周回プレイヤージョーカー君 (文明監視官1966)
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小話ジョーカー君
■→


ループ、ループ、ループ、ループ

もう一度、もう一度、もう一度、もう一度

まだ、まだ、まだ、まだ

何度でも、何度でも、何度でも、何度でも


いつまでも


 

 

 

 

 

──────世の中には救いようの無いゴミが多すぎる

 

 

 

 

他人を蹴落として

 

他人を踏み台にして

 

他人を道具にして

 

他人を使い潰して

 

他人に押し付けて

 

他人から搾取して

 

他人を騙して

 

他人を消して

 

他人を始末して

 

他人を殺して

 

 

 

 

 

 

そんなゴミ同然のヤツらが、何故か陽の光の下でのうのうと生きている

 

 

 

 

 

誰かを傷つけ、害してきた者が善き人々の上に立ちまるで神にでもなった気で、掌の上にいる虫を潰すように簡単に殺す

 

 

 

 

 

何故だ

 

 

 

 

 

 

何故善き人が死に、奴らが生きている

 

 

 

 

 

 

何故だ

 

 

 

 

 

 

 

 

何故人の為に尽くした人が奴らに潰される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・俺の仲間が死んだのに、奴らは生きている

 

 

 

 

 

何故だ

 

 

 

 

 

 

 

 

何故

 

 

 

何故

 

 

 

 

 

何故

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ある時、ふと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に死ぬべきは誰か?

 

 

 

 

 

 

 

・・・そんなの決まってる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に死ぬべきなのは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

薄暗い地下鉄のような場所。本来常人が来るような場所ではなく、ある鍵の役割を果たすモノを介さなければ存在すら知りえないそこは不気味な瘴気に包まれ、まるでこの空間自体が死んでるかのような冷気の漂う未知の異界。

 

人々の集合的無意識によって形作られた迷宮。ある者たちには『メメントス』と呼ばれたその場所で、静寂とは不釣り合いな慌ただしい足音が響き渡る。

 

「はっ・・・!はっ・・・!!」

 

どたどたと慌ただしい足音を立てながら走るのはスーツに身を包んだ小太りの男。顔を青くしながら分かれ道だらけのメメントス内を駆け回っているその男の瞳は、金色に輝いていた。

 

つまるところこの男は現実世界に存在する小太りの男の影法師、()()()()な訳だが、そんな彼が何故こうも必死に走り回っているのか。

 

まるで、誰かから逃げているような。

 

 

 

 

パシュッ

 

 

 

 

その例えは正しかった。

 

「ぎゃあぁあぁああぁ!?」

 

 

小さく乾いた音が鳴ると男の足に激痛が走る。途端に力が入らなくなり無様に転がると足を抱えて悲鳴をあげた。弾丸が足を貫いたようでドクドクと赤黒い血のような液体が溢れ出ている。これではまともに立つことも出来ないだろう。

 

「ヒ、ヒィ、ヒィィ・・・!!」

 

だが男は何としてでも逃げようと這って移動を始めた。後ろから迫る死神から逃れるために必死に腕を動かし、残った片足も使って虫のように這いずりながらも逃れようとしている。

 

 

しかし死神は余りにも残酷で、当たり前に冷酷であった。

 

 

パシュッ

 

 

「ァ、ガァアァアアァァッッ!?!?」

 

残った片足にも弾丸が打ち込まれ男は絶叫を上げる。男とは真逆に消音器(サプレッサー)によって出来うる限り殺された発砲音が2度鳴り今度は男の両手に風穴が空いた。

 

激痛によって最早身体を這いずることも出来ずただただ焼き付くような痛みに脳を蝕まれ、瀕死のカエルのように地面に倒れる事しか出来ない男に死神が近づく。

 

「ひ、ひぃ・・・!!??」

 

死神が男の目の前まで来た時、メメントス内を照らしている極わずかな光がその死神の姿を照らした。

 

 

そこに居たのは正しく()であった。

 

 

全身を黒1色に包み込み、今にも溶けて消えそうなその影はゆらりと地につきそうな程長いコートを揺らして男の前に立っていた。

 

その右手には硝煙を上げる消音器(サプレッサー)付きの拳銃が握られておりなんの迷いも無く男に突きつけられた。

 

「なんで、なんでこんなことに・・・!?」

 

ガタガタと体を酷く震わせながら影を見上げる男。そんな男を仮面のような、否、事実影が付けている仮面の無機質な瞳が氷のように冷ややかな視線を向ける。

 

ヒィッ!と小さな悲鳴を零した男は痛む手足を無理やり動かしてその額を地面に押し当てた。

 

「た、助けてくれ!頼むぅ!命、だけは!助けてくれ!金、金なら幾らでも・・・ッ!!」

 

そう言って無様に地に額を擦り付ける男のセリフを最後まで聞くことも無く影は全く興味が無いと言うように男の頭をサッカーボールのように蹴り上げ、壁に叩きつける。

 

ガベッ!?と潰れる声を出してぶつかった男に影は一切の慈悲無く追撃として、2発、男の腹に弾丸を撃ち込んだ。

 

「あっがぁぁあぁぁっ!?」

 

再び走る激痛に男は絶叫を上げる。だがそれを遮るように男の口に何かがねじ込まれる。ダクダクと体の至る所から黒い液を流しながら燃えるほどに熱かった傷が冷え切って感じるほど恐怖に染まった瞳で影を見た。

 

どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと訴えるように。そんな瞳を見た影はゆっくりと男に顔を近づけるとようやくその固く閉じていた口を開いた。

 

「横領、薬物、恐喝、売春、殺人・・・ザッと出してもこんな感じか。これで満足だろ?」

 

男とも女ともとれないノイズがかった影の言葉に男はサッと血の気が引き更に顔を青くした。何故それをと聞こうにも拳銃が邪魔で発声出来ない。まぁしたとしても影がその質問に答えることは無かっただろう。

 

「教えてあげようか、俺が今どんな気分か」

 

男を狙う理由を雑に語り終えた影がゆっくりと見せつけるように引き金に指をかける。

 

「昔さ・・・・・・まだ俺がガキの頃、虫を捻り殺した事があるんだけど・・・

 

 

 

それと同じ気分だよ」

 

「や、やめッ・・・!!」

 

 

 

パシュッ

 

 

 

男は命乞いの1つもまともに出来ず、やがて燃え尽きるようにメメントスから消滅した。

 

「・・・・・・。」

 

それを見届けることも無く、影は身を翻し足音を響かせながらその場を去っていく。

 

静か過ぎるメメントスの中を歩く影はふと足を止めて自分の顔に、正確には仮面に手を翳すとそこに宿る力の一つを呼び起こした。

 

「『アルハザード』」

 

そして姿を現したのは腸のような触手の塊が渦巻き、円盤の形をしたおぞましいペルソナ。時折『ia・・・ia・・・』と声なのか怪しい音を出しながらギュルギュルと空中で回転していたアルハザードはその触手を何本か影に垂らし、その先を体に突き刺すように一体化させる。

 

すると影の前にジジッ・・・とホログラムが浮かび上がり何かの地図を映し出す。それは今現在のメメントス全体の地図であった。

 

このアルハザードは本来存在しない筈の力、()()()()()()()によって生まれた特殊なペルソナ。探知タイプなのととある異本絡みの名が()()を彷彿とさせる。余りに歪なその姿はその絆が錆びれて久しい事を表していた。

 

ほんの少しの間、その地図を見ていた影はいくつかのポイントを指定すると触手を頭へ突き刺して脳内に直接インプットし、そこへ向けて移動を開始する。

 

()()

 

影がそう呟くとアルハザードの触手が彼の足元に円を描き、深淵を創り出す。そのままその沼のような深淵に沈んでいきトプンッと頭まで浸かるとまるで最初から無かったかのように影と深淵は姿を消した。

 

そして影が再び姿を現したのは初めに指定していたポイントであった。

 

瞬間移動、いや空間転移と言った方がいいか。この特異な空間であるメメントス内を自由に移動することが出来る。その異常性をメメントスを知る者ならば理解できるだろう。

 

そんな異常な方法でポイントに移った彼の前には先程消した男と同じように金色の目をしたスーツ姿のシャドウがいた。

 

影は何も言わずに男に向けて銃口を構える。用なら分かり切ってるだろうと言わんばかりに。

 

「な、なんだお前は!?いきなり現れて!」

 

喚く男に対して無言で影は何の躊躇も無く引き金を引いた。乾いた音と共に発射された銃弾は男の腹を捉え、血と絶叫を撒き散らした。

 

「ガァァァ・・・!?お、お前・・・私に攻撃する意味が分かってるのか!?私はかの名高き煤木財閥の・・・ッ!!??」

 

叫びながら男はその体を変形させ、その身を異形へと変貌させる。ゴキゴキと骨格を変えて鬼のシャドウ『フウキ』へと変わった直後、アルハザードのメギドラによって凄まじい勢いで後方へ吹き飛んだ。

 

ドガンと壁に打ち付けられたフウキは1度跳ねると今度は飛んできたアルハザードの触手によって四肢を貫かれて再度壁に打たれ、抵抗出来ぬよう縫い付けられる。

 

激痛に身を攀じるフウキにゆっくり近づき、見せつけるように銃を額に密着させ・・・

 

「ぐぁ・・・!?こ、この化け物め・・・!今に見てろ、お前の命など私の命に比べれば小石もどうぜッ!?」

 

フウキが全てを語り終わる前に撃ち、何の感情も無く命を終わらせた。

 

「屑が命を語るな・・・まぁ、俺の言えたことじゃないが」

 

薬莢が落ちる音が虚しく響く中、そう言って自嘲気味に笑う。

 

余りにも軽く引かれる引き金。今の影にとって命とは鉛玉より重く、引き金よりも軽いものだった。

 

「・・・次だ」

 

そう呟いた影は再びアルハザードの深淵に沈み次のターゲットの場所へ移動を開始した。彼が消え、誰も居なくなった空間に硝煙の匂いだけが張り付いていた。

 

 

 

 

ズ、ズズ・・・

 

 

やがて、影が全ての標的を狩り尽くした頃。薄暗く廃れて廃墟のような駅の改札口に黒い塗料をぶちまけたような深淵が現れる。アルハザードの力でメメントスの入り口にまで帰還した影であった。

 

影はコツコツと足音を鳴らしながらナイフに付いた赤黒い液体を払って改札口を通り抜けるとアルハザードを引っ込める。

 

(めい)を受け、自分で自分を喰うようにして消えたアルハザードを見届けてからエレベーターの扉のような入り口に手をかける。

 

そしてそれを開く前にチラリと横の何も無い空間へ目を向けた。だが()()()()()()()()()()()。ただ静寂が広がるだけ。

 

未だに治らない癖に自分で自分に辟易する影は寂しげな目をしながら扉から外へ抜けていった。

 

 

 

そして抜けた先はビルとビルの隙間、影が闇を濃くする裏路地。そんな場所にズズッ・・・と影から這い出てきた先まで影であった青年は、顔が見えないほど深くパーカーを被っていた。

 

外は雨が降っており、メメントスから出てきた青年を容赦無く濡らす。しかしそんな事気にせずに青年は手元に握ったモデルガンを少しばかり見つめてカバンに仕舞うと光の差し込む表路地に向けて歩き始めた。

 

その時、漸く彼の顔を光が照らしその容姿を確認することが出来た。

 

整った顔、恐ろしいほど白い肌、前髪だけでも分かるくせっ毛、そして伊達メガネに隠された深く絶望に染まった光無き眼。

 

 

彼の名は『雨宮蓮』

 

 

嘗て心の怪盗団のリーダーを務め、強きをくじき弱きを助ける正義を貫いた青年であった彼は今、裏社会において猛威を振るう()()()として名を馳せていた。

 

授かった異能を使いどんな小さな悪も見逃さずその命を刈り取る者。誰にも悟られず、影と共に死を贈る死神。

 

その特質から彼はこう呼ばれていた

 

 

『シャドウ』、と。

 

 

それは皮肉にも彼が敵として戦っていた者達の総称であった。

 

 

 

 

 

 




我は影、虚ろなる我


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→■

暗い世界にも、せめて一筋の光を


 

 

裏社会でシャドウと呼ばれ、恐れられている蓮。

 

 

 

繰り返しの中で摩耗し続けた彼には、もう絆など存在しない。たった1人で戦い続け、たった1人で悪を殺し続けた彼にはそんなものただの足枷にしかならない。

 

彼に最も必要なものだと言うのに、彼はそれを投げ捨ててしまっていた。

 

 

たった1人でこの馬鹿げた物語を終わらせる。

 

 

それが修羅へと堕ちた彼の選んだ道だった。

 

 

 

たった1人で鴨志田を、斑目を、金城を、一色若葉の呪いを、奥村をその手で始末した蓮。最早あの頃の面影は無くただ大きな闇を抱えて歩く愚者に見える。

 

その手で多くの人を殺してきた、その手で多くの悪を葬ってきた。後戻りなど出来るはずもない。ただ進み続けるしかない、その身を影に沈めてもただ、前に。

 

なぜなら、これは彼が始めた物語なのだから。

 

 

 

「がふっ・・・!?貴、様・・・!?」

 

 

尽く悪を殺し尽くし血の道を歩んだ蓮はたった今、黒い仮面の男を殺し獅童を始末していた。

 

「誰に、手を出したと・・・!!」

 

()はもういない、何も語らず死ね」

 

両腕を巨大な骨の手に掴まれ一切の抵抗を封じられた獅童の胸へとナイフを突き刺し、心臓を串刺しにした後に喉をかっ裂き絶命いたらしめる。

 

「ゴボ・・・ガ・・・ぁ・・・・・・・・・。」

 

苦悶の表情を浮かべたまま死んだ獅童を無表情で見つめた蓮は骸に何も語ることは無くやるべき事は済んだと、顔に付いた血痕を拭う事もせず崩壊するパレスから抜け出した。

 

そしてその後、時間をかけずにメメントスへと向かい最深部へと向かう。

 

無論、そこに巣食う偽神を討つ為に。

 

湧き出るシャドウ達を薙ぎ払って下へ下へと進み容易く最深部へと辿り着いた。降り立った彼を取り囲むように存在する無数の檻。その中心部に居座る巨大な器。

 

奴こそがこの物語の全ての元凶、大衆の無意識の願望が形になった黒き異物。名を“聖杯“。相変わらず不釣り合いな名前に失笑を零しながら己の力を解放する。

 

「『牛頭(ごず)』」

 

その呟きに反応して現れたのは筋骨隆々な人の肉体に牛の頭が乗っかっているという珍妙なペルソナ、西洋におけるミノタウロスと呼ばれる怪物の姿をしたペルソナがその巨大な腕を蓮の影から突き出し、窮屈そうにしながら這い出てくる。

 

「断て」

 

『ブルルッ!! 』

 

その手に握った3mは有るであろう牛頭の身の丈以上の大きさを誇る戦斧の柄の底を1度床に叩きつけ、大きな罅を刻み込むとその巨体を存分に捻り全体重を乗せた渾身の一撃を聖杯へと見舞った。

 

いや、正確に言うのなら聖杯に繋がっている血脈のようなチューブをその斬撃で断ち切った。それは聖杯に無限の活力を与える血脈。言わばこの形態の弱点。

 

『ムッ・・・』

 

どうやら初手から弱点を狙われるとは思ってもなかったようで聖杯はやや驚きつつも起動すると蓮へと意識を向ける。そして侮蔑を隠そうともせずに完全に見下し始めた。

 

『まさか一手で見抜くとはな・・・流石は堕ちしトリックスターと言った所か。しかし、そのような穢れた身で我の前に現れるとは。度し難い。』

 

「・・・お前がそれを言うか。欲の集合体であるお前が。」

 

『口を慎め、泥の如き濁った愚者よ。貴様は神の前にいるのだ。』

 

「紛い物の癖して何を偉ぶってる。中身の無い贋作が。金メッキと泥、穢れたモノ同士仲良くやろうじゃないか。」

 

『・・・そうか、そこまで死に急ぐか。ならば良い、貴様に神の裁きを下してやる。』

 

互いに煽り合うと傲岸不遜な聖杯は装飾品の1部にエネルギーを集め光の矢として蓮に向けて発射した。

 

防御も何も出来ずに直撃し、土煙に覆われる蓮。並大抵の者ならば一撃で葬る攻撃だったが、だがやはりこの程度で倒れる男では無い。牛頭の戦斧を振るって煙を扇ぎ煙を晴らすと余裕綽々と言ったように歩いて出てきた蓮はお返しとばかりにとあるペルソナを呼び出し攻撃する。

 

「来い、『ミカエラ』」

 

そのペルソナは黒い瘴炎と共に彼の背後から現れた。一見美しい純白のドレスを煤で汚し、所々を焦がしたり破いたりとボロボロで。背筋が凍るほど禍々しい緑の炎が彼女の龍のような頭蓋骨から漏れ出ている。

 

黒と緑の炎を渦巻かせながら下を向いて佇むのは『ミカエラ』。骸骨がボロボロのウエディングドレスを着ているという珍妙なペルソナだがその強さは折り紙付き。

 

『Aaaaaa“a“a“a“a“a“a“!!!!

 

両手で持っていた花束を落とし、狂ったように泣き喚き始めると彼女に纏わり付いていた黒と緑の瘴炎が増幅し、2色の炎渦となって聖杯に襲いかかった。

 

その威力は凄まじく、たった一撃で金色に輝いていた聖杯の正面を黒焦げにして内部にまでダメージを与える程である。

 

「で?お遊びは終わりか?」

 

バチバチと破損箇所から火花を散らす聖杯を煽る蓮。そんな彼を見て聖杯はダメージを修復しながら彼へ向ける目を変えた。侮蔑から警戒へ。

 

今ここにいる人間は自らにとっての脅威であり、消し去るべき『敵』と認定した。

 

『・・・・・・成程、()()。どうやら少々侮っていた様だ、それは認めよう。そして貴様が我にとって排除するべき障害である事も。故に全力を持ってこれを排除する。』

 

「最初からそうしろ、カラクリ野郎め」

 

追加の蓮の煽りも気にせずに本来の力を解放する聖杯。床が割れ、聖杯の()()を閉じ込めていた殻が崩れていく。

 

ガラガラと瓦礫が雨のように降る中、アルハザードの触手に掴まれながら変身していく聖杯を見つめる蓮。その様子は至極冷静で、焦りは一つも無く、また大きな動揺も無い。寧ろ無感情で相変わらず能面の如き表情を貼り付けていた。

 

やがて聖杯の変形が終わると残った足場に着地し、目の前にいる巨神をゆっくりと見上げる。

 

『さぁ、愚者よ。神を前にして地に堕ちるが良い。』

 

そこにいたのは正しく機神。絶対的な力を持ってこの世を支配せんとする悪神にして、それを大衆に望まれた創られた理想の支配者(デウス・エクス・マキナ)

 

冠する名は『ヤルダバオト』。その鏡面のような機体に神の名に相応しい風貌をしたコレは蓮の何倍、何十倍もの大きさを誇り日の暮れをバックにしたその姿は天使のようである。

 

だがその本性は悪魔よりも狡猾で、堕天使よりも意地が悪い悪神。軋む駆動系が叫び声のような音を上げてその壮大さに拍車をかける。

 

「堕ちるのはお前だ、空虚な偽神め」

 

だがそれにも勝るとも劣らない殺気を飛ばし、身の丈以上の存在感を曝け出す蓮はヤルダバオトのプレッシャーも真正面から弾きとばす。

 

そしてミカエラが蒸発するように消えると今度は地獄の底から這い出て来たかのような冷気と殺意を纏って新たなペルソナが現れる。

 

それはあらゆる生物を混ぜ合わせたような酷く悪魔的な見た目に加え、蓮の3倍近い巨躯を持った上級ペルソナ。

 

その名を・・・

 

「『サタン』」

 

『む』

 

小さく一言、名を呼ばれたペルソナ『サタン』はその全身から万物から一切の熱を奪う冥府の冷気を漂わせるとそれらを一気に放出、展開させる特大規模氷結魔術『大氷河期』が律法の書を除く全てのパーツに強烈な氷結ダメージを刻み込む。

 

「『オーディン』」

 

『・・・ほう、これは』

 

「『スルト』」

 

その後は一瞬のタイムラグも無くペルソナチェンジして『オーディン』を呼び出し断罪の剣を除くパーツに熾烈な電撃魔術『エル・ジハード』を食らわせる。

 

様々な属性を目まぐるしく変え、且つ反射されないパーツにのみ攻撃を与える。超高度な魔術制御から放たれる戦法でヤルダバオトを押していく。流石はシャドウ・・・いや敢えてジョーカーと呼ぼうか。

 

攻撃と攻撃の隙間を限りなく無くすことによってヤルダバオトに反撃を許さないジョーカー。あっという間に全てのパーツを破壊しきるとダメ押しと言わんばかりにとあるペルソナを呼び出した。

 

壊せ『ヨトゥン』

 

名を呼ばれ、姿を現したそのペルソナは先の巨躯の持ち主であったサタンよりも更に巨大。雄々しい角を持ったゴーレムと言う様な見た目をしたそれはジョーカーを掌でまるまる包める程の大きさを誇り、その全身はヤルダバオトの3分の1に迫る程。

 

そんな規格外のデカさを持つヨトゥンはジョーカーが握り拳を作るのと同時に炉心をフル稼働。持てる力全てを拳へと集中、凝縮させてゆく。やがてそれが臨界点を迎えると膨大なエネルギーがヨトゥンの両拳に宿り紫電となって視覚化される。

 

もはや抑えきれないほどに増大した力はジョーカーの一声によってついに放たれた。

 

「『カラミティタイタン』」

 

ヨトゥンは余剰エネルギーを再転換してスラスターを噴かせるとその巨体からは想像出来ないスピードで突貫し、爆発的に増幅したエネルギーの塊と化した両拳をヤルダバオトの顔面へと叩き込んだ。

 

『オオォオォォオオオォォォッッッ!!!』

 

巨人(ヨトゥン)の咆哮ような駆動音と共に莫大なエネルギーが爆ぜた次の瞬間、信じられないことに機神の顔がまるで鏡を割るように砕け空中に飛散した。

 

なんと、なんと。ジョーカーは機神、ヤルダバオトを個人の力だけで圧倒してしまったのだ。

 

たった1人の人間が大衆の願いの塊である機神を倒すなどどれ程の偉業か。蟻が人間に勝つくらい有り得ない事を彼はやってのけてしまった。

 

凄まじい力、凄まじい執念である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────だが、悲しいかな

 

 

『今一度、評価を改めねばなるまい。』

 

 

それではヤルダバオト(願いの器)は壊れない。仰け反った体勢から戻ると粉々になった頭部がゆっくりと逆再生するように元に戻っていく。腕や武器も同様に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

やがて機神は何事も無かったかのように完治し、ジョーカーの前に完全復活した。それだけでは無い。民衆の願いが力を与えたのかただでさえ手に負えない強さを持つというのに、更に強化されての復活であった。希望が転じて絶望へと変わっていく。

 

そして機神が律法の書に魔力を巡らせ、ジョーカーに向けて『神の怒槌』を放った。それは聖杯の時よりも、顔面を壊される前よりも桁違いに強力で圧倒的な熱量と破壊力を持ってジョーカーに襲いかかった。

 

「『ヴリトラ』、天地挽歌────」

 

『無駄だ』

 

すぐさま『法王』のアルカナ、その成れ果ての化身である漆黒の邪龍ヴリトラを呼び出し、呪怨と万能が混ざり合った咆哮で反撃に移るが怒槌の次元が違う威力に力が拮抗する事無く押し切られ、ヴリトラを消滅させられる。

 

それだけでは留まらずジョーカーにまで届くと避ける暇も無く直撃し、右腕が()()()()

 

ちぎれるのでも切断されるのでもなく、ただ圧倒的な熱量に晒されることで蒸発してしまう。

 

肉が焼け血が蒸発する不快な臭いが辺りに漂った。

 

それでもジョーカーが生きているのは反逆の意思に身を包んでいるからであろうか。しかし、その半身は目を逸らしたくなるほど焼けただれその機能を失いつつある。消し飛んだ右腕の付け根は炭と化して崩れ始めていた。最早痛みだけが駆け巡り動く事も出来ないだろう。

 

しかし、ジョーカーは立ち上がる。

 

痛みを無視し狂気に浸かった執念を持って、まるで亡者のようになろうともその両足に力を込めて床を踏みしめる。彼の見開かれた目から濁った反逆の意思はちっとも消えていなかった。

 

「ペルソナ」

 

機械のように冷たく無感情にそう呟くと恐ろしいまでの精神力を持ってペルソナを呼び出し、悪魔の如き風貌と三対の羽根を持つ強大なペルソナ『ルシファー』が彼の中から降臨する。

 

バサリと全ての翼を優雅なまでに広げると様々な属性の魔術を宙を覆い尽くす程辺りに大量展開し、それを一気にヤルダバオトに向けて掃射する。

 

火炎が、氷結が、疾風が、電撃が、核熱が、念動が、祝福が、呪怨が、万能が。

 

持ちうる全てを機神へとぶつけた。その光景を例えるのならば『神話』と呼ぶのが相応しいだろう。それほどまでに神々しく圧倒的な、そして絶望的な景観であった。

 

底無しの魔力に物を言わせた数による暴力、確かに個人で出すのなら凄まじい火力だ。

 

だが個人の力では大衆の歪な願いの化身たるヤルダバオトには届かない。その身を砕くことなど出来やしない。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

それは決してペルソナが()()()だからでは無い。このルシファーも言わば絆の残滓。かつてあった力の残りカスだ。その出力は強力だが最高値ではない。無理矢理顕現させ維持してるのだから当たり前だ。

 

けれどもそれを抜きにしても彼が単独でヤルダバオトに勝つ確率は億分の1も無い。完璧な0、つまるところの不可能。

 

しかしそれでもジョーカーは抗う。あらん限りの力を持って機神を打ち倒そうと。

 

「堕とせ」

 

ルシファーの放った超高密度エネルギーが空へ打ち上げられると一つの流星となってヤルダバオトへと放たれる。渾身の力を振り絞って出した『明けの明星』は確かにヤルダバオトの体に傷を残した。

 

ただそれだけだ。

 

致命傷にもならぬ倒すには程遠い傷。それはジョーカー個人の限界を示すように鏡面のようなヤルダバオトの顔面に付いていた。

 

『憐れな』

 

左足がちぎれ飛ぶ。

 

ジョーカーをもってしても反応できないほどの速度で射出された処刑の銃弾が容易く左脚の肉を抉りその繋がりを断った。

 

べちゃりと嫌な音を立てて床が赤に染る。

 

断面が熱で焼け止血はされているものの、最早その体は死に体だ。寧ろ生きてる方が不思議なほどの重体だというのにジョーカーはまだ死んでいなかった。

 

「まだ、だ」

 

起きようとして力を入れるものの体が言う事を聞かず血で滑って地面に崩れ落ちる。ならばとジョーカーはその身から深淵の如き瘴気を放ちながら新たなペルソナを呼び出した。

 

 

「食い零せ、666(マスターテリオン)

 

 

その名は、彼がこれまで発現させたペルソナとは異なるペルソナであった。一線を画す、などと言うレベルでは無い。

 

別格、いや、もはや()()()()()()()()()()()()()()()。それほどまでに狂い果てたモノすら躊躇わずに発現させてしまう。

 

呼び起こされた獣はジョーカーの背中を食い破るように現れた。

 

 

『縺ゥ縺?@縺ヲ繧?a縺ヲ陦後°縺ェ縺?〒證励>諤悶>縺イ縺ィ繧翫↓縺励↑縺?〒繧?□繧?□繧?□繧?□!!!!!!』

 

 

呻き声の様な、叫び声の様な、怒声の様な、泣き声の様な、産声のような。聞くだけで脳を描き毟られて発狂しそうな異音()を響かせながらソレはズルリとその姿を晒した。

 

頭部から生える巨大な10の角と首から生える6つの顔のような触手。その頭部と触手には王冠と呼ぶには歪み切った物が乗っている。

 

火のように赤い体に何十本もの腕が疎らに付いており、犬のような足は鋭利な爪に包まれている。口は牙が所狭しと生え不愉快な音を立て、目は身体中に大小無数に開いてひっきりなしに動いている。

 

翼と言うには折れ曲がりボロ布のように穴が空いたそれをはためかせて獣はジョーカーの前に降り立った。

 

余りにも異形、余りにも冒涜的。

 

そんな獣の手が死に体のジョーカーに何本も絡みつき無理矢理引き起こす。まるで傀儡のようになりながらも立ち上がって戦意を見せつけるジョーカーにヤルダバオトは関心を通り越し本気の憐れみを感じていた。

 

奴にすらそう思われるほど今のジョーカーは憐れで、意地汚く、それでいて滑稽であった。

 

『もうやめよ、これ以上は無意味である』

 

ヤルダバオトが論ずるようにそう告げるがジョーカーには届かない。ただ獣の衝動のままに神を喰らおうと牙を剥く。

 

「『獣の烙印(ロスト・ワン)』」

 

666の口がガバリと開き、そこから大小様々な獣の形をした肉塊が機神に殺到する。さながらパレードのように押し寄せる肉の波に機神は断罪の剣で迎え撃つ。

 

斬れば斬るほど分裂し襲いかかってくる肉塊にヤルダバオトは不快感を覚えたが、ならば一撃で消し去るのみと今度は律法の書で肉塊を攻撃した。

 

『む、これは・・・』

 

しかし、これこそがジョーカーの狙い。律法の書から放たれた光線を肉塊に巣食う無数の獣が口を開き、驚く事に光線を()()()()()()()。まさかの行動に機神も呆気に取られその光景を眺めている。

 

『豸医∴繧肴サ??繧咲ゥ「繧後m縺上◆縺ー繧梧ュサ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ縺医∴縺医∴縺医∴!!!!!!』

 

そして光線のエネルギーを全て喰らうと666は金切り声を上げながら肉塊を食いちぎる。食いちぎられた肉塊は弾け、集まり、凝縮すると小さな赤黒い光の球となった。獣はそれを数十本の腕で掴み取ると腕ごと自分の口の中へ押し込む。

 

喰われた球は内部の魔力と融合し、過剰反応を起こし666の肉体の器にも収まりきらない程に膨張していった。やがてその限界が訪れる時、ジョーカーが静かに獣へと命じた。

 

