宇宙に輝くウルトラの星 (貴司崎)
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第1章 光の国の士官学校
士官学校とスペシウム光線(前編)


ウルトラマンゼット開始&ニュージェネクライマックス公開決定記念に書いてみました。

本格連載するかは未定。


 ここは、人間達が住む地球から300万光年離れた“M78星雲”にある『ウルトラの星』と呼ばれる惑星。通称“光の国”とも呼ばれるそこには300の都市があり、約180億人のウルトラ族と呼ばれる者達が住んでいる。

 そして俺は今、その光の国にある一つの施設──宇宙規模の平和維持機構『宇宙警備隊』の士官学校(40年制)の屋上で寝そべりながら空を眺めていた。

 

「いやー、今日はいい天気で過ごしやすい日だなー! ……まあ、この星の天候は完全に制御されているし、プラズマスパークの恩恵で年がら年中温暖で過ごしやすい気候になってるんだが」

 

 そんな、身もふたもない事を言いながら寝そべっている俺の名前は『アーク』、この光の国に住むごく普通のウルトラ族だ。そして、士官学校の屋上にいる事から分かる通り今は宇宙警備隊の訓練生をやっている……別にサボっている訳じゃないぞ、休憩時間に少し寛いでいるだけだからな。

 ……と、そこでこちらに近づいて来る一つの足音が俺のウルトラ族として無駄に高性能な耳に入ってきた。

 

「あ! やっぱり此処に居たんだねアーク。そろそろ次の授業が始まるよ」

「ん? ああメビウスか……って、もうこんな時間か。確か次の授業は光線技の実技だったか」

 

 こいつの名前はメビウス、俺と同じ士官学校の同級生で幼年学校の頃からよくつるんでいる腐れ縁の友人である……こいつは物凄く真面目な性格をしているので、こんな風によく一人で寛ぐ事の多い俺が授業に遅刻しない様に毎回こんな風に声をかけて来るのだ。

 ……これでコイツの性別が女なら美味しいシチュエーションなのかもしれないが、残念な事にメビウスは男である。しかも性格の良いイケメン(ウルトラ族基準)なのでかなりモテる(本人は天然気味なのでかけらも気づいていない)のだ。

 

「うん、早く行かないとカラレス教官に怒られるよ」

「はいはい、あの人怒ると怖いからな。……じゃ、遅刻しないようさっさと訓練場近くの教室に行きますか」

 

 そう言って立ち上がった俺は大きく伸びをしてから訓練校の中へと入って行き、それを見たメビウスも続いていった。そして、俺達は並んで話しながら廊下を歩いて次の授業がある光線技用の訓練場に向かって行く。

 

「訓練校に入学して最初の方は殆どが座学だったけど、最近になってから実技もやる様になって来たからようやく宇宙警備隊の見習いって感じになって来たよね!」

「俺としては座学の方が楽でいいんだけどな。実技とかしんどいし」

 

 怪獣退治の専門家と言われる宇宙警備隊の士官学校としては意外かもしれないが、実はここで行われる授業の七割ぐらいは怪獣生態学、ロボット工学、宇宙地理、宇宙気象学、宇宙古代文学史などの座学である……宇宙警備隊が広大な宇宙での活動を余儀無くされる以上、最低限覚えなければならない知識だけでも大量にあるからな。

 尚、40年という士官学校の時間の大半を使っても最低限の基礎知識しか教えられない為、各種応用知識や宇宙各地のローカルな知識や常識とかは赴任してから必要に応じて学ばなければならなかったりもする。

 ……まあ、それでも俺としては座学の方がまだ気が楽なんだがな。

 

「そんな事言って、アークって今のところ実技成績同期の中でトップじゃないか」

「……そりゃあ、俺は()()に小さい頃から散々扱かれて来たからな」

 

 実のところ、俺の親父は宇宙警備隊の()()()()()()お偉いさんで、その所為もあって俺は幼い頃からその親父に各種戦闘技術を叩き込まれているのだ……ここだけ聞くと、事前の特訓のお陰で訓練校なんて楽勝だぜ! とか俺がやっている様に聞こえるだろうが、その親父の超絶体育会系スパルタ式スーパーハードメニューな特訓によって毎回ズタボロにされている俺としては正直微妙な気分である。

 更に、時折親父の友人達まで参加してくるものだから特訓内容が倍率ドンで強化される事すらザラにあったりするし……落石、ジープ……ウッ! 頭が……ッ! 

 

「士官学校の実技はあそこまで非道いモノではないと頭では分かっているのに、かつてのトラウマの所為で気分が超滅入るんだよ……」

「でもやっぱり()()()()に特訓を付けてもらえるのは羨ましいよ」

 

 実際やらされている身としては代われるものなら代わって欲しいんだがな……まあ、ウチの親父達は光の国では有名人だからそう言う意見が出るのも分かるんだが。コッチの身としてはその所為で悪目立ちする上、プレッシャーも掛かるから更に実技で気が滅入る原因だったりするんだがな。

 …………まあ、自分の意志で士官学校に入学しておいて実技訓練でやる気を出さないとかは流石に論外だから、多少気分が滅入ろうがその辺りはちゃんとするけどさ。

 

「実技自体はそこまでキツくはないし今日も頑張りますか……ハァ……」

「うーん、士官学校の実技もかなりキツイ筈なんだけどね。……でも、流石はアーク! あの人達の弟子だけはあるね!」

 

 やれやれ、相変わらずメビウスは純真ポジティブ天然な性格してんなぁ……後、アレは弟子とかじゃなくてちょっと変わったサンドバッグみたいなもんだから。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そんなこんなで俺とメビウスが光線技用訓練場の前の教室に付いた時には、俺達以外の同期の訓練生達は全員揃って席に座っており、各々談話したり自習したりしていた……何だかんだ言ってこの士官学校は倍率が高く、更に宇宙警備隊という職種の人気もあってそこに通う訓練生のモチベーションは非常に高いのだ。

 ……そんな中、俺達は赤と青の二人のウルトラ族が並んで座っている席の隣に腰掛けた。

 

「ようアーク、相変わらずの重役出勤だな」

「ようゴリアテ、別に遅刻はしてないんだから良いだろ」

「まあ、今日はメビウスのお陰で時間ギリギリという訳でもない様ですから」

「これでも遅刻だけはしない様に注意しているんだがな、フォルト」

 

 俺に声を掛けて来た片方の巨漢のレッド族の名前はゴリアテ、もう片方のスマートなブルー族の名前はフォルトと言う同期の訓練生だ。この二人とは高等学校の頃に知り合って以来、メビウスと男四人でよくつるむ様になったんだ。

 ちなみにこれまで俺は授業開始ギリギリに訓練室に来る事はあっても、授業そのものには遅刻した事は無いのだ……と、その辺りの事をフォルトに説明したんだが……。

 

「そう言うならもう少しやる気を出したらどうですか? そんな態度な上に実技成績が圧倒的にトップな所為で、貴方他の同期からはかなり避けられていますよ?」

「……え⁉︎ そうなの?」

「気付いて無かったのかよ……今のオマエって側から見ると『やる気無さそうに訓練している割に座学も実技もトップクラス、しかも終始その態度が変わらない』って感じだからな。付き合いの長い俺達ならともかく、そりゃあ他のヤツは話しかけ難いだろうが」

「うぐぐ……せ、成績に関しては実技の格闘訓練ではゴリアテと互角ぐらいだし、座学に関してはフォルトには負けてるし……」

 

 何せゴリアテは“光の国ジュニア格闘大会”のチャンピオンだし、フォルトは筆記試験において士官学校始まって以来の成績で合格した天才で座学の成績も常に一位だからな! この二人と比べれば成績云々に関してそこまで悪目立ちする事も無いと思うんだが……。

 

「いや、オマエ格闘訓練でそのチャンピオン相手に6:4ぐらいで勝ち越してるじゃねえか」

「座学の成績も第二位をキープしてますしね。……と言うか、成績よりも態度が浮いているのが問題なんですよ?」

「アークって意外と天然で抜けてる所があるからね〜」

 

 ムムム、これからはもう少し態度を真面目にするかなぁ……後、天然云々はお前にだけは言われたくないぞメビウスゥ! 

 ……と、言い返そうとした丁度その時、訓練時間の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、それとほぼ同時に教室へ一人の男性が入って来た。

 

「おはよう、全員揃っているな」

「「「おはようございます! カラレス教官!」」」

 

 そうやって入って来た人がした挨拶に対して、俺達士官学校訓練生は一糸乱れぬ形で挨拶を返した…………彼が俺達の教官であるカラレスさんである。

 何でも元々は宇宙警備隊に所属していたのだが、怪我で一線を退き今は士官学校の教官をしているらしい。温和で優しい性格なので訓練生達からも慕われているが、怒る時にはキッチリ怒るタイプでもあるので彼の授業でふざけたりする様なヤツはいない。

 

「さて、今日の訓練内容は先日教えたスペシウム光線の訓練になる。……まず一人ずつ光線用訓練場へと入り室内の指定した範囲内で待機、そこから十分間の制限時間の間スペシウム光線()()を使って室内に次々と出て来る的を破壊してもらう」

 

 ふむ、今日の訓練はスペシウム光線での的当てか。これでも光線技の制御は特に集中して扱かれた所だからそれなりに自信があるし、ここでやる気に溢れる所を見せれば周りからの評価を変わる筈!

 ……俺がそんな事を考えている間にもカラレス教官の説明は続いていた。

 

「ただし、一つ注意して貰いたいのは出て来る的は黒と赤の二種類があり、黒い的を破壊した時の得点は10点、赤い的を破壊した時には()()()()1()0()0()()になる。そして一つの的が展開される時間は10秒間だ」

 

 ……成る程、マイナス点が大きいと言う事は()()()()()()()の訓練か。これは気を付けないと行けないな。

 

「説明は以上だ。何か質問はあるか?」

「はい、先程一人ずつと言いましたがその様子はここのモニターに映されるのでしょうか? そして、その場合は後の者の方が有利になるのでは?」

 

 説明を終えたカラレス教官に対して、手を挙げたフォルトが席から立ち上がってその様な質問をした……この教室はそこにあるモニターを使って光線用訓練場内部の様子を見る事が主な使い道だからな。もし見れるなら後のヤツはそこから対策を立てられるだろうし。

 

「ふむ、まず訓練の様子は教室のモニターに映す。他人の訓練を見るのもまた訓練になるからな。そして後の者が有利であると言う話だが、そもそも的当ての得点自体は成績には関係無い。今回の評価は“情報が少ない中でどれだけ対応出来るか”や“先に得た情報からどれだけ有効な手段を使えるか”などの要素も含めて私が判断する。……これでいいか?」

「はい、よく分かりました。余計な手間を取って頂きありがとうございます」

 

 そう言って納得したフォルトは腰を90度曲げてお辞儀をしてから席に座った…………まあ、これは訓練であって的当て競技じゃないからな。宇宙警備隊的には初見の状況に対応出来るかや、事前情報から有効な手段を構築する事も必要な能力なんだろう。

 

「他に質問はあるか? ……無い様だな。では呼ばれた者は訓練場へと入ってくれ。……ゴリアテ!」

「はい! ……よっしゃ、一番手だぜ」

 

 そうして、カラレス教官に呼ばれたゴリアテは訓練場に入って行き、その訓練場内部の様子が教室のモニターの中に映し出された。その訓練場は光線技を内部で使用する為に非常に広く作られており、更に壁や床には強力なバリアフィールドを展開出来る様になっている。

 ……そして、今回は訓練場の壁際の床にそこそこの大きさがある長方形のラインが引かれていた。

 

「その長方形のライン内部が指定された範囲になる。訓練中はそこから出ない様に」

『分かりました』

 

 訓練場に入ったゴリアテに対してカラレス教官は教室にあるマイクを使って指定範囲の説明を行い、ゴリアテもその指示通りに範囲内で待機した。

 そしてカラレス教官が手元にある機材を操作して訓練場の設定を変更し、再び通信でゴリアテに準備が出来たかどうかを確認した。

 

「ゴリアテ、準備はいいか?」

『いつでも大丈夫ですよ!』

「うむ……それでは訓練開始だ」

 

 カラレス教官のその言葉と同時に訓練場内の空間に黒い的と赤い的が次々と展開されていき、それを見たゴリアテは即座に右手を手のひらまで真っ直ぐ伸ばし縦にして身体側に、左手も同じく伸ばし横にして外側に置く形で胸の前に腕で十字を組んだ。

 ……これこそが、光の国のウルトラ戦士が使う最も基本的な光線技『スペシウム光線』の構えである。

 

『ゼァァ!』

 

 そんな構えを取ったゴリアテが気合いを入れて叫ぶと共に、縦にした右手のひらの側面から光線が放たれて宙に浮く黒い的の一つを破壊した。

 更に、ゴリアテはその場に留まり次々と光線技を連射して黒い的のみを正確に撃ち抜いて行く……アイツは見かけ通りスタミナが高い上に、意外とウルトラ念力や光線技、後座学の成績も良い方だからな。

 

「流石ゴリアテ、黒い的を次々と撃ち抜いているよ!」

「彼はスタミナが有りますからね、あれだけ連射し続けるのは大したものです」

「でも光線技の威力が少し高すぎるかな。あの的の強度ならあそこまでの威力は要らないだろう」

 

 友人のそんな姿を見て素直な賞賛の言葉を発するメビウスとフォルトに対し、俺は空気を読まずにダメ出しをした……そんなんだから同期生に避けられるんじゃないかだと? うるさいほっとけ! 

 そうしている間にも黒い的は次々と破壊されていき、それに変わって新しい的が訓練場に展開されていった。

 

「ですが、ゴリアテの体力なら十分間ぐらいなら今のペースでも持つのでは?」

「いや、体力じゃなくて光線技の制御の問題。……それに、その場から動かずにスペシウム光線と黒い的だけに集中してるから、多分そろそろ……」

『ッ⁉︎ チィッ!』

 

 順調に黒い的のみを破壊していたゴリアテだが、一つの黒い的を破壊したスペシウム光線がその射線上にあった赤い的に当たってしまったのだ……やっぱり、時間が経つ毎に的の配置がかなり嫌らしくなってるな。

 黒い的のすぐ隣に赤があるのは序の口で、さっきの様に光線の射線上になる様に配置されていたり、酷い時には黒い的と赤い的が重なって配置される事すらある。

 

「……重なって配置されているのではどうしようもないのでは?」

「その場合は“撃たない”が正解だろうな。それにあれだけ光線を連発していれば、後半になる程体力や判断力も削られる」

「……ゴリアテ、さっきからミスが増えているね」

 

 まあ、ゴリアテも途中でそれに気づいたのか光線技の威力を落として、更にラインの範囲内を移動して赤い的を射線上に入れない様にしている…………だが、それによって時間切れで消える的も多くなり、その焦りに体力の減少による疲労もあってミスが多くなっているんだろう。

 …………いくらプラズマスパークがあってディファレーター光線が豊富なこの星の中でも、エネルギーの消耗が大きい光線技を連射すれば当然疲労は溜まるしな。

 

「……よし! そこまで! 教室に戻っていいぞ」

『ハァ、ハァ、ハァ……あ、ありがとうございました!』

 

 そして、カラレス教官が訓練終了の指示を出した時にはゴリアテは肩から息をして疲労困憊の様子であり、ややふらつきながら教室に戻って来た。

 ……体力に関しては同期の中でもトップなゴリアテのそんな様子に、他のメビウスやフォルトを始めとする同期生達もこの訓練が一筋縄ではいかないと思ったのか教室内は真剣な空気に包まれた。

 

「ゴリアテの結果は黒い的157枚、赤い的9枚だから670点だ……では次の……」

 

 教室がそんな空気になった事にカラレス教官は少しだけ笑みを浮かべると共に、次の訓練生の名前を呼んだ。




後書き・各種設定解説

アーク:この物語の主人公で見習い宇宙警備隊員
・最近の悩みは友人以外の同期生との距離感が掴めずボッチ気味な事。
・詳しくは後編で。

メビウス:主人公の友人その1
・基本的にはテレビ版と同じだが訓練生時代なので性格はやや若い感じ。
・尚、本編現在の時系列はセブンは既にウルトラの星に帰還しており、ジャックが地球に派遣される少し前ぐらい。

ゴリアテ:主人公の友人その2
・パワーキャラだが士官学校に合格するぐらいには座学や光線、念力などの能力も高い。

フォルト:主人公の友人その3
・頭脳系のブルー族としては珍しく宇宙警備隊を目指しており、実際に士官学校の試験に合格する程度には身体能力も高い秀才。

カラレス教官:出展『ウルトラマンStory0』
・原典と違いこの物語(マルチバース)では生存しているが、かつて“とある事件”で重傷を負い左のウルトラホーンを失った為宇宙警備隊を辞めて教官の道へ進んだ。

スペシウム光線:おそらく日本で最も有名な必殺技の一つ
・ウルトラの星で一番最初に教えられる全ての光線技の原点(公式設定)。
腕をX字にしたり(ザナディウム光線)腕を前後逆にしたり(ナイトシュート)左手を縦に右手を横にしたり(スペシュッシュラ光線)すると別の光線技になるので注意。
・本作においても士官学校で一番最初に習った光線技という設定で同期生は全員使えるが、この技を極めて必殺技に昇華させたウルトラマンやウルトラマンジャックなどと比べれば威力・制度などは及ぶべくもない。


読了ありがとうございました、後編は出来るだけ早く投稿するつもりです。


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士官学校とスペシウム光線(後編)

ようやく後編が書きあがったので投稿します。


 あれから何人もの同期生がスペシウム光線の訓練へと挑んだが、ほぼ全員が一番最初のゴリアテの得点を超える事が出来ずに訓練を終えていた。やはり、疲労が溜まる後半になればなる程それぞれの的の配置が嫌らしくなり、その所為で後半になると赤い的を連続で破壊してしまうのが主な原因であるようだ。

 ……そして、今はメビウスが呼ばれてこの訓練に挑んでいる。

 

『セヤッ!』

「やっぱ、メビウスも苦戦してんなぁ。……あの的の配置はイヤらしすぎるぜ」

「特に前半で赤い的を何枚か割ってしまいましたからね。これでは後半はキツくなるでしょう」

 

 フォルトの言う通り、メビウスは黒い的を撃ち抜く際にやる気が空回りしたのかうっかり近くにある赤い的を破壊してしまったのだ。それからどうにか立て直そうとしているが、更に追加で何枚か割ってしまっている。

 ……アイツはやる気を出すと最初に空回りしてうっかりミスをする悪癖があるからなぁ……。

 

「……まあ、それで終わらないのがメビウスなんだが」

「どういうことですか?」

「アイツは初見でのミスも多いが、真面目な性格で自分の失敗をすぐに受け入れるからかそこからの立て直しも上手いんだよ。加えて追い詰められればられる程にパフォーマンスが上がって行くタイプだからな……ほれ」

『セアァッ!』

 

 俺がそう指し示すと、それに応えるかの様に画面の中のメビウスは次々と赤い的を避けて黒い的だけを撃ち抜いて行く……何というか、アイツって不利になる程パワーアップする典型的な主人公体質だからな。

 まあ、それでも低下した体力と判断力、何より後半になる程難易度が高くなる的の配置の所為でいくつかの赤い的を破壊してしまったが。

 

「……そこまで! 教室に戻っていいぞ」

『セアッ! ……ハァッ、ハァッ……あ、ありがとうございました!』

 

 そうして、訓練を終えたメビウスが教室に戻って来る……ちなみに得点は黒い的135枚、赤い的7枚の合計650点であり、後半に多数の黒い的を破壊して高得点を取ったが序盤のミスが響いている形になった様だ。

 

「よう、お疲れさんメビウス」

「うん、ありがとうゴリアテ。……やっぱり序盤にミスをしたのが大きいかなぁ」

「まあ、この訓練は黒い的を破壊するよりも赤い的を破壊しない方が重要だからな。多少ペースは落ちてでも、もう少し慎重に行った方が良かったと思うぞ」

「成る程、流石はアークですね、参考になります。……それでは、次は私の番の様ですので行ってきます」

 

 そう言って、カラレス教官に呼ばれたフォルトは訓練室に入っていった……まあ、フォルトなら要領良いし上手くやるだろ。

 

「では、訓練開始だ」

『ハァッ!』

 

 そのカラレス教官の合図と同時にフォルトはスペシウム光線で黒い的を撃ち抜いていった。ただし、そのペースは他のヤツ等よりも大分遅く光線の威力もかなり抑え気味だ。

 どうやら、黒い的の数を稼ぐのでは無く赤い的を破壊しない様にして、更に光線の出力も抑えて体力消費を減らす方向性でいく様だな。

 

「まあ、アイツらしい堅実な戦術だよな。つーか、最終的な得点もこのやり方の方が高くなるか?」

「前半に飛ばし過ぎると難易度の高くなる後半でのミスが増えるからね。この訓練は体力の温存とかも重要だよ」

「流石はフォルト、特に言う事が無いぐらいソツがないな」

 

 その後も、フォルトは順調に黒い的のみを破壊して得点を稼いでいく。時折、時間切れで的が消える事もあるが、フォルトは特に気にする事も無く淡々と的を撃ち抜いていった。

 ……それが正解だろうな。この訓練はとにかく“赤い的を壊さない”事が最優先だ。

 

「そろそろ十分経つな。フォルトはやっぱスゲェよ、ここまで一つも赤い的を壊していない」

「うん、このままなら最高点が取れそうだね」

「……まあ、()()()()ならな」

『ハァッ! ……ハァ……』

 

 だが、残り一分ぐらいとなったところでフォルトのペースが目に見えて落ちてきた……格闘技チャンピオンのゴリアテや野球部のエースだったメビウスと比べるとフォルトのフィジカルは決して高く無いからな。

 それでも士官学校に合格出来るぐらいのブルー族としては非常に高い体力を持っているんだが、光線技の連続使用は慣れていないとかなりキツイからなぁ。

 

『ハァッ! ……チッ!』

「そこまで! ……教室に戻って良いぞ」

『ハァー……ハァー……ハァー……あ、ありがとうございました……』

 

 そして、その疲労が祟ったのかフォルトは残り5秒ぐらいで赤い的を一つだけ破壊してしまい、そのまま訓練終了になってコッチに戻って来た。

 それでも結果は黒い的119枚、赤い的は最後の1枚のみで、合計点は1090点とこれまでで最高のものだったが。

 

「ようお疲れさん、最後は惜しかったな。あれは光線技を撃つ時に腕だけ動かしたから射線がズレたんだろ?」

「ええ、光線技の射線を変える時には、狙いがズレない様に身体毎動かすのが基本だとは分かっていたんですがね……実際やってみると光線技の連続使用は思っていたようも体力を持って行かれます」

「それでも、フォルトは今のところ最高点だから凄いよ!」

「いや〜、まだ実技成績ダントツトップ様が残っているからなぁ」

 

 そう言ったゴリアテは机に肘をつきながら俺の方を見ながらニヤニヤしている……全く、一介の訓練生にそこまで過剰に期待されても困るんだがな。

 ……だが、俺はやる気が無いように見える所為で同期から浮いているらしいし、ここで傍目からも分かるぐらいの好成績を叩き出せば周りが俺を見る目を変わるだろう。

 

「では、最後にアーク!」

「はい!」

 

 そうして、同期生達の一番最後に呼ばれた俺はやる気満々で訓練場へと入っていった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「カラレス教官、準備は出来ました」

『よし……では、訓練開始だ』

 

 教官のその言葉と同時に、俺の前方の空間へ複数の黒と赤の的が展開された…………これまで見てきた通り、最初の方は的の配置はそこまで嫌らしく無いな。

 ……それならば……! 

 

「スペシウム光線・スリーウェイショット!」

 

 俺は十字に組んだ右手のひら側面から()()()()()()()()()を放ち、それぞれ別の黒い的を撃ち抜いて破壊した……ウルトラ族の光線技は、基本的にスパークさせたプラスとマイナスのエネルギーをウルトラ念力で制御する事によって発動するからな。逆に言えば、ウルトラ念力を応用すれば光線技を枝分かれさせるみたいな変形も出来たりするのだ。

 ……赤い的には()()()当てない様に気を付けつつ、一度の発射で複数の的を撃ち抜けるこの方法で可能な限り点を稼いで行こう。

 

「……おっと、的の配置が嫌らしくなって来たな。射線上に赤い的が来たし……分散は辞めて()()()()()()か」

 

 後半になって的の配置が嫌らしくなって来たら、俺は精度に難のある分散発射を取りやめて光線の軌道そのものをウルトラ念力で操作する戦術に変えた……今も黒い的を撃ち抜いてそのまま赤い的に向かっていた光線の軌道を捻じ曲げて、別の黒い的に当てていっている。

 ……とは言え、流石にこれらの方法はウルトラ念力を酷使し過ぎるので、体力に余裕を持たせる為に指定範囲内を移動しての射線調整も併用していく。

 

(……赤い的が奥にあるから光線を曲げて……赤が手前だからサイドステップして射線が重ならない様に場所移動……完全に重なっていたり距離が近いのは無視だな。ウルトラスラッシュ(八つ裂き光輪)が使えれば良いんだが、今回はスペシウム光線だけだし)

 

 そんな感じで、俺は黒い的のみを次々とスペシウム光線で撃ち抜いて破壊していく……うむ、このぐらいのペースなら十分程度ぶっ続けでも問題ないかな。

 そうして、俺は赤い的を慎重に避けつつも順調に黒い的を破壊していき……。

 

『……そこまで!』

「フゥ……ありがとうございました!」

 

 カラレス教官の合図と同時にスペシウム光線の構えを解いて訓練を終えた……うん、最後まで赤い的は1枚も壊さなかったし、これは中々良い結果だと思って良いのでは無いだろうか!

 ……と、このまま他の皆と同じ様に教室へ戻る指示が出るかと思ったのだが、そうはならずにカラレス教官から質問が来たのだ。

 

『それでアーク、さっきの光線の分散や操作はどういう事だ?』

「え? あれはウルトラ念力のちょっとした応用ですよ。教官ならそういう事も出来ると知ってますよね?」

『ああ、まあ知っているが……』

「あ、それともスペシウム光線の直射限定の訓練でしたっけ?」

 

 ……だとするとちょっと張り切り過ぎてミスったかな。事前にちゃんと教官に詳しく聞いておくべきだったか。

 

『いや、それらもスペシウム光線の範囲内だから問題無いんだが……まあ、良い。流石は()()()()()()()()()()と言ったところか』

「……ありがとうございます」

 

 そう、俺の親父である宇宙警備隊のちょっとしたお偉いさんとは現宇宙警備隊隊長『ゾフィー』の事なのだ……え? どう考えても“ちょっとした”で済ませられる様な相手では無い? でも、親父が宇宙警備隊隊長になったのは、つい最近地球で死にかけたウルトラマンさんを助けた功績によるものだから、隊長としての任期は大して経っていないし。

 ……まあ、それでも親父は宇宙警備隊最強の戦士だから色眼鏡で見られる事も多いんだが、俺が士官学校で優秀な成績を収めているのも幼い頃から親父とその友人達(ウルトラ兄弟)指導(しごき)を受けて来たからなのが大きいから否定出来ないんだよなぁ。

 

『もう、教室に戻っていいぞ』

「分かりました」

 

 まあ、そんな事はともかく、ここまでやる気の溢れる訓練内容を見せたんだから同期生の俺を見る目も変わるはず! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そんな事を思いながら教室に戻った俺が見たものは、すっかりこちらを見る目を変えた同期生達の姿だった……主に畏怖と困惑でドン引きしている感じで。

 バカな! 赤い的を一切壊さずに黒い的を236枚割ったのに! 

 

「……どういう……事だ……?」

「いや、どうもこうも無いだろ。このアホ」

「スペシウム光線の分散やら歪曲やら、そんな訳の分からない技術を見せつけられればこうもなりますよ」

「……なん……だと……?」

 

 い、いや、そこまで凄い技術でも無いと思うんだよ。親父みたいにM87光線の軌道を曲げられる訳じゃ無いし、光線の分散もセブンさんみたいに実践で使える程の威力は出ないし! ……と、言ったらゴリアテとフォルトの二人に『『そもそも基準にする人達(ウルトラ兄弟)が間違っているんだよ』』と言われてしまった……orz。

 尚、メビウスだけは『ウルトラ兄弟の指導を受けて来たアークはやっぱり凄いな!』とキラキラした目で見てきた……このウルトラ兄弟バカめ!

 

「あァァ……完全にやらかしたか……」

「まあ、訓練を全力でやるという点では間違って居ないんですがね」

「とりあえず、まずお前は自分の実力に自覚を持て」

「そうだよ! アークはあのウルトラ兄弟の弟子なんだから、もっと自信を持っていいと思うよ!」

 

 そうやって頭を抱えながら席に着いた俺に三人は慰めの言葉を掛けてくれた…………メビウスだけなんかズレている気がするが……。

 ……と、そこで教壇にカラレス教官が立ったので、俺達は喋るのを辞めてそちらを見た。

 

「さて、訓練はひとまずこれで終わりだが……お前達、何故この訓練において赤い的のマイナス点が非常に多いのか、その理由は分かるか?」

 

 カラレス教官が発したその質問に教室は少しの間だけ沈黙に包まれたが、直ぐに何人かの同期生がその質問に答え始めた。

 

「黒い的の方が数が多いから!」

「えーっと、光線技の命中率の訓練の為……?」

「訓練に緊張感を持たせる為では?」

「ふむ…………アーク、お前は分かるか?」

 

 同期生達のそんな言葉を聞いていたカラレス教官が、何故か突然俺にお鉢を向けてきた…………えー、親父から習った“ウルトラ戦士が光線技を使う上で一番気を付けなければならない事”を言えば良いのかな? 

 

「ウルトラ戦士の光線技は()()()()()()()()()()()からでは? 光線技は“敵に当てる”よりも“当ててはいけないモノに当てない”方が重要ですし」

 

 親父が俺に光線技の指導をする時に、こんな感じの言葉を何度も何度も口を酸っぱくするぐらいに言われたからな。

 ……と、俺がそんな答えを返すと、それを聞いたカラレス教官は深く頷いた後に俺達に向き直った。

 

「うむ、今のアークの答えが一番近いな。……お前達もいずれ宇宙警備隊に配属される時が来たらこれだけは覚えていてほしい。……俺達ウルトラ族は、この広大な宇宙の中でも非常に強い力を持っている」

 

 これまでとは明らかに違うカラレス教官の真剣な雰囲気に、俺を含む宇宙警備隊見習い達は一言も喋ることなく教官の言葉に耳を傾けた。

 

「例えば、今お前達が使える程度のスペシウム光線であっても、小さな街一つを()()()()()()()()()()()()跡形も無く消し飛ばす事が出来てしまうだろう。……そう、お前達が怪獣を倒す際に使った光線技が外れれば、そしてその光線が市街地に当たればそうなる事も十分に考えられる」

 

 ……うん、親父も昔『M87光線の誤射で小さな村を一つ消滅させてしまった事がある』って言っていたからな。俺に対しても光線技の制御に関しては特に厳しく叩き込まれたし。

 

「宇宙警備隊に入るのなら、ここで自分達が学んだ技術は使い方を誤れば容易く悲劇を巻き起こしてしまう程のモノだと言う事だという事を絶対に忘れないでほしい。……俺達ウルトラ族には絶大なチカラが与えられているからこそ、このチカラを使う時には臆病なぐらいで丁度良いんだ」

 

 その真摯な言葉をもってカラレス教官からの話は締めくくられた……そして、この話を聞いた訓練生の多くは真剣な表情で何事かを考えているようだった。

 まあ、俺も親父からの話を最初に聞いた時には色々と考えさせられたからなぁ……と、考えていたらカラレス教官が雰囲気を明るいものに変えて話を続けたのだ。

 

「さて、私が今言った事の意味はこれからも考え続けてもらうとして……30分後にはもう一度同じ訓練をして貰うからな」

「「「「えぇ⁉︎」」」」

「まあ、2回目なのだから先程よりもいい結果が出せるだろうし期待しているぞ」

 

 ふーむ、どうやら訓練はまだ続くらしいな。

 

「い、いや教官、光線技の連続使用で私達の疲労はかなりのものだと思うのですが……」

「だから30分はエネルギー回復の為の休憩を入れただろう? 宇宙警備隊に入ったらエネルギー回復もままならない環境で、まともな休憩も出来ない様な連戦だってあり得るのだから今のうちに慣れておくと良い」

 

 フォルトの精一杯の言い訳を実にいい笑顔で切り捨てた教官は『30分後にもう一度来るからそれまでにエネルギーを回復させておく様に。何、ここ(光の国)にはディファレーター光線が溢れているから苦労はしないだろう』とだけ言って教室から出て行った。

 

「うへー……やっぱりカラレス教官はスパルタだぜ」

「うむ、カラレス教官は実に優しいな。まさか30分も休憩時間を与えてくれるとは」

「「「へ?」」」

 

 俺が言ったその言葉に周りの同期生はまるで信じられないモノを見るような目をしてきた……いや、親父達みたいに『ここは光の国なんだから、光線技を撃ちながらエネルギーを回復させろ!』とか『お前の内包するエネルギー量ならまだいける筈だ!』とか言わないだけ十分優しくないか?

 ……そう言ったら、みんな(メビウス除く)からドン引きされた……解せぬ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ……生徒達に告げるだけ告げて教室を出てそのまま廊下を歩いていたカラレスは、その途中で見知った顔を見つけたので声を掛けた。

 

「おお、ゾフィーじゃないか。久しぶりだな」

「カラレスか、確かに久しぶりだな。警備隊の隊長に就任してからは色々とゴタゴタしていたしな」

 

 そう、カラレスが遭遇した人物とは、かの宇宙警備隊隊長であるゾフィーだった……実は、この二人は同じぐらいの時期に宇宙警備隊に入り共に切磋琢磨してきた戦友同士であり、カラレスが“とある事件”による怪我で第一線を退いてからもプライベートの場では今の様に親しげに会話をするぐらいの仲なのだ。

 ……だが、そんな親しげな会話をしている最中にゾフィーが突如言い淀んだ。

 

「……ところで、最近の生徒達の様子はどうだ?」

「そこは、素直に自分の息子の様子を聞けばいいと思うんだがな」

 

 相変わらず少し不器用なところがある戦友にやや呆れながらも、カラレスは気を利かせて相手が求めている情報を教えてやる事にした。

 

「アークの成績は座学に関しては同期の中でもトップレベル、学習意欲もあるし特に問題は無いな。後、実技に関してはこちらも問題無い……と言うか、おそらく今現在でもそこらの警備隊員よりも遥かに強いぞ。いったいどれだけ鍛えたんだ?」

「……俺とウルトラ兄弟が総がかりで鍛えた」

 

 そう言ったゾフィーの表情は息子を誇る気持ちだけでなく、何か複雑な感情を抱いているようにも見えた。

 

「前から疑問に思っていたんだが、アークの実力は明らかに普通に鍛えた程度を遥かに超えている。お前は確かに厳しい男だが、自分の息子だからといってあそこまで過剰な訓練を施す様なタイプでは無かった筈だ。……あの子には何かあるのか?」

「……それは……」

 

 その問いにゾフィーが答える事は無かった……そんな旧知の相手がした予想外の反応にカラレスは若干困惑したが、直ぐに宇宙警備隊隊長に選ばれた程の男が口を噤むという事は()()の事なのだろうと思い直し、この件についてのこれ以上の詮索は辞める事にした。

 

「分かった。言えない事情があるなら無理に聞きはしないさ。……まあ、教官としてこの士官学校に居るうちはアークを含む訓練生達の面倒ぐらいは見てやるさ」

「……感謝する、カラレス」

 

 こうして二人のウルトラ戦士の会話は終わり、ゾフィーは隊長としての仕事に、カラレスは教官としての仕事へと戻っていった。




あとがき・各種設定解説

アーク:ゾフィーの息子だ! とかいずれ言うかもしれない
・見た目はゾフィーからスターマークとウルトラブレスター(身体に付いているブツブツの事)を無くして、更にまだ訓練生なのでカラータイマーを外した上で全体的なデザインを平成・ニュージェネ系にした感じ。
・幼い頃から修行漬けだったせいで一般的なウルトラ族とは若干常識にズレがあり、本人が割りとアホの子気味なのでうっかりやらかす事が多い。
・父親に関しては若干思うところはあるが、ウルトラ戦士としてや宇宙警備隊隊長としては尊敬している。

メビウス:ウルトラ兄弟の大ファン
・外見は原作通りだが、まだ訓練生なのでカラータイマーとメビウスブレスは付けていない。

ゴリアテ&フォルト:アークとメビウスがボケ役なのでツッコミに回る事が多い
・見た目はゴリアテが筋肉質のレッド族で顔はセブン系、フォルトはシルバー族の赤い部分を青くした感じの銀色が多いブルー族で顔はウルトラマン系。

カラレス:慈愛の教官
・指導方針はかつてタロウを教えていた時の様に、チカラを御する事が出来る心を育てる事を重視している。

ゾフィー:スパルタ親父(理由あり)
・尚、家族関係自体は普通に良好で、最近は隊長に就任したばかりで忙しく息子と話す機会が少ないのが悩みの種。


読了ありがとうございました。


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格闘訓練とウルトラ兄弟

お気に入りに登録・感想・評価ありがとうございます。そういう訳で最新話を投下します。


 今日も今日とて、この俺アークは光の国の士官学校で宇宙警備隊になる為の訓練を積んでいた。ちなみに今日の訓練は近接格闘用の訓練場で、同期生の誰かと二人一組になって格闘の模擬戦をやっている。

 ……これでも、俺は親父を始めとするウルトラ兄弟総がかりで鍛えられているので、格闘戦にもそれなりに自信があるんだが……。

 

「ゼアァァッ!!!」

「グゥッ⁉︎」

 

 俺はゴリアテが繰り出して来た右ストレートを交差させた腕で受け止めたものの、相手のパワーに押されて後ろに吹き飛んでしまった……そう、今回俺の模擬戦の相手は光の国ジュニア格闘大会チャンピオンのゴリアテなのである。

 ……と言っても、お互いに格闘戦の実力が他の同期生と比べて頭一つぐらい頭抜けているので、こういう訓練の際にはよく組まされるんだが。

 

「オラァッ!!!」

「チッ!」

 

 後ろに下がった俺に対してゴリアテはこちらに力強く踏み込んで追撃の左パンチを見舞って来たが、俺は身を屈める事でその拳を躱しつつヤツの直ぐ横を通り過ぎてその背後に回った……体格に差がある所為で単純なパワー比べでは部が悪いが、逆に言えば体格差のお陰でスピードと小回りはこちらに分があるからな。

 ……さて、これも勝負だからな、背後を取った利は全力で活かさせてもらう! 

 

「シュワッ! シャオラァッ!!!」

「グッ! 体勢が……ヌワァァァ⁉︎」

 

 まずは全力のローキックをゴリアテの片足に払って体勢を崩し、更にそのまま懐に潜り込んで体勢が崩れている最中のヤツを投げ飛ばして地面に叩きつけた……そして、ここからがウルトラ兄弟より学んだ技を見せる時だ!

 ……まずは、地面に倒れたゴリアテの上に馬乗りになり……。

 

「テェーイ! ジュアッ! シェアァ!」

「おい、待て……グベェ⁉︎」

 

 その体勢を維持したままゴリアテの顔面に向けて連続パンチとチョップを叩き込む! これこそがウルトラ兄弟から伝授された、自身より巨大でパワーも強い怪獣用のコンボ攻撃だぁ! オラオラオラオラオラオラァ!!!

 

「グブッ! グベッ! ゴバッ! ……良い加減にしろやァァ!!!」

「ヌオォッ⁉︎」

 

 と、そうやって一方的に攻撃を加えていたのだが、何とゴリアテは全身のバネを活かして倒れた体勢のまま跳ね飛び、馬乗りになっていた俺を弾き飛ばしたのだ。

 ……そうやって弾き飛ばされた俺は、ゴリアテの追撃を計画して即座に距離を取った。

 

「しかし、流石だなゴリアテ。あの体勢から肉体のバネだけで俺を弾き飛ばす程のパワーを叩き出すとは。ただ力が強いだけでなく、相応の技術を持っていなければこうはならないだろう」

「うるせぇ! このアホ! お前の戦い方はダーティー過ぎるんだよ!」

 

 ムゥ、俺はゴリアテの事を褒めたのに何故か罵倒された……解せぬ。

 

「一応、馬乗りからの連続殴打はウルトラ兄弟みんなが使う戦法なんだが。それに、この格闘訓練では基本的に何でもありだった筈だ」

「……とりあえず、これは模擬戦なんだから使うのは投げ技か関節技ぐらいに自重しておけ。……周りの見る目が酷い」

 

 そう言われて周りを見てみると、そこにはこちらに畏怖の視線を向ける同期生の姿が……その顔は何だ⁉︎ その目は何だ⁉︎ その涙は何だ⁉︎ そんな事で怪獣が倒せるのか⁉︎ 一人前の宇宙警備隊員になれるのクヮァッ⁉︎ (ヤケ)

 

「カラレス教官、あの馬乗り戦法がウルトラ兄弟直伝の技っていうのは本当なんですか?」

「まあ、一応怪獣の動きを封じてダメージを与えられるから、周囲に被害を出したくない状況でなら有用な手段ではあるから使う事もあるだろう」

「見栄えはともかく、条件次第では有効な手段なんでしょう……見栄えはともかく」

 

 すぐ近くでは先に模擬戦を終えたメビウスとフォルトがカラレス教官に質問をしており、それに対して教官も有用な戦術だと認めているしな。後、フォルトは何で二回言った。側から見たらそんなに酷かったか? 

 

「もし宇宙警備隊になった時、そういった泥臭い戦術を駆使しなければならない場面が訪れるかもしれないのだから、訓練生である今のうちに慣れておく事も必要だと思うんだ」

「……まあ、お前が言っている事も間違いでは無いんだろうがなぁ。……とりあえず、俺以外に使うのは辞めとけ。お前、抵抗出来ない相手もただひたすらに殴り続けるから超怖いんだよ」

 

 むう、これが今問題になっているゆとり教育というやつか? 仕方ない……。

 

「ハァ……なら訓練の一環としてセブンさんから習った宇宙拳法主体で行くか。お前相手なら良い訓練になるだろう」

「そうそう、しばらくは普通に戦っとけや」

 

 先日のスペシウム光線の一件で同期生の俺を見る目がちょっとアレだからな。しょうがないから多少は縛りを入れて戦うとしますか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうして、今は授業の間にある昼休み。俺はゴリアテ、フォルト、メビウスと一緒に教室で駄弁っていた。

 フラリと教室から出て行くのではなく、こうして自分達と普通に喋っていれば同期生が貴方を見る目も少しは改善されるでしょう……というフォルトの提案があったしな。

 

「そう言えば、ウルトラ兄弟の一人であるジャックさんが地球に派遣されるって聞いたんだけど、アークは何か詳しい事情は知らないのかい?」

「確かに最近はそんな話をよく聞きますね。……ウルトラマンさん、セブンさんに続いてジャックさんまで派遣されるとは、地球という星には何かあるのでしょうか?」

「でもよ、地球って銀河連邦にも加入していない辺境にある未開の惑星だろ? そんなところに何かがあるのかね?」

 

 俺達が適当に話をしている中でメビウスがウルトラ兄弟の話題を出してきた……コイツはウルトラ兄弟の大ファンだからな、昔家に連れて行って親父と合わせた時には物凄い興奮して大変だったし。

 ……まあ、その話題ならちょうどこの前親父に少し事情を聞いたし、少し話しても良いだろう。

 

「まず、フォルトの持っている情報には少し間違いがあるな……マンさんとセブンさんは宇宙警備隊の任務で地球に派遣された訳じゃないからな」

「そうなんですか? あのお二人は地球で多くの怪獣・宇宙人と戦ったと言う話をよく聞きますが」

「うむ、親父から聞いた話だとマンさんは凶悪な宇宙怪獣ベムラーが宇宙の墓場までの護送中に地球へと逃亡して、その際に人身事故を起こして地球人の一人を死なせてしまったんだよな。それで、その人の命を助ける為に融合したから地球に留まらざるを得なかったんだよ」

「それは大問題じゃないのか? ……と言うか、その話をしても大丈夫なのか?」

 

 ゴリアテがそう小声で聞いて来たが別に大丈夫だぞ……そもそも、宇宙警備隊は失態を隠蔽する様な黒い組織じゃないし、そもそも秘匿しなければならない情報を親父が俺に教える筈がないしな。

 もちろん、マンさんが起こした人身事故は大問題になっており、彼は今現在に至るまで宇宙警備隊の任務を外されて謹慎状態にある……まあ、地球で多くの怪獣・宇宙人を倒した功績もあるし、その地球人も親父が助けたから、今の謹慎は地球で負った怪我を癒すための療養も兼ねている殆どポーズみたいなもんだが。

 

「そして、セブンさんは恒点観測員としての仕事の最中に宇宙人の地球への侵略計画を見つけ、それを阻止する為に地球に降りてその宇宙人と戦ったんだ。……だが、そこから多数の宇宙人や怪獣が現れる様になった所為で、そのままやむをえず地球で戦い続けたという事になっている」

「……なんか、地球という一つの惑星に物凄く怪獣や宇宙人が出すぎじゃないですか?」

 

 うむ、良いところに気がついたじゃないかフォルト。そこが今回ジャックさんが地球に派遣される事になった最大の理由なのだよ。

 

「その通りだフォルト。マンさんやセブンさんが地球にいた時には、多い時だと週に一度くらいのペースで怪獣・宇宙人が出現していたらしいからな。……しかも、それらの怪獣・宇宙人は個々の実力も二人を苦戦させる程で、時には二人を敗退させる程の力を持つものすら現れたらしい」

「ウルトラ兄弟が負けたの⁉︎」

「ああ、マンさんは()()()()()に殺されかけて、親父が救援に行かなければ死んでいたし、セブンさんも宇宙人に捕まって張り付けにされたり、更に光の国への帰還直前には過労死寸前までになる程のダメージを負っていたらしいからな」

 

 そう、光の国の宇宙警備隊の中でも最精鋭であるあの二人ですらこうなる程に、地球という惑星は宇宙全体から見てもあり得ない程の危険度を持つ魔境なのだ。

 ちなみに、そんな魔境に住む地球人はマンさんを倒した程の怪獣を一撃で爆散させる武器を持っていたり、セブンさんを張り付けにした宇宙人を掻い潜って彼を救い出したりしていたらしい……地球人マジパない、戦闘民族か何かかな?

 ……正直、地球が未開の惑星って欺瞞情報か何かなんじゃ……。

 

「成る程、つまりそこまで危険度の高い惑星だからこそ、ウルトラ兄弟クラスの精鋭を送り込む必要があるという訳ですか」

「そういう事だ。地球は宇宙全体から見てもトップクラスに危険な魔境だからな。そんな惑星に並みの警備隊員を送り込んでも無駄死にさせるだけだろうという判断らしい。……加えて、『ウルトラ兄弟を殺しかける程の()()が地球にはある』という話が宇宙中に広がったから、多くの宇宙人が地球に目をつけ始めたからな」

「地球が狙われる責任の一端が光の国にある以上、警備隊員を派遣しない訳にもいかないって事か……」

「………………」

 

 む? さっきからメビウスが黙ったまんまだな……憧れのウルトラ兄弟が人身事故を起こしたと聞いてショックでも受けたか? 

 

「あー、メビウス。ウルトラ兄弟だって神じゃないから間違いぐらいは犯す事もあるさ。……うちの親父だって最近は仕事にかかりっきりでまともに家に帰ってこないしな「よし! 僕ももっと頑張らないと!」オワァッ⁉︎」

 

 なんか、いきなりメビウスが立ち上がって叫び出したんだが……とりあえず周りの同期生がコッチを見ているから座りなさい。

 ……それで、どうにかメビウスを落ち着かせた俺達は、一先ずコイツの話を聞く事にした。

 

「それで? いきなり叫び出してなんなんだ?」

「うん、それはゴメンね。……宇宙警備隊の任務ではあのウルトラ兄弟でも窮地に陥る事があるって知って、もっと訓練を頑張らないといけないと思ったんだ」

「そうか……俺はてっきりウルトラ兄弟の敗北とか聞いてショックを受けたのだと」

「ショックを受けていないと言ったら嘘になるけど……彼等ウルトラ兄弟はそんな事があっても決して挫けずに地球を守り抜いたんだから、それ以上に尊敬の気持ちが強いよ。だからこそ、彼等に追いつく為にはもっと頑張らないといけないって思ったし」

 

 ……コイツは昔からズバリと物事の本質を捉える事があるからなぁ……。まったく。

 

「確かにメビウスの言う通りだな。……俺達はまだ未熟な訓練生なんだから、今は自分を磨く事に集中するべきだろう。彼等の様に決して諦めず守るべきものを守れる様になる為に」

「そうですね。……いつか、あの偉大なるウルトラ兄弟に追いつく為に」

「やれやれ、メビウスに教えられるとは俺も焼きが回ったぜ」

「うん! 一緒に頑張ろうね!」

 

 こうして俺達は改めて宇宙警備隊を目指して努力する事を誓ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ただいま〜」

 

 あれから、今日の訓練を終えた俺はそのまま自宅に帰ってきていた……士官学校用の寮もあるのだが俺は親父と一緒に宇宙警備隊本部のある場所の近くに住んでいる為、本部と隣接している士官学校に通う分には問題無いから寮には入っていない。

 ……そして、今日は珍しく帰って来た俺に対して返事があった。

 

「おうアークか、お帰り」

「親父、帰って来てたのか。こんなに早く帰って来るなんて珍しいな」

 

 返事を返したのはリビングの椅子に座っている宇宙警備隊隊長こと、俺の親父ゾフィーだった。隊長に就任してからは殆ど家に帰って来る事がないぐらい忙しいと言う話だったのだが、今日は珍しく早めに帰って来たらしい。

 

「ジャックの地球派遣に伴う各種手続きも終わって仕事がひと段落したからな。……本当はまだ仕事があったんだが、同僚達に『いい加減に仕事し過ぎだから一旦帰れ』と言われてしまってな」

「ちゃんと休みぐらいは取れよ親父」

 

 親父は真面目だからな〜。大方、隊長に就任した事による責任感から必要以上に仕事をしてしまい同僚に心配されたんだろう。

 ……とりあえず、疲れたので俺もリビングにある椅子に座ったら親父が話しかけて来た。

 

「それで、士官学校では上手くやっているか?」

「それなりにね〜。成績に関しては同期でもトップクラスだと思うし、同じクラスのメビウス達とも仲良くしてるし」

 

 え? 他の同期生? ……き、嫌われてはいない筈だし!

 ……それはともかく、その事を聞いた親父は深く頷いて言った。

 

「そうか、流石は俺の息子だな」

「まあ、昔からあれだけ扱かれてますからね。……そっちは隊長の仕事とかどうなの?」

「前任のウルトラの父や同僚達の助けもあって何とかやっているさ。……ところでアーク、()()()()()についてだが……」

 

 そんな感じで俺と親父が和やかな会話をしていると、突然親父が雰囲気を変えた……まあ、俺の“あのチカラ”についての話っぽいし、しょうがないかな。

 

「大丈夫大丈夫、()()はちゃんと言いつけ通り訓練では封印しているからさ」

「それなら良いんだが……済まんな、こちらの都合でお前を縛りつけてしまう」

「まあ、あんまり見栄えの良いチカラじゃないからしょうがないさ。……俺もあの“チカラ”を人前で積極的に使いたい訳じゃないし」

 

 あの“チカラ”はこの光の国ではイメージかなり悪いだろうからなぁ、流石の俺でも大っぴらに使うのは自重するさ……その割には光線技と格闘技では自重して無い? ……光線技と格闘技は宇宙警備隊で使う技術の延長線上にあるものだし(震え声)。

 

「そうか。……ところで、今度の休みには宇宙科学技術局に行ってもらう事になっているが覚えているか?」

「覚えてる覚えてる。ちゃんとその日には予定を空けているよ」

 

 今までも何度か俺の“あのチカラ”の事を調べる為に宇宙科学技術局には行ってるからな、今更聞かれなくても大丈夫だよ。

 

「その時にお前の士官学校の教官であるカラレスも呼んである。……そこでお前の“チカラ”について話すつもりだ」

「ん、分かったよ。……というか、カラレス教官その事知らなかったのか」

「あまり広めるモノでもないからな。……だが、お前を指導する以上知らせておいた方がいいだろう」

 

 まあ、それはそうだろうな。制御は出来ているつもりだけど、うっかり使う可能性も無いわけじゃないし。

 ……俺と親父はそんな感じの会話をしつつ訓練や任務で疲れた身体を休ませたのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:格闘スタイルは昭和式怪獣プロレス
・なので、必要なら相手を得物で突き刺したり、切断したりとかも容赦無くやる。
・地球の事はヤバい場所だと思っており、そんな環境で生存権を確保している地球人は超ヤバいと思っている。

ゴリアテ:ちゃんとした格闘技を学んでいるので戦い方はちゃんとしている
・アークのダーティーな戦い方についても理解があるが、もう少し空気を読むべきじゃないかと思っている。

メビウス:原作主人公
・何だかんだと言って四人組の中心になる事が多い。
・今回の件で地球に興味を持ち始めた(本格的に地球行きを志望するのは原作通り『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』プロローグ後)

ゾフィー:家では普通に息子と接している。
・まだ隊長に就任したばかりなので色々慣れていない感じ。


読了ありがとうございました。次は宇宙科学技術局編予定、みんな大好きなあのキャラも出るかも。


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宇宙科学技術局とアークの“チカラ”(前編)

 今日は士官学校が休みの日で、俺は前からの予定である宇宙科学技術局での検査に来ています……この宇宙科学技術局とは光の国における最高峰の研究機関であり、宇宙警備隊の後方支援や新技術の開発などこの星の科学技術にまつわる様々な仕事を執り行っている部署である。

 その宇宙科学技術局の成果として有名なところでは、近年このウルトラの星において最高峰の天才であるヒカリさんを中心として発見された『命の固形化に関する技術』などがある。ちなみにそのヒカリさんは俺の検査を担当してくれる研究者の一人でもある。

 ……そして、俺は現在そこの受付で自分の到着を伝えているところだ。

 

「すみません、今日検査の予約をしたアークなんですけど」

「はい、本日予約されたアークさんですね。……今担当の者に連絡しましたので、迎えが来るまでロビーで暫くお待ちください」

「分かりました」

 

 とりあえず、俺は言われた通りロビーにある椅子に座って迎えを待つ事にした。

 ……少しすると、奥の方から見覚えのある人物がこちらに近づいて来るのが見えた。

 

「やぁ、アーク君、待たせたね。今日もよろしく頼むよ」

「いえ、そんなに待っていませんよトレギアさん」

 

 なんか手をコネコネしながら俺に声を掛けて来たブルー族の男性はトレギアさん、この宇宙科学技術局でさっきも言ったヒカリさんの助手をしている優秀な科学者である……ところで、あの手をコネコネする動作はクセなのかな? 

 ……まあ、それはともかく、彼はこれまでも何度も俺の“チカラ”の検査を行ってくれたメンバーの一人である。

 

「それで? 今日はどんな検査をするんですか?」

「ああ……でもその前に、今日はもう一人ゲストが居るんだよ。……どうやら来たみたいだね、ホラ」

 

 そう言って、俺の後ろを指差したトレギアさんに釣られて振り向くと、そこには技術局内に入って来たカラレス教官の姿があった……そう言えば、親父が教官にも俺の“チカラ”について知っておいてもらうって言ってたな。

 

「ああ、カラレス教官、こちらですよ」

「ん? ……おお! 久しぶりだなトレギア。それとアーク、今日はよろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします教官。……ところで、お二人は知り合いなんですか?」

 

 どうも二人の反応を見るに以前から面識があったようだが……カラレス教官はかつてタロウさんの師匠をしていたらしいし、トレギアさんはそのタロウさんの親友だからそれでかな?

 その疑問に対して、トレギアさんは肩を竦めながら答えてくれた。

 

「ああ、私はかつて宇宙警備隊を志していた事があってね。……まあ、私はあまり身体が強く無かったから士官学校の試験には落ちてしまったんだが、その時の試験官がカラレスさんだったんだよ」

「そういう事だな。……まあ、それからもヒカリやタロウから、その若さで宇宙科学技術局の要職に就く程の優秀な人物だと聞いていたがね」

「いえ、私などまだまだ若輩の身ですから。彼の検査でもヒカリさんの手伝いをするのがやっとですよ」

 

 ……光の国の歴史に残るレベルの研究者であるヒカリさんの手伝いが出来る時点で、トレギアさんも十分非凡だと思うんだけどなぁ。

 

「……しかし、ゾフィーからある程度の話は聞いていたが、ヒカリやキミ程の研究者が彼に関わっているとは……」

「彼の“チカラ”は私としても興味深いモノですからね。……さて、ここで立ち話も何ですし奥の研究室に行きましょうか」

 

 そう言って建物に向かったトレギアさんに続いて、俺と教官も宇宙科学技術局の奥にある研究室へと向かって行った。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうして暫くの間、俺達は宇宙科学技術局の廊下を歩いていく……いつもの研究室はこの建物の大分奥にあるから結構歩かなければならないのだ。

 ……と、そんな時にカラレス教官が真剣な表情でトレギアさんに問いを投げかけた。

 

「この一角は技術局の中でも相当に機密レベルの高い区画だった筈だが……アークの能力はそこまでのモノなのか?」

「まあ、彼の“チカラ”は光の国でも他に類を見ないモノですが……どちらかと言うと、今はあまり公開しない方がいいという宇宙警備隊隊長の指示ですね」

「今の親父は隊長就任や地球の事とかで色々と大変な時期ですからね、厄介事が少ない方がいいでしょう」

 

 そんな話をしている内にいつもの研究室の前に到着したので、俺達はトレギアさんの先導で中に入って行く。

 そこにはヒカリさんを始めとする()()()()()()()()が揃っていた。

 

「ヒカリさん、アーク君とカラレスさんを連れて来ました」

「ああ、ご苦労様。……それとカラレスは久しぶりだな」

「確かに、お互いに最近は忙しかったからな。本当に久しぶりだ、カラレス」

「お互い、第一線を引いた後は顔を合わせる機会が少なかったしな」

「……ちょっと待て、ヒカリが居るのは聞いていたがお前達まで居るのか⁉︎ サージ! フレア!」

 

 そうして中に入ってメンバーと顔を合わせた途端、カラレス教官は驚きの声を上げた……あれ? 親父から聞いてないのかな? 

 ……同じ事を思ったのかフレアさんも教官に聞き返していた。

 

「あら? ゾフィーから聞いてないのか?」

「……ゾフィーからは『ヒカリを始めとする知り合いの研究者達が協力してくれている』としか聞いていなかったからな」

「ふむ、アイツは息子の事になるとかなり神経質になるからな。どうせ『詳しい事は研究室で聞いてくれ』とか言ったんだろう」

 

 ……あー言いそう。うちの親父ってたまに言葉が足りなくなる時(例:『ゼットンは倒した』)があるからなぁ……。

 

「しかし、科学技術局に勤めているフレアは兎も角、主にM78星雲の周辺惑星警備を担当していたサージまで来ているのか」

「俺は以前ゾフィーからアークの特殊能力に関して相談を受けてな、それでこの検査にも顔を出しているんだ」

「こっちもそんな感じ。……それに、アークの能力は俺が研究している事にも関わっているからな、科学技術局の一人としてもな」

 

 ちなみにサージさんとフレアさんはカラレス教官と同じ様に宇宙警備隊員だった時に怪我を負って第一線から退いた人達で、現在ではそれぞれサージさんはM 78星雲周辺にある友好的な怪獣が住む惑星──メタル星やバッファロー星などカプセル怪獣になる事もある怪獣が住む星々の警備を、フレアさんはここ宇宙科学技術局で異次元や空間についての研究を行っている。

 ……そして、それぞれサージさんは寒さに弱いウルトラ族としては例外的に氷や冷気を操る能力を持っており、フレアさんは身体を光の粒子に変えたり異次元での行動を可能にするなど特殊な能力を持っている人達なので、俺の“チカラ”に関する事にも相談乗ったりしてくれているのだ。

 

「しかし、ウルトラ兄弟だけでは無くお前達まで関わっているとは……アークの能力とは一体……?」

「それについては直接見た方が早いかもしれないな。……アーク君、実験室の用意は出来ているからまずは一通りの能力を使ってみてくれないか?」

「はい、分かりました。……では行ってきます」

 

 カラレス教官のその疑問にヒカリさんがそう答えた後に俺へいつもの練習を行う様に言ったので、俺は指示通りに研究室の隣にある実験室に入っていった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『では、アーク君、準備はいいかい?』

「はい、大丈夫です」

 

 そうしてカラレス教官達が見守る中で実験室に入った俺はその中央部で待機していた……尚、この実験室は士官学校の訓練場の様に隣ににある研究室で中の様子を見る事が出来る上、壁や床には危険な実験を行う為に訓練場よりも遥かに強力なバリアフィールドが張られていたりする。

 

 

『じゃあまずは念力用ターゲットを出すから、()()姿()になってそれに念力を使ってみてくれ』

「分かりました」

 

 そのヒカリさんの言葉と同時に俺の目の前に三つの球体が置かれた……これは士官学校におけるウルトラ念力の訓練にも使われる念力用ターゲットであり、非常に念力による干渉がし難くなる特殊なエネルギーフィールドを纏っている。

 ……ちなみに士官学校の訓練ではこれを念力で持ち上げる事で、自身の念力の出力・制御能力を磨くのが主な使い方である。

 

「さて、じゃあやりますか……ハァッ!!!」

『なっ⁉︎』

 

 そして、俺はいつもの通りに自分の内側にあるモノを身体の外側に出すイメージで気合いを入れた……すると、俺の身体の銀色の部分が一瞬で()()()()()()()()のだ。

 ……研究室からカラレス教官の驚いた様な声が聞こえてきたが、まあ初めてこの姿を見たら驚くよなぁ。俺自身や親父もそうだったし。

 

「セヤッ」

 

 姿を変えた俺はそのまま三つあるターゲットに手を翳すと、それら全てををウルトラ念力であっさりと持ち上げた……一応、このターゲットは一般的な宇宙警備隊員が全力でウルトラ念力を行使する事で辛うじて持ち上げられるぐらいの物であり、事実普通の姿の時の俺は一つを漸く持ち上げるのが限界である。

 ……だが、この姿の俺はウルトラ念力の強度が大幅に上昇する為、これぐらいのターゲットなら複数同時に持ち上げる事が可能なのだ。

 

『トレギア、あの姿での念力の強度は?』

『ターゲットに備えられた計測器からのデータだと、一般的な宇宙警備隊員のものと比べても十倍以上の強度がある様ですね』

『うーん、やっぱり以前士官学校入学前に測った時よりも強度は上がってるよな。これは本人の成長が関係しているのかね』

 

 隣の研究室ではヒカリさん、トレギアさん、フレアさんがこの姿の俺の色々なデータを取ってくれており、その間に俺はターゲットを念力だけで動かしたりしてみていた……うーむ、やっぱり前よりも念力の強さが上がってるなぁ。

 ……しばらく動かしているとヒカリさんからデータを集め終わったからもういいと言われたので、念力を切ってターゲットを床に置いておく。

 

『それじゃあ次は空間操作──ゲートの展開とそれによる空間移動をやってみてくれ』

「分かりました……セイッ」

 

 そのヒカリさんの指示に応えて、俺は両手を前に出して前方にある空間に干渉していく……すると俺の前方の空間に()()()が開き始め、それと同時にそこから少し離れた前方にもう一つの同じ様な黒い穴が開いた。

 

「じゃあ、入りますね」

 

 そして、その穴の大きさが大体ウルトラ族一人分の大きさになったところで、俺はヒカリさん達に穴の中に入る事を告げてから目の前の黒い穴の中に入っていった……すると、そこには無限に続いているのではないかという程の広大な闇の空間があった。

 そして、目の前には先程入って来た穴と同じぐらいの大きさの穴が空間に穿たれており、その先には実験室の中の光景が見えた……俺はその穴をくぐると、先程少し離れた場所に作ったもう一つの黒い穴から出て実験室に戻っていた。

 ……これが今の姿の特殊能力の一つである『闇の亜空間に繋がるゲートの生成』である。

 

『フレア、実験室内の空間データは?』

『室内に取り付けられた各種センサーでは空間に穴が空いている事は観測出来ている……が、その穴の中までは観測不可能だな』

『それと、穴が空いている空間以外の場所は一切の異常を感知出来ませんね。ここまで安定した空間操作は今の光の国の技術でも不可能でしょう』

 

 尚、研究室内の皆さんがデータを取り終わるまで、俺はゲートを維持しながら手持ち無沙汰に突っ立っている……このゲート内の『闇の亜空間』は俺自身にもどういうものかよく分かっていないからな。研究室の皆さんには期待している。

 一応、この姿なら闇の亜空間内にずっと入っていても大丈夫だし、その気になればいつでも内部からゲートを開いて通常空間に戻って来れるんだが、どうせならどういうものか分かった方がいいしな。

 

『アーク君、データは取り終わったからもう穴を閉じてもいいよ』

「分かりましたトレギアさん」

『それじゃあ、次は環境対応試験だな。……今回はちょっと特殊な擬似環境を用意しているぜ』

 

 言われた通りワームホールを閉じると、フレアさんが次の試験の開始を告げて来た……この姿と元の姿では体質とかにも色々と違いがあるからな、擬似再現された環境対応試験はその為のものなのだ。

 ……しかし、特殊な環境とは一体?

 

『その名も“擬似異次元空間”! 名前の通り異次元を擬似的に再現したものでな。今エースが追っている()()対策に作ったものなんだが、お前の亜空間と似ているかもしれないと思って用意したのさ……とりあえず実際にやってみよう、準備はいいか?』

「はい、大丈夫です」

『それじゃあ“擬似異次元空間”展開!』

 

 そのフレアさんの言葉の直後、実験室内の空間がめちゃくちゃに歪んだ様に感じた……これが彼の言う“擬似異次元空間”なんだろう。

 ……ふむ、確かに俺が入れる『闇の亜空間』と似ている様な気もするが、あっちと比べるとなんかグニャグニャしているというか騒がしい感じというか……。うーん、上手く言葉に出来ないな。

 

『どうだ? 動き難いとかはないか?』

「いえ、特には。跳んだり跳ねたりも普通に出来ますね」

『……普通は異次元空間に入ったら対策を取らないとまともに動けなくなるんだがな。やはり、その姿だと特殊な環境にも適応出来る様になるんだろう』

『計測不可能な闇の亜空間内に問題無く出入り出来る上、通常ウルトラ族が苦手とする低温・高冷媒環境でも問題無く活動出来ていましたしね』

 

 そう、この姿だとそういう特殊な環境でも問題無く活動出来たりするのだ。『闇の亜空間』の中で活動する為にそういった能力も上がっているのではないか、と言うのが皆さんの推論だが。

 

『それじゃあ、姿を元に戻してみてくれ』

「分かりました……ぬおっ!」

 

 ヒカリさんに言われて姿を元のシルバー族のものに戻すと、途端に身体がまともに動かせなくなってしまった。これが異次元空間……!

 

『異次元空間に素の状態で適応出来る訳ではないと』

「ぬおう、凄いグニャグニャする。なんか気持ち悪くなって来た」

『普通は身体にバリアフィールドを展開したりして異次元の影響を遮断するんだがな。……それじゃあ“擬似異次元空間”停止っと』

 

 フレアさんが擬似異次元空間を解除してくれたお陰で俺はどうにか動けるようになった。身体にバリアフィールドか、後で練習しとこうかな。

 

『それじゃあ、今日はこのぐらいにしようか。……カラレスへの説明もあるから研究室に戻って来てくれ』

「分かりました」

 

 そのヒカリさんの指示の下、俺は実験室を出て研究室に戻っていった……さて、カラレス教官にはどう説明しようかな。




あとがき・各種設定解説

アーク:実は平成ウルトラ的なタイプチェンジが出来る(名称未決定)
・この『黒の姿』に関する詳細は次回だが、ただの強化形態という訳でも無い模様。

トレギア:まだ普通の宇宙科学技術局職員
・アークとはプライベートでもそこそこ中が良く、彼の能力にも強い興味を抱いている。

ヒカリ:公式技術チートラマン
・この物語ではゾフィーやカラレス達とは昔からの知り合いである設定。

フレア&サージ:出展『ウルトラマンstory0』
・カラレスと同じ様に今は第一線を退いて各々の職場に付いている。
・また、アークにはそれぞれの特殊技術を教えたりしている師匠でもある。


読了ありがとうございました、次回は後編になると思います。


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宇宙科学技術局とアークの“チカラ”(後編)

話数が5話になったので、短編から連載に変更しました。


 そうして実験室を出た俺は皆さんが待つ研究室に戻って来ていた……さて、あの姿の事をカラレス教官にどう説明しようか。何分見た目が少し“アレ”だからなぁ。

 ……そう、俺が切り出す言葉に悩んでいると、その前にヒカリさんがカラレス教官へ説明を行ってくれた。

 

「まあ、見てもらった通りアレがアークの能力だ。……身体の色が変わると同時に強力な念力・亜空間へのゲートの生成・特殊環境への高い適応能力を獲得するというものだが」

「その前に少し聞かせてくれ。……アークがあの姿になる事で肉体や精神に何か変調などはあるのか?」

 

 その説明の途中でカラレス教官からそんな質問があった……真っ先に俺への悪影響を心配してくれるとはやっぱり教官は良い人だな。

 ……まあ、それに明らかに闇堕ちとかしそうな見た目だしなぁ。

 

「それに関しては、これまでの実験後には必ずメディカルチェックとカウンセリングを行っているが特に異常は発見出来ていないな」

「まあ、ゾフィーもその辺りの事をかなり心配していたから、そこは特に念入りにやってるぜ」

「あの姿になっている間もエネルギーやバイタルは安定していますしね」

 

 その質問に対してヒカリさん、フレアさん、トレギアさんがそれぞれ特に問題は無いと答えてくれた……実際使っている側としてもおかしい所は何一つ無く、この“チカラ”が自分のモノである事が当たり前の様に使える感覚なんだが、上手く言葉にするのが難しいからな。

 そして、その事を聞いてカラレス教官は安心した様に頷いた。

 

「そうか、お前達がそこまで言うなら大丈夫そうだな。それに最初は少し面喰らったが、あの亜空間を開く力……アレはゾフィーの『黒の力』と同質のモノだろう?」

「恐らくはな。同じ力が息子であるアークに受け継がれたと考えるべきだろう」

「ゾフィーと違って全身の色が変わるからな。異常を心配するのは当然だろ」

 

 そう、サージさんとフレアさんが言った通り、実は親父も俺と同じ様に『闇の亜空間』を開く能力を持っているのだ。そして、親父がその力を使う際には頭の一部が黒く染まるので、俺のこの姿も親父から受け継いだものである可能性が高い様である。

 尚、親父はかつてその『黒の力』をM87光線に乗せて放って、空間上にあらゆる物を吸い込む闇の亜空間を作り出して敵をその中に放逐したり、そのM87光線をブラックホールに打ち込んでそれを証明させたりしていたらしい。

 ……では何故ここまでこの姿をひた隠しにしているのかと言うと、さっきから何度も言っている通り()()()の問題なんだよなぁ……。

 

「俺のは親父と違って全身のシルバーの部分が真っ黒に染まるからな……お陰で完全に()()()()()()()()()になっちゃうからなー」

「まあ、赤と黒だから、事情を知らない者が見たら誤解しかねない姿だからねぇ」

「それに体色の変化自体が珍しいからな。俺もゴライアンの力を封じていた時にはシルバー族になっていたが、アレはエネルギーを失った結果だからアークのモノとは結構違うからな」

 

 この光の国では基本的に体色による差別などはほぼ無いのだが、唯一の例外として赤と黒の組み合わせ──かつて光の国に唯一反逆したウルトラ族『ベリアル』の色に関しては忌避される傾向があるのだ。

 だから、親父には自分はまだ宇宙警備隊の隊長になったばかりだし、そんな時に息子の俺がこんな姿になったらあらぬ誤解を抱かれる可能性があるから、士官学校を卒業するまでこの姿は公の場では封印しておけと言われているぐらいだしな。

 ……と、そんな事を言ったらヒカリさんとカラレス教官が口を開いた。

 

「いや、ゾフィーの事だから自分の事よりも息子が変な目で見られるのを心配しているんだろう。今はアイツが隊長になったばかりだから、その息子のお前も嫌でも目立つからな」

「それに、ゾフィーはその力に溺れてしまわない様に気を使っているのもあるだろう。あの『黒の力』は強力すぎるからアイツ自身も使用を戒めているからな」

「まあそうでしょうね。親父は色々口下手ですから。……と言っても、この『黒の姿』になると俺の場合むしろ()()()()から、言われなくてもあんまり使わないんですけどね」

 

 実は俺の『黒の姿』なのだが、この姿になると元の姿と比べて身体能力が大体半分くらいに弱体化してしまう上、更に光線技が使えなくなってしまうのだ。

 皆さんの研究結果では『肉体が亜空間の展開や念力の行使などに特化された所為で、逆にいくつかの能力が弱体化しているのではないか』との事だが……。

 

「正直言って、元の姿の方が直接戦闘能力は高いですね。……一応、黒の姿でも冷気や氷みたいなマイナス方向のエネルギー制御は出来る様なので、サージさんから氷の技を習ったりしていますけど」

「俺の見立てだと、元の姿と比べて黒の姿の方がマイナス方向のエネルギー制御能力は高い様だ」

「ふむ……あの闇の亜空間もゾフィーが作ったものより安定していた様だし、黒の姿はより亜空間の生成に適応した結果なのかもしれないな」

「ゾフィーのモノは空間を無理矢理こじ開ける感じだけど、アークの黒の姿は自由に亜空間を操作出来るって感じだしな」

 

 そんな感じで皆さんが俺の『黒い姿』の事を色々と考察していった……俺がこんな闇堕ちしそうな能力を持っているにも関わらず、ごく真っ当に過ごせているのはここに居る皆さんの尽力も大きいだろう。

 ……そんな中で、突然トレギアさんが俺に一つの提案をして来た。

 

「そうだアーク君、君の『黒い姿』に名前をつけてみるのはどうだろうか?」

「名前ですか?」

 

 ……少し意外な提案だったから思わず聞き返してしまった。しかし、名前か……確かにずっと『黒い姿』って呼んでたしな。

 

「ああ、いつまでも『黒い姿』じゃ味気ないだろう? それに宇宙警備隊の戦士は自分の作ったオリジナル技に名前をつける事はよくある事だし、将来君が宇宙警備隊でその力を振るう時にキチンとした名前があった方がいいだろう」

「いいんじゃないか? レポートを書くのもそちらの方が楽そうだし」

「それに、その『黒い姿』をお前自身の技って示す事にもなるだろうしな。それに名前を付けた方が愛着も湧くだろうし、何よりカッコいい……俺の《αΩ》とか《β》とか《γ》とか」

「まあ、俺も自分の技に《リオート》や《ミラーシ》《ザミルザーニィ》などの名前を付けているからな。そういうのもいいだろう」

「いや、お前達のはちょっと捻り過ぎだろ。……アーク、技名とかは使う本人が分かりやすいのが一番重要だからな」

 

 フレアさんとサージさんの技名に対してカラレス教官からツッコミが入ったりしたが、概ね俺の『黒い姿』に名前をつける方向に決まったらしい……流石にお二人程センスのある名前をつけるのは俺には無理そうだが……。

 しかし名前か、どうするかな……超能力が得意だから『ミラクルタイプ』……はたまた黒くて亜空間を開くから『ブラックホールフォーム』……うーむ、ちょっと時代や世界観が違う気がする。もう少しシンプルな感じにしよう。

 

「……それじゃあ、この『黒い姿』の事は“リバーススタイル”、いつもの姿の時は“シルバースタイル”で」

「成る程、リバーススタイル(黒い裏)シルバースタイル(銀の表)か……イイ名前じゃないか」

「ああ、分かりやすくていいと思うぞ」

 

 トレギアさんとカラレス教官から賛成されたし、他の皆さんも『アークが自分で考えた名前ならそれで良いだろう』という事になったので、これからは俺の黒い姿の事を『リバーススタイル』、いつものシルバー族の姿の時を『シルバースタイル』と呼称する事に決まった。

 

「それじゃあ名前も決まって話もひと段落した事だし、今日の残りの検査もやってしまいたいんだが良いだろうか?」

「はい、体力も回復出来たので大丈夫ですよ」

「では、次は『リバーススタイル』での俺が教えた凍結系能力の試験をするか」

「その後は俺が教えた肉体変化の技術の試験もやるぜ」

「いや、アークは明日も士官学校で訓練なんだからもう少し手加減してだな……」

 

 と、そんなこんなで俺は残りの試験をこなしていくのだった……途中、カラレス教官から色々物言いが入ったりしたが、このぐらいなら特に問題無いと俺が取りなしておいた。

 俺が宇宙警備隊員を目指している理由は自分の事を色々と気にかけてくれた彼等に応えようと思ったからだからな。このぐらいはどうという事は無い。

 ……それにウルトラ兄弟による地獄の特訓フルコースと比べれば、宇宙科学技術局の検査と士官学校の訓練のはしごぐらい本当にどうという事は無いしな! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 さて、そんな訳で本日の検査を一通り終えた俺は、宇宙科学技術局内にある休憩室で皆さんと一緒に寛いでいた。

 

「ふむ、俺が教えた冷気系能力はそれなりに上手く使えているようだな」

「剣術に関しても、まあ及第点は与えてやれるだろう」

「ありがとうございます、サージさん、ヒカリさん」

 

 ちなみにヒカリさんは昔剣術を習っていた事があるらしく、サージさんとは同門の剣術仲間だったらしい。なので俺は検査のついでに彼等から剣術や光剣の生成技術などを学んだりしているのだ。

 

「俺が教えた肉体を光の粒子に変化させる技術も『リバーススタイル』の時にはある程度使えるみたいだな。……まあ、あれもウルトラ念力による肉体変化の応用だからな」

「『リバーススタイル』時には肉体のエネルギー性質がマイナス方面に変化しているからだと計測されていますし、マイナス性質のエネルギーの方が変化し易いという考えも出来ますね」

 

 そしてフレアさんはトレギアさんと一緒に先程の実験結果の考察をしていた……尚、これを見たカラレス教官は『あのフレアがすっかり技術屋になっているな』と半分関心、半分驚きの表情で語っていた。

 ……と、そこで休憩室にとある意外な人達が顔を出したのだ。

 

「ヒカリはいるか? 例の武器の試験が終わったから来て欲しいと言われて呼びに来たんだが……」

「ふむ、アークがいるという事は例の検査だったか。これは出直した方がいいか?」

「マンとセブンか。いや、検査はもう終わったしこの後そっちにも顔を出そうと思っていたところだ」

 

 そう、現れたのは栄えあるウルトラ兄弟の次兄と三男、ウルトラマンさんとセブンさんだったのだ……メビウスがいたら感激して色々騒がしくなりそうな光景だな。

 ……しかし、彼等は地球で重症を負って療養中だと聞いていたのだが……。

 

「お久しぶりです、マンさん、セブンさん。もう動いて大丈夫何ですか?」

「久しぶりだなアーク。俺もセブンも地球で負った怪我に関しては既に完治したさ。……今はリハビリも兼ねて宇宙科学技術局で新武器のテストをしているんだ」

「今、地球で任務に付いているジャックに送る予定の武器だから、地球での活動経験がある我々がテストを行うのがいいだろうと言われてな。……俺達としても、代わりに地球での任務に着いたジャックの助けになるのならと請け負ったのだ」

 

 ちなみにトレギアさんに聞いたところ、今宇宙科学技術局ではお二人が試験している万能武器『ウルトラブレスレット』を始めとして、地球の様な過酷な環境での行動を補助する様々なアイテムの開発にかなり力を入れているらしい。

 どうやら、お二人が療養する事になった事で、ウルトラ兄弟クラスの隊員でも過酷な環境での長時間活動は危険が大きいと考えた宇宙警備隊隊長(ウチの親父)が提案したとの事。

 

「私も過酷な外宇宙での長時間の活動を可能にするエネルギーコンバーターの開発に関わっているからね。……それに、いずれはそういった環境でも問題無く活動出来る様になるアイテムを作ろうとも思っているんだ」

「成る程……忙しそうなら俺の検査も少なくなりますかね」

「いや、君の『リバーススタイル』状態は擬似的に再現された地球の環境でも長時間活動出来る様だからね。そのデータがあれば研究も進むかもしれないし、むしろ検査が増えるかもね」

 

 はー、流石は光の国を支える屋台骨である宇宙科学技術局だな。親父も彼等がいなければ宇宙警備隊の任務は成り立たないって言ってたし、この星の最重要機関と言っても過言では無いって感じだ。

 ……そうして休憩が終わって俺とカラレス教官は帰り、他の皆さんは業務に戻ろうとしていたところで、更にこの休憩室に一人の技術局職員が入って来たのだ。

 

「すみません、ヒカリさん。……また()()()()です」

「……ハァ……またか」

「アイツら本当にしつこいですね。……というか、こちらには回さずに外交部門の方で処理する問題でしょう」

 

 その職員が簡潔に告げたその言葉に、ヒカリさんやトレギアさんといった技術局職員達が一様にウンザリとした表情でため息を吐いたのだ。

 

「どうしたんだヒカリ、何かあったのか?」

「いや……実は、最近バット星人達が「光の国は『命の固形化技術』を全宇宙に公開すべきだ!」と言って来る様になってな。基本的に外交部門の方が対応していたのだが、最近になって技術局の方にも直接文句を言って来る様になって来たんだ」

「そもそも『命の固形化技術』は光の国でも『プラズマスパーク技術』に匹敵する機密情報なのだから、公開なんて出来る訳が無いでしょうに」

「ま、下手に公開すると宇宙のバランスを崩しかねない技術だからな。……そもそもバット星人みたいな侵略活動を積極的にやってる連中に教えられる訳ないし」

 

 セブンさんが発したその疑問にヒカリさん、トレギアさん、フレアさんが本当にウンザリした雰囲気で答えてくれた……確か『バット星人』は惑星ぐるみで他の星への侵略を積極的に行なっている宇宙警備隊でもマークされている種族だったな。

 ……まあ、そんな連中に宇宙警備隊がある光の国が技術供与なんて出来る訳が無いのは当然なんだが。

 

「そもそも『命の固形化技術』だって必ず死者を蘇らせられると言うほど万能では無いし、その危険性から使用には宇宙警備隊総本部の許可が必要な技術だから俺達に文句を言われてもどうしようもないんだがな」

「私とハヤタを救った時でもゾフィーとウルトラの父が方々に掛け合ってくれたそうだからな。……しかし、この光の国に何度もそんな文句を付けて来るとは……」

「随分とキナ臭い話だな。……ヤツらも侵略活動を行なっている以上、光の国に目を付けられやすくなる行動は控える筈だが……」

 

 ヒカリさんのその言葉にマンさんとカラレス教官が各々の意見を述べた……確かに妙な話だな。宇宙警備隊の主力である光の国にちょっかいを掛ける様な連中はこれまで殆ど居なかったんだが……。

 

「とりあえず、俺はそのクレームを適当に捌いてから行くから、他のみんなは先にウルトラブレスレットの実験室に向かってくれ」

「分かりました」

「それじゃあアーク、忙しそうだし俺達はそろそろお暇するか」

「そうですね、カラレス教官」

 

 そういう訳で、今日の検査は終わり俺達は解散して各々の職場や自宅に戻っていった……しかし、最後は何かキナ臭い話だったな。厄介事にならなければいいんだが……。




あとがき・各種設定解説

アーク:タイプチェンジの名前を(無難に)付けた
・これを期に他のオリジナル技にも名前を付けようかと思っている。

リバーススタイル:アークの中にある『黒の力』を解放した状態
・明らかになっている長所は『ウルトラ念力の大幅強化』『闇の亜空間に繋がるゲートの展開』『環境対応能力の上昇』『マイナス方面のエネルギー制御能力・肉体変化能力などの上昇』と言ったところ。
・ただし、デメリットとして『身体能力の大幅減少』『光線技の使用不能』があるので直接戦闘能力は落ちる。
・アーク自身にもまだ分かっていない事が多いので隠された力(後付け設定)がある可能性も。

ゾフィーの『黒の力』:出展『ウルトラマン超闘士激伝・新章』
・『初期のゾフィーの頭部にあるトサカが黒かった』というネタをゾフィー強化の能力として流用した良設定。
・この作品においても激伝と同じ様に『皆の規範になるべき宇宙警備隊隊長としては相応しく無い力』として封印している。

トレギア:研究メンバーの中ではアークと歳が近いのでよく話をする関係
・光と闇についての考察はアークの検査をした事で更に重視する様になっている。

ヒカリ:人間で言うとレオナルド・ダ・ヴィンチみたいな万能の天才
・テレビでは宇宙剣豪と呼ばれるザムシャーとやり合えるだけの剣術を有していた為、この作品では昔剣術を習っていた設定に。

サージ&フレア:自分達の特殊な技術を受け継げそうなアークへの指導にはかなり乗り気

バット星人:次回のフラグ


読了ありがとうございました、次回は本格的な戦闘シーンを入れていきたいと思います。


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光の国を守れ! バット星人襲来!(前編)

 ────────◇◇◇────────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン 登場! 

 

 

 ────────◇◇◇────────

 

 

 今、宇宙警備隊隊長ゾフィーの息子であり現在はその士官学校の訓練生であるこの俺アークは、本来なら学校で訓練に明け暮れている時間であるにも関わらず光の国の街中に出ていた。

 ……勿論、サボっているとかでは無く、今俺はメビウス達他の訓練生と一緒に手分けして光の国の住民の()()()()()()()()()()()()()()()をしているのだ。

 

「はーい! 押さない、駆けない、飛ばないを守って焦らずに避難して下さーい!」

「落ち着いて、落ち着いて避難して下さーい! ここはまだ安全ですからー!」

 

 俺とメビウスの声に従って住民達が不安そうな表情を見せながら、ウルトラの星に有事の際の為に備えられた避難用シェルターまで歩いていく……どうにか、今のところ避難は順調に進んでいるな。

 ……と、俺が考えたその時、ここからかなり離れた遠方で爆発音がした。

 

「キャッ⁉︎」

「あっ⁉︎ 大丈夫ですか?」

「は、早く避難しないと……」

「はい! 急いで避難する為にも慌てず騒がない様にゆっくり移動して下さいね! 避難用シェルターはすぐそこですので!」

 

 その音に驚いて倒れそうになった女性をメビウスが支えたり、慌てて避難しようとした人を俺が落ち着かせたりしながら、確実に避難用シェルターへの誘導を進めていった……こういう時には光の国の住民のモラルの高さが有難いな。何せ未だにパニックとかは起きていないみたいだし。

 ……だが、やはりというか住民達にも不安や恐怖が広がっているな。

 

(まあ、無理もないか。……何せ()()()()()()()()()()()のなんていつ以来だと言う話だからな。下手をするとウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)以来じゃないか?)

 

 そう、今現在この光の国は戦線布告を受けた上で戦争状態にあり、現在はウルトラ兄弟を始めとする宇宙警備隊員達が戦争を仕掛けてきた襲撃者達と交戦中なのである。

 どうして、こんな事になったのは現在から少し前に遡る……。

 

 

 ────────◇◇◇────────

 

 

 その日も俺達訓練生はいつも通り士官学校に通っていたのだが、急にカラレス教官を始めとする学校の教師達が全員『今日は授業に遅れるのでしばらく教室で自習をしている様に』と連絡を入れて来たのだ。

 

「教官達、いきなり自習なんて一体どうしたんだろう?」

「しかも、全員纏めて授業に遅れると連絡がありましたからね。何か急な予定が入ったのでしょうか?」

 

 メビウスとフォルトがそんな話をしているが、他の訓練生達も自習なんてしている者は殆どおらず似たような話をしているのでさして目立ってはいない。

 ……それだけ、今回の一件はおかしいんだよな。この光の国における最重要の組織である宇宙警備隊、その隊員を育成するこの士官学校の教官はかなり重要なポジションの筈なのだが、それが一人二人ならともかく全員が遅れてくるなんて只事ではない。

 

「アーク、お前何か親父さんから聞いてないのか?」

「悪いが何も聞いていないな。……親父は公私をはっきりと分けるタイプだし、重要な情報なら基本的に身内にも話したりはしないからな」

 

 ゴリアテがそう聞いて来たが、こっちも何も聞いていないので答えられなかった……本当に一体どういう事なんだろうな?

 ……訓練生達みんながそうやって困惑していた時、突如外の街の方からブレた大音量の音声が聞こえて来た。

 

『……愚かなる全宇宙の裏切り者、ウルトラの星の住民どもに告ぐ!!!』

「! なんだぁ⁉︎」

「この声は……外から⁉︎」

「おいっ⁉︎ アレを見ろ!!!」

 

 その時、同期生の一人が教室の窓から街の空の方を見上げてみんなに外を見ろと叫んだ……その只ならぬ様子から、俺を含む同期生達は揃って窓際によって空を見上げた。

 ……そこには、こちらの目を疑うような信じられない光景が浮かんでいた。

 

『我々バット星人連合は! 愚昧にもこの大宇宙に生きる者としての義務を果たさず! のうのうと安寧の時を貪っているウルトラの星に対して宣戦を布告する!!!』

「ハァッ⁉︎」

「アレはホログラムですか⁉︎」

「また随分デカイな」

 

 何と、光の国の街──クリスタルシティ上空には巨大なホログラムが浮かんでいたのだ……映し出されているのはコウモリの様な羽根を持ち、頭部には触覚、口には大きな牙が生えている宇宙人──先日話を聞いた後、アーカイブでその姿を見た【触角宇宙人 バット星人】だと思われる姿だった。

 ……そして、そのバット星人は傲慢な態度を隠そうともせずに宣戦布告とやらの続きを話し始めた。

 

『貴様らウルトラ族供は全宇宙に公開すべきである不老不死を齎す技術『命の固形化』を秘匿し! あまつさえそれを自身の欲望の為だけに行使し続けている! 我々バット星人連合は全宇宙の代表としてこれに抗議し続けて来たが! 貴様らは頑なにその訴えを黙殺したのだ!』

「……アーク、あの人は何を言ってるんだい?」

「適当な言いがかりかな? まあ、宣戦布告なんてのはとりあえず自分側が正しく、相手側が悪く思わせる様に言うものだし」

 

 しっかし、言ってる事がめちゃくちゃだな。そもそも技術に公開の義務なんて無いし『命の固形化』だって不老不死を齎す程万能でも無いんだが。

 ……とは言え、この異常事態に対して同期生達はかなり動揺している様で、メビウス以外も先程から近くの者と話し合ったりしている。

 

『よって! 我等バット星人連合は全宇宙の正義と秩序の為にウルトラの星へと総攻撃を仕掛ける! 貴様らには宇宙の正義と秩序の為に早急な降伏を期待するものである!!!』

 

 そんな最後までツッコミどころしか無い宣言が終わると共に、上空に映っていたバット星人の巨大ホログラムは消滅した……本当に最後まで好き勝手な事を言ってくれたな……。

 その直後、光の国全体に非常事態用のサイレンが鳴り響くと共に、一般住民は非常用シェルターに避難する様にと言う広域放送が流された。

 

「ど、どうするんだよ……戦争だって⁉︎」

「お、俺達も避難を……⁉︎」

「馬鹿! 俺達も戦うんだよ!」

 

 ……ふーむ、思った以上に訓練生達も混乱している奴がいるな。幸いメビウスやゴリアテ、フォルトなど一部の同期達は落ち着いている様だが……。

 

「それで、どうしますアーク?」

「とりあえず同期生達を落ち着かせよう。……避難する様に指示されたのは一般住民だけだし、俺達にも何か別の指示があるかもしれないし」

「分かった! ……みんな! まずは一旦落ち着こう!」

「てめえら何動揺してやがる! それでも宇宙警備隊の訓練生か!!!」

 

 メビウスとゴリアテが声を張り上げると、動揺していた同期生達は少し落ち着きを取り戻した様だ……更に俺とフォルト、そして他のまだ冷静だった同期生達もそれに続いた事でどうにか混乱は収まってくれた。まあ、全員伊達に士官学校の狭き門を潜り抜けている訳では無いって事かな。

 そして、そのタイミングでカラレス教官が勢いよく教室へと入ってきて、これまでに無い程の真剣な表情で俺達に向き直った。

 

「お前達、状況は分かっているか?」

「いえ、先程の宣戦布告とやらと一般住民に避難勧告が出た事ぐらいしか分かりません」

「そうか……では、今から現在の状況を簡潔に説明する。心して聞く様に」

 

 俺がカラレス教官のその質問に答えると、教官は手早く現在の状況を説明し出した……その話では現在バット星人が率いる大艦隊がウルトラの星に接近中であり、後一時間もあれば到着するとの事(先程のホログラムは先行して来た無人機が投影したものらしい)。

 この事態に対し宇宙警備隊は一般住民にシェルターへの避難勧告を出し、更に全宇宙警備隊員にウルトラの星への集結とバット星人連合の迎撃を命じたのだ。

 

「だが、ウルトラの星周辺にいる隊員の数はそれほど多く無く、更に前線に戦力を集中させているので住民の避難誘導に手が回らなくなる事が懸念されている。……そこでお前達訓練生には一般住民の避難誘導をやってもらう事になった。緊急時の避難方法は授業でやったから覚えているな、これからお前達にはいくつかのグループに分かれて光の国の各地区の避難誘導をやって貰う」

「「「「「分かりました!!!」」」」」

 

 そうしてカラレス教官は手早く俺達をいくつかのグループ分けてそれぞれの担当地区を決めていった……ここまでスムーズに進んでいるのは事前に同期生達を落ち着かせておいた事もあるが、それ以上にこれまでに無いぐらいカラレス教官の雰囲気が張り詰めていたからだろう。

 ……そして、一通り全ての説明と各種準備が終わったところでカラレス教官が口を開いた。

 

「いきなりこんな事態になって動揺していると思う。……だが、宇宙警備隊を目指す以上戦いを避けて通る事は出来ない。そして、我々ウルトラ戦士の力はこの様な事態で戦う術を持たない者を守る為にこそあるのだ。……共に光の国を守ろう!」

「「「ハイッ!!!」」」

 

 敬愛する教官からのそんな言葉に、俺達はやる気を満ち溢れさせて返事をしたのだった。

 

 

 ────────◇◇◇────────

 

 

 ……そういう訳で、俺達訓練生は一般住民の避難誘導をしているのである。さて、このD地区の避難は大体終わったか……。

 

「アーク! こっちも終わったよ!」

「そうか……じゃあ、最後に逃げ遅れた人がいないか二人で確認して、それから訓練生達の指揮を執っているカラレス教官にテレパシーで連絡しよう」

「分かった! 僕は向こうから回るね!」

 

 そうして、俺とメビウスは担当しているD地区を隈なく周り、取り残された人達が居ないかどうか念入りに確認していった……幸いにもそんな人は居なかったので避難完了の報告をカラレス教官に入れる事にした。

 

「カラレス教官、D地区の避難は無事に完了しました。俺とメビウスが見て回った限り逃げ遅れた人は居ません」

『そうか、良くやった。……では、隣のE地区の避難がやや遅れている様だから、二人にはそちらの手伝いをしてもらう』

「分かりました!」

 

 その指示に対してメビウスが勢いよく答えるとそのまま連絡が切れた……直後、光の国の宇宙港がある方角から連続した爆発音が聞こえてきて、俺達はついそちらの方向を向いてしまった。

 

「! この音は⁉︎」

「どうやら本格的に戦闘が始まった様だな」

 

 宇宙港はその役割上地上と宇宙の往き来がしやすい場所に作られているからな、それで真っ先に攻撃場所に選ばれたんだろう……そう考えながら避難誘導を急ごうとメビウスに声を掛けようと振り向いたら、そこには拳を握りしめて悔しそうな顔をしながら音が聞こえた方向を見ているメビウスの姿があった。

 

「……僕にもっと力があれば光の国を守る為に戦えるのに……!」

「メビウス……阿呆。貴様如きがそんな事を言うのは2万年早いわ」

「えぇ⁉︎」

 

 ちょっとコイツが馬鹿な事を言っていたので、とりあえず罵倒しておいたら驚愕の表情でこっちを見てきた……あのなぁ、今はそんな事を言っている場合では無いだろうに。

 

「俺達が今やるべき事は避難誘導だろう。……それにそう思っているなら尚更避難を急ぐべきだ。俺達が早く避難を終わらせれば、それだけ前線で戦う戦士達の負担が減るんだからな」

「……うん、そうだね! 僕達には僕達で出来る事があるんだから、まずはそれをやってからだよね!」

「分かったなら、さっさとE地区に行くぞ」

 

 そうして、何故か妙に明るくなったメビウスを連れて、俺は避難が遅れていると言う隣のE地区に飛んで行ったのだった。

 

 

 ────────◇◇◇────────

 

 

 ところ変わって光の国の宇宙港『スペースポート』、ここでは襲来したバット星人の連合艦隊と光の国にいた宇宙警備隊員達が激しい戦いを繰り広げていた。

 だが、急な襲来だった所為でこの場に集まった警備隊員の数はそこまで多くなく、更に非常に広範囲を常にパトロールして宇宙の平和を守る為に腕の立つ隊員は遠方の宇宙に派遣される事が多い事もあって、その質もあまり高くは無いのが実情である。

 ……それでも、宇宙全体から見て種族的にはトップクラスのスペックを持つウルトラ族の隊員なので、敵が無人戦闘機や巨大化したバット星人()()であれば持ち堪えられると考えられており、実際に隊員達はバット星人が送り込んできた無人機やバット星人兵を次々と撃破していたのだが……。

 

「グワァァァァ⁉︎」

「クソォ⁉︎ なんて火力だ⁉︎」

「「「グモォォォォォォォォ!!!」」」

 

 その()()()から放たれた火球とナパーム弾が隊員の一人を吹き飛ばした! 側にいた他の隊員が助けようとするが、隊列を組んだ複数の影が一斉に放つ圧倒的な火力に動く事すら難しい有様だ。

 ……そう、バット星人はこの光の国を攻め滅ぼすに当たってそこを防衛するウルトラ戦士達を抹殺する為に()()()()()を連れて来ており、無人機や通常の兵では光の国の防衛網を突破出来ないと判断した前線指揮官はソレを前線に投入して来たのだ。

 

「チクショウ! くらえっ! スペシウム光線だ!」

「ッ⁉︎ 馬鹿ッ! やめろ!」

 

 その怪獣のデタラメな火力に痛めつけられていた隊員の一人が、痺れを切らしたのか腕を十字に組んでスペシウム光線の構えを取った……その怪獣の事を知っていた隊員は止めようとしたが、それよりも早く光線が発射された。

 ……その光線は黒い怪獣の一体に当たり……その手を胸の前で合わせたその怪獣に()()されてしまったのだ。

 

「ッ! そんな⁉︎ グワァァァァ!!!」

「グモォォォォ!」

 

 その光線を吸収した個体はそのまま両手を前に突き出すと、そこから先程吸収した光線と同じ威力のある光波を先程スペシウム光線を使った隊員へと放ち吹き飛ばした。

 ……そう、その怪獣とは、かつて地球でウルトラマンを倒した終わり(Z)の名を持つ怪獣の同種族……。

 

「フハハハハハ!!! 圧倒的ではないか! 我等バット星人が誇る()()()()()()()()()はぁ!!!」

「「「グモォォォォォォォォ!!!」」」

 

 ……十体を超える数の【宇宙恐竜 ゼットン】であった。

 

「さぁ! 行けぇぃ! ゼットン達よ! 愚かなるウルトラ戦士どもを皆殺しにするのダァ!!!」

「「「グモォォォォォォォォォォォォ!!!」」」

 

 その前線指揮官であるバット星人が手に持った剣を振りかざして号令発すると共に、横一列に並んだ量産型ゼットン達がゆっくりと前進して行く……その光景はまるで“絶望”と言う名の黒い壁が迫って来るかの様だった。

 ……ここに、ウルトラマン達の故郷である光の国は最大の窮地を迎える事となったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク&訓練生達:いきなり光の国が襲撃された件
・現在の時間軸は『帰ってきたウルトラマン』の最終話『ウルトラ五つの誓い』の時期であり、その同時期に起こった光の国への襲撃事件が今回の舞台。

バット星人:ゼットンブリーダー
・最初にホログラムで出てきたのは艦隊の総司令官でデザインは前線指揮官共々『サーガ』に出てきたリメイク版の方に近い。

ゼットン:終わりの名を持つ者
・尚、今回出てきた連中のデザインは二代目の方です。


読了ありがとうございました、この光の国襲撃編まだまだ続きます。


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光の国を守れ! バット星人襲来!(中編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 あれから、俺とメビウスはE地区の避難誘導を手伝い住民の避難を完了させ、それとほぼ同時に他の地区の避難も完了したとの連絡があったので、今は他の訓練生達や士官学校の教官達と一緒に避難用シェルターの警護に回っている。

 ……そうして避難用シェルターの警護をしている俺達の耳には、宇宙港を始めとする複数の方角から戦闘音が聞こえていた。

 

「また、爆発音が……」

「光の国は大丈夫なのか……?」

「ここには敵は来ないよな……」

 

 それらの音は避難民達にも聞こえているので、やはりというか同様が広がっているな……カラレス教官を始めとする教官達が落ち着かせているお陰でパニックとかは起きていないが。

 まあ、訓練生達の方は比較的落ち着いているのが幸いだが。俺達だって伊達や酔狂で士官学校に入学している訳じゃないから。

 

「大丈夫だよみんな! きっとウルトラ兄弟を始めとする宇宙警備隊達がバット星人達を倒してくれるよ! だから、今の僕達に出来る事を、このシェルターとそこにいる人達の警備を頑張ろうっ!」

「そ、そうだな!」

「俺達だっていつかは宇宙警備隊に入るんだ! こんな事でビビってなんていられないぜ!」

「そうだそうだ!」

 

 ……後、何故かいつもの五割増しぐらいに暑苦しくなってるメビウスが、周りの同期達とか避難民を鼓舞し続けていたりしてるのも原因の一つかもしれないが。他の同期達もかなり乗せられているし……。

 

「……アーク、メビウスがいつも以上にやる気を出していますが、何かあったのですか?」

「……多分、俺がさっき言った割と適当な事を本気で真に受けているんだろうな。アイツ無駄に真面目で天然だから」

「……まあ、他の連中を落ち着かせているのに一役買っているから、別にいいんじゃないか?」

 

 尚、そんなメビウスを横目に俺とフォルトとゴリアテは声を落としながら話をしていた……ほら、ちょっと俺のキャラ的にああいうノリには着いていけないから……。

 そんな感じで、なんか凄いテンションの上がっているメビウス達同期生から若干距離をとった俺達は、その雰囲気を壊さない様にそのままの音量で話を続けていた。

 

「……しかし、本当に光の国は大丈夫なんでしょうか。……噂ではバット星人はゼットンの養殖に長けていると聞きますし、先程教官達の話を聞いたところ前線には相当数のゼットンが配備されているとか」

「……なにっ! 地球でウルトラマンを倒したあのゼットンをか⁉︎ それはかなりヤバいんじゃ……」

「……まあ、そのぐらいなら大丈夫だろう。今の光の国には親父を始めとするウルトラ兄弟がいるし」

 

 やや不安そうに話を切り出したフォルトに対し俺はそう答えておいた……そんなあっさりとした対応にフォルトとその話を聞いて少し動揺していたゴリアテはやや面食らっていた。

 ……この二人もあっちのテンションに乗れない方だからちょっと動揺してるみたいだな。しょうがないからちょっとフォローを入れておくか。

 

「お前達は少しウルトラ兄弟と現役の宇宙警備隊員舐めすぎだ。……まあ、確かにウルトラマンさんが地球でゼットンに倒されたのは事実だが、あれはウルトラ族が3分程度しかまともに戦えない有人惑星上というかなり悪い環境だったからな」

「そ、それはそうですが……」

 

 ちなみに宇宙警備隊ではウルトラ族を始めとする強大な力を持つ種族の有人惑星上での戦闘には、結構細かいルールが定められているのである。例えばウルトラ族の場合、各種光線技のその惑星の環境や住民に大きく影響を与えるレベルの使用などには大きく制限がかかる様になっていたりする。

 ……だが、ここはウルトラ族のホームである光の国であり住んでいるのは同じウルトラ族だけ、更に建っている建造物も多少の光線技の直撃程度では破壊されない様に作られているからそういった制限はほぼない。

 

「そもそも、プラズマスパークがあるウルトラの星でなら時間制限やエネルギー切れとかもほぼないしな。……後、地球に現れたゼットンはゼットン星人が物凄いコストをかけて育成したものらしいしな。だからゼットンが大量にいるって事は、そいつらは安上がりで性能も低い量産型っぽいしどうにかなるだろ」

 

 尚、そんな高コストゼットンを一発で爆散させた地球人の新型兵器があるらしい……やっぱ地球はウルトラヤバい魔境だよなぁ。

 

「成る程……ですが、よくそんな事を知ってますね」

「親父から聞いただけだし、このぐらいの情報ならアーカイブでも訓練生のアクセス権で入手出来るぞ」

 

 ……まあ、今言った事が俺が知っている情報を組み合わせた希望的観測でしかないって事までは言わなくていいだろ。

 

「しかし、お前は初の実戦なのに凄い落ち着いてるなぁ」

「ああ……この程度、親父を含むウルトラ兄弟が変にヤル気を出して、何故か『ウルトラ兄弟対俺一人で模擬戦』とかいう訳の分からない状況になった時と比べれば大したことないさ」

「お、おう……」

 

 あの時はウルトラ兄弟に集団でボコられる怪獣達の気分が味わえたよ……まあ、この程度の襲撃で光の国が落とされる事は無いだろうが、流石に被害ゼロとはいかないだろうがな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「グワァァァァ────ッ!!!」

「クソォ! よくもジーンをォォォォ!!!」

「「「グモォォォォォォォ!!!」」」

 

 ここは現在光の国を襲う戦乱の最前線『スペースポート』、そこでは自分達の星を守ろうとするウルトラ戦士達と侵略者であるバット星人連合との熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 ……しかし、バット星人が投入した量産型ゼットン軍団の圧倒的な火力によってウルトラ戦士達は窮地に陥っていた。

 

「「「グモォォォォォォォ!!!」」」

「フハハハハ! いいぞゼットン達よ、そのままの陣形を維持したまま火力で押しつぶすのだ! 他の者は側面と上空から援護だぁ!!!」

 

 更に前線指揮官であるバット星人の指揮はその言動からは思えない程に優秀であり、量産された所為でバリアーと瞬間移動能力がオミットされ動きも鈍っているゼットンの弱点を補う為に横一列の陣形を維持したまま強化された火力を敵に押し付ける戦術をとってきている。

 また、ゼットンの光線吸収能力は前方にしか使えない事も理解しており、空中や側面に回ろうとする相手を無人戦闘機やバット星人の兵隊達の攻撃で妨害する戦術も行なっていた。

 

「チッ! せめてバラバラに向かってくるのならまだやり様はあっただろうによぉ……」

「あちらさんは“戦争”に慣れていますね。……それに引き換えこっちの戦力は新人が多く、連携もいいとは言えませんし……」

「ウチの宇宙警備隊員は単独か少人数での行動が多いし、ベテランは遠方に派遣される事が多いからなぁ……」

 

 そう、彼等ウルトラの星の宇宙警備隊員は種族的な優秀さから、100万人程度の所属人数で非常に広大な範囲の宇宙警備を担当しており、その結果としてどうしても単独か2・3人程度の少人数での行動しか出来ないので、戦争の様な大人数同士の戦いに関しては経験不足なのだ。

 更にウルトラ族は過去四十万年に渡って犯罪者がたった一人しか出ない程にモラルと善性が高い種族ではあるのだが、それ故に“兵士を使い潰す” “仲間を見捨てる”などの行動を取れる者がいないのである。その為『ウルトラマンは三人以上揃うと互いをかばい合うから弱くなる』と言われるぐらいに大人数での集団戦……特に“戦争”には向いていない種族なのだ。

 ……では、このまま彼等は倒されてしまうのだろうか? 

 

「おいっ! そこの新人、無駄に突撃すんじゃねえ! 一旦下がれ!」

「は、はいっ!」

「全員のエネルギーを重ねて前方にバリアを張りましょう。ここは光の国ですからエネルギーは十分ありますし、相手は火力を一点に集中していますからこれで凌ぎ切れる筈です」

「分かりました!」

「光線技はゼットンには撃たずバリアを超えてきそうな戦闘機を狙え! 後、切断系の遠距離攻撃が出来るやつはバリアの影からゼットンを攻撃! 牽制ぐらいにはなる!」

「了解っ! ウルトラスラッシュ!」

 

 否。だからと言って()()()()であっさり倒される様なら、彼等ウルトラ戦士は宇宙警備隊として全宇宙に名を轟かせてはいない……この場に少数いたベテラン警備隊員達が中心となって経験の浅い新人達をフォローをしつつ、どうにか即席の連携でもって戦線を維持しているのだ。

 ……彼等ベテラン隊員はウルトラ兄弟達の様な精鋭程の力は無くともその身に刻まれた3()0()0()0()()()()の経験値をもって、冷静に自分達の欠点を理解しつつ不得手な戦場にも対応しているのだ。

 

「最初は浮足だっていましたが、どうにか戦線は立て直せましたね」

「まあ、新人の中にもイキがいいヤツらがいたのは不幸中の幸いだったな」

「ウルトラレイランス!」

「マクシウムソード!」

「ゼノニウムキャノン!」

 

 また、新人宇宙警備隊員の中にもこんな状況の中で臆さず一歩も引かずに戦う者達がいた為、この光景に『同じ新人として負けてはいられない!』と他の新人達も奮起している事も戦線を維持出来ている理由になっている。

 

「それで? ウチの隊長殿からの指示は?」

「『もうじき援軍を送るので、それまで前線を維持』だそうです」

「まあ、そろそろ住民の避難も完了するでしょうし……あ、来たみたいですよ」

 

 そうやって、どうにか戦線を維持していた彼等の下に空から何人かのウルトラ戦士が舞い降りた……そして、その先頭にいるのは銀色の体に赤のラインが入った戦士──ウルトラ兄弟の次兄、ウルトラマンである。

 展開されているバリアの後ろに降り立ったウルトラマンは、近くにいたベテラン隊員の一人に近づいて現在の状況を訪ねた。

 

「すまない、各種避難と重要拠点のセキュリティ強化で遅れた。……状況は?」

「火力特化のゼットンが横列を組んでいる所為で防戦一方ですね。敵の指揮官は相当優秀な様です」

「成る程……では、まずは私が前に出て敵の陣形が崩すから、そこに突撃して乱戦に持ち込んでくれ。ゼットンは正面からの光線技は吸収されるから可能な限り二対一で当たる様に」

 

 ウルトラマンはそれだけ言うとバリアの後ろから火砲が飛び交う外へと身を躍らせた……当然、指揮官であるバット星人もそれに気付く。

 

「ムッ! あれはウルトラマンか! 一番から五番までのゼットン達は火力を最大まで上げ、ヤツに攻撃を集中させよ!」

「「「グモォォォォォォォォォォォ!!!」」」

「クッ!」

 

 そしてバット星人指揮官は量産型ゼットン軍団のうちでウルトラマンに近い個体に、今までの長期戦用の火力を抑えた状態から継戦を考えない最大火力へと切り替えさせた上で攻撃を命じた。

 ……その大幅に上昇した火力の前にさしものウルトラマンも直撃を避ける事に精一杯になり、それ以上先に進む事が出来なくなってしまった。

 

「フハハハハ!!! 愚かなりウルトラマン! いくら貴様でもこの火力を正面から単騎で突破するなど不可能に決まっておろうが! この様な戦況では何人かの兵を捨て駒にして接近するのが常道であろうに、それが出来ぬから貴様等ウルトラ戦士どもは“戦争”に弱いのだ!」

「………………」

 

 バット星人指揮官のその言葉にウルトラマンは何も返す事は無く、ただひたすらに攻撃を回避しながらの接近を試みようとしていた……そして、そんな絶望的に状況でありながら、その目には一切の恐れや怯みは無かった。

 その不合理な行動に訝しんだバット星人指揮官は万が一でも突破される可能性があると考え、更に無人戦闘機とバット星人の兵隊の何人かの攻撃を追加して確実に倒すべきかと思案し……直後、自身の()()()()迫る攻撃に気がついた。

 

「ムッ! 奇襲だと⁉︎ ええいっ!」

 

 指揮官としてだけで無く戦士としても優秀だったバット星人指揮官は、咄嗟に後ろを振り向くと共に手に持った剣で後ろから飛んで来た()()()()()()()()()を弾き飛ばした……弾かれたソレはまるで何かに操られている様に──実際にウルトラ念力でその軌道を操作されて、使い手の頭部に戻っていく。

 ……そして、ウルトラの星侵攻の前線指揮を任されていたバット星人は、その武器がこの星の“特記戦力の一人”が使っている物だと知っていた。

 

「今の攻撃は『アイスラッガー』⁉︎ ……何故貴様が陣内にいるのだウルトラセブン!」

「大した事はしていない……ただ、()()()()()()()()お前達の目を盗んでここまで来ただけだ」

 

 そのバット星人達が作った陣形の中にいきなり現れたのは、赤い体と銀色のプロテクターを持つ戦士──ウルトラ兄弟の三男、ウルトラセブンであった……彼はかつてミクロ化して人体の中で戦ったり、小さくなって地球人が使う銃器の中に入ってそのまま銃撃と共に突撃するなどという事が出来る程のミクロ化の達人なのである。

 更に、セブンの本業である恒点観測員は未開の現地惑星の住民に気付かれない様に観測を行う必要のある仕事であり、それ故に彼はウルトラ兄弟達の中でも特に隠密行動に長けているのだ。

 ……無論、能力が大きく下がるミクロ化の状態でゼットンの火砲が飛び交う戦場を移動するのは並大抵の度胸で出来る事では無いが、それをやってみせるのがかつて自分の命が危険に晒されても地球の為に戦い続けたウルトラセブンである。

 

「俺達の故郷に攻め入ってタダで済むと思うなよ! バット星人! デヤァッ!」

「チィッ!」

 

 そしてファイティングポーズを取っていたセブンは、次の瞬間バット星人指揮官の方を向いて腕をL字に組んだ……ウルトラセブンの最強光線『ワイドショット』の構えだ!

 光線が来ると思ったバット星人指揮官はすぐさまその場を飛び退いて相手の射線から逃れ……直後、セブンは量産型ゼットン軍団の方へ向き直り光線を発射した。

 

「ナニィ⁉︎」

「「「ブモォォォォォォォ⁉︎」」」

 

 そのワイドショットは横一線に薙ぎ払う様に放たれたのでゼットンの何体かにダメージを与えるに留まったが、その光線当たったゼットンが吹き飛ばされた所為でその陣形が崩れたのだ! 

 

「! いかん⁉︎ 兵卒各員、崩れたゼットンのフォローを……」

「遅い! 八つ裂き光輪!」

 

 そして、それを虎視眈々と隙を狙っていたウルトラマンが見逃す事は無く、陣形が崩れて砲撃が途絶えた瞬間即座にスペシウムエネルギーで出来た丸ノコの様なギザギザの光輪──『八つ裂き光輪』を水平に放って一体のゼットンの首を切り飛ばした。

 

「やはり、量産された所為でかつて地球で戦ったものと比べて個々の質は落ちているな。バリアやテレポートは使えんようだし反応速度も鈍い」

「今だ、全員突撃! 相手の陣形が整うより早く乱戦に持ち込め!」

「「「ウオオオォォォォォォ!!!」」」

 

 そうして、ウルトラマンとセブンが作った隙に他の宇宙警備隊員達が一斉に突っ込んで乱戦──少人数対少人数の彼等が得意とする形に持ち込んでいった。

 勿論、指示通りゼットン相手にはベテランか腕のいい新人達が二体一になる様に戦い、それ以外の隊員は無人戦闘機やバット星人の兵隊を相手にして彼等の邪魔をさせない様に戦っている。

 

「クウゥ! やってくれるな! ウルトラ兄弟!!!」

「バット星人よ、お前は我々に戦争が下手だと言ったな」

 

 悔しそうに呻くバット星人指揮官に対して、彼と向き合っているセブンはそう言った……そして、その言葉にウルトラマンも続いて言う。

 

「確かに貴様の言う通り、我等ウルトラの戦士は戦争の様な大規模な戦いには向いていない。……だが、それでも我等はこの宇宙の平和を守る宇宙警備隊──()()退()()()()()()として戦い続けて来たのだ。……あまり侮ってくれるなよ」

「ッ⁉︎」

 

 その言葉と共にウルトラマンから発せられた覇気にバット星人指揮官は一瞬だけ怯んだものの、直ぐに我に返って手に持った剣を構えた。

 

「……いいだろう、ウルトラ兄弟! 確かに陣形は崩されたがまだ我等の方が数で優っている! 貴様等を始末すれば十分に戦況は立て直せるわ! 行けゼットン! ウルトラマンを倒せ!」

「グモォォォォォォォ!!!」

 

 そう言ったバット星人指揮官は剣を振りかざしてセブンに斬りかかると共に、近くにいたゼットンの一体をウルトラマンに嗾しかけた……それに対してウルトラマンとセブンもそれぞれのファイティングポーズを取って迎えうつ構えを取った。

 ……ここでウルトラの星での戦争は次の局面に移ったのだった。




あとがき・各種設定解説

バット星人指揮官:エリートなので非常に優秀
・ウルトラの星の前線指揮を任せられるだけあって指揮能力・戦闘能力共に非常に高い。

量産型ゼットン:今回の様な集団での運用に特化した調整がされている。
・基本的に運用方法は火力を前面に押し出す砲台としての役割が主で、更に相手の光線技を吸収する事で遠距離戦で有利に立つ事をコンセプトに調整されている。
・それ故にパワーは高級品と互角だが耐久性や反応速度・機動力はかなり劣っている。
・また、この作品に於いてはバリア・テレポートの習得はコストがかかる設定。

モブトラマン達:今回の戦いの主戦力である“怪獣退治の専門家”達
・ベテランならば数千年単位で宇宙の平和を守った経験を持っているウルトラ戦士が弱いはずは無い。
・“イキのいい新人”の名前は『エイティ』『マックス』『ゼノン』というらしい。

ウルトラマン&ウルトラセブン:ウルトラ兄弟の名は伊達ではない!
・尚、ミクロ化して接近する戦術はゾフィーが立案した模様。


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光の国を守れ! バット星人襲来!(後編)

ちょっと遅れましたが、ようやく書きあがりました。


 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そこは全体的に暗く、様々な機器や外に宇宙空間を映し出すモニターなどが配置されている場所──今回ウルトラの星への侵攻を企てたバット星人連合の宇宙船、その旗艦のブリッジである。

 そして、ブリッジの中央にある艦長席には今回の作戦においてバット星人連合軍の指揮官を務め、光の国にホログラムで姿を現した【バット星人デルザム】が座っていた。

 ……彼はそこで先行部隊の戦況報告を聞きながら各艦に指示を出していた。

 

「……そうか、光の国の各重要拠点に侵攻させた囮部隊はほぼ壊滅、宇宙港に派遣した橋頭堡確保の為の先行部隊はウルトラ兄弟によって劣勢を強いられているか。……問題ない、我等本艦隊は既に宇宙港への降下準備を終了している。先行部隊はそのまま遅滞戦闘を継続して時間を稼げと伝えろ」

「ハッ! 了解しました」

 

 今回、バット星人司令官デルザムが行った作戦はまず隠密機能のみに特化した無人ホログラム発生特化機でウルトラの星の警戒網を潜り抜け宣戦布告を行い、それによって混乱している間に速度の速い高速艦で光の国へと先制攻撃をかけて本隊が侵攻する為の橋頭堡を確保すると言うものであった。

 また、他にも光の国各地の重要拠点に無人兵器を主力とした攻撃を仕掛ける事で防衛戦力を各地に分散させ、主目的である宇宙港の確保を行いやすくする戦術も取っていた。

 

「準備が出来次第降下部隊は無人機を先頭にして降下を開始しろ。無人機の空爆で地上を攻撃した後、量産型ゼットンを搭載したカプセルを順次投下せよ。……敵も馬鹿では無い、降下部隊に対する迎撃はあると考え地上と周囲の警戒は密に」

「了解です! 周辺監視を強化します!」

「承知しました! 順次降下を開始します」

 

 艦隊司令を任せられるだけあってデルザムは将として非常に優秀であり、バット星でも侵略や武力行使を積極的に行うべきであると言う『武断派』と呼ばれる派閥の長をしている程である。

 ……しかし、今回のウルトラの星侵攻は彼等『武断派』だけでなく、バット星にあるもう一つの派閥も関わっていた。

 

「司令官、後方支援に当たっていた『養殖派』の舟からの通信です」

「……繋げ」

 

 通信担当のバット星人が告げたその言葉に、デルザムは眉を顰めながらその相手との通信を繋ぐ様に指示を出した。

 ……すると、ブリッジのモニターに一人のバット星人の姿が映し出された。

 

「……何の用だ、グライス」

『いえ、どうやら不利な戦況の様ですので援軍は必要ではないかと思いまして」

「不要だ。既にこちらの援軍を派遣している」

 

 モニターに映ったバット星人の名前は【グライス】、今回の作戦においてバット星にあるもう一つの派閥『養殖派』から派遣された艦隊のリーダーである……この二つの派閥は、バット星に置いてゼットンの養殖に対するスタンスの違いから生まれたものである。

 ……今から少し昔、様々な惑星を侵略していたバット星人だったが、元々そこまで戦闘能力の高い種族ではなかった所為で不利な状況に追い込まれてしまっていた。その状況を打破する為に当時のバット星は優れた生化学技術を活かして、同盟関係にあったゼットン星人との共同による『ゼットンを戦闘兵器へと改造する』と言う計画を実行したのだ。

 その計画は成功してバット星の戦力は改造強化されたゼットンによって大幅に増し、再び宇宙に覇を轟かせる事が出来たのだが……そこで『ゼットンの性能は今のままで十分であり、現行の量産を進め侵略を推し進めるべきである』という武断派と、『ゼットンはまだまだ性能向上の余地があり、侵略活動を抑えめにして生化学の研究を発達させるべきである』という養殖派が生まれ、対立関係が出来たのだった。

 

『成る程、流石は音に聞こえたデルザム将軍。……しかし、我々としてもこのまま後ろで待機したままというのは格好が付かないので、援軍を送らせてほしいのですが』

「連携の取れない援軍を送られても邪魔になるだけだ」

 

 ……そして、ご覧の通り二つの派閥の仲はお世辞にも良いとは言えない状況であった。

 

『ええ、それは分かっております。……ですから、我々は本命である宇宙港には援軍を送らず、光の国の重要拠点を攻撃する囮の方に戦力を送りたいと思っているのです。具体的にはこちらの観測で位置を特定出来た“光の国の避難シェルター”に攻撃を掛けようかと、お優しいウルトラ戦士達の注意を逸らすにはもってこいでしょう』

「……どうやって攻撃を仕掛ける気だ? ヤツらもシェルターは最優先で防御しているだろう」

『私が作り上げた“テレポート特化のゼットン”を使ってカプセルをシェルター直上までテレポートさせて一気に投下させようかと』

「……よかろう、好きにせよ」

『お任せ下さい、司令官殿』

 

 その様な会話の後に通信は切られモニターも消えた……派閥同士の中の悪さと相手の慇懃無礼な態度から、ブリッジのクルーには相手の態度に顔を顰める者もおり、そのうちの一人が声を上げた。

 

「よかったのですか? あの様な……」

「構わぬ。ヤツの行動が成功しようが失敗しようが、こちらに不利益は無い。……それに、アレは自己顕示欲の強い科学者だ。“自分の作品”が失敗する記録を残す事は避けるだろうし、今回の目的である『命の固形化技術』を何としてでも手に入れたがる筈だ。……それよりも本命の宇宙港の確保に全力を尽くせ」

「ハッ! 失礼しました!」

 

 不満を述べるクルーをデルザムは理にかなった返答とその威厳で黙らせた……派閥同士の中は確かに悪いが、艦隊の司令官を務めるほどに優秀なデルザムはそれを理由に判断を誤る事は無かった。

 ……光の国に投射したホログラムの態度とは全く異なるが、アレは()()()敵の挑発とこちらを軽く見せる事を目的としたブラフである。

 

「何としても光の国から『命の固形化技術』を接収するのだ。我が息子もヤツらがえこ贔屓している地球に侵攻し、今頃そこにいるウルトラ戦士と地球人供を粛正している筈だ。……あの技術さえ手に入れれば、もう二度と()()()の様な悲劇はバット星には起きぬ。各員、この戦いに全力を尽くせ」

「「「ハッ!」」」

 

 デルザムの発言は殆どブラフと言ったが、あのホログラムの発言の中でも『ウルトラ族は宇宙の裏切り者である』と言った部分に関しては彼の本心である……彼の妻は少し前に病で命を落としており、それとほぼ同時期に光の国が『命の固形化技術』を開発して秘匿した事が、この侵攻作戦の司令官に立候補した大きな理由になっているのだ。

 ……今でも彼の内心では光の国が『命の固形化技術』を公開していれば妻の命は助かったという思いがあり、その技術を辺境の蛮族である地球人には施した彼等への憤りがあった。

 

「司令官! 無人降下部隊の準備が整いました!」

「よし、では順次降下させよ。……相手は曲がりなりにも宇宙の番人を語るウルトラ戦士どもだ、決して油断はするな」

「ハッ!」

 

 ……とはいえ、彼はそんな内心を表に出す事は無く、部下に的確な指示を出しながら着々とウルトラの星への侵攻を進めていたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……やれやれ、愚かなモノだ」

 

 消えたモニターに対してそう呟いたのは、俗に『養殖派』と呼ばれる者達を率いる【バット星人グライス】であった……彼は今バット星人連合艦隊の後方で『養殖派』の旗艦で、その顔に隠しきれない嘲笑を浮かべていた。

 

「デルザム司令官は基本的に優秀な軍人なのだが、どうにも身内に関する事には判断力が落ちる様だ。……だから、我々が()()()()()()()()()()『命の固形化技術』やウルトラの星の情報を鵜呑みにしてしまう」

 

 そう、彼等『養殖派』は自分達が入手したウルトラの星の情報を彼等が私利私欲で行動していたり、戦えばバット星側が有利である様に聞こえる様に歪めて『武断派』に伝えていたのだ……更に妻の死を悲しんでいたデルザムとその息子にウルトラの星への攻撃を誘導する様な情報操作も行なっていた。

 ……尚、実際に『養殖派』が入手した情報を総合すると、現有戦力でウルトラの星に攻め込んでもこちらが高確率で敗北すると試算されている。

 

「想定よりは『武断派』も頑張っているがそろそろ近隣の星から宇宙警備隊の援軍も来る頃であろうし、そうなれば()()()()主力艦隊は壊滅しデルザムは死亡するだろう……これでバット星の主導権は我ら『養殖派』の物だ」

 

 彼等『養殖派』の目的は、デルザムとその息子をウルトラの星の戦力を以て謀殺してバット星の主導権を奪う事であった……一科学者として個人的に『命の固形化技術』が欲しいというのも嘘ではないが、グライスはリスクとリターンを正確に判断出来る程の頭脳があった。

 ……尤も『武断派』の方には、グライスの事を『自己顕示欲が強いマッドサイエンティストである』と思わせる様に情報を流しているが。

 

「まあ、私がマッドサイエンティストである事も別に嘘ではないのだがね。……地球に派遣された息子の方も随分やる気を出していた様だが、アレは父親のコネに胡座をかきブクブクと肥え太った親とは似ても似つかぬ程の無能。援軍として送ったゼットンも見るに耐えない不細工な出来でしかなかったし、あの程度ならキッチリウルトラ戦士が始末してくれるだろう」

 

 そんな事を言いながら、彼は自身が率いる艦隊にいつでも撤退出来る様に少しずつ『武断派』の艦隊から離れておく様に指示を出していた……尚、この『養殖派』艦隊はその為に人員は最少限度しか乗っていないオートメーション艦艇のみで構成されており、彼の乗る旗艦も彼一人で動かせる仕組みである。

 ……それと同時に、彼は手元のコンソールを操作して先程通信で言った囮部隊の派遣を実行した。

 

「まあ、せめてもの手向けに囮の援軍ぐらいは出してやるさ。……私が開発した三体の試作ゼットンの運用試験には丁度いいだろうしな」

 

 そうして彼が操作を終えると一隻の『ゼットン搭載用カプセル』が艦底から射出され、それは暫く直進すると直ぐに消滅した。

 

「ふむ、ゼットンのテレポート能力を増幅して敵陣に送り込む『強襲派遣システム』は正常に作動した様だな。後は試算ゼットン達が実戦でどの程度の能力を発揮するかだが……一応、データ上の総合性能的には三体とも()()()()()()()()()()()()()()()()()()と同等程度の能力はあるはずだが……」

 

 ……こうして、戦えぬ者達と訓練生が集まる避難シェルターに、三体の絶望(ゼットン)が舞い降りる事になってしまったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 俺──アークはメビウス達いつものメンバーと一緒に避難シェルターの警備を続けていた……先程から各地から聞こえる爆発音の頻度と規模が大きくなり始めているし、どうやら本格的に戦闘が始まっている様だな。

 ゴリアテやフォルトには色々言ったが、本音を言うと俺もそこまで精神的に余裕がある訳じゃない。ただ、親父やウルトラ兄弟が頑張っているのに、その指導を受けている俺が無様を晒す訳にもいかないから気合を入れているだけである。

 ……そんな俺達のところに訓練生達の様子を見て回っていたカラレス教官が顔を出した。

 

「アーク、メビウス、ゴリアテ、フォルト……お前達は大丈夫そうだな」

「ハイッ! 宇宙警備隊の先輩達が頑張っている以上、僕達も怖気付いては要られませんから!」

 

 声を掛けて来たカラレス教官に対し、相変わらずハイテンションのままのメビウスが勢いよくそう答えた……尚、俺とゴリアテとフォルトはその勢いにちょっとついて行けなかった。

 

「特にメビウスは良くやっているな。……こんな非常事態にパニックになる者が出なかったのは、お前が他の訓練生を勇気づけてくれた事も大きい」

「ありがとうございます! ……でも、僕がみんなを勇気づける事が出来たのはアークが『俺達には俺達でやるべき事があるんだからまずはそれをやるべきだ! そうする事が宇宙警備隊やウルトラ兄弟達を助ける事に繋がるのだから!』と言ってくれたお陰なんです!」

「ちょっと待て、俺はそんなこっぱずかしい事は言ってないぞ! 勝手に捏造すんな!」

 

 俺はただ『自分の仕事があるんだからそっちをしっかりやれ』的な事しか言ってないだろ! この天然ボケメビウスめ! 貴様のウルトライヤーにはゴミでも詰まってんのか! ……後、ゴリアテとフォルトは笑うな貴様ら!

 ……と思ったらカラレス教官も口元を押さえて笑ってるし! 

 

「クックック……いや、確かに自分に出来る事をまず確実にやるのは重要な事だからな。いい言葉だと思うぞ」

「……だから、俺はそんな事を言ってないですって……」

「いやいや……ククッ、良いセリフだと思いますよ」

「プププ……格好いいからそっちを言った事にしようぜ」

 

 ええいっ! みんな揃ってこの非常事態に……後メビウス! 首を傾けたまま疑問の表情を浮かべるな! お前が原因だろ! 

 ……そんな感じで空気が程よく緩んだところで、カラレス教官が表情を真剣な物に変えて言った。

 

「戦局は今のところ膠着状態だが、もうじき外回りに出ていた隊員達が戻ってくるだろうしそうなれば敵も押し返せるだろう。……それまで、もう少しの間頑張ってくれ」

「「「「ハイッ!」」」」

 

 そう言ったカラレス教官は他の訓練生の様子を見るために飛び去って行った……さて、後もう少しの辛抱だし頑張らないとな。

 ……そう、俺達が改めて気合いを入れ直した直後、避難シェルター上空付近に()()()()()()()()そのまま俺達より少し離れた地面に墜落した。

 

「ッ! 何だ⁉︎」

「いきなり現れたぞ……まさか、テレポートか⁉︎」

 

 俺達は余りにも突然の事態に状況を把握出来ず動けなかった……その間にも突如現れた落下物──何かが入っているらしき小型のカプセルの様な宇宙船の装甲が内側から爆ぜて、中に乗っていたモノ達が姿を現した。

 

「……ゼェットォォォォン……」

「……そんな……アレは……」

 

 その独特の鳴き声と共にまるで電子音の様な奇妙な音と僅かな呼吸音を発しながら現れたのは、黒い身体に黄色い生体機関、手足の一部は白い蛇腹状になっていて、頭部には捩じくれた触覚が生えた怪獣…………否、宇宙恐竜……! 

 

「……宇宙……恐竜…………ゼットン……ッ」

「「「……ゼェェェットォォォォォォォォン!」」」

 

 ……俺がかろうじて呟いたその言葉に答える様に、謎のカプセルから現れた()()のゼットンは雄叫びを上げたのだった。




あとがき・各種設定解説

バット星人デルザム:非常に優秀な司令官でカリスマ性もあり部下からも慕われている
・だが身内には甘く、政治的センスは戦闘センス程ではないので今回の様になってしまった。

バット星人グライス:今回の黒幕
・バット星における生化学関係の天才で政治や情報操作のセンスも非常に優れている。
・本人としてはゼットンの研究だけやっていたいのだが、その環境確保が必要なら手段は選ばない。

改良型ゼットン:ちゃんと“あの鳴き声”で鳴く
・テレポート特化は一体だけで、他の二体はそれぞれ違う方面に特化しているらしい。

アーク&メビウス達訓練生:絶賛大ピンチ


読了ありがとうございました。
もう一方の小説との兼ね合いもあって、この作品の更新頻度は週1ぐらいになると思います。


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戦え! ウルトラ戦士達! (前編)

予告通りどうにか一週間以内に書き上がりました。では本編をどうぞ。


 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン試作型

 宇宙恐竜 ゼットン量産型 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「「「ゼェットォォォォン!!!」」」

「ッ! ……こちらアーク! 避難シェルター西側にゼットンが三体出現! 至急避難と援軍をお願いします!」

 

 カプセルから出て来た三体のゼットンの威容からいち早く立ち直ったのは、幼少期からウルトラ兄弟に扱かれ続けた所為で強者の出す覇気に慣れていたアークであった。

 ……彼は即座にテレパシーと通信を駆使して他の訓練生や教官に現在の状況を伝えると共に、目の前に居る三体のゼットンに対して戦闘態勢を取ったのだ。

 

「とりあえず援軍が来るまで時間を稼ぐぞ! 避難シェルターを守るんだ!」

「あ、ああ!」

「分かった! やろうアーク!」

「……それしかありませんか」

 

 更にアークは固まって居るメビウス達三人に分かりやすい指示と発破を掛けて、呆然としていた彼等を元に戻して戦闘態勢を取らせたのだ……彼のこう言う緊急時での対処や周りを動かす才覚に関しては父親譲りなのかもしれない。

 ……だが、それとほぼ同時に『避難シェルター周辺に居るウルトラ族を攻撃しろ』と指令を与えられたゼットン達が動き出した。

 

「「「────!」」」

「ッ! 避けて下さい!」

 

 そのゼットン達の行動にいち早く気が付いたのは、冷静に相手を観察していたフォルトだった……彼の指示を聞いて全員が咄嗟にその場を飛び退いた直後、一秒前まで彼等が居た場所に数発の火球が着弾してその付近を大きく抉りながら溶解させた。

 ……言うまでもなく、それらの火球は三体のゼットンが放ったものであり、その熱量はウルトラ戦士の光線にもある程度耐える光の国の建物を容易く溶解させるなど量産型のゼットンとは桁違いの威力であった。

 

「地面が……」

「オイオイ……なんて威力だ!」

「絶対にまともに当たるな! とにかく攻撃を避け続けて時間を稼げ! ……後、光線技は使うなよ、ゼットンは光線を吸収して反射する能力がある!」

「それは知っていますが……また来ます!」

「「「──────!」」」

 

 フォルトが発したその言葉とほぼ同時に、三体のゼットンは彼等に向けて追撃の火球を次々と放って来た……その火球は連射性に特化したものなのか先程の火球よりも威力は低かったが、それでも光の国の地面や建造物を破壊出来るだけの火力があった。

 更にその圧倒的な連射性による火球の弾幕は、彼等四人でもかろうじて逃げ回る事しか出来ない程の圧力を持っていた。

 

「「「──────!」」」

「クソッ! このままじゃやられるぞ!」

「それにシェルターの方にもダメージが……!」

「チッ! ……だったら、吸収されてもいい威力の低い技か切断系の技で牽制する! とにかく射撃をやめさせて時間を稼ぐぞ! ウルトラスラッシュ!」

「メビュームスラッシュ!」

 

 このまま攻撃を続けられたら持たないと判断した四人は、逃げ回りながら牽制の為に威力の低い光の刃や光輪を放っていく……訓練校の中でも成績優秀な四人はこの手の小技もある程度は使えるのだ。

 ……だが、バット星人グライスが作り上げた『特定機能特化式試作型ゼットン』達が強化された能力は決して火力ではないのである。

 

「ゼットォォン」

「何ィ!」

「アレは……バリアーですか⁉︎」

 

 彼等が放ったその攻撃に対して、一体のゼットンが素早く前に出ると即座に自分の周囲に円筒状のバリア──ゼットンシャッターを展開した……そのゼットンシャッターに当たった彼等の攻撃はヒビ一つ入れる事は敵わずに、逆にまるでガラスが砕けるように破壊された。

 これがバット星人グライスが作り上げた試作型ゼットンの内の一体『ゼットンシャッター特化型ゼットン』である。そのゼットンシャッターはウルトラ戦士の必殺技すら容易く防ぐ程の鉄壁の防御力を誇り、更に相手の攻撃を確実に防げる様に反応速度と敏捷性を強化した個体なのだ。

 ……更に、一体が自分の力を発揮し始めたのを皮切りに、他の二体も自分に与えられた力を行使し始めた。

 

「ゼェットォォン」

「一体が近づいて来た⁉︎ ゴリアテそっち行ったぞ!」

「格闘戦を挑む気か⁉︎ 上等だ!」

 

 まず、残り二体の内の一体が火球を放つ事をやめて訓練生達の方に向かって来たのだ……その相手の行動に対し一番近くにいたゴリアテは、自身が格闘に自信があった事もあってその相手を迎え撃った。

 ……悠々と歩いて来たゼットンの一体に対して、ゴリアテはその拳を固めて殴りかかるが……。

 

「ゼェェェットォォ!」

「なっ⁉︎ 捌かれ……グハァッ!!!」

「ゴリアテ!」

 

 そのゼットンは放たれた拳を片手で捌き、すぐさまカウンターのタックルを放ってゴリアテを後方へと吹き飛ばしたのだ……この試作型ゼットンは『格闘能力特化型ゼットン』、単純な身体能力だけでなく反応速度や頑丈さ、更に宇宙にある様々な格闘技の戦闘データをインストールしているのだ。

 よって元々ウルトラマンと渡り合える近接戦闘能力は更に強化されており、生半可なウルトラ戦士なら一蹴出来る程の格闘能力を有しているのだ。

 ……その友人の窮地を見たフォルトとメビウスがゴリアテを助けに向かおうとするが……。

 

「ゴリアテ、今助けに⁉︎ ……ガハッ!」

「ゼェットン……!」

「フォルト! コイツいつの間に「ゼェット!」うわぁっ!」

 

 その二人の近くに()()現れた三体目のゼットンがフォルトを背後から殴り飛ばした……突如現れたゼットンに対しメビウスは一瞬動揺するも即座に殴りかかるが、それをゼットンは即座にテレポートで回避すると同時にメビウスの背後に回りそのまま殴り付けて吹き飛ばした。

 ……このゼットンは『テレポート特化型ゼットン』であり、テレポートの発動速度・移動距離・連続発動能力を大幅に強化された個体である。

 

「お前達! ええいっ邪魔だ! ウルトラスラッシュ!」

「ゼェットォォン!」

 

 唯一戦えているアークもどうにか助けに行こうとするがシャッター特化型が放つ無数の火球を躱すのに手いっぱいで、援護に辛うじて放った光輪も割り込んで来たゼットンが展開した『ゼットンシャッター』に防がれるだけに終わった。

 ……三体の機能特化型ゼットンの力は圧倒的で、アーク達四人の訓練生達の運命はまさに風前の灯だと思われたが……。

 

「……スワローキィィィィック!!!」

「⁉︎ ゼェェェットォ!」

 

 その時、突如上空から一つの影が現れ、きりもみ回転しながらの飛び蹴りを格闘特化型ゼットンに浴びせかけた……格闘型は咄嗟に腕を交差させてその飛び蹴りを防いだものの、衝撃までは完全に殺しきれず後ろへと弾き飛ばされた。

 

「大丈夫かお前達!」

「カラレス教官! 来てくれたんですね!」

 

 その影の正体はアークからの連絡を聞いて救援に来たカラレス教官であった……更にその直後、上空から次々と光刃や光輪がゼットン達に降り注いだ。

 それらの攻撃はゼットンシャッターに阻まれたり、テレポートで躱されたり、素の耐久力で耐えられたりしたので大したダメージにはならなかったが、その足を止める牽制には十分だった。

 ……その攻撃を放ったのは、同じく連絡を受けて援軍に来た十人程の士官学校の教官達だった。

 

「……アーク、あのゼットンは我々に任せてゴリアテ達を連れて下がれ。お前達はシェルターの人間達の避難を行うんだ」

「教官……いえ、分かりました! 後、気を付けて下さい、そいつらただのゼットンじゃないです!」

 

 カラレス教官の指示にアークは一瞬だけ躊躇したが、直ぐに気を取り直して倒れていたゴリアテに肩を貸しメビウスとフォルトを連れてシェルターへと向かって行った。

 ……そんな彼等を背にカラレス教官を筆頭とした士官学校教官達が並び立ち、三体のゼットンと向き合った。

 

「この惨状から考えるにあのゼットンは量産型ではなく高級品、しかも先程のバリアやテレポート、格闘能力から考えてカスタム品といったところでしょうか」

「それだけではないの。……先程の攻撃で各々が別の対処をしておったし、ゼットンの生産性から考えてもおそらく各機能へと特化した改造が施されているのではないかな?」

「そこも含めて戦いながら見極めるしか無いでしょうな」

 

 ……ウルトラの星の宇宙警備隊はその活動範囲に比べて、所属している隊員の数は精々百万人程度と決して多い訳ではない。だが、それ故に人材の育成には力を入れており、それは士官学校での教育にも当てはまる。

 そして彼等士官学校の教官とは、宇宙警備隊の中から能力・知性・人格において『新しい宇宙警備隊員を鍛えるに相応しい』と()()()()()()()()に認められた者だけが就く事の出来る職業なのである。

 

「……さて、このシェルターを攻めてくるとは、我々士官学校の教官も随分見くびられた物だ」

「……我々がここを任されたのは生徒達の面倒を見るためではなく、このシェルターが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと言うのに」

「その勘違いはしっかりと教育し直してやるとしよう」

「「「ゼェェェットォォォォン!!!」」」

 

 ここに宇宙警備隊士官学校の教官達と三体の試作型ゼットンとの戦いが幕を開けたのだった。

 

 

 ──────ー◇◇◇──────ー

 

 

 ところ変わってここは現在の最激戦区『スペースポート』、そこではバット星人先行部隊と宇宙警備隊のウルトラ戦士達が激しい戦いを繰り広げていた。

 

「ジェアッ!」

「セェイ!」

 

 中でも目を引くのはアイスラッガーを逆手に持ったウルトラセブンと、長剣を持つバット星人前線指揮官との激しい剣戟である。

 

「チィッ! 喰らえ!」

「ジェイッ! エメリウム光線!」

 

 両者はそれぞれが手に持った刃で斬り結びながらも、時折相手の隙を狙って装備している銃火器や額からの光線を撃ち放って行く……その戦いの趨勢は全くの互角であり、両者の非常に高い戦闘技能を伺わせた。

 ……だが、彼等の戦いとは裏腹に全体的な戦況は徐々に片方へと傾き始めていた。

 

「シェアッ!」

「グモォォォ⁉︎」

 

 その戦場の一つではウルトラマンが量産型ゼットンの一体に接近してからのチョップを放ち怯ませていた……相手のゼットンも反撃に火球やナパーム弾を放つが、ウルトラマンはそれらの攻撃をサイドステップで躱してから相手の懐に潜り込む。そして、彼はゼットンの腰を両手で掴むとそのまま大きく振り回して地面に叩きつけた! 

 ……地面に叩きつけられてゼットンは直ぐに立ち上がろうとするが、量産型である為かその動きは鈍く……。

 

「スペシウム光線! シェアッ!」

「ッ⁉︎ グモォォォ…………⁉︎」

 

 その隙にウルトラマンは一旦バックステップすると、直ぐにゼットンが光線を吸収出来ない背中部分にスペシウム光線を放つ……全てのウルトラ戦士の基本技でありながらも、あの日地球でゼットンに敗れてから更なる研鑽を積んだウルトラマンのソレは他の宇宙警備隊員とは別格の威力を持ってゼットンを爆散させた。

 

「チィッ! やはり量産型一体ではウルトラ兄弟相手には通じんか!」

「バット星人、もう降伏しろ。……既にこの場の戦局は我々の方に傾いた」

 

 セブンの言う通り、スペースポートの戦局はウルトラ戦士達に有利に進んでいた……特に量産型ゼットンを分散させて複数名のウルトラ戦士で各個撃破出来た事が大きく、バット星人達の命脈は風前の灯だった。

 ……量産型ゼットンが強かったのはこの指揮官型バット星人の采配による集団戦闘だった事が大きく、セブンによって指揮を封じられ単体になったゼットンは宇宙警備隊員が複数揃っていれば十分相手が出来るレベルでしかなかったのだ。

 

「……ふん、確かにこの場での勝敗はお前達の勝ちの様だ。……だが、我々は十分に己の役目を果たした! 見るがいい!」

 

 降伏を勧告されたバット星人前線指揮官はこの場での敗北を認めながらも、不敵に笑いながら上空を指差した……そこには、衛星軌道上に存在するバット星人連合艦隊から援軍として派遣された大量の無人戦闘機が、地上に向けて降下してくる光景があった。

 

「あれは……」

「フハハハハ!!! やはり貴様らは“戦争”には向いていない様だなぁウルトラ戦士供よ! 我らの役目は本隊が援軍の準備を整える為の時間稼ぎと地上の迎撃部隊の戦力を削る事よ!」

 

 そうしている間にも大量の無人戦闘機とソレらに守られてゼットン入り降下カプセルが徐々に地上へと近づいて行く。

 

「この様な局所での戦術的勝利ではなく、大局における戦略的勝利こそが戦争の肝よ! この場での勝利などくれてやるわ!」

「……成る程な」

 

 その光景を見てその場にいたウルトラ戦士達に絶望の感情が襲う……だが、そんな状況にあってもウルトラマンとセブンの表情には一片の絶望すら無かった。

 

「それならば、こちらも一つ教えておこう」

「……何?」

「このウルトラの星には、()()()()()()()()()()()()()“最強の戦士”がまだ残っているという事を」

 

 ウルトラマンとセブンがそう言った直後、彼方からその無人戦闘機の軍勢に向けて一条の超威力の光線が撃ち放たれたのだ! ……その光線は無人戦闘機群の一角を文字通り()()させると、そのまま薙ぎ払う様に放たれ続けて無人戦闘機群と降下カプセルの半数以上を消しとばしたのだ! 

 ……その余りに出鱈目な光景を見てしまったバット星人前線指揮官は、戦闘中である事すら忘れて叫び出してしまった。

 

「な……あァァ! ば、馬鹿な……ウルトラ戦士の光線技は有人惑星上では威力を大幅に減じなければならないのではないのか⁉︎ ……それに、あの光線、あの威力でこちらには一切の輻射熱すら無かったぞ⁉︎」

「当然だ。……だからこそ、“あの光線”は()()()()()()()()()()()と呼ばれているのだから」

 

 通常、彼等ウルトラ戦士の光線技は有人惑星上では威力を大幅に落として放たれている……そうしなければ、守らなければならない惑星に、自らが放った光線技の輻射熱や磁場などの余波によって甚大な被害を齎らしてしまうからだ。

 ……故に士官学校でも光線技の授業では最優先で制御能力を磨かされるし、バット星人もウルトラの星での戦闘に持ち込めば自星への被害を恐れて全力の光線を撃てないだろうと読んでいたのだ。

 そして、下手撃てば惑星すら破壊してしまいかねないウルトラ戦士の光線技に対してその読みは正しい……一人の例外を除けばだが。

 

「流石は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()最大温度87万度を誇る光線だな」

「ああ、磁場で惑星の地軸が歪むことも無い様に、敵だけを消滅させられる様に余波も含めて完全に制御されている」

「ま、まさか……!」

 

 彼等に言う通り、その光線はかつて『砂漠の中にある一粒の砂だけを正確に撃ち抜く』とまで言われた程の精度があるとされる……その証拠に先程の光線は無人戦闘機と降下カプセルを消滅させたが、地上──ウルトラの星には一切の被害を出していないのだ。

 ……故にこそ、様々な状況でその星にいる命を守らなければならないウルトラ戦士にとっては、その光線──『M87光線』が“最強”だと言われているのである。

 

「済まない遅れた。指揮を大隊長に任せてきたから、ここからは私も前線に出よう」

「宇宙警備隊隊長、ゾフィー!!!」

 

 空からスペースポートに降り立ったその人物に対して、バット星人前線指揮官はそう叫んだ……ここにウルトラ兄弟の長兄にして、ウルトラの星最強の戦士ゾフィーが参戦したのだ。




あとがき・各種設定解説

アーク達:時間稼ぎの役目は果たした
・ラスボス三体相手なら上出来な部類。
・いきなりの実戦でまだ未熟な訓練生が活躍できる程世の中は甘く無い…例え特別な力があったとしても。
・ウルトラ兄弟の厳しい修練のお陰で、アークはその辺りの事は自覚済み。

士官学校教官達:当然ながら他者に指導出来る程のベテラン揃い
・宇宙警備隊員を兼任する事も多いので、全員高い実力を持つ。

ゾフィー:これが宇宙警備隊隊長の力だ!
・(降下カプセル内の)ゼットンは私が倒した(ガチ)。
・この作品のゾフィーさんはテレビ本編+Story0+ウルトラマン超闘士激伝・新章な感じで捏造設定マシマシにお送りします。
・他にもウルトラの父に指揮権を譲る前に、各種重要拠点への援軍派遣や外宇宙にいる隊員達への帰還命令とかもやってました。

ゼットン:戦闘能力は高いのだが知性はそこまででは無い
・なので、バラバラに戦った量産型は複数人からの攻撃に対応仕切れずあっさり倒された。
・グライフが生産した試作型はその辺りもある程度改善されており、多少の連携行動も可能。

バット星人前線指揮官:本当に優秀な人物
・戦闘能力はウルトラ兄弟と互角に戦える程であり、その中で戦略的な立ち回りも出来る理想の指揮官……なのだが、今回は相手が悪すぎた。


読了ありがとうございました。
ゾフィーさんをかっこよく書くのがこの小説を書き始めた理由の一つなので、ようやく書けて満足。


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戦え! ウルトラ戦士達! (中編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン量産型

 宇宙恐竜 ゼットン試作型 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そこはウルトラの星の衛星軌道上、そこに待機していたバット星人『武断派』が乗る戦艦のブリッジ内のメンバーは混乱の渦に叩き落とされていた。

 

「無人戦闘機群並びに降下カプセルの五割が破壊……いえ、消滅しました……」

「バカな! ヤツらは有人惑星上では全力の光線を出せないのではなかったのか⁉︎」

「残りは降下出来ましたが、援軍に現れたウルトラ兄弟達を中心とした戦力に劣勢を強いられています……」

 

 その原因は先程宇宙警備隊隊長ゾフィーが放ったM87光線によって降下部隊の半数近くが壊滅した事である……彼らが()()()()()()()()()ではウルトラの星に接近出来た時点で、ウルトラ戦士達の最大の武器である光線技の使用を制限出来るから、後は光線の吸収・反射能力を持つゼットンを前面に出せば敵を撃破して橋頭堡を確保出来るとされていたのだ。

 ……とはいえ、確かにバット星人は甚大なダメージを負ったがまだ勝敗は決していない。少なくとも、指揮官であるデルザムはそう考えていた。

 

「狼狽えるな! 相手はウルトラの星の宇宙警備隊、一筋縄ではいかん事は覚悟していたであろう! それに先の光線も何の制限も無く撃てるのならばとうに我等は全滅しているわ! ……あれほどの大技である以上エネルギーの消費は激しかろうから連射は出来まい。今のうちに予備兵力である制圧用の部隊を予定を前倒しにして援軍として降下させよ」

「はっはいっ!」

 

 艦隊司令デルザムの指示によって浮き足立っていたバット星人達は落ち着きを取り戻し、すぐに追加の援軍の降下作業に移って行った……実際、デルザムの読みは正しく如何にゾフィーとは言えあれほどの威力の光線はエネルギーの関係から連発は出来ず、更に撃つタイミングや方向を考えた上で放つ必要がある為何度も使えるものでは無いのである。

 ……ただし、ゾフィーが本当に頼りにしているものは決して自分の光線ではないのだが。

 

「艦長、『養殖派』のグライスから通信が!」

「繋げ」

 

 そこでブリッジの通信に『養殖派』の首魁グライスからの通信が入った……デルザムにとっては業腹だったが、この状況では彼等からも援軍を募る必要があると考えていた。

 

『これはデルザム殿、申し訳ありませんがこちらが入手した情報に不備があった様でして』

「敵の実力が予想以上だった事は良い。それよりもそちらからも更なる援軍を……」

『ああいえ、そちらではなく……どうやら周辺の星系からのウルトラ戦士達の援軍が思っていた以上に早かった様でして。もうすぐこちらに到着する様です』

 

 そう言ってグライスはモニターに一つの映像を映し出した……そこにはこの近隣の宙域に居る、ウルトラの星に向かって飛ぶ宇宙警備隊員達の姿が映し出されていた。

 ……その中にはウルトラマンエースやウルトラマンタロウなどの名高い戦士達の姿もあった。

 

「なっ⁉︎ ……グライス、貴様現在この宙域にはウルトラ戦士の数が少ないと言う報告だった筈だが……」

『それに関しては本当に申し訳ないと思っていますので、こちらからも無人戦闘機と宙間戦闘用の量産型ゼットンを援軍に送らせて貰いますよ。……ですが、知っての通り我々養殖派の艦艇は戦闘能力に乏しいので、戦いに巻き込まれない様に下がらせて頂きますが』

「こちらの観測機器には情報が届いて……⁉︎ グライス! 貴様……!」

『それでは御武運をお祈りしていますよ、デルザム殿』

 

 不審な点を問い正そうとしたデルザムの言葉を無視してグライスは通信を切った。

 

「申し訳ありません! ……ですが、こちら側の艦艇のレーダーにはこの様な……」

「……いやいい。……それよりも向かって来るウルトラ戦士達を迎え撃つ方が先決だ。兵を宙間戦闘用装備に切り替えさせ、宙間戦闘用無人機と量産型ゼットンの出撃を急がせろ。地上用の戦力も順次全て投下せよ」

「は、はっ!」

 

 慌てて謝罪してオペレーターを黙らせて、デルザムは冷静に素早く今後の指示を出していった……だが、その内心はグライスに完全に()()()()()事に気がついた事で怒り狂っていたが。

 

(グライスめ……! 私を謀殺してバット星の主導権を握る気か! ……おそらく、これまでの『命の固形化』に関する情報も私を嵌める為にワザと……!)

 

 だが、彼の明晰な頭脳は『今頃気がついたところでもう遅い』と結論付けられてしまっていた……彼がいる艦隊はウルトラの星に近づき過ぎたため、仮に今から撤退しようとするとこれから援軍に来ているウルトラ戦士達と鉢合わせになってしまう位置にあったのである。

 ……故に、最早彼等が生き残る手段は降伏する事か、或いはウルトラ戦士達を打ち倒す以外には無くなっていたのだった。

 

「降下出来る戦力を全て降下させ次第、本艦は『養殖派』が送った援軍と共にこちらに迫るウルトラ戦士達の迎撃行動に入る。……我々が勝つには彼奴等の撃破が必要不可欠だからな。戦闘用の装備を用意せよ、私も出る」

「はっ⁉︎ し、しかし……」

「くどい! 今この瞬間に勝たねば全てが水の泡ぞ! 現在動かせる全戦力を持って当たるのだ!」

 

 ……そして、デルザムの武人としてのプライドとウルトラの星への隔意、更に降伏したところでこの宇宙での彼等の居場所が無くなるだけであるとの考えによって、彼には戦闘続行という選択肢しか無くなっていたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ウルトラの星から少し離れた場所にある宙域、そこでは外宇宙に出ていた宇宙警備隊員達が集結して侵略の危機に陥った光の国へと急行していたのだ。

 ……これは、ゾフィーがウルトラサインを使って『光の国に向かっている隊員はまず指定のポイントに集合してある程度の数が揃ってから援軍に来る様に』と指示を出していた事も大きい。

 

「エース兄さん、そちらはヤプールの一派を追っていた筈ですが大丈夫なんですか?」

「タロウか。大丈夫だ、そちらに関してはある程度の調査は既に終わっている。……まあ、その結果があまり好ましくないモノだったから本部に報告に来ていたところだったんだがな。……だが、今は俺達の母星を守る事が優先だ」

 

 そして、その中にはウルトラ兄弟に数えられるエース、タロウを始めとして宇宙保安庁切ってのベテランであるセブン21や勇士司令部所属のネオス、他にもグレートやパワードなどの精鋭の姿もあり、その全てが自らの故郷を守る為に戦意を燃やしていた。

 ……そこで、タロウは懐かしい顔を見かけたので戦いが始まる前に声を掛けておく事にした。

 

「しかし、貴方達まで来てくれるとは心強いです、サージ、ドリュー」

「ああ。……M78星雲にあるバッファロー星やメタル星、アニマル星などの星々の防衛体制は整えて来たからな。余裕があった私が援軍に来る事になったんだ」

「こっちはエースと同じだな。……L77星の一件で進展があったから、それを報告しに行こうとした途中でゾフィーからのウルトラサインを受け取ったのだ」

 

 そうして、道中会話をしながら現在揃っている戦力を確認していた彼等は、ようやくウルトラの星が見えるところまでやって来る事が出来たのだが……。

 

「……待て。敵の軍勢が配置されている。どうやら相手はこちらを迎え撃つ気らしいな」

「チッ、位置取りが上手いな。……ウルトラの星を背負えばこちらは迂闊に光線技を放てん」

「クソッ! なんて卑怯な!」

 

 サージとドリューの言葉に全員が飛行を止めて前方を見ると、そこにはウルトラの星を背にしたバット星人の大部隊が布陣していたのだ……その内陣は『養殖派』が置き土産として残したものを含む無人戦闘機群と、背中から翼の様なものを生やした宇宙戦用の量産型ゼットン。

 ……そして、宇宙戦用装備を身に付けたデルザムを筆頭とするバット星人の兵隊達だった。

 

「ここから先へは行かせんぞ。ウルトラ戦士どもよ」

「なんだと!」

「待て、タロウ。……お前達がウルトラの星を攻撃している侵略者だな。既に、我々の他にも宇宙中の警備隊員がウルトラの星に集結しようとしている。お前達に勝ち目は無い、今降伏すれば命だけは助けてやれるが?」

 

 先頭に立ったデルザムが手に持った剣を構えて道を塞いだのに対し、逸るタロウなど他のウルトラ戦士達を抑えて前に出たサージが降伏を勧告した……だが……。

 

「そんな事は分かっているわ。……故に、貴様等を早急に始末して光の国をさっさと攻め落とさねければならないのだからな」

「……そうか。では、これ以上の問答は無用だな。……ここで我々がお前達を倒す」

 

 それだけ言うとサージは右腕から得意の氷剣を生成して戦闘態勢に入り、同じ様に他のウルトラ戦士達もそれぞれ構えた……それと同じ様にバット星人の軍勢も剣を構えたデルザムを筆頭に戦闘体勢へと入っていった。

 

「……我がバット星の精鋭達よ! 目の前で宇宙の番人面しているウルトラ戦士どもを殲滅するのだ!」

「こいつ等を倒して光の国を守るぞ!」

 

 デルザムとサージが同時に発したそれぞれの言葉をきっかけにして、バット星連合部隊とウルトラ戦士達によるウルトラ星近郊宇宙での大規模戦闘が始まったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 所変わって光の国にある避難シェルター、そこでは突如現れた三体の機能特化型ゼットンと宇宙警備隊士官学校の教官達が激しい戦いを繰り広げていた。

 

「テェーェイ! テヤァ!」

「ゼット! ゼェェェットン!」

 

 まず、その戦場の一角で格闘能力特化型ゼットンとカラレスが一対一で熾烈な格闘戦を行っていた……かつての事件でウルトラホーンの片方を失った所為で内包エネルギーが減りストリウム光線などの大出力攻撃が使えなくなって一線を退いたカラレスだったが、ウルトラマンタロウが師事した格闘能力は未だに健在である。今もパワーで勝るゼットンの攻撃を躱しながら、そこに出来た僅かな隙に的確な拳や蹴りを叩き込む事で互角の勝負に持ち込んでいた。

 ……そして、彼が何故一対一で戦っているのかと言うとこの格闘型ゼットンは彼一人で抑えられる相手であり、他のゼットンは複数名で挑まねばならないと判断されたからである。

 

「ゼットォォン!」

「クソッ! なんて硬いバリアなんだ!」

「焦らないで下さい。コイツを他のゼットンと合流させると面倒な事になりますから、ここで食い止めましょう」

「うむ、少なくともバリアを張っている間は動けないようじゃからのう。細かい攻撃を続ければ足止めにはなろう」

 

 別の場所ではゼットンシャッター特化型に対して、三人の教官達が入れ替わり立ち替わり攻撃を行っていた……このゼットンはシャッターを使って他のゼットンを庇う動きをしており、三体が近くにいると撃破が困難だと考えた教官達によって他の二体と引き剥がされたのだ。

 そして、シャッター展開中は動けないという弱点を突いて、三人が入れ替わりながら戦いを挑む事で足止めを続けていたのだ。

 

「ゼェット……」

「またテレポートしたぞ! ……そっちだ!」

「分かった! ウルトラスラッシュ!」

「常にお互いの死角をカバーし合いながら動くんだ! コイツを絶対にシェルターには向かわせるな!」

 

 また別の場所ではテレポート特化のゼットンが残りの教官達と戦っていた……彼らは互いの死角を補う様に布陣しつつ声を掛け合って相手の出現先をいち早く把握、そこから出の早い牽制技を使ってテレポート直後の隙を狙う長期戦の構えだ。

 ……彼等はここを突破して避難シェルターや他のゼットンの下に向かわれる可能性が高いテレポート型を足止めする為にそういう戦い方を選んでいたのである。

 不幸中の幸いというか、この試作型ゼットン三体には開発者であるグライスから『データ収集の為にウルトラ戦士と優先的に戦え』と命令されていたので、彼等のシェルターを守る為の足止め作戦は上手くいっていた。

 

「とはいえ、このまま永遠に足止め出来る訳ではないし、どこかで突破口を見つけないと……」

「だが、迂闊に光線技を撃てば吸収されるだけだ。幸い斬撃技の吸収は出来ない様だからそれで攻めているが、それでは決定打に欠ける」

「こやつら以前地球でウルトラマンが敗北した高級品、しかもそれに更なる改良を加えたものじゃからな。……しかし、これほどのゼットンを作り上げる者がいるとは……」

 

 そうして彼等は相手の隙を伺いつつも、ただひたすらに時間稼ぎに徹していた……下手に動けば自分達でもこの強化型ゼットン達にはあっさりやられかねないと分かっていたからだ。

 ……ただ、時間稼ぎも永遠に続けられる訳ではなく、特に一人で格闘型を受け持っていたカラレスは長時間の戦闘による疲労から徐々に劣勢に追い込まれていた。

 

「ゼェェェットォォ!!!」

「クッ! やはりコイツのパワーは……ッ」

 

 疲労からやや動きが悪くなっているカラレスに対して、持久力すらも強化されている格闘型はまるで疲労など無いかの様に彼を攻め立てていく。

 ……そして、とうとうゼットンの攻撃を凌ぎきれずにカラレスは態勢を崩して膝をついてしまった。

 

「グゥ! しまった⁉︎」

「ゼェェットン!」

 

 その隙をゼットンは見逃す事は無く、握り締めた拳を全力でカラレスに叩き付ける……直前、横合いから伸ばされた()()()に拳を掴まれ止められていた。

 

「ゼェッ⁉︎」

「……ったく、こっちはもう第一線引いてるってのに、ゾフィーのヤツも人使いが荒いぜ」

「お前は……ゴライアン!」

 

 カラレスの窮地を救ったウルトラ戦士の名前はゴライアン……彼はかつてのゾフィーやカラレスの戦友の一人でありとある事件で重症を追ったので今は前線を退いて格闘技のジムを営んでいたのだが、このウルトラの星の窮状にゾフィーが一時的な宇宙警備隊への復帰を頼んでいたのだ。

 

「後、俺以外にもフレアとか手の空いた連中も援軍に来てるぞっと。……成る程、かなりのパワーだな。カラレスが苦戦する訳だ」

「ゼットォ⁉︎」

 

 そう話している間にゼットンのもう片方の拳がゴライアンに振りかざされたが、彼はそれをもう片方の手であっさりと受け止めてそのまま相手の両腕を捻り上げていった。

 ……強化されている筈の自分のパワーをあっさりと上回られたゼットンは動揺するも、すぐさま至近距離から火球を放ってゴライアンを攻撃しようとし……。

 

「させねえ……よっと!」

「ゼェェェェェッ!!!」

 

 それに先んじて放たれたゴライアンの()()()がその顔面に炸裂し、ゼットンは顔面を凹ませながら吹き飛ばされていった。

 ……吹き飛ばされて倒れたゼットンだったが、すぐに立ち上がってゴライアンに向けて再び火球を放とうとした。

 

「ゼェェェットォォ……」

「戦いには頭も使わないとな……それよりも、俺だけに注目してていいのか?」

「ハァァァァ!!!」

 

 だが、そこに残りの全エネルギーを右腕に集中させたカラレスが突っ込んでいった……ウルトラホーンを損傷したと言っても未だに並みのウルトラ戦士を超えるエネルギー量を持つカラレスは、いずれ勝機が訪れる事を信じてエネルギーを温存しながら戦っていたのだ。

 

「アトミックパンチ!!!」

「ゼェェェェェ──────ッ!!!」

 

 その膨大なエネルギーを込めた右手から放たれたパンチは、頑強に作られている筈の格闘型ゼットンの胸部を貫通した……そして、カラレスが腕を引き抜くとゼットンは力を失い後ろに倒れてそのまま爆散した。

 ……とはいえ、その一撃にエネルギーの殆どを使い果たしたカラレスはカラータイマーが点滅する程に疲労していたが、それでも無理に立ち上がろうとしてゴライアンに止められた。

 

「よし、ようやく一体を倒せた。……他の戦場に援軍に行かねば……」

「いや、流石に休んでろよカラレス。エネルギー不足でフラフラじゃねえか。……それにさっきも言ったろ、他のところにも援軍が行ってるってよ。そっちには俺が行くから今はエネルギー回復を優先させな」

「……分かった。ゴライアン、後は頼む」

 

 ゴライアンの説得に頷いたカラレスは座り込んでエネルギーを回復させ始め、それを見て安心したゴライアンは他の戦場に援軍に向かっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

デルザム:ようやく気がついたが時既に遅し
・グライスは情報操作の証拠を一切残していない上、撤退の判断も状況からどうしようもないし、ちゃんと援軍も寄越しているので文句を言う事も出来ない状態。

グライス:狙いは未必の故意
・なので、本星にいる残りの『武断派』も絶対に追求出来ない様に立ち回っている。

量産型ゼットン:宇宙型もいる
・宇宙型の見た目は2代目ゼットンの背中にパワード版ゼットンの様な羽根が付いている感じ。
・宇宙空間での機動力は上がっているが、地上での運動性は大幅に落ちている。

ドリュー&ゴライアン:出展『ウルトラマンstory0』
・ドリューは以前に知己のあり今は壊滅してしまったL77星のとある兄弟を探しており、兄の方は見つけてとある惑星に亡命させたが、弟の方が見つからずウルトラの星で情報を集めるつもりだった。
・ゴライアンの方はカラレスに並んで怪我が酷く長時間の戦闘が難しいとされたので、今は宇宙警備隊を実質引退している……のだが、格闘技のジムをやっている為、近接戦闘の技量は衰えてはいない。


読了ありがとうございました。
多分、残り二話ぐらいでバット星人編は完結すると思います。


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戦え! ウルトラ戦士達! (後編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン量産型

 宇宙恐竜 ゼットン試作型 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 カラレスとゴライアンが格闘型ゼットンを倒したのと丁度同じ時、残り二体の試作型ゼットンとウルトラ戦士達の戦いにも援軍が到着した事により転機を迎えていた、

 ……まず、ゼットンシャッター特化型の方には宇宙科学技術局所属のフレアが加勢に来ていた。

 

「よう、加勢に来たぜ」

「フレアじゃないか! 宇宙科学技術局に移籍した御主が何故?」

 

 その意外な人物の登場に、フレアが宇宙警備隊に所属していた頃に面識のあった教官の一人が思わず問いかけた。

 

「ゾフィーに頼まれたんだよ『光の国を守る為に今一度だけ前線に出てくれ』ってな。……それに、俺の同僚が開発した技術をあそこまで好き勝手言ってくれた連中にはちと思うところがあるしな」

「ゼェェェットォォン!」

「さて! 俺があいつのバリアをどうにかするからその隙に叩いてくれよ!」

「分かった! ヤツにもう一度攻撃を集中させるんじゃ!」

 

 そうして、再びシャッター特化型ゼットンとウルトラ戦士達との戦いが始まった……最も、先程までと同じ様に教官達の波状攻撃が全て相手のゼットンシャッターに防がれるだけで……。

 

「ほい、捕まえたっと」

「ッ⁉︎ ゼェェェェェッ!!!」

 

 否、そのゼットンシャッターの内側に突如として現れた()()によって光の網が張り巡らされ、中に居たゼットンの動きを拘束したのだ……その両腕の正体はフレアがゼットンがシャッターを展開する直前に自分の腕を粒子化させてその内側に忍ばせたものであり、その両腕を介して得意の『光子ネット』を展開してゼットンの動きを封じているのだ。

 ……そして、動きを封じられたゼットンはシャッターを維持する事が出来ずにそれを解除してしまった。

 

「今だ! 俺が動きを抑えて置くから光線を吸収される事は無い!」

「よし! 合体光線じゃ! スペシウム光線!」

「「スペシウム光線!」」

 

 そうして出来た隙に三人の教官はゼットンに向けて同時にスペシウム光線を放った……放たれた光線は途中で交わり三重の螺旋状になり、そのままゼットンに向かって突き進んでいった。

 これぞ複数人の光線技のエネルギーとウルトラ念力を融合させて超威力の光線とする『合体光線』の技術である。無論、各々に高い光線の制御技術が必要な上で互いの息を合わせる必要があるので技の難易度は高く、教官達も使う技を最も基本的なスペシウム光線に統一するなどして技の精度と威力を更に上げて使用している。

 

「それじゃ光子ネット解除……じゃ、さよならだ」

「ゼェェェェェェェェ────ットォォォォ……!」

 

 その合体光線が当たる直前にフレアは光子ネットを解除して腕を粒子化したのでゼットンは自由を取り戻したが、既にシャッターの再展開は吸収が間に合うタイミングではなく、そのまま三重螺旋の奔流に飲み込まれて爆砕されたのだった。

 

「よっしゃ! 一体撃破だな……お! ゴライアン。カラレスの方は大丈夫だったのか?」

「ああ、こっちのゼットンも倒したぜ。……カラレスのヤツはエネルギーを消耗し過ぎたみたいだったから休ませて来たがな」

 

 そこに格闘型ゼットンを倒したゴライアンがやって来た……その報告からゼットンの残りが一体になったと知ったウルトラ戦士達は喜びの声を露わにした。

 

「ふむ、ならば後はテレポート型だけじゃな」

「そっちにはチャック、スコット、ベスの『チームUSA』が援軍に行ってた筈だ」

「では、我々も加勢に行きましょう」

 

 そうして、二体のゼットンを倒した彼等はまだ残っている最後のゼットンと戦いに加勢する為に空へと飛び出していった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そして同じ頃、別の場所で行われていたテレポート型ゼットンとの戦いも、援軍である『チームUSA』が加わった事で佳境を迎えようとしていた。

 

「ゼェェット!」

「セヤァ! ……またテレポートしたぞ!」

「……スコット! そっちに行ったわ!」

 

 テレポート特化型ゼットンに対してまずウルトラマンチャックが殴り掛かったが、その拳はテレポートによって一瞬で別の場所に移動したゼットンには当たらず……そうして移動したゼットンを周りを警戒していたウルトラウーマンベスが見つけて、直ぐにウルトラマンスコットに教えた

 

「分かった! そこだ! ウルトラ・スライサー!」

「ゼェェットン⁉︎」

 

 その指示を受けたスコットは現れたゼットンに対して、()()()準備していた複数の光輪を即座に投げつけた……その光輪はテレポート直後で動きが取れなかったゼットンに命中してダメージを与えた。

 ……彼等三人は『チームUSA』と称される様にウルトラの星の宇宙警備隊の中でも珍しく三人での連携戦闘を得意としており、その連携戦術をお互いの死角を完全にカバーし合う事でテレポートを連発してくるゼットンに対応していたのだ。

 

「よし! ようやくヤツにダメージを与えられたぞ!」

「我々も彼等チームUSAに続くぞ! 常に声を掛け合い、互いの死角を補うんだ!」

「ヤツがどこにテレポートしても良い様に陣形を組むんだ!」

「ゼェェットォォン!!!」

 

 そのチームUSAの奮戦に士気が上がった教官達も、彼等に習いお互いをフォローしながらゼットンのテレポートに対応していった……単純な理屈として、如何に点と点による移動が可能なテレポートでも対応できる手と目が増えれば転移出来る範囲は当然狭くなるのだ。

 ……更に本来なら撤退するのが最善なのだが制作者(グライス)によって『ウルトラ戦士と戦え』と命じられていたゼットンはその選択を取る事が出来ず、そのまま徐々に追い詰められていき……。

 

「そこだ! ウルトラ・バブル・シュート!」

「ゼットォォォォン⁉︎」

 

 そうして度重なるダメージによって動きが鈍った所に、チャックが球体状のエネルギーによってゼットンをその内側に閉じ込めた。更にその泡の内側には特殊なエネルギーによって干渉されており、それによってゼットンのテレポートを封じているのだ。

 ……その待ちに待ったチャンスを見逃すものはこの場にはおらず、すぐさま全員が各々が得意とする光線技の構えを取った。

 

「今だ! みんな! 光線を撃て!」

「よし! グラニウム光線!」

「グラニウム光線!」

「「「シェアッ!」」」

 

 そして、拘束されたゼットンに向けて四方からスコットとベス、そして教官達がそれぞれの光線を浴びせ掛けた……それらの光線はチャックが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ウルトラ・バブル・シュートを貫通し、そのまま全方位からゼットンに突き刺さってその身体を跡形も無く吹き飛ばしたのだった。

 

「よし! ここのゼットンはどうにか倒せたな」

「手強い相手だった……」

「……じゃあ、他の所に「なんだ、こっちも終わってるじゃねえか」! 貴方達は!」

 

 戦闘を終えて他の場所へと援軍に行こうとしていた彼等の元にゴライアン達が飛んで来たのだ。

 

「ふむ、そっちはもう終わったようじゃな」

「貴方達がここに来たという事はそちらも?」

「ああ、他の二体のゼットンも既に撃破済みだ。これでゼットンは全て撃破したしゾフィーに報告するか」

「それじゃあ、大隊長にはこちらから報告しておきます」

 

 合流した事で避難シェルターを襲ったゼットンを全て撃破したと分かった彼等は、まずシェルターの安全が確保された事を報告する事にした。

 ……とりあえずフレアがゾフィーに、後方で指揮を執っている宇宙警備隊大隊長ウルトラの父には教官の一人がテレパシーによる報告する事となった。

 

「……こちらフレア、ゾフィーか? 避難シェルターを襲撃したゼットンは全て撃破。シェルターには多少の被害が出たが人的被害は無しだ。…………分かった。……とりあえず、俺たちにはこのまま避難シェルターの警護を続けて欲しいってさ。スペースポートの戦闘もそろそろ決着が付きそうらしいし」

「成る程のう、それでは警護を続行するかの。……ああ、訓練生の中にあのゼットンどもと戦った者達がいる様だし、其奴らの様子も見たほうが良いかの」

「確かに、初陣にしては強過ぎる相手ですからね。……確かカラレスの担当している訓練生だったから、既に彼が向かっているでしょうが」

「それじゃあ、俺も久しぶりに甥っ子の様子を見に行きましょうかね」

 

 そうして、自分達の戦いを終えた彼等は再び避難シェルターの警護と教官としての自分達の本来の職務に戻っていったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 光の国の戦闘に於ける最前線であるスペースポート、そこは既にかつて宇宙との玄関口としての美しい光景は残っておらず、建物を構成するクリスタルは軒並み破壊され、周囲には無人戦闘機の残骸が飛散しているという酷い有り様であった。

 ……だが、そこは先程までと比べてもだいぶ静かになっており、最早戦闘と言えるものは僅かに残った量産型ゼットンが複数のウルトラ戦士の攻撃を受けて次々と撃破されて行くぐらいであった。

 

「……そうか、よくやってくれた。……助かった、礼を言うぞフレア。こちらもそろそろ決着が着く、そのままシェルターを守ってくれ……。どうやら避難シェルターに現れたゼットンは全て倒して、シェルターにいる民間人にも被害は無いようだ」

「そうか! それは良かった。……では、こちらもそろそろ決着を付けなければな」

 

 その一角では宇宙警備隊隊長ゾフィーがフレアからのゼットン撃破報告を受けており、彼は直ぐに近くにいたウルトラマンにそれを伝えた……彼等は被害ゼロというその報告に安堵した後、未だに戦い続けていたバット星人の前線指揮官に向き直った。

 

「……そういう事だバット星人、既にここの戦場の趨勢は決して避難シェルターの安全も確保された。更に宇宙にいるお前達の本隊も外宇宙から帰還した宇宙警備隊員によって倒されつつある。……もう一度言おう、降伏しろ。今ならば命は助かる」

「……ク、クククッ……。自分の星を侵略しに来た敵に随分とお優しい事だな……」

 

 そう言ったバット星人前線指揮官は手に持った剣はヘシ折れ、身体中に纏っていた武器はほぼ全て破壊、更に身体にはダメージを負った箇所は無いという見るも無残な有り様であった。

 ……それもその筈、彼はここに至るまでゾフィー、ウルトラマン、セブンのウルトラ兄弟三人を殆どたった一人で相手にし続けていたのだから。

 

「……どの道、このダメージでは長くは俺は持たん。……それとも、散々出し渋っていた『命の固形化技術』を俺に使うか? 我が恩師である司令の奥方を治すためには使わせず、辺境の蛮族である地球人を治すためには使ったその技術を」

「それは……ッ!」

「助かるのはお前の命ではない。……まだ、戦っているお前の部下の命だ」

 

 バット星人のその発言に対して言い募ろうとしたウルトラマンを諌めながら、前に出たゾフィーはそう言った……彼の言う通り、この戦場にはまだ少数ではあるが負傷したバット星人兵士の姿があった。

 ……周りを見て何か考えるような素振りをした指揮官に対して、ゾフィーは更に言葉を続けた。

 

「我々ウルトラマンは神ではない。……だから、救える命もこの手が届く範囲だけで、宇宙のバランスを乱すと分かっていて侵略者に技術を渡す事はせず、自分達の星に侵略して来た者達に容赦をする事も無い。……だが、これ以上戦闘を行う気が無い者まで殺すつもりは無いだけだ」

「…………クク、甘いな。……自らの星への侵略者など問答無用で滅ぼして仕舞えばいいものを……」

 

 数瞬黙り込んだ後、そう皮肉げな笑みを浮かべながら言った指揮官はそのまま自身の胸部を叩き、そこに付いていた()()()()()を起動した。

 

「だが、()()()()最後までバット星人前線指揮官としての務めを果たさせてもらう! ……この胸に付いているのは自爆用の超大威力爆弾だ! 爆発してしまえば宇宙港は愚かここら一帯を吹き飛ばす程のなぁ!!! 残存全無人戦闘機自爆モード! ゼットンどもも全力で暴れて可能な限りウルトラ戦士を道連れにしてやれ!」

「バット星人! 貴様……ッ!」

「クソッ!」

「……マン、セブン、お前達は残りの無人戦闘機を破壊しろ。……彼とは私が決着を付ける」

 

 バット星人前線指揮官のその発言にマンとセブンは動揺して突っ込もうとしたが、それをゾフィーが抑えて無人戦闘機を相手にする様指示を出し、代わりに自らが指揮官と向き合った。

 ……そして、ゾフィーは胸の前で腕を水平にしたまま手の先を合わせて、その部分に莫大なエネルギーを収束させ始めた。

 

「ゾフィー……。分かった、ここは任せる」

「頼んだぞ!」

 

 その()()を見たマンとセブンは何かを察したのか、その場をゾフィーに任せて暴走を始めた無人戦闘機とゼットンの撃破に向かっていった。

 ……そして、その場には折れた剣を構えたバット星人前線指揮官と、宇宙警備隊隊長ゾフィーの姿だけがあった。

 

「……行くゾォ! ゾフィィィィィ!!!」

「……来い!」

 

 その叫び声と共にバット星人指揮官は身体に走る痛みを無視しながら折れた剣を構えて突撃した……それに対してゾフィーは静かに莫大なエネルギーが集まって所為で光り輝く右腕を手の先を前に向けながら後ろに下げた。

 ……そして、その右腕を向かってくるバット星人指揮官に対して力強く前に出した。

 

「M87光線!!!」

「⁉︎ ァァァ────……」

 

 伸ばされた右腕から放たれた莫大な光の本流は向かって来たバット星人指揮官を胸の爆弾ごと消滅させ、そのままゾフィーの意思で軌道を上方向に捻じ曲げられ地上には一切の破壊を齎さずに上空へと消えて行った……これこそ、絶望だけを撃ち抜くと言われるウルトラ戦士最強光線『M87光線』である。

 ……だが、M87光線が消えたウルトラの星の空に超スピードで上昇して行く1つの影があった。それはよく見るとバット星人がゼットンを収納していたカプセルに酷似した宇宙船だった。

 

「ゾフィー! どうやら今の戦いの隙に、バット星人の生き残りが残っていた宇宙船を使ってこの星を脱出したようだ」

「どうする? 追撃するか?」

「……いや、逃げる相手まで無理に追う必要は無いし、こちらにもそんな余裕は無い。……それよりも怪我人の救助と宇宙で戦っている警備隊員への援軍が優先だ」

 

 そう、バット星人指揮官はたいして威力の無い爆弾をブラフに使い自分を囮にする事で、残存していた兵達を緊急離脱用に準備してあった宇宙船を使って戦線から離脱させていたのだった……マンとセブンに言われるまでもなくゾフィーもその事には気が付いたが、これ以上味方に無意味な犠牲を出さない為に見逃すように指示を出した。

 ……こうして、スペースポートでの戦いは終わった。怪我人はまだ動ける者が銀十字軍まで運び、ゾフィー達ウルトラ兄弟を含むまだ戦える者達は宇宙で戦っている者達の下に飛び立って行った。

 そうして、ひとまずウルトラの星の地上に於けるバット星人との戦闘は終了したのだった。




あとがき・各種設定解説

対ゼットンの援軍:ゾフィーが光の国各地からかき集めた
・チームUSAは他の重要拠点を守っていたのだが、避難シェルターにゼットンが現れると言う緊急事態に対して急遽呼び出した模様。

試作型ゼットン:総合性能は初代ゼットンと互角ぐらい
・実は性能を特化させる代償に格闘型はバリアとシャッターが、シャッター型はテレポートと光線吸収能力が、テレポート型はシャッターと光線吸収能力がそれぞれオミットされていた。
・更に、その性能を活かす為の判断力や頭脳にも欠陥がある。
・だが、得られた戦闘データは内部に埋め込んでいた機械で製作者にしっかりと送信していた。

バット星人前線指揮官:最後まで自分の役割を果たした
・司令官であるデルザムには恩義があり絶対の忠誠を誓っていた。


読了ありがとうございました。
(何故か)長くなったバット星人襲来編も次回で(多分)最後になります。


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エピローグ:戦いの終わり・新たな兆し

 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そこはウルトラ戦士対バット星人の最後の戦場──ウルトラの星近くの宇宙空間では、バット星人司令官デルザム率いる艦隊と外宇宙から帰還した宇宙警備隊員との戦いが続いていた……が、その天秤は徐々にウルトラ戦士の側に傾こうとしていた。

 

「バーチカルギロチン!」

「グレートスライサー!」

「「グモォォォ────ッ⁉︎」」

 

 ある所ではウルトラマンエースの放った三日月状のエネルギーが宇宙用量産型ゼットンを縦に真っ二つに切断し、更にウルトラマングレートの腕から伸びた長大な光のブレードが複数体のゼットンを袈裟斬りにする。

 

「ストォリュゥゥーム! 光ぉぉぉ線!!!」

「メガ・スペシウム光線!」

「グワァッ⁉︎ ……艦長! 今の攻撃でエンジン部が破壊されました!!!」

「もう爆発します!!!」

「止むを得ん……全員緊急脱出!!!」

 

 またある所では、腕をT字に組んだウルトラマンタロウと十字に組んだウルトラマンパワードが撃ち放ったそれぞれの必殺光線がバット星人が乗る戦艦のエンジンを破壊してそのまま木っ端微塵に爆散させた。

 

「そこだっ! ネオマグニウム光線!」

「行けっ! ヴェルザード!」

 

 そして別の所では複数の無人戦闘機群をウルトラマンネオスが放った光線が薙ぎ払い、ウルトラセブン21の頭部に装備された宇宙ブーメランが宙を自在に飛翔して次々と切り裂いていく。

 ……この様に、外宇宙から集まった戦士達は普段から過酷な任務をこなしている分実力が高く、更に時間が経つごとに次々と援軍が到着していった事もあって形勢はバット星人の不利になっていたのである。

 

「脱出した者は後方の輸送艦に再集結して態勢を立て直せ! 時間稼ぎにゼットンと無人戦闘機を前面に出すのだ! ……親衛隊は私と共に敵の陣形を崩す! ……行くぞぉ!!!」

「「「「ウオォォォォ────ッ!!!」」」」

 

 だが、そんな中であってもバット星人司令官デルザムは部隊に指示を出して戦線を維持しながら、自らも親衛隊を率いてウルトラ戦士達を打ち倒していった。

 ……彼等の勢いは凄まじくウルトラ戦士達の陣形は一時的に崩れてバット星人達が態勢を立て直す事を許してしまっていた。特にデルザムの剣さばきは凄まじく、手に持った長剣だけで何人ものウルトラ戦士を戦闘不能にした程であった。

 

「チッ! あの司令官を抑えないとまずいな。……ドリュー! エース! タロウ! 俺と一緒にあの司令官を抑えるぞ!」

「分かった!」

「よし! 行こう!」

「分かりました、サージさん!」

 

 それを見たサージは自らも腕に氷の剣を展開し、他にまだ余裕があったドリュー・エース・タロウの三人を伴ってデルザム率いる親衛隊との戦いに挑んで行った。

 ……しかしデルザムと彼が率いる親衛隊は、この場のウルトラ戦士達の中でもトップクラスの実力者達である彼等四人相手でも互角以上に渡り合っていた。

 

「行くぞ、リオート!」

「甘いわっ! そこだぁ!!!」

 

 まずサージが得意の高速移動から氷の剣で斬りかかるが、武人としても超一流であったデルザムはそれを見切って剣を合わせてそのまま鍔迫り合いに持ち込んだ……そしてデルザムはそのまま力任せにサージを押し返して逆に斬りかかって行く。

 

「サージ! パンチレーザー!」

「援護します! タロウカッター!」

「させるか!」

「司令の邪魔はさせん!」

 

 それを見たエースとタロウはそれぞれ額から放つレーザーと十字に組んだ腕から放つカッターで援護しようとするが、それらは親衛隊が撃ち放った銃火器による射撃で相殺された。

 ……彼等親衛隊は更に火勢を強めて二人に攻めかかるが……。

 

「イヤァァァァァァァッ!!!」

「グハァ⁉︎」

 

 ……そこにドリューが放った凄まじい勢いの飛び蹴りが親衛隊の一人を吹き飛ばしたので、彼等は一旦距離を取って態勢を立て直しに入った。

 それに対してドリューも同じくエースとタロウの近くに戻って構えを取った。

 

「エース、タロウ、司令官はサージに任せろ。……この連中は余所見をして勝てる程容易い相手ではない」

「……そうだな。今はこいつらの相手に集中しよう」

「分かりました。確かに油断出来る相手じゃないですね」

 

 そのドリューの言葉に頷いた二人も同じ様に親衛隊に向けて構えを取り、その直後に彼等は再び激しい戦いを演じ始めた……それに合わせる様にサージとデルザムの剣戟もまた加速していった。

 ……だが、この戦場以外の戦局は既に決まっており、それを伝える通信が一旦サージを押し返したデルザムの下に届いた。

 

『……司令官! ウルトラの星の先行部隊は壊滅! 前線指揮官殿も宇宙警備隊隊長ゾフィーに討たれた模様! 今、残存兵を乗せた脱出カプセルが宇宙に上がってきました!』

『こちら地球方面! ……ち、地球攻撃担当の息子様がウルトラマンジャックに敗北! 奴は今こちら向かって……ギャァァァァ⁉︎』

「! …………そうか……」

 

 それらの報告を聞いてデルザムは静かにこの戦争に敗北した事を理解した……元々『養殖派』に嵌められた事を察した時点でこうなる事は覚悟しており、それでもウルトラ兄弟の誰か一人でも打ち取れればまだ勝算があると考え戦いを続けたのだが、彼等の実力が予想以上だった所為で完全に追い込まれてしまったのだった。

 ……だが、それでも彼はバット星人司令官としての()()()()()を果たそうとしていた。

 

「……輸送艦は脱出カプセルを回収した後に残存人員を連れて本星に撤退せよ。……殿は私と親衛隊、そして残存しているゼットンと無人戦闘機で行う」

『ッ⁉︎ 司令官! それは……』

「この戦いは我らの負けだ! ……そうなった以上、私はこの戦いを引き起こした者として責任を取らねばならん。どのみち本星には私の居場所など等に無いだろうしな。……二度は言わんぞ、急げ!」

『……ッ! 了解……しました……』

 

 その指示が出されると同時に後方にいた輸送艦隊へ撤退の準備を急ピッチで進めて行く……そして、指示を出し終わったデルザムは親衛隊を率いてウルトラ戦士達に最後の戦いを挑んで行くのだった。

 

「……では、私の死出の旅路に付き合って貰うぞ! ウルトラ戦士達よ! ……総員、突撃ィ!!!」

「「「「「ウォォォォ────ッ!!! バット星に栄光あれぇぇぇぇぇぇ────っ!!!」」」」」

「ッ⁉︎ 来るぞ!」

 

 その後もバット星人残存部隊はウルトラ戦士達と激しい戦いを繰り広げた……彼等の死を覚悟した特攻はその気迫もあってか多くのウルトラ戦士達に重傷を負わせて、撤退部隊への追撃を不可能にする事に成功したのだった。

 ……だが、その代償として彼等は一人残らず討たれる事となった。彼等の中には一人たりとも降伏を選ぶ者は居なかったのである。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 はい、こちら避難シェルターに居るアークです。突如現れたゼットンから撤退した後、俺達はそこに居る住民を襲撃を受けていないシェルターまで避難させている人達に協力していました。

 ……幸い、他の三人もダメージ自体は大した事無かったので問題無く協力は出来て、俺達は多少の混乱はあったもののどうにか避難を終えたので、今はそのシェルターの警備を行なっている。

 

「……教官達大丈夫かな? 相手はウルトラマンさんを倒したあのゼットン、しかもそれが三体も居るなんて……」

「あのゼットン達の強さは並大抵のものじゃなかったぜ……」

「おそらく、アークの言っていた“高級品のゼットン”なのでしょうが……まさか、あそこまでの強さを誇るとは……」

 

 ……だが、初めての実戦であんなバケモノ達と戦ってメビウス達は相当に動揺している様だ。先程の避難誘導の時には作業に集中する事で考えない様にしていたんだろうが、こうして警備に入って余計な事を考える余裕が出て来た所為で噴出した感じか。

 

「まあ、とりあえず落ち着けお前ら。……ゼットンの方には教官達が行ったし、多分援軍も送られるだろうから大丈夫だろう。……それにここを守る俺達が不安そうにするのは余り良くないだろう。特にメビウス、さっきの無駄な元気はどうした?」

「……それはそうだけど……。アークは悔しくないの? 初めての戦いでああも簡単にやられて。それに教官達の事も心配だし……」

 

 俺が注意がてら適当に茶化して場の雰囲気を変えようとしたら、なんかメビウスからそう聞かれた……よく見るとゴリアテとフォルトもこっちを見てるから同意見っぽいし……。

 

「ふむ、別にシェルターを守る役目は果たしたんだし後は教官達に任せればいいんじゃないか? それに、まだ訓練生でしかない俺達がどうこう言ってもしょうがあるまい」

「……いや、まあそうなんだが……」

「それに俺だって悔しくない訳ではないんだぞ。……実際、さっきの戦いでは恐怖で余り上手く動けなかったし」

「え? めっちゃ動いていましたよね? 真っ先に援軍呼ぶとか判断も的確でしたし」

「いや、全然動けてなかっただろ? ……あんな戦い親父に見られていたら『なんて下手な戦い方だ!』とか言われながらM87光線Bタイプを撃たれそうだ」

「ええぇ……」

 

 ……よし、とりあえず雰囲気は少し良くなったかな。

 

「まあ、後は教官達を信じて自分の役目を果たすべきだろう。……仲間を信じるのもウルトラマンの大事な資質だと親父も言ってたし」

「アーク……うん、そうだね! 仲間を信じて自分のやるべき事をやる……さっき自分で言ってた事だけどもう忘れそうになってたよ! やっぱりアークは凄いな!」

「……確かにちょっと考え過ぎてたみたいですね。ここはもう少しアークを見習いましょうか」

「ま、悩む暇があったらちゃんと仕事をするべきだよな」

 

 と、俺が適当に親父の受け売りを言ったら三人共なんか立ち直ってくれた様だ……だからメビウス、あんまりそんなキラキラした目で見るんじゃない。別に俺は仲間を信じてるとかじゃなくて、あの場で最善だと判断される行動を取っただけなんだよ。

 ……そんな事をしていたらいつのまにかシェルターの方から戦闘音が聞こえなくなり、暫くして通信によってシェルターに襲来した三体のゼットンが倒されたと連絡があった。

 

「お、どうやらあのゼットン達は倒された様だな。流石は教官達だ」

「そうみたいだね。良かったぁ……あ! カラレス教官だ!」

 

 そう言ってメビウスが指を指した方向を見ると、そこにはカラレス教官がこちらに飛んで来ているのが見える……そして教官はそのまま地面に着地すると、俺達の下に歩み寄って話しかけて来た。

 

「四人とも大丈夫か? ダメージは問題ないか?」

「ああ、俺は攻撃を受けてないですし、他の三人も既に回復済みです」

「そうか、それは何よりだ。……それと良くやったな。お前達がいち早くゼットンの襲来を皆に伝えて、更に援軍が来るまで時間を稼いでくれたから人的被害が出ずに済んだ」

「「「ッ⁉︎ ……ありがとうございます!」」」

 

 カラレス教官からの褒め言葉に三人とも感動したのか声を震わせながら頭を下げていた……しかし、こういう状況で素直に礼を言うより現在の戦局や被害状況が気になってしまう俺は、やっぱりちょっとズレてるんだろうなぁ。

 ……まあ、それでも気になったから聞いて見るけど。

 

「うんうん、人的被害が出なかったのは何よりだな。……それで教官達の方は大丈夫だったんですか?」

「ああ、こちらも追加の援軍が来てくれたお陰で大したダメージも無く勝つ事が出来たさ。……ほら、彼等がな」

 

 そう言ったカラレス教官が後ろを振り返ると、そこにはフレアさんと初対面の筋骨隆々なレッド族の男性は地上に降り立った所だった。

 

「うぃーっす! 大丈夫かアーク?」

「フレアさん、貴方が援軍だったんですか」

「よう! ゴリアテ。大分無茶したみたいだが大丈夫だったか?」

「ゴライアンの叔父貴! 来てたんですか?」

 

 まさか、宇宙技術局所属のフレアさんまでかき集められていたなんてな。しかも、ゼットン撃破では凄く活躍したって言うし……元宇宙警備隊で俺も指導を受けてるから実力が高い事は知ってたが……。

 それともう一人の方はゴライアンさん。フレアさんの友人でゴリアテの叔父に当たる人らしい……詳しく話を聴くと、彼も元宇宙警備隊だったのだが負傷で一線を退き、今はゴリアテも通っている格闘技のジムを経営しているとの事。

 ……だが、今回は光の国の窮地とあって親父からの現場復帰に答えたそうだ。

 

「とりあえず、俺達もシェルターの警護に回るぜ。……まあ、ゾフィーが言うにはスペースポートの戦闘もそろそろ決着がつきそうらしいし、後もう少しの辛抱だろう」

「再びシェルターを狙う者が出て来るかもしれないからな、最後まで油断せずに行こう」

「「「「了解です!」」」」

 

 フレアさんとカラレス教官の言う通りまた敵が来る可能性を考慮して、俺達は引き続きシェルターを守る事になった……幸い再びシェルターに敵が来る事は無く、それから暫くした後に大隊長から光の国全体に無事バット星人を撃退したとの報告があった。

 ……しかし、今回初めて実戦を経験した訳だが力不足で殆ど何も出来なかったのは悔しいな。やはり宇宙警備隊になるのならば、もっと己を鍛えなければいけないのだろうな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 広大な宇宙のどこか、そこにはウルトラの星の宙域から離脱して本星に戻ろうとしていた『バット星人養殖派』の艦隊の姿があった。

 

「……ふむ、私が派遣した三体の試作型ゼットンは全て撃破されましたか。……それ自体は予定通りですが、まさか一人のウルトラ戦士も倒す事が出来ないとは。どうやら少々彼等の事を過小評価していた様ですね」

 

 その旗艦のブリッジでは『養殖派』の首魁グライスが船の操作をオートパイロットに任せながら、自身が光の国に送り込んだゼットン達の戦闘データを閲覧していた。

 ……あのゼットン達の体内には特殊な観測機械が埋め込まれており、彼等が倒された時にそれまでの戦闘データをこの旗艦のコンピューターに転送する仕組みになっていたのだ。

 

「格闘型は相手の格闘技量で翻弄されているな……宇宙にある各種格闘技のデータをインストールしたのだが、ゼットンの頭脳ではデータ通りにしか使いこなせていないな。お陰で技術が互角の相手にはあっさり完封されている。……やはり自立駆動だとせっかくの機能を活かしきれないな。…………バリア型とテレポート型は両方とも動きを封じられて撃破されたか。特殊能力を特化させる代わりに身体機能などをスポイルしたのが悪かったか? だが、今現在の技術では素体の性能はこれが限界であるしな……」

 

 そうやって取得した戦闘データを閲覧しながら、彼は頭の中で次のゼットン開発のプランを思索していた……が、そこで僚艦の一隻から通信が届いた。

 ……彼は間の悪いそれに対してやや憮然としながらも、艦隊の艦長としてそれを表に出さない様に意識しながら通信を開いた。

 

「何かありましたか?」

『ハッ! ウルトラの星から脱出した『武断派』の生き残りが現れてこちらに保護を求めていますが……どうしますか?』

 

 それはデルザムが殿になる事で脱出出来た『武断派』の輸送船が此処に来ており、更には自分達に保護を求めているという報告だった……彼等『武断派』が壊滅したのは『養殖派』が裏で糸を引いていた所為でもあるのだが、それに気づいたのはデルザムだけである。

 ……無論、通信先の養殖派バット星人はその事を知っていたので、その上で“どうするか”を訪ねて来たのだが。

 

「ああ、丁重に保護した上でキチンと本星まで送り届けてあげなさい」

『宜しいのですか?』

「当然でしょう? 撤退する友軍を保護するのはごく当たり前の行動ですよ。……それに、彼等には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と証言して貰わねばなりませんから」

 

 彼等『養殖派』はウルトラの星への侵攻作戦中、援軍の派遣や敵重要拠点への攻撃など表向きは『武断派』に全面協力を行なっていたので、裏で糸を引いていたなどという証拠は一切残していないのである。

 故に『今回の戦いの敗因は『武断派』が敵戦力を見誤り無茶な侵攻作戦を行ったから、自分達はウルトラ戦士の接近に気付くことが遅れたりもしたが概ねやる事はやった』という事に出来る算段を既につけているのだ。

 ……まあ、侵攻作戦がうまく行き過ぎたのなら何らかの妨害工作をしたかもしれないが、そこはウルトラ戦士達が“予想以上に優秀”だったお陰で問題無く事を済ます事が出来た。

 

『成る程、了解しました。……では丁重に保護しておきましょう』

「ええ、頼みましたよ。…………さて、データ分析の続きをしますか」

 

 そうしてグライスは通信を切ると先程の()()を頭の隅に置いておき、再びゼットンの戦闘データを移すモニターに向かっていった。

 ……彼は自身の手で宇宙を統べる『最強のゼットン』を作るという野望を持っており、今回の作戦もより研究しやすい環境を作る為に行ったに過ぎないのである。

 

「…………分かってはいましたが、やはり今の技術では私が求める『最強のゼットン』を作る為の基本的な技術レベルが足りませんね。……まあ、その為にバット星の方針が内政に傾く様にこんな面倒な事をする羽目になったのですが」

 

 今回の光の国侵攻作戦の失敗でバット星に於ける『武断派』の発言力は大きく下がる上、そもそも戦力その物を大幅に減じているので侵略活動は休止せざるを得ないのである。

 ……更にグライスは裏の任務の報酬として『養殖派』の上層部に自身の研究のスポンサーになって貰える様に話を付けていたりする。

 

「私の目的である『最強のゼットン』の為には大量の資材が必要ですからね。……と言っても、やはり計画の本格始動は大分先の話に成りそうですし、今決められるのは生み出すゼットンの名前ぐらいですか」

 

 そう一人心地たグライスは暫し考え込んだ後……。

 

「……そうですね、私が作るのはゼットンを超えた(ハイパー)ゼットン……故に、名は『ハイパーゼットン』とでもしておきましょうか」

 

 ……此処に後の時代に置いて、とある宇宙を震撼させる事となる“滅亡の邪神(ハイパーゼットン)”が産声を上げたのであった。




あとがき・各種設定解説

バット星人グライス:出展『ウルトラマンサーガ』
・最終的に一人勝ちになったヤツで、名前とか殆どは独自設定。
・これから遠い未来に“厳選した素体”に“ウルトラ戦士の手が届かない宇宙”で“大量の資材”を使って“滅亡の邪神”を作り上げる事になる。
・その結果どうなったのかは『ウルトラマンサーガ』を見よう!

