糸使いの高校生活 (やまたむ)
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公園暮らしの新入生
プロローグ


なんとなく、糸使いを出したくて書き始めた。
反省も後悔もしていない。

シトリー眷属が全く進んでないのに?大丈夫か?とか、いろいろあるかもしれないけど、何とかする。なんとかなる。そう信じてる。



 あれは、忘れもしない小学三年生の夏休みのことだ。

 両親と共に旅行に行った帰り道、謎の力を持った人間の襲撃にあった。

 

 火や水、風や土。お札が宙に浮き、それらを放っていた。

 そして、それに焼かれ、溺れ、潰され、切られ、僕の両親は殺された。

『なんで、なんのために』そんなことを考える余地なんてなかった。

 ただただ、必死だった。生きたい。生き残りたい。その意思が、僕に力を貸してくれた。

 

 右手に鋭利な金属製の爪の形をとったグローブから、土色の《糸》が僕の回りを囲むように覆い、襲撃者の攻撃を防いでくれていた。

 

 そして、僕は意識を手放した。

 

 

※※※

 

 

「また、この夢……」

 

 僕は目をこすり、ベッドから体を起こす。

 うーんと、背伸びをすると、右手に向かって

 

「おはよう、ジグ」

 

 と声をかける。

 

『かっはっはっ! 俺に挨拶たぁいい心がけだなぁ。宿主様よぉ』

「あいさつは?」

『誰がすっかよ、そんなもん。それより、宿主よぉ。いつになったらこの野宿から解放されんだ?』

「仕方ないだろ? 家賃払えず数ヵ月もたっちゃって追い出されちゃったんだから」

『だからって《糸》つかって穴蔵生活ってのもどうかと思うぜぇ? て言うか、日の本にゃぁ、生活保護って制度があんだろ? それ使えよ』

「そんなことしたら、この町に住めなくなるじゃないか」

『現に住めてねぇのは同じだろぅが。こんな薄暗いとこに何ヵ月もいて気狂わねぇのか?』

「心配してくれてる?」

『ちがわい。俺は、おめぇさんが勝手に死んで大妖怪土蜘蛛のジグの格が落とされるのが我慢ならねぇだけじゃい』

「そっか。そういうもんだったよね。妖怪って」

 

 僕は学校の制服を着ると、《家の穴》から外に顔を出す。

 

「よし、誰もいないね。よっこいしょ……っと」

 

 僕は体を《家の穴》から出し、もう一回背伸びをする。

 あぁ、いい天気だ。今日も一日頑張るぞい。

 僕は、学校へ向けて、駆け出した。

 制服が汚れたまんまだけど気にせずレッツゴーだ。

 

 

※※※

 

 

 そういえば、まだ、自己紹介がまだだったね。

 僕は丹芽(あかめ)海樹(かいき)。私立駒王学園に通う予定高校一年生だ。よく命を狙われたり、変な事件に巻き込まれたりするけど、いたって普通の高校生なのに変化はない。

 

 得意なことは裁縫と糸が使われる家具作り。朝のベッドも全部糸から作ったもので、僕の中では結構うまくできた部類の作品だ。

 寝心地もいいしね。

 苦手なことというかものは雨。暮らしの関係上、雨にさらされることの方が多いからね。

 

 とまあ、僕のプロフィールはこのくらいにして、これからのことについて話そうか。

 

『おい、おい。宿主よぉ。誰に向かってはなしてんだ? 俺はおめぇさんのことよぉーく知ってっから、そんなことされたって、気ぃでも狂ったか? としかおもえねぇぜ?』

「気分の問題だよ。だってこれからお世話になるかもしれない人たちに自己紹介って大事なんだから」

『かっはっはっ。そりゃそうだな』

「で、どうかな? この自己紹介。変なところなかった?」

『変なところしかなかったっての。おら、もう一回だ』

 

 これは、僕が過ごす高校生活で成長していくまでの物語だ。




ということで、海樹くんががんばって超インフレパワーバトルに小手先の技術だったり、単純なパワーだったりで、生き抜いていく。
そんな人間ドラマを展開していきたいとおもいます。


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第1話

さて、1日開けて(開いてるかは知らん)の続きです。

今回は、まだまだ序盤ということで、のほほんテイストでお送りします。

また、この作品の訛りがやべぇと思いますが、意味わかんねぇという意見が多くなりそうであれば、何て言っているかわかるよう単語なりを書いてプロローグ前に設定として出しますね。


 入学式が終わり、ホームルームが始まる。

 僕の席は一番前のドアの近くだ。

 そして、出席番号は一番。

 

 これから始まる高校生活に心踊らせていると、先生から、自己紹介をすると、告げられ、じゃあ、出席番号が一番遅いやつから、と期待を裏切られた。

 

 僕はクラスメイトの自己紹介を聞きながら、この人はこんな人、この人はこんな人、この人は……と逐一記憶していく。

 そして、白髪の小柄な女の子の番になって、僕はなぜか親近感がわいた。

 

「塔城小猫。よろしくお願いします」

 

 ふむふむ。塔城さんか。無口な人なのかな? けど、小柄だけど容姿が整っていて、いわゆる幼女系? に属するタイプの子だ。

 

 好みって言うのがないからなんとも言えないけど、たぶんクラスのなかで一番かわいいんじゃないかな? あとなんか、初めて見たはずなのに、雰囲気が初めてじゃないような気がする。

 

『かっはっはっ。そりゃそうだろうな』

 

 ジグ、ここでは静かに。声かけてあげられないんだから。

 

 僕がジグをしかりつけていると、不意に塔城さんと目があった。

 あれ? 声出てた? いや、そんなはずは……。

 

 僕は思考の海に溺れそうになるが、先生の「ほら、丹芽。最後、お前の番だぞ」という声で現実に戻される。

 

「僕の名前は丹芽海樹。得意なものは裁縫で、苦手なものは殺虫剤や虫除けスプレー。あと、辛いものも少し……よろしくお願いします」

 

 よし、完璧。ちゃんとできた。僕がコミュ障じゃないって証明した。これで、ボッチ生活を送らないですむ。やったー。

 

『…………』

 

 な、なんだよ。ジグ。

 

『いやぁなぁ、普通の高校生は、殺虫剤とか虫除けスプレーが苦手なんて言わねぇだろ? 普通』

 

 なん……ですと? 

 

『ま、気軽にやれや。もう、普通の生活なんて無理だと思うけどなぁ。おっと、これ以上の干渉はめんどいやつらにばれそうだわ。んじゃな』

 

 あ、おい、ジグ? ジーグー。

 

 声をかけても右手をコツンコツンと叩いても、ジグはもう反応を示さなくなった。

 そして、周りからの視線がかわいそうな子に固定されてしまった。

 

 こ、これ、普通の学生生活送れるかなぁ……。

 そんな、期待と不安を抱きながら、今日のところは帰宅となった。

 

 ただ、僕の家は公園の隅にある木の群生しているとこに穴を掘って、その中の空間を快適にすみやすくしているだけのため、こんな真っ昼間から公園に行き、住居がばれてしまっては、中学時代のようなボッチ生活が待っているだろう。

 

「さーて、明日の夜のうちに家具作って売りにいかないといけないし、材料費足りるかなぁ?」

「……材料費?」

「うん。家具作って生活の足しにしてるから……」

 

 ん? あれ? おかしいぞ? 僕は今、ぶらぶらと一人で歩いていたはずだ。

 じゃあ、なんで、今、僕は後ろから声をかけられた? 

 

 僕は気になり、振り返ると、そこには誰もいなかった。キョロキョロと左右を見渡しても、誰もいない。

 えっ? じゃぁ、誰が……怖い怖い怖い! 

 

 そんなことを考えていると、脇腹辺りをキュッと捻られる。

 

「うぉぅ! いってぇってってマジでいたい。痛い痛い痛い!!!! ごめんなさい。視界に写らなかっただけなんです。許してぇ!!!!!!」

「えい」

「ぎにゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

 その声と共に更に捻られ、空前絶後の大絶叫を僕はかました。

 あ、この白髪で、この身長。もしかして、塔城さん? 

 

 僕は息を整えながら、服をめくり、わき腹がどうなったのか確認すると、小さい指のあとが赤々と記されていた。

 なお、僕の右手の方から頭に直接ジグの笑い声が響きわたり、少し頭が痛い。

 

「い、痛かった。マジ辛い。で、どうしたの? 塔城さん……だったよね?」

「うん。そう」

「なにか用事? 僕これから何とかしてお金の工面をしないといけないんだけど」

「そうなんだ」

「あ、あれ? なんで、ついてくるの?」

「私もこっちにようがあるだけ。見知った顔がいたから声をかけた」

「あ、つまり、用事とかないんだ」

「ダメだった?」

「別に。それにしても、なんだろうね。塔城さんの雰囲気って、初めてじゃないような気がするんだ」

「ナンパ?」

「話しかけてきたの塔城さんからじゃん」

 

 僕は、適当に塔城さんをあしらいながら、町の外れにある生地専門店に向かっていく。

 どうやら、塔城さんもこの店に用があったようで、僕についてくる。

 

 そして、生地屋の前につくと、慣れ親しんだ、妖怪のオーラを関知してから、ドアを開いて、なかに入っていく。

 

「うーい、おっちゃん。また、買いにきたぞー」

 

 そういって声をかけながらはいると、二十代後半くらいの見た目をした実年齢二百以上の古い女性用の和服を着て、化粧をしたおっさんが目にはいる。

 いつに見ても汚い絵面だ。

 

「お、海樹の坊主じゃねぇか。今日はなにをかいにきたんだ。って、なんだぁ、海樹。おめぇ、女ぁ連れてきてたんか? おいおい、彼女ができたら真っ先に紹介するって約束を守ってくれて、おっちゃん嬉しいよぉ」

「んなわけねだろ」

「ちぇっ、つまんねえの。なぁ、嬢ちゃん。海樹はアホだし、変だし、ボッチだけどよぉわりぃやつじゃねぇんだ。嫌いにならねぇでやってくれ」

「ちょっと、まだ……」

「判断しかねるってか。まあ、いいさ。このバカァちゃんと面倒見てくれるいい嫁さんが必要ってだけだからねぇ」

「それじゃあ、僕が頼りないみたいに聞こえるんだけど?」

「実際そうだろ? 土蜘蛛がいなけりゃ、おめぇは生活すらまともにできねぇんだからよ」

「食べられる雑草の見分けぐらいついてますぅ。服にとりつく妖怪にはよくわからないと思いますけどぉ」

「そりゃあ、わしと土蜘蛛の真似か? 全くにてねぇぞ? がっはっはっ」

 

 僕がちょうどいい暗めの色合いの生地を見ておっちゃんに尋ねる。

 

「これ、いくらくらい?」

「二件くらいだなぁ」

「諦めよう。うん」

「なんですか、その単位」

「あぁ、ここはちょっと特殊な店なんだよ」

「件ってなぁ、単位辺り、『火鼠の皮衣』製作分の対価、もしくは依頼をこなせってやつよ」

「僕が経験したのだと三件くらいのものかな」

「それって、無理なやつなんじゃ?」

「『火鼠の皮衣』なら、数回作ったことあった……け……ど……」

 

 あ、やばい。これ、今日知り合った人に言うような内容じゃない。入学初日のテンションをそのまま引き連れてここに来てしまったことに僕は後悔した。

 

「おいおい、坊主。わしのこと妖怪だなんだぁいっといて、そこでためらうたぁ、なにごとでぇい」

『かっはっはっ、宿主よぉ。もう、手遅れじゃねぇか? この嬢ちゃんに親近感わいた時点で、もうおめぇさんの敗けってやつよぉ』

 

 ジグが突然周囲に語りかけるモードになって、

 

「……いまのは?」

『俺か? 俺は、土蜘蛛大将のジグってんだ。よろしくな悪魔の嬢ちゃん』

「…………」

「ジグ? 悪魔って? 塔城さんは人間でしょ?」

『あぁ、そうだった。宿主は、オーラで種族を当てるにはまだまだ、実力が足りねぇんだったな。わりぃわりぃ』

 

 ジグの言葉はふざけていたが、嘘をいっているようには感じない。まあ、要するに、オーラで種族を当てられるようになれ。敗北者がってことなんだろう。

 

『そういうこった。で、宿主様よぉ。どうする? こいつ殺るか?』

 

 やるわけないだろ!! なにいっているんだよ!! 小袖のおっちゃんにも悪いだろ? 

 

『まあ、食い扶持がなくなっちゃぁ、困るからな。ま、身の回りくらいの警戒は怠るなよ。この町にゃぁ宗家周りのやつが数人いんだからな』

 

 わかってる。気を付けるから。それよりも、この沈黙で塔城さんにますます怪しまれてるっぽいけど、どうするのさ。

 

『あぁ、まあ、こかぁ、俺に任せときな』

 

 わかった。任せる。

 

 僕はジグにそう伝えると、右手に鋭利な爪のグローブを出現させ、灰色の宝玉を塔城さんに向ける。

 

『つーわけで、嬢ちゃん。こいつの神器土蜘蛛の糸(ソイルスパイダー・ネット)に封印されている土蜘蛛のジグってんだ。今はこいつの保護者見てぇな役割をしてる。宿主に手ぇ出したら大爆笑してやんよ』

「あれ? おかしくない? ねぇねぇ、ジグ色々おかしくない? なんで僕が傷つけられても大爆笑しかしない何て言ってるの?」

『いや、俺は日の本がそもそも嫌いだっつってんのに、日の本の宿主はもっと嫌いに決まってんだろうが、バーカ』

「あ、バカっていったね? じゃぁ、こんど蜘蛛に効く殺虫剤そっちに送ってやるからね!!」

「阿保ぉ! んなことすりゃぁ、おめぇも使い物にならなくなるって話じゃろがい! ぜってぇすんじゃねぇぞ! わしは一番の仕入れ先からの収入がなくのぉて、嫁さんに出てってほしくないからのぉ!!」

「ちょっと、ストップストップ。スターップ塔城さんがついてきてない」

 

 僕は脱線しそうになった会話の間に入り、一旦変な流れを打ち破る。

 

『脱線させたのは宿主だけどな』

「うん。……カーキって呼んでもいい?」

「独特なネーミングセンス……まあ、いいけど。で、塔城さんも用事があったんじゃ?」

「うん。ギャーくん用の女子用制服取りに来ました」

 

 あれ? この一言にあからさまな矛盾があるけど気のせい? 

 

「あぁ。てことたぁ、嬢ちゃんはリアス姫んとこのか。菓子でもつまんで待ってな」

「はい。それでは遠慮なく」

「少しは遠慮せぇよ」

 

 そういっておっちゃんは奥へと入っていった。

 そして、塔城さんはレジの隣においてある羊羹を頬張る。

 幸せそうに食べる姿は年相応の女の子という感じがしてかわいらしい。

 僕は塔城さんみて、「あれ? なんのためにこのグローブだしたんだっけ?」と疑問に思う。

 

『おい、宿主様よぉ。考えなしにもほどってもんがあんぜぇ』

「にゃははぁ、ごめんごめん」

 

 僕はグローブを消しながら、二件分の生地とはまた別の生地を探す。

 

 うーん。ちょっと、暗めのやつ、暗め暗め……あ、あった。コレコレ。

 

「おっちゃーん。この灰色のやつはー?」

「そりゃたぶん一件分だ。大蛇の鱗を布に加工したやつじゃけぇのぉ」

『お、安いねぇ。宿主買うのか?』

「もっち。ちょうどいい感じのコートとか、クッションにできそうだし」

『暗殺用ってか?』

「そんなんじゃないよ。穴蔵見つけられたときに、これ着とけば大体のひとは見つけられないでしょ」

『妖怪にゃぁ無駄だがな』

 

 そうだった。妖怪は夜目が効くから穴蔵でも見つけられるじゃん……ダメじゃん……ちくせう……。

 そんなことを考えていると、駒王学園の制服を持って小袖のおっちゃんが表に出てきた。

 その時、レジ周りには羊羹の包み紙が数枚散らかっていた。

 

「塔城さん。食べ過ぎじゃ?」

「そう?」

「気にしんさんな。どうせ嫁さんもわしも食わんもんじゃけぇ。それと、海樹。おめぇにゃあ、いつも通り、『あれ』やってもらうからの」

「うぃー。わかってるよ。今回はなに?」

「いつもんだよ。鉄糸で編んだ生地三十巻きほど。まあ、簡単な部類じゃろぉて」

「鉄糸かぁ……布にするの普通にきついんだけど? 火鼠の皮衣よりはましだけどさぁ」

「なら決まりだ。明日までに納品しろよ」

「うーい」

 

 僕は大きくため息をついて、店をあとにする。

 ふぁぁぁ、と大きなあくびをし、公園に差し掛かる陸橋辺りで、嫌な雰囲気をまとった女性と遭遇する。

 

「丹芽海樹で合ってるっすか?」

「合ってるけど……」

「あんたが、生きていると危険だと上が判断したんで、死ねっす」

 

 黒い翼をだし、女性は光の槍を僕に向けて投げつけてきた。




と、言うことで、小袖の手のおっちゃん(変人で訛りが強い)が登場しました。

一件で、『鉄糸(ワイヤー)』の生地製作(完全な鉄製の布でなければならないという普通に頭のおかしな注文三十巻き)
二件レベルで『火鼠の皮衣』の製作、では、三件以上だとどんな無理難題かって言う話ですよ。

なお、海樹は三件レベルをクリアしています。
というか、海樹以外に三件以上をクリアできる存在はいません。

あ、一応神器の設定と、海樹の設定もあるので安心してください。

それでは、また、次回。お会いしましょう。


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第2話

そんなに待たせず続きをどーん!

たぶん十話を越えてから一気に落ちます。許してクレメンス。




 その光の槍を僕は全力で横に移動することで避ける。

 また、この手合いかよ……。

 

「ジグ。いくよ」

 

 僕はルーティーンと化した掛け声と共に、右手にいつものグローブを出現させる。

 

『かっはっはっ、おめぇの周りにぁおめぇのたまぁ狙うやつ多かねぇか?』

「ジグ。いつもの、お願い」

『あいよぉ。体に馴染みすぎねぇように気ぃつけな』

 

 ジグが言うと、僕に妖怪特有の不気味なオーラが纏わりつく。

 

 妖人化……と、僕は呼んでいる。

 

「妖力を纏った……? これまで普通の人間だったのがそんなことできるわけないっす!!」

「普通の人間だったんだよ。僕は。あの時を境に変わってしまったけど。それでも、僕は普通の人間だ」

「そうっすか、それでも、あんたは危険だ。恨むならその神器を恨むことっす」

 

 そういって女性は光の槍を形成すると、僕に向かって突撃してくる。

 ジグ! 鉄槍! 

 

『あいよ!』

 

 指先からワイヤーが出てきて、ひとつの槍を作り出し、僕は突撃してきた女性の光の槍を受け止める。

 

「なんで、僕の命を狙う!」

「知らないっす。ただ、上から危険だからとしか聞いてねぇっすから」

「思考停止かよこんちくしょう! それで殺される身にもなってみろってんだ!」

『かっはっはっはっ、宿主様は暗殺者とかにすかれやすい性質を持ってんのかも知れねぇなぁ』

「いやだ、そんな性質。ほら、風と火の混合糸」

 

 僕がそういうと、爪の部分の穴から細い風の状態をした糸と火の状態の糸が女性を覆うように伸びる。

 

「うわっと! 危ないっすね。おい」

 

 女性は黒い羽をはばたかせ糸を振り払う。

 風にあおられた糸は行き場を失い地面に落ちる。

 

「普通なら服かなにかに当たって燃えているはずなんだけど」

「こう言うのは経験値が物を言うっすからね。それにしても、『総督』があんたを危険人物だと判断した理由がようやくわかったっす。とりあえず、上に報告するために一時撤退っす」

 

 そういい、女性というより、よく見れば女の子は、空へと飛び上がり、どこかへ行った。

 僕はそれを見送るとペタンと地面に座り込み、指の間接部から水の糸を放出し、今なお燃え続ける火の糸の消火を行う。

 

『今回もちゃんと退けれたみてぇだなぁ。宿主』

「よかったぁ。偶然、人がいなくて」

『あの堕天使も、人払いはちゃんとやってたみたいだからな。そこにのうのうと突っ込んだお前が悪い』

 

 はい。最初からこういう結界とか言うのを見分けられるようになります。

 

『ほんと、実力が足りねぇんだから、うちの宿主様はよぉ』

「うっせ。これでも努力してんだ」

『下級堕天使相手にてこずってる時点でお察しだっつーに』

「ぐぬぬ。妖人化。身体能力の妖怪化くらいしか効果ないからなぁ……」

『あとは口やらケツやらで、糸を出せるようになれば、俺と同じ戦闘ができるようになるな』

「それは、やだ。やりたくない」

『いってろ。そのうち、このことの有用性がわかるようになっから』

「ていうか、それなら、妖力をもっと……いや、やっぱりいい。別の物を探す」

『そっちでいいんだよ。普通の人間が妖力に当たりすぎっと、マジの妖怪になっかんな』

「それが伝説上の雪女とか、女郎蜘蛛とか、ハーピィとかになってるんだっけ?」

『雪女はゴリラだけどな。かっはっはっ』

「そういえばそうだっけ?」

 

 僕は、火を消し、日も暮れた帰路につき、もう少しで家の入り口だと言うところについたあたりで、ある三人組を見かけた。

 

「おい、イッセー。見つかったか?」

「いや、まだだ。どこだ? どこにある?」

「先週にはここにおいてあったはずなんだけどなぁ……」

 

 んー、変な人もいるもんだなぁ……。

 でも、どうしよう。この人たちがいるせいで、僕、家に入れない。

 

「あのー、どうかしたんですか?」

「お、ちょうどいいところに同志がいたか」

「この時間、この公園のこのスポットに来ると言うことは、そういうことなんだろう」

「えっ? は? なに? どういうこと?」

「いや、なに、なにも聞くな。わかっている。我らは同志。同じ志を持つものとして、お前の目的もわかっている」

 

 なんか、眼鏡の人が一方的にわかったような口調でしゃべっているけど、意味がわからない。

 

「あぁ、あぁ、そうだよな。お前も男だ。ここに来るってことは相当ここら辺が人目につかない最高の場所だって知ってるんだもんな」

 

 色はよくわからないけど、たぶんこの三人組のなかで一番外見に特徴のない人が眼鏡の人に続く。

 いや、ほんと、日本語をしゃべって? いや、喋ってはいるのか、何をいっているのかわからないだけで。

 

「つまり、どう言うことかと言うと。……おまえ、この辺でエッチなオネェさんの写真集見なかったか?」

 

 あ。あぁ、なるほどなるほど。そういうことか。

 よーく、わかった。つまり、こういうことか。

 

「あなたたちは、この場にあったエロ本を取りに来たってことですね?」

「「「ふっ」」」

「なんで、誇らしげなんですか……。まあ、いいですけど。たぶん、目的の物はないですよ」

 

 僕がそういうと、三人揃って「「「なにぃぃぃぃいいいいい!!!!」」」と叫ぶ。

 近所迷惑です。静かにしてください。

 

「ななななな、なぜ、ないのだ! 一昨日きたときにはあったぞ!!」

「そ、そうか、きみが持ち帰ったからないんだな。そうなんだな!」

「あぁ、なるほど。そういうことだったか。ビックリさせないでくれよ。そういうことなら、俺たちにも少し分けてもらって」

「いや、その本不快になったんで燃やしました」

 

 僕が再びそう告げると、再び三人組は「な(ry」と叫ぶ。

 

「貴様! それでも男か! いや、人間か!?」

「そうだ、そうだ!! それは、人として、男として一番やっちゃいけないことだろ!!」

「燃やされたオネェさん。紳士シリーズよ。安らかに眠れ……」

「いや、なに、たかがエロ本程度にそんなに情熱注いでるんですか……」

 

 僕のその一言が悪かったのか、三人組の眼光が、獲物を見つけた肉食獣のように鋭くなる。

 

 え、なにこれ、こわ。塔城さんが見えなかったときくらい怖い。

 

「みれば、君はうちの学校の生徒のようではないか。つまり、我々の後輩」

「つまり、君は我々に従わなければならないと言う義務がある」

「これがどう言うことか、わかるかね?」

「いえ、全然。全く」

「松田。イッセー」

「「あいあいさー!」」

 

 坊主の人と、特徴のない人が、僕の体を持ち上げ、肩に担ぐ。

 

「目的地、イッセー宅。あ、ところで君。家の電話番号は? ご両親に今日は帰りが遅くなると伝えなければならないからな」

「両親は小学生の時に他界して、今は独り暮らしです」

 

 僕がそういうと一瞬だけ、空気が重くなり。

 

「よし、それじゃあ、松田、イッセー。俺はお前の家に連絡をする。その間に、この少年をつれていけ」

「いくぞ少年。これからお前に最高の一日をプレゼントしてやる」

「なに、とって食おうって話じゃぁない。安心してついてこい!」

「え、ちょ、なに、どういうことぉぉぉぉおおお!!」

 

 僕の叫び声が、夜の駒王町に響き渡った。

 

 

※※※

 

 

 僕は久しぶりに暖かいご飯と言うものにありついていた。

 

 あのあと、結局兵藤さんと、松田さんに担がれ、僕は兵藤さんの家に拉致され、兵藤さんのご両親から手厚い歓迎を受けることになった。

 ちなみに、兵藤さんはいま、お風呂に入っており、松田さんは後からきた元浜さんと一緒に帰っていった。

 どうやら、今日一日は、しっかりご飯などを食べさせ、後日、今日開く予定だった催しを開催するそうだ。

 

「丹芽海樹くんね。どう? おいしい?」

「はい。こんな、美味しいご飯を食べたのは久しぶりです」

「そう。よかったわ。あの子たち、エッチなものが好きなせいか、感受性が豊かだから、きっと、親をなくして、一人だったあなたが心配だったんじゃないかしら?」

「悪い人じゃないんですね」

「えぇ。そうだわ。独り暮らしをしているなら、住所とか聞いておいてもいいかしら?」

 

 えっと、これはどうすれば? 

 

『適当なこといってごまかしとけ』

「駒王町の公園です」

『誤魔化せれてねぇぞ、宿主』

 

 あっ……。

 兵藤夫人から、ものすごい憐れみの視線が送られる。うん。こんなこといったら、そうなるよね。

 

「そう。そうなのね。ほんの少し前まで中学生だったんだからそうよね。児童相談所とか……」

「やめてください!!」

 

 僕は、叫んだ。

 それにより、兵藤夫人はおろおろと、困惑している。

 

「ごめんなさい。大きい声を出して。近所迷惑でしたよね」

「いえ、いいの。それより、何があったの? いくらなんでも、児童相談所とかに相談したくないって」

「じ、児童相談所って就職とかに不利に働くじゃないですか」

「それだけじゃないことくらい、わかるわよ? いまの否定はそのレベルのものじゃなかった」

 

 僕は目を泳がせる。

 正直、この人を僕は信用しきっていない。美味しいご飯をもらい、この後泊めさせてもらう身としては恩に報いたいが、こればっかりは、どうしても無理なのだ。

 児童相談所も、アパートを借りることも、僕がひとつの場所にとどまり続けると確実に『やつら』がくる。

 だから、絶対にこの人たちを巻き込んじゃいけない。

 

 あまりにも軽率だった僕の言動からの後悔の念に押し潰されそうになる。

 

「そう。話したくないのなら話さなくてもいいわ。けど、これだけは約束してちょうだい」

「はい」

「お腹がすいたら、絶対うちに来ること。イッセーの後輩なんだし、そこは心配してないけどね」

 

 ははは、と僕は乾いた笑いを浮かべる。すると、兵藤夫人が頭をゆっくりと撫でた。

 

「よくがんばったわね。今日はゆっくりお休み」

 

 それは、かつて殺された僕の母親彷彿とさせるような、暖かいものだった。

 僕はその温もりを思いだし、ズズッと鼻をすする。

 

 今日くらいは、無理しなくてもいいよね? ジグ。

 

『俺に聞くな』

 

 それもそうだ。

 

 そこからの記憶は墓まで持っていこう。そう心に決め、兵藤宅で一夜を明かした。




はーい、まだまだ、隠し事のある海樹。
海樹が安らげる場所は一人になれるところだけ。
実は危険度は赤龍帝より低いんです。じゃあ、なんで、命を狙われているのかと言う点については、そのうち。
まあ、調べればすぐわかると思いますけどね。

イッセーたちのいいところ、うまくかけたかな?できるだけコメディ長で話を書いたからわかりづらくなってないといいけど。

と言うことでまた次回、お会いしましょう。


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第3話

よーし、続きだ続きだ!
一日三話完成次第から、ゆったり進めてたから、のんびり投稿に戻せそうだぜぃ。


 兵藤宅で一晩明かしてから半月近くたった。

 あの日以来、学園内であの三人組から『一緒に覗こうぜ』と誘われ、教師に通報してからと言うもの、あの三人組は誘い方を変えていかに教師に通報されないよう覗きに誘えるかと言う技能を磨いていっている。

 

 努力の方向性が違う。ある意味、それがうちのクラスの恒例行事みたいな感じになってしまった。

 そして、今日も放課後の剣道部の着替えの覗きへの誘いがやって来た。

 

「おーい、カイキ! ちょうどいい運動できるスペースがあってな」

『いつものだぜ?』

 

 知ってる。よし、それじゃあ、

 

「コーチーン。先生にいつものー!!」

「あ、おい、百鬼使うのずりぃぞ!!」

「またなんですか? 先輩たち……いい加減こいつを覗きに誘うのはやめてください。その度に先生に言うの俺なんですから」

「そもそも、共犯者にしようとするところから止めよ?」

「あ、すまん。お前のこと忘れてたわ」

「ひっど! コーチン酷い。女子には優しくするのに、男に優しくしないコーチン酷い」

「優先順位の差だ。気にするな」

 

 まあ、いいや。こんなやり取りいつものことだし。よし、それじゃあ、兵藤先輩たちは……。

 って、あれ? 三人ともいない。

 

「あれ? 先輩たちは?」

「もう逃げてったよ。お前が俺としゃべってる間に」

「あれ? もしかして、僕、コーチンのあしどめにつかわれた?」

「今さら気づいたのか……」

 

 マジかぁ……マジかぁ……。

 よし、こう言うときは、

 

「コーチン、あの三人組は?」

「知らない。自分で探せ」

「オッケー。がんばる」

 

 僕は教室から飛び出し、三人の行方をおう。

 

 ジグ、ガイド任せた。

 

『あいよー。そこ左だ宿主』

 

 ジグも乗り気のようで、逃げた三人組のオーラを関知し、そこへ誘導してもらう。

 

『で、その体育館裏に入れ。そうすれば……』

 

 ん? そうすれば? 

 

「見つけましたよ! 先輩方!! 今日と言う今日は」

「見つけたわよ。覗き魔!! 今日と言う今日は、許さないから!!」

 

 え? 

 僕は後ろを振り返り、剣道部の先輩たちの顔を見て、兵藤先輩たちの方を見る。

 あれ? あの三人組もういない!! 酷い! 後輩おいて逃げるなんて!! 

 

「って、あなた、一年の……へぇ……あいつらのこと先生に伝えてくれるからいい子だと思ってたのに……」

「あの、先輩? 話せばわかります。ですから、お助け」

「一年!」

 

 そういわれ、見覚えのある顔の女子生徒から竹刀を頭に振り下ろされた。

 綺麗な面と言う掛け声と共に、僕の記憶はすっ飛んでいった。

 

 あの三人。後で覚えてろぉ……。

 

 

※※※

 

 

 僕は夕暮れに染まった保健室で目を覚ます。

 先輩たちか、先生かは知らないけど、鞄がベッドのとなりにおいてある。それを背負い、校門までいくと、珍しい光景が見れた。

 

『ありゃぁ、兵藤一誠じゃねぇか? なんか、女と一緒にいるけど……』

「どうなんだろ? ちょっと近付いてみる?」

『そっちんが、良さそうだな。それに加えて堕天使のオーラを纏ってやがる』

「ふーん。まあ、それですぐに害とかがある訳じゃないなら放置でいいよね?」

『まぁな。んじゃ、盗み聞きと洒落こみますかね』

 

 僕は、校門付近の木の影にスッと、隠れ様子をうかがう。

 じっと、別の学校の女子生徒のいじらしい態度に、なんだか、落ち着けないが、その少女、天野夕麻から、『好きです。付き合ってください』と、おおよそ、兵藤先輩がされ無さそうランキングに入ってもおかしくない、怪文書のような言葉の羅列が耳に入ってきた。

 

『かっははははは! おもしれぇなぁ宿主よぉ。あの、あの変態に恋仲になりてぇとか言うバカが現れやがったぞ』

 

 おい、ジグおまえ、僕に覗きの共犯と言う濡れ衣を着せさせたこと、忘れてないからな。

 いまのお前に発言件はあんまりないってこと忘れるなよ? 

 

『ひっでぇなぁ、宿主よぉ。おりゃぁ、あいつの恋路を応援してやれっていってんだぜ?』

 

 そういう風には聞こえなかったけど、兵藤先輩の彼女になるのなら、しっかり応援してあげたいと思う。

 

 そして、いま、ここに、兵藤一誠先輩に彼女ができた。明日、松田先輩たちは大騒ぎするんだろうなぁ。

 

 そんなことを思いながら、僕は帰路につく。

 

 

※※※

 

 

 僕は、家のある公園の噴水の近くで、以前遭遇した堕天使の少女と再会した。

 

「また、会ったっすね。今度こそ、その命からせてもらうっす!」

 

 そういうと速攻光の槍を構え、突撃してくる。相変わらずの一直線。だけど、人間状態だと対応できそうにない……

 

「ジグ! 妖人化第二形態!!」

 

 僕がそう叫ぶと、すぐにオーラが僕の身を包み、蜘蛛の手が、少女の動きをとめる。

 

「なんすか、それ」

「妖人化第二形態。妖力をからだに馴染ませて、オーラを具象化することで発動するタイプの攻防一体の形態だよ。まあ、あと三秒で効果が切れるけど」

 

 僕がそういうと、蜘蛛の手は霧散し、無理な体制で止められていたのも合間って、こっちに向かって倒れてくる。

 僕はお腹の位置めがけ、拳を振るうが、少女は羽を羽ばたかせ、空へと舞い上がって避けられた。

 

「あ、卑怯だぞ! 人間相手に空飛ぶとか!!」

「人間に生まれてきたことを恨めっす」

「ぐぬぬ。ジグ!」

『『あれ』かぁ? めっちゃ疲れっから嫌なんだがぁ』

「足場任せるよ」

 

 そういうと、僕は指先から鉄糸を出していき、円盤にしていき、妖力を使い宙に浮かせる。

 僕はそれに乗り、鉄糸で槍を作って、少女に向ける。

 

「さあ、条件は同じだ。やられてもらうぞ、えっと……」

「ミッテルトっす。まあ、覚えてもこれから殺されるっすから、無駄っすけどね」

「それはどうかな?」

『ドヤってるとこわりぃが、俺疲れたらこの足場の操作やめっからな』

「おいジグ、戦闘中になにいって……」

 

 僕がジグに文句を言おうとすると、ミッテルトが僕に向かって接敵し、槍を振るう。

 それを、ジグは円盤を横に動かすことで避け、僕は勢いで振り落とされないよう、しゃがんで、数十の束になった糸をつかみ鉄槍で、ミッテルトの足めがけ振るう。

 

 それをミッテルトは槍を中心に逆さになることで回避し、その上に上がった足を僕めがけて振り下ろす。

 それを僕は立ち上がり槍で受け止め、指先から精製した鉄糸で編んだ鉄球を数発飛ばす。

 

「なっ!」

 

 さすがに不意打ちのような格好の攻撃に、ミッテルトは驚き、羽に鉄球が全弾命中する。

 片方の翼に集中的なダメージをおったせいか、バランスを崩し、地上へ落下した。

 

 僕は円盤から飛び降り、ミッテルトを見下ろす形で槍を突きつける。

 

「煮るなり焼くなり好きにするっす」

 

 ミッテルトは首を差し出す形で、そんなことをいってくる。

 ねぇ、ジグ。どうすればいいも思う? 

 

『殺しちまえばいいんじゃね?』

「え……いやなんだけど」

『なんでだよ!! おめぇ、襲撃者……生かそうとして自害されたことしかなかったな』

「『貴様に生かされるくらいなら自決する』が最後の言葉っいうのはよく聞いたから……」

「どんな生活を送ったらそんなことになるんすか……」

「神器持ってたからでしょ」

『そりゃそうだ。加えて俺を宿しちまったのが運のつきっちゅーもんよ。日ノ本において、俺ぁ、つま弾きにされて当然の存在ってもんだからよ』

「そういうもんなんすね」

 

 と、話が脱線していた。

 うーん。どうしよう。こう言うとき、何て言うのが正解なんだろ? 

 うーん。うーんと、僕が唸っていると、顔を向かって槍が飛んできた。

 

「ちょっ……!」

「油断大敵っすよ!」

 

 僕はそれを無理やり体をそらすことで避け、糸を使い光の槍を巻き取ると、ミッテルトの足に飛ばし返す。

 そして、帰ってくるとは思わなかったのか、まともに槍が突き刺さる。

 

「つぁ……なんで……」

「癖と言うか、慣れと言うか。僕はさ、何回も何回も何回も何回も何回も、こういうことされてきたんだから、多少の警戒心は残すよ。そりゃぁ」

『で、宿主、さすがにこのままいかすって訳にゃいかんだろ? ちゃっちゃと殺しとこうぜ?』

「いやだって。うーん。よし、決めた。ミッテルト、僕の後ろ盾になってよ」

『「は?」』

 

 ジグとミッテルトの声が重なる。

 

「あれ? 僕おかしなこといった?」

『めちゃくちゃいってんぞ。さっきまで命のやり取りしていたくせに、後ろ盾になれって、おめぇ、頭わいてんじゃねぇか?』

「そうっすよ。相当頭のおかしいこといってるっす。それに、うちは下っ端も下っ端っすから、期待されているような能力とか権力なんてないっすよ」

「単純な人質としてって言うのと、たぶん僕一人で襲撃者を退けるにも限界あると思うから」

『あぁ、なるほどなぁ。おめぇ、やっぱ、バカだなぁおい。そんな身の危険感じんなら、はなから仲間探ししとけって話なんだよ。どう考えたってこんな下っ端を護衛につける意味なんてねぇよ』

 

 確かにジグの言う通りだ。僕の実力が足りないなら、僕程度に負けるような人をいれる意味はない。

 だけど、よくよく考えてほしい。

 

「僕の命を狙ってくる人を事件とかに巻き込んでも僕に罪悪感わかないじゃん?」

『「…………」』

 

 二人は僕の台詞に答えなかった。

 いや、まあ、結構ゲスこといってる気がするけどさ、百鬼とはいえ、コーチンとか塔城さんとか兵藤先輩とかに迷惑かけるわけにはいかないじゃん? 

 だから、最初から裏の人で、なおかつ迷惑をかけても問題ないひとって、基本いないじゃん? いたとしても勝手に自殺するじゃん? 

 なら、煮るなり焼くなり好きにしろって言う人を引き入れても問題なくない? 