 

 

「『黙示録(アポカリプス)』」

 

 

 

 

それは正しく破滅であった。

 

 

 

絶叫と共に獣の体が爆散したかと思うと、血のように赤黒い莫大なエネルギーの波が空を多い尽くし機神を包み込むように急激に縮小。

 

完全に逃げ場を失い、抵抗も出来ないように拘束された機神を中心にそのまま空間が消し飛ぶのでは無いかと思う程の爆発を起こした。

 

重低音と熱風が辺りを駆け巡る。

 

ジョーカーも爆風に巻き込まれ2度3度地面を跳ねるが途中で地面にしがみつく事で足場から落ちることは免れた。バサバサと吹き荒れる風に耐えながら機神が居た場所から片時も目を離さないジョーカー。

 

そして熱と風が止むと辺りを包み隠していた煙が晴れていく。ゆっくりと消えていく煙の中から出てきたのは・・・

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()ヤルダバオトの姿であった。

 

 

 

『無意味、だと言っている』

 

 

獣の力を使っても大衆の願いの塊であり今も尚その恩恵を受け続ける機神を倒すことは叶わない。力の代償に人と己を捨てたジョーカーでは真の意味で奴を倒す事など到底無理な話。

 

奇跡を起こせるのは人間だけだ、怪盗団の絆、彼が築き上げた真実の結集。そして大衆の心を動かし願いを変えた結果の勝利だったのだ。ならばたった独りであり続け、人であることを捨てた彼が敗北するのも必然的なものだろう。

 

『諦めろ、小さき者よ。お前はよくやった。その身を獣に汚してまでよくぞ戦った。しかし神である我には勝てない。例えお前自身が獣に堕ち虚無へと転じようとも。』

 

それは紛れもない賞賛。あの機神が、人を見下す傲慢な神が心からジョーカーを褒め称えていた。たった1人、それも誰の力も借りず自分の可能性だけで己に死を予感させた男。

 

正しく偉業であると、どこまでも高慢ちきな機神でもこの男を称えずには居られなかった。

 

ジョーカーはそんな機神の言葉を受けながら尚も無表情を貫く。人形のように冷たい仮面を被りながら、己の力を出し切ったにも関わらずまだ意地汚く立ち上がる気であった。

 

だがその体は既に死に体。立ち上がれるはずも無く無力に地面を這いずるのみ。だが、それがどうしたと言わんばかりにジョーカーは地面に頭を叩きつけてその反動で体を浮かせ無理矢理立ち上がってしまった。

 

顔を隠していた仮面が割れ、彼の素顔が現れる。額から血を流しながらも、瞳に血が入りながらも機神から目を離さぬその狂気に満ちた顔が。

 

『貴殿に敬意を表し、我の放つ最大の力。文字通り神の一撃を持ってあの世へ送ってやろう。』

 

震える手足で立つのもやっとなジョーカーにヤルダバオトは自身の放つ最大最高の一撃を放つ為、4つの武装から魔力を練り始める。それは先の獣の一撃よりも遥かに強力で、次元が違う威力を秘めている事が一目で分かる。

 

ジョーカーは何も言わずにそれを見ている。抵抗はしない、否、出来ない。先程の獣こそがジョーカーの最大の切り札。それが破られた今、神の力とやらに抗う物は何一つ残されていないからだ。

 

「『ア、ルセー・・・ヌ』」

 

残った希望に縋り付くようにかつての半身の名を呼ぶジョーカー。だが、彼は答えない。答える筈もない。それを知っていても尚、最後の最後にそれに縋るしか無かった自分に嫌気が刺した。

 

そして無限とも思えた魔力も獣のせいで底を尽き、心身共に限界を迎えるジョーカー。膝を折って項垂れると苦しげに噎せて吐血する。

 

ぼやける視界を動かしながらこちらを照らす絶望の光を見上げた。それに銃を向けて。

 

『さらばだ、たった一人の反逆者よ。貴殿の名は神である我の中に刻んでおこう。』

 

規格外の威力、正に神の一撃に相応しい終末の光。

 

その名を『統制の光芒』。それがただの1人の人間、ジョーカーに放たれる。

 

当然耐え切れるものではなくジョーカーは極光の奔流に飲み込まれ、塵一つ残さずこの世から文字通り、消滅した。それでもなお抵抗しようと突き出した銃と共に。

 

その時彼の耳にはブツリ、とテレビの電源が切れるような音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い長い微睡みの中、その意識は浮上する。消えた筈の肉体は戻り、召された筈の魂は輪廻に還ることは無い。

 

 

二度と覚めない悪夢を見ている。

 

 

来るべき明日が無くなり、ただ永遠に時の中に縛られる。

 

 

先にも後にも進めず、ただ立ち止まるしかない日々があるとしたら。

 

 

それはきっと、正しく()()だろう。

 

 

 

ああ、また重い瞼が開いてしまう。目覚めたくも無いのに、今がまたやって来てしまう。

 

 

もう沢山だ、もう止めてくれ。そう悲願しても終わることなど無い。この物語に終点は無いと。

 

 

無情にも意識は覚醒する。

 

 

 

そして再び繰り返す(Re:START)

 

 

 

 

あの日、虚ろな夢から覚めた時に。

 

 

全てが始まる、あの始まりの瞬間に。

 

 

果て無き運命に惑わされる揺籃、電車の中で目を覚ます。

 

 

 

 

「ハハ・・・ハハ、アハハハ!アッハッハッハッハッ!!!!」

 

 

 

 

気の狂った笑いが響き渡る

 

 

 

彼は戻ってきた、絶望と混沌の劇場へ。

 

 

 

この繰り返しの中で

 

 

 

雨宮蓮(役者)は今日も演じ続ける

 

 

 

 

ジョーカー(道化)は今日も舞台で踊る

 

 

 

 

いつか来る終わりを夢見て

 

 

 

 

 

悪夢はまだ、終わらない




雨宮 蓮:主人公。アルカナ『愚者』を宿すごく普通の少年。この話は周回という名の無限ループの中であったかもしれない一幕。悪を討つために悪に身を染めてしまった孤独な旅人。髪はさらにボサつき目が死んでいる。人を殺す事に一切の抵抗を感じていない。

既にコープが錆付き、効力を発揮しないばかりかそれが反転。『逆位置』のペルソナを生み出してしまった。強力な『個』としての力を持つがそれが彼の限界であり、この彼が目的を果たす事は決して無い。

怪盗スーツが華やかさが消え、怪物のような畏怖を感じる物に変貌してる。その姿は死神と称される程。真っ黒なスカルマンの姿を想像して貰えると分かりやすい。


・オリジナルペルソナ

牛頭
『皇帝』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。スサノオノミコトの同体と言われる牛頭天王から。その名の通り人の体に牛の頭が付いた姿をしており、身の丈以上の戦斧を持っている。見た目が似ているアステリオスよりもサイズは小さいが同等のパワーを持った物理特化型のペルソナ。

専用技『断罪』

ミカエラ
『恋愛』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。歌劇『カルメン』に登場するホセと呼ばれる男の許嫁。悲壮な愛の末路を受けた者、その負の面が強く出たペルソナ。嫉妬の緑と憎悪の黒、双色の炎をその身に纏う。涙の代わりに眼窩から炎が流れ落ちている。

龍のような頭蓋骨をした骸骨が汚れたウエディングドレスを着ているという奇抜なペルソナだがその見た目とは裏腹に凄まじい力を秘めている。龍の頭骨を持つのはタツノオトシゴがモチーフに入っている為。一生を添い遂げるタツノオトシゴ、その花嫁が愛を憎むという皮肉が籠っている。

専用技『嫉亡幽戯(しぼうゆうぎ)

アルハザード
『隠者』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。腸のような触手が円盤型に渦巻いているような見た目をしたグロテスクなペルソナ。『アル・アジフ』の執筆者『アブドゥル・アルハザード』から。

メメントス全体の解析という離れ業をやってのけており、更には自由に空間を移動出来るという探知タイプに置いては一線を画す性能を誇る。また戦闘力にも優れており魔法は強烈な万能属性の『メギドラ』、物理面では触手による拘束、遠距離攻撃などによって有利に立ち回れる。だが探知タイプ故にパワーは弱いので注意は必要。

ジョリーロジャー
『戦車』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。海賊の意匠がある巨大な骸骨。餓者髑髏と言えば分かりやすいだろう。海賊旗を指す言葉『ジョリー・ロジャー』から。本編では獅堂を拘束する腕のみ登場。本来なら腰から下が無い状態で海賊の格好をして片手にカトラスを持っている。生者の魂を好む。

ヴリトラ
『法王』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。闇を飲み込むほどの漆黒に身を包んだ邪龍。見た目は黒いマガオロチに近い。かつては強固だった法王のアルカナであるにも関わらず、ヤルダバオトによってあっさりと消滅させられた。

専用技『天地挽歌(アスラシュレーシュタ)

ヨトゥン
『愚者』のアルカナの逆位置を司る。絆では無く力を求めた故に生まれた最上位ペルソナ。見た目は全身を真紅に染め、角の生えた巨大なゴーレム。パズドラのグランディスに角が生えたものを想像してくれると分かりやすい。

その強さは計り知れず会心の一撃『カラミティ・タイタン』は民衆の願いによって強化復活をする前の機神さえ一発で沈めてしまう程。恐らくカラミティ・タイタンを使って消滅していなければまだ勝負は長引いていただろう。

666(マスターテリオン)
狂気を喰らう怪物、終末の獣。ペルソナという枠に収められず、桁違いのパワーを持つ異質極まるナニカ。

人を止めて外道に堕ちた蓮が手にした禁忌であり、既存のペルソナを全て凌駕するほどの戦闘力を誇る。獣の数字、そして虚無を司り、その見た目はおぞましく正に怪物と呼ぶに相応しい。代償として蓮は人を捨てなければならない。

大抵の敵は蹂躙出来るほど強い。最強格の力を持つがヤルダバオトとは致命的に相性が悪く、例え逆立ちしても絶対に勝てない。いや、正しくは()()()()。それは本編でもあるようにこの獣はジョーカーという個人の執念が形になったものであり、彼以外全ての人の願いの塊であるヤルダバオトには届かず決して倒しきることは出来ない為。




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幽霊とジョーカー君

息抜き小話です

本編とは関係無い話なのでアンソロジー的なもんだと思って下さい。これからもちょくちょく出していきます。


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吾輩は猫である、名前はもうある。モルガナという高貴でエレガントな名前が。

 

 

 

吾輩は居候である、現実世界では猫になってしまう厄介な性質を抱えた吾輩は仲間であり取引相手である男『雨宮蓮』が居候しているルブランという静かな小さい喫茶店に居着いている。居候の居候というのも何ともややこしいが姿を隠すにはうってつけな場所と言っておこう。

 

さて、そんな吾輩だがここ最近面白い事があったのだ。

 

実はついこの間からルブランには幽霊ってやつが住み着いちまってたらしくて霊障、所謂『ポルターガイスト』ってのが度々起こってたんだ。そのポルターガイストを起こしてる霊は律儀なのかどうなのか知らんけど何故か営業時間にはその現象を起こすことは少なく、営業時間前や閉店後に活発化するという奇妙なものだった。

 

営業時間前のも可愛いもんだ。ものが勝手にズレ落ちたり、スプーンや蓋などが落ちたり、テレビの写りが悪くなったり、軽い笑い声がしたりと実害はあるが大したことは無い感じのものばかり。

 

本番は閉店後だ。

 

つまりは夜。幽霊のホームグラウンド。そりゃはしゃぎ回ると言うもの。激しく階段を昇り降りしたり、夜中にいきなり電気が消えたり、ロッカーから掃除道具が飛び出したり、皿がズレ落ちたりなど・・・昼の大人しさはどこに置いてきたのかと思うほどはっちゃけるのだ。

 

吾輩も一時期まいってたが、蓮は違った。

 

階段から音がすれば追いかけるように階段に向かってシャドーボクシングを始めたり、ワイヤートラップを貼ったり、電気が消えても毛ほども気にしなかったり、掃除道具も淡々と片付けて鍵をつけたり、皿は落ちる前に華麗にキャッチしたりと、とにかく幽霊に対して攻撃的かつ的確な処置を行っていた。

 

 

吾輩は引いた。

 

 

しかしある日、心臓に剛毛でも生えてんじゃないかってくらい図太い精神をしている蓮には幽霊も流石に勝てないと悟ったのか、陰険な手法に切り替えてきた。

 

それはいつも通り夜中に起こった。慣れてきた吾輩が耳を塞ぐほどバチバチとラップ音が鳴り響く中、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながら『飴と鞭と大五郎』という意味不明な本を読んでいた蓮。ふと、トイレに行こうと席を立ち扉の前に立つが違和感に気づく。

 

 

鍵が閉まっている。

 

 

蓮はそう言うとドアノブを何度も捻るが一向に開く気配は無い。しかも中で煽るように物音がたっている。何ともいやらしいやり方に流石の蓮もどうしたものかとちょっと困っていた。

 

ここまでは良かった。

 

幽霊のやつはここで満足して手を引くべきだった。深追いなんてするべきじゃなかったんだ。

 

結果的に幽霊は虎の尾を踏むような行動に出てしまった。

 

 

何をやらかしたと思う?

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

ジャ〜〜ってな。もうその瞬間、思わず吾輩は終わったと口に出しちまったもんさ。

 

 

 

なぜなら、吾輩の視線の先にはブチ切れた蓮が写っていたから。

 

 

蓮はドタドタと騒がしく2階に上がったかと思うと直ぐに降りてきて、ドンドンと扉が壊れるんじゃないかと思うくらい喧しく叩き、いや正確には殴り始めた。

 

その右手に持てるだけのナイフと左手にゴツいダブルバレルショットガンを持ちながら。しかも口には何時ぞやに時価ネットたなかで買ったお祓いグッズの棒を加えている。目は血走り殺意MAXハザードと言った感じであった。

 

 

「おい、いんだろ?いんだろそこになぁ。開けろやコラ、開けろ。なぁ、今まで黙って見過ごしてやりゃあ調子付きやがって、あぁ?てめぇが無意味に流した水はよォ、総治郎が水道代として払うんだぞ?てめぇが使ってもねぇ水でだ。どういう意味か分かるよな?お前は超えちゃいけないラインを超えたんだよ。分かったならさっさと開けろ、もう一度殺してやる。逝けねぇってんなら俺が送ってやるよ、地獄の底の底まで。だからさっさと開けろ、開けろっつってんだろうがクソ霊が!!」

 

 

鬼気迫るってああいう事を言うんだなって、吾輩逆に冷静に思っちゃったもんな。しかも怒る論点そこ?っていう感じ。いやまぁ確かにそうだけども。蓮はご主人の事を偉く慕っているからな、そこが地雷だったんだろう。

 

その後も罵詈雑言飛ばしながらドアを叩いていた蓮と必死にドアを死守する幽霊の攻防は続き、蓮がやっと開いたドアを思い切り開きまるで見えてるかのように何かを追いかけ回した。

 

ブンブンとナイフとお祓い棒を振り、2階に行くとショットガンをぶっぱなすバーサーカーっぷりに吾輩はただ傍観することしか出来なかった。怖いもん。

 

そんなことが起こってからというもの、ポルターガイストはピタリとなりを潜めた。目に映らない幽霊もブチ切れた人間には勝てないと言うことが吾輩には良くわかった。というかあれは幽霊じゃなくても勝てない、誰だって逃げ出す。近くで見てた吾輩なら分かる。

 

だって幽霊が「すみませんでした」って書き置き残すレベルだからな。しかも誠意を込めた達筆で。

 

けどまだいるっちゃいるらしく、蓮がたまに目で追っていたりする。吾輩もたまに気配を感じるがあれはもう悪さをすることは無いだろう。なんなら家事を手伝い始めているのだからあのことが余程トラウマになってるのだろう。幽霊なのに。

 

吾輩は誓った、蓮だけは絶対に怒らせないようにしようと。

 

 

 

ガチャーーンッ!

 

 

 

あ。

 

 

 

 

「エェエェエエェェイメェエェェェンッッッ!!!」

 

 

 

その後、鬼を背負った蓮を前に見えないはずの霊が綺麗な土下座をしているのが吾輩には見えた。

 

 

それにしても聖職儀礼済みの銃剣(バヨネッタ)なんて何処で手に入れたのだろうか。

 

 

 

ともかく、吾輩は決して龍の逆鱗には触れないようにしようと固く決意したのだった。

 

 

 

ガチャーーンッ!

 

 

 

あ。

 

 

 

 

「モルガナ・・・・・・?」

 

 

 

 

Amen(白目)

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━




ジョーカー君:メンタルが強過ぎてビビらない。基本的に温厚だが金が絡むとガチギレする(総治郎に迷惑がかかる場合)

モルガナ:語り手。幽霊を慰めるという貴重な経験をした。

幽霊:加害者兼被害者。何としてもビビらせたいが為に変な方向に進んだ結果、修羅に出会った。物理無効な筈なのにジョーカーの攻撃に当たり判定があったのでボコボコにされた。その後はトラウマを抱えて一切イタズラをせず逆にお手伝いをする事がある。なんだかんだ居着いている。


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五等分の怪盗

こっちが先に出来たので出していきます。本編も近いうちに更新するのでお待ちください。

例の如く本編とは関係ない話なので気楽にお楽しみくだちぃ。地の文も少ないよ!

ウマ娘のガチャは闇深いのでみんな気をつけよう()


これは、とある日のお話。

 

 

 

蓮がいつもの治験で武見のもとへ訪れた際、ある謎のお薬を貰った。何やら試験段階の薬らしくどういう効果が現れるか分からないのだそう。普通ならそんなもん渡すなと言うところだがこの男は頭のネジか5本くらいぶっ飛んでるイカレポンチなのでそれを了承。帰宅すると直ぐに薬飲んでいた。

 

しかしいつもなら飲んで数分すると何かしら起こるのだが今回はこれと言った効果は現れず蓮は不思議そうにしながらもそのまま眠りについた。

 

 

そして翌朝・・・

 

 

「おはよう、モルガナ」

 

「ふにゃぁ〜・・・おう、おはよ・・・う・・・」

 

蓮が挨拶すると眠い目をこすりながら返事をするモルガナ。だが最後の方に行くにつれ段々と途切れていき最終的に蓮を見て固まってしまった。

 

どうしたんだろうと思いながら下に降りて朝食を食べていると総治郎がやってきた。

 

「おはようございます」

 

「おう、おはようさ・・・ん・・・」

 

しかしどういう訳か総治郎も挨拶をした途端急に動かなくなってしまった。指を指してカタカタと震わせてはいるが口をあんぐりと開けフリーズしてしまい蓮が目の前で手を振ってもまるで反応が無い。

 

どうしたものかと考えているうちに登校時間となってしまい朝コーヒーを飲めなかった事に多少の不満を持ちながらもフリーズした総治郎をカウンターに置いてモルガナをカバンに突っ込んで店を出た。

 

「?」

 

それにしても今朝はよく視線がこちらに集まる。何故か分からないが道行く人々が有り得ないものを見る目でジッと凝視してくるのだ。まぁ別に構わないのだがこうも視線が集中すると少しむず痒い。それに何だか強い違和感を覚える。何なんだこの感じは。

 

ササッと移動して電車に乗り込むと本を読んで視線を遮り自分の世界に集中した。それでもそれ越しに感じる視線は強くなるばかりで、しかしその原因がわからずただただ困惑しながら電車に揺られる事となった。

 

気疲れしながらも何とか蒼山一丁目に着いた蓮はそこで杏と竜司と会った。見つけた瞬間に疲れが消えパッと明るくなった蓮は2人に近づきいつも通り挨拶をした。

 

「2人共、おはよう」

 

「あ!蓮!おは・・・よ・・・う・・・」

 

「おう、お・・・は・・・よう」

 

「?どうした2人共?」

 

だがやはり、今朝のモルガナや総治郎と同じように固まってしまう2人。やはりか、と思いながら自分の格好を確認する。制服は汚れ一つないし髪もセットしてある。だのに何故こんなにも奇っ怪な目を向けられるんだ?と首を傾げる。

 

すると一足先に再起動した竜司が指した指を震わしながら蓮に質問をした。

 

「・・・・・・なぁ、聞いてもいいか?」

 

「?なんだ?」

 

「いやなんだじゃねぇだろ、なんで・・・なんで・・・!!

 

 

 

 

なんで蓮が5人もいるんだよぉぉぉぉッッッ!?!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

短編:五等分の怪盗

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「え?あ、ホントだ」」」」」

 

「遅っ!?気づくの遅っ!?そしてリアクション軽っ!?」

 

竜司の絶叫でようやく蓮は違和感の正体に気がついた。何と驚くことに自分が5人いるのだ。何故か分からないが全然気が付かなかった。どうりで歯を洗う時もトイレに行く時も順番待ちして、朝洗う食器も数が多いと思った。

 

「なるほど」

 

「だから」

 

「朝から」

 

「視線が」

 

「集まってたのか」

 

「ちょちょちょ、バラバラに喋らないで意味わかんなくなるから」

 

「脳がバグるぜこれ・・・おいモルガナ!どうなってんだよこれ!?」

 

そう言って竜司が蓮のカバンからモルガナを引っ張り出すが当の本人は未だフリーズしたままでありマナーモードのように静まっている。どうやら朝のキャパオーバーがまだ残っているらしい。

 

「クソ、モルガナはダメか!」

 

「朝からこんな調子なんだ」

 

「だろうな!分かるよ流石に!」

 

「5人で同じ動きするのやめて気持ち悪くなる・・・」

 

先程から全く同時に動く蓮’sを見て軽く吐き気がしてきた杏。無理もない、朝から意味不明な物を見せつけられ寸分の狂いもなく揃って動く同一人物を見続けるとかそら吐きたくもなる。

 

「なぜ増えたんだろう」

 

「いやもう増えたって単語がおかしいけど・・・なんか心当たりねぇのかよ」

 

流石怪盗団の中で抜群の対応力のある男、早くも順応して来た竜司が蓮にそう聞いた。

 

「ふむ、心当たりといえば昨日武見さんの薬を飲んだ事くらいかな」

 

「いやどう考えても原因それだろ」

 

「あとは薬飲んだ後に勉強して筋トレして読書して観葉植物に栄養剤あげてコーヒー作って全員分の潜入道具作って風呂に入っただけだぞ?」

 

「細けーな!てか割とハードだなお前!」

 

「「「「「リーダーなので」」」」」

 

「だから揃えんのやめて!」

 

 

\キーンコーンカーンコーン/

 

 

 

蓮達の耳に入ってくる鐘の音。どうやら時間を使いすぎたらしい。周りを見ると他の生徒の姿は無い。まずい、このままでは遅刻してしまう。そう考えた蓮(×5)は学校へ向き直って校門を通ろうとした。

 

 

「おっとまずい、予鈴が鳴っている。2人共!急ごう!」

 

「え!?は!?行くの!?これで!?」

 

「やめろやめろやめろ!やべぇってこれは!阿鼻叫喚祭りだって!」

 

「考え直して蓮!」

 

学校に入ろうとする蓮×5を必死に止める2人。

 

「こんなところで皆勤賞を逃す訳にはいかない!」

 

「それより重大な事が現在進行形で起こってんだろ!?」

 

「そうだよ!ここは一旦帰って・・・ってなんで脱いでんのぉぉ!?」

 

蓮ズの制服を引っ張っていた杏が説得しながら顔を上げると何故か1人だけ上の制服を脱いで上裸になっていた。

 

「すまない、俺の内なる魔性が疼いてしまった」

 

「やかましいわ!いいから着て!早く!」

 

「友が俺を呼んでいる!」

 

「ヤ、ヤメロォォォッーー!」

 

 

行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで教室。自分の席に座る蓮、その右隣に立つ蓮、その左隣に立つ蓮、何故か黒板近くに立っている蓮、窓を開けて胸元のボタンを外し始める魔性の蓮。控えめに言ってカオスだった。

 

とても正気ではない光景に皆現実逃避を始め、中には遺書を書き始める者もいた。

 

 

「ええと・・・とりあえず私の目の前に悪夢としか考えられない光景が広がっているんだけど・・・夢?夢よね?夢に決まってるわ。疲れてるのよ私」

 

「夢ならば」

 

「どれほど」

 

「良かった」

 

「でしょう」

 

「ウェッ」

 

 

「ヒユッ」

 

 

わざわざ5人に分けて歌った蓮'sにストレスが限界突破グレンラガンした川上は白目を向いて倒れた。

 

「あぁ!川上先生が気絶した!?」

 

「衛生兵!衛生兵ーッ!!」

 

「川上先生!生きるのを諦めないで!」

 

「もうダメだ・・・お終いだァ・・・勝てるわけが無いよ☆」

 

「ハルトォォォォォォォ!!!!」

 

「イケメンが増えるのならば私は一向に構わんッッ!!」

 

「オイオイオイ、やるわアイツ」

 

「けどよぉ、相手は雨宮だぜ?」

 

「問題ないッッ!!15mまでなら!!(意味不明)」

 

「ふーん、エッチじゃん(精神崩壊)」

 

「地獄かな?」

 

 

「はっ!待て!加藤の奴は・・・!?」

 

クラスの誰かがそう言って蓮'sの後ろの席にいるこの事件において恐らくは最もダメージが大きい男子生徒、加藤(仮称)の方に向くと・・・・・・

 

 

何故かサンドバッグに詰められ死んだ目をした見るも無惨な加藤(仮称)の姿があった・・・!!

 

 

「か、加藤ォォォオオォオォォッッ!!」

 

「サンドバックどっから持ってきたんだよ」

 

「生えてたんでしょ(適当)」

 

 

杏達が思っていた通り阿鼻叫喚に包まれる教室内。ひたすらにカオスな空間が広がっていた。

 

「みんな元気だなぁ」

 

そんな光景を見て呑気にそう口にする蓮を後ろに杏は白目を向いて自分の世界へと飛び立っていた。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

キング・クリムゾンッッ!!

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「はぁ・・・それで、武見先生の薬を飲んだら何故か分裂して挙句の果てにそのまま登校して来たと・・・」

 

真が頭に手をやりながら後ろを向くと部屋の中でそれぞれ別の筋トレに励む蓮達の姿が。あまりにもあんまりな光景に真はそっと目を逸らした。

 

「だから杏が燃え尽きてるのか」

 

「モナもフリーズしてるぞー、面白いな」

 

「大丈夫?杏ちゃん、飲み物持ってこようか?」

 

ぐったりとしている杏を観察している変態とまだフリーズしているモナをつつく双葉、そして杏の前であせあせとしている春。いつもより少し騒がしい怪盗団メンバーを見ながら竜司は大きくため息を吐いた。

 

「センセーによると副作用は2日も経てば治まるらしいけど・・・問題はそこじゃねぇんだよなぁ」

 

視線の先でお互いの筋肉を確認し合っている同一人物どもを見てそう呟く。

 

「私、明日もあの状況とか嫌・・・」

 

「心底同情するぜ・・・」

 

「ウケる」

 

「ウケねぇよ!!」

 

心底辟易している2人に余計な事を口走る蓮。投げられたモンタを蓮が蓮でガードして蓮同士の喧嘩が始まった。将棋で。

 

突っ込むのも馬鹿らしくなったメンバー達は「地獄の業火!ヘルファイアと金!」や「集いし願いが新たに輝く星となる、光さす道となれ!スターダスト・香車!」などと喧しく変な単語を叫びながら将棋をする蓮達を無視して各々自由な時間を過ごしていたがふと一人の蓮が重要なことを言い出した。

 

「実はあることに気がついたんだが、どうやら今の俺は人間パラメータごとに分かれている様なんだ。」

 

「なんて?」

 

困惑する竜司を無視して説明を続ける蓮。

 

「知識の俺」(メガネスチャッ)

 

「度胸の俺」(キンニクムキッ)

 

「優しさの俺」(ジアイノヒトミ)

 

「器用さの俺」(キーピッククルー)

 

「そして、魅力の俺に分かれているということだ・・・あぁ・・・」(ヌギッ)

 

「なるほどね・・・(思考放棄)それはそれとして今すぐ服を着なさい」

 

一人一人謎のポージングをしながら名乗り、最後の蓮が半裸になりながら名乗ったところで真に服を叩きつけられた。

 

「いや待て、スケッチしておきたい。ポージングを頼む。」

 

服がかかっていい感じに絵画っぽい格好になった魅力の蓮をスケッチし始める祐介。変態と変態が出会ってしまった。

 

まぁそれはさておき、5人の蓮を見て双葉があることを思い付いた。

 

「変態は変態と組ましておいてだ。ホントに面白い事に巻き込まれるなー蓮は。1人で戦隊出来るじゃんか、ちょっとフェザーマンの名乗りやってみてくれ。」

 

「いいぞ、ちょっと待ってくれ」

 

双葉の無茶ぶりあっさりと応えた蓮は荷物の詰まったダンボールから確実に物理法則を無視して5人分のスーツを引っ張り出してきた。

 

「いや待てなんでスーツ持ってんだよ!」

 

「おぉーすげぇ!本格的な衣装だな!クオリティバカ高ぇ!」

 

「DLCで買った」

 

「DL、な、何?」

 

またもや困惑する竜司と最早意識を手放した杏を無視してスーツを着た蓮4人(1人はモデルのため声だけ参戦)はキレッキレのポージングを取りながら戦隊特有の名乗りを上げた。

 

「空に輝く熱き翼!フェザーレッド!」

 

「空に煌めく清らかなる翼!フェザーブルー!」

 

「空に轟く眩き翼!フェザーイエロー!」

 

「空に開く漆黒の翼!フェザーブラック!」

 

「空に華めく美しき翼!フェザーピンク!」

 

「「「「「不死鳥戦隊!フェザーマン!!」」」」」(スマホから爆発のSE)

 

 

 

 

「うっひょぉぉぉ!!いいぞー!蓮!!最高だー!」

 

 

「もう好きにしてくれ・・・」

 

めちゃくちゃ盛り上がってる双葉と全てを諦めた顔になる竜司。哀れ。

 

「なんて事だ!俺の魅力が溢れて止まらない!」

 

「いいぞ蓮!もっとリビドーを曝け出すんだ!」

 

「あっちはあっちで何か盛り上がってるぞ」

 

「とりあえずヒランヤでもぶち込んどくか」

 

変態共にヒランヤを投げつけると多少は落ち着いたのか祐介は1度鉛筆を置いて一息ついた。そして、彼の目にとある飲料が目に付く。

 

「ふむ、それにしても喉が渇いたな。すまない蓮、これを1口貰うぞ。」

 

返事を聞くことも無くそれをグイッと飲む祐介。遠慮って言葉知ってる?

