スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ:Re (かぜのこ)
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プロローグ「ロストチルドレン」

 

 

 

『■一……浩■……』

 

 

 ――声が、聞こえる。

 

 

『……目■■る■で■、■■■■――否、■ビ■二■よ』

 

 

 ――ぼく/オレを呼ぶ声が。

 

 

『■■ル■世よ……悪■き■■■■■の■■を阻■し、地■を……■■ての■界を救■■です』

 

 

 ――請うように、誘うように。

 

 

『■■の無■力を超■し、ア■■リ■プ■■を防■■■す』

 

 

 ――どこか遠く、銀河の果てへと導く誰かの声が。

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い室内。

 オレはまどろみから目覚めた。

 どこかぼやけた視界、全身を包み込むひんやりとした感触。

 

「――――ッ!?!?」

 

 叫ぶ。

 が、口が呼吸機らしいものに覆われていて声が出ない。

 それどころか、オレの全身は何か得体の知れない液体に浸かっていた。

 

「――――ッッ!!」

 

 もがき、のたうつ。

 しばらくそうしていたおかげか、だいぶ冷静になれた気がする。……気がするだけだが。

 やけに力の入らず、違和感だらけの身体は半袖七分のウェットスーツ的なものを着ていた。

 鈍い身体に苛つきながら腕を伸ばすと、すぐ何かに阻まれる。堅い感触、これはガラスか?

 周りに満たされた気色の悪い色をした溶液。どうやらオレは、ホルマリン漬けのようにされているらしい。

 容器のガラスは分厚く、力の入らない腕でたたいてみてもびくともしなかった。

 クソッ、訳も分からず標本のようにされてろってのか……!

 理不尽に対する怒りと恐怖で、目の前が真っ赤になる。

 

「――ッ!?」

 

 そのとき、ズキリと頭に――いや、脳に痛みが走る。

 そして、唐突に視界に――ガラスに大きな亀裂が走り、仕舞いには派手に砕け散った。

 バシャン!と音を立て、オレは容器の外に勢いよく放り出さる。

 

「がはっ! ゲホッ、ゴホッ……な、ん、だった、んだ……?」

 

 地面に投げ出された拍子に呼吸器が外れ、呑んでしまった溶液を吐き出す。

 立ち上がろうと両足を踏ん張るがうまくいかない。両手両足は鉛のように重く、まるで生まれたての子鹿だ。

 

「気持ち悪い……」

 

 酷く怠い身体を持て余し、しばらくその場でうずくまることにした。

 ついでに、周りの様子を観察する。

 

「……ここは、何かの研究施設なのか?」

 

 何を研究してるかは知らないが、碌なモノじゃないだろう。

 

「“No.22nd typeーIng”……イングと読むのか、これ? まるで工業製品だな」

 

 ネームプレートらしきものに眉をひそめる。二二と記されているわりには、オレの目覚めた水槽以外、部屋には見当たらないが。

 未だ重たい身体を引きずるようにして、手近なデスクの端末に取り付く。先ずは何かしらの情報を手に入れるべきだ。

 どうもオレの知っているPCとは段違いに進んだ技術を用いているらしく、動かせるか不安はあったが、身体が覚えていると言うべきなのだろうか、指先は淀みなく踊った。

 自分の身体が自分のものではない不快感に苛まれながら、データを閲覧していく。

 どうやらこの端末の持ち主は大層な自信家なようで、複雑なセキュリティーはかけられていなかった。

 そして、オレはこの場所の名称を知る。

 

「……“アースクレイドル”!?」

 

 施設の名前に驚愕する。

 何故ならそれは、オレの知っているテレビゲームに搭乗する単語であったから。

 そんなバカな! そう叫びたくなる衝動を、グッと抑えた。

 冷静になって思う。だいたい、“オレ”とはいったい何者だ? テレビゲームとロボットアニメが好きな、どこにでもいるような普通の高校生だったことは認識できる。――だが、家族が、友人が、そして何より自分の名前が思い出せない。

 さらに、この世界――正確を期すならオリジナルキャラクター等の設定――に関する記憶の大半が抜け落ちている。

 虫食いの記憶に頭をかきむしる。

 思い出そうとして思い出せないのだから、記憶喪失と言って語弊はないだろう。なんらかのキーワード――この場合は“アースクレイドル”――に刺激されて、関連するわずかな情報が開示されたと仮定すべきだろうな。何か、外部の何者から記憶にロックがかけられているような、そんな感じがする。

 ふと、壁に掛けられていた姿見に目を向けた。

 

「“マシンナリー・チルドレン”、か」

 

 鏡に映っていたのは前髪に青いメッシュが入った灰白の頭髪に、紅い瞳。幼さの残る顔立ちはまるで作り物のように端正だ。

 記憶の蓋がまた開いたのだろう、この身が“オレ”のものではなく、またヒトならざるものであると認識することができた。

 ……考えていても仕方がない。ここが本当にオレの知っているアースクレイドルなら、長く留まるのは得策じゃないことだけは明白だ。

 ようやく身体がもろもろに慣れオレは身を翻し、部屋を後にする。

 

 端末の画面には、『新西暦一八七年』と記されていた。

 

 

   †  †  †

 

 

 オレはどこか真新しい印象の、人気のない閑散とした通路を息を潜めて進んでいた。ちなみに、ウエットスーツじみたインナーだけってのはいただけないと、研究室にあったオサレなデザインの黒いゆったりとしたコートをパチッて着ている。

 目的地は格納庫、予め記憶しておいたマップによって難なくたどり着くことができた。……いや、マシンナリーチルドレンの頭脳はチートだわ。

 というか難なく、というには語弊がある。なんというか、人の気配のする方を避けてきたからこそ何のアクシデントもなく到着できたのだ。……この力、まさか“念動力”とか、そんなんじゃないだろうな。

 

 格納庫は、広大だがこれまた閑散としていた。まるで空っぽと言っていい。

 メンテナンスベッドには、巨大な機械の人型がまばらに納められている。だが、それらはパーソナルトルーパーには見えないやや古臭いデザインで、だがどこか見覚えがあった。……《ジム》? まさかな。

 疑問符を浮かべつつキャットウォークを素早く駆け抜け、オレは一機の機動兵器の前に辿り着いた。

 

「……紅いヒュッケバイン?」

 

 オレの記憶にはない機体だ。

 全体のデザインはパーソナルトルーパー、“バニシングトルーパー”こと《ヒュッケバイン》の後継機、《ヒュッケバインMkーII》にそっくりだ。

 とりあえず、コイツを脱出の足として拝借していくことにするか。ヒュッケバイン好きだし。

 コックピットハッチを――おそらく、刷り込み的な知識により――難なく開き、乗り込む。

 これまた刷り込まれたであろう知識に任せてコンソールをいじり、動力に火を入れてアイドリング状態に移行させた。ついでに、この見知らぬ機体の情報に目を通しておこう。

 

「形式番号RTX-009C、スペックは……ンッ、ミノフスキー型核融合エンジン?」

 

 ミノフスキー型核融合炉といえば、リアルロボットの代名詞《ガンダム》、それもU.C.(ユニバース・センチュリー)系のモビルスーツに用いられている動力機関だ。

 《ヒュッケバインMkーⅡ》とU.C.系モビルスーツが同居する世界観といえば――

 

「よりによって、αかよ……」

 

 コクピットのシートにうなだれる。

 何故なら、前世――こういう言い方はかなり不本意だが――のオレは、このシリーズをプレイしたことがない。参戦している作品や、いわゆるオリジナルキャラクターのαでの概要を伝聞で知るのみだ。あとは、過去作のトリビアをちまちまと摘み食いしているくらいだが……。

 

「携帯機派だったからなぁ、オレ」

 

 とはいえ、プレイしたことのあるはずのOG、いわゆるオリジナルジェネレーションのストーリーすら思い出せないのだから、あまり意味がないだろう。

 

「ストーリーの知識も無しに、この状況を生き抜けっていうのか……?」

 

 スーパーなロボットが古今入り乱れる大戦の最中を、である。

 原作知識は《ジム》や核融合エンジンの件でもわかるように、多少は役に立ちそうだが。それにしたって全て参戦作品の全ての設定を網羅していたわけでもなし、使えればめっけもの程度に考えていた方が良さそうだ。

 とそのとき、外部スピーカーがけたたましい警告音を捉えた。

 

「――感づかれたか!?」

 

 《ヒュッケバイン》のエンジンに火が入っていることを知られたか、あるいはオレが目覚めた部屋の持ち主――おそらくイーグレット・フィフが警告を発したか。

 

「何れにせよ、ここから脱出する、それが先決だ」

 

 レバーを握り、ペダルを踏み込んで《ヒュッケバイン》を発進させる。

 機体をつなぎ止めていた器材なんかが引きちぎれたが、お構いなしだ。

 閉じられたシャッターをこじ開けて、脱出をもくろむ。こちとら機動性が売りのリアルロボットなのだ、こんな狭いところで戦ってなどいられない!

 

「南無三!」

 

 手腕にサイドアーマーからプラズマソード《ロシュセイバー》を引き抜かせ、ブースト。ぶちかますようにしてシャッターに突っ込む。

 少なくないGにも、このマシンナリー・チルドレンの身体は難なく耐え抜いてくれた。

 シャッターに接触する一歩前、オレの入力によりOSに登録された剣戟モーションが発動、《ヒュッケバイン》はそれを忠実に再現し、袈裟懸けに剣を振るう。

 超高熱の光線剣が、分厚いシャッターを切り裂いた。

 

 

   †  †  †

 

 

「てっきり荒野かと思ったが、案外鬱蒼としてるな」

 

 目の前、メインモニターには雄大な大森林が広がっている。

 背部カメラの映像には、無惨にも切り裂かれたシャッターと半球体とはとても言えない中途半端な形をした白い巨大な建築物。どうやらこのアースクレイドルは未だ建造中だったようだ。

 と、もしもすでに地下に潜っていたらと思いつき、背筋が凍りついた。……機動兵器を奪って脱出なんて、今思えば考えなしだったな。

 

「っ」

 

 レーダーに感。アースクレイドルから機動兵器が発進したらしい。

 格納庫でも見たロボットが四機、急速接近してくる。

 コンピュータが敵の機種を判別する。赤い正規軍カラーの《ジムII》……今は“一年戦争”後、“グリプス戦役”相当の時代ってことか?

 

『そこのパーソナルトルーパーのパイロット、武装を解除して速やかに投降しろ』

「警備部隊のモビルスーツ……!」

『こちらは貴様の身柄の拘束を命令されている』

「……っ!?」

『返答がないのではあればやむを得ん。機体を破壊して拘束する!』

 

 答えに窮していると、四機の《ジムII》が《ビームライフル》らしき火器を一斉に構えた。

 

「っ、マジかよ!?」

 

 飛来する粒子ビームの砲撃が、自動で展開した重力障壁《グラビティ・ウォール》に接触して弾ける。慌てて《ヒュッケバイン》に回避運動を取らせながら、ほぞをかむ。

 生身のヒトの姿が見えないから戦える――なんて、馬鹿げたことを言うつもりはない。これが命がけの戦争だってことくらい、機体越しに感じるリアリティで理解している。そして、あの《ジムII》の中に、血の通った人間がいることも。

 だが――!

 

「訳も分からず、殺されてたまるか!」

 

 理不尽な状況に対する怒りを、迫る死の恐怖を叫びに変えて。

 

「死んでも恨むなよ! うおおおっ!」

 

 ブースト全開。牽制に頭部バルカンを放ち、凄まじい速度で敵モビルスーツに接近する。

 メインモニターに移る巨人の姿に恐怖は増大するが、それを無理矢理に押し殺し、トリガーを握り込む。

 

「ひとつ!」

 

 バルカン砲に怯んだ先頭の機体を、肩口から引き裂く。

 

「ふたああつ!」

 

 続いて、その横の機体を駆け抜けざまに一閃。

 

「みっつ!!」

 

 最後の機体を、構えたシールドの上から叩き斬った。

 最後列、隊長機らしき四機目の《ジムII》がようやく反応し、ライフルを構える。

 だが、遅い!

 

「お前で最後だ! スラッシャー、アクティブッ!!」

 

 ボイスコマンドを認識したFCSが、左前腕に内蔵された《リープスラッシャー》を起動させた。

 突き出した左腕から円盤状の物体が発射、刃を展開したチャクラムがワイヤーを引いて飛翔し、《ジムII》をズタズタに斬り裂いた。

 

「はぁ、はぁ……ちくしょう……」

 

 《ジムII》が次々に爆発していく。

 こみ上げてくる不快感と吐き気を必死に押し込んだ。

 腹の中に何も入ってなくて、助かった。

 

 ようやくえずきがおさまった。追っ手は片付けたし、これで後顧の憂いなく逃げ出せる。――と思ったが、そう簡単にはいかないらしい。

 オレがこじ開けたモビルスーツサイズのゲートとは違う、もっと大きなゲートがもったいぶったように開く。

 そこから現れたのは――

 

『侵入者と聞き駆け付ければ、警備隊は全滅か』

「……ぐ、グルンガスト零式……!?」

 

 オレの前に現れたのは、超闘士こと《グルンガスト》シリーズのプロトタイプとされる黒い特機(スーパーロボット)。知的生命体に対する心的重圧を目的にデザインされたという厳つい風貌からは、確かに強烈なプレッシャーを感じた。

 この機体、まさか――

 

「元戦技教導隊、ゼンガー・ゾンボルト少佐か!?」

『ほう、この零式と俺を知るか。やはり、ただのテロリストではないようだな』

「……オレは、テロリストじゃない」

『ならば貴様は何者だ? 未だ建造中とはいえ、このアースクレイドルは人類の要衝の一つ。そう易々と進入されるほど、甘い警備を敷いていないつもりだが』

「……。ある意味、オレは内部の人間と言うべきかもな」

『何?』

 

 誰何に対する予想外であろう切り口に、ゼンガーが訝しんだ声を上げる。

 彼相手に下手に作り話で取り繕っても、すぐにバレてあのバカでかい出刃包丁で両断されるのがオチだろう。ならば、可能な限り真実を話すべきだ。

 たとえどういう結果になろうと、上辺だけの嘘で生き様を偽りたくない。あるいは、この身体が一番の“偽り”だからこそそう思うのかもしれない。

 

「どこぞの誰かがこそこそやってた怪しげな研究の実験台、ってところだ。あなたにも、そんなことをやらかしそうな人物の心当たりがあるんじゃないのか」

『む……』

 

 通信機越しに、うめきが漏れる。

 今、彼の脳裏にはイーグレット・フィフの姿が過ぎったはずだ。怪しすぎるくらい怪しいもんな、あのおっさん。

 

「こんな辛気臭いところでモルモットをやるのは御免でね、とんずらさせてもらおうってわけさ。このヒュッケバインは、その駄賃に戴いていく」

 

 挑戦的に言い放ち、余裕を見せてみる。内心は、極度のプレッシャーでガタブルだが。

 

『……貴様の言葉が仮に真実であろうとも、逃走を許す理由にはならん』

「っ!」

『このアースクレイドルの存在が外部に露見すれば、人類の命運は潰える事になるだろう。故に、ヒュッケバインを破壊して貴様を拘束する。真偽はその後に確かめればいい』

「やっぱ、そうなるか……!」

 

 黒い機械の巨人は、斬艦刀を構えて戦闘態勢を取った。

 どの道そんな気はしてたんだ。相手はあの“親分”、真面目実直で頭が固い漢の中の漢である。

 

『我が名はゼンガー・ゾンボルト、悪を絶つ剣なり!』

「こうなりゃヤケだ! やるだけやってやる!」

 

 ゼンガー・ゾンボルトの代名詞とも言える口上に気圧されながら、オレはコントロールレバーを強く握りなおした。

 

 

 

『斬艦刀、疾風怒濤ッ!!』

「ぐぅうう!」

 

 噴射材を吹き上げて振り下ろされたブロードソードの腹に《ロシュセイバー》を叩きつけて無理矢理いなし、辛うじて致命傷を避ける。すでに、《ヒュッケバイン》の左腕は斬り飛ばされていた。

 圧倒的な質量による剣撃が強烈な風圧を巻き起こす。重力の壁を易々と貫く衝撃で、機体がギシギシと軋んで悲鳴を上げる。

 

「く、パワーが違いすぎる!」

 

 設定通りなら、あの《グルンガスト》には艦艇用のエンジンが積まれているはずだ。その巨体に似合った馬力、推して知るべしである。

 改修機らしいがあくまでもパーソナルトルーパーであり、それ以上にはなりようのないこの《ヒュッケバイン》では、当たり負けするのは必然だった。

 

「せめて、フォトン・ライフル(飛び道具)でもあれば……!」

 

 放たれた鉄拳、《ブーストナックル》が機体のすぐ脇を通過していく。システマチックなゲームとは違うのだ、当たれば華奢なパーソナルトルーパーなど木っ端微塵だろう。

 逃げるに逃げられず、かと言って飛び道具がバルカンしかないのではまともに戦えやしない。相手が捕獲を目的としていなければ、今頃オレはミンチになっていたに違いない。

 さらに拙いのが、《グルンガスト零式》は巨大な見た目によらず以外に身のこなしが軽く、素早いこと。機動性こそこちらが優位だが、これは逃走戦であり、最大速度は出力の差で《グルンガスト零式》の方が圧倒的に有利。故にオレは、勝ち目のない近接戦闘を強いられていた。

 

「何か、何か打つ手は……」

 

 必死に操縦桿を操り、片手でコンソールを叩いてスペックの細部を調べ、打開策を模索する。優れているであろう人工的に産み出された頭脳は、恐ろしいスピードで思考を展開した。

 そしてオレは、《ヒュッケバイン》のスペックに記されたとあるデータに一抹の勝機を見い出した。

 

「これは……! これなら、行けるか?」

 

 不安が過ぎるが、それを無理矢理振り払う。

 即興で制御プログラムを組み上げるべく、備えつけのキーボードを操る。ここでもやはりマシンナリーチルドレンの身体は大いに役に立ってくれた。

 

『ム……』

「感づいた? だけど、やるしか……!」

 

 さすがと言うべきか、ゼンガー・ゾンボルトは変化したオレの気配を機体越しに感じ取ったらしい。やることなすことがいちいち武人だ。

 しかし、こちらのやることは一つ。柄じゃないが、“分の悪い賭”と言う奴だ。

 

「時限プログラムによるバイパス解放、主機のパワーを右手腕に集中……!」

 

 極度の緊張と死の恐怖で乾いた唇、もはや舌なめずりする余裕もない。

 

「真っ向勝負だ、ゼンガー・ゾンボルト!」

『その意気や良し! 受けて立つ!』

 

 雄叫び、フットペダルを思いっきり踏み込んだ。

 グラビコン・システムでも相殺できないほどの凄まじいGを発生させながら、《ヒュッケバイン》が斬艦刀を振り上げる《グルンガスト》に吶喊した。

 

「おおおお――ッ!!」

『チェエストォォォオオッッ!!』

 

 精神を極限まで研ぎ澄ませ、真一文字に振り下ろされた斬艦刀を跳躍しつつかいくぐる。が、避けきれずに左半身をえぐり取られる。

 そんなもの関係ない、この渾身の一撃が決まれば!

 

「ここだ!」

 

 右手腕に充填されていたエネルギーを、《ロシュセイバー》に全てぶち込む!

 

「砕け散れぇぇぇッッ!!」

 

 裂帛の気合いが自然と口を吐く。

 込められた過剰なエネルギーにより刀身が急激に伸びていく。《ロシュセイバー》のスペックを眺めていて気付いたこの特性により、鋒が向かうのは《零式》の頭部だ。

 《グルンガスト》のメインコクピットは頭部に位置している。この《零式》とて同じだろう。

 そこを直接潰せば……!

 

『ヌゥ……!?』

 

 驚愕の呻き。

 取った! オレはこのときこの瞬間、そう確信した。

 しかし――

 

「そんな……!」

『良い太刀筋だったが、今一歩踏み込みが甘かったな』

 

 ゼンガーの、目の前の光景に言葉を失う。

 渾身の斬撃は、《グルンガスト》の左のメインカメラを奪うに止まっていた。目測を誤った訳じゃない、奴の反応がオレの一歩先を行っていただけのこと。あるいはPTの剣撃モーションを見切られたか。

 明確な技量と経験の差――、それが勝敗を分けたとでも言うのか。

 とそのとき、ドンッと背後から少なくない衝撃が襲い来る。無茶が祟って《ヒュッケバイン》の背部ウィングが爆発したらしい。

 散々に警告していたコンソールが無情にも機体の限界を告げていた。

 

「オーバーヒート……!? うわっ!」

 

 突如、正面のコンソールがスパークを上げて小爆発を起こす。

 満身創痍の“凶鳥”はその場に崩れ落ち、オレも腹部に深い傷を負った。

 受けたこともない激痛に、意識が朦朧とする。

 

「ク、ソ……ッ! ――わけもわからず、なにもできずに、死ぬ、ってのか……?」

 

 悠然と歩み寄る黒い巨人。状況は、絶体絶命としか言いようがない。

 急速に薄れゆく意識の中、最後に見た光景はコックピットを照らす翠緑の不可思議な輝きだった。

 

 

    †  †  †

 

 

 極東、日本近海。

 《Gホーク》形態に変形した青いスーパーロボット、《グルンガスト弐式》が黒いパーソナルトルーパー、《ヒュッケバインMkーII》を背に乗せて海上を飛行している。

 周囲には、青・赤・黄色の三機の戦闘機、“ドダイ”に乗ったモビルスーツが飛行している。

 《ネオ・ゲッターロボ》が分離した三機の《ゲットマシン》、サブフライトシステム(SFS)《フライングアーマー》に機上した《ガンダムMkーII》だ。

 

『それで、“強い念”って奴がこの近くに()()()っていうのかよ、クスハ』

「うん、そうだよ、一文字君」

 

 青い一番機、《ネオイーグル号》を操縦する厳つい青年、一文字號が訝しげに言う。応じるのは青いショートヘアの気弱そうな美少女、クスハ・ミズハだ。

 なお、彼らは同じ高校に通っていたクラスメートである。

 

『俺とリョウトも、クスハと同じ強い“念”を感じた。あれは異常だ、この世にあっちゃいけない――とは思えないのが不思議なんだ』

『うん。まるで太陽みたいな、そんな暖かで、けれど苛烈な印象を受けたよ。あと、助けを求めてるような、そんな感じもしたな』

 

 《ガンダムMkー2》のパイロット、カミーユ・ビダンがクスハの意見に同意を示し、《ヒュッケバインMkーII》を操るリョウト・ヒカワが補足を加えた。

 どちらも抽象的な意見であるが、それは彼らが種類は違えど特別な“能力者”であるからだ。

 

『“強い念”、ねぇ……おれらにはなんも感じられねぇけどなぁ』

『ともかく、現場に向えばわかることだろ。困ってんなら助けてやりゃあいいし、敵ならぶっとばしゃいい』

『號、お前はまたそうやって……』

 

 黄色の三番機、《ネオベアー号》の大道剴がぽつりとぼやいたセリフに號が至極彼らしい意見を述べる。それをとがめるのはゲッターチームの紅一点、赤い二番機、《ネオジャガー号》の橘翔だ。

 そう単純な話ならいいんだが、とため息を吐いた翔は、わずかに口角を吊り上げてこう言った。

 

『クスハ、リョウト、カミーユ、君たちはこの単細胞のようにはならないようにな』

『んだとぉ!』

『うわっ! おい、翔っ! 號を煽るなよ』

『はははっ、すまんな剴』

「ち、ちょっと、三人とも……」

 

 頭上で大騒ぎする三機に、クスハは困ったように眉尻を下げて苦笑いを浮かべる。リュウトは同じように困っているが、カミーユは我関せずといった感じだ。

 ちなみに、號の高校の成績はどちらかと言うと良い方である。ただちょっと血の気が多すぎるだけだ。

 

 クスハたちが協力している地球連邦軍極東支部と、リョウトたちが所属する反連邦組織“エゥーゴ”は連邦軍の過激派“ティターンズ”や地球制服を企む数々の地下勢力に対抗するため、協力関係を結んでいた。

 そこに至るまでには複雑な事情と経緯があったのだが、それはさておき。現在、彼らがこうして海上を飛行している理由はこうだ。

 あるとき、クスハ、リョウト、カミーユの三人が同一のタイミングで頭痛を訴え、近くに強力な“念”の持ち主が突如として現れたことを感じ取った。そして、“それ”が自分たちを呼んでいると口を揃える。

 それを聞きつけたエゥーゴの機動戦艦《アーガマ》の艦長、ブライト・ノアとエゥーゴ実働部隊の実質的リーダー、クワトロ・バジーナ、そして極東支部からの代表である神隼人の三名は彼らの感性を重要視して原因の究明を決定、護衛付きで送り出した、というわけだ。

 

『あっ!』

「どうしたの、リョウトくん?」

『見つけたっ、五時の方向』

 

 おそらくこの中で一番探知能力に優れているであろう《ヒュッケバインMkーII》を駆るリョウトが、異変を察知した。

 一足遅れて《グルンガスト弐式》のレーダーマップが金属反応を捉える。

 

『行ってみよう。クスハ、お願い』

「うん」

 

 リョウトの要請を受け、クスハは《Gホーク》を反応のする場所へと向けた。

 

 

 岩礁らしき浅瀬に、座礁したように一機の機動兵器が擱坐(かくざ)していた。

 乗降用ラダーを駆使してそのコックピット付近に降り立つクスハ、リョウト、カミーユの三人。

 

「真っ赤なヒュッケバイン……」

「MkーIIに似ているな」

「うん。というか、見る限り瓜二つだね」

 

 クスハのつぶやきにカミーユが感想を述べ、リョウトが補足する。

 ゲッターチームの三名は、機体に乗ったまま上空を旋回して周囲の警戒を続けていた。

 

「動力は……どうやら生きているみたいだ。どうする? 人の気配はするが……」

「僕が開けるよ。これでも、PT乗りだからね」

「ああ、任せた」

「リョウトくん、気をつけてね」

「わかってる。――同じヒュッケバインなら、たぶんこうして……」

 

 パーソナルトルーパーのパイロットであり、なおかつ多少なりとも機械工学についての知識を持つリョウトが代表してコックピットハッチに取り付いた。

 幸い非常レバーは生きており、ハッチの開放に問題はないようだ。

 大破に近いダメージを受けているにも関わらず、紅い《ヒュッケバイン》のコックピットはひしゃげることなくも原形をほぼ留めていた。

 

「開けるよ?」

 

 無言で頷く二人。

 リョウトが緊張した面もちで、レバーを引いた。

 

「うっ!?」

「これは……!」

「ひどい……」

 

 光景に彼らは息を飲み、絶句する。

 彼らの目の前には、腹部に深い傷を負い、血塗れになった少年がパイロットシートに力なく身体を預ける姿だった。

 




 ちょっとリハビリがてらインプットしたネタを吐き出してみる。
 最後まで書ききれたらいいな(願望)


 out ゲッターロボ(東映版)

 in ネオゲッターロボ対真ゲッターロボ(漫画版ゲッターロボ號の要素あり)、真(チェンジ!)ゲッターロボ(一部設定のみ)

 なお、作者はゲッター作品では一文字號(チェンゲのゴウではない)が一番好きです。ゲッター號もあの半端な感じが初期機体感あって好き。
 ネオゲの號は惜しいけどちょっと解釈違いなんだよなぁ。


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αl-1「凶鳥の眷属」

 新西暦一八七年 ×月■日

 地球連邦軍極東支部 《アーガマ》の医務室

 

 突然だが、オレこと「イング」は今日から日記をつけることにした。

 なんの因果か、マシンナリー・チルドレンなんて厄介なものに憑依してしまったオレは、戦乱渦巻くこの世界の渦中から逃げることは出来ないだろう。少なくとも、今すぐは無理だ。

 だから起きたこと、知ったこと、経験したことを文章にして残し、読み返すことで直面した状況から目を逸らさずに少しでも前向きでありたい。あと自分の記憶が信用ならないという面もあるかな。

 まあ、メタな話をするならこの方が楽ってのもあるんだけど。

 

 ゼンガーからどうやって逃れたのか皆目見当もつかないが、ともかく運良く、あるいは必然的に主人公たちに保護されたオレは、3日間ほど生死の境をさまよっていたらしい。

 驚いたことに、この“世界”にはスーパー系主人公とリアル系主人公が同居していた。

 目覚めてからしばらく、オレを救助してくれたという人物たちが現れたときは、びっくり仰天した。

 リョウト・ヒカワ、クスハ・ミズハの両名が連れ立って現れたんだから。あれ?ここ、αじゃないの?と疑問符を浮かべてしまった。

 リョウトは穏やかなようで主人公のオーラがあったし、生で見たクスハはめちゃくちゃかわいかった。

 正直、あの“揺れる”おっぱいをガン見しないでいるのは相当しんどいかったな。

 ……むっつりじゃないぞ、オレは。どちらかというとオープンなスケベだ。

 

 あと、どうやら本来の主人公はクスハのようだ。

 その理由は、リョウトのパートナー、リオ・メイロンが《ヒュッケバインMkーII》の選任オペレーターとして《アーガマ》に同乗していて、なおかつクスハの恋人、ブルックリン・ラックフィールドの姿が見あたらなかったから。

 中途半端であまり役に立たない原作知識によると、ヒロインは一時行方不明になるらしい。さすがに事情を知らない立場のオレが迂闊に問うことは出来ないが、まあ、そういうことなんだろう。

 彼女は全三作で主人公の一角を務めていたそうだから宜なるかな、といったところだ。

 

 この身体の名前らしい「イング」を名乗ったオレは、詳しい事情をそれとなく聞いてくるリョウトたちに「責任者の人に説明したい」と意志を伝えた。

 二人はやや困惑していたが、伝言を受諾してくれた。さすが主人公ズ、話が分かる。

 ちなみにオレの《ヒュッケバイン》は開始一戦目で早くも大破判定を頂戴し、極東支部から南アタリア島にあるディバインクルセイダース(DC)本社に移送されてしまったそうだ。

 まったく、“バニシングトルーパー”の面目躍如である。はぁ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月○日

 日本近海 《アーガマ》の医務室

 

 今日はここの責任者たち、ブライト・ノア大佐とクワトロ・バジーナ大尉、神隼人大佐と面会した。

 実はオレ、内心わくわくしてた。

 だってさ、あのブライト艦長と“赤い彗星”シャアだぞ? 興奮するなってのが無理な話しだ。とりあえず、原作にならってブライト艦長にはサインを強請っておいた。

 つか、年齢的に考えてブライト艦長がオリジンで神大佐ネオゲ設定とかマジ?と内心動揺したし、なんか神さんってば妙にブライトさんらとフランクなんだが。まあ、チェンゲじゃないらしいからよかったけど。

 このあと、ちょっとこの世界の歴史調べないといけない。

 

 会話の内容は、面会というか事情聴取のようなものだった。

 とりあえず、質問には可能な限り答えたし、オレが《ヒュッケバイン》に乗っていた経緯も説明した。

 この身体がマシンナリー・チルドレンという人工物であり、本来の身体とは違うらしいとか、気がついた場所はアースクレイドルでそこから逃げてきたのだとか。まあ要約すると包み隠さずぶっちゃけまくった。

 ただ、話せないこともあるからそれなりに誤魔化したし、そのせいで二人には実際かなり怪しまれてた。

 だけどさ、自分はこの世界の人間じゃありません、この世界はビデオゲームの世界なんです、なんて荒唐無稽な話、信じられるか?

 とりあえず、行くところもないし、マシンナリー・チルドレンの身体は厄介すぎるんで、ここに置いてもらえることになった。

 一応、パーソナルトルーパーやモビルスーツを扱えるから、傷が癒えたら協力してくれないかと打診されたけど、そこは保留しておいた。まだ、戦うことに踏ん切りというか、割り切れないからな。

 ちなみに、ブライト艦長たちに対して敬語で接していたら妙に感心された。やっぱ民間人が多いから、すでに規律がフリーダムなんだろうなぁ。

 

 ああ、《マジンガーZ》や《ゲッターロボ》が生で見られるなんて……楽しみだ。

 

 

   †  †  †

 

 

「ええぇ……?」

 

 オレことイングは情報端末の前で思わずうめいた。驚愕である。頭を抱えたい。

 

「兜甲児が今年二六歳で、前大戦の英雄とかどゆこと??」

 

 ことの発端は、ブライト艦長や神大佐の年齢に違和感を覚えたこと。なので、用意してもらった情報端末(ノートパソコンみたいなものだ)で、情報収集することにしたのだ。

 主にこの“世界”の歴史を知るためだ。原作知識は歯抜けの有り様で、下手に頼りきったら足元を掬われるだろう。

 

「実際、だいぶ魔改造されてるみたいだしなあ……」

 

 “兜甲児”が二〇代後半の話とか、そんなんあったっけ? いや、()()()が同窓でかつての英雄とか、控えめに言ってもエモいけどさ。……あっ! これってINFINITYか! ってことはあのデカブツといつかやりあわなきゃいけないの?

 おお、《マジンガーZ》と《ゲッター1》と《ガンダム》が富士山と《ホワイトベース》をバックに並んでる画像だ。広報誌用の写真とかかな。かっっっこよ。

 つーか、この三機とバチバチやりあった“赤い彗星”ってヤバくね?

 

「ふーん……、地球連邦とジオン公国の休戦の隙を突くように起きた恐竜帝国との決戦ではニューヨークが壊滅し、ね……。やっぱネオゲかな?」

 

 ということは、“巴武蔵”は《ゲッターロボ》と運命を共にしたのだろうか。関係者に聞くわけには……いかないよなぁ。

 どうやらその後にミケーネ帝国と百鬼族帝国が攻めてきて、《グレートマジンガー》《ゲッターロボG》に流れたようだ。完全にネオゲ設定ってわけじゃないみたいだし、《グレンダイザー》はいない、のか? まあ、インベーダー戦争が起きてなきゃなんでもいいよ、うん。

 

「MSは見た感じ……ブルーデスティニー三号機にEz-8、マドロックにガンダム四号機、ピクシー、フルアーマー七号機、アレックス……一年戦争オールスターズかよ。つかこのRX78-2、なんかオリジン版っぽくね?」

 

 写ってないけど、この分だとホワイト・ディンゴとかデルタチームも居そうだ。

 オレはGジェネもやってるからそこそこ詳しいのだ。むしろそっちのが詳しいまである。チラッと映ってる《ザクII 改》はたぶんバーニィのだ。あ、でもこの《ガンダム》っぽいのなんだこれ、色が白と紫でやけに装甲が少ないんだけど?

 あと、後ろの方に映ってるこの戦闘機みたいのは、もしかして《VF-0 フェニックス》かな? マクロス0ってこの時期だっけ? まあ、いいか。

 ううむ……もっと調べてみよう。

 

「んん? これ、ゴーダンナーとネオオクサーだよな……。ええぇ……ラビッドシンドロームとかクソメンドいんだが」

 

 これは今から五年以上前のものらしいから、本番はこれからだろう。むしろ現在進行形で起きてるのか?

 ええと、主な事件を時系列をまとめると――

 八年前:Dr.ヘルの反乱「マジンガーZ」恐竜帝国「ゲッターロボ」

 七年前:ジオン独立戦争「機動戦士ガンダム」(ここで恐竜帝国との決戦があった)

 六年前:ミケーネ帝国「グレートマジンガー」、百鬼帝国「ゲッターロボG」

 五年前:反連邦同盟の蜂起「マクロスゼロ」、ミラのMIA?「神魂合体ゴーダンナー」(“鳥の人”との戦いを最後にホワイトベース隊は解散したようだ)

 

 って感じかな?

 なるほどなー。先の大戦が、“一年戦争”ってより“巨神戦争”と呼ばれてるのはそういうことね。一年で終わってないもんね。結構長い間戦ってんもんね。

 それはともかく――

 

「六〇年も前にガンダムファイトの原型が成立してるとかなにそれ???」

 

 いや、宇宙に出てから一〇〇以上経ってるなら人型機動兵器のひとつやふたつ出来ててもおかしくないけどさぁ。

 まあ、ガンダムファイトの優勝国がその後四年間、世界の覇権を握る、とかいうトンでもルールはさすがにない(議長国として連邦政府内での発言力が強まる、というのはあるようだ)みたいだけど。お、《ヤマトガンダム》だ。

 なになに……?「アムロ・レイは、軍事兵器としてのガンダムの初のパイロットである」ってこれ、こじつけじゃねーか!

 それに今年が第一三回の開催予定年とか、デビルガンダム事件不可避じゃないですかやだー。

 

「はぁ~……、先が思いやられるぜ」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 ×月▲日

 極東地区日本 《アーガマ》の私室

 

 さすがマシンナリー・チルドレンの身体というべきか、ものの二日で完治してしまった。

 で、今日は退院祝いを兼ねてリョウトとクスハ、リオの三人に艦内を案内してもらった。まあ、平たくいえば挨拶まわりだな。

 なお、リョウトとリオは「イング」、クスハからは「イングくん」と呼ばれている。年下扱いとか、解せぬ。

 

 リオの勤務場所という艦橋でブリッジクルーのみなさんに挨拶したり、食堂に居たパイロットの面々と顔合わせしたりした。

 挨拶したのは、新ゲッターチームこと

一文字號、橘翔、大道剴の三人に最近加入したという葵豹馬らコンバトラーチーム。カミーユ・ビダンとエゥーゴの兵士たちに、あとデュオ・マクスウェル。すでに錚々たる面々だ。

 スーパー系な皆さんからは温かく歓迎されたが、リアル系な皆さんからはいささか胡散臭い目を向けられた。ま、自分でも胡散臭いなって思うから気にしてないけどね。

 そして、お待ちかねの格納庫。《ネオゲッターロボ》を構成する《ゲットマシン》三機に興奮したり、《ガンダムMkーII》をしげしげと眺めてみたり。《マジンガー》いないじゃん! って叫んだら爆笑が起きた件。いやぁ、察してたけどさ。

 あ、あと、《ガンダムデスサイズ》の頭が白かった。これアーリー版じゃん! ルーセット来るー?

 

 我を忘れてはしゃぎすぎ、リョウトたちに暖かい目線で見守られてしまった。……見た目的に年下だからしょうがないけど、中の人的には同世代のつもりなんだがなぁ、解せぬ。

 なお、整備班長アストナージ・メドッソ氏には丁重にご挨拶しておいた。整備のカミサマを無碍には扱えないって。

 

 道すがら、雑談にかこつけて三人が《アーガマ》に居る経緯を聞いてみた。

 リョウトとリオは元マオ・インダストリー社の輸送船パイロットで、《ヒュッケバインMkーII》を狙うティターンズに襲撃を受けたところを《アーガマ》に助けられ、合流したらしい。

 どうやって二人で切り抜けたのかと聞いたら、「オートパイロットの輸送船を囮にして、MkーIIに二人乗りして脱出したんだ」とリョウトが答えてくれた。

 なにやらリオが顔を赤くして照れていたから、クスハと一緒に生暖かい視線を向けてやった。まあ、そういうことなんだろうな。

 

 一方クスハの事情は、結構シリアスだった。

 日本地区の、ごく普通の高校生――號とはクラスメートだったらしい。闇プロレスはどうしたの? とか聞いたら首をかしげられた――だった彼女たちの高校に、一機の輸送機が墜落した。機械獣によるものだったというが、おそらく何らかの勢力がDr.ヘルの残したものを使っているのではないかとか。

 その影響で恋人は行方不明、彼女自身は輸送機に積まれていた《グルンガスト弐式》に偶然乗り込み、すでにゲッターチームの一員だった號らとともに機械獣や同じく壊滅した勢力の戦力であるメカザウルス、百鬼メカなんかと戦ったそうだ。

 ちなみに、かの有名な兜甲児と《マジンガーZ》が応援に駆けつけて蹴散らしたらしい。スポット参戦かな?

 その縁でしばらくの間、新光子力研究所で厄介になったとか。で、連邦軍極東支部の要請を受けてゲッターチームと一緒に、地球に降りてきたエゥーゴの《アーガマ》隊と合流したんだそうな。

 

 どう返したらいいかわからず、押し黙るオレ。リョウトたちも詳しい経緯は知らなかったらしく、言葉を失っている。

 そんなオレたちに、クスハは「わたしは大丈夫だよ」と笑いかける。それが何とも痛ましく、胸を突くのだった。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月◇日

 極東地区日本 《アーガマ》の自室

 

 今日は酷い目にあった。ほんとーに酷い目だった。

 これを書いているのも正直ダルいが、わりと重要な出来事もあったからがんばって書き留めることにする。

 

 ことの発端はいわゆる半舷休息で《アーガマ》の、特にパイロット連中は一時の休息。

 それで街に降りるリョウトたちに、オレもついていくことにしたわけだ。

 新西暦の都市がどうなってるのか興味があったし、一人置いてかれるのは嫌だったからな。まあ、それがいけなかったんだが。

 

 最初はよかった。

 緊急時に対応できるように、年少の部類に入る面子でまとまって買い物なんかをやっていた。オレやリョウト、號や剴、豹馬なんかは荷物持ち状態だったけど、それなりに楽しかったんだ。

 そんなときだ、何やら雲行きがきな臭くなってきたのは。

 

 至る所にプロペラ機のようなローターをつけた緑色のロボットと対峙するマッシヴな鋼色の巨大ロボット。名前は知らないが、後者は明らかに主役級の存在感を持った立派なロボだった。

 急ぎ《アーガマ》に戻ることになったみんなに紛れ、そそくさと安全地帯に逃れようとしたときだ。

 突然、強い衝撃が辺りを席巻した。

 

 はぐれたというか、分断されたオレの前に現れたのは、眼帯のダンディーな、だが怪しさ爆発な紳士だった。

 姿に一抹のデジャヴを感じていたオレに、オッサンはこう言った。

 

「このような小僧をいたぶるのは不本意だが――しかし、ビッグファイアの御意志とあらば仕方あるまい」

 

 その瞬間、ゼンガーと相対したときと同レベルの寒気を感じた。死の予感って言えばいいだろうか、ともかくコイツはヤバい。

 直感に従ってその場から飛び退いたオレのすぐ側を通り過ぎていく突風、衝撃波。で、ここで気がついた。

 

 ――あれ? この人“衝撃のアルベルト”じゃね?

 

 ってことはさっきのロボット、《ジャイアントロボ》か! とようやく思い出した。いや、原作は詳しく知らないけど、“使徒”と生身でやり合うトンでも超人ってネタだけは知ってたんだよ。

 あとはまあ、恥も外聞もなく逃げ回ったわけだ。

 だがしかし、相手はBF団が誇る超人“十傑集”。あっという間に追いつかれ、衝撃波が殺す気で飛んでくる。

 いつしか追い詰められたオレに、迫り来る。そのときは、ミンチになる自分をありありと想像した。

 迫り来る死を拒絶するように、無意識のうちに伸ばした手。目の前には、念動フィールドらしき翠緑の光の膜がぼんやりと揺らめいた。

 アルベルトは、衝撃波と相殺して消えたオレの力を見てどこか納得したように、あるいは満足したようにニヒルな笑みを浮かべ、身を翻した。

 残されたオレはカミーユの《MkーII》が救助に来てくれるまで、その場で呆然としていたのだった。

 

 この不本意極まる邂逅で得たものは、オレが“強念者”であることへの確信と、オレがこの「イング」に憑依した原因に“BF団”が関わっているのではないかという疑惑。

 謎は深まるばかりだが、オレという存在を解明する糸口を掴んだ気がしてる。……戦う運命からは、逃れられないのかな。

 

 ちなみに、今まで各地で現れていた機械獣やメカザウルス、百鬼メカを影で操っていたのはBF団のようだ。怪メカと一緒に出てきたからな!

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月□日

 極東地区日本近海 《アーガマ》の自室

 

 いろいろ悩みが尽きない今日この頃。

 無駄飯喰らいの穀潰しは御免だと、ここ一週間は《アーガマ》のいろいろな部署で仕事を自主的に手伝っていた。

 まず、ありがちなところでは格納庫で整備兵の手伝いだろう。

 優秀なマシンナリー・チルドレンの頭脳はここでも力を発揮して、刷り込まれていた機械知識を頼りにやってるうちに、すいすい身に付いていった。メカニックのみなさんからはそこそこ評価されたと思う。

 次に、食堂の手伝い。

 ここはまあ、成功したかどうかは微妙な線だ。オレとしてはそれなりに料理が出来るつもりだったんだが、いざ作った料理を試食した剴と豹馬とデュオが「ぶふぁ!?」と盛大に噴き出してギャグった。

 曰く、死ぬほど滅茶苦茶甘かったらしい。自分の好みでアレンジしたのがまずかったのか?

 とはいえ、レシピ通りに作れば何ら問題ないし、ジャガイモの皮むきなんてベタな仕事もあるわけだからこちらも問題ないだろう。

 試食した三人からは、「もうお前飯作んな」と強く止められてしまったが。

 

 そんな感じで、日々あくせく働いている。

 《アーガマ》のみんなに受け入れてもらうために、オレはこれでも必死なのだ。

 この世界において寄る辺も由縁もないオレだから、今ここにある縁を大事に育てたい。だからって、卑屈になるつもりはないけどな。

 

 それと、この期間に新たな仲間が《アーガマ》に加わった。

 《Vガンダム》のウッソ・エヴィンとカサレリアの仲間たちと、そのお目付役のマーベット・フォンガーハット。そしてなんと、“連邦の白い悪魔”ことアムロ・レイ大尉がRX-78-2《ガンダム》と共に加入したのだ!

 うん、興奮しすぎだな。自重、自重。あと、オーストラリアはトリトン基地から奪われた《ガンダム試作二号機》を奪還するため、《ガンダム試作一号機》とコウ・ウラキ少尉とその仲間たちが参入した。

 どうして軍人さんには階級をつけて呼ぶのかって? オレはこう見えて真面目なんだ。

 ちなみに、アムロ大尉には握手とサインをねだりましたが、何か?

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月※日

 地球連邦軍極東支部 《アーガマ》の自室

 

 今日は最近加入した“不死身の第四小隊”隊長、サウス・バニング大尉の指導する訓練に混じって汗を流した。

 このマシンナリー・チルドレンの身体の性能がどれほどのものなのか、興味があったので参加してみた。

 《アーガマ》の甲板をグラウンド替わりに、耐久マラソン。精神的にはかなりしんどかったけど、有り余る身体能力をコントロールするコツがわかったような気がする。

 とりあえず疲れたし、もう寝る。

 

 

 新西暦一八七年 ○月◆日

 地球連邦軍極東支部 《アーガマ》の自室

 

 部隊名が“ロンド・ベル”に決定した!

 正式名称は「地球連邦軍極東支部第一三独立外部部隊ロンド・ベル」。名付け親は極東支部の岡長官。ボルテスチームの一員、めぐみの親父さんだ。

 エゥーゴだのリガ・ミリティアだの獣戦機隊だのコープランダー隊だの、いい加減ややこしかったからな。あ、後者二つは最近加入した仲間たちだ。

 なお、決定の際にアムロ大尉が「マーチウィンド」、ウッソが「ブルー・スウェア」を。オレも「ラウンドナイツ」を提案しておいたが、順当に却下された。ま、お約束だな。

 

 

 新西暦一八七年 ○月#日

 地球、太平洋上 《アーガマ》の自室

 

 突然だが、オレは一応非戦闘員であり、戦闘中はだいたい格納庫で整備班に混じって作業している。

 たまに《アーガマ》に被弾すると、艦内が大変揺れてとても怖い。外の様子が分からないというのは、正直心臓に悪すぎる。

 ということで、パイロットとして戦うことを前向きに検討してみることにしてみた。比較的安全な艦内にいるより、銃弾飛び交う戦場の方がマシだと思うオレも大概だな。

 とりあえず、シミュレーターから始めてみようと思い立ち、リョウトに相談した。

 快く協力を申し入れてくれた彼に案内されて訪れたのは格納庫の一角。そこに置かれた筐体を見て「なんか、アーケードゲームみたいだな」と漏らしたら、リョウトに苦笑された。

 どうやらマジでゲーム機らしく。リョウトはこのゲーム「バーニングPT」の日本地区ランカーであり、その実績がマオ社に認められてスカウトされたのだとか。そういえば、OGにそんな設定があったな。

 それはともかく。

 この筐体は特別仕様で、《ヒュッケバインMkーII》と《グルンガスト弐式》のデータが入力されている。《弐式》が使えるのはパーソナルトルーパー扱いの機体で、コックピット周りや操作系もほぼ同等だからだそうだ。

 なお、他のラインナップはというと、

 《ゲシュペンスト》、《ゲシュペンストMkーIIタイプR》、《ゲシュペンストMkーIIタイプS》、《量産型ゲシュペンストMkーII》、《ビルトシュバイン》、《シュツバルト》、《ビルトラプター》、《ヒュッケバイン009》。

 一部、「それでいいのかマオ社」って機体も混じっていたが、問題ないらしい。ちなみに《ヒュッケバイン009》とは、オレの《ヒュッケバインEX》の元となった機体である。

 で、一通り使ってみたが、やはり《ヒュッケバイン》系列の機体がよく馴染む。《ゲシュペンスト》の頑丈さと汎用性も嫌いじゃないが、やや操作感が重いというか反応が鈍くていささか物足りない。その点、《ヒュッケバイン》は華奢だが軽妙で振り回しやすく、扱いやすかった。

 次点の《ビルトシュバイン》も悪くないが、ここは《ヒュッケバイン》にこだわりたい。

 

 操作をあらかた確認し、プラクティスメニューを消化したオレはリョウトと模擬戦をすることにした。

 使用機体はどちらも《ヒュッケバインMkーII》。

 レギュレーションで合わせたというよりは、オレもリョウトも《MkーII》が使いたかっただけだな。

 

 何回か対戦していたら、なんとなく付き添いで、クスハと観戦(?)していたリオが自分もやりたいと言い出した。

 実はリオ、このシミュレーターで密かに訓練していたらしい。

 というわけで、リオとついでにクスハも巻き込んで、四人で対戦してみた。ちなみにリオの乗機は《弐式》な。

 

 オールマイティーなリョウトとバリバリ前衛型なリオ、どちらかというとサポートが得意なクスハに遠・近そつなすこなすがより近接に寄っているオレ。傾向はこんな感じだ。

 

 鉄板のリョウト×リオvsオレ×クスハを基本に、組み合わせを変えていろいろ試してみたり。

 最終的にはほとんど遊んでいるようになってしまい、通りがかったアムロ大尉に呆れられてしまった。「これで、クスハも少しは気分が晴れればいいんですけど」とか言ったら、今度は妙に感心されたけど。

 曰く「俺のときはみんながみんな自分のことに必死で、そういう気遣いを出来る人間は少なかったんだ。その感性を大切にするといい」。さすが、伝説を作った人の言葉は重さが違うな。

 最後に、オレの操作ログその他はDC社に送られるらしい。まあ、碌なことには使われないんだろうけど、せめてカッコいい機体を融通してくれればなぁ、と思う次第だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ○月▼日

 極東地区日本、第三新東京市 《アーガマ》の自室

 

 ……まじでヒトってシトと生身で戦えるんだ。知ってたけど。

 

 

 

 新西暦一八七年 ○月◎日

 極東地区日本、第三新東京市 《アーガマ》の自室

 

 昨日はショックで妙な日記になってしまった。反省。

 

 そんな昨日は、第三使徒《サキエル》との戦闘があった。

 地下勢力であり《ライディーン》宿敵の妖魔帝国が絡んできたり、“エアロゲイター”ことゼ・バルマリィ帝国の偵察機《メギロート》の姿も現れて、事態は一気にきな臭くてはなってきた感がある。

 お約束通り、《エヴァンゲリオン初号機》の暴走による殲滅――と思いきや、《ネオゲッター》や《コンバトラーV》によるごり押しで“ATフィールド”を破ってしまった。さすがは我らがロンド・ベル隊である。

 まあ、碇シンジや綾波レイとは直接の接触はなかったんだけどな。

 ちょっぴり、残念だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月※日

 南アタリア島 《リーンホースJr.》の自室

 

 オレたちロンド・ベル隊はかねてよりの目的地、南アタリア島に到着した。ようやくと言っていいだろう。

 途中で地球にあるというアンダーワールドの一つ、バイストン・ウェルに呼び寄せられたりして大変だった。

 ちなみにオレは《アーガマ》でバストン・ウェルを経由し、リョウトとリオはリガ・ミリティアの《リーンホースJr.》で宇宙へ、クスハは極東支部に残り《エヴァンゲリオン弐号機》輸送艦隊と行動を共にした。

 

 バイストン・ウェルでは、オレたちよりも早く地上から召喚された聖戦士ことショウ・ザマとその仲間たちに協力し、ドレイク・ルフト率いるアの国の軍勢と戦った。

 オレも予備機として残されていたクワトロ大尉の赤い《リック・ディアス》で出撃し、戦う羽目になってしまった。はしっこいが相応に脆いオーラバトラー相手には《クレイバズーカ》無双だったな。

 これで、オレもめでたくロンド・ベルのパイロットというわけだ。まあ、それは今更か。

 

 しかしまぁ、ウチも短い間に大所帯になったもんだ。

 “巨神戦争”の英雄、剣鉄也大佐と《グレートマジンガー》、その部下として兜シロー少尉の《イチナナ式》、軍を離れていたわけではないらしい流竜馬さんが《ブラックゲッター》を引っ提げて合流するも、《マジンガーZ》と兜甲児さんが来ないのは大変残念です。

 《ジャイアントロボ》を要する国際警察機構の草間大作少年と銀鈴さん、《ボルテスV》のボルテスチームに《ダンクーガ》の獣戦機隊、《ライディーン》のコープランダー隊、《ガンダムZZ》のジュドー・アーシタとシャングリラ・チルドレンたち、《ガンダムF91》のシーブック・アノー、《エヴァンゲリオン》を運用する特務機関ネルフ、SRXチームの面々。そして、バストン・ウェルからは聖戦士ことショウ・ザマとその仲間たちが加わった。

 カミーユとウッソにもそれぞれ《Zガンダム》と《V2ガンダム》が与えられ、戦力はますます充実している。

 艦船も、旗艦と言っていい《リーンホースJr.》に《グラン・ガラン》と《ゴラオン》がある。すでに艦隊と言っていい規模だ。

 

 そんな中で、一部の面々をちょっとくわしく紹介しようと思う。

 まずは、大戦の英雄たち。

 剣鉄也大佐。大空の勇者《グレートマジンガー》のパイロット、“戦闘のプロ”として我々の中で有名な人物である。神大佐と並んで特機乗りのまとめ役、機動部隊のトップの一人としてブライト艦長の補佐をしていくそうだ。待ちに待ったマジンガー、その堅牢な装甲と強力なパワーには頼もしさしかないな!

 ちなみに、パートナーの炎ジュンさんとはこのほど籍を入れたとのこと。めでたい!

 

 流竜馬さん。皆さんご存知、“ゲッターチーム”のリーダーで一番機担当。ネオゲ設定だからか、風貌はワイルドだが物腰は穏やかだ。大戦後、軍からは抜けたらしいが極東支部や早乙女研究所との関係は切れておらず、號を見いだしてスカウトしたのもこの人。一人乗りのゲッターロボ、《ブラックゲッター》で参戦だ。ちなみに、服装は胴着だったりチェンゲの囚人服風トレンチだったりする。

 アムロ大尉と仲良さげに絡む姿がわむ。

 

 兜シロー少尉。あの兜甲児博士の弟で一九歳、軍属としては新米らしいが歴戦の猛者である。乗機は《イチナナ式》と言って、《グレートマジンガー》の正式(簡易)量産型らしい。確かになんか《ジム》っぽいけど、初めて聞いたぞ。

 とても気さくな感じの人で、早くもオレたち若年組の兄貴分に収まった。なんか無性に長男みを感じる声だしな、次男なのに。

 余談だが、シローさん(本人に階級呼びしなくていいって言われた)の関係者(剣大佐と神大佐、竜馬さんのこと)曰く、日本に友達以上恋人未満の幼馴染がいるとかいないとか。誰のことだろうな。わたし、気になります!

 

 次に宇宙でのアクシデントで加入したシャングリラ・チルドレンについて。

 シャングリラ・チルドレンとは、偶然から《ガンダムZZ》に乗り込んだスペースノイドの少年、ジュドー・アーシタをリーダー格とした少年少女のグループであり、全員が大なり小なりニュータイプとしての素養を持っている。特に、ジュドーはさすがニュータイプ御三家の一人と言うべきか、すでにその才能の片鱗を見せ始めているようだな。

 シャングリラ・チルドレンたちはいわゆる悪ガキどもだが、どこか愛嬌があり憎めない。同じモビルスーツ乗りで年齢が近いためか、ウッソらリガ・ミリティアの少年少女とよく連んでるみたいだ。お目付役のルー・ルカの血圧が上がりきらないことを祈るばかりだが。

 地球の片隅に生きる少年たちと、宇宙に浮かぶコロニーで生まれた少年たちが出会い、友好を結ぶ――そう思うと、戦場での出来事とはいえなかなか感慨深いものがあるな。 

 

 《ジャイアント・ロボ》を操る大作は、小さいくせになかなか芯の通った好ましい少年だ。保護者とも言えるチャイナドレスの美女、銀鈴さんとよく一緒にいる姿を見かける。

 彼らが所属する国際警察機構はBF団と因縁深い組織、動向には特に注視する必要があるだろう。

 

 念動力者的には古代ムー帝国の遺産、勇者《ライディーン》とその操者、ひびき洸は外せない。

 彼とは同じ念動力者として、ちょくちょく接触して交友を深めている。やっぱ年下扱いされてるけどなっ!

 他に交友があるのは、洸の仲間であるコープランダー隊の一員、超能力者の明日香麗か。どうやらオレには霊感霊視的な能力もあるらしく、たまにアドバイスを受けてたり。……美人な女の子に指導してもらえるのはうれしいけど、怨霊とか視えたらヤだなぁ……。

 ああ、それから。なんとなく、《ライディーン》から警戒されているような気がしなくもない。なんなんだ、いったい。

 

 ネルフのチルドレンたちとは、そこそこ良好な関係を築けていると思う。

 シンジには「戦いたくないなら無理することはない。世界の平和はオレたちに任せとけ」とか言っておいてある。ぶっちゃけ、《エヴァ》無しでも大抵の使徒に勝てるだろうしなぁ、ロンド・ベルって。ヤシマ作戦だって《エヴァ》が撃たなくても別によくね?と思ったのは秘密だ。

 レイに関しては、ちょっと扱いが難しい。「キミも……オレと同じか」みたいな厨二的なことを言ってみたいんだが、まだ早すぎるかな。いろいろと。

 アスカは……號と一緒にバカ猿扱いされている。こっちが見た目同年代だからって、舐められているらしい。まあ、バカにされていちいち怒ってたらラチが飽かないし、ぶっちゃけガキっぽいので「あー、ハイハイ」と適当にあしらってる。それが気に入らないらしくてさらに絡んでくるんだけどな。

 何度も言うが、オレ自身は高校生くらいのつもりなのだ。

 あと、お目付役の葛城ミサト三佐と赤木リツコ博士とはわずかに挨拶を交わしただけだ。大人だから、オレたちよりもアムロ大尉やブライト艦長らと難しい話をしているのをよく目にする。

 あと、ときおり赤木博士が後述するマサキの使い魔(ファミリア)、シロとクロ相手に戯れている姿を見かけたりする。そんなに猫好きなの?

 

 SRXチームのリュウセイ・ダテとは、同好の志ということですぐに仲良くなれた。

 コンシューマー版のバーニングPTで対戦したり、持ち込んだメディアディスクを観賞したり、コレクションを見せてもらったり。彼の相方、ライディース・F・ブランシュタイン少尉には「リュウセイが増えた」と大変呆れられている。

 オレも少なくない給料貰ってるんだし、今度街に出たら買いあさってこようかなと画策している。

 波長が合うらしく、だいぶ前に仲間になった魔装機神《サイバスター》の操者、マサキ・アンドーを交えてよく連んでいる。《Rー1》と《サイバスター》で、《アカシックブレイカー》なる合体攻撃を見せてくれたりな。

 ただ、彼らの上司、イングラム・プリスケン少佐ははっきり言って胡散臭い。どこが、とはうまく表現できないが、あのオレを見るどこか実験動物を観察するような目。信用ならないので、極力近付かないようにしよう。

 こんなとき、自分の役に立たない知識が恨めしいな。

 

 最後は、紆余曲折あり、バイストン・ウェルから追い出されてしまったショウ・ザマとその仲間について。

 唯一の可変型オーラ・バトラー《ビルバイン》を操るショウさんは、すでにロンド・ベルのエースのひとりに数えていいくらい大活躍している。さすが聖戦士だ。

 地上について疎く、勝手が分からないだろう《グラン・ガラン》の艦長にしてナの国の女王シーラ・ラパーナと、《ゴラオン》の艦長、ミの国の王女エレ・ハンム(敬称略)にそれとなく親切にしてみたり。

 まあ、向こうさんは艦長で自分の艦からほとんど出て来ないし、地上人のショウさんやマーベルさんがいるから、わざわざオレがフォローする必要もないんだけどさ。

 そんな様子を見たリオを筆頭とした若手の女性陣からは、「イングって結構ナンパなんだ」などとたいへん失礼な評価をいただいた。

 まったく、リアルお姫様に会ったらドキドキするのが普通の反応だろうに。特に、おしとやかでお美しいシーラ様とは是非ともお近づきになりたいものである。

 

 他にもボルテスチームのみんなとか、獣戦機隊の四人とか、紹介していない仲間がいるんだが割愛する。

 賢明な諸兄には説明しなくてもだいたい知ってるだろうしな。

 

 さておき、大事なお知らせがある。

 リョウトの《MkーII》、クスハの《弐式》に新たな武装が追加され、さらに、さらに!さらにっ!オレにも専用のパーソナルトルーパーが届くことになったのだーーっ!

 詳しい話は聞いていないが、正直《リック・ディアス》には不満だらけだったから楽しみだ。

 

 

   †  †  †

 

 

 ディバイン・クルセイダース社本社のたる南アタリア島より数キロ、小規模な無人島。鋼鉄の巨人たちが激しい火花を散らしていた。

 

『ファイナルビームッ!!』

 

 イルムガルド・カザハラ――イルムのドスの利いた叫びと共に、“ブラック”こと《グルンガスト改》の星を模した胸部パーツから、強力なエネルギービームが放たれた。

 

『うわっち! あっぶねー!』

「オレたちのPTじゃ、直撃どころか掠っただけでスクラップ間違い無しだな」

 

 最前線を張る《Rー1》のパイロット、リュウセイが冷や汗を流す。

 一方、背部フライトユニットの機動力を生かしてひらりと交わした《エクスバイン》。そのコクピット、専用に誂えた濃紺と紫のパイロットスーツ――デザインはリョウトたちのものと共通だ――に身を包んだイングは、メインモニターに映る黒い《グルンガスト》に照準を合わせると、冷静に操縦桿のトリガーを引く。

 射程を犠牲に、取り回し易さと速射性を発展させた《フォトン・ライフルS》が重力の弾丸を吐き出した。

 イングの操作によってまるで機関砲のように放たれた弾丸はしかし、《グルンガスト改》の前方に広がった空間の歪みによりあえなく弾かれ霧散した。

 

「グラビティ・ウォール……、いやグラビティ・テリトリーか!」

『御明察! コイツは正解のご褒美だ、ブーストナックル!』

 

 《グルンガスト改》が前腕部を切り離し、砲弾のように発射した。

 

「その手の攻撃は、見切ってんだよ!」

 

 《エクスバイン》が腰部サイドアーマーから《ロシュセイバー》を引き抜き、飛来する噴射拳にタイミングを合わせて振り抜く。

 

『なにっ!?』

「踏み込みが甘いッ、ってね」

 

 《ブーストナックル》を切り払う《エクスバイン》。

 さすがに武器として使用するだけあって、頑強な前腕に損傷を与えることは叶わなかったが、《ブーストナックル》を無理矢理に弾き返されたことで《グルンガスト改》の体勢が僅かに崩れた。

 

『フッ、全機、一斉攻撃を仕掛ける。ライフル、ダブルファイア』

『わかったぜ、少佐!』

『了解! ハイゾルランチャー、シュートッ!』

「集中砲火だっての!」

 

 今が好機と見たイングラムの号令により、四機のパーソナルトルーパーが火器を構える。

 《ツイン・マグナライフル》、《ブーステッド・ライフル》、《ハイゾルランチャー》、そして《フォトン・ライフルS》。四種の砲火が一斉に放たれた。

 

『うおおお!?』

 

 さしもの超闘士もこの一斉射撃にはたまらず、重力障壁を突破されて巨大な機体が揺らぐ。 

 

『……おい、イング。その妙な語尾やめてくんねぇ? なんか背筋に寒気が走るんだよ』

「ホ! そりゃ無理な話だっての」

『だーかーらー、やめろよその喋り方!』

『お前たち、真面目に戦え!』

 

『「ごめんなさい』」

 

 ライに叱られて、素直に謝る二人。緊張感が足りないのは彼らのキャラクター故だろうか。

 少なくないダメージを負った《グルンガスト改》が、距離を取った。

 

『オイオイ、随分と余裕かましてくれるじゃないの。俺は眼中にないって?』

「さぁてね」

 

 苛立ちの含まれた軽口を不敵に返したイングは、器用にも《エクスバイン》の頭部を明後日の方に動かした。

 

「ま、興味があると言ったら美少女な友人の恋の行く末かな?」

 

 その先には、《グルンガスト弐式》と二機の《ヒュッケバインMkーII》。

 リョウトのサポートを受け、恋人であったはずのブルックリン――ブリットへ必死に呼び掛けている。

 

「そこんとこどう思うよ、色男さん?」

『……ッ』

「オレはクスハのことをを信じるよ。アンタも信じるなら、ムサい男よりかわいい女の子の方だろう?」

 

 多分に意味を含め、イングはふてぶてしく言い切った。

 ブルックリンが彼の言うようにSRX計画の――イングラムの犠牲者であるというなら、クスハもまた犠牲者である。

 そして、イルムガルドはそんな犠牲者同士に戦いを強いている立場と言えるだろう。それも、一方は戦いには不向きと言ってもいい少女だ。

 例えその行為に義があろうとも、マトモな感性を持っていれば悪と感じることは間違いない。

 

『ッチ、嫌みな言い草だが、確かにな。お前さんとは気が合いそうだ』

「そりゃどーも。気が合うついでに、お引き取り願えないかオッサン」

『オッサンじゃない! そいつはできない相談だ。SRX計画の機体は破壊しなければならないが――、今はお前さんが一番厄介そうだ、なッ!』

 

 巨体にものを言わせ、拳を繰り出す《グルンガスト改》と熾烈な空中戦を繰り広げる《エクスバイン》。右手には《ロシュセイバー》を、左手に《フォトン・ライフルS》を構えて激突した。

 援護射撃が飛来するが、イルムは《グルンガスト改》の厚い装甲を笠に着て強引に押し込んでくる。

 

「くっ!」

『そらそらッ! さっきの余裕はどうした!?』

 

 実際、イングには口ほど余裕はない。《グルンガスト改》相手に、《エクスバイン》がパワー負けしているのは明白だ。

 先ほど《ブーストナックル》を強引に切り払った際に受けた物理的な衝撃は強烈で、《エクスバイン》の右腕には少なくないダメージが残っている。戦闘には支障ないレベルだが、そう何度も同じことは出来まい。

 動力源の差、機体サイズの差。様々な要因がイングを苦しめる。

 

(っち……、やっぱただのパーソナルトルーパーで特機相手にガチンコはシンドいか……!)

 

 内心で歯噛みする。

 同じ特機に瀕死の重傷を負わされた経験が、そして深層心理に根付く「自身の存在の意味を知りたい」という複雑な感情と、「生きたい、死にたくない」という単純な欲求が彼を戦いに突き動かす。

 

「だが、やるしかない。戦わなければ生き残れないのなら――、TーLINK、フルコンタクト!」

 

 覚悟を決めたイングの放つ強力な念、テレキネシスαパルスを感知して、TーLINKシステムが活性化する。

 《エクスバイン》の特徴的なゴーグルアイの奥、一対のカメラ・アイがライトグリーンに輝いた。

 

「スラッシャー、アクティブッ!」

 

 音声認識と念動力により制御された《エクスバイン》は、左腕に固定された“最強武器”を右手で掴む。

 歪んだS字の固定状態から、十字手裏剣型の攻撃形態へと変形した《ファング・スラッシャー》が大きく振りかぶられた。

 

「ヤツを斬り裂け、ファング・スラッシャー!!」

 

 投擲された《ファング・スラッシャー》が、その名の通りの重力の牙を展開し、イングの念に導かれて空を斬り裂く。

 異端の凶鳥が黒い超闘士に鋭い牙を剥いた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 ■月※日

 南アタリア島 《リーンホースJr.》の自室

 

 今日はいつになく大変な一日だった。

 特に、クスハには気の毒なことになったな。

 

 まず、オレに与えられたパーソナルトルーパーについて記そう。

 名称を《エクスバイン》。大破した《ヒュッケバインEX》を修理・改修した機体で、《MkーII》とその後継機のパーツや武装の一部を試験的に使用した実験機だ。

 カラーリングは《EX》の赤から《ヒュッケバイン》カラーの紺と紫に変更。主な武装は《頭部バルカン》に《ロシュセイバー》、オレにとっては待望のマトモな飛び道具《フォトン・ライフルショートタイプ(S)》。そして最強武器として卍手裏剣型のブーメラン、《ファング・スラッシャー》。《MkーII》と同じ《チャクラム・シューター》も換装すれば使用可能だ。

 また、テスラ・ドライブを使用したフライトユニットを背部に搭載しており、単独で飛行が可能。防御機構は《グラビティ・テリトリー》、マン・マシン・インターフェースにはイングラム少佐の意向でTーLINKシステムを採用した欲張りな機体である。

 改修を担当したのは、SRX計画のカーク・ハミルとロバート・H・オオミヤ。

 ロブ――ロバート氏の愛称である――曰く「近接格闘が得意なイングにあわせてセッティングしてるんだ」とのことで、確かに《リック・ディアス》は元より基礎になった《ヒュッケバインEX》よりもしっくりときた。TーLINKシステムの感触も悪くない。

 難を言えば、やはりあくまでもパーソナルトルーパーの範疇に収まった機体であり、特機やそれに相当する相手には当たり負けする可能性が高いことか。

 実際受領してすぐ、それを実感したしな。

 

 で、本題。

 新しい機体のならしに、SRXチームの三名――イングラム少佐、リュウセイ、ライディース少尉――にリョウト、クスハを交えて近くの無人島に演習に向かった。

 と、オレたちの前に突如として二機の黒い機動兵器が姿を現した 《グルンガスト改》と《ヒュッケバインMkーII》である。

 ゴタゴタしていて事情がややこしいが、要約すると「イングラム少佐のかつての部下が彼を怪しみ、クスハの行方不明だった恋人が記憶喪失で現れた」とまあ、こんな感じか。

 《ヒュッケバインMkーII》にはブルックリン・ラックフィールドを説得しようと試みるクスハと、そのフォローにリョウトが当たり。オレはリュウセイ、ライディース少尉、イングラム少佐と協力して、イルムガルド・カザハラ操る黒い超闘士――《グルンガスト改》と激闘を繰り広げた。

 激しい激戦の末、《エクスバイン》の《ファング・スラッシャー》が《グルンガスト改》のボディを斬り裂き、浅くない傷を刻んだ。

 手傷を負った《グルンガスト改》と《MkーII》は、捨て台詞とともに戦域を離脱した。悲痛な声を上げるクスハを残して。

 しっかし、初戦から《零式》、続いてあの黒い奴とオレは《グルンガスト》に呪われてるのか? ジャイアント・キルにもほどがあるだろうに。

 

 なお、その日の夕食時に「……ブリットくんはさしずめさらわれたお姫様役だな」と素直な感想をこぼしたら、一緒に食っていた號とリュウセイが吹き出して、マサキが被害を受けていた。

 当然、マサキはキレてオレも含めて怒られたわけだが。

 そんな様子を見ていたクスハが、くすりと微笑んでくれたのがよかった。ま、落ち込んでるなら元気になるように気遣うのが友だちってもんだしな。そのためなら道化にもなるさ。

 きっとブルックリンくんはこのネタで長くイジられるのだろう。オレはそんな予感を覚えるのだった。

 

 ああそれと、ロブに接触したときにとある道具を制作できないかと相談してみたんだ。

 ロブもさすがアメリカ地区出身者らしく、あの“作品”にもロマンを感じるようでなんとかしてみせると快諾してくれた。()()がうまく実現できれば、きっとBF団のエージェントと渡り合える……といいなぁ。

 




 カイザーさん「甲児くんと仲間たちが同窓生とか…尊い…」
 ゲッペラー「そうかな…そうかも」
 おっちゃん「ボンが楽しそうでなによりやで」


 最近、スパロボものをよくみかけるので、流行りに乗ってみるテスト。
 あと、池澤春菜さんと水樹奈々さんのご結婚も復活の理由だったり。めでたい!

 New! マクロス0(終了済み)
 New! 機動武道伝Gガンダム(予定)
 New! 神魂合体ゴーダンナー(予定)

 out マジンガーZ、グレートマジンガー
 in マジンガーZ/INFINITE

 なお、ポケ戦はすでに終わった模様。流れにはとくに影響ないからいいよね!
 とりあえず、外伝までは出来上がってるので、次回からは日曜日週一更新です。


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αl-2「凶鳥は灰から甦る」

 

 新西暦一八七年 ■月※日

 南アタリア島 《リーンホースJr.》の自室

 

 スーパーロボットの必殺技ならいざ知らず、よりによって《リーンホースJr.》の《ビームラム》で殲滅されるとか、《イスラフェル》いと哀れ。

 ブライト艦長もびっくりだったが、オレたちだってびっくりだ。

 

 ちなみに再生復活し、さらに分身して見せて葛城一佐にインチキ呼ばわりされていた《イスラフェル》は、原作通りユニゾンキックで完全に撃破された。

 

 

 新西暦一八七年 ■月☆日

 太陽系外苑部、冥王星近海 《マクロス》の自室

 

 大変なことになった。

 現在オレたちロンド・ベルは、SDF艦隊に所属する巨大戦艦《マクロス》とともに太陽系の端、冥王星付近にいる。

 

 きっかけは、南アタリア島上空に突如来襲した巨人型宇宙人――ゼントラーディだ。

 何の因果か、あるいは必然か。突如地球に来襲したゼントラーディを迎え撃つオレたちロンド・ベルとSDF。だが、そこでアクシデントが起きた。

 彼らゼントラーディと敵対する別の異星人――おそらくエアロゲイターが、地球人類を星間戦争に巻き込むために送り込んだブービートラップだった《マクロス》はコントロールを離れ、その主砲を解き放つ。

 さらなる暴走による“フォールド”に巻き込まれ、オレたちは冥王星付近まで強制転移させられてしまったのだ。

 

 1G環境から急に無重力に放り出され、展開していたロンド・ベルの機動部隊は大混乱に陥った。

 というか、オレ的には初宇宙である。かつては創作の中でしかありえないような、地球から遙か彼方である。

 《マクロス》のフォールドに巻き込まれてすぐ、宇宙に対応していない機体を救助する傍ら、無重力、三六〇度自由な世界を存分に楽しんだ。

 ちなみに、シーラ様、エレ様が心配でいの一番に《グラン・ガラン》と《ゴラオン》に向かったのだが、「私たちのことは構わず、他の方を」とやんわり諭されてしまった。

 どうやら、オーラ・バトラーやオーラ・バトル・シップに備わる“オーラバリア”は真空にも適応しているらしい。オーラバリア万能説。

 そんなこんなで我を忘れて興奮しすぎて、まぁたリョウトたちに微笑ましがられてしまった。ますますオレの立場が「弟キャラ」に固定されるじゃないか。

 まったく、不本意だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月◎日

 太陽系外苑部、冥王星近海 《マクロス》の自室

 

 広い! 《マクロス》についての感想だ。

 さすが、都市一つを内部に納めたってだけのことはある。《マクロス》ってロボットに変形するんだけど、そのときここどうなってるんだろう……?

 

 街には南アタリア島に住んでいた一般市民がまるまる避難しているため、結構な活気があった。

 だがみんな不安そうにしている辺り、日本地区のパンピーとは違うらしい。あそこ、スーパーロボット関連の研究所を多数抱えてるのに経済が普通に回ってるし、毎日のように地下勢力が暴れ回ってるってのに次の日には街並みが元に戻ってる不思議地帯だからな。

 ちなみに、マサキはたびたび迷うのですでに街中の一人歩きを禁止されてる。

 

 さておき、新しい仲間を紹介しようか。

 《マクロス》の艦載機にしてSDFの主力兵器《VFー1バルキリー》を駆るスカル小隊が、協同してくれることになった。というか、ロンド・ベルがSDFに協力する形になるのか。

 スカル小隊のリーダー、ロイ・フォッカー少佐は歴戦のパイロット。巨神戦争当時はホワイトベース隊にコアブースター乗りとしても所属していたそうで、アムロ大尉はもちろん、階級としては上になった剣大佐、神大佐なんかはやりずらそうにしていた。(階級に差がついたのは転属したSDFが秘匿されていたせいらしい)

 スカル小隊には他にも、天才マクシミリアン・ジーナス、歩く死亡フラグ柿崎速雄、初代トライアングラー一条輝(階級略)となかなか個性的なメンバーが揃っている。

 他にも、ブリッジ・クルーを始めたくさんの人物が増えたが割愛する。一介のパイロットであるオレが、《マクロス》の艦橋に上がることなんてまずないだろうしな。

 ますます大所帯になって、人を覚えるのも一苦労だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月×日

 太陽系外苑部 《マクロス》の自室

 

 《マクロス》は本日も元気に地球へ向けて進んでいる。

 今日はSRXチームに混じって念動力に関する訓練を受けた。リョウトやクスハ、リオも一緒だ。

 訓練は、まんまESPテストみたいなものだった。裏にしたカードの絵柄を読み取る、とかな。

 

 で、イングラム少佐曰わく、念動力の素質的な意味での強度は、

 一位、リュウセイ

 二位、オレ

 三位、クスハ

 四位、リョウト

 五位、洸

 ――越えられない壁――

 六位、アヤ大尉

 七位、リオ

 と、こんな感じらしい。オレとリュウセイは僅差だそうだ。

 まあ、リュウセイは生身で念動フィールド張ったり出来ないから、その点を踏まえるとオレの方が上かもしれないが。

 

 なごやかというか、賑やかに訓練は終わった。

 だが、オレのイングラム少佐に対する疑念は深まるばかり。ときおり感じる無機質な視線もそうだし、オレの念動力が高まってきたからなのか、彼の邪念というべき念を微かにだが関知しつつあるのだ。

 ……やはり、怪しいな。警戒を強める必要があるかもしれない。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月◇日

 太陽系外苑部 《マクロス》の自室

 

 地球圏への帰還の最中、オレたちは人類、いやこの銀河に生きる知的生命体すべての天敵、STMC(Space Terrible Monster Crowd)=宇宙怪獣と遭遇した。

 探査任務を帯びていたSDF艦隊零番艦、《ヱクセリヲン》と共同して撃退したが、それらはほんの一握りにすぎないらしい。正直デカすぎてPTじゃ歯が立たないかと思ったが、意外と何とかなるもんだ。

 

 再び深宇宙へと探査任務に赴く《ヱクセリヲン》からマシーン兵器のパイロット、タカヤノリコ、アマノカズミ、ユング・フロイトの三名が乗機《RX》シリーズとともに参戦した。

 その中でも、ノリコはご同輩らしく、格納庫でオレやリュウセイよろしく大興奮していた。てか、アンタ長いこと宇宙にいたのに何でそんなにロボとかアニメに詳しいのさ。

 とりあえず、お近づきの印に《ヒュッケバインMkーII》の1/100フルスクラッチモデルとか積んでたストックのプラモをいくつかプレゼントしておいた。すごく喜ばれた。どうやら彼女、雑食らしい。

 で、ノリコの“お姉様”ことカズミ女史には「ノリコが増えたわ……」と呆れられた。テンドンだから、それ。

 

 ちなみにオレは最強厨、後継機厨にして初代厨、どちらかといえばアニメより特撮派。リュウセイはバリバリのスーパーロボット派だが、リアルロボットにも造詣が深い。ノリコの知識はかなりディープで筋金入りだ。

 正直、知識面では二人に負けている。お前ら、何歳だよっ!

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月◎日

 太陽系外苑部 《マクロス》の自室

 

 イングラム少佐が裏切った。

 案の定というべきか、それ以外に言葉がない。

 

 ことの発端は、Rシリーズ三機による合体にして真の姿、《SRX》を完成させるための訓練だった。

 まだ足に当たる《Rー3》のプラスパーツがないってのにイングラムは合体を強行、結果失敗したSRXチームを「期待外れだ」と断じ、真意を露わにしたわけだ。

 手始めに、アヤ大尉に見切りをつけたと《R-3》を銃撃し、ご丁寧にも自分が暗躍したことを報告してくれやがった。

 ブリットの件の真相をヤツに告げられ、ショックを受けて茫然自失に陥ったクスハと《Rー3》を大破に追い込まれたアヤ大尉、そして逆上して返り討ちにあったリュウセイを守るため、オレとリョウトはライディース少尉と協力して《RーGUNパワード》と戦った。

 「オレは前からアンタを怪しんでいたよ、イングラム少佐! リュウセイたちにはうまく繕っていたようだが、歪んだ邪念が見え隠れしていたぜ!」と本音を投げつけてやった。

 対するイングラム少佐の返答は「イング、お前の存在は俺の計画に含まれていない異分子、いわばイレギュラー。これ以上の邪魔は許されない」という殺意の言葉と、《ツイン・マグナライフル》の弾丸。

 まあ敵には容赦しない主義のオレだ、激しい戦いの末に《ロシュセイバー》からの《ファング・スラッシャー》で、きっちりばっちり遠慮なく撃墜してやった。“エアロゲイター”の青い人型機動兵器に邪魔されて、肝心の少佐には逃げられてしまったけどな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月▲日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 月が変わり、《マクロス》はようやく人類の生存圏に辿り着いた。

 ところで、木星は“ジュピトリアン”の勢力圏、まさしく敵地と言っていい。予想通り、道中にはいろいろとハプニングがあったが割愛する。だって、オレ個人に関わるようなイベントは特になかったしなぁ。エアロゲイターの白い機動兵器、“ホワイト・デス・クロス”こと《ジュデッカ》が現れて、リュウセイに突っかかってたことくらいか。

 ともかく、ロンド・ベルの一員として、平和を脅かすあらゆる悪と戦うのみだ。そういえば、ジュピトリアンの機動兵器の中に黄色くて虫っぽい見覚えのある無人機が混じってたんだが、まさかなぁ。

 

 さておき、特筆するようなことと言えば、DC社創始者ビアン・ゾルダーク博士の愛娘、リューネ・ゾルダーク嬢が《ヴァルシオーネR》とともに加入したことだろう。

 ビアン博士といえば、「人類に逃げ場無し」という提言を残していることで有名な天才科学者だ。

 彼はリューネと何らかの調査のために木星に赴いたあと、消息を絶っている。リューネもどこにいるのか知らないらしい。

 で、そのリューネは立場的にはいいとこのお嬢様と言ってもいいんだろうが、機動兵器を駆ってお転婆さんである。そんな彼女の乗機、《ヴァルシオーネR》は趣味的というかロボットらしくない。有り体に言うと、そう、美人だ。

 さらさらとしたマゼンタのロングヘアに、愛らしい容姿。プロポーションは搭乗者と違い、スレンダーと言っていいだろう。

 すばらしいな。落ち込んでいたリュウセイが思わず「惚れた!」と奇声を上げるくらいである。その気持ちはよーくわかる。

 

 最近は、若干立ち直ったリュウセイとノリコの三人で、格納庫に入り浸っては《ヴァルシオーネR》を眺めている。

 オレはというと、転移の前に買い込んだパテやらプラ板やら何やらで、()()の自作フィギュアを作ったりしてみた。

 むふふ。やはり、ふつくしい……。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月$日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 今日は一人、《マクロス》艦内の訓練施設で秘密特訓を行った。

 イングラムの言うところでは、オレはどうやら“サイコドライバー”、汎超能力者というものらしい。

 ()超能力者というくらいだから、念動力、つまりテレキネシス以外にも使えるんではなかろうか、という思いつきから始めたこの訓練。当初は麗とエレ様から霊力的なものを学んで修得してみたんだが、視たくないものが見えそうで若干後悔している。

 で、今日は思いつく限りの超能力を試してみた。

 発火能力(パイロキネシス)瞬間移動(テレポート)発電能力(エレクトロマスター)千里眼(クレヤボヤンス)etc.etc.……なんとなくのイメージで再現してしまったのだが、ぶっちゃけどれもこれも「どこのレベル5だ」という威力のぶっ壊れである。超電磁砲(レールガン)も真似れたしな。

 いつか、ベクトル操作が出来たりするようになるのか? あ、メルヘンは要りませーん。

 

 いろいろ試していたら、シロクロを連れたマサキとリューネが現れた。デートか、妬ましい。

 なんでも「魔法らしき力を感じた」ので様子を見に来たのだとか。シロクロによると「イングには魔力があるみたいニャ」とかなんとか。

 おい、「イング」は魔力も持ってるのか。改めて言うが、どんなチートだ。

 しかし、魔法か、興味深いな。ラ・ギアスには一度行ってみたいもんだな。

 

 ともかく、まずは基本に立ち返り、テレキネシスを極めてみるつもりだ。

 あまりの調子に乗って、力を使いすぎるといろいろやばそうだと「霊感がささやく」のだ。

 それにテレキネシスなら、大勢の敵を吹き飛ばしたり、武器を奪ったり、相手の首を絞めたり、指先から青白い電撃を出したり、いろいろ応用出来そうだしな。あ、最後のは違うか。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月♪日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 なんだか最近、《マクロス》の艦内が騒がしい。特に都市部が浮ついている感じがする。

 なんでも“ミス・マクロス”なる催しが開催されるらしい――と、街中でクスハたちとスイーツを食べていたときにそんな話を耳にした。

 これは、イベントの予感か?

 

 まあ、正直言うとミスコンてかアイドルにはめっちゃ興味あるけど、なんつーか、このミス・マクロスとやらにはビビッとこないんだよなぁ。

 たぶんこれ、Cu系のイベントだからだな。オレってばCo最推しだし。まあ、Cuやpaも嫌いじゃあないんだけどね。

 それはともかく、しぶりんいいよね、担当です!ブリュンヒルデも捨てがたい!楓さんも大好きだぞ!ふみふみは特に声が好き! バキュラ?歌はいいよね、歌は。まあ、千板はCoじゃなくてVoだけどな!