 

『あぁ、そういうことか。つまるところ、気軽に話ができるようなことじゃねぇから、気兼ねなく話せるようなダチが欲しいってことか』

「なんだ、そういうことっすか。なら、うちはおこ……」

「君は、断れる立場じゃないからね? それと、ジグも曲解しないで。僕は単純に肉盾がほしかったの。いい?」

『はいはい。そういうことにしといてやんよー』

 

 ジグの台詞はとても棒読みだった。

 くっ、これはこのままだと、僕が寂しいって意味にとらえられてしまうぅ……。

 

 そんなことを考えていると、後方から揺ったりとした足跡が聞こえてくる。

 

「ジグ……」

『あぁ、敵だな』

 

 僕は振り返り、鉄球を放った。




さて、気づいたらミッテルトがヒロインになりそうで、ノリって怖いなぁと思っている作者です。

まあ、そんなことはさておいて、海樹の実力ですけど、ミッテルト相手に苦戦している時点で弱いです。
戦場不利も合間って、それが加速する形ではっきりしましたね。
ただ、ミッテルトも戦場有利のくせして負けてるんだから、力関係がなんとなくわかると思います。
さて、次回ですけど、ミッテルトにヒロインムーブでもしてもらおうかなとか考えてるんで、本気だします。

では、また次回、お会いしましょう


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第4話

昨日は投稿できなかったから、今日投下。
まあ、完成次第ポンポン投稿するんで、気長にお待ちください。


 僕の放った鉄球は、軽く振るわれた光の槍にあっけなくおとされる。

 

「ミッテルト。帰ってくるのが遅いと思ったらこんなところにいたか」

「ドーナシーク! 助かったっす。こいつ、『総督』からの討伐令が出てた例のあいつっす」

「なるほど。その類いか……」

 

 そういうと、ドーナシークと呼ばれた男は光の槍を僕に向かって放つ。

 

「くそっ! タイミング悪すぎでしょう……がっ……!!」

 

 僕はその槍を糸で絡めとり、適当なところに放り投げる。

 

『そりゃ、おめぇの運がねぇだけだ。ま、んなこたぁ、俺を産まれたときに宿してんだから、運が良いわけねぇんだからよ』

 

 そうだった。僕にお前が宿ってる段階で、運が良いわけないか。

 まあ、そんなことは今、どうだって良いんだ。こういうときに使うのが、人質ってやつでしょ。

 

『かっはは。そりゃそうだ。さぁ、やっちまえ宿主』

 

 僕はミッテルトを持ち上げ、首筋に神器の爪部分を突きつけ、ドーナシークに向かっていった。

 

「み、ミッテルトの命が惜しかった……ら、さささ、さっさと回れ右して帰れ!!」

 

 いっ、いった。言えたよ! ジグ!! 

 

『な、情けねぇ。こんな宿主、情け無さすぎて涙が出そうだぜぇ……』

 

 う、うん。わかってる。慣れないことってするべきじゃないよね。うん。

 さすがに僕の口調から本気だったけど、情けなさの方が大きかったのか、ドーナシークもミッテルトも、かわいそうな子を見るような視線で僕を見る。

 

「命を奪うと言う覚悟がないくせに、人質をとる。慣れないことをするべきじゃない。そして、私にその脅しは──」

 

 そういうと、ドーナシークは光の槍を構え、

 

「──通用しない」

 

 ミッテルトごと、僕を貫いた。

 

 ぐっ、うぅ。ヤバい、ジグ……最終形態お願い。

 

『良いのか? 暴走するかもだぜ?』

 

 ──関係ない。だって、

 

「なん……で……すか? ……ドーナシーク」

 

 僕が変なことして、命の危機になってる子、見捨てるわけにはいかないっしょ? 

 

『自業自得だな。大バカ野郎』

 

 その通りだよ。だから、お願い。

 

『あいよ。ちゃんと意識保てよ』

 

 今の僕はそういう意味だと絶好調かも。

 

 すると、僕は妖怪のオーラに包まれる。そして、それに加え、この世の悪の集約したかのような怨念が僕に流れこんでくる。

 

『妖人化最終形態。妖仙化。持続時間はいつも通りだ。俺は平気だがおめぇはちげぇかんな』

 

 オーケー。何とかする。

 

 僕は今にも暴れまわりたくなる意識を必死で押さえ込み、腹に空いた穴を糸で繋ぎ会わせ、そこに仙力を流し込んで、生命力を増強させる。

 僕に流れ込んでくる所謂悪意とか、そういったものを何とか受け止め、すべてを善性の形に変換、仙力に再編、そこから傷口の修復。

 なんとか、僕の方に空いた風穴は塞ぐと、今度はミッテルトに空いた風穴を神器の糸である程度止血をする。

 

「こういうの、うまく扱えないから、接触したらジグに任せる」

『わーってるよ。誰が普段からおめぇに妖力調整してやってると思ってやがる』

「それもそうだね」

 

 そうすると僕は、ミッテルトの唇に、僕の唇を重ね、舌をいれる。

 

『んじゃ、糸の方は任せんぞ』

「……ん」

 

 ジグは僕の生命力を、次から次へと、ミッテルトに送っていく。

 気づけばドーナシークはいなかったが、関係ない。今は人命優先。ただでさえ僕がバカなことをしたんだ。それくらいの責任はとらなければならない。

 

 それから、どれくらいの時間が経過しただろうか。僕は、縫合したミッテルトのお腹の傷あとが消えたのを確認し、唇を離した。

 

 一応、呼吸をしなおしたりするために数回離したけど、何回も何回も、唇を重ね続けたのと、相当な生命力を消費し、気がつけば妖仙化も解けている。

 ジグが気を回して、危険だと判断したところで勝手に解いたのだろう。

 あれで、憎めないやつだ。

 

 僕は噴水のまえで、バタリと仰向けに倒れこみ、隣で意識を失っているものの、寝息をたてて眠るミッテルトを見て、安堵のため息をついた。

 

「よかった。ちゃんと助けれた」

『はんっ! 別に放置してもよかったんだぜ?』

「いや、それはジグにはできないよ」

 

 絶対。

 と、僕は声には出さなかったけど、そう思った。なんだかんだで、六年近くの付き合いがあるんだ。ジグがどんなやつかなんて、わかりきっている。

 

『いってろ。ま、これでおめぇの寿命も減って残り四年ってとこか?』

「あ、まだそんなに残ってたんだ。てっきり一日とかまで減らしたのかと思ってたよ」

『……そのレベルは、覇龍とか、その類いじゃなきゃ起きねぇよ。ま、妖仙化で寿命の大半を消費しているのは間違いねぇけどな』

「まぁ、結構な無理をかけるからね、あれって」

 

 そこまで言うと僕はあることが思い浮かんだ。

 

「もしかして……」

『あぁ、これからは妖仙化した時点でおめぇは死ぬぞ。第二形態がこれからの最終形態だな』

「マ?」

『マジだ。かっははは。まさか、俺を宿して、寿命削って自業自得の人命救助する大バカがいるたぁ、神様も思わなかっただろうぜ』

 

 そういって、ジグは笑う。

 

「笑い事じゃないよ!? 僕これからも命狙われ続けるってのに、妖仙化抜きで戦うのって結構きついよ!?」

『しゃぁねぇよな。おめぇの自業自得なんだからよ』

「わかってるよ。ごめん、ミッテルト」

 

 僕はミッテルトの頭をゆっくりと撫でる。

 きれいに手入れされた髪の毛は、僕の手を拒むことはなかった。

 

『そりゃそうだろ。意識ねぇんだから』

「ムード台無しだよ、ジグ」

『ムードもへったくれもねぇだろうが、最初っからよ』

「それもそうだね。とりあえず、ミッテルトが起きるまで待とうか」

『好きにしな』

 

 僕はミッテルトを抱き上げ、ベンチへ向かった。

 

「さてっと。これからどうしようか?」

『おめぇの好きなようにすればいいだろ。ま、鉄糸の布巻三十巻き、作らねぇといけねぇしな』

 

 あっ……。

 僕は、絶望した。一巻きも完成していないことに。

 

 僕は神器を右手に出すと、ミッテルトの頭を膝の上にのせ、鉄糸の布巻を作っていく。

 ひたすら無心で、神器のオーラすら使い果たすレベルでガンガン作っていく。

 地味に『火鼠の皮衣』よりも難易度が高い状態になってしまったので、体に残る倦怠感がさらに大きくなる。

 

 たぶん、万全な状態なら、三時間足らずで完遂しただろうが、今の僕だと二十時間かけたらようやくと言う具合である。

 

 そんなことをしながらミッテルトの目が覚めるまで物思いに耽っていると、ガサゴソと膝の上の頭が左右に揺れた。

 

「ん、うぅ……ん」

「起きた?」

 

 僕は寝ぼけ眼のミッテルトに声をかける。

 なんか、こうやってじっと見てみると意外とミッテルトって、美少女なんだな。今までは命のやり取りがメインだったから、全く気づかなかったけど。

 

「あぁ、そっか。うち、ドーナシークに腹ぶち抜かれたんすよね……って、おかしくないっすか? うち堕天使だから、死んだら意識なんてないはずなんすけど!?」

「まあ、僕のせいで死にかけたんだし、責任とって命は繋げたよ」

「そうっすよ! なんで、うちを人質にできると思ったんすか!! バカでしょ! バカなんでしょ!!」

『かっははは、そうだそうだ。言え言え、堕天使の小娘』

「ジグが敵にまわった!?」

「大体、人質をとられて動揺するような御人好しの方がこの業界珍しいんすよ!! うちの命を軽率に扱って。うちは人間とは違って死んだらそこで終わりなんすから、もっと慎重に扱えっす!!」

「本当に悪かったと思ってるよ」

『お、宿主がしおらしくなってやがる』

 

 うるさい。これでも本当に反省しているんだよ。

 やっぱり、他人を巻き込むとろくなことにならない。

 

『かっははは、そりゃそうだろうな。不幸な人間ってぇのは、意図せず周りを不幸にするんが基礎なんだからよ』

「ほんと、なんで、こんなことになるんだか……で、どうする? 今から、あっちに戻るのなんて無理なんじゃない?」

 

 僕はミッテルトに尋ねる。

 

「そうなんすよねぇ……今さらレイナーレ様の元に帰っても、今までみたいに……って訳にはいかないっすし、ドーナシークも『人質にとられたから殺しました』程度の報告はしてもおかしくないっすし」

「うーん、でも、どうなんだろう? ジグ。あの時ドーナシークって何やってたの?」

『あぁん? あぁ、あの堕天使か……たしか、おめぇらの腹ぁ貫いたあとにちゃっちゃと飛んでどっかいってたぜぃ』

 

 つまり、死亡確認はしてないわけか。まあ、してたら、僕らは生きてない訳だし、そうなるか。

 と、なるとあれかな? 僕らがいなくなって、騒ぎにもなってないってなると、相手側も不信に思うかな? 

 

「とりあえず、うちは《神の子を見張るもの(グリゴリ)》に早いところ戻る……訳にもいかないっすかねぇ」

「なんで?」

「あぁ、まあ、うちらがここにいるのは任務なんでその報告はレイナーレ様がやってるんすよ。だから、うちが報告すると、指示系統がごっちゃになるんす。だから、うちが勝手に上に報告するわけにはいかないってことっすね」

 

 なるほどぉ……よくわかんないけど、わかった。

 

『宿主……』

「ほんとに、わかってるっすか? なんか、わかってないっぽい雰囲気しか伝わってこないんすけど」

 

 ものすごく失礼なことを言われている

 

「僕はずっと一人だったしね。組織の報告とか経験したことないし」

「だと思ったっす。まあ、あんたには関係ない話っすしね。あーぁ、ほんと、どうすれば良いんだか……」

(ねぇ、ジグ。ちょっと思ったんだけどさ)

 

 僕は、声に出さずジグに尋ねる。

 

(僕がミッテルトの面倒をみるのって問題かな?)

『さあ、知らね。昔の俺の宿主なら知ってっかも知れねぇけど』

「え、なにそれ、初耳」

 

 僕は、ジグの言葉に、反応してしまう。

 それを不信に思ったミッテルトに疑いの目を向けられた。

 

「何やってんすか? うち抜いて、こそこそなに話してたんすか?」

 

 ものすごい不機嫌、と言うより、警戒されているような気がする……。

 

『そりゃそうだろ。ついさっきまで仲間だと思ってたやつに腹に風穴空けられて、人質にしたやつに助けられてんだ。意味わからなさすぎて笑い話にしかなんねぇよこんなん』

 

 笑い話にもならないよ!! 不謹慎にもほどがある!! 

 

 はぁ、本当にどうしよう。

 




とりあえず、あとは海樹が男気を見せれば話がまとまる。そして、ミッテルトがヒロインになる。

ほんとに、気づけばキャラがラブコメしてるってあるんだなぁ……。


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第5話

前回のあらすじ

ミッテルトのお腹に穴が開いたのでキスして仙術使ってふさぎました。
僕のお腹も同じようにふさぎました。


 で、これから、ミッテルトをどうすればいいんだろう? 僕の家(穴蔵)に連れていって保護することが優先なのかな? 

 

『ま、それでいいだろ。どうせ表じゃぁ活動できねぇ連中だ。虚偽報告とかで上からどやされるように誘導してやんな』

「わかった。ミッテルト。拠点どこ? 連れていくから」

「そういえば、羽も足もあんたにやられてたんすよね」

「おんぶでいい?」

「任せるっす」

 

 僕はミッテルトを背負い、夜の町を歩き始める。

 

「で、拠点は?」

「教会っす」

「あの廃れた?」

「そうっすね。うちらは、堕天使っすから、普通の教会じゃ活動できないんすよ」

「なるほどね。んじゃ、そこまで送ってくよ。ドーナシークってやつが、一緒に殺したってしたとしても、こうやって僕らが行けば最終確認しなかった方が悪い理論でいけるからね」

「ドーナシークの悪いとこっすね、それは。最後の最後で詰めが甘い。だから、毎回カラワーナが記憶処理とか任されるっす」

「そして、ミッテルトの口が軽いとこも悪い点だね」

 

 僕がそういうと、ミッテルトは僕の頬を引っ張った。

 

「ひひゃひんひぇふは?」

「なーにいってるのか、わかんないっすねぇ。あぁ、あんたに穴開けられた足がいたいなぁー」

 

 僕は首をふって、ミッテルトの手から逃れると、ちょうど抱えている太ももを親指と人差し指を使い、ギュッとつねってやった。

 

「いったぁぁああい!! あと、そっち、射ぬかれた方!! めっちゃいたいんすけど!!」

「ははは、なにいってるのかわからないなぁー」

「いたいいたいごめんごめん。ごめんって。何が悪かったかわかんないっすけど悪かったっす!!」

 

 ミッテルトが謝ってきたので、僕はつねるのをやめた。

 

「はぁ……もう、なおった傷が開いたらどうするつもりだったんすか……」

「そのときは……どうしようか?」

「無策かよ!! にしても、そんなでよくうちの治療できたっすね」

「まあ、奥の手つかったから。あ、それと、お腹に違和感とかない?」

「あぁ、あるっすよ。めちゃくちゃ。言い知れない気持ち悪さとかあるっす。それと、めちゃくちゃ背骨にお腹が当たっていたいっす」

「あ、なるほど。じゃぁ、ちょっとがまんしてね」

「なに、鬼畜なこと……」

 

 僕はミッテルトがなにか言おうとするのを無視して、背中から勢いをつけ、前に持ってくると、肩を抱き、膝のしたに腕を回し、持ち上げる。

 

「ほい。これなら、いたくないでしょ?」

『お、宿主にしては大胆だな』

「おー、確かに。一応、男の子だったんすね」

「一応ってなんだ、一応って……まあ、いいけどさ。それと、数日間は安静にしてなよ。無理に動いたら足とか、お腹の傷が開くかもしれないから」

『宿主の童貞キッスで塞いだんだからな。開かれたら困るってもんだ』

「そうっすか。ファーストキッス。奪ってごめんっす」

 

 ミッテルトの釣り目からでもわかる優しい視線に腹が立つ。

 僕は無言で肩をつねった。

 足はさっき傷に響くっていったし、こっちの方がいいっていう僕の良心だ。

 

「あ、足は避けてくれたんすね。人間形態でやられてもいたくないから平気っすけど」

「足は本当に痛そうだったから、避けただけ。それとも、足の方がよかった?」

 

「冗談っす嘘っす。足はやめてください!」

「フリかな?」

「フリじゃないからぁ!!」

(『なんだ、このカップルっぽいうざさ』)

 

 そんな感じのやり取りをしているうちに、廃教会にたどり着いた。

 

「ミッテルト、ノック」

「そんなの要らないっすよ。ほら、蹴って蹴って」

「そんな行儀の悪いことしないって。今、手が自由なの君しかいないんだから」

「はいはい。わかったっすよ」

 

 なぜか不満そうなミッテルトは、少し強めに廃教会のドアを叩いた。

 そんなことしたら、傷に響くぞ。力をいれるって行為は意外とお腹に負担がかかるんだからな。

 

「つっぅ……」

「力いれて叩くからだよ。傷か開いても今回は助けられないからね?」

「ここについたら、傷が開いてももう関係ないっすから平気っす」

「そうなんだ」

(『宿主も、相当傷が痛んでんだけどな。それを見せないってなぁ、無理やり気にしねぇようにしてるってだけか……ほんと、こういうとこは、バカなんだからよぉ』)

 

 ジグから、珍しく僕の体を労るような思念が流れ込んでくる。

 あ、この思念はあれだ。僕の痩せ我慢に気づいているやつだ。

 うへぇ、ジグには隠し事できないなぁ。

 

 僕らが言葉なく、そんな思念程度の不確かなやり取りをしていると、廃教会のなかから、一人のシスターが現れた。

 

「すみません、あなたは誰なのでしょうか?」

 

 僕に向かってシスターさんがなにかを伝えてくる。

 他の国の言葉なので、なにをいっているのか、言葉のニュアンスから、なんとなく、失礼ですが程度の感じは読み取れるが、なにを伝えられているのか、全くわからないため、回答のしょうがない。

 

「そういえば、こいつ人間だったっすね。あんたの名前を聞いてるんすよ」

「あ、そうなんだ。じゃぁ、ミッテルトお願い」

「なんで、うちが……!」

「僕、日本から出たことないから、伝えようがないから」

「わかったっすよ。こいつは丹芽海樹、指定討伐対象っす」

 

 ミッテルトの不穏な台詞に、シスターさんの目が見開く。え、そこまで驚く? っていうか、僕ってそんな共通認識があるの? 

 

「それはそうと、ミッテルトさんはどうしてこのかたに?」

「こいつに人質にされたせいで、ドーナシークに腹ぶち抜かれたから、責任とって運んでもらってただけっす」

「人質に!? それに、ドーナシークさんにお腹を?」 「これがこの業界の常識っす。あと数日もすれば、この業界の仲間入りするんすから、ちゃんと、覚悟ぐらい固めておけっす」

「そうですか……って、それよりも、治療が優先です。すみません。海樹さんでしたか? ミッテルトさんを、中まで連れていってもらっていいでしょうか?」

 

 キョトンとする僕にミッテルトが「うちをあそこのベンチまでつれてけっす」といってきたので、「あ、そういうこと」といって、教会内のベンチまでミッテルトを連れていく。

 

「うわぁ、きったね」

 

 僕は、ミッテルトをベンチに頭がつかないように寝かせ、頭の位置に座って膝にミッテルトの頭を乗せた。

 

「は? な、ななな、なにをやってるんすか!?」

「こら、動かない」

 

 僕はミッテルトの頭を押さえ、体を起こせないようにした。

 

「ちょ、うちは汚くても気にしないっすから、早くあんたは帰れっす!! レイナーレ様たちが来たらどうするつもりっすか!!」

「それが、誰かは知らないけど、女の子が髪の毛が汚れるのはどうでもいいって言うのはどうかと思うよ。僕がいる間はある程度身だしなみには気を使って貰うからね?」

「こいつぅ……」

 

 僕らのやり取りを見て、シスターさんは微笑み、ミッテルトの足に手を掲げ緑色の淡い光を発していた。

 この人も神器所有者なんだ……。

 

「アーシア、なにがおかしいんすか」

 

 ミッテルトは笑われたのが、気にくわなかったのか、不機嫌そうに、シスターさんに尋ねる。

 

「すみません。ミッテルトさんが楽しそうだったのでつい」

「うちのどこが楽しそうに見えるんすか!! むしろ腹立ってるっす!!」

「ミッテルトは素直じゃないから」

「めちゃくちゃ素直っすよ!! ていうか、今日で会ったの二回目っすからね。あんたにうちのなにがわかるってんすか!!」

「一度戦えば性格はわかるし、二回も戦えば人柄もわかるってやつだよ。僕の場合、出会って襲撃されてって言うときもあれば、影からの暗殺とかで狙われ続ける日々を送ってたから色々なことを戦場から学習できたんだよ」

「うちと同じくらいの実力なのにっすか?」

「戦場からして不利な状態が良くあったからって言うのもあるけど、初めて暗殺されかけたときは全身に毒が回る前に、妖人化して生命力を上げて、ジグに毒耐性つけてもらったから」

『かっははは、懐かしいの言うじゃねぇの。実際におメェの内蔵の一部は妖怪のそれに、変わっちまってるしな』

「心臓と胃は人間のそれだけど、肺は変わってるしね」

『まあ、妖人化のデメリットっていやぁ、そういうもんだな。寿命も削るタイプだしな』

「そもそも、僕の強化形態に寿命を削らないものはないからね。っと、どうやら、終わったみたいだよ」

 

 僕らがそんな話をしていると、今度は足からお腹に手を掲げ、先程と同じ光を発し始める。

 

「腹はまだっすから、このままで……って、なんで頭なで始めるんすか!!」

「いや、お腹の傷は本当に悪いと思ってるから……さ」

「だからって、撫でる必要はないでしょうが!!」

「じゃあ、ミッテルトがかわいいからってことで一つ」

「なーにが、うちがかわいいからってことっすか! 当たり前のこと言うなっすよ。まあ、今回は特別に見逃してやるっすけどね」

 

 口では、あーだこーだいっているが、気持ち良さそうな表情から、説得力がなくなってしまっている。

 

『ところでよ、宿主。おめぇも気づいてんだろ? (第零形態とはいえ、妖人化してんだからよ)』

「うん。外にいるね。ミッテルトの仲間?」

「あぁ、このオーラはレイナーレ様っすね。うちの上司っす」

 

 ミッテルトがそういうと、教会のドアが開かれ、グラマラスな体型の女性が入ってくる。

 

「あら、アーシア。まだ起きていたの? あぁ、お客さんがいたのね。廃れた教会になにか用なのかしら?」

『おい、こいつ……』

 

 ジグの反応でなんとなく、この人がどんな人なのか、推測することができた。

 だけど、それを表に出すわけにはいかない。

 

「あぁ、僕の連れがこ……」

「レイナーレ様、ミッテルト帰還しました!」

「ドーナシークの報告だと、あなた人質にされてお腹を貫かれていたはずだけど、元気そうね」

「はい! こいつが、うちのドーナシークにぶち抜かれた腹を塞いでくれたんで、一命はとりとめました」

 

 ミッテルトの報告に、その女性は目を細め、僕を見た。

 

「そう、あなたが。ちゃんと死亡確認をしないあたり、ドーナシークらしい……」

「ちょっと、ミッテルトの上司さん。一つ尋ねていいですか?」

「なにかしら?」

 

 あからさま、ミッテルトに対するときと違い荒っぽくなった。

 

「兵藤一誠。この名前に聞き覚えは?」

「あぁ、あの……。それがどうかしたの?」

「いえ、ちょっと、気になりましてね。まあ、正直、なんのために近づいたのかとか、色々と詮索したいんですけど、あなた、そういうの嫌でしょう?」

「そうね。こっちも任務があるから」

「だから、僕と一つ契約を結びませんか?」

「契約?」

 

 訝しげに僕に尋ねてくる。

 

「僕はこの町であなたたちの任務、その概要に干渉しません。その代わり、あなたたちは僕を襲撃しないでください」

「なるほど。悪くない……わね。私も彼の関係者に邪魔されて任務が全うできないって言うのは避けたいし。えぇ、いいわ。その契約、受け入れましょう。ただ、私はあなたを信用していないわ。だから、裏切った場合のペナルティを設けましょうか」

「まあ、さすがにそうなりますよね。それで、その条件は?」

「裏切った者の命。それでどうかしら?」




さて、中途半端なところで終わりましたけど。
なんか、この話というか、この作品を書いていると原作で名前だけの登場だったミッテルトに魅力を感じてきますね。
まあ、ある程度オリジナル要素をいれやすいからって言うのが、大半を占めちゃうからなんですけどね。

この作品を読んで、ミッテルトのファンが増えてもらえればいいなとは思いますけど、原作では名前だけだからなぁ……。

まあ、そんなことはさておいて、次回予告。

レイナーレとの契約のペナルティを決めるため、試行錯誤するジグ。大好きな宿主のため、頭を回せ!
『宿主のこたぁ、どうでもいいに決まってんだろ!?』


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第6話

おまたせ。
さて、感想にヒロイン誰?と尋ねられたので、本編中で明かしますと、いいましたので、ある方にヒロインムーブしてもらいました。
では、本編へどうぞ。


『はっ! おめぇ、んな、不公平なペナルティになんなら、断んな宿主』

 

 女性との契約破りのペナルティを拒否したのは、ジグだった。

 

「ジグ?」

『言っとくが宿主。俺ぁ相手がこっちを信用してねぇのに、信用することなんざ無理だ。その上で、あいつが命賭けろっつうんなら、あいつにも同じもん賭けてもらわなきゃこまるっつうもんだ』

「そのための、互いの命じゃないの?」

『ちげぇな。あいつぁ、自分のたまぁ掛けてねぇ。こいつが宿主を殺すよう命令したとしてもおめぇはその証拠を一切つかめねぇ。だから、実行犯を殺しちまえば即終了ってわけだ。どうだ? おめぇが、裏切るつもりはなくても、相手にとっては裏切り放題だ』

「あら、あなたの神器に宿る妖怪は、ずいぶんあなたのことが好きなのね」

 

 形勢が悪いと判断したのか、女性は茶化すような形で話をそらそうとする。

 

『わりぃが、俺ぁ、おめぇがこっちの命の保証を確約できるような条件じゃねぇ限り、譲る気なんざ微塵もねぇぞ』

 

 ジグの言葉に、大きく面倒くさそうなため息をつき、続けていった。

 

「めんどうくさい」

『あぁん?』

「たかだか、数日。その期間中にあなたたちを狙うメリットがあまりない。あなたたちに注力しすぎて任務失敗なんてことになるより、ずっとマシじゃないかしら?」

「あぁ、なるほど。たしかに、二、三日程度の期間なら、全く問題ないしね。すぐ契約は満了しちゃうわけだし」

「神器とは違って聞き分けがいいのね。坊やは。つまりそういうことよ。あなたたちが邪魔さえしなければ、命の危険はないと言えるのではないかしら?」

『んじゃぁ、こうしよぅや』

 

 ジグは神器を顕現させ、糸を放出し空中で矢印を作り、ミッテルトに向けて言う。

 

『こいつをおめぇらが監視につける代わりに、おめぇとおめぇの部下全員に『糸』を心臓に巻かせてもらう。おめぇらがこっちを襲撃した瞬間に、心臓は潰されると思え』

「それが妥当でしょうね。それで、その糸を巻き付けるまでの時間は?」

『安心しろ。今終わった。てめぇはわかってねぇかも知れねぇが、俺ぁな、宿主よか『糸』を扱うことにゃぁ長けてんだよ』

「どうやって繋いでいると言うのかしらね。その糸」

 

 女性はそういって、心臓があるとされる位置に手を持ってきて糸の存在を確認しようとした。

 

『はっ! そもそも、宿主通じて自分の力を供給するんが俺だぜ? 心臓に糸を巻き付けるなんちゅう、初歩中の初歩、神器が顕現してれば、ちゃっちゃぁできるっつぅもんよ』

「やはり、あなたたちが処分されるのは正当といえるのじゃないかしら?」

『かっはは、人間にゃぁ理由なく殺されるってことになっから、この上なくはた迷惑だがな』

「それと、確認だけれど、私たちの任務が終われば糸は外すのよね?」

『そりゃぁ、保証してやんぜ。俺もそこまでして生かせてぇって訳じゃねぇしな。契約やらすんなら対等だって話だ。てめぇらは悪魔みたく契約に順守するような奴らじゃぁねぇかんな』

「悪魔にも契約破りとか平気でするやつはいるでしょうけどね」

『んなこたぁわかってんだよ。まあ、これに関しちゃ、俺が宿主不況を買うからな。ちゃんと、任務が終わったってんなら、『糸』は外してやんよ』

 

 ジグは僕やミッテルトを放置し話をまとめにはいった。

 まあ、いいんだけどね。僕だと、互いの命を代償にするってところで契約結んじゃってただろうし。

 それによるリスクなんて考えたこともなかったよ。

 

「それじゃあ、あなたは私たちのことについて詮索はしない。私たちは、あなたを襲ったりはしない。期間は、私たちの任務が終わるまで。ペナルティは私たちが裏切れば、私たち全員の命、あなたが裏切れば、ミッテルトにあなたを殺させる。それでいいかしら?」

『あぁ』

「いいよ」

「了解っす」

 

 そこから、僕たちはミッテルトを連れて家に帰った。

 

 

※※※

 

 

「なんすか、これ……」

 

 ミッテルトは僕らの家を見て呆然としていた。

 

「なにって、家だよ? 屋根と入るための扉があるから家でしょ?」

「地面を屋根と言い張る人間は世界中探してもあんただけっす!!」

「どんな素材であれ、屋根は屋根だよ。コンクリートだって元は地球からとれた素材で作られているんだから。僕のは地球そのものを利用しているだけで」

「普通の人間としての尊厳はないんすか!!」

「僕は定住できないからね。あと三年もすればまた、ここを出ていくつもりだし」

「今まではこの町にいなかったんすか?」

「うん。ちょっと前まではここの生地屋くらいにしか用がなかったからね」

「ふーん」

 

 ミッテルトは興味なさそうな反応をみせる。

 まあ、別にそれはいいんだけどね。

 

「それじゃあ、早いところ入ってきてよ。明日、僕学校あるから。もうそろそろ、寝ないといけないし」

「わかったっす……。そういえば、寝床とかお風呂とかはないんすか?」

「僕の作ったベッドがひとつあるからそこで寝なよ。僕は適当にハンモック作って、寝るから」

「あ、そこは一緒に寝たいとかないんすね」

「え、なんで?」

「うちみたいな美少女のエロエロな堕天使が目の前にいて性的興奮は覚えないって特殊ってことっす」

「エロエロ? どこが?」

「おい、なんすか、そのマジでわかんないって表情」

 

 ねぇ、ジグ。なんでミッテルト怒ってるの? 

 

『くっ……かは、ハァッ……』

「ジグ、ジーグー? なんで笑ってるのー?」

『かぁー、はっはっはっ。おいおい、童貞丸出しの男子高校生の覗きに注意しながら、おめぇ自身はそういうのは感じねぇってどんなギャグだっつーの……あぁーやべぇ、腹いてぇ……』

「このツチグモも大概失礼っすね! あーもう、わかったっす! うちの魅力をあんたら二人に教えてやるっす!!」

「ミッテルトー早く入ってー。それと、叫んだら、近所迷惑だから静かにしてねー」

 

 僕は家の穴から地上に顔を出して、ミッテルトに言う。

 今だぷりぷりと可愛らしく怒る姿に、ますますミッテルトが何に怒っているのかわからなくて困惑する。

 

「今行くっすよっ!」

 

 僕はミッテルトがこっちに向かってくるのを確認すると、奥の方に引っ込む。

 この穴蔵は僕一人で生活するようにしていたのでそこそこ小さい。そのため、実はミッテルトも入ってしまうと、狭くなってしまうけど、こう言うときの穴蔵のいいところは、掘れば拡張できると言う点だ。

 まあ、今日は半端なく眠いからしないけど、明日辺りにやろう。

 

 僕はハンモックを神器の糸で編み、作ると土壁に取り付ける。

 

「それじゃ、ミッテルト。おやすみ」

「ちょっと待てっす」

 

 僕はハンモックに横になり寝ようとするが、ミッテルトに声をかけられ、眠ることができなかった。

 

「もう、なに? 寝たいんだけど」

「不機嫌そうなとこ悪いっすけど、あんたもこっちの布団に入るっす」

 

 なぜか服を脱いで、下着姿のミッテルトが掛け布団を持ち上げ、手招きをしてくる。

 

「なんでさ。ほら、早く寝るよ」

「いいから、早く来るっす」

 

 どうやら、僕があっちの布団のなかで眠らないと寝かせてくれないようだ。

 はぁ、もう、ミッテルトは仕方ないなぁ……。

 

 僕は、彼女に言われた通り、彼女のいる布団に入り、目を瞑った。

 

 よし、これで寝よ……。

 

 僕がそう思うと、腕にほんの少し柔らかい感触が当たる。

 ここからの記憶は僕はよく覚えていない。ただ、なんか、ゆっくり眠っていたような気はする。

 

 

※※※

 

 

 うちは、討伐対象兼監視対象を同じ布団のなかに入れ、あえてその腕に抱きついてみた。

 

「もう、ミッテルトは仕方ないんだから」

 

 丹芽海樹、うちの知ってるなかで一番おかしい人間。

 人の身でありながら、うちと同じくらいの実力を持つ神器所有者。

 そんな男が、うちが抱きついた腕とは反対の手で、突然うちの頭をポンポンと軽く叩き、逆に体を包むかのように抱いた。

 

「はっ? ちょ、ちょ、ちょ、なにしてるんすか。うちの魅力を……」

『あきらめな。宿主の半分眠気に支配されていたのを無理やり起こしたのはおめぇだ。今の宿主は完全に無意識で、おめぇが寂しいから構ってほしいって思ってるぜ』

 

 うちが困惑しているとわざわざご丁寧なまでに、ご高説してくれるのが、ツチグモのジグ……らしい。

 らしい、というのは、丹芽海樹がよくジグ、ジグといっているからだ。

 

 神器と言うものには魔物が封印されているものもある。

 その一つである土蜘蛛の糸には、過去、日本の天皇制だったか、神武とかいう天皇に反逆だかやったやつが、神器に封印された存在らしい。

 

 うちのような末端だとどんなやつだか、調べはつかないけど、この土蜘蛛の糸の被害にあった人間は多くいるそうで、『総督』は現所有者がわかり次第、すぐに討伐命令を下している。

 今代の所有者であるこいつは歴代の所有者のなかで二番目に長命らしく、今年に入って討伐令が下された。

 

 という、バックボーンのあるどこにでもいる男子高校生になぜか、頭をなでられながら、すぅすぅと寝息を隣でたてられ、『うち、なんのためにこいつに接触したんだっけ?』と、感慨に浸っている。

 

「ジグ、だったっすか? こいつ、なんで、こんな、感じなんすか?」

『俺に聞くな。俺ぁ、こいつのこたぁ、長ぇこと見てきたけど、女と接触しているのぁ見んの初めて……いや、猫又の娘含めりゃ一応、二回目か』

「こいつ、異形以外と関わったことないんすか?」

『いや。こいつを襲ったことのあるなぁ、大体人間だよ。なかには女もいた。だがな、おめぇらみてぇなんは一人もいなかったぜ? あいつを攻撃して、拘束されたら自決。こんなんばっかだ。施設にいたときなんざ、施設に襲撃掛けて来たくせに、捕まったら捕まったで勝手に死にやがったしな。かっはは、こいつが定住しようとしねぇなぁそういったことがあるからなんだぜ?』

「人間ってのは、おかしいんすね。色々ずれてる」

『そうだぜ。こいつも、そうとうずれてんだかんな』

「そうっすね。さっきまで殺しあってたってのに、助けてこうやって同じベッドでねてるって、相当ずれてねぇと無理っすね」

『かっははは、どうだよ。俺の宿主様はよ』

「嫌いじゃねぇっすよ。ただ」

『ただ?』

 

 ──不安になるくらい、バカっす

 

 うちはそんなことを言って、目を瞑った。




今回の話でわかったと思いますが、ヒロイン:ミッテルトは割りと有力です。
ただ、正直、アンチくさくなっちゃいますけど、原作通りになってくれてもいいなぁって思っちゃってます。
まあ、次回は、ようやく、原作の変態さんのデート回になるので、話が進みますね。
いやぁ、一巻の内容に入るまで長かったぁ……(まだ、一巻分は終わってない)

それでは、また、次回、お会いしましょう。ばいちゃー


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第7話

遅くなってすまない。



 朝日が差し込む穴蔵にて、僕は下着姿のミッテルトを抱いている状態で目が覚めた。

 

「ふぁっ!? なにごと!?!?!?」

『宿主るっせーぞ。俺ぁあーぁ、二時間しか寝れてねぇんだ。もちっと黙ってろ』

「あ、ごめんジグ。とりあえず、服着てもらわないと。ミッテルトの服は……」

 

 僕はキョロキョロと辺りを見渡すが、一向に服がみつからない。

 

 くそ。仕方ない。

 僕は神器をだし、大量の糸を作り出すと、指先から布状に纏めあげる。

 

 そして、ミッテルトの体のサイズ(昨日の仙術治療中にジグを通して把握した)に合わせ白地のノースリーブのワンピースを作り、それを頭から着せてやった。

 高い位置でツインテールにしていたせいもあってか、髪をおろした時の印象が、少し変わっていて驚いたものの、結局はミッテルトなので、清楚っぽい印象から離れた単語の羅列で現実に引き返されるのだろう。

 

 さすがにごそごそとしていたので、ベッドの振動で起きてしまったのか、ミッテルトは体を起こし、目を擦りながら、現状の把握に努める。

 そして、ミッテルトが出した結論が、

 

「くらえっす!!」

 

 僕の頬を引っ張ることだった。

 

「なんれ!?」

「この超絶美少女堕天使ミッテルトを前に、興奮しないどころか子供扱いしたことに対する報復っす!! 悔いて詫びろ!!!!」

「なんれ!!!!!!??????」

『おめぇらうっさい!! こっちは寝るっつってんだろぅが!!』

 

 朝からガヤガヤとしていたせいか、意外と寝起きの悪いジグにガチのお叱りを受けてしまった。

 結局、僕らはそのあともガヤガヤとやりとりをし、ミッテルトは僕の作ったワンピースを気に入ってくれたのか、中々に上機嫌で穴蔵の外に出る。

 その時、服に土がつかなかったことに驚いていたが、汚れ防止用の魔法(ジグから教えてもらった)を使っていると説明すると、納得してくれた。

 

「んで、朝飯どうするんすか?」

「取りに行こうか」

「は?」

「取りに行こうか」

「聞こえなかったわけじゃないっす。意味がわからなかっただけっす」

「だから、山菜取りに出ようって話だよ?」

 

 僕がそう言うと、ミッテルトの顔が「はぁーーーーーーーーー???」みたいな感じになった。

 なんで朝から体力使うことを見たいに感じているようだが、そも、四畳一間程度の穴蔵に何を求めていると言うのだ。すべてに汚れ防止用の術式を組み込んだ製品しかないにも関わらず、高環境を求めすぎである。

 

「あんた、いや、もう、この際変なプライド捨てて名前で呼ぶっすけど。海樹あんた、バカじゃないっすか? いくらなんでも野宿で、飯もその場しのぎって……」

「定住したら襲撃されるから……」

「どこかの組織に後ろ楯になってもらえばいい話っしょ。うちらには無理っすけど、魔法使いの協会とか、妖怪とかの集団に行けば」

「そのどっちからも襲撃されたのに?」

「…………」

 

