、それを試してダメだったら逃げようって」

「でもその作戦がドンピシャで決まったんだよね。だからこの怪我は前半戦とその前のトカゲと戦った時に負ったものです」

 

 殆どは亀のダメージですけどと補足したソラ。そんな二人にシオンは今回の騒動について大まかな流れを説明させ、情報を纏める。

 

「整理しよう。二人は組織からの命令で現場に到着。ここでトカゲ型プリズミックに襲われているアルマ氏を発見、これを助ける。その後成り行きで同行してもらいトカゲ型プリズミックの親玉と思われる個体を撃破。しかし擬態が解除されていないプリズミックを確認した事でソラはこの時点で本部に連絡を入れた」

「俺それ知らなかったんだよな。いつのまにしたんだよ」

「トカゲ見付けて割とすぐだよ。ボクのジャンパースーツはソフィーさんのお手製だからね、この袖の部分に連絡機が仕込んであるんだ。まあそれ教えてもらったのつい最近だけど」

 

 カスタムされたスーツと聞いてカケルが『俺もそういうの欲しい』と騒ぎ始めたため、脱線した話を戻すべくシオンが引き継いだ。

 

「とにかく、報告の後に亀型プリズミックを発見、紆余曲折あるもののこれを撃破し無事解決。そのタイミングで俺とマフユさんが現場に到着したって事で良いんだな?」

「ええ、それで概ね問題ないわ。敢えて問題点を挙げるなら、なんでトカゲや亀なんかに擬態したって事ね。私への嫌がらせかしら」

 

 ふんっと面白くなさそうに顔を背けたアルマに対し、これまで口元に指を当てて思案していたマフユが口を開く。

 

「もしかしてですがお嬢様、確か以前ハクから貰った誕生日プレゼントで亀とトカゲがいませんでしたか?」

 

 疑問を提すると突然ビクッと肩を震わすアルマ。

 

「嫌な事思い出させないでよ!ああいうの苦手なのに、無駄にキラキラした顔で『誕生日おめでとうございます!コイツ可愛がってやってください!』とか言うから受け取らないってもの失礼だし、気持ち悪かったし、本当に大変だったのよ!」

「で、それは今何処に?」

「……え?」

 

 途端、挙動不審になって視線を逸らすアルマ。先程までは饒舌になっていたのに、今は言いずらそうに口をもごもごと動かす。

 

「ええと、それは……気持ち悪いから逃がしちゃった」

「どちらへ?」

「その……そこに」

 

 おずおずと池へ指を向けるアルマ。皆がそちらに目を向けると、丁度池の端からチャポと音と共に小さな亀が這いだして草の上を歩いていく。遠ざかっていく亀を見送り再びアルマへ戻ってきた8個の瞳。

 

「つまりはアルマさんが逃がした亀が原因って事?」

「捨て去れたペットが人類に逆襲してくるってありがちな展開だよね」

「煩いわね!しょうがないでしょ!苦手なものは苦手なのよっ!」

 

 ムキーッと怒るアルマだが、その顔に浮かぶのは怒りではなく羞恥なのは誰の目にも明らかであった。そんなアルマを見てマフユは言った。

 

「珍しいですね。お嬢様が他者にこんな素直な表情をお見せになるなんて」

「べ、別にそんなんじゃないわ!この子達が私を揶揄(からか)うから怒ってるだけなんだからっ!」

「ツンデレ?」

「ツンデレだね」

「誰がツンデレよ!」

 

 顔を赤らめ、言葉を発する度に身振り手振りのアクションも激しくなり、しまいにはそれに疲れてぜぇぜぇと肩で息をしていた。

 

「そんなことはともかく!マフユ、貴方が駆け付けてくれたっていうだけで私は嬉しいわ」

「いえ、私はただお嬢様が心配だっただけですので、そんな感謝なんて」

「素直になってというなら貴方にこそ言うわ。貴方は私の部下ではなく友人なのだから、いい加減仰々しい言葉遣いはやめて対等に扱って欲しいわね」

 

 そう仰られましても、と歯切れが悪いマフユに痺れを切らしたのか、アルマは彼女の手を取って胸の高さに持ち上げる。そして自身も逆の手を握って前に突き出す。その拳には一本だけ立っている指があった。

 

「今度二人でショッピングに行くわよ!これは命令じゃなくて約束なんだからねっ!」

 

