Dead・in・wonderland (ばにらいむ)
しおりを挟む

partⅠ

今回が初投稿となります。
クソつまらないかもしれませんが何卒よろしく 


助けて、と叫んでみる。

 

誰も出てこない。

 

そりゃそうか。

いまは午前五時。皆寝ている時間だろう。

それに今私のまわりには、

 

 

誰もいないのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【彼】から逃げながら考える。

 

 

路地に追い詰められ、頭に振り下ろされた鉈を見ながら考える。

 

 

 

 

 

 

なんで、こうなったんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

二日前。

 

 

ここは私立久留学園。

 

 

「やほー!!黒江、おっはよぉ~~~!」

私は目の前にいる親友の伊藤黒江に話しかける。

「チッ、美亜……朝からドデカい声で話しかけんなって言ったじゃない」

「ウェヘェ~めんごめんごンゴ~!!」

「そのキショイ笑いかたもやめろ、謝りかたもウザいよ」

 

 

 

 

さて、唐突だが私の親友の黒江は、いじめられている。

 

 

暴力等は受けていないが机を見てみると、

「バカ」「シネ」「お前生きてる価値ない」

とか油性ペンで書いてある。

 

でも彼女は全然気にしてないみたいだ。

一度前に「大丈夫?」と聞いたら、

「こういうことは心の弱い人間が一時の安心を求めてやることなの」

と言っていた。

流石黒江。メンタルの強さと偏差値の高さは一級だ。

お気楽ポジティブな私も恐れ入る。

 

そんなことより。

 

 

「ねぇ黒江聞いて、実はね、

ネットで友達ができちゃったんだ!」

「はっ?!」

 

そう。私には友達ができた。友達といってもメールを交換しているだけだが。

 

ネットで知り合ったので、その人とは会ったことがない。

しかし、その人と友達になってから数日後、こんなメールが来た。

 

 

 

『こんど会いませんか。宇宮公園でお待ちしてます』

 

と。

 

「会うに決まってるじゃん!!」

「アホか!!!やめろ!!!!」

黒江が怒鳴った。

「あんたネットで知り合ったやつと会うなんて何考えてるの?!!」

 

このときの私はネットで知り合った人と会うことがどれ程危険かなんて頭になかった。

だから。

あの時「会いましょう!✨」

などと言ってしまったのだと思う。

 

「つかいつ会うことになってるの?!」

「んー……明後日ェ」

「本気?!」

「うん、ちなみに午前五時に来いって」

「あーーー、もういい!!!!勝手にせぇ!!!!」

 

それが私と黒江の最後の会話だった。

 

どうしてこれが最後の会話になってしまったかというと、彼女は以降、一切口をきいてくれなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

日曜日。

 

私はリュックに大量の荷物を詰めて出発した。

 

目指すは宇宮公園。

 

 

私の家から目的地である公園は少し遠い。

 

電車の中で、彼とのやり取りをする。

 

『今どこにいますか』

『電車のなかです 』

『わかりました』

『楽しみにしてます♪』

 

 

 

不思議だったのはこの人がメールで絵文字を使わなかったことだ。

 

でもそんなことがどうでもよくなるくらい私はこの人と会うのを楽しみにしていた。

 

 

一時間後私は無事に宇宮公園に到着した。

周りには住宅街。まだ早朝なので人気はない。

 

公園の真ん中に緑色のタンクトップを着た背の高い男の人が立っている。

「あの~、メールくれた人ですか?」

 

彼はゆっくりと振り向いた。

 

 

 

 




次回へ続く


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅡ

2話です。



 

 

 

 

「ひ…………!!」

 

私は思わず息を飲んだ。

目の前にいた彼はもらった写真とあまりに違いすぎる、

 

 

【化け物】だった。

 

 

黒く焼け爛れた肌、目はなぜか大きく腫れており、片方は縦向き。

口は縦に裂けており、それを無理矢理縫い合わせたのか、口元に赤黒く染まった糸がぶら下がっている。

その口から覗く歯は不気味なほど白く、鋭かった。

 

まるで溶けたプラスチックの人形のようだ。

 

 

それだけならまだいいが、何より恐ろしかったのは、その男が私に明確な殺意を向けていることだった。

 

 

男の片手にはどこから取り出したのか、血にまみれた鉈が握られていた。

 

 

 

「まさかこんなに簡単に引っ掛かるとはな……世間知らずなのかバカなのか……」

 

男の呟きを最後まで聞かず、私は全力で走り出した。

 

 

 

 

 

そして現在。時間はちょうど7時。

 

「どうして?どうして誰もいないの⁉」

 

 

 

私は必死で逃げ続けた。

物陰にかくれてもその度に見つかり、また逃げるという意味のない行為がつづいた。

 

 

 

私がたどり着いたのは小さな公園だった。

真ん中にうんていと変なオブジェが置いてあるショボい公園。

 

そのうんていの上に子供が座っていた。

「き、君、そんなとこにいたら危ないよ」

その子供に話しかける私。

 

「クスクス,クスクス」

子供は逃げようともせず私を見つめて笑う。

「な……なに……?」

 

「クスクス,クスクス……ウシロ」

 

子供は笑いながら後ろを指差した。

とっさに私は振り向く。

 

 

「あ……」

あの男だ。

あの男がすぐ後ろまで来ていた。

 

もう逃げることはできない。

 

 

 

「自分から会いに来たんだろ、いい加減におとなしく死ねよな」

 

男は私に向かって鉈を振り上げる。

 

 

 

今までの思い出が走馬灯のようにめぐる。

顔も覚えていないお父さんのこと、とっても優しいお母さんのこと。

やたらと厳しい先生のこと。

 

 

 

そして最後に私は黒江の顔と最後の会話を思い出した。

 

 

 

『あんたネットで知り合ったやつと会うなんて何考えてるの?!!』

 

 

 

ネットで知り合った男なんかと会わなければ。

あのとき黒江の忠告をちゃんと聞いていれば。

 

 

友達の少ない私は浮かれて親友の話に耳を貸さなかった。

 

自業自得だ。

 

 

 

黒江、ごめんね____________

 

 

 

 

 

 

 

ドスッと鈍い音がし、私の意識は底へと沈んでいった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年 7月

