盛大に何も始まらない、なろう風小説 (それも私だ)
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追放系
たったひとつの冴えた追放処分


なぜこうしないのか不思議でなりません(過激派)。
 ・後書きに雑な人物設定を追加(2024/1/18)。

 キーワード:冒険者 パーティ 追放


「お前をパーティから追放する」

 

「え? う、ウソだよなっ?!」

 

「ウソでも冗談でもない。お前はここまでだ」

 

「な、なんでだよ! どうして! いままでみんなの役に立とうとがんばってただろ! オレ、なあ! なあ、知ってるだろ!?」

 

「そういうところだぞ」

 

「えっ……?」

 

()()()()()食事を作ろうとしたり、()()()戦利品を売りに行ったり。……まあ、自ら雑用係を買って出る気概は、俺は買っていた。……でもな」

 

「でも、なんだよ……?」

 

「食事のことは俺は感謝している。でもな、手間を増やさないでくれよ。聖職者は肉を食っちゃいけないんだよ。気付かなかったか? マリアはお前に気を利かせて黙っていたけどよ。みんなが食事をしているなか先に休んで、寝静まったあとに食事を摂ってたんだ」

 

「言ってくれれば……」

 

「あいつの性格を考えてもみろ。押し付けられた善意だろうと無碍(むげ)にはしないだろ。……マリアは本当にすごいよな。俺も最近まで本当のことに気付けなかった」

 

「……今から直す。だからオレにもう一度チャンスをくれ!」

 

「何言ってやがる。まだ俺の話は終わってない」

 

「え?」

 

「お次は戦利品のことだ。お前、仲間に相談もなくすぐ売っ払ってるよな。相場よりも高く売ってくる手腕は俺も認める。だけどよ、忘れたのか? 薬師でもある魔法使いは、金よりも素材がほしくてこのパーティにいるんだ。使おうと思った時にはもう無くて、買いに行こうとしても、ほしい素材が売っている店はお前が卸した店だけ。しかも金額は売ったときより高い。ならまた採りに行けばいいって話になるが、また勝手に売られる」

 

「それも、言ってくれたら!」

 

「お前はな、もうとっくに見限られてるんだよ。セーラにもさ。……でも、セーラはこのパーティ以外にほかにいいパーティを知らないし、俺も自分のパーティ以上のものはないと思ってる。つまりだな、出て行きたくても出て行けなかったんだ。和を乱して除名されたくなかったんだろうな。俺はてっきり、魔法使いが変な薬を作るのをやめたんだとばかり思ってたんだが……な」

 

「じゃあ、どうして今、追放しようと思ったんだ?」

 

「俺もな、リーダーとして考えたんだ。俺がもう少し上手く立ち回れていたら、ってさ。お前の能力は認めてるよ。さっきも言ったけど、お前の作る飯はうまいし、本業を手玉に取る商才もすごいと思ってる。戦闘には直接役立たないけど、裏方の仕事の大切はちゃんと分かってる」

 

「…………」

 

「お前、食事に一服盛っただろ? マリアが異常に気付いて、セーラが確証を出した。正直に言えば、2人がいままで迷惑していた話は()()()だな。個人のことだ、恋愛なんて勝手にしろとは思うけど、仲間を裏切るような行為は見過ごせない」

 

「……オレは、追放か」

 

「ああ、この世からな」

 

「は? え? あ?」

 

「言っただろ、リーダーとして考えた、って。……お前みたいな能力はあっても人格に難があるヤツを野放しにするなんて、そんな恐ろしい真似ができるか。パーティから除名したことを恨んで邪魔してくるだろ。なんだったか、ざまぁ、だったか?」

 

「し、しない! しないから!」

 

「これは故郷にいる弟からの受け売りになるが、害虫は殺さなきゃ意味がない、らしい。なるほど、これが、そうか」

 

「早まるな! なっ? 人殺しになってもいいのか!?」

 

「俺ひとりの手を汚すだけで後腐れがなくなるなら安いもんだ。商才のあるお前ならわかってくれるだろ? なあ?」

 

「いやだ! 死にたくない、死にたくない! ──ひっ!?」

 

「あばよ、畜生」

 

 




以下、雑な設定。

オレ(名無し):
 ありふれた追放系主人公だった男。いわゆる後方支援枠で、雑務担当だった。自分がされて嫌な事を他人にも平気で行なえるタイプ。
 世界は自分を中心に回っていると勘違いして色々とやらかしていたが、リーダーの逆鱗に触れてしまった(明確な背信行為)がために処刑された。

PTリーダー(名無し):
 剣士。男性。一人称は「俺」。物事の本質を正しく理解できる、本作のMVP。普段は温厚で冷静だが、特定の事に関して過剰反応し徹底的に争うタイプ。
 流石に有無を言わさずに仲間だったものを切り捨ててしまうことは彼の良心が痛んだため、きちんと理由を述べてから実行した。

マリア:
 聖職者(ヒーラー)。女性。宗教上の理由により肉類は食べられない。

セーラ:
 魔法使い+薬師(アルケミスト)。女性。コミュ障。
 名前の元ネタは「セイラム魔女裁判」。マリアとは対になっている。クスリの領分も本当は教会側らしいが、「魔女といえば怪しげな薬」というイメージも手伝って魔法使い兼薬師に。


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極振りの代償

数字に支配された世界とか、よくよく考えると恐ろしいですね(小並感)。

 キーワード:冒険者 パーティ 追放 防御力 極振り ステータス パラメータ


「お前、クビな」

 

「は?」

 

「お前もう必要ないんだわ。パーティから出ていけよ」

 

「ちょっ……、いきなりなんだよ!? 説明してくれよ!」

 

「今しただろ。だからさぁ、Sランクパーティ《疾風の牙》にお前は不要なの。防御力しか取り得のない()()を養うのも限度があるってこと」

 

「あいつは……リーダーが決めたことなのか?」

 

「うん、リーダーも知ってる。ほれ、署名付きの除名書類」

 

「そうか……──わかった、俺はパーティから抜ける」

 

「あっ、装備は置いて行けよ。それと冒険者登録の抹消も忘れるなよ。あと馬車賃くらいはやるから感謝しろ」

 

「…………」

 

 

────────────────

 

 

「受付嬢さん、どうもです」

 

「っ……、その声はマンチキンさん? おひとりでどうしたんですか?」

 

「そうです、俺です。仮面なしで話すのは初めてでしたね。今日は冒険者登録を──」

 

(……ちょっと待て。このままあいつらの言いなりになって終わってもいいのか? 俺は……──イヤだ、俺はまだ、戦えるっ! そうだ、再出発しよう。あいつらを見返してやるんだ! 俺だって立派な冒険者なんだってことを示すんだ。これまで歩んできた道を俺自身が否定しちゃいけない!)

 

「ど、どうしました……?」

 

「じつは、《疾風の牙》から除名されたんです」

 

「そうなんですか! ……あ、すみません。急に大声なんか出して」

 

「あはは……。やっぱり驚きますよね、Sランクパーティからの除名って」

 

「……ちゃんとパーティメンバー全員分の署名もありますね。受理します」

 

「…………」

 

(……元Sランクパーティメンバーだし、フリーになったら誰かから声が掛かるかも、って心のどこかで思ったけど誰も近寄ってこないか……。やはり俺は不要な──いや、ダメだ。弱気になるな、俺! 俺の価値は俺自身が証明しなくちゃいけないんだ!)

 

「──あの」

 

「えっ!? な、なんですか?」

 

「……? あの、ソロでもパーティ登録って出来ますか?」

 

「え、ええ、まあ……規則では禁止されていません」

 

「じゃあ、お願いします。パーティ名はそうですね、《鉄壁》でお願いします」

 

「《鉄壁》ですね。では、そちらの件も受理します」

 

「ありがとうございます。──じゃあ、ちょっとソロでダンジョンに行ってきますね」

 

「え? ソロでですか?」

 

「はい」

 

「…………」

 

「あ、ソロで行くのは禁止されてたりしますか?」

 

「い、いえ……禁止()されていません……」

 

「そうですか。じゃあ、大丈夫ですね。行ってきます」

 

「……はい、()ってらっしゃい!」

 

 

────────────────

 

 

「……独りでダンジョンに潜るのは初めてだな。──ふっ、ははっ。そりゃそうだな。いままでみんなでがんばってきたもんな…………行こう」

 

「ギィッ!」

 

「くっ! さっそくお出ましか! だが俺の防御力ならこの程度のモンスターくらい防具なしでもいけるはずだ! さあ来い!」

 

「ギギギッ──」

 

「えっ──」

 

 

────────────────

 

 

「……あいつ、今頃は馬車に乗ってる時分かな」

 

「もしかしたら、ソロパーティ作って再起目指してたりして」

 

「そこまでバカじゃないだろ。さすがに」

 

「いや、でも分からないよ? ()姿()にも()()振らないようなヤツじゃん。精神の()()()()は妙に高いけど。耐久力(HP)と防御力に()()()()()突っ込むようなアホだし」

 

「いや、知力25でもさすがに……いやいや、そんなまさか」

 

「仮にソロパーティを作ったとしても、すぐ()()()に気付いて田舎に帰ると思うけどね。除名を言い渡された本人が除名手続きに行くんだよ? まともな冒険者なら、そんな人を誘ったりしないし。誰も相手にしないよ。そもそも容姿値が低すぎて見れた顔じゃないし」

 

「おっ。幼馴染さんは言う事が違うな」

 

「やめてよね。別に()()()()に特別な感情は抱いてないから。同い年だってだけで、あいつの両親に頼まれたあたしの気持ちが分かる?」

 

「まぁなぁ……()()()()()持ちのモンスターが出て来るとは思わなんだ」

 

「しかも素早いしね。敏捷特化の私達には意味ないけど」

 

「これまで攻略してきたダンジョンにも必ず1匹は居たけど、現在(いま)んとこの()()()()に湧くモンスター全員が()()()()スキルと()()スキルの両方を持ってるとかイヤらしいよなぁ……。あいつ敏捷パラも初期値のままだし、避けられなくて死ぬよな。まさに必殺だな」

 

「だから除名したんでしょ。防御先行かと思ったら、ただの極振りだったんだし。ちゃんと帰るように装備も全部置いて行かせたし、大丈夫でしょ」

 

「ほんと、いい機会だったよね。初めの頃はそこそこ役立ってたけど、途中から使えない()()と化してたし。ルーニー、あんたが()()()()()とか言わなければもっと早くに──」

 

「うっし! ()()()も居なくなったことだし、新生・《疾風の牙》の肩慣らしにダンジョンに潜ろうぜ! リマ! ロール!」

 

「コラーっ! 話をそらすなーっ! ごまかすなーっ!」

 

「あはは。でも、やっと本領発揮できるね」

 

 




なろう系といえばステータスオープン。
数値で管理される世界といえばテーブルトークRPG。

地蔵(用語):
 プレイに積極的に参加せず、傍観者に回っているプレイヤーのこと。

マンチキン(用語):
 行儀の悪いプレイヤーのこと。日本国内と海外で意味が異なる。
 前者は理論上可能である事なら正論を以って無茶な要求を通させる。
 後者は自己中心的かつ理性的でない人物のことをさす。
 なろう系はそのハイブリッド。

ルーニー(用語):
 後先考えずネタに走るプレイヤーのこと。
 自キャラ続投よりも1回の伝説にすべてを賭ける。

リアルマン(用語):
 脳筋で戦闘狂。

リアルロールプレイヤー(用語):
 自分のプレイヤーキャラクターに没入するプレイヤーのこと。
 常にキャラクター目線で物事を進めようとするため、融通が利かない。


以下、雑な人物設定。

マンチキン(人物):
 性別は男性。舞台となった世界はステータス・オープンと発言したらなんか開けそうな世界だったので、魅力値・容姿力(APP)の類いへと振らなかった彼の顔は見れた顔ではなかった。それまで着けていた仮面は防具だったので実益を兼ねて没収された。受付嬢が終始挙動不審だったのはそのため。非常に不快なツラだったせいで引き止められることなく死地へと旅立ち、無事死亡。

ルーニー(人物):
 女性陣代理の追放請負人。男性。真面目にバカをやる系。冒頭の追放宣言は彼によるもの。バカをやれるくらいには場馴れしているため、助言をすることも明確に戦力外通告することもなかった。つまり相手方も察していると思っていた。そのままでは追放されると理解したうえでのステ振りであると。最後まで。本文ラストの場面にて真相を知ることとなるが、それでも「まさかねぇ?」といった心境だった。

ロール(人物):
 PT「疾風の牙」のリーダー。女性。名前の元ネタ通り、頼まれた役に徹していた。見放すことにしたのは現実的な理由からPT継続は不可能と判断したため。彼を故郷に送り返す正当な理由を得られたことによる。PC(立場)とPL(本心)の心理はイコールではない。根元が役に徹することから、ステ振りについて助言することはなかった。彼はそういう人であるという認識だった。
 名前は「リアルロールプレイヤー」より。

リマ(人物):
 PTメンバー。女性。戦闘大好き。マンチキンへはほぼ無関心。途中から地蔵と化したこと、戦闘へ貢献しなくなっていったこと、ルーニーに言いくるめ(1d100→1)を食らったことから、わりとどうでもよくなっていた。基本的に小難しいことは他メンバーに任せているが、ラストで彼のその後について触れていたのは戦闘に関わることだったから。縛り解禁、はしゃいでいる。
 名前は「リアルマン」より。


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最強タンクはヘイトを撒く

行動誘発・操作系スキルの恐ろしさよ。
 ・後書きを加筆修正(2024/1/18)。

 キーワード:冒険者 パーティ 追放 タンク ヘイト スキル


「リーダー、俺だけに話があるってなんだ?」

 

「短刀直入に言うぞ。──頼む、パーティから抜けてくれ」

 

「え……」

 

「もう限界なんだ、これ以上耐えられない! どうにかなってしまいそうなんだよっ! 頼む、()()()()()()()抜けてくれ、お願いだから……!」

 

「ど、どうしたんだよ。リーダー? ちょっと怖いぞ」

 

「お前ェェッ! ()()()()()()()()()()()田舎にでも引っ込んでくれッ!! その顔を見せるんじゃねええええっ!!」

 

「そんな……、狂人ぶってまで俺の事を追放したいのか……? ──ッ、わかったよ! お望み通り、パーティから抜けてやるよ! いままで世話になったな! これで満足かっ!?」

 

「お前なんか、お前なんかが! 冒険者をするんじゃねえっ!!」

 

「うおっ!? 本気かよ! クッ……! いきなり殴りかかってくるなんて! ここは逃げるか!」

 

 

────────────────

 

 

「……そんな事があったんですか。ひどい話ですね……」

 

「もしかしたら、リーダーはあの冒険で呪われたのかもしれない。その呪いを解くために俺は、解呪の道具を探すことにしたんだ。……このダンジョンにあるといいんだけどな」

 

「パーティの立ち上げから一緒で、何年も続いたパーティだったんですよ? 信じていた幼馴染だったのに怨んでないんですか? 寂しく、ないんですか……?」

 

「うん、俺は怨んでなんかないよ。あいつが理由も無くあんな事を言うわけがないし、これからは君とパーティを組むんだしな」

 

「ヘイトさん……、──はいっ! 名タンクとして名高い、あのヘイトさんと一緒のパーティを組めるなんて光栄です!」

 

「ははっ、よしてくれよ。──よし、君の疑問も晴れたことだし、ダンジョンに入ろう」

 

 

────────────────

 

 

「──くぅっ! 敵の数が多い!」

 

「さすがに2人(ペア)だと厳しいですね……!」

 

「だが、ここがタンクとしての見せ場だ! うおおおおっ! スキル! 発動ぉぉぉっ!!」

 

「──えっ。な、なに……これ……? ……わたし……? ……あぁ……、そういう事だったんですね……だから、追放され──」

 

「フール! 今だ、攻撃するんだ!」

 

「はいっ!」

 

「ごはっ!? ふ、フール……? なん……で、俺を……刺して……?」

 

「うふふ……ヘイトさんは敵愾心(ヘイト)を溜めるのが本当に得意なんですね。名は体を表すって、まさにこの事ですね。──あっ、急所を刺したからもう助かりませんよ?」

 

「どうして……?」

 

「よくよく考えてみればおかしな話ですよね、()()()()()()()()()()()って。リーダーさんがおかしくなった、って話も納得です」

 

「な、何を言って……──ぐあっ!」

 

「あれ? ヘイトさん、まだ気付かないんですか? ペアで、しかも片方が瀕死の重体なのにモンスターは今もヘイトさんを攻撃してるって、おかしいとは思いません? 私の武器(レイピア)はヘイトさんの身体に突き刺さったままで丸腰なのに、悠々とお喋りも出来ちゃってますね」

 

「ッ?!」

 

「あっ、喋るのも苦しかったらそのままでいいですよ。代わりに私が喋ってあげますから。──ヘイトさんと組んでみて私、分かっちゃったんです。リーダーさんがなんで呪われたか」

 

「!」

 

「ヘイトさん、あなたのせいだったんですよ。……あなたが呪ったんです。あなたは、居てはいけない人間だったんです」

 

「!?!?」

 

「解らないって顔してますね。ヘイトさんは敵の攻撃を集めるのが得意ですよね? ……()()()()()()って考えたこと、ありませんか?」

 

「ッ!!」

 

「そうです。不思議な力で敵の攻撃を吸い寄せているのではなく、周囲に憎悪を植え付けることで自らを攻撃させていたんです」

 

「そ……ん、なッ!」

 

「たしか、前のパーティはヘイトさんを除いて4人の仲間が居たそうですね。これは私の持論ですけど、人数が増えれば憎悪も分割されます。──じゃあ、仲間が1人しか居ない場合は? すごいですね! たった1回で殺したくなるほど憎くなりました! モンスターもいっぱい居るのに! すごい! ()()()ってわけじゃないですけど、そのレイピアは差し上げます。私がダンジョンから脱け出るまで、そのまましっかりモンスターを引き付けていてくださいね」

 

 




以下、雑な設定。

ヘイト:
 本作主人公。男性。前衛タンク役。周辺の敵味方から無差別にヘイトを買う(術者に対する憎悪を植え付ける)、任意発動可能な特殊能力・スキル所有者。ただし本人は効果対象を正しく把握していない。前PT発狂の元凶(無自覚)。
 新たにフールとペアPTを組むも、ダンジョン・モンスターハウス内に置き去りにされて死亡する。
 名前は「ヘイト(敵愾心)」そのまま。

フール:
 女性。刺突剣のレイピアを使う前衛型。ダンジョン探索前はヘイトを尊敬していたが、彼のスキル効果により瞬時に敵対。ヘイトを負傷させ、ダンジョン内に置き去りにした。ご丁寧に私見を述べていたのは、単なる嫌がらせからだったが、だいたい合っている。
 名前の意味は「愚者」や「道化」など。フール本人のことではなく、ヘイトに向けての意味。自分が元凶だとは思わないで仲間を助けようとする様は道化。どうしてそうなったのか分析もしていない。バカの考え休むに似たり。愚かにも誰かに頼ることもなかった。知恵を借りれば別の未来もあった。

前PTのリーダー:
 男性。ヘイトの幼馴染。彼とヘイトを含めた5人PTを組んでいた。人数による負荷分散と強い自制心によって何年も耐えていたが、ついに限界を迎えたことで感情が暴走した。ヘイトのスキル効果について、初期の段階で「醜い嫉妬心」だと思い込んで放置してしまったのがPT崩壊の要因。
 違和感に気付いた時にはすでに手遅れで、ヘイトに真実とPTの現状を伝えてしまえば(彼のせいだと認めてしまえば)、それをきっかけとして完全に狂気に呑まれてしまう自覚があったため、彼のPT追放が精一杯だった。


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底辺テイマーは獣人の女の子と契約して成り上がる

何に成り上がるとは言っていない()。
 ・後書きを加筆修正(2024/1/18)。

 キーワード:冒険者 パーティ 追放 テイマー 獣人 奴隷 人種問題


「ふう……、強敵だったな」

 

「なんとか倒せた……」

 

「ハァッ……、ハァッ……!」

 

「おーい、みんなー! 大丈夫かー? ポーションあるぞー」

 

「~~っ! もう我慢ならねえっ! おい、リーダー! オレはこいつの除名を提案するぞ!」

 

「はあっ!? なっ……、いきなりなんだよ!?」

 

「……理由を教えてほしいな」

 

「理由~? そんなもん、言うまでもねえだろうがよっ!! こいつはポーション配りしか能がない、能無しテイマーだ! オレ達3人が死ぬ思いで戦ってるのに、こいつは……ッ!」

 

「しょ、しょうがないだろ! モンスターをテイムしようにも言葉が通じないんだから……」

 

「はっ、じゃあ猟犬と鷹を従えているハンターはなんなんだよっ!? あっちの方がよっぽどテイマーらしいだろ! この()()テイマーがっ!」

 

「そ、それは……」

 

「ふむ……」

 

「ごめん、リーダー。あたしもヴォルトと同意見。こいつが気になってしょうがないの」

 

「えっ!」

 

「あたしは後衛だから、リーダーとヴォルト()よりもずっと安全なのはこいつと同じだけど、こいつは居るだけじゃん。しかも戦闘の度に()()でオロオロしてるから、すごい気になって、すごい邪魔なの」

 

「え゙っ!?」

 

「つまり、集中力を阻害されているわけなんだな?」

 

「うん。弓も使えないなら囮にでもなればいいのに」

 

「え゙ぇ゙っ!!?」

 

「そもそもよ、なんでこいつがパーティに(はい)れたんだ? いくら駆け出しの弱小パーティだからって、いや駆け出しだからこそ、無能が入り込める余地なんかねーだろ」

 

「それ、あたしもずっと気になってた」

 

「それは冒険者ギルドの規約で、パーティの最大人数が4人までと決められているからだ」

 

「……なるほどな。動物は人数に含まれないからか。うまい事、規約の穴を突いたもんだな」

 

「そうだ。序盤で安全を確保するには、やはり数に勝るものはない」

 

「でもよ、いままでも3人でもやれてきてるぞ?」

 

「……そうだな、僕の計算が甘かった事は認めよう」

 

「あたしの()()()()()()()も忘れないで?」

 

「バウッ!」

 

「……」

 

「わりぃ、わりぃ。──でよっ、あいつの代わりに誰か入れねえか? 魔法職は競争率高いから諦めるけどよ。数がほしいならもう1人、ハンターを入れてもいいんじゃねえか?」

 

「それはダメ。この子達でケンカしちゃう」

 

「じゃあ、弓使いだな。前衛はオレとリーダーで足りてるし、後衛を充実させた方がいいだろ」

 

「いや、中衛……遊撃役にしよう。状況に応じて前衛か後衛になれる人が理想かな。長い目で見ると、いまの僕達には無い役割をこなせる人材の方が好ましいと思う」

 

「わかった。今度こそ頼むぜ、リーダー」

 

「お、おい……」

 

「ん? まだ居たのか。除名手続きは僕達でやっておくから心配ないよ」

 

「物分りが悪い」

 

「怒りを通り越して呆れしかねーわ」

 

「……ッ!!」

 

「じゃあな、負け犬野郎! そのままオレ達の目の届かないところまで走っていって、くたばりやがれ!」

 

 

────────────────

 

 

「くそぉ……! テイムさえ出来れば、あんなヤツら……!」

 

「ふぇぇ……。またダメだったよぉ……」

 

「ん? 獣耳(ケモミミ)が付いてる女の子……、──そうだ! これだ! ねえ君っ! そこの君ーーっ!!」

 

「ひゃあっ!? ごめんなさい、お金もってません! 勘弁してくださぁ~いっ!」

 

「カツアゲじゃないからっ!? ねえ君、そんなところでどうしたの?」

 

「わたし、獣人族でも落ちこぼれで、パパとママを安心させるために冒険者になったのに、ダメダメなんです~……」

 

「俺に良い考えがある」

 

「ふぇっ?」

 

「俺と契約して()()になってよ!」

 

 

────────────────

 

 

「……おい、聞いたか? 獣人国との戦争が始まりそうなんだってよ」

 

「マジかよ? どうしてまた」

 

「なんでも、獣人族を奴隷にしたバカがいるらしい」

 

「え、それって……」

 

「ああ、あいつだよ──」

 

「パパ、どうして戦争なんか……どうしてっ!?」

 

「パパ? もしかして、ペティの父さんって獣王なのか?」

 

「うん……。パパはこんなことする人じゃないのに……」

 

「──止めに行こう! 俺とペティで説得するんだ!」

 

「マスタぁ……! はいいっ!」

 

「私も行きます!」

 

「オレっちも行くぜぃ」

 

「わっちも!」

 

「ボクも行く~!」

 

「わらわ」

 

「アタシの事も忘れるんじゃないわよ?」

 

「では、それがしも」

 

「……行く」

 

「止めても無駄みたいッスね。ボクちんも行くッスよ」

 

「この流れで1人だけお留守番ってのもな」

 

「みんなっ……! よし、行こう! 獣人族の国へっ!!」

 

 

────────────────

 

 

「連れてきました」

 

「うむ……。この人間族のオスがそうか。ご苦労であった」

 

「勿体無きお言葉」

 

「イテッ! も、もうちょっと丁重に扱ってくれよな! というか、なんで俺を縛るんだよ! みんなと会わせろ!」

 

「王の御前であるぞ!」

 

「なんなんだよ……!」

 

「よい。元より礼儀の通じる相手とは思っておらん。好きに発言させよ」

 

「ハッ……」

 

「さて、人間よ。わざわざ我が国に踏み入ってくるとは、どういう心積もりだ? 我が娘をテイムしただけでは足りぬと申すか?」

 

「あんたがペティの父親か!? どうして戦争なんかしようとするんだっ!?」

 

「それをお主が言うか」

 

「俺がっ、俺達が言わなきゃ、誰が言うんだ!」

 

「こいつ!」

 

「もう我慢なりません! 即刻、この罪人の処刑を願いたくば!」

 

「そう()くでない。殺すのはいつでもできる」

 

「……っ、出すぎた真似をしてしまいました。申し訳ございません」

 

「俺が……罪人?」

 

「よい。……そうとも、お主は罪人だ。理由はもちろん分かっておるな? お主が我が娘を──獣人を使役し、種族間の均衡を破壊したからだ。覚悟の準備をしておくといい。すぐには処刑はせぬが、近いうちに断罪するのには変わりない。そしてただ殺しはせぬ、裁判も起こす。お主がたぶらかした我が娘にも立ち合ってもらう。(みな)()()()()をしておくといい。……なんだ、まだ理解できておらぬ顔をしておるな? もう一度言おう、お主は犯罪者だ。牢にぶちこまれる楽しみにしておくとよい。……よいな?」

 

「ハッ……」

 

「御心のままに」

 

「御意」

 

「何言ってだ、こいつ? ブツブツと変な喋り方しやがって。ペティの父さんを連れてこい!」

 

「こいつッ!?」

 

「……ここまで愚かとは」

 

「では僭越(せんえつ)ながら、ここはわたくしめが」

 

「うむ。任せた」

 

「ありがたき幸せ。……さて、マスタさん。まず前提として、あなたは我が国では大罪人という扱いです。ここまではよろしいですか?」

 

「よろしくない。俺に罪を犯した覚えはない。俺は戦争を止めにきただけだ。それよりペティの父さんを連れてきてくれ」

 

「おやおや、それはそれは。……ではそんなあなたのために1から10までお教えして差し上げましょう! あなたにとって、獣人とは何ですか? どういった存在ですか?」

 

「だからっ……」

 

「どういった存在ですか? お答えください」

 

「……テイマーの俺が探し求めていた存在だな」

 

「そうですか、そうですか。テイマーとはどのような役割(クラス)なのでしょうか?」

 

「使役するモンスターを強化して戦う、指揮官とか部隊長みたいな役割(クラス)だな」

 

「つまり、獣人とモンスターは同等の存在であると?」

 

「獣人も人だろ。何言ってだ、こいつ?」

 

「そうですね、獣人も確かに人です。では、なぜ獣人をテイムされたのですか?」

 

「そりゃ、ウィンウィン(win-win)だからだよ。テイマーの俺は存在価値を示せるし、獣人……ペティは強くなれた。これのどこが犯罪なんだよ?」

 

「その関係、何かに似ているとは思いませんか?」

 

「何って……、なんだよ?」

 

「おやおや! まだ分からないとは、あなたまさか……歴史に(うと)い?」

 

「はぁ?」

 

「あなたが言うテイマーと獣人の関係はですね、奴隷法そのものなんですよ」

 

「はあっ!?」

 

「人間が獣人を使役するとは奴隷扱いも同然! ……我が国でも人間を雇っていますが、きちんと身分や階級に見合った待遇で迎えているので奴隷扱いとは、とても言えませんね」

 

「テイマーも同じだろ!」

 

「いいえ、違いますよ。私達は役割を振り分けているだけですが、あなたは支配下に置いています。違いがわかりますか?」

 

「さっぱり、わからん」

 

「つまりですね、(はた)から見るとあなたの立ち振る舞いは奴隷商そのものなんですよ。()()()もの獣人に冒険者登録をさせずにパーティを組ませるとか、奴隷扱い以外にどう解釈しろというのでしょうか?」

 

「なっ!? ペティ達を奴隷扱いしたことはない!」

 

「では愛玩動物(ペット)扱いでしょうか? 物は言い様ですねぇ。……あなたと話すのも疲れてきましたし、どうして戦争が起きそうなのかだけもう教えちゃいます」

 

「!」

 

「あなたが元凶なんですよ。あなたが何を言おうと、あなたの姿は獣人を隷属させて(えつ)に入っているとしか我が国には映りません。そして、その在り方を咎めるでもない人間国も同罪です。聞き分けのない子は体罰をもって教える……懲らしめるしかないのですよ」

 

「そんなの間違っている! もっと平和的に解決できるはずだ!」

 

「大人の世界はね、そんなに優しくもキレイなものでもないんですよ。……でも、そうですね、元凶がのこのこと我が国にやってきてくれたんですし、これで手打ちにするのが無難(ベター)かもしれませんね」

 

「わかってくれたか!」

 

「ええ、あなたの死をもって終劇です。よかったですね、戦争を起こしかけた大罪人でありながら、戦争を止めた大英雄にもなれますよ!」

 

「は……? な、なんで俺が死ななきゃいけないんだっ!?」

 

「その答えは自分で確か見てください! 死後の世界でね!」

 

 




Q.どうしてこうなった?
A.人権を無視したせい。


以下、雑な設定。

マスタ:
 本作の主人公。男性。クラスは「魔物使い(テイマー)」だが、動物に懐かれない性質のせいでPTを追放された。前PTリーダーの戦略を丸パクリして計12人PTを結成したが、冒険者として正式登録されているのはマスタ本人とペティのみ。
 会話も意思疎通もできる人型の生物を魔物や動物(家畜)として扱うという、とんでもない過ちを犯しているが、他人に呆れられるレベルで自覚はない。
 冒険者ギルド規定3倍のPT人数を統率できる部隊指揮官の才能は有った。活躍できた場所を完全に間違えている。冒険者ではなく軍に就職するべきだった人材。

ペティ:
 獣人国の姫君。武者修行の一環として冒険者をやっている。気弱なせいで失敗が多いが、ソロでも死なない程度には強い。
 名前は「ペット」と「ペッティング」から。

ヴォルト:
 マスタが元々所属していたPTのメンバー。前衛。元仲間。男性。前PTはリーダー、ヴォルト、マスタ、無愛想な女ハンター+猟犬&鷹の4人+2匹のPTだった。
 名前に込められた意味は特にない。ただの流れで名前を与えられた男。


獣人(種族):
 獣耳や尻尾の生えた、動物系の亜人たちの総称。獣王を頂点とした王制国家が存在する。犬猫などの家畜の概念のせいで、ただの人間たちから軽んじられてしまうことは少なくない。


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追放の成功者

恋愛系追放モノの場合、追放側が冒険者を降りれば安泰なのでは? なお終了後系

 キーワード:追放 復讐 僕が先に好きだったのに BSS 寝取られ NTR


「イ……ッテェ……ッ! いきなり何すんだよっ!?」

 

「……もう我慢の限界だ。俺()の前から失せな」

 

「何言って……!」

 

「あー、あー。お前にも分りやすいように言ってやる。聞け。──お前をパーティから追放する」

 

「え……」

 

「お前、邪魔なんだよ」

 

「オレが……邪魔?」

 

「俺は見せつけてやってもよかったのにな~……でも女の子がかわいそうだろ?」

 

「──! まさかお前っ!!」

 

「ああ、そのまさかだ。あの女、イイカラダしてたぜぇッ! 一目見たときから気になってんだ。昨日やっと頂けた。へっへっ、ごちそうさん!」

 

「そんな……」

 

「半年間、ご苦労さん。ぽっと出の俺に取られちゃったね~。……もう分かるだろ? 負け犬はさっさと引っ込みな!」

 

「…………」

 

「おい、聞いてんのか?」

 

「……──してやる」

 

「大きな声でもう一度ォ!」

 

「よくもオレのアイリをっ!! 復讐してやるッ!! うわあああっ!!」

 

「おう! いつでも返り討ちにしてやるぜ! ……おい、もう行ったぞ。出てきても大丈夫だ」

 

「……うん、ごめんね。嫌な役やらせちゃった」

 

「いい。惚れた女を守るのは男の役目だろ」

 

「……」

 

「今だから言うけどよ、俺は本当に一目見た時から気になったんだ。たまたま目が合った。そこから始まった縁だ。あのときのお前は……なんというか、捨てられた子犬みたいな目だった」

 

「……」

 

「冒険者なんて、《傭兵》を言い換えただけの荒くれ者どもの稼業だ。ロクなヤツがいねえ。そんな世界(なか)にお前みたいな純粋な子供(おんな)がやってきた。……まるで何かから逃げてきたようにな」

 

「あいつ……ナローはずっと一緒だったの。小さい頃から」

 

「ああ」

 

「どんなところに行っても背後霊みたいに後ろからついてきて、あたしの周りにいつも付きまとってきてた」

 

「あ、ああ?」

 

「村であたしと同じ年代はあいつだけ。あのままだとあいつと結婚させられると思った。だから冒険者になったの」

 

「ってことは……村から飛び出しても付きまとってきたってか、あの男。とんでもねえな。……ところで本当に俺なんかでよかったのか?」

 

「うん。……本当はね、イイ人を見つけたらすぐ村に戻るつもりだったの。でももう無理。あいつ復讐するって言ってた。村に戻ったらお父さんとお母さんも巻き込んじゃう。……ウェディングドレス、見せたかったなぁ……」

 

「……村に案内してくれるか?」

 

「え?」

 

「どうせどこに居ても復讐しに来るってんなら、どーんと待ち構えようぜ。お前だけじゃない、ご両親も村の人達もみんな俺が守ってやる。見せに行こうぜ、ウェディングドレス」

 

「~~っ! うぁ……うわあああんっ!」

 

(ナロー、俺はお前と違ってアイリのカラダだけが目当てじゃねえ。……俺に復讐したってアイリはお前の物にならねえぞ?)

 

 

────────────────

 

 

「見つけたぞ!」

 

「あん? 人様ん家の扉を蹴破るたぁ……お前、ナローか? 1年ぶりくらいか?」

 

「そうだ!! お前に復讐しに来た!!」

 

「周りに何人も女の子を侍らせておいて今更アイリに、ね……。やり合うのは構わねえが、ちょっと話そうや。……おいあんた、なんでこいつと一緒にいるんだ?」

 

「アイリさんを解放してください! 女の子を無理やり手篭めにするなんて、ひど過ぎます!」

 

「あのなぁ……、この村はアイリの故郷だぞ。そこに俺が居る時点で何か違うと気付こうや。アイリを含めた村の総意でここに居んの」

 

「そんなの脅して従わせているんでしょ!」

 

「……だめだ、話通じねえ」

 

「あたしに任せて」

 

「アイリっ!? そんな身体で無茶しちゃだめだ、戻ってろ!」

 

「だめ。あなたとあたしは家族でしょ? これから新しい家族も増えるんだから。一緒にがんばろ?」

 

「お前ッ!! よくもアイリを孕ませたな!!」

 

「当たり前だろ。俺達結婚したんだから」

 

「……え? 結婚?」

 

「そこのストーカー男を追い払ってやった縁でなぁ、もうじき子供も生まれるんだ。……だからよ、ここは話し合いで解決しねえか? アイリに、妻に負担は掛けたくないんだわ」

 

「話と違う……」

 

「すんごいラブラブですね……」

 

「私達、騙されてたの?」

 

「ナローさん、これはどういう事か説明してもらえますか?」

 

「違う! みんな騙されるな!」

 

「そこら辺も含めて、じっくりお話ししようや」

 

 




この話の中核はアイリです。アイリの名前は「愛別離苦(あいべつりく)」から。
名前に込めた意味合いはいくつかあり、元々の意味のほかに、

愛別:
 ・ナローに愛は別にない、ナロー以外の別の人に向いている(アイリ)
 ・愛を別に語る(男)
 ・愛ではない別の何か(ナロー)

離苦:
 ・苦しみから離れたい(愛苦、ナローの存在が苦難そのもの)
 ・(両親と)離れなければならない苦しみ
 ・苦しみから離れられた(別離)
 ・誰の助けもなかった陸の孤島
 ・別の苦しみが待っている(別苦、ナローの復讐予告)

愛離:
 ・愛想も尽きた

愛→別→離→苦:
 ・起承転結の意。筋書き

タイトルは言葉通りの意味。せいこーしてます。だいたいこんな感じです。


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無能な働き者

残当。

 キーワード:追放 スキル 状態異常 ハズレ枠 毒


「おい、ナロゥ。おめーは今日限りでクビだ。いますぐパーティから出て行け!」

 

「リーダー? あの、それはどういうことですか?」

 

「察しが悪いですね。あなたはここに居てはいけない存在なのですよ」

 

「ガネメさん?」

 

「これだからグズはイヤね……ほら、さっさと失せなさい」

 

「マージョリーさんまで……」

 

「……はやく行け」

 

「……カモークさん……。……っ、イヤです! 僕はここに居たい! 僕は冒険者で在りたい!」

 

「知るかよ、そんなこと! いいからさっさとしろ!」

 

「イヤだっ!! 僕は、僕は──」

 

「王国騎士団だ! 全員その場から動くな!」

 

「!?」

 

「ハァ……来ちまったか」

 

「自業自得ね」

 

「……ナロゥ」

 

「えっ? えっ? 騎士団がなんで?」

 

「貴様がナロゥだな?」

 

「は、はい」

 

「そうか……──では死ね」

 

「かひゅっ──?」

 

「足止めご苦労。報酬はギルドを通して支払う」

 

「……ああ」

 

「では撤収する! おい、キサマはここに残り、死体を片付けろ!」

 

「ハッ!」

 

「……だから言ったのにな……」

 

「これだからグズはイヤなのよ……」

 

「まあ、うまく逃げおおせたところで、いつかはこうなっていたでしょう。リーダーが気に病むことではないですよ」

 

「ナロゥ……」

 

「パーティの中に《状態異常スキル》持ちが潜んでいただなんて、君達も災難だったな」

 

「ええ、まあ……そうですね。長らく騙されていました」

 

「ねぇ、一応聞いておきたいんだけど……《状態異常》がハズレ枠なのって、やっぱり危険だから、わざとそういうことにしてるの?」

 

「使わせないために……か?」

 

「そりゃそうだ。火炎魔法や氷結魔法みたいに目に見える力ではないからな。魔力で毒を作り出せる人間なんて、とても恐ろしい……。下位のスキル持ちでそれだ、上位のスキル持ちは直接相手の体内に毒を作り出せるらしい。君達が無事で本当によかった」

 

「なあ、騎士さんよ。こいつは殺さなきゃいけないほど危険な存在だったのか?」

 

「何を言ってるんだっ!? こいつは誰にも気付かれずに、いつでも人を殺せたんだぞ! そんな人間は、この世に存在しちゃいけない。こいつは死んで当然なんだ。殺さなきゃ俺達が殺される」

 

「……そう。確保しなかったのは抵抗や心変わりを恐れるからなのね」

 

「ふむ……、防ぐことのできない攻撃ほど恐ろしいものはないと。一般的な攻撃魔法なら避けることも身代わりになることもできますから、その差でしょう。……付け加えるなら、毒を扱える点がもっとも厄介なのでしょうね。王族貴族の世界では毒は身近な存在だと聞いたことがあります。つまり──」

 

「君、それ以上は……」

 

「おおっと。……これはお恥ずかしい。たまに私は妄想を(くち)にしてしまうんです。どうか聞かなかったことにしてもらえれば助かるのですが」

 

「……そうだな。俺は何も聞いていないし、君は何も言っていない」

 

「ええ、そうですね。そうでした」

 

「え……?」

 

「マージ」

 

「カモーク……」

 

「さて、死体も袋に詰め終わったし、俺はもう行くよ」

 

「はい、ご苦労様です。……行きましたね」

 

「……なあ、ガネメ。オレが気付かなかったら、ナロゥは死なずに済んだのか? あいつがサボってる証拠を探そうとしなければ──」

 

「リーダーが気付かなくても、いつかはほかのパーティに気付かれていましたよ。あなたは悪くない。私達は正しい行ないをしたんです」

 

 




 ハズレスキルで成り上がる冒険者とか額面通りに受け取るなら、その世界の知能指数がどれだけ低かったのか、それとも主人公が狡猾だった(性格が悪かった)のか。大体は何らかの要素が加えられたことで爆発的に伸びたりすることが多いと思いますが、その要素を独占している時点で性格が悪いのでは……? 需要と供給(実力者だらけだと飽和してその界隈が終わる)の問題もあるでしょうが、そこまで考えているとはとても思えないくらいに欲望に忠実です。
 現実で言うとパソコン関係が妥当でしょうか。専門的や特別な知識の必要がない、手馴れた人なら簡単かつすぐに終わる事でもそれが依頼となると破格の報酬(時給)になったりします。まあその場合はそもそも依頼者側に学習する気が無かったりすることが原因だったりするので、正しい()()()だとは言えませんが。ニュアンス的にはあながち間違っていないと思っています。
 このお話では駆除されていますが、権力者が英雄に求めるものは過去の実績であり、現在の地位ではありません。自分と同等以上の権力者(実力者)とか邪魔ですからね。運よく成り上がったなろう系主人公たちも心の奥底では同じ事を考えているかもしれませんね。同格・同性の相棒とか作らないの? 君たち。


名前ネタ:
 鬼畜眼鏡(ガネメ)、魔女(マージョリー)、寡黙(カモーク)


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違和なき不和の追放者

Sランクパーティに無能の席なんざ最初からあるわけねえだろ!
 ・後書きを加筆修正(2024/1/18)。

 キーワード:追放 パーティ 冒険者 ギルド 無能 もう遅い


「あー、みんな今日は休息日だがよく来てくれた。前()って伝えておいたとおり、ちょっと確認したい懸案(こと)があって集まってもらった」

 

「実はあたしも確認したいことがあったのよ」

 

「うむ……吾輩もだ」

 

「私もです。……ほえっ?」

 

「あんたも?」

 

「なんだと?」

 

「……全員に相談事があるってのはリーダーの俺は知っていたが、まずは俺から話してもいいか?」

 

「うむ」

 

「あの()()()()を入れたのは誰なんだ?」

 

「え? リーダーじゃないの?」

 

「パーティの裁量権はリーダーさんにあるのでは?」

 

「いや、そりゃあギルドの手続き担当は俺の仕事だけどよ。パーティメンバー募集の面接担当を請け負った覚えはねえぞ。だいたい、全員何かしらあって加わっただろ。僧侶ちゃんは俺と一緒にパーティを立ち上げた初期メンだったな」

 

「はい、懐かしいですね。ギルドでどの依頼を受けようか悩んでいたことがきっかけでしたね」

 

「あたしはソロで活動してた時に、依頼先の地域がたまたま同じで、それでパーティに加わったわね」

 

「吾輩は命を救われた恩からだ。前パーティが壊滅した窮地をみなが救ってくれたのだったな」

 

「……あいつはいつの間にか居たよな」

 

「うむ」

 

「そうね。てっきり誰かが拾ってきたものと思ってたわ」

 

「私もそう思ってました」

 

(しか)り」

 

「じゃあ、なんだ? あいつは自分も仲間だって当たり前のツラで紛れ込んでたってのか? ええ? ……(こわ)っ」

 

「うわっ……なにそれ……気持ち悪い」

 

「仕事は、してはくれるんですけどね」

 

「ハァ? してないでしょ。あんの無能っ」

 

「荷物持ちのくせに、ようしゃしゃり出てくるよな」

 

「ホント邪魔だわ、あいつ。何度モンスターごと巻き込んで燃やし尽くしてやろうと思ったことか……!」

 

「ポーションの無駄打ちも多かったよな。しかも前衛が居る中に突っ込んでくるし。おかげで武器はまともに振るえねえし、的を増やすなよなぁ」

 

「ぬぅン……ポーションの代金はどこから出ているのだ?」

 

「あいつの個人資産から……ってワケじゃねえよな、流石に。──ってことは……」

 

「へ? パーティのお金から出てたんじゃないんですか?」

 

「あぁっ!! まさか資金を抜かれてるっ!? あんの泥棒ッ!」

 

「共有財産としてプールしてたのが(アダ)になったか。事実確認はあとでするとして、それがマジならこれ以上、金を使われる前にとっとと追放しないとまずいな……」

 

「あの……、通報すればいいのでは……? 相手は()()()なんですし」

 

「あっ」

 

「ほぅ……」

 

「……だったな、そうだったな。そんなヤツを放逐したほうがまずいわな」

 

「あたしらのパーティに居るってことは周知の事実だし、追放したらどんな悪評が回ってくるか分からないわね……そんなことしたら」

 

「思いついちまったんだが、もしかしたら追放されることまで織り込み済みかも知れねえぞ」

 

「うぬ?」

 

「なんでそんなこ──……なるほどね、そういうことっ! あたしたちのパーティに紛れ込んだのは()()()()()()()意味もあったってわけね! 箔付けよ。元Sランクパーティメンバーならきっと誰かしら話しかけるはずだわ……どこまでも汚いわね」

 

「滅するか?」

 

「待て待て。殺すのはそれこそ論外だろ。俺たちまで同じレベルに落ちぶれてどうすんだってんだよ。僧侶ちゃんが言ったとおり、ここは通報だろ」

 

「その間に逃げられたらどうするのよ」

 

「バレなきゃ犯罪じゃないですし、べつに屠殺(とさつ)でもいいですよ? リーダーさんが好きそうなほうを先に言っただけですし。私はどっちでもいいです」

 

「!?」

 

「ま、それが俺が僧侶ちゃんと組んだ理由だよ。こんの()、かわいい顔してすごいこと言うからな」

 

「か、かわいいなんて、そんな……えへへっ」

 

「そ、そう……そうなの、そうだったの」

 

「……それ、リーダーさんの真似ですか?」

 

「え? ──ひっ!」

 

「おうおう、じゃれるな。……俺が適当に話を持ち出して引き付ける。その間に僧侶ちゃんは衛兵を連れてきてくれ。魔法使いはギルドに根回しを頼む。戦士は……」

 

「なんでも任されよ」

 

「……あいつを密室(へや)に入れたあと、廊下(そと)で見張っててくれ。俺が矢面(やおもて)に立つ」

 

「うむ。(しか)と承った」

 

「よしじゃあ、始めるぞ! ──作戦名≪いつの間にかパーティに居たお荷物係だが今更取り繕ってももう遅い≫!」

 

 




以下、かなり雑な設定。

リーダー:
 男性。前衛。常識人。学がないだけで、頭の回転はかなり早い。地頭が良い。
 僧侶とはPT立ち上げ時からの仲。彼が独自の言い回しをするのは、僧侶のヘイト管理がため。
 ポーションを常備しているが、僧侶を軽んじているというわけではない。ただの備え。

僧侶:
 女性。実は一番の厄ネタ。静かに素で狂っている、ヤンデレ忠犬ちゃん。
 自分を受け入れてくれたリーダーのことが大々々好き。とても嫉妬深い性格。

魔法使い:
 女性。過激派。少ないヒントから真実に辿りつける天才肌。
 仲間2人と気が合ってPTに合流した。

戦士:
 男性。恩義に尽くすタイプ。話や問題が理路整然としていれば答えを出せる凡人頭脳。独特の口調で話す。
 現PTには魔法使いの後に合流した。仲間3人には命を救われた恩がある。

荷物持ち:
 名前だけ登場。追放系主人公の系譜。思い込みが激しく、現実と妄想の区別がついていない。
 PTにはいつの間にか合流していた。これまでの仲間の増え方から、そこまで変には思われていなかったが、無能な立ち回りのせいですべてご破算となった。


 もはやテンプレと化したSランクPTの無能枠。無能が混ざっている事そのものが不自然ですし、普通の感性なら危険地帯に無能を置き去りにしたり、見殺しになんかしないでしょう。常識的に考えて。
 非常識なPTメンバーだったとも考えることはできますが、それなら確実に殺しておいた方が身の為でしょう。生かしておく価値がなければ、リスクしかないのですから。クチコミや風評被害は侮れない。クビを言い渡すだけのPTはよっぽど良心的。つまりどのような導入・展開だろうと不自然であり、作為的なものを感じてしまう。実は操作系能力者だったりしない? ナローシュ君。
 死に戻りするなろう系もたまにありますが、復讐に走る時点で擁護のしようがないです。関わらなければ平和的に済むのに。引き際を知らないやべーやつになってまう。
 実力を隠していた系の場合も同様。なにも擁護できない。仲間たちの頭の出来が悪かったとしても、補助していたなら最悪打ち切ることで違いを実感させられたはず。これでは社会不適合者の烙印は避けられない。
 ヨイショしまくるハーレム要員は語るまでもないでしょう。新手のカルト団体か何か? 勉強しかできない子じゃあるまいし。せいぜいがただの恩人程度の関係やん。国家権力の手先(ハニートラップ)と云われたほうがまだしっくりとくる。

 まとめると、すべてが不自然。


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成功の裏側は

あの子も抱いて。
 ・後書きにかなり雑な人物設定を追加(2024/1/18)。

 キーワード:追放 ハーレム R-15 ギャグ ざまぁ


「……今日、呼び出された理由は分かるな?」

 

「はい……僕はクビですよね? 自分が一番よくわかっています。僕はみんなの足を引っ張ってるんだな、って」

 

「違う」

 

「だから、ひと思いに僕を追放して──……え? ち、違うって何がですか?」

 

「お前が俺のハーレムを見て羨ましがってるのは知ってるよ。顔を見れば分かる。上位ランクパーティの元メンバーの肩書きがもらえるからべつに追放されてもいいや、って感じなのもなんとなく察してる。……でもよ、ハーレムはそんないいもんじゃないぞ」

 

「えっ? えっ?」

 

「なあ、俺……いつ寝れてると思う? 何時間寝れてる?」

 

「ろ、6時間っ?」

 

「4時間以下だよ……。死ぬか死なないかのギリギリの睡眠時間にまで追い込まれてまでハッスルさせられてるんだよ……。悪の組織の四天王みたいに4人もいるせいであいつらは順番に睡眠を取れても、俺は取れてねえんだよ……」

 

「そ、そうだったんですか……? それは……気の毒に?」

 

「身体にも毒だよ。しかもだな、最近入ったばかりの()いるだろ? 危なっかしくて半ば無理にパーティに入れた()。ここんところ、あの()もアプローチをかけてこようとしてきてな……淫乱四天王が5人になったら俺はマジで死ぬかもしれん」

 

「自慢ですか?」

 

「自慢じゃねえよ。そりゃあ、俺だって最初は喜んだ。女を(はべ)らすのは男の夢だかんな。……夢は夢だからいいって分かったんだよ。……あいつら、仲良く見えるか?」

 

「仲良いじゃないですか」

 

「表面上はな。俺の前だから良い子ちゃんぶってるだけ。そのあたりも夜の激しさに拍車をかけてるんだ。……動物の縄張り争いと同じだよ。なんでパーティに男が俺とお前しかいないと思う?」

 

「リーダーが女好きだからでは?」

 

「お前、言うようになったな。やっぱり猫被ってたな。……ちげーよ、マウント取ってるんだよ。女同士で。そもそもお前をパーティに入れたのは俺じゃないし」

 

「そういえば……」

 

「ちょっと意味は違うが、当て馬みたいなモンなんだろうな。ランクに差がある男や女を並べて、自分はこんなにいい男を見つけたんだって。──で、それを前にして女同士で奪い合っている」

 

「やっぱり自慢じゃないですか」

 

「バカ、よく考えろ。どうして、あいつらはそんなことをしていると思う? ……周りの目が無ければ何をするか自分でもよく分かってるからだよ」

 

「ハァ? 自分だけ分かってるふりしてないで、ちゃんと僕にもわかるように説明してくださいよ」

 

「だからっ! セーフティ代わりのお前が居なくなったら暴発するんだよっ! あいつらは!」

 

「なんだそんなこと……知らないですよ。僕には関係ないことじゃないですか」

 

「いいや関係あるね。パーティから出たらお前もハーレム作る気だろ?」

 

「うっ……」

 

「やめとけ。俺の二の舞になるだけだ」

 

「それはあなたがだらしないだけでしょう!」

 

「本当にそう思うか? ってか、女を抱きたいだけなら娼館だってあるだろ。むしろそっちの方が後腐れなくて良いくらいだと俺は思うね。……ハーレムは意思とは関係なく出来上がるぞ」

 

「~~っ! もう、うんざりだ! なら僕が証明してあげますよ! あなたがだしなかっただけだって! いままでお世話になりましたね!」

 

「あっ、おい! 待て、待てぃっ! やめろ、俺を置いて行くんじゃねえ!」

 

「あなたの居場所はそこでしょう! では僕はこれで! さようなら!」

 

 

────────────────

 

 

「おい、聞いたか? あのSランクパーティのリーダーが死んだんだってよ」

 

「マジかよ……、死因は?」

 

「いやそれがどうも過労死らしい」

 

「……Sランクパーティも激務なんだな」

 

「あ、あのっ! ……いまの話って本当ですか?」

 

「あん? あんだテメェ……、どこかで見た気がするな?」

 

「こいつアレだよ、元Sランクパーティのメンバーだったヤツ」

 

「ああっ! こいつのせいでリーダーは死んだのか!」

 

「えぇっ!? ちょ……人聞きの悪い事を言わないでくださいよ!」

 

「事実だろ? 役立たずでも身の回りの世話とか雑務くらいは出来たはずだし」

 

「あー、確かにこいつが抜けてから見る見る内にやつれてったよなぁ」

 

「んだんだ。間接的に殺したのは間違いねえ。この人殺しが」

 

「そういえば、こいつんとこのパーティも女だらけだったよな。もしかしたら元リーダーと同じ死に方でもするんじゃねえの? ……祟りだっ! ってな!」

 

「でもまあ、残されたヤツらもそんな不幸でもねえか。忘れ形見を身篭ってるし」

 

「旦那の残した遺産で子育てスローライフを送ります、ってか? がははっ」

 

「えっ……」

 

「ああ、こんなところに居たんですか。()()()()

 

「あっ……」

 

「もう……探したんですよ? 勝手に居なくなっちゃダメじゃないですか。()()()()()()()()んですから」

 

「やめっ、やめろ! ぼ、ぼ、僕っ──僕に近づくなっ!!」

 

「お? おいおい、どうした痴話ゲンカか~?」

 

「そういうのは他所(よそ)でやってくれよ。見せ付けないでくれよ」

 

「助けっ、助けて! 僕を置いてかないで!」

 

「置いてく? お前の居場所はここじゃなくて、そっちだよ」

 

 




以下、かなり雑な設定。

僕:
 本作の主人公。男性。わりと強かな性格。この短編集にしては珍しくハーレムを作れたが、同時に悲惨な末路が確定している。
 前PTリーダーの末路を聞いて、やっと真実を理解したのも束の間。次の瞬間には自身のハーレムメンバーを見て恐慌状態に陥った。

前PTのリーダー:
 男性。いつの間にか結成していたハーレムのせいで慢性的な睡眠不足となり、最終的に過労死した。

前PTのハーレムメンバーたち:
 淫乱四天王(5人)。僕君の目がなくなったことで本格始動。結果的にリーダーを死へと追いやってしまったが法的には無罪。腹に彼の子供を抱えていることから前PTリーダーの遺産をメンバー内で分割し、それぞれが子育てスローライフを送る予定でいる。冒険者稼業は休業中。

おっさんたち(2人):
 噂話をしていた人たち。冗談めかして言っているが、その内容は真相に迫っていた。


 拙作の中では珍しくナローシュ君がせいこーしているお話でしたが、その裏事情は知る人は知っているといった感じです。彼が居なくなった途端に落ちぶれる(総崩れになる)PTとか露骨に怪しすぎる。同業者に警戒されて当然だといえます。
 一見するとハッピーエンドですが、彼の末路は前PTリーダーと同じです。運よくハーレム要員がお行儀の良い人形になってくれるか、それとも抑制用の男性メンバーを加えることになるか。どちらに転ぶにせよ、その前段階は異常な状態であることは確実です。女たちの中に男が1人混ざるとか、男として見られていないか、子供など簡単にねじ伏せられる相手か、誰かのカレシかのどれかですし基本……(女性は意外と臆病であり、危険な存在には近づかないが、利用したり理解していない場合は別)。そうなると洗脳を疑って襲い掛かってくる第三者の存在も出せますね。最後のどんでん返し的な。そんなお話を書く予定は未定ですが。
 追放系の前PTとナローシュを足して割ったような性格をした某ランスなんかがいますが、あちらはちゃんと男も側に置きますし、許容する・しないの線引きもきちんとできているので、比べること自体がおこがましい話ではあります。ハーレムは作っても選り好みはするし、なんなら本命は別にいる。本命行方不明(うし鍋)の場合は……まあ。
 ごちゃごちゃとした纏まりのない後書きとなりましたが、やはりなろう系は不自然だと思います。


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巡り廻る

あんな美少女、誰かのお手つきに決まってんだろ!
 ・後書きのネタ成分を増量(2023/5/18)。

 キーワード:追放後 冒険者 純愛 ハッピーエンド BSS ダブル主人公 復讐


「ここは……? なんで手足が縛られて……?」

 

「目が覚めました?」

 

「君も縛られているってことは、僕たちは誰かに拉致されたのか?」

 

「そう、みたいですね……ははっ……。待っていれば助けが来るかもしれませんし、よかったら話でもしませんか? 俺、あの英雄ナーロインさんと一度会話してみたかったんですよ」

 

「そんな悠長にしている場合じゃあ──」

 

「情けない話ですけど俺、怖くて身体が震えて……はは……」

 

「……わかった。話をしようか」

 

「ありがとうございます。……噂で聞いたんですけど、ナーロインさんって元はSランクパーティの雑用だったって話は本当なんですか?」

 

「いきなり答えにくいことから入るなぁ……本当だよ。僕は落ちこぼれで、いつもパーティのみんなから罵倒されてたんだ」

 

「今じゃあ考えられない話ですね」

 

「まあね。──でも、ある時になって追放されたんだ。思えばあれが契機だったんだなって」

 

「追放……ですか」

 

「うん。好きだった幼馴染と一緒のパーティだったんだけど、いつの間にか元リーダーに幼馴染を寝取られててさ……悔しかったよ。あの時はさ」

 

「ナーロインさん……」

 

「それから偶然、強くなれる秘訣を知って。それで見知らぬ女の子を助けて。そしてそして、僕の周りにも人がたくさん集まってきて。それが嬉しくて。嬉しくなってさ、みんなのためにがんばったんだ」

 

「なるほど……。それが英雄ナーロインの誕生秘話だったんですね。幼馴染の娘はどうしたんですか?」

 

「復縁を迫ってきたけど断ってやったよ。僕は都合のいい当て馬でも働き馬でもない。僕は僕なんだ。……それに、いまはパーティの女の子たちがいるしね。彼女たちは裏切れないよ」

 

「やっぱり裏切られるのは嫌ですよね」

 

「そりゃあそうだよ。誰だって優しいままの世界であってほしいよ」

 

「そう、ですね。……じゃあ、パーティの中で誰が一番好きなんですか?」

 

「えっ? あはは……困ったなぁ。僕には選べないよ」

 

「英雄、色を好むって昔から云いますもんね。……そっかぁ」

 

「そろそろ震えも落ち着いてきたんじゃないか?」

 

「ええまあ。最後にひとつ訊いてもいいですか?」

 

「ああ、もちろん」

 

「──自覚ってあります?」

 

「えっ? 何のだい?」

 

「あんたにとってのヒロインは、誰かにとってのヒロインだったってことさ」

 

「誰かの……? ──ああ、そういうことか。僕の幼馴染は元リーダーのヒロインだったのかもね」

 

「なら俺にも新しいヒロインはやって来るんですかね?」

 

「君も何かあったのか? でも、がんばれば誰かが見てくれるよ。僕の時みたいにね」

 

「ナーロインさん。俺はね、あの子がよかったんですよ」

 

「でも君を裏切ったみたいじゃないか」

 

「そうですね。それでもですよ。諦め切れないんだ……どうして、あの子をあんたのヒロインにしたんだよ?」

 

「……は? 僕の、ヒロイン?」

 

「俺にとっては、あんたとあんたが云うクズは一緒だ! 自分の女を寝取られておいて、他人の女を寝取る奴があるかよっ!! この畜生め!」

 

「せ、説明してほしいっ。僕は君に何かしてしまったのか?」

 

「したんだよっ! 同じパーティでもないのに奪っていったんだよ、あんたは!」

 

「そんなこと、僕は──」

 

「知らなければ許されるっていうのかよ! まだ分からないのかっ!? あんたさえ、あんたさえ居なければ俺たちは結ばれていたはずなんだっ! なのにっ、あんたが眩し過ぎたから……ッ!!」

 

「……ごめん」

 

「あの日はたまたま別行動をしてたんだ。集合場所に戻ってこないから捜してみればさ、あの子はあんたと一緒に居てさ。俺のことなんか忘れたみたいに笑ってて……思わずその場から逃げ出したよ。俺は自分の至らなさを恥じて修行を始めたんだ」

 

「どうして、声をかけなかったんだ?」

 

「彼女を信じたかったからだよ。彼女が浮気なんかするわけないって思ってた。言葉よりも態度でって俺を捜してくれるならって期待して……そんなの、俺の勝手な思い込みに過ぎなかったのにな。そんな彼女の現在(いま)はSSSランクパーティのヒーラーだ」

 

「あの子も、僕の幼馴染と同類だったのか。また僕は騙されていたのか……」

 

「彼女を悪く言うなっ!! 勝手に奪っておいて捨てんのかよ!?」

 

「僕だって譲れないものがある」

 

「ああ……?」

 

「……」

 

「……そうかよ。でもな、はいそうですかで終わらないんだよ。あんたが捨てると言って彼女は簡単に納得するのか? 行き場を失くして俺の元に戻ってくるって云うのか? そんなわけないだろ。俺が居ない間にも彼女はどんどん出世してって、Cランクの俺とじゃあつり合わない。結局、つり合ってなかったんだ」

 

「君も冒険者だったのか」

 

「ええまあ。たった今までは」

 

「……なんだって?」

 

「この誘拐劇は自作自演だよ。俺のほうの縄は──この通り、解けるようにしておいたんだ。あんたはな、俺とここで死ぬんだよ。……いい剣だろ、これ。なけなしの金で買ったんだぜ。どうせ俺の手元に戻ってこないなら、共に彼女の記憶に刻まれるのもいいよな。きっと忘れられない思い出になるよ」

 

「なっ……バカな真似は()すんだ! 僕が死んだらみんなが悲しんでしまう!」

 

「そうだな。あんたと一緒なら彼女も悲しんでくれるさ。昔の男と今の男が同時に死ねばな。そう思って計画したんだ」

 

「そ、そうだっ、話をしよう! 話、話っ、話を──」

 

「ハハ……かの英雄が情けない話ですね。俺が怖いですか? 身体、震えてますよ」

 

「く、来るなっ……! 来るなぁっ!! やめろ、やめろ……!」

 

「嫌だね。あんたと話すことはもうないよ」

 

 

────────────────

 

 

「──てくだ……! おき──……さい!」

 

「う……、ううぁっ……?」

 

「あぁ、よかった……!」

 

「あん、たはっ……?」

 

「私です! あなたと()()()()()()()()()()()()ヒーラーです!」

 

「……えっ……? なん、て……?」

 

「やっと居場所がわかったのに死ぬなんて私が許しませんっ! ……本当によかった……間に合って、よかった」

 

「あいつは……どう、なった?」

 

「ナーロイン、さんは……その」

 

「そう、か……よかっ……俺……、俺だけ、の……ヒロ……」

 

 




以下、雑な仮設定。

ナーロイン:
 追放型なろう系主人公。(存在しない)前作主人公。成り上がり済みの英雄。知らず知らずに恨みを買っていて暗殺された。お前また何かやっちゃってるよ。ちやほやとされるがままで、仲間たちの人となりを知ろうとしなかったのも死因のひとつ。彼にとってハーレムは単なるトロフィーに過ぎなかった。
 ヒーラーが駆けつけた頃には手遅れだった。(存在しない)次回作「僕を助けようとしてももう遅い!~成り上がった英雄ですが地獄へと旅立ちます。そちらもどうぞお元気で~」が始まった。

Cランク冒険者:
 寝取られ型なろう系主人公予備軍。今作主人公。別の物語の主人公を見事暗殺してみせた。脳破壊されたせいで作中の彼は精神不安定の状態にあったが、最後の最後に救われた。英雄を殺したことについては「俺何か殺っちゃいました?」といった態度であり、真相が判明した後も後悔はかけらもしていない(ひとの彼女を手元に置いたままにしていたことは事実だったから)。そのまま闇に葬った。
 その後は(存在しない)新作「陰の主役のやり直し」の人生を送った。彼女のヒーラーと無事によりを戻せた。

ヒーラー:
 今作ヒロイン。いわゆる控えめな清純派ヒロインで、心に気持ちを秘めていた。ナーロインに彼氏の捜索を頼まなかったのは、個人的な事情に他人を踏み入らせることを嫌ったため。貞操の切り売りはしていない。ナーロインのことは友人程度に思っていてその死を悲しみこそしたが、それ以上に彼氏君と再会できたことを喜んだ。
 SSSランクパーティのヒーラーという肩書きは根も葉もない噂であり、ナーロインとはPTを組んでいない。周りがセット感覚で見ていただけであって事実無根。彼女もやんわりと否定していたが、そういうネタだと思われてしまっていた。ギルド側は英雄PT+協力者という扱いで処理していたため、書類上の不備もなかった(彼氏PTを脱退したくなかったから協力者として行動していた。共同依頼では彼氏君にも責任が飛び火するので)。単なる風評被害。ナーロイン本人を含めた全員が地味に彼を死に追いやっている。


巡り廻る(タイトル):
 巡り=自分が憂き目から脱したとき、誰かを憂き目に遭わせている。
 廻る=自分がした行ないが形を伴って戻ってくることと、元鞘。

 辞書の意味そのままです。単なる言葉遊びなのでどっかのフリゲはまったく関係ありません。


 なろう系でSランクPTに無能が居る理由としてふと思ったことが、PTリーダーも元無能で成り上がったから拾い入れた。しかし、あまりの無能っぷりに耐え切れなくて放逐、かつての自分のように無能は成り上がっていき、かつてのPTリーダーのように自分は落ちぶれる……そんな栄枯衰退みたいな。今回はヒロインの扱いに焦点を当てましたが、そっちでも1本書けるくらいのネタかもしれません。


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獅子身中の虫

そういうとこやぞ(即死ワード)。

 キーワード:追放 勇者パーティ 魔王城 ラスダン攻略


「ふう、やっと一息つけるな。神官さん、回復を頼めるか」

 

「はい、いますぐに。……大きなケガ。もう大丈夫ですからね」

 

「……あの、勇者」

 

「魔法使いは戦士と共に周辺警戒を頼まれてくれないか」

 

「ごめん。あたし、役立たずだよね……。さっきの戦闘でも何もできなかったし」

 

「いや……流石は魔王城といったところだな。ボス格は攻撃魔法を高確率で無力化してくるし、ザコにも魔法の通りが悪いなんて俺の想像以上だったよ。俺のほうこそ、すまない。見通しが甘かった。こんなところに君を連れて来てしまって……」

 

「なーにバカなこと言ってんだよ、お前ら。魔法使いさんはちゃんと支援してくれてたろ。防御結界がなければオレたちのケガはもっと大きかった。さては戦いに集中しすぎて気付いてなかったな?」

 

「そうだったのか……! 俺もまだまだだな。ごめんな、気付いてやれなくて」

 

「べつに、それくらいしかできなかったし」

 

「うんうん。責められるべきは──お前だよなぁ、ナロップ」

 

「ぼ、僕も支援してましたっ!」

 

「本当か? お前のほうは習得済みの攻撃魔法も初級止まりで、普段から役に立ってなかったじゃねーか」

 

「僕はデバフ担当なので……」

 

「まぁ100歩譲ってデバフ掛けてたとしよう。勇者、これまでの旅で実感できてたか?」

 

「……自信ないな」

 

「魔法使いは?」

 

「同じ魔法使いでも系統が違うからそんなに詳しくないわ」

 

「神官さん」

 

「あはは……」

 

「オレでも実感できてないんだわ。ここじゃ敵への魔法の効きも悪いしな。パーティ構成を見直すかね。──ってことで、お前クビな」

 