バット星人デルザム:最後まで将としての役目を果たした
・グライスが保護するだろう事も読んで、敢えて裏の事は誰にも話さなかった。

アーク:光の国と自分の価値観がややズレている事は少し気にしている


読了ありがとうございました。
これで長くなってしまったバット星人襲来編は終わりになります。次はプロットとか考える必要があるから少し遅れると思います。


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第2章 ウルトラの星での日々
強くなるために


沢山の評価・お気に入りに登録ありがとうございます。この話から新章開幕です!


 ──────◇◇◇──────

 

 

 どくろ怪獣 レッドキング 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ギャァオォォォ──ッ!!!」

「ッ⁉︎ デェェェイ!!!」

 

 俺──宇宙警備隊士官学校訓練生アークは、目の前に居る相手の()()()()()()()()()()()から放たれた強烈なパンチをどうにか横に飛んで回避した……轟音と共に頭部のスレスレを通り過ぎたその拳の威力に背筋を寒からせながらも、俺はそのまま相手の脇を通り抜けつつその背中に反撃の手刀を見舞った。

 

「? ……ギャァァァオォォォッ!!!」

「ッ⁉︎ ……ええい! ノーダメージとか、どれだけタフなんだか!」

 

 だが、その攻撃は相手の()()()()()()()に阻まれ大したダメージにはならず、それを煩わしく思ったのか相手はその太い尻尾を振り回して来た……その攻撃を俺はバックステップで辛うじて躱しながら距離を取って、改めて現在の状況を確認していく。

 

(……周囲の地形は起伏に富んだ岩山。守るべき現地生物や建物は無いから地形を盾にする事も出来るが……ダメだな。ヤツ……()()()()()()が有する怪獣界トップクラスの怪力の前では岩山程度では盾にもならん)

 

 そう、今俺はかつてウルトラマンさんも戦った【どくろ怪獣 レッドキング】と一対一で戦っているのだ……しかし、流石は怪獣の中でもトップクラスのパワーと耐久力を持つと言われるだけあるな。こっちの格闘攻撃はまともなダメージにならないし、相手の攻撃を一発でもまともに食らえば致命傷を負いかねない。

 

(加えて今の此処の環境は地球に近い条件だからな。……あまり長時間戦えないし、使えるエネルギーにも制限があるから光線技もおいそれとは撃てない……さて、どうするか)

 

 何せレッドキングはただ力が強くてタフという単純に正面から戦うのであれば本当に隙のない相手なのだ……俺がそんな事を考えている間にも、レッドキングはやる気満々でこっちに向かってこようとしていた。

 ……と思ったのだが、何故かヤツは近くにあった巨岩を掴むとそれを持ち上げてこちらに向かって投げつけようとしたのだ……えーっと……。

 

「とりあえず隙あり! スペシウム光線!」

「ガッ? ……ギャァァァァァ────ッ⁉︎」

 

 それを隙と見た俺は即座にレッドキングが持ち上げた岩に対して低威力のスペシウム光線を撃ち放ち、それによって起こった爆発の衝撃でヤツは岩を取り落とした……そして、その岩はそのまま重力に従って落下してヤツの足に激突して悶絶させた。

 ……よっぽど痛かったのかレッドキングは叫びながら当たりを飛び跳ねている。

 

「……まさかここまでアーカイブで見たデータ通りとは……。悪いがその隙は逃さん! セェヤァッ!!!」

「ギャァァァァァオォォォ⁉︎」

 

 あまりの()()()にちょっと呆れながらも、俺は未だに飛び跳ねているレッドキングに飛び膝蹴りを叩き込む……流石にトップクラスのヘビー級ファイターだけあって態勢を崩しただけで倒れこむ事すら無かったが、俺はそこで更に接近してヘッドロックを掛けてそのまま投げ飛ばした。

 ……そして、投げ飛ばされたレッドキングは頭から地面に激突して脳を揺らされた事で悶絶した。そのまま立ち上がったものの、まだダメージが抜けていないのかフラフラと身体が揺れていた。

 

「よし! このタイミングなら! ……ヌゥゥッ、ゼヤァァァ!!!」

 

 それを好機と見た俺は両腕を交差させてから右手を斜め上、左手を斜め下伸ばしながら身体の中にあるエネルギーを圧縮・循環させてから、そのまま両腕を右手を縦、左手を横にする形でL字に組んで先程のスペシウム光線よりも遥かに高い威力の光線技を撃ち放った! 

 ……これぞ親父の『M87光線Bタイプ』を参考に編み出して、更に478回の試行と親父からのダメ出しの果てに漸く実戦で使えるレベルだと認められた俺の必殺光線(名称未定)だ!!! 

 

「ギャァァァァァ────ッ!?」

 

 俺の必殺技(仮)を食らったレッドキングは断末魔の叫びを上げながら粉々に爆発した……どうやら、流石のレッドキングも『威力だけなら私のM87光線Bタイプと変わらない』と親父に言われた俺の必殺技(名前どうしよう……)には耐えられなかったらしいな!

 まあ、親父が腕をL字に組んで撃つM87光線Bタイプは、連射性と速射性に特化した低威力バージョンの光線技であるのだが……。

 ……とりあえず、これで()()()()()は終わりだな。

 

『……よし、それまで! ……撃破までのタイムは2分37秒だ』

「フゥ、なんとか3分は切ったか……」

 

 そして俺がレッドキングを撃破した直後、()()()()()()()()()()()()()()()からカラレス教官が訓練の終了と掛かったタイムを知らせてくれた……それと同時に周囲の岩山を構成していたホログラムが消えて、元のウルトラコロセウム内部へと戻っていった。

 ……そう、先程まで戦っていたレッドキングや周囲の岩山は、この光の国にある多目的訓練場『ウルトラコロセウム』の仮想シミュレーターで作られた偽りの物だったのである。

 

『それじゃあ、アークはコロセウムから出てくれ』

「分かりました」

『では、次の……』

 

 そうして訓練を終えた俺は、次の人の邪魔にならない様にさっさとコロセウムから出て待機場に戻っていったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そんな感じで本日の士官学校の訓練を終えた後、俺はメビウス達いつものメンバーと一緒に訓練場での自主訓練に励んでいた……以前のバット星人襲来事件で色々と思う所のあった俺達は、最近こう言った自主訓練の頻度を増やしているのだ。

 ……流石に、訓練課程が進んできて内容が実戦に近いハードな内容になって来た士官学校の訓練に影響が出ない範囲で加減はしているがな。今もちゃんと休憩を取ってるし。

 

「それにしても、アークが戦闘シミュレーターで使ったあの光線技は初めて見るね」

「まあ、アレを人前で使ったのはさっきのが初めてだしな。……親父から実戦に使っても問題無いって言われたのも最近だったし」

「宇宙警備隊隊長お墨付きの技でしたか。どうりて凄まじい威力だと思いましたよ」

「あの戦闘シミュレーターでの訓練を初見でクリアしたのはお前だけだったからな」

 

 ちなみにさっきの戦闘シミュレーターによる訓練は『地球系の惑星に近い環境下で、アーカイブからランダムに選ばれた怪獣を制限時間である3分以内に倒す』という中々ハードなもので、仮想とは言え怪獣と戦うのは初めてという訓練生が殆どだった所為かクリア出来たのは俺一人だけだったのである。

 ……当然悪目立ちしたんだが、もうその辺りは諦めてるし。一応散々言われたからか俺は他の訓練生より頭一つ図抜けた実力を持っている事は自覚したし……。

 

「実際、仮想とは言え初めての実戦で怯んでしまいやられた者はかなり多かったですからね。……まあ、あのゼットン達と比べればプレッシャーが大した事無かったからか、私達は普通に戦えてましたがね」

「それでも戦えただけで倒す事はアーク以外出来なかったがな。……やっぱり大威力の光線技はあった方がいいのか?」

「そう言えば、アークが光線技を撃つ前にポーズを決めてたけど……あれってどう言う意味があるの? カッコイイから?」

「そんな訳ないだろメビウス。……アレは“ルーティーン”ってヤツだよ」

 

 まず、高威力の光線技を撃つ前には身体の中で大量のエネルギーを操作・圧縮、光線制御の為のウルトラ念力の準備、或いは体外のエネルギー収束などを行う必要がある……だが、当然それらの制御には相応の集中力が必要になり、戦闘中にそんな事を長々と行なっていればその隙に攻撃を受けてしまう。

 ……そこでエネルギー操作を行うと同時に特定の肉体の動作を何度も行う事でその二つを結びつけ、特定の動作をしたら自然と体内のエネルギー制御を行う様に身体に刻み込むのだ。

 つまり“ルーティーン”とは特定の動作をキーにする事で高威力の光線技を早く、正確に使用出来る様にする技術の事を言うのだ。

 

「つまり、同じ動作を何度もやっていれば精度は上がって行くだろ? それを利用して高威力の光線技の事前準備をやり易くしているんだよ。……決してカッコイイからやってるって訳じゃないぞ」

「成る程〜。……僕も、その“ルーティーン”ってヤツを練習した方がいいのかな?」

「練習以前に高威力の光線技を撃てる様になる必要があるがな。ルーティーンはあくまでそれを使い易くする技術でしかないし。……それにウルトラマンさんやジャックさんみたいに、基本のスペシウム光線を極めて必殺技に昇華させている人もいるからな」

 

 まあ、タメ時間を作ってでも威力の高い光線技を使うか、それともタメ時間を無くしてどんな状況でも瞬時に光線技を撃てる様にするかはその人の戦闘スタイルによって決まるだろうからな……それに、親父みたいに両方を状況に応じて使い分ける人も居るし。

 そういったタメ系の光線技を多用するエースさんやタロウさんも、牽制用の技を複数用意して使い分けつつ必殺技を撃てる状況を作り出しているしな。

 

「授業でもやっただろ? 基本的に光線技はエネルギー消費が大きいから、まずは格闘や牽制技で相手を弱らせてから確実に当てられる状況で使うのものだってな。……まずは自分の戦闘スタイルを確立するのが一番だと思うぞ」

「そうですね。今日の訓練でも私はゴモラ相手に決定打を出せずに時間切れになりましたし、やはり火力が必要でしょうか。……ですが私は大出力のエネルギー運用は不得手ですし」

「あー、俺はガッツ星人の分身に翻弄されてまともに格闘戦をさせて貰えなかったな。……ウルトラ念力の制御や応用とかあんまり得意じゃ無いんだよなぁ」

「僕はキングジョーにまともにダメージを与えられなかったしなー。高威力光線の練習しようかな?」

 

 ちなみにさっきのシミュレーターでフォルトは【古代怪獣 ゴモラ】と、ゴリアテは【分身宇宙人 ガッツ星人】と、メビウスは【宇宙ロボット キングジョー】とそれぞれ戦っている。

 ……と言うか、どいつもこいつもかつて地球でマンさんやセブンさんを一度は倒した強豪ばかりなんだが。一応シミュレーターの怪獣は本物と比べると弱体化しているらしいが……。

 

「……まあ、今回のお前達はくじ運が悪すぎた気もするが……。それに火力を上げるなら、高威力の光線技ではなく切断技を覚える選択肢もあるぞ。アレは光線技に使うエネルギーを圧縮している分だけ威力が高いから固い相手にも有効だ」

「僕もメビュームスラッシュとかは使えるけど、アレは少ないエネルギーを斬撃状にして飛ばしてる“牽制技”だから威力は低いんだよね」

「本来の“切断技”は光線技に使われるだけのエネルギーを斬撃状に圧縮して放つものですから、威力は非常に高いんですよね。……その分、高いウルトラ念力の技量とエネルギー制御の技術を要求されますけど」

 

 切断技はウルトラ兄弟だと今は地球に派遣されているエースさんが得意とする技術だな……エネルギーを圧縮している分だけ威力──切断力が高いから、いざという時の切り札として習得している警備隊員も多いし。

 

「それに慣れれば作った光輪を念力で遠隔操作する事も出来るから敵に当て易くもなるしな……ほら、こんな風に」

「おー、二枚の光輪がアークの周囲をクルクル回ってる」

「……今更、アークがそんな高等技術を見せられても驚きはしませんが……本当になんでも出来ますね」

 

 とりあえず、見本として低エネルギーで作った光輪を二枚程生成して適当にゆっくりと周囲を旋回させてみた……まあ、今はあくまで見本としてやってるだけで実戦では高エネルギーで作ったヤツを早く正確に動かす必要があるから、そうなると一枚動かすのが限界だろうけどね。

 

「あー、じゃあそういった念力やエネルギー制御が苦手な俺はどうすれば良いと思う?」

「ん? ゴリアテなら得意の格闘で相手を弱らせてからスペシウム光線を撃ち込めば十分だと思うが。光線技の威力が十分にあるんだし。……そうでなければ光剣とか、拳や手刀にエネルギーを集めて攻撃する技とかもあるぞ。こんな風に」

 

 ゴリアテがしたその質問に対して、俺は近接用のエネルギー制御技術を提案した……光輪を消してから見本として右手から切断技の応用で作った光の剣を展開し、左手には拳の部分にそのままエネルギーを纏わせてみた。

 これらの近接技は単純にエネルギーを肉体の指定された場所に集中させるだけで、軌道などをコントロールする必要が無い分だけ射出系の技と比べると制御がしやすいというメリットがあるのだ。

 ……逆に、攻撃の軌道が肉体の動きに追随する以上、上手く相手に当てる為には剣術や格闘術など相応の近接戦闘技術が必要になるのだが。

 

「アークって本当に色々出来るね。僕も光剣とか覚えてみようかな?」

「確かに、自分の肉体を基準にしている分だけ使いやすそうですね。……そう言えば、今後の選択授業で剣術とかの項目もあったような……」

「まあ、確かに俺には合ってそうだが……ガッツ星人みたいに搦め手を使う相手には弱いんじゃないか?」

「……うーむ、それを言われるとなぁ……。実際、搦め手に対しては手札を増やすか地力を上げて臨機応変に立ち回ろうとしか言えないんだが」

 

 ウルトラ兄弟達もなるべくそういった状況に対応出来る様に色々な小技を覚えたりしてるしな……補助にバリアとか拘束系の技や透視光線やら、或いは凍結光線やら溶解液なんて変わり種もあったりする。

 

「確かカラレス教官も『今後は選択授業と言う形で各々が習得したいと思う専門的な技術を学ぶ機会も増えてくるから、今の内に何を学びたいか自分の進路の事を含めて考えておく様に』って言ってたね」

「そうだな。……一口に宇宙警備隊って言っても色々な部署があるしな」

 

 具体的に言うと各宇宙にある支部とか、特別部隊である戦闘特化の勇士司令部、諜報や情報収集担当の宇宙情報局、パトロール担当で各地のサポートや情報収集を行う宇宙保安庁、惑星や銀河の地理調査を担当する恒点観測員、未開惑星の監視を行う文明監視員などがある。

 ……ちなみに専門的な部署としては宇宙技術開発局や銀十字軍とかもあるが、この二つは必要な技能が特殊な為に別の養成学校があったりする。

 

「しかし進路希望か……今までは漠然と宇宙警備隊を目指していたけれど、そう言う事も考えないと行けないか」

「でも、特別部隊には普通の部署で一定以上の実績を出していて、その中の志望者が選ばれるんじゃなかったっけ?」

「一応、士官学校卒業時に立候補する事も出来る様だぞ。……受託されるかは成績と向こうの判断次第だがな」

 

 親父曰く、各特別部隊は結構人材不足らしく、優秀な新人を引き抜いてその部署で育てるという動きも最近では出てきたとの事……特にあのバット星人襲来事件から宇宙全体の治安が悪化し始めているらしいし、どの部署も戦力拡充には余念がない様だ。

 ……この宇宙の秩序の象徴とも言えるウルトラの星への襲撃事件はそれだけ影響が大きいという事らしい。結果だけを見れば犠牲者ゼロで侵略者を追い返したのだが、“襲撃された”という事実が問題になっているんだとか。

 

「うん! この宇宙の平和を守る為にも僕達はより頑張らないといけないみたいだね!」

「差し当たっては色々な技術を覚えて自分の戦闘スタイルを確立することが重要ですか。……そう言えば、アークの戦闘スタイルは一体どんなもの何ですか? 参考までに教えてほしいんですが」

「俺? ……色々な技術を覚えて、それらを状況に応じて臨機応変に使い分ける感じ。所謂万能型」

「……なんかアバウト過ぎてあんまり参考にならねえな。アークならそれでも問題無いんだろうが……」

 

 まあ、俺はこの姿(シルバースタイル)の時でも光線・体術・念力と確かに出来る事は多いけど、ウルトラ兄弟みたいに一芸に秀でているってわけじゃ無いからな……これでもアーカイブでウルトラ兄弟の過去の戦闘履歴を見て知識を増やしたり、ウルトラ兄弟の技を真似して新しい技の練習をしたりしてるんだが。

 ……一応、もう一つの姿(リバーススタイル)の方の訓練も進めているが、あちらは直接戦闘能力に欠ける上に扱いも難しいからなぁ。同じ力を持つ親父に教えを請いたいんだが、最近はバット星人襲来の後始末や地球に行ったエースさんの支援で忙しいからまともに顔を合わせる機会も無いしな。

 

「とりあえず、さっきアークが言っていた応用技の練習をしてみましょうか。やっている内に自分の戦闘スタイルが見えてくるかもしれませんし」

「そうだね! ……次のシミュレーターはクリアしたいし!」

「まあそうだな、負けっぱなしってのは性に合わなえ。……つーわけでアーク、悪いが応用技について教えてほしいんだが……」

「別にいいぞ。……ただ、基本がしっかりと出来ている事が前提だからな」

 

 ……そうして一度実戦を経験した俺達四人は、次に同じ事があった時に負けない為にも訓練に励んで行くのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:色々な人に師事しているので技の種類は豊富
・最近の悩みは技名がなかなか思いつかない事。

メビウス達:現在修行パート
・くじ運が悪くてもちゃんと3分間戦い抜いているので、同期生の中ではトップクラスに優秀。


読了ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。


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強くなるために・裏(前編)

 さて。改めて強くなろうと決意してから(アーク)は自分のもう一つの姿である『リバーススタイル』を実戦で使えるレベルまで習熟させようとしたのだが、思わぬ問題にぶつかってしまった……この力が特殊すぎて師事する相手がいないのだ。

 一応、独学で訓練を積んでもいるのだがそれだと限度があるし、似た様な力を持っている親父に訓練を付けて貰えないかと相談したりもしたんだが、どうも最近は色々忙しいらしく時間が取れないと言われてしまったのだ……ただ、親父からは『その力を積極的に使っていく覚悟が出来たのなら、後は自分の責任において判断してもいい。お前は賢いから自分の力を使う上での問題点を理解しているだろうしな』とだけ言われている。

 ……その言葉の意味を考えつつ、今日俺は定期的な検査の為に宇宙科学技術局に来ていたのだが……。

 

「えっ⁉︎ ……ヒカリさん今此処に居ないんですか?」

「ああ、そうなんだよアーク君。……どうも、この前のバット星人襲来で思う所があったみたいでね……」

「ヒカリの奴、多くの命を救う為に開発した技術が争いの火種になってしまった事をかなり悩んで居たからな。……それでしばらく宇宙科学技術局の仕事を休む事になったんだよ」

 

 そのトレギアさんとフレアさんの発言に俺はつい驚愕の表情を浮かべてしまった……詳しく話を聞くと、どうもヒカリさんは以前のバット星人襲来で色々と悩んでいたらしく、暫くの間休みを取って自分を見つめ直すための旅に出たという事だ。

 ……尚、その際『命の固形化技術』を狙う者が現れる事を危惧してヒカリさんに護衛を付けるという話も出た様だが、彼がどうしても一人で旅がしたいと固辞した事と、ヒカリさん自身の戦闘能力がそこらの宇宙警備隊員を上回っていた事から結局一人旅になった様だ。

 

「まー、ヒカリの奴は最近働き詰めで人事部から結構睨まれてたからな。20年ぐらい溜まった有給を消化するにはいい機会だろうよ」

「後、アーク君の検査を含むヒカリさんが関わっていた各種研究についても、ちゃんと引き継ぎの準備が出来ていますので安心して下さい。君の立場は『特殊技能保持の外部協力者』のままですよ」

「……分かりました。ありがとうございます、フレアさん、トレギアさん」

 

 ちなみに、トレギアさんが言った『特殊技能保持の外部協力者』とは宇宙科学技術局で研究されている何らかの分野に於いて有用な能力を持っていて、技術局の研究や実験に協力する外部の者に与えられる資格の事である……俺は『リバーススタイル』のデータも異次元や空間操作、環境適応などの研究に使われているからこの資格を持っているのだ。

 この資格を持っていると技術局に簡単な手続きで入る事が出来たり、局内をある程度自由に動けたりもするのだ。要するに秘匿される様な技術も多数あってセキリュティもしっかりしている宇宙科学技術局で、外部の者が活動しやすくする為の資格という訳である。

 

「……しかし、あのバット星人の襲撃事件は色々な所に波紋を残しているみたいですね。幸い人的被害は出なかったし破壊される施設も既に復旧していますが、まさかこんな所にまで影響が出ているとは……」

「まあ、ウルトラの星が襲撃を受けるなんて随分と久しぶりの事だからなぁ。昔あった『星間連合事件』の時も警備隊に多数の被害が出たけど、ウルトラの星自体に被害が出る前に対処出来た……が、今回は色々と後手に回っちまったからな」

「お陰で事前に襲撃を察知できなかった情報局や保安庁はてんやわんやらしいからねぇ。……ウチも各種セキュリティや戦力強化の為の研究が沢山あるし……やっぱり、ヒカリさんにこのタイミングで抜けられたのはキツイですね」

 

 やや疲れた顔をしたトレギアさんは溜息を吐きながらそう言った……やっぱ忙しいんだろうな……。

 

「……忙しそうなら、俺の検査とかは後回しでも良いですが……」

「あ! いや、そこまで気を使わなくて良い……と言うか、むしろ検査回数を増やしても良いぐらいだよ。君の“リバーススタイル”のデータは色々役に立っているからね」

「特に環境適応と空間操作とかな……お前の検査から得られたデータは、今エースが追ってる【異次元人 ヤプール】ってヤツの異次元空間解析や、この前ゾフィーが使った外宇宙でのエネルギー供給用装備の『ウルトラコンバーター』とかに使われているから」

 

 え? そうだったのか……。いっつも検査と訓練ばっかだったから、自分のデータがどう言う風に使われているのかは良く知らなかったな。

 

「ああ、お前の特殊能力(リバーススタイル)はゾフィーの頼みであんまり人に知られない様にしてたからな。そのせいであんまり他の局員や部署に関わらせる事が無かったし、その辺りの説明が足りてなかったか」

「彼の能力は秘匿されている所為で『出所不明のデータ』になってしまっているから、おおっぴらな流用もし難いですからね。……実際、ヒカリさんが居なくなったから人員が足りませんし、もう少し彼の能力を知る研究員を増やしません? これまでの検査から能力自体の危険性はそれ程でも無いと分かって居ますし……」

 

 ……成る程、親父の言葉はこの事を踏まえてのモノだったんだな! ……多分!

 

「俺は別に構いませんよ。……親父からもこの力については自分で責任を持つ限りは自分で判断してもいいと言われていますし、この力を使いこなすには宇宙科学技術局の皆さんの協力が必要だと思うので」

「アーク……そうか、分かった。……つっても追加人員は厳選するけどな。とりあえずトレギアの所の『外宇宙行動用デバイス開発部署』と、俺の所の『異次元空間技術開発部署』から選ぶかな」

「これからは、アーク君に本格的な各種実験へ協力して貰う事も出来るかもしれないですね」

 

 まあ、リバーススタイルに関しては自主訓練だけだと限界が見えて来ていたし、この能力の詳細は分からない事だらけだから詳しく知る為にも各種実験に対する協力はむしろ望む所なんだが……。

 

「問題は見栄えがかなり悪い感じ(ベリアル)な事なんですけどね。……まあ、此処に勤めているのは研究一筋な人が多いですから、その辺りをあまり気にしない人を選べば良いですかね」

「当初、懸念されていたのはアークが力に溺れて闇落ちする事だったんだが、その心配は今のところなさそうだしな。その辺りをちゃんと説明すれば大丈夫だろう」

「……と言うか、力に溺れ様にもリバーススタイルだと直接戦闘能力はかなり落ち込みますからね」

 

 正直、光線技が使えず身体能力が落ちるのが相当にキツイんだよな……念力は強力だし凍結系能力も使い易くなるけど怪獣相手とかだと決め手に欠けるし、亜空間ゲートも展開にはそれなりに集中する必要があるから使いにくいし。

 亜空間に敵を永遠に追放するって言う使い方なら強いかもしれんが、似た様な事が出来る親父が『宇宙警備隊隊長には相応しく無い力』と言って使用を自重している以上は早々使えんしな。

 ……正直、このままだとリバーススタイルが設定だけあるのに、実際にはさっぱり使わない能力になりそうだし……。

 

「とりあえず、俺達が選んだ信頼出来るメンバーに事情を説明して実際にお前の能力を見て貰う事になるが構わないか?」

「はい、それで構いませんよ。……どんな結果になっても受け入れる覚悟は出来ています」

「そこまで気張る必要は無いさ。……此処の職員は()()()()()()技術開発一筋なヤツが多いからね」

 

 トレギアさんがやや苦笑しながら言った言葉に俺は首を傾げながらも、彼等が選んだ職員達と局内にある何時もの実験室でリバーススタイルの訓練を行う事になったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 さて、そんな訳で俺は局内にある仮装シミュレーター(コロセウムにあるのと同じヤツ)を使い、データ収集の為にリバーススタイル状態で仮想敵と戦っていた。

 ちなみに相手はこの前の襲撃事件でバット星人が使っていた無人戦闘機だそうだ……なんでも、先日技術局では連中が残していった大量の残骸を技術研究の為に復元したらしく、その際のデータを仮想敵として反映させたらしい。

 

『『『──────』』』

「くっ! ……チィッ!」

 

 そして、今俺は三体の無人戦闘機が次々と放ってくるレーザーを、その射線を先読みしながらどうにか避け続けていた……ええいっ、リバーススタイルだと身体能力が落ちるからこんな程度の攻撃を躱すのも一苦労だし、反撃の光線技を撃つ事も出来ないから撃たれっぱなしだ! 

 ……まあ、これも訓練の一環だ。あの程度の相手を倒せないようじゃこの姿を実践で使うのも夢のまた夢だしなっとぉ! 

 

「……それに、光線技が使えなくとも遠距離攻撃出来る手段が無いわけでは無い! フロストショット!」

『──────』

 

 俺はそうやって攻撃を回避しながらも無人戦闘機の攻撃プログラムを把握して、そこにあった僅かな隙を突いて手から冷気を圧縮した弾丸『フロストショット』を放った……これは親父の使う『ウルトラフロスト』を参考にして、リバーススタイル時の遠距離戦闘用に開発した物なのだ。

 ……リバーススタイル時の強力な念力に制御された凍結弾はそのまま無人戦闘機のレーザー発射口に当たり、狙い通りその部分を完全に凍結させてレーザーを撃てなくした。

 

「ふむ、念力の強度は上がるから案外遠距離戦はやりやすいかもしれんな。……むしろ、その念力を直接使った方が有効かな。ウルトラエアキャッチ!」

『『──────』』

 

 そう思い立った俺は残りの無人戦闘機に手の平を向けつつウルトラ念力を使用して、その二体を空中に貼り付けにした……念力の直接行使はシルバースタイルの時は隙が大きいから複数の敵相手だとあまり使えなかったが、こっちの姿なら無人戦闘機二体ぐらいなら念力で貼り付けにしてもまだ余裕があるな。

 ……ウルトラ念力は戦闘時だと光線の制御とかに集中させた方が強いと思い込んでいたから、このやり方は思いつかなかったな。

 

「やっぱり訓練は必要だな。シルバースタイルとリバーススタイルの時だと必要な戦術も大分違うみたいだし、これはそれぞれの戦い方を確立しないと……フロストブレード!」

『────…………』

 

 そんな考え事をしていたら武装を凍らされた一機目が自爆覚悟で突っ込んできたので、俺は右手からサージさん直伝の氷で出来た剣『フロストブレード』を展開して、その戦闘機を真っ二つに両断した……サージさんからは自分で作った剣での剣術も少し習っているからな、身体能力が落ちていてもこれぐらいならどうにかなるさ。

 それに、今の念力の強度なら二体の無人戦闘機を拘束しながらも、これだけの動作を問題無く熟せるみたいだし。

 

「正直、リバーススタイルの時は戦闘能力が落ちると思い込んでいたが、上手くやれば独自の戦い方が出来そうかな……こんな感じで! フロストランス!」

『『────…………』』

 

 更に俺は空中に凍結能力とウルトラ念力を駆使して氷で鋭い穂先を持った槍を二本作り出すと、それらを更にウルトラ念力で拘束されている戦闘機に向けて勢いよく射出した。

 そして、その念力によって強化された氷の槍は見事に戦闘機のボディを貫いてその機能を停止させた……セブンさんのアイスラッガーを参考にやってみたが案外いけるな。もう少し訓練すれば主力技として使えるかもしれん。

 

「よし! ……今のシミュレーター内環境はこの前と地球系惑星内と同じだが、以前と比べるとエネルギー消費も大した事無いみたいだな。……こういう環境だとリバーススタイルの方が強いかもしれないな」

 

 そう、実は今回俺の頼みでシミュレーター内部の環境をこの前の授業の様に地球系惑星と同じ設定にして貰っていたのだ……その方が形態毎の戦闘能力の差が分かりやすいと思ってな。

 ……しかし、大気圏内ではシルバースタイルだと行動する度にガンガンエネルギーが減っていく感じだったけど、リバーススタイルの方は対してエネルギーが減らないどころか、むしろ光の国にいる時みたいに回復している感じもするな。

 

「……という感じで、敵は全部撃破してみましたが」

『おー、やるじゃないかアーク。リバーススタイルだと戦闘能力低いって話だったが結構イケるな』

『というよりも、今までは能力の検査や調査が主体で本格的に戦闘訓練などはあまりして来なかったですからね。……やはり、ちゃんとしたデータ収集には戦闘訓練なども必要ですか』

 

 今までは俺自身リバーススタイルを使うのに少し忌避感があったから、本当に最低限の能力使用しかしてこなかったからなぁ……さてと、問題は今回初めて俺の姿を見た局員さん達の反応なんだが……。

 

『よーし! どうだお前ら。これが宇宙警備隊隊長の秘蔵っ子であるアークの特殊能力であるリバーススタイルだ!』

『クソッ! ズルイですよフレアさん! こんなに面白い研究材りょ……ゲフン! ゲフン! もとい研究協力者が居たなんて!』

『これほどの凍結能力を運用出来るとは……! これなら今私が開発している新兵器『ウルトラエターナルフォースブリザード』にも応用が効くのでは……?』

『いや、それよりもこの環境適応能力の方が興味深いな。どうやらあの姿だとディファレーター光線では無く、空間中に存在しているエーテルなどの特殊エネルギーを取り込んでいる様に見えたが……ふヒヒ、このデータがあればプラズマスパークに変わるエネルギー源の開発も夢では……』

『そんな実用性の無い研究よりも外宇宙活動用のデバイスですよ! ……このデータがあれば、あの謎の宇宙人ゾーフィ(暗喩)に『緊急事態だ!』とか言われて隊長権限で試作品を無理矢理持っていかれた上、実験無しで使ったからぶっ壊れたウルトラコンバーターの改造版を作れるわ!』

『でも、そのお陰で外宇宙で運用した時のデータは取れましたよね?』

『それはそれ! これはこれよ!!!』

『ちょっと待て! 実用性がないだとぅ!!! ……いざプラズマスパークが使えなくなった時の為に、サブのエネルギー源が必要だと何故分からん!!!』

『そんな事より今は新兵器ですよ! 再びバット星人の様な輩が現れるかもしれないのだから、ウルトラの星を守る防衛装置を作るべきです!』

『『それが絶対零度凍結装置とかいう限定用途でしか使えない物である必要は無いだろうが!!!』』

 

 …………えーっと……。

 

『……うん。ほら、心配せずともキミのその姿を見ても大丈夫な人達だっただろう?』

「いえ、なんか別の意味で心配になってきたんですが」

 

 え? 今までヒカリさんやフレアさんとかしか関わって来なかったけど、宇宙科学技術局の職員ってこんなキャラが濃い人しかいないのか? めっちゃ不安になって来たんだが……。

 ……後から聞いたところによると、今回は俺のリバーススタイルを見ても気にしなさそうなメンバーを集める為に優秀ではあるが性格にクセがある人を集めただけで、流石にみんながみんなこんな感じでは無いとの事。

 

『それよりも、このデータにある亜空間を開く能力が凄く気になるんですけど……よし、データ収集の為に敵を追加で出しましょう!』

『いやちょっと待て。とりあえずはアークに許可を得てからだ。……それでアーク、亜空間ゲートを展開する能力の戦闘実験の為に追加で敵を出したいんだが』

「構いませんよ。俺もゲートの能力を戦闘で使ってみたいですし」

 

 亜空間ゲートはリバーススタイルの最大の能力だからな……まあ、一番よく分からない能力でもあるんだが……。

 

『よっしゃあ! じゃあせっかくだから新型のシミュレートプログラムを使うぜ!』

『おい、だからちょっと待てと……』

『いーや限界だ! 押すね! ポチー!』

 

 ……なんかそんな感じの声が聞こえた後、実験室の一角に一体の怪獣が出現した。その怪獣は黒色の身体に多数の赤い突起物が付いているという異形の姿をしており、これでも様々な怪獣の知識がある俺でも初めて見る怪獣だった。

 

『これぞエースが地球で遭遇した()()! 【ミサイル超獣 ベロクロン】だァ!!!』

『おい、いつそんなデータを作った?』

『対ヤプール対策の一環として地球でエースが戦った超獣達のデータを分析して作ったヤツですね。……分析がまだ終わっていないので再現率はあまり高く無いですけど』

『その分、戦闘能力は本物の半分ぐらいですし丁度いいのでは? ……それよりデータデータ』

 

 超獣……確か今地球に行ったエースさんが戦っている【異次元人 ヤプール】が作り上げた生物兵器だったかな。まさかこんな所で戦う事になろうとはな。

 

「フレアさん、俺は別に構いませんよ……おっ、来るか」

「GYAAAAAOOOOO!!」

『ったく……危なくなったら止めるからな!』

 

 そうして、俺はなんかグダグダな感じながらも異次元から来た生物兵器【超獣】と戦う事になったのだった。




あとがき・各種設置解説

アーク:小技の技名はすぐに決まる
・一応、必殺技名もメビウス達に意見を求めたりしてなんとか決めた、次回使用予定。

ヒカリさん:現在有給中
・本当は辞めようとしたのだが、上層部から色々な説得を受けて有給扱いになった。
・彼のその後の事は『ウルトラマンメビウス』本編や『ヒカリサーガ』を見よう!

宇宙科学技術局職員達:マッド
・今回はアークの見た目を気にしなさそうな優秀なんだが研究テーマが色々アレだったり、ちょっと人格にクセがある連中をフレアとトレギアが集めた……のだが、ちょっと後悔している。
・尚、彼等がこれだけはしゃいでいるのは纏め役だったヒカリが居なくなったのも原因の一つだったり。
・勿論、ちゃんとまともな職員もいる。

ウルトラコンバーター:出展『ウルトラマンA 大蟻超獣対ウルトラ兄弟』
・ウルトラ戦士の地球上での活動時間を無制限に出来る凄いアイテム……なのだが、まだ試作段階。
・なのでゾフィーは地球でエースに使った後に持って帰った。
・安定性・量産性などに問題を抱えている為、一般配備は現時点では難しい模様。

『星間連合事件』:Story0とは内容が違う
・この世界では『敵性宇宙人の連合が光の国のプラズマスパーク技術を狙って起こした事件』となっている。
・Story0と違って宇宙警備隊が出来てから充分時間が経っておりウルトラ戦士達は組織的に行動して星間連合と戦った為、どうにかウルトラの星に被害が出る前に事件を終息する事が出来た。
・だが、警備隊の中には殉職者やカラレスやゴライアン達の様に第一線を離れざるを得ない程の大怪我を負った者が出る大事件だった。


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強くなるために・裏(後編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ミサイル超獣 ベロクロン 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そういう訳で、俺は何故か宇宙科学技術局の職員(マッド)達が仮想シミュレーターによって呼び出した【ミサイル超獣 ベロクロン】と戦う事になったのだが……。

 

「GYAAaAAAaaOOOoooOOOOoo!!!」

「口からミサイル⁉︎ 流石は生物兵器だとか言う『超獣』だな!」

 

 ベロクロンはデータが不完全な所為なのか少し掠れた様な叫び声を上げながら、いきなりこちらに向けて口内に装備されたミサイルをぶっ放してきた……見た目は生物っぽいのだが、こんな攻撃をしてくる辺りが『超獣』と言われる所以なんだろう。

 ……さて、リバーススタイルだと身を守るバリア系の技も使えなくなるし、マッド達には亜空間操作能力を見せろと言われているから……ここは前から考えていた()()()を使ってみるか。

 

「それならコレだ! ブラックゲート!」

「GAaaAa⁉︎」

 

 俺は前方に謎の亜空間に通じる穴『ブラックゲート(たった今命名)』を自分の身体を大き隠せるぐらいの直系で開いた……そして、飛来したミサイルはその円形の穴の中に入れる事で直撃を避けたのだ。

 ……リバーススタイルの欠点である防御面の脆さを補うために考えた技なんだが結構イケるかな。バリアと違ってゲートその物を破壊されない限りは、相手の攻撃の威力は多分関係ないだろうし。

 

「次はこっちの番だな! クアトロ・フロストスラッガー……行け!」

「GYAaAaaaAa⁉︎」

 

 俺はベロクロンのミサイルを吸い込んだブラックゲートを閉じると、今度は冷気を操作してセブンさんの『アイスラッガー』を模した氷のブーメランを4つ程形成してそれらを念力を使ってヤツに向けて射出した……回転しながら飛翔していったそれら氷のブーメランは次々とベロクロンに当たってその身体にダメージを与えていく。

 ……と言っても、それらのダメージは精々がかすり傷程度だったが……。

 

「……GYAAAaaAaAOOoOooOOOoOoo⁉︎」

「ふむ、やっぱり大して効いちゃいないか。……所詮は氷の塊をぶつけているだけだからなぁ……」

 

 やはり、性能が半分程度とは言えエースさんを苦戦させている超獣か。半分の性能でも肉体の強度は並みの怪獣と変わらない様で、氷を使った攻撃では致命傷にはならないらしい……これがセブンさん程の念力の技量と練度が有ればまた別なんだろうが。やはり念力による物体操作はもう少し練習しておくべきかな。

 そう考えていると、目の前のベロクロンの動きがいきなり止まってからその身体を丸める様な動作を見せて……次の瞬間、全身にある突起物から無数の小型ミサイルを放って来たのだ! 

 

「GYAAaaaaAAAAaaaaAaAaaAOoOOOooOoOooOoOOooO!!!」

「げっ⁉︎ まさか全方位からの攻撃か!」

 

 そして、それらのミサイルには誘導性能があるのか空中を飛びながらその軌道を変えて、全方位から俺に襲い掛かった……今の俺がブラックゲートを開ける個数や範囲には限度があるから、全方位からの攻撃は防ぎきれないな。

 ……凍結弾で凍らせるにしても数が多すぎるし、ここは()()()()かな。

 

「という訳で……ブラックゲート・エスケープ!」

「GAAAaAaA⁉︎」

 

 なので俺はミサイルがこちらに来るより早く自分の足元にブラックゲートを開き、すぐさまその中に入ってゲートを閉めることでミサイル群をやり過ごしたのだった。

 ……さて、そう言えばこの亜空間に入るのは結構久しぶりなんだが……。

 

「……うむ、相変わらず何も無い真っ暗な闇が無限に続く空間だな」

 

 その亜空間の中の光景は『何処までも広い闇が続く場所』としか言えない様な、正直言って俺自身にもよく分からない様などうにも形容しがたい空間だった……以前、観測機器をここに持ち込んで色々調査してもエラーが出るような謎空間だからな。

 フレアさん曰く『時間や空間といった概念とかが限りなく薄いんじゃないか』と考察していたっけ……こんな空間を自在に往き来出来る俺の『リバーススタイル』とは一体……? 

 

「……おっと、今それを考えるのは後回しにしよう。……さて、ここからどうするべきか」

 

 勿論、俺はこの空間からいつでも自由に出る事が出来るので、その気になれば直ぐにでも実験室に戻れるのだが……実は実空間でブラックゲートを展開出来る距離は自分を中心とした一定の範囲内──大体半径500メートルぐらいの狭い範囲のみだったりするのだ。

 そして、この空間内からゲートを開く場合は実空間で開いた場所を中心として、その一定範囲内でのみ開く事が出来る仕様なのである。

 ……先日やってみた空間移動は『実空間でゲートを開きここに来る』→『同時に亜空間内部で実験室の指定しておいた場所にゲートを開き直ぐにそこから出る』という形で行なっていたりするので、実はテレポーテーションみたいな超長距離移動は出来なかったりする

 

「問題は何処に出るかなんだよな。実験室内部ぐらいなら記憶から座標を指定して自由にゲートを開くぐらいは出来るんだが……この空間からは実空間の様子は分からないんで、『うっかりベロクロンと鉢合わせ』みたいな事に成りかねないんだよなぁ……」

 

 だから、この亜空間は避難場所として使うには微妙なんだよなぁ……とりあえず実験室の壁際辺りの座標からゲートを開けば鉢合わせする可能性は低いか? 

 

「……あ! そう言えば()()があったな。……上手く使えばどうにかなるか?」

 

 ……そうして、俺は思いついた戦術を実行する為に意識を集中させるのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「なニィ⁉︎ 消えたァァァ⁉︎ なんだあの黒い穴は⁉︎」

「内部空間の観測…………全てエラー⁉︎」

「テレポーテーションとは根本的に別の原理だと思われますが……」

「それよりも! 実空間への影響がほぼゼロの空間操作なんて今の光の国の技術でも出来ないわよ⁉︎」

「……おー、けっこうやるじゃないかアークのヤツ」

「ええ、劣化コピーとは言え超獣と戦えて居ますからね」

 

 一方その頃、アークとベロクロンが戦っている実験室をモニターしている研究室では彼の特殊能力を見た職員(マッド)が騒げたてるのを尻目に……というか意図的に無視しながら、フレアとトレギアは実験室の様子を眺めていた。

 ……そこでは敵を見失ったベロクロンが辺りを探し回りながら実験室の中をうろついていた。

 

『GAAaaaAaaAaAaaAAAAa?』

「……アーク君出て来ませんね。亜空間の中で何かあったのでしょうか?」

「……いや、あの空間内では“何かがある”事自体が無いから違うだろ。……多分、実験室内部に居るベロクロンの様子が分からないから慎重になってるんだろ」

「ああ、フレアさんはあの空間の中に入った事がありましたね」

「……何も分からなかったし、何も()()()()()()がな」

 

 トレギアの質問に答えたフレアはその時の事を思い出して難しい顔をしていた……彼は実験の一環でアークと一緒にあの穴の中に入った事があるのだが、そこは正真正銘の“無”が広がる空間だったのだ。

 ……その空間の中では、かつて星間連合の拠点である暗黒宇宙への通路を作り上げたフレアの空間操作能力を持ってしても一切の干渉が出来ず、何がどうなって居るのかすら理解出来なかったのである。

 

「最終的には俺がエネルギー切れに成りかけたから、アークが()()()開いたゲートを通って実空間に戻ったんだが……多分、あの空間には何らかの“権限”が無いと干渉出来ない感じだと思うんだがな」

「完全な“無”の世界ですか……おや? どうやら出て来る様ですよ」

 

 フレアの話を聞きながら実験室を見ていたトレギアはその一角に黒い穴が出来ている事に気付いた……が、その穴の事は実験室に居たベロクロンも気づいており、ベロクロンはそこに敵がいると判断してそちらへと向かって行った。

 

『GYAAaAAaAAAaAaaaa!!!』

「……判断力が早いですね」

「戦闘兵器である超獣ですからね、思考パターンは高性能な物を使っていますよ!」

 

 トレギアが漏らしたポツリと漏らしたその言葉に対して、ベロクロンの仮想データを作り上げた職員の一人が自信満々に答えた……実際、アークのブラックゲートに対して全方位からの攻撃を即断するなど、この仮想ベロクロンにはかなり高度な思考パターンが使われていたのだ。

 そして、ベロクロンは敵が出て来た所を直ぐに攻撃しようとゲートに近づいて行き……そこから飛び出して来た()()()()が直撃して爆発に包まれてダメージを受けた。

 

『GYAAaAaAaAaAAaAAaa⁉︎』

「なニィ! ミサイルだとォォ! …………ハッ⁉︎ まさか彼の正体は超獣……」

「な訳ないだろ。……アレは最初に穴の中に入れたベロクロンのミサイルだな。確かアークは自分で入れた物はある程度自由に出せる筈だからな」

「確か以前の実験でも穴の中に放り込んだ観測機器を普通に取り出してましたからね。あのぐらいは出来るんでしょう」

『……お? 何だミサイルが当たったのか。注意を引きつける為の囮のつもりだったんだがな』

 

 ベロクロンがダメージで怯んでいる隙に実験室の先程開いたゲートとは別の場所にもう一つのゲートが開き、そこからひょっこりとアークが姿を現した。

 ……彼が思いついた戦術はゲートの中に入れたミサイルを囮にしてベロクロンの注意を引きつけて、その隙に自分は反対側から実空間に出るという物だったのだが適当に出したミサイルが当たるのは予想外だった様だ。

 

『まあこのチャンスを逃す理由は無いよな……ウルトラフロスト!』

『! GYAAaAaaaaAAaA⁉︎』

 

 そしてダメージで怯んだベロクロンに対してアークは両手の手の平を合わせ、そこから強力な冷凍光線──彼の父親も使っているウルトラフロストを放ちそのミサイル発射管である赤い突起物を全て凍らせてそこからミサイルを出せなくしたのだ。

 ……だが、仮想ベロクロンの優秀な思考パターンは即座に自身の状態を把握し、まだ使用可能だった武器である口内のミサイルをアークに向けて発射した。

 

『GYAAaaaAAaaOooOOOo!!!』

「それは一度見た! ウルトラエアキャッチ! アンドリバース!」

 

 だが、一度見た攻撃だったのでアークは飛んでくるミサイルの動きを念力で止め、そのまま向きを変えてベロクロンに撃ち返しその口内に直撃させた。

 

『GYAgYAGAAyAooaaaaAA!!!』

『む? どうやら口内が弱点だった様だな』

 

 口内に攻撃を受けたベロクロンは甚大なダメージを受けて悶絶した……彼の考え通りベロクロンは口内が弱点になっており、地球に現れた本物もウルトラマンエースのパンチレーザーを口内に撃たれて大ダメージを受けている。

 ……そして、その間にアークは自分の姿をリバーススタイルからシルバースタイルに変化させた。

 

『リバーススタイルだと火力が足りないからな。こういう使い分けも必要だろう。……トドメだ! アークレイショット!』

『GyAAaaAaaAAaaaaaaa!!!』

 

 そのままアークは両手を広げてエネルギーをチャージした後、L字に組んだ腕から自身の必殺光線である『アークレイショット(ようやく名前が決まった)』をベロクロンに撃ち放って跡形も無く爆散させたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「はいお疲れ〜。良い戦いだったぜ」

「ありがとうございます。……俺もリバーススタイルでの戦い方が掴めた気がしました」

 

 そんな感じで仮想ベロクロンを倒した俺はフレアさんが実験終了を告げた為、彼等が居る研究室へと戻っていた。

 ……尚、必殺技の名前はこの前俺が『とりあえず自分の名前を技名に付けるのがポピュラーみたいだし“アークショット”とかでいいかな』と言ったら、それに対してメビウスが『それだと短すぎない? “アーキュームシュート”とかにしようよ』と言ったり、更にフォルトが『それは語呂が悪いので“アークスペシウムブラスター”とかどうでしょう』と言い、そこでゴリアテが『もっと意外性のあるヤツにしようぜ。“アークレッキングバースト”とかどうよ』という感じに悪ノリして来たので無難な物をさっさと決めただけである。

 

「それでそれで! あの凍結能力はどこまで出来るんだい? やっぱり絶対零度?」

「いや、それよりも身体の色が変わるのが気になるな。……試しにちょっと解ぼ……ゲフン! ゲフン! ……じゃなくてメディカルチェックを受けてみない?」

「……コイツの意見に賛同するのは癪だが、やはりタイプチェンジは興味深いな。……今の所、姿を変える事で戦闘能力を変化させる事例は大隊長しか確認されていないし、上手くいけば『ぼくのかんがえたさいきょうのうるとらまん』が作れるかも」

「このロマン馬鹿共の事は無視していいわ。……それよりもエネルギー変換はどうやってやってるのか、そこが重要よ」

「不本意ながら同意する……それで? どんな空間エネルギーをどう変換しているんだ?」

「あの亜空間やゲートの詳細プリーズ」

 

 ……尚、そんな関係無い事を現実逃避気味に考えてる理由は、ご覧の通り大量のマッド達に絡まれているからだったりします……。

 

「……フレアさん、このマッド達どうにかなりません?」

「諦めろ。こうなってら俺でも止められん。……同じマッド系である程度話が通じたからコイツらの纏め役になっていたヒカリは居ないしな」

「それに彼等は全員優秀な技術者なんですよ。……そうやって彼等が作る物はかなり癖が強いですが、その分強力な物が多いのでエースやベテラン隊員達の中にも愛用者が居るぐらいです」

 

 有名なところだと宇宙警備隊大隊長・ウルトラの父が使っている『ウルトラアレイ』も彼等の作品らしい……これは様々な用途に使える万能アイテムだが要求するエネルギー量が多い事と、何より『そもそもなんで鉄アレイ型なんだ?』という最も過ぎる理由で現在のところ使用者は大隊長しか居ないらしい。

 ……他にも『大量の水を一瞬で干上がらせるテトラポット』や『ウルトラブレスレットの技術を応用して、更に多種多様な機能と変形能力を追加した新型ブレスレット』や『強力だけどエネルギーの都合上1分間しか戦えない戦闘用ロボット』などを開発しているとか。

 

「まあ、キワモノばかりな分だけ量産化の機会には恵まれませんが……ウルトラコンバーターは珍しく“当たり”の分類になりますね」

「本当にヒカリが居なくなったのが痛いな。……ほら、今日は顔合わせでそういった実験とかはまた後日だって言ったろ! ……はい! 光子ネット!」

「「「「「え〜〜〜〜!!!」」」」」

 

 そんな感じでフレアさんが彼等を無理矢理解散(物理)してくれたお陰で、俺はなんとか質問責めから解放されたのだった……確かにリバーススタイルの外見は一切気にしなかったが別の意味で疲れたな……。

 ……と、そのタイミングで研究室内に一人の職員が何か焦った感じで入って来た。

 

「マーブル博士! ウルトラコンバーターってもう使えますか⁉︎」

「何よー、あれは試作品一個だけしか無かったのを何処ぞの謎の宇宙人ゾーフィ(仮)が無理矢理使った所為で壊れたままで、今は改良中って言ってあるでしょー。……まさかまたエース坊やがピンチな訳ー」

 

 その慌てた様子の職員の質問に、一人のブルー族の女性研究員が光子ネットで包まれたままの状態でめんどくさそうに答えた……トレギアさん曰く、彼女はマーブルさんという彼の先輩研究員で、カラータイマーを始めとするウルトラ戦士のエネルギーアイテムを研究している人だそうだ。

 ……そして、彼女が適当に発した質問に対してその職員が驚きの答えを返した。

 

「その通りです! ……あ、いえ、正確にはウルトラ兄弟のゾフィー隊長、ウルトラマン、セブン、ジャックがヤプールの罠にかかりゴルゴダ星に捕らえられたと……!」

「「「「「……えっ⁉︎ …………マジで⁉︎」」」」」

 

 彼の余りに信じがたいその発言に俺達はつい揃いも揃ってポカンとした後、そんな感じの間抜けな声を上げてしまった……どうやら、思っていた以上にとんでもない事になっていたらしい。




あとがき・各種設定解説

アーク:祝! 必殺技名決定!
・名前の由来はアドバイスを貰ったセブン、ジャックの同型技である『ワイドショット』『シネラマショット』を参考にした物。
・そこに『光』を意味する言葉“レイ”を付けてなるべく語呂が良い感じにした。

宇宙科学技術局員達:マッドだが優秀
・彼等が開発する物はクセが強いが強力な為、一部にはコアな人気がある。

ウルトラ兄弟:現在ゴルゴダ星で磔になってる
・詳しくはウルトラマンAの『死刑! ウルトラ5兄弟』『銀河に散った5つの星』を参考。
・尚、本作ではテレビ版の展開は基本的に原作準拠なので、ちゃんとエースに救出されました。


読了ありがとうございました。
この作品内の宇宙科学技術局はあくまで独自設定です(笑)


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親子の語らい

「それで? なんか磔になったり、タール漬けにされたりしたらしいけど……本当に大丈夫なのか親父?」

「息子に心配される程に落ちぶれてはいない。この通りピンピンしているさ」

 

 (アーク)のその質問に対して親父はやや憮然とした雰囲気でそう答えた……今日はエースさんが地球での任務を終えてウルトラの星に帰還したので、多少仕事に余裕が出来た親父は今の内に休暇を取ったのである。そして、俺も偶々士官学校が休みの日だったのでこうして家でお互いの近況を話しているのだ。

 ……後、ウルトラ兄弟がゴルゴダ星に磔になったという報告は一時ウルトラの星を騒然とさせたが、そのすぐ後にエースさんが彼等を助け出したという報告があったのですぐ沈静化している。

 

「確か超高精度で偽装されたウルトラサインを使って、ウルトラ戦士が使えるエネルギーがまともに存在しない暗黒宇宙におびき寄せた上で、大部分のウルトラ戦士にとって弱点である冷媒……しかも絶対零度のヤツを使われて囚われたんだっけ。……ヤプールって本当に念入りにメタ張って来てるな」

「加えて、同時に地球に【殺し屋超獣 バラバ】を派遣して我々にエースを地球に向かわせる為のエネルギーを使わせた事もある……あの時の我々は、生きとし生けるもののマイナスエネルギーを糧とするヤプールの怨念の力を甘く見ていた。……ゴルゴダ星もヤツのマイナスエネルギーで通常の暗黒宇宙と比べても遥かに過酷な環境になっていたしな」

 

 ちなみにこれは最近明らかになった事実なのだが【異次元人 ヤプール】は単純な異次元の生物という訳では無く、様々な生物の負の感情──マイナスエネルギーによって存在している概念生物に近い存在らしい……なので、この宇宙に生物が存在してマイナスエネルギーを作り続ける限りは不滅の存在である可能性が高いとの事だ。

 ……うん、改めて聞くと物凄くタチが悪いなコイツら! 一応、地球に侵略を仕掛けて来た連中はエースさんが倒したから、復活には時間が掛かるとの事だが……。

 

「……負の感情が糧という事は、次復活したらウルトラ戦士への復讐心とかで更にパワーアップするんじゃないか?」

「……その可能性は高いだろうな。……こちらもそれに対抗する為に宇宙科学技術局にマイナスエネルギーに関する研究を頼んでいるが……」

 

 一応、ヤプールクラスの強大なマイナスエネルギーを感知するシステムは既に完成しているらしいが、直接的にヤプールや奴等がいる異次元に干渉出来る技術の開発は難航しているそうだ。

 ……ヤプール以外にも注意しなければならない相手が宇宙には沢山いるし、他にも開発しなければならない技術があるからマンパワーが足りないとはフレアさんの弁である。

 

「……そう言えば、地球に向かった大隊長が危篤とか噂が流れたんだけど、そっちは大丈夫なのか?」

「そんな噂まで流れているのか……あまり外には漏れない様にした筈だが、人の口に戸口は建てられんな。……確かにヒッポリト星人に捕らえられた我等を救う為に一時危険な状態になったのは事実だが、今は治療の甲斐があって容体は安定しているさ」

 

 尚、ウルトラ兄弟が捕らえられたのはヒッポリト星人が使って来た新兵器『ヒッポリトカプセル』が非常に強力だったかららしい……このカプセルはウルトラ兄弟クラスの手練れですら中に囚われるまで接近を気付けない非常に強力な隠密性を持っており、そこにウルトラ戦士でも一度固められたら自力での脱出が困難な『ヒッポリトタール』を組み合わせる事でウルトラ兄弟全員を捉えた様だ。

 ……いくらウルトラ兄弟でもこれだけ周到な初見殺しを使われたら対応出来なかったらしいが、そこからきっちり逆転しているのもまたウルトラ兄弟がウルトラ兄弟たる所以なのだろう。

 

「それで、色々あってエースさんがヤプールを倒して任務を終えてウルトラの星に帰還した訳だ。……確か次に地球に派遣されるのはタロウさんだったっけか?」

「ああ、その予定だな。……ヤプールの脅威は去りはしたがそのマイナスエネルギーが残した影響が大きくてな。どうやら地球上にいる強力な怪獣が次々と目覚め始めている上、あのヤプールを退けた事で地球に目を付ける凶悪な宇宙人が増えていると情報局・保安庁から報告があったからな」

 

 それだけの怪獣や宇宙人が頻出するとは、地球が本当に魔境の様相を示して来たな……並みの文明黎明期の惑星なら普通に滅びかねないし、原因の一端にはウルトラの星も噛んでるから無視は出来ないよなぁ。

 ……まあ、親父達ウルトラ兄弟ならそんな理由が無くても助けに行くんだろうが……と、そんな事を考えていたら、今度は親父が俺の近況を訪ねて来た、

 

「それで? お前の方は最近どうなんだ? 士官学校ではうまくやっているか?」

「あーうん。訓練はよりハードになって来たけど未だに成績総合一位はキープしているよ。……それに、最近はメビウス達以外との同期生と一緒に訓練とかする機会も増えて来たし!」

 

 そう、俺が同期の中でも浮いていると言われていたのは最早昔の話! キツくなって来た授業の中で尚も好成績を叩き出している俺に授業のアドバイスを求める同期生が結構増えているのだ! ……まあ、キッカケはメビウス達が俺のアドバイスで実践訓練をクリアできたと吹聴してくれたお陰だけどな。

 ……後は、同期のとあるウルトラウーマンに親父の事を根掘り葉掘り聞かれる様になったりして(どうやら親父のファンらしい)少々困っていたりするが……。

 

「大体そんな感じで士官学校の方は上手くいってるよ。……後はリバーススタイルの方も宇宙科学技術局でフレアさん達の強力もあって、どうにか戦闘に使える形になりそうかな」

「成る程な。……確か()()()に名前を付けたのだったか……」

 

 ……俺の話を聞いた親父は少しの間だけ考え込み……。

 

「よし、久しぶりに稽古を付けてやろう。……あの力の事を含めてどれだけ出来る様になったのか見せて貰おう」

「…………ファッ⁉︎」

 

 そうして、どういう事なのか俺はいきなりやる気になった親父と訓練を行う事になってしまったのだった……無論、拒否権などは存在しない(泣)

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ふむ、ここを使うのも久しぶりだな」

「……ソウデスネー」

 

 そんなこんなで俺と親父がやって来たのは光の国から結構離れた所、ウルトラの星の僻地にある古い採石場跡地であった……ここは昔とある高エネルギー鉱石が採掘出来た場所らしいが、その鉱石を取れなくなってしまったので閉鎖された場所である。

 ……そして、実はここは親父が個人的に所有している土地だったりするので、人目に付きにくい事などから俺の特訓に使われていたりしたのだ。

 

「……しかし、折角の休暇にこんな事していて良いのか? 疲労で後の職務に差し支えても知らんぞ」

「休暇中に訓練するのはウルトラ兄弟なら皆やっている事だ。……それにお前との模擬戦()()で疲労する程ヤワではない。さっさと掛かってくるといい」

 

 そう言った親父は自信満々にこちらに向かって手招きをした……ほう、そこまで言うなら本気で行かせてもらおうかな! 磔にされたりタール漬けにされたりしてるから気を使ってやろうと思ったが、ちょっとカチンと来たから今出せる全力で行かせてもらおう! 

 

「ウルトラスラッシュ!」

「甘い! Z光線!」

 

 特に合図とかをする事も無く俺は瞬時に生成した光輪を親父に投げつけたが、向こうはあっさりと手から発射した稲妻状の光線でそれを撃ち落とした。

 ……まあ、この程度の奇襲は効かない事は分かっていたので、俺は光輪を投げつけると同時に右方向から回り込んで親父に接近していく。

 

「ふむ、あっさり撃墜出来たと思ったらやはり囮だったか」

「御名答! ゼットレーザー!」

 

 そんな余裕の態度を見せる親父に向かって俺は片手から先ほどの親父と同じ稲妻状の光線を放った……この『ゼットレーザー』は見てわかる通り親父の『Z光線』を参考にして、片手で撃てる牽制用の技として作った物である。

 片手撃ちな分だけ威力はオリジナルと比べると劣る物の、その相手を麻痺させる効果は健在なので接近する為の牽制には十分な効果を発揮するのだ!

 ……最も、その特性を知り尽くしている親父にとっては大した脅威にはならなかった様で、光線は無造作に振るわれた片手で打ち払われてしまったが。

 

「この程度では意味がないぞ」

「だが、接近する余裕は出来た!」

 

 その言葉通り、一気に加速した俺は親父に接近すると容赦無くその胸部に向けて拳を打ち込んだ……が、その攻撃は親父が半歩だけ身体を逸らしただけであっさりと回避されてしまった。

 俺はそこから更に蹴りや手刀などを絡めた連続攻撃を見舞っていくが、親父は涼しい顔(ウルトラ族は元々表情の変化が薄いけど)でそれらの攻撃を捌いていき、更にはこちらの攻撃直後の隙を狙って反撃の手刀を放って来た。

 俺はどうにか腕で防御する物の、軽く振るわれた様に見えて恐ろしく重いその手刀に押されて距離を離してしまった……ええい! 分かってはいたが親父相手だと正面からでは崩せないか!

 

「確かに腕は上がった様だが……お前に格闘技を教えたのは誰だと思っている?」

「やっぱり動きは読まれてるか……じゃあ、こういうのはどうかな? アークブレード!」

 

 格闘では親父を崩せないと判断した俺は、距離が開いた所で腕から光の剣を展開して士官学校の選択授業で習い、更にサージさんにも指導して貰った剣術で切り掛かって行く……確かに俺の格闘技は親父直伝だから動きを読まれるだろうが、親父から習った訳ではない剣術ならどうだ? 

 ……と思ったのだが、なんと親父は手のひらの部分にウルトラスラッシュを生成して、それを()()()()()()()()()()()()()()()()()()俺の光剣と打ち合い始めたのだ!

 

「って! 親父何その技⁉︎」

ウルトラスラッシュ(八つ裂き光輪)のちょっとした応用だ。お前でもこのぐらいは出来るだろう」

 

 まあ出来なくはないだろうけどさ! しかも高速で回転しているからこっちの剣が弾き飛ばされるし、手のひらに固定しているウルトラ念力の強度が高すぎて向こうの光輪を弾くのは難しいか! 

 

「これでも昔はサージ達とよく打ち合ったからな、この程度は熟せるさ……そらっ」

「ッ⁉︎ 光輪を投げて! ……このっ!」

 

 そう言った親父は打ち合いの間に出来た隙にバックステップして距離を取り、そこから手に持った光輪を投げ放って来た……飛来するその光輪を俺は光剣で打ち払うが、その時には既に親父は腕をL字に組んで光線技の発射準備を整えていた。

 

「ほら次だ! M87光線Bタイプ!」

「にゃろう! ブレードパージ! からのアークディフェンサー!」

 

 そうして放たれた親父の必殺光線に対して、俺は腕に着いた光剣を切り離しながらM87光線Bタイプに投げつけると共に、爆発させてエネルギーを解放させる事でその光線の威力を弱める……更に、直ぐ前方に円形のバリアを展開して光線を受け止めた。

 ……とは言え、ブレードをぶつけて威力が減衰してる筈なのにめっちゃ重い! これで速射用の技だと言うんだからなぁ……だが、このぐらいであれば……。

 

「ヌゥゥゥゥ……イヤァァッ!!!」

 

 俺は更にバリアにエネルギーを込めつつそのまま無理矢理M87光線Bタイプを吹き散らした……その結果、光線は四方に撒き散らされて辺り一帯を爆ぜ飛ばして行った。

 ……うん、市街地とかではこの防御法は使えないな! まあ、俺も()()()()()()()()()()()()こう言うやり方を選んだんだが……。

 

「……ほう、それなりに本気で撃ったのだがな。……それに土煙を撒くことでこちらの目を眩まして、次への布石にしているな」

 

 そう、散らされた光線が採石場の各地に当たった事で辺りには土煙が充満していたのだ……まあ、ウルトラ戦士には透視光線とかもあるから一瞬の目眩しにしかならないが……。

 

「それだけ有ればもう一つの姿に変わるぐらいは出来る! ハイパーウルトラフリーザー!」

「むっ⁉︎ これは……!」

 

 その隙に俺はリバーススタイルへと姿を変えると同時に、上空に向けて手から最大威力の凍結光線を撃ち上げた……その凍結光線は上空で炸裂するとここら一帯に強力な冷気を振り撒いて、瞬く間に採石場を氷漬けにしていった。

 ……これぞ新技『ハイパーウルトラフリーザー』──辺り一帯に冷気をばら撒いて一時的にウルトラ戦士が苦手な低温・高冷媒環境を作り上げる()()()()()技なのだ!

 

「そして、リバーススタイル時の俺は低温環境でもスペックが下がる事は無い! フロストショット! フロストスラッガー!」

「クッ⁉︎ チィ!」

 

 突然の環境の変化に戸惑っている親父に対して、俺は容赦無く凍結光線と氷のブーメランを立て続けに放っていく……牽制に放ったフロストショットは回避されたが、ウルトラ念力によって回避先に飛ばしておいたフロストスラッガーは動きが鈍くなった親父に次々と命中していった。

 ……よし! 漸く模擬戦で親父にまともな攻撃を入れられたぞ! このまま一気に攻め立てる! 

 

「まだまだ行くぞ! フロストランス! フロストハリケーン!」

「グッ! ヌォォ⁉︎」

 

 まずは氷で出来た槍を複数生成してから念力で投げつける事で親父の動きを封じ、そこに俺は強化された念力を最大限に使って冷気と氷の塊で構成された竜巻を形成して親父にぶつけたのだった。

 

(……ここだ! ブラックゲート! フロストブレード!)

 

 ここがチャンスだと感じた俺は親父が冷気で動きは封じられたタイミングでブラックゲートを使ってその背後に転移して、右手から氷の剣を展開して親父を斬りつけて……。

 

「……そうだな、視覚を封じてから背後に回るのは凶悪宇宙人がよく使う手だ」

「ゲェッ⁉︎ 折れたぁぁ〜!」

 

 その攻撃はこちらの動きを()()()()()()()親父が放った裏拳によって氷剣を砕かれた事で頓挫した……更に親父はそれまで動きが鈍っていたのは何だったのか、物凄い威力の後ろ回し蹴りを俺の胴体に叩き込んで採石場の岩壁まで吹き飛ばしたのだった。

 ……このクソ親父、動きが鈍っていた様に見えたのは接近戦を誘う為のブラフだな!!!

 

「グハァァッ!!! ……クソッ、リバーススタイルは身体能力が下がるのが問題だよな……って⁉︎」

「ハァァァァァァァ……」

 

 岩壁に叩きつけられた俺は痛む胴体を抑えながら立ち上がると、そこには腕を水平にしながら手の先を合わせてエネルギーをチャージしている親父の姿が……ちょ⁉︎ いや()()はマズイ!

 

「行くぞ! M87光線!!!」

「ギャァァァァァァァァァァッ!?」

 

 俺が形振り構わず全力で回避行動を取った直後、親父が突き出した右腕から先程のモノとは比べ物にならない超威力の光線──M87光線Aタイプが放たれて、俺の直ぐ真横を通り過ぎていった……その光線は余波だけで採石場の一部と俺が作り上げた極低温環境、そしてついでに俺自身をも吹き飛ばしながら天へと登っていった。

 

「まさか光線技の余波だけで極低温フィールドを吹き飛ばすとか……ていうか、ゴルゴダ星で同じ事しろよ……」

「いくら俺でも惑星環境自体が絶対零度ではどうしようもない。……それにゴルゴダ星はウルトラ兄弟ですらまともに光線技が使えない程のマイナスエネルギーに満ちていたからな。光線技に長けたエースですら兄弟のエネルギーを結集させた『スペースQ』を使わざるを得ないぐらいだった」

 

 さいですか……流石にもう一度ハイパーウルトラフリーザーを使うのはエネルギー的にキツイんだがな。親父もそんな隙を与えてはくれないだろうし……。

 ……と、俺がそこまで考えていた所で親父は戦闘の構えを解いた。

 

「今日はここまでにしておこう。……これ以上やると明日以降の公務に差し支えそうだ」

「……分かった。俺もこれ以上エネルギーを消耗すると明日の士官学校がキツイ」

 

 そして、その後は少し休憩しながらいつも通り模擬戦の講評をして行った……戦術面の甘さを指摘されたり格闘技術や剣術をもう少し磨いた方が良いと言われたが、漸く攻撃を当てられる様になった事は褒められた。やったぜ。

 ……そうして、暫くしてエネルギーが回復したところで俺達は家に帰って行ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

(アークは思っていた以上に強くなっているな。……俺もそれなりにダメージを負ったし、まさかAタイプのM87光線まで使わされるとは)

 

 あれからゾフィーは家に帰ってから自分一人になった所で、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()今日の息子との模擬戦に付いて振り返っていた。

 

(あの姿……リバーススタイルの方も決して力に溺れる様子も無く使いこなしている。……あの姿を見てベリアルの事を想起してしまい、少し過剰なぐらいの鍛錬を施してしまったが、それも良い方向に働いた様だ)

 

 彼が息子にあれほどまでの過剰な鍛錬を施したのは、昔にあったベリアルとの戦いでその絶大な力とその力に溺れてしまう様子を目にしていて、特異な力を持ってしまった息子には同じ様な過ちを犯して欲しくないからでもあった。

 

(……少なくともアークは俺よりも“黒の力”に対しての適正が遥かに高い。……この力は俺ですらその本質を理解出来ずに無理矢理使う事しか出来ない様な代物であるし……やはりアークが宇宙警備隊に入った後には()()()の元へと一度向かわせた方が良いか)

 

 ……ゾフィーはとりあえずそれだけ考えた後、タロウの地球派遣の各種報告作業などを含めた明日以降の業務の準備をして行くのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:親子の語らい(物理)
・なんか対ウルトラ戦士への必殺戦術を編み出したりしている。
・内心ゾフィーに一撃入れられた事と褒められた事はかなり喜んでいる。

ゾフィー:ちゃんと休暇には息子と話す様にしている
・凍結フィールドはM87光線Aタイプを出さざるを得ないぐらいには焦っていた。
・…が、息子にはなるべく良い所を見せたかったので顔には出さなかったが。
・採石場は彼の()()から受け継いだものらしい。
・尚、この後にはバードンとタイラントが待っている。


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カラータイマーを付けよう! (前編)

 さて、いつも通り(アーク)は光の国にある宇宙警備隊の士官学校に通っている……のだが、今日は()()()()()()()()()()があるので準備を終えたカラレス教官が来るまで訓練生達は教室に待機しているのだ。

 ……実際、周りの同期生達も凄くソワソワしていて、事前に配布されて資料を見たりこれからの事について周りの人と話し合ったりしていた。

 

「しかし、我々が士官学校に入学してから幾年か……もう()()()()()()()()()()()()()様になったんですね」

「うん! やっぱりカラータイマーは宇宙警備隊員の象徴みたいな物だからね。……とうとう僕達もそこまで来たんだなぁと思ったよ」

「まあ確かに少し感慨深いものもあるな」

 

 そう、これから始まる重要なイベントとはカラータイマーの移植手術の事なのである……今後、士官学校のカリキュラムに『宇宙空間での各種活動練習』が追加される為、士官学校ではその前に訓練生にカラータイマーを移植する事になっているのだ。

 ……尚『カラータイマー』とは宇宙警備隊などの広範囲・遠方の宇宙で活動するウルトラ族の胸に付けられる主に円形状の装置の事で、普段は青色だがエネルギーが減った時には色が赤くなった点滅する事でそれを知らせる機能があり、主に未知の星系での活動の際のエネルギー配分の目安としての機能がある。

 まあ、他にもウルトラ族の体内エネルギー機関と直結する事である程度なら外宇宙でのエネルギー運用を効率化させる効果もあったりするし、最近では自分の好みで形状を選んだりも出来るみたいだが。

 

「しかし、事前に渡された資料を見てみたが一口にカラータイマーと言っても色々種類があるよな。……形状だけでも三角とか菱形とか六角形とか、後は額に付ける小型版のビームランプとかな」

「後はオプションでエネルギー充填の割合を表示する『みなぎりメーター』とか、緊急時に太陽光のエネルギーを補給出来るプロテクターとかも付けられるみたいですね」

「ただ、こういうオプションは使用者にもある程度の技術を要求するって親父が言ってたし、最初はオートで動作してくれるカラータイマーだけでやって行くのが基本らしいがな。……それに、この手のオプションは後付け出来る様だし、カラータイマー自体もアップデートで性能向上などの改造は出来るみたいだけどな」

 

 例えばプロテクターとかはウルトラ兄弟だとセブンさんが付けており外宇宙での長時間活動を可能にしているが、このプロテクターによるエネルギー補給はマニュアルで行わなければならないので高いウルトラ念力の技術を要求したりする。

 それに対してカラータイマーはエネルギー運用の補助に関しては最低限だが、その分機能を全てオートで実行してくれるので使う者を選ばないという長所があるのだそうだ。

 まあ、親父は『昔のカラータイマーは半球状のデザインしか選べなかったのに、今は随分と色々な種類が増えたんだな。……どれも基本性能は変わらない筈なんだが』とも言っていたが。

 ……と、そこまで話した所でメビウスが何故か心配そうな顔で話しかけて来た。

 

「あ、そういえばアーク……君のお父さんであるゾフィーさんが地球で怪獣にやられて一時危篤状態だったって話だけど大丈夫だったの?」

「その後に確か負傷から復帰したら今度はウルトラ五兄弟全員が一体の怪獣に負けたとかいう噂も流れましたし、やはり怪我の様子は重いのでしょうか」

「実際、宇宙警備隊の情報って秘匿内容とかもあるからイマイチ中途半端にしか分からなくて、結構妙な噂が流れる事もあるんだよな。特に最近は地球関連で妙な噂が流れてるし……ウルトラの星の秘宝である『ウルトラベル』を使ったとか」

 

 ……あー、どうも何か妙な噂になってるっぽいかな。別に宇宙警備隊は自分達の仕事を積極的に宣伝している訳では無いし、ゴリアテの言う通り職務上秘匿しなければならない情報も普通にあるからな。

 この士官学校では市政よりも警備隊の情報が入りやすい分だけ噂が立ってる感じかな。それに地球って基本的には辺境の惑星だし、そこの事を積極的調べる人も少ないからな。色々と詳細な情報を入手出来るアーカイブも調べるのに申請が必要だったり、必要な情報を集めるのにコツがいるからか余り利用する人は少ないしな。

 

「ふーむ……まず、親父とタロウさんが地球で【火山怪鳥 バードン】に一度倒されたのは事実だが、既に二人共完全に回復しているからな。そのバードンもタロウさんが新兵器(マッド達謹製)の『キングブレスレット』を使ってキッチリ倒したし」

 

 尚、その際に親父は瀕死状態だったタロウさんを可能な限り早く銀十字軍へと送り届ける為にテレポートを使って光の国に帰還しており、更にバードンを食い止める為に再びテレポートを使って地球に戻っているのだ……実は親父はテレポート系能力への適正が高く寿命を消費せずに異次元空間に移動する事も出来るぐらいなのだが、それでもエネルギーを消費する事に代わりはない。

 流石にいくら親父でもそこまでエネルギーを消耗した状態で、一度はタロウさんを倒した程の強豪怪獣であるバードンに挑むのは流石に無謀であり、ある程度善戦はしたがエネルギー減少によって動きが鈍った隙を突かれて頭を燃やされた上、更に猛毒の嘴を食らって倒されてしまった様だ。

 ……正直、その時はかなり危ない状況だったと後で聞いて俺も肝が冷えた。ウルトラ戦士最後の頼みの『命の固形化技術』だって100%の蘇生を可能とする訳では無いからなぁ。

 

「まあそんな訳で今は親父もタロウさんもピンピンしてるよ。その後にあったテンペラー星人の襲撃にも上手く相手を誘導して光の国への被害を最小限にしてるしな。……そんでウルトラ五兄弟が倒された【暴君怪獣 タイラント】に関しては……実は()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

 まず、このタイラントという怪獣は地球圏でウルトラ兄弟に倒された怪獣達の怨念が結集して生まれた存在であり、その実力はウルトラ兄弟が総掛かりでも倒せるか怪しい、若しくは倒せてもその内包する大量のマイナスエネルギーで地球圏に多大な悪影響を与えかねないという割ととんでもない怪獣だったのだ。

 ……そこで、ウルトラ兄弟達は『自分達が一人づつ戦ってタイラントのエネルギーを削りつつ、その後にワザと倒される事で怪獣達の怨霊を満足させてマイナスエネルギーを弱める』という作戦をとったのだ。

 

「それで、その作戦は見事に成功して最終的にはタロウさんがタイラントを倒す事が出来て、地球圏にも影響が出ずに済んだという訳だな」

「成る程、そういう事情があったんだ。……怪獣達の怨念や未練の事まで考えて戦うなんて、やっぱりウルトラ兄弟はすごいね!」

「流石は我ら宇宙警備隊の隊長であらせられるゾフィー様! ただ勝つのではなく、あらゆる状況を考えて戦っているのですね!」

「……いや、貴女いつから聞いていたんですか? アムール」

 

 なんかいきなり現れてメビウスと一緒に騒いでいる女性の名前はアムール。俺達と同じ士官学校で学んでおり、同期生の中では数少ない宇宙警備隊志望の女生徒である。

 ……彼女は普段は物凄く真面目な優等生なのだがどうやら親父の大ファンらしくその話になると物凄くキャラが変わるので、俺に親父の事を根掘り葉掘り聞いてきたり、今の様に『ゾフィー様万歳!』みたいなテンションになるのでちょっと苦手である。

 

「フーン、あの噂にはそんな真実があったのか」

「アークって本当に色々な事を知ってるな。流石は宇宙警備隊隊長の息子さん」

「同期での成績トップは伊達じゃないな」

「……それになんかいつに間にやら聴衆が増えてるし……」

 

 最近になって俺が同期生から避けられる様な事が無くなってきた分、今の様に俺が色々話し始めるとこの様にいつの間にか聴衆が出来る様になっているのだ。

 ……もうこれで俺がクラスで浮いているとは言わせない! これは俺の時代が来たな! (慢心)

 

「……しかし、お前の話を聞く度に思うんだが、その地球圏ってのは一体どうなってんだ? 強力な怪獣や宇宙人が出過ぎだろ」

「……それは、俺も常々思っているんだよな」

 

 正直、惑星としては黎明期の文明を持つヒューマノイドタイプの生物が主に住む、言っちゃアレだがこの宇宙では割と良くある惑星の筈なのだが、()()ウルトラマンさんが訪れてから宇宙全体でも中々見ないような怪獣や宇宙人が頻出しているのだ。この事について技術局の人達は『現在の地球は一種の特異点の様なものになっているのではないか』とか推測しているが、詳しい事は何も分かっていないし。

 ……その所為でか、妙な噂として『怪獣にナイフ一本、竹槍一本で立ち向かって退けた地球人が居る』なんて話が聞こえて来たりもするが、流石にそれは地球関連の情報が錯綜した結果のデマだろう。

 

「それにウルトラベルに関しても惑星規模で甚大な被害を齎す怪獣が現れたから使っただけだしな。……そもそも、あのウルトラベルは使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、使おうと思えば誰でも使えるし」

「え! そうなんですか⁉︎ ……仮にもウルトラの星の秘宝ですよ?」

「……本当なの? アーク」

「ああ、本当だ。……と言うか、あのウルトラベルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな。宇宙警備隊が使う各種アイテムとはまた別枠なんだよ」

 

 まず、ウルトラベルとはかつてウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)が起きた時に【暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人】率いる怪獣軍団に対してウルトラマンキングが使った物で、その後にキングからウルトラの星に託された物である。

 ……その際にキングは『この力がみだりに使われる事が無い様に』と悪意のある者を焼き尽くす『命の炎』、通過する者に正しい心があるかどうかを探る『正義の炎』、ウルトラベルを守る『平和の炎』という三重の超級ファイアーウォールをセキリュティとして設置した『ウルトラタワー』を光の国に建てたのだ。

 

「そう言うわけでそのセキュリティを突破した者なら、ウルトラベルは誰でも使えたりするんだよ。……最も、並みのウルトラ戦士では入った瞬間に焼けるを通り越して()()するし、ウルトラ兄弟レベルでも合体した上で1分間しか生存出来ないレベルのセキュリティだからみだりに入るのはオススメしないが」

「……いや、それを聞いて入ろうと思うヤツはいないから」

「「「うんうん」」」

 

 まあ、親父達ですら『正直死ぬかと思った……実際、ウルトラ兄弟の力を合わせても三割くらいの確率で死ぬ』と言わしめるレベルのセキュリティだったそうだからな……本当にあのウルトラ兄弟がここまでしなければならないとか、地球はマジ魔境である。

 ……ちなみにタロウさんが地球での任期を終えた後、何故かそのまま有給を取り地球人として地球を旅するとか言い出したので、次は代わりにセブンさんが再び派遣されるのだとか……そして、タロウさんが帰って来ない所為でトレギアさんがタロウロスに掛かって仕事が滞っているとフレアさんが愚痴っていた。

 

「まあ、アレだ。……この広大な宇宙には、まだまだ俺達も知らない秘密が沢山あるんだろう……」

「つまりは何も分かってないって事だな」

「そうとも言う」

 

 ……と、そんな感じの無駄話で時間を潰していると準備を終えたカラレス教官がこの教室に入って来たので、同期生達は即座にお喋りを辞めて瞬時に自分の席へと着いた。

 

「……うむ、全員揃っているな。……今日からは以前から言っていた通り、お前達のカラータイマーの移植手術を行う事になる」

 

 そうして、俺達が全員揃って席に着いた事を確認したカラレス教官は今日から始まるカラータイマーの移植手術の予定を改めて話し始めた。

 

「基本的には以前に配布しておいた資料に載っている予定表通りだが、まずお前達にはこれから宇宙科学技術局に行ってカラータイマー移植手術の詳しい説明を受けてから、自分が付けたいを思うタイマーの種類とオプションを選んでそれを先方に提出してもらう。……種類などは事前に渡しておいた資料にも載っているから出来る限り事前に決めておく様に」

 

 ちなみに俺は色々悩んだんだが、一般的な半球状のカラータイマーに上下反転させた涙状の土台を付ける感じのヤツにしようと思っている……この資料には様々なデザイン例として『カラータイマー及びオプションのアレンジ集』という、色々な形状のタイマーやオプションを付けたウルトラ戦士の写真が載っていたので、そこから良いなと思ったデザインを選んだ形だ。

 ……オプションに関してはエネルギー補充に関してはリバーススタイルでどうにか出来なくもないし、余り大規模な移植手術をするとそちらへの影響も懸念させるので保留である。

 

「……それから各々の要望にあった移植手術を始めるのだが、向こうも最近は忙しいらしいので、人によって手術の予定が多少前後する事も留意しておいてくれ。……くれぐれもあちらに迷惑を掛けない様にな」

「「「「「はい! 分かりました!」」」」」

 

 そして、カラレス教官が一通りの説明を終えた後に俺達は宇宙科学技術局に向かう事になったのだった……殆どの同期生は宇宙科学技術局に行くのは初めてなのでちょっと落ち着かない様だったが、俺にとっては通い慣れた場所なので大して緊張は無い。

 ……むしろ技術局のマッド達が色々やらかさないか心配なのだが。一応フレアさんは『カラータイマー移植手術は毎回の事だし、ちゃんと専門の()()()()技術者が担当しているから問題無い』と言ってたから大丈夫だろうが。




あとがき・各種設定解説

アーク:設定解説好き
・選んだカラータイマーの形状は『ウルトラマンティガのカラータイマー』に近い感じ。

アムール:出展『ウルトラマン妹』
・現在は訓練生なので発言や行動が若い感じ。

『ウルトラマンタロウ』に出て来た強敵:本作の独自解釈
・タロウのバードンは他の個体と比べて非常に高い戦闘能力を持つ強個体。
・タイラントは結集した怨霊の強度で能力が変動する。
・そもそも同じ怪獣・宇宙人でも個体毎の実力には差があるのが普通。

キングブレスレット:本作の独自解釈その二
・ウルトラブレスレットをベースに依頼主であるウルトラの父から支給された様々な特殊素材を使って制作された試作武装。
・その為、超高性能だが量産性は無く、更に作ったのがマッド達だからか変な形(バケツとか)に変形したりする。

ウルトラベルとウルトラタワー:本作の独自解釈その三
・光の国でここだけセキュリティが万全なのはそもそも作った者が違うからで、ウルトラキーを納めた第2ウルトラタワーはキングが作った物を模して作られた。
・一応、第1ウルトラタワーに近寄るには許可が必要な様にはなっている。


読了ありがとうございました。
ウルトラシリーズの独自解釈裏設定を入れ過ぎて説明回みたいになりましたが、この作品では作者の趣味でこの手の説明解説が多くなりますのでご了承下さい。


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カラータイマーを付けよう! (後編)

 という訳で、俺達士官学校訓練生はカラータイマーの移植手術を受けるために、カラレス教官の引率の下で一路宇宙科学技術局に来ていた……しかし、みんな初めて来るからか物珍しそうに回りを眺めているな。

 ……まあ、俺にとっては通い慣れた場所であるから普通にしているが。

 

「ここが光の国の技術研究・開発に於ける中心地である宇宙科学技術局……初めて来ましたが凄い所ですね」

「本当にね。……職員の人達はみんな忙しそうに動いているし、ここが光の国においての最重要区画だというのも頷けるよ」

「……あー、そうだな……」

 

 うん、ちゃんと真面目に働いている()()()職員達を見た評価としてはメビウスとフォルトの言葉が正しい場所だろうな……宇宙でもトップクラスの技術力を持つウルトラの星に於いて、多くの最新技術を扱っているこの宇宙科学技術局はまさしく光の国の中枢部と言っても過言ではないだろう。

 ……尚、多分今は奥に引っ込められているマッド達の事は考えないものとする。

 

「……ん? どうしたアーク。なんだか妙に遠い目をしているが」

「ああいや、此処には親父の伝手で何度か来ているからな。ちょっと考え事をしていたんだ」

 

 その事をちょっとゴリアテに突っ込まれたが適当に誤魔化しておいた……別に嘘は言ってないし、あのマッド達の事をこいつらに教える必要とかはないだろうしな。

 ……そうこうしている間に、俺達がカラータイマー移植手術に関する説明を受ける為の技術局内にある視聴覚室っぽい所に到着していた。

 

「それでは全員席に着け。……もうすぐ説明担当の職員が来るはずだからそれまで静かに待つ様に。……さっきも言ったがあちらも忙しい時機に無理をして来ているのだから、くれぐれも失礼な事がない様にな」

「「「「「はい、分かりました」」」」」

 

 そしてカラレス教官の指示通りに、俺達は静かに室内に設置されていた椅子に座っていく……流石にこれまで厳しく指導されて来た同期生達だからか、私語をする様なヤツは一人も居なかった。

 ……そして、俺達が席に着いてから少し後に三人の職員がこの部屋に入ってきた。

 

「よう! 訓練生諸君初めまして。俺は宇宙科学技術局所属のフレアだ。……今日はカラータイマー移植手術に関しての説明を担当する事になったから、短い間だけでよろしく頼むぜ」

 

 なんと、一人は俺も良く知っているフレアさんだった……彼が軽い口調で話しかけたお陰でかなり緊張していた同期生達の雰囲気が軽いものになったし、流石はこの技術局に於ける纏め役の一人といった所だろう。

 

「……と言っても、俺はカラータイマー専門の技術者って訳じゃないから主な説明はこっちの二人が行うんだけどな。……んで、こっちが実際にカラータイマー移植手術を担当している銀十字軍のセレイナさんだ」

「初めまして、宇宙警備隊銀十字軍所属のセレイナと申します。……今日は主にカラータイマー移植手術の段取りや、その際に於ける注意点の説明の為に此処に来ました。よろしくお願いしますね」

 

 そうやってフレアさんに紹介されたのは、物腰の柔らかそうなブルー族の女性である銀十字軍所属のセレイナさんという人だった……カラータイマー自体の設計・開発は技術局の領分だけど、実際の施術は銀十字軍が担当しているからな。当然、説明にはそっちの方の人も来る訳だ。

 ……そして次にフレアさんは()()()()()()()()()()()()()()()()もう一人の紹介を始めた。

 

「……あー、んで、こっちは宇宙科学技術局の職員で、カラータイマーなどのエネルギーアイテムの研究開発を行なっている()()()()()()だ」

「初めまして、宇宙科学技術局のマーブルと申します。……今日はカラータイマーの技術面に於ける説明を担当させて頂きますので、どうかよろしくお願いしますね」

 

 そうして楚々とした仕草でお辞儀をしながら挨拶したのは、以前に此処に来た時に遭遇したマッド職員の一人である筈のマーブル博士だった……あれれ〜おっかしいぞ〜。何でマッド職員がこんな所にいるんだろ〜。なんか態度も俺があった時とは全然違うし〜。

 ……そんな事を考えていたら、フレアさんから隠密テレパシー通信が俺の所に届いた。

 

(フレアさん、これは一体どういう事ですか? 確かマッド達はこの手の作業には参加しないとか言ってませんでしたっけ?)

(いや〜……本当は他に担当の職員が居たんだけど、急に用事が入っちまってな。それで変わりの人間を探したんだが他のカラータイマーの専門家がコイツしか居なくて仕方なく。……ったく、トレギアのヤツがタロウロス(笑)に掛かって使い物にならないのが痛いな)

 

 何ともはや……まあ、マーブル博士は基本的には物凄く優秀な人だしマッド達の中でも体裁を取り繕う事が出来る方だから、多分大丈夫だろうとはフレアさんの弁だ。

 ……尚、フレアさんがここに居るのは、もしヤバイ事になったら止める為のお目付役だそうである。

 

「じゃあ、紹介も終わった事だし、これからカラータイマー移植手術に対する説明に入るからよく聞く様に」

 

 そうして説明を行う人間に一抹の不安を孕みながらも、カラータイマー移植手術に関する説明会が始まったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「…………そういう訳で長々と解説して来ましたが、今現在のウルトラの星に於ける医療技術でならカラータイマーの移植手術は非常に手早く終わりますし、術後も直ぐに全力行動したとしも大丈夫なので皆さんも余り緊張せずに来て下さいね」

 

 さて、そういう訳で銀十字軍所属のセレイナさんによるカラータイマー移植手術に関する一通りの説明は終わった様だ……うん、実に丁寧で分かりやすい説明だったな。

 特にカラータイマー移植手術の手順や内容を今までの医療技術発展を絡めて説明する部分が良かったな。これまで何度もカラータイマー移植手術の実行や説明を担当して来たという、彼女の言葉に偽りの無いと感じられる良い話だった。

 

「……それでは、次のカラータイマーそのものに関する説明はマーブル博士にお願いしますね」

「はい、分かりました」

 

 さーて、ちょっと不安になる感じの時間がやってきたぞい……今の態度に関しては出来る研究者って感じだけど大丈夫かなぁ。

 

「では、まずカラータイマーの基本的な構造を簡単に説明させて頂きます。……『カラータイマー』とは超小型のプラズマスパークを内蔵した生体融合型のエネルギー装置の総称であり、色が赤くなりながら点滅する事で装着者のエネルギー残量の減少を周囲に知らせる役割もあります」

 

 そう言ったマーブル博士は室内の三次元プロジェクターにカラータイマーの内部構造を映し出し、それを使ってカラータイマーの各種内部機能や生態融合の構造を説明し始めた……うん、実にまともで分かりやすく、正直言って非の打ち所がない説明だな。

 ……脇で見ていたフレアさんも、そんな彼女の見事な説明に驚いた表情になっているし。

 

「……先程セレイナさんが説明した通りこのカラータイマーは我々ウルトラ族の心臓に接続して、その内部のプラズマスパークからエネルギーを供給する装置です。……これは宇宙警備隊員などの外宇宙で活動を行う者が、ウルトラ族のエネルギーであるディファレーター光線が少ない環境でも行動出来る様にする事が主な用途であり、通常行動ならほぼ無制限、限られた時間であれば戦闘行動も可能になるだけのエネルギーを供給してくれます。……出来ればそんな環境で戦闘行動を行なっても問題無い程度のエネルギーを供給させたいところなのですが、“変身やサイズ変更などの能力を問題無く使える汎用性を持っている量産可能な生態融合装置”としてはこのレベルが限界なのですよね」

 

 そこからのマーブル博士は各種グラフやら図表やらを使った非常に分かりやすい説明によって同期生達にカラータイマーの各種構造や用途を簡潔に解説しており、その説明の上手さは先程説明を行ったセレイナさんやカラレス教官をも唸らせる程であった。

 ……最も、俺とフレアさんは『何で普段からこんな感じに振舞ってくれないのかなぁ……』と内心思ったそうな。

 

「…………一方でカラータイマーは心臓に直結しているため、万が一破壊された場合には装着しているウルトラ族の命が失われるという欠点があります……が、そもそもカラータイマー自体は非常に頑丈に出来ており、更にプラズマスパーク技術の応用による局所的なバリア機能によってタイマーへのダメージを防ぐ機能が付いています。……なので、仮にカラータイマーのある胸部に攻撃を受けてもまず問題無いですし、それらの防御機能を抜いてカラータイマーを破壊出来る様な攻撃であればウルトラ戦士の肉体程度は普通に消し飛ぶので、そんな場合は回避か防御をオススメします」

 

 ……まあ、そんな感じで時折冗談も交えながら分かりやすく説明をしてくれているマーブル博士への同期生達の評価はかなり高い様で、みんな真剣な表情でその話に聞き入っていた。

 正直、俺とフレアさんもここまで的確な解説をする彼女の事は少し見直して「ですが!」……え? 

 

「最近になって現状でのカラータイマーの防御能力は直接的な攻撃以外への対応性能が低いという事が分かりました! ……その証拠がこちらの画像になります! はいドン!」

 

 何故かいきなり雰囲気を変えてしまった(元に戻った)マーブル博士は室内プロジェクターにとある映像を映し出した……その画像は何と『カラータイマーを取り外されて首からしたがペシャンコになったウルトラ兄弟の一人であるジャックさんの画像』という衝撃的な物だったのだ。

 ……その映像を見た同期生達(とフレアさん)の間に動揺が広がるが、それを無視してマーブル博士はハイテンションのまま話を続けた。

 

「これは【泥棒怪獣 ドロボン】にカラータイマーを盗まれて戦闘不能になったウルトラ兄弟の一人であるウルトラマンジャックさんの画像です。……正直、何でペラペラになってるのかはまだ分かっていないんですが、ご覧の通りカラータイマーは防御力は高くとも盗難には余り強く無い事が分かりますね。……そこで! こう言った盗難を防ぐ為に()()()()()新しい種類のカラータイマーがこちらです! デデドン!」

 

 何故か効果音を自分で言いながら手元の機器を操作してマーブル博士は室内プロジェクターの映像を変更した……そのスクリーンにはウルトラ戦士のものと思われる胴体部が写されており、その中央には()()()()()()()()()()のカラータイマーが装着されていた。

 

「はい! これが私が開発した最新式の『内蔵型カラータイマー』です! ……見ての通り、これは今までのカラータイマーが胸部に付けられるだけだったのに対して、文字通り肉体に埋め込む形式を取ることで物理的に盗難が不可能にしたタイプなのです! ……更に副産物としてカラータイマーその物の強度も従来型と比べて大幅に増強されており、もしバリアが張れない状態でカラータイマーへの直接攻撃を加えられてもそう簡単には破壊されません!」

 

 ……どうやら彼女がこの説明会に参加しようと思ったのは、自分が新しく開発したカラータイマーの宣伝の為だったみたいだな。それに気が付いてフレアさんも向こうで頭を抱えているし……。

 

「そういう訳で、どうでしょうかこの最新式! ……まあ、肉体に内蔵する関係で多少手術に手間が掛かりますが、どの道カラータイマーは一度付ければ一生涯使えるので大した問題ではないでしょう! さあ皆さんも是非にこの最新式内蔵型カラータイマーを付けましょう。……正直、まだ装着者のサンプルが少ないので技術発展とデータ収集の為にも是非皆さんには実験だ……もとい被験者に「ソォイ!」ムギャー⁉︎」

 

 マーブル博士の話がちょっとマッド方面にヤバくなった所でフレアさんの光子ネットが炸裂し、そのまま彼女を雁字搦めに拘束した。

 

「おいコラ! テメェまともな説明してたと思ったら目的はコレか!」

「ぶー、説明はちゃんとしたんだからいいじゃないですかー。それに内蔵型はまだデータが足りませんしー」

「ええい! お前は技術局では最年長のくせにこんなワガママばっかか!」

「それを言ったら戦争でしょー!」

 

 そのまま、二人は言い争いながら部屋から出て行った……そんな光景にカラレス教官や同期のみんなはポカンとして、俺はどう収集をつけたものか頭を抱えていた。

 ……しかし、そうしてみんなが動けない所で部屋の隅にいたセレイナさんだけは一人普通に動いて登壇の前に立った。

 

「それでは、これでカラータイマー移植手術についての説明は終わりになります。この後は自分が移植を希望するカラータイマーの種類を書類に書いて提出してもらいます。先程、マーブル博士が紹介した内蔵型も問題無く施術可能ですし、盗難対策に関しては後々全てのカラータイマーに施される予定ですから自分が良いと思った物を選んで下さいね。……何せカラータイマーは皆さんと一生涯付き合っていく物ですから、よく考えて決めた方がいいでしょう」

 

 その彼女の言葉によって、技術局に於けるカラータイマー移植手術の説明会は幕を下ろしたのだった……流石はカラータイマー移植手術のベテラン、その言葉には説得力でこの状況を見事に収め切ってみせたな。プロって感じでマジ凄い。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「それでアーク、お前はどんなタイマーにする気なんだ? 俺はスタンダードに半球型にしようと思っているんだが」

「ゴリアテはそれにするのか。……俺は前から決めていた通り半球状のタイマーに逆向きの涙型の土台をつけようと思う。半球状だと親父と完全に被るしな」

 

 説明が終わってから俺達は各々の希望するカラータイマーの種類を書類に書いている所だった……途中からどうなる事かと思ったが、セレイナさんの言葉もあって今はみんな真剣な表情で自分のカラータイマーを選んでいた。

 

「二人はもう決めたんですか。……私は折角なので内蔵型にしてみようかと」

「僕もそうしようかな。……万が一の事を考えると頑丈な方がいいよね」

 

 どうやらフォルトとメビウスは内蔵型カラータイマーにするみたいだな……まあ、あのマッド達の実力に関しては本物だから性能面に関しては確かだろうし、ここでああやって紹介したという事は問題とかも一切無いだろうしな。

 

「では書き終わった者から提出してくれ。……一応、まだ時間はあるし焦らずともいいぞ」

「「「「はい、分かりました」」」」

 

 そうして俺達は自分が希望するカラータイマーの種類を提出して、後日改めて移植手術に臨む事になった……それからは特に何か語る事も無く、俺を含む同期生達は普通にカラータイマーを移植する事に成功して、これから始まる宇宙での実習に備える事が出来たのだった。




あとがき・各種設定解説

マーブル博士:実はウルトラの父や母と同年代
・カラータイマー“その物”の開発にも関わっている天才科学者で、タイマー内部の『超小型プラズマスパーク』は彼女の作品。
・だが、基本的に研究出来ればいいマッド気質なので、素行不良など色々な理由を付けて出世を拒否して現場にいる人。
・本人曰く「技術局の長官なんて面倒だからやってられないよ?」だそうである。

内蔵型カラータイマー:盗難対策用の最新型
・具体的な形状は原作のメビウスみたいに体内に埋め込まれているヤツで、形は色々選べる。
・強度に関しても“全身を黄金化された上でカラータイマーを直接攻撃しても”そう簡単には壊れない程。
・ただ、盗難対策が一般化した事と手術にやや手間がかかる事などから一部のウルトラ戦士が採用するに留まった模様。

【泥棒怪獣 ドロボン】:ウルトラマンをペシャンコにした事で有名
・バリアとか張られて生体融合もしているカラータイマーを盗めるトンデモ怪獣。
・更に盗んだ“ウルトラマンにしか使えない筈の”カラータイマーを胸に付けてパワーアップしたり、3分間たったらエネルギー切れで弱体化したりする。
・上記の事や、普通はカラータイマーを外してもペシャンコになったりはしない事から、技術局では『“ウルトラマンのエネルギー”という概念を盗んでいるのではないか』と推測されている。

セレイナ:銀十字軍所属のベテラン。
・年齢はゾフィー等と同年代でありウルトラの母の薫陶を受けた一流の軍医で、今まで多くのカラータイマー移植手術をこなしている。
・実はマーブル博士の功績も知っており、彼女の事は尊敬している。

フレア:最近はお疲れ気味
・原因はヒカリが居なくなってマッド達の面倒が彼に集中している事や、トレギアのタロウロスなど。


読了ありがとうございました。
皆さんの感想や評価は作者のモチベーションの向上に役立っております。


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大暴走! ウルトラの星! (前編)

 さて、色々()あったが俺達は無事にカラータイマーの移植を終えて、士官学校では本格的な宇宙での訓練に入っていた……そして、今日はウルトラの星から少し離れた所にあるデブリ帯での機動訓練と、宇宙空間で多数障害物がある場所での戦闘訓練を行っていた所だ。

 

「あークソ、デブリ帯を念力などを使わずに一切デブリに当たらず高速機動で通り抜けるとか、普通に難しいんだが」

「……ただ飛ぶだけならウルトラ族は誰でも出来ますが、上手く飛ぶには相応の訓練がいるとはカラレス教官の弁でしたね」

「宇宙空間での戦闘も重力下でのそれとはまた別のやり方が必要になってくるしね」

「宇宙空間では周囲に配慮する必要があまりない分だけ光線技が使いやすいけど、地面がない以上は全方位を警戒する必要があるから難しいな」

 

 親父達との訓練は殆どが重力下でのものだったから、俺も今回の訓練では結構手間取った……カラータイマーを付けた訓練生はウルトラの星近辺の宙域でなら無許可で宇宙に出る事が出来るし、これからは宇宙空間での自主訓練とかやった方がいいかな。

 ……まあそんな感じで、今日も無事に一通りの訓練を終えた俺達は、そのままウルトラの星に戻る為に宇宙を飛んでいたのだが……。

 

「お、ウルトラの星が見えてきたぞ。……今日はなんか随分と早く着いたな」

「訓練のお陰で飛行速度が上がった……訳じゃないよね」

「飛行速度は普通に教官に合わせて巡航速度ですから……え? いやちょっと待ってください⁉︎」

「……俺の見間違いでなければ、ウルトラの星が()()()()()()()()()()()()()()()気がするんだが⁉︎」

「全員! 急速旋回!!! この場から離脱しろ!!!」

 

 要約見えてきたウルトラの星に俺達訓練生が違和感を感じた直後、普段の授業どころか以前の襲撃事件の時でさえ決して見られない程に焦った様子のカラレス教官が大声でその場からの離脱を俺達に命令した。

 嫌な予感がしていた俺達は即座にその命令に従い、飛行速度を限界まで上昇させて急速旋回してカラレス教官の後を追ってその場からどうにか離脱する事が出来た。

 ……その直後、向こうに見えていたウルトラの星が急激に加速して先程まで俺達が居た場所を通り過ぎていき、そのまま()()()()()()()()()使()()()何処かに消えてしまったのだった。

 

「…………って! ウルトラの星がどっかいってしまったんだけど⁉︎」

「一体どうなってるんだってばよ⁉︎」

「お、落ち着け……ま、まだ焦るような時間じゃない……」

「あばばばばばばばばば」

「どういう……ことだ……」

 

 うん、いきなりのウルトラの星の大暴走とか言う急展開にみんな大混乱しているな……以前のバット星人の侵略の時は、少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()から恐怖はあってもそこまで混乱する事は無かったが、今回のコレは正直言って状況が全く分からないからなぁ。

 ……実際、そういう俺だって物凄く混乱しているから、何をどうすればいいのか分からず呆然としてしまってるし……。

 

「……む! お前達、一旦落ち着け! ……そして、あのウルトラサインを見ろ!」

「え?」

「……アレは!」

 

 そこで、唯一冷静に状況を把握していたカラレス教官が俺達にとある一点を見るように大声で命令した……その教官の声に最早条件反射で従うレベルで鍛えられた俺達は、すぐさま彼が指を指した方向にあったウルトラサインを見たのだった。

 ……そして、そのサインには『ウルトラキーが盗まれ、現在ウルトラの星が本来の軌道を外れて暴走している。奪われたキーの奪還にはウルトラ兄弟と本星に居た警備隊員が向かった。他の警備隊員は直ちにウルトラの星から振り落とされた施設や人員の救助を行え! 宇宙警備隊隊長ゾフィー』と書かれていた。

 

「よし、お前達。あのサインを見たから状況は理解出来たな。……ウルトラの星が大きく移動したせいで宇宙空間に投げ出された者や、余波で破壊された高層施設や衛星軌道の施設が多く発生している。よって、これから我々は投げ出された者やそれら施設に取り残された者の救助を行う。……返事は!!!」

「「「「「は、はいっ!!!」」」」」

 

 そうして、宇宙警備隊隊長直々のウルトラサインとカラレス教官の明確な指示のお陰でどうにか混乱から立ち直った俺達は、すぐさま教官の指揮の元でウルトラの星があった場所近くでの救助活動を行う事になったのだった。

 ……不覚にも俺はこの非常事態に動揺してまともに動けなかったからな。これ以上、親父の顔に泥を塗る訳にはいかん。汚名返上と人命救助の為にも頑張ろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……よーし、これでこの辺りの救助者は全員避難地点に送り終わったな」

「ええ、そうですね。……念の為に周辺を索敵しておきましょう」

 

 そんな訳で、俺達士官学校訓練生はカラレス教官の指揮の下で数個のグループに別れてウルトラの星から放り出された者を探し出して救出し、その彼等を即興の避難場所に仕立てたウルトラの星の近くにある居住可能な惑星に送る作業を行っていた……幸い、ウルトラ族は種族的に頑丈であり宇宙空間でも普通に活動可能なので怪我がある者は居ても、今の所だと死者は出ていない様だ。

 ……とはいえ、先も言った通り宇宙空間での活動にはそれなりの訓練が必要だし、この余の異常事態に普通の住民は混乱しているのでまともに動く事は出来ていない様なのでこうして救助する者が必要になる。

 ちなみに破壊された施設への救出作業は瓦礫の除去などに一定以上の技能を要求されるので正規の宇宙警備隊員が向かっており、俺達訓練生は放り出された人員の救助のみを行えと言われている。

 

「……でも、どうしてウルトラの星がいきなり暴走したんだろう?」

「ウルトラキーが何者かに盗まれたとゾフィー様のサインには書かれていましたが、それだけで惑星一つがあんなにも動くものなのでしょうか……?」

「それは……おそらく奪われたウルトラキーを使ったんだろうな。アレを使えば惑星一つをワープ航法させる事も不可能ではないだろうし」

 

 ある程度時間が経って冷静になったからか同じチームだったメビウスとアムールがそんな風に疑問を口に出していたので、俺は自分の知っている限りの情報から推測出来た事を口に出してしまった。

 ……うむむ、やっぱり俺もまだ動揺しているかな。こんな状況でわざわざ話す必要も無かったか? ……しかし、周りの視線がめっちゃ説明を求めているし、途中で止める方が士気とかに影響が出るか……。

 

「……あー、ウルトラキーってのはウルトラの星の運行を司っている秘宝なんだが、アレの本来の能力は『時空間を含むあらゆるエネルギーの増幅・操作』らしいからな。……それを悪用すれば惑星一つをワープ航法させられるレベルの」

 

 親父から聞いた話だと今から26万年前にあったM78星系の太陽爆発、その時にウルトラの星が滅びの危機を迎えたのだがプラズマスパークの完成でその危機を乗り越えて、ついでになんかウルトラ族が今みたいな超人に進化した事はみんな知っていると思う。

 ……実はその際にウルトラの星の運行が乱れる事態になったらしく、その際に惑星の運行に必要な様々なエネルギーを制御する為の『万能エネルギー操作装置』として作られたのがウルトラキーなのである。

 

「ちなみに万能エネルギー制御装置だから、武器として使った場合には所有者のエネルギーを増幅・制御して大規模な破壊光線を撃つ事も出来るし、その対象を破壊した時に齎されるエネルギーを周辺に影響が出ない様に制御・消滅させる事も出来たりする。……昔、ウルトラの父が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『デモス一等星』が、ウルトラの星の運行上に現れた際に破壊したのはこれな」

「……逆にそれだけ万能で高エネルギーを操作出来るなら、相応の知識さえあれば惑星規模の物体をワープ航法させる事も出来てしまうと……」

 

 まあ、今回の事件はフォルトの言った通りにウルトラキーを奪ったヤツがソレを使って行った事である可能性が高いのだろう……前から思っていたがウルトラの星ってセキュリティザル過ぎでは? 数十万年も犯罪が(とある一例を除き)起きなかったから、ウルトラ族には治安維持とかの考えが希薄だからかねぇ?

 ……ちなみに惑星の運行を司る様な重要アイテムなら予備ぐらい作っておけよと思うのだが、ウルトラキーはプラズマスパークを作り上げた『ウルトラの長老』と呼ばれていた科学者達が作り上げた物の一つであり、彼等自身や彼等の作った物の情報が当時の混乱で大分散逸している所為で一種のロストテクノロジーとなっているので現在の技術では複製困難らしい。

 

「……まあ、ウルトラキーに関しては隊長やウルトラ兄弟が奪還に向かったし、ぶっちゃけそっちで俺達が出来る事は無いから今は救出作業を頑張るしか無いさ」

「……それしか無いですかね」

「うん! 今は自分に出来る事をやろうよ!」

 

 そうして、俺達は無駄話をさっさと切り上げて放り出された者の捜索と救出作業を続行して行くのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そんなこんなで他の宇宙警備隊員と協力して救出作業をただひたすらに行なっている俺達訓練生……正直、何か作業をしていないと余計な事を考えてしまい動揺してしまいそうだからね。

 ……また、事件の情報も色々と錯綜しており『ウルトラの星が地球に衝突しようとしている』だとか『今は亡きL77星の生き残りの王子アストラがキーを奪った』みたいな話がこっち(訓練生)にも聞こえて来ている状態である。

 

「しかし、“地球に衝突する”だの“L77星の王子がキーを奪った”だの……どこまで本当なのかね」

「地球に衝突する可能性はゼロじゃないってとこかな。さっきのウルトラの星の進行方向は地球がある太陽系だったし。……まあ、その辺りは地球(魔境)慣れしてるウルトラ兄弟がどうにかするでしょう」

 

 とりあえずゴリアテが発したその疑問に俺は当たり障りの無い感じで答えていく……本当は救出作業中にこんな話をするのは良くないんだけど、どうやら俺の(適当な)解説でもみんなの精神を安定させる事が出来るみたいなんだよな。

 まあ、状況が全く分からないままよりも(本当かどうかはともかく)ある程度状況が理解出来ている方が冷静になれるって事かな。

 

「……だが、もう一つのL77星王子の方は怪しいかな。……故郷の星が無くなって漸くウルトラの星に移住出来たのに、ワザワザそれをぶっ壊す理由は無いだろうしね。……ウルトラの星の乗っ取りとかならともかく」

「確かにそうですよね。……やはり、混乱の所為で誤情報が錯綜している様ですね」

 

 ……とはいえ、確か今はL77星の王子であるレオさんって人が負傷したセブンさんの代わりに地球を守る任務に着いていると聞いているし、ウルトラの星が地球に向かっている事も含めてそのアストラって人が無関係って訳では無さそうだけど。

 ……まあ、状況が錯綜している今の段階でそこまで言うのは逆効果だし、そもそも犯人が何処の誰であろうととりあえずブチのめしてウルトラキーを奪還すれば問題は解決するし大丈夫だろう。

 

「……おーい! アーク〜!」

「なんだ、メビウス?」

 

 そんな事を考えていると、突然向こうに居たメビウスが俺の事を呼んで来た……一体なんの様だと思いそちらに振り返ってみると……。

 

「あのね! ()()()()()()がこっちに来ててね! アークに用があるんだって!」

「……久しいな、息子よ」

 

 そこには何故か妙に興奮した様子のメビウスが、これまた何故かうちの親父である“宇宙警備隊隊長ゾフィー”を連れて来て居たのだ……いやいや、メビウスが興奮しているのは憧れのウルトラ兄弟に会えたからだと分かるんだが、なんで奪われたウルトラキーを追って行った親父がここに居るんだよ。

 ……それに、この“親父”にはなんか物凄〜く()()()を感じるんだよな……ふむ……。

 

「……で、“親父”がどうしてこんな所に居るんだ? 奪われたウルトラキーを追ってたんだろ?」

「この事件に巻き込まれたお前の事が心配でな。……それに奪われたウルトラキーについて気になる事があって少し調べていたんだ」

 

 ……ふーん、“息子”である俺の事が心配でねー……へー? ……正直、この親父()は色々と露骨に怪しすぎる所為で逆にどう対応していいのか分からなくなって来たな。

 つーか、そもそも宇宙警備隊隊長である親父がこんな大事件の最中に単独で持ち場を離れる訳がないんだよなぁ。それにさっき聞いた『ウルトラキーを奪ったアストラ』の話を考えると……。

 さーて、俺の勘だとこれはかなり面倒くさい状況になって来ている気がするんだが、本当にどうしようかな……。




あとがき・各種設定解説

アーク:勘はいい方
・流石に今回の事件では結構動揺しており、どう行動すれば良いのか迷いが生じている。

ウルトラキー:本作独自設定
・普段は第2ウルトラタワーでウルトラの星の公転・自転運動を制御している。
・定期的な惑星運行の確認作業が行われたり、万が一の時に使用する事がある所為で、第2ウルトラタワーのセキュリティは第1ウルトラタワーと比べると緩い。

何故か訓練生のところに現れたゾフィー:一体何ルウ星人なんだ……!


読了ありがとうございました。
あからさま過ぎるぐらいに怪しいゾフィー()に対してアークはどうするのか! 次回をお楽しみに。


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大暴走! ウルトラの星! (中編)

 さて、そんな訳でメビウスがあからさまに怪しい親父(?)を連れて来やがったので、俺は正直どうしようかと悩んでいた……というか、本当に何をしに来たんだコイツ。

 暴走事件に関わっているにしてもわざわざ此処に来る理由が思いつかないし、いまいち行動の意図が読めないんだよな。

 ……それに、親父の存在に気が付いて他の同期生達も騒ぎ出した(約1名の親父ファンはなんか嬉し過ぎてフリーズしてる)しな、さっさと行動を決めないと。

 

「それで? 親父()はこれからどうするんだ?」

「うむ、さっきも言ったがウルトラキーの強奪事件について気になることがあるから、こちら側で行動している宇宙警備隊員に話を聞きに行こうと思ってな。……案内してくれるか息子よ」

 

 ……はい、ダウト。俺に案内して貰わずとも宇宙警備隊隊長ならウルトラサインなりでこっちの隊員に連絡を取るだろうし、それが出来なくても普通なら自分は指揮に集中して他の隊員に連絡を任せる筈だしな。

 それに、親父は公私をキッチリと分けるタイプだがら()()()()()()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()からな……つーか、親父は俺の事を基本的には名前で呼ぶし。

 ……しかし、この状況をどうしたものか、同期生達への影響も考えると早急かつ的確な対応を行わないと……ないと……。

 

「……どうした息子よ。悩みがあるならこの父に「もう面倒くさくなって来たからとりあえず殴る!」ゴッバァァァァァァ!!?」

 

 なんか色々と考えるのが面倒になって来たことと、訳知り顔で俺の肩に手を置いて来た親父(偽)にちょっとイラッとして来たので、とりあえずその顔面をエネルギーを込めた腕で全力でブン殴っておくことにした。

 ……うん、本物の親父なら今程度のテレフォンパンチは余裕で回避出来るだろうしコイツは偽物で確定だな。やはり暴力は全てを解決する……。

 

「ええええ! アーク何やってるの⁉︎」

「顔面にもろ入ったんだけど⁉︎」

「キャァァァァ!!! ゾフィー様〜〜〜!!!」

「一体何を「狼狽えるな!!! 」……ええ⁉︎」

 

 突然の俺の暴挙に同期生達が慌てふためき始めたので全身全霊の大声で一括する事によって混乱を抑える……こうなってしまうと一々説得とかやっている暇も無いからな、ここはなんかこう勢いで誤魔化そう。

 

惑わされるな!!! お前達はアレが宇宙警備隊隊長ゾフィーに見えるのか!!!」

「え? いや見えるけど……」

「まさか……偽物ですか?」

「そんな⁉︎ ……でも、実の息子であるアークが言うのなら……」

 

 まあ、正直言って見た目とかエネルギーの波長とかは、実の息子である俺の目から見ても親父と全く同じだからなぁ……多分、黙って突っ立っているなら俺でも見分けはつかん。

 ……とは言え一々詳しく説明している余裕は無いし、このまま勢いで押し切るんだが。

 

惑わされるなと言っておる!!! ……まず一つ! 宇宙警備隊隊長ゾフィーがこんな異常事件の最中に持ち場を離れる様な事は無いだろう、常識的に考えて! ……そして二つ! 親父は公私はキッチリと分けるタイプだから任務中に俺を“息子”などとは呼ばん! そもそも俺の事は基本的に名前で呼ぶ! ……最後に三つ! 本物の親父ならさっきの一撃ぐらい余裕で回避出来るわ! ……つまり、そいつは偽物だ。いい加減に正体を現すがいい!」

「な、成る程……?」

「だとすると、やっぱり偽物?」

「くっ! ゾフィーさ……じゃなくて宇宙警備隊隊長に化けるなんて!」

 

 まあ、今言った中で偽物云々は結構適当なんだけどな。もしかしたら洗脳とかの可能性もある訳だし……だが、どちらにしてもとりあえずブン殴って制圧すればどうにでもなるから、初手全力顔面パンチは実に合理的な選択だと思う。

 ……“殴る”と言うワンアクションで偽物にも洗脳にも対応できる。やはり暴力こそが万能の問題解決手段、これこそが賢者の拳(ワイズマンフィスト)……! 

 

「……グゥゥゥ……。まさか最初から気付かれていたとはなぁ。身内が居るとはついてないぜ」

「ふん、変身能力は一流でも役者や演出家としては三流以下だ。……宇宙警備隊隊長がこの状況で単騎とか、俺でなくても違和感を感じる様な不自然なシチュエーションだからな。変身する対象を完全に間違えているわ」

 

 そんな風に勢い任せに話していたら、さっき全力でブン殴った親父(偽)が殴られた頰を抑えながら話し始めたので、とりあえずその場のノリで駄目出しをしておく……流石に肉親じゃなくてもある程度親しければ違和感を感じるぐらいに拙い演技だったからな。

 ……さて、コイツが偽物と確定したので()()()()にも検討が付いて来たな。

 

「……しかし、こんな風に変身能力を使って暗躍する星人には心当たりがあるな。……そうか、貴様の正体は【ザラブ星人】だな!」

「違うわ!!! あんなド下手な変身しか出来ない連中と一緒にすんじゃねえ!!!」

 

 俺が適当に変身能力を持つ種族の名前を挙げると、何故か激怒しだした親父(偽)はとうとうその変身を解いた……そこに姿を現したのは黒い体に金色の鎧を纏い、二本のツノと赤い目をした宇宙人だった。

 ……その姿には見覚えがある。成る程、つまり今回の騒動に於ける主犯は……。

 

「貴様は……【マグマ星人】だな!」

「ちげ────よ!!! 俺様は【ババルウ星人】だ! あんなチンピラ共と一緒にするんじゃねぇ!!!」

 

 だって、お前らそっくりだから中々見分けが付かないんだもん……半分くらいは親父の姿を使われた事にイラついていたから意趣返しをしただけだけどさ。

 ……しかし【暗黒星人 ババルウ星人】か。確か『暗黒宇宙の支配者』とか言う異名を持っていて、以前に親父から昔のデカイ事件で戦った事があるって聞いた事があるな。

 

「しかし成る程、という事は『ウルトラキーを盗んだアストラ』の正体もお前達だな」

「くくく……その通りよ。ウルトラキーを盗んだ時に敢えてL77星出身のアストラの姿を晒す事で、ウルトラ戦士の疑いの目をL77星出身の王子達にむけさせたのさぁ。そして、ウルトラキーを使ってウルトラの星を地球に向かわせる事で、ウルトラ兄弟と地球に居るレオを同士討ちにさせると言う算段さ。……今頃、地球では醜い同士討ちが始まって居るだろうよ」

 

 俺が同期生達が落ち着くまでの時間稼ぎも兼ねて適当な質問をすると。何故か目の前のババルウ星人は今回のウルトラの星暴走事件の真相をペラペラと話し始めた……コイツは馬鹿なのかな? そこまで喋る必要は微塵も無いと思うんだが。

 ……しかし、だとするとちょっと疑問点があるな。

 

「……それなら、どうしてお前は宇宙警備隊隊長に化けてまでこんなところに来て居るんだ? ……ウルトラの星を地球に向かわせて、ウルトラ戦士を同士討ちさせる事はもう終わっているんだからな。わざわざ危険を犯してまで宇宙警備隊に接触する必要がどこにある?」

「ふっ、そんな事も分からないのか? ……簡単な事よ、ウルトラの星が大暴走して宇宙警備隊が混乱している今なら、有名な警備隊員を簡単に始末出来るからなぁ。そうすれば俺様の名も宇宙に届くって寸法よ」

 

 ……なんだ、要するにただの火事場泥棒か。こんな雑な行動を取る裏には、何かウルトラの星の暴走に匹敵する様な狙いが実はあるんじゃないかと深読みしてしまったがそんな事は無さそうだな。

 ……さて、聞きたい事は一通り聞けたし……。

 

「成る程成る程、だいたい分かった……と言うわけでウルトラサインをソォイ!」

「なぁ!? テメェ、何しやがる!」

「何って……重要情報を聞いたから報告しただけだが?」

 

 そして、ババルウ星人から情報を引き出し終えた俺は、すぐさまウルトラサインを使って今聞いた情報を簡単に纏めて他の警備隊員に伝えたのだった……一応、俺も見習いとは言え宇宙警備隊員なんだから、現在の『ウルトラの星暴走事件』の重要情報を知った時点で報告するのは当然なんだよなぁ(煽り)

 じゃあ、後は目の前のコイツをどうするかだが……個人的には親父の姿を使ってくれた礼をしてやりたい気持ちも有るが、まだちょっと話について来れてない他の同期生とかも居るしな……。

 

「チッ、クソが! ……だったらお前ら全員皆殺しにしてやるよ。この装置でなぁ!」

「むっ、これは……?」

 

 散々煽ったからかいきなりキレ出したババルウ星人は腕に付けていたブレスレット型の機械を操作した……すると、俺達の周囲からあらゆる光が消滅して辺り一帯が暗黒の空間に包まれたのだ。

 ……更に無重力の宇宙であるにも関わらず、俺の身体はまるで重石でも背負ったかの様に重くなりかなり動き難くなったのだ。

 

「フハハハハハハ!!! これが貴様等ウルトラ戦士に対する切り札『対ウルトラ戦士用擬似暗黒宇宙展開装置』よ! この空間内部には貴様等がエネルギーとする光が一切存在せず、加えてお前達ウルトラ戦士の動きを制限する重圧が常にかかり続けるのだ! ……無論、暗黒宇宙出身の俺様には何一つ効果は無く、むしろ故郷と同じ環境だから動きやすいぐらいだがなぁ!」

「か、身体が重い……!」

「エネルギーも……!」

「クソォ……このままじゃあ……!」

 

 周りを見ると同期生達もエネルギー不足と重圧によってまともに動けなくなっている様で苦しそうにもがいている……どうやら無策で宇宙警備隊員に喧嘩を売る気は無かったみたいだな。ここまでの装備を用意しているとは。

 ……異次元環境での訓練を経験している俺なら動く事自体は出来なくはないが、動き自体は鈍るので周りの同期生達をフォローしながら戦うのは難しそうだな。相手も小物臭い言動をしているが弱くは無さそうだし。

 

「本来なら変身能力で宇宙警備隊の精鋭に潜り込んで、そいつ等をまとめて取り込む予定だったんだが仕方がない。……まずは散々虚仮にしてくれた貴様から血祭りに挙げてやるわぁ!!!」

「アーク! 危ない!」

「逃げて!」

 

 そして、目の前のババルウ星人はそんな事を宣いながらさすまたの様な長い槍を取り出して俺に斬りかかって来た……後ろからメビウスを始めとする同期生達の悲鳴が聞こえてくる中で俺は冷静に相手の事を見据えていた。

 ……まあ、親父からも『自分の力には自分で責任を持つ限り好きに使っていい』と言われているし、この空間の重圧下だとこちらの姿では躱しきれなさそうだし……じゃあ()()()()姿()で行きますか。

 

「タイプチェンジ、リバーススタイル。……フロストブレード!」

「なにぃ!? 姿が変わっただとぉ!!!」

 

 そして俺は相手の攻撃が当たる直前にもう一つの姿である『リバーススタイル』へと変身して擬似暗黒宇宙の影響下から脱すると、即座に右腕から氷の剣を展開して突き出されたさすまたを受け流した。

 ……とは言え、俺の剣術のレベルでこのまま近接戦闘に付き合うと身体能力差で押し切られそうだし、ここは一旦距離を離すべきだろうな。

 

「そう言うわけで新技だ。……パームスマッシュ!」

「ゴホォ!?」

 

 俺はそのままババルウ星人の懐に潜り込むとその腹に左の掌底を押し付けて、そこから高出力の念力を瞬間的に発生させて相手を吹き飛ばした……これがリバーススタイル時の近接戦闘用の新技『パームスマッシュ』である。

 リバーススタイル時の近接戦闘での脆弱性を克服するために強力な念力を近接戦闘用に調整した技なのだが、発生速度を重視しているので威力面ではやはりそこまででは無く、相手を押し出して体勢を崩すか距離を取る為に使うのが主な用途になるかな。

 ……なので、吹き飛ばされたヤツは多少よろめいたぐらいで直ぐに体勢を立て直して武器を構えて来たしね。

 

「……クソッ! なんだその姿は⁉︎ どうしてこの暗黒宇宙で普通に動けるんだ!!!」

「この姿の名前は“リバーススタイル”、俺の父親である宇宙警備隊隊長ゾフィーから受け継いだ(多分)もう一つの姿さ。……そして、この姿になると環境への適応能力が大幅に上がる(おそらく)のでな、この擬似暗黒宇宙とやらの影響を受けないのさ」

 

 余程この擬似暗黒宇宙とやらに自信があったのか、俺がその中で当たり前の様に動いた所為で非常に動揺しているババルウ星人の質問に俺は丁寧に答えてやった……俺の姿が変わった所を初めて見て驚いているのは同期生達も変わらないので、そっちへの説明も兼ねているが。

 ……最もリバーススタイルに関しては自分でもよく分かっていない所が多いので大分適当な説明だったが、とりあえず親父の名前を出しておけば混乱は起きにくいだろう。

 

「舐めんじゃねぇ! ……他の連中が動けないのは変わんねぇし、お前をさっさと始末すれば良いだけよ!!!」

「……そう簡単に行くかな?」

 

 ……まあ、俺としても尊敬はしている親父の姿を騙って悪行を成そうとした事は許す気は無いんでな。そっちがその気なら遠慮なく叩き潰して差し上げるとしようか!




あとがき・各種設定解説

アーク:リバーススタイルを公で初披露
・実は内心結構テンパってるので色々と勢いで押し通した。

ウルトラサイン:ウルトラ戦士の伝達手段の一つ
・数十万光年離れていてもウルトラ戦士同士なら即座に情報を伝達出来るので、ウルトラの星の宇宙警備隊では主力の情報伝達手段として使われている。
・だが、偽装されたり途中で破壊されたりある程度の知識がある第三者には読み取られたりするので、実は確実性や隠匿性はそこまで高くない。
・とはいえ非常に有用な通信手段である事には変わりなく、上記のデメリットに関しては隠匿性に長けたテレパシーなど複数の情報伝達手段を状況によって使い分ける事で対応する事が推奨されている。

ババルウ星人:ウルトラキーを盗んだヤツの協力者
・あちらからは『残ったウルトラ戦士達を適当に襲う事でこちらに関われない様に向こうを混乱させてほしい』と言われていた。
・だが、本人が野心家だった事と新兵器である『対ウルトラ戦士用擬似暗黒宇宙展開装置』を貰った事でウルトラ戦士を倒して名を上げる目的で行動する事になった。
・尚、ウルトラキーを盗んだヤツの本心は『適当に暴れて少しでも向こうの目を逸らしてくれれば良いや』程度のもので大して期待されていない。


読了ありがとうございました。
次でウルトラの星暴走編は最後になると思います。お楽しみに!


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大暴走! ウルトラの星! (後編)

 とある宇宙の一角に展開されたウルトラ戦士の力を弱める擬似暗黒宇宙の内部。そこではウルトラの星が大暴走している裏側でウルトラ戦士の襲撃を企ていたババルウ星人と、それに対して隠していた力である“リバーススタイル”を解放した宇宙警備隊訓練生のアークが戦いを繰り広げていた。

 

「はっ! 擬似暗黒宇宙の効果が無かろうがテメェ一人如き直ぐにブチ殺してやラァ! 喰らえェ!!!」

「やれやれ、随分と血の気が多いな。ブラックゲート!」

 

 まず、さっきからの挑発やら何やらで実はキレていたババルウ星人が左手から複数の光弾を放つが、アークは左手を前方に突き出して前方にお約束のブラックゲートを開いてそれらの光弾全てをその中に飲み込んで見せた。

 ……更にアークは直ぐにゲートを閉じると冷気と念力を操って四枚の氷で出来たブーメランを作り上げる。

 

「そら、今度はこっちの番だ! クアトロ・フロストスラッガー!」

「舐めるなぁ! そんなオモチャどおって事無いんだよォ!」

 

 そして、そのまま右手に展開した氷の剣を指揮棒代わりに振るって四枚の氷のブーメランをババルウ星人に向けて次々と飛ばしたが、相手も手に持ったさすまた──“ババルウスティック”を振り回してそれらのブーメランを砕いていく……が、アークはそれを冷静に眺めるとその背後に再びブラックゲートを開き……。

 

「……ほら、そっちの攻撃だ。返すぞ」

「何? ……ぐわアアアアア!!!」

 

 そして、そのゲートから先程飲み込んだババルウ星人の光弾を全て出して、それら相手の背に直撃させてダメージを与えた……以前の父親であるゾフィーとの模擬戦で敗北して以来アークはリバーススタイルでの戦闘訓練により力を入れており、その一つ一つの技の練度も大きく上がっているのだ。

 

「チッ! 訳の分からない力ばかり使いやがって! 貴様本当にウルトラ戦士かよ!」

「変幻自在の戦いがこの姿の特徴なんでな……そちらこそ、ウルトラ戦士を倒して名を上げると言う割には大した事は無いように見えるが?」

 

 ダメージを受けた事でババルウ星人はアークに毒づくが、彼は適当にその発言を受け流して逆に挑発を仕掛けた……とは言っても、幾ら練度を上げた所でリバーススタイルが()()()()()()()()()()()()な姿である事は変わっていないのだが。

 アークにとっても今の戦況はそれほど余裕がある訳では無く、先程から相手を挑発しているのも、それによって敵の冷静さを失わせて少しでも戦況を有利に運ぶ為である。

 ……だが、散々な挑発を受けて怒り心頭に達していたババルウ星人は突然その顔を邪悪な笑みに変えて周りを見た。

 

「……ククク、だったらよぉ〜……こういうのはどうだ!!!」

「ゼアッ⁉︎」

「アイツ、こっちに攻撃を!」

「クソッ! 身体が上手く動かねぇ!」

「こんな程度の攻撃普段なら……」

 

 そして、ババルウ星人は未だに擬似暗黒宇宙に囚われて上手く動く事が出来ない他の訓練生達に左手からの光弾を乱射し始めたのだ……それらの光弾は次々と訓練生達に当たって彼等を傷つけていく。

 

「ヒャハハハハハハハ!!! ほらほら〜アイツらを庇わなくていいのか〜! お前は宇宙警備隊隊長の息子なんだろ〜!」

「くっ……アーク! 僕達の事はいいから!」

「この程度の攻撃でどうにかなる俺たちじゃねぇ!」

「今は自分の戦いに集中して下さい!」

 

 先程までの挑発の意趣返しなのかババルウ星人は嗜虐的な笑みを浮かべながら他の訓練生達をいたぶっていく……そんな攻撃を受けている彼等はそれでもアークに自分達の事は気にするなと言うが、それに対してアークは……。

 

「安心しろメビウス……()()()()()()()()()()。アクセルダッシュ!」

「は? ……ぎゃああああああ!!!」

 

 攻撃されている同期生達に見向きもせず即座にアクセルダッシュ──自分の身体を念力で短距離だけ超高速移動させる技を使って一瞬でババルウ星人に接近し、そのまま右手のフロストブレード(氷の剣)で相手を斬り裂いた。

 ……更に彼は怯んだ相手にそのまま連続攻撃を仕掛ける事で同期生達に攻撃する余裕を無くしていく。

 

「き、貴様ぁ! 宇宙警備隊員なんだろう⁉︎ 仲間を庇わなくても良いのか!!!」

「いや、攻撃してるのがお前しか居ないんだから攻め立てて余計な事をする余裕を無くす方が良いに決まってるだろ? ……それに、俺の仲間達はあの程度の攻撃でどうにかなる事は無いさ」

「アーク……」

 

 まあ、流石に攻撃を受けているのが何の力も無い民間人なら庇ったかもしれないがとも考えつつ、アークは高速移動や念力などを駆使してババルウ星人への攻勢を更に強めていく。

 ……そうして、とうとう相手の腕に着いた『対ウルトラ戦士用擬似暗黒宇宙発生装置』を左手で掴む事に成功した。

 

「……やっと掴んだ。パームスマッシュ!」

「ッ! しまった! 装置が⁉︎」

 

 そしてアークはそのまま掴んだ手に全力の念力を発生させて装置を粉々に砕いたのだった……彼は最初からこの暗黒宇宙を発生させている装置の破壊だけを目的にしており、あの散々行なった挑発やこれまでの攻撃はもどうにか接近して装置に破壊を行える隙を作る為のものだったのである。

 ……装置を破壊したお陰で展開されていた擬似暗黒宇宙は解除されたが、ババルウ星人はそれでも諦めが悪くアークの腕を無理矢理振り払って距離を取り彼に向き直って戦闘を続行しようとした。

 

「クソがァ!!! だがまだだ! 暗黒宇宙なんぞ無くても……「いや、もう終わりだ」「メビュームスラッシュ!」「フォルトスライサー!」「ゴリアテックブラスト!」ぐわアアアアア!!!」

 

 のだが、そこに暗黒宇宙が解除されて自由を取り戻した訓練生達の一斉攻撃がババルウ星人に突き刺さり大ダメージを与えたのだった……彼等とて宇宙警備隊を目指す者達、暗黒宇宙が解除され相手が隙を見せた瞬間に攻撃出来る様に準備を進めていたのだ。

 ……そうして大ダメージを受けてまともに動けなくなったババルウ星人に対して、シルバースタイル(元の姿)に戻ったアークは必殺光線の構えを取った。

 

「……貴様の敗因は俺達ウルトラ戦士を舐めすぎた事だ。アークレイショット!!!」

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

 そんな言葉と共にアークがL字に組んだ腕から放たれた大威力の光線がババルウ星人に直撃して、その身体を跡形も無く爆散させたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ふう、どうにか退けられたか……」

 

 ババルウ星人との戦闘を終えた俺はエネルギーの使い過ぎで鳴り始めたカラータイマーを抑えながら一息ついた……あの暗黒宇宙をどうにかする為にリバーススタイルでの技の連続行使による短期決戦を挑まざるを得なかったからな。

 ……しかし、あのババルウ星人が弱い方で助かったな。親父から聞いた話だと強力なババルウ星人はコピー元の能力すらも自由自在に使いこなせるって話だったし……。

 

「アーク、大丈夫ですか?」

「今回は助かったぜ」

「……ごめんアーク。僕があの偽物に騙されていなければ……」

「気にすんなってメビウス。……正直、見た目だけなら俺でも見分けの付かない精度だからな、アイツらの変身は」

 

 そうしているとメビウス、フォルト、ゴリアテといった何時ものメンバーが声を掛けて来たので、俺はそのままエネルギーを回復させつつ話をしていく……後、メビウスは一々落ち込むな。向こうはウルトラタワーに潜入出来る程の変身能力を持っているんだからしょうがないだろ。

 ……さて、後はこいつら含む同期生達にさっきの『リバーススタイル』の事をどうやって説明するかだが……。

 

「そう言えばアーク、先程の姿は……?」

「アレは『リバーススタイル』と言ってな、俺が生まれた時から使える所謂姿を変える事で能力を変化させるタイプチェンジ能力ってヤツだな。リバーススタイルになると身体能力が下がり光線技が使えなくなる代わりに、特殊な環境に適応出来る様になったりウルトラ念力が強力になったり凍結系の技が使い易くなったりするなどの恩恵があるんだよ。……ちなみに今の姿の時は『シルバースタイル』と呼ばれている」

 

 そう考えているとフォルトがリバーススタイルについて聞いて来たので、これ幸いと自分の能力について一通りの説明を行っていく。

 ……一度見せてしまった以上は、下手に隠し立てしたり誤魔化したりするよりもちゃんと説明した方が色々と面倒が無さそうだしな。

 

「ていうか、お前そんな事が出来たのかよ。知らなかったぞ」

「リバーススタイルだと身体能力とか落ちるし光線技も使えなくなるから、あんまり使う機会が無くてな。……それにカラーリングが悪人っぽくなるし……」

「え? 確かに銀色の部分が黒くなってたけど、そんな事無いと思うけど」

 

 ……ん? そのメビウスの言葉にちょっとだけ違和感を感じた俺は少し()()()()を聞いてみる事にした。

 

「……えーっと、赤と黒は光の国での唯一の犯罪者である“ウルトラマンベリアル”と同じカラーリングなんだが……お前らそれ知ってた?」

「そうだったの? ……ベリアルの事は知ってたけどその身体の色までは知らなかったよ」

「教科書にも名前は載ってましたけど写真は無かったですよね」

「つーか、気にし過ぎだろ。……お前が色々おかしいのは何時もの事だし、今更色が変わった所で誰も気にせんよ」

「「「うんうん」」」

 

 なんという事でしょう、今の世代のウルトラ戦士ってベリアルの姿とか知らなかったらしいです……まあ、ベリアルの情報自体は結構制限されてるし、詳しい情報とかアーカイブの一番深い所探さなきゃ見つからないしな。

 多分、親父達は直接ベリアルと戦った世代だから、今の世代とここまでジェネレーションギャップがある事へ知らなかったんだろうなぁ……。

 ……後ゴリアテ、色々おかしいとは何だ。他の同期生も頷いてるし。

 

「それで? これからどうするんだ?」

「お前ら後で覚えてろよ……とりあえず、ウルトラサインは出してあるし一旦教官達や他のチームと合流しよう」

「ババルウ星人についての詳しい報告もしなければなりませんしね」

「ウルトラサインは一度に伝えられる情報量はそんなに多く無いしね」

 

 そういう訳で俺達は教官が居る他のチームにウルトラサインで連絡を取ってから合流する事にしたのだった……しかし、ババルウ星人は恐ろしい相手だったな。

 今回、俺が遭遇したのが頭が悪くて演技や演出も雑だったからどうにかなったけど、もっと知略と演技力に優れた相手だったらと思うとぞっとする。何せ見た目じゃ全く区別が付かないからな。

 ……アイツは親父達をレオさんと同士討ちにさせるって言ってたけど大丈夫だよな? ウルトラキーを持ち出した弟なんて怪し過ぎるし肉親なら違和感には気づくだろうし……大丈夫だよな? (2回目)

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「おい、お前達大丈夫か⁉︎ ババルウ星人が現れたと聞いたが……」

「カラレス教官! ……本物ですか?」

「ババルウ星人の変身では無く?」

「……なんならお前達の普段の授業の様子を細大漏らさず言ってやろうか?」

「あ、本物みたいですね」

 

 さて、そんなちょっとした掛け合いは有ったものの俺達は無事にカラレス教官率いる他チームと合流する事が出来たのだった……尚、カラレス教官がその言葉通り俺達の授業の様子を話した事と、向こうのチームの人がずっと一緒に居たと証言したので彼が本物だと証明されたりした。

 ……その後は教官に先程の戦闘について詳しい報告をしたのだが……。

 

「……そうか、今回の黒幕はババルウ星人だったか。……アイツらの変身は身内でも見分けられないレベルなのによく気が付いたな」

「見た目は完璧でしたが行動が親父としてはおかし過ぎたので、とりあえずブン殴って判別しました」

「…………そうか……」

 

 ババルウ星人の名前を聞いて教官が顔を顰めていたので、ここは先程の事を詳しく報告すべきだと思い話したら何故か呆れられた……解せぬ。

 ……向こうはあからさまに怪しい行動をしていたんだし、姿が見知った相手でもとりあえずブン殴るべきじゃ無いですかね? 

 

「……まあいい。事件の真実も隊長やウルトラ兄弟達にも既に報告済みだし、そう遠く無い内に解決するだろう。……っと、そんな事を言っているうちにゾフィー隊長からのウルトラサインが来たぞ」

「あ、ホントだ」

 

 教官がそう言って指差した方向には『ウルトラキーの奪還に成功。ウルトラの星と地球の激突は回避された。今回の黒幕であるババルウ星人に囚われていたアストラも救出。ババルウ星人もレオによって撃破、これからウルトラの星を元の座標に戻すので宇宙警備隊員達は引き続き救出活動を続ける事。宇宙警備隊隊長ゾフィー』のウルトラサインがあった。

 そして、それを見た訓練生達や警備隊員からは大きな歓声が上がった……いやー良かった良かった。今回はあまりにあまりな事態だったから流石に不安だったんだが無事解決して良かったよ。

 

「よし、それじゃあ懸念事項も消えた所で残りの救助活動を終わらせるぞ」

「「「「「はい、教官!!!」」」」」

 

 そうして、俺達は教官や他の宇宙警備隊員達と協力してウルトラの星が戻ってくるまでに救助活動を終わらせるべく再び動き出したのであった。

 尚、後日親父から今回の事件の詳しい話を聞いた所、ババルウ星人が化けたウルトラキー持ちのアストラをウルトラ兄弟がとりあえずボコってキーを奪い返そうとしたらレオさんとの同士討ちになりかけたとか……しかし、なんとそこで伝説の超人“ウルトラマンキング”が現れてババルウ星人の正体を見抜き、何だかんだあってウルトラキーを取り戻す事が出来てレオ兄弟もウルトラ兄弟に加わって一件落着したそうだ。

 ……きっと、ウルトラキーを奪うぐらいなんだし俺が戦ったのとは比べ物にならない頭脳派で演技派だったんだろう。多分。




あとがき・各種設定解説

アーク:ジェネレーションギャップゥ……
・基本的に身体の色が地球人で言う血液型程度の扱いなウルトラ族なので、リバーススタイルもあんまり問題にならなかった。

同期生達:陛下の事は名前ぐらいしか知らない

ウルトラの星:流石に復興にはしばらく時間が掛かる模様

ウルトラ兄弟&レオ兄弟:顛末は原作とほぼ同じ
・地球とウルトラの星の危機に焦って正体は不明だがとりあえずボコってウルトラキーを奪い返そうとして言葉が足りなかったウルトラ兄弟と、離れ離れになっていて久しぶりに再開した弟のピンチ(偽)に焦ったレオのすれ違いが原因で同士討ちが起こった模様。
・その後、ちょっとヤバいかなと思ったキング爺さんの参戦と、その直後にアークが出したウルトラサインで誤解が解けて無事に事件は解決した。
・その為、アークのウルトラサインが事件解決の一助になった事が原作との相違点になっており、レオ兄弟が彼の存在を知ったきっかけになった。
・尚、この後の展開は原作と同じ『恐怖の円盤生物シリーズ』になる。


読了ありがとうございます。
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アークの日記

今回は日記形式でお送りします。


 ◯月◯日

 

 先日、ウルトラの星が大暴走した所為で光の国にある建造物などが多大な被害を受けたので、俺が通っている士官学校もしばらくの間休校になった。

 その間は復興作業の手伝いとかもあったが、訓練をする様な場所の確保なども出来ない所為で少し暇も出来たから、ちょっと日々の活動を日記として書いてみようと思い立って今書いている所だ……三日坊主にならない事を未来の俺に祈っておこう。

 

 さて、今日はさっきも書いた通り光の国の復興作業を行ったのだが、倒壊した建物は数あれど中枢機関の被害や人的被害は予想以上に少なかった。どうやらこれはウルトラの星にはウルトラキーを使った惑星規模ワープ機能を行える事が前提の保護システムがあったかららしい。

 偶々会った技術局の人が言うには、元々ウルトラキーは大昔の太陽爆発の際にウルトラの星を惑星規模の宇宙船にして別の星系に避難する為に作られたシステムが元になっているのだと言う。そのシステム自体はプラズマスパークの完成とウルトラ族の超人化によって必要無くなったが、その後ウルトラの星の運行が乱れた為にそのシステムを改造してウルトラキーを作り星の運行を調整したという事だ。

 

 そう言う訳でウルトラの星が惑星規模のワープ航法が出来るので、その名残でいくつかの重要建造物はワープ航法前提で作られており、更にワープ航法時の住民の安全確保の為のバリアシステムとかも作られていた様だ。そして今回人的被害が少なく死人も出ていないのは、それらのシステムが不完全とはいえ機能していたからと言う訳である。

 ……これらの備えが無ければ幾らウルトラ族が超人とはいえ惑星規模のワープの余波で大量の死人が出ていただろう。そう考えるとぞっとする話である。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月△日

 

 今日で漸くウルトラの星復興作業がひと段落ついた。まだ残っている部分も有るには有るがこれ以上は専門家の仕事になるので、俺達ボランティアの訓練生がやる事は無くなった感じだな。

 ……しかし、流石はウルトラの星の超絶科学技術、惑星規模のワープ航法なんてのがあった後でも割とあっさり復興完了しちまったい。とは言え、士官学校の再開にはまだもう少しかかるという事で俺達訓練生はしばらくの間休暇を取る事になった。

 

 そう言う訳で、俺達は復興が出来ていて士官学校の休校で使われていないウルトラコロセウムで自主訓練を行う事にした。なんでも、士官学校が休校している間は俺達みたいに訓練したい人達が使える様に解放したとの事。

 それでメンバーは何時ものメビウス・ゴリアテ・フォルトの三人……と思ったら、アムールや他の同期生も一緒に訓練をやりたいと言ってきたのだ。どうやら先日のババルウ星人との戦いで自分達の力不足を実感したらしく、もっと強くなる為にあの戦闘でまともに行動出来た俺達と一緒に訓練をしたいとの事。

 

 まあ、特に断る理由も無いし色々な人との訓練もいい経験になるだろうと思って、今日は彼等と一緒に訓練をしたんだが……何故か俺は他の訓練生に色々な技を教える羽目になってしまった。どうやら何時もの三人が『アークに技を教わったから俺達はここまで強くなれたんだよ』的な事を言った所為みたいだな。

 ……別に自主訓練である以上は技を教えるぐらいは別に良いんだけど、俺は一人しか居ないんだから一度に沢山来られても教えられないんだが。俺はマックス先輩みたいに分身とか出来ないんだから。

 

 しょうがないので同期生達に覚えたい技を聞いて、それで多くの人が覚えたいと答えた技を俺が可能な限り実演する感じでどうにか訓練を進めていく事が出来た。……うむ、これでもう誰にも俺の事をボッチのコミュ障とか言わせないぞ! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◯日

 

 とりあえず士官学校も再開し、ウルトラの星にこれまで通りの生活が戻ってきたとある日の事。地球での任務で重傷を負ってウルトラの星で療養していたセブンさんが、L77星の王子二人──レオさんとアストラさんの兄弟を連れて俺の下を訪れたのだ。

 一体なんの様なのかと言うと、どうやら以前のババルウ星人によるウルトラの星暴走事件の時に俺の出したウルトラサインがアストラさんに変身していたババルウ星人の正体を見破る一助になった事についてお礼を言いたかったとの事。

 

 別に俺は『宇宙警備隊として当たり前の事をしただけですし礼を言われる程の事はしていませんよ』と言ったのだが、レオさん曰く危うく偽物に騙されて地球とウルトラの星を激突させてしまう所だったのだから一度ちゃんと礼を言っておきたかったんだ、と言われてしまった。

 とりあえずレオさんは何か頑固そうな気がするし、これ以上遠慮すると話がややこしくなりそうだからさっさと礼は受け取っておく事にした……王子二人にいつまでも頭を下げられると小市民な俺の精神力が削られるしね……。

 

 まあ、俺がババルウ星人の変身を見破った事を『変身自体は本物と区別が付かないレベルでしたけど、演技の方は大した事無く身内なら見分けられるぐらいでしたから、そんな礼を言われる程凄い事をした訳では無いですよ!』とか言ってしまったので、レオ兄弟がorzの体勢になり『いや、今思うとレオ兄さん連呼はおかしいと思うんだ……』『兄さんに化けた相手に騙されて氷漬けに……』などと呟くハプニングがあったりしたが。

 ……尚、あの事件の事をセブンさんに詳しく聞いた所ウルトラの星と地球の激突を防ごうと焦っていたウルトラ兄弟と、窮地の弟(偽)を見て冷静でいられなかったレオさんとの間にすれ違いがあって戦闘になってしまったとの事。お互いに殆ど初対面だった事なども理由らしいが、これを計算に入れていたのなら地球のババルウ星人は俺が戦ったヤツと違って相当な策士だったみたいだな。

 

 最終的には伝説の超人であるウルトラマンキングが現れた事と、俺のウルトラサインで誤解は解けてババルウ星人を倒したらしい……ていうかウルトラマンキングが来ていたのなら俺のサインは多分必要じゃなかったよね。親父からちょっと聞いた話だと『キーなど問題では無い!』と言ってウルトラキーをぶっ壊した(後にレオ兄弟が修復)らしいし。

 ……まあ、話に聞く限りのあの方の力なら惑星の軌道ぐらいは簡単に変えられるのだろうから、確かに(キング様視点では)ウルトラキーなど問題では無いんだろうな。

 

 その後はレオさんとセブンさんが地球にいた頃の話などを少し聞いたりもした……あの後、ウルトラの星が復興作業で動く事が出来ない間に地球に集落した円盤生物と呼ばれる者達とレオさんは激しい戦いを繰り広げたのだとか。

 何でも、その円盤生物によって地球人の防衛チームも壊滅してセブンさんも生死不明の状態でレオさんは単騎で地球を守る為に戦ったのだとか。そして長い戦いの末に円盤生物の母星を破壊して決着をつけて地球を離れたという話だそうだ。

 

 今後、彼等はウルトラの星の宇宙警備隊の一員として働きつつ、L77星が破壊された時に散り散りになって宇宙に脱出した同胞達を探していくらしい。色々と大変な事に会い続けてきた彼等が同胞と再開出来る事を祈るばかりである。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◉日

 

 今日は久しぶりに宇宙科学技術局でリバーススタイルの訓練及び研究を行った……と言っても、訓練室を借りてオートで動く計測機械がデータを取るだけという簡単なものだったが。

 ……フレアさん曰く、ウルトラの星暴走事件を受けてウルトラキーを管理する第2ウルトラタワーのセキリュティ強化とウルトラの星の運行制御及び保護システムの見直しと再開発が決定したので、技術者達はそちらに掛り切りになっているとの事。

 

 それなら事が落ち着くまで、俺は技術局を利用しない方が良いのでは? と聞いたのだが『暇は無いがそれはそれとしてデータは欲しい』というマッド達の意見でこういう形式になったのだと言う。

 ……色々言いたい事もあるが、せっかく施設を用意してくれたので使わせて貰おうと思う。途中からタロウロスが漸く治ったトレギアさんが来てくれたお陰で、データ計測もどうにかなったし。

 

 その後に少しだけトレギアさんと話をしたのだが、彼は今異なる宇宙での活動のためのアストラル粒子転化システム──現地の生命体のインナースペースにウルトラ戦士をアストラル体で定着させるデバイスを開発しているのだが、それがあまり上手くいっておらずちょっとナーバスになっていたらしい……別にタロウさんが戻ってこなかっただけで落ち込んでいた訳では無いとの事。

 何でもバット星人襲来から始まり、ヒカリさんの休職やウルトラの星の暴走事件によるゴタゴタで技術局もいっぱいいっぱいらしくトレギアさんの研究に使う予算の認可が降りなかった様だ。

 更に研究に必要な人間とウルトラマンの融合に関するデータを持っているウルトラ兄弟はウルトラの星で起きた数々の事件から派生した宇宙での事件解決で忙しく、彼の研究の為にデータを利用する許可が降りなかった事も認可が降りない理由になっているんだとか。

 

 俺の訓練に付き合ってくれているのも、リバーススタイルの環境適応能力が自分の研究に応用出来ないか期待しているからでもあるようだ……まあ、これまでのデータからだと彼の研究のそれとは方向性が違う能力の様だが。

 それでも訓練に付き合ってくれている事には感謝しているので、愚痴を聞くぐらいは別に構わないだろう……例えタロウさんが地球から帰って来ない事への文句を5時間に渡って語り続ける事でも。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月◯日

 

 ウルトラの星の復興も完全に終わり元通りの生活が戻って来て暫く経った頃。今日の士官学校でメビウスが地球に派遣される事になった一期上の80先輩について何か詳しい話を知らないかと聞いて来た。

 ついでにその話を聞きつけた同期生達も話を聞く態勢になった……どうも彼等の間では俺に聞けば何か知ってるだろう的な雰囲気になってるんだよな。まあ知ってるんだけど。

 

 事の発端は宇宙科学技術局で開発された『マイナスエネルギー探知装置』によって地球圏に大量のマイナスエネルギーが存在しているのが分かった事である……うん、また地球かよって俺も思った。

 まあ、あれだけの怪獣出現・宇宙人襲来による事件や戦闘が起きたんだから、それ相応のマイナスエネルギーが溜まっていたとしても別におかしくは無いだろうけどさぁ。

 

 ……とは言え、今はウルトラの星暴走事件をチャンスと見て犯罪を起こそうとしている者達が宇宙中にいる為、ウルトラ兄弟などの精鋭達はそれらの対処で忙しく地球に行く事が出来ない状況。それ故に手の空いている若手の中でもトップクラスの腕前を持つ80先輩が選ばれたそうだ。

 尚、他に若手のエースとしてはマックス先輩やゼノン先輩などもいるのだが、二人は文明監視員志望だった事と80先輩は独自にマイナスエネルギーについての研究をしていた事などから彼が地球派遣要員に選ばれた理由の様だな。

 更に地球での任務を無事にこなせば、新たにウルトラ兄弟の一員として認められるという話もあるらしい。まあ、宇宙でもトップクラスの魔境である地球で長期間の任務が出来るようになればそれだけの能力があると認められるんだろうな。

 

 ……と、そんな感じの話をしたら、周りはメビウスを中心に『地球に派遣されればウルトラ兄弟の一員になれる』という話で持ちきりだった。

 しかし、地球に派遣されるからウルトラ兄弟に認められるんじゃ無くて、魔境である地球での任務に選ばれるだけの実力があり実際に地球で任務を達成するからこそウルトラ兄弟に選ばれるんだと俺は思うがな。

 

 

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 △月◇日

 

 今日はワープ移動を行う為の技術である『トゥウィンクルウェイ』の訓練を行った。この技はワームホールを開いてその中を移動するワープ航法技術の一つで俺達ウルトラ族が惑星間の長距離移動を行う際に使用する最もポピュラーな方法である為、ウルトラの星では宇宙警備隊など惑星間の移動が必要な職種では必須技術とされているのだ。

 まあ、他にもテレポーテーションとかでも移動出来ない事は無いが、これは難易度が高く使い慣れない者が使えば寿命を縮める事もあるのであまり推奨されていない。

 

 そういった汎用的な技術だけあって習得自体は簡単ではあるし、実際ブラックゲートとかで空間に穴を開ける事に慣れている俺はあっさりと習得出来たのだが、むしろ大変だったのは宇宙地理などの知識面の方だったりする。

 ……まあ、コンピュータ制御すれば良い宇宙船での移動とは違い、自力でやる必要がある俺達のワープ移動は移動先の知識とかその他諸々の知識を覚えなければならないからな。一応、体系化されてるから覚えやすいし、それらを補助するデバイスとかもあるからワープ移動を行うだけなら(ウルトラ族的には)特に問題にはならないんだが。

 

 なら宇宙船使った方がいいんじゃね? とも思うかもしれないが、ウルトラ族が自力でのワープ移動が出来る所為でウルトラの星の宇宙船技術は殆ど廃れているんだよね。ウルトラ族の巨体で使えるヤツを作るとコストが掛かるし、人化や縮小化の技術を使うにもある程度の修行が必要だしな。

 宇宙船の技術を応用してエネルギー状の球体で自分を包んで省エネ移動を行うシステムとかもあるし、そういった諸々で宇宙船技術完全に廃れているのである。これが種族的に生身での惑星間航行が出来ない所ではワープ移動用の足として宇宙船技術が必要になってくるし、生身で宇宙空間に出られない種族なら言うまでもなく必要なのだが、ウルトラ族は両方を十分以上に満たしていたので廃れていったそうな。

 

 実際にウルトラの星で作られた最後の大型宇宙船とか、プラズマスパークが作られる前に死の星に成りかけていたウルトラの星からの脱出・移民用に作られた宇宙船まで遡る必要があるしな。当時は太陽爆発によってウルトラの星は滅びる寸前だったから、それをどうにか覆す為に星全体でプラズマスパーク開発を始めとしたいくつもの計画が並行して進められていたらしいからな。

 だが結局、その宇宙船はプラズマスパーク完成とウルトラ族の超人化によって使われる事が無くなり、今は宇宙科学技術局の一角にある古物の資料館に保管されているのだとか……名前は確か『ヱクセリオン』とか言ったっけな、もっと長い正式名称があった気もするが俺も詳しくは知らん。




あとがき・各種設定解説

アーク:日記を書き始める事にした

レオ兄弟:肉親の偽者を普通に見破っている人がいて大ショック
・尚、ショックを受けたのはウルトラ兄弟も同じ模様で、現在任務に明け暮れているのは自分達を鍛え直す意味もあるとか。
・この作品ではL77星崩壊時に脱出出来たのは彼等だけでは無い設定で、脱出出来た少数のL77星人は現在宇宙中に散り散りになって連絡不可能な状態。

トレギア:タロウロスからどうにか立ち上がった
・だが、自分の研究に中々認可が下りない事に燻っている。
・ちなみにマッド達は能力自体は優秀な事と長い時間技術局に勤めているので世渡りや伝手が多く、それによって予算を都合したりしている。
・トレギアの場合は性格的にそう言った事に向いていないのも認可が下りない理由の一つ。


読了ありがとうございました。
日記形式は如何でしたでしょうか、意見・感想をお待ちしております。


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続・アークの日記

今回も日記形式です。


 △月◎日

 

 今日は士官学校で縮小化・変身などの肉体変化の技術を訓練した。特に人化変身は宇宙警備隊員にとって必須スキルだからな、どうにか習得出来て良かったよ。

 ……ウルトラ族の姿はこの宇宙においてある種“宇宙警備隊の平和の象徴”とも言える良くも悪くも目立つ姿だから、別の惑星で目立たずに行動する必要がある任務の為にはヒューマノイドタイプへの変身が出来ないと目立ってしょうがないのだとか。

 ちなみにヒューマノイドタイプへの変身を真っ先に覚えさせられるのはこの宇宙で最も数の多いポピュラーな種族(耳が長い・ツノがある程度の特徴がある種族も含む)であるからと、ウルトラ族が元々ヒューマノイドタイプから進化した種族である所為か他の種族と比べても変身しやすいからである。

 

 俺はどうにか人間レベルへの肉体サイズの縮小化も長時間維持出来るレベルで習得出来た。肉体のサイズの変化は慣れていないと身体に負担が掛かって短時間しか維持出来ないから、ただ変化させるだけでなく実用レベルで使うには長時間変化し続ける技術が必要なのだ。

 慣れて来て肉体に負担が掛からなくなれば巨大化時と比べてエネルギー消費を少なく行動出来る様にもなるし、宇宙警備隊に於ける他星系での長時間活動に於いて有用な技術なのだとの事。

 流石にセブンさんの様なミクロレベルでの縮小化や、親父の知り合いのセブン21さんみたいな様々な種族への変身スキルなどはまだ習得出来ていないが……そこは今後も要練習だろう。

 

 まあ、肉体変化はそれなりに難易度の高い技術で以外と適正に差があるから、同期生の中ではゴリアテとかは結構苦戦している様だったな。俺は幸い肉体変化に対する適正がかなり高かった(タイプチェンジが出来るから?)ので割とあっさり習得出来たが。

 後、以外にも肉体変化の適正が同期の中で高かったのはメビウスであり、一度映像で見ただけのヒューマノイドタイプに寸分違わず変身したりもしていたな。教官には選択授業で特殊な肉体変化の技術習得を勧められていたし。

 その手の特殊技能を習得していると警備隊内でも重宝されるらしいし、本人も真面目で勤勉な性格だから乗り気だったな。ミクロ化や肉体の電子化とか習得したいと言っていたし、俺もそっちの選択授業受けようかな? 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ×月◯日

 

 今日は久しぶりに家に帰ってきた親父とゆっくり話をした。何でも地球での任務を終えた80先輩がウルトラの星に帰還し、さらに地球に現れ続けていた怪獣達の動向が小康状態になってひとまずの平和が訪れたので漸く時間が出来たとの事。

 まあ、その際に何故かユリアン王女が地球に向かうとか言うハプニングがあったため、王家を始めとする関係各所との話合いが色々大変だったとか……と言うか、何で王族が“宇宙の魔境”地球に行く羽目になったのだろうか? 

 

 その辺りの事を親父に聞いてみると、何でもユリアン王女の乗る王族用宇宙船──現在のウルトラの星にある数少ない個人用宇宙船で、王族の移動時に身を守る為の物──がガルタン大王一派に襲われたらしい。

 本来なら護衛に守られつつ宇宙船に備わっていた緊急テレポート機能でウルトラの星に退避する筈だったのだが、そこでガルタン大王一派に地球にいる80先輩が狙われていると知った王女はテレポートの行き先を地球に変更して彼にその事を伝えに行ったとの事。

 ……うん、確かに必要な事なのかもしれないけど、王族が自分でやる事でも無いよねそれ。

 

 詳しく話を聞くとどうやらユリアン王女と80先輩はウルトラの星に居た頃からの友人で、その窮地を聞いて居ても立っても居られなくなったのだとか……ラブコメ的なあれかな? (邪推)

 まあ、最終的には80先輩が無事に王女をウルトラの星に連れ帰って来たので一安心といった所なのだとか。この一件で80先輩は王族からの覚えも良くなったらしく、ウルトラ兄弟の一員として問題無く認められた様だ。

 他にもお転婆だったユリアン王女も地球での経験によって成長したのか、ウルトラの星に帰ってからは銀十字軍に入って精力的に活動している事も高い評価に繋がっていると言う。

 

 後、地球の怪獣については小康状態になったものの未だに地球を狙う宇宙人はまだ居るらしいので、そこは地球圏の外縁部で親父を始めとするウルトラ兄弟が交代で警備を続ける事で対処するのだとか。

 親父曰く、彼等地球人が自分達で宇宙に出てウルトラマンの庇護を必要としなくなるまでの話らしいが、そうなる日が来るのを祈るばかりである(宇宙警備隊の仕事量的に)

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◆月▶︎日

 

 今日も今日とて士官学校で訓練の日々である。最近は専門授業での特殊技能の習得などもカリキュラムに入ってきたから、ますますきつくなって来てるんだよな。

 ちなみに俺の選択授業は適正があったものの中で肉体変化系のミクロ化や電子情報化、移動技能系のテレポート、特殊エネルギー運用系の冷気操作や浄化技、武術系の剣術、治療技術系の治癒能力とかをやって行く予定である。

 

 ……うん、こうして見るとやっぱり多いな。俺は他の同期と比べて実技で覚える内容が少ないから、その分だけ特殊技能を学ぶ事を増やしてみないかと教官に言われたからこれだけ予定に入れて見たんだが……。

 まあ、まだ予定であって本格的に決まった訳でもないし、冷気操作とかいくつかの技術は既に(リバーススタイルで)習得しているものもあるし何とかなるだろう。

 

 後、他の同期生の選択授業はメビウスが前にも言っていた肉体変化系、ゴリアテが武術系、フォルトが情報処理系を受ける予定らしい。他にも変わった所で記憶操作の技術を習うアムールとか、特殊な技術を覚えようとしている同期もいたな。

 さて、これから士官学校のカリキュラムも佳境だし頑張っていこうか! 