この日私は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

目が覚めるとそこは、霧に覆われた不思議な空間だった。

 

「こ、ここは?」

私は死んだ。ならここは差し詰【あの世】だろう。

でも私の知る【あの世】と違う気がする。

 

なら私はどこに来てしまったのだろうか。

 

 

 

「不思議な場所だな」

 

聞き覚えのある声がする。

声のした方向を見ると

 

「あ?お前もいたのか」

 

あの男だった。

 

 

 

「あなたもいたんだ」

「お前……俺が怖くないのか⁉」

 

男はビックリしたように腫れた目と縦向きの目を見開く。

 

「うん。怖くないよ」

そう。怖くないのだ。

彼が私に殺意を向けていないから。

 

 

「そ、そうか、怖くないのか……そんなこと言われたのは10年ぶりだな」

照れたような顔で鼻の下を擦る。

人間らしいしぐさをする彼に愛着さえわいた。

 

「あなたの名前を聞いていい?」

「名前だぁ?」

男はごそごそとポケットを探ると、一枚の紙きれを取り出した。

 

 

 

【जोआन】

 

 

 

紙きれにはそう書いてあった。

 

「これが俺の名前らしい。読めるか?」

「いや読めんわ」

「だよなぁ」

 

 

 

私はしばらく考えて、

「じゃあさ、殺人鬼さんって呼んでいい?」

「サツジンキ?なんだそりゃ、変な名前だな……」

皮肉みたいな名前だが、彼は少し嬉しそうだった。

「じゃあ行こっか、殺人鬼さん」

 

 

私は霧に向かって歩きだした。

 




次回へ続く


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅢ

第三話更新です。
いよいよ美亜たちは死者の世界へ……。


 

 

 

 

霧を抜けた私と殺人鬼さんを待っていたのは、珍しい、白い汽車だった。

「なんだあの白い物体は」

「あれは汽車だよ。知らないの?」

 

殺人鬼さんは顎にてを当てる。

「俺が生まれたところにはキシャなんて物はなかったぞ……?」

「あっ……何かごめん」

 

 

 

 

 

「お客さま、駅のホームで屯されては困ります」

駅員らしき風貌の、茶色い髪の毛の少女が話しかけてくる。

「はぁ?たむろってなんだよ、ただちょっとこいつと話してただけじゃねぇか」

 

殺人鬼さんが恐ろしい顔を歪ませる。たぶん怒ってるんだ。

「それを屯というのです。それにこの汽車を逃せば次に来るのは三時間後ですよ。

ここはこの駅とあそこの門以外は何もない場所。暇ですよ」

「ぐっ……」

 

仕方がないといった顔をし、殺人鬼さんは真っ白な汽車に乗り込んだ。

 

 

「それでは出発します」

私たちを乗せた汽車は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

汽車に乗り込んだ私たちは、適当な座席に座る。

座席もまた真っ白で、シートはふかふかだった。

窓の外から景色は見えるが、どこもかしこも真っ白でよく分からない。

 

そういえば私はまだこの男に名前を名乗っていなかった。

 

 

「あ、そうそう、私の名前はね……」

 

「知ってる。フジタ・ミアだろ?」

 

殺人鬼さんはどうやら私の名前を知っているようだ。

まあ、出会い系サイトを使っていればそりゃ知ってるか。

つくづく自分の愚かさに嫌気がさす。

 

「汽車は知らないのに出会い系サイトは知ってるなんて変だよ」

「あ?あれ出会い系サイトってのか……知らなかった……あれを使えば効率よく人と出会えると思ったんだよ」

 

どうやら相当頭が悪いらしい。

「携帯はどうしたの?」

 

「殺したやつからパクった。そいつがそのサイト見てたからそれを使ったんだ」

 

「文字はどうやって打ったの?」

 

「えーと……コピペ?ってやつ」

 

「コピペ識知ってるのかよ」

 

「へへっ、まあな、偶然知った」

 

 

顔は恐ろしいが、彼は普通に話すととてもいい人のように思えてくる。

何が彼を恐ろしい殺人鬼にさせたのだろう。

 

 

「次は~、死者の町~、死者の町~」

 

 

 

車内に先程の店員のアナウンスが響く。

 

「ここで降りよっか」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

とりあえず私たちは【死者の町】という駅で降りることにした。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「おっきい門があるね」

 

 

私たちは今、【死者の町】の入り口らしき門の前に立っている。

 

「この門は開かないのかな」

「ああ、どうやら開かないみたいだな」

 

さっきから殺人鬼さんが門を開けようとしているが、びくともしない。

 

 

 

 

「その門は音声認識で開くのですよ」

 

 

 

後からまた声がした。

 

私たちが振り向くと、赤い目に神父風の衣服に身を包んだ青年が立っていた。 

顔に笑みを浮かべているが、どうも胡散臭い。

 

「まあ見ていてください。すみません、開けてくれませんか?」

 

青年の声に反応するかのように門が開く。

「さあ、お入りください」

 

青年に促されるようにして私たちは門の奥へと足を踏み入れた。

 

 

「あ、そうそう、私の名前は【(えん)】と言います……死者の町で神父をやっていましてね、お暇なら気軽にどうぞ」

 

 

焔と名乗る青年に案内された先には驚くべき光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

「こ、これは……」

「すげぇな……」

 

 

 

先程までの真っ白な世界とはうってかわって、樹木に覆われた赤レンガの町がそこにはあった。

 

白い壁に色とりどりの屋根の家がたくさん並んでおり、なかにはお菓子屋らしき店や図書館、服屋もある。

その向こうには白い壁の教会がある。

 

普通の町と何らかわりない。

 

「いいところでしょう?この場所こそが【死者の町】ですよ」

焔さんはまた、ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




次回に続く


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅣ

前回の続きです。
美亜たちはいよいよ死者の国へ……
ちなみに今回はあの人がいよいよ登場します‼


 

「うわぁ……死者の国にもホテルってあるんだね」

死者の街に案内された私たちは、あちこち案内されたあとホテルに通された。

「明日は住人たちを紹介してあげますよ」

焔さんはそう言って去っていった。

 