 ビシッと突き出された人差し指、ではなく小指が差し出される。その光景にあっけにとられたマフユだったが、クスリと笑ったあと自分も小指を立てて絡ませる。

 

「はい、約束です」

 

 朗らかな笑みを返されたアルマは照れくささから目をつぶってそっぽを向く。だが紅潮した顔は隠せず、自分でも熱を感じている最中だ。

 

「やっぱりツンデレだ」

「だね」

「ツンデレというのはよくわからないが、仲良きことは良きことだと思うぞ」

 

 外野の言葉を聞こえない振りしてやり過ごしていたアルマだが、それを良い事にどんどん発言がエスカレートしていったようで、再び爆発する羽目になった。

 カケルとソラを追い回すアルマ。服はボロボロ、顔には泥が付いているがそんなことは気にも留めず追いかけっこをしている。

 童心に還ったような姿にいつもの高慢さはない。だがその姿こそ、ありのままの彼女なのだろう。

 たまには立場を忘れて奔放に振る舞うのも悪くはないのかもと考えるマフユなのだった。



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30.見知らぬ少女との共闘

「あーあ、私もあの子達みたいに遊びに行きたいな。でもキチンとお仕事は終わらせなきゃ行けないのかしら。そう、何故なら私は責任ある隊長なのだから。でもでも終わってからなら行っても問題ないのかしら?」

 

 ここはとある海洋上、波間にたゆたうは大型の船。その甲板から少女が独り言を続けていた。

 どうやら知り合いと休日が合わず仲間はずれにされている模様だ。かれこれ10分は上の空のまま甲板を行ったり来たりしている。こんな心境の時は何かと不測の事態や不祥事が起きやすい。

 一際大きな波が船に押し寄せ、グラッと船体が傾く。

 例え航行に慣れている者であってもバランスは崩すこともあるし、考え事をしていれば尚更であった。

 

「きゃっ、ととと、危ないかしら!?」

 

 揺れに流されるまま進む体を止めようと手近にある物に体重を預けざるを得ない少女。そして──

 

 ガチャン、ドボン。

 

「あわわわわ……私知らないのだわ。何も見てないのかしら」

 

 ここはとある海洋上。例え何かが起きても、目撃者が居なければ事件には発展しない事が多々ある場所である。

 

 

 

 

 

「あーいいお湯だった」

「おっ、そっちも丁度上がった所か」

 

 上気した顔から立ち昇る微かな湯気、首に掛けられたままの手ぬぐい、そして二人を包む衣装は普段と違う浴衣であった。

 先日アルマの所持している植物園で起こった事件、これが通常の新人ジャンパーが受け持つには手に余る任務であったものの、人的被害はほぼ皆無であり迅速な解決に繋がった点を評価され、カケルとソラの二人には特別褒賞として二泊三日の温泉旅行が与えられたのだった。

 用意された温泉宿は打撲や打ち身等によく効くと評判で、最近自分のレベル以上の敵と戦い続けて疲労が溜まっている二人を心配したシオンからの粋な計らいであった。なお、後ろから私も行きたいと騒いでいた別の二名が居たことはあえて語るまでもない。

 

「ねえカケル、折角温泉に来たんだし卓球でもやらない?」

「いいね、俺の必殺ナックルサーブを受けきれるかな?」

 

 本来なら慰労で来ているのだから大人しくしているべきなのかもしれないが、若い二人には大人しくしているより体を動かす方が性に合っている。早速遊戯コーナーへと向かい勝負をしようと意気込むが、そこには既に先客がいた。

 

「これで終わりや!死に晒せえええええ!」

 

 物騒な言葉と共に打ち鳴らされたパコーンと甲高い音。どうやら必殺のスマッシュで勝負が決まったようだ。

 

 

「よっしゃー!うちの勝ちやな。コーヒー牛乳は貰うで」

 

 金髪ロングヘア―の女性が見た目とマッチしない関西弁を操りながら、隅に置かれていた瓶を手に取り一気飲みする。

 

「ぷは──、勝負の後の一杯は格別やなぁ」

「うぅ、ワタシの勝利の美酒が奪われたデス……」

「美酒って酒ちゃうやろ。とか言ってうちもおんなじ感想なんやけどな。あっはっは」

 

