善と悪の協奏曲 (ミクス)
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駆逐艦が着任するようです

気づくと私はいつも海の上に立っていた。

 

ここがどこなのかわからない。

私が誰なのかわからない。

私はどういう存在なんだろう。

 

視界もぼんやりとしか見えない。

微かに見えるのは何かを身につけ海に立っている人。

そして、海に沈んで行く人。

 

声も何を言っているのかよく聞こえない。

たとえ、聞こえたとしても途切れ途切れでよくわからない。

 

ここはどこだろう。

私は誰なのだろう。

私はどういう存在なんだろう。

 

ある日、私は仰向けに倒れていた。

倒れた時に見えた空はとても青く美しいと思った。

そして私は、沈んだ。

 

暗い、暗い海の底。

海の上に立っていたときよりも見えない。

目の前にあるのはただただ、闇が広がっている。

 

寂しいな…。

また、あの綺麗な空を見てみたい。

 

そしてどのくらいの時間が経ったのだろうか。

ふと目を開けると光が見えた。

 

呼ばれている気がする…。

 

そう思い私は僅かにしか動かない身体で光の方を目指し始めた。

自分の身体が重い。

 

あれ?そういえば私、海の上ではどうやって体を動かしていたっけ…?

 

そんな疑問を抱きつつ、光の方へ向けて進んで行く。

 

もうすぐ光に触れる、そんな時だった。

 

『オ前ニ私ノチカラヲ与エヨウ…。私ハ疲レタヨ…。』

 

光に触れると私の意識は何かに引っ張られるかのようにーーー

 

「ん…。」

 

「……督、今ちょ………た……すよ。」

「おっ……よかった……だな。」

「…れで…督の艦娘は……です。だい…ましたね。」

「ああ…まっもうすぐ研修期間も終わるから、次に会えるのは少し先になるだろうけどね。」

 

声が、聞こえる。

どうやら私はカプセルの様なものに横になっていたみたいです。

身体を起こして直ぐに見えたのは2人の男女です。

男性の方は軍服を着ている事から、司令官でしょう。

そしてピンク髪の女性。彼女からは何やら私と同じような力を感じる事から、艦娘であると判断してもいいでしょう。まぁ、私の先輩に当たる方なので失礼のない様にしないといけませんね。

更に見回すと周りには装備品がたくさんありました。

「立てるかい?」

 

そう言って手を差し伸べてくる軍服の男性。

まだ身体に力が入らないのでそれに甘えさせてもらいます。

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

なんとか支えてもらいながら立つことができました。

 

「さて、それじゃあ君の名前を教えてもらおうかな。」

「駆逐艦、朝潮です。勝負ならいつでも受けて立つ覚悟です。」

 

名前はスラスラということができました。

私たちの様に、海の上に立って戦う人のことを艦娘というそうです。

これは基本的な知識として頭の中に入っていました。

 

「僕は高山朋(こうやま とも)。朝潮君は僕のところに配属されるよ。よろしくね。」

「よろしくお願いします、司令官。」

 

やはり軍服の男性が司令官だった様です。

 

「あぁ、僕はまだ研修中の身だから、そんなにかしこまらないでいいよ。」

「研修中…ですか?」

「そう、研修中。まだ提督になっていないのさ。」

 

なるほど、司令官はまだ司令官じゃないということですね。でも私にとっては司令官です。

自分でも何言ってるかわかりませんね。

 

司令官の自己紹介が終わったところで次は、ピンク髪の女性が口を開きました。

 

「私は工作艦明石です!艤装のメンテはお任せを!っと言いたいところなのですが……。朝潮ちゃんは艤装を持ってきてないっぽいんですよね〜。」

「え?」

 

明石さんというのですね。明石さんも司令官の艦娘なのでしょうか?

いえ、今はそれよりも気になることを言っていました。

 

「えっと、明石さん。今、私が艤装を持っていないと聞こえましたが、間違いありませんか?」

「はい!そう言いましたよ!」

「明石君、ちょっと飛躍しすぎだよ。まだ朝潮君は目覚めたばかりなんだから。」

「あっ、そうでした。ごめんなさい朝潮ちゃん。」

 

ぺこりと頭を下げる明石さん。

でも明石さんが頭を下げる必要はないんです。

私が言いたいのはそういうことじゃないんです。

 

「朝潮君、僕の方から説明させてもらうね。まず朝潮君は「あの!司令官!」うん?どうしたんだい?」

「艤装なら…その…ありますよ?」

「「え?」」

 

司令官と明石さんがポカーンと口を開けてしまった。

 

「すまない、朝潮君。もう一度行ってくれるかい?」

「艤装ならあります!」

「え?ええ?あり得ないですよ!建造もドロップもみんな艤装をつけてくるんですよ?」

「それじゃあ今から艤装を出しますね。」

「え?出す?」

「あっ朝潮君、ここじゃなくてそっちの方で出してくれないかい?」

「わかりました。」

 

指示を出された場所は少し広い場所でした。ここなら確かに邪魔になりにくそうですね。

 

「では、出しますね。【展開】」

 

私がそう口にした直後、背中にランドセル型の艤装が現れました。

更に手には12.7cm連装砲と61cm四連装魚雷が装備されました。

 

「ええ!?艤装が現れた!?」

「これは驚いたね。」

 

司令官も明石さんも本当に驚いていました。どうしてでしょう?

 

「朝潮君は今どうしてこんなに驚いているんだろう、と考えているね。通常、建造やドロップで来た娘達は艤装は身につけてくるし、今朝潮君がやった様に自分の意思で出し入れすることはできないんだよ。」

「それじゃあ私は普通じゃない…?」

「まぁ、少し他の娘達と違うかもしれないけど、それは君の個性というものだ。だからむしろ誇っていい事だよ。」

 

私の個性…ですか。

司令官は優しいお方ですね。

 

「とりあえず朝潮ちゃんの艤装を見せてもらってもいい?」

「あっはい。」

 

艤装を取り外して明石さんに渡しました。

艤装は自分の命といっても過言ではありませんですが、明石さんなら問題ないでしょう。

 

「ありがとうございます。一通り点検をしたらお返ししますね。」

「よろしくお願いします。」

 

おや?少し廊下の方が騒がしくなってきましたね。何があるのでしょう?

 

「あはは。どうやら待ちきれない様だね。」

 

司令官は扉の向こうにいる人がわかっているのでしょう。笑顔を浮かべています。

 

 




暇があれば書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします


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駆逐艦の歓迎会が開かれるようです

バン!

 

「姉さん!」

 

扉を思いっきり開けて工廠に入ってきたのは、3人の駆逐艦でした。

そして私はその3人を知っています。だって妹たちなのですから。

 

一番最初に入ってきたのは朝潮型駆逐艦10番艦の霞でした。

私を見るや否や飛びついてきました。

 

「霞ちゃん、朝潮姉さんが困っていますよ!ですが、大潮も朝潮姉さんに会えて嬉しいです!」

 

次に入ってきたのは2番艦の大潮。

そしてーー

 

「ちょっとあんた達ハシャギ過ぎよ。」

 

最後に入ってきたのが満潮。

 

「そう言う満潮君だってずっと待っていたみたいだけどね。」

「ばっ、ばっかじゃないの!別に私は…。」

 

なかなかに賑やかな姉妹達です。

 

「いや〜満潮君と霞君は僕が建造した時の最初の言葉は忘れられないね〜。」

「「ちょっ!司令官!何言ってくれてんの(よ)!」」

 

みんな笑顔で楽しそうなところでした。

私はここでならうまくやれると思いました。

 

「司令官!これからよろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそよろしくね。」

「朝潮姉さん!アゲアゲでいきましょう〜!」

「いやーこれからもっと賑やかになりそうですねぇ〜。」

「そうだね。この笑顔を僕は守るよ。」

「頑張ってくださいね高山提督。はい朝潮ちゃん。艤装はお返ししますね。」

「ありがとうございます。」

 

そう言われて艤装を受け取りました。

 

「うん…?朝潮、あんた艤装なんてもらってどこか行くの?もしかして今から水上訓練?」

「ううん。私は少し特殊らしくてね。こうやって艤装を自分の意思で出し入れできるのよ。」

 

そう言って私は艤装をしまいました。

この光景を見ていた妹達は目を丸くしています。

まぁ、無理もありませんね。私は少し特殊な艦娘みたいですし。

 

「ああ、そうだ朝潮君。これからこの鎮守府の提督のところに行こう。僕も報告することがあるし、君のことも説明しないといけないからね。」

「わかりました。」

 

それからまず、私はこれから住まう部屋に案内されました。

部屋は4人部屋で妹達と一緒の部屋です。

部屋を確認した後はこの鎮守府(横須賀鎮守府というらしい。)の執務室に高山司令官と向かいます。

 

コンコン

 

「入れ。」

「失礼します、高山です。建造に成功したので報告に上がりました。」

「失礼します。」

 

中に入ると眼鏡をかけた女性とふくよかな体型の男性が机に向かっていました。

高山司令官に促され私の挨拶です。

 

「駆逐艦、朝潮です。よろしくお願いします。」

「ふむ、朝潮か。わしは五味渕 浩二(ごみぶち こうじ)だ。階級は大佐だ。高山研修員、別に建造成功の報告はしなくていいと言っただろう?」

「はい、確かにそう言われておりましたが、これは報告しないといけないと思いまして。」

「うん?何か問題でもあったか?」

「この朝潮は自分の意思で艤装を出し入れできます。」

「ほう。」

 

そう言って五味渕司令官はこちらをみてきました。

その時でした。五味渕司令官が私を見たとき嫌な予感がしました。

ですがそれも一瞬ですぐにその嫌な予感も消えてしまいました。

 

「わかった。わしの方で報告書を送っておこう。大淀、明石を呼んでおけ。」

「了解しました。」

 

眼鏡をかけた女性は大淀さんというらしい。

大淀さんは明石さんを呼ぶために部屋から出て行きます。

 

「お前達はもう戻っていいぞ。」

「「失礼しました。」」

 

誰もいなくなった執務室で五味渕は不敵に笑っていた。

 

「この後は夕飯だから姉妹と4人でおいで。」

「わかりました。」

 

高山司令官とは別れ、私は自分の部屋へと行きました。

部屋に戻ると妹達が待っていました。

 

「朝潮姉さん!お帰りなさいです!」

「帰ってきて早々だけど、食堂行くわよ。あんたをまっててお腹ペッコペコなのよ。」

「姉さん行きましょう!」

 

3人に引っ張られてついた場所は食堂。

食堂には沢山の艦娘がいて、みんな楽しく談笑しながらご飯を食べていました。

それから香ばしい匂いも感じます。

 

「姉さんこっち!」

「あら、今日はカレーね。」

「カレーですか!大潮はカレーは大好きです!」

 

私達はカウンターへと向かいました。ここで注文するそうです。

 

「間宮さん、カレーを4人分お願い。」

「はーい!」

 

注文したカレートレーに乗せてはすぐに渡された。トレーを持って空いている席を探します。

 

「おーい、朝潮君達!こっちこっち!」

 

席を探していると高山司令官を見つけました。どうやら高山司令官が2つ分のテーブル席を確保していてくれたらしいです。

さらによく見ると高山司令官の他にも4人の艦娘がいました。

私達は高山司令官の向かいに座りました。

 

「それじゃあみんな揃ったことだし、朝潮君の歓迎会を始めようか。まずは自己紹介からね。」

「こんにちは、白露型駆逐艦「夕立」よ。よろしくね!」

「ちょっ、ちょっと夕立。お姉さん達から挨拶しないと…。」

「いいんですよ、時雨ちゃん。先に挨拶してくださいね。」

「…うん。ありがとう高雄さん。改めて、僕は白露型駆逐艦、「時雨」。これからよろしくね。」

 

金髪の艦娘が夕立さん、そしてアホ毛が付いている方が時雨さんというそうです。

お二人とも姉妹なんですね。

 

「こんにちは。高雄です。」

「私は愛宕よ〜。よろしくね〜。」

 

大きいお姉さん方が高雄さんに愛宕さん。

というか愛宕さんの胸部装甲はなんなんですか。わたしにも分けてください。

 

「駆逐艦、朝潮です。これからよろしくお願いします。」

「ということで、これからよろしくね。 それじゃあかんぱーい!」

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 

夕立さんがガツガツと勢いよく食べ始めた。

口についたカレーを時雨さんにふいてもらっている。

高雄さんと愛宕さんはお上品に食べています。

 

「美味しいです!」

「相変わらず間宮さんのカレーは美味しいわね。」

 

私にとって初めての食事。

それではいただきます。

 

パクっ

 

「あっ…美味しい!」

 

カレーはとても美味しくいくらでも食べれそうです。

それに……

 

「あれ?姉さん?どうしたの?」

 

霞の一言によりみんなの注目が私に集まりました。

何かおかしいところでもあったのでしょうか?

 

「朝潮君?大丈夫かい?」

「朝潮、泣いてるっぽい〜。」

「ちょっと夕立…。」

 

え?泣いている?

自分の顔に手を持っていくと目から涙が出ていました。

なるほど、確かにみんなが心配するような表情をするわけです。

 

「うーん、一応保健室に行っておくかい?」

「いえ…大丈夫です。なんだか、このカレーを食べたらとても懐かしいような感じがしたので…。」

「懐かしい?」

 

言葉に表せない感じです。

どうしてこんなことを思い出すのでしょう?