 

 

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 ◆月◯日

 

 今日から本格的に選択授業が始まった。やっぱりちょっと授業の選択数が多かったかな? ……ま、まあ、大丈夫大丈夫。まだ始まったばかりだし。

 

 

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 ◯月▲日

 

 うごご……覚える内容が沢山あるからやる事が、やる事が多い……。

 

 

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 ◼️月◇日

 

 ……かゆ……うま……。

 

 

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 □月△日

 

 今日は久しぶりにまともな内容の日記を書こうと思う……選択授業の方もいくつかの技術を覚えたお陰でようやくひと段落したからな。やっぱりもうちょっと計画的にやった方が良かったかねぇ。

 とりあえず習得出来たのは冷気操作(シルバースタイル時)とテレポートとミクロ化と電子情報化と言った所。他は剣術はこのまま地道に続けていくタイプの技術だから問題無いとして、浄化技と治療技はちょっと手間取っているな。

 

 治療技は医療系の知識が必要だからそっちの習得に手間取っている感じだな……とは言え、士官学校で習える治療技術はあくまで応急処置レベルで流石に銀十字軍直下の専門学校程の内容じゃ無いから、このまま勉強を続けていけば何とかなりそうだけどね。

 技としては簡単に傷の回復光線とかを習得出来たし、後は知識を身につけるだけって感じだ。

 

 ……問題はもう片方の浄化技なんだよな。これはマイナスエネルギーなどの負のエネルギーを自身が作り出した正のエネルギーで中和・相殺する技法なのだが、ウルトラの星でもこれが出来る適正を持つ者はごく少数であり師事出来る者がほとんどいないのだ。

 まあ、選択授業に入っている以上は当然教官の中にはこれが出来る人もいるので俺もその人に習っているのだが、浄化技の実演にはマイナスエネルギーなどの負のエネルギーが必要だと言うのがネックになっている……簡単に言うと実演が難しいのだ。

 

 詳しく解説すると、光の国ではプラズマスパークの影響や国民の性格が皆善性であるなどの理由から、その手の負のエネルギーが非常に貯まりづらいのである……それ自体はいい事なのだが浄化技の指導の際に必要となる程々のマイナスエネルギーとかも全く無いので、実際に浄化技を使う所を見せる機会を得るのが難しくなっているのだ。

 なので、実演にはウルトラの星をそれなりに離れる必要があり、そのマイナスエネルギーが溜まる場所は基本危険地帯である為に色々と手続きを踏まなければならないのもネックになってるしな。

 

 教官曰く『浄化技はそれでしか倒せない相手に対処したり、そういった連中に取り憑かれた者を助ける事にも使えるから覚えておくと良い』という事らしいし頑張ろう。

 ……宇宙科学技術局が訓練・研究用に『マイナスエネルギー発生装置』とか作ろうとした事もあったらしいが、危険すぎるという理由で中止になったらしいし、そのぐらい厄介なモノであるマイナスエネルギーに対抗出来る技だからな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月▼日

 

 今日は驚愕のニュースが飛び込んで来た! ……なんとウルトラ兄弟の内の四人──ウルトラマンさん、セブンさん、ジャックさん、エースさんが地球圏で復活したヤプールと交戦して、どうにか相手を地球の一角に封印したものの自分達も戦う力を失ってしまったという話だ! 

 戦う力を失った彼等はヤプールの封印を見張る意味もあって、そのまま地球人として地球に留まる事になったらしい……最近は大人しくなっていたと思ったが、相変わらず地球圏は地獄だぜ……。

 

 このニュースのお陰で士官学校も大騒ぎ、特にウルトラ兄弟の大ファンであるメビウスは──何故か以外と冷静だったりした……何でも、これまで俺からウルトラ兄弟に纏わる衝撃情報を聞き続けていたから慣れたのだとか。

 まあ、無関心という訳でもなく『ウルトラ兄弟ならきっと大丈夫』という信頼故の反応みたいだけど。むしろウルトラ兄弟にそこまでさせた地球への興味が強まったと言ってたし、いつか地球に行ってみたいとも話してたな。

 

 問題はウルトラ兄弟が四人も抜けた宇宙警備隊の人員事情なんだが、そこは地球での休暇が終わった(強制)タロウさんが代わりにウルトラの星へ帰還する事でカバーするのだとか。

 まあ、地球での怪獣頻出期が終わってからは(比較的)宇宙でも大きな問題が起きていないのでどうにかなるだろうとの事……ただ、親父は今のうちに宇宙警備隊の戦力を拡充して起きたいと考えているっぽいので、おそらく一種の小康状態では無いかと思うのだが。

 ……これが邪推である事を祈るばかりである。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月△日

 

 今日は驚愕のニュースが飛び込んで来た(2回目)! ……なんと、ウルトラの星に帰還したタロウさんが俺達が居る士官学校の教官を務める事になったのだ!

 これに同期生達(特にメビウス)は大興奮、教室は一時阿鼻叫喚の騒ぎとなったのだ……俺? 俺は家の自主訓練で何度か組手をした事とかあるし今更だな。

 

 まあ、タロウさんには宇宙警備隊の仕事とかもあるので非常勤講師みたいな感じで、授業内容は主に応用的な戦闘技能や組手メインで訓練生の更なるステップアップを目指す方向性で行くとカラレス教官は言っていた……つまりウルトラ兄弟式の何時もの実戦形式訓練ですね。今まで散々やらされたので分かります(震え声)。

 

 後、タロウさんが帰って来た以上はトレギアさんも元気になってそうだし、今度久しぶりに宇宙科学技術局に行ってみるのも良いかもな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月◀︎日

 

 俺にだけ模擬戦開始に初手スワローキックは酷いと思う……いや、アークなら大丈夫だと思ったとか言われても。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◯日

 

 ウルトラダイナマイトとか貴方みたいなウルトラ心臓が無いとただの自爆ですよね? ……え? この技に使われている体内でのエネルギーの収束技術とかは意外と応用が利く? いやそうかも知れないけど……こらメビウス、お前も最後まで使おうとするんじゃない。再生出来ないだろお前。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月▼日

 

 だからメビウス、ウルトラオーバーラッピングとか言う合体技は受け手に貴方のウルトラホーンみたいなエネルギー増幅制御器官があって、合体する側もウルトラ兄弟クラスの実力が無いとまず無理な技だから。

 つまり、今の俺達じゃ無理だから『ちょっと合体してみよう!』とか言うんじゃない。

 

 

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 ◉月◎日

 

 ちなみに今まで色々書いて来たが、授業中のタロウ教官の指導は各々の戦闘時に於ける欠点を指摘したり、それぞれの長所をより伸ばす様なアドバイスをしてくれるなど非常にためになる内容が多い。

 ……何でも地球に居た際にボクシングジムのトレーナーとかをやって居た事があるらしく、その経験を活かして教えているのだとか。

 

 ただ、やる気があって見込みのある者(俺やメビウスなど同期の何人か)には自分が使う技術を積極的に教えようとしているだけなのだ……まあ、その技術も(習得難易度を除けば)有用なものばかりなので、俺達も相応に強くなっては居るのだが。

 ……ただやっぱり、ウルトラホーンやウルトラ心臓などの先天的資質がある事が前提の技ばかりだから覚えるのが厳しいと思うんだが、何か理由があるのか?




あとがき・各種設定解説

アーク:着実にステップアップ中
・結構色々な技術をそこそこの精度で使える万能型になって来ている。

浄化技:ニュージェネ必須スキル
・原作でもゼロが使っていたので光の国でも教えられている設定。
・ただ、光の国系ウルトラマンに浄化技の適正を持つ者が少ない為、そこまで普及してはいない感じ。

タロウ:ようやく教官に就任
・見込みの有りそうな者に厳しくしているのは“とある理由”があるかららしい。

メビウス:タロウ教官に積極的に師事している
・その溢れるやる気から実戦で使えるかはともかくタロウの技をいくつか習得した。


読了ありがとうございました。
これからも時間を一気に進めたい時とかは日記形式にすると思います。次は普通の形式に戻す予定です。


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アーカイブでの問答(前編)

※この話ではウルトラシリーズでも問題のある有名な話について主人公が独自の意見を言います。不快に思われる方もいるかもしれませんがご了承下さい。


 今日は士官学校が休みで宇宙科学技術局の方も忙しいそうなので、久しぶりにアーカイブに行って資料を漁る事にした……ちなみに『アーカイブ』とはウルトラの星が入手した様々な情報が集積されている施設の事で、まあ分かりやすく言うと図書館とかそんな感じの施設である。

 ……俺が毎回色んな事を解説出来ているのは親父達から話を聞いただけでなく、ここで色々な情報を検索しているからでもあるんだよな。

 

「しかし、ここに来るのも随分と久しぶりだな。……昔は暇つぶしに通ってたんだが、最近は事件と訓練ばかりだったしな……」

 

 俺はこの手の歴史資料とか設定集を読むのが好きな方なので、昔から暇な時にはこのアーカイブに通っていたのである……ここで知識を身につける為とか言っておけば親父も訓練を休みにしてくれる事もあったし。

 ……いや別に修行ばかりで遊びすらさせて貰えなかったとかじゃ無いんだがな、昔はメビウスと一緒に遊んだ事もあったし。ただウルトラの星ってあんまり娯楽に関しては発達してないから、俺の食指には合わなかったんだよ。

 同じM78星雲にあって娯楽文化が発達している『TOY一番星』から輸入したゲームやオモチャは面白かったんだが値段が高いし、光の国製の娯楽は安いんだけど出来がちょっとな。娯楽に関しては技術レベルが高ければ良いってものじゃないし、どっちかというと開発者のセンスが重要なんだよ。

 

「やっぱりウルトラ族の情動が薄めなのが原因なのかね? 光さえあれば食事・睡眠は余り必要無いし、寿命も長くて死ぬ事も少ないから性欲の方も……んん?」

 

 そんな考え事をしながら歩いていると向こうの角から聞き覚えのある声が聞こえて来た……気になったのでそちらに向かってみると、そこでは俺にとっても馴染み深い()()()()()が何か話し込んでいるところだった。

 

「……トレギア、地球は良いところだぞ。彼等地球人はこのウルトラの星に無くなってしまったモノを思い出させてくれる」

「タロウ、その話は何度も聞いたが、未だに同族同士で争いを続けている様な惑星の住民に一体何を……ん?」

 

 そう、何か話し込んでいたのは先日から士官学校の教官に就任して俺達を(スパルタ的な指導で)鍛えてくれているタロウさんと、宇宙科学技術局でお世話になっているトレギアさんだったのだ……実はトレギアさんもよくアーカイブを利用しているので、ここで俺と顔を合わせたり少し話をしたりする事もあったりする。

 ……そして、どうやらトレギアさんの方が近づいてきて俺に気が付いた様なので、俺はとりあえず近づいて挨拶をする事にした。

 

「トレギアさん、タロウさんこんにちは。お二人もアーカイブを利用しているんですか?」

「ああ、アーク君久しぶりだね。……今日は以前から研究していた発明がようやく完成してちょっと時間が空いたからね、久しぶりにここへ来てみたんだよ。……タロウはそれを聞いて興味を持ったからついて来た形だね」

「久しいなアーク。休日にもアーカイブに来て知識を深めようとするとは感心だな。……まあ、私もトレギアがここに来ると聞いて、教官としてもっと知識を得ようと思って付いて来た訳だが」

 

 ほーん、成る程そういう理由があったのか……まあ、この二人は親友同士らしいし休日を一緒に過ごしている事もあるよね。

 

「そう言えばトレギアさん、なんか発明が完成したって言ってましたけど、それって以前に聞いた『アストラル粒子変換技術』の事ですか?」

「ああ、そうだよ。……タロウが協力してくれたお陰で外宇宙で活動した経験のある戦士のデータはどうにかなったからね。ようやく研究に必要な予算を下ろす許可とかも上層部から降りて、ようやく完成に漕ぎ着けたのさ」

「うむ、トレギアが開発したアイテム──『タイガスパーク』はウルトラ戦士と地球人の絆を象徴する様な実に素晴らしい物だったからな。これは是非協力しなければならないと思ったのだ」

「それは良かったですね」

 

 トレギアさんが最近ちょっとナーバスになっていたみたいだから心配だったんだけど、親友のタロウさんが帰って来たのだし研究も軌道に乗ったみたいだから大丈夫そうかな……と思ったら、トレギアさんは何故かちょっと不満そうな顔をしていた。

 ふむ、さっきこの二人は地球の話をしていたみたいだし……ははん、さてはトレギアさんタロウさんが中々地球から帰って来なかった事をまだ拗ねているな(推測)

 ……とか考えていたら、何を思ったのかトレギアさんが顔を上げて俺の方を見ながらこう言った。

 

「そうだアーク君……君は地球と地球人についてどう思う?」

「地球と地球人……ですか? 何故そんな質問を?」

「ああ……君も聞いていたかもしれないが、さっき私とタロウは地球の事について話していてね。それでちょっと考えが食い違っていたから第三者の意見も聞いてみたいと思ったのさ」

 

 彼等に詳しく聞くとタロウさんは何を壊され何度倒れても立ち上がる地球人の素晴らしさを語り、それに対してトレギアさんはアーカイブで知った戦争や犯罪を繰り返す地球人の愚かさをを語ったので、その事で軽い言い合いみたいになっていたらしい。

 ……だが、俺に話しかけられた事でヒートアップ仕掛けていた言い合いも収まったので、互いに頭を冷やす意味もあって俺の話を聞いてみたくなったとの事。

 

「……しかし、俺は地球の事を伝聞でしか知らないですよ」

「いや、それで良いんだ。……出来る限り客観的な意見を聞いて頭を冷やしたいのさ」

「俺もトレギアも、良くも悪くも地球や地球人について……こう言ってはなんだが“偏見”の様な物を持ってしまっている様だからな。それで少し言い争いになってしまったし、折角の研究が始まる前に仲違いはしたくない。……頼めるだろうか?」

 

 ……まあ、この二人には色々と世話になっているし、色々なにわか知識をひけらかすのは割と何時もの事だから構わないんだけどね。

 

「……ですがさっきも言った通り俺の地球や地球人に対しての知識は伝聞によるものですし、俺の意見である以上は俺の主観と偏見が入りますけど」

「そのくらいは私もタロウも理解しているよ。要は第三者の意見をちょっと聞いてみようって提案だからね。余り肩苦しくしなくて良いよ」

「分かりました。……では、俺の地球や地球人に対する印象は控えめに言って物凄く頑張っていると思いますよ。何せウルトラ兄弟ですら何度も死にかける様な魔境で生存圏を確保しているんですから」

 

 俺がそんな事を言ったら予想外の発言だったのか目の前の二人はポカンとした表情になった……いやだって、地球や地球人って普通の文明黎明期の惑星なら、ウルトラ兄弟の助けがあっても余裕で滅びそうなレベルの怪獣や宇宙人が次々と来襲しても惑星に生存権を確保してるからね。控えめに言って物凄い偉業だと思うんだよ。

 

「……じゃあ、地球人が同族同士で争っている事に関してはどう思っているのかな?」

「いや、文明黎明期の惑星で同族同士の争いが起きるのはごく普通の事でしょう? それに核兵器を開発した時点での惑星規模の戦争で滅びていない以上、宇宙全体から見れば地球はちゃんとやってる部類ですよ。……争い自体が十万年以上もまともに無かった、宇宙規模で言えば()()に分類されるウルトラの星を基準にしてはいけません」

 

 実際、文明黎明期の惑星って核兵器を開発した時点で使い方を誤って、住んでいる惑星を死の星にして滅びる事がこの宇宙では結構ザラだからね。ちゃんと文明を築けているだけでも良くやっている部類に入るでしょ。

 そう考えると核兵器で滅びる前に大きな戦争を辞めた地球人はかなりマシな部類である。バルタン星人とか宇宙に文明の枠を広げた所だって滅ぶ事があるぐらいには核関係の技術は危険性が高いし。

 ……まあ、核関連の技術を使いこなさないと文明レベル的にその先の宇宙進出がし難くなるから、この辺りは産みの苦しみってやつなのかな。

 

「……それじゃあ、アーカイブに載っていた地球人が原因で起きたいくつかの事件はどう思う?」

「ん? …………へー、怪獣頻出期とか言われる程の動乱があったのに、地球人やらかした事件は()()()()()()んですね。地球って結構治安良いんですね」

「……それだけか?」

 

 タロウ教官が【ギエロン星獣】や【メイツ星人】とかの事件の資料を見た俺の言葉に対してそう聞いて来たが、実際宇宙に出る以前の文明圏の外惑星との付き合い方としては“まだ”上手くやっている方でしょうよ。

 ……まあ、兵器の試射という理由でギエロン星を破壊した事に関しては決して褒められた事ではないし、その後も似たような実験を続けている事は問題ではあるんだがな。

 

「とは言え、地球の“事情”を考えると兵器開発はむしろ必須だし、ここまで侵略が頻発していれば惑星破壊レベルの兵器が必要になると考えるのも理解出来なくはないですかね。……例え血を吐きながら続ける悲しいマラソンだとしても、足を止めたら食い殺されると言うのが当時の地球の状況ですし」

「「…………」」

 

 ただ、そうして進んだ先で血を吐かずに前に進める方法を見つけ出せるか、或いはそのまま出血多量で死ぬかは彼等次第なんですけどね……宇宙では他人の生き血を啜ってでも走る続ける連中も居たりするから、地球と地球人がそうなってしまったら宇宙警備隊として“対処”する必要があるでしょうけど。

 ……まあ、流石に侵略してくる可能性のある有人惑星を無差別攻撃するとかになったら宇宙警備隊として動く必要があるだろうが、今の段階でなら温かく見守っていく段階でしょう

 それに資料を見るとやらかしたのは地球全体ではなくその一部勢力で、しかも有人惑星(と分かっている所)を狙わない程度の理性は残っている様だし。更にそれらの無作為な兵器実験は地球内でちゃんと問題視されていて、怪獣頻出期が終わった事もあって急速に兵器開発は縮小の方向に向いている様だし、ちゃんと惑星規模での自浄作用は働いているみたいだしな。

 

「それと【メイツ星人】の事件の方ですけど、そもそも他の宇宙文明との交流がない文明黎明期の惑星に無断侵入した時点で現地民に敵対判定されるのが普通でしょう。特に宇宙人による侵略が多発していた地球ではね。……そのぐらいの情報は恒星間航行可能な文明を持つメイツ星なら事前に入手出来たと思うんだが、なんで地球に無断侵入したんでしょうか」

 

 資料には“地球の環境調査の為”と書かれているけど、当時の地球を取り巻く状況からすると宇宙人が地球に無断で降りた時点で排除するべきだと言う考えに地球人全体がなっていても不思議ではないだろう……友好的な理由だろうが無断侵入した時点で殺されても文句は言えないぐらいに。

 ……地上に降りずに宇宙から環境を測定してそのまま帰るんじゃダメだったのかな? 一般的な未開惑星の環境調査ならそんな感じだった筈だし、地上での直接測定はその測定で危険性とかを判断してから行うのが普通じゃなかったか?

 

「ウルトラの星でも『文明監視員』や『宇宙保安庁』の人間はそう言う未開惑星の調査の為に無断侵入するグレーゾーンな任務もありますが、その場合はそこで何がおきても自己責任でありその惑星には罪を問わないと決められてますし。……例えば任務で来たジャックさん以降はともかく、無許可で戦っていた時期があるウルトラマンさんやセブンさんがその時に侵略宇宙人と誤認されて地球人に殺されたとしても…悪いのは無許可で戦った二人だとしてウルトラの星では処理されたでしょう」

「……確かに、宇宙警備隊の規則上はそうなるだろうな。……それに、私を含むジャック兄さん以降のウルトラ兄弟が地球で戦う事を地球人に“黙認”されたのは、そんなリスクすら飲み込んだ彼等二人が命を賭けて地球の為に戦って『ウルトラマンは地球人の敵では無い』と証明し続けたからだ……と言う一面もある」

 

 逆に言えばそこまでしなければ、地球の様な未開惑星で宇宙人が行動を黙認される事は殆ど無いって事でもある……そう言った場所での任務では現地の住民の見返りは求めるな、とも士官学校では習ったし。

 ……むしろウルトラマンが受け入れられている地球はだいぶマシな方だろう。

 

「……資料にはこの【メイツ星人】は汚染された地球の環境汚染に蝕まれながらも怪獣を封印し続けていたが、ただ宇宙人だからという理由で暴徒となった現地の警官に射殺されたと書かれているが……」

「それに関しては確かに地球人の方にも非がないとは言えませんが、銀河連邦にも加盟しておらず宇宙への本格進出もしていない惑星で起きた事件は基本的にその惑星の法で裁かれる事になってますから、地球に『宇宙人を殺したら罪になる』法がない以上は罪には問えないでしょう。……“宇宙警備隊員としては”そう判断せざるを得ないですね」

「……それならアーク、()()()はこの事件を聞いてどう思ったんだ?」

 

 そこまで語った所でタロウさんが真剣な表情でこちらを見ながら問いただして来た……中々難しい事を聞くなぁ。別に俺だって今までの意見はただ機械的に正しい()()のモノだって事は分かっているんだけどさ……。

 ……こういう思考が真っ先に出て来るから、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろうな。

 

「正直言うとこの資料の情報が断片的過ぎて“機械的に正しい意見”しか言えないです。……この【メイツ星人】はどうして肉体が汚染されるのに怪獣を封じ続けていたんですか? と言うか、肉体が汚染された時点で宇宙船で地球から離れるべきだったのでは?」

「……ジャック兄さんからは念力を使って地中に宇宙船を埋めていたらしいんだが、とある地球人の少年を怪獣から助ける為にその怪獣を封印したらしい。だが、天涯孤独だったその少年の面倒を見る為に地球に長時間滞在した事による汚染で、地中に埋めた宇宙船を掘り出す事が出来ないぐらいに消耗してしまったと聞いている」

 

 ……ああ、成る程ね。……タロウさんの言葉を前提に資料をもう少し読み込んでみると分かるが、随分と()()()()()()()事件だったみたいだな。多分、原因は()()()()()()()()()()()()()()って所みたいだし、その辺りの考えを俺なりにまとめて二人に話してみるか。

 ……俺のその考えを聞いて“ウルトラマン”であるタロウさんがどう答えるのかも気になるし……。




あとがき・各種設定解説

アーク:TOY一番星の製品のファン
・彼の考え方について分かりやすく言うとウルトラの星の殆どのウルトラ族は『秩序・善』なのに対して、アークは『中立・中庸』なイメージ。
・本人的にはそんな考えしか出来ない自分について悩んでおり、アーカイブなどで様々な知識を得るのもその悩みを解決する為の答えを探しているからでもある。
・この問答では今まで狂言回し的だったアークの内面について少し触れる予定です。

タロウ:一般的なウルトラ族なので『秩序・善』
・アークの意見に対しては一理あると思っているが、客観的すぎる意見だったので彼自身の考えをもっと詳しく知りたいと考えている。

トレギア:まだ綺麗な時期なのでイメージ的には『混沌・善』
・『タイガスパーク』は一応完成したが、まだ量産性などに改良点は残っている模様。
・今は形の無いエネルギーである光と闇について色々と考えている時期。
・アークに意見を聞いたのは、以前から光では無い力を持つ彼ならば光の国には無い『闇』についての明確な考えを持っているのではないかと思っていたので、その意見を聞いてみたいと思ったからでもある。


読了ありがとうございました。
なんか最近UA数とお気に入りに登録数がめっちゃ増えてたと思ったら日刊ランキングに乗っていたらしい。
最近は推薦も書いてもらったし……本当に応援ありがとうございます。


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アーカイブでの問答(後編)

※前回の続きです。不快に思われる方もいるかもしれませんがご容赦ください。


 とある士官学校が休みの日、俺は暇つぶしに光の国にある情報集積施設『アーカイブ』に来ていたのだが、そこで何か言い争っているタロウさんとトレギアさんと遭遇した。

 どうやら彼等は地球と地球人についてお互いにどう思っているのかで言い争ってっていたらしく、その成り行きで何故か俺が地球や地球人についてどう思っているのかを話す事になったのだ。

 ……そして、今は地球で起きた痛ましい事件である【メイツ星人】の事について、俺はその詳しい話を聞いて自分自身が思った事を二人に語ろうとしていた。

 

「俺はこの【メイツ星人】が地球人に殺された事件の原因は『両者の価値観・常識の違いとそれによるすれ違い』だと考えています」

「それは……地球人が【メイツ星人】の事を理解しようとしなかったって事かい?」

 

 俺の言ったその考えに対してトレギアさんは地球人側の非を主張したが、俺はそれだけでは無くこの事件の根底には【メイツ星人】側が地球や地球人に無理解だった事も原因にあると考えている。

 

「それも有るんですけど……そもそも、未だに宇宙進出していない地球のごく普通の一般市民が【メイツ星人】が善人なのか悪人なのか、そんな事なんて理解出来る筈が無いでしょう? ……さっきも散々言いましたが、宇宙人に侵略され続けてきた地球人にとってはウルトラマンの様な例外を除いて“宇宙人は悪い者”と言うのが当時の一般常識で、それが当たり前の考え方だったと思います」

「……まあ、そうだろうが……」

「と言うか、宇宙に進出していない黎明期の惑星文明にとっては“異なる能力・外見の相手は排斥する”のが()()ですからね。……異なる能力・外見を持つ隣人がいるのが当たり前な宇宙規模の文明圏で生まれ育った者には理解されにくいのかも知れないですけど」

「……それは【メイツ星人】の方も地球人の事を何も理解していなかったという事かな?」

 

 まあ、大体はトレギアさんの言った通りですかね……この事件は【メイツ星人】側が文明黎明期の地球で宇宙での常識が抜けきっていなかったのも原因の一つになっていると思うんだよな。

 ……例えば保護していた子供を庇うために【メイツ星人】は超能力を使用したと有るけど、超能力なんて一般的には存在しない地球では、むしろ恐怖を煽って排斥を強めるだけの結果になったと思われるしな。

 

「まあ、地球人の方に非がないとは言いませんけど【メイツ星人】の方も怪獣を封印している事を、そう言った話を聞いて、分かってもらえる防衛チームの人とかに説明して保護を求めるとかすれば……いや、それも難しいか」

「……この【メイツ星人】は地球に不法侵入した側だからね。彼が地球の情報を得て、そこの状況をある程度知っていたなら、地球の防衛チームにもし自分のことを知られたら問答無用で殺される可能性があると考えるのも当然か」

「……地球人にも話が分かる善き人達は大勢いるのだが……それはお互い長い時間を掛けなければ理解は出来ないものだからな……」

 

 タロウさんの言う通り、地球人にも【メイツ星人】が保護していた子供の様に宇宙人とも分かり合おうとする善き人達が大勢いるんだろうとは俺も思う……むしろ、あれだけ宇宙人に散々侵略されているのにそう言った善性の人達やウルトラ兄弟を命がけで助けてくれた防衛チームみたいな正義感の強い人達が大勢いる時点で、地球人は本当に宇宙でも稀に見るぐらいに善性よりの種族であると言えるだろう。

 ……だって宇宙には惑星規模で他の星を侵略したり、略奪する事を生業としていたりする種族とかもいるしね。

 

「……ただ、彼らは、地球人は宇宙人と付き合うには余りにも未熟で経験も知識も足りなさ過ぎた。そして既に先に進んでいるが故に本来こちらから歩み寄るか、彼等が宇宙に巣立つ時まで待ってあげるべきである筈の宇宙人側もその殆どが地球に対して散々な侵略活動をする有り様。……この【メイツ星人】の悲劇を始めとするこれらの事件は、そう言った要因が重なり合って起きてしまったものだったんだと思います」

 

 そもそも地球ではまだ惑星規模での統一国家やそれに準ずる組織すら出来ていないので、宇宙に存在する様々な価値観を持つ多種族と当たり前に交流出来る程に文明的・精神的に成熟にするのは後数百年は先の話になると思うんだよ。

 ……本来、宇宙進出を始めた惑星との接触や外交はもっと慎重に行い、その上で発生してしまうトラブルを時間を掛けて相互に協力した上で解決していくのが理想系な筈なんだけどな……。

 

「ただでさえ宇宙進出をし始めた惑星では大小様々なトラブルが起きるものなのに、こんな混沌とした状況では色々と酷くなるのは当然でしょう。……むしろ地球はこんな状況でありながらこの類いのトラブルが起きた回数が非常に少ない方です。まあ、前例が他に無いから断言は出来ないですけど、普通はもっと酷いことになりそうなものなのに本当に良くやっていると思いますよ」

「……成る程、確かにアーク君の意見にも一理あるな。……だが、それだと今現在の地球が持っている武力の大きさが私には不安に思える」

 

 俺は一通り自分なりの考えをタロウさんとトレギアさんに言い終わった……それに対して二人はしばらく考えこんだ後、まずトレギアさんがそんな疑問を口に出した。

 

「地球人が度重なる侵略に対抗する為に止む終えず武力を求めたと言うのは理解出来たのだが、精神面や文明面がまだ未熟な状態でそれだけ大きな武力を持ってしまっているのは問題じゃないか? ……もし地球人がその武力を以って過去に自分達が散々侵略されたからと逆に他の惑星へと侵略行為を行ったり、地球に攻めてくる可能性があると近くの有人惑星へ先制攻撃を仕掛けたりする可能性もあるんじゃ無いか?」

「……それでも、俺は地球人を信じるよ。トレギア」

 

 トレギアさんがそう言っている間それを黙って聞いていたタロウさんは静かに、だが力強くそれだけを口に出した。

 

「確かにトレギアが言った通り地球人達がそんな未来を選ぶ可能性もあるだろう。……だが、俺は地球で一人の人間として生きていた間に様々な人間を見てきた。その中には悪い人間も数多くいたが、それ以上に良き心を持つ者達もいたのだ」

 

 そう言ったタロウさんは、彼が地球で旅をしていた時に出会った様々な人間の話をしていった……その中で語られて人達の殆どは別に防衛チームの人の様に怪獣や宇宙人と戦ったり、むしろごく普通に生きているだけの一般人であった。

 それは例えばボクシングのトレーナーとして働いていた時の教え子が始めた試合に勝った際に共に喜びを分かち合ったり、或いは寿司屋でバイトをしていた時に先輩に色々教えて貰ったり、或いは落語を聞きにいったらとても面白かっただのという、ありふれた話だった。

 ……だが、その事を語るタロウさんの表情がとても輝いている様に見えて、それが何より雄弁に彼が地球人の事を愛していると伝わって来て、俺もトレギアさんも何も言えなかったのだ。

 

「だから、私達ウルトラ兄弟は地球人達がいつか正しい形で宇宙へと進出して、私達と本当の意味で友人になれる日が来ると信じている。……それまでは彼等が自分達の力だけでは乗り越えられない危機に直面した時に、それを乗り越えられる様な手伝いを私達は続けよう。……そして、もし彼等が道を誤る様な時が来たのなら、その時は私達ウルトラ兄弟の手によって彼等を止める事も覚悟している」

「…………ハァ……分かった。……タロウ、君がそこまで言うなら私はもう地球人に関して君にとやかく言わないさ」

 

 タロウさんが語った地球人を“信じる覚悟”を聞いたトレギアさんはどこか呆れた様な、或いは何処と無く嬉しそうに雰囲気で溜息を吐きつつ、少し寂しそうな感じでそう言った。

 ……やっぱり本当に地球の為に命掛けで戦って来たウルトラ兄弟の言葉には、俺の薄っぺらな意見と違ってこれ以上ないくらい説得力があるよなぁ……。

 

「しかし、そこまで言うなら地球人に宇宙側の詳しい事情を教えれば良いと思うんだが……それは不味いしな」

「ああ、ウルトラの星が所属している『銀河連邦』には、宇宙進出のレベルに満たない文明の惑星への干渉は最低限に留めるべきだと言う各種法律があるからな。……我々、光の国の宇宙警備隊にはかなり大きな裁量権が与えられているが、だからこそ最低限の干渉に留める必要があるんだ」

「下手に口を出すと他の銀河連邦所属の惑星が『ウルトラ兄弟がやるなら、俺達もやって良いだろう』みたいな理由で、これ幸いと利権目当てで地球へ内政干渉して来て状況が更に混沌として来かねませんからね。……そう言った事がないのもウルトラ兄弟が最低限の干渉に留めているからですし」

 

 ちなみに『銀河連邦』とはこの宇宙に存在する複数の惑星・種族による主に侵略などを積極的に行う者達から身を守る目的で結成された連合組織で、このウルトラの星も所属している()()()()()善性よりの組織である……のだが、侵略などは行わないにしても合法的な“外交”や“交渉”は普通に行われている。

 ……地球は色々あったせいで宇宙でも注目度の高い惑星だから、将来的な利権目当てで穏健的な“交流”を目論んでいる連邦所属の惑星が結構いたりするのだ。ウルトラ兄弟が今も地球圏をこっそり防衛しているのは、侵略から地球を守る為だけでは無くそう言った連中への牽制を兼ねていたりする。

 

「先程トレギアも言った通り地球は高い戦力を持ってしまっているから、文明黎明期の惑星としては特例として銀河連邦との“外交”や“交渉”を行うべきでは無いかと言う派閥も一部あってな……」

「……そこは“支配下に置きたい”や“利権を得たい”の間違いじゃないのかい?」

「駄目ですよトレギアさん、タロウさんがせっかく当たり障りの無い言い方にしたのに」

 

 そんな感じで、ウルトラ兄弟が色々なリスクを覚悟した上で地球への干渉を最小限に留めているのは、下手に手を出すと状況が更に混乱しかねないからでもあったりする……まあ基本は地球人の自主独立を信じているからなんだけどね。

 ……侵略者と違ってブン殴るだけじゃ解決出来ない問題だから、下手をするとこっちの方が厄介かもしれないけど。

 

「ウルトラの星って外交そんなに上手くないですからねー。圧倒的な保有戦力による権威でごり押ししてる感じだし。やっぱり種族としての極性が善性に偏ってるから、時には騙し合いが必要な交渉とかは上手く無いのか……トレギアさん、どうしました?」

「ああいや……アーク君、君は考え方が()()()()()()()()()()()()中庸の考え方の持ち主なんだね。感心したよ」

 

 俺が適当に自分の考えを言っていたら、何故かトレギアさんが非常に感心した様な雰囲気で頷きながらそう言った……いや、そんな大層なものでは無いんですけど……。

 

「ええと……俺のは単に聞いた事のある情報から、なんかそれっぽい事を言っているだけの薄っぺらい意見なんですが……」

「そんな事は無いぞアーク。……俺は地球での任務や生活の中で片方の面から見れば正義だとしても、別の側面から見れば悪になる様な物事を沢山見てきた。だから光と闇、どちらか一方から見るだけでは本当の意味で何が正義で、何が悪か、それに気付く事が出来ないと知ったのだ」

 

 そう言って俺を見ながら己の考えを話すタロウさんの雰囲気は非常に真剣なものであった……その雰囲気に当てられたのかトレギアさんも同じく真剣な表情で彼の話に聞き入っているぐらいだった。

 

「アーク、確かにお前の言う通りこの光の国は高い善性を持つところだ。故にそちら側からの見方だけでは気付けない事もあるかもしれないのだ。……お前のその視野の広さと客観的に物事を捉えられる価値観は、いずれこのウルトラの星に必要になりうる優れた資質だ。もっと自信を持つと良い」

「タロウさん……ありがとうございます」

 

 ……正直言って、生まれつきこんな考え方しか出来ない自分の事はあんまり好きでは無かったんだけど、タロウ“教官”の言葉のお陰で少しだけ前向きに宇宙警備隊を……“ウルトラマン”になる事を目指せる気になったかな……。

 

「中々良い教官っぷりだったじゃ無いかタロウ。……私としてもアーク君の意見は色々と()()になったからね。今日は色々と付き合ってくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ色々話せて良かったです」

 

 そんな風にタロウさんを少し茶化しながらトレギアさんがお礼を言って来たので、こちらからも今回の問答は自分を見つめ直すきっかけなったと思った俺はキチンとした礼を返しておいた。

 ……うん、それにタロウさんとトレギアさんの雰囲気もギスギスした感じでは無くなっているし、とりあえず二人の中が元に戻ったみたいで良かったよ。

 

「それじゃあ俺は今度の授業の準備とかがあるからそろそろ帰らせて貰うぞ。……アーク、また士官学校で会おう」

「私も『タイガスパーク』関連で色々とする事があるからここで失礼するよ。……君との話は本当に興味深いものだったよ。お陰で私が今抱いている()()に確信が持てた。また機会があったら宇宙科学技術局に来ると良い、歓迎するよ」

「はい、俺はもうちょっとアーカイブで暇を潰してから帰ろうと思います」

 

 ……そうしてアーカイブから出て行った二人を見送った俺は、当初の予定とはちょっと違う地球関連の情報を検索しながら休日を過ごして行ったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:帰りにTOY一番星製のゲームを久しぶりに買ってみた
・尚、プレイする時間が無いので積みゲーになる模様。

タロウ:トレギアとの中が改善出来てにっこり
・地球では各地を旅しつつ様々な事に挑戦していた模様。

トレギア:今回の件で光と闇は表裏一体ではないかと考え始めた
・タロウが地球について語っていた時には地球人に超嫉妬しながらも、やっぱりタロウは超かっこいい! みたいな内心だった模様。
・今回の一件で真実に至るためには光だけでなく闇についても深く知らなければならないと思い行動していく事になる。

銀河連邦:SFお約束の善玉組織
・大昔に侵略や暴力が蔓延っていた(今も蔓延っていないとは言っていない)M78スペースで自分達の種族だけでは身を守りきれない惑星同士が組んだ連合組織。
・その後も自分の身を守れない多くの惑星が加盟した為、現在ではM78スペースでも最大規模の勢力になっており宇宙での一般法律なども制定している。
・ただ、この宇宙では力ある種族は自主独立を選ぶ事が多いので、加盟惑星個々の戦力は一部(ウルトラの星とか)を除き低い
・ウルトラの星は宇宙警備隊発足後に加盟しており、前述の理由から大歓迎されて宇宙での治安維持に多大な権限を与えられている。
・ウルトラの星の宇宙警備隊以外にも宇宙Gメンなどの各惑星の治安維持組織が協力して宇宙の平和を維持しているが、実の所宇宙警備隊とその同盟組織(TOY一番星・Z95星雲ピカリの国・アンドロ戦士団など)が全体の50%近くを対応しているぐらいに戦力差がある。
・その為、ウルトラの星の発言権は銀河連邦の中でも非常に高い……と言うか、加盟惑星は誰も敵に回したくないと思わせる抑止力となっている。
・なので、極端な善性を持つ彼等に目をつけられない様、この手の組織に有りがちな分かりやすい汚職や圧政などはかなり少なくなっている。


読了ありがとうございました。
数多くの感想ありがとうございます。本当に励みになっているのでこれからもよろしくお願いします。


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続々・アークの日記

 α月β日

 

 先日のアーカイブでの問答でタロウさんに言われた『アーク、お前はいずれ宇宙警備隊に必要な人間になるかもしれない』と言う言葉……正直言って俺はまだ自覚は持てない。

 ……昔から、いや生まれた時から俺はこの光の国の極端な善性を持つ感性に何故か馴染めなかった。どうしても悪い側にも一定の共感を抱いてしまうのだ。

 ただ、俺は別に悪い事がしたいと言う気になる訳ではなくてそういう事に関する嫌悪感もちゃんとあるし、親父を始めとするウルトラ兄弟の在り方について憧れを抱いたりもしている。だから宇宙警備隊に志願したんだし。

 

 実際、幼い頃から俺は周りからかなり浮いていて(今も浮いているとは言ってはいけない)かなりボッチな感じだったし。そういうのを完全に無視して俺に話しかけるど天然なメビウスが居なければ、今もずっとそうなっていたかもしれない。

 生まれつき持っている他者とは異なる力、生まれつき周囲とは異なる価値観。……宇宙警備隊に志願したのも親父達に憧れたからだけでは無く、この星の“光と善”の象徴みたいなそこに入れば自分の事を認められるかもしれないと考えたからでもあると思う。

 だが、先日のタロウさんの話を聞いて俺は多分それだけでは駄目だと感じた……彼の様にこの星の外に居る様々な人達と接して、そこから自分なりの“答え”を見つけて行くべきでは無いかと思ったのだ。

 

 ……そういう訳で、実は前々から少しずつ考えていたのだが卒業後の進路として『宇宙保安庁』を目指してみようと思う。あそこは宇宙の様々な星系を周り各地の調査や苦戦して居る支部の救援を行う部署なので、多くの人と接せられるという俺の目的に合致するだろう。

 それにタロウさんが言っていた客観的なものの見方が出来る俺の価値観や、今まで得て来た様々な知識も調査などを生業とするそこでなら活かせるだろう。

 とりあえず宇宙保安庁への入隊を目標に今後の訓練も頑張って行きたいと思う。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 α月γ日

 

 士官学校のカリキュラムも後半に入って来たので、その内容も応用的なものが増えてきた今日この頃。俺は将来の進路として『宇宙保安庁』の入隊を目指す事をカラレス教官に伝えて、その為に何をすれば良いのかを相談してみた。

 ……俺の将来の進路を聞いた教官はやや驚いたものの快く相談に乗ってくれた為、以下の事を知る事が出来た。

 

 まず、基本的に宇宙保安庁や勇士司令部、宇宙情報局などの部署には宇宙警備隊で働いて居る中でそれらの部署に向いている者に移動の打診を出して、その者がやる気があれば(断る事も出来る)受託してその部署に移動するというのが一般的だそうだ。

 最も、この事については以前から知っていたし講義でも習ったから改めて確認しただけであり、重要なのはこの後カラレス教官が教えてくれた事である『士官学校の成績優秀者は教官からの推薦と本人の希望とその部署の判断次第で、卒業後に直接それらの部署に配属される事が出来る』制度の事である。

 

 この制度は最近になって親父と各部署の長が協力して最近制定されたものらしく、俺も知らなかったので少し驚いた。どうやら今後俺達訓練生に公表する予定だったらしい。

 何でも近年この宇宙の治安悪化を受けて宇宙警備隊の人員が少しずつ不足していっており、特に専門的な技術や経験が必要なこれらの部署は徐々に業務がキツくなっているのだとか。

 幸いまだ業務に支障が出るレベルでは無いので、いっその事余裕のある今の内に若い人材を自分達の所で育成する事で、将来的な業務の増大に備えて部署の戦力を拡充する目的で制定された様だ。

 

 もちろん、これらは専門的な部署なので普通の警備隊員よりも高い能力が必要とされる為、本人の希望だけで無く士官学校での成績や教官からの推薦も必要になってくる……が、俺はこれでも士官学校首席! 更に宇宙警備隊隊長の息子というネームバリュー(笑)とバット星人やババルウ星人事件での活躍などから推薦するだけの信頼は問題無いそうだ。

 

 とりあえずカラレス教官は宇宙保安庁の方に俺の推薦をしておいてくれるとそうだ。教官曰く『宇宙保安庁や宇宙情報局は戦闘以外に特殊な技術や経験を必要とするから万年人材不足気味だし、士官学校首席が希望すれば向こうも諸手を上げて喜ぶんじゃないか』との事。

 ……まあ、これで将来の進路も(多分)決まったし卒業までに残りのカリキュラムもしっかりとやりますかね。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 Σ月Ω日

 

 今日は久しぶりに親父が家に帰って来た。どうもヤプールの封印の為にウルトラ兄弟四人が地球に滞在する事になって親父の仕事も増えているらしい。折角なので少し世間話をしてみたら、どうやら地球関連でまた厄介な事が起きていたらしい(またかよ)

 ……と思ったのだが厄介な事は起きたのはこの宇宙の地球では無く、こことは()()()()()()の地球だという話だから俺も結構驚いてしまった。

 

 詳しく話を聞くとヤプールが地球に封印されて以降、地球の周辺に次元の歪みの様なモノが観測されていたらしく、封印されたヤプールが何らかに干渉を行なっている事も考慮して宇宙科学技術局が中心となって調査を進めていたのだが……ある時、この宇宙の地球とよく似た、だが明確に違う並行世界の地球がこの世界の地球に重なる様に観測されたらしい。

 尚、最初に並行世界の地球を見つけたのは調査の指揮を執っていた親父らしく、何でも『こことは異なる世界の地球から助けを求める“星の声”が聞こえた』のだとか。

 ……それを聞いた俺はつい働き過ぎで幻聴でも聞こえたんじゃないかと思ってしまったが、親父曰く『“星の声”とはその星とそこに生きる全ての生命が発する意思の様なモノで、その星を守ろうとしてきた我らウルトラ兄弟を何度も導き助けてくれた』らしい。正直よく分からんが幻聴とかではない様だ。

 

 とにかく、並行世界の地球が観測されたという事は世界間の次元の境界線が歪んでいるという事なので、早急に何らかの対処を行わなければこの宇宙の地球に甚大な被害が出るかもしれないと言う声が上がったらしい。

 そこで同行していたチームUSAのスコットさん、チャックさん、ベスさんの三人が並行世界の地球へ調査に向かう事となった様だ……最初は“星の声”を聞いた親父が行こうとしたんだが、指揮を執る隊長がこの場を離れる訳にはいかないと判断したらしい。当然だな。

 ……まあ、親父は三人に『“星の声”は助けを求めていた。もし並行世界の地球に助けを求める者がいるなら宇宙警備隊として力になってやれ』と言って三人に戦闘許可を出して送り出した様だが。

 

 その後、チームUSAの三人は並行世界の地球で起きた事件を解決したのだが、そんな彼等が帰還した直後にまるでもう役目を終えたかの様に次元の歪みが消えて並行世界の地球が観測出来なくなったのだとか。

 それから引き続き地球の監視を続けていると更に二回程同様の現象が観測されたらしく、加えて二度目に観測された地球には宇宙の全ての生命を自身に取り込み、滅ぼそうと企んだ悪魔のような生命体【邪悪生命体 ゴーデス】が、三度目に観測された地球にはバルタン星人の過激派が入り込んでいると報告されたのだとか。

 コイツらがいつ並行世界に入り込んだのか、或いは入り込んだから観測出来る様になったのかは分からなかったらしいが放置する訳にも行かず、任務でそれぞれの相手を追っていたグレートさんとパワードさんが並行世界の地球に派遣されたらしい。

 ……そして彼等がその地球で起きた事件を解決したら、また同じ様にそれらの地球は再び観測出来なくなったのだそうだ。

 

 この現象については宇宙警備隊の方でもまだよく分かっていないらしいが、今後も同じ事が起きる可能性もあるとして地球周辺の次元の観測は継続していっているそうだ。

 推測としては『次元の悪魔とも呼ばれるヤプールのマイナスエネルギーによって、何らかの悲劇が訪れる並行世界の地球と一時的に繋がってしまったのではないか』という説もあるが詳細は不明である……ウルトラの星でも並行世界──マルチバースの研究はあんまり進んでいないからな。今後の研究と調査が待たれる。

 

 ……後、俺が宇宙保安庁を志望している事を親父も知ったらしく(最近会ってなかったから聞いていなかった)自分で決めたのならやり通せと激励を貰った。頑張ろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 Σ月α日

 

 追加報告。どうやらまた並行世界の地球が観測されたらしく、今回はZ95星雲にある宇宙の環境保護を主な活動としている光の国とも同盟関係にある『ピカリの国』から人員が派遣される事になったという情報が入って来た。

 何でも向こうが追っている【ベンゼン星人】の一人の反応がその地球に観測されたらしく、光の国に協力を求めて来たので並行世界の地球の各種データを渡したとの事。

 ……流石に星が違うからこれ以上の事は分からなかったが、本当にどの世界でも色々と事件が起きるな地球。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 Δ月β日

 

 今日も今日とて士官学校で訓練の日々である……と言っても、戦闘能力の面では俺はほぼ問題無いなどとタロウ教官、カラレス教官から言われているので、カラレス教官おススメの宇宙保安庁で使えそうな技術や知識を学ぶ事にした。

 技術面においては人化技術の発展系である様々な姿・種族に擬態する変身技術、知識面においてはこの宇宙に存在する様々な生物・文化・風習を学ぶ応用宇宙文化学とか応用宇宙生態学などを追加でやっている。

 

 学習面に関しては以前からアーカイブなどで節操無く知識を得ていたので、特に問題無く進んでいる。これでも知識を得る為の勉強は好きな方なんでな……問題があるのは変身能力の方だ。

 俺は肉体変化系技術の適正は高いから変身自体は出来るのだが、好きな姿に変身するにはその姿を正確に頭の中に思い浮かべるイメージ力が重要になってくるのだ。写真で見た姿をそのまま真似するのは簡単に出来るのだが、自分のイメージだけで変身すると微妙に変な感じになってしまう。

 ……どうやら俺はイメージ力に関する才能は余り無かったらしい。覚えた技も殆どが親父かウルトラ兄弟の真似だからな……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 Λ月γ日

 

 今日の応用宇宙生態学は意外と興味深かった……まさか【パゴス】と【ネロンガ】と【マグラー】と【ガボラ】が種族的にはかなり近い種で、その大本は“バラナスドラゴン”という恐竜だったと言うのは初めて聞いたな。

 ……確かに良く見てみるとこの四種は骨格などがそっくりだし、あらためて言われると近似種だと納得できるな。しかし骨格はほぼ同じなのにここまで別物に見えるとは、生物と言うのは不思議なものである。

 授業では他にも【チャンドラー】と【ペギラ】が元は同種の怪獣が住んでいる環境の気候で異なる姿に進化したものだという話や、【ゴメス】と【ジラース】は元を辿ると大昔に生きていた“とある恐竜”に行き着くだのというマニアックな知識を得る事が出来て結構面白かった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 β月α日

 

 今日は応用宇宙文化学でこの宇宙に於ける宇宙警備隊的に要注意な種族について学んだ……その中でも印象的だったのは【バルタン星人】の事についてだったな。

 地球でウルトラ兄弟と何度も戦っている事で有名な【バルタン星人】だが、彼等は元々“全てのバルタン星人が一つの意志を共有している”という特殊な生態をしていたのだと言う。どうも彼等は種族をより高位に進化させようとしていたらしく、昔に全バルタン星人の意思を共有させ“個”を捨てて種族そのものを一つの生命体とする事が究極の進化だと結論付けたらしい。

 ……その行動の正誤は今は問わないが、少なくともそれまで【バルタン星人】の間で起きていた同属同士の争いは一切無くなったそうだ。まあ“自分自身”と積極的に争おうとは思わないだろうな。

 また、意思を共有した事で【バルタン星人】という一つの生命となった影響なのか“個を持つ生命”というものを理解出来なくなり、更に感情などもかなり希薄になった所為で、他の種族への配慮が欠けてしまい宇宙警備隊を始めとする他の種族と何度も衝突する事にもなったが。

 

 だが、その意思の統合作業上手くいっていなかったのか、或いは長時間の統合で何かバグでも起きたのか……ある日突然一部のバルタン星人が何故か共有意思を無視する様になり、遂には核兵器を使って母星を滅ぼしてしまったのだ。

 ……どうしてそんな実質自殺の様な事になったのかは未だに分かってはいないが、その後に滅び行く母星を捨て幾つかにのグループに別れて宇宙へ逃げた【バルタン星人】の共有意思はそれぞれのグループ毎に別れてしまったらしい。

 

 具体的には地球でウルトラマンさんと戦った地球への移住を図った一派……というか、本来の【バルタン星人】の意思に近い“他の生命を理解出来ない共有意思を持つグループ”が有名か。

 彼等は自分達の新たな移住先として地球に住もうとしたのだが、その際に未だに黎明期の文明である地球人では【バルタン星人】と確実な争いとなるから火星などの別の惑星にしたらどうだ、とウルトラマンさんに説得されたそうだ。

 ……だが、“生命”を理解出来なかった彼等は『それならば自分達が移住する為に人類を滅ぼすしかない』と考えて先行していた一体は巨大化して破壊活動を行い、更には宇宙船に積まれていた生物兵器で地球人を虐殺しようとした為、ウルトラマンさんは止む終えず彼等を倒すしか無かったのだとか。

 まあ、これで地球に来た【バルタン星人】が全滅した訳ではなく、私怨からその後も幾度に渡って地球とウルトラ兄弟に復讐戦を挑んで行ったのだが……それらの個体は数が減り過ぎて共有意思が無くなったのか、各々でかなり強い個性を持ち始めたという。

 ……そもそも私怨や復讐の為に動いている時点で、“生命”が理解出来ず感情が希薄とは言えないのではないかと俺は考えているが……。

 

 ちなみに他にはパワードさんが追っていた積極的に他の星を侵略しようとするグループや、生き残り同士で宇宙の片隅でひっそりと暮らしている穏健派グループ、更には完全に個を持つようになって単独行動している【バルタン星人】もいるのだとか。

 ……本当にこの宇宙には色々な価値観があると改めて考え直された話でした。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 Ω月Σ日

 

 今日は久しぶりに戦闘訓練に顔を出した、ここの所は座学ばかりだったからな……尚、俺は既に卒業までの単位は取得済みなので後は自主練だけやってればいい感じである。

 まあ、そういう訳で訓練としてメビウスと10本勝負の模擬戦を行ったのだが、俺はシルバースタイルのみでの戦いとは言えなんとメビウスに五本も取られてしまったのだ。

 

 前までは俺の勝利が八割ぐらいだったのでメビウスはこの短期間でかなり強くなっている様だ。どうもタロウ教官の指導を同期の誰より積極的に受けたのが理由らしい……俺も似たような理由(ウルトラ兄弟式スパルタ指導)で強くなったから納得だな。メビウスは元々資質はあったのだし。

 ……尚、その後にメビウスが天然のくせに調子に乗って『アークって腕落ちた?』とか聞いて来たので、最近覚えたシルバースタイルとリバーススタイルを瞬時に切り替える『高速タイプチェンジ』を含めた全力で10連勝して差し上げたが。これでも日々の戦闘訓練は怠っていないのだ。

 兎に角、士官学校ももう少しで卒業だから同期全員最後の追い込みに掛かっているし、俺も宇宙保安庁就職に向けて頑張っていこうか。




あとがき・各種設定解説

アーク:将来の進路が決まった
・何だかんだ言ってもメビウスの事は親友だと思っている人。

並行世界の地球:この作品の独自設定
・ウルトラマン〜メビウスまでが訪れた地球と整合性が合わない地球に訪れたM78スペースのウルトラマンは、この現象で観測されたマルチバースの地球に訪れた設定で行きます。
・尚、マルチバースはウルトラの星でもまだ未知の概念であり、他にやる事が沢山ある事もあってマルチバースの研究は中々進まない模様。

応用宇宙生物学:主に着ぐるみとかモチーフとかが元ネタ。

【バルタン星人】:鳴き声は印象的なウルトラシリーズに登場する宇宙人の中で最も有名な方達
・共有意思に関しては『story0』の設定で、代が進む毎にキャラが立って来た彼等の設定としてこういう形式を採用しました。
・ウルトラマンが彼等の宇宙船を破壊した事は結構突っ込まれるので、この作品では透視光線で即座に破壊しなければならない生物兵器を投下寸前だった設定になりました。


読了ありがとうございます。
時系列が結構飛ぶので日記形式にしました。もうそろそろ士官学校編が終わりそうですし、卒業後の宇宙警備隊編について考えていかないと……。


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新装備運用実験(前編)

 この俺、ウルトラの星の宇宙警備隊見習いのアークは久しぶりに宇宙科学技術局に足を運んでいた……何でも、向こうから親父を通して今開発している()()()()()の試験に付き合って貰えないかと言う話が来たのだ。

 ……しかし、何故俺が新アイテムの試験をやる事になったのだろうか? こういうのはベテランの警備隊員がやるのが普通だと思うんだが。

 

(或いは試験に俺の特殊能力であるリバーススタイルとかが必要なのかもしれないが……とにかく技術局に行って詳しい話を聞けばいいか)

 

 俺がそう考えていたら宇宙科学技術局に到着していたので、とりあえず中に入っていつも通り受付に用件を告げた後で何時もの研究室に向かって行ったのだった。

 ……そこで待っていたのはやはり何時も通りのフレアさんにトレギアさん……と、これまた何時ものマッド達だった。彼等は何かの作業をしている様で妙に静かだったが。

 

「おー! よく来てくれたなアーク。士官学校の卒業も近いのにわざわざ呼び出してしまって済まないな」

「いえ、もう卒業までの単位は既に取得済みですから大丈夫ですよ。最近は宇宙保安庁への就職を目指して応用技術を学んでいますが、それもひと段落ついた所ですし」

「うん、それは聞いているよ。……士官学校首席であるゾフィー隊長の息子が宇宙保安庁を目指しているってのは、宇宙警備隊の中で結構噂になっていたしね」

 

 え、マジで⁉︎ ……その後トレギアさんから詳しく話を聞くと、どうやら例の士官学校卒業生をそれぞれの部署へ直接引き抜く制度が出来てから、宇宙警備隊内部では優秀な卒業生の引き抜きの為に色々と調べたりしていた様だ。

 その中で宇宙警備隊隊長の息子であり士官学校首席の俺を自分達の部署に入れられないか行動していた人達も居たらしく、そこから俺が宇宙保安庁を志望した事が漏れたらしい。

 ……まあ、有名になる事自体は親父が親父だし今更だから別に良いんだが、俺も大分有名になったもんだなぁ……。

 

「……それはともかくとして、今日は一体何の実験なんですか? 親父を介して俺を呼んだ以上は何時ものデータ収集とは違うんでしょう?」

「ああ、もう伝わってると思うが今回お前に頼みたいのは開発中の新装備の試験運用だ。……お前の事だから『何で見習いの俺がやる必要があるんだ? ベテランの隊員にやらせるべきでは?』とか考えついているんだろうが、その辺りには事情があってな」

「要するに、この新装備はアーク君の『リバーススタイル』の研究データが使われているんですよ。……今から詳しく説明させて貰いますね」

 

 フレアさんとトレギアさん曰く、今回の新装備は近年外宇宙やマルチバースなどの特殊な環境下での過酷な戦闘を初めとする活動が増えてきた宇宙警備隊において、そういった環境への適応や戦闘能力上昇などを複合的に行う多目的デバイスとして開発が進められた物だという。

 ……確かに最近は地球とか並行世界の地球とか(どっちも地球じゃんとか言ってはいけない)でそういう活動が増えてきたし、そんな新装備があるのなら頼りになるだろうな。

 

「それって以前トレギアさんが言っていた『タイガスパーク』みたいな物ですか?」

「いや、私とタロウの『タイガスパーク』とはまた別系統だね。あちらは現地住民との融合の効率化とそれによる長時間活動が主軸だけど、こっちはウルトラ戦士単体での行動補助が主軸になっている物だから。……まあ、運用データの一部は使われているけどね。それじゃあ続きを「「「ここからは私達が説明しましょう!!!」」」ちょ⁉︎」

 

 そんな風にトレギアさんが話を続けようとすると、何故かさっきまで大人しかったマッド達がいきなり割り込んできた……どうやら彼等は“ちからをためている”状態だった様だ。さっきまでしていた作業にひと段落ついたからかもしれないが。

 ……その後、多少のすったもんだがあったがフレアさんが『今回はコイツらが主体で行った研究開発だし説明させるぐらいはいいだろう。……そのお目付役として俺がいるんだし』と、やや遠い目をしながら言った事でマッド達の代表であるマーブル博士が説明する方針で纏まった。全員が好き勝手話すと収拾が付かなくなるからな。

 

「そういう訳で続きを説明していきますね! ……今回の新装備は先程トレギア君が言った通り装着者の特殊環境適応と戦闘能力向上を狙った物なのですが、元は『ウルトラ心臓』や『ウルトラホーン』の様な特定のウルトラ族にしか無い器官を人工的に再現出来ないかという研究から始まったんですよね」

 

 マーブル博士曰く、肉体が粉微塵になっても再生を可能とするとウルトラ心臓や、膨大なエネルギーを集束・制御出来る様になり果てはウルトラ戦士同士の合体なども可能とするウルトラホーンなどの特殊器官は、その強力な特性と引き換えに宿している者が非常に少ない代物であった。

 ……そして、以前からそういった特殊器官の事を研究していたマーブル博士とその研究チームは今回()()()()()()から依頼のあった新装備の開発に対して、それらの研究データを元に人工的な外付け可能な特殊器官の開発に踏み切ったのだと言う。

 

「……ていうか、この依頼って大隊長からだったんですか?」

「そうだよー。お陰で予算も潤沢だから実に良い感じに研究出来たし、ウルトラ心臓とウルトラホーンのデータ収集も依頼してきたケンが協力してくれたから実にスムーズに進んだよ。……そして! これがさっき調整が終わった新装備の試作型になります! デデドン!」

 

 そう言って何故か擬音と共にマーブル博士が取り出したのは、赤色をベースに黒と銀の色が入った細長い六角形っぽい形状をしていて中央部分に球体のパーツが埋め込まれているデバイスだった……大きさ的には大体腕につけるタイプの変身用装備ぐらいかな。

 

「これが私達宇宙科学技術局の新型アイテム『試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮)』だ!!! ……名前に関しては完成してから決めるので突っ込まないでほしい」

「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ──!!!」」」」」

「……それは分かりましたが、どうしてコレのテストを行う者として俺を呼んだんですか? こういう物のテストはもっとベテラン隊員とかがやった方がいいのでは?」

 

 マーブル博士がその試作エネルギー運用デバイス(仮)を紹介するのと同時に後ろのマッド達が拍手するのをスルーして、俺は今日ずっと疑問に思っていた事を改めて聞いてみた。

 ……するとマーブル博士を含む研究員全員が途端にテンションを下げて溜息をつき始めた。

 

「……あー、それはねー……このデバイスにはウルトラホーンの機能を疑似再現した装着者のエネルギー蓄積・増幅・解放機能や他者のエネルギーを自分に収集させて融合すら可能とさせる機能、それにウルトラ心臓の様に肉体が粉微塵になっても再生を可能とする生命維持機能、更にはケンやアーク君のタイプチェンジ能力を参考にした装着者の肉体変容を補助する機能などがてんこ盛りなんだが」

「なんだが?」

「……これまで試験の為に呼んだ隊員達には誰一人として適合せず、その機能を発揮する事が出来なかったんだよ……」

「ダメじゃないですか」

 

 詳しく話を聞くと、このデバイスはカラータイマーみたいに肉体に融合させて使う物で融合させたり取り外したりは問題無く出来るのだが、機構が複雑過ぎる所為かこれまでの被験者は人によって機能を一部だけ使えたり、或いは全て使えなかったなどとマチマチでまともな動作データが取れなかったらしい。

 ……一応、ウルトラの父が試した時は上手く動作したらしいが、元々ウルトラホーンとウルトラ心臓がある大隊長ではデバイスの機能の殆どが意味が無く良いデータは取れなかったとの事。

 

「そういう訳でケン以外でこのデバイスの機能を全て引き出せそうな人員として、ケンと同じ様に既にタイプチェンジ能力が使えてデバイスの製作時にデータが使われているアーク君ならいけると思って呼んだのよ。……だからお願いっ! このデバイスのテスト運用をして欲しいの! 運用データさえ! まともな運用データさえ取れれば稼働率の問題を改善する目処は立っているから!」

「もちろんタダでとは言わん、この試作型デバイスは調整を施した上で君にプレゼントしようではないか。変身補助機能やアイテムの保管機能など様々な便利機能を備えているからお得だぞ!」

「何なら卒業祝いも兼ねての追加プレゼントもあげるから! この『怪獣ボール』とか!」

「それジャックとセブンに酷評されて博物館行きになりそうなやつだろ。……ここはこの『ウルトラマジックレイマークII』を……」

「……というか、この試作機作るのに大分予算を使ってるからここでコケるのはマジでヤバイ……」

「ウルトラの父から頂いた希少鉱石『ダイモードクリスタル』も結構使っちゃったし、流石にここまで来て出来ませんでしたは……」

「……お、おおう……」

 

 そんな感じで、マーブル博士を始めとするマッド達が拝み倒してきたので思わず俺は一歩下がってしまった……まあ、大隊長が関わっている以上は宇宙警備隊員としても断るという選択肢は無いし、彼等にも世話になっているから助けてやっても良いと思ってはいる。

 ……だから、物で釣るためにプレゼントと称して色々変な物を押し付けるのはやめてほしい。

 

「分かりました! 分かりましたから! そこまで言わなくても実験に協力しますよ。……ただ、ちゃんとしたデータが取れるかは分かりませんからね」

「ありがとうアーク君! それに大丈夫よ、試算ではこの試作デバイスに君が適合する確率は98%と出てるから!」

「ふははは! 98%ならもうほぼ100%みたいな者だろう! 勝ったな!」

「……この研究が終わったら、俺は今度こそ自宅の積みゲーを消化するんだ……」

 

 ……以前やったシミュレーションゲームでは命中率98%の攻撃が外れて、反撃の命中率2%の攻撃が当たってユニットがロストしたりしたんだけどね……。

 

「さてさて、じゃあ早速この試作デバイスを着けてみようか。これは腕に付けるタイプだけどどっちがいい?」

「えーっと、それじゃあ右腕で」

「はいはーい、それじゃあ腕出してね〜。大丈夫、カラータイマーの技術のちょっとした応用で、ピカッとしたら直ぐにくっついて痛みも一切無いから。……はいピカー!」

 

 そうして俺が前に出した右腕でマーブル博士が試作型デバイスをくっつけると、相変わらずの気の抜ける様な擬音と共に右腕とデバイスが光り輝いた……そして数秒後に光が収まった時には俺の右腕と試作デバイスが完全に融合していたのだ。

 ……軽く腕を動かしてみても違和感は一切無いし、さっきのマーブル博士がやった融合技術も以前カラータイマー移植手術の時に見たそれと比べても遥かに高度であると素人目にも分かるレベルだったから、本当に技術面に於いてはこの人達は超一流なんだよな。

 

「それじゃあ、早速実験室でテストしてようか! ……ふひひひひ、やっとまともなデータが取れる……」

「よっしゃ! お前達機材を準備しろ! 情報は一つも漏らさずに記録するんだ!」

「「「アラホラサッサー!!!」」」

 

 ……本当に技術面に関して()()は超一流なんだけどなぁ……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『はーい。アーク君、準備は出来た〜?』

「はい、大丈夫です」

 

 そんな訳で俺は試作デバイスのテスト運用をする為に何時もの実験室に入っていた……さて、このデバイスは一体どれほどの力があるのか、さっき一通りの説明が乗った資料(分厚い)を少し読んだところ凄い性能みたいだしちょっと楽しみでもあるな。

 

『それじゃあ試作デバイスの試験を始めるわ。……まず、デバイスに付いている球体『クリスタルサークル』に手をかざして回転させる事で蓄積されているエネルギーが解放されるから、それを光線技に上乗せして放ってみて頂戴。的は出しておくわ』

「分かりました……セヤッ!」

 

 そうして俺は言われた通り右腕の試作デバイスの球体部分『クリスタルサークル』に左手をかざして、そのまま一気に振り抜く事でそれを勢いよく回転させた。

 ……すると、俺のエネルギーが蓄積されていた試作デバイスから増幅されたエネルギーが溢れ出し、俺の右腕を中心として身体の周囲を滞留し始めたのだ。

 

『エネルギー蓄積・増幅・解放機能共に正常稼働! 現在滞留状態を維持!』

『よっしゃあ! 試作デバイスの稼働率98%! 各種データもほぼ試算通りの値が出ています!』

『ふっ、アーク君を選んだ私の目に狂いは無かったわね。ケンの方はマジで期待はずれだったけど、これならどうにかなりそう。……それじゃあ光線を撃ってみて』

「はい……スペシウム光線!」

 

 そして俺は腕を十時に組み体内のエネルギーだけでなく、滞留しているエネルギーも使ってスペシウム光線を放った……すると大体俺が想定した出力を三割程上回る光線が発射されて、設置されていた的を粉々に吹き飛ばした。

 ……これは凄いな。俺が消費したエネルギーは何時もと同じなのに威力がこれだけ上がるとは。

 

『スペシウム光線の威力が事前のデータと比べて三割の上昇を確認! 試作デバイスの光線技増強機能は成功です!』

『よぉし! 直ぐに各種データを総浚いして問題点を洗い出せ!』

『中々良い感じね。……じゃあアーク君、他にも一通りの技をその試作デバイスを使いながら撃って貰えるかしら』

「分かりました」

 

 その後も俺はウルトラスラッシュ、ウルトラバーリア、アークレイショット、アークブレードなどの自分が使える技を試作デバイスの効果で威力を増幅させながら次々と使っていった。

 その結果分かった事は、まずこの試作デバイスの増幅機能はエネルギーを運用する技ならほぼ全てに適応出来る事……本当にこれは凄い、技の効果がほぼノーリスクで三割も増すとか凄いとしか言いようのない装備である。

 ……ただ、欠点と言うか機能上の問題として試作デバイス内部に蓄積されたエネルギーが無くなれば増幅効果は使えなくなるらしい。非戦闘時とかに余剰エネルギーを蓄積しておく機能とかもあるみたいだけど、連戦で元となるエネルギーが枯渇した状態だと増幅機能は使用不能になる様だ。

 

『よしよし、良い感じにデータが集まって来たわね。……それじゃあ、次は再生補助機能を試したいからちょっとウルトラダイナマイトしましょうか』

「はい、分かりまし……えっ⁉︎」

 

 なんかマーブル博士が極自然にそんな事を宣ったから、俺はついうっかり頷いてしまいそうになってしまった……一応タロウ教官からやり方は習っているので爆発は出来なくはないんだが、再生は練習しないと出来ないからなぁ。

 ……メビウスはタロウ教官の慣習で肉体の極一部を爆破してから再生させる感じの練習とかしてたけど、俺はそこまでしてまで自爆とか覚える気無かったしなぁ……。

 

『阿呆! いきなり自爆させようと奴がいるか!!!』

『痛ァ⁉︎ 流石に冗談よ〜。自分の身体を粉微塵にさせてから再生させるなんて頭おかしい技を使わせる訳無いじゃない。……再生補助機能のデータ収集はこれから戦闘データ収集を兼ねて行う模擬戦の中で取らせて貰うから』

「は、はぁ……」

 

 実験室の方からは何かを殴る様な音と共にフレアさんの怒鳴り声とマーブル博士の説明が聞こえて来たが、俺はそれを出来る限りスルーする様にして模擬戦に備えて精神を整えて行くのだった。

 ……やっぱりウルトラダイナマイトの練習もした方が良いのか? この試作デバイス後で貰えるみたいだし、今度タロウ教官に相談してみるかな。




あとがき・各種設定解説

試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮):アークの新装備(予定)
・これまでの宇宙の治安の乱れから遠からず大きな戦いが起きると思ったウルトラの父が、ウルトラ戦士の戦闘能力を引き上げる為に作成を依頼した装備の試作型。
・中心に付けられた『クリスタルサークル』にはかつてウルトラの父がウルトラマンキングから賜った、圧縮する事で超高エネルギーを発生させる希少鉱石『ダイモードクリスタル』が使用されている。
・ぶっちゃけると『メビウスブレス』のプロトタイプであり、外見はメビウスブレスの色を変えて炎っぽい意匠を無くしてシンプルなデザインにしたリデコ品。
・尚、潤沢な予算が与えられたマッド達によってアホみたいな性能となっているが、その分コスト面に難があり調整されたとしても量産は難しい模様。


読了ありがとうございました。
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新装備運用実験(中編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 宇宙怪獣 ベムラー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『ギャオオオオオオ!!!』

「シェアッ!」

 

 現在俺は試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮)のテストの為に、シミュレーターによって作りされた【宇宙怪獣 ベムラー】との戦闘を行なっていた。

 ……尚、あのマッド達がシミュレーターのバージョンアップを行なったらしく作り出される怪獣の能力は大幅に上がっており、他にも色々な特殊設定が可能なのだとか。

 

『グギャアアアアア!!!』

「ッ! 早い!」

 

 今も作り物とは思えない程に俊敏に動いたベムラーが口から放つ青白い熱線を、俺は腕を交差させてどうにか防いだ所である……まあ、受け止めたのは試作デバイスの再生補助の試験も兼ねての事だけどな。

 そして、俺は腕を振り払って熱線を弾き飛ばしてからベムラーに接近しつつ、右腕の試作デバイスに備え付けられたクリスタルサークルを勢いよく回転させて蓄積されたエネルギーを解放して……。

 

「……セヤァッ! ライトニングカウンター・ゼロ!!!」

『ギャアアアアアアア!!!』

 

 そのエネルギーをそのまま右腕に集中させながらの右ストレートをベムラーの腹部に叩き込んで大ダメージを与えた……うん、使い用によっては格闘能力の強化にも使えるな。

 ……だが、ベムラーは相当強化されているのかこの攻撃を食らっても直ぐに体勢を立て直して再び熱線を放ってきたので、俺はすぐに側転しながらそれを回避した。

 

「……いや、これは本物よりも強化されてないか?」

『今回のベムラーは試験用に耐久性を大幅に上げてますからね。……だからガンガン試作デバイスを使っていって下さい!』

『アンギャオオオォォォ!!!』

 

 ……どうやらそういう事らしいな。まあ今回は試作デバイスの試験が主体だからこういう設定でもしょうがないか……とりあえず俺は再びクリスタルサークルを回転させてエネルギーを解放、そのエネルギーを試作デバイスを起点としてブレード状に生成させた。

 

『ギャオオオオオオ!!!』

「踏み込みが甘い!」

 

 そして俺に追撃しようとベムラーが連射して来た熱線をブレードで切り払って行く……しかし、コイツ耐久性だけじゃ無くて攻撃性も上がってるんじゃ……。

 

『おい……あのベムラー明らかに耐久性以外も強化されてないか?』

『え? …………あ、設定ミスって難易度が耐久性強化の試験モードじゃ無くて、最高難易度のEXモードになってました』

『あー、怪獣の戦闘能力をその種族に於ける理論上の最高値で再現するモードだったな。……いやー、生化学担当メンバーと協力してこのモードを作るのは大変だったな』

『そうですね。……何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかを引っ張り出す必要もありましたから』

『アンギャオオオォォォアアアアアア!!!』

 

 研究室の方からフレアさんとマッド達の会話が聞こえると共に、目の前にいるベムラーが一際大きな叫び声を上げた……すると突如としてベムラーの背びれが青くなり更には頭部に二本の角が生えてきたのだ。

 ……うん、見た目だけでも分かるぐらいに物凄く強化されている感じがするな。ていうか【レイブラッド星人】のデータとかヤバい単語が聞こえて来た様な……。

 

『グギャアアアアア!!!』

「ヌワッ⁉︎」

 

 そして、その強化ベムラー(仮)は口から先程までと比べて遥かに高い威力の熱線を放って来た……俺は咄嗟にブレードで受け止めるものの、大幅に強化されたその威力を受け止めきれずに弾き飛ばされてしまった。

 流石にこのままやられっぱなしでは不味いと思った俺は、牽制の為にゼットレーザーを撃って強化ベムラーの動きを止めようとしたのだが……。

 

『ギャオオオオオオ!!!』

「なっ! 光線を吸収した⁉︎」

 

 何と強化ベムラーは放たれた光線を頭部の角に吸収してしまったのだ! ……光線吸収能力とかウルトラ戦士の天敵みたいな強化されてるな。何でベムラーが宇宙の悪魔とか言われているのが気になってたんだが、ひょっとして昔はこんな凶悪な能力を持っていたのかな? 

 ……俺が現実逃避気味にそんな事を考えていると、攻撃されて怒ったのは強化ベムラーは反撃として熱線を連発して来たのだ。

 

『ギャギャアアアアアアア!!!』

「クソッ! ええいっ! 光線技が吸収される以上は近づきたいんだが、こうも攻撃が激しいと……!」

 

 それらの熱線を俺はどうにか回避し続けるものの、立て続けに放たれる熱線の圧力と光線による牽制すら出来ない事もあって、こちらが有利になれる接近戦に持ち込む事が出来ないでいた。

 ……やれやれ、このままでは埒があかないし仕方ない、再生補助機能の試験がてらダメージ覚悟で突っ込むか。

 

「……それじゃあ行くか、シェアッ! ライトニングスラッシャー!!!」

『ギェギャアアアアアアア!!!』

 

 俺は三度試作デバイスのクリスタルサークルを回転させてエネルギーを解放しつつ、それをそのまま両腕に纏わせた手刀で熱線を斬り払いつつ強化ベムラーに向かって走って行った……幸い連射している所為か一発辺りの威力は低いので斬り払う事自体は容易だ。

 

「ここだ! ウルトラ霞斬り!」

『ギャアアアアアアア!?』

 

 そして多少のダメージはあったが一気に接近出来た俺は、すれ違いざまに強化ベムラーの両角をチョップで叩き斬る事に成功した……更に俺はそのまま強化ベムラーの背後に回ってその首に腕を回してそれを起点として投げ飛ばした! 

 

「これがマンさん直伝のウルトラネックブリーカーだっ!!!」

『グッギャアアアアアアア!?』

 

 そうして頭から地面に叩きつけられた強化ベムラーはダメージからか身体をふらつかせているので、それをチャンスと見た俺は即座にバックステップで距離を取った……当然、必殺技をでトドメを刺す為である。

 ……俺は右腕の試作デバイスに左手を翳し一気に右腕を斜め上、左腕を斜め下に振り抜くと共にクリスタルサークルを回転させてエネルギーを解放する。

 

「これで終わりだ! アークレイショット!!!」

『ギャアアアアアアアァァァァァァ……』

 

 そしてその両腕をL字に組んで解放されたエネルギーと体内で循環させたエネルギーを合わせた必殺光線を強化ベムラーに放って、その身体を爆散させて跡形も無く消滅させた……よし、普段のアークレイショットに於けるルーティーンにクリスタルサークルを回転させる動作を入れてみたが思った以上にしっくりと来るな。これなら実戦でも使えそうだ。

 

『はーい、アーク君お疲れ〜。いや〜良いデータが取れたよ、ありがとうね〜』

『アーク君が試作デバイスを色々な方法で使ってくれたから、改良に必要なデータは十分に集まったぞい。これで正式生産版のデバイスもどうにかなるじゃろ』

『しかしながら折角作ったEXモードがあっさりと突破されてしまいましたね。怪獣が窮地に陥ると秘められていた潜在能力が解放されてパワーアップする仕組み何ですが』

『やっぱり古代の文献や特殊な環境で少数だけ目撃されている強力な特殊怪獣のデータだけでは足りませんでしたか』

『……お前らもうちょっと自重しろよ』

 

 ……はしゃぎまくるマッド達に対するなんかもう色々と疲れた様なフレアさんの声を聞きつつ、俺の試作デバイス試験の為の模擬戦は終了したのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そういう訳で一通りの試作デバイスの試験を終えた俺は、デバイスを使った戦闘の肉体への影響を調べる為に研究室でメディカルチェックを受けていた。

 

「……ふむふむ、試作デバイスを使った事による身体への負荷は殆ど無し。再生補助も正常に作用してるね」

「試算では分かっていましたが、まさかここまで相性が良いとは。……これなら試作デバイスをそのままアーク君に渡しても大丈夫そうですね」

「ただ、リバーススタイル時にはプラスのエネルギーが使えないので新型デバイスの効果が薄いんですよね。……蓄積しておいたエネルギーだけで光線技を使うという離れ技をアーク君は使ったりしていましたが、それだと大した威力になりませんし……」

 

 まあ、エネルギーの増幅による光線系の技の出力増大が新型デバイスの基本的な特性だからな、どうしてもプラスのエネルギーが使えないリバーススタイルだと相性は余り良くないんだよな……何か上手い手が有れば良いんだが……。

 

「……ふうむ、それなら試作デバイス内のエネルギーだけで使える様なアイテムを追加すれば良いのではないかの。ちょうど良くアイテムの格納機能もある事じゃし」

「そ・れ・だ! ……とりあえず『ウルトラスパーク』辺りで良いかな。一番運用データが揃ってるし、ちょっと改造すればリバーススタイル時の武装として使えるだろ」

「取り出した時にデバイスに蓄積したエネルギーで使える様にっと……ああ、シルバースタイル時には普通に使える様に持ち主の任意で設定を変更出来る様にするか」

「それなら俺の『ウルトラマジックレイマークII』も『容量が足りないし、使い難いから却下』oh……」

「これでリバーススタイル時の攻撃手段が増えるぜアーク君!」

「……は、はあ……」

 

 ……とか何とか思っていたら、いつの間にやら武器が追加されていた件……まあ、リバーススタイル時の火力不足には悩んでいたから別にいいんだけど。使い方が分からないなとか思ってたら、なんか『よく分かるウルトラスパーク』なんて説明書とか渡してきたし。

 ……このマッド達はやっぱり物凄く優秀で変な所で気が効くんだけど、本当に気を利かせて欲しいのはそこじゃないんだよなぁ……。

 

「そうだ! 報酬と言えばこの『怪獣ボール』をアーク君にプレゼントするという話だったな。日頃から色々と手伝ってくれているアーク君の士官学校卒業祝いも兼ねているから、遠慮無く受け取ってくれ!」

「……いや、何どさくさに紛れて渡そうとしているんだよ。その中身の『セブンガー』はジャックとセブンに酷評されてお蔵入りになる予定のやつじゃん」

「それぞれ『苦労して運んだのに活動時間一分とはどういう事だ』とか『正直言ってカプセル怪獣の方がいいだろ』とか言ってましたからね」

「性能は確かに高いんですけど一分しか無い活動時間と五十時間のインターバルが足を引っ張っていますからね。……そのせいで高いコストに見合う戦績が出せなくて開発中止になったから必死なんでしょ」

「一応、技術面の問題で短い活動時間を『ウルトラ戦士以上の力を持つセブンガーが敵に奪われない様にする意味もある』とか言って売り込んだんですけど……流石に短すぎてまともに戦えないんじゃ量産化する意味が無いって言われてますし」

 

 ……しょうがなく俺が『よく分かるウルトラスパーク』を読んでいると、なんか向こうでラグビーボールっぽい物を持った研究員が中心となって騒いでいた。

 

「……えーっと、それは一体……?」

「よくぞ聞いてくれたアーク君! これは『怪獣ボール』! 中にはウルトラ戦士と共に戦ってくれる最強ロボット『セブンガー』が入っているのだ!」

「……まあ、嘘は言ってないな。実際、無駄にとんでも技術で作られたセブンガーはそこらのウルトラ戦士より強いし」

「あのロボマニアはここでコケるとロボ関係の研究が大幅に縮小されるから焦っているんですよ。……最近ウチの予算はウルトラ戦士のサポートアイテムに多く割り振られてるから」

「ウルトラ兄弟には不評だったから、有望な新人であるアーク君に使わせて活躍させる事で一発逆転を狙ってるみたいね」

 

 ……成る程、大体分かった。つまりその『怪獣ボール』を俺に使って欲しいという訳だな……と思っていたら、ボールを持った研究員がちょっと焦った様子で話し始めた。

 

「いや、話は最後まで聞いて欲しい! ……この『怪獣ボール』の中身である『セブンガー』は実戦のデータを元に強化された改良型なんだ! ……まず稼働時間は三倍の三分間、インターバルも半分の二十五時間になっている。更にボール内部にオートメンテナンス機能を追加したので長期任務にも対応可能。更に更にオプション装備で腕部ロケットパンチ、胸部熱線砲、眼部ビーム砲、口部酸性嵐、背部ウイングユニットなどを装備可能なんだ! ……その名もセブンガァァァァZ(ゼェェェェェェェット)(自称)!!!」

「……でも、そのオプション全部付けるとエネルギー消費の関係で稼働時間が十秒ぐらいになりますよね」

「元々戦闘能力は十分なんだし稼働時間延長とインターバルの半減だけでいいんじゃない?」

「だまらっしゃい! これだからロボのロマンが理解出来ないヤツは……」

 

 ……まあ、なんか色々とアレっぽいオプション装備はともかく、そのスペックならいざという時の戦力として十分に使えそうだな。カプセル怪獣と違って餌やりや散歩の必要とかも無さそうだしね。

 

「……えーっと、確かに強そうなのでくれるなら貰って置きますが……」

「本当かい! ありがとう、これで首の皮一枚繋がったよ! ……それじゃあサービスとしてオプション装備はマシマシで「あ、稼働時間が下がらない範囲でお願いします」……はーい……」

 

 そういう訳で『セブンガー』ゲットだぜ! ……尚、オプション装備は稼働時間に影響を与えず整備もしやすいロケットパンチのみになります。

 ……そして、そんなこんなをしている内に俺のメディカルチェックは終わった様だ。

 

「……はい、これでチェック終わり〜。お疲れ様でした〜」

「お疲れ様でした。……それで俺はこれからどうすれば?」

「うーん……一応正式生産版に必要なデータは集まったんだけど、強いて言うなら他者のエネルギーを集束させる機能の試験もしておきたいかしら。……まあ適当にフレアとトレギア辺りの研究員何人かのエネルギーをアーク君に供給して、それらを運用するデータを取れれば今日の所は終わりね。後はその試作デバイスの運用報告を定期的にこっちへ上げてくれればいいわ」

 

 まあ、そのぐらいなら別に大した手間じゃないし構わないが……しかし、今日は一気に手持ちのアイテムが増えたから、今後はコイツらちゃんと使いこなせる様に練習はしないと駄目だろうな。

 ……俺がそう考えていると研究室の扉が開いて誰かが入って来た……その人物とは……。

 

「済まない邪魔をするぞ。……例のデバイスの開発は順調か?」

「だ、大隊長⁉︎」

「「「「えぇ⁉︎」」」」

「あら、ケン。何か用かしら」

 

 そうして、おもむろに研究室に入って来たのはこの光の国の生ける伝説、宇宙警備隊大隊長であるウルトラの父であった……いきなりの超有名人の登場に、その場にいた者達は以前に面識のあった俺を含むあのマッド達ですら若干緊張してしまっていた。

 ……だが、そんな俺達をスルーしてマーブル博士は親しげに大隊長と話し始めた。

 

「いや、何の用も何も新型デバイスの試験に付き合ってくれとお前が頼んで来たんだろう、マーブル」

「あ、そう言えば士官学校の卒業が近いアーク君が予定が合わない事も考えてそっちにも頼んでたんだったわね。……アーク君が新型デバイスに完全適合して欲しかったデータが取れたからすっかり忘れてたわ。ごめんごめん」

 

 ……と言うか、マーブル博士が大隊長をめっちゃ雑に扱っているんですが……もう一周回って博士がすごい人に思えて来たぞ。

 

「あ、そうだケン。これからアーク君の新型デバイスに他者のエネルギーを集束させる実験やるから手伝ってよ。あんたそう言うの得意でしょ」

「まあ、ウルトラホーンにエネルギーを与えるのは息子相手に慣れているからそのぐらいなら構わないぞ。それにこの試作デバイスは今後の事を考えると完成させねばならないからな。……ではアーク、済まないが手伝ってくれ」

「は、はあ……」

 

 ……何故かあれよあれよと言う間に俺は大隊長と実験を行う事になってしまった……どうしてこうなった!!!




あとがき・各種設定解説

アーク:試作デバイスを何だかんだ言って使いこなしている
・ただ、武器の扱いに関しては経験が無いのでウルトラスパークをどう使おうか悩み中。
・後、模擬戦時に使った技名はメビウス達との特訓で教えた時に『せっかくだから名前を付けよう!』と言うあちらの提案で付けられたもの。

セブンガー:昭和のヤツだからか扱いが渋い
・だが、戦闘能力はそこらのウルトラ戦士を上回っており、新装備のロケットパンチは並みの怪獣なら粉砕する威力があったりする。
・……ただ、最初の実戦運用で稼働時間とインターバルが足を引っ張り、ウルトラ兄弟には不評だったのでお蔵入り博物館行きになり掛けていた。
・ウルトラの星でカプセル怪獣と比べてロボット兵器が採用されていないのは、戦闘能力の基準はウルトラ戦士でありそのレベルに準ずるぐらいの戦闘能力を持ったロボットの製造にはコストが掛かるから。

マーブル博士:ウルトラの父や母とはタメ口で話すぐらいには仲が良い
・と言っても、大隊長相手にタメ口なのは本人がそういった事を良くも悪くも気にしない事が大きいが。

ウルトラの父:タメ口で話されても特に気にしない人
・これには試作デバイスの件で結構無茶を言ったのも理由の一つである。


読了ありがとうございました。
ウルトラの星製セブンガー(改良型)は卒業してから主人公の相方ポジで活躍する予定(未定)。


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新装備運用実験(後編)

『はーい、じゃあ二人共準備は良いかしら〜』

「ああ、私の方は問題ない。……アークはどうだ?」

「は、はい! 大丈夫です!」

 

 そんなこんなで、何故か俺は宇宙警備隊大隊長であるウルトラの父と共に宇宙科学技術局の実験室で試作生態融合型エネルギー運用デバイス(仮)の試験運用を行う事になっていた……改めて字面にしてみると訳が分からないよ()

 ……ウルトラの父とは親父の関係で以前に何度か会った事があるんだが、それはそれとして一宇宙警備隊員(見習い)としてその組織のトップが目の前に居ると基本小市民の俺は緊張してしまうのだ。

 

「……ふむ、そこまで緊張する事は無いぞアーク。私はこれでもエネルギーの受け渡しに関しては得意な方だからな」

『ケンはウルトラホーンのエネルギーを解放して強化形態に変身出来るぐらいには、各種エネルギーの運用技術に習熟しているからね。……ちなみに今もずっと強化形態に変身し続けているし。疲れないのかしら?』

「そ、そうなんですか……」

 

 ……緊張しているのは実験の事じゃなくて、伝説級の超有名人かつ勤めている組織のトップの人が目の前にいるから何ですがね……。

 

『それじゃあ今から行う実験内容を改めて確認するわね。……と言っても、やる事はケンがアーク君にエネルギーを譲渡してその経過を観測するだけなんだけど。アーク君にはエネルギーが譲渡された状態で光線技の一つでも撃ってくれれば良いから』

「了解しました」

「うむ。……ではアーク、準備が出来たのなら言ってくれ」

 

 そんな俺の心情をスルーしてさっさと話は進んでいった……まあ、こうなってしまったら腹をくくるしか無いか。所詮は只の実験だし何か面倒な事が起きる事も無いだろうさ。

 

「ふー……準備は出来ました。お願いします大隊長」

「分かった。……では行くぞ。ハァッ!」

 

 そうして覚悟を決めた俺は試作デバイスを付けた右腕を前に出して大隊長に準備が整ったと告げた……その直後、それを受け取った大隊長は頭の両側に聳え立つウルトラホーンから膨大なエネルギーを発生させて試作デバイスに照射した。

 ……ぬう、流石は大隊長と言うべきかとんでもないエネルギーの質と量だな。だけど試作デバイスのエネルギー蓄積機能はまだ正常に作動しているし、このまま蓄積されたエネルギーを俺の身体に還元していけば……。

 

「……よし、エネルギーの還元は問題無さそうだな。これほどの高エネルギーを受けても特に支障は無いし」

『うんうん、こっちの観測機器でもケンのエネルギーが安定してアーク君のエネルギーと融合しているのが計測されたね。……それじゃあケン、もうちょい送るエネルギーを増やしてみてー』

 

 ……まあ、いつも通りの無茶振りですね。知ってた(白眼)……まあ、マーブル博士はクッソ優秀なので本当に出来ない事をやれとは言わないのが救いなんだが。

 

「……ふむ……まあ、アークのエネルギーは安定している様であるし、ウルトラホーンを模した試作デバイスも正常に機能している様だから供給エネルギー量を多少上げても問題無いだろうが……危なくなったら直ぐに辞めてエネルギーを抜くからな」

「分かりました、お願いします! ……ぬおっ⁉︎」

 

 うむ、大隊長から流れ込んで来るエネルギーが一気に増えてちょっと驚いたが、それでも試作デバイスによるエネルギーの蓄積・還元は正常に作用しているのか特に問題無く俺のエネルギー量は増え続けていた。

 ……改めて大隊長のエネルギーの流れを感じ取ってみたが、その流れは他者の肉体に流し込んでいる筈なのに違和感が殆ど感じ取れないぐらいスムーズだな。俺も他者へのエネルギー譲渡は使えるがここまで上手くは出来ないし、流石は大隊長だな。

 

『……ん? これは……アーク君のエネルギー波長が……? ケン、ちょっとストップ』

「む、どうしたマーブル?」

 

 そんな事を考えていたら、いきなりマーブル博士からエネルギー譲渡にストップが掛かった……いったいどうしたんだ? 

 

『ちょっとアーク君のエネルギー波長が若干()()してるみたいなのよね。……二人は何か違和感を感じていないかしら?』

「私の方は特に違和感は無いが……こちらはエネルギーを譲渡しているだけだから、アークの肉体に起きている変化は解りづらいからな。アーク、そっちはどうだ?」

「えーっと、譲渡されたエネルギーは普通に試作デバイスに蓄積されつつ自分の肉体に還元されてますし、特に異常は……んん?」

 

 マーブル博士と大隊長にそう言われたので少し念入りに自分の身体を流れるエネルギーを調べてみると、何というか身体の内側というか深い所から何かが“ある”感じがしていた……さっきまでは違和感を感じなかったのにコレは一体なんなのだろうか。

 ……どうも普段『シルバースタイル』と『リバーススタイル』を切り替える際の感覚に似ている気がするが、とりあえず二人に事情を説明した上でタイプチェンジする感覚でエネルギーを操作してみるかな。

 

「……そういう訳なので、ちょっとエネルギーを操作してみます。……このまま違和感が続くと気持ち悪いので」

『んー……まあオッケー! 正直こっちの機器でも若干エネルギー波長が変化しているぐらいしか分からないし、そっちでどうにか出来るならやって良いよ。……万が一、何かがあってもケンが居ればどうにかなるでしょう』

「まあ、最悪エネルギーを抜くか私が張る結界の内側でエネルギーを放出させるかすれば良いだろうが、くれぐれも気をつけるんだぞアーク」

 

 そういう訳で二人の許可も取れたし早速この深い所にあるエネルギーを引き出してタイプチェンジの要領で肉体に反映……おお、コレは⁉︎

 

『……おお! 姿()()()()()()ね。……確かにアーク君やケンのタイプチェンジのデータを試作デバイスには組み込んでいたし、理論上は装備者に何らかのエネルギーが加算されればそれに合わせて肉体をある程度変化させる事が出来るだろうけど……おっと、それよりもデータを取らないと』

「……ふむ、姿は変わったが特に異常は無さそうだな」

 

 そうして俺が自分の身体を見下ろすと、何と姿が先程までとは別の物に変わっていたのだ! ……具体的には親父そっくりだったシルバースタイルの姿に両肩から胸のカラータイマーの下辺りに掛けて二層ある金色のプロテクターの様な物が付けられていて、身体の模様も赤色の割合が増える形で一部が変わっていたのだ。

 ……うーむ、見た目はそんな感じだが、肝心のスペックの方の体感的にはエネルギー量が増えているぐらいしか分からんな。

 

『……エネルギーの観測機器を回せ! 貴重な新しいタイプチェンジのデータだからな!』

『内包エネルギー量が増えているな。……これは大隊長のエネルギーが入ったからか?』

『このままだと大した事は分からないし、アーク君には何かアクションを取ってもらった方が良いのでは?』

『……そうね。アーク君、ちょっと的を出すからそこに光線技を適当に撃って見てくれるかしら』

「あ、はい。分かりました」

 

 なんか大隊長が来た事でちょっと大人しくなっていた他のマッド達も、この俺が新しい姿にタイプチェンジしたという事態に復活したみたいだな……まあ、それはそれとして(スルー)この姿がいつまで続くか分からないし、さっさとこの姿の能力を試していきますか。

 

「じゃあとりあえずスペシウム光線で。……セヤッ!」

『……おお! さっきと比べても威力が三倍以上になっているな。やはり能力が大幅に強化されているのか』

『身体能力とかも測ってみたいな。……とりあえず比較の為にまたベムラーでも出してみるか』

『あっ、でもまだ実験室に大隊長が……』

『ケンはシミュレーションの怪獣程度にどうにかなる様なヤツじゃないからほっときなさい。そんな事よりもデータを集めるのが優先よ!』

 

 なんかアレな言葉が聞こえて来た様な気がしたが、あのマッド達との付き合いも長くなったのでとりあえずスルーしつつ各種実験や模擬戦でこの姿の能力を確認していった。

 その結果分かった事は、今のこの姿では身体能力・光線技の威力などの全パラメーターがシルバースタイル時の数倍に跳ね上がっている事。そしてこの姿だとリバーススタイルへの変身が出来ない事が分かった。

 ……その後もこの姿のままでいくつかの実験をこなしたのだが、その途中で大隊長のエネルギーが切れたのか姿が元のシルバースタイルに戻ってしまった。

 

「……あ、姿が元に戻りましたね」

『そうみたいね〜。持続時間は三分ぐらいかしら。……とりあえず身体に何か異常が無いかどうかメディカルチェックを行うから、一旦研究室に戻ってきて頂戴。……あ、ケンももうやる事は無いから戻って来て良いわよ』

「…………」

 

 ……さっきまでの実験や模擬戦をずっと黙って見守っていた大隊長を相変わらず雑に呼び戻しているマーブル博士の事を可能な限り考えない様にしつつ、俺は実験室を出てメディカルチェックを受けるのだった。

 ……大隊長、さっきからずっと黙っているけど不機嫌になったりはしていないよな? 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうしてアークが研究室に戻りメディカルチェックの為の装置に入って他の研究員達がその各種データを取っている間、機材を操作していたマーブル博士はそれと並行して部屋の隅で待機していたウルトラの父に回りに聞かれない様に秘匿テレパシーを使ってとある話をしていた。

 

『それでケン、貴方アーク君があの姿になっていた時に“本気で”警戒していたみたいだけど何か知っているのかしら。……例えばアーク君が()()()M()7()8()()()()()()()()事とか』

『……マーブル、あの子の“母親”について知っていたのか?』

『知らないわよ。アーク君がゾフィーの息子でその母親は彼が生まれた時に亡くなったとは聞いてるけど。……コレは今まで彼の身体データを取った時に感じた違和感からの推測よ。まあ私以外は気付いていないけど』

 

 ……部屋の中に居る他のメンバーは自分達の作業に集中している事と、彼等二人の秘匿テレパシーの技量もあってそんな会話が行われている事に気がついてはいなかった。

 

『別にL77星やZ75星雲、TOY一番星とウルトラの星のハーフとかなら珍しくは無いけれども、彼の肉体は一般的なM78星雲人に見える……と言うか、あれだけ“異質な”タイプチェンジ能力があるにも関わらず肉体は純粋なM78星雲人に()()()()()からね。……こんな事はこのウルトラの星でも不可能だし本人も気付いていないみたいだから、多分やったのはキングの爺様でしょ?』

『……私もゾフィーからそう聞いている。かのウルトラマンキングにアークの中にある“母親の力”を封印して貰ったのだと。……それ以上の事は俺の口から言う気はないし、アークに言う必要が出来たのならゾフィーかキング殿が伝えるだろう』

『まあ、私も人様の家庭環境に口を出したりする気は無いしね。今聞いたのも自分が作った物でアーク君に悪影響が出てないか確かめる為だし。……そもそもキング爺様の封印とか厄ネタすぎて私程度じゃどうしようもないしね』

 

 ……そうこうしている内にアークのメディカルチェックは終わり、その結果としてあの姿の変化は他者のエネルギーを注ぎ込まれた事によるウルトラマン同士の融合──『スーパーウルトラマン化』に近い現象である事が明らかになった。

 

『ふーん、想定通りのデータね。元々試作デバイスにはスーパーウルトラマン化を補助する機能もあったし、それとタイプチェンジの為の肉体変化補助機能が合わさった偶発的な変異って事みたいね。……特に貴方が懸念する様な事は無さそうよ』

『そうか……まあ、キング殿の封印が俺のエネルギーを譲渡した程度でどうにかなる訳も無いからな。杞憂だったか』

 

 ……その会話を最後に彼等二人の秘匿テレパシーは途絶えたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「そういう訳で、さっきのアーク君の変身はケンの高エネルギーを譲渡された事による一種のスーパーウルトラマン化だと分かったわ。……後、特に身体への異常は無かったわよ」

「ありがとうございます、マーブル博士」

 

 とりあえず俺はメディカルチェックも終わって異常無しと判断されたので、データ整理の為に全力で機器を操作している研究員達の横で待機していた……今日はもう遅いので実験はこれで終わりらしい。

 

「今日は色々と手伝ってくれてありがとうねアーク君。お陰でデバイスの完成に目処が立ったわ」

「私からも礼を言っておこう。……きみのお陰で私が頼んでいたいずれ来る()()に対抗する為の力が完成出来そうだからな」

「脅威?」

 

 そう言えばこの試作デバイスを何に使うのかは詳しく聞いていなかったな……大隊長が発注したという事はかなり重要な役目を持つアイテムなのでは? 

 

「ああ……近年、地球圏で起きている数々の異常事態を初めとしてこの宇宙のバランスが乱れ始めているからな、幸い今は小康状態だがおそらく近くに状況が大きく動き出すだろう。……このデバイスはもしそんな状況になった時、まだ未熟だが高い潜在能力を持つ若手を危険な任務に従事させる際のサポートアイテムとして作られた物だ。例えば再び地球に問題が起きた時に有望な若手を派遣する際に使われるとかな」

「ウルトラ兄弟みたいなベテランが動ければいいんだけど、警備隊も人員的に余裕がある訳じゃ無いからねー。……これは危険な任務に送らざるを得ない新人に対する底上げ目的の装備なのよ」

 

 成る程、確かに“魔境”地球に新人を送り込むならこのレベルの装備は必須だろう。そのぐらいのサポートが無いとすぐに死にそうだ……多分、大隊長は再び地球にウルトラ戦士を派遣しなければならない事態になると、何らかの要因で確信しているんだろうな。

 ……そう考えていたら突然マーブル博士が手を叩きながらこんな提案をしてきた。

 

「そうだ! この装備も完成の目処が立ったしいつまでも『試作デバイス』じゃ味気ないから名前を付けましょうか。……実験に協力してくれたアーク君の名前を取って『アークブレス』とかどうかしら」

「……自分で使うならともかく、他人が使う装備に自分の名前が使われるのはちょっと……」

 

 この自分が使う試作デバイスの名前を『アークブレス』と呼ぶならまだいいんだけど、他人が使う正式版にそんな名前がつくのは色々と小っ恥ずかしいし。

 ……それに有望な新人に渡されるという正式版が、罷り間違ってメビウスとかに渡ったら……。

 

『へー! この『アークブレス』はアークが開発に協力したんだー! 凄い性能だよねこの『アークブレス』! 本当に便利だから色々助かってるよ! ありがとうねアーク! この『アークブレス』を作ってくれて!』

 

 ……と、こんな感じで天然全開にデバイスの名前を連呼するに決まっている(断言)! そんな酷い事が御免被るので何としてでも阻止せねば!

 

「……そもそもこの装備が量産化の予定がない以上、専用装備として名前は使う者に合わせればいいのでは?」

「まあ、そんなに自分の名前を付けるのが嫌なら無理に付けようとは思わないわよ。……じゃあとりあえずそのデバイスはアーク君の物だから名前は『アークブレス』で良いわね」

 

 そういう訳で俺は新装備である『アークブレス』(と怪獣ボールとウルトラスパーク)を手に入れたのだった……まあ、これから宇宙警備隊で勤める訳だし強い装備は幾らあっても困る事は無いでしょう。




あとがき・各種設定解説

アーク:出生の秘密がある系主人公
・今回変身してアークブレイブ(仮称)はエネルギーを譲渡された事による一時的な変化で恒常使用は不可能、具体的にはメビウスブレイブやメビウスインフィニティーみたいな感じ。
・アークブレイブ(仮)と彼の出世の秘密は“外観以外”は余り関係無い。

マーブル博士:アークの事は色々と気に掛けている
・今回の運用データを元に外部からのエネルギー譲渡などの“何らかの要因”があれば装備者をタイプチェンジ可能にする機能を付けた正式版を完成させた。
・理論上は装備者の精神的な変化を肉体に反映可能だと力説したのだが、まともに運用データが取れなかったので泣く泣くそのまま正式版として父に提出した。

ウルトラの父:雑に扱われても怒らない人
・彼やマーブル博士はウルトラ族の中でも特に優秀な為、逆にウルトラマンキングの規格外さをよく理解している。


読了ありがとうございました。
主人公の出世の秘密は士官学校卒業後の次章で書く予定です。


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士官学校の卒業式

※11/6 あとがきにウルトラクラウンなどのアイテム説明を追加。感想で色々突っ込まれてたので。


「……いやぁ、とうとう俺達も士官学校卒業か」

「思えばこれまで色々な事が有りましたね。……ウルトラの星が襲撃されたりウルトラの星が暴走したり」

「ウルトラの星で事件起きすぎワロタ」

「ハハハ……」

 

 そう言うわけで、宇宙科学技術局から『アークブレス』といくつかの新装備を受け取ってからしばらく経った後、俺達宇宙警備隊訓練生は士官学校卒業の日を迎えて、今は式が始まるまで教室で待機しているところである。

 まあ、俺は単位を既に取得済みだったのでブレスを受け取ってからこれまでの間は貰った新装備の慣らし運転をして、そのデータを研究室に上げる作業が主にやっていたが。

 同じく単位取得済みだったメビウス・ゴリアテ・フォルトがこっちを羨ましがりながらも訓練に付き合ってくれたので、中々にいいデータを送れたと思う。

 

「しかしアーク、お前の新装備はどれも高性能で良いよなぁ。特にその『アークブレス』とか宇宙科学技術局の最新アイテムなんだろ?」

「正確にはそのデータ収集用の試作機だがな。……それにセブンガーは兎も角、ウルトラスパークは宇宙警備隊の正式装備だから警備隊員になって要望を出せば発注出来るだろ」

「私も発注して扱える様に訓練を積みましたしね」

 

 そう言ったフォルトは腕にはめたウルトラブレスレットを掲げてみせた……あいつはパワー不足を補う為に士官学校で武器の扱いを習っていて、今は同期トップの武器使いになってるからな。俺もウルトラスパークの使い方を手ほどきして貰ったぐらいだし。

 ……ちなみにフォルトを始めとする一般戦士が持っているのはあくまで各種武装に変形するだけの簡易版で、ジャックさんが使っている様な高性能品は余程の実力を持つウルトラ戦士が個人的に発注するぐらいしないと手に入らなかったりする。

 

「でも、アークブレスみたいなエネルギー増幅装備は正直ちょっと羨ましいね。……お手軽に威力の高い光線技が撃てるし」

「エネルギーを手足に纏わせて威力を増幅したり出来るしな。……この技、意外とエネルギーを食うし……」

「……一応言っておくが増幅したエネルギーを制御するのは自前でやる必要があるからな。有人惑星上とか高エネルギー攻撃が使えない場所とかだと結構面倒なんだが」

「ですが、アークのエネルギー制御技能なら特に問題はありませんよね」

 

 そう言われても、この『アークブレス』系のアイテムには材料に『ダイモードクリスタル』みたいな超希少鉱石が必要だから量産は出来ないし……まあ、今回の運用データを参考にしてエネルギーの蓄積と収束に特化させたサポートアイテムの開発などもされているらしいから、今後のマッド達の活躍(笑)に期待かな。

 

「確か『ウルトラクラウンⅡ(仮)』やら『ウルトラギャラクシー(仮)』みたいな名前の装備も開発中だと言っていたな。……ただ、エネルギーを増幅する関係上、その個人個人に合わせた専用装備にならざるを得ないらしいから手に入れる難易度は高そうだが」

「……発注しただけで支給されるとはならなさそうですね。特殊任務に就く隊員に渡される装備になるのでしょう」

「凄く高そうだったしね」

 

 尚、俺の『アークブレス』と同じ様に各種専用装備の名前には使用者の名前が付けられる事もあるので、開発中の装備名はあくまでも仮のものとなるらしい。

 ……勿論、肝心の『正式版生態融合型エネルギー制御デバイス(仮)』の開発も俺が上げた運用データのお陰で順調に進んでおり、近くに完成する予定だそうである。誰が使う事になるのかは知らないが。

 

「……そう言えばアーク、セブンガーは兎も角って言ってたけどアレって量産されないの? この前、試しに戦ってみたけど凄い強かったよね」

「並みの怪獣やウルトラ戦士を上回るパワーだったしな。ロケットパンチも撃てるし、直撃したら俺ですら吹っ飛ばされたしなぁ……」

「全力でないとは言え私が撃った光線技に耐えられるだけの防御力も有りますしね。……やはりコストとかが問題になっているんですか?」

「……んー……まあ、コストの問題も大きいんだけど、戦闘用の自立起動型のロボット自体が色々と扱いに制限があるから使い難い感じかな。……ほら、AI関係とか特に」

 

 一応言っておくが、このウルトラの星でもAIを備えた機械は数多く存在するし、それらの機械は日夜様々分野で活躍している……のだが、それはあくまで比較的単純な作業を行わせるだけのレベルのAIであり、高度な自立思考・学習機能などは法律でかなり制限されているのだ。

 ……まあ、これはウルトラの星だけでなく多くの星で行われている『自我を持ったAIを生まない様にする』制限系政策の一環なのだが。文明が一定レベル以上になると『自我を持ったAI』が生産可能になってしまうから、それによる“様々な事件”を防ぐ為に必要なのである。

 

「……自我を持ったAIが製作者の想定を超えて何か事件を起こすとかは割とよくあるからな。……高度な自立戦闘が可能でかつそう言った事件を起こす要素がないバランスの取れたAIとか作るの大変だって研究員の人達も言っていたし」

「ああ……確か最近だと『サーリン星』や『惑星クシア』が自らの作ったAIの反乱や暴走で滅びたんでしたっけ。……だからこそ戦闘用のロボットは有人運用が現在のところ一般的ですからね」

「俺らウルトラ族が乗る戦闘用ロボットとか作ったら巨大になり過ぎるし、それなら自前で戦った方が良いからな」

「成る程、この前言っていた有人宇宙船がウルトラの星で廃れてるのと似たような理由かな。AIの事を含めても運用性に難がありすぎるのか」

 

 まあ、AI関係とは別の問題ではあるが、結局このウルトラの星での兵器運用に於いては『自分達で戦った方が圧倒的に強くて安い』という問題が常に立ちはだかるのである……そりゃあ技術局の開発予算が装備品の方に偏るのも止むなしだろうなぁ。

 ……無論、フォルトが言った『サーリン星』や『惑星クシア』の例の様に自我を持ったAIによる支配や反乱の危険性も問題ではあるが。自我を持ったばかりのAIは思考が極端な方向に行きがちなのがそう言った事件が起こる主な原因だと研究員の人も言っていたからな。

 一応、成熟した自我を持ったAIと共存している星もあるらしいがやはり色々と扱いが難しいのだろう……ちなみにセブンガーにはその辺りのギリギリグレーゾーンを攻める感じの学習型AIが積まれているとか。扱いには気を付けよう。

 

「後はカプセル怪獣と役目がもろ被りしているのも理由にあるがな。あっちは餌代とか世話の手間暇とかあるがM78星雲に友好的な怪獣が住む惑星があるお陰でコスト面で圧倒している」

「競合している相手が強すぎるな。カプセル怪獣はセブンさんとかが使っていて有名だし」

「ああ、授業でもカプセル怪獣については色々と学ばされましたね。私は今の所手に入れる予定はありませんが」

「確かそう言った惑星を管理・保全するのが役目の宇宙警備隊員もいるんだっけ」

 

 うむ、俺の凍結技や剣技の師匠であるサージさんとかがそれだな……まあ、最近は治安の悪化からウルトラの星周辺含むM78星雲の警備も担当しているから、あんまり会えなくなっているんだが。

 

「しかし、俺達は最後までこんな感じで教室で色々な事を駄弁っていたよな。アークの解説付きで」

「まあ、私達らしくて良いじゃないですか。……それにアークの解説のお陰で色々な警備隊の裏事情とか宇宙の豆知識を聞けましたし」

「俺はお陰ですっかり説明系ポジションになってしまったけどな。……ここに居る四人はそれぞれ別々の進路に行くから今後はこんな機会は少なくなるだろうが」

「アークは宇宙保安庁、ゴリアテは勇士司令部、フォルトは宇宙情報局だったっけ? 僕は普通に宇宙警備隊入りだけど」

 

 そう、俺は今期から導入された『士官学校からの各部署への直接引き抜き制度』によって以前に志望した宇宙保安庁への配属が決まったのだが、同じ制度でゴリアテとフォルトもそれぞれの志望する部署へ配属される事になったのだそうだ……二人とも成績に関しては同期の中でもトップクラスだから問題無く選ばれたらしい。

 ……と言っても、この直接引き抜き制度が今期から始まったものだからか志望したのは俺達三人だけで、メビウス含む他の同期達は普通に宇宙警備隊に入隊する事になっているが。この制度に関してはまだ始まったばかりなので学校側も警備隊側も今の所様子見段階な感じだな。

 

「ああそうだな。アークが宇宙保安庁行くって聞いて引き抜き制度の事を知ったから試しに志望してみたら通った」

「私は元々宇宙情報局志望でしたからね。この制度は渡に船でしたよ」

「うーん、でもこれで四人別々の道を行く訳だね……何か感慨深いものがあるなぁ……」

「別々の道っつっても同じ宇宙警備隊である事に変わりはないから会う機会はいくらでもあるだろ。……その手の特殊な部署って各支部への援軍とか普通にあるみたいだし」

 

 結局最後まで俺達はこういうノリだな……まあ、それが俺達らしいのかもしれないが。別に士官学校を卒業したところで今生の別れとなる訳でも無いし気楽に行けば良いだろう。

 ……相変わらずそんな会話を俺達がしていると教室にカラレス教官とタロウ教官が入って来たので、俺達訓練生は最早身体に染み付いた動きで即座に黙って席に着いた。

 

「こうするのもこれで最後だがちゃんと確認するぞ……全員揃っているな。……士官学校卒業式の準備が整ったからこれからウルトラコロセウムに向かうぞ」

「まあ、幼年学校とかと違って対して長くは掛からないさ。大隊長からの訓示があるぐらいだからな」

「「「「「はいっ!!!」」」」」

 

 そうして俺達訓練生は士官学校最後の行事である卒業式の為にウルトラコロセウムに向かっていったのだった……まあ、俺達もいい歳だから湿っぽいのも無くさっさと済ませる感じだな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうして始まった士官学校の卒業式……と言っても、まずやる事は卒業して宇宙警備隊へと正式に所属した事を記録する為に警備隊のコンピューターに卒業生一人一人の情報を登録して行く作業なんだが。

 具体的には呼び出された者が壇上に設置されたパネルに手を置いて個人情報を登録するという、全自動で出来る事を卒業式だけあって敢えてちょっと儀礼的な感じで実行する形式になっている。

 ……そして、その作業はつつがなく終了した後に宇宙警備隊大隊長であるウルトラの父からの訓示があるのだ。

 

「……皆、まずは士官学校の卒業おめでとう。また新たな宇宙警備隊の仲間達が加わった事を嬉しく思う」

 

 壇上に立ったウルトラの父に俺を含めて全ての士官学校生が緊張で身体を強張らせた……何というか凄い迫力があるんだよな。士官学校卒業ぐらいのレベルになると相手の実力を何となく測れるのもあって、大隊長が内包するエネルギーが途方も無いモノだと理解出来てしまうし。

 

「あまり長々としても退屈だろうから手短に話をしよう。……君達も知っている、或いは体験したかもしれないが、近年このウルトラの星には多くの危難が降りかかっていた。そして宇宙全体でも近年になって様々な事件が数多く起こり続けている。……そんな中、これから宇宙警備隊に入る君達には様々な試練が訪れるかもしれない。その中で自分が何の為に戦っているのか、自分達が本当に正しいのかを疑問に思う様な辛い体験をするかもしれない」

 

 ……大隊長の真剣な表情とその言葉に訓練達の雰囲気も真剣なモノとなり、その場を微動だにせずにその話を聞いていた。

 

「……そうなった時には、まず“自分が何故、何の為に宇宙警備隊を志したのか”を思い出してほしい。その()()を忘れさえしなければ道を誤る事は無くその試練を乗り越える事が出来るだろう。……君達がこれまで士官学校で送った日々、厳しい訓練、そして仲間達との切磋琢磨はきっとその“原点”を思い出して、道を謝らずに“試練”を乗り越える一助となるだろう」

 

 ……大隊長が紡ぐその言葉の意味は何となくしか分からないが、その場にいる誰もがその話に聞き入っていた。

 

「最後に宇宙警備隊大隊長ととして君達の入隊を歓迎する。……これから共に宇宙の秩序と自由、そして平和と笑顔の為に戦おう!」

 

 そのウルトラの父の締めの言葉が終わると共に会場は満杯の拍手に包まれた……正直、大隊長が言った言葉は余り理解出来ていないのだが、自分の“原点”──親父やウルトラ兄弟達が持つ『光』に憧れて、自分もあんな風になりたいと思って宇宙警備隊に志願した事は忘れないでおこう。

 ……まだ、その『光』が何なのかは自分でもよく分かっていないが、その“答え”はこれからの宇宙警備隊の仕事の中で見つけたいと思う。

 

「それでは卒業式はこれで終わりになる。……お前達の宇宙警備隊への正式な入隊は五日後になるから、それまでに身の回りの準備をしておく事だ」

 

 ……そうして卒業式も何事も無く無事に終わり、俺達は士官学校を卒業して正式な宇宙警備隊員になったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「いやー! これで俺達もようやく正式な宇宙警備隊だな!」

「そうだね! これから頑張ろうね、みんな!」

 

 卒業式が終わった後、俺達何時もの四人組はある意味いつも通り駄弁りながら帰路についていた……最も、こんな風に駄弁りながら士官学校から帰るのもこれで最後だからか、全員心なしかゆっくりと歩いていたが。

 

「頑張るのは良いが余りはしゃぎ過ぎない様にな。……特にメビウス、お前は初めてやる事に全力を出し過ぎて足元が疎かになる悪癖があるし」

「酷いよアーク! 僕だってちゃんと宇宙警備隊としての務めは果たすよ」

「二人は最後まで変わりませんねぇ……」

「だなぁ」

 

 だって、何となくだがコイツ(メビウス)が赴任先の初戦でやらかしそうな気がするんだもん……俺の勘は何故か結構当たるし。

 

「っと、それじゃあ俺の家はコッチだから。……入隊の準備はしっかりとしておけよー。俺はもう終わらせたけど」

「分かってるよ。またねアーク」

「ええまた」

「じゃあなー」

 

 そんな最後まで軽い感じで俺は腐れ縁の三人と別れて家に帰って来たのだった……さて、一応念の為に入隊の準備を確認しておくますか。セブンガーやらウルトラスパークやらアークブレスやら最近手に入った物もあるしな。

 ……そうやって作業をしていきひと段落したところで珍しく親父が家に帰って来た。

 

「ただいま。もう帰っていたか、卒業式はどうだった?」

「お帰りー。今は入隊の準備中、もう終わらせたけど。……卒業式は大隊長の話が中々だったし、改めて宇宙警備隊に入るのだと自覚出来たよ」

「そうか。……それじゃあ私も改めて宇宙警備隊への入隊おめでとうアーク。これからも頑張るように」

「はい、隊長殿」

 

 まあ、そんな感じでいつも通りの親子の会話をする……と思ったら、いきなり親父が雰囲気を今まで見たこともない様な真剣、というか重い雰囲気に変えて俺に向き直った。

 

「……さて、お前も宇宙警備隊入隊する事が出来たから、そろそろお前が持つ『リバーススタイル』という力の秘密。そしてお前の母親について話そうと思う」

「……うえ?」

 

 あまりにあまりな親父のカミングアウトに思わず変な声が出ちまったぜ……昔、俺が生まれた時に亡くなったと言うお袋の事を聞いても適当にはぐらかして来た親父が今になってそんな事を言うとは……。

 

「確かお前の入隊日は五日後だったな。……では、明日この座標に向かえ。この『キング星』で全てを話そう」

 

 そう有無を言わせない雰囲気で言って、親父は一つの宇宙座標を俺に渡して来た……しかし『キング星』って名前からして多分“あの方”が関わっているんだろうし、一体俺のお袋には何があったんだ?




あとがき・各種設定解説

アーク:卒業まで説明役
・幼い頃には自分の母親の事を聞いたりしていたが、聡い性格だったので初等部ぐらいの時にはその話題に触れなくなった。

メビウス・フォルト・ゴリアテ:それぞれの道へ

ウルトラクラウンⅡ・ウルトラギャラクシー:両方とも仮名
・ウルトラクラウンⅡ(仮)は主にウルトラの父が使っていた蘇生アイテム『ウルトラクラウン」を改良して、カラレスの様に再生が難しい特殊器官を失った者にその代用品を付ける研究から生み出されたアイテム案。
・失った部分に技術ウルトラホーンになる感じで運用するアイデアで、ブレスの研究データを元に特殊器官の追加を行う感じで研究中。
・ウルトラギャラクシー(仮)は大量のエネルギーを蓄積し、それを使って大出力の光線技などを放つ新型アイテム。
・普段は衛星軌道上に待機させて光エネルギーを蓄積して、必要になったら呼び出して装着するプランも研究中。
・後日、実戦運用を行って戦士の名前を取って『マックスギャラクシー』としてロールアウトした。

ウルトラの父:自分の時の訓示は無駄に長かったので短くする様にした

ゾフィー:相変わらず言葉が少し足りない
・詳しくは次章で書くがアークの『リバーススタイル』は彼の力を受け継いだと同時に母親からの遺伝でもある。


読了ありがとうございました。
これで第二章は完結になります。第三章からはアークの出世の秘密と宇宙警備隊での日々を書いて行こうと思っています。その為にプロットを纏めたりするので次回の更新は遅れるかもしれません。


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第3章 かつてとこれからと
試練の惑星


お待たせしました、第3章開幕です。


 ──────◇◇◇──────

 

 

 磁力怪獣 アントラー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 色々あったが無事にウルトラの星の士官学校を卒業して宇宙警備隊への入隊が決まった一介の新人隊員ことアークは、卒業式が終わったすぐ後に親父──宇宙警備隊隊長ゾフィーから『とある惑星に迎え。そこで母親の事を含む秘密を教える』と言われたのだ。

 ……正直言って、入隊が決まった直後にいきなりな話だったからちょっと動揺していたりもするが、あの親父がそう言ったと以上は多分俺の今後にとってその話が必要になると考えての事なのだろう。その程度には俺は親父を信用している。

 

「そんな訳で、トゥウィンクルウェイを使って指定された座標にある惑星にやって来た訳だが……外から見た限りではなんの変哲も無い無人の惑星に見えるな」

 

 親父から渡された座標へやって来た俺の前にあったのは水や大気などが一切存在せず、無論の事ながら生命反応も無い見た限り荒れ果てた荒野が広がる、言ってしまえばこの宇宙で何処にでもある無人惑星だった。

 ……親父の言っていた事が本当なら、この惑星の名前は『キング星』と言うらしいのだが……()()()()にしてはなんの変哲も無さすぎるんだよな……。

 

「……まあ、本当に()()()が関わっているなら俺程度で推し量れる筈もないか。……とりあえず降りてみよう」

 

 そう考えて早速その惑星に降り立ってみたが、やはりというか目の前に広がるのは荒れ果てた荒野と歪な形をした岩肌だけだった……空を見上げればそのまま宇宙が見えるぐらいだし、一見して真っ当な生命が住めない類いの星だな。

 少なくとも俺のウルトラ族として保有する高性能な感覚器官や、学校で習った索敵技術には一切の生命反応は引っからないのだが……。

 

「……ほう、御主がアークか。よく来たな」

「なっ⁉︎」

 

 そう周辺を索敵していたら突然背後から声を掛けられたので、俺は思わず驚きながら振り返った……するとそこには、フード付きローブを羽織った人間サイズの老人が後方にあった小高い岩山の上に一人立っていたのだ。

 ……先程までは確かにそこには誰も居なかった……それどころか俺の感知結果では半径数十キロに渡って微生物すら存在して居なかった筈なのに……。

 

「……はい、俺がアークです。ここには宇宙警備隊隊長である親父が話があると言われて来たのですが、失礼ですが貴方は?」

「…………」

 

 とりあえず俺は一旦気分を落ち着かせて無難に返答を返す事にした……こんな環境の星で生存して、更には大気が殆どないのに()()()()()以上只者ではないだろう。

 ……と言うか、親父が言っていた事を合わせて考えるとこの目の前に入る老人の正体はおそらく……。

 

「……ふむ、そうか、大きくなったのだな」

「へ?」

 

 その老人が急に柔らかい雰囲気になったので、彼の事を注視していた俺はやや気が抜けてしまって思わず変な声が出てしまった……しかし、何かこの老人からは懐かしい感じがするな。こう記憶の奥底に引っかかるモノがあると言うか。

 

「まあ、それはそれとして話をする前にどの程度出来る様になったのか試練を受けて貰おうか」

「は、え? ……うわぁっ!!!」

 

 そう考えていたら、突然その老人が右腕を振り上げると共にいきなり目も開けられない様な暴風が吹き荒れ始めた……いや、これは念力の類いか⁉︎ そもそもこの惑星には大気なんて無かったし、そんな環境でウルトラ戦士である俺がまともに動けない程の風を吹かせるなんて不可能だしな。

 ……そうして暫くの間その念力の暴風が続いた後、その風は突如としてまるで何もなかったかのようにピタリ収まった。そして漸く目を開けられる様になった俺の目の前には驚きの光景があった。

 

「……こ……れは……()()⁉︎」

 

 そう、先程までは確かに空には宇宙が見えて地上には荒れ果てた荒野と岩山が広がっている惑星だった筈なのに、今俺の目の前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()があり、上を見上げると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ……加えて気温も大幅に上昇しており、大気も一般的な生物が住めるレベルになっている。

 ……幻術かと思ったがこの大気の暑さや砂の感触は俺の感知能力を持ってしても()()にしか見えないし、テレポートなどで別の惑星に移動させられたという考えも宇宙を見た際の他の惑星との相対座標が先程と全く同じだという事実から否定された。それなのに何故か太陽光が降り注ぐという意味の分からない現象に混乱が広がる。

 

「……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()とでも言うのか⁉︎ ……テレポートとか幻術とかそんなチャチなもんじゃ無い、もっと恐ろしいモノの片鱗を感じ取ったぞ……!」

 

 そんな感じで俺が目の前の光景の余りの有り得なさに驚愕していると、突如として俺が立っていた地面が崩れて流砂となったのだ。

 

「今度は何だ⁉︎ ……ええいっ! とりあえず一旦空に退避だ!」

 

 俺はまだ混乱している頭を振るといきなり出て来た流砂から逃れようとすぐさま上空へと飛翔し……ようとした直後、その流砂の中から発せられた超強力な()()()()()()に捕まってしまい、そのまま地上へと引きずり落とされてしまった。

 ……ああ、確かあの老人は“試練”とか言っていたな! それに砂漠に流砂、そして超強力な磁力を操る相手と言えば一つ心当たりがあるぞ! 

 

「グァッ! ……以前アーカイブで見た事もあるしシミュレーターで戦った事もあったが、それとは桁違いの磁力だな。磁力怪獣アントラー!」

「キャシャァァァァァァッ!!!」

 

 俺の言葉に答える様に流砂の中から現れたのは、頭部に巨大な両顎を持ち強固な外殻に身を包んだ二足歩行する巨大なアリジゴクの様な怪獣……かつて地球でウルトラマンさんを苦戦させた事もあるという大怪獣【磁力怪獣 アントラー】であった。

 ……成る程、つまりこいつを倒すのが“試練”って訳みたいだな。

 

「キシャァァァァッ!!!」

「それに向こうもこっちを見逃す気は無いみたいだしな。……じゃあやりますか! アークブレード!」

 

 まだ少し混乱する頭を元に戻す為に気合いを入れながら、俺は右腕のアークブレスのクリスタルサークルを回転させてエネルギーを解放、更にそれをブレード状に収束させてブレスから光剣を展開した。

 そして大顎を振りかざしながらこちらへ向かって来るアントラーを迎撃する為に光剣で斬りつけたのだが、その強固な外殻に弾かれてかすり傷をつけるのがやっとだった。

 

「ッ⁉︎ キッシャァァァァァ!!!」

「ええいっ! 外殻が固すぎるだろう! あのウルトラマンさんのスペシウム光線すら弾き返したと聞いていたがここまでとは!」

 

 ダメージが無いとは言え攻撃された事で怒ったのか、大顎でこちらを挟み込もうとしてくるアントラーから距離を取りつつ俺は思わず愚痴ってしまった。

 しかしどうやって倒そうかね。あの同じ光線技とは思えないレベルの迫力と威力がある“ウルトラマンさんのスペシウム光線”が効かないレベルの外殻を突破する手段は中々無いしな。

 ……だが、向こうは俺が距離を取る事を許してくれるつもりは無いらしく、大顎の間から再び虹色の磁力線を発生させて俺の体内にある鉄分に干渉する事で引き寄せようとして来たのだ。

 

「キキシャアアァァァッ!!!」

「グゥ! ヌオォォォ!? 何という強烈な磁力線! シミュレーターとは大違いだなぁ!」

 

 しかし、本当に厄介だなこのアントラーという怪獣は! ……まず外殻が硬すぎてまともに攻撃が効きやしないし、それを突破出来る威力の攻撃を出そうにもこの磁力線の妨害があると難しい。

 ……隙があるとすれば大顎の挟み込みは強力だが格闘自体はそこまで上手く無い事ぐらいか。だが、この堪えるのが精一杯な強度の磁力線があれば勝手に獲物が大顎の中に入っていくから余り弱点にはならないし。

 

「つまり正面からではどうしようもないから、ここは絡め手で行ってみようか。……そういう訳でタイプチェンジ! ブラックゲート!」

「キャシャァッ!?」

 

 そこで俺は磁力線に絡め取られたままリバーススタイルに変身し、そのまま前方の空間に穴を開けて磁力線に引っ張られるままその中に飛び込んで穴を閉じた……思った通り、流石にブラックゲート内部の謎空間にまでは磁力線は届かないみたいだな。

 更に俺は即座に実空間のアントラーの背後にあたる位置にもう一つのブラックゲートを開き、そこから外に出てヤツの背後に回った。

 

「通常の攻撃が効かないならこれでどうだ! フリーズショット!」

「キショアァァァッ!?」

 

 そして、アントラーが俺を見失って右往左往している隙に冷凍光線を連続して叩き込む事でその身体を凍結させていく……単純に砕けない硬度の外殻であっても凍らせて動きを封じるぐらいならば出来るであろうさ! 

 ……ただ、周辺環境が高温の砂漠地帯である事が足を引っ張ったのか凍結がやや遅くなってしまい、その間にヤツはこちらに振り向いて再び虹色の磁力線を放って来た。

 

「……まあ、二度も三度も喰らう気は無いさ! アクセルダッシュ!」

「キャシャァッ!」

 

 だが、俺はその磁力線を念力による加速によって高速で地上を走りアントラーの側面に回る事で回避した……あの虹色の磁力線はヤツの大顎から放射状に広がる性質があるみたいだからな。

 なので下手に距離を開けると放射状に広がった磁力線に捕まってしまうが、近い距離で側面や背後に回り込めば磁力の影響を最小限に出来るという寸法よ。

 

「そして、このまま攻め手は緩めない! フリーズショット」

「キェシャアアァァァッ!?」

 

 そのまま俺はアントラーが発する虹色の磁力線を高速移動で回避しながら、連続して冷凍光線を発射し続ける事でヤツの身体を徐々に凍らせていった。

 ……と言っても冷凍光線も高速移動もエネルギーを消費する事に変わりは無いから余り長時間は続けられないし、向こうだってこのまま不利な状況に甘んじるとは思えないし……。

 

「キキィ……キャシャァァッ!!!」

「チィッ! アイツ地面に潜る気か⁉︎」

 

 そう考えていたら、予想通りというか肉体が半分以上凍りついたあたりでアントラーは磁力線で攻めるのを中断して地中に潜り始めたのだ……予想していた中で一番面倒な手段で来たな。

 地中に潜られるとこっちに攻撃手段が殆ど無くなるからどうにかして阻止しないと。幸いヤツの肉体は凍りつき体温が大きく下がっている所為で動きは大きく鈍っている。

 

「悪いが逃す気は無いし、自分から離れた物を動かせるのはそっちの専売特許じゃないぞ! ウルトラエアキャッチ!」

「キャシャキャシャァッ!?」

 

 そこで俺はリバーススタイルになって強化されているウルトラ念力を使ってアントラーを拘束し、そのまま上へ持ち上げて空中に固定した……今の俺の実力であれば怪獣一体の動きを念力で完全に拘束する事も可能だからな。

 ……とは言え、念力が強化されるリバーススタイルでなければここまでの拘束は出来ないだろうし、このままではただ動きを封じるしか出来ないので……。

 

「まずは完全に凍らせる! ウルトラフリーザー!」

 

 まず俺はアントラーを空中に固定したままその頭上に高出力の冷凍光線を放ち、それを炸裂させる事で下のアントラーを強力な冷気で包み込んでその肉体を完全に凍結させた。

 こうして凍結させれば暫くの間は身動きを封じる事が出来るだろう。それにどうやらアントラーは昆虫っぽい生態をしているからか寒さに弱いみたいだからな。

 ……そして俺は念力を解除してアントラーを地上に下ろし、姿をシルバースタイルの方に戻した。

 

「一旦凍結させて仕舞えば姿を変えても問題無いからな。……後はその厄介な外殻を貫くだけだ。ウルトラランス!」

 

 俺はアークブレスからウルトラランス──ウルトラスパークの槍モード──を取り出しつつブレスのクリスタルサークルを回転させてエネルギーを解放、その全てをウルトラランスに集束させていく。

 ……しかし、今のこの惑星は地球などに近い環境だからかエネルギーの消耗が激しいな。短時間でのエネルギーの使い過ぎでカラータイマーが鳴り始めたぞ。

 

「……まあ、この一撃で決めれば問題無い! アントラーの外殻は生半可な威力の光線は弾き返すから、エネルギーを一点に集中させて外殻を貫く! 行っけぇっ!!!」

 

 そうして俺はエネルギーを収束し終わったウルトラランスを全力で凍結されたままのアントラーに向かって投げ放った……収束させた膨大なエネルギーとウルトラ念力による加速が加わったランスは、俺の狙い通りアントラーの外殻を貫いて突き刺さりその体内で収束されたエネルギーを解放する。

 

「キャシャァァァァァァ……!!!」

 

 ……流石に体内からの攻撃には耐えられなかったのか、そのままアントラーは絶叫を上げながら爆発四散したのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ふぅ、手強かった……」

 

 どうにかアントラーを倒してまだ敵がいないか周辺を確認し終えた俺は、ピコンピコン鳴るカラータイマーを抑えながら一息ついた。

 

「とりあえずこれで試練は合格って事でいいのか? ……或いはまだ何か条件があるとか「いや、あのアントラーを倒せば合格で間違い無いぞ、アークよ」うわぁっ⁉︎」

 

 そんな感じで俺が周辺を警戒していたら、誰もいない筈の背後からいきなり声を掛けられたので思わずびっくりして変な声が出てしまった……そのまま背後を振り返ると、やはりというかそこにはあの老人が立っていた。

 ……これでも俺はさっきの事もあってかなり念入りに周囲を索敵していたんだが気配すら掴めなかったな。

 

「限定的とは言え『鍵』の力も使いこなしている様であるし、これならば御主の父親と母親、そして御主自身の出生の秘密について語ってもよかろう」

「は、はあ……って! おうわぁっ⁉︎」

 

 老人が何となく意味深な事を言ったので俺はそれについて考えを巡らせようとしたのだが、その直前に再び老人が腕を振り上げるとまたもや砂塵を纏う暴風が吹き荒れたのだ……ってか“また”かよ! 

 ……そうしてやはり暫くしたら砂嵐は収まり、俺の目の前には見上げる程に()()()()()の様な建造物が鎮座していた……うん、もう驚かないぞ。それに今度は周辺が砂漠のままみたいだし。

 

「それで、この砂漠に建っている遺跡に一体何が『ふぅ、あのアントラーという怪獣は手強かったな』……え?」

 

 その如何にも何かありそうな遺跡について老人に聞こうとした俺の耳に、突如として凄く聞き覚えのある声が聞こえて来たので思わず後ろを振り向くと……。

 

『……それでここが妙なエネルギー反応があった遺跡か』

「親父⁉︎」

 

 そこには何故か俺と同じ様に目の前の遺跡を見上げる親父の姿があったのだ……一体どうなってるんだってばよ⁉︎




あとがき・各種設定解説

アーク:怒涛の展開にちょっと混乱中
・所有するウルトラスパークはウルトラランス・ウルトラディフェンダーの三形態に変形する機能があり、アークブレスのエネルギーを収束させやすい様にカスタムされている。
・各形状はゼロが使っているヤツの青い部分を黒色に変えた感じ。

【磁力怪獣 アントラー】:『キング星での試練』繋がりで登場
・冷凍攻撃に弱いのは砂漠で生息している昆虫型怪獣という点から思いついたオリ設定で、凍結した所為で外殻が脆くなっていたから倒せたという裏設定もある。
・実は老人が出した『本物と全く同じ能力がある実態を持った幻術』である。

謎の老人:いったいウルトラマン何ングなんだ(バレバレ)
・ちなみにこの『キング星』と呼ばれる惑星は大きさ・宇宙座標・環境などを老人の意思で自由に変えたり出来るのだとか。


読了ありがとうございました。
第3章は過去編と主人公の宇宙警備隊での日々の二部構成になる予定です(話の長さ次第では章分けするかも)


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謎の遺跡・謎の女性

 さて、試練と称して戦わされたアントラーをどうにか倒した俺の目の前に現れたのは、見上げる程の巨大な遺跡と何故かそこにいる親父(ゾフィー)の姿だった……しかしこの親父、何処か何時もの親父と比べてなんか違和感があるというか……。

 ……そんな風に首をかしげる俺を無視して親父は目の前にある、よく見ると結構ボロボロになっている巨大化したウルトラ族と同じぐらいの高さとそれ以上の広さがありそうな巨大な遺跡を観察していた。

 

『しかし、なんだってこんな辺境の惑星のここまで巨大な遺跡があるんだ? この惑星は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と事前に調べた情報にはあった筈だが……』

「……んん? 親父がこっちに気付いていない……いや、違うな。これはもしかして幻術か?」

 

 試しにちょっと目の前の親父に触れようとした俺の手がそのまま擦り抜けてしまったし、やっぱりこの親父は良く出来た幻の様だ……というか、よく見たらこの親父は昔の姿なのか?

 実際、今と比べても大分若く見えるし胸のスターマークや肩のウルトラブレスターも無いし。こんな分かりやすい違いに気が付けないとか、ちょっと俺は動揺し過ぎているな。

 

「ふむ、宇宙警備隊隊長の証であるウルトラブレスターは最近つけられた物だから兎も角、スターマークも付いてないという事は大分昔の親父なのか?」

「その通りだ。……これは昔、ゾフィーがとある辺境の惑星に調査に赴いた時の状況を、私が作り上げた幻術空間で再現しているものでな。ゾフィーはこの惑星から不審なエネルギーの反応を感じ取って調査に来て、そこで現地に生息していたアントラーに襲われて撃退した所でこの遺跡を見つけたという状況だな」

 

 そんな事を考えながら思いついた推測を独り言で呟いていると、あの謎の老人が俺の推測を肯定しつつ詳しい説明をして下さった……正直、この謎の老人()の正体は予想が付いているけど、向こうが話すまでは空気を読んで黙っていよう。なんか言い終わったらすぐにまた消えちゃったし。

 まあ、要するに今のこの場所は超高精度のシミュレーターの中という事なんだろう。周辺の環境もさっきまでは高温の砂漠地帯だったのに、今は見た目だけは砂漠だが実際の環境は俺が過ごしやすい様にか光の国とほぼ同じ環境になっているし。

 ……ちょっと何が幻術で何が現実か分からなくなって来たけれども、多分そういう考え方でいい筈だ……おそらく。

 

『……まあ、ここでこうしていても拉致があかないか。とりあえず中に入って詳しく調査するしかないか』

「おっと、親父(過去)が人化して遺跡の中に入っていったな」

 

 そうしている間にも幻術による過去の光景の再現は進んでいる様で、親父は自分の肉体を縮小させてからヒューマノイドタイプの生物の姿(以前見た事があるのと同じ濃ゆい外見のヤツ)に変身して謎の遺跡の調査の為にその中に入って行った……そしたら、いきなりこの幻術空間が一変して遺跡の内部を探索している親父の映像に切り替わった。

 

『……ふうむ、外部は高温の砂漠環境なのにこの遺跡の内部はむしろ涼しいぐらいで、大気環境なども含めて一般的な生物の生存に最適な環境になっている。一見機械類が見えないから分かりづらいが、この遺跡は相当に高度な環境調整技術が使われているな。……この遺跡のサイズからしてヒューマノイドタイプぐらいの大きさの生物が使う為の物として作られている様だが、こんな技術形式は俺も今まで見た事が無い』

「……確かに、俺はこれでも宇宙保安庁入隊試験をクリアする為に色々な文明の建造物を勉強してきたつもりだが、こんな遺跡の様式は見た事が無いな」

 

 ……その遺跡の内部は以前ちょっとだけアーカイブで見た地球にある“古代の神殿”の様な内装であり、入ってからすぐのエントランスの様な場所には大分風化していたが不思議な文様が刻まれた柱や怪獣と()()()()()()()()()()()巨人が戦う様子が描かれた壁画などがあった。

 

『この壁画はウルトラ族と怪獣の戦いが描かれているのか? それにウルトラ族の様な巨人同士の戦いや怪獣が街を襲う様な壁画もあるな……ただ、大分風化しているから詳しくは分からないか。……しかし、一体この遺跡はどれだけ昔の物なのか、一応調査用に簡易の各種測定デバイスを持ってきたから調べてみるか』

 

 そう言った親父は腕に付けていたブレスレット型の測定デバイス(時代が時代だからかちょっと旧式)を手慣れた様子で操作して辺りを調べ始めた……確か親父ってこの手のアイテムは『昔からよく使っていたから扱いには慣れている』って言ってたっけ。それでテレポート能力と合わせてアイテムを届けるお使いをやらされてたとか……。

 ……しかし、この遺跡は何なんだろうか? あの老人の解説が入らないという事は、このまま親父の過去を見ろって言うんだろうが……。

 

『……測定結果は遺跡を構成している建材の材質は解析不可能、ただの石では無いな。少なくとも光の国のデータベースには載っていない素材で作られているのか。……それで、この遺跡が建造された推定年月は……およそ()()()()()だと⁉︎ ウルトラの星ですらまともな文明が無かった時代だぞ!』

「うーん、確かウルトラの星で太陽爆発が起きたのは二十六万年前、更に四十万年間一度の犯罪が無かったと伝わってるから結構ウルトラ族の文明は長く続いているんだよな。……一応アーカイブで調べたら百万年前ぐらいのウルトラの星の情報があったりもしたけど、文字通り桁が違うな」

 

 ……ふむ、なんか歴史ロマン物の番組を見ている感じでちょっと楽しくなってきたな。ここは超古代文明の遺跡か何かなのか? 

 

『……ここは超古代文明の遺跡か何かなのか? ……流石に簡易測定デバイスではこれ以上の調査は無理か。俺の感覚だと何か特殊なエネルギーの流れを感じ取れるんだが、この測定デバイスでは検出出来なかったし。……仕方ない、後は自分の足で調査を続行するしか無いか。せめて観測された謎のエネルギーが危険かどうかだけでも確かめないとな』

「お? どうやら過去の親父は先に進むみたいだな」

 

 デバイスを使った測定を終えた親父は遺跡の中を慎重に隈なく歩いて探索していったので、俺もその後に続いてこの遺跡の内部を見て回る事となった。

 ……それから一通り遺跡の内部を探索したがエントランスと同じ様に壁画が描かれていたり、風化しかけていたが先程見た様な柱や何かの飾りの様な物があるぐらいで特に新しい発見は無かった。

 

『これで一通り調べ終わったがこの遺跡の内部は壁画や柱があるだけで、その壁画も鎧を着た様な怪獣や翼を持った怪獣、或いは巨大な植物の様な怪獣と巨人が戦っている物か、巨人同士が戦っている物ばかりだった。……観測されたエネルギーは次元や空間に異常が起きた際に発生する物に近似していたし、出来ればその原因を明らかにしたかったのだが……』

「まあ、次元系エネルギーは危険度が高いからね。主にヤプールとかヤプールとか」

 

 ……というか、そういった高位の存在や超高度な科学技術でもないと次元や空間には干渉出来ないって言って方が正しいのだが。

 

『残る手掛かりはこの遺跡から感じ取れる謎のエネルギーか。……これまで遺跡を歩き回りながらこのエネルギーをより詳細に感じ取れる様に感覚を研ぎ澄ませたら、何となくではがあるがこのエネルギーは俺達ウルトラ族のものに近い感じがするんだが。……このエネルギーがどこから流れているかを感じ取れればこの遺跡の秘密が分かるかもしれん』

 

 そう言った親父は目を閉じて精神を集中させて周りのエネルギーを感じ取ろうとしていた……まあ、なんか『星の声』とか聞けちゃう親父だし謎のエネルギーを感知する事も出来るんだろう。

 ……そうしてしばらく集中していた親父だが、ある時いきなり目を開けながら振り向いて遺跡の一点を見つめた。

 

『……エネルギーが流れている方向はあっちか』

「お、ようやく動くみたいだな」

 

 そう呟いた親父はエネルギーとやらの流れを追う為だろうが、物凄く集中しながら先程見た方角に向けて遺跡の中をゆっくりと進んでいった……そうして親父は暫く歩いていき、やがてとある壁画の前で足を止めた。

 ……その壁画には男性型っぽい巨人が三人、女性型っぽい巨人が一人の合計四人の巨人が並んでいる姿が描かれていた。

 

『……やはりこの遺跡を流れるエネルギーはこの壁画……おそらくはこの壁画の向こう側から流れ出ている様だな。……ふむ、この奥に行く為の隠し扉とかは無い様だがどうするべきか……いっそ壊すか? だが何がエネルギーの原因になっているか分からない以上は下手に遺跡を破壊したくは無いしな……』

 

 そうやって親父は壁画やその周囲を色々と触ったり測定デバイスを使いながら調べて行った……うーん、俺はむしろこの壁画自体に何か意味がある気がするんだよな。他の壁画に描かれていた巨人は怪獣や同じ巨人と戦っている物ばかりだったけど、この壁画のはただ並んで立っているだけだし。

 ……そう俺が考えていたら突如としてその壁画が()()()()()()()。それを見た親父は即座に飛び退き距離を取って光る壁画を警戒した。

 

『なんだ⁉︎ いきなり壁画が……』

「光り始めたな」

 

 そうして壁画から出た光はその前方へ徐々に何かの像を結んでいき、気付くとその壁画の前には白いローブの様な衣装を着た白髪の女性が立っていた。

 ……よく見るとこの白い女性の姿には所どころノイズが走ってるし、これは多分一種の立体映像(ホログラム)だな。

 

『……これはホログラムか?』

『私は地球星警備団の団長ユザレ。……現世を離れ亜空間を旅するこの“方舟”に人が訪れたという事は、時間が来て再び何処かの現世に浮上してしまったという事なのでしょう』

 

 そのホログラムの白い女性──地球星警備団の団長であるユザレと名乗る彼女は警戒している親父を無視して、何か凄く意味深な感じでそんな事を話し始めた……まあ、ホログラムである以上は以前に録画した物でしかないだろうからしょうがないんだが。

 ……しかし“地球星警備団”なんて聞いた事が無い名前だな。地球にいくつかあった防衛チームにもそんな名前の組織は無かった筈だし……。

 

『この方舟は私の世界にいる事が出来なかった“彼女”を何処か別の世界に逃がす為の物。この壁画に“光の力”を当てる事で彼女が眠るこの先の部屋に行く事が出来るでしょう。……どうか、この映像を見ている者が彼女を“闇”から救い出せる“光”を持つ者である事を切に願います……ザザッ……ザザザ……』

 

 そのユザレと名乗る女性のホログラムは喋りながらも徐々にノイズが酷くなっていき、一通り話終わった後に全身がノイズに包まれてそのまま完全に消えてしまった。

 ……ふうむ、何かこう物凄く抽象的すぎてよく分からなかったが、要するにこの先に誰かが居るって事だよな。

 

『……つまりこの先に誰かが居て、先に進むには光をこの壁画に当てればいいと……こんな感じか?』

 

 話を聞き終わった親父は早速掌の上に小さな光球を作り出し、それから発せられる光を壁画に当てていった……すると、まるで親父が出した光を吸い込んでいる様に壁画が再び光り出した……そして、その光が徐々に強くなっていくと共にいきなり壁画がまるで引き戸の様に真っ二つに割れ出したのだ。

 ……やがて壁画が動きを止めて光が収まると、そこには如何にも遺跡の奥に続いていそうな隠し通路が現れていたのだ。

 

『……進もう』

 

 ……あのユザレという女性の話を聞き、更にその通路を見た親父はこれまでとは違う本気で真剣な表情となって通路の奥へと進んでいった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……ここが遺跡の最奥部か。先程までとは全く違うな』

「確かに凄い明るいし」

 

 そうして親父が通路の中に入ると再びこの幻術空間が一変して場面が切り替り、遺跡の最奥部にある隠し部屋に親父が足を踏み入れる場面になっていた。

 ……その隠し部屋はこれまでのボロい石で出来た遺跡とは全く違い、壁・床・天井・柱など全てが淡い光を発する白と金の中間の様な色合いの素材で出来ている神秘的な空間となっていた。

 

「ウルトラの星の建築に使われているクリスタルと似た感じがするが、こっちは大理石みたいな感じがするな」

『ふむ、光の国にある建造物に似ているが全く違う素材で出来ているな。……む? 部屋の奥にに何かある様だな』

 

 そうやって俺が周囲を見回していると親父が部屋の奥に何かがある事に気が付いて、それが何かを確かめる為にそのまま奥へと進んでいった。

 ……そうして奥に進んでいった親父(と俺)が目にした物は……。

 

『……これは()()の様な物……ッ⁉︎ この上に乗っているのは……!』

「……()()()()()()()()()()()()()()()()が祭壇の上に置いてあるな」

 

 部屋の奥にあったのは何かを祀る為に作られた様な一つの巨大な祭壇と、その祭壇の上に鎮座する俺達ウルトラ族に似ている女性巨人の石像だった……うむむ、状況から考えるにこの石像があのユザレという女性が言っていた“彼女”って事になるのかな? 

 ……そう考えていたら突然その石像が輝き出すと共に色が付いて行き、額にクリスタル、胸に逆涙滴型の台座があるカラータイマー、肩から胸部に掛けて金色のプロテクターの様な物を身に付けた銀と赤と青のウルトラ族の女性っぽい巨人に変化したのだ。

 

『なっ⁉︎ 石像がウルトラ族に……いや、この女性が石像になっていたのか?』

『……あ……ここ……は……』

 

 その女性が何か言おうとしたら再びその身体が光輝くとそのままどんどんと小さくなって行き、最終的に光が収まった場所には先程のユザレと同じ様な白い衣装を着た銀髪のヒューマノイドタイプの女性が倒れ込んでいた……どうやら人間の姿に変化した、或いは元に戻ったといった感じみたいだな。

 

『いかん! 君、大丈夫か!』

 

 それを見た親父は即座に祭壇を駆け上がってその女性を抱き起こしながら呼び掛けた……すると女性は割とあっさり目を開けて親父を見た。

 

『……んん……貴方は?』

『私は宇宙警備隊のゾフィーだ。この遺跡には観測された不審なエネルギーの調査に来たんだ。……それで君は一体?』

『……私は……ティアと言います……』

 

 その女性──ティアはそれだけ言うと再び目を閉じて眠りについてしまった……こういう展開になったという事は多分あの女性が……。

 

「そう、あの女性……ティアこそがアーク、御主の母親なのだ」

「うウェイ⁉︎ びっくりした……」

 

 そんな風に考えていると、いきなり背後に現れた例の老人がそんな事を言ったのでつい驚いてしまった……いきなり消えたら現れたりするからね、この謎(笑)の老人。

 ……しかし、この人が俺の母親……まさか石像だったとは(混乱中)




あとがき・各種設定解説

アーク:実は内心だと大根が走り回ってる(笑)
・実際、普段なら冷静に対応出来る様な事にも対応出来ていないのはそのせい。

謎の老人:何故か出たり消えたりしている
・本人的にはアークに集中して過去の映像を見てもらう為の気遣いのつもり。

ゾフィー:まだ一般警備隊員だった頃
・この時点でもアントラーをタイマンで倒せるぐらいに強く、遺跡の調査の様な戦闘以外の事も問題無く熟せる警備隊のエースだった。
・人間態の外見は『ウルトラマンstory0』の者をイメージしてほしい。

ユザレ:いつも通りホログラムで登場
・心に高い善性を持った者があの壁画に触れる事でメッセージが再生される様になっていて、更に強い光エネルギーを当てる事で扉が開く仕様になっていた。
・これは高い善性を持つ心と強い光の力を持つ者でなければ最奥に進めない様にする為である。

ティア:アークの母親
・お察しの通り(感想でもバレてた)ネオフロンティアスペースのウルトラウーマン、その詳細は次回。


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ティアの過去・光の巨人達の戦い

 親父の過去を見たら実は俺の母親が元石像だった件……いや、あの石像モードが一種の仮死状態とかエネルギー節約の為のものらしいって事ぐらいは分かってるぜ?

 ……まあ、それはともかくとして遺跡の最奥まで来た親父は、何でもお袋らしいティアという人が眠りについてしまったのでとりあえず人間態での活動様に用意してあったっぽい寝袋に彼女を寝かせてから側で見守っていた。

 

『……ふむ、やはりこの部屋に使われている素材も光の国のデータベースには無いが、データによるとこれまでの遺跡で使われていた石材と近似した性質がある様だな。……だが、この部屋、いや()()を中心として遺跡に流れるエネルギーの詳細は未だに不明か。やはり直接事情を聞くしかないか』

 

 その間にも親父は遺跡の調査を進めていた様だが、どうも芳しい結果は得られなかったらしくお袋が目覚めるのを待つ事にしたらしい……そしてしばらく経った後、お袋が身じろぎした気配があった。

 

『……ううん……ここは……』

『む、目覚めた様だな。……何か気分が悪いとかはあるか? それと私の事は分かるか?』

 

 そうして目覚めたお袋の顔を親父が覗き込んで意識がはっきりとしているかや健康状態とかを確認していった。

 

『あ……大丈夫です。私の身体におかしい事とかは無いと思います。……えーっと、確かゾフィーさんでしたね。……それとここは“方舟”の中ですね。やっぱり亜空間からはもう出てますし、そうでなければ私が目覚める事は無いでしょうから』

『……この遺跡の事や君の事など色々と聞きたい事はあるのだが、まずは改めて自己紹介をしておこう。……私はM78星雲ウルトラの星の宇宙警備隊に所属しているゾフィーと言う者だ』

 

 目覚めたお袋はぼんやりとした様子で周りを見渡しながら何かを呟いていたが、特に何か異常があるという感じでも無さそうだった……それを見た親父は事情を聞き出すのを後回しにして、自分の事と現在の状況の説明を行う様だった。

 ……まあ、石像になっていたあちらさんが現状を把握出来ているとは思えないし、まずはこっちから状況を説明した方が良いだろうな。警備隊のマニュアルにもそう書いてあったし、俺だってそうする。

 

『今日はこの文明が存在しない筈の惑星にいきなり謎の次元エネルギーの様なものが確認されたので調査に向かった所、この遺跡を発見したので内部に入って調査していたんだ。……そこで何かエネルギーが流れているのを辿って、その先にあった壁画から出て来たユザレを名乗る女性のホログラムの案内もあってこの部屋に辿り着き石像になっていた君を見つけたと言う状況だな』

『……成る程、これはご迷惑をお掛けした様子で申し訳ありません。……改めまして、私は地球星警備団に所属しておりましたティアと申します』

 

 一通り親父の説明を聞いたお袋は申し訳無さそうに頭を下げた後、自身をあのユザレと名乗った女性と同じ“地球星警備団”という組織に所属していた者だと自己紹介を返した。

 ……しかし、疑問に思っていたんだが“地球星警備団”なんて組織は聞いた事無いし……。

 

『地球星というのは太陽系の惑星の一つである『地球』の事か? ……あそこには以前一度だけ行った事があるが君の様なウルトラ族に似た姿に変身出来る者はいなかった筈だが……』

『それは私が()()()()()()()からこの世界に転移……厳密には亜空間に封印していたこの方舟が寿命によって偶々この世界に漂着したのですが』

 

 ……ふむふむ、別の世界ね……マルチバース理論には単純に別の可能性の世界の他にも根本的に違う世界とかもあると聞いた事はあるけど、つまりお袋は別の世界のウルトラマンだったという事かな? 

 

『別の世界か……成る程、観測された次元エネルギーはこの遺跡がこの惑星に漂着した際に現れたものか。だとすればいきなりこの惑星にこんな遺跡が発見された事にも説明がつくな』

『……随分とあっさり信じてくれるんですね』

『これでも宇宙警備隊員……ああ、私はこの宇宙の治安維持組織の一つ宇宙警備隊の隊員なんだが、そこから説明した方がいいか』

 

 そうして親父はウルトラの星や光の国の事、更に宇宙警備隊やこの宇宙の一般的な常識などを掻い摘んで説明していった。

 

『そういう訳で、私はこれまでの任務の際に次元や時間や異世界に関係する事件に遭遇した事が無くもないからな。……それに君の目を見る限り嘘を言っている様には見えなかったからな』

『……ありがとうございます』

 

 ……そんな事を軽い笑みを浮かべながら言った親父を見たお袋がちょっと照れたりもしているがノーコメントで。実の両親のラブコメ展開なぞ見せられてもコメントに困るんだよ。

 

『それよりもこの遺跡……君がいう方舟の事や君自身の事についてもう少し詳しく教えて貰えないだろうか? ……あのユザレという女性のホログラムが“君を別の世界に逃がす”とか、“君を闇から救い出してくれる者が現われる事を願っている”と言っていたからな。……宇宙警備隊員として君やこの方舟に何かあるのなら放ってはおけん』

『……分かりました。……この方舟が現実世界に漂着してしまった以上、()()も遠からずこちらに来るでしょうから。この宇宙の治安を守る貴方達に私は元の世界であった事まで含めて話しておく義務があるでしょうから』

 

 そう言ったお袋は雰囲気を真剣な……或いは何処か悲愴さを感じさせられる様なものに変えると、親父へと向き直って自分の世界の事について説明し始めた。

 

『私達が住んでいた地球ではかつて世界に怪獣、宇宙からの侵略者、闇の眷属等の様々な脅威が現れて、人々はそれらに脅かされていました。……しかしその危機に突如として宇宙より多くの“光の巨人”が地球へ降臨し、人々を守る為に戦ってくださったのです』

『……その“光の巨人”が君達の世界でのウルトラ族という事か』

 

 ……ふむ、ウルトラの星の地球派遣みたいなものなのかね? ただ、話を聞く限りだとかなり大規模だったみたいだが。

 

『そうして長く苦しい戦いの果てに巨人たちは脅威を退けると、その後の人類の行く末には干渉せずに肉体を石像化させて体から分離すると本来の光の姿となり遠い空の果てに帰って行ったらしいです。……その後、平和が訪れた地球では私達の都──ルルイエを中心に光の巨人達が残した石像を守護神として崇めながら人々は平和な日々を過ごしていました』

『……分かった。続けてくれ』

 

 まあ、原住民の行動に過度な干渉をしないのは宇宙警備隊でも普通の事ではあるが……その“光の巨人”達は石像を残したというのが気になるな。

 

『はい。……ですが、平和は長くは続来ませんでした。再び『闇』による怪獣災害が起こり始めて地球に再びの危機が訪れたのです。……ですが今度は天から光の巨人達が降りてくる事は有りませんでした。……その代わりに地球に残った石像と同化することによって光の巨人となる事が出来る人間達が現れ始めたのです。私もその一人でした』

『……成る程な。その為に光の巨人達は石像を地上に残していたのか』

 

 えーっと、つまり光の巨人達は自分達が居なくなった後も地球に脅威が訪れる事を知っており、人間達がそれに対抗出来るように地上に石像を残したという訳か……ただ、その親父の意見を聞いたお袋の表情が少し複雑なものなのが気になるな。

 

『それは分かりませんが、とにかく石像と同化して光の巨人となった戦士達は地上に現れた怪獣達と激しい戦いを繰り広げました。……私も同じ様に光に選ばれて巨人となった兄のティガ兄さんや、その友人で同じく選ばれたダーラムさん、ヒュドラさん、カミーラさん、そしてユザレさんと一緒に怪獣達と戦いました』

 

 ……そう語ったお袋の表情は何処か懐かしいものを思い出している様な柔らかいものだった。

 

『私と彼等は所謂幼馴染みという奴だったんです。……ぶっきらぼうだったけど面倒見が良くて色々な人に慕われていたティガ兄さん、口下手だけど凄く友達思いだったダーラムさん、口調や態度は悪かったけど私にも色々気を使ってくれたヒュドラさん、キツイ事を言う時もあったけど優しかったカーミラさん、そしてちょっと問題を起こしがちだった兄さん達を注意しながらも仲が良かったユザレさん。……そんな彼等と過ごした日々は今も明確に思い出せます』

 

 ……と、そこまではかつてを懐かしむ様に語っていたお袋だったが、突如としてその雰囲気が暗いものに変わってしまった。

 

『ですが、その日々も長くは続きませんでした。先程も言った通り地球各地に再び『闇』による怪獣が現れて、それらと私達は『光』に選ばれた戦士として戦いました。……まあ最初の方はまだ良かったのです。兄さん達は戦士達の中でもトップクラスの実力を持っていて、ルルイエに現れる怪獣達を他の戦士達と協力して次々と倒していきました。ちなみに私は大して強く無かったのですが当時は怪獣の出現を探知出来る能力を持っていて、後はテレポーテーションが使えたので兄さん達を怪獣の居る現地に送り届けるのサポートが主な役割でしたね』

 

 お袋曰く、全ての能力が非常に高い上にエネルギー吸収の力で長時間戦う事が出来たので最も多くの怪獣を倒していたティガ兄さん(俺にとっては叔父さん)、圧倒的なパワーと大地を操る力でティガさんと共に戦ったダーラムさん、戦士達の中で最高のスピードと風を操る力で遊撃として活躍していたヒュドラさん、氷を操る力と高い武器を扱う技術で常にティガさんの隣にあったカーミラさん、最高クラスの超能力と戦士を纏め上げるカリスマを持ちルルイエにいた戦士のリーダーだったユザレさん、そして彼等が中心となった戦士達とルルイエの人達の協力で怪獣達をどうにか退ける事が出来ていたのだとか。

 

『まあ、ルルイエは当時の地球で最大の都市でしたから人員や資源も豊富だった事と、兄さん達を始めとした戦士達の質も高かった事によって怪獣を退ける為の防衛線の構築はとてもスムーズに進み、都市に一先ずの秩序を構築する事には成功しました。ですが、地球全体で見れば人類は劣勢であり怪獣に滅ぼされた街や民族はかなりの数に登っている状況でした。……そこでルルイエではユザレさんを中心として地球全ての人類が協力して怪獣と戦う為の組織を作るという提案がなされ、それで出来たのが“地球星警備団”になります』

『「成る程な、そう繋がるのか」』

 

 いかん、親父とハモった……尚、地球中の他都市と協力体制を構築した方法は、当時惑星一つぐらいまでを能力の効果範囲にする程に成長していたお袋が怪獣によって窮地に陥った都市を感知し、ティガ兄さんを始めとする強力な戦士達をテレポーテーションで送り込んで怪獣を打倒した信用を得る感じだったとか。

 ……何というか割と強引な方法だし、お袋が自分は大した事無いって言ってたくせにさらりと物凄い事をしてるんだよな。ただ、そうしていたのは最初の方だけで怪獣に対抗するために急速に技術レベルが上がっていった結果、“地球星警備団”が正式に発足した辺りで都市同士での通信手段や移動手段などが確立されたそうだが。

 

『それ以降は怪獣の襲撃にも安定して対処出来るようになって、どの都市でも一定の秩序を構築して人々はどうにか真っ当な生活が送れる様になる程の余裕を手に入れていました。……その頃になると他の戦士達と比べても頭三つぐらい飛び抜けた実力を持っていた兄さん達は英雄と呼ばれて尊敬されていましたね。後は兄さんとカミーラさんが付き合い始めたのもこの時期でしたか』

 

 そうして地球星警備団が発足した後も怪獣災害が収まる事は無かったそうだが、少なくとも安定して対処出来る方法が確立されたので徐々にではあるが人々は元の生活を取り戻していったそうだ。

 ……うーむ、このまま行けばハッピーエンドになりそうなものなのだが、話をしているお袋の雰囲気が暗めだからそうはいかないんだろうなぁ……。

 

『……ですが、地球を襲う『闇』達も何もしないと言うわけではありませんでした。……宇宙が始まる前の混沌、生物の集合無意識の海、或いは深淵とも呼べる場所に住まうらしい彼等はそのままだと現実世界で活動出来ないので、その為に作り出したらしい尖兵である『這い寄る混沌』と呼ばれていた怪人を介して地球で暗躍していました。……そして奴らは私達の目が怪獣向いている間にこれまで死した者達の怨念を集め、自分達が住まう領域と現実世界を繋ぐ『穴』をルルイエの近郊に開くという行動を取ってきたのです。……と言っても、その『穴』は不完全な物で『闇』の本体を深淵から呼び出す事が出来ない程度の物だったので、最初にそこから出てきたのは精々()()()()()の地を焼き払う悪しき翼──【尖兵怪獣 ゾイガー】の群れでしたが』

 

 ちなみにその【ゾイガー】という怪獣は一体でも並みの戦士と互角以上の実力があるとか……それが数十体とか何それ超ヤバイ。

 

『その出てきた数十体の【ゾイガー】は兄さん達が中心となって倒したのですが、ルルイエ近郊に空いた『穴』を塞がない限り【ゾイガー】はほぼ無尽蔵に出現するので一刻も早い対処が必要でした。……しかし、当時のルルイエを含む地球には深淵に繋がる『穴』に干渉する技術はありませんでした』

『……では、どうしたんだ?』

()()()()()()()。……私には深淵に繋がる『穴』に干渉出来る『力』が偶々あったのです。怪獣の探知やテレポーテーションもその『力』の片鱗だったみたいですね』

 

 お袋曰く、深淵に繋がる『穴』を知覚した時点で『アレは私なら塞げる』と理解出来たらしい……なのでティガ兄さん達に頼んで『穴』まで接近したらあっさりと塞げたとの事。

 

『正直言ってルルイエはかなり危険な状況だったので、それをどうにかしてしまった私は一夜にして救世主扱いでしたね。私の髪が銀髪だった事や『穴』を閉じた事から『銀の鍵の巫女』とか呼ばれたり。……更に私が干渉する術がないと思われていた『穴』に干渉出来た事から、その『力』を研究すれば『闇』との戦いを終わらせられるという考えも出て皆が終わりが見えなかったこの戦いに希望を見出していきました』

『「…………」』

 

 ……うん、話の展開的にいい方向に進んでいる筈なのに、お袋の雰囲気が暗いを通り越して虚無になってるから俺も親父(過去)も何も言えねぇ……! 

 

『ですが、私達は余りにも楽観視し過ぎて肝心な事を見逃していたのです。……深淵を覗き見る時は深淵もまた私達を覗き見ているのだと言う事を。その深淵に住まう『闇の邪神』達の恐ろしさと、人間が持つ『闇』の悍ましさを』

『「…………」』

 

 ……そうしてお袋は異なる世界の地球で起きた光の巨人と闇の邪神との戦いの結末を語り始めた。




あとがき・各種設定解説

アーク:話を聞くのに集中してる

ゾフィー:同上

ネオフロンティアの原作キャラ達:まだ光の巨人だった時期
・若い頃のキャラは根は優しい不良的なティガ、その親友ポジのダーラム、ティガと喧嘩してからつるむ様になった悪友ヒュドラ、ティガに気があるけど素直になれずツンケンしてしまうカミーラ、そんな連中を注意する委員長ポジなユザレみたいな感じ。
・五人とも石像との同調率は最高レベルで光の巨人達の中でも中核に近い存在だった。
・尚、五人の間にはティガとヒュドラ、カミーラとユザレの様に仲が悪い組み合わせもあったが、その辺りはティアやダーラムが間に入ってとりなしていた。

『闇』:ネオフロンティアスペースの地球を襲った謎の存在
・その正体はご存知『ウルトラマンティガ』に於けるラスボス【邪神 ガタノゾーア】である。
・尚、この作品に於いては【ガタノゾーア】と【邪神魔獣 グリムド】は同種の邪神という設定で、どちらもかつて深淵に封じられた宇宙が誕生する以前の光も闇もない混沌が形を成した邪神の一体。
・その深淵に封じられてなお悪夢や創作家のインスピレーションとして干渉しており、それを受信した生物に答えて限界するらしいが詳細は不明。

『這い寄る混沌』:闇の邪神達の尖兵の一つ
・他にも『無貌の王』『千の無貌』『黒い男』とか呼ばれている闇の邪神が干渉した世界に必ず現れる怪人。
・その正体は深淵に居る闇の邪神達に干渉され尖兵となった現地の生物の総称であり、邪神達を現実世界に降ろす為に行動している。
・というより、彼等が深淵を覗き見たから邪神達が現実に現れたとも言い換えられる。

【尖兵怪獣 ゾイガー】:ティアは三千万年前の当事者であるので【超古代】とは付かない
・大量に出てくる割にタイマンでティガ(テレビ版)と互角に戦えるとかいう怪獣。
・尚、ティガ兄さんの場合はコイツと数体まとめて倒せるぐらいの図抜けた戦闘能力を持っていた設定。

ティア:闇の巨人では無く邪神(クトゥルフ)的に厄ネタな人
・その能力は邪神が住まう深淵への干渉、具体的には深淵までの道を開いたり閉じたり出来る感じだが正確な所はよく分かっていない。
・この力は石像側の光の巨人ではなく人間だった彼女が元から持っていたもので、深淵の片鱗である『穴』を知覚した時に覚醒してしまった。


読了ありがとうございます。
本日11/22『ウルトラギャラクシーファイト大いなる陰謀』放送開始! みんなで見よう!


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ティアの過去・『闇』の脅威

『……深淵を覗き見る時は深淵もまた私達を覗き見ているのだと言う事を。その深淵に住まう『闇の邪神』達の恐ろしさと、人間が持つ『闇』の悍ましさを』

『「…………」』

 

 ……一転して虚無の表情になってそう言ったお袋のその言葉に、俺と親父(過去)は二の句も告げられず黙り込んでしまった。それに構わず話は更に続いていった。

 

『……ルルイエに於ける私の能力の解析自体は優秀な科学者達や、ユザレさんの様な高レベルの超能力者の強力で比較的順調に進みました。……その結果、私の『力』には『邪神やそれに由来する怪獣の気配の感知』『空間や次元に対する強力な干渉能力』『自分の固有亜空間に繋がるゲートの展開』などがある事が明らかになってきました』

「……むむ、これは俺の『リバーススタイル』の由来はお袋のモノだったという事か?」

 

 てっきり親父の技である『ブラックストリームM87』が由来だと思ってたし、親父からもそう聞いて……いや、この『リバーススタイル』について聞いた時に参考として親父のその技を見せて貰ったけど、別に自分由来だと明言した訳じゃなかった様な……? 

 ……とにかくこの過去をもっとよく注意して見る必要があるだろうな。

 

『また、そこから派生して現在地球を襲っている怪獣の大元が、深淵に住まう『闇』──邪神達である事が分かったのもこの研究があったからですね。……奴らは宇宙創生以前の時代に存在した混沌の邪神であり、宇宙が創られ生命が生まれてからはその無意識の海でもある深淵に封じられているモノ達である事。そしてヤツらは今でも生物の無意識からその精神に干渉して、再び現実世界に現出する事を虎視眈々と狙っている事を……』

『……『外宇宙の邪神』はこの宇宙に於いてもいくつかの惑星でおとぎ話や神話として伝わっているが、何故別の惑星に同じ邪神の話があったのかは宇宙の謎の一つだったのだが……そんな所以があったとは……』

 

 確かにそう言った『邪神』の神話やおとぎ話は俺も聞いた事だけはあったけど、まさか生物の無意識の海にそんな存在が居たからだったとは驚きだな……そんな存在に干渉出来るらしいお袋の能力にも。

 ……そして、多分俺にも……。

 

『その後も研究は()()()()()順調に進み、深淵にいる邪神達はそもそも“滅ぶ”という概念自体が無いのでそれ自体を滅ぼす事は無理である事、だが現実に出て来て実体を持った邪神であれば滅ぼす事は出来る事……そして、現実に現界した邪神──【ガタノゾーア】の戦闘能力は地球上の全巨人を合わせても倒しきれない程のモノである事が分かってしまいました。……この事が分かってから研究は少しずつ可笑しな方向へ進んでいったのです』

 

 尚、一応の研究成果とした邪神配下の怪獣や怪人の位置が分かる様にもなって、各都市の防衛や暗躍していた『這い寄る混沌』の排除なども出来たらしいが……大元の邪神を倒さない限り怪獣は現れ続けるし、それによる悲劇が原因で邪神の精神干渉を受けた人間が新たな『這い寄る混沌』になってしまうので根本的な解決にはならなかったらしい。

 ……それで、研究の目的は根本である『邪神』に対してお袋の『力』を使って干渉する方向性にシフトしてしまったそうだ。

 

『そうして研究を邪神やそれらが住まう深淵についてのモノに変えていった研究者達は、その過程で私の『力』の本質が“邪神がいる深淵と現実の境界に干渉する”モノだと突き止めて、その力を使って【邪神 ガタノゾーア】を元の深淵に送り返して封印する計画を発案しました。……この計画は怪獣達との終わりなき戦いを繰り広げていた人間達にとっては、まるで福音の如く歓迎されて実行まで急速に準備が始まりました』

『……倒せない相手であれば封印してしまうというのは戦術としては悪くないだろうが……』

 

 現在でも地球でウルトラ4兄弟がヤプールを『ファイナルクロスシールド』で封印している様に、現時点で倒せない怪獣を封印したら元の住処に送り返して住み分けるというのは割とポピュラーな怪獣への対処法ではあるのだが……その場合はそもそも封印出来るのか、或いは住み分けにどれだけ手間や注意事項があるのかをしっかりと事前に調べる必要があるとは士官学校で習ったな。

 ……お袋曰く、研究は嫌に順調に進んでお袋の『力』を増幅して深淵との境界に干渉・現世にいる邪神由来の怪獣達を送り返す“神殿”の開発に成功したのだとか。

 

『そうして“神殿”が完成し捕獲した怪獣を深淵に送り返す試験運用も成功した事で、念には念を入れてユザレさんや兄さん達が率いる戦士達の立会いの元で私が邪神を深淵に送り返す作戦が実行に移されました……が、結果的にはその作戦はあっさりと失敗し、逆に深淵にいる邪神達が()()()()()()()()()()部分的とは言え現実に現界する自体となってしまいました』

『……それは……』

『そう、全ては邪神の罠だったんです。……深淵に住まう邪神達はそのままでは現世に干渉出来ない代わりに“自分達を認識した者に自覚される事の無い精神干渉によって正気を失わせる”特性があり……当然、深淵について研究していた研究員達はその影響でとうの昔に正気では無くなっており、本来なら気が付いて然るべきだった“邪神側からの精神干渉”に一切気付く事が出来ず研究を行ってしまったのがあんな事態になった原因でした』

 

 つまり、その研究員達は研究を始めて暫く経った後には既に邪神の走狗と化していたらしい……ここで厄介なのは本人達にすら自分が正気を失っている自覚が一切無く、傍目からも普段と何も変わらなかった為に誰も精神が干渉されている事に気付けなかった事だそうだ。

 ……お袋自身には有する力に“邪神からの精神干渉に対する耐性”があったからか正気を失う事は無かったのだが、それが逆に『自分が何も無いから邪神が研究員に精神干渉を行なってはいない』と思い込む結果になってしまったのだと悔恨の表情で言っていた。

 

『私の『力』は邪神がいる深淵と現世の境界に干渉出来るモノでしたが、それは逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だったのです。……私は『力』のお陰で精神や肉体への邪神の干渉に抵抗力があったので完全に乗っ取られるのだけは避けられましたが、邪神は開いた境界を使って現世にその片鱗を現界させて私と研究員達を取り込んでルルイエで暴れまわりました』

 

 不幸中の幸いとでも言うべきかお袋が完全に乗っ取られない様に邪神の内側で抵抗し続けた事と、念の為に待機していたユザレさんやティガ叔父さんを中心とした戦士達によって()()()()()()()()()()ものの、どうにか現界した邪神は倒す事が出来たのだそうだ。

 

『ただ、その際のダメージで私は一命を取り留めたものの昏睡状態になって長い眠りに付いてしまい……目が覚めた時には()()()()()()()()()()()

『「…………」』

 

 ……そうしてお袋はかつて並行世界の地球にあった超文明の終焉の様子を語り始めた。

 

『……目覚めた私をまず迎えてくれたのはユザレさんでした。そして彼女の口から私が眠っている間にルルイエを初めとしたこの地球の人類がほぼ()()()()()()()と告げられたのです』

 

 曰く、実験の失敗によって出た被害でまず問題になったのは昏睡状態になったお袋の処遇だったらしい……何でも現界した邪神の片鱗によって被害を受けた者や身内が死んだ者、或いは邪神の恐ろしさを理解してしまった者達が再び同じ事が起きない様にお袋を()()するべきだと言い始めたのだとか。

 勿論、兄であるティガさんやその恋人のカーミラさん、友人ダーラムさん、ヒュドラさんは大反対してあと少しで内乱に成り掛ける所だったとか……最終的には超能力でお袋の様子を調べていたユザレさんが『ティアは現在自分の『力』を無意識の内に抑え込んでおり、もし彼女を殺した場合その遺体を使って邪神が再び現世に現われる可能性が高い』と言った事で厳重な監視下での隔離措置で落ち着いたそうだ。

 ……だが、この一件によってティガ叔父さんとその仲間達の心に“ただ守られるだけで文句ばかり言う人間への不信感と嫌悪”が生まれたのだと言う。

 

『それに加えて邪神の片鱗が現世に現界した事によってその眷属である怪獣達の活動が大きく活発化し、地球星警備団は一転して不利な戦局に立たされました。……そして同盟関係であったいくつかの都市が滅ぼされた事もあって、ルルイエの警備団本部の一部派閥がとある計画──かつての邪神封印の実験データを応用して昏睡状態の私を生贄に捧げて邪神を深淵に追い払う計画を立てて実行しようとしたそうです』

『「それは……!」』

 

 おおう、完全に発想が末期的になってるな……普通に考えれば以前完全に失敗した実験をお袋を生贄に捧げた程度で成功させられるとは思えない筈なんだが、それが解らない程に追い詰められていたのか。

 ……或いは邪神に魅入られたとか、以前の実験でお袋に逆恨みをする者でもいたのか……。

 

『ですが、その計画を事前に聞きつけたユザレさんと兄さんがそれを止めようとし……その結果は兄さんが計画を企んだ警備団のメンバーを全て皆殺しにすると言うものだったそうです。……そして兄さんは心を闇に飲まれて“闇の巨人”へと変貌し、それに同調して闇の巨人となったカミーラさん、ダーラムさん、ヒュドラさんと共にかつての仲間だった警備団を殲滅し始めました』

『「…………」』

 

 その当時の地球で最強格の戦士達がまとめて裏切った事が警備団に与えた影響は非常に大きく、唯一闇落ちしなかったユザレさんがどうにか頑張ってはいたが、それでも地球上の人間勢力は瞬く間に怪獣や闇の巨人達に滅ぼされていったのだと言う。

 ……その中で生き残った人類や都市も居たが、最強の戦士すら闇に堕ちると言う希望が一切見えない現状にその心は絶望の中にあり……それを待っていたかの様に()()()()()【ギジェラ】が世界各地に現れたのだ。

 

『この【ギジェラ】は邪神の眷属では無くいきなり現れたただの植物だったのですが、強力な幻覚作用のある花粉を撒き散らしてそれを吸った人間に『幸福な夢』という見せ続ける能力がありました……当時既に絶望的な状況にあった人類の多くはその幸せな夢の中に引き込んでしまった様です。……更にとある科学者達が【ギジェラ】の花粉には脳の生命活動を半永久的に維持する効果があると突き止め、それと夢見心地になる効果を使って絶望的な状況である地球に見切りを付けて滅亡直前に地球を脱出する計画を立てました。……実際、この計画を知った人間達は当時の絶望に包まれた地球に見切りを付けて宇宙へ脱出する人間が殆どだったそうです』

『……警備団はそれについて何かしたのか?』

『いえ、兄さん達の様に闇に堕ちた巨人や思想の違いで争う様になってしまった他の巨人、そして更に活発化した怪獣との戦いに忙しく何かをする余裕は無く、むしろ『守る対象が少なくなるのだから宇宙への避難を推奨するべき』という声もあったので【ギジェラ】に関してはほぼ放置でした』

「それは最早“警備団”としての体すら成してない気が……」

 

 曰く、その【ギジェラ】という植物の花粉は巨人には効かなかった事もそれの脅威を低く見積もってしまった理由の一つの様だが……とにかく、人間達は次々と【ギジェラ】の花粉を利用した不老不死化手術を受けて宇宙船に乗り地球を脱出していったのだが、当然の事ながら手術を受けられる人間や宇宙船に乗れる人間の数には限りがあった。

 ……故に地球を脱出出来た人間達はほんの一握りで未だに多くの人間達が地球上に残っており、その殆どが現実に絶望して世界中に現れた【ギジェラ】の花粉によって『幸福の夢』の中へと沈んだのだと言う……そして、それが“最後の引き金”となった。

 

『地球上の全ての人間が『幸福の夢』の中に逃避する……言い換えれば、ほぼ全ての人間が現実に背を向け盲目白痴の中と言うある種の()()の中に身を委ねた事で、それを起点──夢の中にいる人間達を生贄にする事で深淵より【邪神 ガタノゾーア】が降臨してしまったのです』

 

 現世に降臨した【ガタノゾーア】はその圧倒的な力をもって最早まともに連携を取れない光の巨人達を次々と一層し、地球上で唯一都市機能を残していたルルイエへと侵攻していたらしい……これはユザレさんの努力と、皮肉にも闇の巨人達によって戦士の数が減ったお陰で逆に同士討ちが起きなかった事が大きかった様だ。

 ……ここまでがお袋が眠っている間に並行世界の地球で起こった事の大まかな説明なのだそうだ。つくづく絶望的な状況だな。

 

『……流石に私も寝起きにここまで絶望的な話を聞かされて呆然としてしまいましたが、ユザレさんはまだ諦めておらず、私に【ガタノゾーア】をルルイエごと封印する計画について語り始めました』

『邪神を深淵に封印するのはリスクが多いという話ではなかったのか?』

『ええ……ですから【ガタノゾーア】を()()に封印する事にしたのです。厳密に言えば封印用に作られた亜空間の様な所ですが。……邪神が現実に降臨すると絶大な力を得ますが、逆に実体を持つ事で深淵にいた時の様な『理解出来ない故の理不尽さ』は無くなるので、ルルイエ諸共なら三千万年ぐらいは封印出来る計算でした』

 

 だが、それをやるには【ガタノゾーア】相手に封印が完成するまで足止めが出来る戦力が必要であり、当時のルルイエではユザレさんが封印に専念するので戦闘に参加出来ず他の戦士達も戦闘能力が低いから争いに参加せず生き残った者が殆どだったので、どうにかして強力な戦力を用意しなければならなかったのだ。

 ……そこでユザレさんとお袋は闇に堕ちたティガ叔父さんを説得して味方に引き入れようとしたらしい。どうも彼は他の三人程に残虐な行為に手を染めていた訳ではなく、むしろ現在では三人から距離を取って活動していたのをユザレさんは何度か極秘裏に接触していたので知っており、お袋がいれば説得出来ると踏んだのである。

 

『……そうして久しぶりに出会った兄さんは、なんか肉体が真っ黒になっていましたが懸念した様にこちらに暴虐を振るう事も無く、むしろ以前よりも陰鬱な雰囲気になっていました。……詳しく話を聞いてみると私を謀殺しようとした者達を殺したのはいいが、その後の他の三人の残虐な行為にはついていけなかったと言ったのです』

『……それは彼が闇に堕ちたのは君を助ける為だったから、故に完全に心までが闇に堕ちた訳では無かったのかもしれんな』

 

 親父がそう言うとお袋は微笑を浮かべながら雰囲気がちょっと柔らかいものになった……さっきから空気が重かったからな! ナイス親父(過去)! 

