転生したのに死ぬ前提?最高だね(`・ω・´) (吉田)
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第零章 Prologue to story
第一話:転生


テキトーに書き始めた小説です
たぶんgdgdかな?
まぁ、お手柔らかにお願いしまふ

あちこち訂正(10/8)


保存日時:2014年10月08日(水) 01:38

 

視界がゆっくりと黒に染まっていく。

全身に鈍い痛みが広がり、体内に巡っているはずの血液という血液が抜けていっている気がした。

 

「......かはっ」

 

そこに、更に追い打ちをかけるかのように血が込み上げ、堪え切れずに吐き出す。

誰かが必死に呼びかけてくれるが、ほとんど聞き取れないほどダメージが酷かった。

 

(ホント、ついてねぇよなぁ......)

 

念願だったラノベの最新巻がようやく入荷したと聞き、急いでアニ◯イトに行ったその帰りに突っ込んできた暴走車と衝突して......この有様だ。

おまけに本は売り切れで買えなかったし。

こうなった原因を恨むんだとしたら、それは確実に自分の運の無さを恨むべきだ。

とある科学の超電磁砲(いや、とある魔術の禁書目録か?)に出てくる上条当麻並みに運が無かったと言ってもいい。

......まぁ上条さんみたいな幻想殺しを宿してる右手なんかないけど。

よってこの運の無さも全部自分の不注意から来たものだけど......それにしても運が無さ過ぎた。

まさかこんなにも早く、呆気なく人生を終えるなんて......。

せめて運が無いなりにも、もう少し良い死に方したかった......。

このまんま意識が無くなって、次に目を覚ましたら一面真っ白な世界とかないかなぁ、なんて期待してみるがそんなご都合主義があるはずもなく、ついには意識まで薄れてきた。

 

父さん、母さん、親不孝者でごめんな?

もし次に生まれ変われたら絶対に迷惑とか心配とかかけたりしないから。

 

脳裏に自分の今までやってきたことが走馬灯のように駆け巡り、申し訳なさのあまりに涙が零れる。

 

嫌だ、死にたくない。

 

そんな気持ちが、今更になって自分の心を支配したがなにもかもがもう遅すぎた。

 

「......死にたく、ないなぁ......」

 

呟いた言葉は声にはならず、そうして俺の意識は途絶えた。

 

 

ズキンッと全身が痛み、俺は意識を取り戻す。

 

「うぁ......」

 

あまりの痛みについ呻き声を漏らしつつ、辺りを見回して状況把握に努めると信じられない物が目に映った。

 

「ーーおいおい、勘弁してくれよ......」

 

一面真っ白な世界。

 

インテリア?なにそれ美味しいの?と言ってもおかしくないような、なんにもない世界に俺は絶句した。

 

「俺のいた世界ってアニメか小説の世界だったのかよ......?」

 

「ーーそんなにここが嫌なら今すぐ判決下してそれ相応のルートに送ってやろうか?」

 

そんな意地悪そうな声が背後から聞こえ、加えてため息が零れる。

......なんかもう、ここまで来ると登場人物が誰かわかって仕方ない。

それでも一応振り向いてみると、そこには意外なことに好青年が意地悪そうな笑みを浮かべて立っていた。

普通『神様』って言ったら白髪の爺さんが筋じゃねーのかよ。

 

「いや、それだけは勘弁してください」

 

「あ、嫌なんだ」

 

神はクスクスと楽しそうに笑い、俺という人間を値踏みするかのように眺める。

 

「そりゃねーーでも俺、大していいこともしてねーし、むしろ悪いことしかしてねーからどうせ地獄送りだろ?」

 

わかってるよ、という感じで俺は神に判断を仰ぐ。

すると神は俺の言葉に驚いたのか、ぽかんとして俺を見つめる。

 

「な、なんだよ......」

 

紅い瞳でじっと見つめられ、思わず怯みがちになると神は糸が切れたかのようにケタケタと笑い始めた。

 

「クックック......久しぶりに面白い奴と会えたわ......まさかまだ決まってないかもしれないのに、自分から地獄送りを望むなんて......ホントおもしれーよ」

 

「......は?」

 

神の感想に、俺は自分の耳を疑う。

 

「いやいや、なんでそーなるんですか? 俺まだ地獄行きがいいですとか一言も言ってないですけど」

 

「嘘付つくなよ、今目の前で言ったじゃないか」

 

「自分の予想があってるかどうかを確かめてなにが悪いんですか」

 

「え? んー......あー......対象に勘違いさせること?」

 

いや、そこ真面目に考えないで下さいよ......。

 

「......(はぁ」

 

「ちょっ、黙るのやめようや」

 

呆れて物が言えない俺に、神は慌てる。

ホントにコイツ神様なのかよと疑いたくなるが、そう思う俺はなにも悪くないよな?

 

「......すんません」

 

「ん?」

 

「俺って結局どっち送りなんですか」

 

完全に逸れていた話を元に戻し、俺は神の目を見つめる。

 

「あー、そういや仕事しに来たんだったな......久しぶりに返しが面白かったから、つい話耽っちまった」

 

「仕事?」

 

ふと気になり、オウム返しに聞いてしまう。

こんなこと聞いたら話が進まねぇのに......俺のバカ......。

 

「輪廻って言葉は聞いたことあるか?」

 

とはいえ、聞いちゃったもんは仕方ないから大人しく教えてもらう。

 

「あれですよね? 魂がぐるぐる回るってやつ」

 

「そうそう。んで、死んだ奴らは必ず魂だけとなってここに来るから、俺はそいつらの生前を見てまた下界へと魂を返すことしてんだ。お前らの言う転生、ってやつだ。だから、精密にはどっち送りとかないんだが下界に帰るまでの道がヤバイかラクかのどっちかってわけだな」

 

「へぇ......なんか、面倒臭そう」

 

「おう、面倒臭ぇぞ。さすがに災害なんかは仕方ねぇが、それ以外のところで意味もなく殺し合ったりするのはホント勘弁して欲しいぜ。仕事がどんどん増えてたまったもんじゃない」

 

「あはは......」

 

神様がこんなこと言っていいのか......なんて思いながら愚痴にも似たような告白に俺は苦笑いを浮かべる。

と、神は自分で気が付いたのか頭を振り、話を戻した。

 

「おっと、いかんいかん。また話が逸れた......んじゃま、判決を下そうか」

 

そう言った神の手にはどこから取り出したのか、知らないうちにバインダーが握られていた。

 

「どれどれ......ーーん? 自己申告までしてきた割にはそう大して悪いことしてねーじゃねーかよ」

 

バインダーに挟まれている幾らかの紙をペラペラとめくりながら、驚いたように声を上げる。

 

「でもまぁどっちかっていや悪行のほうが勝ってるみたいだから地獄ルートからは逃れられねーだろうな......あともう少し努力してりゃあ天国もありだったのに」

 

「おうふ......マジかよ......」

 

結局地獄行きだったのは変わらなかったけど、なんとなく地獄で下される刑罰は軽いような気がした。

......あぁ、地獄とか天国とかないんだっけ?

ややこしいなぁ......。

 

「とは言え、このくらいの罪なら転生してから償うって道もないこともないーーっとまぁ真面目にやったらこんな感じだ。なにか異論はあるか?」

 

「......はぃ?」

 

神の問いに、俺はなにも言えなくなる。

異論なんてそれこそいっぱいあったが、驚き過ぎて逆になにも浮かんでこなかった。

 

「......おーい......?」

 

あんぐりとした俺のことが不安になったのか、神が呼びかけてくる。

 

「......っは」

 

その呼び掛けに俺は正気を取り戻し、頭をブンブンと振る。

 

「立ったまんま意識失うとか奇妙なマネすんなこら」

 

「あ、すんません」

 

なんか、この人と良いお笑いコンビが作れそうな気がしてきた。

 

「で、話を戻すぞ......?」

 

「ハイ、オネガイシマス」

 

「さっきも言った通りお前の場合大した罪じゃないから、転生してから善行を積んでプラマイゼロにすることもできるし、先にちゃんとしたルートで更生してから転生することもできる。つまりお前には今二つの選択肢が与えられてるわけだ」

 

「あ、結局転生するんだ」

 

その言葉にようやく俺の中で納得がいく。

対して神のほうは失態という表情を浮かべていた。

 

「そういえば正式な転生方法を言ってなかったな......」

 

「それ確実にアンタにも非があるよね?!」

 

思わず大声で突っ込んでしまうと、神は誤魔化すかのようにんんっと咳払いをする。

 

「とにかくだ! 月影竜。お前は前者と後者、どちらを選択するんだ?」

 

神に選択を迫られ、俺はなにも考えずに即断即決した。

 

「もちろん前者がイイっす。後者とか冗談」

 

「じゃ、後者な」

 

「はぁ?!」

 

やけに意地悪そうな笑みを浮かべながら言った神に、俺は全力で首を振った。

 

「なんでそうなるんだよ?!」

 

「え? こういうのってお決まりじゃねーの?」

 

「人の未来が掛かってんのにそんな感情で決めてんじゃねぇよ! お前ホントに神様なのかよ?! ーーあ」

 

「ム......俺もう怒っちゃったもんねー」

 

時、すでに遅し。

 

「どこぞのアニメキャラじゃゴルァ! じゃなくてすみませんでしたー!!」

 

バッと飛び上がって俺は華麗なジャンピング土下座を披露する。

俺のバカァ......なんで肝心なときに謝罪よりもツッコミが先に出てくるんだよぉ(´;Д;`)

 

「ーークックック......冗談だよ、前者でいいんだな?」

 

ケタケタと笑い転げながら神は俺に確認を取る。

突然話を戻されたことに、俺はマヌケな声で土下座フォームから顔を上げた。

 

「ふぇ? ......あ、うん......」

 

「んじゃま、とりあえず立ちな。土下座のまんまじゃなんか嫌だし」

 

「うわぁ......なんか俺すっげぇ遊ばれてる......」

 

神に言われた通り俺は素直に立ち上がったが、なんだかオモチャにされてるようでこっちが嫌だった。

 

「それで転生についてなんだがーー」

 

そうしてされた説明を以下にまとめると

 

・転生には2種類ある。

 一つが記憶を所持しての転生。もう一つが記憶を消去してからの転生。

・俺の場合、その特性により前世の記憶を保持したまま転生すること。

・転生される世界は絶対に前世にいた世界ではなく、しかもランダムだということ。

・そして最後......。

 本来通るべき道をぶっ飛ばして神の手によって直接転生させてもらうので、転生する際には罪相応のデメリットがついてくるということ。

 

ということだった。

 

「デメリットがなにかとかわからないんすか?」

 

「俺もそれは教えてやりたいところなんだが、デメリットは魂によっても変わるからな......なんとも言えなくて......」

 

俺の質問に、神は首を振りながら答えてくれる。

 

「そうっすか......」

 

俺はわずかに不安を覚えたが、本来通るべき道を飛ばして転生させてくれるんだ、だったらこのくらいのリスクは背負うべきだと心の中に押しとどめた。

 

「俺からする説明は以上だが......他になにか気になることはあるか?」

 

「いえ、特には」

 

俺は素直に答えると、神は小さくため息を吐いた。

 

「ならいい。じゃ、転生するからこっちに来い」

 

「ん」

 

言われた通りに神の目と鼻の先まで近付くと、神は俺の額にトンッと人差し指を触れた。

 

「なっ......」

 

途端に俺の視界はピンボケし、黒く塗りつぶされていく。

それに伴って俺の意識は途絶えた。



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第二話:違和感

思い付き&力を入れて書いている小説の頭休め?みたいな感じで書いたものです
そこらへんにありそうな夢小説かもですが、よければ読んで下さいね


感想ありがとうございました!


次に目を覚ました時、俺は赤ん坊の姿になっていた。

やっぱり転生したとはいえ、動物か人間かで正直不安な部分はあったが無事に人間に転生できたのでわずかにホッとした。

が、赤ん坊の姿じゃ罪を償うことはおろか誰かの手を借りなければなにも出来ず、

 

「これでどうやって罪を償えってんだよ!!」

 

みたいなツッコミが出てきてしまった。

もちろん、赤ん坊なので喋ることはできず、結果心の中で一人ツッコミをすることになってしまったが。

因みに、転生後に名付けられた俺の名前は『リュウ・ヴォルフィード』なんだとか。

転生後の世界でも前世と同じ名前を名乗れたことに謎の感動を覚えつつ(慣れ親しんだ名前じゃなかったら相当な違和感があった気がする)、自我を保持しての赤ん坊状態はかなり珍しい体験が出来たんだと思う。

喋れない......つまり発声器官が出来上がっていない赤ん坊は唯一残された『泣く』という手段で欲求不満や喜怒哀楽を示さなければならず、これが意外に難しく、今まで疎く思っていた赤ん坊に対する見解が変わった気がした。

まぁそんなこともあってまともに話せるようになるまでーーもとい、まともに一人でお留守番が出来るようになるまでは自分のことで手一杯で、いつの間にか罪を償うということにまで意識が回らなかったのも事実だったが。

 

「......はぁ」

 

ーーそうしてようやく9歳になったころ。

俺は勉強机を前に大きくため息をついていた。

勉強が嫌だとかじゃない、簡単すぎて呆れているのだ。

漢字なら前世ではかなり苦手分野だったので多少は覚え甲斐があるが、算数なんて論外。

元高校2年生で理系のテストだけは70点強を取ってたヤツに今更掛け算させますか?って話だよ。

記憶が残っているってなかなかにキツイもんだ......。

 

(それにしても罪を償うって......いったいなにすりゃいいのかな......?)

 

鼻の下で鉛筆を挟み、足で椅子をぐらつかせながら俺は天井を見上げる。

 

(あのバカ神にもう少し聞いておけばよかったな......)

 

「〜〜ッ?!」

 

不意に頭の上にゲンコツが振り下ろされ、思わず声なき悲鳴をあげる。

 

「手が止まっとるぞ、リュウ。とっとと終わらせんか」

 

その声に、俺は半泣きになりつつも振り向くとそこには父さんが立っていた。

 

「いったいなぁ......殴らなくたっていいじゃないか!」

 

「2回呼んでも返事しなかったのはどこのどいつだ」

 

「へ?」

 

どうやら考え事をしている間に2回も呼ばれていたようだ。

 

「ぬぅ......」

 

「ほら、とっとと終わらせる。終わったらみんなで爺ちゃんとこ行くぞ」

 

「ホントに?! じゃあさっさと終わらせよっと!」

 

俺は鼻の下で挟んでいた鉛筆を手に取り、クルリと回していつものように構えて(かったるい)算数に取り組み始めた。

 

 

「爺ちゃん!」

 

俺はそう叫んで、家の外でわざわざ待ってくれていた爺ちゃんに飛び付く。

 

「おお、リュウ! 元気してたか?」

 

「うん!」

 

どこか嬉しそうに尋ねてきた爺ちゃんに、俺は頭を優しく撫でられつつも満面の笑みで大きく頷く。

......なんかもう、すっかりこの新しい設定に馴染んでる自分がいる気がする......が、不思議と違和感はなかった。

 

「よしよし」

 

「ほらリュウ、おばあちゃんにも挨拶しておいで」

 

「はぁい!」

 

ふと横合いから父に言われ、俺はその通りに婆ちゃんのいる家へと向かって走る。

 

「婆ちゃん、リュウ来たよ!」

 

玄関扉を開けると同時に俺はそう叫び、足で靴を脱ぎ捨てたあといつも婆ちゃんがいる2階へと階段を駆け上る。

そうして階段を上り終えてすぐ和室のある右に曲がった時だった。

 

「ッ?!」

 

突然背中に言い表し難い寒気のようなものを覚えて、俺はとっさに後ろを振り向く。

 

「......?」

 

が、振り向いた先にはなにもなく、婆ちゃんと爺ちゃんの寝室の扉がそこにはあるだけだった。

 

「なんだったんだ......?」

 

思わず気味の悪さに両手で体を小さく摩っていると婆ちゃんの声が聞こえてくる。

 

「リュウ?」

 

「あ、待って婆ちゃん!」

 

俺の姿が見えないことを不審思った婆ちゃんの呼び掛けに応え、俺は慌てて和室の扉を開けた。

 

「婆ちゃん!」

 

和室に顔を出してみると、婆ちゃんがパッと笑顔を浮かべて出迎えてくれた。

 

「久しぶり、リュウ、元気にしてたかい?」

 

「うん、元気だったよ! 婆ちゃんは?」

 

「アタシも元気よ。ただ、体にガタがきてるのは間違いないのよねぇ......はぁ、年寄りって嫌だわ......」

 

「婆ちゃんも大変なんだね」

 

そうして俺は婆ちゃんに、ここ最近あったことを話し、あとの時間はトランプでスピードをしたりしてテキトーに潰した。

 

「あぁ、もう! また負けた!」

 

「ふふっ、年寄り舐めてかかるから負けるのよ」

 

悔しさのあまり地団駄を踏みたくなってる俺に、婆ちゃんはまたからかうかのように言ってくる。

俺はうぅぅ!と唸って畳みの上に大の字で寝転がると、上下逆さまになった視界の中で母さんがチラッと顔を出してきたのが見えた。

 

「リュウ、そろそろお昼ご飯にするわよ?」

 

「はぁいーー婆ちゃん、行こう!」

 

コロンっと体を転がせて仰向けになったあと起き上がり、俺は婆ちゃんに手を貸して一緒にリビングまで行く。

ちなみにスピードを4戦と神経衰弱を2戦ほどしたところ、どういうわけかスピードしか勝つことが出来ず、神経衰弱はほんのわずかの差で2戦とも勝つことが出来なかった。

 

「ねね、母さん。今日の昼飯ってなに?」

 

「そうねぇ......お婆ちゃんの家の冷蔵庫と相談してみないとわからないけど、グラタンドリアにはしたいかなぁ......」

 

「マジで?! いやっふぅー!」

 

俺は嬉しさのあまりつい跳び上がり、ガッツポーズをする。

 

「クスッ......まだ決まってないわよ?」

 

後ろから、そんな俺を見て母さんと婆ちゃんの笑い声が聞こえてきたが、大して気にはならなかった。

 

 

「今日は楽しめたか?」

 

帰り道、ハンドルを握りながら尋ねてきた父さんに、俺は鬱憤バラしにトランプのことを話す。

空はもう真っ暗で、辺りには星が輝いていた。

 

「ははっ、ママのお婆ちゃんは昔相当記憶力あったって言うし、まだまだ衰えてないのかもな」

 

「リュウ、お母さんに神経衰弱を挑むならあと10年くらいは待たないとね」

 

「10年って......長すぎない、それ?」

 

そんな風にみんなで話をしていたらいつの間にか家に到着していて、俺はさっそく部屋に戻ろうと階段を登る。

 

「あ、リュウ」

 

「なぁに、母さん?」

 

「ちゃんと宿題は済ませてある?」

 

「え?!」

 

思いもよらない言葉に、俺は一瞬だけ焦った。

......大、丈夫だよ、ね?

 

「やってある......と思う......」

 

「しっかりやってから寝るのよ?」

 

「はぁい......」

 

そうして俺はげんなりとした気分で部屋に戻ったあとそのままベッドにダイブする。

 

「......うぅあ!」

 

確かにやってあるはずなのに母さんに言われたことが頭から離れず、思わず叫びながら机の前に立って宿題をペラペラとめくる。

 

「うん、大丈夫だ、ちゃんとやってある......!」

 

はぁ、と安堵のため息を漏らしながら再びベッドにダイブし、仰向けになって天井を眺める。

 

「宿題やってあってよかったなぁ......そういえば朝のあれって一体なんだったんだろ......? ーーうわぁ......気味悪ぃ......」

 

思い出しただけで全身に鳥肌が立ち、ゴロリとうつ伏せになる。

 

「あ......まさか怪奇現象、とか? いや、でも朝から怪奇現象って全然思いつかないな......」

 

それからしばらく一人で悶々と考えてこんでみたがあまりにも情報が足らず、解決するどころか逆にもっと混乱しただけだった。

仕方なく俺は考えることをやめ、本格的に布団を頭から被る。

明日辺りにでもまた爺ちゃん婆ちゃんの家に行って、前に幽霊とか出たのか聞いてみようっと。

 

「うぅぅ......眠っ......」

 

さっきまでは大して眠くなかったのに、布団を被った途端一気に眠気が襲ってきて俺は我慢することなく欠伸をする。

 

(明日は......うん、7時でいいよね)

 

俺は目覚まし時計をカチカチといじって設定し、頭の上にコトンッと置いたあと、布団の中でもぞもぞと態勢を整え目を閉じた。

 




『私にとっての、君の存在』をどうかよろしくお願いします((*´∀`*))


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第三話:夢

力を入れて書いている小説の気晴らしに書き始めた夢小説です
ありきたりな話かもしれませんが、よければどうぞ


本文部分追加(3/25)
→コメントを受け、変更させていただきました。


ふと気が付くと、俺はどこか薄暗い、一直線に伸びた通路のど真ん中に突っ立っていた。

 

「あ、れ......? ......どこだ、ここ?」

 

見慣れない景色に、思わず辺りを見回しながらとりあえず歩みを進めてみる。

 

「? 扉......」

 

すると少し遠くの方、通路の先に出口のようなものを見つけ、俺は無意識のうちにそこを目指して歩き出す。

扉はどうやら自動ドアのようで、俺を感知すると同時に上に開いた。

 

「......っ」

 

その先に見えたのは『死』そのもの。

様々な動物っぽいなにかの死体がいい加減に重ねられ、相当長い間放置されていたのか死体の周りにはハエがたかっていた。

そしてひときわ大きく目立つのは磔にされた、腐りかけた肉体を持つ巨大な竜。

いつもならこんなの見ただけで不快さのあまり逃げ出すのに、俺は何故かその竜に目を奪われていた。

おぼつかない足取りのまま、フラフラと竜の真下へと歩みを進める。

 

「......アジーン......」

 

真下に立ってその名を口にした時、目の前の化け物と呼応するかのように俺の心臓が普段よりも強く鼓動した。

 

 

「っ?! はぁ、はぁ、はぁ......」

 

ガバッと布団ごと体を起こし、ドクドクとまるで限界まで走り切ったあとのような心臓を落ち着かせようと何度も呼吸を繰り返す。

 

「なんだったんだ、あれ......」

 

体になにか違和感がある。

俺は右手をじっと見つめつつ、試しに握ったり開いたりをしてみたがやっぱりなにかが違った。

 

「......なんだろ、しっくりこねー......」

 

思わず眉間に皺を寄せながらとりあえずアナログの目覚まし時計を確認してみると針は3時49分を示していた。

 

(まだこんな時間か......嫌な夢見たな......)

 

そう思いながら、俺はもう一度寝ようと布団に頭から被って目を閉じた。

 

「......くそっ、寝れん」

 

が、変な夢を見たせいなのか寝ようとしても寝れず、時計の音になんだかイライラしてきた俺は仕方なく起き上がることにした。

 

「あれ? 誰か起きてる?」

 

特にやることもないのでなんとなく廊下に出てみると、時間的に誰も起きてないはずなのに廊下にはリビングの光が漏れていた。

 

「父さん......?」

 

俺はそっとリビングを覗き見してみると、中ではなにをしているわけでもなくただソファに座って目を閉じている父さんがいた。

 

「ん? おぉ、リュウか。どうした、こんな時間に?」

 

俺の声に気付いたのか、父さんが驚いたような表情でこっちにこいと手招きする。

 

「うん、ちょっと変な夢見ちゃって寝れないんだ」

 

俺は正直に答えながら父さんの隣に腰を下ろす。

 

「変な夢?」

 

「うん。あのねーー」

 

親として気になるのだろう、尋ねてきた父さんに俺は先ほど見た、わけのわからない夢を愚痴のつもりで話した。

 

「ーーっていう夢を見たんだ」

 

のだが、ただの夢のはずなのに聞き終えた後の父さんの表情はどこか険しい感じを覚えた。

 

「やっぱり、か......」

 

「父さん......?」

 

父さんの呟きが理解できず、俺はつい不安になって父さんを呼ぶ。

 

「リュウ、少し待ってなさい」

 

が、父さんはそう言ってリビングから出て行ってしまい、呼び止めることのできなかった俺は一人取り残されてしまった。

そのままおとなしくソファで待っていると、少しして帰ってきた父さんの手には見たことのない置き物のようなものがあった。

 

「なにそれ? ーードラゴン?」

 

置き物の外見に、俺は素直に第一印象を述べる。

父さんは小さく頷いた。

 

「これはアジーンって言ってな、代々受け継がれているたった一つの自動人形なんだ。その大昔、俺らの先祖と共に厄災により閉ざされてしまった空を取り戻したとされる竜だって聞いてる」

 

「? それどっかで聞いたことある」

 

「有名な昔話だからな。つって、俺はお爺ちゃんからこいつを渡されるまで知らなかったんだが......。で、そんな竜がどうしてこんな形で残されているのかはまだはっきりしてないんだけどな、アジーンは最後の起動からかなり長い間一度も始動してないみたいなんだ」

 

「......不良品?」

 

父さんの説明に正直どう反応すればいいのかわからなかったが、幸いツッコミどころがあったのでなんとか会話を持続させる。

 

「いや、アジーンが起動するための条件があるんだってさ」

 

「条件?」

 

「簡単にいえば次の適格者が現れるまで起動しないってことさーー個人的には起動しないでくれってのが本音なんだけどな」

 

「......?」

 

父さんの言葉に、思わず首を傾げてしまう。

口ぶりからてっきり起動して欲しいのだとばかり思っていた。

 

「これはまだ俺しか知らないことなんだけどな......アジーンが再起動したとき、世界は終わりを告げるーーリンク者一人の命と引き換えに」

 

「厨二くさっ!? 父さんってそんなキャラだったっけ?!」

 

「バカ言え、ホントのことだぞ。アジーン本人が言ってたんだ」

 

「え? 父さん、アジーンと会ったことあるの?」

 

「夢の中で、な。俺は適格者じゃないからってそれ以降は会ってないよ」

 

「適格者じゃないって......そんなんどうやってわかるんだよ?」

 

「そのための証明がこれなんだそうだ」

 

そう言って、父さんが置き物......もといアジーンの形をした自動人形を強調させるように差し出す。

 

「もしこいつが動かなかったらそれでいい、だが動き出せば......あとは言わなくてもわかるな?」

 

小さく息を呑み、俺は差し出されたアジーンを恐る恐る手に取る。

......。

だが、いくら待ってもアジーンは動き出すことはなかった。

 

「......父さん、これって?」

 

「よかった......リュウは適格者じゃなかったんだな......」

 

「と、父さん......?」

 

目の前でへなへなと座り込む父さんに慌てて寄り添うと嫌な汗が手についた。

父さんの表情は傍から見てもわかるくらい疲労していた。

 

「ははっ、お前に悟られないようにしてたから安心した途端これだ......情けないな......」

 

「父さん......」

 

そのあと俺は父さんに寄り添いながら寝室へと一緒に行き、父さんが眠りについたのを確認してから自分の部屋へと戻った。

 

「アジーン、ね」

 

ベッドの上に座り、勉強机の上に置いたアジーンをじっと見つめる。

 

俺は知っていた。

アジーンという名前を。

この世界に伝わる大昔の話を。

 

『はるか昔、世界に、“大いなる災い”があった。

 空は焦げ、瘴気は遍く地表に満ちた。

 見上げるべき空を見失った人々は、足の下に生き残る術を見つけ出す。

 大深度地下都市。

 シェルター。

 

 覆われた、第二の世界で、幾世代もの刻が過ぎる。

 人々はもう、空を忘れたのだろうか......?』

 

これは俺が前世で大好きだったゲーム、ブレスオブファイア5ドラゴンクォーター(通称ドラクォ)というゲームのプロローグの一部だ。

何度も何度も繰り返し遊んでいたせいか、前世を離れて結構経っているのにまだ一言一句しっかりと思い出せる。

 

『下層地区のレンジャー、リュウは、任務で訪れたバイオ公社(生物化学工場)で、奇妙な体験をする。

 閉ざされた地底の世界の物語が、動き始める......

 

この世界で生きるしかないとしても......

このまま生きるほうが楽だとしても......

その先に何があるか分からなくても......

何も知らないほうが幸せだとしても......

たとえ世界を壊してしまうとしても......

 

少女を救うために......

世界を開くために......

 

少年は空を目指す......

 

ニーナ、空に行こう』

 

これはもちろんゲームであるためリュウは無事にニーナを空に連れて行くことができ、そして俺が今いる世界はリュウが空を開いてから何年も経った世界なんだろうと思う。

父さんの話と照らし合わせてみれば多少食い違ったところもあったけど、それはおそらく長い時間が経ったからに違いない。

人伝いの話なんてみんなそういうものだ。

 

「いや、気のせいか......ありえそうな話じゃあるけど、さすがにないよな」

 

そう、信じられるわけがない。

ゲームだってアニメだって、元を辿れば全部人が考えた空想上のもの。

その世界に入るなんて絶対に想像なんかつくはずなかった。

外国の小説で、主人公が現実と異世界を往復する『ナルニア国物語』なんてものもあったけど、あれだってどこまで行ったって人の創造物に過ぎない。

 

「あーもーわっけわっかんねー」

 

バタンッとベッドに体を預け、瞼を閉じる。

 

(ったく、いったいなにがどーなってやがんだ俺の第二の人生は......でも、もしホントにドラクォの世界に来てるんだとしたら俺のキャラ設定ってどうなってんだろ......?)

 

そんなことを考えているうちにようやく眠くなり、俺は我慢することなくベッドに体を預けた。

その後、寝過ごして学校に遅刻したのは内緒である。

 




ブレスオブファイア6が発表されたけど、ブレスオブファイアシリーズ独特の特徴が無くなっちゃった気がする......

『私にとっての、君の存在』をどうかお願いします(`・ω・´)


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第四話:適格者

先日投稿しようとしてメモ帳からコピペしてるときのこと。
いつもならコピー→貼り付けの手順なのにうっかりカット→貼り付けの手順にしてしまい、
まぁタブ消したり前のページに戻らなければいいよね
ということでそのまま作業を続けていたところ。
後書きに載せる予定の顔文字を新たにコピーしたところでタブが消えてしまい、投稿するはずのネタが消滅いたしましたorz
iPhoneのバックアップがあったからなんとかなったものの、今まで書いてきた小説全部がUSBのデータ損傷によって消滅するし......
昨日は発狂するかと思いましたね、はい。
長々と失礼致しやした(´・∀・`)

*本文の訂正(3/15)


それから6年後の冬。

俺は家族と事故に遭った。

運転席の後ろに座っていた俺は運良く腕の骨折程度で済んだものの、母さんと父さんは意識不明の重体、病院に到着する前に息を引き取ってしまった。

この歳になってもずっと罪を償おうとしなかった罰が当たったのかもしれない。

 

「父さん......母さん......」

 

制服に身を包み、正座で二人の遺影を前に俺は呟く。

 

「人とはいつかは死に至るものだ。男であるお前がそう泣くな」

 

「ッ?!」

 

不意に背後からそんな声が聞こえて、俺は慌てて立ち上がり振り向く。

 

「アジーン......?」

 

そこにあった......否、そこにいたのは最早物置にしまっていた竜の置物もといアジーンだった。

 

「でも、なんで......俺は適格者じゃないはずだろ?!」

 

「刻が満ちたのだ、リュウ」

 

そう言って、アジーンは翼をグルーミングし始める。

あまりにものんびりとした感じになんだか気が抜けそうになるが、『刻が満ちた』だけで済ませられるような話なんかじゃない。

適格者とはすなわち、将来的にアジーンの一部となり世界を壊す者のことだからだ。

ブレスオブファイア5ドラゴンクォーターの主人公、リュウの場合閉ざされた(世界)を開くことだったけど、今自分に当てはまるのがそうだというわけじゃない。

第一、空はリュウが開いたままで閉ざされてるわけじゃない。

 

「なんだよ、それ.......ーー誰か......嘘だって言ってくれよ......父さん......」

 

いつ覚醒し、死へのタイムリミットが始まるのわからない状態に陥ったと頭の中が理解したとき、俺はどうしたらいいかわからなくなった。

 

(「とても......怖かった......自分が、人ではなくなっていくみたいで」)

 

なんでもやり通せるリュウがカッコよくて、そんな風になれたらってずっと思っていたけれど覚醒したときのリュウもこんな気持ちだったのかな......。

 

 

「ヴァルプルギス王立機巧学園......?」

 

担任の先生から放たれた聞きなれない単語に、思わずそっくりそのまま復唱してしまう。

 

「あぁ。その学園ならそこの自動人形について詳しく学べるはずだ。お前なら成績優秀だし、学校からの推薦があれば無償で通えるはずだろうしな」

 

先生曰く、そのヴァルプルギス王立機巧学園というところは自動人形について学べる他に自動人形と共に機巧魔術で戦うトーナメントのようなものがあるらしい。

その名を夜会と言うそうなのだが、そこで1位ー魔王とかいうらしいーになれれば『なんでもアリ』なんだとか。

どうしてこんな話になったのかというと、俺がアジーンとリンクしたあの日、お悔やみの言葉を述べに来た先生(どうやら父さんと面識があったらしい)がアジーンを目撃したからだった。

昔、父さんが理由はわからないけれどアジーンは自動人形として残っているとも言ってたし、どうせこれからずっとアジーンと一緒になるんだったら少しは知っておいたほうがいいかということで今その説明をしてもらっていた。

 

「どうする? 推薦出すか?」

 

「......はい。でも、3日待ってもらえませんか?」

 

俺は少し溜めて答える。

もし、俺がそのヴァルプルギス王立機巧学園に行けば爺ちゃんや婆ちゃんがこちらに2人だけで残ることになるからだ。

言い忘れたが、ヴァルプルギス王立機巧学園は寮生のみとなっているらしい。

そこが悩む1番の点だった。

 

「わかった。決まったら、また俺のところに来なさい」

 

「はい」

 

そう言って、担任の先生は放課後の誰もいない教室から出て行く。

一人になった俺は帰りの支度を始めた。

 

「行くのか、そのヴァルプルギス王立機巧学園とか言うところに」

 

ふとアジーンの声が聞こえてきて、俺は振り返らずに応える。

 

「ん? んー......迷ってはいるかな。爺ちゃんと婆ちゃんのことがなかったら、たぶん即答してたんだろうけど」

 

「何故祖父母のことを気にする」

 

「バカ、そういうのは心配するもんなんだ。どんな理由にせよ、身内が爺ちゃんと婆ちゃんだけだったら気になるんだよ」

 

「......相変わらず人間というのは理解が出来んな」

 

「ま、そのうちわかんじゃねーの?」

 

ようやく帰りの支度が出来たところで、俺は教室を出る。

その後をアジーンがパタパタと追いかけ、俺は人気のない廊下を歩いた。

 

 

「なぁ、爺ちゃん」

 

夕食時。

ご飯を口へ運ぼうとしている爺ちゃんに俺は昼のことを話そうと呼び掛けた。

 

「どうした、リュウ?」

 

「今日、学校で父さんの知り合いだって言う担任の先生からヴァルプルギス王立なんとかって学校を勧められたんだ」

 

俺の言葉に、爺ちゃんの手が止まる。

が、それはほんの一瞬だったようですぐに爺ちゃんは箸を動かした。

 

「リュウはどうしてもそこに行きたい理由があるのかい?」

 

婆ちゃんが爺ちゃんの代わりをするかのように口を開く。

 

「うんーーあることを学びたくて」

 

俺はあえてアジーンのことを避けて言う。

爺ちゃんは確実にアジーンのことを知っているとしてもそれを婆ちゃんが知ってるとは限らないし、話すとしたら爺ちゃんと二人きりのほうがいいと思ったからだ。

 

「リュウ、寝る前に私の部屋に寄りなさい」

 

「......うん」

 

俺は小さく頷いて、いつの間にか止めてしまっていた食事を開始する。

重くなった空気が俺にのし掛かり、自分から出した話だというのにご飯が喉を通らなかった。

 

 

「爺ちゃん? 入るよ?」

 

コンコンとノックをして、俺はそう言いながら扉を開く。

と、爺ちゃんが窓際に設置されている事務机の前に座って待っているのが見えた。

 

「来たか、リュウ」

 

くるりと椅子ごとこちらに振り向き、爺ちゃんが口を開く。

 

「うん」

 

俺は爺ちゃんと婆ちゃんがいつも眠っているベッドに腰掛けて神妙な顔付きで頷いた。

 

「リュウ......率直に尋ねる。お前はこのことをどこまで知ってるんだ?」

 

「......全部だよ。爺ちゃんが父さんに話したっていうこと全部ね」

 

首を小さく振りながら、俺は答える。

 

「そうか......それで、その、アジーンは......」

 

「久しいな、リアム」

 

恐る恐る尋ねてきた爺ちゃんに、アジーンがパタパタと羽ばたきながら俺の頭へと着地する。

 

「アジーン......やはり起動していたか......」

 

「相変わらずだな、最後に会ったときとなにも変わっちゃいない」

 

その言葉に、爺ちゃんの眉間にシワがよる。

......シリアスな展開をぶち壊したくはないけど、そろそろ文句言ってもいいよね?

 

「なぁ、アジーン」

 

「ん?」

 

「いい加減俺の頭に乗るのやめてくんない?」

 

「だが断る」

 

「いやいや、断んなよ! お前地味に重いんだって! このまんまだと俺、首周りの筋肉だけ無駄にゴツい人になっちゃうからね?! ーーいでででで!!」

 

アジーンの首を引っ掴み、俺の頭から引き剥がそうとするとアジーンは俺の頭にしがみついてしまい、俺が引っ張るたびにアジーンの爪が俺の顔を引っ掻いていった。

 

「別に首がゴツくてもいいではないか! 私はここがいいんだ!」

 

「よくないし、そんなの知るかってんだ!!」

 

「んん゛!」

 

『あ......』

 

不意に爺ちゃんの咳払いが聞こえてきて、俺とアジーンは同時にそちらを見る。

爺ちゃんの呆れたような顔がこちらを見ていた。

 

☆閑話休題☆

 

「それで、リュウはもうリンクしてしまったのか......?」

 

「まぁ......」

 

俺自身、正確にわかっておらず助けを求めようとアジーンのほうへ視線を動かす。

あのあとなんとか引き剥がすことに成功したものの、ホントに俺の頭の上が気に入っていたらしく今は拗ねているのか床に丸まって目を閉じていた。

 

「そうだ。今更隠したところでなにも変わらんしな」

 

うわー......ちょー不機嫌......。

 

「そうか......」

 

「ん? そういえばアジーン。父さんと母さんの葬式の日、お前言ってたよな? 刻が満ちたとかなんとか。あれってどう意味だよ?」

 

ふと頭の中に浮かんできた疑問をぶつけてみると、アジーンはわずかに目を開き、むくりと起き上がった。

 

「私とお前が初めて触れたとき、お前はすでに適格者だった。だが器が小さく、故に私がリンクすることもなかった......それだけだ」

 

「ふぅん、そういうこと」

 

「はぁ......」

 

当然聞こえてきた爺ちゃんのため息に、俺とアジーンは爺ちゃんを見る。

 

「もうリンクしてしまったものをどうこう言っても仕方がないか......」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「あぁ......行ってこい」

 

「おっしゃ!」

 

思いも寄らない言葉に、俺はついガッツポーズを取る。

絶対に断られるような気がしていたのだ。

俺はまだ見たことがないけれど、おそらく父さんの遺書に書かれているかなんかで。

 

「幸い、父さんや母さんが残してくれた保険金もあるし、金には困らなーー」

 

「あ、そのことなんだけどさ」

 

爺ちゃんの言葉を遮った意味がわからないのか、アジーンが「ん?」と首を傾げる。

 

「俺、頭良いから学校が推薦出してくれれば無償で行けるみたいなんだ( ・´ー・`)」

 

俺は満面ドヤ顔で爺ちゃんに言ってのける。

言ってのけたはずだが。

 

「そうなのか? まぁ父さんからよくお前の自慢話は聞いていたしなぁ」

 

「......どやぁ(´・∀・`)」

 

再度挑戦。

 

「まさか無償にしてくれるまで頭が良いとは......久しぶりに孫自慢が出来そうで嬉しいのぅ」

 

・・・・・・嘘だろおいorz

 

(「プッ......」)

 

アジーンの笑いを堪えるような声が頭の中(わざとにしか思えん)に聞こえてきたが、気のせいだろう、うん。

 




削ったり付け足したり......ラジバンダリ!o(>ω<*)o 
......はい、ごめんなさい、許してください(´・ω・`)
まだ納得の行かない部分があるので、またそのうち訂正を加えるかもしれませんね(´・∀・`)


お気に入り登録、感想ありがとうございました!


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第五話:主力武器の確認

正直に言います。

書いてて面白くなかった!ww

ということでどうぞー(´・∀・`)


後書きの訂正(3/13)
本文の訂正(4/3)


「えっと......なになに? 一般的に自動人形(オートマトン)は、一つの体に生命の魔術回路『イブの心臓』と別の魔術回路を一つずつ搭載している。『イブの心臓』と言うのは現在最も普及している魔術回路で、人形に知性を与えることができ、また優秀な人形師ならば人間と殆ど変わらない人形を作ることもできる。未だ全容の解明されないブラックボックスで、複製はできても一から作ることは不可能だといわれているーーって、あぁ、もう! 俺の邪魔すんなよ、アジーン!」

 

「ぐはっ!」

 

視界の端でうろちょろとしていたアジーンを叩き落とし、ふんっと鼻を鳴らす。

俺の一発にアジーンは抗うことなく見事に落下し、机の上に叩きつけられていた。

やった俺が言うのもなんだが......もう少し抵抗したらどうなんだよ......。

 

「っぁ......い、痛いぞ、リュウ......今のは効いた......」

 

「だろうな......全力で叩き落としたもん、俺......」

 

「いくらなんでも全力はないだろ......」

 

アジーンが唸りながら起き上がる。どうやら翼を強打したらしく、必死にペロペロと痛みを和らげようとしていた。

 

「そんなこと言われたって俺の勉強の邪魔するからだろ......あーもーやりたくねぇ!」

 

シャーペンを放り投げ、グッと背筋を伸ばす。

 

「やめてしまえばよいだろう」

 

「そりゃ俺だってこんなの今すぐやめてーよ......だけど入試があと2週間に迫ってて、しかも習ったことのない分野が範囲なんだぜ? これが勉強しないでいられるかっての。幸い先生が学院の卒業生だったからなんとかなりそうだけどさ」

 

俺はげんなりとしてアジーンに訴える。

今から2日前......無事に爺ちゃんから許可を得た俺は早速先生に推薦の申し出をすると、謝罪と共にある事実を知らされた。

なにを隠すことがあろうか、ヴァルプルギス王立機巧学院には入試があったのだ。

おまけにその試験範囲は主に機巧魔術(マキナート)と呼ばれるものなんだとか。

まぁ、そりゃ推薦制度はあっても入試がないなんてことはさすがにないよな、と納得してしまいたいところだったが考えてみろ、俺。

今までなにを学校で学んできた?

現文、古典、数学、生物、物理、地理、世界史......

自動人形系とは全く無縁のものばかりを覚えてきたじゃないか。

詰まる所、「え? 機巧魔術? なにそれ美味しいの?」の状態だったり。

それを最初に聞いたとき、習ったことのない分野が入試ってどんな鬼畜だよ!っと思わず叫んでしまったが。

入試に含まれる技術試験(簡単に言うと試験監督との戦闘だ)というものに全部を掛けるのも悪くないが、最近アジーンとリンクした俺にアジーンがどんな技を使えるかなんてわかるわけないし、そもそも魔力の練り方すらわからない状態でどうやって戦えばいいんだよ......と、完全に八方塞がりだった。

アジーンにも言った通り、たまたま先生が学院の卒業生だったのがホント救いだった。

 

「そういえばアジーンってどんな技が使えるわけ?」

 

ふとそんなことが頭の中を過ぎり、俺は尋ねる。

 

「もしかして『ヴィールヒ』とか『ウラガーン』が使えたりするわけ?」

 

「どうしてリュウがそのことを?」

 

「え?」

 

俺の言葉にアジーンが訝しむ。

その様子を見て俺は気付いた。

 

「あ、いや......た、たまたまだよ! そう、たまたま......」

 

(バカ......なにやってんだよ、俺......)

 

心の中で嘆息しながら、慌てて取り繕う。

が、俺自身だんだんと言葉が濁っていくのを感じていたし、アジーンもそれを感じたのか思いっきりこちらを怪しんで見ていた。

 

(うっ......)

 

アジーンの鋭い瞳に、思わず引き気味になる。

......転生したことは誰にも言わないつもりだったけど、嘘を付くのが苦手な俺がこれ以上誤魔化したところで下手に出るだけだろうし......はぁ、アジーンになら別に言っても構わないよね?

 

「......なぁ、アジーン」

 

「ん?」

 

「誰にも言わないって約束出来る?」

 

「? 構わんが......どうした?」

 

「実は俺ーー」

 

そうして俺は別世界から転生してきた人間であるということ、この世界は俺が前世で大好きだったドラクォから何十年後の世界かもしれないこと、ドラクォというものはどんなものなのかなどなど、全てのことをアジーンに打ち明けた。

昔から起承転結に話が出来ない俺的に頑張ったつもりだが、かなりの長話になってしまった。

アジーン、すまん......。

 

「だからヴィールヒやウラガーンのことを......」

 

「うん。頼むから誰にも言わないでくれよ? いや、信用してないってわけじゃないんだけど言ったら面倒臭くなるから......」

 

「確かにここまで長いと面倒臭いかもしれんな」

 

「おいっ!」

 

「事実なのだから仕方あるまい?」

 

「そりゃ確かにそうだけど、本人の目の前で肯定することないだろ......」

 

腕をだらしなく下ろし、しょんぼりとしながら言う。

 

「ふんっ、叩き落とした仕返しだ」

 

えぇぇぇ、根に持ちすぎだろ......。

 

「まぁ......あれはお互い様ってことで......」

 

苦笑いを浮かべながら、俺はアジーンを取り鎮める。

 

「どちらにしろ、ヴィールヒやウラガーンはお前が覚醒した際にしか使えない技だぞ?」

 

「え? じゃあ結局のところアジーンってなにも使えないってこと......?」

 

「まぁ......そういうことになるな」

 

わずかに視線を逸らしながら、アジーンがボソボソと呟く。

が、俺は聞き逃さなかった。

聞き逃せなかった。

 

「じゃあ技術試験どうするんだよ!! 学力試験だけでなんとかするとか絶対無理だからね?!」

 

「そんなことを言われても私にはどうすることも出来ん。このようなことなど一度もなかったのだから」

 

「うっそだぁ......」

 

アジーンの突き放すような言葉に机に突っ伏し、思わず頭をガンガンと打ち付けてしまう。

 

「技術試験、どうすりゃいいんだよ......はぁ......」

 

重い溜息を零しながら、俺は机に突っ伏したまま首を横に傾ける。

と、その先にはいつでも連絡が付くようにと先生の連絡先が書かれた紙が置いてあった。

 

「明日、ダメ元で試してみるっきゃないか......」

 

俺は先のことでいっぱいいっぱいになった頭を抑えつつ、ベッドにダイブした。

 

「もう寝るのか?」

 

「うん......なんか今日はもう考えたくない、いろいろと」

 

「そうか......」

 

そう呟いてアジーンが俺の側に来て体を丸める。

俺が腕を差し出してやるとそれに気付いたアジーンは頭を腕に乗せ、そのまま寝息を立て始めた。

 

「こうやってると猫みたいだな」

 

完全に腕枕状態で眠るアジーンがなんだか微笑ましくなり、俺はアジーンの重さを感じながら静かに瞼を閉じた。

 

 

「アジーン! ちょっと付き合え!」

 

俺は机の上に置いてあった先生の連絡先が書かれている紙を掴み、そう言いながら部屋を飛び出した。

 

「どこに行く?」

 

「学校!」

 

「学校? このあいだ卒業したばかりではないか」

 

「魔力の練り方を先生に聞くんだ。役立たずは役立たずでも、俺が魔力さえ練れるようになればいくらでも技なんて開発できるだろ? 先生がくれた自動人形の教科書に、自動人形は人形使いの魔力で動くって書いてあったし」

 

当然と言われれば当然の質問に、俺は靴を履きながらさらりと答える。

 

「役立たずって言われた......役立たずって......」

 

「事実なんだから仕方があるまい、だったっけ?」

 

してやったりとドヤ顔を浮かべながら、俺は家の扉を開ける。

 

「ほら、行こうぜアジーン」

 

アジーンはがっくりと項垂れつつも、ちゃっかりと俺に付いてきてくれた。

 

 

「あ」

 

学校前、公衆電話の受話器を手に先生の応答を待っていると不意にブツリと音がして、雑音が流れ込む。

 

「もしもし、先生?」

 

俺はすぐにそう相手に呼び掛けると、数秒遅れて返事が来た。

 

『リュウ、か? どうした、なにかわからないことでもあったか?』

 

「すみません、先生。今日のお昼って時間空いてますか?」

 

『今日か? 別に構わないが......』

 

「ホントですか? あの、魔力の練り方を教えてもらいたいんですけど」

 

『魔力の練り方、な。わかった。なら今日の13時に学校の正門前に来なさい』

 

「ありがとうございます」

 

『技術試験のことだろ?』

 

「バレた?!」

 

『それくらい簡単にわかるって』

 

クスクスと電話口で先生が笑っている。

俺は苦笑を浮かべることしか出来なかった。

 

『それじゃあまたあとで』

 

「はいーーアジーン、電話終わったよーって、いい加減立ち直れよ......」

 

そうして電話を切った俺は体をくるりと回すと、未だにいじけているアジーンが正門の隅で一人ポツンといた。

 

「あー、分かったから。もう分かったから機嫌直せって。あとでおやつあげるかーー」

 

「ホントか!」

 

「うおっ!」

 

不意にキラキラした目でこちらに飛んできたアジーンに、俺は思わずよろめいた。

 

「近い! 近いから!」

 

グイグイと押し返し、体勢を戻したところで俺はため息を吐く。

 

「すまん......つい取り乱した」

 

「ホントだよ、びっくりしたわ」

 

苦笑しながら、俺は歩き出す。

 

「ほら、帰ろうぜ。今日は13時からまたここに来るんだから」

 

「約束を取り付けたのか?」

 

「あぁ。入試までに間に合うよう頑張んないとな」

 

「そうだな」

 

アジーンもその後をついて来て、俺らは帰路に着いた。




テキトーに思い付いた設定が混ざってまーす
まだ一巻しか読んだことないので、今回の話でこんなシステムあるよ?なんてのがあったら教えて欲しいです(´・∀・`)


*最初のリュウの台詞はウィキ先生から引っ張って台詞っぽく繋げただけです*


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第六話:訓練。そして試験会場へ

今回はちょっと少なめ。
次回から原作突入します。たぶん。

今更思うけど、アジーンを時に突っ込ませたりボケさせたら言動がアジーンらしくなくなった......
ということでタグ追加、、、キャラ崩壊で(`・ω・´)bグッ

*本文の訂正(4/3)


前世の2月下旬では考えられないほど、暖かな午後の日差し。

正門前で先生を待っていた俺は、このまま立って寝れるんじゃね?と思うほどうとうととしていた。

 

「......zzz」

 

「はぁ......」

 

目を閉じて視界が真っ暗な中、アジーンの溜息が聞こえてくる。

 

「せぇのっ!」

 

「ッ?! いって!!」

 

続いて力むような声が聞こえてきたと思えばその直後に強烈な痛みを頬に覚え、俺は一気に目が覚めた。

 

「なにすんだ、アジーン!」

 

「お前が寝ているからだ」

 

やれやれと溜息をつきながら、アジーンが答える。

 

「寝ててなにが悪いんだよ! こんなに暖かいのに寝るなってほうが無理だわ!」

 

「それでも立ったまま寝る人間などそうそう居るはずがないだろう」

 

アジーンの言葉に俺はニヤリとする。

 

「そうそう、って言ったよな? てことは少なからず立ったまま寝るやつだって居るわけだ」

 

「ぐっ......」

 

「ん? なんだよ、言いたいことがあるなら言い返してみな。ほらほら」

 

「おーおー、リュウ。喧嘩は良くないぞ? 確か何処かのことわざで喧嘩するほど仲が良いと聞くがそれでも度は超えないようにな」

 

ふと第三者の声が聞こえ、俺は振り向くとそこには私服姿の先生が立っていた。

 

「あ、やっと来たーーってえぇ?!」

 

......とある小さな女の子を連れて。

 

おそらくあれが先生の自動人形(オートマトン)なんだろう。

それにしても趣味悪くないか......?

なんでよりにも寄って見た目が幼女の自動人形なんだよ......。

そりゃ捉えようによっては良い感じのお父さんに見えないこともないけど、俺から見ればただのロリコンにしか見えないっての。

......もちろんそんなことは口が裂けても言えないけど。

 

「遅れて悪かったな、俺の自動人形がなかなか目を覚ましてくれなくて......どうした、リュウ? そんなに驚いて」

 

ふとそんな風に尋ねられ、俺はつい慌ててしまう。

 

「え? あ、いや、なんでもないです」

 

「そうか? ならいいんだが......」

 

その言葉に、俺は心の中で安堵の溜息を漏らす。

 

「それじゃあ早速訓練と行くか」

 

どこかしっくり来てない様子の先生だったが、さすがは大人。

それ以上は聞いてくることもなくすぐに話を戻してくれた。

俺だったら絶対に追求してるな......。

 

「はい。お願いします」

 

「オッケー、それじゃあまずは場所を移動しよう」

 

「あれ? 学校の中でやるんじゃないんですか? グラウンドとか」

 

「確かに学校のグラウンドは広い分訓練に適してるんだが、ここで訓練すると怪しまれるんだよ」

 

「どうして?」

 

「この地域はそんなに自動人形が浸透していないからな。人目に付くと少し面倒臭いことになる」

 

「へぇ......」

 

正門前を集合場所にしてたから、てっきりグラウンドで訓練するものばかりだと思っていた。

 

「さぁ行こうか。朝のうちに訓練にとっておきの場所を探して置いたんだ」

 

「手間掛けさせてすんません......」

 

「いや、気にするな。もともと俺がなにも言ってなかったのが悪い訳だし。ほら、行くぞ」

 

「はぁい」

 

そうして歩き出した先生に置いていかれないように、俺も足を踏み出した。

 

「ほら、アジーン。行くぞ」

 

途中、知らない間に距離を取っていたアジーンの首を引っ摑んで。

 

 

先生に案内されて着いた場所は学校から少し離れたところにある堤防の側......もっと言えばその堤防に掛かっている橋の下だった。

今から虐められるの、オレ?

 

「それじゃあまず最初に確認するが、魔力の定義は知ってるか?」

 

「あの、先生」

 

俺は、胡座をかき両膝に手を置いた体勢で話し始めた先生に手を挙げる。

 

「ホントにここでやるんですか?」

 

そう言って、俺は辺りを見回す。

確かに辺りは橋の下故に暗くまた良い感じに姿が隠すことができ、人気も少ないが、堤防ということもあってか大中小様々な石が混ざった砂利が一面中にあり、ものすごく尻が痛かった。

 

「ここしか良い場所が見つからなかったんだから我慢しろ。俺だって痛いんだから」

 

「そんなぁ......せめてコンクリートの上とかーー」

 

「痛い思いしながらやったほうが上達が早いもんだ。入試まで時間がないんだろ?」

 

「うぅ......」

 

「頑張れ〜」

 

「......zzz」

 

橋の土台となるコンクリートの上で応援してくれている先生の自動人形ークレアちゃんって言うらしいーに感動を覚えつつ、その膝の上で寝ているアジーンをガン飛ばす。

 

(魔力が練れるようになったら真っ先に『レイガ』で凍らせてやる......)

 

「ほらほら」

 

「うぅ......」

 

パンパンと手を鳴らされ、俺は仕方なく先生に視線を戻した。

 

「それで、魔力の定義なんだがーー」

 

 

ふっ、とアジーンを覆っていた炎が消え、途端に金縛りが解けたかのように動き出したアジーンが驚いた様子で辺りを見回し出す。

 

「な、なにが起きた......?」

 

「っはぁ、はぁ、はぁ......」

 

「大丈夫か、リュウ?」

 

肩で息をしながら、俺は先生の目を見て小さく頷く。

 

あれから4時間。

俺は先生付きっ切りの元、ようやくアジーンを強制支配(フォース)出来るようになった。

先生曰く、初心者でここまで出来れば上等、なんだとか。

入試までのことを考えればこのまま一気に技の開発まで行きたいところだが体が悲鳴を上げており、限界も近そうだった。

 

「うっ......」

 

不意にプツリと糸が切れたみたいに全身から力が抜け、俺は自分の足で支えることも出来ずそのまま前のめりになる。

 

「リュウ!」

 

アジーンが慌てて駆け付け、そばに寄り添ってくれる。

そのおかげで倒れずには済んだが、本格的にヤバそうだった。

 

「無理をするな。お前が倒れては元も子もないぞ」

 

「んなこと言われたって......」

 

「相方の言う通りだ。このまま体を酷使しても上達するばかりか逆に悪い結果しか招かんぞ」

 

「っ......」

 

その言葉に、俺はグッと奥歯を噛み締める。

辺りを見回してみればこの場にいる誰もが俺を心配そうに見ていた。

 

「わかりました......」

 

その視線に俺は観念し、こうべを垂れる。

 

「お前は良くやった。だから今日は家に帰ってゆっくり休みなさい。また暇な時間に見てあげるから」

 

「はい......」

 

俺の返答に先生は頷き、「少し離れる」と言って何処かへ行ってしまった。

 

「立てるか、リュウ?」

 

アジーンが心配そうにこちらを見ている。

 

「なんとか......」

 

そう言って俺はグッと足腰に力を入れる。

が、いつ崩れるかわからないくらいに足は震えていた。

たぶんこれ、歩きでもしたら即刻潰れる&誰かに手を貸してもらったとしても立ち上がれなくなるんじゃないか?

 

「リュウお兄ちゃん、無理しちゃダメだよ。パパがそう言ってたよ?」

 

そこへてくてくと近寄ってきたクレアちゃんがそう言って手を貸してくれる。

 

「あ、あぁ」

 

なんだか自動人形とはいえこんな小さい子にまで手を貸してもらっている自分が情けなかった。

てかパパってなんだ、パパって。

 

「リュウ」

 

今までどこに行っていたのか、戻ってきた先生がこちらに歩きながら呼びかける。

 

「今嫁が迎えに来てくれるからその車に俺と一緒に乗れ。車が来るまではまだ10分と掛かるからその間座って休んでいなさい」

 

「......へ?」

 

一瞬言われた言葉が理解出来ず、間抜けな声が漏れる。

 

「いいな」

 

有無を言わさないその言葉に、俺は仕方なく先生の言葉に従った。

 

その後、家に帰った俺は結局高熱で倒れてしまい、貴重な3日間を休養という形で無駄にしてしまったが。

 

 

汽笛が駅のホームを震わせる。

煙が頭上を漂う中、俺はアジーンを右肩に乗せ別れの挨拶を交わしていた。

 

「爺ちゃん、婆ちゃん。入試頑張ってくるね」

 

「精一杯努力して来なさい」

 

爺ちゃんの言葉に、コクンと頷く。

 

「道中は怪我をしないようにね」

 

「大丈夫だよ、どうせ列車に乗るだけだから」

 

「とは言え、二日間は乗りっぱなしなんでしょう?」

 

そう、俺のいる時代には飛行機なんて便利なものはない。

そのため交通機関と言えば列車のみとなり、試験会場であるヴァルプルギス王立機巧学院へ行くにはそのくらいの時間を要してしまうのだ。

飛行機でロンドンまで行けたら半日で済むのに......と、この日を迎えるまで何度思ったことやら。

昔って不便なことだらけだなぁ......携帯電話もないし(´・ω・`)

 

「そりゃ、まぁ......」

 

「リュウ。そろそろ列車が出てしまうぞ」

 

アジーンに頭を小突かれながら言われ、俺はカバンを手に持つ。

 

「体調管理には気を付けなさいよ?」

 

「うん」

 

婆ちゃんのそれにもしっかりと頷いた俺は二人を見た後口を開いた。

 

「じゃ、行って来ます」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

二人の声を背に受けて俺は大きく踏み出し、列車に乗り込んだ。

 




クレアちゃん、出番これで終わりの予定なのに裏設定が凄くなった......なんでー?
(´・∀・`)


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第七話:アクシデント

投稿するとき、何話からなのかがわからなくなる(´・ω・`)





ゴトンゴトンと列車が揺れながら傾いていく。

それに従って自分の体も傾いていくのを感じて、俺は隣で眠っているアジーンを揺さぶった。

 

「アジーン、起きて」

 

「うぅ......どうした、リュウ?」

 

「もう少しで外に出られるよ」

 

そう言ってる間にも窓の外は真っ暗で代わり映えのない地下から地上の......しかも海の広がる景色へと変わっていた。

 

「ほら!」

 

「ん? ーーほぉ......?」

 

俺が指す方向を見て、アジーンが言葉を漏らす。

海の広がるその先には大陸があり、あそこがロンドンということになる。

あそこまで辿り着ければ学院まではあと半日だ。

 

「懐かしいな」

 

ぽつりと呟いた言葉に、俺は反応する。

 

「え? 見たことあんの?」

 

「あぁ。もう随分と昔になるがな、オリジナルがニーナと見に来たことがあったのだ」

 

オリジナルというのは、俺とアジーンとで名付けたドラクォの主人公であるリュウのことだ。

俺の名前がリュウだから、同じリュウだとちょっと......というかかなりややこしいかったんだな。

 

「あ、そうだ。なぁアジーン、オリジナルとニーナってあの後どうなったわけ?」

 

「あの後......?」

 

「空を開いた後だよ。ゲームのエンディングだとアジーンがオリジナルに判定(ジャッジ)を託してそれで終わりだったんだけどさ、やっぱこういうのって少しぐらい気になるだろ?」

 

「......?」

 

まるで頭の上にハテナを浮かべそうな勢いで本気でわからなさそうなアジーンの顔。

あえて遠回しに聞いたのが間違いだったのかもしれない......。

 

「だから、いわゆる恋バナだよ、恋バナ!」

 

「......お前はそういうものが趣味だったのか」

 

途端に訝しむように尋ねてくるアジーン。

俺は一瞬で自分の顔が赤面するのがわかった。

 

「はぁ?! いや、待て待て待て待て!! なにがどうしてそうなるんだお前の思考回路おかしいんじゃねぇの?!」

 

別にやましいことなんてなにもないはずなのに、なんで俺は慌ててるんだろ......自分のことなのによくわからん......。

 

「通常ならば女性同士がするものではないのか、恋バナは」

 

「ならなんだよ、男同士はダメだって言いたいのか!」

 

「そうとは言ってはおらん。だいたい、私とお前は確かに生物学上男同士だが自動人形と人形使いであろう?」

 

「細かっ?! 別にどっちでもよくないか、それ!」

 

そんな益体もない話をしていると『まもなくロンドンです』という車内アナウンスが聞こえてきた。

 

「お、そろそろか。おいアジーン、今日は見逃しておいてやるけど、次はないからな。尋問じゃボケェ」

 

俺はなんだか楽しくなりながらアジーンにそう宣言し、テキパキ列車を降りる支度を始める。

アジーンはといえば俺の宣言を聞いて露骨に嫌な顔をしていた。

 

「ふふん♪」

 

先ほどまで海一面だった窓の外は早くも大陸に入り、駅のホームもまた近くなっていた。

やがて列車は駅に到着し、車内にいても聞こえてくる耳障りな音に顔をしかめつつ俺達はホームに降り立った。

さらば、寝台列車よ。

自部屋のベッド並みにふかふかで気持ちよかったぜ!(`・ω・´)b

 

「さて、と。アジーン、腹は?」

 

隣でパタパタと高度維持をしているアジーンに聞いてみる。

自動人形のくせに、人間のように飯を食べないとダメらしい。

毎回思うけど、変な構造してるよな、アジーンって。

 

「いや、問題ない。それよりもお前はどうなんだ」

 

「俺はちょっと小腹が空いたって感じ。ちょっとそこの売店でパン買ってこようと思ったんだけど、アジーンが腹減ってないんじゃなぁ......」

 

「私に構わず食べればよいだろう?」

 

「まぁそうなんだけどね」

 

正論を言われ、俺はアジーンに知られないよう顔を背けて小さくため息を吐く。

一人で食べるのが嫌で、一緒に食べたかったなんて言い出したらなに言われるかわかったもんじゃない。

 

「なに食べよっかなぁ......」

 

俺はさっそく売店の前に立ち、視線だけで物色する。

 

「お、たまごサンドイッチだーーすんません、これください!」

 

「相変わらずたまごサンドイッチが好きだな」

 

「うるせぇ、ガキで悪かったな!」

 

そうして手に入れたパンを手にアジーンに噛み付きながら、俺はアジーンと共にリヴァプール行きの列車へと乗り込んだ。

発車まではまだ時間があるようなのでたまごサンドイッチを片手に最後の復習へと入る。

ロンドンに来るまでの列車でやろうとも思った(実際にやった)が速攻で酔い、吐き気を催したためやるなら今しかないのだ。

 

「自動人形はなにを内蔵し、人形使いの魔力を受けて活動する人形か?」

 

「魔術回路」

 

「現在最も普及している魔術回路は?」

 

「イブの心臓」

 

「臓器についての禁書の名ーー」

 

「デ・オルガルム。なぁ、もう少し難しい問題とかねぇの?」

 

ため息を吐きながら俺は座席の背もたれに全体重を掛けると、アジーンに渡した教科書がこちらに飛んできた。

俺は慌てて飛んできた教科書を片手で叩き落としてからアジーンを睨んだ。

 

「うお、あっぶね?! なにしてんだ! 角が頭に当たったらどーする気なんだよっ!」

 

「そんなに文句を言うのなら最初から私に頼まなければよいだろう!」

 

「一人でやってたら答えが視界に入っちゃうからお前に頼んだんだよ! ーーん?」

 

ふと列車の外でトタパタと下駄を鳴らして走る音が聞こえ、俺は視線をそちらに向ける。

 

「とうとう着きましたね! ハネムーンの地、英国に!」

 

その先には黒いミニの着物に身を包んだ黒髪の可憐な少女が楽しそうにはしゃいでいた。

 

「この約束の地でついに、夜々は雷真のビックベンを受け入れますっ!」

 

「やめろ、紳士の地で!」

 

少女の瞳には精悍な顔つきをした少年が映っており、その少年はそんな少女に対して疲れたような表情を浮かべていた。

 

「なんだ、ただのリア充かよ......」

 

前世では年齢=彼女居ない歴だった上に、今世でも上の方程式が成り立ちそうなフラグを前に、あんなもの、見ていて余計に虚しくなるだけだ。

 

「あーぁ、俺も彼女欲しいなぁ......」

 

「お前みたいな人間を受け入れてくれるような心広い女性が居ればな」

 

「何気にサラッと酷いことを言うな!」

 

それにしても......と、再び外へ視線を向けてしまう。

 

(日本人、か。高校生ぐらいのリア充でロンドンに旅行って、どんだけ裕福な家庭なんだよ......羨ましいぜ)

 

日本で一生を過ごしていた前世の記憶を引き継いでいるからか、少年少女の容姿を見て俺はすぐにそう判断した。

私情が混ざってはいるが、そこはまぁ気にしない気にしない。

と、俺の乗っている列車が発車のベルをけたたましく鳴らした。

 

「このベル、リヴァプール行きじゃねぇか?」

 

「あっ! い、急ぎましょう!」

 

外できゃっきゃしていた少年少女が慌てた様子でこの列車に乗車しようとする。

 

「雷真! 早くっ!」

 

(なんだ、あのリア充もリヴァプールに行くのか。めんどくせぇなぁ......)

 

ま、目の前に来なければ別にいいかと俺は教科書をカバンにしまい、アジーンをくいくいと手招きをした。

 

「なんだ」

 

「学院まではあと半日あるからな。技術試験に備えて今のうちに寝ておこうぜ」

 

「私は別にお前の魔力さえあれば動けるのだが......」

 

「そうツマンネーこと言わずに付き合えってぇの」

 

「はいはい」

 

苦笑しながらも膝の上で体を丸めてくれたアジーンに手を置き、俺は背もたれに寄りかかって目を閉じた。

 

 

体が列車の振動でだんだんと沈んでいく。

 

「うぅん......ーーッ?! いって!」

 

そのまま寝台列車なんかとは比べ物にならない硬さの座席に頭を打ち付け、俺は一瞬で目を覚ました。

 

「やべっ! 乗り過ごした?!」

 

途端にそんなことが頭の中を過ぎり、慌てて窓の外を見てみるとそこは機巧都市リヴァプールの街並みが一面を覆い尽くしており、むしろちょうど良いタイミングだった。

 

「よ、よかった......ようやくここまで来て乗り過ごすとかマジ冗談でもキツイって......」

 

「痛い......」

 

「あ、アジーン。すまん、つい......」

 

そう、慌てて起き上がったときに膝の上にいたアジーンは寝ていたこともあってか列車の床に叩きつけられていた。

 

「今回はマジゴメンって」

 

顔の前に片手を持ってきて軽く謝りながら下車の準備を始めたときだった。

 

「どうして止まらないんだ?」

 

ふと他に乗っていた乗客が疑問の声を上げる。

 

「もう終点だぞ!」

 

「止まらない?」

 

その言葉に窓の外を見てみると列車はホームの最終を走っていた。

 

「皆さま、どうか、どうか落ち着いて聞いてくださいーーブレーキがききません!」

 

ひどく焦った車掌がこの現状の要因を乗客に知らせる。

そんなことをしても、逆に不安を煽るだけなのに。

事実、乗客は一瞬にしてパニックに陥っていた。

 

「落ち着いて下さい! 大丈夫、列車は自然に止まります!」

 

故に、車掌の声も届かない。

俺は心底嫌な気持ちになって、アジーンを見た。

 

「なぁ、アジーン。どうしようか?」

 

「どうするもなにも、列車が止まらなければどうにもなるまい」

 

「デスよねー」

 

このあと技術試験を控えていると思うとここで魔力は使いたくなかったが......魔力を温存してもそれで死ねば元も子もない。

 

「列車止めんぞ、アジーン」

 

そう言って俺が立ち上がったとき、

 

「全員、座席につかまれ!」

 

そんな命令文が車内に大きく響いた。

途端に車内は静まり返り、少年の声がよく通るようになる。

 

「ん? あいつら」

 

見てみればロンドンの駅のホームで見かけたあのリア充が列車の通路に立っている。

なにかを始めるつもりなのか、オロオロしている車掌に一言いうと少年は少女と共に車窓から出て行ってしまった。

 

「おいおい! 死ぬ気かよ?!」

 

俺は慌てて自分のいた座席の車窓からアジーンと共に躍り出て、屋根に登る。

と、二人は俺の姿を目に留めて叫んだ。

 

「なにしてる! 早く車内に戻ってろ!」

 

「お前らバカか?! そんな可愛い羨まし過ぎる彼女共々心中する気かよ! リア充こそ大人しく車内に戻ってろってぇの!」

 

「なっ?!」

 

俺の言葉に少年が赤面する。

逆に少女は少年の彼女と呼ばれてなんだか嬉しそうだった。

「あー、もう!」と俺は二人を見ていられなくなって、代わりにアジーンに視線を向ける。

 

「アジーン、とっとと片付けるぞ、めんどくさい!」

 

「なんやかんやで列車を止めるのだな」

 

「そこには触れるなっての! 行くぞ、トランス!」

 

俺は両手をパンと顔の前で合わせ、バッと両腕を広げる。

瞬間俺の体は傍にいたアジーンと一緒に炎に包まれ、アジーンは巨大な黄土色の翼竜の姿へ、俺は赤い竜人のような姿へと成った。

俺とアジーンが一緒になって最初に覚えた、独自の変身技だ。

名前はドラクォの前作『ブレスオブファイア4〜うつろわざるもの〜』から引っ張ってきてしまったが、他に思いつかなかったんだから仕方が無い。

 

(「アジーン、列車の最後尾を頼む! 俺は最前列から列車のスピードを緩める!」)

 

(「引かれるなよ!」)

 

(「お前が手さえ抜かなかったらな!」)

 

俺はアジーンにテレパシーで作戦を伝え、早速実行に移した。

 




今回はかなりテキトーに書いたからね。
相当テキトーに書いたからね。
大事なことだから2回言ったからね←

いい感じに切れなかったから、ちょっと中途半端かも?

あ、雷真と夜々の台詞はアニメスペシャルから引っ張ってきたり、原作から引っ張ってきたりしてます。
二人の外見はwiki先生からです。


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第八話:もう嫌だ......

タイトル考えるのむずい......
わざわざかっこよくしなくてもいいよね......?

誤字、脱字あったら教えてください(`・ω・´)


目の前で、己よりも少し低めの身の丈を持つ少年と小型の竜の姿をした自動人形が炎に包まれ、赤い竜人と巨大な黄土色の翼竜が姿を現す。

 

「なんだ、こいつは......」

 

初めて見たらしい機巧魔術(マキナート)に、日本からはるばる来た赤羽雷真は唖然としてそれを見ていた。

竜人とその翼竜がお互いに視線を交わし、翼竜は列車の最後尾へ、竜人は最前列へと移動する。

 

「うおっ」

 

「雷真!」

 

直後列車に走る、大きな衝撃。

思わずよろめいてしまった雷真はその側で何故か浮かれていた彼の相棒(パートナー)である夜々に支えられる形で倒れることはなかった。

 

「すまない、夜々」

 

「いえ、雷真が無事なら」

 

雷真がフラついたからか、一瞬で浮かれた気分から戻った夜々は小さく微笑んだ。

ふと彼女の笑みが失せ、サッと振り向いて列車の先を見据え指を指す。

その先には列車を止めようとしている竜人の姿の他に角度のキツイカーブがあった。

 

「あれを見てください雷真」

 

「俺たちも行くぞ、夜々!」

 

「はい!」

 

それを見た雷真がダッと走り出す。

夜々は大きく返し、雷真の後を追って列車の先頭まで進んだ。

 

森閑四八衝(しんかんしじゅうはっしょう)!」

 

瞬く間に追い越していった夜々に手のひらを向けながら雷真は言葉を放ち、刹那夜々と彼を青白い炎が繋いだ。

夜々が大きく跳び上がり、列車を飛び越え線路の上に着陸する。

そうしてぶち込んできた列車を竜人と共に受け止めた。

 

「ッ?!」

 

突如現れた夜々に対して竜人が驚くも、再び視線を列車に移し更に力を加えていく。

最後尾で翼竜が引っ張っているおかげか列車は玉突き状態に陥ることもなく、また、夜々が加わったことで列車のスピードはかなりの速度で緩まっていった。

キイィィィと耳障りな音を立てて列車がようやく止まる。

 

「ふぅ。よくやったな、夜々」

 

列車の衝撃に備え、突起に体を固定していた雷真が線路に飛び降りて夜々を褒める。

夜々は嬉しそうに雷真を期待の込めた目で見るが雷真の視線は隣の竜人へと向けられていた。

 

「......」

 

ふと竜人が空を見上げ、手を伸ばす。

釣られて空を見上げてみれば空には最後尾で列車を引っ張っていた翼竜がおり、翼竜は竜人の手に留まろうと高度を下げていった。

 

「こっちに来る気か......?」

 

「雷真、危ないです! 離れましょう!」

 

みるみるうちに距離を縮めていく翼竜に、二人が戦慄したそのとき。

 

ボウッ

 

と音がしたと思えば翼竜と竜人は炎に包まれ、そうして再び現れた姿は紛れもなく先ほどの少年と小さな竜の姿をした自動人形(オートマトン)だった。

 

 

結果からいえば列車は止まった。

し、アジーンのサポートのおかげで玉突き状態に陥ることもなかったため怪我人が出ることもなく、この件は無事に終わりを告げた。

ただ一つ、少し......というかかなり関わりたくない奴らと一言交わさなくちゃならないということは除いて。

 

「......さっきはありがとう。たぶん、俺とこいつだけじゃカーブまでに止めることが出来なかった」

 

トランスを解いた俺は手に留めたアジーンを前に持ってきながら目の前のリア充二人組に礼を言う。

 

「いや、礼を言うのは俺のほうだ。夜々だけじゃたぶん、玉突き状態を起こして怪我人が出てたはずだからな。ありがとう」

 

雷真というらしいその少年は小さく頭を下げ、礼を言う。

夜々というらしい少女はそんな雷真を見て慌てて同じように頭を下げた。

......どこまでもリア充展開する気か、こいつら。

俺は内心うんざりしながら、ふとこの夜々というヤツが一緒に列車を止めていたことを思い出した。

 

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

 

「なんだ?」

 

「お前って魔法使い......なのか?」

 

「いや。お前と同じ人形使いだが......」

 

雷真が「なにを言ってるんだ?」と言いたげな表情を浮かべる。

そんな表情を浮かべられても人形使いとして勉強し始めたのってまだ1ヶ月も経ってないし、同類って言ったら元人形使いの先生しか見てないんだから仕方ないと思う......(´・ω・`)

 

「じゃあ、ソイツは自動人形......?」

 

「ソイツじゃなくて夜々です!」

 

ムッとしながら夜々が俺の言葉を訂正する。

が、俺は触れなかった。

夜々自身が否定しない時点で俺の言葉は間違っていないからだ。

 

「こいつはれっきとした自動人形だよ。それも世界最高の、な」

 

そこに、さらに夜々が自動人形だということを肯定するかのように雷真が説明を付け加える。

 

「雷真......」

 

説明しながら雷真に、頭の上に手を置かれた夜々の目がわずかに潤んだ。

 

「へぇ、すごいな。世界最高ってか。......まるで人間みたいだ」

 

「そうだろ、なんたって硝子さんが作ったんだからな」

 

自慢げに言葉を返す雷真。

だが、その隣で小さな殺気が立ったのを俺は見逃さなかった。

 

「な、なぁ。なんかコイツ危なくないか......?」

 

が、俺の忠告はすでに遅く、夜々の手は雷真の喉元に伸び掛けていた。

 

「硝子、硝子、硝子......いっつも硝子のことばっかり......!!」

 

雷真がその手に気が付いて飛び退こうとするが、その前に夜々の手が雷真の首を掴んだ。

 

「夜々......? なんでそんなに怒っーーちょ、待て、夜々、タンマ、タンマだからやめろぉぉぉ!」

 

ぐわんぐわんと前後に激しく揺さぶられ、雷真の悲鳴が木霊する。

リア充じゃなさそうな上に案外、いい奴みたいだ。

 

「ははっ、なんだ、てっきりリア充だとばかり思ってたけど、どうも違うみたいだな」

 

クスクスと笑いを堪えながら、俺はポロリと零す。

と、夜々が不意にカァァと赤面し、雷真を取り落としてしまった。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ......あー、死ぬ、マジで死ぬかと思った......」

 

相当苦しかったのか、咳き込みながら息を整える雷真。

その隣では夜々が両手で顔を覆いながら一人ジタバタしていた。

 

「夜々はついに雷真の彼女として認められたのですね......! 妻としてではないのはいささか不満ですが、これも雷真と一緒になるための一歩と考えれば......」

 

「やめろ! 踏み出すな! 俺はお前とだけは絶対に一緒になりたくない!」

 

「思考がダダ漏れ......しかもリア充ってのにだけ反応してるし......」

 

わずかに吹き出しながら、俺は崩れ落ちている雷真に手を貸す。

 

「俺はリュウ・ヴォルフィードってんだ。よろしくな」

 

雷真はその手を握り

 

「赤羽雷真。日本の傀儡師だ」

 

そう改めて名前を明かした。

 

 

「そういえばさっき言ってたよな、硝子って」

 

「あぁ」

 

「あのさ......それっていったい誰のこと指してんだ?」

 

ヴァルプルギス王立機巧学院までの道中。

俺は手に持っていた教科書から視線を外し、辺りをわずかに伺った後雷真に耳打ちをした。

 

「は?」

 

直後に放たれる、雷真の聞き返し。

 

「それっていったい誰のことだったんだ?」

 

改めて雷真に視線を向けてみると、彼はこちらを見てポカンとしたままその場に突っ立っていた。

ちなみに夜々とアジーンは現在進行形で俺たちよりも先に進んでいる。

 

「人形使いなのに知らないのか? あの有名な朧富士や雪月花を作った花柳斎硝子のことだぞ?」

 

「......ごめん、やっぱわかんねぇわ。なんせ人形使いになってからまだ1ヶ月もしてないからさ」

 

なんだか責められた気がして、俺は苦笑しながら自分の髪の毛をわしゃわしゃとした。

 

「......は? え、お前それ本気で言ってんの?」

 

「え? いや、そうだけど......」

 

あまりに唐突な雷真の反応に、思わず身を引く。

雷真は俺を見て目を見張っているようだった。

 

「始めてまだ1ヶ月も経ってないっていうのにさっきのあの技法......凄いな、お前」

 

「そう......なのか?」

 

「あぁ」

 

雷真は頷いてくれたもののさっぱりわからず、俺は「ふぅん......」と首を傾げながら再び教科書に目を落とす。

 

「そういえばさっきもそれ読んでたがいったいなにを読んでるんだ?」

 

ふと雷真が俺の持つ教科書に視線を向けながら話しかけてくる。

 

「これ? こいつは自動人形の教科書さ。さっきも言った通り、まだ人形使いになって1ヶ月もしてないから大した知識無くて......雷真はしなくてもいいのか?」

 

「勉強、か?」

 

ハテナを浮かべながらも言った雷真の言葉に俺は頷く。

 

「おう。俺は学院に着いてすぐに入試があるからしなくちゃなんねーけど、雷真にも編入テストみたいなもんがあんだろ?」

 

「いや、なにも聞いてないが......」

 

その言葉に少しばかり驚いたが、日本から出るときになにも聞かされてないのかな?と思いつつパタンと教科書を閉じた。

 

「じゃ、とりあえずってことでやっとけよ。やらないで後悔するより、やって後悔したほうが何倍も良いだろうしさ」

 

「それもそうだな。適当な頃合いでそれ貸してもらえないか?」

 

「いや、俺はもういいや。それなりに勉強してきたつもりだし、雷真が使えよ」

 

そう言いながら雷真に教科書を渡す。

 

「ありがとな」

 

「おう」

 

ふっ、と微笑を浮かべながら教科書を受け取った雷真に、俺も小さく笑いながら返事した。

 

 

「これで学力試験は終わりだ。成績を打ち出すまでの間、室内にて待機!」

 

試験官の言葉に、俺は思わず「は?」となる。

行われた試験は筆記試験と口頭試問の二つのみで、まだ技術試験が終わっていなかった。

俺は慌てて立ち上がり、受験部屋から出て行こうとする試験官を呼び止める。

 

「なんだ」

 

「あの、試験ってこれで終わりなんですか? 技術試験は......」

 

「技術試験? なんだそれは」

 

「へ?」

 

そうして返ってきた試験官の答えに俺は思わずマヌケな声が出る。

試験官は困った顔でため息をつき、

 

「何か知らんが、試験はこれで終わりだ。成績を打ち出すまでこの部屋で待っていなさい」

 

と改めて指示をして出て行ってしまった。

 

「あっ......」

 

そこでふと気が付く。

確か試験官って学力試験とは言っていたけど、技術試験とは一言も言ってなかったよな......しかも聞いたことがないって反応を見せてたし。

てことは......技術試験なんて、そもそも最初からない?