「殺人鬼さんは死んだあとの世界がこんなだって思ってた?」

「そんなわけないだろ、俺もこんな世界だとは思わなかった」

「そうだよね……普通絵本に出てきた天使が出てくると思うよね……」

 

さっぱり訳がわからない。

「しっかしあちこち連れ回されて疲れたなぁ……俺はもう寝るぞ」

 

殺人鬼さんはすぐに大きなイビキをかきはじめた。

 

(そういえば黒江は今ごろどうしてるんだろう……喧嘩しちゃったし、こんな死に方だし、きっと悲しんではないかもなぁ)

 

 

 

 

 

 

◆side黒江◆

 

 

葬式場。

お坊さんのお経の声だけが響く。

 

 

「うっ……ううう……」

隣には美亜のお母さん。

大切な娘を失ってボロボロと泣いている。

さっきまで冷静に私に挨拶をしていたのに。

 

私もあいつの死を知り、かなり悲しんだ。

あのとき私がもっと真剣に止めていれば良かったんだと責任まで感じた。

 

あいつはまだ死ぬべき人間ではなかったのに。

 

家に帰った私はベッドに顔を埋めた。

お母さんはまだ帰ってこない。美亜のお母さんを送ってから帰るらしい。

 

いじめだって美亜がいてくれたからこそ平気でいられたんだ。

美亜のいない私はもう生きていけないかもしれない。

 

 

 

「きみ、随分と悲しい顔をしているね」

 

 

 

頭の上から声が聞こえる。

私は声のする方を向いた。

 

「やあ」

 

いかにもオタクが着そうな、知らないアニメの柄がプリントされたタンクトップ、度のキツそうな眼鏡。

無精髭を生やしたのんきそうな顔をした男がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァァァァァァァァァァァア!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

絶叫した。当然だ。部屋に知らない男がいれば絶叫のひとつもする。

 

「しーっ、静かに」

 

男は私の口を手で塞いだ。

 

「むぐ……」 

私の顔から動揺が消えたのを確認すると、その手を離す。

 

「僕は君に協力したいだけさ」 

 

「きょ、協力?」

「そう。協力。」

 

「君がその気なら、君を友達のところに連れていってあげることができる。それも生きたままね」

 

 

 

「………………お帰りください」

「えっ、何でっ?!」

 

こんなうさんくさい話、受け入れられるわけがない。

 

 

 

「どうしても協力してほしいと言うのなら私を信用させなさいよ」

「うーん……仕方ないなぁ」

 

彼は私の部屋の隅に行くと、私のペットのハムスターを取り出した。

 

 

そして、そのハムスターをぺしゃんこにしてしまった

殺したのだ。

 

 

「は?えっちょっと」

 

またも動揺する私を制止させ、手をモゴモゴする男。

 

そして手を開く。

そこには元気なハムスターがいた。

 

 

「マジかよ……」

「まあ、一種の魔術みたいなものさ」

 

 

すごい。すごい能力だ。

確かにこれなら生きたまま美亜のところにいくなんてあり得ないこともできるかもしれない。

 

「いいわ、あんたに協力する」

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 

 

「ところで協力といっても何をすればいいの?」

私はずっと疑問に思っていたことを口に出す。

 

 

 

「死者の世界に迷いこんだ【大罪人】を探すのを手伝ってほしいのさ」

 

【大罪人】が誰のことかはよくわからないが、美亜に会えるのなら何でもいい。

私はこれも承諾した。

 

 

「いいだろう。その代わり、僕の弟子も連れていくからね」

「弟子?」

「それは死者の世界に着いてからのお楽しみさ。君もびっくりするよ」

 

そして男は私の額に手をあて、呪文を唱え始める。

私の意識はどんどん薄れていった。

 

 

 

 

 

 




次回へ続く


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

PartⅤ

前回の続き。登場人物が増えていきます。


「ふぁ~…殺人鬼さん、起きて~…」

死者の国にも朝は来る。私はまだ爆睡してる殺人鬼さんをたたき起こした。

「ああ…?起こすんじゃねーよまだ寝かせろよこのマヌケ女」

殺人鬼さんは悪態をつきながらその巨体をゆっくりと起こす。

ホテルを出ると焔さんが待ち構えていた。

「さあさあ二人とも、待っていましたよ出かけましょうか」

彼は心なしかうきうきしているようにも見えた。

「こいつめちゃくちゃうきうきしてないか?」

殺人鬼さんも同じことを考えていたようだ。私は返事をする代わりにヘッドバンキングをした。

 

 

 

 

「ここが僕の教会ですよ」

 

私たちは教会の中へと通された。

教壇にはエメラルド色の髪と陶器のように白い肌を持つ、美しい女性が佇んでいる。

「彼女は僕の妻です。名前はマリア。美しいでしょう?」

 

「妻ぁ~?本当かよ、こいつ全然動かねぇじゃねえか…本当は置物かなんかなんだろ?」

殺人鬼さんはどうやら信じられないようだ。マリアさんと呼ばれた人の頬をつんつんとつついた。

 

「……やめてください……」

耐えられなかったのかマリアさんが声を漏らす。

その声に驚いた殺人鬼さんは後ろにひっくり返ってしまい、静かな朝の教会に「がしゃーーーーーん」という大きな音が響き渡った。

 

「何をしているんですかあなたは!」

傍観していた焔さんもさすがに驚き、殺人鬼さんを怒鳴りつける。

「僕の妻に触るんじゃありません!」

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そっちかい。

 

 

「改めて自己紹介をしましょう。私はここの教会の神父を務める【焔(えん)】、彼女は僕の妻の【マリア】です」

「…こんにちは」

焔さんの話によるとマリアさんは焔さんが死者の国に来てから知り合ったらしい。

死人でも結婚はできるんだとか。

 

 

自己紹介の後、マリアさんがお茶とお菓子を持ってきてくれたので、お言葉に甘えていただくことにした。

 

私たちがまったりしていると、教会内でまたもどでかい音が響き渡った。

「おい!!!!!!クソ神父!マリア!遊びに来たぞ、菓子よこせ!!!!!!!」

「またあなたですか…」

焔さんが呆れたように声を漏らす。

声のした方を見ると、小柄な女の子が立っていた。

その子は白と黒のメッシュの髪をポニーテールにしている。

 