 僕の発言で、ミッテルトは黙った。

 

「そういうこと。まあ、一応アパートとかに住んだことはあるけど、立ち退き要求されたしね。理由の説明もなしに……ま、そのあと襲撃されて、『そういうことかぁ……』ってなったけどね」

「うちが襲ったこと、恨んでるっすか?」

 

 なぜか、ミッテルトは暗い顔をし、僕におそるおそるたずねる。

 

「ん?? なんで?」

「だって、うち、事情とか全く考えてなかったっすし」

「別に、それで正解じゃない? 人殺すのに事情とか考えたら情に絆されるわけだしさ」

 

 僕がそんなことをいったら、みるみるうちにミッテルトの顔はよくなり、僕の知ってるミッテルトになってきた。

 

「それもそうすっね。殺害対象に情を抱くなんてうちらしくないっす。感謝するっすよ、海樹」

「その恩に報いる感じで、トップに掛け合って、僕の討伐命令取り下げてもらえない?」

「残念っすけど、うちにはそんな権限も権力もないので、無理っす」

 

 僕が「だよねー」というと、ミッテルトは「けど」といって、僕の目を見る。

 

「海樹がどんなやつか、どういった背景を持っているのかくらいは纏めては報告することは可能っす。今回の任務が終わったら、神の子を見張る者(グリゴリ)の上司に報告しておくっす」

「ほんとに!? ありがとうミッテルト!!」

「へへへ、期待させることをいっておいてなんすけど、結局は上の判断なんで、監視は入るかもしれないっすよ?」

「いいよ、監視くらい。常に命を狙われるリスクと天秤にかけたらすぐわかることじゃん」

「まだ、決まった訳じゃないのに、そんなに喜ぶとは思ってなかったす」

『今までは話聞かねぇやつくらいしかいなかったから、しょーがねぇだろ』

「誰一人として話聞かないってのもおかしな話っすけどね」

 

 それもそうだけど、本当にそうだったから困るんだよなぁ……。

 まあ、そんなことより山菜採りだ。

 僕は神器をだすと、糸でいつもより大きめの円盤を作り、それに乗る。

 

「それじゃぁ、ミッテルト。山まで飛ぶよ」

「山菜採りはガチだったんすね……」

 

 ミッテルトは落胆するような声を出すものの、円盤の上に乗り、ペタンと座った。

 

「あれ? 僕座るとこなくない?」

「うちの膝でもいいっすよ。それともうちは普通に飛んでついていった方がいいっすか?」

「いや、いいよ。僕はたっておくから。それじゃ、ジグお願い」

『あいよ。神器のオーラでも使っか……』

 

 ジグは『ふわぁーぁ』とあくびをして一瞬で円盤を上空へと浮かび上がらせる。

 その勢いに、ミッテルトは驚き、僕の足をつかんできた。僕は神器から予め手前に棒を作っておいたので、それをつかんでバランスを取る。

 

「ジグ、今日は少し遅めで。ミッテルトが慣れてないし」

『あいよー』

 

 ジグはいつもと変わらない速度で山に飛ぼうとしていたので、先に注意しておいた。が、ジグは寝ぼけているのか、ジェット機の三倍くらいの速度をだし、山に向かって飛ぶ。

 

「バカーーーー!! 妖人化してない僕のことも考えろーー!!」

『かっははは、そういや、そうだったな。忘れてたぜ』

「────っ! ──────っ!」

 

 僕は速度が出るとすぐに足元の糸をミッテルトと僕の体の固定に使い、抗議する僕に楽しそうに笑うジグ。

 ミッテルトは声にならない叫び声で何か伝えようとしてくる。

 まあ、そうこうしているうちに、目的地に到着し、さすがに着地時に問題にならないよう、ゆっくりと円盤を降下させる。

 

「ゼーハーゼーゼー」

「ミッテルト大丈夫?」

「なんで、あんたは平気そうなんすか……。飛行機以上の速度を全身で体験したくせに、人間の肉体だっていってたくせに」

「僕の場合、糸で何とか固定してたし、飛んでくるごみとかは、ジグが糸で落としてくれてたから。あと、空気抵抗とかは、耐熱、対摩耗仕様の糸で編んでたから」

「だからと言って、あの速度下で言語発せれるのは、おかしいっす」

「たぶん肺が妖怪のそれになってるのが影響してるのかも?」

「なんで確信ないんすか」

「いや、肺が妖怪になってても、体の表面は人間だから、関係ないとも言えなくはないし……」

『んなの、宿主が妖怪に近くなったってだけだろ、普通。それも、毎日っていっていいほど、この風、受けてんだ体もそれに合わせて変わるっつーもんよ』

 

 僕とミッテルトは、ジグの理屈に何とか納得し、山菜を採取し始める。

 ちょくちょく、毒キノコを拾うミッテルトにはあきれてしまったけど、ワイワイとやる山菜摘みは一人でやるときよりも楽しい時間だった。

 

 あっという間にカゴいっぱいの山菜が集まり、今日のお昼用にもちょうど良い量が集まった。

 僕たちはキャンプにちょうど良い川の近くに行き、山菜を鍋にいれ、水で洗うと、適当に集めた枯れ枝を一ヶ所に集め、火を起こす。

 

「それじゃぁ、ミッテルトは軽く湯がきながら待ってて」

「なにするつもりっすか?」

「ちょっと、一般人対策をね」

 

 僕は神器をミッテルトに見せて、手を降ってから山の奥へと、入っていく。

 人が入ってきたら大変だから、先に関知できる結界を糸で作っておくのは結構重用だったりする。

 

 

「ジグ。妖人化お願い」

 

 僕がそう言うも、ジグは妖力を送ってこなかった。

 

「ジグ?」

『やめときな宿主』

「どういうこと? 僕にもわかるように説明してよ?」

 

 僕はさすがにジグのこの態度はおかしいと思い、尋ねる。

 すると、大きなため息をついていった。

 

『妖人化ってなぁ、人間の時のオーラに無理やり妖力を合わせて半人半妖のような状態を、人間のまますることってなぁ、わかってるよな?』

「さすがにね。僕だってそこまでバカじゃないよ?」

『なら、人間のオーラってのが今のおめぇにどれくらい残ってると思う? 普段通りか? それとも、普段より多いか? んなわきゃねぇだろ。妖仙化だけで消耗した……いや、削った人間としてのオーラは回復なんざねぇ。オーラの強度を高めるこたぁできると思うがな。だが、てめぇは、オーラの強度がそんな高くねぇ。だから、妖仙化のときに寿命をなくしたんだ』

 

 長々と説明されるので、ある程度要約すると、オーラが弱すぎるせいで、ジグの妖力に耐えきれなくって、寿命を削ってるってことらしい。

 

『んで、普段の妖人化、第零形態なら別段問題はねぇ。妖力の比率を極限まで低めてやってれば良いからな。だが、同じもしくはそれ以上になる第一、第二形態は、第一形態は持って四回、第二形態は運が良くて二回までだ』

「つまり?」

『貴重な残り四回の妖人化をこんな下らねぇとこで消費すんじゃねぇってこった』

「なるほど……。それじゃあ、どうする? 普段みたいにできないってなると」

『神器のオーラを糸に使えるようになるこったな。俺ぁヒントなんざ与えねぇけど』

 

 要するに、強くなれってことか……。

 普段は、ふざけたような妖怪だけどこう言うときには、ちゃんとアドヴァイスしてくれるんだから、親切なところがある。

 

「でも、そっか……妖人化は残り四回……現状、誰かと戦うわけにもいかない……か」

『そういうこったな。おめぇたまに死に急ぐことがあっから、気ぃつけろよ』

「うん。今までジグに頼りっぱなしだったところを僕ができるようになれば良いってことだもんね」

『わかってんじゃねぇか』

 

 ジグがそういうと、僕は神器のオーラって言うのを感知しようとした。




今回も中途半端なところで終わりましたが、安心してください。執筆中です。

そして、いまだ一巻から抜け出せず、一誠のデート回もいまだかけていない所存です。
一人のキャラクターに対する深堀はこのタイミングだと早すぎたかなぁ……。
まあ、今回は、リスクなしで今後強化形態を使えないキャラクターとして海樹を書いていく上で必要なことだったというのと、なんでそのフォームのまま戦うの?っていう理由付け回みたいな感じの位置付けです。

そして、ジグさん。あんた海樹くんに肩入れしすぎやでぇ。そういうとこ嫌いじゃないけど。

それでは、また、次回、お会いしましょう。さよなら。


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第8話

ちょっと、海樹の設定周りをいじっているとやりたいことが増えすぎたので、暇な日に一気に書いていこうと思います。(書けるとはいっていない)

それでは、本編どうぞ


 手始めに神器オーラって言うのを使おうと思った僕は、神器から溢れるオーラを感知しようとした。

 

 結果は、

 

「ジグ、神器からオーラ感じないんだけど?」

 

 全く感じられなかった。

 それに、ジグは大きな声で笑い、息を整えてから言う。

 

『そりゃぁ、おめぇ。自分で自分のオーラを探すような真似だ。まあ、今回は俺が神器の能力だったりを扱ってやっから、時間があるときんでも、神器の中(こっち)にこいや。やり方はそん時教えてやっから』

「わかった。それじゃ、お願い」

 

 僕はジグに神器を操ってもらい、この山一体に糸を張り巡らせてもらった。

 時間換算で数秒。ジグは自身で仙術を扱えることもあってか、山をいちいち駆けなくても、糸を張り巡らせることは可能らしい。

 できるだけ、僕もそういうことができるようになりたいけど、仙術の修行なんてどうやってすれば良いのかわからないため、諦めていた。

 

 僕は川に戻ると、ミッテルトが沸騰しある程度食べられるようになってきた山菜を、鉄糸で作られた皿に移しながら、大きなため息をついていた。

 

「どうかした? 元気無さそうだけど」

「あぁ、海樹っすか、終わったんすね」

 

 ミッテルトの声から活力が感じられない。

 本当にどうかしたのだろうか? 

 

「うち、なんで、こんなことしてるのかなぁって。監視につく前は普通のご飯を食ってたはずなんすけどね」

「ごめんね。当分はこの生活が続くと思って。限界迎えそうなら兵藤先輩の家にでもいってご飯もらってくるけど……」

 

 僕がそう言うとミッテルトは『兵藤』という単語に反応した。

 ねぇ、ジグ。

 

(『わかってんよ。こいつぁ、あの変態関連の任務だな。けど、おめぇもさすがにわかってんだろ?』)

 

 そうだよね。僕は契約の関係上、手は出せない。放置しかないわけだもんね。

 

「うん。もうそろそろ良いかも。適度に灰汁抜きとかしてあるし、ミッテルト料理とかしたことあったの?」

「多少はっすけど。めんどいときはレトルトっす。あぁ、今日からの三日、山菜生活か……」

 

 あ、また、目が遠くなった。

 ご飯が食べられるだけありがたいとはおもわないのかな? 

 

「サバイバルしてるみたいで楽しくない? 現代日本だと早々体験できないよ?」

「する必要がないっすからね! あんた……が、どういう生活をしてきたかうちには想像できないっすけど!!」

 

 ミッテルトの口調に違和感を覚える。

 まあ、そんなことより朝食だと。ほどよく湯がかれた山菜をお湯ごと水の張ったボウルの上にあるザルに移し、そのザルを取り出し、水を切り、皿にざっと移す。

 

「んじゃ、いただきます」

 

 僕は手を合わせ、適当に編んだ椅子に座って、手掴みで食べる。

 ミッテルトは僕の食べ方に、まるで信じられないものを見たかのような表情で僕と自身の前の皿を見比べる。

 

「食べないの?」

「なんで、海樹は平気で手掴みなんすか。人間としての尊厳は……って、昨日もこんなやり取りしたっすね」

「ない訳じゃないよ。でも、いきるために必要だから」

「なら、バイトをしろっす!!」

「履歴書かう金がないの」

『バイト代わりっつっちゃぁ、なんだが、生地関連は収集しやすい環境にいるがな』

「それ集めて転売すればいいじゃないっすか!」

「フリマ開かれないと売ることもままならないんだよ。今の時代、『連絡できる環境』が整ってない人は生きにくいの」

『中古を扱う家具、呉服屋で売って、よくて五万、悪くて三千なんてざらだぜ? 服なんざ作れねぇこたぁねぇが、一日一着作ろうと思えば、時間が足りねぇ。ソファー作って、うまく売ってなんとか学費を稼ぐのが限度ってやつよ』

「親戚とかそういうのはどうしたんすか?」

 

 親戚……親戚かぁ……。ジグ、これっていっていいことなのかな? 

 

(『好きにしな。俺ぁ、おめぇの意思に従うぜ?』)

 

 わかった。

 

「親戚は五大宗家が僕を見つけるためだけに殺したよ。だから、本当に身寄りがないんだ。小、中学生時代にいろんな面でお世話になった人も、僕を裏切ってどこかいっちゃったし」

「……そうなんすね。変なこと聞いて悪かったっす」

「あはは、ごめんね。僕もくらい話して……って、ジグ。今何時? 学校間に合うかな?」

『かっはは、八時前だぜ? こりゃ飛ばさねぇと遅刻だな』

「ごめん、ミッテルト。先学校に行くね!」

 

 僕はミッテルトのワンピースに一本の糸絡ませると、行きのと気と同様の円盤にのり、ジグの運転に身を任せ、学校まで飛んだ。

 

 行きよりも帰りの速度の方が出ていたが、気にしない。気にしていられない。

 

「ジグ、旧校舎でおろして!」

『あいよ』

 

 僕はジグに旧校舎付近で円盤を下ろしてもらい、下駄箱まで駆ける。

 息を整えながら上履きにはきかえると、教室に向かって再度走り出した。

 教室の前につき、ドアを開けて室内へ入ると、クラスメイトが一斉に僕の方を向いた。

 

「ま、間に合った……?」

「ギリギリの到着ですね。丹芽くん」

「ちょっと、朝御飯に手間取ってしまって」

「なんでもいいです。とりあえず席についてください」

 

 僕は自分の席に座ると、大きくため息をついた。

 ちなみに、僕の出席番号は一番なので、ドア側の一番前の席だ。

 

 そこから、数分後、連絡事項を聞くホームルームが終わって塔城さんとコーチンが僕のもとによってきた。

 

「遅刻ギリギリだったな。何やってたんだ?」

「朝飯だよ。軽い山菜摘み」

「なかなか見つからなくて困ったのか?」

「うん。まあ、そんなところ。野草山菜、毒キノコ、食べれるものに食べられないものの見分けなら任せてよ」

「そんなのまで身につけてたのかよ」

「意外と多芸」

「多芸に手芸なんつって」

 

 すると、塔城さんとコーチンはこそこそと何かを話し、

 

永遠に凍えし空気のダジャレ(エターナルフォースブリザード)やめぇや」

 

 と審議結果を下した。

 

「それじゃぁ、僕が滑ったみたいになるだろ!」

「実際、滑ってんだよ。バカ」

「ひど!? 塔城さんはそう思わないよね? ね?」

「普通の親父ギャグよりまし」

「こっちも辛辣!?」

 

 僕の反応が教室に響き渡り、周りから、なにやってんだ? みたいな目が一瞬向けられる。

 

「もう、二人のせいだ……」

「そうか、ドンマイ」

「仕方がない」

「僕に対する扱いが悪すぎる……」

 

 僕はゲンナリしたまま今日の始まりの授業を聞き流した。

 

 

※※※

 

 

 そして、お昼休み。

 僕は兵藤先輩に連れられ、兵藤先輩のクラスにやって来た。

 

「どうしたんですか? 僕、まだお昼の調達終わってないんですけど」

「それなら、母さんがお前の分の弁当作ってくれたから安心しろよ」

「また、何か採集したときとか、服とか作ってお返ししないとなぁ……」

「母さんも母さんだけど、お前もお前だよな」

「お礼とかはちゃんとしないといけませんからね」

 

 僕がそういうと、『そうだな』と兵藤先輩も納得した。

 

「そういえば、兵藤先輩。あのあと、どうしたんですか?」

「剣道部にぼこぼこにされたよ……追いかけてきて、お前もぼこぼこにやられたんだろ? ごめんな。巻き込んで」

「え?」

「え?」

 

 僕の認識と兵藤先輩の認識はどこかずれていたようで、互いに疑問符を浮かべた。

 どうやら、兵藤先輩は僕が気絶してからのことを尋ねられたと思っているようで、僕が聞きたかった『告白の返事をどうしたのか』という風に解釈できなかったようだ。

 

 僕はそのことを改めてうかがうと、兵藤先輩はスマホの待受画面を向けてくる。

 そこに写っていたのは、日本ならこんな感じの女性はたくさんいるだろうなという感じの女の子だった。

 

「俺の彼女だ。悪いね。先を越して」

「いえ、それについてはどうでも。そんなことより、兵藤先輩、変なことしてふられるようなことはなしにしてくださいよ。たぶん一生得られない経験なんですから」

「失礼だな、この後輩」

 

 兵藤先輩はそう言って僕の首をホールドするとこめかみをグリグリと拳でねじってくる。

 

「いたい、痛いです、先輩」

「これは、俺をバカにした分の仕返しだ」

 

 僕らは笑いながらそんなやり取りをした。

 

 そして、松田、元浜先輩のもとにつくと、兵藤先輩は二人にも昨日できた彼女の報告をしていた。

 どうやら、明日、兵藤先輩と『天野夕麻』さんはデートするらしい。

 

 僕はなんとなく、二人のデートが心配になったので、兵藤先輩がどや顔を決めているうちに、三人で尾行しようということにした。

 

(「それじゃぁ、明日の駅前、イッセーが来る前に」)

(「了解」)

(「わかりました。へましないように」)

「おい、お前ら、どうしたんだよ? そんなに俺のパーフェクトなデートプランを覗きみたいのかな? いいだろういいだろう。特別に参考にさせてあげるよ」

 

 う、うぜぇ……

 

 僕たち三人の心の声が重なった気がした。

 よし、これは、デートが失敗したら、本気で慰めてあげよう。

 僕はそう決心し、松田、元浜先輩と目をあわせて、頷きあった。

 

 

※※※

 

 

 そして、兵藤先輩と彼女さんのデート当日。

 

「ミッテルト。僕用事あるから出掛けるから、戸締まりよろしくね」

「閉める戸なんてないのに戸締まりとかあるんすか? まあ、うちもこれからドーナシークたちと用事があるんで一緒に出るっすよ」

「あ、そうなの? それで、どこで待ち合わせ?」

「駅前のカフェっすね」

「奇遇だね。僕も駅前にいくんだ。それじゃあ、一緒にいこうか?」

「それもそうっすね」

 

 僕たちは一緒に穴蔵を出ると、駅前に向かっていった。

 

 駅につくと、松田先輩と元浜先輩はすでに到着してたみたいで、「遅いぞ、カイキ!」と叱られた。

 そして、ミッテルトと来せいか、二人に「あのかわいいこはお前の彼女なのか!? お前も裏切り者なのか!!」

 みたいに言われたので、ただの友達と言ってごまかす。

 

「なんだ。ただの友達か。それなら、俺たちにも、紹介してくれないか?」

「いやです。ミッテルト傷つけ……られるタイプじゃないから問題なさそうですけど、やっぱり、本人に確認してからじゃないとダメです」

「お、紹介はしてくれるのか!?」

 

 驚いた様子の元浜先輩に、「ミッテルトがいいって言ったらですよ」と釘を指しておく。

 

 そんな会話をしているうちに兵藤先輩が到着してたみたいで、落ち着かない様子で、彼女さんの到着を待っていた。

 

 兵藤先輩がふられたら、今度からイッセー先輩と呼ぼう。




読んでくれてありがとう。

今回は、特に変化のない日常回を意識して書きました。
前回、妖人化のリスクについて話したので、わかっていると思いますが、あの形態をとるためには寿命を戻すとかしないといけません。

とりあえず、ようやく原作一巻のプロローグが終わりそうなので、次回の描写が終われば、本当の意味で本編に入れますね。
準備期間が長すぎた……。

それでは、また次回、お会いしましょう。


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第9話

遅くなりました。

バイトやらがっこうやら、疲れやらで続きがあまり書けなかったのでごわす。




 僕は兵藤先輩をつけ始め、お昼御飯を松田先輩と元浜先輩におごってもらい、もう残り一ヶ所くらいしかいけない時間となったとき、僕の家のある公園のベンチに兵藤先輩と天野夕麻さんは腰を掛けていた。

 二人の会話は聞こえなかったけど、いい感じの雰囲気なっている。

 

「よかった。てっきりラブホとか連れていくんじゃないかって心配してたから……」

「さすがのイッセーも初彼女と初デートでラブホは選ばなかったか」

「イッセー……お前ってやつは……」

 

 完全に親目線状態の松田先輩はしきりにシャッターを切る。

 この一瞬が、奇跡のような場面だと認識しているのか、きちんとカメラに納めようとしているのだ。

 そんなとき、松田先輩の微かなカメラのシャッター音が途切れる。

 

「悪いっすけど、ここまでっす」

 

 僕は聞きなれた声を聞いた瞬間には、意識を失っていた。

 

 

※※※

 

 

 月曜日、僕はだるい体にむち打ちながら、学校に登校すると、校門で待っていたのか、兵藤先輩と遭遇した。

 

「海樹! お、お前は覚えてるよな! 俺に彼女ができたこと!!」

 

 僕はその発言を聞いて疑問に思う。

 

「兵藤先輩に彼女? 夢かなにかじゃないですか?」

 

 僕の発言に、兵藤先輩の表情は、あからさまに変わっていき、一抹の希望を失ったかのようなものになった。

 

(ねぇ、ジグ。兵藤先輩に彼女っていたっけ?)

 

『…………』

 

 ジグはなにも応えない。沈黙は肯定と捉えるべきか、どうなのか……。

 

(『おい、宿主』)

 

 そんなことを考えていると、ジグの方から話しかけてくる。

 

(なに?)

(『こいつから、悪魔のオーラを感じる』)

(え? どういうこと?)

(『人間じゃなくなってるってこった。にしても、不可思議な現象があるもんだな。この変態に彼女ができたなんて世紀の大事件が起きるなんてな』)

(だよね。にしてもなんで、悪魔のオーラが?)

 

 僕はジグの発言にあった悪魔のオーラというものに疑問を覚え尋ねた。

 

(『俺も知らねぇ。ま、用は俺らんとこと似たような背景を持ったってことだろ』)

(ふーん)

 

「いや、なんでもない。変なこと聞いて悪かったな」

 

 僕とジグが話していると、明らか落胆している兵藤先輩が、とぼとぼと校舎に向かっていく。

 

「ねぇ、ジグ」

『んだ? 宿主』

「ちょっと、調べてみようか」

『んぁ? なんで、んなこと』

「さすがに、あの状態の兵藤先輩は見ていられないから……さ……」

『はんっ! んなこったろうと思ったぜ。とりま、学校終わったら『神器ん中(こっちぃ)』こいや』

「わかった」

 

 僕らは話しながら、教室へ向かう。

 一応周りの人から不審がられないように、ブルートゥースイヤホンをしているかのような行動をとりながらだけど。

 

 僕が、教室へと足を踏み込むと、塔城さんがこっちを向いた。じっと、僕を見たあと、また、クラスメイトとの雑談に興じ始める。

 なんだったんだろ? 普段なら、こっちに来るか、感心なさげにクラスメイトと雑談し続けているはずなのに。

 

(ジグのことも知ってるはずだしね)

(『てなっと、また、別の話なんだろうな。おめぇは、異形業界の基本ってやつぉ知らねぇわけだしな』)

(どういうこと?)

(『五大宗家から、おめぇのたまぁ狙われんのは、俺を宿してっからってのと、同じようにあの嬢ちゃんにも、なんか事情があんだろうよ。ま、それが、気になんなら軽くオカルト研究部なり、生徒会なりにいきな。もとめるもんがあるかぁしんねぇが、それなりのもんがわかっかもな』)

 

 ふーん。僕は席につきながら、ジグと話す。

 さすがに、教室でまで、声を出しながら話すという訳にはいかないので、神器を通じての念話っぽいなにかだけど。

 

(そういえばさ。僕まだ一回も聞いてなかったけど、悪魔って、どんな存在なの?)

(『そうだな。俺も悪魔に殺された宿主は見たこたぁねぇが、特性上人間ってやつと親密になりやすいってぐらいか』)

(善であれ、悪であれってかんじ?)

(『んなもんだ。悪魔ってのぁな、基本じこちゅーなんだよ。それでも、一応あいつらにもプライドっちゅーもんがあんのか、契約にたいしてはそれなりに忠実だ。まぁ、おめぇが信用ならねぇってんならそれでもいいんだけどな』)

(僕が変な契約しないか心配なの?)

(『だーれが、おめぇの心配なんかすっかよ』)

(わかってるわかってるって)

 

 僕は素直になれなれない相棒に心のなかで笑ってやった。

 

 

※※※

 

 

 そして、放課後、僕は家(穴蔵)に帰り、神器を右手に出し、意識を神器に傾ける。

 あれ? そういえば、神器のなかに来いって言われてたけどやり方あってる? なんとなく神器に意識を傾ければできるっぽいって感覚でやってるけど。

 

『あってんぜ、宿主。おっと、やべ、このタイミングで関わっちまったから……』

『ジグ。あなたって人は……本当に……』

『かっ……はっ……ま…………ぜ。…………ハイム』

 

 あ、あれ? じ、ジグ? 

 

 僕は突然ジグに声をかけられたかと思うと、別の声が割り込んできたと思ったら、今度はジグの声が途切れて聞こえ始めた。

 な、なに? 何が起きてるの? 

 

 僕は不安を覚えながら、目を開けると、研究室のような場所にいた。

 目の前には白衣を着て、椅子に腰を掛けた藍色の髪で、右手には僕と同じ神器を持っている異国の男性が僕をじっと見ている。

 

「ここは?」

『あなたの神器、土蜘蛛の糸の宝玉の中です。もっとも、本来なら神器の方に繋がるはずがジグが妨害したせいで、こっちに移ってしまっただけですけどね』

 

 その人の声は、ジグのように、なにかをはさんだ感じの声がした。電話とかそういう感じの声だ。

 

『こんにちは、丹芽海樹くん。私の名前ですが、パラケルスス、もしくはホーエンハイムとでもとでも呼んでください』

「は、はぁ」

『困惑しているようですね。少し、待っていただけますか?』

 

 ホーエンハイムと名乗った男性は、実験器具と神器を操り、緑茶を作り出した。

 

土蜘蛛の糸(こいつ)で、そんなことできたんだ……」

『この宝玉は私がつくって、この神器に嵌め込んだものですから。あなたも鉄の糸何て言うものを作れているでしょう?』

「あれも、この宝玉が?」

『えぇ。そうです。正確には、この宝玉を通じて私がジグのサポートをしているから可能なんですよ? 普通の糸以外はすべてそうですけどね』

 

 す、すげぇ……。

 

『ふふ。さて、もうそろそろ、ジグが怒りそうですね。そのお茶を飲んでから、ジグのもとにいってください。あそこの怨念は、あなたの精神を砕く可能性もありますから』

「は、はい」

 

 僕は、出されているお茶を飲み干す。

 

「それで、あの。どうやって、ここから神器の方に向かえば?」

『底の扉を潜っていけばいいですよ』

「底?」

 

 僕が首をかしげていると、ホーエンハイムさんは足下をちょんちょんと指差す。

 どこにも扉とかないんですけど? 

 

『そこに扉をイメージしてください。あぁ、穴でもいいですよ』

「扉にします」

 

 僕は引き戸をイメージする。

 すると、僕の足下に木の引き戸が出現した。

 

『それでは、少し失礼して』

 

 そう言うとホーエンハイムさんは、僕の胸に手をあて、なにかを流し込んできた。

 

『鍵を開かせてもらいました。あとは、あなたの思い次第です』

 

 そういって、ホーエンハイムさんは、僕の足下の引き戸を糸を使って勝手に開けた。

 

「あ、あんた、何してくれてるの!?」

 

 僕は落とし穴に落ちるような錯覚を覚えながら、神器のなかに進んでいく。

 

 あぁ、僕、死ぬんだ。死因とかよくわからないまま死んでいくんだ……。

 

 背中から落ちていくような感覚に絶望していると、なにか柔らかいものに包まれる感覚がした。

 

『遅かったじゃねぇか、宿主』

 

 この声は……

 

「……ジグゥ……」

 

 僕はその声の主の方を見た。すると、そこには、柄の悪そうなヤンキーっぽい感じの肩ぐらいまである茶髪を金色に染めた十四歳くらいの女の子がいた。

 え、なにこれ? ずっと僕ジグのこと男だと思ってたけど、ジグってもしかして……

 

「女の子だったの?」

『あぁん?』

 

 僕の疑問にガンを飛ばすジグ。

 

『あぁ、この姿のことか。世の中、蜘蛛はきめぇっつーやつがいっからよ。折角だから昔の宿主の体に変化してんだ。まあ、もっとも、ゴッツイむさいおっさんにもなれねぇことはねぇがな』

「うっわ、全く可愛げがないね」

『かっははは、そりゃそうだろ。俺だぜ?』

 

 ニヒルに口角をあげるジグ。

 確かに。どんな姿をとってたってジグはジグだ。女の子の精神を持ち合わせてるはずがない。

 

『一応いうが、俺は雌雄同体だぜ? 男でもあり女だ。神武のやろうと聖書の神のせいで、こうなっただけだしな』

「ん? どういうこと?」

『気にすんな。んで、それより、ホーエンハイムから、預かりもんとかねぇのか?』

「お茶と、使い方くらいしかもらってないよ?」

『んだよ。かしおりの一つくらい持たせてもいいだろうがよ。あのクソ童貞』

 

 あの、その言葉僕にも刺さるんですが? 

 

『おっと、そうだった。わりぃわりぃ。宿主も童貞だったな。忘れてたわ。かっははは』

「うわぁ、美少女の容姿のはずなのに、全くかわいくない」

『おいおい、おめぇは、俺を美少女キャラにしてぇのか? バカか? バカなのか? 俺ぁ蜘蛛だぜ?』

「それもそっか。で、僕なんのために、ここに来たんだっけ?」

『兵藤一誠の彼女の捜索の手がかり探しに来たんだろ?』

「そうだそうだ。あ、それも大事なんだけどさ。なんで、僕神器のなかに入る方法知ってたの?」

『それも含めて今からわかんよ』

 

 そういって、ジグは、口から糸をはいてスクリーンにした。

 なんか、神器系の思念さんたちちょっと糸の操りかたうますぎない? 

 

『かっはは、そりゃ俺は二千年を越える時間、ホーエンハイムはこの神器に宝玉をつけてからの間、扱い続けたわけだしな。生まれて十数年の若造に扱いの差で負けるわけにゃいかねぇのよ』

「あ、ただのプライドなのね」

 

 僕は適当なところに座って気づいた。

 

「あれ? これ、蜘蛛の糸?」

『あぁ、そうか。ホーエンハイムの方だと実験室だったが、こっちじゃぁ、俺の住処だかんな。クモの巣になんのは当然だろ?』

「どうせなら広野とか高原とかがよかったなー」

『高望みすんな。地蜘蛛の生態調べてから出直すこった』

 

 そんなことをいいながらも、何かの作業をするジグ。

 プロジェクターっぽいものを糸で編まれた机におき、僕のとなりに座った。

 

『あぁ、それと宿主。今でこそ平気そうだが、気ぃつけろよ。ここのさらに奥にゃ、怨念の集合地帯があってな。そっから、こっちまで、漏れ出てるからよ』

「心配してくれてる? ジグにもかわいいとこあるんだねぇ……」

『そこにぶち落とすぞ』

「やめて? なんか、本能的にやめて?」

『かっははは、さすがに、それは覚えてっか』

 

 なんか、よくわからないこといってるけど、とりあえず、なんかここから落とされるのは、なんか本能的にヤバイ気がするから、やめてほしい。

 

 そんなことを思っていると、スクリーンにきれいな金色の髪を大きめの黒いリボンを使い頭の上で二つ結びにしたゴスロリの女の子が槍を構えて写っていた。




今回、新キャラ出ましたけど、実は予定通りです。
以前、神器辺りの設定をいじっていたっていう以前から、ホーエンハイムには神器にいてもらう予定でしたし、宝玉もホーエンハイムがつけたという設定にしてました。

そして、土蜘蛛の糸の本来の能力は封印系で最弱といっても過言じゃないです。
だって、ただただ、糸を作るだけですから。
射出機能も実は何らかの特殊能力がないと使えません。まあ、神器のオーラを使うことができれば簡単にクリアできるんですけどね。

さすがに、火の糸とかのいわゆるそれ、糸じゃねぇよ!みたいなのも、説明するために今回のような話をしました。
ちなみに、これ、時系列的に一誠のデート前にしようと思ってたんですけど、デート後にしたのは、単純にミッテルトとの思い出を消されるので、覚えてないなぁと判断したからです。
まあ、あと、ホーエンハイムの手が入るところがわりとシビアだったからっていうのもありますね。

あと、ミッテルトの描写を細かくしたのは、記憶を封印されているからですね。
ちなみに、消すではなく封印にした理由はまだ内緒です。

それでは、また次回お会いしましょう


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第10話

今回は記憶ロードショー鑑賞からですね。
といっても、自分の決めている文字数的に、描写したいところだけって感じですけどね。


 僕はスクリーンに映る少女に既視感を覚える。

 

「これは?」

『おめぇが、経験したこの数週間の出来事だよ。こいつぁ、おめぇと堕天使が初めて戦闘した日だな』

「ふぅーん」

『……まだ、足りねぇか……こいつの日常に比較的接触率のたけぇやつならキーワードになってっと思ったんだけどな』

「なにかいった?」

『いや、なんでもねぇ』

 

 ジグと話ながら、スクリーンに映し出される映像をボーッと眺める。

 そんなとき、映されたのは兵藤先輩が校門付近で告白されている映像だった。

 

「ね、ねぇ、ジグ? もしかして……」

『あぁ、こいつは天野夕麻。兵藤一誠の彼女になったやつだ。てか、さすがのおめぇももう気づいてんじゃねぇのか?』

「うーん。まだ、自分の経験ってまでいってないけどなんとなくね。これ、僕の記憶だよね。それも、僕が忘れている」

『あぁ。おめぇの記憶は、ご丁寧にホーエンハイムのやろうが保管してやがったからな。ちょっくら頂戴してきたんだよ』

「盗んだの?」

『違ぇよ。あいつもよくわかんねぇこといってたが、『魂に記録されたものですから、この状態なら簡単に取り出すことはできます』とかいって、やり方教えてもらったかんな』

「へぇ、僕もいざっていうときのために、記憶の保存とか覚えた方がいいかな?」

『いや、むりだな。ホーエンハイムいわく『魂だけになった存在のごく少数ができる』って話だ』

「簡単っていってたのに……」

『ホーエンハイム基準だかんな』

「自分基準の話かぁ」

『だから、あいつぁ童貞なんだよ』

「言い方、言い方」

『はっ! 知るか』

 

 なんだかなぁ……って感じのジグの態度。面と向かわなければ、いつもの感覚でいられたんだろうけど、この、何て言うか、少女の姿でいたってことに、動揺が隠せなくなってるんだよね……。

 いや、現実世界にも口汚い女の子とか存在しない訳じゃないし、髪の色がどうこうでもないんだよ。

 昔からの幼馴染みがイメチェンして会いに来たらほぼ別人みたいで、同一人物とは思えないって感覚に近いかな? 

 

『次からぁ、男の姿か蜘蛛にでもしておいたほうがいいか?』

「いや、もう、このままでいいよ。よくよく考えたら、ジグの声は男とも女とも取れないってことを忘れてたから」

『かっははは、ようやっと気づいたか。姿は真似れてもその姿での声までは再現できねぇかんな』

「うへぇ……」

 

 ジグと話しながら、映像を眺めていると、段々僕のなかに何かが納得いくような感覚がおとずれてきた。

 

「あ、もしかして、記憶の定着に時間がかかってたのかな?」

『いや、そりゃねぇだろ。元はおめぇの記憶だ。それを第三者の目線で見るってなぁ、感覚的には成長記録を二十歳過ぎてから見るようなもんだ。要はなくしたもんを、こういうこともあったなぁ見てぇな感じにとらえるっつぅ感じなんじゃねぇの?』

「あぁ、言われてみるとそんな感じ……かも?」

『まあ、おめぇの記憶なんてなぁ失くなっても、この間までやってたことを体が忘れてねぇから、こっちぃこれたんだろ』

「あ、僕何回かこっちに来たことあったから、今日もその感覚で来ようとしたんだ」

『そういうこった。まあ、こっちへのきかたを覚えてからほとんど毎日来てたかんなおめぇ』

「もしかして、ジグのその姿って……」

『おめぇが初っぱな来たときにきめぇっつったから、この姿とってんだよ』

「やっぱり?」

『かっははは、だから、今度はおめぇの好みの容姿にしてやったぜ? どうだ?』

「うん。かわいいとは思うよ?」

『かっはは、だろ? 俺の宿主のなかでマシな部類の死にかたした宿主だ。容姿ももとから整ってたしな』

「マシな死にかたって……」

『ま、十四で死んでる時点でマシじゃねぇけどな』

 

 ホントそうだよ。そして、笑い話にもできない類いのブラックジョークはやめて。僕の場合、神器に目覚めなかったら、そのまま死んでたんだから……。

 

『そういや、そうだったな』

「過去のことにしないでよ。ただでさえ、五大宗家には苦手意識があるんだから」

『おっと、おめぇの知りたいシーンになったぜ?』

 

 僕はジグに促されるままに、スクリーンを見る。

 そこに映し出されてたのは、僕の家のある公園のベンチ。

 兵藤先輩が、天野夕麻さんとの初デートの最後に来た場所だ。

 ムードも十分、兵藤先輩はこれからキスか? キスするのか? みたいな感じでそわそわとしていると、天野夕麻さんの背中に黒い翼が生え、光の槍でお腹をひとつきされていた。

 

 あれ? たしか、この時の僕の状態って……

 

「僕、このタイミングで意識なかったよね?」

『だから、俺が神器を通じて見てた場面を流してんだよ』

「あ、そう言うこと」

『まだ、あんま実感わかねぇだろうけど、これがおめぇが経験した今日までのことで、おめぇの知りたかった情報だろ?』

 

 ジグがそういう。

 確かに、知りたかった情報ではある。けど、なぁ……。

 

「そういえば、今朝悪魔の気配がどうとか……」

『それもこの後だ』

 

 そうジグがいった直後、兵藤先輩の近くでなにかが発光すると、そこから、リアス・グレモリー先輩が現れた。

 なにか、言っているような感じはしたが、音声はないので、何をいっているかはわからない。

 グレモリー先輩が兵藤先輩を担ぐと、また、なにかが発光し姿が見えなくなった。

 

「ジグ、もしかして、兵藤先輩が生きてるのって」

『あの、上級悪魔が悪魔に転生させたからだな』

「え?」

『あ? おめぇ、なんで、兵藤一誠が悪魔の気配を纏ってるのか知りたいとかじゃねぇのか?』

「え? あ、あぁ、うん。そうだよ? なにもおかしなところなんてないよ?」

『日本語不自由かよ。まあ、いいわ。で、ここからなんだが、おめぇ、グレモリーのとこに明日辺りいってみたらどうだ?』

「なんで?」

『そりゃ、兵藤一誠のことを聞きゃいいだろ。少なくともおめぇにその権利はあるはずだぜ?』

「うーん。個人的にミッテルト辺りから当たろうかなって思ったんだけどなぁ。ほら、約束したわけだし。僕のことを上に報告するって」

『あぁ、そういや、そうだったな。わかった。おめぇの方の契約も満了してるし、それくれぇ問題ねぇだろ』

 

 僕はそのあと、ジグに修行をつけてもらってから、神器の外に出ると、ベッドに横になり目を閉じた。

 そのとき、誰かが入ってくるような音が聞こえたけど、疲れているせいで、僕は目を開けることなく、眠ってしまった。

 

 

※※※

 

 

 夜の駒王学園。

 旧校舎のオカルト研究部部室に、四人の人影があった。

 ひとつはリアス・グレモリー。オカルト研究部部長だ。

 

「それで、小猫。彼はどうだったかしら?」

「ぐっすり寝てました」

「そう」

 

 小猫からの報告をうけると、少し考える仕草をしてから言った。

 

「お疲れ様、小猫。明日また、彼の様子を教えてちょうだい」

「わかりました。部長」

「それと、裕斗、あの子は?」

「『天野夕麻』の存在を友達に確認していました。そのなかには丹芽くんも混ざっています」

「そう……となると、早いうちに手を打っておかないといけないわね……」

「いつまで野放しにしておくつもりなんですか?」

「そうね……彼が、『天野夕麻』の存在が夢だったと認識し始めてからがちょうどいいかもしれないわね。彼女だった存在がみんなの記憶から失くなって、自分だけが知っている状態って言うのは、辛いことかもしれないから。そのときが来れば、こちらから声をかけましょう」

 

 リアスの決定に、部員は「わかりました」といって、それぞれ契約者の元に向かっていった。

 

 

※※※

 

 

 翌日、僕は学校が終わったあとに、廃教会へと向かった。

 

「ねぇ、ジグ」

『あぁ。おめぇもさすがに気づいたか』

「ジグが神器のオーラの使い方を教えてくれたからって言うのも大きいけどね」

『私も黙っている必要はなくなりましたしね』

『ホーエンハイム……おめぇ……』

『入っている場所が違いますからね。それと、童貞童貞言い過ぎですよ。うっかりそちら側を炎上させるところでした』

『かっははは、やれるもんならやってみろってんだ』

『それでは……』

「それより、ここ、結界張られてない?」

『ですね。自身の存在を感知させないためのもの。ジグは結界が張られていると言うことくらいしか分かりませんから』

 

 しれっとマウントとってるなぁ……。

 

『んなこたぁ、わぁーてんだよ。てか、これって、あいつら後ろめてぇことでもあんのか?』

『でしょうね。彼女らの任務は終わったはず。ここから、帰還するのが筋というもの』

『だな。とりあえず、宿主、扉蹴破れ』

「とりあえず、普通にはいるよ」

 

 僕は教会の扉を開き、なかに入っていく。

 

「ジグ、ホーエンハイムさん。どう?」

『ダメだな。もうひとつ結界があってわかんねぇ』

『私も結界術の類いは専門外なので。ただ、隠蔽用のものが主体ですね。あとは……』

 

 ホーエンハイムさんがなにか言おうとすると、何者かが教会の奥から出てきた。

 

「おやおやおやぁ、こんな廃墟に来客とは、なかなか物好きもいたものですねぇ。ねぇ、ちみ、どこの誰とか、教えてちょ。こちとら、やることなくて退屈なんですわ」

 

 金属音が教会内に響き渡る。

 これ、やばくない? 