 次頑張りやーと間延びした声で手を振る金髪女性を恨めしそうに見るは緑のショートヘアの少女。浴衣のサイズが合っていないのか、袖が手のひら四分の一程まで覆っているのをカケルは見付け、内心負けたのはそれのせいもあるんじゃと思った。現に相手はいつでもリベンジ受け付けるでと挑発をしている。

 

「次こそは負けないデス!そこの人、手を貸してくださいデス!」

「へ、俺ですか?」

 

 突然の指名を受けたカケルはポカンとしていたが、どうやら少女はダブルスで勝負したいらしい。

 

「いいっすよ。俺はカケル、よろしく」

「ワタシはエルメスデス。二人で憎きソニヤさんを叩き潰すのデス」

「ならこっちはそっちの嬢ちゃん貰うさかいな。ソニヤや、よろしゅう」

「ソラです。なんか突然ですけどよろしくです」

 

 予定とは多少違ったものの、卓球をすることには変わりはないと気持ちを切り替えた二人は腕まくりをして勝負の世界へ没頭するのだった。



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31.卓球で意気投合

「やりましたねソニヤさん」

「うちら二人の最強コンビに勝負を挑むには10年早いっちゅうねん。わっはっは」

 

 いえーいとハイタッチを交わす二人とは対象に、床に座り込んで荒い息を吐いているカケルとエルメス。

 

「いやいや、なんで会って間もないのにそんな息合ってんの?」

「そうです!これは事前に入念な準備をしていたに違いないデス」

「そんな事言われても合っちゃうもんはしゃーないやん」

 

 やいのやいのと抗議の声を挙げる敗者達。しかし無慈悲な現実をそのまま叩きつけるソニヤ。

 

「いやーしかし久しぶりにええ運動したわ。いい汗も掻いたし、ひとっ風呂浴びてさっぱりしよか。ソラちゃんも一緒にどうや?」

「そうですね、さっき入っちゃったけどこのままだと風邪引くかもしれないし、お付き合いします」

「ほなら行こか。エルメスもいつまでも座っとらんで着いてきー」

「落ち込む暇も与えてくれない鬼畜なのデス」

 

 立ち上がってフラフラと後を着いていくエルメスを心配するカケルだが、その姿は自分達のいつものノリに重なって見え、「これは落ち込んでる演技をして楽しんでいるのでは?」と思ってしまった。(いず)れにせよこれから彼女達は女子風呂に向かうので、男である自分には出来る事が無さそうなので気にしない事にした。

 

「さて、俺は扇風機にでも当たりながらサイダーでも飲むかな」

 

 女性に比べたら男なんてこんなもんである。自販機で買ったラムネを飲みながら休憩所の畳に寝転がりテレビのスイッチを入れるカケル。するとニュース速報が流れていた。

 

『現在東京各所にて目撃されているプリズミックですが、銃火器を備えている個体が確認されており、非常に危険と思われます。一般市民の方は普段の襲撃時よりも流れ弾や建物が崩落する恐れがある為速やかに避難をするよう願います』

 

「あちゃー、今日も向こうは大変なことになってるな。でも俺達休暇だし、ここ箱根だから今から向かおうにも電車とかも止まってるだろうから無理だよな」

 

 普段は自らプリズミックと対峙しているハンターは、今この時ばかりは対岸の火事の如く見守っていた。本人は気付いていないが、ニュースで紹介されているプリズミックの画像がプレーンな状態のプリズミックにアルファベットのCの様な手が生えていたり、チョンマゲのように頭上から生えた小さな砲台など一見間抜けな絵面だったせいで、ここ最近退治してきたボスクラスの巨大さ、凶悪さと比べて可愛いものだと感覚が麻痺してしまった。

 

「この程度ならシオンさんやゴードンの人達もいるし、その内解決するだろ。ふぁああ〜、落ち着いたら眠くなってきたな。少し昼寝するか」

 

 まるで中年オッサンのようなカケルであった。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃女湯では……

 

「ソニヤさんそっち行きました!」

「まかしとき!おりゃあ捕まえたでぇっ!エルメス!」

「ちぇりゃーデス」

 

 エルメスの持つ巨大なペロペロキャンディーから光が放たれる。ソラが眩しさから覆った目を開けると、そこに敵の姿はもう無かった。

 

「お疲れさまです。だけど二人がジャンパーとは思いませんでした」

「そりゃこっちのセリフや。でもさっきの卓球のお陰もあってか連携しやすくて助かったで」

 