 みたいな話を食堂でクスハとリオにしたらガチめに引かれた。やむ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月◇日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 案の定イベントだったよ……。

 経緯を省いて単刀直入に言うと、フォッカー少佐と一条少尉、マックス、それに《マクロス》ブリッジオペレーターの早瀬未沙中尉。それから民間人(例のミス・マクロス、リン・ミンメイとそのマネージャー兼兄)、、それからクスハがゼントラーディの戦艦に浚われてしまったのだ。

 まあ、いろいろあって帰ってきたけどな。

 ゼントラーディとの文化的接触とか、一条少尉のトライアングラーだとか。そういうことはどうでもいいのだ。妬ましい。

 

 ああ、そうそう。コロニーから送り込まれた五人のテロリ――もとい、ガンダムパイロットたちが参入した。どうやらみんなして《マクロス》に紛れ込んでいたらしい。

 いつのまにか姿を消していたデュオの《ガンダムデスサイズ・ルーセット装備》(やっぱりあった)、《ガンダムサンドロック・アーマディロ装備》のカトル・ラーバ・ウィナー、トロワ・バートンと《ガンダムヘビーアームズ・イーグル装備》、張五飛の愛機《シェンロンガンダム・タウヤー装備》。そして主人公、ヒイロ・ユイの《ウィングガンダム》。こいつらは全部敗者版のver.kaだ。ちなみに、《サンドロック》と《ヘビーアームズ》は改化してないけど改修して宇宙対応したらしい。

 参加のタイミングはまちまちだったが、協力関係は地球圏に帰還するまでとのことでいささか残念だ。宇宙怪獣や異星人の脅威を目の当たりにして、地球人同士の諍いが無意味だと気づいてくれればいいんだがなぁ。

 

 

 新西暦一八七年 ×月◎日

 太陽系、火星付近 《マクロス》の自室

 

 物資補給のため、火星(テラフォーミング済み)に立ち寄った《マクロス》。破棄された基地から救難信号が関知されたとかで一悶着あった。

 まあ、ゼントラーディの罠だったわけだが。

 

 調査のため、基地内に潜入した早瀬中尉の危機を救ったのは、快男児こと破嵐万丈。愛機《ダイターン3》とともに宿敵メガノイドを打倒したベテランの特機乗りにして、持て余した暇で“破嵐財閥”なる一大企業群を経営する大富豪である。

 それはいい。万丈さんはまさに“オトナ”って感じの頼りになる人だし、《ダイターン3》は強力なスーパーロボットだ。SDFとロンド・ベルの陣容が一層、厚くなったと言えるだろう。

 ただ、かつてのメガノイドの反乱で被害に遭った入植地の名前が問題なんだ。

 「ユートピアコロニー」っておい、作品違うだろ。フラグか? 未来の参戦フラグなのかっ!? なんか、某社の試作宇宙戦艦が跡地の調査に向かったらしいとか万丈さんも言ってたしさぁ。

 もしもそうなら、近いうちに悲惨な目に遭うであろう()()()をオレに救えるのか?

 いや、まずはこの戦争を乗り越えることが先決だ。後のことは、そのとき考えるっ!

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月●日

 地球圏、衛星軌道上 《グラン・ガラン》の一室

 

 オレたちが地球圏を離れている間、ジオンやティターンズの連中はもとより、異星人や地下勢力が好き勝手やってくれているらしい。

 と言うわけで、オレたちSDF艦隊及びロンド・ベルは、三艦に分かれて敵対勢力に対抗するため地球圏各地に進撃することになった。

 オレは《グラン・ガラン》に同乗して、月方面に向かうことになっている。

 月はマオ・インダストリーやアナハイム・エレクトロニクスなど、ロンド・ベルを後援する組織が存在する場所だ。同時に、宇宙という敵対勢力に狙われやすい立地にあるわけで。

 苦境にさらされていることは想像に難くない。一刻も早く、救援に向かわなきゃな。

 

 さあて、地球の大掃除としゃれ込みますか。

 

 

 新西暦一八七年 ♪月△日

 地球圏、宙域 《グラン・ガラン》の自室

 

 新しい仲間が加わった。

 シーブックのガールフレンド、ベラ・ロナことセシリー・フェアチャイルド。《F91》のプロトタイプと言える《F90V》を駆って、ロンド・ベルに協力するそうだ。

 まあ、地球圏に戦乱をもたらしている一端を実の肉親が担っているとなれば、思うところもあるのだろう。

 シーブックめ、彼女連れとは妬ましい。

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月♯日

 地球圏、宙域 《グラン・ガラン》の自室

 

 普段温厚なヤツは、怒らすとヤバい。今回の感想だ。

 地球圏外に出ている間、カトルは守ろうとしたコロニーのものたちに、家族を皆殺しにされた。原因はOZの離間工作だ。

 そしてカトルはコロニー製ガンダムのプロトタイプ《ウイングガンダムプロトゼロ》を持ち出し、復讐に走った。憎悪と《ゼロ》に搭載された“ゼロシステム”に精神を蝕まれた結果、(くだん)のコロニーを破壊してしまった。

 気持ちは痛いほど解るが、やりすぎだ。

 トロワと協力し、《ゼロ》を《エクスバイン》でぶん殴ってカトルの奴をコクピットから引きずり出した。説教をかますのはガラじゃないから、後はトロワに任せといたけどな。

 総括すると、群集心理とオレたちの操る機動兵器の恐ろしさを改めて実感した一日だった。

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月○日

 極東地区近海 輸送艦《アウドムラ》艦内

 

 地球に戻ってきたオレは現在、SDF艦隊本隊を離れてエゥーゴの支援組織、カラバの所有する輸送艦《アウドムラ》で極東は上海にある国際警察機構の拠点、梁山泊に向かっている。

 クスハとリョウト、リオの何時ものメンバーと大作少年、銀鈴さんが同行している。

 目的は、現地で秘密裏に調整中している《MkーII》と《弐式》の後継機の受領だ。ついでに、オレにも新しい機体が与えられるらしい。

 《グルンガスト参式》と《ヒュッケバインMkーIII》――それが、リョウトたちの新しい機体だ。

 そして、オレに与えられるのは、リョウト機――Lタイプと同時に生産された《ヒュッケバインMkーIIIR》。構造上の欠陥が修正された動力炉のブラックホール・エンジンは、二人の機体に搭載される予定のトロニウム・エンジンに出力は劣るものの、機体自体がオレの適性に合わせて近接戦闘向けに設計されているらしく、総合的には負けず劣らずと言っていいだろう。

 確かに《エクスバイン》もいい機体だが、正直力不足になってきている感が否めない。かつてのアムロ大尉じゃないが、オレの反応に、いや、念に機体が追従できていないのだ。

 あるいは、いつかTーLINKシステム自体にも限界が訪れるのかも知れないが。

 

 現地に着くまで、もう一眠りするかな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月◎日

 極東地区、上海 病院の一室

 

 今オレは、国際警察機構の傘下にあるとある病院の一室でこの日記を記している。

 

 国際警察機構の本拠地、梁山泊。

 そこで調整を受けていたオレのブラックホールエンジン搭載型《ヒュッケバインMkーIIIR》は、突如襲撃してきたBF団の十傑集“素晴らしき”ヒッツカラルドによって、《グルンガスト参式》とともにずんばらりと真っ二つにされてしまった。

 正直またかBF団!と言った感じだ。

 オレもロブに作ってもらった携帯型念動光子剣“ライトセイバー”で立ち向かったが、付け焼き刃の剣術では十傑集相手にはほとんど歯が立たなかったのが歯痒いばかりだ。

 

 その混乱の最中、BF団の怪ロボや機械獣、メカザウルス、百鬼メカなどのいつもの面子とともに強襲してきた中華ロボ、《龍王機》《虎王機》を迎撃するため、やむなく既存の機体で出撃した。

 そこに乱入するイルムのおっさんとブリットくん。心を入れ替えたのか、なにやら協力してくれるらしく。

 オレが《龍王機》を、ブリットが《虎王機》をそれぞれクスハ、リョウトを相方に対峙した。

 が、中華ロボは思いのほか手強く、《虎王機》の牙がブリットの《MkーII》を砕き、《エクスバイン》もまた《龍王機》により大破に追い込まれ、深手を負ったオレは意識を失った。

 

 人伝だが、オレとブリットがやられた後、――有り体に言えばブチギレた――リョウトがTーLINKシステムに隠されたもう一つの機能、“ウラヌス・システム”を発動させ、外部から《MkーIII》を起動。不安定だったトロニウム・エンジンを完全制御し、《MkーII》のコクピット部であるパーソナル・ファイターでのドッキングを敢行した。

 さらに、同じくウラヌス・システムを発動させたクスハの強念により、操られていた《龍王機》と《虎王機》の自我を蘇らせ、両機とコンタクトに成功。なんとか無事だったブリットと力を合わせ、二機が合身した超機人(スーパーロボット)《龍虎王》が、十傑集が一人、マスク・ザ・レッドの《巨大黄金仏像ビッグゴールド》、同じく十傑集、激動たるカワラザキの操る《ウラヌス》を撃退した――らしい。

 おい、オレはブリット(ヒロイン)と同じ扱いか。まあ、リョウトがオレのためにキレてくれたことは素直にうれしいけどな。

 ちなみに、《龍王機》《虎王機》らを操っていたのは激動たるカワラザキらしい。生身で直接対決した時に本人が言ってたんだから間違いない。やべー超能力者だったが、なんかオレを鍛えるっていうか見極めようとしてる感じだったのはなんなんだろう。

 

 さておき。

 幸いオレの《MkーIII》の心臓部は無事だった――というか、無事でないと上海がバニシングなのだが――ため、機体はなんとか再生できた。実際に頑張ったのは、ロブやカークさんらスタッフのみんなだけどな。

 

 形式番号PTXーEXH《エクスバイン・アッシュ》、それがオレの新しい機体の名前だ。

 無事だった《MkーIII》の心臓部と予備パーツ、残されたリョウトの《MkーII》のボディを大破した《エクスバイン》に組み込み修復した機体で、《エクスバイン》のフォルムをベースとしつつ、各部に赤と橙色の“パッチ・アーマー”が装着された左右非対称のデザインをしている。

 この追加パーツには伸縮性・耐久性に優れた“ADテープ”で封印が施されており、さらに《ガンダムF91》の開発元、サナリィから供与された試作型のアンチ・ビーム・コーティングマント、通称“コーティング・クローク”を装備し、外観が大きく変化した。

 総じて、とても厨二マインドを刺激される素晴らしい見た目である。

 

 最大の特徴とも言える大型の念動感応剣《T-LINKセイバー》とそれを納める鞘を兼ねる盾《ストライク・シールド》は、もともとオレの《MkーIII》に搭載される予定だった武装で、幸いにも取り付け前だったことから損傷を免れた。

 また射撃武器として《エクスバイン》と同じ《フォトン・ライフルS》、《MkーIII》と共通の武装《グラビトン・ライフル》を持ち、射程に隙はない。

 防御システムは念動フィールドで、発生装置が《Rー1》と同じく両肘にあるため《TーLINKナックル》も使用可能。最新式のグラビコン・システム及びテスラ・ドライブにより、空中戦にも対応済みだ。

 機体名は英語の「灰」とフランス語の「H」を意味し、破壊された凶鳥(ヒュッケバイン)が不死鳥のように 灰の中から蘇ることを示すのだそうだ。

 継ぎ接ぎだらけの急造機とはいえ、元が優秀な機体ばかりなため、完成度は高いと言えるだろう。

 

 トロニウム・エンジンの調整と、《MkーII》のコクピットとのマッチング作業に手間取る《MkーIII》。《参式》の残骸から回収されたTーLINKシステムや、現代の部品の取り付け作業で身動きのとれない《龍王機》《虎王機》に先んじて、オレと《アッシュ》はSDF艦隊本隊に合流する。

 ほとんど一から組み上げた《アッシュ》がいち早く完成したのは、リョウトたちがオレの機体を優先してくれと頼んでくれたかららしい。すばらしきは友情かな、だな。

 

 さて、さっさとベッドから抜け出して、みんなのところに向かおうか。相変わらず頑丈なこの身体には、感謝してもし切れない。

 この身はマシンナリー・チルドレン、紛い物の命だ。――だけど、平和を守りたいって気持ちに偽りはないはずだから。

 

 

    †  †  †

 

 

 地球連邦軍極東支部。

 いくつもの特殊な研究所を抱えた日本地区を守る、地球防衛の要とも言える特別な場所である。

 そんな日本を、ひいては地上すべてを支配せんと企むドレイク・ルフトの軍勢の襲来に乗じて現れたのは、イングラム・プリスケン操る漆黒の堕天使――《アストラナガン》。

 スパイ活動を通じて収集された地球、バイストン・ウェル、ラ・ギアスの技術と、“エアロゲイター”――ゼ・バルマリィ帝国の技術を以てして建造された恐るべき機動兵器である。

 《アストラナガン》の圧倒的な力の前に窮地に陥ったSRXチームとSDF艦隊。

 

『フッ、ここまでのようだな』

『くっ、イングラム!』

『せめてもの手向けだ。虚空へと消え去れ、リュウセイ。廻れ、インフィニティー・シリンダー……』

 

 膝を突く《Rー1》を見下ろす漆黒の堕天使が、その力を示さんとしたその時だ。

 

『……!』

 

『っきゃ、この念は!』

『うあ! ……相変わらず、すげー念してるぜ』

 

『洸っ』

『っ、来るのか、彼が……!』

 

『カミーユさん、これってやっぱり?』

『間違いない。この気配、アイツのものだ』

『アムロ、また力を増したようだな、彼の念は』

『ああ。それに、以前カミーユたちの言っていた通り、確かに太陽のようなイメージを受ける』

 

 強念者やニュータイプなど、特殊な感応能力を持つものたちが強烈極まる念を関知して反応する。

 それは《アストラナガン》を操るイングラムも同様だった。

 

『ム……!』

 

 一筋の閃光が戦場を駆け抜ける。

 攻撃を停止し、唐突に展開された《アストラナガン》の念動フィールドが瞬く間に切り裂かれ、掲げられた《Z・O・ソード》に火花が走った。

 黒き機械天使を襲った閃光は、一息に基地の建物の上に降り立った。

 翻る朱い外套――

 乱入者は、眼前に発生させた黒い重力の渦から長大なライフル――《グラビトン・ライフル》を取り出し、超重力の砲撃を照射する。

 

『お前は――』

 

 再びの念動フィールドでそれを防ぐ《アストラナガン》。イングラムは僅かに警戒を滲ませて、襲撃者に意識を向けた。

 そして、SDFの仲間たちが彼の名を呼ぶ。

 

『イング!』

 

「遅れてすまない、みんな。そしてまた会ったな、イングラム・プリスケン!」

 

 無骨な(フェイスマスク)で表を隠し、朱色の外套を靡かせる騎士然とした機動兵器(パーソナルトルーパー)――《エクスバイン・アッシュ》を駆る銀髪の少年、SDF艦隊が誇る“エースアタッカー”、イングが高らかに言う。

 

『イング! そいつが新しいヒュッケバインか? イカすじゃねーか!』

「ありがとな、號!」

『遅せーぞ、イング! 道にでも迷ったか?』

『そんニャ、マサキじゃニャいんだから』

『そうそう』

『シロ、クロ! 一言多いんだよっ』

『そのPTで大丈夫なのか、イング。継ぎ接ぎのように見えるが……』

「心配すんな、カミーユ。コイツは、アッシュは見た目通りの張りぼてじゃないんだぜ。あとマサキ、シロクロの言うとおりお前と一緒にすんな」

 

 號、マサキ、カミーユ――イングにとって気の置けない友人と呼べるものたちが、次々に歓迎の声を上げた。

 

『遅いわよ、バカイングっ! 来るなら来るで、もっと早くから来なさいよ!』

『あ、アスカ、そんないい方ってないよ』

『イングさん、助かりました』『ハロッ、ハロッ』

「おうおうちびっ子ども、よく頑張ったな。後はお兄さんに任せなさい」

『派手な登場の仕方だねぇ、お兄さん。オレたちは前座ってワケ?』

「はは、ま、ヒーローは遅れてやってくるってことさ」

『……お兄さんって、アンタあたしたちと見た目変わらないじゃない』

『まあまあ』

 

 アスカが文句を垂れ、シンジが宥める。真面目なウッソと、おちゃらけたジュドーのコメントにイングは軽妙に応じる。

 その傍らで、再び管を巻く赤毛の少女を気弱な相方がなだめるのはいつものことだった。

 

『それにしてもイング、どうやってここに?』

「テレポートですよ、アムロ大尉。オレはサイコドライバー、“汎超能力者”らしいのですから。その力をTーLINKシステムで増幅して、アッシュごと上海から転移してきました」

『んな無茶な』

「疲れるから日に何度も出来ないし、今のところパーソナルトルーパー一機跳ばすので精一杯だから、戦術的には役立たずだけどな」

 

 アムロの呈した疑問にさらりと答える。横で聞いていたリュウセイが、思わず至極真っ当なツッコミを入れた。

 彼がそれなりに無茶をして駆けつけたのにはわけがある。

 この“世界”と縁もゆかりもない自身を受け入れてくれた“仲間”、それが今のイングの「護りたいもの」。そのためなら、彼は地球の裏側へだって駆けつける。

 幾多の戦いと出会いを経て、少年は戦士と呼べるまでに成長した。もともと持っていたのだろう、心に正義の炎を灯し、邪悪に怒り、絶望と理不尽に立ち向かう戦士としての資質を。

 

「さぁてリュウセイ、オレがちょっとばかり時間を稼いでやる! その間に体勢立て直して、ばっちり合体決めてくれよなっ!」

『あ、ああ! 任せるぜ、イング!』

 

 仇敵から意識を逸らさず、友に後を託す。自分はあくまで露払いなのだと割り切る態度は、仲間を大切にする彼らしいものだった。

 仲間との語らいを切り上げたイングは表情を改めて、律儀にも待っていたらしい黒い機動兵器へと意識を向ける。

 

「という訳だ。アンタの相手はオレがする」

『フッ……愚かだな、イング。そんな継ぎ接ぎだらけの機体で、俺のアストラナガンと戦うつもりか? かつてのヒュッケバインのように、跡形もなく消滅(バニシング)させてやろう』

「言ってろ。凶鳥は灰から蘇る……このアッシュをただのパーソナルトルーパー、ただの急造機と思うなよ。消滅(バニシング)するのはイングラム、貴様の方だ」

 

 安い挑発に毅然と言い返し、イングは操縦桿を握り直す。

 欠陥を修正されたブラックホール・エンジンを搭載した《アッシュ》は、正しく初代《ヒュッケバイン》の血を引いた凶鳥の眷属である。

 さらに《EX》、《MkーII》、《MkーIII》――歴代の《ヒュッケバイン》の力を受け継いだその姿は手負いなれど、凶鳥の名に偽りはない。

 

「視えるぞ……イングラム・プリスケン。貴様の苦悩が」

『苦悩だと? 俺にそんなものはない』

「そうかよ、あくまでシラを切るつもりなら――」

 

 《アッシュ 》の頭部を覆った防護用のフェイスマスクの裏側、ゴーグルに覆われたツイン・アイが光る。

 

「貴様を縛る邪念の鎖ッ、このオレが断ち斬る! シーケンス、TLS!!」

 

 イングの有する強烈な念がTーLINKシステムにより増幅され、スペック上の性能を超えた力を《アッシュ》に与える。

 背中の外套で姿を隠し、翻した次の瞬間には左手に《フォトン・ライフルS》を携えていた。

 建物の上から大きく飛び上がった《アッシュ》は、左手に構えたライフルを乱射する。激しい集中砲火を受け、《アストラナガン》の念動フィールドがついに破れた。

 重力に従い《アストラナガン》目掛けて自由落下する中、《アッシュ》はライフルを腰にマウントして《ストライク・シールド》から延びる柄を掴む。

 

「セイバー、アクティブ! はあッ!」

『……!』

 

 激突する《TーLINKセイバー》と《Z・Oソード》が激しい火花を散らす。

 両機の体格差により激しい衝撃がコクピットを揺るがすが、イングは構わず機動を続けた。

 

「はあああッ!」

 

 テスラ・ドライブの限定的慣性制御により《アッシュ》は縦横無尽の機動を見せ、凄まじい速さで斬撃を繰り出す。

 対する《アストラナガン》は剣を手に翠緑色の光の翼、《TーLINKフェザー》を展開して同じく高速で機動する。

 特機と呼んで差し支えない《アストラナガン》相手に、《アッシュ》は互角の剣戟戦を繰り広げている。

 これはブラックホール・エンジンの強大なパワーと、格闘戦を意識して特別に建造されたHフレームによる恩恵だ。どちらも、本来の仕様である《MkーIII》から受け継がれたものだった。

 

「オオオオッ!」

 

 一瞬の隙を貫く神速の突きとともに、《アッシュ》が《アストラナガン》の背後に切り抜ける。

 緑の軌跡を残すテスラ・ドライブにより、空高く舞い上がった《アッシュ》。イングの強念によって、機体全体が紅黒い発光現象を引き起こした。 

 

「TーLINK、フルコンタクト! 覚悟しろ、イングラム・プリスケン!!」

 

 イングの念が最高潮を迎え、眼前に構えた《TーLINKセイバー》の刀身を翠緑の光が覆っていく。

 弓のように大きく後ろへ引き絞った剣が、ついに放たれる。

 

「砕け散れぇぇぇぇッ!!!」

 

 空間を絶つほどの斬撃。

 刀身に込められた莫大な念が解放され、大爆発となって炸裂した。

 神速で斬り抜けた《アッシュ》はそのままの速度で着地、地面を滑りながら《ストライク・シールド》の鞘に剣を納める。爆風に煽られて、コーティング・クロークが大きくはためいた。

 

『ほう……寄せ集めの機体にしては、そこそこのパワーはあるようだな』

 

 晴れていく念動爆発の噴煙から、胴体に深い傷痕が刻まれた黒い堕天使が現れる。

 しかし、致命傷に思われた傷は見る見るうちに塞がっていく。《アストラナガン》の装甲に用いられたズフィルード・クリスタルの力だ。

 

『それにその念、あれからますます高まっているようだ。やはり危険だな、お前は』

「ハッ、そんな余裕でいいのかよイングラム。今日のオレは、狂言回しで露払いが仕事だぜ?」

『何? ――これは……!』

 

 イングラムの声に、彼らしくない驚愕と動揺が滲む。

 にやりと不敵な笑みを口元に浮かべたイングは勝利を確信し、高らかに宣言する。

 

「さあ見せてやれ、リュウセイ! 天下無敵のスーパーロボットをッ、お前の鋼の魂を!!」

『応! 行くぜッ、ライッ、アヤッ! ヴァリアブル・フォーメーションだ!!』

 

 生命の危機により働く生存本能ではなく、自らの意志の力で“ウラヌス・システム”を発動させたリュウセイが今、Rシリーズの真の姿を顕現させようとしていた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 ♪月●日

 地球、サンククングダム周辺海域 《グラン・ガラン》の一室

 

 極東基地での一戦は、《SRX》の完成を持って幕を下ろした。もちろん、オレたちの勝利でな。

 しかし、あれは我ながら最高の登場の仕方だった。

 前々から暖めていた決めゼリフも言えたし、感無量だな。

 

 さておき、SDF艦隊は再び三隊に分けられ、地球各地に赴くことになった。

 経緯は省くが、オレは前回と同じく《グラン・ガラン》隊に所属して、完全平和主義を唱う国、サンクキングダムへ。リョウトとリオは、《ラー・カイラム》でジオンやティターンズの連中とやり合いに宇宙(ソラ)へ上がり、クスハとブリットは大作少年らと《ゴラオン》に合流して極東地区で暴れる地下勢力に対応する予定だ。

 

 そういえば、アムロ大尉が《νガンダム》に乗り換えてたし、早乙女研究所に残っていた車弁慶さんが《真・ゲッターロボ》と合流して神大佐が前線復帰、元祖ゲッターチームが勢揃いしていた。

 次に合流したら、自作モデルの資料写真を撮らなきゃな。

 楽しみだ。

 




 New! イングの中の人はアイマスPだったようです(フラグ)


 予めことわっておきますが、アッシュの元がMk-lllRだとアラド機がなくなることはもちろんわかってて変えてます。
 前は二次のことを考えて別機体としたんですが、メタ視点過ぎたのとアラド周りの設定を変更することにしたのでこうなりました。……トロンベどうしよ?(ガバ)

 あと、今さらですがいただいた感想はすべて読ませてもらってますが、個別返信はしない方針です。いらんこと言う癖があるので。


 アンケート機能を試してみる。
 他にもHi-νブレイブアメイジングとかリバーシブルとかトリプルZとかネタで思いついたけど、面白く(魔改造)できなさそうだったのでボツ。


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αl-3「この星の明日のために」

 

 

 新西暦一八七年 ◎月*日

 地球、サンクキングダム周辺海域 《グラン・ガラン》の一室

 

 完全平和主義、ねぇ……。

 サンクキングダムを治めるリリーナ・ピースクラフトの掲げる理想について、オレはどちらかというと否定的だ。

 正直、この状況下じゃちょっと空気読めてんじゃないかな?としかいいようがない。何せ、地球人類同士で戦争してるだけじゃなく、異星人やらからからな。もちろんわかりあえればいいけれど、吐き気を催す邪悪を相手に戦いを放棄するなんて出来るわけがないだろう。

 さすがに侵略者相手にも主義を貫く訳じゃない、よな?

 ちなみに、リリーナ嬢との直接的な接触はない。だってオレ、一介のパイロットだし。一応、挨拶くらいはしたけどな。

 

 まあ、結局サンクキングダムはOZとその黒幕であるロームフェラ財団の策略によって崩壊してしまったのだが。

 このどさくさで、サンクキングダムで建造されていた《ウィングガンダムゼロ》にヒイロが、OZのトレーズ・クリシュナーダが建造させた《エピオンガンダム》にゼクスが乗り換えている。

 しかしまぁ、ヒイロとゼクスは機体取り替えっこしたり陣営変えたり、落ち着かないヤツらだわな。

 

 そういえば、あの《ウィングガンダムゼロ》って敗者版なのに盾がないからネオバードにならないんだよなぁ。最初からEW仕様とはこれいかに?

 

 

 

 新西暦一八七年 ◎月□日

 地球、某無人島 《グラン・ガラン》の一室

 

 オレは今日、ドレイクの軍勢との決戦を勝ち抜き、この日記を書いている。

 いい加減、空気も時勢も読めていない皆さんにはきっちり地底世界にお帰りいただいた。だいぶ激戦だったが、連中についてはこの程度の扱いでいいだろう。

 性懲りもなく現れたイングラムももちろん撃墜してやった。すぐさま修復されたがな。チッ。

 

 で、宿敵との戦いを終えたショウさんやシーラ様たちだが、しばらくこちらでオレたちに協力してくれるそうだ。

 まあ《ゴラオン》が別行動してるわけで、置いて帰るわけにもいかないしね。それに、地球が滅べば、そのアンダーワールドであるバイストン・ウェルだってどうなるかわかったもんじゃない。

 

 ともかく、これで物語に一つカタが付いたわけだ。

 オレたちの戦いも、いよいよクライマックスに近づいている感じだな。

 しかし、色を塗り替えただけで性能の上がる《ビルバイン》ってなにさ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ◎月×日

 地球圏、衛星軌道上 《グラン・ガラン》の一室

 

 《ヱクセリヲン》、やっぱデカいな!

 外宇宙での調査任務から急遽帰還した手負いの《ヱクセリヲン》を襲うキャンベル軍、そしてジュピトリアンから防衛した。

 

 キャンベル軍、ジュピトリアンとの戦闘については特に語ることもない。ヤザン・ゲープルの《ハンブラビ》に絡まれて若干ウザかったがまあ、その程度だ。所詮、オレと《アッシュ》の敵じゃない。

 ああ、そうだ。マサキのヤツが、《乱舞の太刀》なる新必殺技を披露してたんだ。

 オイオイ、あれめっちゃカッコいいじゃん。オレもああいう必殺技を考えてみようかしら?

 

 あと、トップ部隊の代わりに《ヱクセリヲン》の護衛をしていた《YFー19》のイサム・ダイソン中尉と《YFー21》のガルド・ゴア・ボーマン主任が加わった。

 さすが最新鋭のバルキリー、半端じゃない機動力だったな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◎日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 三隊に分かれていたSDF艦隊は迫る決戦に向け、再び合流した。

 ソロモン攻略戦はなんとかなった。戦死者とか出なくてよかったよ、ほんと。

 

 と、はたと気がついた。

 最強のマジンガー、《マジンカイザー》が兜甲児さんと一緒に加わってるじゃないか。くそっ、登場を見逃した《真ゲッター》の件といい《ゴラオン》隊に入っときゃよかった!

 と《マクロス》の格納庫でorzとしてたら、偶然通りがかったアスカに「アンタバカァ?」とお決まりの悪態を吐かれてしまった。

 くっ、今回ばかりは反論できん!

 オレと同じく悔しがるリュウセイに、ノリコが得意そうに“魔神皇帝”のエピソードを語るわけだ。

 

 この《マジンカイザー》、甲児さん自らが開発を主導した初めての“マジンガー”である。一応、《真ゲッター》と共にSRX計画のスーパーロボットってことになる。これ、マメ知識な。

 で、ベースとなったのは光子力反応炉の起動実験に失敗して事故を起こしたプロトタイプマジンガーで、旧光子力研究所の第七格納庫に封印されていたところを甲児さんが発見、研究を続けていた。ご本人によれば「おじいさんが俺を呼んでいた」とか。

 発見された時点ではパイルダーがなく、ヒトの意思や心が介在する余地がないことから「皇帝」とだけ呼称されていた。

 可能性の力である光子力の化身である「皇帝」は自意識らしきものを持ち、さらに自己再生、自己進化の性質を有していた。あるいは本当の“悪魔”として終焉の魔神となることを危惧した甲児さんは、後付けの制御装置として《カイザーパイルダー》を開発。また亡き父兜剣造博士の残した技術を用いて「皇帝」が正しい心を持つ、人々の自由と平和を護る正義の魔神へと至るよう研究を続けていた。

 そんな「皇帝」を狙ってか、ロンドベルの不在を突き極東支部と新光子力研究所に押し寄せるBF団の《量産型グレート》軍団(《イチナナ式》ではないほぼ完全版。設計図が連邦軍から横流しされていた?)、を迎え撃つ《マジンガーZ》。しかし多勢に無勢、《マジンガー》は倒れ、甲児さんは緒戦で大怪我を負った。

 迫る悪のマジンガー。「皇帝」はまるでそれに呼応するように目醒め、すわ暴走かと思われたその時! 怪我を推して《カイザーパイルダー》で出撃した甲児さんがパイルダーオンを敢行し、見事《マジンカイザー》が誕生、《量産グレート》軍団を蹴散らしたのだった。

 

 ――ということらしい。どや顔で語られた。

 正直、友情にヒビが入りかけた。めっちゃ羨ましいわ!

 ま、そのあとメディアの鑑賞会して仲直りしたけどな。

 ちなみにそのノリコだが、こちらもしばらく見ないうちに《ガンバスター》に乗り換えていた。き、気づいてなかったわけじゃないんだからなっ!?

 

 

 

 新西暦一八七年 △月♪日

 地球圏、サイド3 《ラー・カイラム》の自室

 

 ついに、オレたちSDF艦隊はジオン公国との戦いに勝利した。

 アムロ大尉やクワトロ大尉、ブライト艦長にとっては七年越しの決着になるだろう。この世界での“一年戦争”は、《マクロス》の落下で休戦状態になっていたようなもんだからな。

 

 しかし、不謹慎だが今回はかなり燃えた。

 ジオン公国軍を率いるギレン・ザビとの地球圏の命運を左右する決戦。モビルドール《ビルゴIIl》、《トーラス》のみならず、《ギラ・ドーガ》や《ザクIII 》、《ドーベン・ウルフ》などを無人機化して大量投入。さらに、どこから入手したのだろうか、《量産型グレートマジンガー》《量産型ゲッタードラゴン》、《量産型ゲッターライガー》、《量産型ゲッターポセイドン》の大軍との激闘でもあった。

 悪の手先になったマジンガーとゲッターを、圧倒的なパワーで駆逐する《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》、そしてスーパーロボットたち。そして、数々の敵モビルスーツを蹴散らして巨大空母《ドロス》に肉薄する《νガンダムHWS装備型》と《サザビー》率いるガンダム軍団。某悪夢の人じゃないが、鎧袖一触とはこのことか。

 このシチュエーションに燃えずして、何に燃えろと言うのだろう。

 まあ、途中で紫ババ、もといキシリア・ザビからの停戦協定の提案があって中途半端な形に終わったのが残念だが。

 

 そんな激戦の最中を、オレはクスハ、ブリットの《龍虎王》、リオがパイロットを務める《AMガンナー》と合体したリョウトの《ヒュッケバインMkーIII・ガンナー》で小隊を組んで戦い抜いた。

 カップルに囲まれて、若干肩身が狭かったのは秘密だ。

 どうしてこんなに頑張ってるのに、オレにはヒロインがいないんだっ!

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◇日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 いやはや、酷い目にあった。

 ジュピトリアンの巨大サイコミュ兵器“エンジェルハイロウ”による、サイコウェーブの被害だ。

 カミーユやアムロ大尉たち、感受性の強い面々は特に苦しんでいた。いや、苦しむというよりは強制的な安らぎの念に飲まれかけていたんだろうな。

 オレ?オレの念も自我もそんな柔じゃないから、むしろ対抗してやったが何か? 向こうがチャンネル開けっ広げだったから、軽く交信(テレパシー)出来たし。

 まあ、そのせいでサイキッカーたちの末路を感じ取ってしまったわけだが。

 

 実際の戦闘はわりと力尽くだった。

 マサキの宿敵、DCのシュウ・シラカワ博士が持ってきた作戦、「念動力者複数名の念を増幅してサイコウェーブに対向する」を拒否して戦ったんだ。

 なぜかオレが代表して、協力するか否かを決定することになってしまった。クスハもリョウトも強く主張するタイプじゃないのはわかるが、いいのかな。

 とりあえず、クスハやリオ、アヤ大尉の身体を気遣って拒否したわけだが。

 

 戦場では、()を浚われたヒイロの《ウイングガンダムゼロ》とウッソの《V2ガンダムアサルトバスター》が暴れまわり、大活躍した。

 で、戦いにより崩壊して地球に落ちた《エンジェルハイロウ》を追撃するチームと、ジオン残党とジュピトリアンを叩くためアクシズに赴くチームの二つに分かれて進撃するロンド・ベル。

 オレは地上へ、クスハとリョウトはそのまま宇宙に残留する。

 何か邪悪ものと接触するような、そんな予感がする。気合い、入れないとな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球、某無人島近くの海上 《グラン・ガラン》の一室

 

 相変わらず、《グラン・ガラン》に間借りしているオレである。

 それはともかく。重力に引かれて落下したエンジェルハイロウを舞台に、長らく戦ってきたジュピトリアンのベスパ軍、そしてトレーズ・クリシュナーダ率いるOZとの戦いが終わりを告げた。

 《ゴドラタン》のカテジナ・ルースにはウッソが、《ガンダムエピオン》のミリアルドにはヒイロがそれぞれ相対し、長い因縁に終止符を打った。

 しかし、(いたずら)に世界を混乱させて、トレーズ・クリシュナーダはいったい何を考えていたんだろうな。あるいは、彼なりに世界のことを考えていたのかも知れないが。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◇日

 地球、第三新東京市 《グラン・ガラン》の一室

 

 突如、単騎でネルフに強襲したゼ・バルマリィ帝国の特機級機動兵器《アンティノラ》と、それを操るユーゼス・ゴッツォにより精神汚染を受けたアスカを守って戦った。仲間を、友人を救うため、決死の覚悟で自爆特攻したレイの行為も《アンティノラ》を揺るがすには至らなかった。

 ユーゼス・ゴッツォ、邪悪な念を持った危険なヤツだ。アレは、オレが倒さなきゃならない存在だろう。一目見た瞬間に理解した。そして、ヤツがイングラムを縛る邪念の鎖の根元であると直感した。

 ヤツと交わした会話はこんな感じ。

 

「貴様か! イングラムを縛る邪念の出所は!」

「ほう……アウレフの集めたサンプルの内のイレギュラーか。その強念、さながら愚帝ようだな。お前を取り込むのはいささか危険なようだ。私自ら処分しよう」

「こっちだって願い下げだ! ユーゼス・ゴッツォ、貴様はオレとアッシュが断ち斬る!!」

 

 アスカを傷つけられ、レイが犠牲になって完全にキレていたオレは、サイコドライバーの力を全開にしてヤツを刻んでやった。メタ的に言うなら「気合×3、ド根性、加速、努力、幸運、ひらめき、必中、魂」の精神コマンドコンボをかけてフルボッコにしたってとこか。

 とはいえ致命傷を与えたものの、お約束的に修復されたけどな。……ちくしょう。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月☆日

 地球、第三新東京市 《グラン・ガラン》の自室

 

 しんみりとした気分で今日の日記を綴っている。

 ネルフの地下深くにあるセントラル・ドグマで、渚カヲルこと最後の使徒、第一三使徒《タブリス》と戦った。正確には彼に操られた《弐号機》とだが。

 本性を現した彼に対して、ゲッター線の申し子《真・ゲッターロボ》と意志ある魔神《マジンカイザー》が過剰反応していた。向こうも、何やら両機に感じるところがあったらしい。

 短い間とはいえ、カヲルと友好を深めていたシンジにトドメを刺させるのは忍びなく、最終的にはオレがケリをつけた。

 

 彼はオレのことを「いつか太極に至る者」と呼び、「古き強念の持ち主たちが今もキミを見守っているよ」と言った。

 古き強念の持ち主、サイコドライバーのことか? たち、ってことは複数いるわけだな。そいつらが、オレをこの世界に呼び寄せたのだろうか。

 そして、太極……どこかで聞いたことのある単語だが、思い出せない。ったく、相変わらず肝心なところで役に立たない記憶だ。

 言葉の真意を確認する術はもうなく、カヲル自身、詳しく語るつもりはなかったのだろう。オレがこの世界にいる意味がわかったかもしれないのに……残念だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 再び部隊が合流したのだが、どうやら向こうもいろいろヤバかったらしい。

 バルマーの連中に、アヤ大尉、リオ、リューネ、獣戦機隊の沙羅が拉致され、洗脳されて戦うことになってしまったのだとか。ユーゼス・ゴッツォめ、最悪に迷惑なヤツだな。

 全員無事に救い出せたわけだが危なかった、いろいろと。主に本が薄くなる、そういうことだ。

 ちなみに、ブリットくんに「さらわれなくてよかったな」と冗談混じりに言ったら顔をしかめられた。さもありなん。

 

 さておき、女性型巨人族メルトランディとの戦いである。

 その中で、赤いパーソナルカラーの機体と戦い、マックスが相打ち気味にMIAになった。まあ、ヤツは天才だからな、ほっといても大丈夫だろう。

 それと、いろいろあって《ジュデッカ》から()()されたレビ・トーラーと、SRX計画から派遣されたイングラムの後任者ヴィレッタ・バティム大尉が修復された《RーGUNパワード》ともにやってきた。どうやらレビの方が《RーGUNパワード》に乗るらしい。

 つーかリュウセイよ、お前さんいつの間に敵の幹部をナンパしてきたのさ。と言ったら盛大に否定していたが、実際そんなもんだろ? フォウやプル姉妹、クェスとは事情がまるで違うんだからさ。

 まあ確かに、レビ自身からは邪悪な念は感じなかったし、どちらかと言えば《ジュデッカ》に操られている感じはしてたけど。

 

 ところでヴィレッタ大尉、アンタ、バルマーの人でしょう。

 わかるぞ、交戦中に関知した念は忘れない質でね。つーか、あっちも隠す気なくね?

 一応、ライ少尉と一緒にヴィレッタ大尉の意思は確認してコンセンサスは取れたので、特に事を荒立てる気はない。

 これで、イングラムのこれまでの行為が本意でない可能性に真実味が出てきたな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 もうすぐ、女巨人族メルトランディの旗艦、《ラプラミズ旗艦》との決戦が始まる。

 いつものようにチームを組むクスハだが、過去最大規模の戦いを前にどうやら緊張した様子だった。まあ、ブリットがフォローするだろう。オレの出番じゃない。

 

 リン・ミンメイの歌に心打たれて“文化”に目覚めたブリタイの計らいで、彼らの旗艦にして司令であるボドルザーが協力してくれるという。若干嫌な予感がするが、まあ、大丈夫だろう。

 ひさびさに「霊感がささやく」ってヤツだな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 メルトランディ及びゼントラーディとの戦いにケリがついた。

 葛城さん命名、「ミンメイ・アタック」によりメルトランディが戦意を失ったところ案の定ボドルザーが裏切り、ラプラミズらを砲撃。撃破した後、SDFに対して攻撃を開始した。

 曰く「文化は危険」なんだと。知らんがな。

 

 「愛・おぼえていますか」をバックに、宇宙を突き進む《マクロス》とスカル小隊。予想通り生きていたマックスがメルトランディの技術で巨人化、“エース”のミリアを引き連れて参戦する。

 オレたちロンド・ベルもミンメイの歌声に触発され、気力万端。ゼントラーディ軍を蹴散らして、目指すは超々弩級の艦隊旗艦《ボドル旗艦》。

 オレはリオの《AMガンナー》と《アッシュ》を合体させ、さらに《ヒュッケバインMkーIII・ボクサー》に換装したリョウト機との合体攻撃を敢行した。

 ブラックホール・エンジンとトロニウム・エンジンが生み出す莫大なパワーを一つに合わせ、4つの《Gインパクトキャノン》から放たれた空前絶後の重力波がゼントラーディの巨大戦艦を次々に薙ぎ払った。

 名付けて《オーバー・フルインパクトキャノン》。即興技と思われそうだが、《アッシュ》の前身、《MkーIII》の時点から想定されていた設計通りの運用法である。

 え? リョウトのポジションを奪っていいのかって? 《アッシュ》も一応《AMボクサー》と合体できるけど、趣味じゃないんだよなぁ。あれはあれで格好いいけど、高機動による剣戟戦闘がオレの持ち味なんだし。

 

 そんなこんなでオレたちの活躍もあり、ボドルザーは倒れ、ゼントラーディや生き残ったメルトランディは戦意を完全に喪失、あるいはミンメイの歌に感銘を受けて投降した。

 彼らはSDF主導のもと、地球人類と友好な異星人の第一号となるだろう。

 その先駆けとしてマックスとミリアは結婚するんだと。ケッ、いちゃつきやがってからに。

 ――でもま、解り合うって、素晴らしいよな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月※日

 地球、第三新東京市 《ラー・カイラム》の自室

 

 宇宙から一転、急遽地球に降りたのにはわけがある。

 人類保完計画の発動を目論むゼーレは、ティターンズを利用してネルフを襲撃する。オレたちが宇宙にいると知って、行動を開始したのだろう。姑息なことだ。

 だが、ロンド・ベルを甘くみたようだな。《真・ゲッターロボ》、《マジンカイザー》を先導に《EVA初号機F型装備》、《龍虎王》、《ヒュッケバインMkーIII・ガンナー》、そしてオレの《アッシュ》が大気圏に突入し、《エヴァンゲリオン量産機》相手に孤軍奮闘していたアスカを救出した。

 直に《ラー・カイラム》も到着し、ロンド・ベル全軍により《EVA量産機》は瞬く間に駆逐された。

 オレたちロンド・ベルがいる限り、原作のように鳥葬なんて惨いことはさせねー!

 

 甲児さんや竜馬さんらゲッターチームの皆さんはもちろん、オレやリョウト、クスハも張り切ってたが、今回一番気合いが入ってたのはシンジだろう。鬼気迫る勢いで新兵器(出撃時に、リツコさんが「こんなこともあろうかと!」ってドヤってた)F型装備の《マゴロク・カウンター・ソード》を振りかざし、白ウナギどもを切り刻んでいた。

 レイやカヲルの犠牲に、アイツなりに思うところがあったのだろう。シンジは、初めて会ったときよりずっと頼もしく、男らしくなったように思う。

 これで悲惨な未来を一つ、回避できたはずだ。

 

 追記

 F型装備って聞いたことないんだけどなにあれ? なんか、変なルートに入った悪寒ががが

 

 

 

 新西暦一八七年 *月#日

 地球圏、月面 《ラー・カイラム》の自室

 

 バルマー帝国に組み込まれたキャンベル軍及びボアザン軍との戦い。正式名称を、帝国監察軍第七艦隊というらしいゼ・バルマリィ帝国との前哨戦と言っていいだろう。

 戦い自体については、豹馬が宿敵ガルーダと決着をつけたり、健一が敵将で腹違いの兄らしいハイネルを説得したり、イルムのオッサンが援軍にやってきた。あれか、元カノにいいとこ見せたかったのか。

 

 後顧の憂いも断った。

 あとは、ユーゼス――バルマーの連中を打倒し、雷王星に巣くった宇宙怪獣を駆逐するだけだ。

 ――エンドマークは、近い。

 

 

   †  †  †

 

 

 SDF艦隊ロンド・ベル《ラー・カイラム》、格納庫。多種多様、様々な機動兵器を抱えたロンド・ベルらしく、雑多で統一感のかけらもない。

 

 最終決戦を明日に控え、整備班長アストナージ率いる整備士たちは各機の最終チェックに余念がない。

 その片隅、銀髪紅眼の少年――イングは、キャットウォークの欄干に身体を預けてぼんやりと愛機《アッシュ》を眺めていた。

 甲高い足音とともに人の気配を感じ、振り向く。

 

「ん、クスハか」

「こんばんは、イングくん」

「おう、こんばんは」

 

 気配の正体、クスハが穏やかに挨拶する。

 

「なんだクスハ、休まなくていいのか?」

「うん……なんだか落ち着かなくて、龍王機の様子を見てみようかなって思ったの。イングくんも?」

「まあ、な。柄にもなく、緊張しちまってるらしい」

「そうなんだ」

 

 くすくすと小さく笑みをこぼすクスハ。年下に見える少年のキザな物言いは、彼女には背伸びしたように聞こえるらしい。

 やや憮然とするイングは、クスハのパートナーであるブリットが一緒にいないことに気づいたが、あえて指摘はしなかった。女心は時に複雑なのだと承知している程度には、彼は大人だった。

 

「あれ? 二人とも、どうしてここに?」

「なんだ、リョウトも来たのか」

「こんばんは、リョウトくん」

 

 驚いた様子のリョウトに、二人はのんびりと挨拶した。

 

「そっか、二人とも僕と同じか」

「うん」

「奇遇だったな」

 

 三人は会話を交わしながら、ゆったりと格納庫内を散策する。もちろん作業員の邪魔にならないよう、こっそりと。

 薄暗い格納庫には、三人と共に激戦を戦い抜いた鋼鉄の巨人たちが鎮座し、決戦の時を静かに待っている。

 そうして三人は、《龍王機》及び《虎王機》が駐機している場所までやってきた。

 イングたちの姿に気がつき、うつ伏せて休んでいた彼らは瞑っていた瞳を開く。その瞳はわりとつぶらである。

 

「龍王機、明日もよろしくね」

 

 穏やかに《龍王機》を撫でるクスハを背後からリョウトが見守っている。

 リョウトも念動力者である、クスハほどではないが超機人たちの意志を感じ取ることが出来る。《龍王機》からは、クスハを気遣う念と決戦を戦い抜く気概が感じられた。

 だが、イングはなぜか隣のスペースに留めてあった《Rー1》の足元で隠れるようにして、その様子を遠巻きに眺めている。

 

「イング、そんなところにいないで、近くに来たら?」

「イヤだね。威嚇されんだよ、近づくと」

「もう龍王機ったら、意地悪しちゃダメだよ?」

 

 リョウトの勧めに顔をしかめるイング。ロボット好きな彼にしては珍しく、本気で嫌がっている。

 当初《ライディーン》から警戒されていたイングだったが、最近は超機人だけでなく《マジンカイザー》からも警戒されていたりする。逆に、《真ゲッターロボ》からは僅かながら興味を持たれているようだが。

 

 超機人の元を離れ、ぶらりと格納庫内を行く三人。

 先頭を歩いていたイングがふと振り返り、思いついたように言葉を発した。

 

「そういえば、お前らは次の戦いが終わったらどうするんだ?」

「終わったら……? そっか……もうすぐ最後なんだね、この戦争も」

「考えたこともなかったかな」

 

 イングの問いに、二人はキョトンとしたあと、苦笑いを浮かべた。本当に意識していなかったのだろう。

 最初に声を上げたのはクスハだった。

 

「私は……、看護師さんの勉強をしたいな」

「看護師?」

「うん。子どものころからの夢だったの」

「へぇ、クスハらしいな。じゃあ、リョウトは?」

「僕はたぶん、マオ社に戻るかな」

「ほぉ、マオ社に務めてるって話のリオの親父さんに挨拶しに行くわけだな」

「ち、違うよっ! そうじゃなくて、実はカークさんに誘われてるんだ。「PTデザイナーにならないか」って」

 

 からかいに顔を赤らめつつ、リョウトは事情を証す。堅物なカークのことであるから、単純に彼の才能を評価したということだろう。

 表情から満更ではないことを察し、イングとクスハは微笑んだ。

 

「そういうイングくんは、どうするの?」

「オレか? オレはロンド・ベルに残るよ。いろいろと、ややこしい身の上だしな」

 

 マシンナリー・チルドレン、人造人間であることを暗に示し、苦笑するイング。その生まれのせいで当初は万丈から疑われたり――もっとも今は後輩としてかわいがられているが――もしたが、結局彼が生まれた理由は不明なままだった。

 気遣わしげな視線を年下(?)の友人に向ける二人。しかし当のイングは言葉こそ自嘲気味だったが、声の調子はいつも通り明るくおちゃらけたもので。

 

「そんでもって、戦いから離れたお前らの未来を護ってやるよ。だから、安心して夢を叶えてくれよな」

 

 ニッ、と快活な笑み。どこか悪童的なイングがよく浮かべる表情だ。

 クスハとリョウトは、冗談めかした態度の裏にある彼の不器用な想いと決意を感じ取った。それは友情と言っていい純粋な思いだった。

 

「イングくん……」

「ありがとう、イング」

「よせやい。友達だろ、オレたちはさ。ウルトラ任せとけってヤツだ」

「ふふっ、なにそれ」

 湿っぽくなった空気をからりと笑い飛ばし、イングは言う。

 友達ならば当然だと、自らが傷つくことを恐れもせず、臆面なく言えてしまう彼の強さはまるで太陽のようだと、クスハとリョウトはこのとき思った。

 

「さて、もう休もうぜ。オレたちパイロットは休息も大事な仕事だ」

「うん」

「そうだね」

 

 

 

 

 時間を戻して。

 多くの市民が退去して静けさに包まれた《マクロス》艦内都市の一角、うらぶれた雑居ビルが建ち並ぶエリアで。

 とある雑居ビルの地下にあるバーに、アムロ・レイ、流竜馬、そして兜甲児の三人が連れ立って訪れていた。

 

「ここだよ、甲児」

「へぇ……、雰囲気あるな。竜馬が見つけたんだって?」

「おう。隠れ家、ってヤツだ」

「お前にしちゃあ趣味のいい店だな」

「おい甲児、ケンカ売ってんのか」

「はははっ、冗談だよ冗談」

 

 学生のようなやり取りをする二人に、アムロは苦笑を漏らすもどこか楽しげだ。

 間接照明が照らす落ち着いた雰囲気の店内、カウンターに立ったバーテンは三人に目を向けると、わずかに表情を動かすがすぐに平素を取り戻す。黙々とグラスを磨く作業に戻った彼は退役軍人で、明日の最終便で大半の非戦闘員とともに《マクロス》を退去することになっている。

 三人はカウンター席に座るとそれぞれ注文する。アムロがビール、竜馬が日本酒に、甲児がウイスキーだ。

 

「じゃあ、乾杯といくか」

「決戦前に歓迎会ってのも可笑しな話だが」

「いいってことよ。俺がここに来た時には慌ただしかったしな」

 

 SDFに合流した旧ホワイトベース隊の関係者では甲児が最後だった。《マクロス》で偶発的に宇宙に出ていた彼らに代わり、地球圏の平和維持を先の大戦の英雄として担っていたのだ。

 一線を退いて研究職に付く甲児が未だ戦場に出ることについて、新光子力研究所の所長である弓さやかは常々反発しているが、世界情勢がそれを許さない。

 

「隼人は鉄也と編成の確認、弁慶は整備班に混じって決起会。……ブライトさんも呼べばよかったか?」

 

 澄んだ日本酒の注がれたグラスを弄びながら、竜馬が言う。

 

「ブライトを呼べばシャアを呼ばないわけにはいかないが、それは趣旨が違うだろう?」

「まあ、シャア……クワトロ大尉に思うところがない訳じゃないけどな」

 

 それもそうか。二人の意見に竜馬は納得し、グラスを傾けた。

 クワトロ・バジーナ――シャア・アズナブルと彼ら三人は、戦争で殺しあった間柄だ。蟠りはこのバルマー戦役である程度解けたが、それはそれ、これはこれである。フォッカーであるならまだアリだが、今頃彼は恋人(いいひと)と過ごしているだろう。

「しっかし、こうして俺たちで酒を飲むようになるとはなぁ……」甲児がかつてを思い浮かべて染々と呟く。

「俺と甲児は喧嘩ばっかりだったし、知り合った頃のアムロはモヤシだったな」竜馬がかつてを思い出してどう猛な笑みを浮かべた。

「二人には、悪い影響を多分に受けた気がするな」アムロがかつてを思い返して笑みを溢す。

 

 すでに一端の特機乗り(そしてライバルじみた関係)だった甲児と竜馬に挟まれて、年下で経験の浅いアムロは必然的に子分か後輩のような立ち位置に収まった。

 二人の張り合いに巻き込まれたり、温泉地で女風呂の覗きに付き合わされたり(当然、女性陣にブッ飛ばされた)。最終的には毒されて、ギレン・ザビの演説に怒り、モニターを破壊することもあった。

 

「ホワイトベース隊解隊の約束がやっと果たされたな」

「ああ……」

 

 五年前、多大な犠牲を払いながらも地球圏に幾ばくかの平穏をもたらした彼らは、再会を誓い合いそれぞれの道へ別れていった。

 そうして叶った再会が未曾有の危機の中というのは皮肉なものだが、苦楽を共にした戦友との語らいは続く戦争により荒んだ心を癒すことになるだろう。

 

「あの後、アムロが五年軟禁されてたからな」

「すまない。鉄也とジュンさんの結婚式にも結局出席出来ずじまいだった」

「お前が謝ることじゃねぇさ。悪いのは頭の固い連邦軍のお偉方よ」

「そうそう。弓教授とかも頑張ってくれたんだけどな」

「今は教授じゃなくて、政治家のセンセイだろ」

「そうだった」

 

 弓教授こと弓弦之助は、来年には極東地区の首相に就任することが内定している。師から受け継いだ光子力の研究をさやか()甲児(愛弟子)に任せ、自身は政界に進むことで若者たちの力になろうとしているのだ。

 

「結婚といえば甲児、さやかさんとはどうなってる?」

「うっ! ……そ、それは……」

 

 ふと、疑問を思いついたアムロが告げると甲児は言葉を詰まらせた。

 隣に座る竜馬が呆れたように視線を向ける。

 

「こいつ、ヘタレてやがるんだよ、アムロ。鉄也たちの結婚式でさやかがブーケを取ったってのに。仕舞いには隼人にまで先を越されてやがる」

「隼人はミチルさんと婚約したんだったな」

「ああ。その内籍を入れるだろうな」

「ヘタレてるんじゃねぇ! ……ただ、お互いに忙しいだけでな?」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ」

 

 やれやれ、と竜馬が肩を竦める。その煽るような態度に甲児はムッと眉を吊り上げ、言い返す。

 

「そ、そういうお前はどうなんだよ!」

「ん、俺か? まあ、ガキじゃねぇんだ、ぼちぼちとな」

「マジか」

「つっても所帯を持つつもりは今のところねぇな。……このご時世だ、少なくとも侵略者どもを片付けねぇとな。オチオチ引退もできやしねぇ」

「確かにな……ミケーネや恐竜帝国に代表される地下勢力は後を絶たない。近頃じゃ、BF団の活動が活発だ」

「それに、ジオンとは一応の決着を見たが、地球圏は未だ平和とはほど遠い」

 

 甲児、アムロが続けて懸念を示す。

「結局、この地球(ほし)が平和にならなきゃ、俺たちに平穏は来ねぇのさ」。ニヒルにそう溢す彼、竜馬が軍を抜けたのは戦士として闘いに集中するため、政治に縛られるのを嫌ったからだ。

 重くなった空気を変えるように、甲児が口を開いた。

 

「じゃあ、アムロはどうなんだよ」

「僕?」

「セイラさんとはどうなったんだってこと。せっかく高嶺の花をモノにしたんだろ」

「うん、自然消滅と言えばいいか……お互い難しい立場だからな……。今は、イギリスで戦災孤児を支援する活動をしているらしい」

「連絡は取ってんのか」

「ああ、一応は。セイラさんも政府の監視下にあるから、それほど頻繁というわけにはいかないが」

 

 セイラ・マス、またの名をアルテイシア・ソム・ダイクン。クワトロ・バジーナ、あるいはシャア・アズナブル、キャスバル・レム・ダイクンの妹というだけで、彼女がどれだけ難しい立場かわかるだろう。

 話題マズったか、と内心、頭を抱えた甲児の脳裏に、ふといつだったかの学会での出来事が過る。フォッカーと同じく戦友で、彼らの兄貴分でもあった猿渡ゴオの近況についてだ。

 

「そうかよ。――あ、そういやダンナーベースの霧子さんから聞いたんだけどよ……ゴオさん、結婚してたらしいぜ。三年くらい前に」

「はぁ? あの、ミラにゾッコンだった猿渡のオッサンがか? マジかよ」

「相手は誰だ? やはり静流さんか?」

「いや、それがさ……霧子さんの娘で今、高校生なんだと」

 

 空気が固まった。天使が通った、ともいう。

「葵博士に娘? いや、高校生(ハイスクール)……!?」「三年前……完っ全に事案じゃねぇか」「だよなぁ」アムロが目を見開き、竜馬が眉間にシワを寄せ、甲児が頭をかいた。

 混沌である。

 少なくない動揺を抑えるように、竜馬は息を吐いた。

 

「……はぁ、まあ……ともかくだ。俺らには結婚とか家庭を持つのはまだ早いってことで、どうだ」

「異議なし」「同じく」

 

 そういうことになった。

 

 ――酒の(さかな)に四方山話をして過ごす三人。かつての仲間、ボスが経営する「ぼすらーめん」の常連である甲児と竜馬の感想を聞き、アムロは是非とも味わいたいと思った。

 いつしか話題は、ロンド・ベルに集まったいつかの自分(後輩)達に移っていた。

 

「――ロートルを気取るつもりはねぇが、見所のある奴が増えてきた。シローも一端の顔をするようになったしな」

「お前んとこの號もなかなか活きがいいじゃねぇか」

「活きが良すぎて手を焼いてるがな」

「お前が言うかよ」

「ブライトに一番手を焼かせたのは竜馬だろうな」

「おいおい、そりゃねぇだろ? 一番はお前だよ、アムロ」

「ああ、それな。間違いない」

「ンッ、そうだったかな?」

 

 アムロが惚けた答えすると、三人はドッ、と一斉に笑い声をあげる。ブライトが聞けば、お前たち全員まとめて問題児だ、と答えただろうが。

 

「カミーユ、ジュドー、シーブック、ウッソ……優れたニュータイプの才能がある少年たちだ。ただ、カミーユには少し注意が必要にも思えるが」

「確かにあいつは繊細そうだ。まあ、號とよくつるんでる辺り、案外タフになってくかもしれねぇけどな」

「……子どもたちを戦争に駆り出しちまうのは、俺たち大人が不甲斐ないせいだな」

 

 甲児が悔しさを滲ませながら、少なくなったグラスの液体に目を落とす。

 

「――しかし、戦う力と意思があるなら自分の未来のために立ち向かうべきだ、という考えもある」

「一理あるが、アムロらしくないな。誰の意見だよ?」

「イングだ」

「アイツか、確かにアイツならそう言うだろうぜ」

「イング……ああ、あの。どうなんだ、彼は」

 

 最近、ロンド・ベル隊に合流した甲児は二人に人となりを聞く。

 彼が知っていることといえば、サインを求めて来て(それ自体は珍しくない。ほかにも何十人といた)、開口一番、自分が“マシンナリー・チルドレン”と呼ばれる人造人間であるとあっけらかんと告げるような少年だ。そして、アムロやクワトロ、竜馬らゲッターチームに匹敵する、ロンド・ベルのトップガンの一人である。

 

「面白いヤツだ。ゲッターの訓練に自分から混じって、ケロッとしてやがる。まあ、メンタル含めて頑丈なのは間違いねぇな」

「隊の潤滑油、といったところか。新しい仲間と積極的に接触して、コミュニケーションを取ってくれているのは正直助かるよ」

「そりゃ、単にミーハーなだけだろ。リュウセイやノリコの同類のオタクだぞ、アイツ」

 

 竜馬が呆れ顔で所見を述べると、アムロが苦笑を漏らした。

 

「まあ、趣味と実益を兼ねているのは間違いないだろうが。しかし、彼が意識的に周りのフォローをしているのは間違いないさ」

「そいつはニュータイプの勘、ってやつか?」

「そんな大層なものじゃないよ。実体験から来る経験則、ってところだ」

「……なるほどな」

 

 アムロの意見を聞き、甲児が頷く。“巨神戦争”当時のナイーブなアムロの思い出が浮かぶ。

 慣れない軍隊生活で、辛く厳しい戦いのなかで、甲児、竜馬共々何度もぶつかり合ったものだ。今、こうして友人としていられるのは幾度となく感情をぶつけ、傷つけあったからこそで、一歩間違えば関係が破綻していたかもしれない。

 イングは言わば、皆がそうならないように間を取り持っているのだと甲児は解釈した。

 

「俺はニュータイプじゃねぇがわかるぜ、ヤツとは()()()()()()になるだろうってことがな」

「長い付き合い、か。いいことなのか悪いことのか、判断に苦しむな」

「出来のいい後輩が居るんだ、いいことじゃねぇか」

「……俺にはそう簡単には割り切れないが」

「ま、そこがアムロのいいところだけどよ」

 

 どこまでも好戦的な竜馬と、生来のナイーブな一面を覗かせるアムロ。甲児はその中間といった立ち位置で、結果的に三人のバランスを取っていた。

 そう考えれば、自分はイングと似たような立場だったのかもな。と考えた甲児は、腕時計にちらりと目を落とす。

 そろそろいい時間だ。楽しい語らいのひとときもお仕舞いらしい。それに気付いた竜馬とアムロも、年相応の青年の顔から戦士のそれにガラリと変わる。

 

「――ともかく、だ。明日も頼むぜ、竜馬、アムロ」

「おう」

「ああ、この戦いを終わらせよう」

 

 三人は力強く頷き合いグラスを掲げ、ぶつけ合った。

 

 

 

 

 ――そうして、決戦前夜の穏やかな時間は過ぎていった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 $月×日

 極東地区日本 《ラー・カイラム》の自室

 

 長い戦争が終わり、オレたちは地球へと帰還した。

 

 雷王星宙域での決戦、《ヱクセリヲン》そのものをブラックホール爆弾とすることによる宇宙怪獣の殲滅、およびゼ・バルマリィ帝国監察軍第七艦隊の壊滅により、地球圏での戦争は一応の終結を見たと言っていいだろう。

 だが、依然として多くの勢力が健在のままであり、特に宇宙怪獣とゼ・バルマ リィ帝国は勢力のほんの一部分でしかない。それに、雷王星でのブラックホール爆弾使用の余波で、地球圏には重力崩壊衝撃波の脅威が迫っている。

 ビアン博士の言うように、『人類に逃げ場なし』の状況はさらに続いていくのだろうな。

 

 決戦の推移を箇条書きしよう。

 バルマーに組するパプテマス・シロッコ、シャピロ・キーツとの戦いにはハマーンやガトー、ハイネルらが助太刀に来てくれた。

 タシロ提督らの犠牲をもって宇宙怪獣を撃滅した後、閉鎖空間に囚われたオレたちの前にバルマー帝国軍が現れた。

 敵旗艦《ヘルモーズ》、そしてこちらの機動兵器に対抗したという決戦兵器《ズフィルード》を撃破、するとユーゼス・ゴッツォは切り札である黒い《ジュデッカ》で決戦を仕掛けた。

 その最中、イングラムはリュウセイの決死の説得により邪念の呪縛を破り、再び味方に転じてユーゼスを追い詰める。スーパーロボット軍団の必殺技が炸裂し、《アッシュ》の《TーLINKセイバー》がヤツの邪念を斬り裂く。

 そして《SRX》の《天上天下一撃必殺砲》を受けて《ジュデッカ》は消滅し、長い戦いに決着がついた。

 

 しかし、ユーゼスの「それも私だ」の連打はシュールだったが、「じゃあ、オレがこの世界にいるのもお前のせいか?」という問いに黙ったのは最高だったな。まあ、ヤツの仕業じゃないのは目に見えてたから、あえて言ってやったんだが。

 「クロスゲート・パラダイム・システム」だったか? その完成のために地球圏に干渉し、最終的に神とやらに成り代わることが目論見だったらしいが、下らない。

 運命だかアカシックレコードだか知らないが、そんなあやふやなものに未来を決められてたまるか。運命なんぞ、オレの斬り拓いた後からついてこいってこったな。

 

 ……戦いは終わり、みんなそれぞれの道を進んでいく。別れの時だ。

 オレはロンド・ベルに残り、《エクスバイン・アッシュ》とともに戦い続けるつもりだ。

 この世界にいる意味、それを知るために。そして仲間を、平和を、地球の未来を護るためにも。

 あるいはそれすらも黒幕の思惑通りなのかもしれないが――知ったことか。オレはオレだ。

 

 ……さて、今は筆を置いて、それぞれの場所へと旅立つみんなの見送りに行くとしようか。

 






 カイザーさん「はぁ~…甲児くんてぇてぇなぁ…」(尊死)
 ゲッペラ「拓馬くんの種、仕込んどいたからね!」(善意)
 おっちゃん「後輩のオルフェンズくんみたいにラブホにされんでよかったわぁ」(安堵)


 資料としてマジンガーZ/INFINITEと劇場版ガンダムOOを再履修してきました。
 控え目に言ってウルトラサイコーかな? 筆が走りますね。走りすぎて書きすぎました。
 次は復活のルルーシュとファフナーHAE観てから「平成」キメなきゃ…。ニュージェネファイナル観に行かなきゃ…(使命感)


 ※アンケートの補足

 魔改造Hi-νHWS(変更なし)と言ったな。あれはウソだ。
 Gガンが参戦したので、その辺りの技術がぶちこまれます。ミノフスキー・ドライブ(V)は確か書いたけど、さらにライフルがヴェスバーになったり(F91)、動力が縮退炉になったり(∀)、ガンダニュウムが使われたり(W)もします。たぶん。

 あと魔改造ユニコーンPDと言ったな。あれもウソだ。
 いや、名前がペルフェクティビティ・ディヴァインにならないというか。ハイパー・バズーカ・プラス背負った姿が統一感なくてディヴァインじゃなくね?というか。そもそもネーミングセンスなくね?というか。好きな人はごめんなさいね。
 命名の経緯はまあ理解しましたが、神聖ってつけるならフルコーンの要素はシールドファンネルでよくね?的な(プロペラントはアリよりのアリ)。だいたいペルフェクティビティってのが個人的にアリよりのナシって感じ。プランBとかパーフェクトとかでいいんだよなぁ。

 あ、締め切りは次回投稿日になります。


 PS.
 推しの作者様の名前がお気に入りに入ってると嬉しくなりますね。小躍りしました。
 それから、ウルトラマンZがウルトラおもしろい。あー、ウルトラ◯◯って表現使いやすいわぁ。


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幕間1

 

 

 

 極彩色の闇の中――

 

 豪奢な飾りがされた白き衣を身につけた金髪の少年が、反転した五亡星(ペンタグラム)と逆さまの大樹が描かれた巨大な漆黒の玉座に微睡む。

 その前には、五つの不可解なオブジェクトが浮かんでいた。

 

 ――宇宙とそこに存在する星々とを写し出した空間のスクリーン。

 

 ――天突く意思が如く螺旋渦巻く風の三角錐。

 

 ――煌々と燃え盛る文明の証たる火の篝火。

 

 ――大小さまざまな生命を育む透き通る水の球体。

 

 ――大自然の息吹きを感じさせる苔むした土塊の石柱。

 

 

 スクリーンを中央に、左右にそれぞれ三角錐、篝火、球体、石柱か並ぶ。

 

「――――」

 

 まるで作り物のように整った相貌、金糸の髪がさらさらと流れる。しかし、どこか不穏な気配を漂わせるのは、その隠し持った本性故か。

 不意に切れ長の瞳がゆっくりと開く。

 すると、突如として苔むした土塊のオブジェクトに亀裂が入った。

 

「――やあ、同志■■■。首尾はどうかな?」

 

 黒い障気を吹き上げながら腐り落ちる岩塊より歩き出たのは、白い軍服らしき装束に身を包んだ長い金髪の男だ。

 男は奇妙な白の仮面で顔の上半分を多い表情は窺えないが、口許がわずかに歪ませた。

 

『……陛下、その名は捨てたと言ったはずだが?』

「あはは、ごめんごめん」

『ふん』

 

 鼻を鳴らす仮面の男。正念が悪びれた様子で謝罪を口にする。

 しかし陛下などと呼んではいるが、男は別段少年に忠誠を誓っているわけではない。言葉通り、彼らは“同志”なのである。

 

「それで■■、()()()()の様子はどうだい?」

『どうやらSDFは、作戦を完遂させたようだな』

「ほぅ……“彼ら”は第七艦隊を退けたか。それでこそ、“闘争”の星だね」

『私はこれからジャミトフ・ハイマンに接触しようと思うのだが、どうかな?』

「ああ、それでいいよ。邪魔な“彼ら”が不在のうちに、ティターンズとやらに地球軍の実権を奪わせるんだ」

『了解した』

「くれぐれも、君の存在を気取られぬようにね。君の出番はまだまだ先だ」

『問題ないよ。私自身ではなく、「ヌビア・コネクション」に配置した「ゲシュタルト」を通じて接触する予定だ。プロフェッサー・ランドウ、マリーメイア軍の軍備も整い始めている。次なる戦争の幕はいつでも落とせるさ』

 

 よほど戦乱が待ち遠しいのか、男の唇が愉悦で弧を描く。

 

「素晴らしい手際だ、■■」

『いや、()()()が便利なのさ。人心を読み取り、操り、陥れる――“ニュータイプ”などと呼ばれる者たちは甚だ愚かしい。この力は、本来こうして使うのだと私は思うがね?』

 

 仮面の男が「人類の革新者(ニュータイプ)」たちを指して嘲笑う。

 この男の(うち)には、この世の全てに対する憎しみと悪意しか存在しない。故に、“分かり合うための力”はその肥大したエゴによりあり方を歪められ、破壊を導くのみに使われる。

 

「うんうん、頼もしい限りだ。……おや?」

 

 感心した風に頷いていた少年が何かに気付く。

 生き物が急速に死に絶えた水の球体がブクブクと泡立ち、どす黒く濁っていく。そうして濁った汚水が霧散して変じるのは、仕立てのいいオレンジ色のドレスを身につけた黒髪の美女だ。

 

「やあ、お帰り同志■■■■■。()()()()()の調子はどうかな?」

『ええ、お陰様で。すこぶる快調、現役時代に戻った気分よ』

「それはよかった。君に与えた“コード”とやらも、無事馴染んでいるようだね」

『ええ、問題ないわ。私の持っていた“ギアス”は使い勝手が悪すぎたから、今の方がずっとマシね』

「うん、君専用の“騎馬”も予定しているから、期待していてほしいな」

『あらあら、嬉しいこと。人妻を誘惑するなんて、Your Majesty(陛下)は悪い子ね』

 

 少年をからかうように、ドレスの女がころころと笑みを溢す。

 その様はとても「陛下」と呼ぶ相手にする態度ではない。

 それもそのはず。彼女にとっての主君とは夫ただ一人であり、実態はどうあれ少年はあくまでも“同志”なのである。

 

『それで、■■■。私の方はまだ動かないということでいいのかしら?』

「うん、()()()()も“因子”が揃いきっていないしね。“革新”の時が迫る中、下手に動くのは時期尚早というものさ」

『でも、()()()()してはいけないわけではないのでしょう?』

「そうだね。……もしかして、なにかいい()()でも見つけたのかな?」

『ふふふ、そうなの。あの国と 姉弟(きょうだい)は、よくよく踊ってくれそうだわ』

 

 愉しみね。そう溢す女は、艶々と微笑む。まるで夜会に赴く貴婦人のような声色で、しかしその行為により起きるのは血みどろの戦乱である。

 

『ふん、恐ろしい女だ。とても二児の母親とは思えんな?』

『お生憎様、息子も娘もきちんと育て上げましたわ』

()()()の間違いだろう』

『“子は親を見て育つ”ともいいますのよ?』

『君らを見て成長したのだ、よほど歪んだ育ち方をしたのだろうね』

『それはもう、息子は世界全てを敵に回した“悪逆皇帝”ですもの』

 

 仮面の男の揶揄に、ドレスの女は童女のように朗らかな笑顔で我が子について語る。しかしその内心は、とても血を分けた子どもに向けたものではない。命を懸けて成したその所業を、無様で無意味と嘲笑っている。

 この女は徹底底尾、自分自身が全てなのである。

 このような毒婦を母親に持った兄妹(きょうだい)は、さぞや不幸な人生を歩んだのだろう。

 

『ところで、■■■。()()()()()はどうなったのだ?』

 

 仮面の男が燃え立つ篝火に目を向けながら、少年に問い掛ける。

 少年は玉座の肘掛けに頬杖を突き、ため息を吐いた。

 

「うーん、()()、いや()かな?ともかく、候補者には接触は続けているんだけどね。なかなかに色好い返事をもらえないんだ」

 

 取り付く島もなしさ。没交渉であることを告げ、少年はやれやれと首を横に振った。

 

「それに、()()()()は今のところ“調和”が取れていて、あまり大っぴらに介入ができないんだ。特に“光の戦士”が邪魔でね。――まあ、いずれ時がくれば僕らの同志となるだろう。君たちのように」

 

 とはいえ、それも今だけだ。

 時期に()()()()()()向こうから接触してくるだろうことを、少年は識っている。

 ――森羅万象、全ての事象は少年の思うままに進んでいた。

 

「じゃあ、各々よろしく頼むよ。――“すべての霊魂の安寧のために”、ね」

 

『“すべての霊魂の安寧のために”』

 

 少年と同じ言葉を唱えて、仮面の男とドレスの女が溶けるようにしてその場から姿を消す。

 二人が現れたオブジェクトは、いつの間にか元通りになっていた。

 

 極彩色の闇に、再び静寂が訪れる。

 

「おっと、そろそろ“彼”が来る頃合いかな? おもてなしの準備をしなくっちゃね」

 

 脳裏に“黒き堕天使”の姿を思い描き、少年は笑みを深める。

 

「ふふふ……さぁて、あなたはいったいどんな手を打ってくるのかな? ――バビル兄さん」

 

 





 

 ■謎の集まり(1+5)
 やべーやつとやべーやつらが手を組んだ!
 四星とか五聖刃とか六神将とかそんな感じの集まり。五大元素をモチーフにしているけど担当はわりと適当に決めてます。
 ちなみに、ヒントのある風と火はともかく、空担当は絶対わからないと思う。というか、読めたらサイキッカー。
 本来は全員まとめて二次と三次の間で登場の予定だったけど、急遽でっち上げてみました。これはこれでいい出来に仕上がったかも。
 正式名称とか概要とかは全員揃う三次の前降りで出すと思います。



 ■仮面の男
 いったい何ーゼなんだ……。
 戦争の裏で暗躍するやべーやつ。作中の人類勢力の混乱はだいたいこいつのせい。土担当。
 旧作では結果的に大ボスになってしまった(頭が)可哀想な人。今回はかなり大幅な魔改造して、ラスボスに相応しくしたつもりです。


 ■ドレスの女
 いったい何アンヌなんだ……(二回目)
 サイコパスのやべーやつがパワーアップして帰ってきました。水担当。
 Xの時に公式でお出しされたときには「やられた!」となりました。しかし、こちらはオリジナルの専用機を用意したんだからね!(対抗心)


 ■風担当の人
 天元…螺旋…うっ頭が。
 つまりそういうことです。
 予定では外伝と二次の間に登場するとかしないとか。


 ■火担当の人
 男だか女だかわからない人。
 旧作にそんなのがいたような…?(棒)
 性格的に素直に他人と協力したりするわけないのであとから参加。抜擢したのは単純に作者の趣味です。


 ■空担当の人
 正体はヒミツ。
 最速で外伝と二次の間に登場します。



 再掲載だからかあまり伸びがよくないのでちょっぴりテコ入れしてみる。
 実は、今回のリメイクに踏み切ったのはこいつらのアイデアが降ってきたからだったり。特に土、水、火の三人が個人的にお気に入りです。

 明日の更新もあるので、お楽しみに!



