とある監視所のお話 (屋根裏散歩)
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第0話 プロローグ前夜

第0話 プロローグから遡ること約8ヶ月前から話は始まります、既に退役後なので艦名の表記はありません。
プロローグにつながる話なので第0話としています。


「紫苑……気持ち悪い」

 

明日香が食事中に口元を押さえてトイレへと向かった。

たまたま、この日は母さんが遊びに来ていた。

 

「紫苑……まさかとは思うけど、明日香ちゃん妊娠してるんじゃない?」

 

俺には思い当たるフシがありすぎた。

 

「病院連れていってみるか……」

 

俺は夕食の最中だったが、明日香を車に乗せると救急病院へと車を走らせた。

病院に着くと看護師や医師から質問や検査を明日香は受けていた。

 

「旦那さん、どうぞ」

 

まだ結婚してないんだけどなと内心思いながら、診療室に入った。

 

「ご主人、結果から申し上げます……」

 

俺は医師の妙な間に不安を覚えた。

 

「結果は……おめでとうございます、奥様は妊娠5周目です」

 

 

俺は安堵から脱力するのと同時に最大の幸せを噛み締めていた。

 

「明日香……」

 

おれは明日香の肩にそっと手を置いた。

 

「紫苑……」

 

明日香が肩に置いた俺の手を握り返してきた。

 

「お大事に」

 

俺と明日香は診療室を出ると会計を済ませ、帰宅した。

 

「母さん、皆これから大事な話がある」

 

俺は帰宅するなり。全員を食堂に集めた。

 

「えーと、その……明日香が妊娠した」

 

俺の報告に全員が湧き上がった。

 

「こうしちゃいられないわね」

 

母さんが親父に電話していた。

 

「お父さん、明日香ちゃんに赤ちゃんが……」

 

その後は泣き声になってうまく話せないでいた。

 

「親父、来年にはジジって呼ばれるぞ」

 

俺は親父に明日香の懐妊を伝えた。

 

「……」

 

電話の向こうが何やら大騒ぎになっていた。

俺はそのまま明日香の両親にも報告した。

 

「夜分遅くにすみません、ご報告すべき事が出来ました…明日香が妊娠致しました、妊娠5周目です」

 

俺の報告に義母(結婚前なのに?)が、電話の向こうで泣いていた。

 

俺は義父とも話すと電話を切った。

 

「明日香、お腹が目立つ前に挙式しよう」

 

俺は明日香に結婚式をお腹が大きくなる前にする事を話した。

 

「うん」

 

明日香が頷いた。

妊娠すると感情の起伏など色々な事が変化すると聞いていたが、明日香は普段と変わらなかった、強いて上げれば飲酒しなくなった事くらいだ。

 

俺は、明日香の体調が良い日を選んでは式場選びを二人で進めた。

 

 

 

 

3ヶ月後…

 

「明日香、綺麗よ」

 

義母が明日香のウェディングドレス姿を見て泣いていた

 

「まさか、本当に紅東家の嫁さんになって……初孫まで…」

 

義父も感無量という雰囲気で泣いていた。

俺は目の前の明日香を改めて見た。

 

お腹は少し目立ってきたが、ウェディングドレスでの挙式となった。

明日香の着ているウェディングドレスは薄いラベンダー色のドレスで、以前見ていた結婚情報誌に載っていたものだった。

 

「あと半年位で、俺も親父か…」

 

俺も思わず泣いていた。

 

「全く、紫苑……あなたまで泣いてどうすんのさ」

 

明日香が笑いながら俺の頭を撫でた。

 

「新郎新婦入場です」

 

司会のアナウンスに合わせるように俺と明日香は会場に入った。

 

急な挙式にも関わらず、魚屋の店長夫妻(奥さんはガングート)と店員さん(奥さんはタシュケント)、姉貴夫婦、明日香の同期達(飛鷹と千代田は出所後消息不明)と俺の同期達等の招待客が欠席無く駆け付けてくれた。

 

式の最後に俺は司会からマイクを受け取ると、

 

「えっと、お集まりの皆さん、今日は私と明日香の結婚式にご参列ありがとうございます、新郎妊婦ではありますが……これからは二人…いえ産まれてくる我が子と3人力を合わせて助け合っていきます、本日は急な挙式にも関わらず多数の参列本当に有難うございました」

 

俺は明日香と頭を下げた。

 

そして式の最後、ブーケトスは柚香に手渡された。

 

「柚香ちゃん、次は貴女よ」

 

明日香が優しく微笑みながら。

そう柚香も恋人が出来ていたのだった。

 

 

 

 



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第0話 プロローグ……改

この話を追加するにあたり、本編中の呼び名を艦名のみとします(プロローグ中は本名表記のみとなります)、理由はお嫁さんについて最後まで誰かを分からなくするためです……PDFで保存している方にはバレバレですが。
この話は本編から5年後のお話となります。
2020/8/13
千歳達のその後を追加、本編内で明日香(隼鷹)と婚約迄お話が進んだので、プロローグ内に於いても本名表記としました。


正体不明の深海棲艦との戦いは今だに続いているが、俺の受け持ち区域周辺での出現率低下に伴い監視所縮小を受けて、所属艦娘の退役と周辺監視所の統廃合が告げられ、『青葉』『夕張』『隼鷹』『千歳』『間宮(仮)』の5名は退役した、俺はそのまま統廃合された監視所を運用している。

そして退役したうちの数人が保養所に就職(進学を選んだ者も数名いた為)、勿論紅東グループ社員として。

それから二年後…俺は一人の女性と出来ちゃった婚をした、彼女の名は梶原 明日香、残留した元艦娘の一人だった。

 

 

月日は流れ……

 

とある8月の最終月曜日

 

俺は鹿屋市内の病院に向かっていた。

それは今日、俺の愛妻と愛娘が退院するからだ。

車を駐車場に入れると俺は病室を目指した。

 

「遅くなっちまった」

 

俺は妻に謝った。

 

「仕方ないよ、今日は最終月曜だからね」

 

妻の明日香が愛娘の美音に授乳させながら微笑んでいた。

 

「もう少しでお乳あげ終わるから待ってて」

「それじゃ、先に会計しとくよ」

 

俺はに会計を済ませるためにロビーヘ向かった。

 

「あら紫苑じゃない、明日香と美音ちゃんとはあったの?」

 

ロビーには姉貴と義兄、千尋姉さんが俺を待っていた。

 

「姉貴久し振り、千尋姉さんも元気そうで安心したよ、丁度授乳中だったから先に会計を済ませようと思ってね」

 

俺は姉貴の腕に抱かれていた、赤ん坊をあやした。

 

「紫苑のお兄ちゃんだよー」

 

俺は姪っ子の指を握った。

赤ん坊は、笑っていた。

 

「紫苑君もこれからが大変だよ、明日香さん助けてあげるんだよ」

 

義兄さんが俺の背中を軽く叩いた。

 

「紅東さーん、お会計の準備出来ました」

 

俺は受付に呼ばれたので会計を済ませに行った。

 

「紅東さん、お待たせしました」  

 

看護師に付き添われ、愛娘を抱いた明日香がロビーに降りてきていた。

 

「今、車取ってくるから此処で待ってて」

 

俺は明日香と愛娘を病気のロビーで待たせると、駐車場に車を取りに行った。

 

「後にチャイルドシートつけてるから美音を寝かせて」

 

俺は後ろのドアを開けて明日香と美音を乗せた。

 

「姉貴達は?」

「私達はタクシーで追いかけるわ」

 

姉貴は一台のタクシーを呼び止めると、運転手に行き先を指示していた。

 

「それじゃぁみんな待ってるから帰ろうか」

 

明日香にそう言うと俺はゆっくりと車を発進させた。

 

「明日香、燿子に電話して今病院出たって伝えて」

 

明日香が俺の携帯で燿子に連絡した。

 

「あっ燿子、今病院出たから……うん…うん…そうね一時間位で着くわね…じゃ」

 

俺達は一路我が家へと車を走らせた。

 

最後に姉貴達の事を少し話そうと思う。

先ずは姉貴からだ、姉貴は紅東本体に異動して本格的に経営を母さんから学んでいる。

次は千尋姉さんだ、姉貴の秘書として一緒に東京へ引っ越した。

燿子は、ここに残って保養施設の運営を手伝ってくれている……最近市内に恋人が出来たらしい。

柚香についても、燿子と同じで保養施設を手伝ってくれていて、去年魚市場内の乾物屋の跡取りと婚約した。

紫希も保養施設を手伝ってくれているのだが……今の所浮いた話はないようだ。

最後は吹雪達だ、それぞれ美優(吹雪)は大学へ進学して毎日勉強と保養施設でのバイトに明け暮れている。

潤子(白雪)と明奈(初雪)の二人は保養施設の正規社員として働いている。

凛(深雪)は調理師の専門学校へと進学した、柚香と保養施設の調理をしたいそうだ。

 

 

 

簡単ながら設定を!

 

艦娘について

 

戦艦、空母(軽空母、水上機母艦含み)、重巡、軽巡に尽いては、適正検査ののち志願制。

但し自衛官、警察官に適正者がいた場合は、特別な事情がない限り拒否権は無い。

 

駆逐艦、潜水艦に於いては、ほぼクローンによる建造となっている。

なお、戦後の扱いについてどうするのかが度々議論されている、一部の提督からは終戦後と云わず今からでもと養子縁組の許可申請がチラホラと出てきている、これはあくまでも良い例で悪い物になると、臓器摘出用や新薬の開発用等の検体などいった非人道的な声もある。

以上の事から駆逐艦等の大量生産艦娘は使い捨てにされる傾向にある(中には性的欲望を満たした後に大破進撃させられて処分される例も多々存在しているらしい)。

 



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第1話 新たな任地(改2)

主人公の車を個人的好みのスープラに変更しました。


「紅東 紫苑海軍大佐、以下の者は鹿屋第十三監視所勤務を命ず」

 

俺は一枚の辞令を受け取った。

其処には新たな配属先が書かれていたのだが……。

 

「鹿屋か…遠いな」

 

俺は今、横須賀にいる。

そして昨日までの勤務地は大湊だった。

 

「しかし紅東大佐、君は一体全体何をすれば半年で艦娘から解任要求を出されるような事を」

 

上官から疑問を投げかけられた。

 

「私にも解りません、極普通に運営して……」

 

俺にも解らなかった、いや解るはずがなかった。

これはかなり後で知らされたのだが間宮の艦娘からの魔の手だったらしい。

 

「それと、君の監視所だが…間宮、明石の配属は無い、代わりに夕張を工作艦の代替として配置する、残りの艦娘については秘書艦から聞くように」

 

そうこの間宮の配属に関する事が後々俺の解任要求を解明してくれた。

 

「海軍大佐 紅東 紫苑謹んで拝命致します」

 

俺は答礼をすると上官の執務室を後にした。

 

「紅東大佐お待ちしていました、こちらへ」

 

陸奥が執務室の外で俺を待っていた。

 

「大佐の部下となる艦娘ですが、軽空母『隼鷹』『千歳』 重巡『青葉』 軽巡『夕張』『天龍』『龍田』 以上六名よ」

 

陸奥から彼女達の辞令を受け取った。

 

「それとね、実は夕張以外は軍の拘置所からなの……」

 

陸奥が個別の経歴書を俺に見せた。

 

「隼鷹と千歳はと…命令無視と酒税法違反?何だこりゃ?」

 

俺は首を傾げた。

 

「お酒の密造したの…」

 

なんとなく納得した。

 

「天龍姉妹は…暴行傷害と」

「これは私達も天龍達の味方よ」

 

陸奥の説明によるとロリコン提督から駆逐艦を守る為の行為だったらしい。

 

「駆逐艦が居ないのはどうかと思うが監視所の戦力としては上出来だな…それじゃ姉貴行ってくる」

 

俺は最後にだけ姉と弟の関係に戻った。

 

「全く…気をつけてね」

 

陸奥も最後は姉の顔になっていた。

 

 

 

 

 

俺は九州行のカーフェリーに乗船していた。

 

フェリーで36時間、朝の6時に門司フェリーターミナルを出発、あとは高速道路をひた走り約6時間……やっと鹿屋の街に入った……、そこから更に山道を2時間、

 

「やっとついた…鹿屋っていったって殆ど外れじゃねぇかよ…しかも最寄りの町まで車で2時間とかありえねぇ!」

 

俺は監視所に着くと施設を確認して回った。

 

「此処が居住空間で…食堂に艦娘用の個室と……ハァァ何で俺の部屋まで同じとこにあるんだよ!」

 

俺は絶叫した、何故なら艦娘用の部屋と俺の部屋が襖一枚で仕切られているだけなのだ!

というか監視所という大層な名前が付いていながら実は大きな農家の一軒家だった(土蔵迄あった)。

……一軒家ということは、

浴室は無駄にデカかった、そしてトイレは……一応別れてはいたが小便器と大便器とである(田舎のあるある)。

そして何故か冷凍車(2tトラック)と保冷車(2tトラック)が裏の駐車スペースに止まっていた。

 

「必要な物は自分達で買いに行けと……間違いねぇなクソ親父の差し金だなこりゃ」

 

俺は愛車のキーを捻ると町に必要な物の買い出しに出ることにした(これが後悔の元だった、何故なら乾物と缶詰、レトルト食品、と呑み物しか買えなかった……結局冷凍車で出直す結果となった)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の車ですが…
88年式GA-70トヨタスープラ 2.0GT TWIN TURBO(5Fマニュアルミッション)とします、以降のトランザムやファルコンの話はifルートとします。


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第2話 一人目の到着!(改2)

先ずは隼鷹が着任します。

飛鷹の建造番号(仮称艦名)は1001号艦、隼鷹の建造番号(仮称艦名)は1002号艦となってる為か、一部の資料(文献)では、隼鷹を飛鷹型航空母艦の2番艦とするものも存在する為、本作品では建造番号から二番艦としています。




「何だ、あのワゴン車は」

 

俺は台所の窓から庭を見た。

 

「とっとと降りろ!」

 

ワゴン車から一人の女の子が引き摺り降ろされた。

 

「テメェ等!」

 

俺は勝手口から外に出ると、ワゴン車の運転席にいた男の胸ぐらを掴んでいた。

 

「たっ、大佐殿、自分達は軍警察の者です、コイツを連行してきただけです」

 

俺が目をその女の子に向けた。

 

「大丈夫か」

 

そのスキにワゴン車は走り去っていった。

 

「ちっ、何だあいつら」

 

俺は女の子に近付いた。

 

「軽空母『隼鷹』着任の許可を」

 

女の子が敬礼をして着任の許可を求めた。

 

「先ずは隼鷹か着任を許可する…よろしくな」

 

俺は彼女を部屋に案内した。

 

「この部屋が君の部屋だ」

 

隼鷹がキョロキョロしていた。

 

「何か問題か?」

「牢屋じゃないの?」

「お前は正式に俺の監視所所属となった、だから個室が与えられたじゃ駄目か?」

 

俺の答えに隼鷹が泣き出した。

 

「自由なんだよね、夢じゃないよね」

 

隼鷹がそれを繰り返していた。

 

「ああ夢じゃない、此処には酒もある」

 

未だグズる隼鷹を落ち着かせると、

 

「取り敢えず、お前の歓迎会をするから食堂に来てくれ」

 

俺はそう言うと、部屋割表を渡して台所へと戻った。

 

「全員が揃うまでは任務無いしな」

 

俺はワンカートン分のビールを冷蔵庫に入れた(まさか一晩で無くなるとは思わなかった)。

 

「さて、隼鷹改めて君の着任を歓迎する」

 

俺はビールを隼鷹に渡した。

 

「飛鷹型改装空母の二番艦『隼鷹』宜しくお願いします」

 

隼鷹が呑み始めた。

 

「ヒャッハー!おっさっけ」

 

隼鷹が嬉しそうにビールを開けた。

 

「ぷっはー、キンキンに冷えたビール、最高!」

 

俺と隼鷹はおつまみのお新香と揚げ物、採れたての新鮮野菜で呑み始めた。

 

「あたしの事……」

 

唐突に隼鷹が語りだした。

 

「ああ、聞いてる……ここじゃ飯は俺が作る、酒も勤務に支障無ければ呑んでいい……密造酒作り何かすんなよ……梅酒位はいいがな」

 

俺の話を黙って聞いていた隼鷹の目に光るものがあった。

 

「明日には千歳もやってくる、数日は三人で廻す」

 

俺は隼鷹に今後の着任予定を話した。

 

「そっか、千歳も来るんだ」

 

心なしか隼鷹の表情が明るくなった。

 

「紫苑いるんでしょ」

 

そいつはいきなり入ってきた。

 

「姉貴、来るんなら連絡くれよな」

 

いきなり上がってきたのは陸奥の艦娘であり姉でもある紫織だった。

 

「隼鷹久しぶりね」

「陸奥……あんたの弟だったのかよ」

 

隼鷹が驚いていた。

 

「あら、言わなかった?」

「聞いてない」

 

隼鷹は首を横に振っていた。

 

「紫苑、隼鷹の事お願いね……私達同期なのよ」

 

姉貴が顎に手をやっていた。

姉貴のこの仕草が出るときは絶対に何か企んでいると決まっていた。

 

「そうそう、隼鷹か千歳からだったら義姉と呼ばれ……」

 

俺は姉貴の頬を左右から引っ張った。

 

「何を言い出すかと思えば……」

 

姉貴のとんでも発言を聞いた隼鷹は顔を真っ赤にして固まっていた。

 

「軽空母の二人と青葉。天龍姉妹は貴方のお嫁さん候補よ」

 

姉貴が更に隼鷹を固まらせた。

 

「俺の知らねぇ間に何勝手決めてんだよ」

 

俺は姉貴に詰め寄った。

 

「お父様のご推薦よ!」

「あんのぅクソ親父!」

 

だがしかし悪い気はしなかった、何故ならみな美人だったのだ……。

 

「まぁいいか、それで姉貴は何時までこっちいんだよ?」

「一応全員が着任するまでは……あとね、高倉 柚香って娘覚えてる?」

 

「思い出したくない奴のトップだな」

「どうやら間宮の艦娘になっていたみたいなの、それでね貴方の着任先の鎮守府に付き纏っていたらしいの…早い話が貴方の変な噂の出処は間宮だったと言う訳よ」 

 

柚香は過去に俺の有る事無い事をでっち上げ、(青葉もそれに上手く乗せられた)当時大湊に所属していた艦娘達を焚き付け俺を異動に追い込んだ張本人だったのだ。

 

「マジかよ、アイツが元凶かよ!」

 

俺は頭を抱えた。

 

俺の怒りに姉貴が言葉を付け足した。

 

「それでね、高倉 柚香…いえ間宮はこの事が発覚して軍籍剥奪…とは云え、ストーカー化する危険もあるから拘置所に収容されたのだけど……」

 

姉貴、怖え事サラッと言いやがって。

 

「?って……されたのだけどってどういう事?」 

 

隼鷹が復活して姉貴の言葉尻を捉えた。

 

「……脱走したの」

 

俺は背筋が凍った。

 

「それっていつ頃?」

 

隼鷹が一瞬にしてシラフの真顔になっていた。

 

「紫苑が異動して直ぐだから5日前だったかしら、でもね、紫苑の異動先は一部の関係者しか知らないから…それに指名手配の写真も各都道府県警に配布したから……」

 

俺は呆れるしかなかった。

 

「柚香のアホ、なにやってんだか……でも捕まったらどうなんだ?脱走兵なのか脱走犯なのかによって変わるよな?」

 

俺の疑問に姉貴が答えた。

 

「不名誉除隊後だから脱走犯扱いね」

 

俺は姉貴の答えに少しだけ安心した、あんな奴とはいえ幼馴染なのだから、死刑だと後味悪いしな。

 

「柚香の奴……行くとこないのに」

 

俺は心の中で柚香の事が心配になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




掃き溜めの鶴ならぬ鷹と狼と龍だったか!


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第3話 二人目、着任します!(改2)

隼鷹の時と同じ様にゴツいワゴン車から一人の艦娘が引き摺り降ろされてそのままワゴン車は走り去っていった。

 

「あいつら……もう少し静かに降ろせないのかねぇ」

 

俺は呆れていた。

 

「お仕置き必要かしら?」

 

姉貴が低い声で呟いていた。

触らぬ神に祟りなし、聞かなかったことにしておこう。

俺はまたもや勝手口から庭に出るとその艦娘を迎え入れた。

 

「軽空母『千歳』着任の許可を」

「千歳の着任を許可する、まだ隼鷹しかいないが宜しくな」

 

隼鷹が縁側から手を振っていた。

 

「千歳、待ちくたびれたよ」

 

隼鷹は缶ビール片手に既に出来上がっていた。

 

「隼鷹あなたなんて事を!すみません」

 

千歳が血相を変えて土下座してきた。

 

「隼鷹、呑むんだったら俺も呼べよな!それと千歳此処では勤務に支障無ければ呑んで構わないからな」

 

俺の言葉を聞いた千歳が理解不能という顔をしていた。

 

「千歳、久しぶりね」

 

姉貴も顔を出してきた。

 

「陸奥……あなたが何故?大本営所属で……」

 

千歳が更に混乱していた。

 

「自己紹介しとくか、俺は紅東 紫苑そんでこっちは姉貴の紫織まぁ陸奥の方が分かりやすいか?」

 

やっと千歳の脳味噌が再起動したらしい。

 

「弟さんだったの……でも私みたいなのを配属って」

 

千歳の言葉を姉貴が遮って言い放ちやがった。

 

「あら、簡単なことよ、千歳も隼鷹も紫苑のお嫁さん候補だからよ」

 

千歳がこないだの隼鷹と同じく顔を真っ赤にして固まった。

 

「ちょっと待ってよ、私もだけど犯罪者よ!お嫁さん候補よって貴女の家柄と……」

 

千歳が姉貴と何か言い合っていた。

 

「あら、貴女達の件は証言に疑問点が多過ぎて再審査請求が出てるから犯歴には入れてないわよ、それにお父様お墨付きよ貴女達二人は」

 

俺は蚊帳の外的な存在でいたかった……。

いや隼鷹と外野で呑んでいたかった。

 

「紫苑?部外者ですみたいに隅っこにいるのかしら?」

 

俺は姉貴に引き摺り出された。

 

「何か不満でも?」

 

姉貴の顔が怖かった。

 

「つまり……千歳、隼鷹、天龍、龍田、青葉の中から嫁さんを選べとクソ親父のヤロウ……」

 

俺は缶ビール片手に答えた。

 

「わかってるじゃない」

 

とここに来て隼鷹が一つの疑問を聞いてきた。

 

「なぁ何で夕張の名前ないんだい?あの子も可愛と思うけど」

「ああ夕張ね、あの子は妹なのよ、私達のね」

 

「夕張…紅東 紫希、俺のかわいい妹だ。

俺もだが姉貴も妹も紫の字が必ず入っている。

これは母方の家の伝統らしい。

因みに母の名前は紫(むらさき)だ」

 

「そうなんですか」

 

千歳がおとなしく聞いていた。

 

「ただその何だ、オタクだ」

 

俺の言葉に千歳と隼鷹が変な所で納得していた。

 

「夕張ちゃんと来ればそうだよな」

 

俺と姉貴、そして隼鷹、千歳はテーブルを囲むとささやかながら(?)歓迎会を開いた。

 

「千歳型航空母艦の一番艦『千歳』です、宜しくお願い致します」

 

千歳の挨拶で歓迎会が始まったのだった。

 

 

 

 

 



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第4話 街へ!(改2)

軽空母が二名着任したので買い出しに行くだけのお話。




「二人の日用品を買いに街に、買い出しに行くぞ」

 

俺は千歳と隼鷹に声を掛けた。

 

「あたしらこれしか服持ってないし……実家から送ってもらうにしても……」

 

隼鷹が艤装に標準装備されている制服を指した。

 

「マジかよ……姉貴一緒に来てくれ食料品なんかの買い出しもしたいから」

 

俺は姉貴を誘った。

 

「今の話だと下着とかも必要そうね……食料品買い出しとなると車二台必要ね、私のも出すわ…それと制服じゃなんだから私の服貸してあげる」

 

姉貴も車を出してくれる事になった、これで女物の衣類はなんとかなった……はず。

だったのだが……俺は今、男がいてはならない店に連れ込まれている。

 

「紫苑、これなんかどうかしら?」

 

姉貴が女物の下着を持ってきては千歳や隼鷹に合わせていくから気に入ったのを選べと……誰が選ぶんだよ!

 

「恥ずかしいだろう……」

 

俺は俯いているしかなかった、何故なら、スケスケや布地面積のやたらと少ない物、殆ど紐みたいなやつとかそんなのばかり選んてきたのだから。

周りを見ると数名彼女か奥さんに連れ込まれた男が同じ様になって……いなかった、逆にあれこれと自ら選んでは合わせていた。

 

「おねぇ…」

 

俺は姉貴の頬を引っ張って黙らせた、何故なら次に続くであろうセリフはお姉ちゃんの下着も選んでと言いそうな素振りだったから。

結局二人の下着は姉貴と店員に任せて……何故か支払いは俺だった(姉貴曰く、こういう時は男が出すものと)

 

その後は私服や(此処でも二人は姉貴の着せ替え人形となっていた)普段使いの食器なんかを買うと、命の水を買うために酒屋(カクヤスみたいな大型店)へと向かった。

 

「各自の好みの酒とつまみを確保せよ」

 

俺の指示を受けた千歳と隼鷹がカートを押して散っていった。

その間俺はソフトドリンク(コーラ類や果樹ジュース類、お茶類)とおつまみ用の袋菓子を大量に買い込んでいた。

 

「紫苑、これもお願いね」

 

姉貴がウィスキーをカートに入れた。

 

「それならチーズも買うか…」

 

そう言いながら俺は、ビールを各種箱でカートに載せていた。

 

「恵比寿、スーパードライ、バドワイザー…ワイン…おっとコイツコイツ」

 

ビールを箱買いしていながら俺は一本の日本酒をカートに載せていた。

 

「あら紫苑好きねこの日本酒」

 

姉貴がその日本酒を手にした。

 

「獺祭…前に呉に遊びに行った奴から土産で貰ってから気に入って」

 

「あら一本でいいの?」

 

俺は姉貴のセリフに何かを感じると、獺祭をあと3本カートに載せていた。

 

そして散っていった千歳と隼鷹が戻ってきた。

俺は二人のカートをみて笑うしかなかった。

何故ならこれでもかと積み上げられた、ビール(バラ缶)と日本酒そしてつまみの数々……姉貴のパジェロの後部座席は酒類のダンボールで溢れかえっていた(因みに俺のスープラはリアシートを倒してトランクとなったスペースはつまみや食料品の袋でギュウギュウだった)。

 

「後は、夕飯の材料だな」

 

俺はそう言うと、魚市場へと車を走らせた。

 

「兄ちゃん、見ねぇ顔だな」

 

魚市場で威勢のいい店員から声を掛けてきた。

 

「最近越してきたばかりでね」

「綺麗どころ3人も引き連れて……羨ましいねぇ」

 

店員がからかい半分で言ってきた。

 

「アレのうち二人は部下で一人は姉貴」

 

俺の答えに店員は気付いた様子だった。

 

「その髪型…艦娘の嬢ちゃんか……」

「そうだ」

 

店員は少し黙ると奥へと消えた。

 

「あんちゃんよぅ、嬢ちゃん達虐めてねえよな?」

 

店長と思しき中年の男を連れて戻ってきた。

 

「そんな訳ゃねえだろ、部下兼酒呑み仲間だ…」

 

俺は最後まで言えなかった。

 

「あんたは、何その酒呑み仲間って」

 

姉貴の鉄拳が俺の頭に落ちたから。

 

「当分は任務ねぇんだから呑み友でもいいだろ!」

 

俺は反抗した。

 

「あの娘達はね、紫苑のお・よ・め・さ・ん・こ・う・ほ…なのよわかってる!」

 

うんやっぱり姉貴だわ、此処でも噛ましてくれた。

店長達が呆れてるし。

 

「まぁ何だ虐待とかはしてねぇみたいだな…兄ちゃんの立場が無い以外は……」

 

店長から同情の目で見られていた。

 

「兄ちゃん、立場ねぇな……うちも同じだよカカァが……」

 

店長の言葉を遮るように店の奥からサンダルが飛来して店長の頭に当たった。

 

「あんた!余計なこと言わなくいていい」

 

店の奥から戦艦級の深海棲艦でも真っ青の白人女性が睨みを効かせていた(後で聞いた話では奥さん元艦娘でガングートだったそうだ)。

 

なんやかんやで魚市場で買い物を済ますと(最初の店の店長夫婦と仲良くなり、この店に電話すると必要な物は揃えて配達してくれる手筈が出来た)、俺達は我が家もとい監視所へと帰ることにした。

 

その後、家具や私物は各自の実家から送ってもらうように手配した。

まぁ千歳と隼鷹の家族には驚かれたがな(未だ服役中と思っていたらしい……それに姉貴が追い打ちをかけるかのように紅東家長男のお嫁さん候補等というから大混乱!そりゃ混乱するわな、軽犯罪者から一転して旧家のお嫁さん候補になってりゃ……)

 

※作者説明

紅東家とは、紅東財閥の創始者の家系であり由緒ある旧家である!

当主は母親の紫

父親は海軍元帥である 紅東 高彬(婿養子…所謂ムコ殿だ!)

長男 紫苑(しおん)

長女 紫織(しおり)現在陸奥の艦娘

次女 紫希(しき) 現在夕張の艦娘

 

 

 

 

 

 




おつまみ……ポテチ、柿の種、サラミ、チーズ、各種缶詰……。
陸奥のパジェロの荷台にはクーラーボックスを載せているので、その中に魚介類を入れてます。

監視所の配置ですが、修理ドッグ(普段使いの風呂とは別)と開発工廠は土蔵の一階にあり、事務室は同二階となっています。


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第5話 予定外(改2)

少し問題が発生した様子です。



「えぇ、はい、了解しました、そのように、はい……」

 

朝から姉貴が誰かと電話していた。

 

「紫苑、着任予定者に問題が起きたようなの……」

 

珍しく姉貴が言うのを躊躇っていた。

 

「なんだよ、何かあったのか?」

 

姉貴は意を決して話しだした。

 

「着任予定だった……」

 

俺は焦った、まさか妹にと思ったからだ。

 

「夕張にじゃなくて、天龍姉妹の方よ」

 

俺は少しだけホッとした。

 

「天龍姉妹がどうかしたのかよ」

「実は……他の鎮守府からの横槍が入ってそっちに取られたの」

 

俺はある意味納得していた、そりゃ旧型とは云え第一線級の軽巡だからだ、そうでなくても隼鷹と千歳という改装空母では第一線級の艦娘を回してもらっていたのだから。

 

「仕方ねぇな、そんで代わりの娘は?」

 

俺は姉貴に代替要員の有無を確認した。

 

「それがね……駆逐艦ばかり8人だって」

 

俺はやな予感がした。

 

「で?誰来んの」

 

俺は姉貴に聞いてみた。

 

「ちょっと待ってね…『吹雪』『白雪』『初雪』『深雪』『浦波』『磯波』『綾波』『敷波』の8人だって」

 

それは見事に特型初期艦娘ばかりだった……しかし何故か途中にいるはずの叢雲がいなかった。

 

「なぁ姉貴、何で叢雲だけいないんだよ?」

 

俺は叢雲不在の訳を聞いた。

 

「あの子はしばふ村出身じゃないみたい?」

 

俺は姉貴の答えにコケた。

 

「なんだよしばふ村って、それってデザイナーのくくりじゃねぇかよ」

 

俺は苦笑しながら姉貴をみた。

 

「冗談よ、本当は叢雲だけ装備が違って戦力としては……らしいの」

 

俺は姉貴の言葉にある意味を理解した。

 

「まぁ同型で揃えてくれたなら文句は無ぇよ、艦隊運動指示は出しやすいからな、でいつ着任予定なんだよ」

「来週の月曜午前中みたいね」

 

俺は姉貴に予定日を確認すると、隼鷹、千歳と8人分の食料品や食器類を買い出しに出掛けた。

 

「これで紫希と俺が加わると…12人かよ、生鮮食料品もあの店長の店で纏めてもらうか……」

 

俺はこの時肝心な事を忘れていた。

 

「あらあら、私を忘れてないかしら?」

 

姉貴だった……そう姉貴の滞在分を忘れていたのだった。

 

「それからね、私………紫苑の職場が軌道に乗るまで此処に居るから、宜しくね」

 

姉貴がウィンクしながらサラッととんでもない事を言ってきた。

 

「姉貴よそれって初耳何だけど」

 

俺はちょっとだけ凄んでみた……。

 

「私が今決めたの、文句あるかしら?」

 

姉貴に逆に凄み返された…姉貴の睨みには逆らえませんハイ……アトノセッカンコワイ

 

「姉貴を入れて13人分か…」

 

最近は千歳と隼鷹が手伝ってくれるから何とかなるだろう……姉貴少しは料理覚えてくれ、頼むから!

 

「ん、電話か…ワリィ隼鷹出てくれ」

 

俺は運転中だったので携帯を隼鷹に渡した。

 

「ハイ、紅東です」

「お兄ちゃんのですよね???間違え」

 

電話の向こうで夕張が慌てていた。

俺は聞こえるように大きい声で話した。

 

「おぅ、夕張か用件なら隼鷹に伝えとけよ」

 

俺の声が聞こえたのか、夕張が着任予定日とかを伝えていた……。

 

「紫苑さん…夕張ちゃん、今着いて家の前だってさ」

 

俺は慌てた、

 

「今日来るとか聞いてねぇぞ」

 

これも姉貴が原因だろう。

 

「隼鷹、夕張に家の鍵は裏に止まってる冷凍車のダッシュボードにあるから勝手に上がって待ってろと伝えてくれ」

 

俺の伝言を隼鷹は夕張に伝えてくれた。

 

「買い出しに出て正解でしたね」

 

千歳が後ろから微笑みながら言った。

その日の夜は……またもや宴会だった……そして俺のベッドは酔いつぶれた隼鷹と千歳に占拠されていた。

俺は畳にごろ寝を決め込んだ。

 

だが……朝起きたら、隼鷹が何故か隣で寝ていた。

隼鷹…頼むからそんなにひっつくな……いろんなもんが当たってる……理性が!

 

 

 

 




13人が其々個室を使ってもまだ部屋が余るほどの大きな家という事にしています(吹雪達は離れを使用)。

此処で少し家屋の設定を

母屋 10畳和室が基本で7部屋(後に8畳和室4部屋増築)12畳1部屋の8LDK
離れ 6畳和室が基本で6部屋(離れは同じ造りの物が二棟)

母屋住人 紫苑、紫織(期間限定……の予定)、紫希、隼鷹、千歳、

離れ住人 吹雪、白雪、初雪、深雪、浦波、磯波、綾波、敷波
 


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第6話 暇な一日(改2)

「くぁー暇だー」

 

俺は土蔵2階の執務室で欠伸を噛み殺した。

 

「電探での監視しか出来ないからねぇ」

 

隣の部屋から隼鷹が顔を出した。

まぁそれも、あと10分で終わる。

基本うちの業務時間は九時十七時だからだ、残りの時間帯は別の監視所が引き継ぐ事になっている。

 

「隼鷹、終わったら街のコンビニ行かね?」

 

俺は隼鷹をコンビニに誘った。

 

「あたしも買いたいもの有ったからいいよ」

 

俺は業務終了時間になると、私服に着換え千歳に隼鷹とコンビニに行くと声を掛けた。

 

「気を付けてね」

 

何故か姉貴が台所から顔を出した。

 

「コンビニに行くそうですね、私もご一緒致します」

 

いつの間にか着替えた千歳が俺の車の脇で夕張と立っていた。

 

「もう少し待ってくれ隼鷹がまだ来てねぇ」

 

俺は隼鷹を待った。

 

「お待たせ」

 

大きめのエコバッグを持った隼鷹がやってきた。

 

「お兄ちゃん何買うの?」

 

夕張が後部座席から聞いてきた。

 

「酒、つまみ」

 

俺は身も蓋もない答えをした。

 

「私、プリン食べたい!」

 

夕張が必殺のおねだりモードに突入していた。

俺は妹にはからっきし弱い、おねだりされたら余程出ない限り買ってあげてしまう。

 

「あとプリンとコーヒーゼリー」

 

うん、コーヒーゼリーも買わないと姉貴が私の分はと言って大魔神に変貌する!

 

「紫苑、ファミマ行くだろ?」

 

隼鷹が聞いてきた。

 

「ファミマの焼き鳥は譲れません」

 

俺はどこぞの正規空母のセリフを真似た。

 

「あはは、加賀ならいいそうだね」

 

隼鷹が助手席で笑い転げていた。

 

「焼き鳥はねぎまのタレと塩で、後は……そうだなセブンの春巻きとローソンのメンチだな」

 

それは見事なコンビニのハシゴだった。

で……結局、スーパードライ(500ミリリットル缶)をフタパックと焼き鳥各二本づつ合計十本、春巻きも十本、そしてメンチコロッケを五個買っていた、そして更にデザートと称してプリンやらコーヒーゼリーやらも買い込んでいた(エコバッグナイス!)。

 

「さて帰るぞ」

 

俺達は家へと車を走らせた。

 

「ただいま、姉貴」

 

俺達は其々の部屋へと一旦散っていった。

俺はその間にビールを冷凍庫で急速冷蔵していた(良い子はしちゃ駄目だぞ!)

 

「ちゃっちゃと夕飯の準備しますか」

 

あら方、千歳が作ってくれていたので楽だった。

俺はそれを皿に移すとテーブルに並べていった(うちは全員でテーブルを囲んで食べる)。

 

「おーい、出来だぞー」

 

俺が台所から声を掛けると、ゾロゾロと集まってきた。

 

「うーん、いい匂い煮魚の匂い堪んないねぇ」

 

隼鷹が冷凍庫からビールを取り出して俺や姉貴、千歳の前に置いた。

 

「お兄ちゃん、獺祭もらうね」

 

夕張が日本酒の栓を開けていた。

 

 

 

 

 

そして風呂上がり……誰からとなく俺の部屋に集まりだした。

 

「飲も」

 

隼鷹が浴衣姿でビールと夕方買ったつまみを手にやってきた。

 

「お風呂上がりのビール美味しいですよね」

 

千歳がチーズやサラミ等のつまみを持ってきた。

 

「あらあら」

 

姉貴までも加わって来た。

(因みに今の格好だが、隼鷹と千歳は浴衣姿、姉貴はアニマル柄のパジャマ、俺は上下スウェットだ)

夕張だけは……私室でアニメを見てるらしい。

 

風呂上がりの軽く一杯は結局日付が替わる迄続いた。

そして繰り返されるベッド侵略!

 

「俺のベッドなんだが……隼鷹と千歳……二人共俺のベッドで寝るのが当たり前になってんな…仕方ねぇな、また畳にごろ寝か」

 

そして迎えた朝……繰り返しであったが!

今朝は違った。

 

「!」

 

目の前には千歳のやすらかな寝顔があった、それも触れるか触れないかのギリの位置に(何が触れるかは勝手に想像してくれ)、俺はいたたまれず視線をずらすと其処には浴衣から零れ落ちる二つのたわわなおやまがチラチラと自己主張していた。

 

俺は理性を保てるか不安になった、何故ならこれだけの美人が二人俺の目の前で無防備な姿で寝顔を晒しているのだ!