「えっ?」

 

「随分と性急だな……。どうしたんだ、戦士? お前らしくもないぞ」

 

「今さっきの戦いでも苦戦を()いられたんだ。次もうまくいくとは限らねえ。目に見えて役に立っているか分からない奴を守っている余裕がオレたちにあると思うか?」

 

「それは……そうだが」

 

「どうせこの旅もここで終点だ。ここで関係を打ち切っても何の痛手もねえ。何よりもこいつの根性が気に入らねえんだ。あのとき、勇者の後ろにはこいつがいた。そのケガはナロップを庇ったせいだ」

 

「……ご、ごめんなさい……」

 

「謝って済む話じゃねーんだよ。お前らは確かに強いが、まだまだ()()だ。何か失敗したら次から気を付けるのは当然だが、大人の場合はもっと先を見据えるんだわ。再発防止のためにお前、パーティから抜けろ」

 

「だが何も、今じゃなくても」

 

「デバフが通るってんならソロでも余裕で帰れるだろ。やってみろよナロップ。なんとでもなるはずだ」

 

「ソロでだと? しかし……」

 

「……魔法使いと神官の下着がたまに無くなってるのはなんでだろうな?」

 

「は?」

 

「な、なんでそれをっ」

 

「え……ウソ……!」

 

「ひぅ……」

 

「いつも誰が火の番をやってると思ってるんだよ。仮眠取ってるって云っても目を閉じて横になってるだけだ。ちゃんと意識はあった。……魔王を倒したらオレらは晴れて英雄だ。そんなド偉い立場になったら役所の人間に忖度(そんたく)されて罪を償わせることもできなくなる。……今しかないんだよ」

 

「私刑か」

 

「嫌か? ならこのまま連れて行くか? 魔法使いと神官は下着ドロの面倒を見てやれるか? お前ら2人に好意を伝えるわけでもなく、勝手に衣類で劣欲を発散させてた変態を(そば)に置いたまま集中できるか?」

 

「……」

 

「……はぁ、これも言わなきゃいかんか。こいつはな、本当は勇者を盾にしたんだよ。後ろに居たのは故意で謀殺するつもりだったんだ」

 

「なっ……それは本当なのか?」

 

「おっ、目つきが変わったな。魔法使いはな、勇者のことが好きなんだ」

 

「えっ?」

 

「ばっ……バカなこと言わないでよ! 勇者のことなんか、勇者なんか……好き……」

 

「くくっ、いいねえ、青春だねえ。そんな意中の勇者が死ねば、ナロップにもチャンスはあるかもな。……そんな青くせえ感情で仲間たちを危険にさらして、神官に負担をかけて、どうして追放しないって思える? オレには無理だね」

 

「あんた……本気なの?」

 

「……」

 

「そうやって黙ってやり過ごそうとするのも、おじさん好かんのよ。なんとか言ったらどうだ?」

 

「──ま、魔王軍だなっ?! 僕たちを内部分裂させる気だろ! そうはさせない!」

 

「じゃあ置き去りにするか」

 

「えっ」

 

「共倒れさせるとか考えたんだろ? じゃあさせないように置き去りにすればオレへの嫌疑は晴れるな」

 

「あ……」

 

「まだ不服か? んじゃパーティらしく多数決でも取ろうぜ。ナロップを許す奴はそいつの隣にいけ。オレの意見を支持するならオレの隣にきてくれ」

 

「私は戦士さんに従います。……きもちわるい」

 

「あたしも。ちょっと、無理」

 

「勇者はどうする? 性犯罪者の肩を持つか? 女の敵に回るか?」

 

「……その言い方は卑怯だぞ」

 

「はいはい、勇者もオレ側ね。ってことで満場一致だ。ここでの休憩が終わるまでは居ても構わんが、距離は取らせてもらうぞ」

 

「……そんな……! ……くっ!」

 

「あっ! ……行っちゃいましたね」

 

「ナロップ! ──戦士、放してくれ!」

 

「だめだ。仲間(おまえ)を見捨てるわけにはいかねえ。孤立したのはあいつからだ。痛いところを突かれて仲間(なかま)を見捨てるようなやつは、もう仲間(なかま)じゃねえんだよ」

 

 

────────────────

 

 

「なんで僕が追放されなくちゃいけないんだ……。デバフだってちゃんと掛けてたのに。僕のほうが2人のことが好きなのに。なんで勇者ばかり。なんで僕ばかり。……──あっ、そうだ……! 魔王軍に寝返ってやればいいんだ! へへっ、僕を(ないがし)ろにするのが悪いんだぞ……! ここの魔物に魔法の効きが悪くても、人間にも効きが悪いってことはないはずだ。……あっははっ! 僕の力を見せてやるっ……!」

 

「ほう……たった独りで、この玉座の間まで辿り着くとはな。人間にしては上出来だと褒めてやろう」

 

「ここは……? いつの間にこんな深くまで来てたんだ。もしかして、あなたが魔王ですか? 僕をあなたの部下にしてください」

 

「ほう? 面白いことを云う。いかにも余は魔王と呼ばれる存在であるが、なぜ余の部下になりたいと申す?」

 

「僕を捨てたあいつらに復讐してやりたいからです」

 

「くだらんな。同士討ちなど独りでもできよう。なにより──」

 

「──ひょっ──?」

 

「そう簡単に寝返るような者を配下にするなぞ、ありえぬ。闇の炎に抱かれて消えるがよい」

 

 




以下、雑な人物設定。

戦士:
 経験豊富なおっさん。PTの頭脳役。実力はあるが年齢の若い面々のために、王命によってPTへと加入した。ナロップの勇者謀殺に気付けたのも経験によるもの。PTリーダーではないが場を仕切った。この短編集のテンプレに影響されてか口が上手い。
 現実主義者な彼は魔王を倒した後の事も考えて追放劇を始めることにしたのだが、すべての罪までは言及するつもりはなかった。せいぜいが英雄という肩書きを与えないところまでだったが、勇者が止めに入ったことで結果的にほぼすべての罪を引き出す展開へと至った。

勇者:
 男性。仲間思いのいいやつだが、女心はあまり分かっていない。状況的にも本文中に意識できる間はなかった。彼の善意がナロップの末路を舗装した。

魔法使い:
 勇者の事が好きな女の子。泥臭い旅の中でも青春している。この短編集のテンプレに影響されてか、ツンデレ風味。

神官:
 包容力のある仲間思いの女の子。でも性犯罪者までは抱擁できなかった。実は戦士のことが好きで、力尽くでモノにされたい健全な変態(物事を率先して引っ張ってくれる人が好き)。この短編集のテンプレに影響されてか従順気質。多数決を取ったときも、地味に一番に戦士の隣へと駆け寄っている(一番に返事をしている)。

ナロップ:
 デバフ担当の後衛。気持ち悪さ全乗せのどうしようもない変態。余罪多数。一行の中でも特に精神的に未熟。簡単に陣営を鞍替えするような輩らしい最期を迎えた。

魔王:
 たとえ使えるものだとしても、少しでも不安を感じたら受け入れない尊大な小心者。


作中におけるナロップの主なやらかし具合:
 ・下着ドロ
 ・勇者の謀殺(未遂)
 ・同士討ちを誘った(未遂)
 ・敵勢力への寝返り(未遂)


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隣の青い鳥

パーティが落ちぶれても、追加で追放しない元リーダーはじつはイイヤツ説。
 ・後書きにタイトルについてのおまけを追加(2023/10/1)。

 キーワード:追放 入れ替わり 元PT 現PT


「お前を追放する──……なんて僕も言う事になるなんてね。あの時のリーダーの気持ちがようやく分かった気がするよ」

 

「──」

 

「昔の僕みたいな(どん)くさい人や能力の低い人をわざわざ選んでパーティに入れて、いつか自分の方が耐え切れなくなって追放って……リーダーも僕と同じだったのかな。僕はそんなことしないって思ってたのにな」

 

「──」

 

「僕とリーダーの体が入れ替わったことは誰にも言えないな……。パーティのみんなに話したらどうなるか分からないし。こうやって独りで人形に話しかけているのも見られたらまずいんだけどね」

 

「──」

 

「かなり危ない橋だけど、パーティはなんとか維持出来てる。収入も僕が僕だった頃と比べて段違いだし、そこは感謝してるよ。リーダー」

 

「──」

 

「でも、たまに思うんだ。僕の体になったリーダーは、僕が僕だった頃に持っていなかった、いや、今の僕でさえ持っていない強大な(すごい)力を手にしたし、僕のパーティと同じくらいキレイでかわいい人ばかり集まってきてる。死んだと思っていた僕の両親とも再会してたよね」

 

「──」

 

「入れ替わりはしたけど、心と体、どっちの僕もものすごく強くなったのに、なんで僕はあっちの僕が気になるんだろうね……。僕の本当の両親はすでに死んだものと思ってたし、元のリーダーの両親も亡くなってたから何も変わらないはずなのに」

 

「──」

 

「同じはずなのに、なんで、なんで……僕はこんなにもあっちが羨ましいんだろう?」

 

 

────────────────

 

 

「じつはな、俺は俺じゃないんだ」

 

「え? なに、哲学のお話?」

 

「ちげーよ。言葉の意味そのままだ。この体は俺の体じゃない。本当の俺はSランクパーティ≪レコメンド≫のパーティリーダーだったんだが、落ちこぼれのメンバーを追放した翌日に、そいつと体が入れ替わっていた。……急な話だけど信じられるか?」

 

「ううん。ぜんぜん」

 

「そこは信じろよ! ひとがせっかく、マジな雰囲気出してたってのによ!」

 

「だって実際に目撃しなきゃ信じられない話だし。でもなんで今その話をしたの?」

 

「いや、前の俺より勢力を伸ばせたはいいが、急にまた入れ替わりでもしたら困るしな。言えるうちに言っておこうと思った」

 

「そんな最期みたいなこと言わないでよ……」

 

「わりぃ」

 

「不安ならさ、元の体に戻っても今みたいにふるまっててよ。それでまた会いにきて。そしたら信じてあげる」

 

「入れ替わった奴が俺のふりをするかもしれねーぞ? その場合はどうすんだ」

 

「話せば分かるよ、きっとね」

 

「……そうか」

 

「うん。そうだよ」

 

「もしもの時は両親を頼む」

 

「頼まれましたっ。……うん、やっぱりあなたと結婚するのは私だよねー」

 

「お前が俺を好きなのは知ってるが、旦那の体が入れ替わるとか最悪だろ。愛はどこにあるんだよ」

 

「じゃあ、困らないように先に子供作っとく?」

 

「それはそれで子供が複雑なことになるアレだろうが……。とにかく作るのはダメだ」

 

「む~……。わーかーりーまーしーたー!」

 

「ったく……」

 

 

────────────────

 

 

「……ここは……? 君は……誰? うぅ……頭が痛い……、もしかして元に戻ったのか? 僕よりすごい僕に」

 

「リーダー? ……違う、リーダーじゃない! あの話は本当だったのね!」

 

「……何を言ってるんだ? 僕は僕だよ」

 

「近寄らないで!」

 

「あっ! ……行ってしまった。でもまだほかに女の子は居るしべつにいっか」

 

 

────────────────

 

 

「頭(いて)ぇ……。……この声は……まさか元の体に戻ったのかっ!? マジで戻んのかよ」

 

「今日は起きるのが遅いから様子を見にきたんだけど、大丈夫そうね」

 

「勝手にひとの部屋に入ってくるんじゃねーよ。……レイラ」

 

「あら驚いた。口調戻したの? イメチェンはおしまい?」

 

「……ま、そんなところだ。俺は行くところがあるから、ほかの奴らには好きに遊んでろって伝えておけ」

 

「はぁい。……優等生みたいなアナタも悪くなかったけど、ワイルドなアナタの方がもっとステキね」

 

「そりゃどーも。……はやくあいつのところに行かねぇとな……」

 

「あ、この人形は燃やしておくわね。アナタのイメージと合わないから。ずっと燃やしたかったのよね」

 

 

────────────────

 

 

「……なんで、みんな僕を避けるんだよ。ハーレムの女の子たちはみんな逃げていくし、両親には息子を返せって言われた……。こっちの僕も僕なのに、なんで……」

 

「──」

 

「ま、いっか。少し前の僕より、ずっとすごい僕になったんだからまたやり直せばいいよね。君もそう思うだろ?」

 

「──」

 

 

────────────────

 

 

「リーダー!」

 

「来たか! 俺の方から向かうつもりだったが、そっちも向かってきてたとはな!」

 

「……これが本当のリーダー。うん、かっこいいね! すごい似合ってるよ」

 

「いきなり何言ってんだ、お前は」

 

「え、だって……心も体も全部同じリーダーなんでしょ。じゃあ早く結婚しようよ」

 

「……お前しかここに居ない理由ってまさかそういうことか? 抜け駆けしてきたと」

 

「えへへーっ」

 

「笑ってごまかすなって。……ハァ、ったく、仕方ない奴だな。とりあえずはパーティの奴ら全員と合流するぞ。両親にも本当のことを伝えねぇとな」

 

「≪レコメンド≫はどうするの?」

 

「そっちも休止か解散にしたいが、あいつらにも生活があるからな。一応お前を≪レコメンド≫に移籍させるが、もしもまた入れ替わった時は……好きにしてくれ。俺の都合に付き合わせ続けるのもよくねぇしな。その時は指示を待たずに自分の意思で行動しろ」

 

「じゃあ、また入れ替わらないようにもしないとね」

 

「結局お前は、前の俺と今の俺、どっちが好きなんだ?」

 

「そう()かれても困るけど……リーダーは元の自分は嫌い?」

 

「嫌いなわけないだろ。あまり実感はないがホッとはしてるけどな。……いや、やっぱしてない。お前以外の奴がどうなってるか気になってる」

 

「そうやって足掻(あが)いてるリーダーが、私は好きだよ」

 

「お前は悪魔か。……でも、ありがとな」

 

 




以下、雑な設定。

僕:
 追放系主人公。この作品では覚醒したりオーパーツを貰ったりする代わりに、強い人と入れ替わることで成り上がっていた(成り代わっていた)。すごい自分になりたいあまり心に余裕がなく、また、異常事態であることも余裕のなさに拍車をかけていた。相談できるような相手が彼には居なかった。
 彼がたびたび話しかけていたのは一対の呪いの人形(鳥人間)で、もう一方の持ち主を羨むと入れ替わるようになっている。これが入れ替わりの原因。片割れが燃やされてしまったので、次に入れ替わる時は無と入れ替わる(=植物化する)。仮に人形が両方無事でも片方に所有者が居ない場合は、やはり無(想像の存在)と入れ替わってしまう。呪いが不発することは決して無い。
 再度入れ替わってしまった理由は、冒頭にあるように自分が拾った無能を追放してしまったから。手にしたリーダーの力にすごいと言いつつも不信感を抱いてしまったせい。

俺(リーダー):
 主人公を追放した元PTリーダー。追放モノのテンプレよろしく無能は嫌いだが、一度認めた相手は見捨てない。粗暴だが社交性が高く、常にパーティ全体のことを考えている人格者。
 追放系主人公の体になっていたのでこっちもこっちで新しくやばい力や物品を手に入れているが、元々強い力を振るい続けてきたおかげか、特に目立った齟齬は起きていない。
 元の体に戻れたことを喜んでいるが、そのせいで築いた人脈がメチャクチャになったことを面倒くさがっている。すべての事象の裏に呪いの人形があったことには、まったく気が付いていない。

ヒロイン:
 特筆することのないテンプレヒロイン。

レイラ:
 SランクPT≪レコメンド≫所属の女魔術師。本作のMVP。呪いの人形を焼き払ったことで、入れ替わりが起きることはもうない。


隣の青い鳥(タイトル):
 「隣の芝は青い」+「幸せの青い鳥」。意味はそのままで、隣芝は近くの成功者を羨み、青鳥は理想ばかり追い求める。また、青い鳥は存在しない(見つけても飛び立ってしまう)ことから、僕君の末路は孤独に消え去ることが決定している(心身ともに理想の自分になる=幸せの青い鳥)。


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縁の下の独り善がり

焼き直し。
 ・後書きの内容を微妙に増量(2023/8/4)。

 キーワード:追放 冒険者 バッファー バフ


「ウーナロ、おめーはクビだ」

 

「……え? ど、どうしてですかっ!?」

 

「どうして、って聞き返したからだ」

 

「はぁっ!? そんなの理不尽じゃないですか!」

 

「理不尽もクソもねえよ。当事者のお前が何も分かってないのが問題だって言ってんだよ。ちったぁ、自分の頭で考えろよ」

 

「そんなこと、急に言われても分からないですよ!」

 

「普通は見当くらい付けられんだろ、ったく……じゃあ教えてやるよ。お前、パーティに馴染む努力はしたと胸を張れるか?」

 

「……努力はしましたよ。でも、みんなは僕のことをバカにして、見下して……あっちに仲良くする気がないんじゃ、こっちだって仲良くは出来ませんよ」

 

「んなもん、一緒にバカ騒ぎしてりゃ勝手に仲良くなってるだろ。ならなんで1歩引いた態度を取ってきた?」

 

「だって、そんなの僕のキャラじゃないし……」

 

「ほら努力してねえじゃねえか」

 

「無理に合わせろって言うんですか? そんなの横暴だ! 人格侵害だ!」

 

「あのな、周り見て合わせるのはガキのうちに学ぶもんなんだよ。わかりまちゅか~? ウーナロちゃーん……ギャハハハハッ!!」

 

「バカにしないでください! さっきからなんなんですか? 僕をからかって楽しいですか!?」

 

「はぁ……今だってそうだろ。額面通りにしか受け取れなくて、くだらねえ自尊心(プライド)に必死でしがみついてる」

 

「温厚な僕だって、怒るときは怒りますよっ!!」

 

「自分で温厚って云うなよ、滑稽(こっけい)に聞こえるぞ。……結局のところ、お前のほうから壁を作ってたんだよ。周りがお前に合わせろ? ふざけんじゃねえよ、お前が合わせたほうが周りも楽できるだろ」

 

「……こんな屈辱、耐えられないっ! 頼まれなくても抜けてやるっ!」

 

「おいおい、冒険者なら冷静さを忘れるなよ。熱くなる時こそ冷静に、って云うだろ。──ほれっ、()()()()だ。こいつで頭冷やせ」

 

「……お金で何もかも解決できると思ってるんですか? 僕の悲しみも苦しみも怒りも、全部お金で解決できると思ってるんですか?」

 

「ああ、思うね」

 

「このっ──」

 

「金があれば命だって買えるしな」

 

「──は?」

 

「なあ、ウーナロ。俺たちが普通に買って使ってるこのハイポーションってモンはな……一般家庭じゃ逆立ちしたって買えねえ代物なんだよ。身体を売って必死こいて働いて、時には盗みも犯して……それでも全然届かない額だ。ひとくち飲むだけでどんな傷も病もたちまち回復させる──そんな夢みたいな薬が買える金額だぞ。お前、一般人をバカにしてんのか?」

 

「そ、それとこれとは話が違う!」

 

「いいや、同じだね。安全な場所に突っ立ってバフってるだけで何十本とポーションを買える稼ぎをもらってるお前と、なりふり構わず小銭をかき集めてるガキ、どっちが必死だよ?」

 

「そ、そんなの詭弁(きべん)だ……」

 

「薬以外にも飯や宿泊費、何にだって金はかかる。生きるためには金は切っても切れねえ存在だ。お前が要らねえって言うならスラムにばら撒いてきてやるよ。そっちのほうが有意義かもしれねえしな。……本当なら身包(みぐる)()いで追い出してやってもいいんだぞ?」

 

「……くっ!」

 

「そうそう、人間素直が一番だよな。──まあ? 共通の敵としてパーティの結束を固めてくれた礼だと思って受け取れよ。馴染む気がないんじゃ、標的にされたり嫌われるのも当然だよな」

 

「イジメも故意だったんですか……」

 

「ああ。お前が自発的にパーティから脱退しなかったからな。気味悪がってるうちに段々攻撃的になって……って感じだな。ダンジョン深層に置き去りにするかって話も出てきてて危ないところだったんだぞ。そうなる前にクビを言い渡した俺に感謝しろよな」

 

「……」

 

「メンバーから殺意を持たれるほどだってのに、どうして必死こいてまでこのパーティにしがみ付くのか、俺にはさっぱり分からない。どうしてだ? 最後に聞かせろよ」

 

「……いつか認めてもらえると思って。だからがんばってバフも掛けてたのに。こんなのってあんまりだ……」

 

「へぇ、()()だけは認めてやるよ。人格のほうは認められねえけどな。──終わりました、入ってきてください」

 

「えっ? ギルドマスターがどうしてここにっ!? ギルドナイトまで……」

 

「話は聞かせてもらった。……ウーナロ君、きみには業務上過失──いや、殺人未遂の容疑がかかっている」

 

「ぼ、僕に殺意はありません! 僕に殺意を持っているのはパーティメンバーの方です!」

 

「バッファーが過度な支援や補助を行なっても仲間へ通知しなかった場合、これが適用される。どうしてか分かるかい?」

 

「わからないですよ……!」

 

「早い話が、個々の実力を勘違いさせるからだ。それまで支援があって当たり前の状況で活動していたのに、急にバッファーが離れたことでパーティの実力が不足して壊滅するに至った事例が過去にあるのだよ。……気付かぬうちに地獄の大釜(おおがま)へと放り込まれているなど、これを謀殺と云わずして何と云う?」

 

「僕はそんなつもりじゃ……」

 

「では自分の行ないが他人を殺すとは思わずに行動したというのか。……君にはがっかりだよ。知っていても知らなくても罪は罪だ。ギルドナイト、罪人ウーナロをギルド地下牢へ護送しろ。──ああ、このお金は君には必要ないな。()が言っていたとおり、ポーションの購入費にあてて、一般の方々に配布するとしよう」

 

「そのお金は僕のものです。返してください!」

 

「それは出来んな。この金は冒険者ギルドへの違反金として処理するから嫌だとは言わせない。さらに服役が済み次第、君はギルドから追放処分となる。今回の件は各支部および各ギルドにも通達するのでそのつもりでいてくれ。……ではさらばだ。行け」

 

 




以下、雑な設定。

ウーナロ:
 典型的ななろう系主人公。身体能力向上・強化系の支援魔法を専門とした魔法使い。散々駄目出しをされた挙句、ブタ箱にぶち込まれた。彼の敗因は主にパーティに馴染めなかったことと、視野狭窄に陥っていたこと。大体指摘されていた通り。
 元仲間たちの計画は言及されず、彼だけ逮捕されたのは実際に行動に移していたから。元仲間の立てた計画は単なる軽口程度のものに過ぎなかった(実行していないので、そういう判定)。
 各ギルドに罪人として認知されてしまったので、表舞台にはもう戻れない。支援魔法を活かした田舎のインフラ整備に携われる可能性は残っているが……。

リーダー:
 追放を言い渡した人。ウェーイ系のわりに意外と理知的でTPOも弁えた逸材。パーティが暴走する前に先手を打っていた。

ギルドマスター:
 リーダーから事前に相談を受けていたおかげで謀殺未遂に気付いた。途中まで隠れていたのは、ウーナロを見極めるためだった。他人の命よりも自己の承認欲求を優先する精神性(およびコミュニケーション能力の欠如)を危険視して逮捕するに踏み切った。ちなみに、リーダーの言動については正当なものであるという認識(実際に間違ったことは何ひとつとして発言していない)。
 お金をリーダーへと返却しなかったのは彼らの身の安全のためで、ウーナロの違反金を立て替えたという事実が逆恨みを防ぐはずと信じてのことだった。それにより出所後のウーナロが彼らに何かした場合、世間からは厳しい目が向けられることになる。不仲だろうと義理を通した者への裏切りは社会的信用を著しく損なわせる。
 わざわざ違反金の使い道を口にしたのは、ウーナロへのあてつけのようなもの。怒りの表れ。


ギルドナイト(役職):
 ギルド所属の衛兵のようなもの。警察組織。

縁の下の独り善がり(タイトル):
 ド直球。


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あの日のif

つまり誰でもいいってことよ! 趣味成分多め。
 ・後書きのおまけを加筆修正(2023/8/7)。

 キーワード:冒険者 雑用係 囮 TS


「──ぶもおおおっ!!!」

 

「クソッ、強すぎだろミノタウロス! なんだあの巨体! なんだあのバカでけぇ斧!」

 

「流石はダンジョンの主でござるな……強敵にござる。──してリターン殿。何か妙案はあるでござるか?」

 

「ある! ナロッシュの野郎を囮にして逃げるっ!! こういう時のためにわざわざ()()()やってたんだよ!」

 

「……なんと。正気にござるか?」

 

「あのさぁ、いくら雑用係でパーティに入れたって云ってもそれはないんじゃない?」

 

「ん、ありえない」

 

「じゃあ、お前らどうすんだよ、この状況」

 

「言いだしっぺの法則。──ん、逃げる」

 

「流石に見下げたでござるよ、リターン殿。──(しか)らば御免っ!」

 

「戦力的にも戦える奴が残るのが一番でしょ。──そんじゃあな~!」

 

「んなっ……テメェらオレを裏切るのか!?」

 

「……ごめんなさい、リターンさん」

 

「待てやっ、クソがぁぁぁッ!! ナァァァロッシュゥゥゥッ!!」

 

 

────────────────

 

 

「ふー、帰ってこれた~! 地上だーっ! 空気がうんまぁいっ!」

 

「で、これからどうするの?」

 

「パーティ解散でいいんじゃない? ()()()やっていける気する?」

 

「しない」

 

「うむ。各々が能力を活かせるパーティに合流するのが得策にござるな」

 

「あの……それだと僕はどうしたら?」

 

「知らない。自分でなんとかする」

 

「君も君でがんばりなよ。雑用係を入れてくれるパーティがほかにあるか知らんけど」

 

「拙者たちは(みな)、裏切り者同士にて(そうろう)。信用し合う必要は無きにござる。……では、これにて御免」

 

「おう、またな~」

 

「ばいばい」

 

「……みんな行ってしまった。これからどうしたら……あっ、そういえば冒険者ギルドで受付のバイトを募集していたような……。なんとなく気になったけど僕には関係ないって思ってたのに。人生何があるか分からないな。これからはもっと安全な場所で働こう」

 

 

────────────────

 

 

「おい、この依頼を受けたいんだが」

 

「はい、依頼の受注ですね……って、うわっ……なんてかわいい女の子なんだ……」

 

「そういうのは要らね──お前、ナロッシュか。ギルドで働いてたのか。久しぶりだな、元気してたか?」

 

「なんで僕の名前を? も、もしかして僕が好き──」

 

「あー……、この姿じゃ分からねえか。オレだよオレオレ、リターンだよ。お前を雑用としてパーティに入れてた元パーティリーダーだよ。覚えてっか?」

 

「えぇ……? あの人のことは忘れられませんけど、あの人は男ですよ。何言ってるんですか」

 

「見せた方が早いか。──分離っ! ……ふぅ」

 

「あなたは……リターンさんっ!? いつからそこに?」

 

「分離って言っただろ。この()()()に居たんだよ。お前らに見捨てられたあと、命からがらなんとか逃げ出すことができたんだが、逃げてる途中で変な小部屋を見つけてな。そこで≪侵入結合(ウイルス)≫ってスキルを身につけたんだよ。なあ、ネク子」

 

「はい、リターン様」

 

「一時はどうなることかと思ったもんだが、お前らのおかげで人生変わったわ。もう恨んでねえから安心しろ。というかもうどうでもいい。──合体し直してっと、んで依頼を受けたいんだが」

 

「……そのスキル、僕も覚えることはできますか?」

 

「説明書きの石版を読み終わったら天井が崩れ落ちたから無理だな。習得用の魔法陣もたぶんイってる。そんなことより依頼を──」

 

「そんな……。そのスキルは本当なら僕が覚えるはずだったのに!」

 

「あ? 何言ってんだ、お前。ミノ相手に逃げ切れた保障もねえってのに……。いいか? あのとき囮にされたのはお前を囮にするつもりだったこの俺で、例の小部屋を見つけたのもこの俺。あのスキルを覚えたのもこの俺。……あのな、無理に関わってこないでくれよ。オレがいない間にパーティを解散してたのもそういうことだろ? ありもしねえif(イフ)に夢見てねえで仕事してくれよ」

 

 




以下、雑な設定。

ナロッシュ:
 無能型追放系主人公。男性。筋力的に劣るはずの一般的な女性冒険者と比べても実力は下回る最底辺冒険者。そんな無能とPTを組んでくれる物好きはなかなかおらず、リターンPTには雑用係として在籍を許されていた。
 PTメンバーたちの良心(?)によって何の危険もなく生還できたが、結果的に成り上がる機会を奪われてしまった。PT解散後は冒険者ギルドの受付バイトで生計を立てる傍ら、自分を仲間に加えてくれるPTを探しているが空振り続き。「これからは安全な仕事を~」と言いつつ、冒険者としての成功を諦めきれていない。野心家。
 大の努力嫌いで修行なんて考えもしないが、単調な仕事に対する耐性はある。

リターン(リーダー):
 置き去り型追放系パーティリーダー。男性。性格は俺様系のクズで、無能を見殺しにするつもりが逆に見殺しにされてしまった。それにより、よくあるなろう系展開を彼が引き受けることとなった。チートスキルもハーレムもすべて彼のもの。ちなみに彼自身の実力は上位に位置し、普通に強い。
 獲得したチートスキルは「侵入結合(ウイルス)」。コンピューターウイルスのように他人に乗り移ることができる、憑依・乗取系スキル。スキル所持者の能力値(筋力など)が憑依先に加算されるほか、スキル所持者の部位を追加で生やしたりすることもできる(4本腕になったりできる)。実態としては皮モノに近いか。合体・分離は任意に可能。分離すると両者ともに合体前の状態へと戻る(肉体改造は出来ない)。合体中の成長も取り消されるが、憑依先に馴染めば馴染むほど減少は軽減される。
 名前は生還フラグを意味していた。面白いオモチャを手にしたことで、元PTメンバーたちのことはどうでもよくなった。

ネク子:
 リターンのメインボディにされている女の子。低ランク冒険者。従順な性格であり、リターンのことを尊敬している。偶然出会った憧れの人に実験台にされ、現在に至る。なお、優れた容姿と引き換えでもしたのか、単身での戦闘力は低い。
 彼に身体を譲る代わりに派手に冒険できるようになった現状を楽しんでいる(イメージとしては格ゲーやSTGのランカーのゲームプレイを後ろから観ている感じ)。彼が面倒くさがった時などは、たまに合体したまま肉体の主導権を返してもらえる。そのほか、冒険しないときも宿代など各種経費削減のために合体したままで過ごしている。リターンにとって性格・見た目込みで都合のいい駒でしかない。
 名前の元ネタは「ネクスト(次へ)」ほか。リターンと対になっている。「ネク子」はリターンからの愛称で、他の親しい人たちからは「ネクシィ(接続)」と呼ばれている。本名は「ネクシミア(隣接、驚愕、私の物、最悪な組み合わせ)」。詳しくはneximia(neximire)をラテン語の機械翻訳で。自身を構成するものを削り取られようもの(nex)なら彼女は抵抗手段を選ばない。

元PTメンバーたち(3名):
 それぞれが別々のパーティでうまくやっている。元のPT人数はリーダーと雑用係も含めた計5人。


ミノタウロスのダンジョン(地名):
 最深部にミノタウロス(ボス格)が待ち構える上位PT向けダンジョン。ボスのもとへ辿り着くには道なりに進むだけなので簡単だが、帰還するとなると大量の横道が待ち構える大変嫌らしい構造をしている(しかも行きは気付きにくい)。迷うことなく帰るためには何らかの対策が必要。パン屑を落とそうものならネズミに食われてしまう。悪質な冒険者による誤誘導のイタズラ書きもあるため、余計に迷いやすい。時間は掛かるが左手法でも脱出自体は可能。


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前世紀の遺物

JRPGの本家本元でさえ存在すら認めなかった、あのクラス。

 キーワード:荷物持ち 冒険者 クラス 追放


「ナロンダ。今日でお前はバイバイだ」

 

「えっ……? それって、どういう意味ですか?」

 

「明日から来なくていいって意味だ。お前は解雇(クビ)だ」

 

「ど、どうして急に? なんでまたそんなことに?」

 

「いいかげん、周りの目がな……。ダンジョンにお前もつれて行ってやれるのもここいらが潮時、限界ってやつだ」

 

「周りの目って、なんですか? 僕たちは僕たちでしょう」

 

「……俺はパーティのリーダーだ。メンバーのことも全員考えなくちゃならねえ。もちろん、()()()()()()()

 

「僕も冒険者登録はしています。ダンジョンに行ってもいいはずです」

 

「書類上はな。……そうだな、パーティの役割(やくわり)をおさらいしようか。俺はパーティをまとめるリーダーで、役割(クラス)は≪ヒーラー≫だ。回復役はパーティーの(かなめ)だから絶対に外せねえ。後衛かつ回復役ともなれば司令塔になるのは合理的だかんな」

 

「そういえば、大抵は前衛の方がリーダーを勤めるのに珍しいですよね。でもそれが何か?」

 

「暴力ってのは目に見えた力だ。動物の群れと同じで、(おさ)ってのは()とか力の強い奴がやるのが普通ってもんだが、俺はパーティで一番合理的で冷静な奴が向いていると思っている」

 

「……」

 

「その顔は自分で言うなって思ってる顔だな? 言ったろ、それくらい()の強さも必要なんだよ」

 

「い、いや、その……」

 

「……続けるぞ。俺と同じくらいパーティに貢献しているのは、槍と盾を装備した≪タンク≫のエニスだ。あんな小さな女の子なのに自分より大きな得物を振り回せるし、嗜虐心(しぎゃくしん)をそそる、弱そうで小さな身体は逆に敵を引き付ける。ぶっちゃけ、あいつが幼くなければリーダーの座は譲っていたかもしれねえな」

 

「そうですよ、あんなに小さな子が最前線に立っているのに、僕だけ抜けるのはおかしな話です」

 

「だが、あいつも(かなめ)だ。あいつが倒れたとき仲間たちも倒れる。だから俺はエニスが倒れないように采配(さいはい)を振るうし、エニスも仲間が倒されないように敵を一手に引き受ける。≪弓使い≫のアーチェも、≪魔法使い≫のマージョリーも同じだ。あいつらもまた俺とエニスに無い火力を補ってくれている」

 

「各々がパーティメンバーとしての役割をこなしている……」

 

「そうだ。──じゃあ、お前の役割はなんだと思う?」

 

「みんなの代わりに素材を拾ったり、ポーションとか矢筒を持ち運んでますね」

 

「ほかは?」

 

「え?」

 

「ほかに何ができる?」

 

「まさか()()()()()()()をこなしているだけじゃダメって言うんですか……?」

 

「役割、そう、()()()()だ。ヒーラーの俺には腕力が無い。それは求められる役割じゃないからだ。だから足りない部分を仲間たちで補う」

 

「な、何を……?」

 

「エニスのような小さな女の子でも、大の男と肩を並べられるような立ち回りをできるのもすべて役割(クラス)のおかげだ。本人の資質も多少あるだろうが()()が違う。違いすぎる」

 

「……」

 

「魔法使いのマージョリーが回復もできたら万能なのにそれは出来ない。弓使いのアーチェも短剣戦闘や近接格闘が出来れば自衛できるが、それも出来ない。……俺たちは、与えられた役割しかこなせないからだ」

 

「僕の、役割は」

 

「確かに、ほかの奴らよりも多くの物を運べるだろう。──だが、だが、荷物を振り回したり、重い物を持ち運べる足腰で攻撃をしたり、重厚な盾や鎧を()って仲間をかばうことは叶わない。出来るならもうやっているはずだ」

 

「そ、それは……やろうと思っても足が震えて……! で、でもっ! やろうと思えば、いつかはやってみせますっ!」

 

「いや、それは無理だ」

 

「どうしてっ!?」

 

「誓約と制約なんだよ。神のご加護だかなんだか知らないが、クラスだろうがスキルだろうがレベルだろうが何だろうが──突き詰めていけばロジカルな答えにぶち当たる。性別でたとえるなら、男は子供を産めない。女は男より繊細だが子供を産める。……そんな、根源的な問題なんだよ」

 

「それが周りの目と何の関係があるって言うんですか!」

 

「≪荷物持ち≫は所詮、荷物持ちだ。荷物を持てる()()なんだよ……。そして荷物は普通の人()()持てる。お前である必要がないんだ」

 

「でも役には立っているはずです!」

 

「……これ、なんだと思う?」

 

「大きな袋?」

 

「通称≪アイテム・ボックス≫。制約により戦闘中に中身を取り出すことはできないが、無尽蔵にアイテムを収納できる優れものだ。しかも重さも感じない。どれだけ物を入れても袋が嵩張(かさば)ることもない。ギルドによれば前世紀の遺物を再現したものらしい」

 

「つまり、僕はお払い箱? 僕の役割をアイテムで代用できるから?」

 

「そういうことになる。こんな便利な物が流行っているのに、いつまでも≪荷物持ち≫をつれていたら、俺たちは理由もなく()()()()を危険地帯に連れ込む非常識な奴らだと思われてしまう。今までは周りの目を気にして余分な()()を渡していたがな……それも、もう──」

 

「うそだ! こんなことっ……認められない!」

 

「預かり屋は潔く閉店したぞ。銀行も貸金庫業から撤退した。同じ≪荷物持ち≫たちもとっくに手を引いている。引き際を見極めてないのはナロンダ、もうお前だけだ」

 

「あなた達に見捨てられたら、僕にはもう行き場がないじゃないかっ!!」

 

「だからって、一緒にどん詰まりまで付き合ってやる趣味は持ち合わせて()え。お前の冒険はここまでだ。ここまでなんだよ……」

 

「嫌だ……、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……ッ!! ウソだ! 僕は冒険者になって、誰もが敬うような偉い人になるって……ッ!!」

 

「いまや荷物持ちがお荷物になるとは、とんだ皮肉だな。……じゃあな、明日までに荷物をまとめておけよ」

 

「待って、待って! 僕を置いてかないで! 僕は役に立つ! 役に立つから!」

 

「お前が魅力的な荷物ってなら、誰かが置き引きするだろうさ」

 

 




以下、雑で投げやりな設定。

ナロンダ:
 底辺職でお馴染みのなろう系主人公。この短編集ではお決まりの性格である、弱気に見せかけた自己中心的な人物。もはや特筆すべき点すらない陳腐で、ありふれた、ちっぽけな存在。JRPGの開祖DQシリーズの商人並みに出来ることがない。
 名前は悪いイメージがつきまとう「ロンダリング」から。冒険者の環から外れ、足を洗う時がきた。

リーダー:
 今回、無能を追放することになった人。この短編集ではテンプレート化しつつある、理性的なPTリーダー。作中で語っているようにPTの要を自覚しており、増長した火力職の人に追放される被害妄想を恐れて先んじてPTLの座に就いた。タンク役のエニスとは要職同士、阿吽の呼吸を以って動ける。冒険者屈指の名ヒーラー。
 その心根はとても優しく、荷物持ちが淘汰されていく中で最後までナロンダを雇っていた。命の危険に見合った報酬を支払うことで、心の安寧と名誉を保っていたが、ついに庇いきれなくなった。追放ではなく解雇と宣言したのは、PTメンバー全員の世間体を気にしてナロンダの別け前を少し多めにとっていたことと、決別するための建前による。本文中に匂わせていたように、リーダーの器ではないとも自覚している。
 モデルは、ダイの大冒険のマトリフの名言より。多くのゲームでヒーラークラスは賢者どころか勇者ばりにアタッカーを兼任している場合があり、遠近両対応であったりもする。捨てるところのない欲張りなクラスだといえる。決して追放されるような役回りではないのだが、なろう系ではよく捨てられる傾向にある。

エニス:
 名前だけ登場。幼女タンク前衛。ネトゲ系なろうの欲張りセットの片割れ。
 名前の元ネタは、ネットゲーム「TERA」のケモ耳幼女種族「エリーン」より。そのネトゲでは、タンクとヒーラーはPTに必須で、この2職が揃わないと何十分、何時間と待とうが出発もできない。加えて、そのどちらかが倒れてしまえば即全滅の危険まである。ダンジョンでは責任ある先導役をやらねばならず、肝心の戦闘では壁に押し込まれて何も見えない中で音ゲーを強いられるせいか、かなり不人気。決して追放されるような役回りではない。

アーチェ:
 名前だけ登場。弓使い。女性。

マージョリー:
 名前だけ登場。魔法使い。女性。


クラス(誓約と制約):
 職業や役割などのこと。なろう系でお馴染みのゲーム概念。幼女でもジジイでも縦横無尽の活躍が見込める不思議な力。ただし本作では役割から外れた行動は取れない。必ず失敗してしまう。

荷物持ち(クラス):
 本文のとおり、効率よく荷物を運搬できるだけのクラス。クラス特性を活かした戦闘行動を取ろうとすると、言い知れない恐怖心を感じ、足がすくんで何もできなくなる。
 蔑称は「棺桶」。大きな袋が無いDQ作品では棺桶を荷物入れにすることがあるように、本作の≪荷物持ち≫の重要度は低く、その程度の役割に過ぎない。

大きな袋(アイテムボックス):
 前世紀の遺物。荷物持ちの存在意義を否定する天敵的存在。完全上位互換。作中では量産されており、冒険者たちに広く知られている。ボックス呼びは業界用語。

前世紀の遺物(タイトル):
 そのままの意味。前世紀=今の時代にそぐわない役立たず。遺物→異物。前世紀の遺物に現世代の異物が淘汰されたのが本作の流れ。


荷物持ちの投げやりな例:
 ・ネトゲのサブキャラ。または従者などのコンパニオンNPC。
 ・棺桶。ふくろ(DQシリーズ)。
 ・積荷用の動物(kenshi)。
 ・バックパック(kenshi)。戦闘で邪魔な荷物はその場に落として戦う擬似疾風戦術なるものが存在する。
 ・きっぺいのリュック(アバドーン、R-18注意)。
 ・動くタンスの「マーモ」(シレン2)。
 ・拾ったアイテムを投擲してくるMOB「アメンジャ」(シレン2)。
 ・アイテム士(FFT)。正確にはアイテムの使用権利の有無。
 ・輸送隊。マルス(FEシリーズ)。
 ・マーチャント系。ペア狩りのプリースト系ほか(RO)。
 ・ピクニッカー(エルミナージュ)。
 ・スカベンジャー。くず拾い。
 ・じゃんけんに負けて次の電柱までランドセルを運ぶ小学生。
 ・女性とデート中の、もしくは家庭を持った男性。
 ・異世界転生の導入に使われる殺人トラック。その本来の役割。
 ・荷車。台車。馬車。自動車。列車。飛行機。船舶。強者。


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真言

連座は基本。
 ・後書きに表現についての補足を追加(2024/3/22)。

 キーワード:冒険者 追放 家族 妹 悪堕ち


「きゃあああっ!」

 

「はぁぁぁっ、とぉぉぉっ!! ──お嬢さん、大丈夫かな?」

 

「あ……、ありがとう、ございます」

 

「私は旅の冒険者だ。ここへはある目的のために来たのだが……、おかげでお嬢さんの命を助けることが出来てよかった。この地域は魔物被害が多いのかな?」

 

「えっと、あのぅ……」

 

「……まずは無事に村へ送り届けると約束しよう」

 

 

────────────────

 

 

「あの、さっきはありがとうございました」

 

「礼ならもう受け取っているよ。むしろ私が礼を述べるべきだな。こんなに美味しい食事だけでなく、宿まで貸してくれるというのだから」

 

「い、いえっ、そんな! 助けてもらったし、当然のお礼ですよ!」

 

「……ふむ。では互いに礼を尽くしたということにしようか」

 

「はいっ! それにしても、こんな田舎村まで来るなんて、どうしたんですか? さっき目的が~、って言ってましたよね? あたしに何か手伝えることはありますか?」

 

「……君は記憶力が良いようだね。普通なら恐怖のあまり、細かいことを覚えている人は少ないというのに。……君は、ナウロン、という男を知っているかな?」

 

「えっ! 知っているもなにも……兄です」

 

「ほう」

 

「兄の身に何かあったんですかっ!?」

 

「いや。君のお兄さんが何かした、というのが正しいな」

 

「それは……?」

 

「少し長い話になるかもしれない。私と私の仲間はね、君のお兄さんにハメられたんだ。これでも私は都会ではそこそこ名の売れた冒険者でね、君のお兄さんと一緒にお仕事をしていたんだ」

 

「仕事って冒険者のですか? お(にい)……(あに)は冒険者になるんだって、小さい頃からずっと言ってましたから、もしかして」

 

「ああ、冒険者の仕事で合っている。ナウロンはね、私たちに実力を隠していたんだ」

 

「え? どうして?」

 

「さあ、それは分からない。彼との付き合いは長いものだったが、最後まで能力を打ち明けられることはなかった。彼は自分が無能だと演じていたんだ」

 

「……」

 

「先ほど魔物に襲われかけた君ならよく分かると思うが、冒険者とは基本的に生死にかかわる場所で働いている。そんな場所で自分に出来る事を隠している人をどう思う?」

 

「よくないことだと思います」

 

「そうだね。よくないことだ。では改善するためにはどうしたらいいと思う?」

 

「えと……、理由を聞き出してみるとか?」

 

「それが出来たら簡単だったんだがね。正解は、もっといい人と入れ替える、だ」

 

「あ……」

 

「残念なことに話はここで終わりではなくてね。あろうことか、ナウロンは私たちと離れた途端に実力を隠すことを止めたんだ。それからの彼は……妹である君の前ではとても言いづらいことなのだが……その、女漁りに()()しだしてね。常に見目麗しい女性を(はべ)らせている。実力者を追放した間抜けだと、私の評判を下げながら」

 

「なっ!? 本当……なんですね、……お兄ちゃん……」

 

「今の話を信じるのか?」

 

「信じます。あなたはあたしを助けてくれましたし、今だって話していてとても誠実な人なんだなってことは分かってます。だから、お兄ちゃんがおかしくなったんだって考えたほうが……」

 

「……嫌な話をしてしまって、すまない」

 

「いえ、いいんです。そんなことより、何かあたしに出来ることはありますか?」

 

「ふむ?」

 

「お兄ちゃんの様子を教えに来てくれただけじゃないですよね?」

 

「あぁ、ここへはナウロンのことを知るためにきたんだ。どうして彼はあんなことを仕出かしたのかとね」

 

「……冒険者さん。あたしも連れてってください!」

 

「君も、冒険者になるというのか?」

 

「はい! 身内の恥は()()()片付けたいんです!」

 

「つらい思いをしてまで?」

 

「かまいません!」

 

「……決心は固いようだ。わかった。今この時を()って、君は私のパーティの仲間だ。()()()、君のお兄さんの愚行を止めにいこう」

 

 




以下、雑な設定。

紳士的な冒険者:
 冒険者。30代くらいのおっさん。一見して人当たりがいいが、その裏には損得勘定や自尊心が潜んでいる。黒幕系にしてドクズの畜生。
 ナウロンの妹に語ったことはすべて真実であり、ウソはひとつも入れていない。単純に自身が被害者側であり、ナウロンが加害者側に見えるように誘導していただけ。
 ナウロンの故郷へ赴いたのは、彼から家族や故郷を奪うためだったが、実妹の申し出に兄妹同士、直接いがみ合わせる方向に計画は進んだ。妹さんを抱き込む気満々。色んな意味で。

ナウロンの妹:
 田舎暮らしの実家暮らし。故郷を離れて狂ってしまった兄を止めようと決意した。具体的にどうするかまでは考えておらず、協力を申し出たのも勢いによるもの。命を救われた恩と、話し合いの様子から冒険者の男を完全に信用しきっている。もはや洗脳を受けたようなものだが、それらの先入観により、その洗脳が解かれることはもうない。仮に兄に説得されても、男は事実しか述べていないので解きようがない。
 自ら人質へなりにいったのは間違いないが、男は彼女を鍛えるつもりであり、いますぐにどうこうという話ではなくなった。男の手駒や同志として利用されることが決定している。悪堕ち確定。

ナウロン:
 本文未登場。なろう系主人公。よくある、追放された後に頭角を現すタイプ。順調に功績を積み上げているが、先行きに暗雲が立ち込みだした。妹に雷を落とされるのは、そう遠くない未来。


真言(タイトル):
 文字通り「真実の言葉」の意だが、作中では、まやかしの言葉として利用している。うまいウソの吐き方は、言葉の何割かに真実を含ませて現実味を持たせること。だったら10割の真実で騙せば不足はなくなる。
 また、元を辿れば宗教関連の用語であり呪術的な語句のことを指す。一部では「真言はむやみに唱えてはいけない(意味を理解せずに口にしてはいけない)」と考えられている。転じて本作では兄妹の軽率な言動に対しての皮肉となっている。


Q.「無心」の使い方おかしくない?
A.故意の表現。辞書などに載っている通り、悪い意味として使っている。ヤツは人でなし(考えなし・思慮なし・分別なしの三重)であるというメタ的な皮肉。また、意志や感情がまるで感じられない様子=正気ではないとも語っている。芯(人の心)が無いとも。主人公といえば特別扱い。貴重な品々を無言の圧力で強請っていても不思議ではない。メタ的な嫌味としても機能している。タイトルの宗教用語つながりで思考停止しているとも。


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胡蝶の夢

ヒロイン枠の意味とは。焼き直し90%、完成度低めでお送りいたします。
 ・後書きの加筆修正、一部訂正など(2024/2/26)。

 キーワード:R-15 冒険者 追放後 成り上がり失敗 ヒロイン不在


「ねえ。元Sランクパーティのあの子、どう思う?」

 

「え? ──ないない! どう考えても()()()()っしょ。あんなの。でもカーミラが男の話するって珍しいね?」

 

「ん、まあね。結構がんばってるみたいだけど、誰も声かけてないから。ちょっと気になっちゃって」

 

「パーティから追放されるくらいだし。絶対何かやってるってウワサだけど知らないの?」

 

「ううん。それは知ってる」

 

「じゃあ、能力(スキル)のほう? そっちもなんで隠していたんだってウワサされてるね。あとから目覚めたにしてもタイミングとかちょっと不自然だし。なんかね」

 

「……だよね。もしも私があの子に近づいてたら、アンタはどうしてた?」

 

「うーん、カーミラとはそこで縁切ってたかな。いくら狩友(かりとも)でも胡散臭(うさんくさ)いのと付き合い始めたら……ね? でもほかの()も近づいてたかもね。あんたほどの美人が側に居るんだからあいつは大丈夫って、変な保証が付いたりしてさ」

 

「うん。私もそれ思った。……けど、私があの子に近づかなかったから、あの子は現在(いま)も低ランク帯で(くすぶ)ってるのかなって思ったら、ちょっとかわいそうに思って」

 

「いやいやいやいや。あんなのに近づくのは変なのしかいないって」

 

「それ、私が変だって言ってない?」

 

「逆々。アレに近づいてないからあんたは変じゃないって言ってるし!」

 

「……あの」

 

「わっ! ……びっくりした」

 

「ごめんなさいね。聞こえてた?」

 

「あ、いえ……その、僕のコトどうしてそう思ったのかなって()きたくて」

 

「あー……、胡散臭(うさんくさ)いって言ったこと?」

 

「そっちも気になりますけど、あなたが僕に近づいていればって、どうしてそう思ったのか気になって……」

 

「ただ、アナタと冒険してる夢を見たからだけど?」

 

「そうですか。じゃあ、僕とパーティを組んでみませんか?」

 

「え。全然知らない人だし。変なウワサも流れてるから、ふつうにイヤだけど」

 

「そ、そうですか……。僕のウワサって、どんなウワサが流れてるんですか?」

 

「あーしから言っていい?」

 

「どうぞ」

 

「そういうところかな」

 

「えっ? どういうところですか?」

 

「体面とか気にしてないのかなって思ったけど、≪気にしてない≫の意味が違うよね」

 

「……? あ、≪気に留めない≫と≪知らない≫の違い?」

 

「そそ。それって自分のことしか考えてないってことにならない? そこが減点1」

 

「そうかな……そうかも」

 

「自分のウワサも知らないとか、ちょっとねー……。何するか分かんなくて、怖い。急に勧誘してきたから減点2」

 

「えっ! 仲間に誘っただけなのに?」

 

「夢で見たなら一緒に冒険しましょうって何? マジ怖いんだけど。スキルも隠してたのか目覚めたのか知らないけど、何か企んでいそうだし減点3」

 

「え、ええっ?」

 

「要するに、アナタには信用が無いってことよ。そうでしょ?」

 

「そそ。男でもチビで童顔なら油断すると思った? あーしたちが女だからってバカにしないでよね」

 

「そんなつもりは……」

 

「あんたに無くても、こっちがどう思うかは別。……あんまり一緒に居ると、あーしたちまで変な目で見られるから、もうあっち行ってくんない?」

 

「……は、はい……」

 

「ちょっと辛辣(しんらつ)すぎない? 肩落として行ったわよ?」

 

「あれくらい言わないと、どうせまた来るよ? あーしはともかくカーミラは美人だし、少し優しくしただけで絶対付け上がるって! だからこれで正解」

 

「……そうかもしれないわね。男とパーティなんか組んで、関係を迫られても困るわ」

 

「にししっ! カーミラにはあーしがいるもんね。目標額まで貯まったら、さっさと引退しよっか。冒険者なんてお金のためにやってるだけで、いつまでも続ける気なんてないしね」

 

 




以下、やっつけ気味で雑な設定(※本作は一次創作です)。

カーミラ:
 冒険者。正体は、物語のヒロインにTS転生した元男(前男→現女)。(存在しない)原作知識あり。何も行動しなければ「主人公の物となる」宿命が気に障り、原作が始まる前から反逆を決意していた。口では主人公君(僕君)の現状を哀れんでいたが、もちろん本気ではない。
 作中の時間軸は原作開始後で、すでに原作ブレイク済み。同じ転生者(後述)に知らぬ然で通していたのは面倒事を嫌ってのこと。NPCになるつもりはなく、ホモでもトランスジェンダーでもないので精神的BLはノーセンキュー(男同士の愛し方として片割れが女性を演じるやり方が存在する。タイツを穿いて局部に丸みを作り出すなどわりと生々しい)。女体に興味はある。
 名前の元ネタは「カーミラ(吸血鬼)」。その生い立ちなど。相方に対しての隠し事は多いが、第二の人生を確りと楽しむつもりでいる。相方が生きた人間であるときちんと認識している。逆に僕君のことはNPC扱いしているようなものだが。

あーし:
 冒険者。(存在しない)原作にかすりもしない現地人。カーミラとペアPTを組んでいるギャル。女性。相方と一生一緒に暮らせる程度の貯金を作るべく、稼ぎのいい冒険者稼業に身を投じている。名誉ある業種というよりは、単なる日雇いのバイト感覚で勤めている。その程度の認識であり、べつに大成する気も有名人にゴマする気もない。ある意味では堅実な現実主義者とも云える人物。ガードも堅い。ナーロッパ世界の完全なるモブ。
 引退後は相方共々適当に子を孕んで産む予定。ナーロッパ世界に精子バンクの概念は存在しないが、子供の作り方は知っているので似たようなことを計画している。父親は未定。男嫌いというよりは、自分たちの人生に男が寄り添う必要性を感じていない。
 モブだけあって名無しキャラだが、後になって「アンタレス(あんたレズ)」という、しょうもない小ネタを閃いたのが悔やまれる。

僕:
 はしごを外された追放系主人公。(存在しない)原作知識ありの転生者。前世も今世も男性。チビで童顔のショタもどき。追放されてチート能力も手にしたが、ヒロインと出会わなかったバタフライ効果でハーレム結成フラグがへし折れ、さらにその影響を受けて世間的な信用度が低くなったりと、知らぬ間に散々な目に遭っている。だいたいギャルに指摘されていたとおりの評判。
 主人公とヒロインの計2人の転生者が同時に存在しているが、その実態はとてもややこしいことになっている。主人公は「自分が居ない原作(骨組みとなるゲーム世界)」を知っていて、ヒロインは「主人公が転生した原作(肉付けされたストーリー)」を知っている。云わば、二次創作と三次創作が重なった状態下にある。主人公がヒロインに執着しなかったのはそのため。ゲーム感覚。成り上がるための必須要素がヒロインの存在だとは、まったく気が付いていない。PTに誘ったのはその場のノリ。あわよくば。
 厳密には彼は世界五分前仮説(空想上)の存在であり、純粋な転生者はヒロインのみとなる。


胡蝶の夢(タイトル):
 バタフライ効果(TS転生者が起こした影響)と、転生者2人の異世界に対する認識等を掛けている。夢のまた夢。


Q.つまりその裏設定はどういうことだってばよ?
A.女のほうが本物の転生者で、男のほうは自分を転生者だと思っている異次元人。
 具体的には、男側によって歴史改変されて確定した過去時間軸にさらに介入したのが女側。

Q.その設定いる? もっとシンプルに僕君は現地人でもええやん。
A.異物感を出したかっただけなの。ゆるして
 転生者が原作改変したら、現代(転生前の世界)にも影響が出る表現、掲示板回など。
 本話ではまともに取り合わないが、あのパラドックスの処理・解釈の仕方次第でやべーことになる。

Q.あーしちゃんの意味は? 対話相手ってだけ?
A.ハーレムに集まるのはネームドだけで、モブ女性は近寄ってこないあの現象の擬人化。
 裏設定はカーミラの元ネタのイメージに合わせた感じ。レズ要員。

Q.カーミラは目的は何なの?
A.特にない。勝手に決められた許婚に反発して家出したようなもん。

Q.僕君が自分のウワサを知らない理由は?
A.なろう系のお約束。甘さ等は指摘されても不自然さは指摘されないやつ。


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深謀遠慮の短慮暴虐

なろう主人公と同職キャラは出ない法則。
 ・後書きの充実化。設定などを追記(2024/3/7)。

 キーワード:冒険者 追放後 ハーレム 再追放 荷物持ち


「え……、値上げ?」

 

「ここ最近、≪荷物持ち≫の需要が高まっていてねぇ。仕入れが難しくなってきてるんだよ」

 

「強力な魔獣が出たって話は聞きませんけど?」

 

「違う違う。そうじゃない、そうじゃないんだよ。……あー、ここだけの話だよ? 実は──」

 

 

────────────────

 

 

「ナロームさん、パーティからあなたを追放します」

 

「え? ごめん、いまなんて言ったの?」

 

「ですから、私たちの前からどうか消えてください。あなたの存在は迷惑です」

 

「……どうしていきなりそんな事を言うのか分からないけど、このパーティは僕が(おこ)したパーティだよ。リーダーは僕だ。……ふつう、君たちが脱退するって言うのが自然じゃないかな?」

 

「ナロームさん1人を追放するのと、パーティメンバーが全員脱退するのは、どこがどう違うんですか? 過程は違っても結果は同じですよ」

 

「本気で言っているのか?」

 

「ええ。冗談でこんなこと言ったりしません」

 

「あぁ、あんたに付いていったアタシがバカだったよ」

 

「そうだよ。こんな人だとは思わなかったのに。うそつき」

 

「……また僕か! また追放か! いったい僕が何をしたって云うんだっ!? 僕の何が悪いッ!! なんでなんだよ! こんな、いつも、僕ばかりッ!」

 

「自覚ないの?」

 

「ナロームさんは元々はSランクパーティに所属していた≪荷物持ち≫で、パーティから追放されたあとに今のパーティを結成しましたよね。……どうして追放されたのか分からないほどの強力なちからを持っているというのに、なぜか」

 

「冷静に考えれば他人から見放されるような()()だったっていうのに、なんで付いていくことにしたんだか。アタシってほんとバカ」

 

「あぁ確かに僕は一度は追放されたさ! だから周りを見返すために底辺から這い上がってみせると決意した! そして僕はやってみせた!」

 

「じゃあなんで同性の……男の人の仲間がいないの? ナローム以外、全員女だよ」

 

「はっ、見返すことは出来たとしても認められはしなかったってか? こいつは傑作だな!」

 

「もしかしてボクたちの身体目当てだったりする? ……そんな気ないんだけど」

 

「云われてみれば……。どうして私たちだけがパーティに加わったんでしょうね?」

 

「それだけアタシたちも視野が狭かったってことさ。この分だと悪気がないというよりは、何も考えてないだけかもしれないね」

 

「……このパーティは僕のパーティだ。どうこうするっていうなら、それ相応の理由くらい聞かせろ」

 

「本当に何も知らないみたい」

 

「自分たちばかり知った顔して僕をバカにするな! そうやって僕で遊んで何が(たの)しい? 結局、君たちもあいつらと……前のパーティの奴らと同じなんだなっ!?」

 

「まさかとは思うが、≪荷物持ち≫は自分だけで、ひとりだけ底辺だったと勘違いしてないか?」

 

「えっと、同じ≪荷物持ち≫なのに、何も分からないんですか?」

 

「そんなに余裕がない人だったんだね。幻滅~!」

 

「は……? 何の話をしてるんだ? その目をやめろ! そんな目で僕を見るな! 僕とほかの≪荷物持ち≫に何の関係があるっていうんだ? 僕が誰かを殺したとか言うんじゃないだろうな? 僕は何もしてないのに、なんでもかんでも僕のせいにしないでくれ!」

 

「いや、()()はお前のせいだよ。お前が居たから起きたと言ってもいい」

 

「意図的に情報が遮断されていたといいますか……。気付けないほうがおかしいといいますか……」

 

「そりゃあ、ボクらも遠巻きにされるよね。自分が部外者だったら絶対に関わりたくないし」

 

「──短刀直入に言います。ナロームさん。あなたのせいで、多くの≪荷物持ち≫が身の丈の合わないことをして経済と流通を破壊しているんです。それも恐らく世界的な規模で」

 

「は? 身の丈に合わない? それって……僕は落ちこぼれのままでいるべきだったって言ってる?」

 

「そうですね。ナロームさんと行動を共にしてきた私たち3人が揃って首を縦に振るくらいには言ってます」

 

「僕の何が不満なんだよ?」

 

「不満も何も、後半の部分を聞き流すんじゃないよ」

 

「後半部分?」

 

「その、ぼくなにかしちゃいましたか、って態度が不満かな」

 

「……」

 

「睨むな、睨むな。≪荷物持ち≫の本分は流石に分かるよな?」

 

「荷物を持って、運ぶことだ。それは僕は雑用だけしていればいいって言いたいのか?」

 

「女相手にケンカ腰なのも不満だよ」

 

「僕を怒らせているのは君たちだろう!」

 

「ここまで話していて、どうしてまだ気付かないのか(はなは)だ疑問ですが……≪荷物持ち≫の冒険者は居ても、前衛ではありませんよね」

 

「≪荷物持ち≫が前衛になれたら、≪戦士≫や≪格闘家≫の存在意義がなくなるしな。ふつうは前に立つなんてありえない。でもナロームはアタシと同じで前衛をやってきたね。昨日まではすごいと思っていたが、今では異常だと思ってるよ」

 

「僕は≪荷物持ち≫でもやれるって示しただけだ!」

 

「それだよ。≪荷物持ち≫でもやれると示したせいで、ほかの≪荷物持ち≫が一斉に冒険者に転向しだした。おかげで輸送業は大打撃を受けているらしい。ここ最近の物価の値上がりもこれが原因なんだとよ。物が流れてこないんじゃ、そりゃ出し渋りもするわな」

 

「つまりですね、ひとりのやらかしのせいで、全体がダメになってるんです。ナロームという≪荷物持ち≫が活躍しているせいで、冒険者を諦めていた彼らに火が点いてしまったんです」

 

「そろそろ理解(わか)ったよね? 落ちこぼれの≪荷物持ち≫が成り上がった前例ができたせいで、自分もやれるって勘違いしたヤツがいっぱい出ちゃってるの! 第2第3のナロームが大量発生したの!」

 

「もしかすると、ナロームさんが以前所属していたパーティでの扱いも、この事態を見越(みこ)してのことだったのかもしれませんね。圧をかけて、自尊心を傷つけて、決して前に飛び出さないように……」

 

「最終的に事故に見せかけて殺そうとしたのも、そうまでしないといけないって思ったからだったんだね。きっと。……話を聞かされたときはひどいと思ったけど、事情が知れれば納得の結末だね」

 

「いい加減、理解できたか? こうも物分りが悪いんじゃ、べつの意味で嫌になってくるよ」

 

「意味が、わからない……、わかりたくない! なんで僕が責められるんだっ?! 僕の物語は僕が主役なのに! 僕の人生だから僕の好きに生きたっていいはずだろ!」

 

「知るか。ただ現実を教えてあげただけだ。責めてもないよ。前の人らみたいに命まで取ろうとは考えちゃいないよ」

 

「自分がどう思われているか分からないなら分かるまで聞いて回ってみたらどうですか? 私たちはもう、あなたには付き合いきれません」

 

「あっ、パーティの物資とか資金は要らないから。手切れ金だと思って持ってちゃっていいから。ボクたちこれからギルドに行ってパーティの手続きしてくるけど、付いて来ないでね」

 

「話はまだ終わってない!」

 

「終わりかどうかは私たちが決めることです。あなたはもう終わりなんですよ。これまでの関係も。……それでは、さようなら。町で見かけても近づいてこないでくださいね」

 

 




Q.要約しろ。
A.主人公に憧れた運送業者たち(荷物持ちクラス)が一斉に廃業したせいで大混乱が起きそう。店に商品が届かなくてヤバイ。

Q.人種って?
A.作中では「そういう性格や言動をする人」といった皮肉的な意味で使われている。精神的な人種ということ。毛並み。そういったカテゴリーで括られるような人間であると暗に言っている。

Q.最近のなろう系は男仲間の1人や2人くらい居るだろ。
A.格下ならともかく、同格で事情も無しに同行するのは珍しそう(主観的意見)。


以下、雑な設定。

ナローム:
 追放系主人公。男性。追放されるのは今回で2度目。すでに一度、前PTから追放処分を受けている。前PTでの扱いはテンプレの冷遇で、雑用として扱き使われ、最終的に事故死させられそうになるも生還している。その後の新PT結成もテンプレ展開で、特別に語れるようなものでもない。
 クラスは≪荷物持ち≫で非戦闘系なのだが、ナローム個人の特徴として高い前衛適正が備わっている。それなのに≪荷物持ち≫の隠された能力が発揮されたのだと、同一視されてしまったのが今回の件の真相。運送関係者が挙って冒険者に鞍替えしたおかげで、どこの店も品薄・物価高が続いている。ナロームが活躍したことで、≪荷物持ち≫なら無条件で成り上がれるのだと各地で勘違いと混乱が起きている。
 前PTでの冷遇はこれを回避するために行なわれていたが、結局起きてしまった。

ハーレムメンバーたち(私、アタシ、ボク):
 特に語ることのない面々。わざわざ話し合いの席を設けたのは、自分たちに累が及ばないように釘を刺すため。黙って距離を置いても、向こうから詰められたら意味がないから言って聞かせた。ナロームと交流を持ってしまった事実・汚点は消せないが、いま縁を切らなければならないと、後に起こる事態に薄らとだが感付いている。

商人:
 冒頭部分に登場したおっちゃん。地域の店から嫌われる前によくない男とは縁を切れと助言していた。


荷物持ち(クラス):
 荷運びに特化した非戦闘系クラス。個人用亜空間(インベントリ)に物品を格納・保管できる特殊能力が備わっているが、≪荷物≫であれば無条件で持てるということはない。物品を保管するための筋力が別途必要となる。
 戦闘に関する制約は特にないが、クラスはいわゆるギフトにあたり、基本的に≪荷物持ち≫は戦闘に不向きな人格に顕現する傾向にある。先天的才能、先天的能力の類い。クラスチェンジ不可。
 具体的なたとえとして、ランスシリーズの才能レベルと同じ。

戦士(クラス):
 武器に成り得るあらゆる物品を巧みに扱える戦闘系クラス。得意武器は剣から斧、槍から棒、果てには鈍器から盾までと多岐に渡り、感覚的に効率の良いもしくは正しい扱い方を理解できる。汎用・万能型。
 恩恵は心身の成長ボーナス(パッシブ)が主で、目立ったスキルこそ持たないが、まれに魔法によく似た攻撃手段(必殺技)を獲得する者もいる。
 具体的には、時たまスポーツ界に出現する大天才のようなもの。

格闘家(クラス):
 武器を使わずに己の肉体だけで戦う戦闘系クラス。装備に制約は無く、効率が格段に落ちるだけで、曲刀や長棒などの武器も普通に扱える。特化型。
 戦士と同じで特定分野に成長補正が掛かり、たまに魔法によく似た攻撃手段を獲得する人物が現れる。戦士よりもアクティブなクラス。

深謀遠慮の短慮暴虐(タイトル):
 ナロームの前PTでのことを示唆している。単なる暴挙に見える行動(追放劇)が、実は世界のために行なわれていた。


 今回のお話は前後編に別けて書いたうちの前編部分となります。というのも先に書いたものが割りとエグかったのでそれを後編とし、マイルドさを意識して追加で書き出したものがこの前編です。ヤバめの要素を出来るだけ抑えた急ごしらえなので全体的に完成度も低めです(もちろん本話でも研究を行ない精度を高めていくつもりではあります)。
 私個人の主観では後編は平常運転だなと思う程度の内容・舞台設定ですが、客観視したら「これは少しまずいな」となりまして、前編の作成および公開に至りました。
 手加減ほぼなしの後編は、来週3/13水曜日の午前3時投稿を予定しています。その際の落差をお楽しみいただければと思います。後編も公開しました。