 

だがここで祐介に衝撃が走る。別に飲み物が不味かった訳では無い、不味くても大抵の飲み物は飲めるしなんなら泥水ですら啜りかねない彼にとって問題は味ではなく、飲んだ途端に凄まじい熱が身体を包み込んだのだ。

 

「ヌゥッッッ!!!」

 

「どうした祐介!?」

 

「あ、それ先生の新薬」

 

「おぉおおぉい!!なんでそんな危ねぇもんそこら辺に置いてんだァァァッ!!祐介も見た目でちょっとは怪しめ!!」

 

 

竜司のツッコミを他所に苦しそうに息を荒らげる祐介。

 

 

「か、体熱い!!ぐ・・・うおおおぉぉおぉぉ!!??」

 

「まずいぞ!祐介まで分身しちまう!」

 

「これ以上変態が増えるのは勘弁して!!」

 

「真、サラッと俺の事disった?」

 

 

そうこうしてるうちに祐介の熱は限界を迎え、何故か出てきた煙が辺りを包み隠す。

 

 

そしてそれが晴れた時、そこにいたのは──────

 

 

 

 

 

「どうも、緋村剣心です」

 

「wawawa忘れ物〜」

 

「ハッピーうれピーよろぴくねー!」

 

「可哀想に・・・生まれてきたことが可哀想だ・・・」

 

「いいゾ〜コレ」

 

 

煙が晴れた先にいたのは、『坂田〇時』『キ〇ン』『ジョ〇フ・ジョースター』『悲〇嶼行冥』そして『杉田〇智和』であった。

 

 

「いや増えたの中の人(杉田)じゃねぇぇかァァァァァッッッ!!!」

 

 

 

 

その後、ストレスが限界を迎えた真と春の渾身のダブルラリアットによって変態2人は無理矢理1つに纏められ事なきを得たという。

 

 

みんなも五等分の花嫁を読もう!(最後の最後に宣伝)

 

 

 

 




雨宮蓮:主人公。薬で5人に増えた。花嫁ではない。
 
知識の蓮:雑学王
 
度胸の蓮:競馬に万単位で賭ける
 
優しさの蓮:敵は苦しませずに殺す
 
器用さの蓮:針に糸を一発で通せる
 
魅力の蓮:裸族

竜司:ツッコミ役

杏:苦労人

真:世紀末覇者先輩

祐介:変態

双葉:可愛い

春:脳筋系お嬢様

モルガナ:出番薄


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ジョーカーとウマ

うわぁーい!小話の時間よー!

というわけでやりたかったウマ娘クロスオーバーのお話です。細かいことは気にせずに楽しんで頂ければ幸いワイワイです。


俺の名前は雨宮蓮、牢屋(ベルベットルーム)に捕まっちまったぜ。やれやれだぜ。

 

何股したか分からないくらい手を出してたらベルベットルームでギロチンの刑に処される事になっちまったぜ。やれやれだぜ。

 

けど、処される直前に合体事故が起こった結果、俺は世界から弾き出されちまったぜ。やれや(

 

 

そしてやってきたよへいらっしゃい、不思議の国の俺氏。何故か頭の上から耳が生えた少女達が蔓延る別世界に流れ着いていた。アリスなら俺の中で寝てるよ。

 

しかもどうやらこの世界の俺・と同化してしまったようで、この世界についての知識が土石流のように溢れて来る。わぁお、これが知識の泉ってやつですか。ガリレオみたいに知識が頭の中を駆け巡る。実にぃ面白ぃ(福山〇治並感)

 

過去と未来の俺が1つに・・・(?)

 

これがサイクロンジョーカーエクストリーム!!真ん中が黄ばむ!

 

 

そんなこんなでトレーナーとやらになった俺はウマ娘なる不思議生物な彼女達を支える為、トレセン学園で働くことになった。同化したおかげで知識とかもそのままなのでそこら辺は助かった。これで右も左も分からなかったら世界の中心で愛を叫んでいたかもしれない。旧エヴァは愛どころか哀だし、なんなら鬱にもなるぜ。

 

いやそれにしても凄い。何が凄いって、レースの迫力だ。彼女達ウマ娘は見た目は普通の少女なのにウマソウルなる不思議パワーで人間の数倍の身体能力を持つらしい。200kgのベンチプレスとか、バカでかいタイヤ引きずったりとか、時速70kmで走るとか人類の上位種ですか?と思うくらいだ。え?ペルソナ使うお前も大概?またまた(笑)

 

そんな彼女達は元いた世界における競馬のように本能的に走りで競い合うらしい。というかまんま競馬だ。だってレースの名前とかまんまだし。なんなら知ってる名前のウマ娘とか普通にいた。その代わりなのかこの世界には四足歩行の方の『馬』はいない。まぁ当然か。その影響で歴史もかなり変わってて軽くトリップしたが持ち前の現実逃避で事なきを得た*1

 

それにしても走る事に青春を費やす彼女達の姿は美しい。容姿も相まって人気が出るのも頷ける。青春を駆けて時に勝って、時に負けて、喜び笑って、悔やんで泣いて、そんな彼女達に夢を見る人々。

 

何ともドラマティックである。かく言う俺もちょっとレース映像見ただけで軽く虜になりかけていた。競馬の歴史を知ってると尚更来るものがある。ループの中で競馬で荒稼ぎしてた頃を思い出す。いや、思い出さない方がいいなこんな汚い思い出。賭け事、ダメ絶対。おれはしょうきにもどった!

 

さて、それにしてもどうしたものか。自分には担当と呼ばれるウマ娘はおらず、なんならチームも持ってない。完全フリーな状態な訳だ。別にダメな訳では無いが早いとこスカウトしないと理事長に呼び出されて説教されるかもしれない。

 

だがこちとら半分異世界人なのである。半分こ怪人よろしく2人分の人生経験を持つ俺は今正直理解が追いついてないし、いきなりそうしろと言われても気が乗らない。ぶっちゃけめんどい。

 

まぁなるようになるかと適当に仕事を切り上げ、気分転換に外に出る。今日もいい天気☆だし、風も心地いい。適当な坂の上で横になり走り込む少女達を見ると青春だなって感じる(語彙力)

 

なんか変態みたいな言い回しになったな、危うく鴨志田になるとこだった。脛にシダ植物が生えるのは勘弁だ。

 

平日の昼間からゴロゴロ〜ゴロゴロ〜。あーあ、G1バだけの厨パが出来たらなぁ〜。

 

なんて下らないことを考えていると、突然顔に影が差し()()()()()()()()()()()を反射的に避けた。寝っ転がっていた場所でビチビチと跳ねる真鯛。どうやらかなり新鮮なようだ。早いところ締めて上げて欲しいがあの真鯛を持ってきたのは誰だろうか。

 

「お!こんな所にいたのか海老蔵!探したぜまったく!」

 

そう思った瞬間、突然現れた美しい芦毛の少女が真鯛の尾を持ってどうぶつの森のようにポケットにしまうのを目撃した。おい待て、その質量をどうやって詰め込んだ、というか鯛に海老蔵ってどんなセンスしてんだというツッコミを放棄して取り敢えず服に着いた草を取り払って彼女を見てると彼女もこっちに気づいたのかニパッと笑って声をかけてきた。

 

「おう、おめー見ねー顔だな!どこの星からやってきたんだ?」

 

「並行宇宙の太陽系第三番惑星だ、姓は雨宮、名は蓮。そういう君は?」

 

「アタシはゴルゴル星からやってきたゴルシちゃんだぜ!お?トレーナーバッチしてるって事はもしかしなくてもおめートレーナーか?」

 

「いえ、ハイパーエージェントです」

 

「グリリバァ!?」

 

「残念、福○潤だ!!」

 

グリッ○メェェェェン!!!ベイビダンダン

 

お前はウルトラマンだろ!いい加減にしろ!

 

そんなツッコミも置いてけぼりにして会話は続いてゆく。

 

「ちょうど良かったぜ!活きのいいトレーナーを探してたとこなんだ!アタシと共にアマゾン奥地三丁目に住む虹色の秋刀魚を捕獲しに行こうぜ!」

 

「ほぅ、この秋刀魚ソムリエである俺に声をかけるとは。中々いい目をしているな、シルバーバレット。」

 

「へっ、あったりめぇよ。アタシちゃんは100m先の信号を右に曲がって木魚の音を聞き取る事だって出来るんだからな。トマトの薄皮なんてお茶の子さいさいだぜ。」

 

「あらヤダ奥さん、そのトマト、ウニでしてよ」

 

「マジか!道理でチクチクすると思ったぜ!オラァチンゲン菜アタック!」

 

「なんの!将棋バリアー!」

 

 

チェスの盤でガードする蓮。将棋はどこにいった。

 

 

「中々漬け込まれたトレーナーだな!どうだ?ゴルシ様と共に佃煮の道を極めねぇか?」

 

「面白そうだ、乗った。もつ煮込み2級の俺に任せろ。」

 

「うーし!んじゃあ今日からおめーはゴルゴル星特別部隊の一員だな!給料無しの24時間営業だがよろしく頼むぜ!」

 

「ドブラックで草。よろしくゴールデンカムイ。」

 

「おう!トレーナーニシパ!」

 

 

 

そうして始まったゴルシとの日々は正に混沌を極めたと言える*2

 

ある時はどこにあるか分からん餓鬼ヶ原樹海に6本角のカブト虫を取りに、ある時はチベットの奥地にあると言われる伝説のコンビニに、ある時は海へ鯛でエビラを釣りに行ったり。数え切れないほどの奇々怪々な出来事に見舞われながらも楽しく過ごしていた。

 

「ふぅ〜 ⤴︎ ⤴︎見ろよトレーナー!!ゴルシちゃん特製旬の物超ミックスハチミーだぜェ!!綺麗な断層が出来てっだろ!!」

 

「まるで人類の進化の歴史を見ているようだ、俺から教える事はもう何も無いな・・・・・・」

 

「そ、そんな!師匠!うっ!今まで、クソお世話になりましたオラ飲めこらァ!!」

 

「俺のそばに近寄るなァァァァ!!!」

 

練習はたまにしかやらないが、そんな頭おかしい日々を過ごしているからかそれを抜きにしても彼女の肉体は日々鍛えられていた。日常の中にこそ鍛練はあると某映画も言ってたし、そういうことなのだろう。

 

後は彼女が天性の肉体を持ってるのも大きい。恵まれた体格タッパに頑丈な骨身、強靭な筋肉に持久力。何をとっても超一流。鍛えれば鍛えるだけそれらは伸びていく。普段の奇天烈な態度から気付かれにくいが彼女は天に選ばれたと言ってもいいくらい最高の肉体をしているのだ。

 

「なぁトレーナー、知ってっか。人って一生の内、寝てる間に10匹以上は蜘蛛とか虫を食ってるらしいぜ。」

 

「へぇ、でも俺はヴェルタースオリジナル。おじいさんがくれた初めてのキャンディ、今では私がヴェルタースオリジナルブラック。おじいさんは福神漬けになりました。つまり俺は飴のように甘くない男ってことだ。分かったならアンクル付けろオラァ!!」

 

「おっと!その手には乗らねぇぜ!!あばよォとっつぁ〜ん!!」

 

「ゴルシは大変な物を盗んでいきました。マックイーンのおやつです。」

 

「ブチ切れですわ」

 

「テメェ、トレーナーァァァァ!覚えてろォォォ!!」

 

頭だっていい。知識はそこらの教師を軽く凌駕し、知らない事は直ぐに取り込む。特に雑学に関しては知らない事は無いと豪語する程だ。試しに適当な質問を投げつけても適切な答えが返ってくるからマジなのだろう。テストだってやれば満点を取ってくる。やればね。

 

つまり彼女はそのおかしな精神構造から理解されにくいがかなりの高スペックウマ娘なのだ。その精神構造だって根は聡明だからこそ道化を演じてるだけであってマトモな時はマトモだ。それでもイカれる時はあるが。

 

「なぁ、トレーナー。アタシちゃん更に速くなる方法を思いついたぜ。」

 

「その心は?」

 

「螺旋階段、カブト虫、廃墟の町、イチジクのタルト、カブト虫、ドロローサへの道、カブト虫、特異点、ジョット、エンジェル、紫陽花、カブト虫、特異点、秘密の皇帝!」

 

「おめェチートコード使おうとしてんじゃあねぇぞぉぉぉ(GKU並感)!!」

 

「感じたぞ!位置が来る!」

 

「させるかぁあァァッッ!!黄金の回転!スイーツの!熱回転エネルギー!」

 

「やる気アップスイーツだとォォーッ!?メジロが黙ってねぇーぞォー!」

 

「やめろめろめろメジロめろ!」

 

「メジロはアタシのおもちゃのちゃちゃちゃ!」

 

「メジロは天皇賞にて最強!」

 

「メジロマァ・・・(ックイーン)!!(フルフルニイ…!!)」

 

 

「なんなんですのこの人達・・・・・・。」

 

 

こんな感じに*3

 

そんな彼女でも、レースで必ずしも勝てるとは限らない。

 

時として運を求められるそれは例え万全な肉体であっても、残酷な結果をもたらす事もある。ペース配分を間違えたら、バ群に呑まれたら、怪我をしたら。だからこそウマ娘は三女神からの寵愛を祈るのだ。

 

まぁゴルシの場合、そこに気分も乗っかってくるが。アイツ気分が乗らないと平気でサボるからな。ちょっと発破かければ走るけど、あの性質には困ったものだ。

 

大体「オラー!ひよってんじゃねーぞ黄金艦!テメーの脚はお飾りかぁ!?」とか「不沈艦(笑)」とか煽ってやるとキレて殺る気出すので問題ない。その後?ドロップキック(割とマジ蹴り)されます。

 

まぁそんなこんなでデビュー戦は最下位をかまし、なんとか次レースで勝ってホープフルステークスで逆に快勝をしたゴルシはその世代の最高峰達が集まるクラシック三冠の峻険なる道のりを超えて行った。

 

先輩達からの熱い洗礼や激励を受けながらも、飄々と、しかし誠実な所のあるゴルシは全て己の力に変えて走り続けた。

 

そして今、彼女はG1レースの一つ。『宝塚記念』に出場していた。

 

控え室で柔軟運動をし・・・ないで人生ゲームの上でトランプタワーを作っているゴルシ。壁に背を預けながら話しかける。

 

「これに勝てば()()に加えて宝塚二連覇の称号が貰える。黄金が更に輝く訳だ。良かったなゴールデンフリーザに1歩近づいたぞ。」

 

「かぁー!ゴルシちゃん益々煌びやかになっちまうぜ!参ったなこりゃ!!」

 

「そうだな、この際勝負服も金ピカにするか?」

 

「えー、成金みてーでやだな。いや、ゴッドガンダムだと思えばワンチャン・・・?派手で目立つからありだな!つーかよ、勝つ前提で話してっけどいーのか?こういう時は油断すんなーとか、調子付くなーとか言うんじゃねぇの?」

 

トランプタワーを素早く回収し、一瞬で束にしたゴルシがそう言うのでキョトンとした顔をしながら返してやる。

 

「ん?だって勝つだろ?」

 

それを聞いて呆けるように目を丸くしたゴルシはニッと眩しい笑顔で照れ隠しに背を向けた。

 

「・・・・・・へへっ!そーだな!勝つもんな!そりゃそーだ!」

 

「よし、んじゃ行ってこい、ゴルシ」

 

「おう、行ってくるぜトレーナー!」

 

 

威風堂々とサムズアップをしながらパドックへ向かったゴルシ。その後、レースでは文句無しの走りを見せ、見事一位をもぎ取ってみせた。こうして彼女は三冠に加え、宝塚記念二連覇という偉業を成し遂げたのだ。

 

 

現役最強ウマ娘、苦難の波濤を乗り越えて進み続ける者。

 

故に『黄金の不沈艦』の異名を与えられた、そのウマ娘の名は

 

 

『ゴールドシップ』

 

 

数々の強敵を打ち破ってきたその強さは、そしてその奇想天外さからくるエンターテイナー気質は多くのウマ娘と人々を色々な意味で震撼させた。

 

 

 

「見ろよトレーナー!世にも珍しい副会長のにゃんにゃん(猫語実習)写真だぜー!」

 

「そうか、楽しそうで何よりだ。それはそうとこっち来んな!エアグルーヴさぁぁん!!俺は被害者でぇーす!あれ、なんで速度上げんの?おかしない?」

 

「あははは!!ほら逃げないと捕まっちまうぞトレーナー!!」

 

「仕方ない、付き合ってやる。10秒間だけな!(種族差の壁)」

 

 

今日も今日とて、彼女は自分の波で波乱を巻き起こす。それを心地いいと感じるのも、まぁ、悪くは無いなと思う蓮君なのであった。

 

ちなみにこの後きっちり10秒で捕まってこってりと絞られた。びえん。

 

 

続く?

*1
得てない

*2
既に極めている

*3
ブーメラン




このジョーカーと1番相性がいいのはゴルシじゃないかなと思います。多分、大体のウマ娘と相性がいいけど沖野さんに近い扱いになると思う。

ちなみに私の最推しはゴルシとライアン、推しはウマ娘全員です。タイトルホルダーウマ娘化お待ちしております。


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クッッソ雑に進むジョーカー君のグランドなオーダーの旅

久々、小話だぜぇぇ!!細かいことは気にせず頭空っぽにして見てくれよな!


時は2015年、運命の年。

 

 

「俺の名前は雨宮蓮、牢屋に捕まっちまったぜ。やれやれだぜ。」

 

この巫山戯たとこを抜かす男は雨宮蓮。この頃流行りの怪盗団として大活躍してたりしてなかったり時系列があやふやなせいでよく分からないおしりの小さな男の子である。

 

そんな彼は今、現在進行形で拉致されていた。

 

 

拉致されていた(重要)

 

 

何があったかめっちゃ省略して説明すると、釣り堀で釣った新鮮な魚を明智のカバンの中におすそ分けしたりメイドカフェにてメイド側として働いたり時価ネットたなかの商品を明智宛に送り付けたりして遊んでいたある時、渋谷に献血の車が来ていたので何となくふらっと立ち寄り血を提供した所謎の研究員っぽい人達になんの理由も明かされず連行されたのである。

 

その時の気分はさながらグレイになった気分だった。

 

そんでもってやってきました地球のどこか。外を見るとめっちゃ吹雪。これが所謂銀世界かと黄昏ていたのも、はや2週間前。ここが何をするとこなのか説明を聞いてもイマイチよく分かんなかったし覚える気もなかったので適当に過ごしている。今ではすっかり馴染んで(いると勝手に思ってる)ここの職員とも仲良くなった(と勝手に思っている)。

 

今は食堂にて目の前の友人第1号に得意の珈琲を振舞っている真っ最中。ここは道具も豆も最高級のものが揃っていて非常に素晴らしい。

 

「うん、やはりレンの淹れる珈琲は素晴らしいね。これはパナマ・ゲイシャかな?」

 

「正解だ、キリやんは違いがよくわかるな」

 

「君が豆の良さを最大限引き出してるのさ」

 

「む、これはレンポイント10加算だ。パンパカパーン!アップルパイをあげよう。」

 

「わーい」

 

目の前でレンの珈琲を楽しむキリやんと呼ばれた彼は出されたアップルパイに嬉しそうに両手を上げた。彼と出会ったのは初めてここに来て感動の余りこれはもう淹れなければ逆に失礼だろうと準備をしていた時だ。匂いにつられてやってきた彼に丁度出来た珈琲とお菓子を提供した所たいそう喜ばれ、友人となり時折こうして珈琲を振舞っているのだ。

 

また珈琲だけでなく紅茶など一通り淹れられるので彼には色んな飲み物を提供している。何回か遭遇してる彼のお付き人っぽい眼帯付けた女の子によると凄く凄い人らしいが優雅だが気が抜けてるのかどこか子供っぽくアップルパイを頬張る彼を見てるととてもそうは思えなかった。

 

「レンの焼くパイは美味しいなぁ」

 

「キリやんのケーキには負けるさ」

 

「「あはははは!!」」

 

まぁ偉かろうがなんだろうが知ったことでは無いが。蓮のお茶会の前には全てが平等である。そこに格差はない。つーわけで今日も雑談を交わしながら一緒にコーヒータイムと洒落込むのであった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

そんなこんなで謎の施設で割と楽しくやっていた蓮であったが、ある日衝撃的な出会いを果たす。

 

「もすかうもすかう♪夢見るアンディさん♪オッサンですかシャアですか♪おっほっほっほっほっHey!」

 

それは懐かし過ぎて「うわ〜・・・!」というため息じみた声すらでる空耳を歌ってご機嫌に廊下を歩いていた時である。

 

「ん?」

 

急にピタリと止まって廊下の先を見る蓮の視線を辿るとそこには・・・・・・。

 

 

「な、なんじゃこりやぁ〜・・・!?」

 

 

黒い髪の少年が廊下のど真ん中でぶっ倒れていた。そしてそれはお前のセリフじゃない。とりあえず近づいて脈を図る蓮。

 

「し、死んでる・・・!?」

 

 

いや、バチバチ生きてる。

 

なぜだか知らんが気絶してぶっ倒れているらしい。ふむどうしよう、このまま放っておく訳にもいかないし無理矢理起こすか?と考えていると後ろから気配が!

 

「何やつ!」

 

「え!?わ、私ですレンさん。」

 

「なんだマッシュか」

 

「芋ではありません」

 

そこには幸薄そうな可憐な女の子、『マシュ・キリエライト』が立っていた。ちょうど良かったので彼を運ぶのを手伝って貰おうとしたら顔面に白い何かが突っ込んで来た。それはまさに白い弾ガァァァンッッ!!(ßź)

 

「ふぉーう!」

 

「むお!?このもふもふは『フォウくん』だな!」

 

「ふぉふぉーう!」

 

蓮の顔面に張り付きべしべしと頭を前足で連打するこの狐だか猫だかよく分からん白い獣はフォウくんと呼ばれるここのマスコット的存在である。マシュ以外に懐いてる所は見たことがないほど気難しく、蓮にはやたら攻撃的なコミュニケーションをとってくる小さき生き物である。

 

「ははは、コラコラ。俺はサンドバックじゃないぞ?イデデデデ」

 

「なんかにてるふぉう!」

 

「キェェェシャベッタァァァァ!!!」

 

「いえ、たまたまそう聞こえただけかと」

 

そんなやり取りをしていると意識が戻ったのかムクリと起き上がる少年。いきなり目の前でコントを繰り広げている3人を見て目をぱちくりとさせて混乱している様子。

 

「ん、起きたか。おはよう少年、いい夢見れたかい?」

 

「えっと・・・あなた達は」

 

そんな彼に蓮は手を差し出しながら自己紹介をする。

 

「俺かい?俺はディオ・・・いや雨宮蓮、君は?」

 

 

 

「俺は立香、『藤丸立香』」

 

 

 

 

 

その時、知らずのうちに運命の歯車は狂ったまま回り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

あの出会いから約一時間後。

 

 

 

「ここは誰?私はどこ?」

 

 

巫山戯ながらキョロキョロと周りを見渡す蓮。そこは燃え盛る炎に包まれた無惨な街であった。

 

ウケる(絶体絶命)

 

何故いきなりこんな地獄のような場所に飛ばされたのか、それは時を少し遡る。

 

あの立香という少年と出会い、マシュとの自己紹介が済んだ後、なんかマスターが揃っただかなんだかで説明会が開かれたんだけど立香が疲労で寝てしまったのを所長(だと思う)に見つかって見事なビンタ、自室に戻るように怒鳴られてしまっていた。その時、指定された席ではなくキリやんの隣でトランプタワーを作っていた蓮も当然飛び火をくらい、立香と一緒に退場をくらった。

 

なんやかんやで仲良くなった2人は自室で会ったDr.マロン(※ロマンです)とお茶会をしてたら突如どこかで爆発が。慌てて皆が集まってたとこに行くとそこには地獄絵図が。立香はマシュの下へ、蓮はキリやんを探したがその途中で変な光に包まれ、気がついたらこの赤い町にいたのである。

 

「なんか変な奴も襲ってくるし、なんなんだろうここは。サバンナか?」

 

変なやつと言うのは全身を黒い影のような瘴気に包まれた傀儡『シャドウサーヴァント』なのだが、彼は普通に応戦して勝ってた。相手がアサシンのアの字もないシャドウアサシンだったのも運が良かった。奇声を上げながら振りかぶってきた小刀を奪って逆に心臓にぶち込んで淡々と倒していた。暗殺のできないアサシンがサバンナで生き残れると思うなよ。

 

これがランサーやライダーだったら危うかっただろうということは今の彼には知る由もない。とにかく今は恐らく一緒に来てるだろう立香達を探すことを優先した。

 

テコテコと歩いてると骸骨が襲ってきたのでぶっ倒して槍を奪い取り、他の骸骨をポンックラッシュクラッシュ!しながら歩いていると何か変な色をした石を見つけた。物珍しさに眼を惹かれ拾ってみると道中で合わせて3つも見つけた。

 

「綺麗だな、どうやったらこんな色になるんだ?硝子ではなさそうだけど・・・。」

 

なんて呑気にしてるとどこかから爆発音が響き、直後に微かな揺れを感じた。なんだなんだと倒壊したビルの瓦礫に登って辺りを見渡すと森の中から煙が上がり始めているのを確認した。もしかしたら立香達かもと思った蓮は直ぐにそこに向かって走り始める。

 

ガッサガッサと森を走っていると思った通り立香達の姿が見えた。しかし、マシュは何故か際どい服を着て大きな盾を持っておりその反対側には民族衣装のような服を着た青髪の男が対峙していた。男の獣のような表情。杖を向ける方向はマシュと立香。

 

(なるほど、あれは敵か)

 

「夢見針ッ!(召されるという意味で)」

 

そう判断するや否や、射程距離に入った事を確認し腰を捻って最大限力を伝えた投擲で男に向けて不意を突く形で槍を投げ、いや『射出』した。

 

人類に遥か太古から伝わる武器である投擲、それをより鍛え上げ研ぎ澄ませた蓮によって正確無比に投げられた槍は男が反応する前に彼に突き刺さる・・・はずだった。

 

「おっと、危ねぇなァ」

 

なんと、男が宙に文字を描いたと思うと槍が炎となって消失してしまったのだ。

 

(今の文字は・・・いやそれよりも)

 

これには流石の蓮も驚愕、しかし直ぐに切り替えて草むらを飛び越えると立香の隣を鷹のように一瞬で飛び出して男に向けて拾っていた手頃な尖った鉄くずをナイフ替わりにして突っ込んだ。

 

「へぇ!面白ぇ!」

 

「ハッ!」

 

顔面に向けて鉄くずを、と思わせて素早く切り返し腹に突き刺そうとするがいなされる。ならばと打撃を混じらせながら連続で攻撃を繰り返すが尽く無力化。足払いをされると男の杖を握って空中で体を捻り蹴りを繰り出す。

 

しかしこれも男の手で防がれ蓮は完全に捕まってしまった。だがそれでも戦意は削がれていない。それを見た男はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ほぉ、根性あるなお前さん」

 

「そりゃどうも」

 

「ちょ!蓮、ストップストップ!」

 

「レ、レンさん!キャスターさんは敵ではありません!味方です!」

 

「あ、そなの」

 

ワタワタと慌てながら2人がそう説明すると蓮はケロッとそれを受け入れ、鉄くずを捨てて戦闘態勢を解いた。それを感じたのかキャスターと呼ばれた男も拘束を解いて地面に降ろしてくれた。降ろしたと言うよりパッと放して落としたと言った感じだったが蓮は猫のように体を反転させて何食わぬ顔で着地するとキャスターに謝罪をする。

 

「すみません、どうやら俺の勘違いだったようで。」

 

「なぁに気にすんな、それよりもいい動きだったぜ。仕込みがいがありそうだ。」

 

「恐縮です」

 

さっきまでのヒリヒリした雰囲気はどこへやら、バンバンと背中を叩きながらなんか普通に知り合いのような距離感で喋り出す蓮とキャスター。そんな彼らに更に困惑する立香とマシュ、ついでに所長。カオスを超えてカオス・ソルジャーである(?)