 

「やべっ、理性保つ自信ねぇわ」

 

等と言いながら俺は二度寝を決め込んだ。

 




紫苑の部屋とは、艦娘達の憩いの場。


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第7話 青葉着任しますっ!(改2)

青葉着任です……やっと。



「一等巡洋艦『青葉』着任を申告致します」

 

今、俺の目の前には薄紫の髪をポニーテールにした一人の女の子が敬礼していた。

 

「青葉の着任を拒否する」

 

俺は素っ気なく言った。

 

「酷いですぅ……此処に置いてくださいよぅ」

 

青葉が泣きついてきた。

 

「ワレアオバ!」

 

俺はちょっとだけ凄んだ。

 

「あんな事は申しませんからぁ、お願いですぅ」

 

青葉が懇願していた。

 

「ったく……仕方ねぇな、お前の部屋は其処な、嫌だったら元の留置場」

 

俺は庭先にあったまだ手入れされていない苔むした離れを指差した。

青葉がそれをみてヘタりこむと泣き出した。

 

「あんまりですぅ、何か出そうですぅ……一人だけあんな離れなんて……お願いですからぁ、何でもしますからぁ」

 

俺は青葉を立たせると、夕張の前の部屋をあてがった。

 

「お前の部屋は此処な、万が一前みたいな事したら即日で叩き出す」

 

そう青葉は以前の着任地で一緒だったのだが……こいつの盗撮のせいで言われ無き誹謗中傷を受けたのだ。

 

「普通に許可を受けたなら趣味の写真撮影は許可する…もし無許可だったらカメラは没収いいな……ったく何でこいつまで嫁さん候補なんだよ」

 

俺の出した条件を青葉は無条件で了承した。

 

「ハイ……へっ?嫁さん候補ってどういう……」

 

俺は青葉が喋り終えるより早く黙らせた、アイアンクローで。

 

「あら、遅かったわね」

 

余計なときに姉貴が顔を覗かせた。

 

「陸奥さーんたすけてくださいよぅ、紫苑君が虐めますぅ」

 

俺は青葉の頭に鉄拳を落とした。

 

「虐めてんじゃねぇ」

 

青葉がむくれていた。

 

「聞いてくださいよぅ、紫苑なんかって言うと鉄拳を落とすんですぅ、酷いと思いません!」

 

青葉は姉貴に泣きついていた。

 

「あらあら、聞いてるわよぅ、貴女のした事……」

 

姉貴の笑顔が氷点下迄下がっていた。

俺は退避した、青葉の部屋から悲鳴が聞こえたが幻聴と決め込んだ。

 

「そろそろか…青葉、不本意だが歓迎会をするから19時に俺の部屋な」

 

それだけを青葉に言うと俺は自室へと避難した、何故なら姉貴が未だ大魔神に見えたからだ(青葉よ安らかに眠れ)。

 

 

「あー、それでは不本意だが青葉の歓迎会を……」

 

うん平常運転だわ、青葉の事を放ったらかし隼鷹は千歳は呑み始めていた。

勿論俺もワレアオバを放ったらかして千歳達と呑み始めていた。

 

「紫苑くーん、もしもーし無視しないでくださいよぅ」

 

青葉がやっぱり絡んできた、こいつ絡み酒なんだよな、めんどくせぇ酔い方する奴だった。

 

「うっるせー、これでも飲んでろ」

 

俺は青葉の口に炭酸水を流し込んだ。

 

「ゲホッゲホッ酷いですぅ」

 

青葉が涙目になりながら抗議していた。

 

「お兄ちゃん、やっぱり隼鷹さんか、千歳さんの二者選択だね」

 

夕張がとんでも発言を酔に任せて言いやがった。

 

「勝手に決めんなよ」

 

俺は顔が赤くなるのを感じながらムキになって否定した、内心は嬉しかったが。

 

「まぁ冗談はさて置き、今日から青葉もうちの一員となった、この後は特型駆逐艦8名が着任する、うちの本格始動はそれからだ」

 

俺は一息入れると、

 

「隼鷹、千歳それぞれに駆逐艦を4名配置する、それから青葉は監視所で電探を担当してもらう、夕張は工作艦業務を」

 

俺は真面目に戻ると、旗艦となると軽空母に指示を出していった。

 

「今日は、呑み尽くすぞ!」

 

俺の言葉に全員が気勢を上げた。

 

そしてやっぱり姉貴と夕張以外は俺の部屋で轟沈した。

俺と青葉はカウチソファーで、隼鷹と千歳はまたもや俺のベッドで……頼むから服くらいちゃんと着てくれ、二人は浴衣が脱げてほぼ下着姿で寝ていた…お前らは某イタリア艦娘かよ!

因みに青葉はタンクトップにショートパンツという出で立ちだったのだが……

 

「お前、ブラくらいつけてこいよ」

 

青葉の小振りだが形の良い二つのおやまが丸見えになっていた。

マズイ……非常にマズイ、俺だって健全な男だ、こんなん見せられたら……まぁ青葉に欲情……はないなと思いたい……でもこれでも女のコだから……そんなん見せられたら理性保たねぇよ!

 

 

 

 




青葉も隼鷹も千歳も紫苑相手だから安心してます……襲われたら責任とってもらえば良いだけですから。


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第8話 青葉からカメラを取り上げたら何も残らない?(改2)

青葉はやっぱり青葉でした。



お風呂に入っていた隼鷹が真っ裸で俺に飛びついてきた。

 

「隼鷹何があった……って云うか、バスタオルくらい羽織ってこい」

 

俺の言葉なんか聞いちゃいなかった。

 

「庭先で何か光ったんだよぅ」

 

隼鷹が怯えていた、俺は思い当たる奴を知っていた。

 

「風邪引くから一旦何か着てこい」

 

俺は隼鷹を部屋に戻すと、アイツの部屋へと向かった。

 

「ワレアオバ!なにした!」

 

俺が怒鳴り込むと、丁度青葉が画像データの整理をしている処だったのだが……其処には真っ黒な画像が保存されていた。

 

「青葉、言い残すことあるか?」

「着任の時に言ったよな……今度やったら即日で叩き出すと」

 

俺は此処まで言うとコンデジを青葉から取り上げた。

 

「ゴミ箱のマーク?」

 

俺は青葉から取り上げたコンデジの液晶をもう一度よく見た。

 

「すいません、カメラ落としそうになって間違えてシャッター切ってしまいました、レンズカバー開けてなかったから何も写ってないです」

 

青葉は恐らくは本心からか謝罪していた。

俺は、青葉の部屋から出ると隼鷹の部屋に向かった。

 

「隼鷹入るぞ」

 

俺は襖を開けた。

 

「なぁ隼鷹、さっきの光な青葉がストロボのテスト発光させた光だそうだ、不審者じゃないから安心しな」

 

そう言うと隼鷹の肩を優しく抱きしめた。

 

「ホント……なの」

 

隼鷹は安心したようだったが…

 

「あーおーばー!」

 

隼鷹がその怒りの矛先を青葉に向けた。

 

「びっくりしたよー、許さないんだから!」

 

俺は隼鷹を落ち着かせる事にした。

 

「大丈夫カメラには何も映ってなかったぞ…確認はしたから安心しな」

 

俺の言葉を聞いた隼鷹は少しだけ安心したのか呆けていた。

 

 

そして翌日

 

「青葉ひどいよ!」

 

朝から隼鷹の声が響き渡っていた。

 

「驚かせてごめんなさい」

 

青葉が殊勝にも謝罪していた。

 

「まぁ隼鷹、それくらいにしてやれ本人も反省してるから」

 

俺は青葉を庇った。

 

「私……カメラ辞めようかなぁ」

 

青葉が過去のこともあってか気弱になっていた。

 

「なぁ青葉、今回の件はわざとじゃねぇんだろ、だったらカメラ辞める必要はねぇだろうよ……なっ」

 

俺は青葉を慰めた。

青葉が俺の事を見つめていた。

 

「紫苑……ありがとう…」

 

青葉は安心したのか泣き出していた。

 

「ったく、泣くなよ」

 

俺はハンカチで青葉の顔を拭いてやった。

 

「チーン」

 

おい、鼻噛むなよ!

それからというもの青葉は、人物は許可が無いと取らなくなり替わりに動植物(野良猫専門?)をその被写体にしていた。

とは云え、人物を取らせると流石の腕前であることは変わらなかった。

 

「青葉が前に使っていたカメラは確か証拠品として押収されてたな…何とか取り返せないものか……」

 

俺はコンデジを待って撮影している青葉を見ると何となく可哀想になった。

 

「あれは無理よ、後任提督が証拠隠滅する為に手を回して……恐らくは物理的に破壊されているはずよ」

 

姉貴が俺の独り言に応えた。

 

「そっか……なら新しいの買ってやるか」

 

俺はそう言うと、某カメラショップのサイトを見ていた。

 

数日後、俺は某カメラショップからの連絡を受けると青葉を連れて街へと向かった。

 

「紫苑どこ連れてくの?」

 

青葉が不安そうについてきていた。

 

「カメラ屋」

 

俺は一言だけ言った。

 

「カメラの無い青葉は……青葉じゃないからな」

 

青葉がへっ?という顔をしていたから

 

「いらっしゃいませ」

「注文していた紅東ですが」

「お品はこちらです、ご確認を」

 

そう言うと、店員が箱からそれを出してきた。

 

「ほれ、青葉」

 

俺は青葉をせかした。

 

「お前のカメラだ、実際に持ってみろ」

 

青葉が店員からカメラを受け取るとアレコレと操作していた。

 

「でも私お金なんて……「俺が買ってやるから」」

 

青葉がカメラを持ったまま泣きそうになっていた。

 

「あと、こちらもご確認を」

 

そう言うと店員が望遠レンズとドットサイトをカウンターの上に取り出した。

 

「ほれ、装着して動作させてみろよ」

 

青葉が泣きそうなのを我慢しながらカメラにレンズとドットサイトを取り付けながら詳細に確認していた。

 

「これ欲しいです」

 

青葉が欲しいですと言ったので俺は支払いを済ませていた。

 

「こちらが保証書となります、彼女さんへのプレゼントですか?」

 

俺は笑って誤魔化したが、その間も青葉はアワアワしていた。

帰りの車の中で、

 

「本当に買ってもらって良いの?」

「あの件は別としてお前には沢山助けられたからな、その礼みたいなもんだ」

 

青葉は買って貰ったカメラが入った紙袋を大切そうに抱きしめていた。

 

 

後日談

この事があとの二人に知られてしまい、あたしのはと詰め寄られ何かしら買う羽目となった。

 

「今はまだ三人平等にね」

 

姉貴がウィンクしながら笑っていた。

 

 

 

 




勤務中は紫苑の事は隊長若しくは所長と呼ばせていますが、勤務外では紫苑と普通に名前呼びを許可しています。

因みに青葉が買って貰ったカメラは個人の好みですが
Nikon D5600 16-300mmレンズ付き、オプションでドットサイトを取り付けた物です。


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第9話 呑兵衛だけの最後の週末(改2)

来週から駆逐艦娘達が着任するので気兼ねなく呑める最後の土曜日となりました、そんな土曜日のお話し。



「明日の夕飯……みんなで街に喰いに行くか?」

 

俺は電探室に籠もっていた青葉に声を掛けた。

 

「そうですねぇ、月曜からは駆逐艦娘達の指導とかで忙しくなりますからね、いいんじゃないですか」

 

青葉が同意した。

 

「お兄ちゃんの奢りだったら」

 

夕張は……だった。

 

「所長と陸奥は飲めないじゃん、どうするの」

 

隼鷹がごもっともな事を聞いてきた。

 

「そこは代行運転を依頼する」

「なら呑めますね」

 

千歳が給湯室から顔を覗かせながら微笑んでいた。

俺は内線を取ると、姉貴の部屋を呼び出した。

 

「あら、何かしら」

 

姉貴が寝ぼけながら出た。

 

「明日の夜、みんなで外食になった」

 

俺は簡潔に伝えた。

 

「お姉さんはフレ……「うるせぇ、普通の居酒屋だ」」

 

姉貴がフレンチとか言おうとしていたので遮った。

 

「それじゃぁ予約入れるからな」 

 

俺は魚市場の近くにあった居酒屋に予約の電話を入れた。

 

「すいません、土曜日の夕方7時から9時位で予約入れたいのですが……」

「畏まりました、お名前と何名様ですか?」

「紅東といいます、大人6名でお願いします」

「コースはどうされますか?」

「飲み放題食べ放題で」

「畏まりました、明日の夕方7時から9時迄、大人6名飲み放題食べ放題コースですね、承りました」

 

俺は受話器を置くと、

 

「予約取れたぞ、魚市場隣のあそこな」

 

俺はその場にいた全員に伝えた。

 

「青葉、外食初めてです、気分が高揚します」

 

青葉が加賀と化していた。

 

「何でみんな加賀のモノマネすんだ?」

 

俺は素朴な疑問を青葉にした。

 

「簡単ですよ、一番やりやすいですから」

 

簡潔な答えが返ってきた。

 

 

 

そして迎えた土曜日の夕方

 

「姉貴、戸締まりは」

「鍵はオッケーよ」

 

俺と姉貴は裏から車を廻した。

 

「あたしは紫苑の隣」

 

隼鷹が助手席に座った。

 

「私は陸奥の車に」

 

千歳が姉貴の車に乗った。

 

「青葉は紫苑の後ろに乗ります」

 

青葉は俺の後ろに乗り込んできた。

 

「うーん、なら私はお兄ちゃんの車に」

 

夕張が隼鷹の後ろに乗り込んできた。

 

「それじゃぁ行くぞ」

 

俺達は魚市場へと車を走らせた。

…しかし目立つねぇ、旧型スープラとこれまた旧型もいいところの初代パジェロどちらも(姉貴のが一番目立ってる……殆どオレンジに近い赤単色塗装のパジェロを自称美女が運転してるからな)

2時間ほど車を走らせて魚市場付近のコインパーキングに車を停めると、

俺達は目的の居酒屋へと雪崩混んだ。

 

「予約していた紅東ですが」

「いらっしゃいませ、お待ちしていました」

 

店員の案内で奥の座敷へと通された、しかしその間中、他の客(特に男だけの)から怨嗟の視線が半端なかったソリャソウダロウビジンバカリゴニンモツレテリャァ。

 

「こちらです」

 

俺達は店員に礼を言うと座敷へと上がった。

 

「一応飲み放題食べ放題にしているから、メニューにある物は大丈夫だぞ」 

 

俺の言葉より隼鷹が最初の注文を入れる方が早かった。

 

「取り敢えず、ナマ5つと烏龍茶……後は焼き鳥これとこれとこれを各六本づつで」

 

隼鷹がメニューを指差しながら店員にオーダーしていた。

 

「後茶碗蒸し頼むは…」

 

俺が追加を頼むと、千歳と夕張が私もと手を上げた。 

 

「茶碗蒸し3つですね、畏まりました」

 

店員が注文を聞くと戻っていった。

そして軽でも空母だった……食母に変更か…という位に呑んで食べたのだった。 

 

「お客様、そろそろお時間です……」

 

店員が終了の時間を告げてきた。

 

「すいません、それじゃお勘定お願いします」

 

店員が伝票を持ってレジへと向かった、俺達はその後に続いた。

 

「お会計ですが、こちらとなります」

 

俺は金額を確認すると財布からお金を払った。

 

「まいど有難うございました」

 

俺達は店員に送られて店を出た。

 

「運転代行を頼みたいのですが、チョット古い車2台なのですが」

 

俺は運転代行サービスに電話をした。

 

「問題ありません2台ですね、畏まりました十分程で到着します」

 

オペレーターからの返事を全員に伝えると俺達はコインパーキングで代行の車を待つことにした。

 

「ちょっとそこのコンビニに行ってきますね」

 

千歳と隼鷹がコンビニに向かった。

 

「すぐ帰ってこいよ」

 

俺は一応声を掛けた。

二人は5分足らずで帰ってきた。

 

「食後のデザートが欲しかったので」

 

千歳がコンビニスイーツを買い込んでいた、隼鷹は付き合っただけだった。

 

「甘い物は別腹と云うからな」

 

俺も食べたくなった。

そして運転代行で監視所という名の我が家へと無事帰還した。

 

「風呂沸かしとくから」

 

俺は風呂の準備をすると、明日の朝ごはん用の米を炊くために台所へと戻った。

 

 

 




アニメの赤城の様に大食いではありません、ごく普通の女性の食べる量くらいしか食べません(呑助はその限りにあらず)、艤装を解除している時は髪の色も黒髪へと戻ります(髪型は艦種に準じた髪型のまま)


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第10話 それはいきなりだった(改2)

翌日の日曜のお話し。



「んー…何時だ?」

 

俺は久しぶりに自分のベッドで寝ていた。

 

「5時か…」

 

基本土日祝は各自で朝食は作ることにしている(昼近く迄寝ていて朝昼兼用なんて奴もいる)。

 

「自分のベッドなのに…」

 

俺の布団には隼鷹と千歳の微かな匂いが染み付いていた、汗臭いとかではなく若い女性特有の良い香りだった。

 

「ったく」

 

俺は二度寝を決め込んだ(朝昼兼用とは俺の事だ!)。

 

「紫苑起きて、起きてよ」

 

あれからどれ位寝たのだろうか、誰かから起こされた。

 

「んだよ…あと5分」

 

俺は布団を被るとまた寝る体制に入った。

 

「往生際悪いです、起きてください!」

 

そいつは俺から強制的に布団をひっぺがした。

 

「もうお昼ですよ」

 

目の前には箒に前掛けをした青葉が仁王立ちしていた。

 

「掃除の邪魔です、そこらへんを散歩してきてください」

 

俺は部屋から放り出されると仕方なくそこらへんを散歩する事にした。

 

「青葉も何とか馴染んできたな…」

 

俺は青葉が馴染めるか心配であったが杞憂でしかなかった。青葉持ち前の明るい性格と素直な態度が良い結果を産んでいた。

 

「ん?電話誰からだ」

 

携帯の画面には知らない番号が表示されていた。

 

「はい。紅東ですが」

「私だ」

 

それはクソ親父からだった。

 

「新しくスマホとか云うのに替えたから……」

 

クソ親父はそれ為だけに掛けてきたようだった。

 

「用件それだけなら切るぞ」

「待て待て、隼鷹と千歳、青葉は上手くやってるか、天龍姉妹は残念だったがの、あの二人も良い娘さんなんだがな……」

 

やっぱりか、

 

「3人とも親父の差し金か」

 

俺はこめかみを押さえた。

 

「ああっ、あの三人は俺がえらん…「何に選んだって?」」

 

俺は判ってはいたが、親父に聞いた。

 

「嫁さん候補だ!」

 

クソ親父がアッサリと言い放った。

 

「お薦めは千歳じゃな」

 

このクソ親父言うに事欠いてちゃっかりと千歳を推してきた、まぁ家庭的な上に美人なのは認めるが。

 

「クソ親父、一つ確認すっけど来週から着任する駆逐艦娘迄候補とかいいださねえよな?」

 

俺は不安になって一応確認した。

 

「なんじゃ、お前はあんなちびっ子共の方がよい「んなわけあるかっ!」」

 

俺は絶叫した。

 

「なら三人の中からじゃな…実の姉妹は駄目じゃぞ!」

 

このクソ親父トンデモ発言しやがった。

 

「アホか」

 

俺は呆れた。

 

「それはそうと早く姉貴に帰還命令出してくれよ、三食食っちゃ寝は堪らん」

 

俺は姉貴を早く引き取るようにクソ親父に頼んだ。

 

「なんじゃ、あやつがいると子づくりできんか?」

 

俺は無言で電話を切って着信拒否にし、帰宅した。

 

「誰が、三食食っちゃ寝なのかしら、お姉さんそこん処詳しく聞きたいなぁ」

 

あのクソ親父のやつ姉貴にチクりやがった。

 

「紫苑?誰の事なのか教えてほしいなぁプリーズ!」

 

姉貴が鬼気迫る物凄い笑顔で迫ってきた。

ふと見ると、隼鷹、千歳、青葉が逃げるところだった。

 

「青葉以下三名は戦略的撤退を開始します」

 

そんな事を言って脱兎の如く逃げやがった。

 

「おい、夕張たすけ…」

 

俺は妹の夕張に助けを求めようとしたが此方も一枚の張り紙を残して既に撤退したあとだった。

 

『お兄ちゃん頑張ってね』

 

我が妹ながら薄情だ。

結局俺はと云うと、姉貴のお話し合いという名の折檻を受けた、財布に……。

 

「あっそうそう、お父さんからでね、私もね正式に此処に着任だって」

 

俺は言葉を失った、姉貴こんな田舎に島流しになったか…。

俺は心の中で姉貴に手を合わせた、婚期逃したなと。

 

そしてその日の風呂上がり、俺はまたしても隼鷹と千歳の二人と呑んでいた…。

 

「明日から駆逐艦娘達が来るのですねどんな子達なのかしら」

 

千歳が楽しみだという顔をしていた。

 

「あたしゃ呑めるなら問題ないし……」

 

隼鷹はまぁマイペースだった。

 

「そういゃぁ、青葉は?」

 

俺は青葉がいない事を気にした。

 

「青葉なら明日からの新人用のパンフ作るって張り切ってたけど」

 

隼鷹がビール片手に答えた。

まぁ青葉らしかった。

 

「大変です!紫苑、これ見てください」

 

等と言っていると、その本人が俺の部屋に飛び込んできた。

 

「なんだよどうかしたか?」

 

俺は青葉から一枚の紙を受け取った。

 

「高倉 柚香に於いては鹿屋に潜伏の可能性あり」

 

それは地元警察からの通信文だった。

 

「千歳、姉貴呼んできてくれ」

「はい」

 

千歳が姉貴の部屋へと向かった。

 

「隼鷹はこの番号に電話して伝えてくれ」

 

俺は自分の携帯を隼鷹に渡すとクソ親父に掛けるように言った。

 

「私、紫苑さんの部下の隼鷹と云います」

「ん隼鷹とな、ささっ、遠慮はいらんお義父様と呼ん「冗談は後でお願いします、一大事です」」

「高倉 柚香が鹿屋に潜伏しているとの地元警察からの報告がありました」

 

電話の向こうで慌てているような音が聞こえた。

 

「ここにやって来るのも時間の問題か……」

 

俺は焦りを覚えた。

 

「紫苑、警察から電話で24時間体制で此処に通じる村道を監視してくれるって」

 

俺は姉貴が警察から受けた報告を聞いて少しだけ安心した、だがあいつが普通に道を歩いて来るとは限らない、裏山や横の森を抜けて来るとも限らなかった。

 

「青葉、直ぐに監視所敷地内にセキュリティシステムを構築、費用については任せる」

 

俺は、青葉に警備を一任した。

 

「青葉、了解です」

 

言うが早いか青葉が行動を起こした。

 

 

 

数時間後

 

「紫苑、警備システム出来ました」

 

青葉が空き部屋に設置した本格的なシステムが其処には出来上がっていた。

 

「敷地外周にボーダーという侵入検知システムと赤外線カメラを連動さたシステムを構築、これにより侵入者があった場合は警報と共にカメラが自動的にそちらを写します、それと家の全ての窓と扉にマグネットセンサーを取り付けました、此方は正規の手順で開けなかった場所、此方のパソコン画面に異常として表示されます」

 

そう言うと青葉が誰かと携帯で話した。

携帯を切ったと同時に画面の窓の所が赤く点滅してアラーム音が鳴り響いた。

 

「このように該当箇所が赤く点滅してアラーム音で知らせてくれます、あと無人にする際は地元の警備会社に信号が行きます」

 

そう言うと青葉が警報を解除した。

 

「これなら安心できるな、これが作動する前に警察に対応して貰えればいいのだが」

 

俺は一人呟いた。

 

「大丈夫、私達が交代で夜通し警護します」

 

隼鷹と千歳が護衛をすると意気込んでいた(どうせ飲んたくれて俺を抱き枕にしてだろ)。

まぁうちには超弩級戦艦『大魔神(陸奥)』の艦娘もいるし大丈夫だろう。

 

 

 

 

それから二週間後に起きた事はまたあとのお話で……

 

 

 

 

 

 




何が起きたのかは……多分想像つくでしょう。


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第11話 吹雪、着任します!(改2)

やっと吹雪登場です……がヒロインにあらず!



「紅東所長、村道を此方に向かってくるマイクロバスを確認しました」

 

警戒監視中の千歳が俺に報告してきた。

 

「9時少し前か……吹雪達を乗せてる車だな」

 

俺は隼鷹と陸奥に声を掛けると表に出た。

それから直ぐにその車は俺達の前に止まると、数名の少女達を降ろして来た道を戻って行った。

 

「特型駆逐艦『吹雪』以下4名着任を報告します」

 

一人の少女が敬礼すると報告した。

 

「俺が此処の責任者紅東だ、吹雪以下の着任を歓迎する……4名?8名と聞いているが?」

 

俺は内心またかと思った。

 

「私達は何も聞いてませんが……」

 

吹雪が困惑していた。

 

「仕方ねぇな、陸奥頼む」

 

俺は陸奥に元帥への確認を指示した。

 

「編成だが、隼鷹に白雪と初雪を任せる、千歳には吹雪と深雪でいいな、それでは各旗艦はオリエンテーションを開始せよ」

 

俺は軽空母一人に駆逐艦二人を任せた。

 

「なお、青葉は引き続き電探を担当、夕張は工廠を担当とする、陸奥は当面オブザーバーとする」

 

俺の指示を受けて隼鷹達が動き出した。

 

「とその前に……青葉、全員の集合写真を頼む」

 

青葉が縁側に出ると全員を集めた。

 

「それでは写真撮りますから、皆さん二列でお願いします」

 

そう言うと青葉は手際良く俺達に指示を出していった。

 

「それでは前列はしゃがんでください」

 

吹雪達と俺は縁側に腰掛けた、隼鷹達が後に並んだ。

そして青葉はカメラのピントを合わせるとリモートにして後列に並んでカメラのリモコン(スマホ)を操作した。

 

「それではいきまーす、いちたすちいは?」

 

青葉の合図で皆笑顔をカメラに向けた。

その瞬間シャッターが切れた。

青葉が直ぐにスマホで確認していた。

 

「ハイ、オッケーです」

 

改めた隼鷹達が駆逐艦娘を引率して行った。

 

「所長、元帥からの連絡で駆逐艦の件だけど…天龍達と同じだって、それに私と青葉が配属されたから強く出れなかったみたい……」

 

俺は陸奥の言葉に頭を掻きながら、

 

「軽空母2名、戦艦1名、重巡1名、軽巡1名、駆逐艦4名の9名か…監視所の総戦力としては過剰か……」

 

そんな話をしていると、隼鷹達が戻ってきた。

 

「終わったのな、そんじゃ此処の任務とかの説明をする」

 

俺は母屋の俺の部屋へと向かった。  

 

「会議室が俺の部屋てっいうのもなんだなぁ」

 

これについては吹雪たち以外から反対された。

 

「此処は譲れません!」

 

とか言いながら、吹雪達がどういう事という表情で首を傾げていた。

 

「そんじゃ始めるぞ」

 

俺はテレビとパソコンを繋ぐとパワーポイントを使って説明を始めた。

 

「まず主業務だが、電探による周辺海域の監視と、一日3回の沿岸パトロールとなる、此処までで質問は?」

 

俺は吹雪達を見た。

 

「大丈夫です」

 

吹雪が答えた。

 

「ならそのままいくぞ、次に勤務時間についてだが……原則土日祝祭日は休みとなり、業務は9時から17時迄となっている、勤務についてだがパトロール勤務、翌日陸上勤務の繰り返しをローテでおこなう、不足している日は青葉と陸奥、夕張でカバーする」

 

俺が此処まで話すと、吹雪が手を挙げた。

 

「所長宜しいでしょうか」

「おう、いいぞ」

「土日祝祭日、日勤だけ…そんな勤務で良いのでしょうか?」

 

吹雪が疑問というか不安を感じていた。

 

「俺達後方部隊はホワイトなんだよ、月月火水木金金なんてのは最前線だけの話しだな」

 

吹雪は俺の話を聞いて安心している様子だった。

 

 

そしてその日の業務終了後

 

「それではみんなグラス持ったな、吹雪 白雪 初雪 深雪君達の着任を歓迎する」

 

何時もの宴会へと突入した…。

そこで俺は気付いた。

そう吹雪達が艤装標準のセーラー服を着ていた。

 

「お前ら私服とか持ってないのか?」

 

俺の質問に返ってきた答えはやはりだった。

 

「これだけしか持ってません……」

 

俺は姉貴に声を掛けた。

 

「姉貴、明日は買い出し出る、コイツラの私服買うぞ」

 

で……結局、姉貴と千歳に丸投げした。

見た目中学生位の吹雪達の下着選び迄付き合ったら……俺のメンタルが崩壊する!

 

「もう一台車買うか…」

 

全員で移動するには車が足りなかった。

 

「確か、青葉も免許持っていたはず…」

 

俺は青葉に確認をした、

 

「お前、免許持っていたはずだよな?」

「あるよ、実家に車置きっぱなしだけどね…まだあるのかなぁ」

「何乗ってんだ?」

 

青葉がスマホに保存されていた数枚の画像を俺に見せた

 

「ストラーダRじゃねぇか」

 

青葉は寂しそうに呟いた、 

 

「この子にまた乗りたい」

 

俺は直に青葉に車の所在を確認させた。  

 

「青葉、直に家に電話して車の所在確認しろよ、まだ有るんだったら持ってこいよ」

 

青葉が一瞬キョトンとしていたが次の瞬間電話に飛びつくと実家に電話しだした。

 

「うん、私……………久し振り、今はね鹿屋の監視所に勤務してる、そう、うん心配かけてごめんなさい、それでね所長が車有るなら持ってきてもいいって、ていうか車ないと不便だからって…そう……………えっ!まだあるの、なら、うん、そう今週末にフェリーに、うんお願い」

 

青葉は電話を切ると此方を向いた。

 

「まだ車あった……………お父さんが維持管理してくれていて車検もあるって、今週末に有明からフェリーに載せてくれるって」

 

青葉が泣きながら話した。

 

「そうか、良かったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物所有の車を下記に変更します
陸奥 91年式三菱パジェロショートワゴン
紫苑 88年式トヨタスープラ 2.0GT ツインターボ
青葉 93年式三菱ストラーダR


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第12話 奴が現れた!(改2)

遂にあの問題児がやってきました。


「鹿児島県警から電話です」

 

千歳が俺に電話を取り次いだ。

 

「ハイ、紅東ですが」

 

県警からの電話内容は聞きたくないものだった、あの高倉 柚香が近隣に現れたらしいというものだったからだ。

 

「どこで…」

「監視所から500メートル町よりの山中です」

 

電話の向うの警官が答えた。

確かあの辺は廃屋とか沢山あって隠れるにはもってこいの場所だった。

 

「青葉、至急執務室へ」

 

俺は青葉を呼び出した。

 

「青葉呼びました?」

 

俺は青葉に事の次第を話した。

 

「それってマジヤバいじゃないですか!」

 

そう言って青葉は、警備システムの点検に向かった………丁度その瞬間、侵入者を告げる複数の警報が鳴った。

 

「所長、台所の窓が破られて何者かが侵入した模様!」

 

青葉がシステム画面を見ながら報告した。  

 

「陸奥は俺と台所へ向かう」

 

俺は陸奥を連れてそっと台所へと向かった。

 

「音立てるなよ……」

 

俺は暖簾の隙間から室内の様子を伺った。

 

「あれ、あの冷蔵庫の前に居るのって……」

 

陸奥が先に気が付いた。

 

「あの後ろ姿は……柚香じゃねえか!」

 

衣服はボロボロで、その顔は垢まみれだったが、間違いなかった。

俺はおもむろに近づくとその脳天に鉄拳を落とした。

 

「みぎゃぁ!」

 

柚香が頭を押さえてうずくまった。

 

「いったーい」

 

そう言いながらこっちを振り向いた。

 

「げっ!紫苑……あっちゃー紫織さんまで」

 

柚香の顔が蒼白となっていった。

 

「陸奥、警察への通報は少しだけ待て、あと少しだけ二人にしてくれ」

 

俺は陸奥に席を外すように指示した。

俺は陸奥が台所から出るのを確認してから、柚香をどついた。

 

「馬鹿野郎、お前何したか分かってんのかよ!」

 

俺の怒鳴り声に、柚香が小さくなっていた。

 

「ごめんなさい」

 

柚香が小さな声で謝っていた。

 

「謝んなら最初からするな!脱走犯だぞ!分かってんのか!」

 

柚香には目の前の事しか見えていなかったのだ、俺に逢いたい、ただその一心で脱走したのだった。

 

「柚香……お前に一つだけ確認する、前みたいな事はしないと誓えるか?」

 

俺はある事を柚香に確認した。

何故なら事前に柚香の処遇について上と話し合い、給糧艦『間宮』(仮)ではあるが再配備を、ある条件の元取り付けておいたのだ。

 

「はい、私 高倉 柚香は紅東 紫苑さんへの一切の迷惑行為を致しません」

 

柚香はしっかりとした目で俺を見ると誓った。

 

「その迷惑行為のラインは俺が迷惑行為と感じたらでいいな」

「はい、それで結構です」

 

以前の柚香にはないはっきりとした口調だった。

 

「わかった、もし俺が迷惑行為と感じたらで即座に警察に身柄を引き渡すでいいな」

「構いません」

 

俺は柚香の返事を聞くと台所の外にいた陸奥を呼んだ。

 

「陸奥、警察へ柚香の処遇について大本営からの指示を待てと伝えてくれ、それと柚香を風呂に入れてやってくれ」

 

この事は事実上、柚香の罪は消滅したと同じだった(柚香次第だが……)

 

俺は風呂から出た柚香を連れて執務室へと戻った。

そして所属艦娘を全員集めて、

 

「高倉 柚香……いや予備役艦娘『間宮』として本日付をもって本監視所所属とする」

 

俺の言葉に全員が唖然としていた。

 

 



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第13話 柚香の事(改2)

間宮(柚香)の扱いですが、架空設定で予備役艦娘『間宮』としています。


「高倉 柚香……予備役艦娘『間宮』本日付をもって本監視所所属とする」

 

俺の言葉に全員が唖然としていた。

 

「ちょっと待ってください!」

 

千歳が珍しく声を荒げた。

 

「紫苑さんを貶めた張本人ですよね……そんな人を!」

 

千歳が怒るのも無理もなかった。

 

「みんな聞いてほしい、柚香のした事は確かに許される事では無い…だがなそれにはそうなった原因があるんだ…」

 

俺は本人の許可を取ると、みんなに話した。

 

「柚香には双子の姉がいるんだが、両親がその子にだけけ愛情を注ぐ形でな…柚香は居ないものみたく扱わわれたんだ…ガキの頃からの幼馴染だった俺しか相手にしてもらえなくて……俺を失いたくないという気持ちが溢れての行動、まぁ早い話が俺の中に自分の居場所を求めたという事だ……」

 

俺の話を聞いていたみんなは会話もなく押し黙っていた。

 

「でもさ、ホントにいいの?」

 

重い口を開いたのは隼鷹だった。

 

「解任要求出される位の酷い事…言って回ったんでしょ」

 

隼鷹の言っていることも俺にはよくわかっていた。

 

「隼鷹、言いたい事はわかる、だがな…此処で柚香を見放したらコイツ立ち直る機会を一生失う事になる…そんな事は俺はしたくない」

 

俺の説得(?)に隼鷹や千歳も折れてくれた。

 

「柚香さん、私達からも条件を付けさせてもらいます」

 

千歳が静かに話した。

 

「はい」

 

柚香は俯いたまま、同意した。

 

「紫苑さんと同様に私達が貴女の行動が迷惑行為と判断したら此処から出ていってもらいます、宜しいですね」

 

千歳がいつに無く強い口調で柚香に確認していた。

 

「はい…それでいいです」

 

柚香はしっかりと千歳の目を見て同意した。

 

「この話は此処まで、明日から柚香は呉で艦娘再調整に入ってもらう、陸奥同行を」

 

俺は陸奥に同行を指示した。

 

「了解よ」

 

俺は、隼鷹に駆逐艦娘達を呼びに行かせた。

 

「隼鷹、吹雪達を呼んできてくれ」

「はいよ」

 

隼鷹が執務室から出ていった。

 

そして業務終了間際…

 

「紫苑、貴方に見てもらわなきゃいけない物があるの…」

 

柚香が俺を呼び止めた。

 

「見なきゃいけない物?」

 

柚香が黙って俺の顔を見つめていた。

 

「わかった」

 

俺は柚香の部屋へと連れて行かれた。

 

「これを見て」

 

そう言うと、柚香は俺の目の前で全裸になった。

 

「おまっ…ちょっと待て」

 

俺が動揺しても構わずに柚香は続けた。

 

「私、虐待されていたの……」

 

俺は改めて柚香の体を見た、其処には服から出ない場所に無数の火傷や切り傷、刺し傷があった。

 

「両親と姉にやられ続けたの…」

 

柚香を見るとその瞳に大粒の涙を浮かべていた。

 

「私の存在……」

 

遂に柚香は声を上げて泣き出した。

 

「どうしたの!」

 

姉貴が柚香の部屋に泣き声を聞いて慌てて入ってきた。

 

「何この傷の……」

 

姉貴は柚香の体を見て言葉を失っていた。

 

「紫苑……」

 

俺は柚香に許可を取ると姉貴にすべてを話した。

 

「実の家族が…」

 

俺は久しぶりに本気で怒っている姉貴をみた。

 

「許せない、紫苑お父様に言って……」

 

俺は既に親父に話している事を話した。

 

「実は柚香が入っていた刑務所の医務官も疑問を感じていたらしくてな俺の所で引き取るって話たら体中の傷についての詳細なカルテを渡してくれる事になった、これを証拠に親父に法的対応と柚香との養子縁組を頼んだ…」

 

姉貴は俺の計画を聞くと静かに頷いてそのまま黙っていた。

 

「柚香、アイツ等と関係を断つには結婚じゃなくて親父との養子縁組が一番確実だと思った、この話が上手く行ったら俺とは兄と妹の関係になるがいいか?」

 

柚香はただ静かに頷いた。

 

「うん、ありがとう…紫苑に出逢えて良かった」

 

柚香は安心したのかまた泣き出した、俺は暫く柚香に付き添っていた、そしてこの日はこれで解散した。

 

 

 

数週間後、柚香は高倉 柚香から紅東 柚香へと戸籍を変更した。

彼女の両親と姉は……捜査の手が及ぶと勘付いたのか逮捕直前に行方をくらました、だがそれは紅東姓となった柚香にはもはや関係の無い事柄となっていた。

 

 

 




予備役艦娘という独自の設定を設けました、しかし今後は長いので普通に間宮とします。


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第14話 夏だっ!(改2)

夏とくれば……なのです!