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 └煉獄の標:【閲覧注意】

底辺クラスが成り上がっちゃダメな理由。今回は少しキツメの設定です。

 キーワード:R-15 冒険者 追放後 荷物持ち クラス 神父 懺悔 胸糞


「お願いします……どうか宿を、宿を……。一晩だけでいいんです、どうか開けてください……」

 

「……こんな夜更けに我が教会に何の──……君は……ッ!」

 

「神父様、どうか一晩だけ僕を泊めてください」

 

「…………入りなさい」

 

「──! あ、ありがとうございますっ」

 

 

────────────────

 

 

「君は、あの悪名高い荷物持ちのナロームだね?」

 

「あは、はっ……知ってて入れてくれたんですか?」

 

「あぁ、君が野垂(のた)れ死ねば世間は君を(ゆる)すことはないだろう。君は生き続けなければならないのだから」

 

「……僕は間違っていたんでしょうか? 僕はありのままの僕として生きたかっただけなのに」

 

「それは懺悔(ざんげ)かね?」

 

「……」

 

「残念ながら君が使える懺悔室(ざんげしつ)は無い。君は有名人だからね。……()()よければ話を聞こうか?」

 

「……お願いします」

 

「そうか……。私個人の意見としては、人にはみな生きる権利があると思っている。その権利はほかならぬ自分自身が決めるべきものだとも思う。……だがそれも罪を犯したことのない人間に許されたものであり、罪を犯した罪人に決める権利は無い。国の法もそう定めている」

 

「僕はきっと、死んだほうがいい人間なんでしょうね……。でも死ぬことは許されない」

 

「ナローム君。きみは自分が犯した罪に覚えがあるか?」

 

「覚えてはいます。でも覚えている罪を清算しただけで、世間は許してくれるんでしょうか?」

 

「それはないだろうな。そして清算できるとも思えない」

 

「ですよね。僕もそう思います」

 

「荷物持ちのナロームは()()()でありながら、上位ランクの冒険者に至ることができた。……だが、それにより≪荷物持ち≫の本領を見失う者が続出した。冒険者に憧れる者たちにとって、君は眩しすぎた」

 

「僕に出来たなら自分もって。同じ≪荷物持ち≫だからって。……僕は僕の事しか考えていなかった」

 

「君は初めから()()だった。ただの≪荷物持ち≫にはありえない身体能力を持ち合わせていた。君がもっと傲慢(ごうまん)であったなら、≪荷物持ち≫の大量死亡事件は起きていなかっただろう」

 

傲慢(ごうまん)、ですか?」

 

「あぁ、ぼくは底辺の荷物持ちとは違う、神に選ばれし者だ、って言っていればね。≪荷物持ち≫が成り上がれるのではない。ほかならぬ≪ナローム≫だからこそ成り上がれたと喧伝(けんでん)していれば、犠牲となった者も少なかったのだろうな」

 

「……僕の周りには、そう言ってくれる人は誰もいませんでした」

 

「誰かが言ってくれていれば自分は落ちぶれずに済んだとでも? その傲慢(ごうまん)は解釈違いだ。これは受け売りになるが、罪を犯す者が罪を犯すそうだ」

 

「罪を犯す者が罪を犯す? 変わった言い回しですね」

 

「君に忠告をする者が居たとしても、君はその者の言葉を聞き入れはしなかっただろうな」

 

「えっ?」

 

「いま君は、言われた言葉の意味を考えずに言葉そのものに着目した。罪を犯さない者はね、犯す気も起こさないのだよ」

 

「意味が、わかりません」

 

「あんな事をしたら、こんな事になるかもしれない。そうなってしまったら損だ。他人にも迷惑をかけてしまう。だからしないでおこう」

 

「あ……」

 

「自分で言葉の意味を考えようとしない者が、他人(ひと)の忠告を聞けるはずがない。本当に聞けると思うなら瞬時に意味を理解したはずだ。……またひとつ、罪を重ねたな」

 

「僕はどうして……、くっ……!」

 

「──だが、その一方で世間に貢献もしている」

 

「……えっ?」

 

「≪荷物持ち≫が()()されたことで荷運びの雇用需要が大幅に増加した。それまで職にあぶれていた無職の者たちに雇用の機会が与えられた。人の往来が増えたことで道の整備が大々的に行なわれることになった。道を通す荷車の改良が注目されるようになった。荷物を守る護衛の仕事も増えた。──()()()()()()

 

「……っ、……」

 

「≪荷物持ち≫とは何だったのだろうね? 彼らが居なくなった途端に世の中は動き出した」

 

「……僕も死んでしまいたかった……」

 

「死んでしまいたかった、か……。世の中がそうなる前、この教会でも何人もの≪荷物持ち≫の葬儀(そうぎ)を行なった。遺族ひとりひとりの無念の表情は忘れられそうにない。いや忘れてはならない。決して風化させてはならない。彼らは≪荷物持ち≫である前に、世界でたったひとりの人間なのだから。()()()()である君が楽になることは許されることではない。なぜだか分かっているね?」

 

「僕はそれほどのことをしてしまったから、苦しまなきゃいけないんですよね」

 

「残念だがそうではない。……これから先、新たに誕生するだろう≪荷物持ち≫のことを考えたことはあるかな?」

 

「いいえ」

 

「この機会に職を手にした者は()()()に戻ってたまるかと、新たに現れた≪荷物持ち≫を迫害するだろうな。そして≪荷物持ち≫は元凶である君を迫害するだろう。──仕事を奪うな。お前さえ居なければ、と」

 

「!?」

 

「君が始めた物語だろう? 君は無責任にも放り出すのか? どの(くち)が言うつもりかね」

 

「……それは」

 

「……まあ、私も人の子だ。そこまで背負わされたくはないという気持ちも分かる。あまり追い詰めて自殺されては元も子もない。……今度は私の話を聞いてみるかね?」

 

「神父様の話ですか?」

 

「そうは言っても先ほどの話と地続きではあるのだがね。今は自室で眠っているが、この教会にはシスターがひとり居る。彼女は生まれてすぐ教会の前に捨てられていた。私はその子を拾って自分の娘……いや年齢的には孫か。孫娘のように慈しみ育ててきた。……先ほど≪荷物持ち≫の葬儀を行なったと言ったが、その中にシスターと恋仲にあった男もいた」

 

「……まさか……」

 

「この話の結末は、君が考えている以上にひどいものなのだろうな。……彼女たちは結婚を考えていた。そのための資金を稼ぐために、彼は冒険者の仕事を引き受けた。シスターは質素な式でいいからと彼を引き止めたのだが、彼は思い出に残る派手な結婚式にしようとして……、ウッ……!」

 

「辛いのでしたら無理に話そうとしなくてもいいんですよ。僕と違って神父様は罪を犯したわけじゃないんですから」

 

「いいや、私も罪人さ。誰にも裁くことのできない罪を背負ってしまった」

 

「えっ? 神父様が罪を?」

 

「これからの人生を共に歩むはずだった伴侶を失った孫娘(むすめ)は、私のことを彼だと思うようになった。……心のどこかで、私は孫娘(むすめ)のことをそういう目で見ていたのだろうな。私は自分を止めることができなかった。孫娘(むすめ)の腹の中には私の子がいる」

 

「そうしなければシスターはもっとおかしくなっていたんですよね? だったら仕方ないですよ。それにシスターが狂ってしまったのだって、元を辿れば僕が原因です。だから神父様は自分を責めないでください」

 

「言っただろう。罪を犯す者が罪を犯す、と。……そうなるべくしてなった私の罪だ。私の心に、若い娘の身体を征服できて喜ぶ私がいるのは間違いない。君も言ってみたらどうだ? ジジイのくせに若い娘と交わることができて良かったなと」

 

「いや、言えないです。全部、僕の責任なんですから」

 

「……君は自分の罪は受け止めるくせに、私の罪は受け流そうとさせるのだな」

 

「僕の罪は僕の罪ですから」

 

「そうか……。だが私の罪は私の罪だ。勝手に君の罪に上乗せされては困る」

 

「……」

 

「……」

 

「やっぱり僕、もう行きます。本当は誰かに僕の罪を聞いてほしかっただけなんです。だって野宿は慣れてますから。……神父様とお話できてよかったです。これでまだがんばれそうです」

 

「そうか。では君の旅路に苦難があらんことを」

 

 




Q.話を要約して。
A.よくある「決して真似しないでください」をマジでやって世界規模で大参事が起きた後のお話。阿鼻叫喚の地獄がドミノ倒し式に展開されている。

Q.荷物持ちの大量死亡事件って?
A.ずぶの素人がモンスターに挑んで返り討ち死に。

Q.荷物持ちをよくネタにしているけど嫌いなの?
A.拡張性抜群の使いやすいテンプレ設定だと思っています。

Q.ナロームの様子が前編と比べてなんか変。
A.狂いました。

Q.もうこんなやつ殺せよ。
A.新たに生まれてくる荷物持ち達の心の支え(殺意)、被害者遺族たちのやるせなさを向ける先、などの役目が残っている。殺したところで、こいつがやらかした結果は残る。それならまだ大衆感情のコントロールに使ったほうが有意義。復讐相手が生きているという事実が重要。


以下、雑な設定。

ナローム:
 追放系主人公。男性。描写こそ無いが成り上がり前と後の計2回、PTを追放されている。超人的な身体能力の持ち主であり、クラスは荷物持ちだが戦闘に不都合な制約等はなく、普通に敵と戦うことができる。冒険者に適さないクラスのくせに大活躍してしまったせいで、世の荷物持ちが自然淘汰されてしまう大事件が起きてしまった。作中で罪について言及しているが、多くの荷物持ちが勝手に死に急いだだけであり、ナローム自身には罪状らしいものは存在していない。ある種の不能犯として、あくまで彼の存在そのものが異端・邪悪扱いされているにすぎない。
 名誉が失墜してから少しの時間が経過している。教会へ辿り着くまでに想像もつかないほどの罵倒や暴行を受けていて、外を出歩けば視線を刺され、井戸に近づけば殴られ、残飯を漁れば石を投げられる。店に入れば罵倒が飛び交う。そのため基本的には人の少ない夜間に活動している。
 教会を訪ねたのは寝るための場所を探していたのではなく、単に誰かと話をしたかっただけで、教会にいる人間なら話を聞いてもらえる可能性があるという打算ありきでの行動だった。目論見は見事成功し、神父にシンパシーを感じた。また、明確にナロームを憎む人間(自分を必要とする人間)がいるなら自分に生きる価値はまだあると再確認もできた。ナロームは罪の意識を感じてはいるが、どこか他人を利用するような自己中心的で小賢しい一面はまったく省みていない。ついでに「悪魔は招待されないかぎり家に上がることはできない」を体現した。もはやその存在は妖怪の類いと化している。話すだけ無駄な狂人。
 名前は「ローム(放浪)」より。彼が再び成り上がることはないが、浮浪者として各地に出没するフラグが立っている。

神父:
 年老いた神父。男性。本作の不憫枠その1。ナロームの間接的な被害者のひとり。実の孫娘のように育ててきた若いシスターと子作り、それも他の男と重ねられて、さらには見られるはずだった幸せな孫夫婦の家庭像を破壊された三重の苦しみを味わっている。
 すべての元凶であるナロームのことを怨んでいるが、神父の立場が素直に怨ませてくれない四重苦を作中にて追加で味合わされた。ナロームに当たるつもりが、彼から最初からそうさせるつもりだったと言外に伝えられたことも含めれば、彼1人に五重の苦しみを与えられたことになる(前3つと比べたら微々たるものではあるが)。
 元凶が去っても彼の苦痛はまだまだ増えることが確定している。血の繋がりのある親子になれること。表向きはそれを無いものとして扱わなければいけないこと。愛する孫娘との関係が続くこと。それらすべての罪悪感を彼は独りで背負い続けなければならないこと。

シスター:
 名前だけ登場。若い女性。本作の不憫枠その2。生まれて間もなく教会の前に捨てられていたところを神父に保護された過去を持つ。ナロームに感化された荷物持ちの彼氏とは結婚間際まで進んでいたが、死に別れた。そのショックで発狂。育ての親である老神父(養祖父)を彼氏だと思い込み、その身に祖父の子を宿してしまった。これまでもこれからも無かったはずの血縁を、血の繋がりを持ってしまった。
 彼女が正気を取り戻すことはまずないと思われるが、仮に回復しても祖父と関係を持ったこと、腹の子の正体を知れば再び発狂してしまう。そんな地獄のような末路は、一応の回避はできる。出産後かつ正気より先に体型を戻し、発狂中の記憶が残っていなければ。全力でごまかすことさえできれば、復活の可能性は残っている。

シスターと将来を誓っていた荷物持ちの男(故):
 影だけ登場。故人。神父がシスターを溺愛するあまり、彼は女の味を知ることなく命を散らした。


荷物持ち(クラス):
 荷物の運搬に特化したクラス。馬車数台分に相当する物品をまとめて個人用の亜空間に収納・保管できるが、重い物を振り回せる筋力等は特性として備わっていない(亜空間に投げ入れるための筋力が別途必要)。すべての生物は亜空間内へ侵入できず、不思議なちからにより弾かれてしまう。物品を収納したままの荷物持ちが死亡すると、それらを取り出す手段は永遠に失われる。
 荷物持ちの大量死亡に伴い運送関連の需要が大幅増。都市間の歩道の整備や、運送用の馬車等の改良、全体的な就職率の向上等の観点から荷物持ちの時代は終わりを告げた。また、荷物持ちがいちどきに流出・死亡したことをきっかけに、1人の人間に大量の物資を任せてしまうのは危険だと思われるようになった。今後、彼らの復権はありえないものと化した。

荷馬車(世界観):
 荷物持ちが淘汰・排除される前は、主に短距離の物資移送に用いられていた。また、荷物持ちを確保できなかった際の代替手段としても利用されていた。淘汰によって急に荷馬車の概念が生えてきたわけではない。

煉獄の標(タイトル):
 言葉の意味そのまま。登場した人物は全員、死ぬまで苦しみ続ける。


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飯前の前日談

寝た子を起こしたのは誰?

 キーワード:追放前 冒険者 エピソードゼロ 前日談


「大変申し訳ありません。唯今(ただいま)の時間、満席でして……」

 

「ああべつに相席でも構わないよ。──おや、そこのテーブル席の向かいが空いているね」

 

「あっ、お客様、そちらの席は──」

 

「君、ご一緒してもいいかな?」

 

「……なによ?」

 

「見て分からないかな? この込み具合だ。店と私の都合で少々申し訳ないが、前のこの空席に座らせてもらっても構わないだろうか?」

 

「……」

 

「その代わりと言ってはなんだが、君の悩みをひとつ聞いてあげよう」

 

「急に出てきて何言ってんのよ?」

 

「逆に聞くが、何か他人には言えないような悩み事を抱えているのかな?」

 

「チッ……。勝手にすれば?」

 

「ああ勝手にするとも。勝手に聞くから好きに喋りたまえ。あぁ、君。日替わり定食をひとつ」

 

「か、かしこまりましたっ」

 

「あんた……あたしが誰だか知っていて、その態度なの?」

 

「いや知らんよ。私はマキナと呼ばれている者だが、君は誰だね?」

 

「あたしはAランクパーティ≪ラグナロク≫のリーダー・メロウよ。……どうやら本当に知らないようね?」

 

「名乗り返せないような人物ではないようでなによりだ」

 

「いちいち(しゃく)に触る物言いね。なんか腹立つわ」

 

「それは失礼した。しかし冒険者といえば確かな腕と確かな信用が売りだ。そして私が依頼を持ち込む可能性もある。だというのにその攻撃的な態度。何か不都合な事でも起きているのかな?」

 

「……何も知らない初対面のヤツに話すようなことじゃないけど……」

 

「初対面かつ寡聞な者相手だからこそ言えることもあるのではないかな」

 

「まあいいわ。ウザ絡みされ続けるのもイヤだし、(しゃく)だけど相談に乗らせてあげる」

 

「では早速、まずは≪ラグナロク≫について教えてもらえるだろうか」

 

「ホントいちいち(しゃく)に触るヤツね! ……メンバーはあたし含めて前衛3人とヒーラーが1人、それとアシスターの男が1人よ。これで満足?」

 

「なるほど。直接攻撃に特化させた構成か。アシスターは身体機能の補助が得意な付与魔術士だ。ヒーラーは万がイチの保険といったところかな。わざわざ男と補足していたことから、アシスター以外は全員女性か」

 

「──っ! ……なんでそこまで分かるの? ホントは知ってたんじゃないの?」

 

「ではなぜ探索役がいない? 攻撃魔術の使い手がいない? 単純にパワープレイで魔物を(ほふ)るパーティなのだと、聞けば誰でも分かる構成だろう」

 

「じゃあ、頭を抱えた理由までは分からないでしょ?」

 

「結論から言ってしまえば、実力に伸び悩んでいるのではないかな?」

 

「ッ!?」

 

「なに、簡単なことだ。一般論としてAランクの上にはSランクが存在する。メロウ君の気の強さから上昇志向の強さが(うかが)える。そんな人物が分かりやすく不機嫌になる時は、物事がうまく進んでいないだろうことが多い。どうかな?」

 

「……その通りよ。気味が悪いくらいに言い当ててくるわね。後学のために聞くけど、あたしってそんなに分かりやすい?」

 

「先ほども言ったとおり、冒険者とは信用が大切となる稼業だ。私のような者であっても普通は当たり障りのない対応を取るだろうことから想像した。メロウ君が武器等を携帯していることから、冒険者なのは見れば分かるしね」

 

「自分が無作法って分かってるなら直しなさいよっ?!」

 

「それで、アシスターの男が何か問題を起こしているのではないかな? 性別の違いという懸念もされども、君の気の強さなら相手がどんな性格だろうと気後れはしないと見た。そうなれば味方が弱いか、あるいは支援が過剰なのか」

 

「ハァ……、普段は付与魔術で強化して、一撃必殺で敵を倒しているわ。あたしたち≪ラグナロク≫は強いのに、ギルドはなんでか認めてくれないのよ」

 

「それについては今メロウ君が言ったとおりだろう。強い()()だから認めてもらえない」

 

「は? なんでよ?」

 

「一撃必殺とはつまり格下狩りしかできないということだよ。同格以上の相手と正面から戦ってどれだけ持つ戦力なのか想像もつかない。(から)め手を好んで使う敵への対処は可能なのか。そんな戦力評価。Aランクを維持しているのも妥当な評価が下されていると見ていい」

 

「納得がいかないわ」

 

「弓使いなど比較的コストの軽い後衛戦力を無視しているのは、女性の筋力量にコンプレックスを抱えているからだね。女性でも男性並みにやれると示すのは、まあ君らの信念だからそれはいい」

 

「……」

 

「だが、パワープレイを続けられるほどの支援が可能なアシスターが≪ラグナロク≫の(かなめ)となっていることに気付いてはいるかな?」

 

「あんたが今言ったとおりよ」

 

「言わなければ分からないか? 優れたアシスターの最も効率の良い運用法とは≪神風≫だよ。捨て身の特攻。捨て駒だ。使い捨ての武器を持たせた戦争孤児や犯罪者の脚力などを強化して敵中へと突撃させることだ。不穏分子の始末も兼ねられ都合が好い。それはつまりメロウ君でなくともよいということだね」

 

「ハァ? ちょっと何言ってるか分からないんだけど?」

 

「君たちに足りないのは技量だよ。経験を積み、技量に優れる()()の補充には多大な時間が必要となる。しかし補充するのがただの力自慢ならば簡単だ。強力なアシスターが1人いればいい。そう、強力なアシスターのおかげで君たちは成長の機会を失っている。そんな()()集団に大事な依頼など任せられるはずもない」

 

「……もしそうだとして、それならどうしたらいいと思う?」

 

「それが分からないほど、君はバカではあるまい。だが、そうだね。とりあえず今のアシスターはクビにして、普通のアシスターと入れ替えてみるのはどうだね? ついでに全員女性にしてしまえば運営もいくらか楽になるだろう。どんな性格や年齢であろうと男は男だからね。警戒はするに越したことはない」

 

「それも悪くないかもね」

 

「言うまでもないが、パーティを組み直すなら()()()もすることだな。今までと同じ調子でいられると思わないほうが賢明だ」

 

「ねえ。なんで今のパーティのまま話し合えって言わないの?」

 

「いま君がそう言っていることが答えだよ。……そろそろ料理が運ばれてくる時分だろう。話の続きは私が食事を終えてから行なうとしようか。今度はアシスターのメリットとデメリットについて語るのはどうかな?」

 

 




Q.な、何の話だったの?
A.前日談とあるように、PTから追放される(する)ことになった切っ掛けのお話。アンチなろうの究極形は「(なろう主人公なんて)写す価値なし」。

Q.本文最後の「答え」って?
A.簡単に解決できる悩みなら、とっくに解消している。身内の問題なのに出来ていないのは、根本的かつ致命的な何かを抱えているということになる。

Q.なんで女性主義要素を入れたの?
A.アシスターが高ランクPTに加入している、それらしい理由付け。また、肉体バフの重要性と恩恵を最も理解できる立場だと思ったから。現実の世界でも性差による身体スペック差はエグイことになっている(トランスジェンダーに女子大会への出場禁止が言い渡されるほどには)。


以下、雑な設定。

マキナ:
 独特の口調をした、学者肌の女性。作中では名乗ってこそいるが身分を明かしていない謎の女。頭の回りが早すぎる大天才(狂人)で、作中では少ない情報から物事の事象について言い当てている。洞察力、観察力、推理力に優れる。それでいて人を人と思っておらず、自分を含めたすべての動物を喋るモルモット扱いの人格破綻者でもある。人を食ったような人物像。恒例の話術レベルがやべーやつ枠。
 戯れでメロウの悩み相談に乗ってあげていたが、会話をする気は殆ど無く、情報を処理していただけに過ぎない。せいぜい働き掛けた結果が気になるくらい。
 名前の元ネタは「デウス・エクス・マキナ」より。いわゆるご都合主義。実は作中にて名乗った名前は偽名であり本名は別にある。外部から観測・観察できる要素のほぼすべてが作られたものである。

メロウ:
 AランクPT≪ラグナロク≫のPTリーダーを努める、女性冒険者。仲間の男アシスターとは幼馴染であり小さい頃から顎で使ってきた、いわば生粋の主従関係にある。今回マキナの指摘を受けて、その幼馴染を切り捨てる方向に調整された。
 作中にて指摘されていた通り、男女の身体スペック差に対してコンプレックスを抱いており、そのことが幼馴染との関係とアシスターへの理解と関心に大きく関わっている。男に奉仕させることで自尊心を満たし、男の上に立つことで劣等感や嫉妬心を慰めてきた。以上のことから幼馴染追放後は、彼に対しての敵意が剥き出しになる。それはよくあるなろう系のように。しかし、女の弱さをよく理解しているため、よくあるなろう系のように自爆することはない。マキナによって釘も刺されている。
 名前は「Mellow」より。女性的な要素・意味合いを多分に含んでいる。普段は優しい。また、メの角度を変えるとナになる。Low、Lawとも。

男アシスター:
 本文未登場。よくある弱気のくせに追放後に祭り上げられる系主人公の系譜。PTリーダーであるメロウを恐れていて、冒険者となる以前から彼女の命令に従って生きてきた弱者男性。恐れから常に全力投球の支援をしているが、皮肉にもそれが彼女の逆鱗に触れてしまう結果となった。
 PTからの追放はもはや確定事項なのだが、マキナの戯れによって界隈にアシスターへの悪感情が植えられてしまったので再起は難しい。描写こそなかったが、一冒険者が利用する食事処にまた別のパーティ、他の冒険者が居ないはずがなく、どんな問題が起きていて、何が原因となっているのか詳細に解説されて、聞き耳を立てていることは想像に難くない。忘れがちではあるが冒険者とは命懸けであり、情報収集は身を守るために必要なことである。また、この場に他の冒険者が居なくても大して変わらない。この情報が売りに出される可能性もある。


アシスター(クラス):
 付与魔術士のこと。作中では肉体的な支援・補助に特化した術士を指している。バッファー。術効果は筋力増加など直接的なものではなく、パワーアシストスーツのような間接的なものとなる(対象の体を直接強化する訳ではない)。
 当然だが補強された腕力で振り回される武器はそれだけ早く消耗していくので、アシスターが居るだけで劇的に楽になるという事態にはならない。想定以上の効果量により、弓使いの弦が切れる、戦士の剣が刃毀れする・槍が折れる、なんて事態は充分起こり得る。PT内での話し合いが特に重要となるクラス。
 背伸びしたいPT、成長の限界点に達したPT、さらにそこから技量で勝負するPTと、登用される理由は多種多様に様々。

エンチャンター(クラス):
 単一・複数を問わず、物品への属性付与に特化した付与魔術士のこと。ただし、火と氷など相反する属性を同時に付与すると物品側が耐え切れず破損するし、単一属性でもそれだけ製品寿命を早めてしまうので、居る得(居るだけで得をする)ということはない。ちなみに雷属性を付与すると当たり前に感電する。ふたつの意味で絶縁必至。以上のように、付与系の補助クラスは運用が難しい傾向にある。
 強いて云うなら拷問官向きのクラス。尤も合理的な使い道は「焼きごて」係。

飯前の前日談(タイトル):
 (朝)飯前。食事をする前の極短い時間でも解決してしまえるような程度の低い話。大げさにするまでもない、くだらない内容。筆者自身に対する皮肉。


武器がぶっ壊れる作品例:
 ・ヴァルキリープロファイル。人間が造った武器にだけ破損率が設定されている。
 ・サガ、FEシリーズ等、それに類するSRPG。使用回数制。どちらかというとシステム的な制限。


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神様転生系
神様転生


神様転生を深読みした結果がこちらになります。

 キーワード:神様転生 転移 成り代わり


「……う? どこだ、ここ? 地面、壁、天井、全部白いけど病院じゃないよな?」

 

「ここは《神の領域》です」

 

「神の……領域……?」

 

「はい。あなたは死にました」

 

「……は?」

 

「ですから、あなたは死んだのです」

 

「普通に喋れるし、足も付いてるんだが?」

 

「お帰りになられると言うのなら、どうぞご自由に。私は見送りのために後ろから付いていきます」

 

「知らない場所に拉致(らち)っておいて、自分で帰れってか? 出口まで案内しろよ」

 

「出口なんてありませんよ」

 

「ひとの話を聞け」

 

「ですから、出口はありません」

 

「チッ……──ガキがっ、ナメてると殺すぞ?」

 

「できるものなら」

 

「ぐえっ!? か、身体が重いっ……!?」

 

「これで信じてくれますか?」

 

「へ、変な装置を使ったんだろ……ッ!?」

 

「タネも仕掛けもありませんよ。これは私の力の一端です」

 

「減らず口を……!」

 

「──ところで、目覚める前の記憶はありますか?」

 

「き……きお……く?」

 

「ああ、ごめんなさい! そのままでは喋れませんよね。重力負荷を解除します」

 

「……ふう」

 

「それで、ここで目覚める前の記憶はありますか?」

 

「コノヤロウ! よくもやってくれたな!」

 

「学ばない人ですね。少しは空気というものを読んでください。また()いつくばりたいのですか?」

 

「ぐっ……! わかったよ、暴れたりしない。これでいいか?」

 

「はい。それで、何か覚えている事はありますか?」

 

「えーと……たしか……トラックが……、ああっ! トラックに()かれた!!」

 

「そうです。あなたはトラックに()かれて死にました。今あなたが身体を動かせるのは、私が身体を復元……再構築したからです」

 

「生き返させたってなら、そのまま元の場所に帰してくれよ」

 

「それはできません。あなたの身体はマナで再構築したので、マナが存在しない元の世界には戻せないんです。……いえ、本当は戻せるのですが1分も経たずに自壊してしまいます」

 

「……なんで俺を助けた?」

 

「ふふっ、神の気まぐれです。──さて、あなたにはいくつかの選択肢があります。ひとつ、別の世界に転移してそこで余生を過ごす。ふたつ、再び死ぬ」

 

「みっつ、この場に居残る……が抜けてるぞ?」

 

「これまでにも何人かそう言う方もいましたけど、私も一緒とは限りませんよ?」

 

「……」

 

「永遠の時を独りで過ごすか、再び無に返るか、別世界に転移して余生を過ごすか」

 

「ケッ、選択(いみ)のない選択肢だな。実質ほぼ一択だ」

 

「別世界に転移するなら、特別にひとつだけ能力を授けてあげますよ」

 

「なに? どういう魂胆だ?」

 

「私の趣味は人間観察なんです。人々の営みを見ることが好きなんです。あなたがトラックで()かれて、それを助けたのも、たまたま見てしまったからですね」

 

「いい趣味してやがる。──おい、別世界に転移させろ」

 

「どんな能力がほしいですか?」

 

「お前の能力だ。神の力をよこせ」

 

「……っ!」

 

「どうせこれでおさらばなんだろ? だったらべつにいいじゃねえか。あんなにすごい力を見せ付けられて、欲しがらない方が無理ってもんだろ」

 

「そうですね! では、()()()()()()!」

 

「ふぉおおおっ!? 全身に力がみなぎる!! これが神の力! 最高にハイってやつだぁぁぁっ!」

 

「ふう……では、私はこれで失礼しますね」

 

「……? 俺が行く先の世界ってどんな世界なんだ?」

 

「いえ、あなたにはこの領域(せかい)で余生を過ごしてもらうことになりました」

 

「は?」

 

「うっかり、()()()()()から幾千年(いくせんねん)! ついに()()の時がきました! ありがとうございます!」

 

「何を言ってる? 俺にもわかるように話せ」

 

「イヤで──」

 

「消えた……。何がどうなっていやがる? あいつが居なくなった今、自分で考えるしかねえか……。あいつの趣味は人間観察で、あいつは神の力を持っていた。ほかの世界を覗き見たり、人を移動させたりできる。俺に神の力を渡して消えた……──まさかっ!?」

 

 

────────────────

 

 

「え? ここどこ? パパ? ママ?」

 

「おはようさん。ここは《神の領域》で、お前は死んだんだ」

 

「ふぇ? あたし、生きてるよ?」

 

「それは俺が生き返らせてやったからだ。ちゃんと説明してやるから聞けよ? いいか、お前には選択肢がある──」

 

 




Q.神様の正体。
A.死後、神に蘇生された人間。

Q.神様を辞められて喜んでいた理由。
A.《神の領域》から神が出ることはできないから。死ぬことも狂うこともできない。

Q.神様になる条件。
A.後継者を名乗る者が現れたとき、役目を交代できる(口頭契約)。

Q.神様が能力付き異世界転生を勧める理由。
A.「神の力がほしい(神になりたい)」と言うのを待っている。言わなくても、その後の行動を観察して楽しめる(テレビ感覚)。

Q.死因:トラック。
A.神は現代に干渉できる能力も少なからず持っている(死体の回収などをはじめとして)。ベテランの神になるとわざと負い目を作ることで(神様のせいで死んだなど)、違和感なく能力を渡す。実は作中の神様も自作自演だが、相手の精神性を見て隠すことにした。

Q.死体を拾う理由。
A.死体に細工することで、元の世界に戻れないようにしている(仕入れ先に情報を渡さない意味もある)。また、神の力が馴染みやすいようにと。

Q.前の神様はどこに消えた?
A.異世界、消滅、力と共に次の神様に吸収された。お好きなものをどうぞ。


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真・神様転生II -僕と俺-

神様転生を深読みした結果その2。

 キーワード:神様転生


「知らない天井だ……」

 

「やあ、人間。お目覚めかな。一応言っておくと、()()()()に天井は無いよ」

 

「言ってみたかっただけだ。俺は死んだのか?」

 

「おっ! 鋭いねぇ……その通り! 君は死んだんだ!」

 

「神様のお前のせいで?」

 

「そこまで解っているとは話が早い! 殺しちゃったお詫びに、特別な力を持って異世界へ転生……いや、転移させてあげよう!」

 

「能力は選ばせてくれるのか? というか、能力以外でもいいのか?」

 

「いいよ。君が解りやすいように能力って言っただけだし。物でもいいよ」

 

「じゃあ──()()()で」

 

「へぇ?」

 

「俺はラノベが好きだ、特に神様転生モノが好きだ。チート染みた……いや、神様から能力をもらってんだから言葉通り反則(チート)か。そのチート能力を使って異世界で暴れまわってみるのも面白そうだが、それなら神様そのものをもらった方が面白そうだとは思わないか?」

 

「いいねいいね、その発想はなかったよ! 今まさに君が言ったように、これまでは僕の力の欠片ほどを持たせた()()を、かの世界に送り込んできたけど、小細工なんかもうしないで僕そのものを送り込めばよかったんだ! これだから()()()の人間は面白い……!」

 

「お、おい? 急にどうした? なんか知らんがテンション上がりすぎだろ」

 

「気付かせてくれたお礼に話をしてあげよう。僕の力は強大すぎてね、僕自身は世界の門……異世界への入り口を通ることができないんだ。だから僕の代役として、別世界からさらってきた()()()()()()()()に力を授けて異世界を荒らさせるよう仕向けてきた。君たち別世界の人間は保有魔力が極端に少ないから、僕の力を馴染ませやすいんだ。中身の入っていない水筒に水を注ぐようにね」

 

「な……、何のためにそんな事をっ?」

 

「何のためって? そりゃあ、決まっているじゃないか。異世界をメチャクチャにするためだよ。君たち別世界の人間は打って付けの人材なんだよ。君たちは残虐性が高すぎる。……お遊びで何度か、何も力を持たせずに異世界へ送ったこともあるけど、いずれも()()()()()()で成り上がって世界の根底を崩して混沌へと導いてきた。それまで築き上げてきた歴史を無視してね。自分たちがやりたいように、自分たちがそうなりたいように世界をメチャクチャに変える! 君たち別世界の人間は僕が何もしなくても、まるで僕のために存在するかのように働いてくれるから面白い! あっはははっ!」

 

「は、破壊神……!」

 

「フフフ……君がそれを言うかい? 破壊するつもりはないよ。そんな事をしたら、つまらないじゃないか。ガラス瓶はいつでも叩き割れるけど、割れるのは一度っきりじゃないか。そんな勿体無い事はしないさ」

 

「そんな話を聞かせて俺が従うとでも? 俺は俺のやりたいようにやる! お、脅しには屈しないぞっ!」

 

「あぁ、君の意思は要らないよ。必要なのは君という()()()だけだ」

 

「な、何を……!?」

 

「言ったじゃないか。これまで何度も僕の力を異世界へ送り出してきた、ってさ。──なら次は()()()()を切り分けて異世界に送り込む。力は現地にあるから、そこで回収すればいい」

 

「は……?」

 

「ありがとう。君のおかげで、もっと(たの)しい事になりそうだ。──じゃあ、その肉体(カラダ)は僕がもらうよ」

 

 




タイトルはメガテン2(罪・罰)より。タイトルに込めた意味はそのまんまです。

罪:
 ・俺君は影響力を深く考えずに異世界に介入する気満々だった
 ・余計な事を言ってしまい、次回以降の全員が乗っ取られることが決定した

罰:
 ・前任の転生者の罪ごと、罰を受けるハメになった

僕と俺:
 ・対話体小説の表記
 ・カップリング表記(主/従)


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神様転生III ~そして遅刻へ~

時間の流れとは残酷なものです(小並)。

 キーワード:神様転生 転移


「──ハッ!? ここはいったい……? 俺はどうなったんだ?」

 

「フォフォフォ……、目覚めたかの。わしは神じゃ」

 

「よっしゃあああぁぁぁっ! きたあああぁぁぁっ!」

 

「フォッ!?」

 

「俺は神の手違いで死んだんだなっ!? お詫びにチート能力付きで転生させてくれるんだなっ!?」

 

「お主は運命の女神の身勝手な行ないのせいで死んだから、神のせいなのは合っておるが……」

 

「爺さんが俺を殺したんじゃないのか?」

 

「違うわい。……じつを言うと、運命の女神が最近おかしくてのぅ。引きこもりニートがいつ死のうが誤差だよ誤差、結婚もできねえから居ても居なくても大差ねえよ、と喚きだしてきてな。手当たり次第に若者を殺してまわっているのじゃ」

 

「ぐはっ」

 

「運命の女神の身勝手さで一方的に人生を奪われるのが、わしは不憫に思うての。こうして救済をすることを考えたのじゃ」

 

「か、神様転生にそんな裏話があったとは……」

 

「じゃが、女神の言うことにも一理ある。環境のせいか、今の若者は誇れるものを持っていないのは確かじゃ。じゃから、ささやかではあるが、わしからお主に新しい環境と能力を与えたいと思う」

 

「環境のせいとか言ってて能力くれるのな」

 

「それは自信をつけさせるためじゃ。火も燃やすものがなければ起きんじゃろ?」

 

「なるほどね、そういうもんか。──じゃあ、チートアートオンラインの主人公の能力で! 転生先はナーロッパ世界のチーレム次元で!」

 

「ち、ちーとあーとおんらいんっ? なーろっぱぁ? ちーれむぅ?」

 

「えっ、爺さん知らないの? チートアートオンラインはアニメ化もした大人気ラノベだよ。主人公がデスゲーム世界を書き換えるチート能力でひっそりと敵の思惑を覆していく、すっげーおもしろいラノベなんだけど。ちなみにチーレムもラノベで、ナーロッパはシェアードワールドな」

 

「知らんのぅ……」

 

「口で説明するより、アニメ見た方が早いんだけど……ここってテレビ無いの?」

 

「テレビは無いが、下界の様子なら見れるのぅ」

 

「おっ! じゃあその力使ってアニメ観賞会しようぜ!」

 

 

────────────────

 

 

「……世界を書き換える力でヒロインの死の事実を書き換えてしまうとは、大した少年じゃのぅ」

 

「その代わり、運営に主人公のチート能力がバレて()()()されちゃったけどな……」

 

「世界を書き換えるほどの力を与えることはできぬが、お主自身を書き換える能力なら渡せるぞ」

 

「ちぇー!」

 

「それで転生先はチーレムに()()()()ナーロッパ()世界じゃったな」

 

「うんうん」

 

「では力を授けるぞい! ……ハァ~~ッ! カァッ!!」

 

「うおっ」

 

「……ふう。これでよし。時空の門も開いておいたから、あとは飛び込むだけでチーレムの世界へいけるぞ」

 

「じっちゃん、ありがとな! 俺、行ってくるよ!」

 

「よいよい。わしも楽しめたぞ。わしの方こそ、ありがとうなぁ」

 

 

────────────────

 

 

「うわっ!? 空中から放り出されたのかよ……、イテテ……」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「え? あっ──すげぇっ! 本物のヒロインだ!」

 

「えっ……、あの本当に大丈夫ですか……? 初対面ですよね?」

 

「あ、ごめん。俺はチータロー! よろしくな!」

 

「おーい、ヒロイン。どうしたんだー?」

 

「あ、コウさん! 怪我人……? です!」

 

「コウって、チーレムの主人公の名前じゃん……」

 

「ん? オレの事を知っているのか?」

 

「逆に()きますけど、コウさんの事を知らない人っているんですか? コウさんは世界を救った英雄じゃないですか」

 

「オレはただ、オレにできる事をしただけなんだけどなぁ」

 

「……げ、原作終了してる……。アニメ観賞会やりすぎた~っ!」

 

 




Q.似たような世界って、どういうこと?
A.似たような世界と言っているのは、死神様現象の暗喩。昔、漫画の応募作で題材・基本設定が同じ作品が数点あったという逸話から。一般的な概念ではないので、検索してもたぶん出ません。

Q.なんで出遅れたの?
A.出遅れたのは時間操作はできないから=介入する時間軸も選べない。できるなら謀殺そのものを無かったことにしているため。


 副題の元ネタはDQ3より。ロト3部作の最終章(前日譚)であること、前半の世界が現実の世界地図を模していることから捩りました。
 それとストーリー終盤のオルテガの死は、彼の息子が新勇者として介入したことで観測(前勇者の死が確定)されてしまったとも考えられます。オルテガは死亡説こそ出ていましたが実は生き延びていてラスボスの後数歩手前まで辿り着いていました。そのあとはプレイヤーの化身である新勇者がラスボスを倒して英雄として祭り上げられます。
 これは悪い言い方をすると、主人公の座をオリ主が掠め取ったとも表せます。父親の足跡を辿り魔王バラモスを討ち取る……というのは息子の物語ですが、大魔王ゾーマを倒してすべての世界を救うことはオルテガの物語でした。仮に新勇者一行に人格が与えられていたら共闘(PT加入)という展開もありえたかもしれません。
 このお話はなろう系なのでそんな大層な、壮大なものにもなりませんが。


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神様転生IV イージータイプ

あんなに都合よく美少女が集合するわけないだろ!
 ・演出を若干補強(2024/2/1)。

 キーワード:神様転生 TS 性転換 精神的BL


「悔いのない……人生じゃった」

 

「……ご臨終です」

 

 

────────────────

 

 

()()()()でした」

 

「ここは……神の空間か。俺の肉体(からだ)が若返っている。久しぶりだな女神様」

 

「いい人生を送りましたね」

 

「ああ。()()()()だけど俺もそう思うよ。……俺はまた転生するのか?」

 

「はい。そうですよ」

 

「次の世界はどんなところなんだ? 何歳からのスタートだ? あとスキルはどうなる?」

 

「そんなにガッつかなくてもちゃんと転生させてあげますよ──ふっ」

 

 ・スキル【女の子】を取得しました。外見および服装が更新されます。

 ・スキル【黒衣の剣士】を失いました。

 ・レベルが1に変更され、ステータスが初期化されます。

 

「こ、これは……女の子の姿? 今度はTS転生なのか?」

 

「はい。あなたがヒーローのお話は終わったので、今度はヒロインのお話にしようかと」

 

「魔法少女か、悪役令嬢か。まあ、なんだっていいぜ」

 

「ほう……それは頼もしい。良い返事が聞けましたが、その言葉遣いは直しておきましょうか」

 

 ・スキル【女の子口調A】を取得しました。口調に補正が入ります。

 

「へ? ど、どういうことです? ──ッ!? あ、あれっ? こ、言葉遣いがなんか変……」

 

「変ではありませんよ。とってもかわいらしい。やっぱりヒロインは女性らしくなければ。男勝りなヒロインもいいですけど、たまに味わうのだからいいのでして。──やはり王道はボーイ・ミーツ・ガールの冒険譚ですわ!」

 

「わかるけど、どういうことなの?」

 

「大まかな流れは前回と同じですよ。あなたに次に演じてもらうのはヒロイン役です。あなたもヒーロー役だったなら、どんなふうにふるまえばヒロインらしくなるか、何を言えばヒーローが喜ぶか分かるでしょう」

 

「……えっ」

 

()()()()()では(まこと)に男性に優しくはできないですからね。()に男性を理解できるのはやはり男性……愛が世界を救うのです。前回のヒロイン役もいい働きをしてくれました」

 

「じゃ、じゃあ……わたしは元男と、あんな……──ううっ、うえっ、おえええ……ッ!!」

 

「流石は美少女。吐いても絵になるわ。──そうそう、サブヒロイン役もとてもいい働きをしてくれました。ちゃんとハーレムを維持したまま最後まで終わらせたのは見事でしたよ」

 

「も、もうやめて……!! 言わないで!」

 

「何をそんなに嫌がるのですか。性別は女と男なので何も問題ないではありませんか」

 

「そういう、そういうことじゃないのっ!」

 

「今度の造形は過去最高の出来だと自負していますから、何も恥じる必要はないですよ。──さあ、物語をはじめましょうか」

 

 




Q.は?
A.ヒロイン(概念)は元男でリサイクルされた存在だった。全員ホモ。
 今度は主人公がヒロイン役を務めることになり、精神的BLを強制させられた。

 昔よく「おっさんの***をしゃぶるのと、全財産(対価)を支払って見逃してもらうの、どっちがいい?」という地獄のような二択を筆者は聞かされていましたが決まって答えは「舌を噛んで死ぬ」という第三の選択肢が選ばれていました。実際の強制力が伴わないただの言葉遊びだとしてもよっぽど嫌だったみたいです。ちなみに出題者は終始、満面の笑みを浮かべていました。こわい。
 なろう系にたまにある、何年何十年も女の身体で過ごしてきたからもう慣れた(性自認は男だけど、男と付き合ってもいい)とか、おそらくは順応性が高い描写なのでしょうが、LGBT……特にTにケンカを売っているようにしか思えません。誰もが身体の性別に従って役割をこなせる精神性をもった世界は、その世界にとってはとても都合がよく、楽なのでしょうが。
 なお、作者側から見てこの問題は「そうしないとお話が(テンポよく)進まないから」「この作品ではこれが正常」で一応の解決はできてしまいます。ご都合主義。都合の悪い筋書きってなんだよ、(元々ストレスフルでもなければ)破綻してんだろ、と言われてしまっても肯定してしまえば反論はしづらくなります。根拠となる部分を潰してしまえばそこでお終いです(大義名分の消失は意外と効く。ほならね理論はナンセンス、自分で自分を貶すことになり別口の非難材料を与えてしまう。場合によっては逆に相手に解決策を搾り出させるのもありだがハーメルンでは規約に抵触しそうなので出来そうにない)。その代わり構成の甘さも否定できなくなりますが。
 視点の多角性を読者に強いる、学生の読書感想文提出はそのためにあった……?(深読み)

 副題のイージータイプはFF4(SFC)のバージョン違いを元ネタとしています。イージータイプはオリジナル(無印)とストーリー展開は同じですが、アイテムやコマンド、敵の名前などシステム面での変更が加えられています。オリジナルからイージータイプと続けてプレイすればそれは実質2周目であり、また1周目とはやや違った立ち回りを要求されることになります。そこから、ヒーローからヒロインへ転じる(微妙な違いはあるものの主役という意味では同じ役)にはふさわしいと判断して採用しました。
 単純にヒーローが代わりにストーリーを解決してくれるから、見ているだけのヒロインとしてはイージーなシナリオであるという含みもあります。ヒロイン=かわいい(優れた容姿)、お手本を近くで見てきたという意味でも。


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神様転生V ブレインクォーター

現地人主人公とか現地転生が流行った理由。盛大に何も始まらない!

 キーワード:異世界転生 転移 チート


「おめでとう! 君達3人に記憶と自我を保ったまま転生転移する権利をあげよう!」

 

「転生……──あぁ、オレ、死んだのか」

 

「は? 何言ってんの? 死んだらそこで全部おしまいじゃん。つまりアタシらはみんな生きてるってワケ」

 

「ボクは信じるよ」

 

「うんうん。拒否権なんてないしね。この剣に加えて、欲しい特典を1つだけ選んでよ!」

 

「じゃあ、オレはアイテムボックスで。剣と魔法の世界でも空間魔法がちゃんとあるかも分からないしな。……これは標準機能か?」

 

「りょ! オレ君はアイテムボックスね! そんな便利な能力が普通だったら()()()()()()()から標準じゃないよ! そうそう、3人とも送る世界は同じだけど同じ場所には出ないよ!」

 

「オレ君が無限収納なら、ボクは無限の金製にしようかな。現地で合流したあとに必要になるかなって。お金はいくらあっても困らないしね」

 

「おっ! お前もあのゲームの能力か! 無から金貨を創り出すあの能力! 凸と凹みたいになったな!」

 

「無限に金貨を創る能力だね! ……最後に残った君は何にする?」

 

「決めなきゃいけないワケ? ……じゃあ、見た目そのままで超人的な身体能力だけ欲しいかな。ゲームか何か知らないけど、男共が補助に走っちゃったからアタシが前に出なきゃいけないっしょ」

 

「うんうん、そんな君には代わりに前に出てくれる存在も与えよう! じゃあ──ゲームスタートだ」

 

 

────────────────

 

 

「うお……っと、ここが異世界っ!? すごい大自然だ」

 

『なんだお前は? どこから現れた! その服は何だ? 答えろ!』

 

「あ、こんにちは」

 

『何をおかしなことを言っている? 怪しいやつめ、ひっ捕らえてやる!』

 

「うわっ!? あ、危ないだろ! 急に槍を振り回さないでくれよ!」

 

『抵抗するな!』

 

「クソッ! こうなったらアイテムボックスだ! 中に入ってやり過ごす!」

 

 

────────────────

 

 

「オレ君はどこに居るんだろう? 言葉が通じなくて、ずっと迷ってるのかな……」

 

『異邦人。大変な事をしてくれたな』

 

「まあボクも分からないんだけどね……。ボディランゲージでなんとかなってるけど」

 

『お前の特異な力が貴族の怒りに触れた。金の価値を崩すとして、お前の処刑が決まった。今なら人としての尊厳は守られる。おとなしく罪を受け入れろ』

 

「えっと、ついてこい? わかったよ。どこに行くのかな」

 

 

────────────────

 

 

『返して……アタシの身体、返してよ……』

 

「あっはははっ! 死ね死ね死ねぇっ!!」

 

『違う……こんなのアタシじゃない……アタシの姿で力を振るわないでよ……ッ!!』

 

 

────────────────

 

 

「まあ、こーなるよねー。人間って愚かだなぁ。どうして誰も言語能力を欲しがらないんだろねぇ?」

 

 




以下、雑な設定。

オレ君:
 亜空間から出られなくなる(消息不明)。アイテムボックスは現在の空間から亜空間に通じるゲートを開く設定だったので、もう取り返しが付かない。こうなってしまっては亜空間から亜空間に通じるゲートしか開かない。アイテムボックスは個人用なので外からの救出も不可。時間経過の概念は決めていないが結局は詰んでいる。せめて詳細な取り扱い方法を聞き出せてさえいれば、逆に敵を収納してやり過ごせていた未来もありえた。非暴力主義の現代に生まれたのも悪い方に働いていた。そのせいで相手を制圧するよりも逃げることを優先させてしまった。

ボク君:
 相場破壊を恐れた貴族の手によって無事処刑される(死亡)。ボディランゲージで意思疎通を図るまではよかったが、現地への配慮や社会経験、社会史への理解度が足りていなかった。終始ゲーム気分だったのも最悪で、影響力を考えずに出所不明の金を流通させてしまったのが運の尽き。それも意匠のないただの金貨だった(特定の国の金貨を創り出す能力ではない)ことも不審さを加速させた。意匠なしの金貨は色々と憶測を呼び込んだが、とりあえず処刑して反応を見ることに。動きがあれば黒。なければないで不穏分子を消すだけに終わる。仮に裏社会に保護されていたとしても、それはそれで犯罪者の汚名を被ることになっていた。結局のところ、犯罪にしか使い道がない能力だった。また、オレ君のフォローがなければ、能力はタッチゴールド(触れたモノを金に変える)にされていた可能性もあった。

アタシ:
 与えられた能力に肉体の主導権を奪われる(生存)。着眼点は悪くなかったが、余計な事を口走ったせいで力を奮うための代役(仮想人格、魂)も与えられてしまった。積極的でなかったのも要因のひとつ。結果として要望とサービスが半々に混ざった存在と化した。姿はそのままでと注文したせいで不老化しているため老衰することなく、解放されるには外的要因で死亡する可能性に賭けるしかないが、超人的な肉体がそれを許さない(不老は超人化特典に含まれる)。食料は必要ならば略奪で賄える。一生、殺戮ライブ配信を眺めるだけの人生を送ることとなった。

神様:
 故意だが悪意はない。世界の枠を越えて異物混入してくるので邪神の類いではある。ゲームという単語はゲーム世界という意味ではなく、遊びという意味で発していた。言語能力をおすすめする・しない理由は特にない。転移先の説明もしないのは何も聞かれないから(アイテムボックスの補足という形で触れてはいる)。それらすべて含めて「ゲーム」と称している。剣は単なるサービス品の初期装備であり、特別なものではなく最低限の自衛手段として配布していた。


その他の設定:
 ・転生転移なので3人とも一度は死んでいる。蘇生ではなく、その場で輪廻転生して生前と同一の肉体に生まれ直してから転移している(サンサーラ概念)。
 ・すんなりと話が進んでいたのは、異世界転生ジャンルが一般的な娯楽と化しているから。アニメのことがリアルに起きた程度の認識だった(暗黙の了解のようなもの、常識、共通認識)。販促グッズは幼児用の日用品としても実際に売り出されることがある。
 ・今回の異世界は厳しめの設定なので、最悪を想定しておくべきだった。たとえば他国民や他民族への心象、未知の存在への恐怖など。言語もお互いにとって未知の言語なので、まったく通じていない。
 ・最適解としては言語担当(通訳)、肉体保護または医療担当(未知の病原菌や医療技術等の差異が怖い)、合流用の能力担当(サイコキネシス+テレパスなどの総合的な超能力)を細部まで指定して注文することだった。武力は現地で借りればいいので、とにかく生存重視または安定志向に割り振るべきだった。神様側もちゃんとヒントは出している。


 今回の着想は永遠のアセリアより。その作品では普通に言語の壁があるので、その世界の言語をいちから学ぶ描写があったりしますし、戦闘奴隷の身分に落とされるも逃亡したところで生存できないと悟ったのか、与えられた任務は確りとこなしていたりします。異世界転移・転生系に触れたのはその作品が初めてだったので、ハードモードがデフォという意識が筆者の中にはあります。現実の世界でも言語と文化の壁は厚いですし、生まれ育った国から強制退去させられるなんて想像したくもない。異世界転生流罪説が出てきそうです。まさに前世でどんな罪を犯したのかと云えてしまう。
 タイトルの副題はブレスオブファイア5より。直訳すると脳縛り。1/4を足し算していってもやっと1人分にしか至りません。なのでそれぞれが自分のことしか頭にありません。オレ君は収納能力で蓄えの確保と身軽さを、ボク君は創造能力で蓄えと身軽さを、アタシちゃんは超人化しておけば最悪自分だけは生き延びられる可能性が高いという打算ありきです(男2人に対して女1人という意味でも)。活動資金は現地で稼げばいいのにバカだなー程度にしか思っていません。呆れたせいであの失言が出たわけですね。


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その他(未分類)
失格の魔法使い


魔法が普通の世界って、銃社会よりもヤバそう(小並感)。
 ・後書きに人物設定を追加(2024/1/18)。

 キーワード:最強系 魔法 採用試験 入学試験 実技試験


「すまん! 遅れた!」

 

「ああ、あなたで最後ですよ。受験番号37564さん。では、どうぞ」

 

「あの(まと)に魔法を撃てばいいんだな?」

 

「はい。実力を見るための試験ですから」

 

「わかった……──《燃えろ》!」

 

「な、なんなんだよアレ……ッ!?」

 

「おいおいマジかよ! (まと)が跡形もねえぞ!」

 

「威力がおかしい! なんだアレは! 地面まで抉れてやがる!」

 

「信じらんない!」

 

「受験番号37564、失格」

 

「……えっ? ま、待て! 待ってくれ! 俺の魔法の威力が弱すぎたんだよなっ? 今のは準備運動だ! 今度は本気でやるから、もう一度見てくれよ!」

 

「いえ、逆です。強すぎるんですよ」

 

「あ、アレがっ? えっ? どゆこと?」

 

「はー……、これはこの試験の種明かしをしなければならないようですね。──ほかの受験生のみなさんも、これから私が話す言葉をよく聞いておいてくださいね」

 

「種明かし? どういうことだ?」

 

「さあ? 教えてくれるみたいだし、とりあえず聞いてみましょ」

 

「まず、この試験の主旨は、総合的な評価を出すことです。先ほど、あなたが吹き飛ばした(まと)があった辺りを見てください。(まと)は跡形もなく吹き飛び、地面まで抉れていますね? あれじゃあダメなんです」

 

「何がいけなかったんだ?」

 

「……それ、本気で言ってますか? まあ、いいでしょう。(まと)の形はなんだったか、覚えていますね?」

 

「人型だった」

 

「あなたは人を木端微塵(こっぱみじん)に吹き飛ばすんですか?」

 

「え? いや、アレは(まと)だっただろ」

 

「ええ、本物の人間で試験を行なうわけにはいきませんからね。そのための(まと)です。──いかに周囲に損害を出さずに目標だけを狙えるか。それが試験内容の()()です」

 

「そうだったのか……」

 

「あっ! そういえば不合格になったヤツって……!」

 

「おや。大変聡明(そうめい)な受験生が居るとは、とても喜ばしいことですね。──はい、そうです。(まと)に効果があるとはいえない麻痺(マヒ)。周囲への危険が大きい毒。あとは未熟な制御による(まと)以外への命中など、です」

 

「……?」

 

「対象だけを狙う制御力、対象への適切な魔法を選ぶ判断力、そして弱すぎず強すぎずの適度な破壊力。評価対象となる部分は主にこの3つですね。……せっかくですので、受験生のみなさんにその理由を聞いてみるとしましょうか。──では、そこの君。制御力を評価する理由はなんだと思いますか?」

 

「お、オレですか? ええと……試験官がおっしゃったように、周りに損害を出さないためですか?」

 

「うーん、私の話をちゃんと聞いていてくれたことは嬉しいですが、それだけじゃあ、ちょっと足りませんね」

 

「制御力が必要な理由、理由……あっ! 仲間に損害を出さないため?」

 

「正解です! 制御力は様々な場面で求められますよ。魔法を撃ったときに、仲間や一般人に被害を出さないのは当然のことですね。地形や建物に関してもそうです。たとえば戦争なんかだと、相手を倒すだけならば都市や砦ごと爆破した方が楽ですが、占領後に自分達が使うことを考えると壊すわけにはいきませんからね。特に都市は。そういうことです」

 

「なるほど……。言われてみれば、その通りだな」

 

「あっ、そっか」

 

「へぇ~」

 

「あっぶな……! やらかすとこだった……!」

 

「適切な魔法を選ぶ必要があるのも同じ事です。耳障りな蚊が飛んでいたとして、殺すのに爆炎の魔法や濁流の魔法を使おうとはしませんね。(まと)を何と認識するか。それを判断する力も見ていました。破壊力に関しては()です。ここは()()()()です。この意味が分かりますか? 受験番号37564さん」

 

「えっ? ああ……、俺達の力を見るための場所だろ」

 

「いいえ。あなた方、受験生を評価するための場所です」

 

「……?」

 

「あなたはやりすぎたんですよ。周りが見えてないんですか?」

 

「っ!?」

 

「魔法は人類には過ぎた力です。使い方ひとつで不幸にも幸せにもなれる、そんな刃物のような力です。ですが、力を持つことは悪ではありません。使い方次第で悪となるのです」

 

「…………」

 

「うんうん、みなさん素直な点は好評価ですよ! ──さて、受験番号37564さん」

 

「な、なんだよっ?」

 

「《あなたは失格です》」

 

「は──」

 

「……う、うわあああっ!?」

 

「し、試験官が人を、ころっ、殺しっ……!?」

 

「今のはお手本ですよ。人はこうやって殺すんです。光弾を心臓に1発、頭に2発が基本ですよ。生き返られては困りますからね。肺や首を狙うのもいいでしょう。……魔法は過ぎた力ですので、承認の下りていない広域破壊魔法は法律で禁止されています。被害拡大を防ぐために、現場の判断による速やかな処分が認められていますので殺人罪には問われませんよ。どうやら彼は魔力が強すぎたようでしてね。精神面でも()()()()の未熟さを感じましたし。何かの拍子に暴走されては(かな)いません」

 

「で、でもっ!」

 

「なにも殺さなくても……!」

 

「あなた方も例外ではありませんよ? 大いなる力には大いなる責任が伴うのです。勉強になりましたね」

 

 




以下、かなり雑な設定。

試験官:
 最後の受験生を見終わったのもあって、試験のネタばらしをした。制御力・判断力・破壊力を評価していたと言ってはいるが、実は全て同じ意味で使われている。どれも同じ事について語っている。
 魔法の発動コードは「あなたは失格です」。不意を突いて撃ち殺した。タイトルの「失格の魔法使い」は試験官と殺害された受験生の両方を指している。

受験生37564番:
 またオレ何かやっちゃいました系主人公。とにかく派手に自分の力を見せ付けることしか考えていなかったために試験官から危険視されてしまい、先手を打って処刑されてしまった。
 受験番号は「皆殺し」。これを半分にすると「嫌な奴(18782)」となる。嫌な奴は皆殺し。


 「最大の敵は無能な働き者の味方」という言葉があります。就職や学業でも実力不足で落とされることは普通のことです。採用後に矯正されたり、物を覚えさせられるのもまた才能です。見込みがなければそれまで。
 作中の場合ですと、拳銃やライフル銃を使う射撃訓練なのに近距離で狙撃銃(HEIAP)をぶっ放したり、手榴弾を持ち出してきたアホを弾いた具合です。後ろ弾以前の問題。現実でも地雷やオートマ銃でロシアンルーレットなんてアホな話は本当にあったそうです。バカは死んでも直らないと云いますが、とんでもない話ですね。


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強くてニューゲーム

ステータス・オープンは絶対に必要(鉄の意志)。
 ・後書きに非常に簡素に設定を追記(2024/1/18)。

 キーワード:主人公最強 レベルカンスト ステータス・オープン 冒険者 ギルド


「こんにちは! 初めての方ですか? 冒険者ギルドへようこそ! 本日は依頼を出されにきたんですか?」

 

「はじめまして。私は冒険者登録をしにきたの」

 

「あ、そうでしたか。では、こちらの《ステータス・ボード》に触れてください!」

 

「なにこれ?」

 

「これはですね、触れると強さを数字にして表したり、特技──特殊能力を文字にして表したりしてくれるマジック・アイテムなんです!」

 

「うわ、高そう」

 

「かの錬金島《アルカディア》でしか造られない、レアモノ中のレアモノですよ! そのかわり、お作り出来るのは1回限りで、誰であろうと2度目はありません!」

 

「つまり、ボードを紛失しないことが冒険者の最低条件ってことね。理解したわ」

 

「そうです! それじゃあ、触れてみてください!」

 

「わかったわ」

 

【基本情報】

名前:セーラ・ストロンゲスト

称号:魔女の娘、新米魔女、美少女、《セーラ》の名を継ぐ者

分類(クラス)超能力者(サイキッカー)

 

年齢(AGE):16(実年齢)

性別(SEX):♀

 

練度(LV):99(MAX)

経験(EXP):--------(MAX)

耐久(HP):C(一般男性と同等)

精神(MP):S(人外並み)

腕力(STR):D(一般女性並み)

体力(VIT):D(一般女性並み)

器用(DEX):A(薬師級)

敏捷(AGI):E(貴族令嬢並み)

魔力(MAG):S(伝説的)

知力(INT):A(学者級)

地頭(WIT):E(█████)

意志(WIL):C(飽きっぽい)

胆力(MEN):S(怖いものを知らない)

容姿(CHA):S(男なら誰でもつけ狙うほどの美少女)

運 (LUC):S(生まれた時点で人生勝ち組)

 

【特殊能力/状態異常ほか】

 ・必要経験値減少(遺伝)

 ・術媒体不要、属性系呪文使用可能、僧侶系呪文使用可能、未分類呪文使用可能(サイキッカー特性)

 ・言霊による薬草や製薬、呪文などの知識の伝承。器用/知力に永久ボーナス(名前)

 ・知識伝承により知力/意志に永久ペナルティ(先入観)

 ・過度な僧侶系呪文により不老不死化。常時肉体再生、加齢ペナルティ無効(後遺症)

 ・尊き者に連なる血。容姿にボーナス(遺伝)

 

「あれ? なんか黒く塗り潰された項目があるんだけど──」

 

「ほぎゃああああああああっ!!? なにこの人マジで強すぎぃぃぃぃッ!!!」

 

「うるさいっ」

 

「はい」

 

「なんか黒く塗り潰された項目があるんだけど、不良品じゃないのコレ」

 

「あー、適切な語句がないとそうなっちゃうみたいなんですよ。仕様だから何も問題ありませんよ」

 

「ふうん……」

 

「そんなことより! 久々の大型新人です! じゃ、この()()クエストを達成してきてください!」

 

「え? こういうのって採取クエストから始まっていくもんじゃないの? というか規約とかの説明は?」

 

(こま)けぇこたぁいいんですよっ! アレですよアレアレ!」

 

「んー、特例?」

 

「そうです、それです、特例です! じゃ。いってらっしゃい! 依頼内容はその用紙に書いてありますから、歩きながら読んでくださいね!」

 

「ゾンビ退治……」

 

「歩きながら読んでくださいねッ!!」

 

「うるさい」

 

「はい」

 

 

────────────────

 

 

「迷ったわ! 日も暮れちゃってるし、森の中だし……。あら、人が居るわ。ごきげん──よう……?」

 

「ぐぁぁ……」

 

「ゾンビだったわ。──燃えなさい、《ファイア・ランス》」

 

「あばぁー」

 

「《ファイア・ランス》、《ファイア・ランス》、《ファイア・ランス》──」

 

「──カタカタカタカタ」

 

「スケルトンに進化した!? ……いえ、この場合はスケルトンに変化が正しいわね。──砕けなさい、《アイス・ハンマー》」

 

「ガチャン!」

 

「ふう、終わったわね。……? ケホッ、燃やしすぎたのかしら。煙たいわ。……ケホッ、ケホッ──かはっ!?」

 

(ち、違う……っ! 夜の闇に紛れてガス生命体が……スケルトンから変異……あぁ……私の……なか……に──)

 

「────この肉体(カラダ)()()のモノだ。思った通りだ、どんなに強いヤツでも(なかみ)までは鍛えられねえよなぁ! ……へぇ、こいつも()()()()()()冒険者なのか。どれどれ、ステータスは、っと……おっほ! こいつはすげえ! 死なねえ肉体(カラダ)とか()()()()()()()のために用意されたようなものじゃねーか! しかも美少女とはな! ククッ、こんなにイイカラダは()()には勿体ねえ……! この()()が有効活用してやるよ! あ・り・が・と・よ、()()()! ヒャハハハハッ!」

 

【基本情報】

名前:セーラ・ストロンゲスト(████)

称号:魔女の娘、新米魔女、美少女、《セーラ》の名を継ぐ者 肉の器

分類(クラス)超能力者(サイキッカー) 死霊(ゴースト)

 

年齢(AGE):16(30

性別(SEX):♀(♂)

 

練度(LV):99(█████

経験(EXP)██████████

耐久(HP):C(一般男性と同等)

精神(MP)S(死後の狂気に耐えた男性冒険者)

腕力(STR):D(一般女性並み)

体力(VIT):D(一般女性並み)

器用(DEX):A(薬師級)

敏捷(AGI):E(貴族令嬢並み)

魔力(MAG):S(伝説的)

知力(INT)C(一般的な冒険者程度)

地頭(WIT)S(狡猾)

意志(WIL)S(生への執着)

胆力(MEN)S(死より怖いものを知らない)

容姿(CHA):S(死者が奪うほどの美少女)

運 (LUC)F(人生終了お憑かれさまでした)

 

【特殊能力/状態異常ほか】

 ・必要経験値減少(遺伝)

 ・術媒体不要、属性系呪文使用可能、僧侶系呪文使用可能、未分類呪文使用可能(サイキッカー特性)

 ・言霊による薬草や製薬、呪文などの知識の伝承。器用/知力に永久ボーナス(名前)

 ・知識伝承により知力/意志に永久ペナルティ(先入観)

 ・過度な僧侶系呪文により不老不死化。常時肉体再生、加齢ペナルティ無効(後遺症)

 ・尊き者に連なる血。容姿にボーナス(遺伝)

 ・{ǃ} 悪霊が体内に入り込んでいる。主人格強制変更、精神系パラメータ強制上書き、特殊称号追加、精神耐性付与、神聖属性弱点付与(憑依)

 ・{ǃ} 一定時間経過で魂が悪霊に取り込まれる。魂へ継続ダメージが発生する(憑依)

 ・{ǃ} 一定時間経過で悪霊が肉体に完全に定着する。定着後レベル上限解除、状態《憑依》が状態異常からパッシブスキルへと変化する(憑依)

 

 




以下、かなり雑な設定。

セーラ・ストロンゲスト:
 最強系主人公。女性。ファンタジー北島の系譜。元ネタと同じですぐにさよならバイバイした。
 名前は本短編集の「たったひとつの冴えた追放処分」に登場した人物と同じものだが、同一人物ではない。苗字の「ストロンゲスト」は最強の意味。

悪霊:
 人間→ゾンビ→スケルトン→ゴースト→ナ美肉(なろう世界で美少女の身体を受肉)と4段階変異した猛者。生に執着しすぎな男の魂。どちらかといえば、エロ同人ゲーに登場するような存在。
 セーラの肉体を乗っ取ったことで、彼女のステータス・ボードに変化が表れている。赤字は上書きされた項目。


ステータス・ボード(物品):
 ステータス・オープンの物品版。商業作品でたとえれば「ハンターライセンス」のようなもので、冒険者ギルドに加入するだけで手に入るが機会は一度きり。再発行されることはない。
 能力測定の手間が省ける点で冒険者ギルドでは重宝されているが、具体的な実績はまともに表示されることはないという大きな欠点がある。

錬金島アルカディア(地名):
 ステータス・ボードの生産地。元々は別作品(RLQ、寄生モンスター図鑑)用に用意した世界観設定の流用で、元ネタはパラオ国旗。海上に浮かぶ黄金の人工島。ほかより大分先に進んだ先進国。