私にとってこのカレーは初めての筈なのに…。

 

「あっ…すみません。変なことを言いました。」

「今日はもう早めに休むといい。生まれたばかりで少々混乱しているのだろう。」

「はい…。そうします…。」

 

カレーを食べ終わった後、私は大潮達と部屋に戻り早めの就寝としました。

 

朝潮達が部屋に戻ったあと、高山達は先ほどの朝潮の発言について考えていた。

 

「朝潮ちゃん、大丈夫なのかしら?」

「わからない。自分の部下に言うのもなんだが、正直朝潮君は少し異常だ。艤装の出し入れに、先ほどの発言。」

「なんか不思議な感じもするっぽーい。」

「うん、なんて言えばいいかわからないけど、確かに朝潮には不思議な感じがするよ。」

「うーん、私も不思議な感じがしたわぁ。それに、艤装の出し入れなんて深海棲艦見たいよねぇ。」

「愛宕君、それは違うよ。彼女はれっきとした艦娘だ。」

「わかってはいるのよぉ〜。ただそんな感じがしただけなの。」

「朝潮君については置いておこう。もう仲間なのだからみんなで支えてあげてくれ。」

「ええ、もちろんよ。」

 

そうして、朝潮の小さな歓迎会は幕を閉じた。



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駆逐艦が海に立つそうです

翌日、目がさめると妙に体が重く感じました。

目を開けて周りを見渡すと、なんと霞が上から、大潮と満潮が左右から抱きついてきていました。これが姉妹丼というやつですね!

しかしこのままじゃ身動きが取れませんね…。仕方ありません。今はこの状況を楽しむとしましょう。

 

それにしても我が妹ながら可愛い寝顔ですね。

 

「…ん……。」

 

霞が起きてしまった様です。

 

「おはよう、霞。」

「あっ姉さん、おはよう。その……大丈夫?」

「え?何が?」

「姉さん、うなされていたのよ?」

「うなされていた?」

 

私が寝ている間に、涙が出たり時たま声を出していたそうだ。

そして霞達が抱きつくとそれが治ったという。

 

「そんなことが…。ごめんなさい…。霞はちゃんと眠れたの?」

「ええ、ちゃんと眠れたわ。」

「そう…。」

 

どうしてうなされていたのだろう…?

私は建造されて間もないのでトラウマなどは無い…はず。

一体私はなんなんだろう…。

 

その後、霞と他愛もない話をしていると大潮と満潮も起床。

全員で朝食を食べるために食堂へと行きます。

 

朝食はご飯とパンのどちらかを選べる様です。ご飯を選ぶと和食セットで、ご飯に味噌汁、漬物にお魚でした。パンを選ぶとパンにトースターに目玉焼きを乗せた物と、サラダとスープでした。因みに私はご飯を選びました。

 

朝食を食べていると高山司令官がやってきました。

 

「おはよう。」

「「「「おはようございます。」」」」

 

息ぴったりです。

 

「すごいね…。朝潮君は今日から水上訓練だ。まずは海に立つところから始めないといけないからね。霞君は朝潮君についてあげてくれ。大潮君と満潮君は他の駆逐艦達と一緒に演習だよ。」

「了解しました。」

「わかったわ。」

 

ということで朝食を食べ終わった後、大潮と満潮と別れ霞とともに工廠へと向かいました。

移動途中に霞は演習に向かわなくていいのかと聞くと、「私は第1改装をしているから特別なの。」と帰ってきました。

ということは霞が一番練度が高いのですか…。姉として負けて入られませんね。

 

「あっ、朝潮ちゃんきたね。」

 

工廠に入ると明石さんが出迎えてくれました。

 

「朝潮ちゃんは水上訓練だよね。霞ちゃんは付き添いかな?」

「そうよ。」

「これ、霞ちゃんの艤装ね。朝潮ちゃんも艤装出しちゃって。」

 

明石さんに言われた通りに艤装を出しました。

 

「あっ、今回は水上訓練だから足の艤装だけでいいですよ!」

「そうなんですね。わかりました。」

 

脚部艤装だけを残し他の艤装は直しておきます。

 

「それじゃああっちの出撃口から出て、工廠に近い場所で訓練してね!後は霞ちゃん、お願いね!」

「わかったわ。さあ姉さん、行きましょう。」

 

霞に手を引かれゆっくりと海に足を下ろしました。

 

「わぁ…!」

 

海の上でしっかりと足を踏ん張ります。

 

「姉さん、移動するから付いてきて。」

「ええ。」

 

スイ〜とゆっくりと移動を始めました。

 

「姉さん、筋がいいわね。私が初めて海の上に立った時は生まれたての子鹿みたいになったのよ。」

「生まれたての子鹿って今の霞からは想像がつかないわね。」

 

私は少し余裕が出てきました。

霞に支えてもらっていますがしっかりと海の上に立てています。

 

「ねぇ霞。手を離してみて。」

「え!?だっ大丈夫なの!?」

「うん、大丈夫だと思うの。」

「転ぶ未来が見えるわ…。」

 

そう言いながらも霞は手を離してくれました。

支えが無くなってもしっかりとバランスを取り、海の上に立つことができています。

 

「え…?嘘…本当に…?」

 

しっかりとバランスを取っているので転ぶ気配もありません。

 

「霞、走ってもいいかしら?」

「え?え?うん、工廠の周辺ならいいと思うけど…。え?」

「それじゃあ遠慮なく行かせてもらうわ。」

 

徐々に、スピードを上げて走ります。

あぁ、海の上を走る爽快感。たまりません。

また海の上を走ることができる…。

そんなことを思いとても嬉しくなりました。

 

「はっ!?あっ明石さーん!ちょっと来て!」

「うん?どうしたんですか霞ちゃん?」

「あっああっあれ!」

「うん?おー、朝潮ちゃんが元気いっぱいに走っていますねぇー………え?ええぇぇぇぇえええ!?」

 

おや?工廠の方から明石さんの声が聞こえましたね。

もう完璧に水上移動は出来ますし明石さんの方へ行ってみましょう。

 

「明石さん、どうかしたんですか?」

「いや、朝潮ちゃん!?凄すぎですよ!昨日建造されたばかりだというのに、もうしっかりと走れるようになったんですか!?」

「はい、風が気持ちいいですね。ずっと走っていたいくらいです。」

「いやーこれは新記録ですよ。僅か数十分で完璧に走れるようになるなんて…。」

「凄いじゃない姉さん!」

「ええ、ありがとう。」

 

ふぅ、海を走ることができて少し興奮していました。

それにしても一体なんなんでしょうか、私は。

初めて海を走ったはずなのに懐かしいと思ってしまいました。

一体、私は…。

 

「それじゃあ一応高山提督に報告して次のステップに行きましょうか。」

「次のステップ、ですか。」

「はい。現時点での朝潮ちゃんの能力を確認しないといけないですからね。」

「わかりました。」

 

それからは高山司令官を呼び私の能力テストを行いました。

砲撃、魚雷、対空、対潜、そのどれもが私は身体が覚えているかのように動き高得点で終わりました。

 

横須賀鎮守府、執務室にて。

 

「提督、高山研修員からの報告書です。」

「寄越せ。」

 

五味渕は受け取った報告書に目を通していく。

 

「砲雷撃戦、対空対潜も実戦レベル。くくく…これほどのものなのか…。」

 

近くにいた大淀にも聞こえないほどの声でそう呟いた。

 

「もう少し値上げしてもいいかもなぁ…!」



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駆逐艦に災難が訪れるようです

私がここ、横須賀鎮守府に来て2週間が経過した。

2週間の間に私はメキメキと練度を上げ第1改装をすることができた。

ちなみに第1改装を行うまでの最速記録を更新したらしい。

そして今日、ついに高山司令官の研修期間が終わる日だ。

 

「本日をもって高山研修員の研修期間を終了とする。1年間ご苦労だった。」

 

こうして高山司令官の研修期間は終了。

この後一度大本営へと戻り様々な手続きをしてから正式に鎮守府の提督になれるそうだ。

朝潮型の4人と高雄さんと愛宕さん、夕立さん、時雨さんは高山司令官の初期艦として高山司令官の下につく形になる。

高山司令官がどこの鎮守府に行くかはわからないが精一杯頑張ろうと思う。

 

「それじゃあ僕は大本営に行くよ。」

「はい、お待ちしておりますねぇ〜。」

「早く提督に会いたいっぽい!」

「ははは、すぐに会えるさ。」

 

そう言って高そうな白い車に乗って大本営へと出立していった。

 

「それじゃあ私達は演習に行きましょうか。」

「「「「「はーい。」」」」」

 

今日も今日とて演習に参加。

最近はよく夕立さんと1対1の演習をやっている。

夕立さんは本当に強い。

反射神経もいいしスピードも速く、何より次の行動が読めない。

想定外のことばかりやってくるのだ。

 

「朝潮ー!今日も演習やるっぽい!」

「今日は負けませんよ。」

 

現在の記録は37戦18勝19敗、夕立さんに勝ち越されている状態です。絶対に負けられません。

 

「ほんと、姉さんと夕立は仲がいいわね。」

「なに、霞。あんたもしかして嫉妬?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくる満潮。

 

「ちょっ!満潮姉さん!?全然違うわよ!」

「図星だわ。」

「図星ね。」

「図星ですね。」

「〜〜〜〜!?」

 

何やら霞達の方が騒がしいですね。

何かいいことでもあったんでしょうか?

 

「ほら、貴女達。速く演習場に行きなさい。」

 

高雄さんに促され私達は演習場へと向かいます。

演習場は艦種ごとに分かれているためここで高雄さんと愛宕さんとはお別れです。

私はもちろん駆逐艦用の演習場です。

 

「朝潮早くやるっぽい!」

 

演習場に着くや否やすぐに夕立さんに誘われました。

どうやら今日は1対1の演習を行うようですね。

 

「勝ち越しは許しませんからね。」

「望むところっぽーい!」

 

絶対に負けられない戦いです。

 

「満潮は僕とやろう。」

「はいはい。」

 

満潮は時雨さんとやるようです。

なんでも満潮と時雨さんは艦の頃、西村艦隊に所属していたらしい。

そのおかげか艦娘として生を受けた時もすぐに仲良くなったという。

 

「また姉さんを…!グヌヌ…!」

「まぁまぁ、落ち着いてください霞ちゃん!霞ちゃんは大潮とやりましょう!」

 

大潮に首根っこを掴まれて引き摺れられていく霞。

いつもの光景ですね。

 

演習を行う前には必ず準備運動を行います。

そして準備運動が終わると艤装を取りに工廠へ行きいざ海へ。

まぁ、私は工廠に行く事はなく、そのまま艤装を出して海に出るのですが。

 

「お待たせっぽーい!」

 

夕立さんが来ましたね。

さぁ、今日は負けませんよ。

 

「それじゃあ、準備はいい?」

 

審判は時雨さんと満潮。

この演習のルールは簡単。

1対1の戦い。

砲弾はペイント弾を使用。

大破又は轟沈判定で試合終了。

大体こんな感じだ。

 

「準備オッケーっぽい!」

「私も大丈夫です。」

「姉さん頑張ってー!」

 

霞の応援もあるので負ける事はありませんね。

まぁ、いつものことなのですが。

 

「はじめ!」

 

試合開始の合図とともにまず私は後ろに移動。

その直後今まで立っていた場所に水柱がたちました。

試合開始の合図と同時に一瞬で狙いをつけ撃ってきたのです。

 

「いつもいつも、危ないですね!」

 

まだこれは挨拶がわり。

本番はここからです。

後ろに移動した後私はすぐさま水柱に向けて発砲。更に水柱を挟むように魚雷を撃ちます。

これで仕留められれば私も楽なのですが、そうは行きません。

 

「がるるー!」

 

なんと夕立さんは私の撃った砲撃を顔に当たるギリギリのところで回避して突っ込んできました。

どういう反射神経を持ってるんでしょうねぇ。

そしてそのまま夕立さんは私の左右に魚雷を発射して、逃げ道を封じてきます。

そんな事は予想できていたので私は前進し夕立さんと至近距離で向かい合います。

 

「これで避けられないっぽい!」

「さて、どうでしょうかね。」

 

そのまま夕立さんは私を狙って砲撃しようとしています。

私は魚雷を空中に向けて放ちそれに向けて砲撃します。

その直後爆煙と水しぶきによりお互いの姿が見えなくなりました。

更に私は私の感に従い即座に発砲。

 

「にゃあっ!?」

 

爆煙と水しぶきがなくなったときに見えたのは、右肩にペイントが付着している夕立さんの姿。

ようやく私の攻撃が命中しました。

 

「まだまだ行くっぽい!」

 

あぁ、楽しいですね…。

 

「もっとです…。もっと私を楽しませてください!」

 

加速。

夕立さんより速くもっと速く。

 

「ッ!」

 

夕立さんの背後に回り発砲。

そして夕立さんが後ろに振り向いた時には私はもう反対側へ移動しています。

 

「さっきより速くなってるっぽい…。」

 

演習場を縦横無尽に走り回り夕立さんを撹乱していきます。

さらに走りながら魚雷を発射していき夕立さんの逃げ場をなくしていきます。

さぁ夕立さん、全方向からくる大量の魚雷群をあなたはどうやって避けますか?