 数分前、三人が温泉に入ろうと扉を開けると、そこには一匹のプリズミックが頭にタオルを乗せて入浴していた。

 一瞬何が起こったのかわからずその場にいる者全員の動きが止まる。

 お湯に流された手桶がカポーンと音を立てると時は動き出し、目があったプリズミックは『の○太さんのエッチー!』と言わんばかりに、いきなりビームを放って攻撃してきた。

 そう、これは先程カケルが見ていたニュースに出てきたタイプのプリズミックである。

 三人は慌てて脱衣所に戻り、各々の対プリズミック兵器を手に取り応戦したのだった。

 

「改めましてスカイジャンパーズ所属のソラです。よろしくお願いします」

「ウチらの所属はアイアンバレットや。仲ようしたってな」

「アイアンバレット?」

 

 聞いたことのない組織名に首をかしげるソラ。その反応も予想していたのか、エルメスから続きが語られる。

 

「ワタシ達アイアンバレットは、移動型要塞を使って世界を旅しつつプリズミックをやっつける組織なのデス。日本に来ることは今まで少なかったから、こっちではあまり知名度が無いかもしれませんネ」

「そうだったんですか。ちなみに世界中を回ってる人達から見て、スカジャンについてはどんな知名度ですか?」

「そらモチロン知ってるがな。テンカイさんやシオン含めて神龍事件の立役者が3人もおる凄い組織やしな。あとは個人的にソフィーさんがおるからちょこちょこ情報仕入れるさかい」

 

 父親の名前を聞いて一瞬顔を(しか)めたソラだったが、ソフィという少し意外な単語を聞いてリセットされる。

 

「ソフィさんを知ってるんですか?シオンさん達に比べたらそんなに有名じゃない気がするんですけど」

「ウチらアイアンバレットはジャンパーの才能が無い者でもプリズミックを倒せる武器を開発しとんねん。で、ウチはその開発部門の責任者やっとるんや。だから天才同士っちゅう事で、色々参考にさせてもろてる訳やな」

 

 なるほどと相づちを打つソラに、エルメスが耳元に顔を寄せて囁く。

 

「自称天才とか言ってマスけど、発明した物が爆発するのなんて日常茶飯事なのデス、っていたた痛いのデス!」

「しょうもない事ゆーとるんはこの口か?あんたの装備も開発したのは誰やと思っとんねん」

「でも先週も試作機を造って爆発してたじゃいひゃいひゃい」

 

 餅のように伸びる口を引っ張られながら抗議する姿に、ソラはあははと乾いた笑みを浮かべるしかなかった。そんなエルメスを見ていると、先程の戦闘で感じた疑問を思い出す。

 

「そういえばさっきのプリズミックって変わった形の武器に擬態してましたけど、あれってエルメスさんの装備に似てましたよね」

「実はうちもそこが気になっててん。製作者のうちから言わせてもらうけど、あれは間違いなくエルメスの兵装やった」

「でもワタシはさっき脱衣所で外すまではずっと身につけてたから、どこかで接触して擬態するなんて事ありえないはずデス」

 

 うーんと唸る三人だが、ここで話をしてもキリがないとして、一旦本部に連絡を入れることにした。折角の温泉であったが、疑問を解消したあとにゆっくりと浸かろうと約束し、引き返すのだった。



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32.エルメスの装備

 浴場から引き上げてきた三人は、一応カケルと合流してから本部に連絡しようと思い休憩所までやって来た。

 

「ってボク達がオフの日にプリズミックと戦ってるのに、一人だけ休みを満喫するなー!」

「痛って、何だよソラ。人が気持ちよく寝てたのに邪魔するなよ」

 

 畳の上で眠りこけていたカケルを見つけたソラは、問答無用でゲシッと蹴りを入れて叩き起こす。

 

「寝てる場合じゃないよ。お風呂にプリズミックが現れたんだよ。しかもなんか訳ありっぽいタイプ」

「訳ありって何だよ」

「その辺についてはウチから説明させて貰うわ」

 

 ソニヤが説明を引き継いで、事のあらましを話した。最初は施設内にプリズミックが出現したことに驚いていたカケルだが、話を聞く内に自分にも心当たりがある事を思い出す。

 