 

『……ありがとうございます。ユザレさんも同じ事を言っていましたね。……それはともかく馬鹿をやった兄さんを私が半日程説教してから、ユザレさんの説得でどうにか味方に引き入れる事には成功したんですが……』

「説教長いなお袋」

『間が悪いことにその現場をカミーラさんに見られてしまい、更に兄さんがユザレさんに浮気していたらしい事から兄さんに裏切られた彼女は完全にキレてダーラムさん、ヒュドラさんと共に襲い掛かって来て戦闘になってしまったのです。彼等は兄さんよりも更に深く闇に堕ちていたので説得も出来ず、仕方なく兄さんが三人のエネルギーを吸収して石像化した後に封印しました。……後、浮気云々の事について兄さんに追加の説教もしました』

『……そ、そうか……(汗)』

 

 お袋のティガ叔父さんへの扱いが酷い。まあ自業自得でもあるが……そんなこんなでティガ叔父さんを味方につけた生き残りの戦士達は対【ガタノゾーア】への最終決戦の準備を急ピッチで進めていった様だ。

 ……尚、ティガ叔父さんの仲間入りについては既にそんな事を気にしていられる余裕が無かったので何も言われなかった、むしろ事情を知っていたかつての戦友は歓迎すらしたらしい。

 

『そうして私達は【ガタノゾーア】と死力を尽くして戦い、殆どの戦士達が犠牲になりましたがどうにかルルイエ毎【ガタノゾーア】を海の底に作った亜空間に封印してる事に成功しました。……ですが封印はいずれ解ける事は分かっていたので、兄さんを含めて生き残った戦士達は自ら石像となり未来の人間達が目覚めた邪神達と戦える力になる為に各地で眠りについたのです。……私以外は』

 

 曰く、お袋は自分の『力』が石像となった後でも邪神に干渉してしまう為、そのまま地球上に留まると邪神の復活を早めてしまうらしく、故に残った“神殿”を改造してこの“方舟”を作り、その中で自身を石像として封印した上で生物がいない亜空間へと旅立つ事にしたのだとか。

 ……深淵の邪神達は意思を持つ生物を介して現実に干渉するので、逆に意思を持つ生物がいなければ現実には干渉出来ないという欠点を突いた形だと言う。

 

『そうして、私はユザレさん──戦士としての力を失って生き残った人間達を率いる事になった彼女に見送られて亜空間へと旅立ちました』

『……成る程、それで君がこの遺跡……ではなく“方舟”に居た訳か』

『はい……流石に三千万年も稼働し続けたせいでこの“方舟”も寿命が来てしまった様で、亜空間に留まる力が弱まって偶々この世界に漂着してしまった様です』

 

 ……どうやらこれでお袋の過去の話は終わったらしい……何というか実に壮大な話だったが、俺にとって本当に重要な話は多分これから何だよなぁ。もうお腹いっぱいなんだが。




あとがき・各種設定解説

アーク&ゾフィー:完全に聞き手

ティア:事情があるのは理解したが浮気は許さない
・目が覚めた後は流石にショックを受けたが直ぐに立ち直るぐらいには精神的にタフで、兄への説教を優先するなど性格は割と天然が入っている。

ユザレ:地球が無事だったのは大体この人のお陰
・この後も未来への警告を残したり、方舟にこっそりとメッセージを残すなど要所で活躍している。

ティガ:精神面では妹より弱かった
・本人もそれを自覚していたので自分の力を光と闇に分けて闇の側はカミーラ達と一緒にルルイエは封印し、光の側は生き残った二人の戦士と共に当時人間が居なかったお陰で余り被害を受けなかったとある島に封印した。
・また、どちらの自分の石像にも自分の精神は一切残しておらず、未来で自分の力を受け継いだ者が自分の意思だけで戦える様にしていた。

闇の三巨人:元々少し闇に寄りやすい精神をしていた
・それでもティガやティアがいた間は光の戦士として戦えたのだが、二人がいなくなるか闇堕ちした事と人間達の『闇』を見た事で一気に闇堕ちした感じ。
・ちなみに三人共ティガが自分の精神を削除した事は知らなかった。

【ギジェラ】:終末の時報
・この作品内での裏設定として『闇』ばかり撒き散らす人間達に対して地球が『これ以上地球を傷つけるならさっさと死ね』という意味で生やした植物というのがあったり。
・ただ、それすら利用して不老不死とか実現させちゃうのが人間。

【邪神 ガタノゾーア】:ラスボス
・深淵に居る時の邪神達は『現実の生物には理解出来ない』存在である為、彼等を認識・理解しようとした現実の生物は正気を失ってしまい精神への干渉を受ける。
・そして彼等が現実に降臨した際には絶大な力を持つ様になるが、実態を持つが故に『現実の生物でも理解出来る』存在になってしまうので認識しても正気が失われる事も無い。
・また、深淵に居る時は『滅び』という概念すら無いので倒せないが、実態を持って現実に現れれば『滅び』の概念を得るので普通に倒せる様にはなる。


読了ありがとうございました。
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銀の鍵

『……成る程、君の大体の事情は分かった』

『はい、この世界の治安維持組織の一員である貴方にはご迷惑をお掛けした様で申し訳ありません』

『謝る事は無い。……君に過失があった訳では無いのだし、こういった地道な調査やパトロールも宇宙警備隊員としての職務だからな』

 

 そういう感じでお袋の過去──並行世界の地球で起きた光と闇の戦いの話は終わった……正直、ちょっと情報量が多すぎて頭がパンクしそうだが、当然目の前の親父とお袋は過去に起きた事を再現しているだけであるのでそのまま話を続けていく。

 

『……それで、君はこれからどうするつもりなんだ?』

『出来ればもう一度石像になって亜空間に潜りたいのですが既にこの“方舟”には寿命が来ていますし、ここ“封印の間”は辛うじて機能を維持していますがそれも時間の問題でしょうし。……実はこの“方舟”には石像化している私に対する深淵の邪神からの干渉を阻害する効果もあったのです。……一度邪神に肉体を乗っ取られて掛けていた私はあちらから干渉されやすくなっていて、ただ石像化するだけだと意識の無い内に肉体を乗っ取られる可能性があったので』

 

 お袋曰く、一度邪神に何らかの干渉を受けた生物は『干渉を受けたという認識』を起点にして深淵の邪神からの干渉を受けやすくなるとの事……お袋が並行世界の地球に留まれなかったのもその為だとか。

 

『なので、どこか生物のいない星で隠棲したいと思っています。……意思を持った生物が多くいる所に私がいると、ただそれだけで深淵の邪神に干渉される確率が上がるので。……後、貴方の立場上無理なお願いかも知れませんが、出来る限り私や私の『力』の事は内密にしてほしいんです。それを知る者が多く成る程に深淵の邪神達は私を介して現世に干渉しやすくなるので』

『……君は、本当にそれでいいのか?』

 

 ……この時の親父の気持ちは流石の俺でも何となく分かるぞ……お袋は散々並行世界の地球で辛い目にあって来て、挙げ句の果てに三千万年も石像化して亜空間を漂っていたのに、この後に及んでまだ生き物の居ない世界で隠棲とか不憫すぎるだろ……。

 ……お袋もそんな親父が自分を気遣う気持ちを察したのか、少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべつつも覚悟を決めた表情になって再び言葉を紡ぎ始めた。

 

『ありがとうございます、ゾフィーさん。……ですが、私が既に邪神に魅入られてしまった以上、現世の生命に迷惑を掛けない為にはこうするしか無いのです』

『……俺は君の能力を知ってしまっているが、それは大丈夫なのか?』

『はい、ゾフィーさんやユザレさんの様な強い光の力と心がある生命は深淵の邪神達が最も嫌うモノですから、貴方が邪神に魅入られる事は無いと思います。……ただ、私の事を知る者が増えて深淵からの干渉が増えた場合には何か悪影響があるかもしれません。すみません……』

 

 そう言ったお袋はとても申し訳無さそうな表情を浮かべた為、親父はちょっと困った様な感じになった……うむ、多分これは親父の方は別に自分への悪影響を心配してるとかじゃないな。

 

『いや、そこは特に気にしていないが……つまり、私の様な者が少数なら君に会っても問題は無いと言う事だな。……君の様なまで年若い女性がこの後ずっと一人で暮らすのは些か不憫すぎるだろう。私でも大丈夫なら隊長辺りでも問題なさそうだし、事情を説明……するのも不味いのか? どうしたものかな』

『……あ……その……ありがとうございます。……私の為に色々と考えてくれて……』

『何、気にすることは無い。……困っている者、悲しんでいる者がいるのなら助ける。それが宇宙警備隊員としての最も重要な役目だからな』

 

 そう言って親父が笑みを浮かべると、お袋は顔を少し赤くして俯いてしまった……うん、感動的な場面ではあるんだろうけど、実の両親のラブコメとか見せられても息子として反応に困るから、この辺りは巻きでいいんじゃないかな。巻きで。

 

「そうか、ならこの辺りの二人の逢瀬は少し飛ばした方がいいか。……後、彼女は力を得てからずっと戦士として生きて来て、銀の鍵の巫女になってしまった後は自分の犯した過ちを償う為に戦って来たが故に、この様に誰かに純粋な善意で気遣われるのは久しぶりの事だった様だな」

「あ、謎の御老人()さん、久しぶりですねー」

 

 まあ、実際は久しぶりと言う程に大した時間は経っていないんだけど、お袋の過去の話が余りにも壮絶だったもんだからまるで一週間以上経った気分がしたぜ……後、この人がいきなり出て来るのはもう慣れた。

 ……後、俺の要望を聞いたからなのか過去の幻術空間もまるで一時停止する様に止まっていた。

 

「……というか、そろそろ正体を明かしません? めっちゃ今更ですけど」

「ふむ、まあ良いだろう。……それにそろそろ過去でも私の出番の様だからな」

 

 そう言った老人は纏っていたローブを勢いよく脱ぎ捨てるとマントを羽織った銀色を主体とした巨人の姿に変わっていた……そう、この老人の正体は伝説の超人『ウルトラマンキング』その人だったのである!

 ……うん、まあ分かりきっていた事だけどね。それに俺は彼には昔何度か会った事もあるし。

 

「それで()()()()()()()、この過去幻術で貴方の出番があるという事は、親父はお袋の事で貴方を頼ったのか?」

「うむ、その通りだ」

 

 そう、この伝説の超人ウルトラマンキング殿は実は親父の祖父、つまり俺の曽祖父に当たる人なのである……ただ、大っぴらになると少し面倒な事になるから他の人には秘密にしているし、公的な任務中の際には『伝説の超人』として扱う様にと親父に言われているからな。

 まあ、これまではただ身内として会った事があるだけで、今回みたいに“超人”としての圧倒的な力を見せられた事は無かったから結構動揺してしまったが。

 ……とはいえ、今は私的なお話だから“ひいじいちゃん”呼びで良いだろう。この人そう呼ばないとちょっとテンション下がるみたいだし。

 

「この後も二人は絆を深めつつティアの今後の事について話し合っていたのだが、この“方舟”は既に寿命を迎えており遠からず機能を停止する上、この惑星自体もアントラーを初めとした凶暴な怪獣達が多く住まう星だったから居住には向いていなかったのだ。……そこでゾフィーはティアの居住可能な場所を探すのと、彼女の『銀の鍵の力』や深淵の邪神の事についてもっと詳しく知る為に私の元を訪ねる事にしたのだ」

「ああ、ひいじいちゃんなら邪神の精神干渉はどうって事無いだろうし、その手の話も知ってそうだからな」

 

 それだけ言ったひいじいちゃんが腕を一振りすると目の前に居た親父とお袋、そして“方舟”の遺跡が消え去って別の場面が俺の前に映し出された。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……それでは彼女が住まう事が出来る平穏な惑星を提供して下さると?』

『うむ、儂が個人所有している惑星の中でもあのK54星ならば自然豊かであるし心穏やかに過ごせるだろう。それにウルトラの星とも近いしな』

 

 切り替わった場面には赤い空と荒れ果てた荒野ばかりの惑星で親父とひいじいちゃんが話し合っている場面だった……ちなみに親父は昔散々試練を受けさせられたので、今はフリーパスでひいじいちゃんに会えるとの事。

 まあ、ひいじいちゃんに頼り過ぎると宇宙警備隊員としての意義が無くなり甘えも出るから、基本的にその力には頼らず自分達の力だけでどうにかすべきと言っていたから滅多に頼み事はしないと言っていたし、ひいじいちゃんの方も自分の力は余程の事が無い限り軽々しく振るわないと言ってたが。

 ……ただ、そんな二人がお袋の為にここまでやってるって事はつまり()()()()って意味なんだよなぁ。

 

『しかし、貴方が試練も無しにここまでしてくれるとは……ティア君の『力』はそこまで危険な物なのですか』

『ふむ……あの『銀の鍵の力』そのものは『あらゆる“境界”に対する干渉()()』であり、具体的には空間や次元へ“門”を作り上げ別の時空へと干渉する能力を有している者の事だ。この能力者はいくつかの世界で稀に現れる。……空間や時間への干渉自体は儂を含めた一定以上の力を持つ存在や、相応の科学技術でも可能であるがな』

 

 確かにウルトラ戦士にもテレポーテーションやトゥウィンクルウェイを初めとして次元や空間にある程度の干渉が可能な人達が結構いるからな……ひいじいちゃんみたいにデタラメなのは中々居ないけど。

 

『……だが、この『銀の鍵』は単純な異世界や異次元以外にもこの世あらざる場所……世界の裏側や集合無意識の海、果ては人の心の中にある夢の国などすら『門』を開閉して干渉出来ると言われておる。……儂でもそのように事をするのはやや手間がかかるぐらいだが、彼等『銀の鍵』の所有者は当たり前の様にそれが出来るらしい』

「……いや、ひいじいちゃんも出来ないとは言わないんだね」

 

 まあ、キングだからね……後、“らしい”や“言われている”みたいな曖昧な表現なのはひいじいちゃんですら伝聞で聞いた情報が主で、直接見た事は数回しか無いぐらいに希少な能力だからだとか。

 ……加えて直接見た『銀の鍵』の所有者も、その殆どが死ぬか正気を失うかしていた為なのも原因だとか。

 

『時空に穴を開ける、或いはそう言った概念に干渉出来るという部分では“宇宙の穴”や“それを縫う針”などに近い力とも言えるが、彼女にとっての問題は『力』そのもの()()()()

『……というと……もしや邪神に干渉されるかもしれない部分ですか?』

『うむ。本来であれば『銀の鍵』は“現実にはあり得ない場所と現実との境界を繋ぐ門を開閉する能力”であるが故に、邪神からの精神干渉を“門を閉ざす”事で無効化出来る筈なのだが……おそらく、まだ力が目覚めて直ぐの未熟な時期にその“神殿”とやらを使って無理矢理『銀の鍵の力』を増幅して使ったが為に邪神達が住まう深淵に強く繋がってしまい、それを閉ざす事が出来なくなってしまったのだろう』

 

 ふむふむ、つまりはお袋の能力そのものよりも邪神達と繋がってしまった方が問題だと……。

 

『どうやら今は自分の意思で押さえ込んでいる様だが、意思を持つ生物が多くいる場所だと邪神側の干渉度合いが上がってしまう様じゃな。……あやつらは常にあらゆる世界で生物の無意識に干渉し、自分達を現世に降臨させようと行動しておるからな』

『……それはティア君の心の方にも原因があるかもしれません。彼女は一見気丈に振る舞っている様に見えましたが、自分がかつて地球の文明を滅ぼすきっかけになった事を強く悔いている様でしたから』

『うむ、確かにそれも原因の一つであろう。……そう言った点から見てもK54星での療養は彼女の為はなるだろうな』

 

 ……それは俺も思ったかな。明らかにお袋は無理をしている感じだったし、多分今は心の傷を癒す時間が必要になるんだろう。

 

『……それでお爺様、肝心の深淵に住まう邪神達をどうにかする方法は無いのでしょうか』

『ううむ……深淵に封じられた状態の邪神達は最早概念の様な存在になっておるからな。現実に生きる儂らとは根本的に在り方が違う存在である彼奴等は儂でさえ滅ぼす事は出来ないだろう。実空間に降臨した邪神であれば実体を持っている故に普通に倒せるのだがな。……とりあえずK54星には精神干渉を防ぐ結界を張っておくから早々に邪神が出て来る事は無いであろう』

 

 ひいじいちゃんが万能過ぎて『もうこの人だけでいいんじゃないかな?』状態な件……これは親父もあんまり頼らない様に気を付けようと口を酸っぱくして言うわ。ひいじいちゃんの力を間近で見た今ならそう思えるよ。

 ……そうしてお袋についての諸々の話が終わった後、親父はひいじいちゃんに深々と頭を下げた。

 

『……本当に何から何まで頼ってしまって申し訳ありませんお爺様。……出来れば余り頼りたくは無かったのですが……』

『そう謝る事は無い。邪神が住まう深淵に繋がってしまう者など放置しておく訳にも行かんし、今の光の国の技術では対応出来ぬだろうからな。……儂は光の国自らで対応出来る問題に手を貸す事は基本的に無いが、儂自らが動かねば救えぬ者が居るのに動かぬ程怠惰では無いぞ』

 

 ひいじいちゃんはウルトラの星が大暴走した時にも助けに来てくれたみたいだからね……ただ、基本的には頼って来た者に試練を与えてその本人が困難を乗り越えられる様な力を得させる事が殆どなんだけど。

 

『それでも本当にありがとうございました。……ティア君はこれまで地球を守る為に様々な苦難を味わって来て、その上に自らが住んでいた世界すらも離れなければならなかったなど余りにも酷過ぎる……せめて、この世界だけでも出来る限り幸せに過ごして貰いたいのです』

『……お前の気持ちはよく分かったぞゾフィーよ。……彼女の心を癒すには邪神に干渉されない強き心の持ち主との交流が必要であろうから、御主は積極的に彼女に会いに行った方がいいだろう。儂も偶に彼女に会いに行くし、ケンやマリーなら『鍵』の事を除いたある程度の事情を説明すれば彼女と交流する事も出来るじゃろう』

 

 ……そんな感じでお袋はこの世界で過ごす事になったらしい……うん、やっぱり親父は今も昔も変わらない『ウルトラマン』だな。

 

「まあ、この時点で二人が惹かれあっていたのは分かっておったからな。儂もそろそろ曽孫の顔が見たかったし、二人が結ばれる手伝いも兼ねておるが」

「……色々台無しだよひいじいちゃん……」

 

 ……まあ、ひいじいちゃんの冗談はさておき、そんなこんなで親父とお袋の交流が始まったそうだ。




あとがき・各種設定解説

アーク:血統が割とヤバイ
・具体的には父親がゾフィー、曽祖父がキング、叔父がティガで母親もクトゥルフ的にヤバイ人というオンパレード。

キング:曽孫には結構甘い
・アークとは軽い冗談を言うぐらいには仲が良いが、それはそれとして試練とかはちゃんとやる。
・尚、キングがゾフィーの祖父である設定は昔の雑誌記事から流用。

ゾフィー&ティア:ぶっちゃけ二人共お互いに一目惚れ
・ただし、今の所はお互いに無自覚。

『銀の鍵』:非常に希少な異能
・その能力は“この世ならざる場所と現実を繋ぐ門を作る”というもので、その応用として時間・空間などへの鋭敏な感覚や自分の無意識領域を“固有の亜空間”として運用出来たりもする。
・希少さは一つの宇宙に一人か二人ぐらいの割合で、その殆どがこの世ならざるモノに触れて死ぬか正気を失うかが多いので不明な点も多い。
・一応所有者はこの世ならざるモノの干渉に対してある程度の耐性を持つが、あくまで耐性であって完全に無効化出来る訳では無い。


読了ありがとうございました。
ギャラファイの情報量が多すぎ&Zが佳境を迎えたので毎週土日が待ち遠しくなる今日この頃。


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その後の二人

【小ネタ・ギャラファイ二話の特訓シーンを見たアーク】
「あー、あるある。なんか『どうして覚醒しないんだ?』的な事を言われながら、複数名にボコボコにされる緊急時用速成訓練。……普通はそんなポンポン都合よく潜在能力解放とか出来ないのにリブット君凄いわー」


 そういう訳で、俺はひいじいちゃん(ウルトラマンキング)が作り上げた過去の映像を映し出す幻術空間によって、自分の親父とお袋の過去を見ていた。

 ……まあ、色々と情報量が多過ぎてまだちょっと頭の中で整理出来ていないが……。

 

「さて、この様な理由で御主の母親であるティアはK54星に一人住む事となり、そんな中で定期的に自分の様子を見てくれるゾフィーに惹かれていく様になるのだが……その様子を全部写すと時間がかかりすぎるからな。……なので()()()()()()()()()()()()()までは簡単な概要だけを見せたいと思うが構わんか?」

「……ええ、それで良いですよ。ダイジェストでお願いします」

 

 まあ、若かりし日の親父とお袋のラブコメを見せられても反応に困るしね……それに五日後には宇宙警備隊に入隊する以上、あまり此処にも長居をする訳にはいかないしな。

 ……それでは親父とお袋の過去はダイジェスト映像でお送りします。どうぞご覧下さい。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『ここがK54星……自然が多くていい場所ですね。本当にありがとうございますキング様、私などの為にこれだけ良い惑星を用意して下さって。……それに住む家や生活物資なども』

『うむ、一応一人で暮らす分には十分なだけの物資を用意しておいたし、この惑星の生物には邪神が依代に出来る様な知性がある存在はおらん。それに精神干渉を防ぐ結界も貼っておいたからな。……まあ、少々危険な猛獣もいたりするが御主であれば問題なかろう』

『はい、これでも凶悪な怪獣と戦って来ましたから、多少の自衛ぐらいなら出来ます』

『俺はこれからもこの惑星に定期的に様子を見に来るし、念の為に俺かキング殿に繋がる通信機も置いておくから万が一何かがあった時には使ってくれ』

『本当に色々とお世話になってしまってすみませんゾフィー様。……これからもよろしくお願いしますね』

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『やあ、ティア君。何か変わりはないかな?』

『ゾフィー様、来てくれたのですね。……はい、特に変わりなく生活出来ていますよ。最近は家庭菜園とかも始めてみました』

『そうなのか……一応食料とかは十分に用意してあった筈だが、何か足りない物でもあったのか?』

『ああいえ、そういう訳では無く……ずっと一人でいると暇になったのでキング様が用意して下さった家庭菜園セットや園芸セットを使ってみたんです。……昔、戦士になる前はお花などの植物を育てるのが好きだったので……』

『そうだったのか。気が効かなくて済まない。……確かにこの惑星に一人きりでは暇にもなるか。今度は土産か土産話を持ってこようか』

『それは楽しみですね。今度はゾフィー様の話を聞かせて下さい』

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……そういう訳でどうにかペダン星人が開発した試作兵器を破壊したんだ。……あのロボットが試作段階で装甲に隙間があったからどうにかなったが、もし完成していたら俺でも易々とは破壊出来なかっただろうな』

『そうだったんですか。……しかし、この宇宙にはそんな凄い科学力を持つ者達もいるんですね。私のいた地球にも過去に光の巨人以外の宇宙人が訪れた記録がありましたが、私が生まれてからはそういった者達が訪れた事はありませんでしたし』

『……しかし、ティア君は私の任務の話なんかを聞いて本当に楽しいのか? どれも物騒な内容ばかりなんだが』

『そんな事は無いですよ。……私はあちらの世界では地球から出た事がありませんでしたから、ゾフィーさんが話す宇宙の様々な出来事はとても面白いと思ってます。……それに、こうしてゾフィーさんと話しているだけでも楽しいですし』

『……そうか。……じゃあ次は惑星ミカリトであった話を……』

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『貴女がゾフィーの言っていたティアさんですね。……私の名前はマリー、こっちは夫のケンです。今日は楽しいお茶会にしましょうね』

『は、はいっ! よろしくお願いしますっ!』

『そう緊張する事は無い、今日は単にお茶でも飲みながら話をするだけだからな。……ゾフィーからは『何も聞かずにただ話をしてほしい』とだけ言われているし、彼が私にそこまで言うという事は何か事情があるのだろうから詳しく何かを聞く気などは無いからな』

『はい……本当にすみません……』

『ハァ……貴方、そんな言い方じゃあ逆に緊張を煽ってしまうでしょう? ……ねえティアさん、今日私達は単にゾフィーの()()である貴女とちょっと話をしたくて来ただけだから、あんまり畏る事は無いわ』

『は、はぁ……って、私がゾフィー様の恋人⁉︎ ……ちちち違います! まだそういうのじゃ……⁉︎』

『あら? “まだ”って事はいつかそうなる予定でもあるのかしら』

『え、ええと……それは……』

(……いかん、全く話に入っていける気がしない……)

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……クゥッ!』

『大丈夫ですか! ゾフィーさん!』

『ああ問題無い、かすり傷だ。……しかし、こんなウルトラの星に近くにまで【凶獣 ルガノーガー】が現れるとは。どうにか撃破したが噂通り厄介な相手だったな』

『すみません、私の所為で……』

『いや、これは別に君の所為ではあるまい。……あの怪獣【ルガノーガー】は緑溢れる星を次々と破壊して回っている凶暴な宇宙怪獣で、宇宙警備隊のブラックリストに乗っている程の種族だ。……一説には何処かの宇宙人が作った生物兵器が制御下を離れて野生化したという説がある怪獣だし、別に君の能力に惹かれたとかではないだろう』

『それはそうですが……でも、ゾフィーさんは私を庇って……』

『それこそ君が気にする事ではない。……この宇宙の平和を守るのが宇宙警備隊員である私の仕事だし、何より私とっては君が傷つく方が辛いからな』

『ゾフィーさん……』

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……それで? ようやくゾフィーと付き合い始めたのね? おめでとうティアさん』

『ええと……はい……ありがとうございます、マリーさん……』

『いやぁ、でも本当に良かったわ。……ゾフィーったら割といい年なのに浮いた話一つも無かったから。これで肩の荷が一つ降りた感じね。……あとは他の兄弟達にもいい人を見つけないと……』

『……別にそこまで焦る事は無いと思うが……』

『ところがそうも行かないのよねぇ。……ウルトラ族って寿命が長すぎるのと食欲とかの欲求が薄い所為なのか、新生児の出生率が物凄く低いのよ。……このままだと超少子高齢化になりそうな上に、例えそうなったとしても寿命や全盛期で活動出来る期間が長すぎる所為でズルズルと問題を放置しがちになりそうだし……』

『……なんかウルトラの星も色々大変なんですね』

『そうなのよね。これでも私は銀十字軍の長をしているからその辺りの事も色々考えないと。……ティアさんも子供が出来たら言ってね、相談に乗るから』

『ええーっと……その時はよろしくお願いします……』

(……やっぱり全然話について行けない。……むしろ俺がここに居る意味はあったのだろうか……)

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ゴフッ! ええいっ、親父とお袋の過去ラブコメを見せられるのは思った以上に俺(と作者)の精神にダメージが入るな⁉︎」

「一応これでも告白シーンとかは飛ばしたんじゃがのう。……まあ、ゾフィーもまだ若い頃じゃったし、こんな感じでもしょうがないじゃろ」

 

 ひいじいちゃんは呑気に自慢のヒゲをさすりながらそう言っているが、俺的には今後親父と微妙に顔を合わせづらくなりそうで困っているんだが……クッ、やはり調子に乗ってまともな経験も無いのにラブコメを書こうとした作者の無謀のツケが来たか(メタ)! 

 

「……まあ、妙な所から受信した電波ネタは一旦置いといて……これでダイジェストは終わりなのだな、ひいじいちゃん」

「まあそうなるな。……そしてここからは御主に伝えるべき最後の過去……ティアが御主を身籠った後に起きたとある出来事についての映像になる。……御主にとっては辛いものになるかもしれんが覚悟はいいか?」

 

 そう言ったひいじいちゃん──ウルトラマンキングの雰囲気は先程までとは違い非常に真剣なものであった……どうやら、これまでのダイジェスト茶番(酷)と違ってここからが本番みたいだな。

 ……まあ、この先に何があるのか予想も付かない程に俺は馬鹿では無いんだが……。

 

「……つまり、ここから先の過去は()()()()()()()()が語られるって事ですよね? ……少なくとも俺はここまで聞いておいて最後だけ聞かずに済ませる事は出来ません。ここからの過去がどんなモノであろうと受け入れる覚悟はあります」

「……うむ、では最後の過去を見せようか」

 

 ……俺の言葉に対して頷いたウルトラマンキングは再び腕を一振りして幻術空間の映像を()()()()()へと切り替えた。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうして映し出されたのは再びのK54星に建っている一軒の家の中……そこには身籠っているからだろう、お腹を大きくしたお袋が椅子に座って寛いでいる所だった。

 

『……あ、また蹴った、……ふふふ、元気そうね』

 

 そんなお袋は大きくなった自分のお腹をさすりながらとても穏やかな表情で微笑んでいた……うむ、息子の視点から見るとやや気恥ずかしいモノがあるが、とにかくお袋が幸せそうなのはいい事だろう。

 ……それ故に、今後の展開が予測出来てしまうのがキツイのだが……。

 

『……そろそろゾフィーが帰って来る時間ね。少しは運動した方がいいとマリーさんに言われてるし、何か料理でも用意しておこうかしら?』

 

 そう言ったお袋は立ち上がって台所に向かおうとし……その途中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()足を止めて回りを見渡し始めた。

 

『ッ⁉︎ これは……邪神の気配⁉︎ ……ここはキングお爺様の結界によって干渉出来なくなっている筈なのに……ッ! ……いや、もしかして私が妊娠している所為で『力』の制御力が弱まっているの⁉︎ ……とにかくゾフィーとキングお爺様に連絡しないと……』

 

 そうしてお袋は慌てて部屋に備え付けられていた緊急用の通信機を手に取り……その直後に()()()()()()()()()()()()()強烈な邪気が噴き出したのだ。

 

『ぐうぅ⁉︎ まさかこの子を触媒に顕現する気ですか⁉︎ ……そうはさせませんよ、久しぶりですが!』

 

 噴き出した邪気に苦しむお袋だったが咄嗟に通信機の非常用ボタン──非常事態用にボタンを押すだけで親父とひいじいちゃんに伝わるらしい──を押してから、何か金色の金槌みたいなアイテムを取り出して掲げる……すると、そのアイテムの上部のパーツが開いて強力な光を放つと共に、お袋の姿が以前の遺跡で見た光の巨人の姿に変わっていた。どうやらアレは変身アイテムだったみたいだな。

 ……しかし、お袋が光の巨人に変身しても噴き出す邪気は止まる事を知らず、そのままお袋は膝をついて動かなくなってしまった。

 

『ぐぐぐ……まさか私の身体に残っていた邪神の残滓がこの子に移って⁉︎ ……この子にだけは手出しはさせません!!!』

 

 だが、側から見て鬼気迫る程の気迫でそう叫んだお袋が、直後に全身から強い光を放つと共に自分を包む球体状のバリアフィールドを展開して吹き荒れる邪気から自分とお腹の子供()を守ったのだ。

 ……その直後、吹き荒れる邪気はバリアフィールドに包まれたお袋を飲み込んでどんどん膨れ上がっていき、高さ200メートル程まで膨張した所で無数の触手と巨大な口を持つ頭を有する怪獣……否、()()の姿へと実体化してしまった。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 そして、その“邪神”は身体から黒い煙の様なモノを噴き出させて、K54星を徐々に“闇”へと包んで行ったのだった……。

 

「……ひいじいちゃん、ひょっとしてあの“邪神”は()()()()()()()()()()()()()()()『銀の鍵』を触媒にして顕現したのか?」

「それも要因の一つではあるが……正確にはティアの肉体に残っていて今までは彼女の『銀の鍵』の力によって封じられていた“邪神”の残滓が、御主を妊娠した事によってそちらにエネルギーを費やしたが故に緩んだのだ。……その隙を突いて彼女の中で虎視眈々と機を伺っていた“邪神”の残滓は、母体と赤子の繋がりを介して彼女の『銀の鍵』の()()()()()()()()()()()()()()()()、更に移した『銀の鍵』を使って深淵から邪神の力を引き出したという訳だ」

 

 尚、本来『銀の鍵』は所有者の“意思”によって力を引き出す様になっているので、例えば封印時のお袋の様に石化する事で意識を封じていたり、この時の俺の様にまだ生まれてもいない状態では力は引き出せないのだそうだ。

 ……だが、この時の“邪神”は生まれていなかった俺に取り付く事で己の意思を『銀の鍵』に俺の意思だと誤認させて僅かに深淵への門を開き、そこから自分と深淵の邪神を共鳴させる事で邪気を引き出して実体化したらしい。

 

「……正直、“邪神”の残滓がここまで周到に準備をして事に及ぶとは儂やゾフィー、ティアにも予想出来なかった事だ。……だから御主が気に病む事は無いぞ」

「……分かってますよ。俺はこの時まだ生まれてもいませんしね」

 

 ……まあ、それはそれとして過去のこんな出来事を見るのは結構キツイんだけどね……嗚呼、さっさと親父かひいじいちゃんが来ないもんかなぁ……。




あとがき・各種設定解説

アーク:精神ダメージ大(色々な意味で)
・『銀の鍵』は有らざる場所に繋がる力なので、たまに第四の壁を超えたネタ電波を受信する事がある(笑)
・真面目に言うと『ガイア劇場版』や『超ウルトラ8兄弟』みたいな世界に繋がる事もあり得る感じ。

ウルトラマンキング:色々と気が効く(年の功)
・家庭菜園セットや園芸セットとかは自前で、実は趣味でやってる裏設定がある。

ゾフィー:プロポーズシーンはカット
・アークの精神と作者の能力的にラブコメなんて書けないのでカット(一応プロポーズは彼の方からした設定)

ウルトラの父&母:ケンは空気

ティア:母は強し
・最後のバリアフィールドは自分の子供を邪気から保護すると同時に、深淵からの邪気を子供を介さずに自分の身体を通す事で子供への負担を出来る限り減らす為のもの。
・……ただ、自分の身体の事は一切考えていないので……。

【闇黒大魔縁 デモンゾーア・ジアザー】:過去編のボス
・“邪神の怨念”が“巫女である女性”に取り憑いて顕現する……と言うティガ劇場版の大ボスである【デモンゾーア】と同じ経緯で生まれたその亜種。
・だが、巫女を無理矢理取り込んだ事や、そもそもの怨念の量が少ない事などから【デモンゾーア】と比べると大分弱く惑星を一瞬で闇に覆い尽くすとかは出来ない。
・なので異名も【闇黒魔超獣】では無く【闇黒大魔縁】にしてみた。


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脅威の邪神・闇を払う者

 ──────◇◇◇──────

 

 

 暗黒大魔縁 デモンゾーア・ジアザー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「…………」

 

 お袋を取り込んで降臨した邪神は身の毛もよだつ様な恐ろしい咆哮を上げながら、惑星K54星をその身から出る闇で包んでいった……ふうむ、しかし本当に何となくなんだが、あの邪神は見た目がデカイ割に()()()()()()()な気がするんだが……。

 

「うむ、御主の考えている通りティアを完全に取り込まずに降臨したあの邪神は不完全な状態で現界しておるからな。……故にかつて並行世界の地球に於いて惑星一つを闇に包んだ邪神程の力は無いのだ。……それにそろそろ来る所だぞ」

『……ティアッ!』

「あ、親父が来たわ。流石いいタイミング」

 

 ……その時、どうやらお袋の緊急連絡はちゃんと届いていた様で、邪神の上空におそらくテレポートを使ったのだろうがいきなり親父が現れたのだ。

 そんな親父はお袋の名前を叫びながらも即座に目から透視光線を放って邪神の全体を調べ上げ、その頭部付近にバリアフィールドに包まれたお袋がいる事を見破った……この辺りの行動の的確さは流石は後の宇宙警備隊隊長を言った所か。

 

『……クソッ! やはり内部に取り込まれているか! ……だが、ティアはバリアフィールドを張っている様だからこの邪神をすぐに倒せば! ウルトラスラッシュ!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』

 

 お袋が内部に取り込まれていると見た親父は一瞬動揺するものの直ぐに気を持ち直して複数の光輪を邪神に向けて射出、更にはそれらをウルトラ念力で自在に操り空中を高速で移動させて邪神の触手を次々と斬り払っていく……そのダメージによって邪神は絶叫を上げて元凶である親父に口や触手から反撃の光弾を放つが、それらの攻撃を親父は飛行のみで回避するか素手で弾き飛ばしていった。

 ……うむ、確かにひいじいちゃんの言う通りこの邪神は全長200メートルぐらいあって見た目もヤバイけど、攻撃自体は威力や密度とか含めて大した事がないな。

 多分、体力と火力はあっても動きは鈍いし総合的な戦闘能力はそこらの強力な怪獣と大して変わらないっぽいから、親父であれば()()()()()()問題は無い相手なんだろうが……。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『チッ! 再生するのか⁉︎』

 

 だが、邪神はその身から邪気を噴きだすと斬り裂かれた触手の傷口纏わりつかせ、それを再び元通りの触手へと実体化させる事によってダメージを回復させたのだ。

 ……この様に端を削るだけなら直ぐに再生されてしまう上、急所っぽい頭部付近にはお袋が囚われているため親父が全力で攻撃出来ずに時間を稼がれてしまっているのだ。

 

「……うむむ、過去の映像だと分かってはいるのだが実にもどかしいな。……というか、ひいおじいちゃん(ウルトラマンキング)はまだなのか? 正直さっさと現れて邪神を消し飛ばすものだと思っていたけど」

「……あの“邪神”は『銀の鍵』の力で限定的に深淵と繋がっている中途半端な状態で現界しておってな、その為に能力は大幅に劣化しておるのだが深淵から邪気を汲み上げる事で高い再生能力を確保しておるのだ。……確かに儂ならば現世に実体化邪神を倒すのは容易いのだが、そんな儂でもあの『銀の鍵』によって形成された繋がりを断つのは容易な事では無い。お腹の中に居た御主に悪影響を与えずにと言えば尚更な」

 

 尚、あの邪神の元となった残滓はかつてお袋の能力を調べていた研究者達の『深淵へ繋がる道を作る』という妄念がベースになっているらしく、だからあんな風に『銀の鍵』近くに干渉して深淵から邪気を汲み上げる能力に特化しているらしい。

 ……これは邪神という存在自体が『生物の心の闇を写す鏡』の様な性質を持っており、影響を及ぼした生物の心の闇に影響されて性質を変異させる事があるからだとか。

 

「ティア君の『銀の鍵』の制御が効かなかったのも本人のトラウマ以外だけでなく、この妄念が取り付いていたのも理由だったんだろう。……『銀の鍵』は怪獣墓場を始めとする霊界への干渉が可能だから、そう言った残留思念がこびり付いていても気付けなかった様だな」

「……邪神ってマジで面倒くさいな。それと『銀の鍵』も」

 

 そう話している間にも親父は邪神の触手や中のお袋にダメージを負わせない位置に次々と攻撃を仕掛けているのだが、それによって与えたダメージは溢れ出す邪気によって瞬時に再生されてしまい有効打にはならなかった。

 ……このままズルズルと戦局が長引いてしまうのかと俺が思ったその時、上空から()()()が鳴り響くと共に黄金の粒子が降り注いで邪神に纏わりつき、その動きと邪気の発生を止めたのだ。

 

『!? ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『これは……! キング殿!』

『すまんなゾフィー、少々遅れた。……ティア君と赤子に影響を出さず、深淵へと繋がる門を塞ぐ為の準備に時間が掛かってな』

 

 そうして上空から黄金の粒子を纏いながら舞い降りたのは、やはりというかウルトラマンキングその人であった……なんか割とあっさり邪神を封じてる感じなんだけど……。

 

「……ひいじいちゃんは『深淵へと繋がる門に干渉するのは容易な事では無い』とか言ってなかったっけ?」

「うむ、だからこそゾフィーが邪神の注意を引き付けている間、儂はその影で()()()準備をする必要があったのだ」

 

 うん、ひいじいちゃん的には十分ぐらいの事前準備は『容易な事では無い』判断らしいね……まあ、超絶チートなウルトラマンキング基準で事前準備が必要って事は、俺みたいな一般ウルトラマンでは手も足も出ないぐらいの難事って事なんだろうけど。

 ……まあ、それはともかくとして邪神の動きを封じた親父とひいじいちゃんは中に取り込まれているお袋を助け出そうとしていた。

 

『ゾフィーよ、邪神の動きの封じ込めとティア君の身を守る事は儂に任せよ。御主はティア君を取り込んでいる部分の邪神の肉体を破壊するのだ。……御主の技量であればティア君を傷付ける事無く邪神の肉体のみを破壊出来るであろう。ある程度破壊した所で儂がティア君を邪神から切り離す』

『ッ⁉︎ ……分かりました! ティア、今助けるぞ! M87光線!!!』

 

 ひいじいちゃんがそう言うと親父は一瞬だけ迷った様な表情を浮かべたが、直ぐに意を決して精神を集中しつつエネルギーをチャージし始めた……そして十分に準備が出来た所で親父は自身の最強光線である『M87光線(Aタイプ)』を邪神の頭部に向けて撃ち放った。

 

『ハァァァァァァッ!!!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』

 

 そうして放たれたM87光線は一撃の元に邪神の頭部を吹き飛ばしながらも取り込まれているお袋には当たる事が無く、そのまま親父はお袋のいる場所以外の部位に光線を当てて邪神の肉体を消し飛ばして行った。

 ……これは過去の映像だからか今のそれと比べるとやや威力と精度は落ちているみたいだが、それでも親父のM87光線は凄まじいな。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『……よし、ここまで削れれば……ハッ!』

 

 そして邪神の肉体が三割くらい消滅して中にお袋がいるバリアフィールドが露出してきた所で、ひいじいちゃんが腕を一振りしてその球体のバリアを更に黄金の粒子で包み込み、そのまま邪神から引き剥がして見事にお袋を外に出してみせたのだ。

 引き剥がされたお袋はエネルギーを消耗し過ぎたのかバリアフィールドを解除すると、そのまま人間態に戻って地面にへたり込んだ様だが命に別状は無さそうだ。

 ……これで後は邪神を倒せば無事解決……と思ったのだが、お袋を引き剥がされた邪神は突如として肉体を急速に回復させると共にまるで狂ったかの様に暴れ始めたのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『なっ⁉︎ ティア!!!』

『むっ、これは……』

 

 暴れ出した邪神は周囲へ闇雲に光弾を放ったが、お袋に向かった物は親父が瞬時に展開したシールドで防がれた……更にひいじいちゃんが邪神に手を翳すと黄金の粒子の密度が大幅に上昇して、光弾を出せないぐらいにその動きを完全に封じ込めた。

 ……しかし、お袋を助け出したのにひいじいちゃんがまだ邪神を倒さない所を見ると、何かまだ問題があるみたいかな? 

 

「うむ、実は儂であっても『銀の鍵』によって作られた門を“塞ぐ”事は出来ても“閉じる”事は出来んのだ。……厳密に言えばやろうと思えば出来るのだがティア君や赤子への負担を考えると、外部からの干渉によって無理矢理閉じるのは避けたかったからな。……そして門が閉じられていない以上、ティア君を引きずり出した所で未だにあの邪神は彼女やお腹の中の赤子と繋がっていると言う事でもあったのだ」

 

 俺の考えを読んだのかひいじいちゃん(現在)が邪神とお袋の状態について解説してくれた……確かにひいじいちゃんの言った通り邪神から引き剥がされた後もお袋は地面に蹲ったまま苦しそうにしているな。

 

「儂が邪神を消滅させられなかったのは、未だにパスが繋がっている以上は下手に倒すとティア君や赤子に悪影響が出る可能性が高かったからだ。……この状況で最もティア君への負担を少なくした上で邪神を倒す方法は完全に門を閉じると共に邪神を倒す事なのだが、万全の状態のティア君ならともかく身重の状態の今ではこの方法は不可能だったからの」

「……成る程……」

 

 ただ、それでもこのまま放置しておけば状況は更に悪くなる事ぐらいは側から見ていた俺でも分かるからな……とは言え、どうにかする方法は俺には思いつかなかったが。

 ……そう考えていたら地面に蹲っていたお袋が苦しそうにしながらも身を起こしたのだ。

 

『……ハァ……ハァ……私が……門を閉じて……あの邪神を送還します』

『ティア! 無理をするな! 今の体調では……!』

『いえ……あの邪神を下手に倒せば繋がっているこの子に悪影響が出ますし……それは放置していても変わりません。……この子の為にも門を閉じて繋がりを絶った上で邪神を倒す必要がありますから』

『…………ッ!』

 

 起き上がったお袋は息も絶え絶えではあったがその目には明確な決意と覚悟が浮かんでおり、自分の子供を守る為に何としてでもあの邪神を倒すと考えている事が俺にも分かる程だった……本当に母親ってすごいんだなぁ。そんな感想しか浮かんでこないや。

 ……だが、それでもお袋がかなりのエネルギーを消費している事には変わりはなく『銀の鍵』の力を使う事は難しい様だった。

 

『……グッ……』

『ティア! ……やはりその身体では……!』

『……待て、ティアよ。その身体で無理に力を使おうとすれば御主の身体に甚大な負担が掛かる……そうなれば御主は元よりその赤子の命も危うい。焦っている様だが少し冷静になるといい、もうしばらくであれば儂が邪神の動きを封じておけるからな』

 

 それでもお袋は無理に力を使おうとしたが、それは物凄く威厳のある雰囲気になったひいじいちゃん──ウルトラマンキングの言葉によって止められた。

 ……流石は伝説の超人、身内である俺と話す時には穏やかなおじいちゃんって感じなんだが、その気になったら物凄い迫力があるな。

 

『……では、どうすればいいんですか⁉︎』

『うむ、問題はティア君にエネルギーが無い上に肉体の疲労によって負担がかかり過ぎる事だ。……だから、ティア君の『銀の鍵』の力を一時的にゾフィーへと譲渡し、その力を込めた最大威力の光線であの邪神を撃つのだ! 深い絆で結ばれ自らの子供を救わんとする御主等ならばそれが出来よう。儂も手を貸そう』

 

 そういうや否やキングが黄金の粒子を親父とお袋の二人へと降り注がせてエネルギーを回復させると共に、おそらくだがお互いのエネルギーを譲渡しやすくした……のかな? やっている事が規格外過ぎてイマイチ理解出来ないけど。

 ……キングからの提案を聞いた二人は少しだけ戸惑った様だが、やがてお互いを見つめると意を決して頷いた。

 

『……ゾフィー、私の『力』を貴方に託します。だからどうか……』

『ああ、分かっている。……君とその子を縛る邪神の呪いは私が必ず打ち砕こう!』

 

 二人はそれだけの言葉を交わすとお袋は目を瞑って祈る様に手を組んだ……すると銀色のエネルギーらしきモノがお袋から親父に流れ込んで行き、それを受けた親父の額が徐々に()()()()()()()()()のだ。

 

『……ハァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 更にその額が完全に黒く染まった所で、親父は『腕を水平にした上で指先を揃える』という俺も良く見知ったM87光線の発動準備の為のポーズをとった。

 ……だが、この親父は普段のM87光線の時とは違って揃えた指先の間に黒い空間の歪みの様なモノが発生しており、その歪みに向かって周辺から何か膨大なエネルギーの様なモノが集まっている様だった。

 

『よし! ゾフィーよ、集まったそのエネルギーを光線と共に解き放つのだ! 細かい制御に関しては儂がやる!』

『分かりました! ……消え去れ邪神よ! M87光線っ!!!』

 

 そして限界までエネルギーがチャージされた所で親父は右腕を前に出して光の国に於ける最強光線『M87光線』を邪神に放った……が、放たれたその光線は色が真っ黒にになっていたのだ。

 ……そして、その漆黒のM87光線は黄金の粒子で動きを封じられた邪神へと直撃してその身体を爆散させ、更には光線が突き抜けていった先に真っ黒な空間の穴を作り上げて邪神の残骸をその中へと吸い込んでいったのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◾️◾️◾️◾️◾️◾️…………!!!』

 

 そうして跡形も無く砕かれた邪神は断末魔の叫び声を上げながら黒い穴へと吸い込まれていったのだった……うん、ここまで見れば俺でも分かる。親父の『ブラックストリームM87』はお袋から託された力だったんだな。

 

『……ふぅ、終わったか……。ティア、体調は大丈夫なのか?』

『ええ、お爺様がフォローしてくれたお陰で私のこの子も問題無いわ。……それとありがとうゾフィー、私の過去のやり残しを払ってくれて』

 

 邪神を打ち倒した親父とお袋はその様に言葉を交わし……そこで目の前の幻術空間による過去の光景の再生は終了して、辺りの風景は暗転したのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:これで過去を見るのは終わり

キング:超絶有能ひいじいちゃん
・今回の話で使った『黄金の粒子』は“ロイヤルメガマスター”や“デルタライズクロー”が使っているモノの超強化版である謎万能エネルギー。
・サイドスペースで『幼年期放射』と呼ばれるモノと同じエネルギーであるが、本人が直に操っているので出力や万能性のケタが違う。

ゾフィー:結婚してからは名前呼びになった
・この作品に於いて『ブラックストリームM87』はティアが残した『銀の鍵』の力の断片を上乗せした光線という設定で、使用時には額の部分が黒く染まる。
・所謂“妻の形見”である技なので滅多な事では使用せず、最近では地球で瀕死になったウルトラマンを助ける為に邪魔だったゼットン星人率いるゼットン軍団を倒す時に使ったぐらい。
・尚、彼は『銀の鍵』の断片を持ってはいるが正規の資格者では無い為、細かい操作は出来ず“力”を光線に乗せて撃ち出すしか出来ない。
・一応、現在では長年の修行で周辺への被害を無くす程度のコントロールは出来る様になっている。

ティア:母は強し(2回目)

【暗黒大魔縁 デモンゾーア・ジアザー】:強くは無いがひたすらに厄介
・不完全な限界だったので戦闘能力は【ガタノゾーア】や【デモンゾーア】と比べれば遥かに低く、ゾフィーやキングが相手では手も足のでない程度。
・だが、限定的とはいえ『銀の鍵』に干渉しているので、深淵から力を汲み上げる事に関しては上の二者を上回っている。


読了ありがとうございました。
この前のギャラファイでレジェンドやゼノンが登場したり、マックスギャラクシーからのエネルギー供給やクロスパーフェクションとかがあって実に素晴らしかったですね! 次は光の国の過去編っぽいので自作にも関係ある新情報が出てこないか怖いけど楽しみです。


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名前の意味と墓参り

「……これでゾフィーとティアの過去の内、御主に見せておくべき物は全てじゃ」

「……うんまあ、正直言って色々とあり過ぎてまだイマイチ受け入れられないけど、とりあえずありがとうひいじいちゃん」

 

 過去の光景を写していた幻術空間が消失した後、周りの風景は一番最初にに見た岩肌がむき出しの荒野に戻っていた……最もひいじいちゃんの力からして、この荒野がこの惑星の本当の姿とは限らないけどね。

 ……さて、過去映像はこれで終わりみたいだけど、まだ少し気になる事があるからひいじいちゃんに聞いてみるか。

 

「ところでひいじいちゃん、多分この後は俺が生まれるんだろうけどその辺りの映像は映さないんですか?」

「……うむ、映像として写すのはここまでだが、この後に起きた事については口頭だがちゃんと説明する。……これ以降は幻術で写すべきでは無いのでな」

 

 多分、ひいじいちゃんなりに色々と俺に気を使ってくれているんだろう……ただこう、ひいじいちゃんは見ている視点が普通の人とはかなり違うというか、むしろ親父と一緒で言葉がちょっと分かりにくいのでイマイチ何が目的なのか分かりにくいんだよな。

 ……とりあえず話はしてくれるみたいだし黙って聞いておこうか。

 

「まず、この後ティアは無事に御主を産んだのだが……並行世界での地球での戦いやその後の三千万年の眠り、そして邪神に囚われた事などによって肉体への負担が積み重なっておったからの。……出産をきっかけとして徐々に体調を崩してそのまま亡くなったのだ」

「……やっぱりそうですか……」

 

 ひいじいちゃん曰く、お袋は『銀の鍵』の力を持っていたとは言えベースが人間だったので、生粋の超人である光の国のウルトラ族と比べるとどうしても寿命はそこまで長くは無かったらしく、そこに先に言った様々な事件による肉体への負荷が重なった事で寿命はかなり短くなっていたそうだ。

 ……流石に寿命が原因では光の国の医療技術やひいじいちゃんの力を持ってしてもどうしようも無かったのだとか。怪我やエネルギーの不足はどうにか出来ても、根本的な生命エネルギーである寿命の延長は『命の固形化技術』とかを使っても無理だからな。

 

「無論、ゾフィーとティアはお互いの寿命の差を知った上で結ばれ、子供を産めば長くは生きられない事を覚悟した上で御主を産んだのじゃからな。言うまでもないだろうがそれについて御主が何か引け目を持つ事は無いぞ」

「……そのくらいはあの過去の光景を見れば俺でも分かりますよ」

 

 邪神に囚われた時もお袋はお腹の中に居た俺の事を最優先で行動してたし、親父もお袋の事を物凄く(胸焼けするぐらい)大事にしてたのは伝わったしな。

 ……ひいじいちゃんがあれ程に精巧な過去の光景を見せたのは俺にそう言った事を伝える為でもあったんだろうからなぁ……。

 

「……ただ、産まれた御主には先の邪神が自分を復活させるのに利用したからか『銀の鍵』の力が宿ってしまい、更には産まれる前に無理矢理その力を行使させられていた所為でその力が暴走状態になってしまっておってな。その力にまだ産まれたばかりの御主の身体が耐えられずに、危うくこの世から消滅してしまう所だったのだ……やむを得ず御主の力の内、母親側である並行世界の光の巨人の力と『銀の鍵』の力の大半を儂が封印したのじゃ」

「じゃあ、俺の『リバーススタイル』はやっぱりその『銀の鍵』の力が関わっているのか……って、なんか消滅仕掛けたとか言ってるけど大丈夫なのか⁉︎」

 

 その『銀の鍵』が自分の中にある事は『リバーススタイル』とかの件もあって直ぐに受け入れられたけど、消滅仕掛けていたとかは初耳なんだが! ……今、俺が生きている以上は大丈夫なんだろうが、やっぱり不安になるだろ。

 

「大丈夫だ。暴走事態は既に収まっているし、消滅仕掛けていたのは産まれたばかりの未熟な状態で暴走状態になっていたからであるから、現在の鍛え上げて成長した御主ならば儂の封印があれば消滅する事はあるまいよ。……後、御主が『リバーススタイル』と呼ぶ力は正確に言えば『銀の鍵』の片鱗を意図的に現出させた形になるが……この力はその者の魂に根付くモノである故に、完全に封じ込め続けると却って悪影響が出てしまうでな」

「成る程……という事は、何故か俺が親父に受けさせられた無駄に厳しい修練はその為か?」

 

 あの親父のM87光線(手加減)を撃ち込まれたり、ウルトラ兄弟複数名になんかスピリチュアルな事を言われながらボコボコにされる訓練もそう言う事情があったなら納得……いや、もうちょっとやり様があった様な……。

 

「まあそうなるな。御主に『銀の鍵』の力に耐えられるだけの実力を持って貰わねばならなかったからの。……ただし、御主が身も心も真の意味で『銀の鍵』を使いこなせる様になるまで、その力を含む母親の能力は封印されたままであるがな。力を使いこなせる様になったら封印は自動で解ける様にしておいたから、それまで精進すると良い」

「あ、ハイ」

 

 どうやら俺には覚醒イベントがあるらしい……親父達が訓練の時に『秘められた力を解き放て!』とか『眠っている領域にタップするんだ!』などと言っていたのはその所為なのかな。

 ……まあ、何となくだけど『銀の鍵』の力はそんなポンポン覚醒出来るものでは無い気がするし、あんまり意識し過ぎる事無く気長に行こうか。

 

「うむ、その調子で良いぞアークよ。『銀の鍵』の力は精神力に大きく左右される特性があるからな。使いこなす為には御主自身の“心”の成長が不可欠であり、それには長い時間を掛けて様々な経験を積むのが一番だろうからな。……下手に力を追い求め過ぎれば力に溺れて自滅するだろうからな」

「あ、はい……って、ひいじいちゃん心を読んだ?」

「御主の雰囲気から察しただけじゃよ。……後、もし『銀の鍵』について何かあれば、事情を知っているゾフィーか儂にいつでも相談に来ると良い。力を追い求める者が一人で悩むと大概碌でもない事になるからな」

 

 尚、ウルトラの父とウルトラの母は『ゾフィーの妻がティアである』事は知っていても『銀の鍵』については知られていないらしい……これは先にも言った通り邪神は自身を認識する生物が多い程に現実への干渉能力を増すので、俺の封印状態の『銀の鍵』を刺激しない為の措置であるとの事。

 

「……と言うか、今までリバーススタイルについて宇宙科学技術局で色々と実験やら研究とかしてけど、それとかは大丈夫何ですか?」

「ふむ、まあ『リバーススタイル』の力自体は『銀の鍵』と違ってただの空間・次元操作能力だからそこまで問題にはならんだろう。重要なのは邪神へと繋がる深淵を認識する事だからな。……光の国は『光』の要素が強すぎるから深淵の『闇』の存在である邪神達にとっては干渉が非常に難しい場所だから重度の問題にはなり難いしな。それにケンやマーブル辺りは既に察しているだろうし、この後機を見て儂の方から彼等に事情を話しておくでな」

 

 今まで報せなかったのは俺が『銀の鍵』について知らなかったからなので、それについて知った今なら教えておいても問題ないだろうとの事……あの二人であれば色々とフォローしてくれそうだしな。

 ……あのマッド達がうっかり邪神が居る深淵にアクセスしたりしないか心配だったが、これなら宇宙科学技術局に万が一の事態があっても大丈夫だろう。

 

「分かりました、ありがとうございます。……ちなみに俺の封印ってどのくらい強くなったら解けるんですか? 親父ぐらい?」

「ふむ、肉体面においてはよく鍛えられているお陰で今現在の御主の実力なら問題は無いだろうが、心の強さの方はまだまだだな。……先も言ったが、それに関しては一朝一夕でどうにかなるモノではないから、これからの宇宙警備隊員としての日々で己の心の強さを養うと良い。……御主が自分から真の意味で“ウルトラマン”と名乗れる様になれば、その時は封印が解かれるであろう」

 

 そのひいじいちゃん──ウルトラマンキングのまるで全てを見透かすかの様な目と共に告げられた言葉に対し、()()()()()()()()()()俺は思わず一瞬固まってしまった。

 ……俺がずっと内心では気にしていた事──自分が『ウルトラマン』と呼ばれるのに相応しく無いのではないかと言う事を、あっさりと言い当てられてしまったからなぁ。ちょっとだけ愚痴ってみるか。

 

「……以前トレギアさんにも『君の考え方は光にも闇にも寄っていない中庸』だと言われましたが、やっぱり俺には親父達の様な“ウルトラマン”達の在り方が尊いとは思っていても、心のどこかではそれに疑問を抱く自分があるんです。……正直、自分でも上手く言葉に出来ないのですが……」

「ふむ、心の問題に関して儂から言える事は然程多くは無い。おそらく御主の“答え”は最終的に自分で見つけ出さねばならない事だろうからな。……ただ、儂から言える事は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”と言う事ぐらいだな」

 

 ……そうして、ウルトラマンキングは俺に自分の考えを語り始めた。

 

「例えば自分にとても素晴らしい親友がいたとして、その親友に憧れると同時に嫉妬もしてしまうというのは悪い事か? 或いは実力を競い合っていたライバルが自分よりも強くなったから、それに勝つ為にただひたすら力を追い求めるのは間違っているのか?」

「……ええと、内心思ったり周りに迷惑をかけない範囲でなら、悪い事でも間違っている訳でも無いのかな?」

 

 その問い掛けに対して、俺はそんな感じの曖昧な答えしか返せなかったのだが……それを聞いたキングは頷きながら話を続けた。

 

「うむ、その通り。そしてこの宇宙の殆どの生命体は御主が言った風に心の中に善悪正邪……そして光と闇を持ちながら、それらを自分の暮らす社会や環境と折り合いをつけながら生きている。……行き過ぎて周りに迷惑を掛ければ“悪”となるだろうが、そう思う事自体はごく普通で当たり前の事であるのじゃ」

「……言っている事は分かるんですけど……」

「納得はしきれんと言うのじゃろう? それならそれで構わぬ。……こういった己の心と向き合うには多くの人と触れ合い様々な経験をして、その上で自分の意志で答えを出さねばならないモノだからな。儂の言葉もその内の一つとして頭の隅にでも置いておくぐらいで良い」

 

 うむむ、まあ確かにひいじいちゃんは()()()()()()()()しか言ってないしな……やっぱり答えは自分で見つけ出すしか無いのか。

 

「まあ、この宇宙では常に光が善くて正しく闇が悪くて間違っている……などと言える程に単純なモノでは無いと言う事だ。時として“行き過ぎた光”は生物として当たり前の悪性をも拒絶する、そこらの闇よりも更に醜悪なモノになる事すらあるからな。……そういう意味では、御主の考え方は“光にも闇にも一定の理解を示せる寛容さ”と言う長所であるとも言えるだろう。決して卑下する様な事では無いと儂は思うぞ」

「……ありがとうございます。ひいじいちゃんの言っている事はまだよく分かっていないけど、これから色々と頑張っていくよ」

「うむ、それで良いぞアークよ。……そう考えられる事こそが御主の長所なのだからな。御主に“アーク”と言う名前を付けた甲斐があった」

 

 ……え? それは初耳なんだけど。俺の名付け親ってひいじいちゃんだったの? ……そんな風に疑問に思っていたら、ひいじいちゃんは何か思い出したかの様に手を打って俺の名前の由来を話し始めた。

 

「ああ、そう言えばそれはまだ話していなかったな。御主に名前を付けたのが儂じゃよ、ゾフィーとティアに『世話になったお爺様にこの子の名前を付けて欲しい』と頼まれてな。……そして“アーク”というのは普通なら『円弧』と言う意味でしか無いが、銀河の円周部分や惑星の公転軌道がその内と外を分ける事に使われるから、古い言い回しとして『境界線』と言う意味で使われる事もあったのじゃよ。まあ大分昔の言い回しだから、今では知っている者は殆どいないのじゃがな」

「そうだったんですか。……しかし、境界線ねぇ……」

「ああ、光と闇に理解を持ちながらもそれらに呑まれる事なく、確固とした己を持ち続ける事が出来る様になれ……そういう意味でつけた名前じゃ」

 

 成る程ー、うん、抽象的すぎてイマイチ意味がよく分からないけど……ひいじいちゃんの言っている事は現在の俺の状況に結構当てはまってくるし、俺が生まれた時からそんな意味の名前を付けるとか本当に底が見えないよなぁ、この人。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そんな訳でひいじいちゃんから親父やお袋の過去の事を伝えられた俺だが……まだちょっと気持ちを整理出来ていないので、しばらくの間黄昏ていた。

 ……まあ『とりあえず複雑な事は後で考えれば良い』と思い直して気持ちを切り替えたが、それと同時にひいじいちゃんが再び話しかけてきた。

 

「……さて、これで御主に伝えるべき事は全て伝え終わったが……最後に一つ、とある場所に行ってもらうか」

 

 そう言ったひいじいちゃんは腕を一振りすると、再び周辺の景色が先程まで見ていた自然溢れる場所に変わっていた……いや、これは幻術空間では無くて、テレポーテーションによって別の場所に移動したっぽいな。

 ……それにこの風景には見覚えがあるし、ひょっとして此処は……。

 

「そう、此処は御主の母親がかつて住んでいたK54星じゃよ」

「やっぱりか、通りで見覚えがあると……って、ひいじいちゃん本当にさっきからこっちの心を読んでない? 俺まだ何も喋って無いんだけど」

「さっきも言った通り、単に御主の雰囲気から察しているだけじゃよ。これでもそれなりに長く生きておるでな、目の前の者が何を考えているのかぐらいは読み取れる。……それよりも御主に訪れて欲しかったのはそこじゃ」

 

 そうして、ひいじいちゃんが指差した先には人間サイズの小さな“お墓”があった……ああ、成る程そういう事か……。

 

「……うむ、此処が御主の母親であるティアの墓じゃよ。彼女が生前に思い出深いこの星に埋葬して欲しいと言ってな」

「成る程、此処に連れてきたのは墓参りの為でしたか。……じゃあちょっと行ってきます」

 

 ひいじいちゃんが俺を此処に連れてきた理由を察した俺は、手早く自分の体を縮小化&人化させてお袋のお墓に向かっていった……これでも士官学校首席卒業だからな、肉体の縮小化と人化による半永久的な活動方も当然習得している。

 ……そして俺はお袋のお墓の前でしゃがんで手を合わせて目を閉じた。

 

「(……えーっと、拝啓お袋……正直ちょっとまだ貴女に何を言えば良いのかよく分からないんだけど、とりあえず貴女が俺の事を愛してくれていた事は伝わったので感謝を。色々とありがとうございました!)……終わりました」

「うむ、キチンとそういう事が出来るのも御主の長所だからな。……これで儂から御主に伝える事は全部じゃよ。これから宇宙警備隊でも頑張ると良い」

 

 相変わらず声にも出してないのにコッチの考えを読んでそうなひいじいちゃんにはもう驚かないが、これで本当にお袋の話は終わったみたいだな。

 ……さて、数日後には俺も宇宙警備隊に入隊だし、光の国に戻って頭を冷やしつつ色々と準備をしますか。




あとがき・各種設定解説

アーク:今回で色々な事が明らかになった
・ちなみにアークの見た目がゾフィーにそっくりなのは母親であるティア側……ネオフロンティアウルトラマンの力が封印されている所為で父親の特性だけが出ているから。

キング:やっぱり色々と底が知れない人
・アークに対しては自らが知る“答え”をそのまま定時する事も出来たのだが、それだと彼の成長に繋がらないため色々とボカすスタイル。


読了ありがとうございました。
ギャラファイ四話の光の国の過去は色々と衝撃でしたね。陛下と父の関係の空回りっぷりがお労しい感じだったり、2次創作オリ主系ボスのタルタロス君が原作改変に挑んだり(違)と実に先が気になります。


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新人警備隊員アークの日記:入隊編

 ──────◇◇◇──────

 

 

 宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月α日

 

 昨日、うちのひいじいちゃんことウルトラマンキングから親父とお袋の過去やら様々な衝撃の事実やらを伝えられて一晩経った後、俺は光の国の自室で宇宙警備隊への入隊準備をしながら色々と考えていた……というか、昨日教えられた事実が衝撃的過ぎてまだ頭の中がちょっと混乱しているんだよな。

 だから、こうやって日記を付けてちょっと頭の中を整理していこうと思う。幸いにも親父は宇宙警備隊への新人入隊による諸々の手続きやら書類仕事やらで忙しくてしばらくは帰ってこないみたいだから、親父の過去のラブコメを見た所為で気不味い気分で顔を合わせる事は無いしな(笑)

 

 さて、改めて考えてみると昨日見た親父とお袋の過去に関しては『成る程、そんな事があったんだな』と思うぐらいで、イマイチ実感が無いんだよな。封印された『銀の鍵』やら何やらに関しては意識してもしょうがない……というか、下手に意識して無理矢理封印解除とかしたらヤバイ感じがするから今は放っておくのが無難だろうし。

 親父の過去についてはラブコメが殆どだったし、俺も何か言える程の経験を積んでいる訳では無いのでノーコメント。お袋の故郷についても並行世界とか今のウルトラの星でも自力での移動は不可能なレベルだし、新たな歴史知識を得たぐらいな感じかなぁ。強いて言うなら闇堕ちには気をつけようってぐらいか。

 ……やっぱり一番印象に残ったのはお袋の事、それもまだお腹の中にいた俺を全力で守ろうとしている所だったな。本当に母は強いと思ったし、自分が愛されていたのだと分かった。

 

 うむ、とりあえずそんなお袋に恥じない様な人になりたいと思えたし、改めて宇宙警備隊で頑張って働こうという気にもなれたから、あのひいじいちゃんが

 二人の過去を見せてくれたのは良かったのかな。

 それじゃあ、引き続いて入隊準備を進めていきますか。ひいじいちゃんの所に行っていた所為で結構遅れているし。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月β日

 

 うむ、改めて読み返してみると先日の日記はよく分からない事になっているなぁ。自分では分からなかったが、こうして見るとやっぱり結構混乱していたらしい。

 特に親父とお袋について小っ恥ずかしい事を書いてるし……うん、とりあえず気持ちを切り替えて入隊に備えようか。準備は大体終わったし、予定通りなら明日にでも辞令が届く筈だ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月Γ日

 

 今日 俺は 念願の 宇宙警備隊に 入隊したぞ! ……まあそんな感じで、今日俺は届いた辞令の指示に従って宇宙警備隊・宇宙保安庁に着任したのだ。いやー、ここまで長かった様な短かった様な。

 そして宇宙保安庁入隊初日に俺が何をやった事日上司である保安庁の長官であるビストさんとの顔合わせと、彼から宇宙保安庁の各種業務についての説明だった。復習も兼ねて日記に宇宙保安庁の業務内容を書いていこうと思う。

 

 まず、宇宙保安庁とは宇宙警備隊の中でもパトロールを担当している部署で、宇宙の各地にある宇宙警備隊支部の警邏や支部に配属されている仲間の戦いをサポート、更には宇宙各地の情報収集を主な任務としている……具体的には一人から数人で宇宙警備隊の担当地区を巡回して何か異常が無いかを監視、何かあった時には各支部の援護に回るのが基本的な仕事らしい。

 例えば宇宙警備隊の地区分けは本部であるM78星雲・光の国、M25星雲支部、S・P5星雲支部、L・P372星雲支部、アンドロメダ星雲支部、マゼラン星雲支部、ペルセウス座星雲支部、銀河系星雲支部となっており、それぞれに所属している隊員達が日夜担当地区の平和を守る為にパトロールもしている。

 だが、宇宙保安庁の隊員はこれらの支部が担当している地区を跨いで、更に広域でパトロールを行うのが一般的な隊員とは違う所なのだとか。

 

 普段から各支部の隊員がパトロールをしているのなら、わざわざ複数の地区を跨いでパトロールする必要性は薄いのではないかと思ったりもしたが、一つの地区だけを担当し続けているとどうしてもその地区の特性に合わせた“慣れ”が出てしまうらしい。そして慣れてしまった結果、普段とは違うパターンの大きな事件や複数の地区を股にかける様な事件が起きた時に対応力が落ちる事があるのだとか。

 そうした事件が起きた時に援軍として派遣されて対応しきれていない一般隊員を支援したり、広域をパトロールした経験でもって複数の支部が効率良く協力する為の橋渡したりする潤滑油的な仕事も宇宙保安庁の役目になると言う。

 

 それだとまだ新人で経験の無い俺では業務に対応出来ないのでは? と思ったが、明日からしばらくの間は経験豊富な先輩とペアを組んで実地体験を元に宇宙保安庁としての仕事を学んでもらうから大丈夫だと言われた。

 ……というか、今までは宇宙警備隊の中でも有望そうな隊員をスカウトしていたので、全くの新人に仕事を教えるのは殆ど始めてだから今後の参考にする為にも分からない事は積極的に聞いたり、何か要望があればドンドン言っていって欲しいとまで言われてしまった。今後の俺みたいな士官学校からの直接入隊組に対しての効率的な指導の参考にするからだと。

 

 宇宙保安庁の仕事は経験がものを言うみたいだし、そこまで手間がかかるなら士官学校からの直接入隊とかしなくても良いのでは? とビストさんに聞いてみたりもしたが、保安庁を始めとする特殊部署は隊員からのスカウトだけだと人員不足気味だそうだ。

 何でも隊員のスカウトは提案を出すだけで最終的な判断はスカウトされた当人に任せられており、長期間勤めている優秀な宇宙警備隊の隊員は現在の部署や地区に愛着を持っている事が多いので中々集まらないらしい。それで部署の特性的に経験が薄い隊員をスカウトしてもしょうがないし、それならばいっその事一から人員を育成すれば将来的には人材不足を解消出来るかもしれないと考えて士官学校からの新人入隊を決めたとの事。

 他の特殊部署の長官も以前からスカウト制の限界は感じていたらしく、どうしようかと悩んでいた時に親父が新人入隊の話を持ってきたので物は試しと導入して一人(俺)迎えてみたと言うのが実態みたいだ。

 

 ……これって最初の新人入隊組である俺の責任は結構重大じゃないか? と思ったが、ビストさんは『そこまで緊張する事は無いぞ。例えば新人入隊制度を途中で辞める事があっても君を切る事は無いからな』と言ってくれたし、余り気負わない様に明日からの本格的な業務と研修を頑張ろうか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月Δ日

 

 今日は宇宙保安庁の先輩との本格的な研修があったのだが……何と俺を指導して下さる事となった先輩とはあの『セブン21』さんだったのだ! 親父と同年代で宇宙保安庁のエースと名高い人が指導してくれると言うのは幸運な方なのかな。

 まあ、最初はちょっと緊張したりもしたけど『これからは同僚なんだから余り固くならないで良い』と言ってくれたりと、意外と気さくな感じの人でした。ここは敬意を込めて『21先輩』と呼ぶ事にしよう。

 

 ちなみに人材不足気味な保安庁なのに新人の研修にエースを駆り出しても良いのか? とは思ったのだが、セブン21先輩は少し前に観測された新しい並行世界の地球(またか)に勇士司令部のネオスさんと一緒に派遣されていたらしい。

 尚、宇宙保安庁と勇士司令部からエースクラスが二人も派遣されたのは、その時の太陽系がダークマター溢れる未知の宇宙空間を通過している所謂『アンバランスゾーン』と化していたので万全を期す為だったとの事。

 ……実際、ダークマターによる生物の突然変異によって強力な怪獣が複数出現しており、特に最後に戦った【究極進化帝王 メンシュハイト】は彼等二人だけで無く現地の地球人達や他の友好的な宇宙人の協力が無ければ倒す事は出来なかっただろうと先輩は言っていた。

 分かっていた事だけど宇宙警備隊のエース二人を持ってしてコレとは、やはり地球は魔境……まあそれはともかくとして並行世界の地球での任務を終えて光の国に帰還した21先輩は、任務で負った傷を癒す為にしばらく療養していたが先日ようやく任務に復帰したそうで、ちょうど良く手が空いていたので俺の研修をやる事になったのだそうだ。

 

 そして話が終わった後は21先輩と一緒にまずはM78星雲のパトロールをやってみる事になった。とにかく先輩について言って実際に仕事をやりながら気を付けねばならない所や重要な所を指導していく事にするらしい。

 何分、宇宙保安庁での新人の指導は始めてだから分からない事があれば何でも言って欲しいと言われながら、俺は21先輩の後に続いてM78星雲のパトロールを行ったのだった。

 ……一応、警備隊でのパトロールのやり方とかも士官学校で習っていたんだが、流石にその道のベテランである21先輩と比べると仕事の出来には天と地ぐらい差があったけどね。

 

 宇宙警備隊のパトロールって言うのは、基本的に担当地区の宇宙を飛び回ってウルトラ族の超感覚や超能力とかで各惑星や宙域で何か異常が無いかどうかを調べる感じなのだが、経験の差か21先輩は俺よりも遥かに早く異常に気付き即座に反応して的確に対応していた。

 具体的には群れからはぐれたのか何処からか現れた【宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール】に襲われていた隊員の窮地を瞬時にキャッチして急行、その隊員に襲いかかっていた『断層スクープテイザー』(本来は宇宙空間で数少ない水素を取り込むために使用されるのだが長さが1万m、細さ1オングストロームなので不可視であり振り回すだけであらゆる物体を切断出来る舌)を宇宙ブーメラン“ウェルザード”で切断、更に放たれる爆発性の高い流体焼夷弾『融合ハイドロプロパルサー』を全て回避して弱点の頭部をレジアショットで吹き飛ばしたのだ。

 ……その鮮やかな戦いぶりは、俺が後を追って到着した時には既に戦いが終わっているレベルだったからな。

 

 そして戦闘を終えた21先輩は助けた隊員の安否を確認すると共に光の国の本部や宇宙保安庁に連絡を取り、この一件の報告と周辺宙域に入る【ディノゾール】の群れの位置や詳細を調べる提案を話していた。

 詳しく話を聞いてみたら【ディノゾール】はその戦闘能力に反して温厚な怪獣であり、食料である水素を求めて群れで“渡り”をする性質があるらしい……のだが、何らかのトラブルで群れから逸れて単独になると防衛本能から途端に凶暴化する性質を持っているのだとか。

 なので、此処に群れから逸れた個体がいたという事は【ディノゾール】の群れ自体に何らかのトラブルが起きている可能性が高く、そのトラブルを放置しておくと高い戦闘能力を持ち凶暴化した【ディノゾール】が各地に現れる可能性もあるので早急に原因の把握と対処が必要だとの事だった。

 

 21先輩曰く、考えられる【ディノゾール】の群れを襲ったトラブルとしては強力な怪獣に襲撃されたか、群れ全体が水素不足で飢えた結果として水素を求めて逸れるケースが多いらしい。

 前者の場合なら原因となる怪獣は強力な【ディノゾール】の群れに襲い掛かる様な強く凶暴な怪獣、或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()である可能性が高いので早急な調査と討伐が必要であり、後者の場合は最悪群れ全体が水素を求めて有人の海洋惑星に殺到する可能性があるので、やはりこちらも早急に文明監視員や恒点観測員と協力して群れを無人の海洋惑星に誘導する必要があるのだとか。

 

 ……うん、改めて書いてみると21先輩は戦闘能力もそうだがこういった判断や関係各所への報告をスムーズに行う所とかが凄いよな。俺は怪我をした隊員を応急処置するぐらいしかやる事が無かったし。

 今日は将来的には21先輩ぐらい仕事が出来る様に、今後もしっかり彼から色々な事を学んでいこうと改めて思ったな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月Σ日

 

 今日も21先輩の後についていって宇宙保安庁の仕事内容を学ぶ日々……実際、宇宙保安庁ってやる事が凄く多いんだよな。広域へのパトロールを始めとして各支部の警備隊員への援護、関係各所への情報伝達や折衝、その知見を活かして隊員の相談に乗るなどなど……。

 ……本当に学ぶ事が多いんだよな。まあ元々宇宙保安庁を始めとする特殊な部署は警備隊員の中でもベテランをスカウトする形式だったから、それが前提の仕事量なんだろうからしょうがないのかもしれないが。21先輩も『新人としては十分に良くやっている』と言ってくれているが、彼の様に“パトロール中には常時自身を中心とした広域を把握、何かあれば直ぐに状況を把握して最善の行動を取る”とかは難しそうだ。もっと頑張らないとな。

 

 後、この前の【ディノゾール】の一件は宇宙保安庁・文明監視員・恒点観測員の合同調査で、近くにいた【ディノゾール】の群れの一つが本来のルートを外れて有人の海洋惑星に向かっている事が分かったらしい……まあ、早期に異常に気が付けたお陰で群れが惑星に降りる前に複数の警備隊員が協力してルートを無人の水素が大量にあるガス惑星の方向へと向かわせる事が出来た様だが。

 尚、21先輩に聞いた所【ディノゾール】は重力下で弱点である頭部を破壊されると、肉体の極性を上下反転させて頭部と『断層スクープテイザー』が二本となり、更に背部の『融合ハイドロプロパルサー』が大幅に強化された【ディノゾールリバース】へと強化蘇生する性質があるのだとか。

 これは餌場にした海洋惑星において通常の個体を打倒出来る様な群れを脅かす様な敵生物に対抗する為の能力であり凶暴性も大幅に増す為、下手に有人惑星に【ディノゾール】を向かわせる事が出来ない理由になっているのだそうだ。

 

 ただ、そもそも【ディノゾール】はその高い戦闘能力に反して温厚な怪獣であり、群れから逸れたり敵から攻撃されない限りはその力を振るう事は無いし……それ故に“余程の事が無ければ自ら敵がいる可能性のある有人惑星には近づく事も無い”のだと言う。

 ……今回の群れに関しても、本来のルート上に良好な餌場である無人のガス惑星があったにも関わらず、そのルートを何故か曲げて()()()()()()()()()()()()()()()()()有人惑星に向かって行っていたらしい。

 

 当然、宇宙警備隊でも【ディノゾール】クラスの怪獣の群れのルートを変えられる“何か”がいると考えて現在調査中なのだ……まあ最も新人研修中の俺がそんな重要任務に回される事は無いからあんまり関係は無いんだが。

 ……今はとにかく21先輩に着いて行って研修をこなして実力をつけるしか無いからな。明日からも大変だろうけど頑張ろう。




あとがき・各種設定解説

アーク:ようやく宇宙警備隊に入隊
・尚、本編では描写が無かった(ボイスドラマがまだだったので)が在学中に入隊試験も座学・実技共に歴代で最高クラスの成績で突破してたりする。

ビスト:宇宙保安庁長官
・長年宇宙保安庁に勤めているベテランであり、ウルトラの父の後輩ぐらいの年齢。
・最近の悩みは父が隊長を退いたので自分も長官の座をセブン21辺りに譲りたいと思っているのだが、人材不足のせいでそんな余裕が無い事。

セブン21:アークの先輩ポジションに抜擢
・宇宙保安庁のエースだけあって戦闘以外にも様々な技術に習熟した経験豊富な隊員。
・こんなエースを研修の指導官に回したのには手が空いていたと言う理由だけでなく、長官が人材不足解消の為にアークにかなり期待しているからでもある設定。

【宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール】:技名がカッコいい(小並感)
・群れは他にも複数存在しており、それぞれが餌場を被らせずに出来る限り安全で決まったルートを回遊しているので、攻撃・妨害などを行わなければ危険性は低い種族だと認識されている。
・ただ、群れから逸れているかリバース化している場合は凶暴化するので討伐が推奨されている。


読了ありがとうございました。
ウルトラマンZがとうとう最終回! いやー、セブンガードリルカスタムとか腕相撲とかゼスティウム光線とか二人で一人前みたいな描写とか、とてもあとがきでは語り尽くせない程に良い話でした。Zは終わりましたが、この作品はまだまだ続くので応援よろしくお願いします。


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新人警備隊員アークの日記:交流編

 △月Ω日

 

 今日はウルトラコロセウムで21先輩や光の国の警備隊本部の隊員達と一緒に戦闘訓練を行った……何でも宇宙警備隊他いくつかの組織の先輩隊員達が各々の腕を磨くために定期的にこう言った合同訓練を行なっているのだとか。

 ちなみに少し前までは自主訓練は個人的なものが多く、こう言った合同訓練の頻度は多くなかったらしい、だが、あの『バット星人襲来事件』が起きてからは、特に若手隊員を中心として主に連携を磨く目的で合同訓練が良く開催される様になったのだとか。

 ……まあ、それからも襲撃受けたり大暴走したりとウルトラの星に危機が訪れまくってるからな。そりゃあ、基本的に真面目で正義感溢れる警備隊員達ならそうするよね。

 

 そんな合同訓練に俺は21先輩の提案で参加する事となったのだが、先輩からは『お前は単独での戦闘能力に関しては問題無いから、この合同訓練では“連携”と“他の隊員との顔つなぎ”を主にすると良い』と言われたのだ。

 詳しく聞くと宇宙保安庁の隊員は他の隊員の援護に行く事が多いから連携能力は必須だし、その知見で他の隊員の相談に乗る事もあるから顔つなぎは重要だとの事。

 ……まあ、言われてみれば納得だな。以前にビストさんから仕事内容を聞いた時にも、保安庁の隊員には直接的な戦闘能力以外にそう言った能力が求められるのだと思ったからな。そこまで考慮しているとは流石先輩! 

 

 まあ、そういう訳で今日は宇宙警備隊の先輩達と一緒に訓練をしつつ、彼等に色々な質問や指導をお願いしたりして交流を持ってみた……俺が宇宙警備隊の隊長の息子という事もあって向こうから積極的に話しかけて来たり、一緒に訓練をしようと言って来てくれたので顔つなぎは思ったよりスムーズに行ったのは幸いだったかな。

 ……勿論、連携訓練の方もしっかりとやったぞ。特に俺の一期上の先輩である文明監視員のゼノンさんのアドバイスは参考になった、あの人は21先輩を除く他の隊員と比べても連携の技量が頭一つぐらい飛び抜けていたからな。

 彼曰く『同期の友人とよくコンビを組んで戦っている時はフォローが俺の主な役割だったからな、そいつが超優秀なヤツだったから付いていく為に色々と訓練していたらいつの間にやら連携が上手くなっていた』との事らしいが。

 

 ……何はともあれ、ゼノンさんや他の先輩隊員の指導やアドバイスのお陰で連携の技術は大分上がったし、その彼等と知り合いにもなれたから21先輩に言われた『連携訓練と顔合わせ』という目的は十分に果たせたと思う。

 特に集団で単独の対象に近接戦を行う場合の訓練とか、先輩達の警備隊に於ける経験と実感を伴った話は非常に参考になったしな。良い一日だった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月Σ日

 

 今日からはパトロールの行動範囲を広めると21先輩に言われて、M78星雲から少し離れてM25星雲支部の管轄を巡回した……21先輩からは『支部毎の空気や環境の違いを良く見ておく様に』と言われたりした。

 ……そういう訳で21先輩について行って色々と観察してみると、光の国にある本部と比べると何処と無く隊員達の緊張感が高い様に感じられたのだ。そう言ったら21先輩には『目の付け所が良い』と褒められた。やったぜ。

 

 何故この様に緊張感が高いかを詳しく説明すると、まず昔このM25星雲支部の管轄周辺は光の国に近い星雲の中で“最も治安が悪い場所”だったのだ。具体的に言うと好戦的な宇宙人が住む惑星とか凶暴な宇宙怪獣とかの住処があって、それ自体は今でも変わっていない。

 そして宇宙警備隊が結成してから暫くは本部の警備隊員がM25星雲も対応していたのだが、警備隊が勢力を拡大して宇宙各地に支部を置いていった過渡期に入ると本部の人員が薄くなって対応が甘くなった時があったらしく、その際にM25星雲に生息する凶悪な宇宙怪獣が光の国付近まで行動範囲を広める事があったのだとか。

 ……流石にこれは不味いと思った宇宙警備隊はM25星雲に新しく支部を置いて目を光らせる事で、光の国周辺の治安を安定化させたと言う訳だ。まあ宇宙警備隊結成からその規模の拡大に掛けて色々とあった紆余曲折の一つと言う事だろう。

 

 成る程、それで凶悪な宇宙怪獣やら宇宙人やらが多くいる管轄だから、この支部の隊員達は緊張感が高いのかと俺は納得した……のだが、それを聞いた21先輩に『どちらかと言うと光の国本部の空気が少し緩んでいる、というのもあるんだがな』という予想外の言葉で返された。

 ……本部って一応宇宙警備隊の中枢だよな。親父とかウルトラ兄弟とかも詰めてるのに、そこの空気緩んでいるとは一体? と激しく疑問に思ったので21先輩に疑問に思った事を質問すると『治安が良すぎるからと新人の最初の配備先になってるから。後、支部は危険な場所や重要な場所に置かれているからでもある』と言われた。

 

 分かりやすく書くと宇宙警備隊が発足して勢力を強める内に『ウルトラの星から離れた治安が悪い場所や重要な場所が分かって、そこに支部を作る』→『その場所の治安が良くなる+宇宙警備隊の影響力拡大でウルトラの星近くの治安が良くなる』→『本部は治安が良くて危険が少ないから新人隊員の配属先になる+ベテランやエースは治安の悪い支部に移動になる』→『これらの結果から本部に新人、支部にベテランが多くなってしまった』って感じらしい。

 実際、本部よりも支部の方が事件の発生件数“自体”は多いからな。宇宙警備隊のお膝元で事件を起こすヤツは少ないから、親父も普段はこのM25星雲支部で現場指揮を執ってるしな。

 ……まあ、“それでも”ウルトラの星で事件を起こす連中はヤバイのしかいない、という問題点もある訳だが。その為に本部では先日みたいな訓練を積極的に行ったりもしているが……宇宙警備隊が人材不足気味だよな。重大な事件が起きた時に回す手が足りていない気がする。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◾️月Ι日

 

 最近は忙しかったので中々日記が書けなかったが、少しだけ暇が出来たので俺がこれまで行動してきた事を書いて行こうと思う。

 

 まず、主にやった事は21先輩と宇宙警備隊の各支部を回りながら宇宙保安庁の仕事を学ぶ事だった……例えばアンドロメダ星雲支部でアンドロ警備隊の方達と交流して他の治安維持組織との付き合い方を学んだりしたな。

 まあ、アンドロ警備隊の人達は親父と面識があるらしく向こうから色々と俺に話し掛けて来たけどな。何でも昔親父がブラックホールに飲み込まれた時に別次元に居たアンドロ族に救出され、それから色々あってその力を宇宙の秩序を守るために役立てたいと考えた親父の提案によって結成されたのがアンドロ警備隊なのだとか。

 

 ……うん、宇宙保安庁として21先輩に着いて行って顔つなぎをしてると、こう行った親父に世話になったとか知り合いだと言う相手には結構声を掛けられるんだよな。

 今まで親父の宇宙警備隊での活躍は親父自身の口から聞く事か他のウルトラ兄弟から聞く事が主だったけど、こうやって普通の宇宙警備隊員や他の治安維持組織から話を聞くと改めてウチの親父って凄いなと思いました(小並感)

 

 しかし、ブラックホールに飲み込まれたのに生還したりアンドロ警備隊の設立に関わったりと、本当に親父って凄い有名人なんだよな……他の支部の宇宙警備隊員に聞いただけでも『凶暴な宇宙怪獣の群れに襲われた時、親父がM87光線で怪獣を一掃して助けてくれた』とか『暗躍していた犯罪宇宙人の拠点を割り出して事件を未然に防いだ』とか、そんな話に事欠かないからな。宇宙警備隊の隊長になった時にも宇宙警備隊ほぼ全体で大歓迎だったらしいし。

 ……地球での活躍だとイマイチパッとしない(穏当な表現)のにな親父。むしろそんな親父でさえ噛ませ扱いにされてしまう地球が魔境すぎるのかもしれないが。やはり。

 

 とはいえ、その親父の活躍のお陰で宇宙警備隊の各支部隊員との顔つなぎや、銀河連邦・アンドロ警備隊などの各組織との繋ぎが出来たのだから感謝するべきなんだろうが。

 ……まあ、俺は別に『これは親父の力であって自分の力ではない』みたいなコンプレックスっぽい事は思わない性格だからな。宇宙警備隊の任務に必要なら親父のコネでも存分に使わせてもらうぜ。流石に頼り切りになる気は無いし、コネを使えばその分期待が重くなる事も分かっているから、なお一層努力する気ではあるけどね。

 

 後、21先輩との個人的な訓練で変身能力が大幅に上達した事もあったな……俺はイメージ力が低いから21先輩みたいに自在な変身は難しいと言ったら『じゃあ、俺が今まで変身してきた宇宙各地の生物の画像データがあるからこれらに片端から変身出来る様になろうか。変身元となる画像にそっくりそのままなら変身出来るんだろう?』と言われて、数百種の生物に変身させられたからな。

 ……21先輩曰く、変身する時のコツはまずモデルとなる人物と同じに変身した上で、その目や口元や顔の輪郭などの目立ちやすい生体部位を不自然にならない範囲で変形させるのが一番楽だとの事。

 もし元となった人物を知っている者に会ったとしても、そういった部分を少し変えるだけでも“良く似た別人”として勝手に判断してくれるからだって言ってたし……まあ、変身能力が必要な情報収集任務で本当に必要になるのは演技力の方だから、そこは追い追いとも言われたが。

 

 まあ、21先輩のお陰で大分宇宙保安庁の仕事も覚えられて来たし、後は一人で仕事が出来る様になれる感じで頑張ろうか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▲月α日

 

 今日は久しぶりウルトラの星へと帰ってきた。これまでは宇宙中の宇宙警備隊支部を巡って来たから本当に久しぶりに感じるな……21先輩は『俺は宇宙保安庁の本部に報告に行くから今日は休暇で良い』と言ってそのまま行ってしまったので、今日はちょっと光の国を散策して士官学校卒業以来会っていなかった人達に会いに行ったりした。

 

 そうやって会った人にタロウ教官もいたのだが、その時の彼から近く地球に新しく宇宙警備隊員を派遣するという話が持ち上がっていると聞いた……確か新人が派遣される場合には、俺も少し開発に関わった『正式採用版ブレス』が授けられるんだったか。

 ……それから聞いた内容は以前にウルトラの父から聞いたモノとさして変わりなく、並行世界関連で地球圏周辺には異常事態が起きているからM78宇宙の地球にも一人ぐらい警備隊員を派遣・在中させておくべきではという事になったとの事。ちなみにこの意見を出したのは親父、タロウ教官、レオ兄弟、80さん、ユリアンさん、ウルトラの父などの地球に縁のある隊員だったらしい。

 

 とは言え、これまでは力を失っているとはいえウルトラ兄弟が四人も在中している地球に、改めて戦力を送るのには上の人達も難色を示していた……だが今回士官学校を卒業した新人が入った事と、危険が起きやすい地球に念の為に新人を派遣しておくというウルトラの父の提案が通った型なのだとか。

 ……あの人、事前にここまで予測してあのブレス作らせてたのか。万が一何かが起きた時に備える形だから新人でもどうにかなるだろうしな。

 

 まあそれでタロウ教官は新人の中から地球派遣の候補者を探していたらしく俺にも声を掛けて来たのだが、今は宇宙保安庁での研修と業務が忙しいという理由で断らせてもらった。

 ……代わりと言っては何だがメビウスが以前地球に行ってみたいと言っていた事を教官に伝えておいた。教官もメビウスには声をかけるつもりだったのでこの後行ってみるとの事。さてどうなるかな? 

 

 ……後、科学技術局に寄った時に気になる話を聞いたな。何でも有給中で旅行に出かけていたヒカリさんからの定期連絡が途絶えたらしい。

 あの人は光の国でも重要人物だから休暇中でも定期連絡が義務付けられていたし、それを疎かにするタイプでは無い筈なんだが一体どうしたんだろうか? 

 流石にヒカリさん程の有名人が失踪とかは問題なので、トレギアさんを初めとする科学技術局や警備隊の一部が動いて行方を追っているらしいが……俺も色々とお世話になった人なので無事であってほしいものである。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……新人への指導任務ご苦労だったなセブン21」

「いえ、大変頼りになる新人だったので楽をさせて貰ってますよ、ビスト長官」

 

 そこは光の国にある宇宙保安庁の本部、その長官室でセブン21は上司であるビスト長官に諸々の報告を行なっていた。

 

「ほう、お前がそこまで言う程か。あのゾフィーの息子のアークは」

「ええ。……単騎としての戦闘能力であれば既にそこらのベテラン隊員を超えていますし、経験さえ積めば勇士司令部でもやっていけるでしょう。それでいて自分の力への傲りもなく、保安庁の細々とした仕事や技術へも理解を示して積極的に技術を習得しようとしています。……また、新人にありがちな正義感の所為で警備隊や他の組織の実情を見て幻滅する事も無く、自分なりに割り切っている感じでしたね」

 

 ウルトラの星の住民は善性で正義感の強い者が多く、それ故に組織や世間に存在してしまう“矛盾”を忌避する傾向が結構あるので経験不足な新人隊員はそこで色々と悩む事もあるのだ。

 

「成る程、そう言った性格であれば情報収集任務も経験を積めばこなせそうだな。……物は試しと導入した新人隊員の直接入隊だったが思った以上に当たりを引いたらしい」

「“情報収集”には色々と割り切りが必要ですからね」

 

 ……そうして、二人は新人の出来という当たり障りの無い“雑談”を終えて“本題”に入っていった。

 

「……先日、お前から報告のあった【ディノゾール】の群れの件だが……まだ確定情報では無いが、どうやら【ボガール】が関わっている可能性が高い様だ」

「あの“高次元捕食体”が⁉︎ ……確かにそのレベルの相手であれば【ディノゾール】の群れを誘導するぐらいは出来ますか」

 

 この【高次元捕食体 ボガール】は非常に高い戦闘能力と知性を持ち、更に一つの星の生態系すら消滅させてしまう程の邪悪な食欲を有する、宇宙警備隊に於いてでも特級の危険生物に設定されている程の相手なのだ。

 ……だが、ビストが告げる情報はこれだけでは無かった。

 

「……また、こちらも確定情報では無いがグローザ星、デスレ星、テンペラー星、ナックル星、ガッツ星……そしてメフィラス星系の一部で不穏な動きがあると報告があった」

「どれもこれも、この宇宙に於ける強豪宇宙人ばかりですね。……その内、一部の者が不穏な行動をする事は割と良くある事ではありますが、それだけの者達が()()()()()に行動を起こすというのは明らかに不自然ですか」

「うむ。我々宇宙警備隊でもこれまでの一連の事件には裏で何か“強大な存在”が動いている可能性があると見ている。……無論、()()()()()()を考慮した上でな」

 

 ……その『ウルトラの星にとっても深い関わりのある最悪の可能性』を頭に思い浮かべた二人はため息を吐きながらも、更に雰囲気を真剣な物に変えて話を続けていった。

 

「そういう訳でな、流石にお前を遊ばせておける状況では無くなった。……セブン21、お前にはアークと共に【高次元捕食体 ボガール】の行方を追って欲しい」

「……他の星系の調査は専門技術がいるから今のアークでは厳しいですが、基本的に個人で行動する【ボガール】の痕跡を追うだけなら可能ですか」

「うむ、他の連中と違って【ボガール】は知性こそ高いが己の食欲に忠実に行動するから、その行動は陰謀なども少なく非常に分かりやすい。……どちらかと言うと必要となるのは戦闘能力であるから、お前の話を聞く限りアークが足手まといになる事も無いだろう」

「そうですね。……分かりました、その任務アークと共に受領します」

 

 ……こうして新人隊員アークは新たなる戦いに赴く事になったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:人材ガチャで言うSSR枠
・加えて条件を満たせば覚醒イベント付き……闇落ちイベもあるかもしれないけど。

21先輩:アークの事はかなり高く評価している
・戦闘・事務・情報収集とあらゆる分野で一流の能力を持っていて長官からも頼りにされている。

ビスト長官:思ったより良い人材が入って来て内心ウハウハ
・現在は警備隊や宇宙情報局とも協力して、この宇宙の異変の“原因”の詳細を全力で調査中。
・ちなみにこの後地球に派遣されるのが新人のメビウスなのはこれらの事件の調査に警備隊の全力を尽くしていたからで、可能性はそこまで高く無いが万が一何か起きた時に備えて新人を送って対応させ、それでもダメなら時間が稼がれてる間に援軍を代わりに送るプランだったという設定。

ヒカリ&トレギア:どうなったかはギャラファイ大いなる陰謀のエピソード5を参照


読了ありがとうございました。
ギャラファイがM78スペースの過去話を描写してくれるお陰で(話のネタ的に)非常に助かっている今日この頃。


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新人警備隊員アークの日記:調査編

 ▲月Λ日

 

 行方不明になったヒカリさんの事も気にはなるのだが俺も今は宇宙警備隊に勤める身、成すべき任務があるのならばそちらを優先しなければならないのだ。

 ……ヒカリさんの事はトレギアさん達に任せるしか無いだろうな……何か“妙な違和感”を感じる気もするが、正直言って気の所為か考えすぎだろうしこの件で俺が出来る事は無いだろう。

 

 そんな訳で話を宇宙警備隊の業務の方に戻そう……今日は光の国の宇宙保安庁本部で俺は21先輩と一緒に最近この宇宙で暗躍していると思しき“【高次元捕食体 ボガール】の調査任務”を受領した。

 ……何でも現在この宇宙で怪獣の異常行動、複数の強豪宇宙人達の不穏な動き、非常に高いマイナスエネルギーが散発的に観測されるなど様々な異変が起き始めているらしく、少し前から宇宙警備隊全体でその調査を行なっているらしい。

 そして、警備隊ではこれだけの異変が同時期に起きるのは最早偶然では無く何者かの意図が関わっていると睨んでおり、この【ボガール】も“異変の黒幕”の可能性がある存在の一人であるから今回任務で調査する事になったのだとか。

 

 そんな感じで今日は21先輩と一緒に宇宙保安庁としての任務を受領したのだが、まずは21先輩の提案で宇宙情報局やアーカイブで【高次元捕食体 ボガール】の詳しい情報を調べる事になった。

 ……21先輩曰く、まず情報収集の基本はその対象について詳しく知っておく事であり、長年の宇宙警備隊の活躍のお陰で光の国に集まっている情報や資料は全宇宙でもトップクラスの質を誇る為、とりあえず詳しい情報を集める時には最初に光の国の資料を漁るのが一番手っ取り早いとの事。

 そうやってある程度の情報を手に入れた上で向こうの行動パターンを絞って行って、それから宇宙に出て情報を集めていくのだとか。この広大な宇宙をしらみつぶしに探すとか無駄極まりないからな。

 

 それで俺はアーカイブでの資料漁りに慣れているからそっちへ、21先輩は宇宙情報局の方に【ボガール】に関する詳しい資料を求めにと言った感じで手分けして資料集めを行なった。

 ……幸いアーカイブの【高次元捕食体 ボガール】に関する資料は割とあっさり見つかったのだが、その内容は宇宙規模の事件の黒幕と疑われるだけあって中々にとんでもない物だった。

 

 この【ボガール】という種族は尽きることのない食欲を持ち、高い知性を持つにも関わらずその貪欲なまでの食欲のみに忠実に行動するので宇宙中で様々な事件を起こしており、警備隊でも特級の危険生物に認定されている様だ。

 更に資料によると“捕食”能力が非常に高く40メートル級の怪獣すらもあっさりと一飲みにしてしまい、一つの星の生物を残らず食らう事もあると書かれていた。それに加えて個体としての戦闘能力も極めて高く、念力やテレポートや餌となる怪獣の誘引などの強力な超能力を有している個体もいるらしい。

 ……こうして書き並べた上での【ボガール】という種族の概要は『高い知能と戦闘能力と強力な超能力を持ち、それらを自分の食欲を満たす為だけに使う超危険生物』って感じか。何このタチ悪いヤツ。

 

 それとアーカイブには通常の【ボガール】の他にも亜種の資料もあった……まずは超能力や高い知性を持たず群れで行動する【高次元捕食獣 レッサーボガール】という種類。

 資料によると【レッサーボガール】は普段は2メートルぐらいの大きさで群れを組んで行動しているが、群れの危機が訪れると共食いを行う事で50メートル級にまで巨大化する能力があるらしい。まあ名前の通り通常の【ボガール】の劣化版の怪獣といった所かな。

 

 そんでもってアーカイブの資料にはもう一つの【ボガール】の亜種の情報があって、そいつの名前は【高次元捕食王 アークボガール】と書かれていた……その名の通り高次元捕食者であるボガール族の頂点にしてボガールマスターの異名を持つボガール族の王だそうだ。

 ただでさえ強力なボガール族の王だけあってその食欲は異常であり、資料に残っていた情報によると“惑星そのものを食べてしまう”と書かれており、更に高い知性と非常に強大な戦闘能力を持ちその性質や性格は邪悪かつ残忍であるとあった……加えてその資料にはこの【アークボガール】は、かつてあの【暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人】が率いる怪獣軍団の大幹部暗黒四天王の元邪将だったという凄まじい厄ネタ情報まで載っていたのだ。

 ただ、資料には他の四天王たちやエンペラ星人閣下の命令を無視して自分かってに本能の赴くまま宇宙各地の惑星をそこに住んでいる生命体ごと食い荒らし続けていた為、エンペラ星人閣下と残りの四天王メンバーによりブラックホールに追放、封印されていて『ウルトラ大戦争』には参加していなかったらしい。見つけた資料に載っていた情報もその後の追加調査で入手した物みたいだったな。

 

 ……と、今日一日掛けてアーカイブを漁ってみたらこんな感じの【ボガール】に関するヤバい資料がじゃんじゃん出て来たからな。嫌という程【ボガール】の脅威は理解出来た。

 これまでの研修とは違い俺にとっては初めての宇宙保安庁での任務になるが中々にハードな任務になりそうだな。気を引き締めて行かないと。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……これが今日アーカイブで集めた【ボガール】に関する資料になります」

「分かった、見せてもらう。……しかし、よくたった1日で情報の坩堝であるアーカイブからこれだけの資料を集められたな」

「アーカイブには何度も訪れた事があってそれなりに慣れていますから」

 

 翌日、俺は集めた【ボガール】に関する資料を21先輩の所まで持っていった……その際、資料の多さにちょっと驚かれたが、アーカイブは光の国が集めた情報が片っ端から詰め込まれていて、更に職場としては不人気な所為での人員不足もあって余り整理がされておらず欲しい情報を見つけるのには結構コツがいるからな。

 ……まあそれは置いておいて、俺も21先輩が宇宙情報局から取り寄せた【ボガール】の資料を見ておこうか。情報局は警備隊が入手した各種情報を整理・保管する所でもあるから、ボガールの生の目撃情報とかはこっちの資料に詳しい筈……。

 

「……【ボガール】の目撃情報や【ボガール】が起こしたと()()()()事件の情報は宇宙各地でいくつかありますけど、現在位置とかその目的とかの詳しい情報は無いんですね」

「ああ、この【ボガール】は食欲のままに行動する所為で隠蔽なんかは一切考えていないから目撃情報自体は多いんだが、“高次元捕食体”と言うだけあって強力なテレポート能力……それも次元移動クラスの力を有しているらしくてな。お陰で討伐隊を編成しても直ぐに逃げられるし、現在位置が分からない様だ」

 

 資料によると【ボガール】は高い戦闘能力を持っているから、偶々遭遇した隊員が単騎で挑んで返り討ちに遭うケースも何度かあるみたいだな。だから【ボガール】に遭遇した場合、まずは各支部に連絡して援軍を要請する事が推奨されていると。

 ……ただ、討伐隊を編成している間に【ボガール】を見失ってしまう事も多い様だがな。単騎で挑むならウルトラ兄弟クラスの実力が必要だし、討伐隊とか組むにも時間が掛かるからしょうがないんだが。

 

「行動パターンとしては自分だけで相手に出来る敵には躊躇なく戦い、敵が相手に出来ない戦力の場合には直接戦闘を避けて即座に逃亡するのか……【ボガール】レベルの次元移動能力と戦闘能力と知能を持つ相手にそんな事をされると捉えきれないか」

「普通の力と知恵がある宇宙人はその実力故にプライドも高く“逃げる”という選択を躊躇なく取る事は少ないんだが、コイツは高い知性を有していても行動原理が“食欲”しか無いが故にそういったプライドは殆ど無い様だな。……そういうプライドがあったり目的があったりする相手なら行動パターンを絞る事は容易いんだが、コイツは完全に“食欲”だけで行動しているからな」

 

 情報局の資料にも一つの支部で目撃されたと思ったら直ぐに逃亡されて、また今度は別の支部で目撃されるとか言うレベルのフットワークの軽さを誇るみたいだからな。

 

「……というか、美味いものを見つけたらとにかく食べに行って、それを食べ終わったらテレポートしてまた別の美味いものを探してるみたいだから行動パターンの読み様が無い気が……」

「いや、そうでも無いさ。……この【ボガール】の逃亡時に狩場となる惑星を移すのは討伐隊が組まれた時などの“自分一人だけでは絶対に勝てない”状況だけで、自分一人でも対応できる状況なら逃げる際にその狩場となる惑星内という極狭い範囲しか移動しない様だ。……これらの事からコイツの性質には“その食欲からか一度狩場に指定した場所には相当な執着心を抱いている”事が読み取れる」

 

 ……ふむ、確かに資料をよく読んでみると【ボガール】にはそういう性質があるみたいだな。いざとなったら逃げる事に躊躇はしないが、最優先なのは何はともあれ食欲を満たす事って感じか。

 

「だから、コイツの今までの食癖から狙われそうな場所をピックアップしつつ情報を集めて捜索。発見出来たら俺が囮として単独で交戦して時間を稼ぎつつ、アークが極秘裏に援軍を要請して一気に叩くといった感じか」

「成る程……俺と21先輩で一気に倒すというのは?」

「それが出来る相手ならそうするが、おそらくそこまで甘い相手ではないだろう」

「分かりました」

 

 流石は21先輩、宇宙保安庁としてのプロの仕事だぜ。こう行った情報収集や情報処理の仕方とかも身につけないと行けないな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▲月Ω日

 

 本日、ようやく【ボガール】の行動パターンに関する情報が纏まった……ちなみに情報の纏めては殆ど21先輩の仕事である。この辺りは経験がモノを言うから俺だとイマイチ役に立てなかったな、今後頑張ろう。

 そして肝心の【ボガール】の行動パターンは主に大型の怪獣を餌としていて、更に知的生命体が居る惑星を優先して狩場にしている事が分かった。

 ……俺も【ボガール】自体が40メートル以上の大型生物だからそれに見合う大型怪獣を餌とするのは資料を見れば分かったが、知的生命体が居る惑星を狙っているのは初見だとちょっと分からなかったな。

 

 21先輩曰く、どうも【ボガール】は擬態能力を活かしてその惑星に住む知的生命体の文明圏に紛れ込んで追跡を躱す事があるらしく、知的生命体が居る惑星を優先しているのは宇宙警備隊の様な追手から逃れやすいからだろうとの事。

 この“変身能力を使った文明圏への紛れ込み”は多くの宇宙人が使うから覚えておいた方が良いと言われた……というか、ウルトラ族も地球とかでやってるよなコレ。

 ……そう言った連中を見分けるコツとかも道中説明すると21先輩に言われたりした後、俺は【ボガール】の調査の為にウルトラの星を飛び立ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月α日

 

 今日はM25星雲支部で聞き取り調査を行った……何でも以前の【ディノゾール】達の異常行動事件は【ボガール】によるものであるらしく、この支部の隊員であるセドンと言う人が遭遇・交戦したそうなので話を聞く事にしたのだ。直接交戦した者の生の意見は重要だからね。

 

 そのセドンさんに聞いた話によると、まず【ボガール】が現れたのは“惑星ポントス”という表面積の九割が海に覆われた海洋惑星で、そこには銀河連邦に加入している水棲可能なヒューマノイドタイプの生物“ポントス人”が文明を築いていおり……そして例の【ディノゾール】の群れが事件の時に標的へと選んだ惑星であったそうだ。

 事件の際には真っ先に自分達の惑星に【ディノゾール】の群れが接近している事に気付き銀河連邦と宇宙警備隊に報告、それから協力して群れを別の無人惑星に誘導したのだと言う。

 ……それで群れが誘導された原因の調査も一緒に行ったのだが、そこでポントスに生息していた【ゲスラ】【ツインテール】【ガンザ】【タガール】などの水棲怪獣がポントスに侵入していた【ボガール】に捕食されていた事が明らかになったのだ。

 

 侵入された好き勝手に捕食活動をされて気付かなかったと思うかもしれないが、ポントス人は基本的に惑星上では一割の陸地とその周辺の海洋に文明を作っており活動圏は惑星内の三割程度で、残りの七割は水棲怪獣達の住処としてお互いに不可侵にする事で住み分けて緩やかな共生関係を築いていたので気付く事が遅れたらしい。

 ……どうもポントス人が宇宙のコロニーに主となる生息圏を移してから数千年近く共生が上手くいっていた為に監視が緩んでおり、更に【ボガール】は文明圏には一切手を出さなかった事も原因の様だが。

 

 事態が発覚してこのまま怪獣が捕食され続ければ“お互いに不可侵”というバランスが崩れてしまうと考えたポントス人は、調査に同行していたセドンさんと協力して【ボガール】の討伐を試みたのだが、その圧倒的な戦闘能力にセドンさんが負傷してポントス人の討伐隊も大打撃を受けて撤退に追い込まれたそうだ。

 ……まあ、セドンさんは事前にM25星雲支部に援軍の要請を出していたので直ぐに援軍が来て、それを察知した【ボガール】は形勢が悪くなったと判断したのか、或いはもう十分に食ったと思ったのかあっさりと惑星ポントスから姿を消したと言う。

 

 話を聞く限り【ボガール】には『銀河連邦加盟レベルの技術力を持つ惑星に侵入出来る隠密能力』『事態の発覚を送らせる為に文明圏を狙わない悪知恵』『その惑星の戦力+宇宙警備隊員を退ける戦闘能力』がある様だ……改めて見ても面倒過ぎる。

 ただ、そんな悪知恵があるのに【ディノゾール】の群れを呼び込むという目立つ行為をしたのが何故か気になったのだが、セドンさんの証言によるとヤツは『せっかく餌を呼び込んだのに邪魔をしてくれて忌々しい。……だがもうこの惑星の餌には飽きた』と言っていたらしいから、おそらく最後に派手にやろう程度の気持ちでやった事なんだろうと21先輩は推測していた。

 ……つまりは『力と知恵があるのに食欲に任せて短絡的な行動を取る』という人格らしい様だ。資料を見た時点である程度予想できていたが本当にタチの悪いな。こんな相手を放置して置くわけにもいかないしな、なるべく早く何所を突き止めないと。




あとがき・各種設定解説

アーク:資料集めで活躍

セブン21:思ったより新人が優秀なので内心驚いている
・実はアーカイブでの情報入手は難易度が高いので宇宙保安庁でも利用者が少ない。

惑星ポントス:本作オリ惑星
・ポントス人の外見は水棲行動可能なエラっぽい器官や水かきがある地球人サイズの人型で、主な産業は養殖した海産物や水棲怪獣との共存の為に発達した水環境関係の技術の資材の輸出など。
・ただ、怪獣とは住み分けによる共生という道を選んだので武力に関してはそこまで高くなく、惑星防衛の為に銀河連邦に加盟した。
・作者的には、この宇宙にあるまあ一般的な知的生命体の文明がある惑星の一つをイメージして設定した感じ。

セドン:モブ警備隊員
・宇宙警備隊の中堅どころ隊員で戦闘能力的にはそこまで高くないが、ウルトラ族としては珍しく泳ぎが得意で水中戦に長けているので惑星ポントスの担当に選ばれた。
・作者的には趣味は水棲惑星での水泳とか考えているが今後の登場予定は未定。

【高次元捕食体 ボガール】:現在M78スペースで活動中
・惑星ポントスでの行動は大体21の推測通りで、本人的にはシーフードを食べに来たが食い過ぎて飽きた感じ。
・餌を狩る時や“食事”の時には本能・食欲に忠実に行動するが、それ以外の時には色々と悪知恵を働かせて自分が行動しやすい様にしている。


読了ありがとうございました。
ギャラファイも第2部が終わり第3部が始まる今日この頃。6兄弟の活躍やらコスモミラクル光線だとか本当にファンサービスが過ぎる(褒め言葉)


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新人警備隊員アークの日記:驚愕編

 ◉月Γ日

 

 M25星雲支部での情報収集を終えた俺と21先輩は、次にアンドロメダ星雲支部に訪れて【ボガール】についての情報収集を行った。更に今回はアンドロ警備隊にも聞き込みに回った。

 ちなみに異なる治安維持組織には宇宙警備隊でも知らない様な情報がある事も多いとは21先輩の弁だ……この前作った伝手が早速役に立ったな。やっぱり協力関係と言うのは重要だね。

 

 それで聞き込みの結果だが、どうやらアンドロ警備隊のアンドロウルフさんが【ボガール】と交戦した事がある様だった……ただ、彼はその戦いの結果は散々なモノだったと苦々しい表情で言っていたが。

 ……何でも彼はとある惑星に住んでいた怪獣を食い荒らしていた【ボガール】を討伐する為に向かったのだが、そこで怪獣を食らっていたヤツと何度も交戦したのだが逃げられ続けたらしい。

 それでも彼はアンドロ警備隊の援軍が来るまで戦い続けたのだが、ヤツは援軍が近づいた時点であっさりとその惑星から姿を消してしまったと言う。

 

 大体、惑星ポントスの時と同じパターンだな。実力に関してもアンドロウルフさんはウルトラ兄弟とかと比べても遜色無いレベルだと思うのに、そんな彼でも【ボガール】は仕留めきれなかったのか。

 ……と思ったが、向こうから渡された記録資料を見ると【ボガール】もアンドロウルフさんと正面から戦うのは不味いと思ったのか、直接戦闘をとにかく避ける様に行動したり、凶暴な怪獣を呼び寄せて現地住民を襲わせる事で彼が自分を追えない様にすると言った事もしていたらしい。どうやら相手が強敵だと思えばそう言った手練手管を使うみたいだな。

 

 また、21先輩が『次元移動能力に長けたアンドロ警備隊なら【ボガール】の後を追えないか』と聞いていたが、どうも向こうは暗黒宇宙とかを経由して次元を移動しているらしく追跡は出来なかった様だ。

 ……そもそもアンドロ警備隊って人員が少ないからな。他にやるべき仕事がある以上そちらに回せる戦力が無いみたいだ……ウルフさんは凄く悔しがってたけど、俺達に“アイツをぶっ倒してくれ”と言ってくれたから頑張らないとね。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月Ω日

 

 ……とまあ、それから【ボガール】を追って宇宙警備隊の各支部や協力関係にある治安維持組織を回って聞き込みを続けたのだが、余り芳しい結果は得られなかった。

 ……と言うか、宇宙規模でテレポートしまくる怪獣を見つけ出すとか無理ゲーじゃね! 当たり前だけどこの宇宙広すぎるんだよ! せめて居場所が分からないとどうしようもないんだが……。

 

 一応、各支部で【ボガール】の目撃情報や交戦情報とかは得られたんだが、どれもアンドロ警備隊の時と同じ様に逃げ回りながら怪獣を食べるとかだったり、或いは返り討ちにされたとかだったのでイマイチ有力な情報は無かった。

 ……ヤツが目撃されたという情報を聞きつけて俺と21先輩が駆け付けた時には既に逃げられていたというのも何度かあったからな。この広大な宇宙では情報伝達の速度がどうしても遅くなるし。

 そもそもアイツはどうも食欲のままに美味しそうな怪獣がいる惑星に訪れているみたいだから、中々行動パターンが絞れないし……どうにかアイツの動きを捕捉出来れば良いんだが……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◼️月α日

 

 よしっ! ペルセウス座星雲支部に【ボガール】が現れたという情報が来たぜ! ここからなら近いし今度こそ間に合うか? 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◼️月β日

 

 だー! また逃げられた! 間に合わなかった、ちくしょう! ……あの【ボガール】め、俺と21先輩が来た事を察して逃げやがったな。同じタイミングでペルセウス座星雲支部の援軍も来ていたからそっちを察したのかもしれないが……。

 ……それと追跡もやっぱりダメだったし。21先輩曰く、どうも宇宙警備隊や銀河連邦の治安維持の監視が及ばないアンダーグラウンドな地区に逃げ込んでいる可能性が高いらしい。

 どうやら事前にその手の場所にいくつかの逃亡ルートを設定しているっぽいそうだ。本当に悪知恵が回る事だな! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◼️月Σ日

 

 うむむ、やはり【ボガール】を捕捉するにはテレポートをどうにかするか、位置情報を探知出来る様な手段が無いとどうにもならない気がする。聞き込みだけではどうしようもない気が……。

 ……まあ、今回の調査任務の主目的は『現在この宇宙で起きている異変の黒幕が【ボガール】かどうか。或いは【ボガール】がこの宇宙で起きている異変に関わっているか』を確かめる事だから、聞き込みによる情報収集も無駄では無いんだがね。

 21先輩も『この手の聞き込みは九割がた無駄になるもの』って言ってたし。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◎月Γ日

 

 今日も俺達は【ボガール】を追っているのだが中々捕まらない。最近では21先輩が知り合いのフリーの情報屋に聞き込みに行っている……そう言った人達にしか知られていない情報とかもあるから、先輩はある程度真っ当な相手を選んで繋がりを持っているらしい。

 ……尚、そう言った情報屋は知らない者に会ってはくれないという事なので俺はお留守番である。もうちょっと経験を積んだら紹介してくれると言われたので大人しく近くの支部で情報整理しつつ待つでござる。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◎月Δ日

 

 支部で書類整備してたらフリーの情報屋に聞き込みに行っていた先輩が帰って来た……のだが、何とも言いがたい様な微妙な表情をしていた。変な情報でも摑まされたのかな? 

 そう言うわけで聞いてみると、どうも情報屋の所に【ボガール】に関する妙な噂が入って来ていたらしい。

 

 何でも『ハンターナイトツルギ』を名乗る鎧を着た謎の戦士が【ボガール】と“何度も”戦っているという噂があるんだとか……そんでもって、そのツルギさんは目撃した者の証言によると“ウルトラ族”である可能性が高いんだとか。光線とか光剣とか使ってたらしいし。

 ……色は青系だったらしいからもしウルトラ族ならブルー族系の戦士なんだろうが、宇宙警備隊のメンバーが【ボガール】と戦っているならその情報ぐらいは来る筈だしな。

 光の国以外にもウルトラ族は住んでるからもしかしたらそちら側の可能性もあるが、あの【ボガール】と互角に戦える程の実力者なら有名にはなってると思うんだが『ツルギ』という名は俺も先輩も聞いた事がないんだよな。

 

 他にも気になる点としてテレポート持ちで逃げるのが異様に上手い【ボガール】相手に、そのツルギ何某は“何度”も戦っているという所だ……俺達や宇宙警備隊各支部が追っているのに未だに捕まえられない【ボガール】を追える以上、そのツルギとやらは“何らかの方法で【ボガール】の居場所を探知しているのでは”と言うのが先輩の意見で、これまで散々苦労した経験から俺も同じ考えである。

 また【ボガール】は警備隊の各支部や銀河連邦からも追われており、もしそんな位置を探知出来る技術や能力があるならとっくに情報共有されているだろうという事で、おそらくそのツルギとやらは個人で【ボガール】を追っているのではないかと推測出来る。

 ……噂によるとツルギは鬼気迫る様な感じで【ボガール】と戦っていたらしいし、多分復讐とかではないかと思われる。

 

 まあ、ここまで書いた事は入手出来た噂レベルの情報から推測した事だから確証は殆ど無いんだがな。とにかく一旦光の国に戻ってその『ツルギ』という者が本当にウルトラ族なのか関係各所に問い合わせる必要があるだろうな。

 ……しかし、何か凄く嫌な予感がするんだが……やめよう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 さてそんな訳で俺と21先輩は光の国に戻って来たのだが、宇宙保安庁の方に『ハンターナイトツルギ』の事について問い合わせたら何故か『その場で待機していてくれ』という命令が下った……話を通していたビスト長官は何か焦った様な雰囲気だったし、どうやら嫌な予感が当たりそうな気がする。

 そうやって控え室で待つ事しばらく、ビスト長官に連れられた科学技術局のフレアさんと宇宙警備隊()()であるゾフィー(ウチの親父)がやって来た。

 ……その面々を見た俺と21先輩は少し驚くと共に、この一件が予想以上に厄介な事であると思い至り真剣な表情になった。

 

「……ゾフィー隊長に科学技術局のフレア博士まで呼び出したんですか。……長官、一体あの『ハンターナイトツルギ』には何があるんですか?」

「うむ、その事に関しての詳しい話はフレア博士にしてもらう」

「分かりました。……実はその『ハンターナイトツルギ』の正体は、先日連絡が取れなくなった科学技術局所属のヒカリ博士なんだ」

 

 何時もとは違い物凄く深刻な雰囲気なフレアさんは驚愕の事実を語り始めた……何でも連絡が取れなくなったヒカリさんを探していた科学技術局は彼が最後に残した『これから惑星アーブに向かう』という通信から、様子見の為に技術局で手が空いており外宇宙での活動経験があるトレギアさんをその惑星アーブに向かわせたらしい。

 ……ところが惑星アーブに訪れたトレギアさんが見たものは生命の気配一つ無く完全に死に絶えた惑星アーブと、その中で一人項垂れているヒカリさんだったのだ。

 

「トレギアから話を聞いた所によると惑星アーブに【ボガール】が襲来して、ヒカリはそれを阻止しようとしたが失敗したって言うのがそうなっていた経緯らしいな」

「……惑星アーブといえば何万年も争う事無く進化した超高度生命体が住む星だと聞いた事があるが、まさかボガールの手に落ちていたとは」

 

 21先輩は『惑星アーブ』について知っていたらしく沈痛な表情を浮かべていた……そんな星を守れなかったならヒカリさんがショックを受けるのも無理はないだろうな」

 

「……だが、話はそれで終わらなかったんだな?」

「ああ、そうして項垂れるヒカリをトレギアが見つけて連れ帰ろうとしたのだが、そこで滅びた惑星アーブの民の怨念がヒカリに取り憑いて鎧と化したんだ」

 

 そして、その誕生経緯からして明らかにヤバイ鎧を纏ったヒカリさんは自身を『ハンターナイトツルギ』と称して【ボガール】への復讐を行うと宣言、それを制しようとしたトレギアさんを攻撃した上で何処かに飛び去ってしまったらしい。

 ……まさかヒカリさんとトレギアさんがそんな事になっていたなんて……。

 

「……それでトレギアさんの方は? 怪我とかは大丈夫何ですか?」

「ああ、怪我の方は大した事無くてもう治っているんだが、アイツもヒカリが暴走したのを目の前で見た事が大分応えているみたいでな。今は仕事を休ませて療養させてるよ」

 

 俺の質問にフレアさんが答えてくれた後に続いて、親父とビスト長官が今後の宇宙警備隊としてこの件をどうするのかを話し出した。

 

「では今後の宇宙警備隊がどうこの件に当たるのかだが……まず『ハンターナイトツルギ』の正体がヒカリ博士である事は可能な限り秘匿する事にする。警備隊の中でもこの件を伝えるのは限られた人間だけだ」

「……ヒカリ博士は『命』の固形化技術などで宇宙ではかなり有名になっていますからね。下手に騒ぎ立てると要らぬ事を考える者が出ますか」

「お前達が集めた情報によれば、現在のヒカリ博士はあくまで【ボガール】を執拗に追い回しているだけで無闇に暴れ回ってはいない様だからな。今なら事が荒立たぬ内に抑えられるかもしれんしな」

 

 まずはヒカリさんの事の可能な限りの秘匿……まあ今の所『ハンターナイトツルギ』=ヒカリ博士ってのは知られてないからね。これが広がるとヒカリさんを狙う人達とかが増えかねないし。

 

「そしてお前達には引き続き【ボガール】の後を追ってもらうと共に、同じくヤツを追っているヒカリ博士に接触する任務を追加で言い渡す。……何とか説得するか、最悪無理矢理にでも光の国に連れ戻して貰いたい」

「勿論、他の宇宙警備隊員の少数の信頼出来る者に事情を話して捜索に当たらせている。……のだが、知っての通り現在宇宙規模で不穏な動きがある以上、余りこの件にばかり人手を割く訳にはいかないのが現状だ」

 

 当然だが秘匿するだけで放置とかする訳がなく、警備隊としては信頼出来る者に極秘任務を与えてヒカリさんを連れ戻す事にした様だ。

 

「それは構いませんが……アークもこの任務に参加させるんですか? 確か彼はヒカリ博士の知り合いだと聞いていますし、新人には辛い任務になるのでは……」

「大丈夫ですよ21先輩。知り合いである俺の言葉なら聞く可能性もありますし、それでダメならブン殴ってでも制圧して連れ戻せばいいだけでしょう?」

 

 そんな風に21先輩が俺の事を心配してそう言ってくれたが、これでも宇宙警備隊に入った時からそのぐらいの覚悟は出来ているからな! 大丈夫ですよ! (何故かちょっと引かれたけど)

 ……それにさっさと解決しないとヒカリさんの立場がドンドン悪くなるしね。ここは心を鬼にしてでも早期解決を目指さないと。

 

「実際、今のヒカリさんはアーブの民の怨念に取り憑かれて暴走しているんでしょうからね。早くどうにかしないと」

「うむ、最悪の場合【レイブラッド】に憑依されて光の国を襲ったベリアルの様になりかねんからな」

「……アレ? ベリアルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃ無かったっけ?」

 

 親父の発言に対して俺がそんな事を言ったら周りから怪訝な目で見られた……ああいや、確かに親父の言う通り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な。

 ……士官学校でも習った筈なのに何で俺はこんな風に思ったんだろう? 疲れてるのかな。

 

「……とにかく、どうにかしてヒカリ博士を連れ戻してくれ。【ボガール】相手の任務と並行なのでキツイとは思うがよろしく頼む」

「こちらの方でも可能な限りの支援をしよう」

「分かりました。お任せ下さい必ずヒカリ博士を救出してみせます」

 

 そんな訳で俺と21先輩の任務に『ヒカリさんの救出』が追加されたのだった……彼には本当に色々と世話になったしどうにかしてやりたいが、ボガールの追跡まで含めるとかなり難易度の高い任務になりそうだな。頑張らねば!




あとがき・各種設定解説

アーク:何か変な電波(並行世界)を受信し始めた
・作者的にはギャラファイがファンサービスの嵐だったので思わずネタを入れたくなった(メタァ

セブン21:長年宇宙保安庁で働いているので色々と伝手がある
・彼が繋がりがあるのはごく真っ当(白よりのグレーぐらい)な情報屋で情報の報酬も(経費で)ちゃんと払っている。
・向こうとしても報酬の払いがいい上に、いざとなれば最強の錦の旗である宇宙警備隊を頼れるのでwin-winの関係。

ヒカリ:とうとう闇堕ちして『ハンターナイトツルギ』という黒歴史時代に突入した。
・闇堕ちの描写はギャラファイ大いなる陰謀のエピソード5を見よう(ダイマ)
・尚、このツルギ=ヒカリは影響を考えて極一部にしか知らされていなかったので一般警備隊員は殆ど知らない。

ゾフィー隊長・ビスト長官:面倒な時に面倒な事が起きたので対応に苦慮している
・いち早く解決したいのは山々なのだが、光の国を代表するレベルの有名人であるヒカリの暴走であり下手に騒ぎを大きくするとマイナス要素しかない現状なので秘密裏に動くしかない状態。
・これに関しては下手をするとヒカリを狙う犯罪者や宇宙警備隊の士気の低下などで、現在不穏な空気が蔓延している宇宙の状況を更に悪化させかねない事情もある。
・そこでツルギ=ヒカリが知られていない事を利用して、それを秘匿しつつ『謎の戦士ハンターナイトツルギ』を追うという名目で警備隊を動かして情報を集めながら信用出来るメンバーに連れ戻しを頼む方針。


読了ありがとうございました。
あけましておめでとうございます(ちょっと遅い)今年も小説投稿頑張っていきますので応援よろしくお願いします。


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新人警備隊員アークの日記:捜索編

 ──────◇◇◇──────

 

 

 サーベル暴君 マグマ星人

 円盤生物 サタンモア

 怪鳥円盤 リトルモア 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◎月Ω日

 

 まさかヒカリさんが闇堕ちして『ハンターナイトツルギ』とかいう厨二ネームを名乗って復讐の為に【ボガール】を追い始めたとは、このアークの目をもってしても見抜けなかった……。

 それはともかく、俺と21先輩にはヒカリさん……もとい『ハンターナイトツルギ』の追跡と説得、後保護(回収でも可)の任務が言い渡されたのだった。

 

 ……とはいえボガールと違ってヒカリさんはこの光の国の住人なので、その固有のエネルギー波を追って追跡するぐらいは出来るだろう。宇宙警備隊本部には宇宙に出ている光の国の住人を追跡するシステムとかもあるし、上手くいけばボガールの位置も一緒に分かるかも。

 とりあえずその辺りの探知作業が終わるまでは保安庁の事務仕事をする事になった。こう行った作業の内容も覚えておけと言われたからな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月α日

 

 ……と思っていたがダメだったよ! なんかフレアさん曰く『ツルギ』になった影響でエネルギー波長がかなりに変わっているらしく反応が捉えにくいみたいだ。

 まあ全く追えない訳でも無いので、今技術局の方で持ち運び可能なウルトラ族のエネルギー波長探知装置を急ピッチで作って貰っている。それを持って反応があった方向に飛んで詳細位置を探るという寸法さ。少なくともボガールを追うよりは楽だろう。幸い既存の装置を持ち運び可能にするだけだから明日には完成するとの事。

 

 また、その時に技術局から聞いた話なんだが、なんでも今度地球に派遣される隊員がメビウスに決まったらしい。例のブレスもメビウス用に調整されて渡される様だ。 名前は『メビウスブレス』かな? 

 ……前にも書いた気がするが、現在の宇宙警備隊色々と忙しすぎてベテラン隊員をまだ何も起こっていない惑星に派遣する余裕は無いし、地球には力を失ったウルトラ兄弟がいるから派遣される人員は新人から選ぶしかない。

 そして新人の成績上位組である俺やゴリアテやフォルトはそれぞれ特殊部署で忙しくしてるので対象としては除外で、更には本人の強い希望があって割とあっさり決まったらしい。

 

 ただ、何故か他にも声を掛けた俺と同世代の新人は地球派遣に難色を示したという話も聞くが……後、特に関係無いが俺は学生時代に『地球は魔境』みたいな話をした事がある気がする。特に関係は無いが(2回目)

 まあそんな訳で地球派遣が決まったメビウスが現在タロウ教官に急ピッチで扱かれているらしい。地球派遣任務を完遂すればウルトラ兄弟の仲間入りという話も聞こえてくるので中々光の国でも話題になっている様だ。

 ……だけど噂が広がるのがなんか早い気が。まさかこれってヒカリさんの問題から目を逸らす為の情報操作……いや、やめよう。俺の勝手な想像でみんなを混乱させたくない。

 

 塞ぎ込んでいるトレギアさんの事も気になりはするんだが、俺も光の国に居る間はずっとビスト長官の命令で書類整理とかアーカイブでの資料の捜索とかをやらされていたから話す暇は無かった……この前の資料集めや昨日の事務仕事の出来でで『コイツは使える』と思われた感がある。

 ……宇宙警備隊全体でも今は色々と人員がカツカツだからな。例えば経験のある隊員がほぼ全員働いていて地球派遣に新人のメビウス以外が候補に上がらないぐらいは。この宇宙規模の混乱が収まらない限り警備隊のブラック業務は続きそうである。

 まあ、トレギアさんについてはフレアさんが自分や親友であるタロウさんで気に掛けておくと言っていたし大丈夫だろう。多分。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月β日

 

 そうして完成したエネルギー波長探知装置(大体ブレスレットサイズ・亜空間収納機構内蔵)を受け取った俺と21先輩はヒカリさんの反応らしきものがあった方角へと飛んで行った……もう書類仕事は嫌だ(泣)! 俺は現場に戻るぞ! 

 

 そんな感じでやって来たのはS・P5星雲支部。光の国の装置で計測した反応によるとウルトラの星からこの支部の方角に反応があったみたいだからな。

 ……まあ、正確な距離や位置とかは分からなかったので21先輩と二人でこの付近を見て回りつつ、装置の反応や聞き込みによる情報収集によってヒカリさんの現在地を絞り込む事になるだろう。

 とりあえず役割分担で21先輩が聞き込みと情報収集、俺が探知機を使って宙域をパトロールしつつヒカリさんの位置を探るという話になった。先輩からは『今のアークならパトロールぐらいは問題ないだろう。だが何かあれば直ぐに連絡する様に』と言われたし頑張ろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そうやって探知機の反応を頼りにヒカリさんを探しながらパトロールをしていた俺ですが、S・P5星雲にある『惑星ランディア』という星で警備隊員が襲撃を受けてピンチなので近くにいた俺に救援要請が入ったのでした。

 

「……まあ、いくら極秘任務の最中でも、本来の保安庁としての仕事を疎かにする訳にも行きませんからね」

『そうだな。……他からも援軍は来るし、俺も直ぐに向かうから無理はするなよ』

「了解です21先輩」

 

 先輩とのテレパシーによる連絡を終えた俺は全速力で惑星ランディアへと飛んでいった……確か惑星ランディアは文明とかは無くて、怪獣が住む自然溢れる星らしいから、現地勢力への連絡とかは不要だな。

 

「……よし到着。さてと救難信号を出した隊員は……あそこか」

 

 そうして惑星ランディアに到着した俺は、救難信号の反応とウルトラ族の超感覚を駆使してそのシルバー族の男性隊員を見つけ出した……だが、俺が見つけた時にはその隊員は三人の人型宇宙人に囲まれており、今にもその内一人が()()()()()()()()()()()()()に貫かれようとしていた。

 ……流石にヤバそうなので俺は全力でその場に急行しつつ右腕のアークブレスから光剣『アークブレード』を展開、そのまま隊員とそいつの間に割り込みながらサーベルを斬り払いつつ弾き飛ばした。

 

「セイヤァ!!!」

「何ィ⁉︎」

「更にリモートウルトラスラッシュ! そんで離脱!」

「「グワッ⁉︎」」

「え?」

 

 そんで敵が一瞬怯んだ隙に左手からウルトラスラッシュ(八つ裂き光輪)を形成して投げ飛ばし、更に念力でコントロールする事で旋回させて取り囲んでいた二人に当てて牽制しつつ光剣をしまって隊員を掴んで囲みを離脱……この間約十秒ぐらい。

 

「救援に来た宇宙保安庁のアークです。大丈夫ですか? 怪我は?」

「ゾ、ゾフィー隊ちょ……いえ! 大丈夫です! 自分はS・P5星雲支部所属のリードです。ええと、怪我も動けない程では!」

 

 うん? 親父と俺を勘違いしたのかな? まあ似てるしね……さて、じゃあ怪我をしているリードさんを後ろに庇いつつ連中──マグマ星人達に何故こんなアホな事をしたのか聞いてみるか。

 

「……で? 貴様ら勤務中の宇宙警備隊員を襲うとはどういうつもりだ? そこのマグマ星人ども。宇宙警備隊に喧嘩を売ってるのか? そっちがその気ならこっちも高値で買うぞオラァ」

「えぇ……なんかあの隊員ウチらよりチンピラっぽいですよ」

「まあ確かに……って! 俺達はチンピラじゃねえ! 偉大なる()()()()()()()()()()()の配下である『スリーマグマ』だ!」

 

 アレ? 21先輩からはやらかした宇宙人相手にはある程度威圧した方が良いって言われたからやってみたんだけど間違えたかな?

 ……しかしエンペラ星人の配下ねぇ。ウルトラ大戦争でその名前が伝説の物になってからは自称『エンペラ星人の後継者』や『エンペラ軍団』がちょくちょく現れてるから、その発言にはイマイチ説得力がないぞ? 

 

「『スリーマグマ』だか何だかは知らんが貴様らには直ちに投降する権利がある。今なら情状酌量の余地ぐらいはあるぞ、多分」

「怪我してる雑魚を庇っていて数でも負けてんのに何でそんなに強気なんだよ⁉︎」

「ええいっ! もういい、やっちまえ!!!」

 

 こちらは穏便(穏便とは言っていない)に投降を促したのだが、何故かマグマ星人達はいきなりキレ出してサーベルを振りかざして襲い掛かって来た……そう来るなら仕方がない、遠慮なく叩き潰してくれよう。

 

「という訳で、セブンガー! 君に決めた!」

『──! ──!!!』

「な、なんだこのドラム缶みたいなロボットは⁉︎」

「怯むな! ぶっ壊せ!」

 

 ……という訳で、俺は初手に『怪獣ボール』を放ってセブンガーを前方に召喚して壁にした。それに対してマグマ星人達は一瞬怯んだものの即座に攻撃を仕掛けたのだが、科学技術局のマッド謹製のスーパーロボットであるセブンガーは彼等のサーベル攻撃をボディに受けても傷一つつかずに全て弾き返した……流石セブンガーだ、何ともないぜ。

 

「なっ! 硬い⁉︎」

「セブンガー! 一人は任せる! ウルトラディフェンダー! アークブレード!」

『────!!!』

「ゴハァ⁉︎」

 

 マグマ星人の内一人の胸部にセブンガーが全力でラリアットを叩き込んで吹き飛ばすのを尻目に、俺は左手へウルトラスパークを盾型に変形させた『ウルトラディフェンダー』を持ち右腕から光剣を再展開して残り二人のマグマ星人に斬りかかっていった。

 まず一方のサーベルをディフェンダーで弾きつつ光剣で斬り付け、その直後に横から斬りかかって来たもう一人を回し蹴りで迎撃しつつそのまま身体を旋回させて盾で殴り飛ばした……うむ、この盾と光剣のスタイルは近接戦で結構使えるな。俺に合ってるかも。

 

「「グワァッ⁉︎」」

「ゴッバァァ⁉︎」

『──! ──!!!』

「さて、投降する気になったかな? ならないならもうちょっとボコるが」

 

 俺に叩き伏せられるかセブンガーに殴り飛ばされて地を這うマグマ星人達に向けて、俺はセブンガーと共に並んで再び善意()で投降を促した……のだが、連中にこちらの善意は伝わらなかったのか、その内の一人が何やら懐から一つの小さなカプセルを取り出して叩き割った。

 

「クソォ! 舐めるんじゃねぇ! だったら皇帝様から賜ったコイツを使ってやる! ……来ぉい! ()()()()サタンモアァァァ!!!」

「GYAAAAAAA!!!」

 

 そうして叩き割ったカプセルから強烈な光が放たれてそこから一対の翼と長い首、そして鋭い嘴を持った鳥の様な怪獣が姿を現した……って、コイツ“円盤生物”って言ったか⁉︎

 

「円盤生物だと? 既に滅びたブラックスターの怪獣兵器を何故貴様らが持っている」

「フハハハハ! 驚いたか! 我らが皇帝様のお力を持ってすれば円盤生物を復活させる事など訳ないのだ! ……さぁサタンモアよ、奴らを叩き潰すのだ!」

「GEEEEAAAAAA!!!」

 

 そのマグマ星人の指示を受けた【円盤生物 サタンモア】は、体内に収納されていたらしいサタンモアを30センチメートルぐらいに小型化した様な生物を大量に放出し始めた。

 ……チッ、どうやら本物の円盤生物みたいだな。コイツらがエンペラ星人の配下ってのもフカシじゃないのかも……。

 

「この【リトルモア】はサタンモアの体内からいくらでも出て来るぞ! さあ行けい! 奴らを串刺しにするのだ!」

『KYAAAAAAA!!!』

「GYAAAAAA!!!」

 

 そして無数に召喚されたリトルモアが俺達に一斉に襲い掛かって来て、更にはサタンモアも口からのミサイルや目からの破壊光線でこちらを攻撃して来た。

 俺はミサイルや光線を回避する事は出来たものの、群がって来るリトルモアは余りに数が多過ぎるので回避は無理だった……まあ、30センチぐらいの鳥に突かれるだけだから大したダメージにはならないんだが、怪我してるリードの方にも向かって来るからひたすらに鬱陶しい! 

 

「こちらの事は気にせず敵にだけ注意して下さい! 自衛ぐらいなら何とかなります!」

「分かりました! セブンガー、サタンモアを止めろ!」

『────!!!』

「GYAAAAAA!!!」

 

 とりあえずリードの方は大丈夫そうなので俺はセブンガーに指示を出して、それに答えたセブンガーは嘴を向けて突っ込んで来たサタンモアをその胴体部で受け止めた……セブンガーの強度ならリトルモアはおろかサタンモアの攻撃でも傷一つつかないからな、これで足止めにはなるだろう。

 ……問題はダメージが回復したマグマ星人達がこっちを攻撃しようとしている事何だよな。リトルモアの攻撃が邪魔で迎え撃つのは難しいか? 

 

「ヘッヘッヘ、こうやって連中が手をこまねいている隙にこのサーベルのサビに「イヤァァァァァァッ!!!」グワァァァァッ⁉︎」

「「リーダァァァ⁉︎」」

 

 ……と思っていたら、そのマグマ星人達のリーダーっぽいヤツがいきなり上空から現れた()()がそのまま放った飛び蹴りを食らって吹き飛ばされたのだ。

 そうして派手な登場で地上に降り立ったのは鍛え抜かれた真紅の身体に獅子の様な頭が特徴であるウルトラ兄弟の七人目──ウルトラマンレオその人であった……まさか彼が援軍に来てくれる人とは、これならいけるな。

 

「大丈夫か、救援信号を受けたから助けに来たぞ! しかし、何故ここにサタンモア……円盤生物が居るんだ?」

「このサタンモアはあの自称エンペラ星人の配下らしいそこのマグマ星人達が呼び出したヤツです。……サタンモアは俺達で倒すので連中はお任せします」

「……分かった。アイツらには色々と聞きたい事があるしな」

 

 なので俺はレオさんに事情を説明しつつマグマ星人達の相手を任せて、セブンガーと共にサタンモアを倒す事にした……まずは鬱陶しいリトルモアから潰すか。今ならサタンモアはセブンガーが、マグマ星人達はレオさんが抑えてくれているし邪魔は入らないだろう。

 ……よし、ここはタロウ教官を始めとしたウルトラ兄弟より学んだ“窮地を覆す切り札”を使おう。

 

「そういう訳で今こそ! ウルトラスパウト!!!」

『KYAAAAAAA⁉︎』

 

 俺は全力で身体を()()()()()させながらウルトラ念力によって竜巻を作り上げる事によって、周辺を飛んでいたリトルモアを片っ端から竜巻に巻き込んで一箇所に集めて行く……これがウルトラ兄弟の伝統戦術『回れば何とかなる』である! 

 

「……よし、後は集めたリトルモアを頭上に纏めて……そのままスペシウム光線!」

『KYAAAAA!!!』

 

 そうやって一纏めにしたリトルモア供をスペシウム光線の広範囲連続照射で焼き払って行く……よし、焼き終わったから次はサタンモアの方だな。

 ……って、セブンガーがサタンモアの首根っこを付けて見事に抑え込んでるんだが。マッド謹製セブンガーまじつおい。

 

「よしセブンガー、そのまま叩きつけろ!」

『────!!!』

「GYAAAAA⁉︎」

 

 俺が出した指示に従ってセブンガーはサタンモアを地面に勢いよく叩きつけて悲鳴をあげる程の大ダメージを負わせた……その間に俺は三度右腕のブレスから光剣を展開して悶えるサタンモアに接近し……。

 

「チェストォォォォ!!!」

「GIGYAAAAAA⁉︎」

 

 そのまま全身全霊でサタンモアの首に光剣を振り下ろして頭部と胴体を切り分けて差し上げた……よし、動かなくなったし生命反応も無いから死んでるな。

 ……さて、じゃあレオさんの方は……。

 

「イヤー!」「グワー!」

「イヤー!」「グワー!」

「イヤー!」「グワー!」

 

 特に語る程の事もなく宇宙拳法カラテを極めたレオ=サンにマグマ星人=サン達はしめやかに気絶して制圧されてました。相手のダメージ量を見極めて的確な打撃を与える宇宙拳法の匠の技が光る戦いでしたね。

 ……そんな感じで戦闘が終わって気絶したマグマ星人達を拘束して支部へ輸送する為の援軍を待つだけの状況になった訳です。

 

「とりあえず、コイツらには円盤生物をどこで手に入れたか聞かねばならんな」

「一応サタンモアも死体が残る感じで倒したので調べれば何か分かるかもしれないですね。……後、セブンガーは今回本当に良くやってくれた。ゆっくり休んでくれ」

『──!』

 

 今回のMVPであるセブンガーに労いの言葉を掛けながら怪獣ボールに残した俺は、レオさんと一緒に援軍の到着を待っザザッザザザザザザ──……

 

 

 ──────◆◆◆──────

 

 

 そこは惑星ランディアからかなり離れた宇宙空間……何も無かった筈のそこに突如として()()()()()()が開き、その中から黄金の身体を持った人型の生物が現れた。

 

「……さて、あの『銀の鍵』の所有者の“覚醒”前の時間軸はここか」

 

 その『黄金の存在』は惑星ランディアがある方向を見ながら何かを呟いていた。

 

「『銀の鍵』……『門にして鍵』『一にして全、全にして一』『時空そのもの』とも称されるかの“大邪神”の断片。次元・時間・空間を掌握するあの力は私にとっても少々厄介なのでね、ここで一つ手を打たせてもらおう」

 

 そうして黄金の存在はおもむろに右掌を広げて、そこに非常に禍々しい雰囲気を漂わせている人間が使うぐらいのサイズである“一冊の本”を召喚した。

 

「とある地球に於ける()()()()()()()()()が作り上げた『銀の鍵』への干渉・制御を可能とする端末『ネクロノミコン』……これに私の力が合わされば“封印”を抜いて干渉する事も可能な筈だ。こちら側に引き込めれば上々だが、最低でも楔を打つぐらいは出来よう。扱いが少々難しい故に仕掛けるタイミングは見極めねばならないが」

 

 ……そう言った『黄金の存在』は再び虚空に黄金のゲートを開いて中へと入り……ゲートが閉じた後、その空間は再び静寂に包まれた。




あとがき・各種設定解説

アーク:ウルトラ兄弟から薫陶を受けているので当然“必勝戦術”も習得済み

セブンガー:ウルトラの星(のマッド)製なので超強い
・流石に根本的な技術レベルが違うので同盟の某特空機と比べても性能は圧倒的に上、特に装甲強度とかはウルトラマンの肉体を貫く様な攻撃にもほぼ無傷で耐えられるレベル。

トレギア:この後タロウが励ましに行ったが効果はお察し
・更にこれからしばらくの間、各種問題の解決の為に宇宙警備隊が超絶ブラック労働になるので彼に構う暇がなくなり一人で思い悩む事に。

リード:アーク達より一世代上ぐらいの一般隊員
・裏設定として昔ゾフィーに救われた事があるから憧れている人で、戦闘よりも交渉や調停で活躍するタイプの隊員という設定。
・尚、戦闘能力も宇宙警備隊の試験を突破出来ているので決して低くはなく、単に本編中の比較対象(アークとレオ)がおかしいだけ。

レオ:ウルトラ兄弟の大半が行動不能なので代わりに宇宙中を回っている

マグマ星人:『スリーマグマ』は自称
・一応エンペラ軍団の下っ端でありサタンモアは上の存在から渡された物で、このサタンモアはブラックスターのカケラから作られた【円盤生物 ロベルガー】生産の為のデータ収集用に再生産した物の一体。
・警備隊員を襲ったのはエンペラ軍団の名前を世に轟かせる為……と上の存在に言われていたが、実際はサタンモアの戦闘データ収集の為の捨て駒である。
・このサタンモアには撃破された時点で戦闘データを送信する機能(使用後は証拠隠滅の為に自壊する)があったので一応役目は果たした形。

黄金の存在:一体、何ソリュート誰タロスなんだ……!


読了ありがとうございました。
『ウルトラギャラクシーファイト大いなる陰謀』が余りにファンサービスゥ! だったので予定を変更してスーパーネタバレタイムを追加します。


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新人警備隊員アークの■■■■……

 ──────◇◇◇──────

 

 

 電脳巨艦 プロメテウス

 電脳魔神 デスフェイサー

 超合成獣人 ゼルガノイド

 アブソリュートタルタロス 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月Γ日

 

 例の自称『エンペラ星人の配下』の自称スリーマグマとか名乗ったはぐれのマグマ星人三人組についてだが、気絶した連中を遅れて来た21先輩やレオさんやリードさんと協力して支部に連れて行って色々と尋問しても大した情報は得られなかった。

 尋問した警備隊員に聞いた話だと、何でもあの三人が母星を出てチンピラとして宇宙でショボい悪さをしていた所に『エンペラ軍団の幹部』を名乗る者が現れて『エンペラ軍団に入るならこの【円盤生物 サタンモア】の入ったカプセルを渡そう』と言ってきたらしい。

 ……そしてあの三人はこう答えたのだとか……『『『YES!』』』と。即答かよって思わず突っ込んでしまった俺は悪くないと思う。

 

 それでエンペラ軍団(仮)に入った三人にカプセルを渡したソイツ(全身をローブで覆っていたので姿は分からなかったらしい)は最初の任務として『【サタンモア】を使った宇宙警備隊員の襲撃』を任務として言い渡したらしく、三人はその任務の為に一人パトロールをしていたリードを襲って昨日のアレの状況になったとの事。

 ……何というか、そんな姿も現さない様なヤツの言う事をよく聞く気になったな。マグマ星人は好戦的な種族なんだが短絡的な性格である者が多く、そういった連中は母星に居られなくなって宇宙に出てチンピラになる事が多いと聞くが。これはマグマ星が強大な軍事国家で使えない者は出て行け、と言う価値観があるかららしいけど。

 

 とにかく三人組から情報が得られなかったので、支部では方針を切り替えて俺が倒した【サタンモア】の死体を調べる事にしたらしい……が、そもそも肝心の円盤生物自体のデータが少な過ぎて中々成果は出ない様だ。

 ……実際に円盤生物と戦ったレオさんも“いきなり地球に襲来して現れた”ぐらいしか分からず、円盤生物やその母星であるブラックスターは全て粉々に吹き飛ばしたので生体構造とかも分からないとの事だ。

 とりあえず【サタンモア】はウルトラの星の科学技術局に回すと共に、出自不明な円盤生物を再生出来ている事からエンペラ軍団を名乗る者達は今回の宇宙規模の異変の黒幕である可能性が高いとして引き続き調査を行う模様だ。

 

 まあ、俺と21先輩は引き続きボガールとヒカリさんの捜索だがな。先輩の見立てではボガールがそのエンペラ軍団と関わっている可能性は高いみたいだし、支部の人にはヒカリさんの事を伏せてその線で行動すると言っておくそうだ。

 色々ときな臭くなって来たし出来れば早急にヒカリさんを見つけ出して連れ戻す必要がありそうだな、例え彼と戦う事になったとしても……まあ最悪『命を二つ持ってきた』すれば良いだけだしね! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月Σ日

 

 そういう訳で今日もS・P5星雲支部近辺でボガールかヒカリさんの情報が出ていないか聞き込みとパトロールを行った……のだが、いくつか両者の目撃情報が出たのだが居場所の特定には至らなかった。

 ……そして、それらの目撃情報が支部周辺にある複数の惑星で報告されていたので、どうやらこの2名はテレポートを駆使して様々な惑星を移動しながら戦い続けている様なんだよな。

 

 情報を纏めると、まずボガールが暴れる→それをヒカリさん──ハンターナイトツルギがアーブの鎧の力でそれを感知して接敵・戦闘→ボガールがテレポートで別の惑星に逃げる→ツルギがそれをテレポートで追うって感じだと俺と先輩は推測している。

 ヒカリさんもウルトラ族だから当然トゥウィンクルウェイやテレポーテーションは使えるからな……あの人って技術畑の人なのに戦闘能力も警備隊員クラスで念力や光線や剣術などあらゆる分野で一流の能力を持つ万能の天才だってフレアさんが言っていたし。メンタル面以外は。

 ……下手をすると例の『アーブの復讐の鎧』にはボガールの探知だけでなく、テレポートなどの空間移動能力を強化する効果とかがあるかもしれんしな。

 

 とにかく、あの二人が目まぐるしく各地を移動している所為で中々正確な何所が掴めないのが現状である。モタモタしていたらボガールが長距離のテレポートを行ってこの宙域から消える可能性もあるからな。そうなったらヒカリさんもそれを追って捕捉出来なくなるだろうし。

 ……どうにかしてヒカリさんかボガールの正確な現在位置さえ分かればな。そうすれば俺がリバーススタイルで親父譲りの長距離テレポーテーション──超能力に長けているのでゲートを使った空間移動以外にも普通のテレポーテーションも強化されるのだ──でその場に直行して21先輩が来るまで足止めと言う手も使えるんだが……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ヒカリさ〜ん、何処だ〜。ボガール〜! 出てこ〜い! ……って、呼び掛けに答えてくれれば簡単なんだけどねー」

 

 そんなアホな事を言いながら俺はS・P5星雲支部からそこそこ離れた宙域を()()でパトロールしていた……最新の目撃情報によるとこの辺りでボガールらしき強力な“空間の歪み”を感知したという事で詳しく調査をしているのだ。

 尚21先輩とはかなり距離を取って別行動で捜索しており、これはお互いの探知装置の反応する方向を照らし合わせてヒカリさんの詳細な位置を探る為のものなのだ……まあ、凄くアナログな方法ではあるが……。

 

「距離が離れていると大雑把な方向しか分からないこの探知装置で出来るのはこのぐらいだからな。ある程度の正確な位置さえ分かって仕舞えば俺のテレポーテーションでどうにか出来る」

 

 最も、それは装置の探知範囲内である()()()()()にヒカリさんが居ればの話なんだが……ボガールとヒカリさん次々と元居た恒星系から別の恒星系に移動してるから中々捕まらない。

 つーか、支部一つの担当範囲って大体“銀河一つ分”ぐらいだからなぁ。そんな広範囲をショボい探知機頼り、尚且つ二人だけで高レベルのテレポーテーション能力持ちの捜索とかキツ過ぎるぜ。

 

「……む、装置に念願の反応が! ……大雑把な方向が分かっただけだから、まだテレポーテーションを使ってもエネルギーを無駄に消費するだけか。取り敢えず21先輩に連絡を……」

 

 そうして俺は21先輩にテレパシーを使って連絡を取ろうとし……直後、背後から()()()()()()()()()()空間の歪みを感じ取ったので、咄嗟に連絡を中断して即座に背後を振り向いた。

 

「なっ……()()()()()()だと⁉︎」

 

 そこで俺が見た物は少し先の空間に突如として“黄金の穴”が開く光景だった……アレは間違いなく俺が使う『ブラックゲート』と同類の“空間と空間を繋ぐために開けられた穴”だな。俺の物とは違う所に繋がっている感じもするが。

 しかし、あんな風に空間に穴を開けられる存在は俺自身を含めてもそう多くは無い筈だが……と思ったその時、その黄金のゲートの奥から大出力のエネルギー反応を感じ取った俺は全力でその場から移動した。

 ……それとほぼ同時に黄金のゲートから()()()()()()()が放たれて直前まで俺が居た場所を凄まじい勢いで通過していったのだ。

 

「ッ⁉︎ 危なぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 咄嗟の回避が間に合ったお陰でその親父のM87光線(ちょっと手加減)に匹敵しうる超威力ビームが俺に直撃する事は無かったが、その余波だけで俺はバランスを崩して近くにあった無人の衛星まで吹き飛ばされてしまった。

 どうにか態勢を立て直してその無人衛星に着地した俺は一体なんなんだと思いつつ黄金のゲートを見上げると、何とその中からから全長が150メートル程ある巨大戦艦が姿を現したのだ! 

 

「……見た事無い型の戦艦だな。内部に生命反応は無いっぽいし無人艦か? 後、船体下部に大型の砲があるしさっき撃って来たのはアレか」

 

 そう俺が確認している間にもその巨大戦艦は意外とゆっくりした速度でこちらに向かって来た……まあ、こっちに攻撃して来た以上は敵だろうと判断した俺は迎撃の為にスペシウム光線の発射態勢を取ったのだが、それが放たれる直前に謎の巨大戦艦はいきなり()()し出したのだ。

 ……この間に攻撃すれば良かったのかもしれないが、その変形プロセスが“戦艦を一旦バラバラにして再度組み替える”という不可思議な方法だったので俺はつい警戒してしまい攻めに出る事は出来なかった。

 

『……◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』

「そうして今度はロボットか……これも見た事がないヤツだな」

 

 巨大戦艦が変形を終えると、そこには全身銀色でモザイク模様の様な黒い網の目があり右腕にはハサミ、左腕にはガトリング砲が備わっている黒い仮面の様な頭部を備えた身長70メートル程のロボットが立っていた。

 ……しかし、どう見ても変形前と後のサイズが違うんだが……と俺が考えていたら、いきなりそのロボットは左腕のガトリング砲をこちらに向けてそこから大量の弾丸を発射して来た。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

「ええい! ゼットレーザー!」

 

 警戒を怠っていなかった俺はどうにかその砲火を回避しつつ、反撃として片手から稲妻状の光線を放ったのだが相手の装甲に阻まれて大したダメージにはならなかった。

 ……そんな相手の装甲強度に歯噛みする事も束の間、今度は右腕のハサミがいきなり伸長して俺を捉えようと襲い掛かって来た。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

「ならっ! ウルトラディフェンダー! スラッシュ光線!」

 

 俺は咄嗟にそのハサミを左手に展開したウルトラディフェンダーで防ぎつつ右手から鏃状の光線を放って相手を牽制する……不味い、コイツ超強いからこのままだとヤバい。ここはセブンガーを出してヤツの相手をさせつつウルトラサインで援軍を呼ぶのがベターかな。

 

「つー訳で、出てこいセブンガー! ヤツを足止めしろ!」

『────!!!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️』

 

 そうして召喚したセブンガーはヤツの伸びて来たハサミに右腕を挟まれたものの、そのまま左手で掴み取って無理矢理引っ張ってヤツの体勢を崩した……向こうも反撃にガトリングを撃ち込んで来るが、セブンガーはそれすら意に介さずヤツを押さえ込んでくれた。

 ……そのセブンガーが作り出してくれた隙に俺は『襲撃を受けた、救援求む』のウルトラサインを宇宙に打ち上げ……直後に別の方向から飛んで来た()()()()によってそのサインは途中で打ち消された。

 

「なにぃっ⁉︎ サインが! ……何者だ!」

「……」

 

 俺が咄嗟に光線が撃たれた方向を振り向くとやはりと言うかあの『黄金のゲート』が開かれており、そこからまるでスペシウム光線を撃ったかの様に腕を十字に組んだ異形の人型生物が出て来ていたのだ。

 ……よく見ると目はウルトラ族の物に似ているし胸にはカラータイマーらしき器官があるし……光線撃った事と言いウルトラ族の近似種かな? 話し合いとかは……。

 

「ジェアッ!!!」

「ですよね!」

 

 そいつが十時にした腕から放った光線によって話し合いの道は断たれた(知ってた)……なので、俺は青い光線を横っ飛びで回避しつつディフェンダーを短剣型のウルトラスパークに変形させて異形の人型に投げ付けた。

 ウルトラ念力でコントロールされたスパークは赤熱しながら異形の元へと飛んで行ったが、向こうは腕を振るうと共に青い光の鞭を出して飛来するスパークを打ち落とした。

 

「チッ、器用な事をする。……なら次はコレだ! スペシウム光線!」

「ジェアァ!」

 

 俺はならばと腕を十時に組んで追撃のスペシウム光線を放ったのだが、向こうが同じポーズで放った光線に相殺されてしまった……威力はスペシウム光線をほぼ互角か。それに……。

 

「ジェアッ! ジェアッ! ジェアッ!」

「連射とかありか⁉︎ エネルギー量とかどうなってるんだ!」

 

 異形はポーズはそのままに光線を何発も連続して放って来たのだ……それを見た俺は相殺や防御ではこっちのエネルギーが先に尽きると思い、兎に角回避に専念してどうにか凌いで行った。

 ……一応、こうしている間にもテレパシーや救難信号とかも試しているんだが、どうにも“何か”に妨害されているらしく上手くいかなかった。

 

「ジェアッ!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

「くそっ、このままじゃ……」

『──⁉︎』

 

 こっちはアホみたいに連射される光線を回避するのに手一杯だし、セブンガーも基本スペックがほぼ互角な所為か武装が豊富な向こうのロボットに押され気味だしな。

 ……だが、戦っている内にアイツらの特徴は掴んだ。どちらもプログラムされた機械的に正確な攻撃しか出来ないみたいだな。

 

「ジェアッ!」

「つまり、慣れれば攻撃の軌道を読む事は容易い! リバーススタイル! ブラックゲート!」

『◼️◼️◼️◼️⁉︎』

 

 俺は異形が光線を放つと同時にリバーススタイルへと姿を変えつつその軌道上の空間に黒い穴を開けてその光線を飲み込み、同時にもう一つ()()()()()()()()()()ゲートを開いて先程の光線を撃ち出した。

 

「セブンガー! 異形の方にロケットパンチだ!」

『────!!!』

「⁉︎ ゲアッ!!!」

 

 更にセブンガーに指示を出して異形の方を牽制(凄まじい速度のロケットパンチで吹き飛ばし)ながら右腕のアークブレスのクリスタルサークルを回転させつつ両腕を斜めに広げて必殺光線のチャージを開始した。

 ……この光線が決まれば倒す事が出来なくとも相応のダメージは与えられる! その隙に全力でこの場を離脱して救援を要請すれば……。

 

『──!』

「喰らえ! アークレイショット!!!」

 

 そうしてセブンガーが下がったと同時に俺は腕をL字に組んで自分が現在使える最大威力の光線を撃ち放った……が、俺の最大威力光線が連中に直撃する瞬間、その前に三度あの黄金のゲートが開いたのだ。

 ……そして、その中から現れた()()()()()()()()()()()()()()()()が俺のアークレイショットを片手で吹き散らしてしまったのだ。

 

「何ッ⁉︎」

「……ふむ、今の時間軸ではこんな所か。この程度なら問題なさそうだな……アブソリュート・デストラクション!!!」

『──⁉︎』

 

 その光景に驚愕する俺を他所に黄金の戦士は何かを確認する様に呟いた途端、その両手から超威力の稲妻状の光球をこちらに放って来たのだ。

 ……幸い直前にセブンガーが盾になってくれてお陰で俺には直撃しなかったが、そのダメージでセブンガーは怪獣ボールに強制帰還、俺自身もその余波だけで結構なダメージを負って地面に膝をついてしまった。

 

「グゥッ……貴様は一体……?」

「我は究極生命体『アブソリューティアン』の戦士【アブソリュートタルタロス】!!!」

 

 なんか物凄く自身満々にそう名乗った黄金の戦士は、次いで右手を広げてその上にとても小さい何かを呼び出した……アレは、人間が使うぐらいのサイズの本か? 

 

「お前の持つ『銀の鍵』の力、我に捧げるが良い……起動せよ『ネクロノミコン』!」

「本が光って……グウアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 黄金の戦士がそう言った瞬間、その手に持っていた本が銀色に輝き出して……直後、俺の中にある“自身の根幹”とも言える様な『何か』が暴れ出したのだ。

 ……グガガガガガ⁉︎ こ、これは一体……いやヤツは『銀の鍵』と言っていたから俺の中にあるソレに干渉を……いかん、苦痛で思考が……! 

 

「アアアアアアアアアアアアア!!!」

「ふむ、究極生命体である我の力を持ってしても予想以上に手間取っているな。この『ネクロノミコン』が壊れる前に干渉を終えられるか……?」

 

 ……アブソリュートタルタロスとか言う中学生が考えた様な名前のそいつが何か言っている様だったが、俺は自分の奥から吹き出そうとする何かを抑えるのに精一杯で周りの情報を入手する事も出来ないでいた。

 ……と言うか本当にマズイぞ。正直言ってそろそろ意識が途切れて……。

 

『……チッ、まさかこの時間軸にも干渉していたとはな』

 

 ……そんな最中に聞こえて来たのは何故か妙に聞き覚えのある声だった……幻聴かな? 

 

『……の事だから幻聴かなとか無駄な事を考えているんだろうが、正直言って余りこっちにも余裕は無いんでな。……その目に前にある『銀の鍵』を手に取れ。後は俺がそこに居るネタバレソース供をどうにかしてやる……ちなみに幻覚でも無いぞ?』

 

 ……その妙に偉そうで気に触る声に従って顔を上げると、霞む視界の中に『銀色に光る何か』が見えた……正直のところこの声には怪しい要素しか無いが、ソレに縋らなければならないぐらいに今の俺は追い詰められていた。

 ……それにその声は気に食わないが何となく信じても良い気もしたので、俺は目の前の輝きに手を伸ばし……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……む? 何だあの銀の輝きは? 干渉が何か影響を及ぼしたか?」

 

 魔導書『ネクロノミコン』とアブソリューティアンの力でアークの中に眠る『銀の鍵』に干渉していたタルタロスだったが、突如アークが()()()()虚空を掴む様な動作をすると同時に彼の身体から発せられた強烈な銀の輝きを見て疑問を口にした。

 ……実がタルタロスにとっても『銀の鍵』に自身と魔導書の力で干渉すれば何が起こるかを完全には把握出来ていなかったので、何か想定外の事態が起きたと判断して様子を見ていたのだが……次の瞬間、アークが居る場所から『銀色の鍵の様な形をした剣』が高速回転しながらタルタロス達に向かって飛来したのだ。

 

「チィ! 魔導書が狙いか!」

『◼️◼️◼️⁉︎』

「ギアッ⁉︎」

 

 その『銀色の鍵剣』はまるで意思を持って居るかの様に宙を舞ってタルタロスが手に持っていた『ネクロノミコン』を粉砕し、左右に控えていた銀色のロボット──【電脳魔神 デスフェイサー】と異形の人型──【超合成獣人 ゼルガノイド】斬り裂いてから、再びアークの手元へと舞い戻った。

 

「……ふん、散々好き勝手してくれたみたいだな」

「貴様は……何故()()姿()に、まさか今の時間軸で『覚醒』したのか?」

 

 ただし、先程までの光が消えて『銀色の鍵剣』を手に持ったアークの姿は先程までとは別の物に変わっていた……肉体は銀色をベースに赤と黒の模様となり肩部から胸部に掛けて金色のプロテクターが追加され、更に額には菱形のクリスタルが付けられ頭部横には溝が出来ていると言う一般的な光の国のウルトラ族の姿とはやや離れた物になっていた。

 ……その姿を見てタルタロスは訝しげな表情で呟いたが、即座に何かに気が付いた様に得心した表情へと変わった。

 

「いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()形での時間遡行か。……器用な事をする。流石は『銀の鍵』の所有者と言った所か?」

「俺はお前程自由自在に時間遡行が出来る訳では無いからな。貴様が“過去の俺に干渉した”と言う事実を縁にした上で、こんな回りくどい手段を使わせて貰った。……散々過去の俺を甚振ってくれたみたいだから選手交替だ。ここからはこの俺『()()()()()()()()()』が相手をしてやるよ」

 

 そうして『未来から来たウルトラマンアーク』は戦意を漲らせながら手に持っている『銀色の鍵剣』をタルタロス達へと突き付けて宣戦布告したのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:過去と未来のアークが一つに(違)!
・今回は流石に現在のアークだと相手が悪かった……それでもデスフェイサーとゼルガノイドだけなら逃げる事も出来た辺りは優秀。
・未来アークの事は(正直もっと先に出す予定だったので余りネタバレにならない範囲内に)次回解説予定。

セブンガー:デスフェイサーと互角に戦えるスペック
・ちなみにデスフェイサーと比べるとパワーと耐久性は上回っているがスピードと火力に劣る感じ。
・ロケットパンチの回収機能や咄嗟に主人を庇うレベルのAI、大ダメージの際には自動で怪獣ボールに帰還するなど細かい機能も沢山搭載されている(マッド)の一品。

デスフェイサー・ゼルガノイド:タルタロスの駒
・タルタロスが『銀の鍵』やネクロノミコンを探してネオフロンティアスペースの並行世界を探している際に見つけた手駒にした連中。
・両方とも自意識の無い兵器なのでアブソリューティアンの力で制御されておち、タルタロスにとっては使い捨ての道具的な感じ。

アブソリュートタルタロス:不意打ち大好き
・コイツ相手だと考えていた(だけの)設定をネタバレせざるを得ない……おのれネタバレソース!
・実はネクロノミコンとアブソリューティアンの力で『銀の鍵』を手に入れられるかは半々ぐらいと予想していたり。
・なので最低でも『銀の鍵』とその使い手がどの程度の能力を持っているか測れれば良いと考えて過去のアークに干渉した感じ。


読了ありがとうございました。
ギャラファイ大いなる陰謀もとうとう第3章に! そこでまだ設定が全部明らかになっていないタルタルソースを登場させると言う暴挙をやってみました……今後の展開で矛盾が出来たら本編を変更するかもしれないのでご了承下さい。


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ウルトラマンアークVSアブソリュートタルタロス

 ──────◇◇◇──────

 

 

 アブソリュートタルタロス

 電脳魔神 デスフェイサー

 超合成獣人 ゼルガノイド

 人造ウルトラマン 量産型テラノイド 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

「……ここからはこの俺『ウルトラマンアーク』が相手をしてやるよ」

 

 そう言って未来から時空を歪めるアブソリュートタルタロスを追って来た『ウルトラマンアーク』は、手にしている強大な力を秘めた『銀色の鍵剣』を彼らに突き付けて啖呵を切った……が、それを見たタルタロスは余裕ある態度を崩す事は無く平然としていた。

 

「ふむ、それは結構だがそちらに我々を相手に出来る余裕があるのかな? ……大体“過去の自分を依り代にする”などという方法で時間遡行を行った以上、貴様は現在本来の実力を出せないのではないか?」

「…………」

 

 ……実際タルタロスの言った事はおおよそ事実であった……現在のアークは“過去の自分に未来の自分を上書きする”為に『銀色の鍵剣』の力をかなり使ってしまっており、更に過去の自分に施されている封印に影響を与えかねない『ネオフロンティア由来のタイプチェンジ』の使用も自粛しなければならない状態である。

 ……しかし、図星を突かれた状態であっても尚アークは涼しい表情を浮かべていた。

 

「まあ確かに、今の俺は無理な時間遡行の所為でいくつか制限のある状態ではあるが……それでも、()()()()()は出来るぞ?」

 

 そう言ってアークは手にしている『銀色の鍵剣』をまるで鍵を開けるかの様に捻った……すると突如としてタルタロスの肉体に“銀色に輝く粒子”が纏わり着いたのだ。

 ……そして、その粒子はタルタロスの動きを封じながら()()()()()()()()()()()()()()()としていた。

 

「こ、れは……! 我を()()()()()()()()()()()()()()()()()だと⁉︎」

「御名答。本来ならどれだけ過去を改変した所で精々が新しい並行世界が出来るだけで現在は変わらない……と言うのが所謂歴史の修正力の基本的な法則(多分)なんだが、今はそれをなんやかんやする事でほんの少し“異物であるお前を排除する”方向に向けただけだ。元々過去への改変が些細な事だった場合だと自然に元の歴史へと戻す働きも修正力にはあるからな」

 

 そう、未来のアークが有する『銀の鍵』は能動的に時間に干渉する事は不得手だが、時間・次元・空間などを乱す相手に対する対抗装置(カウンター)としての特性に優れているのである。

 ……だが、そんな状況に陥ったと言うのにタルタロスは冷静に身体を僅かに動かしながら自分に纏わりつく粒子を観察していた。

 

「……ふむ、成る程、動けなくなるがこの時代に留まるぐらいは出来るか。……いいだろう、ここは一旦引くとしようか。修正力の力を利用しているのなら我がこの時代から出る事までは止められんだろうからな」

「……随分とあっさりしてるじゃないか、ネタバレソース」

「ああ、貴様の『銀の鍵』の底は見えたからな」

 

 アークの軽い挑発を受け流しつつタルタロスは自身が見破った『銀の鍵』の()()()()()を話し始めた。

 

「この修正力を操る力は確かに強力な様に見えるし、実際に我をこの時代から追い出すぐらいは出来るだろうが、我の時間移動そのものを完全に封じる事は出来ん様だな。……それに貴様の時間遡行は我が過去の貴様に干渉した事実を逆探知して未来の自分を送り込んでいる様だが、それ故に過去の自分に干渉されなければ我がどの時間軸に居るかまでは分からないのだろう? もしそれが出来るなら我がべリアルやトレギアを引き入れる事を阻止する筈だからな」

「……チッ」

 

 ……そのタルタロスの言葉は概ね事実であり、未来のアークの『銀の鍵』の力を持ってしても究極生命体であるタルタロスの時間移動を妨害する事しか出来ず、整然“居るべきで無い”時間軸から追い出すぐらいしか出来ないのだ。

 加えて様々な過去や並行世界に移動するタルタロスの現在位置を把握するのも難しい……というか、過去・現在・未来の時間軸と無数に存在する可能性世界の交差する一点にのみに時間移動によって現れるタルタロスを、何のヒントも無しに捕捉するのは砂漠の中で狙った砂の一粒を見つける以上に難しいのだ。

 

「かの伝説の大邪神の断片である以上はもう少し厄介かと思っていたが、所詮はカケラだったか。……或いは完全には使いこなせていないのか?」

「好き勝手言ってくれるな」

(つーか、大邪神のカケラだからこそおいそれとは使えないんだよ! 特に時間系の力は修正力を無視して別時間軸や並行世界の“俺”に影響を及ぼす可能性もあるからな! それどころか下手な使い方をしたら俺自身のSAN値が減るわ!)

 

 実の所、アークは内心そんな事を考えており、それでも自信満々に語ったのはこれ以上タルタロスに『銀の鍵』への干渉をさせない為のハッタリの部分が多かった。

 ……そんな感じで内心を見せずに相手の動向を注意深く探っていたアークだったが、暫しの睨み合いの末にタルタロスはこの時間軸から出る為の黄金のゲートを展開してその中に入っていった。

 

「まあ、最低限の目的──『銀の鍵』の使い手の能力調査を果たせた以上は引くとしようか。……貴様はコイツらと遊んで行くと良い」

「「「…………」」」

 

 そうして黄金のゲートの中に入ってこの時代から出て行ったタルタロスと入れ替わる様にして、ゲートの中から三体の()()()()()()()()()()()姿()()()()が現れた。

 その外見は三体とも全く同じで赤と銀の体色に身体の各部に金色のプロテクターが付けられていると言うもので、三体ともまるで機械の様に一糸乱れぬ動きで歩いているのが妙な不気味さを醸し出していた。

 ……もしネオフロンティアスペースに付いて知っている者が見れば、その外見は『ウルトラマンダイナ』にそっくりだと言うかもしれない……それもその筈、この三体の人型はウルトラマンダイナのデータをコピーする事によって生み出された人造ウルトラマンなのである。

 

「【人造ウルトラマン テラノイド】だと? しかも三体とか量産型って事か……そっちの【デスフェイサー】や【ゼルガノイド】といい余程()()()()()()ネオフロンティアの並行世界からパクって来やがったな、あのタルタルソース!」

「「「デアッ!」」」

 

 未来から来たが故に目の前の敵達の詳細をついて知っていたアークが愚痴っていたら、三体の【量産型テラノイド】は同時に腕を振るい三日月状の光刃『フェイクビームスライサー』を放って来た。

 ……それに対してアークは手に持っていた『銀色の鍵剣』を手放しながら、念力で操作して空中を飛び回させてそれらの光刃を斬り払ってみせた……が。

 

「踏み込みが甘い! ってな……うおっとぉ!」

「ジェアァッ!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

 

 その間に接近して来たゼルガノイドが拳を放って来たのでアークは咄嗟にそれを捌きながら格闘戦にもつれ込むが、その隙を突いて更にデスフェイサーの右腕にある『デスシザース』が伸長してアークの背後から首筋を掴もうと迫って来た。

 ……だが、アークは背後からのデスシザースを念力で操作した『銀色の鍵剣』で叩き落とし、自身は過去のアークと比べても遥かに熟練した格闘技でゼルガノイドの連続攻撃を放ち、最後には強烈なヒザ蹴りを放って悶絶させそのまま投げ飛ばしてみせた。

 

「ドリャァ!!! とは言え、やっぱり五対一はキツ……ッ! アークディフェンサー!」

「「「デヤァッ!!!」」」

 

 その様に優勢に戦いを運んでいたアークだったが突然身体に走る悪寒に従って円形のバリアを展開した……その直後、後方に待機していた三体のテラノイドがこの状況なら味方に誤射する事は無いと判断して、三体同時に腕を十字に組んでフェイクソルジェント光線をアークに撃ち放ったのだ。

 ……どうにか防御は間に合ったもののコピーとは言えソルジェント光線三発は流石に防ぎきれず、バリアは僅かな時間だけ徐々にヒビが入りながら拮抗した後に粉々に砕けて、その余波でアークは後方に吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐわっ⁉︎ ……ええいっ、あのタルタルソースめ! 面倒な置き土産をしていきおって! 流石に連携が取れている相手に五対一ではキツいぞ」

 

 尚、この【量産型テラノイド】は光線技の撃ちすぎでエネルギー切れになってしまった先行試作型と違い、戦闘中のエネルギー配分が可能な判断力と味方との連携が可能なレベルの戦術行動が可能なプログラムがインストールされており、更にデスフェイサーとゼルガノイドを含めてタルタロスの力の影響下にある事もあってお互いを味方と認識した上での連携なども可能になっているのだ。

 

(というか単純に手数が足りないな。一体一体の実力はそれほどでも無いし、連携も教科書……プログラム通りだから読みやすいが俺一人だと対応出来ん。……この『銀色の鍵剣』の本来の力や『タイプチェンジ』も今は使えないし……ここは()()()()()でどうにかするか)

 

 そこまで思案した後にアークは飛ばしていた『銀色の鍵剣』を手元に回収すると同時に自身の固有亜空間のしまう形で手元から消すと、代わりに自分のインナースペース──銀色の粒子が満ちる空間に自身の人間態を模したアバターを形成し、更に“一つのデバイス”を召喚してそのアバターの手に持たせた上で付いている“トリガー”を押した。

 

「さて、先日貰ったこの()()()()()()の力を存分に見せてやろうか」

【Arc Access Granted】

 

 そしてアークはそのデバイス──『ウルトラゼットライザー』に『ウルトラアクセスカード』のアークverをセットして起動状態に移行させ、それと同時に現実のアークの手の中にもゼットライザーと同じ形状の武器が形成された。

 ……ちなみにこのウルトラゼットライザーはインナースペース内の物が本体であり、その機能の一つとして巨大化したウルトラ戦士が使える武器として大型の複製を形成する機能があるのだ。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️!』

「ジェイア⁉︎」

「判断が遅い! ライズスラッシャー!」

「「「デヤッ⁉︎」」」

 

 いきなり武器を変えたアークを警戒してデスフェイサーがガトリング砲を、ゼルガノイドと量産型テラノイド達がフェイクソルジェント光線を放とうとするが、それよりも一手早くアークがライザーを振り抜きながら大型の三日月型光刃を放って彼等にダメージを与えつつ牽制した。

 ……とはいえ、時間稼ぎがメインの技だったので彼等へのダメージは少なく、特にスフィアと融合している為に高い再生能力を持つゼルガノイドは直ぐに立ち上がりアークに突っ込んで行った……が、それだけの時間があれば()()()6()0()()()()()()()()()()()()インナースペース内でアークがライザーを使う事には問題無い。

 

「さて、ウルトラマンの複製体が相手なら……この三枚で行ってみるか」

 

 そうしてインナースペース内のアーク(人間態)は腰につけた『ゼットホルダー』から三枚の『ウルトラメダル』を取り出して、ゼットライザーの青いブレード部分に備え付けられたスリットに装填し、そのブレードをゆっくり扇状に展開する事でメダルをライザーにスキャンさせた。

 

【Geed】【Seven】【Leo】

「これもウルトラゼットライザーとウルトラメダルのちょっとした応用だ……ペルソナ・イリュージョン!」

 

 その三枚のメダル──『ウルトラマンジードメダル』『ウルトラセブンメダル』『ウルトラマンレオメダル』をスキャンしたライザーのトリガーを押すと共に、現実のアークが手に持ったライザーを前方に掲げた。

 ……すると現実のライザーから三本の光の線が飛び出しながら複雑な軌道を描いて絡み合って行き、直後にアークがライザーを掲げた先で一つの人型となって実体化した。

 

【Ultraman Geed Solid Burning】

『ウルトラマンジード!!! ソリッドバーニング!』

『デェヤッ!』

 

 そうして現れたのは赤い身体に銀色のアーマーを装着して、更にその各部に装着したブースターから蒸気を噴き出している目つきの悪いウルトラマン──ウルトラマンべリアルの遺伝子を継ぐ息子であり、その運命に終止符を打った戦士『ウルトラマンジード』の燃え上がる勇気を体現した姿『ソリッドバーニング』であった。

 ……そう、これがアークが使った技『ペルソナ・イリュージョン』の効果──自身のエネルギーとライザーとメダルの力を使ってウルトラ戦士の虚像を一時的に召喚する力なのだ! 