 

(『銃と剣の柄でしょうね。神父服を着ていますから、おそらく、教会の悪魔払いです』)

(『はぐれ、がつく類いの方だな。ま、気いつけろ。あぁ言う手合いは殺しあいを楽しんでくるぜ?』)

(「ジグもそんな感じでしょ?」)

(『かっはは、違いねぇ』)

 

「およよ? 警戒心増し増しの増し? 侵害だなぁボクチン、あくまで神父。悪魔とか使っちゃったよ。とりあえず、なんかよう? うちの親方が、戦闘すんなつって、退屈も退屈なんすわ」

 

 どう答えたものか……。これ、回答次第では戦闘不可避だよね? 

 僕自身、今の段階で妖人化できないのに、対抗できる気がしない。

 

(『安心してください。昨晩、こちらに来たとき、あなたの神器にとある調整を施しておきました』)

(「よくやった、ホーエンハイムさん!!」)

 

 僕は、もし、戦闘になったときように、神器を出現させ、静かに糸を作り出そうとした。

 

『error』

 

 そんな音が響き渡った。

 あれ? これ、選択肢間違えた?




次回予告

神器をだしこっそり、戦場有利をとろうとした海樹。
だが、神器から響くのは『error』という音声ばかり。海樹の運命やいかに。

次回第11話

ルールを守って楽しく逃亡。


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第11話

お待たせ。


 エラー、エラーと神器が鳴り響く教会の中。

 僕は真面目にどうしようかと悩んでいた。

 

「おやおやぁ、そちらも戦闘する気満々だったの? いやぁ、嬉しいよ。これで、俺様も」

 

 そう言いながら神父は僕に銃口を向けてくる。

 

(あ、これヤバイ)

 

 僕は神父に背を向け、ドアに向かって駆け出す。

 

「心置きなく殺せるってもんだかんねぇ!!」

 

 発砲音もなく、気づけば僕の肩は銃弾に撃ち抜かれていた。

 僕は、振り向くことなく、撃ち抜かれた肩を押さえ、止血を試みる。

 

『error』『error』

 

 癖で神器から糸を作り、背中の方の穴を塞ごうとするが、エラー音が響くだけだ。

 

『宿主。妖力使えんじゃねぇのか?』

「むり……かも。昨日の今日で使えるものじゃないし」

『ま、細胞から力ぁ出すなんざ普通は無理だかんな』

『ですが、肺はジグのものと大差ないのでしょう?』

「つまり?」

『もしかしたら、糸を生成することができるかもしれませんね』

「えっと、それって、ジグ的に可能?」

『構造的に糸疣(しゅう)はできててもおかしくはねぇと思うぞ』

『あとは出糸管くらいですけど、体に違和感とかは?』

 

 そう言われても、そういうの平時に言われないと気づかないから!! 

 

「なんのお話かな? ちょいと俺様も混ぜてくれや」

 

 僕らがそんなやり取りをしている間に、神父は僕の脇腹を光の剣で裂く。

 

(あと少しだったのに……)

 

 僕は地面に倒れ伏し、そう思う。

 

「うーん。よわよわでぼくちんかなしい。じゃね、名も知らない訳じゃないけど、名も知らない男の子」

 

 僕に馬乗りになりながら、額に銃口を突きつけながら、神父は言う。

 

 だぁ! もう、やけっぱちだ!! 

 

 僕はなりふり構わず、神父に向けて唾を飛ばした。

 すると、唾は網状の糸に変化し、神父の目を覆うように張り付いた。

 

「うわっ、きったねぇ。ざけんなよ、クソガキが!!」

 

 神父は目を擦りながら、糸をはがした。

 

『だよな』

『ですよね』

「だと思った」

 

 僕ら三人は同じ感想を抱き、口に出していた。

 

「はぁ……萎えた。萎えるわこれ」

 

 そういいながらも、神父は僕の頭を狙った銃口を外さない。

 

「んじゃ、ばいちゃ」

 

 神父はそういいながら、引き金を引く。

 

 走馬灯なんて見る暇もないくらいに、僕の頭は撃ち抜かれる。

 

 はずだった。

 そう。はずだったのだ。

 

 僕の頭になにかが出現し、目の前には何が書いてあるのかよくわからない、魔法陣? が展開されていた。

 

『なんとか、間に合いましたね』

 

 ホーエンハイムさんの声が頭から聞こえる。

 もしかして、これ、頭のなにかから、ホーエンハイムさんが話しかけているってことだよね? 

 

『えぇ、そうですよ。ですが、間に合ってよかったです。昨日、『鍵は開けた』と伝えましたが、こんなに早く戦闘になるとは思ってもいなかったので、無理やりこじ開けさせてもらいました。まあ、無理やりやったので、あなたの寿命が二年ほど短くなりましたけど』

『おい、ゴラ!! こいつの寿命知ってて、それか? あぁん?』

『残りコンマ数秒の命を二年に引き上げたって言うだけでも儲け話では?』

『常識を知れ! 社会不適合者!!』

 

 あぁ、えっと、つまり、唯でさえ四年しか持たない命を二年削る代わりに、今死にそうだった命を保ったってことかな? 

 確かに、安い買い物かも。

 

「つまり、今、僕の神器の機能は拡張されて使いやすくなったってこと?」

『えぇ。そういうことです。先程のエラーも、拡張する機能が決まっていなかったから起きたようなもの。それなら、宝玉を嵌め込んだ時と同じように、拡張する指向性を決めてやれば、なんとかなると踏みましてね。内側から干渉しながら話してました』

「ホーエンハイムさんグッジョブ!!」

 

 僕がそんなことをいっていると、今まで律儀に僕たちの会話を、聞いていた神父が、やる気無さそう立ち上がり適当な椅子に腰かけて言った。

 

「つまり、ちみは今から本来の実力がだせるってぇことかぁ……あーぁ、萎えちゃったし、いいや。めんど。ちゃっちゃと帰って帰って」

 

 どうやら、やる気スイッチがオフになってしまったらしい。よかったぁ。命拾いした。

 

 って、そもそも、戦闘しに樹たわけじゃないんだった。

 

「そういえば、ミッテルトに話があってきたんだ。ねぇ、神父さん。ミッテルトは?」

「あ? ミッテルトの姉御? なんか、本部っつーやつに報告とかなんとかで今いないよ。はい。用事もしゅーりょー。ささ、帰って帰って」

 

 しっしと、僕をここから退散させようとする。

 うん。別に問題ないからいっか。僕は神器を消しながら教会を出ていく。

 

 正直、後ろからの奇襲を警戒していたけど、そんなこともなく、あっさりと穴蔵へと帰ってこれた。

 

「よし、それじゃあ、ホーエンハイムさん新機能の説明お願い」

 

 僕は穴蔵に入ってすぐ、神器を出す。

 すると、グローブだけではなく、ヘルメットのようなものが出てきた。

 僕はヘルメットをはずし、どんな形かを見ると、後頭部に蜘蛛の装飾が施されており、その足が頬に伸びている。前の方を見ると、バイクとかのヘルメットでよく見るような感じの、バイザーって言うんだっけ? そんなものがついていた。

 

『わかりました。まあ、それはそれとして、よく見るとダサすぎますね。これ』

『よく見ねぇでもダセェよ。それと、早速脱線してんじゃねぇ』

『失礼しました。では、まず、そのヘルメットの効果ですが、演算機能の補助です』

「演算?」

『えぇ。主に魔法関連ですね。はっきり言うとあなたには関係ないものです』

 

 ──…………

 

「使えねぇ……」

 

 僕は心底がっかりした。いや、魔法とか身に付けられれば話は変わってくるのかもしれないけど、なんで、そんな機能にした? バカかな? バカなんじゃないかな? 

 今の僕でも使える機能が普通なんじゃないの? あれかな? 機能を拡張したのが僕じゃないから、ホーエンハイムさんよりのものになっちゃったの? 

 

『いえ、私がメインで干渉できるようなものが欲しかったので、密かに組み上げていたんですよ』

「そういうの、相談してよ。趣味で能力拡張なんて、普通にして欲しくないんだけど」

『ですが、これで、攻撃方面ではジグが。防御方面では私があなたをサポートすることが可能になりました』

「えーっと、つまり?」

『一定以下の攻撃であれば、大体は防ぎますよ。さすがに中級以上になってくると、防ぐのは難しいですが、そこはあなたの努力次第です』

「僕に魔法の勉強をしろってことですか……」

『いえ。神器のオーラを高めてください。私の魔法の強さも何だかんだで神器由来ですから』

『かっはは、ようは強くなれってこったな、宿主』

 

 そういうことだよね……。がんばる。この短期間ですごい数、戦闘が勃発してるけど、がんばるよ。

 

『メインとなる機能はそんなところです。次はサブの機能ですね』

「どれだけ、このヘルメットに機能をつぎ込んだのさ……」

『三つですよ。その一つが演算補助というだけです』

『かっはは、こりゃ神滅具認定受けてもおかしくねぇぜ』

『本来、封印系神器は使い手次第で神滅具になり得ますからね。今代はそういった特徴が色濃く反映されているんだと思いますよ』

『違いねぇ』

 

 二人がなんな、僕のことで少し盛り上がっている。

 いや、正確には神器のことなのかな? 

 

『まぁ、それは、それとして、残りの二つの機能ですが、一つは本来の土蜘蛛の糸の能力と同じ糸の生成と射出、もう一つは、神器のオーラの変換です』

『ま、両方とも使える場面が限られそうだな』

「そう?」

『おめぇ、戦闘に関しちゃ、糸で立ち回るのがあってるぶん、他のことなんざできねぇだろ』

「確かに……」

『詳細を語ってないのに否定されました……』

『詳細とか、言わなくても』

「どうせ、神器のオーラをエネルギーに変換して射出口から発射する程度のものだろうしなぁ……それなら、属性糸で言い訳だし」

『それもそうですね。戦術の幅は広がっているはずなんですけど……』

『幅が広がんのと、扱えんのは話が別ってことよ。理解したか? 童貞』

『うるさいですよ、ジグ』

 

 ワイワイギャぁギャぁ言い合っているジグたちを放っておいて、僕は神器の糸を穴蔵に張り巡らせる。

 昨日の物音が今日も聞こえるかもしれないから、そのためのトラップだ。

 

「よし、それじゃあ、寝よっと」

『あぁ、寝な宿主。寝るガキは育つっつうしな』

「うん。おやすみ、ジグ」

 

 僕はベッドに横になり、目を閉じ、夢の世界へ旅立った。

 

 

※※※

 

 

 海樹が眠るのを確認し、穴蔵の側にいた少女は、帰還する。

 それを、聞き届けると、海樹の神器に宿る二人は会話を始める。

 

『帰っていきましたね』

『みてぇだな。んで、どうすんだよ。あの機能、宿主じゃ扱いきれねぇような要素しかねぇぞ』

『えぇ。わかっています。それに加えあと二年……どうしたものか……』

『人間を悪魔に変えることができるもんがあるってなぁ知ってっが、悪魔が乗ってくれるとも限らねえし、そもそも、宿主がなりてぇかどうかすらわかんねぇしな』

『仙術を本格的に学ばせてあげたいですけど』

『そんな知り合い……いたわ』

『いるんですか!?』

『ま、連絡とれないけどな』

『ダメじゃないですか。一応参考までに聞きますけど、どなたなんですか?』

『初代沙悟浄』

『有名どころじゃないですか!? なんで、その人と知り合いなのに、宿主の寿命を削り続けるような仙術を?』

『ほら、こいつの先代の宿主がよ、沙悟浄の末裔だったんだけどな』

『それは、あなたが彼にあったときの姿の?』

『そうそう。あいつ。ヤンチャして、仙術暴走させて死んだんだよ。そのときの仙術を覚えて、今の宿主に還元してたって訳だ。ま、つまるところ、俺は仙術素人なんだよ』

『危険すぎるじゃないですか。よく、彼も耐えられるものです』

『元来の性質だろ。あいつの素質はおめぇもわかってんだろ?』

『神器に目覚めて、すぐに『賢者の石(エレメント・ストーン)』を操れていましたからね。相性の問題かと思っていましたけど』

『実際、そうだろ。じゃなきゃ、普通、暴走する形体を治療なんかにあてらんねぇ』

『たしかに、そうですね。あの段階で死んでないだけ、儲けものです』

『かっはは、だからよ。マジでこれからどうするよ。おめぇのせいで失くなった二年分』

『決まっているでしょう?』

 

 ホーエンハイムの『ふふふ』という笑い声が、穴蔵に響き渡った。




今回、急な強化をしましたけど、防御力が上昇しただけです。
本人の実力次第で化けますけど、この段階だとまだまだですね。

少し前に語りたかった内容の一部をラストにいれることができたので少し満足です。

それでは、また次回、お会いしましょう。


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第12話

 今日、僕は目を覚ますことができた。

 

「そういえば……」

『肩とお腹の傷は昨日のアドレナリンが過剰分泌中に縫合しておきましたよ。血液がほとんど失われていたので、今日は学校をお休みしてください』

「なんで、失血死してないのか疑問でならないんだけど」

『そりゃ、おめぇ、生命維持のために可能な限り生かそうとしたからじゃねぇか?』

「ジグが?」

『はっ! だーれが、おめぇの心配すっかよ』

『神器は宿主を可能な限り生かしますから、ジグが生かそうとしたというのも間違いないのでは?』

「神器と封印された妖怪の意思って違うものなの?」

『私とジグ、神器そのもの、ジグに恨みや世界に対するやるせなさ等の合わさった怨念の四種類があなたに宿っていますから、別物でしょうね。神器の方はシステムが大きく関わっているとは思いますけどね』

「システム?」

『あなたの気にする必要のないことですよ。私が言いたかっただけです』

 

 自己中心的な……。

 

「でも、学校にはいくよ。お腹が裂かれた程度で休めるほど、僕も暇じゃないからね」

『普通は病院にいくから休めるはずですけどね』

『こいつに病院に行けるような金はねぇし、ホーエンハイムは医者だろ? 診てやれよ』

『魂だけの存在に無茶言わないでください。そもそも、私の専門は医化学と錬金術ですからね?』

「ほへぇー」

『思考を停止しましたね』

『思考停止したな。おい、宿主。ちょっと、用事あっから、こっちこい』

 

 僕は、ボーッとしたまま目をつむり、神器へと意識を傾ける。

 グゥーっと神器に飲み込まれるような感覚に包まれ、その感覚が晴れ、目を開けると、金髪の女の子の姿をとったジグがいた。

 

「で、なにか用?」

『かっはは、ちょっと、ついてこいよ。おめぇに紹介してぇやつがいてな』

「へぇー。どんな人なの?」

『この姿のおめぇの先代だよ』

 

 ──………………

 

「えええええええええええええええ!!!!!!?????」

 

『んだよ。るっせぇな。てめぇの先代に会わせてやるっつってんだよ。おめぇに縁もゆかりもねぇやつじゃねぇしな』

「どゆこと?」

『おめぇの親戚に当たるやつだからな』

 

 ジグのその言葉に僕は今日二度目となる叫び声をあげた。

 まさか、親戚に同じ宿主がいたなんて……。

 ジグに案内され、その人物がいるらしい部屋に入ると、禍々しいオーラに襲われた。

 

「じ、ジグ。これなに?」

『かっはは、経験すんのは初だったな。こいつぁ、おめぇも知っての通り、先代までの怨念が詰まってんぜ』

 

 オーラの波に呑まれそうになるものの、なんとか意地だけで耐える。

 

『やっぱ、おめぇはそんな感じか』

「どういうこと?」

『こっちは、あの童貞じゃ干渉できない領域だかんな。相応の精神防御がねぇと、呑まれっかんな』

「あはは、なんか、このオーラっていうか、この感じが妖人化に似ているからかも?」

『かっはは、割りと今までの経験がいきたってとこか』

「そうかも。それで、どこにいる人がジグの紹介したい人?」

『この姿を想像すれば、相手から近づいてくっぞ』

「え? そういうもの?」

『ま、俺の姿形のモデルを呼びてぇだけだし、神器のなかっつっても、精神世界みたいなもんだしな。距離も空間もおめぇの想像次第ってもんだ』

「そういうもなの?」

『そういうもんだ』

 

 僕はジグに言われるがまま、ジグの姿の女の子を想像する。なんとなく手を前にかざしてみた。

 すると、なにかスベスベした感触が手に触れる。

 

「え?」

 

 僕の手を握りジグの容姿と同じ女の子が目の前に現れる。

 

『宿主……おめぇの、そういうとこ、やっぱ童貞だわ』

「いや、なんとなくの思い付きだし、中学生感覚が抜けなかっただけなんだって」

『わーってるって、ほら、穴蔵部屋までつれてこい』

「え、それ、僕の仕事?」

『おう、めんどいしな』

 

 だと思った。

 僕は少女を背負い、この部屋に来る前の穴蔵に行く。

 

「そういえば、あの、オーラの満ちた部屋から漏れ出てたのが、僕の妖仙化の悪影響与えてたやつ?」

『そうだよ。世界中からとか、なんもねぇ空間から悪気なんざ、得られねぇよ。むしろ、あの空間なら悪気なんざ、とることんが難しいっつの』

「あぁ、なるほど……だから、妖仙化しようって話になったとき、めちゃくちゃ反対してたんだ」

『……んなんじゃねぇよ。ほら、さっさと、そこに寝かせな』

 

 そういわれ、僕は少女を寝かせ、バタンと背中から地面に倒れる。

 

「つ"ーか"ーれ"ーた"ー」

『おら、次の作業だ。糸だせ糸』

「なんか、今日のジグスパルタじゃない? ちょっと休ませてよ」

 

 僕は文句を言いながらだけど、適当な長さの糸を作る。

 

『あぁ、こっちじゃねぇ、赤いんだ赤』

「わかったよ」

 

 僕はジグに言われるがままに赤色の糸を作り、ジグに伸ばす。

 するとジグは、糸を少女の左手の薬指に巻き付ける。

 

『よし。おい、童貞野郎。こっちの準備は整ったぜ!』

『わかりました。一気に同機させます!』

 

 ホーエンハイムさんの声が聞こえたと思ったら、僕は穴蔵から平原にたっていた。

 

 

※※※

 

 

「こ……こは?」

「あたしの世界みたいなもんでしょ。たぶん。あたしが生きてたら叔母になるのかな? 笹川(ささがわ)兎尾《とび》っていうの」

 

 平原にたつジグと同じ容姿をした少女は、そんなことをいう。

 

「あぁ、ごめんなさいね。怨霊になってから十数年もたってしまっているから、なかなか、ふつうをというのがわからないの。でも、そうよね。親戚が自分に宿っているって不思議な感覚よね。ふふ。こうして甥のお世話ができるというのも不思議ね。だって、あたしは死んでいるはずだもの」

 

 理解が追い付かず困惑するが、少女はお構いなしに、しゃべり続ける。

 

「そういえば、ここがどこかおしえていなかったね。ここは、あたしの精神世界。あのお節介二人があたしの精神と、あなたの精神をあなたの糸を通じてリンクさせた場所なの」

「ちょっと待って。話に追い付けない」

「ん? ごめんごめん。あたしだけがしゃべってるものね。ちょっと、黙っておくから聞きたいこと聞いて」

 

 そういうと、じーぃっと僕を見つめてくる。

 瞳を覗かれる感覚が、なかなか慣れず、思考もまとまらない。

 

「…………」

「…………」

 

 僕は最終的に限界を迎え、兎尾さんから目をそらした。

 

「どうして目をそらすの? ほら、叔母さん怖くない怖くない」

「いや、そうじゃないから。それに、その容姿で叔母さん言われても理解できないし、そもそも、僕の親戚は……」

「全員死んでるんでしょ? 知ってるよ。あなたの母方の方はあたしの存在を知るために、あなたの父方の方はあなたを探すために殺されたのだから。ま、そんなことより、現世での姉さんはどうだった? 大人になってきれいになってた? どことなく姉さんの雰囲気も持ってるから、あなたが、神器のなかに来たときにすぐにわかったよ。怨念が表に出てたから、声をかけれなかったけれど、こうしてあなたと会えて嬉しいの」

 

 凄い勢いで話すので、僕は若干気圧されていた。

 

「あ、あの。僕も親族に会えて嬉しいんですけど……」

「そうだよね。こんな偶然……あ、そもそも、土蜘蛛の糸って結構珍しい部類の神器なんだった。たしか、宿主の関係者に宿りやすい傾向にあるって。だから、基本ランダムに決定される神器の宿主が、この性質のせいで、あたしの死んだとしに産まれたあなたに宿ったのね。なるほどぉ」

「勝手に納得しないで……それとちゃんと僕にもわかるように説明して」

「えっと、そういわれても、そのまんまなの。あたしに宿っていたときに、すでにあなたは胎児で、あたしが死んだときにあなたが産まれた。だから、糸が縁を結んだってこと」

 

 意味がわかるようなわからないような、そんな感じの説明を受ける。

 

「ま、そういうことはどうでもいいの。あたしの役割とか、よくわからないけど……って、ちょっとまって、なんであなた、生命力がそんなことになってるの!?」

 

 兎尾は驚きながらも、僕をじっと観察する。

 

「そう。そういうことだったのね。だから、私が……土蜘蛛も錬金術師も、私の甥に何て無茶を……」

「えっと、兎尾……さん?」

「あ、そうね。あたしのことを何て呼べばいいのかわからないものね。普通にお姉ちゃんでいいよ。それと、タメ語でオッケー。甥に敬語を使われたらお姉ちゃん悲しくて泣いちゃう」 

「いや、あなた見た目十四歳じゃ……」

「怨念になった理由も、あなたに会えなかったことが原因だし、もう、表層状態のあたしも、今の状態になってると思うの。だから、プリーズコールミー。お姉ちゃん」

 

 なんか、ぐいぐいこられて困る。助けてジグぅー!! 

 

 僕の心の声に普段なら反応するはずのジグは、なにも返してこない。

 そんなことを思っていても、状況は進まず、いまだに兎尾は僕に『お姉ちゃん』呼びを強要してくる。

 

「兎尾……」

「ノンノン、お姉ちゃん」

「兎尾叔母さん」

「ぶっとばすよ? お姉ちゃん」

「兎尾姉ちゃん」

「ぶっきらぼうだけどそれはそれでいいわ!! そう! これ! これなのよ!! お姉ちゃんが十六で身ごもったときから、ずっと夢だったの!! 姉さんから聞いてない? 姉さんできちゃった婚だったっていうこと」

 

 兎尾姉ちゃんから衝撃の事実が飛び出し、僕の理解力は低下し、なぜか疲れが増加した。

 

「夢にまで見た甥っ子に会えた。あぁ、成仏しそう。でも、あたしの役割はこれだけじゃないのよね……。わかってる。わかってるの」

「兎尾姉ちゃん?」

「どうしたのー、海樹くん。お姉ちゃんがなでなでしてあげよっか?」

「いや。それはいいんですけど、どうやったら、精神世界内精神世界から出られるんですか?」

「あ、そう。そっち……。もっと、お姉ちゃんと一緒にいたいのかと思っちゃった。まぁ、やり方は簡単よ。気づいてる? あたしの薬指とあなたの薬指に赤い糸があるでしょ? それを切ればいいの」

 

 そういわれ、自分の左手を見てみると、確かに薬指に赤い糸が巻き付いて、糸の先には兎尾姉ちゃんの左手の薬指に赤い糸が巻き付いている。

 

「えっと、切るってもしかして手で?」

「どんな方法でもいいのよ? その糸があたしの精神世界にあなたを繋ぐ中継機みたいな役割をしているだけだから、それを切れば電話みたいにぷっつり切れるの。あ、帰りたくないならずっとそのままでもいいけど、実際に神器の外との時間経過もおんなじだから、気を付けてね?」

「え? もしかして……」

「学校遅刻確定ね。まあ、けど、今日は土蜘蛛たちと同じで登校は反対かな。安静にしないと」

 

 うぐっ、さすがに三人に同じことを言われて、かつ遅刻も決定してしまっている。

 た、ただ、連絡手段が……。

 

「うーん。ま、それは仕方ないということで割りきって」

「…………」

「そんなかおされちゃうと、撫でたくなっちゃうじゃない。よしよーし」

 

 不満だと意思表示したら、なぜか撫でられた。

 そして、満足したのか、ふーっと、大きくため息をつき、地面にストンと座る。

 

「それじゃあ、今日はここまで。一日目は顔合わせって決まってるから。海樹くんと二人きりの空間じゃなくなるのは悲しいけど、土蜘蛛たちのところのあたしの怨念は晴れてると思うから、表でもよろしくね」

 

 僕はコクりと頷くと、糸をブチッと千切った。




新キャラ登場!叔母さんだぞ。
オネショタ?見た目は中学生だから、ロリオニが正解だぞ。
産まれた年がロリの方が早いだけで。

一人称は使い分けるタイプの子です。基本は見た目通りの髪染め系金髪中学生ギャルママロリですけど、本質はまあ、作品が進めばってことで。
それでは、また、次回お会いしましょう。


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第13話

 赤い糸を切り、目を開ける感覚を覚えると、僕の顔を覗き込むジグの姿があった。

 兎尾姉ちゃんと同じ容姿だが、なんとなくジグの気配がした。

 

「おはよ。ジグ」

『かっはは、よく俺だって、わかったな。さっきまで二人っきりの世界に入り浸ってたくせによ』

「付き合いの長さ、かな? 僕からしてみたら、兎尾姉ちゃんのマイペースさがなかったから」

『兎尾姉ちゃん?』

「うん。精神世界でそう呼ぶように言われたから」

「ほんとはお姉ちゃんがよかったんだけど、妥協してそうなっちゃった。ま、海樹くんが生きられるなら……って、そうだ。土蜘蛛! あんた、よくも私の甥の寿命を縮めるような真似をしてくれたわね!!」

『おいおい、確かに強化案として妖人化を勧めたなぁ俺だが、それを使うって決めたのは、こいつだぜ?』

「それでも、止めれるところはあったし、逃がすってことだってできたでしょ?」

『人間と異形のスペックを一緒くたに考えんのは、やめとけよ。それこそ、こいつが死ぬことになる』

「わかってるけど……」

『じゃあ、この話はしめぇだ』

 

 いまだ納得してない様子の兎尾姉ちゃんだったが、ジグがもう聞く耳をもとうとしないことを確信し、僕の方を向いてなにかを訴えかけてくる。

 

「……海樹くんはそれでいいの? あと長くても二年しか寿命がないっていうのに……」

「あ、それは、なんとも。今なんで生きているのかわからないので、気にしてなんていられないですよ」

「そう。そっか。それなら、いい加減私も一肌脱がないとね」

 

 覚悟を決めたのか、パンッと自身の頬をたたくと、兎尾姉ちゃんは怨念のたまった部屋をなんらかの結界で塞ぐと、僕に向き直ると、どや顔をかましてくる。

 

『おい、どや顔してねぇで、さっさと始めやがれ』

「うるさい土蜘蛛。海樹くん、どう? お姉ちゃん凄い?」

『ジグ、どうやら、この方にはあなたと私は見えていないようですよ』

『せめてもの抵抗ってやつか?』

『でしょうね。彼女マイペースなところがありますから』

『かっはは、そりゃ、おめぇら全員に言えることだろ』

『ははは、ジグがそれを言いますか』

「そも、僕たちみんなマイペースだもんね」

「『『それはない!!』』」

 

 なにか、掛け合いをやっていたので、僕も混ざってみたら、なぜかみんなに否定された。

 だけど、どうやら、全員がマイペースではないと言う意味だととらえられる返答だ。

 そう、つまり、僕はマイペースじゃないと言うこと。僕は周りをみられるということに。

 

『おめぇが一番マイペースだろ』

「ホーエンハイムさんか兎尾姉ちゃんじゃない?」

『こうやって話をそらして、本題に入らないあたり、マイペースさが伺えますよ。二人とも』

「それじゃあ、本題に移ろう。兎尾姉ちゃん。これからすることってなに?」

「あなたの修行。簡単な仙術講座をするの。一番はお師匠様に教えてもらうことなんだけど、ここに呼べないし、向かうにしても、飛行機代とかだせないでしょうから、基礎をあたしが教えるの」

「へぇー。そういえば、兎尾姉ちゃんたまに一人称変わってるけどどうして?」

『おめぇ、やっぱ、マイペースだな、おい』

 

 え? だって、気になるじゃん。ちょくちょく、『私』って使ってるんだよ? 

 気になるでしょ? 

 

「あ、それ? うーん。正直、昔の癖が抜けてないだけだと思うよ。小学生まで『私』っていってたから」

「あ、深い理由とかないんだ」

「あはは、ごめんね。変な勘違いさせちゃったね。よし、それじゃあ、話を戻して、仙術について話していこうか」

 

 兎尾姉ちゃんはそういうと、張り切った顔で、どこからか現れたホワイトボードと黒いマーカーをもち、メガネをかけ、僕を椅子に座らせた。

 

 この空間は確かに精神世界みたいなものらしいから、こういう風になるのもわからなくはないけど、僕の意思関係なくできるものなのだろうか? 

 

 そんな疑問にかられながら、僕は兎尾姉ちゃんの講座を聞き流しながら聞いた。

 

 

※※※

 

 

 仙術講座が終わり、目を覚ました僕は、兎尾姉ちゃんに睨まれていた。

 ジグは笑をこらえているのか、肩が細かく上下していることがわかる。

 

「ねぇ、海樹くん。あたしの授業、つまらなかった?」

 

 僕の瞳を覗き込む兎尾姉ちゃんはなんとなく怖く、また、その問いかけは僕の良心がめちゃくちゃ痛んだ。

 この人、僕より早く生まれて、僕より先に亡くなっちゃったせいで、僕より年下の容姿をしている。

 まあ、要するに、年下に上目使いで、さらに瞳に涙を浮かべられ、問いかけられている。

 そして、本音を言うとつまらなかった……というより、関心がわかなかった。

 確かに僕が扱うべき技能の話なのはわかる。だけど、そういった細かいことは大体ジグに丸投げして、僕は体を動かしている方が性にあってしまっているのだ。

 

 まあ、とどのつまり、僕よりジグが理解してくれていれば問題ないということなのである。

 

「ねぇ、そんなに、お姉ちゃん。ダメ? ダメな子だった? ごめんね。海樹くん。今度はもっと興味を持てるようにちゃんと話すから、見捨てないで?」

 

 なにか、こう、禍々しいオーラが兎尾姉ちゃんの周りを蠢いており、兎尾姉ちゃんの表情も物凄く暗く、落ち込んでいるのがわかる。

 僕はジグに目配せすると、ジグからは首肯が返ってきた。

 

「ね、姉ちゃん。さっきは、僕が悪かったから、気にしないで。そういった、技術とかはジグにやらせてたから、よくわからなかっただけなんだよ」

「そっか。私の説明全然わからなかったんだね。ごめんね。今度はちゃんと、ちゃんとやるから」

 

 僕の返答に更に暗くなっていく兎尾姉ちゃんの表情。

 やばい、地雷踏み抜いた? やばい、どうしよう。こういうときの対処法とか知らないよ。僕。

 

「え、えっと、姉ちゃんの説明が悪かったわけじゃないと思うんだ。僕はこう、習うより慣れろってタイプだから、あんまり、勉強が得意じゃないだよ。だから、ほら、姉ちゃんが手取り足取り教えてくれると、僕、嬉しい……なぁ」

 

 そういうと、パァと暗かった表情が晴れ、周りを蠢いて腰の高さまで来ていた禍々しいオーラもなくなった。

 

「そっか。そういうことだったのね。それなら、今から教えてあげるね。ちょっと、そこに胡座をかいて」

「う、うん。わかった」

 

 僕は地面に腰を下ろし、胡座をかく。

 

「よし、それじゃあ、目をつぶって空気の流れを掴む意識を向けようか」

 

 そういわれ、僕は目をつむり、空気の流れとか言う不確かなものを掴むよう意識を傾ける。

 

『おい、おめぇら、盛り上がってッとこわりぃが、こかぁ、神器ん中だってことぉ忘れてねぇか?』

 

 あ、それ、今の兎尾姉ちゃんには……

 

「そっか。そうだったね。ごめんね。役立たずのお姉ちゃんで」

 

 ズンッと落ち込む兎尾姉ちゃん。

 これは、ジグが悪いよ、ジグが。

 僕はジグを睨み付ける。

 

『お、俺かよ』

『やる気が出たタイミングで出端をくじいたのは、あなたですからね』

「ってことで、ジグたちはちょっと黙っててね?」

 

 僕はなんとなく次はホーエンハイムさんがやらかしそうなので、牽制球を放っておく。

 

「ほら、姉ちゃん。ジグのことは気にしなくてもいいから。ジグだってこっちから、仙術使ってくれてたんだから、ここからでもちゃんとできるから、ね?」

「うん。ごめんね。海樹くん」

「いいよいいよ。僕、兎尾姉ちゃんがこうやって教えてくれるだけでも嬉しいんだから、ね?」

「うん。うじうじしない。土蜘蛛の言うことも気にしない。海樹くんの言うことだけ聞くから」

「あ……うん。わかった」

 

 ジグが『こいつの怨念晴らすの早すぎたか?』と、若干後悔している節が見受けられる。

 わからなくもないけど、声に出すとまた落ち込んで、あのオーラに包まれそうなので、声に出さない。

 

「それじゃあ、僕は神器の外に出るから、兎尾姉ちゃんはこっちから、指示だして」

「うん。任せて。海樹くんがうまく仙術を扱えるようになるまで、ずっと一緒にいるから」

「わかった。それじゃあ、任せたよ兎尾姉ちゃん」

 

 僕は意識を神器の外に出し、自分の精神世界から現実の穴蔵に戻る。

 

「っつぅ……」

『大丈夫ですか? まだ、完全になおりきっていたわけではないみたいですね……』

『やっぱ、学校は休みだな』

『そうね。海樹くん。今日はゆっくり休みましょう。変に修行して傷が開いたらお姉ちゃん悲しくて怨念になっちゃいそう』

 

 洒落にならんこと言わんでください。あなた、軽く失敗しただけでも怨念になりかけてたのに……。

 

「大丈夫、大丈夫。もう平気。ちゃんと深呼吸して整えたから」

『普通は病院案件なんだけどな』

「そんなことより、仙術の修行でしょ? そっちの方が重要だよ」

『そうなのね。じゃぁ、まずさっきみたいに胡座をかいてもらいたいけど、その傷だと危ないからね。そのまま、楽な姿勢でいいから、深呼吸を繰り返して。うっかり寝ちゃわないように注意して』

 

 僕は指示通り、胡座をかいて深呼吸を繰り返す。

 あ、確かに眠い。このまま寝れそうなくらいには眠くなってきた。

 僕は眠くなる頭をこらえながら、兎尾姉ちゃんの声を聞く。

 結構、いい声だから更に眠くなるけど、我慢我慢。

 

『次は、周りの気を纏うイメージ。ここは土に囲まれてるから、その土から力をもらい受ける感じね』

 

 そのイメージはよくわからないけど、気を纏えばいいんだよね。纏う……纏うか……。

 

 よくわからないから、服を着るような感じでいいかな? 僕にはこっちの方が分かりやすいし。

 そうすると、なにかが薄い膜をつくり僕の全身を包み込むような感覚がしてきた。

 

(『頭と手、下半身以外に気が集中してる……このまま続けるのは危ないかも……』)

『はい! そこまで。海樹くん。お疲れ様。それが仙術の基本、気を纏うというものね。仙人クラスはそれを当然のように日常的に纏っているから、隠れていてもすぐに見つかるし、探してもすぐ見つからないの』

『気を纏って、自身の生命力を刺激し続けっから、アホみてぇに長寿だったりすんだぜ?』

「それじゃあ、これに妖力を混ぜれば……」

『ダメ。それはまだ早いの。あなたの実力だと少なくとも寿命を縮めるし、それをやってしまうとあなたは死ぬ。それを許容することはあたしには無理。ほぼ百パーセント、あなたの体を使って世界を滅ぼすように動いちゃう』

「わかった。やらない。とりあえず、仙術を扱いきれるようになるまでは、妖力を混ぜることはしないよ」

『お姉ちゃんとの約束よ? それと、気を纏うのも終了』

 