「何度も言いますが、そんなに堂々と入ってこないでください。ここは神様の前ですよ」

「その神の前で菓子食ってる俺らもヤベーけどな」

殺人鬼さんはドーナツをほおばりながらぼそりとつぶやいた。

 

女の子は「ホイメン」というらしい。

この街には似つかわしくない、お転婆で活発な不良娘だという。

似つかわしくないはさすがに言い過ぎだと思うが。

 

「あ?あんたら見ねー顔だな?新入りか?」

ホイメンちゃんは私と殺人鬼さんを交互に見比べる。

 

私はその質問に「うん、そうだよ」と返事をし、「ホイメンちゃんもいっしょにお菓子食べない?」と続けた。

焔さんはびっくりしていたが、マリアさんが「別にいいじゃない」というセリフをきいた瞬間、「どれがいいですか」とホイメンちゃんの目の前にお菓子の入ったバスケットを差し出した。

その顔はむくれていた。愛する妻の命令でもさすがに不服のようだ。

 

「そういやここに来る途中でさ、もう一人新入りを見かけたんだよな!」

ホイメンちゃんがリスのようにクッキーを口いっぱいにほおばりながら言った。

「また新しい死者が…?一体どのような子なのですか?ふつう新しい受任が来るのなら私のところにも連絡が来るはずですが」

焔さんは不思議そうな顔をしている。

「なんかよー、なっがい綺麗な黒い髪でさ、うさ耳生やしてんの。そいでさ、

 

「ミアー!」「ミアー!」って誰かの名前を呼びながら知らないやつらと一緒にうろうろしてた」

 

 

「え、そ、それって…」

私の言葉をさえぎってホイメンちゃんは続ける

「赤い髪の男がさ、そいつに「ここにはいないようだ」って言ってさ、二人とも街を出てっちまったんだ」

 

…私は思った。

 

 

 

 

黒江が…この世界に来ている…?

 

 

 

 

 

 




次回へ続く


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅥ

遅くなりまして申し訳ございません。
今回は黒江視点です。


~数時間前~

 

 

「嘘でしょ……」

 

目を開くと信じられない光景が広がっていた。

 

目の前には巨大な駅。そして目の前には真っ白な汽車が止まっていたのだ。

 

「これは死者の国の汽車さ。どうやら交通手段はこれだけのようだね」

アニメのタンクトップを着た男・Mr.RD が言う。

 

「ところでRD、アンタの弟子ってどんな人なの?」

「もうすぐ来るよ……あ、おーい!!」

 

RDが東に見える人影に向かってブンブン手を降る。

 

よくよく目を凝らすと、その人影は女の子のようだった。

それも私と同じくらいの。

その小脇には金魚鉢が抱えられていた。

 

 

「もう!師匠、門の前で待ち合わせって言ったじゃないですかぁ~‼」

怒ったように弟子らしき少女がまくしたてる。

「ごめんごめん、出るとこを間違えてしまったみたいだ、えへへ」

 

「もぉ~……あ、そっちの女の子が依頼主ですか?初めまして、私は「白澤」です!」

「く、黒江よ……よろしく……」

 

白澤は私の手をしっかりと握りしめ、ブンブン振り下ろす。

少し美亜と似ていた。

 

「ところで、ずっと気になっていたんだけど」

私はこの世界に来てからの最大の疑問を口にする。

 

 

 

「私の頭、何で兎の耳が付いてるのよ」

 

あー、それはね、とRDが口を開く。

「生きたまま死者の国に来ちゃうとなんかそうなるんだよね、稀に」

 

「……」

 

つまりRDも知らないということだろう。

「師匠、汽車出発しちゃいますよ!」

「おっとまずい、乗ろうか」

 

私たちは慌てて汽車に飛び乗った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「次は~、死者の町~、死者の町~」

剣呑なアナウンスが社内に響く。

 

「まずはここから探してみよっか」

 

Mr.RDが我先にと汽車を降りる。それに私たちも続いた。

彼はとことん自由な男のようだ。

 

 

 

 

 

 

「おーい、美亜~」

「みーあちゃーん」

 

早朝の、誰もいない町に私たちの声が響く。

 

私たちは今、美亜を探している。

正直呼ぶだけで美亜が見つかるとも思えないし、アイツのことだ。もう次の町に行ってしまってるかもしれないが。

 

 

 

 

死者の町は「普通の町」だった。

何なら私の住んでいる町とさほど変わらないようにも思う。

 

「いやぁ、いつ来てもいい町だ」

RDが感嘆する。

「師匠、また迷子にならないでくださいね」

白澤さんがRDをとん、と小突いた。

「分かってるよ~」

RDの両腕には大量の紙袋。

美亜を探すついでに買い物をしていやがった。

 

……しつこいようだが本当に自由なオッサンだ。

 

 

2時間後。

 

「ここにはいないみたいだ」

書店から出てきたRDは「フンス」と鼻を膨らませ、満足そうに言った。

 

「師匠買い物したかっただけじゃないですか!!!!」

先程から荷物持ちをさせられている白澤さんが、とうとうキレた。

 

「仕方ない、他のところを探そう。他のところにいなかったらまた来よう」

 

正直私はうんざりしていた。

美亜を探しに来たはずなのに買い物に付き合わされたからだ。

「うんうん、さっさと出よう、僕もこの町は飽きたし」

 

 

 

「「お前来たときいい町だとか言ってただろうが!」」

 

こいつに人探しを任せて本当に大丈夫なのか?

そんな漠然とした不安を抱えながら、私たちは再び汽車に乗るべく駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 




次回に続く。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デドワン箸休め~マリア編~

今回は少しお休みして、死者の国の日常を覗いていこうと思うよ!