 

「......いや、まさかな」

 

わずかに首を振って、否定する。

今すぐにでも先生に確認を取りたいが、なにをするにも今はとにかく成績が出るまで待たないと。

 

「試験官となにを話してたんだ?」

 

指定された自分の席へ座ってすぐ、雷真がこちらへと来る。

 

「いや、なんでもね。雷真は試験どうだったよ?」

 

俺はすぐさま話題を切り替え、雷真にそう尋ねた。

 

 

「はぁ?! 技術試験が嘘?!」

 

思わず電話口で俺は叫ぶ。

相手はもちろん先生だ。

 

『悪いな、リュウ。学院に行くにしても人形使いならせめて機巧魔術の一つぐらいは使えないとマズイと思って......』

 

「冗談じゃねぇ、俺の汗と涙の時間返せ! そんなんより勉強に回せてたらもっと良さげな順位取れたのに! つか編入生だったなんて聞いてない! 詐欺レベルだろ、これ!」

 

マシンガントーク並みに言葉を並べ、俺は文句を垂らす。

俺の手には成績表が握られていて、ただ一つ順位が掲載されていた。

『1256人中1024位』と。

視界の隅で、さきほど試験官だった教官と話している雷真よりかは遥かにマシだが、4桁というのが物凄く嫌だった。

ちなみに彼はドベから1個上の1255位だ。

話を聞いてみればせっかく教科書を貸してやったのに直前でど忘れしたんだとか。

よくあることだけども。

 

『騙してたことは謝る。だがやらないで後悔するよりもやって後悔してるんだからいいだろ?』

 

「そりゃそうだけどさぁ......」

 

それはさっき俺が雷真に言った言葉だった。

こう......改めて言われてしまうとなんとも言えなくなってしまうのがなんだか悲しかった。

 

「うぅ......爺ちゃんになんて言えばいいんだ......」

 

『その件については心配しなくていい。リュウにはホント申し訳ないが、このあいだの二者面談のときに説明済みなんだ』

 

その言葉に、俺は空いた口が塞がらなくなる。

 

「え? ......じゃあなに、みんな俺を騙してたってわけ?」

 

『ホントすまん......』

 

「うわ......もうやだ......人間信用出来ねぇ......」

 

「諦めろ、リュウ」

 

「アジーン、黙ってろ......触れるな、ちくしょう......」

 

横合いからいきなり口を挟まれ、俺はほぼ反射的に口答えする。

 

「もういいや、なっちゃったもんは仕方ないし......うん、大きなお世話をありがとな、先生っ!」

 

相手の返事も聞かずにガチャンッと勢いよく受話器を戻し、俺ははぁ......と大きくため息を吐く。

もう、泣きたい......。

 




黄土色の翼竜はカイザーを思い浮かべてくれればいいです(`・ω・´)

それにしても......書いてて思う。
これはひどいwwww
リュウ、お疲れ......ww

お気に入り登録ありがとうございました!
良ければ感想、お待ちしております!


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第一章 Facing "Cannibal Candy"
第九話:シャルロット・ブリュー


春休みだと筆......もとい指が進むなぁ(╯⊙ ω ⊙╰ )

今回は会話主体かな?
ちょっとだけ説明会です(┏ `・ω・)┏

お気に入り登録、ありがとうございます


「ここが君の所属するトータス(どんがめ)寮だ。おちこぼれが集まるには最適の場所だよ。せいぜい学業に励むと良い。それと、君のルームメイトは下から二番目(セカンドラスト)だが、寝床は自分で確保しろ。寮監に話はつけてあるから好きなところを寝床とするが良い。話は以上だ」

 

そう言って、カツカツとヒールを鳴らしてキンバリー先生(機巧物理学担当の先生で、さきほど雷真と話していた教官でもある)は足早に立ち去ってしまった。

 

「好きなところって言ってもなぁ......」

 

一人残された俺はトータス寮を前に呆然とする。

“寮監に話はつけてある”とキンバリー先生は言ってくれたが、如何にもボロそうな外見を持つトータス寮に良さそうな部屋なんて想像もつかなかった。

 

「......とりあえず行ってみるか」

 

“おちこぼれ”という単語と『1236人中1024位』という現実に暗くなる気持ちを覚えつつ、俺は寝床確保へと動く。

その後ろをアジーンが、トータス寮に来るまでの間に自動販売機で買ってやったオレンジジュースをストローで器用にちまちまと飲みながら黙って付いてくる。

ドラクォで見たあの威厳はどこ行ったよ、おい。

ちなみに雷真と夜々は今ここには居ない。

キンバリー先生と話が終わってすぐ、なにを話していたのか聞く暇もなく何処かへ行ってしまったのだ。

 

「お前が編入してきたっていうリュウ・ヴォルフィードだな? キンバリー教授から話は聞いてる」

 

「あ、はい」

 

寮の入り口、寮監と思しき男性がそう話し掛け、俺は振り向く。

 

「今、ここに記した部屋が空き部屋となっている。棟によって少しインテリアが違うから好きなところを選ぶと良い。決まったら部屋番号とまたこいつを返してくれ」

 

「丁寧にありがとうございます」

 

そうして渡された寮内の簡易模式図を手に、俺は今ある空き部屋を一つずつ覗いていった。

 

 

「けほっ......どこも埃っぽいなぁ......」

 

最後の空き部屋を覗いて、俺はため息と共に呟く。

 

「良い部屋は見つかったか?」

 

「んなわけねぇじゃん。ほとんど埃っぽい部屋が気に入るなんてどんな神経してる奴だよ、それ」

 

頭の上から聞こえてきたアジーンの問いに不満そうに答える。

 

「でも良さそうなインテリアはあったから、寝床はそこにする予定。埃っぽいのは今から掃除かなんかしてなんとかするっきゃねぇしな」

 

「ふむ、最善の策だな」

 

「だろ」

 

そんな風に会話をしながら再び寮の入り口へと行ってみると、寮監はウトウトしながら椅子に座っていた。

 

「あの、先生?」

 

なんて呼べば良いかわからず、とりあえず先生と呼んでみる。

 

「っは。すまん、良さそうな部屋は見つかったか?」

 

それで目を覚ました寮監が頭をフルフル振って俺のほうを向いた。

 

「まぁ、それなりには」

 

まさか全部埃っぽくて嫌だったんですけど渋々選びました、なんて言えるはずもなく、適当に誤魔化す。

 

「そうか。そりゃよかった」

 

「はいーーあの、これありがとうございました」

 

そう言いながら、俺は渡された簡易模式図を寮監の元へ返す。

 

「ん。そんで、部屋はどこにしたんだ?」

 

「あ、えっと......ここです」

 

差し出された簡易模式図に、俺は選んだ部屋を指して示す。

 

「東棟の305号室だな。ほら、これが鍵だ」

 

「ありがとうございます」

 

そうして渡された鍵を受け取ったときだった。

外でカッとなにかが光り、俺は目が眩む。

 

「うっ......な、なんだ?」

 

が、それはほんの一瞬だったようで、光の線は徐々に小さくなって消えた。

 

「ありゃあ暴竜(Tレックス)のシグムント、ラスターカノンだな......」

 

「Tレックス? シグムント?」

 

寮監から放たれた言葉に、俺はつい聞き返してしまう。

 

「そうか、お前はついさっき編入してきたばっかの生徒だったな。ついでだから知っておくといい。暴竜(Tレックス)......もといシャルロット・ブリュー。学院の二回生にして夜会のトップランカー十三人(ラウンズ)のひとり。登録コードは君臨せし暴虐(タイラントレックス)で、他の生徒からは暴竜(Tレックス)と恐れられている次期魔王(ワイズマン)の有力候補だよ」

 

懇切丁寧に説明してくれた寮監。

唐突な上に半端ない説明に、俺は頭の中が一気にパンクするかと思った。

 

「へぇ......」

 

「たぶん、ラスターカノンが放たれたってことは今頃誰かが暴竜(Tレックス)に挑戦してるんじゃないのか?」

 

「挑戦?」

 

「この時期だからな。大方手袋持ち(ガントレット)でも狙ってるんだろ」

 

「物騒だなぁ......いろいろありがとうございました」

 

ぺこりと頭を下げ、俺は礼を言う。

 

「ここはいわゆる弱肉強食の世界だからな。トータス寮に来たからには相当頑張らないと卒業すら危ういから少しでも応援してやりたいんだよ。またなにかわからないことでもあったら相談相手になるぜ」

 

「はい、頼りにしてます」

 

ふっ、と小さく笑い、俺は早速東棟の305号室へと向かう。

 

「......」

 

ふいっ、と踵を返して俺は登りかけた階段をタンタンと下り始める。

 

「? どこに行く」

 

アジーンが気になったのか、尋ねてくる。

 

「いや、暴竜(Tレックス)とかいうヤツのこと見ておこうと思って。寮監にせっかく教えてもらったのにいったい誰を指すのかわかんねぇのは嫌だからな」

 

「ほぅ」

 

俺の答えに、アジーンが納得したように頷く。

再び寮の入り口にまで来てみると、すでに寮監の姿はなかった。

簡易模式図を返しに来たとき、椅子に座ったままウトウトしてたから我慢出来ずに自室へ戻ったのか。

そのまま俺はトータス寮を抜け、ラスターなんたらが発射されたっぽい場所へと向かった。

 

 

「あ? なんじゃこりゃ?  どうなってんだよ、おい」

 

そこは学院の校庭だった。

だが、明らかになにかが違う。

雨が降ったわけでもないのに濡れたあとのある地面。

凍結した部分もある地面は大きくヒビ割れたところもある。

さらに瓦割りでもしたの?と聞きたくなるようなクレーターが一つ、作動した地雷を内側からバリアを張ったかのような不自然なクレーターがもう一つあった。

まるで戦場の跡地のような校庭だ。

 

「あれ? 雷真と夜々か? 誰と話してんだ?」

 

ふと見てみれば金髪で碧眼を持つなかなかに可愛い少女とその背後に佇むアジーン並みにデカイ銀色の竜がおり、そして彼女らと相対する雷真と夜々がいた。

 

「あれが君臨せし暴虐(タイラントレックス)、シャルロット・ブリューではないか?」

 

アジーンに言われ、俺はよくその目に焼き付ける。

 

「あれが? なに、すっげぇ可愛いじゃん」

 

はい、そこ。

そう言う意味でかよとかツッコまない。

 

「惚れたか?」

 

「ばぁか、そんなわけあるか。確かに可愛いけど、俺の好みじゃねぇよ」

 

「クックック......」

 

忍び笑いを漏らすアジーン。

からかわれたような気がした俺はアジーンをチラ見してから歩き出した。

 

「あ、おい。待てよ、リュウ」

 

慌ててアジーンが俺の後を追ってくる。

俺は気にせず、ある程度近くなったところで声を上げた。

 

「おーい、雷真と夜々ー!」

 

「リュウさんとアジーン!」

 

俺の声に、雷真と夜々が振り向く。

 

「リュウ? どうしてここに」

 

「いや、トータス寮で寝床確保してたらこの辺でなにかが光ったから気になってーーそっちのはシャルロット・ブリューとかいうすげぇヤツか?」

 

ふと目の前の少女......シャルロット・ブリューへと視線を向ける。

彼女は汚らしい物を見るような目でこちらを見ていた。

......なんかヒドくね?

 

(「リュウ、あやつ、怪我をしている。このまま雷真が戦えば無事には済まんぞ」)

 

ふとアジーンがテレパシーで話しかけてくる。

俺はちらりと裏の竜に目を向けてみると、目立った傷はないものの確かにあちらこちら傷付いていた。

 

「なに、あなた? あなたも私の手袋持ち(ガントレット)を狙いに来たの?」

 

シャルロットが顔をしかめながら尋ねてくる。

俺は肩を竦めてお手上げのポーズを取った。

 

「冗談。そんな物騒なこと、ゴメンだね」

 

「じゃあなにしにここへ来たの?」

 

「なにか理由がなくちゃここに来ちゃダメなのか。どんな権限だよ、それ」

 

「うるさいわね。とにかく、邪魔をしないで頂戴。私は今こいつの挑戦を受けてるの」

 

「知るかよ、そんなの。てか、挑戦ってお前のことだったのかよ、雷真」

 

寮監の説明を思い出し、げんなりとしながら問う。

 

「まぁな」

 

「まぁいいや、寮に行こうぜ。どこの空き部屋も埃っぽかったけど、その中でそれなりに良さげなインテリアの部屋見つけたんだ」

 

「あ、ちょっ、リュウ!?」

 

ぐいっ、と雷真の腕を引っ張り、半強制的に連行する。

 

「リュウさん、なにしてるんですか?!」

 

夜々も慌てて尋ねてくるが、俺は取り合わなかった。

 

「ちょっと! ソイツ連れて逃げる気?!」

 

背後からシャルロットの声が聞こえてくる。

俺は一度止まり、振り向いて半ば叫ぶように応えた。

 

「勝負に拘る前に、自分の自動人形(オートマトン)のことを配慮してやったらどうだよ!?」

 

「なっ......?!」

 

再び前を向いて歩き出し、さっさと校庭から遠ざかる。

俺の半ば叫んだ内容を聞いた雷真はわずかにしてた抵抗を止め、おとなしくついてくるようになった。

 

「この辺でいいだろ。悪かったな、無理やり引っ張っちまって」

 

校庭からある程度離れた中庭で、俺はようやく足を止める。

 

「いや、むしろありがとな。負傷者相手に戦いを挑むところだった」

 

「どういうことですか、雷真?」

 

雷真の言う意味がわからなかった夜々が小首を傾げながら問う。

本来ならここは雷真が答えるべきところなのだろうが、俺は口を開いた。

 

「あの銀色の竜......シグムント、だったっけな。ヤツはなにがあったか知らんが怪我負ってるみたいでよ。あの状態じゃ満足に飛べないだろうな」

 

「なるほど、それでリュウさんは」

 

「そ。日本って正々堂々挑む国だろ? だったら相手も万全な状態じゃないとな」

 

「リュウは西洋人なのに東洋人(俺たち)のことがよくわかるな」

 

ふとそんなことを言われ、内心わずかに焦る。

 

「まぁ......ちょっと訳ありでな。さっ、トータス寮に行こうぜ。キンバリー先生が言うには俺のルームメイトは雷真、お前らしいからな」

 

俺はなんとか誤魔化し、トータス寮へと歩き出した。

 

「へぇ、そうなのか」

 

その後を、雷真が相槌を打ちながら夜々と一緒についてきてくれた。




リュウが紳士になったw
頼もしい寮監が気付いたら出来てたし、なんかすごいことになってきたw

良ければ感想、評価お待ちしております

(そろそろプロフィールとかプロローグ作ったほうがいいのかな......?)


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第十話:寮の屋上で

ウダグダ書いてたら、気付いたら3500文字超えてたから投下。

お気に入り登録、評価ありがとうございます(*>∀<*)ゞ



ズルズルと、ものすごく格好のつかない姿で3人が遠ざかっていく。

有無を言わさない雰囲気に加え新たに増えた無礼者の放った言葉に、シャルロット・ブリューは己の背後に立つ相棒(パートナー)、シグムントを見上げていた。

 

「もしかして、どこか痛むの?」

 

恐る恐ると言った感じで、シャルが問う。

シグムントはまばゆい光を放ちながら銀色の巨大な竜の姿から小さな竜のそれへと変えたのち、翼をわずかに動かした。

 

「翼を少々、な。ニ、三日は大事を取りたい」

 

シャルにしか聞こえないほどの少量の声で、シグムントは訴える。

シャルは、長年付き合って来たはずなのに彼の負傷に気付けず、それに対して申し訳ない気持ちを覚えた。

 

「なに、気を負うことはない。時間さえ経てばこのくらいの傷、すぐに癒えよう」

 

「......ごめんなさい」

 

「さて、寮へ戻ろう。今日はもう遅い」

 

そう言われて顔をあげてみれば空はうっすらと紫掛かっていた。

 

「......そういえば結局、あの無礼者3人組はいったいなんだったのかしらね」

 

ふと唐突に現れたあの無礼者のことが頭の中に浮かび、首を傾げながら呟く。

 

「気になるのか?」

 

まるで見透かしたように尋ねるシグムントに、シャルは思わず取り乱してしまう。

 

「な......! ば......バカなこと言わないでちょうだい! お、お昼のチキンをパンくずに格上げするわよ!」

 

「落ち着け、シャル。チキンからパンくずでは格下げだぞ。どちらにせよ、パン屑では私の体は持たないがな」

 

「も、もう......黙りなさいよね。いちいち揚げ足も取らないで。いい?」

 

そんな風に反目する掛け合いをしながら、1人と1体は荒れた校庭から去っていくのだった。

 

 

その夜、トータス寮の東棟305号室にて。

 

「リュウさん、わざわざ雷真のために寝床を確保してくださりありがとうございました。こちらはお礼の品です」

 

異常なほどニコニコした夜々が、こちらにホクホクと湯気の立つお茶を差し出してくる。

どこか有無を言わさない様子に、俺は嫌な予感を覚えつつ受け取った。

 

「リュウ、ストーップ!!」

 

コップの端に口を付けて今に飲もうとしたとき、雷真がそんな声を上げる。

 

「な、なんだよ雷真。せっかく夜々が入れてくれたお茶なんだぞ」

 

「ものすごく嫌な予感がする......リュウ、飲む前に匂いを嗅いでくれーーいや、むしろ嗅いでください!」

 

「やだ、雷真。嫌な予感だなんて♡」

 

「怪しいな、ものすごく......」

 

アジーンにまでそんなことを言われ、俺は渋々匂いを嗅ぐ。

と、見た目はお茶のはずなのに、お茶には有ってならない臭いが漂ってきた。

 

「......? お茶じゃないな.....何の臭いだ、これ......?」

 

「......チッ」

 

「ちょっと待て、夜々。今なんで舌打ちした?」

 

慌てて雷真が夜々の取った行動を問い詰める。

夜々は唐突にもじもじとし始め、仔犬を彷彿させるような目で俺と雷真を見た。

 

「夜々は今日の戦いで怪我をしてて。火傷も少し......リュウさんだって人形使いなのですから知っていますよね? 私たち自動人形(オートマトン)は人形使いの魔力で生きていることを。故障した場合にも、距離が近いほど修復が早まるんですよ?」

 

「俺が邪魔だって言いたいのか」

 

夜々の言いたいことがわかってしまい、俺は思わずため息を吐いてしまう。

 

「あー、もう。わかったよ。俺のベッドは夜々、お前が使え」

 

「え? 良いんですか?」

 

驚いた表情を浮かべ、夜々が尋ねてくる。

わざとらしいにもほどがあんだろ、おい......。

 

「あぁ。ただし今日だけだからな?」

 

「はい♡」

 

「だ、だがリュウはどこで寝るつもりなんだ?」

 

「俺か? 俺はアジーンと一緒に寮の屋上で星でも見てくるよ」

 

どこかビクついた様子の雷真に、俺はさらりと答える。

 

(「楽しそうだな、リュウよ」)

 

(「あ、やっぱわかっちゃう?」)

 

ふとアジーンがテレパシーで話し掛けてきて、俺は雷真と夜々にバレないよう小さく笑った。

普段の雷真からは想像も出来ないような今の様子に今すぐにでも笑い転げてしまいそうで、俺はとっとと窓に手を掛ける。

 

「んじゃま、おやすみなさい。お二人とも」

 

「あ、リュウ!!」

 

雷真の叫び声を背に、一気に窓から飛び降りて俺のみにトランスを発動する。

言い忘れたが、トランスには3つパターンがある。

1つめは俺とアジーンが変身するもの。2つめはアジーンのみが変身するもの、そして3つめは今みたいに俺だけが変身するものだ。

臨機応変に発動出来るもんだから、ものすごく便利なんだよな、これ。

 

「よっ、と」

 

トランスで竜人へと姿を変えた俺は一気に屋上まで背中の翼を使って高度を上げ、屋上に着いたところでトランスを解く。

さっそくごろりと適当な場所に寝転がって空を見てみると、空は綺麗に晴れており、星がよく見えた。

 

「アジーン、お前も来いよ。星めっちゃ綺麗だぜ」

 

空を指差しながら、アジーンを呼ぶ。

アジーンはパタパタと羽ばたいて俺の腹の上に着陸すると、わずかに首をもたげた。

 

「なぁ、アジーン。あれ、見てみろよ。なんか大きな犬っぽくない?」

 

「いや、それよりもあちらのほうが犬っころっぽいぞ」

 

「いや、あれってどっちかっていったら熊だろ?」

 

そんな感じで俺らは星でいろんな動物を思い描いていった。

 

「......リュウよ」

 

どのくらいが経ったのか、一段落したところでふとアジーンが呼び掛けてくる。

 

「ん?」

 

俺は仰向けで空を見上げたままその呼びかけに応えた。

 

「お前は......私とリンクしたことを憎まないのか?」

 

あまりにも唐突過ぎる質問に、思わず上半身だけ起こしてアジーンを見てしまう。

 

「は? いきなりなんなんだよ。らしくないな。......前に言ったような気がするけど、リンクしちゃったもんは仕方ないだろ?」

 

「......前からずっと思っていたが......やはりお前は他の適格者とは違うな。オリジナルでさえ、最初は私を憎みはしなかったが恐れていたというのに」

 

その言葉に、俺はまた寝転がって空を見上げたまま内側に意識を向けてみる。

 

「......たぶん、認めちゃってんだろうな」

 

「? どういう意味だ?」

 

俺の言葉に、アジーンがハテナを浮かべる。

俺はアジーンの腹部に手を置いて口を開いた。

 

「前に言ったよな。俺が転生した身で、神様との約束で前世の罪は転生した先で償うって。そんときに言われたんだよ。転生してから前世の罪を償うんだから、転生した際にはその罪相応のデメリットがついてくるって。だからこの歳まで罪を償おうとしなかったから父さんも母さんも死ぬことになったんだと思うし、その直後にお前とリンクしたのも罰が下ったんだ、ってーーごめんな、こんな話。ツッコミにくいだけなのによ」

 

「......お前はそれでいいのか?」

 

「え?」

 

思わぬアジーンの聞き返しに、俺はまた起き上がってしまう。

 

「運命に抗わず、流されるがままに生きる......それでいいのか?」

 

「そりゃ......さすがに嫌だよ。けどアジーンには過ちから学ばず再び汚れちまったこの世界を浄化しなくちゃなんねーっていう大事な役目があんだろ? ドラクォの内容を知ってるからこそ受け入れてられるけど、そうじゃなかったら俺はお前とここにはいないし、犬猿の仲にすらなってると思うぜ」

 

「リュウ......」

 

「さ、もう寝ようぜ。なんか叫び疲れたわ」

 

クスクスと笑いながら、俺は小さくため息を吐いて目を閉じる。

 

「そうだな」

 

俺の腹の上でアジーンが頷き、体を丸めているのがわかった。

 

「おやすみ、アジーン」

 

「おやすみ、リュウ」

 

そうしてお互いに挨拶を交わし、目を閉じたときだった。

ふと下のほうでぎゃーぎゃー騒ぐ音がしているのに気が付き、俺は顔をしかめながら起き上がる。

 

「あいつら、せっかくベッド譲ってやったのに寝ないつもりかよ」

 

落ちないようにゆっくりと屋上から覗いてみると、俺が出てきた窓には明かりこそついていないものの明らかに雷真と夜々のよくわからない言い争いが聞こえて来ていた。

 

「どうも一緒のベッドで寝るとか寝ないとかで言い争っているようだな」

 

ふと上昇しながら現れたアジーンに、俺は苦笑する。

 

「わざわざ見に行ったんかい」

 

「煩くては敵わんからな」

 

「ははっ、まぁ寮生活一日目だし多めに見てやろうぜ」

 

「リュウが言うのなら仕方あーー」

 

不意にアジーンの言葉が途切れる。

 

「? どうした、アジーン?」

 

「なにをしている、あれは......?」

 

「あ?」

 

俺はアジーンの見る方向をじっと目を凝らして見てみると昼間の校庭で黒い影が何かを貪っているのがわかった。

少しばかり遠いが、月の光が照らしているおかげでうっすらとだが見える。

 

「飯かなんかじゃねーの? ま、なんにしろ俺らには関係ねぇけどな」

 

「それもそうだな」

 

俺はそう言って謎の光景を見ないことにし、再び目を閉じた。




シャルとシグムントの掛け合いは完全思い付き制です、悪しからず(´・ω・`)

次話からは魔術喰い(カニバルキャンディ)編です、たぶん。


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第十一話:油断は禁物

なんかものすごく長くなった......ww

そういえば原作からちまちまセリフを抜き出したり、そのセリフをちょこちょこ変えて書いたりしてるけど、これって原作大幅コピーで処分されないよね......?


(「なぁ、アジーン」)

 

まだ2時間目の講義室。

窓側に座っているせいか太陽の光がいい具合に眠気を誘っていて、俺は最早気合だけで授業を受けていた。

 

(「......眠たい」)

 

(「よせ、リュウ。すでにこの人間の授業で何人もの人間(ヒト)共の額にチョークが飛んできた? お前もああはなりたくないだろう?」)

 

(「そりゃそうだけど......」)

 

アジーンに文句を垂らしつつ、せっせとノート作りに励む。

が、如何せん眠気が中々抜けてくれず、真面目に書いてるはずなのに一瞬ハッとなって見てみればへにゃへにゃな線がノートに引かれているだけだった。

たぶんシャーペンに力が入らないからなんだろうけど、例えそうだとしても寝るわけにはいかない。

なんたってこの時間の教師はあのキンバリー先生なのだから。

アジーンも言っていたとおり、すでに睡魔に負けて落ちた学生がその末路を身を張って教えてくれていた。

 

(うぅ......なんか使えそうな魔法ってあったっけ......)

 

キンバリー先生にバレないように、彼女が後ろを向いた隙にかぶりを振りつつ、ブレスオブファイアシリーズ内のスキルを思い浮かべてみる。

が、どれも攻撃系のものばかりで、今自分を叩き起こすような活用できるスキルは見当たらなかった。

 

「〜〜ッ!!」

 

唐突に響いた、べきんっ、というチョークの割れた音。

びっくりして目が覚めたものの、どうやら誰かが睡魔に負けて落ちたらしい。

今度は誰が生贄になったんだ?と思いながら辺りを見回してみると、下の方で激痛に悶える雷真がいた。

......お前かよ、雷真。

 

「雷真! 大丈夫ですか雷真!」

 

隣にいた夜々が慌てて雷真の顔を心配そうに覗き込む。

雷真が睡魔に落ちたのは十中八九お前のせいだけどな、夜々。

 

「私の講義を聞き流すとは命知らずなヤツだ、下から二番目(セカンドラスト)よ。誰のためにこんな初歩的な、つまらん話をしてやっていると思う?」

 

「俺のような新入りと、出来の悪い学生のためか?」

 

ヒリヒリと痛むらしい額を優しくさすりながら雷真が答える。

 

「違うな。出来の悪い新入りのためだ」

 

「そいつはすみませんでした、キンバリー先生。ちょいと寝不足なもんで」

 

100%言い訳の雷真を、キンバリー先生がすぅっ、と目を細めて見る。

獲物を定めるかのような眼つきに、向けられてるのは雷真なのに身震いした。

 

「ほう......? おまけに夢見が悪かった、とでも言うつもりか?」

 

「ご明察、恐れ入るよ」

 

「いい度胸だ。その度胸に免じて今回は目をつむってやろう。その代わり質問に答えろ。今現在、もっとも普及している魔術回路は何だ?」

 

その質問に、俺は少しだけニヤリとした。

今日の朝、この講義室に来るまでの間雷真に多少の手解きをしておいたのだ。

 

「イブの心臓だろ?」

 

雷真が答えられたことに、キンバリー先生が存外な表情を浮かべる。

が、すぐにこほんと咳払いをして表情を元に戻してしまった。

 

「......正解だ」

 

おお、周りの学生がわずかに騒がしくなる。

キンバリー先生はつまらなさそうに

 

「どよめいたバカは減点だ」

 

と学生達をあっさりと静めた。

 

「予習でもしてきたのか? 下から二番目(セカンドラスト)

 

新たなチョークを手にとり、黒板に『Vital』と書きながら雷真に問う。

 

「まぁ、多少は」

 

キンバリー先生は心底つまらなさそうに講義の続きを始めた。

 

下から二番目(セカンドラスト)の言う通り、あらゆる自動人形(オートマトン)はーー」

 

その後の講義は雷真の生贄もあって眠気に襲われることもなく、無事平和に昼放課へと突入した。

 

 

きゅるきゅるぐるぐると、腹の虫が鳴る。

 

「うっ......」

 

意外にも大きかったその音に、俺は慌てて辺りを見回してみるが昼放課真っ最中ということもあって誰にも聞かれていないようだった。

......先に雷真達を食堂に向かわせておいて良かった。

もしこんなのを聞かれでもしたら恥ずかしくて耐えきれないんだろうな......。

 

「フッ......学院食堂、美味しいと良いな?」

 

アジーンが小馬鹿にしたようにくすりと笑いながら話しかけてくる。

 

「わ、笑うなよ」

 

俺はアジーンをわずかに睨みながらも足を止めず、そのまま食堂へと入った。

 

「えっと、雷真と夜々は......」

 

エントランスを通って少しのところ、他の人の邪魔にならない辺りで立ち止まり周囲を見渡す。

と、まるで品定めをするかのような視線が向けられていることに気が付いた。

その視線に一瞬で不快さが胸の中を渦巻いたが、俺はなるべく気にしないようにして二人を探す。

 

「お、いたいた」

 

意外にもすぐに二人は見つかったが、彼らは食堂のシステムにどうすればいいのかわからず立ち往生しているようだった。

二人はとりあえずと言った様子でそのまま列に並び出す。

俺も慌てて列に並び、雷真や夜々と一人分離れた距離で皿に料理を盛り始めた。

 

(「リュウよ。唐揚げが食べたいのだが」)

 

(「唐揚げ? 昼から重たいもん行くなぁ」)

 

アジーンのテレパシーに俺は応え、言われた通り皿に揚げたてっぽい唐揚げを盛り付ける。

 

「すみません、前に知り合いがいるので譲ってもらえませんか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

そうしてある程度皿が料理で豪華になったところで俺は順番を譲ってもらい、彼らの真後ろへと並ぶ。

楽しそうに話しながら好みの料理をよそっているからか、俺のことには気付いていないようだった。

 

「おい、暴竜(Tレックス)と同じ自動人形(オートマトン)を連れてる奴がいるぞ」

 

「は? どこのやつだ? ーー見たことのない顔だな、新入りか?」

 

「見た目がおんなじ自動人形を持ってるみたいだから案外暴竜(Tレックス)と繋がってるかもしんねーぞ?」

 

ふとそんな声が耳に入り、俺はペースを崩さないままキッ、とこそこそ話す輩を睨み付ける。

 

「けっ......なんであんなツンケンじゃじゃ馬娘とおんなじ扱い受けなきゃなんねーんだよ」

 

「ツンケンじゃじゃ馬娘で悪かったわね。それと、私の名前はシャルロット・ブリューよ」

 

「げっ?!」

 

真後ろからいきなりそんな声が聞こえ、俺は慌てて振り向く。

と、そこにはシャルロット・ブリューが不機嫌そうな顔を浮かべて立っていた。

 

「人の顔を見てそんな嫌な顔しないでくれるかしら? ほら、早く前に進みなさいよ」

 

そう言われて前を向けば、雷真と夜々がこちらを見て少し驚いていた。

 

「リュウ。それにシャルーー」

 

「気安く呼ばないで。ミス・ブリューと呼んだらどう?」

 

「呼んで欲しいだけなんじゃねぇの......?」

 

「うううるさいわね! 早く前に進みなさいよ!」

 

シャルの要求に思わず突っ込んでしまい、俺と雷真、夜々は少し急かされ気味にカウンターの最後、レジスターへと向かう。

 

「しまった! 勘定か!」

 

不意に雷真がそんな声を上げ、夜々とお互いに顔を見合わせ始める。

どうやら何もわからないままに並んだせいで財布を持ち合わせていないようだ。

俺は苦笑しながら、二人の間に財布を差し出す。

 

「ほら、雷真。部屋に戻った時ベッドの上に置いてあったからついでに持ってきた」

 

「リュウ! サンキュー!」

 

雷真が嬉しそうに顔を綻ばせ、さっそく自分と夜々の分の勘定を済ませる。

続いて俺も勘定を済ませ、レジを抜けたところで待ってくれていた彼らと一緒に席確保へと歩き出した。

 

「ま......待ちなさいよ」

 

ふと背後からシャルの声が掛かり、俺と雷真は一緒に振り向く。

 

「なんだよ、ツンケンーーじゃなかった。ミス・ブリュー?」

 

俺は少し意地悪っぽくそう呼ぶと、シャルは不快そうに顔をしかめた。

と思えば仕切りに目だけで辺りの様子を伺い、どこか上目遣いを向けながら切り出す。

 

「そ、その......べ、別に一緒に食事をしてあげないこともないわよ?」

 

......うわあぁぁ、本場のツンデレだぁ。

すげぇ、前世にいた知り合いの女子がやるよりもこっちのほうが断然萌える......もちろん断るけどな★

 

「はぁ? どっちだよ、したくないなら別にしなくていいけど?」

 

するとシャルは頬をわずかに染め

 

「だ、だから! この私が一緒に食事をしてあげるって言ってるの! わかったら席を案内しなさいよ!」

 

そうして言い終える頃には彼女の頬はまるで熟れたリンゴのように真っ赤に染まっていた。

やべぇ、これちょー面白い。

 

「いいぜ、一緒に食おう」

 

「な......」

 

雷真の言葉が衝撃的だったのか、夜々のトレーがガチャリと音を鳴らす。

 

「ら、雷真! どうしてこんな女狐と! それに今日はリュウさんもいるんですよ!」

 

「食事は大勢のほうが美味しいだろ? そうだと思わないか? リュウ」

 

雷真に賛同を求められた俺はこくりと頷く。

夜々は不満そうだったが、雷真は大して気にする様子も見せず計6人分座れそうなテーブルを見つけて適当な席に座った。

俺は雷真の後にならって彼の隣へと座り、シャルは雷真と向かい合うように、夜々は俺の隣でアジーンは相変わらず俺の頭の上、シグムントはシャルの隣......の椅子ではなく机の上へ各々着席する。

 

「さて、と。何から食おうかなぁ」

 

フォークを器用に指で回し、パシッと握ってからまずはアジーンが欲しがっていた唐揚げをぶっさした。

 

「っと、その前に。ほら、アジーン。頭の上で食うのだけは勘弁だから皿の前に来い」

 

「仕方ないな」

 

そうして皿の前に唐揚げをポトリと落とすと、アジーンは少し拗ねながらもちゃっかりと皿の前に来て唐揚げを頬張った。

 

「あなたの自動人形って話せたんだ」

 

シャルが驚いたようにアジーンをじっと見る。

 

「なんだよ? 別に珍しくもないだろ、お前の......シグムントだったか? そいつや夜々とおんなじイブの心臓が埋め込まれてんだから」

 

「た、確かにそうだったわね。というか昨日私とこいつの邪魔をしてきて謝らない上に名乗らないつもり?」

 

「別に? 聞かれなかったから」

 

俺は肩を竦めながらしれっと答える。

その態度が癪に触ったのか、シャルはわずかに顔をしかめた。

こいつって怒りやすいタイプだよな、絶対に。

 

「教えてあげろよ」

 

クスクスと雷真が笑いながら言ってきて、俺は小さくため息を吐いてから手を差し出した。

 

「リュウ・ヴォルフィードだ。よろしくな」

 

その手を少し恥ずかしそうにシャルが取る。

 

「も、もう知ってるとは思うけど、シャルロット・ブリューよ」

 

そうして改めてお互いに挨拶が終わったところで、雷真が口を開く。

 

「さ、食おうぜ。冷めたらマズイからな」

 

「おう」

 

「ええ」

 

雷真の合図を元に、俺らは食事に手を付け始める。

 

「そういえばシグムント、体の調子はどうだ?」

 

ふと雷真が食事の手を止めてシグムントの方を向く。

シグムントは少し驚いたように首をもたげ、そして小さくかぶりを振った。

 

「体感よりは軽傷だったようでな。特に問題はない......が、全快とまではまだ行かないな」

 

「あれ、まだ治んねーの?」

 

「大半は完治したが、満足に飛行出来るかと問われれば否だという意味だ」

 

(「私たち自動人形は人形使いの魔力で生きていることを。故障した場合にも、距離が近いほど修復が早まるんですよ?」)

 

ふと昨日言われた夜々の言葉を思い出し、俺はアジーンに向き直る。

 

「ふぅんーーなぁ、アジーン。俺に治せないかな?」

 

「え? あなた人間なのに修復の魔術が使えるの?」

 

「いや、やったことはない(キリッ」

 

「......」

 

「んん゛! 物は試しだ、やってみれば良いだろう?」

 

返ってきたその答えに、俺はこくんと一人頷いた。

 

「まぁ失敗したとしても害を成すわけじゃないしな。シグムント、体のどこが痛むんだよ?」

 

するとシグムントはかすかに翼を動かしてくれた。

口では言いたくないんだろう、行動で示してくれたシグムントの翼に手のひらをかざし、そこに向けて魔力を集中する。

と、俺の手をかざした翼の部分が淡白く光り出す。

 

「?」

 

光はすぐに途絶えてしまったが、シグムントはしばしの間不思議そうに己の翼を見つめると試しにニ、三度と羽ばたいてみた。

 

「ーーふむ。これは便利だな」

 

「え? マジで成功したの?」

 

満足そうに頷いたシグムントを見て、俺は実際に行ったのにも関わらずつい驚いてしまった。

 

「嘘......」

 

シャルなんかは俺の手とシグムントの翼を交互に見る有様だ。

 

「たぶんアジーンとおんなじドラゴン型のシグムントだから成功したんだと思うぜ?」

 

そう、だから俺はアジーンに尋ねもしたし、やってみようかなと思ったのだ。

おそらくそれ以外の自動人形には大した効果は期待出来ない。

 

「どうしてだ?」

 

雷真の言葉に、俺はグーパー繰り返しながら応えた。

 

「夜々が昨日言ってただろ? 自動人形は人形使いの魔力で生きてて、故障した時にも距離が近いほど修復が早まるって。だから思ったんだよ。シグムントなら主人(シャル)じゃなくても魔力を流し込めば修復出来るんじゃねぇかなってさ。思った以上に魔力使っちまったけどよ。ま、元気になってよかったな、シグムント」

 

「あぁ。恩に着る」

 

シグムントの礼を聞き、俺は食事を再開する。

アジーンはすでに唐揚げを平らげ、いつの間にか俺の頭で寝息のようなものを立てていた。

 

「いったいどういう理屈なのかしらね?」

 

同じく食事を再開したシャルが疑問を口にする。

 

「あとでキンバリー先生に聞かなくちゃな」

 

俺はお茶で喉を潤したあとそう呟くと、シャルと雷真の手が止まった。

 

「キンバリー先生って」

 

「リュウ、お前勇気あるな......」

 

二人同時に見つめられ、思わず狼狽えてしまう。

 

「え? なんだよ、別に普通のことだろ? ーーって雷真、どうした?」

 

と、こちらに向けられている雷真の視線が窓の外へと移ったことに気が付き、俺も釣られて窓の外を見てみる。

食堂の外では銀の仮面をつけ、黒い礼服(コート)を翻して颯爽と歩く厨ニ病のような男子生徒がいた。

おまけに彼の傍らには綺麗な黒色のドレスを身に纏った2体の自動人形が付いており、護衛のように見える。

シャルも俺と同じように釣られて窓の外を見てみるが、彼女の場合呆れた表情へと変わっていた。

 

「マグナスじゃない。何よ、今度は彼を狙おうってつもり?」

 

そう言いながら再び雷真のほうへと振り向くが、雷真は聞こえてないようだった。

 

「夜々」

 

酷く冷たい声で、相棒の名を呼ぶ。

俺はその中にものすごい殺気を覚えた。

 

「はい」

 

夜々は雷真の意図を読み取ったのか、そう返事をすると雷真と共にがたりと席を立ち上ってしまう。

 

「ちょっと......本気?! 待ちなさいよ!」

 

直後シャルの表情は険しくなり、彼らを止めるように腰を浮かせ手を伸ばす。

が、あと少しのところで彼女の手は止まってしまった。

たぶん、シャルも気が付いたんだろう。

雷真が異様な殺気を纏っていることに。

 

「......悪いことは言わないわ。彼だけはやめておきなさい。絶対に(・・・)勝てないから」

 

絞り出すようにシャルの忠告がなされる。

それに気付いたらしい雷真は振り向かずに聞き返した。

 

絶対に(・・・)?」

 

シャルはゴクリと生唾を飲み込み、そしてその理由を明かす。

 

「そうよ。彼は技術も魔力も図抜けてる。総合成績は歴代1位、この学院始まって以来の天才よ」

 

「そんなにヤバイ奴なのか」

 

思わず口を挟んでしまう。

雷真は今からそんな奴に挑戦する気なのか......?

 

「えぇ......6体もの自動人形を同時に扱うひとり軍隊(ワンマンフォース)。現時点で、もっとも魔王(ワイズマン)に近い男よーーって、雷真!」

 

慌ててシャルが雷真の名前を呼ぶ。

その声にハッとなって顔を上げてみれば雷真はすでに歩き出しており、その後を夜々がついていた。

 

「あいにく、俺は筋金入りのバカでね。試してみるまで理解出来ないのさ!」

 

そう言いながらも雷真は早くも駆け出ていた。

 

「おま、先輩がやめておけっつってんだからやめーー」

 

直後、ガッシャーンと窓の割れる音が耳を(つんざ)く。

俺とシャルは思わず頭を抱えるが、すぐに顔を上げると雷真はすでにマグナスの行く手を遮っていた。

 

「待てよ、お面野郎。それとも偉大なる者(マグナス)って呼んだ方がいいか?」

 

素通りしようとしていたマグナスが、雷真の声にピタリと足を止める。

それに沿うようにして2体の自動人形がマグナスの前に出て、警戒の色を見せた。

こうして見ると大統領のSPにすら見えてくるな......あ、護衛って意味じゃ一緒か。

俺はシャルと顔を見合わせ、共に食堂の外へと出る。

 

「よう。お人形をはべらせてお散歩か? 相変わらず、最低の趣味だな」

 

まるで久しぶりに会った友達にするかのような軽い挨拶。

だが、雷真のそれは確実に敵意が滲み出ていた。

 

「......誰だ」

 

対してマグナスはそんな雷真を気にする様子もなく静かな声で尋ねる。

視界の隅で雷真の拳がグッとなったのがわかった。

 

「悲しいこと言うなよ。遠路はるばる、地球の反対側まで会いにきてやったのに」

 

それでも尚、雷真はペースを崩さないよう軽く話し掛ける。

マグナスは彼をしげしげと眺め、やがて穏やかな声で呟いた。

 

「どうやら、人違いをしているようだ」

 

「それならそれでかまわないぜ。俺はただ、お前にこいつをくれてやーー」

 

雷真が喋りながら腕を上げた瞬間マグナスを守ろうと前に立っていた2体の自動人形に加えて、どこから現れたのか4体もの自動人形がそれぞれの得物を手に雷真を囲もうとする。

 

(「リュウ!」)

 

(「わかってる!」)

 

俺は胸騒ぎを覚えながらもすぐさまトランスを発動し、6体の自動人形に先を越されないよう雷真の前に立ち塞がる。

そうして雷真に向けられた得物を一つずつ的確に己の手で防いだ。

それは素人が見れば一瞬の出来事に見えるだろう。

事実、雷真は驚いたように固まり、シャルはその場から動けないでいる。

 

「リュウさん!」

 

夜々の声が辺りに響く。

......アジーンのサポートやトランスが使えて良かったと思う。

もしそうじゃなかったら今頃雷真の首が飛んでいた。

 

「ーーてめぇと雷真がどんな関係かなんて知らねぇ。だがこいつはちとやり過ぎなんじゃねーか? それともなんだ、こんなところで殺るつもりか?」

 

バキッと6つの得物のうち一つの先端を壊し、静かに威嚇する。

 

「......下がれ」

 

俺の言葉に、マグナスが一言命令を下す。

6体もの自動人形は一斉に武器をしまい、マグナスの背後へと戻った。

それを見て俺はトランスを解き、雷真をちらりと見る。

......少し怯えているような感じがするのは気のせいだろうか?

 

「雷真」

 

「......あぁ」

 

雷真は今の出来事で冷静を取り戻したのか、落ち着いて小さな瓶をマグナスに投げて寄越した。

マグナスはそれを落とさないようにしっかりとキャッチする。

 

「......これは、ありがたくもらっておこう」

 

彼は小さな瓶を見て懐に入れたあと、そう言い残して6体もの自動人形ーー戦隊(スコードロン)と共に去って行った。

 

「......リュウ」

 

しばらくして、ポツリと雷真が俺の名を呼ぶ。

俺はサッと振り向き、すぅと大きく息を吸った。

 

「お前ってホントにバカなんだな! 下から二番目(セカンドラスト)って言われるだけのことはあるよ! なんでシャルの言うことを聞かねぇんだ! てめぇは自殺志願者か!」

 

「リュウさん、雷真を責めないでください。雷真にもいろいろと事情が......」

 

「知らん!」

 

慌てて仲介に入った夜々を一括し、再び雷真を向くと彼は反省しているようだった。

 

「その......悪かった......」

 

そんなときだった。

ふと雷真の背後でぱん、ぱん、ぱん、と舐めてかかるかのような拍手が聞こえ、俺は雷真の背後に視線を移す。

 

「ブラボー、ミスター・アカバネ。編入初日で君臨せし暴虐(タイラントレックス)に挑み、その翌日に元帥(マーシャル)閣下に噛み付くなんて中々出来ることじゃないよ。隣の君もね。元帥(マーシャル)閣下の戦隊(スコードロン)と互角に立ち回れる人形使いなんて初めて見た」

 

「あんたはーー」

 

「そらどーも。で、誰?」

 

雷真はそいつの名を知っているようだが、生憎俺は知らない。

 

「僕はこの学院の風紀委主幹を務めるフェリクス・キングスフォートという。今日は君達に話があってね。良ければ放課後、一緒に来てもらえないかな?」

 

さらりとした髪が綺麗な、線が細いモヤシみたいなそいつは自分をフェンリス・キングスフォートと、そう名乗った。




重大事件発生!
アニメと原作を交互に見ながら書いていたから時系列が原作と変わってしまった!
(今更直すのもめんどくさいから)なんとかしてフェンリスのセリフで対処して見たけど、やっぱり直さなくちゃダメかな?


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第十二話:魔術喰いの実態

雨が降ってから生活リズムが一気に崩れた......orz
宿題やる気が起きん!!

*本文の訂正(4/3)


午後の授業が全て終わって講堂前。

俺は雷真と一緒に風紀委主幹のフェリクスを待っていた。

夜々やアジーンには予め俺らの怒られるところを見て欲しくないと言って先に寮に帰らせている。

 

「......なぁ、雷真。俺達、怒られるのかな」

 

「......」

 

ぼそりと雷真に尋ねてみるが、雷真は何も答えてくれなかった。

 

「......はぁ」

 

思わず溜め息が零れる。

雷真は編入初日からシャルに挑み、加えて今日は優等生(マグナス)に噛み付いた。

そして俺はそんな優等生に喧嘩腰で話し掛けてしまった。

......なんかもう編入していきなり問題起こしちゃった時点で、今から案内されるところって言ったら生徒会室みたいなところしか思い浮かばないよ?(´・ω・`)

そんなことを思っているとあのモヤシ男......もといフェリクスサマが。

 

「待たせたね。さ、行こうか、二人とも」

 

「「はい......」」

 

俺らは(こうべ)を垂れ、大人しくフェリクスの行くままに付いていった。

 

 

そうして案内された場所は、案の定生徒会室みたいなところーー風紀委の専用スペースだった。

風紀委の専用スペースは中央講堂の二階に作られたエリアで、主幹が使う執務室、風紀委の待機場所、集会所の三部屋からなっているようだった。

 

「ソファへどうぞ。少し散らかってるかもしれないが気にしないでくれ」

 

そのうちの一つ、執務室のドアを開けてフェリクスが中へ招き入れる。

俺は雷真と顔を見合わせ、言われたとおり中にあるソファへと腰掛けた。

 

「そう固くならないでくれ。確かに君達は編入早々問題を起こして本来なら罰則を与えないといけないんだけど、今回ばかりは特別だよ」

 

フェリクスが言いながら俺や雷真の向かいに腰を下ろす傍ら、肩まで伸びたピンク色の髪の毛が印象的なメガネの女子生徒がフェリクスを含める3人分のお茶を給仕する。

 

「ありがとう、リズ。わざわざ悪かったね、仕事に戻ってくれ」

 

「はい」

 

リズと呼ばれたその女子生徒は返事をするとトレーを片付けて執務室を出て行った。

 

「彼女は僕のお目付役でね。主幹補佐を勤めてくれているリゼット・ノルデンだ。恐らく、君達にこれから関わってもらう事件で大いに役立ってくれるはずだよ」

 

「は......? 事件?」

 

唐突に切り出された話題に、俺はつい聞き返してしまう。

フェリクスはお茶を一口、口の中に含んでから話し出した。

 

「今この学院では一つ大きな問題が起きていてね、それを解決して欲しいんだよ。そうすれば君達の今回の行いには目を瞑ろう......それだけじゃない、夜会の参加資格(エントリー)も提供しようと思う。

ミスター・アカバネ。君にとって参加資格は喉から手が出るほど欲しいものじゃないのかな? そうでなければ編入早々手袋持ち(ガントレット)を襲うはずがない」

 

「......つまり資格をやるから騒ぎを起こすなって言いたいんだろ、あんたは」

 

ここに来て初めて雷真が口を開く。

俺は雷真を見てみると、彼は苦笑しているようだった。

 

「お察しの通り。まぁどちらにせよ、君達にこの件を断る権利はないわけだけど......」

 

(うっわ。嫌な性格だな、こいつ)

 

フェリクスの言葉に俺はつい不愉快な気持ちを覚え、そう思ってしまう。

見た目モヤシのくせに、的確に弱みを突いて自分の有利な方へと事を運んでいく......早くもこいつのことが嫌いになりそうだった。

 

「さて、前置きはここまでにしよう。今日君達を呼んだのはさっきも話した通り、ある事件を解決して欲しいからなんだ」

 

そう言って、またフェリクスがお茶を一口飲む。

 

「俺達は主になにをすればいい?」

 

どこか焦らされてるような感覚に、俺より先に雷真が口を開いた。

 

「人形使いをひとり、倒してもらいたい」

 

「人形使いをひとり? そんな簡単なことで事件が解決すんのかよ?」

 

「ただの人形使いじゃないさーー何体もの自動人形(オートマトン)の要を喰らっている化け物だよ。去年の10月......つまり新年度開始から計算すればすでに12体の自動人形が被害に遭っている。それだけじゃない、行方不明者だって26人も出ているんだ」

 

「なんだよ、それ......」

 

「嘘だろ......」

 

その言葉に、俺らはそれぞれ言葉を失う。

自動人形の要と言って真っ先に思い浮かぶのはイブの心臓だ。

それを喰らっているということはその自動人形は破壊されたと捉えて間違いないんだろう。

なんだか面倒な展開の予感にソファにもたれ掛かり、辺りの床に視線を移したとき一枚の紙に乗せられた幾つかの写真が興味を引いた。

写真の中にいる自動人形の全てがぐったりと背後の壁にもたれ掛かったり、地面に寝転んだりしている。

加えてそれらには共通して、本来イブの心臓があるべき部分にぽっかりと穴が空いていた。

 

「もしかして、部屋の中に散らかってる紙ってみんなその事件に纏わるものなのか?」

 

俺はその紙を手に取ってフェリクスに尋ねると、彼もまた床に散らばっている紙の一つを手に取って机に置いた。

 

「そう。今まで警備と協力をしたり独自の捜査をしてきた結果だよ。とはいえ、わかったのはその化け物が魔術喰い(カニバルキャンディ)と呼ばれていること、自動人形が大好物だということぐらいだ。残念ながら大した成果は出ていない......君達は最近入ってきたばかりだから確実に魔術喰いじゃないと言い切れるからね。この騒動には打って付けなんだーーおや?」

 

そこでふとフェリクスの前に置かれていた通信機からブツリと音がなり、少しくぐもった誰かの声が聞こえてきた。

フェリクスは失礼、と一言断ってから席を立ち、執務室の扉の前で通信機の呼出に対応してしまう。

そうして振り向いたフェリクスの表情は苦々しいものだった。

 

「リズからだったよーー技術科裏の木立ちで早速喰われた人形が見つかったらしい。行こう、雷真、リュウ。食べ残しが見られるよ」

 

 

喰われた自動人形があるという技術科校舎に続く細い一本道では早くも野次馬でいっぱいだった。

その中に混じってシグムントを頭の上に乗せたシャルがいる。

 

「よう、シャル。シグムントも」

 

雷真が気安くそう声をかけたが、シャルの視線はその後ろのフェリクスに向けられていた。

 

「君もきていたのかい、シャル」

 

「騒ぎになっていたから......」

 

俯きがちに答えるシャル。

なんだか邪魔者のような気がした俺は一人雷真やフェリクスから離れ、とっとと野次馬を掻き分けて実物を見に行った。

 

「リュウさんですね、フェリクスから話は聞いています。こちらへどうぞ」

 

『Keep Out』の板がぶら下げられたロープをくぐり抜けた先、俺達よりも前に来ていた風紀委に案内され『それ』を見せられる。

 

「うっわ、写真で見たよりもひでぇな......」

 

上半身と下半身が、少し離れて転がっている。

断面からのぞく傷跡からはギアやコードがはみ出し、顔面は被害者が特定しにくいほど潰されていた。

加えて辺りには血ー自動人形だからオイルかーが飛び散っており、さながら殺人現場だ。

事前にフェリクスが言っていたとおり、やはり心臓のあるべき場所はぽっかりと穴が空いている。

それも酷く滑らかで、まるで舐め溶かされたキャンディのようだった。

 

「雷真、こっちへ」

 

ふと背後からフェリクスの声が聞こえ、振り向くと彼は雷真をこちらへ手招きしていた。

 

「うっ......」

 

シャルも一緒らしく、そんな呻き声が聞こえてくる。

雷真もまた、思わずといった様子で顔をしかめていた。

そうしてしばらく喰われた自動人形を吟味したあと、雷真がフェリクスに視線を向ける。

 

「確かどのケースも全部心臓部分がないんだったよな? 今回も心臓部分だけがないってことは敵の手口は必ず心臓部ーー魔術回路の一部を消滅させてるってことでいいのか?」

 

「あぁ。その見解で間違いないよ」

 

雷真の推察にわずかばかり感動を覚えつつ、俺は疑問を口にする。

 

「なぁ、フェリクス。さっき喰われた人形が見つかったって言ってたけどよ。こいつらの心臓ってみんな魔術喰い(カニバルキャンディ)に喰われたってことなのか?」

 

「それはあくまで僕らの見立てだから。魔術喰いだって、被害者の心臓部分が舐め溶かされてるような感じだからそう名付けただけのことだし」

 

「ふぅん」

 

「リズ。どうだった、調査の結果は?」

 

フェリクスが、いつの間にか隣に来ていたリゼットにそう尋ねる。

リゼットは手元のバインダーに挟まれた紙を一枚めくってフェリクスの問いに答えた。

 

「残念ながらまだ大したことは......ですが、この自動人形と人形使いは現状と他生徒からの証言からおそらく鉄球使いの自動人形ーー貴方が昨日退けた人形だと思われます」

 

雷真をちらりと見ながら、リゼットが言い終える。

俺はつい雷真が退けた人形という言葉に引っかかった。

 

「退けたって......雷真、昨日はシャルに挑戦しただけじゃなくて他の手袋持ち(ガントレット)にも挑んだのかよ?」

 

「いや、俺がシャルに挑戦してるところを十人がかりで邪魔してきたんだ。そいつらを退けたまでさ」

 

「なにしてんだか......」

 

聞いてて頭が痛くなる。

 

「そうだろ、シャルーー」

 

ふと雷真の言葉が途切れ、俺はとっさにそちらを見てしまう。

シャルは唇を引き結び、肩をわななかせて虚空を睨みつけていた。

明らかに様子がおかしい。

 

「どうしたんだ、お前」

 

俺が呼び掛けるよりも先に雷真が呼び掛ける。

が、シャルは返事もせずにきびすを返し、どこかへ行こうとした。

雷真もまた様子がおかしいことに気付いたんだろう、遠ざかるシャルの腕を掴み引き止める。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

「離して。離しなさい!」

 

「お前、何か妙なこと考えてるだろ。闇雲に動いてもロクなことにはーー」

 

「シグムント!」

 

雷真の言葉を遮るようにしてシャルが叫ぶ。

直後、シグムントが牙をむき、雷真の手をがぶりっと噛み付いた。

 

「い......ってぇ!!」

 

「大丈夫か、雷真!」

 

俺は慌てて雷真の元に寄ると、彼の手は少し血が滲み出ていた。

 

「ちょっと待ってろ」

 

「これくらい平気だ」

 

「舐めてかかるとそのうち腐るぞ。自動人形だったから良かったけど、これ普通に犬とかだったら狂犬病とかにも成り兼ねないんだからな」

 

「ーー行っちまった......」

 

雷真がシャルの向かった先を見て呟く。

俺もそちらに視線を向けてみるが、すでにシャルの背中は見えなくなっていた。

 

「彼女はああ見えて直情径行だからね。じっとしていられなくなったんだろう。かく言う僕も、はらわたが煮えくり返る思いさ」

 

横合いからフェリクスが取り成すように言う。

だがその瞳には鋭い光が宿されていた。

 

「いいからこっち見てろ」

 

俺はかぶりを振り、そう言って雷真の手に視線を戻す。

ここに来る前に予め持ってきておいたショルダーバッグから水の入ったペットボトルを取り出し、雷真の傷口を水で洗い流してから小さなラップで巻く。

 

「はい、終わり」

 

最後にみっともなくないようにガーゼでラップを固定し、雷真の肩を叩く。

前世で、テレビで紹介していた湿潤治療とか言う傷跡の残らない治し方らしい。

 

「ありがとな、リュウ」

 

「おうよ」

 

「今日のところはお開きにしよう。僕は仕事をしなくちゃならない。そっちでも独自に捜査をお願いするよ」

 

「あぁ」

 

「わかってるよ」

 

フェリクスの言葉に俺らはそう返事をし、寮に帰ることにした。

空はすでに日が傾き、ほんのりと紫がかっていた。




お気に入り登録、評価ありがとうございます!
差し支えなければ感想をお待ちしております°+(っ>ω<c)+°


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第十三話:話し込み過ぎた

よっしゃー!
Amazonから4/3着予定の生放送実況道具が今日届いたー!!
なのに今日からパソコンが修理乙ってなんだよ......
早く生放送で実況したぁい!°+(っ>ω<c)+°

本文追加(9/26)


俺らが寮に戻ったのは、アジーンや夜々を先に帰らせてから2時間ほど経ったころだった。

 

「雷真!」

 

寮の扉を開けてすぐ、夜々が泣きながら雷真に飛び付く。

愛されてんなぁ......とか思っていると、夜々はいきなり雷真の前でしゃがみ込み、問答無用でファスナーを下ろしにかかった。

 

「......」

 

「〜〜っ!」

 

「なにしてんだ、夜々! やめろ!」

 

雷真が慌てて夜々の頭にゲンコツを落とし、彼女の暴挙を中断させる。

 

「......バカだ」

 

帰ってきていきなりこんなのを見せられたら敵わない。

俺はため息を吐きながらベッドにダイブした。

 

「パンツを脱いでください雷真! 話はそれからです!」

 

「お前追いはぎ?! 山賊でももうちょいマシなこと言うぞ!?」

 

「雷真が犯されてないか夜々はずっと心配してたんですよ!!」

 

「されてない!! ていうか言ったよな、リュウと一緒にフェリクスと話があるって!! それがどう発展すれば犯されるなんて考えに及ぶ! 俺はホモか!」

 

「......はぁ」

 

ぎゃあぎゃあと楽しそうにはしゃぐ二人(雷真的には夜々の勘違いを正そうとしてるんだろうけど、傍から見れば楽しそうにはしゃいでいるようにしか見えない)に、さっきよりも重いため息が零れ頭から布団を被った。

 

(「随分と面倒なことに巻き込まれたようだな」)

 

ふと布団がもぞもぞと動き、そこからちょこんとアジーンの顔が覗く。

 

(「仕方ねぇよ。優等生に噛み付いちゃったんだから」)

 

そのままアジーンは俺の隣で体を丸め、最初からそこにいたかのようにくつろぎ始めた。

 

(「てか話聞いてたのかよ?」)

 

(「丸聞こえだ」)

 

その言葉に、俺はあっ......と思い出した。

 

(「そういやそうだったな......」)

 

(「忘れてたのか......」)

 

今にもため息を吐きそうなアジーンに、俺は思わず苦笑する。

というのも、俺とアジーンはリンクしているので思考の伝達(テレパシー)の他にお互いが聞いたり体験したことを知ろうとすればそのまま知ることが出来るのだ。

まぁ悪くいえばダダ漏れなんだけど。

こういう関係のことって四字熟語で以心伝心って言うんだっけ?

前世のときから現代文は苦手だから合ってるか自信ないなぁ......。

というわけで魔術喰い(カニバルキャンディ)の話はアジーンにはすでに伝わっています、はい。

 

(ん? あ、終わったか)

 

ふと思考するのをやめて布団からちょこんと顔を出してみると部屋はようやく静けさを取り戻しており、ちょうど雷真が夜々に魔術喰いのことを説明し終えたところだった。

今ここで出ると邪魔になる予感がして、密かに二人の様子を伺う。

 

自動人形(オートマトン)を喰らう......」

 

やはり自身も自動人形だからか、聞き終えた夜々の様子は怯えているようだった。

 

「大丈夫だ、夜々。お前は俺が必ず守る」

 

「雷真......」

 

力強く言い放つ雷真に、夜々は少し頬を染め、雷真の胸にうずくまる。

そうして少ししたあと夜々は雷真の胸から離れ、真剣な眼差しで雷真を見た。

 

「なにをす......ても、硝子には相談したほ......ですよね?」

 

「あぁ、もちろんそのつもーー」

 

そのうちにふわりふわりとしてきて、気付けば俺は睡魔に負けてしまっていた。

 

 

次の日の朝。

朝日がまぶたを通り越して目に染み、俺は目を覚ました。

 

「んん......?」

 

手探りで目覚まし時計を掴み、寝ぼけ眼のまま時刻を確認する。

家にあったアナログ時計とは変わって、手元にあるデジタル時計は『AM 5:03』を表示していた。

 

「なんだよ、まだ5時か......」

 

おそらくまだ夢の中だろう雷真を起こさないようにそっと目覚まし時計を置き、グッと体を伸ばす。

 

「ん......はぁ......よっと」

 

そうして俺は一気に体を起こし、制服に着替えたあとベッドの下に置いてあるカバンを取ってアジーンを揺さぶった。

 

「うぅ......なんだ、リューー」

 

(「シーッ、雷真が起きちゃうだろ」)

 

寝起きで声を上げかけたアジーンに、唇に人差し指を当てながらテレパシーで押しとどめ寮の扉を指差す。

 

(「図書館行くぞ」)

 

(「ふっ、そんなに1024位が嫌だったのかーーふあ〜ぁ」)

 

あくびをしながらも小馬鹿にした笑いを漏らしたアジーンに、俺は容赦なくデコピンを食らわす。

 

(「うっせ、とっとと行くぞ。どうせ今日の放課後は魔術喰いの捜査で潰れるだろうしな」)

 

(「はいはい」)

 

先日話し合って決めた俺用の勉強机から幾つかの参考書をカバンの中にしまい込み、雷真と夜々を起こさないようなるべく静かに寮の外へと出る。

全寮制ということもあり、辺りに車やらなんやらが走っていない分空気が澄んでいた。

 

「すぅ......はぁ......」

 

俺は大きく深呼吸をしたあと、さっそくトータス寮から出た。

 

「えっと、確か図書館は......こっちだったな」

 

そうして頭の中に学院の全体図を思い浮かべつつ、道中見つけた学院内マップも確認しながら図書館へと向かった。

 

......まぁ、常識的に考えてこんな時間に開館してるはずもなければ校舎が開いてるはずもなく、結果寮の外で勉強する羽目になったが。

寝てる奴の側でやるよりかは幾分気の利いた気遣いだろうということにしておこう、うん。

 

 

「そうだ、リュウ。お前に渡さないといけないものがあるんだ」

 

昼放課。

食堂で雷真と昼食を取っている最中、彼からそんな言葉と共にとある封筒が渡された。

 

「なんだ、これ?」

 

「今日の朝、リゼットが寮に来てよ、コイツを渡してくれたんだ。中身は『風紀委との契約書』と『魔術喰いの資料』になってる」

 

「契約書? なんでそんなもんが必要なんだよ?」

 

雷真から渡された封筒の封を切り、中を適当に漁くりながら尋ねる。

 

「フェリクスが魔術喰いのことを解決したら今回起こした沙汰は咎めない上に参加資格(エントリー)まで提供するって言ってただろ。その参加資格に関わるものなんだとさ」

 

「へぇ......なぁ雷真。夜会って100人の中で1位になれたら魔王(ワイズマン)っていう、脱獄しなけりゃなんでもやっていいっていうすっごい称号が貰えるんだよな?」

 

中身を一通り確認し終えたところで俺は軽く折って封筒を閉じ、傍に置いて食事を再開した。

 

「だ、脱獄?」

 

それを見た雷真も食事を再開しつつ、俺の言葉を反復する。

 

「へ?」

 

俺は雷真の反応に、思わずキョトンとしてしまった。

 

(そっか、今はまだ20世紀......しかも前半だから脱獄とか言ってもわかんねぇのか)

 

「あ、いや......つまり! 法に触れなきゃなんでもありが魔王なんだろ?」

 

慌ててそう訂正し直し、何故か早鐘を打っている心臓を落ち着かせようとお茶を一口飲む。

うぅ、無駄に前世の知識があるとツラい......あれ? そういや脱獄ってどんな意味だっけ?

 

「あぁ、そうだが......」

 

雷真はどこか腑に落ちない様子を見せながらも触れることはしなかった。

俺は雷真の気遣いに感謝しつつ、先生から夜会の話を教えてもらったときからずっと気になっていた質問を口にした。

 

「みんななんで魔王を目指すんだろうな。なんでもありってのがそんなに魅力的なのかよ?」

 

「たぶん、魔王にならなきゃ出来ないこととか、自分の野望を叶えるためになる必要があるとか、いろんな理由があるんだと思うぜ? 少なくとも俺はそうだけどな」

 

「ふぅん......」

 

「雷真......」

 

隣で今まで黙って食事をしていた夜々が不安そうに主人を見る。

雷真は夜々の頭を軽く撫でて箸を進めた。

 

ここ(学院)に来てからまだ一週間もしてないけど、ホントにいろんなことに巻き込まれた。

でもその全部が全部夜会絡みで、今回の魔術喰いのことも夜会絡み......もとい参加資格絡みだ。

正直、ここに来た理由ってアジーンの体の元になってるらしい自動人形のことを知るためであって、別に魔王になりたいとかそういうつもりで来たわけじゃない。

だけど......ただ平凡に()を待ち、その時間潰しにのんびり自動人形のことを知っていくよりかは少しくらいスリルがあったほうが学院生活も楽しくなるよな?

 

「......確か夜会の対戦形式ってロイヤルランブルだったよな?」

 

「あぁ」

 

「夜会って面白いかな?」

 

「は......?」

 

「え?」

 

ま、また聞き返された......今度はなにを間違えた?!

 

「お、面白いとか楽しむものじゃないと思うぞ......?」

 

返ってきた雷真の答えに、拍子抜けする。

え、そっち?

 

「じゃあ雷真はなんで夜会に出たがるんだよ?」

 

「さっきも言ったとおり、自分の野望を叶えるためさ。魔王......というか夜会はそのための正攻法に過ぎない」

 

「......野望、ね」

 

なんだかそれだけを聞くと、すごく物騒な話に思えてくる。

 

「リュウはこの学院にどんな理由で来たんだ?」

 

「俺は......」

 

言いかけて、踏みとどまる。

 

「コイツのことが知りたかったんだよ。中学の先生が言ってたんだ、ここは自動人形について詳しく学べるって」

 

「へぇ......じゃあ夜会には出ないのか」

 

「いや、出るよ。暇だし」

 

俺の言葉に雷真の口がポカンと開いた。

 

「暇って......じゃあ契約書にはサインするのか?」

 

それは“魔術喰いの件を解決したら風紀委の総意として夜会に推薦してもらう”のかどうかという質問。

俺は横に首を振った。

 

「そんな方法ではもらわないさ。ちゃんと成績を上げてからにするよ。じゃないと時間潰しになんねーからな」

 

「時間潰し?」

 

雷真が問いかけながらどういう意味だと言いたげな表情を浮かべたのを見て、俺は心の中で後悔した。

これやったの二回目だぞ、おい。

いい加減学習しないと......。

 

「ん? いや、こっちの話さ。気にすんな」

 

二回目ということもあってか雷真の質問を不自然なくかわした俺はちらりと食堂に掛けられている壁掛け時計を見ると昼放課は残すところあと僅かになっていた。

 

「やっべ、昼放課終わるっ!」

 

「は? うおっ! リュウ、早く食って行くぞ!」

 

「お前に言われんでもそうするわ!」

 

俺と雷真はほとんど味わいもせずに飯をかきこみ、

 

「〜〜っ!! ゲホッ、ゲホッ!」

 

「雷真! お水!」

 

器官に入ったのか噎せて夜々に心配されている彼をざまぁと思いつつ水で口内を洗い、がたりと席を立った。

 

「おっさき〜! 行くぞアジーン!」

 

「ちょっ、リュウ! 待て! ーーゲホッ!」

 

「ゆっくり召し上がってください!」

 




デートイベント回避っ!
雷真、頑張れ&ドンマイ(╯⊙ ω ⊙╰ )

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第十四話:その正体は

久しぶりにドラクォを引っ張り出して、D値1/4を目指してみたけど、敵に先制取られすぎて早くも詰みそう......

やっぱり鬼畜ゲームだ、あれρ(・ω・、)イジイジ

*本文少々変更(5/9)
 タイトル編集(6/28)


午後3時20分。

前世で通っていた高校だと6時間目がちょうど終わり、あとは掃除して帰るだけの時刻。

残念ながらここは俺の知っている高校ではないので(そもそも学院を高校と呼んで大丈夫なのか?)面倒なことにあともう1時間カリキュラムに組まれている......はずなんだけど。

 

「あれ?」

 

毎放課雷真のところへ遊びに行くというのが早くも習慣と成りつつあった俺は今日もさっそく後ろを振り向いたがいつもいるはずの席に雷真と夜々の姿は見えなかった。

 

「ん? 雷真と夜々? あいつらどこに行くんだ?」

 

そのまま目で探していると、夜々に手傷を負わされながらも彼女を強引に引っ張って講義室を出て行く雷真を見つけ、俺は慌てて教壇を下りて追いかけた。

 

「雷真、夜々連れてどこ行くんだよ?」

 

「リュウ......いや、ちょっと野暮用があってな......」

 

俺を見た途端挙動不審に陥る雷真。

夜々に相当ボコされたようで、間近で見る彼の姿はライオンと取っ組み合いでもしたのか?と聞きたくなるほど酷かった。

 

「リュウさん! リュウさんも何か言ってくださいよ!」

 

夜々は夜々で主人に手傷を負わせたのにも関わらず気にする様子もなく俺に切実な表情で訴えてくる。

お前ら、一体なにがしたいんだ......。

 

「言ってくれってなにを言うんだ? てかお前らなにしてんだよ」

 

言っちゃ悪いが、こいつらのことについて考えるほどバカバカしいことはないと学習しているので率直に尋ねる。

と、夜々は少し興奮した様子で口を開いた。

 

「雷真が......雷真がシャルロットさんとデートしに行くって言うんです!」

 

「ブフォア!!」

 

「なんで笑うんですか!!」

 

「いや、だってあのシャルだぜ? デートなんてするわけねぇじゃん。たぶん魔術喰い(カニバルキャンディ)の囮にでもする気なんだろ?」

 

「でも! 雷真の隣を夜々以外の人が歩くなんて......」

 

「あーはいはい。で、雷真は今からサボるってわけ?」

 

これ以上夜々と話をしていると埒が明かない気がしてきて、俺は話の矛先を雷真に変えた。

 

「まぁ......」

 

「はぁ......しょうがねぇな。ノート貸せよ」

 

ため息を吐きつつ、手を差し出す。

雷真はえ?という表情を浮かべた。

 

「サボるんだろ、代わりにノート取っておいてやるから行ってこいよ」

 

「いいのか?」

 

「その代わり、少しでも魔術喰いの尻尾掴んでこいよ」

 

「悪いな」

 

雷真はどことなく嬉しそうにカバンを漁り、次の講義に使うらしいノートを渡してくれる。

 

「行こうぜ、夜々」

 

「あ、待ってください雷真!!」

 

「いってらー」

 

なんやかんやで雷真と夜々が講義室を後にする。

それを見送った俺は雷真から受け取ったノートを自分の席までフリスビーのように投げた。

パシッと、アジーンが飛び上がってノートを口でキャッチする。

 

「ナイスキャッチ!」

 

(「私は犬ではない」)

 

口でノートを咥えているからか、アジーンがテレパシーで文句を訴える。

その割りには普通にキャッチしてたくせに。

 

(「細かいことは気にすんな!」)

 

俺はケタケタと笑いながら教壇を登り、自分の席に着いた。

 

 

トータス寮へと戻る道中。

今日は雷真と夜々がいないので放課後先生にお願いをして3時間ほど指導してもらい、今は図書館を出て適当に辺りをブラブラと歩いていた。

太陽は傾き、空はうっすらと暗くなりつつある。

......そろそろ寮に戻らないと寮監に怒られそうだ。

 

「アジーン、今日の夜はなにが食いたい?」

 

もはや定位置となりつつある頭上に居座るアジーンに尋ねてみると、アジーンは答える代わりに前方を指した。

 

「あ? ーー冗談だろ、おい......あれ、魔術喰いか......?」

 

今は夕食時だからか、学院の敷地内に人がいない。

そこを狙ったんだろう、魔術喰いは警戒を見せることなく自動人形(オートマトン)を貪っていた。

ローブを羽織り、そのフードで顔を隠した主人がそれを見守っている。

時折辺りを伺っていることから、少しは警戒しているようだ。

 

「どうする気だ」

 

歩き出した俺に、アジーンが問う。

 

「当然、殺るに決まってんだろ」

 

俺はサラリと答え、魔術喰いとその主人の元へ近寄った。

 

「自動人形ってそんなに美味いのかよ? よかったら俺達にも分けてくれないか?」

 

「ッ!!」

 

俺の声に驚いた魔術喰いは主人と共に慌てて距離を取る。

喰われていた自動人形の心臓はすでに無くなってはいたものの、原型はとどめられていた。

 

「エリザ、引くよ」

 

主人が魔術喰いーエリザと言うらしいーの名前を呼び、この場から逃げようとする。

 

「ちょっ?! 逃がすかよ!」

 

俺は慌ててトランスを発動し、彼らの行く手を阻んだ。

 

「やべっ、勢い出し過ぎた!」

 

勢い良く降り立ったせいで、ふわっとフードがめくれる。

 

「モヤ......フェリクス?!」

 

その顔を見て、俺は頭の中が混乱した。

 

「......やぁ、リュウ」

 

仕方なく、と言った様子でフェリクスが挨拶を交わす。

 

「まさか、魔術喰いの正体ってお前だったのか、フェリクス......?」

 

自分で問いかけた内容に、俺は疑問を覚え冷静になって考える。

フェリクスが魔術喰いの正体なら、いったいなんのためにこんな騒ぎを起こしたんだ?

......いや、違う。こんなのは考える必要もない。

十中八九夜会のためだ。

魔術を喰うって言うくらいだから大量の魔術回路を吸収して夜会を勝ち進んでいく算段だったんだろう。

 

「乙女の食事を邪魔するのは紳士として良くないよ、リュウ」

 

「魔術喰いに乙女とか笑わせんな、バーカ」

 

ぺっ、とツバを吐き捨て、俺はフェリクスを見据える。

 

「で? 自作自演したあとはいったい誰に罪を被せるつもりだったんだ?」

 

声が冷たくなる。

果てしなく愉快だった。

なにが風紀委主幹だ、魔王(ワイズマン)になるためには手段を選ばない最悪な奴じゃねーかよ。

 

「......君の質問に答える義務はない」

 

フェリクスは俺の質問には答えず、スッとエリザに左手を向けて魔力を流し込む。

 

「答える気はねぇってか......」

 

そこへ、先走ったせいで置いてけぼりを食らったアジーンがパタパタと俺の隣へやってくる。

俺は右手をアジーンに向け、魔力を流し込んだ。

 

「リュウ、君には悪いけどここで死んでもらうよ。さすがに食事(これ)を見られてなにもしないほど僕は甘くないからね」

 

そう言い終わったところでエリザが突っ込んでくる。

俺は速攻で突っ込んできたエリザを上から抑え込み、アジーンに向かって叫んだ。

 

「火!」

 

俺の指示に従い、アジーンがその通りに大きく胸を逸らして高熱の火を吐く。

俺は火が当たる直前にエリザの背中を蹴り上げ、空へと逃げた。

火がエリザを包み込む。

 

「なっ?!」

 

だが、そこにエリザの姿は見えなかった。

火が内側から消火されていく。

 

「マグナスと互角に立ち回れる厄介な相手だとは思っていたけれど、これじゃまるで宝の持ち腐れだね」

 

「うっせぇよ、馬鹿で悪かったな!」

 

反射的に言い返しながら、アジーンの近くで着地する。

改めてエリザのいたところを見ると、いつの間にか辺りに飛び散った水が溜まり、それは人型を形成してエリザを生み出した。

 

「水か......だったら!」

 

そう言って、再び魔力をアジーンに流し別の魔術を発動しようと構えたときだった。

 

「そこ! こんな時間になにをしてるの! そろそろ寮に戻りなさい!」

 

第三者の声がライトとともに俺らを照らし出す。

 

「って、フェリクス? こんなところでなにしてるのよ」

 

それは自動人形を連れた風紀委員だった。

ほんのり緑掛かった髪の色のショートヘアを持つ、頼もしい雰囲気のある女の子だ。

恐らく俺らの騒ぎを聞きつけて注意しに来たんだろう。

自動人形がぬいぐるみみたいで妙に可愛らしい......。

......気のせいかもしれないけど、どこかで見たことのあるような顔だった。

 

「えっと、隣の君は......?」

 

トランスを発動したままの俺を見て、風紀委員が首を傾げる。

今の自分は確かに人型をしているが、知ってる人しかわからないような姿をしているので彼女の反応も仕方が無いのかもしれない。

......あれ? なんだかものすごーく嫌な予感がしてきたんだけど、これ一応逃げたほうがよくない?