 パンッと手を叩く音が神器から聞こえ、纏っていた気が散った。

 すると、ドッと疲れが僕を襲い、ベッドに倒れた。

 

『それじゃあ、お休みなさい。明日はもう少し先のことをやるから、しっかり休むのよ』

『保護者様は、よくやるねぇ……』

 

 僕は神器から聞こえてくるそんなやり取りを聞き流しながら、グースカ眠ってしまった。

 そういえば、ご飯……食べてないなぁ。




兎尾お姉ちゃんによる仙術講座……は、海樹が眠ったことにより全カットされました。
あと、兎尾が何回か闇落ちっぽいことになりましたが、魂がむき出しになってしまっているため、感情のコントロールができないからですね。

いまだに一巻の内容が終わってないのに、主人公強くしても問題ないかな?と思われるかもしれませんが、正直、残り数年しかない命を長く保たせるためには、こうした技能を持ったキャラクターに教えてもらうというのが手っ取り早いと判断したからですね。そのために、封印系の神器にしましたし。

まあ、まだ、初代沙悟浄が出てくることはないですし、ミッテルト生存ルートをどうしてやるかが、今のところネックなんですよね。たぶん、20話近くやってようやく一巻の内容が完結すると思います。

え?そうなったら、他の原作の内容はどうなるのか?だって?めちゃくちゃ長くなるに決まってるじゃないですかぁ、やだぁ。はぁ……。
まあ、たぶん、四巻の戦闘、五巻、そしてどこかで暴走させるときが確実に長くなると思います。

それでは、また、次回、お会いしましょう。


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第14話

お待たせしました。十話過ぎているので気づけば週一投稿になっております。

そして、まだ一巻の内容です。


 その日の夜、僕は目を覚まし、散歩がてら外を出歩いていた。

 

「ふぅー、やっぱり、穴蔵じゃ休まるものも休まらないよね」

『かっははは、おめぇよくそんなこと言えんな』

「一応言うけど、穴蔵生活は今年がはじめてだからね? 去年までは一応アパートで暮らしてたわけだし」

『それでよく、食べられる野草とか知ってましたね』

「母さんたちが、教えてくれてたから」

『あ、そっか。姉さんはレジャー系が好きだったから、自然に関連する知識は深かったっけ』

「一応、僕の家の形を一定でとどめて、酸素の供給を絶たないのも、母さんがある程度穴蔵での生活になれてたって言うのもあるらしいから」

『ちょっと、それは、初耳。なんで、姉さんそんなことしてたの? 現代社会で普通は起きないようなことでしょ、それ』

「それは、僕にもわからないけど、たぶん、秘密基地とかそう言うのを本格的に研究したからじゃないかな?」

『……そういえば、小学生の頃からそういうことしてた……。姉さんあのまま成長しちゃってたんだ……』

「そもそも、母さんでき婚……」

『あ……うん。そうだったね……考えるだけ無駄な、行動力の塊だったものね……』

 

 僕も兎尾姉ちゃんも母さんのことを思いだし、黙ってしまった。

 うん。母さんの性格上、結構アウトドアが好きみたいだし、秘密基地とかの話を枕元で嫌ってほど聞かされたし……。

 

 僕らがそんな話をしながら町の散策をしていると、ホクホク顔の兵藤先輩が歩いていた。

 兵藤先輩は、僕の存在に気づき、手を振り近づいてくる。

 

「おーい、海樹。こんな時間になにしてんだ?」

「あ、兵藤先輩。先輩こそ、何してるんですか?」

「松田の家でDVD観賞してからの帰りだよ。そういうお前こそ、学校休んでたのに、外であるいて大丈夫なのか?」

「お昼にいやってほど、寝ちゃったんで、眠くないんですよ。眠れないし散歩でもしようかなって」

「風邪とかで、ぶり返したら大変だろ。送ってやるから、ちゃんと休めよ」

「大丈夫ですよ」

 

 僕は、兵藤先輩と今日の学校での覗きはどうだったとか、見たDVDで彼女すらいないことに深い悲しみをおったとか、そんな他愛のない話をしながら、公園に向かっている道中。スーツ姿の男が目の前から歩いてくる。

 

 纏う雰囲気は、不気味そのもので、そして、このオーラを僕は知っている。

 

「兵藤先輩。今すぐ逃げた方がいいです」

「海樹? お前、急になにいって……」

「主の来る気配のない悪魔と指定討伐対象……。どうやら、私は運がいい。以前、仕留めきれなかった者を今一度、仕留めれるチャンスを与えてもらえたのだからな」

「狙いは僕か……」

「不穏分子がないかの見回りで偶然、貴様に当たっただけだ」

「なら、引き返しててもらって」

「そういうわけにもいかない。貴様は討伐対象。契約も満了している。ならば、私が貴様を逃がす理由がないっ」

 

 予想通りというか、なんというか……男は光の槍を作り、僕に突きを放つ。正直、兵藤先輩の前で使いたくなかったんだけどなぁ……。

 

 僕はそう思いながらも、神器を出し鉄糸を腕に絡ませ、堕天使の男の槍を受け止める。

 

「兵藤先輩。こいつの相手は僕がするので、早く逃げてください」

「で、でも……」

「でもも、なにも、あなたに戦える能力はないんですから、早く逃げて!! 足手まといなんです」

「……っ!? 絶対助け呼んでくるからな! それまで死ぬなよ!!」

 

 そう言うと、兵藤先輩は駆け出した。

 あてとかあるのだろうか? なんて、気にしていられない。

 今はこの男。たしか、ドーナシークっていったっけ? を相手しないといけないからね。

 

「素直に逃がしてくれるんだな」

「この時間、誰が助けにはいれるでもなし、貴様を殺してから、追えば問題ない」

「言うな……」

 

 僕はドーナシークの攻撃をさばきながら答える。

 

「そら、どうした? その程度か?」

 

 ドーナシークにはずいぶん余裕があるようで、そういいながら、槍を振り下ろしてくる。

 僕はそれを反らし、回し蹴りを頭めがけて放つ。

 だが、僕の回りし蹴りそのものに威力がなかったのか、はたまた、なれてない行動のため、簡単にいなせれたのかはわからないけど、有効打足り得なかった。

 

 体制を整えようとする僕に、ドーナシークは再度槍を放ってくる。

 

「ジグ!」

『あいよ!!』

 

 僕はジグに手に巻き付けていた糸の操作を任せる。

 すると、糸はドーナシークの腕ごと、槍を包み込み、誰の家かは知らない壁に放り投げた。

 壁に激突し、大きな土煙が立ち込める。

 

「よしっ」

『警戒怠んな。相手が死んだと確認できてねぇんだ』

「うん。わかっ……」

 

 僕がジグに返事をしようとすると、土煙の中から光の槍が飛んできた。

 僕はそれを上へと弾き、糸を操り手に納め、土煙に向かって投げ返す。

 命中したような手応えはない。

 

「封印された魔物と手を組み、互いでカバーをしあう。なかなかに面倒だ」

 

 ドーナシークは土煙を払いながら姿を表す。

 

「だが、それは、一対一のときの話だ」

『海樹くん! 堕天使と悪魔払いがすごい速度で近い付いてきてる!!』

「なんで!? 教会とここはそこそこ距離があるはずなのに!!」

「我ら堕天使は空を飛ぶ。ようは、人間を持ち、ここまで飛んでくれば全く問題がないということ」

「人間の体はちょっとした負荷で限界を迎えるはずだけど?」

「悪魔払いになるときの訓練は相当厳しかったみたいでな。多少の無茶な行動にも耐えられる」

「それ、人間として適応してもいいもの?」

『そういうんなら、宿主もおかしいんじゃねぇか?』

 

 そうでした。僕もジェット機レベルであればGに耐えられる肉体してました。

 

『それより、もうすぐ到着するけど大丈夫なの!?』

「あっ……。兎尾姉ちゃん。僕のできるレベルの仙術ってどんな感じ?」

『気配関知と気を軽く乱させるくらい。自身の気を薄くしたりはまだ無理なの。一応、軽い応用で糸に気を纏わせることは可能ね。ただし、三十秒。それ以上は暴走するリスクがあるからね』

「ありがと」

 

 ふぅ、と、僕は息を吐き出し、糸を周囲に張り巡らす。

 戦場は住宅街のため、そこら中壁があるので糸を利用して、僕に有利に動ける環境が作れる。

 

「なにが目的か知らんが、やらせると思うか?」

 

 当然、自身が振りになってたまるかと、ドーナシークは槍を投げてくる。

 僕の神器にある糸の排出口は、十九。張り巡らすために使っている排出口は八。

 二つの穴から、槍を糸に絡ませ、残りの九の穴から鉄の槍を編み、片手にドーナシークの槍、もう片手に僕の作った槍を装備する。

 

「安直だな。槍を二振り持ったところで、技量がついてこなければ意味がない」

「わかってるよ。でも、あなたの武器を奪うことに意味が……」

「無意味だ」

 

 ドーナシークはそういって、僕の持っていた光の槍を消す。離れていても操れるのね……。

 だけど、糸を乱雑に張り巡らせることはできた。

 僕は、後ろにある網目上の中心の糸を踏み、ドーナシーク目掛けて跳んだ。

 体を地面と並行にすることにはあまりなれてないけど、糸疣が僕の口にできていたように、妖怪の力そのものが少しあるため、姿勢制御は僕自身の妖力でする。

 すれ違いざまに槍で切りつけようとしたが、軽くいなされ、僕は地面に落ち、数回バウンドしたあと、立ち上がった。

 

 そして、立ち上がり、ドーナシークを視界に納めると、昨日あった神父と、会ったことはないけど、オーラの感じから、堕天使であることのわかる女性がいた。

 

「ついちゃったか……」

「やっほー昨日ぶり。昨日は萎えたけど、今日は全くいいころころ日和だねぇ」

「ドーナシーク。こいつは……」

「問題ないだろう。計画に不穏分子が紛れ込むのは避けるべきだろう? 契約自体も満了している。それに加え、指定討伐対象だ。ミッテルトが何かしているようだが、我らの計画に支障が出るようならこいつを今のうちに始末しておく方がいいのとは思わないか?」

「なるほど。確かに一理ある」

 

 全くないです。僕の都合が全く考慮されてないです。

 

 まあ、そんなことはよくあることだし、当たり前だ。気にするだけ無駄というもの。

 僕はまた、大きく息を吐き出し、呼吸を整え、敵三人を視界に納めながら、仙術を使えるよう、気を練り始める。

 三十秒。僕に課された仙術を暴走せずに扱える時間制限。

 あからさま僕の雰囲気が変わったことに気づいた三人は、神父が銃で、他の二人が槍を放ち、攻撃してきた。

 

 僕は、それらを弾丸は体をそらし、槍は掴んで神父に向かって投げかえす。

 神父は槍二つともを切り落とし、さらに一発放ってきた。

 それに合わせるように、二人は接近してきて、槍を振るう。

 

 僕はそれらを拳で受け流し、気を纏わせた糸を女の方に放つ。

 それをまともに食らってしまった女の堕天使は、全身に一瞬だけ痺れが起きたのか、動きが止まった。

 

 さすがに、弾丸を避けながらというのは辛いため、ドーナシークをうまい具合に使って弾除けにしているが、どのタイミングで女の堕天使が動けれるようになるかがわからない。

 

(『ヘルメットを出してください。私の方で防御はしますから、攻撃だけに集中してください』)

 

 突然、頭にホーエンハイムさんの声が流れてきてビックリしたが、僕は指示通り、ヘルメットを出現させる。

 すると、魔法陣が展開され、神父の放つ弾丸はその魔法陣を介して無力化される。

 

(『海樹くん、もうそろそろ三十秒たつわ。次の一発で最後にするように』)

(『そんな余裕ねぇだろ。冷静に考えやがれ』)

(「いや。大丈夫。それも視野にいれてたから」)

 

 僕は仙術状態を解除しながら、回転しながら、糸を伸ばす。

 遠心力の加わったワイヤーが壁に食い込み、襲いかかる。

 

(『もったいねぇな、おい』)

(『場所によりますけど、今回は逃げ場を塞ぐと言う意味では有効ですよ。糸の排出口自体はヘルメットにもありますから』)

 

 ドーナシークや女の堕天使は飛んで避け、神父は波状で襲いかかるワイヤーを次々と切って、勢いを削ぐことで、攻撃を食らわないようにしていた。

 地面一体に大量の糸が撒き散らかされ、逃げ場を封じていた網状の糸やそこら辺に張り巡らせていた糸もすべてが、地面に落ちている。

 

「ジグ。属性混合糸、土、火、水」

『数多いなこんにゃろ』

 

 僕は簡潔にジグに用件を伝え指をしたにするように手の甲をかざす。

 すると数秒後に、糸の排出口から、黒い油が噴出した。

 

(「ホーエンハイムさんは火除けの魔法を、ジグは火の糸をお願い」)

(『わかりました。完成次第発動します』)

 

 すると、神父が僕の方に突っ込んできて、光の剣を横になぐ。ドーナシークと女の堕天使も同様に近づいて攻撃を仕掛けてくる。

 

 僕は剣を避け、二人の堕天使を糸で絡めとり、口から粘性のある糸を網目状にして吐き出した。妖力も乗せているため、勢いも乗っていたが、神父により簡単に切り裂かれてしまった。

 三人係と言うことも相まって、神父が切り裂いたあとにさらに二人が攻撃を仕掛けてきて、それを必死に避けていると、油まみれになった糸で足を滑らせ、転んでしまう。

 

「自分で仕掛けた罠に自分で引っ掛かってしまっては、本末転倒もいいところだな」

 

 ドーナシークが僕に槍を突きつけていうと、槍を心臓目掛けてつきだしてくる。

 その瞬間、ホーエンハイムさんの魔法陣が目の前に展開された。

 

 僕は火の糸を足元に手のついた所に一番近いとこにある糸に伸ばし、引火した。




よし、色々な問題がありそうなのとネタバレになりそうなので、あとがきはぽい捨てしていこう。うん。

それではまた次回。お会いしましょう。


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第15話

 油の染み込んだ糸に火がつき、火の海と化した。

 各家庭の火災報知器も鳴っていないのはまだ煙が屋内に侵入していないからだろう。

 

「面倒なッ」

「派手にやるねぇ。サツに捕まっても知らないよ?」

「そういう意味じゃヤバイかもね。けど、身を守るためだし、問題ない」

『問題しかないよ!!』

『結界を組んで、この場に火の手をとどめます。ジグと海樹さんは敵の足止めを』

『こんのバカ宿主!!』

 

 神器組からめちゃくちゃ責められました……。うん、だよね。

 

 僕はホーエンハイムさんの結界が組み終わるまでの間、三人組の相手を再度しないといけない。

 ホーエンハイムさんが、術式とかを組んでいる間は、銃弾を受け止める術式を使えないので、また、弾丸を避けないといけないけど、あれ、仙術を使ってたから、なんとかなったんだよね。

 今の僕じゃ、避けられるとは思えない。

 

 僕は、鉄糸で組んだ槍を投げる。

 それは呆気なくかわされたけど、妖力を使い、穂先からほどいて、針のようにすると、三人に向けて勢いよく飛び散らせる。

 さすがに、これは予想できなかったのか、三人とも避けきれず、何本か命中した。

 タランと垂れる糸が血を吸い、だんだん赤黒く染まっている。

 

 そんな状況にも関わらず、神父は僕に向けて数発の弾丸を放ってきて、僕は顔を庇うように腕で覆う。その隙を逃さないと、ドーナシークと女の堕天使が槍を使い、昨日、神父にやられた脇腹と肩、それに加え、顔を庇う両腕を貫かれる。

 そこからドバドバと血が流れ、足元が僕の血で染まる。

 また、火中のため煙を吸い込んだり、酸素が薄くなったりしているせいか、呼吸がしづらい。

 

 膝をつく僕に三人は近づいてきて、『今度こそ確実に仕留める』という雰囲気を醸し出しており、ドーナシークの槍は僕の首を貫かんと、真っ直ぐつき出される。

 

 今度こそ、僕は死ぬんだなと思った矢先、赤黒い塊が、槍を襲う。

 すると、ドーナシークは驚いた表情をして、数歩分を一気に下がると、言った。

 

「フリード、カラワーナ、一旦引くぞ」

「対策を立てるよう、レイナーレ様に報告だな」

「上司がそういうなら仕方ないっすね。んじゃ、バイビー。子羊くん」

 

 そう言うと、カラワーナは神父を俵抱きにし、三人は空へ飛び上がり、去っていく。

 火が立ち込める道路に倒れる僕は、肩で呼吸をしながら、腹に手をあて、その手をみる。

 手は赤く染まり、腹から流れ出る血液は休むことなく溢れ出る。

 

 やっぱり、もう限界かな? 

 

 朦朧とする視界の中、僕はそう思った。

 

「は、ハハ」

 

 自然と笑いが漏れる。

 約十五年、今年で十六年目か……周りに不幸をばらまくだけばらまいて、こんな感じで死んでいくのかと思うと、なぜか笑いが出てしまう。

 ジグや、知らない人の声も聞こえてくるが、どうでもよくなっていく。

 

 そして、ちらっと、見えた兵藤先輩に向けて、

 

「約束、守ってくれたんですね……」

 

 僕はそういって意識を手放した。

 

 

※※※

 

 

 目を開けると、最初に目に入ったのは、真っ白な天井だった。

 

「どこだ? ここ」

 

 僕はそんなことを呟きながら周囲を見渡すと、真っ白な髪の小学校高学年くらいの身長の女の子と、金髪のまるで後輩から『きゅんぱい』と呼ばれてそうな男の人を通過し、僕の制服が目に入る。

 

「ん? あれ? え?」

「起きたみたいだね。体に異常とかあるかい?」

「あ、いえ」

 

 いや、体よりこの状況が異常事態です。助けてジグえもーん。

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 え? あれ? じ、ジグ? 起きてる? 起きてるよね? 起きてるっていってよぉぉぉぉ!! 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 おかしい。普段なら、これくらいふざければ『うっせぇ、バカ宿主!!』って出てくるのに……。

 

「あ、あの、ちょっと、失礼しますね」

「うん。ゆっくりしていって」

 

 僕は木場先輩にそういい、部屋からでる。

 廊下にたち、周囲を見渡す。右に真っ直ぐ行けば玄関が、左手側にリビングと思われるところに通じる大きな扉が見える。

 とりあえず、僕の家に帰って……。

 

「トイレなら玄関を右に曲がったらある」

「あ、うん。ありがと……」

 

 って

 

「なんで、塔城さんもいるの?」

「引っ越しの手伝い」

「引っ越し? 誰の?」

「カーキ」

「僕の?」

 

 コクりと塔城さんは頷く。

 

 つまり、つまり……だ。

 

「僕お金ないんだけど!?」

 

 金欠ルート不可避ということである。

 

「カーキは最初から金欠じゃなかった?」

 

 塔城さんの鋭いツッコミが僕を刺す。

 いや、そうだけど、それ以上に

 

「ここ、それなりに高そうなの、気のせい?」

 

 三流鑑定士の僕から言わせてもらうと、ざっと月五、六万はするはずだ。

 苦学生たる僕には高すぎる額だと予想する。

 

「部長からはほんの二、三十万だって聞いた」

「えッ……むり。僕、穴蔵に帰ります。荷物も……」

「カーキの分は出世払い」

「よし、何年契約だい? 契約書持ってきて」

「ないけど」

「え"っ"……やっぱり、この話はなかったことに」

「冗談。これがそれ」

 

 そういうと、塔城さんの手元に魔法陣が出現し、数枚の紙束が現れた。

 なるほどなるほど。何枚か読めないものがあったけど、おそらく翻訳版がこの用紙なんだろう。つたない日本語が書かれた書類がある。

 内容は至って普通の契約書で、どうやら、『リアス・グレモリーの眷属悪魔として働いた分の稼ぎ』の何割かを、ここの家賃に当てるよっていうものだった。

 

「で、この眷属悪魔っていうのは?」

「上級悪魔の直属の部下って認識でいい」

「なるほどなるほど。でも、僕人間だよ?」

「昨日、悪魔になったから、カーキも悪魔」

「その契約を交わした記憶がない!! つまり、僕はまだ人間である!!」

 

 僕がそういうと、塔城さんは少し考えたあと、こういった。

 

「カーキ、服脱いで」

「エッチ!」

 

 ズドンと腹を本気で殴られた。痛いです、塔城さん。

 僕は、指示通り服を脱ぐ。切り傷や火傷、手術後のような傷跡が刻まれた肌を露出することになり、塔城さんは罰が悪そうな表情になる。

 

「気にしないでいいよ。ずっと前にできた傷だし」

「うん。それじゃあ、肩甲骨辺りから羽が生えるようなイメージをして」

 

 なにそれ。まあ、いいや。試してみよう。

 僕は指示通り背中から翼を生やすイメージをする。すると、バサッと一対の黒い羽が生えた。

 

「はい、悪魔の証明」

「それは科学で使われるやつでは?」

「悪魔になった証し」

「言い換えた」

 

 ニギニギと拳を見せつけてくる塔城さん。はい。黙ります。

 なるほど。つまりは僕もついに異形の仲間入りということか……。うーん、どうなんだろう。ミッテルトもいないから、堕天使側での僕の現状がわからないし、これはセーフなのか、アウトなのか……。

 

「話は戻すけど、カーキが悪魔になったから、これからは堕天使と会うのは部長から許可とらないとダメ」

 

 そんな僕の心情を知ってか知らずか、塔城さんは話を続ける。

 なるほどなるほど。あれ? これ、本格的に大丈夫なの? 僕出歩いた瞬間、堕天使と遭遇して状況次第で、その堕天使殺しに来ない? 

 

「さすがに堕天使も、正式な悪魔の眷属に手を出すってことはしないと思う。それこそ、『はぐれ悪魔』以外は」

「なるほどなるほど。つまり、僕の身の安全は保証されたってこと?」

「一応は」

「一応?」

 

 僕の疑問に、塔城さんは頷いて続ける。

 

「小競り合いが絶えない訳じゃないから、それで死者が出るときもあるらしい」

「うーん、まあ、それくらいなら……気にするレベルじゃないのか……?」

 

 ダメだ。ジグからの反応がないから、確信が持てない……。まあ、塔城さんがいってるし問題ないでしょ。

 

「それじゃあ、放課後朱乃さんと一緒に来るから、今日の学校は休んで、体力回復に努めて」

「昨日もやすんだから今日は行きたいんだけど」

「ダメ。あと、外に出るのも禁止。歩いてトラブルに巻き込まれてるから、私が来るまでここで生活。ゲームとかテレビはあるから、暇潰しにはなるでしょ?」

「うーん、まあなんとか、今日一日部屋から出ないようにするよ」

「一応言うけど、明日も休んでもらうからね?」

「なんで!?」

「カーキの体、ボロボロだったから、悪魔に転生させたものの、そのまま崩壊するかもってことで、結構封印とか施してからしてるから」

「……マジで?」

「マジ」

 

 もしかして、ジグたちの声が聞こえないのも、その影響? いや、でも、寿命削って肉体の強化していたから、悪魔って種族がどれだけの寿命なのかは知らないけど、それでも残り二年くらいも生きられることには代わりないのかも知れないけど。

 

「それと、修行するなら神器の中に入ってきてからだって。入ればわかるっていってたけど」

「わかった。あとでいくよ。それじゃあ、塔城さんいってらっしゃい」

「うん。いってきます」

「それじゃあ、僕もいってくるよ」

「木場先輩もいってらっしゃいです」

 

 しれっと、制服姿の木場先輩が僕の隣を横切り、靴を履く。いや、あなた、タイミング見てましたね? 

 

「あ、それと、丹芽くん、翼を納めて服着た方がいいよ」

「それを先にいってください!!」

 

 僕は慌てて服を着る。羽が邪魔だったけど、肩甲骨に収まるようなイメージをしたらすぐに消えた。

 どういう仕組みなんだろ、これ? 

 

「それじゃあ、あらためて、二人ともいってらっしゃい」

 

 僕がそういうと、二人は「いってきます」といって学校へ向かっていった。

 さて、僕も服屋にいくとするか。




お待たせしました。
いやぁ、期間が長引くとヤバイっすね。ヒロイン二人制限がわりとつらい。
なんか、ライバルキャラとか、考えていかにヒロインではないけど、ヒロインっぽいロールをするキャラが出来上がっていました。

まあ、この作品、一巻の内容が二十話を越す予定なので、めちゃくちゃ先としか言えないんですけどね。

それで、海樹くんをね、色々考えてたら、ソーナ側にも何らかのオリキャラを追加しないとと感じ、ゼノヴィアとかアーシアの扱いをどうしようかとか、色んな問題があるんですよね。
ちなみに、一番問題なのは、ドーナシーク、カラワーナ、ミッテルトの三人ですね。この作品だと、ミッテルトが、一巻で退場(本部へゴー)しているので、生存確定、ドーナシークどうしよ……って感じです。

とりあえず、五巻にはソーナ眷属作って間に合わせます。(海樹くん特効の女性キャラ作ろ)


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第16話

ふっふっふっ、今回は早めに完成したぜ。



 私服に着替える前に、風呂に入りながらボーッとする。

 

「あー、なんだろ。久しぶりに風呂に入った気がする……」

 

 どうやら、いつ僕が起きてもいいようにと、あらかじめお風呂を沸かしており、ちょくちょく温度の調整をしていたのか温かい湯船に浸かりながら、僕はそんなことを呟いた。

 

 よくよく考えたら、公園穴蔵ホームレス生活が始まってから、五右衛門風呂以外入ってなかったような気がする……。

 

「そういえば」

 

 僕は神器を右手に出して、ボーッと神器を眺める。

 よくよく見てもよくわからないけど、とりあえず宝玉を叩いてみた。硬いコンッという反応が帰ってきただけで、特に面白いものなんておきない。

 ジグと話せるようになって数年。僕にとってもしかしたらジグといなかった日なんてないのかもしれないなぁ。

 

 浴槽に腕をブラつかせ、天井を眺めたあと、立ち上がり浴槽から出てから、脱衣所へと移る。体を拭き、服を着て、そこから、頭をおおうようにタオルを巻き、リビングへと向かう。

 

「みんな今ごろ学校なんだっけ?」

 

 この慣れない時間に耐えられず、テレビをつけて呟いた。

 未だに八時に家にいる違和感がぬぐえず、結果、僕はテレビを消し、家から出ようとした。

 その時、なにか魔法陣が作動したかと思うと、僕はベッドの上にいた。

 

(いつの間に……)

 

 どうやら、塔城さんと木場先輩が、学校に行く前に何かしていたようで、僕を家に縛り付けるようにトラップを設置していたようだ。

 

「仕方ない……」

 

 僕は、服屋にいけない悲しみにくれながら、神器の中へと潜っていった。

 

 

※※※

 

 

 僕が神器の中に入って、最初に感じた違和感。それは、僕もまともにやったことないけど、存在だけは知っているボードゲームのチェスの駒。それも、僕の身長なんて比じゃないくらいに大きく、三十メートル位はあるんじゃないだろうか? 

 

「なにこれ……」

『戦車の悪魔の駒っつーもんだ。宿主』

「ジグ!!」

『うっせぇ』

「海樹くーん。あたしもいるよー」

『まさか、三人仲良く封印されるとは思いませんでした。そちらは大丈夫でしたか?』

 

 なんか、数時間くらいあってないだけなのに、懐かしさを覚える三人の声。

 僕は三人のもとにかけより、その駒の内部をよくよく観察する。

 

「なんで、三人とも駒のなかにいるの?」

「そうなの! 聞いて!! 海樹くんが死にかけたあと、この土蜘蛛、海樹くんを転生させる代わりに、外界への干渉を封印させろって、あの『リアス・グレモリー』に要求したの!!」

『はっ! 成長させるなら、俺がサポートしなくても戦えるようになれば問題ねぇだろ。魔力も使える今なら、糸だって俺が使わねぇでも、ちゃんと扱えるだろうしよ』

『とまあ、ジグもジグなりに考えていたんですよ。あ、それと、私からの宿題ですが、属性糸の扱いを強化しておいてください』

「あたしからも、ちゃんと気を練って、纏えるようになること。それと、応用で糸に纏わせる練習も平行して行ってね」

『俺からぁなんもねぇよ。好きにしな』

『とまあ、こんなことをいっていますが、一番あなたを心配していたのがジグなので、安心して言葉がでなくなっているだけですよ』

『んなわけねぇだろぅが!!』

「そうよ! 一番心配してたのはあたしなんだから!!」

「二人とも、ありがと。うん。なんか、三人の顔見たら安心しちゃった」

 

 わいわいと駒のなかで騒ぐ三人がおかしく僕は笑ってしまう。

 駒を背もたれにし、全体重を預けながら、神器の空をあおぐ。

 

「よし、それじゃあ、三人の顔も見たし、外で修行するよ。気を練って、属性糸のコントロール。ちゃんとできてるか、そっちでも見ててよ」

『残念だが、俺たちは外の様子は見れねぇよ』

「え……?」

『実は、外の様子を見てしまっては、私たちなら自力でこの封印をこじ開けかねないので……』

「それだと、元も子もないよねってことで、外の様子を見れないようにしてもらったの。だから、強くなったかは、海樹くんのオーラから判断しないといけないんだ」

『とまあ、こういうこった。おめぇの変なことに付き合う必要がなくなった分、久しぶりの休暇満喫させてもらうぜ』

「わかった。すぐに封印を解けるようになるから、待ってて」

『かっははは、その封印はリアス・グレモリーが頃合いを見計らってちゃんと解除すっから、気にすんなよ。それと、リアス・グレモリーに伝えといてくれ。『封印がざる過ぎ』ってな』

「それ、煽ってない?」

『かっはは』

「否定しなよ……あ、そう言えば!! なんで、さっきからリアス先輩の名前が出てきてるの?」

 

 僕の質問に三人はコメディ長のこけかたをした。

 さらっと、流してたけど、気になっていたんだから、仕方がない。

 

『おめぇを転生させた張本人だからだよ。もう少し頭ぁ使えっての』

「あはは、申し訳ない」

『そんじゃ、ちゃっちゃと、出ていきな。放課後に姫島のやつが来るが、気にすんじゃねぇぞ』

「待ってそっちの方が大切!!」

『あん? こっちゃあ、寝みぃんだ。さっさと出てけ』

「ひどい……久しぶりの再会だって言うのに……!」

『あぁん? まだ、封印されて一日もたってねぇぞ。日本語不自由なんじゃねぇか?』

「それくらい寂しかったの!!」

「お姉ちゃんも寂しかったよぉぉ!!」

『こいつらテンションが狂ってやがる……』

 

 ジグのあきれた声が神器ないで響く。うん。いや、だって、頼っても出てこなかった時の寂しさを実感したことないから、そんなことが言えるんだよ。

 

『てか、おめぇさっき帰ろうとしてたろうが』

「うん。じゃあ、また今夜来るよ」

『かまってちゃんかよ……』

 

 僕はそう言うと、現実世界へと帰還する。

 うーん、よし、それじゃあ、朝食としますかね。

 

 僕は靴を持ち、窓から外に出ようとした。

 

「あれ? 冷蔵庫あるんだから、そこに食料あるんじゃ?」

 

 そうだった。穴蔵生活をはじめてから、食料を密猟してたから忘れてたけど、普通に冷蔵庫あるじゃん。そこに食料があってもおかしくないじゃん。

 うっかりうっかりじゃん。

 僕は玄関に靴をおき、手を洗い冷蔵庫をあける。

 

「食い物ないじゃんよ……」

 

 僕は絶望した。なぜ、そこに食料があると幻想したのかと……。せめて日持ちする食い物はあると錯覚していたのか、と。

 

「買い物とかもお金がないから無理だしなぁ……」

 

 僕はなんの気もなしにリビングに置かれたテーブルを見た。

 なぜ先程気づかなかったのだろうか、日本語で書かれた書き置きらしき紙があった。

 厚さ一ミリにも満たない紙には、『机のなかに1,000,000のほど入れておいたから、ご飯はそれで買いなさい』

 と書いてあった。

 規模が違うなぁ……これじゃあ、一生食って暮らせるよ……。

 

 僕は部屋に戻りそっと机の中から一万円ほど取りだし、買い出しに出かける。近くのスーパーで十分かな? 

 メニューとかは適当に決めればいいし、ガッツリ食べられるものを、買うのもありかも? 

 

「うーん、夢がひろがルぅ」

「なにいってだって話っすけどね」

「うわっ! なに? え?」

 

 僕は、声の主を探す。

 キョロキョロと探し、上を向くと、街灯の上に腰を下ろし、ぶらぶらと足を揺らし、チラチラと黒い下着を見せつけてくる、金髪つり目のわりかしかわいらしい見た目をした少女がいた。

 

「ミッテルト、そんなところで何してるの?」

「相変わらず、思春期かってほどに無反応っすね。折角の美少女のパンチらが嬉しくないんすか?」

「ミッテルトだしそんなの、今さらないよ」

「うわ、なんすか? その反応。もううちは俺のものなんだから変な気は起こさないってやつっすか? キモいっす」

「違うんだけど!?」

「冗談っすよ。それで、こんなとこで海樹はなにしてんすか?」

 

 街灯から飛び降りながら、そんなことを尋ねてくる。

 

「買い出しだよ。冷蔵庫に食料がなかったから」

「か、海樹が……買い出し? 狩りだしの間違いじゃないっすか?」

「立派な買い物だよ。ミッテルトもよかったら一緒に来る?」

 

 ミッテルトは「うーん」と唸りはじめ、なにか考え始める。

 

(海樹……明らかに悪魔になったっすよね。これ、付き合っても問題発生する可能性……? ゼロじゃないっすよね。なら)

「返事ないし、一緒に行こー!」

「はぁ!? ちょっ、待てっす!」

 

 なんか、ミッテルトがうじうじ悩んでいたので、僕は手を引き、スーパーへと歩く。うん。僕も家に一人でいるのは耐えられないからね。一緒に遊んだ方が僕の気も紛れるというものよぉ! 

 

 ん? 塔城さんから禁止されてたって? 塔城さんは『部長』という僕の知らない人からの伝言だし、問題ないでしょ。ふーははは、上司が直々に部下に出ん礼しないのが悪いのだー! 

 

「あーもう、どうにでもなれっすぅぅぅぅ!!」

 

 ミッテルトの断末魔が響く住宅街を二人仲良く突っ切ってスーパーへ向かった。

 

 

※※※

 

 

「で、どういうことか説明してもらおうかしら?」

 

 そして、僕とミッテルトは僕の新居にて、紅髪のお姉さまに正座をさせられました。




どうやら、自分、ミッテルトが出る回に限り書くペースが上昇することがわかりました。
15話なんて、結構開けて千文字しかかけなかったのに……。


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第17話

 リアス・グレモリー先輩。紅髪が特徴の高校三年生。僕が入学してすぐの時に、一年生の間にも瞬く間に広まった、『二大お姉さま』の一人だ。

 中等部からのエスカレーターで高等部に入った人たちも、この先輩のことを『お姉さま』と呼び、慕っている。

 

 で、そんな人に、僕は……正確には、僕とミッテルトは正座をさせられていた。

 

「それで、言い訳は?」

 

 ものすごい剣幕で、僕をにらむ先輩に萎縮してしまう。

 

「あのぉ……町でぇ、友達とぉ……あったら……あ、遊ぶ……じゃ、ないですか? それと……はい、同じ……です。はい」

「そう。で、そっちの堕天使さんは?」

「こいつに無理矢理つれてこられたっす」

「海樹?」

「一人じゃ寂しかったんですよぉぉぉぉぉ!! 僕だって、ずっと一人じゃなかったんですよ!? ジグと一緒に頑張って生きてきて、いきなりジグが封印されて、話し相手もいなくて、独り言を呟いて……そんな生活耐えられないですよぉぉぉ!!」

 

 無様に泣き叫ぶ僕に、若干引き気味のミッテルト。

 

「まあ、こんなやつなんすよ、こいつ。自分勝手で、わがままでマイペース。そんなやつに『会うな』って言う方が無駄ってものじゃないっすか?」

「ミッテルト……初めてミッテルトのいってることに感動した……」

「一言余計っす。バ海樹」

「ひどぅい!?」

「ふざけない! それで、あなたは何しにこの町に戻ってきたわけ? あなたたちの『任務』は終わったものとに認識していたのだけど?」

 

 リアス・グレモリー先輩に、僕は叱られ、ミッテルトは事情を話させられる。

 

「一応言うっすけど、うちが海樹に接触したのは、理由がない訳じゃないっすよ」

「それを説明なさい」

「いや、なんで、悪魔にうちの任務を話さないといけないんすか?」

「別に、その必要はないわよ。こちらも、あなたを監視するだけだから」

「監視?」

「そう。ただ、こちらも、それほど大人数で一人の堕天使を見ている余裕なんてない」

 

 断言するリアス・グレモリー先輩。なるほど? つまるところ、誰か監視につけたいけど、適役がいない。そういうことなんだろうか? 