柚香が間宮への再調整から戻ってきた日のお昼過ぎ…。

 

「今度の土曜日…其処の浜でバーベキューやらね?」

 

俺は秘書担当の隼鷹を誘った。

 

「いいんじゃない、というかやろう!」

 

隼鷹も乗り気だった。

俺は内線を取ると台所を呼び出した。

 

「間宮、今度の土曜日バーベキューするけど参加どうする?」

 

俺は一応返事はわかっていたが聞いてみた。

 

「勿論是非必ず絶対参加します!」

 

間宮が間髪入れずに即答してきた。

俺は内線電話を置くと、パトロール航海から戻った千歳にも声を掛けた。

 

「今度の土曜日其処の浜でバーベキューするけど「全員参加で!」」

 

多分隼鷹から話がいっていたのだろう、駆逐艦娘全員の出欠を取っていた。

 

「ただ……水着を持っていない子が…」

 

千歳が買ってあげてと目で訴えていた。

 

「なら買いに行くか…」

 

俺は台所に内線を入れると間宮にも水着の所有を確認した。

 

「間宮も持っていないみたいだな…よしっ、夕食後水着の購入に街に行くか」

 

……全員がゾロゾロと着いてきた。

って!ちょっと待て!

何で姉貴まで!……自分でお買い上げしてください。

等と考えた俺を見透かしてか、姉貴が氷点下の笑みを浮かべていた。

 

「ワ・タ・シ・ノ・モ・カ・ッ・テ・!」

 

間宮と夕張は買ってもらってるのに私のは何故?

と姉貴は更に無言で買ってのプレッシャーを掛けてきた。

 

結果から言うと全員分の水着を買う事となり俺の負けだった。

因みに姉貴以外は皆極普通のビキニだった…姉貴以外は。

 

「ったく、そんな派手なの誰にみせんだよ!」

 

俺は姉貴の水着姿を見て呆れた。

 

「紫苑」

 

姉貴が俺の名前を出した。

 

「俺に見せてどうすんだよ」

 

因みに姉貴の水着は…ヒモ水着の布地面積を増やしたような奴だった(2つのでっかいおやまは山頂周辺だけ隠れてる)。

此処だけの話を少しだけする。

試着姿で1位は隼鷹と千歳だった、やはり大人の女性だった。

 

2位は青葉の健康的なビキニ姿で少しだけ日焼け跡が何とも……。

 

3位は、我が妹ながら……夕張と間宮だった。

 

 

後は駆逐艦娘なので順位は付けないでおく…気になるお年頃と言う奴だからな……姉貴は忘れてくれ。

誰でもいい、嫁に貰ってやってくれ!

早くしないと賞味期限切れ…

 

等と不埒な事を考えていた…当然姉貴の琴線に触れ、鉄拳制裁を喰らったのは言うまでもない。

 

 

そして迎えた土曜日!

 

「あっさり、はっまぐり……」

 

吹雪が即興の歌を口ずさみながら潮干狩りを姉妹たちと楽しんでいた。

 

「どうだ、採れるか?」

 

俺は吹雪に声を掛けた。

 

「あっ、紫苑さん!見てくださいこんなに採れました」

 

吹雪が一斗缶満タンのアサリとマテガイを俺に見せた。

 

「間宮、バーベキューの具材追加出来たぞ!」

 

俺の呼びかけに間宮がやって来た。

 

「バーベキューの具材ってどれです?」

 

俺は吹雪達の一斗缶を指差した。

 

「あら、アサリとマテガイですか…」

 

間宮は少し考えると、

 

「マテガイの方はバーベキューで使うとして、アサリは塩抜きして今晩のおかずに」

 

俺は間宮の献立に追加した。

 

「アサリの炊き込みご飯を俺が作ろう」

「それなら残りは酒蒸しとアサリバターにしましょうね」

 

夕食の献立が確定した、まだ昼前なのに…。

 

「間宮もひと泳ぎしてこいよ、バーベキューの準備はやっておくから」

 

間宮が遠慮がちではあったが、頷いて千歳達と海に向かった。

 

「それじゃぁ、バーベキューの準備始めるか」

 

俺はドラム缶を半分にカットして網を乗せただけの簡単な物に炭を入れると火を起こした。

 

「そろそろか」

 

俺は肉や野菜を焼き始めた。

 

「お疲れ様、紫苑さんどうぞ」

 

千歳がビールを持ってきてくれた。

 

「千歳サンキュー」

 

俺は千歳からビールを受け取ると飲み始めた。

 

「おーい、焼けたぞー!」

 

俺の合図に皆コンロの周りに集まり始めた。

 

「オッニック!」

 

等と言いながら隼鷹がビール片手に出来上がっていた。

 

「ほれ野菜も食え!」

 

俺は隼鷹の皿にかぼちゃとピーマンを置いた。

 

「かぼちゃ甘い!」

 

隼鷹が美味しそうに食べていた。

青葉が横から焼いている俺に食べさせてくれていた、ごく自然に……自分の使っていた箸で、

 

「あっ!青葉ズッコイゾ!」

 

うんやっぱりこうなるのな……。

隼鷹と千歳までもが俺に食べさせてくれた…其々の箸で…アルコールの廻った頭でも気付いた、これって間接キッスじゃねぇか!

 

「紫苑、大人気ね」

 

間宮がこの瞬間だけ柚香に戻った。

 

「お兄ちゃん、はい」

 

間宮までもが……いや夕張までもが悪乗りしてやりやがった(コイツラは妹達だから……問題ない)。

 

ただ一人姉貴だけがこのノリに付いて来れないでいた。

 

此処で少し俺達の事を話そう。

 

俺  紅東 紫苑  25歳

陸奥 紅東 紫織  27歳

夕張 紅東 紫希  21歳

間宮 紅東 柚香  24歳

 

隼鷹達の本名についてはお話の流れからプロローグのみとします。

 

 

 



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第15話 夏だっ! 弐(改2)

もう少し続きます。

監視所の立地ですが、川の河口付近に位置していて、その両側はそこそこの高さの山に囲まれた場所となり、今回の場所はそんな監視所に続くプライベートビーチと言っても過言ではない場所での出来事です…だから躊躇い無いのね。



「イャッホー!」

 

隼鷹が少し先にある岬から海に飛び込んでいた。

 

「アイツ、しこたま飲んでたけど大丈夫か」

 

俺は心配になりながらも見惚れていた。

黒髪のロングヘアーが飛び込むたびに青空に美しく舞っていたから。

そんな俺を見ていた千歳が声を掛けてきた。

 

「隼鷹なら大丈夫です、あれ位は序の口です」

 

千歳が微笑みながら吹雪達と日光浴をしていた。

 

「それより紫苑さん、サンオイル塗ってもらえませんか?」

 

千歳が水着の背中の紐を外すと胸を片手で隠しながらサンオイルを手渡してきた。

 

「いいけど…」

 

俺は手で目を覆いながら(隙間からチラチラとは見えていた……千歳の腕から溢れ出るたわわなおやまが)。

 

「そんなに照れなくても……」

 

等と言いながら千歳が腕をどけやがった。

それは見事な二つのおやまがしっかりと自己主張をなさっていた。

 

「私も大きくなるかなぁ」

 

吹雪が自分のそれと見比べていた。

ウン吹雪、君達はこんなエロ大人になっちゃ駄目だぞ。

 

「あー千歳ズッコイゾ!」

 

隼鷹がドスドスと向かってきた…で何で裸なの?

隼鷹の、それはそれは見事な二つの大きなおやまが歩くたびにたゆんたゆん揺れていた……。

幾ら両側を山で囲まれた人目のない施設内とはいえ、頼むから恥じらいをどっかに置いてこないで!

まぁ早い話が酔っ払いの行動だったのだが。

 

「まったく、ホント酔っ払いは迷惑ですよね」

 

青葉が呆れながらトウモロコシをかじっていた。

以前の青葉なら躊躇わずに撮っていだろう…。

 

なんだかんだで夕方となり酔も冷めたのか隼鷹が茹で蛸のように真っ赤な顔をしていた。

姉貴から真っ裸で迫った時の画像をいつの間に撮ったのか知らないがそれを見せられながら(因みに千歳もおっぱい丸出しの画像を見せられて顔を真っ赤にして轟沈した)絡まれていた。

姉貴…その画像……俺に頂戴!

 

「あたしの……お願いだよぅ消しておくれよぅ」

 

隼鷹が姉貴に画像の削除を懇願していた。

 

「消して欲しくばねっ、あの言葉…ほれほれ言っちゃいなよぅ」

 

姉貴が何やら煽っていた。

 

「……お義姉さま…」

 

俺はその言葉に違和感を覚えた。

 

「まさか…」

 

俺は姉貴をみた。

 

「ウンウン、義妹よ」

 

俺は確信した。

 

「姉貴、どさくさ紛れに何勝手に義姉さんとか呼ばせてんだよ!」

 

俺が姉貴の頬を引っ張った。 

 

「いいじゃない、いずれ…「やめてくれ頼むから……千歳と青葉の視線が怖いから」」

 

俺は姉貴が何かを言おうとしたのを遮って表向きは懇願した。

 

間宮と夕張はお腹を抱えて笑っているだけで助けてはくれなかった。

因みに吹雪達は思考がついて行かず固まっていた。

 

そんな時に隼鷹が特大の爆弾を落としやがった。

 

「あたしさ、男の人に裸見られたの紫苑が初めてなんだねよね…責任とって!」

 

ウンウン見られたじゃなくて自分から見せたの間違いだよな…酔っ払いにはその言葉は…通じなかった。

 

 

その日の夜……俺は貞操の危機をこれでもかと感じていた。

 

何故なら隼鷹と千歳二人が……何時もの湯上がりの格好では無く…それは艶めかしいスケスケのお召し物(下着そんなものクロスアウッ!)で俺を取り囲んできた、青葉は何時ものタンクトップとショートパンツ姿でいた…青葉お前だけは常識迄クロスアウッしなかったのな。

 

だが思考は3人して同じだった。

 

「誰を選ぶの?」

 

見事にハモって同じ事をぬかしていた。

今の俺には…まだ決められなかった。

 

「済まない、今はまだ誰ととは決められない、だから俺にもう少しだけ時間をくれ」

 

俺は正直に言うと頭を下げた。

その日の晩は3人共に大人しく自分の部屋に戻る……訳がなかった。

結局そのスケスケの格好のまま俺の部屋で何時ものように呑みだした。

 

俺は何処を見てよいのやらと視線を彷徨わせながら酔った心地がしなかった。

結局三人は日付が変わる直前に其々の部屋へと戻っていった。

 

俺は一人布団に入ると、三人の事を考えていた。

 

「隼鷹、千歳、青葉……」

 

頭の中に昼間の隼鷹と千歳の美しい裸体が浮かんだ。

 

「俺の事をみんな……」

 

そんな事を考えている内に何時の間にか眠りに落ちていた。

 

 

 




隼鷹と千歳が何やら凄く迫っていますが、果たして紫苑は誰を選ぶのでしょうか!
しかし据え膳喰わぬとは……


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第16話 夏といえば!……(改2)

夏といえば!
そう心霊話ですよね……な筈がやっぱり紫苑の周りで起きる陣取り合戦……。



「今日、夕食後皆でビデオみない?」

 

夕張がみんなに聞いてきた。

 

「俺は別に構わないが……」

「勿論、紫苑の部屋だよね」

隼鷹が食い付いて来た。

俺の部屋なんだが…等と思っていると、

 

「勿論!」

 

夕張が即答しやがった。

となれば、皆の答えは見えていた。

 

「行きます!」

 

残りの奴らの声が見事にハモった。

 

 

そして夕食後……

 

「千歳と隼鷹は間宮を手伝って後片付けを、残りの者は風呂先に入ってから俺の部屋に集合な」

 

俺は段取りを付けると、部屋に戻りビデオ鑑賞会(?)の準備を始めた、まぁ青葉が風呂から上がると何時ものタンクトップとホットパンツ姿で手伝ってくれたが。

準備の出来たやつから俺の部屋に集まりだした。

先ずは吹雪達からだった、吹雪達は其々極普通のパジャマ姿で俺の部屋に来た。

次は姉貴だった、此方もアニマル柄の普通のパジャマ姿でだった。

最後は千歳、隼鷹、間宮と夕張だった。

間宮と夕張も至って普通のパジャマ姿だった…千歳と隼鷹だけはやっぱり浴衣だった。

 

「えっとみんな揃ったのでそれでは始めたいと」

「ちょっと待て……」

 

俺は夕張の話を途中で遮った。

何故なら約三名の位置がどうしても気になったからだ。

と云うのも、先ずは青葉から…俺の左側に寄りかかる様に座っている、これはいい…。

千歳は右側に青葉と同じ様な姿勢で座っている……これもまぁ許せる、最大の問題は隼鷹の座った場所だった、其処は、俺の前に座り俺を背もたれ状態にしていた…わかりやすく言うとあすなろ抱き状態だ。

 

「……お兄ちゃんの周りは私達には不可侵だから!」

 

そう言って夕張はスルーし姉貴は冷やかしを入れた、そして夕張が一枚のディスクをPS3にセットした。

 

『本当にあった怖い話』とタイトルが表示された!

夏といえばこれだよな。

俺はヤケクソになって、隼鷹の顔の位置は気にしない事にした、俺の頬に隼鷹が顔を寄せていた………、そして隼鷹が俺の代わりにおつまみを代わりに取ってくれるのだが……俺に渡さず隼鷹の手のまま俺の口に入れてきた……つまり隼鷹の指が俺の口に、隼鷹はそのまま次のおつまみを取ると自分の口へと運んだ、それもごく自然な行動ように。

うん…両側からも同じ事をされた、隼鷹ずるいと呪詛のような呟きのあとに。

後ろから「きゃー」だの「あれって間接キッス!」等と小声が聞こえたが聞こえないふりをした…いや反応しづらかった。

そして、本当にあった怖い話は終った、

 

「まだ、寝るには早いからもう一本見るか?」

 

俺は後ろの吹雪達に声を掛けた。

 

「ハイ、お願いします」

 

俺は吹雪の返事を聞いて、隼鷹にコントローラーを取ってもらった。

 

「隼鷹、コントローラー取ってくれ」

 

俺はコントローラーを受け取ると、PS3を操作して保存されているとある映像集を再生させた。

 

『ガチで怖い心霊映像!』

 

それは俺がネットで集めて編集した心霊映像集だった。

これが不味かった……。

見終わったあと、吹雪が遠慮がちに言ってきた、

 

「あのぅ、紫苑さん……私達ここで寝ても、いえ寝かせてください」

 

理由は簡単だった、先程の映像が怖くて一人で寝れなくなったのだった。

 

「いいぞ、吹雪達はベッド使って構わない」

 

吹雪達はそのまま俺のベッドで布団に包まると寝てしまった。

 

「ヤレヤレ……さて俺達はどうすっかな」

「私達は、部屋に戻るね」

 

そう言うと、青葉と夕張、間宮は其々の部屋へと戻っていった、因みに姉貴は既に撤収済み。

俺はソファーの背もたれを倒すと簡易ベッドにした。

 

「ほれ、千歳、隼鷹ベッド出来だぞ」

 

酔からか眠たそうな二人をお姫様抱っこで抱き抱えてベッドに寝かせた。

 

「二人とも、かわいい寝顔しやがって」

 

俺は隼鷹と千歳の髪を指でそっと撫でると、もう一つのソファーをベッドにすると、そのまま眠りについた。

 

 

そして翌早朝の事。

「うん?……」

 

俺は両側に触れる何かの感触に目を覚ました。

 

「何か温かくて柔らかいものがあたってる?」

 

俺は起き上がろうしたが、何かに押さえつけられていた。

俺は左右をみた、そしてその原因を目の当たりして言葉が出なかった……それは隼鷹と千歳が何時の間にか俺をサンドイッチにして寝ていたのだ。

つまり触れている何かとは……二人のたわわな二つのおやまの感触だったのだ。

俺が困惑していると静かに襖が開いて姉貴がカメラ片手にニヤニヤしながら侵入して俺達の寝姿を写真に取るとまた静かに撤退していった。

その日は一日中、姉貴と夕張からさんざん冷やかされ、クソ親父にご丁寧にもその画像が送られ、クソ親父からは、二股がどうのと誤解からのお説教を受ける羽目になった。

 

 

 

 

 



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第17話 さらば…戦艦『陸奥』、そしておかえり姉貴!(改2)

「なんだこれ…」

 

千歳が一通の封筒を持ってきた、だがそれは見た目からして普通の郵便物では無かった。

 

「追跡記録付?転送不可?……差出人は……大本営?誰宛だ?」

 

俺は封筒をすみからすみまで確認した。

 

「あっ所長、これ陸奥さん宛みたいです」

 

千歳が宛先に気が付いた。

 

「あー、陸奥郵便だぞ」

 

俺は陸奥にその封筒を渡した。

 

「私宛?」

 

陸奥が訝しげながら封を開けた。

 

「…………!」

 

陸奥の表情が曇っていた。

 

「どうかしたのか?」

 

俺の問いかけに、陸奥は内容物を俺に寄越してきた。

 

「転属命令だと!」

 

それは陸奥の舞鶴への異動命令書だったのだ。

 

「私……退役しようかなぁ、折角弟と妹達と一緒に暮らせるって思ったのに」

 

陸奥はいつになく泣きそうな顔をしていた。

 

「なら……退役しちゃえよ、別に艦娘という職業に拘ってねえんだろ」

 

そんな会話をしていると、卓上の電話が鳴った。

 

「ハイ、鹿屋第十三監視所ですが」

 

俺が電話に出ると、相手はクソ親父だった。

 

「ワシじゃ、陸奥は其処におるか?」

「ああっ、いるけど」

 

俺は陸奥に受話器を渡した。

 

「クソ親父だ」

 

陸奥は受け取ると、何か話し始めた。

 

「うん…うん…うん…、お父様…ありがとうございます、はい…」

 

そのまま電話を切った。

 

「紫苑……いえ所長、元帥の許可は出ました、私戦艦『陸奥』は今月一杯を持って退役致します」

 

陸奥は退役を選択した。

 

「退役後はどうするつもりだ」

 

俺はテンプレ的なことを確認した。

 

「お母様からの指示待ちってところかしら」

 

俺は判ったとだけ言うと口を閉ざした。

 

そして迎えた月末……

 

「本日付を持って、戦艦『陸奥』を退役申請を受理とする、官給品の返却と各種手続きを早急に進めるように」

 

俺は決められた書式を記入すると退役の書類を大本営に送った。

 

「陸奥……いや姉貴、これでもう艦娘じゃなくなった訳だが、怪我とか事故には気を付けるように…それでいつ母さんの所に?」

 

俺は一番聞きたくない事を聞くしかなかった。

 

「あら、私帰らないわよ……ここで空いてる土地を使って保養施設を運営する事になってるから、それと紫苑……監視所の土地を買い取りなさい、軍と話はつけてあるわ」

 

姉貴がしれっとぬかしやがった。

 

「俺は聞いてねえぞ?」

 

俺の疑問に姉貴は、ただ一言だけ言った。

 

「お母様のご指示よ」

 

俺はそれ以上言えなかった、何故なら母さんからの言いつけは絶対だったからだ。

 

「で姉貴、従業員とかどうすんの?」

 

俺は必要な人員について聞いてみた。

 

「それについては、お母様から元艦娘の娘達を手配してくれるって、それと一部施設も増設するって言っていたわね…それとね、紫苑に話さないといけない事ががある」

 

俺は姉貴が続きを話すのを待った。

 

「私、婚約者いるの」

 

俺はそれについては親父から聞かされていたので知っていた。

 

「それでね、今回の退役を期に正式に結婚する事になったの」

 

俺は姉貴の衝撃的な発言に只々驚くだけだった。

 

 

 

 

後日談

それから数カ月と経たずに、監視所の敷地の一角にちょっとしたリゾートホテルが完成していた(妖精さんと紅東建設の力恐るべし!)。

この土地についてだが、全ての土地を俺が貯金総てを叩いて買い取り、軍へレーダーサイトと監視所部分を賃貸する形で纏まった(因みに賃料は月額120万円となった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第18話 夏といえば……弐(改2)

今回もまた怖いものみたさにですが……


「また、心霊番組見ようぜ」

 

俺は青葉に声を掛けた。

 

「勿論、紫苑の部屋でだよね」

 

俺の部屋で…確定しているらしい。

 

「隼鷹さんと千歳さん、間宮ちゃんに声かけときますね」

「おぅ、なら俺は吹雪達と姉貴と夕張を誘っとくよ」

 

俺と青葉は一端分かれると、其々の部屋に戻った。

 

「今回は、これにするか」

 

俺は『ほんこわ』と書かれたディスクと外付けHDDを用意した。

 

「紫苑いい?手塞がってるから開けてくれると助かるんだけど」

 

青葉が戻ってきた。

 

「ああ、ちょっと待ってな……今開けるから」

 

俺は襖を開けて青葉を招き入れた。

 

「おつまみこれでいいかなぁ」

 

青葉がお手製のカナッペを用意していた。

 

「へぇお前、上手いじゃん」

 

俺は青葉の腕前に素直に感心した。

 

「こっちも出来たぞ、オニオンリングとイカのリングフライだけどな」

 

そして全ての準備が終わると、俺は内線で全員を呼んだ。

 

「準備出来だぞ」

「ビールとチューハイでいいよね」

 

隼鷹と千歳がアルコール類を持ってきた。

 

「お邪魔します」

 

吹雪達もやって来た。

 

「はい、吹雪ちゃん達はこっちよね」

 

間宮と夕張がコーラ等のアルコール以外の飲み物を持ってきた。

そして皆其々適当に座った……はずだった、何故なら今回もまた隼鷹が俺の前を占領していた。

俺も悪い気はしなかった……だって隼鷹いい匂いで、それで柔らかいし……!

 

等とイチャコラしていても始まらないので、俺はPS3を起動させた。

 

「じゃぁ、始めるぞ」

 

心霊写真や再現ドラマが変わるたびに吹雪達からキャーと声が上がっていた。

大人組もそれなりに怖かったみたいだ、何故なら隼鷹が俺の腕にしがみつき(ああっ、腕に何か柔らかい物があたる感触が!)、青葉と千歳は俺の肩を盾に隙間から覗きながらワァーキャー言っていた。。

 

そして俺は、新しい物を再生した。

 

「ネットから集めた映像集だけど結構怖いらしいぞ」

「紫苑さんちょっと待ってください…私達…お手洗いに」

 

吹雪達がお花を摘みに行った。

 

「私も行ってこよ」

 

夕張と間宮が連れ立って吹雪達のあとからついていった。

 

「ビールとチューハイ、おつまみをもう少し用意しますね」

 

そう言うと千歳が立ち上がって、台所へと向かった。

そして全員が戻ってきたのを確認すると。

 

「それじゃぁ続きを始めるぞ」

 

俺は再生を開始した。

今回の物はすべて心霊映像だったので、リプレイと称してその画面が何回か繰り返されるという物だった。

 

「マジかよ」

 

俺の後ろで深雪が泣きそうな声で呟いていた。

 

「やめとくか?」

 

一応俺は吹雪達に聞いてみた。

 

「最後まで見ます!」

 

怖いものみたさからなのか興味からなのか最後まで見たいそうだ。

俺はそのまま再生を続けた。

アルコールのお陰なのか、俺は然程怖いとは思っていなかったが…姉貴のとある行動のお陰で一瞬心臓が止まるかと思った。

それは酔っ払って寝てしまった姉貴が持っていた空き缶を落としたその音にだった。

 

「こぉんのぅ、幸せそうな顔で寝やがって……」

 

後ろで吹雪達もその音に固まっていた。

まぁ今回も吹雪達は俺のベッドを占拠して寝る事になった。

ただ前と違うのは、朝起きると千歳だけはソファーベッドに一人で寝ていた…隼鷹だけが俺にしがみついて寝ていた。

 

「ったく、俺の何処がいいんがた」

 

俺は隣で寝ている隼鷹の頭をなでた。

 

 



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第19話 夏といえば!…… 後日談(改2)

俺は今、吹雪達と離れの点検に来ている。

 

「所長、此処の電球も切れかけてます」

 

白雪が次々と電灯の不具合を報告するとリストに書き込んでいった。

 

「かなりあるなぁ……」

 

俺は夜は殆ど行くことの無い離れの現状に驚いた。

 

「これなら心霊番組とかホラー映画を見た後だと戻れなくなるわなぁ……」

 

俺は納得した。

 

「だろぅ、怖くってさ」  

 

深雪が胸をはって言った。

まだ夕日のある夕方でこの暗さである、夜になれば言わずもがなだ、その上に点滅とくれば怖さは倍増だろう。

 

「わかったよ、照明器具更新期間中は母屋の空き部屋使っていいぞ」

 

俺は吹雪達に玄関入ってすぐの空き部屋の夜間使用を許可した(まだこの時点では母屋増築は秘密にしていた)。

この俺の決定を聞くと吹雪達は、布団を各自の部屋から空き部屋へと持って移動を始めだした。

 

「寝るだけなら四人一部屋でも問題ないか……」

 

だがこの決定はあとから、青葉、隼鷹、間宮等の隣接する部屋の住人からお小言が出る事となる。

それは、今迄一人部屋だったのだからある程度は仕方なかった……のだが、同じ年の女の子が四人もとなるとそれは騒がしかった、仕方なく俺はそれとなく注意をする事にした。

 

「吹雪、ちょっといいか……夜中にあまり騒ぐなよ、俺の部屋まで聞こえるぞ」

 

俺の指摘に吹雪が済まなそうに謝った。

 

「紫苑さん、すみません」

 

これ以降は静かにしてくれるようになった。

それから数日後、妖精さんと紅東建設の謎の技術で母屋に新たに四つの部屋が増築された。

 

「吹雪達の新しい部屋だ」

 

俺はキッチンに隣接するように増築された新しい部屋を吹雪達に案内した。

それは俺の部屋とキッチンを廊下を挟んで付け足されていた。

 

「広い!」

 

白雪が驚きの声を出した。

それもそのはず、以前の離れでは6畳間だったのが、新しい部屋は8畳間と拡大されていたのだから。

 

「ほらほら、私物運んじまえよ」

 

俺は吹雪達を急かした。

 

「離れは何につかうの?」

 

吹雪達を見ていた隼鷹が聞いてきた、

 

「離れは、姉貴が始める保養施設の従業員宿舎として使う事になってるからな…」

 

「保養施設?」

 

隼鷹が聞き返した。

 

「姉貴が始める艦娘専門の保養施設らしく、一応紅東グループの一部門というくらいしか俺も知らない、まぁ後で姉貴が教えてくれるだろう」

 

隼鷹はそうという顔で部屋へと戻っていった。

俺は間宮、千歳と夕食の準備を始めた。

 

「今日は活のいい鰤が手に入ったから、鰤しゃぶしゃぶにするか」

 

俺の提案に千歳が直ぐに動き出した。

 

「土鍋とカセットコンロ用意しますね」

「それなら私は鰤を捌きます」

 

間宮が鰤を捌き出した。

 

「お刺身より気持ち薄めで」

「ハイ」

 

間宮が見事な手付きで捌き終えた。

 

「紫苑さん、白菜とあと何入れます?」

 

コンロを出し終えた千歳が此方に戻ってきた。

 

「そうだな……エノキとエリンギそれとネギを冷蔵庫から出してくれ」

 

俺からの返事を聞くと、千歳が頷いて冷蔵庫を開けていた。

 

その日の晩御飯はいつになく豪華になった。

ビール1箱を空にしたのは仕方のない事だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話 オカン来襲!(改2)

紫苑達の母親が柚香を見にやってくるお話。


その日、俺達は夕食を済ますと何時ものように俺の部屋でマッタリとしていた。

そんな時、いきなり内線が鳴らされた。

 

「紅東観光の役員車運転手の影山と云うお方がグループの代表をお連れ致しましたとのことですがお通ししてもよろしいですか」

 

俺はゲート詰め所の海自警備兵からの連絡に誰が来たのか理解すると慌てふためきながらゲートの開放を指示した。

 

「誰?」

 

姉貴が風呂上がりらしくバスタオルで髪を拭きながらやって来た。

 

「ヤバイ!母さんがきた!」

「お母様!」

 

俺の言葉に姉貴が慌てふためきながら洋服に着替えるために自分の部屋へと戻っていった。

俺は夕張を呼んだ。

 

「夕張、母さんが来た」

 

夕張が慌てながら部屋の片付けに戻った。

俺もだが、隼鷹も千歳も結局何時もの格好だった……。

それから程無くして母さんがやって来た。

 

「紫苑、紫織、夕張…3人共、元気にしていましたか?」

「おっ、おっ母様もお変わりなく」

 

姉貴が噛みまくりながら返事をしていた。

 

「久しぶり母さん」

「お母さん」

 

俺と夕張は極普通の会話だった、姉貴だけが固まっていた。

 

「柚香ちゃん…今は間宮ね、久しぶり中学の時以来かしらね」

「ハイ、ご無沙汰しています」

 

間宮もいつになく緊張している様子だった。

 

「そんなに硬くならなくてもいいわよ、詳細は紫苑から聞いてるから」

 

母さんが優しく間宮を抱きしめていた。

 

「間宮、母さんって呼んでやれよ」

 

俺は間宮の背中を押した。

 

「お母さん……」

 

間宮が少し恥ずかしそうに呼んだ。

 

「なぁに」

 

母さんが新しい娘からお母さんと呼ばれた事に嬉しそうにしていた。

 

「母さん、今日は間宮に会いに来たのだけじゃないな」

 

俺はそれとなく探りを入れた。

 

「あら決まってるじゃない、紫苑のお嫁さんを紹介してもらいに来たのよ」

 

クソ親父が母さんに余計な事を言っているみたいだ…だがちょっと待て…母さんお嫁さんといったな…クソ親父シメだな、なんて言ったんだよ!

 

「隼鷹ちゃんと千歳ちゃん、青葉ちゃんを早く紹介してよ」

 

俺は急かされて、三人を紹介した。

 

「俺の前に張り付いてるのが隼鷹で、右肩に抱き着いてるのは千歳で左が青葉…」

 

母さんは隼鷹を見るとニヤニヤしだした。

 

「あらあら、隼鷹ちゃんが本命なのかしら?」

 

確かに傍から見ると隼鷹は後ろからあすなろ抱きをされているからそう見られても仕方なかった。

 

「お母様、実は私達もしてもらってます、今はまだ三人共に平等にしてもらっています」

 

青葉が助け舟にならないセリフをぶちまけた。

 

「あらあら、まぁまぁ、三叉なのぅ、やるじゃない」

 

母さんアバウトすぎ!

とは言ったものの、確かに今の俺の心境は隼鷹に少し傾いているのは本心だ。

 

 



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第21話 オカン来襲! 弐(改2)

「母さん、晩飯食べたの?」

 

俺は母さんに聞いてみた。

 

「お昼から何も食べてないからお腹ペコペコ、何かない?」

 

俺は隼鷹をひっぺがすと、キッチンへと向かった。

 

「しっかりと食べるか?青椒肉絲ならすぐできるけど」

 

俺は冷蔵庫を開けて材料を確認しながら聞いた。

 

「呑みながら食べたいから……お願い」

 

俺は冷蔵庫から牛肉と筍、ピーマンを取り出すと、調理を始めた。

 

「紫苑、あたしも少し食べたーい」

 

隼鷹がキッチンで俺におねだりしてきた。

 

「わあったよ、千歳達も少し食べるか?」

 

返事は分かっていたが聞いてみた。

 

「食べます、此処は譲れません!」

「だから、何故加賀が大量発生すんだよ!」

「ネタです!」

 

うちの奴らノリ良すぎ。

そんな光景を母さんはビールを呑みながら眺めていた。

 

「女の子とのお付き合いが苦手な紫苑が此処まで馴染めるなんて、お父さん良い娘を集めましたね」

 

母さんがポツリと呟いていた。

母さんの言うとおり俺は女性というものが苦手だったが、隼鷹や千歳達と知り合ってからというもの苦手ではなくなってきていた(うちのメンバーに限り)、其処はクソ親父に感謝している。

 

等と考えていると青椒肉絲が出来上がったので、

 

「ハイ、母さんお待たせ」

 

俺は母さんの前に出来上がった青椒肉絲を置いた。

 

「ホイ、お待たせ」

 

俺は大皿に青椒肉絲を移すと、俺の部屋へと持っていった。

 

「ビールはかどるわぁ」

 

隼鷹と青葉がどこに入るのか不思議なくらい食べていた。

 

「二人共、お腹のバルジが増えても知らねえぞ」

 

俺はその光景を見ながら苦笑した。

 

「紫苑の料理が美味すぎるのが悪いのよ」

 

間宮がビール片手にほうばっていた。

 

「ったく、ほらデザート」

 

俺は冷蔵庫で冷やしていた杏仁豆腐を器に取り分けると皆に配った。

 

「紫苑さん……今度作り方教えて下さい」

 

吹雪達が俺に教えてほしいと言ってきた。

 

「かまわないよ」

 

お料理教室もやる羽目になった。

 

「紫苑、母さん安心しました、この子達なら貴方を安心して任せられますね」

 

母さんなりに俺の事を心配してくれていたようだ。

 

「今はまだ3人のうちの誰とは決められないけど、必ず結論を出すよ」

 

俺は母さんにそう答えた。

母さんは青椒肉絲を食べながら頷いていた、ビールを呑みながら……。

 

「で、母さん何時まで此方にいるの?」

 

俺は気になっていた滞在予定を聞いてみた。

 

「一週間はいる予定ね」

「なら……部屋は玄関上がってすぐの部屋を使って、夕張、布団とかの準備を間宮と頼むよ」

 

俺が頼むと二人は頷いて出ていった。

 

「それじゃぁあたしらは戻るね」

 

そう言い残して隼鷹達も其々の部屋へと戻っていった。

 

「紫苑、お話があります」

 

母さんが真面目な顔付きになって俺の前に座った。

 

「柚香ちゃんの事なんだけどね、本当の両親とお姉さん証拠不十分で無罪になったの…それでね逆にうちを訴えるって息巻いてるらしいの……」

 

俺は母さんが何か考えているだろう事は予測できた。

 

「母さん、当然対抗策あるんだろ?」

 

俺の疑問に、

 

「勿論よ、紫苑が送ってくれたカルテを詳細に検証して、近隣住民からの聞き取りで、ガッチリと逃げられない様に固めてあるわよ」

 

あとから聞いた話では、近隣住民のホームビデオに虐待されている柚香ちゃんの姿がしっかりと録画されていたらしい、それが結局動かぬ証拠となったそうだ(その際に暴行を受けていた位置とカルテに記載されていた骨折の位置が一致した)。

 

だが彼等は簡単には捕まらなかった、そしてこの事件の判決が確定する直前に姿をくらませたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第22話 オカンのいる日常……(改2)

海の日と体育の日、土日が絡んで4連休となる、7月のとある水曜日の夜に母さんはいきなりやってきた。

 

「一週間はいる予定ね」

 

母さんはそう言うと、ラフな格好に着替えて俺が作った青椒肉絲をビール片手に食べだした。

 

「紫苑、また料理の腕上げたわね」

 

母さんが俺の料理を褒めた。

 

「そうなんですよ、聞いてください」

 

青葉が延々と俺の料理レパートリーについて母さんに解説していた。

 

「和洋中オールマイティに作れるなんて……何時の間にか上達して驚きだわ」

 

母さんが素直に驚いていた。

 

「紫苑、明日からは主婦歴三十年の力の差を見せてあげる」

 

久しぶりに母さんの作る飯が食べられるのか。

 

「あっごめん、明日の昼だけは俺作る、炒飯の材料買い込んであるんだわ…」

 

俺は冷蔵庫に入れてある焼豚、キムチ等な炒飯の材料の事を思い出した。

 

「あらそうなの、でも人数分は大変じゃないかしら?」

 

母さんがその量を気にしていた。

 

「何種類かの炒飯を大皿に作って、そこから食べたいやつを小皿にって感じだからさほどでもねえし」

「ふーん、そうなんだ」

 

母さんが感心していた。

 

「それに艦娘ったって艤装つけなきゃ見ての通り極々普通の女の子だからな、赤城や加賀と違って……」

 

何やら母さんが不服そうな顔をしていた。

 

「紫苑……あのね……母さんがその赤城の元艦娘だったの……」

 

姉貴が驚愕の事実を話した。  

 

「姉貴、初耳だぞそれ」

「紅東家の女子は社会に出る前に必ず艦娘に志願する事になってるの、それでね私や夕張は勿論だけど母さんもなのよ……それで母さんは赤城の艦娘にって訳……よく食べるのは否定しないけどね」

 

俺はなんとなく納得した、何故なら昔から母さんは育ち盛りの俺より食べてたから。

 

 

 

そして迎えた翌日、木曜日の朝。

 

「ほら、起きなさい!」

 

俺は母さんに起こされて、食卓につくと其処には炊きたてのご飯になめこの味噌汁、焼き鮭が並んでいた。

そうそれは俺が何時も作る朝食メニューと同じものだったのだが……塩味のバランスが絶妙だった、焼き鮭の塩分を味噌汁の塩分を薄くする事で調整して取りすぎないようになっていたのだ。

 

「やっぱ母さんには勝てないや……」

 

母さんがガッツポーズを取ると、微笑んでいた。

 

「吹雪ちゃん達も、私がいる間は私の事をお母さんだと思ってね」

 

流石母さん、吹雪達へのフォローをしっかり入れていた。

 

「流石、元赤城」

 

元赤城と聞いた吹雪の懐き方は半端なかった…一瞬妹がまた増えるかと思った四人もという位に。

俺と間宮で洗い物を終わらすと、母さんからある事を頼まれた。

 

「ねぇ紫苑、家の中案内してよ」

 

俺と間宮で案内する事にした。

 

「いいけど、なら玄関からいくか…まずこの上がって直ぐの部屋が今母さんが使ってる部屋……んで右隣が青葉の部屋で、向いは警備機械室…隣はトイレと風呂場、トイレの向いは隼鷹の部屋で、その隣が俺の部屋とダイニングキッチン…」

 

俺は母さんに案内していた……。

 

「キッチンを抜けた先の4部屋は、右から吹雪、白雪、初雪、深雪の部屋になってる…」

 

そう言うと、俺達は青葉の部屋の前まで戻った。

 

「青葉の部屋と隼鷹の部屋の廊下の先の階段を上がった2階が姉貴の部屋で、その右が千歳の部屋になってる…」

「かなりっていうか結構広い家なのね」

 

俺達は姉貴の部屋の前まで来た。

 

「それで、左側、青葉の部屋の奥から間宮と夕張の部屋が続いてる」

 

俺達は、隼鷹の部屋の前に戻った。

 

「そんで、この廊下突き当りを左に行くと、二棟の離れと、一応軍事施設扱いの土蔵がある、そんじゃ一回外に出よう」

 

俺はそう言うと縁側から外に出た。

 

「土蔵の横に階段があって……その先は、見ての通りの砂浜がある」

 

母さんが何やら残念そうな顔をした。

 

「母さん、何か問題でも?」

 

それは聞くだけ……いや聞きたくなかった。

 

「水着持ってくれば良かった!」

「なら街に買いに行きましょ「姉貴が行ってな」う」

 

姉貴が余計な事を言い出したので、俺はそれを遮って姉貴に押し付けた。 

 

「なんてね、紫織から聞いていたから持ってきてるわよ」

 

姉貴の水着を見た母さんが…貴女には恥じらいがとお説教を喰らったのは此処だけの話。

 

 

 



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第23話 特別編 結婚式(改2)

結婚式とタイトルにありますが……紫苑のではなく紫織の方の結婚式前後のお話(紫苑と隼鷹を中心に進みます)
隼鷹が結婚式に参加するのは同期なので参加しています(千歳も同期なのですが監視所でお留守番を選びました)。


「夕張、早くしろよ、タクシー待ってんぞ」

 

俺は、夕張を急かした。

 

「お兄ちゃん待ってよー」

 

夕張が慌てながらやってきた。

 

「3人とも忘れ物無いか?」

 

俺は、隼鷹と夕張、間宮に確認した。

 

「招待状4枚あるよ」

 

間宮がバッグの中の招待状を確認した。

 

「御祝儀オッケー、」

 

隼鷹もバッグの中の全員分の御祝儀を確認した。

 

「結婚(仮)の指輪オッケー」

 

夕張が隼鷹の指で輝くプラチナの指輪を指差した。

隼鷹が照れながら俯いた。

 

「それじゃぁ行ってくる、千歳あとを頼む、お土産を期待してな」

 

俺は留守中の事を千歳に任せると、結婚式場へと向かった。

 

結婚式場に到着すると予想通り、他の同期から隼鷹は嫌味を言われていた。

 

「隼鷹、よく顔出せたわね」

「密造酒で捕まって千歳と牢屋入ってんじゃないの?」

「結婚式に犯罪者の分際でノコノコこれたわね、脱獄でもしたの」

「私に近寄らないでね、貴女が姉妹艦だなんて一生の不覚よ」

 

言いたい放題だった。

俺はわざとらしく隼鷹に近づいていった。

 

「おーい、隼鷹……親族の控室こっちだぞ」

 

俺は隼鷹の手を取るとわざとらしく指輪を目立たせるように隼鷹の手を握った。

 

「へー、あんなんでも指輪してるよ……って親族!?」

 

俺はわざとらしく少し大きい声で言った。

 

「紅東家長男嫁(仮)なんだから、お前の席はこっちだろ」

 

さんざん嫌味と悪口を言っていた奴らが全員、愕然としていた。

そりゃそうなるよ、今迄さんざん叩いていた相手が紅東家の長男嫁(仮)なんて呼ばれたんだから。

隼鷹の指で輝いている指輪の意味をいち早く気付いた奴がいた。

 

「隼鷹、その指輪…ケッコン(仮)の物じゃないわね…本物のプラチナとダイヤ……正式な婚約指輪的な「勿論これは官給品の安物なんかじゃないぞ、俺は結婚(仮)として渡した」」

 

飛鷹はそれを聞くと悔しそうにしていた。

俺はさらに追い打ちをかけた。

 

「確かに隼鷹は罪を犯したかもしれないが、妹の幸せすら妬むようなやつの方が問題なんじゃね」

 

俺は捨て台詞を言うと、隼鷹の手を握って新婦親族席へと向かった。(勿論隼鷹の席は俺の隣だ!)