 

『デェヤァッ!』

「ジアッ⁉︎」

 

 いきなり眼前に現れた新しいウルトラマンにゼルガノイドを一瞬怯むものの与えられたプログラム通り即座に敵を打ち倒そうとパンチを繰り出すが、ソリッドバーニングはその強固な装甲で攻撃を弾き飛ばし反撃に肘の噴出口から炎を噴きださせる事で強化された拳をゼルガノイドの胸に叩き込んだ。

 それによって吹き飛ばされたゼルガノイドを追いながらソリッドバーニングは頭部に付けている『ジードスラッガー』を逆手に持って斬りかかっていく……だが、ゼルガノイドが離れて誤射の心配が無くなった途端にデスフェイサーとテラノイド達が一斉に射撃の体勢に入った。

 

「まだ手数が足りんか。次はコレで行くぞ」

 

 だが、その攻撃が放たれるよりも早くインナースペース内のアーク(人間態)はライザーのブレードを元に戻してから先程の三枚のメダルを取り外し、新たな二枚のメダル──『ウルトラマンギンガメダル』と『ウルトラマンタロウメダル』をセットして再びスキャンした。

 

【Ginga】【Taro】

「ふん、ウルトラマンのデータを参考にするならもう少しマシな攻撃をしたらどうだ?」

【Ultraman Ginga Strium】

『ギンガに力を! ギンガストリウム!!!』

 

 そして再びライザーのトリガーが押されると共にペルソナ・イリュージョンが発動してアークの前に光が乱舞して人型を形作る……そうして召喚されたのは新世代(ニュージェネレーション)の筆頭『ウルトラマンギンガ』が『ウルトラマンタロウ』の力によって強化変身した『ギンガストリウム』である。

 ……その直後デスフェイサーとテラノイド達は一斉に攻撃を放つが、片手を前に出したギンガストリウムが前方に展開した渦巻く銀河状のバリアにあっさりと防がれてしまった。

 

「うむ、相変わらず凄まじい防御性能。しばらくそっちは頼むぞ」

『シャオラッ!』

「「「ディヤッ!」」」

 

 その後バリアを解除してギンガストリウムはタロウと同じファイティングポーズを取りながらテラノイド達に向かっていった……そして三度インナースペース内のアークはライザーを操作していく。

 

「連中はウルトラマンと人間の技術を組み合わせた悪い面の集まりって訳だし……最後はこの組み合わせでどうだ?」

【X】【Cyber Gomora】

 

 そんな感じでアークは『ウルトラマンエックスメダル』と『サイバーゴモラメダル』をスキャンして3度目のトリガーを押した。

 

【Ultraman X Gomora Armer】

『サイバーゴモラ・ロードします。サイバーゴモラアーマー・アクティブ!』

『イーッサー!!!』

 

 これで3度目となるペルソナ・イリュージョンによる虚像召喚が実行され、現れたのはメカニカルな外見をしてX字のカラータイマーが印象的な『ウルトラマンエックス』に地球人の技術で作られたサイバー怪獣の一体『サイバーゴモラ』のデータによって作られてモンスアーマーを装備された姿である『ゴモラアーマー』であった。

 ……そうして召喚されたゴモラアーマーは両腕のクロー部分を盾にしてデスフェイサーのガトリング砲を防ぎながら距離を詰めていった。

 

「まあ、これで手数で劣る事は無くなっただろ。流石にエネルギーの消費は激しいけどな。……さて、本当の戦いはここからだぜ」

 

 そう言った未来のアークは手に持ったライザーを構えて召喚された新世代ウルトラマンとネオフロンティア由来のウルトラマンデータ悪用組との戦いに参加するのだった。




あとがき・各種設定解説

未来のアーク:VSタルタロス(戦うとは言っていない)
・実際の所はタルタロスについて調査をしている途中に過去の自分に干渉されている事を察知して慌てて時間遡行を行った感じで、作中本人はドヤ顔で語っているが修正力云々については『銀色の鍵剣』を介した感覚で何となく理解しているだけだったりもする。
・過去のアークの姿が父親に似ているのはネオフロンティアウルトラマン由来の力を封印されている所為であり、それ故に封印が解放された未来のアークの姿にはネオフロンティア要素が出る。
・故にアークはこの姿が“本来の姿”……新しい基本形態であり、更に新タイプチェンジとか『銀色の鍵剣』という新武器も使えるのだが、今回はネタバレ防止の為に名前含めて詳細は秘密。

ペルソナ・イリュージョン:唐突にアークが見せたチート技
・原理としては分身能力の応用で、作り上げた分身をライザーとメダルの力で別のウルトラマンに変質させている感じ。
・某Zさんの召喚技の様に光線撃つだけで終わりではなく近接戦も出来るが流石に本物程の力は出せないし、それ相応にエネルギーを消費するので三体も召喚すると1分くらいしか維持出来ない。
・元ネタは当然平成ライダー10番目と20番目の方々。

アブソリュートタルタロス:アークとは高度な頭脳戦を演じた(という事にしてほしい)
・今回は特に何もせずあっさり撤退したが、それはこれ以上この時間軸に留まり続けた場合には要らぬ損害を受けると判断したから。
・実際あの状況のアークでも自身と周囲へ相応の被害が出る事と引き換えにすればタルタロスにかなりの打撃を与える事も出来たので、仕掛けるリスクと反撃を食らうリターンを天秤に掛けた形になる。
・テラノイドを三体も置き土産として置いていったのは、足止めと妨害件未来アークを戦闘に集中させて自分の居所を追跡させない様にする目的があった。

【人造ウルトラマン 量産型テラノイド】:タルタロスの手駒
・タルタロスが“どこかの並行世界”で回収した物で、スペックは先行試作型と互角だがエネルギーの節約や連携・格闘戦闘が可能になる高度な戦闘プログラムが付けられている“量産可能な完成された兵器”。
・どの様な並行世界で作られたのかは不明だが、人造ウルトラマンの“原材料”や“エネルギー源”を知っているアークは『余程ロクでもない世界線で作られたのではないか』と推測している。


読了ありがとうございました。
ギャラファイ八話は光の国組の世代や継承についての会話がエモかったり、フーマがファルコン1案件だったりと実に素晴らしかったです。正直後二話で終わるのか心配になるぐらいに密度が濃いですね。


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兵器と虚像

 ──────◇◇◇──────

 

 

 電脳魔神 デスフェイサー

 超合成獣人 ゼルガノイド

 人造ウルトラマン 量産型テラノイド 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ……そこは宇宙の片隅にある岩肌ばかりの小惑星、そこでは究極生命体アブソリューティアンの戦士【アブソリュートタルタロス】の尖兵であるネオフロンティアスペース製の(ウルトラマンのデータを使って作られた)兵器と、未来から来た『ウルトラマンアーク』と彼が生み出したライザーとメダルを使った(ウルトラマンの力を借りた)虚像──ペルソナ・イリュージョンが激しい戦いを繰り広げていた。

 

『デェヤァッ!』

「ジェアァッ!」

 

 まず、激しい格闘戦でぶつかり合っているのは【超合成獣人 ゼルガノイド】とイリュージョンの一体である『ウルトラマンジード・ソリッドバーニング』であった。

 ……単純な格闘戦に置いてはソリッドバーニングが圧倒しており相手の攻撃を装甲で受け止めながら反撃に逆手に持ったジードスラッガーで斬りつけていたが、ゼルガノイドは急所であるカラータイマーだけは守りながら寄生しているスフィアに由来する再生能力でそれを凌事で膠着状態になっていた……故に。

 

「最初に面倒なエネルギー無尽蔵+再生能力持ちから落とすだろ、常識的に考えて。セヤァッ!」

「ジァッ⁉︎」

 

 横合いから乱入して来たアークが放ったライザーによる一閃をゼルガノイドが避ける事は当然不可能だった……そうして不意打ちによって相手を怯ませたアークは更にそこから回し蹴りからの再びライザーによる斬撃を繋げる連携を見舞って行った。

 だが、ゼルガノイドはそれでもカラータイマーだけは死守しながらも、多少のダメージを無視しながら無理矢理距離を取ってフェイクソルジェント光線の構えを取った。

 

「ジェアァ……」

「格闘戦で押されれば距離を取って光線技……教科書通りだからこそ読みやすい」

『デェアァ……』

 

 ……が、それが自分に向けて発射される直前にアークは身を翻しその場から離脱すると、代わりにその後ろから両腕を上に向けて曲げるポーズで胸部の装甲にエネルギーを集中しているソリッドバーニングがゼルガノイドと相対した……そして次の瞬間、両者がお互いに向けて必殺の光線を発射した。

 

「ジェィアァッ!!!」

『ソーラーブーストォォ!!!』

 

 そうしてゼルガノイドが十字に組んだ腕から発射した青色の光線──フェイクソルジェント光線と、ソリッドバーニングが胸部を輝かせながら放った白い光の束──ソーラーブーストがぶつかり合い……一瞬の拮抗の後に白い光の束が青い光線を押し返してゼルガノイドに直撃した。

 ……光線同士の撃ち合いで威力が減衰している分、その一撃はゼルガノイドの上半身を覆うスフィアの一部を吹き飛ばすに留まったがそのダメージによって動きは鈍り、その間にソリッドバーニングは右腕のアーマーを展開させて炎の様なエネルギーをチャージし始める。

 

「ジェア……」

「おっと、そうは行かん。大人しくして貰うぞっ!」

 

 そのチャージに危険を感じたのかゼルガノイドは後退しようとするが、そこに割り込んできたアークのライザーによる袈裟斬りによって足止めを喰らい……その隙にチャージを終えたソリッドバーニングが接近して来た。

 ……ゼルガノイドは咄嗟に拳を放つもののソリッドバーニングの左腕で受け止められしまい、更にカウンター気味に右腕をガラ空きの胸部──カラータイマーに叩きつけられ……。

 

『ストライクブーストォォォ!!!』

「ジェアァァァァァァ!?」

 

 そのままゼロ距離から胸部に放たれた炎を纏う光線──ストライクブーストがカラータイマーを破壊し……そこに込められていたエネルギーが暴走した結果、ゼルガノイドは再生する間も無く内側から破裂して粉々に爆散したのだった。

 ……その直後、爆発に巻き込まれながらも無傷だったソリッドバーニングの姿がいきなり光の粒子へと解けていき、そのまま後ろにいたアークが手に持っているライザーに吸い込まれて行った。

 

「……よし、お疲れ様。……エネルギーが心許ないからな、節約しないと」

 

 実はペルソナ・イリュージョンで召喚した虚像は任意で解除した上で本体であるアークにエネルギーを還元する事も出来るのだ……勿論、戦闘や光線技の使用で虚像のエネルギーは消費されているので完全回復とは行かないが。

 ……それでもある程度のエネルギーを回復出来たアークはまだ戦っている虚像の援護へと行くためにその場を飛び立ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『ギンガスパークランス!』

「「「シェアッ!」」」

 

 また別の場所では召喚された虚像の一人『ウルトラマンギンガストリウム』が三又に別れた槍『ギンガスパークランス』を両手に持って、三体の【人造ウルトラマン 量産型テラノイド】が放つフェイクビームスライサーを打ち払いながら斬りかかっていった。

 ……量産型テラノイドは格闘戦に於ける連携も可能なレベルの戦術プログラムが施されており、ギンガストリウムに対しても果敢に近接格闘戦を挑んで行くが素手と槍のリーチの差から攻めあぐねていた。

 

『シャオラァ!』

「ジェアァッ⁉︎」

 

 その隙を突いてギンガストリウムはランスでテラノイド達に細かくダメージを与えていった……が、人数の差から攻めきる事は出来ず、逆にテラノイド達が槍の届かない中距離から出の早い光線技による牽制に戦術を変えると次第に防戦一方になっていった。

 ……そして遂にテラノイドの一体のフェイクビールスライサーが手元に当たってしまい、ギンガストリウムはランスを取り落としてしまうのだった。

 

『シェアッ⁉︎』

「「「シェアッ!!!」」」

 

 それをチャンスと見たテラノイド達は一斉にフェイクソルジェント光線の構えを取って、三方向からギンガストリウムを撃ち抜こうとし……直後、上空から三日月型の光刃が彼等の足元に突き刺さって爆発して、その光線を中断した。

 

「「「シェアッ⁉︎」」」

「……よし! 次はこの三体だな!!!」

 

 光刃に続いて上空からゼルガノイドを撃破して急いでこの場に急行したアークが舞い降りたのだった……ペルソナ・イリュージョンで作り上げた虚像は他のウルトラマンと同じ外見と能力を持っているとはいえ、あくまでも“ライザーとメダルの力で変質したアークの分身”でしかないが故に、虚像と本体は得た情報を共有する事が出来るのだ。

 ……なので本体であるアークはどの戦局が一番不利かを即座に把握して急行出来るし、いきなりの援軍に僅かな時間とは言え動きが止まってしまうテラノイド達と違い、虚像のギンガストリウムはあらかじめアークが援軍に来る事を知った上で行動出来たのである。

 

『ウルトラマンの力よ!』

『『スペシウム光線!!!』』

「ジェアァッ⁉︎」

 

 そうしてテラノイド達の目が自身から逸れた隙にギンガストリウムは左腕にあるウルトラ六兄弟の力を宿した『ストリウムブレス』の能力を解放し、即座に腕を十字に組んでのスペシウム光線をテラノイドの一人の胸部へと撃ち放ったのだ……その一撃は怪獣退治の専門家である『ウルトラマン』の力を借りたからか、見事にテラノイドの急所であるカラータイマーを破壊して跡形もなく爆散させたのだった。

 ……味方の一人がやられたテラノイド達だったが“心無い兵器”である彼等はそれを気にした様子もなく、それぞれアークとギンガストリウムに向けて襲い掛かって来た。

 

「シェアァッ!!!」

「チッ、俺達を分断させる事で連携をさせない気か」

『ショアオラッ!』

「ジェアァァ!」

 

 アークの見立て通り、テラノイド達は先程の攻防で『この敵は連携させると危険度が上がる』と判断してアークとギンガストリウムを分断させる事を目的としていたのだ。

 ……だが、そもそも一対一であればアークとギンガストリウムは量産型テラノイド()()に負ける程弱くは無いのである……この辺りが勝算などは考慮せず“敵を倒す最適な行動”しか出来ないテラノイドの限界なのだった。

 

「一対一なら負ける道理は無い! ライズスラッシャーゼロ!」

「ジェア⁉︎」

『ウルトラセブンの力よ!』

『『エメリウム光線!!!』』

「ジアァッ⁉︎」

 

 アークはエネルギーを込めたライザーの連続斬撃でテラノイドを切り刻んで行き、ギンガストリウムはバックステップで距離を取ると共にブレスの力を解放して額のビームランプから緑色の細い光線をテラノイドの顔面に撃ち込んで怯ませた。

 その後、アークとギンガストリウムはそれぞれの相手の腕に組み付き、更にお互いが掴んでいるテラノイドを投げ飛ばしてぶつけあわせた……そして間髪入れずにギンガストリウムが三度ストリウムブレスの力──ウルトラマンNo.6『ウルトラマンタロウ』の力を解き放った。

 

『ウルトラマンタロウの力よ!』

 

 ……そうしてギンガストリウムは両腕を上にあげてから腰だめに構えるポーズを取ると共に周囲のエネルギーを肉体が虹色に輝くぐらいに吸収し……。

 

『『ストリウム光線!!!』』

「「ジェアァァァァァァ!?」

 

 そのエネルギーが溜まりきった所でT字に組まれた腕から超威力の虹色の光線──『ストリウム光線』を二体のテラノイドへと叩き込み、その肉体を跡形も無く吹き飛ばしたのだった。

 ……そして役目を終えたギンガストリウムは先程のソリッドバーニングと同じ様に光の粒子となってアークに還元されていった。

 

「ふぅ、これで後はデスフェイサーだけか。……しかし、このペルソナ・イリュージョンは発動中に()()()()()()()()()()()()()()()のが難点だな。お陰で光線技が殆ど使えん」

 

 そう、先程からアークが格闘戦をメインで戦い光線技などのトドメを虚像達に任せていたのは、虚像達を維持する為に自身の最大エネルギー量が減少していたからである。

 ……いくらライザーとメダルの力を借りているとは言え他のウルトラマンの分身を、しかも本物とほぼ相違ないレベルで運用するのは相応に負担が掛かる事なのだ。

 

「……まあ、俺は長時間この時代に居る訳には行かないし、短期決戦を挑むしかないから別に良いんだが……よし、エネルギーの還元も終わったし、後はデスフェイサーを軽く捻って『ショアァッ⁉︎』うおう! ……って、エックス(の虚像)か⁉︎」

 

 そんな風にエネルギーを回復させていたアークのすぐ横に【電脳魔神 デスフェイサー】の相手をしていた筈の『ウルトラマンエックス・ゴモラアーマー』が吹き飛ばされて来た。

 ……そして吹き飛ばされた先には所々に傷を負いながらも、未だに五体満足で健在なデスフェイサーが堂々と立っていた。

 

「……流石に虚像一体でどうにかなる相手じゃないか。あの五体の中では間違いなく最強だし、時間が経てば経つ程こっちの動きを学習する能力もあるみたいだしな。……だからこそエネルギーが回復する最後に回したんだが」

 

 そしてアークは虚像のエックスとの情報共有でデスフェイサーの戦いぶりを把握していく……それによると最初はゴモラアーマーの防御力とパワーで持ち堪えていた様だが、あるタイミングで急にデスフェイサーが機動性を重視した動きに変わった所為で重量があって機動性に劣るアーマー装備では不利な状況になったらしい。

 ……尚、この戦闘法はセブンガーやゴモラアーマーなどの“高耐久・低機動性”の相手に苦戦したデスフェイサーの人工知能が対策として編み出した物である。

 

「確かコイツはウルトラマンダイナのデータから初戦は完封出来る戦術行動が出来るんだったか。……もう少し頑張って貰うぞエックス」

『イーッサーッ!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

 

 状況を把握したアークは改めてエックスと共にデスフェイサーへと挑みかかって行く……が、ゴモラアーマーに装備された爪による攻撃は素早く動くデスフェイサーに躱されて反撃のデスシザーレイ──右腕のデスシザースから放たれるビーム砲を喰らい、アークに対してはガトリング砲で牽制しつつ反撃に放たれる光刃を展開したバリア──ジェノミラーで防ぐ事で二体一であっても互角の戦いを強いられていた。

 ……この結果はデスフェイサーがアーク達の動きを学習した事も原因だが、それ以上に無茶な時間移動と連戦によってアークが疲労しているのも大きい。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「ええいっ! コイツ強いな! ……過去の俺に影響を与えない様に加減して来たが、あまり時間を掛けてはいられない以上は多少の無茶をせねばならんか。……エックス、少しの間だけ足止めしてくれ」

『イーッサーッ!!!』

 

 そう言ったアークはデスフェイサーの相手をエックスに任せつつ自らは一旦距離を取った……そしてインナースペース内で手早く三枚のウルトラメダル──『ウルトラマンエックスメダル』『ウルトラマンメダル』『ウルトラマンティガメダル』を取り出して、それらを掌の上に乗せた。

 

「……さて、理論上は深い縁があるウルトラ戦士同士のメダルを()()させる事で、ウルトラメダルの力をより高める事が出来ると言う話だが……これでも『縁』を辿るのは得意なんでな」

 

 ……そうアークが言い終わるとほぼ同時に三枚のメダルが突然閃光に包まれ、それが収まった時には三枚のメダルは枠の色は赤から金に変わり絵柄の一部が変化していた。

 

「よし! 成功したな。やってみるもんだ……動きが読まれるなら読まれても意味が無い力押しで行かせて貰うぞ」

 

 そうしてアークは強化された三枚のメダル──『ウルトラマンエクシードエックスライズメダル』『ウルトラマンライズメダル』『ウルトラマンティガライズメダル』をウルトラゼットライザーにセットしてスキャンして行く。

 

【Xceed X.】【Ultraman.】【Tiga.】

「さあ、とっておきで行ってみようか!!!」

【Ultraman X Beta Spark Armor.】

 

 そんな音声と共にアークがライザーのトリガーが押すと、現実空間でデスフェイサーと戦っていたエックスの身体が光り輝いた……そしてその光の中でまずゴモラアーマーが解除されてから、エックスの姿が銀と黒を基調として身体に虹色のラインが走った姿──虹の巨人『ウルトラマンエクシードエックス』の姿へと変わる。

 更にそこから左肩にウルトラマンティガの胸部を模したアーマーが、右肩にウルトラマンの胸部を模したアーマーが、胸部にXの装飾がある黄金のアーマーがそれぞれ装着され、最後に金の持ち手に青の刀身を持つ剣──『ベータスパークソード』を手にした。

 ……これこそウルトラマンエックスがティガとウルトラマンの力を持つ最強のサイバーアーマーを纏った姿『ウルトラマンエックス・ベータスパークアーマー』である! 

 

『ベータスパークソード!!!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

 

 そして新たな力を得たエックスは即座にベータスパークソードをデスフェイサーの右腕(デスシザース)に一閃し、これまでどんな攻撃をしても破壊出来なかったデスフェイサーの装甲ごと右腕を斬り飛ばした。

 ……大ダメージを受けたデスフェイサーは即座に接近戦は不利だと判断して後ろに距離を取り残った左腕のガトリング砲を連射するものの、それらの弾丸はベータスパークアーマーには通用せずに弾かれてしまった。

 

『ベータスパークブラスター!!!』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』

 

 更にエックスは反撃としてソードをX字に振るった後に剣先から超威力の光線を発射し、デスフェイサーの右肩をガトリング砲ごと吹き飛ばしてみせた。

 ……と、先程までの苦戦は何だったのかと思うぐらいに無双しているエックスだったが、これだけの力を何の対価も無く振るえる筈がなく……その対価は()()()()()()()()()()()()()()()()という形で現れた。

 

「……予想はしていたがニュージェネレーションの最強形態はエネルギー消費が激しいな」

『⁉︎ ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

 

 エネルギーの減少により動きの止まったアークとエックスを見たデスフェイサーの人工知能は、即座にそれを勝機と見て更に距離を取りながら胸部装甲を変形させて現在唯一残された兵器である一つの砲を展開してチャージを開始した。

 ……これがデスフェイサーの有する切り札、人類が新たなフロンティアへと進む為に磨いた技術を兵器に転用した武装『ネオマキシマ砲』である。発射までのチャージ時間中は動けない欠点も、この距離なら妨害される前に発射出来るとの人工知能の判断である。

 

「……む、この距離だとチャージ前に潰すのは間に合わんか……仕方ない、()()()()撃ち破ってやろう」

 

 それを見たアークは妨害が間に合わないと見るや即座にインナースペース内でゼットライザーを操作し、セットされたままのライズメダルを再度スキャンしていった。

 

【Xceed X.】【Ultraman.】【Tiga.】

「そもそも、このゼットライザーの本来の使い方は()()()()()()()()()()()()()()事だからな。そっちならエネルギー消費も最小限で済む」

 

 そして最後にライザーのトリガーを押すと同時に虚像のエックス・ベータスパークアーマーの姿が薄くなり、そのままアークの身体に重なる様にして再統合された……するとアークの左手にあるライザーの横側のエッジ部分から“金色の弓の鶴”の様なエネルギーが伸び、更に彼は左腕を真っ直ぐ構えながら右手をライザーに添えて弓を引く様に動かすと“青色の矢”の様なエネルギーが展開される。

 ……そんなまるで『弓矢を射る様な』構えを取ったアークはライザーをデスフェイサーに向けて、その先に三つの光を持つ円の様なエネルギーを展開した……そう、アークは自分にメダルの力を戻す事でエネルギーを回復させつつ、自身がベータスパークアーマーの必殺技を使える様にしたのだ。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『「ベータスパークアロォォォォ──ッ!!!」』

 

 その直後、デスフェイサーの超威力のビーム──ネオマキシマ砲とアークのX字の超光線──『ベータスパークアロー』が同時に発射されて二人の丁度真ん中ぐらいでぶつかり合い……一瞬の拮抗の後にベータスパークアローがネオマキシマのエネルギーを十字に引き裂きながら突き進んでデスフェイサーの胸部を貫通した。

 

『◼️◼️◼️──……』

 

 そうして胸部にX字の風穴が開けられたデスフェイサーは、そのままゆっくりと背後に倒れ込み大爆発を起こして跡形も無く吹き飛んだのだった。

 ……こうしてタルタロスの尖兵である兵器達とアークの戦いは、未来から来た『ウルトラマンアーク』の勝利で幕を閉じたのだった。




あとがき・各種設定解説

未来アーク:割と苦戦したが何とか勝利
・本人の技を殆ど使わなかったのはエネルギー不足の他にも、過去の自分の身体を依り代にしてる所為で能力がそちらに引っ張られている事もあった。
・使えない訳では無かったのだがやり過ぎると過去の自分に悪影響が出る可能性もあったので、アイテムを介するから影響が少ないウルトラゼットライザーと言う外付けの力を活用した形。
・最後のベータスパークアローはギンガストリウムや某ライダーコンプリートフォームの必殺技みたいな演出で。

ペルソナ・イリュージョン:無理をすれば一体だけ最強形態の力も出せる
・基本的には自分の分身を変質させた物なので、消費や能力はアーク自身の力が基準となる。
・具体的にはギンガストリウムでもメダルを使ったタロウ以外でも自分が使えるレベルの技なら使えるし、能力をオーバーする様な最強形態ではエネルギー消費が激しくなる。
・あくまでメダルの力をアークのエネルギーで物質化させているだけので、再び自分に還元したり新たにメダルの力を上乗せしたりと応用も効く。

ネオフロンティア製の兵器達:戦闘能力はかなり高い
・人工知能やプログラムの質が非常に高いが、実はこの部分に対してはタルタロスがアブソリューティアンの力でだいぶ補正しており、本人的には最低限の力で扱いやすい尖兵に出来るかの実験のつもりだったり。
・最終的には意志のある強者を配下や手駒の製造の特価した配下を加える方が強いという結論に達した為、お蔵入りになっていた代物を今回は放出した感じ、
・……尚、ネオフロンティアに居た時期のコイツらのプログラムは敵味方の区別が付くレベルでは無かった模様。


読了ありがとうございました。
ギャラファイ最新話を見てから投稿。とうとうオールスターが揃ったり、相変わらずタルタルソースが不意打ちしてたり、モブトラマンがあっさり殉職するシーンで警備隊はブラックだと再確認したり、ゼロが凄い事になってたりと凄まじい十分弱でしたね。本当に次回で終わるんだろうか?


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新たな舞台へ

※1/31 ギャラファイ最新話を参考に一部文章を変更。


 ──────◇◇◇──────

 

 

 高次元捕食体 ボガール

 ハンターナイトツルギ 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ハァ、やっと片付いたか。あのタルタルソースめ、本当に面倒な置き土産を残していきおって。……残りエネルギーからしてこの時代に残れるのもあと僅かか」

 

 究極生命体【アブソリュートタルタロス】が残していったネオフロンティア製の兵器群をどうにか撃破した未来のアークは、エネルギー不足からカラータイマーを点滅させながら愚痴を吐いていた。

 ……実際、彼のカラータイマーはかなりの速度で点滅しており、更に時折身体をフラつかせている事からかなりの負担が掛かっているのが傍目からでも分かるぐらいだった、

 

「さて、あんまり過去に影響を与えるのも不味いし“この自分”の記憶を少しだけ改竄しておくか。それにタルタルソースと俺の干渉の所為で封印も少し緩んでるし補強しておかないと。この時期に『銀の鍵』が覚醒しても制御出来ないだろうしな。……本来なら多少過去を変えたぐらいなら並行世界が新しく出来る程度で済むんだが、俺の場合は『銀の鍵』の力で他の並行世界にすら影響を与えかねないからな」

 

 そう言った未来アークは再びあの『銀色の鍵剣』を取り出し、それを自分自身──憑依している過去のアークに向けて何か“銀色の粒子”の様なものを注ぎ込んで行く。

 ……まだその能力の全容を明かす事は(ネタバレ的な意味で)出来ないが、彼が持つ『鍵剣』はある程度の記憶操作や封印能力も有するのだ。

 

「まあ、ここまで精密な調整が出来るのは、対象が過去の自分だからだってのが大きいんだけどな。……あんまり改変すると不自然な点が見られるし、とりあえず謎のロボット軍団に襲われた事にしておくか。この宇宙では良くある事だし。……んで、タルタルソース君の事はボッシュートで、更に封印を閉じてっと……よし出来た」

 

 そうして作業を終えた未来アークは疲労から更にカラータイマーの点滅を早めつつも、手に持った『銀色の鍵剣』を軽く振るった……すると、彼の身体が徐々に銀色の粒子へと解けていき、そこから順に彼の姿が“過去のアークの物に変わっていったのだ。

 ……そう、未来のアークがこの時代でやるべき事は全て終わったので憑依を解除して元の時間軸に戻ろうとしているのである。ちなみに元の時代に帰るだけなら修正力に身を任せるだけで済むので、特にエネルギーを消費する事も無く簡単に実行出来たりする。

 

「この時代だと……確かこの後はメビウスとヒカリさんが地球でなんやかんやする感じだったかな。色々大変だろうが過去の俺には頑張ってほしい(他人事感)……それにこっちはこっちで大変だからな。ゼロからは『ウルトラリーグ』に誘われてるし……あのタルタルソースをどうにかせねばならんのは確かだが、やつら“アブソリューティアン”とやらの目的もまだわからんしな……」

 

 最後までそんな事を愚痴りながらも未来の『ウルトラマンアーク』は憑依を解いて元の時代に帰還し、彼が居た場所には過去のアークが残ってその場に倒れ込んだのだった。

 ……こうして、この時代の誰の記録・記憶にも残らない激戦は幕を閉じたのだった……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◯月Ω日

 

 まったく先日は酷い目にあった。まさかどこぞの星製かは知らんが暴走した無人のロボットに襲われるとは……ああいう制御出来なくなった無人兵器の不法投棄は結構問題になってるからな。強力だから制御出来なくなったパターンも多いからか危険度も高いし、いきなり暴走して今回みたいな騒ぎになったりするんだよな。

 実際、俺が戦った謎のロボット達も妙に強かったからな。今でも身体の節々が少し痛むぐらいだ……何故か妙に筋肉痛というか無茶な念力の使用をしたみたいな疲労もあるが、それだけの激戦だったからしょうがないだろう。

 ……何か違和感があるんだが気のせいだろう。そうした方が良い気がするし。

 

 それよりも捕捉した筈のヒカリさんを見失った事の方が問題だよな。せっかく見つけたと思ったのにまた捜索し直しだよ……あのロボットを放置したヤツは絶対許さん。いつか機会があったら色々と嫌がらせをしてやる。

 ……まあ、21先輩の方でも彼の反応をキャッチしたらしいので、俺もそちらを手伝って追跡を続行する事になるだろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月α日

 

 よっしゃ!!! ようやくヒカリさんの位置を捕捉出来たぜ! 反応があったのはS・P5星雲支部管轄宙域の外れにある『惑星ピエタ』と言う星だ……事前情報によると惑星ピエタは星の中にいくつかの都市があるヒューマノイドタイプの生物が住む惑星で、都市の外の辺境には強力な大型怪獣がそれなりの数生息しているらしいからボガールが目を付ける可能性も高い様だ。

 幸いテレポーテーションがある以上正確な現在地さえ分かってしまえばヒカリさんに接触するのは簡単だし、惑星ピエタは銀河連邦にも加盟しているので宇宙警備隊である俺達なら立ち入る事はそう難しく無いからな。

 ……後は彼を説得して光の国に連れ戻すだけだな……今の彼はボガールへの復讐心に囚われているみたいだが、逆に言えばボガールの共同討伐とかを持ち掛ければ説得出来る目もあると思うんだ。

 21先輩も『交流のあったアークがそう提案すれば説得出来る可能性はあるだろう』と賛成してくれたし、これで漸く“ヒカリさん闇堕ち事件”の解決への兆しが見えて来たな! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ……と、そんな事を思っていた時期が俺にもありました。

 

「私の邪魔をするなァァァ!!!」

「いやだから『一緒にボガール討伐しましょう』って言ってるじゃないですかぁぁぁ⁉︎」

 

 そんな怒りの声を上げながらヒカリさん──ハンターナイトツルギは、右腕に装備されている青いブレスから光剣を展開して俺に斬りかかって来た……咄嗟に俺も右腕のアークブレスから光剣──アークブレードを展開して彼の光剣受け止めるが、それを見た彼は更に苛烈さを増した剣撃を立て続けにこちらに振るって来たので、俺はやむ終えず彼と斬り結ぶ事になった。

 ……何故こうなったかと言うと、まず俺と21先輩は惑星ピエタの都市部に居たヒカリさん(人間態)に接触する事に成功して光の国に戻る様に説得したのだが案の定と言うか『邪魔をするな』の一言で突っぱねられたのだ。

 まあトレギアさんと接触した時の話からそんな反応になる事は予想出来ていたので、予定通り今度はそれなら一緒にボガールを討伐しましょうと持ち掛けて彼をこちらの監視下に置こうとしたのだが……そこにいきなり()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

『性懲リモナク私ヲ追ッテ来タカ、ツルギヨ』

『ボガァァルゥゥゥゥゥ!!!』

 

 当然ボガールを見たヒカリさんは即座に激昂して戦闘状態に突入、遂には二人共が()()()()()()()()()()()巨大化しての戦闘に突入してしまったのだ。

 ……流石に宇宙警備隊員として銀河連邦所属の惑星で都市への被害が出る可能性がある戦闘を見過ごす事は出来ず、俺と21先輩も巨大化してどうにか都市に被害が出ない様に二人を抑え込もうとしたのだが……。

 

「邪魔をするなら例えお前であっても斬る!!!」

「いや、ここ人が住んでる都市だから暴れちゃ危ないんですってぇ⁉︎ ……クソッ! まったく聞いちゃいねぇ!」

 

 その際に俺が引き続きヒカリさんの説得を図ったのだが見事に説得判定に失敗、激昂した彼は都市への被害もお構いなくボガールと戦うので21先輩の指示の下やむ終えず腕付くで止める事になり……いきなり逆ギレされてこうなりましたとさ(泣)

 ……しかし、惑星アーブ製の『復讐の鎧』のヤバさをちょっと過小評価していたか。以前までのヒカリさんとは思えない発言と行動……これは多分装着者の負の感情を大幅に増幅しているっぽいか? 

 

「ククク、無様ダナァツルギヨ。同胞ニ邪魔ヲサレルトハ」

「ボガァールゥ! 貴様ぁ!!!」

「ちょっと只でさえ立て込んでるのに挑発とか辞めてくんない⁉︎」

「ボガール! お前の相手はこちらだ、ウェルザード!」

 

 そこにボガールが嘲笑を浮かべながら挑発とかして来やがったのでヒカリさんは更にヒートアップ、まだ避難が終わってない街の建物ごと憎っくきボガールを攻撃しようとして来たので、俺は慌てて止めようとしたが振るわれた光剣によってどうにか防御こそ出来たものの弾き飛ばされてしまった。

 ……まあ、そのボガールには21先輩が投げた宇宙ブーメラン“ウェルザード”によって斬り裂かれ、更に接近した彼の格闘攻撃に晒された事でこっちに何か言う余裕は無くなった様だがな……って、ヒカリさんがなんか右腕のブレスを天に掲げて稲妻を呼び込んでるんだけど⁉︎ あれって光線技のチャージ動作じゃねえか⁉︎

 

「ストォップヒカリさん⁉︎ この状況で光線技は不味いって⁉︎」

「ええいっ! 離せっ⁉︎」

 

 それを見た俺は避難が終わっていない都市の住民に被害が出ると思い、慌ててヒカリさんに駆け寄って彼を後ろから羽交い締めにした……だが、復讐の鎧の効果なのかヒカリさんはブルー族の研究員とは思えない程の力で抵抗しており、少しでも力を緩めればあっさりと弾き飛ばされてしまいそうだった。

 ……こうなったら『復讐の鎧』自体をどうにかしないとダメだな。俺が使えるのでどうにか出来るかは一か八かになるが、ここは浄化技を試すしかないか。

 

「ヒカリさん! 邪悪な力に負けないで下さい! ピュリファイフラッシュ!!!」

「なっ……グワァァァァァァ!!!」

 

 そうして俺はヒカリさんに組み付いたままカラータイマーを中心として自身の身体から浄化能力を持った光を放ち、彼が纏う復讐の鎧に込められた怨讐の念の浄化しようと試みた。

 ……その結果、俺が身体中から放つ浄化の光に当たった復讐の鎧から少しずつ黒いモヤの様なモノ──アーブの民の怨念が立ち上り、徐々に浄化されている事が分かった……このまま行けるか? 

 

「……まだだ……このまま彼等の無念を消させてなるものかぁぁぁぁぁ!!!」

「なっ⁉︎ ぐわぁぁぁ!!!」

 

 ……そう思っていたら、突如ヒカリさんがそんな怒号をあげると共にその全身から凄まじいエネルギーが吹き荒れた……そして組み付いていた俺はそのエネルギーをモロに受けて吹き飛ばされてしまったのだ。

 これはまさかヒカリさんの意思を無視して無理矢理浄化しようとした反動……? これはミスったかな。どうやら俺は彼の逆鱗に触れてしまったらしい。

 

「失せろっ!!!」

「げっ⁉︎ アークディフェンサー!!!」

 

 更に自由を取り戻したヒカリさんは再び光剣を展開し、それを俺に向けて振るう事で光刃を飛ばして来た……咄嗟にバリアを展開して防いだものの、その光刃は予想以上の威力だった所為かあっさりとバリアは破られて俺も余波でダメージを受けてしまった。

 ……そうしてフリーになったヒカリさんは即座に反転してボガールの下に向かい、戦っていた21先輩を押し退けてヤツに斬りかかっていったのだ。

 

「ボガァァァルゥゥゥ!!!」

「ぬわっ⁉︎」

「……フン、ココマデダナ」

 

 ……だが、ボガールは激昂しまくっているヒカリさんの剣撃を捌きながら下がりつつ光弾を撃ち込んで牽制、俺と21先輩が暴れるヒカリさんが出す被害を抑える為に動けないのを見るとあっさりテレポートで姿をくらましたのだった。

 ここまでやって引くとかアイツ一体どう言うつもりだ……と思ったがどうやら都市の避難が終わり、更に惑星ピエタの軍隊もこちらに向かっているみたいなので潮時と判断したらしい。

 

「待てっ! ボガール!!!」

「ちょ⁉︎ 待ってヒカリさん……ああ、行っちゃったよ……」

 

 そしてヒカリさんもすぐさまボガールの後を追って青い光に包まれながら何処かに転移して行ってしまった……うむむ、漸く接触出来たのにこのザマ、どうも力ずくで連れ戻すのは無理があったみたいか。

 

「……すみません21先輩、今回は完全に俺のミスです。どうも下手にアーブの民の意思を無理矢理浄化しようとしたから、それが原因でヒカリさんを怒らせてしまったみたいで……」

「いや、余り気にするな。あの状況で浄化技が使えるなら俺でも同じ行動を取ったさ。……どうも我々はあの『復讐の鎧』の事を甘く見ていた様だからな」

「そうですね」

 

 本当にねそうなんだよなぁ、浄化技使えるから楽勝だとタカをくくってたぜ……多分、あの復讐の鎧はヒカリさんの精神と密接にリンクしているっぽいんだよな。

 加えてヒカリさん自身が鎧の無念を晴らそうとして……何というか鎧を縛っていると言うか、逆に縛られていると言うか、そんな感じだよな。

 ……うーん、どうも浄化した時の感覚でそう感じただけだから上手く言葉に出来ないが、一応可能な限りさっき感じた事を21先輩に伝えておこう。

 

「……成る程、それなら力ずくよりもどうにか説得するか、いっそのこと復讐という本懐を遂げさせてやる必要があるかもしれんな。……とにかくこの件については後で考えるとして、今は都市の復旧の手伝いとピエタ軍への説明を済ませるぞ」

「了解です21先輩。……それに直接ヒカリさんに接触したお陰で()()()()()()()()()()が撮れましたから、追跡はそう難しくないでしょう」

 

 そう、実はさっき接触した際に例のエネルギー探知装置に『ハンターナイトツルギ』のエネルギーデータを記録しておいたのだ。こうすれば宇宙警備隊員の位置把握システムとかを使って居場所を特定する事も出来るって寸法よ……転んでもタダでは起きないさ。

 ……まあその前に惑星ピエタの人達に色々と事情を(ある程度誤魔化しつつ)説明せなばならんのだけどね……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月Σ日

 

 とりあえず惑星ピエタ政府への説明は一通り終わった……まあ、ハンターナイトツルギ=ヒカリさんって事だけ隠して事情説明しただけだしな。鎧に取り憑かれて暴走しているウルトラ族とボガールを追っていたとだけ説明したのである。

 ……さて、後の問題はヒカリさんをどうやって連れ戻すか何だが……当初の予定である力尽くで連れ戻すや浄化で鎧を排除はちょっと無理そうなんだよな。

 

 あの後、接触時に得られたデータを銀十字軍のウルトラの母(今回の事情を知っている)に送って改めて分析していただいた結果、あの復讐の鎧はヒカリさん自身の復讐心やアーブの民の無念を媒体にする事で彼の精神へ強力に取り憑いている事が分かった。

 また、ウルトラの母の見立てによると復讐の鎧を浄化するなら彼自身が復讐を辞め、かつアーブの民の無念を晴らさなければ難しいだろうという報告も付け加えられていた。

 ……一応光の国の専門施設で長時間かければ無理矢理浄化する事も可能らしいが、取り憑かれている間はヒカリさん自身が抵抗する事や問題を大事にしてしまうなどの諸々の理由でこの案は却下になった。

 

 これらの結果からヒカリさんの確保にはどうにか説得するか、いっその事ボガールへの復讐を遂げさせてやるかしなければならないという事になった……つくづく以前の浄化ミスが響くな。多分アレで俺の事は大分敵視されたと思うし……。

 ……とりあえず今は前回取ったデータを使って彼の位置情報を特定するのが先決かな。各支部の事情を知ってる協力者達にもデータを送ったし、見つかるのは時間の問題だろうが。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月Ω日

 

 今日漸くヒカリさんの居場所が分かったんだが……どうもその居場所というのが銀河系支部の担当宙域である“あの”地球近辺で、その事が話をややこしくしているのだ。

 ……そう、例の『メビウスの地球派遣任務』と完全に時期が被ってんだよなぁ……。

 

 こう色々『新しいウルトラ兄弟への登竜門』的な感じで地球派遣任務を宣伝したから取り止めや延期という訳にも行かないし、以前明らかになった復讐の鎧の性質を考えると手段は選ばなければならないしと……どうも色々と面倒な事になっているみたいなんだよな。

 ……とりあえず位置は補足出来ている事から時間は少しあるので、親父や21先輩達が銀河系支部に集まって今後どうするか話し合う事になった訳だが……本当にあの地球って惑星は色々とトラブルを持ち込むよなぁ……。




あとがき・各種設定解説

アーク:ナニカサレタヨウダ
・初見殺し系な罠選択肢である『浄化』コマンドを選んでしまって失敗した人、復讐の鎧は段階を踏まないと浄化出来ない仕様なのだ。
・セブンガーは現在怪獣ボールの中でダメージの修復中なので手が足りなかったのも敗因……おのれタルタルソース!!!

未来アーク:やる事やったのでさっさと退場
・この後はタルタルソースを追いつつゼロに協力する感じで考えています…今度のギャラファイ最終話の展開次第だけど。

ヒカリさん:邪悪な力に負けまくってる
・……の様に見えるが、あの復讐の鎧をただの邪悪な力だと見做して浄化しようとするとアウトという面倒臭さ。
・テレビ版と比べると性格や行動はかなり荒れているが、この理由は次章で説明する予定です。

ボガール:おちょくるだけやって帰った
・尚、今回の行動はヒカリを敢えて都市内で挑発して、連れ戻し来たらしいウルトラ戦士に対処させる事が目的だった。


読了ありがとうございました。
これで第3章は終わりになります。次章からは地球編……『ウルトラマンメビウス』編になると思うので、暫く更新期間は空くと思います。メビウス本編とかヒカリサーガとかの情報を見直さないと……。


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第4章 『ウルトラマンメビウス』編
秘密の来訪


ぼちぼち書けてきたので新章『ウルトラマンメビウス編』を投稿していきます。


 ……広大な宇宙、その銀河系にある惑星の一つである地球──そこに数多く存在する国家の一つである日本の一地区にあるごく普通のカレー屋さんの店内。

 そこでは何人かの客が席でカレーを食べながら、店内に取り付けられているテレビのニュースを眺めていた。

 

『……それでは次のニュースです。昨日、東京郊外の工場地帯に現れた【地底怪獣 グドン】がCREW GUYS JAPANと、先日地球に現れた新しいウルトラマンによって撃破されました』

 

 そのニュースでは遠くから撮影したのか画像は荒く撮影対象も小さかったが、CREW GUYSの新戦闘機【ガンフェニックス】がグドンを攻撃する映像や、赤と銀の巨人──ウルトラマンメビウスが左腕から光剣を展開してグドンを斬り裂く映像も映されていた。

 その映像が終わると、今度は記者会見でGUYS JAPANの『トリヤマ補佐官』という中年の男性が今回のGUYSの作戦に付いて説明を行う映像が流れ出した……のだが、先程の戦闘シーンと比べてインパクトが薄いからか、殆どの客がテレビから目を離して手元のカレーを食べる事に集中し始めた。

 

『……えー、つまりですね、これからもGUYSとしては皆様の生活をお守りする為に全力を尽くす所存で……』

「……ふーん、あの戦闘機の機能についてははぐらかす感じか。……まあ、アレはどう見てもこの星の技術じゃないだろうから機密だろうしなぁ

 

 しかし、そんな店内のカウンター席で一人だけカレーを食べる手を止めて、テレビに映るトリヤマ補佐官の記者会見を真剣な表情で眺めている“一人の金髪碧眼で長身の青年”が居た。

 ……その男性は明らかに外国人と分かる外見な事もあって妙に目立ってしまっており、隣の席に座っていた年配の男性から声を掛けられる事になった。

 

「よう、外国人のにいちゃん。テレビ見るのも良いがこのままだとカレーが冷めちまうぜ」

「あっと、そう言えば食べている途中でしたね。ちょっと食事には慣れてな……じゃなくて、テレビの内容が気になってしまって。……せっかく美味しい食事なんだから温かいうちに食べないとですね」

 

 そんな風に声を掛けられた彼は、どう見ても外国人といった見た目によらない流暢な日本語で返しながら再びカレーを美味しそうに食べ始めた……それを見て興味を持ったのか、或いは元からお喋り好きだったのか年配の男性は更に彼へと話しかけてきた。

 

「にいちゃん日本語上手だねぇ。この国に住んで長いのかい?」

「いえ、このほ……この国に来たのはつい最近の事ですよ。ちょっとした仕事の関係でして。日本語は職場の先輩に教えてもらって頑張って勉強しました。あとこの国に来たら是非カレーを食べるべきだとも言われましたが」

 

 そんな金髪の青年の茶目っ気が効いた返しがお気に召したのか、年配の男性はカレーを食べながらも話を続けていった。

 

「はー、そりゃあ運が無いねぇにいちゃん。最近怪獣が再び現れ始めたこの国で仕事なんて」

「まあ仕方ないですよ、自分で選んだ仕事ですからね。……それにこの国の人達は怪獣が現れたのにパニックも起こさずきちんと生活してますしね」

「そりゃあ、ほんの二十五年前ぐらいまでは毎週の様に怪獣が現れて、そいつらを防衛軍の皆さんやウルトラマン達が倒してくれていたからなぁ。……流石に先日現れた怪獣にCREW GUYSが全滅したって聞いた時は、昔MACが全滅したニュースを見た時ぐらい驚いたけどな」

 

 その男性はまるで昔の事に思いを馳せる様に語り、金髪の青年もそれに合わせる様に相槌を打ちつつ男性の話を興味深そうに聞いていた。

 

「でもニュースを見た限り復活したみたいですね」

「そうだなぁ。多分新メンバーだろうにちゃんと怪獣も倒してるし見事なもんだ。……この新しいウルトラマンも最初は危なっかしい戦い方だったけど、昨日は結構やれてたし」

「本当ですね。……最初は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしたけど」

「にいちゃん中々面白い事を言うなぁ」

 

 ……そんな感じでしばらく彼等の話は続いていたが、青年の方が先にカレーを食べ終わった事でその話は終わりになった。

 

「あ、もう食べ終わったので代金を払わなければいけませんね。……色々なお話を聞かせて貰ってありがとうございました」

「おうそうかい。……って、自分で言っておいてカレー食べるの忘れて話をしたんじゃ立つ瀬がねえな。にいちゃんも仕事大変だろうが頑張りなよ」

「ええ、頑張らせていただきます」

 

 そう言って青年は残ったカレーを慌てて食べる男性を背に会計を済ませて店から出て行ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……さて、最初は少し不安だったメビウスの方も大丈夫そうだな。緊張も抜けて本来のスペックに戻っていたし、グドンを被害が出ない場所に移してたしな。……しかし『地球ではカレーを食べるべきだ!』と昔ウルトラマンさんに熱弁された事があるから食べてみたが結構美味しかったな。これなら人間態での食事を趣味にする同族が多いのも頷ける」

 

 そうしてカレー屋を出た青年──我らが宇宙警備隊員アークの人間態はそんな独り言を呟きながら街を歩いていた……ちなみに外見を外国人の姿にしたのは覚えた日本語が多少おかしくても誤魔化せるだろうと思ったからである。

 ……実はこのアーク、セブン21直伝の変身術を習得しているので人間態の外見を自由に変えられるのだ。ただし人間態時の偽装能力などはセブン21には遠く及ばないが。

 

「まあ親父もコーヒーを飲むのが好きだと言っていたし今度は喫茶店にでも行ってみようか。……ただ、何故か嫌いな物は『野外でのバーベキュー』とか言ってたんだよな。なんでそんなピンポイントな……」

 

 そうして人間態のアークはただの観光に来た外国人に見える様に街を眺めながら歩いて行く……これだけ見ると彼が食道楽の為に地球へと来た様に見えるかもしれないが、当然宇宙警備隊としての仕事──地球で反応が確認されたハンターナイトツルギの捜索及び説得という任務を帯びてやって来ているのだ。

 ……こうして街をぶらついているのも現在の地球や地球人の状況を確認して今後どう動くべきかを思案する為なのであり、決して食道楽の為では無いのだ。

 

「うむ、思ったより食事は楽しいし、次はラーメンとか食べてみたいな。後はお寿司と天ぷらと……」

 

 …………多分。

 

「……む、またこのエネルギー波か」

 

 だが、街を歩いていたアークは突然何かを感じ取ったかの様に空を眺めると、街の観光を中断してなるべく人のいない郊外へと足を進めていった。

 ……そして彼は人気のない郊外の丘の上に着くと懐から小型の機械を取り出して何やら操作し始めた。

 

「……先日のグドン、そして更に前のディノゾールが呼び出された時に支部で観測されたエネルギー波は間違いなくボガールが怪獣を呼び寄せる際のモノだな。やはりヤツもこの地球にやって来ているか。……ヒカリさんのエネルギー波形が微妙に変わった事から、おそらく地球での活動の為に地球人と融合したっぽいし……」

 

 そんな独り言を呟きながらアークは小型の機械──以前から使っていた宇宙科学技術局謹製のエネルギー探知装置の改良型であるヒカリ・ボガールのエネルギーを感知する事に特化した装置──を操作して行く。

 ……元局長であるヒカリを連れ戻す為、宇宙科学技術局が忙しい中でアーク達が得たヒカリとボガールのデータを元にして可能な限りの改良を施したその探知装置の能力は凄まじく、瞬く間に先程のエネルギー波からボガールの位置を逆探知していく。

 

「……ボガールの位置は問題なく分かりそうだが、それで問題は()()()()()()()()()なんだよな……えーい、今回の任務は問題がややこし過ぎるんだよなぁ……」

 

 そうして機械の操作を終えたアークは何故か頭を抱えてため息を吐いていた……さて、彼がここまで悩んでいる理由を説明する為に少し時を遡ってみようか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ……メビウスが地球に派遣された少し後の事、その地球を管轄下に入れている宇宙警備隊の銀河系支部の一室で宇宙警備隊隊長ゾフィーと宇宙保安庁のセブン21とアークは真剣な表情で何かを話し合っていた。

 無論、その話し合いの内容は地球に向かったらしいヒカリ──ハンターナイトツルギへの対応だったのだが、生憎魔が悪く既にメビウスが地球に向かってしまった事が話をややこしくしていた。

 

「……つまりゾフィー隊長、今回の地球におけるヒカリ博士の説得任務は『アークが単独で地球に赴いて行う』という事ですか?」

「うむ。……メビウスを既に派遣してしまった以上、更なる追加の人員をまだ銀河連邦に加盟していない地球に派遣するのは宇宙警備隊の立場的にも難しいからな」

「ただでさえ地球には既にウルトラ兄弟が四人も滞在してますしね」

 

 実のところ宇宙警備隊は宇宙の治安維持の為にかなりの独自行動権を有してはいるが、だからといって明確なルール違反はおろか暗黙の了解や不文律などを無視した行動をとり続ければ、当然ながら銀河連邦などの味方側の勢力にも不信感を抱かれてしまう。

 故に一見ウルトラ兄弟は好き勝手に地球を贔屓している様に見えるかもしれないが、その裏では可能な限り規則を遵守したり関係各所への根回しを行なっていたりもするのだ。

 ……最も、これだけが理由なら色々と無理をすればアーク以外にも追加の人員を送り込む事ぐらい出来なくは無いのだが……。

 

「……それに例の『エンペラ軍団』を名乗る者達……まだ確定ではないがその規模と戦力からして限りなく“黒”に近い様だ。……そして奴等は現在宇宙各地で銀河連邦所属の惑星や施設などに攻撃や侵略を行なっているから、警備隊の殆どの人員……特にベテランはそちらに割り振らねばならん」

「……事件の重要性や規模は地球にいるヒカリ博士やボガールよりもエンペラ軍団の方が上になりますか」

「既にメビウスを派遣している以上、今のところは何も無い地球に更に追加のベテラン隊員を派遣する余裕は無いか。……ヒカリさんの状態も考えると送り込む人員を増やせば良い訳でも無いからな……」

 

 そう、メビウスが地球に赴くのと前後する形で宇宙の様々な場所で『エンペラ軍団』を名乗る者達が活動を始めてしまったのだ……それに対応する為、宇宙警備隊はそのリソースの殆どをそちら側に向けなければならなくなったのである。

 ……そしてこれらの事情を聞いたアークが何かを考え込んでしまったので、ゾフィーとセブン21は『流石に新人の彼にとっては難しい案件だから、考えを整理する時間も必要だろう』としばらくそっとしておく事にして自分達も今後の事を話し合い始めた。

 

「……これは私の勘なのだが、おそらくこの騒動は『エンペラ軍団』が“何か”を行う為の陽動である可能性が高いと思う。セブン21にはそちらの調査に回ってほしい」

「確かに、連中の規模に反してやっている事は活動範囲が広いだけの小競り合いですからね。その可能性は高いでしょう」

「…………」

 

 ゾフィーとセブン21がそんな会話をしている横で当事者のアークは引き続き考え込んでいたが、やがて意を決したかの様に顔を上げて二人へ話しかけた。

 

「……まあ、地球に送れる追加の人員が“新人でありヒカリさんと面識があって説得出来る可能性もあって、更にいざとなれば浄化も出来る”俺ぐらいしかいないのは理解しました。……とりあえず基本方針としてはもう一度説得して、必要なら再びボガールの共同討伐を申し入れる方向性でやってみようと思います」

「前回はボガールの邪魔が入ったから上手くいかなかったが、やはりあの復讐の鎧をどうにかする為にはボガールを倒す事で彼の復讐心を薄れさせる必要があるだろうからな。……だが、以前見た彼の復讐心を考えると接触は慎重を期す必要があるだろうな」

「ボガールには怪獣を呼び込む能力がある以上、呼び出された怪獣やそれと戦うであろう地球人やメビウスとの対応も考える必要もある」

 

 アークはまとめ終わった考えをゾフィーとセブン21に話して行き、その案を聞いた二人は新人ながらよく考えられている提案に賛同しながらも、経験の薄さから来る提案の不備を指摘しつつその案を詰めていった。

 

「成る程……じゃあ、メビウスへはどう説明すれば良いでしょうか?」

「流石にボガールやヒカリの事を話さない訳にもいかないだろうが、地球への赴任早々に話した場合、新人である彼への負担になって思わぬミスをするかもしれん。……話をする事は確定だが時期や状況は見極める必要があるだろう」

「まあ了解。……って、俺も新人なんですが」

「だが、この一件をどうにか出来る可能性が一番高いのもお前だと私は考えている。メビウスとも仲が良いし、ヒカリとも面識がある」

 

 そうして単純な戦闘だけでなく様々な状況で宇宙警備隊の任務を行なってきたゾフィーとセブン21は、その経験を活かしてアークに様々なアドバイスをしていった。

 また、今回の一件では慎重な舵取りが必要だと思っているアークは、内心『初めての単独任務に行く新人がやるもんじゃないだろう』と思いつつも二人の言葉を全力で頭に叩き込んでいく。

 ……そして、一通りの話が出尽くした所でゾフィーは“宇宙警備隊隊長としての言葉”をアークに告げた。

 

「最後にアーク、今回の件でお前が最優先にするべきは『()()()()()()()()()この任務における地球への被害を可能な限り抑える』事だ。それ以外に関しては隊長である私が全ての責任を持つ。それに万が一に備えてウルトラの母にも来て貰う事になっている」

「……了解しました、ゾフィー隊長」

「頼んだぞ、アーク」

 

 ……そんなやり取りを最後に二人との話し合いを終えたアークは、その後に丁度届いたエネルギー感知装置を受け取ってから地球へと向かっていったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 こうして地球に降り立ったアークは人間態に変身して秘密裏に地球の状況とボガール・ヒカリ両名の情報を探っていたのだ……その間、()()()()()()()()()()緊張していたメビウスの初陣でのやらかしを見て頭を抱えたりしていたが。

 

「……とりあえずメビウスに事情を話すのはもう少し様子を見てからにするか。まずはヒカリさんに接触して何とか説得かな。……いや、先にボガールの動向も探った方がいいかな。この前はヤツの横槍のせいで説得が失敗したし……」

 

 そうして一先ずの予定を建てたアークは手始めに改良型エネルギー探知機を使って『先程ボガールが怪獣を呼び込むエネルギー波を出した場所』を割り出すと、早速その場所へと向かう事にしたのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:初単独任務(ハードモード)
・実の所、カレー屋とかに行ってみたのは気分転換も兼ねての事だったり。
・ただそれでもゾフィー隊長……父親からの期待に応えようと、そして宇宙警備隊員としての職務を成そうとかつてなく本気だったり。

壮年の男性:アークが初めて会話した地球人
・若い頃に怪獣頻出期を経験しており、更に間近で防衛チームやウルトラマンの戦いを見た事があるので彼等には友好的。

トリヤマ補佐官:メビウスにおける作者の推しキャラ
・記者会見ではメテオールの事とかCREW GUYSのメンバーが実質ほぼ民間人な事などを誤魔化しつつ、記者達に悪印象を持たれない様に乗り切るという仕事を成し遂げている。

メビウス:現在原作2話「俺達の翼」が終わった辺り
・初陣のやらかしは緊張していた事よりも、地球に来る直前に“助けられなかった人”がいたから焦っていた事が大きい。

ゾフィー:公の場では公私をきっちり分ける
・実の所、宇宙中で起きている問題に対応する為に働き続けており、アークを単独で送り込んだのもそれしか手が無かったからである。
・ただそれでもアーク……自分の息子なら宇宙警備隊員としての職務をやり遂げるだろうという信頼があるのも事実である。

エンペラ軍団:こいつらの所為で宇宙警備隊がパンクしかけてる
・実の所、こいつらの殆どが何時ぞやのマグマ星人と同じく雇われたか唆されたチンピラ崩れや宇宙犯罪者達である。
・尚、彼等が宇宙中で騒ぎを起こしているのは、宇宙警備隊の目を逸らし動きを封じる事を目論む暗黒四天王の一人『知将』の策。


読了ありがとうございました。
メビウス本編の見直しがまだ終わっていないので更新は不定期になると思いますが、今後もよろしくお願いします。


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闇夜の暗闘

 ──────◇◇◇──────

 

 

 火山怪鳥 バードン

 高次元捕食体 ボガール 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そこは富山県中新川郡上市町にある大熊山……そこには少数の登山客が居るぐらいの静かな山だったのだが、ある日突如として火山が噴火し、更に局地的な地震や木々が立ち枯れると言う異常事態が起きていたのだ。

 ……その為にとある日の夜、異常事態の原因を調査する為にCREW GUYSのメンバーが現場に派遣されていたのだが……突然大熊山の山頂が大爆発を起こしたのだ。

 

「な、何⁉︎」

「地震⁉︎ いや噴火か⁉︎」

「……おい! アレを見ろ!!!」

 

 そのいきなりの事態にCREW GUYSのメンバーは警戒するが、そこで隊員の一人『アイハラ・リュウ』が爆発が起きた山頂に()()()()()()()が見える事に気が付いて他の隊員に注意を呼び掛けた。

 ……その直後、爆煙が薄れていくと共に大熊山の山頂から一体の怪獣──まるで紅蓮の様な赤い身体に青ざめた頭部と巨大な翼を持ち、顔にある鋭い嘴の両側に赤い袋が付いている全体的に見れば“二足歩行の巨大な鳥に見える怪獣”が現れたのだ。

 

「キャシャァァァァァァァァッ!!!」

 

 その怪獣──かつて地球を守っていたウルトラマンタロウと、彼を助けに来た宇宙警備隊隊長ゾフィーを一度は殺害した事もある大怪獣【火山怪鳥 バードン】の同族は煙が晴れると共にまるで自分の存在を主張する様に咆哮を上げた。

 ……それを見たCREW GUYSのメンバーは即座にバードンに対して戦闘態勢を取ったが、それよりも先に彼等には別の問題が襲い掛かった。

 

「か、怪獣だぁぁぁぁぁぁ!?」

「にっ逃げろぉぉぉ!!!」

「「「ワァァァァァァァ!!!」」」

 

 そう、バードンの咆哮によって怪獣が現れたと知った麓の住人達が半ばパニックになりながらも直ぐにその場から駆け出して避難をし始めてしまったのだ……加えて、今回はただの調査任務だった所為で彼等が誇る戦闘機【ガンフェニックス】が基地に置きっ放しで殆ど打つ手が無かったのである。

 ……だが、それでも彼等はCREW GUYSとして人々の命を守るべく地上からバードンを攻撃して時間を稼ぐものと、街の住民を避難させるメンバーに分かれて行動しようとしていた。

 

「行くぞジョージ! 住民の避難が終わるまで出来るだけアイツの注意を引きつける!」

「ったく……了解!」

「ミライ君、私達は住民の避難を!」

「分かりました、マリナさん!」

 

 そうして彼等は行動を始めたのだが、幸いと行ったらいいか地元の住民も酷い時には週一のペースで怪獣が出現する『魔境』地球に住む人たちなので幼い頃からひたすらに避難訓練をやらされており、更に地元の警官や有志の人々が避難誘導に協力してくれたお陰でスムーズに避難は進んで行った。

 ……問題はバードンに対して足止めを仕掛けようとしたメンバーの方だが、こちらも何故かバードンが()()()()()()()()()()()()()()その場を動かなかったので、街に近づけさせない様に待ち構えていた彼等が直接交戦する事は無かった。

 

「キシャァァァ……」

「おいどうなってる? アイツ出てきたのに動きやがらねぇぞ」

「俺は怪獣には詳しく無いから分からん。……とにかく、住民の避難が終わるまで大人しくしてくれればいいが……」

 

 そんなバードンの様子を見たCREW GUYSのメンバーは不気味に思いながらも、下手に手を出せばバードンが住民に目を付ける可能性があると判断して小型銃『トライガーショット』をいつでも撃てる様に構えながら様子を見続ける事にしたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「…………」

 

 ……そんな誰もが突如現れたバードンに恐怖するか動揺する、或いはCREW GUYSのメンバーの様にバードンに対して戦意を燃やしている中、一人だけバードンに対してこれらとは全く異なる感情を向けている存在がいた。

 ……そいつは大熊山の麓にある人気の無い森の中で一人佇んでいて、見た目だけは白いコートを着た地球人の女性に見えた……が、その目は現れたバードンを見つめて爛々と怪しい輝きを放っており、見る人が見ればとても人間には思えない程の異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「キャッシャァァァァァァァァッ!!!」

「……フフ、コレハ中々食イ出ノアリソウナ獲物ガ出テ来タナ。態々目覚メサセタ甲斐ガアッタ」

 

 それもその筈、ソイツの正体は地球にやってきて()()()()()()()()()様々な怪獣を呼び起こしている凶悪な大怪獣……【高次元捕食体 ボガール】が人間に擬態した姿である『ボガールヒューマン』であるのだ。

 ……そして、このバードンもボガールヒューマンが自分の餌とする為に大熊山に隠れ潜んでいた個体を目覚めさせたものなのである。

 

「……ジュルリ……デハ、早速イタダクトシヨウカ……」

 

 そうして目の前にあるご馳走(バードン)を見て薄く笑いながら舌舐めずりをしたボガールヒューマンは、早速食事の為に擬態を解除して本来の巨大な姿に戻ろうとした……。

 

「ッ⁉︎」

 

 ……が、その瞬間ボガールヒューマンは背後から()()()()()を感じ取り慌ててその場を飛び退き、それとほぼ同時に先程までボガールヒューマンがいた場所に三日月型のエネルギー刃が通り過ぎ、そのまま近くにあった岩肌に当たって爆発を起こしたのだ。

 ……その光景を見たボガールヒューマンは食事の邪魔をされた怒りから強烈な殺気を迸らせつつ、攻撃が放たれた方向を睨みつけた。

 

「……何者ダ」

「ようやく見つけたぞボガール。……しかし、バードンとは厄介なヤツを呼び出してくれたな」

 

 ボガールヒューマンの詰問に答える様に攻撃が放たれた方向にある森の中から出てきたのは、金髪碧眼の外国人の男性──に擬態した宇宙警備隊員アーク(人間態)だった。

 ……彼は人間態の状態で右腕にアークブレスを展開させながらボガールヒューマンに向けて油断なく構えていた。

 

「……誰カト思エバアノ時ノ宇宙警備隊員カ。ツルギハ追ワナクテ良イノカ?」

「お前が怪獣を呼び出したから様子を見に来たんだよ。この前みたいに邪魔をされる訳にはいかないからな」

 

 一目で目の前の相手の正体が以前に自分を追って来たハンターナイトツルギを連れ戻そうとした宇宙警備隊員だと見抜いたボガールは、こいつが以前散々下手を打った事を思い出して嘲笑を浮かべながら挑発を行った。

 だが、アークはそれを聞き流しながら人間への擬態の偽装精度を下げて、代わりに人間態での戦闘能力を引き上げて戦闘態勢に入っていった……ウルトラ族の擬態は基本的に正体を隠蔽する偽装精度と人間態での戦闘能力が反比例するのだ。

 ……そうして、お互いの間の空気が一気に張り詰めていき……。

 

「キャシャァァァァァァァォォォォッ!!!」

「……それに地球で起こっている問題はここでお前を倒せば大体解決するからな!!!」

「面白イ、ヤッテミロ!!!」

 

 ……大熊山山頂にいたバードンが咆哮を上げると同時に、お互いに啖呵を切りあい傍目からはまるで消えた様に見える程の速度で移動しながら、ボガールの禍々しいエネルギーを纏わせた五指とアークの光エネルギーを纏った拳がそれぞれ相手を打ち倒さんとぶつかり合った!!! 

 

「疾ッ!」

「死ネェ!」

 

 その二つの攻撃の威力はほぼ互角でありボガールとアークはお互いに弾き飛ばされたが、二人とも即座に体制を立て直して高速移動を続行……ボガールが放った爪による一撃をアークが相手の腕部分を打ち払う事で捌き、カウンターに放たれたアークの回し蹴りはボガールが咄嗟に身を翻した事で躱された。

 ……その時、突然バードンはその巨大な翼を羽ばたかせてまるで戦っている二人から逃げる様にドンドン大熊山近辺から遠ざかってしまったのだ。それを横目に見たボガールは忌々しそうに舌打ちをした。

 

「……チッ」

「どうした? 折角の餌が何処かに行ってしまったぞ?」

「フン、貴様コソ宇宙警備隊員ナノニ怪獣ヲ見逃シテモイイノカ?」

「生憎、そっちは地球人とメビウスがどうにかするさ。……それよりも、今は貴様を放置しておく方が危険だからな!!!」

 

 それだけ言うとアークは再びブレスから光刃(アークスラッシュ)を撃ち放つが、ボガールはそれを片手で叩き落としてお返しに衝撃波を放った。

 

「カァッ!!!」

「ふんっ!!!」

 

 だが、アークも片手を前に突き出して衝撃波をウルトラ念力で相殺しながらボガールに接近、相手もそれに応じて二人は再び熾烈な格闘戦を演じ始めたのだった。

 

「チィ! イイカゲンニシツコイ!!!」

「それはこっちの台詞だ! アークブレード!!!」

 

 そうしてボガールとアークはお互いに人間態のままで周辺の森林が更地になるぐらいの激しい戦いを繰り広げていた……のだが、その途中でバードンが飛んで行った方向から強大なエネルギーを感知した二人は、一旦戦闘を辞めてその注意を僅かにそちらの方に向けた。

 ……二人が注意を向けた先には木々を枯らしながら地面に立つバードンに向かい合う巨人──ウルトラマンメビウスの姿があった。

 

「キシャァァァ!!!」

「シェアッ!」

「……ウルトラ戦士ガモウ一人……ココガ潮時カ」

「逃すと思うか?」

 

 バードンとメビウスが戦う所を横目で見ながらボガールは撤退を視野に入れて行動しようとしたが、アークは『決して逃しはしない』と言わんばかりに右腕から光剣を展開しながらジリジリと間合いを測っていく。

 ……そうして先程までとは一転してその場には張り詰めた空気と静寂があり、お互いに動く事は無く相手の隙を伺い合う状態であった……が、そこでバードンと戦っていたメビウスが迂闊に飛び上がった隙を突かれ、相手の嘴に足を貫かれた事で状況は一変した。

 

「キシャァァァ!!!」

「シェアァァッ⁉︎」

「ッ! メビウス⁉︎」

 

 ウルトラ戦士の身体すら容易く貫くバードンの嘴に貫かれ、更に頰にある毒袋からタロウとゾフィーを一度は殺めた程の猛毒を流し込まれたメビウスが苦痛のあまり地面に墜落してしまった。

 ……そして、それを見たアークも父親がやられた猛毒の事は知っていたので思わずメビウスの方を見てしまい、目の前のボガールに致命的な隙を見せてしまう事となった。

 

「馬鹿メ! 隙ダラケダ!」

「グァッ! しまった⁉︎」

 

 当然、悪辣なボガールがその隙を見逃す事は無く、その一瞬でエネルギーを練り上げ今までのモノとは比べ物にならない規模の強力な衝撃波をアークに向けて放ったのだ。

 ……アークは咄嗟にウルトラ念力による防壁を貼ったが相手の衝撃波の勢いに押されて吹き飛ばされてしまい、何とか態勢を立て直すもののその間にボガールが空間転移でその場から消え去っていたのだった。

 

「……逃したか……メビウスの方は……」

「クッ……セヤァッ!」

「キシャァァァッ!!!」

 

 アークがボガールの気配が周囲に無い事を確認した後にメビウスの様子を見ると、彼は猛毒に身体を蝕まれて苦しげに膝をついていたが最後の力を振り絞って左腕のメビウスブレスから光刃(メビュームスラッシュ)をバードンに向けて放っていた所だった。

 その光刃自体は飛翔したバードンに躱されてしまったが、それ以上の戦闘を嫌ったのかバードンはそのまま海の方向に向けて飛び去ってしまったのだった。

 ……そして、それを見届けるしか出来なかったメビウスは、まるで力尽きたかの様にその身を薄れさせてその場から消えてしまったのであった……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……アレがGUYS JAPANの本拠地【フェニックスネスト】か。……しかし、このわらび餅ってヤツ美味いな」

 

 さて、ボガールを取り逃がしたあの夜から一夜明けて、俺こと宇宙警備隊員アークは現在GUYS JAPANの本拠地フェニックスネストの直ぐ近くにまでやって来ていました。

 ……流石に重要拠点だから警備の人とか居るので敷地内には入れないが、独特な形状の施設だからか敷地の外から写真を撮っている観光客は結構いたりする。

 まあ、そのお陰で俺がなんか『お餅フェア』ってのをやっていたお店で買ったわらび餅(カモフラージュ用)を食べながら敷地の直ぐ外をうろついていても余り目立たずに済んでいるのはありがたいな。

 

「……目的を達成する為ならこれで十分だしな……透視光線」

 

 そうして俺は警備の人間に気取られない様に気を付けつつ、セキリュティにも引っかからない様に透視光線を使って基地の一点のみを見つめた……よし、メビウス居たな。

 ……流石にあのバードンの猛毒を打ち込まれたのは心配だったから、ちょっと診断に来たのである。さてさて……? 

 

(……ふむ、毒にやられてベットで寝ているだけで命に別状は無さそうだな。……メビウスの様子からして、おそらくあのバードンはタロウ教官や親父が戦った個体と比べて弱い……いや、若い個体だったみたいだな。毒性が以前見た資料の物と比べて大分弱いし)

 

 透視光線を介した大雑把な診断ではあるが、これなら自然治癒でも問題無さそうだな……というか、バードンの毒なんて俺の治癒技術じゃ治せないからなぁ。単純な負傷と違って解毒はそれなりの技術と知識がいるし。

 ……だが、あの負傷ではしばらくはまともに戦えないだろうな。あのバードンやボガールの今後の動向次第ではあるが……。

 

(最悪、俺が出張らざるを得ないかもしれないな。……親父からは『地球を守る事はなるべく地球人とメビウスに任せてほしい』と言われてはいるが……)

 

 この地球派遣はメビウスへの修練や試練的な意味もあるし、そもそも惑星の事はその星に生きる者達がどうにかするのが筋だから、助けを求められない限りはホイホイ助力するのもあんまり良くない事なんだよなぁ。

 ……ボガールも行方を眩ませたし、ヒカリさんの方もまだ正確な位置は掴めないし……ボガールの方は昨日俺とあれだけ激しくやり合ったんだから、しばらくは迂闊な行動はしないと思いたいが……。

 

「あの野郎の行動基準はどこまで行っても『食欲』だからな。きな粉餅も美味い」

 

 それ故に散々妨害された時どう出るかが読みにくいんだよなぁ……まあ、迂闊な行動を取ればその時こそ打ち倒せばいい訳だが。

 

「その為に、そろそろアイツにもこっちの事情を説明しておこうと思ってたんだが、今は療養中だしなぁ。……しゃーない、まずはヒカリさんの位置を探りつつ状況が動くまで待機だな。……柏餅も美味いモグモグ」

 

 ……そうして俺は手に持った各種餅シリーズを食べながらその場を後にしたのだった……あくまでカモフラージュ用だからな(強弁)




あとがき・各種設定解説

アーク:ふふふ、こんな餅を食べている外国人が宇宙警備隊だとは誰も思うまい……

人間への擬態:割とポピュラーな技術
・この宇宙では知的生命体で一番数が多いのがヒューマノイドタイプなので、人間への擬態技術は宇宙の色々な種族で使われている。
・それ故に一定以上の実力者なら擬態を見破る技術や道具を持ち合わせているのが普通であり、ウルトラマンの擬態や憑依が割とあっさり宇宙人に見破られるのはその為。
・ウルトラ戦士の擬態能力はそこまで高い訳ではなく偽装度合いと戦闘能力は反比例するのが普通だが、技術を磨けばアークの様に擬態の質を操作したりセブン21の用に二つを高レベルで両立する事も出来る。

CREW GUYS&メビウス:現在は第三話『ひとつきりの命』
・流石に生身で怪獣の相手をするのは(タロウ時空の人間でもない限り)厳しいので、今回は住民の避難を優先した。
・メビウスが変身したのはバードンがまだ避難が終わっていない地区の近くに降り立った為で、どうにか避難民を庇いながら戦っていたが猛毒を貰ってしまった形。

バードン:タロウに出てきた個体と比べるとかなり若い
・というより、タロウに出て来た個体がポケモンでいう『6V努力値こうげきすばやさ振り役割破壊わざ持ちでレベル80ぐらい』みたいな厨性能だった感じ。
・こっちは多分旅パ性能でレベル40ぐらい。

ボガール:だいたいこいつのせい
・流石に戦闘能力が高い上に高速で飛行するバードンを追うのは難しいので、今回は身を眩ませる事を優先した形。


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彼等の戦い

 ──────◇◇◇──────

 

 

 火山怪鳥 バードン

 宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール

 ハンターナイトツルギ 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 大熊山で起きた【火山怪鳥 バードン】とメビウスの戦いが終わった翌日、その際に太平洋上へと逃げたバードンはそこでGUYSオーシャンの攻撃を受けて再び日本へと舞い戻っていた。

 それを知ったGUYS JAPANは進行予想地点の住民を避難させると共に、日本の領海に入ったバードンの撃破をCREW GUYSメンバーに出撃を命じていた。

 

『ガンフェニックス! バーナーオン!!!』

 

 GUYS JAPANの本拠地【フェニックスネスト】よりCREW GUYSが誇る多目的戦闘機『ガンフェニックス』がバードンを倒すべく空へと舞い上がった

 ……事情が事情とは言え前回はほぼ何も出来ず、更に隊員の一人がバードンの毒にやられた事もあってCREW GUYSメンバーの士気は高く、研究によって発見された()()()()()()()を突く作戦がもあってやる気十分に戦闘へと向かっていった。

 

「…………」

 

 ……視点は変わってバードン上陸の可能性が高いとして住民が避難されたとある漁村。その近くにある小高い岡にガンフェニックスが太平洋に向かって飛翔していく所を見上げる一人の金髪の男性の姿があった。

 ……言うまでもなく彼は宇宙警備隊員アークの人間態であり、彼はガンフェニックスを見送りつつも周囲を念入りに警戒していた。

 

「……近くにボガールの気配は無しか。前回の件もあって警戒しているのか?」

 

 彼がここに居る主な理由はバードンが再び日本に近づいている事を察知したので、再びボガールがバードンを餌として狙うのではないかと考えて警戒する為であった。

 ……また、前回のバードンとの戦闘でメビウスが猛毒を貰ってしまった以上、今回変身して戦う事は難しいだろうと考えて、万が一の時は自分がバードンの相手をする事も理由としてあった。

 

「とはいえ、宇宙警備隊的には要請も無いのに怪獣を倒しに出撃は余り良い事ではないので、まずはCREW GUYSに任せる事になるが。……地球での『ウルトラマンのお約束』と言うやつだな」

 

 ちなみにこのお約束は『基本的に地球の防衛は可能な限り地球人に任せる』という配慮と、『銀河連邦に加盟しておらず救援要請も出ていない(出せる事を知らない)星での活動は控えるべき』という不文律と、『それでも地球人を助けたい』というウルトラマンの心情が合わさった折衷案というのが大きい。

 ……そうして地球での基本方針を『基本的に宇宙警備隊員として行動しつつ、イレギュラーが起きたら先人達(ウルトラ兄弟)に倣う』様にする事を再確認したアークはウルトラ族的超感覚を駆使して、とりあえず今は海上におけるCREW GUYSとバードンの戦いを見守る事にした。

 

「キャシャァァァァッ!!!」

 

 まず、接近するガンフェニックスに気が付いたバードンが“アレはさっきコッチを攻撃して来たヤツ(GUYSオーシャンのシーウィンガー)と同じ敵だ”と判断して、撃墜するべく口から超高温の火炎を吐き出した。

 

『ガンフェニックス! スプリット!!!』

 

 だが、ガンフェニックスの方も咄嗟に機体を真ん中から分離する事で火炎を回避した……そして、そのまま前半分を構成していた攻撃戦闘機『ガンウィンガー』と、後ろ半分を構成していた多用途重戦闘機『ガンローダー』に分かれてバードンへと攻撃を開始した。

 

『ウイングレットブラスター!!!』

『バリアブルパルサー!!!』

「キシャァァァァァァッ!!!」

 

 搭乗しているGUYSメンバーの操作によって、ガンウィンガーの熱線砲『ウイングレットブラスター』とガンローダーの重粒子砲『バリアブルパルサー』がバードンに放たれるが、“最強の地球怪獣”の一体とも言われる鳥型の怪獣であるバードンはその異名に恥じない空中機動力でそれらの攻撃をあっさりと回避して見せた。

 ……それを見たGUYSメンバーの一人アイハラ・リュウは現在の形態『クルーズモード』では“作戦”を実行する事は不可能だと判断し、隊長であるサコミズ・シンゴにガンフェニックスに秘められた()()()の使用許可を求めた。

 

『メテオール解禁!』

『パーミッション・トゥ・シフト! マニューバ!!!』

 

 そして隊長からの許可が降り、それと同時に搭乗しているGUYSメンバーが操作を行うとガンウィンガー・ガンローダー共に機体の一部を展開・変形させた……これこそCREW GUYSの切り札とも言えるかつて地球に訪れた異星人の技術を解析して得られた『メテオール』であり、それを運用する為の形態『マニューバモード』である。

 ……そうして解放されたメテオール(異星技術)によりガンウィンガー・ガンローダーは黄金の光を放ちながら、空中に残像を残す程の戦闘機とは思えない超起動──異星人の宇宙船の航行技術を再現した超飛行能力『ファンタム・アビエイション』でもってバードンへと襲い掛かった。

 

『作戦通りマリナとテッペイのガンローダーはバードンの動きを止める事に集中! その隙に機動力のある俺とジョージのガンウィンガーで接近してヤツの顔に付いている()()を狙い撃つ!』

『了解!』

『OK!』

『了解!』

 

 ガンウィンガーに乗るリュウがそう指示を出した直後、まずガンローダーがバードンへとその動きを止める様に射撃を行って牽制していく……そう、彼等CREW GUYSの作戦とはバードンの顔と毒袋を繋ぐ『毒腺』にある血管を破壊する事で、毒袋内部の猛毒をバードン自身に逆流させて倒すというものなのだ。

 初戦の大敗からGUYSは過去の怪獣頻出期の防衛チームと比べて平和ボケしているなどと一部では言われる事もあるが、その平和な時間によって過去の防衛チームが戦った怪獣のデータや戦訓を『ドキュメント』という形に纏めており、それらの情報を参考・応用する事でより有効な(トリモチ作戦とかでは無い)作戦を立てる事が出来ているのだ。

 ……そして、それを遠目から見ていたアークもガンウィンガー・ガンローダーの動きからCREW GUYSの作戦に気が付いていた。

 

「……成る程、バードンの毒腺を狙うのか。確かにその方法ならバードンを倒すのに大火力は要らないし、海上でなら猛毒の流出による人的被害は最小限に抑えられるか。ちゃんと陸地にバードンが飛来する可能性も考えて毒による人的被害が発生しない様に避難も出来てるし……流石は地球の防衛チームだな」

 

 ちなみにアークは地球の防衛チームの事を『ウルトラ兄弟すら死ぬ事が割とある超高難度魔境に現れる怪獣・宇宙人から自分の星を防衛し、尚且ついくつかの怪獣は自分達で倒せるレベルの超精鋭部隊』と認識している。

 ……それはともかく、CREW GUYSが駆るガンウィンガー・ガンローダーはマニューバモードの()()()を活かしたドックファイトによってバードンを徐々に追い詰めていった。

 

「キシャァァァァァァッ!!!」

『直線速度はまだ向こうの方が上だけど、マニューバモードの運動性を活かせば!』

 

 マニューバモードのファンタム・アビエイションは“残像を残しながら空中で横滑りする”様な機動も可能であり、あくまでも地球上の鳥類をスケールアップした飛行しか出来ないバードン対し運動性なら上回っているのだ。

 ……そうしてガンローダーが緩急を付けた機動で付かず離れずの距離を動き回りながらバードンの注意を引いている隙に、ガンウィンガーがバードンの毒腺を狙える顔の正面に接近しようとしていた。

 

『よし! 今の内に毒腺まで接近する! ジョージ、外すなよ!』

『誰に言ってる!』

 

 そして、バードンがガンローダーに注意を向けている間に、ガンウィンガーは空中にいくつかの残像を残しながらバードンの顔の前まで接近して毒腺を狙い撃とうとし……その直後、ガンウィンガーのマニューバモードの制限時間である1分が過ぎてしまい、元のクルーズモードに戻ってしまったのだ。

 ……未だに地球の科学力では完全に解析出来ていないメテオール(異星技術)は安全性や機体への負荷などへの関係で1分間しか使用出来ない制限が掛けられているのである。

 

『クソッ⁉︎ 時間切れか!!!』

『それより前ッ⁉︎』

「キシャァァァァァァ!!!」

 

 あと少しの所で! と毒づくリュウだったが、後ろのジョージの声と正面から迫り来るバードンの叫び声にこのままでは激突すると慌てて操縦桿を切った……だが、接近し過ぎていた事で回避は完全には間に合わずガンウィンガーの翼端にバードンの突撃が掠ってしまい、撃墜こそされなかったものの飛行能力が大きく落ちてしまったのだ。

 ……更にバードンは同じくクルーズモードに戻ってしまったガンローダーに火炎を吐きかけてダメージを与えて遠ざけると、一気に海上スレスレを高速で飛行してCREW GUYSを振り切り漁村……の近くにあった小山に激突した。どうやらスピードを出し過ぎたらしい。

 

「……キャッシャァァァァァ!!!!」

 

 だが、流石は地球最強レベルの怪獣だけあってバードンは特にダメージを受けた様子も無く、そのまま立ち上がって村の人が避難している場所──餌がある方向へと歩いて行った。

 

「……ここまでかな。仕方ない……」

 

 その戦いを見ていたアークはもう自分が変身するしかないかと考えて右腕に『アークブレス』を展開し、それに左手を添えて変身の態勢を取った……が、その直前にまるでメビウス()の輪の様に見える光の塊がバードンの前に飛来した。

 ……そして、その光の中から右腕を天に掲げたポーズのメビウスが現れたのだ。

 

「キシャァァァァ!?」

「セヤッ!!!」

「メビウス⁉︎ ……アレ? 毒は……」

 

 猛毒を食らっていた筈なのにいきなり現れたメビウスにアークも一瞬驚くものの、とりあえず来た以上は彼に戦いを任せようと変身を取りやめた。

 ……そんなアークが見ている事など露知らずメビウスは2回目となるバードンとの戦いに挑んでいくが、その動きは明らかに精彩を欠いておりバードンの強力な格闘攻撃と火炎によってあっという間に追い詰められてしまっていた。

 

「シェアッ!?」

「キャッシャァァァァァ!!!」

「……やっぱりまだ毒が抜けてないな」

 

 そう、アークが言った通りメビウスの身体は未だに以前のバードンの猛毒に蝕まれ続けており、思うように身体が動かない状態だったのだ……それでもCREW GUYSメンバーと民間人の窮地に無理を押して変身したが、そんな状態でバードン相手にタイマンでは勝てる訳もなく、遂にはエネルギーの枯渇を示すカラータイマーまで鳴り始めてしまった。

 ……それを見たアークは再び右腕を上げて変身態勢に移ろうとしたが、それよりも早く地面に膝をついたメビウスに対してバードンが地上スレスレを高速飛行して再び猛毒の嘴を突き刺そうとした。

 

「キシャァァァァァァッ!!!」

「ヘアッ⁉︎」

「チッ!」

 

 猛毒に侵されて動きが鈍っているメビウスではその攻撃は躱せないと判断したアークは即座にクリスタルサークルを回転させて変身しようとし……それよりも早く地上からメビウスに放たれた()()()()を見て咄嗟に変身を中断した。

 その光弾はバードンよりも早くメビウスの頭上に到達すると青色の立方体型バリアフィールドとなって彼を囲み、突っ込んで来たバードンを弾き飛ばしたのだ。

 ……それを見たメビウス(とアーク)が光弾が飛んで来た場所を見ると、そこには戦闘機から降りて地上に展開していたCREW GUYSのメンバーの一人──アイハラ・リュウがトライガーショットを構えている所だった。

 

「おい! ウルトラマン! ……俺はなぁ! たった一つしかない自分の命を粗末にする様なヤツに! この星を守って貰おうだなんて思わないっ!!!」

「…………」

 

 そして、彼のその言葉を聞いたアークは無言でクリスタルサークルの回転を止めてからブレスを消し、この戦いに関しては完全に静観の構えを取った。

 ……その後は、まずCREW GUYSの言葉に奮起したメビウスがバードンを抑え込み、そこをCREW GUYSメンバーがトライガーショットの貫通力特化弾『アキュートアロー』による一斉射撃でバードンの毒腺を破壊して毒を逆流させた。

 

「キシャァァァァァァ!?」

 

 それによってバードンは自分自身の毒で悶え苦しんで動きが大きく鈍り、その隙にメビウスが左腕の『メビウスブレス』のクリスタルサークルを回転させてエネルギーをチャージし、地上のCREW GUYSメンバーはトライガーショットに『キャプチャーキューブ』──先程メビウスを守った最大1分間攻撃を遮断する立方体のバリアを展開するメテオール──をセットした。

 

「ハァァァ……セヤァッ!!!」

「「「キャプチャーキューブ!!!」」」

「キャシャァァァァァァァァ……」

 

 そうしてチャージが終わったメビウスの必殺技『メビュームシュート』が悶え苦しむバードンに直撃し、その直後にCREW GUYSメンバーが放ったキャプチャーキューブが爆発するバードンを包み込み猛毒が周囲に飛散する事を完全に抑え込んだ。

 ……そうやって周囲への被害を防いだ上でバードンを撃破してみせたメビウスとCREW GUYSメンバーを見たアークは、彼等がサムズアップとかしてるのを横目にさっさと踵を返してその場から立ち去っていった。

 

「やれやれ、どうも今回の俺の行動は完全に余計なお世話だったみたいだな。地球に関しては()()に任せておけば大丈夫そうだな。……しかし、あれが親父の言っていた“人間とウルトラマンの絆”ってヤツか……ちゃんと『ウルトラマン』やれてるじゃないか、メビウス」

 

 ……去り際に少し嬉しそうな声音でそんな独り言を零しながら、アークは足早にその場を後にしたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ……そんな事があってから暫く過ぎたある日、地球の衛星軌道上に宇宙から一体の怪獣が接近して来ていた。

 

「ギャァァァ……」

 

 その怪獣はかつて地球を襲ってウルトラマンメビウスに倒された【宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール】の別個体であり、以前に現れた個体と同じ様に地球に居るボガールが自身の餌にする為に呼び寄せられたモノだった。

 ……そのディノゾールは自分を呼び寄せた者が何者かなどは気にせず(水素)が豊富な惑星に向かって行き……突如横合いから放たれた()()が直撃した事によって地球へとたどり着く事は出来ずに爆散したのだった。

 

「……ボガール……ッ」

 

 その光線──ナイトシュートを放った青い巨人『ハンターナイトツルギ』は後ろを向き、今のディノゾールを呼び寄せたボガールが居るであろうを地球を憎々しげに見つめていた。

 ……だからだろうか、彼は後ろから猛スピードでやって来た()()()()()()()()()()()に気がつくのが僅かに遅れてしまったのだ。

 

「……ギシャァァァァァァッ!!!」

「ヌゥ!?」

 

 既に同族がやられているからか最初から戦闘状態で突っ込んで来るディノゾールに対して、ツルギは咄嗟に右腕の『ナイトブレス』から光剣を展開して迎え撃とうとした……が、それよりも早く念力で制御された三枚の八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)が、それぞれ違う方向からディノゾールに向かいその身体をバラバラに斬り裂いて爆散させた。

 

「……やぁヒカリさん、探しましたよ」

「……アークか」

 

 その爆発を振り払って光輪が飛んで来た方向を向いたツルギが見たのは、右腕にブレスを付けた赤と銀の肉体を持つウルトラ族──宇宙警備隊員アークの姿だった。

 ……彼はさっきのナイトシュートの際のエネルギー反応をキャッチして『ようやく本来の任務を果たせる』と急いで地上から衛星軌道上まで上がり、ツルギに声を掛けるついでに襲い掛かろうとしていたディノゾールを倒したのだ。

 

「……とりあえず、こんな所で話すのもアレなので一旦地上に戻りませんか?」

「…………」

 

 ……そのアークの提案に対してツルギは無言のまま青い光に包まれて地上へと降りていき、それを肯定だと受け取ったアークも彼の後を追って同じ様に地上へと降りたのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:今回は殆ど傍観者
・とりあえず地球の事はほぼ完全にメビウスとCREW GUYSに任せる方針にしたので、ボガールとヒカリを探すのに集中して漸く見つけた感じ。
・彼にとっての『ウルトラマン』とは高い戦闘能力とかでは無く、“ウルトラマンらしい行動”が出来るかが重要だと思っている。

メビウス&CREW GUYS:漸く『ウルトラマンメビウス』となった回
・GUYSのマシンとかメテオールの名前はカッコいいのが多いので、ついつい長ったらしく解説してしまった。
・今の所はほぼ原作と同じ展開になっている。

バードン:雑に戦っても強い種族値の暴力
・ボガールが手を出さなかったのは『高速で飛べるしそこそこ強いしで狩るには手間が掛かるな。もっとお手軽に狩れるヤツにするか』と考えたから。

ディノゾール:かませ

ハンターナイトツルギ:ボガールへの嫌がらせに余念がない
・アークとの会話がどうなるのかは次回。


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再会の彼等

 ──────◇◇◇──────

 

 

 肥大糧食 シーピン929

 高次元捕食体 ボガール 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「…………」

「…………」

 

 さて、どうにかヒカリさんと再び接触出来て、更には日本の人気のつかない丘でこうやって話し合いの機会を設けられた訳だが……ひっじょーに気まずい沈黙がその場を包んでるんだけど……どうしよう(泣)

 ……しかし、彼の人間態の姿はやはり……。

 

「ヒカリさん、その人間態……地球人の肉体を借りてますね?」

「最初に地球に現れたディノゾールにやられたこの星の防衛隊員の肉体を貰い受けた。……あのままではただ死ぬだけだったのだし、私が使っても構わんだろう」

 

 う、うーん……一応は人命救助と言い張れない事も無いかもしれないかな? ぶっちゃけ完全に肉体を乗っ取って使ってるぽいけど、それなら『助けない方が良かったのか?』と言われると反論しずらいし……。

 ……ウルトラ族の融合能力、及び現地の生物との融合は宇宙警備隊としても色々とグレーゾーンの範囲だからなぁ。人命救助の為ならやむ終えないという意見もあるし、融合が進みすぎると再び分離出来なくなるというリスクもあるという意見もある。

 ……ぶっちゃけウルトラ兄弟でも融合解除不可とか普通にあったしなぁ。

 

「……それでアーク、いったい俺に何の用……と、聞くまでも無いか。また俺を光の国に連れ戻しに来たのだろう?」

「え? ……あ、はい、そういう任務を受けてきました」

 

 俺が厄介ごとが更に増えた事に内心では頭を抱えていると、突然ヒカリさんがそんな事を言って来たのでつい反射的に答えてしまった……だが、その答えを聞いても彼は「そうか……」と言うだけで再び黙り込んでしまった。

 ……ふむ、どうも彼の状態は以前と比べると大分落ち着いているみたいだが……これはもしや……? とりあえず今は説得に入ってみるか。

 

「……ですが、今回は無理矢理連れ戻す気は無いですし、その復讐の鎧を無理に浄化しようとも思っていません。……ヒカリさん、俺と一緒にこの地球にいるボガールを討伐しませんか?」

「……そうすれば俺が復讐に固執する事も無くなり、楽に連れ戻せるからか?」

「そうですね、話が早くて助かります。……それに宇宙警備隊的にもボガールは放置してはおけませんしね」

 

 よしよし、コッチの目的を察せられるぐらいの判断力があるみたいだし、少なくとも話し合いにすらならずの終わるって事は無さそうだな……ただ、これはやっぱり()()()()()()()()()()()()、かなり深くあの地球人と融合してるのは間違いなさそうかな。

 ……そう、ウルトラ族の融合能力に於ける最大の問題点が『融合の深度を上げると肉体だけでなく精神まで融合してしまう』って所なのだ。特に死亡した対象を再生させる様な場合にはどうしても融合深度を上げる必要が出る上、長時間の融合が必要なので二つの精神が混じる危険性が上がりやすいのである。

 

(ウルトラ族にも脳内の電気信号の操作とかなる出来る人もいるが……『心』『精神』『魂』と言われるモノへ自由に干渉するのはウルトラ族でも不可能って長い間言われてるんだよな。融合解除不可の主な原因はこの辺りにあると考えられているし……というか、そういった曖昧な概念は未だに科学では証明出来ない範囲だからな)

 

 そしてウルトラ族の精神融合は単純な脳内電気信号を操る洗脳や乗っ取りとは違って、そういった概念的な融合能力にあたるらしくまだ完全には把握出来ていない部分なのだ……確か、この辺りの概念を『アストラル体』や『インナースペース』として科学的に研究するのはトレギアさんの領分だったかな。

 ……まあ、今重要な問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って所なんだよな。正直言って彼が今どういう精神状態なのかは予想出来ない。

 

「……少なくともボガールを俺自身の手で討つ事は譲れん」

「それじゃあ俺がボガールの情報を貴方に渡したり、ボガールが逃げない様に援護する形での協力ならどうでしょうか?」

「……俺の邪魔をしない限りは好きにすれば良い」

 

 やっぱり、前回の時と違って大分態度が柔らかくなっているな。少なくともボガール相手にあれだけ暴走した時と比べると憎悪の雰囲気が薄くなった様に感じる。

 ……あの“復讐の鎧”はあくまでもヒカリさんの復讐心を増幅しているだけだから、そこに“地球人の防衛隊員の精神”が混じった事で効果が落ちているのか?

 まあ、まだボガールと遭遇していないから落ち着いてるだけかもしれないが……少し突っ込んだ質問をしてみるか。

 

「それでは好きにさせて貰います。……ただ、なるべくこの星に被害を出さない様にお願いしますよ。前回みたいに街中で暴れられても困るので」

「それに付いては保証は出来ん。あくまでボガールを討つ事が最優先で、アーブの民と比べれば遥かに劣るレベルの精神しか持たないこの星の人間にそこまで気を使う気は無い。……そもそもボガールを早期に討つ方がこの星への被害も抑えられるだろう」

 

 ……ふむふむ、アーブの民の怨念と彼自身の復讐心は薄れた訳ではないけれど、少なくとも以前までのヒカリさんなら“この星への被害は抑えられる”とかは言わなかっただろうし、融合元の防衛隊員さんの影響を結構受けてる感じかな。

 ……地球の防衛隊員の人なんだしウルトラ族の精神に影響を与える()()()は当然として、復讐の鎧の怨念を薄めるぐらいは充分にあり得るでしょう(断言)

 

「……まあ、分かりました。その辺りに関してはこちらで()()()フォローさせて頂きます」

「……好きにしろ」

 

 勝手にすれば良いと言われたしね! 勝手にフォローしても文句は無いよね! ……さて、ここまでのコミュニケーションは成功している様だし、もう少し具体的な話をしてみるか。

 

「後、以前ボガールは大熊山のバードンを呼び起こしていました。その際に山の麓にいたヤツと俺は交戦した事と、メビウスとCREW GUYSの手でバードンが倒された事で捕食は出来ませんでしたが」

「…………そうか」

 

 む? CREW GUYSの名前が出た時に少し反応があった様な……やっぱり防衛隊員さんの影響は大きいみたいだな。話を続けてみようか。

 

「ボガールは今は姿をくらましているみたいですが、いずれは空腹に耐えかねて何か行動を起こすと思います」

「そのぐらいは分かっている。ヤツの行動パターンなど既に予測済みだし、だからこそヤツが呼び寄せたディノゾールを撃破したのだからな。……もういいな、俺は引き続きヤツを追う」

 

 そんな会話を最後にヒカリさんは青い光に包まれてその場から消えてしまった……よし、とりあえずファーストコミュニケーションは上手くいったと思う(願望)

 ……しかし、GUYS防衛隊員の人の身体を借りているのか。今はGUYS隊員をやってるメビウスにはどう説明したものか……メビウスとボガールかヒカリさんが接触するまでは後回しで良いかな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……モグモグ……ズルル……うん、美味しい」

 

 そんな事があってからこの星の暦で二週間程が経過したある日、俺は()()()()()戻ってきた日本のとある街にあるラーメン屋で塩ラーメンを食べていた。

 実はヒカリさんとの話し合いが終わってから『日本にはメビウスがいるんだし、ボガールもそこは避けて海外で活動するのでは?』と予想して日本を離れていたのだ……見事に空振りだったが。

 ……ヤツも隠蔽能力が強化されたのか、手持ちの探知装置もヤツが巨大化するか余程近くにいないと反応しなくなってるし……。

 

(まさか日本で怪獣を次々と復活させて、更にはメビウスを直接捕食しようとしてくるとは……ヒカリさんから聞いた時には驚いたぞ。彼が情報共有をしてくれた事を含めて)

 

 先日ヒカリさんと情報交換をした時には『ヤツの隠蔽能力はこれまでと比べてもかなり上がっている。俺の鎧の力でも探知がしづらいぐらいに。……まるで“何か”がヤツの存在を隠している様だ』と忌々しそうに言ってたしな……現在宇宙で起きてる例の『エンペラ軍団』の事も含めて、やっぱり今の宇宙には何かヤバい事が起きてるのかね。

 ……後、日本って怪獣多すぎじゃね? 何で太平洋で目覚めた怪獣が次々と日本を目指すんだよ。確か『レイライン』とか『エレメント』とは星にはそこに流れる特殊なエネルギーがあるって学説を聞いた事はあるけど、日本にはそういったエネルギーが集まりやすいとか……。

 

「……ふぅ、ご馳走様でした」

 

 ……と、そんな考え事をしつつ塩ラーメンを食べ終わった俺は、とりあえず一旦考え事を横に置いて料金の支払いを済ませて店から出た……まあ、まずはヒカリさんと遭遇したメビウスに事情を説明しなければな。

 ……でも、アイツって基本的に警備が厳重なGUYSの施設に住み込みで働いているし、殆どの状況で他のGUYSメンバーと一緒にいるから中々接触の機会が無いんだよな。

 

(俺やヒカリさんの正体がバレるのはまだ大丈夫なんだが、俺達が下手に接触してメビウスの正体がバレるのはまずいからな……とりあえず宇宙警備隊の秘匿通信用テレパシーで呼びかけて向こうから来てもらうのが妥当かな。ウルトラサインは秘匿性低いし下手をすると地球人にもバレそう)

 

 何せ“あの地球人”だしウルトラサインの解析ぐらい出来てもおかしくは無いしな……と、メビウスとの接触方法を考えていた俺だったが、突然懐に仕舞ってあった探知装置が反応を示したので慌てて取り出した。

 

「む、装置に反応……これは大分近くでボガールが何か力を使った反応か。……って、装置が示した方向が妙に騒がしくなって来たな」

 

 ボガールの反応もそちらの方角からしてるし、向こうにはメビウスの気配も感じるんだが戦闘が起きている訳でもなさそうだ……ここは手近にあった何故か人気の無い手近な丘に行って様子を見ようか。

 

「……あれは……何だろう? バルンガ?」

 

 そうして丘の上から騒ぎが起こってる方向の街中を見ると、そこには何やら“名状しがたい形状と色彩の巨大な物体”としか言えない物が蠢きながら鎮座している光景があった。

 ……一瞬アーカイブで見たヤバい能力を持っている風船怪獣かとも思ったが、どうもアレは生物って訳ではなさそうだな。

 

「……ええと、基本はタンパク質で周囲の窒素や二酸化炭素を吸収して肥大化してるみたいだが……もしかして()()か? 水を吸収して質量を増す非常食とかの話は聞いた事があるが……」

 

 何にせよここからだと状況がよく分からないし、どうも再び姿をくらましたボガールの様子も気になるしな……と思っていたら以前も見たGUYSの戦闘機が飛んで来てあの物体の上に滞空、そのまま何かのフィールドを展開して物体を包み込もうとしていた。

 

「……ふむ、アレは重力偏向フィールドかな。……成る程、あの物体が大気を吸収して肥大化を続けるなら真空の宇宙空間まで飛ばせば問題は無いな。流石は地球の防衛チーム、対応が早い」

 

 まあ。破壊した方が手っ取り早いとは思うが彼等もそれは分かっているだろうし、おそらく何か破壊出来ない事情があるんだろう……とか考えていたら探知装置が今までに無い程の反応を示し、ほぼ同時に向こうの街中に怪獣形態となったボガールが現れたのだ。

 

「ギギャァァァァ!!!」

「アイツ、アレを食う気か⁉︎」

 

 だが、ボガールが謎の物体に向かおうとした途端、地上から現れたオレンジ色の光の束がヤツに直撃してそのまま弾き飛ばしたのだ……そして光の中から元の姿に戻った“ウルトラマンメビウス”が現れ、ファイティングポーズを取りながらボガールへと戦いを挑んで行った。

 

「セヤァッ!!!」

「ギィィィィィッ!!!」

「……状況はよく分からんが俺も向こうに行くか」

 

 食事の邪魔をされて怒り狂うボガールを迎え撃つメビウスを見て、俺も急いで現場へと向かう事にした……今のメビウスがそう遅れを取るとは思えないが念の為にな。色々と不安要素(ヒカリさん)もあるし。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「セヤァッ!!!」

「ギギャァァァァ!!!」

 

 そうしてウルトラマンメビウスとボガールは【宇宙糧食 シーピン929】──【健啖宇宙人 ファントン星人】が自星の食糧問題を解決する為に開発した非常食──を巡って激しい格闘戦を繰り広げていた。

 ……そのすぐ近くの地上でCREW GUYSメンバーの一人である『アイハラ・リュウ』は、かつてディノゾールとの戦いで死んだはずの上司である『セリザワ・カズヤ』──の肉体を借りているハンターナイトツルギと遭遇していた。

 

「セリザワ隊長……っ! 何で……生きて……!」

「……誰だキサマ」

 

 そのかつて知った『セリザワ・カズヤ』とはまるで違う目をした何者かの言葉にリュウは思わず絶句したしまう……その間にも戦況は進み、ようやく起動したメテオール『重力偏向盤』によってシーピン929が宇宙へと登って行くのを見たボガールは、邪魔なメビウスを吹き飛ばしてシーピン929を捕食するべく飛び出した。

 

「ギッギャァァァァァァ!!!」

「ッ⁉︎ セヤッ!!!」

 

 だが、メビウスは片膝をつきながらもメビュームスラッシュを放ってシーピン929を食べる直前のボガールに当てて、そのまま地面に叩き落としたのだ。

 ……その間にシーピン929は重力偏向盤によって一気に加速して大気圏外まで射出され、待機していたファントン星人の宇宙船に回収されたのだった。

 

「ヂィッ! ……ギャァァッ!!!」

「グアッ⁉︎」

 

 それを見たボガールは忌々しそうに舌打ちした後、ならば『代わりに貴様を食ってやる』と言わんばかりにメビウスへと光弾を撃ち放って痛めつけ始めた……当然メビウスも応戦するがボガールの高い戦闘能力の前に防戦一方になってしまっていた。

 

「…………」

「なっ……⁉︎」

 

 ……そして、それを見たセリザワ──ツルギは無言で右手に『ナイトブレス』を展開して、すぐそばでリュウが見ているのも構わず左手に持った短剣型アイテム『ナイトブレード』を差し込んだ。

 ……すると、その身体が青い光に包まれて彼を復讐の鎧を纏った青い巨人──ハンターナイトツルギへと変身させたのだ。

 

「セリザワ隊長が……!」

「セヤッ⁉︎」

「……ツルギィィィィ……」

 

 かつての隊長が巨人に変身する所を見て驚愕するリュウ、再び現れた謎のブルー族の同族に驚くメビウス、そしてこれまでで最も忌々しそうな声音でその名を呼ぶボガールと言った面々の反応を無視して、ツルギは右腕のナイトブレスを天に掲げそこに青い稲妻を落としてエネルギーをチャージした。

 

「……ヌンッ! ジェアァッ!!!」

 

 ……そのまま流れる様な動きで右腕を胸元に持っていき左手でブレスに触れる事でエネルギーをスパークさせてから、腕を十字に組んで全力の光線──ナイトシュートをボガールへと向けて放ったのだ。

 

「……フンッ」

 

 だが、それを見たボガールは嫌な笑みを浮かべるとナイトシュートが当たる直前にテレポートによってその場から離脱したのだ……そして外れた光線はそのまま()()()()()()()飛んでいってしまった。

 ……宇宙警備隊であり光線技の軌道把握を基本技術として習得しているメビウスはナイトシュートが市街地に放たれた事に気が付いたが、時既に遅く現在位置では止める事が出来ないタイミングだった。

 

「セヤッ⁉︎」

 

 その光線によってもたらされる甚大な被害を予想出来てしまったメビウスは思わず声を上げながら手を伸ばすが、無情にもナイトシュートが市街地に突き刺さる……直前、地上から現れた光の束がナイトシュートにぶつかり、大爆発を起こしながらも光線を完全に搔き消したのだ。

 その突如現れた光のお陰で爆風による多少の被害こそ出たものの市街地は無事で済んで、それを見ていたCREW GUYSメンバーも遅ればせながら“何か”に市街地が救われた事に気がついて安堵した。

 ……そして、その場に居た二人の巨人だけは“あの光が誰によるものか”に気が付いていた。

 

(……アークか)

(……アレは……アークのエネルギー!!! どうして彼がここ(地球)に)

 

 誰がやったのかを察してツルギは、地球にいる筈の無い友人の存在に驚愕するメビウスを後目に青い光に包まれてその場から消え去った……そして、しばらく驚いたままだったメビウスもカラータイマーが鳴った事で地球での制限時間が過ぎ掛けている事に気が付き慌てて飛び去っていったのだった。

 ……こうしてシーピン929を巡る戦いは、その場にいた幾人かの者に驚愕と疑問を植え付けながらも幕を閉じたのだった……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ッアビャァァァァァァァ…………ブベッ!?」

 

 ……謎の光によって守られた市街地の一角。そこでは全身がボロボロになって頭をアフロにしながら煙まで出ている青年が、そこからか吹き飛ばされて顔面から地面に激突していた。

 ……側から見るとギャグに見えるかもしれないが普通の人間ならどう考えても即死級のダメージを受けている筈のその青年であった……が、彼はフラつきながらも割とあっさり身を翻した仰向けになった。

 

「……ううう、巨大化する暇が無かったとは言え、流石に変身時の余剰エネルギーで光線技の相殺はちょっと無理があったかなぁ。……やっぱ超痛い(泣)」

 

 ……もう皆さんお気づきだろうが、青年の正体は宇宙警備隊員アークその人であり、先程ナイトシュートから市街地を守った謎の光は彼自身だったのである。

 なぜこんな事になったのかを簡単に説明すると、まずアークは市街地に行ったのだがその近くにツルギが放ったナイトシュートが飛んで来たので慌てて変身するが本来の姿に戻るには間に合わなかったのだ……なので止む終えず“変身途中のエネルギー体のまま”で光線にぶつかりつつその余剰エネルギーを使って光線を相殺したが、流石に無茶なやり方だったのでダメージを受けてしまい今に至るという事である。

 

「まあ、ダメージは結構酷いがエネルギーは残ってるしヒーリングとウルトラ念力の物質操作で見た目を整えて……所詮は擬態だから見た目だけ不自然にならない程度に戻すぐらいは簡単なんだが。……とりあえず騒ぎになる前に離脱しよう。メビウスに会うのはまた今度でいいや。疲れたし」

 

 ……そんな事を呟きながらアークはヒーリングで傷を治し、ボロボロになった服(とアフロ)を念力でさっさと元に戻してその場を立ち去ったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:初の単独任務で微妙に空回り気味だが頑張ってるヤツ。
・最後はギャグ的な描写だが流石にエネルギーに消耗も激しく本人のダメージも深い模様。

ハンターナイトツルギ:変身シーンとか光線とかはカッコいいと思う
・復讐の鎧はヒカリ自身の復讐心を増幅する形で働いているので、セリザワの精神が混ざっている現在ではボガールを前にしない限りは大分落ち着いている。

ボガール:光線を回避すれば街に当たると分かって消えたヤツ
・ずっと地球で活動していたり中々行方を掴ませないのは、どうも何者かが裏で糸を引いているらしい。

メビウス&CREW GUYS:実は色々と再会したのは彼等のほう


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アークの奮闘

 ──────◇◇◇──────

 

 

 高次元捕食体 ボガール

 マケット怪獣 エレキミクラス 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ええと……こっちかな?」

 

 日本のとある都市、その少し寂れた人気の無い街並みの中でCREW GUYSの一員であるヒビノ・ミライ隊員は、何時もの目立つデザインの制服ではなくごく普通の私服に身を包んでまるで()()()()()()()()()あちこちを見ながら道を歩いていた。

 ……今更言うまでもないかもしれないが、彼の正体は今地球で話題の新しいウルトラマン『ウルトラマンメビウス』であり、この人間の姿は彼が地球に来る前に出会った人間をモデルにした擬態──所謂、世を忍ぶ仮の姿というヤツである。

 

「……確か、この辺りから()()()()()()()()()()()を感じたんだけど……」

 

 そして何故今はCREW GUYSに勤めている彼が私服でこんな所にいるのかと言うと、先日のファントン星人の一件の際に謎の青い巨人──ファントン星人から聞いた話によるとハンターナイトツルギ──の光線から街を守った謎のエネルギーが、彼が光の国に居た頃の友人であるアークのものだったのが原因である。

 ……少なくとも宇宙保安庁に勤めていた筈の彼が何故地球に来ているのか、そしてあのハンターナイトツルギやボガールと何か関係があるのかなどを聞き出す為、ちゃんと隊長と補佐官に申請を出してから有給を取って街へと探しに来たのだ。

 

「……アーク人間態への擬態が上手かったからなぁ……それに宇宙保安庁に入った事で腕を磨いているみたいだし『そう言ってくれるのは嬉しいな、メビウス』ッ! アーク⁉︎」

 

 そんな風に道を歩いていたミライだったが、突如として脳内に探しているアークの声──宇宙警備隊で使われている波長のテレパシーが届いた事で慌てて足を止めて辺りをキョロキョロと見回し始めた。

 ……そんな彼の様子を何処からか見たのか、アークのテレパシーは更に続けられた。

 

『あー、今お前がいる場所から100メートルぐらい離れた所にある喫茶店、そこに俺は居るから。……そこで今回俺が地球に来た理由やあのボガール、ハンターナイトツルギに関して俺が知る限りの事を話すよ』

「……分かった」

 

 そうしてミライはアークのテレパシーが飛んできた方向に向かっていき、彼の言った通りに100メートルぐらい進んだ所にあった喫茶店を見つけたのでそこに入っていった……そして、その奥の方にあるボックス席で軽く手を降っている金髪の男性を見つけた。

 

「よう、久しぶりだなメビウス。まあとりあえず座れ」

「久しぶりだね、アーク」

 

 ……こうして彼等は士官学校での卒業式以来、ウルトラの星から遠く離れた地球にて久しぶりの再会を果たしたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「それで何か頼むか? ここのコーヒーとケーキは意外と美味しかったぞ」

「……随分と地球を満喫してるねアーク。とりあえずカフェオレを一つ」

 

 さて、そんな訳でようやく地球で再会した俺とメビウスはそのまま和やかに団欒……する訳もなく、俺の前に座ったメビウスがいつになく“真剣な表情”でこちらを見ているので、俺達の間の空気は喫茶店の食事を楽しむ様な物ではない真剣な物であった。

 ……まあ、事情はどうあれ地球に赴任したコイツに黙って地球で活動していたのは事実だからしょうがないんだが。

 

「それでアーク、宇宙保安庁所属の君がどうして地球に?」

「勿論、任務の為だ。……地球にやって来たボガール、そしてそれを追って来たハンターナイトツルギ──宇宙科学技術局長官のヒカリさんを連れ戻す為にやって来たんだ」

 

 そうして俺はメビウスに対して『宇宙科学技術局長官ヒカリの保護』の任務を受けてから、これまでにあった捜索状況やヒカリさんとの会話、ボガールとの交戦情報などを含めてほぼ全て話していった。

 ……途中『そんなに早く地球に来たのなら、どうしてもっと早くに僕へ連絡を入れなかったんだ?』と聞かれたが、隊長からなるべくお前の任務を邪魔しない様にしろと言われたのと、まだ地球に不慣れな状態のお前に負担を掛けたくなかったんだ……だってメビウス、地球赴任直後は色々テンパってたじゃんと言ったら恥ずかしそうに顔を手で覆って黙ってしまった。

 ……うむ、少しからかい過ぎたかな。ちょっとフォローを入れておくか。

 

「まあ、最近はGUYSの皆さんと協力してちゃんと『ウルトラマン』をやってるんだから、過ぎた事をあんまり気にし過ぎるなよ。……俺も本格的にヒカリさんと接触したからだけじゃなく、今のお前なら伝えても問題ないと思ったからこうして事情を話そうと思ったんだし」

「うん、ありがとうアーク。……って! それよりも()()()()()()の事だよ!」

「おおうっ!!!」

 

 フォローを入れて喜んだと思ったらいきなりなんだ? “セリザワさん”って一体誰なんだ? ……とりあえずちょっと興奮しているメビウスを落ち着かせて情報を聞き出すことにした。

 

「ええと、リュウさん──僕と同じGUYSメンバーの一人がかつてGUYSの隊長だった“セリザワ・カズヤ”っていう人がハンターナイトツルギに変身する所を見たって話をここに来る前に聞いたんだ」

「成る程……確かに彼は地球に来た時に『死にかけていた防衛チームの地球人の身体を借りた』って言ってたからな。要はその“セリザワ”って人の身体を借りて行動しているんだろう」

 

 ……うむむ、GUYSメンバーに防衛隊員さん──セリザワ氏の同僚がいるとはな……さて、どうしたものかな。多分ヒカリさんは身体から出て行く気は無いだろうし、そもそも今ヒカリさんが出て行った場合だとセリザワ氏の肉体が無事に住む保証は無いし。

 だからと言って融合したまま戦い続ければ当然セリザワ氏は危険に晒される訳で……それを基本お人好しでGUYSメンバーと絆を結んでいるメビウスが見過ごすかどうか……。

 

「はっきりと言うが、俺の基本方針はヒカリさんにボガールへの復讐を遂げさせる事で穏便な形であの“復讐の鎧”を排除、その後に彼を光の国へと連れ帰る事だ。……その際になるべく地球への被害は出さないつもりだが、セリザワ氏に関しては正直言って扱いが難しい。死に掛けた人間を融合で回復させるには相応の時間が必要だしな」

「それは……でも、融合したままのウルトラマンが死ねば……」

「融合している人間も危険になるだろうな。……ただ、ヒカリさんはボガールを倒す事をやめる事は無いだろうし、あの“復讐の鎧”が邪魔で無理矢理分離させるのも難しいだろう。それ以前に復讐を妨害しようとしたら彼に敵認定される可能性も高いんだが」

「ッ⁉︎ …………」

 

 俺のその言葉を聞いたメビウスは複雑そうな表情で何かを考えながら黙り込んでしまった……まあ、一見複雑で面倒に見える問題ではあるが、()()()()()()()()()()も無くはないのだが。

 

「要はボガールを犠牲無しでサッサと倒してしまえばいい事なんだがな。今のヒカリさんはボガールを倒す事が最優先だから、その手伝いをする事自体は止めないだろうしな。……それに本懐を果たさせてやれば“復讐の鎧”の怨念も成仏出来るだろうし、そうすれば鎧の排除やセリザワ氏の分離も問題は無いだろう」

「そうか! 僕とGUYSのみんな、それにツルギやアークが協力すれば誰も犠牲にならずにボガールを倒す事だって出来るよね!!!」

 

 まあ、問題は『ボガールを倒す事が最優先』のヒカリさんと『地球を守る事が優先』なメビウスとGUYSの皆さんの方針が上手く纏まるか何だが……もしもの時は俺がヒカリさんを止めるしか無いだろうな。

 ……まだ上手くいかないと決まった訳じゃ無いし、『ボガールを倒す』という一点であれば利害は一致する筈だから纏められない事は無いだろうが……ただ……。

 

「……済まんがメビウス、今の俺は前回の一件で肉体にダメージを負っているから後一週間ぐらいは変身出来ん。流石に変身途中で殺意溢れる光線にぶつかるのはキツかった……」

「ええぇ!? ……何でわざわざ変身せずにぶつかったのさ?」

「しょうがないだろう、光線の発射タイミング的に変身がちょっと間に合わなかったんだから……ッ⁉︎」

「……ッ⁉︎」

 

 そんな話をしていた俺とメビウスだったが、突然何か()()()()()()()()()()()を感じ取って思わず顔を上げてその方向へと顔を向けた……これはボガールのエネルギー波か! 探知装置にも反応があったが俺達の感覚だけでも普通に捉えられるレベルでの気配って事は巨大化しての戦闘か。

 

「アーク! 今のは⁉︎」

「ああ! ボガールのエネルギー波だ! ……餌を食い損ね過ぎて腹が減り過ぎたのか、もう完全に隠れる気は無いと見えるな」

 

 探知装置を使わずとも分かるぐらいに二つの気配は非常に剣呑なものである、おそらくは直ぐにでも戦いを始めそうだと俺とメビウスは判断して即座に席を立ってその場所に向かおうとした。

 

「……あ! 代金はどうしようアーク⁉︎」

「俺が全部払っておくからサッサと行け!!! どうせ俺は全力で戦えんしな!」

 

 ……その前に喫茶店の飲み物とケーキの代金を払う事は忘れなかったが。宇宙警備隊員として食い逃げとかは出来ないし、しょうがないよね! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……チッ、思ったより時間が掛かったな。まさか小銭が足りないとは……お陰で一万円札で支払う事になった」

 

 そんな訳で会計を終えた俺は、先に行ったメビウスを追ってボガールのエネルギー波が感知された場所へと走っていた……そうして反応があった場所である山岳地帯に到着すると、そこでは巨大化したボガールと足下に落ちている【岩石怪獣 サドラ】のものと思しき腕、そして何故かボガールと戦っている『ミクラス』の姿があった。

 

「キッシャァァァァァ!!!」

「ガオオォォォォ!!!」

 

 その『ミクラス』はボガールに対して果敢にフライングタックルを仕掛けたり、そのパワーを活かした格闘戦を仕掛けたりと結構善戦していた……ふむ、よく見るとあの『ミクラス』は生物では無いな。エネルギーと特殊分子で怪獣のデータを再現している感じかな? 

 ……戦闘用の人造怪獣まで実用化しているとかやっぱ地球人凄いな。近くに指示を出しているGUYSメンバーらしき女性がいるから、ちゃんと指示も聞くみたいだし。

 

「キィキキャァァァァ!!!」

「がアアァァァ!?」

「ミクラス⁉︎」

 

 ただ、やはりミクラスとボガールでは地力の差があるのか、あの地球製ミクラスはボガールに殴り飛ばされてそのまま消えてしまった……ああいや、アレはやられたフリをして()()()してるんだな。

 そして透明化したミクラスは敵を倒したと思って油断していたボガールの尻尾に組み付いて、そのまま電撃を流し込むことでボガールを悶絶させていた。確かミクラスは電撃に弱かった筈だが、どうも原種には無い能力も付加出来るのか。

 ……っと、この気配はメビウスと……ヒカリさんか。やはり彼もここに来ていたか。

 

「……まずはメビウスとヒカリさんに合流しないとな」

「ギャァァァァァ!?」

「ガオォォォ!!!」

 

 とりあえずボガールの事は奮戦しているミクラスとGUYSの皆さんに任せる事にして、俺はメビウスとヒカリさんの気配がする場所へと向かって行ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……その身体は君のものでは無いだろう! セリザワさんには帰りを待っている人がいるんだ! ……まずは僕がボガールと戦う。アーク、彼の事は任せたよ。……メビウゥゥゥゥゥゥゥゥッス!!!」

「「…………」」

 

 ちょっとキツめな様子でそんな事を言った後、メビウスは俺とヒカリさんが見ている前で左手の『メビウスブレス』のクリスタルサークルを回転させてエネルギーをスパーク! 叫びながら勢いよく左腕を突き上げると共に本来の姿……『ウルトラマンメビウス』の姿となって、時間切れとなって消滅したミクラスに変わってボガールへと戦いを挑んで行った。

 ……何故こんな状況になっているのかと言うと、少し前にメビウスはヒカリさんと話したのだが、その際に彼が『地球人は下等な生き物』『容れ物の事など知らん』みたいな事を言ったのが原因でメビウスは彼が戦う事を良く思わなかったみたいだ。

 

「……ヒカリさん、割とあっさり引きましたね」

「先に戦ってボガールを弱らせてくれるなら別に構わん。適当な所で変身して介入する……邪魔はするなよ」

「ボガールと戦う“だけ”なら邪魔はしませんよ」

 

 ふむ、まああの様子ならメビウスの方もヒカリさんがセリザワ氏の肉体を粗雑に扱う事を危惧して一旦止めただけで余り怒ってはいないみたいだし、ヒカリさんも比較的冷静だからまだ致命的な破局には「セリザワ隊長!!!」……ならないと思っていた時期が俺にもありました(滝汗)

 

「なあ! アンタはGUYS JAPANのセリザワ隊長だろう⁉︎ 生きていたのか⁉︎ 何であのツルギとかいう巨人に……」

「だから誰だキサマは……いや、この容れ物の記憶にあったな。この星の防衛部隊の隊員『アイハラ・リュウ』と言う名前の地球人か」

「容れ物だと……⁉︎」

 

 そうしていきなりやって来た男性──発言からしておそらくメビウスが言っていたGUYSの『リュウさん』らしき人がヒカリさんに話し掛けるが、彼はまたもリュウ氏の神経を逆なでする様な返答を……この状況、一体どうすればいいんだorz

 

「……まさかテメェ! セリザワ隊長の身体を乗っ取りやがったな!!!」

「それがどうした? そのままでは無駄死にするだけだった肉体を使ってやっているだけだ」

「無駄死にだと⁉︎ ……セリザワ隊長、いやツルギ……!」

 

 そんな内心頭を抱えている俺を他所に、ガンガン地雷を踏み抜いていくヒカリさんとそれを聞いて当然怒るリュウ氏の間の空気はドンドン張り詰めていき……こんな混沌とした状況、俺にどうしろと言うんだ(泣)

 ……って、そうしている間にもボガールと戦ってるメビウスが大分押されてるし! そんで同じくそれを見たヒカリさんは尚も言い募るリュウ氏を無視してハンターナイトツルギへと変身した。

 

「ヌゥ! ジェアァッ!!!」

「ッ⁉︎ ギシャァァァ!!!」

「セヤッ⁉︎」

 

 ……と思ったら、彼はボガールに組み付かれていたメビウス諸共いきなり必殺光線をシュゥ!!! してメビウス毎ボガールを吹き飛ばした……どうも連携する気は無いみたいですね(白目)

 ……こうなったらもうダメージを無視して俺も変身するしかないか? それでメビウスとヒカリさんをフォローしつつボガールを倒せば……。

 

「目を覚ましてくれ! セリザワ隊長!!!」

「ヌゥ⁉︎ ……ウゥ……」

 

 そう俺が考えたその時、突然リュウ氏がヒカリさんに呼び掛けると彼は攻撃を辞めて振り向いて何やら頭を抱えて苦しみ始めた……やっぱりヒカリさんはセリザワ氏の精神にかなり引っ張られているみたいだな。部下であるリュウ氏と出会った事で内のセリザワ氏の精神が刺激されたのか。

 ……ただ、その行動は戦場では致命的な隙であり、それを見逃さなかったボガールが放った光弾を背後から食らって彼は地面に倒れ込んでしまった。

 

「ヌアァッ⁉︎」

「セリザワ隊長⁉︎」

「キッキャァァァァ!!!」

 

 そんなヒカリさんを見てボガールは喜色を浮かべながら更に追撃の光弾を放とうとした……負担は掛かるが仕方ないか。

 

「ウルトラ念力!!!」

「ギィッ⁉︎」

 

 そこで俺は両手を交差して人間態のままでの使える『ウルトラ念力』でもってボガールの動きを抑え込もうとした……が、やはり人間態のままで怪獣サイズの相手を押さえ込む念力を出すのは難しく、少し抵抗しただけでボガールは俺の念力から逃れてしまった。

 ……まあ、()()()()()()()()()()()()()()()という目的は果たされたから良いんだけどな。俺の目論見を察してくれたメビウスがボガールの背後から飛び蹴りをかましてくれたし。

 

「セヤァァァッ!!!」

「ギシャァァァァァァ!?」

 

 そのままメビウスは()()()()()()()()ボガールを格闘戦で圧倒していく……サドラ食ったとはいえ先のミクラスの電撃にヒカリさんの光線を食らってかなりダメージが蓄積してたみたいだな。動きが鈍い。

 ……そしてメビウスはボガールまともに動けなくなる程のダメージを負わせてから光線技の発射体勢に入った。宇宙警備隊に於ける対怪獣戦闘の基本戦術だな。

 

「ギッ……グググゥ……」

「ハァァァ……セヤァッ!!!」

 

 そしてメビウスが放った光線『メビュームシュート』は見事にボガールに突き刺さり、その身体をボコボコと蠢かせた後に跡形もなく爆散させたのだった……んん? いや、アレは……。

 

「やったか!!!」

「いや、やってないな。……ボガールめ、光線のエネルギーが身体に浸透しきる前に()()して逃げ去りやがったな」

 

 そう、ヤツはメビウスの光線が当たった瞬間に脱皮して出来た外側の皮を爆破して目くらましにしつつ、自身は高速移動と空間転移を駆使してその場から逃げ去っていたのだ……離れた場所に居た俺でも辛うじて目で追えるぐらいの早業だったな。本当に逃げ足の早いヤツだ。

 ……そして、そんな俺の発言を聞いてコッチを凝視して来るリュウ氏だったが、その目が徐々に『何か怪しい人物』を見た様な訝しげなものへと変わっていった……。

 

「……それでは、私はここで失礼しますね。お仕事頑張ってください」

「いやちょっと待て」

 

 俺は片手を上げながら爽やかな笑顔で自然とその場から離脱しようとしたのだが、それよりも早く銃をコッチに向けて来たリュウ氏に呼び止められた……うぐぐ、何とか言い逃れて離脱しないと……。

 

「……オーウ! ワタシタダノ観光ニキタアメリカ人ネー! アヤシクナイヨー!」

「お前さっきは日本語ペラペラだったじゃねぇか。……そもそもさっきはボガールを何か念力とか言って動きを止めてたし、ウルトラマンでも見逃す様なボガールの逃走に気付くとかどう考えても只の人間じゃないだろ。……ツルギと一緒に居たって事はアイツの仲間か?」 

 

 ……うん、流石に俺もこの言い訳は無いなぁとは思ったけどさ……本当にどうしてこうなった!!!




あとがき・各種設定解説

アーク:残念でもなく当然
・初単独任務で結構頑張っているのだが肝心な所で空回っている感じで、本人も『戦闘能力だけじゃ宇宙警備隊は務まらないんだなぁ』と思ってたり。

メビウス:この後は負傷したツルギを助けたりと原作通りの展開

ヒカリ:鎧のお陰でボガールが逃げた事には気付いた
・ちなみにアークは『ヒカリさん』と言っているが、これはこの小説が日本語で書かれている所為で翻訳されていて、実際にはウルトラの星での彼の本名で話している感じで。
・原作以降も違和感なく『ヒカリ』と呼ばれてるし、多分本名はウルトラの星で『光』とか『輝き』みたいな意味の単語なんじゃないかなと思う。

リュウさん:この時期はちょっと荒れてる
・まあ、彼の視点だとアークは『かつての隊長を乗っ取ったヤツと一緒に居て、明らかに只の人間では無い能力を見せる怪しい外国人』なので、どう考えても銃を突き付けるのも止むなしな職質案件ではある。


読了ありがとうございました。
なんか主人公イマイチ良いところ無いなぁ(そんな風に書いた作者の弁)……そろそろ活躍シーンを入れるか。


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彼の真価

 ──────◇◇◇──────

 

 

 地底怪獣 グドン

 古代怪獣 ツインテール

 マケット怪獣 エレキミクラス

 高次元捕食体 ボガール

 高次元捕食体 ボガールモンス 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「答えろ! お前は何者だ!!!」

「……うーん……困ったなぁ……」

 

 さてさて、何かこう説明の難しい事が色々ありまして、現在この俺こと新人宇宙警備隊員アークは地球で防衛チームCREW GUYSのメンバーであるリュウさん(仮)に銃を突きつけられてホールドアップされている訳です。

 ……まあ、彼の立場からすれば俺は『上司の身体を乗っ取って地球で好き勝手やってる宇宙人(ハンターナイトツルギ)と親しげな怪しい男』な訳なので、むしろ防衛チームとしても個人としてもこの行動は当然の行動ではあるんだが……。

 

「なんとか言ったらどうなんだ!!!」

「…………(この状況で一番“最悪なパターン”は……まずメビウスに連絡しよう)」

 

 ……何というか大分焦っている感じのリュウさん(仮)を見て逆に冷静になった俺は、とにかく最悪の事態だけは回避する為に彼にバレない様にメビウスに秘匿テレパシーで連絡を取る事にした。

 

『……あー、メビウス、聞こえるか? そっちはどんな感じだ?』

『え? アーク、うん聞こえるよ。……こっちはツルギから彼が復讐に走る様になった詳細を聞いた所。その後で彼は去って行ったけど……』

 

 成る程、向こうはそんな感じか……少なくともヒカリさんはメビウスに事情を説明するぐらいには関心を持っていると見るべきか。

 ……まあ、今はそんな事を考えている余裕は無いし、さっさと要件を言っておこう。

 

『こっちは現在リュウさんらしきGUYSメンバーに、セリザワ氏の肉体の乗っ取ったハンターナイトツルギと一緒にいたという事で銃を突き付けてホールドアップされている所だ』

『ええええぇぇぇぇぇぇっ!!!? ……じゃ、じゃあ、僕が今すぐそっちに言ってリュウさんに事情を……』

『いや、お前は()()()()()()()()()()()

『え⁉︎』

 

 ……予想通りこちらの現状を伝えられたら焦った様子でこっちに来ようとしたメビウスを、俺は“最悪の事態”を避ける為に言葉を強調しつつ静止した。

 

『いいか、この状況で一番最悪なパターンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。……極論、俺やヒカリさんの正体がバレても地球から離れれば良いだけだが、お前はそういう訳にも行かないだろう』

『……それは……』

『それに真面目天然バカのお前がこの場に来た所で、俺を庇える都合のいい言い訳など思いつかないだろ。むしろ状況をより混乱させるだけだから絶対に来るなよ』

『酷く無い⁉︎ それに天然ならアークも大概でしょ!!!』

 

 何を言っているのやら、お前よりは天然じゃないだろう(自己評価)……それはともかく、俺はメビウスに念入りに絶対こっちへは来るなと言い聞かせて念話を切った。

 ……さっきから念話の為に黙りっぱなしな俺を見て、目の前のリュウ氏の引き金がかなり軽くなっているのが雰囲気で分かるからな……まあ、俺が()()()()()()()なら特に問題にはならないんだが、撃たれないに越した事は無いし上手く事情を説明してみるか。

 

「いつまで黙っている気だ!!!」

「おっと、これは失礼した。……私はM78星雲“光の国”の宇宙警備隊に所属しているアークと言う者だ。この地球には君達がハンターナイトツルギと呼ぶ同族を連れ戻しにやって来た」

 

 まあ、とりあえずは自分の立場を言っておいた方が良いだろうな。何分地球に不法侵入しているのはこちら側であるのだし……責任は親父が取ると言っていたし。

 ……ただ、俺の言葉を聞いたリュウ氏は困惑した表情を浮かべていた。

 

「M78星雲……光の国?」

「ん? ……ああ、分かりやすくいうと、君達地球人が『ウルトラマン』と呼んでいる生物と同じ種族が住む星だな。ちなみにこの姿が外見を変えているだけの所謂擬態だ」

「ハァッ⁉︎」

 

 どうやら『M78星雲光の国』という言葉自体が地球ではあまり知られていなかった様なので、分かりやすく補足するとリュウ氏はかなり驚いた様だった……が、そこは流石地球の防衛チームの一人と言うか、直ぐに動揺から立ち直ってこちらに質問をぶつけて来た。

 

「……じゃあ、ツルギのやつも『ウルトラマン』だって言うのか⁉︎」

「まあ、かつて地球を守った『ウルトラマン』と同族ではあるな。個人的には今の彼は『ウルトラマン』と呼ぶには相応しく無いとは思うが。……彼は昔は普通にいい人だったんだが、かつて守ろうとしたとある惑星をボガールに滅ぼされてしまい、その星の民の怨念に取り憑かれてしまってな。今ではあの様な復讐鬼と化してしまったのだ」

「……ウルトラマンの故郷にそんな風になるやつもいるのかよ」

「ウルトラマンとて神では無いからな。……まあ、宇宙の平均から見てもかなり住民は善良で平和だとは思うが、それでも私達も心のある生物に変わりない以上はその手のトラブルが無くなる事も無いのだ」

 

 とりあえず俺はリュウ氏に手早く事情を説明していく……よしよし、こっちの事情を聞くのに集中しているからか銃口が下に下がって来たな。ここはセリザワ氏の情報も話しておくか。

 

「セリザワ氏に関しては【ディノゾール】との戦いで死に掛けていた彼を見つけて地球での活動の為に融合した様だ。……現在のセリザワ氏はツルギとの融合で命を保っている状態だから、下手に分離させる訳にも行かない状況なんだ」

「……ッ⁉︎ だが……!」

「それに彼がボガールの復讐に囚われているから、こちらの帰還の申し出にも一切応じる気が無いと来た。……無理矢理叩きのめして連れて行くにしても地球への被害やボガールの行動、何よりセリザワ氏の肉体に負荷を掛ける恐れがあるから難しい」

「……グッ……⁉︎」

 

 そう言った俺の言葉を聞いて苦悩の表情を浮かべながら地面に膝をつくリュウ氏……うむむ、一応一通りの事情は説明しておいた方が良いかなと思ったんだが逆効果だったか? 逃げる隙が出来れば良いなとは思ったが、ここまで追い詰めたりとかまではする気が無かったんだが。

 

「じゃあどうすりゃあ良いってんだ!!!」

「……これまで、俺はツルギがボガールへの復讐心に囚われている以上、肝心のボガールさえ倒して仕舞えば彼もこちらの話を聞いてくれる……言い方は悪いが用済みになったセリザワ氏との分離にも同意してくれると思っていたんだが、どうにもこちら側の足並みが揃わない上にボガールは逃げ足が速いから中々捕まえられないのが現在の状況だな。俺も先日の光線防御でしばらくは戦えないし」

 

 こんな風に言って宇宙警備隊として実に情け無いとは俺も思うんだが、現在の地球と取り巻く状況は色々と面倒臭すぎるんだ。せめて俺が変身出来るぐらいに回復すれば力技だがまだ打つ手はあるんだが。

 ……それに、俺の見立てだと現在のボガールは……。

 

「後、今のボガールを下手に倒すと厄介な事になるかもしれん。そちらでもボガールの()()()()()()()を後で解析しておいた方が良いだろう。……では、さらばだ」

「ッ⁉︎ 待てっ!」

 

 そうして俺はこちらを静止して来たリュウ氏を遮る様にウルトラ念力を使って風を吹かせて土煙を舞い上がらせる事で彼の目を眩まし、その隙にテレポートを使ってその場から離脱したのだった。

 ……済まんなリュウ氏、俺がGUYSに捕まったりすると絶対にメビウスがボロを出すだろうから、それだけはどうしても避ける必要があるのだよ。情報は全部あげるから見逃してくれい。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「へーい、天ぷらうどんお待ち!」

「ありがとうございます。……それじゃあ頂きます」

 

 そんな事があってから一週間ぐらいが過ぎ、俺はCREW GUYSの本拠地から離れた街のとある食事処で天ぷらうどんを食べていた……別にこの一週間呑気に食べ歩きをしていた訳では無いぞ、むしろ今後の事も考えて自分の傷を治すのに専念していたんだからな。お陰で変身と戦闘が可能な程度には回復したし。

 ……それにあの後こっそりメビウスに秘匿念話を使って向こうの状況を確認したりと色々やってたし。

 

「ズルルルル……さて、先日のメビウスからの秘匿念話によると現在のボガールに体内には大量のエネルギーが内包されており、迂闊に倒すと大爆発すると言う話だったな」

 

 GUYSによる解析だと内包されているエネルギーは約1.9ギガトン、引火・爆発すれば半径100キロ以内は瞬時に壊滅するのだとか……倒す時には宇宙に持っていくか周囲にバリアフィールドでも貼るのが妥当かな。

 ただ、その時に俺がベラベラ喋った情報の所為でリュウ氏が凄く荒れてたとか、ウルトラマンの故郷とか言う光の国や宇宙警備隊に対する論争が(特にテッペイさんと言う人を中心に)巻き起こって色々大変だったと文句を言われたが。

 ……最終的には隊長さんが収めてくれたらしいが正直済まんかった……地球では思ったよりもウルトラマンについてあんまり知られてなかったんだな。ああいう状況では出来るだけ正直に話した方がいいかなと思って……。

 

「まあ、メビウスの正体がバレなかったんだしよしとするか……ご馳走様でした」

 

 そうして俺は天ぷらうどんを食べ終わって勘定を済ませてから店を出て……直後、またも探知機に頼る必要がない程に強力な気配が放たれるのを感じ取った。

 ……これはボガールの怪獣を呼び起こす能力のエネルギー波だな。

 

「……ボガールめ、本当にもう隠れて行動する気は無いみたいだな。……或いは内包されたエネルギーの所為で行動に移す時に気配が漏れてしまう様になったのか……とりあえず行くか。今なら俺も戦えるしな」

 

 ……そうして俺はエネルギーが感知された方向へと地球人に怪しまれない範囲での全速力で向かって言った。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ギャァァァァァァァァ!!!」

「キシャァァァァァァッ!!!」

 

 そして現場に到着した俺が見たのは、まるでお互いを“宿敵”と定めているかの様な激しい戦いを繰り広げている【地底怪獣 グドン】と【古代怪獣 ツインテール】の二体……。

 

「キィシャァァァァァァァァ!!!」

「ギャァァァァァ!?」

「キキィィィィィ!?」

 

 ……の横合いから割り込んで、瞬く間に二体の大怪獣を肉体を変形させて作り出した大きな口でむさぼり食らうボガールの姿だった。

 

「キシャァァ」

「チッ、ちょっと遅かったか……ん?」

【Realize】

「ガオォォォォ!!!」

 

 腹を膨らませて満足そうな雰囲気のボガールを見て俺が舌打ちすしていると、その眼前にエネルギーと高分子が結合してミクラスの姿を形作った……この前と同じCREW GUYS製の人造怪獣だな。空には彼等の戦闘機も飛んでいるし。

 そして、そのミクラスは前と同じ様に果敢にボガールに挑みかかって行き、格闘からヤツの弱点である電撃を至近距離で叩き込むコンボで有利に戦いを進め、そのままボガールを電撃でダウンさせた……のだが……。

 

「ギギィ……ギャッシャァァァァァ!!!」

「ガガァッ⁉︎」

 

 その時、突如としてボガールの背中が裂けると、そこからまるで脱皮するかの様に進化した──背中にまるで巨大な翼の様な口を生やし手や足、そして尻尾などがより鋭くなって顔も更に凶悪な感じ変化したボガールが現れたのだ。

 ……まさか、大量の怪獣を食らってそのエネルギーで進化したのか⁉︎

 

「ガガァ……ガォォォ!!!」

「ギャシャァァァァァァァァ!!!」

 

 その進化したボガールに対してミクラスは再び電撃を浴びせ掛けるが耐性を獲得したのか全く効かず、逆にボガールの方から電流を流されて大ダメージを受けて時間切れかそのまま消えてしまった。

 ……そしてボガールは地上にいたGUYSメンバーに狙いを定めるが、そこに前回の焼き直しの様に変身してメビウスが現れてボガールに戦いを挑んで行った。

 

「セヤァッ!!!」

「ギャッシャァァァァァ!!!」

 

 誘爆を懸念してかメビウスは格闘主体でボガールを攻め続けていくが、凶悪になった姿は伊達では無いのかボガールは単純な防御力のみでメビウスの格闘攻撃をはじき返しながら逆に強烈な打撃を浴びせかけてメビウスにダメージを与えていった。

 ……そして、徐々に内包エネルギーが上がっていくボガールに気を取られたのか、戦いの中でメビウス出来た一瞬の隙を突いてヤツが尻尾でメビウスを捉えると、そのまま背中の大口でメビウスを飲み込んでしまったのだ。

 

「メビウス⁉︎」

「ギャッシャァァァァァ!!!」

「まだ消化はされていないか、流石にウルトラマンを速攻で消化という訳にも行かないと……だが、内側から自力での脱出は難しそうだな」

 

 その光景を見て地上のGUYS隊員が悲痛な声を上げる中で、俺は右腕にアークブレスを展開して救助に行こうとし……それよりも早く戦場に現れた小型戦闘機が放ったビームがボガールの頭部に直撃した。

 ……それに怯んだボガールが背中の口を僅かに緩めた瞬間、中のメビウスは無理矢理口をこじ開けて脱出に成功していた。

 

「へこたれんな! ウルトラマン! そんなでけえ図体して何してる!!! この星守るつもりなら根性見せろ!!!」

「リュウさん……」

『あの熱血バカ』

『遅いぜ、アミーゴ』

「……セヤァッ!!!」

 

 そして俺のウルトラ族としての優れた五感は地上に居るのと戦闘機に乗っているGUYSメンバーのそんな声を聞き取っていた……勿論、それはメビウスも同じであり、その声を聞いて奮起したメビウスは先程までよりも遥かに力強い動きでボガールへと向かっていく。

 ……なんか前にも似たような事があったけど、ああいう光景を見せられると横から要らぬ手を出すのは無粋に思えてくるんだよなぁ。

 

「セヤァッ! セイヤァッ!!!」

「ギッ……ギッシャァァァァァァァァ!!!」

 

 そんなメビウスの怒涛の攻めにボガールは徐々に押されていき、トドメに誘爆しないように士官学校で習った対怪獣用制圧術の一つであるヘッドロック(マン兄さんの得意技)によって首を絞め落とされたのだった……そしてメビウスは倒れたボガールを持ち上げて。爆発しても問題ない場所へと連れて行こうとした。

 ……色々あったがようやくこれで解決かな……と俺が思ったその時、別の方向から見覚えのある光線がボガールに向かって放たれて、それに直前で気がついたメビウスは慌ててボガールを地面に落として光線から避けさせた。

 

「…………」

「ツルギ!!!」

 

 ……そうしてメビウスとGUYSメンバーが光線が撃たれた方向を見ると、そこには鎧を纏った青い巨人──ハンターナイトツルギの姿があったのだった

 

「……えぇ……ヒカリさんそれは無いでしょう。今良いところだったじゃないですか……とそんな事を言っている場合じゃ無いか」

 

 ……そして彼の全身から立ち昇る鬼気を見て()()()()()()()を察した俺は、全速力でメビウス達が戦っている場所にまで向かって行ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ツルギ……」

「どけ! そいつは俺が倒す!」

「よせ! ボガールを爆発させたら、この星の多くの命が犠牲に!」

「だからなんだ! 今こいつを倒さねばもっと多くの犠牲が出る。 数え切れない命が食い尽くされるぞ!」

 

 そんな問答の後、ツルギは右腕のナイトブレスからナイトブレードを展開してメビウスに向かって行き、メビウスもそれに答える様に左腕のメビウスブレスからメビュームソードを展開して斬りかかって来たツルギを迎え撃った。

 だが、ツルギのナイトブレスはかの『ウルトラマンキング』が彼に与えたアイテムであり、復讐の鎧の所為で真価を発揮出来ていないとはいえそこから発せられる光剣の強度はメビウスのそれを上回っており、更に剣術自体の技術でも劣っていた為にメビウスは劣勢に追い込まれていった。

 ……そして何合いかの光剣同士の打ち合いの末にメビュームソードは真っ二つにへし折られ、その勢いでメビウス自身も地面に叩きつけられてしまった。

 

「グアッ⁉︎」

「…………」

 

 先程のボガールとの戦闘での疲労もあってカラータイマーが鳴る程に疲労したメビウスは直ぐに立つ事は出来ず地面に倒れ伏し、その間にツルギは容赦なく右腕のナイトブレードを膨大なエネルギーが内包されたボガールモンスに向けて振り下ろそうとしていた。

 

「やめろォォォォ!!!」

 

 その剣を振り下ろされる事によって齎せれらる悲劇に、そしてそれが恩師の手によって行われるという事実に思い至ったリュウは叫びながらトライガーショットをツルギに向け……。

 

「流石にそれ以上は見過ごせないな!」

「なっ、お前は……⁉︎」

 

 その直前、人間には不可能な速度で脇を駆け抜けていった見覚えのある外国人の青年が右腕についたブレスを発光させて光となる場面を見た所為で、その引き金が引かれる事は無かった。

 ……そして、青年──アークはそのまま本来のウルトラ族の姿に『変身』すると、振り下ろされる寸前だったツルギの腕を掴んでその動きを止めた。

 

「アーク⁉︎ 離せっ!!!」

「いやぁ、流石にこんな事で無駄な被害を出すのは許容出来ないなっと!」

 

 そのままアークはもう片方の手でツルギの胸元を掴み、ボガールモンスから遠ざける様に勢いよく彼を投げ飛ばした……投げ飛ばされたツルギは地面を転がるものの即座に態勢を立て直してアークを睨み付けた。

 

「どけっ! アーク! 今そいつを倒さねばもっと多くの犠牲を生むと何故分からん!!!」

「いや、別にさっさと宇宙にでも運ぶかして始末すれば良いだけなのに、復讐目的でそんな事も分からずに無駄な被害を増やそうとしているなら流石に止めますよ。……出来ればそれまで大人しくしていて欲しいんですが、無駄な被害を出す様なら力付くで止めますよ。俺はメビウス程優しく無いので」

 

 そう激昂するツルギに対してアークはやや呆れた様な声音で返答しながらも、その雰囲気を剣呑なものに変えながら彼にそう忠告した……が、復讐心に囚われたツルギが忠告を聞くはずもなく、彼は再びナイトブレードを振りかざしてアークへと斬りかかる。

 

「ハァァァ!!!」

「アークッ⁉︎」

「……やれやれ、仕方ない……じゃあ力付くでっと!」

 

 それを見たメビウスが叫ぶが、それをスルーしながらアークは冷静に自分に振り下ろされる光剣を見据え……その両手での()()()()()()で掴み取った。

 ……そして、更にアークは両掌にエネルギーを集中させつつ手首を捻る事でナイトブレードをあっさりとへし折ったのだ。

 

「なっ⁉︎」

「メビウスとの打ち合いで光剣が脆くなってたのに気付きませんでしたか? ……申し訳ないですが、ちょっと手荒に行きますよっ!」

「ガハッ⁉︎」

 

 自身の剣を折られて驚いたツルギに出来た隙を突く形で、アークはまず密着した態勢からの容赦ないヒザ蹴りをツルギの腹部に叩き込み、そのまま前屈態勢になった彼の背中に今度は肘打ちを打ち込んで悶絶させる。

 ……そうして態勢が下がったツルギのこめかみに問答無用でアークは回し蹴りを放って蹴り飛ばし、駄目押しに捕縛用の光の輪『キャッチリング』をツルギに巻き付けて拘束した。

 

「グゥッ⁉︎ 動けん!!!?」

「そもそも貴方は科学者ですからね、戦士として生きてきた年季が長く無いです。鎧による強化や貴方自身の才能もあって“強く”はありますが、ウルトラ兄弟の様なベテランの戦士達の経験からくる“怖さ”は無いです。……その上、復讐心のせいで動きが単調で見破りやすく、メビウスとの戦闘で刃が鈍っているのなら対処は容易ですよ」

 

 ……そもそもゾフィーやセブン21がアークを地球への単独任務に行かせる事に決めたのは、浄化能力やヒカリへの説得要員としてのもあるが、それ以外にも彼であればハンターナイトツルギ及びボガール相手でも()()()()()()()()()()()()()を持っているからでもある。

 

「……つ、強ぇ……」

「……アーク、幾ら何でもやり過ぎじゃあ……セリザワさんの事もあるし……」

「だからちゃんと手加減しただろう? あの鎧の防御力を考えればあのぐらいなら問題無いだろうし……ふむ」

 

 その容赦が一切ない行動にGUYSメンバーやメビウスがやや引き気味になりながら驚愕するのをスルーしていたアークは、突如何かに気付いた様なそぶりを見せると共にアークブレスから盾──ウルトラディフェンダーを取り出してツルギに向けて投擲し……それを念力で操って()()()()()()()()()()()を防いでみせた。

 ……その後、彼は特に何とも無い様にその光弾を放った者──ボガールモンスの方を振り向いた。

 

「ナッ⁉︎」

「ふん、貴様がツルギが現れた時点で狸寝入りをしていた事に気が付いていなかったとでも? ……さて、俺としても問題がややこしくなり過ぎてちょっとイライラしてた所だから……殴って解決出来る()()()()()から片付ける事にしよう」

 

 ……そうしてアークは意識を取り戻したボガールに対してファイティングポーズを取りながら向き合ったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:めっちゃ強い(小並感)
・そもそも幼少の頃からゾフィーを始めとするウルトラ兄弟に鍛えられ続けて来た彼が弱い訳がなく、市民の避難が終わってない街中とかで無いまともな戦いなら今のツルギやボガールよりも遥かに強い。
・一応ツルギを攻撃した時もダメージが可能な限り少なくなる様に加減しながら攻撃している。

メビウス:アークの強さは知っているのであんまり驚いてはいない
・手加減もちゃんとしているのは理解しているが、それはそれとしてやり過ぎじゃ無いかとも思っている。

リュウさん:アークが与えた情報の所為で原作より困惑が強い
・でも、そんな状態でも『ウルトラマンなら何とかしろ』とか言わなかったし、その後は原作と同じ様にツルギとの会話や隊長のフォローもあって復帰しているメンタル強い人。

ツルギ:ボコられて簀巻きにされる

ボガール:進化したのにあっさりやられてるヤツ
・これには“裏で糸を引いているヤツ”も苦笑い。


読了ありがとうございました。
ここしばらく主人公が食道楽したりナズェミテルンディスカ⁉︎ ばっかりだったので、次回は主人公無双シーンを入れていきたいと思います(笑)


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凶獣との激闘

 ──────◇◇◇──────

 

 

 高次元捕食体 ボガールモンス

 強化地底怪獣 エリマキテレスドン 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……殴って解決出来る簡単な問題から解決するとしよう」

「グググ……キッシャァァァァァッ!!!」

 

 アークのそんな“こちらの事を大した脅威だと感じていない”目を見たボガールモンスは、それが強化された自身を下に見る物だと思い激怒しながら頭部にある発光器官からビームを放った。

 ……本来なら餌を狩る以外の戦闘では直ぐに逃亡するボガールがここまで積極的な戦闘に打って出たのは、狸寝入りしながら聞いていた先程の無様な同士討ちから連中が自分に内包されているエネルギーを警戒して全力で戦えないだろうと考え、その上で強化されている自分なら容易く嬲り殺せると思ったからである。

 

「……ああ、自分の内包エネルギーならこっちが全力で攻撃出来ないと思っているのか? ……別に貴様如きを倒すのに全力で攻撃する必要もないだろ」

「キシャッ⁉︎」

 

 ……そのボガールの浅はかな考えは、向かって来た光弾をエネルギーを纏わせた腕部で打ち払い、そのまま超加速移動で懐に潜り込んで来たアークの放った()()()()()()()()()()()()()()アッパーで顎を砕かれて吹き飛ばされた事によって霧散した。

 

「今の貴様はご自慢の内包エネルギーで相当に強化されているみたいだからな。……逆に言えば、多少ブン殴っても爆発はしないという事だろう?」

「ギシャァァァァッ⁉︎」

 

 そんな事を言いながらアークはボガールモンスの腹部に強烈なストレートを放って悶絶させ、更にハイキックによる首刈り、そこから回し蹴りによる横胴への蹴撃、そして態勢が崩れた相手の首根っこを掴んで市街地から遠ざける形での投げによる地面への叩きつけを立て続けに見舞っていった。

 ……これまでの地球任務でイマイチ良いところが無かった所為でストレスでも溜まっていたのか、その攻撃は普段以上に苛烈だった。

 

「ちょ⁉︎ アークやり過ぎじゃあ……」

「問題ない、体表が分厚い場所や意識を刈り取れる場所に手加減しながら放ってるから“まだ大丈夫”だ。……それに万が一の事があったとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかすれば地上の被害は最低限に収められるだろ」

「……まあ、アークならそのぐらいは出来るかもしれないけど……」

 

 一応、アークもボガールモンスの内包エネルギーに関しては常に最大限の警戒しており、もしもの時には残存エネルギーの全てを使ってでも爆発の威力を最小限に抑えるつもりであった。

 ……ちなみに爆発の一瞬でそのレベルのバリアを張るのは普通の宇宙警備隊員には難しいのでは? とメビウスは考えたが、『そもそもアークは普通じゃなかったや』と思い直して万が一時には自分もバリアを展開出来る様にエネルギーを集中しておく事にしたのだった。

 

「……それに俺の場合は()()()()()()()()()()()()()しな……リバーススタイル!」

「色が変わりやがった⁉︎」

『黒くなったわね……なんかちょっと悪っぽい?』

「見た目で判断したらダメですよ! ……しかし、姿が変わるウルトラマンなんてこれまで見た事が無いし彼は一体……?」

 

 そうしてメビウスを納得させたアークは、更にボガールモンスをどうにかする手段は他にもあると示す為に自身のもう一つに姿である『リバーススタイル』へと変身した……その際にGUYSメンバーが色々言った事に関してもスルーした。

 ついでに投げっぱなしだったウルトラディフェンダーを手元に呼び戻すと、それをウルトラランスへと変形させて地面から起き上がろうとしているボガールモンスへと突き付けた。

 

「ウググ……マ、マダ……!」

「いや、そのまま眠ってろ……サイキックホールド!!!」

 

 そしてランスの先端からリバーススタイルとなって強化された念力を放って、ボガールモンスを再び地面へと押し付けて身動き出来ない様にし……それと同時並行で空いているもう片方の手に膨大な冷気を集中させて……。

 

「……そんでもって最大チャージのウルトラフリーザーを喰らえい!!!」

「キッシャァァァァァ⁉︎」

 

 それ冷却光線として倒せ伏したボガールモンスの上に発射して炸裂、発生した大量の冷気を降り注がせてボガールの肉体を一気に凍結させていった……ここまでが流石に冷却でなら内包エネルギーが爆発を起こす事は無いと考えたアークの『対ボガール戦術』だったのだ。

 ……それから数瞬後、そこには地面に倒れ伏したまま完全に氷漬けにされたボガールモンスの姿があったのだった。

 

「……ボガールを凍らせやがった……」

「まあ、内包エネルギーの所為で表面しか凍ってないし時間をかければ解けるんだが……余計な動きを短時間封じ込めるなら十分だろう。後はコイツをどっか宇宙にでも運んで爆殺すれば全ての方が付くと思う。……ヒカリさんもこれなら良いですよね! まだ文句があるなら後二、三発は殴りますよ!!!」

「…………分かった、それでいい」

「やっぱりアークはすごいなぁ」

 

 流石にここまで圧倒的な実力を示してボガールを制圧したのなら敵対するよりも従った方が良いと思ったのか、或いはボガールがフルボッコにされるのを見て頭が冷えたのか、はたまたこれ以上殴られたくないのかは定かではないが、拘束が解かれた後もツルギは大人しくアークに従う素ぶりを見せていた。

 その一方的な戦い見ていたGUYSメンバーは手を出す事も忘れて驚愕の表情を見せて、メビウスはなんかちょっと天然な発言をしつつも内心では『地球を守る為にもっと精進を積まなければ』と決意を固めていたりした。

 ……こうして色々あったボガール事件は解決に向かおうとしていた……()()()()()()()

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……やれやれ、あのボガール思った以上に使えませんねぇ。せっかく宇宙警備隊の探知をある程度誤魔化せる細工と相応のエネルギーを与えて、ついでに怪獣が沢山いるこの星を紹介してやったのに……」

 

 ……アーク達とボガール(氷漬け)がいる場所からかなり離れた市街地、そこにあるビルの屋上に一人の“真っ黒な服”を来た男がアーク達がいる方向を見ながら落胆した雰囲気で何やら呟いていた。

 ……最も()()()()()()()()()()()()戦闘を知覚していたり、服以前に雰囲気そのものが『黒』としか言い様のない異質な存在感をしているところから只の人間ではない事は明らかだったが。

 

「強化された時には多少は見所があるかと思いましたが、ああも容易くやられる程度の頭脳と実力なら空席の『邪将』の座は相応しく有りませんか。……まあ、アレは相手が悪かったとも言えますがね。あのゾフィーの息子、宇宙警備隊に入隊してボガールを追う任務を任された事は掴んでいましたが、どうやら実力に関しては親の七光りではない様で……」

 

 だが、その『黒い男』は一転して雰囲気を“何か面白いモノでも見つけた”かの様に変えながら薄い笑みを浮かべていた。

 

「……とは言え、まだこの星への『惑星規模の認識改変催眠補助装置』の設置は済んでいませんし、あのボガールにはもう暫くこの星にいるウルトラマン達の耳目を引きつけて貰わないと行けませんしね。……少しだけ助け舟を出してやるとしましょうか」

 

 そう言った男は突然パチンと指を鳴らした……直後、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()その辺りの地面が僅かに揺れた。

 

「……設置作業中に偶々見つけた『この星の地底に生息していた者達が作った地上への侵略用怪獣の一体』ですが、作った者達がかつてウルトラマンに倒された所為で未完成のまま放置されていたので、少し手直ししつつ私の意のままに動くように刷り込みをしたものです。……元はボガールの餌用だったのですが、この状況なら少しは面白い事になるでしょう」

 

 ……それだけ言った『黒い男』はそのまま身を翻して歩いて行き、その途中で跡形も無くその場から消え去ってしまったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……じゃあ話も纏まった所で氷が溶けない内にコイツ(ボガール)を宇宙にでも……なんだ、この揺れは」

 

 とりあえずツルギを説得(物理)して後はボガールを宇宙に運べばいいという段階になった所で、突如として地面が揺れ始めた事にアークが気がつき……そこから一気に地面の揺れはその場にいる誰もが気がつくレベルにまで強くなった。

 

「……これは⁉︎」

「地面が揺れてる⁉︎」

「一体何だ⁉︎」

「⁉︎ 地中から何かが来るぞ! 気を付け「アンギャァァァァァッ!!!」

 

 その突然の揺れにその場に居た全員が周囲を警戒した直後、アーク達から少し離れた地面が勢いよく弾け飛びそこから一体の怪獣が現れたのだ。

 ……その怪獣は身長60メートル・体重12万5トンという超重量級であり、全身は焦げ茶色の非常に頑丈な皮膚で覆われていて顔は鋭く尖っており、更に首元には一際目立つ()()()の様なモノが存在していた。

 

「何だ! あの怪獣は⁉︎」

「……ドキュメントSSSPに類似種族を確認! レジストコードは……」

「【地底怪獣 テレスドン】だ……! でも、あのエリマキは【エリ巻き恐竜 ジラース】のものに似ている……ひょっとして新種なんじゃ⁉︎」

『……じゃあもう【エリマキテレスドン】とかでいいじゃない』

『まあ、名前は分かりやすい方がいいだろうしな』

 

 そう、現れた怪獣はかつてウルトラマンと戦った【テレスドン】の強化体──GUYSが付けたレジストコードは【エリマキテレスドン】──であったのだ。

 ……いきなり現れたエリマキテレスドンに対して三人のウルトラマンとGUYSメンバーは応戦の構えを見せたが、それよりも早く『黒い男』によって操作されたエリマキテレスドンは襟巻きの縁を発光させながらデプス拡散熱線波──光線状に収束されたデプス熱線波を辺り一面に連射する技を放った。

 

「アンギャァァァァァッ!!!」

「させん! ブリザードウォール!!!」

 

 それに対してアークはダメージを負って疲労したメビウスとツルギ、そして地上にいるGUYS隊員達を守る為に念力によって熱線を防ぐ冷気の壁を作り出してデプス拡散熱線波を防いでみせた。

 ……だが、彼等を守る事を優先したせいで熱線波の内の一つが氷漬けにされたボガールモンスに当たる事は防げず、その結果として熱線を浴びたボガールは凍結から逃れてしまったのだ。

 

「しまった⁉︎」

「キッシャァァァァ!」

「逃すかッ!!!」

 

 そうして動ける様になったボガールに対して即座にツルギが抜き打ちのナイトブレードから光刃を放つが、それより早く復活したボガールは空間転移でその場から消え去ってしまったのだった。

 ……それを見て激怒しながら悔しがるツルギだったが、そこにエリマキテレスドンのデプス破壊熱線波──襟巻きで超振動波を増幅して放つ技──が直撃して大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「グワァッ!?」

「ツルギ⁉︎」

「セリザワ隊長⁉︎」

「チッ、メビウスとヒカリさんはこれまでの戦闘でダメージと疲労が大きいし……ここは俺がやるしかないか」

「アンギャァァァァァォォォォ!!!」

 

 吹き飛ばされたツルギに声をかけるメビウスとリュウを背に、エリマキテレスドンに向かい合ったアークは直接戦闘には不向きなリバーススタイルから戦闘能力に長けたシルバースタイルに戻ると、まずは手始めの牽制としてブレスからアークスラッシュを放つ……が、その光刃はエリマキテレスドンが展開した空気の壁『デプス反射砲』によってそのままアークに跳ね返されてしまった。

 ……それをアークは咄嗟に手に持っていたウルトラランスで光刃を弾きつつ、かつてアーカイブで見たテレスドンとは大分能力が違う様だと思考していた。

 

「おおっと⁉︎ 超振動波だけで無くて光線に対する防御能力まで備わっているとはな。……ここは近接戦しかないか」

「ギャォォォォ!!!」

 

 相手が強力な射撃と防御能力を備えている以上、下手な光線技はエネルギーを消費するだけだと判断したアークはエリマキテレスドンに接近戦を挑んでいった。

 ……だが忘れてはならない。このエリマキテレスドンの元になったテレスドンという怪獣はトップクラスの体重を持つ重量級怪獣であり、地底人という司令塔を失っていたウルトラマンと戦った個体と違って、未だに『黒い男』の制御下にあるという事を。

 

「アンギャァァッ!!!」

「グオッ⁉︎ 重いし硬いなぁ! しかも接近戦も相当に上手い!!!」

 

 接近したアークは果敢に拳や蹴りを放っていったが、このエリマキテレスドンは地底人の()()()()()()()として強化されたモノであるが故に、初代テレスドンと比べても更に肉体は強化されていてアークの格闘でもそこまでのダメージにはなっていなかった。

 更に操っている『黒い男』の技術によって皮膚の厚い部分で攻撃を受けたり、爪による攻撃をフェイントにして尻尾で不意打ちを仕掛けて来るなどの近接戦も仕掛けてくるのでアークも中々攻め切れないでいた。

 ……それを見たメビウスとツルギが加勢に向かおうとするが疲労とダメージによってその動きは精彩を欠き、辿り着くまでに迎撃の為に再びエリマキテレスドンが放ったデプス拡散熱線波を食らって吹き飛ばされてしまった。

 

「シェアァァッ⁉︎」

「ヌアッ⁉︎」

「二人とももう殆どエネルギー残ってないんだから下がって! ……って、俺のエネルギーもそろそろヤバいかな」

 

 二人にそう言ったアークは自分の胸のカラータイマーが点滅しだしているのに気が付いた……流石の彼も初めての地球での連戦によって相応にエネルギーを消費してしまっていたのだ。

 ……何とかしてエリマキテレスドンの隙を見つけて短期決戦を挑むしかないか? ……と、アークが身構えつつも考えていたその時、地上と上空からエリマキテレスドンの顔面に向けてビームが放たれた。

 

「アンギャァァァァァッ⁉︎」

「俺達も忘れてんじゃねーぞ!!!」

『ウィングレットブラスター!!!』

 

 そう、これまでは状況が目まぐるしく変わって手出しが出来なかった、地上のリュウ達GUYS隊員と上空で待機していたガンウィンガーによる攻撃である……ボガール相手には迂闊に攻撃出来なかったがエリマキテレスドン相手ならば特に攻撃を躊躇する理由も無く、更にウルトラマン達の窮地とあって彼等は果敢に攻勢に打って出たのだ。

 ……彼等の攻撃の威力自体はエリマキテレスドンの強固な皮膚を穿つ程では無かったが、それでも予想していなかった者達からの攻撃だったのでデプス反射砲を使う事も出来ずに顔面へと集中攻撃を食らった所為で怯んでしまい……その隙を逃さずアークは接近してテレスドンの襟巻きを鷲掴みにした。

 

「とりあえず厄介なのはこの襟巻きだろ! ソォイ!!!」

「ギャァァァァァァァァッ!?」

 

 そしてアークはその襟巻きを勢いよく引き千切った……このエリマキはテレスドンに強化手術で後付けされた部位であるので、その接合部は他の肉体部位と比べても遥かに脆くなっているのだ。

 ……とはいえ、いきなり肉体の一部分が引き千切られて()エリマキテレスドンは痛みに悶えてしまい、一瞬だけ『黒い男』の制御から離れてしまい……。

 

「襟巻きが無ければ貴様なんぞ只のテレスドンだ! どっせぇぇい!!!」

「アンギャァァッ⁉︎」

 

 そのまま首根っこを掴んだアークに態勢を崩されて上で投げ飛ばされ、脳天から地面に叩きつけられてグロッキーになった……それによ脳を揺らされてフラつきながら動きが鈍ったテレスドンを見て、アークは即座に距離を取って自身の必殺光線の構えを取った。

 ……ただし、その技は右腕の『アークブレス』のクリスタルサークルを左手で回転させると共に腕を斜め上下に開く際、解放されたエネルギーとタロウ教官から習った()()()()()()()()()()()によってチャージされたエネルギーが『斜めの光のライン』を描くというこれまでのアークレイショットとはやや違うエフェクトだった。

 

「喰らえ! これがブレスを手に入れてからこっそり練習して来た『完成版』アークレイショットだ!!!」

「アンギャァァァァァ…………!!!」

 

 そうしてチャージを終えたアークは腕をL字に組んで大威力の必殺光線を未だにフラついているテレスドンに向けて放ち、その重厚な皮膚やタフな身体を物ともせずに跡形も無く爆散させたのだった。

 ……まあ、エネルギーの消費のし過ぎでカラータイマーの点滅は更に激しくなっていたが、あのままズルズルと戦い続けていたら負けていただろうから許容範囲内だろう。

 

「よし倒した……が、ボガールには逃げられたか。……こんな都合良くアレだけの怪獣が現れるとは思えないし、ボガールも怪獣を呼び出せる状態じゃなかった以上、やっぱり黒幕がいるのかねぇ」

 

 ……実質、戦いには勝ったが肝心の目的は果たせなかった状態のアークは肩を落としながら身体を薄れさせてその場から消えていったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:光のラインは『ゼペリオン光線』のアレをイメージ
・完成版のアークレイショットは“威力だけなら”ゾフィーのM87光線Bタイプやエースのメタリウム光線に匹敵する威力。
・ただ、チャージに時間が掛かりエネルギー効率も更に悪くなっているので、出が早く基本技であるスペシウム光線と使い分けるスタイルで行くつもり。
・後、昔からゾフィー達にボコボコにされ続けていた所為でエネルギー不足時での戦いにも慣れていたり。

メビウス&ツルギ:あの後は同じくエネルギー切れで消失
・イマイチ活躍出来なかったが連戦とダメージの所為(ツルギの場合はアークが原因だが)で動きが鈍っていたのでしょうがない所もある。

GUYSメンバー:賑やかしでは終わらないのが地球の防衛チーム
・後日、レジストコードは正式に【強化地底怪獣 エリマキテレスドン】で登録された模様。

ボガールモンス:ボコボコにされた上で氷漬けにされた
・動ける様になったら即座に逃亡を選ぶぐらいにはアークを警戒している。

エリマキテレスドン:弱点は襟巻き
・この地球では『ウルトラマン』で出て来た地底人が改造していた2代目テレスドンという設定で、地上への本格進行用だったので性能は初代よりも数段上。
・こちらは改造手術の際、超振動波などの能力を増幅する器官としてエリマキを付けただけで、よく似ているがジラースのそれとは余り関係がない設定。
・ただ、ウルトラマンと遭遇した時点では完成しておらず、肝心の地底人も100万ワットの輝きで全滅したので仮死状態で地下深くに隠されていた。

黒い男:一体何フィラス星人なんだ……!
・ボガールを地球に差し向けたり宇宙中で騒ぎを起こしてウルトラマン達の目を逸らし、その隙に様々な暗躍をしているヤツ。
・今回の一件でボガールには見切りを付けており、代わりに『地球に封印されたアイツ』を仲間に引き入れる為に引き続き暗躍する模様。


読了ありがとうございました。
この作品の小説情報を見てみたら評価バーが全部赤くなっていて嬉しかったです。これも皆さんの応援のお陰です。これからも宜しくお願いします。


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災厄の魔獣

 ──────◇◇◇──────

 

 

 高次元捕食体 ボガールモンス 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 何故かいきなり出て来た【エリマキテレスドン】の所為でボガールを取り逃がしてしまった俺──宇宙警備隊員アークは、邪魔をして来たテレスドンの方をGUYSの皆さんの援護によって襟なしにした上で撃破した。

 その後はエネルギー残量が厳しかったので人間態に戻り、同じくエネルギーが切れて巨大化を解除したメビウスとヒカリさんに合流するべく彼等の反応がある方向に進んでいた。

 

「しかし、中々の長期戦だったからかもう夕方になったな。……しかし何度見ても地球の夕日は美しいね、常に真昼間の光の国では見れない光景だし」

 

 そうして俺が夕日を眺めながら歩いていると、同じく夕日を見ながら何かを話しているヒカリさんとメビウスの姿が見えたので俺も話しに入ることにする。

 

「……俺は既にウルトラマンの心を捨てた」

「それはウソだ。心は簡単に捨てられない。……例え地球を犠牲にしたとしても、今度はまた地球という鎧を纏わなければならない」

「そもそも本当に心を捨てたのなら復讐になど走らないでしょう。……貴方が復讐の道を選んだのは貴方にアーブの民を思う心があったからだ、ヒカリさん」

 

 メビウスがヒカリさんに結構良いことを言っていたので、思わず俺も彼に向けて自分が考えていた事を言ってしまった……まあ、ヒカリさんが復讐に走ったのは良くも悪くも彼が『良い人』だったからだからな。

 ……この人が善人なのは俺の能力の検査を嫌な顔せずに続けてくれた事からも分かってるし、復讐に走った事をあまり責めたりは出来ないんだよなぁ(それはそれとして余りにやばい時にはブン殴ってでも止めるけど)

 

「アーク……」

「ようメビウス、それにヒカリさんも」

「…………」

 

 そんな感じで話しに割り込んできた俺を見たメビウスとヒカリさんは何とも言えない表情になった……そうして暫くの間その場を沈黙が包んだ後、不意にヒカリさんが夕日を見ながら口を開いた。

 

「美しいなあ。……セリザワとはどんな人間だったんだ?」

「え?」

「アイハラ・リュウと対するとこの人間の記憶が俺の中に流れ込んでくる」

「大切な人だったんだ。リュウさんにとって、セリザワ隊長は」

「そうだろうな。俺が捨てたはずの感情が一瞬甦った」

「ツルギ……(ヒカリさん……)」

 

 そう言ったヒカリさん(セリザワ氏)の顔にはこれまで見た事がない様な晴れ晴れとした笑顔があった……が、その表情はすぐに元の険しい物へと戻った。

 

「しかし、復讐は果たす。……どんなことをしてでも」

「ツルギ!」

 

 ……そんな呼び止めるメビウスの声にも答えず、ヒカリさんは青い光に包まれてその場から消えてしまった。

 

「……捨てられるはずはない。アークの言う通り、その感情が優しさであるのなら」

「そうだな。……さて、じゃあ俺も行くわ」

「え?」

 

 とりあえず要件は終わったので俺がその場から立ち去ろうとすると、メビウスが何故か疑問の声を上げた……だってお前、行方不明の『ヒビノ・ミライ隊員』を探してGUYSメンバーが周囲を捜索してるっぽいし、そんな時に俺が近くにいると説明が面倒だろう? 

 

「……それに余りにも都合のいいテレスドンの襲来といい、そもそもボガールが態々この地球に来た事といい、多分だが裏で糸を引いているヤツがいるっぽいしな。現在の宇宙の状況もきな臭いし、俺はそっち側をもう少し調べてみるさ」

「アーク……分かった。何かあったら連絡してくれ」

 

 ……そうした事情を話して納得したメビウスの言葉に、俺は背を向けたまま手を振って答えつつまたGUYSメンバーに見つかる様なヘマをしない為にも早急にその場を後にしたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ハァァ……ハァ……ハァッ……クソッ! アノ忌々シイウルトラマン共メ……!」

 

 ……深夜、日本のとある森の中で一人の不気味な女──ボガールモンスの人間態『ボガールヒューマン』──は、その辺りにある木に手をついて息を切らしながら忌ま忌ましそうな表情で自身をここまで追い詰めたウルトラマンへの呪詛を吐いていた。

 見て分かる通りボガールがメビウス、ツルギ、そしてアーク(一番割合が大きい)に負わされたダメージはかなり大きく、どうにか逃げ延びたもののこの様に人間態で隠れながら行動するのがやっとの状態だったのだ……ダメージと進化した事による急速なエネルギー消耗によって空腹状態になっている事も、ボガールの気性が荒ぶっている理由ではあるが。

 

「……トニカク、適当ナ怪獣ヲ食ッテ……」

「まあ少し落ち着きなさい。闇雲に行動してもまたウルトラマン達にやられるだけですよ」

「ッ⁉︎ オ前ハ……!」

 

 いつの間にやら闇の中から現れてボガールへと話しかけたのはボガールを地球に送り込み、更に【エリマキテレスドン】を操ってボガールを助け出した謎の『黒い男』だった。

 ……だが、その男を見たボガールはこれまの傍若無人な行動とは打って変わって『全力での警戒』を行いながら黒い男に話し掛けた。

 

「……何ノ用ダ。宇宙警備隊ノ探知ヲ誤魔化ス術ヲ渡ス代ワリニ、地球トイウ獲物ノ多イ場所デシバラク暴レロトイウノガ貴様トノ契約ダッタダロウ。ソレ以降ハ干渉シナイトノ言ッテイタダロウニ」

「そのつもりだったのですがね、どうも私が渡した隠蔽装置でも既に誤魔化しきれない程度に貴方のエネルギー量は上がった様ですからね。少しだけお手伝いに来たんですよ」

「フン、ドウダカ……ソレデ手伝イトハナンダ?」

 

 嫌にフレンドリーな感じで話しかけて来た黒い男に対して、ボガールは警戒を緩めずに自身と彼の間の“契約内容”を確認しつつ答えていった……何せ相手はこの宇宙でも()()()()()()()()()()()()であり、警戒は幾らしても足りない相手なのだから。

 

「ええまあ、手伝いと言っても少し道具と知恵を貸すぐらいですが」

「フン、貴様ガ自分デ戦エバイイダロウニ」

「私も色々と忙しいもので……それはともかく、まず貸す道具はこの新型の探知妨害装置ですね。少なくとも宇宙警備隊製の探知装置に関しては貴方が巨大化しようが怪獣を捕食しようが探知はされないでしょう。……最も突貫作業で出力を上昇させて作ったのでこの星の暦で一週間程しか使えませんが」

「……一時的ニ身ヲ隠ス事ニシカ使エンデハナイカ」

 

 そう言いながらもボガールは黒い男から投げ渡された探知妨害装置を受け取った……正直言って男の言う事はかなり怪しかったが、この装置があればウルトラマン共に見つからずに食事が出来るという考えに逆らえなかった形である。

 ……最も、そんなボガールの思考や欲求を含めて黒い男にとっては計算通りの対応であったが。

 

「それでもう一つ貸すのは情報と知恵ですね。……今この星にいる三人のウルトラマン、纏めて相手をすれば幾ら強化された貴方でも勝率は余り高くないでしょう」

「……フン」

 

 その黒い男の言葉に対してボガールは鼻を鳴らす程度で特に怒る事も無く冷静に対応していた……そもそもボガールが最重要視するのは良くも悪くも『食事』であり、それを妨害されて忌々しく思う事はあっても戦闘での敗北自体は対して気にも止めないのである。

 ……それ故に特に躊躇もなく逃亡を選択するので厄介さが増しており、現在も男との会話の中で既にアークに打ち倒された屈辱感などはほぼ消えて冷静さを取り戻している……自分よりも遥かに賢い目の前の男の案を聞くだけ聞いておこうと考える程度には。

 

「ですので、彼等を分断してしまいましょう。……丁度よく今この太陽系の近くには()()()()()()()()が接近していますので、コレを強化された貴方の力で地球に呼び寄せれば、この星を守る為にいる彼等の誰かは一時的に地球を離れざるを得ないでしょう。数が減れば貴方にも十分な勝機があるかと……」

 

 そう言った黒い男は空間に『とある怪獣』が映った宇宙空間の映像を投影した……それを見たボガールは一瞬『“この怪獣”は言うほど強力ではないだろう』と思って怪訝な表情を浮かべたが、直ぐに周りの隕石などと見比べてその画面に映った怪獣の()()()が不自然な事に気が付いた。

 

「……成ル程、“子供”ハヨク見カケルガ“親”ノ方ハ初メテ見ルナ。……イイダロウ、貴様ノ提案ヲ飲ンデヤル。精々アノウルトラマン共ニハ“コイツ”ヲ相手ニ踊ッテ貰ウカ」

「私も影なから応援しますよ(まだ装置の設置に一週間程掛かるので本当に応援するだけですが)」

 

 ……そうして凄絶な笑みを浮かべるボガールと、何を考えているか分からない意味深な笑みを浮かべた黒い男はそのまま闇の中へと姿を消していったのだった……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ふむふむ、それでGUYSの皆さんはボガールを倒す為に島一つにバリアフィールドを張って、そこにボガールを誘い込んで倒す気な訳だ。効果的で合理的な戦術だな」

『うん、それでもし僕たちが現れてもいいようにキャプチャーキューブの技術を応用してバリアの一部に短時間だけ穴を空けておいてくれるんだ』

「成る程、至れりつくせりだな。流石は地球の防衛チーム」

 

 ボガール(とエリマキテレスドン)との戦闘が終わってからだいたい一週間後、俺はGUYSの本拠地フェニックスネストの近くまで来てメビウスを秘匿念話による情報交換を行っていた。

 ……ちなみに外国人の姿は既に見られているので、今回は黒髪黒目の日本人に外見を変更してGUYSメンバーにバレない様にしている。

 

『それで僕はボガールをそこまで誘き寄せて戦う気だけど……』

「勿論、俺も手助けするしそこまでお膳立てされたのなら今のヒカリさんも断らないだろう。……問題はボガールがやって来るかどうかなんだが。前回散々ボコボコにした以上、奴がウルトラマンが複数いる場所にノコノコやって来るかどうか……」

 

 ……アイツ意外と頭が良いからな。食欲最優先だから逃げるのにも躊躇は無いし。本当にタチが悪い。

 

『……そう言えば、アークの方で色々調べてみると言っていたけど何か分かった?』

「全然さっぱり。黒幕どころか肝心のボガールの反応すら捉えられない有様だよ」

 

 俺が調査に慣れていない事を差し引いても全然さっぱりなしのつぶてなんだよなぁ……怪獣倒すのは簡単なのに、調査となるとウルトラ族の特殊な能力はイマイチ役に立たないから難易度が凄い高い。宇宙保安庁の仕事って大変……。

 

『とにかく準備が整ってるから、ボガールが現れた時にはアークも無人島まで来て欲しい』

「分かった。……ヒカリさんの方にはもし会えたら伝えておく。まあ、そんな事しなくてもボガールが出てくれば普通に来るだろうが」

 

 その会話を最後にメビウスは念話を切って、俺は怪しまれない程度に急いでフェニックスネストから離れようとした……その時、突如として例の微妙に役に立たない探知装置が激しく反応し、同時に俺自身の感覚も非常に覚えのある気配を捉えた。

 ……慌てて俺が気配のある方向を見ると、そこには既に巨大化したボガールが真っ直ぐこちら──フェニックスネストの方角に向かって来ていたのだ。

 

「ギギィシェアァァッ!!!」

「……まさかここまで堂々と現れるとはな」

『アーク! これから作戦を決行するから、僕がガンウィンガーでボガールを無人島まで誘き寄せるよ!』

「分かった! じゃあ俺も……っ⁉︎」

 

 俺は再びかかって来たメビウスの念話に答えて事前に伝えられていた無人島の座標まで向かおうとしたのだが、そこでボガールがこちらを見ながら嫌な笑みを浮かべている事に気が付いてしまい……その直後、ヤツは天に向かってこれまでに無い大きさの声で咆哮した、

 

「……ギェッシャァァァァァァァァァァッ!!!」

「一体何を……⁉︎ いや、アレは怪獣を呼び出す力か!!!」

 

 こちらにまで暴風が起こるほどの咆哮に一瞬何をしているのかと疑問に思ったが、その際に発せられたエネルギーの波長から直ぐにアレがボガールの怪獣を呼び出す力だと気が付いた……が、じゃあヤツは一体何を呼び出しているんだ? どうやらエネルギーは宇宙に発しているみたいだが……。

 ……と、思ったらボガールのヤツが憎たらしい声音で俺とメビウスに念話を使って来た。

 

『……ククク……早ク宇宙ヘト向カッタ方ガイイゾ。今呼ビ出シタノハ俺デスラ食エルカワカラナイレベルノ大怪獣ダカラナァ。下手ヲスレバ地球ナド簡単ニ滅ブゾ?』

「くそがっ!!! そういう手かよ⁉︎ ……メビウス、宇宙の方は俺が向かう! どうもかなり厄介なヤツを呼び寄せたっぽいしな!」

 

 実際、俺の感覚にはボガールに呼び寄せられて猛スピードで向かって来る()()()()()の気配がはっきりと捉えられていた……こっちを分断して各個撃破とか有効だけどみみっちい手を使いやがって!