 

「そこで、海樹。あなたには、悪魔の仕事を免除してあげる代わりに、この堕天使の監視を命ずるわ」

 

 …………

 

「なんですと!?」

「それは、うちのセリフっす!! なんで、海樹なんすか! うちは別になにもぉ……」

 

 なにかを言おうとしていいよどむミッテルト。

 

「悪いことなんて考えてないっすよ!」

 

 だが、結局は言い切った。

 うん、ものすごく怪しいよね。リアス・グレモリー先輩もそれはわかっているのか、とてつもなく冷たい瞳で、ミッテルトを見下ろす。

 

「そう。なら、問題ないわよね? 私たちが確証を得られるまでの期間、あなたの監視を海樹にやらせるわ」

「い、いいですよ、いいですとも。うちに、後ろめたさがないことを証明してやろうってもんじゃないっすか」

「うーん、怪しさ満点」

「海樹が言うなっす!!」

「僕は全然怪しくないんだけど!?」

「お黙りなさい!」

 

 リアス・グレモリー先輩の一言で僕たちは口をつぐむ。

 それから、ため息をつき、告げた。

 

「海樹は、この堕天使の監視。いいわね?」

「はい!」

「それと、私のことは部長と呼ぶこと。イッセーにもそう伝えているわ」

「は、はい! 部長」

「それと、ミッテルトから片時も離れることを禁ずるわ」

「片時も? えっと……さすがにお風呂とかは別ですよね?」

 

 恐る恐る訪ねる僕に、リアス先輩は「そうよね……」と呟きいった。

 

「トイレはべつにいいわよ。お互い恥ずかしいでしょうしね」

「お風呂もいやなんですけど!?」

「汚いっすよ。ちゃんと風呂はいれっす」

「そうじゃないからぁ! ミッテルトと入るって行為が嫌なだけだからぁ!」

 

 ミッテルトの的はずれなリアクションに、僕はつい、大きな声で反論する。すると、ミッテルトはどこか不服そうな顔をする。

 なにか変なこといったのだろうか……? さっぱり、見当のつかない僕に、ミッテルトは近づいてきて、言ってくる。

 

「それ、一緒に寝るときもいってたっす!! うちに魅力感じないって! なら、もういっそこの際、監視でもなんでもうけてやるっす! この節穴海樹に、堕天使の本気の誘惑ってもんを見せつけてやろうじゃないっすか!!」

 

 あー、なるほどなるほど。そういうこと……え? 僕そんなこと言った? ミッテルトも十分美人ではあると思うけど……まあ、子供っぽいという点で魅力を感じにくいということは、一切否定しない。

 そんな興奮状態の、ミッテルトに見かねて、リアス先輩が割ってはいってくる。

 

「はい。二人で盛り上がっているところ悪いけれど、海樹は反省してくれないかしら? というより、そもそも、監視対象の前で、監視がどうのっていう話が異常なのも自覚してちょうだい」

 

 あ、そうでした。そもそも、会話の内容からしておかしなことになってるんだった。

 普通、監視って、遠いところから行うものであって、怪しい行動をしないよう近くで見張ることじゃないもんね。最近、そんな感じの監視が多くて忘れてたよ。

 

「そういえば、監視ってこんな堂々と言うもんじゃなかったっすね」

「そう。だから、これを利用するしかないし、目を話した隙に、仲間と連絡を取られるわけにもいかない」

「いや、同じ部屋で寝るのは別にいいですけど、お風呂はちょっと……」

「逃げるんスか? お? お?」

「煽らない」

 

 リアス先輩の拳がミッテルトに降り注ぐ。

 魔力の乗った拳のためか、すごくいたそうにしていた。

 

「手間なのはわかっているけど、そこを何とかしてくれないかしら? ここで、何をしようとしているかの期間だけでも、調べないといけないから」

「…………わかりました……ミッテルトが悪さしないよう、風呂場でも監視しますよ」

 

 渋々……本当に渋々、僕はミッテルトの監視を承諾する。どこか不服そうなリアス先輩ではあったが、それ以上の文句はつけてこない。

 

「それじゃあ、ふたりとも、くれぐれも問題は起こさないように。海樹もなにか、情報をつかんだら、私に報告すること。いいわね?」

「はい!」

 

 僕の返事を聞き届けると、リアス先輩は僕の頭を軽くなで、このマンションの一室から出ていった。

 

「それじゃ、ミッテルト。どうする?」

「グデーッと寝かせるっすよ。誰かさんのせいで疲れたんすから」

「そうなんだ。それじゃあ、お風呂入ってから、寝なよ」

「そうするっす」

 

 僕は、その返事を聞き、部屋に戻ろうとして思い出した。

 

「そうだった。お風呂でも監視しないといけないんだった……」

「つい数分前の出来事っすよ? 忘れるの早くないっすか?」

「いや、忘れてた訳じゃ……」

「ということは、うちと一緒に入りたかったんすか? もー、海樹はむっつりっすねぇ」

 

 ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべ、僕をみるミッテルトから、僕は目をそらす。

 ミッテルトは『見てくれだけ』なら、十分な美少女ではある。もちろん、男として、美少女と同じお風呂に、入れることが、嬉しくないと言えば、嘘になる。だが、ミッテルトと一緒にはいって嬉しいか、というと、正直、どうでもいい。

 ただ、倫理観的に、男女同じ風呂に入るのはどうかと思って躊躇してしまっているだけだ。

 

 いや、待てよ? たしか、ジグから見せられた記憶のなかにミッテルトが、下着姿で僕のとなりを寝ていたことがあったような気がする……あれ? もしかして、今更? 

 

「うん、考えても無駄だ。ミッテルト、先入ってて。僕もすぐはいるから」

「わかったっす……って、海樹がノリ気!? どうしたんすか? 熱でも出したんすか?」

「違うから。あと、ノリ気じゃない。ただ、僕が対策しておけば問題ないって思っただけだから」

「対策?」

 

 僕は神器を顕現させ、男物の水着を作り出す。

 ミッテルトは目を見開き、「ま、まさか……」と驚愕している。

 

「僕はミッテルトの裸に反応しないし、興味はない。かといって自分の裸を他人に見られるのはいや。だったら、僕だけ水着を着れば解決だって思ったわけだよ」

「ちょっと待つッす。うちは裸で良いって理論が、意味わからないんすけど」

「え? 僕が気にしないからだけど?」

「なんでッすか!! うち、これでも女ッすよ! 堕天使ッすよ!?」

「いや、だからなに? まあ、ミッテルトが気にするっていうなら水着作っておくけど」

「先にそれをしろ!!」

「『っす』がなくなってる」

「指摘すんなっす! キャラ付けなんすから」

「キャラ付けだったんだ……まあ、とりあえず、作っておくから、先に入っておいてよ。体とか洗ったりするんでしょ?」

 

 そういうと、どこか不服そうだったが、着用しているゴスロリのリボンをほどいていく。

 もしかして、ミッテルトってノーメイクで、ゴスロリ来てるタイプの子? 

 

「どうしたんすか? そんな驚いた顔で見て」

「いや、メイクとか落とさないのかなって」

「メイク? あぁ……うちには必要なさそうなんでしてないっすよ。それがどうかしたんすか?」

「……天然か」

「天然?」

「いや、なんでもない。とりあえず、ミッテルトの分も作っておくよ。ビキニタイプでいい?」

「かわいいやつにするっすよ」

「わかってる……」

 

 僕はミッテルト用の水着を作る。ミッテルトのイメージ的に、黒とかの方が似合うかな……? うーん、それじゃあ味気ないし、水色とか……うーん。

 

「ミッテルト。好きないろとかある?」

「どうしたんすか?」

「いや、ミッテルトに合う色考えてたら、迷走しそうだったから本人に、聞こうと思って」

「てきとーでいいっすよ。強いていうならピンクっすかね。槍とかその色で作ることが多いっすし」

「りょーかい」

 

 ゴスロリを脱いでいくミッテルトの傍らで、僕は、ミッテルトの希望をうけた水着を、作成し始める。

 全体的に水色で、縁にピンクをいれる感じがいいか。

 フリルは……あった方がいいかな? ミッテルトのバストサイズは、お世辞にも大きいとは言えないし、誤魔化しが利いた方がいい。

 

「よし、完成」

 

 神器を使った製作で、そんなに時間がかからなかったのか、ミッテルトが下着だけになった時と同時に完成した。

 

「どんな感じっすか?」

「はい。これ」

「おぉー、意外とちゃんとしてるっすね。光力のとおりも良さそうっすし、夏とか海にいきたいっすね」

「そうだね。気に入ってくれたみたいでなによりだよ」

 

 僕がそう答えている間に、ミッテルトは下着を脱ぎ捨て、水着を着はじめていた。

 僕はシャツを脱ぎ、ミッテルトを見ないようにしながら、お風呂のドアが開く音を聞き届け、水着に着替える。

 

「入るよ」

「どうぞっすー」

 

 僕らは、ちょっと狭いお風呂場でやいのやいの言い合いながら、汗を流した。



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第18話

 お風呂から出て、僕らはリビングでアイスを頬張っていた。

 

「ねぇ、ミッテルト」

「なんすか?」

「ミッテルトから見ても、僕って悪魔なの?」

「それは、性格的にって意味っすか? 種族的にって意味っすか?」

 

 つまり、僕は性格的にも種族的にも悪魔ということ……

 

「いや、ちょっと待って。僕、別にミッテルトに悪いことしてないよね!?」

「よくよく思い返してみるっす。こんな美少女が下着姿でいたにも関わらず押し倒したり、欲情するどころか、冷静に対処して、ましてや、下着で隣にいても、スヤスヤ、スヤスヤ寝息を立てるだけ……うちのプライドをどれくらいズタぼろにしてくれたことか……責任とれっす!!」

「なんでそんな話になるのさ……」

「うちの! 女として、堕天使としての! 尊厳を!! 踏みにじったからっすよ!!!!」

「あ、そう」

「軽い!?」

 

 途中から捲し立て始め、僕の胸ぐらを掴みユサユサと前後に揺らしていたミッテルトが、ショックを受けたように、表情が驚き一色に染まる。

 

 うーん、でもなぁ……なんか、ミッテルトを『そういう目』で見れないんだよなぁ……。確かにかわいいし、服にしたって、つり目と相性のいいものを選べば誰だってころっと落ちてしまいそうなくらいには、魅力的だろう。だけど、なんていうか、こう、子供っぽい……というか、妹みたいな感じがする。

 そう考えると……

 

「いや、うん、なんかごめん……」

「謝るくらいなら責任とれっす!! うちの下着姿見せたの、海樹だけなんすから」

「重い。やだ」

「ちっ……」

「なんで舌打ち……」

「うちだっていい加減婚約者の一人や二人持ちたい年頃なんすよ!! わかりやがれっす!!」

「???」

「なんで、全くわからないような表情してるんすか!! わかるでしょ!? 長い間この世界に浸ってたなら!!」

「いや、全然」

「なーんでっすか!!」

「なんで……って……」

 

 それは、子孫残す気がないからとしか言いようがないんだけど……って、いっても変な目で見られそうだから、黙っておこう。うん。

 

「興味ないからかな?」

「恋愛とか結婚とかにっすか?」

「うん。小さいころからずっと命狙われてたから、誰かと一緒にって想像ができないんだよね」

「そういつもんなんすか?」

「そういうもんなんすよ……」

 

 僕がミッテルトの口調を真似してみると、じとっとミッテルトから睨まれた。

 

「なに?」

「真似すんなっす」

「ん、わかった」

「それで、海樹、これからどうするつもりなんすか?」

「うーん、どうしよっか。ミッテルトはなにかしたいこととかある?」

「は? なんでうちに聞くんすか?」

「え? これから、なにして暇潰すかって話でしょ?」

 

 僕の回答に、ミッテルトは、大きくため息をつく。いや、え? なにその反応? 

 この流れなら普通、暇潰しの話じゃないの? 

 

「違うっすよ。今後、海樹がどう異形の世界に関わるかって話っす」

「あ、あー、うーん。どうしよっか。僕の目的ってもう完遂したようなものなんだもんね……」

「そうなんすか?」

「うん。ほら、僕って魔法使いとか、堕天使とか、五大宗家とかに狙われてるでしょ?」

「そうっすね。だから、うちに後ろ楯になってほしかったんすよね?」

「そう。だから、僕としては、どんな形式でもいいから、どこかの組織に入るしかなかったんだよね」

「で、それが、運がいいことに叶ってしまった……と」

「そういうこと。だから、全く目的がないんだよねー」

「なるほど。そういうことっすか」

 

 そういって、うんうんと頷き、ミッテルトは空になったアイスの容器をゴミ箱に持っていき、捨てると、僕の対面に座り直し、肘を枕にして、僕の瞳を覗き込んでくる。

 

「これから、長くなるっすよ。うちも生まれて、そんなに長く生きてる訳じゃないっすけど、長命種らしく、数千、数万年単位で計画たてて行動しろってパパから聞かされてるっす。まあ、当の本人はあと千年、あと二千年とかいって、未だに下級堕天使のままっすけど」

「まあ、そうなるよね……。とりあえず、目下、昔の友人でも探してみるよ」

「友人? 海樹の知人って五大宗家に殺されたとかじゃなかったっすか?」

「それは、親族の話。友人とか知人とかには当てはまらないよ」

「えっと……つまり?」

「友人に関しては、縁切る感じで別れたり、襲撃の時のどさくさに紛れて逃がせたりとかで、生きてるかもしれないから、探してみようかなって」

 

 僕が、だらけながら言ったことが信じられなかったのか、それとも、僕の言った内容が信じられなかったのかわからないけど、ミッテルトはムスッと睨み付けてきた。が、なにも言わなかった。

 

「それじゃあ、ミッテルトはどうするのさ」

「なにが、『それじゃあ』なんすか……まあ、うちは変わらず、任務の続行っす。『丹芽海樹の監視』がうちの任務っすからね」

「ま、そうなるよね……僕も当分はミッテルトの監視っぽいし……ねぇ、明日遊びに行かない?」

 

 

※※※

 

 

 ということで、翌朝。僕は玄関で、靴を履き、ミッテルトが出てくるのを待っていた。

 

「どう、サイズあってたー?」

「ちょっ、いや、あの。さすがにこういうタイプのには……覚悟が……」

「ただのワンピースじゃん。前も着たんだし気にするような要素ないと思うんだけど」

「あれは、海樹が着せたんじゃないっすか!! うちの意思で着たわけじゃないっす!!」

「でも、それで外出してたわけだし、気にしなくても……」

「そういう問題じゃないんすよ!! てか、これ以外にも作れるでしょ! あんたは!!」

「はいはい。シャツとジーパンでいい?」

「最初からそうしとけっす!」

 

 僕の部屋から、顔だけを覗かせ、ベーっと舌を出すミッテルトに、適当に拵えた長袖のシャツと、ジーパンを飛ばす。

 ミッテルトはそれを顔を引っ込めて避け、床に広がった二つを素早く回収すると、ドアを閉める。

 下着で寝たりするくせに、今さら恥ずかしがるのは、どうなのかと思うが、まあ、本人なりに何かあるのだろう。

 それから、数分後、どういうわけか、ポニーテールにしたミッテルトが出てきた。

 

「似合ってるじゃん」

 

 そういうと、ミッテルトはドヤッとふんぞり返りながら僕を見下ろす。

 

「そりゃ、うちはどんな服、髪型が似合う美少女っすからね」

「ん、そうだね」

「反論しないんすか……調子狂うっす」

「いや、実際かわいいとは思ってたよ? けど、下着姿を嫌ってほど見たら、そういうのどうでもよくならない?」

「たぶん、普通の男なら襲ってるっす」

「だろうね」

「性欲ないんすか? 海樹も一応男子っすよね?」

「ない……って訳じゃないけど……実感がわかないんだよね。ほら、ミッテルトが裸で隣に寝てますってなっても、下着作って服着させなきゃって先に思っちゃうし」

 

 実際昨日も、ミッテルトが裸で寝てたから、下着を作って、着ぐるみパジャマを作って着せたし。

 

「うちの記憶が正しかったら、寝る前はなにも着てなかったはずなんすよね……」

「意外と似合ってて驚いたよ」

「全然嬉しくねぇっす! なんすか、あれ!? 無駄にクオリティの高い犬の着ぐるみパジャマとか!! なんか、うちの感情にリンクして尻尾が動いて気持ち悪かったっす!!」

「あー、あれ。すごいでしょ? ジグが糸の色によって、特色が変化するって教えてくれたから、試してみたんだ」

「要らなかったっす!! そのせいで今朝からずっと恥ずかしかったんすからね!!」

 

 明らかに恥ずかしそうに、顔を赤くし、僕の胸ぐらをつかみながら、ユサユサと振るミッテルトに、つい、からかうように笑ってしまう。

 

「ほら、赤面するミッテルトが面白かったから、つい……ね?」

「『つい……ね?』じゃないっすよ!! ていうか、それを言うなら、『かわいかった』の方が好感度上がるってもんっすよ!!」

「はいはい。それより、早く出掛けようよ。せっかくのいい天気が台無しだよ?」

「流すんすか!? わりと男子的に重要な情報言ったのに、流すんすか!?」

「どうでもいいから。僕だってミッテルトの服を毎日作るのは面倒なんだから」

「そうっすか。それより、なんか、デートっぽくない格好っすよね……これ」

 

 そういわれ、僕はミッテルトの格好をちゃんと見てみる。

 僕が作ったとはいえ、味気のない、まるで部屋着と言わんばかりのシャツとジーパン。女の子視点だと、ちゃんと容姿が整っていてはじめて『おしゃれ』として認識できるような格好。

 少なくとも、異性とこれから買い物に行こうと言う少女の格好ではない。そう言いたいのだろう。

 

 なら、僕の答えはこうだ。

 

「別にミッテルトと僕の着替え買いにいくだけなんだし、気にしなくてもよくない?」

「そんなんだから、海樹はモテないんすよーだっ!」

「もしかして、そんな格好でもかわいいねって言ってほしかったの?」

「気づいても口にするもんじゃねえっす」

 

 ミッテルトは僕を軽く蹴り、バランスが崩れたところで、右腕をつかんで、ひっぱると、両手で抱え込む。意図的なのか、胸に当たるように抱えるミッテルトに疑問を抱いていると、不意に僕の顔を覗き込んできた。

 

「どうっすか、かわいい女子の胸の感触は?」

「別になんとも? それより、歩きにくいんだけど」

「そこは男の甲斐性ってやつっすよ」

「わかった。それじゃ、離れて」

「なーんか、冷たくないっすか? この前あったときは、すごいテンションでつれ回したくせに」

「あのときは凄い興奮してから」

「あー、変なアドレナリンが出てたんすね。まあ、腕を組むのは、歩きにくいみたいなんで、手を握る程度にしといてやるっす」

 

 ミッテルトは僕の手を解放すると、指を絡ませるように、僕の手を握った。

 

「うーん、やっぱり、違和感が凄いっす。やっぱり腕組まないっすか?」

「歩きにくいからやだ」

「邪魔にならないように組むのは?」

「腕を組まれる時点で歩きにくくなるから、手を握るところまで」

「けちっすね。まあ、いいっすけど」

 

 と言いつつ頬を緩めているミッテルトをからかいつつ、僕らは、デパートへと繰り出していった。



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第19話

 ミッテルトと買い物に出掛けて数日が経過したある夜のこと。リアス先輩が、僕とミッテルトのもとへやって来た。

 

「海樹。すこし、ミッテルト借りるわね」

「はーい」

 

 僕はテレビ画面に写るキャラクターを操作しながら、リアス先輩に返事をする。

 うーん、ゲームをするのは何年ぶりだろうか? 僕の記憶が正しかったら、小学生の頃以来……あれ? そのあと、どんな感じだったっけ? 

 僕の操作するキャラクターが、画面の端で追い詰められ、防戦一方になっていると、僕の手元に影が落ちる。

 

「姫島先輩ですか?」

「あらあら、部長かもしれないですよ?」

「その反応の時点で姫島先輩ですよね?」

「はい。小猫ちゃんにした方が少しは迷いましたか?」

「声色から雰囲気、そもそも、塔城さんだと影ができるほどの身長がないなど、どちらにせよ姫島先輩以外いないと思ってました」

「意外と頭が回るのですね」

「そういった環境で育ったので」

「それにしては、部長には心を許しているのですね。ちょっと寂しいです」

「なにがですか?」

 

 姫島先輩の言っている意図がわからず、聞き返してしまう。

 

「あの堕天使や小猫ちゃん。部長や兵藤くんとの対応の差を感じているんです」

「あー、それは……まあ、僕の問題です」

「『土蜘蛛』に関係することですか?」

「『姫島』ですもんね……どこまで知ってるんですか?」

「『姫島』……というより、五大宗家があなたの親族含めて殺害した……という予想は当たってますか?」

「予想なんですね……てっきり確信をついてくるものだとばかり」

「そうですね。私も『姫路』から離されて育ちましたから。ただ、かあさまの教えのひとつに、『土蜘蛛』は何があっても、事情を無視して滅しなさいというものがありましたので」

 

 僕はコントローラーを咄嗟に放り投げ、鉄の糸で短剣を作り、姫島先輩の喉元に突きつける。

 

「安心してください。部長から、あなたに危害を加えることは、禁止されてますので」

「禁止されてなかったら、僕のこと殺す気でした?」

「はい。理不尽と思われるかもしれませんけど、『土蜘蛛は危険』という教えには逆らえませんので」

「なんで、五大宗家は『土蜘蛛』を敵視してるんですか?」

「私にはなんとも。ですが、姫島にせよ、百鬼にせよ、真羅にせよ勘当されたとしても、絶対に教わる『日本の癌』のような存在。それが、私が教わった『土蜘蛛』というものですわ」

「『日本の癌』……か」

 

 僕らが話している後ろで、『YOU LOOSE』とデカデカと画面に表示される格闘ゲーム。空気を読んでか、リアス先輩と話していたミッテルトは、部屋の戸を開いて、じっと覗き込んでいた。

 僕はそれを確認すると、鉄の糸で作った短剣を消す。

 

「そんなところで、盗み聞きをする必要はないですよ。堕天使」

「入れってことっすか? うちとしては、露骨に敵意むき出しの人たちの領域に、足を踏み入れたくないんすけど」

「ミッテルトの安全は僕が確保するから、気にしなくてもいいよ」

「あら、あなたが私に勝てるとお思いで?」

「同格より、格上相手にする方がなれてますし、僕、こういった屋内の方が向いてるんですよ。僕の神器のこと知ってるなら、理解できますよね?」

「被害がでないように、結界を張れば関係ないんですよ。あなたにはわからないかもしれませんが」

 

 僕と姫島先輩が睨みあっていると、『パンッ』と乾いた音が部屋に響く。

 

「朱乃。その子への攻撃は禁止したはずよ。海樹も、露骨に敵意を向けないの。あなたのことは詳しく知らないけれど、今は二人とも私の眷属、仲間よ。仲良くしろとまでは言わないけれど、眷属内で争わないで」

 

 リアス先輩が僕らの間に割ってはいると、敵意とは違う怒りを宿した瞳で睨んでくると、同じ雰囲気のまま、姫島先輩の方を向く。

 

「朱乃。私いったわよね? あなたがお母様の教えを大切にしたいのはわかる。けど、仲間になった以上は、多少我慢て交流しなさいって」

「ですが」

「それに、海樹に手を出したら、私はあなたをはぐれ悪魔として認定する、とも言ったわよね? そのこと、忘れてない?」

「…………」

 

 姫島先輩が黙ると、リアス先輩は僕の方を向く。

 

「海樹も。交流がないからって、最初から敵意をむき出しにするのは、やめてちょうだい。朱乃としても、最初から敵対しようと思って、関わりにいったわけではなかったでしょう?」

「それは……」

「あなたの経験からのものかもしれないけど、あなたは私の眷属であり、朱乃もあなたの仲間なの。仲間内で争いが起きるようなことは、やめてくれないかしら?」

「でも、僕は!」

「でもも、なにもないわ。私としては、眷属同士が仲良くしてくれるのが一番。けれど、それ以上にあなたと五大宗家は確執があって、朱乃みたいに追放された身でも、根深いものがあるって理解しているわ。だから、もし眷属間で争うなら、命を奪い合うような危険なもの以外にしてちょうだい」

「…………」

 

 リアス先輩の剣幕に、僕はなにも言えなくなった。それだけ、姫島先輩のことが大切だと理解したから。

 僕自身、悪魔になった自覚は薄いし、リアス先輩の眷属になったという自覚も少ない……というか、全くない。

 おそらく、姫島先輩にはだして、僕には出さなかった『追放』するという選択肢がないのは、この忠誠心のなさから、無意味と判断しているからだろう。

 

「海樹、うちの視点で見るとどっちが悪いとかは言えないっすけど、基本おちゃらけてる方が海樹らしくっていいっすよ?」

「それは……」

「うちからしてみたら、どうでもいい問題なんすよ。ってか、そもそも、姫島と土蜘蛛の確執なんて知ったこっちゃないっす。海樹の飯が不味くなるなら、今のうちに解消しとけっす」

「それに、同じクラスの百鬼くんとは仲良いじゃない。なんで、朱乃にはそんな冷たいのかしら?」

 

 怒っている雰囲気を消し、リアス先輩が尋ねてくる。姫島先輩としても、気になるのか、まだ少し怖い雰囲気があるが、じっと黙って聞こうとしていた。

 

「僕の両親を殺したのが、姫島の離反者だったんです。姫島先輩に当たるのは違いますけど、どうしても意識として根強く残ってるんです」

「あー、小学生の頃から五大宗家に狙われてるんすよね? まー、海樹を殺しに来たうちがいうのはなんっすけど」

「命令なんだっけ? 今だと堕天使側の討伐指令は撤回されて、ミッテルトが僕の監視役になってるんだよね?」

 

 僕のおかれた現状をミッテルトと話していると、リアス先輩と姫島先輩は、苦笑いをこぼしていた。

 

「まあ、僕の話はどうでもいいんです。それより、姫島先輩」

「は、はい」

 

 僕はソファーから立ち上がり、姫島先輩のもとへ歩み寄って、真正面から姫島先輩を見据える。

 

「ごめんなさい。いくら、僕が五大宗家が嫌いとはいえ、敵意とかなかったのに、態度悪くして、姫島先輩に危害を加えようとしたこと、反省してます」

「い、いえ。そんな、私こそ……」

「いや、朱乃は謝らなくてもいいんじゃないっすか? 海樹が悪いんすし」

「堕天使には、名前呼ばれたくないのだけど」

「こっちは、こっちで確執があるんすか……めんどくさいっす。(まあ、バラキエルさま関係だと思うっすけど)」

 

 あー、うん。たぶん、拗れた原因の一パーセントくらいはミッテルトが持ってるな。

 そして、僕と姫島先輩は大いに相性が悪いこともわかった。五大宗家そのものと確執があり、堕天使と仲のいい僕、堕天使そのものと確執があり、五大宗家に関連する姫島先輩。仕方ないね。うん。

 ということで……

 

「ミッテルトとの話は終わったんですか?」

 

 僕はリアス先輩がどんな用事できたのかわからなかったけど、ミッテルトと話が終わったから僕らの間に入ってきたのだろうリアス先輩に一応、尋ねてみる。

 

「えぇ。堕天使がまだ、この町にいる理由を尋ねたかったのだけど、明確な返答がもらえて助かったわ」

「うちはなにもいってないっすよ? そっちが勝手に判断しただけっす」

「そう。けど、その時が来ないことを祈っているわ」

「誰に祈るんだか」

「そうね。魔王さまにでも祈っておこうかしら」

 

 ふふふ、と女同士のにらみ合いに、ブルッと肩を震わせる僕に、クスッと笑みをこぼす姫島先輩。何事もない、平凡な幕切れに、僕はどことない安心感を覚えていた。



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第20話

 姫島先輩とのいざこざから数日。僕は夜になりミッテルトが寝静まったのを確認し、神器の中へ意識を向けた。

 そこには、戦車の駒の中で仲良さそうに、チェスをするジグと兎尾姉ちゃんがいた。

 

「おや、海樹くん。もうそんな時間になりましたか」

「はい。それで、ホーエンハイムさん。僕の肉体とか魂とかの状態ってどんな感じなんですか?」

「堕天使の監視という名目上の療養ですからね。それでは、少しこちらに近づいてもらってもいいでしょうか?」

「はーい」

 

 僕が戦車の駒に近づいて、適当な場所に腰を下ろすと、ホーエンハイムさんは目に何らかの魔方陣を展開する。

 その魔方陣を通じ、ジーッと僕を観察したあと、その魔方陣を解いた。

 

「はい。もういいですよ」

「それで、どうでした?」

「体自体はもう万全です。生命力に関しても、悪魔に転生したので、十分に回復していました。今後、妖仙化を行っても問題ないとは思いますよ」

 

 おおー、つまり、今まで消費した寿命が完全に回復して、妖仙化使い放題ってことかぁ……おぉー!! 

 そんな感慨に浸ろうとしていると、兎飛姉ちゃんから、横やりが入る。

 

「待って、妖仙化については、あたしは反対。まだ、海樹くんの器にあってないもの」

「そういえば、その問題もありましたね……」

「器?」

『んなの決まってんだろ。宿主の肉体の容量、気の許容量、妖力の許容量、全部が不足してんだ』

「うん、ちょっとよくわかんない」

 

 僕がそう言うと、兎尾姉ちゃんは「うーん」と考える。

 

「えっと、つまり、海樹くん自身の力を蓄える容量を十とすると、妖仙化に必要な力は二十で、余剰分は海樹くんに跳ね返って内臓とかにダメージを与えちゃっうって感じ」

「うん。用は体がもたないってこと?」

「はい。そう言うことです。ちなみに、今までの妖仙化は、寿命というリソースを使って補っていましたが、どういうわけか、悪魔に転生してから、寿命のリソースは使えなくなりました」

「なんで!?」

「魔力の存在です。あなた本来が持っている、人と妖怪と仙人の力とは別の悪魔の力が宿った結果、元々の許容量以上のリソースは魔力で補えるようになったということです」

 

 ほうほう、つまりリスクが減った……と? 

 

「じゃあ、妖仙化しても問題ないんじゃ?」

「さっきもいったけど、海樹くん自身の容量を越える負荷が妖仙化には必要になる。それは、海樹くんが悪魔になったからって変わらないの。消費しているところの大半が魔力に置き換わるだけ。反動を軽減できるとはいえ、体へのダメージがあることに代わりはないの」

「リスクそのものは変わってないんだ……」

「正しくは、リスクをより実感しやすくなったですね」

 

 なるほど……あれ? じゃあ、もしかして、僕、その『許容量』っていうのが増えるまでの間、仙術も妖術も使えないってこと? 

 あのー、それってものすごく、僕にとって不利益しかない様な気がするんですが……? 

 

『かっはっはっ。そんな気にするような話でもねぇぜ、宿主。そもそも、宿主が『妖仙化』なんか頼らねぇでも、仙術も妖術もついでに神器も扱えれりゃ万事解決なんだしよ。あれは、あくまでも出力をあげるためのもんだしな』

「あ、確かに」

『それによ。宿主はもう悪魔なんだ。わざわざ、リスクの高い方を選ぶ必要なんざねぇだろ? 普通に魔力の扱いになれりゃ、妖術とか仙術とか頼る必要は薄くなってくもんじゃねぇか?』

 

 ──…………

 

 ジグがまともなこといってる!? 

 え? あれ? 僕おかしくなっちゃったのかな? ジグの幻覚でも見ちゃってる? 

 

「ねぇ、僕の聞き間違い? なんか、ジグがまともに見えるんだけど?」

『おい、せっかくのアドバイスにその反応はねぇだろ宿主よぉ』

「あはは、冗談だよ、ジョーダン。にしても、ジグがまともなアドバイスするのって珍しいよね?」

『ま、宿主も本格的に『異形』になった訳だしな。『異形側』の存在としてのアドバイスっつうやつだ』

「つまりデレ期にはいったってことね」

「みたいだね」

「みたいですね」

『ぶち回すぞ』

 

 おー、こわいこわい。けど、ジグのいう通り、よくよく考えれば、無理してジグたちから供給されるより、自分にある力を引き出した方がいいのは間違いない。

 

「とりあえず、自分できることをまとめた方がいいのかな?」

「そうですね。海樹くん自身が扱えるものは、魔力と神器だけじゃないですから」

 

 ホーエンハイムさんからの後押しがあり、なんとなく、できることをリストアップしていく。

 えーっと、とりあえず……

 

「軽い仙術と妖術。それと、糸の精製……くらい?」

「合成糸は基本ジグか私がやっていましたから、修行次第では、海樹くんもできるはずですよ」

「化学繊維系は問題ないんだけどなぁ……あと、一応使い方はわからないけど、魔力もこの中に入る感じかな?」

「えぇ。おそらく、妖力と運用は変わらないと思うので、基本使いやすい方で修行したらいいかと」

「はーい。それじゃ、僕は戻るね」

 

 僕はそういって、神器の外へと出ていく。

 目を覚まし、立ち上がり、お風呂へと向かおうとして、机の上になにか、紙切れがあることに気づいた。

 

「これは……えーっと」

 

 平仮名だけで書かれている文章に読みにくさを感じるが、ミッテルトの字だとわかる。

 

「『用があるんで、出掛けるっす。明日の朝には帰るっすから、ちゃんと寝ておくっすよ?』ふーん。へー」

 

 僕は、腸が煮えくり返りそうな感情を覚える。うん、何て言うんだろ。むしゃくしゃする? って感じだ。

 寝てるのを確認して神器に意識を落としている間に、脱走されて、帰ってくるからお前は寝とけと言われた。うん。今日なにしているのか調査がてら、ミッテルト探しにいこう。

 仙術の修行にもちょうどいいし、遭遇したら一発で捕まえられるように、神器も用意しておこう。

 

 僕は大きく行きを吸い込み、息を吐く。すると、頬に四対蜘蛛の足の様なものができるような感覚があった。

 一瞬、ゾワッとしたあと、周囲から気持ち悪い『気』を回収し始める。

 この気持ち悪さにも、最近は慣れてきて暴走するような衝動も特にない。

 いや、ない訳じゃないけど、抑えるときのコツみたいなものを掴んだような気がする。

 

 その感覚を忘れないうちに、ミッテルトの気を探ってみるも、そもそも、ミッテルトの気がどんなものなのか、わからない。

 いや、仙術を使って治療はしたことはあったみたいだけど、実感がない。よくも悪くも僕にとってミッテルトの気は神器のなかで見た程度でしかない。実際に感じたことがないんだから、『あー、ここにいるのね』とはならないのであーる。

 

 それを踏まえた上で、気を探ると、距離は少し離れているが、教会に大量の気を感じた。

 

「とりあえず、いってみよう」

 

 僕は糸で円盤を作り出し、それに乗ると、空へと飛び上がり、夜の町並みを一望する。

 とはいえ、何も印象には残らないのは、見慣れた光景だからと結論付けた。

 そんな、見慣れた夜景を流しながら教会へ向かうと、姫島式の結界を感知する。

 

「これ……姫島の……ってことは、もしかして、なんかやってる?」

 

 僕は飛行速度を早め、結界に近づき、軽く解析してみる。

 最近まで、姫島の術式……というより、五大宗家の術式の類いを退け続けたから、何となくわかると思う。

 じっと、結界を観察すること五分、何もわからなかった。

 

「避けるだけだったから、知識はつかないよね。うん」

 

 僕は結局、糸で棒を作り、結界に叩きつける。

 すると、重い金属音と共に弾かれ、今までの経験したどの結界より硬いことがわかった。

 今まではこれで一発バキン!! って感じで壊れてたんだけどなぁ……。

 うーん、となると……

 

「釘をつくってー、あとはこれを結界を囲むようにぶん投げる!!」

 

 四つの釘を正方形になるように投げ、結界の頂点に移動する。釘が地面に刺さるのを確認すると、糸を四つの釘に伸ばす。

 釘から糸を伝って流れてくる地脈のエネルギーを受け取り、棒を垂直に結界に向けて落下した。

 すると、今度は簡単に結界は壊れ、五人の気を感知することができた。

 

「って、なんか、嫌な予感!!」

 

 僕は荒れ狂うオーラの波動を感じ、円盤を作り直し、現場へと向かう。

 すると、ミッテルトと堕天使二人が、リアス先輩に向かって光の槍を投げ、攻撃しているのが見えた。

 それと同時、リアス先輩も赤と黒で構成された力を放つ。

 

「やっぱやばそう!!」

 

 僕はとっさに巨岩を作り出し、その二つの間に放り投げる。

 槍となんかすごい力の二つのエネルギーを受け、あっさり粉々に吹き飛んでしまったが、双方へ被害はなく、無事に終わった。

 さすがに、自身の構築した結界を壊されたことに気づいていた姫島先輩は、僕の方を睨み付け、手のひらの上で、バチバチと電気を走らせている。

 姫島なのに、電気? どゆこと? まあ、そんなこと気にしている暇はないんだけどさ……。

 

「朱乃、わかってるでしょ?」

「ですが、部長」

「あなたは、あの三人がイッセーたちの邪魔をしないように見張ってて。結界が壊された以上、彼女たちはいつでも増援に駆けつけることができる。私は、海樹に尋ねないといけないことがあるから」

 

 リアス先輩にそういわれ、渋々といった様子で、ミッテルトたちの行動を制限するように、姫島先輩は手のひらで弄んでいた電気を放つ。

 

 突然のことだったせいか、防御が間に合わず、その電気をモロにくらってしまっていた。

 三人の体は、痺れているのか、まともに行動が起こせるような様子には見えない。

 そんな、三人を流し見て、僕の方に明らかな敵意をむき出しにし、見据えるリアス先輩に、冷や汗をかいてしまう。

 

「それで、海樹。どういうつもりかしら?」

「どういうつもり、とは?」

「わかってて聞いてるのかしら? 彼女たちを助けた理由よ。内容次第で、あなたを『はぐれ悪魔』として認定しないといけなくなるわ」

「その『はぐれ悪魔』の意味がよくわかりませんけど、何となくやばそうだと感じたから。ただ、それだけです」

「そう。あくまで、あなたはどちらかの敵につくつもりで妨害した訳じゃない。そういうのね?」

「少なくとも双方の攻撃を止めるために放った巨岩ですからね。……とはいえ、僕としては、『友達』に向けられた殺意を見過ごすことなんてできませんけど」

 

 僕はリアス先輩、姫島先輩に向けて、話している間に仕込んでいた縄を四方から放った。



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第21話

 僕の放った縄は、あっさり電気と赤と黒の塊で消されてしまう。

 

「どういうつもり? あなたは、この三人を庇い、私たちと敵対する。そういう考えでいいのかしら?」

「どうとらえてもらっても構いません。僕は友達のために戦うだけですから」

 

 僕はリアス先輩とミッテルトたちの間にたち、糸の仕込みを始める。

 幸いにもここは、木々に囲まれた森のようなところだ。僕が二番目に得意とするフィールド。正直、もっと狭いところとか、暗いところの方が得意ではあるんだけど、市街とか、開けた公園とかよりは慣れている。

 

 糸を木に巻き付け、ひとつの『蜘蛛の巣』のような環境を整えていく。

 僕の神器は『糸を作り出す』というもので、そこに制限はない。なんなら、仙術の影響で触れれば、気を乱させ、拘束することさえ可能にしている。

 

「そう。小猫の友人と言う手前、拘束で勘弁してあげるわ」

「それは、こっちのセリフです!」

 

 僕は右手の五指をリアス先輩の方に向けながら言う。

 

『flame!』

 

 その音声と共に炎が指先から放射される。

 

「小猫から聞いていたとはいえ厄介な能力ね」

「火事ではすまないところですわ」

 

 リアス先輩たちは、冷静に魔法陣を展開し、僕の炎を防いだ。

 とはいえ、僕の炎は防がれる前提で放ったもの。僕は指先の排出口以外から左手用の籠手剣を作る。

 

「ほんと、芸達者ね」

 

 リアス先輩に接近し、左手を振り下ろした僕は、なんなく避けられたのを確認して、右手の指の付け根にある排出口から糸を地を這わせるようにだし、足を引っ掻け、転倒させた。

 

「僕の勝ちです」

 

 僕は勝ちを確信し、仙術によって強化された筋力を用い、リアス先輩を持ち上げ、『蜘蛛の巣』として構成された領域に放り投げる。

 リアス先輩は呆気なく『蜘蛛の巣』に捕まった。

 

「捕縛すると言う点において、僕の方が上だったみたいですね」

「そうね。それは、間違いないわ。けど、あなた忘れてないかしら?」

「なにをですか?」

 

 僕の疑問を聞き、リアス先輩は口元を歪ませる。

 一瞬迷う。そして、それが隙になってしまった。

 

 僕は後ろでオーラを高め、雷を作り出している『姫島』先輩の存在を忘れていた。

 普段、僕が積極的に『攻撃』を仕掛けることの方が少ないことが仇となり、『なにもしてこない』存在のことを視界から遠ざけてしまっていたわけだ。

 

 僕はとっさに円形の大盾を作り出そうとするが、それよりも先に、姫島先輩の雷を受けてしまった。

 

「私たちは二人。あなたが捕縛するべきだったのは、私一人じゃなかったのよ」

「その格好じゃ、かっこわるいですよ」

 

 僕は『蜘蛛の巣』に捕まってスカートがめくれ上がっていたリアス先輩に悪態をつき、気を失ってしまった。

 どうやら、姫島先輩が放った雷は、対魔の術を織り込まれていたものだったようだ。

 

 

※※※

 

 

 僕とミッテルト、他堕天使二人は、オカルト研究部の部室に連れていかれ、ミッテルトたちは翼から羽を一枚ずつむしられていた。

 

「それじゃあ、私はイッセーたちの様子を見てくるから、逃げようなんて思わないで」

 

 僕らにそういうと、魔法陣が展開され、リアス先輩の姿が見えなくなる。

 

「まーけーたー!! くーやーしーいー!!」

「子供っすか。っていうか、さっきまでの殺伐とした雰囲気はどこにやってんすか! バカなんすか? バカなんすよね!?」

「声を荒立てるな。耳障りだ」

「カーッ気楽でいいっすよね。あーもう、これだから男は」

 

 どういうわけか錯乱しているミッテルト。そして、それをなだめるカラワーナさん。

 あきれかえるドーナシークさんに、地団駄を踏む僕。

 カオスな光景が広がるオカケン部室を覗き込んでいる気を感知した。

 糸を作り出し、地を這わせ、その気に巻き付けると、「あうっ!」と言う声と共に、誰かがこける音がする。

 明らかに高い声だったので、女の子かと思い、扉を開くと、女子用の制服を着た男の子が倒れていた。

 

「ご、ごめん。大丈夫?」

 

 声をかけながら手をさしのべると、「ひっ」と言う声とともに、男の子が、数メートル先に『瞬間移動』しており、真っ白のパンツを見せつけながら転んでいた。

 僕は男の子の足から糸をほどき、近づいた、

 

「大丈夫? 落ち着いた?」

「あ、あなたは、誰なんですかぁ……」

「僕? 僕は丹芽海樹。君は?」

「ギャスパー・ヴラディですぅ」

 

 自信無さそうな声で答えてくれるギャスパーくん。うーん、なんだろう、すごく警戒されているような気がする……

 

「えーっと、ギャスパーくん。別に僕は怪しい人とかじゃないから、警戒しないでくれると助かるんだけど」

「ぼ、ぼぼぼぼく、契約があるので失礼しますぅ!!」

「あ、ちょっと」

 

 脱兎の如く走り去っていくギャスパーくんの背中を見送る。

 

「逃げられた……」

 

 行き場もなく宙を彷徨う手をおろし、僕はとぼとぼともといた場所へ戻る。

 

「うわっ! 海樹? いつの間にそこに?」

「いつの間にって大袈裟な……ついさっきだよ? 歩いてたの見てたじゃん」

「いや、見てないっすよ。海樹が金髪の女子のとこに行ったと思ったら、うちの近くに瞬間移動してきて、金髪の女子はいなくなってたっす」

「女子?」

 

 ギャスパーくんは男の子だし、なにか見間違えてたのかな? 