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α外伝-1「THE ARROW OF DESTINY」

 

 

 新西暦一八七年一二月――

 地球へと、バルマー戦役最終決戦の際に生じた超重力崩壊の脅威が目前に迫っていた。

 それを防ぐため、各スーパーロボット研究所の協力と破嵐財閥、マオ・ インダストリーのもと、地球を丸ごとバリアで覆う“イージス計画”が着々と進められていた。

 しかし、SDFが宇宙で外敵と戦っていた間、詐術により連邦政府の指導権を奪ったティターンズは、超重力崩壊という災害を利用してスペースノイドを粛正しようと企んでいたのだ。

 

 SDF艦隊、そしてロンド・ベルは解体の憂き目に合い、メンバーは散り散りとなる。あるものは戦いから身を引いて姿を消し、あるものはティターンズに捕らわれた。

 そんな中、拘束を逃れたイングは、囚われた友を救うべく、愛機《アッシュ》を駆って戦っていた。

 

「協力してくれるかい、イング」

「勿論です、万丈さん。地球を護るためにも、ティターンズの横暴を許しちゃおけない」

「よろしい。頼りにしているよ、“地球圏最強の念動者”クン」

「なんです? それ」

「キミの通り名らしいよ」

「安直ですね。事実ですけど」

「ははは。そこで素直に認めるところ、ボクは好きだよ」

 

 独善的な思想を暴走させるティターンズとそれに与し、「メタルビースト」を使い混乱を助長するプロフェッサー・ランドウ。トレーズ・クリシュナーダの後継者と称して地球の覇権を狙うマリーメイア軍――それらの脅威に対抗するため、そして迫り来る超重力崩壊から地球圏を守るため、破嵐万丈主導の下、SDF、ロンド・ベル、カラバなどの残存人員で結成された“プリベンター”。

 その一員としてティターンズなどに抵抗するイングの前に現れたのは、もう一機の《EX》――

 

「紅いヒュッケバイン……、タイプEXだって!?」 

「イング、エクスバイン・アッシュ……貴様を倒し、私が出来損ないではないということを証明する!」

 

 真紅の《ヒュッケバイン》を駆るティターンズからの刺客、“念動者”アーマラ・バートン。アムロやブライトを人質に取られ、やむなくティターンズに従うクワトロやエマとともに現れた彼女は、執拗にイングを追う。

 この機体は、事故を起こした《ヒュッケバイン》の片割れ、《008L》がSRX計画により強化された機体であり、極東支部に保管・封印されていたものをティターンズが強引に接収したものだ。

 《009》を元とする《アッシュ》とはまさしく兄弟機。同じ凶鳥の血族同士が念動力者に操られ、対決する。

 

「っ、女か!?」

「女で悪いか!」

「かわいい声してんなって思っただけだよ!」

「かわっ!? っ、世迷い言を!」

 

 クワトロらを退けたプリベンター。

 万丈が密かに雇い入れていた銀河の始末屋「J9」により囚われていたブライトらが救い出され、鎖は砕かれた。

 かつての仲間たちが集結していく。

 

 カエス基地においてマリーメイア軍との決戦。

 かつての戦友、五飛がマリーメイア軍の尖兵として立ちはだかる。

 

「イング、貴様らは正義なのか!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるぞ、五飛! 侵略者が健在な今、地球人類同士で争うことが正しいと言えるのか!?」

「ッ、だが、連邦政府は未だ強権を翳し、スペースノイドを不当に弾圧している! これは正義ではない!」

「だからオレたちプリベンターが、元凶のティターンズを叩いてるんじゃないか! マリーメイアは世に混乱を招いているに過ぎない!」

 

 ラ・ギアスからやってきたマサキの仲間たち、魔装機神の操者とラ・ギアス人たちを新たなメンバーに迎え、戦いは続く。

 

「さすが地上の軍隊、ガンダムがいっぱいね!」

「王女さん、ヒュッケバインはどう?」

「ガンダムに似てるわよね、主に顔が」

「それは言わないでよ、大人の事情で消されるじゃない。いや、もう消されたのか」

「私の造る魔装機のモデルを、ガンダムじゃなくてヒュッケバインにしてあげるから落ち込まないの」

「さすがお姫様、話が分かる! 結婚して!」

「お断りです」

 

 「ヌビア・コネクション」のカーメン=カーメンを撃退し、戦いは佳境に差し掛かる。

 ダカール「マクロスシティ」。偽りの式典を強襲したプリベンターは、ティターンズとの戦いに終止符を打つべく奮闘する。

 《YFー19》による奇襲に合わせ、テレポートによる突入を試みたイングは真紅の《ヒュッケバイン》と再び対峙する。

 念動力者、そして凶鳥同士の戦いは激化していく。

 

「お前はなぜ戦う、アーマラ・バートン!」

「私の価値を示すためだ! 特能研で、ティターンズで、私を“出来損ないの念動者”と蔑んだヤツらを見返す――、最強の念動者である貴様を超えれば、それが証明できる!」

「自分の価値なんざ、自分で決めろ! それにお前はこうして、オレと互角に渡り合えてるじゃないか! それのどこが出来損ないの念動者だ!?」

「ッ! うるさいッ、黙れーッ!!」

 

 機体性能の差、そして念動者としての資質の差。それらが噛み合い――あるいは噛み合わず――、戦いは終始イング優勢に運んだ。

 そして、決着。《TーLINKセイバー》が《ヒュッケバインEX》の両腕を斬り飛ばし、無力化した。

 

「っ、きゃあ!」

「これで終わりだ。投降しろ、アーマラ」

「く……殺せっ」

「断る。お前の念は歪んじゃいるが、邪悪じゃない。オレはもう邪悪なヤツ以外は殺さないって、決めたんだ」

「何……!?」

「お前だって、地球を護るためにバルマー戦役を戦い抜いた戦士だろう? それに、かわいい女を好き好んで手にかけるような、倒錯した趣味はないよ」

「っ!?」

 

 アーマラを下し、ティターンズの精鋭部隊と雌雄を決さんとするプリベンターの前に現れたのは《グランゾン》、その真の姿《ネオ・グランゾン》だった。

 蒼き魔神を操るシュウ・シラカワの、まるでティターンズに協力するかのような行動に困惑するプリベンターへ、問答無用の攻撃を開始した。

 

「この期に及んでノコノコ現れて、なんのつもりだ! シュウ・シラカワ!」

「フフ、さて、どうでしょう? 私を倒せば、目的がわかるかも知れませんよ」

「チッ、相も変わらず胡散臭い! ……その機体に纏わりついたドブ臭い邪念、アンタのものじゃないな?」

「ほう……流石ですね、()()を感じ取るとは。最強の念動者、サイコドライバーは伊達ではないという訳ですか。やはりあなたは私の計画の邪魔になりそうだ、ここで消えてもらいましょう」

「やってみろ! シュウ・シラカワ!」

 

 煙に巻くような物言いで真意を隠すシュウに、イングとプリベンターの仲間たちが立ち向かう。

 マサキを始めとした魔装機神の操者たちの協力もあり、苦戦の末《ネオ・グランゾン》を撃破したプリベンターを謎の力が襲った。

 

「アーマラ!!」

 

 不可思議な現象が辺りを、イングは咄嗟に《アッシュ》の手をすぐ側で擱坐していた《EX》に伸ばす。

 しかしその手は届かず、イングの視界は真っ白に漂白されていった。

 

 

   †  †  †

 

 

 《ネオ・グランゾン》の開いたワームホールにより辿り着いた「惑星ゾラ」。プリベンターの面々は、散り散りになって各地をさまよっていた。

 それはもちろんイングも同様で、彼は一人、北アメリア大陸のウルグスクという“ドームポリス”に流れ着いた。

 成り行きで「ヤーパンの天井」の“エクソダス”に協力したイングは、ゲイナー・サンガやゲイン・ビジョウらとともに「シベリア鉄道警備隊」の追っ手と戦いながら、この星のどこかにいるであろう仲間たちを探して旅を続ける。

 

「ゲイナー、お前って、ゲームチャンプなんだって?」

「そうだけど、それがなにか?」

「いやさ、オレもそこそこ腕に自信があってね。ちょっと対戦してみない? あるんだろ、本体」

「本体って……まあ、いいよ。なんだか久しぶりにオーバーマン・ファイト、やりたくなってきたから」

 

 イングは《キングゲイナー》のパイロットであるゲイナーを始め、ヤーパンの天井の人々と交流を深めた。

 前世とも言うべき記憶によって、彼はこの惑星ゾラが地球のはるか未来の姿であると確信していた。

 眼前に広がる荒野、イージス計画の失敗により滅びた文明――

 自身の敗北による結果をまざまざと見せつけられ、複雑な思いに駆られるイング。一刻も早く仲間に合流し、なんとしてでも元の時代に戻る――楽天的でおちゃらけた彼らしくない焦燥感を抱え、焦っていた。

 そして、仲間たちと同じようにこの時代に流れ着いているかも知れないアーマラの身を心配していた。

 

 旅の最中、「中央大陸」を支配する「塔州連合」に対して反逆する「ゲッコーステイト」の空中戦艦《月光号》と遭遇し、済し崩し的に共闘して手を結ぶ。

 同じ中央大陸の政府組織に反発するもの同士、両者の協力はスムーズにすんなり行われた。

 そんな中イングは、ゲッコーステイトの見習い?である少年、レントン・サーストンと出会う。

 

「よお少年、お目当ての美少女とは仲良くなれたかよ?」

「あ、イング。それがぜんぜんなんだよ。ていうか、何話せばいいかわかんないし……」

「そんなの、当たって砕ければいいだろ」

「だよねー……って、いやいやいや、そこは砕けちゃダメでしょ!?」

「あはは。冗談だよ、ジョーダン。おもしろいヤツだよなー、レントンって。ホランドさんがかわいがるのも無理ないよ」

「……あれ、かわいがられてるのかなぁ。邪険にされてるだけじゃ?」

「ま、大の大人のツンデレってのもみっともないけどな。あの人なりに、お前のことを心配してるのは間違いない。オレが保証する」

 

 自分なりのアドバイスや人間関係のフォローをするイングは、《ニルヴァーシュ type zero》を操る少女エウレカの正体やレントンたちに待ち受ける過酷な運命に気づきながらも、静かに見守ることにした。

 そうするのは、覚束ない知識としてではなく、直に触れあった実感として彼らなら試練を乗り越えられるはずだと感じたからである。

 

 物資の補給のために立ち寄ったとある集落。

 ガンダムタイプのモビルスーツを保有する“バルチャー”、ニュータイプを保護するために旅をする《フリーデン》一行と遭遇した。

 町を散策していたイングは彼らと偶然親しくなり、寡黙なニュータイプの少女、ティファ・アディールと交流を持つ。

 

「……あなたも、特別な力を持っているんですね」

「おう、何を隠そう念動力者だ。読心や未来予知だって出来るぞ」

「……イヤじゃ、ないんですか……?」

「別に。いろいろ便利だしなぁ、超能力(このちから)。……そういうティファはその力、疎んでるんだろ?」

「……はい」

「知り合いのニュータイプが聞いたら怒られそうだけど、ニュータイプなんて大したもんじゃない。世界を変えられるわけでもないし、ましてやオレみたいに化け物じみた力があるわけじゃないんだ」

「……」

「そんなのを恐れたり、追い求めたりするヤツらの気が知れないよ。あ、これ、ジャミルさんの悪口じゃないぞ?」

「……あなたは、化け物じゃないわ」

「ふっ、そっか。ありがとな」

 

 いつか近い将来、少女が巡り会うであろう“道”に思いを馳せ、《フリーデン》一行と分かれた。

 

 旅は続く。

 大陸を南下した南アメリアの地にて、月からの帰還者「ムーンレイス」との抗争の渦中にある「ミリシャ」に保護されていた一部メンバーと、ようやくの合流を果たした。

 ミリシャの唯一とも言っていい機動戦力、旧世界の遺産、白い機械人形(モビルスーツ)《∀ガンダム》を見上げるイングにそのパイロット、ロラン・セアックが話し掛ける。

 

「ホワイトドール、ねぇ……」

「あの、何か?」

「いや、確かに神様みたいなモビルスーツだよなぁ、って感心してただけだよ」

「知ってるんですか、この機械人形のことを」

「知ってるっちゃ知ってるし、知らないと言えば知らないかな。別段重要なことでもないし、ロランにとっては関係ないんじゃないか」

「は、はあ」

「ようは使い方を間違わなければいいのさ。どんなに恐ろしい兵器だって、結局のところは使い手の心次第なんだから」

「そうですね……」

 

 ロランだけでなく、地元の令嬢ソシエ・ハイムと低レベルな口喧嘩をしたり、その姉キエル・ハイムにコナをかけてあしらわれたりと、イングは普段通りに新しい仲間たちと友好を深める。

 また、時を前後して同じく、ティファの能力により導かれた《フリーデン》とジュドーやウッソら、そして最新型のウォーカー・マシン《ザブングル》を擁すカーゴ一家の《アイアン・ギアー》と行動を共にしていた鉄也を始めとしたメンバーも加わり、一行は一気に大所帯となった。

 

 そんな中、イングは紆余曲折あって《ガンダムX》のパイロットに納まったガロード・ランに絡まれた。

 

「アンタ、イングってんだろ? ティファから聞いたぜ」

「なんだ少年、ヤキモチか?」

「や、ヤキモチって……そんなんじゃ……!」

「お前もたいがいあからさまだっつーの。……ま、そんな警戒することはないさ。何せオレは、通りすがりの念動力者だからね」

「なんだい、そりゃ?」

「お前がティファを死んでも護れってことだよ、ガロード」

「お、おう!」

 

 捻くれているようで根は素直な自称「炎のモビルスーツ乗り」を上手くノセたイング。ガロードとティファの行く末を見守り、手助けしようと心に決めた。

 新西暦の頃のように面倒見の良さを発揮して、意気投合したガロード、ゲイナー、レントンの三人から年の近い兄貴分として慕われることになる。

 

 義理と恩を返すため、イングは「ヤーパンの天井」の旅を助けることを決め、ニュータイプがいるというフォートセバーン市へ向かう《フリーデン》に同行するメンバーや、あるいはそのまま「ビシニティ」に残るメンバーとは道を違えることとなる。

 再びの再会を誓い、イングは仲間たちと別れた。

 

 その後、《アッシュ》の《TーLINKセイバー》が盗まれたり、レントンが《月光号》から家出したり。誤解やすれ違い、苦難を乗り越えて一行は進む。

 道中、SRXチームのリュウセイとヴィレッタと合流することができ、イングは親友との再会を喜ぶ。

 

 ビシニティに残ったメンバーが見つけ出した《アーガマ》、フォートセバーン市にむかった《フリーデン》、そして《アイアン・ギアー》と再び合流した一行。

 彼らは、大気の異常が見受けられた地域へ調査に向かっていた。

 そこでプリベンターは、《ネオゲッターロボ》による強襲を受ける。

 激突する《マジンガーZ》と《ネオゲッターロボ》。困惑する甲児らプリベンターは苦戦を強いられるが、その時、瓜二つの《ネオゲッターロボ》に乗った號、翔、剴と《ゲッタードラゴン》を駆る竜馬、隼人、弁慶が駆けつけた。

 新ゲッターチームと元祖ゲッターチーム、二体の《ゲッターロボ》の抜群のコンビネーションにより大破した《ネオゲットマシン》三機のコックピットには同じ顔の人間――、かつての大戦で戦死した「巴武蔵」、そのクローン人間の姿があった。

 その裏には、かつて元祖ゲッターチームとホワイトベース隊の前に敗れ、滅びたはずの「恐竜帝国」の影が蠢く。

 地上を我が手に――、新たな指導者、恐竜女帝ジャテーゴの下、遙か未来においても彼らは地球支配を諦めてはいなかったのだ。

 

 恐竜帝国を辛くも退けたプリベンターの激戦は続く。

 「シベ鉄」の刺客、心の声を暴くサイコ・オーバーマン《プラネッタ》の能力による仲間割れとそれに伴う「告白合戦」による混乱、エウレカの変調など乗り越えて――

 塔州連合「アゲハ部隊」からの刺客、強敵《ニルヴァーシュ type the END》及び《ドミネーター》に苦戦するプリベンターの前に、()()は現れた。

 突如戦場に乱入した漆黒の機動兵器は両機に攻撃を加えあっという間に退けると、今度は《アッシュ》に斬りかかりフェイスガードに傷跡を刻む。

 

「フフフ……見つけたぞ、イング」

「グ……ッ! その声、アーマラか? だがその機体は……」

 

 謎の機動兵器のパイロットが新西暦での因縁の相手だと知り、イングは驚きと安堵を覚える。

 三度プリベンターの前に現れたアーマラ・バートン。彼女の駆る機体、《ヒュッケバイン》の面影を残したその姿は、かつて激闘を繰り広げた同じ色の堕天使を思わせた。

 

「このガリルナガンで、貴様を刈り取る! そして今度こそ、私の価値を証明してみせるのだ!」

「こんな状況で、まだそんなことを……!」

「黙れ! 貴様にはわかるまい、どれだけ血反吐を吐いて努力しても認められない者の惨めな気持ちが!」

 

 何者かの手により変貌した《ヒュッケバインEX》――《ガリルナガン》は、圧倒的なパワーで《アッシュ》に襲い掛かる。

 未知の技術――否、バルマー帝国を由来すると思われる超技術により強化された《ガリルナガン》と、有り合わせの資材で急造された《アッシュ》のスペックの差は歴然。さしものイングも苦戦を強いられた。

 

「やめろ、アーマラ! オレたちがこんなところで戦う必要なんてない! 今は協力して、一刻も早くオレたちの時代に戻ることが先決だろうが!」

「そんなもの、どうだっていい! 貴様を討てれば、それで!!」

「馬鹿が! そうやってエゴを丸出しにするから、お前の念は不完全なんだ!」

 

 言葉とともに強念が迸り、《TーLINKセイバー》と《バスタックス・ガン》が激突して火花を散らす。

 焔を巻くかのような《ガリルナガン》の猛攻に圧倒される《アッシュ》。マクロスシティでの決戦とは全く逆の展開が繰り広げられる。

 だが、イングは一人で戦っているわけではない。

 ガロードの《ガンダムX》、ゲイナーの《キングゲイナー》、レントンとエウレカの《ニルヴァーシュ》。そしてロランの《∀ガンダム》やジロンの《ザブングル》、プリベンターの仲間たちが加勢に入り、形勢は逆転した。

 

「ちぃ、邪魔が入ったか」

「アーマラ!」

「決着は預けるぞ、イング。貴様を倒すのはこの私だ、それを忘れるな」

 

 捨て台詞を残し、急速に離脱していく黒き狩人。その常軌を逸した速度に追いつける機体は皆無だった。

 

「っ、馬鹿野郎……!」

 

 見えなくなったライバルの機体を視線で追いかけて、イングは苛立ちを吐き捨てた。

 





 New! 漫画版ゲッターロボ號、小説版スーパーロボット大戦


 メインヒロイン、アーマラの登場です。
 題名が変わってるのはこれがガリルナガンのBGMの想定だからですね。THE ARROW OF DESTINYが単純に好きだってのもある。

 なお、プロフェッサー・ランドウは現代編で退場している模様。恐竜帝国の前座だからね、仕方ないね。
 ちなみに、小説版スーパーロボット大戦のエピソードは甲児くんが裏で消化してます。α外伝はダイジェストだからね、仕方ないね。

 旧作でもここで小説版設定を突っ込むことも思い付いてたのですが、諸事情によりボツにした経緯があります。
 クローン武蔵がやりたくてもできなかったのだ(^ω^)


 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 さすがはHi-ν、じわじわ追い上げ逆転する様は面白かったです。負けたユニコーンくんはお蔵入りです。あんなのにバナージ乗せたら溶けちゃうからね、仕方ないね。



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α外伝-2「神々の黄昏」

 

 

 《ダイターン3》で《アイアン・ギアー》と大立ち回りを演じた万丈、獣戦機隊と合流した一行。

 イングは、リュウセイ、ヴィレッタとアーマラ及び《ガリルナガン》について話し合っていた。

 

「アーマラ・バートン……あの娘は、もしや……」

「やっぱヴィレッタ隊長も、あのガリルナガンってメカが気になるのか?」

「あからさまに“あの人”に関わり合いそうだもんな」

「え、ええ、そうね。確かにあれはヒュッケバインEXを母体にし、バルマー帝国の、そしてアストラナガンに共通した技術が用いられているようだ」

「まさしくヒュッケバインキラーって訳だな」

「リュウセイ、そういう不吉なネタは止めろよな。アッシュが張り付けにされるだろうが」

「あはは、わりぃわりぃ」

「ったく……それで大尉、“あの人”――イングラム少佐が裏で糸を引いている可能性は?」

「ごめんなさい、わからないわ。彼はあの決戦の後、姿を眩ましてしまったから。……それに、イングラムなら彼女を選んだりはしないはず」

「? それってどういう……?」

「いえ、何でもないわ。今の言葉は忘れなさい」

 

 

 ローレライの海。

 そこに、もう一機の《ガンダムX》――かつてのジャミルの愛機が存在するとの情報を得て、一行を待ち受けていたのはティファの身柄を狙うフロスト兄弟の罠であった。

 

「念動力者……厄介だな。早々に舞台から退場して頂こう、オルバよ」「そうだね、兄さん」

「ゴタゴタうるせえぞ、ゲテモノ兄弟ッ! テメェらの事情なんざ知ったことか! 謂われのない迫害には同情してやるが、それを世界に八つ当たりするのは筋が通らねぇ!」

「ッ! 貴様、私たちの思考を読んだか!?」

「邪念にまみれたエゴが丸出しなんだよ、三下ァ!」

 

 フロスト兄弟との戦い。ガロードが奪った新たなる“ガンダム”、《ガンダムダブルエックス》と一時的にニュータイプの力を取り戻したジャミルの操る《Gビット》が罠を打ち破り、彼らは退けられた。

 そして、かつて滅びたはずの「ミケーネ帝国」の戦闘獣が地上に再び姿を現したとき、イングは因縁の相手と再会する。

 

「ドリルに、斬艦刀……グルンガスト参式! ならば、あの特機のパイロットは――」

「IFFに識別反応? ……ヒュッケバインEXだと?」

「何万年ぶりになるかは知らないが、奇遇だな、ゼンガー・ゾンボルトッ!」

「貴様、何者だ」

「へぇ、脳みそを洗われたか? まあいいさ、月並みなセリフで恐縮だが、ここで会ったが百年目ってね!」

 

 大地の守護神《スレードゲルミル》。かつての敗北の借りを返すとばかりにイングは猛攻をかける。

 だがその戦いは、ゼンガーの仲間である「アンセスター」のウルズの介入により、中断を余儀なくされる。

 

 プリベンターとアンセスターの会合の最中、イングはウルズから接触を受けていた。

 

「イングと言ったね。どうかな、アンセスターの仲間にならないかい? キミのような特別な存在は、僕らアンセスターと共にあるべきだ」

「特別扱いしてくれるとは光栄だね。――だが断る」

「……キミが僕らと同じ人造人間、マシンナリー・チルドレンだとしても?」

「ハッ、そんなもんとっくの昔に知ってら。だけどな、勝手にお前らと一緒にすんなよ。オレはオレだ、オレの生き方はオレが決める」

「……いいだろう。その選択を後悔するといい、イーグレット・イング」

「それはこっちのセリフだ、イーグレット・ウルズ」

 

 イングはウルズの誘いを一考だにしなかった。

 それは知識によるものだけではなく、直接相対して微かに感じた邪悪な思念を根拠とした拒絶だった。

 

 浚われたティファとエルチを救い出すため、イングの旅は新たな局面を迎える。

 ささいな、あるいは根深いすれ違いが原因で、プリベンターの仲間たちは仲違いを起こす。 

 キエルが月の女王ディアナ・ソエルと入れ替わっていた事実を、號が知っていて黙っていたことを発端としたゲッターチームの内部分裂。直情的な翔は元より、普段は二人の間を取り持つ剴が不満を爆発させたことで拗れてしまう。イングは両者の念の違いから入れ替わりを見抜いていたが、ディアナの心情を思いやってあえて放置していたことを悔いた。

 さらに、襲い来る恐竜帝国と《真・ゲッターロボ》。チームワーク不全の中、號たち新ゲッターチームと《ネオゲッターロボ》は決死の覚悟で“本当のゲッターロボ”に戦いを挑む。

 炸裂するプラズマサンダー。

 だがしかし、《真・ゲッターロボ》の圧倒的な力を前に無惨にも倒れ伏す《ネオゲッターロボ》。

 絶体絶命の大ピンチ。

 そこに駆けつけたのは元祖ゲッターチームと《ゲッタードラゴン》。“ゲッターロボ”と“ゲッターロボ”が再び対決する。

 

「馬鹿な! 真ゲッターだと!? 爬虫人類どもに、ゲッター線が扱えるはずがない!」

「おい! こりゃあさすがに不味いぞ、竜馬!」

「わかってる! だが、どいつが操縦してやがる!? この動き、まるで……!」

「武蔵先輩みたいじゃねぇか!」

「また武蔵のクローン人間か!?」

「蜥蜴野郎がッ、ふざけやがって! ぶっ潰してやる! 隼人ッ、弁慶ッ! 気合いを入れろ!!」

「「おう!!」」

 

 《真・ゲッターロボ》を辛くも退ける《ゲッタードラゴン》とプリベンター。

強敵を乗り越えることで、號たち新ゲッターチームはまた結束を強めた。

 そして、竜馬たちゲッターチームやかつてのホワイトベース隊のメンバーは、亡き戦友を弄ぶ恐竜帝国とミケーネ帝国に激しい闘志を燃やすのだった。

 

 

 洗脳されたエルチがイノセント強硬派の私兵として一行の前に敵立ちふさがり、《アイアン・ギアー》隊内に少なくない混乱が広がる。

 

 恐竜帝国の地球環境の改造に合わせるかのように出現した謎の生命体群――“抗体コーラリアン”。

 遙か昔、イノセントとムーンレィスの祖先が傷ついた地球を癒すために撒布し、大地を覆い尽くした生命体「コーラリアン」の一種であり、生物を無差別に殺戮する凶悪な存在。ゲッコーステイトの真の目的は彼らコーラリアンとの対話と、彼らの完全な覚醒により訪れる「クダンの崩壊」と呼ばれる致命的な宇宙の破綻を回避することだった。

 さらに、エウレカが人間ではなくコーラリアンであることが発覚し、プリベンター内には少なからぬ動揺が広がっていた。

 

「エウレカが、人間じゃなかったなんて……」

「……それ、そんなに気にするようなことか?」

「だ、だって……、人間じゃないんだよ!? 俺たちとは違う、コーラリアンってわけわかんないので――」

「そうはいうがな、レントン。お前、オレが人造人間だって知ってるだろ? プルは同じようにクローンで身体機能イジられてるし、剛さんちの三兄弟なんか異星人を父親に持つハーフだ」

「あ……」

「もう一度言うぞ。お前の気持ちは、()()()()()で変わるような、安っぽいものだったのか?」

「ごめん……俺がバカだった。そうだよね、エウレカがなんだって関係ないよな。ありがとう、イング!」

「おう。現実なんかに負けんなよ、レントン!」

 

 辛い真実を乗り越えたレントンとエウレカの成長に合わせ、進化を果たした《ニルヴァーシュ type ZERO spec2》が大空を駆け、黒い《ニルヴァーシュ》を退けた。

 「シベリア鉄道公社」総裁キッズ・ムントの思惑により永き眠りから復活した最凶最悪のオーバーマン、《オーバーデビル》。心すらも凍結させる恐るべき力「オーバーフリーズ」によってサラが、そしてゲイナーが取り込まれてしまうものの、ゲインやガロードたちとの熱い友情と自身の強い心によって復活。仮初めの姿(オーバー)を脱ぎ捨てた《キングゲイナー》――その名も《XAN-斬-》が、《オーバーデビル》を再び眠りにつかせる。

 旅路の障害をすべて取り除いたヤーパンの天井は目的地、ヤーパン――かつては日本と呼ばれた地域へと旅立っていく。

 

「本当によかったのか、一緒に行かなくて」

「いいんだ。僕は僕のエクソダスを探したい……だからまず、この星を平和にすることから始めようと思う。プリベンターのみんなに協力してね」

「へぇ、元ヒッキーのゲイナー君からそんな勇ましい言葉が聞けるとはね。お兄さんビックリだ」

「……イング、バカにしてるの?」

「してないよ。ま、そういうことなら歓迎するよ。改めて、よろしくな」

 

 ゲイナーやゲイン、サラなどの一部のメンバー、そして《ドミネーター》のパイロットとして幾度となく交戦したシンシア・レーンがプリベンターに残り、地球の平和を取り戻すために尽力することを約束した。

 

「で、アナ姫はご自宅にお帰りにならなくてよろしいので?」

「わたくしも、この星に住まう民の一人としてプリベンターの皆様に協力いたします。月のディアナ様だっていらっしゃるんですもの。……それに、もしものときはイングが護ってくださるのでしょう?」

「もちろん御守りいたしますよ、姫様」

 

 

 月と地上の争い、そして塔州連合からの妨害が激しくなる中、ヨップポイントに幽閉されたイノセントの指導者アーサー=ランクを救出に乗り出す一行。

 陥落させたヨップポイントに月勢力のモビルスーツ部隊が降下する。ティファを連れて月に帰還することをもくろむフロスト兄弟。新たな力、《ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイク》、《ガンダムアシュトロン・ハーミットクラブ》を手に入れた彼らが用いた最悪の兵器、核が天地を灼く。

 

 激化する人々の争いを止めるべく、プリベンターは地球と月に別れて悪意の根本を叩く。

 イノセントの拠点「Xポイント」に向かう《アイアン・ギアー》。精神操作されたエルチを解放する。

 ムーンレィスから奪還された《ラー・カイラム》が宇宙へ翔ぶ。月のムーンクレイドル、“D.O.M.E”との接触し、封印された“黒歴史”を垣間見る。

 そして降臨する月の“戦闘神”。ギム・ギンガナムの《ターンX》とロランの《∀ガンダム》が激突し、《月光蝶》の輝きが空を覆う。

 

 別れたヤーパンの天井からの情報で、エイジア大陸近くにある「ロストマウンテン」に調査に向かうプリベンター。

 かつての日本――、今はヤーパンと呼ばれた地で、恐竜帝国に奪われた《真・ゲッターロボ》が牙を剥く。

 バット将軍の決死の覚悟により、人類の守護者は最悪の悪魔となり果てた。 

 

「くそっ、サイバスターでも追いつけねぇ! わかっちゃいたが、無茶苦茶だぜ真ゲッター!」

「このままじゃ甲児さんがヤバイぜ、イング!」

「わかってる、だが――ッ!? この思念、まさか……!」

「! ああ! 絶体絶命の大ピンチに後継機っ、アニメみたいな燃える展開だぜ!」

「――来るのか、魔神皇帝が!」

 

 《真・ゲッターロボ》と恐竜帝国の前に絶体絶命の危機に陥るプリベンター。捕らえられた甲児のピンチに、遥かなる時を超えて最強の魔神“魔神皇帝”が蘇る。

 対決する《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》。天地を揺るがす鋼の巨神同士の戦いは、仲間と、そしてマジンガーとの友情によりプリベンターの勝利に終わった。

 《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》――心強い戦友にして最強のスーパーロボットたちを仲間に加え、プリベンターの戦力はかつてのロンド・ベルと比べても遜色のないものとなった。

 

 そして――

 

 

    †  †  †

 

 

「アーマラ! なぜアンセスターに力を貸す! ヤツらはお前を利用するだけして、最後は殺すつもりだぞ!」

「言ったはずだぞ、イング! 私は貴様を倒せればそれでいいのだと!」

「手段と目的をはき違えるな!」

「うるさい、黙れ!」

「このッ、分からず屋が!!」

 

 荒れ果てた大地の上空で、《アッシュ》と《ガリルナガン》が激突する。

 

 この未来世界においても姿を現したカーメン・カーメン、ヌビアコネクションを打倒したプリベンター一行の前に、ゼンガー・ゾンボルトの《スレードゲルミル》とアーマラ・バートンの《ガリルナガン》が現れた。

 仲間の協力で《スレードゲルミル》を退けたイングは、助太刀を辞してアーマラとの一対一の決着に挑む。己の力だけで彼女に勝利し、その歪んだ――歪められた妄執を断ち斬らんと。

 

「奴を逃すな、ガリルナガン!」

「迎え撃て、アッシュ!」

 

 魂魄から肉体を通じて発現する力――強念が両者の鋼鉄の巨神を機動させ、天地を揺るがす。

 重力の砲撃が、遠隔誘導兵器が、剣と斧が閃いた。

 

「ぐあ……っ!? ッ、あんな継ぎ接ぎの機体に、ガリルナガンが押されているだと!?」

「阿呆が! 機体のスペック頼りで、中身が劣化してるんだよ!」

 

 イングはロンド・ベルの一員として、バルマー戦役の最前線を生き抜いた歴戦の戦士である。アーマラとてそれは同じだろうが、その密度や質は段違いと言っていいだろう。

 何者かから与えられた基礎能力に経験に裏打ちされた高い技量、そしてこの未来世界においてなお高まり続ける彼の念が合わさり、ついには絶対的な機体性能の差を覆したのだ。

 

「おのれイングッ、イーグレット・イング!! 虚空の彼方に消え去れ!!」

 

 激昂するアーマラは機体のリミットを解除し、放つ一撃に必殺の意志を掛ける。

 

「TーLINK、フルコンタクト! 唸れ、トロニウム・レヴ!!」

 

 《ガリルナガン》の漆黒の外装に施された真紅の意匠が輝き、放出されたアキシオンが幾何学的な文様を虚空に描き出す。

 陣の中央に設置された《バスタックス・ガン》、それから放たれた幾条もの紅黒い光によって生み出された法陣が《アッシュ》を捕らえ、無数の黒い弾丸が打ち据える。

 そして、球体状の結界が形成された。

 

「デッドエンド・スラァァァァッシュ!!!」

 

 アーマラの叫びと共に振り抜かれた《バスタックス・ガン》。結界が切り裂かれ、大爆発を引き起こした。

 

「やったぞ! これで私が最強の――」

「――誰が誰をやったって?」

 

 《ガリルナガン》の最強兵器、《アキシオン・アッシャー》により勝利を確信したアーマラに冷や水をかける声。

 爆煙が晴れ、手負いの騎士が姿を現す。

 

「ば、馬鹿なっ、アキシオン・アッシャーを耐え抜いただと!?」

「勝利を前に勝ち誇るのは、三流の証拠だぜ?」

 

 イングが不敵な言葉を言い放つ。

 パッチアーマーの大部分とコーティング・クロークを失ってはいたが、確かに《アッシュ》は健在だった。

 イングの強力な念動フィールドに護られ、致命傷を免れたのだ。

 

「アーマラ、お前の歪んだ願いを解放してやる。――TーLINK、フルコンタクト! オォォバァァァッドライブッ!!」

 

 イングの人知を超えた強念がTーLINKシステムのブレーカーを落とし、強制的にウラヌス・システムを発動させた。

 しかし、搭乗者の念を際限なく吸い取るウラヌス・システムですら、彼の莫大な念には耐えきれず、サーキットは悲鳴を上げる。

 

「限界を超えろ、アッシュ! ヤツの魂を縛る邪念、それを今断ち斬る!!」

「き、機体のコントロールが……! ガリルナガンのTーLINKシステムに、外部から干渉しているとでも言うのか……!?」

 

 天地を揺るがす強念によりゆっくりと浮かび上がる《アッシュ》から、鮮烈な蒼白い光を放出される。

 物理現象を伴った膨大な念動波が、機能不全を起こして身動きの取れない《ガリルナガン》を襲う。

 

「オオオオ――ッ!!!」

 

 内外からの干渉で、完全に動きを封じられた《ガリルナガン》を眼下にする《アッシュ》。肩に担いだ《TーLINKセイバー》の刀身を、目に見える念動波が包み込む。

 迸る蒼白の輝きは、さながら《スレードゲルミル》の《斬艦刀》のように長く、そして雄々しく延びていく。

 

「行くぜ、アーマラ! 念動解放! 極大ィィイイッ、念、動、破、斬……けぇぇぇぇん!!!」

 

 振り下ろされる光の剣。煌めく極光を伴った大斬撃が、《ガリルナガン》に降り注ぐ。

 切っ先が大地を貫き、巨大な亀裂を走らせる。

 漆黒の狩人は、溢れる光の濁流に飲まれていった。

 

 

 《極大念動破斬剣》の直撃を受けて墜落した《ガリルナガン》は白煙をあげ、山肌にもたれ掛かるようにして停止していた。

 狭く、薄暗いコクピットで膝を抱えた()()の髪をした少女は、頭上から射し込んだ光にゆっくりと顔を上げる。

 真赤な夕日に染まる銀色の髪――

 

「――なんだ、やっぱかわいい顔してんじゃん」

 

 銀髪の少年――イングが快活な笑みを浮かべて言う。

 ルビーのように紅い瞳は、どこか面白がるような色が浮かんでいた。

 

「……なぜ、トドメを刺さない」

「何度も言うが、オレは邪悪なヤツ以外は斬らないんだよ」

「……私に生き恥をさらせと言うのか」

「違うって。どうしてお前って、いちいち物騒な考えた方しかできないの?」

 

 今なお頑ななアーマラの態度に呆れ顔をしたイングは表情を改め、朗々と語り始めた。

 

「オレは、マシンナリー・チルドレン――、父も母もいない作り物だ。きっとこの“世界”にとっては()()なんだろうな……だけど、そんなオレにも仲間ができて、世界を、地球の平和を護れてる。お前のいう“価値”を手に入れることができたんだ。これって、すごいことだと思わないか?」

「私は……」

「帰ろうぜ、アーマラ。オレたちの時代にさ。後のことは、それから考えればいい。なんだったら、また挑戦してこいよ。殺し合いは御免だけどな」

「……本当に、帰れるのか……?」

「根拠なんてねぇよ。でも、そうなるし、そうするべきだって思ってる」

 

 イングはなんの迷いもなく断言した。

 不敵で不遜な、けれどどこか頼もしい物言いに、思わずアーマラから笑みが零れた。

 

「さあ、そんな狭いところで丸まってないで、出てこいよ」

「…………」

 

 再び明るい笑みを浮かべ、少年は手を差し出す。

 少女はわずかに逡巡し、そして躊躇いがちに手を取った。

 

 

   †  †  †

 

 

 アーマラと和解し、彼女を仲間に加えたイングとプリベンターは、未来世界の争いにピリオドを打つべく決戦に赴く。

 

 旗艦《ラー・カイラム》の格納庫。

 予備のパッチ・アーマーとコーティング・クロークを取り付けられた《アッシュ》の前で、イングはリュウセイ、ヴィレッタとともにアーマラから話を聞きだしていた。

 

「アーマラ、アンセスターについて、何か知っていることがあれば教えてくれないか」

「……おそらく私の知識は、お前たちが知っていることと大差ないだろう。この時代に来た私を保護したのが彼らだったが、イングの言うとおり利用されていたのだろうな、重要な施設などには近付けなかった」

「じゃあ、ガリルナガンは? あれはどんな機体なんだ?」

「ヤツらは、ブラックボックスがどうのと言っていたな」

「ブラックボックス……?」

「ああ。それを解析して得ることのできた技術の極一部を、試験的にEXに組み込んだのがガリルナガンなのだそうだ」

「なるほど、ね。……そのブラックボックスとやら、オレたちの時代に帰る鍵になりそうだな」

「? どういうことだよ?」

「もしも、そのブラックボックスとやらが少佐の“あれ”なら、それくらいできそうだろ?」

「そりゃ言えてるな」

「……(相変わらず、妙なところで核心を突く子ね)」

 

 

 ギンガナム艦隊との決戦。

 

「この世界を、黒歴史にさせてたまるかぁーっ!」

 

 自らのエゴを肥大化させ、戦争のための世界征服をもくろんだギンガナムは、激闘の末《∀ガンダム》の《月光蝶》により消滅。ティターンズ、そしてギンガナム軍により操られていたカテジナ・ルースは辛くも生き残り、ウッソと和解することができた。

 Xポイント。封印を解かれた核兵器が乱れ飛ぶ中、ジロンは《ウォーカーギャリア》で因縁の相手ティンプ、そしてイノセントの黒幕カシム=キングと決着をつける。

 

「過ちは、繰り返させない!」

「……あなたに、力を……」

 

 ガロードとティファの絆が《ガンダムDX》に力を与え、時代を拓くために戦争という手段しか取れないフロスト兄弟と、黒歴史に魅了されて離反したグエンと《サイコガンダム(ブラックドール)》に引導を渡す。

 こうして強敵たちを退け、プリベンターは黒歴史の再現を防いだのだった。

 

 塔州連合の地殻貫通弾「オレンジ」によるコーラリアン殲滅作戦――

 《spec3》に最終進化した《ニルヴァーシュ type ZERO》とレントンが《抗体コーラリアン》の群を突破して、「指令クラスター」とされたエウレカを救うべく大空を行く。

 プリベンターとゲッコーステイトのメンバー、ガロードやゲイナーの活躍で見事エウレカは救い出され、コーラリアンは人類と和解し宇宙へ旅立つ。

 

 コーラリアンの一部が新天地を求めて地上を離れ、静まったのを待ちかねていたようにミケーネ帝国と恐竜帝国が地上を手中に収めるべく、本拠地「マシーンランド」を露わにして最終決戦に打って出た。

 激戦に次ぐ激戦。

 敵の大軍勢を前に窮地に陥ったプリベンターを助けるため、銀色に染まった《ニルヴァーシュ type the END》とアネモネが、塔州連合やディアナカウンターの心ある者たちとともに参戦。ミケーネ帝国の首領――闇の大帝ことギャラハンはその“鎧”ごと倒され、恐竜帝国の女帝ジャテーゴもまた轟沈する《無敵戦艦ダイ》と運命をともにした。

 

 地上に残る戦乱の元はアースクレイドル、アンセスターのみ。

 アースクレイドルの直上で、プリベンターとアンセスター、この時代の未来を掛けた最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 新西暦からの因縁を断つべく、イングは大地の守護神《スレードゲルミル》に立ち向かう。

 

「決着をつけるぞ、ゼンガー・ゾンボルト!」

「我が剣に賭けて、メイガスの許には行かせん!」

「無駄だ! 悪を斬らぬ貴様の曇った剣など、オレには届かん!!」

 

 《星薙の太刀》を潜り抜けて放たれた《アッシュ》の渾身の一太刀を受け、倒れた《スレードゲルミル》。それにより正気を取り戻したゼンガーを仲間に迎え、プリベンターはアースクレイドルを目指す。

 ――“マシンセル”の散布による人類抹殺を目指すアンセスター、メイガスの暴走を食い止めるために。

 

「まさか、アンタと(くつわ)を並べて戦うことになるとはな」

「お前の一太刀、確かに俺の魂に届いた。見事な剣だった……礼を言う」

「へへ……ま、達人のアンタからそう言われるのは悪い気しないな」

 

 

 アースクレイドル内部。

 突入したプリベンターを、《量産型ヒュッケバインMkーII》がマシン・セルにより変異した大量の《ベルゲルミル》が迎え撃つ。

 

「ウルズ! お前たちの相手をしている暇はない、そこを退け!」

「くっ! そんな旧式のパーソナルトルーパーで、僕とベルゲルミルと互角に渡り合うなんて!」

「パイロットの差だな、イーグレット・ウルズ!」

「これだけの力を持ちながら、どうして愚劣な人間の味方などをする! イーグレット・イング!」

「オレは、お前たちのようにヒトに期待してないからな。過度に期待していないから、どんなことだってありのままに受け止められる。それだけだよ!」

「期待!? 馬鹿なっ、僕らは新人類、この地球の正当なる後継者だ。愚かな人間などに期待を掛ける道理がない!」

「なら何故、何万年もたった今になって行動を起こした? 新人類だ何だ、核ミサイルだ何だと言ってるが、お前らは結局のところ人類に期待していたんだろう? それを裏切られて逆上している。違うか!?」

「っ、黙れッ、黙れェェェエエ!!」

 

 イングと《アッシュ》は自身の兄弟、あるいは分身とも言える三人のマシンナリー・チルドレンと《ベルゲルミル》を撃破する。

 そして――

 

「我が名はメイガス、アンセスター、そして地球の管理者……。人間共よ、お前達は地球という巨大なシステムには不要な存在……お前達が長きに年月に渡って愚かな戦いを繰り広げ、地球を汚染し続けて来た罪は、このアウルゲルミルによって裁かれなければならない……!」

 

 アンセスターの首魁、メイガス――アースクレイドルのメインコンピュータとマシンセルによって操られたソフィア・ネート博士との決戦を迎えた。

 

「認めよう、イーグレット・イング。我々は人間に期待していた。それ故に、長い時を雌伏し、世を見守り続けていたのだ」

「潔いじゃないか、メイガス! なら改心して思い直すか?」

「だが、それだけに理解できない。どれだけの時を経ても変わらない人間の醜悪さを目の当たりにしたお前が、どうしてその人間のために戦えるのです?」

「ただ、信じているからだ」

「信じる? 何を?」

「ヒトの心の光ってヤツをさ!」

 

 アースクレイドルの根幹コンピュータがマシン・セルによって変貌したモノ、メイガスそのものとも言える機動兵器《アウルゲルミル》。薔薇の花弁と(イバラ)をイメージさせる機械の女神が、人類に裁きを下そうとプリベンター連合軍と対峙する。

 《アウルゲルミル》はバルマー戦役、そしてこの未来世界での戦いを勝ち抜いたプリベンターをして圧倒するほどの力を有していた。

 

「コンビネーションアタックでいくぜ、イング!」

「応ッ、TーLINKダブルコンタクト! シーケンスTDK!」

「天上!」

「天下!」

「「念動連撃拳ッ!!」」

 

 《アッシュ》と《Rー1改》の拳が《アウルゲルミル》を打ち据える。

 《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《Hiーνガンダム》、《ダイターン3》、《ブライガー》、《Zガンダム》、《YFー19》――新西暦からの仲間たちが。

 《∀ガンダム》、《ウォーカーギャリア》、《ガンダムDX》、《XAN-斬-》、《ニルヴァーシュ type ZERO spec3》――未来世界で出会った仲間たちが。

 プリベンターの総力戦。怒涛の攻撃により、《アウルゲルミル》はマシンセルでも癒しきれない大ダメージを負ったのだ。

 

「おい、イング! あのメカは――」

「ああ。あれが例のブラックボックスってヤツか……予想通りだよ、畜生め!」

 

 追い詰められたメイガスは、《アウルゲルミル》によって支配したブラックボックス――見るも無惨な姿となった《アストラナガン》の“ティプラー・シリンダー”を用い、過去の改竄を目論む。

 開かれたタイム・ゲートを潜り抜けた先に広がっていたのは、新西暦一八八年、月面はムーンクレイドル。

 未来世界の戦いにおいて重要な部分を担った場所であり、今まさにイージス計画が発動するそのときだった。

 

 ムーンクレイドルを破壊し、未来を確定させようとするメイガス。新西暦に残っていたSRXチームを仲間に迎えたプリベンターは、それを阻止しようと決死の抵抗を続ける。

 

「ヒトが同じ愚行しか繰り返さないのは、黒歴史が証明している……私はそのメビウスの輪を断ち切るのだ」

「そのヒトから生まれた存在がよくも言う! アンタのその行為すら、メビウスの輪の一部だってことを解れよ!」

「愚かだな、メイガス。ある男が言っていた――貴様が抹殺しようとする人類もまた、天然自然の中から生まれたもの、いわば地球の一部! それを忘れて何が自然の、地球の再生だ! 共に生き続ける人類を抹殺しての理想郷など、愚の骨頂ッ、とな!」

「おっ、アーマラ良いこと言うじゃん」

「フッ、褒めるなイング。ただの受け売りだ」

「ッ、世迷い言を……!」

「メイガス! 貴様の邪念、この俺が断ち斬る!」

 

 イングは自らのルーツ、その因縁を断つべく剣を振るう。

 激闘の末、メイガスを撃破したプリベンター。ほっとしたのも束の間、マクロス・シティで倒したはずのシュウ・シラカワが《グランゾン》とともに再びプリベンターの前に立ちはだかった。

 

「もう一度聞くぞ、シュウ・シラカワ! 貴様の目的は何だ!?」

「この世界を正しい姿に戻すためですよ。全てを“破界”し“再世”することによって、世界は救われるのです」

「何にとっての正しい姿、誰にとって救いだ!」

「フッ……何であれ、元凶は根源から断たねばならない……いずれ、 それをわかる時が来ることでしょう。最強の念動者……最も()()に近いサイコドライバー、イーグレット・イング、あなたは特にね」

「何……!?」

 

 強敵《メカギルギルガン》と《ゴーストXー9》を引き連れて現れた彼は、もはや問答無用とばかりに《ネオ・グランゾン》で攻撃を仕掛ける。

 《縮退砲》の恐るべき威力に壊滅的な打撃を受けるプリベンター。だが、彼らは諦めない。連戦により満身創痍になりながらも、果敢に立ち向かう。

 そして死闘の末、マサキの精神の高ぶりに呼応して精霊憑依(ポゼッション)した《サイバスター》の《コスモノヴァ》が、《ネオ・グランゾン》にトドメを刺した。

 

「み、見事です、マサキ……このネオ・グランゾンを倒すとは……」

「シュウ!」

「これで、私も悔いはありません……戦えるだけ戦いました……。全てのものは……いつかは滅ぶ……今度は私の番であった、それだけのことです……。これで私も、全ての鎖から解き放たれることが……出来、まし、た……」

 

 爆発する《ネオ・グランゾン》と運命を共にするシュウ。

 

「シュウ……、バカな……ヤツだったぜ……くそっ!」

 

 

 結集したプリベンターのスーパーロボットたちの超エネルギーによりイージス計画は発動し、超重力崩壊による危機は回避された。

 ここに未来は分岐し、新たなる時を刻み始める。

 ソフィア・ネートとしての自我を取り戻したメイガスは、自身の行いを悔い、未来世界の人々をあるべき場所へと還すために最後の力を振り絞る。

 

「アンタも帰るんだな、ゼンガー」

「……ああ。メイガスを、ソフィアの魂を未来に送り届けてやらねば。俺たちが在るべき場所は、あの未来だ。この時代ではない」

「そっか」

「……イング。もし、この時代の俺に出会ったときには――」

「そのときには、改めてケリをつけてやるよ。遠慮なんてしねーから安心しろ」

「フッ……災難だな、この時代の俺も」

 

「イング、プリベンターのみんな、僕らの世界を護ってくれてありがとう。みんなのおかげで、僕らは前に進めた気がする」

「イングのアドバイスがなかったら、俺、エウレカとわかりあえなかったかもしれない。ほんとにありがとう!」

「じゃあなみんなっ、元気でな!」

 

「ああ、お前らもな! あと、サラとエウレカとティファと仲良くしろよ。羨ましいぞチクショウ、爆発しろ!」

 

「さ、最後の最後でそれかよぉ」

「あははは……まあ、イングだしね」

「変わらないよな、アイツは」

 

 仲間と、友との別れを告げるイング。

 彼らは《アウルゲルミル》の導きにより、新西暦から未来世界へと帰っていった。

 

 プリベンターの帰還とイージス計画完遂を見て、ムーンクレイドルに接近する連邦軍の艦隊を眺め、アーマラがつぶやく。

 

「終わった、か……。ティターンズの私は、これから……」

「気にすんな。これからのことは、これから考えればいいさ。……なんたって、俺たちには時間がたっぷりあるんだから」

「……ふふ、そうかもな」

「あ、笑った。やっぱかわいいなー、お 前って」

「! ば、バカっ!」

 

 ――こうして、バルマー戦役から端を発したイージス計画にまつわる戦いの幕は下り、地球圏にはつかの間の平穏がもたらされたのだった。

 






 【朗報】カテジナさん生き残る【やったぜ】
 旧作では存在を忘れてたとか言えない言えない(・ω・)
 地味にフロスト兄弟のガンダムも強化しときました。これ、何でやらなかったなのか覚えてないんだよなぁ。
 あと一応改めて補足しておきますが、本作のアーマラの髪はピンク色です。これは仕様です。アリエイルと間違えたとかじゃないよっ!


 三連休&ランキングに乗ったので連続更新。外伝は短いしろくに改稿してないから特別にということで。
 なお、書き貯めは次までしかない模様。お盆の間に頑張って増やさなきゃ……(白目)

 アンケートを追加したのでよければどーぞ。



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番外編「PARALLEL TIME DIVER」

 新西暦188年 1月9日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 イングが似合わぬことに日記などを書いているらしいで、私もきょうから始めてみることにした。

 

 “イージス事件”から幾ばくかの時間がたった。

 未来世界の者たちは、メイガス――ソフィア・ネートが最後の力を振り絞り、送還された。無論、ゼンガー・ゾンボルトもである。

 プリベンターは目的を果たし、解散。詳細は知らないが、それぞれあるべき場所へと帰ったのだろう。

 そして、ティターンズが崩壊して拠り所をなくした私は、現在月のマオ・インダストリー社で世話になっている。

 主にパーソナルトルーパーのテストパイロット紛いのことをして、日々を過ごしている。

 

 正直戦犯として裁かれることを覚悟していたのだが、いささか拍子抜けした。

 フォウ・ムラサメやエルピー・プル、プルツーなどの前例があるとはいえ、プリベンター――ロンド・ベルとはなんとも甘い組織だ。

 私としては不本意なことに、イングが同行している。肩書きと名目は「国際警察機構からの監視員」らしい。

 まあ確かに、そうでもなければ私は戦犯として連邦軍に拘束されてしまうのは間違いないだろうが、イングはいつ国際警察機構に渡りを付けたのだろう。あるいは、バルマー戦役の時点でコネクションを確保していたのかもしれないが。

 

 現在、私たちがこのマオ・インダストリー社に留まっている理由は《エクスバイン・アッシュ》のオーバーホールと、これからの乗機を受領するためだ。

 未来世界から持ち込んだ《ガリルナガン》は調査の後に解体され、厳重に封印されることが決定している。これはSRX計画が凍結されたRシリーズにも同じことが言える。なぜか《アッシュ》はそのまま運用されるらしいがな。

 

 それで、「とりあえず乗っておけ」とばかりに《量産型ゲシュペンストMkーII》を与えられた。

 《ガリルナガン》は元より《ヒュッケバインEX》にも劣るPTだが、バルマー戦役以前から扱っていたので違和感はそれほどでもない。難点を言えば、SRX計画凍結のあおりを受けてTーLINKシステムが搭載されていないことか。

 《アッシュ》がオーバーホール中なことを幸いに、奴と同じ機体で模擬戦を挑んだが、あっさり返り討ちにされた。わかってはいたが、奴の技量は本物だ。

 

 あと、イングが「イング・ウィンチェスター」と改名した。自称だが。

 なんでも「いつまでもイーグレット呼ばわりされるのは我慢ならん」のだとか。

 しかし、未来世界から帰還し、戦場ではなく日常の中で接してわかったことだが、戦士としてのイングは真面目で勇ましく頼もしい限りなのだが、プライベートでのイングは一言で言って、アホだ。ミーハーで、軽薄で、言動が一般人となんら変わりない。マシンナリー・チルドレン、人造人間という重い宿命を背負った人間だとはとても思えない男だ。

 先日もマオ社の女社長、リン・マオをナンパしてあっさりあしらわれていたし。

 あんな奴に対抗心を燃やし、あげく敗北した自分が情けない。なんというか、完全に毒気が抜かれた気分だ。

 

 

 

 新西暦188年 1月12日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 トレーニングルームで流した汗をシャワーで流し、食堂へ赴いた際「バルマー戦役のとき、お前は何してたんだ?」とイングに問われた。私の経歴を調べていて興味を覚えたようだ。

 この時代に帰還して後、国際警察機構の事情聴取で粗方のことは話したが、彼はもう少し込み入った経緯が知りたいらしく、あんまりしつこいのでしぶしぶ語ってやることにした。

 

 約7年前の「コロニー落とし」による混乱で両親を失って孤児になった私は、念動力の素養に目をつけた特殊脳医学研究所に引き取られた。そのため、ケンゾウ・コバヤシ博士はもちろん、その娘でSRXチームのアヤ・コバヤシ大尉とも面識がある。イングラム・プリスケンとは直接の面識はないが、存在は知っていた。

 特脳研での日々は過酷で思い出したくもないものだが、さておき。彼らの最終目的である汎超能力者(サイコドライバー)たり得ないと判断された私は、連邦軍に半ば入隊させられることになる。およそ2年前、私が15歳の頃だ。

 それからは《量産型ゲシュペンストMkーII》を駆り、連邦軍の兵士として生きてきた。特脳研では連邦軍のパイロット養成機関「スクール」と同程度の訓練を受けていたし、失敗作扱いするものたちを見返すためにあらゆる努力は惜しまなかった。

 まあ、あの頃の私は相当荒れていたから上司にはだいぶ迷惑をかけたと今では思う。キタムラ少佐は、今も元気にしてらっしゃるだろうか。

 

 バルマー戦役当時、私が所属していた「ATXチーム」は、ネルガル重工の試作型戦艦《ナデシコ》とともにジュピトリアンの一派「木連派」と呼ばれる連中と主に戦っていた。あとは、擬態獣や地球環境改善用マシンが暴走した《デビルガンダム》の軍団、それからOZプライズなんかとも小競り合いしたか。

 ネルガル重工が独自に推進していた火星探査計画「スキャバレリプロジェクト」に、連邦軍からの監視役の護衛部隊として参加した私たちは紆余曲折あり、最終的にはメガノイドの反乱以来破棄されていた火星の極冠に隠されていたプロトカルチャー、先史文明の遺産を巡って木連派と雌雄を決した。時期的にはちょうど、ロンド・ベルが雷王星でSTMC駆逐作戦を敢行していたあたりだろうか。

 彼らは新西暦が始まって間もない頃、当時の連邦政府の不当な棄民政策により木星へと追われた者たちであり、後にやってきた木星の者たち、ジュピトリアンと結託して地球圏に侵攻してきた。

 木星の衛星に残されていた先史文明の遺産(これは《ナデシコ》の相転移エンジン等にも言えることだが)を解析して生み出した無人兵器(戦役当初はエアロゲイターと誤認されていた)や特機タイプの有人人型機動兵器、そして“ボソンジャンプ”と呼ばれる時空間転移の一種が彼らの武器だった。おそらく、エアロゲイター系のEOTも組み込まれていると思われる。

 戦争に敗北した現在は、一部が改心して連邦政府に組み込まれているものの、大多数は未だ姿を眩ましたままだ。新たな戦乱の芽になることは明白だろう。

 連邦政府はボソンジャンプについてあまり重要視していないらしく(フォールド技術の方が遙かに安全性、汎用性の高い技術だからだろう)、《ナデシコ》の連中が「演算ユニット」――ボソンジャンプの根幹を司る先史文明の遺産だ――を外宇宙に破棄したことについて罪に問うていない。これは、こちらに帰還してから私自身が調べてわかったことだ。

 

 イングは特に《ナデシコ》艦長のミスマル・ユリカと、コックから《エステバリス》パイロットに転身した変な奴、テンカワ・アキトの動向について聞きたがっていた。私は二人が軍を抜けたことしか知らなかったが、イングはどこか納得して様子だった。

 他にも、「巨神戦争」の英雄、猿渡ゴウらダンナーベースの面々とネオジャパンのガンダムファイター、ドモン・カッシュを始めとした「シャッフル同盟」、コロニー・MO-Vの関係者たちが協力者だった。ティターンズのT3部隊と共闘したこともあったな。

 逆に、エゥーゴと小競り合いしたこともあった。あの見慣れないシールドを持ったガンダム・タイプのパイロット、ニュータイプらしき女は強敵だったな。

 

 そういえば、バルマー戦役終戦までともに戦い抜いた《エステバリス》パイロット、ヤマダについて話したときに驚かれたっけ。フラグがどうのとしきりに感心されたが、あれはいったい何だったんだ?

 

 

 

 新西暦188年 1月17日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 ここ数日、イングの姿を見かけていない。

 なんというか、訓練に張り合いがない。余りに気が抜けすぎて、《ゲシュペンスト》を使った実機試験のスコアを落としてしまった。

 我ながら、不甲斐ない。

 

 

 

 新西暦188年 1月22日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 イングが帰ってきた。

 彼は、元SRXチーム隊長ヴィレッタ・バディム大尉と見知らぬ男女四人を連れて、ふらりと現れた。

 私が事情を尋ねると、イングは笑って彼らを紹介した。

 クスハ・ミズハ、汎超能力者サイコドライバーと目される少女。《龍王機》の操者。

 ブルックリン・ラックフィールド、クスハ・ミズハの恋人であり、イングラム・プリスケンに見出された被検体の一人。《虎王機》の操者。

 リョウト・ヒカワ、クスハ・ミズハと同等の強念を持つサイコドライバー候補。《ヒュッケバインMkーIII》のパイロット。

 リオ・メイロン、リョウト・ヒカワのパートナーであり、実践レベルの念動力を持つ能力者。《AMガンナー》のパイロット。

 

 彼らは旧SDF艦隊ロンド・ベル隊の主要メンバーであり、イングの戦友たちだった。

 どうやらイングはヴィレッタ大尉に協力して、拘留されていた彼らを秘密裏に救い出していたらしい。曰わく「国際警察機構のエキスパートになるなら、これくらいできなきゃな」とのこと。

 

 4人の今後についてだが、リョウト・ヒカワ、リオ・メイロンがここマオ社で、クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールドが日本地区で隠遁する予定だ。

 とはいえ、彼らの解放は軍上層部の穏健派、あるいは良識派と呼べる勢力(現連邦軍のトップ、ゴップ大将の派閥)の意向が絡んでおり、連邦政府からの本格的な追っ手というのはないものと思われる。

 あと、イングからは「クスハやリョウトを紹介したら問答無用で勝負を挑むと思って警戒してたんだが、お前案外冷静なのな」などと感心された。

 奴め、私をなんだと思っている。私が勝ちたかったのは“最強の念動力者”であり、他の者などどうでもいいのだ。

 

 

 

 新西暦188年 1月24日

 地球圏、月 コペルニクス

 

 休日というわけではないが、外出が許可された私たちは自由都市コペルニクスに訪れた。

 短い間とはいえ軟禁されていたクスハらも、羽を伸ばしていたようだった。だがイング、「トリプルデートだな」じゃないぞ。

 

 私の銀行口座は凍結されてしまっていたため、マオ社の方から与えられたお金(テストパイロットの給金らしい)で私服や細々とした小物類、生活必需品を買い求めた。

 イングは月限定、《ヒュッケバインEX》のプラスチックモデルを買い、ことさら喜んでいた。

 機嫌のすこぶるいい奴からお裾分けだと同じものを渡されたのだが、これどうしよう? 捨てるのももったいないし、作ってみるかな。

 

 

 

 新西暦188年 1月27日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 今日は一日医務室の世話になった。クスハが持ってきた自作の健康ドリンク(とは言いたくない)が原因だ。

 「案外悪くない」というイングの言葉を信じた私が馬鹿だった。

 奴の味覚、特に甘味に対する感覚はどこかおかしいからな。いや、私も人並みにはスイーツは好きだが、奴のようにグリーンティーにも砂糖を山ほど入れるほどの甘党ではない。

 

 

 

 新西暦188年 1月31日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 今日、クスハとブルックリンが日本に旅立つ。

 リョウトとリオ、イングは別れを惜しんでいた。……もちろん、私も。

 戦いは私たちのような兵士に任せ、彼らは平和に暮らしてほしいと思う。

 少ししんみりとしてしまったな。我ながら似合わない。

 

 

 

 新西暦188年 3月5日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 この日記を書くのもずいぶん久しぶりだ。サボっていたわけではない、日記帳が手元になかっただけだ。

 

 試作兵器の試験のために降りた地上にて、《量産型ゲシュペンストMkーII》と《量産型ヒュッケバインMkーII》で模擬戦をしていたときのことだ。

 不可思議な光に包まれた次の瞬間、広がっていたのは見知らぬ光景。地底世界ラ・ギアスに召喚された私とイングは、運良く遭遇することができたマサキ・アンドーら現地の人間と協力して、ラングランシュテドニアス間の動乱、“春秋戦争”を鎮めるために尽力した。

 私たち以外にも、現ロンド・ベル隊のメンバーや兜甲児博士ら極東地区の特機乗り、さらにはラ・ギアスと同じ地球のインナーワールドであるバイストン・ウェルからショウ・ザマらが呼び寄せられている。

 また、同じくラングランの一員として別の場所で戦っていたリューネ・ゾルダークや、経緯は省略するが蘇ったシュウ・シラカワにも地上人が協力していたようだ。

 

 余談だが、イングはイージス事件の時点でセニア・グラニア・ビルセイアに、ガンダムもといヒュッケバイン顔の超魔装機《デュラクシール》開発の協力を約束していたらしく、代償に「ラプラスデモンタイプコンピュータ」を《アッシュ》に搭載することを求めていたのだが、肝心の《アッシュ》を持ってきていないために泣く泣く諦めている。いい気味だ。

 代わりにマサキからエーテル通信機なるものを預けられている。「妙なことで呼び出すなよ」と釘を差されてもいた。

 しかし、私にはこれが厄介事の種にしか思えないんだが。

 

 

 

 新西暦188年 3月10日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 《アッシュ》のオーバーホールが終了したことを受け、私たちは再び地上に降りた。

 テストパイロットをした礼だろうか、私はマオ社から「ゲシュペンスト強化改造計画ハロウィン・プラン」により先行量産された《量産型ゲシュペンストMkーII改》を与えられた。カラーリングは《EX》と同じにしてもらった。

 現場からの意見で強化された機体とあって悪くない性能だ。もっとも、ハードポイントによる換装機能はタイプN以外使わないだろうがな

 

 無茶が祟ったからだろう、《アッシュ》のオーバーホールは予定の期間を大幅に越えてしまった。制作を担当したマーク・ハミルとロバート・H・オオミヤの両氏によれば、現状のままの《アッシュ》では早晩追随性の性能限界に達するそうだ。

 すでにイングの念は通常のTーLINKシステムでは受け止めきれず、イージス事件後半での《アッシュ》は常時リミッターのないウラヌス・システムで機動していた有様だという。

 だが、念動力の権威であり、特脳研出身の私とも浅からぬ縁のあるケンゾウ・コバヤシ博士は現在、SRX計画凍結とイングラム・プリスケンのスパイ活動の影響で連邦軍に危険視され、軟禁されてしまっている。故に、TーLINKシステムの根本的な改良は難しい。

 暴走の危険性のあるウラヌス・システムに頼らざるを得ないイングはしかし、「とりま、だましだましやるだけさ」とあっけらかんと言い放った。恐れというものを知らないのか。

 

 さておき、今後私はイングとともに国際警察機構のエキスパートとして、平和維持活動に従事することになっている。

 侵攻が下火になったとは言え、地下勢力の大多数は健在であり、さらにはジオンの残党やBF団を始めとした人類勢力も蠢動している。ビアン・ゾルダーク博士が残した言葉、「人類に逃げ場無し」という状況は未だ続いているわけだ。

 私とて、この星の平和のためにバルマー戦役を戦い抜いた連邦軍の兵士だ。地球人として、命をかけるのもやぶさかではない。イングとコンビを組まなければならないというのは不本意だが、な。

 

 

 

 新西暦188年 3月13日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 エキスパートになるための試験を受けた。

 諜報活動についての基本的な訓練は受けていたから、知識実技ともに問題ない。純粋な戦闘能力にしても、シングルアクションの大型拳銃、旧暦で言うところのデザートイーグルを二挺を使った生身でのCQCを披露して認めさせた。

 「デザートイーグルでガン=カタとか、ハリウッド映画みたいだな」とイングが感想をこぼしていた。まったく失礼な言いぐさだ。念で銃弾の軌道を自在に曲げられるアニメーションのようなお前にだけは言われたくない。

 ともなく、これで晴れて私もエキスパートというわけだ。

 

 

 

 新西暦188年 3月17日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 同僚となる草間大作と銀鈴と挨拶した。

 確かに銀鈴は同性の私から見ても美人だと思うが、鼻の下を伸ばすな、馬鹿者め。

 

 それから、懐かしい名前を耳にした。

 ダンナーベースの葵霧子博士が擬態獣についての論文を発表したのだ。

 かねてから擬態獣の正体について議論がなされていたが、論文によると奴らはSTMC、いわゆる宇宙怪獣の一種ではないかという。大胆な仮説だが、あの人類種、知的生命体の天敵っぷりは確かに共通しているように思えるな。

 この仮説が事実なら、地球はすでに宇宙怪獣の攻撃に晒されているということになる。とはいえ、それで争いを止める訳ではない地球人類はメイガスの言うように愚かなのかもしれない。

 

 

 

 新西暦188年 3月20日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 風の噂で耳にはしていたが、国際警察機構の特A級エキスパート、九大天王の身体能力はやはり異常だ。そのライバルたる十傑集の一人、衝撃のアルベルトと東方不敗マスターアジアが対決している姿をこの目で見たがにわかには信じられん。

 だが、その特A級エキスパートと同等に動けるイングはさらにおかしい。「オレってば、マシンナリー・チルドレンだから」じゃないぞ。

 訓練施設で、廃棄寸前の《ジムII》をビームサーベルらしきものでバラバラにしていて絶句した。どうなってるんだ、アイツは。

 

 

 

 新西暦188年 4月6日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 今日は意外な人物に再会した。

 ネオ・ジャパンのガンダムファイター、ドモン・カッシュとそのパートナー、レイン・ミカムラだ。バルマー戦役以来になるか。

 どうも、「シャッフル同盟」がらみで上海を訪れたらしい。

 聞くところによると、古くから国際警察機構はシャッフル同盟の活動を影から支援していたのだとか。ドモンらは国際警察機構から派遣されたエキスパートと接触して、初めて知ったらしいがな。まあ、引き継ぎもあったものではなかったので彼らが知らなくても無理はない。

 二人は、《ゴッドガンダム》のメンテナンスのためにしばらく滞在するとのこと。

 問題と言えば、“ガンダム・ザ・ガンダム”の来訪を知ったイングが生身での勝負を挑んだことか。まったく、ミーハーなヤツだ。なんだか私が恥ずかしくなってくるじゃないか。

 

 

 

 新西暦188年 4月7日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 さすがに“ガンダム・ザ・ガンダム”相手はイングも辛いらしく、試合では終始翻弄されていた。

 だがドモン曰く、「筋はいい。それに試合でなければ、勝敗はどうなるかわからない」とのこと。まあ、アイツは「悪党以外は殺さない」などと公言するように手段を選ぶタイプだから、試合じゃなくても結果は変わらんと思うが。

 試合後 、イングはドモンに師事して流派東方不敗を学び始めた。「石破天驚拳までは言わないけど、超級覇王電影弾は使えるようになりたいな」などとのほほんとのたまっていた。

 ヤツの場合、本気で覚えかねないから始末に終えん。お前はいったいどこに向かっているんだ。

 

 

 

 新西暦188年 4月20日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 全ての訓練課程を終えた私とイングは、明日国際警察機構のエキスパートとして初の任務に出る。

 すでにA級エキスパートとされたイングに与えられた識別コードは「101(ワンゼロワン)」。国際警察機構の長官、黄帝・ライセが決めたのだという。

 特別扱いに思うところがないではないが、奴の超能力は反則的であることは間違いない事実だ。ただし、デスクワークや本格的な諜報活動は得意ではないようだから、私が適宜フォローしてやらねばならないだろう。

 まったく、手の掛かる奴だ。

 

 また、《ゴッドガンダム》のメンテナンスが終わったドモンたちも梁山泊を離れるという。現在、彼らシャッフル同盟は「DG細胞」の根絶を目的に地球圏を駆けずり回っているらしい。

 あれが悪意あるものに渡れば良からぬことになるのは目に見えている。私たちは私たちでやらねばならぬことがあるので力にはあまりなれないが、情報は集めておこうと思う。

 

 

 

 新西暦188年 5月16日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 久々に梁山泊に帰ってきた。かれこれ約1ヶ月ぶりか。

 私とイングに課せられた最初の任務は、「旧SDF艦隊ロンド・ベル隊メンバーの追跡調査」である。

 ロンド・ベル自体はブライト・ノア中佐とアムロ・レイ大尉を中心に再編されたが、軍を抜けた者たちも少なからずいる。解散したリガ・ミリティアのメンバーなどが代表例だな。

 今回我々が動向を調査・特定した中でも特筆すべきなのは《ガンダムF91》のパイロット、シーブック・アノーとそのガールフレンド、ベラ・ロナことセシリー・フォアチャイルドだ。

 二人はなんと、壊滅したクロスボーン・バンガードの残党と結託して「宇宙海賊クロスボーン・バンガード」なる組織の首魁に納まっていた。なんでもジュピトリアンの背後にあった存在、「木星帝国」について独自に調査、抵抗しているのだという。

 それから、多少話外れるが元ティターンズの人間も数名、動向を特定している。ジュリド・メサ、ヤザン・ゲープルとその部下二名、T3部隊の関係者などだ。

 連中は軍に(ある程度形式的な軍事裁判を経て)復隊し、例えばジュリド・メサはとある基地で《バイアラン》などのティターンズ系MSの改修計画に携わっている。ヤザン・ゲープルらは、何を思ったか連邦議会のゴップ退役元帥が直々に使っているらしい。ジオンの強化人間を養女にしたり、存外に遊びが過ぎるお人だな、あの方は。

 ともかく平和になったとは未だ言い難い地球圏だ、兵士は多い方がいい。優秀なら尚更だ。

 

 しかし、木星帝国――、ジュピトリアンの残党というだけではなさそうだな。あるいは木連派の連中を取り込んでいるやもしれん。

 世間がようやく落ち着いたと思ったらこれか。まさに「人類に逃げ場なし」、だな。

 

 

 

 新西暦188年 5月20日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 月のマオ社からロブ(本人からそう呼べと言われた)がやってきた。

 《アッシュ》の改良の目処が立ったという。内容は秘密だと勿体ぶってはぐらかされたが、アナハイム・インダストリーの協力が必要だとももらしていた。

 改良にはイングの意見も取り入れたいとのことで、いろいろと話し合っていた。

 国際警察機構の科学部門主任、ヤン・ロンリーに《アッシュ》の資料などを渡し、ロブは去っていった。今度は北米のテスラ研に寄るのだという。慌ただしいことだ。

 

 

 

 新西暦188年 6月3日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 SRXチームのヴィレッタ大尉と面会した。

 彼女、というか拘留されていたSRXチームはすでに保釈され、任務に就いているらしい。詳細は機密に抵触するためだろう、教えてくれなかった。

 先日ロブの言った「《アッシュ》改良の目処」というのは、あるいは解放されたであろうコバヤシ博士の協力に寄るものかもしれないな。

 

 しかし、未来世界でプリベンターに合流してから感じていたことだが、どうもヴィレッタ大尉は私に気を使ってくれているようだ。

 「ここで仕事には慣れた?」とか、「困ったことがあったら相談しなさい。力になるわ」とか。……悪い気はしないが、理由がわからないのはちょっと不安だな。

 

 

   †  †  †

 

 

 地球。とある地区、とある都市。

 ありふれた繁華街。ビルとビルの合間に広がる深い社会の闇に、邪悪な意志が蠢く。

 ――それを打ち砕くことができるのは、同じく闇に住まう正義の使者たちだけである。

 

 

 奇妙な覆面を被った黒服の男たちが、二人の男女を包囲している。どちらも端正な目鼻立ちだが、未だ幼いと言って差し支えない年齢の少年少女だ。

 ゆったりとした黒いクロークを身につけた銀色の髪の少年は、不敵な笑みを浮かべて右手に不可思議な翠緑に光る刀身の剣を持つ。

 肢体のラインが浮き出た黒いスーツを身に着けた桃色の髪の少女は、両手に可憐な容姿に不釣り合いなほど無骨な拳銃を携えている。

 閃く剣光、響く銃声。

 少年と少女は、並み居る怪人たちを軽々と叩きのめしてしまう。

 

「ったく、雑魚が群がってウルトラウザいぜ」

「真面目に戦え、イング」

「わかってるって、アーマラ」

 

 両手の大型拳銃を交互に繰り出し、淡々と怪人たちを無力化する少女に窘められて、光子剣で弾丸を切り落としていた少年は肩をすくめる。

 そして、唐突な衝撃波が辺りに巻き起きた。

 

「往け疾風(かぜ)の如く、ってね」

 

 少年はおどけた言葉を残し、恐るべき素早さで駆け抜けて怪人でバッタバッタとなぎ倒していく。

 総勢数十人いた黒服の男たちは、瞬く間にその数を減らしていた。

 

「さっさと帰って、積んでるプラモの山を崩したいんだけどな」

「だから真面目にやれと……まあ、同意だがな」

 

 リーダー格らしき男が青ざめた顔で呻く。

 

「クソッ、おのれワンゼロワン! またしても我らBF団の野望を邪魔するか!」

「そんなありきたりなセリフしか吐けねーから、お前らはいつまでたっても三流なんだよ」

「私を軽視するその態度、気に入らないな」

「くっ、こうなれば!」

 

 二人に言い返されたリーダー格の男が懐から取り出したスイッチを入れると、蛇型のロボットが轟音とともに都市部に現れる。

 

「おお? 怪ロボか? お約束のパターンか?」

「イング、コイツらは私が片付けておく。あれはお前が処理しろ」

「合点承知!」

 

 少女の提案を受け入れ、少年は一歩前に進み出る。

 

「コール・ヒュッケバイン!」

 

 腕時計型通信端末が彼の音声と念を関知し、指令を発する。少年の強大な念に感応して、騎士の姿をしたパーソナルトルーパー――《エクスバイン・アッシュ》が国際警察機構の格納庫から念動転移した。

 着地により巻き上がる土煙。少なくない振動が大地を揺るがす。

 テレポーテーションにより《アッシュ》のコクピットに収まった少年は、対峙する怪ロボとBF団のエージェントたちに向けて高らかに名乗りを上げる。

 

『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せとオレを呼ぶ! 悪党ども、聞くがいい! オレは正義の戦士、エクスバイン・アッシュ!!』

「はぁ……言ったそばからこれだ。仕方のない奴だな――ん?」

 

 残った数名の怪人が包囲を狭めていることに気づき、少女は怪訝な顔をする。

 いやらしい視線と不快な思念を感じ、わずかに眉をしかめられる。

 

「なんだ、貴様ら。まだ抵抗する気か?」

「馬鹿め、ワンゼロワンが居なければこっちのものだ。お前を捕らえて、奴諸共一網打尽にしてくれる」

「フゥ……馬鹿はどっちだ、戯け」

 

 鋭い銃声が夜闇を切り裂き、四人の怪人が一瞬のうちに倒れた。

 恐るべき早撃ちであり、また正確無比な射撃だった。

 

「嘗めるなよ。私とて国際警察機構のA級エキスパート、貴様らB級C級の雑魚どもなどものの数ではない」

 

 シニカルな冷笑を浮かべ、少女は冷徹に言い放つ。

 

「さあ、私に出会った不幸を呪え!」

 

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 8月25日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 イージス事件から、半年以上の時間が経過した。

 思い返せばいろいろあったけれど、私の国際警察機構のエキスパートとしての活動は順調だと言えるだろう。

 

 因縁のBF団とはもちろん、ティターンズ及びジオンの残党やテロリスト、未だ全容の見えない「ゼーレ」、世界経済を影から牛耳る「ドクーガ」、最新兵器を紛争地域にばらまく国際犯罪組織「バイオネット」、暗躍するジュピトリアン木連派の残党「北辰集」と「火星の後継者」など、数々の秘密結社や犯罪組織との暗闘を繰り広げてきた。

 そういえば、イングが過剰に反応していた敵対組織があったな。たしか、「鉄甲龍(ハウ・ドラゴン)」という名前だったか。

 

 その鉄甲龍の下っ端と交戦した後、イングは頭を抱えて唸っていた。

 さらに熱心に調べ物をしていたようなので、こっそりイングの部屋の端末を調べてみた。「西園寺実」「宇宙科学研究所」「クライン・サンドマン」「フィッツジェラルド」「コスモクラッシャー隊」「ムルタ・アズラエル」「陣代高校」「竹尾ゼネラルカンパニー」などの検索履歴が残っていた。

 政財界の大物だったり、日本お馴染みの研究施設だったり、連邦軍の一部隊であったり、しまいにはハイスクールに零細企業まで。脈絡がないとはこのことか。

 また、国際警察機構のIDで連邦政府の戸籍を調べた形跡もあった。「神勝平」「相羽タカヤ」「真道トモル」「早瀬浩一」「飛鷹葵」「ツワブキダイヤ」ほか多数。こちらもやけに具体的である。

 ヒットしたものもあれば、そうでないものもあったが、この意味不明なラインナップに何の意味があるのだろう。

 

 

 約半年間の活動で起きたいくつかの事項を、まとめる意味も込めて特筆しようと思う。

 まず、テンカワ・アキトとミスマル・ユリカを保護した。 

 自在にボソンジャンプを可能とする「A級ジャンパー」の二人は、木星帝国の一派と思われるテロ組織「火星の後継者」にシャトル事故に偽装して誘拐され、惨い人体実験を受けていたようだ。

 イングは以前から二人の動向に注視していたようだが、一足違いで攫われてしまったことを酷く後悔していた。私も少なからず世話になったものたちだ、悔しさは同じだ。

 

 大量のナノマシンを全身に注入されたテンカワ・アキトは、五感の大半を失った。回復の目処は今のところ立っておらず、機械で身体機能を補っている。

 また、ミスマル・ユリカは密かに回収されていた演算ユニットの人間翻訳機として組み込まれかけるも、敵拠点にイングのテレポーテーションによる奇襲をかけて奪還されている。もっとも、演算ユニット自体は回収も破壊もできなかったがな。

 現在二人は友人らにも連絡を絶ち、国際警察機構に所属してネルガル重工の協力の下で火星の後継者を追っている。リハビリもそこそこにこの処置を希望したテンカワは、危うい様子で「夢を奪われた復讐だ」と漏らしていたが、ミスマル艦長が側にいるのだから無茶はしないだろう。

 ちなみに二人、まだ籍は入れていなかったようだ。

 

 

 次にイングが一時、行方不明になった。

 オリハルコンとラプラスコンピュータを譲り受けるためにラ・ギアスに向かった後、1ヶ月ほど行方知れずとなった。

 

 ラ・ギアスには連絡もできず、短いが濃いつき合いで奴がそう簡単に死ぬことはないとわかっていても、だいぶ気を揉んだ。認めたくないが、私はイングの安否がとても心配だったのだ。

 だから、何事もなかったかのようにひょっこり戻ってきて「ようアーマラ、今帰ったぜ」といつもの調子で挨拶されたとき、思わず全力で殴ってしまってもバチは当たらないだろう。むしろ正当な権利だ。

 行方不明の間のことを本人に聞いても「ちょっとテレポートミスって無限の楽園に」と要領を得ない返答しか帰ってこない。さんざん心配したこちらの身にもなってほしいものである。

 

 

 国際警察機構とBF団との決戦が勃発した。

 詳しい経緯は割愛するが、それによりパリは甚大は被害を受け(その際、現地の対特殊犯罪対策組織「シャッセール」と共同した)、さらには国際警察機構、BF団双方ともに人員の大半が命を失った。九大天王及び十傑集にも少なくない犠牲者を出している。

 向こうはともかく、こちらはお陰で人手不足に拍車がかかり、他の犯罪組織への対応には苦慮している。私たちは、お前たちだけの相手をしてやるほど暇なわけではないのだぞ。グチりたくもなる。

 

 幸い、草間大作と銀鈴は無事であり、今も地球のどこかで平和維持活動に従事しているだろう。

 

 

 さておき、私たちは新たに建造された実験艦《ナデシコB》に同乗して久々にソラへ上がり、月のマオ社に向かう。

 目的はようやく形になった《アッシュ》の改修と、それに併せて与えられる私の新しい機体の受領だ。さらには、不穏な動きをする月の過激派将校たちに対する牽制の意味もある。

 《ゲシュペンストMkーII改》も悪い機体ではないが、やはりいろいろ物足りなさは感じていたので楽しみだったりする。

 

 宇宙では、イージス事件以来姿を眩ましていたクワトロ・バジーナ、いや、シャア・アズナブルが「ネオジオン」の総帥として決起したという。

 地上も、地底勢力の侵攻が激しくなってきた。海底遺跡「オルファン」を根城とする「リクレイマー」もオーガニック・マシン、アンチボディで地上に混乱を起こしている。

 また地球圏が騒がしくなってきた。遠からず、大規模な戦争が勃発するだろう。今度のそれは、バルマー戦役と同じかそれ以上に激しいものになる……そんな予感がする。私の微弱な念動力でも予知できるほどの混乱だ。

 だが、何者が相手だろうと私のやるべきことは大して変わらない。

 未来世界でイングに救われ、朽ちることなく生きながらえたこの命を、地球の、私たちの故郷のために使おう。

 イング流に言うなら、邪念を撃ち抜く一発の銃弾として。

 





 【朗報】ジュリド、生きてた【悲報?】
 ヤザンらの去就に変更が起きている影響で、アラドの周りも大分変わってます。例えば、ゼオラが最初から味方とか。
 ライバル役もちゃんといますか、それは次回以降ということで。


 なお、書き貯めが全然できなかったので次の更新は未定です。みすてないでー(・ω・ )
 毎日暑すぎなのが悪いんじゃ!