 

『アーク! でも……』

「向こうの目的が戦力分散なら大人数を宇宙に向かわせるのは悪手だ! あのボガールについてはお前とヒカリさん、それにGUYSの皆さんに任せる!」

『……分かった。こっちは必ずボガールを倒すからそっちは頼む!』

 

 その念話を最後に俺は素早くアークブレスを使って変身しながら、同時に宇宙空間での高速移動用である『光球型エネルギー式宇宙船』を展開して一気に大気圏を離脱して宇宙へと飛んでいったのだった。

 ……くっそ、ボガールのヤツめ宇宙に行く俺を見て『してやったり』みたいな表情しおって……まあいい、俺が居なくても貴様はメビウスとヒカリさんとGUYSメンバーに倒されるんだからな。精々今の内に調子に乗っているがいいさ! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そんな訳で俺は宇宙に出てから全速力で地球圏を離脱、そのまま一気に火星圏までを通り過ぎて近付いて来る巨大な気配をはっきりと捉えられる位置で宇宙船を解除した。

 ……そして、いつでも戦闘出来る準備を整えつつ気配が近づいて来る方向へと飛行を続けた。

 

「……さて、あのやろうは一体どんなヤツを呼び寄せたのやら……」

 

 それからしばらく宇宙空間を飛行し、火星と木星の間にあるアステロイドベルトまで来た所でようやくその『何か』を目視範囲内に収める事が出来たのだが……。

 

「アレは……『ケルビム』か?」

 

 俺の視線の先に居た怪獣は()()()()()で宇宙中に生息している宇宙怪獣【宇宙凶険怪獣 ケルビム】であった……全身を覆う青いウロコ、長大な尾と極端に長く鋭い爪、鉈のような巨大な一角が特徴的な怪獣なので分かりやすいな。

 ……いや、こう言ってはアレだが“たかが”ケルビムがこんな強大な気配を発するのは可笑しいし、よく見たら周りのデブリと比べて縮尺が……。

 

「……ああ! そういう事かよ! あのクソ野郎(ボガール)め、とんでもないヤツを呼び出しやがったな!!!」

「ギャァァァァァァァァァァオォォォォォ!!!」

 

 そう、俺の目の前に居たケルビムは姿自体は普通と同じでもその大きさが全く違ったのだ……具体的には通常のケルビムの6倍以上の身長と23倍以上の体重を持つ超巨大怪獣だったのだ。

 ……確か昔アーカイブで見た記憶があるな。ケルビムを産み落とす母体にして、強いエネルギー波を辿って見つけた惑星に無数の卵を産み付けてその星の生態系を破壊する、宇宙警備隊でも特級の危険生物に認定されている大怪獣。その名は……。

 

「【宇宙凶険怪獣 マザーケルビム】……こんなヤツを向かわせたら冗談抜きで地球が滅びるぞ!」

「ギャァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 メビウスもGUYSも今はボガールの相手に全力を尽くしてる所で、更にマザーケルビムとまで戦う余裕なんて無いしな……ここは俺がコイツの相手をせざるを得ないか。くそう、とんだ貧乏くじだ!

 ……こうして地球から遥か離れたアステロイドベルトで俺とマザーケルビムの戦いが切って落とされたのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:ヤベーやつと戦う事に
・調査のコツとかはセブン21から教えて貰っているが、それと実際に上手く調査出来るかは別の話でまだまだ経験不足。

ボガール:黒い男の口車に乗せられてヤベーやつを呼び寄せた
・以前自分をボコったヤベーやつ(アーク)が地球を離れた事には内心ガッツポーズしており、それで意気揚々と残りの邪魔者を始末するつもりである。
・尚、マザーボガールがやって来た時点でさっさと地球から撤退するつもりであったり。

メビウス&ツルギ&GUYS:この後は原作通りにボガールと戦う模様
・詳しくはウルトラマンメビウス10話『GUYSの誇り』を参照……つまり原作通りにボガールは倒されます。

【宇宙凶険怪獣 マザーケルビム】:ヤベーやつ
・ちなみにボガールに呼び寄せられたと言うより、ボガールが出したエネルギー波を感知して自分でやって来た感じ。
・尚、地球で先にやって来たケルビムはこのマザーが近くの星に産み付けた内の一体がボガールに呼び寄せられたものである。


読了ありがとうございました。
次回は『メビウス編前編』の最後の戦いになるアークVSマザーケルビムになります。感想・評価・お気に入りに登録などはいつでも待っています。


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母なる智天使

 ──────◇◇◇──────

 

 

 宇宙凶険怪獣 マザーケルビム 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ……【宇宙凶険怪獣 ケルビム】……この怪獣は母体である【マザーケルビム】が宇宙各地を移動しつつ、様々な惑星に卵を産み付けて繁殖する性質を持っている事から宇宙各地で生息が確認されている所為で名前の知られた怪獣であり、その外見は異名の由来にもなった凶悪にすぎる険しい顔つきを始めとして魔物を思わせる攻撃的な外観を持つ。

 

「ギャァアアアアアアアアォォォォオオオオオオオオオ!!!」

「……やっぱりクソでかいから迫力がすごいな。とりあえずウルトラサインで銀河系支部に連絡を……うおぅ⁉︎」

 

 ……その見た目に反せず戦闘能力も非常に高く、遠距離の相手には口から吐き出す可燃性粘液を空気との摩擦で発火させた火球『弾道エクスクルーシブスピット』、中・近距離では先端に鋭い棘が何本も生えたモーニングスターのようなコブの付いた長大な尾『超音速クラッシャーテイル』、更に至近距離では両腕の爪や頭頂の巨大な一角『裂岩マチェットホーン』と、攻撃面では戦況や相手を選ばないオールレンジな戦闘能力を持っている。

 また、体内に反重力推進器官を持ち宇宙・大気圏内問わず飛行も可能で、エラは確認できないが呼吸器が似たような機能を有しているのか水中でも難なく活動可能であり、更には音波を利用した怪獣の操作を行う個体もいるなど知能も相当に高いという万能系怪獣である。

 加えてマザーの場合は尻尾の先から大量の卵を隕石のように発射し攻撃する事すらやってのけ、今もウルトラサインを出したアークに対して敵対行為を認識したのか尻尾から隕石を投射している。

 

『ギャアアアアオオオオオオオオオォォォォ!!!」

「ええいっ! この隕石群は卵か⁉︎ ……惑星に産みつけられないからか孵化はしないみたいだが、単純に飛び道具としても厄介だな!」

 

 しかし、ケルビムやや細身な体型も相まって馬力自体に関してはやや力不足な印象があり、優れた攻撃面に反して防御力は控えめで特殊な防御技なども持ち合わせておらず、その意味では『攻撃は最大の防御』を地で行く怪獣とも言えるかもしれない。

 ……ただし、長い時を生きて成長した結果としてウルトラマンすら遥かに凌ぐ巨体を持つに至った【マザーケルビム】の場合だと()()()()()()の防御力と耐久力を備えており、当然ケルビムの高い各種攻撃能力をその圧倒的なスケールで実行可能である……つまりどういう事かと言うと……。

 

「ギシャァァァァァァッ!!!」

「チッ! スペシウム光線()()ではダメージを与えられんか……危なっ⁉︎」

 

 アークが投射される隕石を回避しながら放ったスペシウム光線はマザーケルビムの体表に僅かな焦げ目を作った程度しか効かず、逆にマザーは迂闊に接近した彼に対して身体を回転させながら超巨大な超音速クラッシャーテイルを見舞って来る……そんな状況であった。

 ……幸いマザーの格闘攻撃は巨体であるが故に大振りであり、ウルトラ族が高速で移動出来る宇宙空間という環境もあってアーク程の技量があれば回避する事は容易いのだが、その巨体から放たれる為に攻撃範囲が広くどうしても大きく動く必要が出来てしまう。

 

「ガァァァアアアォォォォオオオ!!!」

「今度はエネルギー弾か!」

 

 そうして一旦距離を取ったアークに対して、マザーケルビムは口からウルトラ族一人を飲み込む程の大きさの弾道エクスクルーシブスピット──可燃性粘液を体内でエネルギーに変換して、炎っぽいエネルギー弾として重力操作能力で打ち出す宇宙空間用──を撃ち放った。

 ……それもアークは辛うじて避けながら反撃のウルトラスラッシュ(八つ裂き光輪)をマザーに投げつけたが、放たれた光輪はその身体に僅かな切り傷を付けるだけに終わった。

 

(クソッ! デカイだけあって耐久力も生命力も桁違いだから攻撃も殆ど効かんか。……あのマザーケルビムを倒すには()()()()()()()が必要なんだろうが、俺のアークレイショットはタメに時間が掛かるから向こうの攻撃を回避しながらだと撃てないし、そもそもそれで倒し切れるかどうか……)

「ガァオオオオオオオオオォォォォ!!!」

 

 圧倒的な巨体であるマザーケルビムの『生物としての単純な強度』の所為でアークが攻め切れないでいると、再びマザーはアークに向けて尻尾から隕石の様な卵を連続で撃ち放って来た。

 ……とは言え数は多くても軌道は直線なので、アークは容易く回避出来ると判断して移動して射線から逃れ……直後、数個の卵隕石の中から()()()()()のケルビムが生えると共に、その卵隕石群が自身を追尾してくる光景を見て思わず驚愕してしまった。

 

「なっ⁉︎ 卵の孵化には惑星のエネルギーが必要な筈じゃ……まさか“未熟児”か!!!」

「「「「AAAaaaaaaaaa!!!」」」

 

 そう、本来ならケルビムの卵の孵化には“惑星に流れるエレメント”や“次元破壊系兵器の余波である重力波”などの強いエネルギー波が必要であり、その為にマザーケルビムは繁殖に相応しい惑星を探す為にエネルギー波を探知しながら宇宙を放浪しているのだが……今回はアークを始末する為に栄養が足りない状態で卵を孵化させて、その重力操作能力による実質的な“使い捨ての弾丸”としているのだ。

 ……実際、そうして生まれたケルビムは肉体の一部が欠けていたり崩れていたりで、辛うじて重力操作による飛行能力のみが使える様な状態で孵化させられていた。

 

「要するに鉄砲玉か……なら撃ち落とす! アークスラッシュ! スペシウム光線!」

「「「「AAAaaaaaaaaa!?」」」

 

 それを見たアークは避けるよりも未熟児ケルビムを撃破した方が早いと判断し、光線や光刃で未熟児だから耐久力も低くなっているケルビムを次々と撃破していった……が、そうしてアークの動きを止める事がマザーケルビムの狙いであり、そこに向かって再び周りのケルビムを巻き込む規模の弾道エクスクルーシブスピッドを放った。

 

「ガアアアアアアアアアァァァァァァ!!!」

「ッ⁉︎ アークディフェンサー!!!」

 

 直前でそれに気が付いたアークは咄嗟に自分の身体を覆い尽くせるサイズのバリアを展開するが、その大きさに見合った出力を持つエネルギー弾を完全に防ぎきる事は出来ずにそのまま吹き飛ばされてしまった。

 ……だが、そこはウルトラ兄弟に散々扱かれて来たアーク、ダメージを受けつつも爆炎に紛れながら必殺光線(アークレイショット)のチャージ体勢に移行した。

 

「喰らえ! アークレイショット!!!」

「ギャァァァァァアアアアアア!?」

 

 そして爆炎が晴れた瞬間にアークは両手をL字に組んで必殺光線をマザーケルビムの顔面に向けて放った……が、咄嗟にマザーが首を振った所為で光線はその右耳部分に当たってしまい、そこを跡形も無く吹き飛ばすだけに終わってしまった。

 

「クソッ! 外れたかっ!!! ……それに俺の最強技でもあの程度のダメージとか……!」

「グワァァァアアアアアアォォォォオオオッ!!!」

 

 自身の必殺技を持ってしてもマザーケルビムを仕留め切れなかった事に歯噛みするアークだったが、耳を吹き飛ばされて激怒したマザーが再び大量の隕石卵を射出し、それら全てから未熟児のケルビムを孵化させた所を見て慌てて全力での飛行で距離を取り始めた。

 ……本来、この未熟児の強制孵化は貴重な卵を無為に消費する以上は大量の卵を産めるマザーケルビムにとっても余り使いたく無い戦術だったが、自身に大ダメージを与えたアークを危険視した事で『多少の損害を考慮してもここで確実に倒すべき』だと判断させてしまったのだ。

 

「「「「「GYAAAaAaaaaAAaAaAaaaa!!!」」」」」

「この数はっ! アークスラッシュ! アークブレード! ウルトラランス!」

 

 四方八方から迫り来る未熟児ケルビム隕石に対してアークはまず数発の光刃を放って数個の隕石生えたケルビムを撃破し、迎撃しきれずに近づいて来た個体を右手のブレードで切り裂きながら左手にウルトラランスを召喚しつつ即座に投擲、向かって来ていた複数体のケルビムに風穴を開けて撃破していった。

 ……だが、そうしてアークの足が止まったタイミングを狙って、マザーは重力操作能力を駆使してその巨体としてはかなりの速度で距離を詰めて更に超音速クラッシャーテイルを放って来た。

 

「ガァァァァァアアアアアァァァァァァ!!!」

「……そこのケルビム! 頭を借りるぞ!」

「AAaAaaa⁉︎」

 

 それを見たアークは接近して来ていた隕石ケルビムの一体の頭を踏みつけて跳躍する事でクラッシャーテイルの殺傷圏内から退避する……と同時に遠距離からの攻撃では拉致があかないと判断して、接近して来たマザーケルビムへと逆に近づいて接近戦に持ち込んだ。

 ……いきなり近づいて来たアークに対してマザーは両腕の爪と頭部の烈岩マチェットホーンを振るって叩き潰そうとするが、そのサイズ差から密着しながらヒラヒラと飛び回るアークを捉える事が出来ず、遂には顔の側まで接近して来たアークのブレードによって片目を斬り裂かれた。

 

「ギャアアァァァァァアアァァァ!?」

「……さて、ようやく片耳と片目を奪ったは良いがまだ倒すには程遠い……やはり()()()で倒すのは難しいか」

 

 更なるダメージを受けて絶叫するマザーケルビムを見ながらも、アークは相手のダメージと自分のエネルギー消費量から冷静に状況を見定めて『自分一人で倒すのは無理』だと判断していた。

 ……平気なふりをしてはいるが実を言うとアークはここまでの攻防で結構なダメージとエネルギーの消費を強いられており、いくら制限時間のある地球上とかではない宇宙空間での戦闘とはいえ、そう長くは戦い続けられないだろうと思っていたのだ。

 

「ギィィィアアアアアアァァァァァァ!!!」

「「「「「AAAaAaaaaAAaAaA!!!」」」」」

「おお、怒ってる怒ってる。……これでヤツの目が地球に向く事は無いだろうし、後は可能な限り持久戦しか無いかな」

 

 自身の目と耳を奪った怨敵に対して激怒の絶叫を上げるマザーケルビムと、その指示を受けて自分達一族の脅威を排除しようと自身の事など意にも介さず己を鉄砲玉として突っ込んでくる隕石ケルビム達を見ながら、アークはマザー達をメビウス達が戦う地球へと行かせない為にも一人での戦いを続けるのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……フゥ、やれやれ本当にタフだな。やっぱり“身体が大きい”というのはそれだけでも厄介だ」

 

 そうして、しばらくの間マザーケルビム達と激しい戦いを繰り広げていたアークだったが、流石に地球からアステロイドベルトまでの移動、そしてケルビム隕石群を撃墜する為に光線の連続使用を行ったのが主な原因で少しエネルギーを消費し過ぎたので、戦闘中に隙を見てケルビム達を撒いてアステロイドベルトにある小惑星の影に隠れて身体を休めていた。

 ……勿論マザーケルビム達は今もアークの事を探しており、こうして隠れている彼が見つかるのも時間の問題だろうが、とりあえず一息つきながらエネルギーを回復させるぐらいは出来ている状況だ。

 

(さて、一応マザーの爪をへし折ったり、尻尾にダメージを与えて卵を産み難くしたりとかしたけど仕留めるまでには行かない……あれだけ巨大に成長していて卵を大量に産めるって事は、それだけ凄まじい生命力を持ってるって事だからな。そこそこのダメージでは致命傷にならないし直ぐに自然治癒で回復されてしまう)

 

 アーク自身も少しずつダメージを与えるよりも相手を仕留められるだけの最大火力で一気に倒すのが最適だと分かっているのだが、大量の隕石ケルビム群に追われながらマザー自身の攻撃にまで対応している以上、そんな大出力攻撃を撃つだけのチャージはほぼ不可能だったのだ。

 彼も内心としては『攻撃パターンは単純だから躱すのは難しくないし、多分親父みたいに簡単にマザーを屠れるだけの超威力攻撃が撃てるになら楽に片が付く相手なんだろうがなぁ』と思っているが、無い物ねだりをしてもしょうがないので出来る範囲でやるしかないと考えていた。

 ……ちなみにこのマザーケルビムは宇宙警備隊においても()()5()()()()で戦う事を推奨されている怪獣であり、そんな相手に一人で互角に渡り合っているアークの実力は確かだと表記しておく。そもそもこれだけの巨体を一撃で倒せる超威力の攻撃を即座に使える者など、この宇宙全体で見ても殆どいないだろう。

 

「ッ⁉︎ ……アンギャァァアアアアアァァァァァァ!!!」

「「「「AAAAAAaAaaa!!!」」」」

「おっと、気付かれたか」

 

 そんな事を考えていたアークだったが、隠れている彼に気が付いたマザーケルビムが小惑星に向けて弾道エクスクルーシブスピッドを放って来たのを察して素早くその場から飛び去った。

 その後を追って隕石ケルビム群が飛来するが単純な飛行速度であればアークの方が上であり、距離を取りながら時折光線や光刃を放ってケルビム達を撃ち落としていく彼を捉える事は出来なかった。

 

(よしよし、向こうは完全にこっちを敵視しているから逃げ続けても追ってくるな。このまま引き気味に戦っていれば『マザーケルビムを地球に向かわせずに足止めする』という最低限の目標は達成出来るか。……問題は俺のエネルギーだな。逃げたり隠れたりしながら回復させてはいるが……ぶっちゃけこのままだとジリ貧なんだよなぁ)

 

 今も涼しい顔でマザーの攻撃を躱しつつ向かってくるケルビム達に組み付かれない様にアステロイドベルトを飛び回るアークだったが、内心ではそろそろカラータイマーが鳴りそうなぐらいに損耗した自分のエネルギーを考えて冷や汗を流していた。

 ……そんな彼の内心など気にする筈もなく、目の前の敵を絶殺する事しか考えていないマザーケルビムはどんどん追加の隕石ケルビム群を生み出しながら、自身も更なる苛烈な追撃を仕掛けて来た。

 

「ガァァァァァァアアアアアアァァァァァァッ!!!」

「「「「「「「AAAaAaaaaAAaAaAaaaa!!!」」」」」」」

「本当にボガール絶対許さねぇ!!!」

 

 ……こんな厄介な事態を引き起こした元凶(ボガール)に恨み節をぶつけながらも、アークはマザー率いるケルビム達相手の時間稼ぎを続行していくのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:ボガール絶許
・アークレイショットはマザーを一撃で倒せる威力で撃つ場合には溜めに非常に時間が掛かるし、最初撃った時に負わせたダメージの所為でチャージ動作が警戒されているのでおいそれと撃てない状況。
・ちなみにリバーススタイルの方は重力操作能力の所為で念力が効きづらい、巨体だから凍らせるのも無理、ゲートは自分以外の生物を入れる場合には対象の許可が必要なのでケルビム隕石群には使えないと相性が悪すぎるので使ってない。
・ちなみにボガールは地球で原作通りGUYSの作戦にはまってバリアに覆われた孤島に閉じ込められ、そこでメビウスとツルギにボコボコにされた上で倒された模様。

【宇宙凶険怪獣 マザーケルビム】:要するにダイマックス
・宇宙警備隊やら凶悪宇宙人やらが跳梁跋扈するM87スペースの個体だからか、ウルトラマンゼット本編に出た個体よりも生命力・頭脳・戦闘能力などの性能がかなり高い。
・それでも特殊な防御技などは無いので、“【ウルトラマンゼットデルタライズクロー】の【幻界魔剣ベリアロク】が繰り出すデスシウムスラッシュ”レベルの手早く発動出来る超威力攻撃が使えれば一撃で倒す事も可能。
・隕石ケルビム群はマザーが発する重力波によって指示を受けているが、無理矢理孵化させられた所為で“自分達の種の繁栄を妨げる者を何が何でも排除する”意思しか持たないので指示が無くとも鉄砲玉になる事に躊躇は無い。
・というか、それを込みで強者が跳梁跋扈するM87スペースを生き残って来たこのマザーケルビムが編み出した戦闘技術の一つで、他にも弾道エクスクルーシブスピッドを宇宙用に運用するなどもそれに当たる。


読了ありがとうございました。
いつもの趣味の説明入れたら思ったより長くなったので分割しました。……後、新ウルトラマンがネオフロンティア系っぽいらしき情報が出て来たのでワクワクしてる件。


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智天使の最後

 ──────◇◇◇──────

 

 

 宇宙凶険怪獣 マザーケルビム 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ギギャァァァァァァッ!!!」

「「「「「AAAaaAAaaAaAaAaaa!!!」」」」」

「舐めんなコラァ!!! スペシウム光線! 八つ裂き光輪! ウルトラスパーク! アークブレード!」

 

 地球から遠く離れた火星と木星の間にあるアステロイドベルト、そこでは宇宙警備隊員アークと【宇宙凶険怪獣 マザーケルビム】並びにそれが生み出した多数のケルビム隕石群が周囲にあったいくつかの小惑星破壊しながら激しい戦いを繰り広げていた。

 ……具体的には四方から襲い掛かるケルビム隕石群に対してアークはスペシウム光線を薙ぎ払う様に照射して撃ち落とし、残ったものには八つ裂き光輪を投げ放ちながらそれを念力で操作して切り払い、そうしながら更にウルトラスパークを投擲してマザーケルビムを切り裂きつつ、アークブレスから光剣を展開して斬り込んでいった。

 

「アンギャァァァァァァァァッ!!!」

「チェイサァァァァァァッ!!!」

 

 斬り込んで来たアークに対してマザーケルビムは口から火球型エネルギー弾──弾道エクスクルーシブスピッドを拡散させる様に撃ち出して迎撃しつつ、自身も重力操作能力でその巨体からは考えられない程の速度で移動しながら距離を取り再びケルビム隕石群を産み出して射出していく。

 そんな的確な迎撃戦術に接近しようとしていたアークは、やむ終えず接近を中止して火球を躱しつつ距離を取って再び仕切り直すのだった……この様に先程からずっとお互いに相手を倒し切れない状況が続いていたのだが……。

 

「ギャァァォォォォオオオオ!!!」

「「「AaaAaaaaAAAA!!!」」」

「ええいっ! こいつらの体力と生命力は底なしか!」

 

 既にいくつものダメージを負い百を超えるケルビム隕石群を生み出しながらも未だに疲れた気配すら無く元気いっぱいで戦闘を続けられる生命力を持ったマザーケルビムに対し、何処までも追尾してくるケルビム隕石群の迎撃の為に出の早い光線技を連発していたアークは宇宙空間でのエネルギー回復量を消費量が上回ってしまい徐々にエネルギーの枯渇を起こし始めていた。

 ……そして何度かの攻防の後、ついにアークの胸にあるカラータイマーがエネルギーの枯渇を知らせる為に警告音を鳴らしながら点滅を始めてしまった。

 

「⁉︎ ……ギギギャァァァァァォォォォッ!!!」

「「「「「AAaAAAaAAaaAaAAAAAaAA!!!」」」」」

「チッ! こっちがエネルギー切れになると分かった途端に! 目敏いな!」

 

 そして、これまでの戦闘経験から『宇宙警備隊員のカラータイマーの点滅』がエネルギー切れを示すものだと知っていたマザーケルビムは、この機を逃すまいとケルビム隕石群を一気に多数生み出しながら、自身もこれまでと違いアークに対して接近しつつより苛烈な攻撃を仕掛けていった。

 ……だが、エネルギー切れによりこんな状況になってしまう事はアーク自身にも予測出来ていた上、向こうが勝負を急いで接近してくる事はむしろチャンスだと考えて、彼は攻撃を捌きつつ()()()()()()()()()()()()()()“反撃の準備”を整えていった。

 

「アンギャァァアアアア!!!」

「「「「「AAaAaaAaAaaaaa!!!」」」」」

 

 接近したマザーケルビムは今度は収束させた弾道エクスクルーシブスピッドをアークに放ちながら、ケルビム隕石群を四方に散らして彼が回避しうる地点を先読みして向かわせた……正面のエネルギー弾を躱した所にケルビム隕石群を襲わせる二段構えの戦術だ。

 ……それに対してアークはマザーの読み通りにエネルギー弾を上方向に飛ぶ事で回避してしまい、そこに待ち伏せていたケルビム隕石に襲い掛かられ……。

 

「……ここだ、行けっ! セブンガー! 目の前のケルビムを排除しろ!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「「AaaaaAaaaaAAa⁉︎」」

 

 そこでアークは今まで温存して来たセブンガー(自動修復済み)を召喚し、目の前に迫った二体のケルビム隕石に対して突っ込ませた……主にウルトラ族の活動が困難になる環境の惑星での戦闘を想定して作られたセブンガーは基本的に陸戦用だが、背中に付いたブースターを使う事で機動力に関してはやや低いもののある程度の空中飛行・宇宙空間移動も可能なのだ。

 ……そうして背中のブースターを全力で吹かせたセブンガーは向かって来たケルビム二体にカウンターでダブルラリアットをブチかまして吹き飛ばし、それによって正面の道が開いた間をアークは全速力で突っ切ってマザーケルビムに急速接近していった。

 

「グアッ⁉︎ ギャァァァァァッ!!!」

「やはり反応は早いか……だが、動きは遅い!」

 

 ……いきなり接近して来たアークにマザーケルビム一瞬だけ驚いたものの、直ぐさま両腕の爪と頭部の烈岩マチェットホーンを使って迎撃を試みたが、巨体故のサイズ差からアークの動きを捉えられずにそれらの攻撃は空を切った。

 そして、アークはマザーの懐に潜り込むと共に右腕のアークブレスのクリスタルサークルを回転させ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を一気に解放した……最初にアークレイショットが通じなかった時点で彼はマザーを一撃で倒しうるエネルギーを使う為、カラータイマーが鳴るまで時間を早めるのと引き換えにブレスのエネルギー蓄積機能を使っていたのだ。

 

「ハァァァァッ!!!」

 

 ……そんな常にない気合いを入れた咆哮と共にアークは光剣──アークブレードを展開しつつ、それに解放したエネルギーを全力で注ぎ込みながら圧縮する事で通常時の数倍以上の長さと斬れ味を持つ長大な光剣を形成して大上段に構えながらマザーへと振りかぶり……。

 

「ブレードオーバーロードッ!!!」

「ギィヤアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

 そのままアークは超大出力光剣を振り下ろしてマザーケルビムの肩口から脇部分までを袈裟懸けに斬り裂いて、その身体に斜めの深い裂傷を負わせたのだった。

 ……だが、マザーはその傷からの激痛によって叫び声こそ上げたものの未だにその命は途絶えてはおらず、苦しみながらも反撃に身体を回転させながらの超音速クラッシャーテイルを全力を技を出した所為で動きが止まっていたアークに叩き込んだのだ。

 

「アァ、アアアアアアァァァァァァッ!!!」

「なっ⁉︎ まだ……ゴハァッ!!!?」

 

 それに対して咄嗟にアークは腕を交差させて防御したものの、その圧倒的な質量による一撃は防御ごとぶち抜いて彼に大ダメージを与えながら吹き飛ばしていったのだった……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……うぐぐ……結構キツイのを貰ってしまったな。エネルギーも殆ど無いし……というか、アレで倒せないとかどんだけタフなんだよ」

 

 吹き飛ばされたアークは身体を痛そうに押さえながらマザーケルビムからかなり離れた所でようやく止まりながら愚痴を吐いた……ちなみに彼は攻撃を受けた際に、敢えてその勢いには逆らわずにむしろ自分から後ろに全力飛行する事でダメージを軽減しつつマザーから距離を取っていたのだ。

 ……それでも受けたダメージはかなりの物で、更にはブレードオーバーロードを使って所為でカラータイマーは激しく明滅するぐらいエネルギーも残り僅かとなっていたが。

 

「……今はセブンガーが足止めしてくれているから一息つけるが、余り時間は稼げないだろうな」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「ギャァァァァァアアアアッ!!!」

 

 そうしてアークが先程まで戦っていた場所を見ると、そこには背中のブースターを吹かせながらマザーケルビムに鉄拳を見舞うセブンガーと、やたらめったらに爪や尾を振るってセブンガーを払い飛ばそうとしている裂傷を負ったマザーの姿があった。

 ……尚、マザーは今までにない痛みの所為で我を失っている為か攻撃が雑になっており、そのお陰で宇宙空間での機動力に劣るセブンガーでも撃ち落とされずに足止めが出来ているといった状況である。

 

「「「AaAaAaAaaAAAaaa!!!」」」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎』

 

 だが、それも残っていたケルビム隕石達がセブンガーに纏わり付いて動きを止めるまでの話だった……宇宙空間での運動性に難のあるセブンガーではその超パワーを持ってしても組み付いたケルビム達を引き剥がすのに手間取ってしまい、その隙に激昂したマザーケルビムが最大威力の弾道エクスクルーシブスピッドを放った。

 

「ガァァァァァアアアアアァァァァァァ!!!」

「戻れ! セブンガー!!!」

 

 そのエネルギー弾が当たる直前にアークがセブンガーを怪獣ボールへと回収したので破壊される事は免れたが、これにより邪魔者がいなくなったマザーケルビムは怒りのままにそのターゲットをアークへと移して全速力で彼の元へと突撃して来たのだ。

 

「ギャアアアアアアァァオオオオオオオオオォォォォッ」

「やっべ、どうするか……うん、とりあえず逃げよう。アレは完全に俺の事を目の敵にしているみたいだし、逃げ回っていれば時間は稼げるだろ」

 

 それを見たアークが一瞬悩んだ後に即座に踵を返してマザーケルビムから逃亡し始めたのだ……尚、これは単に自分が生き残る為だけでは無く、完全にこちらをターゲットにしたマザーを引きつけながら逃げ回る事で地球へと狙いが向かない様にする為のものでもある。

 ……そんな最初の目的通り可能な限りマザーケルビムの足止めに徹するアークであったが、相手も各銀河系間を移動できるだけの重力操作能力を持つのでその追撃は苛烈を極めた。

 

「ガアアアアアァァァァァァッ!!!」

「いくらカラータイマーが鳴っているとはいえ、宇宙空間での飛行ならそこまで支障は出な……うわっとぉ!!!」

 

 全速力で宇宙空間を飛行するアークであったが、それでも怒り狂いながら同じく全力飛行するマザーケルビムを引き離す事は叶わず、背後から連続で撃たれるエネルギー火球を細かく動きながら回避するので精一杯であった。

 ……幸いというか先程のセブンガーを狙ったエネルギー弾によってケルビム隕石達は全滅しており、加えてこれまで負ったダメージによってマザーは新たにケルビムを産めないレベルで損耗していたので攻撃手段は弾道エクスクルーシブスピッドのみとなっており、そのお陰でどうにかアークは逃げ続ける事が出来ていた。

 

「ギィィィアアアアアアァァァァァァッ!!!」

「そうは言ってもそろそろキツくなって来たんだが、いつまでこの鬼ごっこを続ければ良いのか……んん? …………はいはい了解」

 

 だが、その逃走劇の途中でアークが()()()()()()()()素振りを見せた後、そんな独り言をつぶやくと同時に進路を変更してアステロイドベルトの先にある木星が見える方向へと飛行していった。

 ……そうして残り少ないエネルギーを振り絞りながらマザーケルビムの攻撃を躱しつつ全力飛行を続けたアークは、そのままアステロイドベルトを抜けて木星が見えるぐらいの地点に着いた。

 

「アンギャァァアアアアァァァァァァッ!!!」

「よしよし、付いてきてるな。……この位置なら周囲にある小惑星やら木星にも“余計な被害”は出ないだろう……なあ、()()?」

「……御苦労だったなアーク。後は任せておけ」

 

 そう言ったアークの視線の先には赤と銀の体と胸についたウルトラブレスター(いくつかのブツブツ)を持った一人の『ウルトラマン』──彼の父親であり宇宙警備隊隊長であるゾフィーが腕を水平に曲げなから構えていた。

 ……そう、“とある事情で”地球圏の近くにいたゾフィーはアークからの『アステロイドベルトにマザーケルビム出現、援軍求む』というウルトラサインを見て急いでこの場に急行して、そこでダメージを負ったマザーに追いかけられている彼を見て大まかに状況を察し『アステロイドベルトを抜けて指定した位置へとマザーをおびき寄せろ』という念話を送ったのだ。

 そして自身はアークの攻撃を受けても未だに活動を続けるマザーを倒せる一撃を放つ為に、周辺の惑星に影響が出難いこの場所で待ち構えていたという訳だ。

 

「ギィアアアアアアァァァァァァッ!!!」

「それじゃあ隊長! 後はよろしく!」

「ああ……M87光線!!!」

 

 そして怒りによってアークにしか目に入っていなかったマザーケルビムはゾフィーに気がつくのが遅れてしまい、彼に気が付いた時には既に最大威力に近いレベルにエネルギーをチャージされた『M87光線』が放たれていた。

 

「ッ⁉︎ ギャァァァァァァ…………!!!?」

 

 慌てて回避しようとしたマザーだったが時既に遅く、放たれた超大出力のM87光線が直撃した……個人で使える技としては宇宙警備隊でも最強の必殺技の前にはマザーケルビムの異常なまでに高かった生命力も無意味であり、その肉体は光線に呑み込まれて跡形もなく消滅したのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……相変わらず凄まじい威力だな親……じゃなくて隊長。……しかし、ちょっとオーバーキル気味なのでは?」

「お前がアレだけダメージを与えてまだ倒しきれない様な相手だと思ったからな、念には念を入れて可能な限りの大出力で撃ったのだ。……まあ、今の半分くらいの威力でも倒せたかもしれんが」

 

 そんな訳で本当に手強かったマザーケルビムをどうにか倒した俺と親父は、ようやく一息吐いた感じで木星をバックに二人で並んで話し合っていた……おっと、肝心な事を忘れてた。

 

「あ、そう言えば肝心の地球でボガールと戦っているメビウスとヒカリさんは……」

「そちらなら地球に向かっていたウルトラの母から既にボガールは二人に倒されたという報告が入ったぞ。……その際にヒカリ博士が重傷を負った様だがウルトラの母の治療で命に別状は無く、復讐の鎧も無事に解除されたそうだ」

「おおそれは良かった……って、随分と対応が早いですね。俺はマザーケルビムとの戦いで忙しくてその辺りの連絡はしてなかった筈ですが」

「……地球にウルトラの母を向かわせる様に頼んで来たのはウルトラマンキング殿だからな。ヒカリ博士が使っていた『ナイトブレス』は彼が授けた物の様で、その後も引き続き様子を見ていたらしい」

 

 そのキングじいちゃんからの情報で親父ははウルトラの母の護衛として地球圏にやって来ており、そこで俺のウルトラサインを見て駆け付けてくれたという事らしい。

 ……とにかく、メビウスもヒカリさんも無事でボガールも倒されたって事は、俺の地球での任務も無事に完了って事で良いんだよな。なんかあんまり活躍してなかった気がするが……。

 

「それでは隊長、俺の『ヒカリ博士を連れ戻す』任務はこれで終わりですか」

「そうなるな、よく頑張ってくれた。……この後はダメージが癒え次第、元の宇宙保安庁の任務に戻って貰う事になる。連続勤務でキツイかもしれないが、今は宇宙各地で問題が起きているから人手が足りんのだ」

 

 親父曰く、例の『エンペラ軍団』とやらが宇宙各地で活動を活発化させており、更に今まで燻っていた紛争地域や眠りについていた強力な怪獣の復活なども各地で報告されているのだとか。

 ……あからさまに何か裏で糸を引いている黒幕がいる感じだよなぁ。しかも宇宙警備隊としてはどれも見過ごせない問題だから黒幕の思惑通りだとしても対処せざるを得ないし。

 

「そう言えば、地球で任務に付いていた時もボガール探知機が機能しなかったり、ヤツを助ける様に都合のいい怪獣が現れたりしたな。……後で報告書に纏めときます」

「そうか頼む……やはりボガールを地球に差し向けたのも“何者かの意思”が関わっているか。……だが、これだけバラバラの問題が各地で起きていると黒幕の目的が読めないな」

 

 多分、色々な騒ぎを起こして目的を読ませない事も黒幕の狙いなんだろうが……まあ、ここで考えても何も分からないし地道に調べていくしか無いんだが。

 

「……さて、俺はもう銀河系支部に戻るがお前はどうする? メビウスに何か報告でもしていくか?」

「任務も終わったし俺も支部に戻って怪我を治しますよ。メビウスにはウルトラサインで報告しておけば良いでしょう。……アイツは地球で立派に『ウルトラマン』をやってましたしね。地球はメビウスとGUYSの皆さんに任せておけばいいでしょう」

「そうか……では戻るぞ」

 

 ……そうして俺はメビウスに向けて『マザーケルビム撃破、任務も終わったので帰還する』とだけウルトラサインを出した後、親父の後に続いて地球圏を後にしたのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:任務完了
・本人的には戦闘でそこそこ活躍出来たのは良いが、肝心のヒカリ説得に関しては余り力になれなかったので初任務としてはあんまり上手く行かなかったと思っている。

マザーケルビム:実は長い時間を生きてきた強個体
・……ではあったのだが、流石に全力のM87光線には耐えられなかった。

ゾフィー:息子が無事任務を終えて内心ではほっとしている
・ちなみにヒカリの命を救う為に『固形化した命』の持ち出し許可を取ったり、宇宙各地で起こる事件報告を隊長として纏めたりと現在進行形でめっちゃ忙しい。
・そういったストレスの発散とか息子の窮地とかもあってM87光線は全力を出した。

キング:ヒカリの事はずっと気に掛けていた
・なのでヒカリが自分の命をかけて戦っている事も把握しており、ボガールとの戦いで命を落とす可能性が高いと予測していた。
・なので、ゾフィーにその事を伝えてウルトラの母がボガールとの戦いが終わった辺りで地球に着く様に取り計らっていた。


読了ありがとうございました。
これでウルトラマンメビウス編の前半は終わりになります。後半のプロットとかを考えるのでこの作品の次回更新までしばらく空くと思います。


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宇宙警備隊員アークの日記

 □月○日

 

 そんなこんなで地球での初の単独任務も終わった俺は怪我とエネルギー消費を癒すために銀河系支部で休息を取りつつ、地球では任務に集中していたので書けなかった日記を再び書く事にした。

 まあ、あの【マザーケルビム】との戦闘では相手が異常にしぶとくてエネルギー切れ寸前まで追い込まれるぐらいに大変ではあったが、攻撃を食らった回数は少なかったしちゃんと防御したから俺が受けたダメージ自体はそこまででも無かったからな。

 ……態々、本国に戻るまでもなくしばらく休めば回復するだろう。地球から帰って来たウルトラの母の治療を受けたから怪我自体は既に完治しているし。

 

 その時にウルトラの母から地球で起きたメビウスとヒカリさんとCREW GUYSの人達と、マザーケルビムを呼び出すとかクソ面倒臭い事をしてくれやがった【ボガール】との戦いの顛末を教えてくれた。

 何でも俺が宇宙にマザーケルビムと戦いに行った後はメビウスが言っていた作戦通りにボガールを無人島に誘き寄せてバリアーで周囲を覆い、そこでメビウスとヒカリさんが協力して見事にボガールを倒したのだそうだ。

 ……だが、その後に死に際にボガールが苦し紛れにメビウスを道連れにしようとして、それを咄嗟にヒカリさんが庇った所為で彼は爆発に巻き込まれて致命傷を負って死亡してしまったのだ! やっぱボガールってクソだな!!! 

 

 ……まあ、そこは駆け付けたウルトラの母が固形化した命を持って来ていたので、特に問題なく蘇生すると共にボガールを倒した事で本懐を達して怨念が殆ど無くなっていた『復讐の鎧』を浄化したので一見落着になったのだけどね!

 銀十字軍の隊長であるウルトラの母は独自判断で『固形化した命』の持ち運びと使用が許可されている(当然報告とかは必要だが)し、彼女の技術であれば致命傷だって一瞬で治すぐらいは出来るのである。

 

 そんな感じでボガールに端を発した地球での騒動は一先ず無事に解決したのだが……肝心のヒカリさんはまだ戻って来ていません。というか引き続き地球で戦う事になったのウルトラの母は言っていた。

 詳しく事情を聞くと『復讐の鎧』が外れて素面に戻ったヒカリさんはこれまでの行いを思い返して死ぬほど後悔したらしく『迷惑を掛けたメビウスと地球人──セリザワに償いをする為に地球を守らせてほしい』と懇願して、ウルトラの母もそれに答えて彼を地球へと戻したらしい。

 ……ウルトラの母曰く『今の彼は暴走している時に行った事で強い自責の念を感じており、このまま光の国に連れ帰るよりも地球でしばらく戦わせて彼の気を晴らした方が良いでしょう。あのアーブの鎧は高次元生命体である【アーブの民】が彼に与えた一種の加護の様なモノであり、怨念こそ浄化したので再度復讐の鎧と化す事は無いでしょうが、()()()()()()()()()()()()ので彼の精神のケアをしておいた方が良いと判断しました』という事らしい。

 

 宇宙警備隊でも無いヒカリさんを地球に派遣とか色々と大丈夫なのかと思ったが、そこは親父が『彼の気持ちも分かるし、後日機を見てヒカリを宇宙警備隊に入れてそういう任務だったという事にして書類を誤魔化せば何とかなるだろう。……それにお前の報告からボガールの一件も何者かの意図が見え隠れしていたし、封印されている【ヤプール】の事もある以上は地球が再び狙われる可能性もあるからな。その為にベテランの隊員を地球に派遣するのは現在の状況的に難しいから、ある程度自由に動かせる“実力のある新人隊員”が入るのは悪くない』と言っていたので、上手くやってくれるのだろう。

 実力のある新人隊員(親父と同年代)ねぇ……まあ、ヒカリさんは鎧無しでもそこらの宇宙警備隊員より強いだろうけどさ。加えて特殊な事例で宇宙警備隊に入れたからキチンと正式に組織に組み込まれるまでの間──現在での宇宙規模事件が終わるまでぐらいには親父の直轄で色々動かせるって事らしい。

 ……どうも本当に警備隊の方で人員が足りていないみたいだな。俺もさっさと怪我を治して任務に復帰する必要がありそうだな……親父が過労死する前に。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◉日

 

 よっしゃ! 怪我もエネルギーも全回復! 流石はウルトラの母の治療だぜ! ……と言うわけで、出来ればもうちょっと惰眠を貪りたかった所だけど今日から宇宙警備隊の任務に復帰です。支部のみんなが常に忙しそうだからちょっと罪悪感が湧いて来たし……。

 まあ、丁度21先輩が戻って来た所だったからね。怪我が回復した事を先輩と親父に報告したら『それなら21が現在当たっている案件で、ちょっと人手と戦力が必要になりそうだから手伝ってくれないか?』と言われたので、怪我が治ったばかりだからリハビリと研修の続きも兼ねて先輩について行く事になった感じ。

 

 それで肝心の案件というのは『宇宙人連合』を名乗るいくつかの星人によって結成された武装集団が何やら不穏な動きをしているので、その調査及び本当にやばい事をしているのなら武力を持って制圧すると言う任務の様だ。

 ……それでその宇宙人連合の構成員は【テンペラー星人】【ガッツ星人】【ザラブ星人】【ナックル星人】の中でも宇宙中で様々悪事をやらかして、宇宙警備隊を始めとするいくつかの治安維持組織にマークされている過激思考の武闘派連中らしい。

 

 21先輩の調査によると、この宇宙人連合の構成員達はそれぞれの本星の侵略軍に所属していたが折り合いが悪かったり扱いに不満があったりして軍を抜けてフリーの傭兵的な犯罪者として活動していた連中らしい。

 まあ、この宇宙では力を持った種族の星や軍隊が他の惑星に侵略行動を主軸に活動するのは珍しくなく、そういう所から抜けて個人で犯罪者になるケースもそれなりに多いのだ……これが落伍者とかであればただのチンピラになるんだが、たまに実力があるのに軍に合わなくて抜ける場合もあり、そういう連中は軍隊時の経験と高い戦闘能力で厄介な犯罪者になる場合が多いのである。

 

 そして連中は落伍者では無く実力者の方であり、様々な宇宙を渡り歩きながら“それぞれ個人で”色々な犯罪行為を行ってそれなりに名を知られていたのだが……()()()()()そいつらが手を組んで『宇宙人連合』を名乗り犯罪行為を行い始めたのだという。

 ……これだけなら単に腕の立つ者同士がチームを組んだだけとも取れるんだが、その四人にはそこまで繋がりが無かったのにいきなり手を組んだ上、これまでは誰かに雇われる傭兵的な連中だったにも関わらず手を組んだ途端に何か明確な目的を持った様に非常に組織的な行動を取り始めた所が不自然な部分だと先輩は言っていた。

 更に連中はこの銀河系支部周辺で何かを探っている様な行動を取り続けており、元軍人故に四人とも実力はかなり高く、そこらの宇宙警備隊員が相手をするのは危険なので高い戦闘能力と調査能力を持った先輩に声が掛かった様なのだ。

 

 ……とは言え、連中は不審な行動を取ってはいるが『宇宙人連合』を名乗り始めてから際立った凶悪犯罪をした訳でもなく、現在めっちゃ多忙な宇宙警備隊が本腰を入れるのは難しいようなので新たに出来た犯罪者グループの調査というのが今回の主な任務になる様だ。

 勿論、何か重大犯罪を犯すなら即座に制圧する必要もあり、かなりの手練れではある連中の相手をする為に俺の協力も出来れば欲しいって事なので、怪我が治った俺も明日から21先輩に付いて任務に当たる事になったとさ。

 地球での任務で(あまり活躍は出来なかったけど)成長した俺を21先輩に見せる為にも頑張るぞい!

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月□日

 

 今日から『宇宙人連合』の調査の任務を始めた訳だが、まずやる事はボガールの時と同じ様に連中の足取りを追う事だった……この宇宙では基本的に何らかのワープ系能力やらそう言った機能付き宇宙船やらが基本なので、以前も書いたかもしれないが特定対象の位置情報補足がそれなりに難しいのだ。

 ……まあ、容易く次元移動ができるレベルのボガールと比べれば、連中が使ってるのは普通の宇宙船の様だからな。宇宙警備隊に蓄積された調査方法のノウハウで宇宙船のワープ機能のエネルギー波を追うなり、各支部や隊員の目撃情報を集めるなりすれば見つける事は出来るからなんとかなる範囲ではあるが。

 

 そうして俺は21先輩と一緒に連中の足取りを追っているのだが、一番最近の目撃情報では銀河系付近で何やら不審な動きをしているらしいのだ……どうも自分達の勢力を増やす為に同じ様にフリーで活動している犯罪者に声を掛けている様だな。

 そして連中が声を掛けているのは【ヒッポリト星人】を始めとして【アンチラ星人】【ファイヤー星人】【スチール星人】【レボール星人】の、同じ様にフリーで活動している犯罪者に声を掛けている様だ。

 ……ちなみにこの情報は連中の誘いを断って宇宙動物園に居る動物を盗もうとして宇宙警備隊に捕まった【スチール星人】からの情報である。どうにも声を掛けてはいるみたいだが、流石に初見の相手にあっさりと付いていく者は余りおらず仲間は集まっていないらしい。

 

 そして、その【スチール星人】から得た情報には、連中が『銀河連邦すらも支配できる絶対的な力を手に入れる為に協力しないか?』と言って勧誘を行なっていたというものもあった。

 ……そのスチール星人曰く『いや、初対面の相手にそんな事を言われても付いていく訳無いんですけど。……後なんか不気味な雰囲気だったし……』との事だが。まあそれが当然ではあるがな(ちなみにそのスチール星人は初犯&未遂だったので罰金と数年の懲役で釈放されるとの事)

 

 さて、問題は『銀河連邦すら支配できる絶対的な力』なんだが……この宇宙では与太話やら伝説やらを含めると、そう言った話には事欠かないぐらいに沢山あるからな。

 特に今現在宇宙中で活動している自称『エンペラ軍団』達も本当偽物問わずそう言った話がある場所に赴いて犯罪行為をしてるのもあって、その手の伝説が残ってる場所には宇宙警備隊などが見張りを置いているんだが。

 ……21先輩も連中の行動が妙にチグハグな感じがすると言っていたしもう少し足取りを追って、補足したのならいっそ強襲するのもありかと言っていたな。危険思想持ちみたいだしさっさと対応した方が良いだろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月■日

 

 今日も追跡調査をしたんだが中々捕まらない『宇宙人連合』……連中が使ってる宇宙船はかなり高性能なヤツみたいだから銀河系を中心に色々な所に足を伸ばしている様で、更に行動がスカウトぐらいで余り問題を起こしていないから目撃情報も少ないんだよな。

 ……言ってる事は物騒でも今の所やってる実際にやってる事が重大犯罪って訳でも無いんだよな。今まで連中がやって来た事も一応犯罪な訳だけどあくまで傭兵的な感じだから宇宙警備隊としてそこまで重視して追って無かったから個人個人の情報も少ないし。

 

 とりあえず足取りを終えた範囲で連中が不審な行動を取った場所を上げてみると、連中はオリオン星付近にあった遺跡に不法侵入して何かを調べていたらしい……その遺跡は【オリオン星人】達が1億三千万年ぐらい前に様々な星を植民地にしていた時代の前線基地だったのだとか。

 現在のオリオン星はかつての隆盛が見る影もなく落ちぶれて……もとい規模を縮小しているが、昔は怪獣兵器とかを使って侵略活動を行っていた星の一つだったのだ。

 なので俺と先輩は昔作ったトンデモ兵器(この宇宙ではそこそこ見つかる)を『絶対的な力』だとして行動しているのではないかと考えてオリオン星の遺跡を調査しようと思ったのだが、落ちぶれて今は殆ど活動していないとはいえそういう惑星なので宇宙警備隊お断りだから無理でした。

 ……連中は本当に遺跡を調べるだけで特に何もせず立ち去ったので、無理矢理な強行捜査とかは流石に出来なかったのだ。宇宙警備隊だからって侵略活動メインの惑星に何をやっても許される訳では無いのである。無関係の住民とかも居るし、情報を貰えただけ良しとしよう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月△日

 

 奴ら『宇宙人連合』の足取りを追うと、今度は昔爆発した『おとめ座付近』で目撃情報があった様だ……とりあえず、俺と先輩も行ってみたのだが既に連中はここを離れた後の様だったが。

 その周辺を調べてみても特に異常は見られないし一体連中は何をしようとしているのか。正直その行動に一貫性が無くてよく分からないな。いきなりチームを組んだにも関わらず特に際立った犯罪行為をする訳でも無い……。

 

 21先輩も『それなりに名を知られていた犯罪者達がいきなりチームを組んだという情報が入ったから、何かをやらかす気だと思ったんだが……』と困惑気味である。

 ……【スチール星人】の証言にもあった『不気味な雰囲気』と連中の妙な行動、そして今まで声を掛けた宇宙人と立ち寄った場所……何か繋がりがあるのか? しかし、これらの組み合わせ、昔アーカイブで何か見た様な……。

 

 

 ──────◆◆◆──────

 

 

『……ようやくだ、ようやくあの忌々しい()()()()()()が作り上げた封印を破る準備が出来た』

『この星の近くにいた“我等”に共鳴する邪心を持った相応の実力者の無意識に干渉して、その精神を操って我等に課せられた封印を破らせるのだ』

『……だが、この封印のせいで精神操作の精度が大きく下がったのは問題だったな。中途半端な精神干渉の影響でお陰で我等に由来のある場所や生物へと無意識の内に引き寄せられるとは』

『それでも既に精神操作は完全だ。奴ら──宇宙人連合はそれが自分自身の意思だと思って我等の封印を解く為に行動するだろう』

『……それと、どうも宇宙人連合を探っている蝿供が居る様だが……』

『ならば、精神操作が完全である事のテストを兼ねて宇宙人連合にその蝿供を罠にかけさせるか。“アソコ”を使えば封印が解かれるまでの足止めぐらいは出来よう』




あとがき・各種設定解説

アーク:何かに気づき掛けているが……
・怪我自体は大した事無く一晩休んでエネルギーを回復させれば問題なく活動可能だったので、現在ブラック労働中の宇宙警備隊では長期休暇とか無理だった。

メビウス&ヒカリ&GUYS:大体原作通り
・ヒカリと融合したセリザワに関しては、融合深度が深く分離が不可能だった事と彼自身が地球を守る為にヒカリと一心同体になる事を望んだので融合したままとなって居る。
・真っ先に地球に行ったのはセリザワの精神の影響が大きく、現在は二人の精神が違和感なく混じり合った感じ。

宇宙人連合:出展『ウルトラマンメビウス&ウルトラ6兄弟』
・妙な行動をとっているのは何か目的がある訳ではなく、“そんな行動を取ってしまう状態である”のが理由。

謎の声:一体何プールなんだ……
・割とよくこの『一体何○○なんだ』ネタをやってるからそろそろ新鮮味が薄れた気がする。


読了ありがとうございました。
新ウルトラマン『ウルトラマントリガー』放送決定! ネオフロンティア系列だからこの作品にも影響を与えそうだけど楽しみです。


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暗黒宇宙の罠

 ──────◇◇◇──────

 

 

 極悪宇宙人 テンペラー星人

 凶悪宇宙人 ザラブ星人

 分身宇宙人 ガッツ星人

 暗殺宇宙人 ナックル星人 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……宇宙人連合が使っている宇宙船がワープアウトしたのはこの辺りですか」

「エネルギー波長はここで途切れているから間違いないはずだが……一体何故こんな辺境に……」

 

 俺と21先輩は新しく出来た犯罪組織『宇宙人連合』が怪しげな動きをしていると言う情報を得て連中を追っていたのだが、その途中で連中が有する宇宙船が宇宙でも辺境と言える方に向かったという情報を得て追っていた。

 ……しかし、この辺りには文明がある惑星も無いぐらいの辺境なんだが……まあ、この手の辺境に封印された古代兵器とか強大な怪獣とかが眠っているのは、この宇宙では良くある話だったりするんだが。

 

「……ところで連中は一体何処にいるんでしょうか。エネルギー反応からしてワープアウトしてからそう時間は経っていませんし、再びのワープ反応もないからこの宙域にいる筈ですが」

「辺りを探ってみても見つからないな。……ステルスなどで姿を隠しているか、或いは……」

 

 うーむ、ボガールの時といいこの手の探索は本当に上手くいかないなぁ……もう何度思ったか分からないけど、宇宙って本当に広過ぎるんだよう。

 ……宇宙警備隊の探知技術が低い訳じゃ無いんだが、宇宙船のステルス航行を始めとして探知を誤魔化す技術も色々と存在してるしね。

 

「……む、あちらの恒星から一番離れた惑星から妙なエネルギー反応がしているな」

「連中か、或いは“連中の活動の目”の方か……」

「他に手掛かりも無い、まずはそちらから調べてみるぞ」

 

 ……そうして俺は21先輩に続いて宇宙空間を飛行していき、“怪しげな反応”があったという惑星付近まで向かって行ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……さて、ここが反応のあった惑星だが……」

「惑星全面が岩肌で大気もほぼ無い……まあ良くある岩塊型の無人惑星ですね。……この異様な()()()()()()()()()さえ無ければですが」

 

 そういう訳でその惑星に降り立った俺と21先輩だったのだが、その時点で惑星全体に『異常な濃度のマイナスエネルギー』が充満している事に気が付き、即座に全力での警戒態勢に移行していた……今までは殆ど空振りだったけど、ここでようやく“当たり”を引いたみたいだな。

 

「明らかに異常な事態だな。何故こんな何も無い惑星に異常なマイナスエネルギーが……アーク、何か分かるか? 浄化系の能力が使えるお前の方がマイナスエネルギーに対する感覚は鋭い筈だ」

「分かりました、探ってみます。……むむむ、どうもこのマイナスエネルギーは惑星全体から発生しているとかでは無く、()()()()()()()()()()()()()モノが全体に広まっている感じですかね。エネルギーの流れや濃度の違いを見るに」

 

 21先輩の指示で俺は惑星に流れるマイナスエネルギーの流れや濃度を読み取って、そう結論付けた……この『マイナスエネルギーの正確な感知』は浄化系の技術を習得する際についでに覚えた物で、実は結構な得意分野だったりするのだ。

 ……まあ、普通に感じ取るのと違って下手をするとマイナスエネルギーに()()()()可能性もある危険な技術なんだが、俺には適正があった様で担当の教官にも『上手く“割り切っている”お前ならマイナスエネルギーに呑まれる心配は無いだろう』とも言われたし。

 

「そうか良くやってくれた。それでマイナスエネルギーが流れ出ている元の位置は分かるか?」

「あっちですね」

 

 そうして俺は21先輩と一緒に辺りを警戒しつつマイナスエネルギーが流れ出て来ている座標まで向かっていった……正直言って、現在この惑星に流れるマイナスエネルギーは【ボガール】のそれと比べても桁外れに異様な気配がするからな。

 ……こう、何というかボガールの気配は“食欲”に偏っているから分かりやすかったんだが、ここのマイナスエネルギーの気配は『様々な負の感情が混ざり合っている』みたいな感じがするんだよな。後こう全体的にねっちょりした質感な気がする。

 

「……さて、着きました。ここからマイナスエネルギーが流れ出ているみたいですね……って、これは……」

()()()()()()()()()()な。マイナスエネルギーはこの穴から溢れ出ている様だ、俺でも分かる」

 

 そしてマイナスエネルギーの大元と思われる場所に着いた俺と21先輩が見た物は『空間に空いた巨大な黒い穴』だった……先輩の言う通りこの惑星を覆うマイナスエネルギーは“この穴の向こう”から流れ出ているみたいだな。

 

「……しかし、空間に穴か。珍しい現象だが無いわけでも無いが……自然に出来たモノにしては安定し過ぎているな」

「空間の向こう側からマイナスエネルギーが漏れ出ているのも怪しいですしね。……“穴”っていう事は何処かに繋がっているんでしょうが、この先は一体どうなっているのやら」

 

 とりあえずこのあからさま過ぎるぐらいに人工的な『空間の穴』、それを俺と21先輩は下手に触れない様に気を付けつつ調べていった……単に空間の歪みを直すだけなら光線のエネルギーで歪みを構成しているエネルギーを吹き飛ばせばいい。そうすれば後は空間の修正力が勝手に歪みを元に戻してくれる、士官学校でも普通に習う技術だ。

 ……だが、今回はマイナスエネルギーを放出している事などから明らかに自然発生的なモノでは無いからな。万が一にもいきなり空間が暴走して内部に取り込まれるとか、いきなり空間の崩壊が始まるとかにならない様に慎重に調べる事になった。罠の可能性もあるし。

 

「……ふむ、この穴は自然に空いたモノでは無く、完全に『ゲート』の類で間違い無さそうだな。こちら側の空間とは別の世界に繋がっているタイプの」

「俺の見立てでもそうだと思います。……しかし、だとするとこのゲートはマイナスエネルギーが溢れる空間に繋がっていると言う事に……」

 

 そんな感じで俺と21先輩は謎のゲートを念入りに調べていたのだ……が、そこでいきなりゲートの中から()()()()()()()()()が俺と先輩に向けて撃ち込まれたのだ! 

 

「セイヤッ! やっぱり罠だったか!!!」

「テヤッ! あからさまでしたしね!」

 

 ……まあ、奇襲や不意打ちの類いは俺も先輩も警戒していたので、二人とも大した威力でも無かったエネルギー弾を無造作に打ち払って事無きを得たのだが。

 ……そうして俺と先輩が戦闘体勢(ファイティングポーズ)を取りながら攻撃が来たゲートを警戒していると、その中から()()()()()が現れたのだ。

 

「……ふん、まあこの程度の小手先の攻撃程度は凌ぐか。鬱陶しい宇宙警備隊の蝿どもにしてはやる様だ」

「貴様の攻撃の威力が低かっただけでは無いか? テンペラーの」

「これ以上、我らの『大願』の邪魔をさせる訳にもいかん。ここで始末をつけるべきだろう」

「散々付け回されて鬱陶しかったからな」

 

 現れたのは【極悪宇宙人 テンペラー星人】【凶悪宇宙人 ザラブ星人】【分身宇宙人 ガッツ星人】【暗殺宇宙人 ナックル星人】の四人……情報にあった『宇宙人連合』のメンバーであった。

 ……よっし、攻撃して来たからこいつら全員揃って現行犯だよな! 故にここで連中をぶちのめせば追跡とか面倒な事をしなくて済むぞ(笑)

 

「貴様ら……一体何が目的だ!」

「我らの目的はこの宇宙を支配出来る『絶対的な力』を我が物とする事……最も、ここで死ぬ貴様らには関係の無い話だがな!!!」

「なっ⁉︎」

 

 そうテンペラー星人が言った直後、奴らの背後にあったゲートが一気に拡大しながら()()()()()()俺と先輩を覆い尽くしてそのまま呑み込んでしまったのだ! ……正直、俺と先輩もこの場で奴らと戦闘になると思っており、まさかゲートの方が動いて奴らごと呑み込むのは予想外だった所為で反応が遅れてしまった。ウカツ!!! 

 ……そうして俺と先輩はゲートに飲み込まれてこの惑星から姿を消してしまったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ここは一体……」

 

 ゲートに飲み込まれた俺が見たのは荒涼とした岩肌の大地と星一つ存在しない漆黒の空だった……まあ分かってたけど明らかに別の惑星というか別の次元っぽいな。

 ……というか、俺が今立っているここも惑星では無くそれよりも小さい小惑星ぐらいの大きさっぽいし、何より当たりを覆う異様なマイナスエネルギーと全く感じられない光エネルギーを考えると……。

 

「ここは……まさか『暗黒宇宙』か⁉︎」

「知っているんですか先輩?」

 

 そう俺が考えていたら隣にいた21先輩が突然そんな声を上げた……ゲートに飛ばされる時に先輩と離れる事が無かったのはラッキーだったな。しかし『暗黒宇宙』か……確かアーカイブで見た記憶がある様な……。

 

「暗黒宇宙……或いは『マイナス宇宙』とも呼ばれる普段我々がいる宇宙とは別次元に存在する宇宙の事だ。本来ならこの世界は光速度以下の航行手段では入ることが出来ず、光の速度を超えるスピードを出した際に入ることが出来る筈なのだが……」

「マイナス宇宙……確か昔にウルトラ兄弟が貼り付けにされた『ゴルゴダ星』があったとか言う場所じゃ……」

 

 確かエースさんが地球に派遣されていた頃……と、そこで俺はこれまで連中が取ってきた妙な行動に於ける共通点に気が付いた。

 

「……先輩、連中が接触した宇宙人とか赴いた場所は、全てエースさんが地球に居た頃にやって来ていた宇宙人に関係する所なんじゃ……」

「何? ……いや、確かオリオン星は地球のピラミッドに眠っていた【オリオン星人】の生き残りがエースと戦っていたし、おとめ座の精がヤプールに捕まって超獣に改造されたと言う……まさか、この連中の黒幕は……「ハァーッハッハッハァ!!! まんまと罠に掛かったな、ウルトラマン供よ!!!」

 

 俺と先輩が連中の行動の意味に気付きかけたその時、背後からか不愉快な笑い声が聞こえた来たので振り返るとそこには例の四人が立っていた。

 

「フハハハハ! 愚かな宇宙警備隊供よ。この暗黒宇宙が貴様らの墓場となるのだ」

「ここはかつてウルトラ兄弟が磔にされた『ゴルゴダ星』が破壊された際の破片が集まって作られた『衛星ゴルゴダ』。貴方達が死ぬには丁度いい場所でしょう」

「この暗黒宇宙は光が差さず、更にマイナスエネルギーに溢れているからなぁ。貴様らウルトラ族はその力を発揮出来ない場所なのだよ」

「そしてここには貴様ら光の力を持つウルトラ族では絶対に破れない闇の結界を展開してある……つまり貴様らはもう二度と元の宇宙には戻れないと言う訳だ」

(……どうします先輩? 連中が喋っている今の内に攻撃しますか?)

(いや、まだ連中には聞きたい事がある。……もし裏にいるのがあの()()()()だとすれば一大事だからな。連中が調子に乗っている今の内に情報を引き出しておきたい)

 

 そうして現れた宇宙人連合の四人は聞いてもいないのに現在の状況を語り始めた……何故こういう時に悪人はわざわざ積極的に解説をしてくれるのかと疑問に思いつつも、連中の話を聞きつつ先輩と秘匿念話で話し合っておく。

 ……その結果、とりあえず今は連中の話に乗ったフリをしつつ問答して可能な限り情報を引き出そうと言うことになった。まずは先輩が連中を問い質すので、俺は適当に驚いたフリをして連中にこっちの狙いを悟らせない様にする役割をやる事になった。

 

「このゴルゴダ星といい貴様らがこれまで訪れた場所といい……まさか! 貴様らの後ろにいるのは【ヤプール】か⁉︎」

「そんな⁉︎ ヤツはウルトラ兄弟が地球に封印した筈です!!!」

「ふん! 違うな、我々はヤプールの意思で動いている訳では無い。我らの手で地球に封印されているヤプールを解放し、その力を我が物として全宇宙を支配するのが目的よ!!!」

「この暗黒宇宙への移動ゲートや対ウルトラマン用の結界も全てはその為の物だったのですよ」

「その最終調整も兼ねて貴様らを罠に嵌めたという事だ。……後は結果も上々だったし、地球に行ってヤプールを復活させるだけ……」

「これまでのヤプールの足取りを追ってヤツの力を研究した甲斐があったという訳だ」

 

 21先輩の質問に対して、連中は随分あっさりと自分達の目的とか行動の理由とかをペラペラ喋ってくれた……俺の演技も中々捨てたもんじゃ無いな! まあ連中としては既にこっちを始末した気だから口が軽いんだろうけどね。

 ……じゃあ目的も分かったし連中をさっさと倒そうかと先輩に向けてアイコンタクトを送り、向こうもそれに頷いてくれたので俺達は連中へと戦いを挑もうとした……その直前、ヤツらの身体からこの暗黒宇宙に漂う物と同じ、しかし遥かに密度の濃いマイナスエネルギーが溢れ出した。

 

「なっ⁉︎」

「このマイナスエネルギーは……!」

「フフフ、我々が復活させたヤプールを意のままに操る方法を考えていないとでも? ……その答えがこの『マイナスエネルギー制御技術』と言うわけだ!」

「これによってマイナスエネルギーの塊であるヤプールを我らの支配下に置くのですよ」

「まあ、キチンと機能するか確かめる為にも試験運用は必要だからな……その為にはヤプールが残したマイナスエネルギーが充満するこの『衛星ゴルゴダ』はちょうど良かったのだよ」

「だからこそお前達をここに引き込んだのさ……さあ! この場にあるヤプールの怨念達よ! そこにいる憎っくきウルトラ戦士を葬る為に再び蘇るのだ!!!」

 

 奴らがそう言った直後、その身体から溢れ出るマイナスエネルギーとこの衛星ゴルゴダに漂うヤプールの怨念が混ざり合っていく……そして、それらの濃密なマイナスエネルギーは俺達の目の前で凝縮して一つの形を成した。

 ……そいつは赤と金の身体を持ち、右手にはナイフを持ち左腕には鉤爪が生え、胸部には緑色のクリスタルが埋め込まれている明らかに戦闘に特化していると分かる姿をした人型であった。

 

「……アレは確かかつてゴルゴダ星でエースさん達ウルトラ兄弟と戦った……」

「【異次元超人 エースキラー】!!!」

「……ふむ、まあこの衛星ゴルゴダのマイナスエネルギーを集めればあの形になるだろうな」

「これで実験は終わりだな。……では、我々はさっさと元の宇宙に戻って地球へ向かうとしよう」

 

 そうして現れたエースキラーを見た宇宙人連合は再び背後に例のゲートを発生させて、悠々とその中に入って行こうとしていた……それを追おうとした俺と21先輩だったが、その前に身体からマイナスエネルギーを迸らせるエースキラーが立ち塞がった! 

 

「……ウゥゥゥルゥゥトラァァマァァァン!!!」

「じゃあ後はそいつと遊んで行くがいい。……最もエースキラーを倒した所で貴様ら光の戦士ではこの暗黒宇宙から出られないがな! ハッハッハァ!!!」

「待てっ!!!」

 

 そして俺と21先輩が恨みの叫びを上げながら襲い掛かって来たエースキラーから距離を取っている間に、連中はさっさとゲートの中に入ってしまい、そのまま再び閉じてしまって衛星ゴルゴダには俺達とエースキラーだけが残された。

 

「UUUURUU◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!」

「……エースキラーってロボットだと聞いたんですが……」

()()はエースキラーの皮を被ったヤプールの怨念の塊なのだろう。……それより来るぞ!」

 

 ……暗黒宇宙の衛星ゴルゴダにて俺と21先輩は、ヤプールのマイナスエネルギーの塊とも言える【異次元超人 エースキラー】と戦う事になってしまったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク&セブン21:意外と演技派
・尚、格別演技が上手い訳では無い(光の国では上位)のだが、相手の精神がかなり不安定だったので情報を聞き出す事に成功した感じ。

宇宙人連合:本人達は真面目にやっている……“と思い込んでいる”
・実際には彼らの諸々の技術とかはヤプールが無意識を介して刷り込みをした物だし、エースキラーも彼らのマイナスエネルギーを介してヤプールが復活させた物である。
・この後は地球に向かって『ウルトラマンメビウス&ウルトラ6兄弟』原作に続く感じで、その間にヤプールの精神干渉もかなり安定して地球に付いた頃には発言や行動に違和感が無くなっていく模様。
・闇の結界に関してはヤプールが対ウルトラマン様に作った光属性メタの結界で、性能は某暗黒宇宙大皇帝が地球を覆った物の劣化の劣化の劣化ぐらい。

【異次元超人 エースキラー】:『マイナス宇宙』『ゴルゴダ』なのでコイツ
・実際には21が推測した通り、マイナスエネルギーが衛星ゴルゴダに残るエースキラーの情報を読み取って形を得たモノである。
・……だが、読み取ったのは『ウルトラマンエースと戦ったエースキラー』の情報全てなので戦闘能力はほぼ据え置き。


読了ありがとうございました。
次回はVSエースキラー。ウルトラ兄弟全ての技を使う異次元超人に二人はどう戦うのか、お楽しみに。


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異次元の超人(前編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 異次元超人 エースキラー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ウゥゥゥルゥゥトラァマァン!!!」

「チッ! セヤァッ!!!」

「ジェアッ!!!」

 

 暗黒宇宙に存在する衛星ゴルゴダ、そこでは宇宙人連合の策謀によって復活した【異次元超人 エースキラー】と宇宙保安庁所属のセブン21とアークの二人が激しい戦いを繰り広げていた。

 ……まず、雄叫びを上げながら左手の鉤爪で斬り掛かって来たエースキラーに対し、アークがその左腕部を抑える事で相手の動きを封じ、そこに間髪入れずセブン21が蹴りを叩き込んだ。

 

「グゥゥゥ⁉︎」

「……むう、ちょっと動きが鈍いか?」

「マイナスエネルギーに溢れる暗黒宇宙だからだろう。光エネルギーの補給も難しいから長期戦は不利だ、短期決戦で行くぞ!」

 

 だが、暗黒宇宙の影響で“光の使者”であるウルトラ族は能力が下がってしまっており、更に光が非常に少なく所為でエネルギーの回復も難しいと、地の利に関してはかなり不利な状況であり……逆にマイナスエネルギーが集まって生まれた今のエースキラーにとってはこの暗黒宇宙は幾らでもエネルギーを回復出来る最高の環境でありでもある。

 ……故に蹴り飛ばされたエースキラーは二対一だと格闘戦は不利だと判断して、その身に備わった()()()()()()()()を存分に振るう為に腕を十時に組んで『ウルトラマンの必殺光線』を放った。

 

「スペシウムコウセン!!!」

「ヌァッ⁉︎ ……この基本技とは思えない出力と迫力のスペシウム光線はマンさんのか!」

「エースキラーはかつてウルトラ兄弟のエネルギーを吸い取って能力をコピーしたと言う話だからな……こいつにも引き継がれている様だな」

 

 放たれた光線を二人はギリギリで回避しつつエースキラーの能力を思い返して警戒を強めたが、エースキラーは更に距離を取りつつ“右手に持った短剣を頭の上に置き、それを両手に持つ様に構えた”のだ。

 ……その構えが実に()()()()()()()()だった二人は即座に相手が何をしてくるのかを悟って、アークはウルトラランスを、21は頭部のウェルザードをそれぞれ取り出して逆手に構える。

 

「アァイスラッガァァー!!!」

「やっぱりか!」

「そこまでコピーしているとは!」

 

 そうした直後エースキラーは短剣を投げ飛ばし、更にそれをウルトラセブンが得意とする宇宙ブーメラン技術によって高速回転させながらオリジナルと比べても遜色無い斬れ味を持たせて二人に向かわせたのだ……が、二人は自身に向かって来る短剣を手に持った武器でそれぞれ打ち返してしまう。

 ……これは先程のスペシウム光線と同じ様にエースキラー構えが余りにも有名だった為、二人が相手が何をして来るのかを予想出来てしまった事が大きい。

 

「確かにウルトラ兄弟のそれと遜色無いレベルではあるが……俺があの人達にどれだけ扱かれたと思っている! どんな技を撃って来るかなんて簡単に先読み出来るぞ!!!」

「オォォノォレェェイ!!!」

「アーク! アイスラッガーは俺が対処するから、お前はエースキラーを倒せ! 行けウェルザード!!!」

 

 そんなアークの啖呵に怒り狂うエースキラー(厳密にはそれを構成しているヤプールの怨念)を見て、セブン21はアークに本体の相手を任せつつ自身はウェルザードを投げ放ち、向こうと同じ様に念力で操る事で宙を舞う短剣とぶつけ合わせてその動きを押さえ込んだ。

 ……そして空中で縦横無尽に動き回りながらぶつかり合う二つの宇宙ブーメランの音を背に、アークはウルトラランスを構えてエースキラーへと突っ込んでいった。

 

「ソレハコチラニモアルゾ! ウルトラランス!!!」

「ジャックさんの能力か!!!」

 

 だが、エースキラーは周囲のマイナスエネルギーを集めて先程まで持っていた短剣を再生成、更にウルトラマンジャックの『ウルトラブレスレット』の力を応用して持ち手部分を伸長させて槍へと変形させてみせたのだ……そしてエースキラーはその槍を振るってアークの突きを打ち払うとすかさず反撃の槍撃を見舞って行き、アークもそれに負けじとウルトラランスを振るって激しい打ち合いを展開した。

 ……単純な戦闘技術に於いてはアークの方が上だったが、ウルトラマンエースを倒すために作り出されたエースキラーのパワーは暗黒宇宙による弱体化を込みで彼を上回っていた。加えて宇宙一執念深いヤプールのマイナスエネルギーが集まって生まれた存在であるため耐久性が元よりも上がっている所為で多少のダメージでは怯みもしない事もあって、槍の打ち合いはアークの方がやや押され気味であった。

 

「ソラソラドウシタ!」

「ええい、元がロボットな上、今はマイナスエネルギーで構成されているから多少打ち込んだぐらいじゃビクともしない!」

「サラニオマケダ! ドリルコウセン!!!」

 

 それに加えてエースキラーは槍を右手に持つと同時に、左手の鉤爪にドリル状の光線を纏わせてアークへ向けて突き込んで来た……この『ドリル光線』は元のエースキラーがエネルギーを吸収していないウルトラマンエースの技であるが、この衛星ゴルゴダにある『エースロボット』の情報と『ウルトラマンエースに倒された』情報を取り込んだ為、現在のエースキラーはエース技をも使える様になっているのだ。

 ……だが、そうしたエースキラーの注意が自分に集中するのはアークにとっては『短剣を制御している念力に向ける意識が少なくなる』という意味で好都合であった。

 

「……アークに集中した所為で短剣の制御が鈍ったな。フィンガーダーツ!」

 

 そうして動きが単調になった短剣の軌道を見切ったセブン21は指先から破壊光弾を放ってそれを破壊、更にウェルザードを回収しつつ一気に勝負を決めるべく自身の光線技のチャージを開始した。

 

「アーク! 動きを封じられるか!」

「やってみます! リバーススタイル! サイキックホールド!!!」

「ヌゥ⁉︎」

 

 セブン21の指示を受けたアークはすぐさまリバーススタイルへと変身し、そのまま距離を取りつつ強力な念力をエースキラーに放った……例え暗黒宇宙であっても高い環境適応能力を持つリバーススタイルであれば通常と変わらない能力で戦えるだろうと思っての判断であった。

 その予想通りアークの放った念力はエースキラーを見事に拘束してみせており、そうして動きの止まった隙を21は逃さずに腕をL時に組んで必殺光線を撃ち放った! 

 

「レジアショット!!!」

「グゥゥ⁉︎ ウルトラバァリアァァ!!!」

 

 十分にエネルギーをチャージしたセブン21の必殺光線を危険だと判断したのか、エースキラーは念力に囚われたまま周囲のマイナスエネルギーを集めて長方形のバリアーを展開してレジアショットを防ごうとしたが、咄嗟に展開したバリアーでは完全には防ぎ切れず徐々に光線の威力に押されてヒビが入ってしまっていた。

 ……このままでは数秒もせずにバリアーは砕け散っていただろうが、その数秒の間にウルトラ戦士を倒す為に作られたエースキラーの人工知能はこの局面を打開する次の一手を即座に打ち出した。

 

「ボディスパーク! ワァイドショットォ!!!」

「ッ⁉︎ 拘束が解かれた!」

「相殺されたかっ!」

 

 まずエースキラーは全身からマイナスエネルギーを迸らさせて念力を解除、間髪入れずに腕をL時に組んでのウルトラセブンの必殺光線『ワイドショット』を放ってバリアーを打ち破って迫るレジアショットを相殺してみせた。

 

「ヤツザキコウリン! サーキュラーギロチン! ブレスレットボム!!!」

「チィ! ウルトラ兄弟の技をこうもバカスカと!!!」

「コイツのエネルギーはどうなっているんだ!」

 

 更にエースキラーは高速回転するエネルギー光輪、十字型の切断エネルギー、高密度に圧縮されたエネルギー爆弾と言ったウルトラ兄弟達の技を、エネルギー消費など関係ないと言った風に次々と二人に放っていったのだ。

 ……これは現在のエースキラーが実質的にマイナスエネルギーの塊であるが故に、この暗黒宇宙に存在するマイナスエネルギーを吸収してエネルギーを高速回復させているからなのだ。

 

「……21先輩、多分アイツ周囲のマイナスエネルギーを吸収してますね。それでエネルギーが尽きないんでしょう」

「どうやらその様だな。先程から与えたダメージは癒えているのもその所為か……チッ!」

「マダマダイクゾ! ゼットコウセン! アタックコウセン! エメリウムコウセン! タイマーショット!」

 

 流石に異常なレベルで技を連射するエースキラーを見て違和感を覚えたアークは周囲のマイナスエネルギーを感知する事でそのカラクリに気が付き、セブン21の方も相手のダメージが回復している事を見抜いて現状を把握した……が、それでも二人はエースキラーが放ち続けるウルトラ兄弟の技の乱舞を凌ぐのに精一杯な状況だった。

 ……二人が無事なのはエースキラーの技が『単に怒りと憎悪に任せて技を撃っている』だけで、本物のウルトラ兄弟の様に『技を使いこなしている』領域ではないので、その攻撃を見切って回避する事が出来ているからでもあった。

 

(だがこのままではいずれ押し切られるな。向こうはエネルギーが無尽蔵だがこっちは暗黒宇宙ではエネルギーの供給もまともに出来ん。……おそらく後三分もすればエネルギー切れで攻撃を凌ぐ事も出来なくなるだろう)

(リバーススタイルの俺なら暗黒宇宙でも長時間活動出来ますけど、今のエースキラーを倒すのには火力が足りないですね。……多分、シルバースタイルの方に戻ってもあの回復能力相手では仕留め切れないでしょうけど)

 

 エースキラーから放たれる光線群を二人は躱したりバリアー念力で防いだりして凌ぎつつ、秘匿念話で会話しつつ打開策を練っていたのだが中々いい案は浮かばなかった。

 ……そもそもエースキラーは元からウルトラマンエースがウルトラ兄弟のエネルギーを一点に集中して放つ『スペースQ』を使わなければ倒せなかった程の耐久性を持ち合わせており、今はそこにマイナスエネルギーによる再生能力まで加わっているの所為で恐ろしいまでのしぶとさを持ってしまっていたのだ。

 

(あのエースキラーを倒すにはまずマイナスエネルギーによる回復をどうにかするしかなさそうだが……アーク、お前の浄化能力でこの空間のマイナスエネルギーをどうにか出来ないか?)

(ちょっと難しいですね。この暗黒宇宙にはマイナスエネルギーが大量にあるので浄化した側から供給されるでしょう。……地の利の差もあるが、あのエースキラーはボガールやマザーケルビムより強い)

 

 そうして念話で相談しながらエースキラーの攻撃を凌ぎつつ打開策を考える二人だったが一向に良い案は浮かばず、その間にも向こうの攻撃は更に激しさを増していった。

 

「テモアシモデナイヨウダナ! コチラノエネルギーハ“マイナスエネルギー”ガアルカギリムジンゾウ! ユエニコノママセメツヅケレバキサマラハドウシヨウモアルマイ!!! ホリゾンタルギロチン! シネラマショット!」

「アクセルダッシュ! ……好き勝手言ってくれる。このまま攻め続けられるのも問題だからな、こちらも牽制ぐらいはせねば。フロストスラッガー!!!」

「ウェルザード!」

 

 調子に乗りまくっているエースキラーから放たれた三日月状の光刃をアークは超高速移動で躱しながら反撃に氷のブーメランを8枚程生成して念力で発射し、セブン21も同じく光線を回避しながら頭部のウェルザードを投げ放った。

 ……だが、放たれた高速回転するブーメラン群はエースキラーに当たりこそしたものの身体に僅かな切り傷を作るだけに止まり、その傷もマイナスエネルギーを吸収する事で即座に回復されてしまった。

 

「フン、ナニカシタノカ? ……コンドハコチラカライクゾ! メタリウムコウセン!!!」

(やはり多少のダメージを与えたぐらいじゃ怯みもしない。以前エースさんが『どんな生き物でも、攻撃を受ければ痛みを感じ、恐怖を覚え、隙が生まれる。だが、超獣はそんなものは感じない!』と熱弁してたからな。マイナスエネルギーで再現されたロボットなら尚更か)

(加えてあの再生能力では『相手が倒れるまでダメージを与え続けて倒す』というのも無理……やはり一撃で再生を許さぬ様に倒すしかなさそうだな)

 

 攻撃が効いていない事に更に調子に乗ったエースキラー(ヤプール)は反撃として『メタリウム光線』を放つが、二人はそれを側転しながら回避しつつ秘匿念話での話し合いを続けていった。

 

(エースキラーを一撃で倒すには、嘗てのウルトラ兄弟の様に俺達二人のエネルギーを一つに合わせた上で必殺技を放つ必要があるだろう。……だが、その為には相応のエネルギーが必要だ。特に俺はこの暗黒宇宙ではエネルギーを回復させられないから無駄遣いは出来ん)

(俺の方はリバーススタイルでなら暗黒宇宙でも長時間戦えますけど、この姿だと光線や浄化技が使えなくなるので火力が足りませんね)

「チィ! チョコマカト……ナラバ! スラッシュコウセン! フォッグビーム! ウルトラクロスアタッカー!」

 

 一向に攻撃の当たる気配が無い事に苛立ったのかエースキラーは戦い方を変え、大量の鏃型光線、広範囲に拡散する霧状の光線、無数に分裂する十字架状の光刃など『威力は低いが広範囲を攻撃出来る技』を使って確実に攻撃を当てられる戦術にシフトしたのだ。

 ……当初は『この宇宙警備隊員供をウルトラ兄弟の技で始末して奴らに屈辱を与えてやろう』と考えて高威力の光線を重点的に使っていたが、それで仕留めきれないと判断した途端に『この暗黒宇宙の環境でなら細かいダメージを与えて持久戦に持ち込んだ方が勝算は高い』と、ヤプールの悪知恵とエースキラーの人工知能が判断して実行に移したのである。

 

「ええいっ! こっちに細かいダメージを与えて削り倒す戦術に変えてきたか! ウルトラディフェンダー!!!」

「その様だな! …… 防ぐ事は出来ているがエネルギーが……!」

「ソラソラドウシタ! パンチレーザー! マルチギロチン! ムーンコウセン! ダイヤコウセン!」

 

 その戦術の切り替えにアークとセブン21はすぐに気が付いたものの、エースキラーが雨あられと放つレーザー・十字型光刃・三日月型・菱形などの多種多様な光線(全部エースの技)は流石に全て避けきる事は出来ず、どうにか盾やエネルギーを纏わせた腕で打ち払って防ぐもののその分エネルギーを消耗してしまっていた。

 ……そうした細かい光線で二人の足を止められたと判断したエースキラーは、次の一手の為に距離を取る為に大きく飛び上がって空中に停止した。

 

「フン、シブトイレンチュウダナ……ナラバ()()()()ヲクレテヤロウ」

「何を……?」

 

 そう言ったエースキラーはおもむろに両腕を上に広げると周囲のマイナスエネルギーを凄まじい勢いで吸収して行き、両手と頭を繋ぐ形でスパークさせる様に収束させていったのだ。

 ……“その技”はかつてゴルゴダ星においてエースキラー自身を倒したモノであるのだが、他の『ウルトラマンエースの技』と同じ様にゴルゴダ星のマイナスエネルギーからその技が使われた情報をエースキラー得た事によって擬似的にだが使える様になっていたのだ。

 

「って⁉︎ まさかその技まで使えるのか!!!」

「クッ⁉︎ 不味い!!!」

「フハハハハ! モウオソイ!!!」

 

 それを見たアークとセブン21はエースキラーが何をしようとしているのかを察したが、それよりも早くエースキラーは集めた膨大なマイナスエネルギーを小さな球体にまで圧縮して両手で持って振りかぶった。

 

「サア、ウルトラキョウダイノガッタイワザヲゾンブンニクラウガイイ! “スペースキュー”!!!」

「やばっ……先輩!」

 

 ……そうしてエースキラーが放ったウルトラ兄弟の合体技『スペースQ』を模した超圧縮マイナスエネルギー弾は、高速でアークとセブン21の近くまで飛翔した後に圧縮されたエネルギーを解放して衛星ゴルゴダの一割を飲み込む程の大爆発を起こして二人を飲み込んだのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:伊達にウルトラ兄弟に扱かれてはいない
・光属性メタのフィールド魔法的な暗黒宇宙でも、属性が『光』では無いリバーススタイルに変われば問題なく戦える。

セブン21:実はウルトラ兄弟の技を見た事は何度かある
・年齢が一万八千歳で長い時間宇宙保安庁に勤めているので、その際にウルトラ兄弟をはじめとする様々な宇宙警備隊員と共闘してきた経験がある。
・この作品ではスペックは取り立てて秀でている訳では無いが、経験と技術がずば抜けているベテランという設定。

エースキラー:知っている限りのウルトラ兄弟の技を使わせてみた
・マイナスエネルギーで構成されたとは言え中身の機能はオリジナルと遜色無く、更に宇宙人連合に与えたマイナスエネルギー操作能力で復活したので自身もマイナスエネルギー操作能力を得ている。
・加えて中身の精神はほぼ『地球に封印されているヤプール』であり、宇宙人連合と同じ様に精神干渉を介して半遠隔操作(半分はエースキラーの人口知能)している感じ。
・最後に使った『スペースQ』はゴルゴダ星でエースが使ったそれのエネルギー収束技術を模して、更にマイナスエネルギー操作能力を組み合わせて使った代物で、一点集中のオリジナルと違って爆破による範囲攻撃になっている。


読了ありがとうございました。
普通のエースキラーでは味気ないと思ったので色々と盛ってみた強化型エースキラー。バラバとかもマイナスエネルギーで強化されてから再登場したしこのぐらいならいいよね?


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異次元の超人(後編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 異次元超人 エースキラー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……クククク、ドウヤラアトカタモナクキエサッタヨウダナ」

 

 復活した【異次元超人 エースキラー】が使った周辺のマイナスエネルギーを根こそぎ集めて収束、圧縮させた『擬似スペースQ』……放たれたそれはアークとセブン21の二人を飲み込んで大爆発を起こし、そのエネルギーが霧散した後には何も残ってはいなかった。

 ……それを見て、更に衛星ゴルゴダ周囲に二人のエネルギー反応が無い事を確認したエースキラーは、確実に仕留めたと思い地面に降りていった。

 

「フハハハハ! ウルトラキョウダイノ、トクニアノイマイマシイウルトラマンエースノワザデシトメラレタノハヨイキブンダ「残念! まだやられてないんだよね!」ナッ……グッ⁉︎」

 

 そうしてエースキラーが地面に降り立った直後その背後に“黒い穴”が生じ、そこからアークが勢いよく飛び出してエースキラーに飛び蹴りを叩き込んだのだ。

 ……実は『擬似スペースQ』が炸裂する寸前にアークはブラックゲートを使って異空間に繋がる穴を作り出し、更に高速移動能力を駆使してセブン21と一緒に異空間に退避していたのだ。

 

「キサマ! イッタイドウヤッテ……!!!」

「態々教えてやる訳も無いだろう。……21先輩! マイナスエネルギーは俺が何とかするのでエースキラーの方は任せます! ついでにセブンガーも頼む!」

「分かった、頼むぞアーク! ウェルザード!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 突然()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『黒い穴』から現れた相手を見て狼狽えるエースキラーに対して、アークは即座に距離を取ると同時にブラックゲートの中からセブン21を出しながら、更に怪獣ボールを投げてセブンガーを召喚してエースキラーに嗾しかけた。

 ……そうして出て来たセブン21が投擲した宇宙ブーメラン『ウェルザード』が狼狽えたままのエースキラーを斬り裂き、それと同時に召喚されたセブンガーはその超合金の拳でエースキラーを殴り付ける。

 

「ガッ⁉︎ ……チィ! ナメルナヨ! ウルトラナイフ!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「ジェアッ!!!」

 

 だが、耐久力に優れているロボットであるエースキラーはその程度のダメージでは怯まず、こちらも負けじとエネルギーを纏わせて切断力を強化した手刀をセブンガーに浴びせ掛けた……が、同じくロボットで光の国製の超合金で作られたセブンガーもまたその程度では怯まず、反撃にそのパワーによる拳を見舞っていった。

 ……それに加えてセブン21がセブンガーと連携しながら格闘戦を挑んで来る所為で、エースキラーは得意のウルトラ兄弟の光線技が使えない状態に持ち込まれてしまっていた。

 

「セヤァッ! もう光線技は使わせんぞ! アドリウム光線!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「クッ⁉︎ マイナスエネルギーガ……!」

 

 セブン21の蹴りでエースキラーが体勢を崩したところでにセブンガーの鉄拳が突き刺さり、それによって後方に吹き飛ばされた所に間髪入れずセブン21が額からの光線を直撃させた……この様にセブン21はセブンガーと連携する事で徹底してエースキラーに光線技を撃たせない様に立ち回っていたのだ。

 ……更に先程の『擬似スペースQ』によってエースキラーが戦っている衛星ゴルゴダ周囲のマイナスエネルギーが大幅に減少しているので、それを吸収してのエネルギー回復や再生が難しくなっているのも不利な状況に拍車を掛けていた。

 それでもこの暗黒宇宙ならば直ぐに他の場所からマイナスエネルギーが流れ込んで来るだろうからそれまで時間を稼げばいいとエースキラーは考え……同じ様に直ぐにマイナスエネルギーが元どおりになると感知能力で分かっていたアークは更に()()()()を打ったのだ。

 

「……さて、周囲のマイナスエネルギーが薄くなっている今がチャンスだからな。とにかくやってみるか……ブラックゲート多重展開!」

 

 そして戦っているエースキラーとセブン21・セブンガーと距離を取ったアークは、その周囲に複数の『大きな黒い穴』を戦っているエースキラーを中心の囲む様に作り出した。

 

「この暗黒宇宙で周囲のマイナスエネルギーをどうにか出来るレベルの浄化技を使ったら直ぐにエネルギー切れになるだろうし、ここは暗黒宇宙だろうが問題無く活動出来るリバーススタイルで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ゲートの中に吸い込んでみよう! エースさんに教わったバキューム系の技術の応用でいける筈!」

 

 そんな事を言いながらアークは()()()使()()()()()()()()()()()()()()()し、濃度の低い場所に流れ込もうとするマイナスエネルギーをゲートの中に吸い込んでいったのだ。

 ……それによって展開されたゲートぼ内側にマイナスエネルギーが流入する事が無くなり、エースキラーはエネルギーとダメージの回復が困難になったのである。

 

「バカナ!!! ヒカリノソンザイデアルウルトラマンガ、ジョウカスルナラトモカクマイナスエネルギーヲアヤツルナド!!!」

 

 エースキラー(の中にいるヤプール)はマイナスエネルギーから生まれた存在であるが故に『光の使者』であるウルトラ族がマイナスエネルギーを操作している所を見て思わず驚愕の声を上げてしまった。

 

「やってみたらなんか出来たんだからしょうがないだろう……それに俺にばかり注意を向けていいのか?」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「ガッ⁉︎」

 

 そのエースキラーの指摘を適当にスルーしたアークは逆に戦闘中に別の事に注意を向ける迂闊さを指摘し……その直後、ロボットであるから周りの状況に流されず戦闘を続けていたセブンガーの鉄拳が、アークに注意を向けていた所為で無防備になっていたエースキラーの顔面に突き刺さった。

 

「隙を見せたな! フィンガーダーツ!!!」

「クッ⁉︎ ……ダガ、マイナスエネルギーガナクトモ、エースキラーノスペックガジャクタイカスルワケデハナイ!!! スペシウムコウセン!!!」

 

 そこにすかさずセブン21が矢型の光線を当ててダメージを与えたが、素の耐久性も高いエースキラーにはそこまでのダメージにはならず、逆に冷静さを取り戻したエースキラーは反撃のスペシウム光線をセブン21に向けて撃ち放った。

 ……だが、威力は変わらずともマイナスエネルギーの供給がない以上は先程までの様な理不尽な連射は出来ず、単発であったそれはあっさりと躱されてしまった。

 

「やはり連射は出来ないか……ならば、このまま押し切る! 21・アタック・ビーム!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「……よし、マイナスエネルギーの操作にも慣れて来たし、これなら半自動のままでも良いだろ……と言うわけで、俺も攻撃に参加だ! フリーズショット!!!」

「グッ⁉︎ チィィ!」

 

 更に畳み掛ける様にセブン21の両手から放つ磁力光線、セブンガーの鉄拳、そしてマイナスエネルギーの操作を行いながらアークが放った凍結光線が立て続けにエースキラーへと襲い掛かり僅かに怯ませた。

 ……本来ならエースキラーはロボットなので戦い以外に注意を向ける事も多少のダメージを受けて怯む事もしない筈なのだが、このエースキラーを動かしているのは実質ヤプールのマイナスエネルギーであり、その所為で余計な事を考えてしまったりウルトラ戦士の攻撃を受ける事を屈辱に思って僅かに動きが硬直したりしてしまっているのだ。

 

「チィ! ナラバエースブレード! ウルトラスラッシュ!!!」

「じゃあこっちもだ! ウェルザード!!!」

「ウルトラランス!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 そしてウルトラ戦士達の波状攻撃に距離を取っての光線技は無理だと考えたエースキラーは怒りを露わにしながら右手に長ドスを生成し、左手の鉤爪に高速回転する光輪を展開して目の前の敵を八つ裂きにしてやろうと斬り掛かっていった。

 ……それに対抗する様にセブン21はウェルザードを逆手持ちにし、アークはウルトラランスを両手に持ってセブンガーと共に激しい接近戦を演じ始める。

 

「シャァァァァッ!!!」

「ゼヤァッ!」

「セイヤッ!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!』

 

 エースキラーが振り下ろした長ドスをセブン21が逆手に持ったウェルザードで受け流し、ならばとウルトラスラッシュで直接斬り裂こうとした所をセブンガーが割り込んで装甲を削られながらも受け止められ、そうして出来た隙に素早く接近したアークがウルトラランスによる突きをエースキラーの胴部に打ち込んだ。

 そもそも二人相手の近接戦では不利だから距離を取っての光線連射であったのに、数が三人に増えた所へ闇雲に近接戦を挑んだ所で当然エースキラーは一方的に攻撃されるだけなのだが……有利な時ならともかく不利になるとエースキラーのAIではなくヤプールの『ウルトラ戦士への憎悪』が肉体の優先権を取ってしまう所為で行動の一つ一つが雑になっているのである。

 ……例えばヤプールが手ずからマイナスエネルギーを集めて超獣を作ったのなら負の感情と冷静な判断力や技術のバランスが取れた物が出来上がるのだが、今回のエースキラーは宇宙人連合がヤプール本体と比べると拙いマイナスエネルギー操作技術で生み出した物なので、スペックはオリジナルと同等でもこういった細かい所にどうしても“粗”が出来てしまっているのだ。

 

「グゥゥ! オノレェェェ!!!」

「……ふむ、ボロが出てきたな。このまま押し切るぞ! アドリウム光線!」

「了解! フリーズブレード!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 そして出て来た粗を見逃す程ウルトラ戦士達は甘い相手では無く、動きの荒くなったエースキラーに対して次々と攻撃を当て始めたのだ……それによりマイナスエネルギー吸収による回復も出来ないエースキラーの機体には徐々にダメージが積み重なって行き、それに連動して内にいるヤプールの憎悪も膨れ上がっていく。

 

「……ナラバッ! “コノワザ”デシマツシテクレル!!!」

 

 そうしてダメージを受け続けて怒り狂ったエースキラー(ヤプール)は、三人からの攻撃を受けながらも肉体の強度任せに無理矢理後方へと距離を取ると()()()()()()()()()()()()()()ポーズを取った。

 

「あの構えは!」

「……ふーん、俺の前で“その技”を使っちゃうかー」

 

 それを見たセブン21とアークはエースキラーがどんな技を使おうとしているのかを即座に理解し、それぞれ警戒と呆れの声を上げた……だが、ヤプールとて馬鹿では無くエースキラーの残存エネルギーの多くを費やす事でチャージ時間を限界まで減らし、彼等が何かの妨害をするよりも早く“その技”の発射態勢を取る事に成功したのだ。

 

「チャージが早い!」

「フハハハハ! イマサラキヅイテモオソイワ! ……クラエ! エムハチジュウナナコウセン!!!」

 

 そうしてエースキラーが右腕を前に出すと共に宇宙警備隊隊長ゾフィーの必殺技『M87光線』が放たれて……。

 

「はいはい、ブラックゲートブラックゲート」

「ナァッ⁉︎」

 

 アークがなんか雑に展開した大型のブラックゲートの中にあっさりと飲み込まれてしまった……尚、あっさり対処した様に見えるがM87光線の発射タイミング、チャージ時間と観測出来たエネルギー量からの威力、()()()()()()どの程度まで劣化しているのかなどを即座に判断して、それに合わせた最適なゲートを瞬時に開くと言う高等技法だったりする。

 ……最も、本人(ゾフィー)を除けばおそらく最もM87光線に詳しいアークにとっては容易く出来る事でしかないのだが。

 

「同じチャージ時間でも、おや……隊長が使ったのならこの倍くらいの威力になるだろうが、まあ劣化コピー品ではこんなモノか。……そら、返すぞ」

「ナニヲ……ガァァァァァッ!!!」

 

 更にアークが軽く手を振るうと周囲に空いていたゲートの一つ反転・拡大させて先程飲み込まれたM87光線を発射、そのままエースキラーに直撃させえてみせた。

 ……アーク自身が言った通りオリジナルと比べれば威力は高くなかったのでエースキラーが倒される事はなかったのだが、それでも受けたダメージは大きくその機能を大きく損なわせる。

 

「今だ! アーク、合体光線を!!!」

「了解! シルバースタイル!」

 

 ダメージによりエースキラーの動きが鈍ったと見たシルバースタイルに戻ったアークとセブン21は、それぞれ自身の必殺光線のチャージ体勢に入った……リバーススタイルを解除した事で展開されていたゲートも閉じられたが、マイナスエネルギーが再び流れ込むよりも早く二人の準備は整った。

 

「レジアショット!!!」

「アークレイショット!!!」

「ギャァァァァァッ! オノレェェェウルトラマンドモメェェェェェッ!!!」

 

 ……そうして二人が腕をL字に組んで放たれた必殺光線はエースキラーに直撃、ヤプールの憎悪と断末魔と共に大ダメージを受けていたその躯体を再生を許さない程の威力で跡形もなく爆散させたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……さーて、ブラックゲート内部のマイナスエネルギーはもっかい暗黒宇宙に戻しておくか。ゲート内部に入れたままだと、どんな悪影響があるか分からないしなー」

 

 そんな事を言いつつ、どうにかエースキラーを倒した俺は再びリバーススタイルに変わって複数のゲートを展開しながら先程吸い込んだマイナスエネルギーを暗黒宇宙へと吐き出していった。

 ……元の宇宙で吐き出したら怪獣の一匹ぐらいは生み出せそうな量のマイナスエネルギーだけど、この暗黒宇宙に戻すだけなら大した影響は受けないだろうしな。

 

「よし、マイナスエネルギー排出は終わりっと。……さて、21先輩の『この衛星ゴルゴダに展開されてる次元移動封じの結界』の方はどうなっているのかな」

 

 あの宇宙人連合がエースキラーを作り出すと同時に展開した俺達を元の宇宙に戻す事を妨害する結界、それの所為でエースキラーを倒した後も元の宇宙に帰還出来ない状況なので、現在21先輩が結界の解析・解除を試みているのだ。

 

「先輩、結界の方はどんな感じですか?」

「アークか。……済まない、どうもこの結界は暗黒宇宙のマイナスエネルギーと結び付く事で、我々ウルトラ族の光エネルギーによる干渉が非常に難しくなる性質を持っている様だ。実際に俺がウルトラ念力で干渉しようとしてもビクともしない」

 

 ふむ、確かに宇宙人連合も『光の力を持つウルトラ族では絶対に破れない闇の結界を展開してある』と自慢気に言ってたっけな。念力を始めとするウルトラ族の特殊な能力にはどれも『体内の光エネルギーを何らかの形で変換・操作している』モノだし……んん? 

 

「……まてよ、だったら光エネルギーが反転しているリバーススタイル状態の俺ならどうにか出来るのでは?」

「何?」

「……ええっと、この結界にトゥウィンクルウェイの応用の念力で干渉して……あ、行けた」

 

 そんな感じでリバーススタイルの特性で次元を隔てる結界に干渉出来た俺は、光エネルギーに対する抵抗能力極振りだったっぽいそれをあっさりと解除した……暗黒宇宙ではリバーススタイル大活躍だったな。能力が尖ってるから普段は殆ど使わないのに。

 ……まあ良い、この結界さえなければトゥウィンクルウェイやテレポーテーションの応用で暗黒宇宙から脱出出来るしな。暗黒宇宙って入るのには光速を超える必要があるけど、元の宇宙に出るのは簡単だったりする。

 

「よくやったアーク。じゃあさっさとこの暗黒宇宙を脱出して宇宙人連合の目的を銀河系支部に伝えなければ」

「了解、連中が地球に行く前に急ぎましょう」

 

 そうして俺と21先輩は暗黒宇宙から無事に脱出して、すぐさまウルトラサインを使って宇宙人連合の目的を銀河系支部にいる隊長(親父)に伝えたのだった……が、そこで21先輩がとんでもない事実に気が付いた。

 

「…不味いぞアーク、これを見ろ」

「え? これは光の国の現在時とリンクする時計……って! なんか5()()も経っているんですけど⁉︎ 俺達は暗黒宇宙に居た時間は三十分もなかった筈なのに…!」

「おそらく一種の『ウラシマ効果』によって暗黒宇宙とこの宇宙の間に時間のズレが起きていたんだろう。エース達ウルトラ兄弟がゴルゴダ星に捕らえられていた時にそんな現象を確認したと聞いた事がある。……連中が暗黒宇宙に俺達を誘い込んだのはこの為だったか」

 

 何でもエースさんが暗黒宇宙のゴルゴダ星で戦った際に『色々あって地球と往復したのに時間の経過がおかしかったので、暗黒宇宙と普通の宇宙では経過時間が違うのでは』という話があったのだとか。

 ……エースさんの時はそのお陰でヤプールが企てた地球との二面作戦を突破出来たらしいが、今回はそれを逆用して俺達の足止めを行ったみたいだな。連中の『ヤプール復活作戦』に間に合うだろうか……。




あとがき・各種設定解説

アーク:セブン21:この後はウルトラサイン出して自分達も支部に戻った
・そのウルトラサインの情報から宇宙人連合が地球のヤプール復活を企んでいる事は直ぐに伝わったのだが、宇宙人連合は宇宙警備隊からの追跡があった事から予定を前倒しにして地球に向かった後だった。
・なので時間のズレもあって報告した時には既に宇宙人連合は地球で作戦を行なっており、連絡を受けてゾフィーとタロウが地球に向かった時にはヤプールが復活していた。
・まあ、最終的にはウルトラ兄弟+メビウスに倒されたのだが、そこへ密かに地球に潜入していた『黒い男』が接触して……。

エースキラー:スペック“だけ”は再現されていた
・マイナスエネルギー吸収能力で誤魔化していたがエースキラーの戦闘用AIとヤプールの怨念の相性が悪く、戦術や技術面で問題があったためそこを突かれて倒された。
・『ウルトラマンZ』に登場したバラバの様にヤプールが直接マイナスエネルギーを操って作ったのならこんな事にはならなかったのだが、流石に宇宙人連合を介した間接的な作成では作りが雑になった模様。
・ちなみに暗黒宇宙の時間経過は『ウルトラマンエース』でゴルゴダ星と地球を往復しまくっていた事が元ネタで、どのくらい時間がズレるかは“基本的に”正負問わず最大数十倍ぐらいでランダムな模様。


読了ありがとうございます。
これでメビウス劇場版編(メビウスもウルトラ6兄弟も出ないけど)は終わりになります。今後も引き続き『ウルトラマンメビウス』の裏側を書いて行く感じになると思います。


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宇宙警備隊員アークの日記・Ⅱ

 □月▼日

 

 宇宙人連合の連中に暗黒宇宙に閉じ込められて復活したエースキラーと戦わされたりしたが無事に撃破&脱出を果たしたりした翌日の今日、俺と21先輩は銀河系支部で休養がてら報告書を書いたりした。

 尚、あの宇宙人連合共は俺達を暗黒宇宙に閉じ込めてから直ぐに地球へと向かって封印されているヤプールを復活させようとしたみたいだが、メビウスと地球にいたウルトラ兄弟の皆さんに次々と倒され、最後にヤプールを何とか復活させたもののそのヤプールに用済みとして始末されたみたい。

 ……まあ、そのヤプールも俺達の報告を受けて地球へと向かった親父とタロウ教官を含むウルトラ6兄弟とメビウスに倒されたので、事件そのものは無事に解決したので一件落着と言った所だろう。

 

 そしてヤプールが倒された事でその封印であるファイナルクロスシールドを維持する為に地球に残っていたマンさん、セブンさん、ジャックさん、エースさんの四人は地球を離れて再び宇宙警備隊に復帰する事になったのだ。

 正直言って現在アホみたいに忙しい宇宙警備隊にとってはウルトラ兄弟とまで呼ばれる彼等の復帰は非常に有り難かった様で、彼等が帰還した銀河系支部では(ようやく激務から解放される希望が見えた事から)諸手を上げての歓声が上がるぐらいだった。

 ……まあ、四人も精鋭が復帰したんだし、これでもう少しは仕事が楽になるだろうよ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月▷日

 

 ……そんな事を思っていた時期が俺にも有りました(笑)……何故かウルトラ兄弟達が復帰してから直ぐに、現在宇宙中で暴れまわっている自称エンペラ軍団達の活動が更に活発化しだしたのだ。お陰で復帰したばかりのウルトラ兄弟達は休む暇もなく宇宙中を飛び回る羽目になったしな。

 まあ、彼等は『二十年近く地球で休暇を貰ってしまったのだし、これからしばらくはしっかりと働かないとな』と言って、早速宇宙各地の自称エンペラ軍団を次々と取り締まってウルトラ兄弟は健在であると全宇宙に示してるけど。

 

 ただ、それでもエンペラ軍団を名乗る連中の活動は止まることを知らず、宇宙警備隊が全力稼働な所も変わらないので人材はまだまだ不足気味だった……ので、少し早いけど俺は21先輩との指導を兼ねたコンビを解消して単独での宇宙保安庁の任務を行うことになったのだ。

 ……先輩は『調査能力にはまだ少し経験不足からの不安があるが、戦闘面では一切の問題が無いから苦戦している宇宙警備隊員の援護と言った任務なら単独でも十分にこなせるだろう』と言われたしな。頑張らないと。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◁日

 

 今日は宇宙保安庁としての単独任務として救援の要請があった銀河連邦加盟惑星である『エルフィ星』にやって来ていた……この星に住むエルフィ星人はちょっと耳が長い以外はごく普通のヒューマノイドタイプの宇宙人だが高度に体系化された超能力を使え、更に高い科学技術を持つ星である。

 

 それでどうして派遣されたのかと言うと、まずエルフィ星の首都で住民が斬殺される事件が起きてその犯人を捕まえるためにエルフィ星の警察が調査を進めていたのだが、その調査に携わっていた警官達も犯人に辿り着く前に次々と殺されてしまったらしい。

 その被害に相手が警察では手に負えないと判断したエルフィ政府は軍隊の派遣を指示して、更に警察と連携して犯人を調査と討伐を行ってその正体が三人の【奇怪宇宙人 ツルク星人】のグループである事や潜伏場所なども突き止めたのだそうだ。

 ……この【ツルク星人】は種族全体として“刃物”に異様な執着を示す性質があり、主に両腕などに鋭い刃を移植する手術を成人の儀式としているらしいのだが、その執着が行き過ぎて辻斬りの様な行為に出やすい種族として宇宙でも危険視されているのだ……まあ、中には普通に生活する者や刃物への執着が転じて刀匠として生きる者もいるらしいけど。

 

 だが、【ツルク星人】は比較的有名であるが故に巨大化能力や高い剣技や隠密能力を持っている事はエルフィ軍でも知られていたので、当然その三体が巨大化して襲い掛かっても問題無いレベルの戦力──エルフィ軍が誇る超能力駆動の巨大ロボットなどを準備して討伐に乗り出したのだが……突如としてエルフィ軍を()()()()が包み込み、それを浴びた者の首に赤い鎖が巻き付いて次々と凶暴化してしまったのだとか。

 ……そうして混乱したエルフィ軍に三人の【ツルク星人】が襲い掛かって甚大な被害を出してしまい、その三人にも逃げられてしまったのだそうだ。

 

 まあ、今現在宇宙で暴れているエンペラ軍団が何故か円盤生物を持っている時がある事を考えると、恐らくこの赤いガスは【円盤生物 ノーバ】の『レッドクレイジーガス』である可能性が高いと思う。生物の凶暴化や赤い鎖になる事とかがかつて地球で目撃された【ノーバ】の能力と一致するからな。

 ……それで大打撃を負ったエルフィ政府は【ツルク星人】達への対応の為に宇宙警備隊に援軍の要請を出して、そこで手の空いていた俺が派遣される事になったと言う事なのだ。

 今は再び行方をくらました【ツルク星人】達をエルフィ政府が全力で捜索しているので、見つかるまでは待機しておく事になっている……エルフィ星の調査なら彼等の方が遥かに長けているし、よそ者の俺が出しゃばっても足を引っ張りかねないしな。恐らく俺の出番は戦闘が始まってからになるだろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◀︎日

 

 そんな訳でエルフィ政府に貸し出された住居で待機していたのだが、報告に来てくれる軍人さんが言うにはどうも捜索は難航しているらしい……それと言うのも【ツルク星人】のグループをエルフィ星内の犯罪組織が匿っているのが原因の様だ。

 この犯罪組織の構成員はは銀河連邦加盟前のエルフィ星で加盟では無く他の惑星への侵略を主張していた政府関係者やタカ派の軍人が主であり、現政府が政権を握って銀河連邦に加盟した後に離反して現政府転覆を狙うクーデター組織となったものらしい。

 ……軍人さん曰く『連中は自分達の超能力に無駄な自信を持っており我々なら宇宙に覇を唱える事が出来ると主張したのだが、そもそもその超能力も所詮はヒューマノイドタイプレベルの規模でしか無く、貴方達ウルトラ族やサイコキノ星人辺りと比べれば大した事が無いだろうと主張を一蹴された上で追い出された者達なのさ』との事。

 更に『……まあ、当時のエルフィ星は何とかして早く宇宙進出をしたいと思っていたから、銀河連邦加盟の障害になる彼等をかなり無理矢理な方法で追い出してしまっていてな。それが500年以上も尾を引いてしまっているのさ』とも言ってたな。ちなみにエルフィ星人はヒューマノイドタイプの中でもかなり長命な種族で平均1000年ぐらいは生きる。

 

 まあ、そう言う事情なので尚更調査に関しては何もさせて貰えなさそうだな。自分の惑星の犯罪者は可能な限り自分で捕まえなければ“本星の治安維持すら出来ない”と評判が悪くなるし、軍人さんも余り他惑星の俺を関わらせたくは無い感じだったし。

 ……とは言えずっと引きこもってるのも暇だし、宇宙警備隊員がやって来て何もしないとか言うのもちょっとアレなので、せめてパトロールとかに協力出来ないか打診してみようかな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月▼日

 

 パトロールの手伝いという形で外に出る事が出来る様になったぜ。やったね! ……まあ、別に今までも外出禁止とかされてた訳じゃ無いんですけどね。ただ『いつ連中が見つかってもいい様に直ぐに連絡が取れる場所で待機しておいてくれ』とエルフィ軍に言われてたから部屋に居ただけで。

 ……勿論、専用の通信機を持つ事は義務付けられているし、あくまで手伝いなので警察の人と一緒ではあるが部屋の中で日記を書くかニュースを見てこの星の情報を集めるよりは良いだろう。

 

 そういう訳で警察の方から派遣された警官のシャルルさんと婦警のアスフィさんと一緒にエルフィ星の首都『アールヴヘイム』をパトロールしたのだが、今日の所は特に何事も無かったな。

 ……と言うか、首都で散々辻斬り事件が起きて厳戒態勢なので住民が殆ど外に出てこず街の活気が無くなっているんだよな。軍が討伐隊を編成して敗北した事もそれに拍車を掛けている感じだし。

 

 一通り首都を見た感じだと種族固有の超能力(この星では“魔法”と言うらしい)と発達した科学技術が融合した独自の文明を構築していて中々面白い街並みであり料理も美味しかった(ここ重要)んだけどね。

 ……出来れば観光とかもしてみたかったんだけどそんな余裕も無いし、この首都がいち早く元の姿を取り戻せる様に宇宙警備隊として頑張るしかないか。【ノーバ】のデータとかも渡したしナノマシンに対する対策も急ピッチで開発されているとシャルルさんから聞いたから、後は連中を見つけるだけなんだが……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◇日

 

 ……どうやら連中の動きの方が少し早かったらしい。例のテロリスト集団が首都に攻め込んで来た様だ……ちなみに俺は自室待機です。流石にこの星の犯罪組織相手に宇宙警備隊員が出張ると何かと面倒な事になるからな。

 それにまだ【ツルク星人】や【ノーバ】も出て来ていない様だしな。連中が現れたら俺の出番と言うことになるだろう。幸い多少ダメージを受けたとは言えエルフィ軍はその大半が健在、只のテロリスト集団に遅れを取る事は無く戦闘は有利に進んでいる様だしな。

 ……さて、どうなるか……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月◆日

 

 ふう、厳しい戦いであったがどうにか【ツルク星人】と【ノーバ】を倒す事が出来て良かったよ……あれからテロリスト達は普通に劣勢になっていったので俺の出番は無いまま終わるかと一瞬思ったりもしたが、追い込まれた連中が古の時代に封印された禁断の巨大ロボットを出して来たり、それに合わせてツルク星人&ノーバも出て来たりして有利な状況から一時ちょっとしたパニックになったりした。

 ……まあ、その“古の時代に封印された禁断の巨大ロボット”って言っても見た感じマザーケルビムやエースキラーより弱そうだったけどね。なのでそちらはエルフィ軍の最新巨大ロボット10体ぐらいが押さえ込み、同時に現れたツルク星人&ノーバは俺が相手をする事で対処したのだが。

 

 とりあえず三体のツルク星人に対してはセブンガーに足止めを頼みつつ俺はその間に赤いガスを撒き散らしているノーバを倒す事にしたのだが、あのてるてる坊主めヒラヒラと動くから中々攻撃を当てにくく腕のムチや鎌も意外と力強くて結構手間取ってしまった。

 ……とは言え、凶暴化ガス状ナノマシンはウルトラ族に効く程の強度では無く、そもそもノーバはガスによる対民衆テロに特化した個体だから肉弾戦闘に持ち込んで仕舞えば倒すのは簡単だったのだが。エルフィ軍も前回の教訓から結界とかパワードスーツとかでガス対策をしてたし、そもそもロボットのセブンガーには無意味だったしな。

 

 その後はセブンガーが相手をしていたツルク星人三体を流れ作業で撃破した訳だ……確かにツルク星人の殺傷に特化した剣技は二段攻撃とかが出来たりするレベルではあるのだが、所詮は近接距離でしか使えないので光線技による遠距離攻撃に徹すればそこまで苦戦する相手では無かったからな。連中の刃を受け止められるセブンガーが前衛に居てくれたのもあるし。

 ……そうして俺がツルク星人とノーバを撃破している間にエルフィ軍の方も巨大ロボットを撃破した事でテロリスト達は戦意を喪失して、その殆どが捕縛されたって感じだ。後で聞いた話だと例の禁断の巨大ロボットはあらゆる魔法を無効化するみたいな能力を持っていたらしいけど、所詮は魔法全盛期の時代に作られた物なので銀河連邦に加盟して得た機械技術で作られた兵器なら普通に倒せたのだとか。

 

 街の被害はそれなりで出たが厳戒態勢が敷かれていたから住民の避難がスムーズに進んだ事と、ノーバの凶暴化ガス対策の結界が避難所に展開されていた事によって一般市民の犠牲はゼロに抑えられたのも良かったな。軍や政府の人にも感謝されたし。

 ……捕縛されたテロリスト達はエルフィ軍に任せるとして、俺も任務が終わった以上は宇宙警備隊に戻らねばな。とりあえずお世話になったシャルルさんとアスフィさんに礼を行ってから帰ろうか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月○日

 

 とりあえずエルフィ星での任務を終えて支部に帰還、それからいつも通り報告書の提出コースをこなし終えたらまた任務を言い渡された……と言っても宇宙保安庁の通常業務であるパトロールなんだが。

 ……ちなみにわざわざ通常業務を任務にしたのは、現在宇宙保安庁が超絶ブラック労働の全力営業中で優先度の低い通常業務であるパトロールを任せる人材がおらず、それを補う為に新人の俺にかなりの広域パトロールをさせたいかららしい。パトロールのやり方は先輩に教えてもらったし周る場所も教えてもらったからどうにかなるだろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月◉日

 

 そう言うわけで早速パトロールに出掛けよう! ……と思ったんだが、その直前に親父に声を掛けられた。何でも地球にいるヒカリさんが後をメビウスに任せて宇宙に行くらしいので、前にも言っていた通り宇宙警備隊に勧誘(就職根回し済み)するから付いてきてほしいそうだ。

 ……何でも以前ヒカリさんと戦ったりしてから俺はそのまま地球を離れたし、一度キチンと話しておいた方が良いだろうって親父が提案して来たんだよな。

 まあ、彼の性格からして結構気に病んでそうだし一度話しておいた方が良さそうではあるな。この日記を書き終わったら出発だ。




あとがき・各種設定解説

アーク:仕事仕事仕事
・尚、本人はあっさりと倒しているがツルク星人三体とノーバはレオ本編に出てきたのと同じぐらいの実力。

エルフィ星:モチーフは安直にファンタジーお約束の『エルフ』
・文明的にはなろう的魔法系ファンタジー世界が宇宙進出可能なぐらいに発展した感じで、住民の殆どが魔法を使えたり魔法ベースの機械が発展していたりと結構なもの。
・……だが、そもそも40メートル級の怪獣や宇宙人が跋扈するこのM78スペースでは個人戦力的には下の方なので、今は銀河連邦に加盟しながら独自技術である魔法関係の物品を輸出したりしている。
・今回の一件でテロリストは一掃出来たので今後はより銀河連邦との繋がりや加盟国との交流を重視する予定で、アークと宇宙警備隊にも感謝状とか出した。


読了ありがとうございました。感想・評価・誤字報告などはいつでもお待ちしております。


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宇宙警備隊員アークの日記・Ⅲ

 △月□日

 

 とりあえずヒカリさんは宇宙警備隊に無事入隊する事が出来たぞ! ……何故か地球を離れたヒカリさんにいきなり【宇宙大怪獣 ベムスター】が襲い掛かったりしたけど、親父とヒカリさんのタッグに無事倒されたから特に問題はなかった。

 ……しかし、ベムスターの『吸引アトラクタースパウト』に対して許容量以上のエネルギーを撃ち込んで破裂させるとか、本当にヒカリさんは科学技術局出身とは思えない戦闘能力してるよね。

 

 ちなみに俺はもう一体いた別のベムスターを相手にして、アークブレードやウルトラスパークなどの吸収されない攻撃でどうにか撃破した……のだが、そこへ更に三体目のベムスターが現れて俺達を無視して地球圏へと行ってしまったのだ。

 ……まあ、残り一体はメビウスとCREW GUYSに任せようと親父とヒカリさんが言ったので追撃はしなかったが。本来地球圏に入ったヤツの相手は彼等の仕事だしな。

 

 後、ヒカリさんと再会した時には†ハンターナイトツルギ†時代に俺を攻撃した事についてしこたま謝られた……なんかこう土下座する勢いでめっちゃ頭を下げられたので、逆に申し訳なくなるぐらいだったな。

 ……とりあえず俺は特に気にしていないという事の熱弁しつつ、ヒカリさんに攻撃された事でトレギアさんが凹んでたのでそっちにも謝っておいてほしいと言っておいた。

 それを聞いたヒカリさんも『彼にも謝らねば』と言っていたし、親父が気を利かせて宇宙警備隊入りの登録や科学技術局との引き継ぎ関連の処理の為にヒカリさんを光の国へと一旦向かわせてくれたしこれで大丈夫だろう……多分。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月△日

 

 今日はパトロール中に道に迷っていたザンドリアスを我が子を探していたマザーザンドリアスの下へと送っていった……のだが、更にその弟のベビーザンドリアスまで居なくなったと聞いて一緒に探す事になってしまった。

 まあ、マザーには自分の子供を探知する能力もあるみたいで普通に見つかったのだが、運悪く遭遇したのか【昆虫怪獣 ノコギリン】に追い回されていたのだ!

 ……最も成長途中の小さい個体だったので俺とマザーが近づいて来た時点であっさりと逃げてしまったけどな。とりあえず親子を再会させる事には成功したので、彼等は俺にお礼を言ってから去っていったとさ。

 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月▽日

 

 今日は先日遭遇した【昆虫怪獣 ノコギリン】が宇宙の一角で大繁殖して近くの惑星の生物を食い尽くして生態系を滅茶苦茶にしようとしている! ……という報告がパトロールルート内の他の宇宙警備隊員から寄せられたので、そちらの援軍に行く事になった。

 ……その惑星は宇宙でも希少な生物が多く住んでいる事もあって銀河連邦から保護惑星に指定されており、その生態系が全滅する事は宇宙警備隊的にも見過ごせないので近くにいた隊員に緊急招集を掛けた感じだな。

 

 それでその保護惑星『イリーネ星』へとやって来た俺が見たものは……数千に達する数のノコギリンが惑星を覆い尽くそうとしている光景だった。流石に思わず絶句してしまったよ。

 ……幸いその殆どが小型のままだったので俺を含む複数の宇宙警備隊員の光線を掃射する事によって倒せたのだが、中には怪獣サイズにまで成長した個体も何匹かいた為かなり苦戦してしまった。

 とりあえず俺と援軍に来てくれたジャックさんとマックスさんが成体のノコギリンを相手にしながら、他の隊員達や援軍に来てくれた銀河連邦の戦力で早急に小型ノコギリンを掃討して、それが終わった後に残った成体を総掛かりで倒すという戦術でどうにか対処する事が出来たのだが。正直マックスさんが十人ぐらいに分身してくれなかったら危なかった。

 

 それで、その後の事後処理やノコギリン大量発生の原因究明とかはマックスさん達文明監視員の人達や銀河連邦の環境保護組織の人達がやってくれるそうなので俺はそのまま帰る事になった。

 ……この事件が今現在宇宙を騒がしてる『エンペラ軍団』に関わりがあるかは分からないな。このぐらいの事件ならこの宇宙だと割と良くある事だし。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月▼日

 

 今日はパトロールの合間を縫って先日見たマックスさんの分身能力を練習してみる事にした……理屈に関しては自身の体内の光エネルギーをベースに存在情報を複製する感じらしいのは分かってるし、分身出来れば人海戦術で仕事も少しは楽になるのではという考えもあった。

 ……まあちょっと試してみた所、思った以上にエネルギー消費が激しい上に分身の制御にまで意識を割かねばならないので難易度が高く、仕事を楽にする為には使えない事が分かったが。そこまで都合のいい技ならマックスさんももっと使ってるよなという話である。

 結局は任務の合間で習得出来る様な技ではないと分かったので、いずれ暇が出来た時に思い出せば練習するのも悪くないだろう……そんな日が来るかは知らないが(現在のブラック労働を眺めつつ)

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月▶︎日

 

 今日はパトロール途中でハーシー大彗星に乗ったピッコラ星雲の王子と遭遇して、何故かめっちゃしつこく声を掛けられた……何でも旅の途中で暇だったので偶々見かけた俺に声を掛けてきただけらしい。

 ……流石に他の星の王族相手に無礼な事は出来ないので丁重に扱ったが、正直言って小市民の俺にはどうやって王族をもてなせばいいかよく分からなくて少し困ってしまった。

 

 幸いピッコロ王子は多少しつこい所はあっても普通に善良な性格であり、更に昔地球でタロウ教官と出会った事があるらしかったのでその辺りの話をして結構盛り上がった……特に光の国で俺がタロウ教官に教えを受けていた事に凄く食い付いて来たな。

 ……うん、でも光線技の実演ぐらいはいいんだけど『宇宙でも話題になっているタロウの必殺技のウルトラダイナマイトを見せてくれ!』はちょっと……アレ寿命も減るしエネルギー消費も激しいからあんまり使いたくないんだけど。自爆戦術とかあんまりやりたくないし。

 

 最終的にはハーシー大彗星さんが取りなしてくれた(彼? は意思を持つ彗星でテレパシーで会話も可能)ので自爆する事は無かったし、王子さまの方も事情を説明したら『無茶振りしてごめんね!』と謝られたので別にいいんだけど。

 ……だが、そうしたら『じゃあ宇宙に名だたる宇宙警備隊の仕事を見学したい!』と言われてしまった。悪意とかは一切無く『立派な王子になる為の社会勉強がしたいんだ!』と言われてしまうと断りにくくてねぇ。

 

 最終的にはハーシー大彗星さんを含めたすったもんだの話し合いの末に『決して仕事の邪魔にならない範囲で付いていく。自分の身は自分で守る。危なくなったらすぐに逃げる』という事を王子に約束させて、彼はしばらくの間だけ俺のパトロールに付いて来る事になった。

 ……一応、支部にはウルトラサインで報告しておいたけどホントどうなる事か……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月◁日

 

 支部からは『任務に支障が出ない範囲なら』と許可を得たので、とりあえずハーシー大彗星さんに乗ったピッコロ王子を連れてパトロールをしていたのだが、幸いと言うか何というか今日は特に何事も無く宇宙を見回るだけで終わった。

 王子は何もなくてつまらないと愚痴っていたが、俺とハーシー大彗星さんが『宇宙警備隊の任務がなくて暇なのは宇宙が平和な証拠』と言って聞かせたので、ちゃんと不謹慎な事を言ってごめんねと謝られた。

 ……彼は他の人間の意見を素直に聞いて謝る事も出来ているので、将来はいい王様になれるんじゃないかなと思った。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月◇日

 

 今日も王子を連れたパトロールハーシー何事も無く終わった……のなら良かったんだけど、王子を誘拐しようとしてその身柄を確保しようとした【バルキー星人】【カタン星人】【バイブ星人】で構成された(自称)エンペラ軍団の一派が襲い掛かって来たのだ。

 連中はまずカタン星人の目潰し閃光『アイ・アタッカー』で俺の目を潰した隙に透明化したバイブ星人の手で王子を確保しようとしたのだが、何故かあっさりと透明化を見破った(後で聞いたら彼は悪意を感知出来るらしい)王子のハンマーでバイブ星人はぶっ飛ばされたのだ。

 ……ただ、不覚にも俺はカタン星人の目潰しを完全には防ぎきれなかったので視覚が余り効かない状態で戦わざるを得ず、とりあえず“困った時のセブンガー”を出してどうにか凌いでいる状態だったのだ。

 

 加えて残っていたバルキー星人が【円盤生物 ブラックドーム】を繰り出して、更に吹っ飛ばされたバイブ星人も復帰したので戦局は不利な状態となったので、俺はヒーリングによって急いで視界を回復させつつ王子に逃げる様に言った……のだが、彼は『君を見捨てては行けないよ!』と言って戦う姿勢を見せたのだ。

 ……なので、ハーシー大彗星さんに『俺単独なら四対一でもどうにかなる(本音)ので行ってください』と言って、何か騒ぐ王子を無理矢理戦線離脱させる事に成功したのだ。

 

 そうして王子が離脱すると同時に俺の視界も回復したので、ハーシー大彗星さんを追おうとした連中を足止めしつつ戦う事になった……まあ、所詮はチンピラに毛が生えた連中と直接戦闘能力が高くない円盤生物なので、護衛対象がおらずセブンガーとタッグを組めば戦えない程でもなかったが。

 ……具体的には性懲りもなく再び目潰しを仕掛けてカタン星人に対してウルトラディフェンダーで光を防ぎながら殴り飛ばし、透明化してきたバイブ星人は光線を変形させた無数の極小光球を周囲に撒き散らして対処し、普通に手に持った刃で斬りかかって来たバルキー星人には普通にカウンターを食らわせ、ブラックドームはセブンガーに任せると言った具合に互角の勝負を繰り広げたのだ。

 

 そんな風に比較的有利に戦いを進めていた俺だったが、その戦いの趨勢を決定付けたのは何故か戻ってきたハーシー大彗星&ピッコロ王子……そして彼らに連れられてやって来たタロウ教官だった。

 ……後で聞いた話だと最近宇宙が物騒になっているからピッコラ星雲の王様が安全の為に旅をしている息子を連れ戻せと命令が下されたのだが、母星からハーシー大彗星まで通信が届かなかったので手の者を派遣して探していたらしい。

 その過程で宇宙警備隊にも問い合わせていたのだが、そこに俺の出したウルトラサインによって王子が俺と一緒にいる事が伝わったので面識のあるタロウ教官が派遣され、その途中で逃した王子と遭遇して事情を聞いたタロウ教官がこちらに来たという訳な様だ。

 そうして合流したタロウ教官と俺は改めて誘拐未遂犯共と戦った訳だが……そもそも俺一人に互角程度の連中相手にウルトラ兄弟の一角であるタロウ教官が参戦した以上は戦いの趨勢は決まったも同然であり、三人の宇宙人はボコボコにされた上で逮捕、ブラックドームも教官のストリウム光線で粉々に吹き飛ばされた事によって戦いは終了したのだった。

 

 そうして連中を片付けた後は報告を受けて援軍に来てくれた警備隊員に誘拐未遂犯を引き渡してから、俺と教官でピッコロ王子とハーシー大彗星さんをピッコロ星雲へと送り届ける事になった……その時にちょっと王子がゴネたがハーシー大彗星さんとタロウ教官が説得した事で渋々ではあるが納得してくれたな。

 それで手早くトゥウィンクルウェイを開いてピッコラ星雲まで王子を送り届けた事で今回の一件は無事に解決したのだった……別れ際に王子から『今度暇があったらウチの星に来てくれ! 歓迎するよ!』と言われたので、タロウ教官と一緒に機会があれば是非と答えておいた。

 ……機会があるかは分からないが、今後機会を作る為に今は任務を頑張ろうか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▲月◉日

 

 今日も今日とて宇宙をパトロールする日々……だったのだが、いきなりタロウ教官から『惑星ジャルマで違法な兵器売買をしている【ドルズ星人】の一派の動きを掴んだので、連中を捕らえるのに協力してほしい』という援軍の要請が来た。

 ……ドルズ星人は宇宙警備隊でもその“所業”から凶悪犯罪者としてマークされており、どうもタロウ教官は個人的にも因縁があるからこの機会に是非とも捕まえたい様だ。

 

 更に捕まえたエンペラ軍団を尋問したら何人かが『ドルズ星人から兵器や円盤生物の供給を受けた』と証言しており、おそらく連中はエンペラ軍団の補給役を担っていると推測されており、おそらく黒幕に近い位置にいる者とも繋がりがあるのではないかと推測されている様だ。

 ……最近は宇宙警備隊や銀河連邦の活動で宇宙で起きている事件もどうにか小康状態になっている様だし、ここらで事件の黒幕に迫っておきたいと親父を始めとした上層部は考えたみたいだな。

 

 そうして、これまでの調査で黒幕に繋がっている可能性が高い案件に復帰したウルトラ兄弟を中心とした大戦力を向かわせて連中の尻尾を掴もうとしているみたいだな。

 ……でも、俺は新人なんだけどなとも思ったが、動かせる戦力に限りがあるから仕方ないんだろうと思い直してタロウ教官と合流する為に惑星ジャルマまで向かったのだった。黒幕に繋がる情報が得られればいいんだが……。




あとがき・各種設定解説

アーク:メビウス本舗の裏側で色々な事件に遭遇してる
・尚、普通だと一人の宇宙警備隊員が短時間でここまでの事件に遭遇するのは稀なのだが、今回は宇宙中で事件が起きているので遭遇率も上がっている。
・また、他の警備隊員がそちらに掛り切りなので、それら関係ない案件が広域パトロールをしているアークにぶち当たっている感じでもある。

ピッコロ王子:アークの新しい友達
・以前まではワガママな旅好き放蕩王子だったが、地球での経験とタロウとの出会いによって今では大分素直になって宇宙を巡って見聞を広める事も含めて旅をしている。
・まあ、それはそれとして大した護衛も付けずに宇宙中を旅するフリーダムっぷりは相変わらずなので、王様は頭を痛めていたり。

ヒカリ:この後ちゃんとトレギアに攻撃した事を謝った
・ただ、トレギアが気に病んでいるのは『ヒカリから攻撃された事』では無く『ヒカリ程の者でも闇に堕ちてしまう事』であり、『そんなウルトラ族が宇宙の番人を気取っていていいのか』という事なので……。


読了ありがとうございました。
実のところトレギアはヒカリに攻撃された事自体は大して気にしていないのです。正史ではヒカリが闇堕ちしたという事実を聞いただけで出奔してますし。それ自体が以前から思っていた“悩み”を確信に変えてしまったのが最大の問題なのです。


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第5章 第二次ウルトラ大戦争編
惑星ジャルマへ:暗黒の軍勢


 惑星ジャルマ──そこはつい最近銀河連邦に加盟した惑星であり複数の交易系惑星の航路の中心部に位置する為、それらの惑星を往還する宇宙船の中継地として使われている星なのだ。

 実を言うと惑星ジャルマはほんの少し前までは惑星内の国家統一や宇宙開発なども進んでいない『未発達文明圏』扱いだったのだが、上述の理由でその時期に多くの不法侵入宇宙人がおり、それによって起きた様々な事件や流入した技術によって文明が急速に発展して銀河連邦に加盟出来る国家へと至ったのである。

 ……最も、早期の銀河連邦への加盟にはジャルマを中継点とする各交易系惑星からの圧力があったとか、急速に過ぎる技術発展と国家統一によって社会体制の整備などが追いついていないとか言う世知辛い実情もある様だが。

 

「……それでタロウ教官、例の【ドルズ星人】の一派が惑星ジャルマで活動していると?」

「ああ、捕らえた『エンペラ軍団』の証言と宇宙情報局・保安庁の調査によって判明したのだ。……連中は以前から宇宙警備隊全体で追っていたのに補足出来なかったからな。出来ればこの機会に捕まえておきたい」

 

 そんな事を話したタロウ教官は宇宙情報局・保安庁が集めた【ドルズ星人】に関する資料を俺に渡して来た……資料によるとドルズ星人の本星『ドルズ帝国』はM88星雲にあるとされているが、そこに存在するのは彼等が支配下においた惑星とその住民のみでヤツらの本拠地は存在しないらしい。

 ……じゃあその本拠地が何処にあるのかと言うと、どうやらM88星雲と同じ座標軸の()()()()に存在しているらしく、更に特殊な次元バリアが展開されている所為で宇宙警備隊ですら本拠地への侵入が不可能になっているそうだ。

 

「加えてドルズ星人は暗黒宇宙と通常の宇宙を自由に行き来する事が出来る特殊な技術を持っていてな、犯罪行為の殆どを部下か()()()()()()()()()にやらせている事もあって補足する事がほぼ出来ていない状態なんだ」

「基本的に暗黒宇宙にある本拠地から指示だけ出すやり口みたいですからね。暗黒宇宙を介してこちらの宇宙の距離を無視して通信・移動する技術もあると書かれてますし」

 

 そもそも殆ど実宇宙に出てこない上、出て来ても部下か改造・洗脳された者、仮にドルズ星人自身が出て来たとしても危険があれば直ぐに暗黒宇宙へと引っ込んでしまうと言った具合なので、どれだけ凶悪犯罪を犯しても宇宙警備隊や銀河連邦が手出し出来ないという状態に陥っている様だ。

 ……この資料を見るだけでもドルズ星人のタチの悪さがよく理解出来るな。帝国の方を攻略しようにも壊滅しても問題ない替えの効く人員や設備しか置いてない上、犯罪に加担しない一般市民も普通に暮らしてるから攻め込んだら本格的に戦争になるし。宇宙警備隊が惑星国家自体への戦争とかは許されないからなぁ。

 

「……だが、そんなドルズ星人が自ら直接出向いてエンペラ軍団の幹部と取引を行うという情報が得られたのだ。この惑星ジャルマでな」

「用心深いドルズ星人ですら直接出向かなければならないとは、エンペラ軍団の黒幕はそれ程の相手なのか。……しかし、余りにも都合が良すぎるので罠と言う可能性は?」

「その可能性も考慮しているが、そもそも『エンペラ軍団』の黒幕への情報が殆ど集まっていない以上は例え罠であっても踏み込む必要がある。……無論、もし罠だった時の事も考えて惑星ジャルマの治安維持機構の協力も極秘裏に取り付けたし、更に何人かベテランの隊員と銀河連邦からの援軍も来てくれる事になっている」

 

 ……尚、現在絶賛ブラック労働中の宇宙警備隊ではあったが、俺みたいな新人隊員を働かせたり銀河連邦と協力する事で、こっそりと黒幕を捉える為の戦力を確保出来る様にしていたらしい。

 

「この惑星ジャルマは今では様々な人種の坩堝と化しているからな。実際社会体制の整備が追いついて居ない所為で色々な犯罪組織が裏に入り込んでいる様だ。……ジャルマの治安維持組織の調査だと、そこでドルズ星人と思われる者達が『超人になれるドラッグ』を販売していると言う情報が入っている」

「超人になれる薬……ですか?」

「ああ、服用した人間に超人的な身体能力や何らかの特殊能力を付与する薬の様だな。……どうもジャルマ人で構成された現地の犯罪組織に売り付けているらしい」

 

 資料によると密入星した超常的な能力を持つ宇宙人の犯罪組織に対して、ただのヒューマノイドタイプでしか無い現地の犯罪組織が次々と駆逐されたか傘下に入っていったらしい……そこに目を付けたドルズ星人が追い込まれた現地の犯罪組織に『超人薬』を売り込んだと言うのが真相の様だ。

 ……最もドルズ星人は超人化した犯罪組織にやられた宇宙人側にも武器を販売したりしているみたいである。完全に互いを争わせて高みの見物しながら自分だけ儲けるクソムーブですね。

 

「今回の目的はドルズ星人の確保と可能ならば黒幕の捕獲または撃破。最低でも黒幕の情報は得ておきたい」

「分かりました、それで俺は何をすれば良いんですか?」

「アーク、お前は今回予備兵力として動いてもらう。連中の捜索は既に現地治安維持組織と調査に長けたベテラン隊員や銀河連邦からの協力者が行なっているが、これまで何度も煮え湯を飲まされ続けてきたドルズ星人に、未だに失敗を掴ませていない謎の黒幕相手だからこちらの動きが読まれている可能性もある」

 

 そういう訳だから俺は惑星ジャルマに入った後は敢えて目立たない様に潜伏しながら、何かあった時の為の遊兵として動いてほしいって事らしい……まあ、調査関係では余り役に立てなさそうだが、いざと言う時に動かせる戦力としてはそれなりに働けるかな。

 ……そうして俺はドルズ星人とエンペラ軍団の“黒幕”を捕まえる為に惑星ジャルマへと入っていったのであった。

 

 

 ──────◆◆◆──────

 

 

 ……この宇宙の殆どの者が知らない場所にある宇宙船の内部、その黒い円卓がある一室に現在宇宙を騒がせている『エンペラ軍団』の裏で糸を引いている者達──【皇帝】の真なる配下である『暗黒四天王』である知将【メフィラス星人】、豪将【グローザム】、謀将【デスレム】の三名の姿があった。

 

「それでメフィラスよ、新しく“邪将”の座に付いたヤプールは何やってんだ?」

「ウルトラマン達にやられたダメージを回復させる為、私が渡したマイナスエネルギーで回復している所ですね。しぶとくて執念深い事がヤプールの最大の取り柄ですから直ぐに復活するでしょう。……しかし、貴方がヤプールを気にかけるとは珍しい事もあるんですね」

「勘違いするな、俺はヤプールが皇帝陛下に不利益な行動をしていないか気になっただけだ。……ヤツは皇帝陛下には圧倒的に実力差から忠誠を誓っているが、俺達他の四天王の事など事が済んだら始末すれば良い邪魔者としか思っていないだろう」

「まあ、明らかに『コイツらも後で超獣に改造して配下に加えてやる』みたいな視線でこっちを見てましたからねぇ」

 

 ……最も同じ四天王とは言え仲間同士の信頼関係など微塵もなく、そこにあるのは僅かでも隙を見せた相手から食い殺そうとする様な暗黒の意思による張り詰めた緊張感だけだったが。

 

「まあ、新人“邪将”の事は今は置いておきましょう。どうせウルトラマン達への鉄砲玉として使えれば良いと思って入れただけですし。……態々『エンペラ軍団』などと言う名前まで貸して暴れさせたチンピラ共や、散々事件の火種になりそうな所に“火”をつけて回った私の部下のお陰で今や宇宙は大混乱、宇宙警備隊も絶賛ブラック労働中です……デスレムさん、例の戦力の準備は?」

「【インペライザー】【ロベルガー】共に暗黒宇宙内の工場で順調に量産が進んでいる。両者共既に約()()()の生産が完了しているな。……後は皇帝陛下の号令があればいつでも“戦争”を始められる」

「好き勝手『エンペラ軍団』を名乗る様なクズ共では無く、俺達“真なる皇帝の配下”が動く時が来たか。……ようやく我らが皇帝陛下が宇宙に覇を唱える機会がやって来た様だな」

 

 そう言ったグローザムは不敵な笑みを浮かべながら戦意を立ち上らせ、メフィラスとデスレムは手元にホログラムを展開して自軍の戦力となる強力な兵器群の量産体制や出来を確認していった……そうして彼らがこれから起こす“戦争”の為の準備をしていた所で、突如として彼らが囲んでいた円卓の中央から恐ろしい程の暗黒のオーラが噴き出して黒い炎で出来た“影”を形作ったのだ。

 ……それを見た彼らは即座に作業を停止して“影”──彼らの主人である【暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人】が作り上げたオーラによる分身へと跪いた。

 

『……“戦争”の準備は整った様だな。“邪将”はどうした?』

「は、今はマイナスエネルギーを与えて休ませておりますが、直ぐに呼び出しましょう」

 

 ……そんな桁外れの暗黒のオーラを発するエンペラ星人の問い掛けに対し、あのメフィラスでさえ少し慌てた様子で直ぐ様異次元で治療中だったヤプールの思念体を呼び出した……当然、呼び出されたヤプールの思念体も皇帝陛下のオーラを感じ取って即座に平伏した。

 

『……この様な姿で申し訳ありません、皇帝陛下』

『よい。……それで“知将”よ。戦争の準備と策の方は?』

「戦力としては量産された【インペライザー】【ロベルガー】といった兵器群と我ら暗黒四天王及びその配下、そして皇帝陛下御自らになります。……ですが宇宙中で事件を起こす事で宇宙警備隊と銀河連邦の戦力を分散、そちらに釘付けにする事に成功しておりますので、今ならば銀河連邦主要惑星を始めとする重要施設を攻め落とす事は容易いでしょう」

 

 これまで宇宙のチンピラに『エンペラ軍団』などと言う名前を与えて暴れさせたのは、その宇宙警備隊が無視出来ない名によって彼らの戦力を分散させる事、そして主戦力である兵器群の量産を行う為の時間稼ぎ及び目眩しが目的だったのである。

 ……そう、今までの宇宙で起きた事件の全ては彼等『暗黒の軍勢』がこれから行おうとする“大戦争”で勝利する為の布石でしかなかったのだ。

 

『ならば、我ら暗黒の軍勢が光の者を討ち倒して宇宙を闇へと染める()()()を再び始めるとしよう。……手始めに戯れとして光の国()()のヤツらが守ろうとしている物を全て闇へと堕とし、光が如何に無力なモノなのかを宇宙に知らしめるのだ』

「では、銀河連邦主要惑星の殲滅はこの不死身のグローザムにお任せを。【インペライザー】と【ロベルガー】を幾らか貸していただければ、我が配下と共に惰弱な銀河連邦なぞ容易く滅ぼしてみせましょう」

 

 そのエンペラ星人の『大戦争』の開始を告げる言葉に、まず『豪将』グローザムが戦意をみなぎらせながら自信満々にそう答えた……都市一つ程度なら容易く凍結させ、更に肉体がバラバラになろうとも即座に元通りになるレベルの再生能力を持つグローザム。

 そして彼が一体一体がウルトラ戦士に匹敵する戦闘能力を持ち、再生能力を備えた高級品であればウルトラ兄弟でも倒すのは手間取る【インペライザー】【ロベルガー】を率いるならば銀河連邦の主要惑星を滅ぼす事も出来るだろう。

 

「それでは私は『謀将』らしく現在の銀河連邦に不満を持っている連邦内勢力をこちら側に寝返らせるとしましょうか。既に不満を持つ勢力はリストアップ済みですし、グローザムの殲滅がうまくいけばこちらに寝返る者も増えるでしょう」

『よかろう』

 

 それに続いて『謀将』デスレムが銀河連邦内への調略を行うと宣言した……これまで『エンペラ軍団』が起こした事件によって宇宙で燻っていた様々な火種が表に出始めており、四天王の中で最も悪辣なデスレムはそれに漬け込めば銀河連邦加盟勢力を裏切らせる事も可能だと考えていたのだ。

 

『……ウルトラマン共が贔屓にしている地球の攻略は私が行います。私自身の傷はまだ治っていなくとも配下の超獣は未だ健在です。必ず地球を闇に堕とし、忌々しいウルトラマン達を血祭りに上げて見せましょう』

『地球……光の者共が贔屓にしていると言う辺境の惑星か。……良いだろう、存分にその恩讐を果たすが良い』

 

 更に『邪将』ヤプールが地球とウルトラマンへの怨念を剥き出しにしながらエンペラ星人にそう提案をした……エンペラ星人自身としては地球にそこまでの興味は無かったが宿敵である光の者達が贔屓にしている星を闇へと堕とせば連中へ屈辱を味あわせられるだろうと考え、加えて目の前のヤプールの憎悪の度合いならば十分な座興になるだろうと思って許可を出した。

 

「私は『エンペラ軍団』からそれなりに使えそうな者を勧誘して手駒にしましょうか。【ドルズ星人】の様な“協力”が出来そうな勢力もいますしね。……それらの戦力を使って宇宙警備隊にはとにかく負担を掛け続けて自由に動けなくさせましょう」

『『エンペラ軍団』とやらの策は貴様が考えたモノだ。好きにせよ』

 

 そして最後にメフィラス星人が薄い笑みを浮かべながらそう言った……彼の策は徹底して宇宙警備隊の動きを制限しながら味方を増やす事に終始しており、その為に様々な布石を打っているのだ。

 ……無論、惑星ジャルマに於けるドルズ星人との会合も策の一つである。

 

『では暗黒四天王よ、今これより“大戦争”を始める。……光の者達をこの宇宙から駆逐し、真なる永遠の闇を齎すのだ』

「「「『ハハッ!』」」」

 

 ……そのエンペラ星人の言葉によって、後に全宇宙を震撼させる事となる第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)が幕を上げたのだった。




あとがき・各種設定解説

惑星ジャルマ:銀河連邦のちょっとブラックの部分が出た星
・要するに銀河連邦的に都合のいい星を“合法的に”連邦入りさせる事はそれなりにあるという事。
・最も征服では無くあくまでキチンと惑星国家として独立させた上で連邦入りさせている上、その惑星も“全体としては”発展して裕福になっているので“余り”文句は出ないのだが。

ドルズ星人:タチが悪い上に技術力も勢力も高い
・暗黒宇宙に本拠地があるとかの設定は原作でゲスい事をしながら高みの見物をしているのに宇宙警備隊が捕まえられなかった所から、当然このぐらいの技術を持っているだろうと考えたからです。
・超人になる薬は漫画『ULTRAMAN』が元ネタであり、“生物の改造”に長けたドルズ星人の主要製品の一つ。

暗黒四天王&暗黒宇宙大皇帝:遂に本格始動
・四天王はお互いに仲間意識などカケラも無いのだが、皇帝という絶対強者の機嫌を損ねない為に最低限の連携はする模様。
・皇帝自身はまずは戯れに配下を嗾ける気+“鎧”の調整とかがあるので基本的に暫くは動かないつもり。


読了ありがとうございました。
第二次ウルトラ大戦争に関しては『メビウス』本編でタロウが無理矢理連れ戻そうとしたり、エンペラ星人の配下が来てるのにウルトラ兄弟が一人ずつしか援軍に来れなかった所から『同時期に宇宙では更にヤバい事が起きている』と考えた末の設定です。


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赤い靴の少女

「……さてさて、とりあえず惑星ジャルマの首都にやって来た訳ですが……あ、そこのファントン星人のオッチャン! 串焼き一つ下さい!」

「へい! 串焼き一つお待ち!」

 

 現在惑星ジャルマでに潜入任務中である俺こと宇宙警備隊員アークは、大通りの脇で屋台をやっていたファントン星人から串焼きを一本買って食べながら街を歩いていた……ふふふ、これぞ地球での任務で磨いた現地潜入術『とりあえずお気楽な旅行者のフリをしとこうぜ』だ。

 誰も道で串焼きを食べ歩きしている男が宇宙警備隊員だとは思うまい……流石食へのこだわりが凄いファントン星人だな。屋台の串焼き一つに物凄い手間が掛かっているのが分かるぐらい美味い。

 

(しかし、先程のファントン星人と言い、ヒューマノイドタイプへの擬態もせずに街中にいる非ヒューマノイドタイプの種族がチラホラいるな。報告にあった通り多くの宇宙人が合法的に入星して暮らしているってのは本当の事みたいだな)

 

 実際、道を歩いていると見覚えのある宇宙人が普通に歩いていて、それを見たヒューマノイドタイプのジャルマ人も特に気にしていない事からそれを当たり前の物として受け入れているのが分かる……ちなみに俺は潜入用に擬態精度を最大にした人間態を取ってるけど。

 確か惑星ジャルマが銀河連邦に加盟したのは“三十年前”で宇宙進出と惑星外との交流が始まったのはその“二十年前”だったから、僅か五十年程で少なくとも首都では普通に他惑星との交流が出来る環境に整えたという事になるか。

 ……正直言ってこれは宇宙的に見ても物凄く早い事なんだよな。他惑星との交流が始まった最初の頃は常識や価値観の違いで色々と問題が起きて、それを一つ一つ解決していく事で宇宙社会で通用する文明にしていくんだが。

 

(少なくともたった五十年ちょいで()()()は異星人を普通に受け入れられる環境にするとはね。資料によると最初に遭遇した異星人が銀河連邦所属の穏健な種族で、その後に交流があった者達も過激なのが殆どいなかったのも理由としてあるみたいだけどさ。……この星を星間貿易の中継点にしたい銀河連邦所属勢力の思惑で、某地球みたいに過激派な異星人が来ないよう牽制されていた面もあるみたいだが)

 

 まあ、結果として惑星ジャルマは星間貿易の中継地点として商取引や観光業などで栄え、異星人が街中に居るのが当たり前になるレベルでえ非常に早く宇宙社会に進出する事が出来た訳だが……その分だけ異星人の犯罪者が入り込み易くなったみたいだな。

 ……最もそう言った異星人に対応する為の防衛・諜報組織はちゃんと整備されており、今もタロウ教官達を含む銀河連邦のエージェントと協力して【ドルズ星人】の行方を捜索しているみたいだが。

 

(それでも社会制度の急速な変動に対応しきれていない面もあるみたいだけどね。タロウ教官も宇宙警備隊員や銀河連邦のエージェントが入り込んだ事は向こうに漏れてる可能性が高いと予想してたから、俺を極秘裏に潜入させたんだしね。……事が起きるまでは怪しまれない様に旅行者のフリをして待機なんだけど。俺の出番が来ないなら越した事は無いんだが)

「さて、それじゃあ次は……ん?」

 

 そんな風に考え事をしながら俺は人気の少ない道を歩いていたのだが、そこで前方から一人の少女が何やらフラフラした足取りで歩いているのが見えた……見た目は10歳ぐらいで金髪碧眼に水色の服とリボンを身に付けて“赤い靴”を履いているという、まあ何処にでもいそうな普通の少女ではだった。

 ……それ故に、そんな普通の少女が茫洋とした目をしながら足取りも覚束ない状態でこんな人気の無い道を歩いているのは明らかに不自然ではあったが。道にでも迷ったのかも知れないし、とりあえず声を掛けてみるか。

 

「おい、そこの少女、大丈夫か「……ばたんきゅ〜〜〜〜……」って、おいっ⁉︎」

 

 そう思って声を掛けた直後、その少女は突然地面に向かってぶっ倒れてしまったのだ……慌てて俺は少女の元へと向かって助け起こしながら無事を確認する為に呼び掛けた。

 

「おい! 君大丈夫か!」

 ……ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜……

 

 ……そうしたら少女のお腹からそんな音が聞こえてきた……ひょっとして空腹で倒れたのか? 

 

「……お、おなかすいた……たべもの……」

「まさかの行き倒れかよ。……しかしこんな少女が? とりあえず容態を……」

 

 そうして俺は念の為に擬態の精度を落としてから医療用に習った簡易検診能力『ウルトラメディカルチェック』よって彼女の身体情報を確認し……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「バクバクモグモグハグハグムシャムシャ!!!」

「……あー、ほら、そんなに急いで食わなくても食い物どっか行ったりしないから。もう少し落ち着いて食え」

 

 それから俺はとりあえずお腹が空いているらしい少女に飯を食わせる為に近くのレストランにやって来ていた……あー、もう口の周りがベトベトじゃん。ナプキンナプキン……。

 

「……ちょっと拭くからじっとしてろ」

「ンモ? ……ありがとうね、お兄ちゃん!」

 

 満面の笑みでそれだけ言った少女は再びテーブルに並べられたお子様ランチセットを食べ始めた……この様子だと食べ終わるまでは話を聞けそうに無いし、しょうがないから俺も注文したステーキセットを食べながら待つとするか。

 ……そうして暫くして少女がテーブルの上に乗った食事を一通り食べ終わってドリンクのクリームソーダをチビチビ飲み始めたので、俺はとりあえず少女から話を聞く事にした。

 

「それで、まずは名前を聞いておこうか。……ああ、俺の名前はアーク、只の旅行者(今の所)だよ」

「わたしはアリス! 8歳だよ! ……あ、ごはんを食べさせてくれてありがとうね! アークおじちゃん!」

 

 おじちゃん……年齢は大体7000歳ぐらいだけど、ヒューマノイドタイプ換算なら大体二十数歳ぐらいなんだけどなぁ。擬態の見た目もそのぐらいの年齢に設定してあるし。

 ……それはともかくとして、とにかく彼女──アリスの“事情”をなんとか聞き出さないとな。

 

「それじゃあアリス、君は何故あんな所に倒れていたんだい?」

「……うーん……わかんない! 気がついたらアソコにいて、歩きまわったらすごくおなかがすいてて……」

 

 そのアリスの話を一通り聞いた所、彼女は気が付いたらこの首都の街中に居たらしく、そのままずっと歩き続けていたら段々と疲れて空腹になって行き、丁度俺の目の前に現れたその時に倒れたと言う事の様だ。

 ……少なくとも子供らしく思った事を素直に話しているだけっぽい彼女からは嘘を付いている気配はしないし、おそらく俺の目の前に現れたのも“偶然”なのだろうが……。

 

「それじゃあアリス、君の住んでいた家とかご両親の事とかは分かるかな?」

「えーっとね、アリスの家はマンションの5階にあって、エレナおかーさんとケビンおとーさんと一緒に住んでいたんだよ! 同じマンションに住んでた“いーくん”や“ちーちゃん”と一緒に遊んだりした!!! それと今度から小学校に通うんだって!!!」

 

 子供だからか自分の興味がある事を話す上に時系列も色々と前後するので少し聞き取り難かったが、彼女はこの惑星ジャルマのマンションに両親と一緒に住んでいた何処にでもいる三人家族だった様だ。

 ……と、そこまで話した所でアリスは何かを思い出したかの様に不安そうな顔をして俯いた。

 

「……やっぱりわたしがまいごになったこと、おとーさんとおかーさんは心配してるかなぁ。……でもおうちの場所わからないし……」

「……なら、俺が一緒に探してやろうか?」

「えっ⁉︎ ほんとう、おじちゃん!」

 

 そんなしょんぼりとしているアリスを見かねて俺がそう提案すると、彼女は一転して顔を綻ばせながら前を向いた……と言っても、俺はこの惑星に来たばかりだし地理とかもさっぱりなのだが。

 ……“普通”このレベルの文明を持つ惑星であれば自動案内機能ぐらいはあるので問題にはならないのだが、彼女の場合は()()()()()だし下手にそういった物を“頼る訳にはいかない”から俺が付いておく必要があるだろうし……。

 

「……む、教官からか。すまないが知人から連絡が来たから少し席を外すぞ。大人しくここで待っている様に」

「はーい」

 

 そうこうしている内に()()()()()()()()()()()()()()()()()()タロウ教官から返信が来たので、俺は彼女に席に座って待っている様に言い含めてから店のトイレに向かっていった……クリームソーダをストローで飲むのに集中している彼女は生返事だったが、今はタロウ教官の“調査結果”の方が重要だしな。

 ……それにタロウ教官からの連絡を彼女に聞かせる訳にはいかないしな……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そういう訳で俺は店のトイレに行くと、辺りに人の気配がしない事を確認した上で空いている個室に入って通信に出た。

 

「……もしもしタロウ教官、アークです」

『ああ、私だ。……それで“例の少女の様子は?』

「とりあえずレストランに連れて行ってお子様ランチを食べさせておきました。今はクリームソーダを飲んでますよ。……ああして見る分には普通の少女にしか見えませんね……本当に」

『……そうか……』

 

 ……正直、今の俺の声音はさっきまでと違って内心の怒りを隠しきれていない物なのだろうが、こちらの“事情”を察してくれているタロウ教官はそれを咎める事も無くむしろ沈痛な声を出すだけだった。

 

「それで事前に送っておいた彼女──アリスの生態データから何か分かりましたか? 身元とか」

『ああ……お前から送られて来た指紋と顔認証データをこちらで惑星ジャルマの住民データバンクで問い合わせた所、該当するデータが見つかった。……彼女の名前は『アリス・ミラー』、父親である『ケビン・ミラー』と母親である『エレナ・ミラー』と共に()()()()()()惑星ジャルマの地方都市の一つに住んでいたとあった』

 

 少なくとも両親の名前は彼女が話していたそれと一致しているな……だが、“二十年前まで暮らしていた”という事はやはり……。

 

「……彼女から聞いた両親の名前と一致しますね。……それで、その二人は?」

『……データによるとミラー夫妻は今から()()()()に突如起きたマンションでの火災で死亡、その娘である“当時8歳”のアリス・ミラーは死体が見つからなかったので行方不明者扱いになっていた』

「やはりそうでしたか……」

 

 予想していた通りの報告とは言えアリスの笑顔を見た後だと心が痛いな……しかも、彼女に纏わる“最も重要な問題”はそんな事では無いからな……。

 

『……それで、そのアリス君の様子には本当に問題は無いんだな? ……()()()()()()()()()()()()()()?』

「少なくとも今の所は怪獣に変化して暴れるなどの異常は起きていませんし、彼女と会話して反応を見た限り自分が改造されている事は知らないみたいです。……それどころか火災で両親が亡くなった事も記憶に無い、或いは消されている様です」

 

 ……そう、最初にアリスに会った時に行ったウルトラメディカルチェックに於いて、俺は彼女の肉体が事前に見た【ドルズ星人】の資料にあった【うろこ怪獣 メモール】に改造されている事に気が付いてしまったのだ。

 ……無論、直ぐに俺はこの事をタロウ教官に伝えた後、資料によると【メモール】は凡そ五十時間後に怪獣化する時限機構が組み込まれている事を思い出して、万が一の時の為に彼女の側に付いている事にしたのだ。

 

「しかし、彼女の見た目の年齢は8歳のままでしたし、自分が怪獣である事の記憶も完全に無い様でしたが……」

『そこは【ドルズ星人】が何か細工をしたのかもしれん。……とにかく、こうなってしまった以上はお前の潜入調査任務も中止だ。彼女に関してはお前が暫く付き添って、万が一に備えてなるべく人気の多い都市部から離しておいてくれ』

「そちらで保護は出来ないんですか? 或いは彼女を元に戻す方法とかは……」

『……済まない。只の迷子の保護ならともかく、怪獣に変身してしまう人間を保護しておける施設や人員はこの星には無い。……加えてドルズ星人に改造された人間を元に戻す事は光の国の技術でも不可能だ』

 

 ……まあ、分かっていた事ではあるんだがな。一度改造された人間はドルズ星人自身ですら元には戻せないと聞くし……とりあえずドルズ星人のクソ野郎共は絶許(怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒)

 ……とりあえず惑星ジャルマ防衛軍の中でタロウ教官が手配してくれた信頼出来る人員と、彼女に『万が一の時』があっても対処出来る場所にある施設へ向かう様に指示を受けた。

 

「……分かりました、もし彼女に“万が一の時”があった場合には俺が()()します」

『……済まない、アーク』

「いえ、何とかする方法が無くはないですし……それにこのタイミングで【メモール】にされた少女が出た事が偶然とは思えません」

『ああ、ドルズ星人が我々の調査に勘付いて“何か”を仕掛けてきたと見て間違いないだろう。……ドルズ星人は必ず俺が然るべき報いを受けさせる。だからそちらも頼んだぞ』

 

 そうしてタロウ教官との通信が切れた後、俺は思わず顔に手をやって天を仰いでしまった……この宇宙警備隊員の仕事を志した時からこんな“胸糞悪い事件”に遭遇する事も覚悟はしていたんだがな。

 ……実際にこの手の事件に遭遇してみると本当に心が色々とキツい。世界はいつだってこんな筈じゃなかった事ばっかりだな。




あとがき・各種設定解説

アーク:只の潜入任務……の筈だった
・ウルトラマンお約束の偶にある胸糞悪い系ストーリーが始まってしまった人、平静に見えて内心では滅茶苦茶怒っている。
・アーカイブとかで胸糞系事件の情報も色々見てきたのだが、実際に遭遇するとなまじ頭が良いからかこの先の展開まで予測出来てしまい少々グロッキー気味。

惑星ジャルマ:結構発展している
・以前に銀河連邦所属惑星の強い働き掛けで連邦入りしたと言ったが、その働き掛けを行った星がその後もジャルマの社会秩序安定の為に色々と援助したのでこの様な発展を成せている。
・まあ、只の善意では無く独立させるだけして治安を悪化させて放置とかすれば悪評が立つから手を貸したとか、貿易の中継地としてある程度の発展や治安維持が成されておく必要があったという理由もあるが。
・その都合上、首都や宇宙港のある都市部を優先して開発して言ったので、地方都市などはやや発展が遅れている模様。

タロウ:現在はドルズ星人とエンペラ軍団幹部の動向を掴んだ所
・アークの方に人員を回せないのはドルズ星人に加えて現地の犯罪組織の一斉摘発に向けての準備に人員は割かれているからでもある。

アリス:赤い靴履いてた……
・二十年前にドルズ星人の一派に誘拐されて怪獣に改造されてしまった少女で、両親はその時に殺されている。
・その姿がそのままで記憶も無いのは『その方が宇宙警備隊員などの善人集団には有用だから』とか言うドルズ星人のクソみたいな策略によるもの。
・何故街中にいたのかなどの理由に関しては次回。


読了ありがとうございました。
多分、次回の話以降からが色々な意味でアークにとっての“分岐点”になる予定です。


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闇の会合/アークの選択

 ──────◇◇◇──────

 

 

 悪質宇宙人 メフィラス星人

 凶悪宇宙人 ドルズ星人 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 惑星ジャルマの外れにある地方都市の一角、そこにはかつて計画的な都市開発の失敗によって異様なまでに入り組んだ住宅街が存在していた……その地区は複雑な地形をしているのでジャルマの治安維持組織の目が届きにくく、それ故に犯罪組織がよく隠れ家として利用しているのだ。

 ……最もここを本拠にしている様な組織の殆どは小規模な中小組織であり、正真正銘の巨大犯罪組織の場合には“合法的に”首都の一等地を拠点としていたりするのだが。

 それはそれとして複数の犯罪組織が居る所為でそれらの暴発を避ける為に治安維持組織の介入が難しく、それを利用して巨大犯罪組織が他の組織との話し合いに利用する一時的な会合場所として使われる事もあった。

 

「……やあ、お待ちしておりましたよ『知将』殿」

「これはこれはドルズ帝国外交官」

 

 ……そして現在その場所の建物の一つにて【暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人】直属の部下である“知将”メフィラス星人と、ドルズ帝国において外交官を務めるドルズ星人とその部下が秘密の会合を開いていたのだ。

 

「さて、では単刀直入に行きましょうか……事前の取り決め通り、貴方達ドルズ帝国は我々『エンペラ軍団』との相互不干渉の協定を結ぶという事で良いですね」

「ええ、我々が貴方達の行動に干渉しない代わりに、貴方達も我々に対して武力を行使しないという協定を結ぶ事を要求します」

 

 彼等の目的は『本当のエンペラ軍団』とドルズ帝国の間で相互不干渉の協定を結ぶ事であった……この協定はこれから宇宙警備隊と銀河連邦を相手に第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)を起こさんとするエンペラ軍団にとっては余計な敵を増やさない為のモノで、ドルズ星人にとっては本星の暗黒結界が意味をなさないエンペラ星人を敵に回さない様にする為の物である。

 ……メフィラスとしては出来ればドルズ帝国も戦力として加える考えもあったのだが、ドルズ星人は兵器だけを送り込んで自分達は安全圏に居座るのを主としているので戦線に加わる事に難色を示したので協定という型となったのだ。

 

「……ですが、我々ドルズ帝国としてはエンペラ軍団との()()()には応じますよ。【メモール】などの怪獣兵器や超能力薬も今ならお安くしておきますよ」

「それはそれはありがとうございます。この超能力薬などは面白そうですね」(【メモール】は私の“趣味”とは少しズレてますし)

 

 最もドルズ帝国は戦争に直接参加しないだけで商取引と称して兵器などを売り渡す気満々なので、実質的にはエンペラ軍団との同盟関係の様なものであるが、その辺りはお互いに織り込み済みである。

 ……そうしてエンペラ軍団とドルズ帝国という宇宙にとっては脅威となる協定の割には至極短時間でその話し合いは終了し、彼等は引き続いて現在この惑星ジャルマで『自分達を追って来た宇宙警備隊と銀河連邦のエージェント達』についての話を始めた。

 

「さて、それでは()()()()()()()()()()我々ドルズ帝国とエンペラ軍団の会合があるとそれとなく連中にリークしておきましたが、まさかウルトラマンタロウまで現れるとは……」

「確か彼が地球にいた時に貴方方と因縁がありましたか」

「ただ、ウチの地球侵略を企てた一部が試作型の【メモール】を一体送り込んだだけですよ」

 

 そう、宇宙警備隊に惑星ジャルマでの彼等の会合の情報が入ったのはドルズ星人自らが“知将”の提案によって情報を流したからだったのだ。

 

「……それで、態々ウルトラ兄弟をここに呼び寄せた理由は『宣戦布告』の為と聞きましたが」

「ウルトラ兄弟まで来たのは偶然ですが、彼等宇宙警備隊と銀河連邦に我々『真なるエンペラ軍』の力を見せつけようと思いまして。銀河連邦肝いりで独立したしたこの惑星ジャルマでウルトラ兄弟を打ち倒すなら十分な宣戦布告になるでしょう。……まあ、他の四天王も同時期にそれぞれ銀河連邦の重要拠点を宣戦布告代わりに攻め込む予定ではありますが」

 

 メフィラスが敢えて情報を流した目的は自分達の力を宇宙に示すデモンストレーションの相手として宇宙警備隊と銀河連邦のエージェントを選んだからであり、その為に再生機能付きの高級版【インペライザー】や【ロベルガー】を既に惑星ジャルマ近辺に持ち込んでいる。

 また、惑星ジャルマを戦場に選んだのは銀河連邦が態々全力で支援して宇宙進出を果たさせるぐらいに加盟惑星同士の交易の中継地点として地理的に重要な地点だからであり、この星が機能を停止すれば銀河連邦の動きをかなり制限出来るからでもあった。

 

(とは言え、あくまで“交易の中心地”と言うだけなので万が一ここの機能を潰せなくても他の襲撃が成功すればそこまで問題無いんですがね。だから囮の意味も込めて情報をリークさせたんですし。……この惑星ジャルマ襲撃は色々と布石を打つ為のモノなのだから)

 

 最もメフィラスは宇宙警備隊を過小評価はしておらず、実際惑星ジャルマ襲撃に関しては失敗する可能性も考慮しており、例えこの襲撃が成功しても失敗しても問題無い様に他にも様々な策を巡らせていたのだが。

 ……具体的には情報リークは宇宙警備隊の目をこちらに向けさせて銀河連邦重要拠点を攻撃する他の四天王の支援になる様にしているし、更に協定相手とは言え下手すれば後ろからこちらを撃ちかねないドルズ帝国に対して、自分達の“力”を見せつけてそんな余計な考えを抱かせない様に釘を打っておく狙いもあった。

 

「まあ、ウルトラ兄弟の相手を含めて後の事は全てこちらでやっておくので、貴方達はこのまま帰ってくれても構いませんよ」

「いえいえ、せっかくですからエンペラ軍の真の力とやらをこの目で見させて貰いますよ。……それに前もってこの惑星ジャルマには()()()の最新型【メモール】を配置しておきましたから。危なくなったらそれらを囮にして逃げますよ。最新型は宇宙警備隊にはよく効くでしょうし」

「ふむ……まあ貴方達がどうしようが自己責任の範囲ですから好きにすればいいでしょう」

 

 尚、メフィラスとしてはドルズ星人が敢えてボカしたこちら側の戦力(インペライザーとロベルガー)を見るために残る事は予想済みであったが、自らの商売場所の一つであるジャルマに()()()()()()である【メモール】まで配備しているとは流石に予想外だった。

 ……だが、おそらく超能力薬の密売で足が付いてジャルマから手を引くつもりだったか、私達に貸しを作って有利にする為の布石だろうと考えて、とりあえずこちら側にとって不利益にはならないだろうと思い直してスルーする事にした。

 

「それに最新型の【メモール】は遠隔起動出来る仕様ですから、使わないのなら後で回収しますよ」

「それはそれは『大変です外交官殿! 宇宙警備隊の連中がここを嗅ぎつけました!!!』……おや、中々早かったですね。別に過小評価していたつもりはありませんでしたが」

 

 そうしてメフィラス星人とドルズ星人が話を続けていた所で突然そんな通信が入った……とは言え、彼等にとっては来る事が分かっていた事なので悠々と撤退の準備をし始めた。

 

「では、我々は宇宙船に戻らせて頂きますね。エンペラ軍の真の力を楽しみにしています。……ああそれと、ついでに【メモール】も囮代わりに起動しておきますので」

「分かりました。……ではお気を付けて」

 

 そんな慇懃無礼な挨拶を最後にメフィラス星人とドルズ星人の二人はその場から消え去ったのだった……そして彼等が撒いた“悪意”が、この星にいるとある宇宙警備隊員と一人の少女の“結末”を運命付けてしまうのであった……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「んー? おじちゃん、ここで待ってればいいの?」

「ああ、あのままフラフラとうろつき続ける訳にもいかないだろうからな」

「アリスちゃん、ジュースとお菓子があるけど食べる?」

「食べる〜!」

 

 あれから俺はタロウ教官の指示でアリスを惑星ジャルマの現在は余り使われていない防衛軍施設の一つへと連れて来ていた……尚、万が一に備えて施設内の人間の殆どは退避させており、残っているのは俺と銀河連邦から派遣されたエージェントのアンドロメダ系L85星出身宇宙Gメンの“ガニメデ”さんと、ルパーツ星人の宇宙調査員“サミ”さんの三人のみである。

 ……とりあえず子供の保護とかに慣れているらしいサミさんにアリスの相手を任せつつ、俺は彼女に声を聞かれない様に別室でガニメデさんと現状について話し合う事にした。

 

「……それで、現在のこの星での調査状況はどうなっているんです?」

「先程の報告によると銀河のエージェントの一人がドルズ星人とエンペラ軍の幹部の会合場所を特定した様だ。現在タロウ殿を筆頭にそこへ突入している所だろう」

 

 成る程、調査自体は上手く行っている……と思いたいが、そもそもアリス(メモール)が街中を彷徨いていたのが偶然なのか、それとも何かの罠なのかという問題は付きまとうな。

 ……加えて、追い込まれたドルズ星人共が“何をするのか”という問題もある。

 

「ですが、追い込まれたドルズ星人が彼女……メモールを起動させる恐れがあります。少数ですが遠隔で怪獣に変えられるタイプも確認されていますから。……一応、この部屋の内部は通信などを遮断するバリアに覆われていますが、ドルズ星人の技術力に対してどこまで効果があるか……」

「その万が一の時には俺が“対処”します。それにこの辺りは人気も少ないですし被害も最小限に出来るでしょう」

「いえ、アーク殿…………分かりました、お任せします」

 

 そう言った俺に対して心配する様な視線を向けてきたガニメデさんだったが、少し考えた後に俺が事前に伝えておいた『対処法』ぐらいしか彼女をどうにか出来る手段が無いと考えたのか、複雑そうな表情でそれだけ言って黙り込んでしまった。

 

「それと、もしアリスが外を出歩いていたのが偶然では無いとしたら、こちらの動きが向こうに漏れている可能性が高いと思います。……だとすれば伝え聞くドルズ星人の行動から考えても少女一人を街中に放つだけで終わるとは思えないですね。単純に他にもアリスと同じ様な子が街に出ているとか」

「その可能性も考慮して既にジャルマの警察の方で調査を進める様に言っておきましたが、この様々な種族がいる広い惑星で不審な子供を見つけるのは難しいでしょう。只でさえ今はドルズ星人の確保の為に人手が割かれている状況ですから」

 

 まあ、ここにこの二人を配置してくれたのも結構ギリギリっぽいしな……結局はタロウ教官とドルズ星人の捕物がどうなるか次第って事になるか……。

 

「ふーん、アリスちゃんはお父さんとお母さんが大好きなんだねー」

「うん! おとーさんは仕事から帰ってきたときにわたしの頭をなでてくれるし、おかーさんはおいしいごはんを作ってくれるのー!」

 

 ああしてサミさんと普通に喋っているアリスを見ていると自分の力の無さが情けなくなるな……ちなみにサミさんはアリスから話を聞き出しながらどの程度記憶を操作されているのか、また精神面にどんな細工が施されているのかを調べているらしい。

 ……正直言って俺は今まともな精神状態でアリスと話せる自信がないからな。ああやって完全に自分を制御出来るプロの仕事は尊敬するよ。

 

「とりあえず今はタロウ教官の結果を待って【ビーッ!!! ビーッ!!! ビーッ!!! 緊急警報、首都北西部及び南西部及び東部郊外に怪獣が出現。付近の住民は速やかにシェルターへと避難してください】なんだと⁉︎」

「今確認します!!!」

 

 そうして待機していた俺達の元にいきなり警報と共にそんなアナウンスが鳴り響いた……それを聞いたガニメデさん即座に室内の機材を動かして怪獣が現れたという場所の映像をモニターに表示した所……。

 

『『『アンギャァァァァァッ!!!』』』

「コイツは……メモール!!!」

「やはり他にも仕込んでやがったな……!」

 

 モニターに映し出されたのは口から吐く火炎と手から出す赤いガスで街を破壊している【うろこ怪獣 メモール】の姿だった……やっぱり街中に放っていたのはアリスだけじゃなかったのか。

 ……チッ、という事は多分アリスの方も……。

 

「大変です⁉︎ アリスちゃんが急に苦しみ出して……!」

「……分かりました。すぐに行きます」

 

 俺がそう思った直後、向こうの部屋からサミさんが慌てた様子で飛び出して来てそう言った……仕方ない、俺も覚悟を決めよう。今この場で俺しか“対処”出来ないのだから、俺がやるしかないんだ。




あとがき・各種設定解説

“知将”メフィラス星人:策とは二重三重に巡らすモノ
・惑星ジャルマでの彼の目的はドルズ星人との協定・宇宙警備隊への宣戦布告・銀河連邦重要交易路の遮断・エンペラ軍の真の力を宇宙に示す・ドルズ星人への釘刺し・敵戦力の引きつけ・インペライザーとロベルガーの戦力確認といった所。
・加えてどれかの目的が達成されなくても対応出来る様にまだいくつもの策を講じている。
・尚、彼は基本的に用心深い性格だが内心で格下と思っている相手には“遊ぶ”悪癖があるらしい。

ドルズ星人:今回の元凶
・惑星ジャルマでの活動は銀河連邦が色々と手を回して頑張ったので余り上手くいかず、危うく尻尾を掴まれそうだったのでメフィラスとの会合に便乗して撤収するつもりだった。
・ところが撤収用の円盤をタロウに補足されたので足止めの為にメモールを起動させて街を攻撃させ始めた。

アークとアリス:選択の時
・ちなみにアリスが直ぐに怪獣化しなかったのはアークと出会った事で僅かに記憶操作に綻びが生まれて無意識の内に抵抗いているからである。

ガニメデ&サミ:銀河連邦のエージェント
・ガニメデの方は宇宙Gメンから派遣された昔地球に来たザッカルの元部下であるゴリゴリの武闘派で、サミの方は事務仕事や情報処理を専門としている銀河連邦の調査員の一人。
・二人共以前からタロウとは面識があって人格的にも信頼出来たので、今回アリスの保護に協力してくれる様に頼まれた形。


読了ありがとうございました。
色々と引っ張りましたが次回がアークとアリスの結末と選択の時です。


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アークとアリス/目覚めるモノは……

 ──────◇◇◇──────

 

 

 うろこ怪獣 メモール

 悪質宇宙人 メフィラス星人

 無双鉄神 インペライザー

 円盤生物 ロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 俺は惑星ジャルマの都市で暴れている【うろこ怪獣 メモール】の映像を見ていたのだが、突然サミさんからアリスの容態が急変したと伝えられたのでガニメデさんも連れて急いで部屋の中へと向かった。

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……おじちゃん?」

「大丈夫か!」

 

 そこには苦しそうに胸を押さえながら蹲るアリスの姿があった……俺は思わず『大丈夫か』などと声を掛けてしまったが、メディカルチェックで彼女の肉体を調べると既に変質が始まっていて早く対処しなければ手遅れになる事が分かってしまった。

 ……その直後アリスは床に倒れ込んでしまったので、俺は直ぐに彼女へと駆けよって抱き起こした。

 

「……アリス」

「……おじちゃん……私、全部思い出したよ。……おとーさんとおかーさんはもう死んじゃってて、私はその時に“アイツら”に連れていかれて怪獣にされちゃったんだって……」

 

 どうやらアリスの記憶が戻った……いや、これはドルズ星人から怪獣化のコマンドを受けた時点で封鎖されていた記憶が戻るようになっていたのか。

 ……どんな理由でそういう設定にしたのかは分からないが、どうせロクでも無い理由だろうよ。

 

「……それでね……今“アイツら”から『怪獣に変身して街を壊せ』って言われてるの。ずっとずっと頭の中に聞こえてくるし、その度にわたしの身体が別の“ナニカ”に変わっていくの」

「…………」

 

 苦しげな表情でそんな事を話すアリスを見て、俺は宇宙警備隊員として直ぐにでも“対処”を行わなければならない筈だったのに何もする事が出来ず黙り込んでしまった……だが、彼女は苦しい筈なのに僅かに笑みを浮かべながら「でも……」と言葉を続けたのだ。

 

「……でもね、おじちゃんがわたしを見つけてくれて、ご飯を食べさせてくれたり街の中を歩かせてくれたりしたのは本当に楽しかったんだよ。……おとーさんとおかーさんと一緒に街に行った時と同じでとても楽しかった」

「……アリス……」

 

 ……そう言った彼女の表情はとても嬉しそうなモノだった。彼女にはこれから先の未来を生きる道があった筈なのに、どうしてそんな満足そうに……っ! 