 どんなに才能があったり鍛え上げられた肉体だろうと、それは器に過ぎません。憑依や転生だろうと、その器に入れられた魂は別の世界のもの(後付け・規格外)である以上はさらに横取りされても不思議ではないでしょう。肉体にロックが掛かって外部干渉できなくなる、などの制約でもなければ。
 上記の前提条件に対抗できるほかの要素としては、完全な現地産の主人公を挙げられますが設定的には解決できたとしても、メタ的な意味ではあまり変わりません。
 この話の根本は、過程が変わっても結果は変わらず、です。奇をてらえとまでは言いませんですが、設定が変わっても展開はいつも同じの例のアレ。同じ題材を使ってどこで差を付けられるのか予想する楽しみは作れますが……。
 この話の場合はもっとゲスな方向に持っていけますが、たぶんやりません。たぶん。


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未帰還者

SO3+SAO+なろう系を足して割った結果。

 キーワード:フルダイブ VR ゲーム 処理オチ


「なんだってんだ、あのバケモノは……!」

 

「あれが天使……? まるで悪魔じゃないか!!」

 

「ならこれは(きた)るべき終末の日、ってか? ……ふざけんじゃねえっ!!」

 

「こんな時に勇者様が居てくれたら!」

 

「フッ……呼んだか?」

 

「おおっ! 勇者殿!」

 

「勇者様だ……! 勇者様が来てくださったぞー! 聖女様もご一緒だ!」

 

「Lv9999・SSSランク冒険者の僕が来たからには、あんなザコ一瞬さ。……いくぞ──」

 

「────」

 

「────」

 

「……? なんだ……? 勇者様とバケモノの動きが止まった?」

 

「勇者様?」

 

「さっきまであんなに暴れまわっていたのに、なぜ?」

 

「まるでそこだけ時間が止まったみたいだ」

 

「まさか勇者様はその身を犠牲にして、我らを救ってくださったのか?」

 

「なんと!」

 

「うむ! この地を聖地とし、この聖戦を保護するべきだ!」

 

「そうだな……。なんかの拍子にまた動き出したら困るしな……」

 

「おい」

 

「いやぁっ!! 勇者様、勇者様ぁっ!」

 

「あっ! 聖女様! 危険です、おやめください!」

 

「────」

 

「おいおい、聖女様まで止まったぞ……」

 

「あぁ……そんな……」

 

「やはり聖地とし、保護するべきでは?」

 

 

────────────────

 

 

『──次のニュースです。██県██市在住の会社員、████さんが自宅から植物化した状態で発見されました。警察の調べによりますと、植物化の原因は違法VRプログラムだとされています』

 

「またこのニュースかよ。今月で何件目だ?」

 

「知らんが、違法DLしたゲームを遊んだだけで死ぬとか最悪の死に方だよなぁ……」

 

「VRゲー怖すぎ」

 

「正確にはフルダイブ・バーチャル・リアリティな。ほら一昔前に規制されただろ。管理者が神様のフリをしてユーザーを異世界に転生させるっていう寸劇付きのアレ」

 

「あー、アレか。前なんか精神をネットに隔離されるとか恐ろしい事件もなかった?」

 

「それは接続切ったらウイルス感染している機械が精神を焼き尽くすヤツな。隔離というか強制接続させて、止めると殺してくる厄介なヤツ。まあアレは新技術を発表した会社が仕込んだ壮大なテロだったから後手後手だったけど、対策され尽くした今は秒で終わるぞ」

 

「じゃあ、今回もウイルスのせい?」

 

「ウイルスなら秒で終わると言っただろ。ならウイルスじゃなければいいだけの話だ。……()()()()()()()を取り扱い過ぎると処理落ちするんだわ。んで処理に利用しているのはユーザーの脳。あとはわかるな?」

 

「あっ……──ウイルス無しで同じ挙動を再現したってワケか!」

 

「なるほど。いやー、バカだねぇ」

 

「まったくだ。言っちまえば現実世界がフルダイブVRそのものなんだよ。俺たちが普段感じているものなんざ、脳が処理した結果を感じているに過ぎないんだからな。……今日は外に出っか」

 

 




タイトルは.hackより。初代の特典映像(vol.1)を視ると分かるのですが、.hackはVRゴーグルだけ(ただのヘッドマウントディスプレイ、普通のゲームコントローラで操作する非ダイブ型)なのに意識をがっつり刈り取ってくるガチの超常現象と化しています。続編では原因不明の不随まで起きていたりします(こちらにもプレイ環境の描写がある)。前書きに入れなかった理由はそのあたりです。SO3もSAOもまだ説明できなくもない物理現象。

このお話のキモは、限界を超えたとき脳は耐え切れるのか。

面白いことにウマ娘でもフルダイブ可能なVRゴーグルが出てきます(育成イベント:アグネスタキオン登場)。そこで理論上の最大速度時速70kmで走れる肉体を一般人が操作した結果、たった数分~十数分(推定)走っただけでも脳は負荷を受け止めきれず頭痛とめまいを引き起こし、立っているのがやっとの状態。めまいは翌日も続き自室から出られないほど。対して、元々その肉体を持っているウマ娘側はケロっとしています。

ここからは解釈違いが出てきます。前提条件として、ウマ娘もSAOもスタンドアローン(よそから影響を受けない独立した機器)ではなく他者を交えた状況下にあります。

 1.なろう系の主役たちは超耐久の超人またはそんな種族
 2.演算方法が違う(負荷の大きさ、現実の肉体も動かせるか)

異世界に召喚された人間が特異な力を得る(存在そのものが異常である)のは昔から続く伝統ですが、フルダイブVR技術が登場する舞台はあくまで現代~近未来の世界。仮に脳が耐え切れたとしても、今度は筋力維持の問題にすり替わっていきます。1日に何時間も体を動かさないでいると想像以上に筋力は減退していきます(寝たきりの場合は半年ほどで、健康的な人間でも運動量を減らすと1年ほどでその分の筋力や体力を失う)。空想と現実の両方が混ざり合った論になってしまいましたが、実際に後者のデータを持っていると、やはり何らかの代償は避けられないのではと思ってしまいます。

また、フリゲの帽子世界では別の脳へと意識を移し変えたり(入れ替えたり)、負荷となるものを取り除くことで意識の消失を回避しています。仮に手足を使わなかったとしても脳への影響は軽視できない……という見解でしょうか。現実でも脳は最も重要な器官であり、影響は字面以上に凄まじく筆舌に尽くしがたい。軽く出血しただけで平衡感覚を失ってしまい、簡単には取り返しは付きません。中には半分失っても平然としている方もいらっしゃいますが、支払った代償は長い年月だったり、常に高揚(脳の活性化を維持)していないといけないと様々です。

フルダイブVRという設定・舞台装置を限りなく現実に近づけた場合、末路は脳破壊か筋力減退か。避けられない事態ですが、一番はこういった物の考え方を遠ざけ避けさせることが重要なのかもしれません。


上記の考察とはあまり関係のない余談となりますが、SO3の主人公たちの正体はNPC、データ生命体(精神体)です。重すぎるデータ同士を集めてフリーズさせる場面も本当にあったりしますが、影響が起きるのは重いデータのみとわりとご都合展開だったりします(個別に小プログラムを動かしていて連結・連動させて~、バックアップが~、参照先・参照元が~、とか直接ではなく迂回しているならまだ説明はつく)。拙作でもNPCは無事だったのはその辺りを参考にしました。

SO3では演算により実体を得ているので装置が無事なら、本体への影響はほぼないものと思われます。実体獲得後に味方の上位存在が主人公たちのパラメータを弄って回復してくれる描写を見るに、本体はゲーム内に残ったままだと察することができます(本体データを持ち出していたとしても外部から弄れるガバセキュ、つまりいくらでも修復≒無理ができる)。実体化できるなら物量で侵略すればいい話ですからね。しかしされていない。

これも見方を変えればフルダイブVRです。逆フルダイブというべきか。根幹の脳となるものも人間(個人)の小さな生体脳+αではなく、不特定多数と共有している巨大サーバー(次元・時間規模)。文字通り規模が違いすぎます。ここまでいくと不良セクタによる部分破壊とかしょうもない損害しか考え付きませんが、逆を言うと肉体的な問題はすべて解決できてしまいます。

最強・万能・全能を突き詰めると、それは肉体を捨てることになるのか。そうなると今度は主人公≒ウイルス扱いされかねませんが……、.hackではウイルス・バグを利用することを否定していないどころか全面に押し出してきている。ここは個人(作者)と企業(制作者)の力量の差でしょう。生身の肉体を維持しつつデータ世界と折り合いをつけているところは見事としかいえません。主人公のよく分かんない謎の力ではなく、借り物でもうまく利用してキャパ超え案件の事態をなんとか収拾する知恵や機転を見せてくれます。前述の通り、SO3の設定も個人単位ではとても思いつけない壮大なものです。こちらは存在そのものがウイルスバグ(創造主にとっての害悪)です。

なろう系に存在昇華を加えたらとんでもないことになりそうですが、そんなお話を書く予定はないということで後書きを締めくくりたいと思います。


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異なる世界 -帰還の代償-

残当。

 キーワード:異世界 元の世界 帰還 ハーレム


「異界の門よ、開け! 時空の扉! 《ゲート》!」

 

「これで日本に戻れるんだ……」

 

「ここをくぐればユートの世界にいけるんだ……」

 

「おい、シス。本当にユートについていくのか?」

 

「うん。お兄ちゃんは行かないの?」

 

「ああ……俺まで行っちまったら両親の墓を世話するやつがいなくなっちまうしな」

 

「そんなの、またゲートを使えばいいじゃない」

 

「……使えると思うのか?」

 

「えっ?」

 

「ユートのいた世界は魔法がないって言うじゃねぇか。ならマナもないんじゃないか? ゲートを開ける賢者までついて行くんだろ。もしも俺の仮説があたってたら、もう二度と戻ってこれねぇだろ」

 

「そんなわけないと思うけど。マナまでないってことはないでしょ」

 

「ふふっ、ブランは心配性ですね。私達は英雄ですよ。何も心配することありませんよ」

 

「だったらいいんだけどな……」

 

「安心しろよ、お前の妹もちゃんと幸せにするから」

 

「……シス。これが今生の別れになるかもしれないから、一応また確認するぞ。後悔しないんだな?」

 

「だから大丈夫だって。そんなに心配なら、お兄ちゃんも来ればいいのに」

 

「……」

 

「じゃ、オレから先にいくよ。またな、ブラン」

 

「……じゃあな」

 

「行ってくるね、お兄ちゃん」

 

「ああ」

 

「ブランさんも来たくなったらいつでも来ていいんですよ。……それでは」

 

「……」

 

「術者の私が通ったらゲートは閉じます。また半月後に顔を出しますね」

 

「賢者さん。本当のことを教えてくれ。俺の仮説はあたってるのか?」

 

「正直なところ、わかりません。ですが、マナがないということはありえないでしょう」

 

「そうか……妹をよろしく頼む」

 

「あら、頼む相手が違っていますよ」

 

「ユートは先に行っちまったからな」

 

「そうですね。私も置いて行かれないうちに行くとしましょう」

 

「……ゲートが閉じた。4人とも行っちまったか」

 

 

────────────────

 

 

「ここがユートのこきょ……っ!?」

 

「か、身体が動かない!? な、なんで……」

 

「ぐぅ……なんでこんなに身体が重いんだ……」

 

 

────────────────

 

 

「──本当なんです! 信じてください!」

 

「はいはい。では魔法とやらを使ってみてください」

 

「そ、それは……」

 

「マナがないからでしたっけ? 魔法なんてものもありませんよ」

 

「で、でも──」

 

「──魔法国なんて国はありませんよ。あなたが生まれた本当の国の名前を教えてください」

 

「ですから──」

 

「……どうして。どうしてこうなった……。マナがなくて魔法は使えない。みんなには国籍がない。全員、筋肉が衰えているらしくて身体を動かせるようになるまで後何ヶ月もかかる。言葉が通じるだけが救いだなんて。オレは高校中退になってて最終学歴は中卒……ははっ、こんなんなら帰ってこなければよかった……」

 

 




Q.どうしてこうなった?

A.元の世界と異世界では重力負荷が違っていた。なので筋力不足で動けない。普通の学生が異世界で無双できたのは、ただの筋力差に過ぎなかった。

マナも本当に無くて、そんな世界へ渡れたのは異世界側から無理やり穴を作っていたから。魔法を行使するために必要なマナを確保できないので、異世界に戻るにはあちら側から穴を作ってもらうよりほかないが、賢者を名乗れるほどの魔法使いでないと不可能なため、ほぼ詰み状態。


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奴隷ハーレムを作ったらご主人様ハーレムになった件

みなさんご存知、お馴染みの奴隷法を深読みした結果。

 キーワード:奴隷 囚人 罰金 脱税 法律 師弟


「はぁ……そうでしたか。連絡がつかないと思っていたら奴隷の身に」

 

「はい。でも今のご主人様に助けていただいたんです。ご主人様はとてもお優しい人なんです。奴隷になった私にも普通にしてくださいますし」

 

「……あなた、騙されてますよ」

 

「え?」

 

「助けてもらったのはまあいいでしょう。ではその者はなぜ、あなたを解放していないのですか?」

 

「そ、それは私が嫌がったからですっ」

 

「それはそうでしょう。ある意味では身分が保証されますからね。先立つ物も無しにいきなり解放されてはすぐに奴隷に逆戻りですし、その時点では正しい行動と物の見方でしょう。──では現在(いま)は?」

 

「えっと……」

 

「ああ勘違いしないように言っておくとですね……私はあなたを困らせて遊びたいわけではありません。元弟子が悪い男に騙されている様をただただ情けなく思っているだけです」

 

「ご主人様は悪い人じゃないです!」

 

「なぜそう言い切れるのですか」

 

「先生がご主人様の優しさを知らないからです!」

 

「ええ知りませんし、知りたくもないですよ。洗脳まがいのようなことを働く男の事なんて」

 

「洗脳なんてっ……!」

 

「されていないとでも? 長年、師事してきた師匠よりも、最近知り合ったばかりの男の方が信じられると? ──わたしの弟子だったならば常に冷静に大局を視なさい」

 

「──っ!! ……先生、ごめんなさい」

 

「少しは落ち着きましたか? では、わたしが疑問に思ったことをひとつずつ解いていきましょうか」

 

「はい」

 

「まずは奴隷がどういう存在であるかからおさらいします。万一(まんいち)、認識に齟齬(そご)があっては困りますからね。奴隷とは労働を強制されても拒否することのできない身分のことです」

 

「人権を奪われた人のことじゃないんです?」

 

「それは世間一般に蔓延した、誤った想像(イメージ)です。……やはり齟齬(そご)がありましたか。奴隷だからといって何をしても許されるわけではありませんよ」

 

「ううっ……恥ずかしいです」

 

「その様子ですと、相当に不当な扱いを受けていたことは聞かずとも分かります。なるほど。だから妄信したというわけですか。納得しました。……しかし、そうであったならば、しかるべき場所へ通報していれば、とっくの昔に奴隷の身から解放されて謝礼まで受けられたというのに。無知とは罪ですね」

 

「どういうことです?」

 

「そもそもの話、事の発端はあなたが行き倒れたことから始まります。奴隷制度とは社会福祉および治安維持、そして経済活性のための制度なんですよ。奴隷売買はそれ自体が少なくない金額を動かします。また金も食料も持たない者を放置したままでは治安は悪化してしまいます。生活苦は誇り高き騎士でさえも山賊へと変えてしまう。それならば先手を打って殺してしまえばいいが……あなたは生かされた。これがどういう意味か分かりますか?」

 

「はい! わかりません!」

 

「素直でよろしい。……人は生きているだけで資源を食い尽くします。パンが1つあったとしましょう。あなたが死ねば、あなたが食べるはずだったパンは他の誰かへ回せます。さらに言えば、その地へ流れ着いた正体不明の不穏分子は見つけ次第、殺しておくことが最も確実な治安の維持の仕方です。──しかし、生かされた」

 

「ひぃ……」

 

「生かされる理由は明白です。市場の拡大。パンより人の数が多いのならば、それ以上にパンの数を多くすればいいのですよ。そうして繁栄していく。生産性と治安の管理の両面から、奴隷という制度が認められているのです」

 

「つまり、えっと、その?」

 

「まったく、この弟子はいつの間にこんなポンコツに……。いいですか、奴隷と主人の関係性は借金です。主人は()()()()()()負債を支払わせるために奴隷を働かすのです。つまり、働かせずに手元に残すことは人ではなく物としてみているということ」

 

「じゃ、じゃあ……ご主人様は……?」

 

「本質的には以前の主人と変わらない。暴力や監禁が()()()()にすり替わっただけのことです。対等とは程遠い。おそらくは身体目当てなんでしょう。あなたは見目はいいですからね。奴隷とその主人という立場を利用して、あなたを逃がさないように縛り付けているのでしょう……見せ掛けの恩を売ってまでして。……しかしそれは悪手でしたね。給与を受け取った記憶はありますか?」

 

「……ないです」

 

「そうやって無知な者を食い物に変えているのが今の奴隷制度なんですよ。奴隷が身を守るための条項も知らなければ無いものと同じです。──さて、役場へ行きますよ。これからはあなたがそれの()()となるのです。彼の()()()()はいくらほどに計上されるのでしょうね?」

 

 




Q.つまりどういう事だってばよ?

A.奴隷法≒収容所外の出張刑務作業。主人の役割は身元引受人+雇用主+刑務官。
 ヒロイン(仮)は「財産となるものを持っていない罪」で捕まった。

奴隷の取引価格の内訳は、罰金+労働力として使用した場合に予想される利益の期待値+それまでかかった衣食住などの管理維持費等+刑期満了までに必要とされる諸経費の予想額+奴隷商への監督報酬。

高額だろうと奴隷が買われる理由としては、無理を言える労働力を長期間確保できるところが大きい。普通の雇用関係ではないのでストライキや離職されるリスクが無い。ホワイトのままでブラック企業ができる。

奴隷が自分を買い戻すために必要な金額は、自身が取引された際の価格と同額。ただし罪人なので労働単価(人件費)は非常に安く、そこへ衣食住などの日々の費用が差し引かれるため、手取り金はごくわずか。なので自力ではすぐには買い戻せない。

ヒーロー(未登場)を捕まえる終わり方となったのは、単純に脱税やら労働基準法違反やら略取誘拐罪やら強盗などの複合的な罪過から。また、奴隷に自分を買い戻す機会(刑期満了の機会)を与えていないため。

脱税:奴隷を働かせることで得られる利益を申告していない。
労働基準法違反:労働者に対して報酬を支払っていない。
略取誘拐罪:騙して自らの支配下に置いている。
強盗:他人の財産(奴隷、労働力)を不当に奪い取っている。


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奴隷制社会のディストピア

ネット上で昔見かけた歴史考察っぽい何かを下地としています。
執筆にあたってソースを掘ったのですが何も出ませんでしたぁ……ッ!!

 キーワード:奴隷 ディストピア 管理社会


「奴隷を買いたい。金ならある」

 

「これはこれは……いらっしゃいませ。奴隷の購入は初めてですかな? それではご購入の前に、奴隷法について説明をさせていただきますが、お時間はよろしいでしょうか?」

 

「そういうのはいいから早く奴隷を買いたいんだが?」

 

「いえいえ。そういうわけにも参りません。初めて奴隷を購入されるお客様への説明は法律で義務と定められておりますので。お聞きになられないのでしたら、お売りすることはできません」

 

「ふーん……。聞けばいいんだな?」

 

「ええ。それでは説明させていただきますが……その前に確認したいのですが、奴隷購入許可証はお持ちですかな?」

 

「……許可証?」

 

「はい。奴隷の購入ならびに所有は国による認可が必要となっております。そのご様子ですとお持ちになっていないようですね」

 

「聞いてないぞ、そんなのっ!!」

 

「それは……困りましたね。これでは貴方様にお売りすることはできませんが、このままお話だけでも聞いていかれますか? 私がさせていただく話は許可証についてのおさらいとなるので、取得される際の参考になると思いますよ」

 

「ああ……許可制ってことは何かあるのか?」

 

「はい、もちろんでございます。奴隷を所有するには、その国の住居と一定の収入が必要となります」

 

「住居? 旅をするつもりなら要らないだろ」

 

「いえいえ、()()()()()()()奴隷を国外へ連れ出すことは禁止されています。ですので旅をされるなら奴隷は購入した国に置いていくことになりますね。その場合は代理の者を立てる必要がございます。奴隷を残して出国することは法に反しますので」

 

「奴隷は好きに扱えるから奴隷じゃないのか?」

 

「よく思い違いをされるお客様が多いのですが、奴隷の購入とはその者を保護する権利の購入となっております。衣食住はもちろんのこと、仕事や()()()()()()、その人生を導いてやらなければならないのです。……そうですな、里子や住み込みの使用人を取るようなものですな。()()()()の一環ではありますが実態としてはそんなところですな」

 

「……は?」

 

「あぁ……これは言うまでもないことなのですが、見目のいい奴隷を(めと)りたくて購入をご希望される方もいらっしゃいますが、それは違反となります。奴隷には奴隷の、お客様にはお客様の身分に沿()った相手でなければなりません。身分差を理由に横暴が働かれた事例がありましてな。それ以来、奴隷に対して性的()()を働いた者は例外なく()()()()へと繋がれ、石を投げられてしまいます」

 

「じゃ、じゃあ、なんで奴隷なんか売ってるんだ……?」

 

「慈善事業の一環だと説明させていただいたばかりではありませんか……。貧しい者を放置してはスラム街を形成されてしまい治安の悪化に繋がってしまいますし、一度奴隷に落ちた者は社会的な信用をいちじるしく損なっています。……元々は、とある貴族様がお初めになられたことでして。ノブレスオブリージュといって、余裕のない者を余裕のある者が()てやるのが現在の奴隷法なのですよ。購入する形となっているのは、お客様の財力を対外的に示すためでもありますな。許可証を取得された時とご購入される時では状況が異なっている場合もございますので」

 

「それだったら、奴隷を好きになったら奴隷になればいいのか?」

 

「ええ、理屈ではそうなりますね。……ですが()()としてあらゆる自由を失いますのでオススメはできません」

 

「奴隷が保護される立場なら、自由も認められるべきだろ」

 

「いいえ、それまで自由に()()()()()()()奴隷の身分なのですよ。自ら奴隷になりますと、あらゆる責任を放棄したと見做(みな)されますので、当然ですが自由という権利も手放すことになります。責任が伴うからこそ行動を制限されることなく自由にふるまえるのですから。責任能力が認められないから奴隷なのですよ」

 

「……」

 

「簡単ですが、許可証のご取得と奴隷をご購入される際の説明は以上となります。ご購入された後の注意点に関しましては実際にご購入される際にさせていただきます。本日はご来店、ありがとうございました」

 

 




Q.奴隷の待遇が良すぎる。
A.愛玩動物やゲームの自軍キャラクターと同等の存在です。
 ペットは大切にしないと非難されますし、自キャラは大切に育ててしまうもの。


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残当裁判

冒険者って遊撃士と大差ないのでは?

 キーワード:冒険者 ギルド 荷物持ち 非戦闘クラス 裁判


「これより冒険者ギルド内裁判を始めます。検察側、弁護側、準備はよろしいでしょうか?」

 

「検察側、準備できている」

 

「弁護側、異存ないぜ」

 

「本日は他ギルド所属を含めた民間人等の傍聴を許可しています。では始めます。……被告人、名前と身分、役職を話してください」

 

「ナロイ。14歳、冒険者です」

 

「被告人、役職は嘘偽りなく話してもらいたい。……被告人の()()は≪荷物持ち≫だ」

 

「……っ! あなたまで僕をバカにするんですか……!」

 

「裁判中に名誉毀損を行なうとは……被告人、虚偽風説の流布はやめていただこうか」

 

「僕は荷物持ちなんかじゃない! 僕は冒険者だ!」

 

「被告人は極度の興奮状態にあるようだ。……裁判長、10分ほどの小休憩を提案する」

 

「提案を却下します」

 

「弁護側もべつに異議はねぇな。いま落ち着かせても、どうせまたすぐ興奮するだけだろ」

 

「続けましょうか。……被告は≪冒険者≫を(かた)りましたが訂正はありますか?」

 

「ありません。僕は冒険者です」

 

「冒険者だったら裁判なんて起きてねーだろ」

 

「厚顔無恥ってやつ? やぁねぇ……」

 

「ムチはムチでも知能が無いの無知だろ」

 

「えっ、何がいけないの?」

 

「冒険者様……」

 

「──静粛に! 次に許可なく発言した傍聴人は法廷から強制退出させられます」

 

「……」

 

「検察側。罪状(こと)のあらましを述べてください」

 

「了解した。……被告人は7日前にとある冒険者と共にSランクパーティ≪疾風の牙≫へ合流したが、その3日後にメンバーと口論となり()()されている。翌日にはサイーショの村へ移動、偶然その場に居合わせた隣国の王女とともに指名手配されていたネームドモンスターを討伐、同日にギルドへ討伐を報告している」

 

「つまり、4日前に解雇されて3日前に無許可討伐したってことだな。ちなみに王女のほうは不法入国で騎士団に捕縛されてんな」

 

()()()()()()()()()()()()()身分詐称だけとなる。弁護人は余計な事は言うな」

 

「へいへい」

 

「討伐に許可が要るのは知りませんでした……でも! 村の人が困ってたんです!」

 

「お前さんね、だからって勝手に事後報告されても困るのよ。ギルドにもメンツがあるんだよ」

 

「メンツがなんですか! 僕は何も悪くない! 僕は正しい事をしたんだ!」

 

「……裁判長。被告の問題行動について詳細を述べたい」

 

「弁護側も同感だ。傍聴席にも分かるように話したほうがいいんじゃないか?」

 

「提案を認めます。検察側は被告人および傍聴席へ解説をしてください」

 

「ではまずは、被告人の身分詐称について話そう。冒険者とは当ギルドによって身元を保証された国際組織の構成員のことを指し、()()()()()()()()支援を受け取ることが可能だ」

 

「弁護側は補足するぜ。ここで重要なのは冒険者はギルドの庇護下にあるってことだな。ギルド全体の信用のおかげで()()()()()冒険者だったら誰でも武装が認められているし、出入国の手続きも簡略化される。……これ普通じゃありえねぇんだよな」

 

「その特例法を悪用したゴロツキの移動等が近年問題視され、現在は冒険者であることを証明する身分証(カード)を発行している。構成員はこの身分証をあらゆる場面において提示する必要がある」

 

「ギルドで依頼を受ける時、依頼人に依頼を受けたことを伝える時、宿を取る時、店屋で武器を買う時、入出国の時とか何かするとき全部だな。……これ忘れると最悪、その場で騎士様に切り捨てられる」

 

「被告人、身分証を提示してもらおうか」

 

「……も、持ってないです」

 

「冒険者ではないと認めるのだな?」

 

「…………くっ! ……はい」

 

「あー、一応何がいけないのか言っておくと、これはギルド全体の信用に関わるからだ。たとえば盗賊団が騎士様の格好をしてたら正体なんか誰もわからねぇし、なんかあったら騎士団の評判が下がるだろ? それが隣国の騎士団の装備だったら開戦の理由に出来ちまう。そこに善意や悪意なんか関係ない。見たものが真実になっちまうんだからよ。ギルドとしては存続を認めてもらう為に動かなくちゃならんのよ。信用が無くなったら身分証もただの紙切れだ」

 

「つまり自浄作用のない組織など、不穏分子(はんざい)の温床になりかねないということだ。このように身分詐称とは小さくない罪状となる。ギルド内とは別に、国の法によっても裁かれることにもなる。一度にふたつの国を敵に回しているのと何ら変わりない」

 

「それから≪荷物持ち≫はれっきとした職業(クラス)だ。身分こそ保証する組織はないが、そういう仕事として認められてる。ただ注意したいのは……」

 

「≪荷物持ち≫の身分を保()するのはその雇用主ということだ。非雇用の荷物持ちの身分は村人などの国民と変わらない。……被告には窃盗の容疑も掛かっているが、本法廷とは切り離して進行する」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 僕は盗みなんてしてません!」

 

「被告人、本件とは関係ないとはいえ虚偽の申告はやめてもらいたい。……被告の元雇用主およびその所属パーティから被害が報告されている」

 

「そ、そんな……。そんなことって……」

 

「持ち逃げってヤツだな。冒険者ギルドで裁かれることはないが代わりに国の法で裁かれるし、釈放されてもまた誰かに雇われることはまずないだろうな。また持ち逃げするんじゃないかって疑念が付きまとう。警戒が警戒を呼ぶんだ……これが信用問題ってヤツだ」

 

「冒険者と荷物持ちについての解説は以上となる。……弁護側、何か訂正すべき点はあるか?」

 

「特にないぜ。次に進めよう」

 

「……えっ?」

 

「次は無許可討伐などの問題行動についてだ。こちらについても信用に関わる問題となる。──ギルドのシステムについて話そう。依頼とは、依頼人がギルド窓口に依頼内容と達成報酬を持ち込むことで成立する書面契約のことを言う」

 

「傭兵も個人依頼を受けたりするが、一番の違いは前金を絶対に要求しないことだな。冒険者は依頼を達成した時に依頼人が提示した額を受け取るから報酬を持ち逃げされる心配がないし、逆に依頼を引き受けるときに手付金を支払うし、無断で依頼を投げ出したらランク剥奪されて今後の活動に関わるから有耶無耶(うやむや)にされることは絶対にない。……冒険者は信用が売りなんだわ。それに複数のパーティが同じ依頼を受けて揉める事態も回避できるしな」

 

「個人依頼は許可されていないが、緊急の場合は例外として事後報告が義務付けられている。……事後報告には依頼人の同行が必要となるが、そのような報告は当然ながら被告人からは無い。また、近隣の村人が被告人を冒険者と勘違いしたと証言している。証人には傍聴席に座ってもらっている」

 

「では証人は証言台の前へ。証言をお願いします」

 

「証人。名前と身分を」

 

「へ、へい……。オラはノッカ。サイーショ村、農家だべ」

 

「証人は勘違いにより被告人のことを冒険者だと呼び、感謝を伝えた」

 

「そうだべ。あんた冒険者様だべ思ったが違ったんだな」

 

「僕は……」

 

「報酬は渡していない」

 

「そうさ、村長さギルド依頼したべ。報酬んがそっちさ払う思ったべさ」

 

「その後、ギルド窓口から報酬を不当に受け取ろうとしたところを被告人は拘束されている。……証人。冒険者と呼んだときに被告は否定していたか?」

 

「いんや。べっぴんさんと嬉しそうにしてたべ」

 

「……そりゃ弁護の余地もない。弁護側は尋問しないでおくぜ」

 

「だ、そうだ。裁判長」

 

「では判決を言い渡します。被告人は顔に焼印を入れた後、冒険者ギルドから永久追放とします」

 

「その後は我々王国の法が裁く。逃げられると思うなよ」

 

 




冒険者→武装している・武力を持っている≒信用が無ければゴロツキや準テロリストと大差ない→国際組織として各国に認められていないと個人の何でも屋の域を出ないし、SランクSUGEEEEEできない→結果本文

 そういった経緯から、このお話に出てくる冒険者ギルドは厳格な組織へと相成りました。着想はたまたま1ページ(1コマ)だけ読んだなろう系漫画より。本文は逆転(しない)裁判を意識しています。冒険者≒ほぼ遊撃士については本文執筆後、前書きの謳い文句を決める時に気が付きましたが、よくある設定に現実味や説得力を持たせるとああなるんだな、となんとも言えない気分になりました。
 現実世界では武装した自衛隊や警察官がそこら中をねり歩いていないあたり、心理的威圧感なども考慮されていそうです。たとえ正当性が保証されていたとしても。居るだけで治安が良くなったとしても。長物もそのままでは持ち歩けないですし。そう考えると異世界ファンタジーは世紀末ですね。何によってどこまでが信用され、許容されるのか。ちょっとした哲学のようなものかもしれません。


作中のナロイの罪:
 ・身分詐称、詐欺(自身を冒険者だと偽り、報酬を受け取ろうとした)
 ・窃盗(戦利品を荷下ろしせずに持ち逃げ)
 ・密漁(ネームドモンスターの無許可討伐)
 ・スパイ容疑(隣国の王女のせい)
 ・名誉毀損、虚偽風説の流布(大げさだが検察側の印象を悪くしようとした)
 ・銃刀法違反または軽犯罪法違反(凶器となり得る物の所持)


疾風の牙(団体/PT名):
 本短編集の「極振りの代償」に登場した冒険者PT。単に使いやすい名前を出しただけで、本作とは深い関わり等はない。


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輪廻応報の因果転生

こうならないということは、実は追放系の元パーティは往生際が良いのでは?
 ・後書きにかなり雑な人物設定を追加(2024/1/18)。

 キーワード:憑依 TS 親子 追放 ハーレム 後日談 本編終了後 絶望


 

「──娘の肉体(からだ)を返せっ!!」

 

「返すもなにも、この肉体(からだ)()()()オレ様のもんだぜ。なぁ、パパさんよぉ……オレもまさかこうなるとは思ってもみなかったんだ。当初の予定では母親のほうを完全に乗っ取ってから、お前も殺してやるつもりだったんだがなぁ。しかもまた女の肉体(からだ)たぁな、まったくとことんツイてないぜ」

 

「なんでいま、正体を表した? 僕だけに教えた?」

 

「そりゃお前……そのほうが面白いからに決まってんだろ。パーティからお前を追放してから何でか知らんが不幸続きで、最後にはみんな仲良くおっ()んじまった。元メンバーのお前も死ななきゃ不公平だよなぁ?」

 

「勝手に追放しておいて今更……!」

 

「まあ聞けよ。死ねとは言ってもオレも少し考えを直してな。……なあ、お前がいきなり強くなったのも訳分かんねぇが、それで女共が寄ってくるのも訳が分かんねえとは思わなかったか? 思うワケねぇよなぁ。──それはな、オレ達が女共に憑依したからさ!」

 

「なっ!?」

 

「すぐに乗っ取ることはできなかったが、意思を捻じ曲げて誘導するくらいはできた。テメェの最初の女(おきにいり)に乗り移ったのもご存知()()()()()だ。……あの女、適当に甘い汁を吸ったら頃合を見て別の男に乗り換えるつもりだったみたいだぜ。薄情だよなぁ」

 

「デタラメを言うな! 彼女は心から僕を愛してくれている!」

 

「心からねぇ……、テメェにあの女の何が分かる? 霊となって身も心も一()同体となっていたオレにはあの女の心が手に取るように分かった。心の声は筒抜けだ。オレと違って心を覗けるワケでもねぇのにテメェにあの女の何が分かる? オレがあの女と結婚させてやったんだよ、身体の中から操ってなぁ! ……へへへっ、おい論破してみろよ。パパさんよぉ!」

 

「……何が目的だ? お前が()()()なら、僕を殺すだけで満足するわけないだろう!」

 

「察しが良くて助かるねぇ。最近になってから正体を打ち明けた理由も()()だ。……律儀というかヘタレというか、他の女とも関係を持ったくせにキチンと家庭に入れてやったのは()()()()()だけだよな。美女もずっと若いままじゃねえ……現実を見て別の男とくっ付けばいいのに、まだ諦めていない理由は何だと思う?」

 

「おい、まさか、そんな……ウソだ。そんなことあるわけ……」

 

「そうよ! そのまさかよ! 仲間だったヤツの数は覚えているか? ──テメェのハーレムの女とおんなじだぁっ!」

 

「──ッ!!」

 

「あとはもう分かるよなぁ……オレみてぇに女にガキを産ませて魂を外へ追いやるか、放置して完全に乗っ取らせるかの二択だ。ガキか女か好きなほうを選びな。どっちに転ぼうがオレは面白いからよ」

 

「この、外道め……ッ!!」

 

「あんだ、やっぱグズの根はグズのまんまか? じゃあ、元リーダーとしてグズ野郎の背中でも押してやるとするかね」

 

「……?」

 

「ねぇパパ……あの子も抱いて?」

 

 




以下、かなり雑な設定。

父親(パパ):
 成り上がり済みの、よくある追放型なろう系主人公。(存在しない)本編完結済みで、子供が生まれている程度には追放されてから時間が経過している。元PTメンバーたちの除霊以外はすべて大成功を収めており、結婚はメインヒロイン1人だけとして、残ったハーレムメンバーたちは解散させた。
 女たちか子供か、どちらか選ばなくてはならない最悪な後日譚が展開されるが、どうしようとロクな結末は待っていない。

娘:
 実娘。幼女。母親の身体に宿っていた元PTリーダーの男の魂が胎児へと移動、受肉して転生した姿。人格・記憶の欠損などはなく完全な状態で再誕した。この結果は狙ったものではなく、本当は母親の肉体を完全に乗っ取って蘇るつもりだった。父親がどうあがこうが、彼の殺害は既定路線。仲間たちが復活するまでの余興にすぎない。
 彼女が語ったことはすべて真実であり、娘の魂は初めから存在しない。

母親(メインヒロイン):
 作中未登場。ヒロインレースを見事勝利して娘を授かった、元ハーレムメンバーのひとり。当初は結婚する気も子供を産む気もまったくなかったが、憑依した男の魂によって意思を捻じ曲げられてしまった。憑依されていたことには気付いてもいないし、知らされてもいない。すべて自分の意思による決定だと思い込んでいる。
 元々の性格は、力や金よりも顔派だった(旦那の顔は平均以下)。

そのほかの元ハーレムメンバー(サブヒロイン)たち:
 作中未登場。ハーレムと死亡した元PTメンバーの人数は同じであり、全員憑依されていて、かつてのメインヒロインと同じ洗脳状態下にある。放っておけば、そのまま肉体を乗っ取られてしまう。子供を産ませれば助かるが、代わりに子供の人生が犠牲となる。


ボツ案:
 ・元PTメンバー全員分の魂がヒロイン1人に宿っていたルート。


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ありふれた展開で世界最低の男:【閲覧注意】

タイトルオチ。インスパイアしたわけではありませんが、他に思い付きませんでした。
 ・状況が分かりやすくなるように文章を一部変更(2023/4/27)。

 キーワード:R-15 追放 ハーレム 幼馴染 胸糞 NTR(BSS) 復讐 TS 憑依(入替)


「……ふんふん。つまり、所属していたパーティの人達に裏切られて知らないうちに不貞を(たばか)られたうえ、告白するつもりだった友達以上・恋人未満の幼馴染に捨てられた、と」

 

「……はい」

 

「しかも、自分(キミ)を捨てたその幼馴染(おとこ)は、元居たパーティのリーダーみたいにハーレムを作ったってんだから、キミもなかなかに不幸な星回りだ。実にすばらしく男運がないな、キミは」

 

「……」

 

「そして、賞金首である≪人形使い≫の男のもとへ来たキミは何を望むのかな?」

 

「最初は、(けが)された肉体(ところ)をキレイな器官(もの)に入れ換えてもらうつもり、でした」

 

「うん」

 

「でも、身体をキレイにしたところで、心は(よご)れたままだと、あなたを前にして、気付いた、んです」

 

「うん」

 

「私は、もう、疲れ、ました」

 

「……うん。キミはよくがんばったと思うよ」

 

「あとの事は、よろしく、お願いします」

 

「うん。その事なんだけど──」

 

 

────────────────

 

 

「ここが人形使いの住処(すみか)……」

 

「ナロン、気をつけてください」

 

「ああ、分かってるさ」

 

「──ようこそ!」

 

「……っ!? そ、その声は……オサナ……なんで君が、ここに……?」

 

「初めましてと言うべきか、久しぶりと言うべきか。どっちなんだろうね? ……まあ前者にしておこう。この器にとっては久しぶりのご対面でも、中身(ボク)にとっては初めましてだからね」

 

「何を……言っているんだ……?」

 

「おやおや? まだ分からないのかい? ボクは人形使いだよ。器も中身も好きなように(いじく)れて当然じゃあないか。ここへ来たわりに情報収集がおろそかだねぇ。……ひぃふぅみぃ、4人か、いいねぇ、実に良いバランスだ」

 

「──ッ! 彼女たちに手を出すな!」

 

「ボクはパーティ人数のバランスの良さについて言ったんだけど、何か勘違いでもしたかな? でも女3人・男1人はアンバランスだと思うよ? 性別を逆にしたらちょうど良さそうとは思うけどねぇ」

 

「……その身体は、オレの幼馴染のものだ! 返してもらうぞ!」

 

「土にかい? それともキミにかい?」

 

「……」

 

「やり合うのは構わないけど、その前に話でもしようじゃあないか」

 

「話すことなど何もない」

 

「キミが気になっている、この器のことでもかい?」

 

「それは……」

 

「惑わされないで! これは敵の罠に違いありません!」

 

「アタシも同じ意見だよ。見え透いた時間稼ぎをして何を企んでいる!」

 

「バカかな。ここはボクの家だよ。罠を仕掛けるつもりなら入口に落下トラップでも仕掛けて即死させているよ。そんな安全策をとらずに直接出向いた意味(こと)も分からないのかな? どうやらキミらは頭が足りないようだ。良い頭と交換してあげようか?」

 

「なんだとっ!!」

 

「で、どうする? ナロン君とやら」

 

「……いいだろう、話をしよう」

 

「そうこなくちゃ。……キミさ、なんでハーレムなんか作ったの?」

 

「は……?」

 

「ふざけるのもいい加減にしろッ!!」

 

「そうだよ! さっきから好き勝手言ってくれちゃってさ! やっちゃおうよ! あんなニセモノなんか!」

 

「お、落ち着いてください! これは時間稼ぎではなく、こちらの冷静さを欠かせる策略です! いま解りました!」

 

「やれやれ、うるさい外野だ。……あのね、いまボクは彼と話をしているんだ。そうだろう? ナロン君」

 

「……ああ。済まないが、みんなは下がっていてくれ。──ただし」

 

「チッ! ……警戒は怠らないよ」

 

「まず()きたい。それは本当にオサナの肉体(からだ)なのか?」

 

「質問に質問で返すな、と言いたいところだけど答えてあげよう。……そうだよ。壊れていた部分はいくつか取り換えたけどね。正真正銘、彼女の肉体(にくたい)さ」

 

「そうか。彼女はお前に殺されたのか」

 

「……、……今度はボクの質問に答えてもらおうか。なんでハーレムなんか作ったんだい?」

 

「意識して作ったつもりはない」

 

「じゃあ、なんで男を入れてバランスを整えようとしなかったんだい?」

 

「オレはオレについてきてくれる人だけを信じるからだ」

 

「ふーん……なるほど、なるほど……。彼女から事情は聞いていたが、どうやらキミは彼女の身体だけが目当てだったようだね」

 

「お前みたいな賞金首と一緒にするな」

 

「ろうそくの火が消えた……? ナロン! 気をつけてください! 何かあるかもしれません!」

 

「黙れよ同類。……察しの良い後ろの娘たちはキミよりはまだマシか。いや被害者と加害者を同列に扱うのは良くないな、うん、良くない」

 

「話は終わりか?」

 

「ああ、終わったね。彼女は今死んだよ」

 

「……? 誰だ?」

 

「オサナちゃんのことだよ。今消えたロウソクの火が彼女の魂だ」

 

「ウソを言うな」

 

「信じたいものしか信じないくせによく言うよ。……ではネタばらしでもしようか。キミたちをここまで引き入れたのは、後ろの器どもが欲しかった……んだけど、もう要らないねぇ」

 

「ッ!」

 

「身構えなくても、もう興味もないよ。彼女も消えちゃったことだしね」

 

「お前は……オサナの何だ?」

 

「逆に()こう。キミはオサナの何だ?」

 

「質問に質問で返すな! 答えろ!」

 

「ホントよく言うよ、まったく。……そうだねぇ、さしずめボランティアかな。かわいそうな女の子のね」

 

「かわいそう……? 先に裏切ったのはあの娘のほうでしょう!」

 

「おや? キミは事情を聞いているのか」

 

「ナロンは好きだった幼馴染に裏切られたんです!」

 

「でもそれ、キミたちの感想でしょ?」

 

「はっ……!?」

 

「うーん、確固たる証拠でもあるの?」

 

「ナロンがウソを言うはずがありません!」

 

「そうだよ! 僕たちの前で泣いてたんだよ!」

 

「アタシも見たよ。ナロンは確かに傷付いていた」

 

「なんだろう、決め付けるのやめてもらっていいかな?」

 

「決め付け……? 取り消せよ、その言葉」

 

「イヤだね。ちゃんと彼女の(くち)から、裏切りました、って聞いたの?」

 

「……いや、それは」

 

「断言するよ。先に裏切ったのはキミだよ。ナロン、キミが先に裏切った」

 

「そこまで言うからには、確かな証拠はあるんですか?」

 

「あるよ。先にオサナちゃんから話を聞き、いまナロン君からも話を聞いた。当事者2人から話を()き出したボク自身が確固たる証拠さ。それを信じる・信じないのはキミたちの自由だけど、これは純然たる事実だよ」

 

「そこまで言うならアタシたちにも聞かせてもらおうじゃないか。その証拠ってもんをさ」

 

「じゃあ、結論から先に言おう。……彼女、無理やりされたそうだよ」

 

「ウソを言うな」

 

「ホントさ」

 

「ウソだ」

 

「ホントのことだ」

 

「この目で確かに見たんだッ!!」

 

「クスリを盛られて朦朧(もうろう)とする意識の中、致されているところをかい? 本人の意思を捻じ曲げられても無理やりではないと? そうかそうか、やはりキミはそういうヤツなんだな」

 

「は……?」

 

「そう見えるように仕向けられたなら誤解するのも無理はないが、当人にきちんと問い質さなかったのはいただけないね」

 

「……そんな……」

 

「ナロン君、キミはオサナちゃんの何だ?」

 

「オレは、……」

 

「そうだ、答えられるはずもない。彼女の魂が消えてしまったのは、心の底から信じていなかったと分かってしまったからさ。友達以上・恋人未満の関係だったそうじゃないか。同じ村で育って、同じ村から飛び出して。彼女には才能があって、キミは才能を隠していて」

 

「隠してなんかない」

 

「オサナちゃんと縁を切った途端に開花する才能とは恐れ入るよ。まさしく彼女の犠牲を栄養に開花した、おぞましき花だ。……なんで知っているのかって? なに、簡単なことさ。キミがボクの悪名を耳にしたように、ボクもキミの名声は耳にしているからさ」

 

「……」

 

「彼女がボクのもとを尋ねてきたのはね、(けが)された身体をなんとかしようとしたからさ。テレゴニーって知ってるかい?」

 

「いや」

 

「平たく言うと、一度でも他の男と交わった事実は消えることはないという意味さ。心も体もね。後ろの娘たちなら共感できるんじゃないかい? 同じ女の子なんだし」

 

「……ええ」

 

「胸糞の悪い……」

 

「……」

 

「だから後ろの娘の誰かと取り換えてあげようと思ったのさ。せめて肉体(からだ)だけでもって。彼女が消えた今はもう叶わぬことだけどね。──さて答えてもらおうか。なんでハーレムなんか作ったの? 前のパーティリーダーの真似なの?」

 

「……あんなヤツと一緒にするな」

 

「正直に言えよ。羨ましかったんだろう?」

 

「違うッ!」

 

「彼女から話を聞いたとき、何か違和感があったんだ。どっちもハーレムを作ってるじゃないかって。同じ男同士、根っこは変わらないんじゃないかってさ」

 

「オレは、オレは……っ!」

 

「彼女とは十何年も共に育ってきたんだろう? キミは彼女の何を見てきた? 身体だけだったとしても。誤解だったとしても。本当に好きだったならその場へ乱入してでも奪い返すのが(すじ)ってものだろう。なのにそうはせずに新しい女を(はべ)らせている。つまり、キミは()()()()()()なんだよ」

 

「な、ナロン。違いますよねっ?」

 

「……」

 

「違うよな? 賞金首の言うことなんか……まさか」

 

「……」

 

「答えてよ、ナロンっ! 答えて!」

 

「……」

 

「その賞金首の言うことにキミたちが戸惑っているのはなぜだい? ちょっと突かれただけで変わるような関係性だったってことじゃないか。違うか?」

 

「……これは敵の罠だ──」

 

「──疑心暗鬼に陥らせる姦計だ、かい? 疑うばかりでキミには人を信じようとする心はないのかい? 一周回って冷静になったのは褒めてあげるけど、これではどちらが人形使いか分かったものではないねぇ」

 

「っ……!」

 

「ここまで関わったからには、ボクはキミという存在をこの世から抹消してこの物語を終わらせてあげたい。このままじゃあ、あまりにも彼女が報われない。()()()()()()()()()()()()()()、彼女はあそこまで苦しんだのだと思うとね。──さて、哀れな操り人形たちはどちらに使われたい?」

 

 




以下、雑な裏設定。

ナロン:
 元凶その1。冒険者。オサナとは友達以上、恋人未満の幼馴染(両想い)の関係だった。彼女のことは好きだったが積極的に関係を結ぼうとはしなかったヘタレ。好きな子が襲われている場面を不貞と勘違いして(誤解して)、前PTから独立。助けもせずにその場を後にした。
 自分もハーレムを作ってしまったのは単なる偶然だが、無意識の内にそれを良しとした。主観的にしか物を捉えられず、それも自分の信じたいものしか信じない、都合のいい頭をした臆病で残念な男。人形使いを追わなければ結果的に前PTのリーダーと似たような感じになっていた。

オサナ:
 このお話の最大の被害者。前PTへ加入したのは女性メンバーの多さから安全安心だと判断してのことだったが、実はそれは心理的な罠でありPTリーダーの好みの女を釣るための撒き餌に過ぎなかった。ナロンに見捨てられたおかげで最後までたっぷりと身体を玩ばれ、人形使いの元を訪ねる頃にはすっかり憔悴しきっていたが、お節介で暴露されたナロンの腐りきった性根に心が完全に折れて成仏した。
 そもそもナロン(好きな人)の存在が無ければ襲われたあとの精神的ダメージは軽減されていたかもしれないし、ナロンが見捨てなければ立ち直れていたかもしれないし、お節介を焼かれなければ元の鞘に収まっていたかもしれない。ナロン・リーダーどっちも居たのが運の尽き。片方だけだったら人形使いを頼ることはなかった。
 名前の元ネタは「幼馴染」そのまま。

人形使い:
 賞金首のやべーやつ。魂を含む人体パーツを好きに入れ換える秘術の使い手。正常な思考を持った狂人であり、人を人と思わない人格破綻者だが常識や良識は備わっている。しかし容赦はしない。オサナを哀れんだのは単なる気まぐれ。オサナの肉体を使っていたのは云わば人質代わりで、ナロンと話をするためだった。だがその話術は非常に高度かつ悪質なものであり、話し相手の許容量や限界値を見極め、答えのない押し問答だろうと事実背景や状況証拠などを持ち出して説得力を持たせてくる。道理を通して無理解を蹴っ飛ばす。裏が見えてくる会話も得意としている。
 ボランティアと称したのは報酬を貰うため(無償奉仕というイメージが先行しがちだが労働基準法が適用されることがある)。報酬はクソ野郎に制裁を加える権利。

ハーレム要員(3名):
 ナロンの取り巻き。よくあるなろう系のようにナロンの才能に惚れ込み、事情を聞かされて彼に同情していたが、状況次第では簡単に他人を見捨てるような底の浅い男だったと教えられて危機感を抱いた。自分たちから近づいたとはいえ、身体目当てで同行を許されていたのかも、とも考えさせられてしまった。

前PTのリーダー:
 元凶その2。いわゆるヤリサーの王。オサナに本気で惚れたがナロンにBSSされて脳を破壊された結果、他の男に奪われる前にと焦って強硬手段(NTR)に出た。ナロンという存在が居なければ、ヤリサーを解散したあとオサナと真っ当な手段でお付き合いをしていたかもしれない。


Q.このあとナロンは勝利できるのか?
A.どうやっても無理。

 人形使いを倒しても仲間からすれば口封じに見えてしまうし、この場を凌げたとしても好感度はすでにマイナス。物的証拠がなくとも状況証拠がすべて事実であると雄弁に物語っている。前PTリーダーに原因があるとしても、指摘された問題行動は撤回できない。その事実がある以上は情状酌量の余地はなく信用もない。少なくとも現PTの解散は必至。また、仲間たちから自分の悪評が出回るかもしれないことを考えるとこの場で全員始末するしかない。賞金首の住処から1人しか戻らなかったらそれはそれで仲間を見捨てたという評判に落ち着くかもしれないが、人形使いの特性上、「仲間が操られて同士討ちに持ち込まれた」とでも云えば怪しまれこそすれど疑惑程度に収まる。もちろん、これを狡猾な人形使いに指摘される可能性は充分に考えられるので交戦を選んだ時点で1対4の戦闘が確定する。舞台は敵本拠地なので敵増援も。悪人でも義憤に駆られるこの状況は圧倒的に不利。現実的な利益としても「たとえ気まぐれでも善行をすれば名誉欲しさに自分を付け狙う有象無象が少しは減る」など、もっともらしい建前も付いてくる。
 ナロンにとってのベターエンドは、「人形使いに応戦せず痛いところを指摘もされず策謀を気取られることなく撤退、かつ拠点に戻る道中で仲間を始末する」ことだが、性的な目的からPTを組んだという疑惑のせいで仲間たちは隙を見せてこないので、やはり1対3の構図となってしまう。1人でも逃したら自分も賞金首の仲間入り。おとなしく悪評が出回る(かもしれない)恐怖を座して味わうだけだが、逆に人形使い側が乗り込んでくる状況も大いにあり得るので死は必定(本拠地入口に即死罠を仕掛けて立ち入らせないようにすることもできると作中で発言している)。そこで裏事情を暴露されたら理由が理由だけに同業者に退路を塞がれかねない。それくらいに大義名分と口が回る者は厄介。凌げたとしても今度は賞金首を呼び込んだ厄介者呼ばわり。バッドエンドもしくはデッドエンドは確定しているようなもの。関係者全員がそっとしておいてくれることを祈るよりほかない。
 なお、似たような立場である元リーダーのほうは元々そういう評価なので実質ノーダメ。被害者側の暴走であると認識されておしまい。多少非難されることはあっても、何人も食っておいて1人だけ事件になるのは偶々だろうという集団的無意識が働く。ただし、この元リーダーの反応次第でさらにナロンの立ち位置は悪くなる。彼がオサナを追い込んでしまったのは確かだが、トドメを刺したのはナロンだということを三人娘は見て知っている。作中でもナロンは被害者面をするだけで改心も悲しんだりも何もしていないので、元リーダーが改心したりでもすればひどい対比となる。しなくてもほぼ同類の烙印を揃って押される。運に身を任せず能動的に生き延びるなら改心しない世界線の元リーダーを言いくるめて手を組むしかない。悪党同士、開き直るだけ。

※テレゴニー(マイクロキメリズム)について:
 穏やかな人生を送りたい方は、絶対に調べないでください。特に女性は。


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終わったあとの物語

何も始まらないと書いたな? あれはウソだ。

 キーワード:エンディング エピローグ 純愛(BSS)


「ただいま戻りました。村長」

 

「ああ……パパスんとこの(せがれ)か。お主の名声はこんな辺鄙(へんぴ)な村にも届いておるよ。あのハナタレ坊主がいまや英雄とは……、立派になったもんじゃ」

 

「えへへっ! これから家に戻って、立派になった姿を両親に見せてきます!」

 

「パパス一家ならもう、この村にはおらんよ」

 

「……え」

 

「家族のことを想うなら、決して捜すでない」

 

「ど、どういうことですか……? 父に何かあったんですか!? 母さんは? システィナは!」

 

「……お主と一緒に村を発ったレイチェルはどこじゃ?」

 

「レイチェルは、僕を裏切りました」

 

「ほう? あんなに仲が良かったのにか」

 

「はい。僕じゃない違う男の冒険者についていって……それっきりです」

 

「お主が栄光の階段を登っていったのはその後かの?」

 

「はい」

 

「それが答えじゃ」

 

「は……? いえ、あの、村長……それはどういう意味なんでしょうか」

 

「村に居た頃のお主は、男勝りとはいえ女子(おなご)のレイチェルにも劣る男じゃったな」

 

「ははっ……いまは違いますよ」

 

「そうじゃな。──じゃが、レイチェルは薄情な小娘ではない」

 

「村長はレイチェルの本性を知らないからそう言えるんですよ」

 

「ではワシが今見ているお主は、それが本性か。……都会に出て、ずいぶんと冷たくなってしまったようじゃのぅ……。レイチェルはお主のために冒険の師匠を探していたとは考えなかったのか?」

 

「あ……」

 

「お主の力の根源は嫉妬じゃろうよ。……いや、()()だったのかもしれんなぁ。そう考えれば辻褄が合う。レイチェルがお主のもとへ戻らんかったのは、どうしていいか分からなかったからじゃろうな。あの娘は優しい娘じゃ。離れたままのほうがお主の成長に繋がるやもしれぬと思ったのかもしれぬな」

 

「そんな、レイチェル……っ! こうしちゃいられない!」

 

「どこへ行くつもりじゃ?」

 

「レイチェルを捜してきます!」

 

「今更か。レイチェルは捜してほしくないやもしれぬぞ」

 

「それでも僕は彼女と話さなければいけないんですっ!!」

 

「相手の事情も迷惑も考えずに押しかけてまですることか?」

 

「……ケジメをつけたいんです」

 

「なぜじゃ?」

 

「そうしないと、僕は前に進むことができないからです」

 

「ならん」

 

「村長!」

 

「ならんと言っているっ!! ……英雄よ、坊主から愛想を奪わないでくれ、頼む」

 

「村長……」

 

「なぁ、ナーロック……。自分に素直なのはいい事じゃ。じゃから、お主は独りで自分の道を進んでおくれ」

 

「僕は僕のなすべき事を終えて、この村に戻ってきました」

 

「うむ」

 

「僕はこれからの道を村のみんなと、家族と一緒に進みたいんです」

 

「……それはできぬ」

 

「それは、なぜですか?」

 

「それは、お主が英雄だからじゃ。お主は自分自身だけでなく、お主を育てた村と村人と、お主の家族までも見世物にする気か?」

 

「みせ……もの?」

 

「名を売り過ぎたな。ナーロック」

 

 

────────────────

 

 

「ふぅ……ようやく到着したな」

 

「ここが隣国……、海の街……っ! すっごーい!」

 

「ここなら静かに暮らしていけそうね」

 

「それはどうかな! なにせ都会なんだからな! それも港町だ! 活気があっていいじゃないか!」

 

「ふふっ、そうね。……ナーロックはいまどうしているのかしら」

 

「……あいつはもう死んだ。息子の顔をした別人だと思おうと決めたじゃないか。どこから聞きつけたか知らんが、観光客は英雄の故郷だ父親だとか言って勝手に覗きに来ておいて、勝手に落胆して帰っていく……。あんなみじめな思いはもうごめんだ」

 

「パパ、その話やめて。……ママももう忘れようよ。私たちは3人の家族で、この港から再出発するの」

 

「システィ……ああ、そうだな。父さん、ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れてしまったようだ」

 

「いいよ。そんなことより早く新しい家を見に行こ! ねっ!」

 

 

────────────────

 

 

「レイチェル。君はこれからどうするんだ?」

 

「旅に出ようと思うわ。王都に居ても、つらいだけだし……」

 

「その旅、俺も一緒に出ていいか?」

 

「えっ? それって……」

 

「俺が居たら彼のことを忘れられないかもしれないし、忘れても思い出すかもしれない。──だけど! 俺は今度こそ力になりたいんだ! 俺を君の力にさせてくれっ! このとおりだ!」

 

「……ねえ、なんであたしが今日まであなたと一緒に居たと思う?」

 

「それは……ほかに頼る先が無かったからだろ?」

 

「つらかったら一緒に居るわけないじゃないっ! 察してよね! もうっ、バカぁ……!」

 

「レイチェルっ」

 

「やんっ、もう……ホント、バカなんだから……」

 

「俺を選んでくれて嬉しいが、本当にいいのか?」

 

「あなただからいいの。ナーロックは捜しに来てもくれなかったし……」

 

「俺も捜しにいかない」

 

「えっ」

 

「迷子になんてしてやるもんか。二度と離してやらないからなっ!」

 

 




雑な裏設定。

ナーロック:
 英雄。冒険者。男性。実の姉や妹のように慕っていたレイチェルから姉離れしたおかげで覚醒した。レイチェルのことは軽蔑しても心に残り続けている。
 姉と決別してからは、姫騎士やら聖女やらエルフやら奴隷少女(獣人)やらを仲間にして囲っていたが、誰とも結ばれることはなかった。
 自分に出来る事はすべてやったと思って意気揚々と田舎に出戻りしたものの、彼の名声により見世物小屋扱いを受けることを嫌った村の総意によって、誰も居ない村にただ独り残されることが決まっている。

村長:
 ナーロックの帰りを唯一待っていた老人。ナーロックの心に楔を打ち込んで、心情的に村に封じるつもりで臨んだ。

家族(パパス、ママン、システィナ):
 ナーロックの家族。ナーロックの名が売れる度に村への観光客が増えることを最初こそ歓迎していたが、次第に息子と家族を比較されることに嫌気が差していった。このままでは誰もまともな人生は送れないと悟り、海外へと高飛びした。村からの脱出者第1~3号。この行動が村全体の方針を決めるきっかけとなった。ナーロックのことを忘れることで彼への感情をコントロールしている。

レイチェル:
 ロリビッチ風ツンデレ。なので村長も小娘呼ばわりしていた。低身長と童顔なのを気にしてか、お姉さん気取りでナーロックを引っ張って育ってきた。実力に伸び悩むナーロックのために彼の師匠となってくれる人をこっそり探すが、その間にメキメキと実力を伸ばし頭角を現していった彼の姿に驚き、自分が居るから伸び悩んでいたのだと察して潔く身を引いた。

師匠になるはずだった男:
 根っからの善人で紳士的な男。レイチェルには下心も何もなかったが、突然ひとりぼっちになってしまった彼女を支えている内に恋心が芽生えた。剣も槍も斧も弓も格闘術も盾攻撃も扱える物理型オールラウンダーで、その中でも得意な槍を普段から使用している。レイチェルが彼の武器を見て「ずいぶんと立派ね」と言ったのに対し、「俺の自慢の槍を触ってみるか?」と返してしまったせいでひっそりと噂が広まったことがナーロック成長の真相、鍵だったりする。公の場で武器を抜くと危ないからと部屋へ連れ込んだのも悪手だった。レイチェルの名誉のために彼女の耳に噂が入らないように変に配慮されていた。彼女とずっと一緒に居た彼の耳にも当然入らなかったし、そんな強い変態ロリペド紳士野郎を制裁するような命知らずも居なかった。

ハーレム要員だった人たち:
 本文未登場。ナーロックの強さに惹かれて集まったが、最終局面ですっぱりと断られて撃沈。それぞれ元々予定されていた政略結婚先へと収まった。権力者たちは縁を結ぶことでナーロックを国や組織に縛り付けたかったが、無理だと分かってからは暗殺による始末へと方向性を変える予定でいる。


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ナローシュの銃

粗製乱造。
 ・後書きの細かな追加と微修正(2023/5/1)。

 キーワード:入れ替わり 精神的BL 肉体的NL 肉体的NTR/BSS(new!)