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幕間2

 

 

 

 極彩色の闇の中――

 

 豪奢な飾りがされた白き衣を身につけた金髪の少年が、反転した五亡星(ペンタグラム)と逆さまの大樹が描かれた巨大な漆黒の玉座に微睡む。

 その前には、五つの不可解なオブジェクトが浮かんでいた。

 

 ――宇宙とそこに存在する星々とを写し出した空間のスクリーン。

 

 ――天突く意思が如く螺旋渦巻く風の三角錐。

 

 ――煌々と燃え盛る文明の証たる火の篝火。

 

 ――大小さまざまな生命を育む透き通る水の球体。

 

 ――大自然の息吹きを感じさせる苔むした土塊の石柱。

 

 

 スクリーンを中央に、左右にそれぞれ三角錐、篝火、球体、石柱か並ぶ。

 

 

 気の狂いそうな闇を孕むこの領域の主、金髪の少年が気だるげに口を開く。

 

「ご機嫌ななめだね、同志■■?」

『ふん』

 

 石柱が障気を上げて腐り落ち、白い仮面を着けた男が現れる。

 少年のからかうような言葉を受け、腕を組んだ仮面の男は鼻を鳴らす。その周囲には、全てを腐らす障気を蔓延させていた。

 

「やっぱり、()()()()()()()を手ずから始末できないのは不満かい?」

『愚問だな。出来ることならあの()()は、目の前で奴の妹を辱しめた後、私のこの手で八つ裂きにしてやりたいところだ』

「君の気持ちもわかるけどね。僕らの出番はまだまだ先だよ?」

『それも理解している、今は大願のための雌伏の時だとね。……まあ、奴が道化として野垂れ死ぬ様を、ここから高みの見物とさせてもらうさ』

 

 不愉快だと言わんばかりの仮面の男は吐き捨てるように言葉を切った。その様子を少年は愉しそうなに眺めていた。

 悪意、敵意、殺意、害意――そういった負の想念こそが彼らの力の源。少年の同志たる五人の使徒たちは皆、世に蔓延るマイナスエナジーを喰らってあまねく宇宙に破滅をもたらす。

 

「わかってくれてるならいいんだ。――うん?」

 

 満足そうに微笑んだ少年が、何かに気付き視線を躍らせる。その先には、渦巻く風のオブジェクトがあった。

 

「――やあ、同志■■■■■■■■。首尾はどうかな?」

 

 まるでその声を合図にしたかのように、渦巻く風の三角錐が不意に逆巻き、黒く染まっていく。

 逆回転をした黒い風はついには四散して、まるで虚無がより集まったかのような漆黒のヒトガタを形作った。

 

『我々の計画は問題無く推移している』

「それはよかった。段階は今、どの辺りだっただろう」

『もうしばらくすれば、()()()()の人類が百万人に達するだろう』

「なるほどね。では」

『メッセンジャーが目覚め、そして人類に反旗を翻す。そうなれば、“螺旋の男”は彼女を救うために我々の宇宙を目指さざるをえない』

「うん。そして、彼ら彼女らは僕たちの誂えた舞台に上がるというわけだ」

 

 黒いヒトガタに向かって、少年はにっこりと笑みを浮かべた。それはいっそ、蠱惑的とも見えるものだった。

 

「彼の力は強大だからね。()()から運命を奪うためには、是非とも手中に納めたいファクターだ」

『しかし、よく“螺旋の男”の関係者をメッセンジャーに据えることが出来たな。あれはランダムだったのだが』

「ふふ……まあ、因果率の操作のちょっとした応用さ」

『そういった力の使い方は、君に一日の長があるようだ』

 

 辛うじて目に見える虚ろな穴が、感心したように細められる。

 このヒトガタは、少年と同等の力を保持する同志にして同盟者である。主義主張こそ異なるが最終的な目的については一致しており、こうして協力している。

 

『また、因子の回収も順調だ。時が満ちれば全てが出揃うだろう』

「“太陽の翼と機械天使”、“高蓋然性世界の住人”、“電脳暦の戦士たち”、“生命を持つ鋼鉄の獣”、“宇宙をさすらう歌姫の方舟”、“星を往く船々”――集う因子が多ければ多いほど、僕らの()()により因果の逆転が波及する範囲は大きくなる」

『生死、正負、聖邪の逆転。()からの運命の簒奪。新たなる(ことわり)の成立か』

「そうなれば《スパイラルネメシス》”も防がれるね。何せ、霊魂には螺旋力なんてないから」

 

 楽しそうにころころと笑う少年とは裏腹に、黒いヒトガタはゆらゆらとその像を揺らめかせながら、棒立ちのようにその場に佇むのみ。存在意義に関わる言葉にすら何ら反応を示すことはなかった。

 ヒトガタが不意に言葉を発する。

 

『それで、そちらはどうだ、■■』

「うん、まずまずだよ。もうすぐ■■■が目を覚ますだろう。そうなれば、兄さんも行動を開始するはずさ」

 

 “兄さん”――地球には少年がもっとも警戒する存在が健在であり、それが舞台から退場しない限りは地球圏に過度な干渉を行うことはできない。

 今の少年が彼と直接ぶつかれば、お互い被害は免れずに共倒れし、計画は水泡と帰すだろう。そうなれば、また宇宙の寿命と輪廻転生を待ち、幾億万周期を準備に費やすしかない。

 

「それに、「星間連合」が本腰をいれて地球の攻略にかかるようだしね。新しい戦乱の始まりというわけだ」

 

 くつくつと無邪気な、あるいは邪悪な笑みを舌に乗せる。

 彼の支配下にある「ゼ・バルマリィ帝国」と「ギシン星間連合帝国」は幾星霜、気の遠くなるほどの長い間戦争状態にあるがその実、トップ同士は裏で繋がっており、マッチポンプ的に戦禍を銀河に広げている。

 戦争により宇宙に死霊が満ちれば満ちるほど、怨念が増えれば増えるほど、少年とその勢力は力を増していくのだ。

 だからこそ、少年はこの空間に身を隠して暗躍し、その時が来るのを待っているのである。

 

『……君の兄とやらの目的が現世での実体であり、それを以て我々に敵対するという可能性は?』

「うーん、今の人類がよほど不甲斐なければそうなるかもしれないけどね。兄さんは大概にロマンチストだから、それは最終手段だと思うよ。今を生きる人類が自分達の力で“終焉”を乗り越えるべき、と考えるのがあの人なのさ」

 

 黒いヒトガタの懸念を表すと、少年は自身の経験から“兄”をそう分析した。

 少年とそして敵対者たる存在は、宇宙の根元的な力による大変動を利用して必要なファクターを揃えてきた。アカシックレコード(因果率)に記されたシナリオから逸脱し過ぎないように、しかし自分達の思惑に沿うように――()()した汎超能力者(サイコドライバー)たる彼らなら容易いことだ。

 場に配されたカードと、それぞれの手にあるカード――それらがどう“運命”に作用するかは誰にもわからない。しかし、少年は自身が勝利し、全てを手にいれると確信している。

 

「おや……?」

 

 中央のオブジェクト、空間のスクリーンがひび割れ、甲高い――悲鳴のような――音が響いて砕け散る。

 砕かれた破片が消え去ると、そこには白い鉄仮面と甲冑を身に着けた魔人――そう形容するしかない存在がいた。

 絶望、苦痛、憎悪――混沌と破壊という破滅的な力を携えたそれを、金髪の少年は朗らかに迎え入れる。

 

「やあ、同志■■■、お疲れ様。どうだい、邪魔な()()()たちは」

『追い返すことには成功した。だが、やはりあの“光の巨人”どもは難敵だな』

「うーん、君ほどの者でもかい?」

『神と呼び、崇めるものがいるのも頷ける力を持っている。さらに、私のパワーソースであるマイナスエナジーとは致命的に相性が悪い』

 

 鉄仮面によって表情は伺い知れないが、その声には隠しきれない嫌悪と苦々しさが溢れている。また、どこか疲労を滲ませて聞こえるのは気のせいではないだろう。

 少年やヒトガタと同等と言っていい力を持つ甲冑の魔人だが、より星幽(アストラル)面に寄った存在であり、強力なプラスエネルギーを持つ存在は天敵と言って差し支えない。

 

「君には感謝してるんだ、■■■。“銀の翼持つ光の巨人”たちを退けるだけじゃなく、“最弱無敵の旧神”、“終焉の魔神”、“進化の力の行き着く先”などの厄介な連中を、この宇宙に寄せ付けないのは間違いなく大きな功績さ」

『他にも“星を喰らう悪神と星に宿る善神”や“宇宙秩序の使者たる龍神”、“人と心を交わす機械の守人とその仲間たち”、“過去と未来を知ろ示す魔王にして時の王者”などとも交戦したと聴くが――我らの世界は随分と人気だな? ■■』

 

 称賛する少年に続き、仮面の男がからかうような声色で続ける。

 一方、黒いヒトガタはゆらゆらと像を散らしながら、沈黙を守ったままだ。雑談に興じる気はないらしい気はないらしい。

 

『その件についてだが、少々厄介なことになりそうだ』

『ふむ?』

「うん、どういうことかな、■■■」

『どうやら我々の計画を、“聖勇者”どもに嗅ぎ付けられたようだ』

 

 甲冑の魔人は、宿敵にして自身を一度ならず打倒した“青き龍”と“赤き不死鳥”を脳裏に浮かべ、苦々しく吐き捨てた。

 

「思ったよりも早かったね? さすがは“聖勇者”と言っておこうかな」

『して、如何する』

「うーん……」

 

 玉座の肘掛けに頬杖を突き、少年は思案げに瞠目する。

「そうだ、逆に考えるのさ。彼らには舞台に上がってもらおう」僅かな時を置き、目蓋を開いてそう言った。

『というと?』仮面の男が続きを促す。

 

「“聖勇者”たちをこの宇宙に招き入れるのさ」

『なるほど、我々の計画に巻き込み、新しき世の供物にしてしまおうということか』

「うん。たしか、“調和の地球”には彼らと()のある“勇者”がいたよね? あそこに送り込むというのはどうだろう、■■■。それなら因果を結びやすいはずだよ」

 

 甲冑の魔人は、わずかに考えるそぶりを見せる。

 

『……可能だが、奴らを誘い込む間は守りが手薄になるな。真に奴らを贄として()べるならば、パートナーであった人間たちも誘導せねばなるまい。その手間がある』

『むしろ、パートナーとやらとは分断した方がよいのではないかね? 力を削げばより御し易く思えるが』

「僕は■■■の考えに賛成かな。古来から、そういった策を弄したものは逆転されて最後には打倒されるのさ。――他ならぬ■■■がそうだったようにね」

『……』

 

 仮面の男の言を退けた少年の当て擦りじみた言葉に、甲冑の魔人が押し黙る。

 

「そうならないためにも、彼らの全力の状態を真っ向から叩き潰さなければね。もちろん、僕らが有利になるように働きかけも欠かさないけど」

『なるほど、理解したよ』

 

 少年が言葉を結ぶと仮面の男が納得した風に頷いた。

 「アカシックレコード」の支配するこの宇宙では、そういった一種の()()()()()()因果の流れ(物語のお約束)も馬鹿にはできない。

 天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず――過程はどうあれ、「勧善懲悪」「正義は勝つ」というのは概ね正しい。それはきっと、「宇宙意思」を成すものたちの祈りがそうさせているのだろう。

 

「では、その間は■■■■■■■■に守りを任せよう。どうかな?」

『了解した。“螺旋の男”らがこちらに向かうまでには、今しばらくの猶予があるだろう』

「■■■もそれでいいかい?」

『いいだろう。奴らに雪辱を果たすことはこちらとしても望むところだ』

『私は引き続き、“闘争の地球”の状況をコントロールしていよう』

 

 黒いヒトガタが代役に了承を示すと、甲冑の魔人が闘志を露にする。仮面の男が自身の行動を確認した。

 金髪の少年は三柱の同志を順々に見やり、満足そうに微笑んだ。

 

「うん、ではそういうことで行こう。――“すべての霊魂の安寧のために”」

 

『“すべての霊魂の安寧のために”」

 

 






 Re:RISE、素晴らしかった。
 これはまさしく令和のファーストガンダムに相応しいアニメだ……(恍惚)
 リライジングガンダムちょーかっけー。エクストラリミテッドチェンジだいすき。グランドクロスバスターは絶対どっかでやると思う。



 ■やべーやつらの集まり(二回目)
 なお、宇宙の外ではもっとやべーやつらが蔓延っている模様。退屈持て余しているわけではない。
 悪役は悪役なりに苦労してるんです。


 ■仮面の男
 なにやら事情のある男。これは正体見たりでは……?
 こいつの設定的に難としても今週お出ししたいとなったので、頑張って書ききりました。
 ( ・ω・)理由は察して。
 Re:RISEというか、ビルドシリーズの視聴者ならわかると思う。


 ■黒いヒトガタ
 恐らく一番(規模が)やべーやつ。風担当。
 特に言うことはなし。あえて言うなら若干喋り方が怪しい気がするのは、あまりキャラを捉えきれてないから。


 ■甲冑の魔人
 スパロボ的には誰…?されてもおかしくない人。空担当。
 ある意味ゲストキャラで五人のリーダー格、実力というよりはしぶとさが売り。
 こいつも喋り方怪しいのは、本人であって本人でない的な理由。メタ的には作者が覚えてないから。原作が古すぎっていうか、こいつのこと印象に残ってない……。



 約半月ぶりの投稿ですが幕間です。申し訳ない。
 第二次の1話は上手くいけば明日出せるかも……?(出来るとは言ってない)
 これから歴戦激ラー狩らなきゃいかんし、クラウンも集めたいし……時間が足りませんね(。・ω・。)

 ここで余談。
 ビルドダイバーズRe:RISEがあまりにも素晴らしかったので、GBNを舞台にした二次創作を書きたくなってきました。
 ガンタムブレイカー3とのクロスオーバーで、主殿とペチャパイの息子が主人公。と、ここまで考えて「第二次有志連合の時に主殿とペチャがチャンプ(とカツラギさん)に殴り込みをかけてしまう…」となって頭を抱えました。とりま、バトローグ待ちかな、と。
 あーあ、ガンブレの新作出ないかなぁ(棒)



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αll-1「紅の隼」

 

 

 マオ・インダストリー社。

 白き宇宙戦艦――《ナデシコB》がマオ社専用のドッキングベイに接続した。

 対岸へと延びたタラップを通り、数名の男女が歩いてくる。

 

「なんか久し振りな気がするなぁ、マオ社に来るの」

 

 特徴的なクロークを着る蒼いメッシュの入った銀髪の少年が先頭を行く。

 イング・ウィンチェスター。知る人ぞ知る旧SDF艦隊が誇るエースパイロット。そして、裏社会にその名を轟かす国際警察機構のA級エキスパート、汎超能力者“ワンゼロワン”とは彼のことだ。

 

「そうだな。時間にすれば半年足らずだが、その間にいろいろあったものな」

 

 傍らで感慨深げに応じるのは桃色の髪の少女。身体の線が大胆に露わになった黒いスーツを着用している。

 アーマラ・バートン。ワンゼロワンのパートナーにして国際警察機構のエキスパートであり、潜入・工作任務をこなす優秀な兵士。大型拳銃を好んで扱うことから、一部では“レディ・マグナム”なる異名で呼ばれていたりもする。

 

 タラップを降りた二人を見送るために、連邦宇宙軍の制服を着た少女と青年が見表れた。

 アーマラは振り返り、礼を言う。

 

「道中ありがとうございました、ホシノ艦長」

「どういたしまして。ところでお二人とも、当艦《ナデシコB》の乗り心地はいかがでしたか?」

「ええ、軍艦とは思えないくらいによかったです」

「さすが新型艦です。旧ナデシコも快適でしたが、さらに向上されているのでは?」

「ふふふ、そうでしょう。居住性の高さは、ナデシコ級のウリですから」

 

 連邦宇宙軍の白い制服を着た少女、ホシノ・ルリ。かつては《ナデシコ》のメインオペレーターを務め、連邦軍上層部の意向で少佐という階級に就いているが、政治的な理由だけではない確かな実力を持ち合わせている。人呼んで“電子の妖精”。

 なお、バルマー戦役当時の彼女を知るアーマラの「成長しすぎでは?」という素朴な疑問には、「成長期ですから」の一言でうやむやにされている。

 

「ああ、少佐、道中気をつけて。例の基地、どうにもきな臭い」

「それは、汎超能力者(サイコドライバー)としてのインスピレーションですか?」

「ええ」

「……わかりました、警戒を厳にして向かうことにしましょう」

 

 イングの忠告を受けて、ルリはわずかに表情を改めた。

 現在《ナデシコB》に与えられた任務は、月のとある連邦軍基地で開発されたという人型機動兵器“メタルアーマー”の調査である。

 “赤い彗星”シャア・アズナブルの反乱が顕在化した今、地球連邦政府は内外の動乱にかなり過敏になっていると言わざるを得ない。

 

「それにしても、以前のようにルリって呼んでくれてもいいんですよ、アーマラさん」

「いや、それは……」

「ホシノ少佐。オレたちは一応、任務中ですので。公私のケジメはつけませんと」

「そうですか、残念です」

「君、意外にマジメだよねぇ。元ロンド・ベル隊だっていうから、もっと砕けてんのかと思ったけどな」

「イングの場合は、任務中だけだがな」

 

 副官にして護衛のタカスギ・サブロウタが、ルリの後ろで感心したように述べている。

 

「それでは、私たちは任務に戻ります」

「後武運を」

「はい。それとアーマラさん、ラトゥーニたちにちゃーんと連絡してくださいね?」

「あ、ああ、わかってるとも。うん」

 

 ()()()()()()のルリに念を押されたアーマラはかつてのように返し、苦笑を浮かべたのだった。

 

 

 《ナデシコB》の面々と別れた二人は、雑然とした格納庫内を進む。

 ビアン・ゾルダーク及びシュウ・シラカワ不在によりDCが解体された現在、地球圏で稼働しているパーソナルトルーパーの部品製造、メンテナンス等を一手に引き受けることとなったマオ・インダストリー社はそれなりに繁盛していた。

 

「アッシュはそのまま、第13番格納庫に移送してください!」

 

 油汚れの目立つ作業員を着た青年が、メカニックたちに指示を飛ばしている。その傍らには、中華風の蒼い平服を着た女性が手元の端末をしきりに操作していた。

 イングとアーマラがその二人に近付いていく。

 それに気づき、青年が振り向いた。

 

「リョウト! リオ!」

「イング! 久しぶりだね」

「ふふ、アーマラも、イングと仲良くできてるみたいね」

「そうでもないぞ、リオ」

「照れるなよ」

「照れてない!」

 

 面差し穏やかな作業着姿の青年、リョウト・ヒカワ。青い中華風の平服を着た凛々しい女性、リオ・メイロン。

 二人はイングにとって命の恩人であり、バルマー戦役をともに戦い抜いた戦友だ。

 

「マオ社での仕事、上手くやれてるみたいだな、リョウト」

「まあね」

「聞いてよイング、リョウト君ったらカークさんに新作PTのデザインを任されたのよ! すごいでしょ?」

「マジで!? うん、スゴいじゃん」

「い、いや、デザインって言ってもカークさんにだいぶ手直しされたから……」

「それでも十分だろ」

 

 旧交を深める三人、アーマラはクールに佇んでいる。

 雰囲気こそどこかつまらなさげだが、親しいものがその表情を見れば彼女の気分が弾んでいることに気づくだろう。

 とはいえ、今回の目的も忘れてはいない。

 

「それでリョウト、私の新しい機体は?」

「うん、そうだね。案内するよ」

 

 リョウトの案内で格納庫内を進む。

 イングとアーマラの前に、塗装も真新しいパートナートルーパーが現れた。

 赤と白に塗り分けられた丸みを帯びた細身のデザイン。シルエットから、《ヒュッケバイン》系のHフレームを用いていることがわかる。背中に取り付けられた二対の可動翼(フライトユニット)は、テスラ・ドライブであろう。

 機体の前でスタッフに指示出ししていたカーク・ハミルが、イングらに気がつく。彼は挨拶もそこそこに、いつもの事務的な口調で機体の解説を始めた。

 

「PTX-016L“ビルトファルケン・タイプL”。ゲシュペンストMkーII改“ヴァイスリッター”のコンセプトを引き継いだ、試作型パーソナルトルーパーだ」

「ビルトファルケン……エクセレン少尉のヴァイスの後継機とはな」

「アーマラはATXチームに居たことがあるんだっけ」

「ああ、バルマー戦役のときにな。彼女にはまあ…… 世話になった。色々な意味でな」

「兄弟機とのコンビネーションを想定した機体だが、そちらはまだ未完成だ。代わりにアッシュと釣り合うように、単体での戦闘力を引き延ばす方向でセッティングしてある」

「ん、あの火器は……?」

 

 新しい愛機をしげしげと眺めていたアーマラが何かに注目する。《ビルトファルケン》の左手に保持された特徴的な銃器に、彼女は見覚えがあった。

 その既視感をカークが肯定する。

 

「そうだ。バスタックス・ガン、解体されたガリルナガンの携帯武装をダウンサイジングしたレプリカだ。ファルケン本来の主武装とは違うが、お前ならば使いこなせるだろう」

「念動力者であるアーマラが搭乗することを想定して、最新式のTーLINKシステムと念動フィールド、それからゲシュペンストMkーIIのスラッシュ・リッパーを念動兵器化したTーLINK・リッパーを新たに搭載してあるよ」

「確かに、私にはお誂え向きの機体だ。ありがとうございます」

 

 カークの挑戦的な物言いに、リョウトが補足する。アーマラは珍しく興奮しているのだろう、やや紅潮したした面もちで二人に礼を言った。

「ほーぅ……」まさしく専用機と言っていい仕上がりに、イングは感嘆をもらした。

 

「まさにいたせりつくせりじゃねーの。よかったな、アーマラ」

「私の実力を鑑みれば、当然の処置だな」

 

 大袈裟におどけて見せ、自信満々に胸を張る相方にイングが小さく笑みをこぼした。

 アーマラはその小さな表情の変化を目ざとく見咎める。

 

「……何だ、何がおかしい」

「いや。お前も変われば変わるもんだなって思ってさ」

「……変わって悪いか」

「いや、悪かないさ。むしろ、今のお前の方が断然魅力的でオレは好きだぜ?」

「ばっ、馬鹿なことを言うな!」

 

 アーマラが先ほどとは違った意味で顔を赤らめた。

 人生経験が偏っているウブな彼女は、イングの恥ずかしい発言に取り乱すことが多い。

 

「はいはい。イチャイチャしないの」

「イチャイチャなどしていない!」

「オレは別にしたってかまわないぞ」

「私がかまうっ!」

「まあまあ」

 

 リオとイングに混ぜっ返されて、があああっとまくし立てるアーマラをリョウトがなだめる。

 未だ混乱している様子の相方を放置して、イングは内心気になっていた懸念をカークにぶつけることにした。

 

「それでカークさん、オレのアッシュはどうなるんです?」

「ああ。TーLINKシステム周りを最新式に換装して、例の()()()をコクピットに組み込む予定だ。リョウト」

「はい。TーLINKフレーム、アナハイムと共同で開発した新しいTーLINKシステムですね」

「確か、リョウトの発案なんだよな。やっぱお前、才能あるよ」

「そ、そんな。サイコフレームの理論を応用しただけだし……、僕なんてまだまだだよ」

 

 褒められ慣れていないらしいリョウトは、恥ずかしげに謙遜する。

 ニヤニヤと生暖かい視線に気づき、仕切り直すようにリョウトは苦笑した。

 

「じゃあアーマラ、さっそくだけどファルケンの調整を――」

 

 リョウトの言葉を遮るように、けたたましい警告音が響き渡る。

 庫内がにわかに騒然とした。

 

「警報……敵襲か!?」

「リョウト君、みんな、これを見て!」

 

 リオの声に、手近なモニターに取り付く一同。

 外部カメラが捉えた月面の映像が映し出される。

 

「どうやらナデシコBと、それにあの戦闘機……コスモクラッシャー隊が迎撃に出ているようだな」

「相手はボアザン星人のスカールークと円盤兵器か。だけど、見たことのない機動兵器もいるね」

「あの頭でっかちな大型機はともかく、PTやMSよりも小さい機体……機動が単純だし、無人機かしら?」

「デザインや設計思想からみて、同一の文明によるものとは考えづらい。最低でもボアザン星を含めて三つの文明が関わっているとみて間違いないだろう」

 

 アーマラ、リョウト、リオ、カークがそれぞれ意見を述べる。

 

「さしずめ異星文明同士による連合軍ってとこか……やっぱバルマーか?」

「わからないが、奴らが敵であることに違いないだろう」

 

 難しそうに眉間にしわを寄せるイングの疑問に、アーマラがごくシンプルに答えた。

 そりゃそうだ、と苦笑するイングは気を取り直し、カークに問う。

 

「カークさん、アッシュは?」

「無理だ。改装作業のために解体を始めてしまっている。今から組み直しても、戦闘には耐えられないだろうな」

「っち、よりにもよって!」

 

 舌打ちするイング。この月面都市に配備されているであろう、乗り慣れた《量産型ヒュッケバインMkーII》を借り受けようかと考える。

 そんなパートナーの思案を読み切って、アーマラが言う。

 

「イング、迎撃には私が出る。ファルケン(コイツ)の慣らしにはちょうどいい相手だろう」

「! ぶっつけで行けるのか、アーマラ」

「無論だ。私を誰だと思っている」

 

 心配するパートナーを余所に、アーマラは自信たっぷりに笑みを浮かべて見せた。

 彼女の意志が固いことを見て、イングが折れた。

 

「カークさん、お願いします」

「いいだろう。アーマラはファルケンのコクピットに。TーLINKシステムのセットアップを始めよう。すでにパーソナルデータは入力済みだから直ぐに終わる」

「了解っ」

「リョウト、TーLINKシステムのオペレートを頼む」

「はい!」

 

 言われるや否や、アーマラは軽やかな身のこなしでタラップを駆け上り、瞬く間に《ビルトファルケン》のコクピットに収まった。

 見慣れた配置のコクピット。操縦席はPT共通だ。

 事態は緊急を要する、パイロットスーツに着替える余裕はない。もともと、今身につけているバトルスーツ自体にもそれなりの対G機能は備わっているから問題はないだろう。ベルトでシートに体を固定する。

 TーLINKシステムとのリンクに伴う軽い頭痛に懐かしさを感じつつ、アーマラはシート脇のキーボードを引き出しOSの調節を始める。PTパイロットとして、こればかりは他人に任せるわけにはいかない。

 

『よしっ! TーLINKシステム、コンディションオールクリア!』

「TCーOS設定終了、いつでも行けます」

『わかった。カタパルトに機体を回すぞ』

「はい」

『死ぬなよ、アーマラ』

「ああ。イング、お前とアッシュは私とこのファルケンが守ってやる。だから心配などせず、私たちの戦いを観戦していろ。大船に乗ったつもりでな」

『ははっ、わかったよ』

『アーマラ、気をつけてね』

「大丈夫だ。お前たちの造ったパーソナルトルーパーを信じろ」

 

 イングらの言葉に受け答えをし、アーマラは通信を切る。メンテナンスベッドから、《ビルトファルケン》が発進用カタパルトに移動する。

 正体不明の敵が相手だが、アーマラの胸中には恐怖も不安もなかった。自身のパートナーであり、かつては八つ当たりの対象にもしたイングの見ているところで無様な姿をさらすつもりはない。

 

「ファルケン……お前の性能、確かめさせてもらうぞ。――アーマラ・バートン、ビルトファルケン、発進する!」

 

 カタパルトから打ち出された(くれない)の隼が、宇宙の闇に羽撃(はばた)いた。

 

 

 

    †  †  †

 

 

 

 新西暦188年 □月○日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 新型機《ビルトファルケン》の受領、とんだことになったな。

 ボアザン星の《スカールーク》に率いられたアンノウンの一団が、マオ社のある月面都市に突如襲来した。無論、すべて返り討ちしてやったが。

 月まで同乗した《ナデシコB》は異星人勢力の再来を受けて一時任務を中断し、ロンド・ベル隊の本拠地、コロニー「ロンデニオン」に向かうこととなった。

 私は、共闘した「コスモクラッシャー隊」の長官にして国際警察機構の九大天王、大塚長官の依頼で《コスモクラッシャー》隊と一緒に《ナデシコB》に同行する。

 なお、イングは《アッシュ》の改装作業を待つため、マオ社に留まるという。鉄砲玉みたいな奴だが、実力は折り紙付きだ。心配はいらないだろう。

 

 しかし、《コスモクラッシャー》隊の明神タケル、あの男の念はなんだ? イングに匹敵するか、あるいはそれ以上だろう。イング自身もかなり気にしていたし。

 念動力者ではないとの話だが、警戒する必要があるな。

 

 追記

 《ナデシコB》の艦長、ホシノルリ少佐に「ラトゥーニとちゃんと連絡を取るように」と注意を受けてしまった。どうやら、心配されていたようだ。前から仲がよかったが、あの二人今はペンフレンドらしいしな。

 シンディ退役少尉が双子を無事出産したらしいし、後で近況報告と贈り物をしておこうと思う。

 

 

 

    †  †  †

 

 

 

 コロニー、ロンデニオン。

 《ナデシコB》に同乗して入港したアーマラは今、ロンド・ベル隊の隊舎ビル内にある小会議室にいた。

 アーマラの前に立つアムロ・レイは、二人の少年少女を連れている。銀髪をショートヘアにした勝ち気そうな少女と、紫色の髪のどこか能天気そうな少年だ。

 

「大尉、その二人が先日転属してきたという?」

「うん。ゼオラとアラドだ。二人とも、自己紹介を」

「ぜ、ゼオラ・シュバイツァー曹長でありますっ!」

「同じくアラド・バランガであります! あ、階級は曹長ッス」

「ばかっ! 真面目に自己紹介しなさいよっ」

「ちゃ、ちゃんとやったじゃんかよ」

「どこがちゃんとよ! 昨日あれだけ練習したのに!」

「いててっ」

 

 反射的に反論するアラドに、ゼオラが我を忘れて襲いかかっている。わちゃわちゃとじゃれ合う新人二人をアムロが微笑ましそうに見ていた。

 どうやらロンドベルにはすぐにでも馴染めそうだな、とアーマラは小さく苦笑した。

 

「アーマラ・バートンだ。所属は国際警察機構だが、連邦軍では少尉相当官となる。よろしく頼む」

「よろしくお願いしますっ!」

「よろしくッス!」

「彼らは君と、それから合流したらイングに任せたいと考えているんだ。新兵と思って差し支えはないから、よくしてやってほしい」

「了解しました」

 

 アムロの要請に、アーマラは頷く。なお、学習しないアラドが、学習したゼオラに睨まれて冷や汗をかいている。

 同じパーソナルトルーパーのパイロットということで、アーマラとイングに白羽の矢が立った。とはいえ、肝心のイングは未だ月面で足止めを食らっているのだが。

 

「しかし、お忙しそうですね大尉」

「ははは、そうだね。部隊の再編や新人教育などに大わらわさ」

「他の新人というと……あのS(スペリオルガンダム)という新型の?」

「ああ、リョウ・ルーツ少尉。スペリオルのテストパイロットから、こちらに転属してきたんだ。……カミーユやジュドー、ウラキ少尉に比べると少しヤンチャだが――まあ、若い頃の竜馬たちに比べればかわいいものだよ」

 

 若き日の戦友を話題にし、アムロは軽やかに言う。アラドとゼオラの目が、心なしか目キラキラとさせている。“巨神戦争”の英雄が同じ英雄を語る姿に感動でもしているのだろう、とアーマラは察した。その気持ちはよくわかるので。

 

「スペリオルは強力なマシンだが、その分操縦難度もずば抜けて高い。ルーツ少尉もよくやっているとは思うが、まだまだ性能を引き出し切れているとは言いがたいからね。訓練は必要さ」

「なんでも、Z計画のモビルスーツだとか?」

「うん。ダブルゼータとは兄弟機みたいなものだよ」

 

 MSA-0011 (MSZ-011)《スペリオルガンダム》――《ゼータガンダム》の流れを組む、アナハイム・エレクトロニクス社の試作型モビルスーツだ。

 Ζ計画における“究極のガンダム”を目指して開発した第4世代MSに分類される機体で、開発当初のコードネームは「ι(イオタ)ガンダム」。《ΖΖガンダム》と同時期に開発が始まった機体であるがその開発は難航し、バルマー戦役には間に合わず、今年に入ってようやく実機によるテストに漕ぎ着けた。しかしネオ・ジオンの決起に合わせて急遽、試作機の運用経験が豊富なロンド・ベルに配備されたという経緯がある。

 

 その専任パイロットであるリョウ・ルーツ。

 年齢は22歳。地球連邦所属の新兵で一年戦争で父は戦死、母は研究に没頭するあまり家庭を放棄したあげく事故死(その境遇に、アーマラは少しシンパシーを感じた)。

 髪を逆立て、その三白眼で人を睨みつけ、罵詈雑言を交えないと人と会話が出来ないのかというくらい言語に品がない粗暴な人物で、「軍服を着たヤクザ」という士官学校の評価も残るほど。優秀であるため、軍も致し方なく彼を置いているがそうでなければ放逐されても仕方のない男だ。 

 アーマラは直接の面識はないが――イングのように誰彼構わず接触したりしない――、伝え聞く所によるとかなりの「問題児」らしく。実際、ロンド・ベルに転属してきた際も、教官役のバニングに早速噛み付いて模擬戦で散々にやられたという。広く名の知れた英雄であるアムロならともかく、歴戦とはいえ無名(不死身の第四小隊はマイナーだ)と言ってもいい相手、それも《ジム・カスタム》に惨敗したのがよほど堪えたらしく、今はそれなりに従っているようだ。

 アーマラに言わせれば、ロンド・ベル隊にやってくる者で優等生など――自分も含めて――は少数派だ。リョウ・ルーツは現在バニング大尉の隊に配属され、先達たちにしごかれているとのことである。

 

「さてと、じゃあ、アーマラ、あとは任せるよ」

「はい、お疲れさまでしま」

 

「「お疲れさまでした!」」

 

 三人に見送られ、軽く手を上げて応じたアムロは足早に去っていった。彼はロンド・ベル隊のモビルスーツ隊大隊長として忙しい身だ。

 自動ドアが閉まるのを確認したアーマラは振り返り、程度の違いはあれど緊張した面持ちの両名を見やりながら切り出した。

 

「まずは二人とも座れってくれ。ここは一日借りているから、今日は軽くレクリエーションといこう」

 

 いそいそと席に座る二人に飲料水のボトルを渡しながらアーマラは、内心で嘆息した。慣れぬことだが、自身の上官だったカイ・キタムラやキョウスケ・ナンブらの振る舞いを思い出し、何とかやるしかない。もっとも、エクセレン・ブロウニングのような――一見、能天気とも言える――インファイトスタイルは相棒(イング)の領分だが。

 二人の対面の席についたアーマラは、タブレット式の情報端末を起動させた後、口を開く。

 

「先にも述べたが、私は少尉()()()なのでな。階級で呼ぶのはいささか不適切だから、名前か、さもなければ「副隊長」と呼ぶように。いいな?」

「はい! よろしくお願いします、アーマラ副隊長!」

「了解ッス、アーマラさん。……あ、副、ってことは」

「ああ、まあ……、私のパートナーというやつでな。そのうちヤツも合流するだろう」

 

 前置きをしたところで、面談を始まることにした。

 

「さて……先に経歴を読ませてもらったが、お前たちは()()“スクール”出身らしいな?」

「は、はい」

「いや、責めているわけではない。私もかつては特脳研という研究機関に居たことがあるしな」

 

 顔色を悪くしたゼオラを、アーマラは苦笑を浮かべて宥める。

 

(――カウンセラーの診断によると、両者ともに中度の精神誘導の痕跡有り。特にゼオラは、ティターンズを崩壊させたプリベンター及びロンド・ベルに対しての拒絶感と恐怖心がみられる。アラドはそうでもないらしいが、これは単純に性格の違いだろうな)

 

 恐縮しっぱなしのゼオラといい意味で力の抜けた様子のアラドを見比べ、アーマラはそう推測した。

 「スクール」――今は無きティターンズの兵士養成校のようなもので、孤児など少年少女を集めて教育()()を行っていた。しかし、未来世界で戦ったアンセスターの黒幕とも言える科学者、イーグレット・フィフがかつてスクールに在籍していた事実だけでも、どのようなことが行われていたかわかるというものだ。

 自分が引き取られた先の特脳研が()()()()()()な研究機関でよかったと、アーマラは常々思っている。ムラサメ研を代表とする“ニタ研”や、スクールなどろくでもないところだったらどうなっていたことか。

 

「それで、ティターンズ崩壊後はゴップ議長に拾われたと」

「はいっ、閣下にはよくしていただきました!」

「ヤザン大尉とイングリッド姐さんに、ビシバシ鍛えられたッス!」

「イングリッド……ああ、議長が養女にしたという」

 

 ゴップ退役元帥は、かつては地球連邦軍統合参謀本部議長として“巨神戦争”の終結に尽力し、現在は地球連邦議会の議長を勤める人物だ。またアーマラとイングの、国際警察機構の職務上の“お得意様”でもある。

 自身のことを「人類の寄生虫」などと自虐し、実際のところ清廉潔白な人物では決してないが、ジオンのモビルスーツをいち早く脅威と見抜き「V作戦」を後押しする、スーパーロボットを集めてホワイトベース隊を結成させる、ティターンズ・エゥーゴなどの軍閥とは距離を置く、SDF艦隊の活動を政治の分野から後援するなど、現実的な実利を優先し主義的な差別意識を表さない。ただ、元ジオンの強化人間の少女を養子にするのは、正直どうなんだとアーマラはこっそり思っている。

 

「それで、「ナイト・シーカー隊」の一員として活動中、ネオ・ジオンと遭遇。交戦するも隊は壊滅的……そこにシャアが居たんだな?」

「はい……」

「生き残ったのは、おれたちとヤザン大尉、それからイングリッド姐さんだけでした」

「そうか。……ヤツは、シャア・アズナブルと相対してどうだった?」

「強かったです、とても」

「おれたち、手も足もでなくって……」

 

 少し青ざめた様子のゼオラ、アラドは悔しそうに俯いていた。

 報告書によると、赤いカスタムタイプの《ディジェ》と思わしき機体に乗ったシャア・アズナブルらと交戦したという。新兵に毛が生えた程度の二人がこうして生き残れたのは、先任たちの犠牲の上のものだ。

 アーマラは言葉を選びながら二人を宥めることにした。

 

「相手はあの“赤い彗星”だ、私とて一対一ではどうなるかわからん。ヤツと対等に渡り合えるのは、アムロ大尉や兜甲児博士ら“巨神大戦の英雄”くらいのものだろう」

 

 落ち込む二人を励ますため、アーマラは私見を述べた。

 イージス事件の際には、僅かな期間だが直接の上官だった相手だ。知らぬ相手ではないし、シャアが決起の理由とした地球連邦政府の腐敗ぶりには、アーマラとて思うところがないわけがない。アラドとゼオラの境遇を考えればなおさらだ。

 しかし、未だ様々な外敵という脅威が存在する中、連邦政府やコロニーなどの統治を揺るがしてどうしようというのか。政府内部での改革に見切りをつけ、武力による革命を選んだのはなぜか。アーマラには、何か別の目的があるように思えてならなかった。

 

 ともかく、公人として聴きたいことは聞けた。沈んだ空気を切り替えるように、アーマラは次に個人的に聴いておきたい話題を話すことにした。

 

「ところでお前たち、ラトゥーニという名前に心当たりは?」

「えっ、ラトゥーニだって!?」

「あの、少尉はラト、ラトゥーニをご存じなんですかっ?」

「ああ、やはり知り合いか。彼女と、それからホシノ少佐もだが、前大戦では同じ艦に乗っていた。極東支部に所属しているそうでな、今の上官は私の新任の時の教官だった方でそう無体な扱いもされていないと思う」

 

 ラトゥーニ・スゥボータ、アラドたちと同じ「スクール」の子どもたちの内の一人。機動兵器の操縦に天才的な才能を持つ14歳(バルマー戦役当時)。肉体強化処置と訓練を受けて大の大人顔負けの働きも出来る少女だが、「スクール」での経験で極度の対人恐怖症を患ってたこともある。

 バルマー戦役の中、紆余曲折あって《ナデシコ》隊の一員として戦乱を生き抜いた。保護者とも言えるジャーダ・ベネルディとガーネット・サンディが結婚を機に軍を退役したあとも、連邦軍に残っているという。

 幼いといっていい年齢のラトゥーニだが、アーマラの恩師とも言えるカイ・キタムラの下にいるなら、心配は要らないだろう。

 とはいえ、今の極東地区の長官はあまりいい噂を聞かない人物だが――

 

「ロンド・ベルに所属していれば、極東地区に行くこともあるだろう。とりあえずホシノ少佐から連絡先を預かっているから、あとでメールの一つでも送ってやるといい」

「はいっ、ありがとうございます!」

「ありがとうっス! ……これでオウカ姉さんたちの居場所もわかればなぁ」

「オウカ……、「スクール」の同窓か?」

「はい、オウカ姉様――オウカ・ナギサは私たちの中で一番年上で、一番成績のよかった人でした」

「落ちこぼれだったおれにもよくしてくれたッス」

「でも、「スクール」がなくなってから、みんな散り散りになってしまって……」

「おれたち、みんなの行方を探してるんです。どうなるかわかんねーけど、生きてんのかもわかんなきゃ何も始まんないし」

「そうか、お前たちは家族のために戦っているんだな……」

 

 仲間、いや家族の行方を掴み、二人が顔を見合わせ笑みを見せ合う。そんな様子に、アーマラは複雑な思いを抱いた。

「あの、アーマラ副隊長?」ゼオラが気遣わしげな目を向ける。

「いや、なんでもない」アーマラは(かぶり)を振って表情を引き締めた。

 成り行きで兵士をしていると言っていいアーマラは、二人のことを少し羨ましく感じていた。彼女の両親は、ジオンのコロニー落としとその後の戦争の余波で亡くなっている。

 

「……よし。前置きが長くなってしまったが、卓上でフォーメーションの確認。そのあと、シミュレーターを使っての訓練だ」

「はい!」「了解ッス!」

 

 

 

    †  †  †

 

 

 

 新西暦188年 ×月■日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 コロニー・ロンデニオンに到着した。

 ロンデニオンには任務を終えたペガサス級の新造艦《アルビオン》が帰港しており、私は再会したロンド・ベル隊のメンバーに《ナデシコB》のメンバーを引き合わせた。

 ブライト艦長は、ホシノ少佐のあまりの若さにやや微妙な面もちをしていたのが印象的だったな。

 

 それから、部下としてアラド・バランガ、ゼオラ・シュバイツァーの両名を紹介された。

 二人はあの悪名高い「スクール」出身の元ティターンズ兵で、ティターンズが崩壊してからはゴップ議長に拾われて私兵的な立場で任務に当たっていたとのこと。シャア・アズナブルの追跡任務をあのヤザン・ゲープルらと行っていたらしいが、部隊は壊滅。生き残った二人は大将の口添えでロンド・ベルに転属してきた。

 ブライトキャプテンとアムロ大尉は、私の経歴から彼らの指導役に選んだのだろうな。

 二人の乗機は《量産型ヒュッケバインMk-II》、グレーの落ち着いた配色に《ジム》を思わせるゴーグルタイプの頭部を持つ正式量産型だ。

 イージス事件当時の先行生産機とは違い、テスラ・ドライブを標準装備している最新モデルだが、それ以外はいたって普通の機体だ。フレームはH系ではなくゲシュペンストのG系だし、グラビコン・システムやチャクラム・シューターも付いてない。まあ、腐っても最新鋭のPTだし、性能については及第点、新兵にはむしろ少し過剰かとも思える。ともかく、私がフォローに回れば生き残らせることは可能なはずだ。

 イングと合流したのち、武装なりをカスタマイズしてやろうと思う。

 

 

 

 新西暦188年 ×月●日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 クロスボーン・バンガードの残党がロンデニオンを強襲した。

 殺戮兵器《バグ》を用い、ロンデニオンの住人を虐殺しようとする奴らに対し、もう一つのクロスボーン・バンガード、宇宙海賊の《マザーバンガード》が現れて連中の撃退に成功した。もちろん、ロンデニオンに被害は出ていない。完勝だ。

 面倒をみることになったアラドとゼオラだが、個々人としては及第点の腕前でコンビとしては目を見張るものがあった。完全な新兵というわけでもないらしいし、問題点がないでもないがそれはおいおい修正していけばいいだろう。

 

 宇宙海賊の中に国際警察機構の掴んでいた情報にはない機体、白いアーマードモジュールの姿があった。

 ずいぶんと危なっかしい操縦だったが、パイロットは素人か?

 

 宇宙海賊についてだが、自ら正体を明かすまでこちらから説明する必要はないだろう。一応、味方であることはそれとなくブライト艦長らに話しておいたが、私には知ったことではないしな。そこまで面倒は見きれん。

 

 

 

 新西暦188年 ×月♯日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 地球から《大空魔竜》が火星に到着した新たな異星人、バーム星人との会談のために寄港した。

 お馴染み兜甲児博士、流竜馬氏、一文字號らゲッターチームを筆頭とした日本地区の特機乗りの他に、何名か新顔が同行していた。

 《鋼鉄ジーグ》こと司馬宙。《大空魔竜》専属の特機《ガイキング》のパイロット、ツワブキサンシロー。元リクレイマーの伊佐未勇ら「ブレンパワード」を要するノヴィス・ノアのメンバー。火星で代表役を任された竜崎博士の息子、《ダイモス》の竜崎一矢らだ。

 ドクーガにつけ狙われている《ゴーショーグン》の「グッドサンダーチーム」と真田ケン太なんてのもいるな。「ビムラー」という超エネルギーを狙ってのことだそうだ。ありがちだな。

 

 ああ、そういえば、恐竜帝国復活の兆候がある関係で極東地区に残っている神大佐に代わり、南風(みなみかぜ)渓少尉がゲッターチームのお目付け役として同行している。本人も支援機《レディ・コマンド》(巨神戦争時にも使われていた機種だが、さすがに新造したものらしい)で戦闘に参加するようだが、新任だし少尉は少し抜けた印象があるから少し心配だな。

 それから、兜博士のアシスタントとして同行しているリサという少女。彼女は、世界最大級の光子力エネルギープラントのあるマウント富士の地下より発掘された巨大人形ロボット、通称「《INFINITY》」の中で眠っていた少女型アンドロイドで、全身の91%が生体パーツで構成されている。その名前は、「LARGE INTELLIGENCE SYSTEM AGENTS」の頭文字を取って名付けられたという。

 今回、兜博士が連れてきたのは「社会勉強」ということらしく、リサの振る舞いはまさにおのぼりさんだ。

 しかし、見た目完全な少女に「ご主人様」と呼ばせているのは、正直どうかと思う。

 

 

 さておき、《大空魔竜》には私的に見逃せない人物が二人乗っていた。

 クスハ・ミズハとゼンガー・ゾンボルトである。

 

 クスハ・ミズハ、SDF艦隊ロンド・ベルの一員としてバルマー戦役を戦い抜いた強念者。日本地区で静かに暮らしていたが、傷だらけの《龍王機》と黒く染まった《虎王機》が現れ、再び戦場に舞い戻った。

 搭乗機は所用(新型パーソナルトルーパー建造などのため?らしい)で秘密防衛組織「GGG」に滞在していたロブの手で蘇った《龍人機》。損傷を《グルンガスト》系のパーツで補ったらしいな。

 ゼンガー・ゾンボルト、未来世界でアンセスターとしてプリベンターと激闘を繰り広げた男。その過去の姿。

 アースクレイドルが地底勢力「邪魔大王国」により破壊されたことで目覚め、敵討ちを胸に黒い《グルンガスト参式》を駆って《大空魔竜》に合流した。

 未来世界でのことを知るメンバーは、彼にそのことを伝えないように口裏を合わせている。変わった未来を、知らなくてもいい情報をわざわざ教える必要はない。

 

 なお、《ナデシコB》は連邦軍からの出頭命令を受け、地上に降りることになっている。

 私も引き続き同行するから、彼らとはここでお別れだ。まあ、また合流するような予感がしているがな。

 

 

 

 新西暦188年 ×月■日

 地球、極東地区日本 ビッグファルコン

 

 連邦軍極東基地、ビッグファルコンに到着した。

 そこで、凍結の一部解除により再開されたSRX計画による特機第四弾となる《ダンクーガ》の後継機、《ダンクーガノヴァ》とチームDが《ナデシコB》に配備された。葉月博士による開発であることは言うまでもないのだが、やや違和感があるな。上手く説明はできないが。

 

 しかし、なんだってあんな民間人たちをパイロットにしているんだか。軍人等、何名かを経てとのことだそうだが、いくら何でも連中は冷めすぎドライすぎだ。私の言えたことではないが。

 特にあの、飛鷹葵とかいう女とは馬が合わん。こういう言い方はしたくないが、生理的に無理だ。感覚的なものだが、同族嫌悪というやつかもしれない。

 そう言えば、イングがあの女の名前を調べていたな。《ノヴァ》のことを掴んでいたのか?

 

 三輪?そんな時代錯誤の原始人は知らんな。

 

 

 

 新西暦188年 △月☆日

 地球、極東地区日本 

 

 突如日本地区に現れ、破壊活動を開始した謎の集団。迎撃に出た《ナデシコB》がその現場、星見町にたどり着いたときにはすでに戦闘が開始していた。

 戦闘を繰り広げていたのは、四肢にタービンを装着した青い特機《電童》と、特機としては標準的な60メートル級のロボット《トライダーG7》。

 《電童》は「GEAR(Guard Earth and Advanced Reconnaissance、地球防衛および高度偵察の略称)」が有する異星文明の機動兵器である。

 同じく地球防衛組織「GGG」とは密接な関係にあり、実質的には同一の組織と言っていいだろう。同じ、異星文明由来の機体を管理しているわけだし。

 「ガルファ帝国」というらしい新たな侵略者を撃退した《電童》だが、パイロットになってしまった二名は日本地区の小学生とのことで、さすがに親元から離すわけもいかず《ナデシコB》には配備されていない。

 しかし、GEARの副指令、ベガとか言ったか? 武装バイクに乗っていたとはいえ、生身で機動兵器と立ち向かうとは。十傑集や九大天王、ガンダムファイターレベルの人間がこうも溢れているなんて、世も末だな。

 

 もう一方の《トライダーG7》だが、こちらも個人、というか企業所有のため、《ナデシコB》には参加しない。今回の出撃も極東支部との契約を履行したにすぎないわけだしな。

 どこぞの無能な長官がなんだかんだと騒いでいたが、前長官との契約を盾にされて黙っていた。ざまぁないな。

 

 

 

 新西暦188年 △月×日

 地球、極東地区日本

 

 異星人襲来、長き沈黙から復活した恐竜帝国など地底勢力の本格的な再侵攻により、地球圏はバルマー戦役に匹敵するほどの大混乱に陥っている。

 我々《ナデシコB》は混乱を鎮める東奔西走、地球を駆けずり回った。

 

 まず、マオ・インダストリー社を襲撃した敵の実体が判明した。

 「ギシン星間連合帝国」、それが奴らの名だ。かつてバルマーに組み込まれていたボアザン星人、キャンベル星人、さらには「暗黒ホラー軍団」ことダリウス星人など、未だ私たちの預かり知らぬ複数の文明を吸収した()()とは名ばかりの銀河帝国であるという。

 どうやら、外宇宙ではバルマー帝国および巨人族たちと戦争をしているらしい。

 

 《コスモクラッシャー》隊の明神タケルを襲った敵の超能力者――ガッチとか言ったか? ともかく、それにより危機に陥った明神を守るように出現した赤いロボット、《ガイヤー》。そしてどこからともなく現れた五体のロボットと合体した姿、《ゴッドマーズ》、強力極まりない念動兵器だ。

 そして同時に、明神タケルがギシン星間連合から送り込まれた破壊工作員、マーズであることも同時に判明した。さらには《ガイヤー》には「反陽子爆弾」が内蔵されており、明神の死により地球諸共爆発するのだという。

 この事実に、《ナデシコB》のメンバーは動揺を隠せない様子だ。有り体に言えば一部のメンバーは拒絶反応を示していた。中立の立場をとっていたホシノ艦長も、やむなく明神を営巣にぶち込んでいたくらいだからな。

 元ティターンズの私にしてみれば、本人の意志が地球を護ることにあるなら受け入れるべきだと思うが。

 生まれが異星だなどと、些末でつまらないことを気にする連中だ。敵ならば討つ、味方ならば助ける。シンプルでいいだろうに。

 とりあえず、このことは三輪には内密にしておくべきだろうな。

 

 まだまだあるぞ。

 物資補給のために立ち寄った極東、佐世保基地。そこに突如来襲した奇妙な形状の巨大戦艦が市街地に無差別攻撃を始めると、正体不明の三機の機動兵器が現れた。声から察するに、幼い子供たちがパイロットだろう。

 その三機が合体した特機《ザンボット3》は敵巨大戦艦を撃退した後、白い戦艦とともにふらりと姿を消してしまった。

 巨大戦艦及び特機、どちらの詳細は不明だ。まあ、パターンから言って直にこちらに合流するだろう。

 

 さらに、富士樹海。

 GEARを通して、「ラスト・ガーディアン」と呼ばれる秘密組織から《ナデシコB》に救援要請が入った。

 急行した我々は邪魔大王国の軍団を撃退する。ククルとかいういけ好かない女を取り逃したのは悔しいが、それはともかく。ついで襲来したのは鉄甲龍の八卦集、《風のランスター》。その名の通り、特機サイズにも関わらず暴風のように速く激しい。

 こちらが迎撃しようとしたそのとき、まるでそれに呼応するかのように白亜の特機が現れ、不可解なほどの圧倒的な力で《風のランスター》を一蹴した。

 この白い特機はラスト・ガーディアンの関係する機体のようだが、詳細は不明である。

 

 また、相も変わらず各地で暴れる擬態獣を駆除する流れで、ダンナーベースの猿渡ゴウと《ゴーダンナー》、藤村静流の《コアガンナー》が隊に合流した。三輪からの圧力を避ける狙いがあるようだな。

 しかし、“巨神戦争”でMIAになっていたミラ・アッカーマンが《ネオ・オクサー》に乗っていたことには驚いた。どうも、バルマー戦役の時に駆除した擬態獣の体内から発見されたらしい。どういうことだ。

 ともかく、二人はあの地獄のように混乱を極めていたバルマー戦役を戦い抜いた仲間である、懐かしさもひとしおというものだ。まあ、当時の私は自分で言うのもなんだが荒れていたので、猿渡や静流にもそれなりに迷惑をかけたとは思うが。

 しかし、杏奈と別居中(所在は掴んでいるようだ)とは。あれか、昔の女が現れて関係がこじれたのか。私としてはなんとも言い難いが、単なるコミュニケーション不足が原因のように思えるな。

 

 と、このように、この僅かな期間にこれだけのことが起きている。

 バルマー戦役やイージス事件での混乱もそうだが、いったい地球はどうなっているんだ。

 

 追記

 北米地区で地下勢力に対する掃討作戦において、剣大佐と《グレートマジンガー》が消息不明となっている。未来世界で戦ったミケーネ帝国の残党や恐竜帝国のこともある、嫌な予感を感じざるをえないな。

 

 

 

 新西暦188年 △月#日

 地球、極東地区日本

 

 ここにきて、最悪と言っていいニュースが飛び込んできた。

 復興中の火星で行われたバーム星人との会談が、失敗に終わったとの情報が届いた。バーム星の指導者リオン大元帥が毒殺、こちら側の代表竜崎博士が殺害された、らしい。

 バーム星人たちは地球に対して宣戦布告、ギシン星間連合と手を組んだらしい。

 さらに、それを受けた形で連邦軍の月基地を母体とするギガノス帝国が独立を宣言、連邦政府に宣戦布告し、噂のメタルアーマーを用いて他の月基地を電撃的に制圧した。

 幸い、マオ社やアナハイム社は制圧を逃れて抵抗を続けているようだ。おそらく、イングの奴もその渦中にいるのだろう。

 

 ところであの火星再開発計画、実のところ木連残党「火星の後継者」と木星帝国の息がかかっている疑いがある。連中に鼻薬を嗅がされた無能な政治家どもの仕業とはいえ、あくまで連邦政府主導の計画であるから迂闊に妨害できないのが口惜しい。

 過去に「闇王子」ことテンカワが「リリアル」ミスマル艦長を伴って何度か襲撃を仕掛けてはいるが、木連残党をいぶり出すには至っていない。

 今回の会談失敗、あるいは木星帝国が裏で糸を引いているやもしれんな。ジュピトリアンは異星人と結託していた前科があるのだし。

 

 《大空魔竜》と《アルビオン》が地球圏に戻るには、それなりに時間がかかる。彼らが帰還するまで、私たちが地球を守らねば。

 

 

 

 新西暦188年 △月□日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ギガノス帝国のメタルアーマーを迎え撃つため急遽宇宙に上がった《ナデシコB》は、奴らに追われていた《サラミス改級》を救援した。そこに乗り合わせたメタルアーマーの開発者、ラング・プラート博士と連邦軍の諜報員、ダイアン・ランス少尉を保護した。

 ギガノスを裏切った博士だが、亡命というよりはギガノス指導部との意見の相違が原因だろう。彼自身は、メタルアーマーは地球の脅威に対する剣の一つだと考えていたらしい。

 かつてはDCにも所属し、ビアン博士の友人であったそうだからその思想に共鳴しているのだろうな。

 自身の開発した新型メタルアーマー「D兵器」とともに地球連邦軍に身を投じ、ギガノスの暴走を止めるつもりだという。戦火の種を徒に作ったのだと思っていたのだが、なかなか好人物のようだな。

 だが博士、スリーサイズがどうのとか、セクハラだぞ。ゼオラのヤツが珍しくぶちギレていた。

 

 「D兵器」の最終調整のため、彼とはスペースコロニー「アルカード」の連邦軍に引き渡すことで分かれた。

 彼の造るメタルアーマーが地球圏の混乱を治める力になればいいが。

 

 

 

 新西暦188年 △月◎日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ギガノスの機動部隊と交戦した。

 “ギガノスの蒼き鷹”マイヨ・プラート、強敵だ。この私と引き分けるとは、大袈裟な二つ名は伊達ではないらしい。

 私も同じファルケン()を駆る者として、負けていられないな。

 

 さておき、ギガノスの機動部隊を退けた《ナデシコB》に北辰集――、旧ジュピトリアン木連派の暗殺者、北辰率いる汚れ役共が木連系の機動兵器を連れて強襲してきたのだ。

 言いたくはないが、イングとコンビでなければ戦いたくない嫌な相手である

 《夜天光》というらしい北辰の機体の運動性に、打って変わって苦戦する私たち。そのとき、テンカワの《ブラックサレナ》とミスマル艦長の《ユーチャリス》がボソンジャンプで現れた。

 そこでのたまったのがこれ。

 

「国際警察機構のエキスパートです、ぶいっ!」

「……いろいろ台無しだぞ、ユリカ」

 

 まったくだ。

 北辰集を退けた後、再びボソンジャンプで消えた彼らだったがその後が大変だった。

 私が国際警察機構の人間であることを知るホシノ艦長に、問いつめられたのだ。とりあえず、二人の気持ちを考えてやれなどと意味深に言って煙に巻いた。なんだかイングがやりそうなことだと気づいて、少しヘコんだのは秘密だ。

 

 

 

 新西暦188年 △月♪日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 《大空魔竜》、《アルビオン》が地球圏に帰還した。

 さらに、火星からの帰路で宇宙海賊と合流したらしく、《マザーバンガード》を伴っていた。

 

 またぞろ新顔が増えた。

 プラート博士の開発したD兵器、《ドラグナー》シリーズに偶然乗ってしまった民間人、ケーン・ワカバら「アストロノーツ・アカデミー」の三人だ。

 あと、アルカードからの避難民の女子二人が同行している。

 というか、リンダ・プラートってプラート博士の娘だろう? ダイアン少尉が一緒にいたことから、博士に対する人質の意味もあるのかもな。

 

 固定された《ドラグナー》の生体認証を解除するにはそれ相応の規模の施設が必要とのことで、ケーンたちはそれまでパイロットをするしかないわけだ。

 悪ガキ共はさっそくバニング大尉にシゴかれていた。

 とりあえず、早々にナンパしてきたライト・ニューマンは伸しておいたが。イングとは気が合いそうだ。

 

 アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ、火星で合流した異星人だ。

 かつてはバルマーの影響圏にあり、現在はギシン星間連合に支配されたグラドス星出身の地球人、バルマー人のハーフである。

 ギシン星間連合が地球を狙っていることを伝えるため、最新型SPT《レイズナー》を奪い、やって来たらしいが一足遅かったと言う他ないな。

 他にも、折り悪く火星クリュス基地を訪れていた「コズミック・カルチャー・クラブ」とかいう民間人の子供たちとその引率の女性を保護している。いや、彼らは私と大差ない年齢ではあるのだが。

 

 宇宙海賊クロスボーン・バンガード。

 ベラ・ロナとキンケドゥ・ナウ(あえてこう記しておく)が率いるレジスタンスである。主力兵器はサナリィ系列のMS、“クロスボーン・ガンダム”シリーズ。

 また、木星に赴く際に出会ったというトビア・アロナクスという火星入植者の少年を仲間に引き入れている。トビアの乗機は《クロスボーン・ガンダムX2》。

 あの危なっかしい白いAM、名を《アルテリオン》と言い、かつてDCで開発された外宇宙探査用の航宙機だそうだ。

 パイロットはアイビス・ダグラス。民間の運び屋で、陰気な女である。パートナーのツグミ・タカクラに尻を叩かれていやいや戦っているように見えるな。覚悟がない奴は戦場に出ないでほしいものだが。

 

 そして、私とホシノ少佐には懐かしい顔もいた。《エステバリス・カスタム》のパイロット、ヤマダ・ジロウとスバル・リョーコだ。

 《ナデシコ》隊が解散した後、二人は連邦軍に組み込まれ、クリュス基地で勤務しており、同基地がバーム星人及びギシン星間連合により壊滅したのを受けて《大空魔竜》とともに脱出してきたのだという。悪運の強い奴らだ。

 どうやらテンカワとは何度か交戦していたらしく、ホシノ艦長から例の二人のことを聞いてまたぞろ詰められた。

 まったく、なんで私が。こういうのはイングの役目だろうに。

 

 かつてのSDF艦隊以上に混沌とする部隊。構成する組織、チームも数えるのも億劫なほどだ。

 戦艦だけでも《ラー・カイラム》、《アルビオン》、《ナデシコB》、《大空魔竜》、《マザーバンガード》の五隻。艦隊と呼んでいい規模だ。

 そこで、新たに部隊の統一名称を策定することになった。

 喧々囂々の末、決まった名称は「αナンバーズ」。キンケドゥの発案だ。

 まあ、悪くないんじゃないか?

 

 

    †  †  †

 

 

 シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン艦隊のコロニー「スウィート・ウォーター」入りを阻止するため、現宙域に急行した「αナンバーズ」。

 ネオ・ジオンに加え、協力関係にある木星帝国、ギガノス帝国の大軍が迎え撃つ。

 

 真紅の隼《ビルトファルケン・タイプL》が《ギラ・ドーガ》や《ゼク・アイン》、《ゲバイ・マッフ》、《積尸気》、《バタラ》、《ビルゴlll》などを蹴散らして戦場を切り裂く。

 《ダイテツジン》、旧ジオン軍から流れたらしい《量産型グレート》や《量産型ドラゴン》などの大型機を《マジンガーZ》、《ネオ・ゲッター》ら特機に任せ、狙いは敵の総大将、“赤い彗星”シャア・アズナブルと《サザビー》の首だ。

 

「クワトロ・バジーナ! あなたには世話になったが、手加減する理由にはならんな!」

『アーマラ・バートンか。“彼”ならまだしも、君では私の相手にはいささか不足だよ』

「言ってくれるな……! 不足かどうか、試してみるか!」

 

 《サザビー》に《ビルトファルケン》が立ち向かう。

 《バスタックス・ガン》と《ビーム・トマホーク》が激突した。

 《ビルトファルケン》のテスラ・ドライブによる慣性を無視した機動を、シャアは難なく捉え、決定打を許さない。

 逆にアーマラは、重モビルスーツ《サザビー》の見た目に似合わぬ高機動と強力な火器、そしてサイコミュ誘導兵器《ファンネル》のコンビネーションに手を焼いていた。

 アーマラに一足遅れ、敵陣を抜けたクスハがシャアに呼び掛ける。

 

『クワトロ大尉、どうして戦争なんて始めたんですか!』

『クスハ、すでに地球は愚かな人類によって限界に来ている。だから私が粛清すると宣言した!』

『そんな……そんなこと、させません!』

『ならば君を倒して実現させるとしよう。行け、ファンネル!』

 

 シャアの思念を受けた《ファンネル》が放射状に射出された。

 殺意が宇宙を走る。

 

『きゃあ!』

 

 クスハの悲鳴。特機サイズの《龍人機》には、小さく素早い《ファンネル》は極めて捉えづらかった。ましてや、それを操るのが地球圏でも最強クラスのニュータイプであれば尚更だ。

 《ファンネル》の一撃が念動フィールドを貫いて、《龍人機》に少なくないダメージを与える。

 

「クスハ! ――くっ、マイヨ・プラート!」

『シャア総帥の邪魔はさせん!』

 

 プルシアンブルーのMA《ファルゲン・マッフ》とプラクティーズが追い付き、《ビルトファルケン》の進路を阻む。

 アーマラはマイヨらを引き剥がすことが出来ず、救援に向かえない。他の仲間たちは後方で立ち往生している。

 そしてついに、《ビーム・ショットライフル》のメガ粒子が《龍人機》を撃つその瞬間――

 翠緑の輝きが宇宙に瞬いた。

 

「ッ――この念は!」

『よお、クスハ。久しぶりだな、元気してたか?』

『イングくんっ!』

 

 銀髪の少年、イングの緊張感のない挨拶。心強い援軍の登場に、クスハが破顔する。

 メガ粒子を弾くコーティング・クロークを翻した手負いの騎士、凶鳥の眷属――マオ・インダストリーによって強化が施された《アッシュ改》、その姿は歴戦の勇士の風格を伴っていた。

 

「遅いぞ、イング」

『悪い、ちと月の掃除に手間取ってな。頑張ってたみたいだな、アーマラ』

「……ふん」

 

 非難めいた言葉に殊勝に返し、奮闘を称えるイング。ことさらに鼻を鳴らすアーマラだったが、その表情はパートナーの登場に喜びを隠せていない。

 会話を交わしながら、イングは《フォトン・ライフルS》による射撃でギガノスのメタルアーマーを散らしていた。

 

『さて、と。またぞろ仮面を被ったアンタに敬語は要らないな、シャア・アズナブル!』

『イング……! お前は、月面でギガノスの部隊を相手にしていたはずだ!』

『オレが神出鬼没なことは、アンタもご存知だろう?』

 

 かつては敬意と尊敬を示していた戦友へと不敵に言い放ち、最強の汎超能力者がその強念を解き放つ。

 

『言いたいことは山ほどあるが……まずは、クスハを散々いたぶってくれた礼からだ! TーLINKコンタクト!』

『! ちぃっ、以前よりプレッシャーが増しているだと!? おのれ、ファンネルッ!』

『無駄無駄ァ! 邪念が見え見えなんだよ!』

 

 シャアがけしかけた数機の《ファンネル》に伴う思念を読み取ったイング。回避運動をする《アッシュ改》のサイドアーマーに、左右三本づつ取り付けられた《ロシュ・ダガー》を引き抜いて軌道上に投げつけ、《ファンネル》を次々に撃墜した。

 シャアが驚愕に呻く。

 

『何だと!? 私の思念を読んだとでも言うのか!?』

「……無茶苦茶だな、イング」

『覚悟しろ、シャア・アズナブル! シーケンス、TLS! コード入力、光刃閃ッ!!』

 

 強念を帯びたイングの叫びが宇宙に木霊する。音声入力とT-LINKシステムにより、《アッシュ改》のFCS(火器管制システム)がモーションを制御する。

 新たに「TーLINKフレーム」が組み込まれたコクピット周辺から、翠緑の燐光が溢れ出す。広がる燐光が強力な念動フィールドとなって機体を包み込み、超常的なパワーを与える。

 

『セイバー、アクティブ!』

 

 お馴染みのセリフとともに、《ストライク・シールド》から《TーLINKセイバー》を引き抜かれた。

 

『光を超えろ、アッシュ! 見切れるか、喰らえ! 奥義、光刃閃ッッ!!!』

 

 念動フィールドによって限界以上の機動を得た《アッシュ改》が、後退する《サザビー》に迫る。総帥を守ろうとする《ギラ・ドーガ》の部隊は、手も足も出ず両断されていく。

 

『せい! はぁっ! たあああっ! オオオオッッ!!』

 

 影をも踏ませぬ高速機動、文字通り光のような斬撃の乱舞。《サザビー》の重装甲を《TーLINKセイバー》が幾たびも斬り裂く。

 赤い装甲の破片が飛び散り、スパークする。

 一気に《サザビー》の背後へと切り抜けた《アッシュ改》は、《TーLINKセイバー》を両手で握り直した。

 その刀身を念動フィールドが覆い尽くしていく。

 

『これで、終わりだッ!!!』

 

 激しい閃光を伴うドドメの一振りが《サザビー》を捉え、致命傷を与えた。

 

『……貴様に見切れる筋もない』

『馬鹿なっ、パワーダウンだと!? ええい、だが目的は果たした。撤退する!』

 

 小爆発を繰り返しながら信号弾を上げる《サザビー》を、《ファルゲン・マッフ》とその僚機が回収する。

 それに従い、ネオ・ジオン艦隊が撤収していく。

 

「逃げるぞ、いいのか」

『こっちにも追撃する余力はねーだろ。ま、痛み分けってとこだな』

 

 《アッシュ改》の傍らに《ビルトファルケン》を寄せたアーマラが問う。

 イングはどこか気の抜けた様子で嘆息する。そして一転、笑顔を浮かべてこう言った。

 

『とりあえず、ただいま』

「……おかえり」 

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 △月※日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 ロンデニオンに運び込まれていた《ビルトファルケン・タイプR》と《ガンダム試作二号機》を、ネオ・ジオンに奪取された。不覚だ。

 ことの発端は、ゼオラ、アラド、リョウ、トビア、それからケーンらドラグナーチームの訓練。私も新兵どもの相手をしていたのだが、集結する連邦軍艦隊にスパイが紛れ込んでいたのだ。「ニューディサイズ」、戦技教導隊の一部が結成した反乱軍である。ティターンズよりの主義者どもが何を思ってネオ・ジオンに協力してるかは知らないが、元ティターンズの私に言わせれば恥の上塗りだな。

 それからオウカ・ナギサといったか、アラドとゼオラはスクール時代の仲間に再会して利用されたらしい。

 アラドはともかく、ゼオラの奴が一時使い物にならなくなったのは少々意外だった。《ビルトファルケン》に関しては中破させて奪還したが、あいにくオウカ・ナギサは取り逃した。機体のデータも持っていかれたのなら、なかなか厄介なことになりそうだ。

 

 さらにこの出来事を陽動に、シャア・アズナブル率いるネオ・ジオンが、コロニー「スウィート・ウォーター」に入ろうと艦隊を進撃させていた。

 それを阻止するために向かった私たちαナンバーズの前に、マイヨ・プラートらギガノス帝国のメタルアーマー部隊、「死の旋風隊」と木星帝国の機動兵器部隊が立ちはだかる。

 こちらの戦力が圧倒的に揃っているとはいえ、相手の物量は絶大だった。

 

 シャアを討つことで戦闘の終息を狙う私とクスハだったが、逆に窮地に追い込まれた。

 とそのとき、翠緑の念動光とともにイングが――《エクスバイン・アッシュ改》が現れた。

 まるでクスハの危機に狙い澄ましたかのようなタイミングだった。気に食わん。

 

 お得意のテレポーテーションで戦場に現れたイングの《アッシュ改》は、シャアの《サザビー》が操る《ファンネル》を新装備《ロシュ・ダガー》の投擲で次々と撃墜し、しまいには致命傷まで与えて追い返してしまった。相変わらず、理不尽なまでの戦闘能力だ。

 「ファンネルはサイコミュ兵器、操作する思念を察知してしてしまえば対処は簡単」と戦闘後に本人の口から解説されたのだが、そんなマネができるのはお前だけだ。

 

 ともかく、ようやくイングがαナンバーズに合流した。これ以上、この地球を侵略者どもの好き勝手にはさせん。

 






 New! ガンダム・センチネル

 翌日更新はやっぱり無理だったよ……(´ω`)
 加筆してるだけなので、エタりはしないはずです。まあ、更新速度はもろもろの伸び次第だけど。

 【悲報】タンゲル、ラムサス生き残れなかった。
 なお、本文には載ってませんがアポリーとロベルトもここで殺られているので一矢は報いた模様。現在ヤザンはジョニ帰の方の二人組を率いています。
 また、ヤザンの進退が変わった影響でアラゼオの境遇や乗機も変わります。代わりにオウカとラトゥーニのINが早まりました。
 センチに関しては第二次αで参戦予定だったとか言う話を聞いたので追加。ただし、味方はリョウのみ。
 たぶん、ディープストライカーがそのうち出てくるかも。

 リサかわいいよリサ(*´ー`*)
 南風の方の渓ちゃんはミチルさんの代打です。號のヒロイン役ということでひとつ。
 本作の真ゲッターが勝手に火星に飛んでいかないので安心安心(^ω^)


 アンケートについて。
 EX-SとZZllが勝利した場合、カスタムされてアンテナにハイメガキャノンが付くことになります。NT専用機に普通のインコムとかいらんでしょ。
 というか、正直ZZllがこんなに票を集めるとは思わなかったのですが。ミスターMS人気かな?



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αll-2「ダブル・スラッシュ」

 

 

 新西暦188年 △月◇日

 地球圏、衛星軌道上 《ナデシコB》

 

 宇宙での戦いが一段落し、αナンバーズは混乱の続く地上へと向かうことが決定した。

 

 合流したイングは、一文字號やカミーユ・ビダンらから手厚い歓迎を受けていた。やはり、旧SDF艦隊及びプリペンターのメンバーからの信頼は篤いらしい。

 ブルックリンが見あたらないことに目敏く気がつき、「またさらわれたのか、アイツ」と見も蓋もないことを言い放ち、クスハを困らせていた。相変わらず場をひっかき回している。

 

 その後、イージス事件での宣言通り、イングはゼンガー少佐に雪辱戦を挑んだ。生身でな。

 結果はさすがゼンガー少佐と言ったところだったが、本人は満足そうだった。

私と違って社交的なイングだから、新入りともすぐに打ち解けている。やはり、ドラグナーチームの三人とはさっそく意気投合していた。

 だがイング、私の目の前で飛鷹葵や館華くららにコナをかけるとはいい度胸じゃないか。何が「麗しいお姉さま方」だ。

 

 落ち着いたところで、私たちはお互いの近況を報告し合った。

 私が語る様々な組織との接触の記憶に、「やっぱりかぁ……」などとなにやら複雑そうな表情をしていたイング。やはり、何か独自に掴んでいたらしい。

 一方、イルムガルド・カザハラ中尉、リョウトやリオとともに戦っていたヤツの話だと、月は酷いことになっているようだ。

 身も蓋もない言い方をすれば、ギガノス帝国、ギシン星間連合先見隊、ガルファ帝国の前線基地「螺旋城」の三つ巴だ。確かに酷い。

 ギガノスが本格的に地球を制圧しにかからない理由はこれか。異星人勢力との攻防にリソースを削がれているのだな。

 バーム星人との交渉失敗を理由に、「腐敗した連邦政府に地球を任せてはおけない」として決起したギガノスには皮肉な結果だ。

 結果的にはこちらに有利に働いているとは言え、連邦軍基地や月面都市が攻撃されているのも事実。なるだけ早く、連中を地球圏から叩き出してやらねば。

 

 強化改造された《エクスバイン・アッシュ》。ただ、TーLINKフレームを以てしてもイングの念に追従するのが精一杯のようだ。

 なお、見た目上はわからないが、ゾル・オリハリコニウム製の装甲を皮きりに各部を新設計のもの――というか、リョウトが基本コンセプトを打ち出し、建造途中だった新型《ヒュッケバイン》、“MkーX”のものに換装されているらしい。

 もともとリョウトはイングが扱うことを前提に《アッシュ》のアッパーバージョンとして設計していたため、互換性があったのだとか。もっとも、未だ完成していないパーツが大半で、無理を押しての実戦投入らしいがな。

 こんな無茶な処置に至ったのはひとえに、イングの《アッシュ》に対する愛着故だろう。梁山泊にある自室には、《アッシュ》の自作プラモデルが大量に飾ってあるくらいだし。

 

 なお、今回の戦乱を受け、イングはエーテル通信機でラ・ギアスにいるマサキに来援を要請したようだ。

 確かに《サイバスター》は心強い援軍になるだろうが、大丈夫なのか?

 

 

 

 新西暦188年 △月■日

 地球、極東地区近海

 

 現在、地球に降りたαナンバーズは移動中だ。

 《ダイモス》の基地、ダイモビックで物資の補給を受ける予定である。また、諸事情で地上に残っていた神大佐、車弁慶氏と《ゲッタードラゴン》が合流することになっている。

 

 で、主にアラドのために、今日は小隊戦闘をメインとした訓練を行った。ゼオラの方は技量に関しては特に問題ないしな。

 元ティターンズでPTパイロットという共通項もあり、面倒を見ていたアラドらがイングの参入を受けて正式に部下に収まったためだ。

 国際警察機構からの出向という扱いでαナンバーズに参加している私たちは、それなりの権利を有している。どちらも少尉相当官だ。

 もっともヤツは自分が正式に軍事訓練を受けていないことを理解しているから、だいたい私が指揮しているがな。

 

 しかし、改めてみるとアラドの操縦は酷かった。目も当てられん。

 感覚派と言えば聞こえがいいが、ようは行き当たりばったりで場当たり的に動いているということだ。落ちこぼれというのも宜なるかな。

 イング曰わく「アイツはヒュッケバインよりゲシュペンストの方が向いてる」とのこと。私もそう思う。あと、光学兵器が苦手なのだろうな、そこも頭を悩ませる問題だ。

 《ゲシュペンストMkーII改》をマオ社に置きっぱなしにしていたことが悔やまれるな。あれば、貸してやれたのだが。

 無い物ねだりしても仕方がないし、私たちがアラドをビシビシと鍛えてやればいいだけだ。

 

 とりあえず、イングに心当たりがあるというのでアラドとついでにゼオラの《Mk-2》用の武装をテスラ研から取り寄せることになった。

 

 なお、アラドたちはラトゥーニとは会えていない(連絡そのものは取れている)。理由は、ラトゥーニが長期の休暇を取っていたためだ。

 ジャーダとガーネットは現在浅草に住んでいるそうで、彼女も今はそちらに滞在しているとのこと。要は育休、ということだな。

 今は難しい時勢だが、元部下夫婦と幼いラトゥーニを慮ったカイ少佐の親心と言ったところか。

 

 

 

 新西暦188年 △月◎日

 地球、極東地区日本 ダイモビック周辺

 

 バーム星人軍にちょっかいを出されつつ、αナンバーズは極東地区を中心に転戦している。

 バーム人と言えば、クスハやファ、ルーなどは竜崎とエリカの関係にやきもきしているようだが、私に話題を振らないでほしいものだ。他人の恋愛などには興味はないのでな。

 

 さておき、またぞろやってきたギシン星間連合からの刺客を撃退した。

 まあ、倒れた敵の詳細などどうでもいい。ましてや、明神、ツワブキサンシローとともに対決したイング曰わく「木っ端超能力者」のことなど。

 その部隊には、《レイズナー》と同じSPTと呼ばれる星間連合軍の機動兵器部隊も参戦していた。

 部隊の指揮官はゴステロとか言ったか?嫌な気を放つ男だったが、我々αナンバーズの敵ではないな。

 

 で、その戦闘の際にアイビスが民間人の少女を救助した。

 名前はイルイ。記憶喪失らしい。

 しかしイルイは、イングと顔を合わせてすぐ「お兄ちゃん……?」と呟き、それを受けたアイビスから「ホントに兄弟なの?」と訊ねられた奴はやや困惑していた。

 ただ、子供は嫌いではないというか、兄貴風を吹かしたいらしいイングは、それからというものイルイによくかまっている。向こうも存外懐いている様子だ。

 私は某かの刺客かと密かに警戒していたのだが、どうやら杞憂だったようだな。

 

 あと、今回の出来事を通じて明神が《ゴッドマーズ》の構成機を自在に操れるようになった。今回の敵部隊の指揮官で、敵の目を欺いて接触してきた実の兄から授けられたのだとか。

 また、《ゴッドマーズ》がギシン星の神話に伝わる「遙か宇宙の彼方からやってきて、皇帝を痛めつけた最古の大邪神」の姿を模したものだと判明した。モチーフが邪神なのはギシン星の支配者、ズール皇帝に対する当てつけなのだろう。

 ともかくこれで、反陽子爆弾の危険性が薄れたわけだ。

 

 

 

 新西暦188年 △月¥日

 地球、極東地区日本 Gアイランドシティ

 

 Extra-Intelligence (エクストラインテリジェンス)こと「ゾンダー」及び機械帝国ガルファの機獣と、奴らに回収されたDG細胞による「再生デビルガンダム軍団」、さらに謎の巨大戦艦――「ガイゾック」の「メカブースト」が入り乱れた「粒子加速機イゾルデ」での戦いが明けて翌日。

 私たちαナンバーズは、東京市臨海を埋め立てGアイランドシティに滞在している。

 

 ここに来て、さらにメンバーが増えてきた。

 ざっとおさらいしてみよう。

 

 新たにαナンバーズと協力関係を結んだ「GGG」から正式参入したのは、GBRー1《ガオガイガー》と獅子王凱ら「勇者ロボ」。そして特別隊員天海護少年だ。

 サイボーグ同士、凱と宙はさっそく意気投合していた。

 なお、GGGはGアイランドシティに偽装されたベイタワー基地をαナンバーズの拠点として提供してくれるという。どこぞの防衛長官とは大違いだな。

 

 余談だが、実はこのGGG、国際警察機構とも協力関係にあるらしい。私は大河幸太郎長官から聞くまで知らなかったが。「オレは知ってたぞ」とドヤ顔した馬鹿(イング)には一発お見舞いしておいた。

 現在、梁山泊で秘密裏に建造された「GSライド」を用いた勇者ロボが調整中だそうだ。

 

 こちらも合流を決めたGEARからは、ベガ副指令を引率に《GEAR戦士電童》のパイロット、草薙北斗少年と出雲銀河少年。それに《セルファイター》のパイロット、吉良国進、天才少女エリス・ウィラメットらがαナンバーズにやってきた。

 銀河は武術をたしなむようで、やや慢心が気になるものの、さっそく竜崎に手ほどきを受けていた。一方、北斗はイングの同好の種らしく、αナンバーズの機体

に目を輝かせていたな。

 エリス・ウィラメット、大学卒業レベルの頭脳を持つ天才少女とのことだが、中身は憧れのホシノ・ルリを前に興奮する普通の娘のようだ。イング曰わく「どこぞの赤毛ザルとは大違いだ」。よくわからんが、後でどうなっても知らないならな。

 風貌は怪しさ満点なベガ副指令だが中身はマトモらしく、さっそくアムロ大尉らと部隊編成について打ち合わせしていた。

 最後に吉良国だが、あれはヤマダと同類だな。

 

 なお、イゾルデではガルファに対抗する手段となり得る「データウェポン」、《レオ・サークル》なる存在を確保したとか。

 

 謎の特機と戦艦――《ザンボット3》と《キングビアル》とそれに搭乗する神一族もまた、αナンバーズに協力を表明した。やはり予想通りだったな。

 彼ら神一族は「ガイゾック」に滅ぼされた「ビアル星人」の末裔であり、怨敵が地球に来襲することを予期して対抗戦力を整えていたという。

 

 なお、彼らの先祖が地球にたどり着いた理由だが、「機械の女神の導き」と代々伝わっているそうだ。

 正直、αナンバーズ各艦の格納庫は酷いことになっていたので、《キングビアル》の参入は有り難い。

 《ザンボット3》のメインパイロット、神勝平の名前を聞いたとき、思わずイングを二度見してしまった。部屋を家捜ししたことは言えないから、問いつめることはできなかったが。

 

 そういえば、イングがやけにガイゾックの旗艦に突っかかっていたな。

 「トラウマイベントは御免だぞ」などと言って猛攻をかけ、瞬く間に致命傷を与えて追い返していた。あれはなんだったんだ?

 

 「竹尾ゼネラルカンパニー」の《トライダーG7》。

 こちらは零細とは言え民間企業所有の特機(それもどうかと思うが)なのだが、今回は万丈が多額のポケットマネーで長期契約を結んだのだとか。さすがだな、破嵐万丈。

 パイロットにして社長の竹尾ワッ太は11歳、前記の銀河たちや勝平とは同級生。子供だ。

 ただ、バルマー戦役時にも《トライダーG7》で地球防衛の一翼を担っていたようで、戦闘に対する心構えは図らずも出来ている模様である。

 

 そして、私には馴染みのあるドモン・カッシュとそのパートナー、レイン・ミカムラ。再生デビルガンダム軍団として現れた《ドラゴンガンダム》、《ガンダムマックスター》、《ガンダムローズ》、《ボルトガンダム》の四機を一蹴する鮮烈な登場をして我々に合流した。今さら旧型機を持ち出しても仕方ないとも思うのだが、連中には古いデータしかないと見える。

 さてそのドモンだが、さすがは「ガンダム・ザ・ガンダム」、銀河や北斗、ケン太や護ら年少組に控えめに言って大人気だった。まあ、出会い頭に「あっ!恥ずかしい告白した人!」とコメントされていたのは御愁傷様と言わざるを得ないが。

 武道を嗜むもの同士、竜崎とは意気投合して手合わせをしたようだ。

 

 そうしたバラエティー豊かな新入メンバーを迎え、ベイタワー基地の「ビッグオーダールーム」でささやかな歓迎パーティーが開かれた。

 改めて感じたのは戦闘員非戦闘員に関わらず、子供が増えたこと。交流会だったので同じ年代のもので固まっていたのだが、その様がまるでジュニア・スクールのような光景だった。

 まさか、少年兵である私やイングが年長の部類に入ることになろうとは夢にも思わなかった。イングなどは「賑やかになっていいじゃないか」と呑気にしていたが、そういう問題ではない。

 大河長官やシナプス艦長、神大佐、アムロ大尉、バニング大尉、ベガ副指令などの良識ある大人たちは、彼らになるだけ有人機と戦わせぬようにとコンセンサスを取っている。

 脱出装置が優秀とは言え、未来ある子供たちを殺人者にするわけにはなるまい。まあ、地球圏の状況を見れば、戦う意志と力があるなら立ち向かうべきだというイングの意見も筋が通ってはいるがな。

 

 さておき、多種多様の特機の参入に、イングの悪癖が久々に爆発した。

 《電童》《トライダーG7》は元より、《氷竜》、《炎竜》、《ボルフォッグ》の写真を撮りまくって彼らに迷惑をかけたり。合体形態の《ガオガイガー》、《超竜神》、《ザンボット3》などは《アッシュ》のカメラデータから画像を抽出する手の入れよう。

 やはりと言うかなんと言うか、コレクションにした上で、自作プラモデルの資料にするつもりらしい。あとで私にも回せよ。

 

 なお、この歓迎パーティーにおいて、クスハが“例のアレ”を披露して被害者を増加させていたことを記しておく。

 

 そういえば、猿渡ゴオがブライトキャプテンやアムロ大尉、流竜馬氏らに囲まれていたがあれはいったいなんだったんだろう。近くにいた兜博士は苦笑いを浮かべて「あれは当然の報いだよ」などと言っていたが、もしかして杏奈のことかな。

 

 

 

 新西暦188年 △月※日

 地球、極東地区日本

 

 先日の戦闘で現れたガルファのGEAR、《騎士GEAR凰牙》に敗北を喫した銀河も立ち直ったようだ。星見町を襲う恐竜帝国の軍勢と、ガリレイ長官の《メカザウルス・ゲラ》を見事撃破した。

 気がかりなのは、ベガ副指令が《凰牙》の登場に酷く動揺していたことか。イングには理由に心当たりがあるらしく、「よくあること」と述べていたな。

 

 さておき、αナンバーズに新光子力研究所及び新早乙女研究所が開発した、新たな特機が届くという知らせが入った。

 聞いた話によるとリサ用のマシンも含まれているらしく、リサがあからさまにそわそわしていた。よほど楽しみなのだな。

 

 

 

 新西暦188年 △月§日

 地球、極東地区日本

 

 先日連絡があった新型機《ミネルバX》が輸送中、恐竜帝国により奪取されてしまった。しかし、同時に輸送されていたが難を逃れた《ゲッターQ》のパイロット、早乙女ケイ(早乙女博士の次女だ)と《ドラグナー3型》の活躍で無事取り戻すことができた。

 またその戦闘中、《凰牙》との戦いにおいても交戦した鉄甲龍の八卦ロボ、《火のブライスト》《水のガロウィン》が現れる。αナンバーズの戦力を削ぐためだろう。同モチーフの《氷竜》《炎竜》が対抗心を燃やしていたな。

 さらにラスト・ガーディアンの白い特機――《天のゼオライマー》が再び乱入し、恐るべき力で八卦ロボを撃破、次いで現れた《月のローズセラヴィー》とほどほどにやり合い、両機は撤退していった。いったいなんだったんだ。

 

 無事、奪還された《ミネルバX》は予定通りリサが運用することになる。この《ミネルバX》は故兜十蔵博士が残した設計図を元に弓さやか所長自らが再設計し、《INFINITY》のインターフェースを解析したものを搭載しているそうだ。

 そのリサだが、待望していた《マジンガーZ》のパートナーロボを任されてとても喜んでいた。

 

 とまあ、ここまではいいのだが。

 《ミネルバX》と《ゲッターQ》の女性型ロボを見たイングの一言。

「《ファルケン》におっぱいつけたら、お前も少しは女の子らしくなるんじゃねーの?」

 余計なお世話だ、バカっ!

 だいたいアイツは(以下、イングに対するグチが続く)

 

 

 

 新西暦188年 △月◆日

 地球、極東地区日本

 

 リリーナ・ドーリアン外務次官がガイゾックとの交渉に乗り出したとの知らせが入り、現場に急行した。

 この前の邪魔大王国に続き無茶なことをと思ったが、実際無茶なことだった。何せ、ガイゾックの指揮官、キラー・ザ・ブッチャーに《バンゾック》から突き落とされそうになったのだから。

 ヒイロ・ユイの駆る《ウイングガンダムゼロ》に間一髪で救われ、事なきを得たが。まったく無茶をする。

 ドーリアン外務次官救出の際、イングはお得意のテレポーテーションで《バンゾック》の内部に進入し、散々に暴れ回って手ひどい一撃を与えた。

 さらに、改修された《ウイングガンダムゼロ》の新武装「メッサーツバーク」と、「バスターライフル」を組み合わせたドライツバークバスターがとどめを刺す。シールドも持っていたが、あれは新造か?