 

その後は男、キャスターについて、その正体であるサーヴァントというものについて、マスターやらなんやら、現状の報告などなどを所長から聞いた蓮は適当に脳の端っこに保存してわざわざ説明してくれた所長に礼を言いながらうんうんと頷いていた。

 

「なるほど、大体わかった」

 

「本当に分かってるんでしょうね・・・?講習の時いつもいつも何かと問題を起こして退室させられてた貴方が」

 

「要は使い魔を召喚してボスを倒しに行くんですよね。ええ、分かってますとも。レッツポケモン。」

 

「本当に話聞いてたわけ!?誰がそんな適当な事言ったのよ!?言うに事欠いてポケモンン!?ふっざけてんじゃないわよ!!」

 

「あ、そう言えば聖晶石でしたっけ?それっぽいの拾ってますよ俺」

 

「人の話を聞きなさいよォォォォォ!!」

 

蓮の余りの適当さにとうとう発狂し始める所長。極限状態だったのもあってそれはもう凄まじい荒れっぷりであった。それを立香と通信越しにロマンがどうどうと鎮める。マシュも流石に困惑である。

 

「で、これどうやって特殊召喚すんの?」

 

「と、特殊・・・?えと、このサークルへと投げ込んで頂ければ」

 

「へー、じゃあほい」

 

マシュの説明を受けた蓮は雑に聖晶石をサークルに投げるとバチバチと光の輪が回り始め、やがて収縮して弾け飛んだ。

 

 

「あいよー!最弱英霊“アヴェンジャー“!お呼びと聞いて即参上〜!」

 

 

なんかまっくろくろすけが出てきた。

 

「え?作画ミス?」

 

「いんや仕様だ!あんたが俺のマスターか?良かったな!今日のガチャは悪運極めて大凶だ!乱数調整大失敗!まっ、蛇の王じゃなかっただけマシだと思ってくれや!」

 

「へぇ、まぁいいや。よろしくアヴェンジャー、ところで真名は?」

 

「それはあとのお楽しみ!・・・って、あらら?」

 

適応力の塊である蓮は驚愕も直ぐに収め、アヴェンジャーと握手をする。アヴェンジャーもそれに応えて握手をしたが何かを感じ取ったのかその表情の見えない顔で蓮をじっと見ると唯一見える双眼をパチクリと瞬かせた。

 

「あちゃー、もしや俺達相性抜群?道理で聖晶石の方で呼ばれる訳だ、優先権仕事し過ぎ。課金勢真っ青マジやばたにえん。」

 

意味深なことを言うアヴェンジャーに首を傾げると「うんにゃなんでもねー!」と誤魔化される。まぁいいかと蓮もスルーした。お気楽か。今更か。

 

そんなこんなしてると後ろでマシュがうーんとうなり始める。

 

「それにしてもアヴェンジャー・・・聞いた事のないクラスです。」

 

「え?どういう事?」

 

「えっと、簡単に説明しますとサーヴァントとは『剣士(セイバー)』『弓兵(アーチャー)』『槍兵(ランサー)』『騎兵(ライダー)』『魔術師(キャスター)』『暗殺者(アサシン)』『狂戦士(バーサーカー)』のいずれかで召喚されるのです。特例で『裁定者(ルーラー)』というのがあるそうですが・・・なので『復讐者(アヴェンジャー)』というクラスは存在しないはず・・・。」

 

「『特別(エクストラ)クラス』って奴さ。面倒臭いから省くけど七つのクラスに該当しない奴がなるクラスって感じ。そもそも聖杯戦争じゃねーからな、イレギュラーも起こるさ。とゆーか、それを言うなら嬢ちゃんも『盾兵(シールダー)』だろ?」

 

「む、それを言われると確かに・・・」

 

「そんなことよりも!貴方、さっき自分を最弱とか言ってたわよね?まさかとは思うけど戦闘力皆無とか言わないでしょうね!今、こんな状況で!ろくに戦えないサーヴァント引き当てたなんて冗談にもならないわよ!?」

 

「HAHAHA!喜べ高飛車嬢ちゃん!俺は読んで字のごとく最弱!サーヴァントと戦おうもんなら片手で伸されるスライム系サーヴァントだぜ!以後お見知りおきを〜!」

 

「よっ、商売上手!」

 

「いやあああああああ!!最悪だあぁああああ!!!」

 

その後、あんまりな自己PRにまた発狂した所長をなんとか宥めた一行はキャスター『クー・フーリン』からこれまでにココ『特異点F』起こった出来事を聞き、大聖杯を守るラスボス『セイバーオルタ』を倒すべく地下大空洞に向かっていた。

 

その道中、何体かのシャドウサーヴァントに襲われたが皆で力を合わせてアヴェンジャーだけ瀕死になったがこれを撃破。その際に何故かこの世界でもペルソナが使えることが判明する。

 

「まさか、もう一度会えるなんて思わなかった」

 

『フハハ!また何やら面倒事に巻き込まれているようだな!数奇な星と元に生まれたものよ。』

 

「ああ、だがお前とまた戦えるのなら心強い。もう一度力を貸してくれるか?」

 

『良かろう!そも、我はお前の半身!我は汝、汝は我!貸すのではなく、共に戦うのは当然!存分に我らを使うがいい!』

 

「ありがとう、アルセーヌ。おっと、すみません。時間を取らせてしまって、行きましょうか。」

 

「いやいやいやいや!!!待ちなさい!なんかもう色々と待ちなさい!!」

 

蓮は久しぶりに会った己の半身と挨拶を交し、何事も無かったかのように先に進み始めるがこれに待ったをかけたのが現在進行形で胃に穴が開き始めている過労死枠準レギュラー化不可避ウーマンこと所長であった。

 

「説明しなさいよ!その能力の事とか!貴方の事諸々!」

 

「そんな事話してる場合ですか!?世界の危機ですよ!?」

 

「なにマトモぶってんじゃ我ぇぇぇぇ!!!」

 

「所長が壊れた!」

 

「しっかりしてください所長!」

 

「お宅ら元気だねぇ」

 

積もりに積もった多大なストレスによって暴れ始める所長。そんな彼女を諌める藤丸とマシュ。わーぎゃーと騒がしい彼らをケラケラと笑いながら眺めている人類悪、の隣にちゃっかりいる諸悪の根源(蓮)

 

「ふーむ、にしても変わった力を持ってんな坊主。」

 

「クー・フーリンさんもいますよ、ほら」

 

興味深そうにアルセーヌを観察する賢者にペルソナチェンジして彼の中にいるペルソナとしてのクー・フーリンを見せる。

 

「うおぉ!?なんだこりゃ!?これが俺!?いや、確かに似たような雰囲気は感じるな・・・てかなんでそっちが槍持ってんだ!!よこせコラ!!」

 

「あー!お客様!困ります!あー!いけません!あー!あー!!」

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

その後、騒がしいながらもなんやかんやあり何とか大空洞まで来た御一行。待ち伏せしてたシャドウアーチャーをキャスターが押えているうちに中に入るとそこには凄まじいプレッシャーを放つ黒い騎士が待ち受けていた。

 

「ちわーす、三河屋でーす」

 

そんなプレッシャーを能天気さで中和するのがこの男〜(エンタの神様風)

 

「・・・・・・。」

 

「ガン無視で草」

 

「ヤダー!態度悪〜い!ちょっとどうなってのよこの店は!店長呼びなさいよ店長!」

 

「そうザマスそうザマス!界王神ザマス!」

 

ギャーギャーとやかましい人類悪共を無視してマシュに目を向ける黒騎士。残念ながらギャグ時空はマジ濃度が高いと呆気なく粉砕されてしまうのである。

 

「・・・・・・ほう、面白いサーヴァントがいるな」

 

「俺の事?」

 

「黙れ泥人形、細切れにしてやろうか」

 

「ヒェッ」

 

「私・・・ですか?」

 

「ああ、その()()は面白い。構えるがいい、名も知れぬ小娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう」

 

そう言って、黒の騎士王・・・『セイバー・オルタ』は突き立てていた剣、漆黒に染まった『エクスカリバー』を構えた。それだけで場の空気は完全に彼女に支配され、凄まじい威圧感が広がる。人形のように精巧に整った顔は氷のように冷たく、黄金の瞳には確かな殺意が乗っている。

 

対峙しただけで分かる、圧倒的な戦力差。一瞬でそれに飲まれ、怯んでしまうマシュと藤丸の背中を誰かが叩いた。

 

「飲まれるな2人共。敵を良く見ろ。」

 

「蓮・・・?」

 

「レン・・・さん」

 

さっきまでとは違って、真剣な目でセイバーを見る蓮。その雰囲気はセイバーに近く、歴戦の勇士に近い風格を感じさせる。ただの人間である筈の彼が、まるでサーヴァントのような存在に見えるほど、彼のその目は『戦士』そのものであった。

 

「見せつけろ、お前達の矜恃を。示してみろ、お前達の勇姿を。大丈夫、負けないさ。」

 

かつて世界を救った男からの、ある意味先輩からの激励は確かに2人に届いた。

 

「蓮・・・・・・うん、分かった!いこう!マシュ!」

 

「はい!先輩!」

 

闘志を纏った2人を見て、笑みを浮かべて一歩下がり怪盗服に身を包む。仮面の奥から蒼炎と共に浮かぶ覇気に先程とは打って変わってセイバーも反応を示す。

 

「む・・・変わった力だ、魔術とも少し違う・・・まぁ関係無い。諸共斬るだけだ。」

 

「やってみろ」

 

そう言って挑発的な笑みを浮かべた瞬間に不意打ちでエイガオンを放つ。取り囲むように迫るそれをセイバーはたったの一振で粉砕してしまう。

 

そこに特別な技術は無い、圧倒的魔力によるゴリ押し。デタラメな暴力。

 

ただそれだけで上級魔術であるエイガオンもガラス細工のように壊し、その魔力の放出だけで、まるでジェットのように高速移動を可能にする。

 

「避けろッ!」

 

「「ッ!!」」

 

迫る濃密な死の予感に藤丸とマシュは強ばるが蓮の声に反応して辛うじてその斬撃を避けることが出来た。空ぶったセイバーの剣は蓮達のいた地面を粉砕し、その凄まじい威力をありありと見せつける。あんなもの受けたら斬られるどころかミンチになるのでは無いかと藤丸はゾッとする。

 

だが、更にゾッとするような事が直後に起きる。

 

 

「フッ・・・・・・!」

 

 

「なっ!」

 

「そんなっ!?」

 

 

地面に着いた剣から再び魔力が噴射され、間髪入れずにセイバーが藤丸達に向けて飛んできたのだ。なんとか着地をしたマシュと藤丸の眼前まで既に迫っており、避ける暇など与えないと言うように彼らに向けて聖剣を振り下ろす。

 

「うっぐぅッ!?」

 

「マシュ!」

 

ギリギリのところでマシュが巨大な盾で斬撃を防ぐが、その威力は尋常ではなくデミ・サーヴァントとなった彼女でさえ、たった一撃で膝を折り体を沈ませるほどの力が篭められていた。なんでもない一撃でこれほどの力。圧倒的な実力の差にマシュの心はそうそうに折れそうになっていた。

 

「くっうぅ・・・!ハァッ!!」

 

「む」

 

それでもなんとか踏ん張ったのは彼女の後ろに守るべき人がいるから。背中を支えてくれる人がいるから。完全に押し潰される前に聖剣を押し返し、セイバーと距離をとる。だが、そんな距離などセイバーにとってあって無いようなもの。再び弾丸の様に突っ込もうとするセイバーに向けて静かに影が迫り来る。

 

「甘い」

 

しかしそれを見逃すセイバーでは無い。素早く身を反転させると影に向かって情け容赦無く斬撃を放つ。常人であれば即死するそれを影の正体、蓮は召喚したアルセーヌの爪で逸らし、その手に握ったナイフ『パラダイスロスト』で切りかかる。

 

「ほう、少しはやるな」

 

「かの騎士王に言われるとは、光栄だな」

 

「ふん、口の減らない奴だ」

 

何度も切りかかり、アルセーヌも同時に連携攻撃を仕掛けるがセイバーそれを難なくいなし、逆に連撃を繰り出す。これはマズいと足元にエイガオンを放ちセイバーのように勢い良く後退する蓮。

 

「蓮!」

 

「レンさん!大丈夫ですか!?」

 

「ああ、問題無い。」

 

ビリビリとかつてないほど痺れを感じる手をグッと握り込みながらもそれを顔に出さずに返事をする。流石は英霊と呼ばれる傑物、かの騎士王だ。常人ではまず歯が立たない。

 

(どうにか隙を作れれば・・・・・・)

 

そう考えるのも束の間、彼の方へ突っ込んでくるセイバーを見て思考を切り替え、仮面に手をかざす。

 

「チェンジ!キングフロスト!!」

 

真正面からでは適わないと判断した蓮は氷で動きを封じようと試み、ダイヤモンドダストを発動する。

 

アルセーヌと瞬時に入れ替わったキングフロストが重々しい音を響かせながら着地し、その杖から凄まじい冷気を発するとセイバーに向けてブリザードの如き氷結の嵐を叩きつける。

 

「あまりに脆い」

 

だが、それは斬撃による魔力放出によってかき消され次いで振り返された聖剣がキングフロストに叩きつけられた。その身そのものが堅牢な城の如き防御力を誇るキングフロストでさえ、騎士王にまるでクッキーを割るように容易く破壊されてしまう。

 

「ッ・・・!ガルーダ!」

 

フィードバックにより激痛に苛まれるジョーカー。だがその足を止める暇はない。直後にペルソナチェンジでガルーダを呼び出し、爪に捕まって後方へ下がる。それすらも逃がさんとまた魔力放出による高速移動をしようとした瞬間、彼女の頭上から何かが落ちてきた。

 

「虫か」

 

「ありゃ〜ダメか、てかさっきから酷くない?」

 

ブーメランのように飛来したそれを一瞥もせず叩き落とすと、それは持ち主のアヴェンジャーの元へと帰っていく。不意打ちですらこの体たらく、真正面からじゃ使い物にならないだろう。そう自覚があったが故の攻撃だったが、あまり意味が無かったようだ。

 

しかし、意識を反らせたのは事実。

 

「『マハガルダイン!!』」

 

「む」

 

暴風の旋刃がセイバーを包み込む。岩をも切り裂く斬撃が渦巻き、彼女に襲いかかるが・・・・・・

 

「脆弱」

 

まるでそよ風を受けたかの様な涼しい顔で暴風をたった一振で切り裂き、地面を抉って魔力の波と瓦礫の壁をジョーカーへと雪崩込ませた。

 

「蓮!」

 

「レンさん!」

 

それを割り込んだマシュの盾が防ぐ。まだまだ心許ないといえ、シールダーの盾はこの程度には負けはしない。

 

「なら、これはどうだ?」

 

「あッ!?」

 

魔力と瓦礫の中から現れたのは黒い死神。死の刺客。ひと目でわかる、これは致命の一撃だと。受けられなければ、真っ二つ、いやそれで済めばいい方だ。しかし、目の前に騎士王が現れた動揺からマシュの体は硬直してしまっている。

 

 

死ぬ

 

 

 

「うああああ!!」

 

「先輩!?」

 

その確信が藤丸がマシュの盾を一緒に支えるに至り。

 

 

「『ラクカジャ/D(デュアル)』」

 

 

その行動にジョーカーが防御を託すきっかけとなった。

 

 

ドッッガンッ!!!

 

 

とてもでは無いが、剣が盾に衝突した音とは思えないほどの重低音が辺りに響く。これだけでどれほどの威力が込められているか想像に容易いだろう。

 

それでも、マシュの盾はその一撃を防いでいた。

 

「これを防ぐか」

 

「先輩が、支えてくれてるんです・・・負けられませんッ!!」

 

先程までの脅えなど何処へやら、強い意志の籠った瞳がセイバーを射抜く。それを見て微かに笑みを作った彼女は盾の影からの奇襲を初めて防御体勢を作った。

 

「『メギドラ』」

 

この一瞬でガルーダからセトにチェンジしていたジョーカーは指で照準を合わせ、セトの口元へ収束した万能属性のエネルギーを拡散させずに一点集中で解き放ち、一本のレーザーとしてセイバーへと撃ち突ける。

 

「くっ」

 

本来、雑魚を一掃する全体攻撃として用いられるメギドラだがジョーカーの卓越したスキルセンスにかかれば単体攻撃としても運用が可能。その際の攻撃力は射程範囲や命中率を犠牲にかなり底上げされており、セイバーですら防いだ上で吹き飛ばされる威力を誇っていた。

 

「レンさん、今のは一体!?騎士王の攻撃がかなり軽減されたように感じました!」

 

「その話は後にしよう、今は・・・」

 

だが、やはり倒すのには程遠く難なく着地するとケロッとした表情でジョーカー達を見る。

 

「ふむ、思っていたよりも出来るな。ならば・・・」

 

 

瞬間、セイバーの圧力が劇的に増す。

 

 

重圧(プレッシャー)が今まで感じたことも無い程の生命の危機がマシュと藤丸に叩きつけられた。思わず足を折ってしまいそうな程の恐怖の中、2人は目を逸らさずにセイバーの一挙手一投足を見逃さぬよう構えている。

 

この僅かな短時間で、敵から目を逸らさないという戦士の入口まで辿り着いた2人にジョーカーは笑みを零す。それは安堵と、少しの悲しみからであった。

 

 

「『卑王鉄槌、旭光は反転する』」

 

 

そんな3人を置いて、セイバーの詠唱は無慈悲に進む。迸る魔力の濁流。先程までとは質も量も桁違い。間違いなく必殺の一撃が来るとジョーカー達は確信する。

 

「マシュ」

 

「先輩・・・」

 

「大丈夫」

 

「・・・ッ!はい!!」

 

震える彼女の手に自分の手を重ねる藤丸。ただそれだけで、マシュの心は晴れ震えは収まっていた。信頼に足る人物からの激励、そして同じ盾を支える安心。それが、彼女を大きく成長させる。

 

そしてジョーカーは完全に守りをマシュ達に預け、反撃の準備を整える。

 

「チェンジ、トランペッター。『ヒートライザ』『コンセントレイト』」

 

トランペッターが手に持ったラッパを吹くとジョーカーの攻撃、防御、素早さが向上し精神統一により次に放つ魔術の威力が増大する。そしてペルソナを再びアルセーヌにチェンジするとその手に呪怨エネルギーを蓄え始めた。

 

 

それと同時に、セイバーの準備が完了する。禍々しい闇の光が聖剣から溢れ、刀身の何倍にも膨張している。これでも凝縮された状態なのだから恐ろしい。これが解き放たれれば、どうなるか。

 

それは・・・・・・

 

 

 

「『光を呑め』」

 

 

 

正しく、破滅の光だ。

 

 

 

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガァァン)』ッ!!」

 

 

絶大なまでの魔力放出。指向性を持ったエネルギーは真っ直ぐにジョーカー達へと襲いかかる。あらゆるものを呑み込み、あらゆるものを破壊する闇の光は射線上の全てを消滅させながら迫っている。そんな光景を目にしてマシュはゆっくり目を閉じた。

 

それは諦観では無い、それは絶望では無い。

 

ただ、守りたいものを守る為に。思い返すはあの感覚。そして今、心からの想いに従って。

 

 

乙女は、不浄を断つ盾となる。

 

 

「『真名、偽装登録───宝具展開』」

 

 

「『擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』ッ!!」

 

 

ガンッ!と叩きつけた盾から結界が張られ、強力な守護障壁が魔力の濁流を真正面から防ぐ。

 

「う、ああああああ!!!」

 

あれほどの威力の魔力放出を受けても、マシュの意思が反映されたかのように障壁は決して揺らがない。そこだけが外界から遮断されたかの如く完全にセイバーの宝具を受けきって見せた。

 

「・・・ふっ。流石の守り、か。」

 

セイバーの超威力を誇る宝具を受け切るという偉業を成したマシュに、敵とは思えぬほど優しい視線を送る。それはまるで遥か彼方の思い出を振り返るような、そんな表情であった。

 

「今だ!アルセーヌ!」

 

『剣王よ、手向けと受けとるがいい!』

 

そして、攻撃が止んだ瞬間をジョーカーは逃さない。マシュ達の後ろから飛び上がった彼はアルセーヌの手に限界まで溜め込んだ呪怨エネルギーをセイバーに向けて全力で放った。

 

最初のものとは比べ物にならない規模のエイガオンが無数に分裂しながらセイバーを襲う。

 

「甘い!」

 

しかしそれすらも剣で壊しながら素早い足取りで避けつつ後退し、魔力放出で全て吹き飛ばす。僅かに拮抗するも耐えきれずに破壊され、宙に舞う呪怨エネルギーの結晶が雨のように降り注ぐ。僅かに視界が悪くなるが些事。

 

セイバーは再び、ジョーカーに突貫しようと構えた・・・その時。

 

「いや、()()

 

「・・・なに?」

 

「その位置がとても()()

 

刻み込まれた()()がセイバーの右足元を凍らせ、停止させる。それは道中、キャスターから教えて貰った足止め用のルーン文字。覚えたてで心許ない出力をペルソナのブフを混ぜこみ独自の方法で底上げしたそれは少しとはいえセイバーの動きすら止められる。

 

だがそれすらもほんの少しの時間稼ぎにしかならない。セイバーはジョーカーの狙いがなんのか考え・・・直感により即座に導き出した。

 

「まさかッ!」

 

「ハッ!気づいたとこで遅せぇよ!」

 

エイガオンにより巻き上げられた土煙の中から躍り出てきたのは我らがキャスターの兄貴。既に展開されたルーン魔術がセイバーオルタを取り囲み、その逃げ場を潰していた。

 

舌打ちを零し、忌々しげに睨むセイバーオルタに軽い笑みを送ると兄貴はドルイドの杖を地面へと力強く立てる。と、同時に溢れ出る魔力と()、それはやがて形を持ち、誉れを持ち、災厄として立つ。

 

 

「とっておきをくれてやる、焼き尽くせ────」

 

 

 

 

「『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』ッ!!」

 

 

 

「チッ、この程度───ッ!?」

 

 

神への供物を求め、セイバーの元へ倒れ込むウィッカーマンに魔力放出をぶつけようとするセイバーだったが、突然その右腕が機能を失う。僅かな混乱の後、ある方向を睨む。

 

「貴様・・・ッ!」

 

「アッハッハッハ!!そう睨むなよ!おめェの自業自得さ!何せアンタが()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

ゲラゲラと影の中の獣と共に狂喜するアヴェンジャーの右腕は消し飛ばされており、それがセイバーの右腕が動かなくなった原因であった。彼の宝具、『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』は彼が受けたダメージを与えた者へ返すという呪い。

 

アヴェンジャーが右腕を失えば、相手は右腕の機能を失う。ダメージが大きければ大きいほど効力を発揮するが、受けすぎるとやられ、ダメージが少ないと敵に返す呪いも軽くなるというピーキーな宝具だが、こと乱戦においてこれほど厄介な物もないだろう。

 

今のセイバーのように決定的な場面で致命的な隙を晒すことになるのだから。しかも、アヴェンジャーが傷を癒さない限り治る事も無いというクソっぷり。

 

セイバーの宝具が放たれた瞬間、ジョーカーの指示により持ち前の影の薄さでバレることなく右腕を射線上に突っ込み消し飛ばさせておいたのだ。勿論、少しでもミスれば全身消滅していただろうが事前にラクカジャを張っていた事で他の肉体の消滅はギリギリ免れていたのだ。

 

ともあれ、これで反撃の手立てを失ったセイバー。それでも残った片腕で聖剣を振ろうとするが間に合うはずもなく─────

 

「・・・・・・ふん、ここまでか」

 

 

 

ドッガァァァァァンッッ!!

 

 

 

倒れ込む巨人と共に、燃え盛る業火の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

その後、退去が完了するまでの間『グランドオーダー』だかなんだかすっごい意味深な事を言い残したセイバーさん。最後にジョーカーの方を見て呟く。

 

「お前もまた、数奇な運命(fate)に愛されているようだな。此度もまた険しい道程になるだろうが、愚者らしく足掻いて見せろ。」

 

「言われなくても」

 

ジョーカーの返答を聞いて、初めて柔らかな笑みをこぼしたセイバーはそのまま光の粒子となって消滅した。

 

「おっと、俺もここまでか。おい嬢ちゃんに坊主共。次があんなら、そん時はランサーで喚んでくれよ。その方がしっくりくるからな。そんじゃ、あばよっ!」

 

それと同時に、キャスターも限界が来たようで軽い調子でそう言うとあっさりと退去してしまった。ろくに別れの言葉を交わせなかった藤丸達は唖然として彼らが消えた所を見つめている。

 

だが、そうしてばかりもいられない。所長の指示により退去の準備を進める藤丸達だったが、彼らの前に突如何者かが姿を現した。

 

「いやまさか君たちがここまでやるとはね、評価の想定外にして私の寛容さの許容外だっああああああああ!!??」

 

うにょうにょと空間をねじ曲げて現れたモジャ毛にどこかの変態教師のすね毛を思い出し、反射的にヘルズエンジェルにチェンジしアギダインを放ったジョーカー。それが直撃して焼き焦げるモジャ毛。

 

「あ、やべ」

 

「ちょっ!?何してるのよアンタ!?あれレフじゃない!!いきなり攻撃なんて馬鹿なんじゃないの!?」

 

「いや、吐き気を催す毛の塊だったもんで、つい燃やし尽くさなきゃと」

 

「どういう理屈よ!?レフ!?大丈夫なの!?」

 

心配して声をかけるオルガマリーだったが、その首根っこをジョーカーが掴んでいる為近づくことが出来ない。「何すんのよ!」と暴れる彼女だったが、次の瞬間レフから溢れ出した殺気に動きを止めることとなった。

 

「ふ、ふふふ、この私をここまでコケにするとは・・・調子に乗るなよ脆弱な人間如きが・・・!」

 

「うわぁ、凄い。ここまで三下なセリフ聞けるとは思わなかった。」

 

「下がってください!あれは我々の知るレフ教授ではありません!」

 

とても人間とは思えないほどの魔力と殺意を垂れ流しながらジョーカー達を睨んでいるレフ。その輪郭は時折ブレて、本来の姿が見え隠れしている。

 

「オルガ、君も君だ。なんで足元に爆薬を仕掛けてたのに死んでないんだい?いや違うか、肉体はとっくに死んでいる。今の君はトリスメギストスが転移させた残留思念と言ったところか。」

 

「・・・・・・え?レ、レフ?何を、言ってるの?私が、死・・・?」

 

「おや、君はレイシフト適性が無かったじゃないか。哀れだね、死んだことでやっと切望の適性がああああああああ!!??」

 

衝撃の事実に固まるオルガマリー。そんな彼女にゲスな顔を浮かべて追い打ちをかけようとしたレフだったがまたその身が焼けた事で中断せざるを得なくなった。

 

「貴ッ様ああああ!!さっきから何のつもりだ!!」

 

「いや、よく燃えそうな見た目してるから」

 

「あー、確かに」

 

「ね?スチールウールみたいだよね?」

 

 

「そうか・・・そんなに死にたいか!!」

 

ジョーカーとアヴェンジャーがキャッキャっとしてるのを見てその身から膨大な魔力を迸るレフだったが大空洞が大きく揺れ始めた事で舌打ちをして中断し、忌々しげにジョーカーを睨みながら撤退を始めた。

 

「チッ、命拾いしたな・・・ここも直ぐに消える。私も忙しいのでね、ここらでお暇させてもらうよ。精々無駄な抵抗をするといい、どうせ全て我らが王に焼却されるのだがね。ふふふふ、はははははは!ははははあああああああ!!??」

 

なんか不思議空間に嗤いながら消えていったので直前にアギダインを3発くらい叩き込んでやって火達磨になりながら消えたレフ。それに直ぐに興味を失ったジョーカーは茫然自失しているオルガマリーに目を向けた。

 

「所長、とりあえず帰りましょう」

 

「帰る・・・?どうやって?私はもう・・・」

 

「あ、それなら多分大丈夫です。」

 

「へ?それってどういう・・・」

 

絶望に項垂れていた彼女が顔を上げると、ジョーカーはいい笑顔で腕を振りかぶり・・・・・・

 

「ふんッ!!」

 

「おぼふ」

 

「「所長ッー!?」」

 

オルガマリーの顔面を殴り抜けるようになんの迷いも無く振り抜いた!これには思わず藤丸とマシュも愕然。通信でやり取りを見ていたロマンはドン引き、万能の人は興味深そうに見ていた。

 

顔面を殴られた、いや正確にはその眼前を通ったジョーカーの手はオルガマリーという残留思念を()()として捉え、自身の特性により彼女を一時的にペルソナ化。それを取り込むことで自身のペルソナというカテゴリに収め帰還を可能にしたのだ!

 

「所長!GETだぜ!!」

 

「す、すげぇー!!」

 

「レンさん、一体どんなトリックを・・・!?」

 

「ああ、うん、そだね。とりあえず、帰還しようか、君たち。」

 

色々と理解を諦めたロマンは崩壊する特異点の中ワイワイと楽しげに騒ぐ若人達に向けてそう言った。

 

 

まぁその後はなんやかんやあって所長が肉体を取り戻したり、仲間を増やしながら特異点を攻略していく感じ。所々原作よりも強化された敵が出てくるが藤丸達はそれを果敢に攻略していくのだ。

 

頑張れカルデア!負けるなカルデア!遥かな未来を取り戻す為に!

 

 

 

「ハッハッハッ、なんて、愉快なお話があったとさ。めでたしめでたし。え?第二部?無いよそんなの!彼が全部のフラグをぶっ壊しちゃったからね!おかげでハッピーエンドさ!最高だね!うん?なんだい別世界の僕、もっと試練を与えて物語の続きを?はは、それ彼ジョーカーの前で言わないようにね、ホントに。」

 

 

 

 




・雨宮 蓮

言わずと知れてるかもしれない主人公。たまたまカルデアの献血という名のマスター候補拉致大作戦に巻き込まれ人理修復の旅に出ることになった。有償ガチャでアンリマユを引き当てるというクソみたいな運の持ち主。

・・・・・・というのは建前で実際は彼とアンリマユの性質が似ていた為、引き合わさった結果である。

型月世界の魔術を行使することは出来ないが膨大な魔力を保有している為、魔力タンクとして優秀。SPカンストなので。また、現実世界であるにも関わらず何故かペルソナ能力が復活したので戦力的にも申し分無し。これは人理焼却に伴って現実と認知の境界線が消滅した為。主にバフデバフを撒き散らす害悪野郎になるのが仕事。かと思えば普通に火力を出てくるので厄介極まりない。荒らしやめてください。

マスター適性はまぁまぁ、レイシフト適性も良い方。藤丸が100なら蓮は80くらい。大抵のサーヴァントとは相性がいいが王のサーヴァントや千里眼持ちははちょっと苦手(本質を見抜かれる為)

彼がもし英霊として呼ばれたのなら、無辜の怪物となって本来の姿とは程遠い形で召喚されるだろう。具体的に言うとアルセーヌと混ざって召喚される。その際の真名は・・・テッテレテーテテッテテッテテッテテッテテッテッテン!

・アンリマユ

最弱と名高い復讐者。この世全ての悪を背負わされた誰か。出会って直ぐに蓮の中にある闇を見抜いた。蓮の事は同類だと思ってる。それはそれとしてこっちには来んなよと笑う。人類悪として名を残すなんて不名誉極まりねぇだろ?

どこまでも人間の愚かさを嗤う悪魔だが、そんな人間のケツを蹴って前に進ませることが好きなヘンナイキモノ


その他、蓮について言及する一部サバ達


・エミヤ
よく手を借りてるよ、素晴らしい腕をしている。時に私の知らない調理法を使っていたりと、学ぶ事もあるな。カレーとコーヒーに関しては明確に俺よりも上さ。奇行についてはノーコメントだ。

・ギルガメッシュ
フハハハハ!!何とも愉快な道化よ!だが良い!己が望む道が開けるまで歩み続けよ!それこそ人が遥か昔から持つ原初の強さなのだからな!

・クーフーリン(ランサー)
いい筋してるぜ。俺の時代に生まれてたら名の立つ戦士になってたろうなぁ。今度師匠ンとこに弟子入りしてみっか?命の保証は出来ねぇけどな!ははは!