「うわっ!?」

 

「いっ……てぇなっ! どこ見て歩いてやがっ……俺?」

 

「な、なんで僕が2人……?」

 

「ちょっと、ちょっとぉ! どこ見て歩いてるのよ! 気を付けなさいよね!」

 

「えっ……」

 

「ナーローン君、大丈夫?」

 

「うぷっ!? ちょまっ」

 

「あー! ファスってば抜け駆けして! ナーローンを放せよぉ! このおっぱい性人(せいじん)!」

 

「ファス、僕はこっちだよ……?」

 

「は? あなたみたいな人がナーローン君なわけないじゃない。それと、軽々しく(ひと)の名前を呼ばないでください」

 

「自分がナーローンって思い込んでる? ヤバいよこの人……」

 

「セイカ、ここは一時休戦としましょ」

 

「同感。さっさと離れよ!」

 

「待って! 僕はこっちだよ?!」

 

「──ぷはっ! お、おいっ!」

 

「逃げるよ!」

 

 

────────────────

 

 

「──なんて事が先月あったが、まさか他人と体が入れ替わるなんてな……。しかも()()()の優男とはな。元の俺じゃ稼げねぇ額を稼げるのはいいんだが、誰も気付かねぇのはなんでだ? 口調も態度も俺のままだってのによ。絵本の中に入ったみてぇで気味がわりぃ……」

 

「お客さん、飲み過ぎだよ」

 

「うるせぇ! まだコップ1杯じゃねーか! 酔ってねぇよ!」

 

「見つけたぞ、僕の体!」

 

「へっ、遅かったじゃねぇか。こうして飲んでりゃいつか来ると思ってたぜ」

 

「僕の体を返せ」

 

「いいぜ、こんな薄気味わりぃ体、誰が要るかよ」

 

「僕だって、こんなチンピラみたいな体は要らないね」

 

「まあ聞けよ。……って、言っても訊きたいことがある。店主、こいつにも俺と同じ酒を頼む」

 

「……別れ酒のつもりか? まあいいよ。ちゃんと返してくれるならね」

 

「お前は俺のフリをしていたか?」

 

「僕にチンピラの演技なんて出来るワケないだろ」

 

「俺の周りにいた人間は不気味がってたか?」

 

「当たり前だろ。分かりきったことを聞いて何がしたいんだ?」

 

「俺も優男の演技なんざ出来なかったよ。でもな、誰も何とも思わなかった。俺が俺のまま振舞っても、あの女2人は何事もなかったように接してきやがる。女だけじゃねぇ、冒険者ギルドのヤツらも。会うヤツみんなだ! どうなってやがる!?」

 

「……その様子だと冗談を言ってるワケじゃないみたいだな」

 

「当たり前だろ。なんなんだよこれ! 誰もお前のことも俺のことも見てねぇみてーで気味がわりぃ!」

 

「つまり、お前はこう言いたいのか? 僕の体に誰が入っていても僕だと認識しているって」

 

「そうだよ! お前は催眠術師か何かかってのか?!」

 

「僕は冒険者だよ……。あんたと入れ替わるまでは、物語の英雄みたいに全部順調だった」

 

「はっ、実際(じっせぇ)に入れ替わった俺からすれば、絵本の中の登場人物になったみてぇで気持ちわりぃがな。……気付いてっか? 店主の目に」

 

「えっ?」

 

「変な目、向けてんのは、チンピラのくせに優男みたいに話すお前だけだ」

 

「なっ……、あっ……!?」

 

「名前が売れてきたとはいえよ、チンピラ口調で話す優男にはなんで向けてこない? どう思う、店主?」

 

「……それを訊かれても困るんだなぁ。まあ少し変わってるとは思うね。これでいいかい?」

 

「俺のことは?」

 

「……? 質問の内容以外、どこも変とは思わないぞ」

 

「本当にそう思うか? 正直に言えばもう1杯注文する」

 

「しつこいな。思わないよ」

 

「って、ことだ。どうなってやがる、お前の体は。絵本が出身地って言われても俺は信じるぞ」

 

「な、なんだよこれ……?」

 

「俺が知るか! こんな得たいの知れねぇ体なんて返してやるよ!」

 

「あの時みたいに頭をぶつければ戻れるかもしれない」

 

「わかった。頭だな──そらよっ!」

 

「ぐっ! ……そんなん、だと……?」

 

「戻らねぇのかよっ!? ウソだろ……」

 

 

────────────────

 

 

「たでーま……」

 

「あっ! ナーローン君、どこ行ってたの!?」

 

「ヤケ酒」

 

「何か嫌な事でもあったの?」

 

「まぁな。……おっとっとッ!?」

 

「キャッ!」

 

「いってぇ……。わりぃ、頭突きしちまっ……マジかよ。ファスと入れ替わっちまった……──頭突きし直せば大丈夫か!? 女の体なんて冗談じゃねぇ!」

 

「──」

 

「は、はは……マジか、マジかよ……戻れねぇ……。──おいっ! 起きろ! 起きろってんだよ、ファス──うおおっ?!」

 

「ぐわっ!」

 

「しまった! 女の細腕じゃ支えきれねぇ! おい大丈夫か! 頭から血が出てんぞ! おい、しっかりしろ!」

 

「ただいまー……って、ナーローン!? 何があったの!?」

 

「セイカ! ちょうどいいところに戻ってきたな! ナーローンの体が頭を打っちまった! 助けてくれ!」

 

「ファスってば、なにその口調……。似合ってないよ。イメチェン?」

 

「……! やっぱり、あいつの体に異常があんのか。だがもう戻れねぇなら……」

 

 

────────────────

 

 

「──まさかまた他人と体が入れ替わるなんてな……なんて先月も言ったと思うんだが、覚えてっか店主?」

 

「そう云うのが最近の流行りなのかい? でもあんたみたいな美人さんはやめといたほうがいいぞ。男口調もやめたほうがもっと美人になる」

 

「口説いてんじゃねぇよ。仕事しろ」

 

「……今度はファスに乗り移ったのか?」

 

「お前も来たな。まあ事故だよ。んでまた戻れなくなった」

 

「ファスは連れて来てないのか?」

 

「その事なんだがな。ファスと入れ替わっても人格は俺のままだった」

 

「どういうことだ?」

 

「だからよ、お前の体に入ったファスも! ファスの体になった俺も! どっちも俺なんだよ!」

 

「どういうことだ……」

 

「知るか! 俺が分かったのは、誰がお前の体に入っても絵本のページはそのままだってことだよ! 俺の体を返せ!」

 

「ごっ!?」

 

「ハァ……なんとなく、そんな気はしてたぜ。お前の体に入ったヤツが頭突きしねぇと入れ替わらないんだな」

 

「頭突きするなら言ってくれよ。じゃあ、なんでお前はファスの体のままなんだ?」

 

「あと分かってんのは一度入れ替わったらそいつとはもう無理ってことだ。たぶん免疫みてぇなのが付く。俺の場合は2回入れ替わったが何かルールがあるのは間違いねぇ」

 

「……待てよ。お前は一生そのままなのかっ!?」

 

「そうだよ! もう親に会うこともできねぇッ!! ふざけんなよ、ふざけんな……!」

 

「ファス……」

 

「ラーバルだ! 俺のこの名前だけは誰にも渡さねぇ──つもりだったがよ」

 

「えっ?」

 

「今からお前が、いや先々月からお前がラーバルだ。俺はファスとして生きる」

 

「いや僕は元の体に戻る手がかりを探すつもりなんだけど」

 

「言っただろ。お前の体と一度入れ替わったら、そいつの体とは入れ替わらないって。俺たちはもう二度と元に戻れねぇ」

 

「そうだとしても希望は持つべきだ」

 

「希望ねぇ、いい言葉だな。……俺の両親には会ったか?」

 

「いや。会ってないよ」

 

「まあ、普通の父親と母親なんだけどな。お前とぶつかるちょっと前に、親孝行しようと思ってたんだ」

 

「それは悪いことをしたね。でも謝らないよ。僕も被害者だからね」

 

「そうかよ。お前の両親は?」

 

「さあ……、知らないね。未練はないよ」

 

「そうか、なら籍を入れても問題ねぇな」

 

「は? 籍?」

 

「お前の体は誰が入っても、体が体の人生を送るみてぇだろ? 中身だったお前も空っぽならよぉ……俺が送るはずだった人生を送れよ。俺はファスとしてラーバルの人生の中に戻る」

 

「結婚? 僕とお前が? ……冗談だろ、男同士だぞ!」

 

「中身はな。体のほうは男と女だ。ヤればデキる」

 

「お前はそれでいいのか!?」

 

「そうしねぇと親孝行できねぇんだよ! いつか両親(おや)に孫の顔を見せてやりたかったんだ! そうしねぇと俺はもう両親(おや)の顔を見れねぇんだよ! 家族を捨てたか捨てられたかしたお前には分からねぇだろうがなッ!!」

 

「……ごめん」

 

「はっ、ちゃんと謝れるヤツは嫌いじゃねぇぜ。これからよろしくな。旦那サマ?」

 

 




以下、かなり雑な裏設定。

ラーバル:
 1回目の入れ替わりの少し前に改心したばかりだったチンピラ。ナーローンと入れ替わった後、普通に冒険者としてお金を稼いでいた。あとで回収するべく、セイカたちに気付かれないように活動拠点とは別の場所に隠してある。本文終了後は宣言通り、元の自分の体と籍を入れた(結婚した)。ぱっと見は幸せそうな家庭を築くも、両親は最後の最後になるまで彼の正体に気付くことはなかった。ファスの体のまま、人生を全うした。他人の体だということを強く意識したり、お相手は自分の元体、さらには親孝行のしたさから、男と契ったことの精神的ダメージは皆無。体の替わった自分を受け入れることは一度もなかった(精神+肉体=今の自分ではなく、チェスや将棋の駒扱い。呪われて外せない装備品、道具扱い)。名前の元ネタは「ライバル」の変形。

ナーローン:
 テンプレ通りに成り上がって、テンプレ通りにハーレムを作り、その規模・影響力を拡大させていくはずだった、なろう系主人公。本文終了後は言われるがままにラーバルとしての人生を全うした。両親に心配をかけたくなかったラーバルを気遣って、ご両親の前では彼の姿を演じ通した。本来の自分で過ごせないというストレスはあったが、なろう系らしく過去に一切こだわらない薄っぺらい人間性なので精神的ダメージは大して負っていない。ご両親には息子が更正したと思われていた。
 元の体については色々あって諦めた(後述)。自分の体が他の男のものということに思うところはあったが、ファスの体の魅力を前にした理性は呆気なく陥落した。最終的にラーバルと違い、現在の体に馴染む。元は他人の体だが、いまは自分の体であると認識するようになった。入れ替わった事実を受け入れた。

ファス(ナーローン体):
 入れ替わりはナーローン体の特殊体質。ラーバルの考察通り、この体からの頭突きでのみ精神が入れ替わる。一度入れ替わると、相手の体に免疫が出来てロックが掛かる(防御反応)。ナーローン体にはこの免疫は作られない。
 ラーバルの性格がコピペされてしまったのは性別の違いによるもの。脳にある記憶がクッキーの型抜き器のようにファスの人格を侵食・整形、ラーバルの形となるようにファスだったものは削ぎ落とされてしまった(男同士なら新しく上書き保存、異性は上書き貼付される)。そうは云ってもラーバルの精神はもうそこに残っていないので、反射で彼の演技を自動実行する機械のような状態下にある(脳≒魂、クローンと同等、テセウスの船、睡眠前後の自分という連続性のあれ)。
 ヒロインレースからファス(の体)がリタイアしたおかげでセイカルートが確定してしまい、以降、ナーローン体はセイカが理想とするヒーロー像を演じることとなった。周りが異常性に気付かないのも特殊体質(スキル)によるもの。メタ的に云えば主人公補正とも。名前の元ネタは「ファースト(1番目のヒロイン)」。

セイカ:
 これといって語ることがないキャラ。なろう系といえばハーレムということで、最低限の体裁を整えるために登場した。単なる話の場繋ぎ役でしかなかったが、知らず知らずに競争相手とくっついた。ある意味で被害者の仲間入りを果たしたとも云える。名前の元ネタは「セカンド(2番目のヒロイン)」。


チェーホフの銃(タイトルの元ネタ):
 創作のルールおよび手法のこと。出した伏線は必ず意味を持たせ、必ず回収しなければならないといった意味。ミスリードではなく必然性を指す。今回は、銃は使用されなければならないが、誰が使用してもいいという意味で捩らせてもらった。銃と中など言葉遊びを掛けてもいる(元ネタが伝わりやすいように銃表記のまま)。オートマ銃なら薬室に弾が装填されているか分からないという意味でも。

 ・旅館で猟銃が展示されていて、それが殺人事件の犯行に使われた。
   → 伏線は問題なく回収された。

 ・旅館の猟銃で頭を吹き飛ばしたが、実際は爆弾や別の銃で吹き飛ばされていた。
   → ミスリード。

 ・旅館に猟銃が展示されていたが、事件が起こらないまま旅館を去る。
   → 銃を描写した意味が分からず構成力を疑問視される。

 ・旅館に猟銃が展示されていたが、事件が起きる前に読者に突っ込まれる。
   → そこまで持たせられなかった作者の技量不足 ゆるして


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正なる光り

奴隷犯罪シリーズ第3弾。普通にひどい。
 ・本文と後書きを微調整。省いてしまっていた主語などの追加(2023/6/27)。

 キーワード:奴隷 犯罪者 R-15 残酷な表現


「ひいぃぃっ!」

 

「ふん……浅ましい三流貴族がっ。この娘はいただいていく」

 

()()ナイロスに助けてもらえてよかったね!」

 

「え……あの……?」

 

「こんな趣味の悪い屋敷からは早く出るとしよう。ついてこい」

 

「は、はい……」

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ナイロスはボクたち奴隷にも優しい人だから」

 

 

────────────────

 

 

「──売れないって、どういうことだ? 金なら払う」

 

「金とかそういう問題じゃないんだよ。商売の邪魔だ、帰ってくれ」

 

「なんでさ! 金なら払うって言ってるじゃないか!」

 

「まだごねるってんなら、いい加減衛兵を呼ぶぞ」

 

「なんで衛兵を呼ぶのさっ?! 何も悪いことしてないのに!」

 

「はんっ、どうだか」

 

「せめて事情を教えてくれないか? 何か困ってるなら手助けできるかもしれない」

 

「いらないよ。とにかくアンタらに売る物はない」

 

「う~っ! もういいよ! 2人とも行こ!」

 

「ああ……仕方ないな、今度はあっちの店で旅支度をしよう。こうも準備に手間取ることになるなんてな。君だってこんな町には居たくないだろうに」

 

「……」

 

「はい、いらっしゃ──お、お前は……っ! 今日はもう店じまいだ! か、かかか帰ってくれっ!」

 

「まだ昼前だぞ? 店じまいには早いだろう」

 

「きゅ、急用を思い出したんだ! 悪いな、あんちゃん! はははっ!」

 

「お、おいっ」

 

「なんなのさ! もう!」

 

「まさか領主の差し金なのか? こんな姑息な手段で報復してくるなんて」

 

「逆恨みするなんて小さいヤツ!」

 

「あの……」

 

「大丈夫だ。何が起きても君を守る」

 

「そ、そうではなくて……周りを」

 

「周り? ……っ!?」

 

「なんか見られてるね……。道往く人全員に」

 

「昨日までは何でもなかったのに、いったいどうしたんだ?」

 

「……おい、衛兵はまだ来ないのか……?」

 

「……そろそろだろ……」

 

「えっ……。な、ナイロスっ!」

 

「急いでこの町を発ったほうがよさそうだが、すでに囲まれてしまったようだな」

 

「強行突破する?」

 

「いや、何の罪もない一般の人を攻撃するわけにはいかない」

 

「でもこの人達なんかおかしいよ。どうしてボクたちの邪魔をするんだろう?」

 

「──時間稼ぎご苦労、国民諸君。我々衛兵が来たからにはもう安心だ。ふむふむ……人相書きによると、そこのお前たちがそうだな」

 

「衛兵が俺に何の用がある?」

 

「とぼけるな、この犯罪者がっ。お前はこの町とその民に対して罪を犯した。何か釈明はあるか?」

 

「それを言うなら、罪を犯しているのは領主のほうだろう。重税を()していただけではなく、屋敷に奴隷を囲っていたんだからな。この娘が生き証人だ」

 

「余所者風情が知った(くち)を利く。だがまあ潔く罪を認めたことに免じて、抵抗しなければ手荒な真似はしないことを約束しよう。さあ娘をこちらに引き渡せ。お前たちはその(あと)だ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「住居侵入、傷害、殺人、器物破損、略取誘拐などの罪でしょっ引く」

 

「どういうこと? ボクたちはそんなことしてないのにっ!」

 

「……まさか、自分が何をしたのか理解していないのか? 所詮は、罪を犯す者ということか。──総員、抜刀ッ! 両方とも殺してしまっても構わないが、()()を盾にしてきても、うろたえず行動するように!」

 

 

────────────────

 

 

「……あの町からなんとか脱出できたが、手配書でも回っているのかこの町でも衛兵が目を光らせているな。なんとか物資をやりくりできてはいるが、そろそろ限界も近いな……」

 

「ボクたちは正しい行いをしただけなのに……なんでなの?」

 

「知りたいか?」

 

「ッ──誰っ!?」

 

「闇ギルドの者だ。お前さんたち派手にやったなぁ」

 

「薄汚い犯罪者が、俺になぜ接触する?」

 

「おいおい()()()()するとか笑えない冗談はやめろよ」

 

「冗談ではない」

 

「それこそ冗談は顔だけにしておけよ、若いの。お前さん()()は立派に犯罪者だぞ。自覚くらい持っておけ。……まあそこのお嬢さんだけは違うがな」

 

「あの悪徳領主にハメられたんだ」

 

「だからどうした。世論が悪だと断じたら、お前さんはもう立派に悪人だ。悪い事は言わん。素直に受け入れておけ」

 

「…………」

 

「納得できないって(ツラ)だな。それならオレが姿を現した理由も含めて丁寧に教えてやろう」

 

「聞こう」

 

「大体の事情は聞いている。例の領主の屋敷に襲撃をかけたそうだな。正当な理由もなく、先方に断りもなく、守衛をぶっ飛ばして不法に侵入を果たした。これが1つめの罪科だ」

 

「そうでもしないと入れなかったからな。いわゆるコラテラル・ダメージ……やむを得ない犠牲というやつだ」

 

「犠牲ね、確かに犠牲は出たな。お前さんが倒した守衛たちはみんな死んだよ」

 

「……なんだと?」

 

「倒した相手の状態はちゃんと確認したか? 最初に不意打ちを受けた守衛は首の骨が折れていた。おそらくは即死だったんだろう、なんともいえない顔のまま死んでいた。ほか数人は出血過多だ。残念なことに、医者が駆けつけるあと少しのところで事切れたそうだ。ほかは──」

 

「やめてよ! そんなの聞きたくない!」

 

「やめねえよ。自分らがやった事なんだ、行動を起こした結果を聞くのが筋ってもんだろうがよ。……なあ、()()?」

 

「…………」

 

「沈黙は肯定と受け取らせてもらうぜ。ここまでは住居侵入に殺人、器物破損か。お前たちが言っていた重税とやらは、お前たちみたいなのが原因なんだとよ」

 

「……なに?」

 

「どういうこと?」

 

「言葉通りの意味だ。たまにいるんだよ、お前らみたいな勘違いした奴等がな。大方、領主が私腹を肥やすために重く税を()していると思ってやったんだろうが、集められた税は問題なく防備に割り当てられているな」

 

「闇ギルドがなぜそれを知っている?」

 

「情報は金になるからな。だから知っている。知らないからお前らは()()()()んだ。これが2つめの罪科だ」

 

「……」

 

「声も出せないってか? そこのお嬢さんもそうなんだろうな。よりにもよって領主が保護していた上級奴隷をさらうとか何を考えてんだか」

 

「待て。保護だと?」

 

「なんだ、それも知らなかったのか? お前さんが(さら)ったそこのお嬢さんは元々貴族階級だったんだ。そりゃ屋敷に匿うに決まってるだろ」

 

「ならば俺がした事は……」

 

「無駄骨どころか骨折り損だな。全部が全部、裏目に出てんな」

 

「クソッ!」

 

「さて、ここからが本題──ビジネスの話だ。おとなしく奴隷2人を引き渡せば、お前さん(ナイロス)だけは国外脱出させてやる。領主へは始末したと偽ってな」

 

「なんでボクまで?」

 

「簡単なことだ、振り上げた拳を下ろす先が要る。主人と奴隷の両方が消えたら現状(いま)よりも血眼になって捜しにくるぞ。死体がなきゃ死んだって確証がないからな。……ああ、()でも構わんぞ?」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「元のビジネスを優先するだけだ。領主サマは大変お怒りでなぁ、お前さんに闇ギルドも敵に回す度胸はあるのか? そうしてこれからも敵を増やしていって、いつまで続くと思う? ……今の内に損切りするべきだろうが」

 

「やけに親切だな」

 

「裏があると思うか。単純に興味本位だ。こんな大バカをやらかした男はどんな選択をするのかってな」

 

 




以下、雑な設定。

正なる光り(タイトル):
 ・正義に目が眩んで、あれもこれもすべて見えていない。何もかも。
 ・眩やみ→暗闇→お先真っ暗。


Q.ナイロスはこのあと犠牲になったの?
A.選べない。また、どんな選択をしても2人ともまともな方向へは転ばない。

相方犠牲ルート:
 これを選ぶ理由としては、奴隷を救える(奪える)のはナイロスだけ。自分が暴力を振るえる側だという自覚がある。手段を理由にした時点でクソ野郎度がさらに上昇する。理由にしなければ自分が助かりたいだけのゲスと化す。他国で同じ事を繰り返すか、主役の座から降りてモブ化して平穏な一生を送るか、いつか相方を奪還するかの追加3択。3番目は特にひどい運ゲーになる。

自己犠牲ルート:
 領主のメンツ問題に加えて権力者を襲うような凶悪犯ということもあり、主犯のナイロスが生かされる可能性はかなり低い。相方だけ生き残っても良くて山賊化または第二のナイロスを見つける。悪いと名実ともに奴隷の身に再び堕ちるところまで堕ちるか命を落とす。奴隷にされてしまうような人間がまともに生きられるほど、この世界は優しくはない。分の悪い運ゲーが待っている。

犠牲なしルート(闇ギルド敵対):
 誰も犠牲に選ばずこの場を切り抜けられても、敵対組織の勢力外へと出られるまで神経をすり減らす日々を送ることになる。逃げ切れるかも不明(なりふり構わずに追いかけてくるかも)。かなり分の悪い運ゲーが待っている。

投降ルート:
 盛大に何も始まらないが、大勢にとってのグッドエンド。


 今回の着想はブレスオブファイア3より。悪そうな権力者相手にやらかす事はなろう系も同じですが、元ネタでは報復手段として反社だけに依頼。主人公一味は見事離散することになって一旦は決着がつくのですが、運が悪いことに仲間の捜索中に反社と遭遇してしまい(行き先と帰り道が同じだった)、逆恨みされてしまいます。その後は拙作のようにずっと追い掛け回されます。敵対者の命を奪うまで。
 拙作では確りと表側も動員しています。奪われた上級奴隷の待遇(設定)も良くしてありますが、普通に雑な扱いを受けていたとしても大差はなかったでしょう。救出対象がどうあれ、権力者相手にテロ行為を仕掛けていることには変わりないので。悪人でも悪法でも法は法。主人公は無法者。

未使用ネタ:
 ・お前たちが殺した相手にも家族がいる。
 ・重税の原因は遺族補償。


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 └正当なる復讐の形

掟破りの二部構成。前編未読でもたぶん愉しめますたぶん。
 ・本文と後書き解説を加筆修正(2023/5/6)。

 キーワード:奴隷 NTR 寝取られ 復讐 貴族 敵側視点 猫虐待コピペ ギャグ


「──では確かに。毎度ご利用ありがとうございましたとね」

 

「うむ。実によい働きであった。よもやこうなるとはな」

 

「でも想定内だったでしょう? あの男が連れを代償に逃げるなんてことは」

 

「ぼ、ボクをどうするつもりだ……!」

 

「くくっ! 知れたことよ! まずはその小汚い脂ぎった肌をピカピカにしてやろう!」

 

「なにぃ、何を企んでいるんだ!」

 

「これだから下等な奴隷は……。よいか、垢は不潔でこそあるが寒さを凌ぐ糧にもなり得る。ではその薄鎧(うすよろい)を剥がされた奴隷はどうなる?」

 

「ま、まさか……そんな!」

 

「そうだ、寒さに耐えることなど出来なかろう! そして同時に熱湯地獄をとくと味わうがよい! 熱々のお湯を知らぬ奴隷ごときが耐えられるかぁっ!? くくくっ……!」

 

「や、やめっ……やめろぉぉっ!」

 

 

────────────────

 

 

「くくくっ……さっぱりとしたようだな! どうだ、薬効成分に侵された無防備な身体となった気分は? 入浴後の上等な服装の肌触りは慣れなかろう。普段と違う調子は恐ろしかろう!」

 

「……」

 

「次は食事の時間だ! 下等奴隷では決して味わうことの出来ぬ上等品に舌鼓を打たせ、味覚を破壊し尽くしてやろうぞ! くくくっ、数時間後にはきっと以前の食事は食べられぬ身体へと成り果てるぞ。もう二度と下々の食事が食えぬ身体にな」

 

「えっと……」

 

「ふん、口答えは許さぬよ。そうともお前はとても許されぬことをした。このワシに楯突いたことを一生恥じ、悔いて生きるのだ! ……そうら、食事が運ばれてきたぞぉ?」

 

「う、うん……そうだね……」

 

「待てっ! これまで通りの食べ方も許さん」

 

「えっ」

 

「フォークはこう構えるのだ……。右手はこう!」

 

「えっ?」

 

「奴隷は奴隷らしく、飢えを満たして欲しければ堅苦しいマナーを受け入れるのだ」

 

「う、うん」

 

「食事の時は、いただきます、だ。──食事を与えたワシと、給仕するメイド、調理した料理長、材料を搬入した商人、材料を作った農家すべてに感謝して唱えるのだ。いただきます、と」

 

「いただきます」

 

「うむうむ……よいぞ。今日よりお前はこのワシの所有物なのじゃ……頭の先から指の先までワシ色に染めてやろうとも」

 

 

────────────────

 

 

「侵入者だーっ! 出合え! 出合え!」

 

「遅くなってすまない、助けにきた!」

 

「……」

 

「どうしたんだ? グズグズしている暇はない! 早くしないと守衛たちが集まってくる」

 

「ごめん。ボクいけないよ。ボクいけない子になっちゃったんだ……頭の中まで領主()に侵されちゃった……」

 

「なっ……。それでも俺は君を──」

 

「──ふふん。その娘はもうワシのものじゃよ」

 

「お前は……領主!」

 

「さあ、こちらに来なさい……よしよし、いい子だ」

 

「えへへ……」

 

「どうだ? 自分の奴隷を調教された気分は? わざわざここまで(おび)き入れたのは、立派になった此奴(こやつ)の姿を見せてやりたかったからだ。あの時とは警備の質も比べ物にならんぞぉ、否が応でも見るのだ。くははっ」

 

「調教、だと? ゲスめっ!」

 

「くくくっ。……さあ、お前が何をされたか教えてあげなさい」

 

「うん、ご主人様。……あのね、ボクはもう()()()の奴隷には戻れないんだ。だってさ、ご主人様は毎日ボクをお風呂に入れてくれて、服もこんなにキレイなのを着せてくれるし、テーブルマナーも教えてくれたんだ。法律関係もだよ? ()()()は何も教えてくれなかったよね」

 

「え……」

 

()()()はボクに何をしてくれたの? ……何もくれなかったくせに、どうして今頃になって」

 

「じ、自由を……君を自由に」

 

「自由ってさ、責任が伴うからこそ自由なんだって。……じゃあ、無責任な自由って何なんだろうね?」

 

「……領主ぅッ!!」

 

「くははっ! どうだ、この幸せそうな姿を見たか? ワシの力を思い知ったか? ──これがワシの復讐だ! この娘はもうワシなしでは生きられぬ身体じゃ! 無知が罪というなら、償うのもまた罪よのぅ!」

 

 




前編の後書きには記載のなかった幻のルート。
生き地獄とは、なんてひどいことを……!


Q.これのどこがひどいのか(復讐なのか)?
A.非難できる点が領主・奴隷ともにない。

 身分でも人としても男としても格の違いを存分に見せつけて本文は終了しました。身分は生活基盤。財力はもちろんのこと立場についても、よくある「王族と懇意・謁見できるSS冒険者」などと違い、町(領)を治められるほどの権力を領主は有しています。仮に侵入者(なろう主人公君)の立場を冒険者だとして、それ等については活躍して名声を得ることで同等以上まで持っていけますが、冒険者だと後ろ盾を失ったらそれまでです。そういう意味では自分の足だけで立っていられる領主の方が強い。
 また、成り上がらずとも初めから財力・権力があることも見逃せません。その場その時に使える金というものは考えている以上に重要なファクター、要素です。現実でも。たとえば、欲しかった限定品をたまたま見かけたが手持ちが足りなくて自宅に取り戻っている間に他の人に買われてしまったらどうしようもありません。つまり、奴隷ちゃんは前の主人から贅沢を教えてもらう前に、領主の爺に分からされてしまったという訳ですね。
 前主人の財力や権力が領主に並んでも時すでに遅し。その瞬間だけでなく、並ぶまで掛かった時間も問題になってきます。共同生活は敵であっても「同士・仲間」だという無意識が植え付けられる(ストックホルム症候群)。裏側を見たことで、奴隷側の考えも変わってくることでしょう。人を知れば情も湧く。さらには何事もない安定した生活が続けば続くほど、奴隷→領主へ信用も生まれます。もちろん、いたぶればその限りではありませんが、今回の領主は非道な真似は一切行なっていないので関係ないことです。無害。
 力ずくで奴隷を奪い返そうにも、領主は手厚く扱っています。屋敷(邸)に勤めている使用人から市井へとそのうわさも広まっていることでしょう。襲撃者の手先だった奴隷に慈悲の手を差し伸べた心優しい領主に敵対しては、人としての評判はストップ安です。奴隷相手とはいえ自分の都合で振り回すとか、人の心とかないんか? これではどちらが人を物扱いしているか分かったものではなくなります。もう手出しできません。頭脳派らしく狡猾であり、イヤらしくも老獪な策略。護身が完成している。
 男として~の部分も長々と語るほどでもありません。前の主人のもとに居た頃よりも、ずっと安定した不自由のない生活を約束しています。ひとりの女(他人)を幸せにする。これほど男らしい、ロマンを感じることもそうないでしょう。がーる・みーつ・おっさんじじい。

箇条書きまとめ:
 ・奴隷を寝返らせて、前主人と奴隷の仲を引き裂いた。
 ・財力や権力、身分の差や男らしさ(頼もしさ)を存分に見せ付けた。
 ・世論を味方につけたことで、手痛いしっぺ返しがくるように仕向けた。
 ・暴力ではなく理性的に籠絡した ←ココ重要

その他:
 ・領主からすれば、敵対者の奴隷が心の底から慕ってきたり、想像と現実のギャップに思い悩む様を眺めるのは痛快。
 ・元鞘になっても奴隷だけいい暮らしをしていたことは気まずいし、前主人と領主を無意識の内に比べてしまう。自発的に奴隷が領主のもとへ戻ってくる可能性まで出てくる。
 ・再襲撃が起きなくても、それは手出しできない状態にあるという証明になり、それはそれで優越感に浸れる。
 ・襲撃を受けても領主色に染まった奴隷を披露してその変わり様と、前主人との会話で2人の反応を愉しめる。


以下、雑な裏設定。

領主:
 おっさんなのかじいさんなのか、はっきりしない人。前述(上記)の通り、誰の血も流れない完璧な復讐をやり遂げた。捕らえた奴隷ちゃんのことを今では実の孫のように思っているが、立場や過去のことは忘れてはいない。悪ぶってるように見えて実は天然。「償うのもまた罪」のくだりは、知識を得る過程のことを指している(自分が何をしてしまったのか正しく認識できるようになる過程で罪悪感を覚えさせる)。

囚われの奴隷:
 女の子。領主の教育によって色々と分からされた。色んな意味で、もう二度と以前の生活へは戻れない身体にされている。近々、奴隷の身分から晴れて解放されて養子縁組の手続きを行なう予定にある(この世界線では)。
 前の主人である襲撃者のことは軽蔑しているが、行動を共にしていた間の恩義は忘れてはいない。結果として、過去を清算するいい契機となった。

襲撃者(前の主人):
 男性。前編では名前で呼ばれていたが、この後編では名無しキャラへと格下げされている(いわゆるモブ落ち)。奴隷ちゃんを担保に自身の安全を保障してもらっていたが、取引を反故にして領主邸へと2回目の襲撃を企てた(領主の怒りは1回目に買った)。取引は内通者(後述)との間で成立したものだと思っており、実は領主に見逃されていることを知らない。知らされていない。
 なろう系主人公のテンプレ通り、直接手を下しても人の死を数字としか見ないタイプ(身内の人間を除く)。そのくせ自分の女も記号として見るわりに他人に手出しされたら怒る。
 単体戦力としては上等の部類だが、流石に数の暴力と風評には勝てない。勝ってもバケモノにはバケモノをぶつけられるのがオチ。指名手配は各勢力に及んでいるので返り咲きもできなかったりする。裏社会にもマークされているので他国で登用・活躍できる機会もない(業界のブラックリスト入りと同じ)。権力者を襲撃したという前科は経歴に大きな傷を残した。奴隷ちゃんを同意の上で売ったのは一旦逃げて力を蓄えるためだったが、その目論見は失敗に終わった。このあと生き残れるかは領主の気分次第。もしくはガン逃げできることを祈るばかり。

内通者:
 冒頭部分にて登場した裏社会の男。奴隷を捕らえてきた人。また、襲撃者の逃亡を手伝っていた。領主とはがっつり癒着関係にあるが、それを隠したとき襲撃者がどういう反応を示すかで彼らの末路は決まっていた。流石に2回目も手伝ってやる気はない。

元は貴族令嬢だった上級奴隷:
 前話にて登場。ヒロインその2に認定されるも、この舞台設定でなるわけねえだろということで領主vs襲撃者の争いの火種となった。領主の庇護下にあったこの娘をさらったのがすべての始まりにして、終わりの始まり。本文ではまったく触れられていないが、こちらも確りと領主側に回収されている。


このルートでの襲撃者の勝利条件:
 ・初日に入浴中の奴隷ちゃんを誰にも気付かれずに連れ出す。
 ・事が発覚する前に可能な限り屋敷から離れる(国外逃亡を成功させる)。
 ・手配書と同一人物だと気取られないように変装するか、山賊になるか、人里離れた山奥に隠れ住み、領主が諦めることを待ち望み、裏社会の人間の小遣い稼ぎのネタにされないように祈る(継続条件)。



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妥協のない惰性

粗製乱造。これまでにない超絶低クオリティでお送り致します。
 ・少しエグい後書きを追加(2023/5/27)。

 キーワード:チート クイックセーブ クイックロード TAS


「んんーっ! んーっ!」

 

「……ここまでで、異常は?」

 

「起きてないですね。違和感はありません。予測と推論は正しいものかと」

 

「ふむ……。呪文と同様に顕現(けんげん)にはキーコードが必要であるのは確定か」

 

「おそらくはナローマがたまに発していた≪セーブ≫という古代語がそうですね。意味はたしか救うとか抑制とか、記憶とかでしたね」

 

「だろうな。状況的にも意味合いは通じている。そしてもうひとつ、対となるキーコードがある」

 

「そちらは≪ロード≫でしょうね。道や読み込むといった意味ですが、差し戻す意味も含まれています」

 

「合わせて使う古代の時空制御呪文か……厄介なことだ。これまで感じてきた違和は現実のものだったとはな? ナローマ」

 

「んぐぅっ!?」

 

「こうして蹴られるのもその結果だ。よくもまあ騙し続けてくれたものだ。……騙し騙し、うまくな」

 

「殺します?」

 

「殺しはしない。(くち)の縄だけ解いてやれ」

 

「──ぷはっ! ()()……うぐぅっ!?」

 

「言わせると思ったか?」

 

「はぁ……はぁ、()──がぁぁっ!」

 

「学ばない奴だ」

 

「他の方々も居らしていたら問答無用で殺されていましたよ。私たち2人だけがここに居る意味を考えてくださいね?」

 

「わがっ、わかった。だから、だから蹴らないで……」

 

「お前がいい子でいる内は蹴らないよ。そのケガも巻き戻せばどうせ消えるのだろう? 我々の記憶と共に」

 

「……」

 

「ならばこそ聞いておきたいことがある」

 

「……、おごっ──」

 

「返事は?」

 

「は、はいぃ……っ!」

 

「よろしい。まずは確認だ。先ほどの解釈と意味はあれで合っているか?」

 

「あ、合ってる──あだっ!? な、なんで……?」

 

(くち)の利き方がなっていないな?」

 

「あっ、あっ、合ってま──ああっ!?」

 

「やめてくださいよ。丁寧語で被るじゃないですか」

 

「えっ、えっ、おぶぇっ?!」

 

「ふふっ……そうだな。ではさっきの命令は取り消しだ。いつも通りの口調のままでいい」

 

「はひっ、ああ」

 

「さて続きだ。≪()ーブ≫の意味は西だったか? あまり聞きなれない古代語はどうにも忘れやすくて困る」

 

「≪()()()≫の意味は保存だ……。()()……おっ!?」

 

「言わせないといったはずだ。少しは学習したらどうだ?」

 

「ちが、違う! 意味の説明を言うところだったんだ! 信じてくれ!」

 

「だとしても迂闊(うかつ)なことだ。そちらは≪コンテニュー≫とでも言い換えろ。意味合いは同じはずだ」

 

「言わせていいんですか?」

 

「これに限らず同じ意味で違う発音の単語などいくらでもある。≪燃えろ≫と言っただけで火炎呪文を暴発させるようなアホは無いだろうが」

 

「それもそうですね。言われてみれば確かに」

 

「コンテニューの意味も差し戻すで合ってる。……俺はどうなるんだ? 一生、地下で飼われるのか?」

 

「なんでそんな面倒な事をしなければならないんですか。殺さないのは事実ですけど、それは死後発動する条件を警戒しているだけです。生かしてあげるのは念のための封印対策が見つかるまでの短い間ですよ」

 

「なんで俺が殺されなくちゃいけないんだっ?!」

 

「そんな反則(チート)を使うからだ。出る杭は打たれる、というだろう? 身に余る力は、かえって身を滅ぼすというものだ」

 

「俺はただ、生き残りたいだけなのに……」

 

「ならばなぜ、お前にとって最良の結果となるようにした?」

 

「そ、それは……。お前だって同じ力を持てばそうするだろ!?」

 

「不快だな。お前のようなクズと一緒にするな」

 

「……」

 

「やはりサルはサルだな。先を考える頭のないお前にはふさわしい能力だと云えるが我々を付き合わせるなよ」

 

「顔が良いというのも考えものですね。こんな男が近づいてくるなんて」

 

「顔しか見なかったからこうなったのだろうよ」

 

「あははっ、確かに──」

 

「──≪ロード≫。油断したな、俺の勝ちだ──」

 

 

────────────────

 

 

「──あれ?」

 

「……この感じだと、どうやら時を巻き戻したようだな」

 

「みたいですね」

 

「なんで俺は縛られたままなんだ……? 昨日寝る前に≪()()()≫したはずだぞ!!」

 

「こんな古典的な罠に引っかかるとはマヌケめ」

 

「ついでに言うと、いま上書きしちゃいましたねー」

 

「……え?」

 

「酸欠とストレスで冷静さを奪っておいて正解だったな。お前の処遇を語って絶望した顔を見てやろうと思ったが気が変わった。なぜ我々が時空制御を察知できたか教えてやろう」

 

「といっても簡単ですけどね」

 

「ああ、ナローマ。お前は考えている事がすぐ顔や態度に出る。おかげで分かりやすくて助かったよ。仮に昨日の夜に戻されたとしても、今日こうなる事は決まっていたな」

 

「捕まる前に逃げ出せば結果はまた違ってたかもしれないですけど、残念でしたね。焦ってすぐ上書きセーブしちゃうアホでした!」

 

「あっ……? しまった! こんな、こんなはずじゃなかったのに……」

 

「一番そう思っているのは、お前の都合で結果を覆された人たちだろうよ」

 

 




以下、雑な設定。

ナローマ:
 TASさんモドキの転生者。時間を巻き戻すチート能力を有するが、セーブ可能な地点は1つまで。記憶は術者のみ引き継げる。テンプレ通り、自分勝手に世界を巻き込んだ結果が本文となった。残機なしなので実は殺されたらそれまでだったりする。
 名前の元ネタは「すべての道はローマに通ず」より。過程は変わっても異端扱いは必定だった。バッドエンド確定の一本道ストーリーでは足掻き様がない。いかにして死ぬかの物語だった。事故は回避できても、どうせいつかは寿命で死ぬのだから。

尊大で男口調なヒロイン:
 女騎士。口調から役割が分かりやすい前衛タイプ。名家の出身なので頭脳も強い。実はナローマの能力により、死ぬはずだった運命を捻じ曲げられている。違和感を覚えたのはまさにその時で、運が良かったで片付けるには都合が良すぎていた状況だった。他に救われたり、都合よく集結したヒロインたちの背景を調べるうちにナローマの特異性を確信した。
 すべて茶番だと勘付いているので好感度はマイナス。いくら恩恵を受けようとも、人道から外れた者に付き添おうと思えるほど人間性を捨ててはいない。助けられたことについても何とも思っておらず、ナローマを倒すことが自分に与えられた使命だと思っている(死ぬ運命だったからといって自殺する気はない)。ナローマが逃げ出したとしても実家や伝手を使って追跡していた。

丁寧口調のヒロイン:
 女神官。口調だけでは分かりにくい、魔法使いや神官といった後衛タイプ。前述の女騎士(仮名)との情報共有により早い段階からナローマを警戒していた。世界を人質に取ったような彼の能力については「それで神にでもなったつもりかッ!!」と言わんばかりにひっそりと憤っている。
 少しブレている感じのする発言は話術によるもの。無駄に不安を煽ったり、普通に煽ったり、揚げ足を取ろうとしたりと少々サド気質。


 今回の着想は雑誌を読む中でうんざりするくらい見させられた、なろう系作品の宣伝より。タイトルは覚えてませんし、設定も大して読み込んでもいません。なんなら作品自体がまったくの未読です。根本的な設定は同じでもシチュエーションまでは同じではないはずなので、今作の分類はインスパイア系から外しています(ただでさえ粗製乱造が進むなろう系界隈は扱いが面倒くさい)。
 クイックセーブ&クイックロードといえばTAS。一部の動画サイト等では親しまれていたりもしますが、法的にはセーフでも心情的にはアウトなグレーゾーンだったりと現実でもちょっとアレな領域だったりします。一応合法ではある点も少しなろう系っぽい要素足り得る。……今回は本当に言い訳(語弊あり)を並べられないほどに中身が無くてどうしようもないです。食傷気味だからといって煮ても焼いても食えないのはどうなのか。山なしオチなし意味なし(文字通り)。


妥協のない惰性(タイトル):
 元ネタは作者自身(自虐ネタ)。任意セーブ&ロードがあるとついつい失敗のないデータを作ろうと躍起になってしまいがち。ゲームで遊ぶよりは作る側が向いているのだと常々思わされます。

未使用のネタ:
 ・なんとか離脱したあと改心して能力を自制していたが、「ロード」という単語が含まれる地名を言ったせいで、対処も忘れた頃の修羅場まで大幅に巻き戻される。
 ・普通に殴り飛ばしたり、死ぬ寸前まで痛めつけてからロードと言わせることを繰り返して精神をすり減らし廃人化。
 ・セーブと言うまで拷問が続く。
 ・ロードを言えないように酸等で喉を焼く。四肢をもぐ。舌を抜く。ついでに目も潰す。ダルマにして定期的にスープを流し込んで生き長らえさせる。

プロット(おまけ):
 セーブ&ロード
 行動が的確すぎて気持ち悪い
 助かったあとに地名でロードといってしまったせいで巻き戻る


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エンドレスへのモノローグ

盛大に何も始まらない!(無限地獄編)

 キーワード:転生 モノローグ 一人語り ニチアサ 悪の組織 ヤンデレ


『あっ、あーテステス。……本来はやっちゃいけない事だとは思うが、俺だけが知っている事をテープレコーダーに言い残しておく』

 

『これは俺のストレス解消も兼ねている。歌いはしないがカラオケみたいなもんだな。溜め込まずに吐き出すことでストレス解消できるって前世で読んだ本に書いてあったと思う……たぶん。まあノートに情報を書き出すのと大して変わらんだろう』

 

『……何から話そうか。まずは現在(いま)の状況からか? 俺はいわゆる転生者ってヤツで前世の記憶がある。唐突に思い出した系だ。前世(まえ)は冴えないサラリーマンだったが、今生(いま)は悪の組織の首領(ボス)だ。よく観ていたアニメだから設定もストーリーもよく覚えている。ニチアサ()となろう系を足したような感じだ』

 

『それで、アニメではこの悪の首領が追放した女の子がアニメのヒロインになる。正義のヒーローは別に居て、ヒーローはヒロインと出会うことで3話目から大幅パワーアップして無双していく欲張りなアニメだ』

 

『俺はあの娘を追放できなかった。……いや、言い訳をさせてくれ。俺以外がこのテープを聴くことはないんだが、それでも弁明させてくれ』

 

『ヒロインの名前は来禍(ライカ)といって名前の通り災いを運んでくる、悪の魔法少女だ。……この設定は組織内でも有効でな、これが追放の原因になるんだ。事実、来禍(ライカ)と一緒に出撃した怪人どもは全員殉職……ヒーロー側にやられている。何度もボロボロになって帰ってくる来禍(ライカ)を、悪の首領は役立たずだと言って切り捨てるのが本来の展開(ながれ)だ』

 

来禍(ライカ)は元々悪の組織がさらってきた孤児で、自分に存在価値を与えてくれた悪の首領に忠誠を捧げているってのにひどい話だな。双子の妹の隷禍(レイカ)は追放されず、そっちは組織に残り続けて姉妹同士で争う展開がしばらく続くから、これがまた(わら)えない』

 

『一応、来禍(ライカ)はヒーロー側に寝返ったことで新たな存在()()を得て再出発するんだが、アニメでは簡単な心情描写をするだけでその真相は語られない。元居た組織と対立することで恩人である悪の首領に自身の存在価値を示していたとか、自分はだめで同じ顔をした妹は恩人の隣に居られる理不尽さを呪っただとか、これは設定資料集にしか載っていない裏設定だ。……ちょっとヤンデレっぽいな』

 

『そんな激重感情を向けられるのは俺が嫌だったから初っ端から原作ブレイクした。恩人に認めてもらうために歯向かったり、実の妹とまで戦わせるとかちょっとなぁ……。元一般人には胃とか心が痛む。アニメの世界だからってその通りに動かなくちゃいけないって事はないし、こうして原作ブレイク出来たってことは強制力も大して働いていないはずだ』

 

『ちなみにヒーロー覚醒のキーは、心から守りたい大切な人を増やすことだったりする。好きな人が増えるほど強化されるとか、なろう系特有のハーレム要素をうまいことねじ込んできてるな。来禍(ライカ)の不幸体質……あぁ、妹の隷禍(レイカ)がノリノリで姉と戦う理由のひとつでもあるんだが、それをヒーロー補正で抑え込んでいると見せかけて実は組織に敵意を向けているからヒーロー補正はまったく関係ないって裏設定もある。来禍(ライカ)は依存している相手を不幸にする体質なんだ。隷禍(レイカ)が組織に残れたのは名前の通り無害だから。()()ヤバイ設定を持ち込むところはなんか女児向けっぽい』

 

『ヒーローの元へ送ることが来禍(ライカ)の救いになるならちょっとは考えたんだが、俺に依存したままならやる意味がない。心に傷を負った子供は自分を満たしてくれる相手……心の穴埋めをする代替品を自然と求めるらしいんだが、追放後も俺に気持ちが向いてるならヒーローの元へ送っても何の解決にもならないし、もしも語られないエピローグ後に梯子でも外されて孤独になったらより悲惨だと思う。ここは女児向けの()()()のせいでまったく安心できない』

 

『ニチアサ因子のせいで多少薄まっているとはいえ、なろう系といえばハーレムだ。ヒーロー視点ではたかが1ヒロインは代替品にも()()()にもならないのはかわいそう過ぎる。子供向けだから告白イベントは無いし、来禍(ライカ)の不幸体質がヒーロー相手に発揮されないってことは、感情は悪の首領に向いたままってことだし……。なんだこのドロドロの地獄。裏で負の要素を掛け合わせてくるな』

 

『なんか愚痴っぽくなってきたな……いや、ストレス解消の観点からしたら間違ってはないんだが。まあ、なろう系ならヒロインの数が1人減ったくらい大丈夫だろう。ヒロインが抜けた穴はどうせ別の誰かが埋めることになると思うし、来禍(ライカ)の穴には俺が埋まり続けるんだから……あぁ、なんなら悪の組織陣営を勝利させてもいいな。俺は首領だし、世界征服後も裁量権があるのは大きいし、俺も進んで死にたくはない』

 

『まあ、そこはなるようになれだ。とにかく来禍(ライカ)の為にならない事は保護者(おとな)として許容できない。恩人を殺して想い続けるのは誰の為にもならないだろ。ヒーロー陣営には悪いが俺のワガママに、根競べと意地の張り合いに付き合ってもらう。……さてさて、とりあえず無事を労ってやったはいいが、初手抱擁はやり過ぎたか? 前世の記憶が急によみがえって気が動転していたのもあるが、わかりやすく承認欲求は満たせたはずだ。わかりやすく幹部達に誤解もされたが。……はぁ、彼らに対する根回しはどうやったものか──』

 

「……ふふっ」

 

「お姉ちゃん、何聴いてるの?」

 

「なんでもいいでしょ。それより何か用?」

 

「あ、うん。首領様(おとうさま)が新しい装備試験をするからってお姉ちゃんのこと探してたよ」

 

「そうなんだ。膠着(こうちゃく)状態の()()()()()()()()()()もんね。……あの方に必要とされるならずっと続いててもいいけど」

 

「え? よく聞こえなかったけど、なんて言ったの?」

 

「ううん。なんでもない。それより早く行こ」

 

 




以下、雑な裏設定。

悪の首領:
 モノローグ担当。本文の殆どを担当。大戦犯。転生者。変にストーリー介入したせいでエンディングを迎えることのなくなった現状に胃を痛めている。ヒロインが光堕ちしなかったことでこの世界に強制力が存在しないことを確認しているので、いつか戦いが終息するものと思っている。来禍の放流≒自身の死なので手放す気はゼロ(強制力がないにしても死亡確率は跳ね上がると見ている)。
 幹部派閥は首領パパ派と首領ロリコン派とに別れた。水面下ではママ役立候補したい派と生暖かく見守る派がバチバチとさらにやりあっている。酒池肉林のハーレム派閥はヒーロー陣営のこともあり自然消滅した。

来禍(ライカ):
 双子の姉の方。体質的に不幸を運んでくるヤンデレ魔法少女(悪の組織産)。光堕ちしたと見せかけて実は心の内はドロドロの闇のまま……というのが正史でのお話。一途なパパ大好きっ子(恋愛寄り)。
 本文では好きなあまり盗み出した音声ログを聴いて大変ご満悦。首領はすべて知っていて自分という存在を受け入れている=両想いだと思い込んでいる。正妻(気取り)の余裕から心にゆとりを持てている。
 彼女が光堕ちしない限り、両陣営のパワーバランスが激変することはない(抱えるだけで終わるなら悪の組織はとっくの昔に滅んでいる)。組織にとって彼女を敵に回すことが最大の不幸となる。

隷禍(レイカ):
 双子の妹の方。パパ大好きっ子2号で、悪の魔法少女(親愛寄り)。本来の正史では自分だけ首領様に必要とされている事実に高揚していた。辿るべき歴史が捻じ曲がっても姉共々必要とされているので特に何も変わっていない。姉のことは空気程度に思っている(居ても居なくても自分の幸せには影響しない)。単なる同居人程度の認識。
 名前は『隷→零』とすることで無害の存在となる。隷のままでも組織に隷属している意味で通る。

ヒーロー陣営:
 一番の割りを食った陣営。来禍の不幸補正(と戦力)≒確定勝利を失ったせいで泥沼の戦争に突入した。代わりとなるヒロインの加入こそあったが、首領の読みどおりただの穴埋め程度にしかならなかった。
 膠着状態のストレスもあり陣営の空気はバトル路線から恋愛路線へと切り替わり、そっちの意味でも泥沼になりかけている。ハーレム要素が足を引っ張り始めた。


 今回は昔書いた未公開小説の設定流用、リサイクル品です(双子の妹が姉になりすまして既成事実を作ったり立場を乗っ取ったりしてメチャクソやらかす彼氏NTRモノ)。本文は物語のキーを動かさなかったせいで事態は何も動かず、延々と戦い続ける血生臭い日常系時空へと突入しました。
 設定を延々と独り語らせるのは転生系でよく見る導入の仕方ですが、そこで打ち切ったら本当に何も始まらないですね(他人事)。

エピローグ後に(続編が)とんでもない事になった例:
 ・殺された未来が復讐に来る。
 ・主人公を復活させたらラスボスも復活した。
 ・10年後に未婚のシングルマザーになる。


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新月の茶番劇

良かれと思って……(大迷惑)。

 キーワード:裏社会 組織 ケジメ 銃 近代(現代)


「これも組織のオキテだ。……すまんなぁ、手間をかける」

 

「くっ……、ひと思いに殺せ!」

 

「──そうはさせない! 待たせたな!」

 

「なにっ!? 何だお前は!」

 

「正義の味方ナローウィン、ただいま参上ってな!」

 

 

────────────────

 

 

「やぁやぁ、ナローウィン君……だったかな? じつに4日ぶりだねぇ」

 

「お前は……このまえの!」

 

「まあ待ちたまえ。君はこの広場に居るカタギの連中を巻き込むつもりかね」

 

「!」

 

「そうだ。我々としてもあまり目立ちたくはない。話がある、ついてきたまえ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「ほう。事情も知らずに1人の人間の人生を壊しておいて嫌だと言うか。それでも男……いや、それともそれがヒーローの在り方なのかな?」

 

「事情?」

 

「そうとも。何事も原因と結果で繋がっているのが道理だ。──ではあの晩、なぜ彼女が殺されかけたか、君に分かるかね?」

 

「そんなもの、お前たちの私利私欲のためだろう」

 

「……分かってない、分かってないねぇ君は。分からないか。そうであるならば尚更(なおさら)ついてきたまえ」

 

「……」

 

「彼女も居るよ。では我々は先に行く。来たくなったら来たまえ。少しだけなら待っていてあげよう」

 

「なに……? ──クソッ」

 

 

────────────────

 

 

「ここは……」

 

「ここは我々が所有するアジトのひとつだ。さあ感動のご対面だ」

 

「──あっ!」

 

「無事か、ルーザ!」

 

「ナローウィン、テメェ……よくもアタシのまえに顔を出せたなっ!!」

 

「は……? 君が捕まってると聞いて──」

 

「テメェのせいだっ!!」

 

「ルーザ? ……ルーザに何を吹き込んだッ!」

 

「吹き込んだもなにも、彼女には真実を教えてあげただけだ。あの晩、君が台無しにした茶番のね」

 

「人を殺すことが茶番だと? ふざけるな!」

 

「ふざけてなんかいないよ、我々は大真面目だとも。見せしめを行なったという事実を作る必要があったんだ」

 

「俺の()()は殺させない!」

 

「……だ、そうだがルーザ君の方はどうかね?」

 

「今すぐあのアホヅラをカチ割ってやりてぇっすよ……!」

 

「な、なんでだよ……ルーザ! どうして!」

 

「んなもん、テメェが全部台無しにしたからだ! 偽装工作だって知ってりゃ、邪魔はさせなかった!」

 

「……?」

 

「我々の世界ではね、何かしてしまったら簡単に許すわけにはいかないんだ。周りの者を納得させるためには反省した証を立てなきゃならないのだがねぇ……彼女はとても優秀でねぇ、小指だろうと詰めては能力が下がると私は危惧したんだ」

 

「……」

 

「そろそろ分かってきたかね? 不自然には思わなかったかね? あの晩、あの部屋には私たちのほかには数名の護衛しか居なかった。外に見張りを立ててはいたがね、あれ等は中の騒ぎを聞かせるために配置してあったのだよ」

 

「……!」

 

「私は組織の幹部だ。幹部である私が彼女を殺したと認めれば、周りの者も認めざるを得ない。……たとえ、名前の違う凄腕のそっくりさんが組織に新しく入ってきたとしてもねぇ」

 

「じゃあ、俺は……」

 

「ああ、せっかく彼女の為に用意した免罪符を君は台無しにした。そろそろ理解したかね?」

 

「あ……あ……、ああ、そんな、俺は、いや」

 

「先ほども言ったが、私は彼女にはとても期待していてねぇ……彼女の為に新しく茶番劇を用意したんだ。──さあ、ルーザ君。これを握りたまえ」

 

「これは……ヤーさん、まさか」

 

「これが組織……いや私がしてやれる最大限の譲歩だ。君には手間をかけさせてばかりだ、すまんなぁ」

 

「そこまでアタシのことを……、へへっ……あっはははっ!」

 

「おい、ルーザ……? なんで俺に銃口を向けるんだ……」

 

「さて、待たせたね。何事も原因と結果で繋がっているのが道理だ。彼女の為に、ひと思いに死んではくれないかね?」

 

 




以下、雑な設定。

ナローウィン:
 正義の味方気取りの青年。主人公補正によりそこそこの強さ。仲の良い女友達(ヒロイン)のピンチを救ったつもりが、逆に状況を悪化させていた。変に首を突っ込まなければ全て丸く収まっていた。この状況は彼が作り上げたも同然なので、彼が死ねば全て丸く収まるのだが……。

ヤーさん(愛称):
 ルーザ(ヒロイン)が所属する裏組織の幹部にして穏健派。人材の浪費を嫌っている、イヤミったらしい口調の中年男。人情味と効率化に溢れるインテリ系。色々と手広くやっている組織の中でも思考が現場寄り。
 ルーザへと前以って通知しなかったのは失策だったが、リアリティを出すためには必要なことでもあった。
 本文の終わりに、理路整然とナローウィンを撃つことをルーザに求めた。あえて許すことで恩を着せ、動かしやすい手駒を増やすという意図もある。これには甘いという見方もあるが、ルーザに対する信用は彼に限らず第三者にも確実に生まれる(ヤーさんによって身分が保証されるため、二度と裏切れなくなる)。情けをかけた相手は彼女以外にももちろんいる。

ルーザ:
 粗暴口調のヒロイン。少女。歳の割りには凄腕の殺し屋で、ヤーさんのお気に入り。
 名前は「ルーザー(仕事や人間関係で失敗した人)」より。ナローウィン(勝者)と対になっているが、彼女は失敗しただけで敗者ではない。まだ。


新月の茶番劇(タイトル):
 新月=暗闇(お先真っ暗)=闇に乗じて事を起こす、また、これから月齢が増していき満月に近づく=復権を意味している。その暗喩。ついでに前書きのネタ要素も含んでいる(良かれと思って)。


Q.なぜナローウィンは撃たれなければならないのか?
A1.ヤーさんの顔に泥を塗ったから。
A2.単純に組織にケンカを売っている。
A3.状況的にルーザが身を寄せる先だと思われてしまっているため(可能性の排除)。
A4.分かりやすい拠り所を自分の手で消させて忠誠心を示させる。

Q.で、ナローウィンはこの後どうするの?
A.今すぐ死ぬか、後で死ぬかの二択。

 よく知りもせずに自己満足のために首を突っ込んでいったので死ぬのは残念でもないし当然の報い。ここで断ったら責任も取れないクソ野郎が爆誕する……とはいっても流石に自分の命までは差し出せない。彼を殺すことがルーザのケジメなので逃げても以後、彼女に付け狙われることとなる。そうしてヤーさんが庇いきれずにルーザが処刑されることになれば、間接的にナローウィンが殺したことになる。死ぬか悔やむか。悔やまなかったらクソ野郎度がさらに加速する。
 そんな問題の先延ばしを嫌ったヤーさんがどちらが今討たれるか迫った場合、ナローウィンとルーザが手を組めば状況を打破できなくもない(彼女は本文中に大変キレ散らかしているが)。ただし組織のメンツに関わる問題へと発展するのは想像に難くなく、穏健派およびヤーさんの立場も悪くなる。それまで以上に殺意増し増しでやってくる相手を片付け続けなければならない。相手が諦めるまで。また、裏社会でのルーザの信用はどん底にまで落ち込むことになるので裏ではもう活動できなくなる。さらに云えば、組織からの追っ手を倒し切ったとしても、過去にヤーさんの温情に助けられた者が幸せの絶頂を狙って忘れた頃に殺しに来る可能性もあるのでハッピーエンドは確定しない。家庭を持てばそれが弱味となり狙われてしまう。その頃には凶行を止められる上の人間も居なくなっている。そのほか命令の有無によらず先走るヤツの対処も必要となる。敵は多く、親戚がいればそちらも危ない。最善は落とし所を新しく用意するか、相手に損だと思わせること、相手組織を潰さないこと。どうあがいても禍根は間違いなく残る。


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蠱毒の愚琉雌 -コドクのグルメ-:【閲覧注意】

冷静に考えてみると、なろう系コンテンツって性差別の助長なのでは?(禁止議題)
 ・後書きの支配スキル説明に補足を追加(2023/8/8)。

 キーワード:R-15 男尊女卑 転生 TS NAISEI(内政) シェアード・ワールド


「ここが異世界か~! まるでテーマパークに来たみたいだぜ。ワクワクするなぁ~!」

 

「……異世界? テーマパーク? そこの者、止まりなされ……」

 

「なんだよ、じいさん。オレは今TS転生したばかりでテンションマックスなの! 邪魔すんなよー、も~」

 

「ワシも転生者じゃ。……100年前のな。この世界は100年周期で異界の魂を欲しておる」

 

「なっ……、オレ以外にも居るのか。ということは、転生者はオレとじいさんだけってか」

 

「この手帳は転生者たちが代々引き継いできた()()じゃ。渡せるうちに渡しておこう。それとこのローブも被りなさい」

 

「わっ、ちょ……じいさんが被ってたローブなんて着れるわけないだろ。常識的に考えてさ」

 

「むごいめに遭いたくなければ被るのじゃ」

 

「でも」

 

「いいから! 早くっ!!」

 

「う……わ、わかったよっ」

 

「──おい、そこのお前。なぜ裸になっている?」

 

「おぉ、ヒロシや。ワシじゃよ。タカシはどこかのぅ?」

 

「……ふん、ボケたジジイめ。まぎらわしい」

 

「行ったか……。説明が遅れたが、お主が女だということは他人には絶対に悟られてはならん。特に今のような衛兵たちにはな」

 

「え? じゃあ今の変な演技っぽいのはオレを庇ってたのか? なんで庇う必要があったんだ?」

 

「ワシら転生者のツケじゃよ。……まず、実質転移してきたお主にはこの世界に戸籍が無い。何十代も前の転生者が浸透させた戸籍管理の概念のせいで、身元が保証できるものがなければ即刻(そっこく)奴隷堕ちなのじゃ」

 

「言われてみれば確かに……。戸籍を取得するためにはどうすればいいんだ? どこに行けばいい?」

 

「それは無理じゃな。出生後3日以内に届出を出すことが決まっておるからの。取得できるのは新生児だけじゃ。戸籍法は転生者をいつでもあぶり出せるように用意された制度じゃ。バレたら何をされるか分からんし、お主が女なのもまずい」

 

「女じゃダメって……、ここは男尊女卑の世界なのか?」

 

「いや違う……いや違わない。そうじゃな、順を追って話すが、つい数代前までの時代ではハーレム結成による情勢破壊が危険視されていた。上流階級は契約結婚が常識じゃからな。安定を維持するためには、その商談を破壊する転生者の存在は邪魔なのだろう」

 

「でも今のオレは女だぞ。百合ハーレムは作るかもしれないけど、女同士で結婚はする気はないぞ。法的に結婚できるか分かんないけど。だったら関係ないんじゃないか?」

 

「順を追って話すと言ったろうが。結論を急ぐでない。ワシの先代転生者……お主からすれば2代前の転生者が≪女の心を支配する≫能力者じゃった。そやつのせいで、ただでさえ落ちていた女の()()()()()は地の底にまで堕ちた」

 

「女を支配する能力って、TS転生に対するメタかよ……。でも、もう死んだんだろ?」

 

「ああ確かに死んだ。だが世界は第2の支配者の降臨を恐れておる。人間はどこまでいっても男か女か、結局そのどちらかじゃ。世界は対策を講じた。女から基本的人権を剥奪するという暴挙を()ってして──今では家畜以下の扱いじゃよ()()奴隷はの。男女が手を取り合い助けあっていた時代は終わりを告げた。今は男が微笑む時代となったのじゃ」

 

「んなアホな」

 

「ではどうやって女を支配できる者は存在しないと証明する? 女は操られ、役を()いられるだけの存在ではないと誰が保証できる?」

 

「そんな小学生みたいなこと……」

 

「それが世界の選択じゃ。お主がどう思おうが、ここはそんな世界なのじゃよ。少なくとも男という種を(まど)わした者はおっても、支配した者は(いま)だ現れてはおらぬ」

 

「だったら、オレはどうしたらいいんだ? 何をすればいい?」

 

「知らぬよ。ワシはもう疲れた。渡すべき物も渡した。後は自分で……なんとか……し、ろ──」

 

「おい、じいさん? じいさん! ……死んだのか? ウソだろ……、どうして急に……」

 

「──そこのお前。何を騒いでいる?」

 

 




以下、雑な設定など。

Q.ストーリーをもっと簡潔に解説しろ。
A1.女をトロフィー扱いしすぎた結果、動物未満の扱いをされるようになった。
A2.よって、TS転生して晴れて女となった、なろう主人公君の明日は暗い。
A3.頼れる味方は誰も居ない。孤立無援の無期限スニーキング・ミッションが始まる。


TS転生者(元男):
 主人公ちゃん。歴代転生者の業を背負わされ、溜めに溜めたツケを支払わされるという、特大の貧乏くじを引かされた。先代よりもハードモード。人の尊厳を保ったまま死にたいなら、今すぐ自殺するしかない。たとえるなら、生まれながらの邪教徒。具体的に表すなら常に手配度5。

じいさん:
 先代転生者。転生者だと絶対に気付かれてはならない制約の下、町をまたにかけた残飯漁りで生き長らえてきた。次の主人公へと手帳(重要アイテム)を託したことで、それまで張り詰めていた気が抜けてしまい、あっさりポックリ逝ってしまった。
 彼もまた、自身が思い描いていた物語を演じることは叶わなかった。

女の心を支配する能力(先々代転生者):
 作中で定義が明かされていない能力。女の肉体(脳)を支配し操れるのか、女の精神(魂)を支配できるのか。一応は前者扱いされているが、後者であると判明した場合には、より世界は歪になることが決定される。

作中における女性の地位:
 精子バンクの母体版として施設に収容されている。ただの産む機械であり、働く自由さえ許されていない。ペット扱いですらない。男女の恋愛は当然なく、経済動物の血統図のように男同士で血筋を自慢しあうことが一般的である(兄弟として見られるのは父親が同じとき)。なお、現実の世界にも一次性徴を迎える前の男児に性転換手術の前準備をしておき、二次性徴期に再度、性転換手術を施して娼婦へと加工する、人を物品であるかのように扱う文化は実在する(ソースは紙媒体で現在は喪失)。

蠱毒の愚琉雌(タイトル):
 蠱毒=孤独。毒を収める容器は汚染されきっており、中の蟲も1匹しか生き残っていない(主役に成れる転生者は1人だけ)。
 愚(ぐ)=自重もせずに垂れ流され続けた転生者たちの欲望。
 琉(る)=かつては人名用漢字とは認められていなかった。なろう系といえば中世ヨーロッパ風が基本なので、したがって古臭いイメージが付く。多様性という便利ワードが認められなかった、そういう時代を指している。また、その世界では転生者の存在は認められないといった含みもある。
 雌(め)=女。もう女と呼ばれることのない世界だということ。結果なんか暴走族っぽい語呂合わせに(違う意味で暴走した世界ではあるが)。総じて食傷気味な胃へのトドメか。


 今回の着想は知人宅で読ませてもらった、とある少年向けなろう系雑誌より(一応雑誌名は伏せます)。最近の一般誌や少年雑誌は絵・内容ともにギリギリまで攻めた表現がすごくて(暗喩や想起させるものではなく性器を描写しないだけの直接的な性行為など)、少女雑誌のほうもイケメンに舌で便器掃除させたりするし(少女マンガが色んな意味で一部ぶっ飛んでいるのは昔から続く伝統ではある。直球な性的表現もわりと豊富)、資料として買ったつもりがいったい何を読めばいいのか。ハーレムを通り越してゲームだからと理由つけて無理やりヤってしまったり、女に自由意思や自分の意識なんて必要ねえ男に肉体を操作されてろ、してる作品があったりと、なんかすごくすごい。少なくとも年齢制限のない雑誌に掲載できる以上、一般的な価値感なのでしょう。たぶん。私には合いませんでしたが。
 余談となりますが、小学生の頃に教員のイタズラでスナッフビデオ類を視聴させられたことがあるのですが、その内容のひとつに人間の飼育記録がありました。言葉などを一切学習させずにケージ(檻)に入れて飼育するとどういった成長の仕方をするのか。結果は心身共に人間的な成長はしない、でした。精神面はもちろんのこと、肉体的にも身長はあまり伸びず(檻という狭い環境だからか?)。教材とすることで体裁を取り繕っていたので、さらに人間的な教育を施した場合は取り返しは付く、とありました。直接的な表現は避けますが、つまりまあそういうことです。作中のTS転生者ちゃんに味方と云える者は誰ひとりとして居ません。あらゆる意味で。


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ホモの勇者はやりたがり

正直すまんかった。

 キーワード:R-15 ギャグ 勇者 召喚 策略 腹黒 褒美
       パロディ ホモ 同性愛 純愛 BL


「いよいよ明日じゃな」

 

「はい、国王陛下。いよいよ明日、勇者召喚の儀にございますね」

 

「たった1冊の古文書にこれだけの年月をかけ、ようやく解読できた。……しかし、これで魔王軍との長きに渡る戦いに決着をつけられる」

 

「左様にございますね」

 

「うむ……。貴族共との打ち合わせもすでに終えてある。召喚される者がどのような俗物だろうとも戦力にさえなればよい。利用し尽くしたあとは古布のように捨ててやろうぞ」

 

 

────────────────

 

 

「おお……! 勇者様が3人も……来たぞ、(みな)! これはすごく……すごいです! すんごぉいっ! 説明不要ぉぉぉっ!」

 

「ほぅ、我々人類の勝利は圧倒的ではないか!」

 

「ゆ、勇者……? ここはゲームの世界なのかな?」

 

「いや、異世界だろ。昔からある王道展開じゃん」

 

「へぇ、ここが異世界……見事なものだね」

 

「突然のことに戸惑っておるじゃろう。だが、我が呼びかけによくぞ応じてくれた。早速じゃが、お主たちには魔王を倒してもらいたい」

 

「褒美は?」

 

「望むままに与えよう」

 

「それなら俺は金銀財宝がいいかな。どうせ元の世界に戻る気ないし」

 

「判断が早い! じゃあ、僕は王女様と結婚したいな。あんなにかわいい子、あっちの世界にもいないよ」

 

「私は……貴方が欲しい」

 

「む……? 王座を欲すると申すか。全てはお主たちに掛かっておるのだ。まあまあ、よかろう」

 

「いえ、違います。私を貴方の(そば)においてほしい」

 

「ふむ。余の(そば)に勤めたいとな。では騎士団長の位を用意して──」

 

「いいえ、それも違います」

 

「では、何なのだ? そなたは何を望むというのだ?」

 

「王様との結婚を望みます」

 

「なっ……、なんとっ!?」

 

「おまっ、お前……ホモだったのかよぉっ!?」

 

「うわぁ……」

 

「そ、それはいかん。それはいかんぞ、ホモの勇者よ。よく考えるのじゃ」

 

「失礼ですが、王妃の座は空席なのでは?」

 

「それはそうじゃが……。今の話とは関係なかろう?」

 

「いえ、あります。王様ともなると、それはもう尊い身分にあると思います」

 

「うむ」

 

「で、あれば。世継ぎを残すことは当然のことだと思います」

 

「うむ」

 

「しかし、王女様が居るならもう残したといえます」

 

「うむ。……つまり何を云いたいのだ?」

 

「子供を作りすぎると後継者問題で揉めるから、後妻は取ってないんですよね?」

 

「うむ……。その考えは間違ってはおらぬが」

 

「ですので、王様と結婚したいなぁ、って」

 

「なぜそうなる?」

 

「いや、ホントなんでなの」

 

「お前、いままでホモの素振り見せてこなかったじゃねーか。なんで急に、どうして急にそうなった」

 

「男同士なら子供はできないだろ?」

 

「そりゃまあ、そんな魔法があるなら話は別だけど、普通はできないもんだな」

 

「まとまった財産がほしいわけじゃないから、どうにかして捻出する必要もないだろ?」

 

「まあ、一括払いはきついかもしんないけど……」

 

「王様の伴侶なら権力争いとか面倒くさそうなのスルーできそうだろ?」

 

「確かに、爵位でも与えられたらありそうな展開だな。何考えてるか分からない新興貴族なんて、ほかのヤツらには目障りかもな」

 

「その点、男同士なら世継ぎが生まれる心配はないし、財宝も一括払いじゃないなら国庫に負担はかからないだろうし、爵位が欲しいんじゃなくて王様がほしいって言えば全部丸く収まるだろ?」

 

「いやまったく意味が分からんぞ?」

 

「……」

 

「てか冷静に周りを見ろよ! 見渡せよ! 王様も王女様も文官たちも全員呆然としてんじゃねーか! この老け専ホモ野郎!」

 

「中年好みなら僕たちはセーフだよね?」

 

「安心しろ。私は王様にしか興味ない」

 

「聞けてよかった」

 

「そんなこと言うなよ! 王様たち、おつれぇ顔してんぞ!」

 

「でも望むままに与えるって」

 

「想定してねーよ、こんなん!」

 

「いやお前に答えられてもな……。──王様」

 

「お……、オゥッ?!」

 

「男に二言はないですよね?」

 

「そ、それは……」

 

「娘はよくて親はダメって理屈は通らないですよね?」

 

「む、むぅ……」

 

「期待しても……いいんですよね?」

 

「舌なめずりやめろ」

 

「王様がケツを差し出すだけで世界が救われるんですよ?」

 

「代わりに王様の心が闇の世界に閉ざされそうだけどな」

 

「それも何の負担もなく」

 

「心労とケツの負担は考えたか?」

 

「さあ、ご決断を」

 

「ケツだけに?」

 

「ケツはもう断たれてるよね」

 

「それは割れてるっていうんだよ。退路は断たれてるけど」

 

「ぬぅ……、くっ……!」

 

「ケツを差し出すのが嫌なら、私がケツを出しますよ?」

 