 

「処理が追いつかないっぽい…!」

 

最初のうちは砲撃と魚雷で一つずつ処理していたようですが、ついに処理速度が追いつかなくなりました。

そして魚雷が当たりそうになった時、夕立さんは思いっきりジャンプしました。

これは前回の演習で見せた魚雷の避け方。

あの時は私も体制が崩れていましたが今回は違います。

 

「終わりです。」

 

空中にいる夕立さんに向けてヘッドショット。

 

「夕立轟沈判定により朝潮の勝利。」

 

これで演習は終了しました。

 

 

「うぅ…。負けたっぽい…。」

「これで勝敗は五分五分ですね。」

「というか朝潮、最後のあれやばいっぽい。夕立より速かったぽい。」

「あぁ、あれですね。あれは私もよくわかりません。夕立さんよりもっと速くって思ってたらできたんですよ。」

 

最後変なテンションになっていましたしね。

 

「はぁ、まぁいいっぽい。次は絶対に勝つっぽい!」

「次も私が勝たせてもらいますよ。」

「望むところっぽい!」

「それではお風呂に行きましょうか。」

「そうするっぽい。誰かさんが顔に撃ってきたから超困るっぽい。」

「なんのことでしょうか。」

 

それから私たちは先にお風呂へ入り、体についた汚れを取りました。

 

演習場へ戻ってくると満潮と時雨さんが戦っています。

2人とも身体にペイントが付着しているのでもうそろそろ終わりでしょう。

 

「あっ姉さん。さっきの演習すごかったわ!」

「霞の応援のおかげよ。」

 

これは最近知ったことなのですが、うちの霞はかなり特殊なんだそうです。

普通はツンツンしていてリーダーシップを発揮するような感じなんだそうです。

うちの霞はそんなことはなく、結構甘えてくる方です。

やはり妹というのは可愛いですね。

 

「次は霞と大潮よね。頑張ってね。」

「ええ!もちろん頑張るわ!」

「大潮も妹には負けて入られません!アゲアゲでいきますよー!」

「ちょっと審判、しっかりしなさいな。」

 

私たちが話していると満潮と時雨さんが戻ってきました。

 

「あっごめんなさい!僅差で満潮の勝利ですね!」

 

ペイントの付着量は2人ともあまり変わらず、若干時雨さんの方が多い感じ。

 

「それじゃあ僕たちはお風呂に入ってくるよ。行こう満潮。」

 

そう言って2人はペイントを落とすためお風呂へと行きました。

最後の霞と大潮の演習は2人ともペイントまみれになっていましたが頑張っていました。

これで午前の分は終了となりました。

 

それから昼食を食べ、午後の自主訓練となりました。

自主訓練では砲撃、雷撃、対潜、対空など様々な分野の演習に参加することができます。

私は対空が少し苦手なので、対空演習に参加することにしました。

 

対空演習では空母の方々が艦載機を発艦し攻撃を避けながら撃墜していく演習です。

艦載機の練度も高く私はまだ数回しか撃墜に成功していません。

 

数時間後、私はまたペイント塗れとなって演習が終了しました。

やはり全然10cm連装高角砲が当たりません。

なぜなのでしょう?

 

それは置いといてまずはお風呂に行きましょう。

ペイント塗れですし海水も浴びたのでベタベタします。

 

お風呂に入ると珍しく誰もいませんでした。

お風呂には大抵誰かがいるのですが本当に珍しいですね。

まぁ、1人というのも寂しいですしさっさと上がって食堂に行きましょう。

 

お風呂から上がった後、お花摘みにいき食堂へと向かおうとした時でした。

突然背後から口を塞がれました。

口にはハンカチが当てられており少し甘い匂いもしました。

私は即座に艤装を出そうとしましたが、それよりも早く私の意識が薄れていき、艤装を出すことができません。

 

「姉さん!」

 

愛する妹の声が聞こえたのを最後に私の意識は深い暗闇へと誘われていきました。




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駆逐艦は研究所に来たようです

「え?朝潮ちゃんと霞ちゃんがいない?」

 

横須賀鎮守府にある食堂で高雄と愛宕は驚くことを聞いた。

 

「そうなんですよ!朝潮姉さんはお風呂に行ったっきり戻ってきませんし、霞ちゃんはお手洗いに行ったっきり戻ってこないんです!」

「私たちも探したんだけど全然見つからなくて…。」

 

この横須賀鎮守府は敷地こそ多いが迷うほどではない。

 

「五味渕提督に報告して一緒に探してもらいましょう。大丈夫ですよ。絶対見つかりますからね。」

 

すぐさま五味渕提督に報告すると、急いで探そうと協力的だった。

しかしその日、夜遅くまで探したが朝潮と霞の姿はどこにも見当たらなかった…。

 

「…う……。」

 

あれ…?私はいつの間に寝ていたのでしょう…。

というかどうやって部屋に戻ったんでしたっけ…?

 

ジャラララ

 

「え…?」

 

自分の手を見てみるとそこには両手に鎖が繋がれていました。

 

「なに…これ…?」

 

足も見てみるとそこにも鎖が繋がれていました。

そして周りを見渡すと驚くようなものがありました。

 

目の前には鉄格子が並んでおり、外に出ることはできません。

さらにその奥には私がいる部屋と同様の部屋が沢山ありました。

部屋の中には所々服が破れている女性がいたり、全裸の女性が横たわっていました。

 

「ここは一体…。」

「うぅ…。ねえ…さん…?」

 

ふと後ろから私を呼ぶ声が聞こえました。

振り返って見えみるとそこには霞が倒れています。

 

「霞!大丈夫!?」

「うん…。私は平気。姉さんのほうは大丈夫?」

「私も大丈夫よ。それよりもここは一体どこなの?確か私はお風呂から上がったはずなんだけど…。」

「私は姉さんが覆面の男に捕まっているのを見て助けを呼ぼうとしたら気絶していたわ…。」

 

確かにそんな記憶もありますね。

後ろから抑えられたので相手を見ることはできませんでしたが。

 

「というか姉さん。その手どうしたの…?それに首輪まで…。」

「わからないわ。目が覚めたらこうなっていたの。」

 

少なくとも鎮守府ではないことはわかる。

 

「お、起きてるぞ。」

 

突然部屋の外から男性の声が聞こえてきました。

 

「おい、大丈夫か?確かそいつどこでも艤装が出せるって書いてあったじゃんかよ。」

「そのための首輪だろうが。問題ねぇよ。」

 

部屋の外に白衣の男性が2人立っていました。

1人は眼鏡をかけた痩せ型の男性。

もう1人は横に大きい男性です。

 

「ここは一体どこなんですか?」

「あ゛ぁ?勝手に喋ってんじゃねぇよ道具がよ。」

「うぁっ…!?」

 

バチッと首元から全身にかけて痺れと痛みが発生しました。

 

「姉さん!?何をしたのよ!」

「ふんっ、お前たちは俺たちのいうことを聞いていればいいんだよ。」

「とりあえず抵抗できないようにしておこうぜ。」

「そうだな。視覚を奪って定期的に電流ながしときゃあ大丈夫だろうよ。設定頼んだぜ。」

「まためんどいことを言うな。飯おごれよ。」

「わはははは、仕事をしてからな!」

 

視覚を…奪う…?

体の痺れが取れず動くことができません。

 

ガチャッと扉をあけて2人が入ってきました。

 

「なんかあったかな…。……おっ、ドライバーがポケットに入ってた。」

「なんでそんなもん持ってんだよ…。」

「まぁいいじゃねえか。」

「このっ…!」

 

入ってきた2人に霞が飛びつきます。

 

「邪魔だぞ。そいつ押さえとけ。」

「あいよ。」

 

飛びついた霞でしたが艤装をつけていないため、本来の力を発揮することができず取り押さえられてしまいました。

 

「離しなさいよ!このクズ!デブ!」

「なんだとぉ!?調子にのるな!」

「きゃっ…!」

 

霞がグーで殴られました。

 

「【艤装てんか」

「させねぇよ。」

「あああああぁぁぁ!!!」

 

さらに全身に痺れと痛みが。

 

「おら、こっち向け。目大きく開けてろ。」

「い…や…。やめ…て……。」

 

私のお願いは虚しくスルーされ、私の瞼を無理やり開けてそのままドライバーを…。

 

「ぎゃあああああァァァァァァァァ!!!」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

左眼が焼けるように熱い。

今まで体が痺れていたのを忘れるほどの壮絶な痛みに私はおかされていた。

 

「姉さん!姉さん!離しなさいよこのクズ!」

「やかましい!」

「ガハッ…。」

「おいおい、さすが艦娘もどきだな。普通なら失神するはずの痛みなのに失神しねぇとかすげぇよ。賞賛してやる。」

「あ…ああ…。」

「おら、まだもう片方残ってんだろうが。さっさと目開けろや。」

 

そしてまた私の右眼の瞼を無理やり開けて…。

 

「ぎゃああああァァァァァァァァァァァァ………。」

「お?こいつ気絶しやがったぞ。」

「やっと気絶かよ。おい、首輪の調整もやっとけよ。」

「もうやったわ。それよりも後で高速修復材持ってこないとな。死なれたら面白くないし。」

「そうだな。こいつはどうする?」

「そいつは………艦娘もどきの世話役でいいだろ。妹みたいだしな。」

「わかった。」

 

そういうと横の大きな男性は気絶した霞を放り投げた。

 

「俺としてはこいつで遊びたかったんだけどなぁ〜」

「そのうちできるだろ。」

「それもそうか。」

「「わはははは」」

 

こうして朝潮と霞は、どことも知れない研究所で暮らすことになった。




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駆逐艦の暮らしが始まるそうです

翌日、翌日と言っていいのかわかりませんが私の意識が戻りました。

目の痛みは無くなっていますが何も見えません。

暗闇が広がっているだけです。

そうだ、霞はどこでしょう?

 

「霞?どこ?」

 

何も見えないため、自分で探すこともできません。

なので声で呼びかけます。

「うっ…。ねえ…さん…?」

「霞!どこにいるの?」

「姉さん…?姉さん!」

 

肩に手がかけられました。

恐らくこれが霞の手でしょう。

 

「姉さん、目が…!」

「何も見えないの…。」

「姉さん、顔にも傷がついてるわ…。」

「あいつら絶対に許さない…!」

「落ち着いて霞。」

「でも…!」

「いい?絶対に人間を憎んじゃダメよ。」

「でも!あいつらは姉さんを傷つけたのよ!」

「それでも、よ。私との約束。」

「………わかったわ。」

「いい子ね。」

「……姉さんそっちじゃないわ。こっちよ。」

 

霞を撫でようとしたら見当違いの方に手を伸ばしていたようです。

「だから霞も私が人間を憎んだりした時は今みたいに止めてちょうだい。約束よ。」

「わかったわ姉さん。」

 

この時の私はどうしてこんな言葉を言ったのかわかりませんでした。

無意識のうちに発言した言葉だったのです。

 

「私達、これからどうなるのかしら…。」

「きっと助けが来るわ。今頃、横須賀鎮守府では私たちがいないことに気づいてるはずよ。」

「そうよね!高山司令官ならきっと来てくれるわよね!」

 

きっと高山司令官は助けに来てくれる。

だから今は耐えよう。

そう思った時でした。

ガチャンッと部屋の扉が開く音が聞こえてきました。

 

「おい、起きてるな?」

「なによ!今度は何をするつもりなの!」

「ふんっ、今日は血を取りに来たんだよ。さっさとお前の姉をよこせ。」

「あんた達にやる血なんか残ってないわよ!それに昨日あれだけたくさん血が流れていたでしょうが!」

 

霞と男の言い合いが聞こえてきました。

どうやら男は私の血が欲しいそうです。

 

「……私の血を使って何をするのですか?」

「あ゛ァ?研究成果をださねぇといけねぇんだよ。それまで遊びはなしだ。わかったらさっさとよこせ艦娘もどきが。」

「だから姉さんには血が残ってないって言って…!」

「大丈夫よ、霞。多分高速修復材をかけられているから血は戻っているはずよ。」

「へぇ…。お前、目を失った割には元気そうだな。」

「早く私の血をとって行ってください。」

「ふんっ!言われずともわかってらぁ。」

 

腕にチクっとした痛みが発生しました。

恐らく注射器で私の血をとっているのでしょう。

 

「よし、じゃあな。」

 

ガチャンと大きな音が響き男の気配が遠ざかっていきました。

 

「……行った?」

「ええ、行ったわ。」

 

目が見えなくなってから聴覚が鋭くなったような気がします。

 

バチッ

 

「カヒッ!?」

「姉さん!?」

 

またもや首から電気が流れ痛みと痺れが襲ってきました。

突然のことだったので思わず倒れてしまいました。

 

「だい…じょうぶ…よ。少し…シビ…れるだ…け…。」

「姉さんは横になってて。」

 

そう言われ頭を持ち上げられふにふにしたものに乗せられました。

それからも定期的に電気が流れ痛みと痺れが私を襲い続けました。

 

男が来てから数時間が経過したと思います。

コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえました。

その足音は私達に部屋の前で止まりました。

 

「霞、誰か来たわ。」

「うん…?」

 

どうやら霞はウトウトしていたようです。

ガチャンと大きな音が響きました。

 

「誰?」

 

霞が誰と聞いたということは昨日会った男性2人ではないのでしょう。

 

「……俺は駒瀬。この研究所で雑用として働いてるものだ。」

「……何の用なのよ。」

「飯を持ってきたんだ。といってもレーションなんだけどな。」

 

ははは…と乾いた笑いを出す男性。

 

「ありがとうございます。」

「……礼は言っておくわ…。」

「君の眼は…あいつらにやられたのかい?」

「あいつら…?」

「ほら、デブとメガネ。」

「ええ、そのお二人ですね。」

「そうか…。この研究所はもともと艦娘について調べる研究所だったんだがな…。俺がこの研究所に来た時からこの有様さ。艦娘に暴力を振るうし、研究のためならなんでもやる。そういう研究所だ。」

 

やはりあの人たちが研究成果を提出した後は私達も暴力を振るわれるのでしょうね…。

なんとしても霞だけは守りたいです。

 

「だったらなんで大本営に報告しないのよ?違法なんでしょ?」

「その通りだ。俺もすぐさま大本営に報告しようとしたんだが、報告する前に奴らに捕まってな…。それからはずっと地下暮らしよ。」

 

地下?

 

「ここは地下にあるんですか?」

「ここに来る時階段を降りただろう?」

「いえ、気を失っていたので…。」

「そうか…。もしかして君達は横須賀鎮守府から来たのかい?」

「え?どうしてそれを?」

「やっぱりか。横須賀鎮守府から売られてくる子達はみんな気絶させられてくるんだよ。」

「うっ売られた?私達は売られたの!?」

「そうだ。」

 

売られた…?誰に…?

いやそんなものは分かりきっている。

五味渕提督だ。

初めてあったときに嫌な感じがしたことはちゃんと覚えている。

 

「君たちが誰に売られたか書類を見ればわかるけど知りたいかい?」

「………お願いします。」

「わかった。それじゃあ次にここにくる時までに確認しておこう。安心してくれ。俺は君たちの味方だ。」

「ええ。」

「そうだ、最後に君たちの名前を教えてくれ。」

「霞よ。」

「朝潮です。」

「そうか。朝潮、霞、助けが必要な時は頼ってくれ。俺に出来る限りのことは尽くそうと思う。」

「何から何までありがとうございます。」

 

ペコリと頭を下げます。

やはり人間の中にもこう言った優しい人たちは存在するのですね。

 

「姉さんそっちじゃないわ。こっちよ。」

 

また別の方向に頭を下げていたようです。

 

「それじゃまたな。」

 

ガチャンと大きな音が響き駒瀬さんは去って行きました。

 

「優しい人だったわ。」

「そうね。」

「レーション食べましょうか。私が姉さんに食べさせてあげるわ!」

「いつもありがとう、霞。」

 

レーションは、まずかったです…。




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駆逐艦は希望を失ったようです

人が立っていた。

海の上だ。

姿はよく見えない。

 

コノ悪魔メ!