・タマモキャット
何とも面白いご主人なのだな!質のいい人参もくれるゾ!本題は少し漬物にして、今を鯰の様に大人しく楽しむが良い!

・黒ひげ
ありゃ黒いもん抱えてやがるなぁ、俺が銃抜いた時に突きつけ返して来たときゃ笑っちまったぜ。反射の域だなありゃ。それはそれとして・・・今から朝までフェザーマンについて語り合いますぞ〜!!

・アンデルセン
何?あいつについて?ふん!語る事などあるものか!大人になりきった子供だろう!それ以上に何がある!まぁ、仮面で偽っていない分幾分マシだ。どこまでも自分本位で頑固で呆れ返るほど諦めが悪い!その癖、現実を見すぎるきらいがある。誰かアイツに子守唄でも歌ってやれ!

・ヴリトラ
き、ひ、ひ!いいのういいのう、苦難に立ち向かい乗り越えてきた者の強き瞳!わえ好みの道を踏破してきたようじゃのう!どうじゃ?わえの試練も1つ・・・そう言うな!少しだけ!先っぽだけじゃ!な!な!

・ジャンヌオルタ
はぁ?アイツをどう思ってるかですって?はん、決まってるじゃない。馬鹿よ、ただの馬鹿。灰になっても燃え続けるなんて馬鹿としか言いようがないじゃない。まぁ、そんな奴と燃え尽きようなんて私もどうかしてるけど(ボソッ)・・・なんですか、そのにやけ面は。ちょっと!

・オベロン《ヴォーティガーン》
うーわ、何あいつ。きっしょ。なんで完全に擦り切れた後に動けてるわけ?ぶっ壊れたガラスを接着した後綺麗に磨いたみたいになってるんだけど。壊れとけよ、マジで。何をそんなに見苦しく足掻いてんのさ?さっさと諦めちまえば楽なのにねぇ?

・アルトリア
アーチャー並に料理が上手いですね


ちなみに蓮と致命的に相性が悪いのがレディ・アヴァロン。終わらない物語が好きなやつとその被害者。もう根本から分かり合えない。だから殴り合うしかない。


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本編
Prolog Re:Start


話としてはペルソナ5Rです

駄文ですが適当に見てください


多くの人間が住まうこの世界には、数え切れないほどの悪意が蔓延っている

 

 

 

 

色欲のままに他人を汚し、傷つけ、支配する者

 

 

虚飾で己を塗り潰し、金の為に弟子を奴隷の様に扱う者

 

 

暴食に飲まれ、人を自分の餌として骨の髄まで喰らい尽くす者

 

 

憤怒を植え付け、歪ませ、幼き心を引き裂いた者達

 

 

強欲が膨らみ、増幅し、ただ己の為に他者を道具として使い潰す者

 

 

嫉妬で自分を追い詰め、どんな手を使ってでも他を敵と定め蹴落とす者

 

 

傲慢と野望で邪魔者を殺し全ての愚民を掌握して国家支配を図った者

 

 

 

人によってその悪意の種は様々で、どれも筆舌に尽くし難いほどに邪悪に満ちている。

 

我々が思っている以上に、この現代社会には邪で理不尽な現実が広がっているのだ。

 

 

誰もがこの歪な現実に従い、ひれ伏し、従うしか無いのか。

 

声を出す事も許されず、逃げ出すことも出来ず、ただ何も出来ずに地べたを這いずって無い希望に身を寄せ、助けを求め続けるしか無いのか・・・。

 

 

 

──────否。

 

 

 

 

この世界には、『彼ら』がいる。

 

 

 

それは、我欲にまみれた、悪意の化身を討つ者達。

 

 

邪悪な心をその手で奪い、黒き邪念の中枢を清める者達。

 

 

虚を払い、真を照らす。弱きを助け、強きをくじく。

 

 

その姿正しく正義の味方。

 

 

 

理不尽に虐げられ、精一杯の声をあげる人の手を取るために。

 

 

 

 

彼らの名前は──────────『怪盗団』

 

 

 

 

 

反旗の衣を翻し、彼ら彼女らは今日も浮世を離れ、奇っ怪極まる摩訶不思議な異世界を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ』

 

 

 

 

 

 

今こそ汝、己が仮面を引き剥がし───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────反逆の翼を翻せッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

物語を最初から始めますか?

 

 

はい←

 

いいえ

 

 

 

 

 

 

 

ペルソナ全書、人間パラメータ、アナライズ情報、一部アイテム、スキルを引き継ぎます。よろしいですか?

 

 

はい←

 

いいえ

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

─────ペルソナ全書の引き継ぎに失敗しました。一部を除き、ペルソナが初期化されます。

 

 

 

 

 

 

 

データをロードします

 

 

 

 

 

 

─────ロードが完了しました。ゲームを開始します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

貴方は囚われ・・・

 

 

 

 

予め未来を閉ざされた、『運命の囚われ』。

 

 

 

 

これは極めて理不尽なゲーム・・・勝機は、ほぼないに等しい。

 

 

 

 

しかし、この声が届いていると言う事は、まだ可能性は残っているはず・・・

 

 

 

 

・・・お願いです。

 

 

 

 

このゲームに打ち克ち・・・世界を、救って・・・

 

 

 

逆転の鍵は、絆の記憶・・・

 

 

 

仲間と掴んだ・・・起死回生の真実・・・

 

 

 

どうか、思い出して・・・

 

 

 

貴方と世界の、未来の・・・ために・・・

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・あれ?なんか雰囲気違く・・・ない・・・です・・・か・・・

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

季節は春。

 

暖かな日差しが差し込むが、まだ少し肌寒さが残るそんな冬明けの4月。多くの学生、多くの社会人にとって新たな別れと始まりの季節となる。

 

そしてそんな人々に混ざって望まない始まりとして様々な事情を背負い、新たな学生生活を始めることになってしまった不幸な運命を背負った少年がここにいた。

 

「・・・・・・」

 

ガタゴトと音をたてながら走る電車の中。大人しめな見た目をした1人の少年は電車の速度に反してゆっくりと流れていく外の景色を眺めていた。その表情は暗い・・・訳でもなく、伊達メガネと前髪に隠された慧眼の中に何故かあまり来たことも無いこの都会の景色に()()()()すら感じていた。

 

彼の故郷はここからは遠い田舎町。都会など友達と数える程しか来たことがないというのにまるで、慣れ親しんだ第2の故郷のようにすら思えている。自分の中に生まれてきたその感覚に疑問を抱きながらも、悪くないと窓の外を顔を綻ばせながら眺める。

 

・・・・・・なんて、ループ系主人公のような事を考えるのは止めだ。何故なら少年は寧ろこの景色を何回も見てるから懐かしさどころか『飽き』すら感じ始めているのだから。そう考えると少年の顔が一気にスンッとなり冷める。気持ちの切り替えが早すぎないか。

 

やがて目的の駅に着くと景色を眺めるのを止め自分の荷物を持って人の流れに乗りながら降りる。そして乗り換えの駅へ向かうが、何故か彼は地図をほとんど見ずにしかし迷いもせずすいすいと目的の地下へと向かっていく。

 

当たり前だ。なんせ彼はここの道をよーく知っているから。これまでの繰り返しの中で何度も何度も通った道など複雑といえど嫌でも覚えるわいと文句を垂れながらスタスタと目的地への道を歩く。そして途中のスクランブル交差点で信号に止まっているとポケットのスマホがブルブルと振動したので「来たか」と思いながらスマホを取りだし画面を見る。

 

そこに映っていたのは見覚えのあり過ぎる不気味な目玉のようなアイコンであった。赤と黒で彩られたそれはでかでかと画面いっぱいに表示され相変わらず気味が悪い。だが少年は全く動じずに真顔のままはよ起動しろやと言わんばかりに何度も何度もアイコンをタッチした。害のあるウイルスかもしれないのに度胸のある少年である。まぁその可能性は万に一つも無いのだが。

 

特に何も起きずにただそこに表示されているだけのそれをひたすら叩いてると感じ慣れた感覚が少年の頭の中に過ぎる。『キュリリィン!』とニュータイプのような音を脳内で鳴らしながらパッとスマホから目を離して再び目線を信号へと向けると、そこに映る景色は何か妙であった。

 

違和感を覚えたのも束の間、何故か世界の時間が遅れ始め、どんどんそれが強くなり・・・やがて時計の針を指で阻んで止めたかの如く完全に停止してしまった。

 

「おーきたきた」とその光景に呑気な感想を漏らしながら辺りを見渡す少年。すると彼の反対側、交差点の先からジリジリと蒼い炎が吹き出し始める。少年がそれに気づき目を向ける頃にはその蒼炎は凄まじい勢いで燃え盛り人の高さを優に超える程に成長していた。

 

「お」

 

そんな恐ろしい光景に、しかし少年は何故か強く惹かれ心が鷲掴みにされたかのように目を離さずに、瞬きもせずその轟々と燃える蒼炎に見入っていた。食い入る様に見る少年はやがて蒼炎の中に何か巨大な『何か』を見出し、それに気づいた途端蒼炎は蠢き始め人型を形造る。

 

 

嗤う

 

けたたましく、響き渡る声で。

 

 

俺は知っている。

 

 

この炎を、この溢れ出んばかりの激情を。

 

 

そしてその中で一際目立つまるで少年の昂りと呼応するように現れた凶悪な顔が浮かび上がる炎と目が合い、まるで笑みを深めるかのように炎が弧を描くと一気に燃え上がり・・・

 

 

「む」

 

いつの間にか炎は消え失せ、何事も無かったかのように周りの人々は動き出していた。今度は逆に自分だけが先の空間に取り残されたような感じになり、周りの人はキョロキョロとしている少年を変人を見るような目で見ていた。

 

だが少年はそれに動じず、周りの視線など気にもとめずに「やっぱりこの感覚は最高だな」と悪どい笑みを浮かべながらとっくに青になっていた信号を渡る。そして再びスマホを見てみると大きな表示が無くなった代わりにアプリ欄に先程の目玉が並んでいた。何度見ても入れた覚えのないそれを見た少年は少しの間目玉を見つめるとそのアイコンをタッチし・・・消去せずに選択解除してアプリを消した。

 

どうせ消しても無駄だと知ってるからである。けど消す度にあの野郎がせっせと入れ直してると面白いのでやっぱり消しといた(ゲス)

 

アプリが現れてから見えたあの幻想。恐怖的だったはずなのに少年の胸にあるのは熱い炎のようなほとぼり。久々に感じた高揚感。それを胸の内に感じているとますます笑みが深くなる。チラリと周りを見ると周りは彼に目を合わせまいと目を逸らしまくっていた。そりゃそうだ。しかし流石にあんな悪者顔を浮かべていては犯罪者かと勘違いされかねない。

 

紆余曲折あって全くもって致し方なく、納得いかないが前科者となってしまった手前警察のお世話になるのは色々とまずいのだ。

 

ともかく機会を待って今はこれからお世話になるいつものあの人の下へ行くことを最優先にしようとスマホをポケットへとしまって周りの怪奇そうな目を無視して地下鉄に向けてスキップ気味に歩き出した。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

まるで迷路のような地下通路をなんなく抜けて地下鉄に揺られること数十分。やがて目的地である四軒茶屋へと着き、路地に出る。ずっと座ってたことで少し強ばった体をほぐすついでに大きく息をすると、余り嗅いだことの無い新鮮だが酷く懐かしい香りに実家のような安心感と清々しさを感じた。

 

「よし」

 

体も心もほぐれ緊張もいい感じに緩んだので早速これからお世話になる厄介者の自分を居候させてくれるいい人の『佐倉惣治郎』宅へ向かうことにした。しかし、彼の家を記したメモはとても簡潔に書かれたもので知らない土地に来てたら見てみるとどこにあるのかさっぱり分からない。といってもどうせ知ってるので1度自宅を確認する為に路地を進む・・・はずだったのだが。

 

「!」

 

自分の横を、ふわりと独特な薬品の匂いをさせながら通り過ぎていった白衣の女性に目を奪われた。白い肌、首にパンクなチョーカーを付け、更にネックレスを提げており、白衣の下はギリギリ過ぎる短さの服にブーツとチグハグな格好をした個性的な医者だった。

 

思わず声をかけそうになったが、あっちにとっては初対面であると思い出してすんでのところで超フレンドリーになりそうな声を抑えた。危ない危ない、もう少しで「へーい!ドクター!おっ久しぶり〜!」なんてこっちを知らない状態の彼女にぶちかますところだった。しかしその際に漏れ出た声は聞こえてたようでパンクな女性は止まって振り返ると少年に話しかけた。少年が脳内でやべっと呟く。

 

「・・・なに?」

 

「えぁー、その。佐倉惣治郎さんのお宅ってご存じですか?」

 

思わずキャラに合ってない丁寧過ぎな言葉遣いになったことに苦笑いする。これならフレンドリーに話しかけた方がマシだったなと考えているとパンクな女性は怪奇そうな顔をしながらも答えてくれた。

 

「佐倉さん?あぁー、確かここ真っ直ぐ行って1個先の角曲がった先にあるよ」

 

「ホントですか、ありがとうございますお医者さん!」

 

「?なんで私が医者だって知ってるの?貴方ここの人じゃないでしょ?」

 

「え、そりゃあ白衣着てますし。あと薬の匂いで」

 

少年は自分の鼻を指さしながらそう言った。すると女性はなるほどねと納得しながらそんなに薬品臭いかとさりげなくスンスンと自分の匂いを嗅いでいた。可愛い。まぁ少年の鼻が利くだけなので実際は気になるほど匂ってはいないのだ。

 

「こんな近くにお医者さんがいるなら安心ですね、何かあったら相談しに行きます!」

 

「はァ・・・まぁいいけど。それじゃ、道は教えたから」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

少年が笑顔ですっとぼけながら見送ると手を気だるそうに振りながら女性は角を曲がり、そのすぐ先にある自分の診察所へと入っていってしまった。相変わらずクールだ。しかしこれで次に行く時多少スムーズに話を進められるなと考える。ホントはもう少し話したかったがどうせまた後で強制的に会うので今は気持ちを切り替えて佐倉宅に行こうと荷物をしょい直して道を進む。

 

余計な場所に行かずにすいすいと前に進み、スーパーを超えた角の1個先の道で曲がってあっという間に佐倉さんの家の前まで来た少年。これも何回見た事かとやや飽き気味に、しかし緩やかな笑みを浮かべながら堂々とチャイムを押した。

 

「ふむ・・・」

 

・・・しかしいくら待っても玄関から人が出てくる気配がない。どころか人がいる気配すら・・・いや、なんとなく中に()()()()()()()()()()()。具体的には2階の部屋辺りに。居留守だろうか。と言っても無断侵入なんぞしようもんなら1発でしょっぴかれるので入りはしないが。というかここに惣治郎がいないのは知ってるので気にせずに来た道をもどる。じゃあなんで来たかって?確認とイベント回収だよ(メタ)

 

さて、それじゃあ自営業でやっている喫茶店へGOするかとスタスタと歩いていると漂う空気の中鼻腔から感じる仄かな独特の香り。久しく感じる()()()()()()()。何度嗅いでもこれに優るコーヒーの香りは無いなとその匂いをさながら犬のように道しるべとして辿りながら進んでいくと路地中にひっそりあるレトロな感じの喫茶店の前へとたどり着いた。申し訳程度の観葉植物が置いてあり、上にある店名をみると『ルブラン』と書かれている。とてもオシャレな店とは言い難いが()()()の人には人気そうな物静かな雰囲気がある。

 

少年の中に満ち満ちていくのは凄まじい安心感。言うなれば実 家 の よ う な 安 心 感、と言うやつである。ここには何度お世話になったことか。

 

「よし」

 

少年はすぐに取っ手を持って店のドアを開け、鈴がチリンと鳴ると堂々と入っていった。

 

「!」

 

すると、中から感じる1層強い()()に思わず感銘を受けるほど衝撃を受けた少年はおほー!これこれ!この匂い!とめっちゃ興奮したが直ぐに切り替えて1番前のカウンター席、古いダイヤル式の電話がある席の前に立つと今まで手元のクロスワードを見ていた不思議な包容力と色気を感じさせるダンディーな主人が少年に気づき、ゆったりと振り向く。

 

「いらっしゃい・・・あ、そうか。今日って言ってたな」

 

低く、それでいて渋い聞くだけでコロッと女を落とせそうな大人の魅力が詰まった声でそう言ってクロスワードをカウンターに置いて立ち上がると長居していた老夫婦がお代とお礼を置いて帰っていった。それに対して主人は短くまいどと返し、軽く世間話をして見送ると小さく愚痴った後に少年の方へ向き直る。

 

「・・・で、お前が蓮か?」

 

「はい。『雨宮 蓮』です。今日からお世話になります」

 

持っていた荷物を床に置いてからわざわざ伊達メガネを外し、その地味さに隠していた魅力のある顔を晒してしっかりと自己紹介をした後にぺこりと頭を下げる蓮。ここで好印象を抱かせることで関係が早く進展するのだ。得意げに脳内で語る蓮は最初期の自分は酷かったなと思い返す。

 

その予想外の礼儀正しさをみた主人は少し驚いた顔をした後に意外なものを見たかのように軽く笑みを浮かべた。

 

「へぇ・・・どんな悪ガキが来るかと思ったら、意外と礼儀がなってるな。俺は『佐倉惣治郎』だ。1年間、お前を預かることになってる」

 

関心したように言いながら惣治郎が自己紹介を終えると蓮はフッと優しい笑みを零しながら手を前に出した。そう、それは周回によってインフレした度胸『ライオンハート』だからこそなせる技、『初手主人公握手』である。

 

「両親からお話は聞いてます。よろしくお願いします、佐倉さん」

 

「ん?あぁ、おう。よろしくな」

 

いきなりのコミュ力高いフレンドリーな握手に若干困惑しながらも握手を返す惣治郎。普段はドライで基本的に適当な対応をする惣治郎でさえ、早くも蓮のペースに飲まれかけている。

 

「・・・ま、いいか。付いてこい」

 

微妙な顔で握手した手を見ていた惣治郎はため息を吐いたあと親指で階段を指差してそう指示をした。蓮はそれに軽く返事をしながらニッコニコの笑顔で惣治郎の後に続く。ギシギシと軋む階段を登るとそこにはゴチャッと荷物が散らかった埃っぽい屋根裏の物置き場が現れた。というか物置だった。

 

「おぉ・・・広いですね」

 

「お前の部屋だ。寝床のシーツくらいはやるよ」

 

そのあまりにもあんまりな部屋に対し、蓮はキレるわけでも驚く訳でもなく軽く部屋を見渡してたからうんと頷き、惣治郎に向き直ってなんと礼を言った。

 

「ありがとうございます、部屋まで用意してもらって」

 

それに驚愕して目を向いた惣治郎が振り返る。()()()()()でここに住まわせることになり、自分でもこの部屋はどうかと思っていたゆえのリアクションであった。

 

「・・・驚いたな。文句の一つくらい言ってくるかと思ったが」

 

「いえ、部屋を貰えるだけありがたいですし。それに・・・何となく好きです、ここ」

 

「変わってんなお前・・・ま、いい。荷物は自分で片付けてくれよ。店閉めたら俺は引き上げる」

 

思い出にふけながらキョロキョロと部屋を見渡して微笑む蓮を見て軽く笑いながらその素直さと適応力に関心と困惑を覚えながら階段を降りていく惣治郎。しかし降りていく途中で少し戻り頭を軽く出しながら忠告を残す。

 

「夜は一人だが悪さするなよ。騒いだら放り出すぞ」

 

「心得ています」

 

「んん・・・下にある掃除用具は好きに使え。その代わりちゃんと戻せよ。それと、分かってると思うが明日は秀尽に行くからな」

 

「合点承知」

 

「んだその返事、そのノリまるでアイツ・・・っと。何でもねぇ、早いとこ寝ちまえよ。じゃあな」

 

ビシッと指を向けて釘を指した惣治郎に真っ直ぐな目で返事をする蓮に付かず離れずがモットーな惣治郎はやりにくさを感じて微妙な顔をして今度こそ階段を降りていく。そして少ししてドアが閉まる音と共にチリンと鈴の音が響き今度こそ帰宅した事が分かった。

 

(明日は早いが・・・やっぱり少し気になるな)

 

1人屋根裏に残された蓮は部屋の片付けでもしようかと思ったがさっき言われた通り明日は日曜だが秀尽に行くので早めに寝なければならない。しかし流石に気になるので持ち前の超魔術級の器用さで軽く荷物を纏め窓を開け埃を掃き、床を掃除して本を縛りゴミと要らないものを端にまとめてから寝巻きに着替えてベッドに横になった。

 

軽くとは・・・?

 

そして寝転がりながらふと、自分が冤罪の前歴を付けられることとなった事件、酔っ払いのハゲと何故か自分を見て顔を赤くしていた女性、そして警察に捕まりながらも最後までハゲを睨みつけていた自分のことを思い出して眉間にシワを寄せる。どう考えても俺悪くねーよなと。周回前の自分には知る由もなかったが奴は衆院議員でありその権力を以って罪をこっちに擦り付けたのだ。そのせいで転校になるわ変な噂は流されるわで大変な目に遭った。あ、思い出しただけで腹たってきたなと蓮はこめかみに青筋を浮かせる。

 

まぁあのクズカスクソハゲには後々痛い目を見せるので良しとして明日も早いしとりあえずもう寝ようとスマホを充電した後に目を閉じる。しかし、あの死ぬほど聞いた睡眠への誘い文句がないとやはり少し寂しいなと考えながら微睡みの中へと意識を沈めていった。

 

 

 

 

 

これから始まるショータイムに対して胸を躍らせて・・・

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

ポタ・・・ポタ・・・

 

 

 

「ん・・・?」

 

 

ジャララ・・・

 

 

何故か耳に響いてくる聞こえるはずのない水滴の音。その音が意識を少しずつ覚醒させていき、そして身動ぎした時に聞こえた重々しい音によって完全に目が覚めた。

 

パチリと目を開けるとさっきまでいた部屋とは違い無機質なコンクリートの天井が目に入り、感じる空気も冷たいものになっている。この形、雰囲気、まるで独房だ。しかもまるでオペラのような美声が響いておりどこか不気味な感じがする。

 

少しふらつく頭を抱えながらベッドから起きるといつの間にか自分の着ている服が囚人服に変わっているのに気づく。よく見たら手足には鎖が繋がれ、足の鎖の先には大きな鉄球が転がっている。これではまるで本当に囚人のようだ。

 

当の本人はこうなることを知っていた為お!きたきた!と困惑するどころかテンションが上がってるが。そしてウッキウキなまま小さくスキップして牢の柵まで来るとその前でまるでゴミを見るような無機質な瞳、とても人間とは思えぬ雰囲気と黄金のような輝く美しい黄色い目を持つ2人の警備員のような服を着たそっくりの見た目の双子の少女達に片手を上げ挨拶をする。

 

「やっ」

 

「な、なんだ貴様。馴れ馴れしいぞ囚人!」

 

「・・・この状況でなんという図太い精神。恐れ知らずというか礼儀知らずというか」

 

まさか動揺ひとつせずに軽い挨拶をしてくるとは思ってなかったのか右目に眼帯を付けたお団子の髪型をした少女は思わず驚愕して身を弾きながら手に持ってた警棒を突きつけ、左目に眼帯を付けた三つ編みの少女は一瞬目を見開いた後に呆れ気味にジト目で蓮を睨みつける。

 

その相変わらずな態度に蓮は思わず笑みを零すとお団子の少女が馬鹿にされたと勘違いをしてその警棒を牢に叩きつける。

 

「おい貴様!囚人風情が舐めた態度をとるんじゃない!痛い目にあいたいのか!」

 

ギロリと少女とは思えぬ威圧感を出しながら睨む少女に対して蓮は全く動じることなく、寧ろ微笑ましいものを見るかのように目元を緩ませた。流石ライオンハート、意味不明なレベルでメンタルが強い。

 

「ごめんごめん、つい。あ、そうだ飴いる?」

 

「む、飴だと」

 

「・・・カロリーヌ」

 

「は!!い、いらん!飴などいらんぞ!だからそんな目で見るなジュスティーヌ!」

 

飴に釣られそうになったお団子少女を三つ編み少女がジト目で見るとお団子少女は顔を赤くし警棒をブンブンと振り回して必死に誤魔化そうとしているが、ちゃっかり飴を貰っているため説得力が無かった。

 

そんな茶番じみた事をしていると奥の方から咳払いが聞こえ、それを耳にした少女達が表情を直し左右に避ける。そうすると、監獄の外にある部屋の真ん中に光が集まりそこにいた人物が照らし出される。

 

「ようこそ、わたくしのベルベットルームへ・・・」

 

そこに居たのは、剥き出しになっているかのように見えるほど見開かれた目にピノキオのように長い鼻、限界まで吊り上げられたにやけているように見える口、ひょろりと長く細い体に黒いスーツを着た一見人外にすら見えるほど特異な見た目と雰囲気をさらけ出した男の姿であった。

 

「おっほん!さて、ようやくお目覚めだな囚人!」

 

「現実のあなたは今は睡眠中。これは夢としての体験に過ぎません」

 

「さぁ主の御前だ!姿勢を正せ!」

 

目の前の双子に交互にそう言われたにも関わらず、蓮の視線は、意識は長鼻の男に釘付けになっている。その目は興味と言うより観察するような目線、それも僅かに敵意が含まれている。その事に気がついたお団子少女がムッと目を鋭くして手に持った警棒で檻を叩こうとするも、その前に男の声によって静止された。

 

「よい・・・静まれカロリーヌ」

 

「ハッ!」

 

男の言葉に素早く警棒をしまい、姿勢を正すカロリーヌと呼ばれた少女。どうやら彼女、いや彼女達は男の部下か何からしい。先程の対応を見るに男に対しかなり従順なようだ。まぁ知ってたと言うようにお団子少女から再び長鼻へと目を移す。

 

「さて、ようこそ。お初にお目にかかる。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所・・・何かの形で契約を結んだ者のみが訪れる部屋。名を『ベルベットルーム』。そして私は主を務めている『イゴール』。覚えてくれたまえ」

 

「・・・初めましてイゴール」

 

男が名乗ったその名前に酷く強い嫌悪感を抱きながら噛み締めるように呟く。それを表面上に出さないようポーカーフェイスを保ちながら挨拶を交わす蓮。

 

「お前を呼び出したのは他でもない。お前の命にも関わる大切な話をする為だ」

 

「大切な話だと?」

 

いきなり奇妙な話を切り出し始めたイゴールに眉を寄せながら聞き返す蓮。その不遜な態度に再びカロリーヌが目を鋭くするが主の命もあり、睨むだけに留まっている。だがその威圧感は並の人ならば蛇に睨まれた蛙の如くガタガタと震えが止まらなくなるほどなのだがライオンハートの蓮は意に介さずケロリとしながらイゴールと向き合っていた。寧ろその様子に愛嬌すら感じている始末。

 

イゴールは机の上に指を連なせながらゆっくりと辺りを見渡すとその低く渋い声で内装について、意外そうにしながら話し始めた。

 

「しかしこれは驚いた・・・ベルベットルームは来訪者の心の『ありよう』に合わせて風景が変わるのだが・・・まさか監獄とは」

 

ひとしきり部屋を見たイゴールは再び蓮と若干の哀れみを含ませながらその目を合わせる。

 

「お前は正しく運命の囚われ。近い将来、その身に破滅が待ち受けているに相違ない」

 

「・・・それはどうかな」

 

軽く笑いながらとんでもないことを言うイゴールに対し、蓮は不敵な笑みを浮かべながら反抗の意思を見せる。それを少女達は意外な物を見たと目を丸くするが直ぐに真顔へと戻した。

 

だが身も蓋もないなんの確証もないイゴールの言うことが蓮には近い内に真実になるものだと知っている。

 

そして、選択を誤ればその果てに自分は命を落とすことになると。

 

そんな蓮に対しイゴールはその不気味な笑みを絶やさずに話を続ける。

 

「フフ・・・随分と強気だな、面白い。そんな愚者に抗う術を教えよう」

 

「抗う術?」

 

「『更生』するんだ。自由への更生・・・それがお前が破滅を回避する唯一の道」

 

イゴールがゆっくりと手を上げると指を合わせ、パチンと華麗な音を響かせる。すると、蓮の前に蒼き光が蛍のように舞い降りると一層強く光って1枚のカードへと変貌した。蓮がそれに惹かれるように手を伸ばすとまるで溶けるように手の中へと入り込み、手を握るとその光は完全に消える。

 

「自らの運命に。そして世界の歪みに挑む覚悟はあるかね?トリックスター」

 

煽るように手を広げ、蓮に壮大な質問を投げかける。それに対して何を当たり前なことをと言わんばかりに笑みを深め蓮は力強く手を握り締めながら目の前の驚異を真っ直ぐと見返す。

 

「・・・そんな運命には負けないさ」

 

これから辿ることになる数奇な運命と、そして世の中に蔓延る悪意と。そんなものと何度戦ってきたか。今更何を怖気づくことがあるというのか。そして目の前のコイツも・・・。

 

「・・・ククク、何とも威勢がいいものだ。お前の更生の軌跡、拝見させてもらうとしよう」

 

そんな蓮を見下すような態度を取るイゴールは思い出した様に声を漏らすと少女達に目を向け指を差す。

 

「あぁ、紹介が遅れたな。右がカロリーヌ、左がジュスティーヌ。共に看守を務めている」

 

「ふんっ、精々無駄に足掻くがいい!」

 

「よろしく、カロリーヌ」

 

最初に指を差されたお団子少女、『カロリーヌ』は警棒を肩に置き、フフン!と凄まじいドヤ顔をしながら見下すように胸を張っている。しかし幼く小さい体でやっているため大変可愛らしいとしか感じられない。蓮もまるで孫を見るような顔をしていた。

 

「看守とは元来、囚人を守る職務。私達もまた協力者です・・・ただし貴方が従順なら」

 

そして次に指を差された三つ編み少女、カロリーヌとは対象的な落ち着いた雰囲気の『ジュスティーヌ』はペラペラとクリップボードに挟まれた紙を捲りながら蓮に冷ややかな目を向けている。

 

「あぁよろしく、ジュスティーヌ」

 

「・・・・・・えぇ」

 

しかしそんなクールな彼女もメガネで隠していない蓮の眩しい魅力溢れる笑みの前では少し動揺したようで氷が溶けるようにほんのりと頬を赤らめて目を逸らす。可愛い。

 

「この者らの役割についてはいずれの機会でいいだろう。さて、夜も更けてきたようだ・・・じき刻限。このことは少しずつ理解していけばいい。いずれまた会うだろうからな・・・」

 

「さぁ時間だ。大人しく眠りに戻るがいい!」

 

 

イゴールとカロリーヌの声を聞くと蓮は凄まじい眠気が襲いかかり、現実世界で目覚める直前であることを知ると手を振って別れの挨拶をする。

 

「じゃあ、また。カロリーヌ、ジュスティーヌ。・・・あとイゴール」

 

「お、おぉ。またな・・・じゃない!馴れ馴れしくするな囚人の癖に!」

 

「・・・・・・」

 

「フッ・・・またの機会に、トリックスターよ」

 

 

眠りに落ちる前に警棒を振り回しながら抗議するカロリーヌ、無言で小さく手を振るジュスティーヌ、そして未だ怪しげな笑みを浮かべるイゴールを見届けてから今度こそ蓮は現実世界へと意識を浮上させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────今ここに力は宿された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────約束の刻は近い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────今度()愚者として終わらぬよう、そしてこの輪廻から抜け出せるよう共に足掻こうではないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────楽しみだぞ、()()()

 




主人公 『雨宮 蓮』

アルカナ:愚者

人間パラメータ

・知識MAX 知恵の泉

・度胸MAX ライオンハート

・器用さMAX 超魔術

・優しさMAX 慈母神

・魅力MAX 魔性の男


設定:

ペルソナ5の話を何度も何度も繰り返しループしている。今回のループで何らかの要因によって突然ペルソナ5Rの世界線に入った為、このループを終わらせるチャンスではないかと考えている。数多くのハッピーエンド、バッドエンドを経験しておりコープなどありとあらゆるルートを試している為最善の選択をする事が出来る。メンタルが鬼強。

料理や家事がプロレベルであり、珈琲の味は惣治郎も認めるほど。怪盗団の母的な存在になってる。女性陣完全敗北。特に祐介の腹を掴んで離さない。

戦闘スキルも磨かれ過ぎており、ペルソナ無しでも並のシャドウを倒せるほど。現実世界ですらパルクールで駆け回り身についた第六感はあらゆる敵意を逃さない。トリックスターの名は伊達では無いのだ。



こんな感じのジョーカーが割と好き勝手やる作品です。


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I am thou, thou art I / Part.1

お気に入りが増えすぎて漏らしました、やっぱペルソナ5は人気やな

皆さん感想ありがとうございます・・・しかし本編は駆け足気味・・・場面切りかえ多すぎ・・・さらに長い・・・挙句にペルソナは出てこない・・・済まぬ・・・済まぬ・・・

あと誤字修正ありがとうございます


ガシャンッ!!