 

そして式も始まり、仲人のスピーチや両親への手紙、新郎新婦の友人達のメッセージ等つつがなく式は進行していった。

まぁ新婦友人席の奴らはと云うと、隼鷹の事を恨めしそうに見ていた。  

そんな奴らを俺は少し挑発した、何をしたのかそれは……隼鷹の腰に手を廻して軽く抱きしめていたのだ……隼鷹も俺に寄り掛かる様に体を預けていた。

 

この光景を酔っ払ってみていたクソ親父が何を思ったのか、司会からマイクを奪うとトンデモ発言を噛ましやがった。

 

「あーお集まりの皆さん、本日は娘の結婚式にお集まりありごとうございます……もう一つ嬉しい報告をさせていだきます、それは当家長男 紫苑にも遅まきながら春が来まして…今回その女性を同伴させております」

 

勝手に暴露して、スポットライトを俺と隼鷹に当てやがった!

母さんは……俺の前で般若になっていた(親父迷わず成仏してくれ)

クソ親父の爆弾発言を聞いた同期達は嘘だ信じられないと云う顔をしていた。

 

「そっかー、紫苑も遂に世帯持ちかぁ」

「隼鷹さんは、強いのかい」

 

親戚の一人が飲む仕草をしながら隼鷹に聞いていた。

 

「はい、それなりには」

「そっか、それじゃぁ近いうちに紫苑君の結婚式も控えてるのか…いゃぁ、オメデタ続きじゃ、こんないいお嬢さんとなぁ…」 

 

隼鷹が親戚からの質問攻めに答えていた。

まぁ彼女の事は包み隠さず親族には話してあったので、すんなりと受け容れられていた。

 

「嘘よ、嘘……これは夢なのよ!」

 

飛鷹達は少しではあるが取り乱していた。

…そして姉貴が式の最後にブーケトスを隼鷹に直接手渡してダメ押しをしさらに、

 

「隼鷹、次は貴女の番よ」

 

姉貴はウィンクすると、これみよがしに俺の手と隼鷹の手を重ねた。

 

「お義姉さん……」

 

隼鷹もちゃっかりと姉貴をそう呼んでいた。

俺の周囲は外堀どころか内堀まで完全に埋められていた。

 

 

 

 

 



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第24話 オカンのいる日常……弐(改2)

艦娘専用保養施設の建設現場視察の話、基本紫苑は母親と紫織の会話を聞いているだけに近い状況となります。
紫織の紅東観光開発での役職ですが、現在は保養施設開発統括と云う普通の企業には無いような役職です(いずれは紅東観光開発の社長に就任はしますが……)。


「会長、こちらが保養施設建設現場となります」

 

姉貴が仕事モードになっていた。

 

「それで、施設の内装等はどうなっているのですか」

 

母さんもしっかりと切り替えていた。

 

「それでは説明致します」

 

姉貴が部屋数、保養施設迄の移動手段、娯楽施設について説明していた。

 

「大体はわかりました、ですが従業員の雇用については再計算をしなさい、紅東開発統括の計算では廻りませんよ」

 

母さんが姉貴の人員計画に待ったをかけた、俺から見ても分かる位不足していた。

俺は姉貴に助け舟を出す事にした。

 

「俺の所みたくシフト制にしてローテで休みを入れるとわかりやすいぞ」

 

姉貴は直ぐに再計算を始めた。

 

「紫苑が助け舟を出したら何にもなりません、紫織の事を思うなら紫苑は口を挟まないであげなさい」

 

母さんがいつになく厳しい表情で俺の助け舟を制した。

 

「母さん、わかったよ」

 

俺は二人の後を黙ってついていくことにした。

 

「宿泊施設についてご説明致します、ツインが6部屋、4人から6人迄の大部屋が4部屋、シングルが6部屋となっています」

 

母さんと姉貴の後ろについて俺は工事中ではあるが部屋の内装を見て回った。

 

「内風呂はユニットバスがついているのですね」

 

母さんがシャワー室と一体になったトイレを確認していた。

 

「海側に大浴場を配置しています」

 

俺達は姉貴の案内で大浴場を視察した。

 

「紅東開発統括、大浴場の更衣室ですがもう少しドレッサーの数を増やしなさい、これでは待っている間に湯冷めしますよ」

 

母さんの言う通り、大浴場と銘打っておきながら更衣室の設備が貧弱だった。

 

「ただちに……」

 

姉貴が監督妖精にドレッサーの追加設置の指示をだした。

 

「それでは次に行きます、従業員の居住施設となります」

 

姉貴がうちの離れに向かった。

 

「紅東開発統括、待ちなさい」

 

母さんが引き留めた。

 

「何か?」

「私は先程従業員数を再計算しなさいと言いましたね、そうなると居住施設もそのままとはいかないのでは無いですか?」

 

俺も同じ事に気が付いてはいたが母さんから助け舟を禁止されていたので黙っていた。

 

「宿泊棟横にワンルームマンション形態で建設しなさい」

 

結局アタフタとしている姉貴に母さんが助け舟を出した。

 

「保養施設から従業員居住施設迄の距離が離れを使った場合遠くなり過ぎです、極力天候に左右されずに行き来できる様になさい」

 

姉貴は母さんの言葉を必死にメモしていた。

 

「紫苑、貴方も同じ人の上に立つ役職です、紫織へ弟としてではなく部下を持つ者の先輩としてアドバイスをしてあげなさい」

 

俺は母さんに頷いた

 

「わかったよ、姉貴厳しくいくぞ」

 

姉貴が人でなしとか言っていたが聞こえないふりをした。

 

結局の処、離れは使用しないで話が纏まった…筈だった。

 

「紫苑、離れはどれ位空いているのですか?」

 

母さんがいきなり振ってきた。

 

「1号棟は皆の倉庫代わりに使うとして、2号棟はまるまる空きになるね」

 

俺の答えに母さんは少しだけ考えると、トンデモ発言をした。

 

「空いている離れを紅東で借り上げます」

 

俺と姉貴はその言葉に『?』となった。

 

「紅東観光開発の鹿屋支社とします」

 

俺は母さんの言った意味を理解した。

詰まり姉貴の職場を離れに持ってくると言っているのだ、確かに姉貴のオフィスは知覧にあるから……鹿児島湾を挟んで対岸に位置し、通勤となると鹿屋から知覧へそしてまた鹿屋ととんでもなく大変なのだ。。

 

「2階を支社長室と会議室、秘書控室…として、1階は運転手控室、休憩室と仮眠室でいいかしら、建築部に指示を出しておいて」

 

そう言うと指示書を書き直していた。

 

「それから紅東開発統括、あなたの役職ですが本日付で鹿屋支社長に任命します、精進なさい」

 

離れを姉貴の職場に改装した。

離れの入り口には『紅東観光開発 鹿屋支社』と書かれた看板が掛けられていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第25話 驚愕事実(改2)

「紫織、紫苑、夕張、間宮に大切なお話があります」

 

母さんが改まって俺達に話があると部屋に呼ばれた。

 

「話って?」

 

俺達は揃って部屋に入った。

 

「其処に座りなさい」

 

俺達は適当に座った。

 

「話というのは他ではありません、青葉ちゃんの事です」

 

俺達は母さんが何を言いたいのか分からなかった。

 

「実は青葉ちゃんは養女だったの……それで調べたらね、私の妹の家系だったのよ」

 

母さんは、そこまで話すと一息入れた。

 

「従兄妹ということなの……流石にね……近親は」

 

母さんは言葉を濁した。

 

「お母さん、この事は青葉知ってるの」

 

姉貴が母さんに聞いた。

 

「ええ、分かった時点で伝えたわ」

 

俺は青葉の態度の微妙な変化を感じていた原因が分かった。

 

「青葉ちゃん入ってらっしゃい」

 

母さんが青葉を招き入れた。

 

「ごめんね紫苑」

 

既に身寄りの居なくなっていた青葉も母さんと養子縁組をして正式に家族となった。

 

「私の方が少しだけ誕生日早いからお姉ちゃんだね」

 

青葉が嬉しそうにしていた。

 

「不本意ながら姉貴2号と呼んでやるよ……姉貴2号」

 

青葉が反抗した。

 

「嫌ですよ、2号さんなんて、ちゃんとお姉ちゃんと呼んでくださいよぅ」

 

等と言っている青葉の顔は嬉しそうだった。

 

一人っ子で両親を深海棲艦の空襲で失っていた青葉も間宮と同じで自分の居場所を俺の中に求めていたのだった。

(気のせい?うちの中で俺とクソ親父の居場所が……)

 

長女 紫織

次女 燿子(青葉)

三女 柚香(間宮)

四女 紫希(夕張)

 

長男 俺、紫苑となった。

俺はこの時点で一つの不安を感じた、それは隼鷹と千歳、吹雪達を除くと血縁関係となっていて、隼鷹、千歳のどちらかを嫁とすると一人ぼっちとなる娘が出てしまう事だった。

 

「そうそうそれから、千歳ちゃんね……曾祖母世代の分家筋みたいなの」

 

俺は頭を抱えた、何故なら千歳迄親族(かなり遠縁)だったという事に。

 

「母さん、勿論千歳も知っている?」

 

俺の疑問に、

 

「ええ、親族と言ってもかなり遡らないと繋がらないけど近親者と言うか……血縁者ではあるわね」

 

結局、千歳は嫁候補からは外れるらしい…ちょっと待て……結局の所、隼鷹だけじゃねえか。

 

「そっか」

「そうよ、紫苑が隼鷹ちゃんと結婚すれば万事オッケーなの」  

母さんがさらっと何か言った。

 

……隼鷹との結婚を前提にか……。

俺は『クソ親父……計画の一部がおかしな事になったな』と心の中で少しだけそう思った。

自分は千歳を推すとかい言いながら青葉も千歳も最終的に血縁者でしたなんてことになったのだからな、クソ親父、驚いてるだろう。

 

 




青葉の本名ですが紅東(旧姓 羽山) 燿子 25歳
紫苑達の母親の妹の一人娘が青葉となります。
残念ながら深海棲艦の爆撃に巻き込まれて艦娘となっていた青葉を残して一家は全滅してしまっています。



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第26話 査察(改2)

「大本営査察部です、全員そのまま」

 

監査が俺の監視所に入った。

その時俺は台所で昼食の準備を間宮とやっていた。

 

「紅東所長、そのままと言う訳にはいきませんね……調理はそのまま続けてください」

 

俺は許可を貰うと昼のおかずである回鍋肉の準備を再開した。

 

「勿論、間宮も構わないだろう?」

 

査察官は許可してくれた。

 

「ええ構いませんよ、お昼食べ損じた娘達から恨まれたくないですからね」

 

査察開始の許可を求めてきた為、俺は査察官に許可を出した。

 

「俺は手が離せないから、千歳の案内で何を見ても構わない」

 

査察官は監視所に千歳と向かっていった。

 

数時間後

 

「査察終了です、結論から言うと何も問題はありませんでした」

 

とはいえ、指摘事項が多少はあった。

それは俺についてだった、責任者が食事を作るとか些細な内容だった。

 

「それではこれで私達は失礼します……と言いたいのですが!」

 

査察官がいきなり俺に壁ドンしてきた。

 

「回鍋肉、私も食べたいです!」

 

なんとも…食い気の多い査察官なのだろうか…。

 

「あら、蒲ちゃんじゃない」

 

そんなやり取りを査察官としている最中に母さんがやってきた。

 

「紫…なんであんたが此処に?」

 

査察官は飲み込めていなかった。

 

「母親が子供達の所にいちゃいけない?」

 

査察官がへっ?と云う顔になっていた。

 

「ここに居るのは全員私の可愛い子供達よ」

 

母さんが何時の間にか吹雪達まで自分の子供と呼んでいた……。

 

「彼女は蒲井 静香と言ってね、母さんの元相方よ」

 

俺は妙に納得した、元赤城の母さんの相方とくれば、そう加賀だ。

 

「久しぶりに紫にあったから…帰りたくないなぁ」

 

蒲井さんがぼやき出した。

 

「蒲井さん、離れなら空いてますから泊まっていかれます、簡単な物ですがお食事有りで……」

 

蒲井さんの口元がすんげぇ緩んでいた。

で結論、回鍋肉を出すとゆうに3人前は食べた。

 

「ごちそうさま美味しかったわよ、しかし給糧艦娘(仮)とはいえ居るのに責任者自ら部下の食事を作るなんて聞いたこと無いですよ」

 

蒲井さんが其処を聞いてきた。

 

「そこですか、簡単ですよ、うちは人数も少ないし昼飯は俺が作ったのじゃないとって言うもんで…俺の仕事無いに等しいから……それなら彼女達のご要望に応えて少しでも美味しい物を食べて貰おうと思ってね」

 

蒲井さんの瞳が潤んでいた。

 

「あーあ、私の現役時代に紫苑君みたいな人が提督だったらなぁ」

 

母さんが笑いながら蒲井さんに釘を刺した。

 

「此処は定員オーバーよ、なんたって紫苑の姉が3人に妹は6人もいるからね、あとお嫁さんも」

 

母さんがとんでもない事を言った。

 

「そっか、それなら査察官の私としても、本部への報告は問題なしって太鼓判押しちゃうわよ」

 

で結局は元一航戦と同行していた他の査察官も元空母艦娘で飛龍と蒼龍だったそうだ…二航戦までも揃ってしまい、我が家のアルコールと食料の備蓄が底を付いた……。

 

 

 

 



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第27話 お祝いってなんだよ!(改2)

此処で出てくる鹿屋の飛行場とは!
海上自衛隊 鹿屋航空機地の事です。


「千歳以下2名は沿岸警備開始します」

 

千歳が吹雪と深雪を連れて午前のパトロールに出港していった。

 

「白雪と初雪は遠隔授業だろう、ほれほれ」

 

俺は白雪達を急かした。

 

「隼鷹は電探頼むぞ」  

 

俺が声を掛けると、

 

「はーい」

 

電探室から隼鷹が手を振っていた。

 

「青葉と俺は、今日から明後日まで休暇で鹿屋に行ってくる」

 

そう言うと俺はスープラに乗り込んだ。

 

「街に何か用でも?」

 

青葉が聞いてきた。

 

「ああ、何でも鹿屋の飛行場にうち用の車両が1台移送されて来たらしいからそいつの引き取り」

 

俺は暫く車を走らせらと鹿屋の市内へと入った。

 

「確か飛行場はと…」

 

暫く彷徨っていると看板が見つかった。

 

「ったくわかりずれぇ」

 

俺は飛行場の駐車場に車を入れた。

 

「紅東ですが、車を引き取りにきました」

 

俺はカウンターにいた女性に声を掛けた。

 

「紅東様ですね、お待ちしていました」

 

そう言うと電話器を取ると何処かに電話していた。

 

「今担当が参りますので暫くお待ちください」

 

俺達は手近なベンチに座ることにした。

十分位は待っただろうか、不意に声を掛けられた。

 

「大変お待たせして申し訳ありませんでした、こちらへどうぞ」

 

俺達は担当者のあとについていった。

 

「こちらがお預かりしているお車です」

 

俺の目の前にはトヨタのメガクルーザーいやもとい高機動車らしき車が停めてあった。

 

「高機動車か…?」

 

俺はその車の細部を見た。

 

「紫苑、これ…高機動車じゃないですハンビィーですよ」

 

青葉が真っ先に気づいた。

 

「高機動車は右ハンドルですがこれは左ハンドルです、それにこのタイプのルーフは高機動車には無いです」

 

青葉がその2車の細かな違いを列挙していった。

 

「つまり…これは高機動車じゃなくてハンビィーなのかよ」

 

確かに車体にはUSMCのステンシルがあった…米軍払い下げ車両のようだ。

 

「一応、登録は終わらせておりますので」

 

担当の説明に俺は初めてナンバーが付いているのに気が付いた。

 

「やっぱ、1ナンバーになるのか……ん?手紙が置いてある」

 

俺は運転席に置かれた手紙を手に取った。

それはクソ親父からだった。

 

『紫苑へ、これは父からの祝いの品だ』

 

俺は手紙にツッコミを入れた。

 

「何の祝いだよ」

 

ここでこうしていても始まらないので、俺と青葉は帰ることにした。

 

「青葉はスープラを頼む」

 

青葉にスープラの鍵を渡すと、俺はハンビィーの運転席に座った。

 

「ディーゼルエンジンか……直ぐにエンジンかけられねぇ……グロー?」

 

俺は、クソ親父作の取説を見ながらエンジンを始動させた。

 

「へーV8ノンターボで6.2リッター150馬力……加速悪そう…ってうそぅ」

 

青葉がボンネットを開けて声をあげた。

 

「青葉どうした?」

 

俺は運転席から降りると青葉に声を掛けた。

 

「このエンジン……ターボ付いてる」

 

俺はエンジンルームを覗き込んだ。

其処にはIHIと刻印のある巨大なカタツムリが鎮座していた。

 

「後付でターボ付けたのか…」

 

俺の隣で青葉が改造されたエンジンを観察していた。

 

「このターボの取り付け位置から見ても、タイヤ半分くらいまでなら渡河出来そうですね」

 

俺は青葉の説明を聞いていた。

 

「外見はウィンチ装備と……………内装も、シートベルトとエアコン、ナビ、リモコンドアロック、ドリンクホルダーまで追加されてますね…あっ!防弾ガラスはそのまま残されてるんだ……」

 

青葉が室内も検分していた。 

 

「これなら普段使いで乗れますね」

「隼鷹や千歳がめかしこんで乗ったら浮くけどな」

 

俺の言葉に青葉が吹き出した。

 

「基本はラフな格好か……」

 

俺は青葉にスープラを託すと、ハンビィーで飛行場をあとにした。

 

 

此処で、紫苑の家にある車両について少しだけ書き足すです。

先ずは青葉の私物バイクでカワサキ KLX 250。

次は紫苑、スープラ2.0GTツインターボとハンビィー。

紫織から千歳に譲られた初代パジェロ後期型、後は青葉のストラーダRの車4台が母屋裏手のガレージに駐車しています。

隼鷹が車を使う際は紫苑のスープラを使います。

 

 

 

 




基本的に青葉と紫苑は同い年なので呼び捨てです、一応青葉の方が数日早く生まれているので少しだけお姉さんとなります。


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第28話 帰り道(改2)

「なぁ、青葉カメラも持ってきたんだろ、折角だから池田湖迄足伸ばそうぜ」

 

俺は青葉に少しだけ遠出を打診した。

 

「紫苑がお昼奢ってくれるんならね」

 

青葉が昼飯を要求してきた。

 

「なら池田湖で何か食べるか…」

 

俺は根占からフェリーで指宿に向かった。

そのフェリーの中から俺は、監視所へと電話を入れた。

 

「隼鷹か、俺だ変わった事は無いか?」

「ありません「それより何処から電話してるのかなぁ?」よ」

 

隼鷹との会話の最中、横から姉貴が割り込んできた

 

「青葉と指宿に向かうフェリー」

 

俺の答えに隼鷹が少しだけ不貞腐れた。

 

「いーなー、あたしも行きたかったなぁ、紫苑一言も教えてくれなかっもんなー」

「すまん、車を引き取るだけだったんだが……天気も良かったからつい…池田湖の大鰻見たくなって…この穴埋めはするから…」

 

俺は隼鷹をなんとかなだめると電話を切った。

指宿港近くのコインパーキングにスープラを止めると、俺と青葉はハンビィーで池田湖を目指した。

 

「これが池田湖ですか!」

 

青葉がはしゃぎなが写真を撮り始めた。

 

「これが大鰻…おっきい!」

 

青葉が池田湖の大鰻をまじまじと見ていた。

そりゃ驚くわなぁ、普通の鰻が約1メートルなのに対して大鰻は約2メートル近くもあるのだから。

青葉が大鰻を写真に収めていた。

 

「青葉、昼は鰻にするか」

 

俺が聞くと、青葉は頷いた。

 

「此処は譲れません!」

 

この昼飯が後に全員にバレて俺の財布は大破する事となるのはまた別のお話。

 

「鰻ってこんなに美味しんだね」

 

俺は鰻重を美味しそうに食べる青葉を見て連れてきて良かったと思った(次来るときは隼鷹連れてきてやるか…と内心考えていた)。

 

池田湖の畔をハンビィーでドライブすると(元が米軍の軍用車だから目立ちまくって大変だった)湖畔の宿泊施設で一泊して、俺達は来たルートを戻って鹿屋へと帰った。

 

「ただいま」

 

俺と青葉は翌日の昼近くに帰宅した。

 

「二人共おかえり」

 

夕張が出迎えてくれた、ただ姉貴だけは無言で俺達を見ていた。

 

「ホイ、お土産の薩摩揚」

「お二人だけで旅行楽しかったですか?」

 

俺は出迎えてくれた千歳にお土産を渡すと姉貴の視線から逃げるように部屋に逃げた、何故か千歳も能面のような顔をしていた。

 

「紫苑おかえり、二人っきりたのしかった?」

 

俺の部屋との仕切りの襖を開けて隼鷹が無表情で聞いてきた。

 

「お土産…どうぞお収めください」

 

俺は隼鷹に黒霧島と白霧島を差し出した(千歳にも同じ物を献上しておいたのは言うまでもない)。

 

「ふーん、まっこれは貰っとくね…で?」

 

隼鷹は俺と青葉に何かあったのか聞きたい様子だった。

 

「ドライブして飯食べて、フェリー乗っただけ…あのな青葉はあれでも一応姉だから……誓って何も無かった」

 

俺のしどろもどろの説明を隼鷹は黙って聞いていた。

 

「紫苑……あたしも鰻食べたかったなぁ」

 

鰻重食べたのが何故かバレていた、そうかだから皆がむくれてたのか、姉貴の態度にも納得がいった。

俺は内線を取ると間宮に、昼は外食と伝えた。

 

「昼は、街に出て鰻食べに行く」

 

それを聞いた瞬間、隼鷹の表情が緩んだ。

 

その日の昼飯は、鰻重となった…俺と青葉を除いて。

 

 

 

 




バレた訳ですが……簡単なことです、千歳が護衛にと偵察機を飛ばしていた為にバレました。
千歳も静かにお怒りだったのでした、勿論紫苑は黒霧島と白霧島を献上しています。


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第29話 夏祭り(改2)

「紫苑さん、商店街の皆さんから明日からの夏祭りのお誘いがありました」

 

千歳が、一枚のチラシと人数分の封筒を持ってきた。

 

「その封筒は?」

 

俺は千歳に封筒の中身を確認させた。

 

「夏祭りで使える福引の抽選券ですね」

「顔出してみるか…千歳、全員の確認を「勿論全員参加したいそうです」」

 

既に参加は決定事項だった。

 

「明日の何時から?」

 

千歳がチラシを見ながら答えた。

 

「十三時からとなっていますね」

「なら昼は軽めにして、屋台をはしごするか……」

 

それを聞くと千歳は、

 

「吹雪ちゃん達に軍資金あげないといけませんね」

 

等と言って笑っていた。

 

「そうだな………それはそうと、浴衣で行くよな?」

 

俺は千歳に聞いてみた。

 

「勿論ですよ、吹雪ちゃん達浴衣着るの楽しみにしていましたからね」

 

俺は、夏祭り会場側のホテルを予約した、浴衣への着替えと……勿論当日呑むためだ

 

 

 

夏祭り当日

「吹雪達は四人で412号室な、姉貴と夕張は414号室、間宮と青葉は413号室な、隼鷹と千歳411号室、俺は410号室以上、一時間後にエレベーターホール集合…解散」

 

其々の部屋に散っていく筈だった……俺は自分の置かれた状況を理解できないでいた、何故なら俺だけシングルの部屋のはずが俺の部屋だけダブルとなっていて…何故か隼鷹が俺の部屋で浴衣に着替えていた。

 

「紫苑、前押さえてて」

 

俺は固まった頭のまま隼鷹の言うがままに浴衣の着付けを手伝った……目の前には隼鷹のそれは見事な2つのおやまがたわわに揺れていた。

 

「謀られた!」

 

誰の差し金かは判らないが、俺の部屋だけダブルに変更されていたのだった。

 

「隼鷹、既成事実頑張って」

 

姉貴がいらんお節介の伝言を残していた。

 

「さて……ベッドは一つか……夜はどうすっかな……」

 

俺は隼鷹が準備している間、ベッドを見て考え込んだ。

 

「まぁ、今考えても始まんねぇし…そん時考えるか」

 

俺は考える事を放棄して夏祭りを楽しむことにした。

 

「皆揃ったな、吹雪少ないが軍資金だ、好きに使え」

 

俺は吹雪達に少ないがお小遣いを手渡した。

 

「紫苑さん、ありがとう」

 

吹雪達は嬉しそうに巾着に仕舞った。

 

「それじゃぁ行くぞ」

 

俺達は会場に向かった。

 

「ねぇねぇ、そこの綺麗なお姉さん、俺達と遊ばない」

 

隼鷹がいかにもと云うチャラ男集団に声を掛けられていた。

 

「俺の嫁さんに何か用か?」

 

俺はチャラ男集団を威嚇した。

 

「なんだよ、テメェすっこんでろ」

 

チャラ男集団は人数に任せて強気に出てきた。

 

「其処を動くな!」

 

俺が懐に隠し持っていた護身用の拳銃に手を掛けた瞬間、パトロール中の陸軍憲兵隊が駆け付けてきた。

 

「ガキ共、またお前たちか!」

 

陸軍憲兵隊は呆れながら仲裁に入ってきた。

 

「おま…しっ失礼しました、大佐殿!」

 

俺が身分証を出すと、憲兵隊の指揮官が慌てて敬礼をしてきた。

 

「暑い中パトロールご苦労」

 

俺は答礼を返した、

 

「やべぇ、こいつ海軍の佐官だったのかよ……という事は…」

 

チャラ男集団はそれっきり黙ってしまった。

 

「お前ら命拾いしたな、あの佐官とお連れの女性は護身用の拳銃を懐に持っとるぞ」

 

憲兵隊指揮官が俺の左手を指差した。

 

チャラ男集団はそのまま憲兵隊詰め所に連れて行かれた。

 

「さてと出鼻は挫かれたが、それぞれ夏祭りを楽しんでこい、何かあったら直ぐに俺を呼べよ」

 

吹雪と深雪に青葉と間宮が、白雪と初雪に夕張と千歳がそれぞれついてくれた……姉貴がいないが気にしない事にした。

……そして何故か俺の腕に隼鷹が抱きついていた。

 

「俺の嫁さん…紫苑、かっこよかったよ」

 

俺はチャラ男達の時に咄嗟に嫁さんと言ったことを思い出した。

 

「あ・な・た」

 

隼鷹が俺をからかうように、耳元で囁いた。

俺は照れ隠しにビールを一気に飲み干すと、

 

「今日は楽しむぞ、隼鷹……何からたべる?」

 

俺はビールを呑みながら隼鷹の肩を抱いた。

 

……この様子の一部始終を姉貴に隠し撮りした映像を見た母さんとクソ親父から孫早くコールを受けたのはまた後のお話。

 

 




隼鷹 梶原 明日香 26歳
千歳 北山 千尋  26歳


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第30話 告白……(改2)

俺は隼鷹を助手席に乗せてハンビィーで熊本に向かっている、理由は阿蘇にある観測所の視察だ。

 

「帰りに阿蘇山寄って帰るか?」

 

俺は隼鷹を阿蘇山観光に誘った。

 

「いいよ」

 

隼鷹が楽しそうに答えた。

 

視察迄は順調に終わった、視察迄は…。

それは阿蘇山麓の駐車場で起こった。

 

「うわぁ、ダッセー……ハマー」

 

如何にもボンボン育ちのチャラ男がこれまたという緑色の髪をした女の子を連れて俺のハンビィーを指差して笑っていた。

俺は面倒になるのを避ける為に無視していたが、向こうから絡んできた。

 

「この超ダッセーハマーあんたのかよ、今時迷彩とか笑えるんだけど……のわりにいい女連れてんじゃん」

 

テンプレ的な絡み方だった。

チャラ男が俺達に絡んでいる間中、連れの女の子は俺のハンビィーをつぶさに観察していた。

 

「間違いない、これ軍用の本物のハンビィーだ……うわぁ、ヤバっ」

 

その女の子はチャラ男の襟を掴むと、

 

「先程は失礼いたしました、私は佐世保警務艦隊所属の鈴谷です、こちらは当基地隊長 朝霧大尉です」

 

鈴谷は俺に対して敬礼をするとチャラ男改め朝霧大尉の態度を謝罪した。

 

「俺は鹿屋第十三監視所長 海軍大佐 紅東だ」

 

俺の名前と階級を聞いた朝霧大尉がムンクの叫びみたいなの顔になりながら慌てて敬礼をしてきた(上官に絡んだとなりゃ当たり前か)。

 

「先程の事は気にするな…まぁこれからは言動に気を付けろ、貴様も海軍士官ならな」

 

俺はやんわりと釘を刺した。

そして鈴谷がハンビィーの入手に必要な費用や簡単なスペックを延々と語りだした。

 

「この装甲キャビンタイプ、官用車専門のオークションで最低でも六百万…シートから判断すると約八百万位かな…そこから手数料やアメリカ国内での必要費用が約百五十万……日本への輸送費用が約五十万…保安部品の追加や変更、ガス検費用は不明車検費用は何も無ければ約三十万位…日本国内での中古市場がホロタイプで約7百万…あんたが乗ってるハマーH3何か足元にも及びない値段だよ…性能もね、それと…排気量も倍くらい違うし、登坂能力はダンチよ」

 

ハンビィーの入手な必要な費用と簡単なスペックを延々と聞かされ続けたチャラ男は自分のハマーH3と見比べだした。

俺はハンビィーをそいつのハマーH3の隣に移動させた。

全長や全高は然程変わらないのだが……全幅がひと目で解る位にハンビィーの方が幅広だった。

そしてエンジンもH3の3500ccに対して、ハンビィーは6200ccもあった。

一番の違いはやはりオフロード性能だった、流石ハンビィーは軍用車だったとしか言えない…街乗りナンパ車なぞ歯牙にもかけない圧倒的な走破性だ。

朝霧大尉は羨ましそうに俺のハンビィーを見ていた。

 

「大佐殿は観光でありますか」

 

朝霧大尉が聞いてきた。

 

「阿蘇山火口を見ようと思っってな」

「私達もそのつもりで来たのですが、残念ながらガスが発生中との事で行けませんでした」

 

鈴谷が山頂の様子を教えてくれた。

 

「そうか…それならば仕方ないな…どうすっかな」

 

俺は火口にいけない為に観光先を何処にするか悩んだ。

 

「それならば熊本城と鯛生金山行かない?」

 

隼鷹が熊本城と鯛生金山へ行きたいと言った。  

 

「俺達は熊本城と鯛生金山に行くことにするよ」

 

俺は朝霧大尉にそう言うとハンビィーに乗り込んだ。

 

「大佐殿、自分達もご一緒し「なにお邪魔虫しようとしてんのよ、私達はこれにて失礼致します」」

 

鈴谷が朝霧大尉を何処かに引っ張っていった。

 

 

 

一旦日田市に向かうと鯛生金山を観光し、熊本城と熊本市内観光を終えて宿泊した旅館のでの事。

 

 

俺は温泉から出ると、部屋で隼鷹を待った、あるセリフを繰り返し言いながら。

 

「いいお湯だった」

 

隼鷹が戻ってきた。

 

「隼鷹、話がある」

 

俺はテーブルを挟んで隼鷹と座った。

 

「隼鷹、俺と結婚を前提にお付き合いしてください」

 

俺は隼鷹に告白と同時に俺とお揃いのプラチナのペアリングを机の上に置いた。

隼鷹は少しだけ間を置くと、

 

「やっと……やっと言ってくれましたね、あたしの返事は決まっています……不束か者ですが宜しくお願いします」

 

 

隼鷹は、俺の申し出を受けてくれた。

そして俺と隼鷹は指に指輪をはめた。

 

「これからは、いつでも二人一緒だ」

 

俺は隼鷹の手を取ると口づけを交わした。

 

 

 

 

 



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第31話 探索(お部屋訪問) (改2)

今回は各部屋を部屋点検と称して見て回るだけのお話となります。


玄関をあがると最初の部屋は、客間だ。

『一週間の予定がまだ滞在中の母さんが使っている客間だな』

俺は、声を掛けるとを襖を開けた。

 

「あら、紫苑どうかしたの?」

 

母さんが経済紙を読んでいた。

 

「まぁ、各部屋がちゃんと片付け出来てるかの確認かな」

 

俺は客間を出るとすぐ隣の青葉の部屋の襖を声をかけてから開けた。

 

「青葉、入るぞ」

 

青葉の部屋は手前側(玄関側)にパソコンやらコピー機が置かれていた。

『週間 鹿屋』明日配布予定の小冊子がコピー機の上に置かれていた。

『週間 鹿屋』とは青葉が発行している小冊子でうちの監視所で全員に配布されている、内容は今週の昼食メニューからお薦めの映画、町で人気のお店、コンビニの最新スイーツ等と共に今週の一枚と称して、野生動物の微笑ましい写真が掲載されている週刊誌だ。

俺はパラパラと軽く目を通すと元のコピー機の上に戻した。

俺は奥の衝立で囲われたスペースを覗き込んだ。

衝立で囲われた場所には……青葉がベッドの上で布団に包まってまだ寝ていた…事前に伝えてあったのだが忘れて寝ている様だったので、俺は青葉を起こさずに部屋を出た。

 

次は青葉の部屋の裏側に位置する間宮の部屋だ。

 

「間宮、入るぞ」

 

俺は声を掛けると襖を開けた。

 

「紫苑、片付いてるでしょ」

 

流石と云うべきか、綺麗にされていた。

間宮は布団派なので、部屋にベッドは無いから青葉の部屋より広く感じる。

間宮は、録画していた某3分クッキングを見ながら何かメモしていた。

 

「間宮の部屋は問題無いな」

 

俺はそう言うと、間宮の部屋を出た。

『次が厄介なんだよな』

俺は独り言を言いながら、間宮の部屋の更に奥の部屋に向った。

その部屋の主は夕張だ。

 

「夕張、入るぞ」

 

俺は襖を開けた。

目の前にはとても20代の女の子の部屋では無い光景が広がっていた。

何が有ったのか…先ずは薄い本…それも壁一面の背の高い本棚にビッシリと、次はアニメのソフト類…これも負けないくらい大量にあった、そして極めつけはフィギュアだった…勿論各種ゲーム機もある。

 

「夕張の趣味だからとやかくは言わないが……少し片せ、母さんに……」

 

俺が母さんを頼ると言い掛けた瞬間、夕張が片付けるから母さんには言わないでと泣きついてきた(母さんには既にバレていてこの後、お説教と強制お片付けが待っていた)。

まぁ後で夕張には物置代わりのスペースを確保してやるか……捨てられたら可愛そうだしな。

なんやかや言っても、俺は夕張には甘かった、勿論ではあるが間宮にもだが…。

俺は階段を上がると次の部屋へと向かった…ここだけは避けたかった、何故ならその部屋の主は姉貴だからだ。

俺は一旦客間に戻ると母さんを召喚した。

 

「姉貴入るぞ」

 

俺は襖を開けた。

 

「紫織……そこへ座りなさい」

 

母さんが部屋の惨状を見てお怒りになった。

部屋の片隅で義兄がゴミ袋片手に片付けをしていた。

……想像しやすい部屋を上げるとすれば……新世紀エヴァンゲリオンの葛城ミサトの部屋を思い浮かべてほしい……そのままズバリだ、義兄が碇シンジ君にみえてしかたないが。

俺は姉貴の件は母さんに丸投げすると、隣の千歳の部屋へと向かった。

 

「千歳、入るぞ」

 

俺は襖を開けた。

千歳は部屋の掃除の最中だった。

 

「紫織の部屋…大変でしたね、私も前々から注意はしていたのですが」

 

流石はうちの良妻賢母枠筆頭だ。

 

「千歳の部屋は特段問題ないな」

 

俺は少し見回すと、部屋をあとにした。

俺はチェックリストの次を確認した。

 

『次は吹雪達の部屋か…』

 

俺は1階に戻ると食堂を抜け、吹雪の部屋へ向かった。

 

「吹雪、入るぞ」

 

俺は吹雪からの許可を(何を今更?)取ると、部屋に入った。

 

「綺麗にしてるな、と云うか深雪の部屋までの襖を全て開けているのか」

 

吹雪達は四つの部屋の襖を全て開けて一つの部屋として使っていたのだ。

 

「吹雪考えたな、これなら分担してやれば掃除も楽だからな」

 

俺は吹雪達の部屋をあとにすると、最後の隼鷹の部屋へと向かった。

此処で少し説明すると、俺と隼鷹の部屋は元々大広間だった物を襖で二部屋に分けている、なので俺と隼鷹の部屋のみ庭に面した方は障子となっている。

俺は自分の部屋のベッド側の襖を開いた。

開いた其処には隼鷹のベッドがあった……隼鷹はほろ酔い気分で寝ていた、浴衣がはだけて色々なものを晒しながら。

 

「全く…隼鷹、起きろ」

 

俺は呆れながらも、隼鷹を起こした。

隼鷹が眠い目を擦りながら起き上がった。

勿論浴衣からこぼれた、たわわに実った二つのおやまを揺らしながら。

 

「あっ、紫苑……おはよう」

 

まだアルコールが抜けていない様子だった。

俺はテーブルの上の雑誌に目がいった。

 

「結婚情報誌…?」

 

俺は付箋のつけられたページを開いた、其処には各種ウェディングドレスが紹介されていた、なるほどこれを読みながら呑んでいたのか。

俺はふと一着のウェディングドレスに目がいった、それは薄いラベンダー色のドレスだった、俺には何故か其れが隼鷹に一番似合うと思えてならなかった。

 

 



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第32話 告白……その後(改2)

第30話の続きです。


「ただいまー」

 

俺と隼鷹は、翌日の夕方帰宅した。

 

「あら、おかえり」

 

母さんがニコニコしながら出迎えてくれた。

 

「遂に告白したのね」

 

母さんが隼鷹の指に光る指輪を目敏く見つけた。

 

「その事について、皆に話さなきゃならない事がある」

 

俺はそう言うと、全員を食堂に集めた。

 

「あー、えー、全員揃ったな……これから重大な話がある…気付いてるやつもいるとは思うが…俺は正式に隼鷹と結婚を前提にお付き合いする事になった」

 

俺が話し終えると、一瞬の沈黙の後大歓声があがった。

 

「紫苑さん遅すぎです、女の子を待たせてはいけませんよ」

 

千歳が冷やかしてきた。

 

「ほらね、お姉ちゃんの見越した通りでしょ」

 

確かに姉貴は最初から隼鷹に義姉さんと呼ばせようとしていた。

 

「隼鷹さん……妹の座は譲れません!」

 

間宮が意味不明な事を言っていた、夕張と一緒になって。

 

「紫苑さん、隼鷹さん、おめでとうございます」

 

吹雪達は純粋に祝ってくれた。

 

「それなら今晩は腕に寄りをかけますね」

 

間宮が台所へと夕張と向かっていった。

 

「紫苑、隼鷹さん、お二人とも私の部屋へ」

 

俺達は母さんの部屋へと連れて行かれた。

 

「先ずは、隼鷹さん……紫苑の事お願いしますね、それと紫苑…いいですか、これからは一人ではありません、二人で力を合わせて助け合って行くのですよ」

 

母さんから色々なアドバイス(?)をその後も受けた。

 

「最後に、隼鷹さんのご両親へも挨拶を忘れないようにね」

 

まぁこれについてはこの後、一つの騒動が起きるのだが……後で話すことにする。

 

で……俺達が自分の部屋に戻ると、何か広く感じた。

 

「何か…………!」

 

その違和感の原因は俺と隼鷹の部屋の仕切りの襖が取り払われていたのだった……そしてベッドが俺のダブルベッドだけとなっていた…………。

 

「姉貴の差し金だな……」

 

俺はベッドだけでもと、隼鷹のベッドを探すことにした。

 

「あたし的にはこのまで……」

 

隼鷹が、俺を止めた……結局俺と隼鷹は一つのベッドで寝る事となった。

いくら結婚を前提にお付き合いしているとはいえ……俺の理性が暴走しそうだ!