近ズクナ!

死神!

 

その人の後ろにはなにかがいて、そのなにかは海の上に立っている人を口々に罵っていた。

 

「ズット一人ボッチダッタ。」

 

海の上に立っている人は突然喋りだした。

声は聞き取りにくく私は必死に聞き取った。

 

私の妹を返せ!

早く沈め!

 

「鎮守府ニイタ頃ノ君ガ羨マシイヨ。」

「誰……?」

 

私の声は消え入りそうな声で、海の上に立っている人には聞こえていなかった。

 

「マタスグニ会エルヨ。」

 

そういうと私のいる空間が溶け出した。

 

「はっ!?」

 

何か変な夢を見ていたような…。

うぅん…。全然思い出せませんね…。

 

「姉さん、大丈夫?」

 

霞が私の手を握ってくれました。

 

「えぇ、大丈夫よ。」

「ほんとうに?姉さんまた魘されていたわよ。」

「……なんだか不思議な夢を見ていた気がするの…。」

「不思議な夢?」

「そう。でもよく覚えていないわ。」

「まぁ、夢なんだから覚えていないこともよくあるわよ。」

 

……霞の言う通りかもしれませんね。

 

バチッ!

 

「くっ…。」

 

また電気が走りました。

これ慣れてきたとはいえ、地味に痛いですしやめてほしいです。

 

「……そういえば寝ている間はなにも起きなかったわ。」

「そうなの?」

「えぇ、魘されているだけだったわ。」

「ずっと寝ていれば電気は起きないのかしら?」

「そう言うことだと思うわ。」

 

部屋の外からコツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえてきました。

 

「あっ、駒瀬さんよ。」

 

駒瀬さんでしたか。

彼ならきっと大丈夫でしょう。

ガチャンと大きな音が響き人が入ってきました。

 

「やぁ、また来たよ。」

 

駒瀬さんの声が聞こえてきました。

 

「今日は悪い知らせ、といい知らせかもしれないし悪い知らせかもしれない知らせを持ってきたよ。」

「どういうことですか…?」

「悪い知らせから話そうか。悪い知らせは今日あいつらが研究成果を提出するんだ。だから明日から地獄のような日々が始まるよ。」

 

………ついにきてしまいましたか。

 

「それともう1つの知らせ。君たちを売った人間がわかったよ。」

「っ!誰ですか?」

「君たちが売られた時の書類にサインがしてあった。そのサインには五味渕と高山という人のサインがしてあったよ。だから君たちを売った人間は五味渕と高山っていう人だ。」

「「なっ!?」」

 

司令官が……私と霞を……売った…?

 

「嘘よ…。そんなの嘘よ!」

「嘘じゃない。これをみるといい。」

 

私はみることができないから霞にいったのでしょう。

そしてーーー

 

「あ…あぁ…うわぁああぁああ!!」

 

霞が泣き出してしまいました。

私は手を繋いでいた霞の手を頼りに霞を抱きしめました。

 

パキッ……。

 

小さな、小さな異変がこの時に起こっていました。

私はそれに気づくことがないまま毎日を過ごしていくことでしょう。

 

その日は駒瀬さんからレーションを頂き何事もなく眠りにつきました。

相変わらず電気は流れていましたが…。

 

「やァ、マタアッたネ。今日ハ長く話セソウだヨ。」

 

また人が立っていた。

女の人だ。

 

「誰…?」

「僕は君デ君ハ僕さ。」

 

何を言っているのかわからない。

私は私だ。

 

「言イ方が悪カッタね。僕ハ君の心ノ奥深クニイルもウ1人ノ君さ。マァ、ソコマで深ク考エなクテイいヨ。」

 

もう1人の私…。

 

「ソレよリモサ、君コノママダト危なイヨ?」

「え……?」

「君ハ特別な存在ナンダ。人間を憎ンジャ駄目だ。」

 

特別な存在…?

私が…?

 

「ソウ、特別な存在ダ。ダカラ絶対に僕ノヨウニハナらナイデ。」

「貴女は一体……。」

「コレかラハコノ空間デ起こッタ出来事ハ記憶サれルハズダ。ダカラこレダケハ覚えテオイテ。ナニがアッテモ人ヲ憎マなイコト。ソレカら君ノ妹ヲ守ッテあゲテ。」

 

それを最後に空間が溶けた。




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駆逐艦に悩みがあるようです

眠りから覚めると彼女の言っていた通り、夢の内容を覚えていました。

彼女は一体何者だったのでしょうか?

もう1人の私と言っていましたが…。

 

「姉さん、起きたのね…。」

 

早速霞が私の手を握ってくれました。

しかし霞の声にいつもの元気が乗っていません。

やはり高山司令官が私たちを売ったことに相当なショックを受けているのでしょう。

 

「あら?姉さんの髪が…。」

「私の髪がどうかしたの?」

「一部だけ白くなってわ。」

 

え?白髪…?

私が何かを口にする前に、コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえました。

眼を失ってから耳がとても良くなったような気がします。

 

ガチャンと大きな音を響かせて誰かが入ってきました。

 

「よぉ〜艦娘もどき。お前に関して面白いことがわかったぜ。」

「何ですか…。」

 

入ってきたのは一番最初に出会った小太りの男でした。

 

「お前の血の中に深海棲艦の血が混ざっていた。つまりだ、お前は深海棲艦の仲間というわけだ。」

「それは……。」

 

思い当たる節がありました。

あの夢です。

私は本当に…。

 

「違う!」

 

霞が否定しました。

 

「姉さんは姉さんよ!」

「喧しいぞ、小娘が。」

「がっ…!?」

 

霞の咳き込む声。

また殴られたのでしょう。

 

「やめてください。やるなら私にしてください。霞には手を出さないで…。」

「ふんっ、貴様が俺らの言うことを聞くなら手を出さないでおこう。」

「わかりました。」

「姉さん!」

「大丈夫よ霞。私は大丈夫だから。」

 

私は朝潮型の長女だから、妹は守らないと。

 

「ついてこい。」

 

そう言われ霞に先導されながらついて行きました。

そして連れていかれたのは小部屋でした。

 

「艦娘もどきは中で待っていろ。世話役は外だ。」

「霞には手を出さないでください。それが約束です。」

「ああ、わかってるっての。おら、さっさと外に行け。」

 

部屋の中には私と小太りの男が残されました。

 

「さて、牢屋で言った通りお前はもう深海棲艦だ。その性能を確かめるために、今回は耐久実験をしてやろう。」

 

そう言うと男は私の両手にはまっていた手枷を解き、両手を広げたまま、別の何かを取りつけられました。

更に首元にある首輪にも何かを取りつけられました。

 

「何をつけたのですか?」

「そうか、貴様は目が見えないんだったな!特別に教えてやろう!貴様に取りつけたものは貴様の首元につけているものの強化版だ。そうだな、大体4倍ほどの威力の電撃が流れるだろうな。」

「あなたは私達艦娘のことをどう思っているのですか…。」

「少なくとも貴様のことは深海棲艦だと思っている。さぁ、もうグダグダ言うのはやめろ。耐久実験の開始だ。」

 

話は終了して私は実験という名の拷問をされました。

鞭のようなもので(見えないので確信が持てない)私は全身を叩かれ定期的に電撃が流れました。

電撃はいつものものとは比べ物にならない程強く意識が保てなくなりそうでした。

しかし意識がなくなりそうになると、一瞬しか流さなかった電撃を長時間流して意識を戻してきました。

 

どれ程の時間が経ったでしょうか。

実験という名の拷問が終わった時には私の身体は痛みと痺れの感覚しか残っていませんでした。

実験が終わり霞が私をみた時に何かを言っているような気がしましたがうまく聞き取ることができませんでした。

しかし私の意識が落ちる直前、霞が息切れをしているのが印象的でした。

まるで私と同じような目にあったかのような………。

 

目を開くとそこは真っ暗な空間だった。

周りには何もない。

目の前には女性が立っており黒いコートを着てさらにはフードも被っていた。

またあの夢だ。

 

「ソウ、またアノ夢サ。」

「人の心を読まないでください。」

「ソう言わナいデヨ。僕はもウ1人の君なンダかラ考えてイルことグらイワカるさ。ソレよリモ身体の方ハ大丈夫かイ?随分酷イ仕打ちを受ケテイたみタいダケど。」

「あっそういえば…。」

「恐らク電撃のセイで最後辺りは感覚ナカッたんジャないかナ?」

 

そうでした。

確か最後は霞が背負って部屋まで運んでくれたような…。

 

「あノ拷問ガおワルと君ハすぐ二気絶シテいタヨ。」

「それでここにきたのですか…。」

 

しかしあの拷問を毎日されるとなると私の身体は持つのだろうか?

 

「多分大丈夫ダト思うよ。今ノ君の身体ハ徐々に書キ換わッテイる。」

「書き換わる…?」

「そウ、君ハ今深海棲艦になりカケてイルンだ。」

「なっ…!?」

 

私が深海棲艦になりかけている?

有り得ない!

深海棲艦の生態は今だに謎に包まれている。

どうやって生まれているかもわかっていないはずだ。

 

「深海棲艦ハ負の感情によッテ生まれル。君が今以上にアノ人間達を恨メばいズレ深海棲艦にナルだろう。」

「そんな!?私は誰も恨んでいません!私は…!」

「イイや、僕にはわかル。君は心ノ奥底で相当アノ人間達を恨んでイル。君の大切ナ妹を傷つケた人間達を。」

 

そう言われた瞬間私の心臓がドクンと高鳴った。

言われて初めて気づいた。

霞には人を恨むなと言っていた自分が相当恨んでいたなんて…。

 

「すまナい、今ノハ言い過ぎタ。ダケどこれ以上恨ミ続けルト本当に深海棲艦にナッチャうヨ。」

「私は……どうすれば…。」

「一番ハやっぱリ憎マないこトダね。気分ヲ紛らす為二妹と話すトイイ。そレニコマセダっけ?あの人トも喋ってミルとイイ。」

「……わかったわ。」

「ソレともう1ツ、君が深海棲艦ニナるメリットヲ教えてオクよ。ソれはーーー」

 

私は夢で言われた通りに霞や駒瀬さんとの会話を大切にした。

駒瀬さんはよく私と霞の部屋に来て会話に参加してくれた。

その結果、私はなんとか深海化せずに生きてこられた。

相変わらず目は見えないですが。

 

そして私と霞がこの施設にやってきて1ヶ月と半分が過ぎていった。




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駆逐艦の知らないところで話が進んでいるようです

朝潮と霞が突然失踪した。

失踪が発覚すると同時に高雄たちは捜索へ向かったのだが、どこを探しても見つからず途方に暮れていた。

捜索を手伝ってくれていた五味渕提督も1週間ほどで切り上げ、朝潮と霞は死亡扱いで大本営に報告された。

横須賀鎮守府は捜索の切り上げと同時に、警備形態を強化された。

 

朝潮と霞がいなくなってから駆逐艦の4人は元気が無くなっていた。

高雄と愛宕はなんとかしなければと思いつつもどうすることもできないでいた。

 

そして朝潮と霞が失踪してから1ヶ月が経った。

 

今日は高山提督が大本営に向かってからちょうど1ヶ月。

そろそろ帰ってくる頃だ。

提督ならば何か情報を掴んでいるかもしれない、と言う期待を胸に高雄たち6名は提督の帰りを待っていた。

そして横須賀鎮守府の入り口に白いバンが止まった。

遂に提督が帰ってきたのだ。

 

白いバンから降りてきたのは高山提督と1人の女性。

女性は大淀と呼ばれる艦娘であり戦闘よりも事務仕事に長けている事から、提督になった者には1名ずつ配属される決まりがある。

 

「やぁ、出迎えかい?ありがたいな。高雄君達も元気にしていたかい?」

「え?てっ、提督?」

「うん?どうしたんだい?あぁ、そう言えば朝潮君と霞君がいないようだけど今はお風呂かな?あとで全員集まったらこれからの事について話をしよう。あと、隣にいるのは僕らの鎮守府に配属される大淀君だよ。」

「軽巡大淀です。よろしくお願いしますね。」

「提督頭大丈夫っぽい?ショックでここ最近の記憶がなくなっちゃったっぽい?」

「こら、夕立!ダメだよそんなこと言っちゃ!」

「ぽーい。」

「え、ちょっと嘘でしょう?本当に知らないの?」

「司令官…。」

「えぇ…?僕には何も連絡は来ていないけどもしかして、何かあったのかい?」

「提督、朝潮ちゃんと霞ちゃんは提督が大本営に向かったその日に消えました。」

「え………?」

「私達も探したのですが見つからず…。」

「どうしてそんな大事なことを連絡しなかったんだい!?」

「五味渕提督はたしかに提督に連絡したと言っていました。なので提督は知っていると思っていたのですが…。」

 

そして高山は突然走り始めた。

 

「ちょ!?司令官!?」

「執務室に行ってくる!みんなは部屋で待機してて!」

 

「失礼します!」

 

バン!と乱暴に扉をあけて執務室へと入った高山。

そして目の前には椅子に座って煙草を吸っている五味渕がいた。

横須賀鎮守府の大淀は今は何処かに行っているようだった。

 

「おや、高山研修員ではないか。無事提督になれたようだな。」

「五味渕提督!朝潮君と霞君がいなくなったと言うことをなぜ報告してくれなかったのですか!?」

「ふむ?何を言っている。ちゃんと報告書を送ったはずだぞ?」

「報告書など来ておりません!」

「なに…?確かに報告書は提出したはずだったが…。手違いでも起こったか…?予備の報告書があるから読むといい。」

 

そう言って引き出しから書類を取り出した。

それを受け取ると高山は急いで確認を始めた。

 

「な…!?なんですかこの報告書は!?」

「全て事実だ。」

 

報告書に書かれていたのは到底報告書とは呼べないものだった。

書かれている内容はこんな感じだ。

 

朝潮はお風呂に行ったっきり、霞はお手洗いに行ったっきり消えていなくなったこと。

監視カメラの映像には不審な点がなにもなかったこと。

いなくなった現場には証拠となるものは一切なかったこと。

 

報告書に書かれていた事はこれだけだ。

 

「それからこっちも読むといい。後日談だ。」

「死亡扱い…!?」

 

もう片方に書いてあった内容はこうだ。

 

1週間捜索したが見つからず、捜索を断念したこと。

横須賀鎮守府の警備形態を強化したこと。

そしてなるべく1人にならないように呼びかけることが書いてあった。

 

「まず僕に話を通すのが筋ではないのですか?」

「報告書を送ったと言ったであろう?だが返事が無かったものだからこうするしかなかったのだ。」

「しかし…!」

「わしも忙しいのだ。もう終わったことに目を向けるな。貴様も提督になったのであろう?もしも轟沈艦を出してうだうだと言っているくらいならばやめてしまえ!」

「くっ……。」

「艦娘の補填は出来ぬが物資を少し多めに提供している。貴様の鎮守府はここから遠くなるからな。餞別の意味も込めてある。頑張ってくれたまえ。」

「わかり、ました…。ひとつだけお願いがあります。事件が起きた日の監視カメラの映像等の証拠を僕にください。」

「ふむ、そのくらいならばいいだろう。」

 

そして2人は情報を整理しながら高山の荷物(主に書類)をまとめていった。

 

「今までありがとうございました。」

「うむ、ご苦労であった。提督の業務も大変ではあるが頑張ってくれ。」

 

ゴトッ!