※ほぼノロケ話※


朝。

私の部屋に淡い光が差し込みます。

その光の眩しさに目を覚ました私は、ベッドから起き上がり、夫が買ってくれた薄荷色のスリッパに足を通します。

 

私の部屋がある三階から二階に降りると、夫がフライ返しを片手に「おはようごさいます」と、微笑みかけてくれるのです。 

 

 

今日の朝食はフレンチトーストとブルーレディ。

どちらも私の大好物です。

 

 

フレンチトーストを頬張る私を横目に夫はコーヒーを淹れています。

以前彼に「紅茶は飲まれないのですか?」と聞いたら、「少し苦手なのです。君が勧めるなら喜んで飲みますが」と、答えてくれました。

 

苦手なのなら無理強いはしません。

それに私もコーヒーが苦手なので強くは言えないのです。

 

 

 

 

昼。

夫が神父として働いている間、私は夫の部屋を掃除します。

私が生きていた頃は「男の部屋に入るなどとんでもない」と言われてきましたが、どうやら彼は入られても構わないようです。

 

彼の机の上には私との思い出の写真が飾ってあります。 

 

 

…………少し怖いです。

 

 

 

 

夫の部屋の掃除を終えると、私は昼食作りに取り組みます。

 

昼食のメニューはサンドイッチと鮭のサラダと簡単なもの。

私はお菓子作り以外の料理はあまり得意ではありません。なので火や包丁をなるべく使わない料理を選んでいるわけです。

サラダに使う鮭も切り身です。

 

そこに夫がどたばたと駆け込んできました。

 

「少し急いでくれませんか。急に用事ができました」

どうやら【地獄】から召集が掛かっているようです。

 

「でしたらお昼ご飯、持っていってください」

私はサンドイッチをバスケットに詰め、彼に渡します。

「ありがとうマリア、助かります」

 

夫は私の頬に軽くキスをし、慌ただしく出ていきました。

 

「いってらっしゃい」

 

走る彼の背中を眺めてそう呟いた私は、昼食を食べるためにキッチンに戻りました。

 

一人の昼食は寂しいものがありますが、それもまた良いものです。

 

夫がいない間、私は読書をしたり刺繍をしたり、たまに………………

 

 

……これは恥ずかしいので言わないでおきましょう……。

 

 

 

 

夜。

疲れた顔の夫が帰ってきました。

「お帰りなさい」

「ああ、ただいまマリア、あなたのその笑顔を見るだけで疲労が吹き飛んでいくようです」

 

そう言って私の頬に手を当てます。やはり少し怖いです。

普段夕食は夫が作ってくれるのですが、肝心の彼はどうやら疲れているようです。

 

 

「どこか、食べに行きましょう」

私が提案すると、彼は心のそこから嬉しそうに笑い、そして私に向かって言いました。

「いい店を知ってるんです」

 

 

 

着いたところはファストフード店。

 

彼にしては意外な選択です。

「たまにはいいでしょう」と笑う彼はまるで無邪気な子供のよう。

 

本当に、退屈しません。

 

 

店で食事をとったあとは、当然二人で家に戻ります。

 

が、その途中で色々寄り道をし、戻った頃にはもう時計は11時を指していました。

私がソファーに座り込むと、彼も同じように座り、覆い被さってきました。 

 

普段ならベッドで寝ない彼を叱るところですが、あいにくそんな気力はもう私にはありませんでした。

 

 

いつものような規則正しい生活ではなく、たまにはこんな日も良いものです。

 

 

 




いきなり終わる。
難しいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅦ

大変遅くなりました。
第7話、スタートです。
今回はとある要素に挑戦してみました。


黒江が、この世界に来ている。

 

 

「一体どうなってるの……?」

私は思わず声を漏らした。

 

死者の国に来たということは、黒江は死んでしまったのだろうか。

けれど黒江はとっても強い子。理由がわからない。

 

「おい、ミア、大丈夫か?」

ただならぬ雰囲気に、先ほどまでクッキーを貪り食っていた殺人鬼さんも顔を上げ心配する。

「あ、んーん、大丈夫大丈夫……」

私は首をブンブン振ってごまかす。本当は全然大丈夫じゃない。

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ!」

突然教会に女の子が飛び込んできた。

女の子は頭にペレー帽をつけており、その髪の色は深い青色だった。

「ギラ!」

焔さんが驚いたような声を上げる。

「え、ど、どうしたのです⁉」

 

「こ、この世界に……生きた女の子が来てる‼」

「「「えええええーーーーーーっっ!?」」」

焔さん、マリアさん、ホイメンちゃんが驚愕の声を上げた。

 

「生きてる人間が来ちゃマズいのか?」

殺人鬼さんが目玉を丸くして言った。

 

「ええ。マズいもなにも、死者の国のバランスが崩れてしまうのですよ……」

ただでさえ色白な顔色をさらに白くさせる焔さん。

よほどの緊急事態なのだろう。

「しかももう何度か入られてるんですよ……」

ギラと呼ばれた少女が頭を抱えてうずくまる。

 

「そ、それって黒江が何度もこの世界に来てるってこと⁉」

たまらなくなった私はギラに詰め寄る。

「い、いや、それは分かりませんが、私が今まで確認できた限りだと、その黒江という名前の少女は来てませんでしたが……」

私に気圧されたのか、小さくなるギラ。

そんなギラの一言を聞いて、私は少し安心した。

「良かった、じゃあまだ死んだとは限らないってことね」

 

「それにしても死者の国のセキュリティがこんなにもガバガバだったとは……つくづく嫌になりますねぇ」

ガックリと肩を落とす焔さん。その背中をマリアさんがさする。

 

そんな焔さんを見ながら、私はある決意を固めた。

 

「決めた‼私黒江を探す‼」

「「「「えええええーーーーーーっっ⁉」」」」

 

再び驚愕の声が上がった。

 

「だって親友がこの世界に来てるんだよ?こんなところでじっとなんてしてらんないよ‼

それに私、黒江に…黒江に……あれ」

 

黒江について思い出そうとすると頭に激痛が走る。

「痛たたた!頭がピリピリする‼」

「何だよ頭ピリピリって、脳みその筋肉痛か!」

頭を抱え悶える私を見て、殺人鬼さんがよく分からないツッコミを入れる。

 

 

「もしかしたらそれは「心残り」なのかもしれませんね」

 

「「心残り」?」

 

焔さん曰く、心残りとは生前やり残したことを指すらしい。

しかし、死者の国に一度入ってしまえばその心残りは少しずつ消されてしまう仕組みなのだという。

 

「何で消されちゃうんですか?」

 

「なぜかは分かりませんが、死者の国の主がそうなるように改良したんですよ。私も生前心残りがあったような気がしましたが、もう忘れてしまいました」

そう締め括り、焔さんは深い深いため息をついた。

 