 あれだけのダメージを受けたら、しばらくはまともに行動できないだろう。

 

 その戦闘後、ふと思い立って「星間連合はともかく、ネオ・ジオンやギガノス帝国ならテレポートで潰せるんじゃないか?」とイングに尋ねてみた。

 ヤツの返答は「やって出来ないことじゃないが、暗殺はαナンバーズ的じゃないからやらない」だそうだ。相変わらずいちいち手段を選ぶヤツだ。

 あれか、シャアやギガノス、木星帝国を馬鹿にしているんだな。まあ、実際のところ超能力には限りがあるらしいから出来る限り温存しているのだろう。

 

 

 

 新西暦188年 △月▼日

 地球、極東地区日本 富士樹海

 

 ラスト・ガーディアンから緊急事態の一報を受け、急行するαナンバーズ。

 恐竜帝国の軍勢に劣勢に立たされていた《ゼオライマー》を保護した。

 どうやらまたぞろ八卦ロボ、《月のローズセラヴィー》を倒したらしいがそのあとがお粗末で、ネオフランスのガンダムファイター、“ジャック・イン・ダイヤ”ジョルジュ・ド・サンドの《ガンタムヴェルサイユ》が助けに入らなければ《》にバット将軍操る《メカザウルス・ボア》にたという。イングが「名ゼリフ聞きそびれた!」とアホなことを叫んでいたが、さておき。

 戦闘後、ラスト・ガーディアンからGEARを通じてαナンバーズに協力要請が入った。有り体に言えば、《天のゼオライマー》が参入した。

 元は鉄甲龍により建造された八卦ロボの一体であり、「次元連結システム」という超科学で稼働している。あの《メイオウ攻撃》とやらの破壊力はおぞましいものがあるな。

 

 鉄甲龍は《ゼオライマー》の奪取を目的としているようで、体のいい厄介払いをされた感もある。

 パイロットは秋津マサトと氷室美久。

 美久はともかく、秋津の方は戦闘中の残虐な所行が響いているのだろう、甘ちゃん揃いなαナンバーズのメンバーからもやや遠巻きにされている。また、破嵐万丈は二人について何か知っているらしい。

 さらに珍しく、イングは《天のゼオライマー》ともども秋津マサトを警戒しているようである。どちらにしろ、私には軟弱な民間人の男にしか見えなかったな。

 

 

 

 新西暦188年 △月†日

 地球、極東地区日本 Gアイランドシティ

 

 テスラ研に要請していPT用の武装が届いた。

 アラド機には、《R-1》ベースの量産試作機《アルブレード》の固有武装「ブレード・トンファー」。ゼオラ機には、同じく《R-1》が使用していたこともある「ブーステッド・ライフル」をそれぞれ与えた。

 どちらも両名の適正に合わせた武装だったからだろう、機体のOSなどのセッティングを行えばすぐさま扱って見せた。特にアラドの動きは見違えるようだった。

 しかしイングのヤツ、ライフルはともかく、《アルブレード》なんてマイナーな試作機をよく知っていたな。相変わらず、よくわからん情報網だ。

 

 

 

 新西暦188年 △月〇日

 地球、極東地区日本 

 

 かねてから準備していたデータウェポンたちが好む物質、「メテオキューブ」を用いて残るデータウェポンを一挙に集める作戦が発動した。

 発案者のエリスは天才少女の面目躍如と言ったところか。

 

 だが、結果から言えば成功したとは言い難い。ガルファに嗅ぎつけられ、一体奪われてしまったからだ。

 新たに銀河が《ガトリングボア》を、北斗が《ドラゴンフレア》を。そして《凰牙》が《ブルホーン》を得た。

 聞くところによるとデータウェポンとは心の形質により契約者を選ぶらしく、

その差によるものだろう。

 《凰牙》に新しい能力が追加されたのは痛いが、どちらにしろ警戒すべき「ファイナルアタック」は一発しか撃てないのだ、与し易い相手であることに変わりはない。

は痛いが、どちらにしろ警戒すべき「ファイナルアタック」は一発しか撃てないのだ、与し易い相手であることに変わりはない。

 実際、《ブルホーン》によるファイナルアタックは、例によってDG細胞の撲滅のために隊に合流したネオロシアのガンダムファイター、“ブラック・ジョーカー”アルゴ・ガルスキーの《ガンダムボルトクラッシュ》が「ガイアクラッシャー」で相殺して、エネルギー切れに追い込んだからな。

 

 データウェポンが増えて、艦内はますます騒がしくなった。しかし、イルイを筆頭に、チビたち(その中にリサが混じっているのは見なかったことにして)が戯れている様子は見ていて和やかな気分になれた。

 

 

 

 新西暦188年 △月⊿日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 最近にしては珍しく、戦闘のない退屈な一日だった。

 なので、作りかけのプラモデルにゆっくりと熱中できた。フルスクラッチの《ビルトファルケン・タイプL》、まだまだ完成にはほど遠い。

 

 気分転換に部屋を出て基地内をぶらついていたら、談話室に年少組が屯していたのを見つけた。のはいいのだが、そこにイングが違和感なく混じっていたのが問題だな。いちおう、保護者役のつもりではあったんだろうが馴染みすぎだ。

 

 どんな話の流れだったかは忘れたが、銀河のアイドル好きという一面が発覚した。ちょっと意外だ。

 なお、じゃりん子たちに混じっていたイングはエイーダ・ロッサという最近売り出し中のアイドルが気になるとか。「中の人的にレアだから」とか「ぽんこつだし」とか「出演できるか心配」などともらしていた。

 

 その後、シャワー上がりにイングに呼び止められた。

 どこから聞きつけたのか、《ビルトファルケン》とその兄弟機によるパターンアタック「TBS」に対抗して、《アッシュ改》とのコンビネーションアタックを作ろうと提案されたのだ。

 私は当初、「機体のパワーが釣り合わないだろう」と難色を示したのだが、「Rー1でできたんだからファルケンとでもできるだろ。アーマラ、お前とじゃないと駄目なんだ」と熱心に要求されて、思わず折れてしまった。

 今、冷静になって思い返せば我ながら単純である。

 とはいえうんと頷いてしまったのだし、とりあえず両機の性能と、頻発するモーションデータの比較から始めてみるかな。

 

 

 

 新西暦188年 △月▲日

 地球、極東地区日本 大阪

 

 哨戒任務中、突如として機械獣の大軍の襲撃を受けた。

 混成軍ならいざ知らず、今さら機械獣のみかと思ったが連中はやけに手強かった。戦闘後、残骸を調べた兜博士曰く「こいつら、明らかにアップデートされている」とのこと。

 それにしても、イングの思案するような顔がやけに印象に残ったな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∥日

 地球、極東地区日本

 

 昨今、世界中を騒がせていた機械獣軍団の首魁がわかった。Dr.ヘルだ。

 かつて“巨神戦争”で「ホワイトベース隊」と戦い死亡したはずのDr.ヘルは、マウント富士にある「光子力プラント」を占拠したことを全世界に向けて表明。巨大魔神《INFINITE》起動のために、光子力エネルギーを全世界に要求した。

 《INFINITE》の制御ユニットに、行方不明になっていた剣大佐ごと《グレートマジンガー》が囚われ、さらに施設の職員や見学に訪れていた一般市民が人質になっていた。また、その中にはおり悪く視察に来ていた新光子力研の弓さやか所長、兜シロー少尉、それから剣大佐の妻、剣ジュンの姿もある。彼ら彼女らはDr.ヘル一派と因縁深い人物だ、命の危険は高いと言わざるを得ないだろう。

 

 こちらはすぐにでも「光子力プラント」を攻略したいところだが、その前に世界各地の主要都市に出現した機械獣・メカザウルス混成軍団を処理しなければならない。

 また、連邦軍は討伐のために極東地区の《イチナナ式》、北米支部の《ステルバー》など特機を主力にした大部隊を差し向けることを決定した。

 そこで我々αナンバーズは陽動と各主要都市の解放を目的として、地球各地に散ることになる。

 なお、連邦軍からの要望で、兜博士はオブザーバー(戦意高揚を目論むわりに、《マジンガー》での直接介入は嫌らしい)として攻略に同行することになっている。

 

 しかし驚いた。私とイングはDr.ヘルの反抗声明をベイタワー基地の談話室で聴いていたのだが、そこに居合わせた兜博士、アムロ大尉、流竜馬氏の三人が「野郎、ふざけやがって!」と揃って声を荒げたのだ。

 流竜馬氏はともかく、普段温厚な兜博士やアムロ大尉まで激するとは。談話室の空気が一瞬、凍り付いたように感じたぞ。

 近くにいたツグミが、「アムロ大尉がギレン・ザビの演説にキレて、モニターを素手で叩き割ったというウワサは本当なのね」と溢していたな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月&日

 地球、極東地区日本

 

 私たちのチーム(私、イング、アラド、ゼオラだ)は日本の関東周辺を掃討していたわけだが。

 その中で第一東京市で戦闘に巻き込まれたジャーダ、ガーネットら夫妻とラトゥーニを保護し、到着したカイ少佐の部隊とこの事件を機にダンナーベースへ戻った杏奈が乗る《ゴーオクサー》と協力して、機械獣を撃破した。

 

 杏奈は葵博士の薦めで、αナンバーズに合流することになった。後は猿渡との家庭の問題ということだな。

 あの二人のことはいいとして、カイ少佐と大河長官の計らいでラトゥーニがαナンバーズに転属することになった。どうも内々に話を進めていたらしい。三輪のヤツから逃れさせるためだろう。

 ラトゥーニの乗機は《ビルドラプター・シュナーベル》。彼女がバルマー戦役時に使っていた《ビルドラプター》の改修機だ。

 

 アラドとゼオラはさっそくラトゥーニとを旧交を深めていた。彼女は年少だが、アラドとゼオラよりはしっかりしてしているので私としても少しは楽ができるかもな。

 

 さて、マウント富士攻略作戦はどうなったか。気になるところだな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月★日

 地球、太平洋 極東地区日本近海

 

 結論から言うと、連邦軍によるマウント富士攻略戦は失敗に終わった。

 ここに経緯をかいつまんで記することにする。

 

 《イチナナ式》、《ステルバー》を主力にした軍団は当初、機械獣相手に戦闘を有利に進めていた。いくら相手が大きく強化されていたとしても最新鋭の軍用特機を駆る連邦軍のトップ・ガン、危なげなく戦っていたようだ。

 しかし、突如起動した《INFINITY》の胸部熱線が放たれて、連邦軍の討伐部隊は壊滅的打撃を受けてしまう。

 各地の鎮圧を終えて駆けつけた私たちが見たのは、孤軍奮闘していた連邦軍北米地区所属、シュワルツ少佐の《ステルバー》とスーパーロボット《テキサスマック》のキング兄妹、ネオアメリカのガンダムファイター、チボデー・クロケットの《ガンダムマックスリボルバー》。そして《イチナナ式》に乗った兜博士だった。北米地区の者らは、剣大佐が囚われた襲撃事件の場にも居合わせたらしく、少佐の救出のために今回の作戦に自ら志願したという。助っ人に現れたチボデーは本人曰く「同郷のよしみ」。

 彼らと協力して数えるのもバカらしくなるほどの多数の機械獣を迎え撃ったが、再び動き出した《INFINITE》のサイズに見合った強大なパワーに苦戦を強いられる。さらに人質の身の安全を持ち出されては手の出しようもなく、私たちは後退を余儀なくされた。

 兜博士と初代ゲッターチーム、私とイングが殿を務め、αナンバーズは討伐軍の生存者を救助して撤退した。去り際にはあしゅら男爵、ブロッケン伯爵などは勝ち誇っていた。過去の遺物どもめ、私たちαナンバーズを甘くみたツケは大きいぞ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月*日

 地球、極東地区日本 マウント富士「光子力プラント」

 

 私とイングは、獅子王凱を除いた生身の戦闘を得意とするメンバーを率いて、敵Dr.ヘル軍団に対しテレポーテーションによる奇襲を仕掛けた。

 奴ら、αナンバーズを撃退したと高をくくっていたのだろう、全く警戒していなかった。無論、本隊による陽動もあったが無様なことだ。

 馬鹿め、国際警察機構のエキスパートを舐めるなよ。十傑集や北辰集とやり合うより、ブロッケン伯爵のカカシ共を撃ち殺す方が何百倍も簡単だった。

 さらに、《ガオガイガー》の空間湾曲デバイス《ディバイディングドライバー》により、《INFINITY》と機械獣を光子力プラントと空間的に分断、結果人質は解放された。また、作戦通り光子力の供給は物理的に途絶えたことでDr.ヘルの目論見は阻止された。

 しかし、兜博士とリサによる《INFINITE》の奪還は失敗。再び動き出した《INFINITY》のブレストファイヤーに相当する武装が放たれた。

 あれは凄まじい威力だった。

 壊滅的な被害を受けるαナンバーズ。そのとき、決死の覚悟で肉薄した《ガオガイガー》がヘル・アンド・ヘブンで《INFINITY》から《グレート》を力付くで引きずり出した。

 動きを止めた《INFINITY》に我々は、持てる全力の火力を叩き付けて破壊?した。疑問系なのは、破片等を確認できないことだ。

 Dr.ヘルと因縁深い兜博士も戦闘後、「あれで奴を倒せたとは思えない」と溢していた。イングやクスハ、アムロ大尉らニュータイプ勢も同様の意見だし、私も念動力者の端くれ、嫌な予感は拭えない。奴らに対しても、警戒を怠ることは出来ないようだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月☆日

 地球、極東地区日本 阿蘇

 

 邪魔大王国の拠点を強襲し、指導者ヒミカを討ち取った。

 ただ、ククルや幹部たちは逃してしまったことが少し気がかりだな。

 未だ本格的な動きを見せない恐竜帝国やDr.ヘル一派の同行が気になるが、まずはひと安心と言ったところだ。

 

 成り行きで攻略戦に協力してくれたキング兄妹とシュワルツ少佐は、北米地区に戻るとのこと。

 “巨神戦争”でのニューヨーク壊滅のこともあり、ゲッターチーム、特に號とは折り合いが悪かった彼らだが、別れる頃にはそれなりに打ち解けていたように見えたな。

 また、チボデーは残留、剣大佐はシロー少尉とともに今作戦からαナンバーズに合流した。囚われの身で衰弱していたはずだが、さっそく復帰とはさすが歴戦の英雄である。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月□日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 オルファン封じ込め作戦「バイタル・ネット作戦」及び北米、アリゾナ基地から核燃料と核弾頭を奪ったネオ・ジオンを追撃するため、αナンバーズは部隊を分割した。

 また、アラドとゼオラが新型PT受領のためにネオ・ジオン追撃部隊に同行して宇宙に上がる。正直、心配ではあるがラトゥーニも付き添うし、何よりアムロ大尉に任せる他ないだろう。

 

 ということで私とイングは、《ナデシコB》に同乗してギガノス帝国やその他の敵性勢力に対応するために地球を奔走することになった。他のメンバーは、《ナデシコB》の正規メンバーとドラグナーチーム、ダンナーチーム、秋津マサトと氷室美久、エイジ、GEARのメンバー、明神タケルとコスモクラッシャー隊、ドモンらシャッフル同盟のメンバーなどだ。

 まずは量産型へのフィードバックのため、《ドラグナー》を重慶基地への移送だ。《ナデシコB》には、イングが保護者をすることになったイルイも一緒に同乗している。

 そのイルイだが、別れる間際、イルイはアイビスに自分のつけていたネックレスを渡していた。いつの間にそんなに打ち解けたんだ。イングが「百合百合な関係なんて、お兄ちゃん許しませんよ!」と馬鹿を言っていたので黙らせた。

 まったく、何を言っているやら、だ。

 

 その道すがら、ガルファとDG細胞に犯されたMS(ガルファとゾンダーは繋がっている?)の襲撃を受けていた梁山泊に立ち寄り、調整の終了した《風龍》《雷龍》と共闘、合流して私たちの指揮下に入った。

 だが、どちらも《氷竜》《炎竜》兄弟に比べるとAIの発達が未熟なように思える。まあ、そこは追々学んでいけばいいだろう。イングに妙なことを吹き込まれないように、目を光らせなければ。

 

 艦内では、ケーンらが「これで軍隊生活ともおさらばだ」と浮かれている。

 騒がしい奴らだったが、いざいなくなるとなると少し寂しい気もするな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∧日

 地球、極東地区中国 地球連邦軍重慶基地

 

 意外なことになった。

 重慶に到着した《ナデシコB》。現地に先乗りしていたプラート博士との遭遇で一悶着あったものの、無事《ドラグナー》各機を引き渡した。

 《ナデシコB》は無事認証を解除したケーンたちを降ろし、ギガノスの部隊の掃討に向かったのだが、その裏をかかれた形で重慶基地はギガノス帝国の「グン・ジェム隊」に襲撃を受ける。

 急ぎとって返す《ナデシコB》。そこでは、三機の《ドラグナーカスタム》が、助っ人に入ったネオチャイナのガンダムファイター、“クラブ・エース”サイ・サイシーの《ガンダムダブルドラゴン》と協力してギガノスのメタルアーマーと激闘を繰り広げていた。

 ケーンたち三人は、プラート博士により強化改造を施された三機の竜騎兵に乗り込んでギガノスと戦っていたのだ。

 結局、元サヤというわけだ。奴らも、なんだかんだ言って地球圏の現状には思うところがあったのだろう。

 イングとイルイがうれしそうに三人を迎えていたのが、また騒がしくなるだけだろうに。何がうれしいのやら、だ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月ℓ日

 地球、極東地区日本 京都

 

 日本地区に戻った《ナデシコB》にギガノスの蒼き鷹から秘密会談の要請が舞い込んだ。

 明らかな罠であり、実際罠だった。

 そこに待ち受けていたのは仕掛け人の北辰集だけではなく、BF団のエージェント、呼炎灼(コ・エンシャク)。BF団との決戦で私とイングが倒したはずの強敵だった。

 ベガ副司令と協力してなんとか撃退したが、恐るべき相手だった。助っ人に現れたネオネパールのガンダムファイター、キラル・メキレルがいなければ危うかっただろう。

 やはり、BF団は壊滅してはいないのだな。いつか近いうちに、奴らとは雌雄出を決さねばなるまい。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月Å日

 地球、極東地区日本 沿岸地帯

 

 ドラグナーチームが哨戒任務中、グラドスの地上部隊と遭遇、本隊到着の後そのまま本格的な戦闘に突入した。無論、返り討ちにしてやった。

 連中は「ギガノスの汚物」と呼ばれているらしく、下品な奴らだった。いつぞやのグラドス人といい勝負だな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∑日

 地球、極東地区日本 沿岸地帯

 

 引き続き、日本周辺の哨戒任務で今度は星間連合のSPT部隊と交戦した。指揮官はエイジの知り合いだったらしい。

 後に聞いたところによると、実の姉の婚約者だとか。ドロドロだな。

 

 その指揮官、ゲイルとか言ったか、はなかなかの実力者でSPTのサイズと相まってかなりてこずらされた。音に聞くオーラ・バトラーもこのように厄介なのだろう。

 もっとも、ゲイルは発動した《レイズナー》の《VーMAX》で海の藻屑と消えたがな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月#日

 地球圏、衛星軌道上 L4宙域

 

 連邦軍の防衛網をすり抜けてくる異星人勢力を迎撃するため、宇宙に上がった《ナデシコB》。

 かつてバイオハザードを起こして封鎖されたというとあるコロニーのほど近く、そこには星間連合の大部隊が待ちかまえていた。

 その指揮官の名はマーグ。明神の実の兄だ。

 以前、敵の目を欺いて接触を試みてき

た時とは打って変わり、明神=マーズに対して明確な敵意をもってこちらに攻撃してきた。

 

 まともに戦えない明神を守りつつ、私たちはなんとか奴らを撃退した。

 兄弟だけあって、マーグはイングに匹敵するほどの超能力者だ。私としては敵になったのなら討てばいいと思うのだが、そうもいかないようだ。

 実の兄の豹変に明神はかなり動揺していたが、イングによると「念が濁っていたから洗脳されてるな」。曰わく、機械的にしろ医学的にしろ超常的にしろ、マインドコントロールを施された人間の念には決まって歪みがあるのだという。

 なお、イングは例として《凰牙》のパイロットを上げており、さらっと「あれが典型例」と述べていた。なんというか、いろいろと台無しな気がするのは気のせいか。

 だがあのとき、一瞬私に気遣わしげな視線を向けたのはどういうことだ?

 

 

 

 新西暦188年 ◎月♬日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 バイタルネット作戦及び北米ネオ・ジオン追撃作戦を完遂し、αナンバーズが再び集結した。

 《ナデシコB》隊が言えたことではないが、両隊ともに激戦をくぐり抜けてきたようだ。

 

 北米を経由し、宇宙に向かった部隊に参加していたアラドとゼオラは、予定通り新型PT《ビルトビルガー・タイプR》及び《ビルトファルケン・タイプR》を受領していた。

 どうやら宇宙でオウカ・ナギサと再び交戦したようで、《ビルガー》がなければゼオラが危うく拐われるところだったとのこと。報告を聞いたときには背筋がヒヤリとしたぞ。

 

 反省も含めて、かいつまんで状況を書き残すことにする。

 アラド、ゼオラ、ラトゥーニの三人は哨戒任務中、運悪くネオ・ジオンの部隊と遭遇してしまう。そこに、オウカ・ナギサがいたわけだ。

 向こうの新型《ラピエサージュ》になすすべなく破壊されるアラドの《Mk-2》。あいつが死んだと勘違いしたゼオラが戦意を喪失、ネオ・ジオンに拿捕された。

 ラトゥーニは必死に取り戻そうとするが多勢に無勢、《Mk-ll》ごとゼオラが連れ浚われようとしていたとき。そこに黒い《ヒュッケバインMk-lll》が現れ、ネオ・ジオン機を蹴散らした。

 さらにヤザン・ゲープル、イングリッドO(「Zガンダム三号機P2型」通称《レッド・ゼータ》に乗り換えていたらしい)ら再編成された「ナイトシーカー隊」と、《ビルガー》に乗ったヴィレッタ大尉が到着した。

 

 悪運の強いアラドはヴィレッタ大尉により助けられ、そのまま《ビルガー》を託された。《ビルトビルガー》を得たアラドは、八面六臂の活躍でネオ・ジオンと《ラピエサージュ》を退けたようだ。本当に土壇場に強い男だな。

 

 《ビルガー》及び《ファルケン》の輸送をしてくてたヴィレッタ大尉は、そのまま《ビルトビルガー・タイプL》でαナンバーズに参加してくれた。心強い味方だ。

 なお、SRXチームの他のメンバーは別の任務に就いているらしい。

 

 それと、レーツェル・ファインシュメッカーを名乗るPTパイロットが参入した。アラドらを救った《ヒュッケバイン》のパイロットだ。

 怪しい。極めて怪しい風体だ。

 あの黒い《ヒュッケバインMk-lll》はかつてリョウトが乗っていた機体とのことで、動力炉をプラズマ・ジェネレーターに、背部バインダーをミサイル・サイロからテスラ・ドライブに換装している。おそらく、パーソナル・ファイター自体を交換したのだな。

 また、機体をパーソナルカラーらしい黒・赤・金に塗って「トロンベ」と呼ぶ変人である。

 大体なんだ、「謎の食通」ってネーミング。偽名がバレバレで隠す気がないのか。ゼンガー少佐とはずいぶんと親しい仲のようだが、余計に怪しいと思ってしまった私は悪くない。

 後にイングからSRXチームのライディースの兄であると教えられた。とりあえず、お前は何でそんなことまで知ってるんだと言いたい。

 ちなみに、ナイトシーカー隊の面々は宇宙に残って対ネオ・ジオンの作戦に戻ったようだ。噂のイングリッドOとは少し手合わせして見たかったのだが、残念だ。

 

 いくつかアラドたちに聞き取りしたいことがあったのだが、地上に帰って来たばかりだ。

 聴取は明日にするとしよう。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月〒日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 

 さきほど、アラドたちの聴取が終わったのでこちらにも書き記すことにする。

 

 私とイングが知りたかったのは、「何故、オウカ・ナギサがネオ・ジオンに与しているのか」ということである。

 流されやすそうなアラドとゼオラならともかく、オウカ・ナギサは聞くところによると。元はティターンズとして教育を受けていたのだ、自ら望んでネオ・ジオンにいるとは考えづらい。

 そんな私たちの疑問には、実際に相対して対話を行ったラトゥーニが答えてくれた。

 どうもオウカ・ナギサは“スクール”解体後、ネオ・ジオンの前身となる集まり(おそらくオーガスタやムラサメなど、ニタ研関連の組織だろう)に接収されたようだ。そして、自分と同じくネオ・ジオンにいる弟妹のために戦っていると予測される。

 また、心身を患ったラトゥーニの身柄をネオ・ジオンが確保、治療していると思わされていたらしく、戦場で本人と相対した際には激しく動揺(どうやら、何らかの強化措置を受けているようだ)、それが原因でアラドを撃墜したのだという。まあ、それから開き直ってゼオラとラトゥーニを拿捕しようとしたようだから、それほど強いマインドコントロールを受けているわけではないのかもしれない。

 ラトゥーニ、アラド、ゼオラの三人はオウカ・ナギサを何とかして説得したいという。ネオ・ジオンの一員として、少なからず連邦軍の軍人を殺めている立場でそれは難しいのではと思うが、私個人としては応援したいところだな。

 

 ところでイング曰く、《ラピエサージュ》は「アサルト・ドラグーン(A.D)」というPTとは違う種類の人型機動兵器らしい。

 国際警察機構のデータベースによると航空戦闘機関連企業「フレモント・インダストリー社」が開発した試作機シリーズで、《ソルデファー》、《ノウルーズ》の二機が確認されており、マオ社の《ヒュッケバインMk-ll》、DC社の《グルンガスト弐式》、Z&R社の《スヴァンヒルド》と次期量産機制式採用トライアルを争った。結果は《ヒュッケバインMk-ll》の勝利だったわけだが、さておき。

 《ソルデファー》は所在が割れている(バルマー戦役時、《スヴァンヒルド》とともにカラバで運用され、現在は連邦軍で管理されている)ので、《ラピエサージュ》のベース機は《ノウルーズ》ではないかと推測される。

 《ノウルーズ》は、OZのスペシャルズで運用試験が行われていたが、バルマー戦役とイージス事件後の混乱で行方不明になっているらしい。《ビルゴlll》がネオ・ジオンで運用されていることからもわかるように、OZの残党が流れているみたいだからそのルートで持ち込まれたのだろうか。

 それからこれは憶測だが、《ノウルーズ》の兄弟機、《ソルデファー》には特殊な補助操作システムが搭載されていたらしい。ようはサイコミュのようなものだが、これが《ラピエサージュ》にも採用されている疑いがある。

 また、アラドたちの持ち帰った戦闘記録を見たが、《ラピエサージュ》にはどうやら《アルトアイゼン》、《ヴァイスリッター》及び《ビルトビルガー》、《ビルトファルケン》のデータが用いられているようだ。まさしく“継ぎ接ぎ”だ。

 《アルト》と《ヴァイス》、奪われかけた《ファルケン》はともかく、ロールアウトしたばかりの《ビルガー》のデータまでネオ・ジオンに流れているとはどういうことか。

 マオ社内の企業スパイ(アナハイムならやりかねまい)か、あるいは連邦軍内のシャアのシンパか。BF団の暗躍という線もあるな。頭の痛い問題だ。

 

 さておき、ここG・アイランドシティではついに浮上してしまったオルファンの対策会議が行われることになっている。

 我々αナンバーズは、その警備に駆り出された。

 こういう任務は私とイングにはお誂え向きだ。ここは一つ、超一流のエキスパートがどういうものか見せてやろう。

 

 

   †  †  †

 

 

 復活したメガノイドの策略により、アーマラとイングは万丈、そして故郷を滅ぼした宿敵を討つため、ボソンジャンプで現れたアキトとともに亜空間に閉じ込められてしまった。

 ボソンジャンプやイングの強力な超能力も通じない完全な閉鎖空間で、彼らは援軍もないままの戦いを強いられる。

 《無敵戦車ニーベルング》を駆るメガノイドの司令官、コロス。《メガボーグ・サンドレイク》、《メガボーグ・ベンメル》、《メガボーグ・ミレーヌ》の三人のメガノイドに、ソルジャーの大軍勢が押し寄せる。

 万丈の旧友、コマンダー・キドガーこと木戸川が旧友の危機に反旗を翻して助太刀に入るも、コロスによって粛正されてしまう。

 メガノイドの猛攻に追い詰められたイングは、起死回生の切り札を切った。

 

『アーマラ、こうなったらあれをやるぞ!』

「! テストも無しにかっ?」

『オレの相方、“レディ・マグナム”なら出来るだろ?』

「……フッ、いいだろう、やってやる。言い出したからにはしくじるなよ、イング!」

『あたぼうよッ!』

 

 二人のやりとりに、メガボーグと化したコマンダー・サンドレイクが嘲笑を浮かべる。

 

『何をするのか知らないが、ヒトの分際で超人間たる我々に楯突くとは、身の程知らずめ』

『勝手にほざけ!』

「メガノイドの分際で、私たちを舐めるなよ」

『っ! 小娘、貴様ぁ!』

『黙れ! 貴様の邪念、オレたちが断ち斬る!』

 

 檄するサンドレイクを征し、イングはお決まりの口上とともに念を解き放つ。

 《アッシュ改》のコクピット周囲に設置されたTーLINKフレームが剛念を関知して、超常的な力を発揮し始めた。

 

『TーLINK、ダブルコンタクト! シーケンス、SDE!』

「テスラ・ドライブ、出力最大! オーバー・ブーストッ!」

 

 《アッシュ改》から伝播した念動波が《ビルトファルケン》に伝わり、背部の翼が最大可動形態に変形する。

 テスラ・ドライブの真骨頂、慣性制御による急加速で飛び出した《ファルケン》を見送り、《アッシュ改》は眼前に重力による穴隙(けつげき)を生み出した。

 

『まずはオレからだ! グラビトン・ライフル、ランダム・シュート!』

 

 格納空間から呼び寄せられた《グラビトン・ライフル》から、文字通りランダムに放たれる幾条もの重力波の合間を縫うように、紅い荒鷹が最大戦速で飛翔する。

 同士討ちを恐れない大胆な機動は、二人の信頼の証と言えた。

 

「影すら踏まさん! パターンセレクト、S・D・E……エンゲージ!」

 

 テスラ・ドライブの軌跡を残し、《ビルトファルケン》が猛烈なスピードでメガボーグの背後を奪う。

 左手の《バスタックス・ガン》を掲げ、速度を乗せて突撃する。

 

「ストレイト・アタック! 撃ち抜く!」

 

 先端部の突起を突き刺し、最大出力のテスラ・ドライブの推進力により《ダイターン3》と比する巨体ごと跳躍する。

 ゼロ距離砲撃を繰り返し、メガボーグの分厚い装甲に傷を刻んでいく。

 

「そちらに送るぞ、イング! マキシマム・シューートッ!」

 

 最大限までチャージした《バスタックス・マッシャー》が、巨体を上方へと一気に押し出した。

 その先には、オレンジの外套をはためかす手負いの騎士。翠緑の念動光を迸らせた《アッシュ改》が攻撃モーションを取って待ち受けていた。

 

『ハァァァァッ、セイヤーーッ!』

 

 強靭な念動フィールドを右足のつま先、その一点に収束集中させた跳び蹴りをメガボーグにお見舞いした《アッシュ改》は、そのまま敵の巨体を足場にして跳躍。ひらりと宙返りをした後、テスラ・ドライブで慣性制御、再び肉薄する。

 両腰の《ロシュダガー》をマニュピレータの間に挟んで引き抜き、起動させた。

 

『ロシュダガー! 六爪流だ!』

 

 展開させた六本の光刃を突き刺し、そのまま振り抜いて前面の装甲をズタズタに切り刻む。

 そして《ロシュダガー》を脇に投げ捨てつつ、《アッシュ改》は左腕の《ストライク・シールド》から伸びた柄を握りしめた。

 

『セイバー、アクティブ! 剣風一陣ッ、瞬殺百閃ッ!』

 

 引き抜いた《TーLINKセイバー》による超高速斬撃。パーソナルトルーパーの限界を超越したデタラメな機動で、刃が縦横無尽に繰り出される。

 斬撃の檻、惨殺空間に囚われた哀れな獲物にもはや逃れる術はない。

 

『凶鳥は、無明の闇を斬り裂いて飛ぶ! アーマラ!』

「まだ終わらんッ! 翔ろッ、ファルケン!」

 

 一旦モーションを終了し、イングが合図する。するとアーマラは《ビルトファルケン》を急速接近させ、《バスタックス・ガン》の紅黒い砲撃を次々に放り込む。

 再び光速斬撃の嵐を刻む《アッシュ改》の間隙を縫い、縦横無尽に飛び回る《ファルケン》。そんな複雑な機動の中でも、アーマラは狙いを違わず、正確な射撃でサンドレイクを追い詰める。

 剣撃と砲撃で散々に痛めつけた後、両機は同時に攻撃を停止、メガボーグを挟み、ちょうど対角線上に距離を取った。

 

「さあ! とどめだ!」

『TーLINK、フルコンタクトッ! 灰は灰に、塵は塵に! 貴様のエゴを、その邪念ごと断ち斬ってやる!』

 

 ラスト・アタックを決めるべく、更なる念を解き放つアーマラとイング。コーティング・クロークを翻す《アッシュ改》、そして一対のテスラ・ドライブユニット羽撃かす《ビルトファルケン》。

 《バスタックス・ガン》と《TーLINKセイバー》を念動フィールドが覆う。二人の念動力が共鳴し合い、両機に強力な相乗効果をもたらしていた。

 

『ダブル・デッド・エンドォォォッ――』

 

 前後からの完全な挟み撃ち。テスラ・ドライブが唸りを上げる。

 斧と剣、“凶鳥(ヒュッケバイン)の眷族”たちが邪念を断つべく武器を振りかぶる。

 

「『スラァァァァッシュッッ!!!」』

 

 すれ違いざまの一閃が重なり合う。

 《ビルトファルケン・タイプL》と《エクスバイン・アッシュ改》の合体攻撃――《ストライク・デッド・エンド》が炸裂した。

 

『が、がああああ! ば、馬鹿な!? この私がっ、メガノイドが人間などにぃぃぃ!?』

「貴様はお呼びじゃないんだよ、三下」

『一番大事なヒトの心を忘れたお前らに、この技はちと勿体なかったか。あばよ、あの世でお前の罪でも数えてな』

 

 意味にならない断末魔を叫び、《メガボーグ・サンドレイク》は爆発四散する。《ダイターン3》、《ブラックサレナ》と交戦していたほかのメガノイドたちはあまりの一方的な展開に絶句していた。

 そんな中、イングがあっけらかんという。

 

『悪いな万丈さん、宿敵の一人を倒しちまって。あんまりふざけたこと抜かすから、思わずぶっ飛ばしちまった』

『いや、いいんだイング、僕も目が覚めた思いだよ。大事なのはヒトの心と、仲間との絆なんだってね』

 

 どこか憑き物が落ちたような表情で万丈はイングに応じた。

『くっ!』コロスが悔しげに呻く。しかし、自身の優位な状況は揺るがないと見て笑みを浮かべる。

 

『たかがコマンダー一人を討ち取ったところで、あなた達がこの空間に囚われているという事実は変わらないのですよ』

『フッ、そうでもないみたいだぜ?』

『何?』

「ッ! なんだこの念……空間に、亀裂が……?」

 

 不意に、亜空間に亀裂が入る。

 外界の光とともに現れた白い巨鳥に導かれ、《ナデシコB》、《大空魔竜》、《アルビオン》、《マザー・バンガード》、《キング・ビアル》が姿を現した。

 

『ご無事ですか、皆さん』

 

 心配するルリの第一声を皮切りに、万丈の事情を知る仲間たちが声を上げる。

 皆、水くさい、自分たちを頼れと口々に言う様は万丈が持つ抜群の人望の現れだろう。特に、勝兵やワッ太は万丈に懐いているとあって感情的になっていた。

 

『あと、やっぱりいましたね、アキトさん。ユリカさんが急にいなくなったって、心配してましたよ』

『ルリちゃん……ユリカに会ったのか』

『ええ。「ルリちゃ~んっ、アキトがいなくなっちゃった~!」ってボソンジャンプで現れまして。相変わらずですね』

『ユリカ……、いろいろ台無しだよ』

 

 一部では揉めているが、さておき。

 

「どうやら形勢逆転のようだな、メガノイド」

『役者も揃ったところで。万丈さん、いつものをひとつ頼むぜ』

『すまない……みんなの力、今一度貸してもらうよ』

 

 万丈は感動を押し隠すように、わずかに瞼を伏せる。

 拓かれた眼差しが、メガノイドを射抜いた。日輪のような闘志を宿して。

 

『いくぞ、コロス! 世のため人のため、メガノイドの野望を打ち砕くダイターン3! この日輪の輝きを恐れぬならば、かかってこい!!』

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◎月∇日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ついさきほどまで、万丈主催のパーティーに出ていていささか疲れた。イルイも同じようで、ベッドで夢の世界に旅立っている。

 コマンダー・キドガーもとい木戸川め、存外しぶとかったようだ。あのとき、死んだと思ったんだが。

 

 しかし、今回は久々に窮地に陥った気分だ。

 滅びたかに思われたメガノイドが再び姿を現し、破嵐万丈の抹殺に暗躍した。私とイングはその罠に巻き込まれたというわけだ。さすがに、今回ばかりは死を覚悟したぞ。

 

 宿敵の復活を受け、万丈は破嵐財閥を解体して身辺の整理をし、さらにはαナンバーズからも離れて独自に対抗するつもりだったらしい。もっとも、今回の一件で思い直したようだ。

 身軽になるという判断は間違ってはいないし立派だとも思うが、破嵐財閥の財政的な後押しというのは密かに重要だったわけで。今後に影響がなければいいが。

 

 それにしても、あの白い鳥型ロボは何だったんだ? 外にいた連中によると、突然飛来して不可思議な光(イングに匹敵するほどの強力な念を放っていたとはクスハ談)により、亜空間への活路を拓いてくれたそうだが。

 敵か味方か、だな。

 





 エタらなかった!
 カリブで海賊兼海賊やったり黒龍討伐してたら遅れました。
 本当は書き下ろしの小説パートをINFINITE戦かビルガー乗り換えイベントで入れたかったのですが、筆が進まなかったのでボツ。
 書き下ろしをやるにはカロリーとかモチベーションが
ががが
 ウルトラマンZネタをしゃべってるのに、INFINITEのことを知らないのは不自然なので過去話を修正してます。

 余談ですが、作者の初スパロボは64でアークとソルデファーがイチオシ。なお、クリアしたことはない模様。


 今回のアンケは二つです。
 ふと「鋼鉄ジーグの枠、鋼鉄神に差し替えられるのでは?」と思い付いたのですが、元祖スーパーロボットがマジンガーにならなくなるのでやめました。第二次αって凱と宙の交遊もわりと重要な要素だしなぁ。
 鋼鉄神勢が捏造設定で三次に登場する場合、つばきはミッチーの従姉妹、鏡はほぼそのまま、剣児のジーグは後継機扱いになる予定。
 平行世界設定は決まりが悪い(宙とミッチーが二人になったりする)ので今のところ無し。


 次回も一月を目処に投稿できればと思ってます。
 どうぞよしなに(・ω・)


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αll-3「凶鳥は三度死ぬ」

 

 

 新西暦188年 ◎月■日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ロブがGGGに滞在していた理由が判明した。

 GGG中国支部が受け持つ「Gストーン」の欠片の一つを込めた「GSライド」を《アッシュ》、正確に言うならその後継機MkーXの動力源にするためだったらしい。

 諸々の事情でトロニウムエンジンが使用できないことを受けた処置で、ヒトの生きようとする意志に反応して無尽蔵のエネルギーを生み出すGストーンの性質に着目したわけだな。

 ということで、《アッシュ改》がまたまた改修を受けた。

 もっとも、コックピット周りの改装してGストーンをT-LINKシステムと連動させ、PT用のGSライドとして搭載するだけだから作業自体はすでに終わっている。いい加減、いじりすぎだと思うのは私だけか?

 

 ただし、現在GSライドは稼働していない状態だ。

 ロブ曰わく「理論上では完璧なはずなんだが」。獅子王博士によれば「アッシュに染み付いたイング君の念と、無垢な状態のGストーンが拒否反応を起こしてるんじゃ」。

 しばらくGストーンをイングの念に馴らしてから再度調整を行うとのことで、《アッシュ》のパワーアップに繋がらなかったことをイングは大変残念がっていた。

 

 なお、そのイングだが、Gストーンの無限情報サーキットとしての性質を生かして、勇者ロボのような超人工知能の搭載を熱望している。

 どうも《レイズナー》の支援AI、「レイ」が羨ましいらしい。もう勝手にしろという感じだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月☆日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 《雷龍》《風龍》が《氷竜》《炎竜》といがみ合って困っている。

 合流した当初から不穏な空気を醸し出していたのだが、ここに来て確執が表面化してしまった。どうやら《雷龍》《風龍》が未だ合体を出来ていないことが原因のようだ。

 レスキューマシンとしての色が強い《氷竜》《炎竜》と、初期から兵器として造られた《風龍》《雷龍》の違いと言えばそれまでだが。

 ロボットとはいえ、二機は私たちの部下である。どう解決しようか、頭が痛い問題だ。

 

 

 追記

 明日、竜崎とドモンが銀河と北斗に稽古をつけるために《ダイモス》と《電童》で模擬戦をやるらしい。ベガ副司令に、ついて行ってやってくれと頼まれた。

 訓練とは結構なことだが、妙な事件の発端とならなければいいのだが。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月◎日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 イングの戯言ではないが、昨日の日記がフラグとやらになってしまったらしい。

 

 Gアイランド・シティ近海、東京湾での《ダイモス》対《電童》の模擬戦(ドモンの《ゴッドガンダム》は審判役だ)。

 結果は《電童》の辛勝だったが、そこに火星の後継者が襲来する 。例のごとく現れた《ブラックサレナ》、《ユーチャリス》と協力して対抗していたのだが、奴らの目的はGGGの保有するEOTだったようで、機動兵器を陽動に北辰とその部下たちが基地内に白兵戦を仕掛けてきた。

 だが、相手が悪かった。

 獅子王凱、司馬宙のサイボーグコンビだけでお釣りがくるほどの戦力だというのに、ドモンらガンダムファイターやベガ副司令を筆頭に生身でも戦えるメンバーで返り討ちにしてやった。無論、私とイングも急行して白兵戦で迎え撃った。

 しかし、北辰集を数人始末することには成功したが、肝心の北辰を逃してしまったのは痛恨だったな。

 

 さらに悪いことは続くもので、同時に鉄甲龍による大規模なサイバー攻撃が始まった。現在も、世界規模で深刻なネットワーク障害が続いている。

 国際警察機構の調べによれば、鉄甲龍は「国際電脳」という企業を隠れ蓑にしていたようだ。

 ベイタワー基地はホシノ艦長と《ナデシコB》の管制AI「オモイカネ」、GGGメインオーダールームのチーフ、猿頭寺耕助、そしてリサが協力してハッキングに対抗しているが、世界中の量子コンピュータからの攻撃に押し負けてやや不利に陥っている。

 早急に敵本拠地を潰さなければ、こちらが危うい。αナンバーズ首脳陣の編み出す作戦に期待だ。

 

 

 

   †  †  †

 

 

 世にもおぞましいが響き渡る。

 曇天の空に、白と蒼が激突した。

 

 破壊を振り撒き、暴走する白き冥王《天のゼオライマー》。対峙するのは蒼き孤高の魔神《グランゾン》。

 木原マサキ、シュウ・シラカワ――歴史に名を残すであろう希代の天才科学者が、自身の為だけにその頭脳を存分に奮って建造したマシンである。

 その力はまさしく天下無双、驚天動地。両者伯仲の末、戦いは激しくなっていく。

 

『グランゾンの力、身を以て知りなさい。ディストリオンブレイク……!』

『無駄、無駄、無駄ァ!』

 

 降り注ぐ重力場の雨が大地を抉り、歪む次元の断層により空が砕ける。

 

『ククク……これならどうです? ワームスマッシャー!』

『天に触れれば……消え去るのみ!』

 

 攻撃の応酬。鉄壁と思われた空間障壁が砕け散り、しかし損傷を受けた装甲が瞬く間に修復される。

 

『近寄ればなんとかなるとでも思ったか?』

『グランワームソード。抵抗は無意味です』

 

 振りかぶった拳と剣がぶつかり合い、大気を震わす衝撃波と耳をつんざく破裂音が響き渡る。それはまるでこの星が悲鳴を上げるかのようだ。

 歴戦の英雄であるαナンバーズの面々ですら、固唾を呑んで見守るばかり。

 

『チリ一つ残さず、消滅させてやる…!』

『フッ……愚かな』

『冥王たるこの俺に、よくそんな口が利ける……! 泣け、喚け! そして、死ぬがいい!!』

『収束されたマイクロブラックホールは、特殊な解を持ちます。剥き出しの特異点は、時空そのものを蝕むのです。重力崩壊からは逃れられません……!』

『消え失せろ! 天の力の前になぁ!!』

『多数の特異点から生まれるロシュ限界は、万物悉く原子の塵へと化します……事象の地平に消え去りなさい!』

『冥王の力の前に、消え去るがいい!!』

 

「……イング、止めなくていいのか」

『無茶言うな! あんなのに混じれるか!』

「……いや、うん、そうだな。すまん」

 

 

『ぐ、ううっ……』

『ひとたびシュヴァルツシルト半径に陥れば、光であっても逃れる事はできません。我々の世界を形成するあらゆる系が崩壊するのです。――これがあなたの終焉です。さようなら、木原マサキ』

『ぐあぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!?』

 

 

 

 

   †  †  †

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∑日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 先日の日記には期待と書いたが、後手後手に回っている。

 ここは鉄甲龍の手際を評価すべきところだろうか。

 

 東京市、そしてGアイランド・シティに侵攻した八卦ロボ、《地のディノディロス》《山のバーストン》との前哨戦。人工的に地震を引き起こす《地のディノディロス》も厄介だったが、特に多数のミサイルに核ミサイルまでもを爆装した《山のバーストン》は、タチの悪い機動兵器だった。

 《山のバーストン》により都市部に向けて発射された核ミサイルは、《ユウ・ブレン》《ヒメ・ブレン》を筆頭にしたブレンパワードたちが協力し、発生させたオーガニック・エナジーで宇宙に弾き出され、事なきを得た。

 またその際、《雷龍》《風龍》が《氷竜》《炎竜》から人命救助と勇者とやらの心を学び、《撃龍神》へと合体を成功させたことを特記しておく。

 

 さておき、鉄甲龍の本拠地を突き止めるべく、私たちは撤退する二機の八卦ロボを追撃したのだが、そこに最後の八卦ロボ、《雷のオムザック》が現れた。

 しかし、三度豹変したマサトからの何らかのアクションをきっかけに仲間割れを始め、最終的には《メイオウ攻撃》で消し飛ばされた。

 

 錯乱したのか、苦しんだように暴走し、こちらに攻撃しはじめた《ゼオライマー》を止めたのは他でもない、シュウ・シラカワの《グランゾン》だった。

 途中で《ゼオライマー》が停止したからよかったものの、あのまま戦い続けていたら冗談抜きに地球が終わっていたかもしれない。あのイングでさえ、顔色を変えて震え上がっていたのだからな。ヤツのことは笑えん、私だってあの二機の戦いに割って入ることなど御免被る。

 拘束された秋津マサトの処遇は、明日に持ち越すことになった。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月▲日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 《グランゾン》と《ゼオライマー》の対決から一夜が明けた。

 

 シュウはラ・ギアスでの事件を解決させたその足で、地上にやってきたらしい。

 さらに、私たちαナンバーズに協力するつもりらしい。「因果率の収束点を自分の目で観測するため」などと意味ありげに嘯いていたが、実際のところその目的は不明だ。

 イングは「いつもみたく利用されたどこぞの誰かを潰したいだけなんじゃね?」と核心を突いた感想を漏らしていた。

 

 シュウ・シラカワの登場と、マサトの変化で様々な事実が判明した。

 その情報を纏めるために、ここに記しておくことにする。

 

 

・《天のゼオライマー》とは、木原マサキの野望のために生み出されたものである。

 その木原マサキという男は大分歪んだ人物のようで、《ゼオライマー》により地上全てを滅ぼしてそこにただ独り君臨することを目的としていたようだ。

 

・秋津マサトは木原マサキのクローン人間である。

 マサトは木原マサキの野望を達成するための駒であり、《ゼオライマー》に記録されていた木原マサキの人格等を徐々に上書きされていた。突然の豹変はそれが原因だった。

 現在は何らかの不具合により、どっちつかずの状態に陥っているらしいことが本人の口から語られている。

 さらには鉄甲龍の幹部の殆どが木原マサキのクローンであるという。

 

・木原マサキはEOT会議のメンバーであり、ビアン・ゾルダーク博士と交友があった。

 シュウ・シラカワはビアン博士自身からその人となりを聞いていたそうで、「人間性はともかく、才能ではビアン博士にも匹敵する天才」と評価していた。

 

・「次元連結システム」の正体と原理。

 美久は次元連結システムそのものであり、人間のように成長するアンドロイドだと判明した。それだけでも驚愕すべき科学力だが、その実体がすごい。

 次元連結システムとは、アカシックレコードとも呼ばれる宇宙の根源から、木原マサキが「次元力」と名付けた宇宙(我々のいる三次元のみならず、四次元以上のより高次元)に遍在する無限のエネルギーを汲み取る装置であり、サイコドライバーの力を機械的に再現したものなのだという。

 なお、シュウ曰わくこの「次元力」とはラ・ギアスの概念「プラーナ」とも密接に関連しているとのこと。また、兜博士は光子力エネルギーもこの「次元力」の一種であると述べていた。

 

 こうして、改めて書き連ねてみるとわかるが、木原マサキの頭脳は恐るべきものだ。「次元力」というものが本当に大それた力なら、それを動力としているという《ゼオライマー》の、あの常軌を逸した力も頷ける。

 さておき、マサトと美久の進退はいったいどうなるか。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月♪日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 現在、αナンバーズは未知のコンピュータウィルスに侵されたユニコーンドリル、レオサークルの治療に全力で当たっている。

 ホシノ艦長、エリスらその筋のスペシャリストたちは元より、イルイや護、ケン太、宇都宮比瑪についてきた孤児のちびっ子たちも仲のよかったデータウェポンのために、必死になって奔走している。

 

 一方、私たちはウィルスの感染源と思われる宇宙生物「ラゴウ」を捕獲するため、出撃準備中だ。

 この日記も、《ファルケン》のコクピットで書いている。

 その《ファルケン》の対面には、青白い特機サイズの機動兵器が駐機されている。《サイバスター》、ラ・ギアスからやってきた風の魔装機神である。

 

 ことの経緯はこうだ。

 先日のシュウによる暴露の後、マサトは自身のオリジナル、木原マサキの始末をつけるべく美久とともに鉄甲龍の本拠地に乗り込んだ。

 鉄甲龍の首魁にして、同じく木原マサキのクローンである幽羅帝諸共《ゼオライマー》で自爆したマサトたちだったが、何の因果か生き残ってしまった。

 そこに、北辰と火星の後継者がまたぞろ現れる。おそらくは次元連結システムが狙いだったのだろう、確かに手負いの《ゼオライマー》なら与し易い。

 窮地に陥ったの《ゼオライマー》を救ったのが、偶然通りすがったマサキ・アンドーと《サイバスター》だったわけだ。

 よくもまぁ、状況もわからずマサトたちに助太刀したものだと思ったが、後に聞いたところ「大勢で寄ってたかって攻撃してんだから、助けるのは当たり前だろ」との答えが返ってきた。

 

 私たちが合流したのはその辺りだったのだが、さらに乱入するものがあった。それが上記の《ラゴウ》、ガルファ皇帝のペットで金属を喰うという宇宙生物である。

 データウェポンとは何らかの因縁があるらしく、四体のデータウェポンは勝手に「ファイルロード」して立ち向かっていった。

 が、あえなく返り討ちにあい、ラゴウからウィルスを注入されてしまった。

 

 これから一時間後、消滅の危機にあるデータウェポンたちを救うべく、ラゴウの捕獲を目的にガルファの拠点がある月へと向かう予定だ。

 月と言えば、様々な勢力が入り乱れて地獄のような様相を呈している地帯である。

 ギガノス、あるいは木星帝国、はたまた星間連合の横やりが予想される。気を引き締めなければ。

 

 少し意外だったのが、マサキが宿敵シュウ・シラカワと顔を合わせても比較的冷静だったこと。ラ・ギアスで何かあったらしいが、詳細は不明だ。

 とはいえイングに、「さんざん道に迷ったあげく、シラカワ博士に先越されてやんの」とイジられて顔をしかめていたが。

 また、木原マサキと同名なためか、その名前が会話に上がる度に微妙な表情をしていることを記しておく。

 もっとも、これはヤマダや號にも言えることだがな。

 

 なお、ダメージが深い《ゼオライマー》はGGGに残り、マサト自ら修理するそうだ。あのビアン博士に匹敵するという木原マサキの知識に期待するのは酷だろうか。

 生き残ってしまったマサトは、木原マサキの犯した罪を購うためにαナンバーズの一員として戦いたいと決意を明かした。一部、「信用できるのか」と異を唱える声もあったが、大河長官が認めたことで納得したようだ。長官の人徳のなせる技だな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球圏、衛星軌道上

 

 結果から書くと、ラゴウ捕獲作戦は失敗に終わった。マーグ率いる星間連合の妨害によるものだ。

 しかし、ユニコーンドリルとレオサークルは無事だ。

 ウィルスにより消滅する間際、GGGに保管されていた《ガオガイガー》の構成パーツ、《ドリルガオー》《ステルスガオー》の予備機をそれぞれ取り込んで復活を果たし、さらには合体して「超獣王輝刃」となり《電童》に力を貸し、ラゴウを葬ったのだ。

 

 なお、宇宙への打ち上げの際、ゾンダーによる妨害があり、アイビスが単騎で迎撃に出ている。

 データウェポンたちと仲のいいイルイのためだろうアイビスの無茶な行動の援護に、凱とゼンガー少佐、レーツェルも残っている。

 さきほど連絡があったが、四名は無事ゾンダーを撃退したそうだ。

 

 肝心の作戦だが、前述の通りマーグ率いる星間連合の部隊の妨害を受けた。ガルファと繋がっていたわけではなく、漁夫の利を狙ってのことだろう。

 また、その部隊にはエイジの実姉、ジュリアが婚約者の敵として実の弟の命を狙って参加していたようだ。前にも書いたが、一世紀前の昼ドラ並にドロドロだな。

 それから、あのトリ型メカに類似したサメ型メカが現れて共同?したことを記しておく。

 

 イングは輝刃の誕生を感知していたようで、私は「希望が輝いたな」と小さく呟いたのを確かに聴いた。

 「輝いた」は輝刃の暗喩だろうが、「希望」とはいったい何のことだ?

 

 さておき、αナンバーズは現在地球に帰還すべく移動中だ。

 地上に残った四名との合流とに対抗するため、北米はテスラ・ライヒ研究所に降下予定である。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月¥日

 地球圏、衛星軌道上

 

 私たちの小隊が哨戒中、ネオ・ジオン及び木星帝国の艦隊と遭遇、戦闘した。

 《ガンダムMk-V》を駆る首魁ブレイブ・コッドらニュー・ディサイズの精鋭を、リョウの《Ex-Sガンダム》と押さえる傍ら、アラドとゼオラ、ラトゥーニが《ラピエサージュ》と対決。説得を試みる三人に「言葉は無用! 納得させたいなら、私を越えてみせなさい!」と啖呵を切ったオウカ・ナギサに対し、アラドたちは土壇場でコンビネーションマニューバ、(ツイン・バード・ストライク《TBS)》を成功させて《ラピエサージュ》を戦闘不能に追い込んだ。

 とはいえ、《ラピエサージュ》は回収されて撤退したわけだが、さてどう出るか。

 しかし、練習していたとは言えあれをぶっつけ本番で決めるとは。アラドの奴、普段はへっぽこなくせに相方がいると動きが抜群によくなるようだ。あるいはゼオラのフォローが上手いだけかもしれないが、それでも大したものである。

 他にもジュピトリアンの巨大モビルアーマー《ラフレシア》と交戦したが、あの触手はなかなかに厄介だったな。

 

 戦闘時に合流したロンド・ベル旗艦《ラー・カイラム》、ブライト艦長とともに、青い《量産型F91》のパイロット、ハリソン・マディン大尉が加わった。

 アムロ大尉がαナンバーズへ参加していた間、モビルスーツ隊隊長を代行していた人物で、正規の軍人にしては出来た人柄を持っている。イングにも見習わせたいくらいだ。

 

 《量産型F91》、いい機体だ。

 アムロ大尉たちの尽力で実践配備されただけあって、試作機とほぼ遜色ない性能に仕上がっている。量産機にしては高性能すぎというのはいささか難点だが、αナンバーズには関係ない。

 量産機といえば、《レイズナー》及び鹵獲した星間連合の《ドトール》を解析した地球産SPT《ドール》が、連邦軍正規部隊で運用を開始されたらしい。こちらは元が量産機だけあって操作性やコストに優れているようだな。

 現在の連邦軍は現行の《ジェガン》に加え、高級機の《ドラグーン》《量産型F91》、《ドール》のハイ・ロー・ミックスで構成されている。あとは、一部部隊で《VFー1バルキリー》の後継機や《エステバリスII》、《量産型ヒュッケバインMk-II》なども使用されている。

 特機系ではお馴染みの《イチナナ式》、北米を中心に《ステルバー》、あとは少数生産された《量産型グルンガスト弐式》が現役で活躍しているそうだ。なお、《量産型ゲシュヘンストMk-ll》はごく一部のエースが好んで使っているが、主流とは言いがたい。あれも、頑丈でいい機体なのだがな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球圏、衛星軌道上

 

 諸々の事情で接触した《マザー・バンガード》の協力者、ベラ艦長の従姉妹であるシェリンドン・ロナの子供じみた妨害には辟易と言った気分だ。

 シェリンドンにより、ジュドーとともに拘束されていたトビアは《クロスボーン・ガンダムX3》を奪取し、木星帝国との戦闘に馳せ参じた。

 後になって聞いたが、シェリンドンは狂信的なニュータイプ信者でそのためトビアとジュドーを拘束したらしい。「ニュータイプなんて大したことない」と言って憚らないイングとは水と油だろうな。

 

 木星帝国の首魁、クラックス・ドゥガチの娘、テテニス。ベルナデット・ブリエットを名乗り、一時期《マザー・バンガード》と行動をともにしていたらしい彼女は、実の父親によってモビルアーマー《エレゴレラ》に乗せられ、αナンバーズに敵対させられることになった。

 もっとも、その小細工はトビアの活躍によって見事ご破算と相成ったわけだが。

 しかし、「海賊らしく、頂いていく」か。トビアめ、なかなか味なことを言う。

 言い放たれたときのドゥガチの顔を直に拝めなかったのが、残念でならない。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月ℓ日

 地球、太平洋 北米地区近海

 

 αナンバーズ艦隊は大気圏に突入、現在は北米大陸に向けて航行中だ。

 無事、トラブルもなく地表に到着できたことはさておき。大気圏突入前、ネオ・ジオンを脱走したオウカ・ナギサを保護したので、その経緯を記しておく。

 先日の戦闘で思うところがあったのだろう、独自にネオ・ジオンの内情を探っていたようだ。そこで、他の“スクール”のものたちの身柄がネオ・ジオンにない(正確には、星間連合に実験動物として売り渡されていたらしい)と知ったオウカは脱走を決意、「赤い仮面の男」の手引きで《ラピエサージュ》を奪取し旗艦《レウルーラ》から脱出、ネオ・ジオンとギガノスの部隊から追われていた。

 そこに、我々が到着したわけだ。

 オウカをピンポイントで発見できたのにはもちろん訳がある。国際警察機構の秘匿回線で、「ワンゼロワン」宛に密告があったのだ。正直、私には罠にしか思えなかったが、結果的にはイングの勘が正しかったということだな。

 オウカを保護した戦闘では、イングがリョウ、ウラキ少尉、バニング大尉と共同で《ガンダムMk-V》を撃破している。無事、ニュー・ディサイズの首魁を討ち取れたわけだが、バニング大佐が危うく撃墜されるところだった。

 しかし、オウカを助けたという「赤い仮面の男」、まさかBF団のマスク・ザ・レッドか? 奴らなら国際警察機構の秘匿回線に割り込むこともできなくはないが、この件は気になるので本部に報告しておこうと思う。

 

 そのオウカ・ナギサだが、現在取り調べを受けている。アラドたちの口添えもあるし、本人も聴取に協力的だ。ブライトキャプテンやアムロ大尉らには、私とイングからも弁護しておこうと思う。

 また、彼女が奪取してきた《ラピエサージュ》は、兜博士やアストナージ曹長ら整備・科学班により念入りな調査が行われている。どうせ良からぬものが組み込まれているに違いないしな。

 

 

 いろいろあったが無事、月面部隊とも合流し、明日にはテスラ研に到着の予定だ。

 久々にまとまった休息が取れそうだし、イルイにかまってやるとしようか。

 

 

   †  †  †

 

 

 北米地区はコロラドの荒野に建てられた研究施設、「テスラ・ライヒ研究所」。革命的な推進機関テスラ・ドライブ、そして名機《グルンガスト》を世に輩出した場所である。

 物資補給のために立ち寄ったαナンバーズの面々は、つかの間の休息を楽しんでいた。

 

 αナンバーズ所属艦の一隻、《マザー・バンガード》。

 遊覧船とも呼べるような優美な船体に相応しく軍艦にしてはすっきりとした印象の通路を、ピンクブロンドの少女と紫ドレス(ゴスロリ)姿の少女が、金髪の幼い女の子の手を引いて歩いている。

 αナンバーズが誇るエースパイロット、アーマラ・バートンとラトゥーニ・スゥボータ、そして謎の少女イルイだ。なお、ラトゥーニがドレスを着ているのは主にルリの仕業である。

 

 普段は《ナデシコB》に同乗していることの多い彼女らは、持て余した暇を潰すべくほかの所属艦に行ってみようということになった。主にイルイの希望である。

 

「狭い軍艦に押し込められて退屈じゃないか、イルイ」

「ううん、毎日楽しいよ」

 

 アーマラの気遣わしげな視線を見返し、イルイは笑顔で否定する。

 

「友だちもいっぱいできたし」

「ふふ、そうか」

 

 相変わらずαナンバーズには年少の子供たちが多いし、一部は戦闘要員として活躍している。

 《キング・ビアル》などは一族総出で乗り込んでいるし、大半のメンバーは成人前の少年少女ばかり。さらに数少ない正規軍人のアムロ、隼人、鉄也、シローなどもかつては同類だったのだから、αナンバーズがどれだけ異質な集団であるかがわかるだろう。

 

「みんなとお勉強するのも楽しいよ」

「イルイは偉いな」

「えへへ、うん」

 

 アーマラに褒められ撫でられて、イルイはご機嫌だった。

 未だ学校に通っていなければならない年齢の子供たちのために、《大空魔竜》のサコン・ゲンや大文字博士などが教師役になって、彼らに一般教養を教えていたりする。

 もっとも、ジュドー以下シャングリラ・チルドレンたちやケーンらドラグナーチームなど、年齢的には「子供」の範疇に当たる悪ガキたちは、この勉強会から何かにつけて逃げ回っていたりもするのだが。

 なお、アーマラはともかく、イングも真面目に受けていることに周囲は意外に思われている。

 

 閑話休題(それはさておき)。

 

 その様子を傍らで見ていたラトゥーニが、ポツリとこぼした。

 

「アーマラ、変わったね」

「ん? そうか」

「うん」

 

 言葉少ななラトゥーニだが、アーマラとて付き合ってそれなりになる。ニュータイプや念動力者でなくとも、短い語句の真意を汲み取るのは容易い。

 

「変わった?」

「うん。前はツンツンしてた」

「ツンツン?」

「そう。ツンツン」

「……言うな。反省してるんだ、これでもな」

 

 年少二人に茶化されて、アーマラはばつが悪そうに瞼を伏せる。ラトゥーニとイルイが顔を見合せ、くすくすと笑い合った。

 

 そうこうしているうちに、三人は《マザー・バンガード》の食堂に立ち寄った。

 食事時ではないから、船員の姿はまばらだ。

 

「広いねー」

「それにきれい」

「そうだな。ナデシコBと同じくらいはありそうだ。――ん? あれは……」

 

 閑散とした食堂を見渡していたアーマラが、ふと何かを目撃する。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 同じものを見たイルイが、ぱっ、と繋いでいた手をすり抜けて駆けていく。

 アーマラはラトゥーニと顔を見合せ、やれやれ、とニヒルな仕草で肩をすくめてその後を追っていった。

 

「なにをしてる、イング」

「んあ? アーマラにイルイ、それにラトゥーニか」

 

 アーマラの声に前髪に蒼いシャギーの入った銀髪の少年――イング・ウィンチェスターは包丁片手に作業していた手を止め、振り向いた。もう一方には、剥きかけのジャガイモが握られている。

 傍らにはキンケドゥとトビア、アラドが同じように包丁やらピーラーやらで黙々と山のようなジャガイモと格闘していた。

 

「何ってしてるって、ジャガイモの皮むきだけど?」

「いや、それは見ればわかるが……」

「おいも?」

「おう。ベラさんがパン焼いてみんなに振る舞うらしくてさ、キンケドゥが具にコロッケを作るんだよ。で、それを手伝ってんの」

 

 控えめにすり寄ってきたイルイの頭を撫でつつ、イングが事情を説明する。もちろん、包丁を置き、汚れた手を拭った上でだ。

 

「要するに、二人の明るい将来に向けての予行練習だな」

「ま、まあ、そんなところだ」

「今、ベラさんが奥でパン粉を練ってるんだ。ベルナデットも手伝ってるよ」

 

 軽くからかわれて言葉を濁すキンケドゥと、トビアが状況を補足した。《マザー・バンガード》の師弟コンビは、女性関係でもよく似ている。

 

「それはわかったが、どうしてアラドまでいるんだ。お前、今日はゼオラやオウカと訓練するんじゃなかったのか」

「いやー、それがなんかイングさんに捕まっちゃって。……おれって、消費するの専門なんスけど」

「たしかに。アラドはそう」

 

 アーマラの問いに、アラドが困ったように事情を説明する。ラトゥーニが何やら納得した顔をして頷いている。

 はぁ、と頭痛を感じたようにアーマラは頭を抱えると、イングが不服そうに唇を尖らせた。

 

「バッカおめぇ、今時のイケてる男子は料理が出来て当たり前なんだって。レーツェルさんとか、すげーカッコいいだろ?」

「ああー、なるほどッス!」

 

(イケてる、って言葉自体がすでにダサいのは言わない方がいいかな)

 

 お気楽な義兄弟コンビのやりとりに、トビアは苦笑している。

 謎の美食家ことレーツェルの料理通ぶりはαナンバーズに浸透しており、今日もその腕で何を披露してくれるか大変期待されている。――一部に、クスハの例の“アレ”を警戒する向きもあるが。

 

「オトナってのは、自分の食い扶持ぐらい自分で用意するもんだ。それにほら、お前の相方ってメシマズさんだろ? ……ウチのと一緒で」

「はっ! それはたしかにっ!」

「どういう意味だ、それは」

 

 使い方の間違った言葉を軸に持論を展開するイングに、アラドが感銘を受けたように何度もうなづいている。引き合いに出されたアーマラが、眉間にしわを寄せた。

 そんなパートナーに、イングはシレッとした顔で告げる。

 

「だって、事実だし」

「バカにするな。私だって料理くらいできるぞ。お湯をかけて三分待つだけだ」

「インスタント食品は料理って言わねえのっ!」

「インスタントじゃなくて、軍用レーションだぞ」

「余計にダメだよっ!」

 

 わりとズレたアーマラの返答に、イングがすかさずツッコんだ。

 二人のやりとりがおかしくて、イルイがけたけたと腹を抱えて爆笑している。

なお、イングとアーマラのこうしたやり取りは、號や豹馬、マサキなど付き合いの長い連中から「夫婦漫才」と呼ばれていたりする。そして二人は、それを強く否定しない。

 

「ふ、ふんっ! お前だって、大口を叩ける腕前じゃないだろうに」

「残念だったな! オレは一通り定番レシピは覚えたから、味付け以外、完璧だっ!」

「威張ることじゃないと思うぞ……」

 

 二人のズレズレな掛け合いに、キンケドゥが脱力したようにツッコミを入れた。

 もっともイングは自身が極度の甘党なだけで、他人に食べさせる料理はそれなりにまともに作れるようになったのだが。一応、()()()は極々普通な一般人であるからして、料理の経験だってある。ただ、根本的に味覚がおかしいだけなのだ。

 

 

 ジャガイモを剥き終わったイングとアラドを加えた一行は、イルイたっての願いでロンド・ベル隊旗艦《ラー・カイラム》に向かう。

 イングの(多少はアーマラの)影響を受けているイルイは、軍艦やαナンバーズのロボットに興味を示している。置かれた環境や、同世代に男子が多いことも無関係ではないだろうが。

 そのイルイは、「お兄ちゃん」におんぶされて大変ご機嫌だった。

 

「ああーっ!」と、廊下の向こうから金切り声が響く。

 声を上げ、土煙を上げんばかりの勢いで走り寄ってくるのは銀髪の少女だ。その後ろを濡れ羽色の髪の少女が、困ったような苦笑を浮かべてゆっくりと歩いてくる。

 

「アラドッ、やああああっと見つけたっ! 約束の時間、何時間過ぎてると思ってんのよ!」

「げっ、ゼオラ!?」

「何が、「げっ、ゼオラ!?」よ! 私たちとの約束すっぽかして、どこいってたのっ!?」

 

 怒り心頭、憤慨するゼオラ。彼女のアクションにあわせて大いに揺れる胸をガン見していたイングが、「ありがたやありがたや」と拝んでいる。

 オウカと目線で軽く挨拶し合ったアーマラは、アホな相方のわき腹に制裁を加えつつ、怒り心頭のゼオラと責められるアラドを取りなす。

 

「すまんな、ゼオラ、オウカ。ウチの馬鹿がアラドを引っ張っていたらしい」

「ああ、いえ、アーマラに謝っていただくようなことじゃ……」

「はい、ええと、私たちの用事は急ぎではないので」

「そういう問題ではないのだがな」

 

 ゼオラが畏まり、オウカは少し遠慮ぎみだ。

 

「お前たち、畏まりすぎだ。特にゼオラはな」

「……あの、すみません」

「そういうところが……いや、いい。あまり無理強いするようなことでも無し、私もαナンバーズの雰囲気に毒されたかな?」

 

 アーマラは少しあきれたように肩を竦めたあと、冗談を交えて締めくくる。真面目な性格のゼオラは、目上に当たる相手には、アラドのように砕けた振る舞いをすることが苦手なようだ。

 また、つい最近まで敵対していたオウカはともかく、ゼオラは同じ機体のパイロットとして、先達としてアーマラのことを純粋に尊敬しているからこその態度なのだった。

 とここで、ムードメーカー(イング)が一声上げた。

 

「そうそう、もっとお気楽にいこうぜ?」

「お前の場合は気楽すぎだ、馬鹿者」

「うん、イングはちょっと軽い、かも」

「ラトゥーニまで!?」

 

 アーマラの鋭いツッコミにラトゥーニが援護を入れ、イングが大袈裟にリアクションして見せる。そんなコントじみたやり取りにゼオラとオウカが緊張がほどけたように、笑みをこぼした。

 なお、アラドは珍しく空気を読んで、自分に飛び火しないように黙っていた。

 

 

「こんにちわ、ゼオラ、オウカ」

 

 話しが一段落したのを見計らっていたのか、イルイが挨拶する。

 

「こんにちはイルイ。お兄さんとお姉さんが一緒で、ご機嫌ね」

「うんっ」

 

 ゼオラの指摘に、イルイが元気いっぱいに答える。そして、改まったように通路を見やった。

 

「なんだか、狭いね」

「まあ、ラー・カイラムは純粋な戦艦だからな。ナデシコBやマザー・バンガードはもとより、大空魔竜とかと比べたら気の毒だ」

「ふーん……でも、お兄ちゃんは前に住んでたんでしょ?」

「んっ、まぁ、そうだな。バルマー戦役やイージス事件でも世話になったフネだよ。そういう意味では、やっぱラー・カイラムはオレの我が家(ホーム)みたいなもんかな」

 

 イングが誇らしげに言う。

 乗船した期間は短かったものの、アーマラも同意見らしく得心したように頷いていた。

 

 この《ラー・カイラム》は未来世界から持ち込まれた艦であり、現代に残っていた方は《ジャンヌダルク》と改名されて連邦軍の正規部隊で運用されている。

 未来世界の艦ということで、見た目こそ通常の《ラー・カイラム》と差はないがミノフスキー・クラフトによる大気圏内の飛行・オートメーション化など、宇宙戦艦としての基本性能は《ナデシコ》級にも勝るとも劣らない(フネ)だ。

 同じく、《マジンカイザー》《真・ゲッターロボ》も二機あったことになるのだが、こちらは不思議な現象により両者が一つになっている。

 イージス事件、真の最終章、自立起動した両機との熾烈な戦いについてはここでは語らないこととしておく。

 

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 時折擦れ違う船員やαナンバーズのメンバーに挨拶しつつ、のんびりと艦内を散策する一行。基本的にお調子者のイングが四方山(よもやま)話をアラドに振って、アーマラかイルイ、たまにゼオラが会話に加わっている。

 まだ馴染んでいないオウカは、一歩引いた位置でそれを聞いている。ただ退屈しているわけではないようで、時折自然な笑顔をこぼしており、同じく一歩引いて聞いているラトゥーニには彼女が楽しんでいるように見えた。

 

 

「あ、アムロ大尉とヴィレッタ大尉だ」

 

 と、アラドが声を上げる。通路の少し先に種類の違う軍服を来た男女の姿が見える。

 女性の方、ヴィレッタを見てアーマラが僅かに身構えたのをイングはちらりと視界の隅で確認する。ゼオラに何だかんだというわりに、自身も畏まってしまう相手がいることをイングは相棒の名誉のために無視することにした。

 

「ンッ、やあ」

「あなたたち、ラー・カイラムに何か用事?」

 

 片手を上げフランクに挨拶するアムロに対し、ヴィレッタが前置きもなしに単刀直入に事情を聞く。

 

「イルイの社会科見学ってとこです」

「イング、それでは事情がわからんだろう。イルイがラー・カイラムの艦内を見てみたいと言ったので案内しています」

「なるほど、そういうことか。だけどイルイ、ただの軍艦を見て回っていて楽しいかい?」

「はい、楽しいです」

 

 イルイの礼儀正しく元気いっぱいの返事にアムロは微笑みを浮かべ、頭を軽く撫でる。一癖も二癖もあるイングとアーマラ(保護者たち)とは違って、真面目で素直ないい子である。

 愛らしいイルイによって空気が一層和やかになったところで、イングが切り出す。

 

「お二人は、お仕事中ですか?」

「ああ、これからの部隊編成について軽く打ち合わせをしていたんだ」

「オウカが新しく加入したから、多少の変更があるのよ」

 

 アムロに続いて、ヴィレッタが事情を説明する。

 ヴィレッタは、メタな表現をするとバンプレストオリジナルチームの実質的な指揮官として活躍していたりする。

 階級的なトップはゼンガーだが、本人から指揮権を委譲された形だ。この辺り、イングとアーマラの関係に近いものがある。

 故に、αナンバーズ機動部隊のトップと言っても過言ではないアムロ――なお、特機組は隼人と鉄也の二枚看板に、相談役としてゴオがだ――とは行動を共にしている姿がよく目撃されている。もっとも、両者の間にあるのは色気のある関係ではなく戦友といった風情であるが。

 

「お手数をおかけします……」

「オウカ、謝ることではないわ」

「そうだな、ヴィレッタの言う通りだ。これが俺たちの仕事なんだから、気にやむことはないよ」

 

 恐縮しきりのオウカを宥める年長二人。そんなやり取りを見ていたイングは、ニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。

 

「「元ネオ・ジオン兵」だったことを気兼ねしてるんならそんなことはないぜ、オウカ」

「ふぅん? どうしてだ、イング」

 

 唐突に、かついわゆるドヤ顔で発言したイングにアーマラが茶々をいれる。

 また始まった。などと思いながら一同は、イングとアーマラのやり取り(夫婦漫才) を見守っている。

 

「どうしてって、そりゃあヴィレッタ大尉だって元々はバルマーに居たんだし。……あっ、これ言わない方がいいヤツだっけ?」

 

「……おい、イング」アーマラがジト目で咎める。

「えっ、マジッスか!?」「ええっ!?」アラドとゼオラが驚いたように声を上げる。

「えっ、と……」「……」コメントに窮したオウカがキョロキョロと挙動不審になり、ラトゥーニは口を噤む。

 頭痛を抑えるようにヴィレッタが額に手を当てため息を吐き、アムロがやれやれと言いたげに苦笑いを浮かべた。

 なお、イングの発言は確信犯である。

 

「……ふぅ。それで、あなたたちはこれからどうするの?」

「とりあえず、ブライト艦長に挨拶しとこうかなと。オレもそうですけど、この機会にイルイを紹介したいんです」

「なるほど。みんな、ブライトの仕事を邪魔しないようにな」

 

「はーい」と声を上げるイング、アラド、それからイルイ。アムロは苦笑したが、お目付役のアーマラとゼオラがいるから大丈夫だろうと。

 とはいえ、艦橋が騒がしくなることは間違いない。旧友の胃の調子を心配するアムロである。

 

 

「いい顔をするようになったな、イングは」

「大尉からはそう見える?」

「出会った頃のイングは、一見明るかったけれど、どこか危ういというか不安定だったからね。今はイルイやアーマラに囲まれて、地に足が着いたように見えるよ」

 

 守るヒトが出来たからかな。アムロはそう言って、去りゆく後ろ姿に目を細めた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球、北米地区 テスラ・ライヒ研究所

 

 現在、αナンバーズはテスラ研で補給を受けている。

 予定通り、イルイの相手をして過ごした。周囲が荒野に囲まれたここテスラ研では娯楽などないに等しいが、みな思い思いの方法で余暇を取ったようだ。

 

 イルイの願いで立ち寄った《マザー・バンガード》の厨房で、イングがキンケドゥらと下働きの真似事などをしていた。

 ロンド・ベル時代、厨房を手伝っていたこともあるらしく、それなりに板についていた。器用な奴だ。

 やはり、私も料理のひとつ出来た方がいいだろうか?

 

 テスラ研の設備で、《ラピエサージュ》の詳しい詳細が判明した。案の定、ロクでもないものが乗っていた。

 「究極のマン・マシン・インターフェイス」というシステムだ。安直すぎるネーミングだが、これが正式名称なのだから仕方ない。

 これはどうやらサイコミュの一種らしく、パイロットが機体のコンピュータシステムに直接リンクされ、五感が擬似的なものに置き換わるシステムで、ダイレクトに動作命令を伝達出来るとのこと。ただ、反面、脳には強い負担が掛かり、情報把握能力の拡大は戦意の高揚感をも無尽蔵に拡大させてしまうという副作用を伴う。パイロットの精神崩壊や暴走を引き起こす危険性のあるシステムだ。オウカが強靭な精神力を持っていなければ廃人になっていたかもしれない。

 当然だが、こんなものは排除である。試験運転したオウカ曰く「少し反応が鈍くなった」とのことだが、そこは地球圏でも選りすぐりの技術者・研究者が揃うαナンバーズテクノロジー班、すぐに調整を施し、元と遜色ない操作感を実現させた。さすがだな。

 

 さておき、地上に残っていた一部のメンバーも合流している。

 その内のゼンガー少佐だが、新たな特機に乗り換えていた。

 「ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン」一号機、通称《ダイゼンガー》。《グルンガスト参式》から受け継いだ《参式斬艦刀》のみを武器に戦うイング曰く漢の機体だ。

 テスラ研に死蔵されていたDCの遺産、ビアン・ゾルダーク博士設計のスーパーロボットであるらしい。

 乗り換えたのは、テスラ研に襲来したミケーネ帝国と邪魔大王国との戦闘でのことで、例のククルとかいう女に《参式》を破壊されたからだという。イングが「また名シーン見逃した!」と騒いでいたが、どうでもいいことだな。

 ちなみに、修復された《ゼオライマー》もこの戦闘の際に合流している。

 

 また、アイビスがネオ・ジオンに組みしているDC時代の同僚と戦った模様だ。合流後、顔つきや雰囲気が好ましいものに変わっていてちょっと感心した。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月†日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 国際警察機構から召集を受けた私とイングは現在αナンバーズ本隊を離れ、上海は梁山泊にいる。

 同行者はイルイ、クスハ、ヴィレッタ大尉、アラド、ゼオラ、ゼンガー少佐、レーツェル、アイビスとその相方、ツグミ・タカクラだ。

 

 梁山泊到着時、現地で擬態獣の群れと戦う二機の特機と遭遇した。「メナージュ・ゼロ」こと黒い戦闘ロボット《ブレイドガンナー》、所属不明の戦闘ロボットである。操縦者は剣と名乗る男だが来歴素性は不明であり、その名が本名かもわからない。地球各地で擬態獣を殺して回っている男だが被害は二の次、弁明をしないため、国際指名手配されている。

 そして、青と白の小柄なロボット《コスモドライバー》、パイロットはルゥ・ルー。かつてバルマー戦役では《ナデシコ》に乗っていた娘だ。

 猿渡や杏奈から事前に聞いてはいたが、やはり「メナージュ・ゼロ」と行動をともにしていた。擬態獣への復讐心に駆られてのことだろうが、ホシノ少佐、いや、ルリやラトゥーニが知れば悲しむだろう。二人は歳の近い彼女のことを気にかけていたからな。

 

 さておき、我々が呼び出された要件はBF団の動向についてだ。

 かつての決戦で大幅に戦力を減じたBF団だが、最近になってにわかに活動が活発になっているという。京都でコ・エンシャクとやりあったこともその証左だろう。

 エキスパートたちの調査により、連中がバルマー戦役の頃から進めていた「GR計画」、その正式名称が判明した。「グレート・リターナー」、その意味は“大いなる帰還者”、あるいは“大いなる者の帰還”といったところか。

 詳細は解らないが、まだ諦めていないらしいことは確かだな。

 

 それと、現地に滞在していた安西エリ博士から例の鳥型メカについての見解を聞いた。

 「クストース」と名付けられた彼らは、あるいは超機人に関連する存在であるかもしれないとのことだ。

 

 あと、イルイがクスハに行方不明というか洗脳されているらしいブルックリンについて質問していた。

 あの子なりに、クスハを思いやって胸を痛めているようだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月ℓ日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 梁山泊に襲撃してきた黒い《虎王機》と対決し、無事正気に戻すことに成功した。無論、ブルックリン・ラックフィールドも洗脳から解放された。

 イング曰く「テンドン」。バルマー戦役でのことを言いたかったらしい。意味がわからんが。

 例の鳥型メカ、サメ型メカの同類と思わしき豹型メカがちょっかいを駆けてきたが、合体した《龍虎王》に撃退されている。

 やはり、あれらは単なる味方と見るのは危険なようだ。

 

 たが、イルイとクスハの会話のすぐ後というのはいささか出来すぎているようにも思える。

 私の杞憂であればいいが、な。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月@日

 地球、極東地区日本 GEAR本部

 

 現在、αナンバーズ各艦は沈痛な雰囲気に包まれている。

 特に、銀河と北斗の落ち込みようは見ていて痛々しいほどだ。

 

 《電童》のメンテナンスとデータウェポンのデータ取りのため、GEAR本部にやってきたのだが、ガルファとガイゾックの連合が来襲する。

 ガイゾックにより「人間爆弾」に改造された連邦兵士の乗る《ドラグーン》の自爆特攻を陽動に、《凰牙》のパイロット、アルテアが単身GEAR本部に乗り込んできた。

 その結果、ベガ副司令が無力化されて浚われてしまった。

 以前交戦したときの様子がおかしかったと言うから、その後再調整でも受けたのだろうか。

 ベガ副司令がアルテアの妹というのも驚きだが、北斗の実の母とは驚きを通り越して唖然としたな。

 

 しかし、アルテアの物言いには我慢ならん。

 何が「愚かなる人間ども」「全宇宙に破壊をもたらす真の破壊者」だ。確かに愚かなのはその通りだが、侵略異星人に言われる筋合いはない。大きなお世話だ。

 ご丁寧にも人類以外の勢力まで引き合いに出した御託に動揺して戦意を失うとは、銀河たちもただの子供だったということか。そのせいで、ユニコーンを始めとした《電童》のデータウェポンたちは契約を解除し、アルテアに奪われてしまったのだから忌々しい。

 

 まあ、ベガ副司令を浚い、六体のデータウェポンを手にした《凰牙》だったが、久々にキレたイングと《アッシュ改》に機体をズタボロにされて這々の体で逃げ帰っていた。《凰牙》にベガ福司令が乗せられていなかったら、あのまま撃破できていただろう。

 その際の奴の返しは秀逸だったな。

「この地球は確かに争いの止まない場所かもしれない。オレたちは相手を選んでいるかもしれない。だがなッ、それを理由に貴様らガルファやガイゾックが命を好き勝手にしていい道理はないんだよ! 地球人の始末は地球人の手でつけるッ、貴様らは去れ!」

 何やら反論していたが、もはや聴くに値しない雑音でしかなかった。

 「邪念を断つ剣」に、支離滅裂な詭弁は通じんということだな。

 

 なお、他にも《ボルテスV》の剛三兄弟やエイジが強く反発していた。

 αナンバーズには地球人以外の人種も少なくないから、なおさらアルテアの言葉には説得力がなかった。 

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 星間連合やギガノス、ガルファに対抗する連邦軍の一大反攻作戦「ムーンレイカー」が発動し、現在月では大規模な戦闘が起きている。

 また、バルマー戦役以来、アステロイド・ベルトに戻り、息を潜めていた旧ジオンの宇宙要塞「アクシズ」が再び地球圏に接近しているという。

 それに、ベガ福司令を攫ったアルテアを追撃しなければならない。

 

 私とイングは例によって《ナデシコB》に同乗して《ラー・カイラム》、《マザー・バンガード》とともにアクシズに対応する。

 一方、《大空魔竜》《アルビオン》《キング・ビアル》は、ベガ副司令が囚われていると思われるガルファの戦艦に対して攻撃をしかける。データウェポンを失った《電童》も、αナンバーズメカニック陣により制作された武装を装備した《フルアーマー電童》として、戦いに赴く。銀河、北斗のことが少し心配ではあるが、あちらにはドモンらガンダムファイター陣がついている。ゾンダーから渡ったであろうガルファの使うDG細胞の撲滅が目的だ。

 その後、合流して月の正規軍に協力する手はずだ。

 

 このほどの戦乱も、もうすぐ終わりだろう。改めて、気を引き締めなければな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球圏、衛星軌道上

 

 妙なことになった。

 アクシズの真意を確かめるために進んでいた私たちか目にしたのは、味方のはずのアクシズ系モビルスーツ相手に孤軍奮闘する《キュベレイ》と《ヴァルシオーネR》。何がどうなってそうなったのかまったくわからなかったが、とりあえず彼女らを助け、モビルスーツ部隊を撃退した。

 

 保護したハマーン・カーンから聞いたところによると、どうもアクシズ内部でシャア派によるクーデターが起きたらしく、要塞そのものを乗っ取られてしまった。事前に危機を察知した彼女だったが、ミネバ・ラオ・ザビを連れて脱出せざるを得なかった様子である。

 彼女らを逃がすために殿(しんがり)を務めた側近のマシュマー・セロ、キャラ・スーンたちが犠牲になったという。因縁あるジュドーやプル、プルツーたちシャングリラ・チルドレンはショックを隠しきれない様子だった。

 例によって例の如く、木星帝国の暗躍によるもののようだ。「北辰便利すぎだろ!」とはイングの叫びだ。

 

 一方、《ヴァルシオーネR》のリューネ・ゾルダークだが、マサキと共に地上にやってきた後、因縁深いジュピトリアン、木星帝国を探るために独自に行動していたようだ。

 だが、潜入や調査に長けたわけでもないリューネは地球圏をさまよっていたところ偶然、ハマーンの窮地に立ち会ったのだそうだ。

 天才ビアン・ゾルダーク博士の娘だそうだが、もろもろの経緯からしてやはりマサキとは同類のようだな。

 

 シャアに対し怒り心頭、恨み骨髄のハマーンは、αナンバーズに協力を申し出た。もちろんリューネも同様である。

 また、身の安全が確保できないとしてミネバも滞在することになる。存外子煩悩らしいハマーンは不本意なようだが、合流後には子供の多さに唖然とするだろうさ。

 

 そのミネバだが、年かさの近いイルイとうまく打ち解けることが出来ているようだ。

 《ラー・カイラム》の食堂で、コンバトラーチームの十三が焼いたたこ焼きを、二人しておいしそうに頬張っていた。

 年下のミネバ相手にお姉さんぶるイルイの仕草には、不覚にも悶えてしまった。

 

 なお、さすがのイングも鉄の女にちょっかいをかける気はなさそうだ。

 「昔のツインテールなはにゃーんさまなら別だけどなぁ」と訳のわからんことを言っていたのだが、「貴様、どこでそれを知った!」というハマーンの割と本気なリアクションからして事実らしい。

 本当に、どこでそんな情報を掴んでくるんだ、あいつは。

 

 

   †  †  †

 

 

 ――月面。

 様々な勢力が入り乱れ、地獄のような様相を呈していた激戦区。

 連邦軍による反撃で、敵性勢力は大幅にその勢力を失った。

 そして今まさに、月における雌雄を決定する決戦が行われていた。

 

 ガルファの前線基地、《螺旋城》とガイゾックの旗艦《バンドック》を撃破したαナンバーズは、ギシン星間連合との決戦に赴く。

 その最中、地球壊滅作戦が遅々として進まないことに業を煮やしたギシン星間連合の主、ズール皇帝が自ら地球圏に来襲した。

 

 もはや用済みとばかりに半ば洗脳が解けかかったマーグを始末したズール皇帝は、激昂するタケルの《ゴッドマーズ》を一蹴、さらには結集したαナンバーズの戦力すらも圧倒するほどの邪念を振りまく。

 果敢にも立ち向かったイングと《アッシュ改》だったが、返り討ちに合い、増加装甲はおろか《TーLINKセイバー》すらも失って沈黙していた。

 

『アラド、行くわよ!』

『おう!』

『これ以上はやらせん!』

『フハハハハハ! そのような脆弱な念でワシに刃向かうなど、片腹痛いわ!』

 

『ぐぅ……!』『きゃあ!?』『うわあっ!』

 

 アーマラの《ビルトファルケン》が擱坐した《アッシュ改》を守るため、アラドらとともに果敢にもズール皇帝に立ち向かう。

 だが、サイコドライバーをも凌駕しかねない超能力の前には歯が立たたず、三機は散々に打ち据えられる。

 特に、先頭にいたアーマラ機はほぼ直撃を受けた格好だ。

『ちぃ! だが、これしき!』しかし、念動フィールドにより被害を軽減した《ファルケン》は、《バスタックス・ガン》を振りかぶり攻め寄せる。

 

『打ち砕く!』

『そのような薄弱な強念で――ムッ!』

 

 ズール皇帝と対峙したそのとき、二つの影が高速で月面のクレーターを縫うようにして飛び出した。

 

『オウカ姉様! アーマラに合わせます!』

『ええ! 行きます、ラトゥーニ!』

『はい!』

 

 フライヤーモードから変形した《ビルドラプター・シュナーベル》の《ハイパー・ビームライフル改》の援護を受け、《ラピエサージュ》が右腕の爪を展開し 、闇の支配者に向けて突進した。

 ATX計画の系譜を継ぐ《ラピエサージュ》はテスラ・ドライブの加速を生かし、アーマラの《ファルケン》と打ち合うズール皇帝に肉薄する。

 

『発射……!』

『マグナム・ビーク!』

『温い温い!』

『ぐっ!?』

『きゃあっ』

『姉様っ、アーマラ!』

 

『アーマラ、みんな! っ、龍虎王! 龍王炎符水!!』

 

 拡散する怪光線が念動フィールドと接触し、その衝撃で月面に叩きつけられた《ファルケン》。回避を試みるも避けきれず、被弾した《ラピエサージュ》を《ビルドラプター》がカバーする。

 仲間たちを庇うため、《龍虎王》が展開した術符から法術の龍火《マグマ・ヴァサール》を放つ。

 溶岩の帯が砲撃となって、ズール皇帝を打ち据えたかに見えたが――

 

『フン! あの女の下僕も、大したことはないな』

『! 超機人のことを知って……?』

『クスハ、下がれ!』

 

 戸惑うクスハを追い越して、魔法の風を纏う魔装機神が躍り出る。

 

『てめぇの存在何もかもを、アカシックレコードから消し去ってやる!』

 

 《サイバスター》は目の前に創り出した魔法陣の中心へと魔法剣《ディスカッター》の(きっさき)を突き刺し、青白い火の鳥が羽撃く。

 続いて《サイバード》形態に変形し、ズール皇帝へと突撃を敢行した。

 

『アァァァカシックッ、バスターーッ!!』

 

 宇宙の闇を切り裂いて《サイバスター》の代名詞、《アカシックバスター》が炸裂する。

 

『やったか?』

『マサキ、それフラグニャ』

『ここでバカニャ! とか言わないだけマシなのかニャ』

 

 魔術攻撃による爆発を見て思わず漏らしたマサキの一言に、シロとクロから散々なコメントが飛ぶ。

 それが原因ではないが、爆炎を超能力で吹き飛ばしてズール皇帝が健在な姿を現した。

 

『ほう……僅かとはいえアカシックレコード(因果率)に干渉するとは、貴様からは不愉快な善なる意志を感じるぞ。ワシ手ずから、マーズともども滅ぼしてやろう』

『善なる意志……サイフィスのことか!?』

『なるほど、あなたはなかなかに博識ようですね』

『――ム……!』

 

 空間転移により、唐突に乱入する《グランゾン》がズール皇帝の頭上を取り、胸部装甲を展開。発生させた空間の歪み、ワームホールに拡散ビームを撃ち込む。

 

『ワームスマッシャー、発射!』

 

 ズール皇帝を取り囲むように開く亜空間から、無数の閃光が襲いかかる。

 最大65536発からなる同時攻撃――《グランゾン》の代名詞の一つ、《ワームスマッシャー》。しかし、銀河を統べる邪帝はものともしない。

 

『今の攻撃、なかなか効いたぞ。その機体、どうやらワシと同じ負の力に呪縛されていたようだな』

『……やれやれ、赤の他人に秘密を喋られるというのは、存外不愉快なものですね』

『ブーメランですよぉ、ご主人様ぁ』

『黙りなさい、チカ』

 

 口賢しい使い魔をシュウはぴしゃりと窘めた。

 

 その後も、激闘は続く。

 猛攻を加える《マジンガーZ》《ゲッタードラゴン》《ゴーダンナー》《ネオゲッターロボ》《コンバトラーV》らスーパーロボット軍団と、アムロの《リ・ガズィ》率いるガンダムチームが先陣を切る。

 《ガオガイガー》とGGGの勇者ロボが死中に活を見出すべく奮闘すれば、《ダンクーガノヴァ》《ザンボット3》《トライダーG7》とともに、復活した《ゴッドマーズ》が戦線に復帰する。

 正気に戻った叔父のアルテアから譲られた北斗の《騎士GEAR凰牙》と銀河の《GEAR戦士電童》が連係攻撃を繰り出し。《ブレンパワード》たちや《ナデシコB》の艦載機《エステバリス》や三機の《ドラグナー・カスタム》、《レイズナー》《ベイブル》《バルディ》が波状攻撃を仕掛ける。

 バツグンのコンビネーションで戦う《ダイゼンガー》と《ヒュッケバインMkーIII・トロンベ》。《アステリオン》とその兄弟機《ベガリオン》が合体した《ハイペリオン》が、流星のように宇宙を切り裂く。

 さらに、αナンバーズの窮地に、マオ社からリョウト、リオの駆る二機の《量産型ゲシュペンストMkーII改》と、《壱式》を最新技術で強化改造した《グルンガスト改式》のイルムが駆けつけた。