 

「ニーナ! ちょうどいいところに来てくれた! 手伝ってくれ、そいつは魔術喰いの手がかりになる!」

 

「は?! ちょっ、フェリクス! てめ、何言っーー」

 

「魔術喰いの手がかりに? どういうことかよくわからないけれど、すぐに取り押さえるわ!」

 

「俺は魔術喰いの手がかりでもなんでもねーし、むしろ手助けしてるほうだっての!」

 

俺の弁解も虚しく、先ほどやってきた風紀委員のニーナが魔力を流し込み、彼女の自動人形がこちらに襲いかかって来る。

ニーナーー気のせいじゃなかった。

忘れるわけがない、ドラクォキャラの中でぶっちぎりに可愛かったヒロインのニーナきゅん。

個人的にカッコカワイイリンさん派なのは秘密だが、まさかこんなところで彼女の子孫?に会えるなんて......。

とはいえ、状況が状況なので今は逃げに徹する。

 

「くそっ! アジーン、逃げんぞ!」

 

俺は急いでアジーンを抱えたあと、地面を大きく蹴り上げて闇夜に消えた。

 

 

トータス寮が間近に迫る。

俺は一気に下降したあと、何故か窓の開いている自分の部屋目掛けて突っ込んだ。

 

「イーイェイ!ーーうおっ!?」

 

窓のさんに足を引っ掛け、思いっきりバランスを崩したまま部屋の中へと転がり込む。

 

「きゃっ!」

 

部屋の中にいた誰かとぶつかってしまったのか、そんな可愛らしい声が聞こえてくる。

なんだろう、手の感覚が小さな膨らみを押している気がする。

 

「大丈夫か、夜々」

 

そこへどこか聞き覚えのある声が耳を刺激する。

見ればそこにはシャルの自動人形、シグムントがおり、夜々の側をパタパタと飛んでいた。

 

え? 夜々?

 

「うぅ......い、痛いです......」

 

そんな夜々の言葉に、俺は下敷きになっているっぽい彼女を見ると

 

「?!」

 

俺の両手はしっかりと夜々の胸を掴んでいた。

 

「うわぁっ!!」

 

俺はほとんど反射的に声を上げ、慌てて後退りをしてその先にある壁に背中を打ち付ける。

さっきの感覚は夜々の胸を揉んでいたからか!!

 

「......最低だな」

 

先に上手く部屋の中へ突っ込んだアジーンが呆れながら呟く。

 

「夜々、マジですまん! わざとじゃないんだ!」

 

俺は夜々が怒り出す前に土下座をかまし、全力で謝る。

 

「リ、リュウさん......なんですか?」

 

だが、返ってきたのはそんな反応。

俺は思わずキョトンとなった。

 

「へ? いや、そうだけど......」

 

「そのお姿は......」

 

言われて見てみればまだトランスを解いていない。

俺は慌ててトランスを解き、夜々にこの姿になっていた理由を明かした。

 

「フェリクスが魔術喰いとはな。敵は身近に潜んでいるということか」

 

隣で聞いていたシグムントがそう小さく漏らす。

夜々は俺を心配そうに見ていた。

 

「リュウさんはこれからどうするのですか?」

 

「どうするもなにも......とりあえず寮に戻ってきたとはいえ、ここじゃすぐに見つかるだーー」

 

そう言いかけたときだった。

ダンダンッ!と扉が強く叩かれる。

扉の外が騒がしい。

 

「やばっ?! もう来たのかよ! アジーン行くぞ!」

 

俺はアジーンに目配せし、再びトランスを発動した。

 

「リュウさん!」

 

夜々の呼びかけに、俺は窓に手を掛けたままん?と振り向く。

 

「もう行くのですか?」

 

「んなこと言われたって、なんもしてねーのに捕まりたくないし」

 

「私は逃げないほうが懸命だと思うが」

 

「は?」

 

その言葉に、俺はシグムントを見てしまう。

 

「魔術喰いと通じていないのにも関わらず逃げるのではますます“そうだ”と周りに知らしめているようなものだ」

 

「......」

 

フッ、とトランスを解き、窓から手を離す。

 

「......確かにシグムントの言う通りだな。うん、鬼ごっこはやめだ!」

 

俺はそのまま窓に腰掛け、扉の外で必死に開けようとしているだろう風紀委員を待つ。

 

「......ふっ、リュウよ。君は中々に骨のある人物のようだ」

 

そう言って、シグムントは窓に足を掛けた。

 

「では私はそろそろ失礼するとしよう。寮でシャルを待たねばなるまい」

 

シャル、という名前を聞いて俺ははたと疑問が浮かんで来た。

 

「そういや雷真とシャルは? あいつらマジでデートに行ったのか?」

 

「当初は魔術喰いの囮として彼女らを使う予定だったのだがな、彼はシャルの探偵ごっこに付き合っていられないと言って共に街へ出掛けて行った」

 

彼女ら、と聞いて夜々を見てしまう。

夜々は雷真のことを思い出したのか、しょんぼりとしていた。

 

「雷真のやつ、大胆だなぁ......ん、ありがとな。シグムント」

 

俺が礼を言うと、シグムントはちらりとこちらを見て窓枠を蹴った。

飛ぶ姿がアジーンとそっくりだ。

そう思ったところで、ようやく外にいた人間共が部屋の中に突入してくる。

俺は不安そうに見る夜々に小さく笑いかけ、大人しく連行された。

 




14話の投稿2回目ですρ(・ω・、)イジイジ

最初投稿したとき、テキトーに勢いで書きすぎてリュウが魔術喰いの容疑者になっちゃったけど、原作ってシャルが魔術喰いの容疑者だったし、そこからどう進めばいいかわからなくなったので投稿し直しました。

さーせん!|〃サッ

☆追記☆
編集し直したらなんか酷くなったorz


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第十五話:魔術喰い騒動の終結

念願の世界に転生しました((*´∀`*))って題名のことなんですけど、テキトーに進めていたら題名と内容がズレてしまったので変えました。
題名すっげぇスッキリしちゃったよwww

さて、今回で魔術喰いはおしまいです。
それでは、どぞ↓

ちょっと本文訂正(4/12)


学院の門を一気にくぐり抜け、騒ぎの中心となっている敷地内へと突っ走る。

時刻は午後9時を越しているというのにも関わらず、辺りには学生の野次馬が出来ていた。

そんな彼らの中、他の風紀委員に混じって仕事をするフェリクスの姿を見つけ、雷真は『Keep Out』のロープを軽々飛び越える。

 

「やあ、お早いお着きだね」

 

フェリクスは雷真の姿を確認すると、にっこりと笑った。

 

「門から走ってくるのを見たけれど、今まで街の外にいたのかい?」

 

その言葉に、雷真は内心ビクリとする。

何度もシャルを誘っているのに断られているらしいフェリクスの手前、そんな彼女と“デート”していたなんて言えるはずもなく雷真はその部分に触れないように答えた。

 

「あぁ、少し用事があってな。そんなことより喰われた自動人形(オートマトン)は?」

 

「こっちさーーあとは頼むよ」

 

そう言って、フェリクスは他の風紀委員に任せて彼を庭園へと案内する。

学院に残してきた夜々のことが心配で、雷真は不安のあまり走り出してしまいそうになるがなんとか堪え、悟られないようにフェリクスについていく。

その後ろをついてくる一体の自動人形のことが気になり、雷真は口を開いた。

 

「フェリクス。今後ろにいるのはあんたの自動人形か?」

 

「あぁ。今まで魔術喰い(カニバルキャンディ)は2日連続で出た試しがないけれど、それはどこまでいっても結果論だからね。だから魔術喰いが出た次の日には必ず相棒と一緒に歩き回っているのさ」

 

ふっ、とフェリクスの表情に影が差す。

 

「その甲斐もあって今回ようやく魔術喰いを見つけることは出来たんだけど......阻止することは出来なかった」

 

フェリクスの言葉に、雷真は己の耳を疑った。

 

「ちょっと待て、今なんてーー」

 

「雷真!」

 

が、雷真が質問しようとしたところで焦りのあまり置いてきてしまったシャルが息を切らしてこちらに駆けてきた。

 

「フェリクスーー」

 

雷真の隣にいるフェリクスの姿を捉えると、思わずと言った感じで彼の名前を呼ぶ。

 

「やぁ、シャル。彼と街に行っていたのかい?」

 

鋭い。

叱られているわけではないのに、シャルは悪事がバレた子供のようにビクリと小さくなった。

 

「待って、違うの、私はただーー」

 

「さぁ、雷真。犠牲者はそこだよ」

 

もごもごと、言い訳がましく言葉を紡ぐシャルの言葉を冷たく遮り、彼は植え込みの陰を示した。

それに釣られてフェリクスの示す先を見ると、半壊した自動人形が風紀委員に囲まれて倒れている。

相変わらず、本来心臓のあるべき部分には穴が開いているが、途中でフェリクスに見つかったのかこれまでと違ってかなり原型をとどめていた。

 

(よかった......夜々じゃなかった......)

 

被害を受けた人形使いには悪いと思いつつも、雷真は胸を撫で下ろす。

 

「フェリクス、さっきの話は本当なのか? 魔術喰いを見たって」

 

そうしてすぐに気持ちを切り替え、フェリクスの目を見て尋ねた。

彼は半壊した自動人形を見ながら答える。

 

「あぁ......と言っても魔術喰いと手を組んでいたものだけどね」

 

「どうしてそんなことがわかる?」

 

「君のルームメイトだからだよ」

 

その言葉に雷真は驚愕した。

 

「馬鹿な、リュウはそんなことをするようなやつじゃない。それにあんただって言ってたじゃないか。俺達は最近来たばかりだから魔術喰いじゃないって」

 

「だけど、魔術喰いの関係者にならないとは一言も言ってないよ」

 

「っ......」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる雷真。

そんな彼を気にすることもなく、フェリクスは続けた。

 

「今仲間に手伝ってもらって探しているところさ。ようやく尻尾を掴めそうなんだ、このチャンスを無駄には出来ないよ......これ以上、被害者を増やしたくはない」

 

フェリクスの視線が、半壊した自動人形の隣へと注がれる。

その先にはその持ち主であろう男子学生が自動人形に縋って泣いていた。

同じくそれを見ていたシャルが眦を決して踵を返す。

 

「シャル!」

 

それに気付いたフェリクスがロープをくぐり、彼女を呼び止めた。

フェリクスの声に、ピタリとシャルが立ち止まる。

 

「風紀委員が今全力を尽くして調べてくれている。君はもう魔術喰いには関わらないほうがいい」

 

「でも!」

 

突然の勧告に、シャルは振り向く。

 

「あとは僕と風紀委員に任せてくれ」

 

フェリクスが被っていた帽子のツバを下げ、目を隠す。

 

「それとシャル......君の気持ちはわかったよ。残念だけど、僕は身を退くよ」

 

「え......」

 

シャルは愕然として、棒立ちになった。

 

「君は僕ではなく、彼を選んだ。そういうことなんだろう?」

 

「そんな、ちが......っ!」」

 

「もういいんだ。どんなことを言ったってそれは覆しようのない事実なんだから。悔しいけど、彼に負けたんだと僕は認めるよ」

 

「待って、私の話をーー」

 

「まだ作業が残っているんだ。悪いけど、しばらくは顔を見たくない」

 

スタスタと、早くここから離れたい一心でフェリクスはシャルと雷真を置いて歩き出す。

雷真は、小刻みに震え今にも泣き出しそうなシャルにどう声を掛けたらよいかわからず彼女とフェリクスを交互に見て

 

「元気出せよ。フェリクスには俺からちゃんと言っておくから」

 

と言い残して彼の後を追い掛けた。

 

「待ってくれ、フェリクス」

 

彼の名前を呼び、その足を止めさせる。

 

「どうかしたのかい?」

 

そう言って振り向いたフェリクスの表情はやはり悲しそうで、本気でシャルが好きだったのかと罪悪感に襲われる。

雷真は申し訳なさそうに目を逸らしながら弁解した。

 

「その、俺が悪かったんだ。シャルは最初、デートを口実に魔術喰いの囮として俺らを呼び寄せただけだあって、そこに俺が揚げ足取って無理やり街に連れ出したんだ。シャルはなにも悪くない」

 

だが、彼は首を横に振るだけだった。

 

「この話はもうやめよう。気持ちが暗くなるだけだ」

 

そう言って、再び歩き出してしまう。

その後を雷真は追うことが出来なかった。

 

 

カシャ、と鎖同士がぶつかる音が響く。

 

「いい加減白状しなさい。魔術喰いのせいで何人もの行方不明者、自動人形が被害にあっているのよ? それがどれだけ凶悪なことかあなたにもわかるでしょう?」

 

「そんなこと言われたって、俺はなにも知らないんだから仕方ないだろ?」

 

風紀委員のニーナに問い詰められ、俺はため息を吐きながらそう返した。

捕まってここ、風紀委の待機場所に連れて来られてから2時間が経とうとしている。

時刻はもう少しで10時を回りそうだ。

うぅ、ケツいてぇ......。

 

「だいたい、言ったところで信じてもらえるわけねーし」

 

「それとこれとは話が違うわ」

 

俺はニヤリと意地悪な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「なら、お前らんとこの主幹様が魔術喰いだって言ったら?」

 

「あなたそれ本気で言ってるの?」

 

途端に向けられる、怪訝な顔。

予想していた反応に、俺はため息が出た。

 

「ほら見ろ、言わんこっちゃない」

 

「あなたねぇ、ふざけるのもいい加減に......」

 

そう言いかけた時だった。

扉が大きく開け放たれ、中から新たに風紀委員が飛び込んでくる。

 

「ニーナさん! 二回生のシャルロット・ブリューさんの部屋から多数の魔術回路が見つかったそうです!」

 

「なんですって!」

 

そうして伝えられた内容に、ニーナはガタリと立ち上がった。

 

「今フェリクスさんの指示で、風紀委のみんなが総力を上げてシャルロットさんを捜しています! ニーナさんも来てください!」

 

「わかったわ! すぐに行く!」

 

ニーナの返事を聞いて、伝えに来た風紀委員はすぐに立ち去ってしまう。

ニーナはこちらを見ると、念を押すかのようにこちらを指差してきた。

 

「いい? 逃げようなんてこと考えないでよ。魔術喰いが捕まるまであなたは重要参考人なんだから」

 

そう言って、仲間の風紀委員を追いかけるように待機場所から出て行ってしまう。

取り残された俺はしばしの間ボーッとして、大きなため息を吐いた。

 

「なんで放置プレイされてんだ、俺。透明人間系Mじゃねぇっての」

 

ジャラリ、と両腕を動かすたびに付けられた鎖が音を立てる。

両手首にはしっかりと手錠がかけられており、容易には外せそうになかった。

おまけに手錠は近くの柱と鎖で繋げられているので動き回ることも出来ない。

 

「風紀委が戻るまで待つのか?」

 

少し大きめの鳥かごに入れられたアジーンがつまらなさそうに寝返りを打ちながら尋ねる。

鉄製の鳥かごではあるがアジーンの体には魔力絶縁コードが巻かれており、魔術を発動出来ない状態なのでそれも仕方が無い。

 

「まさか。もちろん壊して逃げるに決まってんだろーー『バル』!」

 

俺がそう唱えると手錠の鍵穴の部分に小さな稲妻が落ち、手錠はガチャリと音を立てて両手の拘束を解いた。

自由になった手を軽くストレッチしてから、続いて2発目の『バル』を鳥かごの錠に落として壊す。

 

「ふんっ」

 

アジーンは楽しそうに鼻で笑ったあと、開いた鳥かごから出て俺の頭に乗った。

 

「よっ、と」

 

そのまま俺は窓から中央講堂の屋上へと踊り出る。

 

「おや? 君は確か下から二番目(セカンドラスト)といつも連んでいる......」

 

「あれ、キンバリー先生じゃないですか。こんなところでなにを?」

 

不意に声をかけられ、俺はつい驚く。

そこには白衣を纏った、普段見ないメガネを掛けているキンバリー先生がいた。

 

「見物だよ」

 

くいっ、とキンバリー先生が顎で指し示す。

俺はキンバリー先生の近くに寄ると彼女の指し示す方向を見た。

風紀委が数人取り囲む中、フェリクスと雷真はそれぞれ自身の相棒に指示を出して戦っている。

が、戦況はフェリクスに向いているようで、雷真は血に塗れ、夜々は白い霧の中で宙吊り......おまけに拘束されていた。

あれ、エリザがいない......?

 

「どうだ、なかなかに面白い局面だろう?」

 

「面白いって......雷真めっちゃボロボロですやん」

 

げっそりとしながら感想を漏らす。

キンバリー先生はふっ、と笑みを零した。

 

「そういえば先ほど受けた連絡で魔術喰いの手がかりとして捕らえられたと聞いていたが逃げ出してもよかったのか?」

 

うっ、と言葉が詰まってしまう。

 

「そ、それは......」

 

「なぁに、気に病む話ではない。フェリクスが魔術喰いだということに比べれば大したことはないからな。お咎めもないだろう」

 

「は、はぁ......」

 

思わず生返事になってしまう。

別にお咎めなしならなしで良いに越したことはないんだけど......なんだかなぁ。

 

「おや? どうやら決着がついたようだな」

 

「え?」

 

そう言われて見てみると、雷真が後ずさるフェリクスに詰め寄っているところだった。

夜々を拘束していた白い霧はすでに晴れているが、やはりエリザの姿はどこにもない。

 

「あ、殴った」

 

雷真に胸ぐらを掴まれ、拳を顔面で受けたフェリクスが後ろにあった木に背中を打ち付け崩れ落ちる。

さすがはモヤシ、たった一発で気絶してやがるぜ。ざまぁねぇな!

 

(「リュウ、ネジが飛んでないか」)

 

(「正常ニ起動シテマスガナニカ?」)

 

(「末期だな......」)

 

(「よし、アジーン。あとで覚悟しとけよ★」)

 

(「怖っ?!」)

 

「さて、と。私はそろそろ仕事に戻らなければならないが君はどうするのかね?」

 

「え? あ、はい。うーん......大人しく戻りますよ。手錠は壊しちゃったけど、逃げてないって見せかければ大丈夫っしょ」

 

アジーンとのテレパシーで返事が少し遅れながらもなんとか答え切る。

キンバリー先生は

 

「そうか。ではまた講義室で会おう」

 

と言って屋上から飛び降りて(・・・・・)いった。

 

「はぁっ?!」

 

俺は慌てて屋上から顔を覗くがそこに彼女の姿はなく、まるで瞬間移動をしたかのように見えた。

 

「キンバリー先生って化け物なのか......?」

 

 

たくさんの学生に囲まれた講堂のエントランスから、ギプスを固定された全身ボロボロの雷真とそんな彼を支えるかのように歩く夜々が姿を見せる。

途端に学生達が彼らに盛大な拍手を送るが、中にはやっかみや嫌悪の表情を浮かべて拍手を送らない学生もいる。

そんなんなら来なければいいのに、と思っていると不意に拍手がやんだ。

そのまま学生達の波が割れ、相変わらず帽子にシグムントを乗せたシャルが現れる。

 

「夜会も安くなったものね。貴方が手袋持ち(ガントレット)なんて、世も末だわ」

 

初っ端から憎まれ口を叩くシャル。

けれども彼女は唐突に挙動不審になると顔をほんのりと赤く染め、ぐいっと右手を突き出した。

 

(お?)

 

金のリボンがかけられた、小さな箱だ。

 

「......何だ?」

 

「バカなの? お祝いに決まってるじゃない。一応、その、なりゆきとは言え、貴方に助けられた側面も、客観的に見れば、なきにしもあらずだから......」

 

もごもごと遠回しに言うシャル。

雷真は納得のいかなさそうな表情を浮かべつつもそれを受け取り、彼女に微笑んだ。

 

「ありがとな、シャル」

 

「っ......//// いい言っておくけど、夜会の戦場で向き合ったら敵同士だからね!」

 

「わかってるって」

 

顔を赤らめながらもはっきりと宣言したシャルに雷真が笑いながら返す。

 

(ツンデレっていいなぁ)

 

二人を見てそんなことを思っているとアジーンがテレパシーを送ってきた。

 

(「変態め」)

 

(「ちょっと待て。なんか違うよな、それ? それだけで変態ならそう思った奴ら全員が変態になっちゃうよな?」)

 

俺は周りの学生に混じって二人に冷やかしの拍手を送りつつ、アジーンを問い詰めた。




部外者視点なので、早めに終わってしまいましたね
リュウが絡んでいないところはなるべくセリフを変えようと思いましたが、私には難易度が高すぎました

あ、ご報告。
無事に1/4達成しましたよ!
宿題放棄して←
次はドーピングデータでも作りましょうかね?w
ではお疲れ様でした!


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第ニ章 Facing "Sword Angel"
第十六話:サバゲーやりてぇ......


新学期早々風邪引いたぜイェイ☆
課題テスト?うん、知らん!(`・ω・´)b
だって休んでたし←

カゲロウデイズのアニメだばんざーい!

本文追加(9/26)
タイトル編集(9/26)


魔術喰い(カニバルキャンディ)騒動が終わり、ようやく学院生活が落ち着いて始められそうな頃。

寮のベッド......否、小上がりに俺は寝転び、蛍光に照らしながらパールホワイトに輝くシルク地の手袋をかざして様々な角度から見ていた。

......最近俺の寝床=小上がりなんだが、そろそろ腰が痛くなってきた......

いい加減まともなところで寝たい......orz(切実

 

「へぇ、これが手袋かぁ......豪華だなぁーーん?」

 

ふと金の糸で刺繍されている文字を見つけ、じっと見つめてみる。

 

「そこは見るな!」

 

「うわっ、雷真! なにすんだよ!」

 

と、不意に手袋を取り上げられ、俺は慌てて起き上がった。

 

「これ以上は機密情報だ!」

 

「手袋にそんなのがあってたまるか! ......ははーん、わかったぞ。登録コードを見られたくないんだな?」

 

ちゃっかり金の糸で刺繍されている文字が見えないように手袋を抱える雷真にニヤリとしながら言う。

それはどうやら図星だったようで、彼はうっと小さく唸った。

 

「さしずめ登録コードは下から二番目(セカンドラスト)だろ?」

 

「う、うるせぇよ! 言っておくが俺が申請したわけじゃないからな!」

 

「ははっ、わかってるって。どーせキンバリー先生なんだろ?」

 

俺はケタケタと笑いながらドンマイと彼の背中を叩いた。

 

「うぅ......」

 

どうやら当たっているらしい。

雷真は唸りながらベッドに顔をうずめ、足をドタバタさせた。

 

「なんでこんなクソッタレなコードなんだよ、ちくしょう!」

 

「1235位だからに決まってんじゃん」

 

「お前までそれを言うか!」

 

ぐわっ、と起き上がって鬼の形相でこちらを見る。

 

「まあまあ雷真、落ち着いてください」

 

そこへ夜々が宥めに入り、雷真は渋々と言った様子で落ち着く。

そんなこんなで、久しぶりにゆったりとした時間にふと前世で男友達とよく遊んでいたあることを思い出した。

 

「あーぁ、サバゲーやりてぇなぁ......」

 

「サバゲー? なんだそりゃ?」

 

ポロリと零れた内容に、雷真が体を起こして問いかける。

俺はその言葉に信じられないという思いで答えた。

 

「は? 知らねーの? サバイバルゲームの略だよ。敵味方に別れたチーム同士エアガンで撃ち合うんだ」

 

「......だ、だめだ......ついていけん......」

 

「嘘だろ、おい......あ、そうだ」

 

謎の沈黙後、結局返ってきた反応にガックリと項垂れる。

と、頭の中に浮かび上がった名案に俺はついニヤリとした。

 

「今度時間があったらやろうぜ!」

 

「サバゲー......って奴をか?」

 

「おう! あ、でもエアガンがねーか......まぁ割り箸と輪ゴムでなんとかなるよな

ーー......やべぇ、男の血が騒ぐぜ......ルールとやり方だけ説明してやっけど、やるからにはぜってぇに負けねぇからな」

 

「なんかやる気に満ち溢れてないか......?」

 

「当たり前だ! サバゲーだぜ?! 雷真もサバゲーの楽しさ覚えたら絶対に忘れられなくなるから!」

 

「ははっ......そ、そうか......」

 

視界の端で、雷真が引き気味のような気がするのは気のせいということにしておこう。

 

「おーい、むさ苦しい男ども。お前らにお届け物だぞー」

 

ふと部屋の扉がノックされたと同時に寮監の声が聞こえ、俺はムッとしながらも返事をして扉を開ける。

そこにはダンボールを抱えた寮監が立っていた。

 

「先生、もっと他に良い呼び方なかったんですか」

 

「実際そうだろ、男2人の部屋って」

 

「だとしてもせめてオブラートに包んでくださいよ〜......」

 

「あーもーわかったから。ほら、とっとと受け取れ」

 

「おわっと」

 

ほとんど投げやりに渡されたダンボールをなんとか受け取り、その重さにびっくりしてしまう。

 

「軽っ」

 

「そいじゃま、俺はお暇するぜ」

 

「あ、はい。これありがとうございました!」

 

俺の礼に、先生は手を振りながら去って行く。

俺は先生の姿が見えなくなった後部屋に戻り、ダンボールを床に置いた。

 

「なぁ、リュウ。さっき寮監の言ってた俺ら宛の届け物ってそれのことか?」

 

「ちょっと待ってろって」

 

サバゲーで盛り上がった熱もすっかり冷め、通常運転に戻った俺はダンボールに貼られた伝票を指で追って読んでいく。

 

「へ? 爺ちゃんと婆ちゃんからだ」

 

「爺ちゃんと婆ちゃんって、リュウのか?」

 

「あぁ、うん。そうなんだけど」

 

俺は雷真にそう返しながらも急いで封を切った。

 

「あ、これって!」

 

そうして現れた中身は紺色のスーツだった。

それもただのスーツじゃない、ドラクォのリュウが着ていた(と思しき)レンジャースーツだ。

 

「なんだ、それ?」

 

雷真が興味深そうにレンジャースーツを見る。

夜々も気になっているようだ。

とはいえ話したところで理解してもらえないのは火を見るよりも明らかなので誤魔化す。

 

「あ、いいのいいの。気にしなくて」

 

俺は鼻歌交じりにレンジャースーツを取り出す。

 

(ん?)

 

その下にあった小さな包み箱と手紙が気になったが、俺は「後でいっか」とさっそく試着した。

 

「きゃっ! リュウさん、こんなところで着替えないでください!」

 

夜々が目を覆いながら文句を付ける。

俺はうん?と自身の体を見てみて、一気に顔が赤く......なることはなかった。

 

「別にいいだろ? そんな酷い体してるわけじゃあるまいし」

 

言いながらとっととズボンを履き、ジャケットを羽織る。

夜々は頬をわずかに染めて顔を隠しながらも、チラチラとこちらを見ていた。

自慢?じゃないけど、それなりに筋肉は付いてるから見られて恥ずかしい体をしてるわけじゃないと思う。

これが脂肪たっぷりのお腹だったりしたらさすがに恥ずかしい。

というか、それ以前に人の目があるところで大胆に着替えようとはしないと思う。

 

「へぇ、似合ってるな。かっこいいぞ、リュウ」

 

「そ、そうか?」

 

「あぁ」

 

雷真の言葉に俺は少し照れ臭くなった。

 

「あ、そういえば雷真。お前にもなんか届いてたぞ」

 

そこで小さな包み箱のことを思い出し、俺は雷真に手渡す。

雷真は自分のベッドに腰掛けるとさっそく封を切った。

それを見た俺も手紙の封を切る。

そこに書かれていた内容はこうだった。

 

『親愛なるリュウへ

 

 学院生活はどうだ? 機巧魔術(マキナート)は初めて習う単元だから苦労していると思う。だが、それを学びたいと言ったのはお前自身なのだからめげずに頑張ってほしい。私達はいつでもお前を応援しているよ。

 そうそう、最近大掃除をしていたら私達の先祖が着ていたレンジャースーツが見つかったからお前に送っておいた。レンジャースーツを着たお前を見れないことが少し寂しいが、元気ならそれでいい。

 小さな包み箱はお前のルームメイト宛てだ。遅くなったが、これからリュウが世話になると伝えておいて欲しい。

 最後になるが、たまには電話を寄越して私達に声を聞かせてくれ。

 

お前の祖父母より』

 

「夜々! 見てみろよ、リンゴだ!」

 

手紙を読み終えたところで雷真が声をあげ、中に入っていたリンゴを夜々に見せる。

 

「わぁ、結構大きいですね!」

 

「だろ? なんか旨そうだよな」

 

二人が楽しそうに話すのを見て、俺は温かい気持ちになりながらアジーンの姿を探した。

 

(あれ? アジーンがいない?)

 

が、いくら見回しても見つからず、つい眉間にシワが寄ってしまう。

 

「どうした、リュウ?」

 

それに気付いた雷真が尋ねてくるが、俺は首を振った。

 

「いや、なんでもねーよ」

 

「そうか」

 

雷真はそう言って夜々と再び話し始めた。

 

(あ、そっか)

 

そこでふと、今日の朝“少し用事がある”と出掛けて行ったきりなのを思い出した。

 

(「アジーン? 今どこに居んだよ?」)

 

俺はテレパシーで呼び掛けてみたが珍しくアジーンの反応はなく、奥の手でアジーンの記憶をリアルタイムで盗み見てしまおうかととも思ったが結局は止め、そのうち戻ってくるだろと再び畳の上に寝転んだ。

 

 

地上から遠く離れた、『廃棄ディク処理施設』と呼ばれていたフロアにそいつは佇んでいた。

すでに骨のみと化した竜の死体を見上げ、小さく首を振る。

 

「随分と来るのが早いな、オリジン。昔を懐かしんでいたのか?」

 

そいつの振り向いた先には魔力がないにも関わらずトランスを発動させ、巨大な翼竜の姿を取り戻したアジーンがいた。

 

「戯言を抜かすな。お前のそれはつまらん」

 

「ふんっ」

 

オリジンと呼ばれしその男性に言われ、アジーンはつまらなさそうに鼻を鳴らしたあとトランスを解く。

小さな竜の姿へと戻ったアジーンはパタパタと飛んで竜の骸の前を遮るフェンスへと留まった。

 

「それで、例の器は?」

 

「今はまだなんともーーだが、器として成熟しつつあるのは確かだ」

 

それを聞いたオリジンが小さく微笑み、近くのフェンスへともたれる。

 

「覚醒は?」

 

その問いにアジーンは頭を振った。

オリジンの表情がわずかに険しくなる。

 

「どういう意味だ。言ってることが違うぞ」

 

「トランスーーあいつはそう呼んでいたが、あれは現代の枠から出ない範囲で力を行使しているだけに過ぎない......どんな形であろうとも力は使えば使うほどその身を蝕む」

 

「そういうことか......現代の枠、といえば機巧魔術(マキナート)か?」

 

「機巧魔術......あれは現代における戦争の道具だ。その昔、竜がそうであったのと何一つ変わらない。......小さき友の開いたこの世界が再び戦火に包まれるのなら、自ら世界を閉じるまでだ」

 

その言葉に、オリジンは天井を見上げる。

 

「やはり人は、再び空を手にする......それだけの価値は無かったのだな」

 

「いや、少なくとも価値はあった......新たに刻まれた長い歴史に埋れてしまったがな」

 

それに釣られてアジーンも天井を見上げる。

 

「人はどこまでも愚かだ。平和が人の傲慢さを生むのなら......そんなもの無くていい」

 

 

「うっ、腰痛ェ......」

 

ふと寝返りを打った途端走った痛みに俺は目が覚め、寝ぼけ眼のまま時刻を確認する。

と、時計は深夜1時を示しており、まだまだ日は上りそうになかった。

ま、当然っていや当然なんだけど。

 

「あ、ベッド空いてら」

 

どうせ今日も夜々が占領してるんだろうな、と思いつつ一応確認してみると驚いたことにベッドは空っぽで、俺はつい嬉しくなりながらもベッドに寝転んだ。

 

(あ、やっべぇ......ちょーコレいい......)

 

少しカビ臭い(トータス寮とはいえ万全を尽くしたがこれだけは取れなかった)マットレスに、小上がりですっかり硬くなった節々がフィットしていくのを感じながら小さく溜息を吐く。

......ん? 待てよ?

夜々が俺のベッドを占領してないってことは......

 

「?!」

 

俺はとっさに起き上がって隣のベッドを見てみると、そこには雷真の背中にピッタリとくっつきながらも眠る夜々の姿があった。

一緒にベッドの上......しかも布団の中ってどんだけ器用に入ったんだと突っ込みたくなるが、雷真が可哀想に思えてきたので今はおとなしく寝せてあげよう。

どうせ起きたら夜々と一悶着あるんだから。

 

「ん?」

 

ふとコツコツと窓ガラスを突つくような音が聞こえ、俺は忍び足で窓に近付き、カーテンを開けるとそこにはアジーンがいた。

 

「!! アジーー」

 

呼び掛けて、言葉を飲み込む。

普段の様子とはかけ離れていたからだ。

 

(「今までどこに行ってたんだよ?」)

 

一応二人を起こさないようにテレパシーでそう尋ねる。

だがアジーンは答えることなく窓から外へ出、屋上に行ってしまった。

 

(「あ、おい!」)

 

俺は慌ててトランスを発動し、アジーンのあとを追う。

 

「アジーン、お前様子が変だぞ?」

 

屋上に着いたところでトランスを解き、アジーンの側に寄る。

アジーンはギュッと屋根に爪を立て、顔を背けていた。

 

「......リュウよ、お前は人のことをどう思っている?」

 

「ひ、人?」

 

唐突な質問に、俺は自分でも顔が険しくなるのがわかった。

 

「そうだなぁ......」

 

腕を組み、じっと考えてみる。

そうして浮かんできたのは転生する以前の記憶ばかりだった。

 

誰かを教える人がいる。誰かを救う人がいる。社会に貢献する人がいる。誰かを傷付ける人がいる。誰かを騙す人がいる。物を盗む人がいる。罪を犯した誰かを捕まえる人がいる。罪人を裁く人がいる。誰かを楽しませようとする人がいる。

 

それは先生と生徒の関係かもしれないし、患者と医者の関係かもしれない。消費者と生産者の関係や被害者と加害者の関係、警察と犯罪者の関係だって考えられる。

 

それは全て対等だからこそ存在している気がする。

植物を育てるときに水ばかりあげて、栄養をあげないでいればその植物はいずれ死んでしまう。

人ってそういうもんなんじゃないかな、なんて思ってみたり。

なにかが欠けてたらダメなんだ、きっと。

 

そういえば『ブレスオブファイア4〜うつろわざるもの〜』も人について考えさせられるような内容だったっけ。

まぁ、考えさせられるって言ってもたかが知れてるけどな......所詮ゲームだし。

でも、あそこまで壮大な物語と同じってわけじゃないけど、改めてそんなことを聞かれると中々に返答に困る難しい問いかけだった。

 

「良い面も悪い面もあるーーってーか、悪い面のほうが多いかもしんないけど、お互いが作用しあってなにかあっても乗り越えられるのが人......なんじゃねーかな。でも、それはどの生き物に対しても変わらないんだと思う......。俺的には悪い面だけ切り取って良い面だけの人なんてそんなの人じゃないと思うけどな。そんなのはただのバケモンだーーところで急にどうしたんだよ? こんなこと聞いてくるなんて、お前らしくない」

 

「......いや、なんでもない。こんな時間に起こしてすまなかったな」

 

アジーンは首を振って部屋へと戻ってしまい、結局教えてはくれなかったがアジーンの記憶を覗こうとは思えなかった。




ようやくリュウの容姿が定まったので、ついでにキャラ紹介。

リュウ・ヴォルフィード
学院の二回生で雷真と共に編入してきた。編入時点で1024位。
茶髪のナチュラルヘアーで、身長は160cmほど。
普段は礼服を着ているが此度でレンジャースーツに。
友達や家族思いだが、所々で面倒臭がりな一面や何も考えずに事を成す一面を持つ。
前世の罪を償うために転生したが、しなきゃなと思う場面は見られるが今だにそれらしきことをしていない。というかむしろ重ねている模様。
前世での名前は月影竜。
アジーンの適格者で、いずれ自身がアジーンの体となることを知っている。
雷真と同じく、自動人形(オートマトン)でもあるアジーンと共に戦う戦法を取る。
実力はマグナス以上になるが、戦闘において頭が回らないためいわゆる宝の持ち腐れ状態。
前世では彼女が出来たことはなく、加えて今世でも年齢=彼女いない歴のためか彼女()募集中。
順次変えて行くかも!


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第十七話:好感触

テストは好きですか?


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リーーバンッ!

 

目覚ましがけたたましく音を立てかけた直後に勢いよく止め、俺は時刻を確認する。

 

「7時か......おーい、雷しーー」

 

ベッドから身を起こし、向かい側で眠る雷真を呼び起こそうとしたときだった。

 

(そうだった、夜々が......)

 

(「どうした、リュウ。起こさないのーー」)

 

アジーンが目を覚まし、俺に尋ねかけたところで言葉に詰まる。

 

(「おはよう、アジーン......これ、起こすべき? 起こさないべき?」)

 

(「起こ......したほうがいいのでは?」)

 

(「だよね......」)

 

俺らの視界に映るは夜々と雷真が気持ちよく眠っている姿。

だが、騙されるな。

ベッドの側に、夜々の着物が脱ぎ捨ててある(・・・・・・・)ことを。

布団の中がどうなってるかなんて想像に難くない。

というかむしろ想像したくないよ?

水戸黄門の「これが目に入らぬか!」並みにヤバそうだからな?

......例えがおかしいか(´・ω・`)

 

「......よし」

 

俺は目覚まし時計を抱え、2人の姿が見えないように後ろを向いてから小さく意気込む。

 

(「なるほど、その手があったか」)

 

アジーンが感心して俺と同じように後ろを向く。

 

(「当然だろ。ラブホの朝みたいな状況の2人を直接起こすなんて無理ゲーにもほどがあるわ」)

 

(「ラブ......なんだ?」)

 

(「いや、なんでもない......独り言だから......」)

 

(「そ、そうか......」)

 

俺はため息が吐きたくなるのを堪え、先ほど止めた目覚まし時計をオンにした。

 

リリリリリリッ!!

 

再びけたたましくなる目覚まし時計。

覚醒する雷真と夜々。

 

「うっ、うぅ......リ、リュウ......うるさいぞ......ーーって、うわぁ?! や、夜々?! お前、俺が寝てる間になにをした!」

 

「あら、雷真。もう起きてしまったのですか?♡」

 

「起きてしまったのですか?♡じゃねぇよ! なんで全裸なんだ、お前!!」

 

「雷真と一つになるためです♡」

 

「やめろ! おま、気持ち悪い! だいたい時間考えろ! 朝だぞ?!」

 

「では夜ならいいのですか?♡」

 

「ふざけんな! ダメに決まってるだろ!! いいからとっとと服を着ろ服を!!」

 

(「はぁ......」)

 

(「はぁ......」)

 

背後でドタバタしている2人の音を聞いて、俺とアジーンのため息が重なった。

 

 

終業のチャイムが構内に響く。

 

「本日の講義はこれで終わりだ。各自予習等をしておくように。四日後には夜会前最後の定期考査が控えているのでそれについてもしっかりと復習しておくこと。では、解散!」

 

教授がそう言い放った途端、講義室にいた学生のほとんどが立ち上がり、それぞれ一人だったり友達と一緒だったりしてこの場を後にする。

それは俺も例外ではなく、少し多めの荷物をまとめ終えて席を立った。

 

「リュウ、寮に戻ろうぜ」

 

そこへ夜々と一緒に居る雷真が俺の背中に呼びかけてきたが、俺は振り向いて顔の前に手を持ってきた。

 

「わりぃ、今日はちょっと用事があんだ。先に戻っておいてくれよ」

 

「そうか? なら、仕方がない。行くぞ、夜々」

 

「はい、雷真」

 

雷真は少し寂しそうな表情を浮かべたがすぐに隠し、夜々にそう合図を出して壇上から降りていった。

 

「そいじゃま、行きますか」

 

雷真と夜々の背中が見えなくなったところで俺はアジーンに呼びかけ、一緒に講義室を後にした。

 

「また、図書館か?」

 

「まぁね。あと四日でテストだし」

 

講堂を出て食堂前、アジーンに聞かれた俺は肩を竦めながら答えた。

 

「誰かに教えてもらわないのか? 編入したばかりでわからないことも多いだろう?」

 

「そうなんだよなぁ。また先生とっ捕まえて教えてもらうってのもありだけど、あんまりやり過ぎるのもよくねぇし......なぁ、アジーン。なんかいい案とかない?」

 

「私に聞くな」

 

「デスよねー......はぁ......」

 

当然の切り返しにため息を吐いた、そんなときだった。

 

「ねぇ、君!」

 

「ん? ーーあ、先輩」

 

不意に呼び掛けられたと同時に肩を叩かれ、そちらを振り向くとそこには業後だからか風紀委の腕章をつけたニーナがいた。

 

「やっぱり。服装が違ってて気付かなかったけれど、あのときの子だよね?」

 

あのときの、というのは魔術喰い(カニバルキャンディ)騒動のときフェリクスのせいで関係者として拘束されたときのことだ。

 

「そうですけど......俺になんか用ですか? 言っておきますけど俺、なにも悪いことしてないですよ?」

 

なんだか嫌な予感のする展開に、真っ先にそんな言葉が出てくる。

が、ニーナはそうじゃないのと首を振って俺を見た。

......俺のほうが大きいからか、俺を見上げる先輩の姿がなんだか可愛く思えてくる......。

言っとくけど、ロリコンじゃないからな。

 

「その、魔術喰いのことでお詫びがしたくて......まさかホントにフェリクスが魔術喰いだったなんて思わなかったし、フェリクスの指示とはいえ君を拘束しまったことがどうしても気になって......」

 

「いいですよ、そんなの。もう終わった話ですし。じゃ、俺はこれで」

 

俺は彼女の肩に軽く手を置き、気軽にそう言ったあと図書館へと歩き出す。

 

「待って!!」

 

が、そんな声と共に腕がギュッと引っ張られ、俺は仕方なく足を止めて振り向いた。

 

「あ、ご、ごめんなさい」

 

ニーナが慌てて腕を離し、わずかに取り乱す。

 

「で、でも、ホントにいいの? 私になにか出来ることとかない?」

 

「えぇぇ......そんなこと言われても......」

 

どこか押しの強い感じに思わず一歩引いたとき、彼女の腰にぶら下げられている一対の手袋が見えた。

雷真やシャルも持っていた、夜会参加者を示すシルク生地の手袋だ。

 

「あ、手袋......」

 

「え? ーーあぁ、これのことかしら」

 

俺の呟きに、ニーナが手袋を持ち上げる。

 

「先輩って手袋持ち(ガントレット)だったんですね?」

 

「まぁ......でも、正直いらないのよね、これ」

 

「え? どうしてですか?」

 

思わぬ言葉に、俺はつい聞き返してしまう。

 

「夜会で魔王(ワイズマン)になれればなんでもありって聞きましたよ?」

 

「もともと争いごとは好きじゃないのよ。それに私は機巧魔術(マキナート)のことが学びたくてここに来たからね。その結果が手袋(これ)なだけであって、あまり夜会には興味がないのよ」

 

「へぇ......」

 

俺と同じ理由......か。

夜会なんてどうでもいいって思っているのも同じだし......。

魔術喰い絡みで捕まったときは苦手なタイプだと思ってたけど、彼女とは案外気が合いそうだ。

 

「真剣に魔王を目指してる人が聞いたら怒りそうだけどね」

 

苦笑しながら言ったニーナに、俺は乾いた笑みを浮かべる。

 

「言われてみたら、確かに怒られそうですね.......ははっ、そんなこと考えもしなかったな」

 

「君も夜会より勉強目当て? ......失礼とは思うけれど、手袋持ってないよね?」

 

彼女の視線が俺の姿を一通り見る。

 

「俺は手袋持ちじゃないですよ。確かにここには勉強目当てで来たんですけど、それだけじゃ退屈なので一応夜会にも出るつもりです」

 

「あら、勉強だけじゃ不満? 機巧魔術、学び始めると楽しいわよ?」

 

「まだ編入してきたばっかりなんで」

 

俺は言いながら肩を竦めてみせる。

ニーナの表情が驚きの色に染まった。

 

「え? じゃあ夜会前最後の定期考査って言ったらあと四日しかないわよ?」

 

「そうなんですよ。正直、ちょっとキツイです」

 

苦笑しながら、背中のカバンを背負い直す。

 

「よっ、と......なんで最近は先生とっ捕まえて教えてもらってるんです」

 

「よかったら私のわかる範囲で教えましょうか? 君は二回生だからある程度のことなら教えてあげられると思うんだけど......」

 

今度は俺が驚きの色に染まる番だった。

 

「え? で、でもそんなことしたら先輩の順位下がっちゃうじゃないですか?」

 

「私はいいのよ、今回の考査は夜会の参加者を決めるようなものだから」

 

「じゃあ......すみません、お願いします」

 

俺はアジーンが落ちないように軽めに頭を下げた。

 

「えぇ、任せて」

 

そう言う彼女の表情は少し嬉しそうだった。

 

 

講義室......もとい今は試験会場となっている部屋の中がざわざわとたくさんの話題で埋まっている。

もうあと数分で始まる考査のために、最後の詰め込みをする者。考査を諦め、楽しい話に走り出す者。考査に不安を覚え、わたわたしてる者。

俺はそのうちの最後の詰め込みをする者の一人で、この四日間ニーナと一緒に勉強したノートを眺めていた。

自動人形(オートマトン)は寮でお留守番、である。

隣で黙っているとは思えないし、なにより主人に答えを教える可能性も考え得るので一種のカンニング防止なんだとか。

が、そんなもの俺の前には無意味で、テレパシーを飛ばしアジーンに答えを聞いてしまえば簡単にカンニング出来てしまうのは否定出来ない。

もちろん、そんなことはやるつもりもないが。

そんなことを思っていると考査開始5分前を知らせる音楽が講堂内に響く。

軽快な音楽の合図に講義室にいた学生は皆廊下に鞄等を置き、そうして各自席についた。

やがてそこに教授が現れ、考査用紙と答案用紙を配り始める。

 

「始め!」

 

教授の声と共にこの場にいる全員が一気に答案用紙を裏返し、机をシャーペンが叩くような音が広がった。

 

(このレベルの問題なら......!)

 

俺は考査用紙に刷られた問題を一通り見て、小さくガッツポーズをした。




ニーナ(ドラクォの)可愛いよぉ......hshs


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第十八話:気分転換

中身のない話になっちゃったΣ(・□・;)

う〜む、文章力が欲しい......(´・ω・`)


嬉しさで心が踊っている。

放課後の講堂内を、俺は風紀委の注意を軽く受け流しながら疾走し、エントランスを抜けて図書館へと突っ走っていた。

手の中には先ほど担当のキンバリー先生からもらった、小さめの紙が握られている。

編入時に渡されたときのものと同じサイズの紙だ。

 

「先輩!!」

 

俺は図書館前で手持ち無沙汰にしている少女、ニーナの名前を半ば叫ぶようにして呼び、彼女の前で立ち止まる。

 

「リュウ! 随分と遅かったじゃない! 成績は? 順位はどうだった?」

 

ニーナは俺の姿を認めると、期待のこもった視線をこちらに向け矢継ぎ早に質問してきた。

俺は息を切らしながらも満面の笑みを浮かべ、手の中の紙を自慢げに見せる。

 

「どうだ!!」

 

ニーナの視線がその紙に......成績表に刷られた順位の部分だけに向けられ、途端に彼女の顔が綻んだ。

 

「わぁ、すごい! よく頑張ったわね! 64位って相当よ?」

 

言いながらニーナがパチパチと拍手を送ってくるのを見て、体中にくすぐったいような気持ちが込み上げてくる。

 

「先輩が丁寧に教えてくれたからですよ。ありがとうございました」

 

俺はぺこりと頭を下げ、再びニーナに笑いかけた。

ニーナの教え方は講義なんかと比べ物にならないくらい分かりやすく、また面白みがあってするすると頭の中に入っていった。

それこそ最初から先生に教えてもらうよりもニーナのほうがよかったと思うくらいに。

 

「そんなことないわよ。私の教え方がどれだけ丁寧だったとしても、やる気がなかったらこんなにいい結果は出ないんだから。それにしてもよかったわね、夜会に間に合って」

 

「はい、ホントにありがとうございました」

 

感謝の意を込めて再び頭を下げる。

が、ニーナはそれを俺の肩を掴んで阻止した。

 

「いいのよ、元より私からなにか出来ることはない?って聞いたんだしね」

 

「そう言ってくれると助かりますーー先輩のほうはどうでしたか?」

 

「私は前回とほとんど変わらなかったわ」

 

その言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。

俺のせいで成績が下がってしまったらこれ以上は合わせる顔がない。

 

「よかった......」

 

「ん〜、あえて言うならスコアが少し下がっちゃったけど、こう見えてもそれなりに戦闘能力はあるからね。今回はそれで救われた、って感じかな? ......あ、別に責めてるわけじゃないからね?」

 

ニーナがはっと気が付き、慌ててそう付け加える。

 

「大丈夫ですよ」

 

俺は苦笑しながらそう答え、カバンを持ち直した。

 

「それじゃあ俺、そろそろ行きますね」

 

「えぇ。また今度一緒にお祝いしましょう」

 

「はい! それじゃあまた!」

 

小さく手を振るニーナに俺は振りかえし、頬が緩むのを感じながら帰路についた。

 

 

「たっだいま〜!」

 

玄関扉を大きく開け放ち、俺はかなりのテンションで寮へと戻った。

 

「おかえりなさい、リュウさん」

 

そこへどういうわけか夜々が迎えてくれるが、気にせずに小上がりに腰を下ろした。

 

「おう、ただいま。雷真はどうした?」

 

「まだ帰ってきてないです。リュウさんと一緒ではなかったんですか?」

 

「いや、俺はちと野暮用があって雷真とは一緒じゃねーよ」

 

「そうなんですかーーはっ、まさかまた新たな女狐と......!!」

 

一瞬にして殺気立った夜々に、俺は苦笑しながらまぁまぁと宥める。

 

「あれ、そういやアジーンは?」

 

ふとアジーンのことが気になって夜々に尋ねると、彼女は本来なら俺のものであるベッドを指し示した。

 

「アジーンならあそこですよ。朝からずっとつまらないと言って拗ねてます」

 

「ぷっ......ホントだ」

 

言われたとおりにベッドを見てみればアジーンはつまらなさそうに体を丸めており、はたからみてもわかるくらいに不機嫌だった。

 

「しょうがねぇなぁ」

 

俺は苦笑いを浮かべ、髪の毛をわしゃわしゃしながら立ち上がった。

 

「どうするんですか?」

 

「あぁ、ちょっくら散歩にでも連れてってくるよ。雷真に聞かれたらすぐに帰ってくるって言っておいてくれ」

 

「わかりました」

 

「頼むな、夜々ーーアジーン」

 

「......なんだ」

 

顔を背けたまま応えるアジーンに、俺は吹き出しそうになりながらも尻尾を引っ張った。

 

「〜〜っ!!」

 

相当痛かったらしい。

でも気にしない。

 

「どうせ話し聞いてたんだろ? てことで行っくぞ〜」

 

「だからと言って尻尾を引っ張る必要性がどこにある!!」

 

「うおっ?!」

 

歩き出したところでアジーンの体当たりを頭部に受け、視界がぐらりと揺れる。

 

「大丈夫ですか?!」

 

夜々が慌てて俺に寄り添ってくれるが、俺は夜々そっちのけで声を荒げた。

 

「いってぇな、アジーン!! ーーうっ......くらくらする......」

 

わずかに目眩を起こしたみたいだが、自動人形(オートマトン)と頭から衝突して目眩だけで済んでよかった。

 

「ふん」

 

「いや、してやったりで鼻鳴らすけど下手したら人命に関わるからな? ーーうぅ、きっつ」

 

頭をフルフルと振って意識を持ち直し、夜々に軽く礼を言う。

 

「知らん」

 

その隣でそっぽを向きながらこたえたアジーンに俺は目を剥いた。

 

「はぁ?! お前、よくそんなこと言えるな! 主は俺だぞ?!」

 

俺の声にアジーンがちらりと見たが、結局ぷいっと反対方向を向いてしまった。

 

「あはは......どうしてアジーンはそんなに不機嫌なんですか?」

 

夜々が苦笑しながらアジーンに尋ねると、アジーンは待ってましたと言わんばかりに声を上げた。

 

「こいつが私を一人にしておくからだ!」

 

「別に連れて行かなくたってなにしてるか知ろうと思えばーーはぁ、やめた。めんどくせぇ」

 

反射的に言い返しかけて、ため息を吐く。

 

「こんな言い合い埒が明かねぇや。とりあえず散歩行こうぜ」

 

「そんなものつまらん」

 

「いいから来いっての。外出て気分転換でもすりゃなんか変わーーいってぇ?!」

 

俺はいつかのときみたいにアジーンの首を引っ掴もうとして、アジーンに思いっきり噛み付かれた。

 

「断る!」

 

「てめぇ、さっきから維持張りやがって。反抗期真っ盛りの子供か!」

 

「自動人形にそんなものがあるわけないだろう!」

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください」

 

夜々が慌てて俺とアジーンの間に入り、仲裁役に回る。

 

「リュウさん。もうじき6時になりますし、リュウさんの言ったとおり気分転換に少し歩いて、そのまま食堂で待ち合わせるというのは如何ですか?」

 

「へ? もうそんな時間か? ーーあ、ホントだ」

 

夜々に言われて時計を見てみれば、時計は17時後半を示していた。

 

「ん〜......うん、夜々の意見に乗るよ。アジーン、それならお前も文句はないな?」

 

念のためにそう確認してみたが、アジーンは「勝手にしろ」と言ってまた明後日の方向を向いてしまった。

......今さらだとは思うけど、俺アジーンの機嫌を損ねるようなことってしたっけ?

講義に連れて行かなかったのがそんなに不服だったのかなぁ......?

はぁ、わからん......。

 

 

「よっ、と」

 

人気のない適当な校舎裏でトランスを発動し、背中の翼を使って屋上へと降り立つ。

余談だが、トランス状態になると着ていた服はどこへやら、上半身裸の下半身は竜の肉体へと変わってしまう。

あ、もちろん人型に相応した下半身だからね?

そんなまさか、下半身だけごっつい変身術とかどんだけアンバランスなんですか?って話だわΣ(・□・;)

俺センスなさ過ぎ。

まぁ簡単に言うとドラクォのリュウが使ってた『ドラゴナイズド・フォーム』の外見、って感じ。

というかそれに真似て変身出来るようにしたんだけどね。

翼は俺仕様です!(`・ω・´)キリッ

......ホントに余談だね、さーせん。

 

「うっし、アジーン。勝負だ!」

 

「......なにをする気だ」

 

怪訝そうな顔をして尋ねてきたアジーンに、俺はふふんと鼻を鳴らす。

 

「今から中央講堂の屋上まで競争な、競争♪ 負けたら唐揚げは4分の1!」

 

「それはなにかの嫌がらせか?!」

 

「Yes!!」

 

「はぁ......」

 

大きくため息を吐きながら、一旦地面に降り立ち翼の調子を確かめる。

 

「ちょっと待て。お前だけ変身して私はさせてくれないのか」

 

魔力が来ないからか、ふとそんなことを聞いてきたアジーンに俺はつい吹き出した。

 

「当たり前だろ? いくら自動人形だからって、本物の空の支配者様に正々堂々戦って勝てるはずがないからね」

 

「やってみなければわからないだろう」

 

「いや、わかるね。火を見るよりも明らかだね。だいたい、人型でどうやって中央講堂まで行くわけ? 途中で落下するよ?」

 

「むぅぅ......ならば一つ聞かせてもらうが、お前が負けた場合はどうなる?」

 

「え?!」

 

俺は、言い負かされたせいか渋い顔で重ねてきた最もな質問に思わずドキッとなり、自分でも狼狽するのがわかった。

 

「あ、当たり前だろ? そ、そんなのさすがに不平等だし」

 

「......嘘だな」

 

「さーせん......」

 

うん、見抜かれてたね。

 

「で、お前のペナルティは?」

 

「う、う〜ん......てか俺が考えるの? 自分のペナルティなのに?」

 

するとアジーンが小さく唸り始めた。

 

「そう言われてみれば確かにそうだな......ならばしばらくの間はトランスを禁止するというのはどうだ?」

 

その提案に俺は思わず自分の耳を疑う。

 

「きっつ?! ようやく手袋も手に入れてこれから夜会だってときにトランスなしとか無理だろ!」

 

「大した魔術がない今ではトランスがあったところで変わらないだろう?」

 

「ぐっ......そう言われたらそうだけど......じゃあそれでいいよ。勝ってしまえばこっちもんだからな」

 

言いながら、軽くジャンプして調子を整える。

 

「ほぅ......? そこまで自信満々だと私も負ける気がしないな?」

 

「望むところだーーよしっ」

 

調子を整え終わり、小さく構えたところでアジーンも調子を整え終わったようで小さく構えた。

 

「アジーン、お前が合図出せよ」

 

グッ、と足に力を溜め込みながらアジーンに掛け声を譲る。

 

「良いのか?」

 

「ナメんなよ」

 

「ふっ......よーいドン!!」

 

アジーンは小さく笑うと、出した合図に俺は力を一気に拡散させた。




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第十九話:天の邪鬼

拗ねるの類語を調べたら、天の邪鬼が出てきた。
でも、天の邪鬼の意味を調べたら類語辞典とは全然違う。
いや、捉え方を変えれば同じかもしれないけど、馬鹿にそれを求めるのは無理だと思う。
馬鹿でもわかるよう統一して欲しいもんだ
(・д・`)

5/9 本文後半訂正



眺めていた窓の景色を、大小二つの影が通り過ぎ去る。

 

「どこのバカだ、屋上を走り回るのは?」

 

そう呟きながら書類で足場のほとんどが埋まってしまっている部屋の主、キンバリーは窓を開き顔を覗かせる。

その先にいたのは仔竜の姿を持つ自動人形(オートマトン)と競い合う、この世のものとは思えない姿をした生き物の走り抜ける姿だった。

 

「なんだ、あれは」

 

初めてみるそれに、キンバリーはその隣の自動人形にじっと目を凝らす。

 

君臨せし暴虐(タイラントレックス)の連れているシグムント......とは違うな......となると下から二番目(セカンドラスト)(つる)んでいる出来損ないか」

 

そうして正体が判明すると、キンバリーはうっすらと微笑を浮かべた。

その視線の先には、変わらず屋上で競い合う二つの影に向けられている。

 

「the dragon incarnate......まるで竜の化身だな」

 

そう呟いたとき、扉をノックする音がほとんど無音の部屋に響いた。

 

「ようやく来たか、下から二番目ーー入れ」

 

合図を出すと扉が開き、そこに疲労の溜まった表情を浮かべた雷真が姿を見せる。

キンバリーは彼に見られないようパキッポキッ、と指を鳴らした。

 

 

むすっとした様子でアジーンが俺の頭の上にいる。

 

「いい加減機嫌直せよ。これじゃ気分転換に外出た意味ねぇじゃん」

 

とは言ったものの、その原因が俺じゃなんとも言えない。

 

「知るか、そんなこと(・д・`)」

 

し、当然そんな反応が返ってくるわけで。

食堂は時間も時間なのでかなりの席が埋まっていた。

 

「リュウ、アジーン! またせたな!」

 

「お待たせしました、お二人とも!」

 

そこへ雷真と夜々が走ってくる。

俺は二人に向かって片手を挙げ、軽く挨拶した。

 

「おう、やっと来たか。早く中に入ろうぜ。俺腹ペコだわ」

 

「悪かったなーーっておい、なんか機嫌悪くないか......?」

 

雷真も気付いたんだろう、そっと指差しながら尋ねてきた内容に俺は苦笑するしかなかった。

 

「あれ......? 寮を出るときよりも悪化してませんか......?」

 

言われて夜々も恐る恐ると言った感じで尋ねてくる。

 

「あはは......俺と勝負して負けたから、それがかなり効いたみたい」

 

「勝負って、罰ゲームとか付けたのか?」

 

「あー......うん、まぁね」

 

思わず生返事になってしまうが、雷真はそれで悟ってくれたようだ。

 

「ちなみに、どんな罰ゲームだったんですか......?」

 

「うん、夜々って空気読めない(KY)だよな」

 

「へ? け、けーわい、ですか?」

 

聞きなれない言葉に夜々がオロオロするそばで小さく笑みを零す。

とはいえ誤魔化すのもなんとなくあれなので答える。

 

「はぁ......今日の晩飯、唐揚げ4分の1一つ」

 

「それはまた随分だな......(笑)」

 

「だからってここまで落ち込まなくてもいいでしょうよ?」

 

ビッと頭の上を親指で示しながら俺は雷真に訴える。

今度は雷真が苦笑する番だった。

 

「まぁ仕方ないさ。さ、そろそろ中に入ろう」

 

「......遅れてきたお前がよくそれ言えたな」

 

「小さいことは気にするな」

 

そうして俺らは食堂のエントランスを抜け、セルフサービスの列に並んで各自好きな食べ物を皿に取り分けていった。

お互いに会計を済ませ、レジ先で合流する。

 

「それにしても相変わらず人が多いなぁ」

 

「時間も時間ですから仕方ありませんよ、雷真」

 

雷真の呟きに夜々が答える隣で、俺はサクッと席を見つけそこに着く。

 

「って、あれ? リュウ?」

 

「探してる探してる」

 

後ろを振り向いた雷真が驚いて辺りを見回しているのを楽しそうに眺めながら手を挙げてこちらの位置を知らせる。

それに気付いた雷真が夜々にも気が付かせ、ようやく席に着いた。

 

「席見つけたなら教えてくれよ」

 

「いやぁ、雷真がキョロキョロしてんのが面白くって」

 

「勘弁してくれ......」

 

()なこった」

 

「断られた?!」

 

「真面目な奴ほど弄ると良い反応が返ってくるんだぜ。知らねーだろ?」

 

「あんまり知りたくはないな」

 

そんなたわいもない会話をしながら、先ほど盛った様々な料理を口の中に運んでいく。

 

「そういえば今日はなんで遅かったんだよ?」

 

ふとそんなことを思い出して、俺はもぐもぐとしながら尋ねる。

 

「追試と補修の説明。俺の場合相当酷いからってもう決定なんだーーはぁ......これからのことを思うと気が重いぜ......」

 

苦い顔を浮かべながら、雷真は溜め息を吐く。

 

「バカだから仕方ない」

 

「い、言い方ひでぇ......」

 

「どーせ努力もしてねぇんだろ? 当然だ」

 

言いながら唐揚げを4分の1に分け、自分の座っている長椅子の隣にいるアジーンの前に置いてやる。

アジーンは不満そうな表情を浮かべながらも唐揚げをちまちま食べていた。

 

 

「いやぁ、相変わらず食堂は美味いよな」

 

腹をぽんぽんと叩きながら、満足そうな溜め息を吐く。

それに乗っかって、雷真も大きく伸びをした。

 

「あぁ。食堂で食事を摂ると食べ過ぎそうで怖いくらいだ」

 

「ははっ、でも実質的には金払ってっからそうもいかねぇんだろ?」

 

「そうなんだけどな。あ、そういえば手袋持ち(ガントレット)になれるんだってな? おめでとう」

 

そうして話題は夜会関係のものへと移っていく。

 

「あぁ。なんたって夜会前最後の定期考査だからな。夜会の間ずっと観てるだけなんて退屈でたまんねぇっての」

 

「夜会ってもう少し威厳のあるものだと思ったんだが......」

 

「そんなこと言われたって、実際に参加してたほうが楽しいのは間違いないだろ? 体育でも見学してるよりやってたほうが楽しいし」

 

「いや、確かにそうなんだが......」

 

「俺にとって夜会はその程度のことでしかねぇんだよ。でも、他の参加者には魔王(ワイズマン)になりたい、ならなくちゃなんねぇそれ相応の理由がある。その点で言ったら俺は夜会に出る資格がないのかもしれないな」

 

言ってて、ポケモンのオープニングテーマを思い出した。

ポケモン、ゲットだぜ!的な。

うわぁ、びっくりするくらいすんごく懐かしい。

 

「リュウ......お前......」

 

「あ、だからと言って辞退する気なんかこれっぽっちもねぇからな?」

 

念のためにそう言うと、雷真に苦笑されてしまった。

 

「俺もそんなことで辞退するとは思ってないさ」

 

「ははっ、そう来なくっちゃな。そういやお前が言ってたんだけど、夜会を通して叶えたい野望ってなんだよ?」

 

「あぁ、復讐したい奴がいるんだ」

 

「......へ?」

 

意外にもさっぱりとした物言いに、思わず雷真を見てしまう。

 

「そんな大事そうなこと、簡単に言ってもいいのかよ?」

 

「信頼してるからな」

 

「そいつは光栄だな」

 

複雑な気持ちを覚えつつ、小さく笑って誤魔化す。

夜々にも視線を向けてみれば彼女も俺と同様......いや、それ以上に複雑な表情を浮かべていた。

 

「ちなみに、それってやっぱりマグナスなのか?」

 

そう思うのには理由があった。

学院に来て初めて食堂を利用したとき、食堂の外を歩いていたマグナスを見た雷真から異常なまでの殺気が醸し出されていたのだ。

それも隠す気なんてさらさらないってくらいに。

そのあとマグナスの戦隊(スコードロン)に囲まれて身動き一つ出来なくなっていたけど。

今更だけど、あんな人目のあるところで殺人なんて出来るはずもないからきっと寸止めする予定だったのかもしれない。

だとしたらあのとき雷真が殺されるなんて早とちりして手を出すべきじゃなかったな。

......過ぎたこと言っても仕方ないか。

 

「あぁ。だけど......この間のことでわかったんだ。俺はあいつの足元にも及んでいない。復讐なんて夢みたいな状態なんだ、今のままじゃ」

 

雷真の拳がグッと握られる。

この間のことっていうのは十中八九食堂でのことだろう。

雷真にとってマグナスがどれだけ憎い相手なのかということがわかってしまう。

 

「だから野望って言うんだろ? だったらそこから頑張ればいいじゃねぇか。そうじゃないと張り合いがないし、簡単に復讐出来るような相手ならわざわざ野望とか言って壮大にするこたぁねぇだろーーどうした、アジーン?」

 

ふと頭上にいたアジーンがなにかの気配を感じ取ったのか、辺りを忙しなく見回し始めた。

 

「向こうからだ」

 

やがてその気配を見つけたのか、ぼそりと小さな声で呟くと一人でに飛び立ってしまう。

 

「あ、おい!」

 

「どうしたんだ、アジーンのやつ」

 

「わかんねぇけど、ちと追いかけてくる! 先に寮に戻っておいてくれよ!」

 

「あぁ!」

 

突然のことに首を傾げる雷真に俺はそう言い残し、慌ててアジーンを追いかけた。

 

 

アジーンに追いついたとき、アジーンは1人の学生の行く手を阻んでいた。

真珠色の髪に紅い目をした女の子だった。体は華奢だけど、胸が大きくて揉み応えがあ......んん゛! し、顔立ちも整っている。

シャルに次ぐ美人さんの類だな、ありゃ。

じゃなくて!

 

「わ、わ、わ。だ、誰?」

 

「もしかしてラビか?」

 

「ワン!」

 

「え? な、なんでラビのこと......」

 

「となると貴様がフレイか?」

 

「そ、そうだけど......あなたは......?」

 

「おい、アジーン!」

 

どういうわけか女の子を質問攻めして困らせているっぽいアジーンの意識をこちらに向けさせ、一気に近付く。

 

「リュウ」

 

「ったく、なにしてんだよバーカ。ほら、寮に帰るぞ」

 

首を引っ掴み、グッとこちらに引き寄せる。

 

「あ、あの!」

 

一瞬にして空気化してしまった(というか俺が乱入して空気化させたも同然なんだけど)女の子が声を上げる。

 

「あぁ、悪かったな。俺んとこの自動人形が迷惑かけた。もう2度とこんなことねぇようにちゃんと躾とくから」

 

俺は平手で軽く詫びを入れながら、とっととその場を離れようとする。

 

「あ......えっと......そ、その」

 

そこへもう一声。

 

「ん?」

 

もごもごと言葉を紡ぐ彼女に俺は振り向いて首を傾げた。

なにか言いたそうな様子だ。

でも、その目はアジーンにだけ向けられている。

彼女は小さく深呼吸をして、改めてまっすぐにアジーンを見た。

 

「どうして私たちのことを知ってるんですか......?」




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(今更思うけど、総合評価って読者の人が付けてくれてるのかな......?)


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第二十話:アジーンの記憶

無理やり感があって投稿するのを渋ってしまった......
結局直らなかったけど(-ω-;)
もー、知らんw


「......はい?」

 

思わずそんな声が出、アジーンを見てしまう。

 

(え、あ、は? ちょ、これどーなってんの?)

 

彼女の口から発せられた、彼女自身もわかっていない問いに俺は戸惑いを覚えた。

が、どうやら今度は俺が空気化してしまったようで、とても聞けるような雰囲気じゃなかった。

そうやって考えると意外に俺はチキンだったようで、今目の前にいる女の子はある意味凄いと思う。

 

「ヨミから教えてもらったのだ」

 

アジーンの言葉で女の子の警戒がわずかに解ける。

 

「え......? ヨミと知り合いなの......?」

 

「少し外に出たときにな」

 

とはいえ、このままなにもわからずに混乱してるのもあれなので手っ取り早く最終手段に出る。

確かに早くも話し込み始めてしまった1人と1体に状況説明を求めたほうが早いのも事実だが、彼女はアジーンだけを見ていて、アジーンも彼女を見ていると思うとそこから察するにアジーンの記憶を覗けば分かるような話であるのも事実だ。

他人......というわけではないけれど(そもそもアジーンが人に値するのかすら微妙だが)、誰かの記憶を覗いたりするのは苦手だが、状況が状況なので仕方が無い。

 

(はぁ......やるか)

 

俺は2人にバレないようこっそりため息を吐き、近くにあった建物の壁に凭れかかって瞳を閉じた。

直後にパチン、とフラッシュバックを起こしたかのようにまぶたの裏で光が焚かれ、そうして浮かんできたのはここではないどこかの雨景色だった。

 

 

雨がぽつりぽつりと降り始める。

やがてそれはだんだんと勢いを増していき、気が付けば本降りになっていた。

空は学院を出た(・・・・・)時から曇りだったので仕方がないのかもしれない。

そんなことを無意識に考えながらアジーンは高度を下げ、雨宿りに小さな集落のようなエリア内の小屋の窓のさんに留まり、翼を休めた。

別に雨に打たれて壊れる体ではないのでこのまま学院に戻っても良かったのだが、濡れるというのはあまり良い気分がしない。

最初はこんな雨など気にも留めなかったが、いつしか人が雨に対して覚えるものと同じような気持ちを感じるようになっていた。

どんな理由であれ、大抵の人は皆雨を嫌う......そう教えてくれたのは他ならぬリュウだ。

その他にも人に纏わる様々なことを教えてもらったが、こうしてリンク者と深く関わったのはオリジナル以来かもしれない。

 

「随分と濡れてしまったな」

 

雨が止むのを待ちながら体を震わせて水滴を飛ばす。

 

「そこに誰かいるのかい?」

 

すると下のほうでそんな声に尋ねられ、アジーンは窓のさんから滑空して室内の床へと着地した。

 

「すまない、少し雨宿りをさせてもらっている」

 

それは犬と呼ばれる生き物だった。

四肢で体を支え、尾でバランスを取り、頭部には聴覚が発達して突起した耳がついている。

だが、人語を話している時点で本物ではないのだろう。

その証拠に、四肢の関節部分や頭部を覆うようにして装甲が取り付けられ、体のあちこちには黄色の線が走っている。

自動人形(オートマトン)だ。

それも禁忌人形(バンドール)と見て間違いないだろう。

 

「構わないよ。急な雨だ、窮屈でなにもないところではあるが止むまでゆっくりしていってくれ」

 

「そうさせてもらおう」

 

とはいえ、そんなことはアジーンにとってどうでもいいこと。

アジーンは一言そう言うと、翼を確認程度に軽く動かした。

雨に打たれ過ぎたせいか、動きが鈍っているような気がしたのだ。

 

「クゥ〜ン」

 

雨が止むのをいつでも確認できるように再び窓のさんへと行こうとしたところで右方向から甘えるような鳴き声が聴覚を刺激する。

留まりそちらを見てみれば、どういうわけか檻越しから鼻を突き出しこちらの臭いを嗅ぐ犬型自動人形の姿が。

 

「あぁ、気にしないでおくれ。この子達は久しぶりの来客に喜んでいるだけだから」

 

「この子達?」

 

そう言われて初めて、室内の壁に沿って設けられた檻の中一つ一つに犬型自動人形がいることに気が付く。

 

「お前の子なのか?」

 

「一部はそうさね。けれども私はここにいる子供達皆を自分の子供として見ている」

 

「全部自動人形か?」

 

辺りを見回し、その一体一体を確認しながら問う。

そのいずれもが人語を喋る犬型自動人形と同じ見た目をしており、違いといえば毛色と犬種ぐらいで他は何一つなかった。

 

「あぁ。私を含め、ここにいる子供達は皆音の魔術回路、音圧操作(ソニック)を搭載したガルムシリーズのプロトタイプさね。新米魔術師でも容易に扱える新型さ」

 

「プロトタイプ......か」

 

「聞いたことあるかい?」

 

どこか余韻のある呟きに人語を喋る自動人形は尋ねる。

 

「いや。初めて聞いた」

 

「そうかい」

 

が、アジーンは首を小さく振ると檻の合間をくぐって先ほどまで臭いを嗅いでいた犬型自動人形の頭に乗る。

その自動人形は嬉しそうに檻の中を走り回り、人語を喋る自動人形に見せびらかしているようだった。

 

「良かったわね」

 

そんな子供の様子に、人語を喋る自動人形は小さく笑う。

 

プロトタイプ......その言葉を聞いた時、アジーンはオリジナルが空を目指す起因となったニーナのことを思い浮かべていた。

大いなる災いにより見上げるべき空を見失い、千年もの歴史を刻んできた地下世界。

その空気の状態は深度を増すにつれて酷く悪化し、D値と呼ばれる、出生時に計測される潜在能力の値によって差別社会すら生まれていた。

そんな中、汚染大気を浄化するための道具として肺細胞をクローニングし培養した換気肺(ベンチレータ)の試作品として選ばれたのがニーナだった。

ローディーD値の低い者の総称ーだから......差別社会では当たり前の、特筆すべきことではない理由。

おそらく目の前にいる犬型自動人形達も同じように選ばれたのだろう。

 

「すまないね、子供達の相手をさせてしまって」

 

「気にすることはない。雨が止むまでの間でしかないのだから」

 

「私はヨミという」

 

「アジーンだ」

 

自然とそんな流れが出来上がり、アジーンとその自動人形ーーヨミの2体はお互いに名を明かす。

 

「アジーンはどこかに行く途中だったのかい?」

 

「行く、というかヴァルプルギス王立機巧学院というところに戻る途中だったな」

 

「学院に?」

 

思わぬ問い返しに、アジーンはわずかに驚く。

 

「知っているのか?」

 

「あぁ、あそこには私の息子と娘同然に育って来た子がいるからね。にしても、よく見つからずに外へ来れたものだよ」

 

「門番のことか? あんなもの大したことはない。抜け道はいくらでもある」

 

「はっはっは、随分と威勢がいいね」

 

アジーンの物言いにヨミが愉快そうに笑う。

門番というのは、その言葉の通りヴァルプルギス王立機巧学院の門を見張る者のことだ。

だが、学院は世界中から優秀な魔術師・人形師が集まる場所。

生徒一人一人の所有する自動人形が国家機密相当の最新鋭技術や世界遺産相当の秘術の結晶であるため、学外への人形の持出しは所有者の卒業まで禁止されており、そこを無理やりにでも突破しようとすれば学院の卒業生や自動人形が全力で迎え討つためその様はまるで堅牢な城壁に囲まれた巨大な監獄のようなものなのだ。

 

「それにしても学院か......あの子は元気にしているだろうか」

 

不意に遠くを見るようにして呟いたヨミにアジーンは首を傾げる。

 

「心配か?」

 

「私の子供同然に育って来たようなものだからねーーその子はフレイって言ってね、根の優しい子さね。確かにあの子のそばには息子のラビもいるが、頼りなくて」

 

ラビ、というのが彼女の息子の名だろう。

そう推測しながら、アジーンは一人の子とヨミと似たような姿をした犬型自動人形を思い浮かべていた。

フレイという人間がどんな容姿を持つかはわからないが、ヨミを目にした今ならラビの判断は出来る。

とはいえ、今までラビらしき犬型自動人形を連れた魔術師を学院内で目にしたことがないのは事実だ。

編入してからそう大して時間が経っていないのは別として。

 

「フレイという娘に似たんだろうな」

 

苦笑しながら、子供のことを話すヨミにアジーンはほんのりと心が暖かくなりながら言った。

 

「ふふっ、そうなんだろうねーーおや? まずいね、見張りがやってきたようだ」

 

不意にヨミの耳がピクリと立てられ、雰囲気がわずかに張り詰める。

アジーンもそれに気付き、わずかに身構えた。

 

「見張り? 監視されているのか」

 

「幸か不幸か、私たちは廃棄処分の決まった身でね。逃げ出していないか定期的に見張りが来るのさ」

 

「はっ、必要無いと判断されたというわけか」

 

「そんなところさね。さぁ、早く身を隠しな。この先にある部屋に行けば凌げるはずだから」

 

「恩に着る」

 

一言断ってからアジーンは器用にその先にある扉を開け、天井を支えている木に留まる。

普段なら誰に見つかろうが気にしないところだが、リュウのいない今、知らない場所で問題を作るのはなんとなくだが気が引けていた。

ヨミと見張りに来た人間の会話がくぐもって聞こえてくる。

その人間は見張りと同時に面倒を見に来たようで、ヨミを含む全ての犬型自動人形に餌を与えると軽く言葉を掛けてすぐに出て行った。

閉ざされた扉からヨミが顔を見せる。

 

「そういえば人語はヨミしか喋れないのか?」

 

「あぁ。私の知能、及び生態機能は人間並みさね。幸か不幸か、ね」

 

人間(ヒト)の考えることは相変わらず理解ができんな」

 

ヨミの言葉に、アジーンは吐き捨てる。

 

「アジーン」

 

ふと名前を呼ばれ、アジーンは天井の留まり木から降りる。

 

「一つ聞いてはもらえないだろうか?」

 

「......」

 

「無理に、とは言わない。ーーあの子達を......フレイとラビを守ってやってくれ」

 

おそらく、先ほどの見張りからなにかを聞かされたのだろう。

 

その声は、とても切実に聞こえた。

 

 

そこまで覗いて、俺はまぶたを開ける。

これ以上覗く必要性はない。

ここまで覗けばもう十分だ。

 

「ヨミと同じことを聞くのだな」

 

「ヨミもおんなじこと聞いたの......?」

 

記憶を覗くのは、膨大な情報によりわずかな頭痛を起こす代わりにほんの一瞬で済むので、会話に大した変化は見られない。

まだヨミの頼み事は話していないようだ。

俺は背後の壁に凭れかかるのをやめ、女の子......フレイに近寄った。

 

「フレイって言ったっけ?」

 

「あ......うん」

 

「あー、その、なんだ。ヨミにちょっと頼まれてよ、お前を守ることになった」

 

「ヨミ......に? でも、なんで......」

 

「フレイ......お前が夜会に出ることになったと聞いたからだ。そして奴らが提示してきた条件も、な」

 

俺よりも先にアジーンは答える。

 

「ヨミ......」

 

「だからさ、なんか変な感じすっけど俺になんか手伝えることあったら言ってくれよ」

 

「......ありがと」

 

「おう。んじゃ、俺の知り合いが寮で待ってっからーーラビもまたな」

 

「ガウ!」

 

彼女の足元で待機している犬の頭を撫でてやり、俺は踵を返す。

 

「アジーン、行くぞ」

 

遅れてついてきたアジーンが頭の上、定位置に着地する。

 

「ったく、なにが俺のいないとこで問題起こすのは気が引けるだ。思いっきり起こしてんじゃねーかよ」

 

「すまんな。放っておけなくて」

 

「いいよ、もう。こういうの、悪くないしな」

 

「ふんっ」

 

そうして俺らはようやく帰路に着いた。




気付いたら二十話いってたw
あ、お気に入り登録、評価ありがとうございまーふ( ̄▽ ̄)
キリがいいんで、よかったら感想下さいです(╯⊙ ω ⊙╰ )



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第二十一話:門番の意味ェ......