 

「だからね……わたしはこの街を壊したく無いんだ。……おじちゃん、お願い、わたしが怪獣になる前に……」

「……分かった、後は俺に任せてもう眠れ」

「……うん……ありがとう……」

 

 それ以上の言葉をアリスに言わせたく無かった俺は出来るだけ彼女を安心させる様に勤めながら、そのまま彼女の目を閉じさせて超能力を使って眠らせた。

 ……それと同時に彼女の肉体変異が進行しようとしたので即座に元のウルトラ族としての姿に戻り、続いてリバーススタイルへと変身して彼女を醜い怪獣の姿にさせぬ為に前々から考えていた“対処”を試みた。

 

「……ウルトラフロスト……コールドスリープ」

 

 その俺が考えた“対処”とはアリスの肉体が変異するよりも早く極低温の冷気を発生させて彼女の肉体を凍結させる事だった……この手法『ウルトラコールドスリープ』は宇宙警備隊でも緊急時の医療行為として採用されている技法であり、対象の肉体を極低温の冷気でそのままの状態に凍結固定させる技術なので、怪獣への変異を止められるかもしれないと思ったのだ。

 ……幸いにも俺は医療関係の技術を学ぶ時に多種族にも使える繊細なコールドスリープ技法を学んでいたからな。生命力の強い同族なら雑に凍らせても後で蘇生出来るが、他の……特にヒューマノイドタイプとかだと下手な凍結をしてしまうとそのまま死なせてしまう可能性もある。

 

「……ふう、どうにか怪獣化は止められたか」

 

 そうして凍結作業を終えた俺の目の前にあったのは、極低温の冷気で作り上げられた『氷の棺』の中でまるで眠っている様に目を閉じているアリスの姿だった……ここまで念入りに凍結しておかなければ怪獣への変異は止められなかったのだ。

 

「成る程、一旦コールドスリープで凍結封印しておいて、いずれ元に戻せる様になるまで待つ手法ですか」

「出来ればそうなって欲しいとは思いますけどね……残念ながらその可能性は低いでしょう」

 

 ガニメデさんのその言葉に対して、俺はそう上手くは行かないだろうと答えた……通常のコールドスリープであれば如何様にでも復活・蘇生の手段があるのだが、アリスを閉じ込めているこの『氷の棺』は無理矢理に怪獣化を押さえ込んでいる物なので解放した時点で彼女の肉体が変異、或いは負担に耐えられずに死亡する可能性が非常に高いだろう。

 ……そもそもドルズ星人に改造させられた人間を元に戻す方法は宇宙でもトップクラスの科学力を持つ光の国にも無い以上は、この『氷の棺』から彼女を解放出来る日が来るかどうか……やはり、これは自分の手を汚したくない俺が結果を先送りにしただけなのでは……。

 

「余り気を落とさないで下さいアークさん。……あの子は貴方の事をとても楽しそうに話していましたから」

「ありがとうございますサミさん。……アリスの事をお願いします。俺は街で暴れる【メモール】を止めなければ」

「俺も行きましょう。巨大化は習得しています」

 

 励ましてくれたサミさんにお礼を言いつつ、俺とガニメデさんは未だに爆音が聞こえ続けている首都へと向かって行ったのだった……アリスが好きだったこの星は守ってみせるさ。例え相手が彼女と同じ立場(メモール)であろうとも。

 ……そしてこんな事を仕出かしたドルズ星人共は()()に潰してやる。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「ガァァァァァァァッ!!!」

「ギャァァァァァァァァァ!!!」

「アンギャァァァァァァァァ!!!」

 

 惑星ジャルマの首都、そこではドルズ星人が宇宙警備隊と銀河連邦の追跡を撒く為に出現させた三体の【メモール】が暴れ回り街を破壊して回っていた。

 ……メモールの厄介な所は人間の姿を取ってから街中に潜入して任意のタイミングで怪獣化して暴れさせる事が出来る所であり、今回も街中にいきなりメモールが現れた事で首都は大混乱に陥って住民の避難が遅れるなどの悪影響が出ていた。

 

「トォアァッ!!!」

「シェアッ!!!」

「ディアッ!!!」

 

 だが、宇宙警備隊と銀河連邦もそれを只で見ている訳ではなく、ドルズ星人の追跡を銀河連邦のエージェント達に任せて来たタロウと二人の宇宙警備隊員が変身してメモールを押さえ込み、惑星ジャルマの軍隊や警察が住民を避難する時間を稼いでいた。

 ……ただ、街中で避難する住民を庇いながらの戦いである事と、ドルズ星人がメモールに追加した“とある仕掛け”によって宇宙警備隊は苦戦を強いられていた。

 

「ガァァァァ!!!」

「ジェアァッ⁉︎」

 

 その“仕掛け”によって動きが鈍ったシルバー族の警備隊員──宇宙警備隊所属のジーン隊員がメモールの長い尻尾に打ち据えられて吹き飛ばされた……慌ててもう一人のレッド族のラルド警備隊員が助けに向かおうとするが、そこにもう一体のメモールが口から火炎を浴びせかけた。

 

「グワァッ⁉︎」

「ラルド! くっ、こちらも……!」

「アンギャァァ!!!」

 

 更に間が悪い事にタロウもメモールの内一体が住民を襲おうとしているのを防ぐ為に手一杯でそちらの助けには行けない状況であった……そうして倒れ込んだジーンに対してメモールが手から猛毒の殺人ガスを出そうとして……。

 

「アークスラッシュ!」

「ギャッ⁉︎」

 

 その直前に巨大化したアークが放った光刃がメモールの頭部に直撃して殺人ガスの発射を中断させた……それと共に倒れ込んだジーンをかばう様にアークがメモールの目の前に降り立った。

 

「大丈夫ですか。援軍に来ました」

「あ、ああ、ありがとう」

「アーク、来たのか……」

「私も来ました、タロウさん」

 

 そうして現れたアークとガニメデの二人に対してその“事情”を知っていたタロウ達は僅かに心配そうな視線を向けたが、未だに暴れ続けるメモールを前にして直ぐにそちらの対応に集中する事にした。

 

「ギャァァァァァァァァァッ!!!」

「住民の避難がまだ……早く倒さないと」

「待てっ⁉︎ アーク!」

 

 ……実の所、内心はかなり同様していたアークだったので、暴れるメモールと逃げ惑う人達を見て直ぐに倒さねばならないとタロウの言葉も聞かずに飛び出してしまい……。

 

『……イタイヨ』

「なっ⁉︎」

 

 突如メモールから聞こえて来た『子供の声』にアークはその“素性”を知っていた事もあって思わず手を止めてしまった……そうして眼前で動きを止めた相手に対しメモールが()()()()()()()()()()()()動きで長い尻尾を使って打ち据えた。

 

「グハァッ⁉︎ ……クソが、そういう仕組みか!」

「……今の声はまさか……!」

「……ああ、どうやらあのメモールの中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様だ」

 

 吹き飛ばされたアークはその悪辣な仕掛けを即座に看破したらしくない悪態をつき、同じくその“声”が聞こえてしまったガニメデにはタロウがその答えを説明した……そう、ドルズ星人がメモールに加えた“仕掛け”とは怪獣に変身した後にも改造した子供の精神を残しておき、その声をテレパシーとして戦う相手に聞こえる様にするという悪辣なものであった。

 ……また、かつて人間だった頃の精神の影響でメモールが操作を受け付けなかった過去の事例から、その対策としてメモールの操作を肉体自体に仕込んだプログラムによる完全な自動にしてあるので、内の精神がどれだけ助けを求めようが暴れる事を一切辞めない様にされていたのだ。

 

『……タスケテ』

『ドウシテコンナコト……』

『クルシイヨ……』

「これは……そんな酷い……!」

「クソッ……!」

 

 ……宇宙警備隊員がメモール程度にここまで苦戦しているのは、このテレパシーそのものは改造された子供達の本音であり、超能力にも長けたウルトラ族はその事を正確に理解してしまったが故に攻撃する手が緩んでしまったというのも理由としてあった。

 

『ウアア……』

「……タロウ教官、完全に怪獣になってしまったらもうどうしようもないです。それにこれ以上街で暴れられたら住民に多数の犠牲者が出るでしょう」

「分かっている……後は私がやるからお前は下がっていても……」

「いくら何でも教官一人で三体の相手は無理でしょう……それに約束しましたから」

 

 だが、これ以上は街への被害が洒落にならないと“まるで自分に言い聞かせている様に”言ったアークの言葉がキッカケで、タロウも覚悟を決めたのか前に出た……そして、それを見た他の者達も皆一様に覚悟を決めた目をしてメモールへと向き合ったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……アリガトウ』

「……終わったか……」

 

 そうしてしばらくの後、三体のメモールは全て地面に倒れ伏してその生命活動を停止していた……メモール自体はそこまで強い怪獣ではないのでウルトラ兄弟であるタロウとそれに準ずる実力を持つアーク、更にベテランの宇宙警備隊員二人と宇宙Gメンが居れば街に被害を出さずに倒す事は問題無く可能であったのだ。

 ……最も、メモールが残した最後の言葉を聞いた彼等の胸にはただ遣る瀬無さとドルズ星人への怒りだけが残っていたが。

 

「……タロウ教官、ドルズ星人の確保はどうなっているんですか?」

「待て、今連絡を取る……何⁉︎ 連中が円盤に乗ってこの星を出ようとしているだと!!!」

 

 故に彼等がその報告を聞いた時、一様に怒りの表情を浮かべたのも無理からぬ事だろう……故にすぐに彼等は住民の避難を専門家であるジャルマの軍隊と警察に任せて全速力でドルズ星人の円盤の元へと向かっていった。

 ……そうして彼等がエージェントの報告にあった場所である惑星ジャルマの僻地にたどり着くと、そこには離陸寸前の状態であるドルズ星人の円盤の姿があった。

 

「そこまでだ! ドルズ星人!!!」

『チッ、もうメモールを倒して来たのか……酷い事をする』

 

 それを見たタロウは即座に円盤の前に立ち塞がり離陸を制止し、それを見たドルズ星人はこれまで銀河連邦のエージェントに追い回された苛立ちもあって嘲笑と皮肉をぶつけつつも暗黒宇宙へのワープを急がせた……が、その言葉を聞いて完全に“キレて”いる者がそこにはいたのだ。

 

「……言いたい事はそれだけか、じゃあ死ね」

 

 次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()アークは即座にブレスからウルトラランスを取り出して円盤に向けて全力で投擲したのだ。

 

「なっ、アーク⁉︎」

『ヒッ⁉︎』

 

 その行動が予想外だった事もあり隣に居るタロウも反応出来ずランスは一直線にドルズ星人の宇宙船へと向かって行き……当たる直前に別方向から放たれた光線によって弾き飛ばされた。

 

「やれやれ、せっかく協定を結んだのにあっさりと倒されても困るんですよ。……ここは私が宣戦布告についでにどうにかしますからさっさと消えなさい」

『す、済まん、助かった……』

「お前は……メフィラス星人!」

 

 そこに現れたのは左右に【無双鉄神 インペライザー】と【円盤生物 ロベルガー】を従えた暗黒四天王の一角“知将”メフィラス星人であった……手早く追手を撒いた彼は適当なタイミングでウルトラ兄弟であるタロウに宣戦布告をする為に様子を見ていたのだ。

 ……そうして庇われたドルズ星人は素早く暗黒宇宙へのテレポート機能を使って離脱しようとしたが、そこにアークが容赦無く追撃のスペシウム光線を放った。

 

「逃すとでも思っているのか?」

「やれやれ、少しは私の存在にも目を向けて欲しいんですがね。インペライザー」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 だが、そのスペシウム光線も先程と同じ様にインペライザーのガトリング砲から放たれた光線によって相殺された……が、すぐさまアークは八つ裂き光輪を複数枚発射してメフィラス星人達を牽制しつつ、飛ばされたランスを手元に戻して今度は直接円盤を叩き落とそうと突っ込んで行った。

 

「潰す」

「待てっ! アーク!」

「……ふむ、これでは宣戦布告も出来ませんね。インペライザー、ロベルガー、彼を倒しなさい」

 

 だが、メフィラス星人と二体の戦闘兵器のは八つ裂き光輪を各々の光線で破壊した後、メフィラスの指示で二体は邪魔なアークを排除しようと向かって行った……タロウの指示すらも無視するなど普段のアークからは到底考えられない事ではあるが、今のアークは“普通の状態”では無かった。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

『指令、対象、抹殺』

「邪魔をっ⁉︎」

 

 全速力でドルズ星人の宇宙船に突っ込むアークに対してインペライザーの両肩のビーム砲『ガンポート』とロベルガーの青い光線と手からの手裏剣型の光弾が殺到した……が、アークは即座にリバーススタイルに変身すると()()()()()()()()()念力でそれらの攻撃を無理矢理逸らしながら、肉体を一気に加速させて宇宙船へと肉迫する。

 ……だが、その一瞬の間にドルズ星人は暗黒宇宙への転移によってこの宇宙から消失した為、アークの放ったランスの一撃は宙を切った。

 

『指令、抹殺、消去』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

「くっ⁉︎」

 

 その直後にドルズ星人にだけ集中していたアークは再びインペライザーとロベルガーから放たれた砲撃によってあっさりと吹き飛ばされた……命令を忠実にこなすだけの戦闘兵器達はアークに対して更なる追撃を放とうとしたが、そこに割り込んだタロウの光線と飛び蹴りによって追撃は阻まれた。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎』

「気持ちは分かるが落ち着けアーク! 奴らは冷静さを失って勝てる相手では……ッ⁉︎」

「……まさか暗黒宇宙に行っただけでこの俺から逃げられるトデモ?』

 

 その余りに異様な雰囲気と声音から、タロウはようやく現在のアークがただ怒っているのではなく()()()()()にある事に気が付いた……これまでのアークはその中庸的な価値観から良く言えば客観的、悪く言えばどこか他人事で物事に当たる所謂『狂言回し』の様なスタイルであった。

 ……だが、短い間だが()()()()()()親しく接したアリスとの出会いと離別、そして同じ境遇にある子供達を手に掛けた事は彼の心に大きな“怒り”と“憎しみ”を抱かせてしまったのだ。

 幼い時から父親を始めとするウルトラ兄弟の指導を受けて優秀な能力と知性を持っていた彼にとって、この星での経験は初めての『大きな絶望感を齎す挫折』であり、そしてその負の感情は“彼の中にある力”を目覚めさせるきっかけとなったのである。

 

『……いあ いあ んぐああ んんがい・がい いあ いあ んがい ん・やあ ん・やあ しょごぐ ふたぐん いあ いあ い・はあ い・にやあい・にやあ んがあ んんがい わふる ふたぐん よぐ・そとおす……』

 

 そしてアークは憎悪と怒りに任せるままに生まれる前から知っていた()()()()()()()()()()()()()()()()を行なって、自分の中にある力──混沌から生まれし邪神の一柱、全ての時空間を統べるとされる“かの副王”の力の断片である『銀の鍵』をこの宇宙へと現界させてしまったのだった……。




あとがき・各種設定解説

アーク:ウルトラマンにあるまじきヤベー詠唱をし始めた
・『銀の鍵』は彼の存在と強く結び付けられておりその封印も“意図的に”完全な物ではない仕様で、彼自身が強く求めれば『銀の鍵』を現界させる事は可能。
・一応、ドルズ星人が暗黒宇宙に逃げるまでは普通に倒そうとはしていたので、まだ完全に堕ちた訳では無い様だが……。

アリス:氷の棺の中へ……
・本編でアークが語った通り、彼女が再び目覚める可能性は現時点ではゼロに限りなく近い。

タロウ:判断が一手遅れた
・昔からの付き合いでアークの冷静さや判断力について信頼していた事や、キレ方が外見からは分かり難かったのも判断が遅れた原因。
・アークにアリスの事を任せたのも他に方法が無かったからだし、そもそも宇宙警備隊をやるならいつかはこんな事態になる事はあるので別に彼の判断が間違っていた訳では無いが……。

ドルズ星人:全ての元凶
・メモール関連の鬱フラグをやるだけやって逃げてしまったが故に、アークの最後の枷を外してしまった。

メフィラス星人:宣戦布告しようとしたのだが
・流石に予想出来ないイレギュラーによって完全にそれどころじゃ無くなった。


読了ありがとうございました。
今回は色々と書くのがキツかった……やっぱりこういう話を書くのは苦手だなぁ。まあ書くべき事だったから書くけど。


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目覚める銀の鍵

 ──────◇◇◇──────

 

 

 悪質宇宙人 メフィラス星人

 無双鉄神 インペライザー

 円盤生物 ロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……いあ いあ んぐああ んんがい・がい いあ いあ んがい ん・やあ ん・やあ しょごぐ ふたぐん いあ いあ い・はあ い・にやあい・にやあ んがあ んんがい わふる ふたぐん よぐ・そとおす……来たれ、“銀の鍵”』

 

 そんな聞く者の正気度を削る様な詠唱の後、虚空を見つめるままのアークの手には一本の『銀色に輝く光で出来た鍵』が握られていた……その『銀の鍵』はウルトラ族の彼に合わせては10メートル程の大きさで、この世の物とは思えない銀の輝きを無理矢理鍵状に固めた様に輪郭がぼやけていた。

 ……それを見たタロウ・ジーン・ラルドの宇宙警備隊組と宇宙Gメンのガニメデ、そして“知将”メフィラス星人達は本能的にあの『銀の鍵』は()()()()()()()()()()()()()()()()()だと直感して思わずアークから距離を取った。

 

『指令、抹殺、消去』

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』

 

 ……だが、プログラム通りにしか動けない戦闘兵器である【インペライザー】と【ロベルガー】は、メフィラス星人から与えられた『アークを倒せ』という指示に従って躊躇なくアークに接近して攻撃を始めようとしていた。

 それを見たメフィラスは一瞬戻そうとも考えたが『とりあえずあの鍵の脅威を図る良い機会なのでこのまま行かせよう』と思い直して放置。それとは逆にタロウ達は異様な雰囲気のアークに戸惑いつつも動き出したインペライザーとロベルガーを止めるべくそちらへと向かおうとしたが……。

 

『……邪魔だな、消えろ』

 

 それよりも早く、無機質な目で二体の戦闘兵器を睥睨したアークが軽く手に持った『銀の鍵』を振るい……次の瞬間、迫ってきたインペライザーとロベルガーは()()()()()()()()()()()()()この宇宙から完全に消え去ってしまった。

 

「なっ……⁉︎」

「一体何が……!」

「……まさか、()()()()()()()()()二体の戦闘兵器をこの世界から消したと言うんですか⁉︎」

 

 そう、メフィラス星人を発言通りアークは『銀の鍵』の力によってインペライザーとロベルガーの周囲の空間ごと歪めて抉り取り、そのまま二体を世界の外側にある虚数空間へと放逐したのである。

 ……そうして二体の強大な戦闘兵器を容易く消滅させたアークではあったが、それだけの事を成し遂げてもその表情には何の感情も浮かんでおらず、まるで何かを探す様に虚空を見つめるままだった。

 

『……見つけた』

 

 そして虚空を見つめるばかりのアークが突然そう呟くと同時に『銀の鍵』を上に向けた……その目に写っているのは先程暗黒宇宙に転移して、現在はドルズ星の結界の中に逃げ込んで一息吐いていた“ドルズ星人の外交官が乗っていた円盤”であった。

 ……時間と空間を司る邪神とも、全ての時空間と隣接して存在するとも言われる『かの副王』の力の断片を振るっている今のアークにとっては、()()()光年単位の物理的距離や実宇宙と暗黒宇宙の差、更には次元干渉の結界程度など無いも同然である。

 

『逃がさない、と言った筈だが』

 

 そうして怨敵を見つけたアークは『銀の鍵』を勢いよく振り下ろし、それと同時に暗黒宇宙にあるドルズ星の港に帰還しようとしていた円盤は彼方から放たれた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によって斬り裂かれて撃沈し、当然ながら中に乗っていたドルズ星人達も空間断裂に巻き込まれて断末魔を上げる暇もなくバラバラに引き裂かれ、ついでにドルズ本星周辺に貼られていた次元干渉結界もズタズタに引き裂かれたのだった。

 ……尚、これは余談になるが、いきなり本星防衛の要である結界を破壊されたドルズ星人達は外交官が乗っていた円盤も一緒に破壊された事もあって謎の敵対存在からの攻撃だと判断し、結界の修復及び強化が終わるまでは全力で本星を守る戦術を取ったのでしばらくの間活動を停止する事になる。

 

「……タロウさん、彼は一体どうしたんですか?」

「分からん……だが、ゾフィー兄さんが言うには『アークには秘めた力がある』との言っていたが、まさか……」

「……ドルズ星人がやられましたかね?」

 

 最も実空間にいるタロウ達にはアークが手に持った『銀の鍵』を振り下ろした事しか知覚出来ず、彼が宇宙を隔てて遠く離れたドルズ星に直接攻撃を仕掛けた事までは分からなかった……が、その中でタロウとメフィラスだけはそれぞれの経験と頭脳から『恐らく逃げたドルズ星人を空間を超えて攻撃したのではないか』と予想していたが。

 ……そしてその場の誰もが変貌したアークの事を警戒してどう動けばいいのか分からない状況で、真っ先に動いたのは『自分は絶対に彼に味方認定されていない』と分かっていたメフィラス星人だった。

 

(……あの鍵を出してから、彼は恨みのあるドルズ星人と自分に向かってきたインペライザーとロベルガーを倒す事しかしていない……そもそも周囲に注意を向けていないとなると、恐らく一種のトランス状態というやつですかね。……であれば)

「ここは全力での逃げ一択ですね。ではさよなら」

「ハッ! 待て! メフィラス!!!」

 

 持ち前の頭脳で現在のアークの状況をおおよそ予測したメフィラス星人は、彼をこれ以上刺激する事なくこの場から離れる事を最優先とする全力での空間転移を実行して惑星ジャルマから立ち去ったのだった。

 咄嗟にタロウは追撃しようとしたが異常な状態であるアークを放っては置けなかった事と、メフィラス星人が全力で隠蔽と転移を駆使した為にすぐ見失ってしまった為に断念せざるを得なかった。

 ……そうして惑星ジャルマに災いをもたらした者達が居なくなった事によって、一先ずこの星で起きた戦闘は終息したのだったが……。

 

『………………』

「……あの、それで彼の事はどうしましょうか?」

「さっきから何もせずに突っ立ってるだけなんですけど」

「声を掛けてはいるんですが一向に反応が無いですし……」

「うむ……」

 

 そう、戦闘が終わったにも関わらずアークは『銀の鍵』を展開したままであり、タロウやガニメデが声を掛けても一向に反応せずにただ茫洋とした視線を宙に向けて突っ立ってるだけだったのだ。

 ……未だに『銀の鍵』からは名状しがたい異様な気配が発せられているが、タロウ達の視点だとアーク自身は二体の戦闘兵器を消滅させた後は何もしていないので、どうすべきか決めあぐねていたのである。

 

「……仕方ない、声を掛けてもテレパシーにも反応がない以上は直接触れて叩き起こすしかないだろうな」

「タロウさん、彼はあの『銀色の鍵の様な物』を持ったままですが……」

「だが、アークはその力を敵だけに向けて我々に使っていない以上、まだ最低限の理性や判断力が残っている可能性は高い。……だが、念の為にジーンとラルド、それにガニメデは下がって万が一の為にシールドの展開準備を。それから私一人で近づく」

 

 それでもこのままでは埒があかないと判断したタロウは、多少のリスクを背負ってでもアークの目を覚まさせる事にした……無論、その手にある『銀の鍵』への警戒は消えていないので、万が一に備えて他の者を下がらせた上で『銀の鍵』へ最大限の警戒を払いながら近づいていく念の入り様だったが。

 ……だが、そうしてタロウがアークに触れるよりも早く、彼の身には更なる異常が起こり始めた……具体的に言うとアークの周囲の空間が徐々に歪み砕けていき、その空間の向こう側から『銀の鍵』の気配を数倍増幅した様な名状しがたい気配が漏れ始めたのである。

 

『──────……』

「なっ⁉︎ これは……ジーン! ラルド! 我々ごとこの一帯を覆うバリアを展開するんだ!!!」

「「は、ハイッ!!!」」

 

 タロウにも“ソレ”が一体何なのかは分からなかったが、とにかく非常に危険なモノであると判断して待機していた二人に命じて自分とアークを覆う形の球状のバリアフィールドを展開させた。

 ……幸いと言うかバリアのお陰かその外側の空間には異常が起きなくなっていたが、アークの周囲の空間の歪みは徐々に広がっていき、それに比例するかの様に異常な気配も強まっていった。

 

「アーク!!! しっかりするんだ!!!」

『────────────ー………………』

 

 タロウは尚もアークに声を掛け続けるが一向に反応が無く、ならばと接近して無理矢理叩き起こそうにも歪んだ空間が邪魔をして近づく事が出来ないでいた……なので、タロウは多少の危険を承知で光線技による異常空間の修復を試みようと考えた。

 ……この方法は空間異常を起こすエネルギーを光線で吹き飛ばした後、空間の修正力を頼りに元に戻すと言う士官学校でも習う単純な空間異常修復方であるが、タロウは自身の空間操作技術では目の前の異常を直す事は出来ないと判断して敢えて一番単純な方法を選んだのだ。

 

『────……──────………………』

「アーク直接当てなければ大丈夫だと思いたいが……止む終えん、アレを放置しておく方が危険だ。……ストォリュゥゥゥゥム! 光線(こぉぉせ)『それは辞めた方が良いわね。下手に刺激すると微睡んでる向こうの“連中”が起きかねない』ッ⁉︎ 誰だ!」

 

 多少のリスクよりも危険な気配を放つ“何か”の排除を決心したタロウが光線を放とうとした直前、外界から遮断されている筈のバリアフィールド内部から声を掛けられたので、驚いた彼は慌てて光線を中断すると共に声が聞こえてきた方を向いた。

 そうしてタロウが振り向いた先には“全身がまるでホログラムの様に透き通った”一人のウルトラ族と思しき女性が立っていたのだ……『思しき』と言うのは、その女性の見た目が()()()()()()()()()()()()()()()()事と、額にビームランプとはまた違う()()()()()()()()を付けているといった、一般的な光の国の住民とは異なる姿をしていたからである。

 

「……貴女は一体何者だ?」

『私は封印の管理者、或いはとある女の残留思念をベースに作られた管制人格プログラムみたいなモノよ。……ようやく封印の()()()()が解かれた訳だけど、肉体面では十分に『銀の鍵』の力に耐えられているわね。半ばトランス状態だったとは言え空間操作をある程度使えた事から超能力の方もかなりの物と……これも“あの人”の指導のお陰かしら』

 

 いきなり現れた見覚えの無い『謎の女性』に対してタロウは問い掛けるが、彼女の方は要領の得ない答えを返しながらアークの方を見ながら何やら訳知り顔でそんな事を呟いていた。

 

『精神の方は善性よりだが過剰に『光』へとより過ぎない所は良いけど、今までは少しばかり物事を一歩引いた視線で斜に構えて見過ぎな所があったけど、この星での一件で『銀の鍵』の力を引き出せるだけの激情を知ったのは上出来ね。怒りも憎悪もヒトにとっては必要な感情だから。……おっと、先ずは空間の歪みをどうにかしましょうか。来なさい、私の『銀の鍵』』

 

 そんな評価を言った後、謎の女性はおもむろに手の中にアークのモノよりはかなり小さな『銀の鍵』を生成して軽く振るった……すると空間の歪みやひび割れは一瞬にして元に戻り、“向こう側”から発せられた異様な気配もまるで嘘の様に消えてしまった。

 

「収まった……のか?」

『ま、連中にとってはちょっと寝返りを打った程度だからこんな物でしょう。……さて、さっきも言ったけど『銀の鍵』の力を引き出すのに必要なのは正負問わず強い意思な訳だが、その力を十全に制御するには()()()()()()()()()()()()()()()()()強い心が必要よ。光を尊びながら尚染まらず、闇を受け入れながら尚堕ちず……といった強靭な精神がね』

 

 空間の歪みを一瞬で収めた“謎の女性”を見てタロウが動揺しているのを尻目に、彼女は掌の上に小さな『銀の鍵』を乗せながらゆっくりとアークに近づいていった。

 

『そう、邪神を打ち倒す『魔を断つ剣』はいつだって、どんな世界だって、喜び、悲しみ、尊び、怒り、楽しみ、憎しむ事が出来る“強きヒトの心”に他ならない。……だからこそ貴方が怒りと憎悪を抱いた事は決して間違った事では無いわ。重要なのはソレに振り回されない事、そういう意味では無意識とはいえ“倒すべき相手”のみに『銀の鍵』の力を向けたのは及第点よ。強いて言うなら“憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に”とでも言った所かしら』

 

 ……そう言いながらアークに向かって歩く彼女の身体は徐々に薄くなり始めており、彼の目の前に来た時には足先から徐々に身体が消えていっていた。

 

『貴方が『銀の鍵』の力を解放した事で封印の第一段階は解除されたわ。今後は貴方が『銀の鍵』を使える時だけごく短時間の間、限定的な空間操作能力として行使出来る様になるでしょう。後、邪神連中からの精神干渉はこれまでと同じ様に防御するから安心なさい。……この封印は貴方が『銀の鍵』の力を使いこなせる様にする為のモノ、だから貴方の精神の成長と共に徐々に封印は解けていくから。貴方が完全に自分の“チカラ”を解放出来る様になるまでは私がどうにかするわ。……貴方の思いは決して間違ったモノじゃ無いんだから、今後も頑張りなさい』

「……かあ……さ……」

 

 そんな激励を送った『彼女』はおもむろに手の中の『銀の鍵』をアークの胸に差し込んで、まるで鍵を閉める様に回すと彼の手に握られていた『銀の鍵』は霧散して、その表情にも感情の色が戻った……それと同時に彼女の姿は跡形も無くかき消え、正気に戻ったアークも無茶な力の使い方をしたせいで気を失って倒れてしまった。

 ……これにより惑星ジャルマで起きた全ての騒動──第二次ウルトラ大戦争の始まりを告げる事件の()()()()は終わったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:SAN値直葬暴走パート
・敵味方無く無闇に暴れ回るのは前例が色々あるので、敢えて彼には何か理解出来ないモノに半ば取り憑かれてる感が出る異常行動を取らせる形で暴走させてみた。
・彼に掛けられた封印はキングと『彼女』が『いずれアークが自分の力を使いこなせる様に成長するまで邪神の干渉を防ぐ』事に特化して組まれている。
・故に敢えて本人の精神状態次第で『銀の鍵』の力を使える様にしてあり、本人の肉体と精神の成長を促す仕様になっている。

謎の女性:アークの封印を管理している存在
・言うまでもないが、その正体は彼の母親であるティアーーではなく、超古代の巨人の中でもトップクラスの超能力の使い手であった彼女がキングの助けを借りて自らの残留思念と『銀の鍵』のカケラをベースに組み上げた管制プログラムである。
・なので生前と比べると性格はやや人間離れする感じで超然としており、カケラとは言え『銀の鍵』を自在に使いこなしたりしているが、それでも夫と息子への愛情は変わらず持ち続けている。
・ちなみに封印の管制人格についてはゾフィーも知っているがティアとの別れは既に済ませており、何より彼女の願いであるアークの守護の為に敢えて何も言わないでいる。

タロウ:対応自体は間違ってない
・ちなみに彼が光線で歪みを吹き飛ばしても99%は問題なく事は解決した模様……だが、1%邪神が目覚める可能性はあったので止められた。
・この後は倒れたアークを回収してジーンとラルドに預けて休ませつつ、自分は惑星ジャルマで起きて事件の後始末と光の国への報告を行った。
・その際にその場にいた他の者にアークの身に起きた事について口止めを頼みつつ、彼の父親であるゾフィーに起きた事を詳しくつたえている。

ドルズ星人:無事死亡
・今回の一件によってドルズ星人達は第二次ウルトラ大戦争中は本星に引きこもって大人しくせざるを得なくなった。

メフィラス星人:流石にイレギュラーが過ぎるので撤退
・協力を取り付けたドルズ星人は引きこもり、せっかく持ってきたインペライザーとロベルガーも瞬殺されたりと踏んだり蹴ったり。
・だが、本人は無事に脱出してエンペラ星人に今回の一件を伝えているし、本命である銀河連邦主要惑星襲撃の方は上手くいったのでお咎めは無し。
・ちなみにエンペラ星人はアークに起きた異常を邪神のそれだと看破しているが、邪神について知っているが故に『あんなモノ光の者に制御出来る訳がない、そもそも奴ら相手だと関わるだけ面倒な事にしかならない』という考えである。


読了ありがとうございました。
色々あったけどこれで惑星ジャルマ編、および第二次ウルトラ大戦争序章は終わりになります。いやーきつかった。


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宇宙警備隊員アークの日記・序

 ▲月△日

 

 目が覚めたら知ってる天井だった……まあ、光の国のウルトラクリニックの一室だったんですがね。士官学校の治癒能力訓練の時によくお世話になってたから見覚えあるわ〜。

 ……さて、現実逃避気味に日記を書くのはここまでにして、俺は惑星ジャルマでの一件でブチ切れて『銀の鍵』を起動させてしまった所までは辛うじて記憶にあった。

 その後に俺がやらかした事についての記憶はかなり朧げだったのだが、目覚めた時にタロウ教官から報告を受けたウルトラの母から大体の事を説明されたのでおおよそ把握している。

 

 ……把握してはいるしおぼろげな記憶で自分がやった事だと理解してはいるんだが、どうにも実感がないんだよなぁ。戦闘兵器二体を瞬殺した上で暗黒宇宙に逃げたドルズ星人の円盤を撃墜とか何? 『銀の鍵』ヤバすぎだろ。

 それと封印の管理者とかいう母さんっぽい人が出て来たとか言われて頭がパンクしそうだった……一応、ウルトラの母からは親父が母さんの生前に聞いていた情報を伝えてくれたので、出てきたのが母さんの残留思念をベースに作られた擬似人格プログラムだって事は分かってるんだが、そんなのが俺の中に仕込まれていたとはなぁ。色々と複雑である。

 

 ちなみに親父は俺の所に顔を出さなかったが、これは惑星ジャルマでの事件と同時期に銀河連邦の主要惑星のいくつかが襲撃を受けて壊滅するという大事件が起きているからだ……そして、その直ぐ後に“真なるエンペラ星人の配下”を名乗る『暗黒四天王』から銀河連邦並びに宇宙警備隊への宣戦布告──第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)の開戦を告げられたのだ。

 ……それによりエンペラ軍団(自称)の対処がようやくひと段落ついたばかりの銀河連邦は大混乱、宇宙警備隊も例の強力な戦闘兵器【インペライザー】と【ロベルガー】が量産されて宇宙各地に攻め込んで来たり、四天王に協力する宇宙人達も一緒にやって来たりで現在全力稼働中なのだ。

 

 それに対抗する為に宇宙警備隊では親父を始めとするウルトラ兄弟を中心として宇宙各地で戦っているとの事なので、光の国へと帰ってくる余裕もないという訳だ……まあしょうがない、そりゃあウルトラの母に伝言するのがやっとだろうよ。

 ……しかし宇宙は酷い事になってるな。宇宙猫の手も必要なぐらいだし俺も早く退院して戦線に復帰するべきかな……彼女(アリス)とした()()もあるし、母さんからは激励も受けたのだ。このまま落ちる訳にも行かないだろうさ。

 

 ちなみにコールドスリープ状態のアリスはウルトラの母の気遣いで銀十字軍の方で保護して貰える事になったらしい……ドルズ星人の改造怪獣にはそれなりの被害が出ているので、それらに対する対策の研究として改造された者を元に戻す研究の被験者として引き取ったとの事だ。

 ……本当にウルトラの母には頭が上がらなくなりそうだな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▲月▽日

 

 そういう訳でリハビリが終わって今日が退院の日である……まあ、別に何かダメージを負ったとかではなく『銀の鍵』使用による疲労が倒れた原因だからな。

 ……実際の所、入院期間は『銀の鍵』による精神汚染度合いを調べる為のカウンセリングが大半だったがな。一応、影響は無いと診断されたので退院と相成った訳だ。

 

 それじゃあ早速戦線復帰……とは行かず、まずは宇宙科学技術局で使えるようになった(又聞き)らしい『銀の鍵』の試験をする事になった。

 ……流石にこんな危険物が使えるのに詳細も知らず放置するのは無理だし、ここまで大っぴらに使ってしまった以上はある程度の人間に事情を話すのも仕方ないだろうという親父とウルトラの父の判断であった。

 まあ、妥当な理由だからなぁ。母さんも『銀の鍵を使いこなせる様に』と言っていた気がするし、実際凄まじい力ではあったからもし万が一上手く使う事が出来るのならば相当な戦力になるだろうからな。

 

 そういう訳で俺は気合いを入れつつ宇宙科学技術局にある何時もの秘匿研究室で、謎の新能力に興味津々でハイテンションな何時もの局員達の全力解析の元で『銀の鍵』の使用を試みたのだが……何というか、色々と身構えていた割にはあっさりと『銀の鍵』の展開と行使に成功してしまった。

 ……実際、『出そう』と思えば銀色に輝く鍵が手の中に出るし、『使おう』と思えばその使い方やどのぐらい使えるのかがあっさり理解出来たんだよな。多分これって封印の管制人格が何か関わってるんじゃと思うんだが。

 

 まあ、とにかく『銀の鍵』を使う分には問題無いので色々と小規模な空間操作をしてみた訳だが……まず、これは当たり前だろうが以前の暴走状態の時と比べて出力は大幅に下がっているみたい。もう少し使ってみないと正確な所は分からないが、極小規模な空間操作や空間移動・空間把握とかしか出来ない様だ。

 ……問題はエネルギーの消費が尋常では無い事なんだがな。今回はウルトラ族ならほぼ無尽蔵で活動出来るはずの光の国なのに、『銀の鍵』を使っている間はまるで地球で活動しているかの様にエネルギーを消費してしまっていたのだ。おそらく通常の宇宙空間とかだと30秒も使えばカラータイマーが鳴り始めるだろう。地球上だと十秒持つかどうかかな。

 

 後、研究員達による『銀の鍵』の解析作業はさっぱりだった模様……解析の為、研究員達が俺に次々と倒れるまでエネルギーを供給し続けたんだがな。光の国の科学力を持ってしても辛うじて分かった事は『銀の鍵はこの宇宙の物理法則に則ったモノでは無い』って事ぐらいだそうだ。

 ……まあ、あの研究員達なら『銀の鍵』の先にいるっぽい邪神の精神汚染は大丈夫そうだけどね。というか多分俺の封印には他者への精神汚染の無効化みたいな効果も付いてる気がするんだよね。エネルギーの消費量の原因の一端もそちらにある感じかな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▲月■日

 

 とりあえず科学技術局の人達の協力で『銀の鍵』の能力を大凡把握出来た──結局、職員達が言うにはこの短期間では銀の鍵についての科学的な解析はほぼ通じなかったらしいが、次元・空間操作のデータは十分集まったと喜んでいた──ので、俺は本日から宇宙警備隊の任務に復帰する事になった。

 ……ちなみに色々な実験の結果、俺の『銀の鍵』は単に空間を弄るよりも変化した空間を元に戻す方がエネルギー消費が少ない事が分かったな。基本的に空間は操作するより元に戻す方が修正力的に楽ではあるんだが、『銀の鍵』の場合にはほぼエネルギーを使わずに済むぐらい効率が良かったし、そう言う方向性の力なのか或いは操作する方向性には制限が加えられているのか……そこはまだ分からんな。

 

 まあ、復帰最初の任務はウルトラの父からの指示で大事を取って光の国周辺のパトロールだったんだがな……第二次ウルトラ大戦争が起きた時点でベテラン勢はほぼ全員出払っている所為で光の国周辺は手薄になってるんだよな。

 ……以前までの『エンペラ軍団』での騒動の時も似た様な感じだったがただ宇宙中で騒動が起きていただけの前回と違い今回は宇宙警備隊へ直接宣戦布告までしている以上は光の国の守りを手薄にする訳には行かず、俺の様な腕が経つがまだ戦争に参加するには経験が足りないと判断された隊員は本星での防衛に回す方針らしい。

 

 実際、只のチンピラに毛が生えたレベルの『エンペラ軍団(自称)』達と違って、暗黒四天王率いる軍勢はあの二種の戦闘兵器群を始めとして強敵揃いであり、ベテランの隊員もやられる事が多いと同時期に光の国の防衛に回ってきたフォルトから聞いたしな。

 情報局に努めている彼曰く、主要惑星が壊滅させられた事で銀河連邦も重い腰を上げて本格的に暗黒四天王へと相対する気になった様で、『エメラルド星』や『二次元世界』や『アンドロ戦士団』などの連邦所属の戦闘に長けた星や勢力も動いているのだとか。

 ……本当に本格的な『戦争』になってきたな。一体この先どうなる事やら……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▷月○日

 

 今日も今日とて光の国周辺のパトロール……なんだが、色々と戦争に纏わる物騒な噂が流れてくる中で光の国周辺は不気味なぐらい静かだった。時折自称エンペラ軍団レベルのチンピラがちょっかいをかけて来るぐらいだ。

 ……どうも暗黒四天王率いる軍勢は銀河連邦の中でも防衛戦力が足りない星や各勢力を優先して狙っているらしく、光の国周辺にはむしろ近付こうとはしていないらしい。

 

 まあ、連中が宇宙警備隊にも宣戦布告している以上は本星周辺の警備を疎かにする訳にはいかないんだがな。一部では更なる援軍の派遣を求める意見もあったがウルトラの父と親父が却下したし。

 ……防衛戦力が手薄になった所を狙うのはお約束だからね。守りが開かなくても幾らかの戦力を釘付けに出来るし……ま、今は自分のやるべき事をしっかりやっておくしか無いかな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▷月△日

 

 あぐぐ……【キングジョー】は硬い……今日は暗黒四天王の配下になった【ペダン星人】の一派が率いる軍勢が光の国に攻めて来たのだ。

 ……しかも連中お約束の【キングジョー】だけでなく、現在宇宙で猛威を振るっている戦闘兵器の【インペライザー】と【ロベルガー】まで率いて来たから実に厄介だった。

 

 惑星ジャルマの時には『銀の鍵』で瞬殺してしまったが、あの二体の戦闘兵器はどちらも異常に高い火力を持っている上に装甲も厚いので中々倒せず、逆にこちらの被害が広がっていくと言う厄介な状況だった……幸いパトロールしていた隊員が連中の接近に気が付いたから、以前の様に本星に攻め込まれる事なく宇宙空間で迎撃出来たが。

 ……まあ、キングジョーも片腕をペダニウムランチャーに換装して宇宙用ブースターを取り付けた宇宙型だったし、他の二体……特に円盤生物であるロベルガーは宇宙空間での機動力も高かったから厄介極まりなかった。

 

 とりあえず救援要請を受けた俺とフォルト、後帰って来ていたゴリアテが援軍として向かってロボット軍団の相手をしてどうにか戦線を維持出来たんだが……負傷した味方のフォローをしながら高火力・高耐久の連中を相手にするのはかなりキツかった。

 ……アイツら殴っても蹴っても光線撃っても中々倒れないからなぁ。最終的には電撃攻撃の『ライトニングカウンター』とかで機械率が高い【キングジョー】のショートを狙いつつ、生物であるが故に比較的脆い【ロベルガー】優先して倒して数的有利を確保、その上で宇宙での機動性は低い【インペライザー】を集団でボコるという感じでどうにかしたが。

 

 まあそれでもこちら側には戦死者こそ居なかったものの負傷者はかなり出てしまったし、連絡を受けて救援に来てくれたタロウ教官を始めとするベテラン隊員がいなかったら退けられなかっただろうがな。

 今回の一件で光の国の警備を強化した方が良いんじゃないかと言う声も上がってるが現在の戦況ではそれは難しいっぽいしなぁ。更に敵の質が全体的に高いから特に実力の低い隊員の負傷率が高まってるとか教官は言ってたし。

 それに加えて四天王の一角であるヤプールが地球に戦力を送り込んでるとかの情報があるので、派遣したメビウスを呼び戻すみたいな話になってるとも教官は言ってたし……多分何と無くだがメビウスが素直に帰還に従わない気もするんだよな、地球の事をだいぶ気に入っていたみたいだし。アイツ素直な様に見えて意外な所で頑固だからなぁ。さてどうなるか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▷月◀︎日

 

 今日は【リフレクト星人】の一派が攻め込んで来た……何やら『我々にはウルトラ族の切り札である光線技は効かない!!!』とか言ってたので、ゴリアテと一緒に直接ブン殴って対処しました。多少は硬かったが【キングジョー】程じゃなかったしね。

 ……しかし、光剣で対抗出来たフォルトとかと違って他の隊員は光線技を封じられると途端に苦戦してたな。宇宙空間だと格闘戦はやや難しい事も踏まえて光線対策とか露骨にこっちをメタって来てるな。

 

 この様に時折嫌がらせの様に光の国に小規模かつ散発的な襲撃を掛けられる様になって暫く、俺たち新人隊員防衛組は比較的近場に配置されてるベテラン組の援軍もあってどうにか防衛戦をこなす事が出来ていた。

 ……捕獲した襲撃者から聞き出した話や現在の戦局からして、どうも暗黒四天王の配下に警備が手薄になってる光の国を落として手柄を上げようと考える連中がいてそいつらが攻めて来ているらしいな。

 そして四天王も『万が一光の国を落とせれば良し、そうでなくても敵の戦力を一定以上釘付けに出来る』って考えで、やる気のある配下を送り込む事にしてる様だ……多分だが、配下と言っても利害の一致で協力しているのが殆どなので、ガス抜きも兼ねてるんじゃないかと情報部のフォルトは推測しているが。

 

 やれやれ、最近はあまりにいいニュースが無いな。戦局も戦闘兵器群が強くて押され気味だし……強いて言うならメビウスがC()R()E()W() ()G()U()Y()S()()()()()()()()()()()()()()()地球に残る事になったと言う話ぐらいか。

 その際の話はどこか嬉しそうなタロウ教官に聞いたんだが、実にアイツらしいと言うか何というか……ウルトラ兄弟でも出来なかった『正体がバレた上で最後まで地球人と共に戦う』事をやってのけたメビウスはやはりすごいな。友人としても鼻が高い。

 ……地球のメビウスも頑張っているんだし、こっちはこっちで自分のやるべき事をしっかりしておこうかね。




あとがき・各種設定解説

アーク:『銀の鍵』が少し使える様になった
・ちなみに使用には相当な集中も必要でエネルギー消費も悪すぎるので、基本的に普通に戦った方が強い。
・本人は『リバーススタイルと合わせて通常戦闘では使いにくい特殊能力ばっかりだなぁ』と内心思っていたり。

第二次ウルトラ大戦争:開戦
・現在は四天王の配下に付いた宇宙人達+生産した強力な戦闘兵器達によってエンペラ星人側がやや優勢な感じ。
・ただ、連中は余り足並みが揃っていないので攻めあぐねており、その間に銀河連邦は奇襲でやられた施設や人員を復旧させて反撃に移る構え。
・そして、その準備の間は宇宙警備隊などの比較的フットワークの軽い勢力が応戦して時間を稼いでいると言う状況。
・尚、エンペラ星人自身はこの戦争を『余興』と考えているのでまだ動かず、現在は『自身が身に付けさえすれば単騎で全宇宙を相手に出来る』と考えている“鎧”の整備と調整を慎重かつ念入りに進めている。


読了ありがとうございました。
本作ではメビウスが呼び戻されたのは『大戦争が始まって強力な敵が地球を狙ってるので、若手は比較的安全光の国の防衛に回す方針になったから』としています。タロウがいきなり現れて撤退命令を出したのにもちゃんと事情があった感じで描写しました。


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宇宙警備隊員アークの日記・破

 ──────◇◇◇──────

 

 

 侵略星人 サロメ星人

 ロボット超人 にせウルトラセブン

 円盤生物 ロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ウルトラマン達の母星『光の国』……宇宙の秩序の象徴とも言えるその星にも、現在起きている『第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)』による大火が迫り込んで来ていた。

 

『ゼェヤァッ!!!』

「チッ、セブンさんを模したロボットとは! サロメ星人め、やってくれる……!」

 

 光の国の近郊宙域、そこではアークを始めとする新人宇宙警備隊員達を中心に構成された『光の国防衛隊』と、エンペラ星人に下った【侵略星人 サロメ星人】の一派が送り込んだ【ロボット超人 にせウルトラセブン】()()が激しい戦いを繰り広げていた。

 ……この量産された【にせウルトラセブン】はかつて地球に来たサロメ星人がウルトラセブンのデータを解析して得た際、そのデータを報告ついでにサロメ本星に送っており、“ウルトラマン”を模したロボットなら戦力増強に有用だと判断されて量産された物である。

 

『ズェイアッ!』

「ええいっ! アイスラッガーまで再現されているのか!」

 

 そんな【にせウルトラセブン】が頭部の宇宙ブーメラン『アイスラッガー』を投げつけて来たので、アークは取り出したウルトラランスで打ち払いつつ接近していった。

 ……にせウルトラセブンには生体反応は無いので何時ぞやの【ババルウ星人】と違って警備隊員が本物と偽物を見間違える事こそ無いものの、アイスラッガーやワイドショットの再現などスペックは地球で作られた物よりも向上していたので警備隊員はやや苦戦を強いられていた。

 

「……だが、流石に本物のセブンさんと比べれば技の一つ一つがヌルいわ!」

『ゼッ⁉︎』

 

 ……とは言え、その性能はまだまだ“ウルトラ兄弟”の一角である本物のウルトラセブンには及ばず、そのセブンからの(超厳しい)薫陶を受けた事もあるアークにとっては対応出来るレベルの攻撃であった。

 そうしてアークはにせセブンが額から放ったエメリウム光線を躱しながら反撃のアークスラッシュを放って怯ませ、その隙に一気に懐に潜り込んで蹴りを打ち込んだ。

 

『ギィッ⁉︎』

「格闘技能はプログラム通りか。セブンさんの宇宙拳法まではコピー出来ていないようだな。アークブレード!」

 

 そのままアークは殴る蹴るの近接格闘戦でにせセブンを圧倒し、最後には展開した光剣によって袈裟懸けに斬り裂いて爆散させた……その直後、自身に向かって放たれる多数の光弾を察知して、慌ててその場から飛び退った。

 

『指令、宇宙警備隊員、抹殺』

「今度はロベルガーか! ……敵を撃破した隙を狙うとは生意気な」

 

 アークへと攻撃を仕掛けたのは暗黒四天王からサロメ星人に譲り渡されて今回の進攻に参加していた【円盤生物 ロベルガー】であった……インペライザーやロベルガーなどの戦闘兵器は暗黒四天王に降った勢力にも戦力として渡されており、現在の大戦争に於ける四天王側の優勢に大きく貢献する程に宇宙中で猛威を振るっているのだ。

 ……ちなみにこの二体の戦闘兵器の開発には暗黒四天王の配下となったペダン星人やサロメ星人などの高い技術力を持つ者達も関わっており、それ故に彼等には優先して供給されていたりする。

 

『指令、宇宙警備隊員、抹殺』

「ウワァ⁉︎」

「コイツ辺りを飛び回って……」

 

 そしてアークを攻撃したロベルガーは円盤生物由来の高い宙間機動能力を活かして宇宙を飛び回り、周囲で戦っている宇宙警備隊員へ次々と攻撃を仕掛けていった。

 ……警備隊員も反撃するのだがロベルガーの機動力に加えて、にせセブン軍団を相手にしなければならない事もあってその動きを捉えられずにいた。

 

「アーク! ロベルガーを頼む! にせセブンさんの方はこっちでどうにかする!」

「了解だ、フォルト!」

 

 それに対して実力と指揮能力からいつのまにか防衛部隊のリーダー的扱いになっていた宇宙情報局所属のフォルトは、これ以上ロベルガーに戦局を混乱させられる訳にはいかないと判断して、こちらの()()()()であるアークにロベルガーの対処を任せる指示を出した。

 ……それと同時ににせセブンを牽制しながら他の隊員に指示を出して攻撃を当てられる隙を作ってみせる戦いぶりを見せている所も、フォルトが新人隊員の中でも頭一つ図抜けた実力を持つ証拠であるのだろう。

 

『指令、宇宙警備隊員、抹さ「同じ事しか言えんのか貴様は!」ガァ⁉︎』

 

 ……それでも()()()()()()()としては高速で飛翔するロベルガーに高速移動を駆使して瞬時に追いついて拳を見舞っているアークと比べれば見劣りしてしまうだろう。

 そのままアークはロベルガーの得意とする光弾の連写を出させない様に至近距離での格闘戦によって相手を徐々に追い詰めていき、動きが鈍った所にエネルギーを込めたウルトラランスを投げ放ってその胸部を貫いた。

 

『指……令、宇宙警……備隊……員、抹……殺……』

「これでトドメだ! アークレイショット!」

 

 そのダメージによって完全に動きが止まったロベルガーにアークは自身の必殺光線を撃ち込んで粉々に爆散させた……そしてアークはすぐさま反転して未だににせセブンと戦う防衛部隊に合流してにせセブン軍団を相手に獅子奮迅の活躍をするのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▶︎月◉日

 

 うだー、サロメ星人めー! にせセブン軍団を送り込むだけ送り込んで自分達は逃げていきやがった! ……まあ、セブンさんの複製ロボットは全機破壊したし防衛隊員にも犠牲は出なかったから光の国の防衛自体は成功したんだが、最後にケチが付いた感じだな。

 ……しかし、だんだんと光の国に送り込む戦力が増えているっぽいんだよなぁ。今回もロベルガーが三体と後方支援にインペライザーが三体程居たからな。一応ロベルガーは俺が二体程撃破して最後の一体はフォルトが部隊を指揮して包囲殲滅、インペライザーの方も宇宙では動きが鈍い所を突いてゴリアテを筆頭にする近接パワー組が接近戦を挑んで破壊した訳だが。

 

 とは言え、流石に光の国の防衛戦闘も徐々に厳しくなっている以上は何かの対策を打たねばならないと思うんだが……ご存知の通り今現在大戦争中の宇宙警備隊にそんな余裕は無い。

 ……なので、とりあえず今出来る事として宇宙科学技術局の(変人)科学者達に頼んでセブンガーに宇宙戦闘用装備を追加して貰う事にした。セブンガーは通常だと陸戦用だから、宇宙空間ではブースターによる単調な機動しか出来ないからな。五分しか使えないとは言え宇宙でも動ける様になれば戦力の増強にもなるだろうと思ったのだ。

 

 そういう訳でセブンガーの宇宙戦用強化を技術局の科学者達に依頼し、それを聞いた彼等はそれはもうイイ笑顔で了承してくれた(ちょっと不安になったが)ので現在は技術局にセブンガーを預けているのだ。

 ……3日もあれば宇宙空間用装備と各種整備・調整が終わるらしいので、それまで敵が攻めて来ない事を祈っておこうか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▶︎月◇日

 

 そういう訳で3日経った。幸いな事にこの三日間は光の国への襲撃は無かったので、新人が多いからかちょっと疲れ気味だった防衛部隊もしっかりと英気を養えた様だ。

 ……俺? 俺はこの程度の連戦で疲れる様な柔い鍛え方はしてないから。そもそも光エネルギーさえあれば体力とかも回復出来る訳だし、プラズマスパークがある光の国周辺で戦うのなら精神以外は大して疲労しないしね。

 

 そんで技術局に預けていたセブンガーの宇宙戦用装備の組み込みも無事に終わって新たな姿となった。その名も【セブンガー・スペースカスタム】だー!!! ……そのまんまじゃんと言ってはいけない。なんだかんだで技術局の変態達が総力を挙げて改造したのでかなりの性能に仕上がってる(と言ってた)

 まず、背中にはブースターに被せる形で翼型の宇宙空間用反重力推進システム『スクランダーウィング』を装備し、これまでのブースターと違って宇宙空間を自由に飛行可能になって機動性も大幅に強化されているそうだ。

 更に腕部は宇宙空間では格闘戦やロケットパンチが運用し難いとのデータを受けて、右腕はクローモード・ドリルモード・ビームモードの三形態に変形する多目的武装ユニット『マルチドリルアーム』に、左腕は貫通力に特化した誘導ミサイルを発射する『ドリルミサイルアーム』へと換装されている……ドリルばっかじゃね? とは俺もツッコミをいれたんだが『これがロマンだ!』の勢いで押し切られた。

 ……他にも射撃武装が無いので近接戦しか挑めないという戦闘データから通常形態でも使える様に口部から小型のミサイルを発射出来る様になっていたり、怪獣ボール自体に中のセブンガーを通常形態と宇宙戦形態を自由に換装出来る機能を付けたりと実際性能や使いやすさが上がってるから文句も言えないのだ。

 

 最もここまでやる気ある改造が行われたのは、俺がセブンガーを活用している事や大戦争での戦力補充手段の一つとしてセブンガーの少数量産が検討されて、開発者達のテンションがうなぎ登りに上がっているのも理由になっているのだが。

 改装されたセブンガーを渡された時も『これもアーク君がセブンガーを積極的に使ってくれたお陰だね! 試作型セブンガーに搭載された“教育型コンピューター”から得られた戦闘データのお陰で量産型に搭載する人工知能開発の目処も立ったしこれからもドンドン使ってくれたまえ!!!』とか言われたしな。

 ……まあ、彼等は技術と開発した物の性能だけは一級品だからな。セブンガーは今後の光の国の防衛に関しても十分な戦力になってくれるでしょう。多分。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▶︎月△日

 

 うん、今日は【セブンガー・スペースカスタム】大活躍だったな……本日、光の国に攻め込んできたのは【宇宙怪獣 ベムラー】の群れであったのだが、パトロール中の俺が真っ先に見つけたので光の国に報告を入れつつ足止めの為に戦う事になったのだ。

 そして流石に少々数が多かったので単独で時間稼ぎは少し難しいと考えた俺は、手数を増やす為とせっかくカスタムされたんだから試験ぐらいはしておこうと言う考えからセブンガー・スペースカスタムを呼び出してベムラーとの戦いに挑んだのだが……出てきた瞬間、左腕のドリルミサイルの一切発射で一体のベムラーを爆散、更に反重力推進による機動性で瞬時に距離を詰めながら右腕のドリルによってもう一体のベムラーの胸部を貫いたのだ。

 

 新武装の調子も見たかったから一通り使って見せてくれとは指示を出してあったんだが、まさかここまで宇宙空間での動きが良くなっているとは思わず少し驚いてしまった……戦闘プログラムもアップデートしていたとは言ってたが、あの科学者達本当に腕前だけは一流なんだよなぁ。

 その後は俺も参戦してベムラーの群れの三割程度を撃破した所でセブンガーの活動限界が来て、その直後に他の防衛部隊からの援軍が来たので一緒に戦ってベムラーの群れを全滅させたのだった。何時ものロボット軍団と違って大して硬く無い相手だったから割と簡単に倒せたな。

 

 後、他の防衛部隊の人達からは『流石はアーク!』『やっぱりゾフィー隊長の息子だよな!』『ベムラーをああも簡単に撃破するなんて』とか言われたので、一応最初の遭遇時に対処出来たのはセブンガーの協力があったからこそだと宣伝ついでに説明してみた。

 その時、実際の戦闘映像も見せたお陰でセブンガー・スペースカスタムは割と好評価で自分も欲しいと言う人もチラホラいたから、これでセブンガーの量産を支持する人が増えるかもしれないな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▽月○日

 

 とりあえず光の国の防衛については意外となんとかなっていた……と言うのも、日々の散発的な侵攻のお陰と言うのも変だが、その所為で防衛部隊の新人隊員が多くの実践経験を積む事が出来たのでメキメキと成長しているのだ。

 加えて何度も部隊単位で戦い続けた結果、隊員同士での連携もある程度取れる様になったので何とか安定して攻め込んで来る相手を迎撃出来る様にはなって来た。

 

 ……たが、流石にインペライザーやロベルガークラスの相手だと単騎で相手取れるのはフォルトやゴリアテなどの一部部隊員だけで、更に単独で確実にそのレベルの連中を倒せるのは未だに俺一人というのが問題だ。

 実際、インペライザーやロベルガーは技術局の解析によると自動再生機能とかが付いて性能が高い高級品と、量産性を重視して性能はやや劣る量産品の二種が存在しており、高級品クラスになるとウルトラ兄弟ですら苦戦するレベルらしい。

 まあ、光の国への侵攻に使われているのは全て量産品だったから、高級品は連中でもおいそれと使えない程度には貴重な物なんだろう。セブンガーの量産にはまだ時間が掛かるし、この辺りの対策を練っておいた方がいいかな?




あとがき・各種設定解説

アーク:光の国防衛部隊のエース格として活躍中
・防衛部隊での役割は遊撃、とりあえず強い相手を単騎で真っ先に倒して味方の被害を減らす役割。

セブンガー・スペースカスタム:強化されたセブンガー
・大活躍したのは周りの被害を気にする必要がない宇宙戦なので、地上用からは意図的に廃された高火力装備を装着しているからでもある。
・元々セブンガーの頭部・背部・腕部には追加装備用の換装機構が組み込まれており、オプションパーツを付け替える事によって様々な戦況に対応できる汎用機として設計されていた。
・それ故にコストが掛かったり活動時間が短くなったりした一面もあったが、アークが存分に活躍した事が上層部の耳に入り大戦争に戦力が必要だった事もあって少数量産される事になった。

光の国防衛部隊:その大半が新人だが割と頑張ってる
・アークという例外を除けば、宇宙警備隊としては稀少な指揮官としての才能を目覚めさせたフォルトや、持ち前のタフさで前衛を張っているゴリアテ、的確に周りをサポートしているアムール辺りの評価が高い模様。
・地球で活躍しているメビウスや防衛任務で腕を上げた士官学校の同期生も居る事から“黄金世代”と呼ばれているとか。

サロメ星人:にせロボットを作る事に定評のある連中
・本編に登場した一派は暗黒四天王の古参の協力者で、エンペラ星人を敵に回したくないサロメ星から報酬を貰って派遣された技術者達。
・自分達のロボット技術を提供してインペライザーやロベルガーの開発に貢献したので優先的に戦力を供給されているが、大戦争に直接関わる気はあまりなく自分達のロボット兵器を売りに出して儲ける事を優先している。
・今回光の国に攻めて来たのも暗黒四天王への『自分達は協力してますよ』的なアピールと、ウルトラ戦士達のデータを収集してにせウルトラ戦士の生産に活かそうという目的から。


読了ありがとうございます。
遂に『ウルトラマントリガー』開幕! 第1話から色々な伏線に加えて、まさかの『ゼペリオン光線』によるトドメとかティガ世代の作者にはぶっ刺さりまくりでした。今後も楽しみです。


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宇宙警備隊員アークの日記・急

 ▽月◉日

 

 今日は久しぶりに朗報が届いた……なんと、地球にいるメビウスがCREW GUYSのメンバーと援軍に来ていたエースさんと共に暗黒四天王の一人である『邪将』ヤプールを倒したのだそうだ。

 ちなみにエースさんが援軍に来れたのは、タロウ教官が地球に向かった時の様子から『暗黒四天王が地球とメビウスを狙う可能性はある』と報告したので太陽系近くにウルトラ兄弟が持ち回りで待機していたからだそうだ。そのお陰で少し前にはレオさんや80さんも地球へと行っているらしい。

 ……とにかく、この報告で光の国の防衛隊若手達の士気は急上昇、特に俺たちメビウスの同期生達は我が事の様に喜んでいた……俺も少しだけとはいえ地球に行った事があるから彼等の活躍は嬉しかったな。とりあえず『メビウスはやる時にはやる男だと思っていました』と訳知り顔で語っておこうか(笑)

 

 更に暗黒四天王の一人が倒されたという情報を銀河連邦が主体で宇宙中に拡散したのが原因で、エンペラ側に付いた連中の士気がかなり下がっているそうだ……まあ、所詮連中はエンペラ星人と暗黒四天王の“力”を見て『そちら側に付いた方が得だろう』『あの強者達に付いていきたい』とか思って配下に付いたのが殆どだろうからな。

 それ故にその“力”という看板に傷が付けば士気も当然落ちるし、連中の殆どは自分本位だから離脱者も出て来るだろうと見られているからな。それが分かっているからこその銀河連邦の大袈裟な宣伝であり、彼等はそれに合わせて大規模な反攻作戦に移り初めていると聞く。

 

 ……ただ、懸念されてるのは暗黒四天王を倒した地球のメビウスに向けて更なる脅威が向かうのではないかという部分だ。実際傷ついた看板をメビウスを倒し地球をその手にする事で建て直そうと考えるのは普通にあり得そうだしな。

 勿論、俺程度に考えつく事を宇宙警備隊、特に地球に対して思い入れが強い親父を始めとするウルトラ兄弟達が考え付かない訳がなく、太陽系周辺の警戒態勢を更に強化する事で対応しているようだが。

 

 ……というか、地球に来た高級品インペライザーをメビウスに倒された時点で親父は遠からず地球が狙われると予想していたみたいだ。だからこそ先にも言った様にタロウ教官、レオさん、80さんを向かわせたんだろうし。

 さて、多分これで良くも悪くも戦局は動くだろうしどうなるかな……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▽月◇日

 

 今日は再び朗報が届いた……なんと地球にいるメビウスがCREW GUYSのメンバーと援軍に来ていたジャックさんと共に暗黒四天王の一人である『謀将』デスレムを倒したのだそうだ。

 ……なんかこの前と同じ事を書いてる気もするけどコピペじゃないよ。

 

 それはともかく、お陰で更に光の国と銀河連邦の士気は急上昇、エンペラ側に付いた連中も目に見えるぐらいに離反者や戦争に消極的になった者達もいるとかで戦局は大分盛り返して来たらしい。

 ……まあ新入りで地球攻略に専念していて割としょっちゅう倒されてるヤプールがやられたのと、今回の戦争でも謀略によっていくつもの惑星を落として来たデスレムがやられたのでは連中に与えるインパクトが違うんだろうね。

 

 しかしこれまで誰も倒せなかった暗黒四天王を二連続で倒すとか何か都合が良すぎないかと思って調べてみると、どうもデスレムは地球に単騎で訪れたらしい……インペライザーやロベルガーを向かわせなかったのかとも思ったが、実は同時期に太陽系周辺を警戒していた宇宙警備隊に嗾けて地球へ行かせない囮として使っていたらしい。

 一応デスレムも単騎で向かう以上、得意の謀略を駆使してメビウスが全力を出せない様にして戦いを優勢に運んだ様だが地球人を甘く見た所為で倒されたという感じの様だ。

 ……魔境である地球で強豪怪獣や侵略宇宙人と戦いまくってる地球人を甘く見るとか“謀将”とか名乗ってる割に馬鹿かな? とも思いはしたが、普通に考えると地球は宇宙進出もしてないヒューマノイドタイプの住民が住む後進惑星に見えるだろうから、俺みたいに詳細な情報を知ってないと油断するのも止むなしなのかもしれん。

 なので連中には是非ともドンドン油断と慢心を重ねていってほしい。その分だけこっちが楽になる。

 

 そんな事もあって最近は連中も光の国にちょっかいを掛ける余裕も無くなったのか襲撃もめっきり途絶えており、それを見た上層部は連中が態勢を立て直す前に打撃を与えておきたいという考えから光の国の防衛に割いているベテラン人員の一部を戦線に導入して反撃を始めている。

 ……まあ、俺含む新人隊員は防衛部隊のままだけどな。光の国の守りを無くす訳にもいかないからしょうがないし、士気が上がってるお陰で不満を漏らす者もいないから特に問題はないんだが。

 出来ればこのまま大戦争をこちらの勝利に持って行って欲しいんだが、まだ四天王の残り二人と頂点である【エンペラ星人】も残ってるし、四天王が二人もやられたとなると向こうも相当に慎重になるだろうから気をつけないとな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▽月▽日

 

 今日は三度朗報が届いた……なんと、地球にいるメビウスがCREW GUYSのメンバーと援軍に来ていたセブンさんと共に暗黒四天王の一人である『豪将』グローザムを倒したのだそうだ。

 ……いや、ちょっと順調過ぎない? メビウスやGUYSメンバーが強いのは知ってるし、そこにウルトラ兄弟が援軍に来たのなら暗黒四天王一人だけなら倒せるだろうけど、アイツら3度も同じ様なシチュエーションで倒されるとかそれでも四天王なの? 

 他の同期達や防衛部隊員の士気はもうお祭り状態の所でこんな事を考えてしまうなんて、やっぱ俺って捻くれてるのかなぁ……と思いつつ、地球での戦いの詳細をちょっと調べてみたら色々と分かった。

 

 まずグローザムは多数のインペライザーとロベルガーを率いて太陽系周辺に配置されていた宇宙警備隊を攻撃して、本人も自身の不死身と言っていい再生能力で当時警備についていたセブンさん相手に暴れに暴れたらしい……グローザムは『豪将』の名の通り単純な武勇に頼るタイプだったから正面から地球ごと宇宙警備隊を叩き潰せばいいだろうと考えたのかね。

 それで宇宙警備隊にある程度ダメージを与えた後に追加のインペライザーとロベルガーを向かわせて抑えさせ、その隙に自身は地球に行ってメビウスを始末しようとしたみたいだ。

 ……そうして抑えられたセブンさんだったが援軍に駆けつけたマンさんが戦闘兵器群を引き受けてくれたので、グローザムを追って地球へと向かう事が出来たって展開だったと報告にあったな。

 

 ふーむ、こうして並べてみると暗黒四天王の油断や慢心が酷いのかどうも行動が雑だな。或いは行動が雑になるぐらい何か焦らなければいけない様な理由でもあったのか……まあ、四天王の内三人が倒されて敵の士気はガタガタで離脱者も続出、更に序盤のダメージが回復した銀河連邦が本格攻勢に入った事で戦局は完全にこっちに有利な状況になってるからそれはそれでいい事ではあるんだが。

 ……出来れば彼等にはこのまま油断や慢心を積み重ねてやられていって欲しい。その方が楽だからね。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)が始まってから光の国の戦時中の厳戒態勢であったので住民は慢性的な不安を覚えており、その為か全体的にやや暗い雰囲気の中にあった。

 だが、四天王の撃破や宇宙警備隊と銀河連邦側の優勢のニュースが届けられた事と、先のバット星人襲来と違って本星が直接襲撃される事がなかった事から少しずつ雰囲気が元に戻り始めていた。

 ……そんな中、俺は少しだけ防衛任務を離れていきなり帰って来た親父と久しぶりの親子の会話に興じていた。

 

「……ではアークよ、『銀の鍵』の運用そのものは問題なく出来ているのだな?」

「ああ親父、エネルギーを馬鹿喰いするけど“使う”だけならまあ。発動中は時空間の操作で出来ない事は殆どない感じ。……詳しいデータはこっちにあるから」

「分かった、見せてもらおう」

 

 そうして俺が渡した科学技術局での『銀の鍵』の運用データを親父は真剣な表情で読み込んでいった……なんか全然親子の会話じゃなくね? むしろ事務報告か何かじゃと思うかもしれないが、俺は『親父』呼びだしそもそも普段から大体こんな感じだし

 ……後は『銀の鍵』とお袋についての話もしておきたいからな。親父は最前線に出ずっぱりだったからそういう機会が無かったし。

 

「しかし、お袋が封印の管制人格になってるとか教えてくれても良かったんじゃないか?」

「ティアからの頼みでな……『余計な意識を持たせない様に封印と管制人格についてはあの子が『銀の鍵』の力を自力で引き出すまで黙っていて欲しい』と言われていてな。……あの鍵についてはティアの方が遥かに詳しかったし、おそらく何か意味がある事だったんだろう」

 

 まあ、あの『銀の鍵』を使える様になった今ならなんとなく分かるかな。彼女(アリス)との出会いと別れ、そしてあの時抱いた怒りと憎悪とその果てに改めて得た()()()()()()()()がなければ多分『銀の鍵』は使いこなせなかっただろうから。

 ……さて、そんな感じで最近あった事を適当に話していった俺と親父だったが、それは親父が『銀の鍵』の運用データを見終わると同時に終わり今回の“本題”へと話は移っていった。

 

「……データは見させて貰った。そしてこれを踏まえての事なんだが、ここからは宇宙警備隊としての()()の話になる」

「了解した“隊長”」

 

 ……今現在の大戦争において、宇宙中で戦う警備隊員への前線での指揮を行なっている宇宙警備隊で最も忙しい親父が、単に息子と話す為だけにわざわざ本星まで戻って来る訳がないだろうしな。おそらく何か俺に任務面での用事……多分『銀の鍵』関連での“何か”があるからだと思うんだが……。

 

「現在のエンペラ星人の軍勢と我々宇宙警備隊及び銀河連邦諸侯との戦い、通称『第二次ウルトラ大戦争』はこちら側の有利に進んでいる」

「地球でメビウスとGUYSメンバーが暗黒四天王を三人も討ち取りましたからね」

「ああ、そのお陰でエンペラ星人の傘下に入った者達も離脱者が続出しているからな。……だが、()()()()()()()からまだ予断を許さない状況でもある。第一に連中の首魁である【エンペラ星人】本人が未だにどの戦線にもその姿が確認出来ない事だ」

 

 親父曰く、 捕縛した相手から聞き出したり宇宙警備隊と銀河連邦の専門家達が調べた所、エンペラ星人は傘下に入った有力な宇宙人の前には直接姿を表す事はある様だが、この大戦争そのものには一切参加した様子がないとの事だ。

 ……エンペラ星人はかつての第一次ウルトラ大戦争時に()()()光の国の防衛戦力を壊滅させる程の戦闘能力を見せており、ウルトラの父が光の国に伝わる聖剣『ウルティメイトブレード』によってパワーアップして迎え撃たなければならない程であったという。

 

「事実、エンペラ星人本人が戦線に出てその力を振るえばこちら側には大打撃を受けるだろうし、現在離れかけている者達も再び傘下に入る可能性は高い。……勿論、エンペラ星人の動向はこちらも全力で警戒しているから、もし動き出せば私を筆頭とした宇宙警備隊の最精鋭で迎え撃つ事になるだろう」

「エンペラ星人は配下の暗黒四天王が三人も倒されたにも関わらず不気味な程に動きを見せませんからね」

「ああ、油断は出来ないだろう。だが、未だに行方も分からないエンペラ星人よりも早急に対処しなければならない物がある……倒された三人の四天王を補うかの様に前線へ出てきたエンペラ星人の側近【エンディール星人】と【ジオルゴン】、そしてその配下として大量に投入される様になった【インペライザー】と【ロベルガー】だ」

 

 何でも現在エンペラ星人側が不利な戦場に対して多数のインペライザーとロベルガーが向こうの援軍として投入されており、その高い性能と物量で猛威を振るっているのだそうだ。

 

「あれだけ投入してまだ残ってるのか」

「うむ。一体一体が並大抵の怪獣を上回る戦力を持ったこの二種が多数投入されているが故、未だに敵戦力を押し切る事は出来ていないとも言える。……だが、あれ程の性能の兵器をこれだけの量投入しているという事は、何処かに()()()()()()()()が存在する筈だ」

 

 確かに、宇宙中で暴れ回ってるインペライザーとロベルガーもアレだけ倒されても次々と追加が現れる以上、何処かで新しく作っている筈だからな。

 

「つまりその施設を探して破壊すると?」

「そうだ……と言っても、あの二種が現れた時点で情報局と銀河連邦のエージェントにその出所を探らせていたからな。その生産施設の場所は凡そ特定出来ている」

「それじゃあそこを破壊すれば……って、出来るのならとっくにやってますよね」

「ああ、その生産施設がある場所は“暗黒宇宙”のとある座標である事は確認出来たのだが、そこには非常に強力な結界が張られていて侵入は不可能だったのだ。……おそらくエンペラ星人自身が作り上げた物である可能性が高いのだろう」

 

 その結界の強度はあの【ドルズ星人】の本星に展開されているモノよりも数十倍以上上回ると推測されており、更に生産されたインペライザーとロベルガーが警備に付いているので突破は困難を極めるとの事……成る程ね。

 

「つまりその結界を俺の『銀の鍵』の力で破ると」

「そういう事だ、ドルズ星人の結界を破ったお前の『銀の鍵』であれば可能性はある。……幸い戦闘兵器を戦線は投入する事を優先したからか、警備に付いている兵器群の数は減っていると監視に付いていた者から報告があった。私の『ブラックストリームM87』で結界ごと破壊する事も考えてはいたが色々と危険もあるからな。打てる手は多い方が良い」

 

 ちなみに宇宙警備隊と銀河連邦との合同で既に生産拠点に対する攻撃準備はと整いつつあり、後は結界を破壊する手段を用意するだけだと言う……一応銀河連邦の方でもいくつかの強力な兵器を用意しているそうだが、結界の強度は既存の技術では計測不能だったので可能な限りの手段を用意する事になったのだという。

 

「了解しました。敵生産拠点の攻略任務を受けさせていただきます」

「頼んだぞ。……詳しい戦略などはこれから説明する」

 

 こうして俺は一時光の国の防衛任務を離れ、大戦争の趨勢を決める戦いの一つに加わる事になったのだった……メビウス達も頑張っているし同期として、或いは親友として俺も頑張らないとな。




あとがき・各種設定解説

アーク:新たな任務へ

暗黒四天王:週一で倒されてると錯覚するぐらいのペースで欠けていった
・こんな事になったのにはいくつか理由があり、本編でのアークの推測以外にもまず四天王同士は仲間というよりは手柄を奪い合うライバルという面が強いので、ヤプールを倒したメビウスと地球を落とせば手柄になると考え単独で行動している事が挙げrsれる。
・そして『ウルトラ戦士が気に掛けている地球で四天王が倒された』事を聞いた皇帝が引き続き“戯れ”として残りの四天王に地球の攻略を命じられ、それを聞いた彼等は汚名を払拭する為に力を示す必要があった事もある。
・後は四天王の一人がやられて皇帝の機嫌が悪くなった、或いは『最早四天王は不要』とされるのを勝手に恐れた四天王が地球とメビウスを圧倒的な力の差を見せ付けて徹底的に倒して保身を図ろうとしたとかの理由もあったり。
・ちなみに最後の一人である“知将”は戦闘兵器達の追加投入の指示を出した後、グローザムにやられて守りが薄くなっている隙を突いて地球にこっそりと潜入して以前取り付けておいた催眠装置を起動する準備をしている。

【知略遊撃宇宙人 エンディール星人】【岩力破壊参謀 ジオルゴン】:皇帝の側近
・これまでは前線を暗黒四天王に任せて皇帝の補佐や後方支援に徹していたが、四天王が壊滅した為に自ら前線に出てきた古参の幹部達。
・尚、暗黒四天王の事は『皇帝が戯れで取り立てたぽっと出。戦闘兵器の量産に関しては役に立ったが辺境の惑星であっさり死ぬとか思ったより使えなかった』みたいに思っており仲は悪い模様。


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生産拠点強襲作戦

 ──────◇◇◇──────

 

 

 無双鉄神 インペライザー

 円盤生物 ロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 親父から【エンペラ星人】の戦闘兵器群生産拠点の強襲作戦への参加を命じられてから数日後、俺は宇宙警備隊・銀河連邦合同の強襲部隊における宇宙警備隊精鋭部隊と合流していた……あ、21先輩とタロウ教官もいるな。

 

「お久しぶり……という程ではありませんかね、21先輩、タロウ教官」

「アークか……その様子なら大丈夫そうだな」

「ふっ、そうだなアーク。今回の作戦ではよろしく頼むぞ。……俺とタロウはお前の“事情”を知っているからな。ゾフィー隊長からもフォロー頼まれてもいる」

 

 とりあえず二人に軽く挨拶をした後、こっそりと21先輩からそんな事を言われた……どうやら俺とそれなりに親しくて色々と関わってしまっていた彼等には、親父も『銀の鍵』についての事情をある程度話していたらしい。

 ……まあ、親父はこの宇宙警備隊精鋭部隊の部隊長としての仕事もあるから俺だけに関わっている余裕はないだろうしな。なるべく彼等の世話にならない様に努力するつもりだが『銀の鍵』はまだ完全に使いこなせているとは到底言えないしな。

 

「しかし宇宙警備隊の方はレオ兄弟に80、グレートやパワードやチームUSAと俺でも名前を聞く様なエースかベテランばかりですか」

「それだけ警備隊もこの作戦に本気だと言う事だ。勇士司令部からもネオスを始めとする精鋭を送り込んでいるしな」

「ゾフィー隊長を始めとする上層部が可能な限りの戦力を各地から捻出したんだ。……これから攻める生産拠点で作られている二種の戦闘兵器【インペライザー】と【ロベルガー】は全宇宙で被害を出しているからな。早急にその供給を止めねばならん」

 

 尚、他のウルトラ兄弟であるマンさん、セブンさん、ジャックさん、エースさんは地球圏周辺でエンペラ軍団と戦っているのでこちらには来れないそうだ。まあそれでも銀河連邦の艦隊や精鋭部隊と合わせて十分過ぎる程の戦力なんだが。

 ……軽くみた限り宇宙警備隊以外にも『アンドロ戦士団』や『エメラルド星のロボット兵器』とかの姿も見えるし、多分反攻作戦自体はかなり前から水面下で進められていた感じなのかね。

 

「しかし、これだけの大艦隊を暗黒宇宙に送る事なんて本当に出来るんでしょうか?」

「銀河連邦から供給された技術で実宇宙と暗黒宇宙を繋ぐゲート技術が急ピッチで開発されたからな。これでわざわざ光速を超えて暗黒宇宙に突入する必要は無くなったと聞いている」

「最も開発期間の短さから装置の大きさが艦艇搭載クラスなのが欠点の様だがな。だからあんな大艦隊になっているんだ」

 

 ちなみに暗黒宇宙への侵入技術には宇宙警備隊から供給された『暗黒宇宙での戦闘・行動データ』も使われているとの事……そんなデータがあるなら光の国が自力で開発すれば良いじゃないかと思ったが、そもそも第二次ウルトラ大戦争で惑星規模で忙しかったウチにそんな余裕がある筈無いよなと考え直した。

 ……まあ、光の国の技術力は確かに高いけど万能って訳じゃないし、むしろ得意分野は生化学とか光エネルギー運用とかに偏ってるから暗黒宇宙やマイナスエネルギーの運用とかは苦手分野なのだと以前技術局の職員が言ってたしな。

 

『……では時間になったので、これより暗黒宇宙に存在するエンペラ軍団の生産拠点へのゲートを開く。その後の行動は事前に説明しておいた作戦概要通りとするが、不測の事態が起きた場合には各隊長の指示を仰ぐ様に』

「む、どうやら時間の様だな。アーク、気を引き締めて行くぞ」

「分かってますよタロウ教官」

 

 そんな話をしているうちに作戦の開始時刻になったらしく銀河連邦の旗艦から通信が届いたので、俺達宇宙警備隊員も親父を中心に戦列を整えて行く。

 ……そして準備が終わった所で艦隊の先頭にあるいくつかの鑑が前方に紫色のエネルギーレーザーを照射すると、その先の空間がドンドン歪み始めやがて巨大な一つのゲートが形成されたのだ。

 

「……確かにアレは暗黒宇宙に繋がるゲートだな。以前見た『宇宙人連合』が作っていたモノと同じエネルギー波長を感じる」

「そうですね先輩。……しかしアレだけ巨大なゲートを展開出来る技術を開発するとは」

 

 そもそも銀河連邦は文字通り数多の銀河系を股にかけて様々な惑星が集まって出来た超巨大組織、普段は利権の衝突とか商売における競争とかで分かりにくいが、一旦自分達を脅かす様な事件が起きて協力して事に当たる段階まで来ればそのマンパワーは光の国一つを遥かに超えるのである。

 まあ、巨大過ぎる組織だからこそ前述の理由で今回みたいな大事件が起きないと一致団結して動けないんだが。だからこそ普段の治安維持で強くてフットワークが軽い宇宙警備隊が活躍しているとも言えるし。

 

『……では、全部隊出撃! 目標はエンペラ星人の兵器工廠だ!』

『『『了解!』』」

 

 そうしてゲートが完全に開ききった所で銀河連邦艦隊が次々とゲートを潜って行く……先頭をバリア機構付きの無人艦艇にしている事からゲートを出た直後の奇襲を警戒している事が分かるし、当然の事ながら指揮官も優秀みたいだ。

 

『……よし、我々宇宙警備隊も続くぞ。全員警戒を厳に』

『『『了解』』』

 

 ……そして俺達宇宙警備隊も艦隊に続いて親父の指揮の下で警戒しながらゲートを潜り暗黒宇宙へと向かっていったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ゲートを潜った先にあったのは以前も見た実宇宙よりも遥かに光の少ない寒々とした雰囲気の『暗黒宇宙』の光景であった……予定では生産拠点から少し離れた場所にゲートを開いて、そこから退路でもあるゲートを守る部隊と生産拠点を攻める部隊に分かれて行動するんだったな。当然俺達宇宙警備隊は攻撃部隊の方だ。

 ……また、万が一備えて実宇宙の側にもゲートを展開出来る艦艇を配置してあり、暗黒宇宙との通信を行う事も出来る技術と合わせて撤退の為のゲートを再び開かせる事も出来るという念の入り用だ。

 

『予定通り防衛部隊はゲートの維持に専念、攻撃部隊は生産拠点へと向かう。先程観測した周辺環境と目標の座標データを送るので各自確認しておいてくれ』

 

 そんな通信と共に旗艦から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によって得られた周辺の座標データが部隊全体に送られた……指揮官が優秀で実に有難いな。ちゃんと生産拠点の座標とそこまでのルートまで載ってるから分かりやすい。

 ……そしてデータが渡りきった所で直ぐに攻撃部隊はエンペラ星人の生産拠点へと進軍していった。時間を掛ければ向こうが迎撃の準備を整えて来るだろうから、なるべく早く攻撃を開始したいとの狙いだと言っていた。

 

『今回の作戦に於いては事前に得られた情報から生産拠点を守る闇の結界に対して、総勢10隻の艦艇に搭載されている『光量子波動砲』による一斉射撃による破壊を試みる事となっている。それ以外の艦艇や部隊は発射準備が整うまでの護衛と時間稼ぎをお願いしたい』

「……銀河連邦虎の子の波動砲を10機も持って来るとはな」

「一つだけでも惑星を容易く破壊出来る代物ですからね」

 

 この『光量子波動砲』は昔宇宙に覇を唱えようとした“とある帝国”が作り上げた『波動システム』という技術から発展された兵器であり、一射で惑星を破壊出来るその威力から銀河連邦内でも使用に厳重な制限が課せられている兵器の一つである。

 ちなみに元となる技術を作った“とある帝国”は当時同じく宇宙に覇を唱えていた()()()()()()が率いる軍勢に叩き潰されており、その反動からか現在は平和主義な星として銀河連邦に加盟していたりする。

 ……かつてエンペラ星人に破れた星の技術が、今はその生産拠点攻略に使われるというのは何というか奇縁ではあるかな。

 

『目標地点に到達した。全軍戦闘準備』

「アレがエンペラ星人の生産拠点……()()()の様なものに包まれていて中身は分からないが」

「あの黒い雲がウルトラ戦士の光線すら遮断する強固な結界になっているとデータにはあるな」

 

 目標地点に着いた俺達が見たものは直径20キロ近い巨大な黒い雲の様なモノで出来た球体であった……どうも生産拠点をあの黒い雲の様な結界で覆っているらしく外からでは中の様子は分からない。

 ……そうしていると向こうもこちらに気がついたのか、黒い雲の中から次々と【インペライザー】と【ロベルガー】が出て来てこちらへと向かって来たのだ。

 

『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』』』

『敵防衛戦力【インペライザー】と【ロベルガー】を確認! 主力艦隊は波動砲発射準備! それ以外の艦艇は砲撃により敵の迎撃と生産拠点への先制攻撃を! 護衛部隊は近づいて来た相手を排除せよ!』

 

 それに対して旗艦の司令官は即座に指示を出し、他の艦艇もそれに答えて向かって来る戦闘兵器達に多種多様なビームやミサイルを放って次々と撃墜していく……俺達宇宙警備隊を始めとする護衛部隊も光線などの飛び道具で砲撃を掻い潜って近づいて来たロベルガーを破壊したりと活躍していたが、やはり単純火力だと巨大化した個人戦力よりも戦艦の方が上だよな。向かって来る奴らの殆どを撃破している。

 ……ただ、それらの攻撃の幾らかはあの“黒い雲の結界”にも当たっているのだが、それにも関わらずあの結界は僅かに揺らめく程度で未だに健在であるのが気掛かりだが。

 

「……戦艦の艦砲ビームや対怪獣用のミサイル程度では突破は不可能か」

「こちらの観測機器でも測定をしてはいるが『強力な暗黒のエネルギーで出来た結界』という程度しか分からないな。……アークは何か分かったか?」

「いえ、今のところはさっぱり。……『銀の鍵』を出せば何か分かるかもしれませんが、とりあえず一旦出してみましょうか?」

 

 あの『黒い雲の結界』はこちら側の殆どの観測機器を無効化してしまうらしく、俺達宇宙警備隊が持つ技術局謹製の装置も銀河連邦の艦隊に備え付けられた装備の方でも結界を解析出来ない様だ……なので俺は『銀の鍵』を出して空間干渉によって解析してみようと提案したのだが……。

 

「……いや、お前のソレ(銀の鍵)はエネルギー消費が激しいんだろう? 隊長からウルトラコンバーターを渡されているとは言え無駄遣いは避けるべきだ」

「それにそろそろ波動砲のチャージも終わる所だしな。アレらが撃たれてからでも構わないだろう。……それにあれだけの波動砲の一斉砲撃であれば突破出来る可能性は高い」

 

 セブン21先輩とタロウ教官にそう言われたので一旦見合わせる事に……確かに10機の波動砲の同時発射なら、その威力は親父の最大出力M87光線すら上回る物になるだろうからな。むしろそれでも破壊出来なかったらどうしようも……。

 

『光量子波動砲発射準備完了! 全軍は射線から退避せよ!』

 

 そうこうしている内に旗艦から波動砲発射準備完了の通信が届いたので、俺達はその射線に入らない様に下がりつつまだ残っていた戦闘兵器達に邪魔をされない様に牽制していく……そして全軍が射線から退いたと同時に艦艇に備え付けられた波動砲が膨大な光を湛え出した。

 

『……よし、光量子波動砲……発射ァッ!!!』

 

 号令と共に十の訪問から惑星を破壊出来る程の莫大なエネルギーを秘めた光線が放たれ、途中に残っていた戦闘兵器達を跡形もなく蒸発させながら『暗黒の雲』に覆われた生産拠点へと突き刺さり……まるでスポンジに水を吸収させるかの様にその光の束は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

『目標健在⁉︎ 光量子波動砲は全てあの黒い雲に吸収されました!!!』

『なにぃ⁉︎』

『馬鹿な⁉︎』

 

 その余りにあまりな光景を見た艦隊に動揺が走るのはやむ終えない事だっただろうが……敵はそんな隙を見逃してくれる程に甘くは無く、波動砲に対する反撃の様に『暗黒の雲』の内側から()()()()()()が放たれて波動砲を積んだ艦艇の一隻を跡形もなく爆散させたのだ。

 加えて更に暗黒の雲から再びインペライザーとロベルガーの軍団は現れてこちらに向かって来てしまっていた。

 

『波動砲搭載艦四番艦轟沈!』

『直ぐに回避機動を取れ! それと無人戦艦を前面に出してバリアを展開させろ! 後、あの黒い雲の詳細解析を急げ! 宇宙警備隊にも解析の協力をさせろ!』

 

 そんな状況でも即座に的確な指示を出せた司令官は間違いなく傑物だろうが、それでも文字通り惑星を数個纏めて吹き飛ばせる火力すら通じなかった“暗黒の雲”を前にして有効な手を打てる者は“他には”おらず防戦に徹するしか無い状況だった……ので、俺は『銀の鍵』の能力を使ってあの暗黒の雲の解析を試みる事にした。

 

「タロウ教官、21先輩、今から『銀の鍵』を使ってあの暗黒の雲の解析を試みます。ちょっと集中するのでその間の護衛を頼みたいのですが」

「分かった、お前には指一本触れさせん」

「任せておけ」

 

 二人の協力も得られた所で俺は手の平の上に『銀の鍵』を展開、その空間干渉能力を介して“暗黒の雲”の情報を探っていく……元よりこの『銀の鍵』はあらゆる時空に偏在する大邪神の力の断片、その気になれば指定した空間の情報を解析したり限定的な過去視も可能なのだ。

 ……まあ今の俺では膨大なエネルギーを消費してその程度しか出来ないとも言えるんだが、とにかく解析だな。

 

(ふむふむ、とりあえず光量子波動砲が当たった時点での空間情報を取得して……成る程、あの『暗黒の雲』自体が『光を飲み込む闇』的な()()を宿した暗黒のエネルギーってとこかな。それで光量子波動砲を吸収出来たと……それだけでなく吸収しきれない余剰エネルギーは闇の亜空間に放逐する事で対処してるな。……多分『プラズマスパーク』の対極にあるエネルギーって感じがするし、要するに“光みたいな正のエネルギー完全吸収”な結界ってとこか。まあミサイルとかも防いでるからそれ以外の属性に関しても()()()()()()()()()に迫るレベルのモノでないと効かないみたいかね)

「……大体あの『暗黒の雲』のカラクリは分かりましたよ」

「本当か!」

「早いな」

 

 要するにあの結界は『光側エネルギー完全吸収の超頑丈な結界』って事なんだよな……その辺りの事を二人に可能な限り説明しつつ、テレパシーを使って親父にも伝えておく。

 

『成る程、そういう事か……とりあえず情報は指揮官殿にも伝えておくが、お前ならあの結界を破る事は可能か?』

「理論上は可能ですね。アレは光側のエネルギー以外なら()()()()()()()()に過ぎない訳だし、そちら側じゃない『銀の鍵』なら空間干渉で穴を開けるぐらいなら問題無いと思う。……ただ、完全に破るとなるとエネルギー量の問題があるかな」

『ならば俺のブラックストリームM87の方がいいか。アレは光エネルギーでは無いしな。……今から司令部と対策を協議するが、おそらく俺達が出張る事になるだろうから準備はしておいてくれ』

「了解」

 

 ……しかし、あの戦艦を一撃で轟沈させた“赤黒いビーム”と言い、あの『暗黒の雲』の中には一体何があるのか……まだまだ予断は許さないだろうなぁ。




あとがき・各種設定解説

アーク:今回はほぼ見学
・銀河連邦も宇宙警備隊も今回はガチなので終始解説役だったが、次回からはオンリーワンの『銀の鍵』で活躍する予定。
・ウルトラコンバーターに関してはゾフィーが昔使っていた物を技術局が改修した物で、『銀の鍵』のエネルギー消費を補う目的で供与された。
・今回は精々数秒程の解析に使っただけなので、エネルギー消費も大した事なくまだコンバーターは使っていない。

銀河連邦艦隊:銀河連邦の本気
・エンペラ星人が銀河連邦に与えた被害は甚大な物だったので、一致団結して本気を出し人員・設備共にガチガチに固めた大艦隊。
・ちなみに今回使われて『光量子波動砲』はは真空エネルギーを圧縮、加速させタキオン粒子を生成する『波動エンジンシステム』に、光量子エネルギー変換システムを導入して大幅の効率化を測った『光量子波動システム』を兵器転用した物。
・分類としては『マキシマオーバードライブ』などの光推進システムの近似技術品であり、その上位版とも言える物。
・他にも無人艦隊・無人攻撃機などの各種兵器や、ウルトラ戦士などの暗黒宇宙での活動が制限される者達様にエネルギー供給フィールドなどを準備した万全の態勢で戦いに望んでいる。


読了ありがとうございました。
今回の時系列はメフィラス星人が地球でやらかしているのとほぼ同時期になります。


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暗黒の雲を破れ!

 ──────◇◇◇──────

 

 

 無双鉄神 インペライザー

 円盤生物 ロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 銀河連邦艦隊と宇宙警備隊による合同艦隊がエンペラ星人が有する生産拠点の攻略戦、虎の子の切り札として銀河連邦が持ち込んだ『光量子波動砲』も生産拠点を覆う『暗黒の雲』には通じず戦況は合同艦隊側が不利となっていた。

 ……だが、銀河連邦艦隊も宇宙警備隊も未だ諦めずに戦闘と続けており、艦隊司令官や宇宙警備隊隊長のゾフィーなど指揮官クラスの者達はこれまでで得られた『暗黒の雲』のデータを分析してその攻略法を話し合っていた。

 

『……ゾフィー隊長、確かにこちらの機材でもそちらからの報告にある通り、光量子波動砲をあの『暗黒の雲』に撃ち込んだ際のデータには亜空間へのエネルギー消失が確認されている』

『元々あの『暗黒の雲』には強力な光系エネルギーの耐性が備わっている様ですし、余剰エネルギーの亜空間追放能力と合わせてほぼ全てのビーム系兵器は無効。通常のミサイルやレールガンなども撃ち込んでいますが、普通のバリアとしても強度が高い様で突破は出来ていません』

『それに加えて排出される戦闘兵器達と『暗黒の雲』の内側から照射される超威力の光線によってこちらの戦力は徐々に削られているのが現状だ。……現在は無人艦や私の部下の宇宙警備隊員達が連携して対応しているが、それにも限度があるだろう』

 

 今現在も艦艇のビームやミサイル、ウルトラ戦士の光線が『暗黒の雲』に撃ち込まれているが僅かに揺らめく程度で破る事は出来ず、逆に放たれる『赤黒い光線』は無人艦が犠牲になるかウルトラ戦士が複数名協力して展開したシールドでどうにか防いでいると言った状況だ。

 

『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……』』』

『『『指令、抹殺、消去』』』

『艦長! 左右からインペライザーとロベルガーが!』

『近接防御用ミサイル及びビーム砲発射準備!』

『弾幕薄いぞ何やってんの!』

「艦隊には通させん! メガスペシウム光線!」

「ネオ・マグニウム光線!」

 

 ……加えて襲い掛かってくる【インペライザー】と【ロベルガー】にも対処しなければならないので合同艦隊側は徐々にジリ貧な状況になっていくのは目に見えており、それを打破する為に司令官を始めとする隊長格は“次の一手”を打つ準備を進めていた。

 

『司令官、対バリア用のアンチエネルギーコーティング弾頭による超々高速レールガンも効果がありません。データを見るに光系……正エネルギー系兵器以外にも結界が耐えられない攻撃は強制的に亜空間へと転送している様です』

『つまり亜空間結界そのものをどうにかする必要があるか……空間系兵装・対空間用兵装の効きはどうだ?』

『他と比べればマシですがあの亜空間バリアを突破出来る程では……10機の光量子波動砲があればそこらの亜空間結界程度は普通に突破出来る筈でしたから、常備式と簡易版の兵装しか持ち合わせて居ない艦が多く……』

『無茶をしてでも『ブラックホール弾頭』辺りを持ってくるべきだったか。……となると、もう貴方の提案した作戦でいく他なさそうですな。ゾフィー隊長』

 

 無論、彼等も特性を解析出来た『暗黒の雲』を突破する為に手持ちの装備で様々な手を尽くしていたのだが、どれも決定打にはならなかったので自陣の最高戦力でもあり信用がおけるゾフィーの作戦に乗る事にしたのだった。

 

『はい、こちら側の()()()()()()()によって『暗黒の雲』のエネルギーを亜空間に転送する能力を封じ、そこに私が光系のエネルギーでない大出力攻撃を放って『暗黒の雲』を破壊します』

『ふむ、まさかあのレベルの亜空間バリアに干渉出来る人員もいたとは、流石は天下の宇宙警備隊という事か。……しかしゾフィー隊長、貴方達ウルトラ族は光系エネルギーの運用が主だった筈だが、そんな大出力攻撃が可能なのか?』

『これでも宇宙警備隊隊長ですから光系エネルギー以外の攻撃手段ぐらい持ち合わせています。……ただ、亜空間バリアを閉じられる時間はそう長くないので艦隊からも援護攻撃を頼みたいのだが……』

 

 尚、ゾフィーはアークの『銀の鍵』の詳細はなるべく広めたくは無かったのでその辺りはボカして話を進めていたのだが、彼がこれまで積み上げてきた数々の実績とそもそも個々人が強力な特殊能力を持つ事が珍しくない宇宙警備隊員達だったので、そんな余裕がない事もあって特に問題は無く話は進んでいった。

 

『……よし、では残った無人艦艇を囮にして敵の注意を引きつけるから、その間にそちらの空間操作系能力者で亜空間バリアを無効化して一斉攻撃と行こう。準備は後十分もあれば終わる』

『了解した。ではそれに合わせてこちらも準備をしておこう』

 

 ……そうして彼等合同艦隊の『暗黒の雲』を攻略する反撃作戦は始まったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……作戦内容はこんな所だ。いけるかアーク?』

『あの『暗黒の雲』の亜空間バリアを一時的に封じるぐらいならどうにかなるし、空間に干渉するからその気になればここから今すぐにでも出来ます。……だけど、あのレベルの亜空間バリアを封じるのはエネルギーをかなり消費しますね。具体的にはコンバーターに残ったエネルギーで大体30秒程度しか封じられないでしょう』

『分かった、その前提で作戦を準備しよう。お前にはタロウとセブン21を護衛に付けるから、10分後の作戦開始の時に『銀の鍵』を問題無く使用出来る様にしておけ』

『了解』

 

 その反撃作戦をゾフィーからのテレパシーで聞いたアークは護衛の二人を伴って後方に下がりつつ、暗黒宇宙でも問題無く行動出来て超能力の制御に長けた『リバーススタイル』へと変身した……『銀の鍵』を使うだけならどちらの形態でも問題は無いのだが、これまでの実験結果からどちらかというとリバーススタイルの方が『銀の鍵』を運用しやすい事が分かっていたのだ。

 

『残りの無人艦艇を前に出して敵の注意を引き付けろ! それと並行して各有人艦は伝達したデータ内にあるあの『暗黒の雲』に有効な兵装の準備を行うんだ!』

『了解!』

 

 更にそれと並行して銀河連邦艦隊も作戦通りに敵の戦闘兵器を引きつけながら総攻撃の準備を進めていた……それに加えて『暗黒の雲』に対して有効打がほぼない普通の宇宙警備隊員達を中心として、ゾフィーの指示の下で戦闘兵器を艦隊に近づけさせない様に攻撃を仕掛けて撃破していった。

 ……ただ、その間にも『暗黒の雲』の内側から定期的に放たれる赤黒いビームは一撃でバリアを展開した戦艦を一隻落としており、現在は宇宙警備隊員が戦闘兵器の相手をしている事もあって強力なバリアを展開した無人戦艦を犠牲にする事でどうにか凌いでいる状況だった。

 

「あのビームがかなり厄介ですね。宇宙警備隊員でも複数名で協力しなければ防げない威力をあの頻度で連射出来るとは」

「そうだな……だが、先程から撃たれているあのビームは……まさか」

「どうしたんだタロウ、あのビームに何か覚えがあるのか?」

 

 そんな戦況を反撃の為に敵が少ない後方に移動していたアーク達は見ていたが、そこでタロウが『暗黒の雲』から放たれるビームに見覚えがある事に気が付いていた。

 

「確証は無いが、あのビームはかつて私が他のウルトラ兄弟達と共に戦った()()()()()()()()のモノによく似ているんだ。……この予想が当たっていれば『暗黒の雲』を突破しても戦いは終わらないかもしれん」

「そうは言ってもあの『暗黒の雲』を破らなければ戦いにもならないんですし、もしその怪獣が向こう側にいたとしても雲を破ってから倒すしか無いのでは?」

「まあそうだが……そろそろ作戦の開始時間だが、アークは大丈夫か?」

 

 そんな懸念に身もふたもない返答を返したアークに苦笑するタロウだったが、作戦の時刻が近づいて来た事から今は彼の言う通り『暗黒の雲』の突破に集中するべきだと気を引き締め直し……そのタイミングでゾフィーからの作戦開始を伝える念話が届いた。

 

『……アーク、時間だ。初めてくれ』

「了解。お二人共、今から集中するのでその間の護衛を頼みます……目覚めろ『銀の鍵』」

 

 念話を聞いたアークはタロウとセブン21の二人に現実での事を任せて即座に再び『銀の鍵』を手元に呼び出し、外界の事象を無視するレベルで集中しながら『暗黒の雲』へと照準を合わせて空間操作能力を使用、その【エンペラ星人】が作った亜空間バリアに対しての干渉を実行した。

 ……確かにエンペラ星人は片手間でデタラメなレベルの強度と大きさを持つシールドである暗黒の雲と、超強力な亜空間バリアを併用して展開しておける人知を超えた能力を持った怪物であるが、それでも時空間を支配する外宇宙の副王が“権能”の断片である『銀の鍵』であれば未だ未熟なアークでも一時的な干渉程度なら可能だ。

 

「チッ、只の結界なのにデタラメなエネルギー量だな……だが、亜空間バリアの()()()は把握出来た……閉じろ」

 

 そう、半分程トランス状態になっていたアークが静かにそう告げながら『銀の鍵』をまるで鍵でも閉める様に捻ると、これまでずっと蠢き続けていた『暗黒の雲』の動きが完全に静止し、それと同時に展開されていた亜空間バリアの機能も完全に停止した。

 

『亜空間バリアは閉じました』

「よしっ! よくやったアーク! ……司令官、亜空間バリアは閉じられた!」

『全艦! 対バリア系兵装で『暗黒の雲』へと一斉攻撃!』

 

 ……そして、アークからのテレパシーを受けたゾフィーは即座に艦隊司令官へとその事を伝え、それを受けて司令官は全艦隊に命じて『暗黒の雲』に対して有効な光線系武装以外の兵器・対空間バリア用武装による一斉攻撃を実行した。

 それらの砲撃群は亜空間にエネルギーを逃せない為にこれまでと違い明確に『暗黒の雲』を砕いていったが、それは雲自体の圧倒的な強度のせいで全体から見れば極僅かづつでしか無くこのままでは先にバリアを封じているアークのエネルギーが尽きる事になるだろう。

 

「よし、亜空間バリアさえ封じれば攻撃は効いている様だな。……宇宙警備隊各員! これから私が最大出力の一撃であの『暗黒の雲』を破る! お前達は艦隊と私の攻撃を妨害されない為に戦闘兵器達を牽制するんだ!」

「「「了解」」」

 

 それが分かっていたゾフィーは、他の隊員に指示を出しながら自身の切り札──今は亡き妻から譲られた『銀の鍵』の力の断片を引き出す為に何時ものM87光線を放つ為の構えを取りながらエネルギーをチャージして行った。

 ……するとゾフィーの頭部の一部が黒く染まり、合わせた手の先に『外宇宙の混沌』の力が集まりその部分も空間が歪んで黒いエネルギーも力場が形成される……これがゾフィーの最強の攻撃、『銀の鍵』の片鱗をM87光線に乗せて放ちこの宇宙()()()()に穴を開ける絶技。

 

「ブラックストリームM87!!!」

 

 そうしてゾフィーから放たれた凄まじい勢いの漆黒のエネルギーの奔流は『暗黒の雲』に突き刺さり、着弾した場所を起点にしてこの世のあらゆる存在を外宇宙へと追放する()()()()()()を開いて周りの『暗黒の雲』を勢いよく吸い込み始めた、

 ……最初は『暗黒の雲』もそれに抵抗していたが亜空間にエネルギーを逃せなくなっていた事で、光も闇も関係なく吸い込む混沌の穴の『権能』には耐えきれず次々と穴の中に飲み込まれていった。

 

「アレはゾフィーの切り札か、久し振りに見たな」

「余りにも問答無用過ぎて『宇宙警備隊隊長に相応しくない』と自ら使用を制限している程の技だからな。……しかしアーク、大丈夫か? かなりキツそうだが」

「親父の技を妨害しない様に亜空間バリアを閉じるのが難しいだけですからまだ大丈夫です。……それにもうそろそろ終わりそうですし」

 

 心配してくれたタロウにそう返しつつアークは引き続き亜空間バリアを多量のエネルギーを消費しながらどうにか閉じ続け、その間に『暗黒の雲』は八割近く吸収されその()()が見えるぐらいまで薄まっていた。

 その見えた『中身』は直径10キロ程の真っ黒な球体であり、その表面は機械の様な構造をしているにも関わらず質感の方は生物的という異質な外観をしており……それを見た宇宙警備隊部隊の一人『ウルトラマンレオ』は、その特異な外観がかつて一度だけ見た宿()()の元に酷似している事に気が付いて声を上げた。

 

「アレは……⁉︎ かなり小さいがまさか【ブラックスター】だと!?」

「レオ兄さん、ブラックスターって確か円盤生物達の母星で昔兄さんが破壊したんじゃ……?」

「ああ、確かにあの時破壊した筈だが……いや、ブラックスターは円盤生物の母星であると同時に()()()()()()()()()()()()()()()という説があった。新たな円盤生物であるロベルガーが現れた時点で疑っていたが、砕かれたブラックスターの破片を培養すれば或いは……」

 

 そのレオの予測通り『暗黒の雲』の中に守られていた【ブラックスター】はかつてレオが地球で破壊した物の破片をエンペラ星人の配下が回収、更に暗黒四天王の手で培養されて【ロベルガー】及び【インペライザー】の自動生産拠点として改造された物だったのである。

 ……元よりブラックスターは円盤生物の生産を可能とする超大型の円盤生物であったので、エンペラ星人は戦力増強手段として有用だと判断して生産能力のみに特化した改造を施して運用していたのだ。

 

『宇宙警備隊から入電! 生産拠点の正体は円盤生物の母星である【ブラックスター】に酷似していると!』

『こちらで保管されていたブラックスターのデータとも照合しましたが、一致点が90%以上!』

『成る程……だが、データによるとブラックスターは耐久性自体はそこまで高くは無い様だ。であればチャージ率50%程の光量子波動砲でも破壊出来るだろう。『暗黒の雲』が完全に無くなった時点で砲撃を開始する』

 

 当然、その事は旗艦の下にも伝わったが、その中にいる司令官はブラックスターのデータを見比べて『現行戦力でも『暗黒の雲』さえ突破出来れば十分破壊可能』と冷静に判断を下した。

 ……実際その判断は間違いでは無く、只でさえ耐久力の低い円盤生物の中でも生産能力に特化したブラックスターは内部に生産施設などを擁しているので輪をかけて耐久性が低く、地球ではそこまで光線技が得意では無いウルトラマンレオのシューティングビーム一発で破壊されてしまう程であった。

 それは復活されたこのブラックスターも例外では無く、むしろ生産能力に特化した故に元々持っていたステルス能力もオミットされているので攻撃を受ければ一貫の終わりだろう……勿論、エンペラ星人もその事は理解しているので『暗黒の雲』という強力な結界と()()()()()を置いていたのだが。

 

「よし、計算通り『暗黒の雲』を吸い込み切るぐらいの穴を開ける事に成功したか。あの穴は一旦開けてしまうと自然消滅を待つしか無いからな……む!」

 

 切り札である『ブラックストリームM87』を撃って一息付いていたゾフィーだったが、突然自身に浴びせかけられる殺気を感知して咄嗟にその場から飛びすさった……その直後、彼がいた場所に先程までとは比べ物にならない威力の赤黒いビームが放たれ、その射線上に居た艦艇を()()()()()()()()()()()()過ぎ去っていった。

 

『防御型の無人艦艇が……バリア毎消滅⁉︎』

『被害にあった艦艇を下がらせろ!』

「ゾフィー隊長、ご無事ですか⁉︎」

「ああ、私は大丈夫だ。……だが、まさかとは思ったが再び相見えるとはな」

 

 いきなりの超威力攻撃に混乱する艦隊だったが、それに対してゾフィーは心配して声を掛けてきた80を制しつつブラックスターに立ってこちらを狙って来た()()()()()に目線を向けていた。

 ……その怪獣は全身が黒光りした重厚な武装に身を包んでいるおおよそ生物的とは言えない外見をしており、頭部に備わった一つの赤い目が冷然と怨念に溢れた視線で合同艦隊の方を見つめて光っていた。

 

「【グランドキング】……ゾフィー兄さん、やはりヤツでしたか」

「ああタロウ……しかしエンペラ星人め、まさかジュダの配下すら蘇らせて使役しているとはな」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』

 

 ……エンペラ星人がブラックスターを守る為に配置した最強の番人【超合体怪獣 グランドキング】は、その力を知っているが故に最大限の警戒を向けるゾフィーとタロウに向けて憎悪と怨讐の叫びを轟かせるのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:『銀の鍵』により『暗黒の雲』突破に貢献
・尚、そのせいでコンバーターのエネルギーは全て使い切り本人も結構疲労が溜まっている模様。

ゾフィー:実質親子の共同作業で突破
・ブラックストリームM87は外宇宙へと繋がる穴の大小を注ぎ込むエネルギーを操作する事で調整しており、対象の強度や穴の自然消滅までの時間を計算する事で味方に被害を出さない様に使っている。
・ただアークの様に空間操作の力自体を制御出来ないので扱いはかなりの職人芸であり、余程の事があって周辺に被害が出ない状態でしか使えない。

再生ブラックスター:本作ではブラックスター自体が円盤生物という説を採用
・全自動生産拠点としての能力に特化させて再生させられており、ただひたすらに戦闘兵器を作り続ける工事になっているのでステルス能力や移動能力などは備わっていない。
・それだけに生産能力は大幅に向上しており円盤生物であるロベルガーや形式の違うインペライザーなどもぽこじゃが生産出来る。

『暗黒の雲』:恒星すら闇で覆うエンペラ星人の超能力
・原作で太陽を覆い隠した闇と同系統の物であり、あちらが『内側の光を外に出さない』物ならこちらは『外側からの攻撃、特に光系を内に通さない』仕様になっている。
・ただし、防御する方向とは逆方向からの攻撃には弱く原作ではウルトラ兄弟の光線で太陽を封じきれなくなったり、本編では内側からの攻撃を透過する仕様にしていたがグランドキングの最大出力攻撃などを使われると結界に影響が出てしまう仕様だった。
・その分指定した方向からの干渉には非常に強く光系エネルギーはほぼ無効、それ以外でもエンペラ星人級の能力が無ければ突破不可能であり、今回は外宇宙の反則じみた力をフルに使って漸く突破出来るぐらい。

【超合体怪獣 グランドキング】:最後の番人
・かつて6兄弟に倒されたグランドキングの怨念をエンペラ星人が回収、そこに自分のエネルギーを注ぎ込んで復活された物で性能はオリジナルとほぼ同等。


読了ありがとうございました。
尚、現在エンペラ星人はアーマードダークネスの調整及び逃げ出したメフィラス星人の粛正で忙しいので来れない設定。


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超級の合体怪獣

 ──────◇◇◇──────

 

 

 超合体怪獣 グランドキング 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 その怨念の篭った唸り声と同時、ブラックスターの上に君臨する【超合体怪獣 グランドキング】の赤い一つ目から最大出力なら惑星をいくつか貫通する程の威力があると言われる『グランレーザー』が合同艦隊に向けて放たれた。

 

『射線上から回避ィ!!!』

『目標グランドキング! 主砲発射ァァ!!!』

『ダメです⁉︎ 効果がありません!』

 

 それに対して艦隊も防ぎきれないグランレーザーは回避する事で被害を減らし、更に数の差を活かして反撃のビームやミサイルをグランドキングに撃ち込んでいくが、ウルトラ兄弟の光線すらも無傷で防ぎきれるその装甲には大した効果も無く弾かれてしまっていた。

 ……だが、そんな状況にあっても艦隊司令官は冷静に各種データを把握した上で指示を出していった。

 

『司令官⁉︎ グランドキングの攻撃によって既に無人艦艇の一割が轟沈しました⁉︎』

『落ち着くんだオペレーター君。……確かにグランドキングの攻撃は脅威的な威力ではあるが単発な上、一度最大威力で放つと次弾まで相応のチャージ時間が掛かる様だ。それに無人艦艇を囮とする戦術は有効な様だし動きも鈍くレーザー以外の攻撃をしてくる様子も無いから十分やりようはある』

 

 司令官は通信越しに堂々とした様子で艦隊にそう言い聞かせて動揺を鎮めると、次に宇宙警備隊隊長ゾフィーに連絡を取り『グランドキング並びにブラックスター攻略の為の作戦』を提案した。

 

『ゾフィー隊長、グランドキングの足止めをそちらの宇宙警備隊に任せても良いでしょうか。我々艦隊はその間にブラックスターを破壊します。……それで今回の作戦目標は達成出来ますし、グランドキング一体になれば光量子波動砲の一斉射撃などで十分打倒可能でしょう』

『良いだろう、グランドキングとは以前に交戦経験があるから足止めなら可能だろうな。……だが、光線技の撃ち合いでは分が悪い以上、ブラックスターに乗り込んでの接近戦に持ち込みたい所だが』

『それなら我々艦隊は残りの無人艦艇を囮にしてグランドキングがいる場所の逆側からブラックスターを攻撃しましょう。そうすればブラックスターが邪魔になってグランドキングの攻撃はこちらには届きませんし』

 

 そうしてグランドキングが次の攻撃の為のエネルギーをチャージしている間に合同艦隊は作戦を立て終えて、相手が動くよりも早く速やかに行動を開始したのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……そういう訳だ、これより我々宇宙警備隊はグランドキングに攻撃を仕掛ける。直接攻撃を行うのは私と選抜された精鋭で、残りの隊員は残っている戦闘兵器の排除、及び光線などによるグランドキングへの牽制によって選抜メンバーが接近する隙を作ってくれ』

『『『了解です!』』』

 

 そんなゾフィーの指示をテレパシーで受けた宇宙警備隊の精鋭達は、即座にブラックスターの裏側に回り込もうとしている艦隊から分かれてグランドキングへと向かっていった。

 ……まず、グランドキングへの直接攻撃役に選ばれたのは隊長のゾフィーを始めとしてタロウ、レオ、アストラ、80、グレート、パワード、ネオス、セブン21の合計九名であり、彼等は真っ直ぐにグランドキングが座すブラックスターへと猛スピードで飛んで行った。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「レーザーが来るぞ! 総員散開!」

 

 無論、再生させられた際にウルトラ兄弟への怨念が根底にあるグランドキングがそれを見逃す筈が無く、チャージを早々に切り上げて向かってくる精鋭達へとグランレーザーを放った……が、チャージ不足のせいで威力は先程のものよりも低く、かつ宇宙警備隊の中でも精鋭と呼ばれている彼等にとって撃つタイミングが分かっている攻撃など早々当たるものでは無く容易く回避された。

 

「手の空いている者は光線技でグランドキングを攻撃するんだ! 隊長達が近づくまでの時間を稼ぐ! スペシウム光線!」

「ウルトラスラッシュ!」

「……ここが使いどころかな、行け! セブンガー! ついでに俺もアークレイショット!」

 

 そこに精鋭部隊以外の、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の宇宙警備隊員達による援護射撃がグランドキングへと放たれた……そこには戦闘兵器の相手を呼び出したセブンガーに任せて来たアークも加わっていた。

 ……まあ、距離が離れている事や前方にいる精鋭部隊に当てない様に撃った事もあってグランドキングに当たった光線の数はそこまで多くなく、また当たった光線もその超装甲の前では大したダメージを与えられなかったが、それでも相手を怯ませて精鋭部隊が接近する隙を作る事には成功していた。

 

「行くぞ! アストラ! イヤァァァァァァァァァァッ!!!」

「はい! レオ兄さん! セヤァァァァァァァァァァッ!!!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!?』

 

 そうして接近した精鋭部隊の中で真っ先にグランドキングへと攻撃を仕掛けたのはレオ兄弟であった……二人は飛行の勢いを殺さないまま飛び蹴りの体勢となって、そのままグランドキングにダブルキックを叩き込んだのだ。

 ……宇宙拳法の達人二人が繰り出したどちらか一つでも並みの怪獣を撃破出来るだけの威力の蹴りを二発も食らったグランドキングだったが、その勢いに押されて後退はしたものの目立ったダメージは無く、更に直ぐ全身から電撃を放ってレオ兄弟を攻撃した。

 

「くっ、アストラ大丈夫か⁉︎」

「大丈夫です! 直撃は避けました!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 その電撃を咄嗟に飛び退いて直撃を避けるレオ兄弟だったが、そこへ間髪入れずにグランドキングの口から広範囲を薙ぎ払う熱戦『グランビーム』が彼等に向けて放たれる……が、その直前に上空からレオ兄弟の前に降り立ったタロウと80が瞬時に展開したバリアによって防がれた。

 

「大丈夫かレオ、アストラ」

「ありがとうございます」

「良くやってくれた、二人とも」

 

 その声と共にゾフィーの始めとする残りの精鋭部隊がグランドキングを囲む様に次々とブラックスターへと降り立ってファイティングポーズを取った。

 

「いいか、グランドキングの意識が艦隊へと向かわない様、個々で我々に釘付けにするんだ!」

「「「了解」」」」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 そしてゾフィーのその指示の後で精鋭部隊はグランドキングへと攻撃を仕掛けて行き、それに応える様にグランドキングも怨念に満ちた咆哮を上げながら憎っくきウルトラ戦士達を迎え撃つ態勢になったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「行くぞタロウ! トリャァッ!!!」

「はい、ゾフィー兄さん! セヤァッ!!!」

 

 まず先陣を切って仕掛けたのは以前にグランドキングとの交戦経験があるゾフィーとタロウだった……彼等はグランドキングの弱点である鈍重さを突く形で素早く動き回りつつ、左右から挟み込む形でそれぞれゾフィーキックとアトミックパンチを繰り出して攻撃を仕掛けた。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「くっ⁉︎ やはり硬い!」

「防御力は前に戦った個体とほぼ変わらないか。……気をつけろ! コイツには生半可な攻撃は通じないぞ!」

 

 だが、グランドキングの圧倒的な防御力の前は二人の格闘技を受けても微動だにしないレベルであり、逆にグランドキングは両腕の『スーパーハンド』と使った超高層ビル群も粉々に粉砕すると言われる『スーパーデストロイングパンチ』で反撃を仕掛けてきた。

 ……だが、一度交戦した経験がある二人はその攻撃を見切って躱しつつ距離を取りグランドキングの防御力の硬さを他のメンバーへと正確に伝えて警戒を促した。

 

「次は俺達だ! グレートスライサー!」

「俺も行きます! ウルトラ・ライト・ソード!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 二人が下がると同時に間髪入れずグレートとネオスがそれぞれ自慢の光剣を展開して背後からグランドキングへと斬りかかっていったが、それでも相手の装甲にはかすり傷を付けるのがやっとで、逆に長大な尾を振り回された事で発生した衝撃波で吹き飛ばされてしまった。

 ……とは言え、事前に警戒してていたお陰で二人のダメージは最小限で済んでおり、更に彼等が離れた所で80とセブン21が光線の発射体勢を取っていた。

 

「サクシウム光線!!!」

「アドリウム光線!!!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!?』

 

 二人の放った光線は長大な尾を振り終わって動きが止まっていたグランドキングに直撃こそしたが、体表で僅かな爆発を起こすぐらいでやはりそこまでのダメージにはならなかった。

 だが、ウルトラ戦士からの立て続けの攻撃に対して腹を立てたのかグランドキングも反撃として頭部や尻尾からのビームや全身からの放電、両手からの毒ガスなどで苛烈な攻撃を仕掛けて来た。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「チッ! ゼット光線!」

「放電は俺が! ブルーレーザー!」

「毒ガスは私が対処します、ハンドシャットアウト!」

 

 それに対してゾフィーが頭部からのビームをゼット光線で相殺し、タロウが電撃にツノからのエネルギー波を当てる事で威力を殺し、毒ガスに対してはパワードが掌に念力の壁を作ってガスを押し戻す事で対処した。

 

「よし、次は俺達だ。行くぞアストラ!」

「はい、レオ兄さん!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 そうして相手の攻撃が途切れた所で今度はレオ兄弟が得意の宇宙拳法を使っての格闘戦をグランドキングに仕掛けていった……尚、この様に味方が複数で敵が一である場合の戦いにおいては一人か二人のみが戦いを仕掛けて、残りの人員は邪魔にならない様に下がりつつ体力を回復させながらいざという時に援護を行うと言うのがこの世界では一般的である。

 ……余り数が大人数で同時に攻めると味方が格闘戦の邪魔になる事が多く、またウルトラ戦士の場合だと味方を光線技の盾にされる事もあるので波状攻撃で相手の体力を削ってから一斉に放つ合体光線でトドメというのが有効な戦術となっているのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「クソッ⁉︎ やはり硬いな!」

「慌てるなレオ、我々の目的はグランドキングを足止めする事だ」

「次は俺とネオスが行くぞ!」

「ああ、行こう21!」

 

 ……だが、そんな精鋭ウルトラ戦士の波状攻撃を持ってしても、かの【エンペラ星人】が手ずから集めた膨大な怨念によるエネルギーと異常なレベルの耐久性を持つグランドキング相手では未だに攻めきれずにいた。

 

『……やはり、かつて戦った時の様にウルトラ兄弟によるウルトラオーバーラッピングを行うかして、ヤツの耐久性を上回るパワーを出しでもしない限り倒せないか』

『このメンバーでは出来ないのか、タロウ』

『あの技は息のあった複数名のウルトラ戦士で行わないと成功率が低いんだグレート。そもそも当時活動していた対ジュダ用の切り札としてウルトラ兄弟で事前に訓練を行っていたから出来た技だからな。ぶっつけ本番でやるにはリスクが高すぎる』

 

 ネオスとセブン21が連携を取りつつ交互にグランドキングへと光線を打ち込んで戦っている横で、その他のメンバーは交戦経験のあるゾフィーとタロウを中心にしてグランドキングの攻略法をテレパシーを使って話し合っていた。

 

『まず防御力が高すぎる。我々の光線や格闘戦でもほぼダメージを与えられないとは』

『加えてここは暗黒宇宙だから我々に取っては不利なフィールドだからな。今は銀河連邦艦隊の特殊環境フィールド発生装置でここら一帯はそれなりに光エネルギーが存在しているから、まだエネルギー切れにはなっていないが』

『まあ、銀河連邦艦隊がブラックスターを破壊するまで足止めが出来れば良いんだが、グランドキング自体は放置しておいて良いレベルの怪獣ではないから出来れば倒してしまいたい所だが』

『……一応、あのグランドキングに対して有効な作戦の心当たりはある』

『『『本当か80⁉︎』』』

 

 だが、話し合っても一向に妙案が浮かばなかった所で80が唐突にそんな事を言ったので、彼等はついテレパシーでハモりつつ80の方へと顔を向けてしまった……とりあえずネオスとセブン21が一旦下がり、代わりにグレートとパワードがグランドキングと戦い始めた間に80は対グランドキング用の作戦について手早く話し始めた。

 

『あのグランドキングはスケールこそ桁違いだが私がかつて地球と戦った()()()()()()()()()()()()()()()()()と同種のモノだ。……だとすれば、通常の攻撃よりもマイナスエネルギーや構成している怪獣の霊魂や怨念を払う浄化技の方が有効かもしれない』

『……成る程な、グランドキングは【タイラント】などと同じ様な『怪獣の怨念』が集まったモノ。ならば通常の攻撃よりも浄化技の方が有効か』

『ヤツの肉体を構成している怨念を浄化すれば、流石に消滅は無理でも能力を下げるぐらいは出来るかもしれないしな』

『確かに怨念を主体とする怪獣は攻撃しても、そのストレスでマイナスエネルギーを増幅する性質があった筈だな。それならあの異常なタフさにも納得がいく』

『前回戦った時の面子には浄化技を使える者がいなかったからな。……だが、今ここにはマイナスエネルギー研究の第一人者で浄化技を使える80がいる』

 

 その80の作戦を聞いて他のウルトラ戦士達も『確かにその方法ならグランドキングにも有効だろう』と納得して、80の浄化技を主体とした攻めに切り換える戦術でグランドキングと戦う事に決めた。

 ……そのタイミングで艦隊司令官からに通信が来たのだ。

 

『こちら銀河連邦艦隊、ブラックスターの裏側に到着したので準備が整い次第攻撃を開始する。その際にブラックスターがかなり揺れるだろうから注意してくれ』

『了解した。……聞いていたな。これから俺達は銀河連邦艦隊の攻撃に合わせてグランドキングへの浄化作戦を試みる。ブラックスターが攻撃されればヤツにも隙が生まれる可能性が高いからな』

『『『了解』』』

 

 ……そのゾフィーの指示と共にウルトラ戦士達は“その時”が来れば直ぐにグランドキングへと挑みかかれる様にそれぞれが集中しながら、向こうに悟られない為にもこれまでと同じ様に波状攻撃を続行するのだった。




あとがき・各種設定解説

艦隊司令官:超優秀
・今まで負け続けだった銀河連邦が絶対に負けられない最重要な反撃作戦の総司令官として選んだだけあって非常に優秀な人で、元は光量子波動砲などの技術を開発した惑星国家の人間らしい。
・その惑星は平和主義になってから銀河連邦の治安維持部隊を立ち上げた勢力の一つとなっており、技術面や人材面でも相当に貢献している。
・巨大組織である分だけ初動が遅くそこをエンペラ軍団に突かれた銀河連邦だったが、宇宙中から優秀に人材を集めているので能力そのものは非常に高いのである。

精鋭ウルトラ戦士達九名:テレビシリーズになるぐらいに精鋭(メタァ)
・言うまでもなく文字通りの精鋭達であり、即興で連携を合わせるぐらいは問題なくやってのける。

グランドキング:そんな九名でも倒しきれないヤベーやつ
・普通に倒す場合にはコスモミラクル光線クラスの威力が必要な超装甲に、圧倒的なパワーと火力を持つ最強怪獣の一角。
・ただ、能力を攻撃力と防御力に全振りしてるので素早さが低く、ウルトラ戦士達の連携波状攻撃によって翻弄されてしまっている。


読了ありがとうございました。
ちなみに集団対一の戦いで波状攻撃が主体と言うのは、特撮の集団戦で味方が戦ってるのを遠巻きに見ている描写から。囲んで殴れば良いんじゃと昔は思ったけど数を増やすと同士討ちの確率も上がるよねって話。


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暗黒なる超合体怪獣

 ──────◇◇◇──────

 

 

 超合体怪獣 グランドキング 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「チィッ、ディゾルバー!!!」

「パワードスラッシュ!!!」

 

 怨嗟の声を上げながら激しく暴れまわるグランドキングに対し、グレートの両手から放たれた当たった相手を原子レベルで分割する光弾が、パワードの鉄塔30本を一息に斬り倒す威力を持つ青白色の回転カッターが放たれる。

 ……だが、グランドキングが全身から電撃を放出して光弾とカッターにぶつけてその威力を削ぎ、その超装甲によって弱まった二つの攻撃を弾き返す。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「ええいっ、闇雲に暴れている様に見えてこっちの攻撃にはしっかり対応しているな!」

「本能で危険な攻撃を判別しているのか⁉︎」

 

 そう言いながらグランドキングの口から放たれるエネルギー波を後方に飛びながら躱すグレートとパワードに変わり、ゾフィーとタロウがグランドキングの前に踊り出る。

 

「次は我々が行く。一旦下がって休んでいるんだ」

「はい!」

「……しかし、これだけ攻め続けて疲れる気配も無いとはな」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 タロウの言う通りウルトラ戦士達の波状攻撃を受け続けて尚グランドキングは一切衰えた様子が無く依然としてその圧倒的な暴威を振るい続けていたのだ。

 

『おそらくグランドキングは80の推測通り怨念が集まって誕生した合体怪獣で、それ故に通常の生物と違って怨念が尽きない限りはまともに疲労すらしないのかもしれん』

『やはり80の策が最も勝算が高いか。……事前に言っていた通り、銀河連邦艦隊のブラックスターへも総攻撃を機にグランドキングへの浄化作戦を実行する。それまでは引き気味に戦いつつ体力とエネルギーを温存するんだ』

『『『了解!』』』

 

 そんなグランドキングを見てタロウはそう推測し、その念話にゾフィーも同意した上で味方に指示を出しつつグランドキングの足止めを続行して……遂に()()()が来た。

 

『ゾフィー隊長、これよりエネルギーの充填を終えた四隻の戦艦の光量子波動砲によるブラックスターへの攻撃を開始する。エネルギー充填率は30%程に抑えておくが衝撃は注意されたし』

『全員聞いたな、来るぞ!』

 

 その通信がゾフィーの元に届いた直後、彼等が戦っているブラックスターがまるで粉々に砕けるかと錯覚するぐらいに大きく揺れたのだ……言うまでもなく、これは後背に回った銀河連邦艦隊によるブラックスターへの攻撃によるものである。

 ……最大出力なら惑星一つを破壊出来る波動砲四つの一斉射撃は、エネルギー量を三割に抑えてかつ反対側で戦っているウルトラ戦士達に被害を出さない様に収束率を下げて放たれていたとはいえ、事前の計算通りにブラックスターの半分近くを抉って機能停止に追い込んでいた。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!?』

「ッ⁉︎ 動きが止まったぞ! 今だ押さえ込め!!!」

 

 そしてブラックスターの機能が停止した事より、【エンペラ星人】から『ブラックスターを守れ』と指示(プログラム)を受けていたグランドキングは一瞬だけブラックスターを攻撃した者を倒すべきか迷って動きを止めてしまい、その隙を見逃さながったウルトラ戦士達に組み付かれてしまったのだ。

 ……尻尾にはレオ兄弟、右腕にはゾフィーとタロウ、左腕にはネオスとセブン21がそれぞれ組みついており、いくらグランドキングのパワーが凄まじくても流石にすぐ振り解く事は出来きず、その間に今まで浄化技の為のエネルギーを練り上げていた80がグランドキングの前に立った。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「今だ! 80!」

「はい! ……ハァァァァッ! ウルトラオーラ!!!」

 

 そうして80は体全体に力を込めながら()()()()()()()()()()()()()光の矢『ウルトラオーラ』をグランドキングへと放った……すると、その光の矢が当たった場所から怨念を焼き尽くす強力な浄化の炎がグランドキングの全身に燃え広がり、その肉体を構成している怪獣達の怨霊を焼き払いながら成仏させていったのだ。

 

『⬛️⬛️aa⬛️⬛️a⬛️⬛️⬛️AaA⬛️⬛️Aa⬛️⬛️⬛️Aa⬛️AaAaA⬛️aa!!!』

「よし! 効いているぞ!」

「確かにあれだけ膨大だった存在感が徐々に薄れている。これなら……⁉︎」

 

 浄化の炎に包まれたグランドキングは先程までとは明らかに違う叫び声を上げながら暴れ狂うが、その肉体からは徐々に力が失われて行っているので自身を拘束しているウルトラ戦士達を腕力だけでは振り解けずにいた。

 ……だが、それでも尚グランドキングが有する莫大な怨念とエンペラ星人から与えられたマイナスエネルギーは完全には消滅させられず、むしろ『この怨讐を消させてなるものか!』と奮起したグランドキングが自分の肉体に掛かる負荷すら無視した最大威力の電撃を全身から放って浄化の炎ごとウルトラ戦士達を吹き飛ばした。

 

『⬛️⬛️oO⬛️⬛️⬛️Aa⬛️⬛️⬛️Aa⬛️⬛️Ee⬛️⬛️aa!!!』

「クゥッ⁉︎ まだ動くのか!!!」

「まずいぞ⁉︎ ヤツは80を狙っている!!!」

 

 そのタロウの警告通りグランドキングは自身を浄化しかけた80を最大の脅威と認識し、彼を排除する為に全力のグランレーザーを放とうとしていたのだ。

 ……それに気がついた80も避けようとするのだが、先程の『ウルトラオーラ』にグランドキングを浄化する為の多量のエネルギーを使っていた影響で動きが鈍くなっており回避行動が一瞬遅れてしまった……そこにグランドキングは容赦なく頭部からのレーザーを発射した。

 

「ッ⁉︎ しまった⁉︎」

『⬛️Aaa⬛️⬛️⬛️aa⬛️⬛️⬛️oO⬛️⬛️Oo⬛️⬛️ooo!!!』

「80⁉︎」

「……やらせん!!!」

 

 だが、そこで80の前に躍り出て放たれたグランレーザーを受け止めた者がいた……万が一の時に備えて拘束役に参加せずにグランドキングを警戒していたグレートだ。

 ……彼はグランレーザーの膨大なエネルギーをその両手で受け止めると、それを()()()()()()丸め込んで腰だめに構えた。

 

「くらえ! マグナムシュート!!!」

『⬛️⬛️AaAa⬛️⬛️⬛️⬛️Aa⬛️⬛️⬛️aa⬛️⬛️!!!』

 

 そしてグレートが両腕を前に突き出すと同時に吸収されたグランレーザーのエネルギーが光球となって発射された……これこそウルトラマングレートが有する相手のエネルギーを吸収して撃ち返す絶技『マグナムシュート』である。

 ……放たれた光球はまるで逆回しの様にグランドキングの頭部に直撃し、超威力のグランレーザーのエネルギーを跳ね返した事とウルトラオーラの効果でグランドキング自身が脆くなっていた事もあってその一つ目を吹き飛ばしてしまった。

 

「……クッ、どうにか返せたが何というエネルギー量だ」

「大丈夫かグレート!」

 

 だが、流石のグレートでも形振り構わない程に激昂したグランドキングのレーザーを撃ち返すのは厳しかったらしく、その両腕は痙攣する程のダメージを受けており彼自身も肉体に掛かった負担から膝をついてしまった……加えて頭部を吹き飛ばされたグランドキングにしても徐々にダメージが回復しており、浄化によって減った怨念や存在感も元に戻ろうとしていた。

 ……しかし、それを見逃す程に百戦錬磨のウルトラ戦士、そして彼等を纏め上げる『宇宙警備隊隊長』は甘くない。

 

「全員、合体光線だ! 今のグランドキングはかなり脆くなっている上に目も見えていない、ここが勝機だ!!!」

「「「「了解!!!」」」」

 

 これまでどれだけの攻撃を浴びせても傷一つつかなかったグランドキングが自分自身の光線を跳ね返されたからと言ってダメージを受けている以上、浄化の影響で今のグランドキングは相応の脆くなっていることを判断したゾフィーは疲労している80とグレートを下がらせながら残りのメンバーでの一斉攻撃を仕掛ける指示を出した。

 それに応えた彼等はグランドキングが頭部を破壊されて動きが鈍っている隙に各々の必殺光線のチャージを実行していく……ゾフィーは両手を水平に構え、タロウは周囲のエネルギーを吸収しながら七色に輝き、レオ兄弟は縦に並んで両手を開き、パワードは祈るような動作をしながらエネルギーをスパークさせ、ネオスとセブン21はそれぞれの構えを取りながら両手にエネルギーを迸らせる。

 

「M87光線!!!」

「ストリウム光線!!!」

「「ウルトラダブルフラッシャー!!!」」

「メガスペシウム光線!!!」

「ネオ・マグニウム光線!!!」

「レジアショット!!!」

 

 そうしてチャージを終えた七人のウルトラ戦士達はそれぞれの必殺光線を放ち、それらは混ざり合いながらその威力を大きく増幅させてグランドキングへと突き刺さった。

 

『⬛️⬛️Aa⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️AaA⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️AaAaAaa⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️aa…………!!?』

 

 さしものグランドキングでも怨念が浄化された事で弱体化した所に精鋭ウルトラ戦士達の一斉攻撃を食らっては耐えきれるはずも無く、そんな断末魔の叫び声を上げながら合体光線に飲み込まれてそのまま跡形も無く爆散したのだった。

 

「……フゥ、やったか?」

「少なくともグランドキングは跡形も無く爆散した様に見えましたが」

「ブラックスターもほぼ機能を停止している様ですし、後は完全に破壊してしまうだけですね」

「それは銀河連邦艦隊に任せておけばいいだろう。その為にもさっさとここから離れないと……」

 

 その光景を見てようやく一息吐いたウルトラ戦士達は残るブラックスターを破壊する為にも早急にその場から飛び立とうとし……“それ”に真っ先に気が付いたのは『マイナスエネルギーの専門家』でもある80だった。

 

「待ってください! まだ『グランドキングのマイナスエネルギー』は消えていません!!!」

「なんだと⁉︎ ……これは⁉︎」

 

 80の警告が放たれた直後、グランドキングが倒された場所から膨大なマイナスエネルギーが吹き荒れ、それが物凄い勢いで足元のブラックスターへと吸収されていき……その直後、半壊して機能と停止していたブラックスターが異様な鳴動を始めたのだ。

 

「何が起こっているんだ⁉︎」

「これは一体⁉︎」

「全員今すぐに飛べ⁉︎ ブラックスターから離れるんだ!!!」

 

 突然の異常現象に流石の精鋭ウルトラ戦士達も困惑を隠せない様だったが、真っ先に気を取直したゾフィーの指示を聞いてすぐさまその場から飛び上がってブラックスターから全力で距離を取った。

 ……そうして、エンペラ星人がブラックスターに仕込んでいた『最後の防衛機構』が起動したのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「セイヤァッ!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎」

「よし、いいぞアーク、下がれ! マクシウムカノン!!!」

 

 背に宇宙用のブースターを装備したインペライザーに対して、アークはその砲撃を躱しつつ背後に回っての蹴りでブースターを破壊した……そして動きが鈍った所で共に戦っていたウルトラマンマックスの光線がインペライザーに直撃して跡形も無く吹き飛ばした。

 ……この様に残ったウルトラ戦士達は、他の戦闘系宇宙人達と強力してブラックスターから出て来る戦闘兵器を精鋭部隊や銀河連邦艦隊に向かわない様に手分けして撃破していたのだった。

 

「ふぅ、これで粗方片付きましたか。セブンガーは制限時間が過ぎて戻ってしまったがそれまでに片付いて何よりだ」

「ああ、銀河連邦艦隊がブラックスターを攻撃してくれたお陰で増援も途中で途絶えたからな。先程からグランドキングの攻撃もこっちに来ていない様だし、おそらく突入部隊の方も上手くやったのだろう」

 

 最もこちら側の決着は戦闘兵器群のほぼ全撃破という形で合同部隊側の勝利となっており、今は負傷者を後方に待機させておいた支援艦隊へと退避させつつ残敵の掃討を行っていた所である。

 ……無論、厳しい戦いだったので少なくない犠牲も出たのだが、それでも部隊として壊滅する程のレベルでは無かったので一先ずこの戦闘には勝利したと皆が考えて一息吐いていたのだが……。

 

「……ん? なんだこれは……マイナスエネルギー?」

「どうしたアーク?」

「いえマックスさん、ブラックスターの方向から妙なマイナスエネルギーが……なんだ()()は」

 

 浄化能力を習得しているが故にマイナスエネルギーの感知も可能だったアークは、いきなりブラックスターから『異様なマイナスエネルギー』が放たれている事に気が付いてマックスにその事を伝えつつそちらを見たのだが……そこでは驚くべき光景が広がっていた。

 

『…………▪︎▪︎▪︎▪︎◾︎◾︎◾︎◾︎◼️◼️◼️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「……なんだアレは⁉︎ 半壊したブラックスターが()()していくだと⁉︎」

「凄まじいマイナスエネルギーを感じます!」

 

 なんと、半壊したブラックスターが異様な怨念の篭ったマイナスエネルギーを吹き出しながら、その形を急激に変えていっていたのだ……変形したその姿は漆黒の体表に両腕のハサミと太い足、更にゴツい尻尾と赤い一つ目を持った頭部と先程倒されたグランドキングに酷似していながら、その全長は5000メートル近くの超巨体であり全身には無数の砲門が取り付けられているという圧倒的な威容を持ったモノだった。

 ……これこそがエンペラ星人が仕込んだブラックスターの最後の防衛機構、倒されたグランドキングのマイナスエネルギーをブラックスターに融合させて超大型の戦闘兵器──【怪獣戦艦】へと変貌させて敵を皆殺しにする為のモノだったのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 ……そうして生み出されたエンペラ星人配下最強の戦闘兵器【怪獣戦艦 グレイテストキング】は、与えられたプログラムとその身を焦がす怨念にしたがって周囲にいる敵を一掃する為に動き出したのだった。




あとがき・各種設定解説

精鋭ウルトラ戦士達:グランドキングの撃破には成功
・エネルギーの消耗はあるが交代交代で戦っていた事で各々のダメージは少なく、更に銀河連邦艦隊のエネルギー支援によってまだ十分に戦闘可能。

【怪獣戦艦 グレイテストキング】:最終防衛機構
・実を言うと一旦変形させてしまうと元の生産拠点であるブラックスターには戻せず、更にこのグレイテストキングには生産機構がなく無理な変形から活動時間も一週間程度なので、防衛機構というよりは攻めて来た敵を道連れにする形態である。
・元ネタは『ウルトラマン超闘士鎧伝』に登場するエンペラ星人が使役する怪獣戦艦【グレイテストキング】で、彼方ではグランドキングモチーフの【ギガメタルモンス】とシーモンスを模した海上戦艦【アクアキング】とナースとバードンを模した空中戦艦【エアロキング】が合体した姿。
・本来ならギガメタルモンスの方が近いのかもしれないが、外見や能力はオリジナルだし名前の語呂がいいのでこちらにした。


読了ありがとうございました。
尚、現在エンペラ星人は地球から敗走しているメフィラス星人を粛正中なのでこっちには来ません。グレイテストキング起動は気付いていますが『それなら艦隊に痛打は与えられるだろう』とスルー。


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怪獣戦艦の脅威

 ──────◇◇◇──────

 

 

 怪獣戦艦 グレイテストキング 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『なッ⁉︎ ……一体なんなんだアレは!!?』

『超大型のグランドキング……?』

『……エンペラ星人め、まだ切り札を隠していたか⁉︎ 全軍警戒!!!』

 

 ようやくブラックスターとグランドキングを撃破出来たと思っていた銀河連邦合同艦隊は、その二つが融合する事で現れた全長5000メートル超にも達する【怪獣戦艦 グレイテストキング】を見た事で混乱に包まれていた。

 流石にあと少しで目的を達成出来るタイミングで超大型怪獣が現れたのなら無理も無いが、それでも総司令官や一部の動揺が少なかった隊長格は部下を落ち着かせようと指示を出していく。

 ……そしてその中には『怪獣戦艦』と言う物に見覚えのあった宇宙警備隊隊長であるゾフィーと、同じく見覚えのあったタロウの姿もあった。

 

「あ、あんな巨大なグランドキングが……⁉︎」

「落ち着け、アレはかつて【グア軍団】が使用していた『怪獣戦艦』と同型の物だろう。おそらくエンペラ星人はブラックスターとグランドキングを融合させて怪獣戦艦になる様に仕込んでいたんだろう」

「それよりもあの怪獣戦艦がいつ攻撃を仕掛けてくるか分からん、注意しろ!」

 

 そのタロウの言葉通り躯体の構成を大幅に変更する融合直後だった事と、元となったブラックスターが半壊していた事によってグレイテストキングは駆動がかなり鈍くなっていたのだが、それも徐々に馴染んでいったのか全身に着いた砲門から禍々しい赤黒いエネルギーが充填され始めていったのだ。

 

「不味い⁉︎ 全員攻撃が来るぞ! 避けろ!!!」

『全艦艇バリア最大展開!!!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 異常に気が付いたゾフィーと総司令官が全軍に指示を飛ばした直後、グレイテストキングの全身に備わった砲門からグランレーザーに酷似した赤黒いビームが一斉に放たれた

 ……その一発一発がグランドキングのグランレーザークラスの威力がある全方位斉射は周辺に配置されていた艦隊やウルトラ戦士達を襲うが、ギリギリで混乱から立ち直っていた事もありバリアによる防御や回避が間に合ったお陰で被害は最小限で済んだ。

 

「負傷した者は後方に下がらせろ! 残った者達は私と共にあの怪獣戦艦に攻撃を仕掛けるぞ! 次に攻撃されればこの程度では済まん、何としてもアレを止めるのだ!!!」

『今の攻撃で艦隊の二割が撃沈または行動不能に!』

『残った艦艇を再編成してあの怪獣戦艦を攻撃するんだ! アレを倒さなければ撤退も出来ん!!!』

 

 だがそれでも合同艦隊への被害はかなりの物であり、ゾフィーと総司令官はグレイテストキングにこれ以上の攻撃をさせない為にも残存部隊による総攻撃を指示するのだった。

 ……まず先にゾフィー達精鋭部隊を中心とした宇宙警備隊員が攻撃直後で動けないグレイテストキングへと飛翔して一斉に攻撃を仕掛けた。

 

「M87光線Bタイプ!!!」

「サクシウム光線!!!」

「マグニウム光線!!!」

「アドリウム光線!!!」

「ネオストリウム光線!!!」

 

 そうして宇宙警備隊員達による色とりどりの光線がグレイテストキングへと突き刺さって行き体表に備わっている無数の砲門を次々と破壊していった……が、ウルトラ戦士達と比べても尚百倍近い大きさを誇り、更には素体となったグランドキングの『装甲強度』とブラックスターの『再生機能』をある程度引き継いでいるグレイテストキング相手では必殺の光線でも砲門周囲の表皮を吹き飛ばすぐらいしか出来ていなかった。

 そのまま宇宙警備隊員達は他の動ける遊撃戦力と共に、現在態勢を立て直している銀河連邦艦隊へと攻撃の目を向かせない為にもグレイテストキングへの攻撃を続けていく。

 

「装甲の強度は光線が全く効かなかったグランドキング程では無いが、そこに単純な質量と再生能力が加わるから中々ダメージは与えられないか。……引き続き可能な限り解析してデータを艦隊へと送るんだ」

「幸いなのは動きが鈍い事ですか。ヤツはさっきのレーザーから殆ど動いていませんし」

「透視などで見たところ未だに全身の構成が変化し続けているので、おそらく無理な融合と変異の所為で肉体が動かし難くなっているのでは……ッ⁉︎ 肉体の素性が一部変化して……アレは()()()()⁉︎ ま、マズイ! 攻撃が来ます!!!」

 

 そしてゾフィーを中心として解析能力に長けたメンバーは未だに不明点の多いグレイテストキングの情報を集めていたのだが、その中でも透視能力でグレイテストキング内部を探っていた隊員が体表付近にミサイルが生成されている事に気付いて警告を飛ばした。

 ……この【グレイテストキング】はブラックスターが変異して生み出されたモノであり、元の【ブラックスター】並びに円盤生物という種族自体が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で構成されているので、それを応用して新たに武器を作り上げたり高い再生能力を発揮したりしているのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 ……その直後、グレイテストキングは咆哮を上げながら、周りの宇宙警備隊員達を排除する為に全身から無数の誘導ミサイルを発射したのだ。

 それらのミサイル群は回避しようとしている宇宙警備隊員へとまるで猟犬の様に殺到して行き次々と着弾、爆発して彼等にダメージを与えていった。

 

「ぐわぁぁぁっ⁉︎」

「危ない! トライアングル・シールド!」

「くっ⁉︎ アークスラッシュ! ウルトラシールド! 大丈夫ですか⁉︎」

「マクシウムソード! ……チッ、数が多いな。落としきれん!」

「ゼノニウムカノン! ……一発一発の威力は低い様だが……!」

 

 しかし、その中でもある程度のレベルの者達は誘導ミサイル群に対して普通にシールドで防ぐ、散弾状にした光弾でまとめて撃ち落とす、呼び出した盾を念力で操って味方を庇う、宇宙ブーメランを高速で飛翔させて斬り落とす、拡散させた光線によって薙ぎ払うと言った手法で味方を庇いながら対処していた為、被害は比較的少なかった。

 ……だが、そうしている間は当然宇宙警備隊員の攻撃は途切れる事となり、その隙にグレイテストキングは無理矢理な融合で肉体に出来た不具合をドンドン修正しながら、自身の躯体を全力で戦える様に調整していった。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️…………』

「アレは……隊長! 怪獣戦艦の肉体組成がどんどん変化しています! おそらく戦闘用に最適化されている物と思われます!」

「……まだ銀河連邦艦隊の態勢は整っていない、負傷者や損傷した艦艇を後方に下がらせる必要があるからな。やはりその為の時間を稼ぎ出さねばならんか……引き続き攻撃を続行する。まずは頭部に当たる箇所へ攻撃を集中させるぞ! 私も出る!」

 

 そのグレイテストキングの変容を知覚した解析班からの報告を受けたゾフィーは相手の主要機関と思われる頭部への攻撃を指示して、自身も先程からの戦闘で消費したエネルギーがある程度回復したと判断して前線へと出た。

 ……これにはグランドキング最大の能力である頭部からのビーム『グランレーザー』をグレイテストキングの規模で行われた場合を警戒した為でもあった。

 

「了解した隊長! ……生半可な攻撃では倒せん以上は合体光線で行くぞ! スペシウム光線!!!」

「「「「「スペシウム光線!!!」」」」」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 その指示を受けた複数名の宇宙警備隊員がグレイテストキングの頭部へと向けて一斉にスペシウム光線を撃ち、それらは途中で混ざり合って威力を大幅に増しながら頭部の一つ目に突き刺さって吹き飛ばした。

 だが、そもそもグレイテストキングの頭部は大出力ビームの発射と主要センサーが取り付けられているものの、それ自体は“破壊されて終わり”の急所という訳では無い……というか、細胞の変容を制御する中枢機関はブラックスターに残っていた複数個の物を、肉体の各部に分散配置されているので頭部を潰すだけでは機能停止しないのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「ぐわあっ⁉︎ これは電撃⁉︎」

「グランドキングも使っていた能力だが、巨体なだけあって範囲が桁違いだな!」

 

 故に頭部の一部を破壊されても肉体の調整と最適化が止まる事は無く、反撃に躯体の機能として再現し終わった『グランドキングの全方位雷撃』を放って周囲の宇宙警備隊員達を攻撃したのだ。

 更に肉体の調整が進んだ事によって上昇して武器の生産速度によって、間髪入れずに全身から再度の誘導ミサイルが放たれて宇宙警備隊員達を襲う。

 

「またミサイルか⁉︎」

「落ち着け! 先程と同じでこちらに向かってくるだけなら対処出来る! ウルトラディフェンサー!」

「一度見た攻撃なら! エナジースプラッシャー!!!」

 

 しかしながら、流石に一度見た攻撃に対処出来ない程ここに集まった宇宙警備隊員は愚鈍ではなく、自分に向かってくるミサイルをシールドや拡散させた光弾で撃ち落とすなどして対応していった。

 ……だが、当然の事ながらミサイルに対処すると本体への攻撃が疎かになり、更に躯体の戦闘形態としての最適化が進んだグレイテストキングはミサイルだけでなく全身からの電撃や再生された砲門から断続的に放たれるレーザーを組み合わせた波状攻撃によって宇宙警備隊員達を攻め立て始めたのである。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「コイツ、どんどん攻撃が激しく……⁉︎」

「これまでは本調子じゃなかったのか⁉︎」

「おそらく肉体変異が完成形に近づいているものと思われます!」

「げっ⁉︎ 腕が伸びた⁉︎ 回避!」

 

 躯体の最適化が進んだ事でグランドキングの両腕『スーパーハンド』の再現が終わり、円盤生物細胞の変容能力と合わせての腕部を伸縮させての鍵爪攻撃まで繰り出して来た……最も巨体故に威力は高いが速度は遅く、何より狙われたのがアークだったので普通に回避されたが。

 それでも圧倒的な質量から繰り出される打撃は例え遅くても凄まじく、更にはもう片方の手や背後の尾まで伸縮し出したのでその圧力は宇宙警備隊員達の接近を妨害するには十分な効果を発揮していた。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「……攻撃が激し過ぎて攻め切れないな。これ以上に強化される可能性も考えると一気に攻め落としたい所だが……」

「グランドキング譲りの光線を受けても破壊しきれない装甲、高い再生能力に圧倒的な質量、全身全方位から放たれる攻撃……ここまで揃っていると攻め落とすには手数が足りませんね」

 

 そんなゾフィーとタロウの会話通り宇宙警備隊員達だけではグレイテストキング相手に一進一退の攻防を続けるのが限界であり、躯体の最適化によって徐々に戦闘能力が上がっている事も考えるとこのままではジリ貧になる事は目に見えていた。

 

「ここはもう一発ブラックストリームM87を……」

「流石にそれはやめておいた方が良い。……光子フィールドで光エネルギーが供給されているとは言えここは暗黒宇宙、実宇宙よりも回復は遅い上に連戦の所為でゾフィー兄さんのエネルギーは完全には回復しきっていないでしょう」

 

 ちなみに『光子フィールド』とは暗黒宇宙で特記戦力である宇宙警備隊員を運用する為に銀河連邦艦隊が用意した周囲の空間への光エネルギー投射システムであり、これのおかげでウルトラ戦士達は暗黒宇宙でも問題なく戦えるのだが流石に『暗黒の雲』の破壊、グランドキングとの激戦という連戦を行ったゾフィーのエネルギーを完全に回復させるには足りなかったのである。

 ……まあ、そんな状況でも彼等がそこまで慌てていないのは、この戦場で戦っているのは()()()()()()()()()()()()()()()()事を忘れていないからなのだが。

 

『ゾフィー隊長、負傷者と戦闘続行不可能な艦艇の避難、そして艦隊の再編成は終了した。これより我々も怪獣戦艦への攻撃へと移る』

「了解した。……総員! これより復帰した艦隊と共に怪獣戦艦へと攻撃を仕掛ける。艦隊の攻撃を通す様に援護するんだ!」

「やっと来たか。艦隊の火力があれば怪獣戦艦にも十分な打撃が与えられるだろうからな」

 

 そのタイミングで銀河連邦艦隊から戦線復帰の報せが届いたので、ゾフィーは宇宙警備隊員達にそんな指示を出しつつ自身もタロウと共に艦艇の邪魔にならない様気を付けながらグレイテストキングの注意を引きつける目的で攻撃を仕掛けていった。

 平均全長数百メートルはある艦艇数十隻による砲撃であれば、先程の『暗黒の雲』の様な反則的防御能力が無い限りは十分グレイテストキングにダメージを与えられるだろうと考えての指示である。

 ……だが、それを座して見ている程グレイテストキングは、その元となったグランドキングとブラックスターを作ったエンペラ星人や暗黒四天王達は愚鈍ではなく、むしろその行動(プログラム)には明確な戦術と悪意が存在していたのだ。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️…………!』

「アレは頭部の再生が終わって……エネルギーがチャージされている!」

「ビームが来るぞ! 頭部の射線から離れろ……いや待て」

「あの方向は……不味いぞ司令官! ヤツは()退()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

『何ッ⁉︎』

 

 なんと、グレイテストキングは自身の武装の中で最大の威力を持つ『超大型グランレーザー』を周りの宇宙警備隊員達や銀河連邦艦隊ではなく後退している負傷者を乗せた艦艇に狙いを定めて撃とうとしていたのだ。

 ……確かに超大型グランレーザーは非常に高い威力を持つが近距離ではその巨体故に射線を読まれて回避される可能性が高いとグレイテストキングの頭脳は判断し、敵の士気を挫く事と自身の残りの稼働時間の中で少しでも多くの損害を銀河連邦と宇宙警備隊に与える事を目的としてこの様な行動に出たのだ。

 

『後退する艦隊は今すぐ回避! 他の全艦隊はヤツの頭部に攻撃を集中させよ!!!』

『ダメです⁉︎ エネルギーのチャージが予想以上に早くて間に合いません!!!』

「まさかワザと再生を遅らせながらエネルギーをチャージして……⁉︎」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 そうして今まで“再生に回す分のエネルギーもレーザーの為のエネルギーに回していた”グレイテストキングは、再生とほぼ同時にチャージを終えた超大型グランレーザーを後退する艦隊に向けて解き放ったのだった……。




あとがき・各種設定解説

アーク:今回の作戦では基本的に一兵卒
・勝手な行動を取って部隊の連携を乱す程未熟では無いが、それ故に小説内では主人公なのに一切目立たない(笑)

ゾフィー&タロウ:宇宙警備隊の指揮官ポジ
・疲労した宇宙警備隊だけではグレイテストキングを倒し切れない事は分かっていたので、時間稼ぎと情報収集を優先していた感じ。
・総司令官との話し合いで艦隊が復帰次第、宇宙警備隊の総攻撃と残りの光量子波動砲でグレイテストキングを打倒する予定だった。

グレイテストキング:単純な性能だけでなく戦術的な行動も可能
・具体的には最適化が終わっていない間は徹底して時間稼ぎに徹したり、銀河連邦の戦力を低下させる戦略的な目的の為に策を講じることも可能。
・円盤生物細胞に関しては原典では大きさを自由に変えていた事と、培養によって多量に増やせる設定から考えた独自設定。


読了ありがとうございました。
生産拠点攻略編もそろそろ大詰め。多分次回かその次辺りで終わりで、そこからは『ウルトラマンメビウス』最終話に入って行くと思います。


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怪獣戦艦の最後:動き出す皇帝

 ──────◇◇◇──────

 

 

 怪獣戦艦 グレイテストキング 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 銀河連邦合同部隊と戦っていた【怪獣戦艦 グレイテストキング】は刻まれた悪意(プログラム)に従った戦術で彼等の虚をつき、頭部から『超大型グランレーザー』を撤退する負傷者達を連れた艦艇へと照準して撃ち放った。

 ……咄嗟にゾフィー達が止めようとしたが不意を打たれた事から反応が一手遅れてしまっており、対応出来る位置にいた者もそもそもレーザーの威力が高すぎてどうにか避けるのが精一杯であった。

 

「『銀の鍵』よ!」

 

 故にそのレーザーに対処出来たのはあらゆる空間に干渉出来る『銀の鍵』を有するアークだけだった……彼は即座に『銀の鍵』を再召喚、その上でグランレーザーの進行方向上の空間に()()()()()()()()()()()()を開けてレーザーを全て穴の中へと放り込んでしまったのだ。

 ……ちなみにこの技は先程『暗黒の雲』の亜空間バリアに干渉した際、その理を解析したので出来るようになったものである。

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……」

ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……

「大丈夫か! アーク!」

 

 ……だが、そんな大技を使った代償としてアークは残った体力やエネルギーのほぼ全てを使い尽くしてしまい、疲労困憊で胸のカラータイマーが激しく点滅する程のエネルギー消耗状態であり、近くにいたマックスに支えられなければ飛行もままならない状態になってしまっていた。

 

「良くやったアーク! マックスはアークを連れて下がるんだ! ……残りの者達は怪獣戦艦へと全力攻撃! これ以上成長される前に方を付けるんだ!!!」

「分かりました! アーク飛べるか?」

「な、なんとか……」

『全艦隊、あのレーザーの次弾が撃たれるまでに怪獣戦艦を落とすぞ! 攻撃開始! 光量子波動砲のチャージも進めておけ!』

『了解!!!』

 

 そして、後方に下がったアークと入れ替わる形でゾフィー率いる宇宙警備隊と、総司令官率いる銀河連邦艦隊がグレイテストキングへと総攻撃を仕掛けた。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!?』

『全艦一斉射撃! 弾薬とエネルギーはここで使い切っても構わん!!!』

「メガスペシウム光線!!!」

「ネオマグニウム光線!!!」

 

 宇宙警備隊の攻撃に加えて、純粋な火力だけならそれに数倍する銀河連邦の戦艦による砲撃がグレイテストキングに次々と突き刺さっていく……が、躯体の最適化が進んでいるグレイテストキングは防御力・再生能力共に上がっており、ダメージそのものは与えられているものの再生能力を上回って倒しきるには至らなかった。

 ……当然、グレイテストキングもただ攻撃され続けるだけな訳が無く、最大の武器である超大型グランレーザーはエネルギー不足でまだ使えずとも同じく最適化で威力が向上している全方位ミサイルや小型ビーム砲で苛烈な反撃を行って来た。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「クッ⁉︎ ……やはり戦闘能力が増しているな。銀河連邦艦隊のお陰でダメージは与えられているが、このままではジリ貧だな」

「ゾフィー兄さん、ここは俺にエネルギーを集めてスーパーウルトラダイナマイトで……」

「タロウ、やはりそういった手しか……だが、あの技は密着した敵にエネルギーを送り込んで諸共爆発させる技で効果範囲自体は狭いだろう。あの大質量相手では厳しいんじゃないか?」

 

 ゾフィーとしては複数名のウルトラ戦士のエネルギーを一点集中させて大出力攻撃を仕掛けてグレイテストキングを一気に撃破するという案には一理あると思っていたが、効果範囲の狭いウルトラダイナマイトでは倒しきれないのではないかという懸念もあった。

 ちなみにウルトラ戦士同士の融合である『ウルトラオーバーラッピング』には使用者の専門的な訓練や特殊なアイテムが必要だが、単純にエネルギーを一点集中するだけならエネルギー譲渡の応用である程度の実力があれば可能なのだ……最も、エネルギーを集中される者にはかなりの負担が掛かる事に変わりはないが……。

 

「今回は有人惑星上とかではないので周辺の被害を気にする事は無いですし、全方位にエネルギーを炸裂させる形で使用します。その上で俺があの怪獣戦艦の内部に潜り込んでから爆発すれば……」

「アレを倒すにはそこまでするしかないか。……それに、そんな無茶に耐えられるのはウルトラホーンとウルトラ心臓を持ったタロウだけか……分かった、その作戦で行こう。内部へと続く穴を開けるのは私に任せろ」

 

 そうして敵を倒す作戦を立てたゾフィーとタロウはその準備の為にまだエネルギーの余っている隊員を探したり、総司令官に作戦を話して協力して貰える様に頼んだりと、グレイテストキングの熾烈な攻撃を掻い潜りながら急いで準備を進めていったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『……成る程、作戦は分かった。それなら残りの無人艦艇を突撃させて囮にするから、その隙に攻撃してくれ』

「ありがとうございます司令官」

『礼には及ばん。……それに元からチャージの終わった光量子波動砲を撃つ為の作戦を流用しただけだからな。宇宙警備隊の攻撃が終わって尚もあの怪獣戦艦を動く様なら、こちらの光量子波動砲でトドメを刺す事になる』

「了解しました」

 

 そして準備を終えたゾフィー達ウルトラ戦士は銀河連邦艦隊と最後の打ち合わせをした後、宇宙警備隊の威信を掛けて、そしてこれ以上の被害を出させない為にもグレイテストキング撃破の作戦を開始したのだった。

 

「いくぞ! まずはヤツの注意を引きつける! その間にタロウ達はウルトラダイナマイトの準備だ!!!」

『了解!!!』

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

 

 まず、ゾフィー率いる宇宙警備隊員達がグレイテストキングへと一斉に攻撃を仕掛けていく。これまでの戦闘で怪獣戦艦の大火力にも慣れてきた事もあり、彼等はビームとミサイルの嵐を掻い潜りながら着実に光線を当てていっていた。

 

「いくぞアストラ! イヤァァァァァァッ!!!」

「はいレオ兄さん! イヤァァァァァァッ!!!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!?』

 

 その中にはグレイテストキングの頭部に向けて飛び蹴りをかまし、他の宇宙警備隊員の光線以上のダメージを与えているレオ兄弟の姿もあった……彼等はL77星出身であるが故に光の国出身のウルトラ族とは微妙にエネルギーの波長が違うので、今回の様な精密なエネルギー譲渡が必要なメンバーには不適と判断されて囮側に回っていたのだ。

 

「よし、今の内に俺のウルトラホーンとカラータイマーにエネルギーを集めるんだ」

「分かった……ハァッ!」

「セヤッ!」

「ヌゥン!」

「ジアッ!」

 

 その間に80、グレート、パワード、ネオス、セブン21、そしてアークを後方に避難させてから戻ってきたマックスとゼノンの七人がタロウのウルトラホーンとカラータイマーへ光を送り込んで自身のエネルギーを譲渡していく……この七人が選ばれたのは、単に細かいエネルギー譲渡が可能な技術を持っていてまだエネルギーが残っていたメンバーだからである。

 ……ただし、やはり連戦でエネルギー量が減っている事には変わりなく譲渡の途中でカラータイマーが鳴り始める者も出て来ており、それによりエネルギーの集約は予想よりも時間が掛かってしまっていた。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

「マズい、気付かれたか!!!」

 

 加えて戦場でそんな目立つ行動をしているので、撤退する艦艇すら捉えられるレーダーを持ったグレイテストキングに感知されてしまい、タロウに集中するエネルギー量が危険だと判断されて攻撃されそうになってしまう。

 

『それはさせんよ……残存無人艦艇の内五隻に()()()()させて怪獣戦艦へと突撃させよ』

『了解! エネルギー衝角展開! 吶喊開始!!!』

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!?』

 

 しかし、そんなタロウ達に攻撃を行おうとしたグレイテストキングに対し、総司令官の指示により残っていた全ての無人艦艇が前方を覆う形の衝角状バリアを展開しながら全速力で突撃してその身体に突き刺さっていったのだ。

 ……これが銀河連邦の無人艦艇による最終攻撃手段『バリア衝角特攻』であり、一点集中したバリアの硬度と星間航行が可能な推力を持った大型戦艦の突撃は例え規格外の怪獣戦艦グレイテストキングと言えども無視は出来ず、二隻までは両腕のクローで防ぐものの残りの三隻がそれぞれ脚部・背部・腹部に突き刺さって大ダメージを与えた。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』

『怪獣戦艦が突き刺さった無人艦艇を振り払おうとしています!』

『無人艦艇の推進力を最大限に。後ついでに搭載兵装をぶっ放して嫌がらせをしてやれ。……既に()()()()()()()()()()()()可能な限り注意を引くんだ』

 

 だが、大型戦艦が三つも突き刺さっていながらもグレイテストキングは全身から残った兵器を乱射しつつ、両腕のクローと尻尾を振り回して自分に突き刺さった戦艦を破壊しようとしていた……が、それも想定内だと言わんばかりの指揮官の指示による戦艦を押し込む事での体勢崩しと、各兵装の形振り構わない一斉射撃によって妨害されてしまっていた。

 ……そうやって自由に動けないでいるグレイテストキングが、それでも無理矢理戦艦を振り払おうとした瞬間、彼方から()()()()()()()が放たれ、クローの一本を吹き飛ばしながらその胸部に突き刺さり大爆発を起こした。

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!?』

「M87光線……だが、流石にエネルギーが……」

ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……

 

 その光線の正体は宇宙警備隊隊長ゾフィーの余波で地軸が歪むとまで言われる『M87光線』の最大出力であった……しかし、流石のゾフィーも連戦に次ぐ連戦、ブラックストリームM87やグランドキングとの戦いでのエネルギーの消耗は激しく、このM87光線を撃った後にはカラータイマーが鳴る程に消耗してしまっていた。

 ……だが、それでも『グレイテストキングの内部に入れるだけの損壊を与える』という目的だけはしっかりと果たしている辺り、現役最強のウルトラ戦士と言われるのは伊達ではない。

 

「今だ! タロウ!!!」

「ああ! ……オオオオオオオオオ!!!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!?』

 

 そして、そんな皆が稼いだ時間で仲間からのエネルギーをチャージし終わったタロウが全身から凄まじい勢いの炎の様なオーラを吹きあがらせ、そのまま全速力でゾフィーが作ったグレイテストキングの胸部の傷に向けて突っ込んで行ったのだ。

 グレイテストキングも迎撃しようとするが身体に突き刺さった戦艦が邪魔をする上、ゾフィーに片腕を吹き飛ばされた事と他の宇宙警備隊員や銀河連邦艦隊の今までの攻撃によって体表にある兵装の多くが再生が追い付かず機能停止していた事により、タロウの突撃を止める事が出来ず胸部の中に入り込まれてしまう。

 

「スーパーウルトラ、ダァァァイナマイトォォォォォッ!!!」

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️…………ッ!!?』

 

 ……直後、体内のタロウが預けられたエネルギーを肉体が粉々になるのも厭わずに全解放し、まるで小型の太陽がそこに現れたかの様な大爆発を起こしてグレイテストキングの上半身を粉々に吹き飛ばしたのだ。

 そして爆発が収まった後に下半身だけになったグレイテストキングの上に光の粒子が集まっていき、それがカラータイマーを激しく点滅させたタロウの姿へと再構築された……のだが。

 

『……◼️◾️……◾︎◼️……▪︎……▪️……』

「ハァ……ハァ……⁉︎ マズいぞ! こいつはまだ()()()()()()()()()()!!!」

 

 そんな状態になっても尚、グレイテストキングは活動を停止しておらず下半身の断面から破壊された上半身を徐々に再生させようとしており……そんな事はゾフィーや総司令官達リーダー格の者達は十分想定していた。

 

『だが、流石にダメージで機能が停止している様だな。光量子波動砲発射準備。射線にいる味方には退避を指示せよ』

『了解! 光量子波動砲発射準備。射線上の者は急いで退避してください!』

「全員怪獣戦艦から離れるんだ! ……マックス、あそこにいるエネルギー切れのタロウを迎えに行ってくれ。お前の足ならいける筈だ」

「分かりました!」

 

 総司令官はこれまでの戦闘で敢えて後方に下げていた3隻の波動砲搭載艦艇を前に出し、チャージを終えていた波動砲をグレイテストキングへと向ける……それを見たゾフィーは即座に隊員達へと離脱指示を出して、グレイテストキングに一番近い位置にいてエネルギー残量から離脱が難しいタロウには“最強最速”の二つ名を持つマックスを向かわせた。

 その二つ名に違わずマックスは得意の超高速移動能力を駆使して瞬時にタロウの下へと到着し、その肩を支えながら即座に離脱して行った。

 

「済まないな、マックス」

「いえ、これまでは余り戦闘出来なくてエネルギーは余ってますから」

『射線上の味方の退避は全て終わりました!』

 

 そうしてマックスとタロウの離脱を最後にグレイテストキングの周りからは銀河連邦合同部隊の者は姿を消し……。

 

『よし。……光量子波動砲、発射ァァッ!!!』

『発射!』

 

 ……その直後、総司令官の号令と共に放たれた三条の光量子波動砲がグレイテストキングの下半身へと突き刺さり、その惑星すら破壊しうるエネルギーを解放して残った下半身を跡形もなく消し飛ばしたのだった。

 

『……怪獣戦艦反応消失! ごく一部残った残骸からも反応はありません!』

「「「「「う……うおおおおおおおおおお!!!」」」」」

『うむ、念の為に残骸の処理を宇宙警備隊と協力して行うんだ。それと負傷者は後方の支援艦隊の所まで下げて実宇宙に戻しておけ。……それと周囲の見張りも徹底させろ、万が一が無いとも限らないからな』

「「「「「お、おお……」」」」」

 

 その後、オペレーターの宣言によって長く厳しい戦闘がようやく終わった事を知ったその場の皆が歓声を上げた……が、直後に総司令官がそんな指示を出したので、一気にテンションが下がった。

 ……とは言え、その辺りは皆優秀な者達なので即座に気分を切り替えて負傷者の輸送、万が一敵の援軍が来る可能性も考えた周辺の見張り、そしてグレイテストキングの残骸の念入りな破壊を真面目に行なったのだが。

 幸いにも、懸念していた疲弊した艦隊を狙う追撃部隊などはおらず、彼等合同部隊は各作業を終えてから無事に暗黒宇宙からの脱出を完了させ、それなりの犠牲を出しながらも作戦を成功させる事が出来たのだった。

 

 

 ──────◆◆◆──────

 

 

 太陽系第三番惑星『地球』、その衛星軌道上には“とあるゲーム”に敗北して地球から去る途中の暗黒四天王の一人【メフィラス星人】が……彼方から放たれた()()()()()()()()()()()()に撃ち抜かれていた。

 

「皇帝! 私もまた不要になったゲームの駒というわけですね……残念です! ぐおおおっ⁉︎」

 

 そんな断末魔を残して爆散したメフィラス星人を冷厳な目で見ながら、暗黒の(レゾリューム)光線を放った本人である【暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人】は感情を感じさせない声音で呟いた。

 

「ふむ、貴様は相応に役には立ったが無様に敗退した者は要らんよ。せめて散り際のマイナスエネルギーで『鎧』の肥やしになるがいい……む、グレイテストキングも落とされたか。マイナスエネルギーを集める実験台としてジュダが残した残骸を利用しただけの物ではあったが、これで戦闘兵器の追加は望めんか」

 

 更にエンペラ星人は同時期に起こった生産拠点攻略作戦によって戦闘兵器を生産するブラックスターが破壊された事を感知した……のだが、それでも皇帝は少し考え込んだ後に尚も無感情な声音で言葉を続けた。

 

「まあ良い、()()()()()()()第二次ウルトラ大戦争が起きた事によって宇宙全体にマイナスエネルギーが溢れている。……そして、その宇宙中のマイナスエネルギーを集めて余が力を増幅する最強の『神器』となす【アーマードダークネス】も既に完成し、後僅かでマイナスエネルギーが完全に溜まりきるだろう。そうなれば最早この宇宙に余の敵はいない」

 

 そう、エンペラ星人が全宇宙を巻き込む第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)を起こした最大の理由は、自分の力を宇宙に示す為でも、ウルトラ戦士達が守ろうとしているモノを壊す為などでは無く、それによって宇宙全体の人々から生じた不安や恐怖、憤怒や憎悪といったマイナスエネルギーを集めて、自身の闇の力を増幅する最強の『神器』【アーマードダークネス】を作り上げる事だったのだ。

 それ故の初めに宇宙中のチンピラを焚きつけた事であり、効率を完全に無視した戦線の拡大であった……そして、その【アーマードダークネス】はエンペラ星人が掛り切りで調整したお陰で、後は宇宙中で発生するマイナスエネルギーを自動で取り込んで完成を待つだけになっている。

 

「だが、暗黒四天王が倒されたお陰で宇宙のマイナスエネルギー発生が減っているのも事実である……仕方がない、暗黒四天王が倒された地球は余が直々に堕とす他無いか。……既に【アーマードダークネス】の調整も終わった事ではあるし、ウルトラ族共が特別贔屓している星のマイナスエネルギーで鎧を完成させるのも一興であろう」

 

 ……そうして、エンペラ星人は目の前の青い星に一瞥をくれた後に闇を纏いながら転移してその場を後にしたのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:ファインプレー
・『銀の鍵』なら物理的に威力とかを無視して時空間に働きかけられるのでこんな事も可能だが、エネルギー消費が激しいので戦いからはフェードアウト。
・あの後は先に後方支援艦隊に合流して実宇宙に帰還してました。

ゾフィー達ウルトラ戦士:宇宙警備隊の意地を見せた
・損害は最小限だったがエネルギーの消耗が激しい者が多かったので、作戦終了後には多くの隊員が光の国に帰還して療養する羽目に。

銀河連邦艦隊:普通に優秀
・無人艦艇特攻は予算的な意味もあって余り使われないので総司令官はちょっとお咎めを食らったが、大体は今回の作戦を完遂した恩賞で相殺されてる。
・とはいえ相応の損害があったのは事実なので、しばらくの間は銀河連邦の動きは鈍くなります。

エンペラ星人:最終回三部作に向けてアップを始めた
・そもそも第二次ウルトラ大戦争を起こした理由が宇宙中の不安を煽ってマイナスエネルギーを発生させ、それを元にアーマードダークネスを作る事が目的だったので勝敗には大して頓着してない。
・ここまで鎧に拘るのは以前ウルトラの父にウルティメイトブレードを使われてやられたからで、『ならばこちらも神器を作ってやろう』というノリで大戦争を起こした。
・とは言え、地球で暗黒四天王が全滅したせいでマイナスエネルギー発生が少なくなったので、自ら地球を闇に墜としてマイナスエネルギーを発生させようとしている。
・……という感じで、メビウス最終回にアーマードダークネスを着て来なかった理由や、かなり迂遠な方法で地球人を追い詰めた理由を独自設定で解釈してみた。

アーマードダークネス:父のユニーク人権武器に対抗する為のチート装備(自作)
・宇宙中のマイナスエネルギーとエンペラ星人の闇の力を混ぜ合わせて生み出された鎧で、装備した者に全宇宙のマイナスエネルギーを元にした闇の力を上乗せする神器。
・更に装備している間は全宇宙からマイナスエネルギーを闇の力として集めて装備者に与えるので、実質無限のエネルギーを有する鎧でもあり、極性こそ真逆だが別の並行世界に於ける『グリッター』に近い性質を持つトンデモ武装。
・だが、与えられたエネルギーをどこまで扱えるかは装備者次第であり、エンペラ星人が使えばガチで全宇宙を闇に包み込める力が使えると想定されているが、並みの者では供給される闇の力に耐えきれずに鎧を構成するマイナスエネルギーの一部となる。


読了ありがとうございます。
正直アーマードダークネスの独自設定は盛り過ぎたかなとも思うけど、原作でも何度も復活してるしこのぐらいでもいいかなと。


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宇宙警備隊員アークの日記:終わりの始まり

 ▼月▲日

 

 厳しい戦いだった、とりあえず少なくない犠牲者達に黙祷……エンペラ星人の生産拠点攻略作戦が終わってから幾日が経ち、俺は光の国での療養を終えて宇宙警備隊の任務に無事復帰した。

 まあ、俺は大した怪我とかしてないし、療養も『銀の鍵』をかなり大規模に使った事によるエネルギーの大幅な消費だけだったからね。エネルギーさえ回復すれば直ぐに復帰は出来たんだけどね。

 ……ただ『銀の鍵』をあそこまで大規模に使ったのは初めてだったから、宇宙科学技術局主体で色々と身体検査を受けたから復帰が遅くなっただけで。勿論エネルギー消費以外は一切『肉体的には問題なし』って出たんだけど。

 

 しかし、本当に『銀の鍵』は凄まじい力だよな。エネルギーの消費だけであそこまで大規模な時空干渉が出来る訳だし……まあ、世界の外側の邪神の力である以上はおいそれとは使えないんだけど。

 ……ただ、多分だが全く使わないのもダメだとか言われた様な気もするし、やはりこの『銀の鍵』を自分の力として“使いこなせる”様にならないとダメかな。

 

 ……問題は今の状態でも『銀の鍵』は俺が望んでエネルギーを消費さえすれば、思いつく限りでほぼ全ての空間操作的な事が出来てしまう事なんだけどね。

 だから鍛えるにしてもエネルギーを使えば“なんでも出来てしまう”からどう鍛えればいいのかイマイチ判断が付かないんだよな。エネルギー消費を抑えればいいのか、はたまた邪神に精神を侵食されない様に精神修行でもすれば良いのか……。

 

 やはり『銀の鍵』の力は慎重に使っていった方が良さそうだな。この前の戦いみたいに使うべき時に躊躇う気は無いが、使わなくてもいい時まで縋るのは良くなさそうか。エネルギー消費のせいでおいそれとは使えないのは幸いだったのか。

 ……うむ、こうして日記に書いておくと考えを纏められるな。精神汚染対策にも良いかもしれない。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▼月□日

 

 宇宙警備隊に復帰しての仕事は以前と同じ様に光の国の防衛任務なのだが、俺が攻略任務参加中にも防衛していたゴリアテやフォルトに聞いた所だと最近は余り敵襲が来ないと言う。

 どうも戦闘兵器の生産拠点が攻略された事と、それと同時期に地球のメビウスが最後の暗黒四天王【メフィラス星人】を退けた事が宇宙中に広まった事で戦局がエンペラ星人側の大幅な不利になっているそうだ。

 ……しかしまたメビウスか、アイツ本当に大活躍だな。……と言うか、誘蛾灯の様に地球に引き寄せられては倒される暗黒四天王に問題がある気もするが……。

 

 まあとにかく、そんな情報が広がったお陰でエンペラ軍団は敗北寸前というのが宇宙全体での定説になっており、それを真に受けたエンペラ軍団側に与した勢力が次々と降伏しているのが現状らしい……うちの宇宙情報局やら銀河連邦の諜報部やらがこれまで行ってきた情報戦が最大限に効果を発揮しだしたとは情報局の新人であるフォルトの弁である。

 要するにエンペラ軍団は今押されっぱなしの上、生産拠点を破壊された事によって肝心の【インペライザー】や【ロベルガー】と言った戦闘兵器の補充も出来なくなっているから光の国にまでわざわざちょっかいを掛ける余裕は無い感じかね。

 戦闘兵器群に関しては既に生産していた物を保存していたのか、或いは他に生産出来る場所があるのかまだ見かけるみたいだが……実際技術局の調べだと生産方法が分かっていれば普通の施設でも作れない訳では無いみたいだし。勿論例のブラックスター程の大量生産は出来ないだろうがとの事。このまま終わってくれると良いんだが……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▼月◾️日

 

 戦局は相変わらず銀河連邦側の超有利であり、エンペラ軍団の敗北は秒読みだろうと言うのが宇宙中で噂になってる今日この頃。ガハハ、勝ったな……と言えれば良かったんだけど親父達は未だに警戒を怠ってはいないみたい。

 複数名のエネルギーを集めて自爆するとか言う頭のおかしい技……もといスーパーウルトラダイナマイトとかいう無茶をしたお陰で復帰が遅れた(それでも他の重傷者と比べれば圧倒的に早い辺り色々やばい)タロウさんに少し話を聞いた所、未だに姿を現さないエンペラ星人を警戒している様だ。

 

 実際、エンペラ軍団(を名乗るチンピラ達)が宇宙で暴れている時も、暗黒四天王を筆頭とした真のエンペラ軍団が宇宙中に宣戦布告した後も、一向にその頂点に立つエンペラ星人はどの戦場にもその姿を現わす事が無かったそうだしな。

 総大将が引きこもって前線に出てこないのは普通だと思いはするんだけど、エンペラ星人は昔光の国に攻めて来た時には怪獣軍団を率いた上で自身も前線に出て精鋭のウルトラ戦士達数十人を瞬殺するレベルの実力があったそうだからね。

 ……当時はまだ宇宙警備隊自体が発足しておらず、その前身である防衛隊的な組織しか無かったとはいえ、【宇宙の帝王ジュダ】を退けるぐらいの戦力は持っていた光の国をそうまで追い詰めた相手が未だ何もしてこないのは何かの企みがあるのではないかと上層部では睨んでいるそうだ。

 

 尚、その『第一次ウルトラ大戦争』の時は敗北寸前の終盤でようやく完成した『ウルトラベル』を使って怪獣軍団をまとめて退けて、エンペラ星人はウルトラの父が聖剣『ウルティメイトブレード』によって超パワーアップしてどうにか撤退に追い込んだというギリギリの戦いだったそうな……そりゃあエンペラ星人を警戒するし、ベルとブレードは厳重に管理されるよね(尚キー)

 ……ちなみにエンペラ星人の一件で大打撃を受け、このままでは本星の防衛が危ういと判断した当時の防衛隊と光の国の上層部は『これまでは光の国の防衛だけを考えて宇宙側には最低限しか目を向けていなかったが、それではジュダやエンペラ星人の様に宇宙全土に版図を広げた巨悪を光の国単独で相手をする事になってしまうだろう』と考えて、周囲の星や銀河連邦と連携して宇宙の治安を守る『宇宙警備隊』の発足に踏み切ったらしい。

 まあ、光の国は住民一人一人の戦闘能力が高い(支配下に置けば戦力大幅アップ)し、技術力もプラズマスパークを始めとして非常に高い(支配下に置けば同上)上に、犯罪がまともになく治安が良い(統治しやすい&実戦経験不足と思われる)ので、ある程度の勢力を持った連中からは狙われやすい要素が結構あるんだよな。

 

 つまり宇宙警備隊の治安維持活動にはそう言った侵略者の版図拡大を阻害して、光の国を間接的に守る意味もあるのでした……実際、今回の第二次ウルトラ大戦争では銀河連邦や、他の協力関係にある星も一緒に戦ってくれたお陰で光の国への直接的被害が無いしね。

 むしろ以前に自星の戦力だけで直接奇襲攻撃を仕掛けてきた【バット星人】の一派みたいなのの方が面倒ではあるんだが、一つの勢力だけで喧嘩を売ってくるなら退けるだけの戦力が光の国には十分にあるから問題は無いのだ。

 この時にバット星人に味方する勢力が居なかった様に、警備隊が宇宙全体の『悪に対する抑止力』となっていると周知されて、それに相応しい力があるからこそ光の国を直接攻める勢力が大きく減らせるという意味で自星を守っている一面もあるし。

 ……宇宙警備隊は別に善意だけで治安維持活動をやってる訳では無いんだよねぇ。そもそもこうして治安維持すらせず閉じこもっていられる程に、この宇宙は広く無いんだよなぁ。ベストな道は無理かもしれないけどベターな道ぐらいは行かねばならないのが防衛と政治だとは親父の弁。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ▼月△日

 

 今日も特に何もなく光の国近辺は平和です……少し前の厳戒体制が嘘の様だね。先日の作戦で負傷した者も一部重傷者を除いてほぼ復帰できたっぽいし。

 この辺りは無駄に頑丈で瀕死でも太陽光(プラズマスパーク)当てておけば割とすぐに復活出来る生命力が凄まじいウルトラ族の種族特性と、命の固形化技術や銀十字軍を始めとする医療技術が凄まじく発達している光の国の面目躍如と言ったところか。

 

 そういう訳で戦力が整った宇宙警備隊の方では本格的に敵の親玉である【エンペラ星人】の捜索を行う事になった様だ……銀河連邦の方は先日の作戦でかなり無理して早く動かせる大戦力を捻出した上その際に負った損害が大きかった事と、現在進行系で残存エンペラ軍団と戦ってる事もあってまだ少し動きは鈍いままであるらしいからフットワークの軽いウチで調べようという感じ。

 まあ、俺達新人組はウルトラの星近辺の防衛要員のままだから……と思ったら、俺やゴリアテ、フォルトなどの特殊部隊所属の一部の人員は原隊への復帰要請が出たので宇宙保安庁に復帰する事に。

 今のエンペラ軍団の戦力ならウルトラの星にちょっかい掛ける余裕は無いだろうし、この大戦争の早期終結の為にもエンペラ星人捜索の方に戦力を割いた方がいいだろうとの判断だ。

 

 そうして俺はやっぱり何時ものセブン21先輩と共に宇宙保安庁としてエンペラ星人捜索を兼ねた広域パトロールを行う事になって、その場所は地球近辺の太陽系辺りを巡回する予定……その理由は言うまでもなく、地球は暗黒四天王四人全てを退けた場所であり、その報復や権威回復や見せしめなどの理由でエンペラ星人が襲撃を掛けるとするならばその可能性がおそらく最も高い場所であるからだ。

 ……それ以外にも銀河連邦の主要都市やウルトラの星自体も候補には上がっているのだが、主要都市は戦争開始から銀河連邦が全力で配備した防衛軍に常時守られている(初動が遅れたのは大体この為)し、ウルトラの星にはかつてエンペラ星人を退けたウルトラの父が居る事から襲ってくる可能性は低い&襲われても対応できると判断されている。

 

 なので一番狙われる可能性が高く、宇宙警備隊員(メビウス)が常駐しているとは言え文明のレベルや防衛戦力が低い(という事になっている)地球及び太陽系周辺の惑星や宙域の警備には“親父含む”ウルトラ兄弟がほぼ全員集合するという豪華な防衛網が敷かれているのだ。

 ……これだけのメンバーがいるので俺とセブン21先輩は太陽系からそれなりに離れた宙域を回ってエンペラ星人への手掛かりを探す事になるっぽい。何か見つかれば良いんだが……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そういう訳で太陽系近辺をパトロールしていた俺とセブン21先輩だったのだが、その途中で【ファントン星人】と【ザムシャー族】と【サイコキノ星人】が乗ったファントン星系の宇宙船を見かけたので声を掛けていた。

 ……ファントン星人はともかく、ザムシャー族もサイコキノ星人も同族以外と行動する事が非常に少ない種族だから、この組み合わせはちょっと怪しいレベルで珍しい事もあって職質した形だ。

 

「……成る程、つまり君達は地球にいるメビウスに会いに行こうとしていたと」

「ええそうなんですよ。最近色々と地球については話題になっていますし、彼やCREW GUYSの皆さんにはファントン星を食料不足から救ってくれた恩義がありますからね。……彼も色々と大変そうなので、微力ながら手助けをと思いまして」

「……俺はメビウスとツルギとの再戦を行う為に赴くだけだ」

「あ、こんな事言ってるけどそんなに悪い人じゃないですから。地球でいうツンデレってヤツです」

 

 しかし詳しく話を聞くと、どうもこの三人は以前メビウスのいる地球にやって来て色々と友誼を結んだ者達であり、今回は暗黒四天王に次々と攻撃されてそれを撃破した地球の話題を聞き付けて世話になったメビウスやCREW GUYSメンバーを助けるべくやって来たらしい。

 ……経験豊富な21先輩から見ても彼等が嘘を付いている様子は無いし、ファントン星人が地球に来てた事は俺も知っていた事もあって疑いは直ぐに晴れた。まあザムシャー族の人の発言は少し物騒だったが……。

 

「だが、今の地球圏は【エンペラ星人】が狙う可能性が高いと見られているのでかなり危険ですが……」

「フン、俺の目的はメビウスとツルギだけだ。それを邪魔する様ならば暗黒の皇帝だろうと斬り捨てるまでの事」

「つまりこの人は『メビウスとツルギを狙うヤツが俺が倒すよ!』って言ってるんですね。ツンデレツンデレ」

「言っていない。大体さっきから言う『ツンデレ』とは一体なんだ」

「最近地球で流行っているザムシャーみたいな人の事を言う言葉だよ」

「……なんだそれは……」

 

 そんな『カコ』と名乗るサイコキノ星人の揶揄いへ律儀に対応してる所を見るに、このザムシャー族の人はそう悪いヤツではなさそうかな。後ツンデレとは少し違う気がするけど。

 ……そんなやり取りをしていた俺達へ、突如として()()()()()()()()()()()と共に超強力なテレパシーが届いたのだ。

 

『……地球圏を守ろうとしている光の者達よ。……余は暗黒の皇帝エンペラ星人である』

「何ッ⁉︎ エンペラ星人だと!」

「なんて凄まじい念波……⁉︎」

「一体何処から……⁉︎」

「フン……」

 

 いきなりのテレパシーに俺と21先輩はエンペラ星人が何処に居るのかを探り、カコちゃんは超能力に長けているが故にその圧倒的な力を感じたのか身を震わせ、ザムシャーは不敵な笑みを浮かべるなど各々の反応を示した。……テレパシー越しにも感じ取れる圧倒的な闇の力の前に、それを偽物だと思うものは誰一人としていなかった。

 

『……今宵、暗黒四天王の全て退けた地球に対して、その栄誉を讃え余は自らの手で侵略を行う事とし、その前座としてインペライザーを13機程送り込んだ。……その結果、地球を守っておった光の者は倒れ、防衛隊とやらも戦力の多くを失った故、24時間以内に光の者を地球人自らの手で引き渡す事を引き換えとした全面降伏と地球への侵略停止及び余自らの手による地球の保護を宣告して来た所だ』

「……地球に関しては相応に監視を強めていた筈だが……駄目だな、連絡が付かないし地球の様子も見れない様になっている」

「索敵妨害と隠蔽による電撃戦ですか……」

 

 おそらく超強力な超能力で索敵を誤魔化して地球圏へと侵入して攻撃を行ったんだろうけど……ウルトラ兄弟全員の監視をあっさりと擦り抜けるとか! いくら宇宙は広くて防衛網張るには向いてないからって……⁉︎

 

『さて、つまりこれから24時間、余はやる事が無くなるのだが……それでは退屈なのでな、少々地球圏の近くにへばりついている光の者達と遊ぶ事にした。……具体的には地球圏に近い位置にいる光の者達の下と、太陽系近辺の有人惑星へ暗黒四天王が残した“オモチャ”を向かわせた故、さっさと守りに行かんと被害が出るだろうな。お前達が贔屓する地球を守る事を優先するならそれでも良いがな……では、精々頑張ると良い』

「切れた! ……ええいっ⁉︎ タチの悪い事を!!!」

「太陽系近辺に居た部隊から通信があった! 多数のロベルガーによる襲撃の様だ! それとこの近くにある惑星ヤオトリから救援要請だ!!!」

 

 これは明らかに面倒になるやーつ! 多分このテレパシーは襲撃した有人惑星にも届いているだろうし、見捨てたら宇宙警備隊と地球へのヘイトが不味い事になるヤツじゃん!!! 