「実は俺、皆が風呂に行ったあとニュースを見てたんですが、東京の方でも変わったプリズミックが現れたって報道してたんです。もしかしてそれと関係してるのかも」

「何やて?それ今見れるか?」

 

 急いでテレビを付けてチャンネルをザッピングしていく。3つほど切り替えたところで、ある中継が映った。

 

『こちら横浜では現在、武装したプリズミックによる破壊活動が散発しております。ジャンパー協会の発表によりますと、『各個体の強さは恐るべきものではない。しかし、重火器を装備している点から様々な被害が発生すると思われる。付近の市民は慌てずに避難することを願う』とのことです。現在も各所から出動したジャンパーによって撃退が行われていますが、事が収束に向かっている様子は感じられません。今後、より深刻な事態に発展しないことを祈るばかりです。現場からは以上です』

 

 CMに移って明るいムードになる画面とは対照に、休憩所に漂う空気は重いものとなった。そんな中最初に口を開いたのはソニヤだ。

 

「これはマズイな。横浜とこれだけ離れたここでも同じもんが現れたっちゅうことは、全国的に広がる可能性も無きにしもあらずや」

「それって神龍事件みたいにですか?」

「流石にあの規模にはならんやろうけど、基本的に擬態したプリズミックが別の場所で確認されることは稀なんや。ウチが考えてるプリズミック像は、何にでも興味がある子供ってな感じなんよ」

 

 子供とは?と首を傾げる二人に補足説明をするはエルメス。

 

「何かに変身しても、別の面白そうな物を見つけたらそっちに擬態し直すから、どんどん姿が変わるのデス。飽きっぽいとも言えマス」

「そんな飽きっぽい連中が、遠くに来ても同じ姿を保ってる。そこから考えると、より広い範囲に広まる、もしくは既に広まってる可能性があるっちゅうことや。司令塔とか親玉がいる可能性が高いな」

「もしそうなら一大事じゃないですか、すぐに組織に連絡しないと」

 

 慌ててスマホを取り出すカケルを宥め、ソニヤも同じ様にスマホを取り出した。

 

「悪いけどそっちの組に連絡するのはちょっと待って貰うで」

「何でですか?こういうのは多少不確定でも速やかに情報共有したほうが良いと思うんですけど」

 

 尤もらしいカケルの意見へ返すのは目を瞑って首を振るソニヤ。

 

「実はな、あのプリズミック達が持ってた武器なんやけど、あれエルメスの装備やねん」

 

 一瞬なんの事を言われてるのかわからないカケル。当のエルメスへと首を向けると、苦虫を噛み潰したような表情で自身の装備を取り出して見せる。

 差し出されたそれは確かにニュースで見た物とよく似ている気がした。

 

「なんでエルメスさんがそんな物を持っているんですか?」

「ああ、君にはまだ言っとらんかったな。ウチら二人はアイアンバレットってジャンパー組織に所属してん。だからこれは正式なジャンパー装備なんやけど、それがどっかで流出してる可能性があんねん」

 

 ソニヤの話によると、アイアンバレットの装備は非ジャンパーでも扱うことが出来、おまけに重火器の姿をしていることから様々な犯罪に用いられる可能性があるとの事。だからこそ、本来なら携帯していない武器弾薬はアイアンバレット本部にて厳重に保管されている筈なのだとか。しかし、今回の事件では何らかの理由によりそれらの一部がプリズミックの手に渡ったのではと推察したのだ。

 

「コルトさんに限ってはうっかりミスでやらかしたり、攻め込まれて盗まれたなんて事は無いと断言できるから、それ以外の何かやろな」

「そのコルトさんというのは?」

「アイアンバレットの倉庫番してくれてる人や。しっかり者で物理精神共に鉄壁のガードで何者も寄せ付けん頼もしい人や」

 

 説明するソニヤの表情に尊敬を見出したカケルは、それだけ人望が厚い人なら信用できるのかなと思い疑うのを止めた。

 

「そんな訳で悪いけど、こっちの報告が終わるまではそっちが報告すんのは待って貰えるか?もしかしたら取引先とかが裏で悪いことでもしてるっちゅう可能性もあるんでな」

「了解です。下手に広めると相手に逃げられたりするかもしれませんしね」

 

 そういうことやと頷くソニヤはどこからか端末を取り出して連絡を入れる。やり取りを聞いているだけのカケルはその間にエルメスに質問をすることにした。

 