 

等と考えていたが、俺は素直に受け入れる事にした。

 

「隼鷹、改めて宜しく」

 

俺はそれだけを言うと、そっと隼鷹を抱き締め、唇を重ねた。

 

「紫苑さーん、ごは……ヒューヒューお熱いねぇ」

 

俺達を呼びに来た深雪が、キスをしていた俺達を目撃して思いっ切り冷やかしてきた…その後は、青葉並の素早さで拡散された……。

 

夕食の間中、俺と隼鷹は皆から冷やかされた。

 

夕食後

 

「隼鷹、呑むか?」

 

俺はベッドサイドに設置しているワインセラーから缶ジュース位の小瓶を取り出した。

 

「うん、ワイン?マイツァー・ドームヘル……!!」

 

隼鷹が小瓶のラベルを読んで固まった。

 

「べーレンアウスレーゼ…ちょ!!これって超貴腐ワイン」

 

流石、隼鷹だな、このワインの価値を知っていた。

俺は栓を抜くとワイングラスに注いだ。

 

「大したつまみないけどな」

 

と言いながら卓上冷蔵庫からチーズを取り出した。

 

「ブルースティルトンじゃない!」

 

俺と隼鷹は秘蔵のチーズとワインで二人だけの時間(襖の隙間から姉貴をはじめとする多数の目が見えたのは黙っておこう……怖いから)を楽しんだ。

 




ブルースティルトン……スティルトン は、イギリス原産のチーズの一つ。アオカビで熟成されるブルーチーズタイプで、単に「スティルトン」といえばブルー・スティルトンを指す。フランス原産のロックフォール、イタリア原産のゴルゴンゾーラとともに「三大ブルーチーズ」として並び称されている。
 
べーレンアウスレーゼ……ワインの等級で貴腐ワインの事。

マイツァー・ドームヘル……357mlで15,900円もするワイン……とても甘くて飲みやすい(なのであっという間になくなる)。


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第33話 里帰り…そして起きる騒動 (改2)

隼鷹の実家訪問です、今回については実家訪問なのです



俺と隼鷹は……何故かBACと胴体にペイントされたC-5Mスーパーギャラクシーに乗っていた……乗客は俺達しかいない。

 

「紫苑様、お飲み物をお持ち致しました」

 

本来この手の航空機には乗務していない筈のキャビンアテンダントがコーヒーを持ってきてくれた。

 

「隼鷹様は紅茶でしたね」

 

BACそれは紅東エアカーゴ……早い話が母さんの会社の航空輸送部門の機体だ……荷物の保安要員としてならば乗客も乗せることが出来る……らしいが軍用の輸送機にキャビンアテンダント……それに何故か民間旅客機ファーストクラス用設備がコクピット後方の空間に備え付けられていた。

 

俺達が何故…話は日曜日に遡る。

 

「母さん、来週の土曜日に隼鷹の両親に挨拶してくる」

 

俺は母さんにそう話した……はずだった。

俺が話すと、母さんは少し待つ様に俺に言うと何処かに電話していた。

 

「紫苑、土曜日の朝九時、鹿屋基地に行きなさい」

 

俺が意味不明だと言うか顔をしていると、

 

「うちの輸送機を使いなさい、手配はしてあります」

 

俺は母さんに礼を言うと部屋へと戻った。

 

「あっ紫苑、今週末に帰るって電話したら…お母さん何か誤解しちゃって…電話切られちゃった」

 

そして迎えた土曜日のお昼、俺達は母さんが手配してくれた輸送機に車ごと乗せられていた。

 

「お食事をお持ちしました」

 

キャビンアテンダントが折り詰め弁当を持ってきた(間宮の刻印押しあるけど……)。

 

「ありがとう」

 

俺は弁当を受け取ると、一つを隼鷹に渡した。

 

「へー、美味しそう」

 

隼鷹がお手拭きで手を拭きながら感想を言っていた。

 

「この弁当……間違いないな、間宮だよ作ったの」

 

俺は、彩りや味付けから間宮が作った物だと確信した。

 

「?」

 

俺は弁当の蓋の内側に何か貼り付けてあるのに気が付いた。

 

「何だ?」

 

『紫苑へ、挨拶頑張って』

 

それは間宮からの応援メッセージだった。

 

「あいつ……」

 

俺はメッセージを隼鷹にも見せた。

それを見た隼鷹は、瞳を潤ませていた。

 

昼食後、程なくして、

 

「着陸態勢に入ります、シートベルトをお締めください」

 

機内アナウンスが流れた。

それから30分後、俺達は中部地方のとある県の空港に降り立っていた。

 

「紫苑様、我々はこのまま此処でお帰りをお待ちしております」

 

スーパーギャラクシーは俺達の帰りを待つそうだ。

俺はカーゴルームから青葉から借りたストラーダRを下ろすと、一路隼鷹の実家へと向かった。

…………青葉の車で来て良かった…俺はスーツ、隼鷹もやはりスーツなのでいくら山間部の過疎地に行くとはいえNATO迷彩で塗装されたハンビィーだと見事に浮くし目立つからな、まぁ挨拶が済めば私服に着替えるから問題は無いのだが……。

車は大きな町を離れ、山間部の小さな集落へと入っていった。

 

「紫苑、あたしのうち……あそこ」 

 

隼鷹が、一軒の家を指差した。

 

《梶原 一馬

    京子

   明日香》

 

家の表札が隼鷹の実家であることを物語っていた。

 

 

『ピンポーン』

 

俺はインターホンを押した。

 

「どちら様でしょう?」  

 

インターホンから女性の声が聞こえた。

 

「私は、紅東 紫苑と云います、お嬢さんの明日香さんとお付き合いさせていただいている者です」

 

インターホンの向こうで何やらやり取りがあったが、玄関があいた。

 

「お待たせしてしました……どうぞお入りください」

 

俺は隼鷹の後について家に入った。

 

「ご両親にはお初にお目にかかります、私は紅東 紫苑です、お嬢さん明日香さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いています」

 

俺の挨拶に明日香の両親は驚きの声をあげた。

 

「紅東って…あの紅東さんでしょうか?」

 

父親が聞いてきた。

 

「はい、紅東は母の会社です」

 

俺の返答に母親は完全に驚き固まった。

 

「手前共はこの明日香が何か犯罪を犯したと聞いていたものですから、その後も電話でお嫁さん候補とか訳が分からなくなりまして……」

 

父親が説明をしてくれた。

 

「実はその事なのですが、何者かによるでっち上げである事が判明いたしまして、無罪放免となっています」

 

そう何者か……と答えたが実は飛鷹と千代田が妬んで虚偽の密告をしたが真相だった

 

 

「そうなんですか」

 

母親がホッとした顔をしていた。

 

「遅くなって申し訳ありません、これつまらない物ですが」

 

俺はそう言うと手土産を差し出した。

 

「これはご丁寧に…」

 

父親が受け取ってくれた。

 

「紫苑さん……何の取り柄も無い娘ですが宜しくお願い致します」

 

ここに来てやっとリセットが掛かった母親が挨拶をしてくれた。

 

その日の晩は明日香の実家に泊めてもらった……俺はこれから義父になるであろう父親と呑んだ……この娘にしてこの父ありだった。

強いのなんの…まさにザルいや蟒蛇だった。

 

翌日、俺と隼鷹は実家を後に一路鹿屋へと帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第34話 夏の夜の夢…それは悪夢!(改2)

「今、何時だ……」

 

俺はふと感じた尿意に目が覚めた。

 

「昨夜は呑み過ぎた…」

 

俺はベッドから起きた。

 

「ん、何だ?」

 

俺は周囲の様子に違和感を感じたが、気にする事なくトイレへと向かった。

 

「やけに静かだな……間宮のやつ寝坊か」

 

時刻は既に朝の5時となっていたのだが、台所の灯りはついておらず、ひっそりとしていた。

 

「ったく、仕方ねえな、あいつも疲れてんだろうな…今日くらいは俺が作るか」

 

俺は間宮に代わって朝食の準備をする事にした。

 

「何か変だ……」

 

俺は、此処でも違和感を感じた。

 

「朝飯作る前に確認してみるか……」

 

俺は隼鷹の部屋から様子を見る事にした。

 

「どういう事だ……」

 

俺は襖を開けて自分の目を疑った。

何故なら其処には隼鷹の姿はなく、いや……最初から隼鷹は存在しなかったかの様に部屋の中は何も無かった、そしてそれは隼鷹以外も同じだった。

 

「どうなってんだ……」

 

俺は夜が開けるのを待ってクソ親父に電話をした。

 

「親父か、「うちに息子はいないが、君は誰だ?」えっ……何…」

 

電話は向こうから切られた。

俺は続けて母さんにも掛けたが、同じような事を言われ切られた。

 

「何がどうなって……」

 

俺には、訳が分からなかった。

 

「どうなって…どういうことだよ!」

 

俺は兎も角教務はと思い、監視所のある土蔵に入った、そして目の前にはある物を見て叫んだ。

レーダーサイトの機材は愚か執務室も無く、其処は唯の倉庫だった。

俺は一旦自分の部屋に戻るとPCを起動させた。

 

『紅東 紫苑、事件、事故』

 

俺は自分の名前で検索を掛けた。

 

『被疑者/紅東 紫苑、被害者/高倉 柚香 殺人未遂』

 

等と物騒なワードが多数の引っ掛かった。

とあるニュースサイトから引用すると、俺は幼馴染の柚香を暴行の上、殺害しようとした事になっていた。

 

『ガラガラガラ』

 

玄関の引き戸が開けられた音が聞こえてきた。

 

「誰か来たのか?」

 

俺は玄関を覗いた。

 

「!」

 

其処には柚香の姉が立っていた、手に何かを握りしめて。

 

「よくも妹を!紫苑……殺してやる…」

「ヤバイ!」

 

俺は咄嗟に危険を感じるとその場から逃げようとした。

 

「ぐっ!」

 

だが、俺が動くより先にその女は俺の背後に迫ると、手に持っていた物を背中に突き立てた。

 

「!」

 

俺は背中を刺された痛みで目が覚めた。

俺は刺されたであろう場所に手を当ててみた、血は出ていなかった。

そして俺は安心した、先程までの事が夢であった事に。

それは俺の隣で眠る隼鷹の姿を確認したからに他ならなかった。

俺は隼鷹の額にキスをすると起床時間まで寝る事にした。

 

 

 

後日談

 

「紫苑さんがあんな怖い夢の話するから…」

 

吹雪が俺のことを恨めしそうに見ていた。

どうやら吹雪も見てしまったらしい、そりゃ寝る前にあんな話聞かされりゃぁ見るかもな……吹雪スマン!

 

 

そして今日も朝の食卓は賑やかだった。



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第35話 インターミッション とある夏の一日 (改2)

間宮と夕張が横須賀に研修で不在のとある長閑な日曜日のお話し。


「ん…何時だ?」

 

俺はベッドサイドに置いたスマホを見た。

 

「6時半か……」

 

俺は隼鷹を起こさないようにベッドからそっと出ると、台所に向かった。

 

「牛乳…卵…バター…水…ホットケーキ粉…必要な物はこれだけか…」

 

俺はそれらを計量して混ぜた。

 

「おっ、予熱終わったな…」

 

俺はソレをとある焼き機に流し込んだ。

辺りにホットケーキが焼けるいい匂いが漂っていた。

 

「何かいい匂いがします!」

 

青葉が匂いを辿ってやってきた。

 

「朝御飯はホットケーキてすか?」

 

だが、目の前にある炊飯器を小さくしたような機械から匂いと湯気が出ていた為に首を傾げていた。

 

「あら、美味しそうな匂い」

 

次にやってきたのは千歳だった。

 

「ワッフルメーカーですね、紫苑さん買われたんですね」

 

流石は千歳だった。

 

「まあね、気になったから」

 

俺は焼き上がったワッフルを皿に積み上げていた。

 

「おはよー」

 

隼鷹が台所にやってきた。

 

「もうすぐ焼き上がるから、紅茶を頼む」

 

いつの間にか起きて、テーブルに張り付いていた吹雪達がワラワラと準備を開始しだした。

 

「確か、こないだ買ったフルーツヨーグルトが残っていた気がする」

 

隼鷹が、冷蔵庫を漁っていた。

 

「あった、あった、ブルーベリーとイチゴと桃にリンゴ」

「マヌカハニー…」

 

俺はとある蜂蜜を出した。

 

「これって!」

 

千歳が、蜂蜜の瓶をまじまじと見ていた。

 

「健康に良いらしいから、買ってみた」

 

焼き上がったワッフルがあっという間に無くなった…。

 

「ごちそうさま」

 

食べ終えると、隼鷹と青葉が後片付けをしてくれた。

 

「おーい、皆布団干しとけよ、今日は一日晴れらしいからな……」

 

俺は声を掛けると、自分の布団を干しだした。

 

そして……千歳が、洗濯を始めた。

 

「皆さん、こまめに出してくださいね」

 

洗濯機の前には山になった洗濯物が溢れていた。

 

「目のやり場に……」

 

千歳が、洗濯物を干しだしたのだが……何故に俺の部屋の前に下着ばかり干すのだろうか?

 

「紫苑さん、すみません少しの間だけ我慢してください」

 

どうやら陰干しするには俺の部屋の前が一番良い場所らしい……。

 

「それじゃぁ、私達は鹿児島観光してきますね、帰りは明日の夕方になります」

 

そう言うと、千歳は吹雪達を連れて出掛けた。

 

「私も、ちょっと日南海岸行ってきます、帰りは明日のお昼過ぎくらいです」

 

青葉がカメラ片手に、バイクで出ていった。

残されたのは、俺と隼鷹だけとなった。

 

「あいつら……」

 

そうみな気を使って外出してくれたのだ、二人っきりにするために。

 

俺は感謝すると、隼鷹と二人きりの貴重な時間を満喫した(……朝からドッキングしてしまった)

 

流石に一撃必中とはならなかった……。

 

「昼何食う?」

 

俺は隣で満足そうにゴロゴロする隼鷹に聞いた。

 

「何かあっさりした物がいいねぇ」

 

俺は隼鷹の返事を聞くと、

 

「素麺にするか?」

 

隼鷹がそれでいいと頷いた。   

そして昼も食べ終わり、二人でビデオを見ながら過ごすと、干してあった布団やら洗濯物を俺が取り込み、隼鷹が畳んで各自の部屋へと運んだ。

 

「これから街に行かね?」

 

俺は隼鷹を誘った、

 

「いいよ、買いたい物もあるしね」

 

俺達は着替えると、車で街へと向かった。

 

「しかし、何時もながら紅東建設の謎の技術には呆れるな」

「確かにね」

 

俺達が呆れた原因は、当初は車で町まで2時間掛かっていたものが、保養施設を建設するにあたって、トンネルやら新道を造っていった結果…驚くべき事に25分で着けるようになってしまったのだった。

 

鹿屋の町に出ると、俺達はショッピングモールを見て回った……その光景は偶然にも目撃した姉貴の談によると、爆ぜろリア充だったそうだ。

それから大型ディスカウントストアに立ち寄ると、

 

「紫苑、コレコレ」

「これつまみによくね?」

「桜大根??これ駄菓子?漬物でしょ」

「串カツ……何だこりゃこんなペラッペラッなのありか?」

「チロルチョコ、これは箱買いでしょ」

「アンズバー??これってアイスなの?」

 

俺と隼鷹は駄菓子を取ってはなんやかんやと言いながら買い物かごに入れていった。

 

「おっと、これを忘れちゃいけないなぁ」

 

俺は缶ビールをかごに入れた。

 

「ついでだ隼鷹、今日の晩飯どうする?」

 

俺は隼鷹に声を掛けた。

 

「うーん、何でもいいよ」

 

俺は隼鷹を連れて、フレンチカフェに入った。

その店はリーズナブルな価格と、普段着で入れるフランス料理の店だった。

 

「…あーら紫苑、随分とおしゃれなお店知ってたのねぇ」

 

背後から姉貴が冷やかしてきた。

 

「げっ!姉貴……」

 

姉貴の後ろで義兄が済まんと言う顔をしていた。

 

ともあれ、俺は姉貴夫婦と一緒に夕食を楽しんだ。

 

「本格的ね」

 

隼鷹が、メニューを見て感心していた。

何故ならフォークやナイフの置き方に始まり、料理に至るまで本格的なコースメニューとなっていたからだ。

 

俺達は満足して店を出た。

 

「姉貴達はどうする、もしよかったら家泊まる?」

 

俺は久し振りに姉貴を家に呼んでみる事にした。

 

「そうねぇ……悪いけど、お邪魔虫にはなりたくないから遠慮しとくわ」

 

そう言うと、姉貴は義兄と去っていった。

 

「なら、俺達も帰るか」

 

俺と隼鷹は、その後も本屋等を巡って帰宅した。

 

翌日、外出から戻った青葉が意味深なニヤケ顔をしていた。

 

 

 



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第36話 山に潜む者……(改2)

「所長、地元警察から協力要請です」

 

青葉が一枚の電文を寄越してきた。

 

「協力要請だって?」

「はい、何でも監視所近隣の山中に不審な集団が住み着いているそうです」

 

俺は青葉からの報告に頭を抱えた。

 

「まぢかよ…で詳細は?」

 

俺が聞くより早く、青葉は地元警察へ確認の電話をしていた。

 

「はい…はい…はい…そうですか…はい…有り難うございます」

 

青葉は、電話を切ると俺に報告してきた。

 

「目撃情報から、恐らくは艦娘である事、人数は不明……ただ、目撃情報からの扶桑型戦艦、青葉型、妙高型、高雄型、最上型重巡、天龍型、川内型軽巡、龍驤型軽空母、形式不明軽空母、白露型、陽炎型駆逐艦の存在が確認されています」

 

俺は青葉からの報告を聞くと、どうするか悩んだ。

 

「姉貴、一つ相談なんだけど…」

 

俺は姉貴の保養施設を頼る事にした。

 

「紫苑、どうかしたの」

 

俺は事のあらましを話して、協力を要請した。

 

「そういう事なら、私の方も願ってもないわね、万年人手不足だからね」

 

俺は吹雪を呼んだ。

 

「吹雪、拡声器を使用して山中に潜む者を呼び出してくれ」

 

俺の指示に吹雪は疑問符を浮かべながらも、拡声器を使用して呼び掛けてくれた。

 

そして数時間後

 

「所長、出てきました」

 

白雪が指差した先に、複数の艦娘らしき者が現れた。

 

「あ……!……お願いです、鎮守府には言わないで…」

 

元は金髪であったと思われる艦娘が、懇願してきた。

 

「夕張、可及的速やかに全員を修復ドッグへ」

 

俺の指示を受けて夕張が深雪と初雪の協力のもと修復ドッグへと連れて行った。

 

「千歳は彼女達からの認識票を回収してくれ」

「はい」

 

千歳が夕張の後を追ってドッグへと向かった。

それから数分後、千歳が戻ってきた。

 

「所長、こちらです」

 

千歳から認識票を受け取ると、

 

「原隊を調査する、青葉は俺と来てくれ……隼鷹は俺の代理を」

 

隼鷹に指示を出すと、俺と青葉は所属艦娘の検索を開始した。

 

『該当者なし』

 

いくら打ち込んでも出てくる答えは同じだった。

 

「おかしぞ…」

 

俺は戦没者検索をかけてみた。

 

「嘘だろ…」

 

彼女達の名前は全員戦没者リストの中にあった。

 

「紅東元帥を」

 

俺は横須賀に電話を掛けた。

 

「おう、わしじゃ何かあったのか」

 

俺は親父に事の詳細を話した、親父は暫く無言だった。

 

「可能性があるのは捨艦作戦をやらかしたドアホウがおるという事だ、しかし、旧式とはいえ扶桑型までおるとはな…」

「親父……戦没者認定取消せないのか?」

「やってはみるがな、その後はどうする?」

「姉貴の保養施設の従業員として保護する」

「わかった、早急にやっておく」

 

俺は必要な事柄のみ確認すると電話を切った。

 

「所長、艦名を確認しました」

 

俺は千歳からリストを受け取った。

 

「扶桑、山城、衣笠、高雄、愛宕、妙高、那智、足柄、羽黒、最上、天龍、神通、龍驤、鳳翔、時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮以上19名か……」

 

俺はリストを姉貴と親父の所に送った。

姉貴からはすぐに回答がきた。

 

「こっちは受け入れ即時可能よ、従業員用宿舎は完成済みだから手が空き次第確認に行くわね」

 

俺は姉貴に感謝した。

俺は扶桑達を集めると、処遇について説明した。

 

「君達の処遇についてだが……全員を紅東観光の社員として今此処で建設中の保養施設で雇用する方向で話を進めているが…以下の者はうちのサポートをしてもらいたい、先ずは扶桑、君には所長補佐を、龍驤と、鳳翔は隼鷹と千歳のバックアップを高雄と愛宕は夕張と青葉のバックアップ、妙高型の4人は吹雪達のバックアップを頼む」

 

 

それを聞いた彼女達はみな抱き合って泣いていた。

 

「私は、高雄型一番艦 高雄と申します、この度は有り難うございます……バックアップの件畏まりました」

 

高雄も遂に泣き出してしまい最後まで話せなかった。

 

「所長、元帥からお電話です」

 

隼鷹が電話を取り次いだ。

 

「紫苑か、ワシじゃ、陽炎、不知火、黒潮、時雨、夕立の5人については、お前の所に所属で話かついた、残りについては任せる」

 

クソ親父はそれだけいうと電話を切った。

 

「君達の処遇についてだが、駆逐艦娘は全員が当監視所所属となる、言っとくがうちは超ホワイトだぞ…それ以外の者は最初の説明にあった通り紅東観光社員としての身分も確保した、詳しくは其処にいる紅東観光鹿屋支社長紅東 紫織に聞いてくれ」

 

「夕張、母屋の拡張工事を頼む、8畳間を5つ増築してくれ」

 

俺は夕張に増築の指示を出した。

 

「あー、時雨以下5名は母屋増築完了までの間、離れを使用してもらう、それとうちの規則については間宮から改めて説明があるから聞いておくように」

 

こうして我が監視所に新たな家族が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第37話 やっぱりそうくるよなぁ……(改2)

「夕張、母屋の増築少し待て、やな予感がする」

 

俺は夕張に増築工事の一時待機を伝えた。

 

「了解しました」

 

その数分後、予感は的中した。

 

「紫苑か?ワシじゃ…言い難いのじゃがな…時雨以下の者についてなのじゃが…」

 

クソ親父が歯切れ悪く何かを言いにくそうにしていた。

 

「時雨達に何か問題でもあるのか?」

 

クソ親父は意を決して話しだした。

 

「上官殺しについて……そのなんじゃ…それでの大本営預かりとの決が下された…済まんが今週末に迎えの飛行艇を差し向ける……よって移送の準備をしておいてくれ」

 

俺は時雨を呼ぶと真意を確認した。

 

「そうか……そういう事か…」

 

正確に言うと、時雨達は容疑者ではなく、証人だった。

つまり証人保護プログラムに沿って大本営で保護するという事らしい。

それは当日の飛行艇をみてもよくわかった、何故なら移送用の飛行艇に対して護衛戦闘機が2個小隊付いていたのだから。

 

「時雨、夕立、陽炎、ヌイヌイ、黒潮……自由になったら何時でも遊びに来い」

 

俺は時雨達一人一人の頭を撫でると軽くハグした、一人不知火がヌイヌイ止めてと抗議していたが。

 

「また逢おう」

「はい…その時はよろしゅうな」

 

黒潮が手を振りながら機上の人となった。

 

「さて夕張、増築用の資材についてだが…「所長の部屋の改装に回しました!」」

 

俺は夕張の言葉を理解出来なかったが、その日の業務終了後……現実を見せつけられた。

 

 

「夕張、これはどういう事かな?」

 

俺の部屋は隼鷹の部屋と一つになっていて、四方の襖は壁へと変更されていて食堂から通じる部分は引き戸に変更されていた…そしてベッドはキングサイズの物になっていた。

 

「いいじゃん隼鷹は、お義姉さんになるんでしょ」

 

俺は言葉を返せなかった、それは時間の問題だったから。

俺の横で隼鷹がナイスという仕草をしていたのは見なかったことにした。

俺はとある事を感じて、玄関を出た……。

やはりだった。

『紅東 紫苑

    明日香 

    千尋

    燿子 

    柚香

    紫希

    美優

    潤子

    明奈

    凛 』

 

表札が書き直されていた。

千尋さんと吹雪達もいつの間にか養子縁組をしていたのは俺だけが知らなかった……謀ったな母さん!

 

長女 紫織(元陸奥)

次女 千尋(千歳) 

三女 燿子(青葉)

四女 柚香(間宮) 

五女 紫希(夕張)

六女 美優(吹雪)

七女 潤子(白雪)

八女 明奈(初雪) 

九女 凛 (深雪)

長男 紫苑 

 

俺の職場はいつしか親族経営の軍事施設となっていた……いいのかよこんなの!

実際、うちの表札を見た山城が呆れていたのも事実だ。

 

「なんです、全員が親族って……」

 

ただ、山城達は其処から何かを感じたのか安心したという顔をしていた。

 

 




今回は少し短編となっています。


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第38話 憲兵……!とその前に起きた小さな出来事。(改2)

月餅の誤植ではありません!


扶桑達を保護してから一週間が過ぎたある日の午後の事。

 

 

 

「はい…鹿屋第十三監視所 紅東ですが…」

 

俺は、何時ものように電話に出た。

 

「私は九州管区憲兵師団本部の櫻井ですが、明日先日そちらで保護した艦娘達の事情聴取を朝九時から三日間程行います、我々総勢十名の受け入れ体制をお願い致します、彼女達を逮捕する訳ではありません、鎮守府の責任者に問題が発覚致しまして、その事実確認と今後の身の振り方について確認するだけです」

 

それは憲兵師団本部からの電話だった。

 

「了解した、宿泊場所の手配はしておく、それでこれは本人達に伝えても問題ないか…それといきなり憲兵からのとなると……なんだ…彼女達も言うべき事を言えないのではないだろうかと思う…そこで提案なのだが、うちは明日彼女達も一緒にバーベキューをするつもりだ、その場で雑談がてら確認するというのはどうだろうか」

「はい、伝えて問題ありません…確かに仰る通りです、つきましてはこちらからもその案でお願いします」

「ならば憲兵の制服とは別にラフな格好「水着着用を厳命します!」…」

 

櫻井という憲兵は鼻息荒く答えた。

俺は呆れながらも電話を切ると、間宮を呼んだ。

 

「間宮、速やかに執務室迄」

 

それから程なくして間宮がやってきた。

 

「所長、お呼びですか?」

「ああ、明日から憲兵が三日間十名泊りがけの要件があるそうだ、食事と宿泊場所の確保を頼む、それと明日の昼は浜でバーベキューを行う…約四十名位は参加となる」

「了解しました」

 

間宮が敬礼をして出ていった。

 

「青葉、少し席を外す不在の間を頼む」

 

俺は、青葉に後を頼むと保養施設従業員宿舎へと向かった。

 

「扶桑いるか?」

「はい…、何か?」

「明日、君達への事実確認に憲兵がやってくる」

 

俺の言葉に扶桑が少し震えていた。

 

「心配するな、どうやら君達が在籍していた鎮守府の指揮官に問題が発覚したらしく、その確認をしたいらしい」

 

俺の話を聞いていた扶桑の表情が少し和らいだ。

 

「そうですか……それで私達は…」

 

扶桑が聞いてきた。

 

「俺からは本人達に任せると伝えてある」

「そうですか……私達はこのまま此処で静かに暮らしたいのですが……」

 

やはり扶桑達は残留を希望していた。

 

「そう言うと思っていたから、その様に話をしてはあるから安心しろ、それと明日の昼は浜でバーベキューを行う…憲兵もそこで事実確認をするそうだ」

「有り難うございます」

 

扶桑が研修に戻っていった。

 

「?」

 

俺は扶桑が出ていった扉の奥を見た。

其処には山城が顔の半分を出して覗いていた。

 

「山城、安心しろ扶桑だけじゃないお前たちみんな紅東観光の社員だ、うちの社員組合が付いてる」

 

山城が微かに頷くと立ち去った。

 

『紅東グループ組合……犯罪でも犯さない限り徹底して社員を擁護する……場合によっては軍をもねじ伏せる……だがしかし犯罪を犯した場合は断固とした処分を敢行する……』

 

俺は姉貴からは聞かされた組合の規則を思い出していた。

 

「所長、執務室迄お戻りください」

 

俺は青葉からの呼び戻しを受けた。

 

「どうした?」

 

俺は青葉の顔色が気になった、何故なら若干青ざめていたからだ。

 

「隼鷹が……」

 

俺は青葉からの返事を聞くより早く通信機で隼鷹を呼び続けた。

 

「聞こえてるよー」

 

通信機から隼鷹の間延びした返事が返ってきた。

 

「何かあったのか」

 

俺は自分でもわかるくらい動揺していた。

 

「……ゴメン……」

「ゴメンっておい!何があった」

 

俺は隼鷹の謝罪に更に動揺した。

そして少しの間を置いて、

 

「座礁して、少し怪我した」

 

俺は安堵すると共に、怪我の具合いを確認した。

 

「怪我って大丈夫なのか…何処怪我した」

 

俺は、大切な女性が怪我したとの報告に焦った。

 

「大丈夫だよ、少し脛を擦りむいただけだから」

 

隼鷹からの報告と同時に吹雪からも報告が入った。

 

「所長、隼鷹さんの傷ですが…絆創膏貼っておく位の傷で航行には支障ありません……命にはこれっぽっちも響きません」

 

俺は青葉を見た。

青葉も隼鷹が怪我をしたと聞いて動転していたようだった。

 

「わかった、本日最後の哨戒任務だが十分気を付けて帰投するように」

 

俺は通信機のマイクを置くと、安堵から椅子に崩れ落ちた。

 

「所長、麦茶どうぞ」

 

青葉が冷えた麦茶を持ってきてくれた。

 

「ありがとう」  

 

そして二人して笑っていた。

 

「怪我したって言ったから焦ったよホントに」  

「私もですよ、隼鷹からいきなり座礁して怪我したなんて報告入って来たんですから」

「まぁ帰ったら隼鷹には報告書の提出をしてもらうか」

「そうですね、私達が膝を擦りむいた位の岩礁ですから今後の為にも」

 

青葉がコップを片付けると、報告書の書式を用意していた。

 

 

 

 



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第39話 うちも見ていくのな……(改2)

「この監視所も、念の為に査察致します」

 

保護した扶桑達への事実確認を終えた、櫻井が切り出してきた。

 

「勤務実績や艦娘の生活施設等を査察します、吹雪さんこちらへ」

 

櫻井は吹雪を呼び出すと、吹雪の案内で母屋へと向かった。  

 

 

 

 

『ニ時間後』

 

「生活施設には問題無いようですね、と云うか……何なんですか全員が家族って!」

 

やはり其処を聞いてきた。

 

「まぁ初めて見たらそうなるよな……元陸奥、千歳、青葉が姉で間宮、夕張、吹雪、白雪、初雪、深雪が妹なのんだけど……」

 

俺は櫻井に最初から説明した。

 

「成る程、そういう事ですか……事情はよく解りました」

 

櫻井は納得した様子だった。

 

「最後にこの監視所は町からかなり離れていますが、その点は?」

 

俺はガレージに櫻井を連れて行くと、中に止めてある四台のワゴンRを指して、

 

「俺達は各自の車が有るが、吹雪達は私有地内についてはこの軽四輪で移動している、其処から先は自転車を使ってる」

 

そう言うと俺は吹雪達と撮った写真を見せた。 

 

「モンタギューパラトルーパープロじゃないですか!それも四台も!」

「マウンテンバイクタイプで折り畳みできたからこれにしたが……何か問題でも?」

「十万以上する自転車なんだけど…お金の出処を教えて貰えますか?」

「それについては、うちに元々あった保冷車と冷凍車を姉貴の会社に売却してその代金で購入した」

 

櫻井が何かメモしていた。  

 

「それにしても四台で約ご五十万ですか…」

「別に値段とか気にしてねぇし」

 

確かにこれ買う時に姉貴にも同じ事言われたが、毎日乗るものだから其処はケチらずに良い物を買うと言って買ったのだった(四台のワゴンRよりも自転車四台の方が高かったのはお約束)。

 

「これってひょっとするとこのワゴンRよりも高くないですか?」

 

櫻井も気が付きやがった。

 

「そりゃあなぁ、なんたって初代のワゴンRだし…公道走らないから車検も必要ないから…」

 

そう、モンタギューパラトルーパープロ一台と中古ワゴンR一台がほぼ同値段だった。

 

「まぁ、吹雪達が免許取ったら車検つけるけどな」

 

四台のワゴンRは夕張の手により完全にオーバーホールされて、何時でも車検を受けらるれ状態に維持管理されていた。

 

「ここの娘達は問題無いですね、正直羨ましい環境です」

 

そう言うと櫻井は保養施設へと戻っていった。

 

「今度は利用客視点での設備チェック……」

 

そう櫻井達に保養施設を利用客視点での設備チェックを依頼していたのだ。

 

二日後……

 

何点かの問題点が指摘されていたが、それは些細な内容で直ぐに修正された。

 

 

 

 

 

 



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第40話 妹達と……(改2)

一旦は完結致しましたが…まだ書きたい事があり、私の中で納得の出来ない終わらせ方でしたので当分の間はチラシの裏でひっそりと更新していきます。
タイトルを変更しました。


『夕張ちゃん、間宮ちゃんとUSJ行ってきます、帰りは月曜日になります…千歳』

 

ダイニングの入口にぶら下げてあるコルクボードにこんなメモがあった。

 

「隼鷹と青葉はTDL行くって言ったしな…吹雪達は午前中は買い物でいないし、姉貴は新婚旅行行くって言ってたしな、さてどうするか……」

 

そんな訳で現在、俺だけがこの家に残っていた。

俺は取り敢えず洗濯と掃除を始めた。

うちでは俺を含めて当番制なので女物も気にせず洗濯している(家族の下着見ても何とも思わないだろ)。

洗濯機を回している間に、俺は布団カバーを替えていった。

 

『ガチャガチャ』

 

玄関の鍵を開ける音がすると誰かが家の中に入ってきた。

 

『吹雪達が帰ってきたのか?』

 

俺は風呂場から顔を覗かせた。

 

「あら紫苑、貴方しかいないの?」

 

母さんが久し振りに遊びに来たのだ。

 

「一人か?」

「お父さんはタクシーにお金払ってるわよ」

 

暫くすると、

 

「久し振りだな紫苑」

 

親父もやってきた。

 

「なんだ、お前しかおらんのか…」

 

親父も同じ事を言った。

 

「ああ、隼鷹と青葉はTDLに、夕張と間宮、千歳はUSJに四連休だから泊りがけで遊びに出掛けたよ、吹雪達は町に買い物に行ってるから昼までには帰るって」

「なんかタイミング悪かったみたいね……」

 

母さんがすこぶる残念そうな顔をしていた。

 

「月曜の夜までいれば全員揃うけど……」

「儂は遅めの夏休みだから木曜迄こっちにいるが、母さんは火曜には東京に帰るからな……」

 

親父も少し寂しそうな顔をしていた。

 

「いきなり来たんだから仕方ないだろ、昼からなら吹雪達には会えるけど」

 

母さんもそこは素直に喜んでいた。

 

「しかし、紫苑よ…お前が洗濯を……」

 

親父が俺の持っていた洗濯籠を覗き込んで呟いた。

 

「溜めたままって云う訳にもいかないだろ…それに姉や妹達の下着だからな別に何とも」

 

等とやり取りをしていると、吹雪達がお昼前に帰ってきた。

 

「お兄ちゃんただいま!」

 

元気にダイニングへとやってきた。

 

「お父さん達来てたんだ」

 

深雪が嬉しそうに母さんに抱きついた。

 

「初雪達は昼は?」

「まだ……」

「なら皆で外食にするか」

 

俺は、吹雪達と両親とで町へ食事の為に出かけた。

 

「何食べたい?」

「お寿司!」

 