今さらながらあらすじを情報に書き込んでみた
......なんだろう、あらすじ入れた途端違和感がハンパなくなったorz

本文訂正(5/19)
タイトル訂正(6/10)


「あ、こんばんわ」

 

トータス寮のエントランスに差し掛かったとき、今日の寮監が最初のころいろいろと優しくしてくれた寮監であることに気が付いた。

今のところわかっているのは寮の監視はローテーションで回しているらしく、加えて3人で回っているということだ。

だからなんだって話だがそれはまぁ置いておいて。

 

「お、リュウ。おかえり。ライシンなら先に戻ってるぞ」

 

「先に戻っておいてくれって言いましたから。今日はルークさんが当番なんですね?」

 

そう、この間までなんと呼べばいいかわからずに先生と呼んでいたが、訂正されてルークと呼ぶことになったのだ。

 

「おうよ、くじ引きで当たっちまったんだ」

 

「くじって......」

 

「で、どうした。なんか用があるから話し掛けたんだろ?」

 

絶句する俺を他所に、ルークが早々に本題へと入る。

俺はあることを思い出して手を軽く打った。

 

「そうだった。あの、部屋にハンモック張ってもいいですか? 雷真と俺で一つずつ使う予定だったんすけどそうなると夜々の寝るところがなくて、俺今小上がりで寝てるんです。もう腰痛くて堪んないの」

 

「ははは、そいつは大変だな。ハンモックを張るのは別に構わんが、部屋を別々にしたほうが早くないか?」

 

「うーん、それはそれでなんか嫌なんですよね」

 

腑に落ちない表情を浮かべながらもルークが頷く。

 

「ふぅん。ま、そっちがいいってんならいいや。壁壊すなよ?」

 

「壊しませんよ。それじゃあおやすみなさい」

 

「おうよ」

 

俺はルークの冗談にくすりと笑いながら、自分の部屋へと歩き出した。

 

「ハンモックなんてどこで手に入れる気だ?」

 

「外に決まってんだろ。てか外でしか手に入らねぇっての」

 

「む。それではまた暇になるではないか」

 

「知らん。雷真と夜々に構ってもらえ。それかツンデレ嬢コンビ」

 

「おい」

 

「あぁ?」

 

「......いや、なんでもない」

 

「変な奴ーーあぁ、元からッ?!」

 

不意に頭の上で爪を立てられ、語尾が強くなってしまう。

 

「それ以上言うと頭皮を捲るぞ」

 

「俺、一応主人だからな?!」

 

「関係ない」

 

「り、理不尽だ!」

 

そんなことをしているうちに部屋の前に辿り着き、俺は先に中に居るだろう雷真と夜々に“ただいま”と告げた。

 

 

街の一本外れた人気のない道。

 

「トランス」

 

その言葉と共に俺の周りを一瞬にして炎が包み込み、次の瞬間には赤き竜人へと変えた。

だが、それを目撃するものはいない。

こんな異形の姿を見られたが最後、騒がれて面倒なことになるだけだ。

そのための人気のない道でもある。

 

(よし、あとはこれをどう寮に持ち帰るかだな)

 

目の前には丁寧にカットされた、大小長短様々な木がたくさん転がっている。

さすがにこの量だと普段の姿じゃ何度往復するかわかったもんじゃない。

なにしろハンモックを作るなんて初めてのことで、なんとなくこれがいるかな〜?みたいな感じで揃えていったらいつの間にかこうなってしまったのだ。

幸い、今日は講座がない日なのでゆったりと作業に集中できる。

雷真も同じように講座はないのだが、あのアホは今頃追試真っ只中なんじゃないかと思う。

よくあんなんで手袋持ち(ガントレット)になれたなと褒めてやりたくなるが、もちろんそれは大量の自動人形(オートマトン)を再起不能にした元風紀委員長のフェリクス・キングスフォート(=モヤシ)サマを倒したからで、理由を知らないわけではない。

 

(空からだと人の目に付きやすいしなぁ。鳥に紛れて行くか?)

 

ガラガラと音を立てながら木を抱え込み、空を見上げる。

その先にはアジーンがこちらを膨れ面(っぽい感じ)で見ていた。

え......? アジーン?!

 

「ようやく見つけたぞ」

 

うわぁ、なんか言ってること怖いよアジーンさん......。

 

「なんでお前がここにいるの?! てかどうやって抜けてきた?!」

 

「普通に飛んできただけだが?」

 

「いやいや、そういう問題じゃねーだろ! 外に出て来てもいいのかよって聞いてんだ!」

 

「今更だと思うが」

 

「え......? ーーあ」

 

そういえばアジーンの記憶を覗いたとき、学院ではない見知らぬ土地での雨景色が浮かんできたのを思い出した。

確かに今更だと言われればその通りではある。

が、それだと門番の意味って無くない?

なんのための門番なんだよ......。

 

「あぁ、もうなんだっていいや。で、なんでここにいるわけ?」

 

「別に? 暇で仕方なかったから来たまでだが」

 

「うん、聞いた俺がバカだったわ。理由とか知らん。とりあえず帰れ、今すぐに!」

 

「今すぐなんて言わなくてもいいではないか」

 

心なしか、そんなことを言うアジーンがいじけているように見える。

 

「どうせ俺も追って帰るんだからいいだろうが!」

 

「アジーン......?」

 

不意に背後からそんな声が聞こえ、俺は気になってそちらを振り向く。

と、そこには何故か手提げ袋の中に俺と似たような物を買ってきたっぽいフレイが呆然と突っ立っていた。

 

「あれ、フレイ? こんなとこでなにしてんだ?」

 

「わ、し、喋った!」

 

「そりゃ俺だって喋るーーあ、そっか」

 

そこまで言いかけて、トランス状態であることを思い出した。

 

(「ドジ」)

 

(「うっせ」)

 

アジーンに言い返しながらも慌ててトランスを解き、彼女の知る俺へと戻る。

......うん、俺って意外に学習しないタイプなんだな。

いろんな意味でこれ2回目だし。

最高。

 

「ほれ」

 

「へ? リュウ......?」

 

「おうよ」

 

「え、でも、じゃあさっきのは......」

 

「まぁまぁ、そんなことはどうだっていいとして」

 

目の前で起きた出来事に混乱するフレイに、俺は苦笑いを浮かべながら宥める。

 

「フレイはどうして外に?」

 

「あ......うん......私の最初の対戦相手がライシン・アカバネって聞いたから......」

 

その言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

さっきも言ったとおり雷真はフェリクスを倒すことで手袋持ちへとなっている。

それはあくまで機巧戦闘のみの評価なので成績がないに等しい雷真は序列は100位なんだとか。

が、夜会が始まってしまえばこっちのもん。

フェリクスを倒したほどの実力者なら100位というハンデがあっても大したことにはならないだろう。

つまり、フレイの実力は知らないが雷真なら一発で片付けてしまうだろうということ。

明らかに分が悪過ぎる。

 

「おいおい、マジかよ......よりにもよって雷真って......ん? あれ、てことはフレイって99位?」

 

「うん......そうだよ」

 

「おうふ......そいつはヤバイな。ていうかもう夜会が始まんのか」

 

俺がそう言った瞬間、フレイの目がうるっと揺れ動く。

 

「ヨミ......みんな......」

 

「わっ、だ、大丈夫だ! 大丈夫だから泣くな!」

 

「......泣かせたな」

 

「違う、俺は何も悪くない!!」

 

☆閑話休題☆

 

「ところでその中は何が入ってんだ?」

 

フレイの持つ手提げ袋を指しつつ俺は尋ねる。

 

「これは......その......あんな凄い人と戦っても勝てる気なんてしないから......」

 

「ふぅん」

 

そうして返ってきた答えに、俺はその答えの裏にあるだろう言葉を読み取った。

 

「あれか、夜会本番前に弱らせておこうって魂胆?」

 

「うん......」

 

事実、それは当たっていたらしい。

 

「じゃ、俺もそれに付き合うよ」

 

「え?」

 

「雷真なら追試で当分は帰ってこないから」

 

そう言ってニッと笑うと、フレイもふんわりとした笑みを返してくれた。

 

 

学院に戻った後、俺はフレイが自分の寮から待機させていたらしいラビを連れてきたのを確認して共にトータス寮の敷地へと踏み入れた。

アジーンとは門から一緒に入るとマズイので寮で合流することになっている。

 

「ここがトータス寮......」

 

「ボロっちいだろ」

 

「うん、話に聞いてた通りかも」

 

「ははっ、まぁどんがめ寮って言うくらいだからな」

 

そんな風に会話を弾ませながらエントランスをくぐり抜けると、どうもまた寮監の当番に選ばれたらしいルークさんが暇そうに欠伸を噛み締めているのが見えた。

 

「ルークさん」

 

「ん? おう、リュウ。どうした?」

 

俺の呼び掛けに応えてくれたルークが窓口に近寄ってくれる。

 

「彼女に入寮許可証を発行してもらえませんか?」

 

「あぁ、いいぜ。というかこれを首に掛けるだけなんだけどな」

 

「だってさ」

 

言いながら、俺の背後で縮こまって控えているフレイにルークからもらった入室許可証を渡す。

 

「あ......うん......」

 

「(恋人か?)」

 

その隙に耳元でぼそりと囁かれ、俺は一瞬で頬が紅潮したのがわかった。

 

「んなわけ!!」

 

「くっくっく、わかってるってーーあ、そうだった。一応だが名前を聞いてもいいか?」

 

からかわれて唸る俺の傍ら、ルークが笑いを堪えながらも仕事をこなす。

 

「フレイ......です......」

 

「フレイちゃんね。はい、じゃあ寮を出るときに許可証は返してな」

 

「ちくしょう、今度会ったら絶対に仕返ししてやるーーフレイ。とっとと行こうぜ」

 

「あ......うん......」

 

そうして俺らはようやく部屋へ辿り着いた。

 

「遅かったではないか」

「あぁ? それはあれか、嫌がらせのつもりで言ってんのか?」

 

寮の部屋を開けて真っ先にそんなことを言われ、俺は思わず突っかかってしまう。

 

「お、落ち着いてよ2人とも」

 

フレイが中間に入り、アジーンが引いたのを見て俺も引く。

 

「んで、フレイは最初なにしようとしてたんだ?」

 

「えっと、紐で仕掛けるの......こんな風に」

 

言いながらフレイが手提げ袋から赤い紐と初めて見るアイテムを取り出し、仕掛けるつもりだった罠を展開していく。

 

「はい、ストーップ」

 

俺の言葉にとりあえずと言った様子でフレイは罠作りをやめ、首を傾げた。

 

「どうして?」

 

「そんな真面目に再現しなくて大丈夫だから」

 

「そっか。でも私、これしか考えてないからどうすればいいかわからないよ」

 

「俺に一つ考えがあんだ」

 

 

「っはぁ......素敵です、雷真......夜々は......あぁぁん!」

 

聞けば誰もが想像してしまうだろう叫び声が寮の廊下(・・・・)に響き渡る。

 

「妙な声を出すな、夜々。変態扱いされるだろうが」

 

が、どうやらそれはハズレのようで、自室の扉を開けて姿を見せたのは呆れ果てた表情を浮かべる雷真と浮かれ気味の夜々だった。

 

「うおっ!?」

 

なんの警戒心もなしに部屋へ踏み入れた雷真が足を取られ、そのまま空に放り出される。

 

「雷しーーきゃあぁぁ!!」

 

途端に浮かれ気分から戻った夜々が驚いて対抗策を練ろうとするが彼女もまた足を取られ、主人と同じように空に放り出された。

 

「おっしゃ! 作戦大成功!! いぇーい!!」

 

俺は罠の成功に思わず飛び上がり、隣に嬉しそうに顔を綻ばせるフレイとハイタッチした。

雷真と夜々は空に放り出されたまま、プラーンと宙に浮いている。

 

「......なにしてんだ、リュウ」

 

雷真の冷たい声が俺らを刺激する。

 

「え? そりゃーー?!」

 

その声に俺が振り向いたとき、確かに罠に引っ掛けたはずの雷真と夜々が足を掴み取る紐をその手に持って立っていた。

 

「おま、どうやって抜け出した?!」

 

「ったく、遊びにしてはキツイぞ」

 

言いながら雷真の、紐を握っていない空いた手の中からチャキッと音を立ててサバイバルナイフ(みたいなもの)の刃が姿を見せた。

 

「嘘だろ、おい......」

 

途端に脱力感が体を襲い、俺はついその場に崩れ落ちてしまう。

その視界の端で動き出したフレイとラビが映り、思わず笑みが浮かんだ。

 

「ガウッ!!」

 

「うぉあ!」

 

あのあと決めた作戦通りラビが雷真を押し倒し、その隙にフレイが手袋の片方を盗み取る。

 

「雷真!」

 

「ラビ!!」

 

あまりに急なことが2度も続いたせいか夜々の反応が遅れ、その頃にはすでにラビの装甲に跨がっていたフレイは寮の窓ガラスをラビごと体当たりして爽快に割って逃げ出した。

 

「ははっ、マジ最高」

 

「っつぅ......リュウ、お前はいったい何を企んでるんだ」

 

雷真がラビが押し倒した余韻で頭を打ち付けたのかさすりながら尋ねてくる。

たぶん目の前に鏡があれば爽快感MAXの顔が見れるんじゃないかと思うくらいスッキリした表情で俺は笑った。

 

「なんも企んでねぇよ。お前を失格させようとしてる以外な」

 

「思いっきり企んでるだろ!!」

 

そんなとき、夜々がどこか上ずった声をあげる。

 

「雷真、大変です!! 手袋の片一方がありません!!」

 

「おい! それはマズイだろ!! ーーまさか、さっきいた子に取られたのか?」

 

「さぁ? どうだろうな......っと!」

 

「あ、おい! リューー」

 

言い終わらないうちに俺は起き上がり、フレイとラビの割った窓ガラスに手を掛けて一気に飛び降りる。

思わず手を切ってしまったが、特に気にはならなかった。

とりあえず今はここから離れないと。

 

「アジーン!」

 

俺の言葉に反応してアジーンが上から下降して現れ、トランスで巨大化したアジーンが俺を背中に乗せて飛んだ。




前話でのお気に入り登録ありがとうございます
引き続き感想、評価をお待ちしております


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第二十二話:仕返し

無理やり過ぎたせいか文字量がエグい......

お気に入り登録、評価ありがとうございました


本文訂正(5/21)


地上のほうでラビに跨り走るフレイを見つけ、アジーンがその意思を読み取ったのかなにも言ってないのに下降していく。

 

「フレイ!」

 

その声にラビが、自身に跨るフレイに振動を与えないようゆっくりと止まる。

俺はアジーンから飛び降りつつアジーンのトランスを解き、歩いて彼女に近寄った。

 

「やったな。あいつ、武術の心得?があるらしいからあそこまで上手く行くとは思わなかったよ」

 

「うん......」

 

「どした?」

 

予想外の反応に思わず尋ねてしまう。

 

「ほんとに、これでよかったのかな......」

 

「なんだよ今さら。夜会を勝ち進んでヨミたちを助けたいんじゃなかったのかよ」

 

「でも......確かに手袋の着用が義務とはいえなんだか卑怯なことしてる気がして......」

 

こちらから見てもわかるほど、はっきりと萎縮している。

手伝ってもらったのにそれに異を唱えているのだから彼女の性格なら仕方がないのかもしれない。

 

「なら、別の方法考えるか?」

 

「え?」

 

「手袋なら俺が返しておくから」

 

「......うん」

 

「それにしても他の方法かぁ......なんかあったかなぁ......」

 

う〜ん、と腕を組みながら唸る。

が、残念ながらすぐには思い付きそうになく、このままだと無駄に時間を過ごしてしまいそうだった。

 

「あの......今日は帰ろう? もう、遅いし......」

 

言われて空を見上げればいつの間にか青だったはずのそれは橙色に侵食されていた。

 

「え? あ、あぁ。わかった。フレイは明日なにか用事はあるか?」

 

「ううん」

 

「じゃあ明日の昼に食堂前で落ち合おう。飯食いながら考えようぜ」

 

「う、うん......」

 

「よし、んじゃまたな!」

 

俺は適当に約束を取り付けた後、彼女に手を振りながらその場を離れた。

 

 

夕日を背にトータス寮を目の前にしたとき、

 

「あ、フレイから手袋もらってくるの忘れた!」

 

不意にそんなことを思い出して俺は慌てて振り向いた。

 

「アジーン、行くぞ!」

 

その背後を黙々と付いてきていたアジーンに合図し、すぐさま走り出す。

 

「はぁ......全く、どこまでも抜けているな、お前は」

 

「うっせ、ちょこちょこ逆鱗に触れんなバーカ」

 

言いながら先ほどフレイと別れた場所へと辿り着く。

が、フレイはすでに居らず辺りを見回しても彼女の背中が見えるなんてこともなかった。

 

「うわー、やっちゃったよー......雷真にどう言い訳しよう......」

 

脳裏に、雷真に問い詰められる様子が思い浮かんできてしまう。

実際にはそんなことはしないだろうけど、なんせ未来の話なのでどんどん悪い方へと想像が膨らんでいく。

 

「諦めて寮に戻ったらどうだ。結局当初の目的を果たしていないわけだし」

 

当初の目的とはハンモック作りのことだ。

フレイの罠作りがあんなに夢中になれるもんだとは思わなかったんだもん......。

 

「そういやそうだったな......」

 

アジーンの言葉にハッと思い出し、げんなりとなる。

が、渋って寮に戻らないわけにはいかないのでとぼとぼと歩き始める。

そのまま何事もなくトータス寮へと辿り着き、俺は重たい足を動かして扉を開けた。

 

「ただいまー......?」

 

そぉっと開け、辺りの様子を確認する。

 

「あ、雷真。リュウさんが帰ってきましたよ」

 

中では、最近俺の寝床である小上がりに腰を下ろしお茶を楽しむ夜々が居り、その関係で帰ってきた俺にすぐ気が付く。

 

「ん? あぁ、おかえり」

 

恐らくベッドの上にいるだろう雷真は特に大した反応も見せず、起き上がってくることもなかった。

だから、思わず聞いてしまった。

 

「......へ? 怒んねぇの?」

 

「手袋か?」

 

「うん」

 

「さぁな」

 

「さぁなってーーうぉっ?!」

 

なんだか気の抜けた返事に俺は安心してしまったんだろう。

なんの警戒もなしに部屋へ踏み入れた途端、足を取られ宙に釣り上げられてしまった。

視界が一気に上下逆さまになる。

 

「......雷真、引っかかりました」

 

「嘘だろ? まさか自分が仕掛けた同じ罠に掛かるなんて......リュウ、お前って意外に抜けてるんだな」

 

「うっせーよっ! てか仕返しするくらい怒ってんのか!!」

 

「怒ってはない。ただ手袋を返して欲しいだけだ」

 

「うっ......ごめん、手袋持ってない」

 

「......はぁ」

 

「マジごめんって!! 返そうと思ったんだけどもらってくるの忘れたんだよ!!」

 

「もういいよ、明日自分で返してもらうからーーその代わりしばらくはそのままな」

 

「え......」

 

早くも頭に血が上ってきており、ぼぅっとしてきた頃にその言葉。

しばらくっていつまでよ、おい?

 

「夜々、食堂に行くぞ」

 

「はい」

 

「じゃあまた後でな、リュウ」

 

「......」

 

背後でガチャンと扉の閉まる音がする。

俺は我関せずと言った様子で小上がりで丸くなるアジーンに視線を向けてみる。

 

「なぁアジーン。この紐切らずになんとか出来なーー」

 

「断る」

 

言い切る前に拒否られたー!

 

「はぁ......せいっ」

 

俺はため息を吐いてから体を上下に揺らして勢いをつけ、一気に体を曲げて自身の足を拘束する紐をギュッと握った。

そのまま、傍から見ればまるでクルマエビのようなポーズへとなる。

このまま釣り上げられてたら俺脳出血起こすからね?

別にパダムかバルで紐を燃やして点火した火が天井へ移る前にレイガで消すってことも出来るけどこの紐、ハンモックの網を作るのに使えそうだからそんな無駄になるようなこと出来ないんだよな。

俺の買ってきた紐は罠に使用&雷真に切られたし。

くそっ、とっとと帰ってこんかバカ雷真......ฅ(´・ω・`)ฅ

 

 

昼休み開始のチャイムが学院内全体に響き渡る。

俺は昨日取り付けた約束のため真っ先に食堂へと向かう。

向かうはずだった。

 

「なに.....してんだ、フレイのやつ......?」

 

食堂前で、なにか黒い鉄の棒を必死になって組み立てている。

しかも人目のある場所で。

恐らく俺と別れた後に思い付いた新しい罠なんだろう。

箱罠、だったっけ?

......わざわざ一人でやらんでもいいのに。

そんなことを思いながら俺は近寄り、足元に落ちている鉄の棒を拾ってフレイに振り向いた。

 

「よっ、フレイ。これどこに立てればいい?」

 

「ひゃあぁぁ!」

 

挨拶もそこそこに尋ねたせいか、フレイがビクッと跳ねる。

カランカラン、と鉄の棒が虚しく音を立てた。

 

「そんなに驚かなくても......」

 

「ご、ごめんなさい......」

 

「いや、俺が悪いんだけど......今度の仕掛けはどんな感じよ?」

 

「えっと......昨日盗んできた片一方の手袋を餌に捕まえようと思ってーーあ、そっちに立てて」

 

「なぁる、だから思い付いたのねーーりょーかい」

 

鉄の棒を持ち直し、作業に戻りながらフレイが教えてくれる。

俺は呑気に腹減ったなぁなんて思いながら素直にそれに従った。

 

 

「バカじゃないの? 参加資格(エントリー)の証でもある手袋を奪われるなんて信じられない」

 

食堂の中、窓側で食堂内の何処のよりも一層明るい席に座っているシャルが呆れた物言いをする。

その手前、雷真は罰が悪そうな表情を浮かべながら座っていた。

 

「あなたに限ってそんなことはないだろうけれど、戦闘を申し込まれて取られなかっただけマシね。もしそうだったらキンバリー先生に参加資格を剥奪されてもおかしくなかったのよ? まったく......」

 

ふぅ、と可愛らしいため息を零し、お茶を一口含んで気を取り直してから再び口を開ける。

 

「白い髪で犬を連れているなんて、フレイしかいないわ。3回生、登録コードはサイレント・ロア。序列は99位、あなたの初戦の相手よ? あなたの腕が立つと見て夜会の前に消そうって魂胆よ」

 

その言葉に雷真はハッとなる。

 

「序列こそ100位だけれど、あなたはフェリクスに勝った。みんな戦々恐々よ? それにしてもどうして関わりのなさそうなあの2人が......」

 

「そこなんだよな。リュウは俺よりも成績が良かったからあいつとやるのはまだ先の話だし......」

 

そのとき、それまで無言で食事を進めていたシグムントが首をもたげ外へ視線を送る。

 

「噂をすれば、だな」

 

それに釣られて見てみれば、食堂の外で作業するリュウとフレイの姿が見えた。

 

「なにを、しているんだ......?」

 

「檻......組み立てているみたい......」

 

唖然としながら、雷真とシャルはようやくそれだけを交わす。

 

「あれ、あなたの手袋じゃない?」

 

不意にシャルがそんな声を上げる。

見てみれば使い捨ての紙皿を白い紐で吊り下げた、いわゆる餌場に手袋の片一方だけが置かれていた。

 

「くそ、やられたぜ。昨日無理にでもあいつから返してもらえばよかった」

 

言いながら、雷真が窓際から離れ食堂のエントランスへと向かう。

 

「どこに行くのよ!」

 

「罠に掛かってくるんだよ」

 

「ちょっと、やめなさいよ! こんなところで無様を晒す気? 後で返してもらえばいいじゃない!」

 

シャルの呼び声に雷真は足を止め彼女に向き直った。

 

「だからと言って手袋を盗まれたままいるわけにもいかないだろ?」

 

「それはそうだけど......ーーあれは......剣帝ロキ?」

 

その言葉に興味を唆られたのか、そのまま先ほど立っていた窓際まで戻る。

 

「ロキ? へぇ、あれが自ら廻る焔の剣(セイクリッドブレイズ)か」

 

シャルは自身の隣に雷真が来たのを確認するとえぇと小さく頷いた。

 

「ロキは2回生ながら十三人(ラウンズ)の1人にして元帥(マーシャル)閣下の対抗馬と目される男よ」

 

「対抗馬、ね......なぁ、シャル。あいつとフレイ、なんか似てないか?」

 

「そりゃそうよ。姉弟だもの」

 

そうシャルが説明し終わったとき、不意に外で檻と何かがぶつかる音がした。

 

 

白い紐で吊り下げた使い捨ての紙皿の上に雷真の手袋を乗せ、一息付く。

 

「よっしゃ、出来たな」

 

「うん」

 

「んじゃあとは掛かるのを待つだけだ。さ、出ようぜ」

 

言いながら罠の入り口を跨ぎ、振り向いてフレイが出て来るのを待つ。

と、目の前で箱罠の入り口が大きな音を立てて閉まった。

 

「あ......」

 

「は......?」

 

フレイがポカンと口を開けて立ち尽くす傍ら、頭の中が一瞬で白くなり俺は慌てて入り口に近寄る。

 

「おいおい、マジかよ」

 

そのまま辺りを触り、檻に指を掛けて持ち上げてみる。

 

「う......らっ! ーーはぁっ、はぁっ、力入んねぇ」

 

が、空腹のせいか思ったように持ち上がらなかった。

隣でずっと見守っていたラビが不安そうに鳴く。

 

「ったく、ちゃんと組み立てろよなフレイ。雷真を仕掛けようとして俺らが掛かってたら本末転倒だっての」

 

「ご、ごめん......」

 

「別に責めてるわけじゃねーよ。今出してやっからちょっと待っーー」

 

そこまで言い掛けた時、自身の隣に誰かが立ったのがわかった。

 

「なにをバカなことをやっている」

 

冷たく突き放すような声。

見てみればフレイと兄妹関係にありそうな、彼女と同じ髪を持つ青っぽいローブを羽織った男子学生がそこにいた。

フレイが先ほどの一言で居住まいを正し、まるで叱られる前の子供のように大人しく正座する。

知り合いには見えるが、だとしてもここまで萎縮する必要は無くないか?

 

「まだそんなものを持っているのか。言ったはずだ、怪我をする前に棄権しろと」

 

「でも......」

 

「いいか、あんたは誰にも勝てはしない。大人しく俺の後ろに隠れていればいい」

 

「だけど......」

 

その直後、そいつは檻の中に手を伸ばしフレイのマフラーを掴みかかった。

 

「しつこい。弱い者がでしゃばるな、強い者に従え」

 

俺はその腕を掴み、そいつの目をしっかりと見て口を開く。

 

「悪いが、そいつは聞き捨てならんな」

 

そいつの目は部外者がでしゃばるなと言っていた。

 

「なんだ、貴様は」

 

「リュウ......」

 

「俺のことなんかどうだっていいだろ。お前が誰かなんて、そらちょっとは気になるがそのことだって今はどうだっていい。だけど、フレイをこれ以上バカにするような言い方をするなら俺が許さねぇ」

 

「ほぅ? どう許さないつもりだ?」

 

「こうすんだ......よっ!!」

 

掴んだ腕をそのままグッと引き寄せ、拳を相手の頬へと向かわせる。

一瞬、そいつの顔にニヤリとした笑みが浮かんだ気がした。

 

「......ちっ」

 

いつの間にか、そいつと俺の間に人型を模した全身金属のトゲトゲが立っている。

 

「ケルビム」

 

ケルビム、と呼ばれたトゲトゲが耳障りな機械音でI'm readyと言うとそれは一気に攻め入って来た。

 

「へぇ、人間(ヒト)相手に自動人形(オートマトン)かよ。笑えねぇな!!」

 

俺は無言のうちにトランスを掛け、いつもの赤い竜人へと変化を遂げる。

はっきり言って技とか何一つ考えてないアジーンとの連携よりも今はこっちのほうがやりやすかった。

それをわかっているのか、アジーンも口出しすることなく箱罠の上でこちらを見ている。

トゲトゲの両腕となっているブレードを手で受け止め、払い除ける。

 

「こいつ、化け物か......?」

 

「2人ともやめて!!」

 

そのままトゲトゲの装甲に飛び蹴りを食らわせようとしたとき、未だ罠に捉えられたままのフレイが声を上げる。

その声に術を掛けられたかのように俺とトゲトゲは動きを止めた。

 

「......今日のところは見逃してやる。そして俺達姉弟に2度と関わるな」

 

悔しそうに踵を返し、その場を立ち去って行く。

それに従って俺もトランスを解くが、そんなのはもうどうでも良くって最後にあいつが零した単語のほうが大事だった。

 

「え?! おま、フレイ! あいつと姉弟だったのか?!」

 

「う、うん......ロキって言うの」

 

フレイの簡単な紹介を受け、思わず遠ざかる背中を見てしまう。

 

「へぇ......ロキ、ねぇ。あんな偉そうな弟とか見たことねぇよ」

 

前世で見た弟なんて、ちょっと小生意気だけど上にはちゃんと従う坊主しかいなかった。

 

「リュウ!!」

 

「おい、リュウ!」

 

「リュウさん!」

 

そこへ今の一悶着を目撃していたのかシャル、雷真、夜々が走ってくる。

 

「あなたバカなの?! 十三人の1人でもあるロキの自動人形に生身で挑むなんて! いくらあなたが人とは違う構造をしていたとしてもあり得ないことよ?!」

 

「大丈夫か?」

 

「リュウさん、お怪我はありませんか?」

 

「あーうん、マジごめん。後で説明すっから待って?」

 

俺はそれらを軽くいなしながら箱罠の前に行き、ほんの一瞬トランスを発動してフレイを外に出してやる。

アンパンマンじゃないけど、そうでもしないとお腹が減って力が出ないんだから仕方が無い。

 

「悪いな、いろいろとやらかしちまって」

 

「ううん、怪我がなさそうで良かった」

 

「おう。......んじゃま、今日のところはもう解散でいいよな?」

 

「うん。じゃあ、またねーーラビ、いこ?」

 

「ガウ」

 

主人の意思に小さく鳴き、彼女もその場を離れていく。

 

「それで、これはいったいどういうことかしら?」

 

フレイの背中が小さくなったところでシャルが声を上げ、俺は背後に控える3人(?)に振り向いた。

 

「シャルにまでバレちまったら、さすがに誤魔化せねぇよなぁ」

 

わしゃわしゃと乱雑に髪の毛を掻き、それで腹を括った。

 

「うん、あれだ、ちゃんと話すから今日の講座が終わった後俺と雷真の部屋で話そう」

 

「わかったわ」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

各々の返事を聞き、俺は小さく頷く。

 

「でもその前に飯食っていい? 今ものスゲー腹減ってんだ」

 

俺の言葉のタイミングと合わせるかのように腹の虫が鳴った。




感想、誤字報告、ここはこういう風がいいんじゃない?等なんでもお待ちしています


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第二十三話:状況説明

弱説明回です


「なんつーか、俺ワケありでさ。アジーン(こいつ)の記憶を好きなときに覗けるわけよ。んでこの間、雷真は一緒にいたからわかるだろーけど雷真たちと食堂から戻る途中アジーンが無言でどっか行っちまって。そいつを追っかけてったらフレイがいたんだよ。アジーンは何か知ってるみたいだったけど、俺なんもわかんなくてさ。だから見たんだ、アジーンの記憶を」

 

そうして見えたものはなんの変哲もない、ただのアジーンと誰かが会話をする風景だけだった。

ただ一つ、その者が幼い頃両親を失くし孤児として引き取られたフレイの育て親である禁忌人形(バンドール)の犬型自動人形(オートマトン)であること以外。

そのときに言われたそうだ。

あの子は根が優しいし、私たちを大事にしてくれる。だからあの子はきっと私たちを助けるために無茶をするだろう、と。

 

「んで、ヨミに頼まれてフレイを守るって約束をこいつがしてきちゃったから、ヨミたちの廃棄処分を免除するためにフレイと手を組んでるってこと。ヨミたちの処分さえ免除になればフレイが無茶することもないからな」

 

講義の終わった夕方、雷真とリュウの自室へと集まったリュウ、雷真、シャルはそんなリュウの話を聞き入っていた。

 

「それと夜会前に俺を消そうとすることとどう関係あるんだ?」

 

雷真の問いに、リュウは赤い紐を何度も折りながら答えた。

 

「夜会で勝ち進み、ガルムシリーズの利点をどっかに見せびらかすんだと......よっ! ーーふぅ、こんなもんか」

 

折り終えたそれはネットをイメージさせ、事実リュウはそれを部屋の端と端に繋ぐとハンモックを作り上げた。

 

「俺が知ってることはこれで終わりだよ。他に知りたいこととかあるか?」

 

「......あなたはどうしてそんなことを簡単に話せるの?」

 

ぽつり、とシャルが零す。

リュウは部屋の中にある幾つかの木の中から3つを選び、制作予定の形へと組み立ててトンカチを握る。

 

「なら今のを暗く話したほうが良かったか? 違うだろ、そんなことして何になる?」

 

「だけど......」

 

「今そんなことで揉めてるわけには行かないんだ。この状況をどう打開してくか、問題はそこだろ?」

 

「......」

 

「俺、硝子さんに聞いてみるよ。あの人ならどうすればいいか教えてくれるかもしれない」

 

カンッと釘を叩き、リュウは雷真を振り仰ぐ。

 

「硝子さんって......あの花柳斎硝子のことか?」

 

「あぁ」

 

「ん〜......悪いがお願い出来るか? 俺じゃフレイと手を組んで一緒に夜会勝ち進んで行く他に出来ないしな」

 

「わかった」

 

「シャルよ、そろそろ上がらないか?」

 

シグムントの提案にシャルが半ば気の抜けた返事をし、

 

「今日のところはこれで失礼するわ」

 

と言って出て行ってしまった。

 

「......ちょっと言い方キツかったかな?」

 

バタンと閉まった扉を見つめながらリュウは零し、目の前の作業に没頭した。

 

 

電話口で、妖艶な声が彼の聴覚を刺激する。

 

「坊やはつくづく運が良いわね」

 

「え?」

 

「そうねぇ......私が坊やの道を示して上げないこともないけれど、それじゃあ坊やのためにならないでしょう? 今小紫がそっちに向かっているはずだから、小紫と一緒に行っておいで。自分の目で見て、どうすればいいかを考えなさい」

 

「......わかった」

 

「いい子ね、坊やは。それじゃあ近々会いましょう」

 

その言葉を最後に電話がプツリと途絶える。

雷真は電話を置いた後、自室に戻った。

 

「おかえりなさい、雷真。どうでした、硝子の返事は?」

 

部屋に待機させておいた夜々がこちらを見て尋ねてくる。

 

「こっちに小紫を寄越すそうだ。小紫と一緒にリュウの言ったことが本当かどうか確かめて、どうするかは自分で考えろって言われたよ」

 

雷真はそれに答えながらベッドに腰掛けた。

 

「小紫ですか......小紫と会うのは久しぶりですね?」

 

「そうだな。こんな状況じゃなかったら良かったんだが......リュウは?」

 

「先ほど寮監から伝言を受け取って講堂の方へ行きましたよ。会ってませんか?」

 

「いや、会ってないな。入れ違いか」

 

「そうみたいですね」

 

不意に雷真が立ち上がり、備え付けの勉強机へと歩み寄る。

 

「それじゃあ小紫が来るまで課題を終わらせておくか」

 

「そうですね。ちゃっちゃと終わらせて2人だけの時間を楽しみましょう♡」

 

「しないからな?!」

 

夜々の信じられない提案に雷真は速攻で拒否した。

 

 

ドアをコンコン、とノックしてから俺はそっと開ける。

 

「失礼しまーす......?」

 

念のためにそう言っておくが、返事はなかった。

ルークから伝言を受け取り、今は彼に伝言を任せたキンバリー先生のいる部屋の前にいるのだが彼女が何のために俺を呼んだのか見当もつかなかった。

むしろなんか悪いことでもやらかしたか?と不安を覚えてしまう。

 

「留守、なのかな?」

 

呟き、辺りを見回していると中からアジーンが現れお決まりの定位置へと着いた。

 

「中には誰もいなかったぞ」

 

「やっぱり? ......これって帰ってもいいのかな?」

 

そのとき、小さくながらもコツコツとヒールで歩く音が聞こえてきた。

やがてそれはだんだんと大きくなり、俺は音のするほうを振り向く。

 

「待たせてすまなかった。さぁ、中へ入ろうか」

 

やはりその足音はキンバリー先生のもので、彼女の手には夜会の参加資格(エントリー)でもある手袋が握られていた。

 

「あ、はい」

 

俺はスタスタと中に行ってしまったキンバリー先生を追い、部屋に足を踏み入れる。

 

「うわっ、なんだこりゃ」

 

直後出迎えてくれたのは大量の散らばった用紙で、足の踏み場なんてギリギリあるかどうかぐらいだった。

さすがというべきか、部屋の持ち主であるキンバリー先生は慣れた身のこなしで大量の用紙を掻い潜り、部屋にある机に座ると手袋をこちらに差し出してきた。

俺はなんとかキンバリー先生の前に立ち、内心で首を傾げながらも手袋をもらおうと手を伸ばした。

 

「本来は授与式に学院長の手から渡される決まりなんだがね」

 

「へ? 授与式なんてあったっけ?」

 

不意に伝えられた内容に俺の手が止まる。

 

「成績が発表された次の日だと伝えたはずだが?」

 

「うっ......聞いてませんでした......」

 

「そんなことだろうと思っていたよ。そういうわけで、これは私から渡すことになった。受け取りたまえ」

 

「ありがとうございます」

 

キンバリー先生から手袋を受け取り、俺は早速填めてみる。

ついでに登録コードを確認してみると、そこには『ドラゴンインカー』と記されていた。

ドラゴン、という単語に一瞬ヒヤリとする。

 

「あの、これって......」

 

「Dragon incarnate......竜の化身という意味だよ。長かったから個人的に短くさせてもらった」

 

「なんで竜の化身なんですか?」

 

「どこかのバカが屋上を走り回っているのを見たのでね」

 

その言葉に体が一瞬で凍り付いた。

屋上を走り回っていたと言えばアジーンの気分転換に競争してたときの話だ。

よりにも寄ってキンバリー先生に見られていたなんて......。

 

「ありがとう、ございます......」

 

「夜会は今日からだ。くれぐれも開会式には遅れないように、いいな?」

 

「はぁい......」

 

俺は今すぐにでも膝を付きたいのを我慢し、とぼとぼと部屋から出て行った。

 

 

寮に帰ると、見知らぬ顔がそこにはあった。

 

「ねーねー、雷真と一緒に住んでるリュウ兄さまってあなたのこと?」

 

「だ、誰?! つかなんで俺の名前知ってんの?!」

 

紅葉色の髪を左右に結った可愛らしい女の子が俺をジロジロ見ている。

 

「小紫、リュウさんが困ってるんだからやめなさい」

 

「ごめんなさーい」

 

夜々に叱られるが女の子は反省の色を見せようともせず、あっさり言いのけると何事もなかったかのようにトタパタと夜々の側に戻った。

 

「え、夜々知り合いなのか?」

 

「夜々と姉妹機の小紫さ。硝子さんが寄越してくれた」

 

不意に横合いからそんな声が聞こえ、俺はそれで初めて雷真が帰ってきていることに気が付いた。

 

「小紫だよー。よろしくねー」

 

雷真の紹介を受け、その子は人懐っこい様子でしっかりと名乗る。

 

「よろしくーー雷真、帰ってたんだな」

 

俺は短く挨拶したあと、雷真に向き直った。

 

「硝子さんに電話するだけだからな」

 

「すまなかったな」

 

「気にするな」

 

「で、返事はどうだったんだ?」

 

「小紫を連れて、アジーンが行った場所に行ってくる。アジーンが見たものを自分の目で見て、どうするか考えないとな」

 

「なるほど、ね。ならすぐに行かねーと。夜会は今日からだから遅刻しないように帰って来いよ?」

 

「そうだなーーリュウ、もしかしてそれって......」

 

雷真が俺の填めている手袋に気付いたのか、指で差していた。

 

「キンバリー先生に呼ばれたときに貰ったんだ。というか、これを渡すために呼ばれたらしい」

 

「学院長からじゃなかったのか?」

 

「俺、授与式サボっちまったみたいでな」

 

苦笑しながら言うと、雷真もクスリと笑った。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

雷真が小さく息を吐き、何故か小紫の背中に手を当てる。

 

「? ーーあ、れ? 雷真が」

 

その行動に疑問を覚えていると知らないうちに雷真と小紫が目の前から消えていて、思わず辺りを見回してしまった。

そして気が付く。

夜々が隣にいた。

 

「大丈夫ですよ、リュウさん。雷真は小紫の八重霞で見えなくなっただけですから」

 

「八重霞?」

 

「はい。隠形の魔術回路、八重霞......一種の幻術のようなものだと思ってもらっていいです」

 

「へぇ......じゃなくて、夜々は一緒に行かなくても良かったのか?」

 

「それは......雷真が今必要としているのは小紫の八重霞であって私の金剛力ではないですから」

 

そう言う夜々の面影はどこか暗かった。

俺は彼女の頭の上にポンと手を置き、そのまま自然な動きで撫でた。

 

「そう落ち込むなよ。な?」

 

「リュウさん......」

 

「このまんま寮に居てもツマンネーし、どっか遊びに行こうぜ」

 

「はい」

 

俺の提案に夜々が立ち上がり、俺らは部屋を出た。




前にあった感想で、ブレスオブファイア5ドラゴンクォーターがわからないという意見がありました
個人的にものすごくショックだったんですけど、たぶんこれ2002年発売のPS2ソフトだからそれも納得出来ると思ったんですよ
というわけで、ブレスオブファイア5ドラゴンクォーターをストーリーに沿った小説を書こうかと思います
自分の言語知識でドラクォを表現するって形ですかね
これについて良いか悪いかの意見が欲しいです
お願いします


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第二十四話:動き

息巻くって言葉はあるけど息を巻くって言葉はないんだって。
『向かう所に敵なしと息巻く』
『ギャフンと言わせてやると息を巻く』
案外ありそうなのにねฅ(´・ω・`)ฅ


本文訂正(5/27)
→感想を受け、訂正させてもらいました
違和感があれば報告お願いします


キィィィと耳障りな音が薄暗い小屋の中に響く。

開いた扉の先には誰もおらず、それはさながら一人でに開いたようだった。

が、その正体は八重霞の魔術回路でステルス状態にある小紫と雷真で、二人はそれぞれの物に視線を向けていた。

 

「見て、雷真! わんこだよ!」

 

小紫が嬉しそうな声を上げながら、部屋の両側に設置された檻の中を指差す。

中にはこちらに気付いた様子のない何匹もの子犬や成犬が大人しく眠っていた。

 

「向こうに扉がある。行こう」

 

何とはなしに呟き、雷真が歩き出す。

小紫はやはり嬉しそうに犬を眺めた後、少し急ぐようにして雷真を追った。

 

「からっぽ?」

 

雷真が更に開いた扉の先、先ほどのフロアよりも暗い部屋が露わになる。

目が慣れてくれば物陰ぐらいわかるかもしれないが、先ほどこの部屋に踏み入れた二人なので小紫の呟きも納得の行くものだった。

 

「......いや、いる」

 

ポツリ、と雷真が呟いたとほぼ同時に暗闇の中から足音が聞こえ出す。

 

「なんか用かい、小僧?」

 

そうして出てきたのはリュウの説明にあったような犬型自動人形オートマトンで、それが人語を話すことからヨミだとわかった。

 

「わんこが喋った!」

 

リュウの話を知らない小紫が驚きの声を上げる。

 

「私の知能、及び生態は人間と同じさね。幸か不幸か、ね」

 

「俺たちを認識出来るのか」

 

八重霞を掛けた状態でも認識されるなんて話を聞いていなかった雷真がわずかに驚きの声を上げる。

 

「あぁ、出来るとも。ただしパッシブセンサーでは感知出来ないだろうがね」

 

ヨミはそれらを軽めに説明しながらこの小屋の外に注意を向けていた。

もしここで監視の者にバレればかなり厄介なことになるかもしれないからだ。

もちろん、八重霞を掛けた二人がバレるはずなどないのだが、それを知らないヨミは仕方が無い。

 

「アクティブ!」

 

ヨミの説明に、ピクリと小紫が反応する。

 

「ん? お嬢ちゃんは理解したようだねーー人の住処に許可なく入り込んで、挨拶もなしかい?」

 

「悪かった。俺は赤羽雷真、日本から来た」

 

思わぬ雷真の対応に小紫が慌てた様子で彼を振り仰ぐ。

 

「ちょっと雷真!」

 

「ん?」

 

が、雷真はむしろ聞き返す様だった。

それを見てヨミが面白そうに忍び笑いを零す。

 

「侵入者が自ら名を明かすのかい」

 

「ここには知り合いから話を聞いて来た」

 

話し掛けられ、雷真はヨミに視線を向けて言う。

 

「ほほぅ?」

 

それに興味を唆られたのか、ヨミは相手を仰ぐような相槌を返した。

 

「あんた、ヨミだろ」

 

「いかにも。それで、小僧は何の用で来たんだい?」

 

「あんた、廃棄処分が決まってるんだってな。そいつを無しにするにはどうしたらいい?」

 

雷真の問いに、ヨミの目がすぅっと細くなる。

 

「それを知ってどうすんだい?」

 

「それに従うまでさ」

 

「おかしな小僧だね。こんな老いぼれを助けてなんになるってんだい」

 

「アジーンって知ってるだろ。そいつの使い手から話は全部聞いてる。さっき言っただろ、ここには知り合いから話を聞いて来たって」

 

「そうだね......廃棄処分そのものを無くしてしまうのはかなりのリスクを伴うかもしれないよ? もちろん、私を廃棄処分よりも先に殺してしまえばーー」

 

直後、雷真が叫んだ。

 

「ふざけるな! 俺はあんたらを助けに来たんだ! どうしてそんな道が選べる!」

 

「フッ......試しただけさねーーこんな老いぼれの考えることだ。参考程度にしかならないがそれでも構わないかい?」

 

「あぁ、頼む」

 

思いも寄らない反応にヨミは笑みを零しながら、雷真に自身が思い付く方法を挙げた。

 

 

テキトーに学院の中庭を歩きながら、俺はふと思い付く。

 

「夜々、ちょいとここで待っててくんない?」

 

「どうしたんですか?」

 

「いいこと思い付いたんだよ。そこらへんに座ってていいから」

 

俺の笑みに夜々も釣られて笑い、小さく頷く。

 

「わかりました」

 

「おう。んじゃ、行ってくらぁ」

 

俺は夜々に手を振った後、走って寮に戻った。

自室までの階段が意外に辛い......。

そういえば転生する前、階段を上ると痩せるって聞いたけどあれって結局上りも下りも消費するカロリー変わんねぇんだよな。

誰だよ、そんな偽情報流した野郎は。

そんなことを思っていると案外早くに戻れ、そのまま最初学院へ来るときに持ってきていたカバンから野球ボールを手に取る。

用件はこれだけなのでさっさと部屋を出、再び階段へと足を踏み入れる。

余談だが、この世界でも野球のことはベースボールと言うらしい。

そうやって考えるとなんだか前世にいた世界からタイムスリップしてきたみたいだった。

 

「あれ、シグムントじゃねーか」

 

中庭へ続く道を曲がり、夜々の姿が見えると同時にシグムントもその場におり、様子を見るに二人でなにか話し込んでいるみたいだった。

......どちらかといえば、シグムントに解かれてるみたいな感じだけど。

 

「む?」

 

このまま乱入していいものか悩んでいると、シグムントが何かの気配を感じ取ったのか気配の方向を見る。

 

「は?」

 

それに釣られて見てみれば茂みから何かが飛び出し、それが夜々へと直進しているのがわかった。

だが、わかっただけじゃ遅かった。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

直後、夜々の悲鳴が上がる。

開いた傷口からドボドボと大量の血が流れ落ちた。

 

「夜々!!」

 

俺は握っていたボールを手放し、慌てて駆け寄る。

 

「夜々!」

 

一歩遅れてシグムントが夜々の側に寄る。

 

「うぅ......」

 

夜々の表情は苦痛に満ちていて、なにかに直撃した腹部からは止めどなく血が溢れ出ていた。

その場にあっさりと血だまりが出来上がる。

 

「おい、しっかりしろ夜々!!」

 

夜々の頬をペチペチ叩きながら、何度も夜々を呼ぶ。

シグムントの呼び声も重なったか、夜々は案外早めに目を覚ました。

そのまま、ゆっくりとだが起き上がる。

 

「大......丈夫、どす......活動限界は......超えてません......」

 

「こんなものを腹に受けてよく生き延びたものだ」

 

そんなシグムントの声に、俺は辺りを見回すと大砲で撃たなくちゃ絶対に無理そうなロケットが転がっていた。

 

「夜々は、世界最高の自動人形です......このくらい......けほっ」

 

「無理すんな! おい夜々、俺はお前になにがしてやれる?!」

 

「リュウよ、技師を呼んでくるぞ」

 

「頼む、シグムンーー」

 

「いえ、いいです......」

 

俺の言葉を遮るようにして夜々が声を上げる。

 

「なんで! このまんまだと死んじまうぞ!!」

 

「夜々は、普通の修理では直せません......」

 

「じゃあどうすれば!!」

 

目の前の出来事に頭の中がパンクしており、半ば叫びながら問うてしまう。

夜々の瞳に涙が浮かび上がり、それは溜まることなく地面に丸い跡をつけた。

 

「雷真......雷真に会いたいです......」

 

その言葉に、ギリッと歯を噛み合わせる。

雷真じゃなきゃなんとか出来ないと言われた気がして、なんだか悔しかった。

 

「んなこと言われたって......雷真は今いねぇの、わかってんじゃねぇかよ......」

 

「雷真の魔力が頼みの綱ということか......」

 

だが、シグムントは別の捉え方をしたようだった。

 

「どういうことだよ、シグムント?」

 

「なによ、これ?! どうしたの?」

 

そう尋ねたとき、背後からそんな声が聞こえてくる。

振り向けばこちらへ走り寄ってくるシャルが見えた。

 

「シャル! 良いところに来た!」

 

「え?」

 

「手を貸してくれ!」

 

シグムントの頼みに、シャルは無言で夜々の前に座る。

 

「ちょっと、いつまでこっちを見てるのよ! あなた男なんだから後ろ向いてなさいよ!!」

 

「へ? あ......あぁ!」

 

俺は慌てて後ろを向き、先ほどの言葉でこれからシャルがなにをしようとするのかわかった。

 

そうしてすぐにシャルの息を飲む声が聞こえてくる。

 

「っ!! こんなの医者の仕事だわ! ジャパンって国はどうなってるのよ、シグムントよりもナマモノだなんて!」

 

「これでは設計者でなければ修復出来まい」

 

「どうだ、夜々の様子は?」

 

「酷いわ、それもものすごく.....私に出来るのは魔力を送るくらいだわ」

 

「なんだよ、それ......」

 

「それでも、なにもしないよりかはマシだろう」

 

「そうだろうけど......」

 

言いながら袖を捲る音が聞こえ、そのまま魔力が感じられる。

流し始めたのだ、魔力を。

 

「っく......うぅ......」

 

だが、なにかがおかしかった。

 

「なに、これは?!ーーきゃあぁぁぁ!!」

 

シャルの悲鳴が上がり、シグムントの体当たりする音が聞こえる。

 

「シャル!!」

 

その声に我慢出来ず、俺はついに振り向いた。

先ほどよりも顔色がマシになった夜々が起き上がる瞬間と、シャルが倒れている姿が視界に映る。

夜々が普段着ている着物がほんの少しだけはだけていた。

でも、そんなのは関係ない。

俺はすぐにシャルの側に寄り、彼女を抱き起こした。

 

「大丈夫か?!」

 

「え、えぇ......なんとか」

 

「無理、しないで、ください......」

 

夜々が絞り出すように言う。

顔色は大体良くなっているが、中身はそうではないらしい。

 

「バカにしないで、こんなの!」

 

シャルが言いながら、俺の手を借りて立ち上がろうとする。

 

「で、でも......」

 

「私は、女王陛下から一角獣の称号を賜った、ブリュー伯爵家のシャルローー」

 

「はいストーップ。すごいのはわかったからもう喋んな」

 

「なっ!!」

 

「大人しくしてろって。魔力流すだけなら俺にも出来るから」

 

渋る夜々に息巻いたシャルを宥め、そのまま半身だけを起こしている夜々に近寄り、彼女に手をかざす。

魔力を吸い取られていくような感覚が体を支配する。

 

「っ! 気を付けて! 一度魔力を流し始めたらコントロールがーーうそ」

 

おそらく、その感覚がコントロールが出来なくなるということなのだろう。

だが、シャルほどには酷くないので大したことはなかった。

たぶん、一番魔力が欲しいところをシャルが担ってくれたからだろう。

 

「どした、シャル?」

 

「い、いえ。なんでもないわ」

 

「そか」

 

そのまま黙って流し込み、体感で1分が経過した。

 

「ありがとうございます、リュウさん」

 

いつものような滑らかな動きで起き上がった夜々に、俺は半分見上げるような形で尋ねる。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「はい。あとは自己修復出来ます」

 

「良かったわね」

 

「はい」

 

シャルの呼びかけに頷く夜々の隣で、俺はフルフルと首を振る。

 

「んなことしなくていいから、もう少しもらっとけ」

 

「......はい」

 

そうして小さく微笑んだ夜々に釣られてニッと笑った後、今度は乙女らしく座り目を閉じた彼女に手のひらをかざした。

 

 

そして、それを見つめる二つの視線があった。

ふっ、と一つの視線が自身の背後へと向けられる。

 

「あいつを修復してやってはどうだね? 花柳斎殿」

 

その言葉に、もう一つの視線の主......花柳斎硝子が下駄を鳴らしながら視線を向けてきた相手の隣へ立つ。

 

「ごきげんよう、キンバリー先生」

 

硝子が隣へ立ったのを確認して、キンバリーは前を向く。

 

「全く、手の掛かるガキだよ。こっそり学院を抜け出し、何をやっているのかな。ま、だから自動人形があんな目に合う」

 

「あれが誰の仕業か、ご存知みたいね」

 

言外に教えろと言った様子だが、キンバリーは相変わらず鋭い眼つきで硝子を見た。

 

「保護者との面談は次の機会に譲るわ。それより、まだ失う訳にはいかんのだろう?」

 

「お気遣いどうも。でも、あの子はそんなヤワじゃないわ」

 

「自動人形は、な。だが、下から二番目セカンドラストのほうはどうかな?」

 

「私の坊やはそう簡単には死なない」

 

わずかな張り合いの後、硝子が再びごきげんようと言いながら小さく膝をおり、踵を返す。

 

「ファザータイムによろしくお伝え下さいな」

 

キンバリーの背後でコツコツという音をBGMに、彼女は再び眼下の景色に視線を落とす。

そこでは、下から二番目の連れであるリュウが血だまりに浮かぶ夜々に魔力を分け与えていた。

 

「得体の知れない女だーー最も、人のことを言えた義理ではないがな」

 

呟いた言葉は誰にも聞かれることはなく、空気へと静かに溶けた。

 




今日、地理Bで今の状況は戦争が起きる前の状況と似てるって習った。
WWⅡが終わって平和条約的なの結んだはずなのに、結局その繰り返しになるのかな? なんて思うとツラいかな(´・_・`)


以前にお気に入り登録して下さった方、ありがとうございます。


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第二十五話:ヴァルプルギスの夕べ、開幕

なんとなく面白そうだから章なんてものを使ってみた。
なんかすっごくカッコ良くなって一人で笑った。

後書き編集(6/4)
本文の修正(6/5)


部屋の中に一本の電話が鳴り響く。

小皺のある、優しそうな面立ちのその男性は座っていた椅子から立ち上がり、受話器を取った。

 

「どうした、ロキよーーそうか、わざわざすまないな。ご苦労」

 

ほんのわずかな情報伝達。

電話はすぐに切れてしまったが、男は椅子に戻ることなくそのまま別のところへ電話を掛けた。

 

「私の研究室にネズミが紛れ込んだようだーーあぁ、どんな手を使っても構わん。潰せ」

 

その視線は窓の向こう側にある時計台へと向けられていた。

針はゆっくりと動き、じきに2時を越えようとしていた。

 

 

日が傾き、空がオレンジ色で染まっていく。

そんな中門の側ではラビを連れたフレイがウロウロとしていた。

そこへ彼女の弟であるロキが通りかかり、足を止める。

 

「こんなところでなにをしている」

 

「雷真、待ってるの......探しても見つからなかったから......」

 

「あいつはもう帰ってこない」

 

「っ......彼をどうしたの? さっき、彼の自動人形(オートマトン)を攻撃したのはロキだよね?」

 

「......そうだと言ったら、どうなんだ」

 

驚き、信じられないと言った様子でロキを見つめる。

ロキの目はただ冷たかった。

 

下から二番目(セカンドラスト)は踏み込んでいい場所と悪い場所の判断を間違えた。俺たちの秘密を嗅ぎ回るような動きだったから、お父様に排除してもらった」

 

「っ!! どうして、雷真はヨミたちを助けようとしてくれてたのに!」

 

「それでも、なんの事情も知らずに片足を突っ込むようなバカはどこにもいない。いずれ俺たちの秘密がバレる」

 

「......」

 

「これ以上誰かを巻き込むな」

 

捨て台詞のように吐き捨て、ロキは踵を返して去っていく。

 

「......ヨミ」

 

今にも泣きそうな声で呟き、フレイはラビの頭を撫でながら寮のある道へと歩き出した。

 

 

しばらくして、先ほどフレイのいた場所には夜々が立っていた。

夜々の視界に門の先で浮かない表情をした傷だらけ(・・・・)の雷真が歩いて来るのが映る。

出掛ける時にはいたはずの小紫がいないので、おそらく政府ハウスに置いてきたのだろう。

 

「おかえりなさい、雷真!!」

 

昼間の時に受けた傷は何処へやら、いつもと変わらない調子で夜々が雷真を出迎える。

だが、雷真を見た途端その表情が焦りの色に染まった。

 

「っ!! どうしたんですか雷真?! あちこち怪我してます!!」

 

「ちょっと、ドジ踏んでな」

 

「小紫は?!」

 

「小紫なら軍の政府ハウスに置いてきた」

 

案の定それは間違っておらず、雷真の口から事実が伝えられた。

だが夜々は大きく首を振ってしまう。

 

「違います! 小紫がいたのにどうしてですか?!」

 

「夜々、声が大きいーーリュウは?」

 

「......先に寮へ戻っています」

 

「そうか」

 

「......雷真?」

 

むすっとした様子で答える彼女だったが、いつもと違う雷真に落ち着きを取り戻した。

 

「もしかして、なにも成果がーー」

 

「......この話は寮に戻ってからしよう。ここじゃ人目につく」

 

言い出したところで雷真に遮られ、小さく頷く。

 

「わかりました」

 

そうして雷真の指示に夜々は返事をし、ようやく寮へと歩き出した。

 

 

ガチャガチャ、と扉の開く音が聞こえ、俺はハンモックから起き上がる。

 

「雷真! おかえり!」

 

部屋の入り口には雷真と夜々がおり、そう声を上げながらハンモックから下りた。

 

「あぁ、ただいま」

 

だが、雷真の様子は明らかにおかしく、これから返ってくるだろう内容はあまり期待出来るようなものじゃないと悟った。

それでも俺は口を開く。

 

「どうだ、なにかいい案は浮かびそうか?」

 

やはり、というべきか。

雷真は首を振り、後ろめたそうに視線を逸らした。

 

「悪い、リュウ。......この問題にはもう関わらない方がいいーー俺たちにはどうすることも出来ない」

 

直後、俺は叫んでいた。

 

「ッ!! なんでだ!!」

 

一瞬で頭の中が白くなり、雷真の胸ぐらを思いっきり掴む。

が、雷真は俺から目を背けたままで、こっちを見ようともしなかった。

 

「......」

 

「答えろ!」

 

「リュウさん!」

 

そのまま雷真を背後の壁に叩きつけ、傍で見ていた夜々が慌てて声を上げる。

......体が異様に熱い。

 

「......ヨミ自身が言ってたんだ。自分らを作った人間が二十年前魔王(ワイズマン)の座に手を掛けた男だって」

 

ぼそり、と小さな声で雷真が言う。

それがたぶん、俺たちにはどうすることも出来ない原因なんだろう。

なにをしたところで返り討ちになるのがオチだーーハッキリとは言わないけど、そんなのは聞かなくてもわかった。

 

「だからなんだ! 俺やお前、シャルやフレイが力を合わせても勝てないヤツだから諦めろって? 流れるように流れろってか?! ふざけんな! なんでーー」

 

そこまで言いかけたところで不意にするはずのない音が聞こえ、俺は口を噤む。

 

「随分と元気な坊やだこと」

 

見てみればそこには夜々なんかと比べ物にならないくらいエロい着物を着た女性と青色を主とした質素感のある着物を着た少女が立っていた。

 

「誰だ、てめぇ」

 

ただいま最高に不機嫌なので、知らず知らずのうちに喧嘩腰になってしまう。

対して雷真は意表を突かれたような顔をしてエロ着物の女性を見ていた。

 

「硝子さん......」

 

「硝子? ーーあぁ......こいつが雷真がいつも言ってる花柳斎硝子ってのか」

 

「あら、こんなところで私を知らない子がいたなんてね。これでも有名人になったつもりだったのだけれど」

 

「知るかよ、そんなこと」

 

つまらなさそうに吐き捨てる俺に花柳斎はクスリと笑う。

 

「まぁいいわ。また近いうちに顔を合わせることになるでしょうからーー坊やは自分の欲しい答えは掴めたのかしら?」

 

話の対象が自身に向けられた雷真はその問いにただ俯いてるだけだった。

その反応に俺は苛立ちを覚えてしまい、思わず近くにあった壁を殴りつける。

 

「チッ! いいか雷真! “ニーナのとき”と同じようになんとかなるで済ませれる話じゃねぇんだ! 俺は絶対に諦めないからな! ヨミを助けてフレイを守る! ーー行くぞ、アジーン!!」

 

「......あぁ」

 

アジーンの返事がやけに暗かったが、今はそんなことに気を止める余裕なんてない。

俺はすぐさま歩き出し、寮の廊下へと繋ぐ扉に手を掛ける。

......“あのとき”はニーナが毒ガスを吸収して空に行かなくちゃ助けてやれなかったけど、もし今回のことで手遅れになればそれはイコール死と一緒なんだ。

そんなの、絶対にさせない。させるものか。

 

「坊やの言うニーナが誰を指すのか見当も付かないけれど、今からはやめたほうがいいんじゃないかしら?」

 

花柳斎の声が耳を刺激し、俺は振り向く。

 

「部外者のくせにーー」

 

部外者のくせに出しゃばるな!

そう言いたかったが、視界に映った幾つものライトアップに口を閉じざるを得なかった。

やがて6時を知らせる鐘の音が学院内を響かせる。

 

「そうだった、夜会は今日からなんだ!」

 

雷真が慌てて自身のクローゼットから礼服を取り出し羽織る。

 

「早く行かないとマズイんじゃないかしら?」

 

「チッ」

 

花柳斎が未だ扉に手を掛けたままの俺にそんなことを言い、俺は相手に聞こえるよう舌打ちをする。

そうして俺もクローゼットから礼服を取り出し、簡単に羽織ってから部屋を出た。

 

 

「我ら、ヴァルプルギスに集いし者。魔術の火種を守らんがため、血で血を洗わんとーー」

 

開会式の最中、代表者であるマグナスが選手宣誓らしき言葉を述べている。

 

「ちょっと! どこに行ってたのよ!」

 

そんな中雷真と共に列の最後に加わると、それに気付いたシャルがボリュームを落としてはいるものの怒り口調で話し掛けてきた。

 

「悪ぃな、すっかり忘れてて」

 

「信じられない! こんな大事な日を忘れるなんて! あなた手袋持ち(ガントレット)の自覚はあるの?」

 

「ないと思う」

 

「あなたねぇ......」

 

シャルの表情が怒りを通り越して呆たそれへと変わる。

俺は乾いた笑みを浮かべつつも前に向き直ると、すでにマグナスの言葉は終わりを告げていた。

 

「ここに第49回ヴァルプルギスの夕べの開催を宣言する!」

 

学院長の宣言に、参加者の全員が手袋を填めた右手を自身の左胸に当てた。

 

 

「第100位、下から二番目(セカンドラスト)、舞台へ!」

 

日が沈み、月の明かりを押し返すような人工の照明に照らされた7時。

夜会を仕切る者の指示に従い、雷真と夜々が言われた場所へと立つ。

 

「第99位、自ら廻る焔の剣(セイクリッドブレイズ)、舞台へ!」

 

続いて指示に従い舞台に立ったのはケルビムとか言うゴツい自動人形(オートマトン)を使うロキだった。

 

「棄権しろと言ったはずだ、俺は」

 

「断ると言ったぜ、二度も言わせるな」

 

無言のうちにケルビムが動き出し、雷真の隣に控えていた夜々が走り出す。

先行はケルビムだ。

その巨大な腕のような剣で夜々に振り下ろすが、夜々は持ち前の身軽さであっさりと交わす。

 

「お返しはさせてもらうぞ!」

 

言いながら夜々に手のひらを差し向ける。

 

「吹鳴二十四衝!」

 

「はい!」

 

雷真の体から青色の光が発光され、それが夜々に伝い彼女に魔力が与えられる。

夜々は破竹の勢いでケルビムに襲い掛かるがケルビムの装甲の前にそれは効果を為さず、飛び蹴りを放つも見事に避けられてしまう。

それでも勢いは収まらず、次々と雷真の指示に的確に従っていき与えられた魔力を満遍なく使う。

 

「なぁシャル。自ら廻る焔の剣って十三人(ラウンズ)の1人なんだろ?」

 

その様を眺めていた俺はふとあることが気になりシャルに尋ねてみる。

 

「えぇ、そうよ。ただし、元、だけどね」

 

「ふぅん......雷真と互角でやり合ってるようにしか見えねぇんだけど、大したことねぇのかな?」

 

「バカ言わないで。なんのために十三人なんて呼び名があるのよ?」

 

「まぁ、そりゃそうか」

 

言いながら前に向き直ると、ロキの苦虫を噛み潰したような表情が映った。

夜々に蹴り飛ばされ、距離があいたっぽいケルビムの背中からミサイルのような短剣が飛び出るが、夜々の金剛力はそれを安々と弾き返す。

 

「フン......厄介な装甲だな」

 

「刃物で夜々は斬れません!」

 

その言葉に、ロキは不敵に笑った。

 

「斬れるさ。ケルビムに斬れぬ物など存在しないーーケルビム、廻れ!」

 

「I'm ready」

 

ロキの指示に機械音が答える。

直後ケルビムの形状が大きく変化し、それは巨大な剣へと姿を変えた。

そのまま勢い良く廻って夜々に襲い掛かる。

 

「っ......夜々、逃げろ!」

 

「雷真?!」

 

突然の撤退命令に疑問の声を上げるものの、指示通りバックステップで難を逃れる。

が、さらに速度を緩めることなくケルビムは襲い掛かり、そして......

 

「くっ......ぅ!!」

 

通るはずのない刃が夜々に傷を付けた。

辺りに数滴の血が舞う。

 

「勘のいいヤツだ」

 

「どうしたんですか、雷真! 魔力を下さい!」

 

ロキと夜々、それぞれの言葉に今度は雷真の顔が苦虫を噛み潰したようなものへとなる。

それを見て俺は確信し、舞台に背中を向けた。

 

「ーー決着はついたな。......ロキの勝ちだ」

 

そのまま門の外へと行く道を歩き出し始める。

雷真の戦いが終わってから行こうと思っていたが、これ以上見てても仕方が無い。

これ以上はただの負け戦だ。

 

「リュウ? どこに行くのよ?」

 

隣にいたシャルが驚いた様子で尋ねる。

 

「そっちにトータス寮はないわよ?」

 

俺は振り返らず、顔だけをシャルに向けてくすりと笑った。

 

「知ってる。寮に戻る気なんてねーもん」

 

「は......?」

 

予想していた答えが返ってきて、思わず笑いが零れる。

俺はじゃあなと手を振り、止めていた足を動かした。

 

「雷真によろしく」

 

「ちょっと、リュウ!!」

 

「うっ!!」

 

シャルの呼び声が聞こえるのと同時に、雷真の呻き声が舞台から上がった。

 




決めた。
わざわざ聞かなくても実行しちゃえばいいんだ。
というわけで......
活動報告に、ブレスオブファイア5ドラゴンクォーターの簡易まとめを投稿?します。
ドラクォがわからない方は是非読んでください。
なにかわからない単語等があったら遠慮なく質問OKです。
前話でのお気に入り登録、ありがとうございました!
それではお疲れ様です(´・Д・)」


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第二十六話:フレイの想い

魔術喰い(カニバルキャンディ)編を書くときは図書室から借りてきた原作があったんですけど、今は何度図書室に足を運んでも借りられっぱなし。
貸し出し期間は2週間のはずなのに返って来ないってどゆことよ?と憤慨中ですが、かといって書かない選択肢はないのでアニメと睨めっこしながら頑張ってます。
耳コピツラたん......。
wi-fiがあって良かったとひたすら思います。


夜々の悲痛な叫びが舞台から何度も上がる。

 

「雷真! 雷真! 目を開けて下さい、雷真!」

 

「チッ! なにやってんだ、あのバカ!」

 

その声に我慢出来ず、俺は踵を返して舞台に上る。

雷真の体......主に背中には縦筋の大きな斬り傷が入っており、あのケルビムとかいう自動人形(オートマトン)の刃を直接食らったような印象を受けた。

血は止まらない。

噴水のように溢れ出す血は辺りの草を赤く染め、血生臭いを広げるだけだった。

 

「そこの君! 今すぐ離れなさい!」

 

やがて医療班(?)が担架を持って現れ、雷真はそれに乗せられ学院の中に運ばれていく。

俺と夜々、シャルは慌ててそれらについていくが、当然の如く扉を閉められてしまった。

 

「雷真! 雷真! 雷真!」

 

夜々は一心不乱に閉じられた扉を叩くが開くはずもなく、その両手に紫色の光が発光される。

 

「おい、夜々! やめろ!」

 

それは魔術を発動した証拠で、俺は慌てて夜々を止めにかかる。

 

「離してください! 雷真が!」

 

「落ち着け。お前が取り乱してどーすんだ。そんなに雷真のことが信用出来ねぇのか?」

 

その言葉に夜々がピタリと止まる。

 

「リュウ! そんな言い方はないんじゃない?!」

 

それを聞いていたシャルが声を荒げるが、俺は振り向きもしなかった。

 

「どんだけ雷真が心配か分かる。お前を庇ってあんな怪我を負ったんだよな? だけど、そうやって雷真のことで騒いでたら見てるこっち側は雷真を信じてないようにしか見えねぇんだぞ。分かってんのか」

 

「......」

 

「信じろ、あいつを」

 

「......はい」

 

「......いい子だ。大丈夫、俺も一緒に信じてやるから」

 

そうして夜々の肩に手を置き、ここから離れようと振り返る。

と、そこには花柳斎と一緒にいた青を主とした着物の少女が立っていた。

 

「お前は確か花柳斎と......」

 

「いろりお姉様......」

 

夜々が呆然とした様子で少女ーいろりと言うらしいーの名を呼ぶ。

 

「夜々を宥めて下さりありがとうございました」

 

ぺこりと一礼するいろりに、俺は小さく鼻を鳴らす。

 

「別に。俺がしたいと思ったからそうしただけだ。礼を言われるようなことじゃないーー行こうぜ、夜々」

 

夜々が小さく頷くのを見て、俺はいろりの横を抜けて寮に向けて歩き出した。

 

 

「キンバリー先生」

 

校内、雷真の様子を伺おうと廊下を渡っているとちょうど保健室から出て来たキンバリー先生を見つけ呼び掛ける。

キンバリー先生は俺の声に背中を振り返り、俺の姿を目に止めた。

 

「どうかしたのかね、リュウ?」

 

「先生、雷真の様子はどうでしたか?」

 

「なんだ、君もその用事か」

 

「ということは先生も?」

 

「あぁーーあとほんの数ミリ深ければ肺が裂け、一センチなら心臓に行ってたそうだ」

 

キンバリー先生から伝えられた雷真の状態に、思わず笑みが零れる。

 

「ハッ......悪運の強い奴だぜ。ったく」

 

「私もそう思うよ」

 

「じゃあ雷真は無事ってことでいいんですね?」

 

「あぁ、問題ない」

 

その言葉に俺は小さく礼をする。

 

「ありがとうございました。これであいつの自動人形を安心させてやれます」

 

「......そうか」

 

「はい」

 

そうして踵を返し、俺はトータス寮へと向かった。

 

「リュウさん!」

 

自室の扉を開けてすぐ、夜々が待ち侘びたとばかりに声を上げる。

 

「雷真の容態は?!」

 

「大丈夫。致命傷は負ってねぇよ」

 

俺の言葉に、夜々の表情が和らぐ。

 

「良かったです......」

 

ふっ、と力が抜け、夜々が崩れ落ちる。

 

「おい、夜々!!」

 

慌てて夜々を支えるが、夜々の表情はとても安らいでいた。

きっと俺がいない間、今にも不安に押し潰されそうだったんだろう。

 

「......しょーがねぇな」

 

思わず頬が緩むのを感じながら俺はそのまま夜々を抱え、普段雷真が眠っているベッドに横たわらせてやった。

 

 

翌日。

雷真がいなくても授業は滞りなく進んだが、やはり昨日のことがあるからか周りの生徒の集中力は完全に薄れていた。

そして、夜会2日目を迎えた。

今日は昨日勝ち残った第99位と第98位......詰まる所ロキとフレイの姉弟試合がある。

昨日雷真に致命傷手前の傷を負わせたロキだ。

俺はフレイに

 

「上位は下位に対してサボれるんだ、俺の番が来るまで待てよ」

 

と提案してみたがフレイは首を振り、

 

「大、丈夫......たぶん、これは私が乗り越えなくちゃダメだと思うから......」

 

と敢え無く断られてしまった。

仕方なくシャルの隣に座って舞台を見守っているわけだが......。

 

「おい見ろよ、剣帝陛下はやる気だぞ!」

 

「そんな気張らなくても、50位以下が束になったって剣帝陛下には勝てないってのに」

 

ひたすら野次馬にイライラしてしょうがない。

黙ってみてろと言いたいが、シャルの手前でそんなことは出来ない(お嬢様だからたぶんプライドかなにかが傷付く気がする)のでとりあえず今はなんとか抑えている。

と、ラビを連れたフレイが舞台に現れ、ロキと対峙する。

無意識に、右手に力が入った。

 

「はぁ......正直意外だ、あんたは現れないと思っていた。この戦いから逃げるだろうと」

 

「そんなこと、しない......」

 

「ガキの頃からあんたは何をやっても鈍くて、不器用で、その上諦めが早かった。いつも何かに怯えて、俺の後ろに隠れていた。そのあんたが、俺とやり合うつもりか?」

 

「ロキは、子供の頃からなんでも出来たね。いつもはきはきしてて、頭が良くて、力が強くて、器用だった。私はロキの後ろにくっ付いて、隠れていればよかった。ロキは私を憎んでるのかもしれないけど......私は戦う! ロキの後ろにいるだけじゃ、誰も守れないから!」

 

「守る? なにを言って......」

 

「ラビ!!」

 

ロキの言葉を遮るようにして、フレイが指示を出す。

ラビが走り出し、フレイからもらった魔力で高密度の音をロキに当てに掛かるがそれはあっさりとケルビムに弾かれ消えてしまった。

 

「ぬるいな」

 

モーションもなにもない。

魔力を注いだのかすらわからないうちにケルビムからいくつもの短剣が飛び出し、ラビを切り刻んでいく。

 

「ラビ! もう一度!」

 

フレイは再びラビに指示を出すが、

 

「ぬるいと言っている!」

 

ラビが攻撃を仕掛ける前にケルビムの短剣がラビを貫いた。

その勢いのまま、ラビが地面に横たわる。

慌ててラビに駆け寄るフレイだったが、

 

「あ......」

 

そこに覆い被さる2つの影。

獲物を求めるように鋭く光るケルビムの刃。

俺は走り出していた。

 

「目を閉じろ、これで終わりだ」

 

「フレイ! ロキの手袋を奪え!!」

 

「っ!! えいっ!」

 

俺の声に叱咤されて、フレイがロキの手を掴む。

 

「なにっ?!」

 

だが、フレイの能力ではロキの手を掴んでも手袋を奪えるだけの素早さが足らず、転けてしまった。

 

「......惜しかったな」

 

足元に倒れるフレイの前にしゃがみ込み、ロキがその手から手袋を剥がそうとする。

今すぐにでも手助けしてやりたかったがこれはフレイの戦いで、部外者の俺はただ叫ぶくらいしか出来なかった。

 

「フレイ!」

 

「ガウッ!!」

 

だが、その言葉に呼応するかのようにラビが立ち上がり、ロキに向けて高音圧を放つ。

やはりそれはケルビムに弾かれたが、そのケルビムの装甲にラビが体当たりを食らわせた。

ケルビムがぐらりと揺らぐ。

 

「よくやった! ラビ......」

 

褒めようとしてそちらを見たとき、俺は思わず目を疑ってしまった。

 

「グルルル......ガアアァァァ!!」

 

巨大な咆哮が夜会の舞台に響き渡る。

照明という照明全てが衝撃波に耐え切れず割れ、辺りを照らすものは月のみとなった。

 

「ラビ......なのか?」

 

そこにいたのは確かにラビで、だけどラビじゃないとはっきり断言出来た。

筋肉が膨張し普段のラビの何倍も膨れ上がった体格、ここからでも感じ取れる異常なまでの殺気......まるで獲物に飢えた獣だ。

 

「あ、れ......なに、これ? ーーぅ......ぅぁ......あぁぁぁぁ!!」

 

「フレイ?!」

 

いつの間にか獣に気を取られていると横からフレイの悲鳴が上がり、俺は慌てて振り向く。

 

「っ......フレイ!!」

 

その先ではフレイが苦しそうに喉を抑え、悶えていた。

それだけじゃない。

フレイの周りから赤い液体が浮かび上がっていた。

それら全てが獣の元へと行き、そのまま吸収されてしまう。

獣はそれをエネルギー源とし、ケルビムに連発で高音圧の攻撃を仕掛けるが、やはりそれらはケルビムの前に意味をなさず、それどころかケルビムの短剣によって傷を負っていく。

その度にフレイが苦しそうな声を上げ、さらに血液を搾り取られ、そしてそれは獣の活動源となり修復剤へとなっていた。

 

「くそっ、なにがどうなってやがんだ! フレイとラビはどうしちまったんだよ!! ーーロキ......っ!」

 

俺が叫んだと同時に獣がケルビムの隙を掻い潜りロキを押し倒す。

 

「ラビ......ダメっ!」

 

フレイが苦しそうな声で獣を......ラビの名前を呼ぶが理性を失ったラビに言葉は通じず、今にもロキを食おうと狙い定めする。

 

「助けるわよ!!」

 

それに見兼ねたのか背後からシャルの声と足音が聞こえてくるが、直後聞き慣れた声が辺りを一気に静める。

 

「身の程をわきまえろ!!」

 

「キンバリー先生!!」

 

思わず振り返ってみるとやはりそれはキンバリー先生で、キンバリー先生はゆっくりとこちらに近付いてきていた。

 

「夜会の舞台に立てるのは招待された者だけだ。呼ばれてもいない舞台に上がるのは無作法というものだぞ」

 

「そんなことを言ってる場合ではーー」

 

「良いから引っ込め。適任の者がいるんだよ」

 

「は......?」

 

「へ?」

 

キンバリー先生の根拠のない言い分に思わずシャルと声が重なった。

次の瞬間ーー

 

背後でドスッという音がした。

 

「なっ?! ーー雷真!!」

 

「あの......バカ!!」

 

「俺も混ぜてくれよ。ダンスの相手がいないんだ」

 

その先には夜々に支えられ、顔が引き攣っているもののラビを蹴り倒した雷真がいた。




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第二十七話:幻を見ているような

化学の授業でトランスって言葉が出てきたから衝動的に辞書で調べてみた
trance(状態)
《一時的な神がかり状態》
ホントは化学でいうトランスはまた別の意味なんだけど、この意味にものすんごい衝撃を受けた

本文修正(6/7)


理性を失い、凶暴化したラビの唸り声が場を支配する。

そんな中、ただ一人だけはやる気というか使命感に溢れていた。

 

「行くぞ、夜々! 吹鳴二十ーーぐっ!」

 

魔術を発動しかけたところで何故かロキに体当たりされ、雷真がゴロゴロと無様に地面を転がる。

 

「っ......なにしやがる!」

 

「こっちの台詞だ。部外者が出しゃばるな」

 

が、ロキは大して気にした様子を見せず、それどころかむしろそう言い放った。

そのままケルビムに指示を出そうとするロキだが、雷真もやられっぱなしは嫌なのか体当たりしかえす。

が、やはり怪我人だからか雷真の力は弱く、それはロキをよろめかせるだけに終わった。

 

「なにをする」

 

「こっちの台詞だ! なにをする気だよお前は!」

 

「貴様はバカか。ラビを止めるに決まっているだろ」

 

「バカはお前だ。お前が攻撃するとその分フレイの命が縮むんだよ!」

 

「貴様はなにもわかっていない。バカは黙って俺のやることを見ていろ」

 

「お前が見てろ」

 

「いいや、貴様だ」

 

そんなくだらない言い争いに腹を立て、俺は思わず叫ぶ。

 

「んなこたこのことが終わってからにしやがれバカ! お前らがそんなことしてるうちにフレイの命が削れてんだぞ! 早く助けてやれよ!」

 

「ふんっ、貴様に言われなくてもそうする」

 

「わかってる!」

 

俺の声に2人が同時に反論し、雷真が走り出しながら夜々に指示を出してラビを抑え込む。

ロキもまた同じようにケルビムに指示を出し、雷真に襲い掛かる高音圧の攻撃をその身で守ってくれていた。

 

「......あいつら仲が良いんだか悪いんだか見当もつかねぇな......」

 

その様子に思わず呟いている間にも雷真が倒れ伏すフレイを抱きかかえ、ここからじゃ暗くてなにも見えなかったがフレイの意識を奪う。

すると同時にラビが気を失い、膨張した筋肉が急速に縮んでいった。

 

「やった、終わった......ッ?!」

 

嬉しさのあまり声が漏れたその直後。

ラビのいたるところから血が噴き出し、肉片が飛び散った。

 

 

夜風が俺の服越しに肌を撫でる。

そこにはかすかに血の臭いが混ざっていて、それがこの場で起きた2つの出来事を現実だと知らしめていた。

 

「......なぁ、アジーン」

 

今日は珍しく頭の上ではなく、右肩に留まっているアジーンに呼び掛ける。

 

「ん?」

 

「俺、夜会やめようかと思う」

 

「急にどうした」

 

「なんか、さ。フレイとロキを見てるだけでもこんなドロドロしたのが背景にあってさ、遊びでやっちゃいけないような気がしてきたんだ」

 

「怖気付いたのか」

 

「まぁ......そういうことになんのかな。暇潰しで勝ち進んで、真剣にやってる奴の想いを踏み躙るの、怖いんだ」

 

「私はどちらでも構わない。お前の好きなようにしろ」

 

「ごめんな、アジーン」

 

「......」

 

それ以上アジーンはなにも喋ってくれず、自然と沈黙が辺りを支配する。

 

「ーー医務室、行こうか」

 

その言葉にアジーンが右肩から離れ、パタパタと翼を動かし始める。

俺は踵を返して夜会の舞台を後にし、廊下を渡って医務室前に来ると壁に凭れながら座り込んだ。

 

「雷真!」

 

ほとんど無音の中、やがてガチャリと扉が開き俺は反射的に立ち上がる。

 

「フレイとラビは?」

 

「2人とも大丈夫だ。ラビのほうは硝子さんが手当てしてくれたし、フレイのほうも医務室の先生が手当てしてくれたよ。今は2人とも眠ってる」

 

「花柳斎か......」

 

やはりいろりや夜々、小紫をあれほどまでに人と区別のつかない自動人形(オートマトン)を作り上げたのだからその腕は半端なものじゃないのだろう。

性格は気に食わないが、そんなレベルの人間が手を加えてくれたなら安心出来る。

 

「リュウは寮に戻らないのか?」

 

「いや、フレイが目を覚ますまでここにいる」

 

「そうか」

 

それを最後に、雷真と夜々の足音がだんだんと小さくなる。

俺は一度その場に座り込むがすぐに立ち上がり、目の前にある扉に手を掛ける。

 

「......」

 

病人がいる部屋に入っていいものか一瞬悩んだが結局中に入り、横たわるラビの前で胡座を掻いた。

同室にフレイはいないので、他のところで眠っているのだろう。

 

「早く目を覚ませよ。フレイが起きたときに元気な顔見せてやろうぜ、な?」

 

頭を静かに撫でながら、ラビに話しかける。

そのうちに瞼が重くなってきて、俺は睡魔に身を委ねた。

 

 

「リュウ......」

 

不意に名前を呼ばれ、寝ぼけ眼のまま声のした方を見る。

と、そこにはフレイが立っており途端に目が覚めた。

 

「フレイ......! もう起き上がって大丈夫なのか?」

 

「うん......大丈夫。ありがと」

 

「よかった......」

 

「心配かけてごめんね......?」

 

言いながらフレイが横に座る。

 

「気にすんなよ。それに......俺はなに一つお前にしてやれなかった。ラビが暴走したときも、ラビがロキを押し倒したときも、なにもかもだ。ロキと雷真が全部担ってくれたんだ、俺はなにもしてない」

 

「でも......ラビのこと見ててくれた。私はそれだけで十分だよ」

 

「......ありがとなーーさてと」

 

小さく意気込み、俺はグッと立ち上がる。

 

「雷真に知らせてくるよ。あいつにもちゃんと知らせてやらないと」

 

「うん」

 

「ロキにも知らせとくか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「そか。じゃ、また後でな」

 

微笑みながら手をひらひらと振り、俺は部屋を出て寮へと戻る。

途中時計で時刻を確認してみたが、フレイが来るまでの間寝ていたというのにも関わらずあまり時間が経っていないことに気が付いた。

雷真が死にかけたり、ラビが暴走したりと現実味のないことが多過ぎて疲れたんだろう。

やがて姿を現した寮はなんだか懐かしい気がして、ほんの少しだけ心が落ち着く。

 

「雷真」

 

そのままいつも通りに自室の扉を開け、彼の名を呼ぶ。

雷真はとても落ち着かない表情を浮かべていたが、俺を見るとそれはすぐに消えた。

 

「フレイが目を覚ました」

 

「わざわざ知らせに来てくれたのか?」

 

「あぁ、なんたってお前とロキが助けたんだからな。知らせないわけにはいかねぇだろ」

 

「すまない」

 

そう言って雷真が部屋から出て行く。

1人取り残された俺は久しぶりにベッドに寝転び、仰向けで天井を見上げる。

その隣にアジーンが着地し、体を丸めて寝る態勢を取る。

 

「......フレイの元へは」

 

「ん?」

 

「フレイの元へは戻らないのか?」

 

珍しくアジーンからそんな風に切り出され、俺は驚きつつも生返事を返す。

 

「あー、うん......後で戻るよ。今はちょっと、1人でこうしてたい」

 

「リュウ......?」

 

なにか勘付いたらしいアジーンが不安気に俺の名を呼ぶが、俺はクスリと笑いながら否定の言葉を口にする。

 

「大丈夫、アジーンが心配するほどのことじゃねーよ」

 

「そうか......」

 

そう言ってアジーンが口を閉ざす。

だが、それはアジーンを心配させたくないだけで俺は自分に違和感を覚えていた。

何と言うか、胸の奥がじわじわする......そんな感覚がしていた。

 

「......ん」

 

瞳を閉じて精神を落ち着かせているとその感覚はゆっくりとだが確実に消え、俺は起き上がり伸びをして体を伸ばす。

 

「お待たせ、んじゃ行こうか」

 

「あぁ」

 

アジーンの返事を聞き、俺らは寮を出る。

そのまま一直線に医務室へと向かうが、その廊下で窓越しに空を眺めているシャルがいた。

 

「シャル?」

 

俺の声にシャルが気が付く。

 

「リュウ......」

 

「こんなとこでなにしてんだ?」

 

「......なんでもないわ」

 

俺の問いに、しかしシャルは首を振り視線を元に戻してしまう。

なんとなくそんな気がして、先に医務室を覗いてみると中はやはりと言うか静かに寝息を立てるラビのみだった。

 

「嘘つくなよ。なんで雷真とフレイがいねぇんだ」

 

「......バカはバカらしくそれなりの行動を起こしてるわよ。それも現在進行形でね」

 

思わず頭の中にハテナが浮かび上がるが、すぐに消滅し別のことが浮かび上がってくる。

 

「は? ーーまさか」

 

「そのまさかよ」

 

シャルに肯定され、謎の笑みが零れる。

 

「......フハハ、あんにゃろ、俺にはやめとけ言ったのにフレイの家族を拉致しに行ったのか?」

 

「ちょ、ちょっと。大丈夫なの? なんか顔が引き攣ってるわよ......?」

 

「あぁ、大丈夫。雷真を一発殴れば戻るから」

 

「そ、そう......」

 

「んで? なんでシャルは行かなかったんだよ」

 

「わ、私は別に.......リュウもどうせ行くんでしょう?」

 

なんとなく誤魔化された気がしたが、とりあえず問われている内容に頷く。

 

「まぁな。雷真が言ってたんだ、ヨミ達自身を作った人間が20年前魔王の座に手を掛けた男だって。ここで下から二番目(セカンドラスト)とか言われてる奴がそんなのに太刀打ち出来るなんて思わねーもん。また死にかけで帰ってきても困るしーーフレイは今どこに?」

 

「フレイならキンバリー先生と一緒よ。って言っても、そのキンバリー先生がバカを連れ戻しに行っちゃったわけだけど」

 

「じゃあフレイは雷真達とおんなじとこにいんのか?」

 

「えぇ。そういうことになるわね」

 

「ありがと、助かったよーーアジーン」

 

「あぁ」

 

アジーンの返事を待たずに俺は走り出し、ふと気が付いてシャルの姿が見えなくなる角の手前で止まって声を張り上げた。

 

「一緒に来なくて平気か?!」

 

すると僅かな躊躇いの後、

 

「......私も行っていいの?」

 

そんな許可を請うような声が聞こえクスリと笑えてきてしまう。

 

「行こうぜ。バカ殴りにさ」

 

手を差し出し、シャルがわざわざ走ってまでそれを掴んだのを見て俺らは走り出した。

 

 

彼女の視界の中で、倒すべき敵だと認識していた相手が、憎まれているとずっと思っていた弟が、自分のためだけに“お養父様”と呼んでいた人に傷付けられていく。

 

「っ......」

 

その度に彼女の心にはトゲが刺さり、抉れ、削れ、目を逸らしたくても2人のことが気になって逸らせず、口元を覆うだけに留まってしまう。

 

「ふん、苛立たしいものだな、飼い犬に手をかまれるというのは」

 

地面に倒れ伏す2人......雷真とロキを見下しながらこの事柄の発端であるブロンソンが吐き捨てる。

 

「黙れ......この外道が......グッ!」

 

ロキは必死に悪態をつくが直後力強くブロンソンの足の下に置かれる。

 

「お前は最も完成した個体だったんだがな......わざわざ新大陸にまで赴きつまらない小細工までしたというのに、残念だよーールシファー、ついでだ。2人とも始末しろ」

 

「がはっ!」

 

ブロンソンが最後の一発にロキを強く踏みつけ、ある程度離れたところでルシファーと呼ばれた、ケルビムと同型機の金色の自動人形に指示を出す。

 

「っ......もうやめて!」

 

彼女......フレイはその言葉に最悪の結果を想像してしまい、耐え切れなくなって物陰から飛び出す。

 

「フレイ......!」

 

その傍でブロンソンを捕らえる隙を伺っていたキンバリーが小声でフレイの名を呼ぶが彼女には届かなかった。

 

「フレイ......?!」

 

「......あんたがなんでこんなとこにいる」

 

自身の背後で驚く声が聞こえてくるが、フレイは口元をギュッと結びブロンソンただ1人を見つめる。

 

「ククッ、素晴らしい姉弟愛だな。どちらにせよお前達はもう出来損ないの部類なんだ。養父の義理で一緒に送ってやる。まずはお前からだ、フレイ」

 

ブロンソンの背後にルシファーがサッと位置につく。

ケルビムとはまた違った、鳥の羽根を彷彿とさせる短剣がフレイの元へ一直線に向かう。

あまりの恐ろしさにギュッと目を閉ざしてしまう。

 

「フレイ!!」

 

「っ! フレイ!!」

 

雷真とロキ、2人が自身の名前を呼ぶ声が聞こえてくるが、どういうわけかいつまでたっても意識は立たれなかった。

 

「ーーへへっ、間一髪ってヤツか?」

 

そのことに疑問を覚え恐る恐る目を開けてみると、目の前には口端から血が零れ、薄ら笑いを浮かべるリュウがいた。

 

 

 




前話でのお気に入り登録ありがとうございました

(結局原作なしで2巻の話が終わりそうだ......)