 

「女子だったじゃないっすか。海樹の糸に絡まれて怖がってた印象っすよ」

「いや、え? ギャスパーくんは男だから、違うし、誰の話してるの?」

「いやいやいや、あれは完全に女子っすよ。女の子にそんなこと言うなんて失礼っすよ?」

「だーかーらー、男の子だって。どうみたら女の子になるのさ!!」

「どこをどうみても女子でしょあれは!! 海樹の目は節穴っすかぁ?」

「いや、ミッテルトこそ、なにいってるのさ。どう見たって男の子だったよ」

「あなたたちは、何を言い合っているの……」

 

 僕らの後ろから、ため息混じりのリアス先輩の声が聞こえてくる。

 

「リアス先輩! ギャスパーくんは男の子ですよね!?」

「いやいや、あれは、女子っすよ。どう見ても」

「ギャスパーは男の子よ。それにしても、あの子が……珍しいこともあるのね」

「どうかしたんですか?」

「いえ、こっちの話よ。気にしないで。それよりも、海樹たちの処分についてだけど、その反応を見る限り、もう敵対する気はないみたいね?」

 

 リアス先輩は僕の目を見て、尋ねてくる。なんというか、すごい圧を感じるけど、僕はその目をそらしたらダメだと思い、そらさずに、答えた。

 

「はい。僕の敗けです。言うことを聞きます」

「そう。それなら、海樹については、ここまでにするわ。悪魔になってすぐの人間にはよくあることだもの」

「そうなんですか?」

「少なくとも、私の眷属にはよくあることね。それで、堕天使四人の処遇。海樹としては、『処刑』というのは、嫌なのよね?」

「そうなったら、また敵対します」

「そうでしょうね。私としても自分の眷属からはぐれ悪魔を出したくはない。だから、殺す気はない。けれど、そうなってくると、私一人で決められるものでもないの。もう一人の管理者と一緒に話し合ってから、決めさせてもらうわ。それまでの間、あなたたち四人には、捕虜としてここで生活してもらうわ」

 

 捕虜? えーっとつまり? 

 

「ようは、うちらの自由を制限させる代わりに生かしてやるって言ってるだけっす。まあ、あんなことして、生きてるだけ御の字っすけどね」

「ほへー」

「あなた、全く理解する気がないのね」

 

 リアス先輩にあきれられ、僕はたはは、と乾いた笑いをこぼす。

 いや、だって、正直、ミッテルトたちがなにしようとしていたのか知らないし、興味もなかったから、リアス先輩たちが止めにいった理由も、生きてるだけ儲けものになる理由もさっぱりなんだから。

 

「とりあえず、ミッテルトはうちから出ていくってことでいいんですか?」

「そうね。ちょっと、首輪を着けてここに住まわせることになるわ」

「首輪?」

「光力とあなたの糸を利用した『反逆防止』の服。頼んでいいかしら?」

 

 それを聞いて、ミッテルトはビクゥと体を跳ねさせる。そう言えば、ミッテルトは感情感応式のキグルミパジャマを着せたことがあったっけ? あれをイメージしているのか……なるほど。

 

「リアス先輩、尻尾かなにかで感情がわかるようにした方がいいですか?」

 

 僕の問いを受け、リアス先輩は一瞬、『なにいってるんだこいつ?』みたいな目を向けてきた。

 いや、でもさ、ほら、

 

「遊び心って大事だと思うんですよ。純粋に『こいつ反逆しようとしてます』って告げるより、『敵意むき出しの感情を持っています』って、尻尾とかから告げられた方が、かわいいと思いませんか?」

「海樹のヒトデナシ!! あれをまたうちに着せるつもりっすか!!」

「うん」

「鬼! 悪魔! ヒトデナシ!!」

「悪魔だもん。人じゃないもんねー」

「こんの……クソガキぃ……」

 

 ミッテルトの反応をみたレイナーレさん含めた三人が、ものすごく渋い表情をしている。ふむふむ。これは……

 

「ふふ。面白そうね。ついでに、使用人の様な格好をさせるのもありね。なん着くらい作れそうかしら? 急を要するけれど」

「十分あれば明日の分はすぐにでも。ミッテルトの分は既に作ってあるので、どうぞ」

「いつの間に!?」

「ミッテルトが出ていってたから、腹いせに猫耳メイド衣装を作っておいたんだ」

 

 キリッとちょっと格好をつけてみる。すると、ミッテルトはぽかぽかと、僕の肩を叩いてくる。本人としてもじゃれあいみたいな感じなのか、全く力が込められていない。

 

「それじゃあ、ミッテルトだけ先に着ていましょうか? 他三人の分は」

「採寸は終わらせてあるので、反抗しないように拘束だけしてもらっていれば、それでいいですよ」

「そう。それじゃあ、そうさせてもらうわね」

 

 リアス先輩は縄を取り出してミッテルトたち堕天使組を拘束する。ふふふ。腕がなるぞぉ……。

 僕は神器から黒と白を基調として、赤系統の色をアクセントに、耳や尻尾、アホ毛といった形のカチューシャなどを作っていく。

 

 そうすること約五分。部屋の前にギャスパーくんの気配を感じる。

 

「入ってきていいよ」

 

 僕が、声をかけると、ピャーっとドアの前から立ち去っていく。

 うーん。なにがしたいんだろ? 

 

 僕はそう思いながら、テーブルの上に衣装をならべ、それぞれの名前を記載した紙をおいていく。

 そういえば、僕のこと処罰とかしなくてもよかったのかな? 僕、結構反抗的かつ、問題行動っぽいこといってたけど……

 まあ、リアス先輩がなにもしないっていってるから、それでいいのかな? 

 そんな楽観的なことを思っていると、あることに気づいた。

 

「あ、ヤバイ。神器をしまえない……」




とりあえず、一巻分は終了です。
戦闘があっさりしていたり、死亡キャラが生存していたりと、さまざまな原作との乖離点を産み出していますが、まあ、なんとかなると思います。はい。
明日以降の俺が何とかするさね。うん。がんばります。

とりあえず、ここから、イッセーのトラウマであったり、朱乃とのからみであったりを意識しながら書いていきたいと思います。

それでは、また次回、お会いしましょう……


あ!アーシアのこと書いてなかった!!アーシアは原作通り、聖母の微笑みを持って、悪魔に転生していて、レイナーレはアーシアから抜き取った神器を没収されています!!

それでは、また次回!!


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丹芽海樹設定(一巻終了時点)

一巻部分終了記念、海樹の設定公開ー!!どんどんぱふぱふ

というわけで、一巻部分が終わり、一区切りということで、この時点での海樹のスペック紹介をしようとおといます。






名前:丹芽(あかめ) 海樹(かいき)

性別:男

身長:165cm

体重:52kg

性格:マイペース

一人称:僕

 

バックグラウンド

小学生の頃、旅行帰り道五大宗家に襲われ、両親を失い、たくさんの施設を転々としていたが、そのほとんどが五大宗家によって襲撃され、追い出されることになった。

その後は、運良く入居できるアパートに三年間暮らさせてもらっていたが、大家が五大宗家に情報をリークしたため、公園穴蔵生活が始まる。

 

キャンプや秘密基地についての知識を母親から得ていたため、快適とは言えないものの、神器を使い応用する形で生活空間の確保には成功した。

駒王町に住むよう手助けした存在がいるらしいのだが、海樹との面識はない。

 

 

土蜘蛛の糸(ソイルスパイダー・ネット)

妖怪『土蜘蛛』が封印されている神器。能力は『糸を作る』というもの。繊維素材であれば大体作れるのだが、扱いがピーキー過ぎて、戦闘には向かない。

また、日本において土蜘蛛の糸は、『テロリスト』と見なされ、見つけ次第討伐対象となっており、日本の妖怪、魔法使いなど、異能関係者はこぞって、所有者を襲う傾向にある。

 

そのせいか、日本で生を受けた所有者は早死にいやすく、兎尾のように十代半ばで亡くなることの方がほとんど。

 

◯属性糸

ホーエンハイムによって作られた『賢者の石(エレメント・ストーン)』が、神器の窪みに付けられており、『賢者の石(エレメント・ストーン)』によって、作り出される、火、水、風、土の糸。

それぞれの属性としての側面を合成することにより、より特殊な糸を作り出すことができる。

 

◯ジグの使った糸

見えず、触れられず、土蜘蛛の思ったところに巻き付けることができる糸。

神器がエラーを起こしていても、土蜘蛛の意思さえあればいつでも使うことができる。が、所有者が使うことは出来ない。

 

◯色つきの糸

土蜘蛛曰く『色の特性を引き出す』糸らしい。

 

特殊形体

妖人化

妖力を神器から流される形で、パワーアップする形体。

全部で四段階存在しており、三段階目までは、土蜘蛛が提供してくれる妖力の量で、四段階目で『気』を加えた状態の形体になる。

その代償として『生命力』を削ることになる。

 

妖人化・第零形体

ほんの少し妖力を流した状態で、肉体が少しだけ強化されている。

ダメージをおい、傷を直すときなどの生命力を必要とされるときに、使われる傾向にある。

 

妖人化・第一形体

妖力を実用レベルにまで使用可能に引き上げ、糸を攻撃的に利用できる形体。

下級悪魔クラスの肉体に引き上げることができる。

 

妖人化・第二形体

妖力と『人の持つエネルギー』を合成し、より妖怪に近い性質を持つ形体。

半透明のエネルギーのようなもので、体をおおったり、そのエネルギーで腕を作ったりすることができる。

ただし、時間制限があり、ずっと維持することができる形体ではない。

 

妖人化・最終形体・妖仙化

妖力と『気』そして、『人の持つエネルギー』を合成した形体。

土蜘蛛曰く、『宿主(海樹)クラスの精神力をもったやつじゃないと、すぐ暴走して狂死する』らしい。

メリットとしては、仙術を操れるようになること、力が増幅すること、そして、治癒力が高まることにある。

ただ、維持することが難しく、維持は気力に依存し、同時に、大幅に生命力を削る。

 

 

海樹の現状

・度重なる妖人化により、『妖怪』としての力を得た

・仙術を扱えるが『乱す』『整える』『流す』の三種のみ

・悪魔に転生したことにより、『妖人化』を使うことができなくなった

・意識しなくても『気』を察知することができるようになった

・駒価値は5







以上です。
駒価値についての突っ込みがありそうなので、補足をば

まず、海樹そのもののスペックは高くないです。強いて言うなら『素養』が高いというくらいでしょうか。
神器のほとんどをジグに任せていたため、非戦闘時以外の扱いは『慣れてない』です。
そのため、海樹のスペックは高くても駒価値2となります。

次に神器ですが、こっちはそもそもが『糸を作る』だけの神器のため、カウントできません。ですが、なかにいる魂たちの存在で、ギリギリ引き上げているのが現状です。

妖仙化状態であるなら、駒価値はぐんと伸びますが、転生時は使っていなかったこと、神器そのものの評価になったこと、本人の素養だけでの駒価値裁定が下った結果、駒価値はポーン換算で5す。


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火の鳥対策の山籠り
第1話


 あれから数週間後、僕はミッテルトたちの、たくらんでいたことを知った。

 それを聞いてとりあえず、四人ともに糸で作った拳に気を纏わせ、振り下ろしたおいた。

 

 それから、ミッテルトについては、僕が面倒を見ることになった。本人たっての希望だったみたいで、ミッテルトを使用人みたいに扱ってもいいこともあり、僕も嫌じゃないし引き受けることにした。

 レイナーレさんはリアス先輩共にイッセー先輩のところに向かうことになったらしい。本人としてはとても不服らしいが、敗者ゆえに言うことを聞くしかないことも理解しているからか、反抗しようとはしてなかった。

 ドーナシークさんやカラワーナさんはもう一人の管理者のところに行く事になったらしい。

 二人とも執事やメイドとして頑張っている(意訳)とリアス先輩から聞いた。

 

 そういったことが色々解決し、この生活にもなれて来はじめたある日のことだ。

 

「リアス先輩が処女を奪ってほしいってイッセー先輩に迫った?」

「らしいっすよ」

 

 僕はミッテルトともに学校で昼食をとりながら、話をしていた。

 

「詳しい話は知らないっすけど、貴族様も色々あるんすかねぇ?」

「じゃない? で、ところでミッテルト」

「なんすか?」

「ショジョってなに? アニメ?」

「んなわけないっす。知ってても知らなくても困らないっすから、そのときが来たら童貞とセットで教えてやるっす」

「ふーん。それよりミッテルト」

「なんすか?」

「その尻尾と耳、様になってきたね」

「うがぁー!! なんなんすか!! 人がせっかく忘れてたことをいちいち蒸し返して!!」

「え? 忘れる?」

 

 僕はミッテルトの頭と腰を見る。頭についた耳に変化はなかったが、腰に巻いてあるベルトから天を突くように尻尾を逆立てている。

 

「自分でいっていることに気づいたのか、ミッテルトはハッとした表情で僕をにらんでくる」

「なに、ナレーションしてるんすか」

「だって、クラスでミッテルトだけ浮くのはかわいそうだし」

「浮いてねーっす! てか、そもそも、うちがここに通えること自体異常事態って認識しろっす!」

 

 あのあと、リアス先輩やミッテルトから聞いた話だが、もともと、天使、堕天使、悪魔という種族は対立関係にあり、現在は冷戦状態で、ちょっとした火種で戦争になりかねない状態とのこと。

 だから、ミッテルトたちがなにかを企てていたとしても、対応が遅れぎみになるし、静観しないといけないこともあるらしい。

 

 とはいえ、こうしてミッテルトと一緒に学校に通えるのは、リアス先輩たちが、堕天使側に話を持っていった際、ミッテルトたちの上司から『そいつら、追放することになったから、煮るなり焼くなり好きにしろ(意訳)』ということになったからだ。

 なんというか、堕天使のこう何て言うのだろうか、非情とかそんな感じが見受けられてしまう。

 

 もっと部下を思いやってやれんのか!! とか聞いたときは思ったけど、それが堕天使と思うことで納得しようと思う。だって、僕は、四人しか堕天使を知らないわけだし。

 

「それよりも、こんな話、教室でするもんでもないっすよ。まあ、多少結界張ってうちらの会話の内容をあやふやにはしてるっすけど」

「まあね。それよりも、なんとかなってよかった。あのまま神器を消せれなかったら学校休学しないといけないところだったよ……」

「ほんと、そうっすよ。神器の誤作動とか初めてみたっす」

「そうなの?」

「神器が誤作動を起こすって相当な異常事態っすから。神器と魂は超密接な関係にあるっす。だから、抜き取られたら死ぬし、魂そのものに異常が起きると神器側にも影響が出るっす」

 

 そうそう、それでたしか……

 

「僕が仙術使って『悪い気』をためすぎちゃったことで魂に負荷をかけちゃったからって話だっけ?」

「そうっす。うちの腹に風穴空いたことがあってよかったっすね。あれなかったら、海樹の仙術のこととか、知らなかったから、神器が戻せないまま過ごすことになってたかもしれないっすよ?」

「おぉう……僕の高校生活死ぬところだった。ありがとうミッテルト。愛してる」

「はいはい。そういうことは気楽に言わない。勘違い女子を発生させる原因になるんすから」

 

 僕の軽口に、尻尾をたてながら小声で「ま、性格に難ありだから、勘違いもクソもないっすけど」と呟くミッテルト。

 へぇー、ふーん。

 

「ねぇ、ミッテルト」

「なんすか?」

「尻尾たってるよ?」

 

 顔を赤く染め、慌てて尻尾を隠そうとしているミッテルトに、ニヤニヤとイヤらしい笑みが浮かんでしまう。

 

「へぇー、ミッテルト嬉しかったんだ。へぇー」

「ち、違うっすよ! 変な勘違いすんなっす、うちはただ、変なやつに勘違いされないようにアドバイスをしてやろうと思った……そう! 親心みたいなもんっす!!」

「ハイハイわかってるよー」

「頭撫でるなっすー!! ついでに、左手を顎に伸ばそうとするのもやめるっす!!」

「はいはーい」

「やめてないじゃないっすかー!!」

 

 とはいいつつも、手をどけようとしないミッテルトを、セクハラにならない程度に撫でまわす。尻尾が大きくゆっさゆっさと揺らしていることから、気持ちいいことはよくわかる。

 うーん、やっぱり、リアス先輩に尻尾やらつけるのを提言してよかったー。

 僕がそんなことをしていると、頭に手刀が下ろされた。

 

「なにするのさ、コーチン」

「コーチン言うな。授業が始まるからさっさと夫婦ごっこやめとけっていいに来ただけだ」

「あ、そう? ありがと」

「夫婦じゃねぇっす」

「はいはい。そういうのはわかってたことだから。それより、丹芽はよかったのか? 塔城は『部長に呼ばれたから』って部室に向かったみたいだけど」

「え? そんなこと言われた?」

「うちは聞いてな……あっ! 海樹に伝えてほしいって言われてて忘れてたっす!」

 

 うん、ミッテルトも大概いい加減だよね。僕が言うのもあれだけど、けど、言伝てを忘れるって……

 

「これは、今日は被服部で着せ替え人形の刑に処した方がいいのか……?」

「い、いやっす。なんすか、あの部。頭おかしいっすよ。海樹がいてもお構いなしに服脱ぐし、海樹もそこら辺ガバガバだし、海樹に採寸とかさせてるし、全員着せ替え人形になっても怒らないし……なんなんすか、あの部!?」

「被服部だよ。あ、塔城さん、帰ってきたみたい。オーイ塔城さーん」

 

 僕の声に反応こそしたが、時間を気にしてか、塔城さんは自身の席に着く。

 

「なにかしたんすか?」

「いや、なにも? それより、授業始まるし、席つきなよ」

「わかってるっすよー」

 

 そういって、ミッテルトは自分の席に戻っていく。

 僕はそれを見送ると、腕を枕にして眠ろうとした。

 

「寝るな、バカ」

 

 そして、シレッと地脈から力を受けた手刀を、僕の頭に振り下ろしてくるコーチン。

 僕はそれを気をまとい受け止める。

 

「痛い」

「寝ようとするからだ。バカ。ちゃんと受けろ」

「あーい」

 

 僕の返事を受け、コーチンは自身の席に戻っていった。ジーッと塔城さんの視線が刺さるけど、気にしないようにしよう。

 そんなことを思いながら、僕は昼の授業のほとんどを寝て過ごしていた。

 

 

※※※

 

 

 放課後、僕とミッテルトはオカルト研究部の部室へと足を運んでいた。

 被服部へミッテルトを連行したかったのだけど、木場先輩とイッセー先輩が誘ってきたので、そちらを優先することにしたわけだ。

 

「それで、これからなんの話をするとか聞いてるんですか?」

「いや、なにも。ただ、部長も貴族だから、色々なしがらみがあるんだと思うよ」

「そうなんですね。ミッテルトは連れていってもよかったんですか?」

「問題はないんじゃないかな? 扱いとしては捕虜ってことになってるし、後ろの方でじっとなにもしなければ、誰も気にしないと思うよ」

 

 木場先輩の言葉でほっと胸を撫で下ろした。

 

「ところで、イッセー先輩」

「どうした?」

「レイナーレさん。馴染んできました?」

「あー……まあ、一応。母さんと父さん、アーシアは、すぐに受け入れてたな……」

「そうですよね……すみません、僕のわがままで……」

「いやいや。気にするなよ。後輩のわがままくらい許容できなきゃ、ハーレム王なんて夢のまた夢ってやつだ」

 

 どこか無理してそうな雰囲気でそう答えるイッセー先輩が不安になり、僕はミッテルトや木場先輩の方を見る。

 ミッテルトはあきれぎみに、僕の脇腹をこづいてきて、木場先輩は愛想笑いを浮かべていた。

 

「一応いっとくっすけど、きつくなったらさっさとリアスに『やっぱり無理』って言う方が良いっすよ。レイナーレ様があんたんちに住んでんのは半分が海樹のわがままの結果なんすから」

「わかってる……けど、ひどい目に遭ったアーシアが許すっていってるし、父さんも母さんも新しい娘ができたって感じで喜んでるからさ……」

 

 そうなんだ。それはよかった……。

 

「ていっ!」

 

 僕が安堵していると、ミッテルトが手刀をおとしてきた。

 さすがにムカッとしたので、睨みつけたが、ミッテルトは大きなため息をついて、僕の胸に指を突きつけてくる。

 

「どうせ海樹のことっすから、『仲良くできそうでよかった』とか思ってると思うっすけど、はっきりいうと、うちらがこうやってグレモリーと関わっていること事態、悪魔にとっては裏切り行為なんすよ。海樹のわがままのせいで、リアスは政治的に発言権が落ちてるといっても過言じゃないくらいなんす。それに加えて、イッセーのメンタル的にも、無意識下で大きなストレスを与えてることだって考えられるんすよ。もっと、自分がなにしでかしたか感がえろっす。まあ、うちが言えた義理じゃないっすけど」

「いや、俺は大丈夫だよ。それより、部長だ。なんか、すごい切羽詰まってたけど、木場たちはなにか知ってるのか?」

「僕はなにも」

「僕もー」

「うちも特には知らないっす。朱乃あたりなら知ってるんじゃないっすか?」

 

 そういわれながら旧校舎が見えてきたとき、感じた覚えのない気を感じる。

 気にせず、そのまま向かっていると、部室の前で木場先輩とミッテルトの体が強ばっていた。

 

「ここまで来ないと気づかないなんて……」

 

 木場先輩はそう漏らし、少し悔しそうにしていた。

 

「まあ、そんなもんじゃないっすか……明らかに上級……それも、相当なやり手っすよ、これ」

「あ、そうなんだ。それじゃあ、おじゃましまー……ぁす?」

 

 僕の後ろから大きくため息をはく音が聞こえてきて、何となく察した。

 あ、これ、結構緊迫してる空気感なのね……と。

 



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第2話

遅くなりました。とりあえず今月分です。



 部室に入ると、なんというか、すごく冷たい空気が肌を指した。

 

「なんですか? この雰囲気……」

 

 入ると同時にそうぼやくと、睨むとはいかずとも、険しい表情をしている、リアス先輩と姫島先輩、塔城さんの視線が刺さる。

 リアス先輩は一度息を吐くと、僕らを視界にとらえ、普段の威厳のある優雅な雰囲気に変わった。

 

「ごめんなさい。ちょっと、色々あって」

「はあ……で、僕も呼んだってことは、悪魔絡みの問題……なんですよね?」

「えぇ。ミッテルトから聞いてると思うけれど、今日はあなたたちに大事な話があるの」

 

 リアス先輩が、そういって覚悟を決めるかのように、息を吸うと同時、まるでタイミングを見計らったかのように、橙色の魔方陣が部室に展開される。

 

「フェニックス……」

 

 木場先輩の呟きが僕の耳にはいる。悪魔について色々リアス先輩に教えてもらっていくなかで、悪魔の魔方陣には、その家の紋章があるという話を思いだし、この魔方陣はフェニックス家のものなのだと理解した。

 そして、その魔方陣から光が発生すると、室内を包み込み、人影が姿を表した。

 その後、なんの余波かわからないが、炎を巻き起こり、室内を熱気が襲う。

 

 よおーくみてみると、なにやら炎の中心で、佇んでいる男の人のシルエットが見える。ふむふむ。なるほど。

 

「人命救助ぉ!!」

 

 僕はとっさに火に強い糸を作り出し、炎のなかに伸ばす。

 だが、その糸は一瞬にして燃え尽きてしまった。

 

「突然攻撃してくるとは、眷属のしつけがなっていないんじゃないか? リアス」

「そう思うならその登場の仕方を改めたらどうかしら? うちの子は、みんな優しいから」

「なんか、すみません」

「いやいや、気にしなくていい。俺はフィアンセの眷属の失態にいちいち小言を溢したくないのでね」

 

 ふむふむ。なるほどなるほどぉ……で、

 

「フィアンセ?」

 

 どういうこと? 僕はボソッと気になった単語を呟いていた。

 

 

 

※※※

 

 

 その後、すぐに銀髪の女の人(リアス先輩の実家のメイドさんらしい)から、『リアス先輩のフィアンセ』と自称している男性の素性について教えてもらった。

 ようは、政略結婚で純血悪魔を増やしてこうぜ☆という話らしい。

 ふむふむ。なるほどなるほど。イッセー先輩は納得していない様子だが、そんなに気にするようなことなのだろうか? いや。まあ、気にするべきなんだろうけど、この人たぶん『悪い人』じゃなさそうだし、変なことにはならないと思うんだけどなぁ……。

 そんなことを思いながら、ぼーっと二人のやり取りを見ていると、銀髪の女の人が二人の間に入り、『レーティングゲーム』というもので話を付けようという。

 

「ねぇ、塔城さん」

「なに?」

「レーティングゲームってなに?」

「眷属同士を争わせて、主の実力を誇示するゲーム」

「へぇー」

「それだけ?」

「うん。そうだけど、どうかした?」

「なんでもない」

 

 変な塔城さん。

 そんなことを思いながら、僕はまた、ぼーっとする。そういえば、以前ミッテルトから結婚願望とかないのかって問い詰められたことあったっけ? 

 うーん、正直、パッとしないし、こう……なんだろ? 僕の考えている以上に大切なことがあって、でも、意志が介在しないのが~って感じなのだろうか? いまいちわからない。

 

 だってさ、結婚とかって、二十代になって考えるかどうかってレベルの話だと思うんだよ。そんな話をいまからやりますなんて言われても、さっぱりわからないんだよね。

 まあ、男性の方はリアス先輩にセクハラしまくっているから、リアス先輩がそれは流石にいやと思っているからかもしれない。

 

 

 とはいえ、リアス先輩もイッセー先輩からの、めちゃくちゃイヤらしい視線を流しているから、そういったところでもないような気がする。ま、こういうのは、僕の気にする所じゃないし、主がいやがってることを無理に共用する必要もないし、ちゃんとレーティングゲームってやつに取り組もう。

 そう決心し、大きくあくびをしていたら、男性は帰っていった。

 

 そういえば、あの人の十五人のお付きの人の中に『気』が似てる人がいたけど、そういう趣味をお持ちで? 

 最近の兄妹は進んでるなぁ……。男性悪魔はハーレムを作る傾向にあるという話を思い出し、この日の部活動は終わった。

 

 

※※※

 

 

 さて、相手は不死鳥ということで、十日後に行われるレーティングゲームのために、修行をすることになった。

 どうやら、グレモリーの所有する山でやるらしい。個人で勝手に鍛えてな的なものだと思ったら、みんなで鍛えましょうという感じで、学校も公欠扱いになる。

 

 そうなると、イッセー先輩が覗かないか心配なので、いくつか対策セットを用意しておこう。

 そんなこんなで、荷造りしていると、部屋の扉が開かれた。

 

「準備できてるっすか? あー、もう、なんすかこれ。トラップツール? 落とし穴とか作る気っすか?」

「まあ、イッセー先輩もいくし、リアス先輩たちに迷惑かけたくないから」

「そっすか。まあ、家のことは任せろっす」

「うん、お願い」

 

 そんな会話をしながら荷造りを済ませ、荷物を背負う。

 

「それじゃ、いってきます」

「いってらっしゃいっす」

「この十日で強くなって帰ってくるから」

「はいはい、期待してるっすよー」

 

 ムッ……すごくテキトー……。なんとなく、ムッとするけど、まあいい。実際に強くなって帰ってくればミッテルトを、あっと言わせられるから。

 ふふふ、見てろよー。フェニックスとか言う人達倒してきてやるからなぁ。

 そう意気込み、僕は集合場所である、グレモリー家が所有する山へと向かっていった。

 

 

※※※

 

 

 山へとつくと、どういうわけか、イッセー先輩の息が上がっていた。

 

「大丈夫ですか?」

「だいじょばない。なんで、お前は涼しい顔してるんだよ……」

「慣れ? ですかね?」

「くっそぉおおお!」

 

 イッセー先輩は、鞄と言うにはあまりにも大きすぎる鞄を背に、鬼の形相で山道を登っていく。

 ちなみに、イッセー先輩が疑問に思っていたことは、僕の背中には、イッセー先輩以上に大きく、明らか重りで重量調整した鞄があるため、楽々動いているように見える僕に疑問を覚えたからだと思う。

 

「あー、もう、あんな無茶して……」

 

 僕はため息をつきながら、その後ろをついていく。

 そして、そんな僕のとなりに、僕と同じ量が入っていることは間違いない鞄を背負った塔城さんが並んだ。

 

「塔城さんも、大丈夫?」

「うん。一応戦車だし」

「たしか、肉体的な攻撃力と防御力の上昇だっけ?」

「そう。だから、重いものをぶつけられても、押し潰されない」

「へぇー」

 

 たしかに、ここに来るまでの間この重り数百キロ? くらいの荷物を抱えても、余裕だったから間違いなく、筋力が上がったことに違いはない。

 けど、調整が効かないとか、そんな感じはしないから、ほぼ無意識レベルで、必要な力を引き出しているだけなのかな? 

 そんなことを考えながら、適当に寄り道をして、鹿を狩って、もとの道に戻り目的地である屋敷に到着すると、完全にへばっているイッセー先輩がいた。

 

「連れていきましょうか?」

 

 僕は近くでイッセー先輩の回復を待っているリアス先輩にそう尋ねる。

 

「えぇ。お願いするわ。それと、その手に持ってるのはなに?」

「鹿ですよ。ちょっと狩ってきたので、あとで食べませんか?」

「そうね。そうしましょうか」

「それじゃあ、イッセー先輩。いきますよ」

「お、おう。ちょっと待ってくれ」

「はいはい」

 

 僕はイッセー先輩の上に鎮座していた鞄を持ち、一息つく。

 

「血抜きしないといけないんで、早く来てくださいよ」

「わかっ……た」

 

 仰向けになり、息を整えているイッセー先輩を横目に僕は屋敷から影になる場所へ向かう。

 さすがに狩りたてだから、結構グロテスクな行為を屋敷の目につきやすい場所でするのは、どうかと思うわけだ。

 

 うんっと、背伸びをし、神器で糸を作り出す。

 普通ならハサミだったり包丁だったりを使うのだろうけど、まあ、今取り出すにしてもわりと苦労するから、

 さっさとできる糸の方を使う。

 それに、ちょっと、やってみたいことの練習にもなるしね。

 

 そして、ほんの数分程度で、鹿の解体と血抜きは終了した。

 

 

※※※

 

 

「お待たせしましたー」

「つ、疲れたー」

 

 屋敷に入り、荷物を置き僕はそういう。

 

「いえ、そんなに待ってないから、気にしなくても良いわ。荷物をおいたら外に出てきてちょうだい」

「はーい」

「わかりました……」

 

 本当に疲れてそうなイッセー先輩の声を流しながら、僕はキッチンを探す。せっかくの鹿肉。腐らせるわけにはいかないしね。

 作り出した布で覆っておいた鹿肉を、キッチンに運び冷凍保存して、個室へと向かう。

 初めてきた場所のため、それなりに迷ったものの、イッセー先輩や木場先輩の気を探って、なんとなくの場所を割り出すことに成功した。

 

 その結果、荷物を置き、なんとかそんなに時間をかけることなく、リアス先輩たちと合流することができた。

 そして、ついて早々、僕とイッセー先輩、木場先輩は一本ずつ木刀を渡される。

 

「あの、リアス先輩。これは?」

「見てわかるでしょう? 木刀よ」

「いや、そういう意味じゃなくて、なんで木刀がいるんですか? それも、三本も」

「あなたたち二人の適正を計るためよ。一つは祐斗用。海樹については、それなりに戦闘経験があるみたいだけれど、何が得意なのかわからないし、イッセーについては、基礎を教える必要があると判断したの」

 

 なるほど。たしかに、僕の武器は糸で陣地を作り、そこで、敵を捕縛することや拘束すること。このことは、たぶんリアス先輩も知ってると思う。

 けど、僕が糸以外に何が使えるかは話したことなかったし、控えめにいって直接戦闘できるタイプの武器じゃない『糸』を使っている以上、サブウェポン的なものを持っていろと言うことなのだろう。

 まあ、実際、糸を編んで作る武器のなかに剣も候補に入ることもある。使いにくいから槍にすることが多いけど。

 

 とはいえ、僕に槍や剣の心得があるわけではないし、正直なところ、今は『魔力』の扱いについての理解を深めておきたい。

 

「ということで、リアス先輩。魔力について教えてください」

「何が『というわけで』なの……ちゃんと説明してちょうだい」

「えっと、いま、習得したいものがあるんですけど、妖力を使っているところに、魔力とかも使いたいなぁって」

「わかったわ」

 

 そういうと、リアス先輩は姫島先輩を呼び、木場先輩や塔城さん、イッセー先輩たちの視界に移るような場所で、姫島先輩とのマンツーマン魔力レッスンが行われることになった。

 




うん。なにも変化ない回ですよ?だって序盤だもの。

あー、それと、お気に入り登録者二百人を越えました。いやー、応援ありがとうございます。月一更新で、投稿したらお気にいり登録者減ったりするんですけどね。
まあ、それでも、なんか、ゆったり増えていってるので、それなりに成長していると実感しております。
たぶん、三百人越えたあたりで、こんな感じのあとがきまた書くと思うんで、邪魔だおらぁと、思われない程度に閉めさせていただきます。

では、また次回お会いしましょう。


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第3話

 姫島先輩から魔力の扱い方を学び、やりたかったことが現実味を帯びてくる。

 

「そういえば、海樹くんの試したいことってどういうものなんですか?」

「あー、えっと、糸を群れと見立てて、制御するってやつです。もともとは妖力でやってたんですけど、千本制御するのが限界で、もっと多くしておきたいなって」

「なるほど。たしかに、海樹くんの魔力量なら可能ですわね。ただ、問題があるとするなら……」

「威力ですよね? わかってますよ」

「海樹くんの神器の特性上、高い威力の攻撃には向いていませんわね。必要最低限の力で敵を制圧するという戦法が得意なようですし」

「まあ、そうですね。最近は仙術も身に付いてきましたし、より『破壊力』は必要なくなってきましたし」

「気を乱すことが得意なんでしたわよね?」

「まあ、仙術の基本ですからね。『乱す』『集める』『纏う』の三つはここ何週間かで叩き込まれました」

 

 僕がそう答えると、姫島先輩は少し考えこむ。何を思案しているのかわからないけど、流れ的に仙術と魔力の使い方を考えているのだろう。

 

「あの、一応他にもやってみたいこととかもあるんで」

「すみません。私も海樹くんの力になれると思ったんですけれど、ダメそうですわね……」

「あ、いや、そんなことは……でも、やっぱり、そこはー……ほら。僕、新人悪魔ですしわからないところもありますから」

 

 そうフォローしようとしていると、クスクスと風を揺らす声が聞こえてくる。まさか、この人……! 