「ところでエルメスさんのその装備って変わってますね。何というか近未来的というか」

「これは特注なのデス。アイアンバレットの装備は基本的にソニヤさんが全て開発しているのデスが、その中でも性能がピーキー過ぎてワタシ以外には使えないシロモノなのデス」

 

 改めてそれを見せてくれたエルメス。砲身だけを形どった銃のような印象を受けたそれを、エルメスは何か操作をするとなんと宙に浮いたではないか。

 

「神経とリンクさせることで稼働するのデス。指を動かすことで本体を操り、色々な角度から攻撃することができるけどその分扱いが難しすぎるのが問題点デス」

 

 空中に漂うそれをエルメスは器用に操り、二人の周りを周回させたりアクロバット飛行のように動かす。

 

「カッケーッ!ファン○ルじゃん!それって俺達も練習すれば使えるようになったりしますか?」

 

 戦闘ロボアニメに出てくる物を現実に見てはしゃぐカケルだが、エルメスは申し訳無さそうに答える。

 

「多分無理デスね。これは練習とかじゃなくてセンスによるものが大きいと思いマス。具体的に言うと、指の関節の曲げ具合で操っているのデスが、人差し指の第一関節だけを曲げたまま薬指の第二関節を曲げてそこから小指を真下に向かって曲げたり割と複雑なのデス」

 

 言われながら自身の指を動かしてみるカケル。ぎこちないを通り越してロボットダンスの振り付けでもしているかのような歪さを醸し出す。

 

「な、なんとか出来ないことも無いような頑張れば俺も…………」

 

 夢の兵器に憧れを抱くカケルはどうにか自分にも使えないかと奮戦するものの、エルメスは死刑宣告を行う。

 

「それを足の指でもやるデス」

「…………ほえ?」

 

 意味が飲み込めずアホみたいな声を漏らしてしまった。エルメスは苦笑しつつ更に説明を続ける。

 

「これは手足の指一本づつがワンセットで動くのです。手はともかく、足の指の関節を意識して動かそうって考えたこともないデスよね?」

「……………………」

「おまけに一本づつがワンセットということは、指は10セットまでありマス。左手でも全く別の動きをしたりしますし、それを10個同時に操作するのは残念ながら努力でどうにか出来る範疇ではないのデス……もし出来たとしても10年とか練習に掛かるかもしれませんし、それだけ時間があれば別の兵装をソニヤさんが作るデス。あとタイマー的にも無理デス」

 

 口から魂が抜けてくカケルを尻目に、ソラは疑問をぶつける。

 

「操作が難しいのはよくわかりましたがタイマーってなんですか?」

「ソニヤさんが作る物は基本的に1年しか動かないのデス。毎度1年で壊れるから皆ソニヤタイマーって呼んでるデス。流石に市場に流すような物は長持ちデスが」

「つまりは遅くとも1年更新で新しい装備に切り替わるから、最初から感覚で操作できるくらいじゃないと実用性が無いって事ですね」

 

 そういうことデスと気の毒そうにカケルへ視線を向けるエルメス。ソラも男のロマンはわからないものの、意気消沈する幼馴染に憐憫(れんびん)の視線を送る。

 

「わかったで、それじゃこっちも動くから司令もよろしゅうな。話はついたで、ってあんたらなんかあったんか?」

 

 真面目に対応していたソニヤは場の空気の違いに気付いたが、乾いた笑い以外の答えを返す者はいなかった。



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33.情報整理と作戦会議

 カケルの事は皆無視することに決めて、ソニヤの報告とこれからの対応について話を進めることにした一同。

 

「今の所経緯は調査中やけど、エルメスの装備が流出したのは間違いないみたいやな」

「やっぱりデスか。それで司令官はなんと?」

「東京の方は本部を急行させながら周囲に散らばった奴らを駆逐するってゆーとった。丁度各隊長達もバラバラに行動しとったらしいから、周りから中心に追い込むって作戦らしいで」

 

 なるほどと相づちを打つエスメスに対し、話を半分ほどしか理解できなかったソラが疑問を呈する。

 

「すみません、司令官とか隊長っていうのは?」

「アイアンバレットには陸海空にそれぞれ隊長副隊長が一人ずつおんねん。そしてそれらを総括してるのが司令官のレグルスさんちゅう訳やな」

「皆さん任務の関係で居場所が離れていたのが、今回の事例では幸いした形デス。うまく連携すれば被害は最小限に留められるかもしれまセン」

 