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第二十八話:お久しぶりです

ハイチュウの期間限定完熟メロン味マジ美味い......( º﹃º` )じゅるり


区切りが悪かったので、長いです

本文編集(9/30)
タイトル編集(6/25)
なんかいろいろ編集(8/17)


(「どうだ、アジーン。あとどんくらいで着きそうだ?」)

 

アジーンにトランスを掛け、その首に跨りながら俺はテレパシーで話し掛ける。

その背後には、やはり同じドラゴン使いだからか慣れた様子でアジーンに跨るシャルがいた。

 

(「もうじき着く」)

 

(「ん、了解」)

 

そう返事をしている間にもアジーンの記憶を覗いたときに見た建物が現実のものとなって視界に映る。

 

「なによこれ?!」

 

が、あのときに見たものと同じものだと認識出来ないほどそこは荒れていた。

 

「ひでぇな......雷真の野郎、やらかしやがって」

 

死体が目を覆いたくなるほどある。

壊れた自動人形も少なくなく、あちらこちらには衝撃で生まれたクレーターも存在していた。

まるで“レンジャー3連戦”の跡地みたいだ。

......まぁ眼前に広がる光景よりもあれのほうが酷かったけど、たぶん。

そのまま空を滑空していると建物を1つ越えた先で3人とそれぞれの自動人形を見つけた。

そのうち2人は何故か滅多打ちにされて地面に倒れている雷真とロキだと分かったが、もう1人がイマイチ分からない。

初めて見る顔だが、あの2人が戦っていたところを見るとあれが『20年前に魔王の座に手を掛けた』という男なんだろうか?

 

「フレイ?!」

 

シャルの声に俺はとっさにフレイの姿を探してしまう。

 

「どうしてあそこに? キンバリー先生は一緒じゃないのかしら?」

 

と、フレイの姿はすぐに見つかったが彼女は雷真とロキの前に立ちはだかり、男の行いを止めにかかるような構造だった。

ケルビムと色違いの自動人形を背後に控えた男が何かを言い、そのまま自動人形に指示を出す。

 

「っ!」

 

瞬間、頭の中で何かがデジャヴった。

たぶん、前世で読んだ漫画とか見たアニメの影響なんだろう。

気が付けば俺はアジーンから飛び降り、重心をなるべく下にして急下降していた。

 

「リュウ?!」

 

「リュウ!!」

 

シャルとアジーンの呼び声が頭上から聞こえてくる。

 

「グッ......」

 

が、時すでに遅し。

全身に幾つもの鋭利な物が突き刺さり、口端からツーッと血が垂れてくるのがわかった。

 

「ーーへへっ、間一髪ってヤツか?」

 

「な、なんで......」

 

フレイが今にも零れ落ちそうなくらい目に涙を溜めている。

俺はただ薄ら笑いを浮かべるくらいしか出来なかった。

 

「さぁな、俺にもわかんねぇよ......体が動いちまった......ま、無事で良かったわ」

 

そのまま足から力が抜け、倒れ伏してしまう。

喉の奥から血が競り上がり、堪えきれずに吐き出した。

 

「いらぬ邪魔が入ったか」

 

ゆっくりと意識が薄れていく中、冷たい声が上から聞こえ俺はしてやったりと笑う。

 

「悪ぃな、邪魔しちまって......けど、フレイを殺すんなら何度でも邪魔すっからな」

 

「ふん、そんな瀕死の状態でどう私を邪魔するつもりだ?」

 

「そいつはそんときに考えるっきゃねーだろ......」

 

「はぁ、どいつもこいつも......こんな出来損ないの個体のどこを見たらそんな風に想い入れが出来るのだろうな?」

 

その言葉に、ピクッとこめかみに力が入る。

思わず男のほうを見てしまうと、やはりと言うか男は呆れ果てた表情をしていた。

 

「出来損ないの個体......?」

 

「そうだ。体は脆く、常に怯え、なにをさせても平均以下の個体を出来損ないと言って何が悪い?」

 

「ッ!! ふざけーー」

 

思わず言い返そうとしたその直後、不意に心臓の脈が大きく波打つ。

なにが起きたと疑問を持つ前に、俺という自我が吹き飛んだ。

 

 

ブワッと異常なまでの魔力が周囲に襲いかかる。

息が吸えなくなるまでに濃密な魔力はしかし行く当てがなく、上空にいたアジーンに全て流し込まれた。

 

「きゃあっ!」

 

許容量を超えた魔力に一瞬理性を押し流され落下しかけるもなんとか持ち直し空に留まる。

 

「ちょっと、しっかりなさいよ!」

 

シャルの声に、アジーンが苦しそうな声で返事とは関係無しに自身に跨る者に呼び掛ける。

 

「......シャルロット・ブリュー」

 

「な、なに?」

 

「今すぐ私を支配しろ」

 

「え......? そ、そんなこと出来るわけないじゃない! あなたの主はリュウなのよ?!」

 

「早く!!」

 

「な、なんなのよ、全く」

 

シャルはなにがなんだかわからないままアジーンに魔力を送り込み、とりあえず強制支配(フォース)する。

と、シャルの強制支配に唯一の行き先を失った魔力は炎となり、地上にいるリュウの周囲を包み込んだ。

 

「......ゥゥウウアアァァァ!!」

 

怒りの篭った唸り声が響くと同時に炎が消滅し、そこから赤き竜人が姿を現す。

 

「なにが、起きてるの......?」

 

「この感覚......ようやく目を覚ましたか」

 

「目を覚ましたって......」

 

眼下で、姿を現したときから起き上がっていた竜人がジッと手前にいる男を睨み付ける。

男はしかしそれに動じず、むしろ挑発するかのような笑みを浮かべていた。

 

「......」

 

「それがどうした。異形の姿になったところで私のルシファーに勝てる者はいない。ましてや貴様は人の身、ルシファーを従えた私の邪魔は出来まーー」

 

竜人の姿が一瞬にして消え失せ、直後男の背後に控えたルシファーが小さな爆発を起こし倒れ込む。

 

「なっーー」

 

知らぬ間に男の背中へと回っていた竜人が鋭い眼光で男を捉えたあと、目にも留まらぬ速さで男の首を弾き飛ばした。

一瞬首なし像が出来上がったが、すぐさま切断面から血が勢いよく噴き出し、吹き飛んだ首が地面をゴロゴロと転がる。

 

「あれ、リュウだよな......?」

 

「あれが......?」

 

そんな目の前の光景に呆気に取られながらもゆっくりと起き上がる雷真の言葉に、ロキが復唱する。

高密度の魔力に押され倒れていたフレイがなんとか立ち上がり、怯えた表情で2人の側に寄る。

 

「あのお姿、この前リュウさんがトランスと呼んでいましたが前に見たときと違います......」

 

夜々が素直にそう言うが、それは雷真も同じ意見だった。

最後に見たのは学院に来る前、列車事故で一緒に止めた時の1回以来だが姿は似ていてもその違いは歴然としていた。

 

「雷真! ロキ!」

 

2人の近くに巨大な質量が着陸し、シャルがお供のシグムントを連れて側に寄る。

 

「シャル!」

 

暴竜(Tレックス)? なぜここに......」

 

「そんなことはどうだっていいわ。それよりもリュウよ」

 

雷真とロキの言葉を一掃し言った言葉に、その場にいる全員が竜人へと視線を向ける。

竜人は男を殺したあとから一歩も動かず、ただ辺りを見回すだけだった。

 

「リュウ......どうしちゃったのかな......?」

 

何気ないフレイの一言に、竜人が突如こちらを視界に収める。

 

『っ!!』

 

相手の怒りを買うような真似をした覚えはないはずなのに、感じたことのない異様な殺気を向けられ全員が戦慄する。

 

「......」

 

だが、竜人はさして彼らをどうこうするつもりはないようで、背中にある翼の退化したような噴射口から勢いよく炎を吐き出して空に飛び上がった。

 

「逃がさん!」

 

不意に物陰からキンバリーが躍り出て、竜人の喉元目掛けて拳銃を放つ。

 

「っ......」

 

竜人の首は竜のそれと同じような硬さを誇り、貫通はしなかったもののほんのわずかに傷を付け、それが功を成したのかそのまま意識を失い力無く地面に落ちる。

受け身を取ることなく落下した竜人の周りを土煙が覆うが、風によって吹き飛ばされ、見慣れたリュウの姿が現れる。

黒のローブを羽織ったキンバリーがうつ伏せで眠るリュウを肩に背負い、呆然と立ち尽くす4人と3体の自動人形を見た。

 

「キ、キンバリー先生......」

 

シャルが上ずった声で彼女の名を呼ぶ。

それは声を上げたシャルのみにならず、各々が表情を浮かべていた。

 

「安心したまえ。本来なら自動人形を持ち出した罪として罰則を与えるところだが、今回だけは特別だ。すぐに学院へ戻るように」

 

その言葉に安堵する者がいる中、雷真だけは複雑そうな表情を浮かべる。

 

「信じられないな、校則には人一倍厳しそうなあんたが許してくれるなんて」

 

「今回だけだ。次に同じことがあるようならそれ相応の対処をする」

 

そうして重傷の2人をそれぞれの人が支え、雷真達は荒れたディバインワークスの研究所を後にした。

そんな彼らの後ろをついていくアジーンが、更に自身の後ろにいるキンバリーをちらりと見る。

 

「友よ......いったいいつからこの世界は道を誤ってしまったのだろうな......」

 

 

一瞬、なにが起きたのかわからなかった。

急に心臓がドクンと大きく脈を打ち、気が付けば俺はいつかの真っ白な空間に辿り着いていた。

 

「......なに、また俺死んだの?」

 

ここに来るのは2度目だ。

そして今、こちらに背中を向けている奴と会うのも。

 

「久しぶりじゃのぅ、リュウ」

 

「今度はジジイキャラ?!」

 

思わず大声で突っ込んでしまい、神にケタケタと笑われてしまう。

 

「嘘だよ。ちょっとやってみたかっただけ」

 

言いながら口の周りについている白髭をビリビリと剥がし、イタイと呻きながら髭のあった部分を摩る。

粘着タイプなんですね、はい。

よくあるよ、スネにガムテープ貼ってビリッと剥がすイタズラ。

 

「で、なんで俺こんなとこにいるんすか」

 

「あーそうそう。ちょっと物は相談でな。今度はハンデなしで転生してやるから、もう一回人生やり直さん?」

 

「......わんもあたいむぷりーず」

 

「デスよねー」

 

んー、と困った表情を浮かべながら神が後ろに手を回し髪の毛をわしゃわしゃと掻き毟る。

神が髪を掻き毟る......やべー、ちょーツマんねー。

 

「急になんなんすか。まぁ確かに? 俺転生してから罪償うとか言っといてなんもしてませんけど?」

 

「いや、それはあんまり問題じゃない」

 

「問題じゃねぇの?!」

 

「あー、もーめんどいな」

 

どうやら踏ん切りが着いたらしい、神が上げていた手を下ろし口を開く。

 

「うん、めんどーなら俺呼ぶなよ」

 

「そう言うなって。んで、はっきり言っちまうけどお前がこのまんま『リュウ・ヴォルフィード』としていると転生先の世界が滅ぶ可能性があるんだよね」

 

「おっと?」

 

「こればっかりはたまたま運の糸と糸とが絡まっちまって起きた出来事だからお前に難はねぇんだよ」

 

「だからハンデなしで新たに転生しろと」

 

「そーゆーこと」

 

話しているうちに段々と状況が掴めてきた。

たぶんだが、今こうなってる原因としてアジーンが絡んでる気がするんだよな。

アジーンとリンクした俺がいつかアジーンの一部になって、下手したらまたドラクォとおんなじことを繰り返そうとしてるって。

 

「ヤダ」

 

「やだ?!」

 

「うん、ヤダ」

 

「な、なんでまた......」

 

「最初に言ってたじゃん。転生先はランダムだって。そん中で大好きなゲームの世界観がある世界に転生出来たんだぜ? また転生するんならいろいろとやり残してきたこと潰してからがいいわ」

 

「なら、今度は転生先の世界を選ばしてやる。おまけに3つぐらい特典付けてやる。これならどうだ」

 

「なんかそれチート感半端ないからヤダ」

 

「えぇー......うーん、なんか他に良い案ねーかなー......」

 

頭を抱え、うんうん唸る神を尻目に俺は大きくあくびをする。

 

「なー。もう帰らしてくれよ」

 

「それはダメだ」

 

「はぁ......」

 

即答で断られ、ため息が出る。

と、不意に頭の中を一つの考えが浮かんだ。

 

「あ、じゃあさ。俺がなんとかして今転生してる世界が滅ばないルート行きゃあいいんだろ?」

 

「無理無理」

 

「ひでぇ! 信用されてねぇじゃん俺!!」

 

「今回ばかりはちっと違うんだな。下手したらお前自身の意思で世界滅ぼすかも知んねーんだから」

 

その言葉を耳にした途端、頭の中が一瞬で白くなる。

 

「へ......? 嘘だろ?」

 

「ホントホント。だからここは大人しく引いてくんない?」

 

「その前に、なんで俺が世界滅ぼすかも知んねーんだよ」

 

ぶっきらぼうにそう尋ねると、神は頬をポリポリと掻きながら口を開いた。

 

「ちょっとややこしいんだけどな。お前の体は転生したときは確かにお前のものだったんだが、まぁいろいろあってそのうちそうじゃなくなる......とまぁ簡単に言えば器ってことになんのかな?」

 

「......誰の器になんだよ?」

 

「そうだな......お前の言うオリジナルって言えばわかるか?」

 

「あ......」

 

その言葉に俺はなにも言えなくなる。

そういえば雷真にこれ以上は諦めた方がいいと言われたとき、自分でも驚くほど激情したのを思い出した。

そして変なことを口走ったことも。

 

ー“ニーナのとき”と同じようになんとかなるで済ませれる話じゃねぇんだ!ー

 

ー......“あのとき”はニーナが毒ガスを吸収して空に行かなくちゃ助けてやれなかったけど、もし今回のことで手遅れになればそれはイコール死と一緒なんだー

 

「ま、そういうわけだから大人しく他の世界に転生してくれや」

 

「......なぁ」

 

「あん?」

 

「もし俺が他の世界に転生したらアジーンはどうなる。今転生してる俺の体はどうなる」

 

「ちょうど良いとこでゴタゴタが起きてるから自然な感じで殺しといて、アジーンって自動人形は流れで壊しとく」

 

「殺すなよ、神様が! 前世も今も俺そんなこと一つもしてねぇぞ?! 俺よりかよっぽどひでぇじゃねぇか! ーーでもなぁ、そっかぁ......」

 

「なんか他にあんのか?」

 

神の問いに、俺は力無く首を振る。

 

「いや......なんで今じゃなきゃダメなんだろーなって」

 

「そりゃこういうのって早めのほうがいいだろ?」

 

「そうかもしんないけど、なんか未練があるっつーかなんつーか......」

 

「......ま、こんなこといきなり言われて不満なのはしょうがねぇけどよ」

 

「え?」

 

突然の出だしに俺はつい振り向いてしまう。

と、神が差し出してきた手の中には赤い勾玉の付いたペンダントが握られていた。

 

「こいつは......?」

 

「もし自分だけじゃどうしようもなく、誰かに頼れる様子がなかったらこいつに念じろ。俺が地上に降りてなんとかすっから」

 

「いいのか?」

 

「あぁ。悪かったな、急にこんな話持ち出しちまって。なんせ今さっき気付いたばっかだったからさ」

 

「わがまま言ってすんません......」

 

ペンダントを渡され、俺は首に掛ける。

 

「じゃ、元に戻すぞ?」

 

「はい、お願いします」

 

今度は自主的に神の前に立ち、いつかのときと同じように額を軽く触れてもらう。

 

「っ......やっぱ慣れねーな、これ......」

 

言いながら視界がぼやけ、ゆっくりと黒く染まっていく。

 

「逆に慣れてもらっても困るがな」

 

クスリと笑う神の声を最後に、俺の意識は途絶えた。




次話からはオリジナル話少し混ぜてから3巻に入ります


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第三章 Facing "Elf Speeder"
第二十九話:変態紳士。その名はクルーエル


すったかたったったーん(」・ω・)」

☆全体訂正(9/21)
 タイトル変更(9/23)
 ちっちゃな訂正(9/30)


目が覚めると、無機質な天井が視界に映った。

心なしか、寿命が縮んだような感じがする。

普通寿命が縮んだと思うときってむちゃくちゃビックリしたときとかだと思うけど、俺が今感じているのとそれは別の感覚だった。

 

「う......うぅん......」

 

辺りは暗い。

となると今は深夜帯か。

 

「ここ、は......? なにしてんだ俺......」

 

言いながらゆっくり体を起こしてみると、胸元で何かが揺れたのがわかった。

普段しない首飾りが妙にくすぐったくて、気になって手にとってみるとそれは紐の通った赤い勾玉だった。

 

「? こんなんつけてたっけーーあ......」

 

直後、フレイを捨て身で守ったことや突然意識がぶっ飛んだこと、神からよくわからん赤い勾玉のペンダントをもらったことなどが脳裏を駆け巡った。

 

「そうだ、俺......」

 

思わず辺りを見回すが深夜帯ゆえか物の輪郭が見えるだけで、あとは何一つわからなかった。

 

「目が覚めたか」

 

「アジーン......」

 

ふわりと、俺が寝かされていたらしいベッドの布団にアジーンが立つ。

 

「......あのあと俺、どうなった? なに、やらかした?」

 

たぶん、アジーンも俺が急に意識を失ったことに気付いてんじゃないかなと思いながら尋ねてみる。

 

「......それを聞いてどうする」

 

「ぇ......」

 

思わぬ返しにわずかにたじろいでしまう。

 

「別にどうもしねーけど......でも、やっぱ気になんじゃん。わけわかんないままいきなりぶっ倒れたんじゃ余計にーー」

 

「どうもしないならいい。お前が知る必要はない」

 

「......なんだよ、それ」

 

「......」

 

ぽつりと不満を漏らしてみたがアジーンはそれ以降なにも話してくれず、ただ沈黙を守るだけだった。

 

「なんか、いつもと変だ......前はそんなこと一言も言わなかったのに」

 

ちょっと子供っぽい拗ね方かもしれない。

そんなことを思いながら俺は布団を頭まで大きくかぶり口を閉ざした。

 

「......」

 

「......」

 

アジーンも俺も話さないせいで静寂が辺りを支配したせいか、さっき目を覚ましたばっかりなのにだんだんと眠くなり、俺は特に抗うことなく意識を手放した。

 

 

ガチャと扉が音を立てながら開かれる。

 

「あれ、先輩?」

 

そこから現れたのはテストの成績を報告して以来会ってなかったニーナで、彼女は手にバスケットの取っ手を握っていた。

中から赤いリンゴがちらほらする。

 

「リュウ! よかった、目が覚めたのね!」

 

俺に気が付いたニーナがトタパタと俺のそばに寄り、俺が寝かされていたベッドの下から椅子を取り出して座る。

 

「もう、3日も寝たきりのままだからてっきり死んじゃったのかと思ったわ」

 

「やめて?! 勝手に殺さないでお願いだから!」

 

これでも転生をゴリ押しする神から逃げて来た身なんだから......と心の中で呟いてると、クスクスと楽しそうに笑うニーナが口を開く。

 

「でも、その様子だともう大丈夫そうね。最初、あなたが意識のないまま医学部(ここ)に運ばれたって聞いてホント焦ったんだから」

 

「......なんか、すんません」

 

「いいのよ、別に。今こうしてちゃんと話せてるんだから、さ」

 

「ん......」

 

ふんわりとした笑みで言われ、ほんの少しだけ心が温かくなる。

 

「そういえば、先輩はどうしてここに?」

 

ふとそんな純粋な疑問が浮かび上がり、そのまま口にするとニーナの顔がキョトンとなった。

 

「......今の話聞いててわからない? というか雰囲気でわからない?」

 

「え、えっと......お見舞い......とか?」

 

「なぁんだ、ちゃんとわかってるじゃない」

 

「......先輩から見る俺の頭は猿以下ですか」

 

「ふふっ、どうかしらね?」

 

イタズラっぽい笑みを浮かべながらニーナがバスケットからリンゴを取り出し、くだものナイフで皮を剥いていく。

 

「いや、そこは否定しましょうよ?!」

 

「まぁまぁーーはい、これ。あーん」

 

「?! あ、あーん......」

 

何故か4分割されたリンゴをくれるのではなく口元へと運ばれてしまい、驚きつつも大人しく齧るとさっぱりとした甘みが口の中いっぱいに広がった。

 

「んめ」

 

「定番よね、お見舞いにリンゴって」

 

「まぁ、話にはよく聞きますね」

 

「......ねぇ。もしお見舞いにサンドイッチをもらって、そのサンドイッチに毒薬がない代わりに塩をたっぷり入れてあったり、よくわからない試薬品が入れてあったりしたらどうする?」

 

不意に真面目な顔して尋ねてきたニーナに、俺は質問の意図を理解しないもののとりあえずきっぱりと答える。

 

「う〜ん......俺なら問答無用でゴミ箱に捨てます。もしくはくれた本人の口に無理やり押し込むか」

 

と、ニーナの顔が乾いた笑みへと変わった。

 

「あはは......容赦ないわね......」

 

「そりゃまぁやられたらやり返すがモットーですから」

 

はい、嘘です。

今とっさに思い付いて言ってみた。

 

「というか急にどうしたんです? そんなこと聞いて」

 

「ううん、なんでもないの。ちょっと気になっただけ」

 

「? うん」

 

なんだかよくわからないけど、ニーナがそう言うならいっか。

 

「それじゃあクルーエル先生を呼んでくるわね」

 

リンゴを一玉、お互いに半々腹の中に納めたところでニーナが立ち上がる。

 

「クルーエル先生?」

 

聞きなれない名前に俺は首を捻る。

 

「知らないの? 医学部の先生よ。ちょっとスケベだけど、腕はいいの。フレイ......って子もあなたもその人に看てもらったのよ」

 

「へぇ......スケベなぁ......」

 

「そこに反応しないの。行ってくるね」

 

「はーい」

 

俺の返事を聞き、ニーナが部屋から出ていく。

残された俺はさきほどまでニーナと楽しく話していたせいか、なんとなくアジーンのほうを見ていた。

が、ずっと口を閉ざしたまま日当たりのいいところで体を丸めているアジーンはニーナがいなくなったところで取る態度が特に変わることはなかった。

かといって俺から話しかけようなんて気持ちが起きるわけでもないので(アジーンの態度もあるけど、自分でもわかるくらい昨日のことを引きずってる)、気付けば暇潰しにリンゴをもて遊ぶ音が辺りに響いていた。 

やがて再び引き戸が開かれ、そこからニーナと少し前なら男の俺でもかっこいいと思うような白衣の先生が現れる。

彼がたぶん、ニーナが言っていたクルーエル先生なんだろう。

 

「ふん、やっと目を覚ましたか。まったく、3日も個室を占領しやがって」

 

「......」

 

開口一番にそんなことを言われ、ぽかんと口が閉まらなくなってしまう。

 

「まぁ、その原因があの麻酔弾じゃ仕方ないのかもしれないが」

 

「麻酔弾......?」

 

気になる単語を復唱するが、クルーエルは小さく首を振るだけだった。

 

「気にするな、ただの独り言だ」

 

「......」

 

独り言にしちゃぶっそうすぎませんか、それ? と心の中で突っ込む傍ら、彼は一度も止まることなく俺のそばへと立ち、簡単に俺を診察し始める。

 

「まだ麻酔弾の作用が残ってるか......ーーでもまぁ、退院はしていいぞ」

 

その言葉に俺よりも先にニーナが声を上げる。

 

「え? もう良いんですか?」

 

「少し目眩は起きるだろうがな。あと2日も休めば普段通りに生活出来るようになる。夜会でのお前の番はまだ先だが、男の患者はなるべく減らしたいもんでね」

 

「はぁ......」

 

なんだか無茶苦茶な言い分に気の抜けた返事を返しつつ、確かにニーナの言ったとおりスケベなヤツだ、と俺はそうクルーエルを認識した。

 

 

「おわっ」

 

トータス寮を目前にして視界がぐらりと揺れ、足がもつれてしまう。

 

「っと......大丈夫?」

 

幸いニーナがすぐに手を貸してくれてなんとか倒れずに済んだものの、そろそろ体力の限界だった。

ついでに言えば我慢の限界も。

気持ち悪くて吐きそう......。

 

「あの変態医者め、なにが男の患者はなるべく減らしたいだ。仕事拒否ってるだけじゃねーか。職務全うしやがれってんだ、こんちくしょう」

 

「まぁまぁ」

 

ニーナが苦笑しながら俺を宥めようとするが、この苛立ちは簡単には収まりそうになかった。

 

「んなこと言われたって目眩なんか早々起きるかよ、普通。なんだって3回も4回もフラつかなきゃなんねーんだ」

 

「仕方ないわよ。クルーエル先生は独り言だって誤魔化してたけど、麻酔弾?だったかな。その影響だって言ってたんだしーーほら、着いたわよ」

 

そうしているうちにようやくトータス寮のエントランスに辿り着き、一応窓口を覗いてみる。

と、ツイてることに今日の監視当番はルークだった。

 

「すんません、ここまで送ってもらっちゃって」

 

「気にしなくていいの。こんなの、見てるこっちが不安になって仕方ないわ」

 

「うぅ......」

 

「ん? お、リュウ。もう体調はいいのーーその様子じゃ全然って感じだな。クルーエルに追い出された口だろ?」

 

ルークさんがこちらに気が付き、窓口から顔を覗かせる。

 

「わざわざ送ってくれたのか?」

 

「フラフラしてて見てられなかったので」

 

クスッと笑いながら言うニーナに、俺は呻きながら彼女の袖を引っ張る。

 

「笑うことないじゃないすか、先輩〜」

 

「まぁ、こんな顔色してる奴が歩いてたらそりゃ誰でも手を貸したくなるわな」

 

「え、俺そんなに酷い顔してます?」

 

「げっそりって感じだな。気持ち悪いのか」

 

「......なんでわかんの」

 

「見てりゃわかるっての」

 

「だから笑うなよ......」

 

ルークにも笑われ、俺はうぅ......と塞ぎ込む。

 

「すみません、部屋まで送ってあげてもいいですか?」

 

「構わんーーっと、これが部屋の鍵だ。よろしく頼むな」

 

「はい」

 

ニーナの申し出にルークはあっさりと許可を出し、俺は彼女に支えられながらも3日ぶり(寝てたからわからんが)の自室へ戻ってきた。

部屋には誰もおらず、授業がある関係で空いてるのかとも思ったがD-ワークスの研究所についた時点で雷真がボロボロだったことを思い出し入院中だからかと1人で納得した。

 

「はい、これ」

 

そのままベッドに座らせてもらい、水の入ったコップまでもらってしまう。

 

「ありがとうございます」

 

俺は水を一口含むと、それだけでニーナにコップを取り上げられ、彼女に布団を掛けさせてもらう。

......なんだか介護されてるみたいだ。

いや、実際にそうなんだろうけど。

 

「私はこれで帰るけど、ちゃんと横になっているのよ?」

 

「はぁい......」

 

そうしてニーナが部屋から出て行き、室内には俺とアジーンが残されるが気分が優れないせいか昼だというのにすぐに落ちた。

 

 

その夜。

月明かりが薄く照らす室内で、ゆっくりと動く物影があった。

アジーンがピクリとそれに反応し、翼を伸ばして物影の側に寄る。

 

「アジーン」

 

物影は優しそうな声でアジーンに手を伸ばし、頭をそっと撫でる。

 

「久しいな、友よ」

 

「その呼び方なんとかならないの? 普通に“リュウ”でいいのに」

 

クスッと笑いながら、“リュウ”が立ち上がる。

 

「今更呼び方を変えろと?」

 

それに釣られてアジーンも飛び、リュウの頭の上に乗る。

 

「そっちのほうが気が楽ってだけだよ......それにしても随分と表情が良くなったね。転生した頃はほとんど無口で無表情だったのに」

 

「......おそらく、この者の影響なのだろうな」

 

「リュウ君、か......」

 

ふと小さく微笑んでいた表情に陰りが見られる。

 

「どうした、宿主というのは慣れんか?」

 

「それは、ね......俺が現世に戻ることで、代わりの誰かが犠牲になるっていうのは辛いよ......」

 

「それもまた運命(さだめ)だ。気に負うことはない」

 

「そういうものなのかな......ーーそろそろ行こうか、アジーン。やるべきことは山ほどあるんだから」

 

「あぁ」

 

「......D-ダイブ」

 

アジーンの返事を聞き、リュウの体が炎に包まれる。

そうして現れたのは、ディバインワークスで見たのと同じ赤い竜人。

 

ドラゴナイズド・フォーム。

 

それはそう言う風に呼ばれていた。

 

「......」

 

リュウは無言で窓を開け放ち、そうして空中へと身を躍らせた。

 




最後あたり、なんかD-gray.manのアレン君と14番目(ネアさんです)の関係っぽくなっちゃった......
(;ω; ))オロオロ(( ;ω;)オロオロ
私はなにも悪くない!!←


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第三十話:ラピュタ? うん、ただのフラグだね

誤字修正(6/24)
→初っ端から誤字見つけた......(´・ω・`)
ちっちゃな訂正(8/29)
全体訂正(9/26)
タイトル編集(9/26)


朝日が瞼を通り越して目に染み、俺は目を覚ました。

 

「んだよ......もう朝......? ......って朝?!」

 

自分で呟いた言葉に慌てて起き上がり、そこでハッとなる。

 

「そういや先輩に送ってもらってそのまま寝たんだっけ......うー、体だりぃ」

 

目眩のせいで気持ち悪かった気分はすっかり良くなっていたが、今度は逆に寝過ぎたらしく体が重たくなっていた。

自分でもびっくりするくらい腰が痛い......。

 

「はぁ......よいしょっ、と」

 

重たい体に鞭を打ち、とりあえずカラカラの喉を潤そうとベッドから降りてシンクの前へ移動する。

そのままグラスに水を入れ一口飲んだ後、気合いに頬をぺちっと叩いた。

 

「うし、今日からまた頑張るぞ......ーーっと、ん?」

 

ふと手から変な臭いがして、クンクンと嗅いでみる。

 

「くっさ......なんだ、この臭い......俺なんかやったっけ?」

 

嗅いだことのない初めての臭いに思わず顔から手を遠ざけてしまう。

なんだか工場によくありそうな、油くどい臭いにとりあえず流水で洗ってみるがやはり臭いが臭いだけに落ちず、もう一度今度は石鹸で丁寧に手洗いする。

丁寧と言っても時間をかけるだけじゃたかが知れるだろうということで前世のバイトで覚えた手洗い方法を実践してるわけだが、まさかこんなところで役に立つと思わなかった......。

逆に言えばこんなときにしか役に立たないわけだけど。

 

「......お、取れた取れた。えっと、今何時だ?」

 

しっかり嗅ぎ直してから手を拭きながら時計を確認してみると、驚いたことにまだ7時前だった。

 

「なんだ、まだそんな時間なのかよーーうーん、講義の時間までなにしよう......? さすがにもう寝る気はしないしなぁ」

 

言いながら視線が窓の外に向き、自然と空へと移る。

 

「そうだな、久々に散歩でもして来るか」

 

そうと決まったら早速踵を返し、俺は扉へと向かう。

途中、何故か小上がりで眠っているアジーンを誘おうか悩んだが昨日一昨日(?)のことを思い出してしまい

 

「......ま、すぐ帰ってくるから別にいいよな」

 

と、結局1人で部屋を出ることにした。

 

「......とは言ったものの。どこに行こうか?」

 

トータス寮のエントランス前で右手を腰に当て、空いた手で髪の毛を弄りながら辺りを見回す。

当然ながらこんな時間帯なので辺りに人影はない。

恐らく......というより大抵の人はまだ夢の中だと思う。

こういうときに思い付くのが『寝起きドッキリ』なんだが、悲しきかな、いろんなことに巻き込まれ過ぎて部屋番号を知ってる友は0人だし、唯一のルームメイト雷真君も入院中でドッキリを仕掛ける相手すらいない。

つまるところ、気軽に会いに行ける友人もいなければ仮の目的地として図書館は選べない(こんな時間に開館してないのは身を持って体験した)し、他の施設もだいたい想像がつくので散歩するための方向性が全く見えてこなくて困ってるんです、はい。

別に当てのない散歩もありといえばありだが、俺的にそういうのは気が乗らない(というか嫌)のでこうして立ち止まっていたりする。

 

「いっそのこと散歩やめて、寮の屋上でゴロゴロしてようかな? いや、でもそれじゃあ何のために外出たんだって話だしなぁ......今から戻るのもなんか癪だし......ーーあぁ、もう! こんなことしてたら逆に時間の無駄だっての! とりあえず歩こう、うん」

 

わしゃわしゃと髪の毛を掻き毟り、寮の屋上へと向いていた視線を戻して歩き出す。

行く先が結局決まらなかったので気の向くまま適当に道を進んでいくと、気が付けば何故か学院の出入り口付近にいた。

 

「へぇ、こんな道もあったんだ」

 

辺りを見回しながら、感慨深く歩いていると、不意にD-ワークスでのあんなことやこんなこと(意味深)ーもちろん嘘だけどーが頭の中を駆け巡った。

そしてその結末を聞いたときのアジーンの態度も。

 

「......ヨミ達、大丈夫かな」

 

誰も教えてくれなかった。

いきなり意識がぶっ飛んだ理由も。

あのあとなにがどうなったのかも。

ヨミ達があそこから助け出してもらったのかどうなのかも、なに一つ。

神との会話である程度は予想出来るけど、やっぱり当事者から話を聞きたいっていうのが本音で、なのに聞いてもはぐらかされてばかりの現状に辛く感じるものがあった。

主にぼっちという意味で。

 

「......ま、そのうちわかるよな」

 

終わったことをぐちぐち悩んでいても仕方が無い。

そんなのが俺の性分に合わないのは自分でもよく知ってるはずだ。

 

ネガティブ思考になりつつある自分に気が付き、無理やりポジティブ思考へと切り替えた俺は止まっていた足を動かして今度は自身の知ってる道を帰る。

来た道なんかに帰ってみろ、迷子にしかならない自信しかないぞコラ。

と、そうしてしばらく歩いた頃だった。

 

「きゃ......っ!」

 

「は?」

 

不意に頭上から思わず漏れたみたいな声が聞こえ、空を見上げる。

 

「えぇぇ?! 嘘だろ?!」

 

女の子が降ってきていた、それもものすごい急降下で。

天空の城ラピュタみたいなゆっくりとした落ち方じゃなく、普通に重力を伴って落下する女の子が。

 

「え、あ、ちょっ?! ト、トランス!」

 

俺はとっさに魔力を練り、放出した魔力を自身に纏う。

瞬く間にいつも通りの赤い竜人へと姿を変えた瞬間、

 

ズキンッ!!

 

「あぐっ......」

 

不意に心臓を鷲掴みにされたような痛みが走り、フラッとよろめいてしまう。

 

「う、うぅ......くそったれ......ッ!」

 

俺はそれを頭を振ることで誤魔化し、おそらくここから飛び降りたであろう建物の壁を伝って女の子を受け止めた。

 

「......ふぅっ。なんとか間に合った」

 

そのまま背中にある噴出口(・・・)でそっと着地し、彼女を地面に寝かせる。

 

「えっと......こういうのって頬っぺたはマズイんだよな......? よ、よし、肩で行こう......肩で......」

 

完全に気を失ってるっぽい女の子を起こすのに一瞬セクハラという単語が思い浮かび、戸惑いつつも肩を軽めに叩こうとする。

 

「って、シャル?」

 

そこで初めて失神中の女の子がシャルだと気が付き、俺は呼び掛けながら“シャルならまぁ別にいっか”と彼女の頬を軽めに叩くことにした。

 

「おい、シャル。起きろ」

 

すると気が付いたのか、シャルの目がうっすらと開く。

 

「う......うぅん......っ?!」

 

彼女の視線が俺を捉えた瞬間驚いたように目を見開き、そして

 

「きゃあぁぁ! 変態!!」

 

パァンっ!!

 

といっそ清々しいほど音が鳴り響いた。

......俺がビンタで叩かれた音だった。

 

「いってぇなシャル!! なにすんだいきなり!!」

 

思わずカッとなってシャルに声を上げると、視線の先でシャルが手で頭を守りガクガクと怯えているのがわかった。

 

「ってあれ? シャルじゃ、ない......?」

 

パッと見シャルに似ているが、よく見てみればそもそものところで髪の毛の色が違う。

シャルの髪の毛は雷真曰く輝くような金髪だが、彼女の髪は亜麻色を宿しているのだ。

 

「お姉さまの知り合い......?」

 

女の子が俺の“シャル”という言葉に反応したのかしていないのか、そっと目を開ける。

 

「お、お姉さま? ーーあ、ほら、掴まれよ」

 

「ありがと......ーー私の名前、アンリエット・ブリューって言うの......」

 

俺の手を借りて体をゆっくりと起こし、自身の名を明かした彼女に対して俺は頭の整理が追い付いてきていなかった。

 

「え、あいつに妹なんかいたの? 初耳なんだけど」

 

「初耳......?」

 

「あ、えっと、初めて耳にする......まぁ簡単に言うと聞くって意味だ、うん」

 

「......そう、なんだ」

 

ふっ、アンリの顔に小さな陰りが見える。

 

「アンリ?」

 

俺はつい名前を呼んでしまうが、彼女は小さく首を振るだけだった。

 

「なんでもないの......」

 

「そ、そうかーーとりあえずこんなとこにいるのもあれだし、まだ早いんだ。寮まで送ってやるよ」

 

「うん、お願い......」

 

「えっと......グリフォン女子寮でいいのか?」

 

アンリが頷いたのを確認し、俺は彼女と共にグリフォン女子寮へと歩く。

 

「そういやなにをどうしたらあんな建物から落ちたんだ?」

 

ふと気になって(普通のヤツなら真っ先にこれを聞くんだろうな)俺は前方を向いたまま尋ねてみるが、何故か距離を取って歩くアンリの返事はなく、俺は白けたのを感じながら“やっぱなんでもね”と打ち切った。

それから少し歩いて女子寮へと到着した俺はアンリと一言二言交わし、一直線にトータス寮へと戻った。

 

 

「勝者、静かなる騒音(サイレントロア)!」

 

そんな審判の声に辺りの観客が歓声を上げる中、早くもフレイが夜会の舞台から立ち去ろうとする。

 

「フレイ!」

 

俺はその背中に呼び掛け、小走りで彼女の元へと寄った。

フレイがその声に気が付き、振り向いて俺の姿を認める。

 

「あ、リュウ......」

 

「お疲れさん、随分頑張ってるみたいだな」

 

「うん......この子たち(・・)が頑張ってくれてるから......」

 

「たち?」

 

その言葉に彼女の足元からガウッと犬の声がいくつも(・・・・)する。

見ればラビと同じ装甲を着けるダックスフンドが俺の足に向かっていた。

それだけじゃない。

コリー、グレートデン、シェパードもこの場にはいた。

 

「その子はロビン。あとはこっちから順にリベエラ、ルビー、レビーナって言うのーーほら、挨拶」

 

フレイの指示にラビ以外のガルムシリーズがワンッと一声した。

 

「そっか......みんな助かったんだな」

 

「うん」

 

「良かった......あ、あのさ」

 

「なぁに?」

 

「今更って感じもするが、なんでまだ夜会に出続けてるんだ? ヨミ達も助かったんだし、これ以上無理することもないだろ?」

 

ちょっと恥ずかしい気持ちを覚えつつ、頭をポリポリと掻きながら尋ねる。

 

「ふふ......ホント、今更だね」

 

「う、うるせーよ!」

 

クスリと笑みを漏らしたフレイは少し俯きがちに、けれどもはっきりとした意思が込めて教えてくれた。

 

「私やロキの心臓にはね、機巧が組み込まれてるの。それを取り除くためには魔王(ワイズマン)になって禁術が使えるようにならないとダメなんだ。私はお姉ちゃんだから、今度からは守られてばっかじゃくてロキを守る側に立ちたいの」

 

「......そっか、頑張れよ。俺も応援してやっから」

 

「うん」

 

俺は踵を返し、フレイに向かって小さく手を振る。

 

「じゃあな、呼び止めて悪かった」

 

「ううん、平気。またね」

 

「おう」

 

そうして夜会会場から立ち去ろうとしたときだった。

 

「あ、リュウ!」

 

不意に呼び止められ、振り向いてみると久しぶりに風紀委の腕章を着けたニーナが見えた。

 

「あ、先輩」

 

「体のほうはもう大丈夫なの?」

 

「えぇ、もうこの通りなんともないです」

 

「そう、良かったわーーリュウはこの後用事とかある?」

 

その言葉に俺は首を傾げた。

 

「いや、別にないですけど......なんでですか?」

 

「実は、ちょっと手伝って欲しいことがあって......ホントは病み上がりのあなたに頼むべきじゃないのはわかってるんだけど......」

 

「厄介な仕事、ってことですよね?」

 

言いながら風紀委の腕章に視線を送ると、彼女は小さく頷いた。

 

「......わかりました。俺に出来ることならなんでもやりますよ」

 

「え......? ホントにいいの?」

 

「はい。先輩には寮まで送ってくれたこともありますし」

 

途端にパッと笑顔を浮かべたニーナが

 

「ありがと! それじゃあ案内するからついてきて!」

 

「うわっ! ちょっ、先輩!!」

 

そう言って予備動作もなしにグッと腕を引き、俺は思わず転けそうになりながらも彼女にについていった。



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第三十一話:魔術喰い再来?!

全体編集(9/30)
→タイトル変えました(9/30)


夜会会場からニーナに腕を引かれ、連れて来られたのは魔術喰い(カニバルキャンディ)の件以降もう二度と来ることはないと思っていた風紀委主幹の執務室だった。

 

「うわぁ、なんか懐かしいなぁ」

 

本当に厄介な仕事が出来たのか、部屋は資料や本で散らかっている。

というほど汚くはないけれど。

前回よりかはかなり進歩してるのは間違いなかった。

人が違うから当たり前か(´・Д・)」

 

「にしても先輩、なんでこの場所なんですか? 他の場所でもいいのに......」

 

そんな中俺になにか見せたいものがあるらしく、資料を探っているニーナに話し掛ける。

ここにいると嫌でもあのモヤシ野郎(フェリクス)のことを思い出すので出来れば違う場所にして欲しいんだな。

と、

 

「そういえば言ってなかったわね.....フェリクスもリズもいなくなった今、実質上私が主幹のようなものなのよ」

 

「マジで?!」

 

ニーナの発言に、俺はつい脊髄反射並に反応してしまう。

確かにモヤシ野郎がいなくなってから誰が主幹務めてんのか気にならないこともなかったけど、知り合いが似た立場にいたことには正直に驚いた。

なんとなく誇らしくなるのは仕方がない。

 

「まだ手続きは踏んでないけれどねーーはい、お待たせ。これをちょっと見てくれないかしら?」

 

ようやく見つかった資料をニーナが俺に寄越し、俺はそれに視線を向ける。

 

「これですか? ーーっ......んだよ、これ......?」

 

それは、一枚の写真だった。

自動人形の腹部に開けられた、焼けたような跡。

辺りに飛び散った部品。

 

まるで魔術喰いの事件を彷彿させるような現場のソレだった。

 

「......また、魔術喰いでも現れたんですか?」

 

自分で聞いておいて、すごくバカな質問をしたと思う。

魔術喰い......フェリクスは雷真にフルボッコされてもう学院からは居なくなったはずだ。

それが停学になったのか退学になったのか、はたまた自主退学をしたのか見当もつかないが、あれ以来フェリクスの顔を見ていないと言うことだけはハッキリとしている。

 

「ううん。フェリクスはもうこの学院にはいないもの、それはありえないわ。それに魔術喰いのときは心臓......つまり魔術よね、それが飴玉みたいに綺麗に抜き取られていたけれど、今回は手口こそ似てるもののそういうわけじゃないのよ。犯人の意図はわからないけれど、今のところ心臓は無事だから技師に頼んで直してもらっているわ」

 

その言葉にホッとする。

ニーナの説明にあったように魔術喰いの場合は心臓がやられていたので被害にあった自動人形も直せず仕舞いだった。

そうやって考えれば自動人形が失われなかっただけまだマシかもしれない。

 

「良かった......」

 

「でも、これだけじゃないのよ」

 

「まだあるんですか?」

 

「残念ながら、ねーーはい、これ」

 

「......」

 

更に渡された写真は全部で10枚以上に上り、内半分は別アングルも含め、背景からして外で襲撃されたんだとすぐにわかった。

が、残りの半分は俺の見間違いだと思いたいが、寮の一室を背景に写真が撮られていた。

 

「今日のお昼に同じ風紀委の知り合いからこの話を受けてね、実は昨日の夜から起きてるみたいなのよ」

 

「昨日の夜から?!」

 

「えぇ......おまけに外だけにとどまらず寮内へ侵入、学生達の寝込みを襲ってるから被害数は早くも10数体に及んでるわ。ホント、魔術喰いのほうがまだ可愛かったぐらいよ」

 

「魔術喰い、か......」

 

そういえば魔術喰いのときは破壊された自動人形の他に行方不明者が20人くらい出たんだったっけ......。

 

「人形使いのほうは無事なんですか?」

 

「それについては安心して良いわ。犯人は必ず人形使いの意識を刈り取ってから犯行に及んでるみたいでね。それも用があるのは自動人形のほうだけらしくて、どの件も必ず使い手は半壊した自動人形の近くに寝かせられてるわ」

 

「じゃあ目撃証言とかないってことじゃないですか......」

 

「そこが私達も動けない理由なのよね......当たり前、って言われたらそうなんだけれど」

 

はぁ......とニーナが重たいため息を吐く。

 

「あの、先輩」

 

俺の呼び掛けに、彼女は“なぁに?”と顔を上げる。

 

「俺は、主になにをしたらいいですか?」

 

「そうね......ホントは一緒に事件を解決して欲しいんだけど、リュウには、あの魔術喰いを倒した赤羽雷真って人にどうやって魔術喰いの正体がフェリクスだってわかったのかそれを聞いてきて欲しいのよ」

 

「あのー、俺一応現場を目撃したんスけど......?」

 

「現場を目撃したじゃ、なんの参考にもならないでしょう?」

 

「まぁ、そりゃそうかーーわかりました。雷真に聞けばいいんですよね?」

 

「うん、お願いーーところで雷真って呼び方が随分親しい感じがするけれど、もしかして知り合い?」

 

その言葉に、俺はつい吹き出した。

 

「知り合いもなにも、ルームメイトですよ」

 

「そうなの?!」

 

「はい。でも、雷真は今入院中なんでまた明日聞いてみます」

 

「わかったわ、私のほうも出来る限りのことはするね。ホント、ありがとね」

 

申し訳なさそうな表情を浮かべたニーナに俺は小さく微笑んだ。

 

「任せてください」

 

そうして部屋を出ようとしたとき、ニーナに呼び止められた。

 

「先輩?」

 

「その......あともう一つ聞いてもらってもいいかしら?」

 

 

「ただいま〜」

 

寮の扉を開け、言いながら俺は無意識のうちに靴を脱ごうとして慌てて履き直した。

たまにやるんだよな、こういうの。

前世じゃそれが当たり前の世界だったから、今でも癖が抜けなくて困る。

確か雷真の故郷もそういう習慣のある国だったっけ?

あんま覚えてないけど。

 

「随分と遅かったな、決着がつかなかったのか?」

 

パタパタと羽ばたき、ここ最近必要なこと以外話してくれなかったアジーンが顔を覗かせて珍しく話を振ってくれる。

 

「いや、決着はすぐに付いたよ。俺が遅かったのは別の用事」

 

雷真が入院している関係で夜々もいない広々とした部屋で大きく背伸びする。

 

「別の用事?」

 

「あぁ。なんか昨日の夜からだってのに、自動人形が半端ないペースで破壊されてる事件が起きてるみたいでさ。俺もそれを手伝おうと思って」

 

そのまま元俺のベッド現夜々のベッドに寝転がり、布団を肩にまで掛ける。

 

「......それがいったいどうしたら寝るという結論に繋がるのだ」

 

冷静に突っ込んできたアジーンに、俺はふと思って口を開く。

 

「つーか、わざわざ聞かなくても俺の記憶覗けば早い話じゃね? 説明すんの、地味に面倒なんだけど」

 

「だが、そうは言っても結局教えてくれるのだろ?」

 

「性格わりぃなぁ......ま、別にいいんだけどーー俺の場合どうやって魔術喰いを暴いたのかを雷真から聞くだけだから、どっちにしたって明日になんなきゃ動けんのよ」

 

「なるほどな」

 

「ホントは深夜に様子見をしたいんだけど、今日はさすがに眠い」

 

「もうそんな時間か」

 

俺の言葉を受けてアジーンが時計を仰ぐと、時刻はすでに0時を回っていた。

 

「夜会の後だったし、仕方ねぇよ」

 

言いながら布団の中でもぞもぞとし、横になって体を丸める。

 

「あ、アジーン。隣来るか?」

 

「......遠慮しておく」

 

「ちぇっ、良い抱き枕が出来ると思ったのにーーんじゃ、おやすみ」

 

「だから遠慮すると言ったのだーーあぁ、おやすみ」

 

アジーンと挨拶を交わし、俺はそっと目を閉じた。

 

 

「......っ!!」

 

不意に背後から異様な殺気を捉え、男子学生は慌てて振り向く。

 

「......」

 

が、それをするよりも速く首に手刀を当てられ、あっさりと意識を刈り取られてしまう。

体を支えるための力を失い、フラッと崩れ落ちる男子学生をドラゴナイズド・フォーム下のリュウは優しく抱き留めた。

直後、リュウの姿が一瞬にして掻き消えた。

地面を蹴った際に生まれた土煙はわずか、次の瞬間には

 

ガッ!!

 

と、男子学生の自動人形の腹部を貫いていた。

そのまま腕を振り上げて自動人形を空へ投げると、リュウは躊躇うことなく『D-ブレス』を放ち粉砕した。

 

「ニ体目......か」

 

隣でアジーンが呟き、『クールダウン』したリュウが小さく首を振る。

 

「さすがに対応が速いね......いくらここに自動人形が集結しているとはいえ、こうも警戒されてるとやりにくいよ」

 

「魔術喰いという似たような前例があるからな......対応が早くなるのも仕方があるまいーーそろそろ寮へ乗り込むか?」

 

「いや......今日は外で狩るよ。俺が止めない限り熱りが冷めるとは思えないけど、さすがに連続じゃ無事に帰ってこれるとは思わないからね......それになるべくリュウ君の生活を壊したくはないし」

 

「相変わらずどこまでも甘いな、お前は」

 

そんなときだった。

不意に背後からゆったりとした拍手が鳴り、リュウはとっさに振り向き抜刀の体勢を取る。

ーーが、今の彼の腰に剣はなく、それに気付いたリュウはバレないよう静かに体勢を整えていた。

 

「お見事、今のは凄く良かったよ」

 

そう言いながら近付いてくるのは、小柄で少女のような線の細い体つきをした貴族系統の少年だった。

 

「......」

 

「そう警戒しないでくれ。僕に君をどうこうするだけの力はないよ」

 

そう言われて警戒を解く人はいない。だが、リュウの本能は少年に対して危機感を覚えていた。

自分の左手をアジーンに差し出し、そこに留まらせて警戒する彼を宥める。

 

「ふふっ、利口だねーー君に少し頼まれて欲しいことがあるんだ」

 

「......なにをさせたい?」

 

「なに、簡単なことさ。これから始まるショーを盛り上げてくれるだけでいい......もちろん、断ればどうなるかわかるよね?」

 

いつの間にか少年の手の中には、数枚の写真が握られていた。

そこに映るはD-ダイブ中のリュウが自動人形を貫く瞬間。

 

「くっ......」

 

アジーンの歯噛みする声が漏れる。

 

「......」

 

リュウはただ言葉を発さず、静かに少年へと近寄った。

 

「そう、それでいいーーさぁ、ショーの始まりだ」

 

少年の嬉しそうな声だけが、夜の闇に反響した。

 

ーーリュウの表情は、ただただ悔しそうに歪められていた。

 



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第三十二話A:あんなことやこんなこと

チンタラしててすんませんした_(-ω-`_)⌒)_

全体編集(10/5)
タイトル編集(10/6)
あとがき編集(10/5)


「リュウに会った?」

 

昨日は塩入り、今日はラム酒入りのサンドイッチを食わされてくたばっていた雷真はそんなフレイの言葉をオウム返しに聞いた。

 

「うん......いつも通りのリュウだったよ」

 

「......なら、あれは一体なんだったんだ?」

 

学院(ここ)に来る前に起きた列車事故で、トランスと言いながら姿を変えてみせたリュウのそれとは似てるようで違う姿。

思い返すだけで身震いする......。

あのときはただ純粋な殺気を当てられ、動くことも声を上げることも出来なかった。

 

「......そんなもの、本人がいなければわかるはずがない」

 

ふと隣からそんな声が聞こえ、雷真はそれもそうかと呟いて天井を見上げる。

十三人(ラウンズ)の1人にして序列第99位のロキ。

先日の戦いで負傷した彼もまた雷真と同じ入院患者だった。

 

「むぅぅぅ! フレイさんばっかりズルイです! 夜々も差し入れーー」

 

「お前はダメだ。フレイもそうだが、お前はフレイよりもなにを入れるかわかったもんじゃない」

 

「うっ......」

 

話をしているのは夜々なのに、雷真の言葉に詰まるフレイ。

 

「意図的な行為くらい、気付いてるからな?」

 

「......もう、差し入れ持って来ちゃダメ?」

 

彼女がそう言ってウルウルと瞳を潤ませ始めた途端、隣からものすごい威圧感が雷真に当てられた。

夜々とロキだった。

 

「うっ......も、持ってくるなら普通のサンドイッチにしてくれ! 常識的に考えてあり得ん調味料入りのサンドイッチはいらん!」

 

「......ふん」

 

「フレイさんのばっかり......夜々のも受け取ってください〜!」

 

満足そうに鼻を鳴らすロキの傍らで夜々が喚いていたとき

 

コンコン

 

と、2度ノックされる音がした。

ピタッと静まり返る病室。

 

「よ。久しぶりだな、雷真」

 

噂をすればなんとやら......どこか緊張した面持ちのリュウが戸の前に立っていた。

 

 

「ここだな」

 

目の前にある掛け札を見てそう呟く。

講義を終え、寮に戻って早々医学部へと足を運んだ俺は“雷真がいる”という病室の場所を聞いてここに立っていた。

コンコン、と2度叩いて引き戸を引き、中へと入る。

 

「リュウ......」

 

「リュウさん......」

 

「あ、リュウ」

 

「貴様......」

 

入院中の雷真とその自動人形の夜々、そして同じく入院中のロキにお見舞いで来ているらしいフレイ......各々の反応に俺は今すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られた。

理由は嫌でもわかる......フレイを除く3人の目が見間違えようもなく怯える人間のそれだったからだ。

タイミングがあればDワークスでのことを聞こうと思ってたし、そのためにアジーンを置いてきた(最初に聞いたときあんな受け応えをして来たので邪魔されるような気がしたからだ)が彼らの反応だけで俺はほとんどを理解してしまった。

そして同時に、どうしてアジーンがあんな態度を取ったのかも......。

それでも俺は、片手を軽く上げて喉を震わせる。

 

「よ。久しぶりだな、雷真」

 

ここへは魔術喰いのことを聞きに来たのであって、事実を確認しに来たわけじゃないんだ。

 

「フレイ、隣良いか?」

 

「うん、いいよ」

 

そのままフレイの隣へと寄り、彼女の側に腰を下ろしたあととりあえず手近な話題を持ち出す。

この中でフレイが一番普通に接してくれることだけが心の頼りだった。

 

「体の調子はどうだよ? やっぱお見舞いだから、こんなもん持って来たんだが先客がいたんじゃ要らなかったか?」

 

そう言って、一度寮に戻ったときに持ってきた紙袋の中からリンゴを取り出そうとする。

ニーナからもらったその余り物だったが、ある意味いい儲け物だった。

 

「お前まで持って来たのか?!」

 

不意に声を荒げる雷真。

俺は思わず「は......?」と聞き返すが、落ち込むフレイと雷真の表情を見てなんとなく理解した。

 

「ごめんなさい......私がサンドイッチの中に余計なもの入れたから......」

 

「な、なに入れたんだよ......」

 

「塩とラム酒......」

 

そんなフレイの言葉に、俺はニーナのある台詞を思い出した。

 

『......ねぇ。もしお見舞いにサンドイッチをもらって、そのサンドイッチに毒薬がない代わりに塩をたっぷり入れてあったり、よくわからない試薬品が入れてあったりしたらどうする?』

 

(今度会ったら話さなくちゃな)

 

思わず頬が緩むのを感じながら再度リンゴを取り出し、果物ナイフで皮を剥いていく。

 

「塩はわからない気もしないがラム酒ってなんでだよ......ま、気にすんな。だいたい、俺が持ってきたのは細工できねぇただのフルーツだし」

 

「なんだ、リンゴか......」

 

「おう、俺が手料理なんか持ってきたら逆にキモいだろ?」

 

「手料理......!」

 

「確かに男の手料理は嫌だな。にしても皮剥くの結構上手だな」

 

「だろ。これでも一通りの飯は作れるんだぜ。材料がないからなんとも言えんがなーーほらよ」

 

剥き終えたリンゴを4分割にし、雷真と夜々、フレイに手渡す。

雷真とフレイは普通に受け取ってくれたが、夜々はスルーされたのが効いたのかしゅんとなっていた。

......なんだか夜々の姿にいたたまれない気持ちになってきたが、いきなり手料理の単語にだけ反応した彼女をスルーした俺らは間違ってないと思う。

 

「美味いな」

 

シャリシャリと齧りながら、雷真が零す。

フレイも同意見らしく、小さく頷いていた。

 

「だろ、まだいっぱいあるぜ。貰い物だけどなーーん?」

 

ふと背後から視線を感じ、チラリと振り向いてみるとこちらを見ているロキと目が合った。

 

「......食うか?」

 

視線の行き場所に困り、自分が食べる用のリンゴを差し出す。

知り合った初っ端からいきなり殴り合いに発展し、姉ですら容赦無いその戦いを見て俺のロキに対する印象は最悪だったが、ここは雷真とロキの病室。

よって必然的に言葉を交わす機会が生まれるわけだが

 

「......いらん」

 

ロキはそう言って手に持っていた分厚い本に戻ってしまった。

ーーやっぱこいつ嫌いだ。

 

「なぁ、雷真」

 

俺は自分のリンゴを齧りながら話しかける。

 

「そういやお前、魔術喰い見っけてボコしてたろ。なんでモヤシ野郎が魔術喰いだってわかったんだ?」

 

「......誰だよ、モヤシ野郎って」

 

「悟れ」

 

「いや、わかるけど。でも、なんで今更?」

 

「実はさーー」

 

当然とも言える質問に、俺は昨日ニーナから聞いた話を簡単に説明した。

 

 

魔術喰い(カニバルキャンディ)みたいだな.....」

 

しゃりっとリンゴを齧りながら、雷真が俺の話に相槌を打つ。

 

「そうなんだよ。で、お前モヤシ野郎のこと暴いたじゃん? だから参考程度に知りたいわけ」

 

「って言われてもなぁ......」

 

そう言って雷真が困ったようにわしゃわしゃと髪の毛を掻き毟る。

 

「あのときはハッキリ言ってフェリクスの奴がボロを出して、そのままなし崩し的に解決していったからなんとも言えないんだよな」

 

「......役立たず(ボソッ」

 

「酷い言いようだな、おい。せっかく答えてやったのに」

 

「そうですリュウさん。あのときの雷真は夜々のピンチには必ず駆け付けてくれる白馬の王子様ーーきゃっ」

 

雷真に便乗して突然変なことを言い出した夜々を、雷真が拳を落とすことで止めさせる。

 

「嘘を付くな」

 

「あぅぅ......」

 

「だって答えになってないし」

 

「そう言われても、俺からはこれしか言いようがないぞ?」

 

その言葉に俺はうーんと唸る。

 

「やっぱ深夜に探し回るしか方法がないのか......」

 

「それが一番良いんじゃないか? それで尻尾が掴めたらそこから辿っていくとか」

 

「わかった。先輩に相談してみる」

 

「あぁ。早く犯人見つかるといいな」

 

「おう、ありがとなーーんじゃま、俺はこの辺で帰るわ」

 

そう言って置き土産にリンゴを3つ、ピラミッド風に置いてから立ち上がる。

“ルームメイトなんだから一緒に消費しろ”的な。

ピラミッド風なのは気分だ。

 

「なぁ、リュウ。1つ聞いてもいいか?」

 

「あぁ? なんだよ、急に改まって」

 

らしくない呼び掛け方に、俺は早くも背中を向けていたが立ち止まって振り返っていた。

思えば、このまま立ち去れば良かったのかもしれない。

 

「お前があのとき変身した姿......あれは一体なんなんだ? トランスとなにが違う?」

 

「はぃ......? ちょ、ちょっと待てよ」

 

あまりにも抽象的過ぎる問いかけに俺の頭がわずかに混乱する。

 

「いきなりなんの話だ。全然見えてこねーんだけど」

 

「......覚えて、ないのか?」

 

「だからなにをだって」

 

だが、次の瞬間雷真がなにを訊いているのかようやく理解した。

 

「Dワークスでのこと「ッ!!」......本気で覚えてないのか?」

 

思わず笑いが零れ出る。

 

「はは......なんとなくそんな気はしてたけど、その感じじゃ相当ヤバいこと仕出かしたんだな、俺」

 

「リュウ......? いったいどういう意味ーー」

 

「ーーくどい。覚えているのかいないのか、はっきりしろ」

 

遮るかのように口を挟んできたロキに、驚いて彼のほうを見てしまうがそのまま顔を前に戻し小さく頷く。

 

「......覚えてないって言うより、急に意識がぶっ飛んだんだ。目が覚めたらここの天井......ーーなぁ、一体なにがあったんだよ? アジーンに聞いても答えてくれねぇし、ずっと気になって仕方がないんだ」

 

だけど、雷真は小さく首を振るだけだった。

 

「......いや、知らないままならそのままのほうがいい」

 

「なんでだよ?」

 

「あれは、そういう類のものだと思うからな......知ればたぶん、後悔する」

 

後悔、か......。

後になって悔やむことを言うから後悔、なんだよな。

でも、俺が今感じてるのは怖さだ。

自分のことがわからない、恐怖。

よく“自分のことは自分がよくわかる”って言うけれど、その反対みたいな感じなんだと思う。

そう言うからこそ、わからないから怖いんだ。

だから、逆に今知らなかったら知ったときのよりももっと後悔する気がする。

 

「......そうかもしれないし、そうじゃないかもしれねぇ。だけど、なにに後悔するかって言ったら、真実から逃げることだと思う。自分のことがわからないほど、怖いものはないから」

 

「......わかった」

 

そうして俺は、ようやく知りたかった真実を教えてもらった。




以前、感想でヒロインは原作から選んでほしいとありましたが上手く行きそうにないです......すんません......。
それではお疲れ様でした(=゚ω゚)ノ

|ω・).。oO(感想、評価お待ちしております)

追記
なんか編集しまくってたら内容が増え過ぎたので2段階に分けます。
なんですが、挿入のやり方がイマイチわからないので、教えて欲しいです。
お願いします。


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第三十二話B:SSにしちゃ、こんなの聞いたことないね

S―すんごい
S―サプライズ

リュウ・ヴォル「なに言ってんだ、お前?」

え?w


コンコン、2度ノックし、失礼しますと言ってドアを開く。

 

「あ、リュウ! もう聞いてきたの?」

 

中に入ると、真っ先にニーナが出迎えてくれた。

 

「すみません、先輩......あんま役に立ちそうな情報はなかったっす......」

 

「そう......困ったわね......――とりあえず好きなところに座ってて。今飲み物持っていくから」

 

「あ、はい」

 

そのままの流れで俺は適当なソファに腰掛け、ニーナはポットを手に姿を消す。

 

「リュウ、あなたって紅茶は何派?」

 

「え、俺ですか? うーん......ミルク、かな」

 

そう言うと彼女は

 

「わかったわ」

 

と言ってポットの中に水を入れだした。

今から作るらしい。

 

(「人を、殺したんだ」)

 

ニーナが来るまで退屈だからか、俺は先ほど交わした雷真、フレイそして夜々らとの会話を思い返していた。

 

(「人を......?」

 

 「あぁ......さっき聞いたろ? トランスとなにが違うって」

 

 「あ、あぁ」

 

 「リュウの言ってたトランスに、すごく似てたの......」

 

 「トランスに......? ち、ちなみにそれがどんな感じとか、わかるか?」

 

 「見た感じでは、背中に翼ではなく噴出口のようなものがありました」)

 

(背中に噴出口、か......やっぱどう考えても完全にドラゴナイズド・フォームだよなぁ......)

 

俺のトランスはブレスオブファイア4のリュウが変身した姿をイメージした姿だが、ドラクォのリュウが変身した姿は4の翼が退化して噴出口に似たなにかが背中にある姿だ。

あとは4と5の変化といえば尻尾があるかないかだが、他に違う点なんてないに等しいもんだ。

となれば雷真達が見た姿は間違いなくドラゴナイズド・フォームだろう。

 

(にしてもなんでD-ダイブなんだ......? さっぱりわかんねぇんだけど......)

 

「どうしたの? ぼーっとしちゃって」

 

いつの間にか紅茶が出来上がっていたらしい、気付けばニーナが対面するように座っていた。

俺はちょっとどもりながらも首を振る。

 

「え? あ、あぁ。なんでもないですよ」

 

「そう? ――さて、と......これからどうしたものかしらね......」

 

言いながら彼女は件の資料を机に広げ、顎に手を添えてじっと考え始める。

俺的には、もう直接歩き回って探すぐらいしか考え付かないので完全に時間を持て余していた。

 

「......ちなみに、彼はなんて言ってたの?」

 

「雷真の奴ですか? 確か、モヤ......んん゛! フェリクスのやつがボロを出して、そのままなし崩し的に解決したって」

 

「そう......確かに役に立ちそうにないわね」

 

くすっと苦笑いするニーナに釣られて俺も同じような笑いがこぼれる。

 

「でも、そうね......原作も言われてみればなし崩しって感じだったし、頼る相手間違えたかしら?」

 

(......ん?!)

 

はぁ......とため息をつきながら呟いた彼女の言葉に俺は耳を疑った。

 

(い、今原作って言わなかった? 原作って......この世界がなんかの作品だってことか?!)

 

「せ、先輩......? げ、原作って......」

 

すると彼女はへ?と顔をこちらに向け、慌てて手を振った。

 

「う、ううん、なんでもないの! あは、あはは......私たまーに変なこと口走るのよ」

 

「先輩も、転生者だったりするんですか......?」

 

原作、という単語から連想出来るのは間違いなく転生。

そして、その意味である元の作品......つまりここが既存の世界だということ。

 

「も、っていうことは......リュウも?」

 

どうやら俺の予想は間違っていなかったらしい。

 

 

「機巧少女は傷つかないと」

 

「ブレスオブファイア5ドラゴンクォーターとのクロスオーバー......」

 

互いが知ってる作品を口にして、俺らは苦笑いを浮かべる。

 

「合わねぇ......」

 

「合わないね......」

 

「それにしても、まさかリュウが転生者だったなんて」

 

「それは俺も同じですよ。先輩、というか同じ世界に仲間がいたなんて普通思いませんもん」

 

俺の場合前世の罪を後世で償うために記憶を保持、加えてその特性からということでデメリットがつく転生だったがニーナは王道転生ルートを通ったらしい。

つまるところ、神の凡ミスでぽっくり逝ってしまった彼女が望む世界へと転生させると同時に特典をいくつかもらうというアレだ。

ちなみに『機巧少女は傷つかない』という作品についてある程度教えてもらった。

 

魔術回路を搭載した機械人形、自動人形(オートマトン)を扱う人形使いを集めた英国ヴァルプルギス王立機巧学院。ここでは四年に一度、人形使いのトップを決めるための戦い「夜会」が開催される――――。

 

というのがお決まりで、ここからあらすじが展開していくらしい。

そしてこの作品の主人公は、なんとあの雷真と夜々。

あの2人が主人公とか絶対に勤まらない気がする俺はなにも間違っていないはずだ。

時系列的にはちょうど2巻と3巻の辺りなのだという。

残念ながら神からの条件により、未来のことは話してはいけないらしいので俺が知れるのはここまでだった。

 

「そういえば先輩が言ってた、サンドイッチにどうたらこうたらって話。あれに似たようなことがさっきあったんですけど、もしかして原作の内容ですか?」

 

件の話で集まったはずなのにすっかり逸れて別の話で盛り上がっちゃってるが、こんな日が一日くらいあったっていいだろ、うん。

 

「まぁ、そんなところかしら」

 

「へぇ......あ、じゃあ先輩。先輩的に、もしそんなことやられたらどうします?」

 

「え、私? うーん......我慢する、かな」

 

「......マジですか?」

 

「うん。だって、せっかく作ってくれたのにそれを無碍になんて出来ないじゃない?」

 

「でも、それは悪意がない話に限りません? フレイのは明らかに悪意しか見当たらないですよ」

 

なんて、俺らはサンドイッチの話から前世での話など夕暮れ時になるまで話し込んだ。

 

「それじゃあ、明日は時計塔の前に集合ね」

 

「へ......?」

 

突然の言葉に、俺はついぼーっとしてしまう。

 

「ちょっと、しっかりしてよ。明々後日には記念式典があるって教えたじゃない」

 

「あ、そっか! 準備!!」

 

瞬間、一昨日にした件の話以外にも別の頼まれ事があったことを思い出し声を上げてしまう。

そう、あのとき呼び止められたのはこの頼み事のことだったのだ。

 

「勘弁してよね......」

 

「すみません......」

 

「でも、ちゃんと確認しておいてよかったわ」

 

「あ、はい。えっと、時計塔の前ですね?」

 

「えぇ。じゃあまた明日」

 

「はい」

 

そうして俺は執務室を後にした。

 

 

講堂前、正装したニーナが辺りを見回しながら待ち人をしているのを見つけ俺は駆け寄った。

最近はずっとレンジャースーツを着ていたせいで、正装が動きにくい。

「先輩!」

「あ、リュウ! 遅いわよ! 急いで!」

ニーナは俺に気付くと、俺がまだ追い付いていないにも関わらず走り出してしまった。

「すみません、寝坊しちゃって!」

俺は言い訳をしながら彼女に追い付き、並行して走った。

「こんな大事な日に寝坊なんてしないでよ! もう!」

「すんません......」

申し訳なさを覚えつつも目的地である時計塔の前に辿り着くと、すでに他の風紀委員達は最後の準備をしていた。

「ニーナ、遅い! なにしてたのよ」

そのうちの一人がニーナを見つけるなり非難の声をあげる。

「ごめんね、エミリア。リュウが寝坊しちゃったみたいで」

「うっ......」

その言葉に、ニーナにエミリアと呼ばれた風紀委員の一人が俺に視線を向ける。

「へぇ、君がニーナの心を奪ったっていう子? ーー案外可愛い顔してるじゃない」

「なっ、ちょっと、エミリア!」

「えっとぉ......?」

どうすればいいかわからず、二人を見回しているとエミリアが笑いながらパンパンと手拍子を打った。

「ほらほら、仕事仕事」

その言葉に不承不承ニーナが動き出す。

それに倣って俺も出された指示に従っていく。

そうして準備が終わった頃、こういう式典にはお決まりの学院長が護衛を伴ってやってきた。

学院長の長ったらしい式辞から始まって、閉めの楽隊の演奏が始まる。

特に大した乱入もなく式典は滞りなく進められ、正直護衛とかいらなくね? と思ったときだった。

「っ!」

不意になにかの視線を感じ、式典中にも関わらず俺は辺りを見回してしまう。

「ちょっと、リュウ!」

「す、すんません......」

声量は下げてあるもののニーナに窘められてしまい、仕方なく目の前の式典に集中する。

そのときだった。

「なんだ......?!」

突然ブワッと強風が吹き、俺は風の発生源と見られる方向を見る。

「なっーーシャル?! あいつなにやって......!!」

その先にはモンハンに出てきそうな防具を装備した、巨大化しているシグムントに跨がるシャルがいた。

シグムントがシャルの指示を受けてか体を大きく反り、口内に高エネルギーを凝縮させる。

ラスターカノンを放つ気だ、そう思ったときにはすでに遅く、それは放たれた。

どーんっ、という凄まじい轟音と共にラスターカノンが時計塔に直撃する。

ズンッと地響きがしたと思えば華やかに飾り付けられた時計塔がゆっくりと......しかしそれは段々と勢いを増して傾いていった。

あまりにも突然過ぎる出来事に一瞬にして辺りがパニックに陥り、避難すら出来ない状況へと変わってしまう。

ニーナやエミリア、その他風紀委員は困惑している様子であるもののその責務を真っ当すべく混乱する式典参加者を誘導する。

「......」

俺はただなにも言えず、動けず、その場に突っ立ってるしか出来なかった。

と、

「リュウ!」

アジーンが唐突に俺の名を呼び、俺はそちらを振り向こうとする。

「うん、わかってる!」

(?!)