深雪が一つの選択肢を言った…結局はそうなるのだが。

 

「回転寿司行くか…」

 

俺は町中の回転寿司チェーン店へと向かった。

 

吹雪達が母さんと親父にまとわりついていた。

俺はその光景を微笑みながら見ていた。

 

「こんな光景が何時までも続くといいな……」

 

そんな事を考えながら、回転寿店の店内へと入った。

 

「皆、好きなの食べなさい」

 

親父が何時になくにやけながら妹達の世話を焼いていた。

 

吹雪達はアレコレと皿を選んでは食べていた。

 

「紫苑、皆いい子達ね」

 

母さんが俺に話しかけてきた。

 

「そうだね」

 

俺は吹雪達と兄妹になったことを嬉しく思った。

 

「吹雪、白雪、初雪、深雪にプレゼントがある、帰りに電気屋によるよ」

 

俺は四人にとあるプレゼントを準備していた。

 

「お兄ちゃん……ありがとう、プレゼントってなんだろう」

 

吹雪達が口々にお礼を言ってきた。

そして食事を終えて、俺達は家電量販店へと向かった。

 

「紅東様ですね、お品物を準備致しますので此方でお待ちください」

 

俺は受け取りカウンターで店員を待つことにした。

暫くすると店員が同じ大きさの段ボールを4つ持ってきた。

 

「お待たせ致しました、此方になります」

 

その箱には『hp』と真ん中に書かれていた。

 

「パソコン?」

 

吹雪達は段ボールを一つづつ持った。

 

「中身は帰ってからのお楽しみという事で」

 

俺はその場で開けようとする深雪をなだめると家路についた。

 

 

 

 

 




吹雪達に買った物とは!
タブレットにもなるノートパソコンです(液晶とキーボードが分離するタイプ)


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第41話 間宮の車(改2)

今回は間宮と夕張が町の中古車販売店で車を買う所から始まります。


「ねぇ、夕張これどうかしら?」

 

私はガンメタリックの大型SUVを見ていた。

 

「どれ?」

 

夕張がやってきてその車を見た。

 

「テラノじゃない、この値段で買えるの!!」

 

プライスボードには86万円と記載されていた。

 

「えっと年式は……2000年式で……走行6.8万キロ……オプションはコンポとETC…車検受け渡し……コミコミで百万少し超える位……予算内で納まるわね」

 

夕張が店員を呼ぶと事故歴や修復歴を確認していた。

 

「店員さん、この車の修復歴あります?」

「この車は無事故、ワンオーナー車です、年式が落ちるのでこの価格にしています、勿論メンテナンスはきちんと行いますので安心して頂いて結構です」

 

「敷地内での試乗されますか?」

 

店員さんの勧めで私は、運転席に座るとエンジンを掛けた。

 

「ディーゼルエンジンの始動も問題ないみたいね」

 

助手席に座った夕張が念入りに確認していた。

 

「変速も問題ないみたいね、室内装備も問題無しと……窓まわりも雨漏りなしと」

 

幸い雨だった為に雨漏りも確認できた。

 

「これいいんじゃない」

 

私は代金を即金で支払うと必要書類(車庫証明や委任状等)を記入して店員さんに渡した。

 

「書類は問題無いですね、こちらが領収書です、それでは車庫証明完了次第納車致します」

 

私達は中古車販売店を後にした。

 

ーーーーそしてその日の夜ーーーー

 

車を買った事を紫苑に話した。

 

「00年式のテラノが百万!」

 

紫苑も驚いていたが、夕張の確認で安心していた。

 

「夕張が問題はないとしたのなら、まぁ大丈夫か」

 

私はスマホで撮影した動画を見せた。

 

「初代だと何故か百万オーバーだからな、この辺の年式はお買い得だな」

 

紫苑も驚いていた。

 

「俺より買い物旨いな……」

 

等と言っていた。

 

 

此処から問題が起きたのだ。

折しもほん怖をやっていて、とあるシーンで深雪ちゃんがそれを口にした。

 

「なぁこの家って無駄に広いけど……開かずの間あったりして……」

 

それを聞いた、吹雪ちゃんが耳を塞いでいた。

 

「前の持ち主が新築で建てて俺で二人目だ、それにその手の事は何も聞いてないぞ…まぁしいてあげれば姉貴の部屋が開かずの間か……汚部屋で」

 

紫苑の話に深雪ちゃんがお腹を抱えて笑っていた。

 

そして一週間後。

 

私が買ったテラノが納車されてきた。

私は車に慣れる為に、裏山で練習した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

個人所有車両(吹雪達のワゴンRとバンビーを除く)

間宮 00年式日産テラノR3M-Xワイド

千歳 91年式三菱パジェロショートワゴン

紫苑 88年式トヨタスープラ 2.0GT ツインターボ

青葉 93年式三菱ストラーダR

 

紫苑の車が一番古い車となります。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第42話 青葉の影響(改2)

「夕張、何か荷物が届いたぞ」

 

俺は宅配のドライバーからさほど大きくない段ボールを受け取って夕張に声を掛けた。

 

「ありがとー」

 

夕張が俺から荷物を受け取った。

 

「何買ったんだ?」

 

俺は気になって聞いてみた。

 

「それはねー、じゃ~ん」

 

夕張が段ボールから取り出したのは一台のカメラだった。

 

「夕張ちゃんカメラ買ったんだ」

 

青葉がやってきて話に加わった。

 

「ペンタックス買ったんだね」

 

夕張からカメラを受け取ると青葉がアレコレと操作していた。

 

「この子、専用バッテリー要らないんですよね、単3の充電池4本で使えるから重宝するんですよね」

 

青葉が俺の部屋から持ってきたレンズを取り付けて機能のチェックをしていった。

 

「ライブビューは遅くて流石に……ですが普通にファインダーを覗いてだったら問題ないですね、そうだ、紫苑のカメラ貸して」

 

俺は青葉に自分のカメラを渡した。

 

「やっぱり……紫苑、ファームウェアのアップデートしないと駄目ですよ、SDカード認識しないじゃないですか」

 

俺は青葉の言っている意味が理解できなかった。

 

「アップデートしないと2GB迄しか認識してくれないんです…」

 

青葉がいつの間にか用意していたのかファームウェアの入ったSDカードをカメラにセットするとアップデート作業を始めていた。

 

「ハイ、これで大容量のカードも認識出来ます」

 

因みに俺のカメラはペンタックスのistDSというこれまた古いデジカメだ。

夕張が同じメーカーのカメラにしたのは単純にレンズは俺のを借りればよいという発想だった。

 

「夕張ちゃんもカメラ買ったって」

 

隼鷹がカメラを片手にやってきた。

 

「へーペンタックスにしたんだ」

 

隼鷹の手にはニコンD70と云うこれもまた古いデジカメが握られていた。

 

…この時点で一番新しいのは青葉のニコンD5600だった。

 

「ニコン派とペンタックス派なのな」

 

俺は呟いた。

 

「あっれー?私に買ってくれたカメラを選んだのは紫苑じゃなかったかなぁ?」

 

青葉がツッコミを入れてきた。

 

「私、ソニー…」

 

いつの間にかやってきた間宮が手にしたソニーのハンディカムを指差していた。

 

「みんなはカメラの保管どうしてるの?」

 

青葉がカメラ好きならではの質問をしてきた。

まぁ答えは聞くまでもなくだった。

 

「卓上保管!」

 

全員のハモった答えに青葉が呆れた。

 

「レンズにカビ生えます!」

 

青葉は少し怒りながら、通販サイトで何かを購入していた。

 

「今、カメラ保管用の防湿庫を買いました、今後この中に使用時以外は入れて!」

 

俺たち青葉が買った大型防湿庫の画像を見せられた。

 

「これって小型冷蔵庫並にでか「全員のカメラとムービー、交換レンズを入れるためです」」

 

俺は黙るしかなかった、カメラに関しては青葉に反論出来なかったからだ。

 

数日後、運送業者が俺の部屋の片隅に防湿庫を設置していった。

 

「上段は紫苑、二段目は夕張ちゃん、三段目が間宮ちゃん、四段目は隼鷹さん、一番下は共用の小物類をいれてね」

 

青葉が仕切っていった。

 

「お前のは?」

 

俺は青葉に聞いてた。

 

「私はちゃんと専用のを買ってるから」

 

青葉がサイドテーブルの上に置かれた二段式の防湿庫を指差した。

 

そして休みの日には…動植物を被写体にした撮影会兼写真教室が開かれるようになった……いつの間にか千歳まで、買っていた……それも今時なフィルムカメラを……ペンタックスMZ-Lだそうだ。

千歳曰く、紙焼きの写真の方が味があって好きなんだそうだ…現像(ネガのPC取り込みと紙焼き)は青葉がやっているそうだ。

 

そして防湿庫の一番下は共用から千歳のカメラが収まる事となった……。

三段目の片隅にパナソニック製のコンデジが何時の間にか置かれていた……吹雪達もお金を出し合って買ったそうだ。

 

青葉の趣味が全員に伝染し、週末の夜は作品の発表会となっていた。

 

 

 

 

 




レンズについて。
青葉と紫苑は純正、隼鷹と千歳はタムロン製を使用しています

実際にペンタックスのkマウントとソニー(旧ミノルタ)のαマウントは例外なく使えるという優れ物ですね(ニコンとキャノンは一部に制約があって使えなかったりします)


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第43話 年越し(改2)

お話は暮れの仕事納めから始まります。
戦時中の軍隊に仕事納め……深海棲艦もブラックではないようで、何故か週休二日年末年始休暇に大型連休とごく普通の会社員状態なようです。


「近隣の漁協も昨日で仕事納めなので今日の業務が俺達の年内最後となる、各員気を引き締めて怪我の無いようにしてくれ」

 

俺は年内最終勤務日の朝礼を締めくくった。

その日はパトロール任務も無く、艤装や監視施設の大掃除が主な仕事だった。

 

「所長、お電話です」

 

俺は千歳から電話を回された。

 

「はい紅東です…うん、うん…分かった、全員に伝えとく」

 

 

そして迎えた定時5分前。

 

「今年一年無事に乗り切れた事を皆に感謝する、さてとこの後の予定だが…18時より忘年会を開始する…とその前に、昼に母さんから電話があった、明日の夕方頃婆ちゃんと親父と一緒にこっちに来るそうだ、吹雪以下はお年玉沢山貰えるぞ、期待してるといい」

 

俺の締の言葉に吹雪達が色めきだった。

 

「お年玉!」

 

 

それは仕方なかった、吹雪達からすれば初めて貰う物だったのだから。

 

「と此処からはオフな、隼鷹は吹雪達と家の大掃除をやってくれ、千歳と間宮は俺と正月の買い出しに行く、青葉と夕張は母さん達が泊まる部屋の用意をしておいてくれ」

 

俺は明日からの予定を話すと解散にした。

 

「紫苑さん、ちょっといい」

 

千歳が声を掛けてきた。

 

「千歳どうかした?」

「隣の鳳翔さんが買い物行くならご一緒できないかって」

「かまわないけど、なら明日の朝九時にうち集合と伝えておいて」

 

千歳が鳳翔にメールを打ち出した。

 

「鳳翔さんわかりましたって」

 

ーーーーーーーーーー翌日ーーーー

 

「それじゃ買い物いっくる、大掃除頼んだ」

 

俺は隼鷹に声をかけると車に乗り込んだ。

 

「魚市場前の駐車場だな」

「うん」

「わかりました」

 

間宮と千歳が返事を返した。

 

「鳳翔さんはどの車に?」

 

間宮が聞いてきた。

 

「私は少しお話したいので所長さんのお車に」

 

鳳翔さんが俺の車に乗ってきた。

 

「俺の事は紫苑でいいですよ」

 

俺は鳳翔さんにそう告げた。

それから魚市場に着くまで鳳翔さんと他愛もないことから料理の事等を話した。

 

「俺たちが一番乗りか…」

「そうみたいですね」

 

俺の隣で鳳翔さんが微笑んでいた。

 

「紫苑ごめん」

 

間宮と千歳の車が到着した。

 

「すいません、途中でお餅とお酒を買い足していたものですから」

 

間宮が説明してくれた。

 

「俺も後で買わないとと思っていたから助かったよ、それじゃ後は魚市場関係だな」

 

俺達は何時もの店長の店から行くことにした。

 

「紫苑君、新しく配属された娘かい?」

 

店長が鳳翔さんを見ると聞いてきた。

 

「保養所の総料理長ですよ」

 

店長と鳳翔さんが挨拶を交わしていた。

 

「店長の奥さんは…」

 

俺が紹介しようとしていたその時、

 

「あんたが鳳翔さんかい、私は元ガングートの艦娘だったんだよ……今じゃしがない魚屋の女将さ」

 

向こうから自己紹介してくれた…までは良かった。

しかしその服装が問題だった。

金髪のロングヘアをポニーテールにして赤いスーツをお召しになっていたのだ。

 

「ロアナプラのロシアンマフィアかよ」

 

俺は思わず呟いた。

 

「フライフェイスじゃないよ、それには喫煙は身体に良くないからね」

 

しっかりと聞こえていたようだった、と云うかネタを知っていた。

 

「しかし紫苑君……大変だな、女大所帯の中に男一人は……」

 

店長と店員が俺を同情の目で見ていた。

 

「明日からは親父も来るから多少は……」

 

他愛もないに会話を交わして俺達は鮮魚店を後にした。

その後も色々な店を回って必要な物を買い込んでいった。

 

「こんなもんか…載せきらない分は後からあの店長が纏めて配送してくれるからいいとして…」

 

俺は、間宮に声を掛けた。

 

「買い忘れないか?」

 

間宮がメモを見ながら確認していた。

 

「えっと……」

 

間宮がメモと現物、配達リストを見比べていた。

 

「お蕎麦の追加買っておいた方がいいかも、お父さん達も来るから」

「そうだな、鳳翔さんの所は?」

 

俺は同意すると鳳翔さんに確認した。

 

「そうですね、買っておきましょうか」

 

俺はそこで少し考えた。

 

「年越し蕎麦みんなで食べるか」

 

俺の突然の思い付きにその場にいた鳳翔さん以外が同意した。

 

「よろしいのですか、14人もいますけど…」

 

鳳翔さんが遠慮がちに言った。

 

「お隣さんなんだし、今更遠慮もないよ、みんなで呑んで騒ごう」

 

俺の一言に鳳翔さんも頷いてくれた。

 

「わかりました、それではお邪魔させて頂きます」

「全部で35人分と……一応40人分は天麩羅用の海老買っておくね」

 

間宮が追加の海老を買いに鮮魚店に向かった。

 

「蕎麦は確かあったはず」

 

俺は隼鷹に電話すると蕎麦の残りを確認した。

 

「蕎麦は大丈夫、50束あるそうだ」

 

結局この余分を確認しておいて正解だった、何故なら時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮の5人もクソ親父が連れてきたからだ、しかも当日の朝にしれっと連絡入れやがって、部屋の準備大変だった(時雨達に客間をクソ親父達は離れ確定!と思ったら、時雨達は吹雪達の部屋に泊まることで話がついたみたいだった)。

 

 

そして迎えた30日

 

「紫苑、お父さんから電話で時雨達5人も連れてくるって」

 

夕張からの伝言に俺はこめかみを押さえた。

 

「クソ親父確信犯だな…夕張、親父達の部屋は離れに変更す「時雨ちゃん達は私達と一緒に泊まるよ」」

 

吹雪が俺に教えてくれた。

 

「そうか、サンキュ」

それならお父さん達客間で「クソ親父だけ離れ」

 

夕張に俺はクソ親父の部屋だけは離れと譲らなかった。

 

「お父さん可哀想だよ、それに時雨ちゃん達の事考えてあげたんでしょう」

 

間宮もクソ親父擁護にまわった。

 

「わかったよ…ポチ袋足りないから買っておかないとな」

 

俺は時雨達にもお年玉を用意をする事にした(吹雪達だけあげては可哀想だからな)

 

俺達は買い物を済ませると一路帰宅の途についた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第44話 年越し②(改2)

「紫苑おかえり」

 

俺達は大荷物を持って帰宅すると隼鷹達が手伝って荷物を冷蔵庫に入れていった。

 

「昼は簡単にサンドイッチ作っていたよ」

 

隼鷹がテーブルの上に置かれたサンドイッチを指した。

 

「サンキュ、それなら皆食べてから母さん達の出迎え準備を「全部終わったよ」」

 

青葉がサムズアップしながら答えた。

 

「なら後は来るまではのんびり過ごすか」

 

隼鷹が作ったサンドイッチを堪能した俺達はそれぞれの居場所又は部屋でのんびりしていた。

 

そして昼下がりのお茶を楽しんだ後だった、玄関の扉が開く音がした。

 

「紫苑、母さん達来たよ」

 

様子を見に行った夕張が声を掛けてきた。

 

「母さん久しぶり、ばあちゃんも元気そうで安心したよ」

 

母さんの後ろに今年89歳になる祖母がニコニコしながら続いていた。

 

「紫苑、紹介しとくれよ」

 

俺は、ばあちゃんに答えた。

 

「そうだね、先ずは婚約者の隼鷹だ後は次女からいくよ、次は千歳、青葉、間宮、吹雪、白雪、初雪、深雪の」

 

俺はばあちゃんに新しい姉妹を紹介した。

 

「そうかいそうかい、ウンウン皆いい娘達じゃないか、隼鷹ちゃん良いお嬢さんじゃないか、紫苑には勿体無いくらいだね」

 

ばあちゃんが少し毒を吐いていたが隼鷹の事を気に入ってくれた様子だった。

 

「隼鷹さん、こんな頼りない孫だけどね、私には可愛い初の男孫なんでね、添い遂げてやっておくれ」

 

ばあちゃんが隼鷹の手を取ると頭を下げていた。

 

「お祖母様、そんな……私こそ不束者ですが宜しくお願いいたします」

 

隼鷹もまた頭を下げていた。

 

「お母様も、玄関先でやってないで時雨達が待ってるから」

 

親父が土間で痺れを切らしていた。

 

「そうね紫苑、お部屋は?」

 

俺は母さん達を客間に案内した。

 

「時雨達は吹雪達の部屋でいいのか?」

 

俺は一応確認した。

 

「僕達も吹雪達と話もしたいしね」

 

時雨達は吹雪達と部屋へと向いながら答えた。

 

「紫苑、夕飯どうするの?」

 

母さんとばあちゃんが聞いてきた。

 

「うん鍋にしようかと思って準備はしてある」

「時雨ちゃん達驚くでしょうね」

 

俺は母さんの言葉の意味を理解した。

食堂は居間の間仕切りを取り払って大広間になっていた。

 

「さてと準備は出来た深雪、母さん達を呼んできてくれ」

「あいよ」

「吹雪は時雨達を呼んできてくれ」

「はい」

 

そして全員が食堂に揃った。

俺は時雨達をみた、こんな大人数に慣れていないのかオロオロしていた。

 

「時雨達も遠慮するなよ、ここでは遠慮は飯の食いっぱぐれを意味するからな」

 

俺の言葉に時雨はキョトンとしていた。

 

「僕達も一緒でいいのかな、鎮守府にいた頃は提督からお前等化け物と一緒に食べられるかって言われてたから……だから鍋なんて食べたことないし…」

 

俺は時雨達の表情の意味を理解した。

 

「そっか、時雨ここではな艦娘も提督もない、皆家族だからな、遠慮するなよ…母さんは元赤城だから後は解るな」

 

俺の声に母さんが少しむくれていた。

 

「元よモ・ト!」

「それとばあちゃんは長門の元艦娘な、戦艦と正規空母がいるということは…「紫苑や私も若くは無いそこまでは食べんぞ」」

 

二人は否定したが少なくても3人前は軽くて平らげるのだった。

 

「不思議な人達だね」

 

時雨が笑った。

 

「……」

 

何やら吹雪が夕立に耳打ちした。

 

「本当ポイ!」

 

夕立が俺と隼鷹を交互に見ていた。

 

「深雪?何を言ったのかな」

 

深雪が答えるより夕立の顔を見て理解した。

 

「深雪だいたいわかったよ、何を夕立に話したか」

 

夕立は顔を真っ赤にして頭から湯気が出ていた。

 

「何時もキスして……」

 

時雨がやれやれと云う顔をしていた。

 

「僕達もここに最初から配属されていたら少しは違った今になっていたのかな」

 

時雨の独り言に俺は答えた。

 

「それならこれから変えればいい、多分親父はそれがしたくて時雨達を連れてきたんだろうから」

 

親父が黙って頷いた。

 

「そっかならウチらもこれからなんやな」

 

それまで黙っていた黒潮がやっと笑った。

 

「まぁ鍋が冷めるから取り敢えず食べよう」

 

俺は野菜や鶏肉団子を鍋に入れていった。

 

「この鍋はね、紅東家の家族団欒の時しか作らないの、貴女達ももう家族も同じなんだからね」

 

母さんが陽炎と不知火の頭に優しく手を置くと優しく撫でた。

 

「ほらヌイヌイも遠慮なんかするなよ、どんどん食べろ」

「ヌイヌイ……」

 

不知火が何か言いたそうにしていたが、諦めたのか鍋を食べだした。

 

「鍋美味しいです」

 

陽炎が不知火の碗に取り分けながら言ってきた。

 

「それは良かった、作った甲斐があったよ」

 

俺の言葉を聞いた時雨達が驚いていた。

 

「紫苑さんが作ったの!」

 

時雨達はてっきり間宮だと思っていたらしい。

 

「私は材料を切ったくらいしかしてないわよ、後は全部紫苑がやったの」

 

その後は和やかに鍋を堪能した。

 

「締めはうどんだ」

 

そして食べ終えると、吹雪達に連れられて時雨達は部屋へと戻っていった。

 

「さてと俺たちも後片付け終わらせよ「それは私と間宮ちゃんでやるから紫苑は、ね」う」

 

俺は千歳と間宮に台所から追い出され自室へと戻った。

 

「隼鷹、ホイ」

 

俺は缶チューハイを隼鷹に手渡した。

 

…………

 

で結局、皆集まってきた俺と隼鷹の部屋に。

そして始まる何時ものちょい呑み会。

 

「あんた達は何時もかい」

 

ばあちゃんが呆れながらやって来た。

 

「そういうばあちゃんも手に持っているものは何かな」

 

ばあちゃんの手には六本パックの缶ビールがあった。

 

「つまみはチーズとサラミくらいしかないけど……」

 

と言うと俺は小型の冷蔵庫から取り出した。

こうして晦日の夜は更けていった…何時もと変わらぬ夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第45話 年越し③(改2)

「隼鷹、筑前煮出来たよ」

「吹雪ちゃん、紫苑から筑前煮貰って」

「海老天麩羅揚がるよ」

「間宮ちゃん天麩羅こっちに」

「野菜切り終わったよ」

「私に頂戴」

 

朝から台所は戦場だった。

時雨達は母さん達に連れられて市内観光をしている……親父を置いて。

 

「親父、深雪達と隣の鳳翔さんから蕎麦用のどんぶり借りてきて」

 

親父がわかっといって深雪と保養所の厨房に向かった。

 

「間宮、栗きんとん頼む」

「紫苑、伊達巻これ位の厚みでいい?」

 

次から次へと料理が出来上がりだした。

そしてそれらは次々とお重に詰められていった。

 

「千歳、お餅切っといてもらえる」

「わかりました」

 

千歳が包丁とまな板を持ってテーブルの上でお餅を切り出した。

 

「初雪は白雪と鏡餅飾ってきてくれ、あと鳳翔さんとこにも持っていって」

「数の子と黒豆これくらいでいい?」

 

青葉も今日はカメラから包丁に持ち替えて奮闘している。

 

「ちょっと誰ですか!伊勢海老なんて買ったの」

 

間宮がお重のど真ん中に鎮座する伊勢海老を見て呆れた。

そんなこんなでお節も無事に出来上がった、一部隣の鳳翔さんから頂いた物もあるが(鳳翔さんの所にも伊勢海老は鎮座している、伊勢海老を入れた犯人はあの店長です……サービスサービスとか言いながら)。

 

「紫苑、車借りるぞ…今晩は軽めにしたほうがいいだろ父さんが焼き鳥買ってくる」

 

そう言うと親父が俺の車の鍵を持って町に出掛けていった。

 

「それなら焼き鳥丼にするか」

 

夕食は満場一致で焼き鳥丼となった。

 

そして迎えた23時。

 

「お邪魔しますね」

 

鳳翔さん達もやって来た。

 

「年越し蕎麦は天麩羅蕎麦です」

 

俺と間宮、千歳とで配膳した。

 

「パンパカパーン」

 

愛宕がいつもどおりだった。

 

「扶桑姉様…こんなに大きい海老が」

 

山城が幸せそうに海老を食べていた(不幸姉妹ではないので何事もなく普通に海老の天麩羅を食べてる)。

 

「えっと、今年一年皆にはお世話になった、また来年も宜しく」

 

俺の挨拶にツッコミが入った。

 

「なんや、お世話になるんは隼鷹ちゃうんか?」

 

龍驤が茶々を入れた。

 

隼鷹は……恥ずかしかしいのかモジモジと下を向いていた。

 

「ここの所長が紫苑さんで本当に良かった、こうして笑いながら年を越せるなんて」

 

高雄がしんみりとしていた。

 

「遅れてゴメン」

 

やっと姉貴夫婦が到着した。

俺は姉貴達にも年越し蕎麦を出した。

 

「あら紫苑ありがと」

 

そしてうちからは誰一人欠けることなく年を超す事ができた。

 

ーーーー午前0時ーーーー

 

そうして鳳翔さん達が保養所に戻っていった

俺、除夜の鐘を聞きながら、俺は隼鷹に口吻をした。

 

「隼鷹とこうしていられて幸せだよ」

「私も」

 

皆寝てると思っての行動だった……だが皆寝たフリだったのだ。

 

「ヒューヒュー」

 

キスした瞬間どっと盛り上がった。

 

「よっお二人さん」

 

深雪が冷やかして来た、俺は苦し紛れに親父に頷くと、

 

「吹雪、白雪、初雪、深雪、時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮こっち来て」

 

一人5袋のポチ袋が手渡された。

 

「これは?」

 

時雨達は何を貰ったのかわからずにいた。

 

「俺と隼鷹、母さん達、姉貴達、千歳達、ばあちゃんからお年玉だよ」

 

吹雪達はお礼を言うと時雨達と部屋に戻っていった(後で聞いたら皆1万入れていたそうだ…一人5万)。

 

ーーーー元旦ーーーー

 

「明けましておめでとう御座います」

 

俺と親父は普通の洋服なんだが…ばあちゃんを筆頭に全員いつの間にか買ったのか振り袖を着ていた。

 

「着付けはワシがやった」

 

ばあちゃんが自慢気に言った。

 

「事前にね」

 

母さんが種明かしをした。

あまりの嬉しさなのか陽炎が泣いていた。

 

「陽炎もヌイヌイも時雨も夕立も黒潮も似合ってるぞ」

 

俺は陽炎が泣き止むのを待った。

 

「さてと初詣といきますか」

 

俺は車の準備をした。

 

「それじゃ俺と青葉と千歳、間宮と姉貴の車に分乗してくれ」

 

ちなみに俺の車には隼鷹、時雨、夕立と吹雪が乗った。青葉の車には白雪、陽炎、不知火が乗った。

千歳の車にはばあちゃんと親父、母さんが乗った。

間宮の車には、夕張と黒潮、初雪、深雪が乗った。

姉貴達夫婦は二人っきりだ(仕方ないだろう誰が乗りたいと思う?リフトアップされたクソ車高の高くなったピックアップトラックなんかに…)。

 

俺達は初詣を済ますと、吹雪達の買い物に付き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




姉貴(紫織)の車は、トヨタハイラックスのリフトアップ仕様です…一応ダブルキャブなのです。
パジェロを千歳に譲って結局ピックアップトラックを買うのです…。


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第46話 ゆっくりすぎる休日(改2)

1日、2日と母さん達がいた騒がしい日々も終わりを告げた。

 

「明日からは業務開始だな…」

 

俺は隼鷹と本を読みながら連休最終日をのんびりと過ごすことにした。

はずだった。

気が付けば、吹雪達以外は一人また一人と俺の部屋に集まってきた。

 

夕張はソファベッドに寝転がってタブレットで動画配信を観ていた。

青葉はノートパソコンで今週分の『週間 鹿屋』の校正をしていた。

間宮は明日からのお昼の献立を考えているようだ。

千歳は…アガサ・クリスティをまとめ買いしたらしくそれを読んでいた。

そして、俺はと隼鷹は横溝正史の探偵推理小説を読んでいた。

 

「紫苑お腹すいたー」

 

青葉が時計を見て言った。

 

「もうこんな時間か…今から作るのも面倒くさいなぁ、ピザにするか」

 

俺の提案は可決された。

 

「配達より取りに行った方がお得なのよ」

 

千歳が一枚のチラシを寄こした。

そのチラシには店舗受け取りだと一枚に付き(金額指定あり)一枚サービスとあった。

 

「なるほど、確かにお得だな」

 

俺達はあれにしようこれがいいとメニューを見ながら決めた。

 

「じゃあ注文入れるぞ」

 

俺はピザ屋に電話すると注文を入れた。

 

「これのLサイズを2枚とこっちのLサイズを2枚、サイドメニューはフライドチキンとポテトを各10個と……店舗受け取りでお願いします、紅東と云います」

 

俺は注文を終えると、車の準備をした。

 

「それじゃ取りに行ってくる」

「私も行く」

 

俺が出かけようとしたら、青葉と間宮もついてきた。

 

「量が多いから助かる」

 

俺は市内の宅配ビザ屋へと向った。

 

「電話で予約した紅東です」

「いらっしゃいませ、お品はこちらになります」

 

店員がピザの大小合わせて8箱とサイドメニューの入っている箱をカウンターの上に置いた。

 

「こちらがキャンペーン商品です」

 

そう言うと店員が一回り小さなビザの箱を指差した。

 

「千歳の言ってたことこの事か…確かにお得だな」

「間宮、待っている間に前のコンビニでコーラ買っといてくれ」

 

俺は間宮に飲み物を頼もうとした。

 

「お客様、ネット予約特典が御座いまして、お飲み物もおつけ致しています」

 

缶コーラがピザ1枚に2本付いてきた。

 

「間宮、飲み物は付いてるみたいだから買わなくていいぞ」

 

ピザ屋から出ようとした間宮を俺は呼び止めた。

 

「お待たせいたしました、お会計はこちらになります」

 

俺は会計を済ますと、間宮と青葉に手伝ってもらって車に載せた。

 

「それじゃ帰るぞ」

 

コーラや烏龍茶をサービスで貰ったが……吹雪達ならいざしらず、俺達呑助はビールを求めたのだった!



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第47話 紫苑の新メニュー(改2)

「二人分の材料はと…合挽肉300g……玉ねぎ1/2個…卵3個うち2個は茹で卵…ミックスベジタブル50g…パン粉と牛乳は大匙1と、なる程ハンバーグと途中まで同じなのか…それで大きく広げたラップの上に具材を四角く広げて、真ん中に茹で卵を乗せると、後は巻きずしの要領で包むんでレンジで10分加熱か…」

 

俺はとある料理マンガに出できたスコッチエッグみたいなミートローフを試しに作っていた。

 

ーーーー約10分後

 

「出来たか、どれどれ」

 

俺は出来上がったミートローフもどきを持って保養所の厨房へと向った。

 

「鳳翔さんいる?」

「あら紫苑さん、どうかいたしました?」

 

厨房の奥から鳳翔が割烹着姿で顔を出した。

 

「うちの新メニューなんだが、感想を聞きたくて」

 

そう言うと俺はミートローフもどきを鳳翔に手渡した。

 

「ミートローフですか」

 

鳳翔は受け取ると少し切り分けて試食した。

 

「なる程、スコッチエッグみたいなミートローフですね……味は丁度良いですね、ソースもケチャップとウスターソースを混ぜたものですか、隼鷹さんや千歳さんあたりはお酒って言うんじゃないですか」

 

鳳翔が微笑みながら感想を言ってくれた。

 

「少ないですけど残りは皆で分けて」

 

そう言うと俺はあと1つを鳳翔に手渡した。

 

「あらあら、すみませんそれじゃあ御馳走になりますね」

 

俺は自宅のキッチンに戻ると、14人分のミートローフもどきを作ることにした。

 

ーーーー1時間後

 

「ふー、何とか夕飯には間に合ったか」

 

俺は出来上がったミートローフもどきを切り分けると間宮が作ったキャロットグラッセと一緒にお皿に盛り付けていった。

 

「今日は兎に角疲れたなぁ、風呂が気持ちよかったよ、こりゃビール欲しくなるねぇ」

 

隼鷹が肩を鳴らしながらやって来た。

 

「あらいい匂い」

 

千歳が髪を拭きながらキッチンにやって来た。

 

「へー、新メニューだ」

 

吹雪達も湯上がりでやって来た。

 

「厚切りミートローフ…」

 

夕張と間宮が眼を輝かせていた。

 

「紫苑もビールでいい?」

 

隼鷹が冷蔵庫からビールを出してきた。

 

「中身茹で卵なんだ…スコッチエッグみたい」

 

深雪は既に食べ始めていた。

 

「紫苑…お姉ちゃんも食べたいなぁ…」

 

来ることは予測はしていた姉貴夫婦が何時の間にか食卓を囲んでいた。

 

「義兄さんは運転があるから飲めないとして姉貴はどうする?」

「私もビールで」

 

俺は隼鷹にもう一本ビールを冷蔵庫から出してもらった。

 

そんな時だった、俺のスマホに一件のメールが届いた。

 

「メール…母さんからだ」

 

内容は、ただ一言『ミートローフ私も食べたい』だった。

 

「なんで母さんが知ってるんだ?」

 

俺の疑問の答えは簡単な事だった、青葉が写メを送っていたのだった。

 

「間宮の作った、キャロットグラッセも美味いな、おかわりあるか?」

 

俺は間宮の作ったキャロットグラッセをおかわりしていた。

 

「紫苑のミートローフも美味しい」

 

青葉がミートローフを盛り付けた皿を写真に撮っていた。

 

「今週の特集記事はこれでしょ、そうそうさっき鳳翔さんからメールが来てミートローフ大人気だったってさ」

「へー鳳翔にもあげたんだ…それならレシピ教えといてよ、保養所のメニューに載せるから」

 

姉貴は保養所のメニューとして載せたいらしい。

俺はこんな簡単なものならと頷いた。

 



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第48話 日常のお仕事(改1)

今回は少し真面目にいきます。


「大隅半島沖に於いて不審船舶の出現の件申し送りいたしました」

「大隅半島沖に於いて不審船舶の出現の件申し受けいたしました」

 

俺は当直担当の監視所からの申し送りを受けた。

 

「不審船舶の特徴をお願いします」

 

今日の哨戒担当の千歳が確認した。

 

「見た目についてはごく普通の大型漁船なのですが…船体に記載された番号の登録がないのです…それと我々が近づくと逃走を図ります、かなりの速力なのでうちの旧式海防艦では追いつけませんでした、そちらなら空母や特型駆逐艦がいらっしゃるので追いつけるかと、詳細は後程メールで送ります」

 

向こうの国後が悔しそうに答えた。

 

「わかりました」

 

こうして朝の引き継ぎを終えた。

 

「不審船舶か…密漁か密輸といったところだろうな」

 

俺は頭に浮かんだままを口にした。

 

「…船舶番号を偽造してまでやるものかしら」

 

千歳は何か別の理由ではないかと思っている様子だった。

 

「取っ捕まえればわかることだな、じゃ今日の勤務開始だ、千歳哨戒パトロール頼む」

 

俺は何時ものルーチンワークを開始した。

 

そして昼過ぎの哨戒を始めてすぐに千歳からの通信が入った。

 

「哨戒パトロールの千歳から電文、大隅半島沖にて不審船舶複数を認、船舶番号に該当なし指示を求む」

 

青葉が電文を読み上げた。

 

「千歳に通信をつなげ」

 

俺は青葉に指示を出した。

 

「どうぞ、繋がりました」

 

俺は青葉からマイクを受け取ると、

 

「増援艦隊到着まで警戒監視とする」

 

俺はそれだけいうと、隼鷹、青葉、白雪、初雪に現場海域への急行を指示を出すと、保養所の支配人室に電話を掛けた。

 

「姉貴、哨戒艦隊が複数の不審船舶を発見した、バックアップの為に扶桑、山城、高雄、愛宕、神通、龍驤に緊急召集をかける」

 

俺は姉貴に伝えるとすぐに夕張を呼び出した。

 

「夕張以下の者の艤装を準備せよ扶桑、山城、高雄、愛宕、神通、龍驤以上6名それと青葉に替わり電探と通信を」

 

電話の向こうで夕張が復唱した。

 

それから程なくして扶桑以下6名がやって来た、俺は概要を説明すると直ぐに向かわせ、千歳と隼鷹に扶桑艦隊到着後、扶桑を旗艦とし速やかに包囲拿捕の指示を出した。

 

「扶桑から入電、扶桑艦隊到着これより臨検を開始するです」

 

向こうは3艦隊に包囲され観念したのか臨検を受け入れたらしい。

 

「所長、近隣の監視所ならびに鹿屋基地からの増援艦隊も現場に到着との事です」

 

青葉に替わり電探と無線を夕張が操作していた。

 

「不審船舶群は鹿児島の水上警察署ヘ引き継ぎ完了との事です」

 

何事も無く終わったみたいだ、増援艦隊はそれぞれの母港へと帰還していった。

俺は出港用スロープへと向った、艦隊を出迎える為に。  

 

「哨戒パトロール艦隊ならびに緊急召集艦隊全艦損害無く帰還しました」

 

総旗艦の扶桑が報告した。

 

「ご苦労、扶桑さん済まなかったね、今晩は家でごはん食べていっても構わない」

 

俺の言葉に嬉しそうに頷いた。

 

「それでは今晩はお邪魔いたしますね」

 

そう言うと扶桑達は艤装を係留しにドックへと向かっていった。

 

「結局不審船舶群って?」

 

夕張が聞いてきた。 

 

「水上警察署の話だと、密輸と密漁の両方だったそうだ」

 

幸い今回の不審船舶は食うに困った人々がやむおえず密漁と密輸に手を出したと云うのが結論だった。

その日の夜は扶桑達と食卓を囲んでの賑やかな夕餉となった。

 

敢えて言おう!保養所の扶桑姉妹は不幸姉妹では無いということを!

二人共良家のお嬢様と云う空気を醸し出していた……鳳翔さんといい和服姿のにあう二人であった……うちの千歳も似合うが!