 

「からかったんですか!?」

「ごめんなさい。小猫ちゃんから聞いていた『他人のことを気にしないマイペース』な子と違いすぎてて」

 

 そういいながらも、ふふふと、笑い続ける姫島先輩に、少しいらっときた。

 

「やっぱり、僕、姫島先輩嫌いです」

「あら、はっきり言うんですのね?」

「だって、隠したって仕方ないじゃないですか。できるだけ、ギスギスしたのはやめろって、リアス先輩からも言われてますし」

「私は、あなたのこと好きになりましたわ。屈服させ甲斐があって」

「クソやろうですね」

「女性に向かって『やろう』はないのではないですか?」

「クソの方はいいんですね」

「うふふ」

 

 明らかに笑顔なのに、目の笑ってない感じ、ちょっと怒ってそうかな。この人、すごく上品に振る舞うから、どんな人かわからなくて、困るんだよなぁ……。

 

「それより、よろしいのですか? まだ、魔力については基礎くらいしか教えていないのですが」

「大丈夫ですよ。仙術とかのと似たようなところありますし、そういったエネルギー操作にはなれてますから」

「妖力で戦ってきたんですものね」

「ジグからの供給でしたけどね」

「暴走したらキチンと退治して差し上げますので、安心して暴走してください」

「『姫島』に殺されたら母さんたちから怒られそうなので、遠慮しておきます」

「あらあら、残念ですこと」

「えぇ、一生残念がっといてください」

 

 べぇーっと、舌を出し煽ってみると、うふふと微笑みつつも、こめかみをピクピクと揺らしていた。

 

「あらあら、これは、一度、格の違いというものを実感させておいた方がよろしいようですね」

「僕相手に一対一で勝てると?」

「あなたこそ、相性が悪い相手に勝てるとでも?」

 

 僕と姫島先輩は、互いに臨戦態勢をとる。

 

「名目は練習試合でいいですよね?」

「えぇ。殺傷能力の高い技はなし。それ以外は何でもありで」

「わかりました。じゃあ、本気でいきますね」

 

 僕は大量の糸を作り出し、魔力を込め排出口から、出していく。

 元々は妖力でやっていたこともあり、そんなに難しくはなかったが、感覚的に何か違うなぁー程度の認識が生まれてしまう。

 

 まあ、それは、それとして、

 

「うふふ。その威勢、どれ程続くか見物ですわ」

 

 そう言うと同時、僕の目の前に巨大な雷が迫ってくる。

 僕は咄嗟に糸を操り、雷を防ぐように展開し、気を集め仙術を扱える状態へ変化し、姫島先輩の気を探り、反撃した。

 糸の制御も兼ねているため、視界がほぼ埋まり、姫島先輩の姿も見えなくなる。まあ、そうなるから、気を集めて仙術を扱えるようにして、姫島先輩の位置を探っているわけだけど……。

 

「善の気の方が変な感じするんだよなぁ……」

 

 とは言うものの、普段集めてる悪い気よりは、数段まともな感じはある。暴走させようとして来なかったり、精神を汚染させようとしてこなかったり……それが慣れなくて変な感じがするってかんじだ。

 

 姫島先輩から放たれる牽制用の雷を、糸で受け流しながら、反撃をしてを繰り返す。

 僕の糸の数は大体五千から一万。平均三十センチくらいのものの集合体ゆえに、少し物足りなさを感じるものの、反撃には十分足りている。

 まあ、姫島先輩の攻撃を受け止めているため、焦げて使い物にならなくなった糸の補充、反撃分で魔力の共有が甘くなり減少した糸の補充……そんなことの繰り返しにより、糸で操る群はどんどん縮小傾向へと進んでいく。

 

 実力差……いや、相性の悪さが露骨に出ているような感じがする。僕のやろうとしていること、たぶん、接近戦メインの人とかにやる術の類いっぽいなぁ……。

 

「どうしました? さっきまでの勢いが落ちているようですが」

 

 僕の放つ糸の群を空中で飛び回って避けながら、姫島先輩は尋ねてくる。

 

「余裕ですね……」

「えぇ。私の土俵で挑んでくるんですもの。余裕もできますわ」

「じゃあ次は、僕の土俵にも上がってもらいますね」

「なにを……」

 

 僕は九千近くの糸を使いひとつの柱を編み上げ、残った糸で棒を編み、それを、両手で構える。

 すると、柱の方も連動して動いて、棒の向きと合わせる。

 

「僕のやってみたかったことの二つ目……うまくいきそうでよかった」

「なるほど。糸で作った柱と自分の杖。それを連動させて攻撃する……屋内においては使い勝手が悪そうですが、周りを気にしなくていい環境では、最適かもしれませんね」

「さっきのは、屋内想定でしたから。じゃあ、いきますよ」

 

 僕は縦に棒を振る。それに呼応するように柱も一緒に振るわれた。

 姫島先輩は横に大きく移動することで、その柱を回避し、僕にむかって雷を放つ。

 一つ一つが大降りのため、とっさの行動が僕には出来ない。けれど、僕自身も全く策がないわけではない。

 

「なっ……!」

 

 姫島先輩の驚いた声が耳にはいる。

 そうだろう。僕はほとんど慣れない魔力の操作を行っている。だからといって、僕本来の能力や力が使えなくなったわけではない。

 まあ、つまり、僕は仙術を使い、地面を隆起させ雷を防いだだけである。

 

「気の操作を怠っていた訳ではないのですね」

「ほとんど無意識でも扱えるようにしないと、実戦投入できませんから」

「なるほど。では……」

 

 そんなやり取りのあと、夕方になりご飯の時間が来るまで、僕と姫島先輩の練習試合は終わらなかった。

 

 

※※※

 

 

 姫島先輩との模擬試合も終わり、夕飯の鹿鍋を食べたあと、お風呂で疲れをとったあと、部屋でポチポチとスマホをいじり、電話をかける。

 

『いきなり電話かけてくるなんて何かあったんすか?』

「いやー、今日一日疲れたから、ミッテルトの声でも聞こうかなって」

『彼氏面キモいっすよ。そんで、調子はどうなんすか? あんまり慣れてないことやって、筋肉痛になりそうとか、そんな感じっすか?』

「あははー、バレてた? まあ、そこは仙術で騙し騙しやるから問題ないよ。あ、それより、ミッテルト」

『なんすか?』

「散らかしてないよね?」

『わざわざ、電話で聞くことっすか、それ!?』

 

 だって、ミッテルトだし。前も自室汚くしてたし。

 

「まあ、散らかしてないならいいよ。十日間、きれいに維持できると思ってもないから、たまには、ドーナシークさんたちに頼んできれいにしてもらうんだよ。あと、小袖のおっちゃんに『皮衣』の納品お願いしておいて」

『は? 『皮衣』? なにいってるんすか?』

「大体それで伝わるから。えーっと……オカケン人数分ね」

『いや、だから、その皮衣ってやつの詳細を……』

 

 僕はミッテルトの話を聞き終わる前に、通話を切る。要件自体は話し終わったし、今日はゆっくり休もう。

 そう思い、布団にくるまると、僕は眠りに落ちた。

 

 

※※※

 

 

 翌日、昨日と同じ様に姫島先輩との模擬試合を済ませ、イッセー先輩が乗りに乗った魔力操作で剥いたジャガイモを使った料理を頬張りながら、リアス先輩とイッセー先輩の会話を聞く。

 

「それで、イッセー。昨日と今日、どう感じたかしら?」

「俺が一番弱かったです……」

 

 真剣な声色に、茶々をいれることなくご飯を食べる。

 いや、まあ、関心がない訳じゃないんだけど、イッセー先輩が弱いことに変わりないわけだし、なんとも言えない。

 

「そうね。たしかに、あなたが一番弱いわ。でも、あなたには、赤龍帝の籠手がある。祐斗にも小猫にも海樹にも出せない火力が、あなたの力。だから、力がたまるまでの間、逃げる力を身に付けなさい」

「逃げる力?」

「えぇ。逃げるって言っても、簡単なことじゃないの。ただ、背中を見せて逃げたって的になるだけ。そうならないように、技術を身に付けることも必要なの」

「はあ……」

 

『よくわからない』という風な雰囲気を出すイッセー先輩。まあ、逃げるのに技術がいるって言ってもわからないもんね。

 僕だって、最初の頃は必死になって逃げて、何度も背中に火傷とか負ってたし。あー、思い出すだけで背中がいたくなってきた……

 

「まあ、あれですよ。失敗したら背中燃やされたり、刻まれたり、打撲したりするんで、選択ミスらないことは超大事です」

「お、おう。なんか、実感こもってるな」

「経験したことですからね」

 

 事実だから仕方ないね。小学生のころからだし、今も結構傷跡が残ってたりする。昨日のお風呂のときも、イッセー先輩たちと時間をずらして入ったし、先輩たちは知らないことだと思うけど。

 まあ、そんな感じで、ちょっと暗い雰囲気のまま、食事は終わり、各人の部屋へと帰っていく。

 

「カーキ。後で、私の部屋に来て」

 

 そんな中、僕は、塔城さんからのご指名で、呼び出しを食らうことになった。

 うーん、なんなんだろ? まあ、でも、断る理由もないしいっか。

 そう思い、塔城さんの誘いに乗り、僕は部屋へと帰っていった。



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第4話

 お風呂から上がり、髪を雑に乾かしてから、部屋に戻ると、塔城さんの部屋へ行くための準備を整える。

 えっと、必要そうなのは……携帯ゲーム機、トランプ。あー、あと、花札とかかな? 

 

「よし、大体こんなものかな?」

 

 僕は適当に作った手さげ袋に、ボードゲームやカードゲームなどを積めていく。人の部屋でワンキャン騒ぐのは、お泊まりの定番だし、話ぐらいだったら遊びながらでもできるし、ちょうどいいと思う。

 

 ふぅーっと、僕は大きく息を吐いて、気を集める。まあ、夜中に女の子の部屋にいくわけだし、誰かに見つかったときに、言い訳するのは、さすがに面倒くさい。

 ということで、周囲の気を感じながらなら、隠れながら塔城さんの部屋に行こうということになった。

 

「あれ? イッセー先輩の気配……アーシア先輩の部屋に向かってるのかな?」

 

 鉢合わせないようにしないと……僕は、イッセー先輩の気配が遠ざかるまで、じっくりと待ち、アーシア先輩の部屋に入っていくのを感じてから、部屋を出た。

 

 

※※※

 

 

 塔城さんの部屋の前につき、僕はトントットトントンとドアをノックする。

 すると、ガチャッとドアが開かれ、僕のお腹に小さな拳が突き刺さった。

 

「塔城さん。いたい」

「平気そう。入って」

「はーい。それにしても、なんで殴ったの?」

「うるさかったから」

「ごめんなさい」

 

 僕は塔城さんに招かれるまま、部屋に入っていく。キョロキョロと見回してみるも、僕の部屋と同じ作りで、そんなに意外というか、変わっているような点はない。

 強いて言うなら、塔城さんの使い魔がくつろいでいると言う点くらいだろう。

 

「で、カーキ」

「なに?」

「その荷物、なに?」

「ボードゲームとかカードゲーム。折角だし遊ぼうと思って」

 

 適当にいくつか持って見せると、塔城さんに大きくため息をつかれた。

 

「ダメだった?」

「べつに。とりあえず、そこの机に置いて。チェスしながらでも問題ないし」

「はーい」

 

 僕は塔城さんの指示通り、少しベッドから離れたところにある机に盤を置き、駒を並べていく。

 

「それで、塔城さん。話って?」

 

 僕がそう聞くと、塔城さんは目をパチクリとさせ、兵士の駒を動かす。

 

「忘れてなかったんだ」

「話があるって言われたから来たのに……まあ、話ながらできるゲームとか、持ってこようとは思ってたけど」

「ん。それで、さ。カーキって仙術が使えるって、ほんと?」

「そうだけど。話してなかったっけ?」

「うん。聞いてない」

 

 そうだっけ? と思いつつ、過去を振り返ってみると、確かに塔城さんには話したことなかった気がしてくる。

 

「そっか。それで、それがどうかしたの?」

「えっと……カーキは怖くないの?」

「なにが?」

「……仙術」

 

 あー、うん。なるほどなるほど。そう言うことか……

 

「つまるところ、塔城さんは仙術を暴走しないように扱いたいってことか」

「違う」

「なぜ!?」

「そもそも、仙術自体才能がないと使えない」

「え? でも、塔城さんもできるでしょ? 仙術」

「…………」

 

 僕から目をそらし、コトンと駒を動かす塔城さん。ただ、今までより、強めに置かれて、触れられたくないところを、触れちゃったような感じがする。

 

「えーっと、その、聞いちゃまずかった?」

「ううん。私の心の問題だから」

「そっか。まあ、でも、あれだよ? 怖いなら使わない方がいいよ? 仙術って、精神が安定していないときに使うと、暴走したり、力に溺れちゃうみたいだから」

「うん。わかってる」

「それで、塔城さんの話って、僕が仙術怖いかそうじゃないかって話だっけ?」

「そう」

 

 うーん、そうは言われても、仙術が怖いとか考えたことはなかったんだよなぁ……いつも妖力と一緒だったから、妖怪化しすぎないように気を付けてただけだし。

 

「そうだなぁ……怖くはないよ。ジグから嫌ってほど、『仙術にしろ、妖力にしろ、リスクがあったもしても力は力だ。怖がってちゃ、その負の側面にのまれるだけだ』って言われてきたし」

「そうなんだ……」

「うん。まあ、身の丈にあった力の運用が、一番安全ともジグはいってたけどね」

「そっか……うん。ありがと」

「いえいえ、こちらこそ? でさ、塔城さん」

「なに?」

「もしかして、僕、詰み?」

「うん。チェックメイト」

 

 そういって、塔城さんは戦車の駒を動かし、僕の王の駒の逃げ道をなくした。

 うん、まあ、僕、チェスの経験少ないからね。仕方ないね。

 

「それにしても、話って仙術についてだったんだ。塔城さんも使えるから、ジグとかそっちの方かと思ってたよ」

「土蜘蛛についても気にならないことはないけど、私としては、仙術の方が気になったから」

「ほへぇー」

 

 うーん、塔城さんが仙術が気になるって、やっぱり昔に何かあったからなのかな? 使い方を教えてとかじゃなかったし、それに、普通、仙術を『怖い』って捉えないから、そこが気がかりになるのは、さすがに使い手目線でおかしいと思う。

 そもそも、あんまり自分の力を怖いって認識するのは、よくないような気がするんだよね。ほら、中二病みたいな感じするし。

 

「それじゃ、塔城さん。明日の特訓だけど、二人でやらない?」

「なんで?」

「だってさ、リアス先輩、イッセー先輩を強くすることに集中してて、連携とかあんまり考えてないじゃん?」

「イッセー先輩は弱いから」

「それは、間違いないし、方針自体が悪いとは思わないんだよ? けど、レーティングゲームにおいて重要なのって、戦術と連携だと思わない?」

 

 僕の問いに塔城さんは頷くも、表情は優れなかった。おそらく、塔城さんも塔城さんなりに、考えがあるからだろう。

 

「相手は私たちより数が多い。けど、イッセー先輩はフェニックス攻略のキーにはなるから」

「十秒毎に力が倍になるんだっけ?」

「そう。だから、私たちの役割はイッセー先輩が力をためるまでの時間稼ぎになると思う」

 

 確かに、そうなるのは必然かもしれない。僕たち二人は、戦車という特性上、筋力などが増強されて、一定の力を出すことができる。けど、それは、相手も同じこと。

 はっきり言うと、僕や塔城さんが一番役割がない。イッセー先輩は、弱いというところを気にしていたけど、それ以上に『役割』が明確にある。

 

 力を限界までためて、ライザーさんにぶちこむ。これができるだけでも、大きく戦況を変えることができるだろう。

 ただ、そうした場合、僕や塔城さんは何をしていればいいのだろうか? 

 塔城さんの結論は『時間稼ぎ』らしい。正直、僕もそれが一番いいと思う。

 

「ただ、リアス先輩だけに、全部を任せてたらいけないような気がする」

「どういうこと?」

 

 少し、塔城さんの声色が強ばる。

 

「なんていうか、大きなプレイミスをしそうな感じがあるんだよね。少なくとも、レーティングゲームって長期間やるものなんだよね?」

「ルールによる。けど、私たちがやるのは、そのイメージで問題ないと思う」

「じゃあ、たぶん、補給地点とか用意されてたりすると思うんだよ。そういったところを、短期決戦上等! みたいな感じのことをしそうなんだよね」

「そう?」

「何となくだけどね。ただ、僕としては屋内戦が一番戦いやすいし、そっちに寄せた戦い方も必要なんじゃないかな? って思う」

「うん。わかった。けど、イッセー先輩は今のままだと戦力外だから、明日の特訓が終わってからでいい?」

「全然いいよ。むしろ、僕の方からお願いしてるんだから、塔城さんに合わせるのは当然でしょ?」

「ん。それじゃあ、また明日」

 

 そういって、塔城さんは僕の持ってきた荷物をまとめ、渡してくる。部屋にもどれということだろう。

 

「うん、それじゃ、また明日」

 

 

※※※

 

 

 翌日の早朝、目を擦りながら、食堂に向かっていると、リアス先輩と遭遇した。

 

「あら、海樹。早いのね」

「リアス先輩こそ。ちゃんと寝ました?」

「当然よ。あなたは? 小猫となにか話していたみたいだけど」

「まあ、多少は寝ましたよ。はい」

「そう。なら、少しお願いがあるのだけど、いいかしら?」

 

 …………え? なんて? 

 僕の聞き間違いだろうか? リアス先輩が、僕に頼みたいことがあるとか、いっているんだけど。

 

「えっとー、内容によりますよ?」

「何を警戒しているの……あなた、逃げることと、不意を突くことが得意なのよね? イッセーに教えてあげてほしくて」

 

 あー、なるほど。昨日までの間に、塔城さんたちがやってた教師役をやって欲しいってことか。あー、なるほどなるほど。

 

「それなら、問題ないですよ。山道とか使って説明するんで、はぐれないように気を付けてくださいね?」

「大丈夫よ。それじゃあ、朝ごはんにしましょうか」

「はーい……って言っても、まずは作るところからなんですけどね……」

「そうね」



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第5話

よっしゃー、久々の投稿じゃぁ!!
とはいえ、修行パートは特になにか特別なことをしたわけじゃないので大々的にカットして進行しましたけどね。


 さて、フェニックス家とのレーティングゲーム本番。

 特訓期間、イッセー先輩を鍛えに鍛え、全体的に強くなった僕たちに、油断と隙は存在しない。

 

「ふぅー、準備完了」

『かっはは、慣れた環境だと罠の設置なんざ、造作もねぇもんだなぁ! おい』

「あはは……まあ、これが通用したら間抜けのレベルな気がするんだけどね……」

 

 僕は振り返りながらジグにそう返す。

 うーん、やっぱ、これは見え見えすぎるトラップだよね……

 旧校舎を囲む森の中に張り巡らせた糸。すべて薄暗い森という環境に合わせた色にしているものの、目をこらせばいくらでも見えるくらいに、わかりやすく設置している。

 

「とはいえ、全体的にやり過ぎたなぁ……うん」

「これじゃあ、罠としての機能がない」

「そうなんだよねぇ……ちょっと失敗。とりあえず、全体に気を巡らせておけば、防衛陣としては使えるようになるかな?」

「そもそも、罠としての機能がないだけで、普通に近づきたいとは思わないと思う」

「じゃ、ここに籠もっておけばある程度の安全は確保できたかな?」

「たぶん。それじゃ、私はもう行くから」

 

 そういって、塔城さんは背を向け、体育館へと向かって行く。

 

「ジグ」

『あいよ』

 

 ジグの返事が聞こえてくると、『土蜘蛛の糸』から一本の糸が伸び、塔城さんのあとを追う。

 よし、これでこっちも準備完了。それじゃ、一気に進めますか……

 僕は妖力と魔力を高め、セルフ妖人化モードへと移行する。この十日間、塔城さんとの連携を鍛えながら、さらにパワーアップする方法を考えていて正解だった。

 

「さって、ジグ。僕らがやるべきこと、わかってる?」

『はっ! 焼き鳥小僧をここから攻撃すんだろ? 派手にぶちかませよ。宿主』

「わかってるよ!」

 

 僕は神器から糸を作れるだけ作り、空に校舎より大きめの大剣を作り出す。

 

「さ、一気に片付けようか」

 

 そして、その大剣は僕の手の動きに連動して、校舎を二つに叩き切った。

 

 

※※※

 

 

「と、まあ、やっちまったわけだけど……」

『撃破アナウンスはねぇな』

「だねぇ……まあ、拠点は潰したわけだし、フラッと出てきたところを叩けばいけるかな?」

『無理だろ。あれで撃破されてねぇってこたぁ、相当な手練しか残ってねぇだろ』

「それもそっ……やっばっ、ジグ!!」

 

 僕らに向かって、突然、森を燃やしながら炎が向かってくる。それに対し、黒い半透明の膜を展開して防ぐものの、この場に展開されていた糸の防衛網は簡単に破られてしまった。

 

「あら、今ので撃破できなかったのは意外ですわね」

「まあ、索敵は得意だしね。それより、結構強引に突破してくれたね。あれ、わりと時間かかったんだけどな」

「そうでしたの。あっさり破られて、残念でしたわね。とはいえ、私、レーティングゲームで戦うなんて言う泥臭いことするのは嫌いなんですの。ましてや自分で戦うなんて……」

「じゃあ、なんで、今こうして一人でここに来てるわけ?」

「大お爺様からの命ですわ。詳しいことは知りませんが、あなたの実力を確かめてこいと」

 

 なるほど……

 

「なんで僕を?」

「それこそ、わかりませんわね」

「だよねー」

「まあ、それはそれとして大お爺様からの命ですから無駄話はここまでにしましょうか。糸を張り巡らされても困りますしね。まあ、この状態でできればですけれど」

 

 確かに、僕を囲んでいる木々は彼女の炎によって、今も燃え続けている。さすがに、この状態だと、糸が燃えてすぐに効果はなくなるだろうけど……まあ、別にそれだけじゃないし、こんな環境なんてずっとあった。

 むしろ、今以上にピンチだったかもしれないのを切り抜けてきたんだし、問題ない。

 あっと、そういえば聞くの忘れてた。

 

「君は死なないって認識で大丈夫だよね?」

「突然何を聞きますの?」

「いや、君の気がライザー・フェニックスさんと似ていたから、親族なのかなって」

「なるほど。そういうことでしたの。えぇ。私はライザー・フェニックスの妹レイヴェル・フェニックスですわ。フェニックス家の特性である不死は当然持ち合わせていますの」

「そっか。安心した」

 

 そういって、僕は右腕を横に一閃。

 すると、レイヴェル・フェニックスと名乗った女の子の首が足元に転がってきた。その首はすぐに灰に変わると、今にも倒れそうな胴体の首から炎が巻き上がり、先ほど灰になった首が再生されていた。

 

 

※※※

 

 

 首が再生したレイヴェルは、自分が相対していたはずの男に、支えられているのか理解できずにいた。

 

「な……なに……を?」

「とりあえず、落ち着いてね。今、攻撃されたら、次はその足を斬ることになるから」

 

 海樹から掛けられた言葉によって、レイヴェルは、ゆっくり自分の身になにが起きたのかを理解していく。

 今の一瞬。自分が攻撃が来ると認識する前に、首を斬られ、命を落とし、復活した。

 それを理解したとき、急激に自身の体温が下がっていくのを感じる。いつからなのだろうか、体の震えが収まることなく、冷や汗が止まる気配がない。

 恐怖一色に染められている表情は、貴族悪魔としてあってはならない事態である。そう認識していても尚、彼女は平静さを取り戻せないでいる。

 

「えっと、その。落ち着いてね? 一応、仙術で気を整えてるから」

 

 下手人の声が聞こえる。意味は理解できない。ただ、これからもし、自分が反抗する意思を示したとき、彼が何をするのかそれだけは理解している。

 だから、反抗はしない。なされるがままにする。そうすれば、自身は『死ぬこと』はない。そう確信しているから。

 そうしているうちに、背中をポンポンとあやすような感触があることに気づく。

 

 ──暖かい

 

 

 その心地よさに、レイヴェルは身を委ねる。

 体の震えも止まった。冷や汗も気づいたら止まっていた。

 ただ一つ、『死への恐怖』だけは収まっていないものの、ある程度までは平静さを取り戻したと言ってもいい。そこに、耳元で海樹が囁く。

 

「できれば、自主退場(リタイア)してほしい」

 

 そして、その一言にレイヴェルは従った。否、従わざるを得なかった。

 彼女に植え付けられた恐怖心(トラウマ)は、この場において、絶対服従の呪いとなっていた。

 

『ライザー・フェニックス様の僧侶(ビショップ)一名、戦闘不能(リタイア)

 

 審判のアナウンスが、駒王学園を模したフィールドに鳴り響いた。

 

 

※※※

 

 

 時は遡り、海樹が新校舎を叩ききったあとの旧校舎オカルト研究部。

 

「今のは?」

「海樹さん……でしょうか?」

『さすがは土蜘蛛といったところでしょうか』

「朱乃?」

『いえ。別に彼自身になにか思うところがあるわけではありませんわ。ただ、小さい頃から『土蜘蛛は恐ろしく強く、警戒しなければいけない存在である』そう教えられていたので。それに、彼の特訓はよく見てましたから、これくらいはするだろう、とも』

「そういえば、朱乃と海樹はよく模擬戦をしていたわね。あれもそのときに?」

『あそこまでの破壊は初めてですわ。ですが、魔力になれていくうちに、糸を操る量も増えていましたので、敵の本陣を遠隔で攻撃すること自体は可能だったと思います』

「そう。ところで朱乃」

『はい、なんでしょう?』

「海樹から『体育館壊さないでおいてください』だそうよ」

『自分用のフィールドを作るためですわね。では、こう返しておいてください』

 

 朱乃はそうリアスに返し、ふふふと不適な笑みを浮かべ、一誠と小猫が体育館からでたのを確認すると、

 

『いやです』

 

 そう返し、特大の雷を体育館へと振り下ろした。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名、戦車一名、戦闘不能(リタイア)

『ざっと、こんな感じでしょうか?』

「朱乃……」

『私の見せ場が土蜘蛛に奪われるのは少々癪でしたので』

「まあ、いいわ。これで、ライザーが使える陣地はないも同然。私たちはライザーの駒が減るまで待機しましょう」

『そうですわね。あら?』

「何かあった?」

『海樹くんが陣取っている旧校舎に続く森ですが、焼け野はらになってますわね』

「朱乃!」

 

 リアスの慌てた声が旧校舎に木霊する。

 海樹の本領は障害物があってこそ機能する。それゆえに、平地にされると途端に実力が落ちてしまう。

 ここで、駒の数が減ると困るのはリアスの方である。もともと、人数不利のレーティングゲームだ。戦車一人と兵士三人倒したとはいえ、その人数差は未だ開いたまま。ここから追い上げるとしても、こちらの消耗はより激しいものになるだろう。

 

『ライザー・フェニックス様の僧侶一名、戦闘不能(リタイア)

 

 嬉しい誤算というべきだろうか、そのアナウンスにリアスは勝ちを確信した笑みを浮かべてしまう。

 このままいけば、勝てる。その確信は、リアスの……そして、

 

『リアス・グレモリー様の戦車一名、戦闘不能(リタイア)

 

 小猫の油断になっていた。

 

 

※※※

 

 

「今の、塔城さん?」

『だろうな。おめぇは聞いてなかったかも知れねぇが、あの金髪ドリル倒す前に四人の撃破アナウンスがあった。それで油断してたんだろ』

「あ……てことは練習意味なくなっちゃったか……」

『あぁん?』

「いや、実は結構塔城さんと連携の練習してたんだ。ただ、塔城さんがリタイアした以上、意味なかったなって」

『んだよ。その程度のことか。んで、これからどうすんだ?』

「とりあえず、グラウンドかな? 全員そこにいるみたいだし」

『初手でブッパなした甲斐があったな。おい』

「そうだね。姫島先輩には言いたいことあるけど、結果オーライ。このまま、妖人化第二形態のままで行くよ」

 

 

※※※

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名、戦闘不能(リタイア)

 

 そのアナウンスが耳にはいる。誰がやったのかとか気にしない。

 とりあえず、グラウンドまでひとっ走りしないと……

 身体能力の上がる妖人化を使ってるわけだし、あと二分もあれば合流できるはず。

 

『海樹、聞こえる?』

 

 そんなことを思いながら走っていると、ゲーム開始前に耳にいれた魔法具? のイヤホンからリアス先輩の声が聞こえてくる。

 たしか、トランシーバーみたいな奴だっけ? 

 

「はい。どうかしたんですか?」

『今からライザーを討ちに行くわ。あなたが新校舎を破壊してくれたおかげでグラウンドでの乱戦になりそうだけど、どれくらいで着きそうかしら?』

「あと一分あれば」

『わかったわ。小猫は撃破されてしまったけど、まだ勝機はある。あなたも全力を出してちょうだい』

「わかってます」

 

 とは言ったものの、正直、リアス先輩の婚約とかには興味ないんだよね。ただ、イヤみたいだし協力するかぁ……程度の感覚だし。

 かといって、イッセー先輩や塔城さんが頑張ってる以上、僕も頑張らないと失礼だと思うし、だから……

 

「割り込むけど一気に片付けるね」

 

 僕は大量の糸を展開して、グラウンドにいるライザーさんの眷属を纏めて地面に縫い付ける。

 

「木場ぁ、神器を解放しろ!!」

 

 イッセー先輩の掛け声と共に木場先輩が神器を地面に突き刺すと、魔方陣みたいなものがグラウンドに展開される。

 それに、イッセー先輩が触れると、グラウンド一体に剣山が出来上がり、その場にいたライザーさんの眷属全員がリタイアした。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士二名、騎士二名、僧侶一名、戦車一名、戦闘不能(リタイア)

 

 おし、片付いた。

 

『宿主!!』

『リアス・グレモリー様の女王一名、戦闘不能(リタイア)

 

 ジグがとっさに声をかけてくれたお陰で、妖人化第二形態による、黒い半透明の外殻での防御が間に合ったけど、高威力の爆発が僕と木場先輩を襲った。

 とはいえ、木場先輩の方に回している暇がなく、

 

『リアス・グレモリー様の騎士一名、戦闘不能(リタイア)

 

 木場先輩もリタイアしてしまった。




やばい、レイヴェルはヒロインにする気ないのに、ここから展開しようとしているストーリー的にヒロインになってまう……

まあ、そこはなんとか誰かのフラグをぶち折って貰うか……うん


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第6話

……どんだけ続き出してなかったんだろ……エタってないって事の証明はこんなもんでいいかな……?うん


 木場先輩と姫島先輩が退場して、残りは僕とイッセー先輩、リアス先輩と一応アーシア先輩。戦力として考えるとアーシア先輩はほとんど活躍できる場面はないのではないだろうか? 

 

「イッセー先輩」

「なん……」

「すいません」

 

 僕はイッセー先輩を風の糸で吹き飛ばすと、仙術で土の壁を作り覆った。

 

「いいのか? 赤龍帝を使わなくて」

「問題ないですよ。あなたも僕が脅威に思ったから妹さんを送ってきたんでしょ?」

「レイヴェルから聞いたのか?」

「大お爺様がどうとか」

「あぁ。そうだ。俺もレイヴェルも大お爺様からの命には逆らえないからな。やむなく……といいたいところだったんだが、なかなかに想定外のことをしてくれた」

 

 そうなのかな……? 

 

「理解してないみたいだな。不死身のフェニックス家。その長女を倒したということは、この悪魔社会において魔王クラスの力をもつとほぼ同義であるということを」

「あー、つまり……?」

「俺は貴様になめてかかるつもりはない。ユーベルーナ。やれ」

 

 僕はとっさに妖人化第二形体であるエネルギーの外殻で、近くで起きた爆発から身を守る。

 

「意外と硬いんですのね。その外殻」

「魔力と妖力でつくってますから、当然ですよ」

「そうですか。ですが」

「ユーベルーナだけ見ていても仕方ないぞ。土蜘蛛!!」

 

 ライザーさんの放つ炎が、僕の纏う外殻を焼切り、体へと届く。

 

「避けれなかったか。レイヴェルを倒すだけの実力があると思っていたのだが、期待外れだったようだな」

 

 好きかって言ってくれるなぁ。

 

「避ける必要がなかっただけですよ」

 

 全身が白く包まれた全身タイツ状態でそう答える。

 これ、すごくダサいからあんまり使いたくなかったけど、こうなったら仕方ないよね。

 

「それは!?」

 

 女王の人の驚きの声に、にやりと口元が緩む。

 

「火鼠の皮衣。ご存知でしたか?」

「炎を司るフェニックスにそれを聞くか?」

「そうですか。とはいえ、イッセー先輩には万全の状態であなたと戦ってほしいですから、一人は減らさせてもらいますね」

 

 僕は外殻の腕を操り、女王の人を校舎だったところへとたたきつける。

 

「ユーベルーナ!」

『ライザーフェニックス様の女王(クイーン)一名撃破(リタイア)

「さて、これで一対一ですよ」

 

 何ならリアス先輩とアーシア先輩ももうそろそろついてもおかしくない頃合いだろう。

 いや、待て……さすがに遅すぎないか? いくら駒王学園が広いといっても、校内を十分近くかけて移動することなんてまずない。それにここは新校舎側の校庭。旧校舎から出て、ここまで遅いとさすがに違和感がある。

 

「気づいたようだな」

「リアス先輩たちに何をしたんですか?」

 

 ゲームセットになってないということは、撃破されてないのは確実。とはいえ何らかの形で僕らの援軍に駆けつけることもできないということもあるのだろう。

 なら……

 

「リアス先輩たちがつく前までにあなたを倒す」

「貴様にそれができるか? 土蜘蛛」

「可能ですよ(ジグ)」

『ほらよ』

 

 合図を出すとジグは、鉄の糸を作り出し外殻に装備させる。

 

「でかいな」

「そりゃ妖人化第二形態の外殻に持たせるためですからね。怖くなりました?」

「全く。でかいだけの何の特色のない武器、脅威になりえないな」

「そうですか。じゃあ直接受けてみてはどうですかっ」

 

 僕は、外殻の持つ槍をライザーさんに向けて振り下ろす。

 妖人化第二形態はジグの妖力と僕の本来持つオーラを掛け合わせたものだ。そして、今、僕の肉体は悪魔とななり、魔力を有している。

 つまるところ、今まで僕が人間だった頃より、妖力に対する耐性は高くなっているのだ。

 人間時代、数秒だけだった維持時間も、今回の合宿により一日へと長くなっているし人外様々だ。

 

 とはいえ、この妖人化状態で戦うにしても、実はまだ慣れていないことの方が多い。

 例えば、僕自身が行動する時は外殻の操作が疎かになるとか、逆に外殻を動かしている時は僕自身が動けないとか。それぞれのスペックは上がってるけど、独立して動かすことしか出来ないのは致命的な欠点だろう。

 

 ライザーさんは僕の振り下ろした槍を避けるでもなく、そのまま受ける。

 身体が真っ二つに裂け、右半身が燃え尽きると、左半身から焔が巻き上がり、肉体が再生する。レイヴェルさんでも見たけど、こう改めて見ると不思議な人たちだと思った。

 突然のことだったからと言うより、避けて無駄な体力を使うより、受けて再生した方が体力の消耗がないという判断……でいいのかな? 

 

 そんなことを思っていると、再生したライザーさんから炎が放たれる。強化されてるはずの僕の外殻をあっさり焼き切った炎だ火鼠の皮頃もでダメージこそないものの、体から幾分か水分が失われるから直撃は避けたい。

 

「ジグ!」

『妖怪使いがあれぇんだよ宿主ぃ』

「僕じゃ間に合わないから任せるんだろ!?」

 

 そう言い合っている間に、水の糸で構成されたカーテンが僕の周囲にでき、ライザーさんの炎を受け止める。あっという間に蒸発はしたものの、僕に届くようなことは無かった。

 とはいえ、ちょっと蒸し暑い……

 

「ねぇ、ジグ……もしかしてだけどさ」

『んだ? 宿主』

「妖人化第二形態より、普通の状態で対姫島戦闘ようにシフトした方が楽?」

『……そうだな』

「切り替えよろしく」

『おらよ』

 

 そう言ってジグは、さらっと妖人化第二形態を解くと、一本の槍と水の鎧を纏わせてくれる。

 そして、一息。一瞬の間に間合いを詰め、腹に一刺し、薙ぎ払いながら槍を引き抜く。

 

「とはいえ、死にはしないですもんね。あなた達は」

 

 おそらく、わざとなのだろう。ライザーさんの顔を見てみると、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「そうだな」

「ジグ!」

 

 そういうと、ジグは瞬時に顔周りの水をあつくしてくれる。そして、そこに炎を纏った拳が飛んでくる。

 一瞬で水は蒸発したものの、纏っていた炎はなくなり、素の拳だけになっている。そうなったら簡単だ。

 

「ジグ! 盾!」

 

 その掛け声とともに、僕の頬とライザーさんの拳の間に盾ができる。それを左手でつかみ、ライザーさんの拳を受け止めた。

 無理やり受け止めたせいで、左腕の拳が折れる。

 仙術を使い無理やり治してから、盾を掴む。

 

「ジグ。水」

「それが本来の戦闘スタイル……という訳ではなさそうだな」

「そうだったら、なんだって言うんですか?」

「いや。なに。その程度で俺に勝つつもりでいるのが中々に滑稽だと思ってな」

「あなたの妹さんは僕に倒されましたけど?」

「大方、油断していただけだろう? これもいい経験だ。気にするまでもない。それに、お前たち位なら俺一人でも十分勝ち目がある。たかだか、十日かそこら鍛えたところで、魔王クラスの攻撃なんて出来るはずもないからな」

「どうでしょうね。舐めてかかってると、レイヴェルさんみたいに、倒されちゃいますよっ!」

 

 話しているとはいえ、戦闘していることには変わりない。ライザーさんの猛攻を何とかしのぎながら、隙を伺い槍を振るうも、簡単にいなされ、炎を纏った拳が放たれる。

 

 

 戦車の防御力で受け止めてるため、ダメージはない。

 

(やっぱり、距離的に戦いにくいなぁ)

 

 僕は自分の槍の間合いに一歩引こうとする。そうすると、ライザーさんは拳にまとっていた炎を僕に放ってくる。盾を使って受け止め耐えたものの、その瞬間にライザーさんから目を離してしまった。

 

「やば……」

『バカ宿主!』

 

 ジグの声が聞こえたその時、僕の耳には

 

『リアス・グレモリー様の戦車(ルーク)一名撃破(リタイア)

 

 そのアナウンスが響き渡っていた。

 

 

※※※

 

 

「おい! 海樹!! ここから出せよ! ひとりよりふたりで戦った方がいいだろ。俺の倍化があれば」

『うるさい、変態高校生』

「誰だ!?」

『一々うるさいのよ……全く……海樹くんが心配する訳だわ……』

「な、なんだ? どこから」

『あんたの左腕よ。よくあるでしょ、『Boost』って。あれと同じ原理』

「いや、あれはもう少しおっさんっぽい感じが」

『そんなのどうでもいいわよ。それやよりあんた、だいぶ消耗してるんだから一旦休みなさい。海樹くんがあたしを送り込んだのだってあんたを回復させる目的があったんだから』

「俺を?」

『えぇ。海樹くんでも倒せないことはないと思うけど、おそらくもう海樹くんにフェニックスを倒すことはできない……』

「どういうことだよ……」

『海樹くんは人を殺せない』

「普通の事じゃないのか? それ」

『わかってないわね。フェニックスを倒すってことはフェニックスが再生不可能レベルの攻撃を浴びせる、もしくは精神崩壊を起こさせるの二つ。海樹くんには再生不可能なレベルまでの威力をだせるほど、大きな力は無い……つまり、後者になる訳だけど……』

「それすら出来ないほど相手は強いってことか……」

『いいえ、違うわ。やろうと思えば今頃もう勝ちは確定してる。あの子の糸の本質はそこに込められる『邪気』だから、傷を負ったその瞬間、精神への攻撃に変わる』

「それで何で海樹が勝てないってなるんだよ!」

『わからない? あの子は両親を目の前で殺されてるの。そんな子が『誰かの命を奪う』ような技使いたいと、本気で思ってると思う?』

 

 静かに、時が流れる。

 五分から十分くらい経過した頃だろうか。一誠は立ち上がる。

 

「いまから、フェニックスを倒せばいいんだよな……?」

『えぇ。海樹くんはもうリタイアしてる……恐らくリアス・グレモリーとアーシア・アルジェントの二人は校庭にたどり着いている頃でしょうね』

「……海樹の仇討ち……しないとな」

『……岩壁を無くすわ。あなたの気力、体力、それと、今までおっていた傷は完治してるから、また、力を貯めても問題ないわよ』

「あんたは、どうなるんだ?」

『このまま、ここに居座ることになるから安心なさい。あなたどうせ禁手化(バランスブレイク)できないでしょう?』

「なんだ、それ?」

『だと思った……あなたの肉体の再生は私に任せなさい。どれだけ倍加しても壊れないようにしてあげるから』

「よし、覚悟は決めた。頼む」

『Boost!』

 

 その言葉と共に、一誠を囲んでいた暗闇は晴れる。

 

「やれやれ、今更か……赤龍帝」

『Boost!』

「小猫ちゃん、木場、朱乃さん、海樹、みんなが繋いでくれたバトン……俺とお前の一対一できる」

『Boost!』

「貴様程度の力で俺に勝てる気でいるのか? 笑わせる! ドラゴンの鱗をも焼くフェニックスの業火。貴様に耐えられるわけないだろう」

『Boost!』

「そんなの、やって見ないとわからないだろ!!」

 

 一誠が地面を蹴ると同時、フェニックス対赤龍帝の戦いの火蓋は切って落とされた。



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