が、俺の体は思ってもないことを口走り、いきなり走り出してこの場を後にした。

「あの子......いったいなにを考えてるんだ......!」

明らかに俺とは違う、知らない口調。

(なにがどうなってやがんだ......?! ーーあぐっ......)

現状を理解する前に、理解しようとする前に覚えたことのない頭痛が襲い、意識が急速に遠のいていく。

「リュウ?! どこに行くの!」

(先輩......)

後ろからニーナの声が聞こえてくるが、俺の体は止まる気配すら見せなかった。

ふっ、と騒然とする辺りの音が遮断され、驚くほど静かな空間の中。

名前を呼ばれながら体を揺さぶられている感覚がして、俺はそちらを見てみると

「ボッシュ......?」

そこにはドラクォで出てくる、リュウの相棒でありラスボスでもあるボッシュがいた。

 




リュウ・ヴォル「おい、なに検索してんだ」

いやぁ、たまたま見つけた診断メーカーが面白くて

リュウ・ヴォル「そうじゃねぇ。今日からテストだろうが?! 昨日......もっと言えば4日前から教材触ってねぇよな?! 追試で更新が遅くなったらどうすんだ!!」

大丈夫、そんなことにはならない! たとえ追試になっても私は通常通り更新していくよ!!

リュウ・ヴォル「んなこと宣言してどーする!!」



|ω・)チラッ

これだけ、貼っとく!
キャラ名を入力すると、D値と職業がわかる日替わり診断メーカーでやってみたやつだよ!

・雷真=1/16、廃物廃棄抗のアリさんです。新しいディクを製作中です。
・シャル=1/8192、トリニティ・ピットの1STレンジャーです。お役所仕事に向いています。
・リュウ=1/16、最下層区の道具屋です。俺、人間やーめた!
・ロキ=1/4、メインゲートのオリジンです。どこにでもあらわれるプロの商売人です。
・フレイ=1/2048、メインゲートのメガネ研究員です。配給を期待しないでおきましょう。
・ルーク=1/256、メインゲートの統治者です。あんまり女の子のお尻をおいかけてはいけませんよ
・キンバリー=1/4096、ジオエレベータ・ターミナルの適格者です。どこにでもあらわれるプロの商売人です。
・アンリ=1/4、下層区リフトのメガネ研究員です。実は全ての黒幕です。

さらばっ|〃サッ


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第三十三話:揺らぎ

訂正前が4500文字弱に対して、訂正後が7500文字弱って......なにが起きたんだろ、自分で書いたのにw

リュウ・ヴォル「駄文だな」

褒めてくれてありがとう! 駄文なら任せて!

リュウ・ヴォル「褒めてねぇ?!」


本文訂正(10/11)
前書き追加(10/11)


「いきなりどうしたんだよ、ボーッとしちまって」

 

心配そうにこちらを覗き込むボッシュに俺はどもりながらもなんとか答える。

 

「え? あ、ううん。なんでもねぇ」

 

「そうか? じゃあ俺は先に行くからな?」

 

「あ、あぁ」

 

ボッシュは俺の受け答えに違和感を覚えたのか、首を傾げつつも更衣室を出ていく。

一人になった部屋の中で、俺はロッカーの扉に備え付けられている鏡で自分の姿を見た。

 

「なにがどうなってんだ、これ」

 

そこに映るのは見慣れた自分の顔ではなく、紺色の髪をポニーテールで結った青年の顔......ドラクォのリュウの顔だった。

念のため頬っぺたをつまんでみるが鏡の中のリュウも同じ動きをし、おまけに夢ではないことを示すかのようにちゃんと痛みもある。

 

「......」

 

加えてロッカーの中にはお馴染みのレンジャースーツがあり、なんとなくそんな気がして自身の体に視線を移してみればやはりというか上半身裸だった。

確かドラクォのオープニングでもリュウの始まりは上半身裸だった気がする。

んでこのあとは“リュウ”の剣の師であり隊長でもあるゼノから任務を言い渡されるんだよな。

それにしても、

 

「これはさすがに酷いだろ......はぁ......」

 

ため息が出ても仕方が無い状況ではある。

こんなときに出てくるのは最早無駄となってしまった前世の知識なんだが、どういうわけかそれが今になって役に立っている。

というのも、式典から今に至るまでを思い返して思い当たるのが前世で読んだ憑依系の夢小説......その導入部にそっくりなのだ。

突然ぶち込まれて、○○の世界だと気付いた主人公がなんやかんやでその世界に適応してオリジナル展開していくヤツな。

うん、まったく持って嬉しくない。地面に叩きつけたいくらい遠慮したい。

とはいえこの状況を脱するようなアイデアがないのも事実で、今の俺にはどうすることもできなかった。

 

「とりあえず着替えて隊長のところに行けばいい......んだよな」

 

もしドラクォの世界......しかも主人公に憑依したんならそれに従うのが当然ベストなんだが、あまりにも急過ぎる。

体がいきなり身勝手な行動を起こしたのもそうだし、意識がぶっ飛んだのもそう。

今俺がドラクォの世界で『リュウ』としているのもそうだし、なに一つとして問題が解決していないまま問題だけが山積みになってる気がする。

 

「......だー、もう。わけわからん」

 

はぁ......と更に重い溜息を漏らし、レンジャースーツを着て俺は更衣室を出ることにした。

 

 

大講堂の三階、夜会執行部の置かれている部屋へと勢いよく入室したリュウは四つの席のうち議長役の学生が座っている席の前に立った。

ダンッと机を叩き、目の前の学生を睨む。

傍に仕えているメガネをかけた執事が僅かに身構えた。

 

「君の仕業だろう、あの子が時計塔を壊したのは?」

 

その学生......セドリック・グランビルはリュウの言葉に肩を竦めた。

 

「気付くのが早いね。でも、ちょっと遅かったんじゃないかな? 気が付いた時点で手を打てばこんなことにはならなかったのに、どうしてやらなかったんだい?」

 

“相手のバランスを崩して墜落させたり、それこそ殺す、とかね”と、嫌な笑みを浮かべてセドリックは言う。

彼の視界の端で、リュウの手がギュッと握り締められていた。

ニヤリ、と彼の笑みが深まる。

 

「確かに、あることを命じはしたけれど直接時計塔を壊せとは言ってないよ。あれは彼女が自分で考え実行した結果だ」

 

「それじゃ答えになってない」

 

「十分答えの範疇だ。僕の仕業かそうじゃないかについて、は」

 

「なら、質問を変える。あの子になにを命令した? どうしてシャルがあんなことをしなくちゃならない?」

 

「それについてはこの間言ったよね? 答えられないって。でも......いいよ、教えてあげる」

 

「坊ちゃま、そう簡単に情報を開示してはいけません。危険過ぎます」

 

何かを悟ったらしい執事が慌てて口出しするが、セドリックの表情はむしろ楽しそうだった。

 

「気分が変わったんだ。そっちのほうがスリルがあって楽しそうだろう?」

 

「ですが......」

 

「つまらないなぁ......じゃあヒントだけにしておくよ。それぐらいならいいよね?」

 

「はぁ......坊ちゃまの脳内は相変わらずチンパンジー以下ですね。どうぞ、勝手に自滅してください。私は知りません」

 

これ以上はムダだと判断したのだろうか、執事は後ろに下がって口を閉ざしてしまった。

 

「......OK、シン。あとできっついおしおきだから覚悟しとくんだねーーということでヒントだけだ。僕的には全部教えたいけど、シンが煩いから......ね」

 

意味ありげな視線をセドリックは向けるが、執事......シンは静かに佇むだけだった。

 

「ーーさて、君も間接的にとはいえ魔術喰い(カニバルキャンディ)の件には関わってるんだっけ?」

 

「そうだよ」

 

小さく咳払いしてから話し始めた彼に対し、本題がズラされていると感じたリュウはその眼光を鋭くし睨み付ける。

だが、セドリックは怯まず自分のペースで話を続けた。

 

「なら、その件でフェリクス......いや、キングスフォート家がどうなったか知ってるかい?」

 

「......知らない。だけど、あんな大事件を引き起こしたんだ。ただじゃ済まないことぐらい、わかる」

 

「そう、キングスフォート家はあの件によってすっかりどん底さ。ところで、僕とフェリクスは昔からの仲でね。僕の......グランビル家の目的は彼らの復権を手伝うことなんだよ。汚れ者のブリュー家を使って、ね」

 

最後の一言が発せられた途端、リュウの眉がピクリと動いた。

言われてる意味がわからない......そんな表情だった。

だが、

 

「さて、ヒントはここまでだ。あとは考えればわかるはずだよーー僕としてはわかったときの君の反応が見たいところだけど、そろそろ主役が来る頃だからね......一緒にどうだい?」

 

セドリックの誘いに、リュウの目は冷たく変化していた。

 

「......いや、遠慮しておくよ」

 

「そう......それは残念だ」

 

踵を返しそのまま部屋を出て行こうとする彼へとどこか嫌な感じのする一言が発せられるが、リュウは足を止めることなく扉を通り抜けた。

 

「......」

 

その隣、肩に留まっていたアジーンが心配そうにリュウの顔を覗き込む。

 

......彼の表情はただただ、悔しそうに歪められていた。

 

 

(魔術喰いとなり事件を起こしたことで失脚したキングスフォート家を、復権させることがあの子の目的......。

なら、シャルがあの子の言いなりになっているのは間違いない。

問題はどうして言いなりにならないといけないのか......理由があるはずなんだよね、きっと)

 

トータス寮の屋上、心地よい風に吹かれながらリュウは瞳を閉じ先ほどの情報をまとめていた。

とはいえ、彼の今の本質は約2000年の時を経て蘇った魂であるため現代の政界などわかるはずもなく、ほとんど詰んだも等しかったのだが。

ふと小さな音からだんだんと大きい音へ、パタパタと羽ばたきながら何かが近付いてくる気配を捉えたリュウは瞼を持ち上げ体を起こす。

それと同時に、アジーンが彼の隣へと降り立った。

 

「おかえり、アジーン。どうだった?」

 

「どうにもなにも、笑えないな」

 

アジーンの一言にリュウはわずかに身構える。

 

「どうも、今この学院にはシャルの妹がいるらしい」

 

「っ!!」

 

瞬間リュウの頭の中で、たった一つのピース(情報)だけで全てが繋がった。

 

もし、シャルの妹を人質に時計塔を壊せと言われていたら......?

彼女ならやりかねないかもしれない......否、彼女に限らず誰だろうとやるはずだ。

直接復権させようとしているなんて言わなくても、動かなければいけない理由がなければこんなことをする必要がわからない。

それこそ自主的な意思がない限り、だ。

だいたい、彼女は魔術喰いの犯人として貶められそうになった本人だ。

復権なんて冗談でも手伝うはずがない......。

 

「今は雷真とフレイがシャルの妹を探しているーーどうやら雷真も別のアプローチで迫っているようだが......どうする?」

 

協力を仰ぐか、否か。

その答えははっきりとしていた。

 

「......いや、彼には彼なりに動いてもらうよ。リュウ君がここに来てから長い時間共にしているのが彼な訳だし、傍にいたらバレるのも時間の問題だからね」

 

「賢明な判断だな」

 

「今更おれを試すな」

 

くす、と笑いながら顎を軽くデコピンし、アジーンを呻かせたあとリュウは立ち上がった。

だが、その表情にはすでに笑みはない。

 

「......ニーナ」

 

ぽつり、と呟きながら空を見上げる。

 

青く澄み渡った空。

この体になって、何度目にしたかわからない空。

それほどまでに、空は当たり前の存在になっていた。

 

もし、おれの考えたことが事実なら......。

 

事実なら、そのときは悟らざるを得ないだろう。

この世界を歪めてしまったのは、自動人形ではなく人間そのものだと。

空を開けてしまった、おれのせいだと。

 

「......」

 

元より、魔術喰いなんて事件が起きたのもDワークスで起きた事もなにもかも、今までリュウが見てきたものは全て自動人形さえいなければ起きることのないことだった。

だからこその今までの行動であり、何度も自動人形を屠ってきた。

だが、全ての原因が人にあるのだとしたら自動人形はそれを補助しただけに過ぎないただのブーストとなる。

ニーナを助けようと、必死になって掴んだ空が人の歪みを生むなら......こんな結果になるなら閉ざすべきだろう。

この、空を。

 

「リュウ......」

 

アジーンが彼の気持ちに気付いたのだろう、心配そうに声を掛ける。

 

「あの子を助けたのは、間違いだったか?」

 

否定して欲しいという、アジーンの想いも虚しくリュウは小さく首を振ってしまう。

 

「わからない......あのときのおれなら、きっとすぐに首を振っていたんだろうな。後悔なんて、あるわけないって......でも、今は違う。おれが空を開いたせいで、こんなことばかり起きるのは耐えられないんだ」

 

「......」

 

「たぶん、おれには荷が重かったんだと思う。こんなことになるなんて思ってなかったんだ......たくさんの人の運命を背負えるほど、おれは強くない」

 

「......そうか」

 

そうアジーンが呟いたとき、下の方で聞き慣れた声が響いてきた。

もちろん、それはリュウ・ヴォルフィードの感覚であって今のリュウのものではないのだが。

 

「......でもその前に」

 

何故、パンツなのか。

それをどうのこうのという謎の会話に思わず苦笑しながら、眼下の景色へと視線を落とす。

 

「こっちのほうが先、だね。今はおれの記憶の中(・・・・・・・)に居てもらうことでなんとかなっているけれど、あとでリュウ君にも説明しなくちゃ」

 

「そうだな」

 

その先では、雷真がフレイと共にガルムシリーズを使ったシャルの妹探しをしていた。

 

 

寮へと戻ってきたのが深夜の一時過ぎだというのに、その後夜々と一戦して完全に寝不足の雷真はあくびを噛み締めながら朝食を取っていた。

もちろん、隣にいる夜々も寝不足である。

そんな雷真と夜々を不審に思った寮監ーールークはため息を吐くことで彼らの意識をこちらに向けた。

 

「雷真、お前な......いくらリュウがいないからってーーいや、よそう。俺にも経験がある。ましてやここの寮は2人用だ。知り合いの目があるところで発散なんか出来たもんじゃないもんな?」

 

「優しい目で見るな! あんたが考えるようなことは何もしていない!!」

 

「すみません、寮監さん。雷真ったら、久しぶりだからかすごく激しくて......♡」

 

「意図的に誤解を招くな! 激しかったのは俺の抵抗だ!」

 

雷真を中心とした3人の周囲から失笑が漏れる。

彼は頭痛を覚えつつ、黒パンに噛り付きながらルークへと視線を向けた。

 

「というか、どうしてリュウが昨日の夜いなかったことを知ってるんだ?」

 

驚きながら、ルークが問い返す。

 

「ルームメイトのお前が知らないのか? あいつ、昨日の式典の護衛に出てたんだぞ」

 

「記念式典に?」

 

「あぁ。あいつは寮に戻ってくるとき俺がいたら必ず挨拶してくれるからな。昨日は俺が当番だったし、姿も見ていないから帰ってきてないことぐらいすぐわかる」

 

「寮監と顔見知りとか、あいつ凄いな......」

 

「まぁ、最初があれだったからな。出会いは最初が肝心だって話は本当らしい。雷真、お前も出会いは大事にしろよ、いくら人間そっくりとはいえやっぱり本物がいいからな」

 

「だから俺はそんなことしてないって言ってるだろ!! ......はぁ」

 

手をヒラヒラと振りながら去っていくルークに対し、雷真は重いため息を吐きながら朝食を再開する。

 

「記念式典、か......おい、知ってるか? 時計塔を壊したのは暴竜(Tレックス)なんだってよ」

 

塩を振ったゆで卵を夜々にあーんされそうになっていたとき、不意にそんな声が聞こえてきて雷真はここぞとばかりに彼女の腕を下げさせ聴覚を研ぎ澄ませた。

 

「あぁ、知ってる。今度ばかりは笑って済ませられる話じゃないよな」

 

「学院の権威に石を投げたんだぜ? 極刑もんだろ」

 

「学院長が許しても、俺たちが許さねえよ」

 

「結局、暴竜は悪党だったってことだろ」

 

「じゃあ、何だよ。フェリクスの事件は......」

 

ほんの数人から始まった会話から、だんだんと収拾の着かない話へと広がっていく。

いつの間にか食堂の空気には、嫌なものが混ざっていた。

 

「あのフェリクスが人殺しをやるなんて、ちょっと信じられないぜ」

 

「ここだけの話......俺も胡散臭いと思ってたんだ。学院は政府の調査団を拒んだらしいし」

 

「暴竜が悪党なら、下から二番目(セカンドラスト)もにおうぜ。こんな時期にやってきて、まんまと夜会に潜り込んだんだ。上手くいきすぎーー」

 

ガタン、と大きく椅子が鳴り、ざわついていた食堂が一気に静まり返る。

 

「夜々、行くぞ。飯が不味くなる」

 

「は、はい」

 

雷真はわざと声を上げ、まだ食べ物が残っているトレイを持ち上げて出来る限りの片付けを済ましその場を出た。

慌てて夜々がついていく。

 

「なんだか、悔しいです」

 

外に出たところで、夜々がぽつりとその想いを口にした。

 

「気にするな、言いたい奴は好きに言わせておけばいい」

 

「......はい」

 

どこか納得していない様子だったが、頷いた限りこれ以上問い詰めなくてもいいだろう。

それよりもシャルだ。

このままでは、本当にもうどうしようもなくなる......。

 

「今日は自主休講だ。アンリに当たって、それからシャルを探す。リュウのことも気になるが、護衛に出てそのまま帰ってこなかったんだ。怪我をして医学部にでもいるだろ」

 

どこか焦りの含んだ言い方に、夜々は肯定の意を示す。

 

「わかりましたーーあ、雷真」

 

ふと声を上げた夜々の指す先、最早見慣れつつある少女の駆ける姿を雷真は捉えた。

 

「アンリだ......あいつ、またなにかやらかすつもりか?」

 

そのままアンリの進路方向を見やる。

そのとき、夜々がすっとんきょうな声を上げた。

 

「雷真! シャルロットさんです!」

 

その言葉に雷真は慌てて目で探す。

もしシャルがいるのなら、すぐそばにシグムントもいるはずだ......。

果たして、シグムントはいた。

樹のトンネル、うっそうとした梢の中で身を潜めている。

もちろんその上にはシャルもいる。

 

(なにかあるのか......?)

 

2人とも、同じ方向を見つめていた。

雷真も釣られて彼女らの方角に目を凝らす。

時計塔の跡地、そろいの制服を着て辺りに目を光らせている集団、学院長......。

雷真はほんの少し思考を巡らせ、全てを悟った瞬間駆け出した。

 

「雷真?!」

 

夜々が驚く。

彼は足を止めないまま、肩越しに振り向いて叫ぶ。

 

「お前は来るな! 硝子さんに連絡を入れろ!」

 

「えっーー嫌です! 夜々も!」

 

「いいから急げ! 頼んだぞ!」

 

夜々の返事も疎かに、雷真は視線を正面に戻し力のあらん限りに走った。

 

 

大講堂の3階、執行部スペースへとセドリックに呼ばれていたリュウは突如として鳴った音に慌てて顔を上げた。

ズンッ!という、昨日の比ではない地響きがしている。

視界の中にいる、彼を呼んだ本人も驚いたように顔を上げていたが、何かを思い出したかのようにニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ、僕の読み通りだ」

 

その言葉に、リュウは背中がゾクりとするのを感じた。

 

なにか嫌な予感がする......。

 

そして、それは的中してしまっていた。

 

 

スーッと獲物を定める瞳が細くなる。

大きなその体を茂みに潜めさせたまま、その視線は崩落した時計塔に向けられていた。

 

「シグムント」

 

強い意思の込められた声で、自身が跨がる者の名を呼ぶ。

合図。

むくりと体を起こし、その優雅な翼で空へと飛び上がったシグムントは視線の先、崩れ落ちた時計塔の検分に来ていた学院長を睨んだ。

 

「承知した」

 

シャルから注がれた魔力を自身の魔術回路で変換し、口内に高エネルギーを凝縮させる。

 

「ラスターカノン!」

 

そして、放射。

定めた狙いは的中し、時計塔の周辺が奈落の底へと変化した。

シャルが、自身の上で震えているのがわかる。

 

「大丈夫か、シャル」

 

「......平気よ。急いで隠れましょう」

 

その言葉にシグムントはただただ首を振ることしか出来なかった。

 

「すまない、シャル。そのことだが......今さら穏便に済ますのは無理のようだ」

 

直後、シグムントの後ろから銃声がなり、シャルの頬を掠める。

警備だ。

 

「くっ......シグムント!」

 

シャルが魔力を流し、シグムントがそれに応え回頭し迫り来る敵を蹴散らす。

なんとか翼を上下させ、徐々に下がりつつあった高度を再びあげることに成功したとき。

 

「ッ!!」

 

魔力の感知。

振り向けばそこには枝葉から飛び出す、警備に支給されているヘイムガーターがいた。

 

「しまっーー」

 

その指に灯される、パチパチと散る青白い火花。

触れれば一瞬で意識を刈り取るだろう高圧電力の光がシャルの体に触れようとした瞬間。

 

「あつっ!」

 

高熱のブレスがシャルのそばを通過し、そのそばにいたヘイムガーターが瞬く間に消し炭と化した。

 

「いったいなに? ーーリュウ?!」

 

放たれた方向を見てみればそこにはあの赤い竜人に姿を変えたリュウがいた。

両手首を合わせていることから、先ほどのブレスはリュウが放ったものらしい。

 

「あなた、どうしてここに!」

 

が、リュウはシャルの問いには答えずチラリと目配せをすると次々と襲いかかるヘイムガーターを片っ端から壊していった。

 

「シ、シグムント。今のうちよ、退きましょう」

 

「恩に着る」

 

シャルの言葉に、シグムントはリュウに一言言うとすぐさま飛び立った。

 

「......」

 

それを見届けたリュウは飛び掛かるヘイムガーターを数体仕留め、シャル達の後を追った。




 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | リュウは家出中 |
 |________|
    ∧∧ ||
    ( ゚д゚)||
    / づΦ


※立て札やってみたかっただけです、はい。

前回のお気に入り登録ありがとうございました。
|ω・).。oO(べ、別に感想とか評価が欲しいわけじゃないんだからね!)


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第三十四話:その決意は

残り1話......
ようやくここまでありつけた気がする......
疲れたよ......

リュウ・ヴォル「はいはい、よく頑張ったな。えらいえらい(棒)」

(。`・д・)ノワース!

リュウ・ヴォル「やめ、それ即死魔法!!」

全体修正(10/17)


そうして俺は、あの列車の上にいた。

ゼノ隊長から下された任務。

生物化学工場、バイオ公社から搬送される実験用物質。

それが積まれたリフトに同乗し、積荷を警護するという、文字に起こせば一見簡単に見えそうなイベント。

ある意味ここでのサブイベントを回避さえ出来ればリュウがニーナやリンに会うことも、ボッシュが自身のプライドを守ろうと躍起になることもなかった。

......まぁ、そんなことになりにでもしたら最早ドラクォじゃない別の何かなんだが。

ちなみに、このあと俺はトリニティと呼ばれる反政府組織の襲撃を受けリフトごと落下します、はい。

先が読めているだけにこれから起こることが怖くて仕方がない。

護衛繋がりだし、このまま落下したら元に戻ってたりしないかな?とか思っているのは内緒。

 

「リュウ......」

 

ふと、梯子を使ってリフト上部へと登ってきたボッシュが俺を呼ぶ。

 

「気楽に行けよ......なにを運んでるのかは知らないけど、レンジャーの護衛までついたリフトを襲うやつはいないさ」

 

そのまま肩を竦めながら、背後に設置されている落下防止用ガードレールに凭れかかると流れる景色をぼーっと見つめていた。

警戒心ゼロ。

エリートだからこその余裕なのか、これは。

かと言ってそんなあからさまなフラグを建てないで欲しい......まぁ、建てても建てなくてもすでに建ってる(・・・・・・・)からどっちでもいいのかもしれないが。

 

「なぁ、リュウ」

 

しばらくして、ボッシュが話しかけてくる。

内容がわかっているだけに、この自信過剰な相棒さんの話はなるべく聞きたくない。

前世でのネット上じゃ人気者だったけど、俺ははっきり言って嫌いだ。

 

「お前......手柄を譲る気ない?」

 

「はぁ? いきなりなに言ってるんだよ、ボッシュ?」

 

とはいえそんな素振りを見せればいろんなものが砕け散る気がするのでデフォっぽく驚いておく。

 

「俺の能力だと......あとは、大きな手柄があれば昇進できる......。

うまく行けば、統治者(メンバー)のひとりにだって、なれる。俺には、それだけの資格があるんだ」

 

「統治者......か」

 

「そう......ボッシュ 1/64は......この世界を統治するメンバーに、なる......ならなきゃ、いけない。ーーなぁ、リュウ。D値 1/8192だと......お前はサード・レンジャーより上には、いけない」

 

はい、自信過剰セリフキターーーー(・∀・)ーーー!!

ご馳走様です(笑)

いや、この世界観の中じゃこいつの言ってることは正しいんだけど、だからと言ってこれは酷いと思うんだ、うん。

D値って言うのはこの世界でいう当人の潜在能力値みたいなもんなんだけど、これ、ゲームをクリアしていく度にそのクリア時ステータスでどんどん上がって行くんだよね。

最下はもちろん1/8192で、最上はタイトルにもなってる1/4。

クォーターだよ、クォーター。

初めてD値1/64以上になったときのプレイじゃボッシュの台詞に思わず突っかかっちゃったもんな。

“は? こいつ何いってんの?ww 明らかに俺のほうがD値高いんですけど?ww”的な。

そういえばとあるブログで、間接的にだが開発者さんが“時間があればD値1/64より上の場合に「へへっ、リュウせんぱーい(揉み手)」と唐突にへりくだるボッシュを入れたかった”と言っていたそうな。

あれはマジで見たかったorz

でも、そうやって考えたらずっとサードレンジャー(  したっぱ  )止まりってなんなんだろうな?なんて気になるんだがまぁそこは置いといて。

 

「俺が昇進すれば......お前のうしろだてになってやる事も、できる! リュウ、俺のために働いてくれ」

 

「......」

 

ここまで来ると同情したくなるくらいの可哀想な人にしか思えないんだよなぁ......本人のことを考えるなら断るのが一番だし、俺自身すっごく断りたいんだけど。

そう思っていると、ついにリフトが緊急の赤いランプを灯し辺りに光を撒き散らした。

向かい合わせのレールに、人間社会用に改造された二足歩行のディクーーサイクロプスに乗る反政府組織(トリニティ)がこちらのリフトに狙って銃弾を放ってくる。

 

「強襲ディク? 反政府組織か!?」

 

チュンッチュンッ!とリフトに当たる銃弾の音に、脊髄反射で思わずリフトに装填されている銃で反政府組織......否、リンを迎撃してしまう傍ら、ボッシュが焦りを含む声で現状を理解する。

だが、不意にリンは銃を撃つのをやめるとサイクロプスに乗ったまま走り去ってしまった。

 

「はぁ......はぁ......」

 

意外に銃が重かった......。

ゲームの筋で行くなら、ここはリンの行った先を見ながら“諦めた......?”なんて台詞を言うべきなんだけど、こんなにも重いなんて考えもしなかった......。

てか、(リュウ)の台詞も中々なフラグだな!

人のこと言えねぇ!!

 

「ちくしょう......あの野郎、ぶっ壊してでもリフトを止める気だ!!」

 

あ、俺が言わなくても勝手に進むのね。

当たり前か。

 

「......」

 

リンの行方を目で追っていたボッシュの示す方向を見ると、早くもリンはサイクロプスから降りバズーカを構えていた。

そこから予想されることはただ一つ......俺が今乗っているこのリフトが破壊されることだけ。

てか、破壊しなかったら逆にリンが轢き殺される......バズーカ持ってなかったら、あれってただの自殺志願者だよな。どう見ても。

ーーさて、と。

一旦落ちてきますか......いくら死なないのがわかってるとは言え、底の見えない穴に落ちるのはやっぱり怖いなぁ......なんて考える暇もなく。

 

「っ!!」

 

俺の視界は、一瞬にして真っ白に覆われた。

 

 

警備から無事に逃げ仰せ、大講堂の裏手に着地したシャルの姿が彼女の特徴とは正反対の女学生へと変化を遂げる。

それと同時にシグムントも白鳩へと姿を変え、その姿のままシャルのときとそうであるように肩に留まった。

 

「......」

 

その様を視界に収めながらリュウも着地し、ドラゴナイズド・フォームを解く。

 

「大丈夫?」

 

そうして数歩ほど先を進んだ彼は振り返ると、そう言って首を傾げた。

 

「え、えぇ」

 

シャルは戸惑いつつもしっかりと返事をし、それを聞いて歩き出したリュウについて行く。

 

「どうして、助けたの?」

 

そのまま大講堂内へと入り、2階に差し掛かったところで当然とも言える質問が発せられた。

 

「私は時計塔を壊したし、学院長を狙ってラスターカノンまで撃った。私を匿えばあなたまで学院の敵になるのよ?」

 

「......」

 

だが、リュウは答えない。

 

「あなた、もしかしてあいつの仲間......なの?」

 

それが逆効果だったのか、訝しむように問われた内容にリュウは振り返り、ついに口を開く。

 

「きみがそう思うのなら、それでも構わない。だけどおれは、少なくとも君たちの味方でありたいと思ってるーー着いたよ」

 

そうして彼が再び振り向いた先には、気付けば3階の執行部のスペースが設けられたあの部屋があった。

 

「......」

 

シャルが口を閉ざし、リュウもそれを確認してから部屋の扉を開ける。

と、中ではシンと紅茶を啜るセドリックがいた。

 

「やあ、お疲れ様。ラヴェンナ」

 

シャルの変わってしまった女学生の姿はラヴェンナという者のそれらしい。

だが、シャルはセドリックの挨拶には答えずどこか我慢しているような表情を浮かべていた。

 

「おや、どうしたんだい? 死んだ(・・・)子になりすますのは気持ちが悪いかい?」

 

からかような口調。いや、なぶるような、と言うべきか。

 

「君のルームメイトだったんだろう? 気立てのいいラヴェンナは」

 

気立てが良かったのか、そんなことはリュウにわかるはずもない。

そもそもラヴェンナという少女を知らない彼にとって、それは仕方のないことだった。

ただし、そのやり取りは別だーーましてや彼の今の心情では、苦痛以外の何物でもない。

確かに、死んだ子になりすますなどという内容は聞いているだけで不愉快になり得るようなものだ。

だが、それではない。

彼が苦痛を覚えるのは、セドリックの口調と、青ざめた顔で必死に吐き気を堪えるシャルに対して、だった。

人はここまで外道になれるのか、と。

これも元を辿ればおれのせいなのか、と。

......自身でも気付かないうちに、リュウは握り拳を作っていた。

 

「本題に入ろう。時計塔の跡地は崩落、学院長は生死不明だってさ」

 

特に反応を示さないシャルに退屈を覚えたのか、セドリックは切り出す。

 

「学院の地下には大空洞が広がっているーー僕がそう教えてあげた途端これだよ。君はまだ、覚悟が決まってないんだね?」

 

「決まってるわ! 私はちゃんと、学院長を殺したじゃない!」

 

「第6位ともあろうシャルロット・ブリューさんがまさか『殺す』の意味がわからないわけじゃないよね?」

 

「っ......」

 

「奈落の底に叩き落とすだけで僕の目を誤魔化せると思わないで欲しいなーーもし次もおんなじことをするようなら今すぐにでもあの子の息の根を止めたっていいんだよ?」

 

「いや! お願いだからそれだけはやめて!」

 

「......そうだね、ただ息の根を止めるだけじゃツマらないな。どうせならそこのリュウを使って止めようか? ーー知り合いに殺されるっていうのも中々に酷な話だねぇシャルロットさん?」

 

忍び笑いを漏らしながら言うセドリックの顔は、実に楽しそうだった。

ポロリ、とシャルの瞳から涙が零れる。

 

「お願いだから、アンリだけは......」

 

「なら次で仕留めて。それで無理ならあの子の命はない」

 

ひやり、と冷たく声の調子が変わる。

 

「ま、どちらにせよこれが最後になるだろうけどね。あと......二十時間もないかな?」

 

そのとき、講義の開始時刻を知らせるチャイムが鳴った。

 

「ほら、ラヴェンナ(・・・・・)さん。早くしないと授業が始まっちゃうよ?」

 

「......シグムント、行くわよ」

 

頬に涙の後が残ったまま、シャルは踵を返して部屋を出て行く。

 

「坊ちゃま。アンリエットのことは言わなくてもよかったのですか?」

 

ふとシンがセドリックに尋ねる。

セドリックは心底つまらなさそうに、

 

「もちろん、一緒に落ちてたら言うつもりだったさ。でも、生憎と下から二番目(セカンドラスト)が身を呈して守っちゃったからね。一緒に落ちてくれたら、もっと面白くなりそうだったんだけど......」

 

「では、アンリエットのほうは」

 

「このまま警護に見つかるのも面倒だーーリュウ、アンリをここに連れて来てもらえるかな?」

 

「......わかった」

 

リュウは返事をし、今すぐにでもここを立ち去りたい思いで部屋を出て行く。

バタン、と最後まで扉がしまったことを確認したセドリックは、水晶玉を取り出すとそのまま魔力を込めた。

ふわっと、透明な水晶の奥になにやら情景が浮かび出す。

 

「それにしても......見事に思い通りに動いてくれたね、シン。いっそ清々しいくらいだ」

 

「ですが、それも計算上のことなのでしょう?」

 

「まぁねーーシン、ここに入れるかい?」

 

そう言って示すのは、水晶玉に映された情景......シャルが開けた地下の大空洞だった。

 

「坊ちゃまの仰せとあらば、容易いことです。たとえ警備の目があろうとも」

 

「じゃあ、やってもらおう。十人ほど連れて行くんだ。実態が知りたい」

 

「御意に」

 

シンは一礼すると、ただちにその場を後にした。

 

「愚者の聖堂か......楽しみだ、学院が〈神の似姿〉にどこまで迫っているのか......ね?」

 

シンが扉を閉めようとした直後、そう問いかけられて彼の頬は緩んでいた。

 

「......はい」

 

 

「アジーン......おれ、わかったよ」

 

大講堂前、空を仰ぎ目を閉じていたリュウが唐突に切り出したのはそんな言葉だった。

 

「自動人形がこの世界を歪めているんじゃない......それを扱う人が歪めているんだって」

 

「......」

 

リュウの決意を、アジーンはただ静かに聞く。

 

「この世界は、おれが望んだ世界じゃない......壊れた世界だ。こんなことになるんだったら、空がなかった頃のほうがまだいい......たとえ、その結果がニーナを救わなかったとしても」

 

「......そうか」

 

たった一言、相槌を打ったアジーンはパタパタと飛んでリュウの肩に乗る。

 

「ごめんな、アジーン......おれにはやっぱり、耐えられそうにないみたいだ」

 

「気にするな、元はお前が開いた世界()だ。この身とて、与えられたもの......私が何かを言うような立場ではない」

 

「ありがとう......ホントにごめんな......」

 

言って、小さく息を吐く。

 

「ーーそろそろ行こうか、アジーン。急がないとアンリが捕まるかもしれないからね」

 

「あぁ」

 

前を向き、瞼を開けて覗いたその瞳は紅い色をしていた。

 

 

 

「私のせいだ......」

 

辺りを警備が、風紀委員が囲んでいる。

その対象となっているのは巨大な穴。

底が見えず、何者も誘おうとするそれに吸い込まれていったのは少し離れたところから聞こえてくる悲痛な叫び声の(あるじ)

 

「私なんかが生きてるから関係のない雷真さんまでも......私が......私がみんなを不幸にしてるんだ......っ!」

 

嗚咽を堪え、両手で溢れる涙を何度も吹きながら彼女、アンリは茂みの中で崩れ落ちていた。

 

「アンリ......」

 

それを、木の幹を支えにして枝の上で見ていたリュウはポツリと名を呼ぶ。

だが、彼女にその声は届かない。

 

「私さえ。いなければーー」

 

ふと、嗚咽を何度も漏らしながらもアンリは懐に手を入れると小さなナイフを取り出した。

そのまま自身の利き手ではないほうの手首へと当て、ギュッと力を込める。

 

「やめるんだ、アンリ」

 

初めて目にする行為にリュウは戸惑っていたが、ナイフの当てられた手首から僅かな血が見えた瞬間慌ててアンリのナイフを握る手を持ち上げた。

 

「っ! リュウ......さん?」

 

リュウに気が付いたアンリが驚いた様子で名を呼ぶ。

リュウは小さく微笑みながら手を差し出し、

 

「泣き過ぎだよ。女の子がそんな風に泣くものじゃない」

 

「でも......だって......っ!」

 

「雷真なら無事だよ。今はそうやって信じるしかない」

 

リュウの言葉にアンリは落ち込んだ様子で彼の手を取り立ち上がる。

すでにナイフはリュウの手元だ。

 

「おいで。ここは危険だ」

 

「どこに行くの......?」

 

当然の質問に、リュウは目を逸らしながら答える。

 

「実はセドリックに君を連れてきて欲しいって頼まれていてね。一緒に来てくれるかな?」

 

瞬間、アンリはリュウの手を弾いた。

 

「いや! あそこには行きたくない!」

 

じんわりと赤くなりつつも、再びその手を差し出す。

 

「大丈夫、君のことは絶対に守るから。セドリックが何かをしようとしてもさせない」

 

「ーーどうして、そこまでしてくれるの......?」

 

「君が死んだら、シャルはきっと悲しむ。シャルは君のことが大切だから戦ってるんだよ? だったら最後までちゃんと見守ってあげないと」

 

「......結局、あなたもお姉さまが......」

 

ポツリ、と顔を俯きながらアンリが呟く。

その言葉を聞き漏らさずハッキリと捉えたリュウは手を下ろし空を見上げた。

 

「ーーこの世界を歪めてるのは、自動人形だ」

 

「......え?」

 

「でも、その自動人形を操るのは人間だ。なら、その人間が歪んでしまった原因ってなにかわかる?」

 

「......わから、ないです......」

 

「この世界自体だよ。世界が広過ぎるから警備の目も行き届かないし、こんな非情なことをする人だって生まれるーーだから俺は、自ら開いた世界を閉ざす。今の技術なら空気が悪くなることもないからね」

 

「......?」

 

さっぱりわからない、と言いたげな表情を浮かべて首を傾げるアンリにリュウは苦笑する。

 

「そのうちわかるよ。とりあえずここから離れようか、このままじゃいつ警備に見つかるかわからない」

 

「うん......」

 

アンリの返事を聞きリュウは3度目の手を差し出す。

 

「きゃっ」

 

アンリがそれを掴むと同時にリュウは彼女を抱き抱え、そっと微笑む。

 

「ちょっとの間目を瞑ってて。風が目に染みるから」

 

「う、うん」

 

曖昧な返事のままアンリが目を強く閉じる。

それを確認したリュウはD-ダイブをし、木の枝を飛びながら茂みを抜けた。

 




(。`・д・)ノキリエ

リュウ・ヴォル「死んでねぇしまだ生きてるから!」

おっかしいな、さっきワースったのに

リュウ・ヴォル「なんだワースったって! 新し過ぎんだろ?!」

んー......
( ・Д・)ノワース

リュウ・ヴォル「だからやめろってそれ!」



ちょっと、ボケてみた。
訂正したけど、まだ違和感が残ってる......


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第三十五話:人として最低だ

期待して読んだらダメだよ!
今回も変わらずグダグダだから!

〜編集記録〜
サブタイトル、内容共に変更(10/18)
一言プラス(11/4)


救助用に開けられた入り口を手前に、ぞろぞろと出てきた雷真と学院長、学院長の護衛をしていたらしいマグナスを警備や風紀委らが向かえる。

空は今だに太陽が支配しているが、時間でいえば午後3時を過ぎた頃だった。

 

「雷真!」

 

警備の波を掻き分け、夜々が雷真の胸の中に飛び込む。

 

「ご無事だったんですね......! よかったです......夜々は、夜々はずっと心配で......!」

 

「......悪かった。だからそんなに泣くな、俺は平気だ」

 

「はい......」

 

しくしくと泣く夜々の頭を撫で、そこでようやく雷真から離れる夜々。

 

「ほら、夜々。ここじゃ周りの邪魔になるから寮へ戻るぞ」

 

その言葉と共に歩き出した雷真に、夜々が大人しくとてとてと追いかけ始める。

隣へ並んだとき、夜々が口を開いた。

 

「あの、雷真......」

 

「どうした、夜々?」

 

「その......大丈夫、でしたか......?」

 

「俺は平気だって、さっき言ったーー」

 

「いえ......そのことではなく」

 

珍しく首を振りながら主の言葉を遮った夜々に雷真は思わず足を止めてしまう。

それに釣られて止まった夜々は、ある程度小さくなった人影のうち1人を指し示した。

 

「あぁ、あいつか.....」

 

「はい......何事もなくて安心でしたが、まさか一緒でしたなんて......」

 

「学院長の護衛だったらしい。......正直、あんな化け物に護衛なんているのか疑問だったがな」

 

「え?」

 

「学院長は化け物だ、目の前にあいつがいたってのに......たった一言で動けなかった」

 

「雷真......」

 

その呟きを最後に雷真が再び歩き出し、それに夜々がついていく。

ふとなにかを思い出したかのように雷真が夜々を見る。

 

「どうかしましたか、雷真?」

 

「まだ時間はあるし、リュウの見舞いに行くぞ」

 

「あ、はい」

 

くるりと踵を返し、医学部に向かう雷真を夜々が追いかける。

 

「なんだ、また怪我でもしたのか? 下から二番目」

 

医学部の校舎へと踏み入れてすぐクルーエルに呼び止められ、雷真は足を止める。

クルーエルの表情は、どこかニヤついたものが浮かんでいた。

 

「言っとくがベッドは空いてないぞ、前の崩落で負傷した奴らで埋まってるからな」

 

「勝手に言っててくれ。例え怪我をしたとしてもこんなとこで大人しく寝てられるほど俺は悠長に構えてなんかいられない」

 

「じゃあここへなにしに来た。こう見えて一応忙しいんだがな」

 

そう言うクルーエルの手には医療関係の機材が持たれていた。

 

「リュウ・ヴォルフィードってやつを知らないか? 式典に護衛で参加してたらしいんだが」

 

「あぁ? そんなやつ、ここにはいないぞ」

 

「なんだって?」

 

その言葉に雷真は思わず顔をしかめてしまう。

 

「式典に参加してたんだろ? なら風紀委の誰かに聞けばいい」

 

それだけ言い残すとクルーエルは早足で姿を消してしまった。

忙しい、というのは本当らしい。

 

「どうしますか、雷真? 行きます?」

 

「いや......ここにいないならさすがに寮へ戻ってるだろ」

 

そうして医学部を出、トータス寮の自室へと戻った雷真と夜々はやはり広く感じる部屋に思わず立ち止まってしまう。

 

「ーーいませんね、リュウさん」

 

「......はぁ。医学部のほうにもいなかったし、戻らないなら戻らないで無事の伝言くらい置いてからにしろっての」

 

ベッドに腰掛けながら言った雷真の言葉に、夜々はふと嫌な予感を覚えた。

 

「もしかして、リュウさんもなにかの事件に巻き込まれているのでは......」

 

「夜々?」

 

「あ、いえ......ほとんど直感のようなものですし、気にしないでください」

 

雷真に変な心配をさせたくなくて微笑みながら言った夜々だったが、彼女自身が一番割り切れていなかった。

 

夜々が禁忌人形(バンドール)だからという理由は使えない。

禁忌人形は生体機巧......生物の肉体が使われている人形のことを一般的に指すものであり、ならばその異変を夜々だけが察知するはずがないからだ。

その異変とはなにかーー初めてアジーンと出会ったあのとき自動人形とは思えない途方もない魔力を感じたのだ。

それも、本物の生き物だと錯覚するほどに......。

列車騒動が終わってからというもののリュウや雷真がそれについて話す様子はなかったが、それ以降彼女の脳裏には一つの不安が付いて離れなかった。

 

『いつかなんらかの事件に巻き込まれる、もしくはそれを引き起こす当事者となるのでは?』

 

と。

 

(考え過ぎ、ですよね)

 

頭を振ることでそれを払い、夜々は雷真と共になにかをするわけでもなく時間を過ごしていく。

そうして少しずつ日が傾き始めた頃に彼女は時計をちらりと見た。

 

「そろそろ行きませんか、雷真? 夜会のお時間も近いですし」

 

「あぁ、そうだな」

 

雷真が起き上がるのをサポートしつつ、チャックを下げようとして頭を叩かれながら夜々は彼と自室を出た。

だが。

 

「リュウ......?! それにアンリまで......!」

 

「リュウ、さん......?!」

 

その先にいたのは、ボロボロのリュウとそんな彼を支えるアンリだった。

 

 

学院長共々、雷真が地下へと落下して小1時間。

崩落地のそばで泣き崩れていたアンリを発見したリュウは彼女を連れてあの場所へと戻ってきていた。

夜会執行部の置かれる部屋へとリュウが先行して扉を開ける。

次いでオドオドとしながらアンリが中へ入ったのを見てから扉を閉め、彼女の手を握ったままセドリックを振り向いた。

 

「連れてきたよ」

 

リュウの言葉に、セドリックが作業を中断してこちらを振り向く。

彼の目がアンリに向かれた途端、リュウは握る彼女の手に力が篭ったのをはっきりと感じた。

 

「仕事が早いね、リュウはーーやぁ、アンリ。久しぶりだね。一応シンに見張りをしてもらっていたけど、どうしてそんなにツマらない行動ばっかりしようとするんだい?」

 

ツマらない行動、というのは自殺行為のことだ。

最初からリュウがこの件に絡んでいれば簡単にわかることだったが、今のリュウにはそれがなにを指すのかわからなかった。

 

「......」

 

「前から気にはなってたんだ。君という引き立て役がいるからこそ、主役であるシャルロットがあんなにも苦しんでくれる。だと言うのに、君が死んだらなにもかも台無しじゃないか」

 

「っ......私がいるから......」

 

言いながらさらに握る力を込めるアンリにリュウはそっとそれを握り返す。

が、リュウ自身も握り返す手に力がこもっていた。

理解してしまったのだ、“ツマらない行動”というのがどんなことなのかを。

 

「まぁ君が死んだところで新しく作れば問題はないんだけどね。作り物と本物とじゃ、臨場感が違うから出来るだけ本物がいいんだ」

 

「ッ!!」

 

セドリックの言葉にプツンとキレたリュウはアンリの手を離し、人の動きとは思えないソレで彼の胸倉を掴み上げる。

 

「君というヤツは、人の命をなんだと思ってる......!」

 

「僕自身も脇役の一人だという自覚はあるよ。主人公がいて、主人公の大切な人がいて、それを陥れようとする悪者がいる......舞台の役者は揃ってるけれど、それだけじゃ面白くないからね。僕は人の不幸が見られればそれで満足なんだ。人の命なんか知ったことじゃない」

 

「っ......!!」

 

怒りで震える拳を顔面に叩きつけようとするが、済んでのところでピタリと止めそのまま胸倉からも手を離す。

 

「怖気づいたのかい?」

 

ニヤリと笑みを浮かべるセドリックを一瞥して、今だに拳を握ったままリュウは踵を返す。

 

「アンリ、行こう。こんなヤツに従う必要なんかどこにもない」

 

去り際に放たれたその言葉に、セドリックは“へぇ”と意味ありげに呟いた。

 

「あれをばら撒いてもいいんだ? 君にとって、すごく困るものだと思うんだけど」

 

「......」

 

その言葉にリュウは足を止め、一度目を閉じて深呼吸をしてからセドリックに向き直った。

 

「......あれをばら撒きたかったらばら撒けばいいよ。元より先のことさえ気にしなければあんなものどうだってよかったんだ。おれにはもう関係ない」

 

リュウの言葉に一瞬彼は沈黙するもすぐに吹き出し、腹を抱えて忍び笑いをし始める。

 

「いいね、最高だよリュウ」

 

「......? なにが言いたい?」

 

「まさかあの写真が本物だと思ってるわけ? だとしたら傑作だね。僕がなにを好きなのか、さっき言わなかったかい?」

 

「......偽物、ってことか」

 

「そう、それなのに必死に食いかかってきたり我慢しながら僕の言うことを聞いてる様なんて面白くてたまらなかったよ」

 

「......君は人として最低だ」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

「......」

 

これ以上話すことはない......そんな意思表示のようにリュウはアンリの手を握って部屋から出ようとする。

 

「アンリを連れてどこに行こうって言うんだい?」

 

「君には関係ないよーー行こう、アンリ」

 

去り際に問われた内容について、振り向かずに切り捨てたリュウはそのまま部屋を出た。

 

 

「あ、あの......これからどこに行くのですか?」

 

部屋から足を止めることなく外へと出たところでアンリが声を上げる。

リュウは足を止めて振り向くと、アンリに問いで返した。

 

「アンリは、これからどうしたい?」

 

「......」

 

そんな風に返されるとは思っていなかったのだろう、俯きそのまま固まってしまう。

リュウはそれを急かすこともなければ特に声を掛けることもなく、彼女が自分から話し出すまで見守った。

 

「......私がいるせいでみんなが苦しむなら、私なんかいなくなればいいって思ってました。それは今でも変わりません......でも、私が今更いなくなったところでお姉さまが起こしてしまったことはもう取り返しがつきません......だったらせめて、お母さまとお姉さまとーー家族みんなとまた昔のように静かに暮らしたいです......」

 

「......そっか」

 

リュウの言葉に、驚いたアンリがとっさに顔を上げる。

 

「え?」

 

「でも、全てが思い通りに行くわけじゃないってことだけは頭の中に入れておいて」

 

「......はい」

 

「よし、とはいえおれも次期に追われる身になるだろうからね。とりあえずトータス寮へ行こう」

 

「トータス寮......ですか?」

 

「うん。ホントはシャルを直接止めに行きたいんだけど、きみはセドリックに無理やり連れて来られたんだろ? そうなるとここじゃ自由に動けないからね。それに、雷真なら事情を説明すれば匿ってもらえる」

 

本当は彼らを巻き込みたくなかったが、こうなった今ではそれ以上に巻き込まないよう最大限配慮するしかない。

小さく頷いたアンリを見て早速歩き出したリュウはふと手を握られる感覚に足を止めて振り向く。

と、アンリが握っているのが視界に映りリュウはクスリと笑いながらも彼女を引っ張りながら再び歩き出した。



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第三十六話:壊れていた記憶

3巻を学校の図書室から正式的な手続きを取って借りてないから、なんとかして夏休み中にこの話完結させないと......
でも、なんも思いつかない......おわたw

全体修正(10/19)
本文追加&脱字訂正(10/23)


「困ったな......ここにも警備が......」

 

辺りを見回し終え、草陰へとため息と共に身を潜める。

 

「どうですか......?」

 

アンリの問いに、リュウは首を振りながら動き出す。

 

「ダメだ、他の道を探そう」

 

元ある記憶を探りながら、リュウを先頭に別ルートへと移動していく。

 

トータス寮に戻ると決めてから、大分時間が経ってしまった。

昨日の時計塔の崩壊、今朝の時計塔跡地の崩落と立て続けに起きたことによりかなりの距離に渡って警備や風紀委員が張り巡らされている......加えて学院の長が行方不明というのであればそれも仕方の無いことかもしれない。

日が出ていることもあるが、彼が慎重に行動する理由は他にもあった。

というのも、人目を避けるにしてもリュウ一人だけならばまだいい。

自動人形を幾つも破壊したことは事実だが、偽物とはいえ証拠の一つが出されてもこの状況では他のことになど手を付けていられないだろう。

よって多少の警戒だけで済むが彼女......アンリは違う。

シャルに劣るとはいえ、彼女とアンリは似通った部分が多い。

ひとたび一目のある場所に出ればすぐに捕まってしまう......例えその後彼女とは違うと判断されても、今度はアンリ自身が不法入学の罪で捕まってしまうだろう。

仮に入学手続きを踏んでここにいたとしても、相手はセドリックだ。

まともな手続きを踏んだとは考えにくい。

なんにせよ、今ここで捕まるわけにはいかなかった。

 

「待って。確かこの辺だったと思うんだけど......」

 

言いながら、再び草陰から辺りを見回してみる。

と、ここでようやく人気のない道を見つけることができた。

 

「おいで、アンリ。ここなら大丈夫だ」

 

リュウに手招かれ、アンリも草陰から抜ける。

 

「トータス寮まであと少しだけど......どこか怪我はない?」

 

「はい......なんともないです」

 

「よかった。それじゃあ行こう」

 

小さく微笑み、そう言って歩き出したときだった。

 

「グッ」

 

わずかな呻き声と共に、アンリの目の前からリュウの姿が掻き消える。

直後、自身の近くで衝撃音がし、彼女は反射的に耳を塞ぎその場にしゃがみ込んだ。

 

「リュウ......さん?」

 

傍で何かが降り立つ気配がし、恐る恐る顔を上げる。

だが、そこにあったのは紺色のスーツではない別のソレだった。

 

 

突如として腹部に襲いかかった衝撃。

なにが起きたーーそう考える間もなく吹っ飛んだ体に追撃が加えられる。

 

「かはっ!!」

 

地面に叩きつけられたせいでリュウの口から血塊が吐き出されるが、一旦はこれで終わりのようだった。

 

「リュウさん!!」

 

アンリの叫び声が聴覚を刺激する。

自身の体に落ちてきた砂埃を払い、リュウはゆっくりと起き上がって相手を見据えた。

視界の隅で、自身の周りに小さなクレーターが出来上がっているが映る。

相当強く叩きつけられたらしい......が、動けないほどのダメージではなかった。

 

「大丈夫か、リュウ」

 

「ごめん......ちょっと油断した」

 

アジーンに言葉を返しながら、リュウは先ほど自身がいたほうを見つめる。

叩きつけられた衝撃で舞い上がった砂埃が風に飛んでいき、そうして姿を見せた襲撃者はセドリックの後ろに控えていたシンだった。

 

「きみはあの子の......」

 

「おや? こうして対面の場を持つのは初めてでしたか、それは失礼いたしました」

 

伊達に執事はやっていないらしい、シンは礼儀正しく一礼するとメガネを掛け直した。

 

「私の名はシンと申します。以後お見知り置きを......と言いたいところですが、あなたにはここで終わってもらいます」

 

「アンリを、取り返しに来たんだよね?」

 

「確かにそれもありますが、私がここにいる理由はあなたですよ」

 

「おれ......?」

 

「坊ちゃまはあなたに情報を与え過ぎた......それなのにも関わらず、反旗を翻されてなお対策の一つも取ろうとしない......坊ちゃまの落ち度もありますが、あなたは坊ちゃまにとって危険因子なのですよ」

 

「だから、始末する......」

 

「理解が早くて助かります」

 

その言葉を最後に、シンの姿が視界から失せる。

来るーーそんな直感にリュウはすぐさま両足を踏ん張り、腕を胸の前でクロスさせた。

果たしてリュウの直感は見事に当たり、彼の腕に強力な蹴りが入れられる。

その勢いは凄まじく、地面に10mにも及ぶ2本の溝を作り上げていた。

だが、それだけでは止まらない。

シンは次々と姿を眩まし、と思えばリュウの上下左右傍に現れ強烈な蹴りを食らわしていく。

防御し、死角を突かれ蹴りが入る。

時間にして、わずか1分。

直感に従い防御したとはいえ、それまでの間にどれほどの攻撃が当たったのか......リュウの体はボロボロだった。

それでもまだ耐えていられるのは、その精神のおかげか。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ......」

 

「しつこいですね。あなた、本当に人間ですか?」

 

呆れた声で問いかけて、シンはあぁと一人納得する。

 

「失敬、愚問でしたね。自動人形を手で破壊していたあなたを人間として見做すなど、私もどうかしている」

 

そう言って自嘲するように忍び笑いをシンが漏らしたとき、リュウの瞳が、纏う雰囲気が変わった。

ブワッと、彼を炎のオーラが包み込む。

 

「......ゥゥウウアアァァァ!!」

 

そんな叫び声と共に包み込んだ炎が弾け、中からD-ダイブしたリュウが現れる。

そうしてリュウは、背中にある噴出口で自身のスピードを上げシンと同等......否、それ以上の速さでシンにその手を振りかぶった。

 

「っ!!」

 

済んでのところで身を逸らし直撃を免れたものの、シンの服は破けその肌には一筋の傷跡が出来上がっていた。

 

「......」

 

先ほどまでの傷はどこへやら、リュウは口を開くことなくそのまま追撃を加えようとシンに迫る。

が、シンは一気に後退すると空へ飛び上がり瞬く間に遠ざかってしまった。

自身の蹴りを何度受けても耐え、たった一度の反撃......それも掠っただけで出血したという事態に撤退したようだ。

 

「うぐっ......」

 

シンがいなくなったことを確認しクールダウンしたリュウは体力の限界を悟ったのか、そのまま倒れこんでしまう。

 

「リュウさん!」

 

戦火の届かなさそうな、どこか安全な場所へと避難していたのだろうアンリが慌ててリュウへと駆け寄る。

 

「大......丈夫......少し横になれば、平気だから......」

 

そう言うと、リュウは体を仰向けにし目を閉じてしまった。

 

「ど、どうしよう......」

 

そうして取り残されてしまったアンリは辺りを見回す。

警備や風紀委が巡回する中で、こんなドンパチをやらかせば必ず駆けつけるだろう。

そうなれば今までリュウが慎重に行動して来たことが水の泡となってしまう。

たとえここが人気のない場所だとはいえ、見つかるのも時間の問題だ。

 

「ん〜〜っ!!」

 

今にもパニックに陥りそうな頭で必死に考えた結果アンリはリュウの腕を掴み、引き摺ってでも草陰に隠れて大人しくするというのが今の彼女の限界だった。

 

「......」

 

それを見届けたアジーンはアンリに気付かれないよう高度を上げ、そのまま行方をくらました。

 

 

(やっと出られた〜!!)

 

眼前に広がる小さな炭鉱町のような場所に、俺は内心大きく伸びをする。

最下層区街。

廃物遺棄坑を抜けた先にある、最もD値の低いかなり空気の淀んだ場所。

というのも、あれから俺はストーリーに沿うようにしてリフトから落下しました。

それも200キロも深いところに。

え、なんで生きてんだってか?

もちろん主人公だからさ(`・ω・´)

じゃなくて、ここでアジーンの適格者となったからなんですね、はい。全くもってありがたいのかありがたくないのか......。

そのあとはサイクロプスっていう変態モンスターが誘拐しようとしてるニーナをかっこよーく助け、俺を奈落の底へ叩きつけたリンと一旦停戦協定?を結び共にここへ来たって感じ。

なんだけど。

 

「ーーレンジャー?」

 

「え? あ、ごめん」

 

ふとリンの声がして視線を向ければ2人は少しだけ先に行っており、俺は軽く謝りながら彼らに追いつく。

 

このあとなんか重大イベントがあったような気がするんだけど、上手く思い出せないんだよなぁ......。

オープニングから任務、リンやニーナとの出会いまでちゃんと覚えてたってのに、なんでここにきて記憶がぼやけてんのかすっげぇ謎。

まぁぐちぐち言っても仕方ないし、進むしかないんだけどな。

 

「すまない、上の層へ行きたいんだが......」

 

先に行ったリンが街の出口付近にいる作業服を来た青年にそう尋ねると、彼は自分の後ろを見て答えてくれた。

 

「上の層へ行くならリフトの乗り場はここだけど......次のリフトがいつ来るかまではわからないかな」

 

「ありがとう」

 

「おう」

 

リンがお礼を言い、建設現場の足場で作られたような簡易階段の上から合図を送る。

俺はそれをしっかりと受け取り、ニーナの手を取った。

 

「行こう、ニーナ」

 

そのまま階段を登っていき、リンについていく。

そうして着いたのはなんか赤っぽい光で照らされている、下層区リフトポートとそっくりな構造をした場所だった。

 

「あ......」

 

瞬間俺はここで起きることをうっすらと思い出し、思わず声が漏れる。

少しだけとはいえ、なんでこんなときに思い出すかな?!

もう少し早く思い出そうよ、俺!!

 

「どうした?」

 

それに気付いたリンに尋ねられ、なんでもないと返そうとしたときリフト到着のクラクションが鳴らされた。

 

「くっ......」

 

辺りいっぱいにリフトの放つ発光色に包まれ、俺らは目が眩む。

いくつもの足音が響く中で視覚を取り戻した俺は、その姿にため息しか出なかった。

 

「ボッシュも無事だったんだ?」

 

お仲間のレンジャー2人と一緒に降りてきたボッシュは答えず、しかも俺は最初から眼中にないとでも言うかのように後ろのニーナとリンに視線を向けていた。

 

犯罪者(トリニティ)が一緒か......こいつで間違いなさそうだ......上出来だよ、リュウ」

 

そのまま俺のそばを通り過ぎたところで立ち止まり、レイピアを抜いたのを見て俺は慌ててニーナを守るようにして立つリンとボッシュの間に移動する。

こんな展開、覚えてねーぞ?!

 

「ま......待てよボッシュ! ニーナがどうしたってんだ?」

 

俺の問いにようやくボッシュが視線を向けてくれる。

 

「命令は、積荷の確実な処分だ......それ以外のことをお前が知る必要はない」

 

そう言って歩き出そうとするボッシュの前に、俺は一歩踏み出して立ち塞がった。

そんな俺の行動にボッシュの視線が再びこちらへと向く。

だがそれは苛立ちや焦りに満ちたものだった。

 

「邪魔する気か......?」

 

「邪魔するもなにもちゃんと説明してくれよ! 積荷? 処分? なんだよ、それ! だいたい、ニーナが積荷だっていうなら、証拠はどこにあんだよ!」

 

「リュウ......俺は、な」

 

「......?」

 

不意になんの感情の色もなくなった声で話しかけられ、俺は口を噤みボッシュの続きを待つ。

 

「グッ?!」

 

なんの前触れもなく左足に突き刺さるような激痛が走り、その場に崩れ落ちてしまう。

 

「ボッシュ......てめぇ......!」

 

痛みを堪えようと閉じてしまった瞳のもう片方に写るそれは、半眼で自身のレイピアを俺の足に突き刺すボッシュだった。

 

「......」

 

「グアッ!!」

 

再び激痛。

今度は肉を割かれるような痛みにまともに思考が出来なくなる。

 

「俺は、こんなところでつまづいてるわけにはいかないんだよ」

 

そこでボッシュがようやく剣を抜いてくれるが、当然痛みが消えてくれるはずがなかった。

ふっ、と隣に誰かが支えてくれるような気配を感じ、けれどもそれがニーナだとすぐに悟る。

 

「ふん......ずいぶんとなついてるじゃないか」

 

「......!」

 

ニーナがあげた声なき声に、俺はとっさに顔を上げる。

と、ボッシュがニーナの首元にレイピアの切っ先を当てていた。

 

「やめろ......ボッシュ......」

 

プルプルと震える手をなんとかして動かし、せめてもの思いで抵抗する。

 

「リュウ、お前......」

 

直後、俺の喉をボッシュのレイピアが貫いた。

痛みを通り越し、ゆっくりと失われていく意識の中で俺ははっきりと思い出す。

この、最下層区リフトポートで起きる全てを。

 

ーーあぁ、そういやこんな展開だったっけ......なんで今更思い出すのかなぁ......。

 

そうして俺の頭の中にアジーンの声が響いた。

 

 

人体の急所とも呼べる喉。

2本あるうちのどちらか一方が切れるだけで意識の消失や脳停止を引き起こす、喉仏の横側に存在する頸動脈のある首。

それを刺されて息をする者はどこにもいない。

実際、ボッシュによって息の根を止められたリュウの瞳に光はなく、ただ虚空が写っていた。

......はずだった。

 

「なっ......?!」

 

ボッシュの驚く声が辺りに響く。

ゆっくりと、けれども意思を持って動き出したリュウの手はしっかりと自身の喉に刺さる剣を握り、一気に引き抜いた。

虚空の写る瞳がレイピアの切っ先を見つめて数秒。

その肩は息をするべく動き、そして次の瞬間にはリュウを紅い炎が包み込んだ。

そうして現れたのは、Dワークスの研究所でも見せたあの姿。

 

「ーーはぁ!」

 

驚きつつも冷静を取り戻したボッシュが、だからどうしたと言わんばかりにレイピアを得意の技の形で何度も突き出す。

 

「グッ......」

 

だが、

 

「バカな! 俺の獣剣技が効かないなんて?!」

 

レイピアの抜かれたリュウの体にはなに一つとして傷を負っていなかった。

リュウの紅い瞳がボッシュを捉える。

 

「ヴゥゥ......ヴァァ!」

 

そうして唖然に取られるボッシュの体に1本の腕が振り下ろされた。

 

 

心臓の鼓動が、大きく脈を打っている。

 

心臓を鷲掴みにされているような感覚が抜けない。

 

視界がなんどもぼやけては焦点が合わさる。

 

そんな中で俺は、血を流し倒れるレンジャー2人とボロボロのボッシュ......そして、恐怖を顔に張り付けたニーナと警戒するリンを認識した。

 

ーーこうやって見ると、ずいぶんと暴れたんだろうな......どーせD-ダイブした俺の圧勝なんだろうけど......。

 

そんなことを思いながら、俺はまた意識を失った。



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第三十七話:くそったれ

ずっとリュウのターン(`・ㅂ・)وグッ

リュウ・ヴォル「いや、両方リュウだからな? わかりにくいからな?」

リュウ「そう、だね。おんなじ名前も、ややこしいよね」

うん、リュウって名前が好きだったから苗字つければいいと思ってたけど、今更ものすごく後悔してる!

リュウ・ヴォル「変えねぇの?」

いや、ただいま37話目だお?
全部変え始めたらキリないお?

リュウ・ヴォル「おうふ......どんまい(´・Д・)」」


気が付くと、最初に写ったのは心配そうにこちらを覗くニーナの顔だった。

 

「うぅ......」

 

体が異常に重たい。

めまいのせいで寝過ぎたときなんかと比べ物にならないくらいのダルさを覚えつつ、俺はゆっくりと体を起こす。

と、特徴的な小走りのあといきなり肩を掴まれ、なんだか責めるような口調でリンに問われた。

 

「お前はなんだ!? 普通のレンジャーじゃないのか? あの力は......」

 

えー、アジーンっていう実験体とリンクした命懸けの力です。

なんて答えるわけにもいかず(当然ながらこの時点でのリュウはリン同様アジーンのことはわかっていない)、とりあえずこんなふざけた考えを置いておくために頭を振る。

 

「そんなことはどうだっていい。リンは、ニーナのこと最初から知ってたのか」

 

「......」

 

「答えろよ!」

 

顔を背け口を閉ざしてしまったリンに、問いただすように声を荒げる。

不意にリンが背けた顔をこちらに再び向け、今度は両肩を掴む。

 

「......知ってどうする? お前になにができる? さっきみたいに、得体の知れない力を使ってどうにかしようとでも?」

 

「逃げんな、そいつは今関係ねぇって言ってるだろ!!」

 

「うー」

 

ふと声を上げたニーナに、俺とリンの視線がそちらを向く。

 

「んー、んん」

 

声の出せないニーナが必死に声を上げ、首を振る様を見て俺とリンは互いに睨み合うが、憑依ってこともあるのかほとんど同時に顔を背けた。

 

 

「言ったとおりだ。ニーナのことを知りたければバイオ公社の研究練(ラボ)へ行くしかない......」

 

コンテナにもたれかかりながら、腕を組むリンに言われ俺は俯く。

 

「それよりも、さっきの話は本当なのか......?」

 

「あぁ......前にどこかの資料で見たことがあるんだ。竜と精神的にリンクした、D値の高い人たちがいるって。リフト護衛の任務でリフトに乗り込む前に巨大な竜の屍に会ったんだ。たぶん、間違いないと思う」

 

そう、直接事実を話せば俺が憑依した人間だってことまで話さなくちゃいけなくなるし、最終的にはこの物語の終わりまで話すことになるかもしれない。

それが流石にまずいことぐらい俺だってわかる。

だから俺は、近いうちにわかる事実を嘘で固めたのだ。

 

「だが、リュウのD値は1/8192だろう? 私は反政府組織(トリニティ)だからD値は抹消されているが、そのD値がどれほど低いのかぐらいさすがにわかる。それなのにどうして......」

 

「それがわかったら苦労しないっての......」

 

頭を悩ませるリンに俺は小さく首を振る。

 

「それもそうか......ーーそろそろ行こう。とりあえず逃げてきたとはいえ、レンジャーとあれだけ争ったあとだ。追ってがかかる前に急いだ方がいい......公社へは下層区街を通る必要があるが......大丈夫か?」

 

それはおそらく、下層区街の近くにレンジャー基地があるからだろう。

だが物語上、アジーンの力に覚醒した時点で政府から追われる身だ。

俺的にはもう当たって砕けろこんちくしょうだけど。

 

「大丈夫もなにも、行くしかないだろ......急ごう」

 

そうして俺らはその場を後にした。

 

 

派手な音を立て、今にも壊れそうなエレベータが上昇していく。

わずか130mの高度を数秒で上りきったそれはやはり派手な音を立てて目的地へと案内した。

 

「それじゃあ私たちは手近なところに隠れてるから」

 

「わかった」

 

着いて早々、ニーナを連れて足早にリンは人目のつかないところへと隠れようとする。

レンジャー姿の俺なら未だしもリンの姿見は反政府組織(トリニティ)のものであり、ニーナもまた翼の生えた少女という訳ありな姿だ。

あまり人目に触れるのは避けたいのだろう。

 

「さて、と」

 

俺は腰に手を当て、言いながら辺りをぐるりと見回した。

中央にある、大きなテレビ塔。

その周りで話し込んだり買い物をしたりする様々な人たち。

そのどれもが活気に溢れてて、平和の一言に尽きた。

そんな、空を真似たらしい、くすんだ青色がベッタ塗りにされている天井の下にある小さなこの場所は下層区街だ。

ニーナの秘密が明らかになる公社ラボまではあと少しなんだが、ここへ来る間にリンと、通過点となる下層区街で武装を整えていこうという話になっている。

が、さっきも言ったとおり2人は訳ありなので(俺も訳ありなんだけどな?)ここで主に動くのは俺だけだ。

 

「鑑定してもらいに行きますか」

 

テレビ塔の先のほうで、ゲームではおなじみの鑑定屋さんを見つけ俺は歩き出す。

 

「あ、リュウさん! おかえりなさい、任務は終わったんですか?」

 

羽のついた角帽をかぶり、丸眼鏡を掛けたのが特徴の彼女は俺の姿を認めると嬉しそうに声を掛ける。

 

「へ? あ、あぁ。うん、終わったぜ」

 

ゲームで知ってる彼女の口調と違っていたことに一瞬戸惑いながらも、あぁそうかと一人で納得した。

 

(下層区街はリュウの育った街だから、みんな仲がいいのも当たり前なのか)

 

と、彼女の視線がなんとなく煌めいているような気がした。

 

「な、なに?」

 

「あれ、今日はなにも持ってないんですか? 鑑定品とか鑑定品とか鑑定品とか」

 

「......ぷっ」

 

「あ、なによー。そんな風に笑わなくたっていいじゃない」

 

「ごめんごめん」

 

思わず吹き出してしまったことに、頬を膨らませる彼女を宥めながらポーチからさきほどドロップした未鑑定品アイテムを渡す。

そういえばゲームで鑑定する画面のときにジャジュの鑑定屋って書いてあった気がするんだけど、この子の名前はジャジュでいいのか?

いや、でもゲームのあちこちにおんなじ鑑定屋さん出てくるし......うーん、謎だ。

まさかポケ○ンのジョーイさんみたいに何十人もの姉妹が?!

......いや、ないな(`・ㅂ・)و

けど、それとは別にこういうマニアックな雰囲気のある子も嫌いじゃないんだよなぁ......単純にさ。

ーーえ? そうじゃない?

 

「あれ?」

 

さっそく鑑定の作業に取り掛かる彼女だったが少ししかしないうちに首を傾げ、作業をやめてこちらに視線を送ってきた。

 

「この装備、女の人用だけどどうしたの? ボッシュさんは?」

 

「ボッシュ?」

 

「うん。いつも一緒に来てくれるじゃない。鑑定品を持ってくるのはリュウさんだけど」

 

「あーうん......ちょっと、いろいろあって」

 

まさかそんなことを聞かれると思ってなかった俺は頬を掻きながらそう視線を逸らす。

 

「あ、変なこと聞いちゃったね......ごめん」

 

彼女は声を落として謝ると、なんだか逃げるようにして止めていた作業を開始してしまった。

誤魔化さずちゃんと言えばよかったかな、と小さな後悔に苛まれていると彼女が息をついて立ち上がった。

 

「ーーお待たせ、鑑定終わったよ」

 

「あぁ。悪かったな」

 

「これが私の仕事ですから」

 

軽く一言二言交わしながら俺は鑑定の終わった装備をもらい、手でしっかりと持つ。

 

「全部で600ゼニーです」

 

「あいよーーまた頼むな」

 

「はい! お待ちしてます!」

 

ニッと笑いかけられながら俺はその場を離れ、公社ラボのエントランスへと続く通路へ向かう。

道具のほうはまだ予備があるので、補充する手間が省けてよかったと思う。

 

「来たみたいだね」

 

通路では先にリンとニーナが待っており、気付いた2人に俺はサインに軽く手を上げた。

 

「待たせたな」

 

そうして彼女たちに先ほど鑑定してもらった装備を渡したあと、整え終えったところを見計らって歩き出す。

が、

 

「行き止まり?」

 

角を一つ曲がったところでその先の通路がドアに塞がれており、そのそばにはドアをアンロックするためのカードリーダーが備え付けられていた。

 

「困ったね......ここから先はIDカードがないと無理みたいだ」

 

「はぁ......仕方ない、一旦下層区街に戻るか」

 

カードリーダーを前に調べるリンの言葉に小さくため息をついた俺は2人と一緒に来た道へと戻る。

 

「......?!」

 

その違和感は、下層区街に出た瞬間肌で感じた。

 

「これは......ガス?!」

 

鼻にくるような刺激臭を感じながら、俺は辺りを見回す。

 

「お、あいつだ!」

 

不意にそんな声が右側から聞こえ、そちらを振り向いてみるとガスマスクをつけたレンジャー3人が少し離れた先で立っていた。

隣で、ニーナが咳をする声がする。

 

「レンジャー......?! やはり、もう手配されていたか......!」

 

「......くそっ」

 

リンの声に、3人のうち真ん中のレンジャーが身振りする。

 

「まだそうと決まったわけじゃねぇが......ボッシュが報告してるのを聞いたもんでね」

 

「先に俺たちで取っ捕まえるのも悪くないと思ってな。こいつを用意して待っていた......ってわけだ」

 

左側のレンジャーが、強調するようにその足元に転がるガスボンベを蹴る。

 

「......功を焦ったか、クズめ」

 

「そんなくだらねぇことでガスを......街の人たちはどうした?」

 

「ディク狩りに神経ガスだ......ローディを狩るのにもぴったりだろ?」

 

「っ!」

 

その言葉に慌てて辺りを見回すと、下層区街へと降りる階段の踊り場で老人と子供が苦しそうに何度も咳をしていた。

 

「てめぇら、それでもレンジャーかよ......」

 

「お前、ローディのわりに強いって聞いたんでね......用心ってやつだよ」

 

「っ......ふざけんな!」

 

「リュウ!」

 

いい加減我慢の出来なくなった俺は、剣を引き抜きレンジャーの中へと突っ込む。

リンが俺の名を呼び、止めようとするが俺は止まろうとはしなかった。

 

 

「グッ......下級レンジャー如きに......」

 

そう言って、最後の1人になったレンジャーが倒れる。

俺は突き出した肘を戻し、剣を鞘へと戻した。

 

「......? ーー!!」

 

ふと視界の隅でなにかが動いているような気配を感じ、そちらに視線を送れば完全に気を失っていなかったレンジャーがガスボンベのバルブを緩めようとしていた。

 

「リン! ニーナと一緒に高いところへ!!」

 

「あ、あぁ!」

 

なにかを考えるよりも真っ先にそう指示し、俺はガスボンベに向けて走り出す。

 

『警戒レベル4ノ空気汚染ガ発生

該当ブロックヲ閉鎖シマス』

 

バルブが完全に緩んだのか、シューッと容赦無く溢れ出したガスに警報が鳴り響く。

 

「チッ......!」

 

あまりにも強過ぎるガスを全身に浴びながら、ようやくガスボンベのもとへと辿り着いた俺はしゃがみ込み手探りでバルブを掴もうとする。

 

「っ!」

 

が、ガスボンベにつけられたバルブはすでに外され、辺りを見回してもどこにもなかった。

 

「ククク......」

 

ふと忍び笑いが聞こえ、そちらに視線を送るとバルブを緩めたレンジャーが壁にもたれかかり、その手の中にあるものを見せびらかしているのがわかった。

 

「残念だったな......そいつはもう止められないぜ......!」

 

ーーバルブだ。

 

「くそっ、やりやがったな......!」

 

悪態をつきながら俺はガスボンベから離れ、ヤツの持っているバルブを取り返そうと歩き出す。

 

「っ......」

 

だが、体力の限界がそこで訪れた。

視界がぐらりと揺れ、そのまま俺は前のめりに倒れ込んだ。

 

「げほっ、げほっ......かはっ」

 

“用心に”と用意された神経ガスが全身に効いてきたのか、口から血が溢れ出す。

 

(ちくしょう......)

 

「ニーナ?!」

 

薄れゆく意識の中で、最後に聞いたのはリンの声だった。

 

 

「ニーナが飛び込んでいったら、ガスが中和されたんだ......それがどういうことを意味するのかはわからない......が、あの子のおかげでお前もあの子も無事でいられるのは確かだ......」

 

「ニーナ......」

 

意識を取り戻した俺はリンから事のあらましを聞き終え、思わずニーナを見る。

彼女は自身の名が出たのか、こちらのほうをみて嬉しそうに笑っていた。

時折咳をするのがいたたまれないが、さきほどのガスの影響せいだと思うとどうすることも出来なかった。

 

「......ともかく、一度行ってみるしかないだろう......バイオ公社(あそこ)へ」

 

そう言うリンの視線の先には天井の先へと続く大きなビルが存在していた。

 

「そう、だな......行こう」

 

俺はリンの手を借りながらもなんとか立ち上がり、ニーナに呼びかける。

 

「......」

 

そのまま先導を切って歩き出した俺は、バルブを持ったまま壁にもたれかかるレンジャーへと近寄る。

 

「リュウ......?」

 

訝しむようにこちらを見るリンに“まぁ見てろ”と視線を送りながら俺はレンジャースーツの懐を漁る。

漠然とした感覚ではあったものの、カードキーらしき感触のしたものに当たった俺はそのまま引っ張り出す。

 

「カードキー。こいつがねぇと、中に入れねぇだろ?」

 

ふっ、とリンが小さく微笑んだのを見て、俺らは2度目の公社ラボのエントランスへと踏み入れる。

 

「それにしても、よくあいつらが持ってるってわかったね?」

 

「そりゃーーっ......」

 

途端にズキンッと脈を打つように頭痛がし、一瞬ふらつく。

 

「リュウ?」

 

リンが心配してくるが、俺はなんでもないと首を振るだけに留めた。

胸の中で、苛立ちや怒りが渦巻く。

 

なんで、あいつらがカードキーを持っているとわかった?