 

去り際に仮眠室の方からなにかの音が聞こえてきた。

 

「今のは…?」

「何か物でも落ちたのだろう。気にするな。」

 

高山は不思議に思いながらも部屋から出ていった。

五味渕は不思議そうに出て行く高山を見届けるとおもむろに仮眠室を開けた。

そこにいたのは猿轡を噛まされ両手両足を縄で縛られた大淀がいたのだった。

 

「余計な事は言うなよ?」

 

コクコクと泣きながら頷く大淀を見てから縄と猿轡を外す作業に入ったのだった。

 

「ーーーーというわけだ。本当にすまなかった。僕がちゃんと気づいていれば…。」

 

現在担当の鎮守府に行くために大淀を加えた高山たち8名は大発動艇に乗っていた。

横須賀鎮守府所属の旗艦阿武隈が率いる水雷戦隊が付き添っていた。

ちなみに大発動艇を操作しているのは睦月だ。

 

「それは少しおかしいですね。」

「「「「「「「え?」」」」」」」

「私は加藤元帥の大淀の元で一緒に仕事をしていたのですがそんな報告は一切ありませんでした。」

 

元帥の大淀というのは結構有名な話だ。

曰く、なんでもできる、出来ない事はないと。

曰く、いつのまにか仕事が終わっていると。

曰く、元帥の無茶振りにいつも何食わぬ顔で仕事していると。

まぁ、かなりすごい大淀という事だ。

 

そんな大淀の元で一緒に仕事をしていたというのか。

という事はあの大淀の弟子ということになるのか…?

そして今の発言。

何か裏があると全員が思った。

 

「大淀くん、それは本当なのかい?」

「そうですよ。五味渕提督は確かに大本営に報告すると言っていましたが…。」

「本当です。提督、少しその報告書を見せていただけませんか?」

「これだよ。」

 

そして大淀は報告書を受け取るとパラパラとめくっていった。

 

「なるほど、よく分かりました。」

「「「「「「「え!?」」」」」」」

 

パラパラとめくった時間はたったの十数秒。

その間に全て読んだというのか。

 

「はい、ちゃんと頭に入ってますよ。」

「時雨、この人やばいっぽい、やばいっぽい!」

「夕立…。そんなこと言っちゃダメだよ!」

「この報告書はいろいろと不思議ですね。」

 

そして大淀は一気に語り出した。

 

「そもそも鎮守府内部で行方不明になるというとこが不思議ですね。ちゃんとわかるように分かりやすい構造になっていますし目印もあります。そんな中で行方不明になるというのは相当アホの子です。ですが艦娘は建造であれドロップであれ、知識を持って生まれてきます。当然艤装も扱うのである程度の頭は持っています。ドジっ娘もいますがドジっ娘でもわかる構造です。なので鎮守府内で迷う事は絶対にありえません。次に監視カメラの映像ですが…。まぁこれは出入りする場所や重要な施設のみしか監視していないので映像に移らないという事は不思議ではないのですが、これは失敗してますね。後で映像を見ればわかると思いますがこの映像は恐らく編集されたものでしょう。実際の映像は削除されているはずです。これは後でみんなでみましょうか。そして最後にこのような重大な案件が大本営に報告されていない事ですね。恐らくは大本営内部に内通者がいると思いますが、そもそもこんなにずさんな警備ならば定期視察で引っかかるはずです。引っかかっていないという事はやはり裏がありそうですね。あぁ、後警備形態を強化したとありますがこれは嘘ですね。鎮守府内部はチラッとしか見ませんでしたが特に他の鎮守府と変わったところはありませんでした。監視カメラの位置もです。とまぁ、私の見解としてはこんな感じでしょうか?」

「「「「「「「……。」」」」」」」

 

一同は唖然としていた。

報告書を流し読みしただけでここまでの推測を立てたのだ。

 

「時雨、この人やばいっぽい、やばいっぽい!」

「確かにやばいかも…。」

「それじゃあなに?朝潮と霞は五味渕提督にさらわれたって事?」

「現状ではその可能性が高いかと。」

「えっと、それじゃあ〜朝潮ちゃんと霞ちゃんは死んでいないということね〜。」

「いえ、そうとも限りません。」

「どういう事だい?」

「私が元帥閣下の元で仕事をしていたときなのですが、一度だけ胸糞が悪くなる案件がありました。非公開なので他言はしないでください。後詳細も省きます。……あれは私が元帥閣下の大淀と一緒に仕事をしている時でした。元帥閣下が唐突にとある研究所に行くと言い出したのです。その研究所は艦娘について研究をしているところで、数名の艦娘が所属していました。私がその研究所でみたのは本当に最悪な光景でした。その研究所には数名の艦娘しかいないはずなのに、地下には20を超える艦娘が鎖に繋がれ監禁されていました。そしてその研究所にいた艦娘は全員全裸で至る所に青アザや出血の跡が見られました。恐らく慰み者にされ研究員のストレスのはけ口にされていたのでしょう。研究所にいた研究員は全て捕まり、艦娘たちは元帥閣下によって保護されました。保護された艦娘は現在療養中ですが、精神を破壊され未だに人間を拒絶している子達もいます。研究所にいた艦娘は他の鎮守府から秘密裏に送られた子達ばかりでした。」

「そんな…!?それじゃあ大潮たちのお姉さんもそういうところに送られたんじゃ…!?」

「まだ可能性の話です。……これが一番可能性が高いのですが…。」

 

みんな押し黙ってしまった。

当然だろう。

普通ならば知ることがない事を聞いてしまった、しかもその内容がとても悲惨だったのだから。

 

「提督さーん!到着しましたよー!」

 

どうやら高山達が所属する鎮守府に到着したようだ。

すっかり話し込んでしまっていたらしい。

お昼に出発したのだがもうすでに外は真っ暗だ。

 

「お疲れ様だったね。睦月君もありがとう。」

「無事に護衛できてよかったです!」

「ちょっと疲れたにゃしぃ〜…。」

 

大発動艇から降りると横須賀鎮守府にあった建物と同じ建物が目に入った。

ここが高山たちの所属する鎮守府、ラバウル基地だ。

そしてその建物からピンク髪とエプロンを着た女性がこっちに向かってきていた。

 

「お疲れ様です!工作艦明石です!よろしくお願いします!護衛の方々は後で工廠に艤装を預けにきてくださいね!一応メンテしておきます!」

「はーい!」

「疲れたにゃしぃ〜…。」

 

ガヤガヤと騒ぎながら護衛してくれたメンバーは工廠へと向かった。

 

「お疲れ様です。給糧艦間宮です。よろしくお願いしますね。」

「あぁ、よろしく。僕はこのラバウル基地配属になった高山だ。よろしく頼むよ。」

「それでは鎮守府内を案内しますね。」

 

そして高山たちはラバウル基地の施設を見て回り艦娘は艦娘寮で部屋決めに向かった。

ここは珍しい事に航空基地もあるようで戦略の幅も大きく広がりそうだった。

そして高山と大淀は間宮の案内で執務室へときていた。

 

「それでは私はこれで。夕食はできておりますのでいつでもお越しくださいね。」

「ありがとう間宮君。」

 

間宮が食堂へと向かった後残った2人は書類の確認等を行った。

 

「今すぐに提出しなければいけない書類はなさそうだね。」

「そのようですね。前任者がよっぽど真面目な方だったのでしょう。」

 

何かトゲのある言い方に高山は思わず苦笑した。

 

「さて、業務は明日からにして今日はもう休もうか。」

「では提督は先に休んでください。私は例の報告書を調べてみます。」

「い、今からかい!?大丈夫なのかい!?」

「そうですね、最大4徹までは大丈夫です。」

「いやいや、ちゃんと休まないと体に毒だよ!?」

「明日から始まる業務に支障をきたさない範囲でやりますから大丈夫ですよ。」

「……本当なら無理してほしくないんだけどね…。そこまでいうのならお願いするよ。朝潮君と霞君について何か手がかりでもつかんでほしい。」

「お任せください!」

 

そして次の日驚く事が発覚したのだった。




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駆逐艦の救出、そしてーーー

翌朝、ここラバウル基地まで送ってくれた阿武隈達を見送ったあと、大淀から報告書を調べた結果を聞くべく食堂へと集まっていた。

 

「う〜ん、まだ眠いっぽい〜…。」

「夕立、大事な話だからシャキッとして。」

「ぽい〜…。」

 

目をゴシゴシと擦る夕立を時雨が支えていた。

そんな様子を他の人は微笑みながら見ていたのだ。

ここにはまだ肝心の大淀がいないのだがもうすぐ来る頃だろう。

そして待つこと数分、大淀がやってきた。

 

「すみません、少し遅れてしまいました。」

 

やってきた大淀は一徹したにも関わらず元気そうにしていた。

 

「それじゃあ報告を聞かせてもらおうか。」

「はい、先ずは監視カメラの映像のことからお話しします。」

 

この頃になると夕立も眠気が吹っ飛びしっかりと話を聞いていた。

 

「まず監視カメラの映像ですが、やはりあれは偽物です。本物そっくりに合成されて作られたものでした。」

「合成…。」

「本物の映像にはしっかりと事件の内容が写っているのでしょうが、証拠を残さないために削除されたのでしょう。」

 

相変わらず万能な大淀。

一体元帥閣下の元でどのように仕事をしたらこんな万能になるのだろうか。

 

「この映像は本当に本物そっくりだったので偽物と見破るのは相当な技術が必要でした。まぁ、私の目はごまかせませんが。」

 

ほんと、何をしたらこうなるのやら…。

 

「次です。実は事件の日を調べていくうちに一件だけ出入りをしているものがありました。それは搬入口です。実はこの日は定期物資の提供日となっており、1ヶ月分の生活用品が送られる日だったのです。」

「それとどういう関係があるんだい?」

「もしかすると朝潮さんと霞さんはこの搬入の時間に合わせて襲われたのではないか、というのが私の見解です。」

「搬入車に乗せられどこかに連れていかれた…?」

「そういうことですね。」

 

だが、そうなると次は誰が朝潮達を襲ったのかというところだ。

そもそも艦娘を襲うことはできるのだろうか?

これについても大淀は教えてくれた。

 

「艦娘は艤装が無ければ普通の女の子と同程度の能力です。まぁ、身体は変わることはないのでただの拳銃やナイフなどでは傷つくことはないでしょうが。」

 

艤装が無ければ本来の実力を発揮することはできない。

言われてみれば当然なことであった。

 

「この事については元帥閣下に知らせておきます。あの方ならすぐに動いてくれるでしょう。」

 

そう言ってこの報告会は幕を閉じた。

 

それから3日後。

高山達は鎮守府近海の哨戒をしつつ戦力の増強を図っていた。

そんな時だった。

なんの前触れもなく大発動艇が鎮守府に近づいてきている、と報告が入った。

大淀は誰が来たかわかっているらしく、すぐさま迎え入れの準備に入った。

そして高山にも付いてくるように指示をして工廠へと向かった。

もう、どちらが提督なのかわからないな。

 

さて、迎え入れの準備をして工廠へ行くとちょうど大発動艇も工廠内部へと入ってきているところだった。

 

「大淀君、そろそろ誰が来たのか教えてくれないかい?」

「……です。」

「うん?」

「元帥閣下です。」

「え?」

 

驚くのも無理はないだろう。

元帥と言えば海軍の中でも1番階級の高い人物のことだ。

そして大淀が高山の元に来る前まで仕事をしていた人なのだ。

当然の如く高山よりも階級が高いのは目に見えている。

そんな人が突然自分の鎮守府に来たのだ。

驚くのも無理はないだろう。

 

そして大発動艇から人が降りてきた。

筋肉が服装の外から見てもわかるぐらい盛り上がっており更にはどっかのヤクザにでもいそうな顔立ちをしていた。

正直高山はビビった。それはもう盛大に顔が引きつるレベルで。

工廠内にいた明石も目を合わせないようにしているぐらいだ。

そしてその後ろからは大淀が出てきた。

あの大淀が高山の隣にいる大淀の上司なのだろう。

 

「元帥閣下、お久しぶりです。」

「おう!久しぶりじゃねぇか!と言っても5日ぶりぐれぇだけどな!」

 

わはははは!と声高々に笑う元帥閣下。

 

「んで、おめぇが高山で間違ってねぇな?あぁ、堅苦しぃのはやんなくていいぜ。」

「はぁ…?僕が高山です。よろしくお願いします、元帥閣下。」

 

とりあえず堅苦しいのはやめろと言われたので海軍でよく使う挨拶はやめて普通に挨拶をした。

するとまたわはははは!と笑うとこう言った。

 

「おい!大淀!やっぱりそうじゃねぇか!俺がこう…フランクに話しかければ怖がられることはねぇってな!」

「はいはい、そうですか。それよりも私の睡眠時間を返してください。」

 

この元帥は見た目で怖がられているというのを自覚していたらしい。

それに高山は普通に挨拶をしたように見えるが内心ではかなりビビっていた。

 

「俺は加藤っつうもんだ!階級は元帥!よろしく頼むぜ!」

「この案件が終わったら絶対に寝ますからね?……3日ぐらい。」

 

元帥の大淀はいったいどれだけ寝ていないのだろうか…?