 ここまで話してソニヤは端末を取り出し、そこからプロジェクションマッピングを表示した。

 

「うちらが今居るのがココや。そして各隊長たちが居るのがこの辺り。うちらはマリン──海部隊長の事な?──が手配してくれる船を使って海上から東京を目指すで」

「温泉でまったり過ごす予定がトンだ急展開デスよ」

「事が事だから仕方がないですよ。ボク達が対応しなかったらもっと被害拡大するかもしれませんし」

 

 しょんぼりとするエルメスを慰めるソラ。そんなソラにソニヤは意外そうな顔を向ける。

 

「今回の件はうちらが原因の可能性があるから、他所者のソラちゃんは参加しないで温泉楽しんでてくれてもええんやで?」

「何言ってるんですか。ジャンパーは市民をプリズミックから守るのが仕事です。どこの所属だとか関係ないですよ」

「おおきにな。それじゃさっさとエルプリ始末して、またゆっくり湯に浸かろうやないか」

「エルプリって何デスか?」

「エルメスみたいなプリズミックやからエルプリや。覚えやすやろ」

「そんな適当で安直な名前は嫌デス!もっとカッコイイのにするべきデス」

「わかりやすさ第一や。それに大層な名前つけても元がアンタならしゃあないで」

 

 ソニヤの言葉に憤慨しているエルメスを無視し、話を進める。

 作戦はこうだ。海上を経由して東京に戻り、各所にて暴れているエルプリを撃破。その間、他の隊長達が包囲網を敷くので、網の中でもっとも活発に動く部分にエルプリのボスが居るだろうと予測を立てて最終的にこれを討伐する。

 言葉にするとありきたりだが、これまで個人チームで活動してきたソラには組織立った大規模作戦は少々不安を感じていた。

 これをすぐさま見抜いたソニヤはニッコリ笑って背中を軽く叩く。

 

「そんな暗い顔せんでええって。目の前のプリズミックを倒すだけや。それ以外の細かいことは上が勝手にしてくれるから、末端社員は馬車馬の如く働くだけの簡単なお仕事やで」

 

 冗談交じりに励ましてくれたソニヤ。ソラは思わず吹き出してしまい、肩の力が抜ける。

 

「ぷっ、そうですね。難しいこと考えてもわかりませんし、馬車馬の如く働いて、また温泉で疲れを癒やしましょう」

「その意気デス。それじゃワタシ達もそろそろ移動開始しましょう」

 

 皆連れ立って外へと歩いて行く。その姿に気負った様子はなく、極めて自然体だ。

 何かに臨む精神状態としてはこれがベストではないかだろうか。

 きっと彼女たちなら上手くやってくれる、そんな事を見ている者達に抱かせる安心感があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はっ!ちょ、俺を置いていかないでくれぇえええ」

 

 ────────上手くやってくれるだろう。多分……



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34.いざ乗船

 近くの海までやって来た一行は、アイアンバレットの海を司るというマリンを待っていたところで、暇を持て余したカケルが適当な話題を振った。

 

「マリンさんってどんな人なんですか?」

 

 これを聞かれたソニヤとエルメスは揃って渋い顔をしたので、地雷でも踏んだのかとカケルは心配になった。

 

「せやなぁ、隊長としての指揮能力、戦闘能力はピカイチや。みんなからの人望もある。ただな……」

「ただ?」

「自分の身体的特徴にコンプレックスを持ってるデス。そこを下手に突くと途端に面倒な事になるデス。子供っぽいとも言えマスかね」

 

 二人は微妙な表情を浮かべ続きを話すべく口を開こうとした瞬間、沖合からポッポーと汽笛が聴こえてきた。

 そちらに顔を向けると、なんと身の丈ほどもある二機の巨大な魚雷がこちらに突っ込んでくるではないか。

 

「くぁwせdrftgyふじこ!どうしましょソニヤさん!そうだソラお前もミサイルで迎撃しろよ」

「無理無理無理無理あんなの攻撃したら誘爆してこっちまで吹っ飛ぶよ!」

 

 どうしようと慌てる二人と対象的に、アイアンバレットの二人は落ち着いていた。

 