 

 

「はっ!」

 

響き渡る扉が閉まる音と共に現実世界で目が覚める。どうやら無事にベルベットルームから帰還出来たらしい。ファーストコンタクトは上々だったなとやや気だるい体をほぐしながら簡易ベットから起き上がり欠伸をひとつ零す。

 

寝ている間にあそこに行くと寝ながら音楽を聴いたみたいな脳が寝れなかった疲労というのが出てくるのだ。そこが少し不便な所だよなーとテキパキと制服に着替えながら考える蓮。慣れすぎた動作は極限まで動きの無駄をなくしまるで早着替えのようにあっという間に着替え終わった。

 

「よし」

 

スマホで時間を確認するとまだ惣治郎が来るまで時間がある。こういった時間にはコーヒーを入れるのが1番だが、しかしこの時期に勝手にコーヒーなどを入れるとどれだけ美味く出来ても怒られて好感度が下がってしまう為、そういったことは機会があったときにやって惣治郎に認められなければならない。だからとりあえず身支度をパパっと済ませてから少しだけ店内を整える程度に抑えておくのだ。

 

これなら惣治郎も驚きこそすれど怒ることは無い。まぁ最初は余り好感度の変動も起きないので少しづつ真面目で有能な所を見せていけばいいとモップで床を磨きながら考える。そうしてチャチャッと掃除を終えたらそろそろ惣治郎が来る時間なので2階に戻って荷物を持ち伊達眼鏡をかけて再び下に降りると丁度来たらしく心地いい音を立てて店の扉が開く。

 

ピンクのシャツに白の上着、肌色のズボンに白の帽子と見た目と相まって大変シャレオツな正しくイケおじと言うべきファッションの惣治郎が店の中と降りてきた蓮を見て珍しく目を丸めて驚いていた。

 

「お、おい・・・どうなってんだこりゃあ・・・店ん中が偉く眩しいんだが・・・」

 

「今朝早く起きてしまって、居候させてもらってる身なので身支度ついでに軽く掃除しておきました」

 

「軽く・・・ってお前、これが軽く・・・?」

 

完全に困惑しながらピッカピカの店の中を改めて見渡す惣治郎は信じられないのか空いた口が塞がらないようだ。それもそうだろう、これだけ綺麗にするには最低でも1時間以上はかかるはずなのだから。これもお掃除スキルと器用さを超魔術まで伸ばした男の力である。そのまま数秒固まっていたのだがどうやら現実を受けいれたようで目元を揉みながら蓮に礼を言った。

 

「あー、色々言いてぇがまぁありがとよ。正直助かった・・・とりあえず朝飯でも食うか」

 

「頂きます」

 

惣治郎はやけに綺麗になったキッチンや冷蔵庫に戸惑いと違和感を覚えながらも残って冷蔵していたルブランカレーを取り出し、上着と帽子を一旦脱いでから鍋で温め炊いていたご飯に慣れた手つきでかけるとカウンターで待っていた蓮の前に水と共に差し出した。

 

「本当はうちのコーヒーに合わせんのが1番なんだが時間が無いんでな。水で我慢してくれ」

 

「いえ、充分です。ありがとうございます」

 

「・・・お前ほんとに問題児かァ?」

 

朝ご飯を出してくれた惣治郎に礼を言いつつも目線は完全にカレーに行っておりまるで子供のようにキラキラと目を輝かせているのを見て惣治郎は思わずそう呟く。しかし蓮はようやっと出会えたルブランカレーに完全に意識を向けていた為気づかなった。どれだけループしてもこの味に敵うものは無いと鼻を刺激する()()()匂いに思わず涎が垂れそうになる。

 

危ない危ないと手で口を拭ってから手を拭き、眼鏡を外してから手を合わせ元気よく頂きますをした。そしてカチャリとスプーンで一掬いしてより濃厚な匂いを楽しんでから満を持して記念すべき1口目を口の中へ運んだ。

 

その瞬間ッッ!!

 

蓮の口内には今まで何度も味わった、しかし決して飽きることの無い至高の味が満遍なく行き渡り思わず目を見開き、感動に涙すら流しそうになる。みるみるうちに体が幸福で満たされていく。一口食べるごとに脳が歓喜している。咀嚼する事に細胞が狂喜している。あとついでにSPも回復した。

 

これだ!!これを待っていたのだ!!

 

蓮の全てがそう告げていた。そしてあっという間に完食し、一切手を付けてなかった水を最後に思いっきり飲みきって満足感が支配すると思わず感想が口から漏れてしまった。

 

「うっまい!!」

 

その一部始終を見ていた惣治郎は完全に予想外だった反応にドン引きしつつも本当に美味そうに食い、そして幸せいっぱいと言いたげな満ち満ちた顔に一料理人としての喜びと感謝、そして蓮の見せた年相応の部分にほんの少しの愛おしさが湧き出て汗を垂らしながらも軽い笑みを浮かべた。

 

「そりゃどうも、それにしても食いっぷりは年相応だな」

 

「あ“・・・す、すいません・・・」

 

完全にやっちまったとルブランカレーを食べられた余りの喜びに我を忘れた事を恥じる蓮。珍しく顔を赤く染めて、それを眼鏡をかけることで隠す。昨日今日で真面目に見せかけているだけだと考えていた惣治郎はもうすっかり彼に対するイメージが変わっていた。どこか、蓮の姿が彼女に似てるのがそうさせるのに拍車をかけたのかもしれない。

 

(んだよ、大人ぶってるが思ってたより可愛いとこあるじゃねぇか・・・()()()()周りに振り回されただけなのかもな)

 

そう考える惣治郎はフッとダンディに笑うと鍋や食器を片付け、上着と帽子を着て店の扉へと歩いていく。その間にステが上がる音が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。

 

「さて、そろそろ行くか。口元も拭いていけよ。秀尽は電車だと割と遠いからな。本当は男は車に乗せたくねぇが特別に乗せてやる。ほら、行くぞ」

 

「あ、はい!」

 

蓮に対する好感度が2日目にして割と高くなった惣治郎は優しげにそう声をかけると店の外へと出ていった。そしてその後を追いかけて蓮は口元のカレーを拭った紙を捨てながら扉へと小走りし、ついでに少し赤くなった顔を冷ましながら店の外へと出ていった。

 

 

ルブランの中には心地の良い優しい匂いと香ばしいカレーの匂いが残っていた。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

時は飛んで私立秀尽学園。都内の蒼山一丁目にある部活動、特に運動部に力を入れているごく普通の進学校である。その中でもバレー部は教師が元オリンピック選手であり、その手腕で全国レベルまで力をつけたとか何とか。

 

・・・しかし、その裏に醜悪極まりない事実が隠されていることを多くの人間は知らない。そして、その教師が色欲に塗れたまさに()()のような人間であることも。

 

「おい、何やってんだ。黄昏てる暇はねぇぞ」

 

「すいません、つい」

 

「・・・一応警告しとくがな、学校では大人しくしておけ。どれだけお前が真面目でも人の印象ってのは事柄で大きく変わる。お前の場合『前科』がそうだ。クソみてぇな話だが、事実そうなんだよ人間ってのは。集団でいるなら尚更だ」

 

「・・・はい」

 

「言いたかねぇが迷惑はゴメンだ。俺の為にも、そしてお前の為にも・・・そこんとこ頼むぞ」

 

「はい」

 

真剣な顔をして釘を刺してくる惣治郎の言葉には大きな説得力があった。きっと彼もそういった経験があるのだろう。いや言わないが事実知っている。()()()の事もあってそういう事に敏感なのだ。分かっている。分かっているが・・・これからの道筋を考えるとやはり完全にYESとは言えない。正直迷惑はかけてしまうこともあるだろう。いや、この後すぐかける。それは避けられないやつだから許して欲しい、マジで。

 

内心で謝り倒している蓮はポーカーフェイスで返事をすると「よし」と惣治郎も納得し、校門を抜け校舎内へと入って行った。

 

そしてこのループでは初めて来る見慣れた校舎内を歩いていき、校長室に入ると中にはそれはどうなんだと思うほど黄色いスーツを着た肥満を超えたダルマみたいな校長とこれから担任になる黄色と白のボーダーの服を着たややボサボサの髪をしたよく知っている女教師がいた。2人の蓮に向ける目はとても冷ややかだ。1発で迷惑がっているのが分かる。

 

しかしそんな目など最早空気を吸うレベルで慣れている蓮は気にもとめずに惣治郎と共に中へと入る。にしても相変わらず黄色い校長だ。プーさんかダンディ板野の親戚なのだろうか。

 

まぁ特に意味の無い会話をしてから惣治郎が書類を書き終わると校長がわざとらしくため息を吐いて蓮へと目を向けた。

 

「改めて伝えるが問題を起こしたら即!退学処分だ。正直君のような人間を受け入れるか迷ったんだがまぁ、色々と都合があってね・・・」

 

そう言ってからジロリとダルマのような顔を顰めて蓮を睨むように見るが当の本人は何処吹く風と言った感じでまるで表情を崩さない。寧ろ、その顔に威圧された校長が慌てて目を逸らし、誤魔化すように話を続ける。

 

「ともかく!地元じゃ色々やれたんだろうがここでは大人しくしてもらうぞ!肝に銘じておけ!」

 

蓮から感じる()()()に近い圧にタラリと垂れた汗をハンカチで拭いてから一息空けて教師の説明に入った。

 

「そしてこちらが担任の川上先生だ」

 

「川上貞代です。これ、君の学生証」

 

そう言って校長の机に置かれたのは蓮の写真が貼り付けられた正真正銘秀尽の学生証だった。しかし、その下には何やら別のしかもピンク色で絶対に学校には関係ないような物が挟まっていた。蓮はこれを何か知っている。そう、にゃんにゃんなあれだ。言い方が悪い?間違ってないから問題ない。

 

それに気がついた川上は慌ててそれを回収しようとするが・・・

 

「ありがとうございます」

 

気がついていない()()をした蓮の手によって学生証ごと回収されてしまった。その瞬間にサッと青ざめる川上。バクバクと外に聞こえそうなほど心臓が高まっていくのが感じられた。服の下に汗も一気に吹き出てくる。思わず終わったぁぁぁ!!と絶望した川上だったが反応を楽しんだ蓮はそれに対して演技をして自然とブツを返すことにした。

 

「すいません、先生。()()()()()()()()が一緒になってたようで。お返しします」

 

「そ、そう!それはごめんなさい!あは、あははは・・・」

 

九死に一生を得たと言わんばかりに顔に希望が戻る川上に思わずニヤけそうになるが鉄の仮面とまで言われた彼のポーカーフェイスは決して崩れず真面目な顔でそのチラシを校長や惣治郎には見えにくいようにして渡した。我ながらファインプレーだと自画自賛するが、原因はコイツである。

 

蓮のサディストな部分が垣間見えた後、適任がどーたら責任が何たらというような説明を受けてから説明も手続きも終わったので今日はひとまず帰宅することとなった。

 

「完全に厄介もんだな。まぁこればっかりは仕方ねぇ、これから真面目にやってりゃ少しはマシになるだろうよ。精進しろよ」

 

「気をつけます」

 

「おう、んじゃあ帰るぞ」

 

「承知」

 

「お前ホントに分かってんだろうな・・・」

 

そんなやり取りをしながら帰路についたのだが・・・学校の方で川上と顎が蓮について話をしている頃。2人は事故によって発生した渋滞に完全にハマっていた。

 

「最悪だな」

 

「最悪ですね」

 

全くもって前に進む気のしない渋滞に2人揃って仲良く表情が抜け落ち真顔になっている。蓮は知っていた為演技だが。進んだとしてと数十センチ前に進むだけで直ぐに止まってしまう。都内の渋滞というのは恐ろしいものだ。全く、迷惑極まりない。なぁ名探偵!どこぞの寿司たかる名探偵!

 

「どうします、退屈しのぎにしりとりでもしますか」

 

「やらねぇよそんなん。余計気分が落ち込むわ」

 

キメ顔でしりとりを提案してくる蓮に呆れたようにジト目を向ける惣治郎。退屈しのぎならと車のラジオをいじって局を合わせ音量を上げた。するとそこからは丁度事故の影響についてのニュースが流れていた。

 

『・・・繰り返しお伝えします。地下鉄ホームで起きた脱線事故の影響で周辺ダイヤに大幅な遅れが・・・』

 

「事故ねぇ、最近多いな。そういや先月も大事故があったっけな。15歳の子が亡くなったとかよ・・・親御さんさぞかし・・・」

 

『これに伴い、渋谷駅周辺に交通規制が敷かれ渋滞に拍車が・・・』

 

「勘弁してくれよ・・・」

 

「じゃあしりとり・・・」

 

「やらねっつの!」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「はぁ・・・やっと帰ってこれたな。今日は店どうすっか・・・まぁいい、それよりもコレ、渡しとくぞ」

 

まぁそんなこんなでようやっとルブランへと帰宅出来た頃、もう開店するような時間でも無くなってしまい惣治郎が愚痴っていたがそんな彼からある物が蓮に手渡された。

 

「日記帳だ、付けとけよ。保護観察期間の報告は俺がするんだからな」

 

重要アイテムである日記帳を手に入れた。これは書くだけでそれまでの行動を記録しその時点での状態をセーブしてくれる素晴らしい代物である。例えゲームをブチ切りしてもデータが残って安心だ!タイミングをミスると取り返しの効かないことになるけどね!

 

しかしそれはゲーム時空での話でありこの世界においてはただの日記帳なので特に意味は無い。しかしこれを惣治郎が見る機会は殆ど無いので適当にやっててもバレない。なんならメモ帳にしてもいい。

 

ピロロロ、ピロロロ

 

蓮が渡された日記帳に真面目に書いてると見せかけてやけに可愛らしい字で「べっきぃ」とだけ書いていると惣治郎のスマホに電話がかかってきた。かけてきた人物の名前を確認した惣治郎はできるだけ会話が聞かれないように玄関近くまで行ってから電話に出る。

 

「おう、どうした。あぁ分かってる、もうすぐ帰るよ。・・・じゃあ後でな」

 

普段よりも柔らかい顔で電話をした後、会う約束をすると通話を切った。言い方は悪いがその変わりようと内容は女と会う約束をしてるように聞こえる。しかし彼は独身だったはずだが、この歳にして遊び人なのだろうか。魔性の男もビックリである(すっとぼけ)

 

そして電話が終わったことでスンと顔を戻し蓮の所まで戻って来ると自分のことをジッと見てくる蓮と顔を合わせると彼はキランと伊達眼鏡を光らせおもむろに手を上げ・・・

 

 

スッ・・・(静かに小指を立てる音)

 

「ぶっ飛ばすぞお前」

 

電話相手を知っているため、ムカつくやり方でおちょくってきた蓮にこめかみに青筋を立てて惣治郎が拳を握りしめると「冗談です」と冷や汗をかきながらカバンで顔を隠す蓮。さすがにゲンコツは喰らいたくない様だ。そんな彼にらしくなくノッてしまった惣治郎はため息を吐いてから帽子を被り直しくるりと背中を向ける。

 

「まぁいい、俺は帰るからな。くれぐれも店は荒らすなよ・・・ってもやるとは思わねぇが。明日から学校だからさっさと寝とけ」

 

「がってんてん」

 

またよく分からない返事をする蓮にふと軽く笑みを浮かべた後、上着を手で肩にかけてイケおじらしい貫禄のある背中を揺らしながら店を出ていった。

 

さて、このまま銭湯に行き早めに寝るのも良いがこの後店を出たばかりの惣治郎から店の電話に連絡が来るので上に行く前に黄色い受話器の前にガン待ちして電話がかかるのを待つ。そして電話の音が鳴り始めた瞬間に迷いなく手に取って出る。最速で最短で真っ直ぐに一直線に!

 

『ジ』

 

「はいこちらオリエンタルな味と香りの店、ルブランです」

 

『いや早いな・・・てゆーか、何勝手にキャッチフレーズ作ってんだお前。うちにそーゆーのはいらねンだよ。って、そうじゃねぇ。悪ぃが店の札裏返すの忘れてな。戻るのも面倒だからやっといてくれ』

 

「分かりました、銭湯行くついでにやっときます」

 

『おう頼んだ。しかし助かったぜ、俺は携帯に男の番号は登録しない主義でな。お前がこっちの電話に出るようで良かったよ・・・早さは異常だったが』

 

「たまたま前にいただけです」

 

『そうかい、じゃあ頼んだぞ。ま、この時間に来る客なんざ居ないだろうがな』

 

「はい、おやすみなさい佐倉さん」

 

『・・・・・・あいよ、おやすみ』

 

やや照れながらそう言って電話をぶち切りした惣治郎に満足気な顔をする蓮は受話器を置いていいものを聞いたとルンルンスキップしながら2階に行く。

 

普段あまり見る事も聞くことも出来ない惣治郎の照れはやはり気分が上がるなと再びS宮蓮となりながら四次元私物入れから着替えを取ると銭湯に行くために店を出て扉にかかっていた札を裏返してから極楽の湯へと歩いていった。

 

ちなみにこの後、銭湯に熱湯じじいがいた為魅力に更なる磨きがかかった。この熱湯風呂最初こそ耐えられなかったが今となっては30分は耐えられる。ジジイはその上をいっているが。あのジジイ魅力どんだけ上がってるんだろう。

 

銭湯から出ると湿った髪に火照った体がやや赤くなっている為色気が半端ないことになっている。ここにラッコ鍋があったら直ぐに相撲が始まっていただろう。この怪盗、スケベすぎる!(ゴールデンカムイ)

 

この場に新宿のおねぇがいたら即ロックオンされてしまうだろう。ドロン玉必須だ。

 

湯冷めしないうちにルブランへと戻り、明日の持ち物を一応整えてからベットに入る。明日はとうとう初登校だ。友達100人できるかな、ドキドキして眠れないぜ!とわざとらしく蓮は考える。すでに学校にはあらぬ噂が流されているため友達どころか話し相手すらまともに出来ない状況だ。全く、どこの顎と三島のせいだろうか皆目見当もつかない。しかし蓮は挫けない!初登校頑張るぞ!(遅刻しないとは言ってない)

 

そしてテンションを戻した蓮は何となくスマホを起動させるとやっぱりあの怪しい目玉のアプリ、異世界ナビがいつの間にか入っていた。わざわざ奴がインストールしてくれていたらしい。ご苦労な事だ。

 

また消してやろうかと指をナビに合わせるがしかし風呂に入ったあとなのでまた消す気力も無く、スマホを充電器に刺した後は直ぐに眠気に逆らわずにぐっすりと眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ぃ

 

 

 

 

 

・・・お・・・がぃ・・・

 

 

 

 

 

 

お願い・・・

 

 

 

 

 

 

あの子を・・・◼️◼️◼️を助けてあげて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

私の大切な・・・◼️を・・・どうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

時はキング・クリムゾンして朝。

 

何か妙な夢を見た気がする蓮は朝から頭を捻りながらルブラン1階へと降りていく。するとそこには既に惣治郎がおり、カウンターにはカレーと前には飲めなかったコーヒーが用意されていた。

 

「ん?どうした朝から難しい顔して」

 

「いやぁ、何か変な夢を見まして・・・あの子がどうとか・・・」

 

「なんだそりゃ、よく分かんねぇが今日は初登校なんだからシャキッとしてけよ。朝飯も食ってけ」

 

「ありがとうございます・・・」

 

カウンターに座った後もうんうんと唸っていた蓮だがカレーを1口食ったら「ゥんまぁぁーーいッ!」とどこぞのスタンド使いのようなリアクションをしてもりもりとカレーを食い始めた。そして前とは違い水ではなくルブランコーヒーがあるので合間合間にクイッと飲むと程よい酸味と味わいがカレーとベストマッチしてもうモノスゲーイことになっている(余りの美味さに語彙力低下)

 

そんな感じであっという間に平らげた蓮は夢のことはすっかり頭から抜け幸せそうな顔のままルブランを出てついでに札をOPENにしてから登校して行った。

 

電車に揺られ、乗り換えをしたりして十数分。異界迷路の渋谷駅すらもスイスイ抜けてなんの問題もなく登校していく蓮。途中で見覚えのありすぎる女性記者を見かけたがあちらはこちらを知らない上に仕事中らしく駅員と話し合ってたので邪魔しないようスルーしてきた。

 

そんなこんなで着いた蒼山一丁目。ここまで来ると秀尽の生徒が増えてくる。分かりやすい制服なのですぐに分かる。丁度改札近くにも女子生徒が何人か集まっている。しかし妙なのがその女子生徒達から強い視線を感じることだ。まぁ原因はわかりきっている。流された噂だ。

 

なんでも今度来る転校生は超問題児で恐喝、暴力は当たり前。果ては殺人までやっておりクスリにも関わっている超ヤベー奴だとか何とか。常にナイフを持っており何かあると直ぐにぺろぺろしだして「あは☆殺しちゃうよ〜ん」と脅してくるとか。やー、怖いですね。一体誰のことなんでしょうね(白目)

 

なんであんなわっかりやすい嘘に引っかかってるのか心底分からないが秀尽の生徒達は皆少なからず転校生、つまり蓮をヤバいやつと認識しているのだ。ヤベー奴なのはあながち間違いでもないが噂はその全てが根も葉もないものばかりで話が広まってくうちに盛られていったりした結果だ。やっぱ秀尽ってやべーわ(震)

 

て言っても気にしたところで特に意味は無いので無視が安定だ。だってあっちはこっちの話聞かねーし。

 

そうして駅を出るといつの間にか雨が降り始めており地面を濡らしていた。だがしかしそんなこととうに知っている。なぜなら何度も体験してるから!と胸を張る蓮はカバンから折り畳み傘を取り出して広げようとしたが・・・

 

 

バッ(傘が開く音)

 

 

ガシュッ!(何故か傘が射出される音)

 

 

バチャ(傘が水溜まりに落ちる音)

 

 

 

知ってた─────

 

 

悲しいかな、無駄な抵抗であった。実は何度も繰り返すループの中で幾度となくここで傘を差そうとするが失敗。尽く破壊されたりしてきたのだ。今回こそはと僅かな反抗心を持って傘を持ってきていたが・・・あぁ、やっぱり今回もダメだったよ(ルシフェル並感)

 

仕方がないと傘の残骸をビニール袋に入れてしまい、近くの店の下で少しだけ雨宿りをすることにした。そうなると、そろそろ来る頃かと周りをキョロキョロ見ていると自分の隣に雨の中をかけてきたフードを被った赤タイツの眩しい女子が入ってきた。

 

その女子は屋根の下に入ると被っていたフードをとってふわりと雲のように柔らかな髪を広げ、突然の雨にげんなりするようにため息をひとつ吐いた。

 

勿論、蓮は彼女のことを大いに知っている。ある意味、後の怪盗団の仲間としての初めての出会った人物であり天真爛漫な性格と持ち前の明るさで皆を引っ張ってきた怪盗団きっての清涼剤。

 

燃えるような激しさと、鞭のようなしなやかさ。そして大根のような演技を持つ彼女の名は・・・

 

 

『高巻杏』

 

 

それが蓮と目を合わせると優しく微笑んだ彼女の名だ。

 

まるで無垢な子供のような笑みを浮かべた杏に蓮も釣られるように笑うと杏がおもむろに手を蓮に伸ばし、蓮の前髪に触れる。なんだろうと不思議に思っていた蓮だったが杏の手につままれた桜の花弁を見てついていたのを取ってくれたのだと理解した。

 

「ありがとう」

 

「ううん、気にしないで。それにしても嫌な雨だよね。折角綺麗に桜が咲いたのに、散らさないで欲しいな・・・」

 

そう言って雨に濡れることよりも桜が散ってしまうことに嘆く杏に蓮は笑みを深める。やっぱり杏は優しいやつだとホンワカした気持ちで「そうだな」と同意するとどこからかクラクションの音が聞こえてくる。さっきまでの暖かな気持ちがなりを潜め、「ついに来たか」と憎たらしい物を見るような目付きで前の道路に顔を向けるとそこには1台の車が止まっていた。

 

ウィーンと音を立てながら窓が空くとそこには巨大な顎が・・・失礼ココ〇コ田中のような、あるいは猪木のような長い、それはそれはロングロングアゴーな男がこちらを見ていた。

 

「遅刻するぞ、乗っていくか高巻」

 

そう言って笑う男。その顔は何も知らない奴から見れば優しい教師の鏡のような表情をしていたが奴の醜悪な本性を知っている蓮からすればその全てが上っ面だけのゲスを極めたクソ野郎の顔である。例えどれだけ優しく取り繕うが彼が男の、『鴨志田卓』の奥底の本性を忘れるはずが無いのだ。

 

「おっと君もか」

 

「いえ、俺は大丈夫です」

 

「む、そうか・・・じゃあ遅刻するなよ」

 

杏に向けた笑顔ではなくニヤついた顔で言う鴨志田に真顔でキッパリと断ると面白くなさそうに一瞬眉を下げたがすぐに戻し、また元の笑顔で忠告するとさっさと窓を閉めて発車させて行った。

 

車の窓が閉まる時、杏の表情を見たがやはりこの時期から相当に追い詰められているらしい。それもそうだ、一年の頃から人知れずにちょっかいを出してこられているのだからそうもなる。しかも唯一無二の友達も巻き込まれているとなると彼女の心労は想像を絶するだろう。

 

なるべく早く救わなければとスマホを握りしめて去っていく車を眺めると後ろからバシャバシャと忙しい足音が聞こえてきた。

 

その音を聞いた瞬間、それまでの嫌な気分が全て吹っ飛び逆にドキドキワクワクとした喜びの感情が湧き出てくる。何度経験してもこの出会いには歓喜が出てきてたまらない。

 

思わず早めに振り向くとそこには短い眉に派手な金髪、ブレザーの下には黄色のシャツに裾上げしたスラックスとどこからどう見てもヤンキーな見た目にどこか安心感すら感じる。

 

蓮の人生において最も信頼を置く親友と言える存在となる男。彼の名前は『坂本竜司』。蓮と同じく問題児のレッテルを貼られた青年である。

 

「クソッ、鴨志田の野郎・・・好き勝手やりやがって。城の王様気取りかってんだ。なぁ?」

 

そう言って顔を向けて来る竜司にしかし初対面であることを思い出した蓮は顔を真顔に戻して何も分かってない演技で頭に「?」を浮かべて首をかしげながら竜司を見つめる。

 

「いや鴨志田だよ鴨志田。あの変態教師の・・・って見ねぇ顔だな。学年は・・・タメか。何組だ?」

 

「いや、まだ分からない」

 

「分からないって、あぁお前噂の転校生か。・・・にしてはどっかで会ったような・・・まぁいいや。大した雨でもねーしさっさと行こーぜ。裏道教えてやっからよ」

 

ジロジロと蓮を見ていた竜司だったが今の時間を思い出してとりあえず登校しようと目の前の裏道に入ろうとすると突然訪れた謎の頭痛に立ち止まる。蓮は慣れてるのでケロリとしていた。

 

「うっ・・・あー、頭いてぇー帰りてぇー・・・」

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、心配ねーよ。行くぞ」

 

頭を振って裏路地に入っていく竜司に微笑みを浮かべながらついて行く蓮。パラパラと雨が降り注ぐ裏路地を歩いていると時折壁や地面が歪み、紫に染まったりしたがこれは蓮にしか見えてないし特に害は無いので問題無い。いやこの後のことを考えると害しかないのだがこれが()()()()となるので気にする事はない。

 

 

 

『・・・・・・Hitしました、ナビゲーションを開始します』

 

 

 

 

 

こうして、全ての始まりとなる場所。吐き気催し色欲渦巻く『鴨志田パレス』へと侵入することとなった──────

 