あんなに睡眠を主張するなんて…と高山は心の中で思った。

 

「というか早く本題に入れっつってんだよこのヤクザ。私の睡眠時間がなくなるって言ってんだろうが。」

「わかってらぁ…。高山、お前の大淀から報告を聞かせてもらった。」

 

大淀の口調が変わった…と思っていたら本題へと入っていた。

 

「朝潮と霞の行方不明事件…。これは確かに俺も見たことがなかった…。だがなぁ、一つだけ似たようなものを見たことがある。大淀。」

「はい、今から1ヶ月前横須賀鎮守府では2名の轟沈者が出ております。名前は伏せられていますがおそらくは朝潮さんと霞さんで間違い無いでしょう。」

「轟沈…?それはおかしいんじゃないんですか?高雄達は演習しかやっていなと言っていましたが…。」

「それが奴の手口ってわけよ。奴は結構前から密かに取引をしていたみたいでな…。定期的に轟沈者が出てるんだわ。」

「…っ!」

「今までは証拠がなかったから引っ捕まえることができなかったが…高山、お手柄だぜ。」

「え?」

「高山提督のお陰で五味渕を牢屋送りにできるということです。もう既に朝潮さんと霞さんが送られたであろう研究所には目星がついています。」

「それは本当ですか!?」

「本当だぜ。準備が出来次第その研究所に行く。テメェも来るか?」

「行かせてください!」

「よし!決まりだな!研究所に行くときはここに一度よるからな!」

「ありがとうございます。」

 

元帥は仕事が早かった。

まだ報告して3日しかたっていないというのにもうここまで情報を集めてくれたのだ。

 

「そんじゃ俺らはもう行くぜ。鎮守府の仕事頑張れよなー!」

 

いうことだけ言って本当にもう行ってしまった。

元帥というのはどれだけ忙しいのだろうか。

嵐のようにやってきて嵐のように去っていった。

 

「大淀君…。」

「はい…。」

「お疲れ様。」

「はい…。もうほんとうに…。」

 

大淀の苦労がわかった高山であった。

 

加藤元帥がラバウル基地を訪れてから早1週間。

またもや哨戒していたメンバーから大発動艇が近づいていると連絡が入った。

相変わらず唐突に来るため出迎えの準備ができていなかった。

工廠に行くと既に加藤元帥は降りていた。

 

「あっ提督!あとはお願いします!」

 

明石が猛スピードで工廠から出て行ってしまった。

 

「元帥閣下…またですか…?」

「どうしてこう俺は避けられるんだろうなぁ…。」

 

流石に高山は本人の目の前で堂々と顔が怖いからとは言えない。

だがいう奴はいるのだ。

 

「ヤクザみたいに顔が怖いからでしょう?」

「やかましい!俺はヤクザじゃねぇよ!」

 

元帥の大淀だ。

今日も眠そうにしている。

 

「さっさと本題に入ってください。また私の睡眠時間を削る気ですか?」

「わかってらぁ。高山、明日研究所に行くぞ。憲兵供にも連絡してあるからな、現地集合になった。時間帯は夜。なるべく人目につかねぇようにやる。いいな?」

「わかりました。今日来たということはここに泊まるのですか?」

「おう!そういうことだ!」

「子供みたいにはしゃがないでください。私が恥ずかしいです。」

「なんでお前が恥ずかしがんだよ…。」

「空いてる部屋があるのでそこに泊まってください。大淀に案内してもらってください。」

「やっぱり私が案内するんですね…。」

「そういえば元帥閣下の護衛は…?」

「あぁ、そこにいるだろ?」

「え?」

 

周りを見渡しても誰もいない。

この工廠内には高山と2人の大淀、そして元帥しかいなかったはず…。

 

「ハラショー。」

 

突然誰かの声が響いた。

だが周りを見回しても誰もいない。

どうなっているのか?

 

「ハラショー。影が薄いのも困りものだね。」

 

ちょんちょんと高山の背中を突かれた。

高山が後ろを振り向くと銀髪の少女がいた。

 

「ハラショー、響だよ。その活躍ぶりから、不死鳥の通り名もあるよ。」

 

銀髪の少女は響と名乗った。

身長は小学生くらいだ。

だが護衛がたったの1人なのだろうか?

 

「たった1人で大丈夫かって顔してんなぁ。いずれ演習でもしてみりゃあいい。響の強さがわかるぜい。それにいつも淀もいるからなぁ。戦力的には十分ってわけよ。」

 

たった1人で十分とは…。

さすがは元帥の艦娘といったところか。

 

さて、話は終わり元帥がラバウル基地に泊まることとなった日。

色々と大変だったとだけいっておこう。

 

「ぽいー!ヤクザっぽいー!ヤクザがいるっぽいー!!」

「こら、夕立!そんなこと言っちゃダメだよ!」

 

作戦当日の夜、高山と元帥。大淀x2、大潮と満潮はとある研究所の近くまで来ていた。

なぜ大潮と満潮がいるのかだが、2人の強い希望だからだ。

長女と一番下の妹のことなのだ。

付いてきたいのは当然だろう。

 

「さて、この辺のはずなんだが…。」

「こんばんは、元帥閣下。」

「おぉ!もうきてたのか!いつも早えな。」

 

そこにいたのは1人の女性だった。

 

「そちらの方は初めましてですね。私は元帥閣下の特殊部隊隊長の永瀬奈々です。よろしくお願いします。」

「僕は高山だ。よろしく頼むよ。」

「聞けば高山提督の艦娘がこの研究所に送られたとか。必ず助け出しましょう。」

 

提督と名乗ったわけではないのに提督と断定していってきた。

こちらの事情はほぼ知っているということか。

そして話せば話すほどこの永瀬という女性のことがわかってきた。

とても正義感が強く艦娘をとても愛しているとよく分かった。

 

「隊員は既に所定の位置についています。いつでも動けます。」

「よし、そんじゃ行くとするか。艦娘は道具じゃねぇと分からせてやらねぇとな。」

 

そう言った加藤元帥の表情は怒りに満ちていた。

今までにもこう言った研究所をいくつも潰してきたのだろう。

 

「では生きましょう。」

 

研究所の玄関口には今は誰もおらずスカスカの状態だった。

そして敷地内に入り研究所に入ろうとした時、研究所が爆発した。

そしてーーーーー



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駆逐艦の心はズタボロです…。

私がこの研究所と呼ばれる場所に来て1ヶ月と半分が過ぎたようでした。

これは駒瀬さんとお話ししている中で発覚したことです。

私が夢で深海棲艦になりつつあると言われ、その対処として駒瀬さんや霞とお話できる機会をそれはもう大切にしました。

その結果、私はなんとか深海棲艦にならずに済んでいます。

 

相変わらず眼は見えず霞に補助をしてもらいながら生活しています。

生活といっても私は毎日、身体を激しく痛めつけられ部屋に戻った時には意識がない状態などが続いていますが。

 

ある時には熱湯風呂に長時間入れられ全身火傷を負ったことがありました。

ある時には仰向けにさせられその上にロウソクを垂らされた事もありました。

ある時には全身に切り傷を入れられたこともありました。

ある時には……。

 

私は数え切れない程沢山のことをされました。

逆らえば霞にも同じことをすると言われ私はただ耐えるだけの日々でした。

身体の傷は高速修復材でもかけられたのかいつも治っていました。

ところどころ残っている傷はあるようですが…。

 

ですがそのおかげか私の身体は様々な部位が敏感になりました。

耳は前よりも聞こえるようになり話している相手がどこにいるのか、さらに小さな些細な音もわかるようになりました。

鼻は嗅覚が鋭くなり人や物の匂いを嗅ぎ分けることができるようになりました。

さらには空間把握ができるようになりました。

何を言っているのか分からないという人もいるでしょうが、とにかくできるようになりました。

部屋の中に何があるのか感覚的にわかるようになり1人で歩き回れるぐらいになりました。

 

普通の人なら耐えられない仕打ちを受けてきましたが、そんな私を支えてくれたのはいつも霞と駒瀬さん、夢の中の私でした。

本当に感謝の言葉しかありません。

 

さてそんな感じで生きてきた私ですが最近、霞に対して違和感を持っています。

前まではあの研究員が居ないところではよく文句を言ったり、元気に私に話しかけてきていたのですが、最近では口数も減り元気がなくなってきているような気がします。

私が霞に大丈夫?と聞いてもいつも決まってこう言います。

 

「私には姉さんがいるから大丈夫…。姉さんがいる…。大丈夫…。」

 

まるで自己暗示でもするかのように呟くようになりました。

さらに霞は呟き終わると必ず抱きしめてきます。

本当に大丈夫なのか心配です。

 

いつも私が眠りから覚めるとすぐに研究員が来るのですが今日は違いました。

私が目覚めてから体感で1時間程経ってもいつもの研究員は来ませんでした。

代わりに駒瀬さんがやってきたようです。

今なら足音で誰がきているのか判断できるようになりました。

霞は横になっているようなので眠っているのでしょう。

 

「起きたんだな朝潮。」

「はい…。今は何時なのですか…?」

「今は夜の10時だよ。…それよりも霞を起こすのを手伝ってくれ。」

「いいですけど…。何をするのですか?」

「今日僕が来たのは君達を逃がすためだ。研究所の職員はいまは外食に行っているからチャンスは今しかない。」

 

逃げ…る…?今駒瀬さんは私たちを逃がすと言ったのでしょうか…?

 

「本当に…逃げれるのですか!?」

「あぁ、俺が嘘を言ったことがあるか?」

 

確かに駒瀬さんは優しい人です。

だから本当に私達を逃がしてくれるのでしょう。

 

「ほら、早く霞を起こそう。」

「はい!」

 

私は霞を揺すって起こし始めた。

 

「霞、起きて。」

「う、うぅ…な、に?姉さん…。」

「霞!今から駒瀬さんが私達を外に逃がしてくれるそうよ。一緒に行きましょう?」

「本当…?こんなところからおさらばできるの…?」

「えぇ!そうよ!早く逃げましょう!」

「あぁ、本当だよ。俺を信じてくれ。」

 

駒瀬さんの一言に霞は頷き立ち上がった。

疲労した身体を無理やり動かし私達は駒瀬さんをみた。

 

「さぁ、ついてきてくれ!」

 

そうして私と霞は逃げれると言う期待を胸に外を目指し始めた。

この後、最悪な運命が2人を待っていることを知らないまま……。

 

私と霞が部屋から出て数十分、駒瀬さんが突然止まった。

まだ建物内部だと言うのにどうしたのでしょうか?

 

「駒瀬〜待ってたぜ?」

「本当にな〜。」

 

突然ありえない声が聞こえてきた。

それは外食に行っているはずの研究員の声だったのだ。

 

「待たせて悪いな。」

「駒、瀬さん……?一体どう言う…。」

「キャッ!?」

「おやおや霞ちゃ〜ん?どこに行こうとしてるのかな〜?」

「いや!離して!いやー!!」

 

霞が研究員に捕らえられてしまった。

そして私の方にももう1人の研究員が近づいてきた。

 

「深海棲艦が外に出たら危ないだろ?」

 

そうして私も捕まってしまった。

 

「駒瀬さん……一体どう言うことなんですか!?」

「うん?まだ気づかないのかい?」

「くははははは!これは傑作だな!!要するにお前らは騙されたんだよ!」

 

騙された……?

 

「そんな……!だって…駒瀬さんは…。」

「俺の名前を呼ぶのはやめてくれる?深海棲艦に名前を呼ばれるのは正直嫌なんだよ。」

 

そう言われた瞬間私の心にヒビが入った。

さらに身体からミシミシという音が聞こえてくる。

 

「霞ちゃんはまだまだ調教が足りなかったようだね?またあれをやろうか!」

「いや!もう嫌なのー!やめて……キャァァァァ!!」

 

突然霞の方から悲鳴が聞こえてきた。

さっきの研究員が言っていたあれって言うのは一体…?

いや、それよりも。

 

「何を、しているの…?霞に何をしたの!?」

「カッターで文字を書いてるんだよ。お前も一度やったことがあるだろ?っとそういや目が見えないんだったな!」

「なっ…!?約束が違うじゃない!霞には手を出さないって…!」

「わはははは!誰が深海棲艦なぞの約束を守るって言うんだ!?守るわけねぇだろ!お前が俺たちの遊びに付き合ったその日からお前の妹は傷だらけなんだよ!」

 

その瞬間、私の心は完全に砕け散り闇へと堕ちた。




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駆逐艦?は脱出しました

「わはははは!誰が深海棲艦なぞの約束を守るって言うんだ!?守るわけねぇだろ!お前が俺たちの遊びに付き合ったその日からお前の妹は傷だらけなんだよ!」

 

その瞬間、私の心は完全に砕け散り闇へと堕ちた。

 

「あれは僕でも怒るよ。」

 

そう言ったのはいつも夢の中で話していたもう1人の私。

ここは夢の中…?