「そっか……じゃあ私も黒江のこと忘れていくのかなぁ」

一気に重くなる空気。

 

「も、もしかしたら……その黒江という子に会うことが出来れば解決するかもしれませんよ」

今の今まで黙っていたマリアさんが満を持したかのように口を開いた。

「え!」

「か、確証はありませんよ…?」

 

「それですよ!さすが私の愛する妻!天才!」

それを聞いた焔さんが絶叫に近い叫び声をあげ、マリアさんを誉めちぎる。引く。

 

 

「でもなぁ、確証がないんじゃ試しようg」

「私の妻の言うことを信用できないのですか?」

苦言を漏らす殺人鬼さん。その胸ぐらを焔さんががっしり掴む。

「ちょ、分かった、信用する‼すればいいんだろすれば‼だから下ろせ、ってか力強いなお前!!」

殺人鬼さんの言葉を聞いた焔さんはその場で手を離した。

しかし殺人鬼さんの体は床から浮いていたので、離したというよりは落としたということになる。

 

まあ、平たく言うと……殺人鬼さんは尻餅をついた。

 

「いってぇ~……もう少し優しく下ろせよ」

 

 

文句を言う殺人鬼さんを無視して焔さんは話を続ける。

「美亜さん、地獄へ行きなさい、そこに行けば国の主に会える。そこで黒江の行方について話せばきっと協力してくれるはずです」

 

「あ、じゃあ地獄までは私が案内しますよ~」

ふと、後ろから声がかかる。

 

ギラの方を見ると「ち、違いますよ!」と首をブンブン降られた。

「ここです‼ここ!!」

 

上を見上げると、なんと羊の角のような物を着けた女の子が空中に立っていた。

 

「おやまあ皆さんお揃いで、本日もいい朝ですね。

私はメルテナ、この死者の街の神様です♥」

「め、メルテナ殿!」

焔さんがその場で膝間付き、マリアさん、ギラもそれに続く。

ホイメンはというと、一人膝間付かずに「おーい、メルテナ~」と、嬉しそうに手をブンブン振っている。

メルテナと呼ばれた女の子はホイメンに手を振り替えしたあと、私たちの目の前に降り立った。

 

 

「二人とも、今「地獄にいく」って言ったよね?あそこまで行くのは少し大変なのよ、私が案内してあげる♥」

 

にっこり笑うメルテナ。その笑みはまるで太陽のようだ。

「ととととんでもない‼案内は我々でやります、あなた様のような方がそんなことを……」

あわあわする焔さん。

そんな焔さんを無視してメルテナはぐいぐい背中を押す。

「さあ行きましょ!はやく行きましょ!友達に会うんでしょ、時間は待ってはくれませんよ!!!」

駅の方向へダッシュするメルテナ。それを追う私と殺人鬼さん。それに続く焔さんたち。

 

これで大丈夫なんだろうか……。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「次は~、地獄~地獄~」

 

 

「黒江さーん、到着しましたよ~」

Mr.RDに叩き起こされた私、白澤。 

 

「んん……ここは?」

「ここはって……地獄ですよ、じごく」

 

 

「…………え」

地獄。それは生前悪行を重ねた罪人が落ちる場所。

そこに落ちた者はあらゆる責め苦を受け続ける。

 

「ななな、何で、何でそんな、そそそんなところろろに!!」

パニックになる私。

 

「落ち着いてください黒江さん!」

そんな私を、金魚鉢を眺めつつなだめる白澤。 

 

「確かに現世ではそういう風に伝えられています。でもここの「地獄」は少し違うんですよ。ここは「死者の国で罪を犯した者」の監獄なんです。

生きている我々には適応されませんよ」

「な、なんだ……そうだったの……」

 

しかし疑問が残る。

そんな監獄にMr.RD は一体何の用なのだろう。

「ここは監獄だけではなく、交番の役割も果たしてるんです。人探しをするには打ってつけですよ」

 

「な、なるほど……」

「ま、私たちは外で待ってましょ。本来生きてる人間が入るのはご法度ですし。師匠は何度も入り慣れてますから大丈夫です」

どうやらRDは地獄にも行っているらしかった。

 

「分かった、じゃあ待ちますか……」

 

ふと、何かの気配を感じた。

 

「貴女方、「生きている人間」ですね?」

私が振り返ると、そこには頭がブラウン管テレビのような形をした人間(?)が立っていた。

 

「ここは生きた人間が入り込んでいい場所ではありませんよ。二人には申し訳ないですが……

消えていただきます」

 

「「えっ」」

突然の消えろ発言に戸惑いを禁じ得ない私と白澤。

 

「くっ!」

私より先に身の危険を感じたらしい白澤。

その場で持っていた金魚鉢を叩き割った。

 

「んん……白澤、呼んだ?」 

「おいどんを呼んだか?昼寝の途中だから後にしてほしいんだが」

 

その中から出てきたのは、まるでタコとクラゲを組み合わせたような見た目の女の子。

女の子の頭の上にはヤドカリの体を持った、眠そうにまどろむ少年(?)が乗っている。 

 

「シェーミュリア、ヘイルミー!あいつをどうにかしてください!」

叫ぶ白澤。

「ん、分かった、白澤」

「……しかたねーな、おいどんに任せろ」

 

テレビ男は標的の前にに立ちふさがる二人(二匹?)を一瞥すると、「これは厄介そうですね」とぼやく。

「しかしこれは命令、遂行しないわけにはいきませんね」

 

そのまま襲いかかるテレビ男。

しかしそれは少女の伸ばす蛸足によって簡単に弾かれてしまう。

「ぐっ……」

吹っ飛ばされた状態から華麗に着地を決め、尚もテレビ男はこちらに向かってくる。

 

「ちょ、白澤!どーすんのよ!」

「まあ見ててください!」

 

「シェーミュリア、右だ」

「了解」

ヤドカリ少年の指示を受けた蛸足少女。まるで軟体動物のように右に体をくねらせる。

 

そして案の定少女の顔面に右ストレートを決めようとしてきたテレビ男の顎(?)に、思いきり触手を叩きつけた。

 