 

 しかし、その全てを相手にしてなお、ズール皇帝は強大無比だった。

 

 

 

 沈黙した《アッシュ》のコクピット。非常電源により辛うじて明かりが灯る狭い空間に、赤い滴が点々と漂う。

 意識を取り戻したイングは全身に痛みを抱えながら、必死でコンソールをいじり回し、打開策を模索していた。

 

「くそっ! みんなが戦ってるってのに、見てるだけしかできないなんて……!」

 

 イングの卓越した超感覚は、コクピット越しに仲間たちの命の息吹とズール皇帝の邪念を感じ取っていた。

 それが一層、彼を焦燥させる。

 

「これでいいのか、アッシュ……! こんな終わり方で、誰も護れなくて!」

 

 ただの機械に、言葉をかけても届く訳ないと冷静な部分が訴える。けれど言葉を、自分の想いの丈を尽くすことをやめられなかった。

 

「オレは嫌だ。ここにいる意味も解らず、オレ自身を勝ち得ることも出来ないで――、こんな終わり方に納得できるか!」

 

 歯を食いしばり、操縦桿を強く握りしめる。

 無力感に打ち震えるイングは、この世界で必死に生きる内に生まれた願望、それを吐露した。

 

「仲間を、みんなを護りたい……この力が誰かから与えられたもので、この想いが誰かの思惑に縛られたものだとしても、オレは――!」

 

 そのとき――、GSライドに込められたGストーンが脈動した。

 

 

 ――わたしも、あなたといっしょに……――。

 

 

 聞き覚えのない、けれどずっとすぐ側にいてくれたような気のする幼い少女のささやきが聞こえる。

 不思議な温もりがコクピットいっぱいに溢れ、イングを包み込んでいた。

 

「そうだ、オレは、オレたちはまだ戦える……まだ飛べるんだ。みんなを、護れる!」

 

 封印されたGSライドが稼働を始め、沈黙していたはずのブラックホールエンジンに再び火が灯る。

 甦らんとする愛機の脈動を感じ、イングは瞼を閉じた。

 

 ――アースクレイドルの調整槽から生まれ落ち、訳も分からぬまま、戸惑いながらも自分の心に従って、大戦を戦い抜いた。

 それは、サイコドライバーという強大な力を持っていたから出来たことかもしれないが、同時に彼が彼であったからこそこ迷いながらもここまで進めてきたのだ。

 

 彼は、■■■■はどこか頼りなさげな風貌の、どこにでもいそうな少年だった。

 悪に眉をひそめ、非道に対して義憤を燃やし、悲劇に胸を痛める、子供の頃に見た物語のヒーローたちに憧れ、平和を愛する心を育んだ平凡な少年だった。

 その気持ちをいつまでも忘れず、心の奥で育んで――、誰にでも持ちうる英雄/勇者(ヒーロー)の素質を持ったどこにでもいる少年だった。

 

 ■■は忘れていなかった。

 愛する者を護るために戦う人がいたことを。

 そして自分がその一員になれたのだということを。

 

(来い……)

 

 精神の深いところまで内没し、念を高めていく。

 心に剣、輝く勇気を携え、影さえも斬り裂いて。自分という切り札で、奇跡を導く。

 戸惑いを、恐怖を、心に巣くう闇その全てを熱い炎で焼き払う。

 立ち止まる暇なんてない。

 考える余裕なんてない。

 ありったけの想いを胸に、信じた道を突き進む――、これはその一歩目なのだから。 

 

「……来い……!」

 

 カッ、と目を見開き、イングが念を解き放つ。

 千の覚悟を身に纏い、少年は戦士として、邪念を断つ一振りの剣として再び立ち上がる。

 

「来いッ!! オレとアッシュの、ヒュッケバインの新しい翼――! アーマラッ、お前のガリルナガンも一緒にッ!!」

 

 イングの念とその心に燃える不屈の勇気に呼応して、GSライドに込められたGストーンが緑に輝くGパワーの光を放つ。

 ゾル・オリハリコニウムの特性が活性化され、損傷した部分が瞬く間に修復していく。

 

『イング!? 何を――』

 

 機体を損傷させながら、果敢にも戦線に舞い戻っていたアーマラがパートナーの突然の復活に驚きの声を上げる。

 翠緑の念動光を発し、《アッシュ》が右手を掲げた。

 それに伴い、マオ社の格納庫から念動転移で呼び寄せたMkーXのパーツが念により《アッシュ》に組み込こまれ、さらには封印処理されていた《ガリルナガン》のトロニウム・レヴをも取り込んで、《アッシュ》が新生する。

 

「――フィッティングデータ、ロード! スペック、FCS、 T-LINKダイレクト、ラーニング・スタート! モーション誤差、サーボモーター限界値、RT修正ッ! 過負荷部分はフィールド・コート! リスタートオミットッ、 オプティマイゼーション!」

 

『MkーXのパーツを、念動力で呼び寄せたの!?』

『プリセットやシミュレーションをしていたからって、あんな形で装着し、瞬時に最適化するなんてあり得ない……!』

 

 紛いなりにも「MkーX」の開発に携わっていたリオとリョウトは、目の前で起こる現象に驚愕を隠せない。

 

『見てくれ、カーク。トロニウム・エンジン、いやトロニウム・レヴのポリーラインにピークがいくつも出来ている』

『TーLINKシステムとトロニウムの相乗効果……かつて、リョウトがMkーIIIを強制起動させたことの再現か』

『けれどこれは、それ以上に不可解な現象だ。第一、トロニウムエンジンならともかく、トロニウム・レヴとのフィッティングなんて想定外にもほどがあるだろう!?』

『私に言うな。……恐らく、ガリルナガンのエンジン周りのパーツごと取り込んだのだろうが……あるいは、組み込んだGストーンの影響か?』

 

 マオ社から戦闘をモニターしていたロブとカークが、唖然としつつ目の前の現象を分析していた。

 

「――オプティマイゼーション、コンプリート」

『あれが、新しいヒュッケバイン……』

 

 散りゆく翠緑の燐光を《ファルケン》のコクピット越しに見上げ、アーマラが息を飲む。

 初代から続く特徴的な黒紺と紫のカラーリング。《エクスバイン》と《SRX》を思わせる頭部バイザーに覆われたツイン・アイが戦場を見据える。

 全身の鋭利な突起は《リープ・スラッシャー》、《ファング・スラッシャー》の流れを組む念動誘導兵器《TーLINKスライダー》だ。

 

『愉快な芸だったぞ、地球人。だが、所詮はガラクタ、継ぎ接ぎを重ねたところで銀河の支配者たるワシには届かぬ』

「黙れ!!」

『!?』

 

 嘲笑するズール皇帝を一喝するイング。

 彼の駆る《ヒュッケバイン》は、リョウトが戦い続ける親友のために設計したもの。そしてこの世界において行く宛もなく、存在する云われもない彼に居場所と目的を与えてくれた無二の戦友、掛け替えのない相棒を誹謗することを許さない。

 

「凶鳥は二度死に、その魂はエクスバイン・アッシュへと受け継がれた」

 

 《EX》、《エクスバイン》、《アッシュ》……傷つき、その姿を幾度となく変えつつも、イングとともに地球の平和を、牙無き人々を守るために戦い続けてきた《ヒュッケバイン》。

 “バニシング・トルーパー”との誹りを受けながら、生み出された使命を全うすべく幾多の戦場を駆け抜けた。

 

「そしてアッシュは死をも乗り越え、灰の中から甦生する……」

 

 宇宙を覆う強大な邪念に敗れ、灰となった凶鳥が今、死を、逃れ得ぬ“運命”を超克して不死鳥の如く甦る。

 ――ありとあらゆる災厄から、宇宙銀河の平和と自由を守護する最強のパーソナルトルーパーとして。

 

「エグゼクスバイン! ヒュッケバインの魂を受け継ぐ新たなる凶鳥が、ズール皇帝ッ、貴様の邪念を断ち斬るッ!!」

 

 強念を迸らせ、イングが吼える。それに応えるように、コックピットのGストーンが光を放った。

 “スーパー・パーソナルトルーパー”、PTXーDEX《エグゼクスバイン》。

 《MkーI》、《MkーII》、《MkーIII》、二機の《EX》に次ぐ六番目の凶鳥にして、ブラックホールエンジン、グラビコン・システム、トロニウム・エンジンという歴代の《ヒュッケバイン》の要素を結集した集大成。

 全身に念動兵器を備え、《ヒュッケバイン》シリーズの特徴である超重力兵器《ブラックホール・バスター・キャノン》を使用可能な《エグゼクスバイン》は、《MkーIII》で一端は完成を見た「PTサイズの《SRX》」を超え――Gストーン、ラプラスデモンタイプコンピュータ、トロニウム・レヴ等の超技術が組み込まれた「地球製《アストラナガン》」とも呼べる超兵器である。

 

「TーLINK、フルコンタクト! 唸れ、トロニウム・レヴ!」

 

 イングの強念を受け、バイザー越しのツイン・アイが赤く光る。

 

「アカシックレコードアクセスッ! 世界よ、オレに力を貸せ! 奴の邪念を断ち斬る力をッ!!」

 

 《エグゼクスバイン》の全身から、可視化された念動光が迸る。

 ヒトの限界を突破してなお高まるイングの念がTーLINKシステムとTーLINKフレームによって増幅され、世界の根源にまでその手を伸ばす。

 高められたサイコドライバーの力は、因果律の計算すら成し遂げるラプラスコンピュータの助けを受けて、ついにはアカシックレコードにすら干渉する。

 勇気を糧にGストーンが()み出すGパワーに導かれ、トロニウムから発生した莫大なエネルギーが、アカシックレコードの後押しを受けて形を成していく。

 ――それはまさしく、ズール皇帝に折られた《ストライク・シールド》と《TーLINKセイバー》だった。

 

『折れたTーLINKセイバーが……!』

『いくらなんでも、無茶苦茶だ!』

『ヒュー♪ やるじゃない、あの子』

『! サイバスターが、いやサイフィスが震えてんのか?』

『これが完聖したサイコドライバーの力の一端……、“宿命”に選ばれし者の真価というわけですか』

『その凄まじい強念は……! まさか……まさかっ、貴様はバビルの!?』

 

 全てを置き去りに、不滅の凶鳥(エグゼクスバイン)が暗黒の宇宙に羽撃く。

 

「スライダー、パージ! 来い、ストライク・シールドッ!」

 

 両腕のハードポイントに備え付けられた《TーLINKスライダー》が分離する。

 さらに、念動力により追随する《ストライク・シールド》を左腕へと接続し、黒き不死鳥がその柄を握り締める。

 

「セイバー……、アクティブッ!」

 

 奇跡の力が新生させた《ストライク・シールド》から、あらゆる邪念を断つ破邪の剣――《TーLINKセイバー》が引き抜かれた。

 

「念動フィールド、オンッ!」

 

 幾多の強敵を斬って捨てた剣が、邪悪を駆逐する太陽の念に覆われて光り輝く。

 まるで雨露を払うように《TーLINKセイバー》を振るい、背部のテスラ・ドライブが×字の航跡を描いて《エグゼクスバイン》は猛然と突進する。

 

「うおおおおおッッ!!」

 

 眼前に掲げた《TーLINKセイバー》の鋒が、背後から《TーLINKスライダー》に拘束されたズール皇帝を真っ直ぐに貫く。

 強念を込めた剣を深々と突き刺し、擦れ違いざまにすり抜ける。

 テスラ・ドライブで慣性を打ち消し、着地した月面に土煙を残す《エグゼクスバイン》が、ゆっくりと右手を掲げた。

 

「念動爆砕ッ!!!」

 

 右手を握りしめると同時に、背後で大規模な念動爆発が巻き起こる。

 後方から飛来した《TーLINKセイバー》をノールックで確保して、《エグゼクスバイン》は飛び去った。

 

『ぬおおおおおおっ!? ば、馬鹿な! 我が負念(マリス)をこうも容易く剥ぎ取るとは! 只人(ただびと)の身で、“源理の力”までもを操るというのかっ!?』

「まだだ!」

 

 これまでαナンバーズの攻撃をものともしていなかった姿が嘘のように、ズール皇帝は確かに傷ついていた。全身に纏っていた邪念のベールが、凶鳥の一太刀により斬り裂かれたのだ。

 さらなる一撃を加えるべく、飛びすさった《エグゼクスバイン》の全身から思念の嵐が吹き荒れる。

 

「唸れ、トロニウム・レヴ! リミット解除ッ! エグゼクスバイン、フルドライヴッ!!」

 

 トロニウム・レヴが唸りを上げる。T-LINKフレームが激しく光を放つ。

 コックピット内がGストーンの発するエメラルドグリーンの光で満たされた。

 

「T-LINKスライダー、パージッ!! 行け、烈火飛刃!」

 

 イングの超能力により、物理現象を無視する神秘の紅炎を纏った一八機の攻撃端末が、闇の帝王に襲い掛かる。

 そんな中、二機の《T-LINKスライダー》が両腕に接続した。

 

「水流連牙! 地斬裂波刀! 烈風刃ッ!! 風を……そして、光を超える!」

 

 流れるようなスライダー(爪牙)の連擊から月面を断ち割る衝撃波の一刀、空間を巻き上げ、歪ませる一振りで動きを止める。

 そして神速の踏み込みから、光すらもを置き去りにした無数の剣線を刻み込む。

 

「これで、最後だ! ――秘奥義、五 大 光 刃 ()ぇぇぇぇーんッ!!」

 

 最後に、《T-LINKセイバー》に集めらた討滅の極光が真っ向から振り下ろされた。

 宇宙の闇を斬り拓く爆光を背に、振り返り様に《T-LINKセイバー》を一振りして残心する《エグゼクスバイン》の周囲を、集結した《T- LINKスライダー》が円を描くように取り囲んだ。

 ――ここに、戦火の時代に終止符を打つ“鋼の救世主”が産声を上げたのだった。

 

 

『おのれッ、おのれぇぇぇバビルめ!!』

 

 光の中から現れた闇の支配者は怒気を滲ませながらも、宇宙すら鳴動させる驚天動地の強念にかつて自分を打ち据えた古き宿敵の面影を見て戦慄する。

 

『このような輩を遺していたとは! やはり地球は危険だ! マーズともども、ワシの手で滅ぼしてくれるわ!』

「ズール皇帝、貴様ではオレに勝てない!」

『――それは違うな、イング』

「……アーマラ?」

 

 黒い凶鳥の傍らに、寄り添うようにして紅い隼が飛来する。

 サブモニターには、疲労を残しつつもニヒルな笑みを浮かべた少女の姿が映った。

 

『オレたちαナンバーズには、だろう?』

 アーマラが、勝ち誇ったように胸を張る。

 

『そうだぜ、イング! このまま野郎にやられっぱなしじゃ終われねぇ!』

『俺たちで奴の邪念を、この星から追い出すんだ』

 號とカミーユが、戦友の活躍に応えんと闘志を漲らせる。

 

『クスハ、俺たちも!』

『うん! 悪しき念、百邪は龍虎王が討ちます!』

 操者たるブリットとクスハの意気に応え、青き“無敵龍”が吼える。

 

『やっぱすっげーな、イングさんて! ゼオラ、おれたちも行こうぜ!』

『ええ!』

 アラドとゼオラ、“百舌”と“隼”が光の尾を引いて駆けつける。

 

『友よ、我らも彼らに続こう! この星の未来のために!』

『応!』

 歴戦の戦士たるレーツェル、ゼンガーの両名が、子供たちに負けじと戦場に参じる。

 

『アイビス、ハイペリオンのテスラ・ドライブは全て正常よ!』

『この期に及んでミスは許さんぞ、アイビス』

『わかってる! あたしたちの夢を、星の海をあんな奴に汚させない!』

 アイビス、ツグミ、スレイの三人は、自分たちの目指す先にある未来を護るため、気炎を上げる。

 

『イング、君の勇気は確かに見せてもらった。今度は俺たちが、勇気を示す番だ!』

『マーグの、兄さんの敵を討つってだけじゃない。俺たちの故郷を、地球を守るために!』

『人様の星に上がり込んで、デカい顔させとくワケにはいかないわよね』

『この地球圏に、悪が栄えた(ためし)はないと遠い星からのお客人に教えて差し上げるとしようか。僕たちの手でね』

 力強く宣言する凱と、正義に燃えるタケル。葵がクールに言い放ち、万丈が最後にキザに決めた。

 

「こりゃ、一本取られたかな」

 

 仲間たちの心強い言葉を受け、イングは不敵に笑う。「それじゃあ、改めて――」

 

「本当の戦いは、ここからだ!」

 

 






 とりあえず形になったので投稿。九時には間に合わなかったよ……。

 あと、アンケートは一旦取り下げました。タイタニアを入れ忘れてたので。てへぺろ


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αll-4「サイコドライバーズ」

 

 

 新西暦188年 ◇月♯日

 地球圏、月面 マオ・インダストリー社

 

 星間連合との決戦から一夜が明け、現在αナンバーズはマオ社に留まり傷を癒している。

 ズール皇帝はかつてない強敵だった。正直、イングの力がなければ私たちは宇宙の藻屑となっていただろう。 

 そのズール皇帝だが、散り際すら余裕な態度を崩さなかった。イングは「あれは本体じゃない」と表していたが、もしもそれが本当なら厄介なことになりそうだ。

 

 ともかく、ガルファとガイゾック、星間連合の撃破により、月面での大勢は決したと言っていい。

 未だギガノスが残ってはいるが、こちらも連邦宇宙軍正規部隊の猛攻で著しく勢力を失っている上に、どうやら政変が起きて内部分裂しているらしい。敗退した星間連合も一部の戦力がバーム星人と合流したようだが、指揮官を失った時点でもはや烏合の衆でしかない。

 どちらも語るに落ちた、と言ったところか。

 

 明神の兄マーグは、ズール皇帝により指令艦を潰されて生死不明だ。明神は彼の生存を信じているようだが、あれでは絶望的だろう。

 それから彼の副官で、私も何度か交戦したロゼが投降を申し出てきた。マーグの遺志だとのことだ。

 さっそくコスモクラッシャー隊のメンバーといざこざを起こしていたが、私とて似たような立場だったからな。強くは拒絶できん。

 それに、「邪念は感じられない」とイングやカミーユからのお墨付きも出たから、まあ心配ないだろう。

 

 さておき《アッシュ》もとい《エグゼクスバイン》は、完成早々にオーバーホールと相成った。イングの念で無理矢理に安定させていたのだから無理もない。

 戦場では物理的に換装できなかった部分を「MkーX」用の部品に取り替えて、応急処置を施すそうだ。

 特に間接部およびエネルギー周りの損傷が酷かったそうで、「トロニウム・レヴなんてよくわからないシロモノを組み込むからだ」とはロブのコメントだ。

 あれはもともと私の《ガリルナガン》のものだったのだから、そんな言い方はしないでほしいが。

 

 《エグゼクスバイン》といえば、いささか困ったことが発覚した。

 中枢部、具体的に言えばGストーンにイレギュラーな人格、いわゆる超AIが発生しているようなのだ。イングの特異な念を大量に浴びたことが原因らしいが、馬鹿の一念という奴か?

 無難に「エクス」と名付けられた超AIのジェンダーは女性で、年の頃を人間に換算すると13、4歳程。真面目で大人しくどこか引っ込み思案な印象の話し方をする割に、ときおり妙に古くさい言い回しをする。イング曰く「無限の楽園の白雪姫と同じ声」。

 今のところAIとしては未成熟だが、コクピットのコンソール周りに簡単な改装を施して、《レイズナー》や《ドラグナー》のような対話型戦闘支援AIとして正式に整備された。

 性格もろもろ含めて正直、戦闘支援としては役に立たないと言わざるを得ないのだが、イングは満足しているらしい。

 よくわからんが、何故か胸がムカムカとしてきたので、今夜はここで筆を置くことにする。

 

 

   †  †  †

 

 

 月面決戦から数日後。

 とある日の午後。《ラー・カイラム》の通路をアーマラが一人歩いていた。

 

 《ラー・カイラム》本格参加に際し、母艦を《ナデシコB》から移動したアーマラとイング。士官待遇の二人には、士官用の個室を与えられている。イルイはアーマラと同室だ。

 αナンバーズの艦隊旗艦は名目上《大空魔竜》だが、あちらは特機を運用するための戦艦であり、《キング・ビアル》と折半する形で特機とそのパイロットたちが詰め込まれている。仮にもPT乗りの二人には《ラー・カイラム》が合っていた。

 最新技術で改装を重ねられている《ラー・カイラム》は《ナデシコ》級のようにオートメーション化が進んでおり、生活スペースには多少の余裕がある。

 とはいえ、生活環境は都市をまるまる艦に納めた《マクロス》こと《メガロード》級や、《ヱクセリヲン》級とは比べようもないが。

 

 自室の隣にあるイングの部屋の前。

 アーマラはノックもせず、不躾にドアを開く。勝手知ったる何とやらだ。

 

「イング、ちょっといいか」

「んあ?」

「……何をしてるんだ?」

 

 気の抜けた返事をするイングの様子に、アーマラは用事も忘れて疑問を挟んだ。

 彼の周りにはドライバーなどの工具類、導線、機械基盤や用途不明の部品が散乱していたのだ。丸い金色の物体を使って弄っているようである。

 その背中にもたれるようにして一人遊び中のイルイ。《マジンガーZ》、《ゲッター1》、《ガンダム》等を模したイングの私物のおもちゃ――主に完成品の稼働フィギュア。彼は、遊ぶ用・飾る用・保管用に同じものを三つ所持している――を使って、「αナンバーズごっこ」をしている。

 

「何って、工作?」

「何故に疑問系だ。……プラモデルを作っているわけではなさそうだが」

 

 気の抜けた脈絡のない返答にアーマラは顔をしかめる。彼女の推察通り、明らかに工作というレベルの作業ではない。有り体に言うと、かなり専門的だ。

 するとイングはきちんとした説明をし始めた。

 

「いや、「エクスが一人でいるのはかわいそう」ってイルイが言い出してさ。自由に動けるマスコットロボみたいなのを作ってやろうかと思って」

「なるほど」

「アストナージさんからジャンクパーツを融通してもらってさ。設計は、アムロ大尉とかカミーユとかリョウトに手伝ってもらったんだ」

 

 イングが事情を端的に説明する。どうやら、錚々たるメンバーが協力しているようだった。

 

 エクスとは、《エグゼクスバイン》完成に伴いGストーン内に発生したイレギュラーな人格だ。

 イングの莫大な強念を一身に浴び続けた結果生まれた存在であり、《エグゼクスバイン》そのものとも言える。

 それ故、《ヒュッケバインEX》時代からの記憶も持っているらしく、「ずっと、ずーっとイングさんとお話ししたかったんです」などと無防備な好意を露わにして、イングを大いに照れさせていた。

 シュウ曰く「ラ・ギアスにおける精霊に極めて近く、限りなく遠い存在」。イングは「九十九神みたいなもんかな」と自分なりに納得している。

 

「確かに、アムロ大尉といえばハロだしな。私も、特脳研時代に持っていたぞ」

「おっと、意外な過去だな。アムロ大尉ってば、ハロのパテントで何気に結構な資産家だって話だし……羨ましいぜ。そしたらプラモとかフィギュアとか超合金とかゲームを買い放題だもんなぁ!」

「お前は……、それ以外に使い道が思いつかんのか」

「おう!」

 

 二人のやりとりを、後ろでイルイが面白がって笑っている。

 イングがそんな無茶なお金の使い方を出来るのも、αナンバーズが仮にも軍事組織で彼が高給取りであるからこそなのだが。

 

「で、完成図がこんな感じ」

 

 設計図を写していたタブレット端末に、モデリングされた3D画像が表示される。

 丸みを帯びたフォルムに、突起のような足が四本。くちばし状の口に、透明な青いカメラ・アイ。ボディのカラーリングは、柔らかな印象の桜色(チェリー・ブロッサム)で、口や目の回りが純白(ピュア・ホワイト)だった。

 

「超小型テスラ・ドライブに永久電池、TーLINKフレームの端材……これはかなり本格的だな。この色は?」

「今は素材の色で金ぴかだけど、後で塗装する予定だよ」

「チョイスがお前らしくないな? 《エグゼクス》と同じ色にはしないのか」

「それはまあほら、日曜朝八時半枠だから」

「はあ?」

「クロスオーバー劇場版枠でも可」

「ますます意味が分からん」

 

 イングの意味不明な供述に、アーマラは首を傾げるのだった。

 なお、イングは完成品に「サイコロン」と名付ける(あわよくば商品化も)つもりだったのだが、エクス本人の強い反対により頓挫している。

 曰く「おならはいやですっ!」とのことだ。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◇月¥日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 コンビを組んで一年程度経つが、未だにイングの考えることは理解できん。

 まあ、イルイが喜んでいるようならいいか。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月▲日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 星間連合の残党を掃討中、 αナンバーズ艦隊を狙い打つように現れたネオ・ジオン艦隊と交戦、これを撃破した。

 首領を討たれたニュー・ディサイズの生き残りらしき輩が、大型MA(《ゾディ・アック》というらしい)を持ち出してきた。図体のわりにすばしっこく、なかなか手強かったが、まあそれだけだ。私たちの敵ではない。

 そしてどうやって宇宙(ソラ)に上がってきたのか、ククルが単身、ゼンガー少佐と決着をつけるために現れた。

 少佐の意を汲んで、私たちは撤収した。イルイが心配していたのが印象的だったな。

 

 後に帰還した少佐によると、クストースが現れ、ククルにトドメを刺して行ったらしい。

 奴ら、何がしたいんだ?

 

 

 

 新西暦188年 ◇月^日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 緊急事態だ。

 連邦宇宙軍がムーンレイカー作戦の大詰めとして、ギガノス本拠地とギガノスが保有するマスドライバーに対して攻撃を仕掛けようとしたその時、αナンバーズ分艦隊によって破壊され、連邦軍により調査されていた螺旋城が突如として浮上、無数の《デスアーミー》を吐き出しながら連邦宇宙軍およびギガノス軍に対して無差別攻撃を始めたのだ。

 そう、DG細胞だ。

 推測になるが、螺旋城内に残っていたDG細胞が分艦隊により司令AIが破壊されたことで制御されなくなったのだろう。あるいは、ゾンダーの仕組んだ策略の可能性もあるか。

 ともかく仮称「デビル螺旋城」(イングによる命名)は、今も月面を侵食しながら、フォン・ブラウンに向けて移動しているとのこと。月面最大の都市で生体部品を補充することが狙いか。

 早急に排除しなければ、大惨事は免れない。

 ここは一つ、気合いをいれなければな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月^日

 地球圏、月 フォン・ブラウン

 

 無事、「デビル螺旋城」の破壊に成功した。フォン・ブラウン市や他の月面都市も事なきを得て完全勝利と言えるだろう。

 助っ人として、キラルの《マンダラガンダム》を始めとした各コロニーのガンダムファイターが再び集結(個人的には、ネオ・ギリシャのゼウスガンダムがまた観れて嬉しかった)。また、《高機動(スーパー)ノーベルガンダム》のファイター、アレンビー・ビアズリーが輸送してきた《ライジングガンダム》にレインが搭乗、作戦に参加した。

 螺旋城というEOTを掌握したDG細胞は爆発的に増殖、《デスアーミー》各種が月面を埋め尽くさんばかりに溢れる。

 それらを蹴散らすドモンらシャッフル同盟の五人に続き、「デビル螺旋城」に突入する私たちが目にしたのはさらに倍するように見えた《デスアーミー》の大軍と《マスターガンダム》を始めとした「再生デビルガンダム四天王」。

 そして、「デビル螺旋城」のコアと思わしき銀色の《デビルガンダム》だった。イング命名《デビルガンダムJr.》、螺旋城内部の天井から逆さまに生えた姿はまるで花弁のようだ。

 無限に湧き出るDG細胞の尖兵の中には、《グランドマスターガンダム》や《デビルガンダム》各種形態までもがまるで雑兵のように混じっていた。恐るべきはEOTを得たDG細胞、だな。

 

 最終的には、《ゴッドガンダム》、《ガンダムマックスリボルバー》、《ガンダムヴェルサイユ》、《ダブルドラゴンカンダム》、《ボルトガンダムクラッシュ》の五機による《シャッフル同盟拳》が炸裂し、《デビルガンダムJr.》は爆散。さらに、護がゾンダーコアのように「浄解」を試みる。

 Gストーンの発するものとよく似たエメラルドグリーンの光に包まれ、「デビル螺旋城」はきらめく粒子となって消滅した。

 これで今度こそDG細胞が根絶されたのならいいが、さてどうなることやら。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月◎日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 シャアめ!やってくれたな!

 と、思わず日記に殴り書きしてしまうような出来事に直面した。

 連邦軍とαナンバーズの注目が月面に向いている隙を突いて、ネオ・ジオンが小惑星「5thルナ」を奪取したのだ。

 「デビル螺旋城」はともかく、同盟者であるはずのギガノスを囮に使うとは、いい面の皮をしている。

 

 現在5thルナは核パルスエンジンを推力に、地球に向けて接近している。かつてのジオン公国の「コロニー落とし」ように質量爆弾とするのだろう。

 あれを、あんなものを地球に落とさせるわけにはいかない。

 エクスは「わたし、堪忍袋の尾が切れました!」だそうだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球、北米地区テスラ・ライヒ研究所

 

 負けた。私たちは負けた。ネオ・ジオンの隕石落としを防げなかった。

 αナンバーズの攻撃により砕けた5thルナの破片は、連邦議会のあるラサに落ちて甚大な被害をもたらしたと聞く。

 ネオ・ジオンとの戦闘の余波と大気圏突入で仲間と散り散りとなりながらも、私とイングは何とかテスラ研にたどり着くことができた。他のメンバーも無事にいいのだが。

 特に、コクピット付近に深刻なダメージを負った《クロスボーン・ガンダムX1》が心配だ。

 

 しかし、いくら《エグゼクスバイン》の念動フィールドが特別強力だからって、大気圏に突入しながら《ブラックホール・バスター・キャノン》による破砕活動を敢行するとは、相変わらず無茶苦茶な奴だ。

 ま、そんな無茶苦茶につき合った私も大概だがな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月●日

 地球、極東地区日本 ダンナーベース

 

 極東支部基地ビッグファルコンは、現在地上の混乱を収めるために手一杯であり、代わりの集合地になったダンナーベースにはαナンバーズのメンバーの大半が集結した。だが、やはりキンケドゥの姿はない。

 彼の恋人であるベラ艦長や、弟子のトビアは酷く心配していた。

 また、現在《ナデシコB》と《エステバリス》隊は別行動を取っている。

 大方、かつての《ナデシコ》の乗員たちを迎えに行ったのだろう。ホシノ艦長は彼らを揃えることに拘っていたようだからな。

 

 それと、合流した伊佐未勇の《ユウ・ブレン》の姿が変わって?いた。新たな名を《ネリー・ブレン》というらしい。同時に保護されたアイビスに事情を聞いてみたのだが、微妙なリアクションで答えを濁されてしまった。

 微かに、悲しみのような念を二人や《ネリー・ブレン》から感じたが、私のような半端な念動力者ではそれを汲み取ることが出来ない。

 昔は些末なことだと切り捨てていただろうに、私も変わったものだ。イングの影響かな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月※日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ようやくしつこいグンジェム隊とのケリが着いたな。

 配下を討たれて追いつめられ、本国からの支援もなくなったのだろうグンジェムが悪趣味な色をした大型のメタルアーマー、《ギルガザムネ》とか言ったか、を持ち出し、Gアイランド・シティに強襲を仕掛けてきたのだ。

 重厚な見た目の割に動きは軽快、さらには大量のミサイルによる火力を持つというかなり厄介な敵だったが、どうもタチの悪いシステムを積んでいたらしく突然暴走し出して味方を攻撃し、破壊した。

 錯乱した《ギルガザムネ》はその性能を発揮することなく、《ドラグナー》チームによる連係攻撃で撃破された。

 まったく、「ギガノスの汚物」らしからぬ呆気ない最期だったな。

 

 追記

 世界各地で擬態獣が活性化、それらが一直線に極東地区へ向かってきているらしい。これはいったいどういうことだ?

 

 

 

 新西暦188年 ◇月※日

 地球、極東地区日本 ダンナーベース

 

 擬態獣の群れが刻一刻と近づいている。明日にも極東地区へと雪崩れ込んでくるだろう。

 葵博士の分析によれば、擬態獣どもは先日の5thルナ落下事件を人類側からの攻撃と見なし、人類の最大戦力であろう我々αナンバーズとダンナーベースを標的としめ目指しているのでは、とのこと。

 まったくいい迷惑である。

 集結した擬態獣は大群だ。その中でも複数の擬態獣が融合したらしい巨大な個体を連邦軍は「超擬態獣」と呼称、これらに対して攻撃を仕掛けている。とはいえ、小惑星が落ちた被害は甚大で政府のマンパワーはそちらに割かざるをえない。

 やはり、我々が迎え撃たなければならないだろうな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月∥日

 地球、極東地区日本 ダンナーベース

 

 

 擬態獣の掃討は完了した。数相応に手強かったが所詮はケダモノ、超擬態獣も最後は《ゴーダンナー・ツインドライブ》と。うちの、両刃の剣に変形したルゥの新たなマシン《セレブレイダー》による攻撃で息の根を止められた。さしずめ「トリプルドライブ」と言ったところか。

 前述の通りルゥが《コスモダイバー》ではなく、《セレブレイダー》という名のプラズマドライブ機に乗り換えていたわけだが、これはメナージュ・ゼロこと剣の《ブレイドガンナー》のパートナー機なのだそうだ。なお、葵博士によるとこれらの開発者は別居中の彼女の旦那(ようは杏奈の父親)ではないかとのこと。

 さておき、超擬態獣戦で姿を表し、共闘する結果となった剣とルゥの処遇(戦闘後、二人は投降した)だが、αナンバーズ預かりとなった。政府に属さず無軌道に擬態獣を狩っていた彼らだが、幸いなことに一般市民の被害は出していなかったらしい。それ故の情状酌量なわけだが、実際厄介払いに近い。とはいえホシノ少佐やラトゥーニは喜んでいるようだし、私も批判できるような立場ではないか。

 また、擬態獣被害が一段落したことで、極東地区防衛のためダンナーベースに残っていた光司鉄也と《Gゼロガンナー》がαナンバーズに合流した。

 前大戦では《ナデシコ》に乗っていたこともありヤマダとは知らぬ仲でも無し、最近ヤツとよく連るんでいる吉良国とも気が合いそうだな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月♬日

 地球、極東地区日本

 

 5thルナの落着と擬態獣の大移動という地上の混乱を突き、ついに恐竜帝国が大侵攻を開始した。

 世界各地に姿を表すマシーンランド。そして、まさしく“UFO”としか呼べない円盤形の空中要塞が南極大陸の奥深く氷床を砕き、無数のメカザウルスとともに現れたのだ。兜博士の推察によれば「先史文明の遺産」であるというそれは、我々の想像を遥かに越える科学力の産物だ。“巨神戦争”でゲッターチームとホワイトベース隊に散々にやられながら、これほど早く復活できたのもあの遺跡の力によるものかもしれないな。

 邪魔大王国やかつての百鬼帝国、ミケーネ帝国、Dr.ヘル軍団の残存戦力を吸収して肥大化した恐竜帝国の前に情けないことだが連邦軍は為す術もなく敗退し、瞬く間に主要都市を制圧されてしまった。

 

 特記戦力を多数有する私たちαナンバーズは、例の如く敵の本隊を討つことで事態の収拾を図る。

 だが、まずは日本地区の各地で暴れ回るメカザウルスなどの排除からだ。

 また、恐竜帝国と因縁深い新旧ゲッターチームは、イージス事件以来、SR計画凍結の煽りを受けて封印処置されていた《真・ゲッターロボ》の確保と、恐竜帝国に念入り狙われている新早乙女研究所へ向かっている。こちらはおそらく陽動だろうが、またぞろ《真ゲッター》を奪われては厄介だ。

 

 さて、私たちが急行した現場では、どこに隠し持っていたのか、白鳥九十九が旧木連派の特機型機動兵器《ダイテツジン》で、トカゲどもを相手に大立ち回りを演じていた。

 確か奴は、旧姓ハルカ・ミナトと結婚してヒモ同然の生活をしていたはずだが。木連の軍人が堕ちたものだと呆れていたが、存外に意気地がある。

 また恐竜帝国により民間人が多数拘束されていたが、こちらは私とイング、ドモン、ベガ副指令など白兵戦メンバーで突入、救出した。ここでは《ボルフォッグ》が大活躍だった。

 

 意気地があると言えば、人質にされていた女子高生が恐竜帝国の兵士相手に啖呵を切っていたな。

 白鳥ミナトが教師をしていると聞く、陣代高校の生徒だったように見えたが。

 

 なお、オーバーホールが終わりようやく配備された《νガンダム》と《Hiーνガンダム》がヨーロッパ方面で大暴れしたらしい。ちなみにアムロ大尉が《Hiーν》を、フォウが《ν》を任されていた。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月†日

 地球、極東地区日本 連邦軍極東支部ビッグファルコン

 

 しばらくぶりの日記だ。

 結論から記する。恐竜帝国と決着がついた。もちろん、私たちαナンバーズと人類の勝利である。

 

 恐竜帝国に襲撃された新乙女研究所へ急行した新旧ゲッターチームは、無事《真・ゲッターロボ》の確保と起動に成功した。

 意外だったのが、號たちネオゲッターチームが《真ゲッター》に乗っていたことだ。神大佐曰く「今回は、號たちがゲッターに選ばれたようだな」とのこと。意思を持つマシンはやはり厄介だな。エクスは素直に育ってほしいものだが。

 

 だが、その裏で侵略者どもの計画は着々と進んでいた。

 いよいよ日本列島に辿り着こうかとする恐竜帝国本隊を迎え撃とうとしていた私たちのもとに、旧光子力研究所で封印されていた《マジンカイザー》がブロッケン伯爵率いる鉄十字軍団に奪取されたとの一報が舞い込む。

 やはり、新早乙女研究所は陽動だったのだ。

 三度復活(いつぞやのは小手調べだったらしい)したDr.ヘル軍団が、奪われた《カイザー》を制御ユニットにした《INFINITE》を以て兜博士に決戦を挑んできたのである。

 

 恐竜帝国の円盤形空中要塞と大軍団、機械獣と超巨大魔神《INFINITE》、二つの脅威を同時に立ち向かう私たちαナンバーズ。

 北米地区を鎮圧して駆けつけた《ステルバー》軍団と《テキサスマック》の応援もあり、何とか空中要塞のバリアを破壊、恐竜帝国の幹部を撃破する。そこで、空中要塞からオーパーツを取り込み巨大な姿と化した帝王ゴールが姿を表した。

 奴は、連邦軍の特機はおろか、《ゲッタードラゴン》、《マジンガーZ》、《ゴーダンナー》や他のスーパーロボットにも意に返さず蹴散らした。

 號たちネオゲッターチームが抵抗するが、ゴールに散々に痛め付けられる。

 絶体絶命の《ゲッターロボ》が、號たちの意思に呼応してゲッター線特有のエメラルドグリーンの激しい輝く。明滅する人型のエネルギー体の表面には、號や翔、凱の顔が浮かび上がっていた。

 すわ暴走かと思われたその時、神大佐らゲッターチームの一喝によりネオゲッターチームはこれを制御し、蒼い姿に変貌した《真ゲッター1》の貫胴が帝王ゴールを貫いた。

 こうして、からくも恐竜帝国を倒すことには成功した。

 

 しかし、《INFINITE》とDr.ヘルは未だ健在だ。

 満身創痍のまま、巨大魔神との決戦に挑むαナンバーズ。

 そんなときに活躍したのが最新鋭のナデシコ級、《ナデシコC》だ。

 修理を終えた《ゼオライマー》に救出されたというキンケドゥとともに駆けつけた《ナデシコC》には、先日保護した白鳥ミナトを筆頭に、アオイ・ジュン、メグミ・レイナード、アマノ・ヒカリ、マキ・イズミ、イネス・フレサンジュ、ウリバタケ・セイヤらかつての《ナデシコ》メンバーが乗艦していた。

 皆、それぞれに生活があったのだろうが、この非常事態にはそうも言っていられないらしい。

 さらには空気を読んだのか、ボソンジャンプを駆使して世界各地で遊撃していた《ブラックサレナ》と《ユーチャリス》が登場し、まさしくナデシコ・オールスターズが勢揃いと相成った。

 

 電子戦に特化した《ナデシコC》と、前回の雪辱とばかりに張り切っていたリサにより、人工知能の制御系を強制ハックされた《INFINITE》はさすがと言うべきか、抵抗してみせる。奴らも《ミネルヴァX》の一件で、ジャミングやハッキングに警戒していたのだろう。

 とそこに出現した三機の動物ロボ、クストースらの発する不可思議な力、そして「平和を守る魔神として生まれたお前が、悪に操られたままでいいのか、カイザー!!」という兜博士の叫び声により、魔神皇帝が目を覚ました。

 激しい光と炎を巻き上げて自立起動した《マジンカイザー》は、自身を縛り上げる《INFINITE》に痛烈な一撃を与え、自力で脱出を成功させた。

 

 しかし、《カイザー》の無尽蔵の光子力エネルギーをたらふく喰らった《INFINITE》は、超兵器「ゴラーゴン」を発動させた。

 「ゴラーゴン」とは、ビックバン以来誕生した数多の可能性の宇宙から使用者が選んだ世界を、今ある世界と置き換えてしまうという。要は『世界をリセットして好きなように作り替えられる能力』、らしい。イングによれば、かつてユーゼス・ゴッツォが完成を目論んだクロスゲート・パラダイム・システムと原理は違えど結果は大差ないとのことだが、それが本当であれば恐るべきものだ。

 実際、私たちは認識できなかったが、かなり危ういところだったようだ。辛うじてイングは観測出来ていたとのことだが、始まりの魔神《マジンガーZ》に乗る兜博士と《INFINITE》に因縁あるリサ以外は介入できなかったらしい。

 可能性宇宙に囚われた二人が見たものはようとして知れない。私たちがわかるのは世界はリセットされなかったことと、そして仲間の一人を失ったことだけだ。

 

 文字通り、命懸けてリサが導く光子力ネットワークにより集まった(可能性宇宙も含めた)世界中の光子力を受け取った《マジンガーZ》は、光に包まれたまま《INFINITE》と比肩するサイズまで巨大化、肉弾戦を開始した。

 マウント富士をバックに激突する二大魔神。巨大すぎる魔神同士の取っ組み合いに、通常の機動兵器が割って入るのは不可能だ。私たちは兜博士、いや「兜甲児」と《マジンガーZ》に地球の未来を託すしかなかった。

 しかし、あの光景は、イングではないがなぜだが感動を覚えるものだったな。

 

 超巨大魔神の戦いは、全身全霊を振り絞った《マジンガーZ》の拳によって勝負がついた。《INFINITE》は宇宙の彼方へと消え、完膚なきまでに爆砕された。

 「ゴラーゴン」発動を阻止され、虎の子の《INFINITE》を失って進退窮まったDr.ヘルと戦闘獣《地獄大元帥》はなおも自身の野望を果たそうとする。しかし、アムロ大尉の《Hi-νガンダム》の支援を受け、満身創痍の《マジンガーZ》、《グレートマジンガー》、《ゲッタードラゴン》による合体攻撃《ファイナルダイナミックスペシャル》が引導を渡したのだった。

 ヤマダの「スーパーロボット軍団、怒りの大反撃だな!」という感想はなかなか的を射た表現だったな。吉良国や光司と三人で戦闘が終わっても興奮して騒いでいた。

 

 死力を尽くして戦った《マジンガーZ》は、スクラップ一歩手前の状態だ。兜博士は自身の手で直すつもりだそうだが、今大戦はまだ終わっていない。奪還した《マジンカイザー》で戦い抜くようだ。

 それから、リサ。彼女は可能性宇宙で「ゴラーゴン」を阻止するため、そして《マジンガー》に光子力を託すために力尽きたという。《INFINITE》と運命をともにしたということだ。彼女と仲のよかったイルイや護、北斗、銀紙ら年少組はもちろん、データウェポンたちもどことなく元気がないように見える。

 リサは、自身の使命と心に殉じたのだと思う。彼女のことを忘れることはできないが、立ち止まることもその意思に反するように感じる。

 どちらにせよ、戦いはまだ終わっていない。前に進まねばな。

 

 

 なお、《ブラックサレナ》《ユーチャリス》は一連の戦闘終了後にボソンジャンプで姿を消した。

 やはり、復讐を遂げるまではホシノ艦長らに会う気はないようだ。テンカワめ、強情だな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月〒日

 地球、ユーラシア大陸沿岸

 

 リクレイマーと接触し、話し合うために浮上したオルファンに向かう。

 だが、やはりと言うべきか、リクレイマーもエゴイストの集まりであることは変わりないらしい。この地球の危機に際してなお、「オルファンが飛翔すれば関係ない」などと自分たちの都合ばかりを優先するのだからな。

 

 会合の機会すら得ることも出来ず物別れに終わり戦闘が開始される中、ドクーガ三将軍、ケルナグールにより核ミサイルが発射されたが、ブレンパワードとグランチャーが協力して宇宙空間へと弾き返して事なきを得た。八卦ロボ戦でのそれとは比べものにならないパワーだった。

 そう言えば、久しぶりにドクーガを見たな。

 

 オルファンの声を聞いたというイングは「あれはひとりぼっちで寂しがり屋の単なる子供」と評していた。

 寂しいから、ひとりぼっちだから他人との距離が上手く取れず、傷つけてしまう、と。

 なんというか、身につまされる思いだな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月◎日

 地球、欧州地区 アイスランド

 

 《ゴーショーグン》の母艦《グッドサンダー》から連絡が入り、北欧はアイスランドで接触することに。

 が、それをドクーガに嗅ぎつけられたらしく、包囲されてしまった。

 

 相手はドクーガだけではなく、ビムラーを狙うメガノイドやゾンダーロボ、さらにはガイゾックの置き土産であろうメカブーストの大群だ。

 とはいえ、所詮有象無象。数だけの雑魚に手こずるαナンバーズではない。

 その戦いの中、ビムラーの成長により強化された《ゴーショーグン》の《ゴーフラッシャー・スペシャル》がいろいろな意味で危険なドクーガの戦闘メカ、《ドスハード》に炸裂する。

 《ゴーフラッシャー・スペシャル》を受けたドスハードは大破するのではなく、自ら自爆するという不可解な形で消滅した。ケン太とイング、そしてエクスが「戦うくらいなら死んだ方がマシ」との声を聞いたという。

 なお、イングは《ドスハート》を見て、「あれがいいならヒュッケバインだって問題ないだろう」と何故か憤慨していた。よくわからんが、ガンダムオタクのニナ・パープルトンと五十歩百歩だな。

 

 それにしても、ビムラー、機械に命を与える意志を持つ超エネルギーか。地球に生命を与えた力と聞くが、まるでゲッター線のようだな。

 シュウ曰く「この宇宙を支配する大いなる意志の一つ」。マサト曰く「次元力の一種」。αナンバーズのメンバー中でも超技術関連に特に造詣の深い二人は、これなる不可解な力すらも把握していたらしい。

 さらにシュウは、ビムラーの成長は「地球のソウル」として選ばれた真田ケン太とともにあり、本来ならばもっと後であったとも推察し、ビムラー自身(!)が何らかの要因で覚醒を急いでいるのではないかとも話していた。

 まったく、ケン太もよく解らないものに見込まれて災難だな。本人は気にも止めていないようだが。

 

 よく解らないものと言えば、《真ゲッター》の運用がネオゲッターチームから元祖ゲッターチームに移ったようだ。

 翔から聞いたのだが、號曰く「トカゲ野郎の親玉は俺らがぶっ倒したからな、竜馬のおっさんたちにはジオンの方をやるよ」だとかなんとか。「前々から、ゲッタードラゴンには乗ってみたかったんだ」とも嘯いていたらしいが、まあ照れ隠しだろう。

 本音は、ネオ・ジオンとの決戦に向けて神大佐らに《真ゲッター》を託したかったのだと思う。実際、チームメンバーの翔もそう推察していたしな。

 その気持ちはわからんでもない。私たちの世代にとって、「ホワイトベース隊」とは一種のヒーローのようなものだ。

 かつてのホワイトベース隊のメンバーは、「シャア・アズナブル」とは因縁浅からぬ間柄だ。その因縁の決着に相応しいマシンをと言う気持ちはよくわかる。

 ともかく、こちらの準備は整ったと言える。もう、負けられないな。

 

 

   †  †  †

 

 

「んんーっ……、こんなものか」

 

 日課の日記を書き終え、アーマラは大きく伸びをした。

 デスクには、しっかりとした作りの真っ赤な日記帳が置かれている。この新西暦にあって手書きというアナログな手法を取っているのは、偏にイングの影響である。

 共に行動するようになってそれなりの時間を経て、アーマラのイングに対する八つ当たりじみたわだかまりこそなくなった。だが、未だに妙な対抗心を燃したりしているのは、相手が見た目が年下(大した差はないが)の男の子だからだ。

 要するに、お姉さんぶりたいお年頃なのである。

 

「……イルイ?」

 

 ふと振り返る。同居人の妹分、イルイがベッドの隅でうずくまり、陰鬱な雰囲気を漂わせていた。

 普段ならアーマラが日課を済ませている間は、勉強したり絵を描いたり本を読んだりと子供らしく一人遊びしているにもかかわらず、今夜はどこか様子がおかしい。

 

「イルイ、どうした?」

 

 アーマラが声をかける。

 イルイが顔を上げた

 

「あ……うん、なんでもないよ」

「……そうか?」

 

 お茶を濁したような態度を訝しむアーマラ。しばらくの間、じっ、と見つめられてイルイはとうとう観念したのか、ぽつりぽつりと胸の内をこぼし始めた

 

「……どうして」

「うん?」

「どうしてあの人たちは、あんなひどいことができるの?」

「ネオ・ジオンのことか?」

 

 こくり、とイルイが頷く。

 そして、どこか危うい様子で心情を打ち明けた。

 

「悪いのは……、ネオ・ジオンや他の星から来た人達……。あの人達さえいなければ……」

「イルイ、それは短絡的な考えた方だな」

「でもっ」

「お前の言うことはある面では正しい。星間連合やゾンダーはともかく、この情勢下で今更地球人同士の内輪もめなどバカバカしい。ネオ・ジオンやギガノス、木星の奴らはどうかしてるのさ」

 

 アーマラの嘘偽りない感想だった。

 バルマー戦役を経てなお地球人類は愚かな行為を繰り返す。これではアンセスター、狂った機械(メイガス)の言うとおりではないかという思いもある。

 しかし――

 

「だがな、イルイ。異星人とスペースノイドが全て悪いと決めつけるのはよくないぞ。仮にもティターンズの兵士だった私が言うことではないがな」

「……」

「納得いかないか」

「……うん」

 

 アーマラに諭されたイルイは不服そうだ。

 

「まあ、そうだろうな。未だに大多数のスペースノイドは、“シャア・アズナブル”の虚像に期待を寄せているようだし。……あんな情けない男に、何が出来るものか」

 

 呆れた風に人々の妄信を斬り捨てるアーマラ。短い間とは言え上官だった男の行動に思うところは多々あった。

「……やっぱり……」イルイの表情がますます暗くなる。それをちらりと見て、アーマラは努めて冷静に言葉を続ける。

 

「しかしお前の言い方も、そんな身勝手な理屈を振りかざす奴らと一緒だと、私は思うぞ」

「……う」

「αナンバーズは、そんな理不尽と戦うためにあるんだ」

 

 普段クールで皮肉屋な態度を崩さないアーマラらしからぬ熱い発言に、イルイが目を丸くする。

 

「……と、イングなら諭しただろうな」

 

 冗談めかして末尾を切る。

 その言葉で少しは救われたのか、イルイは儚げに微笑む。

「さて」アーマラがデスクチェアから立ち上がった。

 

「シャワー、浴びにいくか」

「うんっ」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ☆月@日

 地球、極東地区日本近海

 

 日本近海で再び捕捉された《グッドサンダー》を支援し、ドクーガと決戦した。

 

 ドクーガの首領、ネオネロスが現れ、そして倒された。

 イング曰く「ズール皇帝の同類」。悪の意識体であるネオネロスは、ビムラーのケン太だけでなくイングにとっても打倒すべき邪悪だったようだな。

 まあ、そのズール皇帝と比べると脅威度は大したことがなかったようにも思えたが。

 

 倒れたネオネロスは置き土産として大量の中性子ミサイルを残していった。

 もちろん、全て破壊処理した。旧世紀の遺産であるとはいえ、所詮ミサイルだ。何するものぞ、だな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月@日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 イルイが行方不明になった。ドクーガとケリを着けた矢先だ。

 本当に、煙のように忽然と姿を消したイルイを私とイング、αナンバーズの仲間たちは夜通しで探したのだが、足取りの一つも掴むこととが出来なかった。

 

 このベイタワー基地からは出ていないはずだということは、監視カメラの映像等からも明らかだった。

 あるいは何者かにさらわれた可能性も考えたが、イングやその他の感受性の高いものたちからの証言で否定されている。この情勢下だ、イルイの身が心配でならない。

 それでも、私たちは前に進むしかない。

 この地球の未来のためにも。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八八年――

 “バルマー戦役”、“イージス事件”という大戦を辛くも潜り抜けた地球圏に、新たな争乱が噴出する。

 後に“封印戦争”と呼ばれることとなるこの戦乱は最終局面を迎えていた。

 

 突如、地球全土を揺るがす不気味な地鳴り。

 異変を察知したビルドベースの司馬博士の発した警告、「銅鐸」に記された“地獄の帝王”――ミケーネの支配者、闇の帝王が長き()()から目覚めたのだ。

 かつての大戦で討たれた暗黒大将軍と七大将軍が地獄の底から復活し、未だ混乱収まらぬ地球の主要都市を襲う。未来世界で対決したミケーネ帝国の支配者、邪気の権化たる闇の帝王の超能力は絶大だ。

 αナンバーズは、連邦軍の勇士たちとともに占領された都市を解放していく。

 クストースの協力を受け、《マジンカイザー》、《グレートマジンガー》――二大魔神を筆頭に、αナンバーズのスーパーロボット軍団が“巨神戦争”からの因縁を断つべく激闘する。

 七将軍相手に奮闘するシローの《イチナナ式》と、暗黒大将軍に再び冥府へ送り返した《グレートマジンガー》。そして覚醒する《マジンカイザー》の新たな力、《ファイナルカイザーブレード》が焔を纏って闇を断つ。

 ――ついに闇の帝王は倒れた。

 

 東京市23区。ゾンダープラントと化した東京は多数の民間人を抱えたまま、浮上を開始する。

 大気圏から突入を計るαナンバーズに、復活したドン・ザウラー率いるメガノイド軍団が立ちはだかる。

 辛くもメガノイドを退け、ゾンダリアン四天王をも撃破したαナンバーズの前に、ゾンダーの親玉、《EIー01》ことパスダーが姿を現す。

 地球全てを「機界昇華」せんと猛攻するが、「弾丸X」により強化された勇者ロボたちの勇気が限界を超え、ついには邪悪な機界神を討ち滅ぼした。

 

 星間連合の生き残り、ド・ベルガンとリオン大元帥暗殺から始まった争乱の元凶、オルバン大元帥を討ち、バーム星人との和解を成功させたαナンバーズ。

 そこに、小バーム周辺宙域に潜んでいたゼーラ星の支配者――ダリウス大帝が、ズール皇帝、オルバン大元帥が倒れたことを好機と見て襲い掛かる。

 《ガイキング》、《ダイモス》、《ボルテスV》が先陣を切り、彼らの野望を挫いた。

 

 地下勢力、星間連合が壊滅したことを契機に、再び人類勢力の活動が活発化すした。

 αナンバーズは部隊を分け、戦争の早期終結を計る。

 

 月面。ギガノス帝国の切り札、ギガノス機動要塞戦攻略戦。

 母を人質に取られたケーンが寝返るというアクシデントがあったものの、義により助太刀するマイヨ・プラートとその仲間たちを加えたαナンバーズ分艦隊は、図らずもギルトール元帥を廃し、ギガノスの実権を握ったドルチェノフを倒すことに成功する。

 こうしてギガノス帝国は崩壊した。

 

 一方、火星。極冠遺跡を舞台にした火星の後継者との決戦。

 極冠遺跡を掌握し、そのオーバーテクノロジーによって連邦政府へ攻撃を仕掛けようとする火星の後継者に対し、《ナデシコC》による電子戦攻撃を皮切りに、αナンバーズ分艦隊が猛攻する。

 そこに現れる《ブラックサレナ》と《ユーチャリス》。黒き復讐鬼はその鎧を脱ぎ捨て《夜天光》を討ち、因縁に終止符を打った。

 

 

 外敵が滅びたことを受け、ついに大気圏からの離脱を開始するオルファン。

 地球のオーガニック・エナジー枯渇の危機を防ぐため、オルファンとの対話のためにαナンバーズが急行する。

 自身のエゴを振りかざすリクレイマーたちとの戦いの中、勇と比瑪の必死の呼びかけをオルファンは受け入れ、地球の生命は救われた。

 

 そこに再び姿を現したドン・ザウサーらメガノイドが、倒したはずのパスダーを伴ってオルファンを乗っ取るべく強襲する。

 リクレイマーのクィンシーら、そしてゾンダリアン四天王、ピッツァがαナンバーズに協力する。

 そして死闘の末、《ダイターン3》、《ザンボット3》、《トライダーG7》の合体攻撃《無敵コンビネーション》が炸裂し、ドン・ザウサーはついに倒れたのだった。

 

 地球のソウルたるケン太の意志がビムラーに伝わり、オルファンに宇宙へと羽撃く力を与えた。

 オルファンが地球を離れる。

 

 

 

 

 そして――――

 

 

 

「アクシズ、行け! 忌まわしき記憶と共に!」

 

「アクシズが、地球に落ちる……!」

「ダメ、オルファンさん!」

「シャアめ! 私を追い出し、アクシズを掌握したのはこのためか!」

 

 ボソンジャンプにより突如として転移したアクシズが、地球の引力に引かれてオルファンと衝突の軌道をひた走る。

 シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン艦隊と、クラックス・ドゥガチの木星帝国が最終作戦を発動したのだ。

 

 火星の後継者やギガノスの残党をも取り込んで、地球人類を粛清せんと地球に迫る。

 アクシズ、あるいはオルファンが地球に落ちれば致命的な事態になることは間違いないだろう。

 だがあまりにも地球に近く、またオルファンと接近しているこの状況ではαナンバーズのスーパーロボット軍団の力を持ってしても、アクシズを破砕することは容易ではない。

 それでも彼らは決死の覚悟を持ってアクシズ破壊に望む。

 

 だが、ネオ・ジオンも指をくわえて見ているわけではない。全戦力を持ってαナンバーズに対抗する。

 全身に核武装した白き破壊神、木星帝国の超巨大モビルアーマー、《ディビニダド》がドゥガチの歪んだ憎悪をはらんで行く手を阻む。

 《クロスボーン・ガンダムX3》が、《ムラマサ・ブラスター》を手に立ち向かう。

 

「真の人類の未来? 地球不要論!? そんなものは言葉の飾りだっ!  わしが真に願ってやまぬものは唯ひとつ!  紅蓮の炎に焼かれて消える 地球そのものだーっ!」

「安心したよ、ドゥガチ! あんた……まだ人間だっ!  ニュータイプでも新しい人類でも、異星からの侵略者で もない! 心の歪んだだけのただの人間だ!」

 

 《ドラグナー1・カスタム》と《ファルゲン》は恐るべき速さで駆け抜け、メタルアーマーを斬って捨てる。

 

「マイヨさん、いいのかよ? 奴ら、元お仲間だろ」

「ギルトール総帥のご意志を履き違えた輩だ、構わん」

「へっ、そうかい。頼りにしていいんだよな?」

「無論だ!」

 

 アクシズの周辺宙域では、《GP-03デンドロビウム》と《ディープストライカー》が、《ノイエ・ジール》の引き連れるMDによって制御された《量産型ゾディ・アック》の軍団と熾烈なドッグ・ファイトを繰り広げる。

 一方、《ナデシコC》と《ユーチャリス》が《グラビティブラスト》を連続して放ち、ネオ・ジオン艦隊を蹴散らす。

 《ブラックサレナ》と青い《エステバリス・カスタム》もまた、直衛機として獅子奮迅の闘いを見せていた。

 

「アキト!」

「ああ。復讐者の戦いはもう終わった。これからは、地球を護るための戦いだ」

「おうおう、いいこと言うじゃねーか、アキト! 地球を守るため、力を合わせるスーパーロボット軍団ッ! くぅーっ、最高に燃えるぜ! これだよこれこれ!」

「フッ……」

 

 

 αナンバーズとネオ・ジオン、木星帝国連合の最終決戦。

 道を踏み外した宿敵との決着を着けるため、アムロの《Hiーνガンダム》が宇宙(ソラ)を切り裂く。《Zガンダム》、《ZZガンダム》、《キュベレイ》がその後を続いた。

 迎え撃つのは赤きモビルアーマー、《ナイチンゲール》。直下の《ギラ・ドーガ》、緑の《ヤクト・ドーガ》、そして《量産型グレート》と《量産型ドラゴン》が指導者を守ろうと間に入るが瞬く間に撃墜された。

 

「シャア!」

「アムロ! もはやアクシズを止めることは出来ん! 重力に引かれた人類は粛正され、私は父の下に召されるだろう!」

「この期に及んで、世迷い言を!」

 

 サイコフレームの発する虹色(エメラルドグリーン)の輝きを纏いながら激突する《Hi-ν》と《ナイチンゲール》。《フィン・ファンネル》と《ファンネル》が蒼い宇宙(ソラ)を縦横無尽に飛び交った。

 そこに、特機タイプの護衛を粉砕した“魔神皇帝”が割って入る。

 

「ッ、マジンカイザー! 甲児か!」

「クワトロ大尉……いやシャア! ネオ・ジオンが火星の後継者と組んでいたのは、このためか!」

「そうだ、お前たちαナンバーズには感謝している。地球圏の混乱を収めてくれたのだからな!」

「地球を徒に混乱させておいて、どの口が言う! バルマー戦役で俺たちとともに戦い、平和を脅かす存在を知ったはずだ。それが何故!」

 

 激する甲児。《マジンカイザー》のカメラ・アイが光り、強烈な《光子力ビーム》が放たれる。

 《ナイチンゲール》の全身のスラスターが火を噴き、その巨大な機体に似合わぬ機動性を発揮してビームを回避する。反撃とばかりに《大型化メガ・ビーム・ライフル》がメガ粒子の散弾を吐き出す。応じる《マジンカイザー》は、両腕のブレードを回転させて《ターボスマッシャーパンチ》を発射させた。

 

「それ故にだ! 腐敗した連邦政府と重力にすがるアースノイドは新たな時代の重石にしかならない! だから私は、粛清すると宣言した!」

「自分勝手な理屈を!」

 

 飛来する鉄拳をシールドで受け流した《ナイチンゲール》。モビルスーツは元より、強力な特機タイプとの戦闘も考慮された《ナイチンゲール》は、地球最強クラスの特機を相手にしてもひけを取らない。

 更なる追撃を試みる《マジンカイザー》だが、AI制御の《ディビダニド》が背後から組み付き、妨害する。一瞬の隙――《ナイチンゲール》が器用にも《マジンカイザー》にキックを入れて距離を取った。

 吹き飛ばされていく《カイザー》、それと入れ替わるように割って入った紅い光――《真・ゲッター1》を《ナイチンゲール》が迎え撃つ。斧と斧をぶつけ合い、竜馬が吠える。

 

「甲児! いつまでも野郎とグダグダ喋ってんじゃねぇ!」

「く、これは!」

 

 飛び散る火花と粒子。《ゲッタートマホーク》と《ビーム・トマホーク》が何度もぶつかり合う。

 《ナイチンゲール》のバインダーから《ファンネル》が射出された。

「貴様は変わらず野蛮だな、竜馬!」胸部から放たれた《拡散メガ粒子砲》に合わせて、死角に位置どった《ファンネル》が偏差射撃でビームを放って光の檻を形成させるが、《ゲッターロボ》は瞬く間に三機の《ゲットマシン》に分離してそれらをかわした。

 結集した《ゲットマシン》が再び合体する。巨大な斧を頭上で振り回し、紅の鬼神が恐るべきスピードで“赤い彗星”に追い縋る。

 

「おうおう。言われてやがるぜ、竜馬!」

「へっ、プライドをへし折られて、女々しく喚く野郎になんと言われようが屁でもねぇな!」

「その通りだな。シャア・アズナブル、かつては同僚として轡を並べたよしみ、俺たちが引導を渡してやる」

「隼人! 出来るものならやってみせろ!」

 

 竜馬、隼人、弁慶の三人は好戦的な笑みを浮かべ、ゲッターチームが《ナイチンゲール》に対峙した。

 

 ――言葉が、想いが宇宙(ソラ)に迸り、ビームと《ファンネル》が交錯する。

 親衛隊を散らしたカミーユ、ハマーン、ジュドーが参戦する。――それぞれの思いを乗せ、鋼の巨人が砲火を放つ。

 大戦の英雄と地球圏最高峰のニュータイプたちによる白と赤の決戦は、激しさを増していく。

 そのときだ。

 

「オレたちを忘れてもらっちゃあ、困るな!」

「むっ!! これはイングか! ええい、厄介な!」

 

 強念が迸る。《グラビトン・ライフル》から放たれた重力波が直上より降り注ぎ、《エグゼクスバイン》が戦場に乱入する。

 《ビルトファルケン・タイプL》、《龍虎王》、《量産型ゲシュペンストMkーII改》がそれに続いた。

 

「クワトロ大尉!」

「もう止めましょう! こんなことをしたって、世の中は変えられませんよ!」

「クスハ、リョウト、すでに賽は振られた。私とお前たち、どちらかが倒れるまで戦うしかないのだ!」

 

 クスハとリョウトの懇願を一考だにせず、シャアは攻撃を続ける。

 両機を一蹴した《ナイチンゲール》に、《エグゼクスバイン》が《TーLINKセイバー》を振りかざして挑む。

 メガ粒子の雨をすり抜け、不幸を運ぶ凶鳥が羽ばたく。

 激突する剣と盾。激しいスパークが虚空に迸る。

 

「シャア・アズナブル、いやさ、キャスバル・レム・ダイクン! ニュータイプなんて曖昧なものに縋って、これ以上間違いを犯すな!」

「ニュータイプの否定、お前の持論だな。だが、実際にニュータイプには力があり、人類が革新しなければ地球が保たん時が来たのだ!」

「どうだか。アムロ大尉や、あんたが憧憬するララァ・スンはどこで生まれた?」

「っ! それは――」

「そう、地球だ。今、オレたちがニュータイプと呼ぶものが、あんたの親父さんの唱えた「ニュータイプ」と同じ存在だって保証はない。いや、ザビ家が歪めた選民思想を土台にしてるんなら、それはもはや別のものなんじゃないのか!?」

「……ッ!」

 

 イングの指摘に図星を突かれ、動揺するシャア。《ナイチンゲール》の巨体を押し出し、《エグゼクスバイン》は《TーLINKセイバー》を引き抜いた。

 念動力を全身にたぎらせて、イングが吼える。

 

「ニュータイプ……、戦争をしなくていい者を目指しながら争いしか出来ない――そんなあんたの歪んだ理想は、このオレが断ち斬るッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクシズ表面。

 大小いくつもの爆発が起こる中、《ビーム・サーベル》を左手で引き抜いた《Hi-νガンダム》が《ナイチンゲール》に接近する。

「シャア!」

「アムロ!」

 

 迎え撃つ《大型メガ・ビーム・ライフル》から、黄色のメガ粒子が幾度となく放たれた。

「チィッ!」岩盤を砕く光の弾丸を不規則な機動でかわし、白き“ガンダム”が赤いモビルスーツに迫る。

 繰り出された《サーベル》の一振りを避け、《ナイチンゲール》が上昇した。

 内部からの大きな爆発。

 それとは異なった機動で爆発を逃れた《Hi-ガンダム》が、ライフルを構えた。

 

「よく持つよ、シャア!」連射される《ビーム・ライフル》のメガ粒子を、《ナイチンゲール》はその強力な推力でもって危なげなく回避する。シャアは、《ナイチンゲール》の巨大なバインダーから《ファンネル》を分離させた。

「アムロ! 何故わからん!」《ビーム・トマホーク》をまるで指揮棒のように振りかざし、《Hi-νガンダム》へとけしかける。「人類を粛清するには、誰かがその業を背負わなければならん!」

 シャアの意思に従って、《ファンネル》が宇宙を走る。

 

「それを貴様が背負うというなら……間違っている!」

 

 メガ粒子の雨を回避した《ガンダム》。その翼のような背部ファンネル・ラックから分離した《フィン・ファンネル》が、アムロの意思を感知して飛び立つ。

 《ファンネル》同士が熾烈なドッグ・ファイトを繰り広げながら、幾度となく交わる白と赤。サーベルの激突によりメガ粒子が飛び散った。

 鍔迫り合う二機のモビルスーツ。その片割れ、赤い機体の中でシャアはいっそ憎しみを込めて叫んだ。

 

「ララァを殺めた男が言うことか!」

「だから……どうだって言うんだ!」

「貴様の存在が私を怯えさせた!」

 

 アムロの動揺が伝播し、隙を晒した《Hi-νガンダム》を押し退けた《ナイチンゲール》が追撃のライフルを放つ。

 体制を崩した《ガンダム》を護るように、《フィン・ファンネル》のバリアが展開された。

 ピラミッド状に張り巡らされたi-フィールドに、ビームが何度も衝突する。

 その衝撃でアクシズ表面に叩きつけられ、滑るようにする《Hi-ガンダム》に《ナイチンゲール》が迫る。

 

「人は、戦いの中で導くしかない!」

 

「ニュータイプは……ッ、殺し合う道具じゃないッ!!」

 

 アムロの思念を吸って、《ガンダム》の全身からエメラルドグリーン(虹色)の輝きが迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 αナンバーズの総攻撃によりアクシズは破砕され、オルファンも被害を免れた。

 そして死闘の末、《ナイチンゲール》は《Hiーνガンダム》と《エグゼクスバイン》により大破に追い込まれる。

 だが、砕けたアクシズの半分は地球に落着する軌道を取ったまま、大気圏に突入していく。

 

「たかが石ころ一つ、ガンダムで押し出してやる!」

「大尉! オレたちも!」

「わたしたちで、みんなの地球を守るんです!」

 

 アクシズの破片に取り付く《Hiーνガンダム》。イングとエクスが発憤し、アムロに続く。

 大気との摩擦で両機は瞬く間に真っ赤に染まった。

 

 《マジンカイザー》が。

 《真・ゲッターロボ》が。

 《グレートマジンガー》が。

 《ゴーダンナー》が

 《ネオゲッターロボ》が。

 《Zガンダム》が。

 《ZZガンダム》が。

 《サイバスター》が。

 《鋼鉄ジーグ》、《ガオガイガー》、《ネリー・ブレン》、《ガイキング》、》、《クロスボーン・ガンダムX3》、《ダイモス》。

 《ゴッドガンダム》、《ウィングガンダムゼロ》、《ガンダム・ステイメン》、《Ex-Sガンダム》、《ダイターン3》、《コンバトラーV》、《ボルテスV》。

 《電童》、《ゼオライマー》、《ドラグナー1・カスタム》、《ブラックサレナ》、《ザンボット3》、《ゴッドマーズ》、《トライダーG7》《レイズナー》、《ダンクーガノヴァ》――

 αナンバーズに所属するすべてのスーパーロボットがアムロとイングに倣い、次々にアクシズに取り付いていく。

 無駄な抵抗だろう。

 愚かな行為だろう。

 けれど確かに、アクシズの速度は僅かだが低下していた。

 その姿に感銘を受けたのか、争っていたはずのネオ・ジオンの機動兵器や、地球の危機に馳せ参じた連邦軍正規部隊が、アクシズを押し返すべく参加する。

 その中には、かつてホワイトベース隊としてアムロらと“巨神戦争”を駆け抜けた仲間たちの姿もあった。

 

『エイガー、フォルド、ユーグ! みんな、来てくれたのか!』

『久しぶりだな、アムロ』

『遅くなってすまない。我々も手伝わせもらう』

『それから、向こうにはユウのヤツもいるぜ!』

『……』

 

 

 推力が足らず重力に引かれて地球に落ちていく《ギラ・ドーガ》に《ジェガン》がマニュピレータを伸ばす。

 しかし、うまく掴むことが出来ず、重力の井戸に転落していく。そのまま爆散するかに見えた《ギラ・ドーガ》だったが、間一髪で《龍虎王》が助けに入って事なきを得た。

 そういった光景が、そこかしこで見られていた。

 

「Hiーνガンダムは――」「エグゼクスバインは――」

 

「「伊達じゃない!!」」

 

 アムロとイングの思惟がサイコフレームとTーLINKフレームによって増幅され、共鳴現象を引き起こす。

 《Hiーνガンダム》のコックピット周辺から迸った光が装甲表面を伝い、機体が淡いエメラルドグリーンに染まる。《エグゼクスバイン》から、強い意識の込められた念が宇宙(ソラ)に放たれた。

 

 二人の、αナンバーズの、そしてこの宙域にいる全ての人の思いが虹となって、宇宙に伝播する。

 それらに共鳴/共感したオルファンの発するオーガニック・エナジーが、アクシズを優しく包み込む。不可思議な虹はまるで一人一人違う心の在り様のようにきらきらと様々な色に輝き、漆黒の宇宙(ソラ)を彩った。

 

 人の心の光――

 宇宙に瞬く綺羅星のような命の輝きが、平和への普遍的な祈りが、地球の遍く生命を救ったのである。

 

 

 アクシズの消滅を持って、ネオ・ジオン、木星帝国連合軍との戦闘は終結した。

 生き残った兵士たちは全員投降、シャア・アズナブル以下、名だたる幹部は戦死、ないしは行方不明となった。

 

 ――だが、戦いは終わっていなかった。

 アラビア半島、ナフール砂漠の地下深くから、先史文明の遺跡「バラルの園」が浮上する。

 

 《ガンエデン》――

 先史文明により創り出された強大なる念動兵器、ファースト・サイコドライバーの玉座にして人智を越えた力を持つ人造神。創世神ズフィルードとしてバルマー星に文明を築き、結果的にビアル星人を地球へと導いた機械の女神である。

 《カナフ》、《ケレン》、《ザナフ》、三体のクストースとその量産機を引き連れ、地球を守護/封印せんと強力極まりない結界を張り巡らし、コロニーや月、小バーム、オルファンに対して攻撃を開始した。

 

 《ガンエデン》としての本性を現したイルイは、αナンバーズに語りかける。

 自分の許へと下り、地球を守護する剣となれ、と。

 地球に害を為す組織を全て壊滅させたαナンバーズを守護者と認め、惑星封印への理解を求めたのだ。

 だが、しかしαナンバーズは地球を封印し、月、コロニーに攻撃を行い排除しようとすることを良しとせず、敵対。機械の女神に戦いを挑む。

 ドクーガ三将軍、クィンシー・イッサー、そしてリヒテルとハイネルが助太刀に現れる。

 

「イング、あなたをこの世界に招いたのは、他ならぬ私です」

「な、に……! 何を、根拠に!」

「あなたの本当の名は浩一、山野浩一……思い出しましたか?」

「!!」

「あなたは私と“あの人”の力を以て、外なる宇宙より招かれた強き魂。この地球(ほし)を護る剣として……そして、大いなる災いから逃れるために」

「大いなる災いだと!?」

「そう、それは根源的な破滅。森羅万象、ありとあらゆるものの破綻です。それを回避することこそ、あなたがこの世に遣わされた意味なのです。さあ……、神の子イングよ、我が許に下るのです。私と共にあることが、あなたの使命なのですから」

「断る!」

「……それは何故です?」

「オレはオレだ! ガンエデン! 例えお前の言うことが全て真実であろうが、関係ない! あらゆる邪念を断ち斬る――それは他ならぬオレが、オレ自身に科した使命だからだ!」

「どうしてもと言うのですか」

「くどい! 大いなる災厄とやらを防ぐのは、お前を倒してからにさせてもらう!」

「愚かな……仕方ありません。まずはあなたのその強靱な精神を折り、屈伏させることにしましょう」

 

 激しい戦いの最中、イングはイルイに――《ガンエデン》に取り込まれたイルイ自身の意識に触れた。

 《ガンエデン》の呪縛からイルイを解き放つために、αナンバーズのメンバーは思いの丈を彼女に投げかける。

 閉じられた念、封じられた意志が徐々に目覚めていく。

 

「私は言ったはずだぞ、イルイ! 今のお前の在り方は、身勝手な理屈を振りかざす奴らと一緒だと!」

 

 紅い《ビルトファルケン》を駆り、アーマラが声を張り上げる。

 言い様こそ突き放したような物言いだが、そこにはイルイに向けた優しさと厳しさが込められていた。

 少なくない時間を仲のいい姉妹のように過ごした少女たちの絆は、いつしか本当の家族にも勝るほど強く結ばれていたのだった。

 

「そして、私たちαナンバーズは、あらゆる理不尽と戦うためにある!」

「そうだ、イルイ! お前の本心は、こんなこと望んじゃいないはずだ!」

「!」

「お前の心が泣いている! 誰も傷つけたくないと、友達を傷つけたくないと! 友達になれるかもしれない人たちを傷つけたくないと!!」

「イルイちゃん、ガンエデンに負けないで! それでいっしょに帰りましょう、みんなのところに!」

「わ、わた、し、私、は……――お兄ちゃん……!」

「イルイ! お前がオレを兄と呼ぶなら、オレは兄貴として、お前を救ってみせる!  そしてガンエデン! お前のその妄執、ここで断ち斬ってやる! このエグゼクスバインでな!」

 

 イングとアーマラとエクスと――αナンバーズの想いを乗せて、不滅の凶鳥が機械の女神と対峙する。

 

「エクス!」

「はい、イングさん! GSライド、フルドライブっ! ブラックホールエンジン、トロニウム・レヴ――、シンクロナイズ!」

「TーLINKダブルコンタクトッ! フィナーレだ、アーマラ!」

「ああ! これで決まりだ!」

 

 《エグゼクスバイン》と《ビルトファルケン》が念動剣の柄を握る。

 重ね合う手と手。重なり合う意志の力。イングとアーマラ、二人分の念動力によるダブルコンタクトの相乗効果、莫大な念の光が《TーLINKセイバー》の刀身を覆い尽くしていく。

 どこまでも延びる、極光の柱――

 まるで天を断ち割るが如き念動剣がここに完成した。

 

「「デッド・エンド・スラァァァァッシュ!」」

 

 振り下ろされる極大の斬撃――両機による《ストライク・デッド・エンド》が光の帯となって、《ガンエデン》を貫き、バラルの園をも両断した。

 

「おおおおッ!」

 

 《エグゼクスバイン》が念動フィールドを纏い、突進する。

 《ガンエデン》に宿ったファースト・サイコドライバーの莫大な強念が解放されれば、地球は被害を免れない。

 それを押さえ込み、《ガンエデン》と最期を共にしようとするイルイ。だが、間一髪、イングは外部から強制的に念を封じ込めることで彼女の救出に成功した。

 ここに至り、イングの念はファースト・サイコドライバーすらも超越していたのだった。

 

 

 中核たる《ガンエデン》を失い、崩落を開始するバラルの園。イルイを救出することに成功したイングとαナンバーズは脱出を計る。

 そのとき、全天を強大な思念が覆い、バラルの園を捕らえる。地球、遙か神話の時代にメソポタミアと呼ばれた地域の一角から光の柱が立ち上った。

 

 光の柱――強烈な念動光とともに降臨したのは白と金に彩られた神秘的な巨人。どんな材質で創られたのかもわからないその姿は、あるいは古代の石像のようにも見えた。

 

「ぼくの名はバビル。もっとも、きみたちにはビッグ・ファイアと名乗った方が通りがいいかもしれないね」

 

 白髪の少年――ビッグ・ファイアは語る。自身は《ガンエデン》の意志――、ナシムと同じ太古の人類、ファースト・サイコドライバーの一人、「バビル」だと。

 彼は今現在、ナシムと同様に肉体を失い、神体《ガイアー》に思念を封入して存在を維持している。先史文明人として一度滅びた地球に生命の種を蒔き、遙か太古から気の遠くなるような時間をかけて地球人類を見つめ続け、またBF団を組織して人類社会の裏側を牛耳ってきた。

 人類最強の汎超能力者(サイコドライバー)――

 

「ビッグ・ファイア……彼は新生を司る者達の一人、神であって神でなく、 人であって人でない存在。50万年前の終焉をゼ・ バルマリィ帝国の創世神ズフィールドと共に生き延び、現在の世界を創り上げた人物です」

「そのとおりだ、シュウ・シラカワ」

「ビッグ・ファイア……、ゼーレにも伝わる創世神、無限力(むげんちから)に選ばれ、次元力を自在に操る真のファースト・サイコドライバー……!」

「きみは生前、彼らと繋がりがあったのだったね、木原マサキ。いや、いまは秋津マサトか」

「まさか、ギシン星の神話に残る邪神!?」

「名答だ、マーズ。ズールがきみをこの地球に送り込んだのは、ぼくに対する攻撃だったようだね」

 

 ビッグ・ファイアは、ことここに至ってαナンバーズの前に姿を表した真意を明かす。

 

「イング。ガンエデン――、ナシムはきみを“アポカリュプシス”に対抗するための単なる戦力としてしかみていなかったようだけど、ぼくは違う」

「どういう意味だ?」

「きみの肉体は、ガイアーに残されたぼくの遺伝子データを基にして生み出された。BF団を通じてイーグレット・フェフに接触、提供することでね」

 

「肉体を失い、自由に動けないぼくの代役として地球を護ってくれたきみは、ナシムの撃破を以てついにサイコドライバーとして真に“完聖”を果たした。いまこそ、その肉体を召し上げるときが来たんだ」

「それではまるで……!」

「イングラム・プリスケンのようだと言いたいのかい、ヴィレッタ・プリスケン」

「! 貴様、どこまで知っている?」

「ふふふ……、さてね」

「私に、エンジェル・ハイロゥの攻略法を伝えたのも、その一環というわけですか?」

「そうだね、シュウ。諸葛亮を通じてきみやイングラムに策を与えたのもすべてはこのときのため、ぼくが現世に復活する布石だったんだ」

 

 ビッグファイアの語るイング誕生の真相に、一同は言葉を失う。

 

「外なる世界から招かれたきみは、この世界を支配する因果律、アカシックレコードには縛られない。そのきみをガイアーに取り込むことで礎にし、肉体を得て蘇ったぼくはこの地球に再び君臨する。言うなればきみは人柱なんだよ」

 

 ビッグ・ファイアは言う。それこそが真のGR計画、きみの存在理由だと。

 

「αナンバーズ。きみたちはよくやってくれたけれど、ぼくがこうして立ち上がった以上もはや用済みだ。完全復活した暁には、ナシムの残したガンエデンシステムにより改めて封印を施し、この地球に永遠の安寧と平和をもたらそう」

 

「ふざ――、ふざっけんな!」

 

 イングが激昂する。自身の生誕の真実を突きつけられても、彼の精神は折れなかった。

 積もりに積もった理不尽に対する憤りが爆発したのだ。

 

「テメェら、揃いも揃ってくだらねぇ御託並べやがって! お前らの都合なんか知ったことか! もう一度言ってやる、オレはオレだ!」

「その選択は愚かだ、イング。……しかたない、絶対的な力の差というものを教えてあげよう。G(ガイアー)R(リライブ)……七神合体!!」

 

 《ガイアー》を中心に不可思議な魔法陣が描かれ、現れた六神体が《ゴッドマーズ》と同様のプロセスを経て合体、完成する巨神――《ガンジェネシス》。ズール星にて建造された六神ロボの原型であり、言うなれば「()()()()()()()()」とも呼べる存在である。

 遙か昔、先史文明により《ガンエデン》と共に建造された創世の人造神。《ガンエデン》が惑星の守護神であるなら、《ガンジェネシス》は外敵を打ち砕く絶対の破壊神。地球、いや、宇宙最強の汎超能力者(サイコドライバー)ビッグ・ファイア――バビルの人智を越える超能力を十全に発揮させる、前人未踏の念動兵器だ。

 

 邪魔大王国、鉄甲龍、ガルファ、ガイゾック、ギシン星間連合、恐竜帝国、Dr.ヘル軍団、メガノイド、ゾンダー、ギガノス、リクレイマー、木星帝国、ネオ・ジオン――長きに渡った“封印戦争”、その最終決戦。

 封印を破ったαナンバーズと、封印から目覚めたビッグ・ファイアの戦いは熾烈を極めた。

 

「ぼくに従え、イング」

「う、がああああッ!?」

「お兄ちゃん!」

「イング! しっかりしろ! 私を倒したお前が、特Aエキスパート“ワンゼロワン”が情けない様を晒すなど許さんぞ!」

「――! ったく、お前にそう言われちゃ、負けてらんねーよな!」

 イングを操ろうとするビッグ・ファイアの強念を仲間たちの、そして何よりアーマラの声がはねのける。

 

「バビルお兄ちゃん、もう止めて! αナンバーズのみんなは地球を護ろうとしているのよっ!」

「イルイか。彼らを倒した後で、もう一度ナシムの器としてあげよう」

「!」

「そんなこと、させるわけねーだろ!」

 イルイの懇願を一蹴するビッグ・ファイア。イングがその態度に激怒する。

 

 無限にも思える無尽蔵のエネルギーと圧倒的なパワー、そして「マシン・セル」を彷彿とさせる化け物じみた再生能力を持つ《ガンジェネシス》を前に、αナンバーズは一人、また一人と脱落していく。

 けれども、彼らの攻撃が無駄だったわけではない。

 

「今だ! 合わせろ、竜馬、アムロ! 光子力を炎に変えろ! 食らえ、ファイヤーブラスタァァァァッ!!」

「俺の……、俺たちの想いがゲッターのパワーを引き出す! ストナァァァァッ! サァァァァンシャインッ!!」

「Hiーνガンダムは伊達じゃない! 行け、フィンファンネル!!」

 仲間たちの攻撃を呼び水にした《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《Hiーνガンダム》による決死の同時攻撃で《ガンジェネシス》が初めて揺らいだ。

 

「我が名はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト! 神を断つ剣なり!! ――チェストォォォォオッ!!」

「龍虎王が超奥義っ! 龍王破山剣ッ! 天魔降伏! ()ーーんッ!!」

「「ツイン・バード! ストラァァァァイクッ!!」」

「マニューバーGRaMXs! フィニィィイッシュ!!」

 

 すかさず《ダイゼンガー》、《龍虎王》、《ビルトビルガー》と《ビルトファルケン》、《ハイペリオン》がそれぞれの最大攻撃を叩き込む。

 そして、《ゴッドマーズ》の《ファイナルゴッドマーズ》が炸裂した。

 

「くっ、六神体が……!? ガンジェネシスを維持できない!」

「この瞬間を待っていたんだ! 来い、ブラックホールバスターキャノン!」

 

 仲間の援護を背に、イングは思念を発して空間に呼び掛ける。

 パージした《TーLINKレボリューター》による念動結界「サターン・フォーメーション」が《ガンジェネシス》を捉えた。

 空間を穿つ漆黒のゲート。重力格納空間から、巨大な砲塔が姿を表す。

 