「大丈夫や二人共。あれはマリンが手配してくれたボートみたいなもんや。見てみい、減速してるやろ」

「海岸まで寄ったら船が座礁してしまいマスからね。アレに乗って母艦まで行くデスよ」

 

 二人の説明を証明するかのように減速しつつ海辺までやって来た魚雷は、くるりとその場で方向転換し乗れと言わんばかり背を向ける。

 よく見ると魚雷の背の部分は半分ほどくり抜かれ、体を押し込むことが出来るようだった。

 

「ほな行こか。揺れるから乗り込んだら手すりにしっかりと捕まるんやで」

「念の為ワタシ達は二手に分かれて乗りマスよ。何かあったら任せるデス」

 

 ソニヤ達に先導されながらカケル達も魚雷に乗り込むと、ゆっくりと前進を始める。

 最初は怖怖と言った様子の二人も、徐々に加速しまるでジェットスキーのような感覚を味わうと少し楽しくなってきたようである。

 そうこうしている内に魚雷は再び減速を始め、あっという間に母艦が近づいてくる。

 

「おお、浜から見た感じじゃ分かりづらかったけど、結構大きいんだな」

 

 大型軍艦と呼べる程度には大きく感じられた母艦にカケルは感嘆の声を漏らす。

 

「この船は空部隊が離発着出来るように滑走路を長く取ってあるんデス。それだけじゃなく、陸部隊の戦車も収容・運搬できるスグレモノなんデスよ」

「カッコイイなあ。俺もいつかこんな船でロマンあふれる旅をしたいぜ」

「どうせ旅行に行くならこんな無骨な船より豪華客船の方がワタシは良いデス」

 

 そんな緊張感の無い話をしている内に魚雷は船底部に辿り着き停止した。

 遅れてソラ達も着いたようで、エルメスは上に向かって合図を出す。

 すると甲板からロープ付きのクレーンが降下して、2機の魚雷を繋ぎ止め、上昇を始めた。

 エレベーターのように不快感を感じさせない動きに二人が感心していると、ガチャンという音と共にクレーンは動きを止める。

 

「やっと着いたデス。それじゃ降りマスよ。足元に注意するデス」

「うっす、ここがアイアンバレットの母艦かぁ」

 

 初めて降り立った巨大空母にワクワクした気持ちを抑えられず、カケルは周囲を見渡す。

 すると、すぐ側で何やら機械を操作している青い髪の少女が目に映る。

 カタカタという手の動きと所定の位置へ格納されるクレーンが同期していることから、どうやら魚雷を引き上げてくれたのはこの年端もない彼女のようだ。

 

「こんな小さい子があの操作してたのか。ちょっと心配になるな」

 

 ボソッと呟いたカケルに反応してか、少女の手がピタッと止まる。

 あっ、と後ろでエルメス達が息を呑んだところで、少女の首がグリンッとカケルに向く。

 その瞳には深い闇を(たた)え、幽鬼のような足取りで近づいてくる。

 

「見ず知らずの相手にいきなり失礼じゃないかしら?そもそも貴方達は誰なのかしら?海に叩き落されたいのかしら?」

「い、いえそんなことは……」

 

 上目遣い、と言えば聞こえは良いが、ほぼゼロ距離からガンを飛ばされてるカケルはどうして良いものかわからず狼狽する。

 と、ここでソラがやってきて少女を抱きしめたではないか。

 

「もう!カケルってば何で酷いこと言うの!こんなにちっちゃいのに頑張ってるのに可愛そうでしょ!ごめんね、馬鹿なお兄ちゃんが苛めて。よしよーし、もう大丈夫だからね」

「なっなっなっ、何するのかしら!?私は子供じゃないのかしら!?」

 

 今度は打って変わって顔を真っ赤に紅潮させながら暴れだす少女。

 

「大丈夫だよ~。もう怖いお兄ちゃんは居ないからね~」

「むきぃ────ーっ!」

 

 頭を撫で続けていたソラだが、あまりにも激しく抵抗された為手を離してしまう。

 ぜぇぜぇ息を荒げながら二人から距離を取った少女は、腰に手を当て、指先をこちらに突きつけながら大きな声で名乗りを上げた。

 

「私はアイアンバレット所属、海部隊隊長『大海のマリン』なのかしら!子供扱いしないで欲しいのかしらっ!」

「「ええ────────────ーっ!?」」

 

 二人の驚愕に満ちた声は海の彼方へと消えていった。



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