私はどうなったんだっけ…?

 

「本当に少しの間だけしか話せないから短くまとめるよ。」

 

あれ…?

そういえばもう1人の私の声が聞き取りやすい。

いつもは片言が混じっていたりで少し聞き取りづらかったのに…。

 

「いいかい?君は深海棲艦になったんだ。あの男が原因でね。」

 

深海棲艦になった…?

 

「そう、まずはその事実を受け入れるんだ。それが出来なければ君はその辺にいる深海棲艦と一緒のように本能のままに襲うようになる。」

 

深海棲艦になった…。

 

「そう、今の自分を受け入れるんだ。」

 

受け…いれる…。

すると身体が少し軽くなったような気がした。

 

「次だ。君に僕の全てを捧げる。手を出して。」

 

言われた通りに手を出した。

その手をもう1人の私は自分の手で包み込むように胸の前で持った。

そしてもう1人の私は被っていたフードをとった。

初めて彼女の顔を見た。

今まではぼやけていたりフードのせいでよく見えなかったがついに顔を見ることができた。

 

「今からいろいろな知識が流れ込んでくるはずだ。少し痛いかもしれないけど我慢してほしい。」

 

痛い…?と思ったのもつかの間まるで鈍器で殴られたような衝撃がきた。

衝撃が来ると同時に本当に様々な知識が流れてきた。

 

「さぁ、終わったよ。」

 

時間としては数秒だったのだが私は何時間も続いていた感覚に襲われた。

 

「憎しみにとらわれ過ぎないで。君は1人じゃない。絶対に信頼できる仲間がいるからちゃんと守ってやるんだ。」

 

そして目の前がぼやけていく。

本当に短い時間しか話せなかったようだ。

 

「あぎゃああぁぁぁぁぁあああ!!!?」

 

私が気付いた時全身に痛みが走っていた。

そして私の内側からドス黒い感情が溢れ出した。

 

憎い…。

殺せ…。

破壊しろ…。

 

狂いそうなほどの感情に必死に抵抗する。

必死に抑えていると声が聞こえてきた。

 

「はっはっはっは!ついに気でも狂ったか!?」

「ほらほら、お前の大事な妹が壊れちゃうよ〜?」

「そんな艦娘もどきには電撃をプレゼントしてやるよぉ〜!」

 

バチっと首元から電気が流れた。

それよりも研究員はとても大事なことを言っていた。

霞が壊れる?

ユルサナイ!

 

私の意思に反応し私の手の中に1つの艤装が出現した。

それはもう1人の私が死神と呼ばれることになった原因の1つ。

本に出てくる死神が持つような大きな鎌。

私の身長よりも大きく約2メートルほどもある真っ黒で大きな鎌だ。

 

「「は?」」

 

私はしっかりと研究員を見据えて鎌を振るった。

大鎌は寸分違わず2人の研究員を真っ二つにした。

 

そう、前に夢の中で言っていた深海棲艦になるメリットの1つ。

それは身体の傷が全て治ること。

深海棲艦の身体へと書き換わったため失っていた眼を取り戻したのだ。

しかも深海棲艦の眼になったことで暗闇の中でもかなり見えるようになっている。

 

「なっ…!?なんだそれは!?」

「シネェ!!」

 

横に鎌を振るうが霞を捕まえていた男は霞を放り出して逃げ出した。

しかし霞を傷つけた輩を逃がす私ではない。

突如私の両隣の何もない空間から2つの主砲が出現した。

どちらも46㎝三連装砲だった。

狙いは逃げ出した男。

出現した次の瞬間にはもう撃っていた。

撃ち出された弾は狙い違わず男にあたり爆発四散した。

さらに撃った弾は研究所の一部を破壊しこの地下から出られる穴が作られた。

私は霞の方を向くと霞はガタガタと震えていた。

 

「ねえ…さん…?」

「……そうよ。」

 

私は怖かった。

深海棲艦になった私はもう受け入れられないんじゃないか。

 

「あり…が…とう…ねえ…さん…。」

「あっ……。まだ私を姉と呼んでくれるの…?深海棲艦になった私を…。」

「わ…たしの…ねえ…さんは…ねえ…さん…だ…け……。」

 

そう言うと霞は気絶してしまった。

限界だったのだろう。

今まで私は霞には手を出されていないと思っていたが違った。

霞の身体にはいくつもの切り傷や青あざがあった。

ずっとこれを私に隠していたのだ。

私を心配させないようにと。

さっきまで鎮まっていたドス黒い感情がまた湧いてきた。

 

私は大鎌で斬った研究員の懐を弄ると試験管に入れられた高速修復材を発見した。

それを霞の傷がひどい場所にかけていき霞をおぶった。

私は自分が開けた穴を抜けるとエントランスにいた。

私は入口の方に主砲を向けると発砲した。

 

着弾した弾は大爆発を起こし玄関口を破壊してくれた。

久しぶりの外はちょうど夜のようで真っ暗だった。

それでも深海棲艦の眼では昼間のように見ることができた。

さぁ、なるべく人に見つからないようにして海に出よう。

 

そういえば私の服が夢の私と同じ服になっていた。

レインコートの様な服装なのだがところどころ肌が露出している。

しかし気恥ずかしさなどは一切なかった。

これが私の服装。

 

私はフードを被ると破壊した入口から外に出た。

外には10人ほどの人間がいるようだ。

なんのためにいるかは知らないがさっさと突っ切ってしまおう。

霞をおぶったまま気配を消して走り出す。

 

「あぁ?大淀。」

「仕事を増やさないでください。」

 

サッと私に手を伸ばしてきた。

しかし私はそれを綺麗に避けて走り去った。

 

「チッ!追うぞ!高山は永瀬と共に研究所へ行け!」

「はい!」

 

もうだいぶ走ったのだがまだ追ってくる。

逃げ出した私達を始末するつもり…?

走り続けているとようやく海が見えた。

だいたい2キロほど走ったところだ。

 

「おい!待て!」

 

海は道路の向こう側にあった。

夜なので車は来ていない。

そのまま道路を横切ってガードレールを飛び越えた。

少し高さがあったが無事着水できた。

約1ヶ月半の久しぶりの海だった…。



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駆逐艦?の脱出した後に…。

高山達のお話です


高山達が研究所に入ろうとした時、研究所が内部から爆発した。

 

「なんだぁ?」

「提督、下がってください。」

 

爆発したのは玄関付近らしくポッカリと穴が開いていた。

遠目から見ても爆発の威力がどれほどだったのか想像できる。

 

「元帥閣下、まずは我々が先行します。」

「あぁ、気ぃつけろな。」

「はい。」

 

そして永瀬達特殊部隊が先に研究所へと向かった。

そこで高山達は見た。

先ほど爆発した玄関口に誰かが立っていたのだ。

 

「誰だ…?」

 

しかし次の瞬間にはその誰かはいなかった。

代わりにーー。

 

「あぁ?大淀。」

「仕事を増やさないでください。」

 

元帥の大淀が何かをつかむような仕草をした。

 

「チッ!追うぞ!高山は永瀬と共に研究所へ行け!」

「はい!」

 

高山達には見えなかったがなにかが走り去って行ったらしい。

もしかしたらさっきの人影なのかも知れない。

だが今はそれよりも研究所内にいるであろう朝潮と霞が優先だ。

 

「さあ高山提督、付いてきてください。」

「了解しました。」

「絶対に助けます!満潮!行きましょう!」

「……えぇ。」

 

妹達の気合も十分であった。

 

破壊された入り口から入ると研究所内で過ごしていたのであろう職員が走り回っていた。

そしてよく見るとエントランスの端っこの方に穴が開いていた。

 

「止まれ!我々は特殊憲兵隊である!この施設では違法研究を行っていたという嫌疑がかけられている!大人しく投降せよ!」

 

そう言って中にいた職員に銃を向ける。

もちろん抵抗すれば容赦なく撃つがほとんど威嚇目的だ。

銃を向けられた職員達は次々と投降の意思を見せ始めた。

 

「よし、職員どもは拘束しておけ。我々は地下に向かうぞ!」

 

穴が開いている方へ向かうとちゃんと登り降りできそうだった。

地下へ降りるとムワッとしたカビ臭い匂いに、腐敗臭もしていた。

降りた先は通路だったらしく周りには何もなく一本道。

先へ進むと大潮と満潮が吐き気を催す光景が広がっていた。

 

「なんだ…これは…?」

 

通路の途中で見つけたのは2人の研究員の遺体だった。

胴体を真っ二つにされていた。

 

「おぇ…。」

 

大潮は思わず嘔吐してしまった。

その背中を高山がさすりながら周りを見渡すと試験官が落ちていることに気づいた。

永瀬も気づいたらしくそれを拾い上げるとおもむろに匂いを嗅いだ。

 

「これは…高速修復材か…?」

 

中には1滴ほどの緑の液体が入っており高速修復材特有の匂いもしていた。

間違いなく高速修復材だろう。

 

「ここで何かがあったのは確かなようだ。全員警戒しながら進もう。まだこれをした犯人がいるかも知れない。」

 

これとはもちろん遺体のことだ。

どう見てもこれは普通ではない。

 

警戒しながら進むが何事もなく通路の奥までこれた。

奥には頑丈そうな扉があった。

扉を開けるとそこにはとんでもない光景が広がっていた。

 

至る所に牢屋があり艦娘と思われる人が倒れている。

見えている範囲の艦娘が全裸でそこかしこに傷が見られた。

傷もちゃんと治されてはおらず腐敗して高速修復材を使っても戻らないような傷もあった。

 

「酷い…。」

 

永瀬は他にも見たことがあるのだろう。

すぐに行動を開始した。

一方高山達はこの光景に唖然としていた。

 

「これが人間のすることなのか…?」

「朝潮姉さん…朝潮姉さんと霞ちゃんは!?」

 

大潮は一目散に駆け出した。

こんなに酷いことをされる場所なのだ。

姉も同じ様な目にされているのかも知れない。

しかし高山達が地下の全ての部屋を見て回っても朝潮と霞の姿はどこにも無かった。

 

その後元帥が戻ってきて証拠品の押収を始めた。

元帥が追いかけていた人影は逃げられたそうだ。

高山達はなにもすることがなく端っこの方で待機していた。

大潮と満潮は朝潮と霞が見つからなかったことにより一層元気がなくなっている様に見えた。

いやもう既に大潮は泣いていた。

それからしばらくの間なにもせずにいると元帥がこちらに向かってきた。

 

「高山、報告しておくぜぃ。押収した書類からまず間違いなく朝潮と霞はこの研究所にいた。そしてこの研究所に2人を送った張本人は五味渕で間違いない。」

「五味渕提督が…。」

 

研修として始めにあった時は悪事に手を染めているそぶりは一切なかった。

逆に優しくいろいろなことを教えてもらったりもしていた。

 

「あとなぁ、こいつは見せるべきじゃねぇと思うんだがお前達は知る権利がある。」

「これは?」

 

差し出されたのは1冊の本だった。

表紙から察するに恐らく日記帳。

 

「こいつは朝潮と霞の記録帳だ。この中に朝潮と霞の生活の記録が全て入っていた。正直、俺は読むのはお勧めしねぇ。」

「……読みます。」

「そうか。」

「……大潮にも見せてください。」

「…私も。」

 

大潮と満潮が読みたいと言ってきた。

それに頷くと日記帳をみんなに見える様にして意を決して日記帳を開いた。



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駆逐艦?の記録帳を読むそうです

×月×日

今日新入りが入ってきた。姉妹なんだが姉の方が少しおかしいらしい。なんでもいつでもどこでも艤装を装備できるという。そんな芸当深海棲艦にしかできねぇだろw。だからこいつの呼称は艦娘もどき。一応首輪をかけておこう。艤装を出されても困るしな。妹の方はなんの変哲も無いただの艦娘だ。いつも通りおもちゃにすればいいだろ。

 

×月⚪︎日

今日は新入りの顔を見に行ってみた。外見はただの小学校の高学年か中学生ぐらい。まぁパッとしない奴らだった。妹がキーキーとうるさいから困ったもんだ。まぁ、そのうち喚く余裕もなくなるだろうけどなw。艦娘もどきの方は早速艤装を出そうとしやがった。だが首輪の仕掛けを起動させると艤装は出せなかったみたいだ。もしかしたら集中しないと出せないのかもな。艦娘もどきには罰として視覚を潰してやった。潰してやった時の悲鳴は最高だったぜ。その時に出た血は研究材料として採取しておいた。俺たちも一応研究者だからな。あいつについて隅々まで調べてやる。

 

×月◽︎日

2日間かけて血を調べてみた。すると色々と面白いことがわかった。なんと艦娘もどきの血から微量の深海棲艦の成分が検出された。俺たちの中であいつの存在は完全に深海棲艦と認識した。それともう1つ。俺の同僚が壊れた艦娘に血を飲ませていた。すると壊れていた艦娘の傷が全て修復された。切り傷や打撲、骨折までもが治っていたのだ。これには俺も驚いた。これを高速修復材と混ぜたらどうなるんだ?明日はそれを調べてみよう。あ、この2日間艦娘もどきには何もしてなかったな…。遊んでから研究するとしよう。……そういえば駒瀬の奴がまた変なことをし始めたな。まぁ、確かにあいつの趣味は時間はかかるけど面白いんだよな。

 

×月△日

艦娘もどきの部屋に行くと驚いた。艦娘もどきの奴、視覚を失っているというのに平然と受け答えをしやがった。あいつの心も深海棲艦みたいに冷たくなってんじゃ無いのか?あ、あいつはもう深海棲艦だったな。その後は娯楽室に行き艦娘もどきを部屋に設置してある鎖に繋いだ。これでもう逃げることはできないからな。今日は鞭打ちで痛めつけた。だがあまりいい声で鳴かなかった。なので試しに妹の話を出してみると凄い剣幕で喚きだした。妹効果すごいな(笑)。「妹には手を出すな。私が代わりに受ける」だって。もう既にその妹は艦娘もどきと同じ目にあってるというのにな。もちろんこの事実は伝えていない。駒瀬に指示されたからだ。俺としても伝える気はなかったけどな!ほんと楽しかったぜ。