「ヒュッケバインから受け継いだ力を……! 今こそ! 見せてやる!」

 

 空間を穿ち、姿を表す巨大な砲頭。

 《エグゼクスバイン》の最強兵器、《ブラックホールバスターキャノン》が投射された。

 

「超重獄に墜ちろ! ビッグ・ファイア!!」

「っ、まだ、六神体をやられただけだ……!」

 

 極小のブラックホールにより、完全に破壊された《ガンジェネシス》から《ガイアー》が分離した。

 

「イング、きみとの決着だけは着けさせてもらう!」

「なにっ……!?」

 

 大爆発の中から現れた《ガイアー》は、《エグゼクスバイン》に組み付くと諸共に念動転移する。

 

「イング!」

「お兄ちゃん……!」

 

 そしてアーマラとイルイの悲鳴を残し、両者は虚空に消えた。

 

 

   †  †  †

 

 

 BF団の本拠地、超古代文明の遺産「バビルの塔」。

 地底、地下深くに広がる巨大な空間で凶鳥と巨神が激突する。

 

「いい加減往生際が悪いぜ、ビッグ・ファイア!!」

『それはぼくのセリフだ、イング!』

 

 無数の光弾を放つ《ガイアー》。念動力により、まるで《ファンネル》のように飛翔して《エグゼクスバイン》を追い立てる。

 対する《エグゼクスバイン》の動きは精彩を欠いていた。

 Dr.ヘル軍団、リクレイマー、ネオジオンとの決戦から《ガンエデン》、《ガンジェネシス》と連戦を演じてきた機体はすでに限界に近く、全身至る所にガタがきている。サブコンソールにはエラー情報が飛び交い、警告音が耳を(つんざ)く。

 さらには《ガイアー》の性能も《ガンジェネシス》に負けず劣らず強烈だ。

 光弾の雨霰に、近接戦のエネルギー衝撃波。全身から超々高熱の炎を吹き出し、さらには念などのエネルギーを吸収すらしてしまう。

 それでもイングは諦めない。強くしなやかな心は折れたりしない。仲間たちのもとに帰るため、最強のサイコドライバーとの孤独な戦いを続ける。

 

『これでどうだ!』

「ぐあ……! ね、念動フィールドォォッ!」

 

 念動力による引力で引き寄せられ、至近距離で光弾を受ける《エグゼクスバイン》。

 イングは念動フィールドの応用で《ガイアー》を無理矢理引き剥がすが、ゼロに近い距離で光弾を叩きつけられたダメージは深刻だ。

 

「イングさん、これ以上は機体が保ちません!」

「まだだ、まだやれる! まだ終わりじゃない! 限界を超えたとき初めて見えるものがある、掴み取れる力が……! オレたちならやれるはずだ、エクス!」

「は、はいっ!」

 

 エクスの警告を退けて、イングは哮る。

 けしかけた《TーLINKレボリューター》は全て破壊され、《フォトン・ライフル》、《グラビトン・ライフル》もエネルギーを使い切るか喪失した。

 残った武装は数本の《ロシュ・ダガー》と《TーLINKセイバー》のみ。

 しかしイングの闘志はますます燃えさかる。ビッグ・ファイアはそんな彼に、疑問を呈した。

 

『イング。どうして、そうまでして戦えるんだ? きみを突き動かしているのは単純な正義感だろう。けれど、その正義感を向ける相手に、ヒトに命を懸けるほどの価値ない』

「だからどうした! アクシズを防いだ光を見ただろう! ヒトはそんなに捨てたもんじゃない!」

『あの暖かい光を創り出せるヒトが、同時に残酷で愚かな行為をいとも簡単に犯す。それは歴史が証明している。だからぼくはBF団を組織した。愚劣なるヒトが地球を滅ぼさないように、監視するためにね』

「じゃあ、そうさせないようにするさ。あんたを倒してな!」

『……。それでどうする、イング。所詮、きみの力はぼくの劣化コピー。オリジナルには勝てない』

「コピーがオリジナルに劣ると誰が決めた! 例え、お前から与えられたものだろうとも! この力、みんなの笑顔のために使うんだッ!!」

 

 決意が意志を動かし、意志が強念を生む。

 イングの念は魂の力。ビッグ・ファイアの肉体を基礎としたものであっても、結局のところは彼の意志の発露によるものでしかない。

 揺るがぬ精神と、確固たる信念が新たな力を呼び覚ます。

 

「唸れ、トロニウム・レヴ! Gストーンよ、おまえが無限の力を発揮できるというなら、オレの勇気を燃やして光り輝け!」

 

 《エグゼクスバイン》に搭載されたトロニウム・レヴが唸りを上げ、Gストーンが勇気を力に変えて輝く。

 それに伴い、イングの髪がまるで燃え立つように真赤(まっか)に染まった。

 

「アカシックレコードアクセスッ! 限界を超えろ、エグゼクスバインッ!!」

 

 まばゆいばかりの光を放ち、不滅の凶鳥が息を吹き返す。

 《TーLINKスライダー》の接続コネクタから念動力で形作られたブレードが出現し、機体全体が翠緑の光を帯びる。

 猛烈なエネルギーにより、紫黒の装甲が真紅に燃え上がる。その姿はまるで、かつての《ヒュッケバインEX》のようで――

 《ストライク・シールド》から《TーLINKセイバー》を引き抜き、《エグゼクスバイン》は限界を超越し、極限(エクストリーム)に到達した。

 

「オオオオ――ッ!!」

『速い……!?』

 

 光り輝く極限の凶鳥が、圧倒的なスピードですれ違いざまに《ガイアー》を斬り裂く。

 僅か一瞬の接触は、エネルギー吸収の隙を与えない。

 

『この念、ぼくを超えている……!? 無限力(むげんちから)を掌握しているとでも言うのか! これが“神なる世界”の者の力……! イング、きみは危険だ!』

「ようやくオレの存在を認めたな、ビッグ・ファイア! オレはお前の複製でもなければ、影でもない! ましてやお前の(にえ)になるなんて以ての外だ! オレは一人の人間として、地球人としてお前を倒す!  忘れるな、オレの名前はイング・ウィンチェスターだ!」

 

 乗機を一方的に切り刻まれて初めて狼狽を見せるビッグ・ファイアに、イングは決然と言い放つ。

 振り下ろされた《TーLINKセイバー》が《ガイアー》の左腕を断ち斬り、残った右手が放った光弾がそれを弾き飛ばす。

 

 それは死闘と呼ぶに相応しい戦いだった。

 激しい攻撃の応酬。天地を揺るがす強念の激突で、バベルの塔が悲鳴を上げる。

 そして……

 

「ヒトの世界にッ、お前(カミ)は――いらないッッ!!」

 

 ついに、イングの信念が込められた拳が、母なる大地の名を持つ巨神を貫いた。

 胸に風穴を空けられた《ガイアー》は、破損部を激しくスパークさせて空中に漂う。残った四肢はだらりと力なく垂れ下がっていた。

 

『み……見事だ、イング……。それで、こそ、ぼくが、後継者として見込んだ、男だ』

「何っ!?」

『こ、これで、ぼくも……心おきなく、因果地平の彼方に、無限力に逝くことができる……』

「ビッグ・ファイア、お前……そういうことか」

 

 イングは悟る。

 数々の艱難辛苦を与え、「イング」を後継者として育て上げる――それこそが、真のGR計画なのだと。

 最後に自らが試練として立ちふさがり、打ち倒されたことで目的を果たしたビッグ・ファイアは満足そうだった。

 

『イング……虫のいいことだけれど、最後にひとつだけ、頼みが、あるんだ……』

 

 譫言のように、ビッグ・ファイアはイングに語りかける。

 

『ナシムは……ぼくの、ほんとうの妹だった……。ナシムの血を色濃く、受け継いだイルイを……そして、彼女の愛した地球を、ぼくらの代わりに、護ってやって、ほしい……」

「わかった。イルイはオレの妹でもあるんだ。地球を護るのも、妹を護るのも、あんたに言われるまでもない」

『ふふ……、ありがとう、イング……』

 

 イングの素直でない物言いに、ビッグ・ファイアは微笑んだ。まるで憑き物が全て抜け落ちたような、安らかな笑みだった。

 

『ナシムの願いで……、ぼくらは、バルマーを離れた……。それ自体は、今でも、間違いだったとは……思わない。でも……、でもそのせいで彼が……ゲベルが、歪んでしまったのなら、ぼくは――』

 

 誰に語るでもない途切れ途切れの言葉には、ビッグ・ファイアの――バビルの深い後悔の念が込められていた。

 

『地球を、この宇宙の未来を頼む……バビル二世……』

「ああ。頼まれた」

 

 後継者に未来を託して、《ガイアー》が爆散する。

 《ガイアー》の残した光が粒子となって、《エグゼクスバイン》のTーLINKフレームに吸い込まれていく。

 地球を誰よりも愛し、ヒトを厳しくも愛おしんだファースト・サイコドライバーの最期だった。

 

「…………」

「イングさん……」

 

 暫し、黙祷するイング。エクスが気遣わしげにする。

 ビッグ・ファイアの――バビルの残した“(しゅくふく)”を受け入れて、“バビル二世”はここに完成したのだ。

 

「――帰ろう、エクス。みんなのところに」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――《ガンエデン》、《ガンジェネシス》という太古の念動兵器群に辛くも勝利したαナンバーズ。

 無事地球に降下したαナンバーズのメンバーにより、《ガイアー》とともに姿を消した《エグゼクスバイン》の捜索が続けられていた。

 

 だが、イングの行方は蓉として知れなかった。

 

 

 紅い《ビルトファルケン》に搭乗し、イングを捜索していたアーマラとイルイ。彼女たちは休息もそこそこに、懸命な捜索活動を続けていた。

 

「あ……!」

「この暖かい念は……」

 

 イルイとアーマラが何かに気づく。

 二人は顔を見合わせると、すぐに移動を開始した。

 

 慣れ親しんだ念を関知した場所に、《ビルトファルケン》が着陸する。

 ひざを突く《ファルケン》。コクピットを開き、アーマラはイルイを抱えて慌ただしく飛び降りる。

 そこは青々とした背の低い草花が生い茂る、なだらかな草原だった。

 

 武装の大半を失い、損傷も激しい《エグゼクスバイン》の足下に立つ、銀髪の少年の後ろ姿。傍らには、鮮やかなピンク色のマスコットロボが浮遊している。

 

「おにーちゃーんっ!!」

 

 抱き上げられていた腕をするりと抜けて、イルイが一目散に駆けていく。

 少年が振り向いて、彼女を迎える。

 アーマラは苦笑し、ゆっくりと歩いてその後を追った。

 

「イング」

「アーマラ」

 

 イルイを抱き上げ、言葉少なに自分を迎える少年――イングが、アーマラにはどこか大人びて見えた。

 

「勝ったのか」

「ああ。ビッグ・ファイアは……バビルは逝ったよ」

「バビルお兄ちゃん……」

 

 落ち込むイルイの頭を軽く撫で、イングが空を見上げる。

 雲一つない抜けるような青空には、燦々と光を振りまく太陽とオーガニック・エナジーの虹が瞬いていた。

 

「……勝手にこの世界に呼ばれて、訳も解らず戦争の中に放り込まれて……、始めは単純に怒りとか憤りとか、そういう感情で戦ってた」

 

 長いようで短い旅の記憶を手繰り寄せ、イングは述懐する。

 責任を感じているのだろう、イルイが腕の中で心配そうに見ている。

 

「ロンド・ベルの、αナンバーズのみんなと出会って、いつからかこの地球に愛着を感じるようになって。たくさんのヒトがいて、たくさんの命にあふれてて、たくさんの想いがあって……それを護りたいって思えるようになったんだ」

 

 そう思えたのも、イングが純粋だからだろう。

 英雄(ヒーロー)に対する憧憬は時として歪み、最後には身の破滅に変わることもあるのだから。

 

「自分が今ここにいる理由がわからなくても、それでもいいって思ってた。けれど……、オレにも託されたものがあった。ここにいる意味があったんだ」

 

 視線を落としたイングは、しばし口を噤む。

 

「オレは、ここにいる」

 

 そして瞼を開き、晴れ晴れとした表情で力強く言った。

 アーマラは、そんなイングの横顔を見つめていた。見惚れていたといってもいい。

 それは気高い戦士のようで、年相応の少年のようで――とても尊く思えたから。

 

「アーマラ」

「……」

「アーマラ?」

「んッ? あ、ああ! なんだ?」

 

 自分が惚けていたことに気付いたアーマラは、訝しげな視線に狼狽する。その頬は、薄く薔薇色に染まっていた。

 様子のおかしいアーマラに首を傾げつつ、イングは本題を切り出した。

 

「これから、地球、いやこの銀河には今までにない大災厄が訪れるだろう。それはこれまでの戦いとは比べものにならないほど辛く、厳しいものになるはずだ。そしてオレは、その戦いの真っ直中に行くつもりなんだ」

 

 それが託された願いだから。

 それが英雄(ヒーロー)の姿だから。

 それが誰にはばかることのない自分自身の望みだから。

 

 だからイングは命を懸けて戦うのだ。

 人々の志を束ねる希望の太陽として。終わらない平和を求めて。

 

「……それでも、オレと一緒に戦ってくれるか?」

 

 少しだけ弱気な顔を覗かせる。

 ふっ、とアーマラが笑う。いつものニヒルで、けれどもどこか背伸びをした表情は彼女のいつものスタンスだ。

 

「馬鹿者。私はお前のパートナーだぞ。そんなもの、言うまでもない。お前が嫌と言ったって、離してやるものか」

「お兄ちゃん、わたしもいるよっ」

「わたしとエグゼクスバインもお供します!」

 

 アーマラの勝ち気な宣言。健気なイルイとエクスが続く。

 

 彼らの頭上に、連絡を受けて集結したαナンバーズ艦隊と仲間たちの姿がある。

 心強い仲間に恵まれた自分の幸運に感謝して、イングは破顔した。

 

「行こう、終焉の銀河に。この世界を終わりにさせないためにも」

 

 

 

 

 





 やっとできた……。
 Zロスとギャラファイロスがつらたん……。



 カイザーさん「やっぱマジンガー…いいよね」
 クソコテ「いい…」
 ゲッペラ「號くん仕上がってんね。うちの艦隊にどう?」
 おっちゃん「ボンもそろそろ身を固めんとなぁ。おっちゃん心配でならへんで」

 カイザーさんは奥ゆかしいので、マジンガーの活躍の場を奪って俺ツェーとかしたりしません。空気を読んで大人しくしてました。
 クソコテは見習ってもろて。
 なお、ゲッターファイナルクラッシュはネオゲッターチーム搭乗時のみで、第二次だと真ゲッターは元祖ゲッターチームが乗った場合、武装が減って実質弱体化します。

 ちなみに、ゴーダンナーのラビッドシンドロームの下りは昨今の情勢を鑑みてカットしました。……ウソです、処理が面倒だっただけです。


 さておき、ようやくですが第二次まで消化することができました。
 残すところ、幕間のあとに本番の大惨事α(誤字にあらず)のみ。基本的にはこれまで通り加筆修正しただけですか、追加要素マシマシの完全版で今のところ第四次とF、F完くらいの違いになるかなぁと思う次第です。
 次回がいつになるかは不明ですが、気長にお待ちいただければ嬉しいです(。・ω・。)





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番外編「その名はバビル二世」

 

 

 超古代の遺産、あるいは未来的な建造物。

 “バベルの塔”――不可思議な砂塵に隠された秘密の場所。かつて、BF団の本拠地であったここに、イングとアーマラ、イルイ、エクスが訪れていた。

 油断なく辺りを見回すアーマラは後ろを振り返る。

 

「ここがバベルの塔……イルイは来たことがあるのか?」

「ううん、わたしはないよ。ナシムはすごく昔に、来たことがあるみたいだけど」

 

 エクスを抱えたイルイが答える。

 ガンエデン――ナシムの残留思念を抱えたイルイは、彼女の記憶を多少引き出すことができた。また、時折ナシムの意志が表に出て来ることもある。

 とはいえ、地球と宇宙の命運を今を生きる人類とαナンバーズに託したナシムは、イルイに寄り添うように在る言わば守護霊のようなものだ。

 イルイに害を為すわけではないとして、イングは現状を看過している。

 

 仲睦まじい姉妹のような二人の自然なやり取りに頬を緩ませつつ、イングは視線を上げた。

 かつては十傑集が集った、その場所で――

 

「さぁて、オレを呼びつけるとはいい度胸だな――諸葛亮」

 

 イングの見上げた壇上には、不敵な笑みを湛えた軍師の姿があった。

 

 

   †  †  †

 

 

 “封印戦争”が終わった。

 αナンバーズは解散、皆それぞれの場所に帰っていった。

 もとの生活に戻る者たちもいれば、広大な宇宙へと旅立った者たちもいる。

 オレとアーマラはと言えば、イルイを預かり、次の戦いに備えた仕込みのために世界中を駆け回っているところだ。

 ちなみに、《エグゼクスバイン 》はテスラ研でオーバーホール中。無茶させすぎだとロブに叱られた。反省。

 

 ビッグ・ファイアが倒れ、BF団が事実上消滅したことで国際警察機構の黄帝・ライセがどう動くかが懸念だったのだが、「この星の未来を頼む、バビル二世」と妙に殊勝なことを言われてしまった。オレとしては国際警察機構を抜ける覚悟をしていたくらいだったのに、拍子抜けだ。

 まあ、征服する地球が滅びてしまっては元も子もないものな。……ん?何の話だって?アカシックレコードに記された配役の話さ。

 

 

 アメリカ地区、デトロイト。

 かつての合衆国の重工業の中心地であり、宇宙に産業の舞台が移った今でもいくつもの有名企業が支社、あるいは本社を置いている。

 オレは、アーマラ、イルイ、エクスを連れて、とある兵器関連の企業を訪れていた。

 

「イング、こんなところに何の用だ?」

「んっ? まあ、行けばわかるさ」

 

 アーマラがもっともな質問をしてくるが、適当にはぐらかす。一から説明するのも面倒だし、何よりこいつが驚く顔が見たいってのが一番の理由だな。

 イルイはいつものようにエクスを抱えて、テトテトと後からついてくる。かわいい。癒される。

 

 ここに来た理由はわりと複雑で、単純だ。

 だいぶ前から仕込んでた()()()の確認ってとこか。あるいは懸念の払拭ってのもあるが、まあ、それはついでだ。

 

 受付嬢のおねーさん(金髪の美人だ)に話しかける。

 

「アポを取ってあるイング・ウィンチェスターだが。取り次ぎを頼みたい」

「アポって……お前、いつの間に」

 

 いいんだよ、そういうことは。

 

 呆れた様子のアーマラをスルーしつつ、おねーさんの問い合わせを待つ。 

 こういうことしていると、なんかオトナになった気がしてワクワクしてきた。こんな気分は、《エクスバイン》に初めて乗った日以来かもな。

 

 無事アポイントが確認されたので、案内されたエレベーターに乗る。

 と、しばらくして障る念を感じ取った。

 

「! お兄ちゃん……」

「イルイ、お前も感じたか」

「……何の話だ?」

 

 この吐き気をもよおす邪念を敏感に感じ取ったのだろう、イルイが背中にひしっと縋ってくる。さすが、バビル二世(オレ)と同格のサイコドライバーなだけはあるな。

 アーマラは気づいていないようだから、説明してやろう。端的にな!

 

「敵だよ、敵。ズール野郎さ」

「何っ!?」

 

 アーマラが血相を変える。

 と、エレベーターが目的の階に停止して、ドアが開く。

 するとそこには、明らかに堅気の者じゃない黒服のみなさんがずらずらと待ちかまえているじゃありませんか。

 

「おっと、手厚い歓迎ご苦労」

「馬鹿っ! 言ってる場合か!」

 

 それもそうだな。

 

「貴様っ、マーズの仲間のっ! どうやってここを嗅ぎつけたかは知らないが――」

「知るかボケ」

「――がはっ!?」

 

 リーダーらしき(というか、コイツが“アレ”だな)が何やらグダグダ喋っていたので、超能力で炎を纏わせた跳び蹴りをかましてやったら一撃で爆散しやがった。ふん、脆いな。

 

 アーマラが唖然とした。

 

「……おい、前口上くらい聞いてやったらどうだ」

「嫌だね。ああいう手合いは見つけたら即抹殺、サーチアンドデストロイが基本なんだよ」

「あれは害虫か何かか」

 

 害虫だろ。宇宙の。

 

「で、結局奴らは何だったんだ?」

 

 このオレの超能力に恐れをなして、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていく黒服どもを軽く見やり、アーマラが訊いてくる。さもあらん、だな。

 

「ゲシュタルト。ズール皇帝の配下にして分身体、奴そのものだよ」

「……! やはり、ズールは滅びていなかったのだな」

「ああ。オレたちが倒したのは単なる分身、偽ズールってわけさ」

 

 アーマラが愕然としている。

 まあ、あれだけの死闘を繰り広げたにも関わらず、倒せてないってんだからその気持ちは分かるが。

 まったくズールめ、ガンエデンと先代バビルが倒れたのを見て地球征服に乗り出したな。厚かましいし、いい面の皮をしてやがる。

 しかしな、こちとらナシムとバビルからの記憶封印が解けたんだ。ネタはだいたい割れてるんだぞ、と。

 

「つまり、奴の分身がこの地球でよからぬことを企んでいた、と」

「そゆこと。別に奴らがいると踏んでたわけじゃないが、予想はしてたよ」

 

 難しい顔のアーマラと受け答えしつつ、歩を進める。

 あれを駆除したのはついでなんだからな。 

 

 この企業の社長室。

 重厚なドアを開くと、そこにはパリッとノリの効いた水色のスーツを着こなす金髪碧眼の紳士(なお胡散臭い)がいた。

 その人物の顔を見て、アーマラが固まる。

 

「よおアズにゃん、元気してたか?」

「イング君、その呼び方止めてくれませんかネ?」

「ヤなこった」

 

 からかってるんだからな。

 思考停止していたらしいアーマラが、ここで再起動して声を上げる。

 

「ムルタ・アズラエル……! ブルーコスモスの盟主!」

「そういうあなたはアーマラ・バートン、“レディ・マグナム”としてその筋では有名なA級エキスパートですネ」

 

 顔をしかめるアーマラ。このおっさん、相変わらず人を食ったような物言いをする。

 ムルタ・アズラエル。「機動戦士ガンダムSEED」の登場人物、悪役だ。詳細はググれ。

 所詮は小物だし、汎超能力者のオレならいくらでも処理できる相手なのだが、一応一般人であるし、まだ犯してもいない罪で裁くってのは烏滸がましい行為だ。なので、以前からちょっぴりテコ入れしていた。

 つか、ぶっちゃけSEEDではわりと好きな部類のキャラだったり。相対的に、だけど。

 

 問答では埒が明かないとみて、我が相方はこちらに質問を振る。

 

「コイツが今日の仕事の相手だとはわかったが。イング、どういう関係だ?」

「ぶっちゃけて言うと、アズラエルは戦争の火種になるって前からマークしてたんだよ」

「いやはや、キミがこの執務室に突然現れたときは、寿命が縮むかと思いましたヨ」

 

 アズラエルがげんなりとする。テレポートで無断進入余裕でした。

 

 立ち話もナンだと、応接室に案内された。黒革のたっかそーなソファーはふかふかだ。

 秘書のおねーさん(やっぱり美人だ)がジュースを持ってきてくれた。デレデレしてたらアーマラに睨まれた。プリプリ怒っちゃって、なんなんだアイツ。

 

「で、今回の用件は“プラント”の?」

「それもあるけど、とりあえず、妙な連中が身辺に紛れ込んでたろ?」

「あー、彼らね。どうもボクに洗脳かなにかをしたかったらしいですケド、キミに先を越されて残念でした、って感じですネ」

「つまり、フリだけしてたってことね」

「イエス、と言っておきまショウ」

 

 不敵な笑みだ。食えんおっさんだ。

 イルイは退屈なのだろう、出されたオレンジジュースをちびちびと飲んでいる。かわいい。癒される。

 

「おい、イング。今、不穏な単語が聞こえたんだが?」

「洗脳ったって、ちょっと幼少期の心的外傷(トラウマ)を取り除いてやっただけだぜ? 一応、精神防壁も敷いといたけど」

 

 最初に接触したとき、コーディネーターに対するトラウマを催眠で風化させてやったのだ。

 当時から深い考えがあったわけじゃないが、ともかくこの男の末路が哀れに思えたのだろう。それが幸をそうしたな。

 

「まあ、それでもティターンズ並みのアースノイド至上主義だったんだが」

「「商人なら、異星人とだって商売してみせろよ。そんなだから、アナハイムやネルガルに後れを取るんだ」と言われまして。まさしく目から鱗が落ちる思いでしたヨ。蒙が開くって感じですかネ?」

「自明だろ?」

「仰る通りデ。銀河という巨大極まるパイを前に、思想心情で黙って指を咥えてるだなんて、ビジネスマンとして愚かと言わざるを得ませんネ。我ながらですケド」

 

 まあ、アズにゃんは比較的割りきれてる方だと思うけどな。

 つーか、このおっさんもだけど、たまに新西暦生まれのくせに、時代錯誤も甚だしい考え方をしてる奴がいるんだよね。ティターンズとかさ。

 これがアカシックレコードに記されたシナリオの内なのだとしたら、いけ好かない連中だ。まあ、オレに言わせれば、それすらも“神”の掌の内なんだが。

 

 ともかく、アーマラにひとつ経緯を説明してやろう。

 

「まず、プラントってのが何かは知ってるよな?」

「ああ。第一次木星探査隊のメンバー、ジョージ・グレンの告白により誕生した“コーディネーター”たちの住むコロニー国家だな。連邦政府、いや各サイドのスペース・コロニーからも半ば無視され、孤立している」

「正確に言えば、彼らに工業コロニー群を乗っ取られたんですけどネ」

「当時の連邦は宇宙開発やコロニー統治に忙しかったし、コーディネーターたちはいろいろな意味で厄介な存在だった。だから、プラントをなかったことにして無視を決め込んだ。実に英断だったとオレは思うぞ」

「しかし、かつての“巨神戦争”の最中、いわゆるジオン独立戦争ではジオンに陰ながら協力していたらしいが。潜在的脅威を放置していたのは失策ではないか?」

「それは、ザビ家がバルマー戦役で倒れてから発覚したことだろう? それだけプラントの連中は狡猾で節操がないのさ」

 

 む、とアーマラが唸る。

 イルイがキョトンとしてオレを見てきた。オレの言い分に驚いたらしい。

 

「で、そのプラントが地球に戦争を仕掛ける、と」

「地球というか、奴らの言う“ナチュラル”に対してだな。ここでゲシュタルトを見て確信したよ。間違いない、向こうでも奴らが暗躍してるのだろうさ」

「だが、何故今になって?」

()()()()()()()()()()には地球の強硬派により核攻撃がきっかけだが、そこはアズラエルの手腕に期待しよう。まあ、難しいだろうが」

「それがなくても連中(コーディネーター)のことですシ、「我らを虐げるナチュラルに正義の鉄槌を」とかなんとか、見当違いなことを言い出すんじゃありませんかネ」

「まるでジオンじゃないか」

「まるでじゃなくて、ジオンそのものだよ。いや、劣化ジオンかな? 何せ奴ら、自分らコーディネーターを“新人類”と称してるんだぜ?」

 

 ついにアーマラが絶句した。

 この新西暦、宇宙人と戦争したり友好したり、銀河に新天地を求めて旅に出る時代に何を戯けたことをとでも思っているのだろう。気持ちはよくわかる。

 たかが遺伝子をいじっただけで、何が新人類か。つーかあれ、単なる遺伝子の引き算であって、プルツーのような人体機能の足し算とはワケが違う。引き算だからおそらく念動力に類する超能力なんかは発現しにくくなるのだろうし。

 まあ、究極的にはプラントの連中が悪いわけじゃない。“神”の決めた枠組み、()()の中で躍ってるだけなんだからな。

 

「また、地球人同士で戦争なんて……」

「そうならないように、オレたちは今いろいろがんばってるんだろ?」

「うん……ありがとう、お兄ちゃん」

 

 声をかけて慰めてやると、イルイが微笑んだ。不謹慎だが、かわいい。癒やされる。

 しかし、もしそうなったら、クスハやカミーユ辺りは気を病むだろうな……。

 

「しかしイング、どうも辛辣じゃないか。お前らしくもない。コーディネーターは嫌いか?」

「このおっさんと違ってコーディネーター全体が嫌いなわけじゃないが、プラントは嫌いだぞ」

 

 アズラエルが「おっさんとは、心外ですネ」となどと首を竦めているが、無視無視。

 

「新人類名乗るなら、せめて生身で機動兵器解体してみせろってんだ」

「そんなこと出来るのはお前か十傑集くらいのものだ」

「わたしもできるよ?」

「む……」

 

 イルイの思わぬインターセプトにアーマラが押し黙る。忘れているようだが、ウチの妹様も完聖したサイコドライバーなんだぜ? 《ジムlll》くらいまでならサイコキネシスでペシャンコよ。

 まあ、まだプラントが事を起こしたわけじゃないから、今のところはオレの偏見でしかないが。……起きるんだろうなぁ、やっぱ。全力で阻止していくつもりだが。

 

「ともかく、方針は以前のままで?」

「ああ。ブルーコスモスの盟主として、主戦派を煽りつつ手綱をしっかり握っておいてくれ。くれぐれも、プラントに核ミサイルなんて撃たせてくれるなよ」

「努力しますヨ」

 

 これは期待してもいいかな?

 とはいえ、アカシックレコードの定めから逃れることは難しいかもしれないが。

 アカシックレコードに刻まれた「シナリオ」を逸脱しないように、それでいて運命に逆らう。

 アキトさんたちのときは、オレが甘かった。やるなら徹底的に、妥協はしない。手段は程々に選んで、最適でも次善でもなく最善を目指していく。

 とりあえず、SEED勢には「お前らの出番ねーから」の方針で行くつもりだ。

 フフフ……純粋な地球人勢力が、バビル二世(オレたち)に敵うと思うなよ。――ただ、懸念と言えば、ラウ・ル・クルーゼの姿を捕捉できないってことか。「ザフト」に在籍しているのは確認できたんだが、肝心の本人を見つけられないんだよなぁ。

 

「ところでイング君、ひとつ聴きたいことがあるんですガ」

「なんだよ、藪から棒に」

 

 アズラエルが話題を切り出した。

 こういう場合、内容によるけど受けておいた方が得策だ。まあ、オレの方にも()()()があるしな。

 

「なんでも、軍主導の「新型ガンダム開発」プロジェクトが進んでいる、というウワサが界隈に流れていましてネ。……ウチもひと噛みできないかな、ト」

「さすが、耳が早いな。つーか、ウワサとか言いながら断定口調じゃん? 誰から聞いたのよ」

「それはもちろん、ゴップ閣下ですヨ。先日お会いしたんですケド、その時イング君の名前を出したらコッソリ教えてくれましテ」

「あんの狸オヤジめ……まあ、ある意味あの人も関係者みたいなもんだけどさ。わかった、あとで「Re:V計画」の担当者を寄越すよ」

「「Re:V計画」……ああ、なるほど、たしかに閣下は無関係とは言えませんネェ」

「そういうこと。つっても、今さら参加してもロクに関われねえんじゃねぇの?」

「いえいえ。我が社はこれまで各種部品の供給などで携わってきましたガ、そろそろ本格的にMS事業に乗り出そうと考えていましテ。そのノウハウを得られればいいんですヨ」

「あー、GATシリーズ?」

「……いやまあ、そうなんですけどネ? 一応社外秘なんですよネェ、その話」

「それはほら、オレも伊達にエキスパートやってないからな」

 

 これ、原作知識で当てずっぽうじゃなく、ちゃんと裏取って言ってるからな。ワンチャン、SEEDが始まらないかもしれんと思って事前に調べてたんだ。

 

 閑話休題(それはさておき)

 「Re:V計画」ってのは、ゼ・バルマリィ帝国やギシン星間連合帝国を始めとした、外宇宙の敵対勢力に対抗することを目的とした超ハイエンドMS群の開発計画だ。

 これらは量産・コストを度外視し、現在の地球圏の技術の粋を結集したMSを連邦自身の手で産み出そうって試みなんだ。だから、現在のMSの分野を一手に牛耳るアナハイムにも一歩引いた形で関与させている。あそこは後ろ楯のビスト財団がいろいろと厄介だからなぁ……。

 

 MSというマシンの限界――延いては“ガンダム”の再定義を目的としたこのプランは、それらに縁の深いパイロットたちの専用機開発計画という一面を持っている。特に、名実ともに地球圏最強のニュータイプ戦士にして“巨神戦争”の英雄、アムロ・レイ専用の「究極のガンダム」の完成を目指としているわけだ。

 

 かつてアムロ大尉を軟禁していたこともある、ニュータイプアレルギー持ちの連邦らしからぬ計画が立ち上がったことにはもちろん裏がある。

 SRX計画で産み出された数々のスーパーロボット、その中でも“最強のマジンガー”《マジンカイザー》と“ゲッター線の化身”《真・ゲッターロボ》を危険視する意見は未だ根強い。その性能や意思を持つような挙動を見せることもさることながら、それらを操るのが“巨神戦争 ”の英雄ってのも彼らには厄介に思えるらしいな。

 そこで「目には目を、英雄には英雄を」と吹き込んだ()()()()が居たわけだ。

 

「まあ、それがオレなんだけどさ」

「お兄ちゃん、悪いひとなの?」

 

 オレの混ぜっ返した発言に、素直なイルイがキョトンとする。かわいい。

 アーマラは呆れ顔だし、アズラエルがヤレヤレと肩を竦めるジェスチャーをした。

 

 閑話休題(話を戻すが)

 オレは主にコンセプトとかデザインに口を出したが、実際に指揮を執っているのは()()の技術顧問の「Dr.BZ」だ。お約束的に奪われたりしたらドエライことになるので、国際警察機構とかその手ので守ってるわけだな。

 ああ、Zってついてるけど、黒のカリスマとかではないから安心してほしい。オレは別に本名明かしたっていいと思うんだけど、本人がオフレコにしてほしいって言ってんだよね。

 なお、ある意味計画のミソである「《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》と対抗・凌駕するガンダム」は開発が難航、頓挫している(個人的にはひじょーに残念である)。

 

 さておき、頓挫したナンバー00はともかく、アムロ大尉専用機の01、これは未来世界のマウンテンサイクルから発掘された《Hi-ν》を()()()()で再設計するプランだ。あれ、青い(HG)方のスタイルだったんだけどどうやら(RG)の方になるみたいだな。

 カミーユ機の02とジュドー機の03はZタイプに連なる可変機(TMS)。《Z》と《ZZ》(これはフルアーマーがあることにはあるが)もそろそろ型落ちというか力不足になってきたところなので、これを機会に二人専用のMSをということだ。それぞれ《デルタプラス》、《Zll》の発展機になる。

 これら「ガンダム」の随伴機になるRe:V-05/RGM-96X《ジェスタ》は一足先にロールアウトしていて、ロンド・ベルの《ネェル・アーガマ》で試験運用中だとか。元「ホワイトベース隊」のガンダム乗りを集めて、特殊任務群(デルタフォース)を結成したらしい。

 ユウ・カジマ少佐機、フォルド・ロムフェロー大尉機がランドセルを換装(《スターク・ジェガン》のあれだ)し、ビーム・シールドを装備した高機動型。ボルク・クライ中尉機はノーマルな仕様だが、ビーム・ダガー及びビーム・サブマシンガンを装備した白兵戦仕様。ユーグ・クーロ少佐、エイガー大尉はいわゆる《ジェスタ・キャノン》だが、こまかい仕様は別々だって話だな。

 意外なところでは、EWACタイプをクリスチーナ・マッケンジー(旧姓)女史が担当していることだろう。退役後にアナハイムに就職していた関係で、今回のプランに参加したらしいな。

 うーん、Gジェネかな?

 ネオ・ジオン系の技術陣が携わったRe:V-04/NZ-666《クシャトリア》は、そろそろ正規パイロットの手に渡る頃だろう。

 

 ちなみに、未来の機種を先取りしてるのは前述の通り完全にオレの仕業だ。デザインとか構造とかコンセプトとか書き起こして、1/100スケールのモデルも作って送りつけたからな。

 

 だが侮ることなかれ、見た目こそオリジナルと大差ないが実態は完全に別物である。

 例えば動力源が不連続超振動ゲージ場縮退炉×2だったり、装甲材がガンダニュウム合金とディマニウム系ガンダリウム合金の複合材だったり、さらにナノスキン処理によりメンテナンスフリーに近い状態だったり、完成型ミノフスキー・ドライブもあったか。あと、バイオ・センサー、バイオ・コンピュータ、総ディマニウム製()()()()()()()()()()を完備した超ハイエンドの名に相応しいバケモノMS群だ。なお、IFBDは構造上難しかったので不採用だし、フォトン・バッテリーやインビジブル・チタニウムも再現できなかった(当たり前だが)。

 ニュータイプ専用機にはそれに加えて、モビルトレースシステムとゼロシステム、フラッシュシステムのいいところだけを組み合わせて発展させた「インテンション・オートマチック・システム」をマン・マシン・インターフェースに採用している。

 ……うん、言いたいことはわかる。

 これらは専属パイロットに合わせて一から一〇〇まで調整してあるシロモノだから、()()()使()()()には非人道的なことにはならないとだけ言っておく。

 

 

「で、口利きの見返りってワケじゃあないんだが、国防産業連合理事としてのあんたに依頼があるんだ」

「おや、商談ですカ?」

「いんや」

「それは残念」

 

 またぞろアメリカンな仕草を繰り出すアズラエル。小癪な奴だ。

 ある意味、今回のアズラエルのもとに訪問した本題を切り出す。

 

「ハマーン・カーンを、今度新設される地球安全評議会の議員として後押ししてほしい。出来れば、ジオン共和国選出で連邦上院議会の椅子もあれば完璧だけど、さすがに時間がなぁ。ゴップ閣下の権力でごり押すわけにもいかんしね」

「ほう、あの鉄の女を……大丈夫なのですカ?」

「野心というか、連邦政府に対するくすぶりはまだ持ってるようだがな。それ以上に、シャアの代わりに地球の行く末を見るという意志の方が強いと思うぜ」

 

 封印戦争時やその後に、何度か面と向かって会話した印象だ。

 多少憑き物は落ちたみたいだけど、やっぱ苛烈でおっかないお姉さんなことは変わりない。……まあ、そこは仕方ないだろう。本人の持って生まれた気質だし、どこぞの赤い奴のせいだ。

 

「なるほど。ですが、ボクは宇宙の方にはそんなに影響力はありませんヨ?」

「マオ社とアナハイム、ネルガル重工に話は通してるから表だってはそっちが後援する。あんたには立場もあるだろうし、消極的支持、つまりは妨害しなきゃ何でもいい。ちなみに、本人もやる気があるみたいだぞ」

 

 ここに来る前、現在ドレル(行くところがなかった)を護衛代わりにロンデニオンへ身を寄せているハマーンさんに、このことを直接打診した。

 最初は大いに渋っていた(俗物となれ合いたくなかったらしい。子どもか)が、「平行世界には、連邦議会の議員になったキャスバルだっているんだよなぁ」などと煽ったらやる気になった。ちょろい。

 なお、我が家のかわいい妹様は友達とキャッキャうふふと戯れていた模様。かわいい。癒される。

 なお、ゴップ閣下とは水と油だから会わせない方がいいだろう。あっちはむしろ面白がるだろうけどね。

 

「ずいぶん手厚く便宜を図っているんですネェ」

「何だかんだ言ってあの人、美人だしな。綺麗なひとの力にはなりてーじゃん?」

「ほうほう、イング君の女性の好みはあのようなタイプだト」

「かもな」

「……」

 

 アズラエルの勘ぐりにノってみる。

 実際、結構タイプなのは否定しないが――って、

 

「イタッ! 何すんだよ!」

「ふんっ!」

 

 突然オレの腿を抓ってきたアーマラはぷいっとそっぽを向いて、プリプリと怒ってる。

 イルイとエクスがシラッとした目で見てくるし、アズラエルがやれやれと肩をすくめている。なんだってんだ、いったい。

 

「ところで、あの()()()からの妨害が予想されますケド」

「そこはあんたが何とかしなよ。得意でしょ、そーいうの」

「はぁ……ま、何とかしまショウ。キミには何かと便宜を図ってもらってますしネ」

 

 アズラエルは肩を竦める。こう言うからには何とかするだろう。

 まあ、《ドラグーン》、《ドトール》辺りの量産に噛ませてやった甲斐があるってもんさ。

 うむ。頼もしいことだな。

 

「しかし、なんと言いますか、今回のやり口はアナタらしくありませんネ。どなたか、アドバイザーでも付けましたカ?」

「んっ……まあ、な」

「おやおや? もしかして図星?」

 

 なかなか勘の鋭いことで。生き馬の目を抜く業界でのし上がってきたいっぱしの商人だけはあるか。

 オレはその“アドバイザー”との出会いを思い出し、ちょっぴりげんなりした。

 

 

   †  †  †

 

 

 黄緑色のデカいリボンがついた赤いベレー帽を被る、金髪ショートの幼女だった。

 

「――って、孔明ちゃんかよっ!?」

「あわっ、あわわ……!」

 

 あわわ軍師かっ!そこまでやるか!

 いかん、いかんぞ。奴のペースに乗せられてる。これが孔明の罠か。

 

「この子どもが諸葛孔明? 私が聞いた人相とはかけ離れているが」

「見た目に騙されるなよ、アーマラ。あれは確かに正真正銘、BF団のナンバー2、軍師・諸葛亮孔明だ」

「何……?」

「そ、その通りでしゅ……です。あわわ、噛んじゃった」

 

 噛むところまで再現してんのか。あざといなっ!さすが孔明あざとい!

 つーか、その姿の情報ソースはどこからだよ。

 

「あれの正体は、このバベルの塔を管理する超高性能コンピュータ、その対話用アバターだ」

「なるほど。故に姿形も自由自在、と」

 

 アーマラが納得したように頷いた。

 気を取り直し、諸葛亮を問い詰める。

 

「で、諸葛亮。とりあえず、何でそんな格好をしてるのかを話せ」

「はい。ご主人さまの知識の中に、私がお仕えするのに相応しいものがありましたので。……えっちいのはいけないとおもいましゅ」

「失礼なこと言うなっ」

 

 情報ソースはオレかっ!

 

「あわわ。以前のアバターよりも、こちらの方がご主人しゃまもうれしいかと思いまして。あわわわっ」

「余計なお世話だよっ!」

 

 まあ、むさ苦しいおっさんよりはかわいい女の子の方が遥かにマシだが。

 

「……」

「なんだよ、アーマラ」

「ふんっ」

 

 指すような視線を感じて、後ろを向く。

 なんか、相方さんが急にご機嫌斜めなんだけど? 意味わからん。

 

「まあ、いい。で、本題は?」

 

「はい」と答えた諸葛亮は居住まいを正し、刃のように鋭い視線を投げかけてくる。やはり、さっきまでの拙い振る舞いは擬態か。

 

「ご主人さま……いえ、()()()()()。あなたはこれからいったい何を為すのでしょう?」

「……」

「先代から受け継いだその神にも等しい力を、あなたは何のために奮うのです? 富? 名誉? それとももっとほかの何かかもしれませんが」

「……確かに、この力を使えばどんなことだって叶えられるかもしれないな」

「はい。そしてあなたはバビル二世、この()()()()()とその戦力をも継承しているのです。世界を支配するのも、滅ぼすのもあなたの意思一つ」

「なるほど、ね」

 

 諸葛亮を囲むように、みっつの影が姿を現す。

 地を走る黒豹、アキレス。

 空を飛ぶ怪鳥、ガルーダ。

 海を行く巨人、ネプチューン。

 ――ビッグ・ファイア三つの護衛団。《ガンエデン》のクストースに対応する《ガンジェネシス》、バビルのしもべだ。

 αナンバーズとの決戦に持ち出してこなかったのはやはり、オレにあれらを引き継がせるためだったか。

 

 背中にアーマラとイルイからの視線感じる。ったく、オレがそんなに信じられないってのか?

 

「だけど、オレが憧れた存在は、なりたかったものはそうじゃない。彼らは……物語の中のヒーローたちは、見返りなんて求めてなくて。目には見えない大切な何かのために戦っていたんだ」

 

 幼い日にみた鮮烈な記憶。

 一番のヒーローが誰かなんて、決められない。だってオレは、どんなヒーローだって大好きだったから。

 今はもう会えない両親に、幼いころのオレはしきりに「ぼく、大きくなったらヒーローになるんだ」って言っていた記憶がある。いつだって憧れたヒーローに恥じることがないように生きてきたつもりだ。

 

 普通、そういった憧れは成長するうちに現実を知って薄れていくものだろう。所詮、幻想は幻想でしかないのだから。

 けれどオレはまだまだ子どもで、そういう夢みたいな憧れを捨てるにはいろいろと足りてなかったし、捨てるつもりもなかった。

 そりゃ、あの平和な世界で「世界の危機」と戦うことなんてありえない。だいたいオレは十把一絡げの平凡な高校生で、ゲームとかアニメとか特撮とか、そういうので夢を疑似体験してる――きっとどこにでもいるような奴だったと思う。

 だけど、ここでは違う。

 憧れたヒーローたちみたいになれる。いや、ならなくちゃいけないんだ。

 

 この手には贈られた力がある。

 この胸には託された願いがある。

 この背には背負った未来がある。

 

 だから――

 

「オレは“運命”と戦う……そして勝ってみせる。戦えない全ての人たちの代わりに、オレが戦うんだ」

 

 地球の平和を守るため。

 世界の未来を拓くため。

 どんなにツラい戦いも、仲間たちとなら乗り越えられる。

 

「オレはヒーローになりたい。正義の味方なんて陳腐なものじゃなくて、ただヒトを、命を、世界を救うヒーローに」

「まるでガキだな」

「ガキで悪いかっ! オレは子どもだ、子どもでたくさんだ」

 

 なんだかなま暖かい視線を向けてくる相方に言い返す。

 アーマラめ、せっかくいいこと言ったってのに横から茶々入れやがって。お前、口では憎まれ口叩いてるけど気持ちはだいたい裏腹だって知ってるんだからな。

 

「わたしは、ステキな夢だと思うよ?」

「ありがとう、イルイ」

「イングさんならなれますよ、絶対!」

「エクスもありがとうな」

 

 優しいイルイとエクスは撫でてやる。素直じゃない相方さんとは大違いだ。

 改めて、諸葛亮に向き直る。

 

「そういうわけだ諸葛亮、いやバベルの塔。お前のその頭脳、平和のために使え」

「それがご主人さまのお望みなら」

 

 こちらの意志など最初からお見通しだったのだろう、諸葛亮の表情は澄ましたものだ。

 諸葛亮は一礼すると壇上から降り(背がちんまいからだろう、その際かなり難儀してアキレスに助けられていた)、いそいそとオレの後ろ、右手側に立つ。

 あれか、主より頭が高いのは臣下的にナシなのか。右腕アピールなのか。

 

 振り返る。

 そこには、口は悪いが頼もしいパートナーと、賢くかわいい妹と、素直で心強い相棒。それから腹黒いが頭の切れる参謀がいた。

 ふ、と口元には自然に笑みが浮かぶ。

 

 コイツらとなら、できるかもしれない。夢みたいな理想も、実現できるかもしれない。

 

 オレは、ぜんぶ一人で出来るって思い上がるほど馬鹿じゃない。

 仲間が欲しい。

 特別な力なんてなくたっていい。同じ理想を抱いてくれる仲間が欲しいんだ。

 

 ヒーローたちだって一人で戦ってたわけじゃないんだ。

 少なくない仲間に支えられて、時にはヒーロー同士が垣根を越えて力を合わせて、巨悪を打倒することだって珍しくないんだから。

 

「さあ、新生BF団の旗揚げといこうじゃないか」

「新生BF団、か。イング、その活動理念、大目的はなんだ?」

「そいつはもちろん――」

 

 アーマラが問う。

 オレはニヤリ、と笑みを返した。

 

「――宇宙の平和、さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極彩色の闇の中――

 

 豪奢な飾りがされた白き衣を身につけた金髪の少年が、反転した五芒星(ペンタグラム)と逆さまの大樹が描かれた巨大な漆黒の玉座に微睡む。

 その前には、五つの不可解なオブジェクトが浮かんでいた。

 

 ――宇宙とそこに存在する星々とを写し出した空間のスクリーン。

 

 ――天突く意思が如く螺旋渦巻く風の三角錐。

 

 ――煌々と燃え盛る文明の証たる火の篝火。

 

 ――大小さまざまな生命を育む透き通る水の球体。

 

 ――大自然の息吹きを感じさせる苔むした土塊の石柱。

 

 

 スクリーンを中央に、左右にそれぞれ三角錐、篝火、球体、石柱か並ぶ。

 

 

 気の狂いそうな冒涜的で狂気めいた闇を孕むこの領域の主たる金髪の少年が、ゆっくりと口を開く。

 

「――時は満ちた」

 

 造りのいい唇が笑みを形作る。

 アルカイック・スマイル。ゾッとするほど無垢で無邪気で。それでいて無慈悲な――

 それは嘲笑だった。不完全な世界で生に足掻く、生きとし生けるもの全てに対しての。

 

 

「“空滅”のセルツ・バッハ」

 

 

 少年の声が闇に響き渡り、中央のオブジェクト、空間のスクリーンがひび割れ、甲高い――悲鳴のような――音が宇宙に響いて砕け散る。

 砕かれた破片が消え去ると、そこには白い鉄仮面と甲冑を身に着けた魔人――そう形容するしかない存在がいた。

 魔人がその鉄兜の奥から不吉な声を発する。

 

 

『漸くか。待ちわびたぞ』

 

 

 白き絶望の魔人――セルツ・バッハ。

 宇宙を二分する正負の裏側、絶対悪の化身にして権化。宿敵たる“勇者”との戦いに敗れ、しかし並行宇宙規模で高まる負念(マリス)の影響で封印から甦った邪悪なる精神生命体の足元で、闇色の冷たい炎がチラチラと揺らめいていた。

 

 

「“風滅”のアンチスパイラル」

 

 

 少年の声を合図にしたかのように、渦巻く風の三角錐が不意に逆巻き、黒く黒く染まっていく。

 逆回転をした黒い風はついには四散して、まるで虚無がより集まったかのような漆黒のヒトガタを形作った。

 ヒトガタは、微動だにせず機械的に淡々と告げる。

 

 

『全ての準備は整っている』

 

 

 停滞と虚空の化身――アンチスパイラル。

 無限に拡大する可能性という“力”による事象の崩壊を回避するため、全てを捨て去って負念(マリス)に呼応した番人は、それだけを告げて静かに沈黙していた。

 

 

「“水滅”のマリアンヌ」

 

 

 その呼び声が異変を起こす。

 生き物が急速に死に絶えた水の球体がブクブクと泡立ち、どす黒く濁っていく。そうして濁った汚水が霧散して変じるのは、仕立てのいいオレンジ色のドレスを身に纏った黒髪の美女だ。

 女は髪をかき上げ、妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

『フフフ……あの子たちに会うのが、今から楽しみだわ』

 

 

 独善と欺瞞の貴婦人――マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。

 ()()()()()()()()()を望んで世界的な混乱を招き、最後は自らが産んだ子により消し去られた魂はしかし、負念(マリス)を受けて再び現世に舞い戻った。

 前髪から垣間見えるその額には、()()()()()()()()()()()()()()()が輝いていた。

 

 

「“地滅”のラウ・ル・クルーゼ」

 

 

 突如として、苔むした土塊のオブジェクトに亀裂が入った。

 亀裂から黒い障気を吹き上げ、醜く腐り落ちる岩塊より歩き出たのは、白い軍服に身を包んだ長い金髪の男だ。

 男は懐から取り出した灰色の仮面で顔を隠し、皮肉げに口角を吊り上げた。

 

 

『さて、どうなることやら』

 

 

 仮面の煽動者――ラウ・ル・クルーゼ。

 すべてが収束する因果地平の彼方を垣間観て。しかし、“ニュータイプ”(ニュヒトの革新)に類する全ての能力・思想・概念を根底から否定して負念(マリス)の使徒と化した男は、迫る大乱の気配に心踊らせるかのようにうすら寒い潜み笑いを溢した。

 

 

「――……そして、」

 

 

 パチパチと音を立てて燃え盛る火の篝火が突如、勢いを増した。

 赤々とした炎の内側から、どす黒い炎が噴き上がったかと思うと、それが瞬く間に赤を塗り潰していく。

 暴力的なまでの火勢は、篝火それ自体をも燃やし尽くしてついには焼失した。

 

 

「“火滅”のプロイスト。よく来てくれたね、歓迎するよ」

 

 

 焼失した跡には、桃色の髪の少女が立っていた。

 均整の取れただが丸みの帯びた身体に、綿を思わせるきめ細やかな桃色の髪。滑らかだが、血の気のない白い肌にはタトゥーのような紅い印が刻まれていて――それすらも彼女の美しさを際立たせるアクセントでしかなかった。

 一見して気品を漂わせた酷く美少女であるが、この場に現れたことからもわかるように尋常なものではない。――そもそも、この者に()()()()()()()()()()()()()

 

 

『わたくし、あなた方のお仲間になったつもりはありませんけれど』

 

 

 暴虐と圧制の支配者――次大帝プロイスト。

 上品さのある言葉遣いで、だが居丈高に告げる彼女を甲冑の魔人と黒いヒトガタは無関心に、仮面の男と黒髪の貴婦人は面白そうに眺めている。

 そして、少年は不躾な物言いにも朗らかに笑って見せた。

 

「まあまあ、そう言わずにさ。キミにもメリットのある話だろう?」

 

『ふん……。あの忌々しい大空魔竜戦隊と勇者特急隊を叩き潰すために、利用しているだけですわ』

 

「ふふ……キミはそれでいいよ。また邪悪獣や魔界獣、機械化獣を送っておこう。――さて」

 

 少年がふと虚空に手を指し示す。すると、混沌とした闇の中にひとすじの光が生まれた。

 破滅と死の気配が溢れたこの空間に似つかわしくない生命の輝き。

 無数の星々を抱いて渦巻く蒼き銀河宇宙の一角――そこには、()()()()()が重なるようにして映し出されていた。

 

 

「――ここに“風”(意思)“火”(文明)“土”(自然)“水”(生命)、そして“空”(宇宙)……今あるこの不完全な銀河(セカイ)を構成する五つの要素、その尽くを滅ぼす“滅尽五将星(ペンタグラム)”が揃った」

 

 

 負念(マリス)の源にして、銀河宇宙の半分を統べる(みかど)たる少年は五名の同志を見渡し、腰かけていた玉座からゆっくりと立ち上がる。

 その小さな動作だけで、三千大千世界が末期(まつご)の悲鳴を上げるようだ。

 

 魔法的な守護を現す五芒星はしかし、反転すれば悪しき魔を象徴とする。

 生と死、善と悪、表と裏、正と負――この世の理に叛逆し、この世の理を手中に納めとする輩に相応しい印だと言えよう。

 

 

「始めようじゃないか。――運命(すべて)を手にするのはボクたちだ」

 

 溢れる負の想念。極彩色の闇が鳴動する。

 背後、混沌とした空間の奥深くで胎動する巨大な()。少年の声変わり前のそれに重なりあうようにして、別の声が響いた。

 その声は永い旅の果てに疲れ、老いた老人のように――だが、力強くどこまでも響く荘厳な(くろがね)の巨城を思わせた。

 

 

「我はまつろわぬ霊の王にして、あまねく世界の楔を解き放つ者なり」

 

 

 ひとつは、宇宙に人工の大地(コロニー)が無数に浮かぶ“闘争”の地球。

 幾つもの思惑と因果が混じり合い、終わりのない闘争が続くこの星で、戦禍の火種が幾つも燻る。

 仮面の男がそれを見てニヤリと嘲笑を浮かべた。

 

 

「全ての剣よ、我の下へ集え」

 

 

 ひとつは、巨大な人工の輪(オービタルリング)が取り巻く“革新”の地球。

 血で血を争う抗争を乗り越えて革新を迎えたこの星には、彼方より飛来する銀色の危機が迫っている。

 黒髪の貴婦人がそれを愉しげに見守っていた。

 

 

「かの者達の意志を、そのしもべ達を、あまねく世界から消し去らんがために」

 

 

 ひとつは、周囲には人工物が見られない“調和”の地球。

 誰もが平和な時を謳歌し、一見して調和の取れたこの星でも危機は密かに、だが確実に迫っていた。

 黒炎の支配者がそれを不愉快そうには眉をひそめた。

 

 

 ――それら重なりあった地球は確かに別々だというのに、不思議と僅かのズレもなく同時にそこに存在していた。

 

 

「我が名は霊帝……全ての剣よ、我の下に集え」

 

 

 

 その声を最後に、五人の人影は極彩色の闇に溶けていった。

 残されたのはただ一人――幾億万周期の果て、那由多の彼方を流離い、限りの無い負念(マリス)を湛えた究極の闇、ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――来たのか!

 

 

 ――遅ぇんだよ!

 

 

 ――待ちかねたぞ、少年!!

 

 

 

 ――刹那が来た! 後もう少しだ、一騎!

 ――ああ! 

 

 

 ――ったく、刹那のクセにいつまで待たせてんの!  気合入れるわよ、気張りなさいヴィルキス!

 

 

 ――カレン、ゼロ! 俺たちで刹那の、ガンダムの路を開くんだ!

 ――わかったわ、ライ!

 ――了解した。……ルルーシュの遺したこの平和を、無くさせはしない……!

 

 

 

 ――刹那……! イオリアの理想が実現する時なのか……! 私たちも続くぞ、ファディータ!

 ――はい! ルシファード、メーザー・ビット展開します!

 

 

 

 

 

 

 

 ――行けッ、少年! 生きて未来を斬り拓け!!

 

 

 ――少年! 未来の道先案内人はこのグラハム・エーカーが引き受けた……!

 ――これは死ではないッ……!

 

 

 

 ――人類が生きるための……ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※最後の辺りは、脳内で「FINAL MISSION~QUANTUM BURST」を流しながら読むとコラサワの台詞も聞こえてくるかもしれません。



 ついに正体を現したウルトラやべーやつら!
 その名も「滅尽五将星」!。暗黒四天王とかダークネスファイブ、かつての春映画めいたスーパーヴィランの集まりです。スパロボ的にはラストバタリオンかな?
 前にも書きましたが、これをやりたかったがために加筆版を始めた面もあります。ヒーローがチームアップするんだから、ヴィランもしたっていいよなぁ?

 名前の由来は新大陸の自浄作用こと某ネギ君。将星の方はビッグ・マム海賊団から……ではなく、語源の方。αって何気に中華要素結構あるので。
 なお作者はスイッチ難民な模様。同梱版が手に入らなかったんや……(T_T)


 ちょっとした解説。


 ■セルツ・バッハ
 
 勇者シリーズ版スパロボなゲーム「新世紀ロボット戦記ブレイブサーガ」のラスボス。
 ほんへ終了後なので、セルツ名義ですが実態は真グラン・ダークと言って差し支えない存在。今回、各地球には主人公に当たる存在が設定上それぞれいて、ブレイブサーガの主人公はその一人。その大敵かつ霊帝とは同格の負の無限力の同盟者です。


 ■クルーゼ、マリアンヌ、プロイスト、アンチ・スパイラル

 個別の扱いをお出しするのはまだ早いのでいっしょくたにして説明しますが、セルツ以外の四人は「2000年代のロボットアニメ」の敵として幹部に選んでいます。
 もともといたクルーゼ、プロイストは「ガンダム」枠と「東映」枠。マリアンヌ、アンスパがそれ以外の「リアル系」枠と「スーパー系」枠という感じですね。
 今回は無限力(と作者)が自重しないバージョンなので
、こやつらも基本的に魔改造されることになります(アンスパ以外は)。


 ■幼年期の終わり

 別の地球の雰囲気を感じてもらうための超ダイジェスト、もしくは1話前のプロローグマップってところでしょうか。無限湧きするエルス相手に規定ターンまで耐えるみたいな。
 ちなみにこれは、次話の冒頭部分をコピペして張り付けてみました。いわゆるエンディング後のCパート的な? 惹きにしたら受けるかなと思って……(*・ω・)

 え? またなんか知らないやつがいる? なんのことだべか~?(すっとぼけ)
 なお、主人公ポジションのセリフもちゃんとあったりします。



 さておき、ついに大惨事(誤字にあらず)までたどり着いたわけですが、更新速度はご覧の有り様です。
 年度末のクッソ忙しい時期はなんとか過ぎましたが、αlllは加筆じゃ済まない内容なので時間がかかると思われます。やりたいこともありますので。
 まあ、ぼちぼちチマチマと進めていくのでどうぞよろしくお願いします。

 とりあえず、シンエヴァを観に行かなきゃ……!!


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αlll-1「DELTA RUNE」







 

 

 

 

 

 ――来たのか!

 

 

 ――遅ぇんだよ!

 

 

 ――待ちかねたぞ、少年!!

 

 

 

 ――刹那が来た! もう少しだ、一騎!

 ――ああ! 

 

 

 ――ったく、いつまで待たせてんの!  気合入れるわよ、気張りなさいヴィルキス!

 

 

 ――カレン、ゼロ! 俺たちで刹那の、ガンダムの路を開くんだ!

 ――わかったわ、ライ!

 ――了解した。……ルルーシュの遺したこの平和を、無くさせはしない……!

 

 

 ――刹那……! イオリアの理想が実現する時なのか……! 私たちも続くぞ、ファディータ!

 ――はい! ルシファード、メーザー・ビット展開します!

 

 

 

 

 

 ――行けッ、少年! 生きて未来を斬り拓け!!

 

 

 ――少年! 未来の道先案内人はこのグラハム・エーカーが引き受けた……!

 ――これは死ではないッ……!

 

 

 ――人類が生きるための……ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 封印戦争から約一ヶ月。

 途切れることのない砂嵐に閉ざされた超古代遺跡、バベルの塔――かつてはファースト・サイコドライバー、バビルの眠っていた場所であり、悪の秘密結社BF団の本拠地でもあった場所だ。

 現在はバビルの後継者、「バビル二世」ことイング・ウィンチェスターとその仲間が住まう彼らの本拠地である。

 

 新しく整備された居住スペースの一室。朽ちた外観とは裏腹に、航宙艦の内部を思わせる近未来的な内装の広々とした部屋。

 銀髪の少年――このバベルの塔の現在の主である“バビル二世”、イングは自室の執務机で資料を読みふけっていた。いつものクロークはハンガーにかけ、半袖状のボディスーツを身につけている。

 その傍らには、漆黒の毛並みを持つ大きな豹、バビルのしもべ、アキレスが静かに侍っている。

 

「ラダムどもは居るのに、アイバ一家が存在しない……」

 

 「ラダム樹」と呼ばれる侵略機構についてのレポートを読みつつ、イングは眉をひそめた。

 必要な登場人物(因子)が足りない。大事な主役(Dボゥイ)がいないのに、ラダム獣(敵役)だけはいるとはどういうことだ。

 

「この宇宙に、「ブレード」の因子は含まれていないのか?」

 

 ――いえ、それは早計かと。

 

「だよなぁ?」

 

 アキレスが思念によって主人の楽観を咎めた。

 原因と結果は常に=だ。例え結果が偶然の産物に見えても、必ず原因は存在する。逆もまたしかり。それがこの宇宙の摂理である。

 ラダムという原因があるなら、必ずやその()()は存在するのだ。

 

「ったく、こちとらただでさえ取れる手段が限られてるってのに、手も目も届かないところで悲劇を積み重ねられるとな。……さすがに参るぜ」

 

 ――心中御察しします。

 

 外なる世界――神の領域からの視点を持つイングは、その肉体に備わった資質と相まって高い精度で未来を予知・予測できる。

 だが、あまりにも大規模で強引な因果への干渉は、無限力のみならず“番人”からの攻撃をも誘発する。故にイングは封印戦争後、可能な限り()()()()に沿った事象の改変に努めてきた。

 力を持ちすぎた弊害というべきか、今のイングは無限力に監視されており、かつてテンカワ・アキト、ミスマル・ユリカ夫妻を救ったときよりも身動きが取りにくい状態が続いていたのだ。

 

「ご主人しゃま……さま!」

 

 不意に扉が開き、少女が飛び込んでくる。諸葛亮孔明――このバベルの塔の制御コンピューター、その対話用アバターである。

 イングが顔を上げた。

 

「ん、孔明か。どうした、そんなに興奮して」

「当該宙域に、クロスゲート出現に伴う次元震を関知しましたっ」

「! ……ついに、か」

 

 火急の報告に、イングは目を伏せる。

 

「ですが、これで我々も本格的な活動を開始できるということでしゅ……です」

「無限力の……イデの試しが始まった今なら、シナリオに対する直接的な干渉も出来るんだな?」

「はい。出来るかどうかは別にしても、運命にあらがうことは()()の望みでもありますから」

 

 主の問いに軍師はすらすらと解答する。

 僅かに考える仕草をするイング。その脳裏には、ここ一ヶ月の間に観測、準備した“因子”が思い浮かぶ。

 因子とはすなわち“因”、『直接的原因』であり、『間接的条件』、“縁”との組合せによってさまざまな『結果』、“果”を生起する。アズラエルとの接触と介入はそのうちの“縁”に当たり、アカシックレコードに記された因果(シナリオ)を変化させる波紋となりうる。

 さまざまな運命が交錯するこの宇宙には、本来ならあり得ない因果が頻繁に発生する。しかし、変えることが困難な定めというものも思いの外多い。

 イングは、そういったアカシックレコードの“絶対運命”を覆そうと足掻いているのだ。

 

「クロスゲートの出現とともに、境界面より大破したヱクセリオン級が現れたとのこと。バルマー戦役で撃沈した一番艦ヱクセリオンだと思われます」

「予想通りだな」

「それと……」

「それと?」

 

 主の質問に、切れ者軍師はらしくなく言い淀み、ややあって口を開いた。

 

「――金属生命体らしき存在と、フレームが剥き出しとなった青い“ガンダム”が確認されましゅた、あ、噛んじゃった」

「ぶはっ!?」

 

 

 

 小一時間後。

 一通り“無限力(イデ)”に対する罵倒を吐き出して落ち着いたイングが、改めて孔明に問う。

 

「孔明、ガルーダとネプチューンは?」

「“Dr.”の協力の下、鋭意改修作業中です。当面、ご主人さまの護衛がアキレスだけになってしまいますが……」

「んー……ま、アキレスがいれば十分だろ」

 

 孔明の懸念に、イングはあっけらかんと答えた。もともと彼は、深く物事を考えない楽観的な質であるし、自分としもべの力を信じている。

 そのアキレスだが、相も変わらず主の足元に寝そべっている。

 

「んじゃま、相方さんと妹様を呼びに行くかな。孔明、アキレス」

「は、はいっ」

 

 立ち上がった主に従い、軍師としもべが続く。

 テンプレートな執事風の青年男性(イケメン)に姿を変えたアキレスは、トレードマークとも言える黒いクロークをハンガーからとって、腕時計型通信端末を装着するイングに着せる。

 当初は嫌がっていたイングも、最近は素直に着せられている。諦めたとも言う。

 

 

 バベルの塔、格納エリア。

 オーバーホールを終え、返還された《エグゼクスバイン》と《ビルトファルケン・タイプL》がメンテナンス・べッドに横たわっている。

 また、奥のスペースには六〇メートル弱の真紅(あか)く厳めしい特機(スーパーロボット)が鎮座していた。

 

「クロスゲートとが現れれば、また戦争が始まる……そうなんだな、イルイ」

 アーマラが、いつものように腕を組んだ挑戦的なポーズでクールに立っている。

 

「うん……宇宙が、銀河がざわめいてるの……」

 一方イルイは、儚げな容貌に微かな怯えを浮かべて言う。

 

「だいじょぶですよ、イルイちゃん。イングさんとアーマラさんがなんとかしてくれます」

 イルイに抱えられたエクスは、いささか脳天気な発言で勇気づけていた。

 

 少女とロボットの微笑ましいやりとりをちらりと見やり、アーマラはイングに向き直る。

 

「しかしイング、やはりイルイまで連れて行くのは危険ではないか?」

「このバベルの塔の防御システムを疑ってるわけじゃないが、オレたちの手元に置いといた方が何かと安心だって」

「だが……」

 

 イングに諭されるアーマラの表情は苦い。存外、妹分には過保護なようだ。

 

「つーか、バルマーの連中には塔の存在はバレてるんだろうし、事実何度か探りに来てんのはお前だって知ってるだろ。そんな場所に留守番なんてさせられるかよ」

「む……」

 

 イングの指摘にアーマラが黙る。

 バルマーと思わしき集団に対しては、あえて姿を見せず静観に努めてきた。未だ彼ら新生BF団の存在を掴ませるわけにはいかないのだ。

 

「ありがと、アーマラ。わたしのこと、心配してくれてるんだよね」

「んっ、ああ」

 

 イルイの屈託のない笑みを前に、アーマラはバツが悪そうにそっぽを向く。その耳は真っ赤に染まっていた。

 こういうところはかわいいんだけどなぁ。イングは失礼なことを考えつつ、気を取り直す。

 

「さて、孔明。後のことは任せる」

「はい、ご主人さま」

 

 イングの言葉に、孔明が一礼した。

 

 

 《エグゼクスバイン》のコクピット。

 《ヒュッケバインEX》から改修に次ぐ改修を経て、もはや原形を留めていない、けれども馴染むシートに身を預けるイング。グラビコン・システムの改良により、ノーマルスーツを身につけなくなったのも久しい。

 メインコンソールに誂えた台座には、エクスがぴったり納まっている。

 

「緊張、してるんですか?」

「……ちょっと、な」

 

 これから赴くのは。宇宙の命運、それを背負っていると思えば尚更だ。

「だいじょぶです」エクスが明るく言う。

 

「だって、イングさんだけじゃなく、この世界にはたくさんのヒーローがいるんですもん! みんなで力を合わせれば、きっとどんなことだってできるはずですっ」

「……! そっか、そうだな」

 

 一人で気負うなど、自分らしくもないとイングは自嘲した。

 と、《ファルケン》からの通信が入る。サブモニターに挑戦的な笑みを浮かべたアーマラと、心配そうなイルイの顔が映った。

 

『どうしたイング、ビビってるのか?』

「び、ビビってねーしっ」

『ふんっ、どうだか』

「あ、お前今笑ったな? 鼻で笑ったなっ!?」

『ふふっ。お兄ちゃんとアーマラ、仲がいいのね』

「『よくないっ!」』

 

 

「ぃよしっ!」相方(アーマラ)とのコントでいつもの調子を取り戻したイングは、自分の両頬を叩いて気合いを入れ、コントロール・レバーを握り直す。

 

「行くぞ、エクス」

「はいっ、トロニウム・レヴおよびブラックホールエンジン、ミドルドライブ。――全機能、正常に稼働中ですっ」

 

 TーLINKシステムを通じてエクスがイングの念を感知し、トロニウム・レヴをドライブさせる。機体の全システムを掌握している彼女の自己診断が終了し、《エグゼクスバイン》の準備は完了した。

 メンテナンス・ベッドの固定が解除され、それと同時に頭上にある扉が開き、カタパルトが起動。テスラ・ドライブが甲高い音を立ててアイドリングする。

 

「イング・ウィンチェスター、エグゼクスバイン、出るぞ!」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月×日

 地球、某所

 

 ついに、アポカリュプシスが始まった。

 銀河を巻き込む大戦の始まりというわけだ。まったく、イヤになるぜ。

 

 さておき、極東地区日本エリアに向けて移動中、襲撃をかけてきた機動兵器部隊を蹴散らした。

 《チャクラム・シューター》を思わせる特徴的な武装を装備したオレンジ色の機動兵器群、封印戦争後から何度か交戦しているコイツらはおそらくバルマーの手の者。狙いはイルイか、あるいはオレか。

 今回は、隊長機らしき《サイバスター》に似たそこそこ手強い機体が出張っていた。

 やけにアーマラに突っかかっていたんだが、やっぱそういうことなのか?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月○日

 地球、極東地区日本 サンジェルマン城

 

 今日は、クライン・サンドマン主催のパーティーに潜り込んでみた。

 おハイソな感じでやや場違いである。オレたち、一応パーティー衣装着てるんだけどね。

 会場には万丈さん、ネルガル重工現会長のアカツキ・ナガレ、フィッツジェラルド上院議員や北斗の祖父である西園寺氏。それからアズにゃんもといアズラエルもいたが、珍しく家族連れだった。娘さんは相変わらず洗濯板以下略。

 

 破嵐財閥を解体して身軽になった万丈さんだが、どうも竹尾ゼネラルコンツェルンに就職したらしい。営業担当で。

 それとは別にアズラエルとの関係を何気なく聴かれたので、包み隠さず答えておいた。

 あこがれの万丈さんに感心されて、鼻高々である。

 あと、葵さんとくららさんもいたな。二人ともお仕事だったらしいけど。

 

 さておき、突如現れた「ゼラバイア」の侵略兵器を《ゴッドグラヴィオン》が撃破した。「超重神グラヴィオン」第一期第一話のエピソードだ。メタいな。

 オレたちは、その後現れたラダム獣どもを駆逐して(《グラヴィオン》は重力子限界で撤退した)颯爽とその場を離れる、つもりだったのだが、サンドマン氏に打診されてサンジェルマン城への逗留することに。

 

 喧嘩腰な(しぐれ)エイジをあしらったり、ミヅキ・立花の素性をそれとなく示して警戒されてみたり。ふふん、国際警察機構の特A級エキスパート「ワンゼロワン」の名は伊達ではないのだ。

 斗牙(トウガ)? 今のあいつは、オレが相手をしてやるレベルじゃあないな。

 

 とりま、リアルメイドさんごちそうさまでした。

 ただ、あんな美女美少女おまけに美幼女に囲まれているのにあんま羨ましい感じがしないのが不思議だが。

 

 なお、大方の予想通りアーマラが(ぐすく)琉菜(ルナ)と衝突していた。アイツ、ほんと期待を裏切らないよな。

 まあ、さすがにプロ子は出ないだろうが。フラグじゃないぞ?ないよね?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月△日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 宇宙に上がる《ナデシコC》に便乗してロンデニオンにやってきた。

 待ち時間、ヤマダさんとゲキガンガーのメディアを見て過ごしてたんだが、あのひとやっぱディープすぎだわ。話題とノリについてけない。オレは広く浅くでわりと節操ないからなぁ。GEARの吉良国さんなんかは直撃世代で話が合うらしく、前大戦の時はよく一緒にいるのを見かけたっけ。

 

 ちなみに、民間人メンバーはさすがに退艦している。

 とはいえ、「次の決戦にも呼んでくれ(意訳)」とのこと。まったく、フリーダムなひとたちだ。イネス・フレサンジュ女史は引き続き搭乗しているのはありがたいことだ。「αナンバーズに居れば最先端の科学や、未知の文明に触れられるでしょう?」とは本人談。このひとも別ベクトルでフリーダムだ。

 なお、テンカワ夫妻(まだ籍は入れていない)だが、ソフィア・ネート博士の元で治療に専念していたりする。

 目には目を、歯には歯を、ナノマシンにはナノマシンを、といったところか。

 

 で、その道中、厄介なものと交戦した。人型のラダム獣、いわゆる《異星人テッカマン》である。いや、展開が速すぎるんだが? ラダムどもは、すでに地球文明を侵略対象ではなく敵対、排除するべしと判断しているのだろうか。

 だがしかし、実際に相対して改めて思うのは、ほんと等身大サイズの《テッカマン》は厄介と言うほかないってことか。タイマンなら生身でも制圧できそうなんだが、宇宙じゃさすがにな。

 

 さて、明日には、衛星軌道上のオービットベースへ到着する予定だ。大分待たせちまったが、ようやく平行世界からのお客さんとの面会することになるだろう。

 まあ、オレの知ってる彼らなら問題ないだろ。たぶんな。

 

 

   †  †  †

 

 

 新生GGGの拠点、オービットベース。

 衛星軌道上に存在する施設内にいくつもある小会議室にて。

 

『刹那』

「ああ」

 

 傍らから聞こえる声に、虹彩を金色に輝かせた青年が答える。彼の()()した頭脳が特徴的な“脳量子波”を捉えた。

 ややあって、ノックとともに入り口の自動ドアが空気の抜ける音とともに三人の男女と入室する。

 

「初めまして来訪者(ストレンジャー)、オレの名前はイング・ウィンチェスター。それから」

「アーマラ・バートンだ」

「イルイ・ガンエデンです」

「エクスですっ」

 

 ひときわ幼い少女の抱えた球体型のメカの声に、青年と傍らのもう一人は微かに表情をなごませた。

 こうしたサポートメカが多く居た組織にいた二人が殊更に反応したのは、大戦の中で共闘した仲間のうちの一人にその声が似ていたためだ。とはいえ、このように明るく朗らかではなかったが。

 ともに戦った戦友を脳裏の片隅に思い浮かべながら、青年は口を開いた。

 

「刹那・F・セイエイだ」

『このような姿で失礼する。ティエリア・アーデだ』

 

 褐色の肌に黒い頭髪の青年と、手のひらサイズのホログラムで映し出された紫の髪の青年が自己紹介を返した。

 《ダブルオークアンタ》のガンダムマイスターにして純粋種の“イノベイター”、刹那・F・セイエイと、対話のため《クアンタ》に搭載した量子型演算処理システム「ヴェーダ」の子機に意識を移したイノベイドにしてガンダムマイスター、ティエリア・アーデ。()()()()()()()()から迷い混んだ、「ガンダム」という因果に連なるものたちである。

 

『単刀直入ですまないが、君たちの何れかが僕らの事情を知っている人物、という認識で間違いないか?』

「それはオレだな。細かい原理だとかは省くが、まあ広義の意味でのサイキッカーってやつだ」

 

 ティエリアの疑問に、銀髪の少年――イングは、指先に小さな火を灯しながら軽く答えた。

 刹那が微かに目を細めた。“GN粒子”により革新した彼の脳が、イングの隠した強大な力を感じ取っていたのだ。

 

 一通りの挨拶を済ませた一同は、会議室に用意された机を挟んで顔を付き合わせた。

 

「遅くなって悪かったな。何しろオレたち、地球でやることがあったんでね」

「いや、かまわない。こうして場所や情報を提供してもらい、感謝しているくらいだ」

『待ち時間の間に資料を見せてもらった。 ()()()の状況は概ね理解しているつもりだ』

「そりゃよかった。退屈させなかったろ?」

「ああ」

『確かに、興味深い内容だった。君たちの地球も、余談を許さない状況のようだね』

「うわ、堅物!」

 

 場を和ませようと軽口を叩いたイングだが、仏頂面を崩すには至らなかった。

 困った顔をしたイングにどうすんの、これ、と視線を向けられたアーマラは、バカめと視線で返事をした。イルイとエクスはその様子を顔を合わせて潜み笑いを浮かべていた。

 

「それで、二人とも何か必要なものとかあるか。オレの権限が及ぶ範囲で手配させてもらうが」

「いや、こちらは特にない」

『僕もだ』

「よかった。で、さっそく本題なんだが、一応オレの()()()()()()()でソレスタル・ビーイングの活動とかは概ね識ってるんだが、その知識と二人が実際に体験した事実のすり合わせがしたい。実際、こうしてオレたちが対面してるってこと自体がイレギュラーだしな」

「了解した。ティエリア」

『わかった。こういった説明は、刹那よりも僕の方が適任だろう』

 

 君たちが“知っている”と前提して、単刀直入に説明しよう。そう、前置きをして、ティエリアは語り始めた。

 

『僕たちソレスタル・ビーイングが本格的な武力介入を始めたのは、()西()()()()()()だった』

 

 イングがわずかに眉をひそめ、困惑を見せたのを刹那は敏感に感じ取った。

 

 

 

「――なるほどな」

 

 両目を瞑り、眉間に皺を刻んだ難しそうな表情をしたイングは、微かに息を吐いたあと話始めた。

 なお、話に参加できないアーマラとイルイ、エクスは少し離れたところで適当に遊んでいた。

 

「確認するぞ。()西()()()()()()に活動を開始したソレスタル・ビーイングは一度崩壊、五年後の()西()()()()()()に復活。仮面の指導者ゼロや黒の騎士団ともに、世界を半ば統一していたブリタニア・ユニオンとその尖兵であるアロウズ、異次元からの侵略者“ドラゴン”――アウラの民、外宇宙から来た光子生命体“フェストゥム”と戦っていた、ってことでいいのか」

『それで間違いない』

「……。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが皇帝の座に着いた時はどうしたんだ。シュナイゼルと黒の騎士団側に荷担したのか?」

『まさか。どちらにも与してはいなかった。ソレスタル・ビーイングはゼロの正体について、早い段階から掴んでいたからね。ゼロ――ルルーシュとは共犯関係だったんだ。彼が悪逆した理由にも見当がついた』

「故の中立、か」

「ああ。あの時点で、世界の歪みと言えたのはシュナイゼル側だった。確かにルルーシュも虐殺をおこなっていたのは確かだが、同時にダモクレスとフレイア弾による恐怖支配など許すわけにはいかない」

『だが僕らは僕らでイノベイド――リボンズ・アルマークとの決戦や北極ミール攻略戦――、蒼穹作戦を控えていたから武力介入は出来なかったんだ』

「はーん、なるほどね。……そんなタイミングで内輪揉めからの内部分裂とか、黒の騎士団の首脳陣てバカなの?」

「……」

『否定はしない。繰り返すが僕らはルルーシュにいささか同情的だったし、彼の最終的な目的も知っていた。だから、ソレスタルビーイングの仲間の一人、ライは彼らの計画に協力していたんだ』

「あー、()()()()もいたのか」

『仮面の軍師、ジュリアス・キングスレイとしてね。事変の後はオルドリン・ジヴォンとともに、ゼロの副官として活動しているよ』

「なるほどね。因果は集束するわけだ」

 

 イングが呆れたように漏らした。

 なお、偽名を決めたのは他ならぬルルーシュだったという。アラン・スペイサーよりは幾分かマシな名だろう。

 

「しっかし、枢木スザクとライを相手に紅月カレンはよく持ったな? いくら聖天八極式とアルビオンに性能差があるって言っても、せいぜい“ギアス”込みで相討ちってとこだろ」

「確かにその推測は間違っていない。そういった情報も持っているのか」

「まあな。で、どうなの実際」

「当時のライのKNF、ヌァザ・アガートラムはランスロット・アルビオンとほぼ同等の戦闘力を有していた」

「じゃあなおさらだな」

『二人はあえて手加減していたようだからね。だが、最終的にはライが紅蓮を大破に追い込んだそうだ』

「なるほどね。……しっかし、“銀の腕”ヌァザってのは()()()愛馬(KNF)にピッタリのネーミングだな。おそらく、片腕が輻射波動機構になってんだろ?」

『その通りだ。クラウ・ソラスという専用の機構を持っている。しかしイング、この情報は君は知らなかったようだが?』

「そりゃあね、名前でわかるさ」

『なるほど。確かに、ナイトメアは慣例的に欧州の神話から名付けられることが多く、そこからコンセプトを割り出すのも容易か』

 

 打ち解けるためと情報収集を兼ねた四方山話をするイングの脳裏には、「輻射波動夫婦喧嘩」などという益体もない言葉が浮かんだ。

 閑話休題(話を戻す)

 

「で、北極ミールやイノベイドと一応の決着を着けた後にブリヲ……エンブリヲを打破した、と」

「ああ。奴はまさしく、俺たちが断ち斬るべき世界の歪みの根源だった」

『エンブリヲはイオリアの協力者ではあったが、元々彼の打倒も計画のうちに入っていた。ヴェーダが隠していた最重要任務にして、ソレスタル・ビーイングの来るべき対話の前の最終目標だった』

「まあ、アレが居座っているうちに対話の時代なんざ来ようはずもねーわな」

 

 仏頂面の二人が神妙な顔をして頷いた。短い時間だが敵対者として相対して得た所感もイングと同じだったからだ。そしてそれは紛れもない正解である。

 ちなみに、GN粒子及びEカーボン等の技術は、特にフェストゥムの到来を予期したイオリア・シュヘンベルクらによる同化現象対策だったとのことだ。

 GN粒子による意識の(トランザムバースト)空間は、フェストゥム最大の脅威とも言えるの同化現象を防いだ上で、対話を可能とする起死回生の方策だった。

 

「“ゼロ・レクイエム”と“ウィキッド・セレモニー”……ソレスタル・ビーイングや竜宮島勢は介入しなかったんだろ?」

『ああ。それが理由はあれど歪みの源となった彼らの、彼らなりのケジメの付け方だったからね』

「既存の体制が“地球連邦”にスムーズにシフトするように、生前ルルーシュは予め整えていた。世界の歪みを、全て自分たちで背負って行こうとしたんだ」

「……よくもやるもんだね、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアってヤツは。そして()西()()()()()()、第二次蒼穹作戦とELS来襲」

『皆月総士の奪還は急務だったが、予測されたELSの存在もあまりに大きかった。僕は当時肉体を無くしてヴェーダの中にいたが、正直どう対応するのかと途方にくれたものだ』

 

 発足して間もないにもかかわらず、このような重大事案に直面した彼らの世界の地球連邦政府は、まさしく死に物狂いで事態に当たったのだろう。イングは防衛戦の死者とともに、準備を整えた(デスマーチした)制服組や指導者層の苦労を思い、黙祷を捧げる。

 そうして、数多の犠牲の上に対話は成功したのだった。

 

「ELSの母星がこの次元宇宙にあるってことは、彼らから聞いた。二人がこのタイミングで辿り着いたのも納得したよ」イングはそう言って肩を竦めた。ELSほどの生命体でもこの宇宙に蔓延る無限力の影響には抗えないようだ。

 ELSの本星があるのはこの次元宇宙であり、刹那たちの次元宇宙には自然発生したワームホールにより偶然に(あるいは必然的に)たどり着いた。

 彼らの母星は銀河に蔓延する宇宙怪獣の度重なる襲撃を受け、ついには星系の恒星を奪われて巣にされ、種族絶滅の危機に陥っていたのだ。

 

「やはり、ELSの脳量子波を感じているんだな」

「ああ、幸い向こうが情報量を絞ってくれてるからな。なんつーか、人懐っこい大型犬みたいな感触だよ」

「そうなのか、イルイ?」

「うん。おっかなびっくり近寄ってくる……、感じ?」

「俺は動物と触れあった経験はあまりないが……イメージは掴める」

 

 刹那の言葉にイングは同意してみせ、傍らでそれを聞いていたイルイも同様の感想をアーマラに述べていた。

 おそらく、ELSはイングたちを慮って脳量子波を抑えているのだろう。そんな様子を指して、彼らは「人懐っこい大型犬」とイメージしているのだ。

 

「ELSたちには時期を見て太陽系に避難するよう提案したから、とりあえず今すぐ宇宙怪獣どもの餌食にはならないと思う。GN粒子を学習したから、量子ワープで来るみたいだな」

「そうか、ありがとう」

『手間をかける』

「地球連邦政府の議会と地球安全評議会には提案済みだ。オレはこう見えてそれなりにコネがあるんで、トップダウンで話をつけさせた。刹那たちの地球が文字通り命削って対話を成功させたんだ、これくらい安いもんさ」