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとだけよ~真面目に書きました。


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第49話 やりやがったなぁ!!(改1)

ちょっと物騒な(?)タイトルですが……


その日、家には俺しかいなかった。

何故なら吹雪達は艦娘中学の修学旅行で佐世保へ、間宮と夕張、青葉は宮島へ旅行、隼鷹と千歳は母さんの所に呼び出されて東京だ…。

 

「暇だ…そういえば買ったっきりやってないゲームあったな」

 

俺は最近買ったPS4を起動させた。

 

『バイオハザード7』

 

パッケージにはそう記載されてきた。

 

「あいつらが帰ってくる前にある程度進めとくか、騒がしくなってバイオハザードの怖さ半減するからなぁ」

 

俺は部屋の電気を消すとゲームを始めた。

 

「ん?もうこんな時間か…夕飯作るか」

 

俺はゲームを一旦中断すると部屋の照明をつけようとリモコンを操作した。

 

「??」

 

リモコンを操作しても照明が点かなかったのだ。

 

『ゴト』

 

台所の方で何かが落ちた様な音がした。

 

「何だ…」

 

俺は懐中電灯を探すと台所へ向かった。

 

「なんの音だ?」

 

俺はダメ元で台所の照明スイッチを操作した、結果はやはり点かなかった。

 

「台所もか…球切れじゃねぇな…」

 

等と考えていると足元になにか転がっていた。

 

「ビール?」

 

『バタン!』

 

今度は何処かの部屋の扉が閉まる音と微かながら足音も聞こえていた気がした。

 

「俺しか居ないはずだよな……」

 

俺は台所から出ると恐る恐る音のした部屋へと向った。

 

「確か……こっちから聞こえたよな」

 

俺は姉貴が使っていた部屋の前に来ていた、

 

「誰かいるのか?」

 

俺は一応声を掛けながら扉を開けた、だが其処には誰もいなかった。

 

「嘘だろ…」

 

俺は背筋が凍る思いをしながら自分の部屋へ戻ると、ソファに座り…その時だった。

 

「紫苑さーん」

 

座った直後背後から冷たい手がいきなり俺の顔を撫でた。

 

「うヒャぁー!」

 

俺は柄にも無く悲鳴を挙げた。

 

「紫苑さん、うヒャーだって」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「誰だよ……」

 

振り返ると其処には時雨達がいた。

 

「私は止めよう言いました」

 

不知火が一応は反対したみたいだ…だが俺の顔に触れた手は不知火の手だったと思うのだが。

 

「その割には率先して……「反対しました」」

 

黒潮を睨みながら不知火が何やら自分は反対したと言っていた。

 

「不知火……自分だけ良い子になろうなんて酷いね」

 

時雨がやれやれという顔をしていた。

 

「不知火いくらなんでも…」

 

黒潮が呆れていた。

 

「全く脅かしやがって…ヌイヌイ」

 

不知火は俺のヌイヌイ呼びに反抗しなかった。

 

「仕方ありません不知火に落ち度ありまくりなので…甘んじてヌイヌイ呼び受け入れます」

 

一段落付いたところで、俺はある事を聞いた。

 

「お前ら飯は?」

「まだです!」

 

其れは見事にハモって答えが返ってきた。

俺は冷蔵庫をあさると、

 

「かんたんなもので良ければ今から作るが……「お願いします」」

 

時雨以下眼を輝かせていた。

俺は冷蔵庫から筍とがんもどき等を取り出すと料理を始めた。

 

「お待たせ、筍ご飯とがんもどき、なめこの味噌汁位しか出来ないが」

「いただきます!」

 

いつものクールな印象を何処に捨ててきたのか不知火が満面の笑みでおかわりを要求してきた。

まぁ作った料理を美味しいと食べてくれるそれだけで作ったかいがあったと云うものだ。

 

「羨ましいっポイ……毎日紫苑さんの手料理食べられて」

 

夕立が特徴の癖っ毛をピコピコさせながら呟いた。

呟きを聞いた俺は日曜の夜、月曜日の朝イチで帰る時雨達の為に電車の中で冷えても食べられるように少し味を濃くした筍ご飯を弁当として作っておいた(おかずは卵焼きと唐揚げ)、勿論婆ちゃんと母さんの分も持たせた……後日オヤジから俺の分無いと執拗に電話攻勢を受けたのは俺の落ち度だ(仕方ないので自分で作れと筍を送っておいた…母さんに作ってもらってくれ)。

 

 

 

 

 




この家のブレーカーは各部屋ごとに別れており、更にコンセントと照明の2系統になっていますのでこのような事が可能なのです。
まぁ暗がりでホラーゲームやっていて家中の照明点かないと焦りますね…そして誰も居ないはずなのに何かの落ちる音や扉が閉まる音がすれば誰でもビビります。


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第50話 またやってきた……夏といえば!(改1)

今年もこの季節がやってきました!


「何か面白いテレビやってないね……」

 

夕張がブツブツ文句を言いながらテレビのチャンネルを変えていった。

 

「この時期はオリンピック一色だからな…それならネット配信サービスでも見るか」

 

俺は最近購入したPS4の電源を入れた。

 

「ネフリかこれくらいか…」

 

結局は動画配信サイトをダラダラと見る事にした。

 

「何か面白いのあった?」

 

隼鷹がビール片手にやってきた。

 

「ほい、紫苑」

「サンキュ」

 

俺は隼鷹から缶ビールを受け取ると、とある投稿者の動画を連続再生にした。

 

「あははは…やっぱりこうなるよね」

 

その動画は何か出ると言われる無人の古民家に一人で泊まるというものだった。

 

「再生ちょっとまって、皆も呼ぶから」

 

隼鷹が内線で全員に声をかけていた。

 

「皆も飲み物とお菓子持って来るってさ」

 

そうしているうちに、全員が俺の部屋に集まって来た。

 

「それじゃ始めるぞ……」

 

俺は動画の再生を再開した……しかしそれは選択を誤った、何故なら……うちと同じような無駄に広い古民家が舞台となっていたのだ。

 

「なぁ……この家……屋根裏とか無いよな…」

 

深雪が涙目になりながら聞いてきた。

 

「確かある筈だぞ……空調設備設置に使ってる」

「何にも無いよね……」

「御札とか配膳されたような食器とかか?」

 

俺の最後の言葉に深雪がひぃと悲鳴をあげた。

 

「安心しろ、そんな物は何も無かった筈だ……」

 

俺はわざと最後に間を開けた。

 

「何だよ、何なんだよ……最後の間は!」

 

深雪がビビっていた。

 

「冗談だよ、何もなかったよ」

 

ようやく落ち着いたのか恨めしそうな目で俺を睨んでいた。

 

本当の事を言うと……この家には地下室が存在していた。

 

結局、また全員が俺の部屋にお泊りとなった。

 

ーーーー翌日ーーーー

 

「実はな…この家は地下室があるそうだ」

 

俺は朝食の時にこの事を話した。

 

「へー地下室ねぇ、何があったの?」

 

隼鷹が聞いてきた。

 

「倉庫というか……壊れたストーブや使わなくなった季節物が押し込まれていた位だな、捨ててしまって構わないそうだ…皆で地下室の片付けを今日はするか」

 

深雪達は昨日の事は何処へやらで地下室へと降りていった。

 

「埃とか凄いな……」

 

初雪がマスク越しにぼやいていた。

 

「お兄ちゃん…この取手なんだろう?」

 

吹雪が何か扉の取手を思わせるものを棚の後ろに見つけた。

 

「棚で隠す位だから、何かありそうだな」

 

俺はその取手を引いた。

 

 

「何だこの部屋は……」

 

其処は明らかに他と違い、その部屋からは冷たい空気が流れ出てきた。

 

「何が…」

 

夕張が恐る恐る部屋の中を覗き込みながら口にした。

 

「……エッチィなフィギュアが沢山……」

 

夕張が顔を真っ赤にして出できた。

 

「まじかよ」

 

俺も部屋の中を覗いたが、直視するのも恥ずかしい物ばかりだった。

 

「処分するか……」

 

俺はフィギュアの写真をスマホで撮影していった。

 

「百以上あるな…やっぱりこの手の専門業者に引き取ってもらうしかないな…売れば飲み代くらいにはなるか…」

 

等と邪な事を考えていたのだった。

 

「お兄ちゃん、このフィギュアだけ未開封なんだけど……」

 

夕張が4つの箱を持ってきた。

 

「中身想像できるけどなぁ」

 

等と言いながら俺は包装紙を剥がした。

 

「嘘だろ…」

 

それは隼鷹が巻物状の飛行甲板を拡げて艦載機を召喚しようとする姿のフィギュアだった、

 

「そうすると残りは、やっぱりか」

 

残りの3つは飛鷹と千歳、千代田の勇ましい姿を再現した物だった。

 

「この4つは残す…取り敢えず、隼鷹と千歳のは飾ろうぜ」

 

俺は隼鷹と千歳のフィギュアを自室のテレビ脇に飾った……あとから聞いた話だが、このフィギュアのモデルは千歳と隼鷹だったそうだ。

 

「結局地下室は、前の所有者が隠し通した恥ずかしい遺産の隠し部屋だったと言う事だ、良かったじゃないか、心霊的な部屋じゃなくて」

 

俺は深雪達と笑った。

 

後日談…数えた結果260体あったエッチなフィギュアはその手の専門業者に査定をして買い取ってもらった……買い取り金額だが、ちょっとした高級乗用車が買えるくらいの金額になった(事前に写真データを送っていたので業者は知っていた……大半が数量限定のプレミア物だったそうだ)、因みに地下室の使い途についてだが、大量のエッチなフィギュアがあった部屋は共用の書庫として使う事になった、手前の小部屋はワインセラーとして活用する事にした。

 



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第51話 祖母からの荷物

「宅配便です、お届け物をお持ちしました」

 

丁度早番の千歳達と昼食を取っていると、インターホンが鳴らされ宅配便業者が玄関前に立っていた。

 

「はーい、今行きます」

 

間宮がインターホンに応えると、玄関へと小走りに行った。

 

「ダンボール5箱……………かなり重いですが」

「そこに置いてください」

 

間宮と宅配便業者のやり取りが聞こえた。

 

「紫苑、お祖母様からの荷物だって」

 

間宮が伝票を見せてきた。

 

「ばぁちゃんからか…中身はワレモノ?食品?」

 

俺は玄関に向かうと、ばぁちゃんからかの荷物をダイニングへと運んだ。

 

「確かに重たいな……………中身はと」

 

俺はダンボールを開梱した。

 

「おっ、らっきょうと梅酒か」

 

ダンボールの中身はらっきょう漬けと自家製の梅酒だった。

 

「紫蘇とたまり醤油、甘酢と梅酒二瓶……………」

 

取り敢えず味見を兼ねて俺はらっきょう漬けをそれぞれ皿に取るとテーブルに出した。

 

「ばぁちゃんからのらっきょう漬け、たべてみ」

 

千歳が真っ先にたまり醤油味のらっきょうを箸で摘むとぱくりと口に入れた。

 

「くー、お酒のおつまみに丁度いいと味ですね」

「だろう、これだけで酒が進むよな」

 

俺は甘酢(ピリ辛)をポリポリ齧りながら、千歳に同意した。

 

「夕張、食べすぎるなよ……………お前お腹壊すくせにらっきょうとかにんにく好きだからな」

 

俺はそれとなく夕張に注意した。

 

「そうだね…あとは夕飯の時にする」

 

夕張は2個3個摘むと食べるのを止めた。

 

「確かに癖になりそうな歯応え」

 

深雪が壺の蓋を開けるとたまり醤油味のらっきょうを皿に盛っていた。

 

「千歳……………梅酒は勤務終了したらな」

 

俺が千歳を見るとぐい呑みを持って梅酒の瓶を開けようとした千歳と目があった。

 

「う~イケズ」

 

訳のわからないことを言いながら千歳はぐい呑みを仕舞った(隼鷹も同じ事をしようとして青葉に止られたらしい)。

俺は直ぐにばぁちゃんに電話を入れた。

 

「ばぁちゃん、久しぶり…荷物受け取ったよ、らっきょうありがとうみんな美味しいってさ……………早速梅酒飲もうとしたバカタレが2名ほどいたけどな」

 

俺はばぁちゃんとその後も他愛も無い話をして電話を切った。

 

そしてその日の勤務終了後

 

「たっく、お前たちはパブロフの犬か!」

 

隼鷹と千歳がぐい呑みを持って梅酒の瓶を涎を垂らしながら開けていた。

 

「か~堪んないねぇ」

「ホントに、最高!」

 

二人共ストレートで呑んでいた。

 

「紫苑は呑まないの?」

 

間宮がストレートをこれまた普通のコップで呑みながら聞いてきた。

 

「呑むよ……………但しお前たちのペースに呆れただけだ」

「とか言いながら、自分だってストレートじゃない」

 

間宮が俺のコップを指さした。

 

「俺はちゃんと梅の実も食べてる!」

 

俺の反論に、

 

「実が入っていたってどっちもストレートじゃない」

 

夕張が梅の実を噛りながら呆れていた。

因みにらっきょう漬けは姉貴の処の鳳翔さんにもお裾分けした。

 



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第52話 秋の味覚、再び

「皆と鹿児島に行ってくるね、夕方には戻るから」

 

そう言うと、朝から隼鷹は千歳や吹雪達とでかけていった。

 

「残ったのは俺だけか…」

 

俺は着替えると、買い物に行くことにした。

 

「久し振りに出掛けるか」

 

 

俺は町に買い物に出掛けることにした。

 

「何処に行くか………」

 

買い物にといいつつ、宛もなく車を走らせた

 

「農協の直営販売所か、覗いてみるか」

 

俺は農協の直営販売所の駐車場に車を停めた。

 

「電話か」

 

車を降りて買い物でもと思った矢先、俺のスマホに着信が入った。

 

「誰だ?」

 

俺はスマホの画面を見た。

 

「母さん、久し振り…わかった、用意しとくよ」

 

俺はスマホを切った、

 

「母さんと時雨ちゃん達が来るか………」

 

達ということは時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮の5人が来るだろう。

 

「なら材料を多めに買わないとな」

 

俺はそう言うと農協直営販売所に入っていった。

 

「さて………何があるやら」

 

俺は必要なのもを買い終えると、近くのファミレスで昼食を取ることにした。

 

「ファミレスなんて久し振りだな」

 

俺はメニューを見ていた。

 

「そうだな………」

 

一人少し早めの昼食を終えると帰宅することにした。

 

………帰宅………

 

 

「さてと、始めるか」

 

俺は農協直営販売所で買ってきた栗を先ずは冷凍庫に入れた。

 

「ネットの記事で栗を一晩冷凍庫で凍らせてから熱湯に5分漬けると簡単に鬼皮と渋皮が剥けるらしいが本当なのか?、本当なら栗ご飯も手間が減るか」

 

またしても俺のスマホに着信があった。

 

「はい、紅東です………母さん、うん…うん、わかった、夕食はこっちで…うん、じゃまた後で」

 

俺は電話を切ると、

 

「到着は18時頃か、おかずもあと一品位なら作れるか…………材料多め買っといて正解だったな」

 

俺が母さんや時雨達の部屋の用意を終えると、それなりの時間になっていた。

 

「栗の下準備やるか…」

 

俺は冷蔵庫から栗を出すと、沸騰しているお湯の中に入れた。

 

「入れて5分………」

 

 

俺は5分待つと、火を掛けたまにして栗の皮剥きに取り掛かった。

 

「おおっ!」

 

ネット情報通りに簡単に鬼皮と渋皮が剥けた。

 

「こんなに簡単に剥けるのかよ………」

 

俺は驚きながら次々と剥いていった。

 

「あとは炊きあがるのを待つだけだな」

 

総ての栗を剥き終えると炊飯器の中に入れ炊飯を開始した時だった、玄関の扉が開く音がした。

 

「誰か来たな、多分時間的に隼鷹達の帰宅か」

 

そのとおりだった、

 

「紫苑ただいまぁ」

「おかえり、これから母さん達が遊びに来るって言ってたぞ…あと2時間くらいで着くはずだ」

 

少しの間を起き…。

 

「お母様来るの!」

 

隼鷹が慌ただしく着替えに向かった。

 

「何を慌てているんだか………」

 

俺は呆れながら栗ご飯の炊ける匂いを感じながら茄子の煮浸しを作ることにした。

 

「千歳、姉貴に電話しといて」

 

俺は姉貴への電話を頼んだ。

 

「いいわよ、お母さん達の到着予定と他に何かある?」

「いや、それだけでいい」

「了解」

 

千歳が直ぐに電話を掛けた。

 

「紫織、母さん達18時頃につくってよ」

 

千歳が要件を伝えると電話を切った。

 

「17時迄には来れるって」

「了解」

 

俺はダイニングテーブルをどけると大テーブルを2つ準備した。

 

 

 



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第53話 災難というか………。

「お兄ちゃん、ご飯食べたら本屋に行きたいから乗せてって」

 

夕食時、俺は吹雪からそう頼まれた。

 

「構わないぞ、どうせ俺も買い物あるしな」

「私も!」

 

白雪や初雪、深雪も行きたいと言い出した。

 

「じゃあ、飯終えたら行くか」

 

俺は夕食を終えると、

 

「街に吹雪達と買い物行ってくる」

 

隼鷹にそう伝えた。

 

「ならさ、ついでにファミマの焼き鳥宜しく」

 

ついでの買い物を頼んできた、

 

「了解」

 

俺は深雪を助手席に乗せ、あとの三人を後席へと座らせると、街へと向かった。

 

「じゃあ、本屋さん行ってくるね」

 

吹雪達が本屋へと駆けていった。

 

吹雪達を見送ると俺は隣の家電コーナーで映画ソフトを物色することにした。

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

 

吹雪達が家電コーナーにやってきた。

 

「何買ったの?」

 

初雪が俺の買った袋を覗いていた、

 

「エイリアン………陰陽師………トラ・トラ・トラ………エイリアン観たい」

 

初雪がエイリアンシリーズに興味を示した。

 

「帰ったら観るか?全シリーズのセット物だからな」

 

そして俺達はコンビニで焼き鳥や駄菓子等を買って車に戻ったその時だった。

 

「お巡りさん、こいつです!」

「幼女誘拐犯です!」

 

俺はど派手な服を着た中年の女性二人から意味不明な事を言われた上に、誘拐犯扱いされいつの間にか警察に通報されていた。

 

「はい?………誘拐犯だって?妹達と買い物をしているだけだが………」

 

どうやら警察官も地元の駐在ではないようで、俺の事を完全に誘拐犯だと思っている様子だった。

 

「大人しくしろ!」

「さぁお嬢ちゃん達もう大丈夫だから、こっちへいらっしゃい」

ど派手なオバハン二人が吹雪達においでおいでをしていた、勿論吹雪達は首を傾げていた。

 

「お兄ちゃんが誘拐犯………お兄ちゃんと買い物に来ただけで………何で?」

 

警察官とオバハン二人は執拗に怖くないだとかもう安全だからだとか繰り返していた。

 

「紫苑君、どうかしたんですか?」

 

騒ぎを聞きつけたコンビニの店長が顔を出した。

 

「いやね、この警察官が俺の事を誘拐犯だとか決めつけてね………」

 

店長は俺の話を聞くと、警察官に向かって、

 

「お巡りさん、この娘達は間違いなく、この紅東紫苑君の妹さん達ですよ」

 

警察官はそれでも何か疑いの眼を向けていた。

 

「お巡りさん、疑うのは勝手ですけどね…その行動は君の身を滅ぼすよ、さっき私はこの紫苑君の苗字教えたよね?」

 

ようやくか警察官とオバハン二人ようやく理解したらしく、今度は顔面蒼白となっていた。

 

「紅東………まさか…そんな………紅東って」

 

オバハンがようやく口を開いた。

 

「その紅東だよ」

 

俺と吹雪達の軍籍手帳を提示した。

 

「見ての通りこの娘達の苗字も紅東だ、確認できたな君達は無実の人間を捕まえて誘拐犯呼ばわりしたんだ、覚悟はできているな?」  

 

俺は、オバハン二人と警察官を問い詰めた。

まぁその間にコンビニの店長が地元の駐在員を呼んでくれていた。

 

「紫苑さん、災難でしたね」

 

駐在が、笑いならやってきた。

 

「お二人共パトカーに乗ってください」

 

駐在はオバハン二人をミニパトに乗せると、俺の事を誘拐犯呼ばわりした警察官に向かうと、

 

「今すぐ県警本部に出頭してください、本部長カンカンに怒ってますよ」

 

警察官は顔面蒼白のままパトカーに乗ると、引き上げていった。

 

「じゃあ自分はこれで」

 

駐在もオバハン二人を本所へ連行するといってミニパトで去っていった。

 

「とんだ買い物になったな………」

 

俺は溜息を付くと吹雪達を乗せ帰宅することにした。

 

 

 

 

 



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第54話 災難というか………その後

「ただいま~」

 

帰宅したのは21時を過ぎていた。

 

「紫苑、何かあったのかと心配したじゃないです」

 

青葉が怒っていた。

 

「済まない、勝手な思い込みで警察呼ばれて………誘拐犯扱いされていた」

 

俺はさっきあった事を話した。

 

「紫苑を見て誘拐犯………って」

 

千歳が呆れながら話を聞いていた、

 

「ブッキー達の様子見たら脅されてかそうじゃ無いかなんて判りそうなのにね、そのオバハン二人どうかしてるね」

 

隼鷹も呆れていた。

 

「全くだよ、コンビニでの買い物の様子も観ていただろうに………何処をどう観たら誘拐犯になるのか、俺が聞きたいよ」

 

等と笑いながら買ってきた焼き鳥やおつまみをそれぞれ摘んでいた。

 

「紫苑いる?」

 

そんな時玄関が開いて、姉貴がやってきた。

 

「いるよ~」

 

俺が応えると、

 

「さっき聞いたわよ誘拐犯扱いされていたって」

「まぁね………」

 

俺はヤレヤレといった顔をした。

 

「その紫苑を誘拐犯呼ばわりした二人なんだけどね…どうやら紅東観光開発のパート従業員みたいでね………旦那さんが支社長室に駆け込んできてスライディング土下座して謝罪してきたわよ」

 

そういうとして姉貴は顔は笑っていたが………眼は………だった。

 

「警察から連絡がいったのね、勿論二人は懲戒解雇にしたわよ、何でも旦那さんも離婚届サインさせたと言っていたしね………」

 

まぁ旦那さんの考えは紅東グループを敵にしたくないからの考えからだろうけど………。

 

「旦那さんも方は?」

「旦那さん達は関係ないじゃない、だから何の処分も無しよ」

 

姉貴は公平に処分したようだった。

 

「軍籍手帳を所持していて正解だったよ………」

 

俺はひとしきり笑うと、初雪達とエイリアンシリーズを鑑賞することにした………やっぱりというか、怖くなったのか、少しの物音にもビビり、

 

「お兄ちゃん………今晩ここで寝ていい?」

 

一番の怖がり吹雪が頼み込んできた、上目遣いで。

可愛い妹達に頼まれたら断れねぇよ!

 

「構わない」

 

俺と隼鷹はソファをベッドに組み替えるとそこで寝ることにした。

 

そして翌朝………。

 

「うぎぁー!!!!!」

 

朝から吹雪の悲鳴で目を覚ました。

 

「何だ?」

 

俺は飛び起きた、そして………。

 

「げっ!」

 

其処にはエイリアンのかなり大きめの頭が置かれていた、そしてその周囲には複数の空き箱が散乱していた。

俺はその一つを手に取った、

 

「週間 エイリアン ゼノモーフをつくる………1/2スケール 身長1.2m………」

 

俺はこっちに背を向けて熱心に組み立ていた、深雪の肩を叩いた。

 

「深雪、おはよう………流石に寝ている奴の眼前にこれは不味いだろ、トラウマもんだぞ」

 

俺はエイリアンの頭を手に取った。

 

「しかし、よく出来てるな」

「だろ、何でも頭にセンサーが仕込まれていて、完成したら音のする方に頭を向けて中の口を出すらしいぜ」

 

深雪が冊子を見ながら得意げに説明した。

 

「みたいだな………その前に、吹雪に謝っとけよ、涙目でビビっていたからな」

 

 

俺の後ろで吹雪が深雪を睨んでいた。

 

「吹雪ゴメンサイ…」

「起きたら目の前にあんなの置いてあるんだもん、怖かったんだからね」

 

そりゃ寝起きで目の前に作り物とはいえエイリアンがいたら………吹雪の怒るのも納得だな。

 

俺は深雪から冊子を受け取るとパラパラと読んだ。

 

「最近うちはこんなの流行っているのか?」

 

俺は思わず疑問を口にした、それもそのはずで俺はナイトライダーを作っているし、夕張はいづもを、青葉はマシンRS−1を、吹雪は74式戦車と輸送トレーラーを、白雪はスヌーピーハウスをそれぞれ作っていた。

 

 

 

 

 



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第55話 とある土曜日のお話………夏といえば!少しだけ

とある土曜日

 

 

 

「ソファーは其処には」

 

俺の指示を受けて吹雪と深雪がソファーを指定位置に置いた。

 

「テーブルは此処」

 

青葉と夕張、間宮がテーブルを配置していた。

 

「プロジェクターは此処が宜しいと」

 

電気屋の担当者が天井にプロジェクターを取り付けていた、

 

「スクリーンは距離的に此処になります」

 

普段使いの液晶テレビの前に電動収納式のスクリーンが取り付けられた。

 

当然ながら電源工事が必要となり専門の電気工事業者が天井裏や床下に潜り込んで工事をしていた。

 

「オーディオ系はこちらに設置しておきます」

 

液晶テレビを設置した専用ラックに業者が手際良く設置していった、勿論何かの機材を使って音響のテストをしながら。

 

 

ーーーーーそして夕方ーーーーー

 

「ふぅ、朝から始まってようやく終わったな」

 

改装された部屋を俺は見ていた、

 

「そうだね、私の部屋とくっつけちゃったから広くなったからねぇ」

 

俺の隣で隼鷹が頷いていた。

 

「しっかしベットに座って見ると………大型スクリーンも良い塩梅に見えるね」

 

「紫苑、夕食後ビデオ見よっ」

 

間宮が早速何か見たいようだった、

 

「いいぜ、それならこないだ録画した47都道府県最恐心霊特番がまだ見てないから、それ見よう」

 

俺達は夕飯を済ますと、各々風呂や後片付けを終わらすと、俺の部屋に集まった。

 

「それじゃ始めるぞ」

 

俺は予め起動させていたプロジェクターの入力をPS4に切り替えるとスクリーンを展開させた。

 

「うわぁー流石に綺麗だね」

 

深雪が驚きの声をあげ、

 

「でもさぁ………これだけでっかいと、その………やっぱり」

 

深雪の言いたい事は俺にはなんとなく分かった、横幅約2m、縦幅約1.2mもあるスクリーンで映し出されるその手の映像の恐怖を。

 

「今年のは被りなしか?」

 

吹雪達はワーキャー言いながら見ていた。

 

「………なんだよ今年もこのスタジオで時間割くのかよ………」

 

俺は都内にあるという心霊スタジオの話を見ながら呆れていた。

 

「出演者だけ替えてこれを出すとはな………」

 

等と思っていると締めはやばかった、

 

「いもんた?」

 

全員がその新しいスポットの話に釘付けになってテレビを見ていた。

 

「都内にあるというスタジオ以外はそこそこ怖わかったね」

 

夕張がそんな感想を言いながら、何やら1枚のディスクをセットしていた。

 

「………タイタニック………」

 

そういえば最近、無謀な観光潜水で惨劇が起きていたとニュースでやっていたなと思いつつ、俺達は映画を鑑賞していた。

 

「何時見ても感動ものだね」

 

青葉がハンカチで鼻をかみながらありふれた感想を述べていた、

 

「あの船首でのシーン一時期流行りましたね」

 

千歳が微笑みながら言った。

 

「確かに流行ったな…とはいけ現実の船では立ち入れない場所だから公園の手摺とかでな」

 

なんのことはない俺と隼鷹も敷地内の岬の手擦りでやっていたのだから。

 

「これだよね」

 

青葉がデジカメを取り出した。

 

「だぁ~映すな!」

 

すでに遅く、青葉がデジカメをPS4に接続するとその写真をスクリーン投影した。

 

「へぇ~隼鷹………綺麗」

 

それが皆の感想だった、夕陽を背にあのシーンを真似ているだけなのだが、薄紫の髪が夕陽に映えて美しい写真になっていた………流石青葉が撮っただけのことはあった。

 

その後は………俺達はバイオハザードRe4 をプレイしながら夜中まで騒いでいた。

 

 

 

 

 

 



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第56話 豪華な日曜の………

「今日の昼は野菜の天麩羅にでもするか」

 

俺は間宮、千歳と青果市場で買い物をしていた。

 

「南瓜に玉葱、茄子、椎茸、エリンギ、オクラ………」

 

俺と間宮は天麩羅にする野菜を選んではかごに入れていった、そして会計を済ませて車に戻ろうとした時だった。

 

「誰だ?」

 

俺は不意に鳴ったスマホを見た。

 

「魚屋の店長?」

 

俺は電話に出た、

 

「はい紅東です、はい、はい、はい…それで量は…はい、その位なら」

 

俺は電話を切ると、

 

「千歳、保養所の鳳翔に連絡して、鰻14尾引きと取れないか聞いてくれ、間宮今日の昼は鰻重に変更してくれ、あと姉貴達に緊急呼集…それでもあと6尾か…」

 

俺の指示を聞いた二人が直ぐに連絡を開始した。

返答は直ぐに有り鳳翔は問題無しとのことだった。

 

「お姉さんも直ぐに行くって」

 

「今度はメール誰からだ?………親父…間宮総て捌けたぞ、クソ親父が陽炎達と来る…昼には着くらしい」

 

俺達は急いで帰ると、鰻重の準備に取り掛かった、

 

「夕張、鳳翔にこの鰻の蒲焼き届けてきてくれ」

「うんわかった」

「隼鷹と吹雪、深雪は器を洗ってくれ」

「はいよ」

「千歳は蛤でお吸い物を」

「任せて」

「青葉は部屋の準備を白雪と初雪で頼む」

「了解です」

 

俺は全員に指示を出すと鰻重の用意を間宮と始めた。

そして11時半…何とか人数分の鰻重が出来上がった。

 

「間に合ったな」

 

俺達はテーブルに並ぶお重を見ていた。

 

「さてとあとは親父達が到着するのを待つだけだ」

 

俺は時計を見ようとした瞬間、

 

「お呼ばれしましたぁ~」

「紫苑君済まないね」

 

姉貴と義兄が到着した、

 

「姉貴早かったな」

「だぁって紫苑がお昼に呼ぶんだもん、お姉ちゃん期待して飛んできちゃった…へっ………これって鰻重?」

 

姉貴はテーブルに並ぶ容器を見て涎を垂らしていた。

 

「やっと着いた」

 

それから直ぐに親父達も到着した。

 

「よく来たな」

 

俺は陽炎達を歓迎すると、

 

「荷物はそこらに置いておいて、先に昼にしよう」

 

俺は先に昼食にするように言った。

 

「そうだな、せっかくの………まさか鰻重なのかっ!」

 

親父までもがテーブルに並ぶ容器を見て涎を垂らしていた。

 

「紫苑………僕達の為に」

 

時雨が泣きそうになっていたが、

 

「たまたま、知り合いの魚屋が賞味期限を間違えて売ったらしい………本来なら先入れ先出しなのだけど最初に入庫した鰻を手違いで最後まで残してしまったらしい…それである程度数の捌ける、俺の所と鳳翔の所に救援要請が来たというわけだ、話はあとにして温かいうちに食べようぜ」

 

俺は時雨達を座らせると、鰻重を食べることにした。

 

「鰻美味しい…」

「不知火は…こんな…」

 

時雨と不知火が何やら涙目で食べていた

 

「親父、ちゃんと飯食わせてんのかよ…たまには時雨達にもいいもん食わせてやれよ」

 

俺は時雨達の食べっぷりを見ながら親父にそういった。

 

「紫苑、無茶言うなよ、育ち盛りの娘だぞ…破産するわっ!…でもなんだたまには食べさせてやりたいか………こんなに嬉しそうに食べてくれるならな」

 

俺は久し振りの家族団欒を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 



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第57話 父と俺と…そして

「こうして親父と呑むの初めてだな」

 

俺は、入れ替えた非常食用缶詰をつまみに親父と呑んでいた。

 

「そうだな………こうして二人では初めてだな」

 

親父も頷いた。

 

「最初に隼鷹が来て、それから千歳、青葉、夕張、間宮、吹雪に白雪、初雪、深雪………」

「そうだな、青葉と千歳が親族と判明して………」

 

俺と親父はこの監視所が出来てからの事を思い出していた。

 

「あとは吹雪達も養女にして………紫苑が隼鷹さんにプロポーズして」

 

親父がしんみりと語っていた。

 

「姉貴の結婚もあったな………まさかの出来事だったよ」

 

俺は姉貴の結婚式の事を思い出していた、

 

「親父があの場で爆弾発言して、母さんにどつき倒されて」

「紫苑………あの事は………」

 

そうだった、親父が暴露して親族中から注目されて…大変だったな。

 

「紫苑、おつまみたりる?」

 

等と親父と話していたら隼鷹がビールとおつまみの追加を持って部屋に戻って来た。

 

「お義父さんもはい」

 

隼鷹がさり気なくお義父さんと呼び、ビールを手渡した。

 

「ありがとう」

 

親父も少し照れながら受け取ると、

 

「こんな良いお嬢さんと婚約して…大湊の時では考えられ無かったな………」

「あれは………もう済んだことだし、当事者二人も反省したから」

「そうかそうだったな」

 

隼鷹は俺の横に座ると寄り添い、俺と親父の会話を聞いていた。

 

「あたしも…………お義父さんにこの監視所配属を勧められて、紫苑と知り合えて…本当に良かった」

 

隼鷹の目に光るものがあった。

 

「隼鷹さん、紫苑………末永く幸せにな、紫苑になら出来る」

 

親父はそこまで語ると、それじゃ寝ると言って部屋へと引き上げていった。

 

「紫苑」

「隼鷹」

 

残った俺達はどちらからともなく口吻を交わすと、

 

「幸せになろう」

 

そう誓うと、ベッドへと………。

 

そして翌朝。

 

「あのあと………」

 

俺は裸で寝ていた、ふと隣を見るとやはりというか隼鷹も裸で寝ていた。

 

「この幸せそうな寝顔を………」

 

俺は隼鷹を起こさないように起きるとシャワーを浴びに浴室へと向かった………が、

 

「私も」

 

隼鷹もあとから入ってきた。

 

「おこしちまったか…」

 

俺達は二人してシャワーを浴びると、起きることにした。

 

「紫苑………昨夜は………」

 

隼鷹が少し顔を紅潮させていた。

 

「………」

 

俺は返事の代わりにそっと口吻をした。

 

「紫苑おはよう」

「お兄ちゃんおはよう」

 

その後は千歳達が起き出して来た。

 

「なになに、隼鷹さん幸せそうな顔して、あぁ~そういうことね」

「へっ!」

 

夕張がまだ少しだけ赤い顔の隼鷹をからかっていた。

 

「夕張あまりからかうなよ」

 

陽炎達はポカンとしていたが親父だけは、この光景を嬉しそうに見ていた。

 

「これが日常なんだな………心配は無いようだな」

 

親父達は午前中業務の視察をすると、何処かへ電話をしていた。

 

「紫苑、水曜までいることにしたよ」

 

親父はそう言うと、買い物に行くと言って俺の車で街へと出掛けていった。

 

 

 

 



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第58話 とある土曜日の事

「千歳達は宮崎かぁ」

 

その日、家には俺と隼鷹、吹雪、白雪、初雪、深雪の6人しかいなかった、あとは面子は高千穂峡へと泊まりで出掛けていたのだった。

 

「紫苑、映画でも観ようよ」

「そうだな、なにか面白そうなのはと…」

 

俺はPS4を起動させるとNetflixを起動させた。

 

「お兄ちゃん、私達も観たい!」

 

吹雪達もやって来た。

 

「なら、何か出前で「お寿司!」…」

 

深雪が食べたい物を言った、

 

「たまにはいいか…それじゃ注文するぞ」

 

俺はスマホで寿司屋に注文を入れた。

 

「40分位で配達だそうだ、少し時間があるから何か一品作るか」

「お願い!」

 

俺以外が口を揃えた。

 

「何作っかな………寿司に合って、手軽なもの………」

 

俺は冷蔵庫の中身を見て悩んだ。

 

「紫苑これでもいいんじゃない」

 

隼鷹が鰯の蒲焼の缶詰を持ってきた。

 

「そうだな、賞味期限で非常食から入れ替えたのがまだ残っていたか………」

 

俺は缶詰の蓋を開けながら皿に盛り付けていった、

 

「一人一缶と半分はあるからおかずには丁度いい、お~い吹雪運ぶの手伝ってくれ」

「は~い」

 

俺は吹雪達を呼ぶと、小皿等を運ばせた。

 

『ピ〜ンポ〜ン』

 

玄関のインターホンが鳴らされた、

 

「は~い」

 

俺はキッチンに備え付けられたモニター付きインターホンに出た、

 

「三笠寿司です、ご注文のお料理をお持ちしました」

 

俺は配達された寿司を受け取ると代金を支払った。

 

「毎度あり、それじゃ器は洗って玄関前に出しておいてください、夕方頃回収に伺います」

 

そう言うと、配達した女性は帰っていった。

 

「寿司もきたし、何を観ながらにする?」

 

俺はNetflixのメニューを観ながらあれだこれだと選んでいた。

 

「紫苑、ホラーやスリラー系は却下ね」

 

隼鷹が釘を差した、

 

「となると………鉄板ものとして、鮫系はどうよ?」

 

俺はとある映画を示した。

 

「MEG ザ・モンスター………鮫系?やたら大きいけど」

 

隼鷹が首を傾げた。

 

「ああ、鮫というか、メガロドンというサメのご先祖様がメインの映画だな、メガロドンというのは約2300万年前から360万年前の前期中新世から鮮新世にかけて生息していた絶滅種のサメの事で、大きさはについては歯からの推定で諸説あり推定値で一番小さくて10m、最大は40mとも云われている、現存する鮫で大きさが近いのはウバザメやジンベイザメ辺りだそうだ」

 

俺は登場するメガロドンについてスマホで調べると簡単に説明した。

 

「へぇ~面白そうじゃん」

 

深雪が一番ノリノリで観たいと同意した。

まぁあとの面子も鮫映画にハズレなしという鉄板であることから観ることに同意した。

 

「じゃあ再生開始と、さぁ食べるか」

 

俺達は其々に好みの握り寿司を食べながら視聴した。

 

「へぇ~マリアナ海溝の海底の下にまだ海が有るって面白い発想だね」

 

白雪が設定に感心した。

 

「確かにな」

 

俺もその設定に感心しながらも続きを観ていた。

 

「出だしに原潜が何物かに襲われて爆沈っていうのも、凄いよね」

 

隼鷹が雲丹の握り寿司を食べながら観ていた。

そして映画は進み………。

 

「うぉっ!」

 

海底基地で女の子の背後から迫る巨大なサメの口のシーンになった。

 

「でけぇ………これがメガロドンなの?」

 

深雪が口を開けたまま俺に振ってきた、

 

「多分な…確かにハズレないは正論だな」

 

映画も終盤に差し掛かり、あらかたお寿司も食べ終わった頃…画面には退治された大型の魚が映っていた。

 

「エンディングか?」

 

と思っていた…。

 

「嘘でしょ………鯨とか…」

 

そう、まだいたのだった、前に仕留められた奴よりも更に大型のメガロドンが!

 

「手に汗握るってこういうんだね」

 

吹雪と白雪はエンディングまで観終えると、興奮気味にそういった。

 

「これ二作目もあるらしい…そのうちNetflixでも公開するだろうから楽しみだ」

 

深雪がスマホで調べだ続編情報を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




MEG ザ・モンスターはお勧めの映画です。
だいたいサメの映画といえば、お約束はホウジロザメ辺りなのでしょうけど、絶滅したはずのメガロドンが現代まで人知れず生き残っていてという設定での作品です。

鮮新世(せんしんせい)とは地質時代の一つで、約500万年前から約258万年前までの期間で新生代の第五の時代の事、 新第三紀の第二の世であり、最後の世でこの時期、パナマ地峡の形成や、ヒマラヤ山脈の上昇が激しくなった時代のことです…決して誤字ではありません!!