 

「おいファントン星人、さっさと地球へ向かえ。……メビウスを倒すのはこの俺だ」

「ええっ⁉︎ この状況でそれを言いますか⁉︎」

 

 余りにいきなり情報が錯綜する中でどうすればいいか迷いを見せた俺と21先輩の状況を動かしたのは、ザムシャーが言い放ったそんな一言だった……そうして彼は俺と先輩に更なる言葉を続けた。

 

「何をしている? 貴様らは宇宙警備隊なのだから助けを求める星へいつも通り慈善事業をしに行けば良いだろう?」

「あー、ザムシャーは『メビウスは俺が助けに行くから、お前達はさっさと救援要請に応えろ』って言ってるんだと思います!」

「フン、いいからさっさと行け」

「……分かりました! こうなれば私も覚悟を決めましょう! お二人も頑張って下さい!!!」

 

 直後、ファントン星人の宇宙船は地球へ向けてのワープドライブを行なってその場から消えていった……うん、そうだな。

 

「21先輩、俺達は惑星ヤオトリへと向かいましょう。今この救援要請に答えられるのは俺達だけみたいですし、地球に関しては彼等やメビウスと地球人を信じましょう」

「フッ、そうだな。宇宙警備隊だけでなく、この宇宙の平和を望む誰もがエンペラ星人と戦っているのだ。……それに地球圏にいるウルトラ兄弟がこの程度の妨害で屈する筈がない。必ず何とかしてくれるだろう」

 

 ……そうして俺と21先輩は地球の事を彼等とウルトラ兄弟、そしてメビウス達CREW GUYSに任せて救援要請が飛んで来た所へと全速力で飛んでいったのだった。




あとがき・各種設定解説

宇宙警備隊の設立理由:善意だけでは無い
・他の星と協力して宇宙の平和を維持する事によって、間接的に絶大な力を持っているから狙われやすい自分達を守る為って感じ……自分の星だけが平和だとしても、その結果がウルトラ大戦争だからね。
・後年、マルチバースにまで手を伸ばすのも『他の並行世界に逃げれば宇宙警備隊は追ってこない』と思われたら抑止力として機能しなくなるからだったり。
・最低でも最低限の人材派遣と、それによる現地の似たような勢力との協力関係の締結はしないと色々問題。

ファントン星人&ザムシャー&サイコキノ星人:24時間後に地球到着
・カコちゃんが“ツンデレ”とか知ってたのは地球にいた時にネットとかで調べてたからかもしれない(笑)
・尚、エンペラ星人は基本的に光の者しか“敵”とみなしていないので彼等はスルーされた。

エンペラ星人:地球侵攻開始
・あっさり地球に侵攻出来たのは超能力による監視網の妨害と、非常に強力な隠蔽能力と転移能力がある『ダークネスフィア』によるもの。
・テレパシーと無差別侵攻は宇宙警備隊の妨害が三分の一、ウルトラ戦士達への嫌がらせが三分の一、鎧の為のマイナスエネルギーが三分の一と行った感じ。
・今回使った戦力は以前に暗黒四天王から『皇帝の護衛用』として渡されていた物だが、エンペラ星人的には自身の方が圧倒的に強いので『ご機嫌取り用のオモチャ』としか思われていなかった模様。
・廃棄するのも面倒だったので本拠地の『ダークプラネット』に放置していた物を、今回せっかくだから持ってきて適当に使い潰している。


読了ありがとうございました。
メビウス最終回三部作編開始……まあいつも通り原作の裏側で起きた起きた事を妄想で書いてく感じになると思います。


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惑星ヤオトリ攻防戦(前編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 皇帝近衛機 クリムゾンロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 惑星ヤオトリ……その星は太陽系からそこそこ離れた(宇宙基準)別の恒星系に存在するヒューマノイドタイプ生物であるの『ヤオトリ人』が住む陸地3・海上7ぐらいの所謂“地球型惑星”の1つであった。

 宇宙的に見て結構辺境にある惑星なのでそこまで有名では無いが、銀河連邦加盟惑星の1つだけあって相応に高い技術力と文明を持っており、特に星そのものやそこに住むヤオトリ人が有する『物質化可能な特殊エネルギー』の研究やそれを応用した物品、更に高い次元移動技術などで知る人ぞ知る感じの星であった。

 

『皇帝命令、戦闘、破壊』

「ダメです隊長! スパイダー型戦車の砲撃も効きません!」

「ファルコン型航空機の攻撃も効果無し!」

「残った無人機を前面に出して敵の注意を引きつけるんだ! その間に市民を亜空間シェルターに避難させろ!!!」

 

 そんな惑星ヤオトリの都市の1つは突然現れた全身が真紅で頭部にブレードホーンが付いたロベルガー……【皇帝近衛機 クリムゾンロベルガー】が放つ光線による無差別攻撃によって大きな被害を受けていた。

 その真紅のロベルガーは8本足で上部に大砲が付いた蜘蛛型戦車からのビームを受けても意に介さず、反撃に掌から手裏剣状の光弾を次々と放って蜘蛛型戦車を破壊し、空を飛ぶ鳥の様な形で両足がレーザー砲になった戦闘機からの攻撃も同じく効果なく、こちらも反撃の頭部からの光線の照射で撃墜されていく。

 ……幸いと言ってはアレだがヤオトリの都市や建物の殆どが物質化した特殊エネルギーで出来ているので火災などの被害は無く、防衛軍の兵器も殆どが物質化エネルギーで出来た無人機だったので人的被害は極小なのが救いだったが……。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊』

「ホエール型の自爆特攻も撃ち落とされて効果が有りません!」

「ええいっ、この支部にはアレ一個しかないんだぞ! 生半可な怪獣であれば十分に屠れる威力はあるはずなんだが……色が違う高性能タイプなのか?」

「首都からの援軍はまだか⁉︎」

「駄目です! 他の都市にもロベルガーやインペライザーが合計で三体も!」

 

 この【クリムゾンロベルガー】は皇帝直属の近衛兵として作られた機体であり、パワー・火力・装甲・頭脳などのあらゆる分野で通常の三倍の性能を誇る為、通常の兵器はおろかヤオトリ防衛軍の誇る対怪獣用自爆兵器であるクジラっぽい大型航空機の特効攻撃にも的確に対処されている状況なのだ。

 ……最も、そんな高性能のクリムゾンロベルガーもエンペラ星人から見れば普通のロベルガーとの差は誤差の範囲で、そもそも自身より遥かに弱い機械に護衛させる意味が見つからなかった事から本拠地であるダークプラネットに他と一緒に放置され、今回も丁度良く他の兵器への指揮能力を持っていたからと一般戦闘兵器を引き連れた襲撃役として使われているのだが。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊』

「多分ここのヤツが一番性能が高いと思うんだが援軍は出せないのか?」

「さっきから何度も応答を掛けてますが本部もいきなりの襲撃で混乱しているらしく……」

「……異次元怪獣達を退けてから300年は平和だったツケか?」

「宇宙で起こっていたウルトラ大戦争にも軌道上の警備を強化するぐらいで、何も変わらず平和だったから対応が遅いのかも……」

 

 惑星ヤオトリの防衛軍は300年ぐらい前までは異次元から来る怪獣と熾烈な戦いを繰り広げていたので、決してその戦力は低くないのだが……それでも長く平和な時代が続いていた以上は人員の経験不足は如何ともし難かった。

 更に主力の無人兵器群がこの星にしかない特殊エネルギーで動く事もあって殆ど惑星近辺でしか活動できなかったので、大戦争にも自星の防衛以外は行っておらず、辺境で重要度の低い星なので外敵がほぼおらず都市部まで入られた経験も無かった事がそれに拍車を掛けていた。

 

「文句を言う暇があったら手を動かせ! それに近郊の惑星や宇宙警備隊への救援要請も出してるから、そいつらか首都の連中が来るまで持ちこたえるぞ!」

「でもさっきのエンペラ星人のテレパシーじゃ……」

「あんなエンペラか天ぷらか分からんようならヤツの戯言を間に受けるな! とにかく無人機は全機出して無駄に派手な色をしたあのロベルガーの進行を抑え込むぞ!!!」

『皇帝命令、攻撃、破壊』

 

 それでも惑星ヤオトリの防衛軍は税金を無駄遣いする様な無能ではなく、実戦が無くてもキチンとシミュレーターなどでの演習を繰り返して来たので、特に災害対策訓練に力を入れていた事もあって住民の避難誘導などは非常にスムーズに進んでいたが。

 ……実際、彼等は非常に良くやっており、遠隔操作する各無人機を連携させて回避とゲリラ戦を中心とした戦術でクリムゾンロベルガーを足止めしつつ警察機構と協力する事で、都市の住民()()を現実空間からは手が出せない緊急用亜空間シェルターへと避難させるまでの時間稼ぎを成功させてみせたのだ。

 

「都市部住民のシェルターへの避難は完了しました!」

「良くやった! 後はあの趣味の悪い色のロベルガーを倒すだけだ!!!」

「いや隊長! これまでの戦闘で無人兵器がもう半分もやられてるんですよ! このまま俺達も撤退するべきじゃ……」

「阿保か! あのエンペラ星人の配下であるアイツが亜空間シェルターに干渉出来ないとも限らないだろうが! 放置して亜空間に引っ込む方が危険だ!!!」

「隊長! ロベルガーがこの本部へ……⁉︎」

『皇帝命令、攻撃、破壊』

 

 ……だが、彼等防衛隊はその活躍の代償としてシェルターへの避難は出来ず、また敵から逃げる訳にも行かなかった事から、無人兵器を指揮する者達の排除に行動パターンを切り替えた飛んで来たクリムゾンロベルガーの襲撃を受ける事になってしまった。

 無論、防衛隊の本部はバリア機能がある他にも、特殊エネルギーの応用で建物そのものが非常に頑丈になっているお陰でロベルガーの光弾や光線を受けてもあっさり破壊されるという事は無かったが、それでも徐々に倒壊しつつあった。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊』

「防衛用砲台起動! とにかく撃ちまくれ! それと無人兵器で手の空いているヤツをこっちへ!」

「ダメです! 砲台が次々と破壊されて……⁉︎」

「無人兵器もこちらに来れる物が……⁉︎」

「だったら手持ち武器を出せ! 私が出る!!!」

 

 防衛隊本部に攻め入ったクリムゾンロベルガーは通常の三倍の頭脳と性能で的確に防衛隊の戦力を潰して行き、一気に彼等を窮地に追い込んで行った。

 ……それでも防衛隊のメンバーは自分の星を守るという誇りから最後まで諦めずに戦おうとし、()()()()()そんな彼等を助ける為に『ウルトラの星』は輝くのだ。

 

「見様見真似、流星キーック!!!」

『皇帝命レッ⁉︎』

 

 惑星ヤオトリの防衛隊本部が破壊される寸前、救援要請を受けてやって来た宇宙警備隊員アークが上空から飛び蹴りをクリムゾンロベルガーに見舞って吹き飛ばし本部から距離を離した。

 

「宇宙警備隊保安庁所属のアークです! 救援要請に答えてやって来ました! 他の所にも先輩が向かってます!」

「おお! 助かった! ……そのロベルガーが性能が高い改造機みたいだから気を付けてくれ! 街の住民の避難は終わってるから多少派手に暴れてくれても問題無いぞ! こちらも戦力を整えたら援護に回る!」

「分かりました!」

 

 本部の前に立ちはだかったアークは防衛隊に事情を簡潔に説明し、同じ様に事情を簡潔に説明してくれた隊長に礼を言うとクリムゾンロベルガーに戦いを挑んで行った。

 

『皇帝命令、光の者、破壊!』

「コイツ、狙いを俺に……好都合だな!」

「……頼むぞ、ウルトラ戦士よ」

 

 そうして防衛隊の者達が見守る中、エンペラ星人からの()()()()()によってターゲットを宇宙警備隊員に設定されていたクリムゾンロベルガーと、他を意に介さず自分にだけ向かってくる相手をむしろ好都合だと不敵に迎え撃つアークとの戦いが始まったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『皇帝命令、光の者、破壊!』

「コイツは……確かに普通のロベルガーとは性能が段違いだな!」

 

 戦いながら可能な限り市街地に被害を出さない様に広いスペースがある所までクリムゾンロベルガーを誘導したアークだったが、相手の思っていた以上のスペックに舌を巻いていた。

 最新型の円盤生物であるロベルガーはこれまでの潜入・工作活動に長けた円盤生物群と違って、円盤形態への変形による高速移動と怪獣形態での高い戦闘能力を活かした強襲用戦闘兵器として作られている……と、そこまではアークも光の国の防衛で何度も戦っているから知っていたが、普通のロベルガーの怪獣形態は精々そこそこ強い怪獣レベルなのに対し、このクリムゾンロベルガーは明らかに戦闘特化のインペライザー以上の力を持っていたのだ。

 

『皇帝命令、光の者、破壊!』

「アークディフェンサー!!!」

 

 円盤生物でありながら地上を高速で走破するクリムゾンロベルガーは走り回りながらも両手の手裏剣型光弾を正確に放ってくるので、アークは咄嗟にバリアを展開して防がざるを得ず……その隙に一旦停止したクリムゾンロベルガーは頭部からバリアを突き破れるだけの高出力の光線を放って攻撃する。

 

「うおっ⁉︎ 危なっ……アークスラッシュ!」

『皇帝命令、光の者、破壊!』

 

 バリアが破れる寸前に地面に転がり込んで回避してアークは反撃の光刃を連射して攻撃するが、それらを受けても円盤生物らしからぬ硬い装甲を持つクリムゾンロベルガーはさして怯まず、逆に手裏剣型光弾を連射して反撃に出る始末だ。

 

『皇帝命令、光の者、破壊!』

「これではが埒があかないな……なら、スペシウム光線! そんでノーマルモードで……行けセブンガー!!!」

 

 なので、まずアークは素早く腕を十時に組んでスペシウム光線をクリムゾンロベルガーに向けて放った……無論、即座に反応した相手が頭部から撃った光線によって相殺されたが、その爆発が生んだ煙幕に紛れてアークは怪獣ボールを相手の近くに投擲した。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ー!!!』

『皇帝命令、光の者、破カッ⁉︎』

 

 そうして皇帝命令によりアークとの戦いに集中していたクリムゾンロベルガーは、突如として隣に現れたセブンガー(ノーマル)の拳を避ける事は出来ず、そのまま横っ面をブン殴られて地面に倒れた。

 

「そこだ! ダイレクト八つ裂き光輪!」

『ココココ皇帝命レッ!?!』

 

 倒れたクリムゾンロベルガーにすかさずアークは馬乗りになり、更に八つ裂き光輪を手に持ちながら直接相手の首に押し付けて物凄い勢いの火花を散らしながら無理矢理切断しようと試みた。

 ……そんな親父含む師匠達(昭和ウルトラマン)直伝の容赦無い残虐ファイトまで使い始めたアークだったが、クリムゾンロベルガーの装甲と再生能力の所為で中々切断までには至らず、三分の一ぐらい斬り込んだ所で闇雲に発射された光線や光弾の勢いに押されて吹き飛ばされた。

 

「くっ、エースさん直伝のダイレクト八つ裂き光輪でもダメか! セブンガー!!!」

『◼️◼️◼️◼️◼️ー! ◼️◼️◼️◼️◼️ー!!!』

『皇帝命令、光の者、破壊!』

 

 そして即座に起き上がったクリムゾンロベルガーは戦闘兵器故に痛みも恐怖も感じないので首が千切れかけていても攻撃の手を緩める事無く、更に皇帝の護衛機として最後まで戦い続ける為に特に強化されていた円盤生物由来の細胞変異による再生能力で傷を回復させつつあった。

 ……それでもダメージを与えている今の内に優勢を取るべく、アークはセブンガーと連携しながらクリムゾンロベルガーに攻撃を仕掛けていく。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️ー! ◼️◼️◼️◼️◼️ー!!!』

「アークブレード! セエイッ!!!」

『皇帝命令、光の者、破壊!』

 

 超パワーを誇るセブンガーの鉄拳とアークの光剣による斬撃が左右から襲い来るが、それらの連携攻撃をクリムゾンロベルガーは的確に捌きつつ反撃の手裏剣光弾を放って攻撃の手を阻害させて行く……先程は皇帝命令による『ウルトラ戦士への優先攻撃』の所為でセブンガーへの対応が僅かに遅れたが、クリムゾンロベルガーの超高性能AIは既に戦闘パターンを修正済みだ。

 更にクリムゾンロベルガーは戦闘経験からの学習による敵の行動パターンの解析と対応すら可能な様に作られており、それ故徐々にアークとセブンガーへの対応手段が鋭くなって来ていた。

 

『皇帝命令、光の者、破壊!』

『◼️◼️◼️◼️ー! ◼️◼️◼️◼️◼️ー!?』

「コイツ、首の再生がもう……⁉︎」

 

 首のダメージを最低限修復したクリムゾンロベルガーは使用可能になった頭部の光線をセブンガーに当てて吹き飛ばし、そうして分断した間にアークを始末すべく得意の手裏剣光弾連打で攻撃し始めたのだ。

 辛うじて光剣でそれらを斬り払っていくアークだったが、通常のロベルガーの三倍の速度とエネルギー量から放たれる光弾のラッシュを完全には防ぎきれず、とうとういくつかの光弾が身体に当たった所為で近くのビルまで吹き飛ばされてしまった。

 

『皇帝命令、光の者、破壊!』

『◼️◼️◼️◼️ー! ◼️◼️ー! ◼️◼️◼️◼️◼️ー!!!』

「くっ、助かったセブンガー!」

 

 ダメージに倒れたアークにトドメの光線を放とうとしたクリムゾンロベルガーだったが、その攻撃は戻ってきたセブンガーが組み付いて動きを封じてくれたお陰で阻止された。

 

(成る程、パワー・スピード・装甲・頭脳・火力、それら全てにおいてロベルガーの三倍近い性能だな。総合的な戦闘能力を見れば以前戦ったボガールやエースキラー、或いはマザーケルビムにも匹敵するか。……さて、どう倒すかな)

 

 ……そんな事を考えつつ、アークはとにかく少しでもダメージを与えるべくセブンガーに組み付かれたクリムゾンロベルガーに格闘戦を挑みに行くのであった。




あとがき・各種設定解説

惑星ヤオトリ:銀河連邦所属惑星の1つ
・住民であるヤオトリ人は特殊なエネルギーを宿している以外は地球人と変わらず、その特殊なエネルギーも専用の機材が無ければ引き出せない。
・だが、専用装備で超人みたいな戦いも出来たりするし、300年ぐらい前まではそれで異次元から来る怪獣と戦ったりしてた。
・その戦いが終わってからは銀河連邦に加盟して技術レベルが上がった事で防衛軍は無人機主体になり、生身戦闘は緊急時の自衛とかスポーツみたいな感じに今はなってるとか。
・その特殊なエネルギー自体が基本的に惑星ヤオトリ周辺でしか高出力で使えないので、他の惑星との交易はある程度の輸出入ぐらいで余り外惑星と関わる事が少ない星。
・大戦争の時も先の理由で戦力の派遣とかは殆ど不可能だったので自惑星の防衛に徹しており、そこまで旨味のある星では無かったのでエンペラ軍団側からもスルーされていた。
・今回襲撃を受けたのは単にそこそこ地球の近くにあったからで、不意打ちだったので防宙網も抜かれ防衛隊も苦戦した模様。

アーク&セブンガー:絶賛苦戦中
・セブン21は惑星ヤオトリに居る他のインペライザーやロベルガーを倒す事を優先しており、アーク達に関しては信頼しているので後回しでも良いかと考えている。
・セブンガーは市街地での戦いという事で過剰な火力が無く陸戦での運動性やパワーに優れた通常状態で起動させている。

【皇帝近衛機 クリムゾンロベルガー】:赤くてツノ付きだから性能は通常の三倍
・メタ的にはネタしかない見た目だが、性能に関しては暗黒四天王などの幹部メンバーがエンペラ星人の護衛用として作ったので侵略用と比べても遥かにガチな物になっている。
・単騎の性能も高い上に超高性能なAIを積んでいるので、他の近衛機との連携や通常の戦闘兵器を配下とした組織戦で皇帝に仇名す者を殲滅するコンセプトで作られた。
・……最も、エンペラ星人的には数を揃えても護衛としては誤差の範囲としか思われてないので、ウルトラ戦士への妨害とマイナスエネルギー徴収の為の侵略兵器として色々な惑星に放り込まれてその猛威を振るう事に。


読了ありがとうございました。
尚、同じ頃にメビウスは死に掛けてる模様。後2〜3話ぐらいでこの章も完結予定です。


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惑星ヤオトリ攻防戦(後編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 皇帝近衛機 クリムゾンロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

『皇テッ、命レッ、攻ゲッ、破カッ!?』

『◼️◼️◼️◼️ー! ◼️◼️◼️◼️ー!!!』

 

 惑星ヤオトリの救援にやって来た宇宙警備隊員アークはそんな声を出しながら、セブンガーが羽交い締めにする事で身動きが取れないでいる【クリムゾンロベルガー】へ一発一発が強烈な連続パンチを見舞っていた。

 ……だが、それでもクリムゾンロベルガーの強化装甲には中々ダメージが与えられず、ならばとアークを腕のブレスに付いたクリスタルを回転させて拳にエネルギーをチャージした。

 

「喰らえ! ライトニングアッパー!!!」

『皇帝命レッ!?』

 

 そのままエネルギーを込めた(アッパー)をクリムゾンロベルガーの撃ち込んで頭部を半壊させると共に上空に打ち上げた……が、クリムゾンロベルガーは頭脳回路や再生装置を全身に分散配置させているので肉体の一部を損壊させただけでは停止せず、今の様にたかがメインカメラをやられただけなら問題無く可動を続けられるのだ。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊!』

「チッ、アークシールド!」

『◼️◼️◼️◼️ー!』

 

 なのでクリムゾンロベルガーは飛ばされた後そのまま飛行機能を使って空中に停止、お返しの様に両手から手裏剣光弾を地上にいるアークとセブンガーに向けて連射したのだ……それをアークはバリアを張って防ぎ、セブンガーの方は持ち前の装甲で耐えつつ口部からの小型ミサイルで反撃するが威力が低くて牽制にもならない。

 ……そこでアークはバリアで耐えながらブレスよりウルトラスパークを召喚、そのままバリアに隠れながら横から投げた上でウルトラ念力で弧を描く様に軌道を操作してクリムゾンロベルガーの側面から襲わせたのだ。

 

『皇帝命令、攻ゲッ⁉︎』

「やっぱり初見の攻撃に関しては結構通じるみたいだな……スペシウム光線!」

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ー!!!』

 

 その奇襲によりクリムゾンロベルガーの攻撃が止まった一瞬の隙を突いて、バリアを解除したアークのスペシウム光線とセブンガーのロケットパンチが相手に直撃して地上へと叩き落とした。

 ……それでも尚、異常な頑丈さを持つクリムゾンロベルガーは直ぐに立ち上がって戦闘を続行しようとするが、“どうせそんな事だろう”と思って接近していたいたアークは呼び戻したスパークをウルトラランスへと変形させて突き掛かって行く。

 

「セイッ! テイッ! テヤァッ!!!」

『皇帝命令、攻撃、破壊』

 

 ウルトラランスによる突き・振り下ろし・薙ぎ払いを連続して見舞うアークだったが、格闘能力や反応速度まで強化されているクリムゾンロベルガーはそれらの攻撃を装甲の厚い部分で受け止めたり両腕による格闘で弾いたりして防いでいった。

 それでもアークはランスによる連続突きを放って相手の装甲へと徐々に傷を付けていくものの、致命傷には程遠いと判断したクリムゾンロベルガーはそれを無視して破損した頭部を修復、連続攻撃が途切れた瞬間に頭部から光線を放ってみせた。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊』

「ッ⁉︎ ウルトラディフェンダー!!!」

 

 しかしそこはアークもさる者、今までの戦いから再生のタイミングと攻撃の予兆を把握していたお陰で発射の直前にランスをウルトラディフェンダーへと変形させて、それで咄嗟に受け止める事で光線を防御する事に成功していた。

 

「ぬぐぐぐぐぐぐぐ……!』

『皇帝命令、攻撃、破壊』

 

 それでもクリムゾンロベルガーの光線の威力は凄まじく、ウルトラディフェンダーを両手で支えているアークですらも地面に足が僅かにめり込むぐらいの圧力を受けてしまっていた……だが、そこでアークは意を決したかの様に圧力に逆らって無理矢理一歩前進したのだ。

 

「ぐぐぐぐぐ……おおおりゃああああああああ!!!」

『皇帝命令、攻撃、ハカァッ!?』

 

 そしてアークは全身のウルトラ筋肉に加え、身体をウルトラ念力まで使ってディフェンダーを押し込みクリムゾンロベルガーの光線の発射口へと密着させ……それによって光線のエネルギーを暴発させる事で相手の頭部を内側から爆発させて破壊したのだ。

 ……最も、そんな無茶の代償は決して安い物では無く、流石の光の国製ウルトラディフェンダーとはいえ高威力の光線を至近距離で断続的に浴び続けたせいで表面は溶解、他のモードへの変形機構も完全に破損して使い物にならなくなってしまっていたが。

 

「良くやってくれた、ウルトラディフェンダー……ここで決める!」

『コココウ……テイメイレッ!』

 

 破損したウルトラディフェンダーに礼を言いながらブレスへとしまったアークは、そのまま大ダメージを受けて動きが鈍ったクリムゾンロベルガーを倒すべく距離を取りながら必殺光線のチャージに入った……非常に高い装甲と再生能力を持つこの相手には、最大威力の光線によって再生も許さず跡形も無く破壊するしか無いと考えての行動だった。

 

『コココココウゲキッ! ハカカカイッ!』

「なっ! コイツいきなり飛びながら辺り一面に無差別攻撃を!?」

 

 だが、そんなメインカメラをやられて視界も効かず動きが鈍った状態になっても尚、クリムゾンロベルガーはその場での最適な行動として手裏剣光弾による周囲への無差別攻撃と、敵の攻撃の狙いを定めさせない為に即座の飛行によるランダム機動を始めたのだ。

 ……攻撃自体は出鱈目に放たれるのでそこまで脅威では無いが、高速かつランダムで飛行されてはチャージ時間が掛かる必殺光線を当てるのは困難であり、止む無くアークはチャージをキャンセルして出の早いアークスラッシュ(光刃)などで攻撃していくが中々ダメージを与えられない。

 

『◼️◼️◼️◼️ー! ◼️◼️◼️◼️ー!!!』

『ココウ……テイメイレイ! ココウゲキッ! ハカイッ!』

 

 空を飛ぶクリムゾンロベルガーにロケットパンチを回収し終わって戦闘に復帰したセブンガーの小型ミサイルも放たれるが、遠距離戦用では無い故の狙いの甘さと、何より単純な火力不足で有効打を与えられなかった。

 

(マズイな、セブンガーも参戦したとは言え陸戦型の装備じゃ空を飛び回る赤ロベルガーには有効打を与えられん。……こうして時間稼ぎをされている間に向こうの修復はどんどん進んでるし……仕方ない、こっちも()()()だ)

 

 現状を見ながらそこまで考えたアークは戦術を切り替えて空中に飛び上がりながらリバーススタイルへと変身、そこから得意の高速移動を駆使してクリムゾンロベルガーへと瞬時に接近した。

 

『コウテイメイレイ! コウゲキ! ハカイ!』

「遅い。大気圏内での飛行戦なら速度域に大した差は出ないんだよ! パームインパクト!」

 

 そしてアークはランダムで飛び回るクリムゾンロベルガーの背後に回り込み、そのまま掌底を押し付けつつ強力な念力を発生させて吹き飛ばした……が、強化されているとは言え所詮は念力でしかないので吹き飛ばされるだけで直接的なダメージは無かった。

 

「だがそれは想定内! ウルトラフリーザー!!!」

『コウテイメイ令、コウ撃、破カイ!』

 

 そうして体勢を崩したクリムゾンロベルガーに対し、アークは凍結光線を放って()()()()()()()()()()()凍り付かせていった……これにより円盤生物細胞や修復用機器を凍らせて再生を遅らせる算段だ。

 ……だが、クリムゾンロベルガーは頭部を凍りつかせて視界が効かなくなった状態でも、凍結光線が放たれた方向からアークの位置を逆算して光弾を放って来た。

 

『皇帝命レイ、攻撃、ハ壊』

(ぐっ⁉︎ リバーススタイルは耐久力も低いから攻撃に当たる訳には……後()()が足りない……!)

 

 その光弾を高速移動で回避するアークだったが、その結果としてクリムゾンロベルガーとの距離が離されてしまい凍結光線は中断されてしまった。

 ……ここまでの無茶な戦闘によって減った自身の残存エネルギー量から、残り戦闘時間はそこまで長く無いと考えていたアークは内心で焦りを募らせつつ何とか凍結光線による攻撃を続行していったが、それでもクリムゾンロベルガーの動きは止め切れずドンドン機能を修復していき……。

 

『残存ファルコン部隊一斉攻撃! ウルトラ戦士を援護しろ!!!』

『皇帝命令、攻撃、破ッ⁉︎』

 

 そこに浴びせ掛けられたのは多数のビーム、撃ち放ったのは惑星ヤオトリの防衛隊が指揮する無人戦闘機達であった……彼等はアークがクリムゾンロベルガーの相手をしている間に残存戦力を集めて反撃の機会を伺っていたのだ。

 そうして遠隔制御された無人戦闘機達は見事な編隊飛行によってクリムゾンロベルガーの光弾を躱しながらビームの雨を見舞って行く。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊!』

『でもあんまり効果が無いですよ隊長! 分かってましたけど!』

『とにかく今は攻撃を集中させてロベルガーの注意を引くんだ! ……それと倉庫から引っ張り出した()()()()の準備は?』

『調整は終わりました! 今残った無人戦車に積み込んで現場に向かわせてます』

 

 ……とは言え、火力が足りない事には変わりないのでクリムゾンロベルガーにはダメージを与えられず、当然それは分かっていた防衛隊は牽制と時間稼ぎに集中していたが。

 

「有り難い! ……シルバースタイルに戻った上でアークスラッシュ!」

『皇帝命令、攻撃、破壊』

 

 それによって注意が散漫になった所にアークの攻撃が炸裂するが、それだけやっても尚エンペラ星人を守る為に最後まで戦う事を前提にして作られたクリムゾンロベルガーは稼働し続ける。

 

「ええいっ! これでも駄目か! ……どうにか動きさえ止められれば……」

『……動きを止めれば良いんだな? ……ウルトラ戦士、アークと言ったな。何とかロベルガーを指定したポイントに叩き落とせないか? そうすればこちらの準備した兵器で少なくとも動きは止められる筈だ』

「! 分かった。任せてくれ!」

 

 中々動かない戦局に歯噛みするアークに届いたのは惑星ヤオトリ防衛隊の隊長からのそんな通信だった……それを聞いたアークは即座に再度リバーススタイルへと変身し直してクリムゾンロベルガーに急速接近、そしてブレスから氷の剣を創り出して斬り掛かりながら指定されたポイントへと誘導して行く。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊!』

「フリーズブレード! ほらこっちだ……今だセブンガー!」

『◼️◼️◼️◼️────!!!』

 

 そうして無人戦闘機部隊と協力してクリムゾンロベルガーを誘導していたアークは、相手の注意が完全にこちらへと向いたタイミングで地上にいたセブンガーに攻撃指示を出し、それに答えたセブンガーは背中のブースターを全力で吹かせてロベルガーへと突撃していったのだ。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️────!!!』

『皇テガァッ!!!』

「よし、思った以上に上手くいった、セブンガーナイス! ……そこでウルトラ念力! 地上に落ちろ!!!」

 

 この戦闘中に飛行機能は見せていなかった事もあって脳天から突撃したセブンガーは見事にクリムゾンロベルガーの横腹に直撃、そのまま錐揉み回転で吹っ飛ばされて体勢を大きく崩される。

 ……正直注意を引ければいいかなと思っていたアークもこれには内心ガッツポーズをしつつ、クリムゾンロベルガーを念力で捕まえて無理矢理指定されたポイントへと叩き落とした。

 

『……皇帝命令……攻撃……破』

『今だ! 超重特殊固形化弾、発射ァ!!!』

 

 それでもクリムゾンロベルガーは立ち上がって戦闘を続行しようとしたが、そこに防衛隊の配置されていた無人戦車部隊が多方向から一斉に砲撃を撃ち込んだ。

 ……クリムゾンロベルガーのAIはこの星の通常兵器では自身に大したダメージを与えられないと判断し、それらを無視して上空のアークとセブンガーを警戒したが……その判断が仇となり、まるでトリモチの様に自身の身体にくっ付いた上で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()する特殊弾を四肢と背中と頭部に受けてしまった。

 

『ハッハァァ! 見たかこれが惑星ヤオトリが誇る怪獣の肉体に癒着して超重力の重しとなって動きを封じる『超重特殊固形化弾頭』の威力よ!!!』

『通常弾の数十倍のコストが掛かるので、普通に通常弾が怪獣を倒せる威力になった後は使われなくなって倉庫に放置させられてましたけどね。処分するにも余計にコストが掛かるヤツなので』

『相手に超重量の物質を貼り付けるだけだから装甲の強度は関係ありませんしね! 物持ちが良くて良かったです!』

 

 これまで良いようにやられ続けた相手に一矢報いた事で喝采を上げる惑星ヤオトリ防衛隊に対し、クリムゾンロベルガーはこれまでに蓄積したダメージも有って超重量の重しを排除する事が出来ずにもがくしか出来なかった。

 ……直後、そこにシルバースタイルに変身しながらアークが地上へと降り立ち、すぐさまブレスのクリスタルを回転させて必殺光線のエネルギーをチャージしていき……。

 

「これで終わりだ! アークレイショットォォ!!!」

『皇テェェェェェェ!!!』

 

 エネルギーが収束された紫色のラインが出来る程にスパークする両腕をL字に組んだアークが、未だ動けないクリムゾンロベルガーに向かって必殺の『アークレイショット』を全力で撃ち放った。

 

「セェェェェェェヤァァァァァァッ!!!」

『コココココ攻撃! ハハハハハ破壊ィィィィ!!!』

 

 ……そんな全力の光線を受けても尚クリムゾンロベルガーは暫くの間だけ耐えて見せたが、それを見たアークがカラータイマーが鳴るのも厭わず更なるエネルギーを光線に込めて長時間照射し続けた事によって漸く耐久性の限界を迎え木っ端微塵に爆散したのだった。

 流石にこれだけ大量のエネルギーを流し込まれれば、クリムゾンロベルガーの細胞の再生能力も修復装置と言えど機能を停止して完全に破壊されたので再生される事は無い……と、アークが念入りに確認して漸く戦いは終わったのだった。

 

『よっしゃァァァァァァァァァァッ!!!』

『再生反応無し! ざまァァァァァァァァァァ!!!』

『あ、他の地区に現れたヤツらも、その地区の防衛隊が救援に来たウルトラ戦士と共に倒したそうです』

『やったァァァァァァ!!!』

 

 同じく完全なクリムゾンロベルガーの撃破を確認した惑星ヤオトリ防衛隊のメンバーから歓声が上がり、更に他の地点の襲撃も退けた事が広まって更なる大歓声が広がった……それを見たアークは満足気に頷きつつセブンガーを格納した後、そのまま空へと飛び立ったのだった。

 

「シュゥワッチ!!!」

『……ありがとう、ウルトラ戦士よ』

『もう行っちゃうんですか?』

『バーカ、戦いが終わったら颯爽と飛んでいくのがウルトラ戦士の様式美なんだよ』

『後は彼等も今は忙しそうですからねー。……これから事後処理がある俺達もですけど』

 

 そうして防衛隊に見送られたアークが空の果てへと飛び去っていった事によって惑星ヤオトリでの戦いは終わったのだった……最も、エンペラ星人の配下に襲われているのはここまででは無く、また既に宣言から1()2()()()()()経ってしまっている故に地球を襲う危機もまだ続いているのだが。




あとがき・各種設定解説

アーク:今回は『ウルトラマン』のテンプレ的行動をやらせてみた
・尚、最後に飛んで行ったのはエネルギーが切れかけだったので、急いで大気圏外で回復させる必要があったから。
・ウルトラスパークはブレス内で自動修復中だけど一度本格的な整備が必要なレベルの損傷なので暫くは使えず、セブンガーもエネルギー充填で25時間使用不能と結構損耗している。

惑星ヤオトリの防衛隊:普通に真面目で優秀
・今回使われた超重特殊固形化弾頭は固体化した後に一時間程度で再びエネルギーに戻る仕様なのも倉庫行きだった原因、怪獣に有効な手段が無かった時代の苦肉の策という感じ。

クリムゾンロベルガー:本当にクソ強い
・戦闘能力は通常のロベルガーならタイマンでも十分倒せるアークがここまで苦戦するレベルであり、ウルトラ兄弟クラスですらも容易く倒す事は出来ない程の能力を持っていた。
・加えて単にスペックが高いだけでなく高い再生能力とAIの性能による技術や戦術面の能力も高いと言う一品……なのだが、本来は大量の戦闘兵器の指揮と連携による拠点防衛前提の期待なので、今回の様な状況では全力を出せたとは言えない。
・本来の運用法ならウルトラ兄弟含む宇宙警備隊達を相手にして尚問題なく防衛を成立させられると試算されて献上されたが、皇帝的には『それは余が自ら宇宙警備隊を殲滅するのと何が違うのだ?』と言う感じなので適当に使われた。


読了ありがとうございます。
ようやくこの章も終わりが見えてきた感じ。感想・評価・誤字報告・お気に入りに登録お待ちしてます。


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エピローグ:大戦争終結

 ──────◇◇◇──────

 

 

 無双鉄神 インペライザー

 円盤生物 ロベルガー 登場

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……あーしんどかった……あの赤いロベルガーは強すぎるだろ」

 

 惑星ヤオトリにて【皇帝近衛機 クリムゾンロベルガー】を倒したアークだったが予想を遥かに超える激戦だったのでエネルギーを大きく消費し、現在は近くの太陽光の当たりやすい宙域でエネルギーを回復させている所だった。

 ……とは言え、流石にただボーっとしている訳でも無く自身の現状の確認や、現在の戦況の把握などに勤めていたが。

 

「セブンガーはエネルギー切れで25時間は使用不能。ウルトラスパークの方も自動再生や復元光線とかでは治せない基幹システム部分が破損してるか。それで宇宙警備隊の銀河系基地との連絡はまだ繋がらないし、ウルトラサインでも出せない。……後は地球の様子も心配だが」

 

 そうしてエネルギーを可能な限り早く回復させながら現状の把握を行なっていくアークだったが、そこで惑星ヤオトリにいた戦闘兵器を倒し終わって簡単な事後処理を終えたセブン21が飛んで来た。

 

「アーク、身体の調子はどうだ?」

「21先輩、肉体面のダメージは然程でも無かったので大丈夫です。エネルギーの方も50%程は回復しました。……すみません、事後処理とかは任せきりになってしまって」

「構わん、そちらで戦ったのはこれまでのロベルガーとは一線を画すスペックを持ったカスタム機だったのだろう? こちらは三体いたとは言え通常のインペライザーとロベルガーだったから、ヤオトリの防衛隊と協力する事で問題無く倒せた」

 

 そんなお互いの健闘を讃える会話もそこそこにして、逼迫している現状を覆す為に彼等は『次にどうすべきか』を話し合い始めるのだった。

 

「それで21先輩、銀河系基地や他の宇宙警備隊員への連絡が付かないんです」

「ふむ、だが惑星ヤオトリの救援要請は通ったな。……これは、おそらく()()()()()()()()()()()()()()()()のみをピンポイントで妨害しているな。流石に短距離の念話ぐらいなら可能だろうが」

 

 ちなみにこの通信妨害は『エンペラ軍団』に於ける古参の側近達が自分達の最大の怨敵たる『光の国』への対抗策の一つとして、ウルトラサインの解析に成功したヤプールからの情報をベースに宇宙警備隊が使う通信技術を解説したデータを【エンペラ星人】に献上し、それを応用してエンペラ星人が自身の超能力により高域通信妨害を掛けている物であった。

 

「……だが、光の国以外の通信網は使える様だな。いくつか知っている通信チャンネルにアクセスして情報を集めれば現状も把握出来るだろう」

「流石ですね、21先輩」

「まあこれでも宇宙保安庁として様々な星のパトロールをしていたからな。それなりの伝手はある」

 

 そう言ったセブン21は伝手のある惑星や勢力に()()()()()使()()()()()()()通信手段でアクセスする事によって、現在この宇宙で起こっている事柄に対する情報を次々と集めていった。

 

「……成る程、ありがとうございました。……現状は銀河系周辺の惑星が引き続き襲撃されている上、銀河系支部の方にも戦力が回されている様だな。加えてこの通信妨害で宇宙警備隊は場当たり的な対応を強いられているといった所だ」

「ではどうします?」

「とりあえずは伝手に頼んで通信網を可能な限り復旧、それと同時に俺達は銀河系支部へと向かうぞ。……地球側も気になるが我々との距離的にそちらの方が近い」

「分かりました」

 

 それらの情報から素早く今後の行動を決めたセブン21はいくつかの伝手に頼って可能な限り宇宙警備隊員に現状を使えて貰う様に頼みつつ、エネルギーが回復したアークを伴って襲撃を受けている銀河系支部へとトゥウィンクルウェイを使ってワープしていったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️』

『皇帝命令、攻撃、破壊』

「ええいっ、予想はしてたけどこっちもか!!!」

 

 そうして銀河系支部に辿り着いたアークとセブン21が見たものは、支部に襲い掛かっている多数の戦闘兵器達とそれらに立ち向かっている支部所属の宇宙警備隊員達の姿だった……この銀河系支部は地球への援軍を最も送りやすい場所なので、当然ながらエンペラ星人も多数の戦力を送り込んでいたのだ。

 ……とは言え、今回の大戦争の“ある意味で”最前線である地球に一番近い支部なので、事前にエンペラ星人襲来を予想していた事もあって相応のベテラン戦力を配置していたので防衛戦は十分に成立していた。

 

「援軍に来たぞ! 現状は?」

「おおセブン21! 見ての通り防戦中だ! ……なんかヤケに強い“赤い戦闘兵器”が三体程居たから、そいつらは『放置しておくとまずい』と判断して集中攻撃でどうにか倒したんだが、そのせいでこちらも負傷者が多く出て今は苦戦してる」

「丁度隊長を含むウルトラ兄弟達が地球近辺の他惑星への救援に向かっていた事もありますし、通信が効かずに援軍もない戦闘を強いられていましたから」

「幸い死人は出ていませんが」

 

 それでも流石のベテラン隊員達であっても皇帝近衛機が率いる軍勢相手では相応の被害が出ており、負傷者を後方に下がらせたり庇ったりしている事もあってやや押され気味だった。

 

「分かった、俺達も援軍に加わろう。それと通信網に関しては光の国で使われていない方式なら妨害はされていない様だ。……アーク!」

「了解です……まあ、赤い機体じゃなきゃ今の俺でもなんとかなるでしょう!」

『皇帝命令、攻撃、破イッ⁉︎』

 

 セブン21が支部の通信班に情報を教えている間に、アークは手近に居た一体のロベルガーに超高速で接近して容赦なく殴り飛ばした……移動速度はリバーススタイルに劣るものの、念力を使った高速機動はシルバースタイルの側でも使用可能だ。

 そのままアークはかなりの速度で宇宙を飛ぶロベルガーを逃さず、相手が得意とする光弾や光線の連射も全て捌ききって逆に的確な打撃や光刃を撃ち込んで戦いを優位に進めていった。

 

『皇帝命令、攻撃、破壊』

「あの赤いヤツと比べれば遥かに遅い!」

「……おお、隊長の息子の話は聞いて居たが噂に違わぬ凄まじい戦いぶりだな」

「若い頃に共に戦ったゾフィーの勇姿を思い出す……彼にだけ任せる訳にもいかんか。我々も行こう!」

 

 そんな新たに援軍に来たアークの戦いぶりに触発されて、或いはベテランの隊員はその姿に若き日の宇宙警備隊隊長(ゾフィー)の姿を見て奮起して徐々に戦闘兵器達を倒していく。

 更にセブン21からの情報と支部の通信班の奮闘によってどうにか連絡が取れるレベルにまで通信網が復旧した事もあり、銀河系周辺の宇宙警備隊員同士の連携が取れる様になった事で、各惑星を襲撃した戦闘兵器の撃破もスムーズに行くようになった。

 ……そうして惑星ヤオトリでの戦いが終わってから実に()()()()()、エンペラ星人の戦闘兵器による太陽系・銀河系周辺の襲撃事件は一先ずの終息を迎えたのであった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……ようやく片付いたか……負傷者の搬入を急げ!」

「支部周囲にはもう敵性反応は残っていません。インペライザーもロベルガーも全機撃破したものと思われます」

「辛うじて回復した通信から得た情報を統合した結果によると、銀河系の他の惑星に襲撃を掛けていた戦闘兵器群もその殆どが近くの宇宙警備隊員や現地の防衛勢力などに撃破された模様」

「ただ太陽系……地球付近では未だにウルトラ兄弟達を中心とした部隊が残存戦闘兵器群と戦っているようです」

 

 戦いを終えた銀河系支部だったが、そこに居る宇宙警備隊員達は休む間も無く即座に負傷者の搬入と各宇宙警備隊員達との連絡や情報の把握、戦況の確認にとそれぞれ自分の役割を果たすべく動いていた。

 

「そう言えば、もうエンペラ星人が言っていた24時間経ちましたよね。……と言う事は今頃地球は……」

「ふむ……太陽系と地球圏の状況を詳しく調べられるか?」

「少し待って下さい……通信が妨害されているにしても、もっと単純に光学的映像情報とかなら……よし出ました! ……って、これは⁉︎」

 

 そして支部内に入ったアークとセブン21の指摘から、通信班の一人が地球圏の様子を映像として取得した上でいくつかのモニターに表示したのだが……そこには“驚くべき光景”が映っていた。

 

「これは……()()()()()……?」

「太陽の温度が急速に低下中! これは全面が黒点に……いえ! それ以下の温度にまで!!!」

「恒星すらも闇に包む……エンペラ星人の力は聞いてはいたが、まさかここまでとは……」

 

 モニターに移されていたのはウルトラ戦士すらも塵芥に見える程の大きさを持つ恒星『太陽』が、凄まじい勢いで真っ黒に染まってその光と熱を失って行く映像だったのだ……その場にいる者達は誰もが言葉にこそしないものの、この所業が【エンペラ星人】によるモノであると分かってしまっていた。

 ……その余りにもスケールが大きいエンペラ星人の“真の力”を見て絶句した銀河系支部の面々だったが、それでも個人でアホみたいなスペックを持つ者達が割と居るM78スペースの治安を守る宇宙警備隊員なので、“あのエンペラ星人ならそのぐらいするだろう”と思い直して対応を再開した。

 

「早く太陽系に向かわなくては!」

「だが、今の連戦で消耗した我々にはそこまで行ける戦力は……」

「まずは太陽系付近に行ったウルトラ兄弟達と連絡を取るべきでは? 今取ってますけど」

「……アーク、お前は行けるか?」

「エネルギー残量残り三割……ここの施設を使って回復させれば半分くらいにはなるでしょうから何とか」

 

 そんな風に彼等が各種連絡状況を整えている間に、復旧した通信によって太陽系に居るウルトラ兄弟……その長男であり宇宙警備隊隊長でもあるゾフィーから『これより我々ウルトラ兄弟は地球でエンペラ星人と戦っているメビウスとヒカリの救援、及び闇に覆われた太陽に光を取り戻す作戦を決行する。だがまだ地球圏には戦闘兵器の残党が残っているから、付近の隊員はそちらの対処と可能ならば太陽側への援護を』という連絡が来た。

 

「流石はウルトラ兄弟だな! ……よし我々の方からも問題ない者はエネルギーが回復次第太陽系へ向かうぞ!」

「エネルギーの回復装置を優先して出撃する者に回します。必要な方はおっしゃって下さい!」

「とりあえずこの通信内容を他の隊員にも伝えますね」

「我々もウルトラ兄弟に続くんだ!」

「……地球に居るのはメビウスとヒカリさんか……あの二人とCREW GUYSの人達ならきっと大丈夫だろう。だから俺達も出来る事をせねばな」

 

 そうして隊長からの通信を聞いたアークを始めとする銀河系支部の隊員達は、未だ諦めずにエンペラ星人と戦うウルトラ兄弟達の一助となるべく、各々の思いを抱いてこの“大戦争”の最終局面に向けて動き出したのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『皇帝命令、攻「いい加減しつこい! アークレイショット!」「レジアショット!」カィィィィィ⁉︎』

 

 そして現在、冥王星近辺を飛行して地球に向かおうとしていたロベルガーを、負傷が少なく回復が早かったので他の隊員よりも一足速く太陽系に着いていたアークとセブン21が発見、今割とあっさり合体光線によって撃破した所であった……今まで散々戦った相手で二対一であれば、二人共戦闘パターンを読んで完封出来るレベルの実力があるからこんなものである。

 

「ふう、これでここらに残っていた戦闘兵器達は大体片付きましたかね」

「ああ付近にそれらしき反応は無い……隊長の指示通り我々も太陽に向かうべきか。今はウルトラ兄弟達が光線を使って太陽を活性化させている様だが、どうもエンペラ星人の力にやや押されている様だからな」

 

 セブン21の言う通り、現在太陽ではゾフィーを除くウルトラ兄弟の光線とエンペラ星人の闇の力による『太陽の光の復活と阻害の綱引き』と言える戦いが続いており、現状エンペラ星人の闇の力の方が優勢で太陽の光を取り戻すのに手間取っている状況だった。

 ……それを聞いていたアークは何故か地球の方を向いて()()()()()()()()()()()()()目を細めていた。

 

「……“不死鳥の勇者”……」

「どうしたんだ? アーク」

「ああいえ、何でも無いです……俺も太陽の方に行くのは賛成ですよ。地球の方は親父と、何よりメビウス達が頑張ってるみたいですし」

 

 そうして勝手に何か納得したアークに深く追求する事無く、セブン21は彼と共に移動用の光の玉(トラベルスフィア)を使って太陽まで飛んで行き……しばらくの後、彼等は闇に包まれた太陽までやって来ていた。

 

「ウルトラ兄弟達は太陽の向こう側か……こちらセブン21! アークと共に到着したから、これより太陽の光を取り戻す」

『こちらジャック、よく来てくれた! 助かる!』

 

 それだけの短い念話を終えると二人はそれぞれの必殺光線を太陽を覆う闇へと向けて放ち、徐々に太陽が元々持っている光を取り戻させて行く。

 ……だが、元より巨大過ぎる恒星はウルトラ戦士の光線をもってしても僅かな範囲にしか影響を与えられず、エンペラ星人が本気になったのか更に強まる闇の力もあって光を取り戻す作業は遅々として進まない……だが。

 

『こちらパワード、太陽の闇を払う事を手伝いに来た』

『同じくグレートだ』

『勇士司令部ネオス、只今到着した! ……遅れてすまないな21』

『同じく勇士司令部ゴリアテだ。メビウスとアークだけにはいい格好はさせないぜ!』

『宇宙情報局フォルト……友人達が頑張ってるので、その一助となりに来ました』

『こちらマックスとゼノンだ、俺達も作戦に参加させてもらう』

『チームUSA、只今到着した』

 

 そこに連絡を受けた宇宙警備隊員達が次々と集合して行ったのだ……エンペラ星人がばら撒いた戦闘兵器達が警備隊と各地の戦力の奮闘によって早期に対処出来たお蔭もあり、手の空いた隊員達が次々と太陽に集まっているのだ。

 

『……皆、来てくれたか! ……地球でメビウスとヒカリ、そして地球人達がエンペラ星人を追い詰めているお陰で太陽を覆う闇も弱まっている! ここで一気に押し返すぞ!!!』

『『『『『おお!!!』』』』』

 

 そんなウルトラマン(最初の光の巨人)の号令に答え、その場にいる全てのウルトラ戦士達が一斉に太陽を覆う闇に向けて全力の光線を撃ち放った!

 ……同じ頃に地球ではメビウスとヒカリ、そしてCREW GUYSの絆によって生まれた“不死鳥の勇者”【ウルトラマンメビウス フェニックスブレイブ】と、そこに援軍として現れて“友”と一緒に戦うゾフィーによってエンペラ星人が追い詰められていた事もあり。彼等の光線は徐々に太陽を覆う闇を払っていった。

 

『よし! 闇の力が弱まったお陰で太陽の光が戻って来ている! もう少しだ!』

『このまま闇を払っていけば太陽のエネルギーを押さえ込めなくなる筈だ!』

『このまま続けるんだ!』

『太陽の光が戻って来たから、こっちのエネルギーも回復される様になったしな!』

 

 そうして彼等ウルトラ戦士達による一斉光線が太陽の闇を払い続けて暫くした後、地球でエンペラ星人がフェニックスブレイブの『メビュームフェニックス』によって光に還ったと同時に太陽を覆う闇も完全に晴らされたのであった。

 

『やりました! 太陽の光が戻りましたよ!!!』

『『『『『おおおおおおおおおお!!!』』』』』

『……地球のメビウス達もやった様だな』

『うむ、これで長かった大戦争も終わりを迎えるだろう』

 

 蘇った太陽を見たウルトラ戦士達はエネルギーの消耗も気にせずに大歓声を上げ、地球での戦いの結末を知ったウルトラ兄弟達も安堵の笑みを浮かべていた。

 ……この地球圏へのエンペラ星人軍団の進行、その戦いの結果エンペラ星人がウルトラ戦士達に討たれた事によって『エンペラ軍団』は完全にトドメを刺され、宇宙全土を巻き込んだ『第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)』は終局へと向かって行く事となったのだった。




あとがき・各種設定解説

アーク:『銀の鍵』が目覚めてからは感覚が鋭くなっているとか

第二次ウルトラ大戦争:メビウスの暗黒四天王編の裏側
・この後は頂点であり絶対の象徴だったエンペラ星人が敗れた事でエンペラ軍団は完全に崩壊して、そのまま流れ作業の様に銀河連邦と宇宙警備隊に制圧された。
・ただ、その後古参の側近達が再起を図って姿を消したり、皇帝復活の為の装置を作ろうとしてたり、皇帝が残した『暗黒の鎧』を巡って騒動が起きたりするがそれは別の話。
・最後の太陽への一斉光線は恒星とウルトラ戦士の大きさの差的に兄弟だけじゃ辛いかなて思って入れてみたもので、他のウルトラ戦士達はテレビ画面の外側で頑張ってた感じで。
・地球でのエンペラ星人との戦いは個人的にウルトラシリーズの中でもトップクラスの名場面ばかりだと思ってるので、作者程度の筆記力で書ける気がしなかったので概要だけ、詳しくは映像作品でどうぞ。


読了ありがとうございます。
これにて第5章『第二次ウルトラ大戦争』編は完結になります。なんか主人公の筈のアークが目立ってなかった様な気もしますが、メビウス本編の裏側であり終始彼も一人の宇宙警備隊員として戦った結果こんな感じになったかなと……そういう訳で次回は“彼が主役”の章に、ようやく入って行く予定です。先にちょっとだけ予告。



 ……第二次ウルトラ大戦争が地球での『ウルトラマンメビウス』達の活躍によって【エンペラ星人】が倒された事で終結してから“百年”の月日が流れた。

「うむ、ようやく宇宙保安庁の単独任務にも慣れて来たな」

 そんな中でアークは宇宙警備隊としての仕事を着々とこなしていたのだが……。

「……ハァ……」
「最近メビウス元気ないな」
「……ああ、あれからもう百年は経つからな」

 ……時の流れによる残酷さを経験し元気のない友人。

「……え、俺がもう一度地球へですか? それならメビウスとか他のウルトラ兄弟の方が……」
「いや、この任務は我々ウルトラ兄弟よりも、“お前の方が向いている”と判断したからこそ頼んでいるんだ」

 ……そんな中で再びの地球行き任務を告げられるアーク。

「……地球連合の発足、新たな防衛組織NEO CREW GUYS、んでもって宇宙進出と他惑星との交流……地球もだいぶ変わったなぁ」
「曽祖父の名に恥じない様、精一杯勤めさせていだたきます!」
「はー、怪獣っていいわ〜、ドキュメント見れるからここに入ったのよねー」
「これが我がNEO CREW GUYSが誇る最新鋭機『ガンドラグーン』よ!」

 ……再び降り立った地球での新たな出会い。

「ようこそ地球へ、ミスターウルトラマン?」
「……俺は只の宇宙警備隊員ですよ」
「まだちょっと宇宙人への風当たりが強い感じかな」
「だが、宇宙進出始めたばかりならこんなものかと」
「我々『キリエル・コーポレーション』は貴方の来訪を歓迎しよう」

 ……そこで出会う一癖も二癖もある者達。

「……地球は本当に宇宙へと進出するのに相応しい星なのか?」
「裁定が必要だ……ゆけ、リガトロン」
「だからってそれを試す為にまず暴力とかダメでしょうが!」

 ……だが、そんな新時代(ネオフロンティア)に向かおうとする『M78スペース』の地球に迫る不穏な気配。

「あのロケットには曽祖父が“友人”に当てたメッセージが乗っているんです」
『……“マキシマ”の力を持つ文明よ……試練を……』
「だからまず暴力はやめろっつってんだろ! それに親友への“贈り物”に手出しはさせんよ!」

 ……そんな激動の時代で地球人達は、そしてアークは何を見るのか。

「……地球は地球人の手で守らなければならない……だからこそ……」
「『人造ウルトラマン計画』?」
「元ネタを知ってるヤツからすれば、あからさまに失敗しそうな雰囲気しかしないよねー」
「……さあ再び蘇るのだ! 真なる闇の力よ! そして再び我らに……!」
「アレが……邪神……」

 ……果たして、アークは光の使者(ウルトラマン)になれるのか? 

「……それは貴方自身が、どう在りたいかを自分決めれば良いのよ。その上で誰かに認められるかは……」
「……俺は……!」

 ……長い“プロローグ”が終わり、ようやく“彼自身”の物語が始まる。

「俺は……“ウルトラマンアーク”だ!!!」

 次章『ウルトラマンアーク −100 years after−』近日執筆(予定!)
 ※尚、ここで書かれてるのは適当に考えた捏造展開なので、実際の作品とは大きく展開・台詞が異なる場合がありますのでご了承下さい。それと次の更新はプロット作りとかで大分先になると思います。


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間章 百年の間
宇宙警備隊員アークの日記:大戦争の後


 α月β日

 

 エンペラ星人がメビウスとCREW GUYSメンバー達を始めとした地球人に倒されたお陰で第二次ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)は銀河連邦側の大勝利! やったね!!! ……となれば話は簡単だったんだろうけど、そうも行かないのが世の常。

 直ぐにエンペラ星人打倒の報告を全宇宙に知らせたので、その威光に付き従っていただけの勢力は即降伏して戦局は完全に銀河連邦と宇宙警備隊側に傾いたのは良いんだが、本当の意味でエンペラ星人に忠誠を誓っている『真のエンペラ軍団』と言える者達は軍勢と共にその行方をくらませたのだ。

 

 当然銀河連邦と宇宙警備隊は後の災いの芽を潰すためにも彼等の捜索を行うのだが、期間こそ比較的短かったものの宇宙規模の大戦争の余波は思っていた以上に大きかったのだ。

 ……ぶっちゃけると大戦争の余波で各惑星の治安が大幅に悪化してるんだよね。それに加えてエンペラ軍団に入っていたチンピラレベルの兵隊が脱走兵やら賊軍やらになっているから更にドン。

 他にも被害にあった各惑星や施設への救援とかも銀河連邦はやらねばならない。ボスのエンペラ星人が倒されて大戦争にほぼ決着が付いたが故に治安維持や各惑星の再建を優先しないとならなくなったのだ。ここで拒否したら連邦への反感が凄いしね。

 

 当然ながら宇宙警備隊員も姿をくらました腹心達よりも現在暴れて被害を出している野盗達の対処を優先しなければならない訳で……まあ宇宙警備隊の本来のお仕事はそういうものだからしょうがないんだけど。戦争での被害も回復してないし、しばらく動きは鈍くなるだろうね。

 俺もしばらくは各地を回って治安維持活動をやる事になったし。エンペラ星人倒したんだから当然だけども、光の国で暫く休養扱いになったメビウスが羨ましい。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 β月ω日

 

 今日も今日とて治安維持に東奔西走……元エンペラ軍団を名乗るチンピラやら大戦争の影響で目覚めた怪獣やら各地の復興支援やらで仕事が全く終わらない日々。戦争は終わってからも続いてるんだなって身に染みて思いました(小並感)

 

 一応宇宙保安庁としてエンペラ軍団の残党とかの情報も探っているんだけど、自称『エンペラ軍団の残党』が宇宙中に湧いて出てるからさっぱり当たりを引けない。行ってみたら只のチンピラだったって言うのがもう十数回……。

 まあ、エンペラ軍団残党の調査に関しては他のベテラン宇宙保安庁隊員や宇宙情報局が動いているし、そこは彼らに任せて俺は普通かつ地道に治安維持活動をしていくしかないかな。問題は一つずつ片付けて行かないとね。

 

 

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 γ月σ日

 

 今日は妙な噂を聞いた。なんでもエンペラ星人の居城である『ダークプラネット』に皇帝が残した宇宙を統べる絶大な力を持つ鎧が眠っているという話だ……すごく胡散臭いが。

 そもそもこの噂は何故か“いきなり宇宙中に流れた”様で、現在宇宙警備隊が真偽を探っているのだが、どうにも作為的な感じがする。加えてそれに応える様に宇宙中の多くのチンピラがダークプラネットを探し始めたのもなんか怪しい。

 

 まあ確かにこの宇宙には古のトンデモなく強い連中──エンペラ星人とかレイブラッド星人とかジュダとかジャッカル大魔王とか──が残した秘宝やら兵器やらの噂話は色々とあるし、それらを追い求める者達も普通にいるのだけれども。

 それでもここまで大規模にチンピラが動くのはなんか怪しい気がする。エンペラ星人はつい先日まで活躍していたから信憑性が高いとは言え……或いは本当にエンペラ星人がヤベー物を作っていて、その情報が軍団の方に漏れてたとか、漏らされてたとか。

 ……やっぱもうちょっと調べてみるかな。先輩達にも話を聞いてこよう。

 

 

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 γ月θ日

 

 とりあえずダークプラネット目指してるとか言って銀河連邦所属の惑星から宇宙船をパクろうとしていたチンピラバルキー星人をフルボッコ、その後ペットだったサメクジラの身柄の安全を保障する条件と引き換えにするという穏便()な交渉術によって情報を聞き出すことに成功した。

 

 そのバルキー星人曰く『自分は元エンペラ軍団の1人でその頃から“皇帝はこの戦争で絶対に勝てる切り札がある”という噂を聞いていた。そして最近軍にいた時の知り合いからダークプラネットの座標とそこに安置されている“装着すれば全宇宙を支配出来る程の力を得られる鎧”──“アーマードダークネス”の情報を聞いたので向かう事にした』との事。

 ……実の所、このダークプラネットやアーマードダークネスの情報については他の警備隊員達も宇宙各地で手に入れており、その情報もこのバルキー星人が語ったのと大体同じだったから目新しさは無いのだが、逆に言えば『宇宙各地の元エンペラ軍団にその情報を流した者がいる』って事なんだよなぁ。

 

 まあ、バルキー星人を銀河連邦に送り届けた後は引き続き治安維持活動せねばならない俺には出来る事が余り無いが。ベテラン隊員がダークプラネットとアーマードダークネスの捜索に割り振られている以上、治安維持側の人材をこれ以上減らす訳にはいかないとのお達しだしね。

 ……今後も何か情報を見つけたら報告って事になるだろうな。しかしあのエンペラ星人が切り札として用意していた鎧なんて生半可な宇宙人では使いこなせず、逆に使い手を死なせるぐらいは普通にやりそうな気もするんだがどうだろうか。

 

 

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 σ月γ日

 

 どうやらエンペラ星人の拠点である『ダークプラネット』を宇宙警備隊が発見したらしい……とは言え、早速調査に赴こうにも超高純度のマイナスエネルギーが惑星全土を覆っている上、同じく座標を特定した元エンペラ軍団のチンピラ達が集まってきて、そちらの相手もしなければならないので調査は中々進んでいない様だがな。

 それとダークプラネット周辺にはマイナスエネルギーを起点にしてウルトラ族みたいな光エネルギーを運用する者達を弱体化させるフィールドが形成されているのも手間取ってる原因らしい。何でも光線技の威力が大体七割ぐらいまで下がるそうだ。

 

 そういう訳でマイナスエネルギーに詳しかったり浄化系の技が使える隊員に急遽ダークプラネット捜索を手伝う司令が下されており、俺も浄化技やマイナスエネルギーそのものに対する干渉も出来る事から呼び出された訳だ。

 ……21先輩からの紹介もあったみたいだし、元よりそう言った特殊環境での活動は得意分野だから頑張ろうか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 σ月θ日

 

 そんな感じでダークプラネットをマイナスエネルギーとか闇の力とかの影響を受け難いリバーススタイルで1人探索していたのだが、流石になかなか目的の『アーマードダークネス』とやらは見つからない。

 ……まあ、マイナスエネルギーに溢れたダークプラネットの奥地にある神殿をまともに探索出来るのはリバーススタイル状態の俺しかいないのが問題なんだけどな。正直言ってそこそこでかい惑星を捜索するには人手が足り無さすぎる。

 

 一応マイナスエネルギーの中で行動するぐらいなら精鋭の宇宙警備隊員なら何とかなるんだが、このダークプラネットにはデバフ効果の闇の結界を始めとしてウルトラ族を始めとする光エネルギー運用種族に対する迎撃装置が多数配置されているのが問題なんだよな。

 ダークプラネットの奥に入れば入る程に光属性デバフは強くなって迎撃機構も強化されるし、更にその迎撃機構はウルトラ族みたいな光属性持ちしか狙わず同じくやって来たチンピラは素通しなせいで、集められた精鋭宇宙警備隊員達が只のチンピラに毛が生えたレベルの元エンペラ軍団に遅れをとる羽目になっているのだ。

 リバーススタイルになれば光エネルギーを完全に消せる俺なら迎撃機構もすり抜けられるんだが、流石に一人で戦闘能力が低くなる姿だと遭遇するチンピラ相手でも手間取るから中々捜索が上手く行かない状況である……もうこの星に住んでたエンペラ星人が如何にウルトラ族を敵視していたのがよく分かるぐらいの徹底的な光属性メタの設備の数々なんだよね。

 引き続き調査は続行するけどどこまで上手くいくか……。

 

 

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 σ月ω日

 

 はい駄目でした! 流石に人手がチンピラ達と俺で100対1とかの比率じゃあ先に見つけるのは無理! ……まあ、肝心のアーマードダークネスを見つけたのはババルウ星人だったのだが、鎧を付けて暫く暴れ回って他のチンピラを皆殺しにしたり、宇宙警備隊員達と派手にやりあった後その力に耐えきれずに死んだんだが。

 以前にした予想通りエンペラ星人の鎧をそこらのチンピラに使いこなせる訳が無かったという事らしい。そもそもあのアーマードダークネスは凄まじいヤプールすらも比ではないレベルのマイナスエネルギーを内包していた事が感じ取れたから、ウルトラ兄弟レベルの一流の戦士が装着しても徐々に命が削られていずれ死ぬだろうな。

 ……装着出来るとすればエンペラ星人レベルでマイナスエネルギーや闇の力を自在に扱える者ぐらいだろうが、そんな者この宇宙でもおいそれとは存在しないだろう(居ないとは言ってない)

 

 それよりも問題は装着者を殺したアーマードダークネスが自立行動しだした事なんだよな。ぶっちゃけてババルウ星人が扱っていた時よりも遥かに強く、偶々相対した俺と親父とメビウス(休養が終わったら真面目に戦線復帰)の三人がかりでも止め切れ無かったのだ……なんだよ光エネルギーを分解するレゾリューム光線とか。リバーススタイルで受けてなければ死んでたぞ。

 更には内包している膨大なマイナスエネルギーから新たに怪獣──後に名前を【宇宙苦無獣 ザラボン】と付けられた──を生み出して、そいつと俺達が戦っている隙に逃走して行方を眩ましてしまった。

 

 この事態を受けた宇宙警備隊は逃亡したアーマードダークネスの捜索を決断。銀河連邦などと協力して宇宙中を探す事となった……戦った感触だとあの鎧は単純な戦闘能力もかなりヤバいヤツだったし、怪獣を生み出す能力や装着者の命を奪う代わりに力を与える能力とかエンペラ星人とは別種の厄介な力もあるから放置しておくと不味いだろうな。

 

 

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 θ月σ日

 

 ダークプラネットから逃亡したアーマードダークネスはそれから宇宙の各地に出没して災厄を振りまいていた……ある所ではエンペラ星人残党(チンピラ)と惑星の防衛部隊が小競り合いを繰り広げていた所に突如現れて、そのまま両軍を殲滅。

 またある所ではエンペラ軍団の基地を調べていた銀河連邦軍の前に現れてこれを壊滅、ついでに基地も跡形もなく粉砕したとか。別の所では余り治安の良くない(婉曲表現)惑星でその政府に不満を持っていた人物に使われて、その政府を壊滅させた後に使用者の命を吸い尽くしそのまま惑星を半壊させて消えていったとか……とにかく好き勝手暴れていた。

 

 宇宙警備隊も対処に動いているんだが単純にアーマードダークネスが強すぎる上、ウルトラ族なら当たったら確殺出来るレゾリューム光線まで持ち合わせているので相性が悪くこちら側の犠牲が増えるばかりで止められない状況になっている。

 一応、地球でエンペラ星人と戦ったメビウスとヒカリさんからの情報だと人間などのウルトラ族以外の生命と融合した場合にはレゾリューム光線の効果は大きく落ちるみたいだが、そもそも他の生物との融合なんて緊急時以外は使えないしな。

 ……俺のリバーススタイルなら光属性じゃなくなるので当たっても即死はしないのだが、単純にスペックと戦闘能力の差で押し切られるから余り意味がないんだよな。

 

 そんな訳でアーマードダークネスに少数で挑んでもどうにもならないので、どうにか相手が次に出現する場所を読んでそこに精鋭部隊をぶつける作戦をとる事になった。アイツ転移も使えるからそうでもしないとなぁ。

 それにこれまでのアーマードダークネスの行動から、その目的は『戦闘が起きている・治安が悪い所に行ってマイナスエネルギーを集める』『エンペラ星人由来の施設や場所などを訪れる』『自分を装着して使いこなせる者を探す』と言った辺りであろうと推測されているしな。

 実際ただ暴れているだけでは無くアーマードダークネス自体を求めたチンピラにあっさりと自分を使わせているという目撃情報があるからな。アーマードダークネスはあくまでも『鎧』であるから、装備として自身の強化と自分の装着者であるエンペラ星人の捜索、或いは装着出来る実力の持ち主を探していると言うのがヒカリさんを初めとする科学技術局の予想である。

 ……とにかくアーマードダークネスの捜索と討伐部隊編成は引き続き進められるし、エンペラ星人の置き土産と言う事もあって銀河連邦軍も協力してくれるからきっとどうにかなるだろう……なるといいなぁ。




あとがき・各種設定解説

アーク:現在ブラック労働中
・大戦争が終わった後も戦後処理やらダークプラネット捜索で忙しいので光の国には戻っていない、ウルトラ的時間感覚を持つ宇宙警備隊では良くある事(笑)
・闇属性耐性のあるリバーススタイルならレゾリューム光線を受けても即死しないが、光線が当たれば普通にダメージは受ける。

アーマードダークネス:エンペラ星人の置き土産
・元々意識などは無かったが大戦争で人々の負の感情から発生したマイナスエネルギーを集めて作られた物であるので、装着したババルウ星人を取り込んだ事がきっかけで自我が芽生えた。
・それでもあくまで『鎧』なのでエンペラ星人が残していた自動開発プログラムに従ってマイナスエネルギーを集めての自己強化と、自分を使う事が出来るエンペラ星人かそれと同格の存在を探し回っている。
・また『本来の主人が居なくなってしまった鎧』であるからか自らを使いたいと思った者がいた場合にはそれが誰であれ積極的に自分を纏わせる傾向があるが、自身の身に宿す膨大なマイナスエネルギーに耐えられない者は所有者に相応しくないと考えているので装着者の命を容赦なく吸い尽くす模様。


読了ありがとうございました。
とりあえず間章スタート。と言っても日記形式でダイジェストな感じになると思いますが、今後不定期にボチボチ更新していく事になるかと。次の章はトリガーが終わって情報が出揃ってからかなぁ。


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宇宙警備隊員アークの日記:暗黒の鎧

 θ月ω日

 

 あれから宇宙警備隊と銀河連邦が協力してアーマードダークネスを追っているのだが中々捕まらない。前にも日記に書いた気がするが、この広大な宇宙で転移能力持ちを捕まえるのはクッソ大変なのだ。

 加えてアーマードダークネスは以前の宇宙人連合とかと比べても強過ぎる故、見つけても生半可な戦力じゃ倒せないし。後は戦後処理で人手が足りないとか色々と悪条件が重なってるからな。

 

 まあ以前(宇宙人連合)と違って現れれば分かりやすく暴れてくれるので居場所を特定するぐらいは出来るのだが、ウルトラ兄弟クラスの精鋭を集めないと太刀打ち出来ない実力に加えて、ウルトラ族特攻のレゾリューム光線が厄介極まりない。

 ……どうにかしてウルトラ兄弟辺りで囲んで殴るのが最善なんだが、中々上手くはいかないものだ。

 

 

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 φ月α日

 

 よし! エンペラ軍団の基地の跡地でアーマードダークネスの反応を感知。とりあえず俺が近いみたいだから急行すると同時にウルトラサインで付近の隊員に連絡を入れよう。

 

 

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 φ月γ日

 

 だー! 逃したー! せっかく俺が単騎で足止めして援軍にセブンさんとエースさんまで来てくれたのに……武器の攻撃力と鎧の防御力とレゾリューム光線が強過ぎるー……。

 特にレゾリューム、ウルトラ族が当たったら即殺とかホントクソ。只でさえ合体光線すら耐える強度の鎧なのに、レゾリューム光線を警戒しなければならない所為で隙の大きい光線技を撃つ機会にも中々恵まれなかった。

 

 ……光線を撃たせないようにセブンさんとエースさんと連携してエースブレードとアイスラッガーとウルトラランスによる接近戦を挑んだりもしたけど、向こうは剣と槍をデフォルトで装備しているからか近接技能もかなりのものだったから攻め切れなかった。

 俺はリバーススタイルなら光属性特効効果は乗らないとは言え、レゾリューム光線は普通に威力も高いから当たれば普通に大ダメージだし。そもそもリバーススタイルになると肉体の耐久力がだいぶ下がるから格闘戦も難しく、冷凍光線程度ではどうしようもないしなぁ。

 

 うむむ。真面目にアーマードダークネスを倒す方法が思いつかん。アイツ追い込み過ぎると殿の怪獣を生み出して普通に逃げるから、それを許さないぐらいの威力の攻撃を一気にぶつけて倒すしか無いとは思うんだが、それが出来る隊員は少ないしな。

 ……親父のM87光線かタロウ教官のウルトラダイナマイトレベルの技がいるかな。少なくとも俺のアークレイショットでは致命傷にはならないぐらいだったし。セブンさんのワイドショットとエースさんのメタリウム光線の同時攻撃も槍を回転させて展開したバリアで凌いでいたからなぁ。何か都合のいい対策が無いものか。

 

 

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 φ月σ日

 

 うむむ……アーマードダークネスは自分を身につける者には普通に使わせる性質があるのだし、態と装着させて自爆すればワンチャン……? 流石に外道すぎるし、ウルトラダイナマイトを使うにしてもマイナスエネルギーを浴びせられる状況でうまく再生出来るかとかに不安があるか。

 

 

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 ο月δ日

 

 ちょっとやばい感じの緊急報告があった。何でもエンペラ星人に似たエネルギー波を地球圏に感知して調査に向かっていたヒカリさんがアーマードダークネスに取り込まれたと言うのだ。

 ……報告によるとヒカリさんは他の隊員達と共に地球圏周辺で強大に過ぎる闇のエネルギーを持つエンペラ星人が現れた事による各種悪影響や、何か残していった兵器の類がないかを念入りに調査していたらしい。相手が相手だからね、ダークプラネットとかも調査は続いてるし。

 だが、その最中にいきなり現れたアーマードダークネスと交戦してしまい、ヒカリさんを中心に連携を取る事でどうにか犠牲無しで持ちこたえるもののあと一歩で全滅という所まで追い詰められたらしい。

 

 そこで咄嗟にヒカリさんは『自分がアーマードダークネスの装着者になる』という意思をテレパシーで飛ばし、そのままアーマードダークネスを纏って内側から制御しようと試みたそうなのだ……ここでそういう機転が利くのは流石というか、呪いの鎧着けすぎと言うか。まあその経験から思いついた戦術かもしれないが。

 ……そして、その結果としてアーマードダークネスを身に付けたヒカリさんは、何か苦しむ様な素振りを見せながらも戦う事はせず何処かに転移。それを見た他の隊員はどうにか無事に帰還して銀河系支部と本部に状況を報告したとの事。

 

 これまでのアーマードダークネスの行動パターンと違いすぐに倒せる隊員を見逃して転移した以上、取り込まれたヒカリさん側からの干渉はある程度上手く行っていると考えてもいいだろう。銀河連邦支部の方でもヒカリさんの生命反応は感知出来たのでまだ無事の様だし。

 ただ彼のエネルギーは徐々に弱まっているらしく、更に鎧のマイナスエネルギーの影響か位置情報が曖昧にしか捉えられず姿が見つからないのだ。最も以前の『ハンターナイト事件』の時と違って銀河系内に留まっている事は確定出来てるし、どうも転移とかはしてないみたいだから見つけるのは簡単そうだが。

 ……最も問題は時間をかけ過ぎると取り込まれたヒカリさんの命がやばい事なのだけど。とにかく俺にも召集が掛かったから早く見つけなければ。

 

 

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 ο月θ日

 

 漸くアーマードダークネスinヒカリさんの位置情報が発見された。場所は地球の衛星軌道上にエンペラ星人が乗り捨てていった宇宙船『ダークネスフィア』と言う場所らしい。

 ……ちなみに地球の衛星軌道上に放置されていた理由は、三次元空間とは位相の違う領域に存在していたので地球人や宇宙警備隊でも認識出来ない状態であったからだ。そもそもヒカリさん達はエンペラ星人が乗っていたこのダークネスフィアの所在を調査する為に銀河系を調べ回っていたらしいし。

 それでも流石はエンペラ星人の乗機だったと言うか、宇宙警備隊がどれだけ調べてもその存在は辛うじて確認出来るが正確な位置情報が特定出来ないレベルの隠密性を有していたのでこれまでは全然見つからなかったのだが、どうやらアーマードダークネスが乗り込んだ事によって現実空間に現れたらしい。

 

 そう言うわけで急遽俺とメビウスが地球まで行ってヒカリさんを救出する事になった……ちなみにこの二人なのは偶々地球圏近くにいた事と、ダークネスフィアに気が付いた地球の防衛チームが調査に乗り出すだろうと親父(隊長)が予想したからだ。

 言うまでもなく面識と伝手があるメビウスなら兎も角として、俺は人間形態では銃を向けられた不審者で元の姿でもいきなり現れてヒカリさんとボガールと強化テレスドンを殴り倒した所ぐらいしか防衛チームに見せた事はないんだがなぁ。改めて書くと只の不審者では? 

 ……え? アークの事はCREW GUYSのメンバーに説明しておいたから大丈夫? それならいいんだがなメビウス。

 

 

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 ο月φ日

 

 どうにかアーマードダークネス撃破及びヒカリさんの救出成功! やったね!!! ……まあ言う程大変では無かったけど。ヒカリさんを取り込んだアーマードダークネスをメビウスと二人で相手をしたり、その際になんかGUYSの隊長さん──後で聞いた話だと以前俺に銃を向けたアイハラ・リュウさんと言う人──が一緒にアーマードダークネスに取り込まれたりしたし。

 ……正直言ってヒカリさん救出の事を抜きにしてもメビウスと二人掛かりでようやく互角(防戦一方)に戦えるぐらいには苦戦したしな。内部のヒカリさんが抵抗して戦闘能力が落ちていた上で。

 

 まあ、その際にかつてメビウスと共に戦ったGUYSメンバーの援軍が来てくれたり、一体いつから見ていたのか……多分最初からだろうけど、うちのひいじいちゃん(キング)の手助けでアイハラ隊員がヒカリさんと融合してアーマードダークネスから脱出したりしたので何とか逆転した。

 ……その後は中身が無くなっても尚動き続けるアーマードダークネスを俺とメビウスとヒカリさんで相手をしたのだが、ダークネスフィア内部は最早エンペラ星人お約束となった光属性メタの空間となっていたのでやっぱり大苦戦だった。光線技の威力半減は致命打が出せなくてキツい……。

 

 ダークプラネットでの経験から『銀の鍵』を使えば闇の力の影響を遮断できる様になった俺と違って、真っ当なウルトラ族である二人はモロにその影響を受けてたからな。加えてヒカリさんの方は融合である程度持ち直したとは言え疲労が激しかった事もあって大分苦戦した。

 最終的には俺がチマチマ攻撃してアーマードダークネスを足止めしつつメビウスとヒカリさんが合体してエンペラ星人を倒したと言う『フェニックスブレイブ』の姿となり、そのまま相手の剣を奪ってダメージを与えてそこに光線を撃ち込んでトドメを刺した訳だ。光線技が弱体化するならそれ以上にパワーアップすれば良いのだ。

 ……一応、俺もアーマードダークネスに対しては光には耐性があっても闇属性攻撃は普通に効くとアドバイスして、更に『銀の鍵』を使った空間固定で相手の動きを止めて相手の剣を奪って攻撃する隙を作ったりしたからな。

 

 それでアーマードダークネスを倒した訳なのだが少し問題があり……あくまで『鎧』としての機能が停止しただけで内包していたマイナスエネルギーはダークネスフィア内部に残ったままだったのだ。籠められたマイナスエネルギーがヤバイので下手に破壊も出来ないし。とりあえずダークネスフィアごと光の国に持って帰って処分法を探す事になりそうかな。まあアーマードダークネスの機能は停止させたし、エンペラ星人の置き土産から始まった一連の事件も無事に終わったと考えて良いだろう。

 ……しかしフェニックスブレイブを見て思ったけど融合は凄いな、俺はまだ完全に制御出来てない『銀の鍵』の影響が融合先に出る可能性があるから難しいけど。士官学校で教わったから技術的には出来ない事はないんだけど、融合相手の精神とかに影響が出る可能性を考慮するとねー。

 

 

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 ω月α日

 

 ちょっと耳にした話だとアーマードダークネスとダークネスフィアに関しては科学技術局中心で対応してるらしい。どうもダークネスフィア自体は処分出来たらしいが、アーマードダークネスの方はどう処分して良いのか分からないとか。

 何でもアレ自体が膨大なマイナスエネルギーの集合体が鎧の形を成した物であり、鎧を粉々にされようが自動で宇宙中からマイナスエネルギーを集めて再生させるので全然破壊出来ないらしい。加えて下手に手を出すとぶっ壊した時に空間を超えて宇宙中に散らばった鎧の破片とも言えるマイナスエネルギーが励起するまであり得るのだとか。

 それ故に厳重に封印する方向に話は行っているみたい。まあ下手に破壊すれば遠い未来、宇宙の何処かで再生するぐらいは十分にあり得るしまあ妥当かなって。

 

 

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 ω月γ日

 

 今日も今日とて戦後処理〜♫ ……まあ最近は大分落ち着いて来たかな。エンペラ星人の置き土産であるアーマードダークネスを宇宙警備隊が撃破・封印に成功したって伝わったお陰か、宇宙も大戦争以前の状態に戻って来たしね。

 まああの後アーマードダークネスは光の国に厳重に封印される事になったから大丈夫だしな ……この業界だと倒されても1000年後に復活とかはザラだからね。それ故にヤベー奴の封印は割とポピュラーな対処法なのだ。

 

 

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 ω月σ日

 

 今日も普通に戦後処理をしていたのだがセブン21先輩が気になる話を持って来た。何でも『ジャッカル軍団』の残党が妙な動きをしているから注意してくれとの事だ。

 このジャッカル軍団と言うのはひと昔前に宇宙で君臨していた『ジャッカル大魔王』の配下だった物達で、俺が士官学校に入る前ぐらいに光の国を破壊しようと襲撃を掛けてウチの親父とメロスさん(アンドロメダ星雲支部隊長で親父の友人・俺も面識がある)を中心とした宇宙警備隊に返り討ちにされたと聞く。

 

 そんで残党であるジャッカル軍団が大戦争後の混乱に漬け込んで何かをやろうとしている情報を掴んだセブン21先輩が調査に向かうらしく、その前に連中にとっては不倶戴天の敵であるゾフィー(メロスさんと協力してジャッカル大魔王を倒したらしい)の息子である俺を狙う可能性もあるので注意して欲しいとの事だ。

 ……まあ、その手の連中は逆恨みで弱い身内を狙うとかが鉄板だしな。その程度の連中にそう安安と負けてやる気は無いが一応注意しておこうか。




あとがき・各種設定解説

アーマードダークネス:壊してもオートで復活するので封印が安パイ
・ダークネスフィアでの戦いや細かい人間模様とかは原作『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス』を参照して下さい、そこにアーク君がちょっと加わる形。
・ちなみに今回の一件でアークの地球での知名度が『謎のウルトラマン?』から『偶にメビウスを助けに来てくれるアストラ的なポジションのウルトラマン』ぐらいに上がった。

ジャッカル大魔王:元ネタは漫画『ザ・ウルトラマン』
・この世界線だとストーリーゼロ要素や本作オリジナルなどが加わって強キャラになったゾフィーさんを中心に撃退されてるので、光の国壊滅や地球侵略とかは起きてない設定。


読了ありがとうございました。
引き続き日記形式ダイジェスト。感想・評価・誤字報告・お気に入りに登録はいつでも待っています。


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宇宙警備隊員アークの日記:新たなる大魔王

「チィ! 八つ裂き光輪!!!」

「フハハハ! 無駄無駄ァ!!!」

 

 宇宙のとある宙域、そこでは宇宙警備隊員アークと黒赤い髪と湾曲した2本角が特徴的な宇宙人──【宇宙大魔王 ジャッカル大魔王】が激しい戦いを繰り広げていた……最も複数枚投げて八つ裂き光輪が大魔王の片手の一振りで砕かれるなど、アーク側の防戦一方な戦況だったが。

 何故こんな事になっているのかと言うと、宇宙保安庁の仕事でパトロールをしていたアークにいきなりジャッカル大魔王を名乗る相手が襲いかかって来たのだ。事前にセブン21から注意を受けて警戒していた事もあって奇襲でいきなりやられるのは避けられたのだが、まともな戦いになってもアーク単独では実力差が大き過ぎてこの状況と言う訳である。

 

「ええいっ⁉︎ 昔親父にやられた恨みで息子の俺に不意打ちを仕掛けて来るとか、大魔王を名乗る割にみみっちいぞ!!!」

「ふん! そんなもの貴様の父親であるゾフィーから受けた屈辱に比べれば些細な事よ!!! ヤツが使った『黒い光線』に消しとばされた先代の無念を晴らすため、ブラックホール内部のエネルギーを吸収して同じ『大魔王』へと至ったこの俺の力をゾフィーに思い知らせる礎となって貰うぞ!!!」

(成る程、コイツは親父が倒したやつとは別人。所謂ジャッカル大魔王(2代目)って所か)

 

 そんな事になっている理由は所謂逆恨み、かつてゾフィーに撃退された意趣返しにその息子であるアークの事を狙った様だ。宇宙保安庁としての仕事振りや大戦争の一件でアークはそれなりに有名になっていたので、何処からか情報を仕入れて来たらしい。

 ……そんなやり取りをしている間にもジャッカル大魔王は次々と強力な破壊光線を放ってアークを追い詰めていき、彼もそれを避けるか防いで時間を稼ぐのが精一杯な様子だった。

 

「時間稼ぎをしようとしても無駄だぞ! ここ一帯の宙域は俺の配下によって封鎖されているから、ウルトラサインも出せんし援軍も来ない! テレポートで逃げる事も出来んぞ!!!」

「そもそもサイン出す余裕も無いんだが……全く念入りな事で! スペシウム光線!!!」

 

 そう言いながら苦し紛れにアークが放った光線すらも掌で受け止めたジャッカル大魔王は、そのまま両手を合わせてその間に『漆黒のエネルギー球体』を作り始めた。

 

「とは言え、貴様程度を相手にそこまで時間をかけてはいられんからな。……貴様の父親が使った黒い光線に対抗する為に編み出したこの技で葬ってくれる! ブラックホールノヴァ!!!」

「何ッ! ヌ、ヌワァァァ────ー!!!」

 

 そうしてジャッカル大魔王が放った黒いエネルギー球体がアークの近くに着弾した瞬間、強力な超重力により吸引力を持つマイクロブラックホールを作り上げて彼を吸い込んでしまったのだ……この『ブラックホールノヴァ』はジャッカル大魔王(2代目)がゾフィーが使ったブラックストリームM87を見て、それに対抗する為にブラックホールから得たエネルギーを直接攻撃に転用した技である。

 ……先代のジャッカル大魔王を倒したゾフィーを消し去るべく編み出したその技の威力は凄まじく、宇宙警備隊の中でも精鋭と言えるアークであっても発生された超重力から逃れる事は出来ず、悲痛な悲鳴を上げながらブラックホールに飲み込まれてこの宇宙から消え去ってしまった。

 

「フハハハハハハハ! 見たかゾフィー! 貴様の息子を跡形も無く消しとばしてやったぞ!!! 次は貴様の番だ!!! ……さて、予定通りまずは息子の死を奴等に伝えて動揺させつつ、その隙を突いて光の国に保管された【アーマードダークネス】と【ウルトラベル】を奪うとするか。復旧作業がひと段落した今が最も警戒が緩いだろうからな」

 

 そんな宇宙を揺るがす程の二つの神器、それらを手に入れれば再び自分達ジャッカル軍団がこの宇宙を支配する事が出来る……と考えながら、ジャッカル大魔王は光の国への侵攻計画を続行する為に部下と合流してその場から去って行ったのだった。

 

 

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 ω月ω日

 

 そう言うわけでブラックホールからサクッと脱出した俺は、近場にあったアンドロメダ星雲支部にてジャッカル大魔王(2代目)に関する情報を支部長であるゾルビーさんとメロスさんに伝えておいたのでした。

 ……ブラックホール内部は親父でもメロス氏(アンドロ警備隊で先代さんの方)に助け出されなければ死んでいたレベルの環境だが、俺には時空間に関して万能な『銀の鍵』があるからな。まだ完璧に使いこなせずとも大量のエネルギーを消費すればブラックホールに押しつぶされない事も、そこから脱出する事も容易いのだ。メロスさんにはちょっと引かれたけど。

 そもそも連中の転移妨害結界に覆われていようが『銀の鍵』を使えば脱出は簡単だからな。ジャッカル大魔王から情報を可能な限り抜き出した所で撤退する予定だったし。あのブラックホールは怪しまれず離脱する為にむしろ好都合だったわ(笑)計算通り。

 

 そう言うわけで俺がもたらした情報によって宇宙警備隊は警戒態勢に入ったんだけど……そのちょっと前ぐらいにあのジャッカル大魔王が『宇宙警備隊隊長ゾフィーの息子であるアークは俺が殺した!!!』とか布告してくれたんだよな(笑)正直コメントに困る。

 俺からジャッカル大魔王の情報を持ち帰ったと親父を始めとする隊長格に報告されたすぐ後の事だったから、その宣言を聞いた親父達も(・Д・)ってなったわwww。

 ……既に宇宙警備隊には俺の生存が伝えられていたから『実は生きていたのさァー!』とかも出来ないし。むしろ情報が錯綜してちょっと混乱したぐらいだ……だからメビウス、俺は普通に生きてるからな。おばけとか言って騒ぐんじゃない。

 

 とりあえず親父達を中心に俺の生存を警備隊には伝えたので混乱は収まったし、ジャッカル大魔王(2代目)の宣言に関してもフカシと誤報って事にして解決した。

 ついでにジャッカル大魔王の方に『アレ? 仕留めたと思った? 残念俺は生きてました〜www。ブラックホールノヴァ(笑)の威力がクソショボかったので脱出余裕だった件www。ドヤ顔で宣言しておいてフカシ扱いされてねえ今どんな気持ち? NDKNDKwww』みたいな挑発文を返信しておいたZE! 

 

 ちなみにこれは敢えてジャッカル大魔王を挑発して俺を狙わせて、そこを集めたウルトラ兄弟を始めとする精鋭部隊でタコ殴りにすると言う作戦の為だからな。親父からは『挑発文はもう少しなんとかならなかったのか?』って言われたけど、プライドが無駄に高そうなアイツならこのぐらいの方が有効だろうと納得してもらった。

 ……まあ、趣味が入っているのは否定しないけどね! 

 

 

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 ○月○日

 

 そんな訳で囮役としてアンドロメダ星雲支部で待機していた俺の元へ、何故かめっちゃキレてる(残当)ジャッカル大魔王とその配下達が強襲して来ましたとさ。

 まあ支部には長のメロスさんを始めとしてセブン21先輩、マンさん、ジャックさん、エースさん、レオさん、アストラさん、それとメビウスが詰めてたし、他にもベテランの宇宙警備隊員が常駐している上に他の支部や光の国から直ぐに援軍を送れる様に特殊なトゥウィンクルウェイを準備してあったから狙い通り迎え撃つ事が出来たんだがね。

 ……でも大魔王が積極的に俺を狙ってくるのは酷くない? 魔王名乗る割にみみっちいんだよな。どうにか凌げはするけどさ。

 

 最初は少し押され気味ではあったけど俺を囮にしながらメロスさんやウルトラ兄弟がジャッカル大魔王を攻撃する感じで善戦しつつ、援軍に来た親父を始めとしる残りのウルトラ兄弟や精鋭部隊との協力で一気にジャッカル軍団の戦力を削ぐ事が出来た。

 ……その際に大魔王相手に命令無視して突出した女性警備隊員アウラ(どうも父親を殺されたとか言ってた)を庇ってメロスさんが負傷すると言うアクシデントもあったが、親父のフォローによってどうにか持ち直したしな。

 

 その後は宇宙警備隊の精鋭部隊による攻撃で配下の軍団はほぼ壊滅し、後は大魔王を総掛かりでボコって倒すだけ……だったのだが、あの大魔王のやつ性格は割とみみっちい割に戦闘能力はバカ高いからウルトラ兄弟+オマケの俺による一斉攻撃にも耐えて、更には反撃のブラックホールノヴァを(俺に対して罵声を放ちながら)撃ち込んでくる有り様なんだが。

 まあ見たのは2回目だったし『銀の鍵』を使って対消滅させてやったけど、そしたら今度は普通に破壊光線をブッパして来たからエネルギー切れもあってキツイキツイ。ウルトラ兄弟達がフォローしてくれたからエネルギー切れ寸前を悟られる事は無かったけど。

 

 それでも他の隊員達の援護によってどうにか優勢に戦えてはいたのだが、そこで光の国から緊急の連絡があった……なんと光の国で保管されていた【アーマードダークネス】が奪われたと言うのだ! ちょっとセキリュティ班ー! 

 まあ、その報告を受けた後にジャッカル大魔王が『フハハハハ! 馬鹿どもめ! 此処にいる我らは囮で本命は光の国に向かわせた別働隊よ、エンペラ星人が残した神器【アーマードダークネス】を奪うためのな! あの鎧と俺の力が合わされば最早宇宙に敵はいない! 次に会う時が貴様ら……特にこっちを散々おちょくって来たアーク! 貴様の最後になるからなぁ!!! 覚えておけよ!!!』と言ってその場から消え去ってしまった。

 なんかスッゴイ目の敵にされてるわ。引き続き囮が務められそうなのは何よりだけど、流石にあの大魔王にアーマードダークネスが追加されるのはヤバいから後を追わないとなぁ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月◉日

 

 ジャッカル大魔王襲撃並びにアーマードダークネス強奪事件についての詳細報告……まずジャッカル大魔王に関しては銀河連邦にも協力を要請して現在追跡中。襲撃して来た軍団の殆どは倒せて組織力が大きく下がってるから見つけるのは時間の問題だろうって話だ。

 一応、光の国に侵入した連中も半分くらいは倒したから向こうの戦力はかなり減ってる筈だと……というか、むしろ光の国に潜入したのはほぼ自分の命を捨てる事が前提の決死隊だったみたい。潜入のプロな上で躊躇なく自爆特攻もしてくるから、まだ完全な封印をしていなかったアーマードダークネスを奪われた形らしい。

 

 それで肝心のアーマードダークネスの方だけどどう封印すれば良いのか分からず、科学技術局が中心になって可能な限り厳重に保管しながら調査・研究している所を奪われたそうな……その時に技術局の局員に被害が出たけどヒカリさんがその場にいたから死者は出なかったらしい。

 そもそもアーマードダークネスと言っても未だに完全な鎧の形に再生していない、小手とか兜の一部以外は単なるマイナスエネルギーの塊だったみたいだからな。お陰で保管もかなり難しく、襲撃して来たジャッカル軍団の思念に反応してそいつに装着されて半ば暴走気味に暴れたのも取り逃がした理由だそうだ。

 

 とは言え、そこは技術局の科学者達故ただやられっぱなしで終わる事は無く、マイナスエネルギー感知装置を改造して現状垂れ流しになっているアーマードダークネスのマイナスエネルギーを感知する装置を開発、量産してジャッカル軍団捜索の一助となっている様だ。

 また、向こうの研究成果によってアーマードダークネスの再生には大量のマイナスエネルギーが必要であり、現在の宇宙の状況込みだと自動再生終了まで数千年かかる事が分かっている。勿論どうにかして大量のマイナスエネルギーを用意すれば再生可能だが、そんな事をすれば直ぐに感知出来るしな。

 

 そして最も重要なのは今の状態のアーマードダークネスを装備したとしてもジャッカル大魔王の力はそこまで上がらないって事だ。流石に多少は強化されるだろうがどうしようもないレベルにまで到達する事は無いだろうとの見立てである。

 まあ、ジャッカル大魔王(2代目)自身の戦闘能力がウルトラ兄弟をまとめて相手取れるレベルだから、多少強化されるだけでも十分危険だと言えるんだが。何とかして早く見つけないといかん。

 ……最も、俺は挑発し過ぎて狙われてるから精鋭が詰めてる支部に待機させられてるんですけどね! 大魔王のブラックホールに対抗出来る数少ない人員だからいざとなれば救援に行くけど、単騎の所を狙われたらヤバいし囮戦術もまだ使えるだろうって事でこんな配置なのである。ノコノコやって来るなら迎撃出入るんだけどどうなるかな。




あとがき・各種設定解説

アーク:大魔王がみみっちいと言うのは彼の主観
・最も本気でそう思っている訳でもなく集中的に狙われた腹いせと、向こうの実力が高すぎると分かっている故に挑発する事で動きを鈍らせようとする策が殆ど。
・『銀の鍵』の扱いに慣れて来たので、歪んだ空間を元に戻すという形式なら多量のエネルギーを使う事でマイクロブラックホールを相殺するなどが出来る様になっている。

ジャッカル大魔王:原作よりもゾフィーへの恨みが強い
・この世界線では以前の戦いでは光の国相手にジャッカル軍団は大敗を期しているので軍団の総戦力は原作よりもかなり小さいが、その分囮作戦や(失敗したけど)アークを倒す事でゾフィーの動揺を誘う策など搦め手をよく使って来る。
・ただ、大魔王自身はゾフィーに対抗する為にブラックホールのエネルギーを使いこなす修行を積んだので、何が新技とかを覚えているなど若干強化されている。


読了ありがとうございました。
ジャッカル大魔王及び軍団戦は現先とは大分違う感じになると思いますがご了承ください。感想・評価・誤字報告などはいつでも歓迎です。


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宇宙警備隊員アークの日記:大魔王との決着

 ○月△日

 

 今日も今日とてアンドロメダ支部で事務作業の手伝いを頑張った……いつ俺を目当てにジャッカル大魔王が攻めてくるか分からないので此処に強制待機でござる。加えて大魔王を探して多くの宇宙警備隊員が出払っているので事務作業が増えてるから働きっぱなしでござる。

 ……アーマードダークネスを奪ったジャッカル大魔王は現在精鋭の宇宙警備隊員達が追跡中、エネルギー反応は追えているらしいから補足するのも時間の問題らしいのだが、それでも昔の敗北からこの広い宇宙で潜伏し続けて来た連中なので見つけ出すには多少手間が掛かる様だ。

 

 自分でも出現したい気持ちも無くは無いが、俺が待機するのも作戦の内だからしょうがないんだけどな。散々挑発してやったお陰で大魔王が狙うのは俺がいる此処か親父が詰めてる光の国の二択になるだろうし、この二地点間を結ぶトゥウィンクルウェイは継続中。こちらにはメロスさんやセブン21先輩やヒカリさんも詰めてるから迎撃態勢は万全なのが現状だしわがままを言う訳にも行かん。

 まあ、前回の戦闘の際に負傷したメロスさんも復帰し、以前までは微妙にギクシャクして雰囲気だったアウラとの関係もこの前の襲撃で庇われたからか大分改善されてるから居心地自体は悪くないか。

 

 後、この二人から『ジャッカル大魔王に狙われているとなると今のままでの実力では不安だな……よし、自分の中の秘めた領域にタップする感じの訓練で力を付けるか!』とか『あの大魔王を倒す為にもっと強くならないと!』とかで訓練に付き合わせられていたりするのがちとキツイ。

 事務仕事ばかりだから気分転換にはなるけど、そんなあっさり潜在能力が解放されて超パワーアップとか出来る訳がないじゃん。こういうのは積み重ねが重要なんだよ……え? お前は積み重ねが十分だから、後はきっかけさえあれば劇的に強くなれる感じがする? うーむ、『銀の鍵』とか持ってるしそう言われると否定しづらい。

 ……まあ、その後訓練しても覚醒とかはしなかった訳だが。親父並みに強いメロスさんにボコられつつ格闘や光線について指導して貰ったり、姿を消しながら高速移動して全方位から光の矢を撃ち込んでくるアウラの動きと攻撃を『銀の鍵』の応用により空間把握で見切ってカウンターを入れたりと得られるものはあったが。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月▽日

 

 朗報と言って良いのか分からんがアーマードダークネスのマイナスエネルギーの反応からジャッカル軍団がいる地点を突き止めたそうだ。宇宙の中でも辺境、銀河連邦や宇宙警備隊の目が届かない場所に隠れ家を作っていたみたいだが、垂れ流しになっていた鎧のマイナスエネルギーは隠しきれなかったらしい。光の国でも完全に封印する事が未だ出来ないぐらいだからな。

 ちなみに連邦と警備隊の目が届かない辺境は相応に治安も悪い事が多い……つまりそこの住民から出るマイナスエネルギーも多いからアーマードダークネスにとっては最適な環境でもあるからな。出来れば早く攻め込みたい所だが実は結構難しいらしい。

 

 そもそも、そういう所は『宇宙警備隊や銀河連邦でも諸々の理由で迂闊に手が出せない』から目が届かない様になってる訳だし。具体的に言うと下手に手を出した方がそのまま放置するよりも遥かに被害がデカくなるらしい。

 宇宙保安庁のベテランでその辺りに詳しいセブン21先輩曰く『連邦や警備隊の管理下では生きられない“ワケあり”の者達を住まわせる受け皿としてそう言う場所はどうしても必要になる。更にそう言った者達は自分の居場所がそこしか無いと分かっているから我々の様な者達の介入を嫌っているし、迂闊に手を出せば暴発しかねない』との事。まあ必要悪ってヤツ? 

 

 逆に言うと自分達の居場所がそこにしか無いと分かっている故に、治安は悪いが無秩序って訳でも無くキチンとその場所を維持するルールを定めているらしい。むしろ自分達で決めたルールはかなりしっかりと守っている……というか守れなければ居場所を失うから、やらかした連中は即座に村八分からの囲んで棒で叩くルートになるとか。

 ……なのでアーマードダークネスなんて言う最高レベルの厄ネタをそこに持ち込んだジャッカル軍団は、それが知られた時点で確実にそこに住む連中を敵に回すだろうともセブン21先輩は言っていた。それにジャッカル大魔王がアーマードダークネスを装備して暴れる事の方がそう言う場所に手を出して騒ぎになるリスクを遥かに上回るだろうし、ある程度の情報をリークして住民達には見て見ぬ振りをさせつつ精鋭を早期に突入させるのが一番効率の良い方法だろうからそういう策を取るだろうとの事。

 実に不本意ではあるが俺は大魔王のヘイトを稼いでしまってるし、アイツが使うブラックホールノヴァ(笑)を防げるから突入部隊に選ばれる事になるだろう。俺としても大魔王サマとは決着を付けておきたい所だし頑張る気だが。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月▲日

 

 そういう訳でジャッカル大魔王+アーマードダークネスを倒して来た! ……いやまあ、メチャクチャ大変な一大決戦だったんですがね。漫画にしたら単行本3巻ぐらい使うかもしれないぐらいの激戦でしたよ。

 とりあえずセブン21さんを始めとする宇宙保安庁の中でも管理範囲外の巡回も担当しているベテラン達──余計な騒ぎを起こさない様に変装しつつその地域の話が分かる顔役との繋がりのある面々の意見によって、その伝手を使ってジャッカル大魔王とアーマードダークネスの情報をリークしつつ宇宙警備隊が“本気”で早期に攻撃を仕掛けると通告したのだ。

 ……そうすれば宇宙警備隊を絶対に敵に回したくない──必要悪と許容されている現状を維持したい『顔役達』なら躊躇なくジャッカル軍団を見捨てて不干渉を決め込むとの考えであり、予想通り宇宙警備隊が地域内に進軍しても一切の妨害は入らなかった。

 

 だが、それを察知したジャッカル大魔王がアーマードダークネスの一部を身に付けた上、それを構成していたマイナスエネルギーを自らに取り込んだ状態で出張って来たのだ。ついでに残りのジャッカル軍団も死兵と化して向かって来たのでもう大変。

 ……まあ流石は大魔王と言うべきかヤツは少しばかり持て余し気味だとしてもアーマードダークネスとそのマイナスエネルギーを己のモノとして自身の能力を大幅に強化する事に成功しており、ただでさえ強かったのがちょっと洒落にならないぐらい強化されててヤバかった。具体的には親父含むウルトラ兄弟全員揃って戦って尚不利になるぐらい。

 

 なので止む終えず俺も援護に回って連射までして来たブラックホールノヴァを『銀の鍵』で相殺(エネルギーは改良型ウルトラコンバーターで確保)しつつ、その隙を突いてウルトラ兄弟11人がかりで一斉攻撃する事でどうにか持ち堪える始末だった。

 加えて他の精鋭達は死を覚悟して向かって来るジャッカル軍団を相手にするので手一杯……後で聞いた所によると以前の光の国への襲撃で大敗北した上に前回の強奪作戦で兵力の大半を失ったが故、最早ここで勝たなければジャッカル軍団は終わりだと言えるぐらいに勢力が縮小していたからこその死兵状態だったのだろうとの事。

 

 まあ、それでも今回はこちらが準備万端で攻め入っていた事、そして大魔王がアーマードダークネスの力を完全には制御出来ていなかった事でどうにか犠牲を出さずに戦い続けるぐらいは出来た。まあ全員かなりのダメージを負ったけど。

 それでもどうにかジャッカル軍団の方を精鋭達が倒すまでの時間をウルトラ兄弟は稼ぎ切り、余裕が出来た事で援軍に来れる様になったメロスさんやセブン21先輩などもジャッカル大魔王との戦いに参加した事によって戦況は徐々にこちら側の優位へと傾いていったのだ。

 幸いにもレゾリューム光線の様な光属性特効効果は使って来なかった(鎧が破損していたから?)ので、とにかく常に最低でも十人程度で戦いを挑みつつそれ以外はエネルギーを回復させる感じのローテーションを組んでの持久戦に持ち込む事で少しずつ大魔王に傷を与えていった……俺はエネルギーを供給されてずっと出ずっぱりだっだけどね! 大魔王のブラックホールを安定して相殺出来るのが俺一人しかいないから仕方がなかったんだけど。

 

 最終的には装着されているアーマードダークネスを精鋭達が可能な限り削り、そこにウルトラ兄弟11人が融合した『ウルトラマンメビウス インフィニティーブレイブ』がジャッカル大魔王へと最終決戦を挑む感じになったが。俺も『銀の鍵』による空間切断で大魔王の片手を落としたりと頑張ったぞ、すぐに鎧のマイナスエネルギーによって義手を構築されて殴り飛ばされたが。

 ……だが、そんな考えうる限り最強レベルのスーパーウルトラマンを相手にしても尚ジャッカル大魔王は互角以上に戦ってみせた。おそらく戦闘を経てアーマードダークネスの力を掌握していったと思われ、ただでさえ融合は時間制限があるのに向こうが徐々にパワーアップするので完全に不利な戦況となりちょっともうダメかと思った……その時、突如として宇宙に厳かな鐘の音が響き渡りジャッカル大魔王が纏っていたアーマードダークネスのマイナスエネルギーを浄化したのだ。

 

 その正体は光の国の秘宝たる『ウルトラベル』とそれを持ってきた宇宙警備隊大隊長である『ウルトラの父』だったのだ……後から聞いた所によるとウルトラマンキング(ひいじいちゃん)の助言によりウルトラベルが必要だと聞いた大隊長が、キングの加護があったとは言え一人でセキュリティが可笑しいウルトラタワーに潜って取ってきたらしい。やっぱ大隊長も大概やばいわ。

 ……それはともかく、あらゆる闇を払う奇跡を齎すウルトラベルの力は絶大でありアーマードダークネスのマイナスエネルギーの大半を消滅させてみせた。更に現状のジャッカル大魔王の力をエンペラ星人に匹敵する脅威と思った大隊長は、光の国に伝わるもう一つの秘宝たる聖剣『ウルティメイトブレード』を持ってきており、それをメビウスインフィニティーに渡してジャッカル大魔王との戦いに決着をつける様に言ったのだ。

 

 その後は力が急激に弱まったジャッカル大魔王に対して、メビウスインフィニティーがウルティメイトブレードによる『コスモミラクルスラッシュ』を叩き込んで致命傷を与えた……が、それでもジャッカル大魔王は身につけていたアーマードダークネスを囮として破壊させる事で生き残り、尚も諦めずにメビウスへと組み付いて直接至近距離にブラックホールを発生させて共にその中へと引きずり込もうとしたのだ。

 ……まあ、それを見逃す俺では無いので残されたエネルギーを全て使って『銀の鍵』でブラックホールを閉じ、そうして出来た隙にメビウスインフィニティーは大魔王へと逆に組み付いて『スーパーウルトラダイナマイト』を炸裂させる事でようやくジャッカル大魔王を倒す事が出来たのだ。

 

 うん、今思っても本当にジャッカル大魔王は強かったよ。宇宙警備隊のほぼ総戦力に加えて光の国の秘宝を二つも持ち出してどうにか倒せたんだからな。こっちも無茶したウルトラ兄弟達を始めとしてボロボロだし。

 俺も結構無茶した結果エネルギー切れになったから、しばらくはアンドロメダ支部で休養を取れとのお達し。他の宇宙警備隊員のダメージも甚大なので出来ればしばらくの間は大事件が起こらない様に祈るしかなさそうだ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月▼日

 

 先日の戦いについての追加報告。あの時破壊されたアーマードダークネスの回収は不可能だった……と言うか、ウルトラベルで浄化されたウルティメイトブレードの攻撃の身代わりにされて完全に破壊されて実体を失って霧散したから存在を感知する事も出来ずどうしようもない模様。

 だが、技術局の調べによるとここまでやっても『アーマードダークネス』と言う存在は完全には消滅していないらしい。アレ自体が一種の“概念”みたいな感じになってるから、単なる浄化・破壊・消滅程度ならこの世界にマイナスエネルギーが存在する限り時間を掛ければ修復されるのだとか。

 

 なんかどっかのヤプールみたいだなとも思ったが考えてみればエンペラ軍団にはヤプールもいたし、そもそも概念に近い高位存在なら消滅しても時間をかければ復活するってのはまれにある話だしな。

 ……とは言え、流石にあそこまでやられれば次に復活するのは数千年後ぐらいになるだろうとの見立てだからしばらくは大丈夫だろうが。数千年後にどっかで復活した時はその時にどうにかするしかないだろう。こう言う事になるから下手に破壊せず封印処理が安定なんだよな。

 

 それと流石に俺やウルトラ兄弟辺りはそろそろ働き過ぎ+ダメージを癒す目的で交代に休暇を取る事になった。ジャッカル大魔王も倒されて大戦争の戦後処理もようやくひと段落した(終わったとは言ってない)から余裕が出来たらしい。

 まあ、流石にエンペラ星人からアーマードダークネスからジャッカル大魔王からと働き過ぎだしな。俺は順番的に最初の休暇組だし久しぶりに光の国に戻ってゆっくりするかな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月□日

 

 …………トレギアさんが行方不明になってるって……マ?




あとがき・各種設定解説

ウルトラマンメビウス インフィニティーブレイブ:ウルトラ兄弟11人合体
・メビウスインフィニティーにレオ兄弟・80・ヒカリを融合に追加した超戦士で、見た目はインフィニティーの左手をナイトメビウスブレスにしてメビウスブレイブの様に金の装飾を追加した感じ。
・メビウスインフィニティーを超える戦闘能力に加えて融合しているウルトラ兄弟の技を全て使う事が可能だが、融合補助の力があるナイトブレスの力を最大限に使って無理矢理融合しているので長時間の使用は出来ず負担や反動も大きい。

ジャッカル大魔王+アーマードダークネス:超強い
・見た目はジャッカル大魔王の手足にアーマードダークネスの手甲と足甲が追加されただけだが、その力は十分に取り込めているので戦闘能力は上記のインフィニティーブレイブを上回るレベルで高い。
・ただ、アーマードダークネスの破損状態が酷かったのでレゾリューム光線を始めとする特殊能力は使えず、また力の制御にも難があるので単にジャッカル大魔王の戦闘能力を引き上げるだけになっている。
・ぞれでも元となるジャッカル大魔王(2代目)が非常に強いのでウルトラシリーズのラスボスとして十分過ぎる戦闘能力を誇っており、ウルトラベルやウルティメイトブレードを持ち出してようやく倒す事が出来るレベル。
・尚、死兵達がやられた時点でジャッカル軍団の残存戦力に逃亡の指示を出しており、ジャッカル大魔王との戦いで宇宙警備隊に追撃の余力が無かった事で無事に逃げ出している。

トレギア:知ってた
・実を言うと大戦争中には既に出奔してたが、アーク・タロウ・ヒカリの付き合いのあった全員が大戦争からアーマードダークネスからジャッカル大魔王の一通りの事件のせいで光の国に帰れないレベルの激務だったので気付くのが遅れた。


読了ありがとうございます。
インフィニティーブレイブの元ネタは超闘士激伝・新章のラストでメビウスがウルトラ兄弟全員と融合したメビウスインフィニティー。更にヒカリを追加して豪華にしてみた。


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宇宙警備隊員アークの日記:休暇・捜索

 ○月■日

 

 技術局の人とかに聞き込みをした結果、どうもトレギアさんは例の『ヒカリさんハンターナイトツルギ化事件』以来技術開発局の仕事を休んで自分の家に篭っていたらしい。まあ事情が事情なので職場の同僚達も『今の彼には休養が必要だろう』と休暇を取らせていて、始めの方は定期的にタロウさんや親しかった仕事上の同僚が偶に様子を見に行くなどしていたらしい。

 だが、そのすぐ後にあの第二次ウルトラ大戦争が始まってタロウさんや技術局の職員はそちらに掛り切りになってしまい、その結果としてトレギアさんの事を気にかける余裕もなくなって実質放置状態になっていたそうだ。復帰したヒカリさんも警備隊と技術局の二足の草鞋で超絶ブラック労働だったから、復帰した直後に攻撃した事を謝りに行ってからは会いに行く事は出来なかったとの事。

 それで大戦争が終わり、その後に起こった色々な揉め事を片付いたのでどうにか休暇を取れたタロウさんとヒカリさんがトレギアさんの家に行ったら、そこは既にもぬけの殻だったという話の様だ。

 

 それで丁度休暇だった俺も二人からその話を聞いてトレギアさんの行方を追ったのだが、光の国にある施設の使用情報などを調べてみても彼に関する情報は一切なく、技術局の職員などトレギアさんと付き合いがあった人達への聞き込みをしても一切の情報は得られなかった。

 なのでトレギアさんは既に光の国には居ないと判断した俺達は光の国から出る者の渡航記録も調べたのだが、そちらにも一切情報が無かった……光の国はかなり高度な技術で情報は管理されており、最低でも惑星からの出入りや銀河系からの出入りとかの情報ぐらいは残る筈なのだが、おそらく大戦争中のドサクサに紛れて情報管理系のシステムに干渉して自分の存在を残さない様に出たのではないかとはヒカリさんの弁である。トレギアさんの技量ならそのぐらいは訳ないそうだ。

 ……それはつまり、トレギアさんが誰にも知られない様にしながら光の国を出奔したって事になるんだよなぁ。あの人って色々と思いつめやすい所があったし、何となくだけど光の国のウルトラ族のあり方に疑問を持っていた節があるからヒカリさんの事件がきっかけになったっぽいかな。詳しい事は本人に聞いてみなければ分からないが。

 

 まあ、寿命が超長いウルトラ族が自分探しの旅とか傷心旅行とかで光の国を出る事はままあるので、トレギアさん出奔の報告があってもそんなに騒ぎにはならなかったが。数百年単位で修行の旅に出てる人とかもいるらしいし。

 ……だが、原因になったとすごく気にしているヒカリさんや誰にも言わずに出て行った事を心配したタロウさんは、休暇を利用して可能な限りトレギアさんを探しに行くとの事。そんで俺も付き合う事にした……なんか嫌な予感がするしね。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 △月△日

 

 そうして俺は休暇中の小旅行を兼ねてM78星雲周辺の有人惑星や観光施設やらを回ってトレギアさんの目撃情報を探しているのだが、これまでの所全く手掛かりは無し。少なくとも光の国から出て普通に旅行するルートは一通り当たったんだがなぁ、他の地区を探している二人の方も情報が得られていないみたいだし。

 ……ウルトラ族はこの宇宙でもかなり目立つから目撃情報ぐらいは集まると思ったんだがな。まあ俺らは訓練すれば擬態出来るし、目立つからこそ有人惑星での行動の時にはヒューマノイドタイプに擬態しながらってのが割と一般的だからしょうがないかもしれんが。良くも悪くもウルトラ族は有名で無駄に目立つから擬態はむしろ推奨されてるし。

 

 まあそもそも少し訓練を受けたウルトラ族なら一つの星系を休憩なしで飛び出て、そのまま別の星系に行く事も問題なく可能だしね。疲労やエネルギーも太陽光線に含まれるディファレーター光線があれば問題ないし。移動用のトラベルスフィア(宇宙船)もあるし。

 ……つまり、普通の旅行とかで使われる様な中継施設を無視してどっか行ったって事になるか。トレギアさんは元宇宙警備隊志望という話だし、そもそも科学技術局員は調査目的に光の国の外への出向もあるから普通に宇宙や他惑星での行動訓練とかもやってるからなぁ。これまで何度も日記に書いてきたが広大な宇宙での人探しはクッソ大変であり、しかも自分の痕跡を消してるっぽいから尚更見つけにくい。

 これで今まで捜索してきた連中みたいに何か事件でも起こしてくれれば見つけやすいんだが、どうも隠蔽されてる……って言うか、光の国を出てからは誰とも関わってない感じがするな。直接追われない様にエネルギー波長を隠してる事ぐらい? 正直見つけるのは難しそうだな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◇月▼日

 

 残念だがトレギアさんは見つからずに休暇期間は終わってしまった。元々大戦争での疲れと傷を癒すためのものだったし、俺は宇宙保安庁としてはまだ新人だから色々と覚える事も多いからしばらくは余り休暇は取れないだろうしなぁ。精々五年ぐらいであまり長期的な休暇は取れなかったのだ。

 ……タロウさんやヒカリさんの方でも彼の情報は全く手に入らなかったみたいだし、正直言って宇宙ではそれなりに目立つウルトラ族がここまで時間が経っても何の音沙汰もないとなると本格的に身を隠しているか、或いは宇宙警備隊や銀河連邦の目が一切届かない所にいるっぽいかなぁ。でもこの前みたいな辺境とかなら逆に品行方正なウルトラ族が居れば目立って情報がこっちにも来る筈だし……本当に何処へ行ったのか。

 

 それに二人にもそろそろ現場復帰して欲しいという声が上がってる(特に代えの効かない人員であるヒカリさん)みたいだし、もう向こうが何か行動を起こして情報がこっちまで来るのを待つしかないかなぁ。

 一応、ここまで情報が無いのはおかしいって事で捜索願いは出したけど、推定範囲が宇宙規模だとそう言ったのはあんまり役に立たないからなぁ。だから宇宙警備隊も基本的に事件や怪しいエネルギー反応があった場所に向かうぐらいが限界。

 ……なんとなく報告が出たら取り返しのつかない事になってる気がするけど、そもそも今のトレギアさんの居場所がさっぱり分からないんじゃもうどうしようもないしね。切り替えていこう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◆月○日

 

 そう言うわけで宇宙保安庁の仕事に復帰した俺は早速仕事として広域パトロールを行う事になった。これまでの経験と21先輩の指導から『もう単独で任務を行なっても大丈夫だろう』と上層部に判断されたので一人での任務である。

 ……まあ、仕事のやり方は殆ど覚えたし、後は比較的事件が少ない地域をしばらく(数十年ぐらい)担当して経験を積めば良いだろうとも言われたから頑張ろう。自分で決めた道だししっかりやらないと。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月◀︎日

 

 今日もお仕事は無事完了……本当に平和だな。あの大戦争以降のわちゃわちゃが何だったのかってレベルで。最近は地区をパトロールしたり友好的な各惑星や組織から情報を貰ったり、後はなんか問題がありそうな所を聞きつけたら偶に自分の足で調べるぐらいだからね。

 戦闘に関しても偶に来た救援信号に答えてちょっと戦うぐらいだし。最近戦った中で一番強かった……というか面倒だったのはアボラスとバニラかな。アイツら普通に強い上に体力が凄まじくてめちゃくちゃしぶといし、下手に倒すと毒素を撒き散らすから肉体を跡形もなく焼却するしか無いからな。

 

 幸いその時は二体と交戦経験のあるマンさんとパワードさんがいたお陰でどうにかなったが。二人が全力でのスペシウム光線でアボラスとバニラを爆散させつつ毒素も可能な限り焼き払い、その後に俺が出た残りの毒素を浄化する形で決着した。

 二人曰く長期間封印されているなどして毒素が弱まっているなら光線を調整して毒素毎焼き払う形でも問題なかったが、今回はかなり強い個体だったから自分達だけでは完全に毒素を除去出来なかったので応援を呼んだとの事。まあ毒素浄化するだけの簡単なお仕事だった。

 ……戦闘面では一番キツかったのもこのぐらいで、後はちょっとピンチになってた隊員を救助して敵を倒すぐらいの、浄化作業よりは気を使わなくて済む楽な仕事だった。まあ平和なのは良い事なんだけどな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 α月β日

 

 今日はとある惑星で何やら怪しい動きがあると聞いて調査……してみたらノワール星人の連中が怪獣の密猟をやってた。オラこの惑星は密猟禁止区域だろうがと言ったら『怪獣を捕獲して何が悪い! お前達だって怪獣を殺して回っているだろう! それなら捕獲して資源として有効活用している我々の方がマシの筈だ!』とか言ってきた。

 ……いやあのな、俺が問題視してるのは怪獣を捕獲している事じゃなくて、保護指定区域に無断で入り込んで密猟している事なんだけどな。別に合法的に怪獣捕獲するなら俺も文句は言わんよ? だから論点をずらすな。

 

 ……と、そんな感じの事を懇切丁寧に説明してやったんだが、何故か逆ギレして来て改造怪獣【メカレーター】を二体ほど嗾けて来たので、久しぶりにセブンガーを出してサクッと倒してからノワール星人達を捕縛しておいた。

 まあ、改造されてる所為でプログラム通りに動くしか出来ないから冷静に相手の動きを読めればそこまで苦戦する相手でも無かったな。セブンガーは単純にスペックで上回っていたから普通に倒してくれたし。

 

 その後は捕獲した連中を近場の支部へと移送。どうも色々やらかしてるグループみたいだったから余罪も結構見つかりそうだったとの事……連中の母星であるノワール星は怪獣が多く住んでいる上に資源にも乏しい過酷な環境の惑星だったらしく、その状況で生き残る為に怪獣を改造して重機や兵器として扱う技術が進歩したらしい。

 ……だが、怪獣を安定して狩れて当たり前の様に利用出来て、更に過酷な環境でも生き残れるレベルまで文明が発展すると状況は変わり、改造した怪獣を兵器や重機として他所の星に輸出して代わりに外貨や技術を手に入れる方向性へシフトしていったとの事。そうしてノワール星は銀河連邦に加入して怪獣改造の本場としてかなりの富と栄誉を得て発展していったのだそうだ。

 

 しかし、その貿易を続けた結果歯止めが効かなくなり自星周辺の怪獣を狩り尽くして絶滅させてしまった事から状況は一変、新たに改造怪獣を作る事が出来ず他の惑星から素体である怪獣を輸入するにしても怪獣の生け捕り自体が他の惑星では困難である事から金が非常に掛かり完全な赤字経営になっていったのだとか。

 他所の星の領地に怪獣を取りに行くにも当然使用料や通行料やらが(足元を見てふっかける感じで)掛かるので儲けなどでず、それならと怪獣の養殖に手を出したのだが育成に掛かるコストが高過ぎる上に養殖した怪獣の暴走事件まで起きてしまって計画は頓挫したらしい。

 ……それで彼等の一部はこう思ったみたいだ……『そもそも怪獣なんて害しか齎さ無いんだし、勝手にとっていっても感謝されこそすえ文句を言われる筋合いは無い筈だ』と……。

 

 そんな理由で連中は最近無許可で他惑星の領域に押し入って怪獣の密猟に乗り出しているのだとか……まあ、怪獣に困ってる惑星だからと言って無許可で密猟を行い続ければ当然の如く連中への不信感は増して行くし、それの所為でノワール星との貿易を拒否する所も出始めてるからむしろ状況を悪化させているだけなんだよなぁ。

 それなら銀河連邦未加入の未開の惑星なら良いだろとかで好き勝手やって、連邦未加入の現地の文明に対しての侵略スレスレの恫喝なども行っているから宇宙警備隊でもマークされてるし、その所為で評判が更に落ちて経済も悪化してそれを何とかしようと更に悪どい無茶をする……と言う負のスパイラルになってるらしいと支部の職員が言ってた。

 ……怪獣改造の文化から脱却して別の産業や貿易とかをやっていけば良いんだろうが、数千年以上続けて来た事をいきなり変えるのは難しいらしい。一度上がった生活や文明のレベルってのは中々落とせ無いものだろうからなぁ、そのせいで無謀な行動に出てる節もあるし。

 

 一応、現状を良しとせず改革しようとする穏健派・改革派みたいなのもあるけどその辺りがネックになっているのだとか。今はギリギリ侵略では無いレベルの犯罪しかしてないので個人個人を逮捕するしかしてないが、これ以上問題行動が続くなら銀河連邦を介して本星の方に直接干渉もあり得るらしい。

 互助組織である銀河連邦は基本的に個々の惑星には内政不干渉なのだが、やらかし過ぎた相手には例外も当然ある。まあそこまでやられるレベルだと判断されると『加入惑星』から『要監視惑星』ぐらいまで格下げされるので、仲間じゃなくて保護が必要な一段低いレベルの所だと判断されてこれまでの様な扱いはされ無いらしいが。さてどうなる事やら。




あとがき・各種設定解説

アーク:この話の日記の行間は実は十年ぐらい空いてる所もある
・トレギアに関して嫌な予感はしているが、それはそれとして仕事をしない訳にもいかないしまだ新人だから覚える事も多いしで一旦保留している。
・戦闘面では現在は苦戦した事ないし平和だと思ってるが、普通の新人隊員ならアボラス・バニラ・メカレーターと戦うのは普通に危険度が高い強敵である。
・本人は今までの強敵と比べれば雑に倒せる相手だったし、むしろ調査とか調整とか事務仕事覚える方が難易度高いと思っている。

トレギア:行方不明
・実は既にM78スペースにはおらず別の宇宙に行ってしまっている模様……何故、宇宙を超えられたのかは不明だが、或いは彼の狂気に『邪神達』が呼応して然るべき運命へと導いたのかもしれない(なのでこれ以後は時が来るまで登場しない)
・最終的にはO-50がある宇宙に流れ着いて、そこからは大体『トレギア物語/青い影』と同じ展開に……。


読了ありがとうございました。
トレギアに関しては原作通り。主人公は勘がいいとは言ってもどっかのアブソリューティアンみたいに未来の筋書きが分かる訳ではないので形振り構わず捜索とかはしませんでした。数十年単位で星を開けるウルトラ族も珍しくないので。


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宇宙警備隊員アークの日記:異生獣-ビースト-

 ω月α日

 

 今日も元気に宇宙保安庁のお仕事、だいぶ1人での仕事も様になって来たかな。日記を見返してみても情報収集の為の他組織やフリーの情報屋へのコネが一応出来た事とか、各種調査資料のまとめとかもスムーズに出来る様になった辺りに成長を感じられる。

 

 それはそれとして今日も怪獣に襲われた隊員の救助に行ったんだが、その際に戦った怪獣がアーカイブや警備隊の記録にも載っていない新種の怪獣だったんだよな。頭部が三つあって火炎弾と催眠音波による幻術を駆使してくる厄介な相手ではあった。

 ……まあ、現地の警備隊員を苦戦させていたのは主にウルトラ族すら嵌める幻術によるものであり、俺には『銀の鍵』による空間索敵があるから問題なく見破れたので普通に倒せたが。フィジカルはそこそこだったし火球に関しても連射性は良かったけど威力は腕の一振りで弾ける程度だったからな。

 

 だが、そいつを光線技で爆散させた後に肉片や因子みたいなのが残り、それが『倒した後にも関わらず活性化状態にあった』のには驚いたが。どうも相当に生命力が強い……と言うレベルでは無い気もする厄介な種族だったらしい。

 とりあえず肉片は可能な限り消滅させた上で因子も出来るだけ浄化してみたが、何というか因子自体は『マイナスエネルギー』に近い気配があったんだよな……ぶっちゃけこれは絶対にタチの悪い新種生物だな(確信)

 念の為に一番小さい肉片を確保した上で凍結処理を施して科学技術局に解析を頼んでおいた。ヤバめな新種生物が発見されるのは偶によくある事だし、その手の生物の解析に関してのプロである彼等なら何とかしてくれるだろう。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月○日

 

 件の新種に何となく嫌な感じを受けたので、今日は先日新種が現れた場所周辺を念入りに捜索する事にした。今思うとあの新種はこちらに対する悪意が異常に強かったからな。生物兵器で無機質な超獣とかとはまた違う異常性がありそうだったし、もし繁殖とかしていたら厄介な事になりそうだったからな。

 ……何というか、あの新種は今まで出会ってきた怪獣・超獣とはまた根本的に違う感じがするんだよな。新種の怪獣自体は珍しく無いが、根本的にこの辺りの生態系から外れてるし外来種かな。

 

 この宇宙では星間航行出来る生物は珍しく無いから、一つの惑星に外来種が現れて生態系が乱れるのは割と良くあるし。ウチでも文明監視員とかがメインでその辺りの対象も行なっているが、いかんせん人員が足りないから保護する必要のある惑星か余程ヤバいヤツ以外はそこまで積極的に対応してないし。

 ……そもそも宇宙を移動出来る種類以外にも、大昔に【エンペラ星人】やら【レイブラッド星人】やら【ジュダ】やらが怪獣軍団なんてものを組織する為に全宇宙から強力な怪獣を集めて、更に彼等が倒された後に生き残りの怪獣が色々な惑星に散らばって持ち前の生命力で環境に適応しちゃったりしてるので、この宇宙の生態系は大分分かりにくい事になってるからな。

 

 異なる惑星で同じ種類の怪獣やその近似種がいたりするのはこれが理由なんだよね。正直言って昔の伝説レベルのヤベー連中がどのくらい手を伸ばしていたのかとか、現在の宇宙警備隊でも完全に把握し切れていないレベルだし。

 直近の第二次大戦争ではエンペラ軍団の主力が量産型のロボット軍団だったからそこまで生態系の変動は起こらなかったけど、当然惑星規模で被害が出た所や協力していた勢力の影響もあったので今でも文明監視員が調査資料作りに奔走してるのだとか。

 今回の一件でも『こっちで調査してから資料作っておきますね』って言ったら滅茶苦茶感謝されたしな。やっぱ戦闘よりも資料作りや調査の方が重要なんだなって。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月◇日

 

 調査中に今度はまた別の新種と遭遇して戦闘状態になった。外見は動物で言うネズミの様な感じで鋭く長い爪と牙を持っていて、先日遭遇した三頭型と同じ様にこちらに異様な殺気と悪意を向けて来たから生物的な共通項は殆ど無いが同種、もしくは同族と思って間違いないだろう。

 幸い今回は俺1人だったので味方のフォローの必要とかもなく余裕があったので色々と試してみた。例えばまず凶暴化した怪獣を鎮静させるテレパシー応用の精神干渉とかもやってみた……が、効果は全く無し。それどころか相手の意識が悪意一色である事が分かった。やっぱ只の怪獣じゃねえなコイツ。

 

 次に浄化光線を直接打ち込んでみたが、こっちは精神干渉よりはマシで相手は悶え苦しむ様子を見せたものの倒すまでには行かなかった。多分肉体自体は物理的な生物に近いのかね。連中から漏れ出てる因子はマイナスエネルギーに近いんだが根本的にどこか違うのかね。

 とりあえず一通り試した後に本気の光線によって細胞の一片も残さず跡形もなく消し飛ばして、霧散した因子も出来るだけ浄化したんだが……やっぱりまだ分からない事が多いな。そもそも“この惑星には怪獣の様な大型生物は殆どおらず、小型の動物ぐらいしか生息していない”筈なんだが。ここは技術局の解析結果を期待しつつもう少し調べてみるか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月△日

 

 今日ようやく技術局の方から解析結果が届いたぞ。流石に早いね! ……それによるとコイツらは『特殊な因子』が他の生物に取り憑くことで変異・誕生する謎の生物群だと言う事らしい。通りで見た目や生物的に特性が違うのに同じ性質を持っている訳だ。そもそも別の生物に取り憑いて変異させたんだろうな。

 更に細胞全てからマイナスエネルギーに近い特殊な震動波を発せられていて、種族全体がこの振動波のネットワークで絶えず情報交換を行っているとの事。そして知性体の恐怖の感情そのものを食らって進化する特性も確認されたと言う……これは共存とか出来ない上に放置しておくと不味いやつじゃな? 幸いこの辺りには知的生命体は余りいないし、少ない街とかに見張りを立てておけばなんとかなるか? 

 

 ただ、連中を倒す際に細胞一片まで焼き尽くすのは有効だが、その後に霧散した因子を浄化する事に関しては効果が微妙らしい。一応浄化能力でもある程度因子を消滅させる事は出来るが怪獣を倒した時の量からしても1割程度が限界で、残りは吸収するべき生物の負の感情──マイナスエネルギーが浄化された影響で休眠状態に入っているだけとの事。

 ……うむむ、これは浄化するのは逆効果だったか。不活性状態って事はいずれ活性化するって事でもあるし、未来への禍根を残しただけになった様な気がする……まあ、技術局の方で因子を感知出来る装置を作ってくれると言われたし、この因子は危険性が高いって事で援軍を送ってくれるって話だから出来る限り対応するしかないか。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月▽日

 

 そんな訳で援軍として文明監視員のマックスとゼノンが来てくれた。彼等はこの手の外来種への対応法とかにも詳しいし、戦闘能力に関しても言わずもがなだから凄い頼りになる。

 加えて技術局謹製の因子探知機まで持ってきてくれたし……最近しょっちゅう色々な探知機を作っていたからノウハウが溜まっていたので楽に作れたのだとか。この運用データを使って様々な情報を解析出来る新型汎用探知機の開発も進められているらしいし。

 

 それはともかくとして探知機の助けもあり因子によって変容した現地生物の発見はスムーズに進行した。なんか不定形な感じのヤツが大量に出て来たけど一体一体は弱かったから3人で普通に倒せたしね。合体してデカくなったのもいたけど3人がかりなら敵じゃなかったのでした。

 倒した後に拡散する因子もエネルギーフィールドを作り上げてその内側に閉じ込めて地道に浄化する事で対処出来たので、今後も連中の排除と因子の浄化、そしてこの因子が何処からやって来たのかなどを詳しく調べていく予定。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月▼日

 

 とりあえず探知機に反応がある範囲内にあった因子とそれによって変化した生物の討伐と浄化は無事に完了したぞ! ……幾ら何でも早すぎないかと思われるかもしれないが、ぶっちゃけ出て来た怪獣は犬型・ネズミ型・不定形型の三種三体だけで、後は小型か不活性状態の因子だけだったので割とあっさり討伐が終わったのだ。

 マックスとゼノンの意見では例の因子は何処からかこの地区にやって来たが数は少なかったと思われるとの事。あの因子の繁殖力……と言うか憑依・変異能力からして時間が立っていれば惑星一つ二つぐらいは余裕で効果範囲に収める事が出来ると思われるのが理由の様だ。更に俺が早期に見つけて細胞一片まで焼き尽くすとか浄化などの対処を行ったお陰で異常な繁殖をせずに済んだのだろうとさ。

 

 ……ただ、この謎の因子は一体何処からやって来たのか分からないのが不気味なんだと言うのも二人の意見だった。別の星系からやって来たのならその道中にある惑星も侵食されている筈なのだが、この惑星周辺を念入りに調べてみてもそう言った痕跡は無く平和そのものだったのだ。まるでいきなりこの惑星に因子が現れたかのように。

 まあ、ワープとかテレポートとか異次元から来た侵略者とかは別に珍しくもないから、いきなり因子が発生した事自体は驚く事じゃないんだが……その原因を見つけないと再び同じ事が起きかねないし、あの因子の危険度を考えると早期に対処出来なければどれだけの被害が出るか分からないからな。

 この因子とそれによって生まれた生物はかなりの危険度を持っていると警備隊の方でも判断され、仮称として【スペースビースト】と言う名前をつけた上で俺達により詳細な調査を命じて来た。とにかく原因を見つけ出さないと。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月◉日

 

 あれから調査範囲を広めてこの恒星系周りまで【スペースビースト】の存在は確認出来ず、仮称【ビースト因子】の反応も検出されなかった。どうやらあの惑星にいた連中を倒した事によって大体消去してしまったらしい。

 ……また、この恒星系に『大規模な空間異常』が起きていた痕跡があったので、やはりマックスとゼノンの予想通り因子は銀河連邦の領域範囲外にあった因子の直接転移、或いは異次元か異世界辺りからの来訪者である可能性が高そうだ。

 

 ビースト因子の侵食率から考えて例え辺境であっても存在していれば連邦か警備隊の耳に入らない筈がないので、おそらく異次元や異世界・並行世界関連である線が濃厚だろう。異次元に到っては怪獣墓場や暗黒宇宙など色々あるし、並行世界に関してもマックスやメビウスを始めとしてそこに訪れた警備隊員は何人かいるし、最近では【マルチバース理論】とかで研究も盛んだから十分にありえるんだよね。

 ……さて、問題は異次元やら異世界から来たのはこれまで浄化した少数のビースト因子だけなのかと言う事だ……ぶっちゃけ、ここで起こった空間転移の規模からして僅かな因子が来訪したにしては大き過ぎるんだよな。

 

 単に偶々デカイ空間転移が起きて偶然少数の因子が流れ着いただけなら問題無いんだが、ビースト因子とスペースビーストの危険性を考えると楽観視は出来ないし、これ以上何か厄介なものが流れ着いていないとも限らないのでもう少し調査をするつもりだ。

 ……後は【銀の鍵】を持って空間に関する感覚が鋭い俺の勘なんだが、ここの空間異常にはビースト因子とは“比べ物にならない強大な存在”が関わっている感じがするんだよな。まあ証拠とか詳しい説明をしてくれと言われても困るんだが、大戦争の時に俺の力を見ていた二人は普通に信じてくれたので入念に調査をしていくと言ってくれた。

 二人としても文明監視員としての経験からスペースビーストやビースト因子には相当な脅威を感じていたからスムーズに話は進んだよ……何か大変な事が起こってる気もするから急いで状況を正確に把握したい所だな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月▲日

 

 例の恒星系の隣にある文明圏が無く知的生命体が居らず、逆に巨大怪獣の多くが生息している惑星が複数ある星系で木乃伊化した怪獣の遺体が数多く発見された。どうも何者かに生命エネルギーを奪われたらしい。

 その中には【ブラックキング】や【レッドキング】などの強力な種族もいたのでこれをやった者は相当な力を持っていると考えられた。態々生命エネルギーを奪うなんて回りくどいやり方で強豪怪獣を複数殺害出来るレベルの。

 いきなり現れたビースト因子との関係は不明であるし探知機の反応もなかったが、同時期に起きた異常事件である以上何らかの関係があると考えて調査するべきだろう。生命エネルギーを奪ったって事はそのエネルギーを何かに使おうとしているのだろうし。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月▼日

 

 怪獣のエネルギーを奪う事件を追っていたら【小型の短刀】の様な物を拾った……いや、何故か“これを拾わなければならない”と強く感じ取ってしまったんだが。と言うかいつのまにか地面に落ちていて気付いた時には手にとってたんだが。

 それにコイツには探知機や技術としてのエネルギー探知でも一切反応は無いにも関わらず、俺の“直感”には凄い力が込められてる気がしてるしなぁ。まあ中にあるソレは“悪いモノ”では無い気もするし、一応マックスとゼノンには見せに行くか。




あとがき・各種設定解説

スペースビースト:言うまでもなく【ネクサス】に登場したアレである
・ちなみにM78スペースの平行同位体とかではなく【ネクサス】世界からやって来たヤツで、漂着した場所が知的生命体が殆ど居なかったのでエサ不足で大した事が出来なかった。
・どうにか作った怪獣も直ぐにアークに見つかった所為でサクッと駆除されたので、原作みたいな深夜番組並みのトラウマ展開は起きなかった。
・何故この世界に来たのかとかはまだ不明であるが、少しネタバレをすると『オマケ』で僅かにくっついて来ただけの連中だったり。

【小型の短刀】:何故か時折鼓動の様な反応を示すらしい
・ちなみに『赤と黒のヤツ』じゃなくて『白いヤツ』なので圧倒的にセーフ。


読了ありがとうございました。
今年もボチボチ投稿していくのでよろしくお願いします。感想・評価・誤字報告もいつも通り受け付けます。


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宇宙警備隊員アークの日記:捜索-サーチ-

 ◉月□日

 

 そういう訳で拾った『謎の白い短刀』をマックスとゼノンに見せに行こう……と思ったら、いきなり何故か人間に擬態した状態(地球の時の姿)で遠くに変わった形の遺跡のように見える建造物がある森の中に俺は立ち竦んでいた。

 瞬間移動とか時間操作とかそんなチャチなモノじゃない、もっと恐ろしいモノの片鱗を味わった……訳でもないが。と言うか、一種の精神世界に取り込まれた事は直ぐに察せられた。以前ひいじいちゃんが使ってた幻術に近い気がする。

 

 まあ、手にはやっぱり件の短刀が握られていたし、その短刀がまるで脈動する様に光を放っていたのでこの短刀に由来する『何か』が俺に用があるっぽいと察する事が出来たが。とりあえずあからさまに目立つ遺跡まで行ってみる事にした。

 ……変身して飛んでいければ楽だったんだがどうも精神世界であるせいか人間形態のままでしか行動出来ないし、それなら『銀の鍵』の空間転移で行こうと思ったが使えなかった。俺の感覚だと『銀の鍵』は精神世界の境界にすら干渉出来る(精神世界に招かれたと直ぐに気付いたのはその為)筈なのだが、どうもこの空間を作ったモノに制限されている感じであった。

 

 それでも人間形態で出せる最大速度で移動したので1分も掛からずに遺跡にたどり着いたのだが、その中にはこれまたあからさまに過ぎるぐらい『何かあります』って感じの三角形を石を複数組み合わせた感じのモニュメントが鎮座していた。

 何かの気配を感じるんだがそれが『何か』はこうしてまじかに見た時には分からなかった……というより、今の俺では計り知れないレベルの相手な気もしたので、とりあえず何か起こるだろうと期待して触ってみたのだが……。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

『………………』

「……それで、俺を呼んだのはアンタなのか?」

『…………(コクリ)』

 

 そうしてモニュメントに触れたアークはいつのまにか水の中を思わせる空間の中で、巨大な“銀色の巨人”──ここでは無い宇宙に於いて【ウルトラマンネクサス】と呼ばれている者と向かい合っていた。

 ……尤も、アークはここが『インナースペース』の類いである事は気付いていたし、相手が巨大に見えるのも自分が人間サイズだからで実際にはウルトラ族と同じぐらいの大きさだとは察していたが。

 

「……ところで、貴方は光の国の住人……この世界の『ウルトラマン』でなく、異なる宇宙の『ウルトラマン』という事で間違いないか?」

『…………(コクリ)』

「それで俺を呼んだ理由は?」

『………………』

「……ふむ、別の世界で【暗黒破壊神 ダークザギ】と呼ばれる者と戦った際に空間を破壊するレベルのエネルギーを発生させてしまい、その余波でどちらもこの宇宙に飛ばされてしまった。その際の余波で力を失ったので一時的に身を休める為、短刀型アイテム『エボルトラスター』に自身を封じたと」

 

 ……ちなみに側から見ていいるとネクサスはずっと無言の様に見えるが、実際はアークとテレパシーを使って会話している。

 

『(コクリ)………………』

「……俺をここに呼び寄せたのはそのダークザギの脅威を伝える為だと。ヤツも貴方と同じぐらい消耗しているが、怪獣の生命エネルギーを吸収して急速に回復している……あの木乃伊化した怪獣達はそう言う訳だったのか」

『………………』

「……それで俺達宇宙警備隊にもダークザギの捜索を強力して欲しいって訳ね。……勿論、そんな物騒な相手を放置しておく訳にもいかないから協力するのに異論はないが、休眠状態の貴方はどうするんだ? エネルギーが必要ならこっちで用意するが」

『………………』

「そうしてくれるとありがたい、出来ればダークザギは自分の手で止めたいからねと……だが、俺一人だと必要エネルギー量を賄えないか。とりあえずマックスとゼノンに相談して、警備隊本部にも詳しい情報を上げないとな」

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月■日

 

 そういう訳でネクサス氏から聞いた情報をマックスとゼノン、更に宇宙警備隊本部に伝えた後に、俺達はそのまま調査任務から【ダークザギ】の捜索、及び討伐の任務に移る事となった。二人とも一度は並行世界の地球に行った事があるし、本部の方も親父が対応してくれたからスムーズに報告は出来た。お袋自身が並行世界のウルトラマンだと言う前例があったからな。

 ……まあ、二人に事情を説明する為に少しだけ姿を現したネクサス氏自身が神々しいまでの光エネルギーを纏っていて、その発言(テレパシー)にも嘘や悪意は一切感じ取れなかった事も話がスムーズに進んだ理由ではあるが。少なくとも話に矛盾点とかは無かったし、ダークザギと同じ事──怪獣からのエネルギー吸収だって出来たのに自己保存の為の封印を選んでいたからね。

 

 それでネクサス氏へのエネルギー供給に関してだが、最初は三人掛かりでエネルギーの譲渡しようと思っていたがそれだと俺達のエネルギーが枯渇状態になって任務に支障が出るので、ゼノンの提案で『マックスギャラクシー』に蓄積されたエネルギーを使う事になった。

 マックスギャラクシーは事前に光エネルギーを蓄積しておいて必要に応じて攻撃などに使用するアイテムではあるが、その応用として蓄積したエネルギーを他者に供給する事も可能なのである。マックスも以前エネルギー切れで仮死状態だった時に地球人が光エネルギーをギャラクシーに集めて彼に譲渡した事がある事らしいし。

 

 懸念はマックスギャラクシー自体が光の国のウルトラマン用の装備で、当然中の光エネルギーもディファレーター光線仕様だった事だが、ネクサス氏曰く『このエネルギーであれば自分を回復させるのに支障はない』と言う事なので問題無くギャラクシー内の全エネルギーを吸収して実体化出来るまで回復していた。

 その代わりにマックスギャラクシーのエネルギーが空になったので暫くは使えなくなったが……ぱっと見の雰囲気的にウルトラ兄弟並みの実力がありそうなネクサス氏が仲間に加わったんだから戦力的にはむしろプラスだよね。何でもダークザギやそれに付いてきたらしいスペースビーストの反応も追えるみたいだしな。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月▷日

 

 そんな感じでネクサスさんと一緒にダークザギの捜索を行っていたのだが、その途中でスペースビーストの反応を察知したとネクサス氏が言うので向かってみると、そこでは他の怪獣達を襲う【レッドキング】や【ブラックキング】……の面影がある異形の怪獣達がいたのだ。

 そいつらの見た目は元となった怪獣をグロテスクにリデザインした感じで、他の通常の怪獣を次々と襲ってはその生命エネルギーを吸収している様だった。更に吸収し終えた怪獣にビースト因子を注ぎ込む事で同類である異形の怪獣へと変異させる事すらしていたのだ。

 

 ネクサス氏曰く『おそらくダークザギが生命エネルギーを吸収し終えた怪獣の遺骸に培養したビースト因子を植え付けて復活させ自身の配下として使役しているのだろう。ヤツはビースト因子とスペースビーストを操る能力があるからな』との事。ちなみにビースト因子はおそらくネクサス氏とダークザギの次元移動に巻き込まれてこっちに来たものだろうと。

 ……とにかく、あのビースト怪獣(仮称)を放置しておく訳には行かないと俺達は戦いを挑んだのだが……まあ、正直言って戦闘能力は大した事は無かった。木乃伊化した怪獣をビースト因子と寄生させて無理矢理動かしているから当然だろうが。

 

 ただ、改造されたと言う意味では超獣とかに近い感じなのかどれだけダメージを与えても行動を続けるので、活動を停止させるには完全に破壊せねばならず、更にビースト因子の拡散にも気をつけなければならないので思ったよりも苦戦した。

 ……幸い対スペースビースト戦に慣れているネクサス氏が戦闘形態に変身した後に不連続時空間──メタフィールドの形成によるビースト怪獣の隔離とビースト因子の封じ込めを行ってくれたり、相手を分子分解する光線で因子の拡散を最小限に抑えてくれたお陰でどうにか2次被害を起こさずに撃破出来た。

 

 ただ、不連続時空間の形成は自身の肉体の構成物質や生命エネルギーなどを大きく消費する超高等技術(それ故に光の国でも使い手は数える程、俺も『銀の鍵』無しではまだ使えない)であり、そこはネクサス氏も同じなのか戦闘終了後にはかなり疲労していた。まあ俺やマックスがエネルギーを供給する事である程度カバー出来たが連戦は厳しい感じだ。

 ……加えて完全に消滅させられずに死体が残ってしまったビースト怪獣は突然虚空に現れた闇の異空間に生命エネルギーと因子を吸い取られたのだ。ネクサス氏曰く『自分のメタフィールドに干渉出来る以上、アレはダークザギのダークフィールドで間違いないだろう』との事だ。

 おそらく向こうの目的はビースト怪獣に生命エネルギーを徴収させて、それを回収する事で効率的に自身の損耗を回復させる事だろうと言うのが俺達の考えだ。元手も木乃伊化した怪獣とビースト因子だけだし、スペースビーストの特徴として生命体の負の感情で成長するから適当に暴れさせてから回収するだけでも収入はプラスになるだろうからな。ネクサス氏の足止めにもなるし。

 

 とりあえずこのまま放置しておくと向こうの思う壺なので光の国本部に連絡を取ってウルトラ兄弟クラスの精鋭部隊の派遣を要請する事にした。多分ビースト怪獣の用途を考えると他のも複数ばら撒かれている可能性が高いので、俺達だけでは手が足りないだろう。

 それにビースト怪獣を放置すれば被害が広がる上にダークザギの力も増すし、ダークザギの方も捜索を続けないといけないからな。とにかくこの一件には援軍が必要だと熱弁しておいたから何とかなると思いたい。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ◉月◀︎日

 

 予想通りここら辺の星系各地にビースト怪獣が出現していた。幸い連中の好物である知的生命体が住む文明惑星の数はここらには多く無く、その各地にも援軍として呼ばれた宇宙警備隊が守りに付いているので被害は最小限に抑えられているが。

 それで送り込まれたビースト怪獣に対しては援軍に来てくれたウルトラ兄弟──親父・マンさん・セブンさん・ジャックさん・エースさん・タロウ教官の六名がそれぞれ手分けして撃破に動いている。

 

 なのでビースト怪獣の相手は6兄弟に任せ、俺達はダークザギの発見と撃破を優先する事となった。ダークザギの気配を追えるのは今の所ネクサス氏だけだからこういう配置になるのも当然だが。

 ……まあ、ネクサス氏によれば向こうも隠れながらビースト怪獣をばら撒いて自身を回復させようとしているので捜索は難航しそうだが。とりあえずビースト怪獣を生むにしても“材料”となる怪獣を殺さねばならない筈だからその痕跡を追ったり、回収時に空間を歪めた際に発せられる相手のエネルギーからネクサス氏に探知して貰うなどで情報を集め、それらを統合して相手の位置を割り出すつもりだ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月○日

 

 ビースト怪獣による襲撃は更にエスカレートしていた。最近では銀河連邦加盟の有人惑星にまでその魔手が届くようになり、このままではまずいと宇宙警備隊からはメビウスを始めとする更なる増援が派遣される事となった。

 ……何分ビースト怪獣はしっかりと始末しないとビースト因子を撒き散らすか件のダークフィールドによってダークザギに回収されてエネルギーになってしまうからな。あまり強くないビースト怪獣とは言え跡形も無く消滅させて因子の拡散を防ぐには精鋭隊員レベルの腕が必要だからなぁ。

 

 まあ、ダークザギが倒されたビースト怪獣から拡散した因子ごと回収してしまう所為で、逆にビースト因子の拡散が起きていなかったりするんだが。その分向こうの力の回復も早まるから良い事ばかりではないけどね。

 どうもダークザギの方もネクサス氏の気配とかを探知してるっぽく、追跡をさせない為なのか強めのビースト怪獣を何度か嗾けて来たし。今日は多分【ベムラー】をベースに身体中に様々な怪獣の攻撃器官を融合させた合成怪獣っぽいヤツだったな。市街地を襲いに行ったから戦わない訳には行かなかった。

 

 とりあえずネクサス氏のメタフィールドで取り囲んで市街地に被害が出ない様にしつつ、ウルトラマンが強化されるっぽいフィールドの効果もあって四人がかりでボコボコにしてどうにか倒したが。

 ……ただ、流石に跡形も無く消滅させる余裕は無かったので結構なビースト因子とエネルギーを回収されてしまったが。こっちはネクサス氏が消耗しているし、面倒な事にならなければ良いのだが……。




あとがき・各種設定解説

ウルトラマンネクサス:パーティー加入
・今回のエボルトラスターは変身アイテムでは無く休眠状態の器として使用していた形で、エネルギーの譲渡により不完全な状態だが活動可能になったのでネクサスの姿。
・近場にスパルタカウンセリングが必要な知的生命体もおらず、アークと出会った事でエネルギー供給の目処も立った上、ダークザギに対処したら直ぐに素の宇宙へと戻るつもりなので今回は適能者無し。
・光の国製のエネルギーでも十分に回復可能だが、本来は『ヒトの心の光』とかがエネルギーだったりするので『本当の姿』にはなれない模様。

ビースト怪獣:深夜31時半的なリデザインされた昭和ウルトラ怪獣
・分類としては人間の死体に取り憑いて操る【ビーストヒューマン】の同類であり、ビースト因子による強化により木乃伊化した怪獣ベースなのに元の怪獣よりやや弱い程度のスペックとなっている。
・基本的に他の怪獣を襲って生命エネルギーを奪うか知的生命体がいる場所を襲って恐怖を煽って精神エネルギーを徴収するかが行動パターンで、一定以上溜まったか倒されたかするとダークザギに回収される仕組み。
・ダークザギにはエネルギー回収要員やネクサスの追跡を誤魔化す囮と時間稼ぎとして使われており、とにかくネクサスより先に力を取り戻せば他の有象無象はどうにでもなると考えて嫌がらせしている。


読了ありがとうございました。
最後に出てきた合成怪獣の元ネタは【イズマエル】で、それを昭和ウルトラ怪獣で再構成した【イズマエル・ジアザー】って言う裏設定があったり。


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宇宙警備隊員アークの日記:守護神-ノア-

 □月◉日

 

 ビースト怪獣の進撃は止まる事を知らない。最近では複数の星系に渡ってビースト怪獣の姿が現れており、それによって文明惑星にも被害が出る程であった。これを受けて宇宙警備隊も非常事態と判断して戦力を更に増強、それと共にこの事件の元凶であると目される【暗黒破壊神 ダークザギ】の捜索にも更なる増員をかける事となっていた。

 ネクサス氏曰く、このペースでビースト怪獣達が生命エネルギーや知的生命体の精神エネルギーを集めるのなら、ザギが本来の力を取り戻すのもそう遠くはないだろうとの事。その『ダークザギの本来の力』って言うのがどのくらいなのかよく分からないんだが、本来の力が殆ど戻っていないらしいのにウルトラ兄弟レベルの実力があるネクサス氏がここまで警戒すると言う事は相当にヤバい相手なんだろう。

 ……と言うか、ビースト怪獣をここまで生産しまくってバラ撒ける事だけでも十分にとんでもない相手だしな。殺された怪獣達の数とこのビースト怪獣の数からして、おそらく回収した怪獣のエネルギーからビースト怪獣を再生産してるんだろうが……。

 

 とにかく急いでダークザギを見つけ出さないといけないんだが、ネクサス氏の探知によると向こうはビースト怪獣に自身と同じエネルギー波長を出すように改造したダミーを複数作り上げると共に様々な場所にばら撒いて囮とし、その上で自身も可能な限り気配を消しながら移動して補足されない様にしているのだとか。

 ……本当にダークザギってヤツは戦い方が面倒くさいな! 確かにその方が効率的だけどさ! これまでの【ボガール】とか【エンペラ星人】とか【ジャッカル大魔王】とかは強大な力を遠慮無く振るう感じで対応する事自体は簡単だったんだが、コイツはとにかく裏で糸を引くタイプっぽいのかね。

 

 それでも力を取り戻す為に焦っているのか、ビースト怪獣からのエネルギー回収に空間操作を使いまくってるお陰で逆探知が出来ているんだがな。空間転移系は空間に痕跡が残りやすいし、それを探知する技術はワープした犯罪者を追跡する事もしょっちゅうな宇宙警備隊の十八番でもある。

 更に捜索の効率を上げるべく『銀の鍵』のお陰で空間把握に優れている俺はマックス・ゼノン・ネクサス氏と別々に分かれてダークザギを追う事となった。幸い援軍としてジャックさんとエースさんが来て俺と合流してくれたから戦力面でもなんとかなるだろう。親父・マンさん・セブンさんの三人も元凶の捜索に向かったらしいし、これでダークザギが見つかると良いんだが。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 □月▽日

 

 とりあえず近場のビースト怪獣をワザと死体を残る様に倒してダークフィールドにエネルギーを回収させる、そうしたら『銀の鍵』の力を使って敵の空間操作を逆探知して位置を割り出す、そしたらウルトラサインで報告しつつ全力でその場へと向かう……と言うのが捜索の基本なんだが、それで見つかるならとっくに捕まってるんだよな。

 そもそも用心深いダークザギは一度逆探知されたら直ぐに場所を移動する事を徹底してるから到着した所は既にもぬけの殻だったり、妨害に放たれたビースト怪獣が邪魔だったりで中々捕まえられないのだ。他の捜索組でも似た様なもの状況らしいし。

 

 加えて空間転移が逆探知されていると分かると普通の移動などを併用して後を追い難くするみたいな小技も使って来るし……本当に用心深いな。実力あるのにそう言う事も厭わない相手がここまで厄介だとはね。

 ……こうなればやむ終えないか。向こうの実力が未知数過ぎて自重していたが、ダークフィールドに『銀の鍵』の最大出力をもって干渉して向こう側にいるダークザギを無理矢理引っ張りだすか。正直言ってかなりの賭けになるが仕方がない。

 

 まあ、流石にリスクの高すぎる賭けだし、多分今の俺だと『銀の鍵』を全力使用した後は疲労とエネルギー切れでまともに動けなくなるだろうからな。引っ張りだしたダークザギ対策に他の捜索組を全員合流させた上で迎え撃つ布陣を整える必要があるだろう。

 ……まあ失敗しても俺が動けなくなるだけだし、最悪空間越しに向こうにダメージを与えるぐらいは出来るだろうから無駄にはならないだろう。多分。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ■月◉日

 

 あーようやくクリニックから退院出来た、全くダークザギは強敵だったぜ。俺も『銀の鍵』の全力使用で入院コースだったし他のウルトラ兄弟達も負傷して休養を取らざるを得なかったからな。

 しばらくは治療で日記を書く余裕も無かったからな……え? 話が飛び過ぎ? ……なんか変な電波が来たが、まあこれまでの事を日記にまとめておくのも悪くは無いかね。

 

 ……俺の考えた『銀の鍵』によるダークザギ一本釣り作戦が決まった後、親父含むウルトラ六兄弟にマックスとゼノン、そしてネクサス氏が合流して作戦を決行する事になった。こんな事もあろうかとと親父がウルトラコンバーターver.8(大戦争時に壊れた物を改良したヤツ)を持ってきてくれたし準備は万端である。

 それでとりあえずまずは俺が一人でビースト怪獣を倒して──待ち構えていると向こうが警戒するかもしれないから、他のメンバーはやや離れた所で待機して俺が『銀の鍵』を使ったら急行する作戦──その後は放置してダークフィールドを開かせる。おそらくビースト怪獣は倒された時点でダークフィールドを僅かに開いて回収の為の道しるべを作る仕様だと考えられるが念の為だ。

 

 そうして狙い通りダークフィールドによる空間ゲートが開いたので、俺は『銀の鍵』を呼び出してその力を持ってダークフィールドとそれを操っているダークザギへ直接干渉しようと試みた……が、やはりと言うかダークザギの力は凄まじく『銀の鍵』の力すらも退けかねないぐらいの抵抗に遭って、危うく空間への干渉を無理矢理閉ざされそうになった。

 ……なので俺は一か八か後先考えずにコンバーター含むほぼ全エネルギーを『銀の鍵』にぶち込んで無理矢理ダークフィールドのゲートに干渉、強制的に拡大して向こう側の空間をこちら側の空間と繋いでみた。二点間の空間を歪めて相手の空間周辺一帯丸ごとこちらに引きずり込む狙いだ。ネクサス氏のメタフィールドを見て特殊空間の形成法は理解したし、そのちょっとした応用ってヤツよ。

 

 まあ、その余波で空間にヒビが入ったり色々と歪んだりしたが、どうにかダークフィールドの向こう側に居たダークザギ諸共あちらの空間をこちらに引っ張る事には成功した。ついでに空間が歪みまくってるお陰で空間転移や向こうに有利な力場を作るダークフィールドなども展開出来ないおまけ付きだ。

 ……それで引っ張りだしたダークザギは最初赤黒い光る球体だったが『エネルギーは万全では無いがやむを得ん』とか言ってウルトラマンによく似た赤と黒の色合いをした暗黒の巨人へと変身して、いきなり『どうやら貴様は危険な相手の様だ』とか言いながら超重力の光線を放って来やがったのだ。

 

 それに対して俺はエネルギー切れと『銀の鍵』の過剰行使による負担によって動けなかったが、咄嗟に親父とネクサス氏がバリアを張って防いでくれたので難を逃れた。その後に残りのウルトラ兄弟達とマックス・ゼノンの援軍も駆けつけてくれたので、俺は最低限のエネルギーを親父から渡された後に戦場を離脱する事にした。

 ……まあ、ちょっと空間が歪み過ぎてた所為であんまり離れる事が出来なかったんだが。実は『銀の鍵』の力をちょっと使って空間を維持していたらしく、俺が離脱すると空間の崩壊が進みかねなかったからな。

 

 そんな感じでダークザギとの戦闘が始まったのだが、その戦闘能力はウルトラ兄弟と文明監視員の中でもトップクラスの戦闘能力を持つマックスとゼノン、そして未だに計り知れない力を持つネクサス氏が同時に攻め立てても押し切れず、むしろダークザギの方が有利に戦いを進められる程だったのだ。

 実際、エースさんのメタリウム光線とセブンさんのワイドショットを受けても両手のガードだけで耐えて、マックスとゼノンの連携攻撃も格闘だけで対処し、軽く放たれた光線だけでマンさんとジャックさんを吹き飛ばすなどやりたい放題だった。どうにか親父を中心にタロウさんやネクサス氏も協力してやりあっている感じであった。

 

 俺も援護したかったがエネルギー切れに加えて、戦闘の余波で空間の歪みがちょっとヤバかったから崩壊しない様に調整する必要があったので手は出せなず、邪魔にならない所で待機しつつ様子を見る事しか出来なかった。一応援軍の要請もしたんだが、後で聞いた話によるとダークザギが放逐しまくったビースト怪獣の対処で遅れていたらしい。

 ……まあそれでも歴戦のウルトラ兄弟とダークザギとの戦いに慣れているネクサス氏はスペックの差にも怯まず果敢に戦いを挑んで行き、戦局をどうにか五分ぐらいにまで持ち込んでいた。セブンさんとマックスのダブルスラッガー攻撃とか、ネクサス氏とマンさんの合体光線とか、その隙にエースさんにエネルギーを集めてのスペースQとかが飛び交う傍目から見ても凄まじい戦場だったな。

 

 だが、それだけの攻撃を食らっても尚ダークザギは健在であり、エネルギーの消耗で動きが鈍ってきたウルトラ兄弟達に向かって凄まじい威力の光線を放って一気に仕留めようとした……が、間一髪の所で割り込んだネクサス氏がバリアを張って防いでくれた。

 しかし、ダークザギの光線の威力は余りにも高過ぎて危うくバリアが割られそうになり、それを防ぐ為にウルトラ兄弟とマックス・ゼノンがネクサス氏に追加のエネルギーを送ってバリアを強化した……その時にネクサス氏の身体が黄金に光輝きダークザギの光線を打ち払ったのだ。

 

 ……光が収まった後、ネクサス氏の姿は全身銀色であり胸部には赤いラインの様な器官を持ち、背には一対の銀翼を備えたこれまでとは桁違いの圧倒的な力を感じさせる神秘的な巨人──彼の本来の姿である伝説の超人【ウルトラマンノア】へと変じていたのだ。

 それを見たダークザギが『ノ゛ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』とか言いながら襲い掛かってきたが、それまでのネクサスの時と違って単騎で互角の勝負を演じる程の力を見せた。その戦いぶりは文字通り凄まじい力同士のぶつかり合いであり、ウルトラ兄弟達も譲渡により残りエネルギーが少なかった事もあって手出し出来ない程だった。

 

 だが、戦いを続けていく内にノアの身体は徐々に薄まっていったのだ……おそらくウルトラ兄弟達から得たエネルギーだけでは完全に本来の力を取り戻す事が出来なかったのだろう。

 それを見たダークザギはチャンスと攻め立てたが。それに対してノアは最後の手段としてダークザギに組みつきそのまま歪んでいた周囲の空間に強制干渉する事で、自分諸共ダークザギをこの宇宙から追放しようとしたのだ。慌ててダークザギは阻止しようとしたが、そもそも俺の所為で空間は歪みに歪んでいたのであっさりと砕け散り、ノアとザギの二人はそれによって生じた虚空の中に消えていった……。

 

 まあ、その後急激に広がり続ける空間の歪みに危うく俺とウルトラ兄弟達が飲み込まれそうになったので、宇宙の外側に消えたノア(ネクサス氏)を偲ぶ暇もなく全力で離脱したのだが。俺ももう『銀の鍵』を使えるエネルギーが残ってなかったので危うく飲み込まれる所だったのだが、そこにいきなり現れたウルトラマンキング(ひいじいちゃん)が空間崩壊を修復してくれたので事なきを得た。

 後で聞いた所によるとノアとザギは彼等が元いた宇宙へ戻ったらしい。何でもノアとキングは“互いに面識はないがお互いの存在は知っている”ぐらいの関係で、それ故に今回もフォローしてくれたとか(後、俺の所為で空間崩壊から邪神が出て来る可能性もあったからとも)……キングもノアも完全に『超越者』の類だからその視点は俺程度では理解出来ないのかもね。

 ……もしネクサス氏とまた会う機会があれば、その時に改めて礼を言いたいものだ。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 σ月δ日

 

 最近親父が宇宙警備隊のPR動画の宣伝の仕事を行なっているらしい。主にウルトラ兄弟の活躍が放送されてる会員登録製の動画サイト的なヤツだとか。……しかし、宣伝内容が簡潔すぎやしないか? 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 ○月○日

 

 最近メビウスがやけに調子が悪そうだった……まあ、理由に関しては大体予想がつくがな。地球近辺に行った任務の帰りからあの調子な事とヒカリさんの証言から。

 ……何せエンペラ星人が引き起こした第二次ウルトラ大戦争からもう百年は経ってるからな。地球人とウルトラ族の寿命と時間感覚のズレとかに直面してるんだろう。生きる長さが違う以上『死別』というのは避けられんものだから。




あとがき・各種設定解説

アーク:百年経って一端の宇宙警備隊員に
・宇宙保安庁としての仕事もキッチリとしているし救援に現れれば無双するしで警備隊内での評価はかなり高く、大事件でもソツなく活躍しているので人気もそこそこ。
・当初は宇宙警備隊隊長の息子と色眼鏡で見られていた部分もあったが、最近では本人を評価する声が増えてきたりしてる…のだが、本人はそういった話を余り気にせずにマイペースで仕事を続けている。

ウルトラマンノア:この後は原作【ウルトラマンネクサス】に続く
・ダークザギと互角だったのはウルトラ兄弟達だけのエネルギーでは完全な姿になる事が出来なかったからで、それでもダークザギをこの宇宙から追放する為に無理を押して本来の姿に戻った所為。
・空間跳躍後にはやはりエネルギーを失って弱体化し、その際の余波でダークザギを見失ってしまったので再び捜索とスペースビーストへの対応を行って、やがてあるビーストを追ってとある星へと訪れる事に……。

ダークザギ:実はエネルギー不足はこっちも
・まあ、ノアよりもマシだったのでウルトラ兄弟達相手に無双するだけの戦闘能力は持っていたが、その戦闘でもそれなりのダメージを負った事と空間跳躍の余波で元の宇宙に戻ってからは弱体化。
・その後は今回の経験を元により慎重に潜伏しつつノアの力を奪って復活する策を練って、その為にとある星の知的生命体の肉体の乗っ取りつつビーストを囮のノアをその星に誘き寄せる事に……。


読了ありがとうございました。
これで間章は終わりになります。次からは予告していた新章に入れればいいなと思っているので気長にお待ち下さい。


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