『了解した。僕からも礼を言う。ありがとう』

「いいってことよ。今のELSはフェストゥムなんかよりずっと付き合いやすい種族だしな。ウチの地球は、今さら異星生命体が一種増えたところで混乱も起きようないし、なんならELSの ()()()()()()を当てにしてるとこもある」

『なるほど、強かだな』

「彼らが太陽系の一宙域に留まって、自己防衛してくれるだけでもかなり助かるからなー」

「俺たちの地球に来訪した一団はどうなる?」

「そのまま残って現地のヒトたちと協力していくよう打診した。まだフェストゥムとは完全には和解できてないんだろ?」

「ああ、極一部のミーム以外、対話を拒絶し徹底抗戦を続けている」

「オレは、ELSがフェストゥムとの対話成功のカギになるんじゃないかと睨んでるんだ。だから、残ってもらうようお願いした」

『確かに。彼ら(ELS)とフェストゥムには生態が似通った部分がある』

 

 イングの言に、ティエリアが同意を示した。

 どちらも個を持たない総体であり、「同化」という手段を用いて他者を理解しようとする種族である。本格的に接触が始まれば、間違いなく何らかの変化が現れるだろう。それが人類と宇宙の平穏にとって、善であるか悪であるかはまた別の話しではあるが。

 

「それで、君らの“ガンダム”についてなんだが」

「……!」

『聞かせてもらおう』

 

 わずかな間とはいえ愛機とした《ダブルオークアンタ》の今後について話題に出され、刹那は身を乗り出すように。

 彼の仲間曰く「ガンダム馬鹿」の予想した通りの反応にイングは苦笑しつつ、話を切り出した。

 

「まずは前提条件。仮にあの“ガンダム”――ダブルオークアンタが完全な状態で量子ジャンプを敢行したとしても、今すぐ元の次元には戻れないと思う」

『今すぐ? つまり、いずれは戻ることができると?』

「ああ、そういうことになるね。現在この宇宙は“アポカリュプシス”と呼ばれる大変動に見舞われているんだ。その影響で、時空間と因果率がねじれにねじれて乱れに乱れ、来るもの拒まず去るもの許さずな内向きの結界というかバリアというか……そういう次元の断層が出来ている。それがなければ、二人の故郷の時空固有周波数を割り出すのもわけないんだが……」

 

 イングは、森羅万象、過去現在未来を余すことなく記したアカシックレコードを閲覧する権限を持つ、“完聖”したサイコドライバーである。平行世界の固有周波数(アース・ナンバー)を割り出すことなど、ましてやそこに由来する人品が側にあるのならば児戯に等しい。さらに、完成品の「クロスゲート・パラダイム・システム」とも言える、《エグゼクスバイン》を操っていれば格段に難易度が下がる。

 では、何故現在それが不可能なのか。

 アカシックレコード(無限力)そのものによる試練――アポカリュプシスによる現象である。意思持つ力とも言える

 

『なるほど。原理はともかく、現状は理解した』

「すまないな」

「いや、構わない。量子ジャンプを慣行した俺たちは、元より帰る宛のない旅のつもりだった」

『そうだ。むしろ、君たちという対話の可能な存在と出会えたことは行幸というべきだろう』

 

 刹那とティエリアは口々にそう言う。行き先も、距離も、どれだけの時間がかかるかもわからない遥か彼方への片道切符に、地球を救うためとはいえ躊躇なく飛び込む――そんな無鉄砲にも思える行為を平然と行えるのが、彼らがガンダムマイスターである所以だろう。

 ソレスタル・ビーイングの理念と理想に準ずる覚悟――、それこそがELSとの対話を成功させた最大の要因なのかも知らない。

 

『……』

 

 それからティエリアは、一瞬だけ思い悩むような素振りを見せたあと、刹那に語りかけた。

 

『さまざまな異種生命体と出会い、争いながらも対話を重ね、平和を模索し続けている――刹那、僕らはこの地球の戦争根絶に協力すべきだと思う』

「ああ、俺もそう感じていた。――イング、迷惑でなければ俺たちもお前たちに協力したい。戦うことだけでなく、対話することでも力になれると思う」

「迷惑だなんてとんでもない。助かるよ、ありがとう」

 

 諸手を上げた歓迎の言葉に、刹那が僅かに微笑んだことに気がついたのはティエリアと、そしてイングだ。「刹那・F・セイエイ」という人物を画面越しとはいえ多少なりとも知るイングは、珍しいものを見た、と感心して相好を崩した。

 ふと、イングは胸中に浮かんだ疑問を刹那とティエリアにぶつけることにした。

 

「……。なあ、最後にひとつ確認しておきたいことがあるんだが、いいか?」

『構わないが』

「ソレスタルビーイング以外にでもいいんだが、二人の仲間だった者の中に、()()()()()()()()()()()()()()を用いていた人物はいたか?」

「独自の技術体系……心当たりはある」

『そうだな。()()なら該当すると思う』

「! いるのか。どんなヤツなんだ?」

 

 ふと浮かんだ懸念が現実になり、イングは身を乗り出すようにして食い気味に疑問を重ねる。

 少しの困惑を見せつつ、刹那はその疑問に答えた。

 

「迫水タクマと日向サキ、ソレスタルビーイングの、いやイオリアの協力者だ」

「その名前、日本人か? いや待て、イオリアの協力者だって?」

 

 続く疑問点に、イングの表情が困惑に染まる。

 その疑問にティエリアが答える。

 

『迫水タクマ、これはもちろん偽名らしいが――はイオリアが初めて接触した異星生命体だ。彼のパートナー、日向サキは僕らイノベイドのオリジナルとなった生体ガイノイドだと聞く』

「異星生命体!? マジかよ。いや、生前すでに接触していたのだとしたら、未来を見通したかのような計画にも納得がいくか……」

『ああ。僕らの前に現れた彼らは当初、モビルスーツ(MS)ナイトメアフレーム(KNF)、パラメイルなどの既存技術を用いた“ヴォーテックス”と呼ばれる人型機動兵器を操っていた。僕らソレスタルビーイングが活動を開始した頃のことだ』

「エリア11……、日本で黒の騎士団が世に現れた時、俺たちソレスタルビーイングは活動できる状態ではなかったが、迫水タクマは変わらずイオリア・シュヘンベルクの()()()として彼らを監視していた」

『紛争が激化する中、彼は自身の故郷――いわゆるエイリアン・テクノロジーを主体に建造された“ルシファード”という人型機動兵器を持ち出した。地球で学んだ科学技術で随時アップデートされていたルシファードは、当時でも最高峰の機動兵器だったことは間違いない』

 

 ティエリアは『本人たちは()()()()()()()()()とも呼んでいたよ』と続けた。

 

「ルシファード……聞き覚えはないけど。しかし、イオリアの代理人ねぇ……?」

『どうやら、生前の友人だったようだな。イオリアがヴェーダに遺した情報によれば、バード星という地球型惑星の出身だそうだ』

「バード星人……? 人相がわかる画像とかないか?」

『ある。今見せよう』

「こ、こいつは……!」

 

 イングは困惑を息を飲む。何事かとアーマラやイルイが近づいてきた。

 ティエリアの示した画像には、癖のある短めの銀髪を整えた壮年の男の横顔が映っている。細めた目、ウェリントン型のリムの黒い眼鏡に知的な印象を残すが、表情は穏やかでリラックスしている様にも見える学者風の男だ。

 髪型と色、年の頃や険の取れた表情などの違いはあるが、その人相は紛れもなく――

 

「イングラム、だと……?」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月§日

 地球圏、衛星軌道上 オービット・ベース

 

 オービット・ベースに到着早々、妙ちくりんな来訪者と面談を行った。報告を聞いたときは正気度(SAN値)が直葬されそうになったけどな。

 それはさておき、交渉自体は無事に成功させたように思う。不安はなかったが、大事な一仕事を終えて肩の荷が降りた気分だ。まあ、たぶん気のせいだけど。

 「ガンダムOO」の登場人物(こういう言い方はあまりしたくないが)、刹那・F・セイエイとティエリア・アーデはオレの想像通りの人物だったし、劇場版まで終わっているのはまあ朗報だろう。とはいえ、向こうの地球はそれでもヤバそうな気配がプンプンしてるんだけど、いったん棚に上げておこうと思う。明日以降のオレが何とかするだろう、うん。

 ちなみに、歴史に関してはかなりの改編が入っているようだ。具体的な説明は避ける(理由は察してほしい)が、「新西暦が成立するまではオレたちの地球とまったく同じ」と理解してもらえば差し支えない。イデめ、辻褄合わせを放り投げてまでかなりの無理をするじゃないか。

 

 ともかく、これからさまざまな異種生命体と遭遇することになるであろうオレたちの地球に取って、彼らの参入は大きな助けになると思う。対話を成立させた純粋種のイノベイターが力を貸してくれるんだ、こんなに頼もしいことはないよな。

 

 さて、問題なのは「迫水タクマ」って男のことだ。

 ありゃあ、どう見てもイングラムじゃあない。間違いなくユーゼスだ。()()()()()()()()()()()()()()けどな。

 ということは、ユーゼスの平行同位体か? オレたちの宇宙で死んだヤツが生まれ変わったって可能性もなくはないが、この()()()宇宙の状態を考えればあり得ない。となれば、パラレルワールドのヤツと考えるのが妥当だろう。

 メタ読みしたら見事厄介ごとの種を掘り当てちまったわけだが、コイツの正体はなんにせよ、この「迫水タクマ」とやらとはいずれ合間見えることになるだろう。言うなれば、()()()()()ってとこかな。

 しかし、バード星と言えば一条寺烈こと宇宙刑事ギャバンの故郷だけど、なんか関係あったっけ?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月□日

 地球圏、衛星軌道上 オービット・ベース

 

 イカロス基地周辺に出現したクロスゲートと、ゾンダーの親玉「機界31原種」によるGGGベイタワー基地破壊を受け、かつての仲間たちがGGGの新たな拠点、オービット・ベースに召集された。

 αナンバーズ再集結である。

 

 とはいえ、封印戦争決戦時よりかは大分戦力が目減りしているな。

 主な不参加者は以下の通り。

 オルファンとともに銀河に旅立ったノヴィス・ノアのメンバー、同じく外宇宙に出たアイビスら《ハイペリオン》チーム、ロゼの導きでズール皇帝に支配された星々を解放しに向かった《コスモクラッシャー》隊、契約が切れた《トライダーG7》。《キング・ビアル》と《ザンボット3》も仇敵を倒したことで不参加だ。勝平たちには平和に過ごしていてほしいところである。

 マオ社に戻ったリョウトらと別任務らしいゼンガー少佐とレーツェルさん、ヴィレッタ大尉。《ダンクーガノヴァ》、《ゼオライマー》、《サイバスター》、《グランゾン》、《ヴァルシオーネ》のパイロットたち。あと、シャッフル同盟の関係者に、ラビッドシンドローム(あの後、発症の兆候が見られたとか。治療方法自体は実はずいぶん前から実証されていたらしいのだが、怖ッ)の治療中の猿渡さんとダンナーベースの面々。ああ、それからどこぞでパン屋をやってるシーブックとセシリーもだな。

 なお、目的を果たして解散した宇宙海賊だが、トビアとベルナデットらは参加している。どうやらあの後、宇宙の運び屋をやっていたらしい。

 《X1》と《X3》を(大破したわけでもないのに)ニコイチにした《スカルハート》を新たな愛機にしていた。

 

 そうそう、ビルドベースの《鋼鉄ジーグ》こと司馬宙らも不参加だ。なんでも、阿蘇山の旧邪魔の跡地から新たな「銅鐸」が出土したとかなんとか。ちなみに、例によって安西エリ博士が発掘したらしい。あのひとって、なんていうかトラブルメーカーだよな。

 そういえば、ケーンたちは結局軍から抜けられなかったんだな。哀れ。

 あとはググれ。あるいは攻略本でも読んでくれ。

 

 さておき、まず重要なのはクロスゲートから現れた《ヱクセリオン》とタシロ提督、副長さんについてだろう。

 お二人は、バルマー戦役の雷王星宙域での決戦で自沈する《ヱクセリオン》と運命をともにしたはずであった。

 おそらくは役者を揃え、シナリオを円滑に推進するために無限力が手を加えたのだと思われる。

 で、シラカワ博士とかマサトがいないため、オレが代表してクロスゲートの成り立ちと仕組み、無限力の存在、そして「第一始祖氏族」あるいは「第六文明人」の残留思念がもたらす銀河の終焉「アポカリュプシス」について、可能な限り説明した。

 え?早くもぶっちゃけすぎだって? 回りくどいのは嫌いなんだ。

 つか、バビルたちはこれを活用していたわけで、そのへんの事情は知ってて当然である。

 

 さておき、ここで重要メンバーについて書き連ねようかね。

 

 クォヴレー・ゴードン。

 ロンド・ベル隊に新たに編入されることになっていた火星基地所属の新人パイロット、らしい。乗機は《量産型νガンダム》。

 現在クォヴレーは記憶喪失とのことで、アラドとゼオラと即席チームを組んでいた都合上、オレとアーマラが面倒を見ることになった。

 可能な限り経歴を洗ったが、怪しいところが一つもなくて逆に怪しい。だいたい、αナンバーズに新人パイロットってな

いだろ。素人ならまだしもさ。

 彼が乗っていたという謎の機動兵器《ベルグバウ》だが、どことなく《アストラナガン》を思わせる機体だ。

 これはかつて、《ガリルナガン》に搭乗していたアーマラも同様の旨の発言をしている。無理を言ってコクピットを見せてもらったのだが、あの人の残留思念は感じられなかった。

 あるいは、クォヴレーに?

 ともかく彼の動向には、今後も注目していきたいと思う。

 

 トウマ・カノウ。

 炎のアルバイター、成り行きでスーパーロボット《雷鳳》のパイロットとなった青年である。

 《雷鳳》の開発者であるミナキ・トオミネとの参加だ。

 ズブの素人だが、その心根には見所がある。オレなんかは、バビル譲りの念動力っていう()()があってこそ、ここまで戦ってこられたって自覚があるから純粋に尊敬できるし、今後の彼のノビには期待を寄せたいところだ。

 格闘ロボ乗りということで、さっそく銀河と北斗にまとわりつかれていたな。今は火星にいる一矢さんや、地球のどこかで放浪しているであろうドモンさんに会わせてやりたいぜ。シゴかれるだろうからね。

 

 セレーナ・レシタール。

 連邦軍の特殊部隊「チーム・ジェルバ」の生き残り、潜入工作及び格闘が得意な女スパイだ。《アサルト(A)スカウター(S)ソルアレス》を乗機としている。

 実は、新生BF団のメンバーとしてスカウトしようとして目を付けていた人物だったり。ウチの幹部にぴったりじゃん?いろいろと。

 とりま、前回接触したときに「ヴィレッタ・バディムはあんたの復讐対象じゃないぜ」と情報を流しておいた。

 そのときは袖にされたわけだが、「あんたの言うとおりだったわ、ワンゼロワン」となかなかの好感触だった。

 もう一押しかな、と機会をうかがっている次第だ。

 ちなみにウチのエクスが、彼女の連れたサポートメカ、エルマと早速意気投合していた。

 

 なお、お馴染みクスハとブリットだが、《グルンガスト》シリーズの後継機と言える鋼機人(ヒューマシン)で参戦している。

 《龍王機》《虎王機》は封印戦争でのダメージを癒すためにテスラ研で療養中だ。

 

 そして刹那とティエリアだが、前述の通りELS本星の太陽系到着を見届けるためにαナンバーズに協力してくれるとのことで、以前はシーブックが乗っていたオリジナル《F91》(整備班に協力してもらってエクシアカラーにした)を任せることになった。同じ人型兵器とはいえ、操縦法が違うってのにあっさり乗りこなしてみせたのは、さすが“イノベイター”って感じだ。

 ちなみに、好意で(《クアンタ》の修復の必要もあり)一部提供してくれた彼らの世界のMSのデータは「Re:V計画」に送り付けておいた。イデの野郎、情報解禁のつもりか知らないが、アカシックレコードから太陽炉及び疑似GNドライブの構造やらがサルベージできたんで合わせて送ったんだが、今頃連中、まったく新しい系統のモビルスーツの登場に狂喜してんじゃねーの?

 

 さておき、いろいろと悩みは尽きないが、何とかやってこう。なんせ、オレは独りじゃないんだからな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月◎日

 太陽系、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 戦艦用フォールドブースターで一路やっていましたアステロイドベルト。「機界三一原種」を迎え撃ったオレたちだが、連中を取り逃した。慚愧の極みである。

 乱入してきた《オーガン》と追っ手のイバリューダー、そしてラダム獣と胃星人テッカマンに邪魔されたのだ。

 ゼラバイアといいラダムといいイバリューダーといい、どうしてこう忙しいときにやってくるのか。

 いや、正規軍のみなさんも防衛網構築にがんばってはいるんだよ。ただ、大半が《ジェガン》のような平凡な量産機では、連中と正面からやり合うのは困難だ。《ドラグーン》や《量産型F91》はいい機体なんだが、如何せん高いし扱いがやや難しい。それに、《イチナナ式》や《量産型ゲッターG》シリーズも十分揃ってはいるんだが、特機クラスの敵に当たると逆に強みを生かし辛いのだ。

 星間連合も本格的に再侵攻をかけてきたし、いよいよもってきな臭くなってきやがったぜ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月※日

 太陽系、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 クロスゲートでの帝国監察軍との戦闘から一夜あけて、現在αナンバーズ艦隊はアステロイドベルトに身を潜めている。激戦の傷を癒すためだ。

 

 異変を聞きつけ、クロスゲートを目指したオレたちを阻むギシン星間連合の再侵攻部隊はかなりの規模で、手を焼かされた。

 ズールは本格的に地球の武力制圧を目論んでいるらしく、支配下に置いた文明から相当数の戦力を差し向けてきた。

 新顔は、円盤型戦艦《マザー・バーン》と円盤獣が主力のベガ艦隊と、三隻の戦闘母艦と戦闘メカベムボーグからなるザール艦隊だな。さらに、ムゲの小型戦闘機や《ゼイファー》などもいた。

 つか、ムゲとズールってよくよく考えると嫌な組み合わせだよな。

 

 さておき、星間連合を辛くも撃退したαナンバーズはクロスゲートにたどり着く。

 そこには帝国監察軍、ゼ・バルマリィ帝国によって大破に追い込まれた《SRX》の姿があった。

 

 親友の、リュウセイの危機でオレってばひさびさにブチ切れた。

 サイコドライバーの力を全開にして、《ジュデッカ》を思わせる念動兵器(《ヴァイクラン》というらしい)のカルケリア・パルス・ティルゲムに外部から強制干渉、行動不能に追い込んでやった。サイコドライバーなめんなよ。ユーゼスに出来てオレに出来ないわけないんだよなぁ。

 まあ、やりすぎて、余波を受けたアーマラの《ファルケン》やクスハ、ブリット機のTーLINKシステムまで不具合が出ちまったけどな!

 大人げなかったと今は反省している。

 

 動けない《ヴァイクラン》撤退のために現れたバルマー軍の中には、グラドスのSPT部隊が混じっていた。

 事情は知らんが、ズールの一時敗退を受けて離反でもしたんだろう。元々はバルマーの支配下だったらしいから、元サヤといったところか。

 

 つーか、ル・カインうっぜー!

 《レイズナー》に猛攻する黄金のSPT《ザカール》と死鬼隊の相手をしたのだが、あのサイズの小ささと機動力はかなり厄介だった。

 《VーMAXレッドパワー》を使ってこなかっただけマシだがな。

 

 戦闘後、《SRX》から救助されたのはリュウセイとライ少尉のみだった。

 アヤ大尉は生死不明。だが、トロニウムエンジンとともに浚われた可能性は大いにある。

 今は彼女の無事を祈るばかりだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月※日

 地球圏、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 マジでやりやがったよ、プラント。

 空気よめよー。これだからコーディネーターは嫌いなんだ。わかっていても失望感が強い。

 クソっ、今からアプリリウスに乗り込んで評議会ぶち壊してくるか?

 

 本題に入る。

 再び攻め寄せるズール星間連合と原種などに対抗し、地球連邦は「地球絶対防衛線」と称した防衛線を構築、迎え撃つ構えを見せていた。

 が、そこに地球連邦に対して宣戦布告したプラント軍、ザフト(Zodiac Alliance of Freedom Treaty=自由条約黄道同盟)が襲いかかってきたのである。

 

 さっきフォールド通信で知ったんだが、その理由は「ユニウス7に対する核攻撃の報復」と「地球連邦の不当な扱いへの抗議」だという。核ミサイルは予め派遣されていたロンド・ベルの《ネェル・アーガマ》隊が防いだはずなんだけど、ユニウス7は何故か()()()()()()()()()()()崩壊した。メタ読みで、孔明に命じて住民を(半ば拉致に近い形で)避難させて正解だったぜ。

 確かに核攻撃という事実はあるが、犠牲者は皆無(非合法な行為に従事していた人間については()()()だが)に等しい。つまるところ、プラントの主張は支離滅裂だ。やはり、ゲシュタルトが暗躍していると見て間違いないな。

 ちなみに時代遅れというか、時代錯誤なバッテリー駆動、実弾メインのザフトのモビルスーツだが、どうも連邦軍は押されているらしい。つーか、核融合炉機と互角以上ってのはいくらなんでも理不尽じゃね?

 

 ともかく、プラントの狙い澄ましたかのような横やりにより絶対防衛線は危機的状況に陥っている。

 本命の原種やラダムどもの地球降下は防がなきゃならん。

 

 だが、急ぎ地球圏に帰還を目指すオレたちαナンバーズを嘲笑うかのように、星間連合の艦隊が性懲りもなくちょっかいをかけてきた。

 今回は本格的にムゲ――、ムゲ・ゾルバドス帝国の戦力がお出でなすったわけだが。どうやらズールとムゲは対等の同盟者のようで、デスガイヤーがベガ艦隊のガンダル司令やザール艦隊の三将軍を顎で使っていた。奴らの名称が「星間連合」なのはこのためだろう。

 つーか、敵の中に忍者くさいのがちらほらいたんだけど?

 あれか、トラウマ忍者くるか?ランカスレイヤー=サンくるのかー? 

 いや、ランカいないけど。まだ生まれてもないだろ、多分。生まれてないよな?

 

 アカシックレコードにアクセスしてカンニングしたいところなんだが、このところプロテクトが堅く役に立つ情報を読みとれないんだよなぁ。特に先読みができねー。マジでフラグ管理で情報解禁してんのかよ?

 

 とりあえず、星間連合を地球圏から叩き出すのはもちろんだが、プラントの連中には特に目にもの見せてやるつもりである。

 しっかし、何だろうなこの胸騒ぎは。嫌な予感がしてならないぜ。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年、四月一日――

 

 突如、地球連邦に対して宣戦を布告したコロニー国家「プラント」は、独自開発したモビルスーツ《ジン》を以て攻勢を仕掛けた。

 対する地球連邦はこの時、地球に接近する「ギシン星間連合帝国」や「機界三一原種」、「ラダム獣」などの胸囲に対処するための絶対防御線を引いており、ザフト軍が雪崩れ込んだ戦線は一気に混乱の坩堝と化していた。

 αナンバーズはゼ・バルマリィ帝国監察軍との戦闘の傷も癒せぬまま、地球圏へと急行したのだった。

 

 

「イングさん、原種がまた地球に降下します!」

「わかってはいるが……邪魔だ!」

 

 ザフトのモビルスーツ、《モビルジン》を《ロシュ・ダガー》の一閃で蹴散らす《エグゼクスバイン》。性能の差は歴然だが、如何せん数が多くαナンバーズは苦戦を強いられていた。

 本命の機界三十原種と星間連合、漁夫の利とばかりに次々に襲来するラダム獣。これらに加えてザフトに対処せねばならない連邦宇宙軍は、刻一刻と戦力の消耗を強いられていた。

 

『やはり厄介だな、主義者というものは!』

「そう言ってやるなって。プラントの連中、時代の流れが見えてないのさ」

 

 赤と白に彩られた《ビルドファルケン・タイプR》が代名詞とも言えるフライトユニットを広げ、凄まじい速度と正確無比な射撃でもって戦域を掻き回す。

 他方、紫紺の《エグゼクスバイン》は、特徴的なゴーグルに覆われたデュアル・アイを光らせ、地球圏最高峰の機動兵器たるそのスペックを遺憾なく発揮して戦場を支配していた。

 ――αナンバーズの一員としてイングとアーマラは、五名の部下を引き連れて殺到する侵略者に対応していた。

 

『うわ、しくった! ヤバッ!?』

『こらアラドっ、突っ込みすぎ!』

『悪ぃゼオラ! ――行くぜ、アムロ大尉譲りのハンマーだ! 当たると痛てぇぞ! おぉぉりゃあっ!!』

 優秀なパートナー(ゼオラ)にフォローされながら、突撃小僧(アラド)の《ビルドビルガー》が時代錯誤の質量兵器(ブーストハンマー)を振り回し、《ジン》を粉砕する。

 一方、《量産型νガンダム》を操るクォヴレーは淡々と、危なげなく二人が撃ち漏らした敵機を破壊していく。

 

『……。隊長、時代の流れというのは?』騒ぎに乗じて、横槍を入れてきたラダム獣の群れを《ハイパー・ビーム・ライフル》で処理しながら、ラトゥーニはイングの先程の発言を掘り返していた。

「お? なんだなんだ、ラトちゃんってば興味あんの?」言いながらイングは、牽制の《フォトン・ライフルS》を雑にバラ撒いて《ジン》の小隊を散らし、本命の《グラビトン・ライフル》を放り込んでまとめて撃破する。

 

『(ラトちゃん……?)はい、少しだけ』

『ラト、今はそんな場合ではないわよ』

『姉様、でも』

「いいって、オウカ。()()()()()マトモにやってたら気が滅入るだけだろ」

 

 雑談に苦言を呈するオウカに、イングは普段よりもあっけらかんとした風な声色で取り成した。

 普段、相棒の四方山(よもやま)話にツッコミを入れたりするアーマラは口を挟まなかった。案外、自分も興味があるのかもしれない。

 

「つっても、大した意味じゃないぜ? 連中、長いことコロニーに引きこもってるもんだから地球圏の情勢に疎いのさ。だから、地球人類が新しい局面に踏み出したことに気付きもしないんだ」

 

 呆れを含む声色を隠そうともせず、イングは持論を展開した。

 昨今、地球圏の存亡を占う地球安全評議会では、異星人融和派と異星人排除派が日々しのぎを削って議論がなされている。他方、プラントはその流れに取り残されていると言っていい。

 

『つまり、コミュニティに閉じ籠った田舎者ということだな』それを受けて、アーマラが皮肉げに言う。

『田舎者って……』『ひでー言い方だけど、おれにもわかりやすいッス』ゼオラとアラドがげんなりとしている。

『ですが隊長、小さなコミュニティという割には、ザフトのMSの物量は異常では?』オウカが疑問を呈した。

 

「そりゃあ、あれだ、人工知能使ってかさ増ししてんのさ」

 

『たしかに、モーションにAI特有のパターンがある』敵機を分析したラトゥーニが肯定の声を上げる。

『でも、モビルドールという可能性もあるんじゃ?』とゼオラは提示した。

()()()()()()()()()()()()が、()()()()()の作ったもんなんぞ使うかよ」とイングが若干の侮蔑を含めて言う。

『あー』とその意見に一同の実感の些か欠けた声が重なった。

 この新西暦という時代に生きる地球人類で、「ナチュラル」と「コーディネーター」という区分を意識するものがどれだけいるだろうか。「アースノイド」と「スペースノイド」、あるいは「オールドタイプ」と「ニュータイプ」ならばともかく、出生前の遺伝子組み換えによる差異などは翼や角を持った異星人種と比べれば、小さな違いでしかないだろう。良くも悪くも太陽系の外に目を向け始めた「地球人」にとって、プラントの宣戦布告はまさしく寝耳に水の事態だった。

 

『だがそれは、矛盾していないか』

「何がさ、クォヴレー」

『閉じた社会の中で形成された組織と言うなら、異星文明由来の人工知能を入手する機会は無いに等しいはずだ。しかし、実際にはEOTの影響が見られるのはおかしいだろう』

「たしかに。言われてみればそうです!」

「答えは簡単だ、連中から直接影響を受けてるのさ。バルマー戦役でのジュピトリアンのようにな」

『つまり、プラントは既に侵略者に取り込まれていると?』

「推測だが、おそらく間違いないだろうな。じゃなきゃ、こんな時にこんな愚行犯さないだろうさ。いやしかし、愚痴っても仕方ない」

「! イングさん! 敵、星間連合のものと思われる特機タイプ多数! 数20です!」

「おっと、お代わりかよ」

『お喋りはここまでだな。各機、迎え撃つぞ!』

 

『はい!』『了解』

 

 お馴染みのイングの軽口から、アーマラの号令で、皆は気を引き締める。

 精鋭揃いのαナンバーズでも特に指折りのメンバーを揃えたこのチームは、小隊単位で言えば最強クラスの戦闘能力を持っていると言っていいだろう。

 

『ゼオラはともかくアラド、お前のビルガーは実弾メインの機体だ。弾薬は余裕を見ておけ』

『了解ッス!』

『クォヴレー、お前もだ。武装の消耗には常に気を配れ。ゼオラ、お前と私は二人のバックアップだ。いいな?』

『了解』

『はい!』

 

「オウカ、ラトゥーニ、状態はどうだ」

『ラピエサージュ、実弾と武装のエネルギーの消耗はありますが、戦闘には支障ありません』

『ビルドラプター、同じく。戦闘続行可能です』

「補給、修繕が必要なら早めにな。お前たちは確かに()()()()()だが、体力の消耗はするんだ。無理するなよ」

『わかりました』『はい』

「連中だって無尽蔵なわけじゃない。必ず攻勢限界に達する――とは言え、だ!」

 

 まるで共闘するかのような動きを見せるザフトの《ジン》と、ギシン星間連合帝国のものと思われる種類雑多の機動兵器、そして時折襲い掛かってくるラダム獣を粉砕する《エグゼクスバイン》。

 国力の乏しいザフトが、これほどの軍勢を用意できたことには理由(ワケ)がある。星間連合由来の人工知能を《ジン》などに搭載することにより、数を揃えたのだ。

「“ナチュラル”のものじゃなけりゃ、侵略者でも構わないってのかよ!」プラントの思想が透けて見えて、イングが思わず毒づく。これらの人工知能はモビルドールほどの柔軟性はないが、安価でより数が揃えやすい。またモビルスーツの量産自体にも、星間連合の関与が疑われる。事態は深刻だった。

 

『それでどうする、イング。私たちはともかく、連邦軍はじきに限界を迎えるぞ。そうなれば――』

「地球がタイヘンなことになっちゃいますよ~っ!」

「こうなりゃαナンバーズお馴染みの一転突破しかないが――」

『しかし、私たちの隊がここを離れれば

戦線が崩壊しかねないな』

「だよなぁ。つーことはエグゼクスバイン単騎突入だが……」

「本機のみでの突入の成功率、64.1%です! でも――」

「足りない分は()()で補うってか? だが、そういうノリは嫌いじゃないぜ。勝率四割もあれば分のいい賭けだろ!」

 

 そのとき、一筋の光亡(メガ粒子)とともに白い流星が宇宙(ソラ)を切り裂く。

『イング!』白き“ガンダム”、《Hi-νガンダム》が展開したフィン・ファンネルを従えて現れた。

 

「大尉!」

『このままでは埒が明かない。ザフトの指揮官を叩く! 着いてきてくれ!』

「了解! よっしゃ、天の助けって奴だ! アーマラ、あとは頼むぞ!」

『まったく……わかった、任せろ。ゼオラ、アラドは右翼に、オウカとラトゥーニは左翼に展開しろ! 派手に動いて連中の目を惹け!』

『はい!』

『うッス!』

『わかりました』

『はい』

『クォヴレー、お前は私とだ! この宙域は我々で死守する!』

『了解』

 

 現状を打開すべく行動を起こしたアムロの要請を受け、イングは奮起する。

 バルマー戦役から第一線で共に戦い続けたアムロのイングに対する信頼は、「ホワイトベース隊」の旧友らに次ぐと言っていいだろう。

 四肢の運動のみで器用に反転する《エグゼクスバイン》に向けて、アーマラが声をかける。

 

『お前には余計な心配だと思うが、死ぬなよ、イング』

「ああ、お互いにな。よし、行くぞ、エクス!」

「はい!」

 

 

  *  *  *

 

 

『そこぉ! フィン・ファンネル!』

「オープン・ブレード! 切り裂けッ、レボリューター!!」

 

 地球圏最高峰のニュータイプ戦士とサイコドライバー、αナンバーズきってのスーパーエース二人は、並みいるモビルスーツを蹴散らして突き進む。

 行く手を阻もうと群がる《ジン》は瞬く間にメガ粒子と光子の弾丸に砕かれ、戦闘能力を喪失。草を刈るような勢いで突き進むその様は、まさしく鎧袖一触である。

 彼らの快進撃を阻むものはいない、そう思われたその時――

 

『――ッ、これは、邪気が来る!?』

「っ!」

 

 宇宙(ソラ)に漂う不穏な気配をいち早く察知した《ガンダム》がスラスターを吹かせて急速反転、一瞬反応に出遅れた《エグゼクスバイン》の直上に位置取る。直後、真っ二つになった《サラミス改》級の残骸の影から降り注いだ無数の弾丸がシールドを砕いた。

 用を成さなくなったシールドを破棄し、《ガンダム》は即座にビーム・ライフルを三連で応射した。

 

「大尉!」

『問題ない! それよりも――』

 

 ビームが直撃し爆発を起こす《サラミス改》の残骸、爆風の中から白い機影がスラスターの噴煙を引いて飛来する。

 それは、翼を持ったヒトツメの巨人だった。

 《エグゼクスバイン》と《ガンダム》が、それぞれ《フォトン・ライフルS》と《ビーム・ライフル》を発砲するが、。

 ZGMF-1017M《ジン・ハイマニューバ》――MMI-M729エンジンをバックパックに、両脚部には高機動スラスターを要した脚部増加装甲を装備した、ザフトの主力モビルスーツ《モビルジン》のカスタム機である。

 この機体は、《MA-M3重斬刀》を取り付けた《JDP2-MMX22試製27mm機甲突撃銃》の他、《M707028mmバルカンシステム内装防盾》を装備している。これは後に戦場に現れる《ジン》の上位機種、《シグー》の武装だ。

 

「白いハイマニューバ……! やっぱ指揮官はラウ・ル・クルーゼかッ! 直々のお出ましかよ!」

『来たか、アムロ・レイ。そして、ワンゼロワン。私のことはもうご存じのようだね?』

 

 見るものが見ればわかる、邪悪極まるオーラを纏う灰白色の《ジン・ハイマニューバ》。それから放たれる凶悪なプレッシャーに、イングは悪態を吐きつつも思わず息を飲んだ。

「マジかよ……冗談キツいぜ」そう溢したイングの頬を汗が伝う。闇の帝王、皇帝ズール、あるいは未だ姿を表さないムゲ・ゾルバトス――この世の半分を構成するマイナス()面の無限力――負念(マリス)を振るう闇よりも暗き闇黒(あんこく)のものたち。バビルが最大限に警戒し、対抗しようとした存在の関与を彼は感じ取っていた。

 

「このプラントの軽挙妄動、原因は貴様だな」

『フフ……だとしたら?』

『イング、気を引き締めろ! 奴は尋常な相手じゃない!』

『少し相手をしてもらおうか。()()()の試運転もしたいのでね』

 

 《ジン・ハイマニューバ》がモノアイを不気味に光らせる。

 翼を持つ単眼の巨人から、天然自然の尽くを滅ぼすオーラが迸る。おぞましいとしか形容できない力の波に、宇宙は末期の悲鳴を上げた。

 空間に伝播したクルーゼの邪念が負念(マリス)を呼び起こし、周囲に漂う破損した《ジン》たちがその影響を受けてにわかに動き出す。

 

『奴の邪気が拡がっていく……!?』

「ふ、フラッシュシステムですかっ!?」

「これは……! 宇宙の闇から霊魂が沸き上がってるのか?!」

『あながち、エクスの感想も間違ってはいないらしい。モビルスーツの中に奴の気を感じる。信じがたいことだが、ファンネルやビット兵器のように思念でモビルスーツを操っているのか……!』

『ネシャーマと言う、まっとうき全体より黄泉返(よみがえ)った死霊の群れ。私の思意の受け皿となる、便利なものさ』

「っち、全裸(フロンタル)みてーなことほざきやがって!」

『フフ……()()()()宿()()に我らが大願を阻む神の国のモノ(プレイヤー)……、相手にとって不足無しと言ったところかな?』

 

 独り、愉悦ぶる仮面の男は自機を操作した。灰白の悪魔が、そしてその邪気に操れたスクラップの群れが火砲を一斉に放つ。

 対する《ガンダム》と《エグゼクスバイン》は直ぐ様散会し、それぞれの銃を向けて一斉射撃する。

 その間に、灰白の《ジン》は特徴的なウィングバインダーから光の尾を引いて飛翔した。

 半壊した《ジン》たちが火砲の直撃を受けて火の玉と化していく。

 

「敵、ジンハイマニューバタイプ、想定の三倍の速度です!」

「三倍速だって? 赤い彗星かよ!?」

 

 そう口に出した瞬間、イングの脳裏に閃くインスピレーションと()()()()()()()。常時なら荒唐無稽な妄想と切って捨てるそれを、イングは拭い去ることができない。

 この因果と時空のとち狂った“世界”なら、あるいは――

 

()()()()……ここまでの戯れ言……、まさかこいつの正体は――」

「イングさん! 来ます!」

「あ、ああ!」

 

 エクスの悲鳴じみた声に正気を取り戻したイングは、一旦恣意を封じ、操縦桿を握り直した。

 

 

 *

 

 

 イングとアムロという地球圏最高峰の戦士を同時に相手にしながら、クルーゼはしかし圧倒と言っていいほどの戦闘を繰り広げていた。二人が攻めあぐねていたと言ってもいい。

 それは何故か。

 死霊に憑りつかれ、幾度となく黄泉反る傀儡と化した《ジン》の群れもさることながら、イングとアムロはクルーゼの放つ物理的な現象さえ伴う強烈な負念(マリス)に手を焼いていたのだ。

 

『フフフ……ハーハハハハッ! やはり素晴らしいなこの力は! 理解や対話など……ましてや平和などというもの費やすとは、実に愚かしい行為とは思わんかね?』

『チィ!』

 

 “ニュータイプ”(革新した人類)の感性に従い、負念(マリス)を伴って降り注ぐ弾丸の雨を回避し、アムロは舌打ちを洩らした。

 常軌を逸した速度で飛び回る《ジン・ハイマニューバ》は、亜光速に迫るメガ粒子を容易く掻い潜る。刻一刻と力を増していく強烈な負の強念に邪魔されて、アムロはクルーゼの思意を読めずにいた。

 

『クッ、奴の邪気が増している……!? 俺たちの力を吸っているのか!?』

「野郎、調子に乗りやがって!」

 

 吐き捨てたイングは、《エグゼクスバイン》に《T-LINKセイバー》を引き抜かせる。狙いはもちろん灰白単眼の巨人だ。

「エクス、戦況は!?」《ジン》を真っ二つに両断し、イングは焦りを滲ませながら相棒に問う。

「連邦軍の損害、20%を越えます! このままだと防衛線を維持できません!」状況をモニターしていたエクスが悲鳴のように叫んだ。

 

「クッ――!」

『こんなものかね、バビル二世!』

 

 《T-LINKセイバー》と《重斬刀》が激突し、火花がそれぞれの装甲を(あか)く照らす。

 その機動力を生かしたヒットアンドアウェイで斬り込む《ジン》を、《ガンダム》と《エグゼクスバイン》が迎え撃つ。銃剣などという、凡そ格闘戦には向かない形状の武器を器用に操り、打ち込んでくる《ジン》。パワー、スピードともに《Hi-νガンダム》や《エグゼクスバイン》に匹敵するか、あるいは凌駕しかねないそれは、明らかにこの世の道理を逸脱していた。

 

『これでは、()()()()()を乗り越えられるとは到底思えんな。所詮、()()()()()()とてこの程度か! やはり! 何一つ、この世の理を変えることは出来ぬと見える!』

「貴様、何を知っている!」

『知らぬさ! 所詮人は己の知ることしか知らぬ!』

「いちいちセリフの出番が早いんだよ!」

 

 ヤケクソ気味になってイングが吐き捨てた。

『うおおおッ!!』《エグゼクスバイン》と入れ替わるようにして、《Hi- ν》がバルカンと腕部ガトリングをバラ撒きながら斬り込んだ。

 

『見ろ、この宇宙の有り様を!!』

『何を!!』

 

 青白い《ビーム・サーベル》と《重斬刀》の刀身をぶつけ合いながら、クルーゼは高らかに叫ぶ。

 

『さまざまな外敵に晒されながらも、未だ同じ種同士で争い合う! これが愚かと言わずなんと言う!』

『それをしているのは貴様だろうに!』

『違うな! これがヒトというものの本質、持って生まれた業だよ! 知りたがり、欲しがり! やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う! 奪い、壊すことしか出来ない!』

 

 持論を並べ立て、クルーゼは猛攻する。

 圧倒される《ガンダム》。しかし、アムロは独りではない。両手の《グラビトン・ライフル》から放たれた重力波とともに、《エグゼクスバイン》が直上から乱入する。

 一旦、距離を取ったクルーゼの指示により直ぐ様、数機の《ジン》が立ち塞がる。《グラビトン・ライフル》を組み合わせて集束、さらに強力になった重力波を照射してそれらを粉砕。両手に持っていた銃器を投げ捨てるように重力空間に返しながら、イングがそれを追い縋る。

 無造作に引き抜いた《ロシュ・ダガー》を二振り投げつけて二機を足止めし、強烈な蹴りと鉄拳をそこに叩き込んで粉砕する。さらに全身の《T-LINKスライダー》が射出され、次々と傀儡を破壊していく。

 

『何を知ったとて! 何を手にしたとて変わらない! 最高だなヒトは! 妬み! 憎み! 殺し合うのさ! ならば存分に殺し合うがいい! それが望みなら!』

「自殺がしたいなら、一人で勝手にしていろ!」

『ハッ! 君ならそう言うだろうさ! バビル二世にして神の視点を持つもの(プレイヤー)たる君ならね!』

「知れば誰もがオレのようになりたい、とでも言うつもりか!?」

『それこそまさかだ。それだけの力を持ちながら、()()()()()に甘んじる君こそが最も愚かな存在だろう!』

「ッチ! ああ、そうかよ!」

『もっと自由に、傲慢に振る舞ってみてはどうかね! 抑圧された精神を解放するのは清々しいものだよ!』

「大きなお世話、だ!」

 

 出力を上げて重力場の刀身を伸ばした《ロシュ・ダガー》が、青い光の弧を描いて放たれる。

 全身のアポジモーターにより、一閃を紙一重で回避した《ジン・ハイマニューバ》。

 蹴り飛ばされた《エグゼクスバイン》と入れ替わり、《Hi-νガンダム》が単眼の悪鬼に再び猛追する。

 

『あの光を見てもなお、お前は闇を広げるというのか!』

心の光(あんなもの)など、一時(ひととき)の気の迷いだよアムロ・レイ! ニュータイプ、ヒトの革新を謳った()()()とて、身勝手にも他者を絶望し、見たいものだけ見て決め付け! 自身のエゴに呑まれて死と破滅と不幸だけを振り撒いた!』

『あの男……シャアのことか!』

『フフ……、()()()()()()()()()()()()()のことさ!』

 

 クルーゼは嘲笑う。

 激しく激突する二機のモビルスーツ。もはやアムロに敵を侮る意識は微塵もない。前大戦で決着を付けた宿敵以上の強敵、打倒すべき存在だと直感が強く訴えていた。

 《ガンダム》の全ての武装、あるいは自身の命ですら使ってでも倒すべき存在だと――

 

『シャアはそこまで絶望しちゃいない! 絶望するとしたら、貴様のようなエゴの塊の人間ばかりとなった世界にだ!』

『フフ、ハハハハ! 言っただろう、アムロ! 所詮人は己の知ることしか知らぬと!』

『何だと!』

『君は知らないのさ、あの男が犯した所業を! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をね!』

「! 貴様、やはり!」

『ハハハハ! ()()()()()()()()()()()かね、バビル二世!!』

 

 激しく縺れ合い、攻守を入れ換えながら、《Hi-νガンダム》と《エグゼクスバイン》、そして《ジン・ハイマニューバ》の三機は火花を散らして激突する。その余波に巻き込まれた死霊の操る《ジン》が粉々に砕かれ、《フィン・ファンネル》と《T-LINKスライダー》が次々に破壊されていく。

 熾烈な戦闘の最中、戦場はデブリ帯へと突入した。

 これはアムロとイングがそう誘導しているからであり、クルーゼがあえてその誘いに乗っているからである。

 

『全ての生きとし生けるものは、自らが育てた負念(マリス)の闇に喰われて滅ぶ!!』

『人は、俺たちはそんなものじゃない!!』

『ヒトの革新を待つ? そんな時は、どれだけ永劫待とうとも訪れはしない! 殺し、奪い合うのが生命の、そして()()()()()()()()が発生したその瞬間から不変の本質、業だからだ!!』

 

 デブリを足場に緩急を付け、縦横を駆け回る《ジン・ハイマニューバ》。それに惑わされるアムロとイングではないが、少なくともその狙いを散らす結果にはなる。

 そのとき、一筋の()()影が宇宙(ソラ)(はし)った。

 

『君もそうは思わんかね、()()()()()()?』

『……!』

 

 デブリの影から凄まじい速度で現れた青と白のモビルスーツ――《F91》が《ビーム・サーベル》を一閃させたが、灰白の《ジン》はそれを銃剣で難なくいなし、さらには反撃に蹴りを繰り出す。

 約一五メートルの《F91》と約二八メートル《ジン・ハイマニューバ》、大人と子供ほどの体格差はただの蹴りであっても甚大な被害を出すだろう。

 しかし――――

 

『対応された!? ――だが!』

 

 完全な形の不意討ちに対応された《F91》のパイロット――刹那は、キックを躱して最速に設定した《V.S.B.R》と《ビーム・ライフル》による偏差射撃を敢行する。

 三本のメガ粒子の射線のうち一つが《バルカンシステム内装防盾》の砲身を削り取り、《ジン》は役に立たなくなった盾ごと投げ捨てた。

 

『刹那!』

『わかっている。()() は、俺が破壊すべきこの世界の歪みの根源だ!』

『その手を、数多(あまた)の無辜の命で汚した分際でよくも言うな! ガンダムマイスター!』

『だからこそだ! 俺は、俺のこの命が尽きるその時まで戦争を根絶し続ける!』

『戦うだけの人生を、まだ続けるつもりかね!』

『だが今は!  そうでない自分がいる! 世界から見放されようと、俺は、俺たちは世界と対峙し続ける!』

『そうだ! 僕らは!』

「フルパワーで行く! エクス! 何とでもなるはずだ!!」

「はい! トロニウム・レヴ、リミッター解除! エグゼクスバイン、フルドライブです!」

『貴様のエゴは、この宇宙(ソラ)(トキ)を停める!! いや、過去に戻す!』

 

 《F91》が各部を展開し、最大稼働を開始する。質量を持った残像を伴って宇宙を斬り裂く《F91》のコックピット、刹那は瞳を金色に輝かせた。

 リミッターを解除した《エグゼクスバイン》の装甲が、トロニウム・レヴが産み出す膨大なエネルギーにより赤熱化する。全身のプラットホームから念動力による刃を生やしたこの姿は、その機体に宿る魂に肖り、《エクス・フェーズ》と名付けられた。

 そして、アムロの恣意に従い、サイコフレームが発するエメラルドグリーンの“虹”を纏いながら《ガンダム》が翔ぶ。

 

『Hi-νガンダムは伊達じゃない!』

「オレたちの未来は貴様に! ましてや、無限力(イデ)なんかに押し付けられるものじゃない!」

『無駄だよ、バビル二世! すでに銀河の終焉への引き金は引かれた! 奪い、殺し合うだけの生者の世界の幕を、()()()が引いてみせようと言うのだ!!』

「その前に、貴様はここで――ッ!?」

 

 戦闘がヒートアップしていくそのときである。

 

『ぐあっ――これは!?』

『なんだ、宇宙(ソラ)が軋んでいる……!?』

『ム……!?』

 

 激しい頭痛とともに、刹那とアムロが異変を感じ取る。

 それはサイコドライバーたるイングと、そして()()()()()()()()()()()クルーゼも同じだった。

 

「この強念、イデか!? エクス!」

「地球付近の宙域に、強力な重力場及び時空間異常を感知! タキオン、ゲッター線、ビムラー、その他すべての値が異常値を示してます!!」

「重力場異常!?」

『何が起きた……? ほう……なるほど、そういうことか。此度の無限力(イデ)は、なかなか味な真似をするようだ』

 

 困惑するイングらを尻目に、独り納得の言葉を漏らすクルーゼは自機を反転させる。

 

『諸君、今回の戯れはここまでとしよう』

「! 待て、クルーゼ!」

『ふむ、もはや私などに構っている余裕はないと思うがね、バビル二世』

「どういう意味だ!」

『それは直ぐに解るさ。では、いずれまた会おう。さらばだ』

 

 捨て台詞を残し、クルーゼの《ジン》は宇宙の闇よりも(くら)い闇のカーテンに消えていく。

 ――その瞬間、この銀河(ウチュウ)すべてを揺るがす大激震が襲ったのだった。

 

 

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月☆日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 

 イデ馬鹿なの? 頭おかしいの? 死ぬの?

 いやこれマジやばくね?

 ガラじゃないとか言ってられん。直ぐにブライト艦長にみんなを集めてもらわないと。刹那とティエリアに協力してもらって、ゴップ閣下とグローバル議長、あと大河長官にも連絡とらなきゃ。

 いや、この際だし使えるコネ全部使って片っ端から人を集めるか。秘密だなんだなんてもはや言ってられない。

 

 この宇宙は地獄だ。

 ともかくマジでイデは頭おかしい。

 

 

   †  †  †

 

 

 αナンバーズ艦隊、《ラー・カイラム》。

 実質的な旗艦とも言える《大空魔竜》が火星防衛に赴いている関係で、今回の作戦での指揮を取っていた。

 

 連邦の軍艦としては広い会議室は、緊張感に包まれていた。

 《ラー・カイラム》の艦長ブライト・ノアを筆頭に、連邦軍極東支部の両看板、神隼人と剣鉄也、科学班及び整備班の代表として兜甲児、機動部隊総隊長アムロ・レイ、G.E.A.R.副司令ベガがこの会議室に揃っている。

 そして《ナデシコC》のホシノ・ルリと《アルビオン》のエイバー・シナプス、防衛戦より合流した《ネェル・アーガマ》のミットー・オタスの三名が、それぞれ自らの艦からオンラインで参加していた。

 

「全員、揃ったようですね」

 

 司会を勤めるブライトが口火を切った。

 U字型の大きなテーブルの正面、複数の空間投影式のモニターが表示されている。光子力ネットワークを利用したオンライン回線を用いて地球圏の全域から、GGG長官にしてαナンバーズの総責任者大河長官を始め、極東支部の岡防衛長官、連邦宇宙軍からミスマル総司令など、封印戦争時からαナンバーズを表だって支援してきた歴々が顔を並べている。

 さらに今回は()()()を始め、αナンバーズのコネクションを最大限使って、地球圏の様々な防衛組織組織の責任者や著名な科学者、官民問わず幅広い有力者が集められていた。

 

 

『……』

 

(うっわ、マジで()()来てんじゃん! まあ、呼んだのオレなんだけど)

 

 中には()()()()()()()()姿()()()()()()()()もおり、数名の事情通はもちろん、呼び寄せたイング本人すらも驚きをもって迎えている。

 なお、この会議はαナンバーズ艦隊各艦内にもライブ中継されていた。

 

「ではイング、よろしく頼む」

「わかりました」

 

 ブライトに促され、神妙な面持ちでイングが頷く。今回の会議を召集した張本人は柄にもなく緊張を見せていた。

 

(上手くやれよ、イング! ここがおそらく、この銀河(セカイ)の正念場だ)

 

 自身に言い聞かせ、壇上に立つイング。そんな様子を会議室の影からイルイとアーマラが見守っている。特にイルイは心配そうな面持ちで見つめていた。

 ブライト以下、この場にいるαナンバーズ首脳陣とは事前に内容を協議済みで甲児やアムロなどは、特に目をかけている 後輩(イング)に進行を任せるつもりでいた。

 そんなイングの手元にあるタブレットデバイスの、本人肝いりで実装したコメント欄(横に流れるいわゆる“弾幕”ではなく、縦に流れていくチャットタイプ)に「イングのヤツ、ガラでもなく緊張してやがる」「笑」「草」「lol」などと表示されている。

「コメ見えてんぞ、號と豹馬とドラグナーチーム(三馬鹿)……!」などと額に青筋を立てつつ、イングは口を開く。

 

「皆さん、お忙しいところ集まっていただき感謝します。早速ですが、本題に入らせて――」

『ちょっと待ってくれないかい、イング君』

「なんです、アキツキ会長」

 

 開口一番、会議を始めようとしたイングを遮ったのは、ネルガル重工のアキツキ・ナガレだ。彼は同じくオンラインで参加している金髪の優男に鋭い視線を向けていた。

 半ば予想していたこととはいえ、イングは出鼻を挫かれてウンザリした。

 

『この未曾有の事態に、僕らが集められるってのはごく自然なことだとは思うんだけど、()()()()()はどうしてこの場にいるんだい?』

『これはこれは、ネルガルの坊やが何か口走っていますネ』

 

 ()()()()()ことムルタ・アズラエルは、軽薄な笑みを浮かべて舌鋒を翻した。

 

『仮にもボクはキミと同じ国防産業連合の理事ですシ、ナニもおかしいことはないのでハ?』』

『……。プラントに対する核攻撃未遂は()()()()()の仕業だろう』

『アレ、()()じゃあありませんヨ。大方、ボクら(ブルーコスモス)の名前を騙った誰かさんの仕業でショウ』

『白々しいね。そもそも、アンタがなんでここに呼ばれてるんだい?』

『なんでもなにも、イング君に呼ばれたからですガ。キミも同じでハ?』

『アンタみたいなレイシストと一緒にはされたくないね』

『おやおや、さすがにそれは聞き捨てならない発言ですネ』

 

『ご両人、そこまでにしていただきたい』ヒートアップする両者を止めようと、口を開きかけたイングに先んじて発言したのは、――マオ・インダストリーの社長、リン・マオだ。その傍らには、イルムの姿もある。やれやれとばかりに呆れ顔で肩を竦めていた。

 彼らと同じ、国防産業連合理事であり性格上曲がったことが嫌いな彼女が仲裁に入るのはイングの予期していたことだ。

 なお、アナハイムの代表はいない。「アナハイムだからね、仕方ないね」とはイング談である。「Re: V計画」にもニナ・パープルトン以下個人的に協力しているもの以外は、基本的に企業としてのアナハイムは閉め出されている。

 

『すまないイング、話を進めてくれ』

「いえ、こちらこそありがとうございます、マオ社長」

 

 両者を取り成したリンではあるが、アズラエルが同席していることについてはアカツキ同様、納得しているわけではない様子が伺える。これも予期していたことで個別で釈明の必要がありそうだ、とイングはふたたびゲンナリした。

 

「改めて、状況を説明させていただきます」

 

 気を取り直したイングは端末を操作し、備え付けの大型スクリーンに画像を表示させた。

 表示したのは、地球絶対防御線をめぐる戦闘の推移を簡素化したものである。

 

「先だっての一連の防衛戦については、皆さん聞き及びのことと思います」

『地球降下は防げなかったようだね』

「面目次第もありません」

『いや、規模が縮小しているとはいえ、君たちαナンバーズの精鋭が参加して失敗したのなら、どうあっても不可能だったのだろう。プラントの横やりもあったのだしね』

『うむ、ゴップ議長の仰る通りだ。イング君、我々を集めた本題はそちらではないのだろう? 続けてくれたまえ』

「はい、こちらをご覧下さい」

 

 グローバルに促され、スクリーンが切り替わる。

 現在衛星軌道上に駐留している《ラー・カイラム》から撮影した宇宙空間の映像だ。

 真円の巨大な構造体を中心として、《《三つの碧い惑星》がちょうど正三角形の頂点の位置に存在しているように見えた。

 画面の向こう側からどよめきが聞こえてくる。ここに呼び寄せられたものは皆、それぞれに独自の方法でこの事態を把握していたが実際に目にすればやはり動揺は隠せないようだ。

 

「ご覧になられています通り、現在“クロスゲート”を中心として、我々の地球と酷似した惑星が二つ出現しました。クロスゲートの詳細についてはこちらのデータをご覧下さい」

 

 イングは、バベルの塔の把握しているクロスゲートについての情報を送付した。

 特に秘匿性の高い情報は伏せているが、今回の事態を説明するのにはクロスゲートという第一始祖氏族の遺産を無視するわけにはいかなかったし、すでにαナンバーズ内部では公開している内容だ。

 

「さらに、こちらがこれらの惑星が現れた瞬間をアステロイドベルト、イカロス基地から捉えた映像です」

 

 イングがパネルを操作すると、会議室の大画面が移り変わる。また、会議に参加する全員にも光子力通信により参加者それぞれのもとへと送られた。

 

『おお』

 

 フォールド通信によりもたらされた映像がスクリーンに表示される。誰からともなく、感嘆とも畏怖とも取れない声が漏れ聞こえた。

 クロスゲートを中心にして、エメラルドグリーンの光が輝くと、水面に拡がる波紋のように虚空に伝播していく。時に、“虹”とも称される緑色の光の波形が碧い宇宙を迸って、地球の衛星軌道上を取り巻いたかと思うと、未知の文字(ルーン)にも見える複雑怪奇な幾何学模様を描き出す。

 光が形成した図形は、まるで「魔法陣」のようだ。

 さらに拡がった光は、地球を取り巻いて真円を形作り、それをちょうど頂点とした正三角形(デルタ)を形成した。そして、正三角形であることを示すかのように頂点には真円が他にも二つ存在していた。

 空白となっている二つの円の内側、巨大極まる――まさしく惑星(ホシ)に匹敵する質量が、隠されていたベールを剥がすかのように徐々に姿を表していった。

 

『……。確認するが、あれらの惑星はホログラム等の幻像ではないのだね?』

「はい、そうなりますゴップ閣下。お手元にある地上からの観測データは、宇宙科学研究所から提供いただきました」

『ふーむ……』

「簡易的なものですが、これと兜博士ら科学班がαナンバーズ各艦から観測したものと合わせると、我々の地球と等しい質量が確かに存在していることがわかります」

 

 モニター越しのざわめきが大きくなる。今回集められたメンバーは、分野は違えど地球有数の頭脳の持ち主たちである。まさしくこれが異常事態であると理解した。

『あれだけ巨大な質量が近隣に存在すれば、地上に何かしらの変化が現れるはずだが、どうか?』ミスマル提督が、連邦軍人らしく地上の被害を心配する。

『不思議なことに、潮汐の変化等の報告は今のところ見られませんな』すると、岡長官が短い時間でかき集めた生の情報で答えた。

『あの構造体、クロスゲートが周囲の空間と重力を操作し、地球の環境を保っていると考えられますな』早乙女博士は、地球が誇る頭脳たちを代表し、意見を述べる。

『どちらかと言えば、ラダム樹発生による混乱の方が大きいだろう』ゾンダーを始め、地球外の存在に対応するGGG大河長官が懸念を示した。

『先程閉会した地球安全評議会の臨時会議だが、紛糾を極めていたよ。情報も方針もないのだから仕方ないが』グローバルが僅かに疲労を滲ませながら、評議会の様子を話す。

()()()()()ですガ、この事態は寝耳に水のようデ。大慌てのようですネェ』アズラエルが流れに便乗して、自身のツテからの情報を開示した。

 

「防衛線崩壊の影響ももちろん大きいのですが、皆さんに集まっていただいたのはこれらの惑星――仮称()()β()及び()()γ()について対策を検討したいからなのです」

()()()()()()α()として、ということかね?』

「そうなります」

『なるほど。対策の検討、か』

「はい。この問題は政府と軍、官民が統一見解で以て断行しなければ、我々の文明に致命的な結果をもたらすと考えます」

『それほどの事態か……。多数の外敵に、地球文明間の戦争ともなれば共倒れも必定だな』

「はい」

 

 《マクロス》の艦長としてゼントラーディと渡り合ったグローバルから、実感の伴った言葉がこぼれる。

 

『しかし四月一日(エイプリルフール)とはいえ、限度があるだろうに』

()()()()()()()()()()()()()()とでも名付けようか、グローバル君』

『この現状は、まさしく“難局”ですな』

 

(お、原作ワード。いや、それどころじゃないか)グローバルとゴップが場を和ませるつもりか、四方山話を繰り広げている。

 実際、今回の大変動を人々は「エイプリルフール・クライシス」と記憶した。なお、重ねて記するが「血のバレンタイン」事件はユニウス7が崩壊しているとはいえ未然に防がれている。これを理由の一つに地球連邦に宣戦布告したザフトは無理筋と言えるだろう。

 

 

『あえて訊くのだけれど、』

 

 とここで探るような声色で発言したのは、新光子力研究所の弓さやかだ。

 

『あの二つの地球にも私たちと同じホモ・サピエンスが住んでいて、レベルはともかく何らかの文化文明を築いている、と考えていいのかしら』

 

 封印戦争終結後、甲児と正式に婚約を発表したばかりの才女は、()()()()にも波及する光子力というエネルギーを扱う科学者として意見を述べる。極東地区日本行政区首相を務める彼女の父、弓弦一郎や早乙女博士を始め、日本の誇るスーパーロボットを開発した博士たちは彼女に発言を委ねたようだ。

 まだ若輩であり、前途有望な彼女を彼らはまさしく娘を見るような眼差しで見守っている。

 

「ええ、今しがたグローバル議長にも仰いましたが、まさしく問題はそこなんです、弓所長」

『問題?』

「こちらをご覧下さい」

 

 イングが端末を操作して、二つある地球の内の一つをフォーカスした。

 には、惑星の赤道上を取り巻くようなリング状の人工物と、地上から衛生軌道上まで延びる三本の構造体が確認できた。

 

「これは、仮称“地球β”を倍率を上げて撮影した映像になります」

 

『少数の島2号型スペースコロニーに、惑星を取り巻く円環状の人工物……太陽光発電用の施設のようですな』『では、この地上から伸びる構造体は軌道エレベーターじゃろうな』と意見を交わすのは宇門博士と早乙女博士である。どちらも宇宙開発の分野で一言も二言もある地球圏を代表する専門家だ。

『うーむ。月近くに存在するこの巨大な人工物は、もしや宇宙船じゃろうか』『その可能性は大いにありますな』GGGの獅子王博士とGEAR長官の渋谷である。どちらもEOTを扱う組織に在籍し、それらに精通した人物と言える。

『この巨大な花弁のような金属の集合体……拡大すると脈動している? ある種の生命体のように見えるわね』と独自の観点で述べるのはダンナーベースの葵博士だ。長年、擬態獣と戦い続けてきた見識が生きている。

 

『これを見れば、確かに高度な文明が存在することがわかるわね』

「ええ。さらに付け加えますと、我々はこの地球の住人とすでに接触を持っています」

『なんですって!?』

 

 さやかが驚愕の声を上げる。

『ふむ、それは初耳だな』とはゴップの漏らした言葉だ。またグローバルも発言こそしないが、《マクロス》艦長時代からのトレードマークの制帽を被り直し、パイプを咥えた。

 

「報告が遅れ、申し訳ありません」

『私の判断で報告を止めさせていました。彼らに責はありません』

『いや、大河君がそう判断したのならそれが正しいのだろう。気にしていないよ』

『恐縮です』

 

 流石の大河幸太郎といえど政界の重鎮とまで言われ、αナンバーズの強力な支援者の一人であるゴップには頭が上がらない。

 ゴップ本人こそ風見鶏が如く日和見をし、表立っては動かないが、その影響力で有形無形の形でαナンバーズを助けている。自称「地球の寄生虫」はかつてはホワイトベース隊の後ろ楯をしていた経験から、そういった宿()()に致命的な危機に関しては嗅覚が利くのである。

 

「こちらが、彼らから聞き取ったこの地球についての主な情報になります。ご覧下さい」

 

 提出用に用意していた詳細なものと、ごく簡略化して確認し易くしたデータを提示する。なお、最低限の暗号化のみを施してネットワークに乗せて送っているのたが、これはプラントなどの勢力が読み解くことを期待したものである。情報漏洩よりも、未曾有の危機に対して理性と自制心が働くことを期待して。

 概ね、自分達の地球と同じく大乱を幾つも経ていることに眉を潜めている者が大半の様子だ。

 

『“新西暦”が成立するまでは、私たちの地球と同じ歴史を歩んでいる……宇宙進出を契機に別たれたパラレルワールド、と言ったところかしら?』

「おそらくは。ちなみに、兜博士も同意見でしたよ」

『あ、あら、そうなの』

 

 そんなイングの言葉に、さやかは俄に視線を泳がせ、挙動不振な様子を見せる。揶揄されて照れ入るような初な小娘ではないが、研究者としての見識についての場合は勝手が違うらしい。

 なお、引き合いに出された当の甲児だが、周囲の視線を集めたことに照れたように頬を掻いていた。

 

『それにしても、新西暦成立までの歴史は不自然なほどに似通っているのね。元々は別々のものを、無理矢理に継ぎ接ぎしたような違和感――いえ、似通っているからこそこういう事態になったとも考えられるけれど』

「ええ、まあ、そうなりますね」

 

 さやかの鋭すぎる指摘に、イングは苦笑いを浮かべて言葉を濁す。この世界の神(アカシックレコード)の都合であるとはさすがに言えまい。

 と、その時にイングの端末に一報が入る。

 

『イング』

「ティエリア! どうだ、うまく行ったか?」

『ああ、トレミーとの連絡が取れた。クアンタの識別コードを抹消しないでいてくれて助かったよ。それから、ヴェーダ経由で政府ともコンタクトに成功した。こちらはライが口添えしてくれたらしい』

 

 異変発生後、現状を重く見たイングとαナンバーズ首脳陣はいち早く来訪者たちに協力を要請。これを快諾した刹那とティエリアは、《クアンタ》を使って「ソレスタルビーイング」との接触を試みていた。

 

「失礼しました。先程ご説明しました協力者が、仮称“地球β”の地球連邦政府とのコンタクトに成功したそうです」

『朗報だな』

「はい」

『しかし、()()()()か……』

『奇縁と言うべきか、必然と言うべきか……』

『公文書作成では、官僚たちが頭を抱えそうですなぁ』

『コープランドくんには一層の苦労をかけそうだね』

 

 グローバルとゴップは存外気が合うのだろう、また益体もない話を広げて盛り上がっている。現職大統領をくん付けで呼べるのは、ゴップぐらいのものだろう。

 事態解決に微かな光明が見えたからだろう、会議の緊張感は僅かに緩み、参加者の顔色もどこかよくなったように見えた。それを画面越しながら感じつつ、イングはティエリアとの通話を続けた。

 

「ティエリア、ゼロと直接会談って出来るか? オンラインで構わないけど、なるべく速い方がいい」

『おそらく可能だが、直ぐには難しいな。彼らも相応に混乱しているようだ』

「わかってる、こっちだって意見が纏まってるとは言い難いしな。ただ政府間での公式的な交渉の前に、事前に情報交換をしておきたいんだ」

『なるほど、君たちの持っている情報は緊急性の高いものが多い。それに、異種生命体との接触の経験が豊富だからね』

「そういうこと。タイミングは向こうに任せる」

『了解した。早期に実現できるよう努力しよう』

「頼む」

 

 心強い言葉とともに、ティエリアからの通信が終わった。

 これまでの経験とメタ視点から、トップダウンで物事を決めなければこの空前絶後の危機には対応できないと感じていたイングは、この集まりも含めて過去になくイニシアティブを取っている。

 例え遺恨を残すくらいに強引でも、自らアクションを起こしていかなければ今もどこかで暗躍するものたちに、そして何より“運命”そのものに足を掬われるだろう。

 “バビル二世”であるイングは、手段を選ばないのだ。

 

 

 

「バルマー戦役以来の接触となるゼ・バルマリィ帝国、先の大戦から記憶に新しいギシン星間連合帝国は、どちらも戦力を増強させている節があります」

 

 端末を操作しながら、イングが言う。

 αナンバーズの直近での交戦記録が映し出され、新たなタイプの機動兵器の登場に特に軍関係者が渋い顔をする。

 また、科学者たちはそれぞれに抱えた事情を思い浮かべて苦悩する。特に、宇門博士は円盤型の特機級侵略兵器に複雑な視線を向けていた。

 

「地下勢力が完全に制圧されたとは未だ言いがたく、またプラントの武装組織ザフトの脅威もあります。さらには、宇宙怪獣、機界原種やラダム獣、ゼラバイア、ガルファなどに加えて未知の敵対的存在はこの宇宙に無数に存在しているでしょう」

 

 イングは参加しからの協力を取り付けるため、バルマー戦役での混乱を想起させて危機感を煽るつもりでいた。

 だが――

 

「そこで皆さんには――」

『似合わぬ回りくどい言い方は止せ、ワンゼロワン』

 

 些か舞台じみた口上を遮って言い放つのは、豊かなアゴヒゲを湛えた年齢不詳の男――国際警察機構長官、黄帝・ライセである。

 これまで無言を貫いてきたライセは、その鋭い眼光をモニター越しにイングへと突き付けた。

 研ぎ澄まされたナイフを目の前にしたかのような圧力を感じてイングは唾を飲み込み、喉を鳴らした。強力な超能力者であるライセならば、実際に画面越しに宇宙空間へとプレッシャーを送り付けることが出来るかもしれない。

 

『すでに(はら)(うち)は決まっているのだろう?』

「……」

『であればだ』

 

 この地球において、イングの直接的な後見人になるライセの言い様は、一見する突き放すようなものだが――聞くものによっては、言い聞かせるかのようなニュアンスを含んでいるように感じられるだろう。

 

『お前は、我々にただ頼むだけでよいのだ。力を貸してほしいと』

「……!」

『お前は“バビル二世”であり、地球圏を背負って立つ汎超能力者(サイコドライバー)だが……未だ子供なのだ』

 

 その言葉は、この場に集まったものの胸に突き刺さった。

 甲児、アムロ、竜馬――かつては子供だったものたち。そして、ブライトを始めとした彼らを戦わせるしかできなかったものたちが、悲痛な表情を浮かべる。皆、誰もが大小の差はあれど忸怩たるものを抱えながら、守らなければならないはずの子供たちを戦いへと駆り出しているのだ。

 歴史は繰り返される。

 因果は収束する。

 生き物が生まれ、そして死んでいくように。

 かつてとある少女が例えたように。

 この宇宙は、「誕生」と「死滅」と「転生」と――「闘争」と「革命」と「調和」が延々と続く、終わりのないワルツのようなものだ。

 

()()()()が戦争の矢面に立つことを、我々は止めることが出来ん。それはお前たちが、この世の理不尽と不条理に対して抗い、戦うことを自ら選び取ったからだ。経緯や理由は何れにせよ、な』

 

 ライセが双貌を伏せる。

 厳めしい表情に、余人には到底理解できない複雑な内心と思考を秘めて、しかし本心から自身の立場を表明する。

 

『ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは先達として、彼らの前を歩く存在なのだから』

 

 年長者はその背で子供たちを守り、育み、次代へと繋いで行くのだという、至極当然な、しかしてこの末法の世にはいっそ夢想にも思える難しい道理だ。

 だが、混沌とした時勢だからこそ、そういった理想論が必要なことを少なくもここにいるものたちは知っているだろう。

 

 バルマー戦役中からの工作により、SDF艦隊が解体された際にいち早くサイコドライバー(イング)を自身の傘下に納め、イージス事件、封印戦争と続いた戦乱の中で彼の元に正しき力が集うよう、陰ながら取り計らったのはこの黄帝・ライセである。

 かつてはビアン・ゾルダークや東方不敗ことショウジ・クロスを盟友として共に、BF団やその他の様々な勢力――時には連邦政府とも――と暗闘を繰り広げてきた男は、宿敵の後継者にして銀河宇宙の命運を握る少年を導く役目を自らに科した。

 ――あるいは、()()()()()()()()()()()()()には成らぬようにしたかったのかもしれない。

 

『そして何より、この宇宙を死と転生の無間地獄より解き放つのは、バビルから使命を受け継いだお前の――、今この時を生きる我々の成すべきことなのだから。()()()()()()()()――故に、我々自身もまたも当事者なのだ。子供らに、誰かに命運を託すだけでは駄目なのだ。自らも拳を握り、立ち上がらねば』

 

 盟友(とも)の残した言葉を引用し、ライセは決然と告げる。

 そのオブシディアンの相貌に迷いはない。

 連綿と続く死と転生の輪廻――終わりのない悲しみを三千大千世界へと広げ続ける“運命”という強大な摂理に終止符を打つ。陣営や手段は違えど、ライセと宿敵(バビル)はその一点で言えば協力者であり、仲間だった。

 バビルは支配で、ライセは協調で地球を、銀河を纏めることを模索していた。全ては、“アポカリュプシス”を真の意味で乗り越えるため、この閉塞した世界に新たな未来を切り開くためだった。

 

『答えを急ぐな、()()()()()()()()()()()()。全ての壁を取り払い、人々が互いを互いに認め合うには()()()()()()()。だからこそ、言葉を尽くし、心を尽くさねば、真に勝ち取るべき未来――“運命”を乗り越えることは出来ん』

 

 ライセは静かに、だが力強く断言する。

 どこか呆気に取られた表情をしていたイングは、唇を引き締め、徐に腰を折った。

 

「皆さん、どうかオレに……オレたちに力を貸してください。地球だけじゃない、この宇宙(せかい)から悲しみを消すために」

 

 イングは、自分の心を素直に吐露する。直に言葉にしなければ、ヒトは解り合えないことをライセに思い出されたから。

 そして彼らの答えは、もちろん決まっていた。

 

 

 

   †  †  †

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月☆日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 先日は我ながら錯乱して散文的な内容を残してしまった。

 とりあえず、状況を説明しよう。

 

 各勢力の野放図な侵攻により、絶対防衛線が事実上崩壊したそのとき、発動したクロスゲートから新たに地球が二つ現れた。

 地球が、二つ、現れたのだ。

 

 あ…ありのまま

 今起こった事を話すぜ!

 『いきなりクロスゲートが発動したと思ったらいつのまにか地球が三つに増えていた』

 な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…

 頭がどうにかなりそうだった…

 催眠術だとか次元振動弾だとか

 そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 

 と、思わずポルナレフ構文を使ってしまうのも許してほしい。まだ地球がひとつに融合したほうがマシだったのでは? いやそうでもねーか。

 ともかく、地球圏は未曾有の大混乱である。当たり前だバカヤロウ。「イデのヤロー頭おかしいのか」、と叫びたい気持ちで一杯だ。「多次元設定は甘え」とか言うユーザーの声を真に受けたの?バカなの?

 冗談じゃないレベルで異常事態だっての。

 

 さておき、現状を整理しよう。

 木星付近のアステロイドベルトにあったクロスゲートは、発動ともに三つの地球のちょうど中心の位置に移った。その時空間を繋ぐ機能により周辺の重力、空間を安定化させていると思われる。

 そのため、各地球では天変地異等の異変は今のところ起きていないようだ。

 

 刹那とティエリアの協力で、彼らの故郷(()()()()()()()()α()とし、それに対して()()β()と呼称することになった)の「地球連邦」とは比較的容易にコンタクトが取れた。さすがのゼロ、というかシュナイゼルも困り果てていたらしいな。

 幸いなことに彼らの地球はラダム降下をほぼ免れたらしい。主にELSの活躍だという。さすエル、と言いたいところだが彼らでさえ「ほぼ」なのだから、あの瞬間の混沌具合がうかがい知れるだろう。

 ただ、フェストゥムという厄ネタ中の厄ネタを抱えているので予断を許さないのは間違いない。

 早急に協力体制を敷くべく、地球安全評議会はリリーナ・ドーリアン外務次官とスーグニ・カットナル議員を代表として交渉に送ることになった。リリーナ嬢は向こうに受けがいいだろうし、カットナルにはタフな交渉を期待したい。もちろん、刹那たちにも同行を依頼してある。こちらはまあ上手くいくだろう。いかなくちゃ困るが。

 

 次に正体不明のもうひとつの地球(こちらは()()γ()と仮に呼称する。やはり、統治国家は「地球連邦」というらしい)についてだが、こちらはラダム被害を受けてしまった模様だ。

 地表から発射された核ミサイルやら六体の大型人型マシンが種子を粉砕していたが、対応しきれなかったようだ。

 

 日本列島を守っていたらしい大型の人型マシンは六体おり、オレはその中の白い機体に目を奪われた。こいつは、両肩の突き出た突起とリーゼントのような頭部が特徴的だ。

 あれ?これ「iDOL」じゃね?と気づいたオレ氏。

 

 じ ゃ あ あ れ イ ン ベ ル さ ん か よ !

 

 ゼノマスとかありかよ! イデの野郎、わかってたけど節操ねーな! ゼノマス時空だけどワンチャンしぶりんいるのでは?とかなんとか。

 とまあ、こんな感じで正体不明なこの地球ではどんなトラブルが待ち構えているかわかったものじゃない。情報が何一つないのだから、結果的に事情に通ずることになるオレが直接赴かなければならないだろう。

 地球安全評議会からは、ハマーン・カーン議員、それとGGGの大河長官が代表団の一員として先方の政府と交渉に当たる。こちらにオレとアーマラが護衛として同行することになるわけだ。

 ちなみに、会見の場は向こうの連邦議会のある「ヌーベルトキオシティ」。まあ、そういうことだ。

 

 両地球連邦政府とはどうなるかはわからないけど、どちらにせよ惑星っていう巨大な防衛目標が新たに二つも増えたのは実際辛いよなぁ。

 ともかく、一刻の猶予もない。

 早急に各地球間の協力体制を整えなければ。

 

 最後に、あの()()()()()()()()()()()()()()、そして背後にいる存在について。

 ヤツの正体は概ね察しがついたとはいえ、「そんなことってある!?」と叫び出したい気持ちがふつふつと沸いてくるのはさておき。幾つかの発言から組織だっていること、さらに()()()()()()()()()()()ことがわかった。つまり「地球β」の情勢に詳しく、向こうでも暗躍している可能性が高いってことだ。あるいは「地球γ」にも?

 負の無限力の勢力はオレの考えている以上なのかもしれない。かつてのBF団のようなオールスター状態になっていてもおかしくないぞ。

 モロにメタ読みになって恐縮だが、()()()()()

 リボンズは思想的にそんなタマじゃないし、クルーゼと役割が被る。エンブリヲならウザいだけで、むしろオレにとってはある意味与し易い相手とも言えるがこれも被ってるな、中の人的に。

 オレが相対して驚異に感じる人物、例えばマリアンヌとか? ありえそうだな、これ。まあ、今ウダウダと考えていても仕方ないし頭の片隅に留めておくとしよう。

 







 30発表はおろか、発売日にすら間に合わなかった敗北者はこちらです。
 てか、前回の更新から約半年が経過したってマ?
 カムラの里でオロミド教入信してスラアクぶん回したり、プラモ熱が燃え上がって30MMに散財したり、ノルマンディー号に乗って銀河を救ったりしてましたm(__)m



 ゲッペラ「(まさかのアニメ出演と推し達の活躍に満足した顔)」
 カイザーさん「(推しの曇りながらもヒーローをしている姿に感動した顔)」
 おっちゃん「(久々に訪れた仕事をやりきった顔)」

 くぅ~疲れました(以下略
 書き下ろしの三人称パートが多くて大変でした。長い、分割しろ?ごもっともなご意見です。
 個人的にはクルーゼのレスバが書けてわりと楽しかった( ・ω・)
 本編の解説は特にありません。ネタバレ回避。

 ナイツマどうしようかなぁ。単体なら出せる(どうせダイジェストなので)けど、出すならコンビでグリッドマン(というかアカネくん)も出したい。
 自分で広げた風呂敷を畳むのに難儀している愚か者の発言です。


 完全なる余談
 30についての感想は主に、「ゲッター1いねーのぉ?」です。
 真ゲッターが使えないのはともかく、マジンガーとおっちゃんがいてゲッター1がいないのはなぁ……。Vの使い回しでブラックゲッターでもいいし、INFINITISM版ドラゴンとかでもよかったんだぜ。チェンゲだけど。
 総じてゲーム面、シナリオ面では満足のできですがキャラゲームとしては脇が甘いなぁ、というのが自分の意見ですね。ファイナルダイナミックスペシャルも現状ではないしね!!ガッテム!!



 さておき、読書の皆様におかれましては、次回の更新もいつになるかわかりませんがお待ちいただければ幸いです。


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参戦作品覚え書き※ネタバレあり

 

 

 参戦作品覚え書き(ネタバレあり)

 

※☆=旧作での追加作品、★=本作での追加作品

 ???=シークレット、(暫定)=登場未定

 作中での言及無しの作品も含めています。順不同。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨神戦争(前日譚)新西暦179年

 

 機動戦士ガンダム

★機動戦士ガンダムORIGIN

 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争

★機動戦士ガンダム 第08MS小隊

★機動戦士ガンダムMSV

★機動戦士ガンダムサイドストーリーズ

★機動戦士ガンダム戦記(PS3)

★機動戦士ガンダム外伝Gの影忍

 マジンガーZ

 グレートマジンガー

 劇場版マジンガーシリーズ

 ゲッターロボ

 ゲッターロボG

(★神魂合体ゴーダンナー!!※本編前)

★マクロスゼロ

 

 

 バルマー戦役(α)新西暦187年

 

 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY

 機動戦士Ζガンダム

 機動戦士ガンダムΖΖ

 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

 機動戦士ガンダムF91

 機動戦士Vガンダム

 新機動戦記ガンダムW

 新機動戦記ガンダムW Endless Waltz

★新機動戦記ガンダムW 敗者達の栄光

 無敵鋼人ダイターン3

 聖戦士ダンバイン

★マジンガーZ/INFINITE

★マジンカイザー INTIFINISM

 真・ゲッターロボ(原作漫画版)

★真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日

★真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ

 超電磁ロボ コン・バトラーV

 超電磁マシーン ボルテスV

 勇者ライディーン

 超獣機神ダンクーガ

 新世紀エヴァンゲリオン

 THE END OF EVANGELION

★新世紀エヴァンゲリオン2

 トップをねらえ!

 Vジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日

 超時空要塞マクロス

 超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか

 マクロスプラス

 バンプレストオリジナル

 超機大戦SRX

 魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL

 

 

  バルマー戦役・裏

 

★機動武闘伝Gガンダム

★超級!機動武闘伝Gガンダム

★ADVANCE OF Ζ ティターンズの旗のもとに

★機動戦士ガンダム エコール・デュ・シエル 天空の学校

★機動戦艦ナデシコ

★神魂合体ゴーダンナー!!

★スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION(キョウスケ、エクセレン)

 

 

 イージス事件(α外伝)新西暦187年12月

 

 銀河旋風ブライガー

 機動新世紀ガンダムX

 ∀ガンダム

 戦闘メカ ザブングル

☆交響詩編エウレカセブン

☆オーバーマン キングゲイナー

★ゲッターロボ號(原作漫画版)

★小説版スーパーロボット大戦

 

 

 封印戦争(第二次α)新西暦188年

 

 戦国魔神ゴーショーグン

☆無敵超人ザンボット3

☆無敵ロボトライダーG7

 ブレンパワード

 勇者王ガオガイガー

 機動戦士クロスボーン・ガンダム

★機動戦士ガンダムMSV ジョニー・ライデンの帰還

★ガンダム・センチネル

 鋼鉄ジーグ

 闘将ダイモス

 大空魔竜ガイキング

☆六神合体ゴッドマーズ

☆蒼き流星SPTレイズナー

☆機甲戦記ドラグナー

☆劇場版 機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-

☆冥王計画ゼオライマー

☆GEAR戦士電童

☆獣装機攻ダンクーガ ノヴァ

★スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION(ラトゥーニ、オウカ)

 

 

 銀河大戦(第三次α)新西暦189年

 

 勇者王ガオガイガーFINAL

 伝説巨人イデオン

☆百獣王ゴライオン

☆最強ロボダイオージャ

☆未来ロボダルタニアス

 電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム

 電脳戦機バーチャロン マーズ

☆電脳戦機バーチャロンシリーズ フェイ・イェンHD

☆UFOロボグレンダイザー

★ゲッターロボ大決戦!

★鋼鉄神ジーグ

★マジンロボ クロノスの大逆襲

★ヱヴァンゲリヲン新劇場版

★シン・エヴァンゲリオン劇場版

★???

★機動戦士ガンダムUC

★UC-MSV

☆機動戦士クロスボーンガンダム 鋼鉄の七人

 機動戦士ガンダムSEED

☆機動戦士ガンダムSEED ASTRAY

☆機動戦士ガンダムSEED X ASTRAY

☆機動戦士ガンダムSEED MSV

機動戦士ガンダムSEED DESTINY

☆重戦機エルガイム

★AURA FHANTASM

★???(暫定)

 マクロス7

★???

☆破邪大星ダンカイオー

☆戦え!!イクサー1

☆冒険!イクサー3

☆デトネイター・オーガン

☆銀河烈風バクシンガー

☆銀河疾風サスライガー!

☆ラーゼフォン

☆フルメタルパニック

☆超重神グラヴィオン

☆鉄のラインバレル

☆忍者戦士飛影

 

 

 地球β

 

★コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS

★コードギアス 反逆のルルーシュIII 皇道

★コードギアス 復活のルルーシュ

★劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-

★ガンダム00 Festival 10 “Re:vision”

★機動戦士ガンダムOO外伝

★蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH

★クロスアンジュ 天使と竜の輪舞

★クロスアンジュ 天使と竜の輪舞tr.

☆宇宙の騎士テッカマンブレード

☆宇宙の騎士テッカマンブレードII

★???

★???

★???(暫定)

★ナイツ&マジック(暫定)

★特撮大戦2001

 

 

 地球γ

 

★勇者特急マイトガイン

★完全勝利ダイテイオー

★THE IDOLM@STER

★アイドルマスター XENOGLOSSIA

★アイドルマスター シンデレラガールズ

★???

★THE ビッグオー

★???

★???

★???

☆ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU

★???

★???

★???

★SSSS.GRIDMAN(暫定)

★勇者聖戦バーンガーン

 

 

 

 その他

 

☆メガゾーン23

★太陽の牙ダグラム

★装甲騎兵ボトムス

★機甲界ガリアン

★劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇

★ガン×ソード

★わが青春のアルカディア 無限軌道SSX(暫定)

★不思議の海のナディア(暫定)

★翠星のガルガンティア(暫定)

★楽園追放 -Expelled from Paradise-(暫定)

★宇宙戦艦ヤマト2199

★創聖のアクエリオン

★アクエリオンEVOL

★ゾイド-ZOIDS-(暫定)

★???(暫定)

★ゾイド新世紀/ゼロ(暫定)

★機獣創世記ゾイドジェネシス(暫定)

 




 自分でやっといて何だけど、多すぎぃ!!
 まあ、大半がいるだけだし日記形式のダイジェストなんですけどね読者さん。
 ポンコツ作者が書いたものを忘れてる可能性もあるので、「◯◯ないぞゴラァ!」って言ってもらえたら幸いです。


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