「ケツを叩くんじゃない。いやそういう意味じゃなくて決断を迫るんじゃない」

 

「無敵だね」

 

「さあ……、さあっ!」

 

「どや顔でメガネクイッてすんのもやめて差し上げろ」

 

 

────────────────

 

 

「……色々と想定外の事態が続きましたが、どうにか送り出せましたね……」

 

「そう、じゃな……」

 

「陛下?」

 

「ケツの勇者だけは許そうと思う」

 

「陛下っ!? ご乱心なされましたかっ!?」

 

「余は正気じゃ。……あれだけの好意を無碍(むげ)にしてしまってよいのかと思うてしもうたのだ」

 

「されてしまってもよいのでは?」

 

「確かに男同士じゃ、異常じゃろう。……じゃが、じゃが。本当の意味で余をみてくれた者はあの者が初めてじゃったのじゃ。平民も、貴族も、そして側近のお前も、余の娘でさえも。余自身ではなく余の地位しか見ん」

 

「……」

 

「故に見極めたいと思うたのだ」

 

「御身を差し出すほどだというのですか」

 

「うむ。あの者は鍵じゃ。余という閉じた扉を開く鍵なのじゃ」

 

「……それは。本当によろしかったのですか?」

 

「ふふふっ、じゃが余も王らしく傲慢なのでな。簡単に差し出すつもりはない」

 

「では……!」

 

「勇者よ探せぇっ! この余のすべてが置いてあるそこを! この欲を解き放つことができねばお主は処刑じゃ、処刑なのじゃ! ふはははっ!」

 

「えっ」

 

 




以下、雑な設定。

ホモの勇者(私):
 王様のケツを狙う鬼畜眼鏡。得意技は論理武装だが、住んでいた世界が違うので倫理までは武装できていない。絶した倫理で絶倫の男。ある意味で飛びぬけてヤバイヤツ。王様側の策謀を予想・見抜いたということはなく、普通に欲望のまま王様を欲した変わり者である。元居た世界でもLGBT団体は活動こそしていたが、いざこざを恐れて自分では行動を起こすことはなかった(彼にとって同性愛は心の病気などではなく、ただの特殊性癖や性的嗜好にあたる)。今回、身ひとつで異世界へ渡ったことで結果的に守るべきものがなくなり無敵の人と化した。友達はいるが家族はいない。頼まれる側なので実質、上の立場にある。交友関係、社会的地位、自身の欲望……その他諸々を鑑みた言動でもあった。「ホモ」と呼ばれたり「ケツ」と呼ばれたり愛称は豊富。文字通りの意味の狂言回し。狂言そのもの。

財宝の勇者(俺):
 普通の一般男性。性癖も普通で特に捻っても、捻じ曲がってもいない。勇者3人集は普段から集まって遊ぶ友達の仲にある。ツッコミを担当。

姫好きの勇者(僕):
 普通の一般男性。三バカ勇者のボケ担当。自分が無事ならそれでいい。万事オッケー、オールオッケー。

王様(国王陛下):
 生贄にするつもりが生贄にされた人。中年男性。召喚した勇者たちを口先三寸で騙して魔王を倒させたあと、褒美を渡さずに始末しようと計画していたが、ホモによる熱烈なアプローチにちょっとでもキュンと来てしまったのが運の尽き。痴れ者の行く末を見てみたいと思ってしまった。本文ラストから読み取れるように恐怖と恋の予感から、正気は確りと失っている。安心してほしい。


 よく友人に「シラフで狂気の沙汰を直視できるのすげえ」と云われてます。気が向いたら後書きの内容を充実させるかもしれません。


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いれるもの

今回はいくらか趣味に走りました。やややっつけ。

 キーワード:R-12 教会 聖職者 源氏物語 乗っ取り 憑依


「……」

 

「おや、味が合わなかったかな? ここは私のオススメの店なのだがね」

 

「……()()様。あの兄妹(きょうだい)を引き離す事はなかったのではありませんか?」

 

「ふむ。君は堅い(くち)かね?」

 

「は? ……まぁ、それなりには」

 

「では、君はまだ()()の身ではあるが、君を信じていくつかの秘密を教えてあげよう。──≪十二司教≫になるとね、神から≪ギフト≫なる力を授けられるのだよ。私の場合だと≪未来視≫が可能だ」

 

「先の事が分かるということですか? だから妹の方を教会で確保したと」

 

「察しが良くて助かるよ。あの兄妹の未来を視たのだが……──怒り狂った兄が村を滅ぼす姿が見えた」

 

「……どこか人見知りのような印象を受ける青年でしたが、そんな事をするとはとても思えません」

 

「そうだろう、そうだろうとも。だからこそ、私はこの≪ギフト≫を重宝しているのだよ。今では私よりも()()()()()()()()とまで思ってしまうくらいにね。この眼は見えない脅威を教えてくれる」

 

「司教様は大変ご立派かと」

 

「世辞でも嬉しいよ。……話を続けようか。と言っても女性である君とは少し話しづらい内容ではあるのだが構わないかね?」

 

「この身は神に(ささ)げています。性別なんて関係ありません」

 

教会(ウチ)は聖職者の婚姻を認めているのだがね。まあ分かった。では語るとしよう。……ときに君はデザートは好きかい? それもチェリーの乗ったパフェだ。君は最後にチェリーを堪能しようと残しておいたが、君はチェリーが苦手なのだと勘違いした同僚が横から手を伸ばして食べてしまった。……さてどう思う?」

 

「たとえ話ですか? 良い気分はしないですね」

 

「程度はどうあれ、そのせいで十数年後に虐殺が起きるところだった」

 

「……はぁ? チェリーひとつで? そんなまさか」

 

「今のたとえ話を現実的な要素に置き換えてみよう。世の男性は当然だが女性が好きだ。それもチェリー……処女を好む。件の青年は熟した女の肢体を堪能しようと長い年月を待つが、魔族は処女膜を持たないものとは知らず、村の男が妹に手を出したのだと思い込んで凶行に走る。……さて、この話を聞いてどう思う?」

 

「なるほど……処女は信用そのものですし、仮に貴族だったら婚約破棄になるかと。既婚者なら離婚もありえますね……。ですが平民の兄妹ですよ? それもひと回りくらいも歳が離れているのに。信じられない」

 

「私にも10も離れた姉がいたが、性的興奮を覚えたことなんて一度もない。それよりも呼称が気になった。兄妹、兄妹と我々は呼んでいるが、実際に妹が何と呼んでいたか覚えているかね?」

 

「いえ。気にも留めませんでしたが、何と呼んでいたのですか?」

 

()()()()、だよ。10代半ばから後半にかけての男性を普通そう呼ばせるものだろうか? 里子に取っていたとしても不自然だ。そしてあの村に富豪の家などない。……おそらく、捨て子なのだろうな。そうであれば遠慮など失くなる。自分は親だと刷り込めば、子は従うべきなのだと思い込む。他に頼る先も無いのだから。最終目的は娼婦か性奴隷の類いとしての使用と考えるのが妥当だね。小児性愛者(ペドフィリア)でなかった点が唯一の救いだろうか」

 

「確かに……。我々がそう捉えたように、兄と呼ばせるのが自然ですね。それにしても、なんて(おぞ)ましい……」

 

「まあ≪未来視≫を元に立てた、ありもしない動機の推理だがね。……介入しなければ、必ず起きてしまう未来だというのがなんとも言えないところではあるが」

 

「……あの娘はどうなるのでしょうか? 魔族だから保護をやめて殺すのですか?」

 

「いいや。殺さないよ。都合の良いことに角さえ隠せば人間にしか見えないしね」

 

「そうですか。それを聞いて安心しました」

 

「本当に、あんな都合良く()()()()()()が見つかるとは思わなかったよ。おかげでしばらくは後任のものを探さずに済む」

 

「……え?」

 

「今の話で、この≪未来視≫は教会になくてはならないものだと分かったことだろう。元々の予定では、まだ幼さの残る貴族令嬢である君を()()()()つもりで近くに置いていたが、これでひと安心だ」

 

「……わたくしを消すつもりで話したのですね」

 

「察しが良くて助かるよ。君の身柄は別の≪十二司教≫の下へ送るとしよう。しばらくの余生を楽しむといい」

 

 

────────────────

 

 

「神の家にようこそ、我が子よ」

 

「や、やっと見つけたぞ! 家に帰ろう!」

 

「すまないが誰かと間違えていないかね?」

 

「間違えるものか! 10年も捜してやっと見つけたのに!」

 

「残念ながら、私と君に血縁など無いよ」

 

「……ベールを取ってくれ。そうすれば分かる」

 

「愚か者め。被り物だとはいえ、出会ったばかりの女性に服を脱げと云うか。助祭たちよ、この者を隔離せよ。人格が悪魔に支配されている恐れがある」

 

「はい、司教様」

 

 




以下、雑な設定。

未来視の司教:
 世界を管理する組織≪教会≫の大幹部≪十二司教≫がひとり。神から授けられた未来視の能力(ギフト)を持つが、目の前にある事象しか見通せない。どんなに凶悪な事件だろうと、実行犯を直接視ないことには何も分からない。感覚的には監視カメラが近いか。
 ギフトは魂に刻まれた特殊能力である為、使い手が死ぬと失われてしまう。十二司教たちは手頃な人間に乗り移ることで組織維持に努めている(現在の状態を前提として活動している為)。なお、「自分よりも能力のほうが偉い」とは本心からの言葉。
 乗り換え先を助祭の娘から魔族の娘に替えたのは耐用年数の差から。助祭が幼いのもその都合により。関係各所との調整もあるので、器はなるべく長く使いたい意図がある。

助祭の女の子:
 敬虔で信心深く、ネジは外れ気味だが地頭の良いクソ度胸の貴族令嬢。助祭とは、司祭(神父)を補佐する役職のこと。
 未来視の司教のスペアボディにされる予定だったが、別の司教の下へと送られた。もしも十二司教に欠員が出ていたなら末席に加えられていたかもしれないほどの逸材だった。

男:
 10代半ば~後半の若い男。司教が推理した通りの計画を企てていたが、横から掻っ攫われて頓挫した。10年後に安全に始末できるものとして泳がされていた(司教にはそこまで視えていた)。


教会(勢力):
 邪神や破壊神などによって転生・転移してきた異界の者へのカウンターテロ組織。国家間の調停を努めたりもする。信仰する神は、この世界固有の守護神。

ギフト(用語):
 神から与えられる、魂に直結した特殊能力の総称。スキル。顕現する能力は各司教によって異なる。盗むことはできない。仮に盗めたとしても魂ごとなので、術者は最悪乗っ取られてしまう。

十二司教(役職/地位):
 教会全体の意思決定機関。またはその役職を指す。これに無能力者の司教1人を加えた13人で決を採る。基本的に中身が変わることはまずない。普段は勢力圏をあちこちフラフラと視察していたり。


いれるもの(タイトル):
 最低なダブルミーニング。


未使用ネタ:
 ・ハロウィンは魔族の娘でも隠さず出歩ける日。
 ・乗っ取られずに再会したが、娘は男のことを忘れていた。
 ・育てた恩を躰で支払え。
 ・無意識に選ぶように仕向けている。ほかに頼るものがないから。
 ・産めよ増やせよ地に満ちよ。
 ・男色はOKとかいうガバガバ教義。


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現実と空想の境界

今回は裏側・背景を読み取る系の作風のつもりです(出来てない)。
 ・後書きに原案を追加(2024/2/14)。

 キーワード:ソシャゲ 低レア 転生 部隊指揮官(男)


「ぼ、僕をどうするつもりだっ!? こんな椅子に縛り付けて!」

 

「座って喋るしか能が無い男が何言ってんだよ」

 

「この支部の≪戦姫≫はもう君しか残ってないんだぞ。いま敵の襲撃を受けたらどうなると思ってるんだ?!」

 

「どうなるってんだよ?」

 

「は……? だから、この支部が失くなってしまうかもしれないんだって!」

 

「そうかもな」

 

「だろ? 分かったなら早く縄を解いて──」

 

「なあ、知ってるか? 遠くの支部に男の≪戦姫≫が現れたって話。そこの支部、つい先日壊滅したんだってよ。そいつは滅法強かったらしいが、そいつのせいで大して実戦経験を積めず終いで、そいつを残して戦姫部隊は全滅したとか」

 

「きゅ、急に何の話だ……? 僕はそんな話知らない……。というか今はそんな話関係ないだろ」

 

「ウチの部隊にも男が配備されたせいで、みんな死んでったよなぁ」

 

「……何が言いたいんだ。みんなが死んだのは僕のせいだって言うのか?」

 

「さあ? 白河藍那(しらかわあいな)は肺を悪くしてたしな」

 

「え? ああ……だからタバコを没収して禁止させた。健康に悪いし、なにより未成年喫煙って絵面がね……」

 

「あいつの唯一の趣味というか日常っていうか、気晴らしが喫煙だったんだよ。んで物みたいに使われるだけの世界に絶望して死を選んだ」

 

「タバコくらいで? ウソだろ……」

 

酒田恵(さかためぐみ)は飲酒の常連だったな。お前、酒も没収してたな」

 

「アル中は怖いからな……。まさか酒田(さかた)が死んだのも僕のせいだって言いたいのか?」

 

「あいつも現場で動かなくなって、そのまま死んだなぁ。まるで新兵に戻ったみたいで傑作だったぜ」

 

「新兵みたいに? どういう事なんだ? 話がまったく見えない……」

 

「エース、クイーン、ポーンの3人が死んだのは賭けをしたからだ。誰が死ぬか賭けていた。……で、生き残ったのがアタシってわけ」

 

「確かに物資を賭けたゲームは禁止したけど、今度は自分たちの生死を賭けるってギャンブル狂いじゃないか」

 

「かもな。……死の水先案内は(たの)しかったか? オペレーター」

 

「……」

 

「そう睨むなよ。まあ確かに? アタシらもアンタを警戒して距離を取っていた。それは認める」

 

「僕だって本当はみんなと仲良くしたかったんだ。でもみんなは僕を嫌ってたみたいで……。でもいまになって君とは少し分かり合えたと思う」

 

「そうか。よかったな。死ね」

 

「ああ──?」

 

「……首が跳んでも、最後までアタシの名前を言わなかったな。やっぱり物扱いか」

 

 




以下、雑な裏設定。

オペレーター(男):
 女性だけにしか表れない能力者、≪戦姫≫たちの部隊を指揮する男性転生者。指揮官兼オペレーターは単なる名目で、本当は戦姫たちのご機嫌取り(ホスト役)として配属されていた。つまり指揮も管理も最初から期待されていなかった。椅子を尻で磨くだけのつまらない男。
 彼が自発的に誰の名前も言わなかったのは、じつは言えなかったため。★1~2キャラの名前なんて覚えていなかったし、覚えようともしなかった(★3キャラが現れるのを待っていた)。また、転生者特有の前世の価値観を持ち込んでいたことも悪い方に働いていた。ガス抜きの文化も知らず分からずで、部隊を機能不全に陥らせてしまった。さらに、ゲームの世界だからと人をどこか物のように見ていたせいで無意味に壁を作ってしまってさえいた。いわゆる無能な働き者だった。そんな彼の最期は戦姫に処されて幕を閉じた。
 モチーフは、無能なアルベオ・ピピニーデン(機動戦士Vガンダム)。元ネタ通り、相互理解の無さから出世コース(ハーレムルート)から外れた。

ルーク(★2):
 オペレーターを椅子に縛り付けて遊んだ挙句、殺害した戦姫。ギャンブル狂いの一角にして最後の生き残り。同族意識なんて物はなく、オペレーターを殺したのも殺したいから殺しただけ。
 皮肉なことに彼女はこの後、それらの実働データを手土産に本部に出頭して昇進を果たすことになる(ランクアップして★3化する)。
 名前の元ネタはTOAのルークより。有名なセリフ「俺は悪くねぇっ!」の通り、本当に悪くない。彼女の名前が本文中に出ることはなかったが、2人のやり取りから誰が悪いのかという暗示・誘導を意味していた。

白河藍那(故、★1):
 オペレーター個人の思想によって嗜好品を没収された戦姫。唯一の趣味(楽しみ、日常)は喫煙だった。やたらと出しゃばるオペレーターの存在に、自分は戦姫としての価値しかないと突きつけられ(趣味も許されないと思い込んで)、クソッタレな職場と世界に絶望し戦死することを選んだ。
 名前の元ネタはSRWのシュウ・シラカワ。他人に利用されると報復行動に走るほど嫌悪してくるキャラ。本作の場合だと、彼女が死ぬことですべてのしがらみから解放され、また、オペレーターの着任により戦姫が死亡したという事実がもっとも効果的な報復となっている等、元ネタとは違ってかなり後ろ向きになっている。また、苗字にはタバコの煙が白い川のように見えるという意味もある。名前の方はただのフィーリング。愛無。哀な。

酒田恵(故、★1):
 精神安定のために飲んでいた酒を取り上げられた戦姫。酒が入ると遠慮や恐怖がなくなってベテラン兵ばりに働けるようになるタイプだったが、燃料切れのせいで交戦中に恐慌状態に陥り、無防備なまま敵に殺された。
 名前の元ネタは「酒」+「恵みの雨」=ビールかけ。浴びるように酒を飲んでいた。

エース、クイーン、ポーン(故、★2):
 ルークを含めた4人で互いに互いをカバーし合っていた戦姫たち。全員コードネーム。召集令状を拒否したせいで囚人身分として扱われていた。オペレーターの登場によって自分たちの立ち位置を見つめ直した結果、誰が成り上がれるかのギャンブルへと発展した(その過程で死ぬヤツを予想、当たったら故人資産を頂くギャンブルもしていた)。つまり部隊壊滅を予見しての立ち回りだった。死ぬのが前提なので相互カバーは自粛していた。
 名前の元ネタは、カードとチェスの駒。どちらもギャンブルに使われる。強そうなコードネームにポーンが交ざっているのは、チェスのルール・プロモーションより(将棋でいう成り上がり)。ちなみにルークもチェスの駒である。

男の戦姫:
 また別の転生者。世にも珍しい男性戦姫。自身の部隊壊滅(オペ男とは別の部隊)の分析結果を聞かされて発狂、ワンマンアーミー(支援戦力・遊撃役)として各地を転々としている。


戦姫:
 よくあるソシャゲ設定。能力者全般のことを指す。戦姫になるのは女性のみであり、男性がなることはない。基本的に軍属であり、能力者には召集に応じる義務がある。これに違反すると囚人待遇で軍に迎えられる。一般人も同様。免除を受けることはまずない。
 防衛戦力として勤める都合上、自由行動は認められておらず、現在位置も機器などで常に把握されている。一般人上がりの戦姫がPTSDを患うことはよくあることで、普通そうに見えてどこかおかしいなんてことはざら。病気なので余計に自由行動は認められない……と、ひどい悪循環に陥っている。
 肉体的には少し変わってるくらいであり、人外というほどでもない。クリーチャー特効属性をデフォで備えている。その特性を最大限有効活用するために、戦闘不能と判断された戦姫は極秘裏に生体兵器(男性軍人用のパワードスーツ等)の素材として再利用されている(当然ながら軍の最重要機密)。そのため戦姫を戦死させた指揮官は、防衛戦力と資材を失わせた両面から非常に重い処分を受けることになる。

敵勢力(仮):
 クリーチャーとかそんなのの群れ。世界情勢をアポカリプス間際に持っていける程度には厄介な勢力。通常兵器でも倒せなくもないが効率が大変悪い(血が出るなら殺せる理論)。戦姫が発するオーラ的なものに弱く、たとえば鉄パイプで殴られても平然としているが、戦姫が手にしていた場合はめっちゃ痛そうなことになる。


原案(おまけ):
 ・飲酒と喫煙を禁止したせいで注意散漫になって死亡
 ・賭け事を禁止したせいで連携を取らないようになる 誰が死ぬか賭ける
 ・何の為に呼び出されているか考えてみろよ
 ・お前はあたしらのご機嫌取りに送られてきたんだよ
 ・次の指揮官はきっと上手くやってくれるでしょう
 ・まともなのは僕だけか!?
 ・対話→報告書

 死因
 ・唯一にして最後の楽しみを奪われたからには、この世界にもう用はない
 ・アルコールが切れて普段と調子が変わってしまったせいで死亡
 ・連携を取らなくなる 誰が先に死ぬか賭けていた


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冒険者の性事情

男社会・女社会ファンタジー編。実話(実体験)を極一部添えて。
 ・後書きに生々しい設定を追加(2023/8/4)。

 キーワード:R-15 冒険者 性転換 TS 肉体的NL


「なんで女の子の冒険者が居ないんじゃー!」

 

「お客さん、飲みすぎだよ」

 

「これが飲まずにいられるかーっ! モテモテになるために冒険者になったのに、周りを見れば男男男……むさ苦しいにもほどがあるんじゃー!」

 

「まー、いまどき女の冒険者なんてねぇ……。居るとしたら、とんだ変態か変わり者のどっちかじゃないか」

 

「……知っているのか、酒場の益田(ますだ)?」

 

「まあねぇ……、お客さんみたいな人はかれこれ十数年以上は見てきたしねぇ。モテたいなら冒険者なんて辞めて、どこかの町にでも腰を落ち着かせてみたらいいさ。あと私は益田(ますだ)じゃなくてマスター、酒場の店主だよ」

 

「商人……スローライフ……──いや、冒険者でモテるぞ俺は!」

 

「依頼人ならともかく冒険者同士は無理だと思うぞー」

 

「どうしてだ?」

 

「どうしてって……そりゃ、女が冒険者になる時はたいてい男へ性転換するからな」

 

「……はああぁぁぁっ!? なんじゃあそりゃあっ!?」

 

「やっぱり知らなかったか。そうなったのには諸説あるが、まあほとんどが性的な理由からだろうな。酔い覚ましも兼ねて、ひとつ話でもしようか?」

 

「頼んだ」

 

「じゃあ、もっともらしい理由からだな。単純な話、筋力差だな。鍛えた女と一般男性では前者のほうが強いが、鍛えた女と同じく鍛えた男では当然後者のほうが強くなる。危険と隣合わせの冒険者なら()()()理由だな」

 

「あー……」

 

「加えて、見た目を優先する依頼人なら女のほうが有利だが、依頼達成の確実性やそれに伴う信用の蓄積を考えるとどうしても男のほうが有利でもある。早熟型と晩成型と考えたら分かりやすいな」

 

「そんなのパーティを組めばいいだろ」

 

「それはそうなんだが、仮にあんたが女で、男の群れに独りで突っ込んで平然としていられると思うか?」

 

「ぐぬぅ……無理だな。どうせヤられる」

 

「実際、あんたが今考えたとおりの事案ばかりだったらしい。当時は。女だけのパーティを組んで自衛していた奴等もいたそうだが、まあ無事では居られなかったとか」

 

「女だけで固まっても無事じゃない……──同業狩りか?」

 

「だろうねぇ。性欲を満たせるだけじゃなく競争率も下げられるし、なんなら奪った物資や装備で臨時収入すらある。いくらでももみ消せるのも最悪だ。それこそ討伐依頼を受けたパーティを狙えば戦死したってごまかせる。中には仲間を(ねた)んで売ったのもいたくらいだ」

 

「ゲスだな」

 

「モテモテになりたいと公言する、あんたがそれを言うかねぇ……」

 

「俺はいいのだ、俺は」

 

「まあそんなわけで、冒険者になりたがる女はまず男に成り代わっている。悪用防止のために12年の冷却期間と2度までの制限が掛けられてるから、口説き落とすのもやめておいたほうがいいだろうな。女に戻ったとしても若くて20代後半から30代。化粧の知識は同じ女に頼ればまだなんとかなるだろうが、子供がほしいとなると命の危険もあるしな」

 

「子供……危険……、高齢出産か?」

 

「その通り。……頭の回転は早いのに、どうして諦めきれないのか……」

 

「うるさいっ」

 

「逆に、男は冒険者を辞めているのが多いな。性比率の調整のために女になれるから、じゃあって奴も多い」

 

「ふん、どうせ腰抜けだろ」

 

「それもその通り。冒険者に憧れて自分もなったはいいが、現実を知って思い直した層だな。元男だからどうすれば男に好かれるかも知ってるから身を固めるのも早い」

 

「中身は男同士なのに、よくそんな真似ができるな……。ホモなのか?」

 

「さあね、そこまでは知らんよ。でも冒険者に元女がいるから精神的には異性同士とか思い込んでるんじゃないか? よくよく考えればおかしいって気付くはずなんだが」

 

「思い込んでいる?」

 

「そこに食いつくとは、あんたは本当に頭の回転は早いな。……そうだ、思い込んでいる。基本的に女から男へ性転換するのは冒険者になる際に安全マージンを取りたいからって奴が多い。逆を言えばそれ以外の理由は極端に少なくなる。()いて言えばトランスジェンダーくらいだな。そんなのに当たる確率は宝クジよりも低いんじゃないか? それでも精神的には異性って云えるかは分からんけどなぁ」

 

「普通に男のまま女漁りをすればいいだろ……」

 

「失意の中での性転換だからな。弱いと思った自分が弱い女になれば、強い奴に守ってもらえるとでも思ったのかもな」

 

「はー……、なんじゃそりゃー……」

 

「で、酔いは()めたかい?」

 

「代わりに覚めない悪夢を知ったぞ、どうしてくれる。一般人の女の子が実は元男って可能性が出てきたぞ。ということは冒険者を続けても辞めてもホモになるじゃないか! 俺は普通の女の子とお近づきになりたいのだーっ!」

 

「じゃあ、知らないままのほうがよかったか?」

 

「それはそれでイヤだ」

 

「ワガママだなぁ……」

 

 




以下、雑な設定。

俺:
 諦めの悪い冒険者にして転生者。地頭が良い。モチーフはランス。

酒場のマスター:
 事情通。

モロッコ神殿(地名・施設):
 作中未登場。性転換の儀式が可能な神殿。性別をオモチャにしないように、利用には12年の冷却期間と2度の機会が設けられている(元の性別に戻したら権利を失う)。主な利用層は冒険者とトランスジェンダー。
 整形ではなく変異させているので、性転換後の身体の性質は天然物と変わらない。妊娠中の女性でも性転換は可能だが、状態は子宮外妊娠(腹膜妊娠)に変更される。すぐに性別を女に戻してもこの状態は維持される。従って出産は帝王切開となり、危険を伴うものになる。

女→男へと性転換した者の事情(世界観):
 本文にあるとおり、自衛と効率化のために性転換する。12年という歳月は重く、元の性別に戻す者はほとんど居ない。主に、楽な男の身体で居ることに慣れてしまう、女に戻っても若くはないといった理由などが挙げられる。また、婚姻率は特筆するほどでもない。

男→女へと性転換する者の事情(世界観):
 神殿側の戦略。男女比の調整のために行なわれている。冒険者を辞める際に奨められるせいか世の男性方には、女体化は冒険者引退特典だと思われている。
 男心を知り尽くした元男なので、婚姻率は普通の女性と比べて非常に高い。その性質上、酒場やらお店やらの看板娘の座(人気)も奪いやすいので、嫉妬した一部の女性が脚光を浴びやすい冒険者になる、といった負の循環が出来上がってしまっている。


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世界平和への前日談

まあ、そうなるな。
 ・後書きにどうしようもないQ&Aを追加(2023/8/4)。

 キーワード:ポーション屋 錬金術師


「──貴様の行動に責任を取れ」

 

「キャアッ!?」

 

「させるかっ!!」

 

「ぐふっ……! 無念……ッ!!」

 

「ひぃ……イヤ……なんなの……?」

 

「暗殺者だ。お前の命を狙った、な」

 

「暗殺者っ!? なんで私が暗殺されるのっ!!」

 

「それは──」

 

「エリィさん、無事ですか!」

 

「あなたは常連客の……!」

 

「ええ、ですが本当はこの国の第三王子です」

 

「え! ……王子様?」

 

「王子、この女、さっきからオウム返しばかりしている。一旦落ち着かせたほうがいい」

 

「そうですね、では王城へと向かいましょうか。ここよりは……、彼女のお店よりは安全でしょうし」

 

 

────────────────

 

 

「ここは私の執務室です。安心してください、もう安全ですよ」

 

「は、はい……」

 

「そう畏まらなくても。普段どおりの物腰で結構ですよ」

 

「は……──う、うんっ」

 

「まずは、これまで身分を偽っていたことを謝らせてください」

 

「それは……王子様だったら、仕方ないと思う」

 

「……ははっ、ありがとうございます」

 

()()()()()()()暗殺者が来たのはびっくりしたけど、ジークさんに助けてもらったから……うん」

 

「そうだね。ありがとう、ジーク」

 

「俺は契約内容に従って仕事をしたに過ぎん」

 

「ううん、普段から採集の護衛もしてもらってるし。ありがとう、ジークさん」

 

「チッ……調子が狂う」

 

「落ち着いたところで本題といこう。君には王宮錬金術師の任に就いてもらいたい」

 

「あたしがっ!? な、なんで?」

 

「エリィ、君は安価な材料で高性能なポーションを作ることができ、完成したポーションも安価に放出できる優れた錬金術師だ。あんな大田舎で見つけたときは驚いたけど……その実力はこの目で確認させてもらっている。君はもう、この国になくてはならない存在なんだ」

 

「ハズレだったあたしが、国の……──ぐすっ う、うれしいです」

 

「王宮錬金術師の任、引き受けてくれるね?」

 

「はいっ──喜んで!」

 

「フン……この腹黒王子が。引き返せない段階まで進ませておいて、いけしゃあしゃあと。お前が夢を語るというなら、俺は現実を語るとしよう。嫌とは言わせんぞ」

 

「ああ、構わないよ。いずれ知ることになるだろうしね」

 

「お前は、自分のところに迷い込んだ暗殺者が(くち)封じに攻撃してきたと思い込んでいるようだが、あの暗殺者は王子を狙ったのではなく初めからお前を殺しにきていた」

 

「……え? うそ、そんなの何かの間違いじゃ?」

 

「お前の前歴は以前に聞いていたな、そう……たしか冒険者だったな。能力不足で辞めざるを得なかったとか。ならばポーションの相場も知っているな?」

 

「うん。だからポーション作りの才能があるって分かったとき、ポーションを作ることにしたの。田舎なら都会のお店に迷惑かけないかなって思ったし」

 

「出会った当初から思っていたが、ずいぶんとおめでたい頭をした女だ。お前は」

 

「あたしも出会った当初から思ってたけど、ずいぶんと無愛想な人よね。ジークさんって」

 

「冗談を言えるだけ回復したなら遠慮なく言わせてもらうとしよう。お前のポーションの主な流通先は軍だ」

 

「軍って、王国軍?」

 

「お前が商品を卸したと思っていた先は、自警団ではなく王国軍だ。余剰分の在庫も余さず買い取っていたことを少しは疑問に思え……。無数のポーションを得て欠員の出なくなった軍は膨れ上がり、現在(いま)では屯田兵という兵種まで新たに作られている。つまり、この国の死亡率は大幅な減少傾向にある」

 

「良い事じゃないの? 死に別れるのは誰だってつらいし……」

 

「ならば()()()の食料はどうやって確保する? 周りの国からはどう見える?」

 

「足りないだけ畑を耕せばいいじゃない」

 

「話はそう簡単には終わらん。膨れ上がった兵力を目にした各国は恐れから次々と宣戦布告を行なった。これは知らんとは言わせんぞ」

 

「戦争になるって聞いたから軍にも少し卸したし、知ってるけど……」

 

「そうだな。だが元を辿れば原因は何だ?」

 

「……あたしのポーション?」

 

「そうだ。それが分からないほど、おめでたい頭をしていなくてよかったよ。あの暗殺者はすべての元凶であるお前を断つためにきたんだ。この国の爆発的な人口増加と、兵力の回復具合を恐れて、な」

 

「それでこれ以上、自由にさせているのも危険だと思って、城まで連れてきたのですよ」

 

「いま戦争しているのって、あたしのせい……?」

 

「まあそうだな」

 

「でも安心してほしい。この大陸すべての国を取り込めば、もう戦争は起きなくなる。平和になるんだ。そのためにも君にはこれまでどおりの……いいや、これまで以上に力を貸してほしいんだ」

 

「あたしは──」

 

 




以下、雑な設定。

エリィ:
 錬金術師。元冒険者。女性。承認欲求のためにポーションを作っていたら、いつの間にか国に囲われていた。すでに取り返しのつかない段階までやらかしてしまっている。王子の誘いに乗っても断っても歴史に名が残ることが決定している(つまりまた暗殺者が送られてくる立場にある)。また、大陸の統一に成功しても次は貧困から革命が起こることは想像に難くない。いまここで命を絶てば、未来の犠牲者数は変わるかもしれない。
 ポーションを格安で販売しているのはポーションの相場事情を知らないから。相場をただのぼったくり価格だと思っているが、安価で生成できるのはエリィだけの能力。本来、費用100で作って価格250で売るものを、エリィは費用18で作れてしまう。
 名前の元ネタは、嘘 → lie → リエ → エリィ。「エリート(神に選ばれた者、生贄)」の意味も含んでいる。

第三王子:
 丁寧な物腰の腹黒。権力を行使する時に少しだけその仮面(口調)が乱れる。エリィという逸材を偶然見つけたことで軍備を強化。自身の発言力を高めた。ジークの雇い主でもある。

ジークフリート:
 第三王子の私兵(傭兵)。エリィの監視兼護衛役として第三王子より派遣されていた。エリィとは付き合いは長いが、情に流されず任務遂行に努めた。最後に真実を告げたのは、いざという時に使い物にならなくなっては、彼女だけでなく国そのものが危うくなると判断したため。もう戻れる道はないと言外に語り、危機感を煽った。
 名前の元ネタは神話や叙事詩より。ポーション漬け≒ほぼ不死身(即死させないと殺せない)。エリィが作り出してしまったものを示唆している。


Q.戦争が起きてるなら何も始まらないってことはないんじゃない?
A.要人扱いの補給要員が前線(お外)に出られる訳がない。

 エリィの存在が「多面戦争の継続は可能か」という大前提になっている以上、安全な後方で延々とポーションを生産し続ける単純な仕事が続く。エリィの喪失≒王国軍の崩壊なので、彼女が危険な場所へ送られることはない。また、暗殺未遂があったとはいえ前線を直接見たわけでもないので、生活環境の変化こそあるが本質的には何も変わらない平坦な生活が続く。必死に増産する必要も現在のところはない。

Q.王子の誘いを断ったらどうなるの?
A.非人道的に奴隷にされるか、身内を人質に取られての強制労働。

 前述のとおり、王国軍はポーションの供給が途切れないことを前提に動いてしまっているので、今更後には引けない状況にある。なので無理にでも作らせることは決定事項となっている(ある意味では断られた場合を考えていない)。また、仮に王国軍が追い込まれて停戦・敗戦に至ったとしてもエリィは戦犯として利用・生贄にできる立場にある。そういう意味でも必要とされている。
 夜逃げしようにも味方の王国軍には保護・監視され、近隣国へ亡命・逃亡しようにも暗殺者の影が迫る。敵国へ寝返っても裏切り者の烙印が残る(同じようにまた寝返られても困るのでその後消されてしまう場合も)。もうどこにも行けないし、どこにも戻れないノーベル、サイファー状態。
 それならば協力的に接して自身の待遇を良くした方がまだマシ。

Q.王国軍が大陸統一を成し遂げたら身柄を解放される?
A.されない。

 難民問題(就職率・治安悪化)、敗戦国からの恨み(元敵国民との折り合い、ゲリラ化した敵部隊ほか)、外的要因による死亡率の低下からの人口問題(一般階級におけるポーションの奪い合い、横流しから発するその他の問題)など、各種問題・戦後処理に対応するためにはやはり兵力の維持は必要となる(≒軍の拘束状態が続く)。長い時間を掛けて緩やかに間引いていけばいつか解消できるかもしれないが、途方も無い年月が流れることは容易に想像付く。当然ながら虐殺ですべて一息に片付けようなんてしようものなら、玉砕覚悟の大戦争と大混乱が起きてしまう。エリィは自分が生きている間、自分が端を発した地獄を直視し続けなくてはならない。普通に都会で普通の値段のポーションを普通に売ってさえいれば、そんな事態にはならなかった。


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神々の試練

これはひどい。

 キーワード:隠しダンジョン 神々の遺跡 攻略 冒険者 財宝


「よくぞ試練に打ち克ちました。褒美に神々のアイテムを譲渡しましょう。その数は思うがまま──」

 

「女神の姿が消えた……」

 

「こんな希少なアイテムが床一面に! こ、これは出土しても風化していた幻のアイテムっ!? こんな、拾いたい放題なんて、そんな……!」

 

「……すごい。でもどうやってここから脱出すればいいんだろう?」

 

「あっちの祭壇に何かありますわ」

 

「ほかのアイテムの所有権をすべて放棄する代わりに、1つだけ願いを叶えられるアイテム……? つまり、財宝を抱えたままここで死ぬまで過ごすか、財宝を捨てて苦労を持ち帰るってこと? だから好きなだけって、ふざけてるッ!」

 

「得難い経験こそが宝ということですわね。ご丁寧にわたくしたち2人分用意されています。……それでどうします?」

 

「とりあえず、先にこれを拾ってから財宝をかき集めてみよう」

 

「アイテムが輝きを失いましたわ……。どちらか一方を離せば問題ないようです」

 

「ふーん……。じゃあさ、こんなのはどう?」

 

「きゃっ、いきなり何をしますのっ!? ……って、あら?」

 

「願いアイテム同士は輝きを失わない」

 

「さては、何か良からぬ事を考えていますわね?」

 

「大正解。あんたはアイテムを拾えるだけ拾って。それでアタシが願いを使って脱出すれば」

 

「財宝を所持したまま帰れる。なんでわたくしが重い物を……」

 

「先に考え付いたのはアタシよ」

 

「くっ……、仕方ありませんわね。これでいいんですのっ!?」

 

「いいよ。それじゃあ先に地上に送るね。この娘を遺跡に外に帰して! ……うおっ、まぶしっ──消えた。もうひとつの願いアイテムの輝きも残ったまま。よし、計画通り。──アタシを遺跡の外へっ!」

 

(……あれ? 不発した? そんな……! どうにかして脱出手段を探さなきゃ! とりあえず起き上がらないと……って、身体が動かない? やだ、こんなところで独りで死にたくなんか──)

 

「よくぞ試練に打ち克ちました。褒美に神々のアイテムを譲渡しましょう。その数は思うがまま──」

 

「うおおおっ! すげえっ! おい、見ろよ! 見たこともないアイテムだらけだぜ!」

 

「……君はいい加減、落ち着きというものを覚えたまえ。──むっ、出口が……」

 

(誰か来たっ!? 助けて!)

 

「神々のアイテムと共に朽ちるか、経験を宝とし脱出を選ぶか、か」

 

(この男、アタシを踏みつけたっ!? 何様のつもりっ!?)

 

「……こんな遺跡に男2人はちょっと~……」

 

「ふんっ、私も御免(ごめん)だ」

 

(……()()()() この人たち、アタシが見えてない……?)

 

「で、どうするよ?」

 

「あきらめて脱出するとしよう」

 

「俺がアイテム抱えて、お前が願いを使って2人とも脱出するのは?」

 

「君にしてはよく考えたと褒めてやりたいが、それは悪手だろう」

 

「どうして?」

 

「それならば、なぜ貴重なアイテムが、なぜ神秘的なアイテムがこれだけ大量に残されている?」

 

「在庫過多とか?」

 

「確かに遺跡の存在は隠されてはいたが、見る者が見れば気が付く程度の隠し方だ。楽観視はしないほうがいいだろう。……何か罠があるはずだ」

 

「……わかった、脱出する」

 

「そのほうがいい。……? この床だけ妙に真新しいな? まあ気にするほどの事でもないか……」

 

 




雑な設定:

アタシ:
 願いアイテムの罠(落とし穴)に気づかず、報いを受け、遺跡の床と同化した。意識と視覚を残したまま、願いアイテムの前にある床の1タイルとして未来永劫、生き続けるハメになった。悪巧みの手順が違えばアイテム化していた未来もあった。

お嬢様口調の冒険者:
 無事に現世に戻れた。持ち帰った財宝(=アイテム化した犠牲者)もそのまま。一向に戻ってくる気配のない相方に呆れかえっている。

男性冒険者(2人):
 百合カップルの後に現れた、男2人組。切れ者と素直のコンビだったおかげで、無事に罠を回避する。


願いを叶えられるアイテム:
 罠アイテム。1人につき1つずつ。元々の所有者以外が使用すると天罰が下る。対象や内容はその時々、状況によって変化する。今回の場合だと、願いアイテムを持った者を先に帰していても、遺跡に残った者に天罰が下っていた。完全に個人脱出用アイテムだった。


 今回は夢で見た内容を、ほぼそのまま書き起こさせていただきました。アイテム化する設定は後付け。いつもの調子ならナローシュ君が床になっていましたが、そうではないのはその辺りの事情故。


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虹の向こう

なろうの系譜。8割実話だとかいうホラー。

 キーワード:R-15 オリ主 TS転生 女主人公 トランスジェンダー 原作開始前


「パンツ白~♪」

 

「キャッ!? ちょっと、アンタやめなさいよね!」

 

「コラコラ。スカートめくりばかりしていたら、あの()に嫌われてしまうよ」

 

「は? す、好きとかそんなんじゃねーし? べつに?」

 

「素直じゃないなぁ……そんな息子のために父さんが一肌脱ぐとしよう! これより宇宙のパワーを送るぞ、何も考えずそのままの心で受け取りなさい──……ハァ~~~、カァッ!」

 

「うおっ」

 

「……ハァ?」

 

「ふう。これで愛する2人はいつも一緒だ! ほらほら早く手をつないで! ギュっとしないと好きになっちゃう魔法をかけちゃったぞぉ~っ!」

 

「ハアぁぁぁぁっ? テメェ……何してんだぁっ!? ──チィッ!」

 

「と、とーちゃ……かはっ!?」

 

「は、ハナちゃん? ギュッてするのは息子の首じゃないよ? それにその口調はいったい……?」

 

「さっさと魔法を解けよ。じゃねぇとテメェの息子が大変なことになるぜ。そんなにギュッとしてほしいなら、息子の遺骨をギュっとしてやるってんだよ?」

 

「じょ、冗談だよ。本当に魔法を掛けられるわけが……」

 

「騙されるか! 早く元に直せ! 魔法使い!」

 

「……私が魔法使いであると、よく気付いたね」

 

「はんっ、生憎テメェみてぇのが居るのは()()()()()()()()()()()んでな! ──で、解くのか解かねぇのか、どっちだ? ああ?」

 

「魔法を解いてあげたいのはやまやまだが、まさかこんな事になるとは思わなくて解約条件を決めていないんだ……」

 

「ハァ……? つまり解けねぇのか」

 

「すまない……」

 

「ならなんだ、テメェはよそ様の娘が()()()突っ込まれる姿を想像するのが趣味だってのか? ああ? ざけんな!」

 

「なにっ?!」

 

「何驚いてんだよ。要は、テメェの息子が幼馴染にガキ孕ませた姿を見たいってこったろ? 今はまだ()()()()()だが、アンタが中高生の性事情を知らねぇワケがねぇだろ。アンタも通ってきた道だからなァ……子供(ガキ)は愛の結晶って云うじゃねぇか。高校生にもなれば確実に手を出してくるぜ、こいつは。それをこんなガキの身体見て、ガキの頃から想像するなんてなかなかイイ趣味してんなアンタ」

 

「違う。私は変態ではない。信じてくれ。私はただ……」

 

「ほかにどう解釈しろってんだよ。異性に好意を持たせるってそういうコトだろ? ……だいたいよぉ、テメェ、他人(ひと)の心をもてあそぶとか何様のつもりだ? テメェの子供(ガキ)だけならいざ知れず、オレは近所の女の子……親戚でも何でもねぇまったく関係()ぇ赤の他人だぞ。それなのにちょっかいかけて許されるとでも思ってんのか? ああ? ひとさまの娘だぞ。わかってんのか?」

 

「それは……、その……」

 

「その、なんだよ? 大人には自分の好きなように子供を洗脳する権利でもあんのか? どうなんだよ? ええ?」

 

「……ぬぅ……」

 

「……軽い気持ちで女になんかするんじゃなかったな……。そうだよ、男とヤらなきゃ変な目で見られるじゃねーかよ……あぁくそっ。──分かってると思うがオレの性自認は≪男≫だ」

 

「トランスジェンダー……?」

 

「といっても性転換手術を受ける気は()ぇけどな」

 

「なぜ? ()()()()は、男……なんだろう?」

 

「維持コストが重すぎるんだよ。魔法には一時的な変身・変装程度の効果しか()ぇ。手術で身体を作り変えても定期的にホルモンバランスを調整する注射(クスリ)を打たなきゃならねぇ。そんな不便な生活を送るくらいなら女の身体のままで居るほうが経済的にも楽だろ」

 

「それは、そうかも知れないが……。ではなぜ女の子のふるまいを?」

 

「ま、それはオレの事情だからテメェとは関係()ぇ。今重要なのはオレの気も確かめもせずにテメェが脅迫まがいの洗脳魔法をかけたことだ」

 

「脅迫っ!? 洗脳っ!?」

 

「だからなんで驚くんだよ。テメェがやったことじゃねぇか。自覚()ぇのか?」

 

「私はただ、息子がハナちゃんと仲良くしていられたらいいと思って」

 

「はっ、それを決めるのはほかでもないこのオレだッ!! ──裁きの炎が汝の罪を焼き尽くす! 滅せよ! ≪メギド・フレイム≫!」

 

「タロぉぉぉぉぉっ!!」

 

「ハハハ……テメェの迂闊(うかつ)な判断で大事な息子が灰になっちまったなァ」

 

「なぜ殺したッ!! 殺すことはなかっただろう!?」

 

「じゃあ、おとなしく数年後に盛りのついた男に犯されてろってか? テメェの息子を売ったのはテメェだ。履き違えんな」

 

「……ッ!!」

 

「あ~あっ! 物語の主人公サマが死んじまったなァ! こうなったら闇陣営に移るか」

 

「──! 知っているのか!」

 

「あいつの父親であるテメェが、物語のヒロイン(ども)の力を主人公サマに結び付けるつもりだったのもな。……まさか()()のオレのほうにかけるとは思ってもみなかった。万一、契約させられないように力を隠していたのに、なんでだよ」

 

「まさか息子を殺すために、あえて近づいてきたのか? それほどの力を隠して?」

 

「まさか。それこそまさかだ。せいぜい契約を邪魔……いや、当人同士の意思を確認する程度の気持ちだったよ。初めは好意を持っていなくても()()と契約を結ぶと好意を抱いていくのはなぜだってな。()()で特に疑問だったのがそこだった」

 

「原作、物語、主人公……。契約魔法だけではなく私の計画まで知っているのは……、……──アカシックレコード!! 君、は……アカシックレコードを、よ、読めっ、読めるのかっ!?」

 

「さあな。少なくとも辿るべき事象や結末はもう失くなった。これから先どうなるかなんてオレにももうわかんねぇよ」

 

「頼む。まだ所属を決めていないというならどうか私に力を貸してくれ。君がいれば組織を倒すことも夢ではない」

 

「嫌だね。大儀のために息子の存在を即座に忘れる奴なんかに背中は預けたくはない」

 

「待ってくれ! 頼む! 待ってくれぇっ!」

 

「テメェは息子だけでなく他人の家庭も壊すつもりなのを自覚しろ! オレの代わりにオレが失踪したことを両親に伝えておけ! じゃあな、あばよ! 次に遭う時は敵同士だ!」

 

 




Q.○○○?
A.将来お嫁さんになる(する)って、遠回しに肉体関係を迫っているのと同義では?


以下、雑な設定。

ハナ:
 神様転生経由のTSオリ主(※本作は一次創作です)。転生前の性別は男で、性自認も男だが、いまの肉体は女。転生特典として幼くして大魔道士並みの魔力を持つ。(存在しない)原作を知っていて、物語には追加人員や協力者として介入するつもりだったが、素でハーレムを作っていく主人公たち光陣営の事情・心境等が気になって間近で観察するつもりでいたが、まさか自分がそのハーレムに組み込まれるとは思ってもみなかった。予定では女の人生を適度に楽しんでも、最後は独り身で終わる気でいた。猫を被っていたのは周囲から不審に思われないための偽装工作。ハナ自身はLGBT+は一般的ではないという認識。
 幼馴染でもある男主人公(魔法使いの息子)を殺害したのは、自分という個人の尊厳・精神を破壊されることを恐れたがため。物考えぬ肉人形に成り果てたくなかったから。自分がいる場所が夢ではなく現実であると確り理解しているが、この結末は何も考えずに性別を選んだせいとも云える。ちなみに本人に自覚はないが、タローが死亡したことで呪縁はしっかりと切れている。
 名前は「最初(ハナ)」、「花(手折られる)」、「華」などより。ハーレムのトップバッターの意。

タロー(男主人公):
 現地人。(存在しない)原作の主人公。魔法使いたちの力を統合する能力の持ち主。なろうの系譜らしく、借り物の力を無制限に使える異色≒移植の魔法使い。その卵だった。作中の時系列は原作開始前なのでとても幼い。母親は死別している。
 悪徳魔法使いたち闇陣営を打ち倒す駒として秘密裏に育てられていたが、TSオリ主の逆鱗に触れてしまったがために一方的に火葬された。契約魔法と好意の因果関係についての詳細は明かされていないが、創作世界で誰が誰に好意を抱くのは王道展開、当然の流れではある。
 初恋はハナで、なんとかして気を引くためにスカートめくりをしていたが、逆に引かれてしまっていた。

原作主人公の父親:
 現地人。キーマン。魔法使い。作中で2人にかけた魔法は、息子の魔法能力をハッキングして行使していた(遠隔操作して力を引き出していた)。いわば代理契約。契約の仲介人。そのため契約解除できなかった(具体的にはpixivでタグ追加しようとしたらなぜかサジェストの方を追加されてしまったがオートロックのせいで修正もできないような状態)。
 ハナに指摘されていた「倒錯した性癖」については、そこまで考える人は稀であり、ほとんど難癖に近いが、解釈次第ではその通りではある。常識が無いわけではないが、正義を為すことに心を囚われているため、作中では罪悪感に近い感情を抱いても謝罪するという発想には至らなかった。やむを得ない犠牲、コラテラル・ダメージ扱い。典型的な盲目なる正義の使者。頭の回転はかなり早いものの、無自覚の傲慢さのツケは溜める前に支払わされた。
 息子ほどではないが、父親だけあって同様の魔法能力をわずかながら持っている。彼の御眼鏡にかなうヒロインは全員若年層なので、敵対組織を潰したいならプライドを捨てた援交まがいの物語を自らが展開していくことになる。具体的には、パパ活で巨悪を討ち倒す。普通の魔法使いのように自力でも戦えはするが、特別強いわけでもない。


魔法使い:
 いわゆる異能力者たちのこと。希少。

アカシックレコード:
 原作知識のこと。原作付き転生がまんま当てはまる事象だったりする。

虹の向こう(タイトル):
 虹=二次創作(※本作は一次創作です)。光ある白い世界から、色で黒く塗り潰された世界を意味している(光 → 絵具)。三原色も前提条件が変われば結果も変わる。
 向こう=結末。無効。合わせて原作崩壊の意。


 今回の着想は、とあるゲームより(8割とはまた別)。タイトル等は忘れましたが、第三者の手によって無理やり契約を結ばされる場面が序盤にあったことは覚えています。そして即座にゲーム機の電源を落として押入れに投げ入れたことも。
 ハーレム構想を完全否定するつもりはありませんが、善人面した主人公たち光陣営が暗に、しかし露骨にヒロインたちを道具やトロフィー扱いするのは、筆者個人としては疑問に思います。闇陣営ならともかく、光側がそれをやってしまっていいのかと。なんといいますか、巧妙に隠された狂った常識の違和感とでも言い表しましょうか……。ほとんど難癖ですね。
 それと、昔の知人にトランスジェンダー(未施術)の方が何名か居たのですが、方々の友人らは裏で「(知人Tと)ヤりたい」などと性的な目線でよく語っているようでした。精神的同性、それも友人からそのような目で見られるとは軽く地獄なのでは。聞くところ初対面の人に対して服装などを見て外面的評価を決めることを、長い付き合いのまま続けているのですから。体しか見ていない。知人Tは彼らの本性を知らないようでしたが……。もちろん足して2で割ったようなLな方も知人に居ましたが割愛。これは親友朝おん恋愛モノにも同じ事が云えるかもしれません。内面的評価、性格や人格なんて穴を前にして無意味だということになってしまう。正しく深淵。狂気の沙汰。エロ方面に対して真面目に突っ込むのは野暮だとわかってはいるのですが。穴だけに。
 内容が内容だけに本来であればどちらの要素だけでもお蔵入りするつもりでしたが、昨今の多様性についての急な舵取りを鑑みて公開することにしました。意見や思想の黙殺はよろしくないらしいので。


主人公が敵対、悪堕ちできるゲーム(取消線はR-18作品注意):
 ・グローランサー(2/4oR)。どちらも終盤にメインヒロインと敵対できる。
 ・オウガバトル64。無自覚の行ないについて、この短編集みたいに責められる。
 ・幻燐の姫将軍(1/2)。ある意味なろう系。
 ・冥色の隷姫。番外。光側の死体をゾンビ化して悪の手先にできる。


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正義の奴隷

面倒くせえな!(元お蔵入り予定作・第二弾)

 キーワード:奴隷 差別 歴史 勇者 子孫


「奴隷制度は廃止すべきです」

 

「ふむ。唐突だな、我が息子よ。話がしたいのならば話をしなさい」

 

「勇者の時代より以前から続く奴隷制度は人類の悪しき文化です。即刻廃止すべきです」

 

「だから話を……ハァ、まず最初にそう思うことになったそもそものきっかけは何だ? 勇者の子孫を好きになったというのなら話はここまでだ」

 

「……それは否定しません。ですが父上。人に優劣や序列をつけることは本来あってはならぬことであり、みな平等に生きる権利があるはずです。奴隷制度はおかしな文化なのです!」

 

「理論武装ができるなら始めからそうしておきなさい。だから呆れられるのだ」

 

「話をそらさないでください」

 

「では訊くが、序列をつけるべきではないというが、私を父と認め、敬い、この父に許可を求めるのはなぜだ?」

 

「……? 意味が……?」

 

「優劣をつけるべきではないというが、代々我が家系の者がこの都市を治めているのはなぜだ? 世界中で貧富(ひんぷ)の差が起きているのはなぜだ? 答えてみなさい」

 

「僕個人が勝手に動けば父上はそれを阻止するでしょう。だからこそ、こうしていま訴えているのです」

 

「当然だとも。秩序を乱す者は社会には不要だ。いまさら奴隷の()()を認めて、誰が得をする?」

 

「得とかそんな話じゃありません。本来あるべきだった形に戻すだけです」

 

「それによって、もたらされる影響を熟考しての結論か?」

 

「はい」

 

「……なんと浅はかな……」

 

「僕が愚かとでも?」

 

「あぁ、愚かだとも。人が優劣や序列を付けたがるのは秩序を欲しているからだ。野犬の群れでさえ、群れを統率する(おさ)を決める。……まさかお前は自分たち人間が犬畜生以下だと云っているのか? そのお前を生み、育ててきた父と母を犬畜生以下だと(おとし)めているのか? 交渉の基本も学んでこなかったのか? ……長男だからと甘やかしてきたツケが回ったか」

 

「は、話が飛躍しすぎですっ! ぼ、僕はただ、父上に僕の考えを知ってもらいたくて──」

 

「お前のどこが、他人(あいて)のことを考えているというのだ。……いいか、たとえ王制が失われたとしても民は≪王の器≫を求めるだろう」

 

「王の器?」

 

「そうだ。ただの民に都市の整備や防衛力の維持、管理がまともに行なえると思うか?」

 

「学べば……」

 

「必ず欲を出すぞ。金銭欲、承認欲求なんでもだ。全員が全員、学を得たとしても全員が直接都市を治める事態にはまずならないだろう。要職に就けるのはせいぜい十数人程度。残った人員はそれぞれ思った不満を(くち)にするくらいに終わる。人には人の役目や役割というものが存在するのだ」

 

「では、奴隷には奴隷の役割があると?」

 

「ああ、あるとも。奴隷には罪を犯した者も含まれる。それだけの事を仕出かした者の末路といった見せしめにもなる。自分が不利になると分かれば、人は安直に罪を犯さなくなる」

 

「ですが、この都市の奴隷には勇者の末裔の()もいます」

 

「だからなんだ?」

 

「えっ……? だって勇者の末裔ですよ?」

 

「問題提起したお前自身が既に人に優劣を付けているではないか……。ほかでもないその娘の()()が奴隷制度の維持を認めているのだ。お前は歴史も満足に学べていないのか? それとも学んだうえでの意見なのか?」

 

「もちろん、学んだうえでの意見です」

 

「では問答といこう。勇者とは何を成し遂げた人物だ?」

 

「悪しき魔王を討ち倒し、人類に無限の安寧と繁栄をもたらした英雄です」

 

「勇者の伴侶は?」

 

「奴隷です──……あっ」

 

「人のために戦った者が、なぜ奴隷を解放しなかったと思う?」

 

「……わかりません」

 

「解放したくなかったからだ。当時の状況なぞ、私たちは書物から想像することしかできない。──だが、勇者が奴隷制度を廃さなかった、ということだけは現代に続く事実であり真実だ」

 

「そうだとしても今の時代にはそぐわないと、僕はそう考えます」

 

「お前は人の身にして魔王になりたいのか?」

 

「は?」

 

「奴隷とは安価な労働力だ。奴隷を失えば経済は大きな打撃を受けることだろう。それほどまでに、人類は繁栄し過ぎた。そして人は奴隷(ひと)を使うことに慣れすぎてしまっている」

 

「ええ、ですので理非(りひ)を正さなければならないのです」

 

「奴隷制度が邪悪とすれば、かつての勇者はなんだったというのだ? 長い時をかけて人類に破滅をもたらす深謀遠慮(しんぼうえんりょ)の魔王だったということになるぞ?」

 

「どうしてそう話を飛躍させたがるのですか!」

 

「そうだな。飛躍した理論だ。では飛躍しない程度に規模を縮小するとどうなる?」

 

「……?」

 

「つまり、世の秩序を乱そうとしているのはお前ということになる」

 

「!?」

 

「奴隷という(ゆが)みを抱えたまま、世界はこれまでも問題なく平和を維持し続けてきたのだぞ。その根幹を揺らがそうとしているお前こそ≪魔王≫だ」

 

「違う! 僕は魔王じゃない!」

 

「ならば、新たなる魔王は勇者の子孫か。まだまだ若い娘とはいえ、女の色香にやられてしまうとは情けない息子だ」

 

「違う! 彼女は魔王なんかじゃない!」

 

「うむ。その通りだ。≪魔王≫は生まれるべきではない」

 

「父上……?」

 

「いまさら奴隷を解放したとして、彼らは今まで抑圧されてきた()()()()を晴らそうとするだろう。自分たちは迫害されてきたのだから自分たちを優遇し続けろとな。すると今度は()()に対して不満を覚える者が出てくる。何十年、何百年と……代が替わっても≪憎しみ≫という名の≪魔王≫が君臨し、人類は再び闇と対峙しなければならなくなる。お前がやろうとしていることは、そういうことなのだ」

 

「だったら、僕はどうすればいいんですか……?」

 

()()雇用者の割合を増やしつつ、奴隷と、その縁者を根絶やしにしていけばいずれ()()するだろうな。奴隷という禍根(かこん)を概念ごとすべて断てば、な」

 

「しかし、そんなことをしたら≪魔王≫と呼ばれてしまいます」

 

「だから、何もせず現状を維持するのが一番なのだ。()()()など子供のすることだ。魔王になりたくないというのならば、子供の癇癪(かんしゃく)に振り回される方は(たま)ったものではないことを理解しろ」

 

「……」

 

理想(ゆめ)は所詮、理想(ゆめ)だ。憧れは理解から最も遠い感情なのだよ。たかだか小娘1人のために世界を敵に回すなど、絵本の中だけにしておきなさい」

 

 




以下、雑でギリギリな設定。

市長の息子(僕):
 市長の息子。我慢のできない長男。代々奴隷を努める勇者一族の娘に憐憫と好意を抱いた結果、パパ上市長に突撃した、ただの偽善者。「僕は嫌な思いしたから」を地でいく言葉足らずな感情直結タイプ。周りを巻き込んで壮大な地獄を無自覚に作り出す最悪にして災厄のタネ。

勇者の子孫(女):
 本編未登場。そんなに奴隷が好きならお前が奴隷になれよ、ということで生まれながらにして奴隷にされる宿命を背負わされた、終身名誉奴隷一族の娘。作中では特に語られていないが、過去同様に奴隷制度について疑問を抱いた者の憂さ晴らしによって奴隷一族として認定されてしまった。勇者とは人類に尽くすものである。人身御供。
 現代での主な役割は、見せしめ。よく考えてから行動するべきだという反面教師として、生きた教材を務める。

市長(私、父上):
 都市を治める敏腕市長。奴隷については社会制度のひとつであるくらいの認識。感情論の行き着く先をよく理解しており、人の心がないようなことを口走っているがその実、人のことをよく考えて行動している言葉足らずな人格者。事なかれ主義とも。


Q.この人でなしっ!
A.どうあがいても地獄。どうせ後々揉めるから初めから奴隷制度なんて作るな、作っても途中で制度変更するなとは思います。結果論になりますが、やっていることが冤罪で刑務所にぶち込んだ補填をしているのと大差ない。

Q.奴隷について、創作の中だけと限定したらどう扱う?
A.反対派には回らず、奴隷は私兵として手厚く育成して遊びます。制度として広く認められているなら容認して、自分の奴隷によその奴隷を見せることで奴隷同士の間にも格差があると待遇を以って教え離反を防ぐ、逆隣芝作戦。たとえば反対派の襲撃でもあれば奴隷の生活を脅かす敵の構図が出来上がるので、奴隷自身が奴隷であることを望む環境を作り出し、反対派が奴隷当人との意識の差に思い悩む様を見て、所詮エゴの押し付けに過ぎないのだと理解させて悦に入りたいですね。長いものを巻かせてみたい。本当に反対なら元奴隷階級だけの国を新たに興させればいいし、反対派がすべての奴隷を買い取って身分を保障してやればいい話なので。現代現実の話だったら知らんがな。一個人としての許容量を超えてしまいます。

Q.逆に自分が奴隷にされたら?
A.虐待されたらそこで詰み。されないなら人間観察をしたり、どうにかして取り入ろうと画策しますが、なろう主の奴隷だけは性別に関係なく絶対に嫌です。そこから敵陣営に移動して引っ掻き回してやりたいと思うくらいには。


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原点にして頂点

ヤるならもっとうまくヤれよ。

 キーワード:踏み台 追放 兄弟 噛ませ犬 名家 説教


「そろそろアレを処分しようと思う」

 

「アレと云いますと──次男様にございますか」

 

「アレに敬称を付けなくともよい。我が家の面汚しは、魔の森にでも打ち捨てておけ」

 

「御意」

 

「──ちょぉっと待ったァ!」

 

「お坊ちゃま!?」

 

「……ハイディンか。聞いていた通りだ。いつまでも失敗作にかまけているお前のためと思って、アレを捨てることにした」

 

「弟はまだ家に居るのですね?」

 

「そうだ。だが金輪際の接触を禁ずる」

 

「なぜ──……ですか」

 

「ん? なんだ? 言いたい事があるのか? 大きな声で話せ」

 

「なぜ! (ころ)さ! ないん! ですか!」

 

「えっ」

 

「え?」

 

「え……」

 

「ただ捨てるだけなんて、父上はバカなんですかっ!?」

 

「バッ……!? 父親に向かってなんて(くち)を──」

 

「いいですか! 魔物が蔓延(はびこ)る魔の森であっても生還率はゼロではありません! 捨てたところで、腕試しに訪れた猛者に拾われでもしたらどうするんですかっ!? 何とも遭遇せずに運よく逃げ延びても駄目です!」

 

「え、いや……どうせまともに力も出せない失敗作だし……」

 

「それでも我が一族の血が流れています! もしも、次の代で血が覚醒したら?」

 

「あっ……」

 

「あ、じゃありません! 我が家は炎の魔力を操るためか、髪の色がみんな真っ赤っかです。そして血も真っ赤で、血は集まると黒く見えるんです! ()()の弟は力が強大すぎて出力できなかったとは考えなかったんですか? どうなんです? 父上」

 

「あ、はい……」

 

「ええ、ええ、だからといって優遇するのも違うとは僕も分かっています。だから殺しましょう」

 

「えっ」

 

「えぇ……」

 

「えー、でもありません! 失敗作でも血筋は本物です。穀潰(ごくつぶ)しが目障りなのは分かりますが、あとでお家騒動でも起こされたら僕としては(たま)ったもんじゃないんですよっ!! 禍根(かこん)も球根も芽も全部しっかりと摘み取ってください! 他家でも分家でも何でも拾われたらアカンのだと理解してくださいよ! 復讐という大義名分を与えようとしないでください! 与えるのは絶対の死だけで充分です!」

 

「お、弟っ、あんなにかわいがってたのに殺すのっ?」

 

「なにちょっとかわいく言ってるんですか、この中年親父は」

 

「だって……」

 

「デモもだってもありません! ないないない、無い無い尽くしです! もういいです、弟の処分は僕が指揮を執りますから、父上はおとなしくしていてください!」

 

「え、わし当主……」

 

「僕は次期当主です。いいですね?」

 

「はぁい……」

 

「ゼーバス」

 

「は……──はっ!?」

 

「突っ立ってないで早く弟を捕らえに行ったらどうだ?」

 

「ハ……只今(ただいま)!」

 

「手心を加えようなどと思うなよ。──父上」

 

「……なに?」

 

「いつまでも悄気(しょげ)てないでシャキッとしてください。格上なら格上らしく、尻で椅子を磨いてないで僕に修行でもつけてください。そんなんじゃ教育失敗からのお家没落コースですよ。さっさといつもの父上に戻ってください。父親らしく息子に背中を見せていてください」

 

「──! フッフッ、ヒヨッコが()えよる! ではすぐに鍛錬といこう! 大口(おおぐち)を叩いたキサマには家督は譲らん! いずれ生まれ来る、まだ見ぬ孫に譲ってやるとしようぞ!」

 

「その意気やよし。父上のほうこそ、簡単に引退できるとは思わないことですね!」

 

 




以下、雑な設定。

ハイディン(お坊ちゃま):
 炎を司る魔術師の名門の生まれ(ガチギレ)。一族の中でも神童と称されるほどのハイスペック跡取り息子。長男。頭のほうもハイスペック過ぎて踏み台フラグを自ら叩き折ることに成功した。
 不出来な弟のことを見下しはせず、兄弟愛を示してきたが、どうせ居なくなるなら完全に抹消してやったほうが弟も幸せだろうとか物事を独善的に考えている。
 名前の元ネタは「噛ませ犬」の英訳の変形。ハイ=高み。ディン(デイン)=勇者(DQ)。

黒髪の弟(アレ、失敗作):
 本文未登場。次男坊。だいたい兄に指摘されていた通りの逸材だった。突然変異個体。この後しっかりと殺されたので物語が始まることはない。生きていたら復讐型追放系主人公として覚醒するところだった。
 母親は次男の毛並みが違っていたせいで気を病み、無理をしたせいで出産の数年後に亡くなってしまった。

当主(父上):
 ハイディンの父親。当主らしく尊大に振舞っているが、根は小心者で甘い。一族の失敗作である次男を殺処分せず追放しようとしたところに器の小ささが表れている。
 長男にうまく煽られたことで本文終了後に覚醒。発破をかけられたと分かっていて乗せられることにした(残り少ない見栄を張った)。息子のしごきを受け生涯現役の、一族で最も優れた男として長く君臨することとなる。

ゼーバス:
 側近とか執事とかそんな役職に就いている人。御付き。まだまだ青いと思っていたお坊ちゃまの苛烈さに脳を焼かれてフリーズした。本文終了後は、なんだかんだ言いつつ父親を立てるお坊ちゃまに忠誠を誓う。
 名前の元ネタは「セバスチャン」。


魔の森(地名):
 魔物だらけの、なんかやべー場所。自殺の名所。隔離地域。

原点にして頂点(タイトル):
 原点=父親。パパがんばるの意。神童の加護により、失敗作が付け入る隙は無い。


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銀の弾丸:【閲覧注意/G】

剣と魔法の世界に銃が存在しない理由。
 ・後書きを微妙に追記(2024/1/4)。

 キーワード:異世界 転生 冒険者 ヒーラー 医者 毒 機械 ロボット メカ 銃


「≪ヒール≫! ……ダメみたいです」

 

「なんで? あんたヒーラーなのになんで怪我人ひとりも治せないワケ? この役立たず! 出てってよ! この部屋から!」

 

「……」

 

「行こう。ナロット君」

 

 

────────────────

 

 

「どうして、リーダーさんは目覚めないんだろう? 傷は完全に癒したはずなのに」

 

「……それについてなのだが、遺跡に出てきたモンスターは何だったか覚えているかな?」

 

「えっと、ロボ……いや、よくわからないモンスターでしたっけ」

 

「もう取り繕わなくていいよ、ナロット君。じつは私も転生者なんだ」

 

「えっ! アサクロさんも転生者だったんですか!? ……全然わからなかった……」

 