 

………

 

×月▷日

艦娘もどき達がやってきて2週間が経過した。もうあいつらもかなり弱ってきているのだが未だに壊れない。普通のやつならもう会話もできないはずなんだが奴らとは普通に会話できている。はっきり言って異常だ。まぁ、そんなわけで今日は趣向を変えてみた。いつもは痛めつけて遊ぶのだが、今日はあまり痛めつけなかった。流石に妹の方にはやっていないが艦娘もどきに薬物を注射した。それも結構多めに。人間に使ったら即死するであろう量だ。最初のうちは何もかもが気持ちよく感じていたのだろう。しかし薬物の効果が切れてくると面白いほど狂い始めた。ガタガタと震え始めて暴れまわった。流石に危険だったので職員は退避した。モニターで確認したことだが最終的に狂ったように叫びながら白目を剥いて気絶した。気絶した後も身体がガクガク震えていたのは面白かったぜ。

 

追記

翌日、艦娘もどきを見に行ってみると普通に過ごしていた。てっきり発狂しながら暴れまわっていると思ったのだが全く違った。かなり消耗している様子だったが薬物を使った後には全然見えなかった。さらに艦娘もどきは前日の記憶が全く無いらしい。もう一度昨日与えた量と同じ量を注射してみたが発狂することはなかった。どうやら耐性がついたらしい。やべーよ。ほんとに化け物だよ…。

 

………

 

⚪︎月×日

そろそろ艦娘もどき達がやってきて1ヶ月経とうとしている。駒瀬から聞いたことだが駒瀬はかなり信頼されているらしい。これも1ヶ月間艦娘もどきと接し続けた結果なんだとか。艦娘もどきは前よりも口数が減り妹は目から光が消えているらしい。もう壊れる寸前ということだな。だから妹が壊れる前に全てを話すことにするそうだ。大抵の艦娘はこれで完全に壊れてしまうからまた仕入れないとな。でもあの艦娘もどきはわからんな。あいつは本当に規格外だ。もし明日壊れなかったらまた遊んでやるとするか。今度は身体も壊れるぐらいやってやろう。

 

「「「………。」」」

 

日記帳を読み終えた高山達は言葉が出なかった。

自分達が思っていた以上に内容がひどかった。

こんなに辛い事を1ヶ月もの間受け続けていたのだ。

もう涙が止まらなかった。

 

「俺もここまでのものは初めてだったぜぃ…。ひでぇ事をしやがる。」

「朝潮と霞は…?」

「残念ながらもう一度隅々まで探してみたがいなかった。……多分もうここにはいねぇだろう。」

「そんな!?じゃあ大潮達のお姉さんは…。」

「まぁ、焦るな。…こいつぁ俺の予想だがここに来る前に人影があったろ?あれが朝潮と霞だと俺は思うぜぃ。残念ながらもう何処にいるかは分からねぇがな。」

「「「……。」」」

「さて、もうだいぶここの処理も終えた。お前達は先にホテルに戻って休んでおけ。いいな?」

「はい……。」

 

そうして高山達一行は先にホテルへと戻り体を休めることにした。

しかし今日のことであまり寝付けなかったが。

 

翌日朝起きると高山達は大本営へと呼ばれた。

なんでも加藤元帥が呼んでいるらしい。

 

早速大本営へと向かうと応接間に通された。

 

「……昨日はあんまり眠れなかったみてぇだな。」

「はい…。それで話とはなんでしょうか?」

「…そうだな。まずは横須賀鎮守府なんだが今週末には五味渕の野郎をブタ箱送りにする。」

「……そうですか。」

「あんまり興味なさそうだな。」

「…そうですね。正直僕はあの人が苦手でしたので。」

「ほう、そうだったのか。まあいい。次だ。おそらく次の話には食いつくだろうな。」

「なんでしょうか?」

「朝潮と霞のことなんだがな。」

「ッ!?何かわかったんですか!?」

「落ち着け。提督のお前が取り乱してどうする。見ろ、大潮も満潮も落ち着いてるじゃねぇか。」

「はっ!すみません…。」

「加藤元帥、早く教えてください。お姉さんと霞ちゃんについて。」

「私もよ。全く、司令官も焦りすぎよ。」

「うっ…。」

「いいか?これは俺からのアドバイスだ。海を探すんだ。諦めずに探し続けろ。そうすれば必ず2人と出会えるはずだ。」

「元帥閣下…?」

「今行ったことを忘れるな。……よし、伝えるべきことも伝えた。俺は仕事があるからお前達は今日は休むといい。明日ラバウル基地への定期便が出るからそれに乗っていけるよう手配する。以上だ。」

 

そうして高山達は退出した。

 

「よかったんですか?あんなに遠回しな言い方で。」

「大丈夫だろ。あいつは人間や艦娘を襲うことはない。現に俺たちがいきているのがその何よりの証拠だ。かと言ってあいつが日本から離れる可能性も限りなく低いだろう。霞がいるのだからな。」

「はぁ…。そう言うことにしておきます。それよりも本日の予定なのですが……。」

 

そしてこの翌日高山達はラバウル基地へと帰還し、さらに1週間後には横須賀鎮守府の提督である五味渕が逮捕されたとニュースで報道されるのだった。




満潮の扱いが難しい…。


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駆逐艦?は拠点を手に入れました

風のように海を駆けていく。

 

研究所から逃げ出した私は目的もなく海を走っていた。

今はまだ夜明け前なのだが私の目には昼のように見えていた。

 

背中には私の大切な妹がいる。

もう2度とあんな辛い目には合わせない。

 

そして目的もなく海を走ること1時間弱、水平線の向こうから太陽が姿を現した。

 

それからしばらくして島を発見した。

私の持つ電探に反応がないことから深海棲艦もいない無人島のようだ。

 

島に上陸した私は霞を砂浜に寝かせて少し島を見て回ることにした。

まずは島をぐるっと一回りして次に艦載機を発艦させ上空から島を見てみる。

 

艦載機を出す際にも主砲と同様、何もない空中から甲板2つが出現し両肩に装備された。

そう言えば鎮守府にいた飛龍さんと蒼龍さんの艤装に似ている気がする。

そしてどうやら甲板を出しているときは主砲が装備できないようだ。

 

上空から島を確認してみると島は三日月のような形をしていた。

削れている方が砂浜になっていて反対側は断崖絶壁となっていた。

 

かなり日本から離れた場所だし艦娘が来ることもないだろう。

ここで暮らすことにしよう。

それから霞にも聞いておかなければいけないことがある。

霞が起きたら聞いておこう。

 

お、ここにドラム缶が…。

ムフフフ…。

 

「ん…。…ぁ…。…姉さん?」

 

太陽が真上に来た頃、ようやく霞が目覚めた。

 

「ええ…。そうよ。」

 

私の身長や体型は変わっていないが、髪と肌が白に染まり目は赤くなっている。

そしてーー

 

「姉さん…。ちょっと煽情的過ぎない?」

 

そして肌の露出度も上がっている。

結構際どい感じだ。

 

「それはいいのよ。もうこの姿が今の私だって認めているんだから。……それよりもどこか痛いところはない?」

「ええ、大丈夫よ姉さん。」

「ねえ…霞。」

「なに?」

「霞はこれからどうしたい…?もし鎮守府に戻りたいんだったら私が送るわ。」

「何言ってんのよ姉さん。私は姉さんから離れたくないわ。どうせ姉さんは私は深海棲艦だからー、とか悩んでるんでしょうけどそんなの関係ないわ。姉さんは私の姉さんなんだから!」

「……ふふっ。それが聞けてよかったわ。」

「当たり前じゃない。」

 

よかった。

霞が私から離れたら自分を抑えられなかったかもしれなかった。

なにせ私は人間に対して悪感情を抱いているのだから。

人間は殺すべき対象だと認識してしまっている。

 

「それじゃあ霞。お風呂に入りましょう!」

「へ?お風呂?」

「研究所にいた頃はまともにお風呂にも入れなかったじゃない?だから身体の汚れを落とさなきゃ。」

「でもここは無人島なんでしょう?どうやってお風呂に…。」

「こっちよ!」

 

そう言って霞の手を引っ張って奥へと進んでいく。

しばらく進むと少し開けた場所に出た。

さらにそこには2つのドラム缶が置いてある。

 

「ここよ!」

「まさかお風呂ってーー。」

「そう、このドラム缶よ!」

 

先ほど見つけたドラム缶だ。

このドラム缶を見つけた場所には澄んだ川も近くにあった。

そこから汲んだ水を沸かしておいたのだ。

 

「ありがとう姉さん!」

「ふふっ、早速入りましょう!」

 

ここは周りの目がないためすぐさま脱ぐことができる。

裸になると早速湯船に浸かる。

 

「「あ゛あ゛あぁぁあ〜〜」」

 

久しぶりの湯船は気持ちよく最高だった。

 

「はぁ〜気持ちいいわ〜。」

「ほんとね〜。…この後はどうしましょうか…。」

「食糧と住む場所よね。私も手伝うわ姉さん…え!?」

「どうかしたの?」

「ね、ね、姉さん!?う、上!」

「上?」

 

上を見てみるが太陽と青空が広がっているだけだ。

 

「空じゃないわ!頭の上よ!」

「頭の上?」

 

ふるふると頭を振るとぼちゃんとお湯の中になにかが落ちてきた。

慌てて掬い上げるとそれはツノの生えた妖精だった。

よく鎮守府の工廠で見かけていた。

 

「ヒメー」

 

「ワレラニ」

 

「オマカセー」



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駆逐艦?はお家を手に入れました

「ヒメー」

 

「ワレラニ」

 

「オマカセー」

 

よくみると額に小さなツノが生えている。

これは…妖精さん?

 

「「「ヒメー」」」

「わっ!?」

 

3人?が飛びついてきた。

そしてまた肩に登ったり頭の上に登ったりしている。

 

「もしかして…妖精さんなの?」

「ソダヨー。」

 

本当に妖精さんだった。

工廠にいた妖精さんにはツノなんか生えていなかったので、恐らくこれは深海棲艦の妖精なのだろう。

 

「姉さん…。」

 

ふと隣を見てみるとドラム缶風呂に入っている霞の顔が真っ赤だった。

明らかにのぼせ始めている。

 

「一旦上がりましょうか。」

 

そしてドラム缶風呂から上がって霞に服を着ようと思い周囲を探すが服が見当たらない。

すると1人の妖精さんが霞の制服を持ってきた。

 

「ドウゾ。」

「あっ、ありがとう…。」

 

制服からは潮の匂いや汗ばんだ匂いがしないので洗濯していたのだろうか…?

 

「チガウ。」

「ツクッタ。」

「ガンバッタ。」

 

あっ…。作ったの…。そう…。

 

「えーと……姉さんは着ないの…?」

 

そういえば私はまだ服を着ていなかった。

サッと艤装を出し入れするときのように服を出現させる。

 

「ほんと凄いわね…。」

「霞、確か妖精さんは不思議な力でなんでもできるんだったよね?」

「基本的にはそうね。でも報酬があったほうがもっと頑張るって明石さんが言ってたわ。」

 

報酬…報酬か…。

やっぱりここは本人達に聞くのが一番よね。

 

「報酬は何がいいの?」

「ヒメノ」

「ソバニ」

「イサセテー」

 

私のそばにいることが報酬?

 

「そんなものでいいの…?」

「「「ソレガイイノ!」」」

「そのぐらいならいいわよ。」

「「「ワーイ!」」」

「なんか…私の知る妖精さんじゃない…。」

「まぁ、本人達がいいって言ってるんだからいいんじゃない?」

「姉さんは軽く考えすぎよ…。」

 

そうなのだろうか?

………深くは考えないようにしよう…。

 

「それじゃあ妖精さん、雨風をしのげる場所を作って欲しいの。できる…?」

「「「オマカセー」」」

 

ピューっと森の奥へと行ってしまった。

どこまで行ったんだろう…?

 

それから数分後、妖精さん達が戻ってきた。

 

「「「デキター!」」」

 

えぇ…?できたって…。

 

「姉さん、とりあえず行ってみましょう?」

「……そうね…。」

 

それから森を歩くこと数分、見事な一軒家ができていた。

ソコソコの広さでしかも庭もあり、畑もある。

 

「「えぇ…?」」

 

たった数分で家ってできるものだったっけ…?

とりあえず中に入ってみることにした。

まず玄関には下駄箱が備えてあり奥へ続く廊下がある。

さらに廊下の途中にはお手洗いがあり原理はわからないが鎮守府にあったものと一緒のものだった。

水はどこから流れているのだろうか?

廊下の突き当たりにあるドアを開けると左側にキッチンが、右側にリビングが広がっていた。

 

「わぁ…!凄いわね!」

「凄すぎるわよ…。」

 

さらにリビングから通じる扉があり扉を開けるとベッドが2つとタンスが設置されていた。

 

「妖精さんの技術恐るべし!ね。」

 

とにかく雨風をしのげる場所が手に入った。

これでなんとか生きていけると思う。

 

「次は外へ行ってみましょうか。」

 

さっきチラッと見えた範囲には小さいながらも畑があった。

私達の大切な食糧源になると思うからしっかりみておかないと。

 

外に出て畑の確認をしてみると既に芽が出ていた。

 

「ええと…妖精さん?」

 

妖精さんの方を見ると親指を立ててサムズアップしていた。

これも妖精さんの仕業か…。

 

「何が採れるの?」

「ヤサイー」

「イッシュウカンデ」

「シュウカクカノウ」

 

1週間…。

まぁ、畑は妖精さんが面倒見てくれてるみたいだしお任せしておこう。

あら?霞は大丈夫かしら?

 

「えぇ…。大丈夫よ…。流石にこれは予想外だったけど…。」

 

それはそうよね。

私も予想外だった。

 

この後妖精さんがとってきた魚を焼いて食べて眠りについたのだった。




なんか無理矢理終わらせてしまった感がある…。


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