 

 

 

 

──────────Part2へと続く

 

 




私の中で惣治郎はマスコット的な存在。でもいざと言う時に超頼りになる大人です。

個人的に秀尽学園ってマジでクソだと思ってます。問題児よりも人としての問題を持った奴が多すぎるんだよなぁ。

あと長くなったので分けました。覚醒はまた次回に・・・ごめんなさいでございます


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I am thou, thou art I / Part.2

後編です、覚醒回です、デスデス

巻きでお願いしますとエリザベス様からお願いされたので巻いてきます()駄文注意

あとパズドラのペルソナガチャ回しました。何故か結城君が五体来ました。足立が一体も来なかったので結城君を生贄に捧げてアドバンス召喚してやっとコンプしました。総額?聞くな(白目)


前回、杏と顎(鴨志田)に遭遇したあと竜司と出会い、遅刻しないために近道をしようと裏路地に入った所から話は始まる。

 

竜司の後を追ってスイスイと一本道の裏路地を進んでいると一瞬、水溜まりに奇妙な赤黒の模様が見えたが蓮は軽くスルーする。害があるわけじゃないし寧ろこれで中に()()()ということは確認できた。後はここを出るだけだと考えていると出口でピタリと竜司の動きが止まる。

 

一応どうしたのかと疑問を持ったような顔を作って隣に出るとそこに見えていたのは学校ではなく・・・物凄く怪しげな雰囲気を醸し出す城が我が物顔で佇んでいた。空の色も青から気味の悪い紫色に染まってしまっている。

 

いつ見ても悪趣味な外見だと呆れる蓮、チラリとスマホを見てみるとデカデカと異世界ナビのアイコンがこれでもかと表示されている。初見のこれは心臓に悪かったなーと当時の事を振り返っているのに対して竜司は目を見開いて信じられないと言った感じに何度も来た道といつもなら学校だったものを見て困惑していた。

 

「んだこりゃ・・・学校、だよなここ。道間違えたって訳でもねぇし・・・」

 

「このラブホっぽいのが学校?」

 

「いや何言ってんだお前・・・まぁ学校の筈なんだけどよ。看板も合ってるし。」

 

サラッととんでもないことを言う蓮をジト目で睨む竜司だったが今は変貌した学校の方が気になって仕方がないようだ。どうしようかと迷っていたが蓮のボケのおかげで幾分か冷静さを取り戻した竜司は少し迷った末に覚悟を決めたようで顔をキリッとさせカバンも背負い直して城に入ることにした。

 

「迷ってても仕方ねぇか。中入って聞いてみようぜ、その方が手っ取り早いし。」

 

「そうだな」

 

蓮も特に反対する理由も無いので素直にラブホっぽくなった城という名の学校に入っていく2人。このちょっとヤバい文面だけで変な勘違いをしてはいけない。彼らは決してそんな関係では無いのだ。ないったらない。仕方なく入ってるだけだから。まぁというか入らなかったら覚醒のタイミングを逃すので入るしかないだけだから。

 

そんな感じで中に入ってみると物の見事に学校の面影はなく、天井から釣り下がるシャンデリア、シンメトリーを意識した柱に階段、そして白黒の床に赤い絨毯。そして自己主張の強いやたら勇ましく描かれた鴨志田の絵。一見気品に包まれてるように見えるが振りまけられたピンクが下品な下心を写してるようだ。しかしそれを入れても完全に城の内部と言った感じの内装へと変化していた。・・・いや、時折空間が揺れて本来の学校と城の内部が重なってみえる。その事にまるで意味が分からないと頭を抱える竜司と動揺もしないが鴨志田の絵に吐き気を催している蓮。あまりにも全てがちぐはぐである。

 

「どうなってんだよこれ・・・」

 

「本格的に城っぽいな」

 

「なんでお前そんな落ち着いてんだよって、ん?」

 

そんな2人の前に奇妙なものが奥の部屋から現れる。学校には似つかわしくないが、城にいるとすれば全く違和感のない甲冑を来た誰かがガシャガシャと鎧を鳴らしながら近づいてきていた。その手には物騒にも剣と盾が握られている。

 

見るからにただものでは無いのだが、そんな奴に竜司は警戒心も無く近づいて行った。

 

「お前生徒か?なんだよ偉く本格的なコスプレしてんな?一体なんだってこんな・・・」

 

気さくに話しかけていた竜司だったが、鎧を着た相手は黙りとして依然剣と盾を構えたままであった。そんな相手に少しイラついたのか口を開こうとしたが、横や後ろから次々と鎧を着た奴らが現れ2人を取り囲むように陣をとり始めた。

 

「な、なんだよコイツら!なんかヤベぇぞ!」

 

ようやく危機に気がついた竜司は焦って1歩後ろに下がるが、その瞬間を狙ったように後ろにいた兵士が手に持った巨大な盾で竜司の背中を殴ろうとする。

 

「うぉっ!?」

 

「ム?」

 

しかし、蓮は余計な怪我をさせないように竜司を引っ張り兵士の一撃を空振りさせた。仕返しに盾に向けて全力の蹴りを・・・蹴りこめるが敢えてしない。ここで抵抗するのも容易いがこちらはまだ生身なので1対1ならまだしもパレス内では多勢に無勢だ。逃げ出しても簡単に追いつかれてボコられる。ならばあっさりと捕まれば結果的に無駄な怪我もせずに済むというわけだ。ループの中で何度逃げても最終的には回り込まれて捕まる事を知っているからこその選択である。

 

「お、おい!逃げねぇのかよ!」

 

「数も向こうが多い上に囲まれている、逃げられない」

 

「・・・ふん、諦めの良い奴だ。連れていけ!」

 

空振りした兵士はジッと蓮のことを見るがどうやら抵抗する気のないことを察して蓮の腕と竜司の腕をとって連れていく。現状を把握出来ないほど竜司も馬鹿ではないらしく「クソッ!」と悔しそうに顔を歪ませながらも抵抗せずに兵士に捕まった。気持ちは分かるが今は大人しくしておこうと宥める。2人はそのままズルズルと地下へと続く階段へと引きづられて行った。

 

 

 

 

〜ドナドナタイム〜

 

 

 

 

「ここで大人しくしているんだな!賊め!」

 

大人しく捕まった2人はその後、首根っこを掴まれたまま長いこと薄暗い道を進み城の地下へと連れてこられていた。乱暴に2人を連れてきていた兵は2人を突き飛ばし牢の中に入れると、逃れられないように扉に鍵をかけてからさっさとどこかへ去ってしまった。

 

どべっと転ぶ竜司を華麗に受身をとって転がった蓮が手を取り立ち上がらせる。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あぁ悪ぃ。サンキュー・・・クソ、あの野郎雑に投げ飛ばしやがって!てゆーかここどこだよ!」

 

「どうやら地下の牢獄に閉じ込められたみたいだ」

 

そう言ってジロジロと部屋の中を見る蓮に釣られて部屋を見渡す竜司。その顔はみるみるうちに不安に染まっていく。まぁよく分からない奴らにいきなり捕まってこんなオンボロな所に閉じ込められたらこうもなるだろう。

 

ガチャガチャと扉を開けようとしてるが当然開けられるはずも無くビクともしない。イラつきながら扉を蹴るがつま先を痛めたようで片足でぴょんぴょんと跳ねている。焦っても仕方ないだろうにと蓮はベットに優雅に足を組んで座りながら竜司を眺めていた。そんな危機感も無いお気楽な蓮に竜司は詰め寄る。

 

「何呑気にしてんだよ!こんなとこ早く抜けだそーぜ!・・・そうだ!なんか使えそうなもんないか?針金とかそういうの!」

 

「玩具のナイフと銃ならあるが」

 

「使えねーよ!つか逆になんで持ってきてんだよ!あー、じゃあこの中になんかないか!」

 

今度は独房の中に何か脱出に使えるものがないか探し始めた。しかし独房にあるものと言えば質素を通り越してボロいベット、壁に付けられた意味があるのかないのかよく分からない鎖、そして全く使えそうにない樽。壁を見ても隙間もなく脱出出来そうな物は無く、抜け道も無い。まさに絶望的状況である。

 

竜司はとりあえず樽を持って扉に叩きつけるがまぁどうにもなるはずなくがっくしと項垂れて蓮の隣に座った。そんな彼に蓮は肩に手をやってキラキラと微笑みながら励ます。

 

「気を落とすな」

 

「いやなんで他人事!?状況分かってる!?・・・ダァー!もうどうすりゃいいんだ!」

 

竜司が頭を掻きながら叫んでいるとそれと同時にどこからかそれを超える絶叫が響き渡る。只事ではなさそうな声に思わずズッコケて竜司は慌てて扉に駆け寄って耳を済ませてみる。するとさっきと同じような絶叫が幾つも奥の独房から聞こえてきた。自分達と同じような目にあってる奴が拷問でもされているのではあるまいかと、竜司は顔を真っ青に染めていく。

 

「やべぇ・・・ここやべぇぞ・・・!!」

 

「絶叫マシンでもあるのか?」

 

「そうそう、絶叫マシンに乗ってぎゃあーっ!ってんなわけあるか!!」

 

こんな状況でもボケる蓮と突っ込む竜司。やはりこの2人のコンビとしての相性は抜群らしい。なんて言ってる場合ではない、一刻も早くここから脱出しなければ世にも恐ろしい事になるだろう。

 

何とかならないか無い頭を珍しく回転させながら方法を考える竜司とそれを面白そうに無表情で眺めている蓮の耳に、突然だが酷く聞き覚えのある声が道の奥から近付いてきた。

 

 

「ほう・・・侵入者だと聞いていたがまさかお前だったとはな、坂本」

 

 

「ッッ!?この声、鴨志田!?」

 

驚愕しながら扉に飛びつくと、薄暗い道の先から兵士がゾロゾロと現れこちらに近づいてくる。そしてそれが目の前まで来ると規則正しい動きで横に掃けて自らの主が通る道を作った。そんな忠誠の道を自信満々と言ったようなノッシノッシと聞こえそうなほど堂々とこちらに歩いてくるマントを着た男。・・・いやよく見ればマントの下には何も着ておらず辛うじて下に海パンっぽいのを履いているだけである。しかもブーメランパンツ。しかもピンク。さらけ出された足にはシダ植物のようなスネ毛が生えていて靴は直履き。

 

率直に言って・・・とても・・・キモイです(ド直球)

 

これには思わず蓮もげっそり。需要が皆無過ぎてどれだけ見ても何も言わずに目をそらすレベル。SAN値にメギドラオンである。

 

「まだ逆らうつもりか?ちっとも反省してないようだな?え?1人じゃどうにもならんからといって仲間まで連れて来おって・・・。」

 

「てめぇ・・・ふざけんな!こっから出せ!」

 

「王に向かってなんだその口は!貴様、自分の立場がわかっていないようだな?」

 

高圧的な口調とまるで目の前に飛ぶ虫を見るかのような目で竜司を見下す鴨志田は、ゲスさMAXの顔で兵士達に命令を下す。

 

「我が城に忍び込んだ挙句王である俺に悪態を付いた罪・・・死をもって償ってもらうとしよう!」

 

「は!?死!?てめ、何言って・・・ッ!?」

 

二チャリと気持ちの悪い笑みと共に放たれた言葉に竜司は心底驚愕して何か罵倒と抵抗をしようとするがそれは牢の中に入ってきた兵士によって阻まれた。兵士はそのガタイによって竜司に一切の抵抗を許さず壁に押し付けて身動きを取れないようにする。

 

「離せ!離せよ!」

 

「・・・・・・。」

 

「くくく・・・いい光景だな、ゴミ虫め!」

 

「あぐっ!?」

 

同じく蓮も兵士に肩を押さえつけられ身動きが取れなくなっていた。そんな2人をニヤニヤとゲスな笑みで見ている鴨志田。おもむろに手を振り上げると抵抗出来ない竜司の頬にビンタを放つ。比較的軽くとはいえ鍛えられたプロの手から放たれるそれは竜司に少なくないダメージを与えた。それを何度か、往復ビンタをすると竜司の頬は瞬く間に赤くなっていった。とても痛々しい。

 

(すまん、竜司。もうちょい耐えてくれ・・・。)

 

「さて、そろそろ・・・」

 

その後も何発か叩いた後、鴨志田は飽きたのか兵士から抜き取った剣を持って竜司の前に立つ。どうやら自分の手で因縁のある竜司を処刑しようとしているらしい。それを聞いて「よし来た!」と数瞬後に現れる仮面を剥ぎ取る為に手を動かそうとするがその前に鴨志田が出した言葉に蓮は思わず手を止めてしまう。

 

 

「いや、待てよ?」

 

(んぉ?)

 

「それでは余りにも()()()()()()

 

・・・本来ならここでぶった切られそうな竜司を見てペルソナが覚醒するという流れだった。目の前で理不尽に殺されそうになってる親友を見て反逆の心を燃え盛る炎の如く昂らせ覚醒させる感じなのだが、どういう訳かパターン化したそれとは全く違う行動を鴨志田がし始める。

 

「折角の機会だ。おい!こいつらを()()()へ連れて行け!」

 

「ハッ!」

 

(あそこ・・・?一体どこの事を・・・)

 

「立て賊め!」

 

こんなことはこれまでのループの中では一回も無かった。予想外の事態に蓮は内心少し焦るが状況を整理する暇もなく兵士に腕を捕まれ無理矢理立たされる。同じく竜司も無理矢理立ち上がらせられ抵抗出来ないように後ろで両手を掴まれて牢から出されてどこかへと連行されていく。それに続くように蓮も連行される。

 

(どうなってる?あそことはどこの事を指してるんだ?わざわざ処刑を止めて連れていく・・・処刑場?そんな場所このパレス内にあったか?)

 

その間に蓮は完全に記憶していたこの城内のマップを頭の中に展開する。本来ならばあの牢の中で未遂とはいえ処刑が執り行われるはずだがそれを中断して他の場所に移すというなら、これから連れていかれる場所は処刑場と考えられる。しかし、鴨志田がわざわざそう呼称するほど処刑場としての役割を持った部屋を蓮は知らない。

 

体育館は処刑場というより拷問部屋、他に地下にあるといえば牢獄位のもの。かと言って今歩いてるルート的に地上部分に戻るわけでも無いようだ。

 

(だとすればどこに・・・?)

 

そう考えている内に歩いていた道の先にあるものが見えてくる。それは本来ならそこにあるはずの無い更に地下へと行く為のエレベーターであった。

 

「なっ!?」

 

「何をしている、さっさと乗れ」

 

驚いている暇もなくそこに乗り込まされるとエレベーターが起動し下へと降りていく。蓮が困惑するのも無理は無い。この城にエレベーターがあるのは1箇所、絵画の裏にある2つのみ。だと言うのにマップ上には存在しないエレベーターがある。蓮はどうやらこのパレスには今までにない要素が存在することを即座に察知した。

 

その『ズレ』が想像よりも膨大なものだということに気付くのは少し後の話である・・・

 

そうこうしてるうちにエレベーターは目的地についたらしくガシャンと揺れると兵士に押されて妖しく灯りが揺らめく道を歩かされる。その奥にはコナンのCMに入る時に開閉するやつみたいな門がある。どうやらあそこが例の部屋らしい。その目の前に立つとギギギと軋む音を響かせながら開くとその先にある空間の全貌が明らかになる。

 

「これは・・・」

 

その先にあったのはおどろおどろしい雰囲気を漂わせた想像よりも広大な地下空間が広がっていた。しかし驚くべきはその広さでは無い。真に驚くべきはその地下空間の中にある明らかに処刑台と思われる場所を前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだこれ・・・!?」

 

信じられないものを見た竜司は目を剥いて驚愕している。蓮も冷静を装っているが冷や汗が一筋流れている。だがそんな2人を無慈悲に兵士は引きずっていき台の上へと連れていく。その様子をシャドウ達はまるで出し物をみる客のようにやんややんやと騒ぎ立てて楽しんでいる。

 

『来たゾ!来たゾ!』

 

『カモシダ様の城を荒らした大罪人メ!』

 

『殺せー!ヒホー!』

 

「静まれッ!」

 

処刑される蓮達を見て興奮を隠せないシャドウも鴨志田の鶴の一声によって一気に声を収め物音1つとして立てないようにシンッ・・・と静まり返った。鎧を動かす音すら聞こえないとは中々に統率のとれたシャドウ達だ。そこにだけは処刑台に寝転がされている蓮もちょっと関心する。いやパレス内のシャドウなのだから主に従順なのは当たり前なのだが。

 

そしていつの間にか現れていた鴨志田は上にある観覧席のような場所で見下ろしていた。

 

「これより!罪人の処刑を始める!」

 

鴨志田がそう叫ぶと蓮と竜司の隣に、黄金の鎧を身にまとった普通の兵士よりもまた一段と強い力を持つ兵隊長が姿を現す。決して黄金聖闘士ではない。

 

「このゴミ虫共は我が城に許可無く忍び込み、その挙句謝罪の言葉一つ無く王たる俺に罵詈雑言を吐き捨てた!その罪は極めて重い!」

 

『『『然り!然り!然り!』』』

 

「よってこの二人を王の裁断の元、『死刑』とする!!」

 

『『『断罪!断罪!断罪!』』』

 

「く、狂ってやがる・・・!?」

 

鴨志田の言葉に続くようにシャドウ達は一寸の狂いも無く手を突き上げて熱狂的なまでに声を張り上げている。その様は信仰と言うよりは狂信だ。現実も見ず善悪の区別もつかなくなりただ妄信的に鴨志田を慕う、そんなカルト宗教も裸足で逃げ出すほどに狂った光景であった。

 

そして最後に鴨志田は身を乗り出して蓮達に向かって親指を下に向けて捲し立てる。

 

「罪人に死を!拭いがたき屈辱を!底知れぬ恐怖を!今ここに教えてやる!真の支配者が誰なのか!さぁ!さぁさぁ!せめて死に際くらいその首晒して綺麗に終わらせてみろ掃き溜めに群がるゴミ虫めッッ!!」

 

唾を撒き散らしながら出たのは最早清々しいまでの我欲にまみれた罵声であった。ようは気に入らないから死ねということだ。自分に従わないやつは徹底的に潰す、そんな鴨志田の本性が一発でわかるものだった。

 

「よし!では先に坂本・・・と行きたいが、お前は後だ。先にそいつを殺して最大限に恐怖と絶望を高めてから殺してやる!」

 

そう言うと鴨志田は兵隊長に向けてハンドサインを送る。それを見た兵隊長は敬礼をしてから蓮を立たせてシャドウ達に見やすい様に処刑台の一番前まで持っていくと上から潰すように押し付けて膝立ちの状態で固定する。

 

「なっ!止めろ!そいつは関係ねぇだろ!おいっ!鴨志田ァッッ!」

 

「黙っていろ!」

 

「ガハッ!」

 

蓮の処刑を止めようと懸命に兵士の拘束を抜け出そうとするがもう1人の兵隊長に腹を蹴られて強制的に黙らされてしまった。それでもなお蓮を助けようと必死に手を伸ばすが台の最前にいる蓮に届くはずも無い。ただ蓮と自分の手が重なるのみである。

 

(クソォ・・・!また、また俺のせいで失うのかよ・・・!)

 

竜司は絶望のどん底にいた。自分があの道を通らなければ、自分があの時鴨志田に悪態をつかなければ、せめてアイツだけは逃がせてやれたのではないかと。しかし今となっては後の祭り。自分のせいで今、無関係の名前も知らないような奴が殺されようとしている。義理堅く、そして人一倍正義感と思いやりが強い彼だからこそ感じる後悔であった。

 

こんな状況でも自分を責め、他人の事を思う。そこに竜司の人の良さが詰まっていると言えるだろう。

 

・・・しかし心配は無用だ。

 

何故なら彼が手を伸ばしている男はこの程度、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「フ・・・フフ・・・フハハハ・・・!!」

 

 

俯いている蓮は小さく、しかし愉悦の篭った笑みを浮かべていた。

 

 

絶対的な窮地に頭がおかしくなった訳では無い。ただ()()()()()()()()()()()

 

 

恐怖と絶望に震えるしかない死に塗れた処刑台?

 

 

いやいや、とんでもない!

 

 

これこそ、最高の()()()()じゃないか!!

 

 

 

(敵のど真ん中!絶体絶命な状況!こんなにも素晴らしい晴れ舞台があるだろうか!余りにも素敵な舞踏会じゃないか!)

 

ただひたすらに歓喜に打ち震え、笑みを深める蓮。それを近くで真下から見ていたが故に唯一気づいていたシャドウ、ジャックランタンが目撃し高揚した気分は一転、言いようのない恐怖に駆られ蓮の放つ異様なプレッシャーに耐えられずにガタガタと震えながら他のシャドウ達の足元をくぐり抜けて気付かれないように逃げ出してしまった。

 

そうとも知らずに兵隊長は蓮の首を跳ねるために剣を上に掲げる。人の身には大きい大剣だ。ギラリと光を反射するそれは確かな切れ味によって蓮の首を容易く跳ね飛ばす事だろう。後は鴨志田の指示があればすぐ様剣は振り落とされる。それを確認した鴨志田は気持ち悪い笑みを更に歪めて手を上に挙げ・・・

 

 

 

「や、やめ・・・ッ!」

 

 

 

 

 

「やれッ!」

 

 

 

「御意!」

 

 

 

 

 

 

────────そして、運命の刻がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・これは極めて理不尽なゲーム、勝機は無いに等しい。』

 

 

 

 

 

 

 

『けれど、この声が届いているならまだ可能性は残っているはず』

 

 

 

 

 

 

『どうかお願いします、マイトリックスター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あぁ、勿論だ」

 

 

 

ドクンッ!!!

 

 

(さぁ、約束の時間だ。契約者よ。)

 

 

 

 

ゴウッ!!!

 

 

 

剣が蓮の首に触れるその瞬間、大きな鼓動が響くと蓮を中心として突如突風が吹き荒れ兵隊長をその剣ごと吹き飛ばしてしまった。それだけでは無い、竜司を拘束していた兵士や近くの兵隊長、そして近くにいたシャドウすらも吹き飛ばしていた。鴨志田も思わず顔の前に腕をやって風を凌ぐ。

 

「な、なんだ!?一体何が・・・!」

 

何が起こったのか分からない鴨志田は、突然風が吹いた原因であろう蓮を見る。そこには・・・

 

 

「・・・・・・フッ」

 

 

先程までは付けていなかった奇っ怪な仮面を付けた蓮が怪しい笑みを浮かべながら処刑台の上に堂々と立っていた。その余りにも威風堂々な立ち姿に理解が及ばず声が出ない鴨志田とシャドウ達。竜司も目を丸くして蓮の後ろ姿を見ていた。

 

そして皆の視線の中心となった蓮は出現した仮面に手をかけある言葉を口ずさむ。

 

それは己の分身を召喚する為の詠唱、そして力を取り戻す為に紡ぐ言の葉。

 

 

 

『我は汝、汝は我・・・』

 

 

 

 

「ペ」

 

 

 

 

 

 

『地獄の輪廻に繋がれようとも、尽きぬ怒りの業火と共に我が名を呼べ・・・!』

 

 

 

 

 

「ル」

 

 

 

 

 

 

 

『例え夢幻に囚われようと全てを己で見定めてきた強き意志の力で・・・!』

 

 

 

 

 

 

「ソ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『我が名は・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナ』

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉と共に血を吹き出しながらも痛みを感じていないように徐々に剥がしていた仮面を最後に一気に引っペがすとその勢いのまま仮面を血を滴らせながら自身の真上へと高く放り投げた。

 

 

 

「来いッ!!アルセーヌッッ!!」

 

 

 

バキィィンッッッ!!!

 

 

 

 

放り投げられた仮面はその甲高い音と共に空中で青白い光を灯しながら割れると、その光はとてつもなく膨大な青き炎へと変換され勢いよく溢れ出す。そして中からの羽根の羽ばたきによってその炎が弾け飛び、余波だけでシャドウが消えていく。しかしそんなもの些細なこと。この場にいる全員が出てきた()()()()へと目を奪われていた。

 

「・・・すげぇ・・・。」

 

鎖の音と共に蓮の後ろに降りてきたのはまるで夜会服を思わせる気品に溢れた、しかし禍々しさも感じさせる赤と黒のスーツを着ており、頭部には黒いシルクハット、顔がある場所には普通の顔は無く代わりに角の生えたバイザーのような仮面に絶えず炎のように揺らめく顔が映っている。

 

そして背面にはまるで鴉のような、しかしそれとは比べものにならないくらい美しくそれでいて気高く、見惚れてしまうほどに上品な黒翼が広がっていた。玉虫色のように光の反射で僅かに色が変化し赤みを帯びたりしているのが一層美しさを際立たせている。

 

その名を、『アルセーヌ』。蓮の反逆の魂からいでし者、逢魔の掠奪者アルセーヌである。

 

そしてアルセーヌの登場と共に蓮の姿も大きく変化していた。先程まで着ていた制服が青い炎に包まれると全く違うものへと変貌していき、最終的にはアルセーヌのスーツとは真逆に黒いタキシードのようなロングコートに身を包み手には真っ赤な手袋を填めていた。その容姿は正しく()()というにふさわしい姿をしていた。

 

 

『フハハハハ!!再び相見えたな契約者よ!此度の初戦は随分と派手なものとなったな!』

 

「フッ、俺達の初陣には最高の舞台だろう?」

 

まるで旧友のように接する彼らにようやく復活したシャドウ達が一気に臨戦態勢へと入る。それを見た蓮・・・いや、この姿ならば『ジョーカー』と呼称するべきか。ジョーカーとアルセーヌはニヤリと悪どい笑みを浮かべて前へ向き直り、手袋をキュッと直して締める。そんな2人に鴨志田の怒声が降りかかる。

 

「何をやっている!?早く殺せ!殺すのだ!」

 

 

『クハハ!間違いない!では行こうか!己が信じた正義の為に、無限の冒涜を省みぬ者よ!我等の反逆、その始まりをここにッ!』

 

「あぁ!ここからは、俺達の独壇場(ショータイム)だ!!」

 

 

そして、このセリフと共に異世界における最初の戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

『死ねェーッ!』

 

『キエロォッ!』

 

『ブルァーッ!!』

 

先手を打ったのはシャドウ達。圧倒的優位な数から放たれる無数の魔法攻撃がさながら雨霰のようにジョーカー立ちに向かって降り注ぐ。だがジョーカーは極めて冷静に手を前に出すとアルセーヌに指示を出した。

 

「『コンセントレイト』」

 

その魔法は一度だけ繰り出す魔法の威力を倍以上にはね上げる補助魔法。それを発動するとアルセーヌが蒼白い光のオーラに包まれる。だがこれはあくまでも補助魔法、降り注ぐ魔法群は止められない。しかし発動の際に発生し溢れ出た余剰エネルギーが壁としての役割を果たし、なんと強化と防御を両立させてしまった。

 

初撃を完全に塞がれたシャドウ達だがだからなんだと攻撃を続ける。再び魔法の雨に見舞われたジョーカー達はその攻撃によって出来た土煙の中に消える。その後も絶えず降り注ぐ魔法群に誰もがジョーカーの死を確信し勝利を感じ取るが、そう簡単には行かない。そんなに簡単にやられるならば彼はここに立っていないのだ。

 

突如として土煙から何かが飛び出したかと思うとそこにはかすり傷すら負っていないジョーカーとアルセーヌが宙へと美しく舞っている所であった。シャドウ達の上へと飛び出たジョーカー達はそこから攻撃を仕掛ける。

 

「『エイガオン』」

 

『ナッ!?うぎゃぁぁぁぁああああ!?』

 

ジョーカーの指示と共にアルセーヌは両手にとてつもない呪怨エネルギーを収縮し、一点に集中したそれを一気に解放、強大な威力を持ったエネルギー波として放つ呪怨属性の魔法『エイガオン』をシャドウ達に向けて放つ。そして放たれたエイガオンは途中で無数の強靭な針のようになってまるで敵を呪う怨念のように突き進んで一気に多数のシャドウを葬る。本来なら単体攻撃魔法の筈なのだが強力過ぎた為に攻撃範囲が広まったらしい。

 

『喰らいなさい!』

 

その攻撃をしている最中に空を飛べるシャドウがジョーカー達に近づいてそれぞれ攻撃を仕掛ける。その中にはアルセーヌの弱点を突けるシャドウの『エンジェル』が多数存在していた。

 

アルセーヌに迫る多くの祝福属性攻撃と他の属性攻撃。

 

・・・だが悲しいかな。このアルセーヌにそれは()()だ。

 

 

キィンッ!