「あがっ!!」

またも吹っ飛ばされるテレビ男。今度は着地も決まらなかったようだ。

 

「す、凄い……」

驚きのあまり、思わず声を漏らす私。

美亜が見たらきっと歓声という名の奇声をあげているところだろう。

 

「くそ、ここまで手強いとは……」

テレビ男が悔しそうに唸る。その顔には少しヒビが入っていた。

 

 

 

【俺が力を貸してやろうか?】

どこからか声が聞こえる。

 

「また……貴方ですか」

テレビ男が苦しそうに声を漏らす。

 

【ああ。また俺だ】

「結構ですよ、貴方の力など借りたくはありません」

【ふん、意固地だな。俺に体を預ければ全てが解決するというのに】

 

その声がテレビ男の画面からしたということに気づくのに少し時間が掛かった。

 

【俺の力を借りないということは、この戦いに負けるということだぞ】

「貴方の力を借りなくとも私は勝てます、もう引っ込んでなさい……」

【その体は限界だろう。力を借りたくないというのならしばらくおとなしくしていろ】

 

その声と同時にテレビ男の全身は電流に包まれる。

 

「は?ちょっ、やめっ"、あ"あ"あ"あ"!」

電流を浴びまくったテレビ男は絶叫し、そのまま地面に倒れ伏した。 

 

 

 

 

 

「こ、これ、勝ったってことなの?」

「かもですね」

とにかくここにいては危ないようです。

そういうと白澤はRDの入った門を潜る。私もそれに続くことにした。

 

 

 

 

 

    

 

 




8話に続く。
ヘイルミー「おいどん」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅧ

今回は少々シリアスです。


「焦熱庭園美術館前~焦熱庭園美術館前~、お出口は左側です」

 

「はーあ……」

私、藤田美亜はため息をつく。

 

 

ここは死者の国の列車。

 

私たちが最初に乗った列車とは全く違う。日本の電車のようなデザインだ。

中の座席も真っ黒で、最初に乗ったものと比べるとなんとなく居心地が悪かった。

 

そして一番私たちを苦しめたのは……

 

 

「だぁぁぁぁっっあっつい!!!暑いんだよ!!」

殺人鬼さんがでかい声を出す。

「分かる!暑い!!!ぶっちゃけ降りたいんだけど?!地獄にはまだ着かねーのかよ?!」

ホイメンちゃんももう限界だといったふうに頭をかきむしる。 

 

 

そう。暑い。とにかく暑いのだ。

困ったことにこの列車にクーラーというものは存在しない。

死んでしまった身でも暑さを感じるとはこれいかにといった感じだ。

 

「お客様、車内ではお静かにお願いします‼」

客室乗務員らしきお姉さんが私たちに向かって話しかける。声色から察するに相当怒っているみたいだ。

 

「うるせぇなぁ、暑いもんは暑いんだよ……」

「でも殺人鬼さん、車内販売で冷たいもの売ってますよ?」

焔さんが呆れたように殺人鬼さんの肩を叩いたが、その手を殺人鬼さんは振り払った。

 

「あんなもんじゃあ足りねぇよ!砂漠にじょうろで水撒いてるようなもんだろうがよ!!逆にあんたらは何で平気なんだ!特にそこの!」

 

殺人鬼さんが指をさした方向には、水に濡らしたタオルを首に巻き、手には氷の入ったジュースを持ったマリアさんがいた。

 

「彼女を熱中症の危険に晒すわけにはいかないでしょう!」

なぜかキレる焔さん。

 

「すみません、かき氷六つお願いします」

「あ、じゃあ私はジェラート五つお願いしま~す❤」

社内の喧騒を無視して車内販売の店員さんに呼び掛けるギラとメルテナさん。道案内が何をやっとるんだ。

 

 

「はぁ~もう本当にこのメンツで果たして黒江に会えるのやら……むしろどんどん遠ざかってる気がするよ……」

私がレモンシャーベットを食べつつため息をついた瞬間、一気に車内が涼しくなった。

 

 

「次は~、十字架広場前~十字架広場前~、お出口は右側になりま~す」

 

「おお、十字架広場ですか…懐かしいですね」

焔さんが呟く。

どうやらその十字架広場は焔さんにとって思い出深い場所のようだ。

「ちょっと休憩していきませんか?」

「えっちょい待って焔さん」

私は慌てて制止する。

悠長に思い出の場所巡りなんかしていたら私の黒江に関する心残りや記憶はあっという間に消し飛んでしまう。なんとしても途中下車は避けたい。

 

「えっちょ、確認するけど、私達は今地獄に向かっているんだよね?」

「ええ」

「何で明らかに地獄じゃないところで降りようとするの?」

「だって私とマリアの思い出の場所…」

「いやいやいや、ダメでしょ」

「美亜さん、それは自己中と言うものですよ」

「いやいやいや、自己中じゃない、そもそも焔さんたちは勝手についてきただけじゃんかよ、ね?」

 

「落ち着け美亜」

先程までの暑さも合間って爆発しそうな私を諌めたのは殺人鬼さんだった。

「何も記憶がすぐに消える訳じゃないんだろ。それに俺もここで降りたい。なんだか懐かしい感じがするんだ」

 

「もー……仕方ないなぁ」

 

渋々私達は途中下車することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

十字架広場は一面青の世界だった。

言ってる意味がわからないだろうが、とにかく一面青なのだ。草木や花、道に敷いてあるタイル、ベンチ、とにかくすべてが青い色をしている。

 

そして丘のてっぺんには巨大な青い十字架がそびえ立っていた。

十字架の前には長い行列ができている。みんなここに祈りを捧げに来ているのだろうか。

 

私が十字架に見とれていると、焔さんとマリアさんもその場に膝まづき、両手を組んだ。

それを見て私はやっぱり祈りを捧げに来ているのだと確信した。

 

「ここは、落ち着くな」

ふいに殺人鬼さんが口を開く。

下車してからここにつくまで、珍しく彼はずっと一言も口を開いていなかった。

彼にも何か思うことがあるんだろうか。

 

 

「そういや俺のじいちゃんは「ぼくしさん」だったんだ」

殺人鬼さんがぼそりと呟いた。

 