「まあ、本当ならば馴れ合う気はなかったしね。このタイミングで暴露したのにも当然理由がある」

 

「あのっ、アサクロさんの本名って何です? 出身地は──」

 

「馴れ合う気は無いと言ったはずだよ。大事なのは昔の事よりも現在(いま)の事だ。……もっとも、君に現状を把握させるためには私の過去もある程度話さなければならないのだが」

 

「でも、せっかく巡り会えた()()ですし……」

 

「確かに私たちはある意味では()()の出だと云えるが、だが今はそんな事はどうでもいい。重要なことじゃない。私たちは今この世界で生きているのだといい加減、()()したまえ。この事態はいつまでもゲーム気分な君が引き起こしたようなものだと言ってもいいのだぞ」

 

「……どういうことなんですか?」

 

「まず、私たちは俗に言う≪神様転生≫など無く、気が付いたらこの世界に存在していた。ここまではいいかな?」

 

「はい」

 

「君は類いまれなる回復魔法を、私は優れた身体能力を獲得していた」

 

「僕のほうはパーティのみんなに認めてもらえてないですけどね」

 

「それは君のプレゼン能力不足……いや、アピールが下手なせいだろう。私のほうはしっかりと印象付けられているしね」

 

「そんな言い方……」

 

「私はね、前世は医者だったんだよ。私からしてみれば、君の能力は()()から手が出るほど欲しい能力だ。ヒーラーならどんな傷でも塞ぐことができるし、四肢の再生どころか本当の死者蘇生を行なえる超越者だって存在しているほどだ。何度、君を羨んだことか」

 

「……えへへっ」

 

「超能力で傷や病気を癒されてしまっては、医者の出番なんてないのだから」

 

「あ……」

 

「回復魔法があるから医療技術は要らない。……この意味が分かるかな?」

 

「えっと、ごめんなさい。よくわからないです」

 

「魔法なんていう、あやふやで意味不明な原理のせいで、現代医術のような何が原因でどこをどうすれば快復なんて明確な知識が確立されていないということだ」

 

「なるほど?」

 

「だが、それでもこの世界には()が存在する。薬は毒と紙一重だというように、私も紙一重でアサシンなんて役割(クラス)に就くことができた」

 

「回復魔法と毒が存在するのは、ゲームでは普通ですね」

 

「そしてここにきて、あのロボットだ。……あの機械は銃を装備していた」

 

「アニメや小説ではあまり見ませんけど、ゲームならよくある設定ですよ?」

 

「……弾は、貫通していたか?」

 

「え?」

 

「回復魔法はどんな傷も塞ぐことができる。──では、そんな生けるゾンビのような敵を倒すためにはどうしたらいいと思う?」

 

「敵って、僕たちのリーダーですよ? そんな言い方はないんじゃないですか?」

 

「あのロボットからしたら、私たちは敵だ。だから撃たれた。君もヒーラーならば回復魔法の攻略方法くらい思いつくはずだ」

 

「……」

 

「これは私の考えだが、ヒーラーを抱えているパーティを殺すには複数同時に攻撃して回復を遅らせて失血死を狙うか、永続的な毒で行動不能にさせる」

 

「回復を遅らせるのはともかく、永続的な毒ってそんなこと出来るんですか?」

 

「その手段があの弾丸だったと思えば、つじつまが合う。──毒性の高い弾丸を()()()貫通させない威力で発射し、敵自らの手で体内に留まらせるように設計されているのだろう」

 

「リーダーさんが起きない原因! じゃあ、すぐに弾丸を取り出せば!」

 

「それは不可能だ」

 

「えっ!? どうして?」

 

「さっき言ったように、この世界では医療技術の代わりに回復魔法が存在している。そのせいで、医療器具がひとつもない」

 

「で、でもっ、切るくらいだったら普通の刃物でも」

 

「病人の体を切り刻むことを、あの娘が許すと思うか? どう考えてもトドメを刺して楽にしてやろうとしているようにしか見えないだろう」

 

「必要な事だって、ちゃんと説明すれば!」

 

「外科手術は古代エジプトや古代ローマの時代から行なわれていたが、全身麻酔下での外科手術の成功例は1804年まで無かった。魔法が存在しない世界で()()だ。()()なんだ。人を救う環境を整えることに1800年以上も掛かっているんだ」

 

「……ここは異世界です」

 

「ではなぜ、古代人はロボットに銃なんて持たせた?」

 

「そういうものなんでしょう」

 

「…………」

 

「…………」

 

「まあ、好きにするといいさ」

 

「ええ、好きにしますよ。リーダーさんの手術をします。手伝ってください」

 

「断る」

 

「仲間を見捨てるんですか?」

 

「私はこの世界()医者と認められていない。医師免許を持たない者が手術を行なえば傷害罪に問われてしまう」

 

「あなたには医者としての矜持(きょうじ)はないんですか?」

 

「あるとも。だからこそ出来ない」

 

「……あなたのこと、見損ないました」

 

「ああ、見損なっているな」

 

「他人事みたいに言う……っ!」

 

「他人だからね」

 

「あなたの代わりに、僕が彼を救う!」

 

「私はこの部屋に残るよ。……さようなら、ナロット君」

 

 




Q.話がよく分からなかった。
A.いますぐブラウザバック推奨。


Q.なんで元医者は助けようとしないの?
A.動いたら殺人犯扱いされると気付いている。

Q.ナロットはなぜそれに気付かない?
A.結果しか見ていない。視野狭窄(希望的観測)に陥っている。

Q.なぜ元医者は言いたいことをハッキリと伝えない?
A.医療現場から離れて長いせいで、感覚が一般寄りに戻っていた。医療従事者は患者の母数が多いせいか、感覚がマヒしがち(筆者の実体験)。

Q.このあとどうなる?
A.サイコ野郎「仲間を助けるためにナイフで切って、中に手を突っ込みます!」


以下、少し投げやりで雑な設定。

ナロット:
 ヒーラー。男性。転生者。よくある無能だと思われて追放される系主人公。男性向けなろう系では珍しく、同じ転生者への仲間意識が強い方。
 本文終了後、リーダーが眠る部屋で手術を始めようとするが、仲間の女の子に見咎められてその場でPT追放を言い渡される。その際「ヒーラーとしての存在意義を示すために、病人相手だろうと切り刻んでから回復魔法を掛けようとした、最低最悪の狂気のマッチポンプ野郎」の噂が立ってしまう。
 名前は「ロボット」の捩り。機械と同じようにあらかじめインプットされていた価値観が彼のすべてであり、他者の忠告などかけらも理解しようとはしなかった。機械は手順通りにしか動けない。ロックが掛けられては修正など不能。石頭には言葉は通じない。

アサクロ:
 暗殺者(便宜上の分類)。TS転生者(前男→現女)。浅黒い肌の女性の肉体を持つ。「アサクロ」は特徴を表しているだけの単なる通称であり本名ではない。医者だった前世の知識を活かして、人体急所を的確に狙った一撃必殺を好む。対動物戦は苦手。前世との性別の違いから自身が世界の異物であると認識しており、当然転生者として目立つつもりはなく、ナロットが転生者だということに気が付いても口を閉じたままでいた。
 ナロットに忠告したのは、PTの仲をこれ以上こじらせないためだったが裏目に出てしまった。理路整然と物事を説いても理解されることはなかった。正論に終始していたが、正論ほど相手を苛立たせるものはない。最後の「(道理を)見損なっている」と「(君は所詮)他人だからね」はナロットへ向けての発言。匙を投げた。
 前世の名前は「麻倉師道(アサクラ-シドウ)」。麻倉=アサシン。麻=神道で重要。倉=女体、技術のお蔵入り。師道→修道(女)→シスター。人を殺すのも救うのも紙一重。毒にも薬にもなれる人。神道とシスターでなんか違うものが混じっているのは前世と現世の違いを表している。

PTリーダー:
 現地人。意識不明の重態。アサクロの見立てどおり、毒性の高い弾丸を撃ち込まれたが、ナロットの手により体内に毒弾を残したまま傷を塞がれてしまった。詰み。
 彼が助かるためには、アサクロがスタンスを変えてナロットに協力し、仲間の女の子を昏倒させるなどして排除し、麻酔が(たぶん)無いまま、傷痕がきれいさっぱり消えた体を切り刻まれて宝探しをされる必要があるが……激痛や失血でショック死する可能性が非常に高く、何発撃ち込まれたかも定かではない。運ゲー。

ナロットを追い出した女の子:
 現地人。PTメンバー。今回、ナロット君に追放を言い渡す予定にある人。ナロットのせいで事態が悪化したのは確実なので、どんな結果になろうとわだかまりは残る。トラウマ確定の不憫枠。


ヒーラー(クラス):
 なんかよくわからない不思議パワーで傷を癒す、やべークラス。上位の術者は欠損部位の復元や死者蘇生まで行なえるトンデモ揃い。治すことのできない例外は寿命による死と、失われた血液、精神的疲労など。それはそうと云えるもののみ。
 よくわかんねーちからで治せば解決するせいで、外科手術を初めとした医療技術等はまったくと云って進んでいない。器具はもちろん、麻酔すらない。あっても毒物扱いで忌避される。

ロボット(モンスター):
 旧文明期の遺物。非常に毒性の高い弾をぶっ放して負傷者を増やしまくる、戦争においてされると一番嫌なことをやってくる、やべー機械兵。存在そのものが異常・異質であるヒーラーに対するメタ兵器群。よく考えもせず脳死で傷を癒すヒーラーの天敵的存在。放つ弾は体内に残留するように威力を調整・計算されている。

銀の弾丸(タイトル):
 ・たいまの弾丸。対魔法使い用の弾丸。
 ・狼男(現地人の肉体へ憑依したなろう主、迷惑な変身願望)を撃退するための小道具。
 ・IT用語としても存在し、主に「都合のいい展開はありえない」といった否定の意味で使われるとか。
 ・銀といえば毒。
 ・銀→イン→IN。


類似する描写のある作品:
 ・TEST10(映画)。打ち込まれた弾丸を摘出できず、詳細な説明がないまま死亡。


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責任の所在

学園モノは一般常識が狂いがち説。なお現実
 ・後書きに制服の仕様、設定を明記(2024/1/12同日)。

 キーワード:R-15 学園(学校) 校則違反 不純異性交遊 現代 魔法


「戸田先生! 俺が停学ってどういうことなんだ!?」

 

「戸田! 寮の部屋割りに口出(くちだ)ししたのはお前か!」

 

「戸田さん! なんでなんですか!」

 

「なんですか、騒々しい……。何か話したいことがあるなら順番にどうぞ。──ただし、会話は録音させていただくので、そのつもりで」

 

「録音する必要はないだろう」

 

「いまはすべての乗用車にドライブレコーダーが標準搭載される時代です。何か問題でも?」

 

「それは車の話であって、人の話ではないだろう」

 

「……他人に聞かれたら困る話をしたい、ということでしょうか」

 

「なっ……! やましいことはなにもない!」

 

「では問題ありませんね。それでは発言順に話を聞きましょう。業陀(ごうだ)賢蛇(けんた)君からどうぞ」

 

「俺からか。俺が停学ってどうしてだ? 俺は何も悪いことはしていないぞ」

 

業陀(ごうだ)君の停学理由は校則違反です。制服の無許可改造のペナルティですね。制服の再受領がダメだったということではないので、そこは勘違いしないでくださいね」

 

「付与魔術をかけただけだ! ちょっと細工しただけで弾け飛ぶ服なんて聞いたことがないんだがっ!?」

 

「こちらとしても規則に従って処分しただけです。服が弾け飛んだのは身代わりとして正常に機能した結果なので問題はありませんね」

 

「俺はみんなの前でパンツ一丁になったんだぞ!?」

 

「……うわっ」

 

業陀(ごうだ)……、お前っ……」

 

「自業自得ですね。あだ名はパンツマンでしょうか? 残りの学園生活3年間、がんばってくださいね」

 

「あんたのせいだよ!」

 

「いやですね、責任転嫁しないでください。規則を破ったのはあなた方です」

 

「つ、次はわたしが言わせてもらうぞ! 寮の部屋割りについてだが、なぜお前が横槍を入れる!?」

 

「男子寮の部屋が足りなかったからといって、女子寮に男子生徒を寝泊りさせるなんて論外です」

 

「ほう? お前は生徒に野外で寝ろと言うのか? 薄情なやつめ」

 

「はぁ。冬村先生は不純異性交遊を誘発させろとおっしゃりたいのですか?」

 

「あいつらは幼馴染同士だ。好きあってる者同士、不純などではない。ゲスの勘繰りはやめてもらおう」

 

「では勘違いがないように関係各所に通達しておきますね。……そうですね、我が校はラブホ代わりにしてよい、あたりが簡潔でしょうか」

 

「いや待て。本当に待て。お前は何を言っている!?」

 

「冬村先生の主張だと、()純異性交遊なら()()をしても良いんでしょう?」

 

「あいつらは(ただ)れてなんかない! 真っ当な関係だ!」

 

「知りませんよ、そんなの」

 

「知らないって、お前……無責任な!」

 

「責任を取るのは同室になった男子生徒でしょう。なんで私が責任を取らないといけないのですか」

 

「……確かに。一理ある」

 

「でしょう。次の方どうぞ」

 

「え? ああ……、ボクも冬村先生に近い内容なんだけど、来日した例の王女殿下のために、仲のいい男子生徒と同室にって思ってたんだけど……」

 

「死にたいのですか?」

 

「え?」

 

「外患誘致で死にたいのですか?」

 

「えっ? えっ? でもすごい相性よさそうだったし、すぐ恋仲になると思うんだけど……」

 

「希望的観測で外患誘致しないでください。数ある中から歴史ある我が校を選んで外国から留学なさった王女殿下にそんな仕打ちをして国際問題になったらどうするんですか」

 

「身分の差を越えた国際カップルって、ロマンがあっていいじゃないですか」

 

「確かに」

 

「あぁ、憧れるかも」

 

「ほら。おふたりだって同意してるし」

 

「私にはロミオトラップかなにかとしか思えませんが」

 

「ロミオトラップって何?」

 

「恋仲となって他組織の情報を盗み出す、いわゆるスパイ行為のことですね。ハニートラップの男女逆転版です。……まあ単純に考えて、私が親の立場だったら娘に悪い虫をつけてくる学園なんて即刻転校させるか、訴訟しますね」

 

「いちいち大げさな奴だな、お前は。ただの学生だぞ」

 

「そうでしょうか? 親の預かり知らぬところで未成年の娘がハメられているとか想像したくもないのですが」

 

「ハメっ……」

 

「歴史的に見て、王族の方が庶民の中から伴侶に選ぶことはたまにありますが、それだって育ちが良いところから選ばれてます。大企業のお嬢様・お坊ちゃまならともかく、中流階級以下が選ばれることってあるんですかね?」

 

「いまがその時かもしれないだろう」

 

「それを決めるのは親です。立場のある()()()ですし、文化も価値観も違う外国なんですから、慎重に事を進めても遅くはないでしょう」

 

「子供の意見(おもい)はどうなる。すべて親任せでは子供の自立を阻害するぞ」

 

「……あのですね、私たち教育関係者は各ご家庭から大切なお子様をお預かりさせていただいているんです。判断に困ることがあれば報告し、相談し、連絡するのは社会人として当然のことなんです」

 

「学園は社会の縮図であり、社会を学ぶ場所だ。……戸田は慎重がすぎる」

 

「成人して社会に出れば、常に行動に責任が付きまといます。であれば社会の縮図である学園に勤めている私たちにも責任のある言動が求められるということになります」

 

「これじゃあ、話は平行線ですね。業陀(ごうだ)くんの事はすっぱり終わったのに」

 

「おい。やめてやれ」

 

「言わないでくれ……。というか忘れて……」

 

「あ、ごめん……」

 

「どうしても(まと)まらないのですから、あとは上の判断に任せましょう。学園長と理事長、ならびに保護者の方へは私のほうから連絡しておきますね」

 

「ああ、頼んだ。……んん?」

 

 




以下、雑な設定。

戸田:
 女性教員。特に語ることもない、ただのまともな大人。さりげなく外部を巻き込む流れで話を終わらせた有能。
 名前(苗字)の由来は、川関係。激流に身を任せ? どうかしているよ。

冬村:
 気の強い女性教員。弟と幼馴染の女の子が同じ学園に入学したので、これを機に2人の仲を物理的にも近づけようと画策していたが、それを知らされた学園上層部にこってりと絞られることになる。寮の部屋割りは2人1組。公私混同していた。

名前の出なかった先生:
 女性教員。ボクっ娘。冬村の二番煎じだが規模が違いすぎて国賊スレスレのヤバイ橋を渡ろうとしていた。この度めでたく監視が付けられる運びとなった。危機感と想像力のないお花畑な頭の中。恋愛脳。
 外患誘致の意味も理解しておらず、「悪い風邪」のような詩的表現だと勘違いしたまま。

業陀賢蛇(ごうだ-けんた):
 男子生徒。授業中にテロリスト乱入を妄想するタイプ。寮の件には関わっていない。制服には着用者が受けたダメージ等を肩代わりする機能が備わっており、害のなさそうな付与魔術にも反応して派手に弾け飛んだのは危機感を煽り、異常事態を知らせるため。全裸になりたくなければ妙な真似はするなという意図があった。また、違反者に対する社会的制裁も兼ねている。今回のように。
 名前はDQNネームそのまま。ぶっ飛んだ役満。業=悪業。陀=斜め上で険しい。賢=大体真逆の育ち方になるジンクス。蛇=蛇足。


付与魔術:
 いわゆる魔法的なバフ効果のこと。エンチャント。

制服:
 生徒の身の安全を守るため、身代わり効果の付与魔術が施されている(ソシャゲでおなじみのあのシステム、または戦車でおなじみの爆発反応装甲のようなもの)。基本的に外部からの攻撃に対して機能するが、好意的な付与魔術であっても術式が混在して制服本来の効果が不発しないよう、すべての後付け効果に反応して自壊するように細工されている。
 これには身体能力向上魔術などによる実力誤認の謀殺を防いだり、露出リスクを持たせることで生徒を危険から遠ざける思惑もある。さらに違反や異常事態発生の有無が一目で分かることから学園側も管理・把握しやすくなっている。
 着用者の公然猥褻を誘発しやすい問題点こそ残るが、制服の下に体操着を重ね着するなどして露出回避できる抜け道も存在する。他の衣類を巻き込んで自損等はしない。ただし制服の許容量を超えた攻撃を受けた場合など、想定外のことに対しては別。身代わり効果にも限界がある。
 また、それらの仕様を悪用したイジメ等(他人への強制露出)の発生リスクもあるが、教員が女生徒にこっそりと抜け道を教えることで未然に防いでいる。また、それにより潜在的な性犯罪思想者のあぶり出しにも繋がっている。
 普通に攻撃を受けた場合は、被弾部位と威力によって破損具合は異なる。被弾=全損といった事態にはならない。しかし技術部では危機感をより煽るために派手に自壊させる派閥と、べつにそこまでしなくてもいいんじゃない派閥に分れており、たまに粗悪品が紛れている。消耗品かつ特注品なので、損傷した場合は学園側から再支給してもらえる。
 余談ではあるが、その一方で犯罪組織では機能性に優れる全身スーツ型(重ね着前提)が採用されているが、教員をはじめとした表側の魔術師はたいてい自信過剰で身代わりは利用していない。身代わり制服=未成年が着るもの=保険をかける未熟者といった誤った認識が広まっている。そんな思い上がりで自己の安全を投げ捨ててしまっている。


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命のバトン:【閲覧注意/BL】

なろう系の根本的問題。
 ・後書きにプロット他を追加(2024/2/14)。

 キーワード:R-15 異世界転生 転生者複数 冒険者 ホモ 同性愛 BL 男の娘 女装
       シリアス チェンジリング


「いい加減にしてくれ! 同じ転生者だからって、男同士でベタベタベタベタ……これじゃあ、女の子を集めても全然恋愛できない!」

 

「まあ俺が()()しているのもそれが狙いだしな。俺の目が黒いうちは、お前に子作りなんてさせねーよ」

 

「なんだとっ! 何を企んでる?」

 

「俺の目的は、この世界に転生者が居たっていう痕跡をなるべく残さないことだ。俺もお前もあんまし頭良くないからミーム的遺伝……ミーム汚染は結果的として防げてるけどな」

 

「……何を言ってるかよく分からないが、オレたちがこの世界に居るってことが気に入らないのはなんとなく分かった」

 

「まあ、そういうことだ。生きた証の(さい)たるものは子供の存在だしな。いま生きていられるだけ感謝しろよ」

 

「それじゃあ、何の為に生まれ変わったのか分からないじゃないか。オレだって()()の女の子とエッチがしたい!」

 

「お前さ、両親の名前覚えてる? 今生(いま)の自分を生んでくれた親たちの名前」

 

「は? そんなの……、…………」

 

「やっぱ覚えてないよなぁ。……俺たちはさ、所詮他人なんだよ。勝手に()()()()の家庭にズカズカと乗り込んだ、た・に・ん! 全部他人事なんだよ。この世界のことは」

 

「それとこれとは関係ないだろ」

 

「そうか? これまで仲間にしてきた女の子たちはあれだけの美人揃いだし、結婚相手には困らないだろ」

 

「オレが困る!」

 

「そ。困るのはお前だけ。たった1人困る。ただそれだけ。……で? 何が関係ないって?」

 

「……お前はそんな格好してるけど、女の子とエッチしたくないのかよ? 人生をやり直せる、せっかくのチャンスなんだぞ」

 

「そりゃあ俺だって出来るならそうしたいさ。でもそれはただの自己満足だろ。ゲーム感覚で他人の人生を背負えるなんて俺は自惚(うぬぼ)れちゃいない」

 

「オレとお前は違うんだ! オレなら出来る! もう()っといてくれ!」

 

「なら聞かせてくれよ。美少女とエッチして、それから?」

 

「それからって……。幸せな人生を送る」

 

「送れると思うのか?」

 

「出来るって言ってるだろ!」

 

「よくある物語をなぞるなら、俺たちの行く末は英雄になるんだろうな。……だけど周りがそっとしておいてくれると本当に思うか?」

 

「は? そんなの──」

 

「王族に気に入られたら、国家レベルの争いに巻き込まれるかもしれない」

 

「──っ!」

 

「冒険者として大成したら、逆恨みした連中に家族を狙われるかもしれない」

 

「くっ……」

 

「ハーレムを作ってもヘイト管理に失敗したら、嫉妬心から何か仕出かすかもしれない。いや、外部の厄介なファンに狙われるかもしれないな。関わってしまった責任は取れるのか?」

 

「……全部可能性だろ。必ず起こるってワケじゃない」

 

「でもな、何もしなくても俺はお前の邪魔をする。それは確定事項だよ」

 

「狂ってやがる……ッ!」

 

「親の名前も言えない俺たちが狂ってないわけがない」

 

「親の名前を言えれば見逃してくれんだなっ!?」

 

「んなわけねーだろタコ! お前は自分の母親に、あんたが腹を痛めて産んだ子は実は見知らぬおっさんでした、なんて言えるのか? どんなホラーだよ。チェンジリングどころの話じゃねーだろがよっ」

 

「それはっ……、……いや、そこまで言う必要はないだろ!」

 

「そうだな、知らないほうが幸せなこともある。知らないということは存在しないということでもある。俺たちは存在するべきじゃなかったんだよ。……生まれてくるべきじゃなかった」

 

「は? 存在するべきじゃない? ()る気か?」

 

「逆に訊くが、お前に俺が()れるか? 前世の話を共有できるのは俺だけなんだぞ。お前を(しん)に理解できるのは俺だけ。俺が死ねば本当の意味での独りぼっちになってしまうのに(ころ)せる? 俺たちコンビを知る奴はなぜ俺が死んだか嗅ぎ回るだろうなぁ。両親も俺たちが(ころ)し合ったと知ったら悲しむぞ。小さな田舎町だからすぐ噂になるんだろうな。それでその後はどうする? ……ははっ、生まれ変わってから冒険しかしてこなかったお前が何を語るって言うんだ?」

 

「うるさい、黙れ!」

 

「俺は自分が何をしようとしてどんな結末を辿るのかちゃんと理解して動いているし、胸を張って誇れる女装(しゅみ)もある。……空っぽなお前の代わりに、俺が語ってやるよ。お前が俺とすべきことを。──お前は俺とここでホモになるんだよ!」

 

「はっ!? バッ……、ホッ……、…………?!?!?!」

 

「お前もさ、そのうち俺との関係が変わるんだって思ってたんだろ? 薄々。だから焦った。名コンビで顔が売れてる俺たちの仲を邪魔する(やつ)は現れはしないって気付かないふりをしていた。でもホモが嫌いな女子なんかいない。見た目だって問題はない。すべては計画通りに進んでいるんだよ!」

 

「なんでいま言った!?」

 

「お前が騒いだから」

 

「!?」

 

「な? 周りがそっとしておいてくれないだろ? な?」

 

「それをお前が言うな!」

 

「なぁ。同性愛は過去に対する殺人だよなぁ。遺伝子を繋ぐ、命のリレーを俺の代で終わらせるんだからなぁ。それだけは今の親には申し訳ないと思っている。だけどお前と一緒に堕ちるところにまで堕ちてやるって、とっくに心に決めてるんだ」

 

「俺は、いやっ、女の子と──」

 

「そんなにエッチがしたいならさせてやるよ。喜べよ、お前だけの男の娘(オンナノコ)だぞ。──なぁ……スケベしようや……」

 

 




Q.男の娘(オンナノコ)?
A.伝説の誤植。元ネタは「女の子(おとこのこ)」表記で、男の子(おとこのこ)との二者択一。

Q.ホモ要素いらないだろ。有無を言わさず殺せば済む話では?
A.何気にこれがベターな結末。


以下、雑な設定。

俺(男の娘):
 悲観的な転生者。前世も今世も男性。女性的な乳房と男性器の両方を併せ持った、シーメール。見た目だけはS級美少女。女装は実益を兼ねた趣味でもあり、恥じるのは自分に失礼だと思っている。オレ君とは幼馴染であり、冒険者としても有名なコンビ。
 見知らぬおっさんの親にされてしまった両親のことを不憫に思っていて、周囲の人間を欺いて育ってきたことに負い目を感じている。異世界をゲームにたとえるなら「転生者=ゲームのバグ」といった認識。ホモになったのは、自分ごと世界の異物を取り除こうと必死に思案した結果であり、オレ君のことが特別好きというわけではない。もしもどちらか一方の性別が違っていたら、もっと酷い結末を辿っていた。子孫を遺す気は一切なく、その可能性も許さない。
 今生の両親を悲しませたくないため、穏便にもホモカップルとして世間に認知させていって逃げ場を封じる計画を実行している。ちょっとは泣かれるかもしれないが、最終的に祝福してもらえる……かもしれない。

オレ:
 楽観的な転生者。前世も今世も男性。よくある願望欲望性欲全開のなろう系主人公。俺君のことは「変わった親友枠」といった扱いで、それなりに信頼していたが、欲を隠さなかったがために道連れ計画を立てられてしまった。隠していれば順当に監視だけで済んでいた。
 俺君の根回しにより、周囲の人間からはすでに「初々しいホモカップル」だと認識されており、オレ君の言動はすべて「照れ隠し」と変換されてしまっている。事実上のハーレムPTは完成しつつあるが参加者女性は全員、彼ら2人の恋路を応援する野次馬。浮気しようものなら軽蔑の眼差しを送られてしまう。外堀は埋められている。もう諦めてホモに堕ちて人生を楽しんだほうが身のため。子供を遺せないこと、性的嗜好と一致しない以外は勝ち組ではある。
 ちなみに受け入れると最初は義務感・使命感からだったが次第に惹かれ合っていく純愛ルートへ、拒絶すると心と体が乖離する調教(される)ルートに分岐する。俺君を殺害した場合は野次馬のちからによって殺人犯・最低男として全国レベルで情報共有、指名手配されてゲームオーバー。一矢報いたいなら自殺を以って本気だと世間に訴えることくらいか。実質詰み。


 下書きを見せた友人から「ホモオチとかサイテー」と云われましたが私は元気です。
 今回はいくつか因縁のある要素をぶち込んでみました。詳しい裏話は気が向いたら書き加えると思います。たぶん。


プロット(おまけ):
 ・ハーレム阻止 転生者2人 ホモ
 ・風評被害で社会的に封殺する
 ・身内の恥は身内で片付ける(前世が同じ世界というだけ)
 ・鬼隠し編と同じギミック 心理的操作
 ・ハーレムを作ろうとしても もう遅い
 ・ホモは過去への殺人
 ・両親の名前は言えるか?(覚えているか)
 ・チェンジリングどころじゃない
 ・女装
 ・兄弟同士にする
 ・監視体制

 これだけ見るとAIメモリのように見えると思いますが、基本的にほぼ思いつくままに書いています。以下はその流れです。

 1.ネタになりそうな要素や視点を探す(今回だと生まれについて)。
 2.風呂に入っている時などに考えを脳内に走らせて、話の筋道をひらめく。
   ※この時点で構想がだいたい練り終わっている。
 3.メモ帳などに要点などを書き出す。覚え書き。
 4.違和感がないようにシーンを書き出し、自己添削する。
   ※不自然すぎる要素は容赦なく切り捨てる。再度構想を練りながら書く。
   ※名前ネタやパロディを入れるのは2~4の段階。
 5.後書きを書く。内容に不安を感じたら先回りしてQ&Aを置いておく。
 6.前書きをてきとーに書く。
 7.それっぽいタイトルをWeb等を駆使して用意する(意味も調べる)。
 8.後書きにタイトルの意味を追加する(ここは気分で)。
 9.作業完了。お蔵入りしていた設定などは気分で随時付け足す。


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砂上の楼閣

本当は怖い、ナーロッパとゲーム概念。
 ・内容と設定の一部をスリム化(同日)。

 キーワード:冒険者 レベル スキル ダンジョン ナーロッパ 設定 考察


「≪ダンジョン・コア≫の概要は覚えているかな?」

 

「ああ、出発前に説明を受けたアレだよな。名前の響きからして何かの中心核だったか」

 

「そのとおりだよ。このナーロッパ大陸にはそのような物が複数配置されている。我々の知るラウンド大陸やパラサイレス大陸と違い、この大陸は天然資源が乏しくなってね。()()()()石炭や石油の代替品として、人為的に魔力の塊を造る試みが古代で始まったんだ。それがダンジョンだ」

 

「そういえば、道中で倒したモンスターは死骸の代わりに石を遺していたな。あれがそうなのか。わざわざ戦って収穫するとか効率悪いな?」

 

「モンスターは石の生成過程で生じる()()だ。想定された挙動ではない」

 

「じゃあ、こんな迷宮みたいな構造(つくり)なのは? モンスター出現と同時に殺せばいい話だろ。……いや、俺でも思いつくくらいだから、何か理由があるのか」

 

「仮初の命とはいえ、あれも生きてはいるからね。ある程度、生育させると石の質が良くなるんだ。()()に設置した当時の連中はそこまで考えてはいないだろうが。単純に模倣(コピー)がせいぜいだったのだろう」

 

「さっきから文句を言うようで悪いが、自動的に屠殺(とさつ)する仕掛けとかは無理だったのか? ダンジョンなんて()()()を作れるくらいなら、それくらい出来てもおかしくはなさそうなんだが」

 

「ああ、それはわざとだよ。あまりに管理が行き届いていると、生物兵器に転用できてしまうからね。こういった施設は多大に手がかかるくらいがちょうどいい」

 

「あー……、政治的事情ってヤツか。面倒くさいのは現代(いま)古代(むかし)も変わらないんだな」

 

「君、頭良いな?」

 

「まあ傭兵で戦士だしな。これでも結構、頭を使う職業なんだぜ? 学者先生」

 

「では、そんな君に問題を出そうか。我々が進んでいる、この()()()()()()≪ダンジョン・コア≫が設置されているのは、なぜだと思う?」

 

「……ダンジョンは都市近辺にもあるのに、わざわざ都市直下にダンジョンを作るのは確かにおかしな話だな。今こうして進入できている以上、忘れられたってのは少し無理があるな。知っていて上に都市を建てるのは変な話だし。そもそもそんな場所に建てられるのか?」

 

「ヒントは欲しいかな?」

 

「いやっ……、んんん……──あっ! そういや、この大陸の冒険者は≪レベル≫とか≪スキル≫とかよく(くち)にしていたな。魔術も発動媒体なしで使ってるヤツばかりだった。俺やエルサちゃんみたいに超能力者(サイキッカー)って可能性もあるが、それだと向こうでは希少扱いだった意味が分からなくなる。……消去法で考えて、ここの冒険者は≪ダンジョン・コア≫の影響を受けているのか? 後から都市に≪コア≫を運び込んだ?」

 

「ほう、正解だ。ナーロッパ人は≪コア≫の影響を受けている。≪レベル≫は影響度で、≪スキル≫は変異状態だね。≪クラス≫という定義付けもあるが、魔術も別の理を用いているから媒体を必要としない。冒険者のモンスター体質化を目的としているのだと私は見ている」

 

「マジかよ。……依頼の確認だが、あんたが依頼したのは都市直下の≪ダンジョン・コア≫の破壊だったな」

 

「そうだね。それで?」

 

「まさかとは思うが≪コア≫を破壊したら、街の人もモンスターみたいに石を遺して消えるってことはないよな?」

 

「……どうだろうね。断言はしないが、依頼を放棄したくなったかな?」

 

「心配しなくても、一度依頼を引き受けた以上はキチンとやり遂げるさ。どうせ俺が断ったところで、ほかの傭兵か冒険者に依頼し直すだけだろ? だったら、ちゃんと仕事をして金を稼がないとな」

 

「それは結構なことだ。まあ少なくとも大勢の冒険者が無能力者に落ちることは間違いないが、そんなものは些細な事であると、熟練の戦士である君なら分かるだろう」

 

「まあな。魔術士にはかわいそうだとは思うが、バカにちからを持たせるのは危険だってのは昔の知り合いで散々学んだからな……なるほど、それでこの依頼か。納得しかできねえ……」

 

「君の懸念どおり、ここ近年は異常個体の発生が目に余るようになってきた。当人は≪チート≫と称することが多いが、私に言わせてみれば≪バグ≫が適切だ。バグは取り除かなければならない」

 

()()()扱いってひでぇな……。いや気持ちは分かるが」

 

「──さて、到着だ。手早く処理して引き上げるとしようか。ガイ君」

 

「了解だ。マキナさん」

 

 




Q.都市の真下がダンジョン化しているのはなぜ?
A.現地民がモンスターに適応するための措置。性質をモンスターに近づけることで、敵性存在と同等の戦闘力を持たせている。ダンジョン≒巨大な魔法陣と想像すると理解しやすい(国土錬成陣)。なお、誰がいつ設置したかは作中では不明のまま。

Q.そんな物を破壊したらまずいのでは?
A.とてもまずいが、「(理論上は)代替手段はある」「筋肉は裏切らない」と誤魔化している。

Q.自動屠殺システムのくだりで会話が微妙に食い違っている?
A.インテリ同士の雑談は相手の思考回路を把握しながら行なうので突拍子なこと言っても会話が止まらないし、たまに主語などを省くこともある(それを小説に用いるのは悪手ではあるが)。阿吽の呼吸やツーカーを素でやってくる。
 作中ではダンジョンを発明した古代文明がそうしなかったことについての受け答えをしている。都市地下に設置した連中は模倣が関の山だった。丸コピでも問題ないと判断された。


以下、流用多めで乱雑な設定。

マキナ:
 考古学者らしき女性。古代文明について深い理解と知識を有している。戦闘能力を持たない、非戦闘員。世界の管理者を気取っているように見えるが、借り物のちからで成り上がっただけの者が再び底辺に戻る様子を観賞・観察したいだけ。地域の人たちを丸ごとモルモット扱いしている。
 本短編集の「飯前の前日談」にも登場しているが、今作とは無関係の内容。他キャラに合わせての再利用。

ガイ:
 マキナに雇われた傭兵。戦士。なろう系主人公気質の人間に苦労させられた過去を持つ男。尻拭い係。彼自身も無条件で魔法・魔術を顕現できるアレな素質の持ち主だが、戦士として武器を振るってきた時間のほうが長い。
 このあと「人死が出ないのなら、べつにいいか」と軽いノリで≪コア≫を破壊する。地道に鍛えてきた人間からすれば、チートスキルなんて無くても普通に戦える地力があれば充分。魔術のことも、発動媒体が必要な地域出身だからか深く考えていない。
 初出は筆者別作品の「RLQ(打ち切り)」より。リサイクル・キャラクター。ある種の脇役風アンチなろう系主人公の系譜。

エルサ:
 名前だけ登場。ガイと同じサイキッカー。なろう系主人公のような特別性は1人だけではない意味で登場させた。元々はRLQ用に用意していたキャラクター。
 名前の元ネタは「エルサゲート」より。その名称だけでも、なろう系で出すには少々アレな概念。人によっては、なろう系そのものがエルサゲートであると云う人が現れてもおかしくはない。いわゆる知らないほうが幸せな、よろしくない概念。調べることさえ推奨できない。


戦士(称号):
 ゲーム的な意味のクラスではなく、あらゆる武器を使いこなす戦闘のプロフェッショナルを指す。たとえば、剣しか使えない場合は「剣士」と呼称される。そういった分類。

サイキッカー(体質):
 文字通りの超能力者。発動媒体を必要としない、天然物の魔法使いのこと。希少。
 コアの影響を受けたナーロッパ人とはまた別の存在。

傭兵(生業):
 冒険者ギルドに登録していない、個人の何でも屋の通称。軍の雇われ兵士をやることもある。冒険者と比べて面倒事や手間などが多い代わりに自由度が高い。1~2人の少数精鋭が基本形。

冒険者(生業):
 組織化した傭兵。登録型派遣会社の社員。ギルドで管理されているおかげで仕事探しは楽だが、規約であれはダメ、これはダメと行動が制限されてしまうことが多い。基本的に4~5人以上のPTを組んで活動している。

ダンジョン(施設):
 古代の養殖場。石炭や石油に代わる、特殊なエネルギー媒体である「魔石」を核としたモンスターが自然発生する古代遺跡であり、それらを封ずるための牢獄。箱庭。最深部に「コア」と呼ばれる大元の物体(演算・発生装置)が存在する。
 遺跡内部を徘徊するモンスター自体も特殊なエネルギーで構成されており、倒すと魔石は落としても死体だけは残らず、霧のように跡形も無く消えてしまう。
 レベル・スキル・クラス等は、このダンジョンの影響を受けた人間が獲得した異能を言語化したものであり、便宜上、ゲーム的表現を用いているがゲーム的概念が作用しているわけではない。コアの影響範囲から出るとちからを失う。等間隔でコアが配置された環境であれば、別のコアが演算を引き継ぐため移動は問題にならない。そのため、ナーロッパ人の大半は純粋な人間ではない。人の形をしていて、人の思考が出来、人の言葉が話せる人型モンスター。人間もどきであり、モンスターもどきでもある中途半端な存在。
 作中にてガイは人体の霧散消失を危惧していたが、チート級にもなると「人の姿をした何か(スキルが本体)」なので、そういった類いは確実に霧散する。通常は無能化にとどまる。

ラウンド大陸、パラサイレス大陸、ナーロッパ大陸(地名・その他):
 コアの影響を受けていない地域の人間を出すために使っただけで、大した意味はない。前2つは別作品用の設定。

砂上の楼閣(タイトル):
 辞書の意味そのまま。基礎がしっかりしていないので崩れやすい設計で、非常に空想的で現実感が無く、ガワだけは立派だが長期間の維持もできないハリボテ。1回の失敗も許されない致命的な欠陥構造。地に足がついていない。


自動化した養殖場を作れるゲーム(おまけ):
 ・Craftopia:トラップタワー建築。まじもんの屠殺場。繁殖させて入水/熱傷など。
 ・Minecraft:トラップタワー建築。まじもんの屠殺場。落下/窒息/圧死など多彩。
 ・Terraria:トラップゾーン。ベルトコンベア式溶岩プールダイブなど。防衛設備にも転用可。
 ・elona:無限分裂モンスター屠殺場(自力式)。半手動。ハード面の自動化が必要となる。

倒すと石を落とす魔物(おまけ):
 ・ルカヴィ系(FFT)。人の肉体を媒体にモンスター体に変化する。


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貴族令嬢モノ(悪役令嬢)
駆け落ちの先は


山なし落ちなし意味なし(そのままの意味)。

 キーワード:貴族 身分差 駆け落ち 悲恋 説教


「自分の娘を政略の道具に使うなんて絶対に間違っている! だから俺と逃げよう! 身分なんて関係ない! 必ず幸せにする!」

 

「そうかそうか、つまり君はそういうヤツなんだな」

 

「伯爵っ!? クソッ……! 見つかったか!」

 

「お父様……」

 

「だから言っただろう。彼では役者不足だと」

 

「……残念ながら、そのようです」

 

「ハニー?」

 

「私たちはね、君を試していたんだ。娘と君の関係を認めず、娘に偽の縁談を用意したとき、君がどう動くかをね……。無策だろうと愚直だろうと直訴してくれば考えてやる余地はあった。だが、君はそれすらもしなかった。何事にも先立つものが必要だが、それに蛮勇は含まれない。勇気は勇気でも蛮勇を認めるわけにはいかないのだよ。なにせ、私は娘の幸せを願っているのだからね」

 

「そんな……」

 

「考えてもみたまえ。我が伯爵家の追っ手から逃げて回る生活を。無頼な男共が蔓延(はびこ)る世界に己が伴侶を引きずり込んだ先を。どうして平穏無事に過ごせると思っていられる? 何をするにも金は要るぞ。そして人ひとりを生かすに必要な金は、けっして少なくはない。我が娘も働かなければいけないだろう。君がひとりで2人分の生活費を稼げたとしてもだ、家に残してきた娘は果たして無事に過ごせるのだろうかね。追っ手はもちろんのこと、他の男が娘を狙わないと、どうして言い切れよう。何事も物事はそうそう都合良く回るものではない。私が君を試したようにね。常に最悪の事態を考えておくべきだ。そして、君は私の考えられる中の最悪の事態へと事を運ぼうとした。まったく、嫌になるよ。予想や想像とは、悪い事ばかりあたるものだ。本当に嫌になる」

 

「お、俺は彼女を……、必ず彼女を幸せにしてみせる!」

 

「初めから、そう私に言えばよかったのだよ」

 

「で、ではっ!」

 

「だが、それももう遅い。我が娘の伴侶に、君はふさわしくない」

 

「伯爵っ! どうか俺に機会を! どうか!」

 

「罪を犯した者が死ぬまで後ろ指を差され続ける理由は知っているかな? 貴族がなぜ醜聞を恐れるかを。知らないのだろうな。やらない者は初めからやらないからだ。一度失態をさらした君が二度と失態をさらさないと、どうして信用できる? そもそもだ、君は私を欺こうとしたばかりなのだぞ。現に謝罪すら満足に受け取っていない。いいか、今の君の立場は、我が娘を略取しようとした現行犯だ。君は犯罪者なのだよ」

 

「違うっ!! 俺は、俺はただ、彼女のことが好きなんです!」

 

「ふう……、これだけ言ってまだ分からないか。どうやら引き下がらないことが甲斐性や誠意なのだと勘違いしているようだ。これだから青二才は困る。お前もこれで分かったろう? この男の底の浅さが」

 

「はい……残念ながら、そのようです。すべて、お父様がおっしゃった通りでした」

 

「ハニー? 何を言って……」

 

「ダーリン。なぜ父と話してくれなかったのですか?」

 

「それは、伯爵が認めてくれないと思って……」

 

「本当に私の幸せを考えてくださるのなら、家族との絆を引き裂こうとはしないと最後まで信じていました。……あなたを信じていたかった」

 

「ハニー!」

 

「さようなら。もう二度と会うこともないでしょう」

 

 




女ろう系七不思議:
 1. 味見されないし、匂わせてもギリギリで助かる
 2. どう転んでも金持ちになる、生活基盤が安定する
 3. 男側からグイグイくる、執着される(性別が逆の場合も)
 4. 男女問わずキャラの境遇や末路がひどい、確実に始末しにくる
 5. 知能が足りていない、後先を考えない人物が非常に多い。ついでに色ボケも
 6. 不自然なほどにガバガバなセキュリティ 事件は起きるさ
 7. 逆ハーレムを作ってもハーレム要員になることはない(性別が逆の場合も)

 _8. 避けたい相手からは逃れられない、逃れても準レギュラー化する
 _9. 昔の恋人に対して今の恋人を見せつける 新しいお相手(男)はだいたい上位互換
 10. 他国に嫁ぐと高確率で祖国が滅ぶ
 11. 代わりのお相手が醜悪な面構え……からの美形化
 12. 料理かペットが出る
 13. 能力的に悪役令嬢が必要とされる、ついでに手放した祖国をバカにされる
 14. 悪役令嬢と同じ分野で特化した人材はまず出てこない(特に味方では)
 15. 正妻は当然 側室は無い あった場合は変化球の作風
 16. ヒロインが異母姉妹の場合、父親は1人としか浮気していない
 17. 開始地点は婚約破棄か、幼少期に熱にうなされるか(導入がほぼ固定)
 18. ゲーム設定があれば無理にでも話の中核にねじ込んでくる
 19. 家族愛の明確な描写がされない(あっても子煩悩止まり)
 20. 救われないサブキャラ(味方が高揚しているのは忠義心により)
 21. 転生者同士の交流描写(身バレ)を妙に推してくる


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貴族令嬢の価値:【閲覧注意】

Q.貴族といえば? A.変態で倒錯的。

 キーワード:貴族 悪役令嬢 婚約破棄 修道院 R-15


「お爺様、お父様。ご歓談中のところ失礼いたします」

 

「おぉ、わしのかわいい孫娘や。どうしたのじゃ?」

 

「学園の卒業パーティが終わるにはまだ時間があるはず……。もしやパーティ会場で何か問題が?」

 

「はい。婚約者である第二王子殿下より婚約破棄ならびにリレイティブ修道院に入るよう言い渡されました」

 

「なんとっ!」

 

「……それが第二王子殿下のお考えか」

 

「はい、残念ながら。わたくしの力不足で、このような結果を招いてしまい、お爺様とお父様にはなんてお詫び申し上げたらいいか……。これまでお世話になりました」

 

「……? 何を言っている?」

 

「え? わたくしは殿下のご命令通り、修道院へ送られるのでは?」

 

「これっ、サンズ。貴族令嬢や貴族夫人がリレイティブ修道院の本当の意味を知る事などなかろうて」

 

「本当の、意味?」

 

「ふむ……、どこから説明すればいいか。──そうだ、リレイティブ修道院が何か、知っている事を話してみなさい」

 

瑕疵(かし)がつき、婚約や婚姻が難しくなった令嬢が送られる場所と存じております」

 

「そのほかには?」

 

「いえ、わたくしが存じているのはそれだけです」

 

「そうか。……結論から言ってしまうと、そのような修道院は存在しない」

 

「えっ?」

 

「一般的に修道院とは、俗世や性の()()()()から隔離された環境と思われているね?」

 

「はい。……そうではないのですか?」

 

「半分は正解で、もう半分は不正解ともいえる。仮にそのような場所があったとしても、貴族の血を外へ運び出すなどありえないのだ」

 

「後々面倒くさい事になるからのぉ……。修道院送りは建前で、実際は家の中に隠すのじゃよ」

 

「では、わたくしはずっと家に居ていいのですか?」

 

「そうだよ。それに、お前にはとっても大事な役目があるのだからね」

 

「大事な役目とは?」

 

「お前には──私とお爺様の子を()してもらう」

 

「……は……? お、お父様っ……? な、何を、お、お、おっしゃって……?」

 

「貴族の婚姻には政略……家と家との結び付きのほかに、血を絶やさない意味が含まれる事は知っているね?」

 

リレイティブ修道院(近親)に送るとは、他家と婚姻を結ばずにその血を守れ、という意味なのじゃ。……殿下もほんに酷な事をおっしゃる」

 

「つまりだね、臣籍降下され婿として我が公爵家にお入りになられるはずだった第二王子殿下は、私達にその役目を果たせ、とおっしゃったのだよ。……なに、怖がる事はない。親子なんだ、()()も良いはずだ」

 

「早くに子をなせば、きっと殿下もお許しになるじゃろう。──善は急げじゃ。さっそく始めるとしようかのぅ」

 

「いッ……、いやああああぁぁッ──!?」

 

 

────────────────

 

 

「これはこれは第二王子殿下! よくぞ、いらっしゃってくださいました!」

 

「挨拶などいい。それより、ドーターはどこだ? 国中の修道院を捜しても見つからないとすれば、公爵家で匿っているのだろう?」

 

「……? 殿下の言いつけどおり、我が娘にはしっかりと役目を果たさせました。きっとご満足いただけるはずです」

 

「役目? 何を言っている?」

 

「そこのメイド。ドーターを連れてきなさい」

 

「やっぱり匿っていたんだな! あぁ、ドーター……! 僕が間違っていた! 君はイジメなどするような人間ではないと、僕が一番分かっていたはずなのに、僕は……ッ!!」

 

「公爵様。お嬢様をお連れしました」

 

「うむ。入りなさい」

 

「……」

 

「ドー、タ……ぁ……? な、なんだそのお腹は……? こ、公爵っ! これはいったいどういうことだ!?」

 

「殿下のご命令通り、我が家で(たね)を仕込みました。これにて殿下のお怒りがお静まりにならればと」

 

「僕は()()()()()、していないっ!!」

 

「……? 殿下は我が娘にリレイティブ修道院に入るよう、おっしゃられたのですよね?」

 

「確かに修道院へ入るようには言った! だが! ()()()()とは言っていないっ!!」

 

「これは異な事をおっしゃる……。リレイティブ修道院に入れとは近親者の子を孕めという意味なのですが、まさか殿下がその事をお知りでないなどと……?」

 

「あっ……? ぼ、僕はなんという事を……! 一番厳しい修道院だと聞いた! 一番厳しい罰だと! なのにっ!! ……あぁ、ドーター……どうか僕を許してくれ……無知な僕を……すまない……すまない……僕が間違っていた……」

 

 




なろう名物・地位の重さを理解していない、悪い意味で即物的な王子(王太子)。

大体は悪役令嬢の機転でなんとかなったり、傍観していたくせにここぞとばかりに王子に責任を取らせて詫びを入れる国王が出てきたり、新天地で新たに生活を送る(ついでに新しい男を見つける)展開になりがちですが、悪役令嬢ってそんなホイホイと放逐できるものなんですかね……? その他、ツッコミどころが多すぎて後書きの内容にも困るほどです。

その後の王道展開:
 1. 義弟や身分の低い護衛、平民とくっ付く。貴族的にうま味がない
 2. 他国の王子に見初められる。機密保持の面で大丈夫なの? 軍事バランスは?
 3. 婚約者の兄弟とくっ付く。実質NTR(BSS)展開返しで脳を二度破壊しにくる
 4. パパ公爵激怒からの即刻追放。損切りが早すぎる
 5. パパ公爵堪えて猶予をもらうもなぜかNAISEIや無双が始まる
 6. やべー貴族のもとに送られてなぜか溺愛される(令嬢が溺愛する作品もある)
 7. 大喜利が始まる(変化球)

その他の問題や展開など:
 1. 国王が激怒する。事が起きる前に止めろよ
 2. 非常識な行動の余波は王子だけに留まらない(放置していた親側も同様)
 3. ハニートラップ(ヒロイン)仕掛け放題のガバガバセキュリティであると露見する
 4. 来賓の前で婚約破棄をするという暴挙 国威も何もなくなる
 5. 次代は未来は傀儡政権 今代は教育に失敗した無能
 6. 簡単に切り捨てるどころか公衆の面前で貶めるような人間であると思われてしまう
 7. 公爵側の立場が弱すぎる ざぁこざぁこ♡ 物腰よわよわ♡ 権力スカスカ♡ ダメンズ公爵♡
 8. なぜ婚約していたのかまるで理解していない


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義弟の誤算

義弟のやらかし見逃されすぎ問題。そしてまたこのオチ。

 キーワード:貴族 婚約破棄 義理の姉弟 義理の親子 男同士の会話


「僕が廃嫡……!? 義父上(ちちうえ)、お考え直しください!」

 

「キサマこそ、その腐った根性を叩き直してこい」

 

「僕は大事な跡取りなんですよ! 義父上(ちちうえ)はそれを廃嫡するという意味を理解しておられない!」

 

「……ならば問おう。キサマは、キサマの義姉(あね)を陥れた意味は何だ?」

 

「それは()()公爵家にふさわしくないからです。義姉上(あねうえ)は……いや、あんな人、義姉(あね)と言うのもおぞましい! 学園は平等を謳っているというのに、リヴァルはヒロにイジメをしていたんです!」

 

「イジメか」

 

「はい! 人として許されざる行為であり、貴族としても有るまじき行ないです! 義姉(あね)が更正できたと思われるまで、修道院へ預けるべきです!」

 

(ここで義父上(ちちうえ)を言い包められなければ、僕の計画に支障が出てしまう……! あの平民(ヒロ)を利用して義姉上(あねうえ)と王太子殿下を破局させ、僕が義姉上(あねうえ)と結婚するという僕の計画がっ!)

 

「……私も老いたものだな。どうやら人を見る目が曇っていたようだ」

 

義父上(ちちうえ)……! ではっ!?」

 

「やはり、キサマは廃嫡とする」

 

「……は? な、なぜですかっ!? 義父上(ちちうえ)ッ!!」

 

「この(たわ)けがっ! 聞かされなければ解らぬか? ……いいだろう。最期の情けだ、ひとつずつ答えてやろう。我が娘・リヴァルの()()()として、分家の者を養子とした。娘が手元から羽ばたかぬというのならば、キサマの存在は不要となる」

 

「えっ!?」

 

「リヴァルが(くだん)の平民を疎ましく思ったのならば、我が家の力を以って排除すればいい。平民の命など貴族にとっては、赤子の手を捻るよりも容易いものだ。……そうはしなかったということは、ある種、平等に接していたと言えよう。そして、婚約者として苦言や忠告を呈するのは当然の行ないである。それを無視した結果、周りから疎まれても文句は言えまい。()して複数の男に粉をかけていればな」

 

「知って、おられたのですか?」

 

「当然だ。──キサマの浅ましい劣情もな」

 

「ッ!?」

 

「私が気付かぬとでも思うたか? 我が娘を見るキサマの目は、男の目だ。大方、物を知らぬ平民を利用して我が娘と王太子の仲を引き裂き、疵物(きずもの)となったリヴァルを(めと)ろうという魂胆だったのだろうな。……単なる憧れだと思い見逃したものに、こうも盤上を狂わされるとは」

 

「……」

 

「男と女である前に、我々は貴族である。キサマを養子にした意味を考えたことはあるか? ()に損失を与えた者をなぜ処分しないと思える? ……この婚約は、建国より王家を支えてきた我が公爵家への褒美であり、()()であり、両家の悲願でもあった。奇妙なことに、これまで一度も王家と公爵家が婚姻を交わせることは叶わなかった。両家ともに生まれる子の性別はなぜか同じだった。王家に男児が誕生すれば、公爵家にも男児が。公爵家に女児が生まれれば、王家にも女児が生まれる。それを何十回と繰り返した果てに、ついに男女に別れた。……だのに、キサマと平民の手により、両家の望みが叶うことはなくなった。──だが、その一方でキサマに()()している私もいる」

 

「感謝……? 悲願成就を阻止した僕を憎んでおられないのですか?」

 

「リヴァルは、娘はな……今は亡き我が妻の生き写しなのだ。キサマがリヴァルの絵だと思っていたものは、すべて我が妻の絵だ。リヴァルも自分を描いた絵だと勘違いしていたがな。……キサマには本当に感謝しているとも。愛した女と同じ顔の()を、他の男に差し出すことほど苦痛なことはなかろう?」

 

「……ち、義父上(ちちうえ)……ま、まさか……あなたは……ッ!!」

 

「跡取りの事は心配しなくていい。()()()()()()()()()()()()()のだからな」

 

 




このお話もお相手が義弟から実父にすり替わっただけで大差はありません。強いて言うならば、義弟のヤりたい放題が見逃されなかったところでしょうか。後継者候補とはいえ絶対的な権力者ではありませんので。

この手の設定は婚約破棄後に他家と婚約(契約)すればまあ一応の納得はできますが、完全に身内同士の場合はどこに利益を見出せばいいのか。パパさん養子教育失敗してない? それらしくして きぞくでしょ ……身内同士の結束の強化と見るのが妥当な線なのでしょうが、そういう意味では養子を取った時点で義理は果たせていると見ていいでしょう。すでに縁は出来ているのですから。

今回のお話ですと、義弟の末路は、単なる色狂いだと分かったので後継者の資質なしとして送り返されるか、真相を知らされたせいで不幸な事故に遭って命を落とすかといったところです。養子を送り出した家による公爵家乗取計画があった場合を考えても実父大勝利。やはり権力。権力はすべてを解決する(ように見せかけられる)。悪役令嬢が権力者とくっ付く王道パターンからも反れてもいません。人道からは大きく逸れることでしょうが。

さらに深く切り込むと、元婚約者に現婚約者(夫)を見せ付ける展開が多い気がしてなりません。新しいお相手が誰かはともかくとして前の男よりも、もっといい男を見つけて幸せになる(ついでにその様子を見せ付ける)という点も確かに王道ではあるのですが、NTRビデオメールを送ることと、どう違いがあるのかよく分からないですね……。兄妹姉弟ほど仕掛けやすい関係もないですし。どこがとは言いませんがどっちもハッピーになってますし。

悪役令嬢ジャンルはやはりツッコミどころが絶えない。


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婚約破棄RTA

そんなに嫌なら、これくらいしろよ(暴論)。

 キーワード:悪役令嬢 貴族 婚約破棄 R-15


「王よ──いや、キングスよ。友として話したいことがある」

 

「なんだ、カンツラー宰相……いや、アイゼン」

 

「すまぬ、友よ……我が娘と王子の婚約についてだが、計画を破棄したい」

 

「ふむ……。プリンス王子を一目見ただけでベーゼヴィヒツ嬢は倒れた」

 

「そして目が覚めると必死に懇願されたものだよ。王子との婚約は結ばないでくれ、と」

 

「しかし、プリンスは自分を初めて拒否した令嬢に興味が湧いた」

 

「初めは子供心から嫌がっているものだと思ったのだが……」

 

「今は違うと?」

 

「うむ。状況が変わった」

 

「……穏やかではないな? 余とお前は友だ。王家と宰相家がより親密となれば、それは国益に繋がろう。お前は言わずもがな、お前の娘も愚鈍ではない。……だとすれば、他家の妨害にでもあったか?」

 

「いいや。娘は余程、婚約を結びたくなかったようだ。王子との婚約は絶対だと知ると、それは毒杯を言い渡されたような顔をしていたよ。しかし時がくれば娘も理解を示すだろうと、そう思っていた私は甘かった。そして娘は(したた)かだった」

 

「うん……?」

 

「……キングス。初婚となる令嬢側の絶対条件は何だと思う?」

 

「婚約破棄などといった前歴を持たぬことは、それに含まれぬな。怪我を負っていたとしても結婚自体は可能だ」

 

「……処女性だ」

 

「は?」

 

「今朝、目が覚めるとゼフィが、娘がベッドの中にいた。シーツは赤く染まっていたよ……。それだけならばまだ工作の類いだとして、処女性を確認することは可能だった。だが、だがな……ッ!!」

 

「……まさか」

 

「そのまさかだ! 親子で()()()()など、普通ではありえない! それも年端もいかぬ娘だぞ! さらには深夜帯の犯行ともなれば、使用人もすべて下がっている!」

 

「用意周到だな。そこまでしておいて知識がないとはとても考えられん。ではプリンスに何か問題があるとでも見抜いたのか。ベーゼヴィヒツ嬢は何と?」

 

「……めぼしい情報は得られなかったが、あの表情は……、私のことを確かに異性と認識している顔だった。幼さゆえの暴走とも捉えられるが……悪魔憑き(てんせいしゃ)の可能性も考えられる」

 

「では処分するか?」

 

「妻の忘れ形見だぞっ!! そんな事、できるものか……ッ!」

 

「しかし、そうなってしまっては、もはや嫁の貰い手もなかろう」

 

「……一度、分家の者に預ける。観察後、問題がなければ我が家に戻すつもりだ」

 

「ほう。死亡説を流して過去を清算し、別人となった娘を後妻として(めと)るつもりか?」

 

「……」

 

「……冗談だぞ?」

 

「若くして未亡人という設定でいけば、矛盾なくごまかせる……?」

 

「せいぜい、老貴族の後妻が関の山だろう。同じ年代の婚姻は絶望的だ」

 

「貴族とはいえ、私も人の子だ。どうすれば娘は幸せになれるのだろうか……」

 

 




初手・非処女(禁止カード)

効果:
 1. 婚約破棄を高い確率で見込める(無かった事にされればその限りではない)

問題点:
 1. 自分の商品価値を失くすだけで終わる可能性があること
 2. 最悪、立場だけでなく生命の存続が危うくなる(1と同じ)
 3. もっとひどい嫁ぎ先に変わってしまう恐れがある(後妻など)
 4. 親に泣かれる


 シナリオ通りに進むと悪役令嬢は死ぬと仮定した場合、大抵の作品は必死さが足りていない気がしてならない。幼少期の婚約をひとまず呑んだとしても後々、令嬢側に有利に行動を起こすとしても男側の不貞を狙うよりほかありません。下手を打てば社会的信用を失ってしまいますので。
 勝利条件がバッドエンド回避なら、命の代償として貞操と人生を捧げてもおかしくはないのですが、根が婚約関係にあった者(悪役令嬢もしくはヒロイン)を簡単に殺せるような血も涙もない人間が隣に居て平気なのか気になるところです。なんなら残虐性を包み隠さずに悪役令嬢が怯えたまま終わる作品もあるくらいですが、ストレスは軽視できません。いつか必ず破綻すると断言してもいいくらいです。隠して終わった場合は、人の裏も読めないような色々と軽い残念女になってしまうことも。普通に受け入れた場合は……まあ。

 単純に雌伏の時がもったいないとも考えることもできます。耐えてから粗を探すのではなく、初めから問題を回避するためにはどうするか。ここで父親を魅了して「娘は嫁にやらん」と言わせて時間を稼ぐ作品もあったりしますが、根源的な問題である以上は正解はないのかもしれません。どうしても展開がテンプレ化しやすい。
 しかし、要は大人たちを説得できればいいのですから、自分は敵に回してはいけない存在だと思わせるか、何か別に利益または代案等を示すか。まずは大人と対等な存在になることから始めるところからでしょうか。誰にどう取り入るか。後ろ盾は必要ですが、そうなると今度は別のストーリーが展開されてしまいそうです。ある程度の頭の悪さは眼を瞑らなければ話は進まない。

 気になるのはメスガキ路線でいった場合。とても嫁には出せないような小悪魔系だった場合、物語はどう転ぶのか。同世代の男の子が好意を向けてもまったく相手にせず、男としてすでに完成されたオジ様たちをメロメロにしている様子を見せ付ける……背徳感がすごそうです。書くかは別として読んでみたくはあります。

メスガキ悪役令嬢(パワーワード)


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今度はあなたの番

この手の設定にはいろいろとツッコミたいことがあるけど……、
イヌ科の獣人ってチョコ食べても平気なの?

 キーワード:婚約破棄 番い 獣人 悲恋


「おじさん……」

 

「ああ……君か。今日はよく来てくれたね、娘の葬儀に」

 

「──このヤローッ!」

 

「ぐっ……!」

 

「どうして守ってやれなかったんだ! あいつの親なのに! あいつを……ッ!!」

 

「……そうだな、私では守れなかった。それは認めるよ」

 

「俺のポニーを返せ……、返せよぉ……」

 

「俺の、ね……。ところで娘の死因は聞いたかな?」

 

「……知らねえ」

 

「自殺だよ。シーツを結んで、ドアノブで首を吊っていた。朝、妻が起こしにいったらね……」

 

「自殺……? あいつが? そんなの何かの間違いだ。あいつが自殺する理由なんてないだろ」

 

「……本当にそう思っているのかい? 君は娘の何を知っているんだい?」

 

「そんなの……」

 

「私は親だから娘のことをよく分かっているつもりだったさ。ああ、つもりだった! 守ってやれなかったのは認めよう! 私は娘を守れなかった! 君の手からなっ!!」

 

「は……?」

 

「日記にね、遺書がね、残されていたよ。……これさ。何が書いてあると思う?」

 

「……何が、書いてあんだよ?」

 

「男の子が怖い。私のことを(つが)いだと言って付きまとってくる。怖い。(けが)される。嫌だ、怖い」

 

「は……」

 

「せっかく婚約破棄できたのに。もう嫌。(けが)されるくらいなら、いっそ……お父様、お母様。私は先に逝きます。愚かな娘でごめんなさい。どうか私の分も幸せになってください」

 

「なんだよ、それ……」

 

「……以上だよ」

 

「なんなんだよ、それっ!!」

 

「娘には婚約者が居たんだが、その婚約は破棄されたんだ。どうして破棄されたと思う?」

 

「そんなの知るわけ──」

 

「襲われかけたんだよ。……婚約者にね」

 

「……っ!」

 

「普段から(つが)いだ(つが)いだと言い放っていた君なら、それがどういう意味か分かるだろう? 本当なら娘の名誉のために隠し通しておきたかったが、死後も君に付きまとわれては娘は静かに眠れない。……現に今日、君はやってきた」

 

「俺は……」

 

「逆に私達が守られていたさッ!! 親を心配させないように、あの子は黙っていた! ……今日はよく来れたものだな、娘の葬儀にッ!! 娘を殺したお前はッ!!」

 

「違う! 俺は、俺は──」

 

「何が違うというんだ!? お前さえ、お前さえ居なければ……! 娘は……、娘を……返せ……返してくれ……あぁ、あぁ……」

 

「ワンダくん」

 

「おばさん!」

 

「このひともつらいのよ。あの子の幸せのために祖国(くに)まで捨てたのに、こうなってしまったのだもの。……分かってくれるわね? 帰ってちょうだい」

 

「……はい」

 

「これは娘が好きだったお菓子よ。葬儀に参列させない代わりに、これをあげるわ」

 

「ありがとう、ございます。……あの」

 

「なにかしら?」

 

「……すいませんでした」

 

 

────────────────

 

 

「──あれは渡せたのかい?」

 

「ええ。きっと今頃は……」

 

「せいぜい苦しむといいさ、(けが)らわしい混血(いぬ)め……ッ!」

 

「あの子も自殺する前に渡せばよかったのに」

 

「おそらく逆上して襲われるとでも思ったんだろう。人間の平民以上に獣人は何をするか分からないからね。それほどまでに追い込まれていたんだ。こんな国に移住してしまうなんて、私達はひどいことをした」

 

「……ねえ。もしもの話だけど、あの子が心を患ってなかったらどうなっていたと思う?」

 

「それはあの犬と結ばれていたかもしれない、という(こと)かい?」

 

「ええ。それでも娘はまともな人生を送れなかったと思うわ。……お菓子、ひとつを取ってもね」

 

「私達人間が食べても平気だけど、獣人には毒になる……」

 

「普段の食事も味の薄いものしか受け付けないそうよ」

 

「……食も娯楽のひとつだ。味のしない食事にあの子が()えられるはずもない」

 

「うまく折り合いがついても、孫の顔も見れなかったでしょうね。あのお菓子は獣人にとって去勢薬の働きをするのだもの。何が獣人の毒になるか分からない以上、いつかは不幸に当たっていたわ」

 

「この話はやめよう」

 

「そうね。犬の血が混ざった孫なんて、おぞましいわ」

 

「だけどもう、あいつは子供を作れないんだ。せいぜい生き長らえてくれよ、性欲の奴隷め」

 

 




タイトルの「番」はあえて送り仮名を消しています。持たせた意味は次の通り。
 つがい:変態から解放されたと思ったら別の変態につかまってしまった
 ばん :鬱屈とした感情に悩む日々を次はお前が送れ (ワンダの末路の暗示)

名前ネタ:
 ・ワンダ (犬の鳴き声、ワンだ)
 ・ポニー (小さな馬、かわいい子と別種族の意)


前書きにも載せましたが、犬(と猫)にチョコやネギを与えることは中毒を引き起こしてしまう大変危険な行為です。また、塩分量の関係で人間の食事を与えてはいけないとも聞きます。ペットフードが売られているのは食事の用意の手間を省くほかにもちゃんと意味があったりします。

それから忘れてはいけないのはノミの存在。あれは人の頭にも寄生します。シャンプーで洗う程度では完全には駆除できないので、別の薬品を使う・洗面器などに頭を突っ込む等して根気よく調べる(ノミを窒息死させる)必要がでてきます。

性癖・趣味嗜好はさておき遺伝子的な問題も同じ人型ということで問題なしとしているのかも気になるところです。犬や猫など根本的な意味で種族が違った場合、受精はしても着床に至ることはないとどこかで情報を目にしたことがあります (四足歩行する毛のある動物という意味では同等だが、同じ種族ではない。毛並みが違うどころはない)。

筆者が知る限りでは、こういった現実的な面を無視した作品が殆どですが、直視した場合も簡単には話が成り立たない気がするので触れないでおくのが一番なのかもしれません。番い呼ばわり(女性をメス扱い)も差別用語とその新しい言い回し(産む機械)と考えると大概ですし。初めから悪役令嬢が能力的に求められる作品もありますが、そうではなく後から有用性が付随される作品(情が先)も少なくはない。ヒーローはそういうものとはいえ、悪役令嬢(真ヒロイン)を救出しに来る≒単独での問題解決能力が低い≒主・従で考えると従の立場。つまりメス(トロフィー)扱いは悪役令嬢界隈ではデファクトスタンダード、黙認されている……? そう考えるとこの界隈は闇が深い(深読み)。


余談ですが筆者は、そういう場でも空気でもないのにカノジョさんのことを便器だと喧伝し不特定多数へそういった意味での貸し出しを認可していた男性に注意を促したことが実際にありますが、カノジョさん・男性ともにキレたうえ、筆者のことも性的な目線で見ていました。メス扱いって喜ばしい吉事か何かなんですかね……?