なんで、漠然とそう思った?

答えは簡単だーー最初から俺が知っていたからだ。

下層区街で起こることを、俺が頭の奥で理解していたからだ。

 

(一体なにがどうなってんだ......なんで今になってこんな大事なことを思い出すんだよ......?! くそっ......!)

 

思わず壁を蹴りたくなるが自制心でなんとか抑え込み、カードリーダーのある場所へと着く。

手に入れたカードキーでドアのロックを解除し、ようやく1階へと潜り込んだところでふとリンが声を上げた。

 

「私が先に様子を見てくる。2人はここで一緒に待ってて」

 

「わかった。気をつけろよ?」

 

「当たり前だ」

 

笑みの混じった返事をしたあと、リンの姿が自動閉開式のドアの向こう側へと消えていった。




リュウ・ヴォル「ところでなんでいきなりこんなことやり始めたんだ?」

え? あーうん、お気に入りに登録してたSSで間繋ぎにやってたのが面白くて真似した(。`・д・)

リュウ・ヴォル「にしては、ネタ要素なんもない気がするけど......」

まぁ......そこは次回で挽回するっ!

リュウ「そういえば夏休みの宿題終わったの?」

なんでいきなり?!
夏休みの宿題に関しては、私の夏休みは冬まで続くから問題はない(`・ㅂ・)و

リュウ・ヴォル&リュウ「だめだろ....../でしょ......」

えへ(*/∇\*) キャ



前後書きに間繋ぎしてて、それがウケたSSはこちら↓

http://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=22054

宣伝いぇあ!o(>ω<*)o 


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第三十八話:こじつけのこじつけ

初めての戦闘描写だよ! やったね!

リュウ・ヴォル「ものすごく下手だけどな......てかこれまだ続いてたのか」

もちろん!

リュウ・ヴォル「はぁ......」

む、ため息つかなくたっていいじゃん

リュウ・ヴォル「だってめんどry」

ふーん......じゃあリュウ・ヴォルの出番はなしね

リュウ・ヴォル「ちょっ! それだけは勘弁!!」


「んー」

 

「っ!!」

 

不意にニーナが手を重ねてきて、思わずビクリとなる。

 

「あ、あぁ......ニーナか......」

 

どうも考え事をしている間に顔が強張っていたらしい。

こちらを見るニーナが心配そうに見ていた。

 

「なんでもねーよ、大丈夫」

 

俺がそう言うと、ニーナは嬉しそうに微笑んでからまた前を向いた。

......言っとくが、ビクってなったのは単純に驚いただけだからな?

別にロリと2人きりだから我慢してたとかじゃないからな?

ーー否定してる時点で怪しい?

やめんか、こら(´・Д・)」

俺今そんな気分じゃねーんだから。

 

 

リンが先に様子を見てくると言って、結構な時間が経った。

本当はそんなに経ってないのかもしれないが、時間が長く感じるのはやっぱり俺が混乱しているからだろうか。

 

リンを待っている間、ずっと考えていた。

なんでここぞという大事な場面で、俺の記憶が薄れたり無くなったりしてるのか......って。

結局のところなにもわからなかったが(ていうかわかるはずがない)、おかげでなんとなくの目処が立ったのはラッキーなことかもしれない。

 

というのも、俺は今までこの状況が憑依ものだって考えてたんだが『そもそもの前提が違うんじゃないのか?』と考え直してみたらこの異変の仕組みがなんとなくわかった気がしたんだ。

じゃあなんで俺が『ドラクォのリュウ』として今ここにいるのか、ということになるんだがそれに関しては憑依に似たなにかってことにしてある。

ーーはい、そこ。結局憑依じゃねーかとかのツッコミはなし。

こればっかりはいくら考えても答えが出て来ないから、無理やりにでも決めつけない限り進まねーんだよ。

 

で、この異変の仕組みなんだが。

感覚的に、俺が今ドラクォの物語を追いかけてるっていうのは間違いないんだよ。

ただ、俺がこの物語の行く末を知ってることから“重大な場面での大幅な変更”が出ないようにするための異変なんじゃないのか、という結論に至ったわけだ。

そうやって考えれば、最下層区リフトポートでのことや下層区街のことに関する異変に納得ができる。

 

最下層区リフトポートは、リュウがアジーンの力に覚醒しなかったらそもそも物語として成立しないし、下層区街で予めあの神経ガスを回避してしまえばリュウの、ニーナのために空を目指すって気持ちが成立しない。

そう思うイベントはこのあと控えてるわけだけど。

 

結局全部が全部こじつけなんだが、これから自分が混乱しないためにも今はそう思っておくしかない。

この世界......この状況で俺のことを知ってるやつなんて誰もいないんだから。

 

「お待たせ」

 

ドアが開き、少し暗い表情をしたリンが現れる。

たぶん、ニーナについてなにか勘付いたんだろう。

 

「どうだった?」

 

「この研究棟の上階に研究主任の部屋がある......そこへ行けば何か、手がかりが掴めるだろう......」

 

「わかった。ニーナ、行こう」

 

先に立ち上がり、ニーナの手を引っ張りながら俺は彼女を立たせた。

 

 

俺たちに反応したドアが自動で開き、リンの言っていた研究主任の部屋があらわになる。

中央付近には小さな培養機が設けられており、その中に入っている人の腕とは到底思えない何かを見て俺はつい顔をしかめてしまう。

何回もプレイした人なら必ずわかるだろうこの片腕は、そう近くない未来でボッシュの左腕となるチェトレのものです、はい。

今のうちに壊したらどうなるんかな?なんて興味が湧いてくるが嫌なことしか起きない気がするので我慢する。

 

「や、なんですか? 君たちは」

 

ドアが開く音と共に、特徴的な話し方で話しかけられた俺らはそちらに視線を向ける。

眼鏡をかけた白衣の男が、こちらを訝しむように見ていた。

 

「やや、その試作品は出荷したはずですが......何か動作不良( エラー )でも......?」

 

言いながら、白衣の男はニーナに近付いていく。

対してニーナは嫌がるように何度も首を振っていた。

 

「や、いけませんね......換気肺(ベンチレータ)がこんなに汚れている」

 

男がニーナの翼に触れた途端、黒いススのようなものが零れ落ちる。

下層区街で起きたあのことから、彼女がなにかをするたびにずっと落ちていたものだ。

 

「もっと大事に扱ってもらわないと......もしかして肺の交換に来たのですか?」

 

「?! 交換、できるのか......?」

 

思わぬ展開に、俺はつい聞いてしまう。

本当なら、肺の交換ができず汚れた空気を浄化しきれなくなればニーナは終わりという展開だったはずだ。

だからこそ、空気の悪くないところ......地上へ出ればニーナが助かると踏んだリュウは空を目指すと決意したんだ。

 

「そうですね......肺細胞をクローニングして出来上がった代わりの肺を移植することはできますが......ただ、代わりの肺がないのでそれが出来上がるまでかなりの時間がかかりますね......」

 

「どのくらい、かかるんだ?」

 

試作品(プロトタイプ)なのでなんとも......手術中の体力のこともありますが、代わりの肺が出来上がるまでの間に取り込んだ空気を浄化しきれなくなればこちらでも対処しかねます」

 

「頼りにならねぇな......それじゃあニーナが死ぬのを覚悟しておけって言われてるようなもんじゃねぇか......!」

 

「代わりのものでしたら、すぐに用意できまーーッ!!」

 

気が付けば俺は、男の顔をぶん殴っていた。

 

「代わりのもの?! ふざけるな! それじゃあここに来た意味ねぇだろ! なんでーー?!」

 

不意に後ろから抱きつかれる感覚と腕を捕まえられる感覚がして、再び振り上げていた腕がピタリと止まる。

ニーナが“やめて”と必死に訴えている傍らで、リンが俺の腕を握っていた。

 

「やめな、リュウ」

 

「んーん」

 

「ニーナ......リン......ちくしょう」

 

リンの手を振りほどくようにして腕を下ろした俺は、拳を強く握りしめたまま地面を見つめる。

 

ーーこれも、俺がこの話を知っているための変更点ってことになるんかな......。

 

「ーーだったら、連れてってやるよ......」

 

「リュウ......?」

 

「(元からそういう運命(さだめ)だったんだ、なら)」

 

俺は顔を上げ、ハッキリとこの場に宣言した。

 

「ニーナを、空へ連れていく。あそこなら、ニーナを助けられる」

 

「?! 空なんて逸話でしかない、本当にあるのかすらわからないものだぞ?! そんなところにニーナを賭けるのか?!」

 

リンが激昂するのも無理ない。

リンを含めここにいる俺以外のやつは全員地下で生きて地下で死ぬ運命なんだ。

だが、俺は違う。

実際に空が存在しているのも知っているし、この物語の最後で空に辿り着くことも知っている。

 

「空はあるよ、絶対に」

 

「......」

 

有無を言わせない言い方に、リンは口を閉ざしてしまった。

 

 

公社ラボを最上階まで進み、続いた氷結廃道で俺らは休憩を入れていた。

ちょっと肌寒いのがアレだが、ここを出れば“レンジャー三連戦”に入るので今のうちに体を休めておきたい。

ニーナといえば、蛍の光のようなものを元気に追いかけ回っていた。

どうでもいいけど、出会ってからここまでずっと薄着&裸足でいるニーナさんは寒い......というか冷たくないのか? ここ、一応氷で出来た道なんだけど。

 

「どうしてあの時」

 

ふとリンに呼びかけられ、俺はそちらを見る。

 

「空があるって言い切れたんだ?」

 

「......リンは、さ。俺が突拍子もないことを言ったら、それを素直に受け入れてくれる?」

 

ちょっと、吹っかけてみた。

 

「え......?」

 

当然返ってきた分かりきった答えに、俺は苦笑しながら首を振る。

 

「いや、なんでもねーよーー俺があのとき言い切れた理由だけどよ」

 

「......」

 

「知ってるんだ、俺の中にいる奴が」

 

「......あの力、か」

 

「あぁ......頭の中で声がするのはあのとき以来ないけど、でもハッキリとわかるんだよ」

 

「......」

 

「確かに、あの男にニーナを任せた方が一番いいのかもしれない。あいつが生みの親だって言うなら尚更だと思う。でも、それじゃあニーナは救われない......綺麗になった肺でまた汚れた空気を中和させられるのがオチだ」

 

「リュウ......」

 

「ここは......この世界はニーナを救わない世界だ......だから俺は、ニーナを助けたい。世界を出て、空へと連れていきたいんだ」

 

「バカだね、リュウ......でも、嫌いじゃないよ。そういうの」

 

リンがフッと微笑んだのを見て、俺はさてとと声を上げながら勢いよく立ち上がった。

 

「ニーナ、ちょっと来て」

 

「?」

 

俺の声に反応したニーナが小首を傾げながらこちらへと歩み寄る。

俺はレンジャースーツの上着を脱ぎ彼女に羽織らせた後背中を見せその場に屈んだ。

 

「足、冷たいだろ。背負ってってやるよ」

 

「......」

 

少し遠慮がちに俺の背中へと乗ったニーナの体は思いのほか冷たく冷え、思った以上に軽かった。

 

 

「ここを抜ければ、工業区に出られる......」

 

「ここで......」

 

コンテナに周りを囲まれた、必要最低限の道しか残されていないフロアで俺は呟く。

 

「ニーナ、ごめん......下ろしてもいい?」

 

俺の言葉にニーナは小さく頷き、スタッと綺麗に下りる。

 

「リュウ?」

 

「2人とも、武器を構えて」

 

鞘と刃のぶつかり合う音を鳴らしながら、俺はドラゴンブレードを引き抜く。

俺の視線に気付いたニーナとリンは、黙って杖と銃を構えた。

それを確認した俺は小さく深呼吸をし、

 

「出て来いよ! そんなとこに隠れてないで!!」

 

直後、様々なドアから待機していたらしいレンジャーが俺らを取り囲む。

 

「よう、相棒」

 

嫌味ったらしい声で俺を呼びながら、目の前のドアからボッシュが現れる。

 

「まだ死んでないの、お前」

 

「お前が今すぐ死ね、無駄にプライド心が高いエリートさ・ま」

 

余裕ぶった歩きでこちらに近寄るボッシュに、俺も対抗するように言ってやる。

ボッシュのこめかみにわずかな力が入ったのを俺は見逃さない。

 

「はっ、死ぬのはお前だよ、リュウ。聞いたぜ、頭の中に変な声がするんだろ?」

 

「......それで?」

 

「お前、もう終わってるよ」

 

ボッシュが言い終わったのと同時にゼノが遅れて現れ、ボッシュを手で制す。

 

「リュウ 1/8192

お前は......バイオ公社での任務において、特殊な実験体とあやまって接触......その結果、精神に重大なダメージを負っている」

 

「っ......」

 

途端に俺の中の何かが駆け巡り、体に痛みが走る。

 

「反逆者と行動を共にしたり......保護対象に過剰な思い入れをもったり......全てのお前の行動は、精神的混乱の結果だ」

 

ーー違う

 

「おとなしく、我々の保護を受けるんだ。リュウ」

 

ーー違う

 

「今ならまだ間に合う」

 

ーー違う

 

「......やっぱ、行かしてはくれないですよね」

 

「はぁ? 馬鹿か、お前は「馬鹿はてめぇだ、ボッシュ。いちいち割り込んでくんな、黙っとけ」......」

 

一瞬で撃沈したボッシュの顔が怒りに満ちていくのがわかる。

今にも飛びかかりそうなボッシュをやはりゼノが手で制する。

 

「残念ながら、それは出来ない......」

 

「......なら、ここを無理にでも突破するだけだ」

 

「残念だよ......」

 

そう言ってゼノが出した合図に、囲んでいたレンジャー達が一斉に武器を構えた。

 

「トリニティとニーナ( 機密 )は後だ! 先ずはリュウを捕らえろ!」

 

『はっ!』

 

リーダー格と思われる男の命令に周りの8人が応え、剣を武器とするレンジャーが一気に俺に向かって襲い掛かってくる。

 

「チッ! リン、ニーナを頼む!」

 

「わかった!」

 

リンの返事を聞き終わる前に俺は動き出し、ドラゴンブレードを逆手に持って絶命剣を放つ。

 

「くらえ!」

 

「くっ......援護を頼む! ーーぐあっ!」

 

振り下ろした勢いで衝撃波を生み、地面を揺らすことに成功した俺はそのまま突っ切り横一文字を繰り出す。

 

「はぁっ!」

 

続けて縦一文字を発動し、剛剣技十字剣を放つ。

盾で防がれてしまったものもあったが、運良く2人の胸部を斬り裂くことができ戦闘不能へと追い込んだ。

リーダー格を除けば、残すはあと6人。

 

「っ......!」

 

と、パンッと乾いた音と共に頬に銃弾が掠り、ダラリと血が流れ出す。

 

「チッ!」

 

一瞬意識が逸れたもののすぐに立て直し、形振り構わず最初に目を付けた相手へと勢いよく突きを放つ。

 

「テラ=ブレイク!!」

 

たったその一発で盾が壊れ、そのままの勢いで腹部を貫く。

あと、5人。

 

「う......らぁっ!」

 

ハイパーキックで手近にいたレンジャーを蹴り飛ばし、遠距離攻撃を主とするレンジャー2人とを上手い具合にまとめる。

 

「リュウ!」

 

特攻を仕掛けようとしたところへリンの声がし、と思えばレンジャー達の足下に紫色の巨大な魔法陣が浮かび上がるのがわかる。

それだけで俺は何が起きるのか把握した。

 

「うー!」

 

バルハラーだ。

 

「んー!」

 

ニーナが杖を掲げ、杖の先端が発光すると同時に魔方陣から雷撃が発生し、まとめられたレンジャー達が一気に叩かれる。

このまま行けばあの3人は麻痺して動けなくなるだろう。

なら、あとは2人。

 

「っ......!! ニーナ!!」

 

不意にリンが叫び、釣られて振り向くと身動きの取れないニーナの背後に近接タイプのレンジャーがいた。

剣を振り上げ、ニーナの背中を斬り捨てようとする。

 

「ッ!! させるかあぁぁぁ!!」

 

俺は思わずD-ダッシュで敵の後ろに回り込み、活殺剛翔剣を力強く放つ。

 

「グッ......」

 

斬撃が相手の背中を捉え、斜めに刻まれた傷口から勢いよく血が噴き出るも反動で返ってきた斬撃がそのまま俺の肩をも捉える。

 

「くっ......!」

 

一瞬のうちに左肩がばっくりと割れ、異常な痛みが走る。

とっさに傷口を手で覆うが、ぬるりと手の位置がズレた。

 

「リュウ!! くそっーーこれでとどめだ!」

 

リンが俺を呼びながらも、残り1人とリーダー格の男を始末するのが視界の端に映る。

 

「リュウ!! 大丈夫か?!」

 

最初に囲んでいたレンジャー達を掃討し終え、リンとニーナが慌てて俺に駆け寄る。

D-ダッシュを使ったせいか、かなり息が荒れていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ......大丈夫なわけ......ねぇだろ......」

 

 

だが、まだ終わってはいない。

むしろここからのようなものだ。

 

 

「......」

 

肩で息をしつつ、離れて見ていたボッシュらを睨むとゼノはおなじみのクセで眼鏡を掛け直していた。

そのガラスの奥が悲しそうな色をしていたのは、気のせいなのかもしれない。

 

「ドラゴンの力、か」

 

ゼノの呟きと同時に、警報が鳴り響いた。

 




リュウ・ヴォル「ところでスキルの名前むちゃくちゃ出てるけど、みんなわかんのか?」

え......?

リュウ・ヴォル「考えてなかったって顔すんな」

だって......

リュウ・ヴォル「ここで言えば良いだろ?」

そ、その手があったか!

リュウ・ヴォル「はぁ......先が思いやられるぜ......」



横一文字→簡単に言えば横になぎ払う技
縦一文字→剣を縦に振り下ろす技
剛剣技十字剣→横一文字、縦一文字の順にスキル発動すると出てくる合成スキル
テラ=ブレイク→攻撃力100%で格闘攻撃。盗むの大変なの、これ
ハイパーキック→キックってそのまんまのスキルがちょっと強くなったやつ。相手を突き離す効果があるけど、需要度低いようw
活殺剛翔剣→攻撃力200%で格闘攻撃。与えたダメージの10%が自分に返ってくる、ちょっと命懸けな技。

バルハラー→初期で手に入る、雷撃魔法バルってやつの最上級。いろんな魔法とコンビで繋げまくると無敵( ´艸`)

これで→実はこれ一つでスキル。砕け散るがいい!ってやつととどめだ!ってやつで繋げると威力がものすんごい上がる。個人的には砕け散るがいい!のほうを繋げるのがオススメだったりw
とどめだ→攻撃力100%で射撃攻撃。防御力無視らしい。あんまり使わないからわからん。

以上、スキル説明第一弾ですた!!

リュウ・ヴォル「続けんの?!」


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第三十九話:惨事

|ω・).。oO(ちょっとした諸事情により、今回は3500文字と短めです)


背後で爆発が起き、爆風が辺りのコンテナを一気に吹き飛ばす。

 

「......ーーはぁっ、はぁっ、はぁっ、」

 

巨大な4足歩行タイプの機械、アシモフを葬り終えた俺はクールダウンし荒い息を何度も繰り返していた。

ゲームではアシモフのHPを0にした時点で自爆スイッチが入り、3ターン後に自爆するかD-ダイブしてD-ブレスを空打ちすれば戦闘が終わったはずなんだが、そもそも自爆スイッチが入ってくれる気配すらねぇ。

ずっとニーナを援護しながら彼女に氷結魔法を発動させ続けるのも酷だし、女の子にずっと任せっきりってのもアレだったから仕方なくD-ダイブしたんだが相変わらず原作知識?通り体力の消耗が半端なくて困る......。

体力の消耗、というよりは寿命が縮んでいくような感覚なんだけど。

使う度に思う......ホント命懸けだよな、これ。

 

「バケモノめ......」

 

ボッシュが首を何度も振りながら、一歩また一歩と後退りする。

 

「隊長......俺は......俺たちは行きます......だから、そこをどいてくれ」

 

「リュウ......それはお前の意思ではない」

 

その言葉に反応するかのように、鼓動が自分の中で大きく響く。

その原因が何かなんて考えなくたってわかる......アジーンが表に出ようとしていた。

 

「それは、お前にリンクした実験体の意思だ」

 

ーー違う

 

「違う......これは、紛れもない俺の意思だ」

 

「ーーもう、話し合いでの解決は無理なのだな......」

 

悲しそうな声でポツリと呟いたゼノが、持っていた剣を水平にする。

 

「このままじゃ俺は、あんたを殺す......あんただけは殺したくはないんだ。だから、頼むから......そこを開けてくれ」

 

「リュウ、悪いが......ここまでだ」

 

俺の言葉を返すことなく、ゼノが問答無用で剣を引き抜く。

空になった鞘を華麗な動きで腰に直すと今度は空いている手でもう一本の剣を引き抜く。

 

「......」

 

俺は一度深呼吸をし、今にも暴れ出してしまいそうなアジーンをねじ伏せながら剣を構えた。

 

「はぁっ!」

 

ゼノが気合の声を上げながら、腰を低くして一気に俺へと近付いてくる。

俺は歯を食いしばりながらそれを受け止め、なるべく拮抗状態を保てるように力をコントロールする。

今気を抜けば一瞬にして体のコントロールをアジーンに奪われ、圧倒的な力でゼノを殺すだろう。

 

『リュウ 1/8192』にとってゼノはただの剣の師匠という認識かもしれないし、それ以上かもしれない。

ゼノ自身彼を秘蔵っ子と考えたり、周りから彼は『隊長のお気に入り』と呼ばれるくらいの溺愛ぶりだ。

すでにこの手で何人も葬った俺が言う資格なんてないのかもしれないが、彼にとって思い出深いゼノを殺したくないというのが俺の気持ちだった。

別にゼノを殺さなくたって今後の展開には影響なんてないだろう、なんて思うが所詮は俺の「こうだったらいいな」という妄想でしかない。

実際にはどうなるかなんてわかるわけないし、だからこそ俺はハッキリと決めかねていた。

殺すか、否か......をーー

 

「っ......!!」

 

「リン! ニーナ!!」

 

伏兵のレンジャーがいたらしい、唐突にリンの呻き声が聞こえ俺の意識は完全にそちらを向いてしまった。

リンの頬に小さな擦り傷が見える。

 

「戦闘中に、余所見はするなと何度教えた?」

 

「しまっーー」

 

耳元でゼノの声が聞こえ、とっさに前を向いた時には遅く。

気付けば俺はコンテナに背中を打ち付けていた。

 

「かはっ......」

 

肺の中の空気が押し出され、息苦しさが身体中を駆け巡る。

 

「リュウ!」

 

俺を呼ぶリンの声が、ものすごく小さく聞こえていた。

 

ーードクンッ

 

(まずっ?!)

 

一瞬、ほんのわずかな時間意識が飛びかけただけで鼓動の音が体中に響き、ギリギリ手放さなかったドラゴンブレードを握る力が強まる。

俺は急いで頭を左右に振り意識を呼び戻したあと、

 

「......っ!!」

 

視界に映ったソレに地面を強く蹴り左へと緊急回避した。

背後でドゴンッ!と音がし、慌てて振り向く。

と、ゼノの放った紫音絶命剣がコンテナにクリーンヒットし粉砕していた。

あと少し遅かったら俺がああなっていたかもしれない、と嫌でも思いざるを得ない。

尋常じゃない怖さが俺の戦意を一気に削り取っていく。

それでも俺はなんとか立ち上がり、構えを取り直す。

......ゼノの瞳の奥が少し嬉しそうなのは気のせいだと思いたい。

 

「私たちのことはいいから、リュウは自分のことに集中して!!」

 

ほとんど叫ぶようにリンが言い、そのまま自身の戦いへと身を投じる。

俺はそれに答える余裕もなく、息を整えながらゼノを注意深く見つめた。

 

「こうしていると、訓練していた頃を思い出すなーーだが......!」

 

言いながらゼノが再び走り出す。

彼女の武器、紫音剣2本とその実力で繰り出される様々な剣術にドラゴンブレード1本で対応出来るはずがなく、気が付けば完璧に防御へと回っていた。

 

「くっ......だあぁぁぁぁ!!」

 

長くも短い攻防の末、ギリギリのラインで防御ばかりしていたせいかつい集中力を切らした俺を僅かな炎が包み込む。

そのまま防御姿勢から無理やりに押し上げ、紫音剣の1本を弾き飛ばした。

 

「っ......!」

 

無理に弾き飛ばした衝撃にゼノが痛みを堪えながらも俺の腹部目掛けて残った1本の紫音剣を薙ぐ。

ゼノがそれを行った速さも、距離的にも、避けようのない攻撃のはずなのに

 

「......?!」

 

気付けば俺は地面を強く蹴り上げ、後ろ側へと“人としてはあり得ない”ジャンプをしコンテナの上へと回避していた。

視界の端で、チラチラと火の粉が見える。

 

「その強さ、あまりにも危険......やはり今、ここで止めねば......!」

 

先ほどの痛みに痺れているのか、紫音剣を握る手で利き手ではない方を抑えながらゼノが声を上げる。

彼女の眼つきが、本気のそれへと変わっていた。

 

 

殺したくはない......その気持ちは変わらないし、偽りもない。

けど、本気で来るもの全てを流し半殺しにするのはその人を馬鹿にしているみたいでもっと嫌だった。

それは、この世界に紛れ込んでから新たに芽生えた、俺にとって初めての拘りだった。

 

「だったら俺は、それを突破するまでだ!」

 

コンテナから飛び降り、俺はドラゴンブレードを構えゼノに向かって愚直に突っ込んだ。

視線の先で、彼女が俺の特攻に備え紫音剣を構える。

 

 

一閃。

 

 

交わり、勢いのまま互いに離れた俺の背後で消え入りそうな声が聴覚を刺激した。

 

「ーー強く、なったな......」

 

そのまま力無く倒れ込む音がし、俺はゆっくりと振り向く。

その先にはどことなく満足そうで嬉しそうなゼノの死に顔があった。

 

クロスハイパー。

 

それが俺の放った、この場に相応しい剣術(スキル)だった。

 

「隊、長......っ?! うあぁぁぁぁ!!」

 

ゼノが倒れる音に気付いたのだろう、リンやニーナと戦っていたレンジャーはそう言うと逃げるようにしてこの場を去った。

 

「......」

 

やっと終わった......そんな達成感2割の疲労感8割を覚えながらも俺は顔を上げとある方を見る。

 

「......」

 

恐怖を顔に貼り付けたボッシュが、何度も現実を否定するかのように首を振っていた。

1歩、また1歩と後ろへ下がっていく。

 

「......っ!!」

 

俺と視線が合った途端、声こそあげなかったものの先ほどのレンジャーと同じようにボッシュが踵を返して走り出す。

 

「ボッシュ......ッ!!」

 

俺はそれを慌てて追いかけようと足を動かすが

 

ーードクンッ

 

「グっ......?!」

 

タイミングが良いのか悪いのか、心臓を鷲掴みにされたような痛みが走り胸を押さえながらそのまま崩れ落ちてしまう。

 

「リュウ!!」

 

リンとニーナが慌てて近付いてくる気配を感じつつ俺は痛みを堪えながらもなんとか顔を上げきる。

だが、やはりというべきかその先にボッシュはおらず、ドアも沈黙を保ち続けていた。

 

「クソったれ......なんで今なんだよ、ちくしょう......っ」

 

言いながら俺の体力は限界を迎え、そのままぶっ倒れる。

ギュッと拳を握ってみるが、入れた力は萎んでいく風船のようにすぐに抜けてしまった。

 

この“レンジャー3連戦”で1人生き延びたボッシュが仲間にプライドを傷付けられ、俺を殺すことに執着すると知っていたからこそ今のうちに大怪我の1つでも負わせておきたかった。

そうすれば『逃げてきた』なんて言われてプライドを傷付けられることもなくなる......。

だが、結局俺の手がボッシュに届くことはなかった。

当たり前だ、もう少し冷静に考えればわかることじゃないかーーボッシュを器として蘇ったチェトレを無理やりD-ブレスで押し上げることで、空へと続く『メインゲート』を開くのだから。

これも物語には欠かせない1つの展開ポイントだったんだ。

 

ーーここまで来たら、あとはもうなるようになるしかない......

立ち塞がる敵を薙ぎ倒してエンディングまで行くだけだ

 

徐々に暗くなる視界の中で俺はそう密かに心を決め、瞳を閉じた。




うふふ......うふ、うふふふふ......

リュウ・ヴォル「どうした?! いきなり! 気持ち悪い!!」

いや、ね?
実はーーいいや、活動報告に載せたからそれ見て悟って......?
2度も言い......もとい書きたくないよ......(´°ω°)チーン
どれだけ訂正すればいいんだろ......はぁ......

リュウ・ヴォル「......(今は触れないでおこう、うん)」



最近になって編集し直されてるのは、そういうことなんです、はい(´・∀・`)


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第四十話:仕方がない

完全に手詰まりなうorz

何度も原作見直して、自分なりにプロット組み立てて、今更ながら執筆中のやつを何度も読み返してプロット立てて(←おい)、雷真の行動に裏付けして必要なイベント持ち上げて、、、

なんてことをしていたらなにをどう進めていいかわからなくなってしまった(;´・ω・)
まぁそのための第三章訂正だったんだけどね( ˙-˙ )

とりあえず、ホントはもっと長くするつもりだったけどこれ以上待たせるのもあれなので区切りのいいところで投下しまする

大変申し訳ない......っ


小さな影が刺客の傍へと降り立つ。

 

「おかえりなさい、シグムント。どう? うまく突破できるかしら?」

 

問われたその内容に小さな影......シグムントは重々しく首を振る。

 

「厳しいな。一分のスキマもないほど警備に囲まれている」

 

「そう......やっぱり昨日の今日じゃ固いのも無理ないわね」

 

落ち込んだ声音を見せたのも束の間、すぐに大岩の影から照らされた空間へとシャルは目を向ける。

警備と自動人形にびっしりと囲まれた建物、学院長公邸。

あの中にいる学院長を今日、このときをもって仕留めなければ今度こそ1人ぼっちになってしまうかもしれない。

チャンスは一度きり。

ひとたび行動すれば姿が明るみになり、失敗すれば体勢を立て直すことも日を改めることも出来ないまま大切な人が失われる。

 

「......」

 

グッとシャルの手に力が篭ったのを、シグムントが見逃さなかった。

 

「シャルよ」

 

「なに、シグムント?」

 

「今からでも遅くはない。考え直せ」

 

シグムントの言った言葉が理解出来ず、シャルは数秒ほど固まってしまう。

が、理解してしまえば早いもので彼女は細い眉は吊り上げた。

 

「ここまできて、今さら何を言い出すのよ」

 

「聞いてくれ、シャル。君が学院長を殺したところで、やつらが約束を守るとは限らないのだぞ?」

 

シャルへと向き直り、諭すようにシグムントが言う。

だが、シャルの気持ちは変わらなかった。

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ......でも、私がやらなかったことでアンリが殺されるのは間違いないのよ。だったら私は、少しでも望みがあるほうへと掛けるわ」

 

これ以上話すことはないと、言外に滲ませながら立ち上がるシャル。

そのままシグムントを置いて歩き出した彼女の背後で、少し間を置いて翼を広げる音がした。

 

「すまなかった、シャル......私にもっと強大な力があれば君たち姉妹を救えたのだが......」

 

シグムントの言葉に、間髪入れずシャルは振り向き叫ぶ。

 

「違うわ! あなたはいつも私のことを助けてくれたわ! どんなときだって傍にいてくれたし、私が間違っていたら正してくれた! だけど......今回だけは私だってわかってるの......こんなことは間違ってるって......」

 

「いや......君がこんなに苦しんでいるのには私の無力が原因なのも事実なのだ......なにがあっても君を守ろう」

 

そのままシャルの肩に留まり、シグムントは前を向く。

 

「......ありがと、シグムント」

 

そう言ってシャルも前を向いたとき、2つの影が身を潜めていた大岩に降り立った。

 

「よぉ、シャル。いい雰囲気邪魔して悪いな」

 

着物を着た少女と、息を切らす男子学生......雷真と夜々だった。

 

「雷真......」

 

「どうした、そんな格好してーーえっと、なんだ? ......思い出した、サバゲーでもやるつもりか?」

 

「......はぁ」

 

登場早々、相変わらずの馬鹿さ加減にシャルは溜息をこぼす。

 

「慣れない単語使わないで頂戴......だいたい、サバゲーってなによ?」

 

「サバイバルゲーム、略してサバゲーだとよ。リュウが言ってた。今度やろうとか言って結局やらず仕舞いだけどな」

 

「知らないわよ、そんなの。で、私に何の用? あなたに構っていられるほど私は暇じゃないの」

 

「学院長を狙うのに、か?」

 

「っ!!」

 

「リュウから全部話は聞いた。アンリならリュウが匿ってくれてる。だからバカな真似はやめて、今すぐ寮に戻れ。今ならまだ間に合う」

 

説得まがいの雷真の台詞に、シャルはため息を吐いた。

 

「バカなの? 死ぬの? リュウから全部話を聞いたのに、よくそんなことが言えるわね」

 

「シャル!」

 

「冗談じゃないわ、お断りよそんなの。だからそこをどきなさい......消されたくなかったら、ね」

 

だが、雷真はその場から動くこともなければ“ため息を吐きたいのはこっちだ”とでも言うかのようにシャルよりも大きくため息をした。

 

「な、なによ」

 

「バカはお前だよ、シャル。お前には大事な夢があるんだろ?」

 

「っ! 黙りなさい!」

 

シャルの叫びに、魔力に、シグムントが反応する。

 

「ここは魔術の最高学府......学院長を殺したら、お前は魔術世界の敵になる。ブリュー伯爵家の再興なんざ、永遠に不可能だぞ!」

 

「黙りなさいって言ってるのよ!!」

 

「自分の夢をみすみす潰すようなことをするな!」

 

そう雷真が言い切り、言い返そうと口を開いたシャルだったがその先が紡がれることはなかった。

 

わかっている......そんなことは、当に承知の上だ

承知の上で、動いているのだ

 

両拳をキツく握りしめ、シャルは絞り出すように声を出す。

 

「ーーってるわよ......わかってるわよ、そんなこと! でも、仕方が無いじゃない! 確かに自動人形(家族)の心臓も大事だわ! けど、ようやく見つけたたった一人の妹が命の危機に晒されてるってわかって、そんなの放っておけるわけないじゃない!」

 

ポロリとシャルの瞳から一筋の涙が零れ落ちる。

堰を切って溢れ出した涙を必死に両手で拭くその姿は酷く辛そうだった。

 

「もう、いい。なにも言うな、シャル」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら言ったシグムントが、雷真に向き直り翼を広げる。

 

「退いてくれ、雷真。君たちを死なせたくはない」

 

「言ってくれるね。俺だってそうむざむざとーー」

 

雷真の言葉の途中で、シグムントの纏う気配が変わる。

噴き出した濃密な闇の中から姿を見せたのは、全長8mにも及ぶ巨大な竜だった。

 

「君がかつてそうだったように、シャルもまた絶対に退くことの出来ない場面なのだ。君はシャルに、永遠の孤独を味わせるつもりか?」

 

「っ......撫子......」

 

痛い記憶を触れられたのか、雷真の言葉に覇気が無くなる。

が、それも一瞬のことで彼は頭を左右に振るとシグムントの瞳を見つめた。

 

「違う! 俺はそんなつもりじゃない!」

 

「ならばーー」

 

「あんたは黙っててくれ、シグムント! なぁ、シャル、本当にこの方法しかないのか? 他にも方法があったんじゃないか? こうなる前に打てる手は幾つもあったはずだろ? なんで自分一人で解決しようとするんだよ!」

 

「うるさいわね! あなたには関係ないでしょ?! 放っておきなさいよ!」

 

言いながら、シャルがシグムントの上に乗る。

涙の跡は残っていたものの、もう泣いてなどいなかった。

シャルの魔力を受け、シグムントがその牙を覗かせる。

ぐわっと口が開き、雷真に襲いかかろうとする直前夜々が彼を抱きかかえ攻撃の及ばない場所へと後退した。

だが、着地に出来る隙を見逃すほどシャルも甘くはない。

 

「ラスターカノン!」

 

シグムントの喉の奥で光が徐々に強くなり、夜々の着地点に向けて発射される。

が、夜が幸いしたのかラスターカノンは着地点の手前きわどい場所に当たるだけに終わった。

 

「くそっ! 吹鳴四十八衝!」

 

難なく着地した雷真は夜々から降り、そのまま彼女に魔力を送る。

先ほどの会話でシャルを諦めさせれたらよかったが、すでに攻撃態勢に入ってしまった今では不可能だ。

可能なのは力付くでシグムントの上からシャルを降ろすことだけ......それにはまずシグムントに近付かなければいけない。

 

「ラスターフレア!」

 

指示を受け、駆け出した夜々をシグムントの光線が迎え撃つ。

雨粒のように降り注ぐ光芒を一本一本正確に見極めて回避し、危なければ雷真に強制支配(フォース)で回避させてもらう。

そうして幾つかの拮抗を繰り返すも徐々にシグムントと距離を縮めた夜々は力強く体当たりし、上に乗るシャルのバランスを崩させた。

 

「きゃあっ!」

 

済んでのところで堪えたシャルだったが、当然攻撃の手は止んでしまう。

雷真はチャンスとばかりに魔力で自身の脚力を強化し、地面を駆け抜けた。

 

「夜々!!」

 

「はい!」

 

雷真の呼びかけに応え、夜々がわずかに身構える。

そうして彼が背に乗り上げたのと同時に夜々は飛び上がり、一気にシャルのいる高度まで稼いだ。

そのまま雷真は夜々の背を踏み台にさらに高度を稼ぎ、落下すると共にシグムント上のシャルを拐う。

が、シャルを抱えて綺麗に受け身など取れるはずもなく、雷真は地面に背中を強打してしまった。

 

「ーーかはっ!」

 

肺にある空気全てが押し出されたような感覚の中、口の中に鉄臭いものを感じつつ彼は苦笑する。

 

「悪いな、手荒なことしちまって......怪我はないか?」

 

「っ!! 離しなさいよ!」

 

落下の恐怖に目を閉じていたシャルだったが、雷真に腕を掴まれていることを認識すると途端に暴れ出した。

 

「断る」

 

「離しなさいったら!!」

 

「断る!! いい加減目を覚ませ、シャル!! 戦うべき相手は俺じゃないだろ! 見間違えるな!」

 

その手はしっかりと彼女の腕を掴んだまま、ハッキリとした口調で雷真は問う。

 

「あなたが邪魔するからでしょ!」

 

「お前らを助けたいと思ってなにが悪い!」

 

「っ!!」

 

シャルの息を飲む声が雷真の耳を刺激する。

少しずつ落ち着きかけていたシャルの心は、自身でもわかるほど荒れていた。

 

「あなたって......ホントにバカ! 今更やめられるわけないじゃない!! 私は時計塔を壊したし、学院長も狙ったわ!! やめたところで、アンリが守られる保証なんてどこにもないの! だったら自分で守るしかないじゃない!!」

 

「だからリュウが匿ってくれてるって言ってるだろ!」

 

「それがなによ! たった一人で守れるなら、私だってそうしてるわ! でも、出来ないからこうするしかないのよ! それくらいーー」

 

「だったら頼れよ! 俺を!」

 

シャルの言葉が途中だと言うのにも関わらず、雷真は叫ぶ。

 

「ーーッ!!」

 

「俺を頼れ! リュウを! 学院を! 協会を!」

 

「か、勝手なこと言わないで! 私の気持ちも知らないくせに! ーーシグムント!」

 

シャルの声に応え、雷真目掛けてシグムントの尻尾が迫る。

思わず雷真はシャルの腕を放し、身構えた。

一歩間違えれば、主にも及ぶ攻撃。

だが、その尻尾を受け止める者がいた。

着物を着た少女......ではない。

 

「あなたともあろうお方が、下から二番目(セカンドラスト)如きに時間を掛け過ぎなのでは?」

 

仕立てのいい紳士服を着た、色つき眼鏡をかけた男......シンだった。

 

「誰だよ、お前」

 

警戒するような低い声で、雷真は自身の前にいる者を尋ねる。

対してシグムントはシンの姿を捉えるとなぎ払おうとした尾を戻していた。

 

「どうしてあなたがここに......?!」

 

シャルにとって当然の疑問は、しかし答えが与えられることはなかった。

 

「どうして、というのはおかしな話ですね。刻限まで残り少ないというのにも関わらず、事が起きないことに疑問を持つのは当然のことではありませんか?」

 

途端に苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべるシャル。

 

「シャル!!」

 

慌てて雷真は、そのまま踵を返してシグムントへと走り出したシャルを呼ぶが彼女は止まる気配は疎か振り返ろうとする気配すら見せなかった。

 

「くそっ!」

 

思わず舌打ちをして走り出した雷真の前に、行く手を阻むようにしてシンが降り立つ。

 

「ミスターアカバネ。あなたの相手は私ですよ」

 

早くもシャルとシグムントの距離は雷真から見て残りわずかにしかない。

間に合わない......そう思ったとき、

 

「ーー来ると思ったよ、シン」

 

スタッと音を立てシャルの進路方向に立ち塞がるようにして現れた人物がいた。

 

「リュウ!!」

 

本人はレンジャースーツだと言い張っていた、どこからどう見ても不思議な格好でしかないもはや見慣れた姿......リュウだった。

 




戦闘は、嫌いです

なので、飛ばしたいです

お気に入りが減っていくので、落ち込みます

亀更新過ぎるから、仕方がないけれど

なにか励みをください......ww

次に更新出来るのは、いつになるかわかりませんが、もうじき、もうじき出来上がるはずなので......
かなりの難産ですが、産みきります(使命感

長々と失礼しました


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第四十一話:決着

やっと書けました(;´・ω・)

これで3巻も終わりです

次話からは、3巻のラストにある後日談+オリジナルをぶち込んでいきます(`・ω・´)ゞ


アンリに支えられ、ボロボロのリュウが現れたのは夜会に出ようと自室を出た直後だった。

 

「雷真さん......」

 

「夜々!」

 

「あ、はい!」

 

雷真と夜々を認識し、縋るような目で呟いたアンリに雷真は夜々に呼びかけ、慌てて2人かかりで彼女の代わりに意識朦朧のリュウを支える。

いろいろと危ない道を渡ってきた雷真にとって、この状態でギリギリ意識を保てているのが不思議な気持ちだったが、何かに安心したのか雷真と夜々に支えられたまま気を失ってしまった。

 

「夜々、悪いがリュウをベッドに寝かせてくれないか?」

 

「わかりました」

 

夜々はしっかりと頷き、補助程度にもらった魔力で1人担ぎ部屋へと戻っていく。

 

「アンリ、一体なにがあったんだ?」

 

雷真は、廊下で立ち竦むアンリに声を掛け、自室に連れ込むと早速尋ねる。

夜会のルールでは、交戦フィールドに駐留する1時間以内に相手が現れなければその日はお流れとなってしまうので、最悪の場合規定に沿えるだけの時間......即ち23時までに舞台に上がればいい。

遅刻はあまりよくないが、今はそれどころではない。

 

「ごめん......なさい......私が、私なんかのせいでリュウさんが......」

 

いつの間にかアンリの両目には涙が限界まで溜まり、今にも零れ出しそうだった。

どうやら、リュウがここ最近姿を見せなかったのにはシャルが無茶ばかりしていることとなにか関係があるらしい。

本当は当人(リュウ)の口から聞けるのが一番好ましいが、それが不可能な場合関係者に聞くのが最良の策ではある。

だが、アンリもリュウの状態に負い目を感じとてもじゃないが話せる状態ではない。

 

「......」

 

リュウの手当を一通り終えた夜々と視線を交わし、雷真は肩を竦めながらアンリの背をを軽くさすった後そっとその場から離れた。

最初に会った時やシャルの手かがりを求め訪ねた(正確には追いかけ回していた、だが)ときなどから、彼女には男嫌いがあるように思えたが今は特に反応を示すことはなかった。

それほど責任を感じている、ということなのだろう。

この分ではリュウが目覚めるまでは話にならなさそうだ。

それこそ、夜会の規定に従えるだけの時間はある......と思う。

 

「アンリ、俺らがいない間リュウを頼むな」

 

念のため、そう言って雷真は夜々と部屋を出る。

だいぶ遅れてしまったが、それでも交戦フィールドでの待機義務を果たせばなんら問題はない。

そうして寮室には声を押し殺して泣くアンリと寝息を立てるリュウが取り残された。

 

「ーーうっ......」

 

それから30分と少し経った頃。

気を失っているはずのリュウの声がし、アンリが慌てて駆け寄る。

 

「リュウさん!」

 

「アンリ......そうか、おれ......」

 

よかったと何度も呟くアンリを見て、リュウは気を失う前までのことを思い出し申し訳ない気持ちになる。

 

「その様子だと随分心配かけたみたいだね......ごめん」

 

痛む体をゆっくりと起こしながら謝るリュウに、アンリは顔を上げた。

 

「そんな、リュウさんはなにも悪くありません! 全部私のせいなんです! 私さえいなければこんなことには......」

 

「違うよ、それは」

 

「えっ......?」

 

そんな風に返されると思わなかったのだろう、わずかに潤んだ瞳でアンリはリュウを見つめる。

対してリュウは、少し言いづらそうに、けれども目はしっかりと彼女を捉えたまま口を開く。

 

「上手く言えないけど......アンリはなにも悪くない。もちろん、シャルも。確かに、彼女のしてきたことは決して褒められるようなことじゃないし、むしろ非難されて当然のことだ。けど、それだってあの子が仕向けなければ起きるはずがなかったんだ」

 

「でも、私さえいなければあの人が、私を人質にしてお姉さまをそう仕向けることも......」

 

「アンリ、少し前に君が言ってたよね? 自分のせいで、家族がバラバラになったって......久しぶりに会えたとき、シャルの様子はどうだった?」

 

セドリックに命令され、時計塔跡地で泣き崩れるアンリを彼の元へ連れて行こうと抱き抱えていたとき彼女のほうから話してくれたのだ。

まるで呟いているような声の大きさに加え、その声は完全に風の音に負けていたがD-ダイブ下のリュウにそんなことは関係ない。

とはいえ、突然のことに驚いたリュウが聞き返したときはアンリはなんでもないと首を振ってそれ以上はなにも言ってくれなかったのだ。

 

「聞いてたんですか......?」

 

「ごめんね。聞き返しても教えてくれなかったから......」

 

そう言うと、アンリは俯いてしまう。

わずかな沈黙のあと、

 

「......お姉さま、すごく嬉しそうだった。こんな私と、また会えて不幸になるわけないって、言ってくれたの......」

 

そのときのことを思い出したのだろう、再び目に涙を溜め始めたアンリにリュウは言う。

 

「確かに君の言う通り、いなければとまではいかないけれど、君が人質にならなければシャルがあんなことをする必要はなかったのかもしれない。けれど、逆に言えば人質になったおかげで、もう二度と会えないかもしれないシャルに会えたんだ。だったら、どんな過程があったにせよ、それは喜ぶべきだーーアンリ、君はもっと、自分に自信を持っていいと、おれは思うよ」

 

「リュウ......さん......」

 

その言葉に何かを感じ取ったのか、アンリの涙は堰を切り、泣き出してしまった。

 

「......」

 

リュウは静かに彼女の背中をさすり、宥める。

やがて泣き疲れてしまったのか、アンリはリュウの座るベッドに体を預けたまま寝てしまった。

リュウがアンリを自身の寝ていたベッドに寝かせてあげようと思い立ったとき、不意にガチャリとドアノブの音がし寮室の扉が開いた。

雷真と夜々が帰ってきたのだ。

 

「雷真......」

 

「リュウ! もう体はいいのか?」

 

「うん、大丈夫。心配かけてごめん」

 

こちらに近付きながら問う雷真に、リュウはそう返す。

 

(......?)

 

リュウの雰囲気にどこか違和感を覚えるものの、雷真は気のせいだと割り切って

 

「いや、リュウが平気なら別にいいーーって、アンリのやつ、寝ちまったのか」

 

ふとベッドに体を預けて眠るアンリを見つけ、ふっと小さく笑う。

 

「こんなとこで寝たら風邪引くだろ......っと」

 

言いながらアンリを持ち上げ、所謂お姫様抱っこをする雷真。

それを見てリュウはベッドから降りる傍ら、彼の相棒は何故か戦慄した。

 

「雷真?! もしかしてそのままアンリさんと添い寝......?!」

 

「ちげーよ!! いきなり雰囲気ぶち壊してんじゃねぇ!!」

 

「夜々とも添い寝してくださいです~~っ!!」

 

「お前はそればっかだな!! たまには違うこと言えよ、ツッコミに疲れるだろ!!」

 

もはやそういう問題で片付けてもいいのだろうか、いつも通りのやり取りを始めてしまう2人。

リュウは苦笑しつつ、

 

「雷真」

 

「あ、おぅ。すまねぇな」

 

雷真の名を呼んでベッドが空いたことを知らせた。

彼は夜々との言い争いを中断してすぐに返事をし、アンリをベッドに寝かせる。

そうして布団を掛け終えた後、彼は体の向きを変えリュウと相対した。

 

「さて、と。アンリに支えられて意識朦朧で現れたときはびっくりしたっつーかビビッたんだが、一体なにがあったんだ?」

 

するとリュウは申し訳なさそうに視線を逸らし、小さく呟く。

 

「ごめん......今はまだ、話せない」

 

「は......? なに言って......」

 

「ホントにごめん......終わったら必ず話すからーーアンリのこと、お願い」

 

「待てよ、リュウ! どこに行く気だ?」

 

歩き出したリュウの腕を掴み、無理やり自身のほうへと視線を向けさせる雷真。

彼のまっすぐな瞳に、逃げれそうにない雰囲気でもあったがリュウはどこかかつての自分と重なるのを感じ小さくため息を吐いた。

 

「シャルは今日の深夜、必ず動く。それまでに彼女を止めないと」

 

「なんでそんなことが......」

 

これはシャルとアンリの問題であり、それに巻き込まれるようにして関わってしまったリュウの問題でもあるためなるべく無関係な人を巻き込みたくなかったリュウだが、最悪、この件のあらましを話してしまっても自身の行いに繋がる証拠を残さなければいい。

今はまだ、捕まるわけにはいかないのだ。

 

「おれもシャルも、弱みを握られてたんだ。おれはなんとか逃げてきたけれど、シャルは違う。アンリを人質に取られているから、逃げたくても逃げられなかったんだろうし、助けも求められなかったんだ。あの子が救われるとしたら、相手の戦力を削る他にない」

 

「シャルのやつ......待てよ? じゃあ、あいつが学院長を狙うのは!」

 

「うん......約束の時間までに学院長を殺さないと、アンリを殺す......最初から関わっていたわけじゃないからわからないけれど、大体そんなところだとーー」

 

「......くそっ! 夜々!」

 

どこか焦りを含んだ表情で走り出す雷真を、今度はリュウが腕を掴み止める。

 

「どこに行くの? きみが行ったところで出来ることなんてなにもないかもしれないんだよ?」

 

「だからって、こんなとこで大人しく待ってられるか! それに俺には世界最高の自動人形が......」

 

「おれのこの傷は、全部相手の自動人形につけられたものだ」

 

「っ!!」

 

不意に切り出された内容に雷真は息を呑む。

 

「奇襲を掛けられたせいで対応が遅れたのもあるけど、向こうの力のほうが遥かに上だった。それこそDーダイブ(あの力)を使えば勝てるかもしれないけど、そんな相手に少しだけタフでしかないきみがなんとか出来ると思ってるの?」

 

「......」

 

雷真が押し黙る。

確かに雷真はここに来てから事件に巻き込まれっぱなしで、その度にかなりの怪我を負っている。それでも今ここに立っていられるのは完治とまではいかなくともこの短期間で回復し、そしてその強い想いがあるからだ。

だが一方で、リュウがD-ダイブして戦っていたほうが良いのも事実だ。

たった一発、ドラゴナイズドフォームのリュウが振り下ろした腕がシンの胸に掠っただけで出血したのだからその威力は間違いなくこの状況を打破する手になるだろう。

そしてリュウは、自身の力を信じて疑わない。

 

「お願い、きみはここでアンリを守ってて。シャルは、おれが止める」

 

故に雷真にそう言うが、彼もそう簡単には退かない。

否、退くわけにはいかなかった。

時計塔が壊されたその夕方、自身のことを探るなと警告に来たシャルの涙を見てしまったから。

あいつを助けると、そう決めたから。

 

「......いや、俺がやる。あいつには叶えなくちゃなんねー大事な夢がある。それを、あいつからわざわざ話してくれたんだ......シャルを説得するなら、俺にやらせてくれ」

 

やはり、どこまでもまっすぐな彼の瞳にリュウはなにを言っても退きそうにないことを悟り、小さく頷く。

 

「......わかった。なら、こうしようーー」

 

そうしてリュウは、互いが許容できそうな案を提示するーー。

 

 

思いがけない人物に驚いていたシャルの顔が真面目に戻り、厳しい声音でリュウに命令する。

 

「そこをどきなさい、リュウ」

 

「シャル、もういいんだ。もう、無理をすることもない。あとはおれに任せて」

 

「あなたになにがーー」

 

出来るのよ、そう紡ごうとしたシャルの言葉が止まる。

リュウの体を覆うように、あのときの炎がいつの間にか彼を包み込んでいた。

赤くなった(・・・・・・)瞳はすでにシャルを見ておらず、シンただ1人を見つめている。

 

「もう、躊躇わない。きみだけは絶対に見逃せない」

 

その雰囲気に圧され、慌ててシャルがその場から退く。

リュウは静かに歩みを進めつつD-ダイブをし、シンの前へと行く。

雷真はとっさにリュウとの会話を思い出し、シャルの元へと掛けた。

 

その案とはこうだ。

まず、雷真がシャルとコンタクトを取る。

リュウがアンリを匿ったことも含めて彼女を説得してもらい、もしそこで上手く彼女の気持ちが変われば尚良し、変わらなかったとしても説得という時間稼ぎによって刻限まで残りわずかになれば、事が起きないことを不審に思ったセドリックがシンを寄越すはず。

そうしてシンが現れればあとは雷真にはアンリとシャルを守ってもらい、リュウは彼を再起不能までに追い込む。

当然雷真がシャルを説得している間にリュウとアンリの姿が目撃されれば説得が上手く行かない可能性が高いので、2人はシンが現れるまで付近の草陰に息を潜めることが絶対だ。

それが、セドリックが誰の目にも触れず、好き勝手にしていられるのもその前提にはシンという執事がいるからだと考えたリュウの作戦だった。

 

「アンリ!! 来い!!」

 

雷真の呼びかけに、草陰に潜んでいたアンリが慌てて彼の元へ駆け寄る。

 

「アンリ?! どうしてここに!!」

 

シャルはその姿を見て、混乱しているようだった。

だが、状況がそれを許さない。

 

「シャル、ここは危険だ! 退くぞ!!」

 

「退くぞって......なにを言ってるの?! 退けるわけないじゃない!! 私はーー」

 

「お前が逆らえなかった原因は、アンリが人質になってた他にアイツの存在があったからだろ? だったら、そいつを打ん殴っちまえばいい。ただ、その役はリュウがやってくれるが、ここじゃ巻き添えくらうかもしれねーんだ」

 

「......わかったわ」

 

渋々と、シャルは走り出した雷真とアンリに続く。

すでにシグムントは巨大化をやめ、シャルの傍を平行して飛んでいた。

一方でドラゴナイズド・フォームとなったリュウは宙を浮くシンを睨みつけていた。

 

「またあなたですか」

 

対してシンは、呆れたように、しかし敵意を含む声音で話す。

 

「あのときは正直驚きましたよ、たった一掠りであそこまでの傷を負ったのは初めてでした」

 

「......」

 

だが、リュウは一言も発さない。

ただ殺気だけが強く増していく。

 

「私の体は神性機巧マシンドールと言いましてね、そこらへんにある自動人形(クズ)とは違い遥かに規格外なのですよ。その私がたった一回の攻撃如きであの傷を負ったその屈辱が、あなたにはわかりますか?」

 

そう言って、シンの姿が掻き消える。

その直後リュウの背後、頭上辺りに姿を見せ高速の蹴りが振り下ろされた。

不意をつく一発。

が、リュウはそれを冷静に捉え、振り向き両腕を交差させて受け止める。

ズンッという衝撃と共に、わずかに地面が揺れる。

 

「くっ!!」

 

無言のままリュウに自身の足を弾き飛ばされたシンの声が漏れる。

リュウはそのまま互いの間に生まれたわずかな距離を背中の噴出口で全速力で追撃し、右腕を薙ぐ。

とっさにシンは空中で体勢を立て直し、その場から高速で離れた後息つく暇もなく攻撃を開始する。

シンの主な攻撃手段は高速で動き、相手の視界から失せ視覚をついたところで一撃ごとに重たい蹴りをお見舞いするものだ。

だが、リュウはその全てを見切り、時には受け止め、シンにほんのわずかで一瞬の隙が生まれたところを確実に攻撃する。

D-ダイブ下の彼の主な攻撃手段は腕を振り下ろす『ヴィールヒ』、腕を薙ぐようにして敵を殴る『ウラガーン』、腕を一気に振り下ろし敵が怯んだ隙にアッパーをかます『タルナーダ』とたった3つしかないが、その威力は折り紙つきで時と場合を考え臨機応変に使いこなせればそれはもはや最強と呼んでも過言ではない。

その分使えば使うほどに命が削られてしまう捨て身の技でもあるが、命尽きるまでシンとの戦闘が続くとは思えなかった。

それほどまでに圧倒的な力をシンは行使され、気付けば彼の体は血に塗れていた。

 

「はぁ......はぁ......」

 

荒い息を繰り返し、リュウを警戒するシン。

 

「す、すごい......」

 

圧倒的な戦闘を見て、雷真と共に身を隠していたシャルがぽつりと呟くが、雷真は嫌な予感がしていた。

そして、それは当たってしまう。

 

「......」

 

冷静に考えれば、あと一発。

タルナーダでも放てば終わる戦いだったが、そのときリュウの体から火が吹いた。

 

「ウオオォォアアァァ!!」

 

それまで無口だったリュウが獣のような叫び声を上げ、シンのいる方へと愚直なまでに突っ込んでいく。

当然の如くシンは軽々に避け、チャンスと捉えたのかリュウの側頭部に蹴りを叩き込む。

が、繰り出された足を掴むと彼は勢いよく後方に投げ飛ばし、シンを追撃しようと走り出した。

直後、ザクッとリュウの直線上に突き刺さる一本の剣。

 

「っ!!」

 

突然のことにリュウの動きが止まり、大勢を立て直せなかったシンが先のほうで地面を転がる。

 

「目を覚ませ、リュウ」

 

いつの間にか剣の柄にはアジーンが留まっており、異様な殺気(・・・・・)に怯むことなくアジーンはリュウの瞳を見つめていた。

虚ろな(・・・)瞳に徐々に光が宿り、リュウはハッとなる。

 

「クールダウンしろ、これ以上は危険だ」

 

そう言うアジーンにリュウの表情はわずかに暗くなるが、自分でも気付いているのだろう、すぐにD-ダイブを解く。

 

「ごめん、アジーン......ありがと」

 

人へと姿を戻したリュウが開口一番に言うが、アジーンは首を振る。

 

「気を付けろ、リュウ。それ以上力を使い過ぎればアイツが戻ってきたとき反動で壊れるぞ」

 

「うん......わかってる」

 

そう言ってリュウはアジーンの留まる剣の柄を握り、地面から引き抜く。

そうしてシンに視線を戻した頃には、シンはわずかな息切れまでに落ち着かせ、それでもこちらへの警戒は薄まるどころか強まっていた。

脅威的な姿からそこら中よく見かける人に戻ったというのにも関わらず。

 

「どうしたのです? そのまま私を攻撃すればあなたの勝ちだったものを。今更手加減ですか?」

 

「ふざけるな、手加減なんて絶対にしない」

 

そう言ってリュウは、柄の握り方を変え両手で掴み、勢いよく地面に突き刺した。

 

「くらえ!」

 

言葉と共に地面が大きく揺れ、衝撃が走る。

 

「クッ......ッ! おのれ......!」

 

『絶命剣』の衝撃波により足元をすくわれたシンに、リュウはすぐさま剣を引き抜き左側に構えたあと、わずかな炎を纏い人間離れした速さで近付く。

 

「終わりだ」

 

一気に肉迫し、そのまま切り上げるように見せかけて右側から剣を振り上げる。

咄嗟のことに最初の動きを読んで腕で防ごうとしたシンだったがものの見事に騙され、そして

 

「ぐうっ!」

 

さらに腕を半捻りして左側からも切り上げられたその剣の軌道は最初の邂逅によって付けられた痕を辿っていた。

治り掛けていた傷口から勢いよく血が噴き出し、シンは渾身の力でリュウの顔面向けて蹴りを放つ。

 

「......っ!」

 

目と鼻の先まで迫ったシンのつま先にリュウは息を呑み、慌ててバックステップで距離を取る。

そうして上手くリュウとの距離を稼げたものの、さすがに血が抜け過ぎたのかシンはがっくりと膝を突き息を荒くしていた。

ごふっ、と血の塊を吐き出し、地面が赤く染まっていく。

 

「シンッ!」

 

と、不意に戦場に割り込む一人の少年がいた。

 

「大丈夫かい、シン?」

 

セドリックだ。

 

「大変......申し訳ございません......坊ちゃま......」

 

心配する主に、息も絶え絶えのままシンは応える。

セドリックは小さく頷くと、シンを支えながらゆっくりと立ち上がり

 

「神性機巧のシンを相手にしてここまでやるなんて、人を超えてもはや化け物だね」

 

「......」

 

「君を混ぜたら面白そうだと思ったけど、間違いだったみたいだ」

 

「クッ、待て!」

 

言いながら、シンと共にすぅっと姿が薄れていくセドリックに、リュウは慌てて走り出すが、辿り着く前にそれは完全に消えてしまった。

 

「クライマックスにしてはいささか物足りないけれど、ノルマは達成出来たんだ、今回は見逃してあげるよ。でも、次はないと思ったほうがいい」

 

まるで全体に響くような声にリュウは顔をしかめるが、それで終わりなのだろう、それ以上セドリックの声が聞こえることはなかった。

 

「逃げられた、か......だが」

 

アジーンが隣で言い、チラリと視線を送る。

それに釣られてリュウも見てみると、その先には草陰から飛び出しこちらへと駆け寄る雷真達がいた。

 

「終わったんだね」

 

「あぁ。今は少し休め、力の使い過ぎだ」

 

「うん......そうさせてもらうよ」

 

そう言って、リュウはアジーンから雷真らへと視線を戻した。

 

「リュウ、大丈夫か!」

 

「うん、大丈夫。ありがとね」

 

「いや、礼を言うのはこっちさ。俺一人だけじゃ、たとえシャルと協力したって返り討ちにあってたかもしれない......お前のおかげでこいつらを助けることが出来たんだ、ホントにありがとな」

 

「あ、あの、助けてくれてありがとうございました!」

 

雷真に倣って、アンリが頭を下げて言う。

シャルはと言うと、少し恥ずかしそうにモジモジと、けれどもハッキリと聞こえる声で

 

「......ありがと」

 

「うん」

 

それにリュウは小さく微笑みながら頷き、そして

 

雷真達の視界に映るリュウの姿がグラリと傾いた。

 

「「リュウ?!」」

 

「リュウさん!!」

 

慌てて雷真が、倒れる直前のリュウを抱き留める。

 

ー暴走したせいか......短時間に命削り過ぎたかな......ー

 

徐々に縮まっていく視界の中で、リュウは呑気にも自身の状況を悟る。

 

この世界を閉ざすとしても、彼らだけは地下で生き延びて欲しい。

 

そんな言葉に出来ない、想いを秘めながら。




リュウ・ヴォル「なぁ」

うん?

リュウ・ヴォル「クロスハイパーで〆るんなら、最初からぶった切ればよかったんじゃね?」

うるさい、それは私も思ったけど、そもそもドラゴンブレードないし剣がないんだから無理なの

リュウ・ヴォル「木とか折ってそれっぽくすればよかったろ......」

その行動してるリュウがアホみたいになるから、アホキャラはあんただけで十分なの

リュウ・ヴォル「サラッと何気に酷いこと言われた?!」

作者ですから(`・ω・´)


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第四章 Two pairs of dragons
第四十二話:ご本人登場


自分的に、第三章はシリアス展開が多かったので更新がだらだらのような気がします。

シリアスじゃない展開だと、ここまで早く出来上がるものですね、新しい小説を書くときはギャグ系のを投稿したいです。

誤字・脱字ありましたら、お願いします


 

ーードクンッ......

 

(うぁ......どこだ、ここ......)

 

気が付くと、そこは何も見えない真っ暗な空間だった。

 

(確か俺、D-ブレスでチェトレぶっ倒したはずじゃ......まさかあれで終わりじゃなかったのか?)

 

自分が立っているのか立っていないのかすらわからない暗さ。

平衡感覚が狂いそうになる中で、俺はふと何かの気配を感じ慌ててそちらを振り向いた。

 

「随分、挨拶が遅れちゃったね」

 

「なっ......」

 

ブレスオブファイアでおなじみの主人公、この世界では閉ざされた空を与えたという英雄がそこにはいた。

 

「おま、リュウ......?! なんで!?」

 

「きみもリュウ、だけどね」

 

「うっ、うっせぇ......!」

 

クスッと笑いながらリュウに突っ込まれ、俺は頬が紅潮するのがわかった。

 

「で、でもなんで死人のあんたがこんなとこ居んだよ? つか、ここどこ......」

 

そこまで言いかけて、ふと思い当たる。

 

(ちょっと待てよ......前にどっかでこんなの見なかったか?)

 

俺は慌てて再び辺りを見回し、結局は真っ暗で輪郭すらハッキリとしなかったが逆にそのおかげでわかった。

 

(おいおい、勘弁してくれよ......てことは、ここは所謂俺の精神世界ってことか......? うわ、つまんねぇ......)

 

だてに前世でオタクをやっていただけのことはある。

つまり簡単に言うと、ここは俺の心の中で、目の前にいらっしゃるリュウさんは確かに死人だけど俺の中(・・・)にいる意識だけのリュウさん......なんだと思う。

つまりとか略してみたけど、実際がどうとかわかるわけない。

 

「どうかした?」

 

言葉の途中で黙った俺に、リュウが尋ねてくる。

 

「あ〜......いや、なんでもない......こともないんだけど。なんであんたが俺ん中にいるわけ?」

 

するとリュウの表情がわずかに暗くなり、その顔には苦笑いが浮かんでいた。

 

「やっぱり気付いてたんだね」

 

「って言っても、今わかったばっかだけどな」

 

あはは、と乾いた笑みを浮かべながら、

 

「で、俺にあんな体験させたのにはなんか理由があるんだろ?」

 

すると、リュウの顔が真面目になった。

 

「まぁ、ねーーきみのことはアジーンから聞いてるよ。罪を償うために、この世界に転生したんだよね?」

 

「あんにゃろ......喋ったな」

 

なるべくリュウに聞こえないよう小声で舌打ちする。

 

「それから、前世にあるゲームっていうものがおれらの地下世界を描いたものだってことも......」

 

「はぁ?! あいつそこまで喋ったの?!」

 

リュウの言葉の途中だと言うにも関わらず、つい叫んでしまった俺は悪くないと思う。

リュウは苦笑いを浮かべて

 

「あはは......とっさのことだったとはいえ、おれの記憶に閉じ込めてごめんね? 本当のことを知ってたなら、そんな必要はなかったのに......」

 

その言葉に、俺は首を振る。

何と言うか、今更だがやっぱりリュウにはどこか惹かれる。

別にホモとかそう言うわけじゃないぞ?

ただ、ちゃんと感情もあってそれを表現しているのに、ちゃんと見なければわからない......なんとなく、ずっといたいって思うんだよ。

......一応言っとくが、決してリュウがソッチ系の好きとかそんなんじゃないからな?

 

「いや、あれはあれで結構得るもんがあったよ。なんつーのかな、ゲームって所謂娯楽みたいなもんでさ。どこまで言っても時間潰しにしかなんねー訳よ。画面一つ挟んで、ただ傍観し遊んでるだけより、やっぱ体験するもんとじゃなにかと違ったしな」

 

「そっか......ねぇ、リュウ君。一つお願いがあるんだ」

 

「お願い?」

 

「うん......おれに、協力して欲しいんだ」

 

「協力......?」

 

そのとき、ふとリュウの瞳が嫌な気配を漂わせていることに俺は気付いた。

 

「この世界の空(・・・・)を、閉ざすことに」

 

 

目を覚ますと、なんだか久しぶりな気がする天井が視界いっぱいに展開されていた。

窓を見てみれば、まだ日がある。

 

(やっと、戻ってこれたか......)

 

思い返せば、言葉で纏めるには短いけれど、その中身はホントに大変だった。

時計塔記念式典に護衛として参加していたら、シャルがいきなり時計塔ぶっ壊して。

混乱してたら、リュウが俺の体乗っ取って彼の記憶に閉じ込められて。

そのまま必死でドラクォのED目指して。

終わったと思ったら、ご本人からこの世界の空を閉ざすのを手伝ってくれなんて言われて。

まぁ、当然断ったんだが。

 

(「いや、さすがにそれはダメだろ」)

 

(「どうして......きみは、おれがやったことを全部知っているんだろう?」)

 

(「確かに知ってるし、あんたの気持ちもわからないでもないけど、そんな世界を左右することを俺一人じゃ決められない」)

 

(「......わかった」)

 

(「わかった......ってなにを?」)

 

(「もし気が変わったら、教えて。いつでも待ってる」)

 

(「は? ちょ、それどういう意味だよ?! おい!」)

 

先程の会話を思い出し、思わず大きなため息が出る。

 

(あのまんまリュウはどっか行っちゃうし、厄介なもん抱え込んだなぁ......)

 

そう文句を垂れていると、ふとアジーンのことが脳裏に浮かび上がってきた。

 

(そうだ、あのクソ野郎今どこにいる?)

 

辺りを見回してみると、視界ギリギリに日の当たる場所で丸まって寝ている姿が映った。

俺は右手一本で親指、人差し指、中指とそれぞれ音を鳴らしながらベッドから起き上がろうとする。

が、

 

「......」

 

俺の体にはいろんなコードがべったばりされており、起き上がるにも45度までというドがつくほど辛い態勢まででどう考えても無理だった。

いや、コードをぶちぶちぃっ!とすればいけるんだが。

それは常識的にどうかと思う。

 

「ーーアジーンのくそったれ!」

 

そうして思わず叫んだ俺は、なにも悪くないはず(2回目)。

 

 

俺の叫びで気付いたクルーエル先生が様子を見に来て、いきなり殴られた。

患者が叫ぶなと怒られたが、

 

「俺はなにも悪くない! 全部アジーン(こいつ)のせいなんだ!」

 

なんて言ったらクルーエルにもう一発殴られた......。

しかもアジーンはなんかガン飛ばしてくるし......わけわかんねぇっての。

全部お前のせいなのに......(3回......目?)。

と、まぁそんな感じで、ついでだからと身体の状態を見てもらった。

もちろん、ため息を吐かれながら。

こいつ、ホントに男を診断するのが嫌なんだなぁ......そんなことなら医者になんかならなかったらよかったのに。

クルーエルに見てもらうのは2回目だが、腕が良いのは確かなんだけどな。

 

「ーーなんだ、こいつは......8割方治ってやがる」

 

「?」

 

どういうこったと首を傾げると、男のそんな仕草なんぞ見たかないと言われたがすぐに説明してくれた。

 

「最初、医学部(ここ)に運ばれたときそいつは酷い有様だった。全身の至る所に真っ青な痣があるし、両腕には目を覆いたくなるほどのヒビが、極め付けにはあばら数本と両腕の真ん中(ここら)辺りが折れてるんだからな」

 

「ぅわマジか......」

 

(うへぇ、酷いな、そりゃあ......一体なにしでかしたんだよ、リュウ......)

 

思わず声に出しかけて、慌てて心の中で呟く。

うっかり言えば最後、こいつ大丈夫か的な目をされそうなので、ちょっと怖い。

それがクルーエルの前なら尚更......下手すれば開頭されそうだ。

 

「オマケになにしたのか知らんがな、いくつかの臓器まで傷付いていた。あと一歩間違えりゃ御陀仏だったぜ、お前」

 

「......」

 

「最初はどっから手を付けようが迷ったんだがな。レントゲンで撮ってみたら、痣とヒビだけは特になにもなかったんだが、折れていた箇所は“骨じゃねぇなにか”が代わりに繋いでいた。と言っても、完全じゃないがな。ある程度は動けるくらいだ」

 

「へぇ......」

 

その話を聞いてなんとなく“あ〜、D-ダイブの影響か”と思ったが黙っておいた。

バレて実験台にされたらたまったもんじゃない。

とりあえず、医学部に運び込まれてからすでに4日は経っているが謎の接合部のおかげにより8割は回復していたと教えてもらった。

 

「俺の身体、一体どうなってんだ......」

 

「それはこっちが聞きてぇよ。まっ、とにかくだ。本来骨折したら完治までに2ヶ月掛かるんだが、すでに8割は回復しているんだ。念のため2週間は寝とけよ」

 

「に、2週間?」

 

「当たり前だ。いくら大半が治っていたとしても、わけのわからんなにかが働いているんだ。疑心暗鬼になるのも無理はないだろ」

 

「はぁい......」

 

げっそりとしながら、俺は返事をする。

2週間......それをこの1人部屋で過ごす......ドが付くほど暇じゃねぇか、おいぃぃ......。

 

「じゃあ、俺は他に用事があるんで」

 

「俺のは用事ですらないってことかよ!」

 

俺のツッコミを華麗にスルーしながら、クルーエルが病室を出て行く。

一気に静かになり、なにか物足りなさを感じているとアジーンが布団の上に乗ってきた。

 

あぁ、そうだ。

こいつをとっちめなきゃな。

 

「おい、てめぇ。なに俺のことバラしてんーー」

 

「貴様のことなど、興味はない」

 

「なにそれ酷っ?! さんざん俺のことバラした挙句に、謝罪の一言もねぇの?!」

 

「いずれは消えて無くなる身なのだ。どちらでも良いだろ?」

 

どうやら、本来の主(リュウ)(?)と出会ってからなにかあったらしい。

明らかに前のアジーンと様子が違う。

 

「......」

 

だからと言って、俺のことを漏らしたこいつを許すつもりは当然無いが。

なにを言っても仕方が無いのなら、謝ってくれないのなら、実力行使あるのみ。

俺は拳を握り、アジーンの頭に拳を落とした。

自動人形なので、もちろん全力だ。

 

「〜〜ッ?! なにをする!」

 

「これでおあいこだ。なにがあったか知らんがな、俺の気持ちにそんなの関係ねぇんだ。謝らなかったお前が、悪い」

 

「......ふんっ」

 

あ、拗ねた。

 

「ざまぁみろってんだ」

 

あっかんべ〜とソッポを向いたアジーンに向けてやってから、身体を倒し寝転がる。

が、それ以降なにか仕返ししてくるというわけでもなく、無言の時間が続いた。

 




骨じゃないなにかというのは、ご都合主義?です。
ゲームでD-ダイブを発動した際、もしD-ダイブ前に毒など状態異常だった場合、発動後、そして解除後共に状態異常が治っているので、無い頭捻ってこじつけました、ごめんなさい。

あと、レントゲン撮影なんですが、Google先生に聞いたところ第二次世界大戦ではすでに多くの地域で導入されたと書いてあったので、ヴァルプルギス王立機巧学院ならそれくらいあるんじゃないかと......。

言い訳はこれくらいです。
失礼しました。


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第四十三話:大富豪は俺だ!

とりあえず原作の3巻、4巻、5巻を借りてきたけど、
第四章をオリジナルで締めくくろうか
4巻をやってから第五章をオリジナルで締めようか
悩み中なんだよねー(´・Д・)」

別に4巻の内容あってもなくても終われるっちゃあ終われるから、最早気分の問題なのだよ

一応、ってことで4巻をやったほうがいいのかやらないほうがいいのか、活動報告にて意見? アンケート? 待ってやす
出来れば早めがいいので、1週間くらい? かな
お願いしあーっす!

あ、あと今回短いです(約3500文字)
さーせん(´・∀・`)

P.S.
感想とかで意見待ってたらマズイ......んだよね?
注意事項の意味が理解出来ないから、とりあえず活動報告で待ってればいいのかな......?


よし、4日は乗り切った。

あと1週間と3日......グダグダするにしても、そろそろ精神が逝きそうだ。

今だにお見舞いに来てくれる人はいない......みんな忙しいんだろうが、ちょっとくらいは顔を覗かせてくれてもいいじゃないかというより刺激が欲しい。

え? どうやって4日間もベッドの上で過ごしたかって?

嫌だなぁ、もちろん抜け出したに決まってるじゃないか(ゲス顏)。

8割はすでに回復しているのだから、安静にして完治するのを待たなきゃダメなのはわかっているのだが、ずっと寝るとかさすがにムリ。

抜け出すのは昼なので、寮に帰っても雷真はいない......てことでどこに行ってもボッチなわけだが、寮に帰ればいろんなものがあるのでそれをコッソリ病室に持ち込み遊んだり、クルーエルに強請って画用紙とペンと定規を強奪......もとい貸してもらい、お手製トランプを使って医学部にいる女学生らと大富豪しまくったりして時間を潰した。

やっぱ初心者は強いね、役がなにかわかってない分、天然でこっちの困るような数字ばかり出して来るんだから......。

あ、そんなこと聞いてない?

ごめんなさい。

 

「あーぁ、暇だなぁ」

 

欠伸を噛み締めながら、天井をぼーっと眺める。

アジーンは俺が目を覚ました日から姿を消し、それ以降は見ていない。

どこの家出少女だっつーの、大人しく俺と同じ目に合えってんだバーカ。

 

「ん?」

 

コンコンと2度ノックが聞こえ、俺はそちらに視線を向ける。

クルーエルか、大富豪仲間の女学生かと思っていたが

 

「よっ」

 

「こんにちは、リュウさん」

 

「雷真!! それに夜々!!」

 

ここでようやく、久しぶりな顔に会えた。

 

 

「あざーっす!」

 

手持ちに残っていた2枚のカード、ハートの7を場に出し隣にいた雷真へスペードの3を手渡す。

 

「うっわ、なんでこんなの渡すんだよ!」

 

7渡しで来たカードに不満を漏らす雷真に、ニヤニヤしつつも口元はしっかり抑えて言う。

 

「はっ、そういうゲームなんだから、諦めろ♪ それに、バックが来たら最強なんだから、むしろありがたく思え♪」

 

「バ......ッカ、なにサラッとヒントになること言ってんだ!」

 

「うふふ♡ この勝負、夜々がもらいました!」

 

「くそ、負けてられるか!」

 

さて、ただいまはお察しの通り、大富豪中です。

雷真らと大富豪するのはこれで2回目なため役はうる覚えだったが、役が一覧にしてある紙(医学部の女学生達と遊ぶためにわざわざ書いた)を渡して無理やり参加させた。

あ、1回目はレンジャースーツが実家から届いた日な。

というわけで雷真ともに夜々はバリバリの初心者なんだが、雷真だけは全力で嫌がらせしてやった。

5スキップしたり、7渡しの革命したり.etc......。

初心者? なにそれ美味いの?

並にフルボッコしてやった。

楽し過ぎる。

 

「上がりです!」

 

「あぁ〜っ!! 負けた! ちくしょう!」

 

「いぇーい!」

 

俺は言いながら夜々にハイタッチを求め、彼女もそれに応えてハイタッチしてくれる。

 

「いぇーい、です!」

 

「卑怯だぞ、2対1とか!」

 

「雷真だから気にしない!」

 

「理不尽だ!」

 

などと他愛もない会話をしながら、率先してカードを集めまた切り直す。

が、

 

「さすがに大富豪ばっかり飽きてきたな......」

 

この5日、ずっと大富豪していたせいかそろそろ別の刺激が欲しくなりつつあった。

確かに大富豪は楽しいが、続けてやっていれば興味が薄れるのも仕方ない。

う〜ん、と雷真(バカ)でもわかりやすそうなトランプゲームを考えていると、ふと話し掛けられた。

 

「なぁ、リュウ」

 

「あ? んだよ?」

 

「お前、1週間前に寮で話してたときと口調が違わなくないか?」

 

「は? なに言ってんだ、急に? ーーあぁ、そうか。お前、ついに頭イカれて......」

 

ドンマイ的な視線を送ると、大声で叫ばれた。

 

「断じて違う!! 一体なにがどうしてそうなったんだよ!!」

 

「雷真......安心してください、私が看病してあげますね!」

 

「お前が担当になったら余計に怪我するから大人しくしててくれ!」

 

「そんな、雷真......うわあぁぁぁん」

 

よほど来たのか、本当に涙を流し出す夜々。

いや......こいつの場合は嘘泣き、なのか?