「じいちゃんはさ、俺の顔見ても全然怖がらなくて、俺と違ってすげぇ頭よくて、学校に通ってなかった俺に何でも教えてくれたんだよな。

勉強の他にも神様の話とか聞かせてくれたりしてさ……月曜日から土曜日はじいちゃんいねぇから日曜日に教会ってとこに行くんだけどさ、すげぇ楽しかった」

 

「へー…意外だねぇ」

「ははっ……そうか?」

殺人鬼さんは自分を笑うような声をあげる。

 

「そのじいちゃんは俺が18になる少し前に死んじまった。

母ちゃんと父ちゃんの会話でちょっとだけ聞こえたんだけどさ、「ごうとう」ってやつに殺されちまったんだってよ」

 

「それで俺思ったんだ。神様なんていないって。前にじいちゃんから聞いたんだ。「信じるものは救われる」って……でも神様はじいちゃんが殺されるとき助けてくれなかった」

「…………」

私も神様は信じてなかった。神様というものがいるのなら、その神様はいじめられている黒江を助けてくれたっていいはずなんだから。

いたとしてもその神様は黒江をいじめている子達の味方なんだろう。

 

殺人鬼さんの言うことに同意しか覚えなかった。

 

「お前さ、この話、あの神父やマリアには言うなよ。言ったらお前の事ぶっ殺してやるからな」

殺人鬼さんはいたずらっぽく笑う。

 

「うん……もう死んでるけどね」

私もうなずくと彼に微笑み返した。

 

「おーい、お前らなにいちゃいちゃしてんだ~?」

ホイメンちゃんとメルテナさんが手を振りながら近づいてきた。その両手には青いペンダントが握られている。

 

「それどうしたの?」

「や、広場すっげぇつまんねーからさ、うろちょろしてたら婆さんが露店やってたんだ。そこにお前に似合いそうなペンダントが売ってたからさ、やるわ」

そう言いながらホイメンちゃんはペンダントを投げ渡す。

 

「こんなとこいてもつまんねぇからさ、そろそろ戻ろうぜ!駅でずっとギラが待っててくれてんだよ」

「は?マジかよ悪いことしちまったぜ……」

殺人鬼さんが焔さんたちを呼ぶために広場へと走る。

私たちもそれに続くことにした。

 

 

 

 




partⅨに続く。

ギラ「で、私はいつまでここで待ってればいいんですか……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

partⅨ

大変遅くなりました。申し訳ありません。


「…なんなのよこれ……」

私は黒江。親友を探して死者の国に足を踏み入れた女だ。

これまで色々というほどでもないかもしれないが、危ない目にあってきた。しかし…

 

「何って、地獄ですよ黒江さん」

これほど命の危機を感じたことはなかった。

 

 

今私は、罪を犯した者が行き着く場所、「地獄」の入り口の、通路にいる。

 

通路は切り立った崖になっており、下にはマグマの海が広がっている。落ちれば無事では済まない。瞬く間にこの世界の住人の仲間入りだ。

 

足場として板が設置されているが、幅数は20㎝、しかも簡単な柱で固定されている。安全も何もあったもんじゃない。申し訳程度にロープが張られているが、それも安全とは言えない。

 

死者の国の住人は危機感というものがないようだ。生身のこっちからすれば恐怖でしかない。

 

 

目的地の「地獄の一丁目」はかなり遠いらしく、この長く過酷な道のりを歩いていかなければならない。

 

「ねえこれ途中で落ちたりしないよね?」

「さあ……」

白澤はどうやら来慣れているようで、全くおびえているそぶりを見せない。

一瞬シェーミュリアとかいうタコに運んでもらおうかと考えたが、万が一落ちでもしたら彼女が茹で蛸になるかもしれないと考え、やめることにした。

 

 

結局は自分の足で進むしかないのだ。

額の汗をぬぐって一歩踏み出す。

 

「美亜…待ってて…すぐに迎えに行くから」

 

◆◆◆

私は美亜。

十字架広場前を後にした私たちは、再び地獄行きの記者に乗り込んだ。

今はこの国の時間で夜らしく、私とホイメンちゃん以外の面々はぐっすりと眠っていた。

 

片や私は黒江のことが心配で全く眠れず、ホイメンちゃんは「あたし夜行性なんだ」と言って、乗客もいなくなった車内をうろうろしたり、焔さんの顔に落書きをしていた。

 

今、私はホイメンちゃんからもらった、よく分からないペンダントを見つめている。

「ホイメンちゃん、これ何?」

「さあな、あたしにもわからん。でも店主が「このペンダントはどうしようもないと思ったときにその力を発揮する」って言ってたぜ」

 

「どうしようもない時…」

今まで「人生何とかなるさ」と思っていたけれど、そんな私でもそんな時が来るのだろうか…。

 

(ま、来たら来たでその時考えよう)

 

私は一つ頷くと、青く輝くペンダントをズボンのポケットに仕舞った。

 

 

「次は~華棺駅~華棺駅~、お出口は右側です」

 

メルテナさんの言うことが正しければ、次が地獄だ。

頬をバチンと叩いて気合を入れる。

 

「黒江…あなたはまだこっちに来ちゃいけないよ…」

 

 

◆◆◆

 

地獄の中央部に位置する、閻魔堂。

その頂上にある部屋で、地獄の管理者・乙女椿はモニターを見つめていた

 

そこに映るのは通路を通り過ぎる黒江と白澤。

 

「どうやら、また生きた人間が迷い込んだようですわね…」

 

苦い表情をしながら、ガリガリと紅色のマニキュアが塗りたくられた爪を噛む。

 

ふいに何かの気配を感じ、乙女椿は振り向く。

振り向いた先、この部屋に唯一取り付けられた窓のへりに赤い髪の、不審者のごとき中年の男が立っている。

 

RDだ。

 

「…RD…一体こんな夜更けに何の用ですの?」

RDと一定の距離を保ちつつ、乙女椿は尋ねる。この男とは馴れ合いたくなかった。

 

「そうカリカリしないでよ椿ちゃん、ちょっと頼みがあってさ」

「頼み?」

 

 

「今からここに来る、僕の助手二人を匿ってくれないかい?」

 

 

 

 

 

partⅹに続く

 

 

 




話が進まね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。