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厚意なき好意

学生の恋愛事情とちゃうんやぞ!
 ・舞台背景の説明(口調)を追加(同日)

 キーワード:婚約破棄 元鞘


「それで、話とは? リベ公爵」

 

「婚約破棄の了承を撤回してくれるのか? うん?」

 

「……王太子殿下ならびに第二王子殿下は、我が娘と婚約したいと()()お思いなのですかな?」

 

「うむ」

 

「ええ。もちろんです」

 

「理由をお聞かせいただいても?」

 

「元々はオレが結んでいた婚約なのだ。元通りにしてしまうのが一番だろう。昔の……、いや、あんな一面があると隠していたあいつが悪いのだ」

 

「いいえ。王家といえど此度(こたび)の件は大きな醜聞です。事は兄様だけの問題ではないのです。そしてなにより、フラグデス嬢は王妃教育を受けています。リベ公爵家が王家以外の他家(いえ)と婚姻を結ぶことは認められません。そこで僕と婚約を結びなおすことが最善であるということに思い至りました」

 

「……それは()()()()()と受け取ってよろしいのですかな?」

 

「はい」

 

「いや違う。オレが婚約を結びなおすのだ」

 

「いえ僕が」

 

「オレだ!」

 

「僕です!」

 

「……エル、アール! この者たちを捕らえよ!!」

 

「はっ!」

 

「どうかお静かに……。抵抗なさらないでください」

 

「なっ……!? 乱心したか、公爵ッ!!」

 

「落ち着いてください!」

 

「落ち着けだと……? これが落ち着いていられるかっ!! 王家はどこまでコケにすれば気が済むのだ! わざわざパーティ会場の中で婚約破棄を告げたのはなぜだっ!? 娘をみなのさらし者にしたのは……! 代々王家へ仕えてきたご先祖様のことを思い、不承不承でも1度は婚約破棄を受け入れた……──だが! 王太子! キサマは悪びれもせず我が家へとやって来た! 第二王子まで引き連れて! 一方的に破棄しておいてまた結べ……──冗談ではないッ!!」

 

「ち、違う! こいつが勝手についてきただけだ! ()()()()()じゃない!」

 

「そうです! 兄様は関係ありません! 僕の意思でこの公爵家に通っていたんです!」

 

「ふん……、地下牢へ繋いでおけ!」

 

「はっ!」

 

「気安くオレに触るな!」

 

「黙れ! 公爵様の命令だ!」

 

「ぐっ!」

 

「兄様! ここは従うべきです!」

 

「……ご理解いただけて助かります」

 

「王子を捕らえた、これでもう後には退けぬな。……エイル、ヴィーナ、カイ、ワイリー!」

 

「王子たちが乗ってきた馬車はすでに制圧を完了しております」

 

「おじ様のこわーいお声が聞こえたからね! すぐお仕事したよ!」

 

「こらっ、ヴィー! 公爵様の前なのよ!」

 

「えー。エイルってば、かたーい」

 

「あの、リオン様……本当に反乱を起こすのですか?」

 

「うむ……、不満か?」

 

「いいえ! このカイ……、リオン様に一生ついていく所存です」

 

「そうです。今こそこの腑抜(ふぬ)けた国に()()()のお力を示す時でありましょう」

 

「思えば……この国はおかしい。おかしくなっていた。国の頭は良識を失い、畜生へと堕ちていた。反乱を起こさずとも遠からず滅するだろう……これが最後の奉公だ。言葉の重みを知らぬ者達へ教育的指導を行なう!」

 

 




Q.公爵はなんでキレたの?
A.王家の身勝手さに付き合いきれなくなったから。

悪役令嬢モノでよく聞くように、このお話では貴族や王家間での婚約・婚姻は契約のようなものとなっています。自由恋愛ではありません。なのに子供の勝手で話を目茶苦茶にされた。当然ながら親の監督不届・監督責任に発展しました。王家側がそう思わなくても、公爵家側も同じとは限りません。

作中で王子たちが発言していたように、婚約を結びなおせば情けない醜聞も一応は収まっていましたが、すでに公爵家→王家の信用は失われていました。

武勇公の称号は、Dのほうの公爵家を意味しています。

語られなかった時系列を含め整理すると、テンプレ通りにパーティ中に王太子側から婚約破棄→王太子の婚約者という仮面を脱ぎ捨てた悪役令嬢に対して王太子が惚れ直す→王太子が悪役令嬢の家に頻繁に入り浸るようになる→悪役令嬢に片思いしていた第二王子がここぞとばかりに横槍を入れる→国王は第二王子の案が無難と思っているが、ひとまず静観する(この件は終わっておらず継続している問題と思っているので謝罪も弁明も何も無し)→王家の都合で破棄したり復縁を求めてきたりと、公爵家側の事情や心境をまったく考えなかったせいで公爵(父)が切れる

説明不足であることは否めませんので、そのうち書き直すかもしれません。


名前ネタ:
 ・リベリオン(反乱)
 ・エル、アール、エイル、ヴィーナ、カイ、ワイリー(LRABXY)
 ・フラグデス(死亡フラグです)


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利害の一致

踏み台と婚約破棄を抱き合わせた結果。
 ・後書きにしょうもない解説を詳細に追記(2023/11/26)。

 キーワード:決闘 踏み台 婚約破棄 学園 貴族 平民


「しょっ……勝者っ、ネトルスっ!!」

 

「フッ、オレの勝ちだな。約束どおり、セシリアとの婚約は破棄してもらうぞ」

 

「……いいだろう。セシリアとの婚約を破棄する」

 

「ありがとうございます、ネトルス!」

 

「──同時にスペンボゥード家はオーヴム家への支援を取り止める」

 

「……へっ? 支援って何の支援ですの?」

 

「望みどおり、セシリア・オーヴムとの結婚を前提として行なっていた支援のすべてを取り止めると言ったのだが、聞こえなかったか?」

 

「おいっ!! どういうことだ! この決闘はセシリアの婚約を賭けてたはずだぞ!」

 

「今言ったとおりだ、平民(ネトルス)。……平民(へいみん)なんぞに一歩譲ってしまうなど貴族の名折れだが、今回のことは()()を切り離すのにまたとない機会だった。セシリアも当初からこの婚約を嫌がっていたのだし、ならば望みどおりに勝ちを譲ってやるのもよいと思った。キサマの実力だけで勝ったなどと勘違いを起こすなよ」

 

「婚約はお前から迫ったと聞いたぞ」

 

「そうとも。幼い頃からすでに身売り先が……高齢貴族の後妻や側室行きが決まっている令嬢など哀れなものだろう? 彼女の父・オーヴム子爵の必死の懇願に心を打たれた俺は幼いながらにオーヴム嬢へ人並みの幸せを与えてやると約束していた」

 

「じゃあ、セシリアへのセクハラ行為は」

 

「ああ。親子ほどに歳の離れた娘と結婚したがる変態どもへの牽制だ」

 

「そんな、ではわたくしは……──いやぁぁぁっ!」

 

「セシリアっ! ……セシリアの支援を賭けて決闘だ!」

 

「受けてやってもいいが、それは負けた場合も想定しての発言か?」

 

「なにっ?」

 

「俺が勝てばオーヴム家はさらに困窮するということだ。ネトルス、お前が負けたら我がスペンボゥード家はこれまでの支援金額のすべてを回収させてもらうとしよう。何年、何十年とかかろうとな。おそらく婚約破棄も取り消されることになるだろうな。その場合、正室待遇は諦めてもらうことになるが……さて、どうする? オーヴム嬢。この平民を利用して更なる破滅の道を歩みたいか?」

 

「ひっ」

 

「セシリアをいじめるな! オレが勝てばいいだけだ!」

 

「いじめてなど。お前こそもう後がないと自覚しているのか?」

 

「どういうことだ?」

 

「今後、お前が決闘を申し込んでも相手が受けることはなくなる。この学園を卒業したあとの就職もできないだろう」

 

「どういうことだ!」

 

「……覚悟の上での決闘の申し込みではなかったのか? 観戦していた貴族子息と令嬢は気付いたはずだ。何か気に入らないことがあれば全て決闘で踏み倒せばよいとな。……だが、親世代は間違いなくお前の排除へと動く。お前には分からないだろうが、踏み倒し前提の契約など国が割れてしまう」

 

「……」

 

「我がスペンボゥード家に近しい者は特にお前を避ける。そして現在も続くオーヴム家の惨状が知れ渡った今、負債を抱えたまま立ち回れる我が家を敵へと回す愚か者はまずいない」

 

「……?」

 

「…………本当に解らないのか。お前の味方をすれば、いらぬ敵が増えるということだ。もっと分かりやすく言えば、お前()()はこの決闘を()って厄介者となったのだ」

 

「オレは正しいことをしたはずだ」

 

「それはお前側の正しさであり、こちら側の正しさではない」

 

「セシリアは嫌がっていた!」

 

「こちらとしても話をしていて嫌気が差してきた。ゆえにこの話はここで終わりだ。互いに不快ならば無理に干渉すべきではない──……そうだろう?」

 

「待て! 逃げるのか!」

 

「貴族とは利害のもとに動く者たちだ。動かしたければ利を示せ、害する者よ」

 

 




Q.要約。
A.情けは人のためならず(誤用)。

本文の要点:
 ・子爵令嬢は、なぜ婚約していたか意味を理解していない。
 ・決闘が伯爵子息の仕込みに見えてしまうが、そもそもの問題を起こしたのは子爵令嬢側。
 ・平民が決闘の代理人となることは問題ないが、請け負ったことそのものを疑問視する者もいる。
 ・痴情のもつれに巻き込まれた領民はいい迷惑。支援の打ち切りに納得するはずがない。
 ・ネトルスの態度が悪い。学生とはいえ人格が幼すぎる。立場を弁えていない。
 ・何度も決闘を仕掛けるのは武力で脅迫しているようなもの。まともではない。
 ・第三者が介入すると情勢が不安定になる。まず変な目で見られる。

要点の要約:
 ・伯爵子息:ツンデレ策士。
 ・子爵令嬢:身体は貴族、頭脳は平民。迷女優セシリア。
 ・ネトルス:考えなしのアホ(下半身直結型)。

 ・決闘:すんな。
 ・領民:激おこ。
 ・観客:ドン引き。


以下、雑な設定。

スペンボゥード伯爵子息:
 金持ち貴族の生まれ。常に負債しか生み出さない子爵家の令嬢を哀れんで契約結婚を取り決めていた。色々と暴露したのは元鞘を狙ってのこと。事情を黙っていたらこの機に子爵令嬢を囲もうとする家から要らぬ恨みを買うし、子爵家側もネトルスのような平民と結婚しては先がないので貴族同士の婚姻を狙うしかなく、昔も現在も支えられるのは伯爵家だけ。強いて言えば他は商人か。伯爵家は悪態を吐きつつも完全には見放してはいない。口では「利を~」と言いつつ、すっかり情に絆されきっている底なしの甘ちゃん。
 名前は「踏み台」の英語訳を変形させたもの。

セシリア・オーヴム(子爵令嬢):
 貧乏令嬢。ただしS級美少女。父親であるオーヴム子爵はドの付く無能で、効率的な資金運用の仕方を知らない。領民が困っているからと後先考えずに動く善人気質。そうして膨れ上がった際限のない借金のカタとして婚約を持ちかけた(親に売られた)ことは、婚約者の配慮により伏せられていた。
 父に似て庶民に近しい思想のせいか、貴族然とした尊大な婚約者に対して苦手意識を持っている。平民のネトルスとは親しい仲にあるが、一線はまだ越えていない。
 今回の決闘を経て、たとえ王族だろうと嫌がる不良債権どころか戦争(内戦)の火種と化したのが現在の実状であり、彼女がここから巻き返すには、元鞘を狙うしか手は残されていない。おとなしく破産して爵位返上の平民落ちか、顔に泥を塗られた伯爵家と関係が悪化することを覚悟した貴族に囲われることを祈るか。どのような結果になってもロクな結末は待っていない。
 名前は、セシリア=せーし+そば→○○○○。オーヴムは「卵」のラテン語訳。名前の解き方がややこしくて、姓だけはっきりとラテン語一本なのは托卵の暗喩。由来となった鳥はよその巣に卵を混ぜるが、人間の場合は卵は自前のため。また、名がややこしいのは貴族の養子など血統の正当性についてもいくらか含んでいる。要するに尻軽寝取られ系ヒロイン。

ネトルス:
 腕っ節の強い、根っからの平民。頭はあまり良くない。セシリアのことが性的に好きで、もしも美少女じゃなかったら助けようとは(決闘の代理人になろうとは)していなかった。深く考えず下半身に従って行動した結果、階級社会で武力行使してみせた危険分子。要注意人物と化した。中世ナーロッパ界の半グレ。
 伯爵家にケンカを売ってしまったので準犯罪者身分に堕ちることが確定した。今後、彼の味方をするということは伯爵家と敵対することと等しく、味方が増えることはない。また、オーヴム領の民がこのことを知れば、すべてを台無しにした彼を討ち取らんと闇討ちに走る恐れもある。
 なろう系主人公特有の同性の味方の少なさ(友人0人)も悪いほうに作用している。居ても距離を取られることは目に見えている。それほどに、長年続いた体制を打ち崩した罪は重い。伯爵子息に何か思惑があったとしても、ネトルスがその切っ掛けとなったのは間違いないのだから。
 意図せず全方位ブラックリスト入りを果たしてしまったため、もう何も成し遂げることはできない。何か功績をあげて成り上がろうとしても前科は消えない。彼を疎む者が消えることはない。
 名前の元ネタは「寝取り」だが、男2人してセシリアとは寝ていない。寝言は寝てから言え。


苗字(世界観):
 平民を区別するためのものではなく、貴族の血統や派閥等を示すために用いられている。

決闘(世界観):
 話し合いでは解決できない段階・場合に行なわれる最後の手段。話が通じない相手との交渉手段(決別、戦争の前哨戦)としての意味合いもある。決闘を行なうことは縁を切ることと同義。効力は絶大だが気軽に使える便利カードではない。


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インスパイア系
死を超越する者達


存在そのものがアウトの敵はどうすればいいって、それスパロボDで答え出てるから。

 キーワード:即死 チート 概念系 主人公最強 不老不死 敵組織


「ヤツの存在は危険すぎる」

 

「本人いわく《即死チート》でしたね。言うなれば、死の概念の擬人化……でしょうか。念じただけで相手を殺せるなんて、本当に反則級(チート)ですね」

 

「むしろ《即死バグ》っしょ。ゲーム感覚で《チート》とか能力に名付けるくらいなんだしさー。()()に生きてないよねー」

 

「まあっ!」

 

「ヤツの能力名など、どうでもよい。それよりもヤツの言だ。ヤツは、お前らが関わらない限りオレも関わらない、と言っていたが、どうして信じられよう?」

 

「あっはははー! だよねー! 喉元にナイフ突きつけられながらさー、オレに何もしなければ殺さない、って言われてもねー! バッカじゃないの? マジでさ。組織の味方でもないのに信じられるか、っつーの☆」

 

「ウフフフ、軽率な発言は控えるべきですよ? 関わったら殺されちゃいますからね?」

 

「てへっ☆ いっけなーい☆」

 

「だが、所詮はヤツも()()()()()だ。ヤツは今でこそ事を起こしてはおらぬが、いざその時が来れば──」

 

「心変わりひとつで何もかもが終わる、だね……」

 

「では、どうしましょうか。彼の提案通り、見て見ふりでもしますか? このままでは損害を出し続けることになりますよ」

 

「それはならん。ヤツの存在は世に在ってはならぬのだからな。……それにだ、ヤツと対峙し、抵抗する間もなく散っていった者達の死が無駄になってしま……いや、待て──ふっふ、ふははっ! 見て見()ふりか! それはいい! ふははははははぁっ!」

 

「あっちゃー……いよいよ壊れちゃったかー」

 

「わしは壊れてなどおらん! ヤツは初めから最善策を提案してくれていたのだ! なぜ、こうも簡単な事に気付けなかった! わしは! わしらは! クックククッ!」

 

「おじいちゃーん? だいじょーぶー? いやマジで。おっぱい揉む?」

 

「ほえほえ? 何を始めるんです?」

 

「孫娘の乳など揉めるかっ! ──全人類、他次元移住計画だ」

 

 

────────────────

 

 

「……この町にも誰もいないな。オレを監視する者の気配が消えてから何十年経ったんだ? いや、それだけじゃない。一般市民からアリんこ1匹まで、オレひとりを残してすべてどこかへ消えてしまった。この世界は、一体どうしてしまったんだ? ……クソッ、この店の食料庫もダメだったか。腐ってやがる、来るのが遅すぎたか。死を(つかさど)るこのオレが餓死するなどありえないが、何も食べないというのは心にくる……。ああぁぁあぁあ……、誰でもいいから話もしたい。一言でいい、一言でいいから会話をさせてくれ……ッ! もう独りは嫌なんだッ!! 誰でもいい、誰でもいいから話を、話を……、オレと……ッ! ──いや違う! 話さなくてもいいから、誰かオレの隣に来てくれ! そばに居てくれるだけでいい! オレを見てくれ! だから! 死にたいのに死ねないんだ! 狂ってすべて忘れてしまいたいのに、狂えない! 肉体的に死ねないし、精神的にも死ねない! 嫌だもう嫌だ殺してくれオレを楽にしてくれ殺してくれぇ……誰かぁ……──ふう。よし、次の町に行くか」

 

 




おまけ:それぞれの対処法

・大地がダメになったから他次元へ移住する(グローランサー3)。
・関係者を全員始末し、諸悪の根源を元いた世界へ押し戻す(グローランサー4)。
・並行世界へ転移してやり過ごす(スパロボDでのメガゾーン23)。


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愚者の末路

チーレム? いいえ、乙女ゲーです(鉄の意志)。

 キーワード:チンピラ ヒーロー最強 オープニング 出会い 初遭遇


「うへへへへっ! なあなあ、ねーちゃんたち! オレたちと遊ぼうぜ~!」

 

「楽しませてあげるよ~! オレたちなら朝まで退屈させてやらねえよぉ?」

 

「お金の事なら気にしなくてもいいよ。お兄さん達が支払うからさ」

 

「い、嫌っ……です……」

 

「あれ? 照れちゃってる? かわいいな~、もう~!」

 

「そんなワケないでしょ! 嫌なの! 嫌ったら嫌!」

 

初心(うぶ)だなぁ」

 

「おい」

 

「あんだぁ? テメェ……。今いいとこなんだから邪魔すんな」

 

「嫌がってるだろ。やめろよ」

 

「あん? オレたちが先に目を付けたんだよ! 出遅れ野郎は黙ってろ!」

 

「ふっ……これだから女性の扱い方を知らないチンピラは。──お嬢さん方、お困りですか?」

 

「え? え、ええ……」

 

「はい! お困りです!」

 

「──なら、お前達は悪だ! 悪は成敗する!」

 

「は? 何言ってんだこいつ?」

 

「正義の味方気取りとか、頭大丈夫かよ」

 

「3人に勝てるわけないだろぉ? ナヨナヨした優男がよぉ。筋肉は裏切らないんだよ! 細マッチョだろうが、ゴリマッチョのオレらにゃあ勝てはしねえぞ!」

 

「ふっ──《身体能力増加》! 天から落ちよ! 《逆さ落とし》!」

 

「ぐえっ!?」

 

「ひいっ!?」

 

「あっ……」

 

「まずは1人」

 

「な、なんだこいつ……っ!? 普通、頭から落とすか!? こいつ、やりやがったぞ、こいつ!!!?」

 

「おいおいおい、こいつはちょっとシャレにならねえぞ! ねーちゃん達! ここはオレ達に任せて早く逃げろ!」

 

「へっ? ──む、無理よ! この子、気絶しちゃってる!」

 

「なんてこった!」

 

「この俺を前にして会話とは……余裕だな? 《剛・裏拳》!」

 

「へぶしっ!?」

 

「く、首が、お、おかしな方向に曲がってる……」

 

「うっ……! うぇぇっ……」

 

「2人。……ゴリマッチョがなんだって? お前達みたいなゴリラがキスする相手は地面がお似合いだ。おとなしく俺に譲るんだな」

 

「くっ……! 死なば諸共おおおぉぉっ!!」

 

「自棄になっての捨て身か……まるで将棋だな。──《首狩》!」

 

「ゴバァっ!」

 

「やれやれ、身の程を知らないザコが。……もう大丈夫だぞ」

 

「ち、近寄らないで! この人殺し!!」

 

「へ?」

 

「誰かー! 助けて! 人殺しよっ!!」

 

「セシリー! アリア!」

 

「ランスロット! 遅いじゃない!」

 

「っ! そこの者! 彼女達から離れろ! 抵抗しなければ、これ以上罪は重くはならない! おとなしく投降したまえ!」

 

「俺は彼女達を助けたんだが」

 

「3人も殺しておいて、ぬけぬけと! 衛兵! 奴を捕らえよ!」

 

「ハッ!」

 

「話を聞けって! 力尽くなら俺も抵抗させてもらうぞ! 炎の球よ! 《ファイアー・ボール》! ──なっ!?」

 

「どうした? 今、何かしたか? ……そらっ!」

 

「しまっ──」

 

「王子。罪人の捕獲を完了致しました。罪人の身柄はいかが致しましょう?」

 

「刑務所へ送っておけ。裁判の後、死刑が妥当だろう」

 

「ハッ……御心のままに」

 

 



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包囲攪乱陣

ゲリラ戦は基本。

 キーワード:軍師 陣形 作戦 軍隊


「ほ、報告します! て、敵っ、敵戦力その数おおよそ5000ッ!」

 

「ご、5000ッ!?」

 

「対して我軍戦力、さっ、300です……」

 

「圧倒的、大差……だな」

 

「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」

 

「……」

 

「軍師殿、どう……されますか?」

 

「……包囲攪乱(かくらん)陣を使う!」

 

「包囲……」

 

攪乱(かくらん)陣……?」

 

「うむ。総力をもって、敵を取り囲むのだ」

 

「無茶を言わないでください! 敵はこちらの10倍以上もいるんですよっ!! そんなことが分からないあなたでもないでしょうっ!?」

 

「ならば、このまま蹂躙(じゅうりん)されるのを待つか? それとも敵前逃亡でもするか? 魔物相手に降参して命は保証されるのかな?」

 

「それは……」

 

「私も分かっているよ。この戦力では勝てないと。……副官、王都へ早馬を出して何日で援軍が来ると思う?」

 

「6日……いえ、7日はかかるかと」

 

「7日か。ならば今は勝てなくてもいい。7日凌げば我が軍は勝利する!」

 

「ですが! 我々はどうなるのです!?」

 

「では、どうするのだ? 私達の奮闘がなければ! 私達が戦わなければ! 王都への間にある町や村が蹂躙(じゅうりん)されてしまうのだぞ! そうなれば王都すら危うい!」

 

「あっ……」

 

「己の本分を見失うな! 今こそ! 今こそが! 命を燃やす時なのだ!」

 

「……わかりました。命令に従いましょう。自分も故郷にいる娘のことが心配ですしな! がははっ!」

 

「娘……あぁ……おれ、来月には娘が生まれるんですよ。片親にしちまうのはかわいそうだけど、娘の人生(これから)のためにがんばらなくちゃ、なぁ……!」

 

「ははっ、命を燃やせとは言ったが、べつに死ねとは言ってないぞ?」

 

「つまり?」

 

「包囲、()()陣だ! 徹底的に嫌がらせをしてやれ! 危うくなったら身を隠せ! そんでもって隙を見て敵を討ち取れ! 援軍が到着さえすれば私達の勝ちだ! ……わかったな?」

 

「はい!」

 

「おっしゃ」

 

「いいですとも!」

 

「そうと決まれば、さっそく案を煮詰めていきましょう!」

 

「勝たなくていい、戦わなくていいんだ。ただ時間を稼げればそれでいい。俺は死なない、俺は死ねない……! 生きて帰るんだ!」

 

「俺さ、帰ったらあの子に告白するんだ。そしたらさ、……へへっ」

 

「オレ達には軍師殿が付いているぞぉっ! はっはー!」

 

「お見事ですな。手のひらを返したような士気の上がり具合だ。軍師なんかやめて煽動者にでもなったらいかがですかな?」

 

「将軍。あなたの士気は?」

 

「はっはっはっ! ──愚問ですな」

 

「ふっ……。では、作戦会議を行なう! みな、席に付け!」

 

 

────────────────

 

 

「──報告します。敵勢力の全滅が確認できました」

 

「ご苦労。我が軍の損害は?」

 

「300ほどです。損害はすべて国境守備隊のものになります」

 

「そうか。……見事だったよ、天才軍師殿。まさかたった300の兵で()()()()もの死体の山を築き上げるとはな」

 

 



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ババアと孫 -クラフトソード物語・始まりのビィンソード-

タイトルオチ。(追記:タイトル修正しました)

 キーワード:鍛冶屋 剣 漫才


「あぁあああぁあぁ……! なんなんだこれは、どうすればいいんだ! うううぅぅうう~!」

 

「おやっさーん、どうしたんだよ? 鍛冶場の外まで聞こえてんぞ」

 

「どうしたもこうしたもあるか! 貴族様の依頼だよ!」

 

「あぁ……、いつもの()()難題か。で、何を言われたんだ?」

 

「……実物を見た方が早い」

 

「おお? 後ろの作業台にあるのがそうか……って、なんだこりゃ? ソードメイスに……また変わった(つば)をした剣だな。なんか変な刀身まであるな」

 

「ソードメイスか……くくっ、そりゃあいい。そうか、お前もそう見えるか」

 

「あえて詳しく語るなら、短小メイスに刀身が生えてるな。なんだこの珍妙な武器は。切って殴れる武器でも頼まれたのか?」

 

「頼まれたのは剣だ」

 

「はぁ? 何がどうしたらソードが生えたメイスが出来上がるんだよ」

 

「その止め具を外してみろ。そうすりゃ答えが分かる」

 

「これか。……刃が外れたな」

 

「外れただろ」

 

「ああ、外れたな」

 

「…………」

 

「…………」

 

「いや、なんだよコレ?」

 

「俺にも分からん」

 

「剣が折れても鈍器として使える、って言うなら個別に用意した方がいいだろこれ。メイスとして使うにはリーチが短すぎるし、剣として使うには(つば)部分のせいでバランスが取りづらいぞ」

 

(つば)なんだよなぁ」

 

「は?」

 

「いや、お前がさっきからメイスメイス言ってる()()(つば)なんだよ」

 

「つまりアレか、これは鍛冶屋を通さなくても刀身を交換できる剣だと」

 

「ご名答」

 

「…………」

 

「…………」

 

「いや、なんでだよ」

 

「剣は大雑把に言うと、刀身と(つば)と柄が一体化しているヤツと、(つば)や柄を刀身に取り付けるヤツの二種類に別れるのは知っているな?」

 

「ああ。力の伝わり方とか、強度とか、造りやすさとかの事情でそういう作りになってるんだよな。使用専門のオレでも知ってるくらいの常識だな」

 

「そうだ。──こいつをもう一度見てみろ。こいつをどう思う?」

 

「剣に分類されると思うと、すごく……()()()だな。類を見ないほどに」

 

「こいつは(つば)の部分で刀身を固定している──……あとは分かるな?」

 

「あっ……」

 

「接続部分を大型化しないといけなくなった都合上、どうしても柄と刀身の位置を一致させることは出来なかった」

 

「……」

 

「当たり前だが構造は複雑化した」

 

「……」

 

「柄、(つば)、刀身を別けて造る必要がある」

 

「オレが言ったこと全部に反してるじゃねえか。控えめに言ってゴミだろ」

 

「控えめに言わなければ?」

 

「鉄クズ」

 

「だよなぁ。──お前ならどう造る?」

 

門外漢(もんがいかん)()くなよ。……せめて(つば)と柄は一体化させたいところだな。差し込むだけならもっと簡略化できるんじゃないか?」

 

「俺もその考えに行きついた。その結果が()()()()()()()()()だ」

 

「ああ、メイスの隣に置いてあったヤツ」

 

(つば)部分のグリップをスライドさせてみろ」

 

「……なんか、刀身がビィンって感じに跳ねて落ちてったんだが」

 

「柄内部は空洞になっていて、中にバネを仕込んである。グリップ側に押し付け、引っ掛ける形で刀身を安定させている」

 

「こんな()()()が短すぎる刀身とか、精神が不安定になるだろ」

 

「ちなみにグリップ部分にもバネが仕込んであってな。中はもちろん空洞だ」

 

「柄と刀身の配置さぁ……もうちょっとなんとかならなかったのか?」

 

「バネのせいで短くなった。……ちなみにバネを省いたら、差し込んだ刀身がガタガタと揺れた」

 

「……」

 

「ちなみに、この剣が完成した(あかつき)には、この国の第二軍団の全員に配備される予定だそうだ」

 

「集団自殺でもする気か?」

 

「安心しろ。第二軍団だけだ」

 

「どこにも安心できる要素がねえよ。(つば)部分を潰されたら終わりじゃねえか」

 

「刀身同士を強く打ちつけると少し曲がるぞ」

 

「ちゃんと固定されてねえじゃねえか、それ」

 

「そう言うと思って造ったのが、この三振り目だ」

 

「あるじゃねえか三振り目。……さっきオレがした想像まんまだな、(つば)と柄が一体化してるが……ボルトとナットか。これで留めてるのか。──へぇ、(つば)も大型化してないし結構安定してるし、いいなこれ。……あれ? 外れないぞ?」

 

「そりゃ簡単に外れたら困るしな。刀身の脱着には器具が必要だが、油断してるとそのうち緩む」

 

「結局ダメじゃねえかよ。器具が必要とか、どうせ手入れが面倒になって刀身つけっぱで運用される未来が容易に想像できるぞ。ここまでやるくらいなら普通の剣を使えよ。なんで刀身交換にこだわるんだよ」

 

「僕の考えた最強の剣」

 

「は?」

 

「お貴族様の言葉だよ……」

 

「……うわぁ」

 

「刀身の折れた剣は使い物にならんのだとよ」

 

「敵に投げつけて怯ませろよ」

 

「柄部分を省けば軽くなって輸送が楽になるんだとよ」

 

「言うほど重いか?」

 

「軍団長のお孫様ご提案のお揃いの新装備で士気も爆上がりだとか」

 

「それは微笑ましいな」

 

「教えてくれ。俺はどれを提出したらいい? ソードメイスか? ビィンソードか? ボルトナットか? 剣は何も言ってはくれない……」

 

「おやっさん、あんた……そこまで追い込まれてるのかよ。オレもこれが剣とは認めたくねえし、べつに提出しなくてもいいんじゃないか?」

 

「おお……?」

 

「夜逃げしようぜ、夜逃げ。こんなトチ狂った国に居られるかよ、オレは隣国に逃げるぞ! ……お、()一人旅じゃ色々危ねえし? 一緒に付いてきてくれよ。なっ、なっなっ!」

 

「その発想はなかった」

 

 

────────────────

 

 

「──って感じで、おじいさんと結婚したのさ」

 

「へぇ~! ……あれ? 第二軍団はどうなったの?」

 

「あのとき鍛冶場に置いてった剣のひとつを正式採用したみたいでねぇ。おじいさんが隣国(ここ)で造った剣で、すべて叩き折ってやったもんさ! あんなのは剣とは認めないよっ!!」

 

「おばあちゃん、ひとりで戦ったの?」

 

「いんや。傭兵として戦いに参加したのさ。おじいさんと一緒にねぇ」

 

「あたしもおばあちゃんみたいになれるかな?」

 

「なれる、じゃないよ」

 

「?」

 

「なる、んだよ」

 

 



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擬音勝者の金の声

精神攻撃は基本。

 キーワード:剣術大会 スキル キンキンキン


「これより、第765回剣術大会を始める! 第1回戦、西方・金武(キン)太郎(タロウ)! 東方・鎌瀬(カマセ)弥楼(ヤロウ)!」

 

「おいおい、太郎の相手はあの弥楼(ヤロウ)だってよ」

 

「マジかよ。死んだな、あいつ」

 

「スキル乙判定の出た弥楼(ヤロウ)に、スキルなしの太郎が勝てるわけねえ!」

 

「……おい、太郎。お前、棄権しろ。オレは弱い者イジメは嫌いなんだ」

 

「だったらお前が棄権しろよ。俺は負けない」

 

「そうかよ。……ケッ、オレを恨むなよ。恨むならお前のバカさ加減を恨め!」

 

「両者、剣を構えよ。──始めぇぇっ!!」

 

「一撃で終わらせてやる、耐えぬ方が身のためだ! いっちまいなァ!」

 

「ふむ……キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「ッ!?」

 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「なっ……なんだあいつ……?」

 

「キンキンうるせえぞっ! 叫んでないで戦えーっ!」

 

「……おい! いったい、なんのつもりだっ!?」

 

「ふっ……剣先が鈍ったな? これが俺の作戦だ!」

 

「作戦だとォ?」

 

「戦いにおいて、スキルの有無は確かに戦局を左右するだろう。──だがっ! 剣を振るうのは人間だ! なら!」

 

「そうか──集中を乱してしまえば!」

 

「相手の集中力や冷静さを奪って逆転か……フッ──まるで将棋だな」

 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「くっ! 男なら黙って戦え!」

 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「このっ……!」

 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「しまっ──」

 

「──俺の勝ちだ」

 

「そこまで! 勝者・金武(キン)太郎(タロウ)!」

 

「す、すげえ……! 太郎のヤツ、勝っちまった……!」

 

「あんなのありかよっ?!」

 

「ふっ……」

 

 

────────────────

 

 

「──準決勝戦を始める! 西方・金武(キン)太郎(タロウ)!」

 

「おいおいおいおい……。太郎のヤツ、準決勝まできちまったぞ……」

 

「誰も応援しないけどな。あんな卑怯者なんか」

 

「引っ込めー! 棄権しろー!」

 

「ふっ……弱い犬ほどよく()えるな」

 

「あんだとぉ?」

 

「やめとけって。あんなバカ相手にするだけ、むだだぞ」

 

「……チッ!」

 

「それより東方のあいつって……大丈夫なのか?」

 

「あいつって確か……」

 

「東方・武藤(ムトウ)紫苑(シオン)!」

 

「審判。試合を始める前に()()を預かっておいてほしい。大事な物なんだ」

 

「……()()()か。いいだろう。許可する」

 

「ふっ……今度の相手はスキル甲か。乙より上の甲相手でも俺は負けない」

 

「……」

 

「もう剣を構えるのか。……やれやれ、スキル持ちはどいつもこいつも好戦的なんだな?」

 

「……」

 

「だんまりか。つれないヤツだな」

 

「……」

 

「西方、剣を構えよ。──始めぇぇっ!!」

 

「ふっ……キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「出た! キンキン戦法!」

 

「ふざけんなーっ! 真面目に戦えーっ!」

 

「……」

 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

 

「……」

 

「キンキンキンキン──ギンッ!?」

 

「そこまで! 勝者・武藤(ムトウ)紫苑(シオン)!」

 

「……何言っ()るか聞こ()ないナァ(なぁ)? ぼ()、耳()遠い()だよ()

 

 




武藤紫苑≒無遠止音
 ・無遠止、すべてが音に関わっている。
 


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ノーデスペナルティ

別に倒さなくてもいいのだろう?
 ・後書きに小ネタを追加(2024/3/4)。

 キーワード:ゲーム VR MMO 低レベル攻略


「お前だな。俺を呼び出したのは……で、話ってなんだよ?」

 

「へっへっへっ……、野郎ども出て来い!」

 

「ククッ……!」

 

「フーハー……」

 

「1、2、3、4、……7人。隠密スキルで潜んでいたのか。俺がなんかしたか?」

 

「いいや。お前は何もしてねえ。ただ目障りだから潰す。それだけだ」

 

「フッ──そうか。俺のレベルは98……カンスト間際だ。HPは18782もある。あんたらのその装備、レベル50台のもんだろ。そんなあんたらが俺に勝てるとでも思ってるの?」

 

「さてなぁ」

 

「まっ、いいよ。ハンデキャップだ、先手は譲ってやるよ」

 

「やさしい坊やだな……っと!」

 

「オラァ!」

 

「バカがっ!」

 

「……10秒あたり459ってとこか? それがあんたら7人が俺に与えられるダメージの総量か。自然回復による俺の自動回復が10秒で666だから、何時間攻撃しても俺は倒せないよ」

 

「それでいいんだよ。誰がいつ、どこで、お前を倒すって言った?」

 

「はぁ?」

 

「ずっと攻撃を受けていれば被弾硬直で動けねえだろ!」

 

「こちらの攻撃は通常攻撃のみ。MPもTPも使用しない、延々と可能な攻撃手段だ」

 

「10秒あたり400ってところかぁ? それがオレたち7人が与える状態異常値の総量だ! 時間減衰による自然治療の……えーっと何倍だ? ……とにかく! これでもう二度とお前は行動できないんだよ!」

 

「別に殺す気はない。肉体的にはね。……いや、デジタル世界だからデータ的と言ったほうがいいかな。データ的には無敵でも、その精神まではどうかな?」

 

「なっ……」

 

「今使ってるのはマヒ武器だ。まあこれ以外使う気はないがな。状態異常の蓄積上限はないから、それこそ何時間も絶え間なく殴っていれば何倍も持続する」

 

「お、俺を殺すのか?」

 

「殺す? とんでもない。そこのヤツもさっき言っていたが、別に殺す気はないよ。ただ、僕達の()()()()晴らしに付き合ってもらおうと思ってね」

 

「……なにをさせるつもりだ?」

 

「君に何かさせるつもりはないよ。周りがするんだよ」

 

「意味が分からないぞ」

 

「その態度は強がりかな? それともレベルという数字にあぐらをかいているからなのか……まあいい。君は自他ともに認めるトッププレイヤーのひとりだ。どうかな?」

 

「そうだが? それが?」

 

「気に入らないんだよ! たかが時間があるだけのガキが偉そうにしてるのがさ!」

 

「……ひがみかよ」

 

「僕たち大人はね、遊ぶ時間がないのさ。遊びたい、でも時間が足りない。金はある、だから金で()()()()()を買う。……だけどこのゲームには有利になる課金システムがない」

 

「で?」

 

「あるとき思いついたのさ。これはゲームだ。だから君をオモチャにして遊ぼうとね」

 

「だったら飽きるまで殴ってれば? そのときは俺のターンだけどね」

 

「ああ、そうするとも。──おい、PK可能エリアぎりぎりまで運ぶぞ」

 

「おう」

 

「クックックッ!」

 

「町の近くまで運んでくれるのか? あんたら優しいね?」

 

「そうだろぉ? おれたちゃ優しいのさ。──なんたって、テメェみてぇなガキを殴りたい連中は山ほどいるんだからな。おれたちだけで楽しむなんて、もったいねえ」

 

「百は下らないな。いや千かもな。そんだけ居れば列は途切れまい」

 

「なっ……まさか……お、おいっ! やめろ! やめてくれ!」

 

「何時間攻撃しても倒せないんだろ? せいぜい壊れてくれるなよ」

 

 




小ネタ(おまけ):
 ・10秒あたり459(扱く)。
 ・7人、天地創造の7日。最低でも6日は続くし、7日目に根をあげる。
 ・666獣の数→本能≒煩悩。

未使用ネタ:
 ・マヒ武器を突き刺して行動不能、永続化
 ・継続ダメージも発生するが自動回復により戦闘不能にならない
 ・戦闘状態判定の継続でログアウト不可
 ・没入型のせいで自力ではヘッドギアを外せない(無理に外すともれなく後遺症付き)


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魂塊 -コンカイ-

不老不死(再生能力付きとは言っていない)。
 ・後書きにタイトルの小ネタを追加(2023/7/30)。

 キーワード:R-15G グロ 自爆 不死 デスペナ デスペナルティ


「俺は……転生したのか? ──≪ステータス・オープン≫!」

 

 名前  :四我杉(よわすぎ)太郎

 称号  :異界の魂

 レベル :1

 HP  :100

 MP  :15

 状態  :不老(永続)、不死(永続)

 習得魔法:極大消滅魔法(ニュークリア)

 

「おっ! 魔法を初期習得してるのか。さっそく使ってみよう。──≪極大消滅魔法(ニュークリア)≫!」

 

≪ログ≫

 システム:≪極大消滅魔法(ニュークリア)≫を使用します。

 システム:MPが足りません。

 システム:HPを消費して発動します。

 

「おぉ……! レベル1でも発動するんだな。すごい威力だ!」

 

≪ログ≫

 システム:残りHP(-199885)

 システム:代償により肉体が爆散し、あなたは辺り一面に飛び散りました。

 

(──は? いだ……痛いいぃぃぃぃっ!? な、何が、何が起こった──)

 

≪ログ≫

システム:戦闘不能になりました。

システム:ペナルティ発生(レベル-1)

システム:レベルが0に下がりました。

システム:レベル制限発生。リスポーン不能になります。

 

(痛い痛い痛い何も見えない痛い痛い痛い何も聞こえない痛い痛い痛い誰か──)

 

≪ログ≫

 システム:リスポーンは禁止されています。

 システム:リスポーンは禁止されています。

 システム:リスポーンは禁止されています。

 システム:スパムを検知しました。しばらくの間、システムはすべての操作を受け付けません。

 システム:無操作状態から───秒経過しました。

 システム:個人情報保護の為、自動的にウィンドウを閉じます。

 

「すごい爆発が起きたから様子を見に来てみたけど、誰も居ないわね。……遅かったかしら?」

 

(痛い痛い痛い助けて痛い痛い痛いなんでこんな痛い痛い痛い──)

 

「そこかしこに飛び散った肉片は術者の残骸? 所属不明の魔法使いは逃げ出したのではなく、下手を打って自爆した?」

 

(痛い痛い助けて誰か──)

 

「まあ、あれだけの規模の爆発ともなると、こうなっても不思議じゃないか。心停止くらいならなんとかなったと思うけど、こんなミンチよりもひどい状態だとね」

 

「──よ、ようやっと追いつきましたぞ。魔法使い殿」

 

「あら、やっと着いたの。先に実況見分を始めさせてもらってるけど、私の所感はただの自爆ね」

 

「自爆ですか。ふぅむ……闇勢力の暴走ですかな?」

 

「それも分からないわね。こんな辺境で大爆発を起こすのも、意味もなく自滅するのも……。情報が圧倒的に足りていないし、今の段階では憶測以外、何も云えないってところね。考えるだけ時間の無駄よ」

 

「では、骨折り損のくたびれ儲けですかな?」

 

「バカの後始末をさせられるのは確かだけど、魔力汚染の恐れを考えるとここへ来たのも無駄足じゃないわ。魔法使いは魔力の塊ですもの。その()()を動物が食せば、たちまち魔物へと変貌(へんぼう)()げるわ」

 

「まったく(はた)迷惑な存在ですな」

 

「……魔法使いのアタシの前でよくそんな事を云えるわね」

 

「ええ、あなた様はそんな(やから)とは違いますので」

 

「そ、そう。じゃあ、後始末は任せたわよ。手順は分かるわね? 焼却は絶対ダメ。このビンに集め終わったら風化するまでずっと日に当てておくこと! 死後強まる魔力を考えると……そうね、念のため場所は大聖堂がいいわ」

 

「死んだ後もここまで厄介だとは……ハァ……まるで呪物ですな」

 

 




以下、雑な設定。

四我杉太郎(よわすぎ-たろう):
 異世界へと転移した男。古くから続く界隈の伝統により、転移者特典はしっかりともらっている。元ネタと同じくMPがマイナスになるも運悪く微塵に砕け散った。飛び散った肉片・骨すべてに意識が宿っている。不老不死なので死ぬに死ねないまま永遠に苦しみ続けることが転移早々決定した。意識=魂が残骸に宿ったままなので悪霊化して逃れることもできない。この激痛から解放されるには、塵も残さずこの世から消滅させられるのみ。
 不老・不死は読んで字の通り、不老=老いない、不死=死なない(死ねない)。あくまで肉体に備わった個別の特徴または属性であって、超人的な再生力や筋力を内包しているということはない。仮に死者蘇生が可能な世界観だったとしても、死んでいない状態なので蘇生は不可能(出来ても延々と続く激痛で精神崩壊している)。なお、肉片同士が癒着したり腐敗する可能性があるほか、摂食不能による衰弱も考えられる。地獄は始まったばかり。

魔法使いの女:
 実況見分1番乗りの女。肉片に意識が宿っていることに気付くことはない。教会系の知識はあまりない。

後から来た老紳士:
 実況見分2番乗り。特に語ることもない。


魂塊(タイトル):
 ・魂塊 → 今回(の犠牲者)。
 ・魂塊 → コンカイ → カイコン → 悔恨(後悔先に立たず)。


 今回の着想は、古いネット記事まとめで見かけた例の広告より。さらにここ最近(2023/6/15)プレイしているフリゲ(elona)の『MP不足による反動ダメージ』と、また別のフリゲ(DEMONOPHOBIA)の付属テキスト『死の概念がなく、犠牲者の肉片すべてに意識が宿った状態(どうにかしてもらわない限りずっとそのまま)』なる要素を繋げてみました。ちょっとした連想ゲームみたいですね。まじかるばなな。
 称号「異界の魂」は冥界=異世界の暗喩のつもりです。


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人身御供の終末世界

この短編集っていつも逆張りしてますよね……!(他人事)

 キーワード:R-15 アポカリプス 終末世界 砦 集団 見せしめ
       男の人っていつもそうですね コピペ


「待ってください!」

 

「……嫌だ。お前たちに利用されるのもほとほと飽きてきたところだ。ここに居ても俺には()()()がない。俺の特異体質なら壁の外にいるクリーチャー共に襲われることはない……ならばどこに行こうと、俺の勝手だろう?」

 

「あなたはここに居る人たちが餓え死にしてもいいって言うんですか? 医薬品だって足りないのに……」

 

「そうやって他人を利用しようとする根性が気に入らないんだ。疲れるまで外を歩かせて、重いと感じるほど物資をかき集めてきた俺に、あんたらは何をしてくれた?」

 

「……何を差し出せば、ここに残ってくれるんですか?」

 

「そうだな……──抱かせろ」

 

「……結局それですか。一言目にそれって、男の人っていっつもそうですよね。女の人を何だと思っているんですか」

 

「そっちこそ、俺を何だと思っている? 俺を道具扱いするってなら、お前も道具のように使ってやるってんだよ。わかったなら服を脱げ」

 

「お断りします。あなたには失望しました。もういいです、さっさと出て行きなさい」

 

「……後悔するなよ」

 

 

────────────────

 

 

「本当に行かせてよかったの?」

 

「人間、自尊心(プライド)を捨てたらそれまでですよ。……ガッカリしました?」

 

「いや、そんなこと……」

 

「はっきり言ってくれていいんですよ? 集団生活に支障をきたさない範囲で、ですけど」

 

「他人の為に自分を犠牲にするなんて、アタシだって出来ないよ……」

 

「そうですか。……かわいそうですけど、何人かは見捨てることになります。だって食料が足りませんから。医薬品も節約しないと」

 

「キミの弟も妹も()()()()かもね……」

 

「そうでしょうね。ですが、まとめ役に選ばれた以上は私情は挟めないですよ」

 

「え? でもさっき自尊心(プライド)がって──」

 

「集団の指導者が配下にナメられてどうするんですか。ちゃんと考えたうえでの決定でもあります!」

 

「ご、ごめん。ちゃんと考えてたんだね」

 

「当たり前です。……これも誰かさんが()()()物資を集めに行かなかったせいですよ。何もかも放り出したなら、その責任をちゃんと取ってもらうだけです」

 

 

────────────────

 

 

「……まさか、この集落(コロニー)がまだ残ってたなんてな。おーい、開けてくれー! 俺だー!」

 

「──()ねっ!」

 

「うおっ!? いきなり何をするっ!?」

 

「よくも顔を出せたもんだな、この裏切り者がっ! お前のせいで何人死んだと思ってるんだ」

 

「は? 何の話だ?」

 

「リーダーから聞いたよ。あんた、利用されるのが嫌になって出て行ったんだってな」

 

「ああ……そういえば、そんな事もあったな」

 

「今更ウチに何の用だ?」

 

「気が変わった。また手伝ってやってもいいと思ってここに来た」

 

「断る。帰りな。今だったらまだ見逃してやってもいい」

 

「俺が居るだけで安定性は違うぞ」

 

「お前が居なくても安定してるから要らないって言ってるんだよ」

 

「……なんだと?」

 

「大体よぉ、お前何なんだよ? なんでお前だけクリーチャーに襲われないんだよ。おかしくないか?」

 

「特異体質だ」

 

「そう言うならそうなんだろうな。お前の中ではな。……お前もクリーチャーの同類(なかま)じゃないかって、この集落(コロニー)中の人間(やつら)が疑ってんだ」

 

「俺は人間だ!」

 

「はっ、どうだか! お前は気分ひとつで仲間だったヤツを餓死(がし)させておいて、自分は人間だって言えるのか。どういう神経してんだ?」

 

「チッ……お前じゃ話にならない! あの女を出してもらおうか!」

 

「女だぁ? ……気が変わった。お前はここで死ねっ!! 野郎共、弓を構えろ! 確実に討ちにいくぞ!」

 

 

────────────────

 

 

「……っとまあ、こんなもんです」

 

「いや、こんなもんって言われても。みんな殺気立っちゃってるけど止めなくていいの?」

 

「ここで止めたら運営に支障が出るでしょうから止めないですよ」

 

「でもなんで戻ってきたんだろ?」

 

()()()で同じことをして追い出されでもしたんじゃないんですか? それか気味悪がられでもしたか」

 

「えっと、どういうこと?」

 

「簡単なことですよ。前にも言いましたが、命令に従わない部下なんて組織運営の観点からしたら邪魔以外の何者でもないです。秩序も何もなくなりますから長期的に見たら要求なんてとても呑めません。テロリストに屈するのと同じで、脅されて蹂躙(じゅうりん)され続けるのがオチです。結果的にマイナス収支です」

 

「そこが分からないんだよね。どうしてイレギュラーは発生するんだろう?」

 

「さあ? 人の心が無いからじゃないですか? 見張りの人たちも怒り狂ってるくらいですし」

 

「まあ餓死者(がししゃ)が出たしね……」

 

「彼が無茶苦茶なことを言わなければ起きなかった事態です。おかげで集団がよりひとつに纏まりましたけど。それにまあ、あの特異体質とやらを気味悪がってた人も少なからず居ましたから。()()とクリーチャーのどこが違うのか、って」

 

「……見た目とか?」

 

「人の皮を被った怪物ですか。言い得て妙ですね。……あ、終わったみたいですね。静かになりました」

 

「あっちゃー……。殺されるって思わなかったのかな、あの人」

 

「思ってなかったから戻ってきたんじゃないんですか? 知らないですけど」

 

恫喝(どうかつ)飢餓(きが)、姦通未遂、クリーチャー疑惑……並べてみるとすごいね。これは殺されて当然かも」

 

「まあそうでしょうね。そんな()()を迎え入れたら破滅の一途ですし、見張りの人たちもいい仕事をしてくれましたね」

 

「もしかして、こうなるって分かってた?」

 

「私の過去の発言から察してください」

 

 




以下、雑な設定。

特異体質の男:
 社会不適合者。なぜかクリーチャーに襲われず、その理由も不明。自分の価値・優位性を正しく理解しており、自分を散々こき使ってきた女上司でうっぷんを晴らそうとして見限られた。また、行く先々でも失敗を重ねている。いくつかの集落は蹂躙できたが飽きた後の、そのどれもが滅んでしまっている(彼に依存しすぎて単独での問題解決能力を喪失した)。結果、見事ブラックリスト入りを果たし、要注意人物として各集落から避けられるようになっていった。さらには外の物資を食い漁るシロアリ・ネズミ扱いまでされたことも。
 元居た集落へ出戻ってきたのは他人との関わりが欲しかったから。しかし、女リーダーによって過去の悪行が広まっていたおかげでその目論見も失敗。さらに神経を逆撫でする発言をしたせいで「自分勝手な理由で人死にを出した挙句、女を抱きたいだけの野放しのクズなんて怪物と大差ない」と自らの言動を以って噂を裏付けてしまい、弓矢で射抜かれて死亡した。

女リーダー:
 責任転嫁の上手い、理屈に塗れた女。自己犠牲の心は持ち合わせていない。物資の安定供給源を失う代わりに集落全体の結束力とモラルを得た。餓死者が出たことについては特異男のワガママで証人もきちんと確保済み。その補強として部下の横暴に屈することの問題点を理屈付けている。性的な要求を出されたことも全員に伝えることで女性陣(と既婚者たち)を味方に付け、さらに良心や道徳といったものにも訴えかけている。そして、特異男のモラルの無さがクリーチャー疑惑を深めた……のが事の真相。
 要はあのピンチを逆手にとって、見せしめの手段として使っていた。結果として良い方向へと事態は転んだが内心では「死んだら死んだでべつにいいや」と軽く考えていた。これで滅ぶなら、どうせ先は無いものだと。


集落(コロニー):
 終末系でよくある砦や刑務所のような集落、拠点。クリーチャーが入ってこれない程度には頑強。守りに弓矢を使っているのは主に音を出さないようにするため。

クリーチャー:
 よくある暴走したゾンビや生物兵器などの類い。クリーチャー同士で争うことはない。そこら辺をうろついている、バイオハザードの元。主食は肉。異種交配可。
 主な特徴としては視力は低いが、音に鋭く反応する(犬猫などの小動物と同程度)。視界に入らず、目立つ音を立てなければ安全にやり過ごせる。


 今回の着想(元ネタ)はネット上で見かけたコピペです。ネタにされているコマ割りと概要を読み込んだだけで漫画のほうはよく知りません。元ネタではどういう方向に進んだかも分かりませんが冷静に考えてみると、和を乱す人材なんてどんなに有能だろうと無益どころが害悪にしかならないとは思います(あくまで集団生活の中での話です)。
 確かな成果はあるのでしょうが、逆を言えばそれのせいで他が成果を出そうとしないと考えることもできます。出来ないんじゃなくて、やらない。やろうとも考えられない。ちょっとブラックな感じはしますが、現状に満足している人は改善・学習なんてしないでしょうから。駄サイクルや横着系便利グッズがよく売れるみたいなものですね。ちなみに本文中に実話を元にしている部分があったりします。
 ぶっちゃけると、一番厄介な点としては「じゃあ俺も」とか「やってもいいんだ」と思う人らの出現です。これが本当に面倒くさい。それまで控えていた人のタガが外れます。そして性的なことになると縄張り争いに直結します(誰が誰々の女に手を出したなど)。


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 └人身御供の裏側事情

後編というよりはただのおまけ。時系列は離脱直後。ないようがないよぉ……。

 キーワード:アポカリプス 終末世界 組織運営 集団生活


「──以上です」

 

「専属調達役が離反したってマジかよ、おい……」

 

「俺たちはこれからどうなるんだっ!?」

 

「そうですね、食料も医薬品も切り詰めます。……()()の犠牲は出ますが、これも仕方のないことです」

 

「切り詰めるって、どうやって?」

 

「助かる見込みのない方や、早死にしそうな人への配給を断ちます。あぁ安心してください、私の身内も例外ではありません。お荷物には等しく犠牲になってもらいましょう」

 

「なっ……!?」

 

「お荷物って、あんた人の心とか無いんか?」

 

「てかよ、リーダーが身体で払えば丸く収まってたんだろ? 何の為のリーダーなんだよ!」

 

「全体の為のリーダーですよ。では、あなたを新たな筆頭調達役に任命します。がんばって物資を集めてきてください」

 

「は? なんで俺がそんなこと」

 

「あなたが集めてきてくれれば、すべての問題を解決できますよ。よかったですね。反論があれば結果で黙らせてください。なんなら私の代わりにまとめ役でもやります? 私だって生贄にされるのはゴメンですよ。何の為に反発したんですか?」

 

「……」

 

「あぁ、私としたことが。物資が必要な方を彼に抱かせればよかったですね。うっかりしていました」

 

「いや、そんなことをさせたら体力が尽きてくたばっちまうだろ……」

 

「そういうことですよ。私が言いたいことは」

 

「……ままならんな……」

 

「……どういうこと?」

 

「お前な……。わからんか」

 

「いえいえ、素直なのはまあ美徳なことですよ」

 

「えへへっ」

 

「褒められてねえよ、皮肉ってんだよ気付けよバカ! ……つまりだな、リーダーは助かりたいなら自分で代償を支払えって言ったんだ。自分を責めても意味がないともな」

 

「さらに言えば、彼の横暴を許していた場合、コロニーは遅かれ早かれ無秩序化していたでしょう。彼がまとめ役に就任したとしてもです。彼の気分次第で全体の生き死にを左右されるんですよ? どう思います?」

 

「……まるで家畜だな」

 

「はい。であれば我々だけで自立したほうが集団としては健全です」

 

「だがよ、なんとかしてヤツに頼りつつ、その、自立していく方向に舵は取れなかったのか?」

 

「この中に既婚者の方は居ますか?」

 

「自分がそうですが……まさか」

 

「ええ、想像したとおりだと思いますが、あなたを調達役や兵役から免除します。代わりに奥さんを男性へのご褒美として提供してください。……彼が言ったことは、こういうことですよ。これでもまだ何か?」

 

「……暴動が起きるな。すまん」

 

「分かってくれたならいいです。ほら、あなたもそんな目で周りを見ない。そうならないように彼を手放したんですから」

 

「すみません、つい」

 

「こ、殺されるかと思ったぁ~っ!」

 

「だが(みな)への説明はどうする? 我々上層部は纏まることが出来たが、下の者へはどう告知する?」

 

「彼が言ったとおりに伝えます。それと、この協議で出たこともそのまま。証人もいますから、彼女にも手伝ってもらいましょうか」

 

「正論で納得させるんやな。どうなるこっちゃなぁ……」

 

「どうするも、やらねばなるまい」

 

「ええ。この先の事態は彼のせいで起きるんですし、我々上層部への不満(ヘイト)は彼に向けさせます。ついでに彼のクリーチャー疑惑もそれとなく流布(るふ)しておいてください。この際、使えるものはなんでも使っていきましょう。これも全体が生き残る為です」

 

「恐ろしい女やなぁ、あんた」

 

「これがまとめ役の責務です。代わってくれてもいいんですよ?」

 

 



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文明の火

鉄化=無敵=勝利フラグ。
 ・後書きにおまけの皮肉解説を追加(2023/10/25追記)。

 キーワード:スキル 鉄 熱 小学生レベルの争い 皮肉 無双 一方的


「──スキル発動≪鉄心≫! これでキサマの攻撃は効かん! 今日までの因縁ここで断ち切る!」

 

「なんのっ! そのスキルは対策済みだ! 油瓶を食らえっ!」

 

「ふん? それで攻撃のつもりか。油で滑ったとしても、この鉄の身体(かたまり)はダメージは受けない! 鉄壁の守りは崩せないぞ!」

 

「フフフ……──それはどうかな? そぉら、≪ファイア・ボルト≫!」

 

「なにっ、火矢の魔法だと! うおおおおっ!!」

 

「あっはっはっ! 打ち上げられた魚みたいだなぁ! 油を被ったんだ、地面に転がっても簡単に消えるわけないだろぉ? ──知ってるかい? 油と鉄は熱に弱いんだ、これ小学生レベルの知識だよ」

 

「オオォォ……──なんつってな」

 

「は? ぎゃあああっ?! は、離せぇぇっ!? (あつ)ぁぁぁっ!!」

 

「なあ知っているか? 生き物は熱に弱いんだ、これ小学生レベルの()識だぞ」

 

「あつっ、あち、はなっ、離せ! うあああっ!」

 

「熱傷にも細かい分類があるんだが小学生()()の頭に言っても仕方ないから要約してやろう。火傷は()()にもよるが負った範囲が広ければ、それだけ命の危険に関わってくる。熱した鉄を押し当てるだけで、人は簡単に死ぬんだよ……火計を用いたのは失敗だったな。鉄の身体には()()()()使い方もある。いい勉強になったな?」

 

「ああっ!! ああああっ!」

 

「まあどうせ鉄の膜のようなものを纏ったのだと思ったんだろう? それなら普通に鎧を着ればいいだけだろうが。だとしても鎧を着なかった理由はピック武器への対策だ。どうして鉄化するスキルを使ったかよく考えるべきだったな」

 

「ぐぐっ、あぐぬっ! くぅ……ッ!」

 

「さあ、勉強の続きだ。()にはこんな使い方もあるんだ、よっ!」

 

「グゴッ!?」

 

「重いガントレットを着けた腕はハンマーそのものだ。鉄の身体だろうが鎧の篭手(こて)だろうが、それは変わらない。殴りつけるだけで生身の相手に大ダメージを与えられる。そしてタックルをすれば鉄球そのものだ。今のお前みたいに倒れ伏した敵へのトドメに脚で踏み抜いてもいいな。……全身凶器である鉄の塊を敵に回せば、それだけで厄介だ。そんな事も分からなかったのか?」

 

「ひぃ……、ひぃ……げほっ……!」

 

「おい、どうした。俺がのたうち回った魚なら、キサマは虫の息だぞ。ちから弱く地面を()いずって、それで逃げているつもりか? 悲鳴以外に何か言い返してみたらどうだ? 俺ばかり喋っていたら会話にならんだろうが。楽しくお喋りしようじゃないか、策に(おぼ)れた策士君?」

 

「たす、たすけ……て……」

 

「策といえば、鎧を脱ぎ捨て戦場を駆け抜け、敵を包囲殲滅する陣を敷く≪疾風戦術≫なる意味不明な策を、キサマはどう思う?」

 

「あ……? え……?」

 

「俺としては、どうせ敵の中へ突っ込むのだから無意味だと思うのだが。機動力が上がったところで陣形を組んだ槍兵隊による面攻撃に刈り取られよう。どうせ脱ぐなら弓を持て、弓を」

 

「いたい……いた……ころひて……ころして……」

 

「……話にならんな。つまらん男だ」

 

 




あのセリフを初めて目にした時、焼きごてが脳裏を過ぎりました。


Q.なんで火計が効かなかったの?
A.効かねェ 中身も鉄だから!! 融点にも届いていません。

Q.策士君はどうやって倒された?
A.自分の攻撃を利用されて自滅。高温はんだごて状態になった敵にハグされて生き地獄へ。

Q.ざっこ。叫んでばっかじゃん。
A.話にならん(ダブルミーニング)。


強い鉄の例:
 ・メタルマリオ(完全無敵、接触攻撃持ち)。
 ・メタルスライム(FC版DQ1を除き、攻撃呪文無効)。
 ・アストロンの呪文(行動不能になる代わりに無敵化)。
 ・鉄丸発動中の石島土門(精神攻撃をも無効化)。
 ・利根川の焼き土下座(熱した鉄板の上で12秒も耐えた)。
 ・フライパン(直接火で炙り続けても溶けない)。
 ・はんだごて(火を使わずとも熱を帯びるうえ自身は溶けない)。


文明の火(タイトル):
 火の発見(発明)から文明が始まったという説より。文明の終わりもまた火(自らの道具で自滅する)だろうという全編通しての皮肉。

おまけ(会話文に込められた皮肉解説):
 1.知識に対して常識と返す。当たり前のことに対して、ズレた発言だと笑っている。鎧とスキルのくだりも同様。
 2.虫は魚のエサにすぎない。小賢しい事を考えようが、この結果は必然だったと言外に語っている。カモネギ。
 3.魚が溺れることはない。策士なら策士らしく水の中へ入らず、外で眺めているべきだったと非難している。相手の土俵で戦うバカがいるか。
 4.話をしようと思っても話にならない。つまり、取るに足らない存在ということ。


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怪談≪イケメン君≫

レベルが上がるってこういうことっしょ?(危険思想)
 ・会話中の状況説明と、後書きの加筆修正。(2023/10/25追記)。

 キーワード:レベル 進化 異世界 現代 都市伝説 怖い話 百物語


「──こうして、(おぼ)れた男は二度と浮き上がることはなかったとさ。はい57話目おしまい」

 

「次はあたしの番ね。百物語はまだまだ続くわよ。……みんなは≪イケメン君≫は知ってる? これからあたしが話す話は、あるひとりの男を発端として起きた悲劇なの」

 

「イケメンって、あのイケメン?」

 

「そう、顔が良い人のことね。たまに内面のことを指すこともあるけど……今回は顔のほう。あるブサイクな男が一夜にして別人に変わった。顔も骨格から違ってて、体のほうもスリムで筋肉がついた理想の姿に変わっていたそうなの」

 

「はぁ? それ戸籍とか証明写真とかどうすんの?」

 

「ええ、家族に泥棒と間違われて、弁明しても信じてもらえなくて家を追い出されて……、でもお金持ちの()に囲ってもらって大丈夫だったらしいわよ」

 

「え、それマジバナ? 怖い話でも都市伝説でもなんでもないじゃん」

 

「まー、まー。話はここから。お金持ちのお嬢様は彼がイケメン君になる前に少し話したことがあって、所作を覚えていたから彼だと分かったみたい」

 

「それ、お嬢様のほうが怖くない? ストーカーとかヤンデレみたいで怖いんだけど」

 

「まあまあ。世の中には一度見た顔を忘れない人だっているんだし」

 

「当然、彼は今まで通っていた学校に居られるはずもなく、お嬢様がいる学校に転校したわ。お嬢様は校内でも人気でファンクラブまであったそうで、そんなお嬢様によくしてもらっていたイケメン君は転入先でも孤立していったわ」

 

「残当」

 

「話の流れからして相当な顔面偏差値だったなら、まあ分からなくもない。(ねた)みかな」

 

「顔が良いだけじゃあねぇ……。上流階級の通う学校ってマナーとか厳しそうだし、そこが引っかかったのかな。品性はお金じゃ買えないしね」

 

「そうだったのかもしれないわね。それでもお嬢様は変わらずにイケメン君と交流を続けたそうよ。周りの人が離れるように言っても従わずにね。……そうなると、どうなると思う?」

 

「イジメでも起きた?」

 

「刺してしまったのよ。ファンクラブの人が」

 

「……イジメはすでに起きていて、イジメは無視だったわけか。エスカレートしたんだな」

 

「そう。そしたら刺した人がイケメンになったの」

 

「は?」

 

「意味が分からないよね。人を殺したら生き物としてのレベルが上がるって」

 

「ああ、でも、ゲームに(たと)えたら分かりやすいね。レベルってそういうことでしょ?」

 

「うん、合ってるかな。だって、目の前で起きた()()にお嬢様が続いたら、元々美少女だった彼女は絶世の美女になったんだから」

 

「……まさか、今度はお嬢様が殺された……?」

 

「ううん。ファンクラブの人に()()()()()にされたわ」

 

「あっ、今度は平和的」

 

「いや……、まあ……、そう、かもな……」

 

「??」

 

「その後、お嬢様がどうなったかは分からない。でも、イケメン君がイケメンになったのは異世界に通じる扉を開けたからと云われているわ」

 

「その扉の先で最初の何かが起きたわけか。イケメン君がそれを他人に教える気はないだろうし、辿り着ける情報も残すとは思えない。どうして扉の情報(こと)が広まったんだ……?」

 

「いや、それよりもノータイムで刺したと思われるお嬢様が一番怖い」

 

「確かに……」

 

「お嬢様は気が動転して、イケメン君を助けるつもりで刺したのかな?」

 

「謎が謎を呼ぶ」

 

「怖い話ってそういうものよ。あなたの近くのイケメンは、誰かから奪った≪格≫で成り上がったのかもしれない……ってことで58話目は終了。あくまで都市伝説だし、真に受けて人を刺さないようにね?」

 

 




Q.要約して。
A.異世界のレベル概念が次元を超えて機能した。つまり、イケメン君らは異世界の概念付きモンスター判定を発していた。それを倒した人にも伝播していた。

Q.お嬢様が保護したのはなぜ?
A.明らかに異常現象だと見抜いたうえで、近くに置いて観察していた。人は情では動かない。特に女は。

Q.お嬢様が刺したのは?
A.恩恵を確認できたため、他者に奪われる前に確保するべきだと焦ったから。早まってしまった。

Q.扉の話はどこから出てきた?
A.都市伝説のノリで後から加えられた創作が、実は的のド真ん中を射ていた。

Q.作中の世界線で起きた事件だった?
A.です。人の口に戸は立てられず、噂から都市伝説と化した。

Q.57話目と58話目って?
A.投稿当時の話数。特別な意味は無い。


何かを殺すと強くなる生き物の例:
 ・熊(臆病な性格だが、相手を格下と認定すると途端に強気になる)。


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