 

「うわっ、女の子泣かしたな」

 

どちらにしても、煽るのは忘れない。

 

「いや、これは何時ものことだからな? 気にすることないからな?」

 

「で、ホントにどうしたんだよ?」

 

「お前が話を逸らしたんだろ!!」

 

はぁ......と大きくため息を吐きながら、雷真が“いや”と切り出す。

 

「1週間前、お前言ってただろ。向こうの自動人形は俺が相手するから、巻き添え食らわないようにシャル達と避難しとけって。それだけじゃないが、なんか喋り方自体が敬語っぽかったんだ」

 

「......ふぅん」

 

サラッと流しつつも、俺の脳裏にはしっかりとリュウの顔が思い浮かんでいた。

 

(リュウだーー)

 

ついこの間、俺の中でご本人様と会ったこともあり、そう決めるのに時間はいらなかった。

 

「気のせいじゃね?」

 

だが、とりあえずリュウのことを言う気はない。

俺が転生者であることも、この先世界を滅ぼすだろう破壊者になることも、言わない。

説明し始めたら絶対に面倒臭そうなのが8割だけど、残りの2割は迷惑を掛けたくないから。

雷真だったらいくらでも足引っ張れとか言い出しそうだけど、それはなんかイヤだし。

今ならまだいくらでも対処は出来るし、それに自分で抱えた爆弾を相手に押し付けるなんて真似は絶対にしたくない。

 

「あれを気のせいで済ませるとかお前どんだけ?!」

 

「雷真の頭がイカれてんだから、そんな幻聴も聞こえるって訳よ」

 

「お前、俺をバカにするのもいい加減にしろよ?!」

 

「そうです、リュウさん! 雷真をそれ以上悪く言うようでしたら、私が許しません!」

 

横からいきなり熱苦しい台詞が飛び、雷真が便乗する。

 

「そうだ、夜々、もっと言ってやれ!」

 

「確かに雷真は夜々という女がいながら他の女を言葉巧みに陥れようとする垂らしですが」

 

ガクッと雷真が視界から消えた。

 

「もっと酷いこと言われてないか、俺?!」

 

「夜々のことはなにがあっても絶対に覚えていてくれるし、いつも他の女には負けないようなアプローチだってしてくれるんです! 夜々こそ、雷真に相応しいお嫁さんです!!」

 

「いや、それ趣旨がズレてるからな」

 

「アプローチなんかいつした?! リュウ、鵜呑みになんかするなよ?!」

 

雷真が、夜々の爆弾発言?に慌てていると、病室の扉が一気に開いた。

 

「てめぇら、うるせーぞ! そんなに騒ぐならとっとと出て行け!」

 

『ごめんなさい......』

 

クルーエルの怒鳴り声に、一気に静かになり、雷真と夜々が立ち上がる。

 

「さて、と。そろそろ行くわ」

 

「はい」

 

「もう行くのか?」

 

配り出したトランプの手を止め、思わず聞いてしまう。

 

「まぁな。いつ退院なんだ?」

 

「あと1週間と2日......3日? まぁその辺だな。8割回復してるが、念のためだと」

 

「へぇ、個室で1週間は長いな」

 

「だろ? 暇で仕方ないんだよ」

 

「あはは、まぁ頑張れ」

 

「他人事だからって!」

 

「うるさいとまたクルーエルに叱られるぞ」

 

「こんにゃろ!」

 

「いてっ」

 

咄嗟に近くにあった消しゴムを投げつけ、雷真が痛がるフリをする。

 

「痛くねぇだろ?」

 

「いや、地味に痛かったーーほらよ」

 

床に転がった消しゴムを山なりに投げてもらい、回収する。

 

「どうも。じゃあまたな」

 

「おう。夜々、行くぞ」

 

「はい♡」

 

そうして病室を出て行くとき、なんとなくだが2人で何か頷きあった気がした。

 

「ま、いっか」

 

そう呟き、俺は布団の中に潜り込んだ。

 

「ん? てか、シャル達と避難しとけってどういうことだ? そもそもシャル達って......あぁ、アンリのことか。確かシャルの妹だって、自分で言ってたしな」

 

ふと雷真の言葉を思い出し、頭の中にハテナがいっぱい浮かび上がるが

 

「えー......絶対になんかめんどくさいことに巻き込まれてるよなぁ......まぁいっか」

 

結局、そう締めくくり寝る態勢に入るのだった。

 

 

「リュウのやつ、なにか隠してたな」

 

「はい......」

 

病室を出ながら、雷真は夜々に頷きかける。

夜々も頷き返してくれるも、やはりその顔はどこか暗かった。

 

「あいつから話してくれたら、俺も手を貸してやれるんだがな......」

 

「そうですね......リュウさんは、なにを隠すことがあるのでしょうか? あまりリュウさんが悪いことをしているところは見ませんし......」

 

「そうなんだよなぁ......全然見当がつかないんだよ」

 

そんな風に話しながら医学部を出ると、2人は1人の影と1匹の影に気付いた。

 

「やっと見つけた!」

 

「やっと見つけたって......どうしたんだよ、シャル?」

 

「キンバリー教授が呼んでいた」

 

シグムントの言葉に雷真は“あっ!”と声を上げた。

 

「な、なによ......?」

 

思わず引き気味になって尋ねるシャルを置いていき、雷真は走り出す。

 

「悪い、シャル!! 忘れ物だ!!」

 

「あ、雷真! 待ってくださいです〜!!」

 

その後を夜々が慌てて追いかけ、どういうこと?とシャルは首を傾げる。

 

「彼のことだ、補修でもサボったのではないか?」

 

シグムントも中々に酷なことを言う。

だが、それで納得してしまうのも、それが今の雷真なのだから仕方が無いのかもしれない。

 

「なぁんだ、いつものことね」

 

そう納得したような表情を浮かべ、シャル自身もその場から離れた。

 




リュウ「リュウ君、大富豪強いねー」

リュウ・ヴォル「だろ(ドヤ顔)」

初心者相手に勝って喜ぶな

リュウ・ヴォル「いてっ、叩く必要ないだろ!」

だってなんかバカみたいだもん。あ、元からバカか

リュウ「あはは......」

リュウ・ヴォル「酷ぇな! いっつも放課後にやる大富豪は負けてるくせに!」

あれはみんなが強いんだから仕方ないんだよ!!

リュウ「はいはい、2人とも強いから、もうやめよう?」

嫌だ!

リュウ・ヴォル「嫌だ!」

〈一瞬お互いに視線を合わすも、バチバチッと火花が散る〉

よーし、こうなったらスピードで勝負だ!

リュウ・ヴォル「はっ、負けて後悔しても知らねーからな!」

そっちこそ!



うちの家にあるトランプはプラスチック製で、遊ぶと人を殺めたのかとツッコミが来るほど手が真っ赤になります。


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第四十四話:シャルの爆弾発言

次話が分岐点です。
4巻の内容に、オリ主が関わるかどうかの......。
活動報告にてアンケートやってるんで、出来ればあと1週間以内に3つくらいは意見欲しいので、頼みます

補足のつもりで、今話は雷真サイドです。


リュウのお見舞いから3日が経った朝。

シンとの戦いにより負傷したため医学部にて日夜を過ごす彼の空きベッドを有効活用するまでは良いと思う。

だが、同僚がいないことを良いことにほぼ毎日就寝時を襲撃してくる狩人から貞操を守る日々というのは精神的に辛いものがあった。

そんな悲しい毎夜を送る雷真は今日も寝不足の朝を迎えていた。

狩人......もとい夜々は抵抗する雷真と暴れ過ぎて疲れたのか一人夢の中だった。

 

「早くリュウのやつ帰ってこないかな......」

 

切実に願い、その想いは日を増すごとに強くなっていく。

いくら長年共に戦い、過ごし、何度も性欲を掻き立てられるような行動を起こされても一時であれば“馬鹿者”と躾けることで堪えてきたがほぼ毎日ではさすがの雷真も叶わない。

大きくため息を吐き、洗面所にて冷たい水を顔にかけることで眠気を吹き飛ばしたとき、遠慮がちにドアがノックされた。

朝だからか、まだ寝ているかもしれないとの配慮なのだろう。

雷真は夜々を起こさないようそっとドアを開けると、リュウがルークと呼んでいた寮監がいた。

 

「朝早くからどうしたんだ?」

 

「こんな朝早くから、お姫様がお呼びだぜ。全く、東洋人のくせによくモテるんだから、羨ましい限りだわ」

 

なぜか毒突きながら、言うだけ言うと去るルークに首を傾げつつ、彼の言葉に更にまた首を捻る。

 

お姫様とは一体誰のことを指すのだろうか?

 

わざわざ寮監が呼びに来たところを見ると、雷真に御用のある人物はトータス寮の前で待っているのだろう。

彼自身、女友達はシャルとアンリ、そしてフレイぐらいしかいないのでその辺りなのだろうと予想するが、こんな朝早くから約束を取り付けた覚えはない......ともかく、彼は会ったほうが早いと思考を切り替え寮の出入り口へと向かった。

 

「シャル?」

 

と、その先にいたのはきらびやかな金髪のよく似合う、整った顔立ちやスラリとした体格を持つ美少女......シャルがいた。

先日、学院長が設けた全学年集会の場で彼女は時計塔を崩壊させたことを詫び、全貌を明らかにしたことで今もなお学院に留まれていた。

またリュウが睨んだ通り、と言うか。

アンリは入学届けに虚偽が見つかったため学籍を抹消される結末を辿ってしまったが、キンバリー教授の計らいにより彼女の使用人としてこちらも学院に留まれるようになった。

 

「遅かったわね、乙女をこんなに待たせた挙句ノコノコと現れるなんて......そ、その......」

 

不意に言葉を濁し出し、照れたようにポツリポツリと紡ぐシャルだったが、

 

「相変わらずというか、最低な......よね」

 

肝心なところで聞こえず、雷真はなんだ?と思いながらも正直に聞こえなかったことを明かす。

 

「悪い、もう一回言ってくれないか?」

 

するとシャルはカーッと頬を真っ赤に染め、なんでもないわよ!と言ってソッポを向いてしまった。

いよいよわけがわからなくなってきた雷真は、大きくため息を吐きながらも用件を尋ねる。

 

「で、こんな朝早くからどうしたんだよ?」

 

「あなた、自分で頼んだことを忘れたの?」

 

「え? ーーあぁ、悪い」

 

言いながら雷真は、昨日シャルにある頼み事をしていたのを思い出した。

ロキは今だに怪我が治っていないので傷病欠場が認められるが、先日の騒ぎに雷真は無理に治ったとクルーエルに許しを得、動き出したため夜会へ出なければいけなかった。

そこでフレイと手を組んだのだが、彼女と共闘するのに相手のことを把握するのは必需......そこでマメに調べてくれるシャルを頼ったのだが、生憎シャルも把握しておらず、頼りっぱなしとわかっていながらも明日参戦予定の相手......序列75位のことを調べて欲しいとお願いしたのだ。

 

「まだ寝ぼけてるんだ」

 

「......またあの子と暴れてたの?」

 

「またって言うな、夜々が突っ込んでくるから寝れないんだよ」

 

そんな彼の返しにシャルはクスリと笑う。

と、不意に雷真とシャルは背中に異様な悪寒を感じ取った。

ギギギ......と音がしそうなほどゆっくり振り向くと、その先では角から視線を浴びせてくる人物が1人......寝ているはずの夜々だった。

 

「ら〜い〜し〜ん〜?」

 

「夜々?! お前なんでーー」

 

阿修羅がずんずんと歩みを進めてきたと思えば雷真の首を掴み、ぐわんぐわんと大きく揺さぶり出した。

 

「夜々を差し置いてシャルロットさんと逢い引きなんて、酷いです〜〜っ!! それもこんな朝から〜〜っ!!」

 

「やめ、だってお前寝てたじゃないか!!」

 

「それとこれとは関係ないですっっ」

 

「やめなさいよ!!」

 

雷真と夜々の間に割って入り、シャルがジッと夜々を見る。

 

「なんですか、シャルロットさん。雷真との間に入って来ないでもらえますか?」

 

「あなたが彼の首を締めるからよ」

 

ゲホッゲホッと咳をする雷真を示すシャル。

夜々は気にした様子もなく

 

「雷真が夜々に内緒でしたのが悪いんです」

 

「内緒って、彼はあなたの彼氏でもなんでもないんだから、別にいいじゃないの」

 

「シャル、ついにわかってくれたのか......!!」

 

息を整え終え、優しく首をさする雷真にシャルはほんのりと頬を染め

 

「だって、あなた、私に言ったものね。俺の足なんか、いくらでも引っ張れって」

 

「あ、あぁ......」

 

「あれは、その、いわゆる、一生涯......私の面倒を......ってことなんでしょう?」

 

恥ずかしそうに何かを言うシャルは今日で早くも2回目だが、2回目であり夜々の目の前ということもあり理解してしまった。

とすれば、1回目も大体似たようなものだろう......『彼氏』と。

 

「どうしてそうなった?!」

 

雷真は咄嗟にそう突っ込むが、遅かった。

 

「うぅ......うわーん!」

 

「ちょっ、夜々?! どこに行く?!」

 

涙を流し、走り出した夜々の腕を掴もうと雷真は手を伸ばしたが叶わず、林の中へと姿を消してしまった。

シャルは嬉しそうにふふんと鼻で笑い、

 

「私の勝ちねーーいたっ、なにするのよ!!」

 

「なにが勝ちだ! 夜々のやつどっかいっちまったじゃねーか!」

 

「どうせそのうち帰ってくるわよ」

 

雷真にチョップされた額を抑えながらむすっと呟く。

雷真ははぁっとため息をつき、寮へと歩き出した。

 

「ちょっと! 夜会のことは?!」

 

「......夜々が戻ってから聞く」

 

雷真はそれ以降なにを言うこともなく、そのまま帰ってしまった。

 

「なによ、あいつ......」

 

シャルはふいと顔を逸らし、踵を返して自身も寮へと戻っていった。

 

 

ゆっくりと太陽の端が地平線に吸い込まれていく。

 

時刻は午後5時。

 

だと言うのに、今だ夜々が帰ってくる気配はなかった。

講義を終え、入室許可を取らせたフレイと共にトータス寮にて夜々を待つが、そろそろ本気でマズイ。

フレイはガルムシリーズの世話があるからいいが、雷真は特にやることがなくそれが余計に彼を焦らせる要因となっていた。

 

そわそわ、そわそわ

 

どうにも落ち着いていられず、窓から夜々の姿を探し出した雷真の背中に頼りない声が掛けられた。

 

「夜々ちゃん......探す?」

 

「いいのか......?」

 

恐る恐る、といった感じで尋ねられ、雷真は信じられない思いで振り返る。

 

「ラビたちがいたら、すぐに見つかる......と思う」

 

雷真は俯き、申し訳ないと思いつつも

 

「......頼んでいいか?」

 

「う......任せて」

 

小さく頷き、フレイがラビに跨がって部屋から出ていく。

ほんの少ししかしないうちに寮の外を駆け抜けるガルムシリーズが見え、雷真もまた窓から夜々の姿を探した。

 

ーーそうして30分ほどが経過したあと。

 

「夜々!!」

 

フレイ、ガルムシリーズと共に歩く夜々の姿を捉え、彼は飛び出す勢いで部屋から出る。

そのままフレイらの元に向かうと、雷真が真っ先にしたのは

 

「雷......真......?」

 

「夜々、どこ行ってたんだ......心配したぞ......」

 

夜々が戸惑う声を上げるのも気にせず、彼はギュッと彼女を抱き締める。

 

「......すみません」

 

だが、彼女はそう言うと自ら引くように雷真の体を押した。

 

「夜々......?」

 

安心のあまり抱き付いてしまったのはアレだが、普段の彼女なら喜びそうなものだ。

だが、夜々は特に反応することもなければむしろ自身との距離を取ろうとする。

朝とのあまりの変貌ぶりに雷真は不安を覚えるが

 

「あ......夜会......」

 

ぽつりと呟かれたフレイの言葉に現実へと戻された。

 

「しまった、もうそんな時間か......夜々のことありがとな」

 

「う......これくらい、なんでもない」

 

「そう何度あっても参るけどな。なっ、夜々?」

 

ぽん、と彼女の頭の上に手を置き、場の雰囲気を和らげるつもりで言う。

 

「結局作戦は練れなかったが、まぁなんとかなるだろ。お互い頑張ろうな」

 

「うん」

 

「じゃあ、また後で」

 

そんな雷真の言葉を最後に、フレイはラビに跨がりその他のガルムシリーズと共に林へと姿を消した。

 

「夜々、俺らも準備するぞ。どーせ今日も向こうは来ないかもしれないがな」

 

「あ......はい♡」

 

夜々が頷いたのを見て、雷真は自身でも気付かないうちに彼女の手を引いて寮へと歩き出した。

 

 

午後6時半。

フレイと共に舞台へと上がってから30分が経過した。

 

「来ませんね、相手......」

 

「今夜来なかったら、下手すれば一気に14人と戦わなくちゃならないってことになるのか?」

 

「たぶん......そうだと、思う」

 

ギャラリーも退屈そうだ。

応援のために来てくれたシャルもウトウトしている。

口元を押さえつつも、欠伸を噛み締めているのがわかった。

これ以上の連戦になる可能性を消したいため来て欲しいと思う反面、夜々のことがあるので今日ばかりは仕方がないんじゃないかと思ってしまう。

チラリと夜々を見てみるが、やはりどこか無理をしていつも通り振舞っているような気配があった。

 

(いったいなにがあったんだ......)

 

今尋ねてしまってもいいのだが、パートナーと仲違いになっているなど敵に知られたくない。

と、不意にギャラリー達がざわめき始めた。

口々に喋り出し、一気に辺りが騒がしくなる。

 

「来たか?」

 

彼らが視線を送る先を見てみると、どうも当たりらしい、今までサボタージュ......所謂サボりを決め込んで戦闘を回避していた序列86位が現れた。

一応シャルからは86位含め75位全ての情報を教えてもらってはいるが、ようやく活用出来そうだった。

 

「相手は1人......か。行くぞ、夜々、フレイ」

 

「はい!」

 

「うん......!」

 

雷真の掛け声に、夜々が走り出し、フレイはガルム達に魔力を送り込み散開させた。

 

 

 

 

 

結果、この夜会では雷真達が勝利を収めた。

途中、死角を突いて現れた4人の夜会参加者により2人と6体対5人と5体となってしまい、辛うじて倒すことが出来たものの雷真と夜々のコンビネーションが祟って彼は怪我を負ってしまう。

それが原因なのか......その夜、夜々は時刻を見てくると言って姿を消したまま帰ってくることはなかった。

 

 

 

 

 



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第四十五話:もしアジーンが雷真の自動人形なら、心配し過ぎて死ぬんじゃないか?

アンケート実施してるのに、誰からも来ない......ちょっとしょげる。
かなりしょげる。
まぁ結論からして4巻の内容は冒頭に触れるだけでやらずに済むことになったけど。

でも、知らないうちにお気に入りがかなり増え過ぎて歓喜した。
あざした(。`・д・)


......うん、このサブタイトル一体なんなんだ
↑おい




それから更に4日後。

静寂な病室の中、頭の後ろで手を組みながら俺はウトウトとしていた。

朝の日差しが窓から直接入り、ちょうどいい具合にポカポカするのだ。

 

「ねみぃ......」

 

大あくびをかましながら、2度寝という名の幸福へと足を突っ込みかけたとき

 

ガラガラガラッ!!

 

「リュウ!!」

 

なんか煩いのが入ってきた。

 

「あぁ? んだよ、そんなに焦って」

 

自分でも今の気持ちが顔に出てんな〜とか思いながら、ゆっくりと体を起こし雷真のほうを見る。

 

「夜々がいなくなったんだ、頼む、手伝ってくれ!!」

 

「夜々が? 家出的な感じじゃないのか?」

 

「それがわからないんだよ! 昨日だって様子がおかしかったし......」

 

言ってて段々と冷静になって来たのだろう、雷真の言葉が尻窄みになっていく。

 

「ふぅん......わかった、ちょっと待ってろ」

 

クルーエルから言われた2週間の養成はあと6日で終わりを告げるが、ここだけの話クルーエルにバレていないだけで夜中に筋トレをしても全く痛みがないのだ。

朝だからこそクルーエルが見にくる可能性もあるが、ここ最近は2日に1回と来る頻度が落ちているので多少夜々を探しに行くぐらいならば見つかりはしないだろう。

俺は一気にベッドから起き上がり、脇に置いてあるレンジャースーツを手に取りながら雷真を仰いだ。

 

「で、夜々がいそうな場所とか検討付いてんのか?」

 

「一緒に探してくれるのか?」

 

「おぅ。お前ら、いい感じで出来てるもんな。これがいなくなったらそりゃ焦るわな?」

 

言いながら小指を立てるが、雷真には伝わらなかったらしい。

 

「なんでもねーよ......ほら、とっとと行こうぜ」

 

「あ、あぁ」

 

そうして俺らは医学部の外へと出ると、まず辺りを伺う。

それだけで夜々が見つかるとは思えないが、どっち側を探すとかそう言うのは決めておかねばならない。

 

「じゃあ俺は右手のほうを探す。雷真は左手な」

 

医学部をバックに、右、前、左とおおまかに定めた3つの探索ルートを、勝手だとは思うが自分で指示してしまう。

こんなところで時間は食いたくない。

いつクルーエルが見に来るかわからないのだ。

 

「なぁ、リュウ」

 

「? なんだよ?」

 

これ以上なにを話すことがあるのだろうか。

そう思っていると

 

「お前、前と口調が違わなくないか?」

 

「だから、それはお前の頭がイカれてるだけだっつの。てかそれ2回目」

 

「......」

 

不意に黙り込む雷真。

意味がわからなかったが、とにかくと割り切って俺は彼に背中を向けた。

 

「クルーエルに抜け出したこと見つかりたくないから、夜々が見つかっても見つからなくても昼には一旦集まろうぜ。場所は......」

 

この辺でいいだろ、そう言いかけたとき背後から途轍もない殺気を感じた。

 

「?!」

 

振り向いた途端、そこにあったのは靴底。

“なんだ?”と疑問を覚える暇もなく顔面に鋭い痛みが走り、

 

「うっ?! ーーがはっ!!」

 

続けて思いっきり吹き飛ばされたのか背中を木に強打し息が詰まった。

 

「雷、真......?」

 

「まさか本当に私がミスターアカバネだとお思いですか? ミスターリュウ」

 

「は......?」

 

意味がわからない。

どこからどう見てもあのバカでお人好しな雷真なのだが......。

すると雷真の姿から花びらが散るように体の表面が剥がれていき、全くの別人が姿を見せる。

ワックスでぴっちりと撫でつけたような髪型、色つき眼鏡、仕立てのいいきちんとしたベストの紳士服姿......向こうはこちらのことを知っているようだが、あいにく俺の記憶にはない。

 

「いや、お前誰だよーーっ......かあぁぁ、いってぇ......」

 

背中と顔をそれぞれ片手でさすりながら、男に問いかける。

 

「ククッ」

 

なにが面白いんだか。

男は口元を押さえ、含み笑いをする。

 

「つまらないですね、どうせならもう少し面白い冗談が良かったのですが」

 

「なっ......ッ!!!」

 

音もなく男の姿が掻き消え、かと思えば俺の腹に強烈な蹴りが入る。

先ほど打ち付けた木に再び叩きつけられ、それでも俺の体は留まることを知らず3本以上の木を折った。

 

「あが......」

 

ようやく勢いが弱まり、受け身を取る力もなくそのまま地面に倒れる。

 

「ふむ......以前とは随分と違いますね。まるで手応えがない......こんな相手にプライドを傷付けられたと思うと、それはそれで屈辱ですが」

 

「かはっ......マジでわけわかんねぇ......一体俺がなにしたってーー?!」

 

ドクン、と心臓が大きく脈を打ったと感じた瞬間、全身が一気に発熱し激しい頭痛と酷い目眩が起きる。

 

「あ......」

 

火あぶりにされているような熱さのせいか、明らかに意識が持っていかれようとしている。

 

(うぅ......)

 

男の姿が次第にボヤけ、やがてノイズが掛かったかのようになにも見えなくなっていく。

そうして俺は、そのまま意識を失った。

 

 

突如リュウの体から滲み出る炎が、そのまま彼を包み込む。

一瞬にして纏う雰囲気が変わったのを感じ取ったその男......シンは、彼との距離はあるがそれよりもさらに離れ向こうが動き出すタイミングを計らう。

 

「全く、今度は一体......坊ちゃまも嫌な役を回してくれたものです」

 

思わずと言った感じで1人呟くも、その警戒を解く気配は見せない。

それどころか握り拳には徐々に力が篭っており、それは明らかに強まっているようだった。

だが、いつまで経っても以前彼を叩きのめしたドラゴナイズド・フォーム(あの姿)にはならない。

確かに一定間隔でそれにはなるが、全身が基盤のような姿とを何度も繰り返していた。

 

まるで不安定。

 

慣れない力を使い過ぎて暴走しているような......そんな感じだった。

やがて落ち着いたのか、ようやくD-ダイブを終えたリュウだったが、ゆっくりと起き上がりこちらに向けたその瞳に理性はなかった。

 

「ヴッ......」

 

ズアッと再びリュウの体を炎が包み込み、彼の表情に苦しさが垣間見える。

 

「アアあぁぁぁ!!」

 

まるで何かから逃れたいとでも言うような叫び声を上げ、たまたま視界の中にいたソレへと一瞬にして肉迫する。

ソレ即ち、シン。

 

「ーーッ!! グッ」

 

あまりのスピードとと突然のことに、構えてはいたものの対応が遅れたシンはその腕に、以前とは比べものにならないほどの『ヴィールヒ』を受け、勢いよく吹き飛ばされてしまう。

先ほどとは打って変わり、今度はリュウに殴られたシンは一気にその背後にある壁へと激突する。

シンの体は滅多なことでは傷付かず、その耐性は凄いの一言に尽きる。

そんなものがかなりの勢いを持って壁にぶつかればどうなるかーー答えは当然、壁が砕け......否、それだけに留まらず何枚もの壁を己の体でぶち抜いていくだろう。

そうして彼の体は轟音と共に3枚もの壁を破ることでようやく止まることが出来た。

耐性に脆く、衝撃を逃がすための面積が少ない木よりも、コンクリート故の硬さがあり衝撃を逃がすための面積が広い壁のほうがある意味マシなのかもしれない。

 

「おい、てめぇら! なに暴れて......ーーなんだ、ありゃあ......」

 

当然、そんな音が響けば人が集まる。

真っ先に姿を見せたのはクルーエルだったが、リュウのその姿を収めるとその声は尻窄みとなっていた。

 

「あいつが言ってたのは、このことだったのか......?」

 

すぐそばにシンがいたが、部外者に気付く様子もなく上の空でブツブツとなにかを呟く。

 

「うおぉぉああぁぁぁ!!!」

 

その間にもリュウは叫び、バッと両手首の付け根を合わせるとそこから熱光線を放つ。

それは瓦礫に埋まっているだろうシンに向けて放たれたものだったが

 

「!!!」

 

殺気......いや、悪寒というべきか。

生命の危機を的確に感じ取ったシンは死に物狂いでその場から脱出し、一気に空まで飛び上がる。

『D-ブレス』を当てられた医学部の壁の残骸をチラリと見てみれば赤く変色しており、誰がどう見ても完全に溶け切っていることを示していた。

 

「分が悪いですね」

 

息を切らし、血は出ていないまでも砂埃だらけシンはそう判断し撤退する。

このままでは本当に殺されかけない......そんな怖さが彼の芯に染み付いていた。

すぐに速さの最高点へと達し、姿をくらませるべく1度下降し林の中へと紛れ込む。

残念ながらリュウはそれをハッキリと捉えており、すぐさまシンと同じ経路を辿ろうと林の中へ消えようとする。

 

そして、唐突にそれは訪れた。

 

「......? ッ!!」

 

2度鳴らされた銃声。

それはものの見事にリュウの体を撃ち抜き、彼の体がわずかにフラつく。

だが、フラついただけだ。

それまでは標的がシンだったのに対し、今度は銃声を鳴らした人物へと移ってしまった。

 

「全く、手のかかる生徒だよ、君は。さすがに2度目は耐性でも出来たか?」

 

「キンバリー!! やめろ、あれは触れちゃいけないやつだ!」

 

「うるさいぞ、クルーエル。そんなもの、とうの昔に知っている。だが、あれを止めねば学院が滅ぶぞ?」

 

言いながら、懐から刃渡り15cmほどのナイフを取り出し、そのまま鞘を引き抜くキンバリー。

静かに呼気を整え、一気にそれをリュウに向けて投合する。

と、それは彼の心臓部へと突き刺さり(・・・・・)、彼は咄嗟に抜こうとするが毒でも塗られていたのだろうか。

自身に突き立てられた刃を抜く力さえ出せず、やがてリュウの体は地面に落ちる。

土埃が舞い、リュウの体が見えなくなるもすぐに風が視界をクリアにする。

D-ワークスでのときと酷似した状況。

だが、そこにいたのは元に戻ったリュウではなく、今だドラゴナイズド・フォームのリュウだった。

 

「やはり、か」

 

「まさか、またあの麻痺毒か?」

 

クルーエルの問いにキンバリーは首を振る。

 

「毒は毒を以って制す......確かに麻痺毒は混ぜたが、ベースは竜の血だよ」

 

「......」

 

その言葉に、彼は気絶してなお苦しみ悶えるリュウを見やる。

 

 

おそらく、あれはもう持たないな

 

 

そうクルーエルは漠然と思った。




締めくくり方酷いと自分でも思う
直す気ないけど
シン可哀想だなぁ......


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第四十六話:わけがわからないよ/人◕ ‿‿ ◕人\

「やっと一区切りついたー!」

 

そんな情けない声が、どこまでも真っ白な空間......天界に響く。

 

人が1日に死ぬ数は、決して少なくはない。

どんな死因にせよ、ここへと来た者達の生歴を確認し、転生場所へと向かわせるためのルートを定めるのが神の役割。

たまにイタズラで本来通るべきルートをすっ飛ばし自力で転生させることもあるが、それも許容範囲内。

そんな一見簡単そうな役割だが、1つ......それもかなり手間のかかる作業がある。

それは『どの魂がどんな生歴によりどちらのルートを通って転生したのか』という報告書を作らなければいけないことだ。

要約すると5W1Hに沿った一連の流れを紙に記すだけなのだが、これが意外に面倒臭い。

それが厚さ1m分の書くべき紙があるとさすがに萎えるというものである。

別段サボっていたから、ツケが回ってきたとかそういうことではない。

それほど人が死んでいるということだ。

当然、人の死はリアルタイムなので報告書を書いている途中で来客もあり、その度に0.09mm≒0.1cmずつ加算されていく。

そんな報告書をようやく半分ほど書き終えたのだから、神と言えど情けない声が出ても仕方が無いだろう。

 

「今日はなんだか少なめだな......ま、少ないに越したことはないんだけど」

 

ちなみに、出来上がった報告書は全て日付別のファイルに保存され、転生された人物が再びここに来れば自動的に『書くべき報告書』の束の一番下に追加され徐々に更新されていく。

それはある意味便利だが、仕事が知らぬ間に増えていくそんな便利さはいらないと常々思う現在の神に間違いはないのだろう。

 

「お主はまた情けない声を......」

 

そんなところへ、1人しかいないはずの空間にシワがれた第3者の声が届き神は仰向けのまま“あっ”と声を上げる。

 

「先代の爺ちゃん!」

 

「先代様と呼べと何度言えばわかる、この若造が」

 

「いて」

 

額を2本指で小突かれた神は一気に起き上がり、声のしたほうを振り向く。

そこには白の装束を見事に着こなし、髭や頭髪なども真っ白となった“如何にも神様という雰囲気”を纏った老人......先代がいた。

先代の神とは名前の通り、彼の前に神の役を務めていた者のことだ。

そもそも、神とは天界に来た1人の死者が先代の神によって選ばれ、生と肉体を得ることで受け継がれていく一種の職業のようなもの。

元が死者であり、場所もまた天界ということで転職も退職も出来ない一直線の道だが、その道ゆえに多少のイタズラも許容範囲内なのだ。

それにしても......なるほど、確かに先代と見比べてしまえば転生される前のリュウが抱いた感想も納得が出来る。

もし『どちらが神様でしょうか?』ゲームをしたならば実際のところ2人とも神なので正解はないが、初見なら必ず先代のほうだと答えるのが目に見えるほど、現在の神に神々しさは皆無だった。

 

「で、何しに来たわけ? 俺がサボってんのを注意しにきたとかじゃないよな?」

 

そんな風貌に沿ってか、いまどきの言葉で先代に問いかける現在の神。

 

「まぁそれもあるがな。それはオマケじゃ」

 

「オマケ?」

 

「うむ。お主、以前に月影竜......いや、今はリュウ・ヴォルフィードか。そういう者をイタズラで転生させたことがあっただろう?」

 

その言葉に、神の表情が一気に険しくなる。

 

「まさか......」

 

呟くなり、自身の眼前を1本の指で切る神。

するとそこからD-カウンターと呼ばれる、それぞれカタチも大きさも違う3つの六角形を三角形のように並べた1つのカウンターが出現した。

それが中心部なのだろう、3つの中で一番大きい正六角形には煮えたぎる血のような赤が一色、まるで心臓が鼓動するかのような動きを見せ、オマケ程度にくっつく残り2つの六角形はどこか横に長く、95.78%という数値が刻まれていた。

 

「なっ......?! なんでもうここまで侵食が進んでやがる!!」

 

その顔を驚愕の色に染め、神は無意識のうちに先代を見やった。

先代は、不測の事態に焦る神の様子を見て苦笑し“その様子じゃとお主、自身の役目にばかり気を取られておったな?”と揚げ足を取った。

 

「あ、う、うっせぇよ! しょうがねぇだろ、まだこの役目に慣れてねぇんだ!!」

 

「言い訳じゃの。お主、ここに来てからもうどれほど経った?」

 

「うっ......500年ちょい......」

 

「はぁ......どうやらワシの目が間違っていたようじゃのぅ......500年も経っておれば、大抵の者が役目に慣れ、ある程度の自由が確保出来たというのに......」

 

「わかった、わかったから!! 俺が悪かった!! だからそれ以上言うな!!」

 

言いながら、口を塞ごうと迫る神に先代はどこから取り出したのか定番の杖で彼の顎を押さえ込んでいた。

すっかり普段の神の調子に戻ったところで、先代は話を一気に戻す。

 

「うむ、もう良さそうじゃの」

 

「あ? 良さそうって、なにが?」

 

「さて、それが一気に上昇した原因のことだが......本来の主がD-ダイブを使えば、当然ドラゴンの力はその体に強く馴染み侵食を促そうとする......と言えば、どういうことかわかるな?」

 

「ーー!! そういう、ことか」

 

「おそらく、彼はもう持たぬであろう。竜が孵化するその前に......全てが手遅れになる前に、お主が彼を助けてやれ。その間の業務は、ワシが代わりにやっておく」

 

「先代の爺ちゃん......!!」

 

「だから先代様と呼べと何度も言っておるだろうが」

 

相変わらずの呼称に、先代はやはり神の額を小突くが、神は今それどころではない。

痛がることも突っ込むこともせず、一応形だけと言われて着ていた白の装束から一瞬にしてヴァルプルギス王立機巧学院の男子学生の服装となり、どこかへ走り出したかと思うと姿を消す。

その途中、再び自身の眼前を指1本で切る動きをしたところを見ると現在彼......リュウ・ヴォルフィードがどんな状況下に置かれ、周りがどのように動いているのかを確認したのだろう。

 

「叶うならば、このまま彼が平和に暮らせるようになることを......」

 

先代の呟きは、真っ白でどこまでも終わりのないような空間に反響することもなく静かに消えていった。

 

 

目が覚めると、辺りは薄暗く、手足にジャラジャラと重たい金属の拘束具が装着され磔にされていた。

 

わぉ、なんか投獄された人みたい。

ちょっと楽しい。

 

「目が覚めたかね、リュウ」

 

「あ、キンバリー先生」

 

ふと声のしたほうを見てみると、普段の白衣から一転黒のローブを羽織ったキンバリー教授がいらっしゃった。

この場所といい、彼女の着ている服といい、なんだか面倒事に巻き込まれている......らしい。

 

「あの......先生には生徒を監禁する趣味でもーーひっ?!」

 

とりあえず状況がわからないのでからかってみたら、俺の右頬スレスレに小さなナイフが風を切りながら壁に突き刺さった。

首は固定されてないようなので、恐る恐る振り向けばやはりナイフがビィィィンと震えている。

 

「貴様、最後のことをどれだけ覚えている?」

 

よくこういうからかいをすると大抵は満面の笑みでナイフを投げてきそうなものだが、彼女はただ無表情にナイフを投げ、そして本題に映ってしまった。

......うん、絶対に彼女にしたくないタイプだ、俺的に。

 

「最後のこと? ーーひぁっ?!」

 

質問の意図がわからず問い返しただけなのに、今度は左頬スレスレにナイフが飛んできた。

俺には質問すら許されてねぇのかよ!!

 

「答えろ」

 

「......」

 

どうやら俺には、彼女の質問に答えるという選択肢しか残されていないらしい。

仕方なく俺は“最後のこと”という単語から必死に連想ゲームをし、そしてようやくそれが“気に失うまでのことなのかな?”と結びついた。

 

「......そうだ。雷真が、夜々が家出したから探すのを手伝ってくれって言われて、クルーエルに内緒で医学部の外に出たんだ。そこである程度の作戦とか立ててたら、前にも聞いたような質問をしてくるもんだから、それを指摘したんだよ。そしたら、いきなり雷真にライダーキックをされーーッ!! なんだよ、ちゃんと答えてーー〜〜っっ!!」

 

話している途中でいきなりナイフを投げられ、糾弾したら更にもう1本飛んできた。

わけがわからないよ/人◕ ‿‿ ◕人\

とか思っていると

 

「ライダーキックとは?」

 

あぁ、そこか、と納得した。

ライダーキックは、ニーナならわかるかもしれないけれど元からこっちの人間にはわかりっこねぇわな。

つか、無意識にライダーキックって言ってる俺って一体なんなの......。

 

「まぁ......つまり飛び蹴りです、はい」

 

「ふむ......それで?」

 

つまり続きを言えと。

やりづれぇ......。

 

「いや、飛び蹴り食らって木に激突して、なにすんだって雷真見たら雷真じゃなくて知らねぇ男だった。向こうは俺のこと知ってるみたいだったけど」

 

「他は?」

 

「特にないっす。そいつと一言二言交わしてたら急に体が熱くなって、知らんうちに意識持ってかれた」

 

こんなこと洗いざらい喋っていいのかな......とちょっと不安になりながら、俺は話し終える。

するとキンバリー教授は小さく相槌を打つと、クルリと踵を返す。

......え?

 

「ちょっ、キンバリー先生?!」

 

「貴様には当分、ここにいてもらう。私以外にも何人か来て、いくつか質問するだろうから嘘偽りなく答えろ。いいな?」

 

「別に構わないけど、これどんなプレイなの? ーーッ!! あぁ、もう、ナイフ投げるのやめてもらえません?! 命マジで縮むんですけど!!」

 

「貴様がふざけるからだ」

 

「俺のせいかよ、状況わかんねぇんだから仕方なくね!?」

 

「普通に聞けばいいだろう?」

 

「それ俺に求めちゃダメだろ......」

 

「ならばとっとと限界まで寿命を縮めてしまえ」

 

「ひでぇな!! ーー......マジかよ」

 

そう突っ込んだところで、計5本のナイフが一気に抜けた。

糸や紐かなんかがついていたんだろうが、辺りが薄暗い分なにも見えず故にトリックかなと思ってしまう。

が、キンバリー教授がやるとトリックでもなんでもなくただの脅迫にしか認識出来ない俺はなにも間違ってないよな?

 

「とにかく、そういうことだから下手に暴れるなよ。でなきゃ私ら(・・)は貴様を殺さねばならん」

 

そう言ってキンバリー教授は姿を消してしまった。

 

「当分このまんま、か......俺、なんも悪いことしてねぇのになんで尋問なんかやらされるんだろ......」

 

どうせ1人しかいないので思ったことをそのまま呟くが、やはり1人な分余計にボッチ感が増して俺は目を閉じた。

 

......現状磔にされてる俺なわけだが、一応首を垂らせば眠れる分、ある意味ですごい特技持ってるよな。

学年集会とかでも体操座りのまま寝てたし。




天界での会話は完全に文字稼ぎです、はい
とはいえ、ちゃんと内容に触れてるからそこ注意

キンバリーがリュウを呼ぶときって、貴様でいいのかな?
雷真のことは下から二番目(セカンドラスト)だし
シャルのことは君臨せし暴虐(タイラントレックス)だし
だからきっと、リュウでも登録コードだと思うんだけどリュウの登録コード、この小説で書いてなかったんだよねー(´・ω・`)
何度見直してもないんだから、たぶんそうなんだろうなぁ......
まぁ貴様でいっか、ないもんはないんだから仕方ないよね(白目


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第四十七話:後悔は......

たぶん

次で終わる気がする


シューッと音を立てながら、自身の肉体に付けられた傷がゆっくりとしかし確実に塞がっていく。

 

こうしてみると、俺って人間やめてるよな......。

 

そんな呑気なことを考えるが、そうでもしないとこんな状況、発狂してしまいそうだった。

 

「グッ......アアァァァ!!」

 

激痛なんてレベルじゃない。

悶絶なんてレベルじゃない。

意識を手放したくてもそれを許さない高圧電流が体中を駆け巡り、俺は喉が枯れるんじゃないかと思うほど叫ぶ。

 

「うっ......」

 

そしてそれは唐突に切られ、俺の首がガクンと落ちる。

体が完全に痺れ口の締まりが悪く、自分でも涎を垂らしているのがわかった。

正直汚いと思うが、そんな余裕でさえ今の俺にはない。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ」

 

浅い呼吸を繰り返し、満身創痍にある俺を心配するどころか目の前にいる男は冷たい瞳をこちらに向け、もう何度目かもわからない質問を投げかけてくる。

 

「もう一度問う、その身にいったいなにを隠している?」

 

「......」

 

だが、俺はグッと唇を引き締めると先ほどの電流で溜まった唾を飲み込み、それ以降はただただ無言を貫き通す。

 

「答えよ」

 

「......」

 

そんなやり取りをもう何度したことか。

それでも俺が黙っていると、男は小さく鼻を鳴らし踵を返した。

 

やっと終わった......。

 

そう心の中で安堵する傍ら、去り際に男が呟く。

 

「次には必ず吐かせるからな」

 

その言葉に俺は“げっ”とあからさまにも嫌な顔をするが、すでに後ろを向いた男に気付かれることはなかった。

 

「ヤバい、本気で口が締まんねぇんだけど......」

 

さきほどは黙秘の意思表示に唇を引き締めたがやはり体が麻痺しているため、気が緩んだ隙にかぱぁっと口が開く。

 

情けないな、と思う。

そもそも事の始まりは、俺が先ほどとは違う男の問いに答えあぐね、結局答えないと決めたことが原因だった。

 

雷真に扮していた男に蹴り飛ばされ、よくわからん現象に意識を持っていかれ、目が覚めたら普段の白衣ではなく黒のローブを身に付けたキンバリーがいた......あの時俺は自分の身に起きたことを洗いざらい話したはずだ。

確かに、キンバリーには去り際に“幾つかの質問に対し嘘偽りなく答えろ”と言われ頷きもしたがハッキリ言ってあれ以上に話すことなどなく、そのときの俺は漠然と“さっき話したことを繰り返すんだろうな”と感じていた。

......まぁ、ものの見事に初っ端から外れたけど。

キンバリーが姿を消してどのくらい経ったのかわからないが、続いて現れた男はキンバリーと同じ黒のローブを羽織っており、俺は呑気にも

 

(またあのローブだ。先生の間で流行ってんのか?)

 

などと思っていた。

事実、キンバリーを含めそのときの俺の前にいた男とのちに来る男2人は灰十字(クルサーダ)という、魔術師協会(ネクタル)の実働部隊だったんだが。

そんな奴らが、こんな人畜無害の俺に何の用だよ、とか、俺なんか悪いことしたか?など甚だ疑問だったのだが、どうやらわけのわからない現象に意識を持っていかれた後、俺はD-ダイブして散々暴れまくったらしい。

それは当然、俺を蹴り飛ばした男はフルボッコに。

その過程で医学部の一角を粉々にしたのだと言うのだから、どんだけ暴れたんだと自分でもツッコミたくなる。

そんな俺を止めてくれたのがキンバリーと言うわけだが、どうもD-ワークスでも暴走した俺を止めていてくれていたらしい。

まぁそんなことから監視の標的にされた俺はこの度のことから魔術師協会のお世話になることになったのだ。

たった2回でお世話になるとか、どんだけよ?と思うがそれはそれ。

 

「鶯の同胞から聞いた。リュウ・ヴォルフィード、貴様は“知らないうちに意識を持っていかれた”と述べたが、その裏自身の意識を持っていった者の名を知っているだろう? それは一体なんだ?」

 

そうして尋問2回目......初っ端からそう問われたときは、正直マジで驚いた。

なんで知ってんの?と言いそうになる気持ちを抑え、俺は一度冷静になって考える。

 

いきなりリュウが憑いていることを当てたのは、キンバリーが俺の話を流したからに違いない......俺が、わけのわからない現象、と言った時点でそれは考えればすぐにわかることだ。

だが、問題はそこじゃない。

今重要にすべきことはなにより、この問いに正直に答えるか否かということ。

確かに大人しく答えておけば俺は晴れて解放、なんて道もあるかもしれない。

......いや、それは甘過ぎるか。

監視はつくだろうが、ある程度の自由は許されるはず。

どちらにせよ、大人しく答えれば俺が助かるのに間違いはない。

だが、リュウはどうだ?

この世界をぶっ壊したいだなんて言っているのに、俺がその情報を公開したら逆にリュウはやり辛いだろうし、なにより成功しないと思う。

物騒な話なのだから、成功しないほうが良いのかもしれないけれど。

 

そんなことをウジウジ考えていたせいか、男は小さく“ふむ”と言うと、踵を返してしまった。

 

「またのちに返事を聞こう。良い返事を期待している」

 

そう言って姿を消した男などそっちのけで俺は、そのまま“ゔ〜”と悩む。

結論から言えば、最初にも言ったとおり俺はこの問いに答えないことを決めた。

例えその道を選んだことで酷い目に遭わされるとしても、俺はリュウ側についていたい。

 

この世界は、ドラクォが終わってから1900年も経ってる世界だ。

それでもなお、彼の意思が誰かに憑いて今も生きているなら(実際、俺に憑いてるわけだし)、きっとその目で見てきた闇は深いんだと思う。

前にアジーンにも言ったが、それが人間なんだと括ってしまえば話は早いが、それは俺個人の持論。

2000年も人の闇を見てきた相手にそんな単純思考の俺の持論が通じるとは思わないし、なにより俺もドラクォを知ってる身だから思うところが色々とあるのも事実だ。

 

おかげで俺の尋問はあっさりと拷問に変わり、誰かが来るたびに高圧電流を流される羽目になったが、有益な情報が得られないと判断されるまでの間だけ......のはず。

それがいつかなんてわからないし、気が遠くなるほど続いて限界を迎えてしまっても俺は後悔しない。

 

「......ん?」

 

ふと翼が羽ばたいている音が聞こえ、俺は自分でもわかるほどに不機嫌になった。

 

「無様だな、リュウよ」

 

それはどっちのリュウに対しての言葉か。

......俺以外にいるわけないか。

 

「......今更なにしに来たんだよ、アジーン」

 

とりあえず色々と言いたいことがあった(どこ行ってた、とか、なにしてた、とか)が、なによりもそれだけが疑問だった。

 

「そろそろだと思ってな。貴様の最後を看取りに来た」

 

「あぁ? 誰が最後だゴルァ。ちょっと表出ろや、叩き潰してやる」

 

何故かいきなり喧嘩を売ってきたアジーンをガン飛ばしていると、この場にはいないはずの声が聞こえてきた。

 

「ーー苦しくないの?」

 

「リュウ......」

 

声はその姿を裏切らない。

見れば今にも消えそうな光で形成された、見慣れたリュウの姿があり、その表情は悲痛に満ちていた。

 

「おれを庇ったばかりにこんな酷い目にあって、憎くないの?」

 

「憎くない......苦しくないって言ったら、嘘になるな。あんな高圧電流流されて平気なほうがおかしいだろ」

 

「どうして......おれなんか気にしないで、全部話せばよかったのに」

 

「俺の中にいたんだから、それくらいわかるだろ? それに......俺、前世のときからずっとあんたに憧れてたんだ。なんでもやり通せるあんたがカッコ良くて、俺もそんな風に慣れたらって......それはどこまで行っても2次元で、作られたキャラだってわかってたんだけどな」

 

苦笑する俺に、リュウはさらに眉を下げる。

 

「リュウ君......」

 

「それに、俺からなんの情報も得られないってわかったら相手も解放してくれるさ。だから、それまでの我慢だ」

 

「ううん......もう我慢なんてしなくていい、もうきみが苦しむ必要はないんだ」

 

「は? それってどういう......」

 

「言ったはずだ、最後を看取りに来たと」

 

俺とリュウの間に割り込む、アジーン。

普段なら“てめぇは黙ってろ”とか言うところだが、このタイミングで割り込んできたのがただの冷やかしだとは思えなかった。

明らかに意味深過ぎる。

 

「ーーっ!! ゔっ」

 

そう思ったとほぼ同時に俺の心臓は強く鼓動し、全身が激しい熱と高圧電流を流されている以上の酷い痛みが襲う。

 

「あっ......」

 

だが、なによりも。

 

「ああぁ......うああああぁぁぁぁ!!」

 

視界の端から徐々に迫り来る、闇。

それが、全てを物語っていた。

 

「い、嫌だ!! ちょっと待てよ、こんな話俺は聞いてねぇぞ!! こんな終わり方があってたまるか!!」

 

「......」

 

熱いのも、痛いのも、そんなのを無視出来てしまうほど今の俺は完全にパニックに陥っていた。

きっと、拘束具を解いたら手足首が真っ赤に腫れてるんじゃないかと思えるほど俺は動ける限りに動き、暴れる。

それでも、迫り来る闇が止まることはない。

 

「なんか言ったらどうなんだよ、リュウ!! くそっ......ーーあ」

 

そうして視界の全てが真っ暗に染まったとき、俺は自分の中で込み上げる思いにようやく気付いた。

 

 

 

 

 

それは

 

 

 

 

 

紛れもなく

 

 

 

 

 

後悔




終わり方がアレだけど、これで主人公は永久ログアウトです


年末以内にこれ終わらして、新しいの書きたいので精一杯
もちろん、その分クオリティは下がるだろうけど、その辺は新しいのが行き詰まったときとかそういうときに気分転換がてら変えようかなぁっと


なんか誤字脱字とかあったら待ってます


P.S.評価下さった方ありがとうございます!
  評価バーに色がついて、すごい嬉しくて気付いたら携帯が飛んでましたww
  今後ともよろしくです(*´ㅂ`*)


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第四十八話:空気をぶち壊すのはやっぱり雷真

やっと書けた。
八ヶ月だよ、八ヶ月。
なんか最近急に創作意欲が湧いて筆がスラスラ進むのなんの。
今までが一体何だったの?って聞きたくなるぐらい。

ただ、自分でいつも投稿する前に読み返すけどいつもよりひどかった。
だって主人公いないもん(ネタバレ
もちろんオリ主だよ?
雷真は一応いる。
けど、役立たずなんす。

じゃなくて、無駄にダラダラと長いんでとりあえず一区切り&出来上がったとこまで。
終わりが見えないんだよ、ちくしょう。
どうやって終わろうか非常に悩んでいる。
どっちに転んでもクズ展開しかないだろうけどね。


「ニーナを助けたくて......ただそれだけのために空を目指した。

ニーナが助かればそれでよかった。

アジーンはそんなおれに生きろと言ってくれた。

世界を託すと言ってくれた」

 

その口調は酷く穏やかなのに、そこから醸し出される敵意は、殺意は本物だ。

 

「けど、現状はどう?

なにも変わってないじゃないか。

それだけじゃない、世界が広くなった分地下に居た頃よりももっと酷くなってる。

それならまだ、おれは」

 

それまでわけがわからず静かにリュウの言葉を聞いていた男は、リュウが言葉を切ったタイミングでそう問いかける。

だがそれは最後まで紡がれることはなかった。

 

「なにが言いた......ぐふっ」

 

暗闇の中、男は吐血しそのまま重力に従って倒れる。

その胸には丸い穴が開けられており、人間のあるべき心臓部が失われていた。

 

「......」

 

ジワジワと広がる“血の海”を、リュウは“赤くなった瞳”でただ無心に眺めていた。

そうして彼は小さく首を振ると、自身の肉体をドラゴナイズド・フォームに切り替え拘束具から力技で抜け出す。

 

「行こう、アジーン」

 

闇に呼び掛け、そこからアジーンが小さな翼でリュウの右肩に留まる。

 

「......あぁ」

 

そう返事をするアジーンの声は、どこか寂しそうに聞こえた。

 

 

「よっ」

 

そんな声を上げながら地上、さらにはヴァルプルギス王立機巧学院へと降り立った神は辺りをぐるりと見回す。

 

「さて、と。俺は今どこにいるんだ?」

 

一応、彼の目の前にはボロボロの寮があるが、リュウが転生したこの世界を常に見てきたわけではない彼にとってそこから得られる情報など皆無だった。

......つまるところ、右も左もわからない迷子なわけだが。

それを彼自身も理解しているのか、地上に降り立った今更ながらに後悔していた。

 

「参ったな......あいつの関係ぐらいしか見てきてねぇからさっぱりわかんねぇ......こんなことになるならちゃんと下準備してこりゃよかった」

 

頭をガシガシと掻きながら、神は小さくため息をつき、“しゃあねぇ!”と気合を入れ直して歩き出す。

 

なにもわからないのならば、この世界の住人に聞けばいい。

そのうちの誰かの記憶をある程度覗けば少しくらいは今の状況もマシになるだろ。

 

と、完全に神という権限をフル活用する案を思い浮かべていく彼だったが、そこでふと大事なことに気が付いた。

 

「そういや俺、今名前ないじゃん!」

 

これじゃ誰か見つけても話しかけられねーし......と早速自身の名を考える神。

あーでもない、こーでもないと悩んで10分。

 

「んー......まぁ、昔の名前(神代 仁)でいっか。どうせあいつを止めるだけのことだし」

 

そうして決めた名は、最初からそうしろよとツッコミが来そうな、考察した10分が無駄になるようなものだった。

そのまま彼は態勢を整え、深呼吸を繰り返しながら世界の根元に踏み込む。

 

「よし......あいつの知り合い辺りにでも染み込ましておけば充分だろ......ッ?!」

 

神ーー改めて神代 仁が腕を下ろした途端、彼の視界が一気に歪みそのバランスを崩しにかかる。

 

「とっとっとっーーはぁ、はぁ、はぁ」

 

フラつきながらも近くにあった木を支えにし、そのままほんの1分ほど安静にする。

再び顔を上げたとき、彼の表情はとても疲れているようだった。

 

「マジかよ......たった1回力を使っただけでここまでの反動とか、脆過ぎね?」

 

こりゃ力を使うとしても連続はヤバそうだな......と頭を振り意識を確かめながら呟く仁。

そのとき、どこからか乙女の声が響いてきた。

 

「雷真は馬鹿ですっ! 家族でもない男女のマウス・トゥ・マウスは挨拶の域を超えるんです! シャルロットさんがそう言ってました!」

 

続いて青年の悔しそうな声も。

 

「くっ! シャルのやつ、余計なことを......!」

 

「あの声は確か雷真と夜々......だったか? いきなりあいつの知り合いに当たるとか、幸先いいな。まぁ確認し損ねた俺が悪いんだが」

 

仁は思わず口元に笑みを浮かべ、さっそく声のするほうへと近付いていく。

“マウス・トゥ・マウス”ではないが、リュウが転生する前――つまり前世のとある国では挨拶代わりや友好の証として頬へキスすることが当たり前の習慣があったなとそんなことを思う。

正直どうでもいいが、どうでもいいことが脳裏に浮かぶのは人間の特権だと思う。

元人間で、しかも人間の体を借りてる仁が言えた義理ではないが。

 

「って、仁? 良いとこに来てくれた!」

 

リュウと共に編入してきた、精悍な顔つきをした青年ー名は確か赤羽雷真と言ったかーは仁の姿を認めると慌てて駆け寄り、そう話を振る。

仁はリュウの詳しい関係を脳内で整理し、今の状況を理解すると早速リュウの居場所を聞き出すことにした。

 

「こんなとこでなにしてる?」

 

「リュウを探してるんだが、見てないか?」

 

「リュウさん......ですか?」

 

それに答えたのは彼の相棒である、着物を着た夜々という少女。

その表情からして心当たりがないようだが。

 

「いや、見てないな」

 

やはり主も同じらしく、リュウを見ていないようだった。

仁がそう簡単に見つかるわけないか......と思っていると、

 

「というか、あいつまた寮にも戻らないで何日も顔を見せないんだ」

 

「何日も?」

 

「あぁ。生憎やることがいっぱいでちゃんと探せてないけどな」

 

意外な情報が雷真から渡され、仁はわずかに腕を組んで考え込んだ。

 

そういえばリュウは、この世界では何度も不自然な行動を起こしているらしい。

それは寮に戻らなかったり、今までの彼のセリフとは違うことを口にしたり、唐突に異様な姿を取ったりと様々だ。

状況が状況なので、それがどんな意味を持つのか想像するのは簡単ではあるが。

 

「ん、ありがとな。リュウは俺が探しとくよ」

 

「! そいつは助かる! もし手掛かりがあったら、仁にも伝えるな」

 

「頼む」

 

最後にそれだけを言うと、俺は雷真たちの元から離れる。

人の気配がしなくなったところまで来て、俺は異様な殺気を感じた。

 

「?!」

 

慌てて振り向き、殺気を感じた方向へと視線を向ける。

その直後だった。

建物の屋根が、見覚えのある破壊光線と共に吹き飛んだのだ。

あれは間違いなく......D-ブレスだ。

 

「クソ! 手遅れかよ!!」

 

力一杯に叫び、全力で走り出す。

 

(間に合わなんだったか)

 

「すみませんでした、俺のミスです」

 

走りながら、脳内に話しかけてきた先代に謝る。

 

(そんなものは最初から知っておる)

 

「グッ......面目無いです」

 

(これからどうするつもりじゃ?)

 

「とりあえず、見る限りリュウの魂はまだありそうなので根本を絶ってみようと思います」

 

(ふむ。それならば世界に影響なく済みそうじゃの。まぁ、彼の魂が残っておればの話だが)

 

「はい」

 

(此方でも策を練っておく。主は自分が最善だと思う策を講じろ。よいな?)

 

「うっ! ホントこの体で先代との会話とかキツイ」

 

まるでアナログテレビを元から抜いたような、ブツッと嫌な音が脳内に響き、俺は走りながらつい仰け反ってしまう。

 

「頼むから残っとけよ、リュウ」

 

俺はそう呟きながらも、確実に距離を縮めていた。

 

 

ドラゴナイズド・フォームへと姿を変えたリュウは静かに眼下の光景をその目に収める。

だが、その目はどこか冷めており、その様は眺めるというよりも見下していると表現したほうが正しいように思えた。

 

「おれは」

 

ポツリと漏らし、しかしすぐに首を振る彼。

 

「この体も、もう持たないみたいだ。彼......シンとの戦いが随分と効いたのかもしれないね」

 

手を何度も握りながら、グッと力強く拳を作るとアジーンへと視線を移した。

 

「これからどうするつもりだ?」

 

「とりあえず、この学園から潰そうと思う。今の主力が人形なら、ヒトよりもまず世界各地から集められた人形のあるここがいいからね」

 

「リュウ!!」

 

ふと地上から自身の名を呼ぶ声が聞こえ、振り向くリュウ。

と、そこには学園の制服に身を包んだ、本当の彼にとっては馴染み深い相手がいた。

 

「きみは?」

 

「戻ってこい!!」

 

「?」

 

唐突に放たれた言葉に、リュウは顔を顰める。

今のリュウにとって、見ず知らずの人間から戻ってこいと言われるなど、まず言われる覚えがない。

となると、これはこの体の持ち主に対して放たれた言葉か。

 

「きみが誰なのか知らないけど、彼はここにはもういないよ」

 

「てめぇになんか話しかけてねぇんだよ。俺はリュウに用があるんだ――おいこのどアホ! とっとと戻ってこい! 俺が先代に怒られるだろうが!」

 

言うべきところはそこか。

思わず転けてしまいそうな仁の台詞に、しかしリュウは取り合わない。

 

「うるさい――アジーン」

 

彼の相棒の名を呼び、相棒が近付いたところで手のひらを向けなにか目に見えないエネルギーを送り込む。

直後、アジーンの体が大きく震え、獣の唸り声を上げ出した。

 

「ヴゥゥゥ......オオオォォォォン!!!!!」

 

「くっ!」

 

咆哮のあまりな音量に目を瞑ってしまい、次に開けた時そこにいたのは自動人形とは言い難い、生き物そのものの姿があった。

 

「ガァッ!!」

 

短く吠えるとアジーンは仁のほうへと勢い良く下降し、速度に乗せた尻尾を叩きつけようとする。

 

「あぶねぇ?!」

 

それを仁は間一髪で避け、リュウをガン飛ばす。

 

「いいから戻ってこい! リュウ! 過去の遺物になんか囚われるな!」

 

「......おい、仁。過去と遺物って似たような意味じゃないか?」

 

「あぁ?! お前っ、どう見てもクライマックスって感じで物語的にはすごくいいとこなのになにそこ突っ込んでんだ!」

 

どうやら、先ほどの物音が気になって来てしまったらしい。

相棒の夜々の手を握りながら雷真がツッコミをしており、仁はため息をつきたくなった。

 

「グルルル」

 

巨大化したアジーンは仁に攻撃を避けられたからか、唸り声ばかり上げている。

 

「......くだらない」

 

「――あ?」

 

ポツリ、と呟いたリュウの言葉に仁が反応するも時はすでに遅く。

学園の1/4がD-ブレスによって消し飛んでいた。

 

「てめぇっ! ――がはっ!」

 

雷真がリュウの行いに身を乗り出す。

直後リュウの拳が雷真の鳩尾に入り、彼は口から血を吐きその場にうずくまった。

 

「雷真?!」

 

夜々が慌てて駆け寄り、雷真のことを揺さぶる。

雷真の目は虚としており、半分ほど意識が飛んでいるようだ。

痛みで意識を繋いでいる、そう表現したほうがいいか。

仁はなんとかならないのか、と必死に頭を回転させる、その時だった。

 

「リュウ!!」

 

どこからか聞こえたその声に、リュウが敏感に反応する。

 

「ニー、ナ?」

 

「もうやめて! こんなこと、あなたらしくない!」

 

そう、そこにいたのはこの学園で風紀委員をこなすニーナだった。

 

「でも、なんでニーナが、ここに」

 

明らかにリュウの様子がおかしい。

どういうことだ、とお互いを何度も見ると、その理由がはっきりとわかった。

 

(そうか。今のリュウにとって、彼女の顔は自分の好きな相手だったのか)

 

「ニーナ! そのまんまリュウに叫べ!」

 

仁は無我夢中でニーナに指示する。

 

「え? あっ、はい! ――ねぇ、リュウ! 聞こえているんでしょう?!」

 

残念ながらニーナに自身のことを刷り込んでいない仁だったが、彼女は彼の目とその様子に意図を理解しなにも言わず従った。

 

「うぐっ?!」

 

唐突にリュウが苦しみだし、アジーンがその様子に彼を不安げに見つめる。

 

「ニー、ナ、先輩」

 

それは確実に、紛れもなく本物のリュウの口調だった。

 

「お願い、です......アジーン、を、壊して、ください......」

 

「?!」

 

その言葉になによりも仁が驚く。

アジーンが大元なのだとわかれば、この現状に陥った原因も何もかも全てがわかるからだ。

 

「「わかった!!」」

 

仁とニーナは声を揃えてリュウのお願いを聞き、ニーナはぬいぐるみを出し仁は両手の平を自身の前で合わせ己の力を最大限に引き出した。

ニーナのぬいぐるみは、シュタッと手を挙げ、ニーナから得た魔力を全身に纏いながらリュウに高速接近する。

仁は神として使える力を、頭痛や吐き気その他全身の筋肉が悲鳴をあげつつもそれを堪え発動する。

 

「どう、して......きみは――?!」

 

どうやらリュウは再び呑まれたらしい。

接近したニーナのぬいぐるみに気付いたリュウは顔をしかめると片手で薙ぎ払いそれを無効化する。

その間に仁は己の魔力を、反則技で最近にまで高め夜々に叫ぶ。

 

「夜々、手伝え!」

 

「え、でも、雷真が!」

 

「雷真のことはあとで俺に任せとけ! 今はこっちだ!」

 

「......はい!」

 

心配そうに雷真から離れた夜々に、仁は高めた魔力を一気に流し込みすぐさまリュウへと仕掛ける。

 

「くっ」

 

爆発で崩れた体勢を立て直す暇もなく、夜々の肉弾が迫る。

 

(クソ、せめてあと一人......いや、二人いたら)

 

アジーンを止めろと言われたのに、リュウを未だに攻撃する理由はもちろん、アジーンを壊そうとすればそれをリュウが止めに来ると考えたからだ。

出来ることならシャルロット・ブリューとシグムントでアジーンの動きを止めてもらい、またロキとケルビムとでリュウの動きを止めてもらうその間にアジーンの中心部を破壊したいが、この場にいるのは鳩尾を殴られ動けない雷真と夜々、仁自身とニーナとそのぬいぐるみだけだ。

まるで決め手を欠いた構成に、このままではいずれはリュウが押しこちらがやられるだろう。

今はニーナのぬいぐるみで爆発を起こしなんとか足止めをしているが、彼女の魔力が尽きればそれでジエンドだ。

強制的に二人を呼び出せれば良いものの、これ以上人の体で神の力を扱えば下手をすれば意識を失う可能性があった。

 

「おい、雷真! いい加減起きて手伝えよ!」

 

「仕方、ないだろ.......こっち、だって、動け、ないくらい、痛い、んだから.......」

 

「あぁ、もう! 役立たず! 夜々、一旦切るからな!」

 

「あ、はい!」

 

夜々はしっかりと応えると、リュウから攻撃し返されないよう距離を取る。

仁は夜々が無事そうなのを確認するとすぐさま雷真の体を修復し、彼の魔力を底上げする。

例えるなら、ナメック星で悟飯が潜在意識を呼び起こしたような、あんな感じだ。

 

「なっ、なにをした?」

 

「うるせー、そんなことはあとだ、今はリュウを足止めしろ!」

 

それをするにはほとんど賭けに近かったが、雷真は無事に体力を取り戻し且つ魔力も増え、仁は倒れることなく未だ立ち続けている。

運が良かった、というしかない。

 

「夜々! いくぞ!」

 

「はい!」

 

本来の主従関係に戻った雷真と夜々が互いの信頼関係を発揮し、雷真は仁から得た魔力を夜々に、夜々はそれを余すことなく体に滾らせ再びリュウを止めるべく地を蹴った。



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第四十九話:どうして最後の最後でそんな荒技なんですか

これで本当に最後です!w
スーパーグダグダな物語ではありましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました!
最初はおわりなんてこれっぽっちも考えていなかったので終われてよかったですw
では、どうぞ


「なぁ、リュウ」

 

真っ暗な空間の中、俺は見えない相手に呼びかける。

 

「俺だって、お前の言ってることがわからないわけじゃない」

 

呑まれているのはわかる。

だから、体を動かすなんて概念はないし、そもそも俺はおそらくいない存在だ。

 

「確かにお前の言う通りなのかもしれない。当事者のお前からしてみれば、せっかく命を掛けて手に入れた空を人同士で争うくらいならって思うかもしれない」

 

それでも未だに俺の意思が残っているあたり、リュウにもなにか思うところがあったのかもしれない。

元より、神から転生を受けて、その後自分がかのリュウの子孫なんて話をきいてしまえば、いずれはこうなることぐらい予想はついていた。

 

「でも、薄々は気付いてるんだろ? 今お前がやろうとしていることは」

 

 

それは唐突に起きた。

 

「クッ?! ウ、アァ!!」

 

「夜々、止まれ!」

 

今までとは全く違う様子を見せたリュウに警戒し、雷真は強制支配して夜々をピタリと止まらせる。

リュウは苦しそうに呻き、何かから逃れるかのように何度も頭を振っては吠える。

その時、リュウを守るかのように何度も夜々を邪魔しに来ていたアジーンが何かを捉えた。

 

「そんなことは、言われなくてもわかってるよ!!」

 

「リュウ......?」

 

その変わり様に、仁が訝しむ。

 

「でも、仕方がないじゃないか!! いずれ人同士でそうなるなら、自分から代役になったほうがいいって思って、なにがいけないんだよ!!」

 

まるで子供のワガママのような、リュウの言葉。

仁はそれを聞いて理解した。

そしてすぐに行動に移す。

 

「夜々、退いてろ!! あいつからリュウを出す!!!」

 

バッ、と両手のひらをリュウに向けると、そこから黒い靄のようなものがリュウの周りに取り巻き始める。

 

「な、なにしてんだよ、仁?」

 

「あいつの中に、リュウがいる。それが今わかったんだ。だから、リュウを出す」

 

「そ、そんなことが出来るのかよ?」

 

「ハッ?! クソ!!」

 

仁が雷真に説明する傍ら、それに気が付いたリュウはあわてて靄を払おうとするが、やがて黒い靄は勝手にリュウから離れると人型を形成しもう一人のリュウを生み出した。

 

「す、すげぇ」

 

「あ、れ? 俺、死んだんじゃ......」

 

そこにいたのは紛れもなくリュウ・ヴォルフィードだった。

慌てて後ろを振り向くと、どこかで見た顔が。

 

「神様?! というか、なんで神様と一緒に雷真と夜々までいるんだ?!」

 

「居るちゃ悪いか!!」

 

「やっぱり、な」

 

雷真の盛大なツッコミと、やりきった感に満ちる仁。

 

「リュウ!!」

 

「え、あ、先輩まで?! 一体これどうなってん――ちょっ?!」

 

走り寄ってきたニーナにハグをされ、一環の説明を求めようと再び仁に向いたとき、そのタイミングで彼はガクンと崩れ落ちた。

慌てて駆け寄ったリュウに、力なく笑いかける仁。

 

「悪い、この体じゃ今ので最後みたいだ。ま、お前も助けたし、あとはご本家ぐらい、一人で対応できるだろ?」

 

「なっ、神様が対応できなかったやつを俺に寄越すかよ?!」

 

「大丈夫だって。本家の力ならまだ残ってるはずだから」

 

「そういうことじゃねぇって!! 俺にどうしろってんだ?!」

 

「テキトーに傷めつけて、説得させて、この封印玉にでも閉じ込めといてくれよ」

 

そう言って手渡されたのは、拳大ほどの大きさの、紫色の玉。

 

「うわー、すっごいヤバそうな封印玉」

 

言いながら、仁の体が光に包まれていく。

 

「じゃ、頼んだ」

 

「頼んだじゃ――あのやろ」

 

ゲームの敵キャラが倒れた時のようなエフェクトで消えた仁に、リュウはわずかに苛立ちを覚えつつも立ち上がる。

 

「おい、リュウ。これからどうする気だよ?」

 

思わずといった様子で聞いてきた雷真に、リュウはため息をつく。

 

「どうするもなにも、やるしかないだろ。......状況的に」

 

それまでずっと黙っていたリュウ(先代)は怒りの色を瞳に映したままこちらをしっかりと見ていた。

リュウはポケットに、もらった封印玉を入れて両手のひらを体の前で合わせた。

 

「最初に聞いた時、きみは考える暇もなく断ったよね。わかってはいたけれど、それでもあの世界を知る仲間なら、互いに刃を向けあうことはないと思いたかったよ」

 

言いながら、仁のように光で包まれ消えたリュウ(先代)。

光の粒子となった先代はアジーンの体の中に溶けていくと、アジーンは大きく一吠えした。

 

(やっぱりそうくるよな)

 

リュウとアジーンが主従関係となった。

それによって使えるようになった力をリュウが使うたび、先代の意思がリュウの中に混じり、積み重なったそれは先代の意識を呼び覚ました。

が、仁によってリュウの体と切り離された先代の意識はアジーンの中に戻るしかない。

それが今のアジーンの一吠えであり、今リュウや雷真の目の前にいるのは「ドラクォの中でD-カウンターが100%になりゲームオーバー演出で竜になった、あのアジーン」で間違いないのだろう。

 

「トランス」

 

リュウは小さく息を吐くと、静かにそう唱え己の姿を4のカイザードラゴンへと切り替えた。

 

 

結果から言えば、俺が勝った。

あのクソ神の言った通り、俺にはまだ竜に変身できる力が残っていたらしく、俺はこれで最後と心に決めてトランスをした。

やはりアジーンがご先祖様の思念体を持っていたことから、アジーンを倒せばご先祖様が出てくる予測は間違っていなかった。

彼には悪いが、かといってこのまま放置するわけにもいかず、気に食わないが仁の言う通りこのタイミングで彼を説得するしかほかない。

 

「まぁ、その、なんだ」

 

「......」

 

「リュウは、俺が今二度目の人生を送ってるっていうのは知ってる、んだよな?」

 

小さく頷くご先祖様。

 

「前世の俺から、あんたに一つ送りたいセリフがある」

 

それはとある忍者漫画の一ページ。

主人公の里が敵に襲われ、主人公も囚われの身となった時。

敵は主人公に「平和」を説いた。

人はそれほど賢い生き物ではない。

心に受けた傷は時が経てばやがて薄れ、己の要望のためにまた戦いを挑もうとする。

その度に本当の痛みを世界に知らしめ、その痛みを恐怖で戦いを抑止し、世界を平和と安定に導く。

その繰り返しこそが、平和なのだと。

 

「結局、あんたがやったっていずれは過去に流れて、また同じことを何度も繰り返していくんだよ。その一つをするのに、あんたがまた汚れる必要なんてない。人は流れるように流れていくんだから」

 

「......まったく、きみの言う通りなのかもね」

 

自嘲気味に小さく笑うご先祖様。

 

「あんたは考え過ぎなんだよ。ニーナ救って、幸せになれた、それだけでいいじゃんか」

 

「そう、だね」

 

「もういいんだよ、あとはゆっくり休んでくれ」

 

「うん」

 

ご先祖様は静かに頷くと、そっと目を閉じ......俺はそこへクソ神からもらった封印玉をかざした。

するとどうしたことか、ご先祖様は光の粒子となり封印玉に吸い込まれていった。

 

「......っはあぁぁ〜! 疲れた〜!」

 

俺はドサッと地面に寝転び、大きく伸びをする。

 

「もう、いいのか?」

 

雷真が恐る恐る話しかけてきて、俺はクスリと笑う。

 

「たぶん、な」

 

「なんだよ、それ。でもま、お前がいいって言うならいいや」

 

「そうそう。さて、俺もそろそろ逝くかな」

 

「なんか今漢字が違う気がしたが......?」

 

「大丈夫、あってるから」

 

「あってんの?! せめてそこ否定しろよ!」

 

「あーもーうるさいな。いいか? 俺は、もう、死んでんの。おけ?」

 

「ノー! 全然良くない!! どういうことか説明しろ!」

 

「面倒だから却下」

 

そう言った瞬間、首元に下げていた飾りが光を帯び辺りを白で埋めた。

 

「よ、リュウ」

 

「は?」

 

そうして聞こえてきたのは仁の声。

 

「お前、さっき死んだんじゃ......」

 

「勝手に殺すなよ」

 

「お、おいリュウ。こいつは......?」

 

雷真が驚いた様子で聞いてきて、俺はん?と思う。

そういえば仁が倒れる前は何事もなく会話していたはずじゃ、と。

すると仁が耳打ち。

 

「実は下界に降りてきたあとお前の知り合いに適当に俺を組み込んだんだよ。それが一旦戻ったことで解けたんだろ」

 

「うわ。なにその、めんどくさそうなの」

 

「ってことでよろしく」

 

「はぁっ?! ふざけんなよ、自分でなんとかしろって!!」

 

思わず仁の胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 

「リ、リュウ? 落ち着けって」

 

一番混乱しているのは雷真のはずなのに、彼はなぜかリュウよりも落ち着いていた。

 

「あー、もう。クソだりぃ」

 

俺は頭を掻き、雷真に向き合った。

 

「雷真。この際だから言うわ。俺な、信じてもらえないかもしれないけど実は前世の記憶があるんだよ」

 

「......お、おう」

 

「こいつに転生させてもらったってのが理由なんだけどな。なんでこいつはこう見えても神様なわけ」

 

「な、なるほど」

 

「その神様がなんでここにいるのかは本人に説明してもらわんとダメだけどな?」

 

上手いこと(全然上手くない)仁に振った俺はニヤリとしながら見る。

 

「......あとで覚悟しとけよ」

 

仁は恨めしそうにこちらを軽く見ると、雷真や夜々、そして事を見つめていたニーナに向けて口を開く。

 

「ニーナは面識があるからいいけど。雷真、夜々。今リュウが言った通り、自分で言うのもなんだが俺はこの世界の神様なんだ」

 

「やっぱり何処かで見たことあると思ったら神様だったの?!」

 

不意にニーナが声を上げ、仁に問いかける。

 

「おうよ。本当はここにいちゃダメなんだけどな」

 

「? どうしていちゃいけないのに神様はここにいるんだ?」

 

ごもっともな質問に仁も苦笑する。

 

「それがな、先代の神様に怒られてよ」

 

「先代がいたんだ」

 

「ニーナを、彼女の頼み事を素直に聞いて転生させた結果2つの世界観が合わさって今回みたいな事態を起こしたんだって」

 

俺の呟きは当然のごとくスルーされた。

 

「だからニーナには悪いがこの世界にあるドラゴンに纏わる要素を取り除きに来たんだよ」

 

「ドラゴンなんて、そんなことを言ったらシグムントはどうなるんだ?」

 

「安心してくれ、俺の言うドラゴンはそういったものじゃねーから」

 

「そ、そうなのか」

 

「あぁ。で、リュウ。お前のことなんだが、先代から記憶を完全に消してからの転生という審判が下された」

 

「......ハハ、まじかよ」

 

「どちらにせよもう死んでるんだし、普通に寝て起きたらいつも通りの日々が待ってましたでいいんじゃね?」

 

「そんな簡単なのか」

 

「仕事はてんこ盛りだけどな」

 

「だから神様がそれ言ったら終わりだって」

 

「今更だろ」

 

「それもそうか」

 

「あの」

 

仁との掛け合いに一区切りついたところでニーナが呼びかける。

 

「リュウにはもう、会えないんですか?」

 

「あー、まー、そういうことになるな」

 

「ごめん、先輩。もしまた会えたら、そんときはよろしく頼みます」

 

「リュウ......」

 

「そうか、これからはもうリュウはいないんだな......こりゃ夜々から身を守るのが大変そうだ」

 

雷真の言葉についクスリと笑ってしまうが、彼がわざとそう言ったことには気付いていた。

 

「じゃ、またいつか会えたら、な――もういつでもいいぜ」

 

ほんの少し待ち惚けをしていたらしい神様に呼びかけて、俺は心に決める。

 

「お、いいか。んじゃ、行くぞ」

 

「あぁ――ッ?!?!」

 

そう返事をした瞬間、俺の腹には強烈な拳が叩き込まれており、あまりの痛みに気を失った。

 

 

「なるほど」

 

先代の言葉をドキドキしながら待つ、現神様。

 

「不可抗力だったとはいえ、よく始末してきた」

 

「おっしゃ!!!」

 

「ただやり方なんだが......もう少し優しくてもよかったのでは? さすがにアレは酷いであろうに......」

 

「あはは......すんません」

 

実はリュウに対する最後の仕返しだとは言えまい。

バレればどれほどの怒りが飛んでくるのかわかったもんじゃない。

神は己の感情一つで動いてはならないのだ。

常に平行であること、それが条件である。

 

「まぁよいわ。これからはもう少し未来を予見してから転生させるようにな。ワシはもう戻る」

 

「あ、帰るの?」

 

「もう監視も要らぬしな。だがなにか異常があったときはすぐに飛んでくるからの」

 

「あ、うぃっす」

 

先代は何処からか扉を生み出すとそのまま中へと入り、扉は先代が閉めると同時に下から徐々に消えてなくなった。

 

「どこでもドアか」

 

あの扉がピンクであれば思いっきり青狸の道具のソレである。

 

「さて、仕事するかー......あー、だりぃ」

 

現神様は大きく欠伸をすると仕事に戻るべく歩き出した。

今頃月影竜と呼ばれ、リュウ・ヴォルフィードとも呼ばれたものは其の時の記憶を失い新たな生を歩んでいることだろう。

それは人かもしれないし動物かもしれない。

それは植物かもしれないし、虫かもしれない。

その姿形を指定するのは神の役目ではないのでなんとも言えないが、転生した後など神の知るところではない。

彼のいた第二の世界はドラゴンクォーターの世界観を取り除かれ、元ある世界へとその進路を戻した。

ニーナというイレギュラーがあるにせよ、何の力もないたった一人のことであのような事態はそうそう起きないだろう。

 

 

こうして事態は終点を迎えた。

 

 

神は己の仕事にひたすら打ち込み、リュウだったものやニーナ、その世界に住む者たちはその日々に己を打ち込んでいく。

なに一つ変わることのない平穏の世界。

だがその平穏な世界が一番幸せであることを知る者は少ない。



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