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第59話 何だこいつら!?

「担当海域に異常認めず、申し送りいたしました」

 

「担当海域に異常認めず、申し受けいたしました」

 

俺は当直担当の監視所へ何時もの業務引き継ぎを行った。

 

「これにて本日の業務は終了とする」

 

俺の終業の言葉を聞くと青葉達が動き出した、

 

「今日も無事に終わったね」

「そうだねぇ〜これからコンビニ行かない?」

 

隼鷹が青葉をコンビニに買い物に行くのを誘っていた。

 

「あっ、私も!」

 

吹雪と初雪、深雪が手を上げた。

 

「あいよ紫苑、車借りるよ」

「なら帰りにガソリン入れてきてくれ」

 

俺はスタンドの会員カードとクレカを隼鷹に渡した。

 

「了〜解、先にシャワーだけ浴びてくね」

 

隼鷹達が先にシャワーを浴びに行った。

 

「さてと………隼鷹達が帰ってくる迄に」

 

俺は間宮と夕食の準備を始めた。

 

『ピーンポーン』

 

インターホンが鳴らされた、

 

「は~い、どちら様ですか?」

 

間宮が応答した。

 

 

「我々は駆逐艦娘地位向上委員会の者です、抜き打ちの査察に来ました」

 

俺は千歳の顔を見ると、

 

「そんな査察の話聞いてるか?」

 

と確認した、

 

「いえ、聞いてないですね………そもそも駆逐艦娘地位向上委員会って聞いたことのない組織ですけど」

 

千歳も知らないらしい、

 

「なんでしょうか?」

 

白雪が首を傾げた。

 

「見た感じでは軍の関係者ではないようですね」

 

間宮がインターホンのカメラ越しに見える集団を観察した。

 

「正面ゲート、駆逐艦娘地位向上委員会とかいう集団が敷地内に侵入しているが、確認はしたのか?」

 

俺は内線を取ると、正面ゲートの警備に確認をした、

 

「いえ、お昼に来た宅配業者以降は敷地内への立ち入りは有りませんが……不法侵入の可能性があります、此れよりそちらに向かいます」

「頼む」

 

俺は内線を切ると、玄関へと向かった。

 

「さて、駆逐艦娘地位向上委員会といったな…貴様ら何処から入ってきた、此処は軍の敷地内だぞ!」

 

俺は代表の女に詰め寄った。

 

「何処からでも良いでしょ、それよ…」

 

そこで会話が途切れた、何故なら警備兵が増援部隊と共に到着したからだ。

 

「貴様ら!」

 

警備兵が警棒を構えて迫った。

 

「我々は、搾取され続けている駆逐艦娘の地位向上と人権………」

 

代表の女が何やら喚いていたが、買い物から戻った吹雪と初雪、深雪を見て黙り込んだ、そして

 

「我々は無駄足だったのか………此処は」

 

そう吹雪達は着た切り雀の制服ではなく、お洒落な私服姿だったのだ、それを見て理解したようで素直に警備兵連れ出されていった。

 

後日談

 

「所長、あの駆逐艦娘地位向上委員会の件ですが、どうやら海沿いを歩いて侵入したそうです、何かしらの対策が必要かと意見具申致します」

 

警備責任者からそう報告があった、

 

「とはいってもなぁ………」

 

俺は青葉と頭を悩ませた。

 

 

 



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第60話 新規配属そして………①

「紅東所長、人事部よりお電話です」

 

千歳が人事部からの電話を取り次いだ。

 

「はい、紅東ですが…」

 

俺は電話に出ると人事部の担当者と話をした、

 

「そうですか吹雪達もそんな時期なんですね………了解しました、補充として天龍と龍田、球磨、多摩の4人を…了解しました」

 

俺は電話を切ると、千歳に指示を出した。

 

「今週の金曜日に天龍と龍田、球磨、多摩が着任する、部屋の用意を」

 

「と…千歳の部屋を一階の客間に変更してくれ、2階を会議室にするから、それと天龍達の部屋だが本人達の希望で離れとなるから用意しておいてくれ」

「了解しました」

 

千歳が白雪達を連れて離れの清掃に向かった。

 

 

 

そして迎えた金曜。

 

「申告、天龍以下4名着任します」

 

天龍が敬礼し俺に着任の報告をした、

 

「着任を許可する、隼鷹部屋の案内を」

「了解しました」

「天龍ついてきて」

 

千歳が天龍達を部屋へと案内していった、

 

「なんだろう………あの天龍さん…」

 

深雪が天龍をみて何かを感じていた様子だった。

 

「天龍にしては確かに大人しすぎるな…大抵はフフフ俺怖だからな」

 

ーーーー天龍サイドーーーー

 

「此処が貴女達の部屋よ、1階が天龍さんと龍田さん、2階が球磨さんと多摩さんね、一応キッチンとシャワーとトイレはあるけど、よかったら母屋の方でみんなとどうかしら?」

 

千歳が簡単に説明していた。

 

「俺は…「天龍ちゃんのお風呂覗こうとしたら…ちょんよ」」

 

途中から龍田が首を着る仕草をしていた。

 

「其処は大丈夫よ、所長には隼鷹という婚約者いるから」

 

道理で…俺は隼鷹に対する所長の態度が納得できた。

 

「でもよぅ、あとの駆逐達に虐待とかしてねぇよな?」

 

俺は龍田や多摩達に振った。

 

「見た感じはなさそうだニャ」

「のびのびしてそうだクマー」

 

多摩と球磨は白雪達の見た感じを話していた。

 

「今いいか?、これから母屋の案内をしたいのだが」

 

紅東所長から内線電話で呼ばれた。

 

「ああ構わないぜ」

 

俺達は私室に充てがわれた離れから出ると渡り廊下を母屋の方へと歩いていった。

 

ーーーーーーー何時もの紫苑視点ーーーーーー

 

「此処が食堂…」

「こっちが風呂、で入口に掛けてある名札を入る時に入浴中に変えるのを忘れるなよ…でないと俺た鉢合わせなんてことになりかねないからな」

「此処がトイレ…一応中で男女に別れてはいる」

 

俺は天龍達に家の中を案内していった。

 

「ねぇ、この表札は?」

 

龍田が玄関から出た所で表札に気が付いて聞いてきた、

 

「見たままだが?、そっか未だ其処を説明していなかったな、この監視所は家族運用なんだ」

「はぁ?」

 

天龍が驚きの声をあげていた。

 

「まぁ普通の反応だよな…家族構成を簡単に話すと、長女は元陸奥、次女は千歳、三女が青葉、4女は間宮、5女が夕張、6女は吹雪、7女が白雪で8女は初雪、最後は9女で深雪てな感じだ」

 

流石の天龍も開いた口が塞がらないという顔だった。

 

「確かに家族運用ね」

 

龍田の顔が少し緩くなっていた。

そして、翌朝。

 

「業務開始前に報告がある、本年末をもって、吹雪以下4名が退役となる、残り1か月位だが気を引き締めてあたってくれ、それと吹雪達は年明けから市内の中学に編入となるから手続きをする」

 

俺は人事連絡をすると朝礼を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第61話 年末に向けて大掃除

今更………監視所内のお掃除回です


「この監視所も少し手狭になってきたな………」

 

俺は監視所として使っている土蔵2階の事務室を見渡した。

 

「でも、もう少ししたら私達が退役だから」

 

吹雪がそういうと、天龍達と事務机の掃除を始めた。

 

「多摩さんは一昨年の書類は全て段ボールに入れてください、球磨さんは裏のプレハブに詰めた段ボールを運んでください」

 

千歳が矢継ぎ早に指示を出していた。

 

「で、俺達は何を?」

 

天龍が龍田と千歳に聞いていた。

 

「お二人は艤装保管庫の整理を夕張ちゃんと願いします、保養所からも4人ほど応援が来ますから宜しく」

「うぃーす」

 

天龍と龍田は1階へと降りていった。

 

「さて………一端艤装保管庫の確認だけでもしておくか」

 

俺は天龍の後について艤装保管庫へと向かった。

 

「鹿監13−1−1隼鷹の艤装か…」

 

俺は艤装ナンバーを確認していた。

 

『鹿監13−1−1 隼鷹

鹿監13−1−2 白雪

鹿監13−1−3 初雪

鹿監13−1−4 天龍

鹿監13−1−5 龍田

鹿監13−2−1 千歳

鹿監13−2−2 吹雪

鹿監13−2-3 深雪

鹿監13−2−4 球磨

鹿監13−2−5 多摩

鹿監13−4 間宮

鹿監13−5 青葉

鹿監13−6 夕張』

と其々に刻印がされ、鹿監13−3は姉貴の番号なので欠番となっている。

 

「さて、俺も始めるか」

 

土蔵2階に戻ると、自身の机と通信室、電探室の整理と清掃を青葉と始めた。

 

「隼鷹は白雪、初雪と共に通常業務を」

「了解、一応手空きの時間で待機室の掃除位はするよ」

 

俺は隼鷹に指示を出すと整理と清掃を再開した。

 

「誰のよこれ!」

 

千歳が何かを手に戻ってきた…。

 

「なんだ?」

 

俺はそれを見て後悔した、何故なら千歳が手にしていたのは…大きさからして姉貴の下着だったからだ、しかも長い事放置されていたらしくカビが生えていた。

 

「多分姉貴のだ…何処にあった?」

 

俺は千歳にあった場所を聞いた。

 

「手持ち無沙汰だからって隼鷹達も待機室で掃除をしていたら出てきたみたい」

 

俺はスマホを取り出すと姉貴を召喚した………こないと母さんにチクると付け加えて。

 

「ちょっ!」

 

慌てた姉貴が駆け込んできた。

 

「!!」

 

姉貴は千歳からそれをひったくると、懐に隠した。

 

「姉貴………今更隠しても無駄、みんな見たから」

 

姉貴は顔を真っ赤にして俯いていた、

 

「無いと思ったら…紫苑…お願いお母様には「もう無理…だって」」

 

俺はそういうと姉貴の後ろを指さした。

 

「紫織?貴女は…」

 

いつやってきたのか母さんが腕を組んで仁王立ちしていた、その時の姉貴の顔は正にムンクの叫びだった。

 

夕刻、業務終了間近。

 

「大掃除も無事に終わった、あとは年内残り約2ヶ月気合を入れ怪我や事故のないように業務にあたってくれ、以上………とここからはオフタイムの話をする」

 

俺は一呼吸おくと、

 

「このあと19時より天龍達の歓迎会を例の居酒屋で行う、各自入浴着替えの後駐車場に集合」

 

業務終了の引き継ぎを終えると、其々入浴に向かった。

そして、何時もの居酒屋でこれまた何時ものように男性客からの怨嗟の視線を浴びながら宴会が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第62話  大改装

「荷物の梱包は大丈夫か?」

 

俺は段ボールに埋もれたキッチンで全員に聞いた、

 

「荷造りOK」

 

夕張が答えた、

 

「このあと引っ越し業者が来て荷物や家具を運び出す、各自仮設プレハブに搬入の指示を出す事、その間は保養所の部屋を借りることが出来た…必要最小限の荷物を持って行くように」

 

俺は荷物の移動や保養所の部屋割りを指示すると、自分と隼鷹の荷物をみた。

 

「2人分だとかなりだな………」

 

ーーーーーー同日夕方ーーーーーー

 

「何とか運び出しは終わったな」

「だねぇ~」

 

俺と隼鷹は臨時に借りた保養所の部屋で突っ伏していた。

 

ーーーーーー更に3日後ーーーーーー

 

「増改築工事は全部終わったよ、明日は朝から荷物の運び込みを始めるから」

 

夕張が俺の部屋に来るとそう告げた。

 

「夕張、室内を観ることはできるのか?」

「妖精さんの作業も終わっているから大丈夫」

 

俺は全員に声を掛けると、工事の終わった我が家の内覧をすることにした。

 

「先ずは1階からか………玄関上がって眼の前は千歳の部屋」

 

俺は室内を覗いた。

 

「和室か………」

 

続けざまに隣の扉を開いた、

 

「こっちは洋室………青葉の部屋か」

「私と間宮の部屋の位置は変わらないよ、ただ私の部屋の前の廊下突き当りに物置と地下倉庫ヘ下りる階段が移設された位かな」

 

俺は間宮の部屋と夕張の部屋を確認した、其々和室と洋室となっていて、其々にロフトベッドが備え付けられていた。

 

「お前たちはロフトベッドなのか?」

「うん、あれって便利だから…あぁ吹雪ちゃん達の部屋もロフトベッドだよ」

 

夕張が其々の部屋を説明していた。

 

「今回の改築で2番目の目玉、ダイニング部分」

「2番目?」

 

夕張が18畳はあろうかというダイニングが其処にはあった、元々は俺と隼鷹の部屋があった場所だった。

 

「お兄ちゃんの部屋と元々のダイニングを繋げて和室化して、隼鷹の部屋は少し狭めて和室の客間に改装してね………」

 

俺は縁側迄繋げられたダイニングを見ていた、

 

「これなら保養所の奴ら呼んでも大丈夫だな」

「うん、それも考慮に入れてのだから」

 

夕張がフンスッと胸を張っていた。

 

俺達は玄関脇の階段から2階へと上がった。

 

「2階が一番の変更かな…6畳2間の客間と20畳のお兄ちゃんと隼鷹の部屋…」

 

俺は呆れた、何故なら前の部屋よりも広くなり………

 

「これは広すぎだろう…」

「そう?」

 

夕張が俺達の部屋を説明した。

 

「こっちの壁は一面プロジェクタースクリーンと普段使いのテレビがあって…こっちは流しと冷蔵庫………」

 

俺は冷蔵庫を開けた………

 

「なぁ夕張、この冷蔵庫の棚に何で全員分の名札がついているのかなぁ?」

「だってぇ~、お兄ちゃんの部屋が全員の居間だから…」

「おいっ…」

 

ホントに呆れた。

 

「それでね、このソファは座面をずらすと………」

 

夕張がソファを動かし始めた、

 

「こんな感じでフラットな状態になるの」

 

ソファが本来のキングサイズのベッドとは別にもう一つ巨大なベッドとして出来上がっていた。

 

「くつろげる空間をイメージしました」

 

夕張が何処ぞのリフォームのテレビ番組を真似ていた。

 

「それにね、お兄ちゃんの部屋はベランダ付き!」

 

それから俺達は其々の部屋を確認した。

 

「それじゃ明日は朝から業者が入るから、今のうちに何処に荷物を置くとか考えておけよ」

 

こうして4日間に渡る母屋の増改築工事は終了し、残すは2棟の離れの改装工事を残すのみとなった。

 

 



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番外編
番外編1 あの車!Take1(改1)


90年式ファイアーバード・トランサムGTA
エンジン:5,727cc 水冷V型8気筒 OHV
最高出力:240PS/4,400rpm
最大トルク:47,0kgm/2,800rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FR
サスペンション:F ストラット R トルクアーム
ブレーキ:F ベンチレーテッドディスク R ディスク
全長:4,970mm 
全幅:1,880mm
全高:1,300mm
ホイールベース:2,565mm
車重:1,580kg
これがオリジナルスペックですが、明石の魔改造でどうなる事やら…現実ではあり得ない改造とかも出てきますがそこは謎の妖精さんスキルでと言う事で宜しくなのです。



俺は2月のとある祝日の木曜日から金曜を挟んで日曜までの4連休を取った。

 

「それじゃあ、行ってくる、金曜は千歳が俺の代行で指揮を執ってくれ、土曜の夕方には戻る予定だ」

 

俺は千歳に代理を託すと、隼鷹と東京行きの飛行機に乗った。

 

「紫苑…東京行きって、何か用事でも、私まで…」

 

隼鷹が聞いてきた。

 

「実家と同期で退役した明石の所に、用事があってね」

 

その前日の事。

 

「夕張、スープラお前にやるよ」

「えっ、お兄ちゃんいいの?」

「まだ秘密で夕張にだけ教えとく、90年式ファイアーバード・トランサムGTAっていう車に買い替えたから…明日、隼鷹と東京迄取りに行ってくる」

 

夕張は何となくではあるが察していた。

 

「トランザムねぇ…やっぱり黒?」

「勿論」

「気を付けてね」

「ああ」

 

こんなやり取りを夕張としていたのだ。

 

隼鷹を実家に連れて行くという任務のついでと云うか…。

 

「ふぅ、やっと着いた」

 

俺は郊外の豪邸の前にいた。

 

「此処が紫苑の…」

 

隼鷹が家を見て言葉が出て来ない様子だったのだ。

それもそのはず、紅東本家なのだから。

 

「私、変なとこ無いよね」

 

隼鷹がワタワタしながら容姿を気にしていた。

 

「大丈夫だ」

 

俺は隼鷹の手を取ると玄関の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

俺の声にばぁちゃんが顔を出した。

 

「おや、紫苑と隼鷹さんかい、おかえり」

 

俺は爺さんの仏前に隼鷹を紹介すると、さっきから感じていた気配についてばぁちゃんに聞いてみた。

 

「何か、家の中増えてね?」

「気づいてたのかい、出ておいで」

 

ばぁちゃんに呼ばれて5人の女の子が出てきた。

 

「紫苑さんお久しぶり」

 

そこには、時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮が立っていた。

 

「ワシの養女にした」

 

俺は頭を抱えた、そう妹が増えたのではなく、叔母がふえたのだ、それも見た目中学生位の。

俺はもはや何も言わなかった、それは隼鷹も同じだったようで、呆れていた。

 

その日は実家で陽炎達と過ごすと、翌日俺は同期が経営する外車専門店に向った。

 

「明美いるか?」

 

俺は事務所の扉を開けると声を掛けた。

 

「あら、紫苑早かったわね、車出来てるよ」

 

そう言うと、明美は車の鍵を寄越した。

 

「注文通り、90年式ファイアーバード・トランサムGTAで色は黒、注文通りの改造とエンジンはオーバーホール済み」

 

明美はトランザムを指差すと、

 

「ちょっと説明するね、まずエンジンはオリジナルのV8じゃなくて2JZ-GTEに載せ替えてインタークーラー付ツインターボにしてあるの…スペック的には純正と違いはないけどゴム類は新品に交換してるわね、ラジエーターはアルミの新品、インタークーラーと給排気系は全てHKSで纏めてあるわ、勿論足廻りも同じくね」

 

そう言うと明美がボンネットを開けて説明してくれた。

 

トランザムのエンジンルームにトヨタマークのエンジン……綺麗に収まっていた。

 

「ビッグブロックのV8から国産の直6そんなに難しくなかったわね、ハーネスや電装品もトヨタのを流用してるから安心して」

 

明美が何処にどの部品を流用したか改造箇所を丁寧に説明していた。

 

「これなら安心か…しっかしよくA80スープラのエンジン関係トランザムのボディ載ったなぁ」

 

俺は明美の謎技術を感心した。

まぁ切った貼ったはかなりやっているらしいが一見しても説明されないとわからないレベルだった。

 

「それじゃ、エンジン掛けるわね」

 

明美がキーを撚った。

 

「おはようごさいます、マイケル」

 

聞き覚えのある声が車から聞こえると、エンジンが始動した。

 

「内装の説明するね、先ずこの2つのモニターは小型のアンドロイド端末を埋め込んでいてネットにも繋がるし、ナビ、音楽や動画再生に使えるの、一応スピードメーターはkm表示に変更してあるから…あとハンドルだけど今付いているオリジナルの物と円形のハンドルを用意してあるわよ」

「明美、取り敢えず慣れるまでは普通のハンドルにしておいてくれ」

 

俺は明美にハンドルの変更を頼んだ、これから高速道路を使って鹿屋まで帰るのだから慣れない変形ハンドルよりは安全だからだ。

 

「分かったわ、後はシフトレバーはコンソールが張り出した分操作しにくいと思うから、ステアリング脇の操作スイッチ内に移してあるから」

 

俺は明美の説明にあった、操作スイッチ類を見た。

そこには、本来はフロアにあるオートマのセレクトスイッチがあった。

その後も明美から説明を受け車を受け取ると、俺は一旦実家に戻った。

 

「あのローストビーフ作って、少し仮眠したら鹿屋に帰る」

 

母さんとばぁちゃん、時雨達にローストビーフを作ると、俺と隼鷹は少しの時間仮眠をした。

 

「じゃあまた来るな、時雨達も何時でも遊びに来ていいからな」

 

俺は見送りに来た、時雨達の頭を軽く撫でると、隼鷹と鹿屋に向けて出発した。

 

「紫苑…この車目立つね」

 

すれ違う度にドライバーから見られていた。

 

「確かにフロントのあの行ったり来たり目立つしな…」

 

東名高速では、同じようなナイトライダー仕様のトランザムが寄ってきてサービスエリアで話し込んだりした。

そんな事を繰り返しながら何とか下関まで辿り着いた。

 

「なぁ隼鷹…フク刺し食べてかね」

 

俺は隼鷹をフク料理の店に連れて行った。

 

「ウソ!向こうが透けて見える」

 

隼鷹がはしゃぎながら食べていた、勿論俺も食べた。

 

「しかし、明美も凝ったな…」

 

ナビの音声が吹替版のキットの声になっていたのだった。

 

「あと少しで家につくな」

 

夜九時、敷地内に辿り着いた。

 

「今敷地内に入ったよ」

 

隼鷹が千歳に電話していた。

ヘッドライトの灯りの中に夕張や間宮が浮かんだ。

 

「やっぱり……ナイト2000」

 

夕張が呆れていた。

 

「お兄ちゃん、この車のエンジンの音何か変?」

 

夕張が興味津々と云う顔でいながらエンジンが違うことに気付いた様子だった。

 

「お兄ちゃん、このトランザムエンジン載せ替えてる?」

「ああ、明美が2JZ-GTEに載せ替えた」

「国産の3リッターツインターボエンジン……オリジナルの物よりはパワーもトルクも上なのね……」 

「明日じっくり見るといい、今晩は入った入った」

 

 

俺はトランザムのエンジンを切った。

 

「おやすみなさい、マイケル」

 

またもキットの声で挨拶された。

 

「あいつも凝り性だな」

 

俺は隼鷹とそんな事を話しながら部屋に向った。

翌日、朝から夕張が俺の部屋にやってきてトランザムよく見せてと言って鍵を持ち出していった。

 

 

 

 

 




まぁトランザム…黒…とくればあの車ですね。
テレビドラマ「ナイトライダー」に出ていたもう一つの主人公ナイト2000ことキットです。
明石にかかれば再現するのも容易いようです。


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番外編2 あの車!Take2(改1)

ナイトライダーと同様に有名なあの車verです。


ナイトライダーと同様に有名なあの車verです。

フォード・ファルコンが明石の魔改造でどうなる事やら…現実ではあり得ない改造とかも出てきますがそこは謎の妖精さんスキルでと言う事で宜しくなのです。

 

俺は2月のとある祝日の木曜日から金曜を挟んで日曜までの4連休を取った。

 

「それじゃあ、行ってくる、金曜は千歳が俺の代行で指揮を執ってくれ、土曜の夕方には戻る予定だ」

 

俺は千歳に代理を託すと、隼鷹と東京行きの飛行機に乗った。

 

「紫苑…東京行きって、何か用事でも、私まで…」

 

隼鷹が聞いてきた。

 

「実家と同期で退役した明石の所に、用事があってね」

 

話はその前日。

 

「夕張、スープラ声をお前にやるよ」

「えっ、お兄ちゃんいいの?」

「まだ秘密で夕張にだけ教えとく、78年式フォード・ファルコンっていう車に買い替えたから…明日、隼鷹と東京迄取りに行ってくる」

 

夕張が首を傾げた。

 

「ファルコン?」

「そっファルコン」

「聞いたことない車ね、気を付けてね」

「ああ」

 

こんなやり取りを夕張としていたのだ。

隼鷹を実家に連れて行くという任務のついでと云うか…。

 

「ふぅ、やっと着いた」

 

俺は郊外の豪邸の前にいた。

 

「此処が紫苑の…」

 

隼鷹が家を見て言葉が出て来ない様子だったのだ。

それもそのはず、紅東本家なのだから。

 

「私、変なとこ無いよね」

 

隼鷹がワタワタしながら容姿を気にしていた。

 

「大丈夫だ」

 

俺は隼鷹の手を取ると玄関の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

俺の声にばぁちゃんが顔を出した。

 

「おや、紫苑と隼鷹さんかい、おかえり」

 

俺は爺さんの仏前に隼鷹を紹介すると、さっきから感じていた気配についてばぁちゃんに聞いてみた。

 

「何か、人の気配増えてね?」

「気づいてたのかい、出ておいで」

 

ばぁちゃんに呼ばれて5人の女の子が出てきた。

 

「紫苑さんお久しぶり」

 

そこには、時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮が立っていた。

 

「ワシの養女にした」

 

俺は頭を抱えた、そう妹が増えたのではなく、叔母がふえたのだ、それも見た目中学生位の。

俺はもはや何も言わなかった、それは隼鷹も同じだったようで呆れていた。

その日は実家で陽炎達と過ごすと、翌日俺は同期が経営する外車専門店に向った。

 

「明美いるか?」

 

俺は事務所の扉を開けると声を掛けた。

 

「あら、紫苑早かったわね、車出来てるよ」

 

そう言うと、明美は車の鍵を寄越した。

 

「注文通り、78年式フォード・ファルコンXBで色は黒、注文通りの改造とエンジンはオーバーホール済み」

 

明美はファルコンを指差すと、

 

「ちょっと説明するね、まずエンジンはオリジナルのV8にウェイアンド社製スーパーチャージャーと追加でインタークーラーをね…スペック的には劇中車と違いはないわね」

 

そう言うと明美がボンネットを開けて説明してくれた。

エンジンルームにはバカでかいウェイアンド社製スーパーチャージャーがその存在感を示していた。

 

「ハーネス関係は国産のワンオフもので電装品もトヨタのを流用してるから安心して」

 

明美が何処にどの部品を流用したか改造箇所を丁寧に説明していた。

 

「それなら安心か…しっかしきっちりとナビやエアコン、パワーウィンドウ迄付けてんのか」

 

俺は明美の謎技術を感心した。

 

「パワーウィンドウはオリジナル…当時物の装備品よ」

「こんな古い車にパワーウィンドウついてのかよ…」

 

まぁ切った貼ったはかなりやっているらしいが一見しても説明されないとわからないレベルだった。

 

「それじゃ、エンジン掛けるわね」

 

明美がキーを撚った瞬間、スーパーチャージャー動作時の独特のエンジン音がガレージ内に響き渡った。

 

「内装の説明するね、基本的には劇中車を一応完全再現してるの、スーパーチャージャーには電磁クラッチを付けてこのシフトレバー脇のスイッチでオンオフ可能にしてあるの……」

 

俺は明美の説明を受けながら実際にシートに座ってみた、その後車を受け取ると、俺は一旦実家に戻った。

 

「あのローストビーフ作って、少し仮眠したら鹿屋に帰る」

 

母さんとばぁちゃん、時雨達にローストビーフを作ると、俺と隼鷹は少しの時間仮眠をした。

 

「じゃあまた来るな、時雨達も何時でも遊びに来ていいからな」

 

俺は見送りに来た、時雨達の頭を軽く撫でると、隼鷹と鹿屋に向けて出発した。

 

「紫苑…この車目立つね」

 

すれ違う度にドライバーからガン見された。

 

「確かにボンネットのスーパーチャージャー、サイドの八本出しマフラー目立つからな…」

 

東名高速では、ナイトライダー仕様のトランザムが寄ってきてサービスエリアで話し込んだりした。

そんな事を繰り返しながら何とか下関まで辿り着いた。

 

「なぁ隼鷹…フク刺し食べてかね」

 

俺は隼鷹をフク料理の店に連れて行った。

 

「ウソ!向こうが透けて見える」

 

隼鷹がはしゃぎながら食べていた、勿論俺も食べた。

 

「しかし、明美も凝ったな…」

 

 ナビの音声が某ゲームのヘビの人になっていた。

 

「あと少しで家につくな」

 

夜九時、敷地内に辿り着いた。

 

「今敷地内に入ったよ」

 

隼鷹が千歳に電話していた。

ヘッドライトの灯りの中に夕張や間宮が浮かんだ。

 

「やっぱり……マッド・マックスのインターセプターだったのね……」

 

夕張が呆れていた。

 

「お兄ちゃん、この車エンジンの音…スーパーチャージャー?」

 

夕張が興味津々と云う顔でいながらエンジンが気になる様子だった。

 

「お兄ちゃん、V8にスーパーチャージャー?」

「ああ、明美がセッティングした」

「インタークーラー付……確かに600馬力フォードの335っていうエンジンよね?……トルク80kg-mだったっけ…燃費劣悪だったような」  

 

車に穴が開くくらい見ている夕張を急かした。

 

「明日好きなだけ見ていいから、今日は寝ろ」

 

俺はその後も隼鷹とインターセプターが登場した映画の話しをしながら部屋に向った。

翌日、朝から夕張が俺の部屋にやってきてインターセプターよく見せてと言って鍵を持ち出していった。




燃費600mらしいですね……戦車並です!
でもこれはこれでカッコいい車です。


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番外編3 あの車!Take3 

明石の魔改造でどうなる事やら…現実ではあり得ない改造とかも出てきますがそこは謎の妖精さんスキルでと言う事で宜しくなのです、こちらを本編として進ませます。


俺は2月のとある祝日の木曜日から金曜を挟んで日曜までの4連休を取った。

 

「それじゃあ、行ってくる、金曜は千歳が俺の代行で指揮を執ってくれ、土曜の夕方には戻る予定だ」

 

俺は千歳に代理を託すと、隼鷹と東京行きの飛行機に乗った。

 

「紫苑…東京行きって、何か用事でも、私まで…」

 

隼鷹が聞いてきた。

 

「実家と同期で退役した明石の所に、用事があってね」

 

話はその前日。

 

「夕張、スープラお前にやるよ」

「えっ、お兄ちゃんいいの?」

「まだ秘密で夕張にだけ教えとく、グランドチェロキーっていう車に買い替えたから…明日、隼鷹と東京迄取りに行ってくる」

 

夕張が首を傾げた。

 

「グランドチェロキー?」

「そっグランドチェロキー」

「アメ車ね、気を付けてね」

「ああ」

 

こんなやり取りを夕張としていたのだ、隼鷹を実家に連れて行くという任務のついでと云うか…。

 

「ふぅ、やっと着いた」

 

俺は郊外の豪邸の前にいた。

 

「此処が紫苑の…」

 

隼鷹が家を見て言葉が出て来ない様子だったのだ、それもそのはず、紅東本家なのだから。

 

「私、変なとこ無いよね」

 

隼鷹がワタワタしながら容姿を気にしていた。

 

「大丈夫だ」

 

俺は隼鷹の手を取ると玄関の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

俺の声にばぁちゃんが顔を出した。

 

「おや、紫苑と隼鷹さんかい、おかえり」

 

俺は爺さんの仏前に隼鷹を紹介すると、さっきから感じていた気配についてばぁちゃんに聞いてみた。

 

「何か、人の気配増えてね?」

「気づいてたのかい、出ておいで」

 

ばぁちゃんに呼ばれて5人の女の子が出てきた。

 

「紫苑さんお久しぶり」

 

そこには、時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮が立っていた。

 

「ワシの養女にした」

 

俺は頭を抱えた、そう妹が増えたのではなく、叔母がふえたのだ、それも見た目中学生位の…俺はもはや何も言わなかった、それは隼鷹も同じだったようで呆れていた。

その日は実家で陽炎達と過ごすと、翌日俺は同期が経営する外車専門店に向った。

 

「明美いるか?」

 

俺は事務所の扉を開けると声を掛けた。

 

「あら、紫苑早かったわね、車出来てるよ」

 

そう言うと、明美は車の鍵を寄越した。

 

「注文通り、ジープグランドチェロキーで色はサンドベージュ、注文通りエンジンはオーバーホール済み」

 

明美はグランドチェロキーを指差すと、

 

「ちょっと説明するね、まずエンジンはオリジナルスペックを維持を基本としてそんなに違いはないわね、エアクリーナーとマフラー、コンピュータを社外でまとめてあるわね」

 

そう言うと明美がボンネットを開けて説明してくれた。

エンジンルームはノーマルと云われても解らない状態だった。

 

「ハーネス関係はワンオフもので電装品も新品を使用してるから安心して」

 

明美が何処の部品を新調したかや改造箇所を丁寧に説明していた。

 

「それなら安心か…しっかしきっちりとナビやオーディオが新調してくれたのな」

 

俺は明美の技術を感心した。

 

「エアロ系は当時物の装備品よ」

「こんな古い車のパーツよくあったな」

 

まぁ切った貼ったはかなりやっているらしいが一見しても説明されないとわからないレベルだった。

 

「それじゃ、エンジン掛けるわね」

 

明美がキーを撚った瞬間、独特のエンジン音がガレージ内に響き渡った。

 

「内装は古めかしいけど、今の車とそんなには変わらないわね……」

 

俺は明美の説明を受けながら実際にシートに座ってみた、その後車を受け取ると、俺は一旦実家に戻った。

 

「あのローストビーフ作って、少し仮眠したら鹿屋に帰る」

 

母さんとばぁちゃん、時雨達にローストビーフを作ると、俺と隼鷹は少しの時間仮眠をした。

 

「じゃあまた来るな、時雨達も何時でも遊びに来ていいからな」

 

俺は見送りに来た、時雨達の頭を軽く撫でると、隼鷹と鹿屋に向けて出発した。

 

「紫苑…中広いね」

 

隼鷹が後部座席を覗いていた。

 

「確かに…」

 

フェリー船内では、同じチェロキーオーナーと知り合い楽しいひと時を過ごした。

そんな事を繰り返しながら何とか下関まで辿り着いた。

 

「なぁ隼鷹…フク刺し食べてかね」

 

俺は隼鷹をフク料理の店に連れて行った。

 

「ウソ!向こうが透けて見える」

 

隼鷹がはしゃぎながら食べていた、勿論俺も食べた。

 

「しかし、明美も凝ったな…」

 

ナビの音声が某ゲームのヘビの人になっていた。

 

「あと少しで家につくな」

 

夜九時、敷地内に辿り着いた。

 

「今敷地内に入ったよ」

 

隼鷹が千歳に電話していた。

ヘッドライトの灯りの中に夕張や間宮が浮かんだ。

 

「……グランドチェロキーって結構大きいね……」

 

夕張が呆れていた。

 

「お兄ちゃん、この車エンジンの音…V8?」

 

夕張が興味津々と云う顔でいながらエンジンが気になる様子だった。

 

「明美がセッティングしたけど、ノーマルだぞ」

「確かにノーマルみたいやっぱり4.7リッターのV8?」  

 

車に穴が開くくらい見ている夕張を急かした。

 

「明日好きなだけ見ていいから、今日は寝ろ」

 

俺は部屋に戻った。

翌日、朝から夕張が俺の部屋にやってきてよく見せてと言って鍵を持ち出していった。



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番外編4 ファルコンでお出かけ(改1)

車はトランザムではなくフォードファルコンでいきます。


「明日の業務終わったら福岡行かね?」

 

俺は隼鷹と夕張に声を掛けた。

 

「紫苑、私も行きたい」

 

青葉が私もと加わった。

 

「構わないが、ファルコン行くぞ」

「それなら隼鷹が助手席で私と青葉は後ね」

 

夕張が座る位置を仕切っていた。

 

「千歳、明日の夕方からちょっと福岡行ってくる、明美がイベントでブース出すからその手伝いでね」

「あぁだからファルコンで行くのね」

 

千歳も理解した様子だった。

その通りなのだ、明美が出すブースの客寄せにとファルコンを展示するからだ。

 

ーそして迎えた金曜日の夕方ー

 

「それじゃ行ってるな、お土産期待して待っててくれ」

「これ車の中で食べて」

 

間宮がバスケットと水筒を隼鷹に手渡していた。

 

鹿屋から休憩やらをたっぷり取りながら福岡に到着した。

俺はスマホを取り出すと明美にメールを打った。

 

『今ついてゲート前に居る』

 

返信より早く本人がやって来た。

 

「紫苑、ありがとね」

 

そう言いながら、明美は俺の運転するファルコンを会場内に誘導した。

 

「土曜日と日曜の午前中迄の展示許可出てるからお願いね」

 

俺達はファルコンを展示位置に駐車すると、明美が手配したホテルへと向った。

 

「おいおい、明美……いいのかよこんないい部屋」

 

俺と隼鷹、夕張と青葉の二部屋に別れたのだがどちらの部屋も豪華な部屋だった。

 

「気にしないで、税金対策で経費で落としてるから……」

 

それなら遠慮なく泊まらせてもらうとしよう。

翌日は朝から大忙しだった、何故なら隼鷹はコンパニオン、夕張は明美の顧客対応手伝い、青葉は撮影担当と手伝っていた為に、このインターセプター仕様のファルコンについての質問に俺が全部答えていたからだ。

インターセプター仕様のファルコンが展示されていて稀にエンジンを始動(スーパーチャージャーオンも)させてれば人も集まるわな……。

 

休憩時間に俺は隼鷹と展示されている各ショップのデモカーを見て廻った。

 

「やっぱりスポーツカー多いね」

 

隼鷹が見て廻った感想を言った。

 

「そうだな、あとはVIPカーか…インポートカーは少ないな」

 

俺は外車が少ない事が気になった。

 

「あっても今の車だもんね70年代の車いないね、紫苑のファルコンだけみたいだね」

 

隼鷹も気にしていた。

 

「お二人さん甘いわね、このショップでマスタング・マッハ1のカスタム展示してるみたいよ」

 

明海がパンフを指差しながら教えてくれた。

 

「行ってみるか」

 

俺は、隼鷹と明美を伴ってそのショップのブースへと足を運んだ。

そのブースは直に見つかった。

 

「ヘェ~、コブラルックのマッハ1…」

 

明美がマスタングを隅々まで見ていた。

 

「中身は最新のマスタング、側はマッハ1…凄い!」

 

俺はそんな時一人の人物から声を掛けられた。

 

「失礼ですが明美モータースの関係者の方ですか?」

「関係者と云うか、展示しているファルコンのオーナーですが明美とは古い友人です」

 

俺はその人物と歓談していた。

 

「どうでしょう、ウチのマスタングと明美モータースさんのファルコン並べて展示してみませんか?」

 

いつの間にかやって来た明美がオーケーのハンドサインを出していた。

 

「ショップオーナーの許可出ました、俺は問題無いです」

 

俺の返事を聞くとその人物はイベント主催者に許可を取りに行った。

そして暫くすると戻ってきた。

 

「明日の朝イチからならいいそうです」

 

俺達は明日の開場前の移動の段取りをつけると解散した。

 

やはりであった、翌日は朝からマスタングとファルコンの前にカメコが大量発生していた。……調子に乗った明美と隼鷹がレースクイーンバリのコスチュームで立っていたのだから、勿論のことながら青葉もカメコの中に紛れていた……俺としては婚約者の隼鷹をカメコの餌食にするのは気が引けた(勿論ローアングルで撮ったやつはお話し合いの結果データを削除させた)。



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