 

 

『グギャッ!?』

 

『アベッ!?』

 

『え!?な、なんで!?』

 

攻撃したエンジェル達が困惑している。それもそうだろう、自分達が攻撃したと思ったら何故か自分達以外の仲間シャドウが甲高い音と共に消えてしまったのだから。

 

「『祝福反射』・・・弱点は対策するに決まってるだろ?」

 

そう言いながらジョーカーはいつの間にかカバンから取り出していた銃『R.I.ピストル』をエンジェル達に向け、命乞いをする前に発砲した。その正確無比の弾丸を受けたエンジェル達は額に穴を開けて一人も残らず消滅する。

 

重力に従って処刑台へとリロードしながら着地するジョーカー。その隙を狙って兵隊長が変化したシャドウ、べリスがジョーカーに向けて槍を突き付ける。

 

だがそれすらも見切っていた様で踊るようにステップを踏んで躱すと華麗に跳躍、回転しながら袖の中に隠していたナイフ『ミセリコルデ』でべリスの横を通り過ぎる一瞬で首を掻っ切り消滅させる。

 

それと同時にもう一体の兵隊長をアルセーヌが『ブレイブザッパー』によって周りの兵士諸共切り飛ばしていた。完全に処刑台を鎮圧したジョーカーは竜司の下に行って肩を貸す。

 

「大丈夫か」

 

「あ、あぁ・・・大丈夫だけど、お前なんなんだよそれ・・・服変わってっし変なの出てるし!」

 

「それよりも今はここを脱出しよう」

 

「そ、そだな!とりあえずそうしよ・・・って!うわぁぁぁ!!来てるぅぅ!!」

 

竜司の絶叫にジョーカーは後ろを振り向くとどうやら湧いて出たようで無数のシャドウがこちらに向けて突進を仕掛けてきていた。物量で押し潰そうとしているのだろうが残念ながらそうはいかない。ジョーカーは笑みを深めて綺麗な指パッチンと共にアルセーヌに指示を飛ばす。

 

「アルセーヌ!『反逆の翼』!」

 

『喰らえ!我が誇り高き翼を!』

 

そう叫んでアルセーヌが己の黒き翼を羽ばたかせると、翼から青き炎を纏った羽根が突風と一緒にまるで銃弾のように無数に飛んでゆき弾幕を張る。羽根が途中で分裂し倍々に増えていくと翼の壁のようになり、そのまま波のように襲いかかるシャドウ達をあっという間に殲滅してしまった。

 

『ヒ、ヒホー・・・』

 

残ったのは奥の方で物陰に隠れ怯えているジャックランタンのみ。まぁ敵意が欠けらも無いので放って置いても問題ないだろうと判断したジョーカーは先程まで鴨志田がいた場所を見るが、そこには鴨志田の影も形も残っていなかった。巻き込まれた訳では無いだろうから早々に離脱していたんだろう。ここで死なれても困るし別にいいけど。と、考えながら蓮は竜司の肩を担ぎ直す。

 

『どうやら逃げられたようだな』

 

「いいさ、今は脱出の事だけ考えよう」

 

蓮は竜司の肩をしっかりと持つと指を真上に上げる。それを合図にアルセーヌがエイガオンを真上に向けて放ち、天井を破壊して無理矢理上への道をぶち抜いた。その衝撃で地下全体が大きく揺れる。崩れ落ちてくる瓦礫をアルセーヌが跳ね除けながら2人を抱えて上へと昇って行く。

 

それを見ていたジャックランタンはキラキラした目でジョーカーを眺めていた。あれだけいたシャドウは消え果てポツンと処刑場の中で佇むジャックランタンはある事を決意した。しかし今はともかくここから出ようと、ジョーカー達の後を追うように出来た穴から上に昇っていった。

 

 

そして無事に牢のある地下の階まで登ってこれたジョーカー達はアルセーヌの腕から降りて辺りを見渡す。どうやら戦力を下に集中させたから見張りも居ないようだ。

 

「とりあえず敵はもういないな」

 

『ふむ、そうか。ならば我は汝の中に戻るとしよう。何かあれば呼ぶがいい。』

 

「あぁ、頼りにしてる」

 

『フハハハハ!そうか!それは光栄な事だ!ではまたな契約者よ!』

 

そう言って最後までハイテンションのまま仮面となってジョーカーの中へと戻っていくアルセーヌ。ペルソナが中へと帰ったことでジョーカーの顔に白黒のドミノマスクが復活した。それを見た竜司が目をぱちくりさせていたが、流石に脳のキャパを超えたのか何も突っ込まずに目頭を揉むだけ。これだけの事が立て続けに起こればそうなるだろう。

 

「あーもう何が何だか分かんねぇよ・・・頭の整理が追いつかねぇ・・・!」

 

「行こう、時間が惜しい」

 

「・・・色々言いてぇことあるけど、それもそうだな。」

 

もう色々と疲れている竜司は大人しくジョーカーの後に続いて走っていく事にした。連れてこられた道をスイスイと駆けるジョーカーとブランクによって若干疲れている竜司。

 

「少し休むか?」

 

「ハッ!?いや、行けるし!まだ余裕、だし!」

 

ちょっと顔色がヤバい。説得力が皆無だ。そんな竜司に若干ペースを落としながらカバンから開けてない水を渡して走っていると、どこからか声が響いてきた。

 

「ちょちょちょーっと待てよお前ら!頼む!待ってくれ!」

 

そう悲願するような声が聞こえたため「お、来た」と考えながらジョーカーが急ブレーキを踏むと、竜司がデコをジョーカーの後頭部にぶつけて悶絶する。しかし何故かジョーカーはケロッとしながら声のした方に向き直った。

 

「おぉ!良かった気づいたか!」

 

そこに居たのは牢屋に捕まっている1匹の猫・・・のような二足歩行かつ喋っている謎生物であった。

 

 

 

ー To Be Continued ー




〜NGシーン〜


空気の読めない蓮「来い!サタナエル!!」

サタナエル「チーッスwww」

鴨志田「ちょっ」




流石に初期から使えたらヌルゲーなんてもんじゃ無くなっちゃうからね、そりゃ使えないよね

殆どはアルセーヌの大暴れの為だったこの回。蓮君のアルセーヌはループの中で成長しまくって全ステ99です。

技構成

・エイガオン
・コンセントレイト
・ブレイブザッパー
・祝福反射
・呪怨ハイブースタ
・反逆の翼(オリジナルスキル)

反逆の翼

漆黒の翼を羽ばたかせて敵全体に呪怨属性の大ダメージを与える。敵の数に応じてダメージが上がる。ここぞと言う時の切り札。青き炎を纏ってるけど火炎じゃない。この作品オリジナルのスキル。何となく思いついたので入れこみました。

因みに何故かこのアルセーヌ君、氷結弱点も消えてます。無敵やん・・・。さすが事故セーヌやで工藤。


変なとこで切ってすみません。ただこのまま続きやると長くなってだれるかなと思ったんで・・・モル〇ナの出番はまた次回に!


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His name is Morgana

ちょこちょこかいてたら遅れましたすみません、やっぱ(仕事)つれぇわ・・・

前回はアルセーヌ君が大暴れしてましたね。やっぱ主人公ペルソナはあんだけ強くなくちゃ(P4Gのイザナギを見ながら)

因みに私のアルセーヌはメギドラオン発射装置です。撃つだけで大抵決着がつくので常にスタメン。

え?壺セーヌ?ちょっと知らない子ですね・・・

今回も巻き巻きで行き行きます

あ、あといつも誤字修正ありがとうございます


城の中で捕らわれ死刑一歩手前になりながらもやってきた大舞台に満を持して覚醒したペルソナ、アルセーヌの力で大暴れして地下の処刑場から脱出した蓮達。この城から出るための道を直行で走っていると彼らを呼び止める声がかかった。無視する訳にもいかないので声のする方へ行ってみるとそこには謎生物が捕まっていた。

 

「なんだぁこいつは?猫・・・じゃねーよな。まさかこいつもアイツらの仲間か?」

 

ガシャガシャと牢を揺らしながらこちらにアピールしてくる猫・・・のような二足歩行かつ喋っている謎生物。カートゥーンの世界から出てきたのかと思うような見た目に最早驚くという感情が無くなったのではないかと思うほどほぼ動揺することなく牢の前にしゃがみこんで謎生物を指さす竜司。

 

ここに来るまでに様々な現実離れした出来事に脳のキャパがショートしてしまったためにあの竜司が今更喋る猫が来たくらいでなぁ・・・と言いたげに変に冷静になっているレアな光景を蓮は脳内フォルダに記録していた。まぁ既に腐るほどあるがこういうのはあればあるほどいいのだと蓮は心の中で玄人のような事を呟く。

 

似たようなのがあれば充分?素人は黙っとれ──────(例の顔)

 

「んなわけねーだろ!仲間だったら捕まってねーよ!」

 

竜司の失礼な言葉にフシャー!とまるで猫のように怒る謎生物。尻尾も逆立っている。まんま猫の威嚇のポーズだが悲しいことに見た目が見た目のため全くもって迫力が無い。

 

竜司も全然ビビらずに寧ろ訝しむような目で見ている。それにしても相変わらず手触りの良さそうな毛並みだがコイツは一体何者なのだろうか(すっとぼけ)

 

まぁ説明などしなくても皆はもう彼が誰なのか知っているだろう。

 

はい、その通り。怪盗団のマスコット兼、移動手段兼、副リーダー的存在。そしてジョーカー達が怪盗を始める切っ掛けとなった者。ことあるごとに睡眠を施してくる今日はもう寝ようぜ系の皆のアイドル。

 

その名も・・・

 

「吾輩の名は『モルガナ』!頼む!ここから出してくれ!」

 

つぶらな瞳をうるうると潤ませながらそう言ってきたモルガナにジョーカーは胸を撃たれ開幕一番メギドラオンでございますレベルのダメージに危うく失神しそうだったのをセルフ食いしばりで耐えきり何とか膝をつくのは逃れた。これが無ければ即死だった。アリスの死んでくれる?よりも恐ろしい。いや、あっちはあっちで違う恐ろしさがあるな。

 

それにしてもこのジョーカー、あまりにもモルガナが好き過ぎる。その証拠に今も彼の中では今すぐにでも手を出してあの最高の毛触りを堪能するためにわしゃわしゃと撫で回したい欲求と激戦を繰り広げていた。

 

しかし彼は鋼を超えたオリハルコンメンタルの持ち主。雰囲気をぶち壊さないためにモフり欲求を耐えるなど御茶の子さいさい、赤子の手をひねるよりも簡単だ。なので震えている手は気にしないように。

 

「え、やだ」

 

だがそんなキュートなお願いもその辺謎にドライな竜司には効かず、あっさりと断られてしまう。余りにもあっさり過ぎる断り方にモルガナはガビーン!と一昔前のようなリアクションで驚き、それを見てジョーカーは口元を押え顔を逸らしてプルプルと震えていた。おいオリハルコンメンタル。

 

「なんでだよ!?敵じゃないって言ったろ!?」

 

「や、だって怪しいし・・・つーか捕まってる時点でヤバいの確定だろ。ゲームでよくあるやつじゃねーか。」

 

「うぐ・・・それを言われると・・・そ、そうだ!お前らさっきまで迷ってただろ!その様子だと出口を知りたいんじゃないか!?」

 

痛い所を突かれたモルガナは露骨に話題を逸らして今度はジョーカー達にとって有益な情報を与えて開けてもらう作戦にシフトした。これは効果があったようでさっきまでドライだった竜司が上手い具合に釣られその話題に食いつく。

 

「お前出口知ってるのか!?」

 

「あぁ!知ってる!だが取引(ギブ&テイク)だ!それを教える代わりに吾輩を出してくれ!鍵はそこにかかっている!」

 

モルガナの小さなお手手が指さす方を見ると確かに壁に牢を開ける為の鍵がかかっていた。いつ見てもザル警備過ぎる。何故牢の鍵を近くに置いていくのか。鴨志田の詰めの甘さを現してるのだろうか。まぁ今はそんなことどうでもいい。

 

余りにも都合の良い展開に寧ろ警戒を高める竜司とそれを楽しそうに見つめるジョーカー。竜司の警戒心は既に100%なのでここでモルガナを解放して反撃を食らったらどうする?とか途中で裏切るんじゃねーだろーなとかとにかくモルガナを疑う。初見でモルガナを見ればこう思ってしまうのも仕方ないと言えるだろう。それを楽しそうに見てるジョーカーがおかしいのだ。

 

「なぁ、お前どう思うよ?」

 

「ふむ」

 

モルガナの話に乗っかるべきか頭を掻きながらジョーカーに問いかける竜司。ジョーカーは顎に指を付け悩むような素振りを見せながらモルガナの事を見た。そんなジョーカーを不安そうな目で見ているモルガナを見るだけで色々な衝動がジョーカーに襲いかかる。常人ならば耐えきれぬ衝動と戦っているとモルガナは何かに気がついたようで目を開き尻尾を立てた。

 

「そっちのお前・・・くせっ毛の方の!お前まさか、ペルソナ使いか?」

 

モルガナがジョーカーから感じる独特の気配を感じ取ったのか驚愕しながらそう言ってきた。今度は媚びを売るような、或いは使えると判断した故か、まぁきっとどっちもだろうがキラキラと目を輝かせながらジョーカーに話しかける。

 

「かくいう吾輩もペルソナ使いだ!きっと力になるぞ!戦力は多い方がいいもんな?な!?」

 

「はぁ?ペルソナ使い?お前何言ってんだよ言ってる意味が・・・」

 

「ん?なんだ?こっちから話し声が・・・」

 

だがしかし、そうやって話し込んでる間に彼らの話し声を聞きつけた兵士達がガシャガシャと鎧を鳴らしながらこちらに近づいて来る声が耳に入った。それを聞いた竜司は「やべぇ!」と焦りを露わにする。このまま見つかったら確実に面倒だとジョーカーがいるからか原作よりも若干危機感が薄くなっているが。そのリアクションを見たモルガナが更に追い討ちのように言葉を連ねる。

 

「悠長に悩んでる暇はないぞ?奴ら、さっきのエラい騒ぎでかなり警戒してるぜ。見つかればかなり面倒だろうな。」

 

「んな・・・!」

 

「どうする?このまま兵士に邪魔され城をさ迷うか、吾輩を出して戦力を増やし出口まで確実にたどり着くか。リターンが大きいのはどっちか考えなくても分かるだろ?」

 

この状況によって発言に優位性が出来たモルガナは言葉巧みにほぼ回答が一択の二択を竜司に迫る。あくまでも選択権をジョーカーではなく言い方は悪いが頭が少し足りない竜司に振るあたりどちらを利用するべきかしっかりと分かっているようだ。ここでジョーカーに話題を振っても彼は竜司に流す気満々だったからモルガナの頭脳がいかに冴えてるか、又は勘がいいのかよく分かるだろう。

 

「・・・・・・クソ!さっきのマジなんだろうな!」

 

「こんな状況で嘘なんかつくかよ!」

 

最後に念押しの確認をする竜司にモルガナは力強く答える。とても癪だが、ここを出るにはこいつに頼るしかねぇと決心した竜司はジョーカーに目配せをして同じく確認を取る。ジョーカーとしては断る理由は万に一つもないので直ぐに頷いて肯定の意を示した。

 

そしてジョーカーは壁にかけて合った鍵に手を伸ばしモルガナの捕まっている牢の鍵を開ける・・・・・・

 

 

・・・・・・と、思いきやその手はジョーカーの懐へと伸ばされおもむろにR.I.ピストルを取り出すと迷いなく照準を合わせ発砲して映画のように豪快に鍵を壊すことで無理矢理牢の扉を開けた。その豪快過ぎる行動に竜司とモルガナは呆然とするがジョーカーがドヤ顔しながらクルクルとR.I.ピストルを回しながら懐にしまい、扉を開けたのと兵士が丁度到着したことで我を取り戻した。

 

「ご、豪快だなお前・・・」

 

「貴様ら!ここで何をしている!」

 

「やべっ!来たァ!」

 

「くぅ〜!シャバの空気は美味いぜ!」

 

あの兵士が再び目の前に現れたことで尻もちを付く竜司。そんな彼の隣に呑気に体を伸ばしながらまるで出所したヤクザみたいなことを抜かすモルガナ。そんな彼に竜司は掴みかかる勢いで詰め寄って文句を叫んだ。

 

「てめぇ!んな事言ってる場合かよ!」

 

「分かってるよ!約束は約束だ、キチッとやるさ。お前はじっとしてろよ!」

 

そう言って竜司の頭を蹴って颯爽と兵士達が変貌したシャドウ達の前に降り立つと短い腕を組み、自信たっぷりにその二本足を大地に踏みしめ見上げながら見下すようなポーズを取る。

 

「無駄な戦いは好みじゃないんだ、速やかに黙らせてやる!」

 

そして腰に付けていたであろう明らかに質量保存の法則を無視した彼の身の丈ほどある巨大・・・いや、大きさ的には普通だがモルガナが手に取ると大きく見える普通のサーベルが突然姿を現した。

 

その刃が鏡面のように輝く鋭利なサーベルを不敵な笑みと共に腰に構えると彼の雰囲気が一変する。一瞬、引き絞るように腰を低くして体を捻り、そこに込めた力を一気に解放するが如く自身の真上へ天を穿つ様なモーションで力強く叫んだ。

 

 

 

 

 

それは彼自身の『力』

 

 

 

 

 

彼の中にある気高い反逆の精神の『形』

 

 

 

 

 

 

込められた名は・・・・・・

 

 

 

 

「来いッ!!『ゾロ』ッッ!!!」

 

 

 

その瞬間、風が爆ぜた。

 

 

モルガナが名を呼ぶと共に辺りには凄まじい青白い光が立ち上り荒々しい突風が吹き荒れる。その衝撃でシャドウ達が後退し、思わず目を背けた。

 

少しするとその風と光は収まり、代わりに辺りには鎖が蠢く音が響き渡る。その音の発生源であるモルガナに目を向けると彼の背後には先程までは影も形もなかった人型が威風堂々にシャドウ達を見据えていた。

 

 

光の中に佇むのは紳士のような礼装に身を包む巨体、膨れ上がり力強さをこれでもかと見せつける上半身に不釣り合いな指揮棒のように見えるレイピア、帽子と仮面が一体化したような顔から伸びる立派な髭、軽やかに羽ばたくマント、そして自己主張の強いベルトに付けられた『Z』の意匠。

 

その全身を見れば頼れる紳士と言えるような風貌は正しくその名の通り『怪傑ゾロ』を彷彿とさせるだろう。

 

 

これこそがモルガナのペルソナ、最強の紳士にして最高の剣士『ゾロ』である!

 

 

「お前もそれ出せんのかよォ!?」

 

 

「さぁ行くぞ!我が決意の証を見よ!」

 

『奴ラヲ殺セェェェ!!』

 

 

まさかの『2度目』に驚愕する竜司を無視してモルガナはシャドウ達に向かって勢いよく駆け出した。それと同時にシャドウ達も本格的に迎撃体制に入ったようで完全に全員がシャドウの姿へと変貌していた。

 

しかしそれはこの場で1番の・・・いやこの世界では2番目の手練であるモルガナにとっては余りにも遅すぎる始動であった。

 

「遅いぜ!威を示せゾロッッ!!」

 

モルガナの声に即座に応えるゾロはその手に持つレイピアを無駄の無い動きで『Z』を宙に描くとそこから力が生まれ、一陣の風が吹いた。放たれた技の名は『ガル』。その性質は生み出した風による鋭い斬撃で敵を切り裂く疾風属性の魔法攻撃!

 

『ウギャー!?』

 

「ハァッ!」

 

その切り裂く風はシャドウ達が動く前にその身を切り裂き、大きく怯ませる程のダメージを与えた。その隙にすかさず接近し、無防備なシャドウ達に向けてモルガナは手に持ったサーベルをその小さい体から放たれたとは思えないほどの速度で振り抜き、シャドウ達を消滅させた。

 

だがシャドウ達も一筋縄ではいかない。倒されたそばから更に新たなシャドウが湧いて乱入してくる。その中の数匹のアガシオンが体当たりをしようと突撃をかましてきたが、モルガナはそれを見てバカにするように鼻で笑った。

 

「ハッ!甘いぜ!吾輩の剣をしゃぶれ!」

 

突っ込んで来たアガシオン達に対してゾロのレイピアを鋭い切っ先が正面に向くよう、即ち刺突の構えを取って迎え撃ち射程距離に入った瞬間、疾風の如きスピードでガルを纏わせたレイピアを突き刺し僅か数秒の間でアガシオン達に無数の穴を空けて最後にはサーベルで真っ二つにしていとも簡単に消滅させた。

 

『ギャオッ!!』

 

「ム!?」

 

手際よく倒されたシャドウ達だが思い通りには行くかと抵抗し、隠れて湧いて出てきたシャドウ、インキュバスが振り切った体勢のモルガナに向けて鋭い爪を振りかぶった。

 

死角を取られたモルガナは少し遅れて反応し、迎撃しようとサーベルに再び力を入れると突然響いた発砲音と共にインキュバスの爪が弾かれ、続く2、3発目の銃弾によって羽を貫かれ大きく姿勢を崩した。その隙を逃すモルガナでは無く逆に無防備となったインキュバスにゾロのレイピアによる斬撃をお見舞した。

 

「今のは・・・」

 

「フッ」

 

消滅するインキュバスから目を外し後ろを振り向くとそこには銃口から煙を漂わせたR.I.ピストルを構えたジョーカーが笑みを浮かべてモルガナを見ていた。そんな彼に礼代わりに不敵な笑みで返すと前方に現れた増援に向けて走り出した。

 

「ハアァァ!!」

 

『グッ!コノッ!?』

 

『グァッ!?』

 

「これで終わりだ!」

 

走ってくるモルガナを迎え撃とうとするシャドウ達にジョーカーの無慈悲な銃撃が襲いかかる。それによって全く体勢も整えられずシャドウ達は為す術もなくゾロの放つガルによって纏めて片付けられてしまった。

 

消滅していくシャドウ達を見てから辺りを見渡してこれ以上の増援が無いことを確認するとモルガナはゾロを引っ込めて手を腰に当ててひと仕事終えたと言わんばかりに鼻をフンと鳴らした。余りにも力の差が大きかった為、戦闘開始からあっという間の幕引きであった。

 

「お掃除完了、だな!」

 

「お疲れ様」

 

ドヤ顔をするモルガナにそう声をかけるジョーカー。そんな彼にモルガナはニヤリと笑いながら賞賛の声を送る。

 

「お前、なかなかやるな。アドリブであそこまでやるなんて大したもんだ。」

 

「やってみたら出来た」

 

「ほぅ、ならかなりの才能だな!()()での武器の使い方も理解してるし・・・どうだ?吾輩と一緒にこのパレスを・・・」

 

「おい!なに呑気に喋ってんだよ!!早く出口まで連れてけ猫!」

 

モルガナがジョーカーを取引相手としてスカウトしようとしていると竜司がモルガナに掴みかかりその体をガクガクと揺らした。赤べこも真っ青の高速シェイクによりグロッキーになりかけたモルガナは竜司の手を弾いてジョーカーの頭の上へ着地するとこれまた猫のようにフシャー!と威嚇するポーズをとった。

 

「何すんだこのパツキンモンキー!危うく吐くとこだったぞ!」

 

「んなことはいいんだよ!出口に連れてけって言ってんだ!」

 

「ム・・・そうだな、無駄話している暇はない。警戒されてる今は急がなきゃな。よし、分かった。着いてこいお前ら!」

 

城内の異常な警戒度に気がついていたモルガナはスカウトの話はひとまず置いておいて2人を出口まで案内することにした。小さな体を反転させて一昔前のアニメのように足を回転させながら先導していくモルガナの後をジョーカーは服をたなびかせながら、竜司は不服そうな顔で追っていく。

 

竜司の顔は若干、苦痛に歪んでいるが本人の気力を信じて少しペースを落としながら走る。彼はとある事が原因で怪我を負い足を痛めているためあまり無茶が出来ないのだが、意外とそこは根性でねじ伏せる時が多いので大きな無茶をさせなければ何とかなる。そうして地下を走っているとモルガナが2人に疑問を投げかける。

 

「それにしてもお前らなんでここに迷い込んだんだ?吾輩のようにお宝を探してきた訳でもあるまいし。」

 

「あ?知るかよ、俺らだって知りたいわ!いつも通り登校してたらいつの間にか入ってたんだよ!」

 

「ここは一体何なんだ?」

 

「そ、そうだぜ!学校なのに城っぽいし!変なやつらうようよいるし!」

 

ジョーカーに便乗してゼェゼェと息を切らしながら逆に質問を投げかける竜司。自分の質問に雑に答えられたことにムッとするがまぁいいと流して竜司の質問に答える。

 

「ここは『パレス』だ。」

 

「パ、パレスゥ?」

 

「あぁ、お前らあの顎マントに会っただろ?」

 

「顎マント・・・鴨志田の事か?」

 

唐突に出てきた酷いあだ名をつけられた鴨志田に吹きかけたジョーカー。しかしそれに気づかずに2人は会話を続ける。

 

「名前は鴨志田か、認識が一緒ならそうだな。ここはその鴨志田の心の中・・・現実世界とは別の歪んだ認知が形になった場所だ。」

 

「はぁ?心の中?認知?どういう事だよ」

 

「言ったままだ、ここは鴨志田の認知世界なんだよ。だから奴の認識通り城の形になってんだ。」

 

「???な、なぁお前分かるか?」

 

モルガナの説明に頭に大量のハテナを浮かばせた竜司は不安そうな顔で自分と同じであまり理解出来てないと思っているジョーカーにそう聞くとジョーカーは軽く頷いた。

 

「つまりここは奴のテリトリーというわけか」

 

「その通り!やっぱりお前筋がいいぜ!」

 

完全に理解しているジョーカーの簡単に纏めた回答に褒め称えるモルガナ。それを見た竜司は何だか自分だけ話に置いてかれている気がして理解しようと頭を捻るがそれでも彼には難しかったらしく、やはりモルガナに更なる説明を求めた。

 

「わ、分かんのかよ・・・いやもっとわかりやすく説明しろって!」

 

「なんだよ、理解力のねぇやつだな。つまりだな!ここはパレスという現実世界では無い異世界で、鴨志田が学校を城と思い込んでることでこのパレスは城という形を作り、奴がここの主として君臨してるって訳だ!どうだ!わかりやすく3行で説明してやったぞ!」

 

そう捲し立てるモルガナに竜司はあんまり理解できなかったがまた聞くのも自分が馬鹿だと言うようなものだと思ったのでとりあえず理解したことにして次に彼らが出していた不思議な力について聞くことにした。

 

「お、おう何となく分かった。じゃあよ!あれはなんなんだよ!なんだっけ?あのー、『パル〇ナ』ってやつ!」

 

「『パ〇テナ』じゃねぇよ!『ペルソナ』だ!別会社に喧嘩売るんじゃねぇ!」

 

竜司のギリギリの発言に対してメタ発言でキレるモルガナ。決してあの某大乱闘にも参戦している天使の上司の女神の方ではないのでそこら辺勘違いしてはいけない。訂正しなければ危うく任な天の堂に消されるところであった。そしてモルガナはコホンと一息入れてからペルソナについて竜司に説明を始める。

 

「ペルソナってのは『叛逆の精神』が形になったもの、言わば『意志の力』だ。強い精神力を持つ者が所有し、唯一シャドウ達に対抗出来る力なのさ。しかし驚いたぜ、捕まった先で同じペルソナ使いに会うなんてな。」

 

「あぁ、凄かったんだぜコイツ。ペルソナ?がドォーッ!と出たと思ったらバゴーン!と敵をぶっ飛ばしちまってよ。しかも天井ぶち抜いてここまで登ってきたんだぜ?もう滅茶苦茶だっつの。」

 

走りながら身振り手振りで大袈裟に、しかし過剰表現ではないそれを説明しながらジョーカーを見ると彼は真顔で照れたような仕草で頭をかく。それを見て竜司が「真顔でやんなっつの」と呆れたようにジト目で突っ込むと今度はモルガナが大きな声を出して割り込んできた。

 

「ま、待て!!待て待て!!お前!お前だったのか!?あの凄い衝撃の正体は!」

 

「あ?そうだぜ、コイツがペルソナのアルフォート?だっけ?」

 

「アルセーヌだ」

 

「そうそう、アルセーヌでやったんだよ」

 

2人の肯定に驚愕のあまり言葉を失って鯉のように口をパクパクと動かすモルガナ。自身ですら身の危険を感じる程のパワーを感じさせたあの衝撃がまさかペルソナに覚醒したばかりの者が放ったものとは露ほども考えなかったのだろう。少しの間フリーズしていたモルガナは頭を振って冷静さを取り戻そうと思考の海にダイブする。

 

(あれほどの力を、あの新米が!?いや、しかし初対面であれほどの才能を持っていたやつだ。秘めたる才能があっても不思議ではない・・・か?いやだがそれだけで深地下からここまでぶち抜く力が出るか?・・・いやいやそんなこと考えたもしょうがない。現にここにいるんだからな、それよりも・・・これは『僥倖』だ!吾輩に運が回ってきた!あいつはきっと役に立つぞ!パツキンの方はあれだが・・・上手いこと引き込めないものか・・・ブツブツ)

 

「なんだぁ?今度は黙っちまったぞ?おーい、猫ー?」

 

「迷える子羊ならぬ迷える子猫・・・か」

 

「いや上手いこと言ったみたいな顔すんなよ・・・って!!待った!!」

 

思考に没頭しているモルガナの後ろで漫才をしていた2人だが突然、竜司が大声を上げてその足に急ブレーキをかけた。勿論、ジョーカーも余裕を持って止まりモルガナはその声に驚いて思考の海から出てきてその足を止めた。彼らが止まったのは自分達が捕まっていたのと似たとある牢の前だった。

 

「バカ!大声出すんじゃねーよ!奴らに気づかれるだろ!?」

 

「それよりあれ!あれ見ろよ!」

 

コショコショと小さな声で叱るモルガナだが、竜司はそれを無視して牢の中を指さす。ジョーカーとモルガナがそれにつられて指の先を見るとそこには牢の中でぐったりと倒れている秀囚の赤いジャージの少年がいた。その様子を見るにかなり衰弱しているらしい。竜司は彼も自分達と同じで奴らに捕まっているのだと思い、牢を掴んで中の少年に呼びかける。

 

「おい!大丈夫か!今出してやるからな!」

 

「はぁ・・・お前なぁ理解してないみたいだな?そいつは()()ぞ?」

 

モルガナの言葉に理解が追いつかない竜司は未だに牢を開けようとガチャガチャと扉をいじっているがモルガナはそれを見て大きくため息をついて少年の正体について話した。

 

「何言ってんだお前!早く出してやんねぇと・・・!」

 

「だから!そいつは()()()()なんだよ、このパレス内の!認知存在なんだ。現実世界にいるそいつとは別の影法師、だから助けたって意味が無い」

 

「はぁ!?つ、つまり?」

 

「ここにいる彼は人形のようなもので鴨志田が本物に対してこう思い込んでるってことだ。()()()()()()()()()()

 

ジョーカーのちょっとした補足でようやく理解がいったようでハッとした表情の後にもう一度振り返り、牢の中の少年を見る。満身創痍といった状態で抵抗すら出来ないだろうその生気のない顔。それを見て竜司は眉間に皺を寄せて牢の扉を力強く握り締めた。

 

「なんだそれ・・・それじゃあこいつらは鴨志田から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「おい!落ち着けよ!騒いだら見つかるだろーが!」

 

「うるせぇ!こんなん見て落ち着けるわけが・・・!!」

 

真相に気づいた竜司は激情を顕にしながら牢を全力で殴りつける。その際に大きく発された音と竜司の大声にモルガナが注意するがキレている竜司にはそれが受け付けられるはずもなく更に大声で喚こうとするがそこでジョーカーが動いた。

 

大きく開かれ、今にも怒りの咆哮が飛び出そうな口にジョーカーのスラリと長い人差し指がスっと添えられる。まるで子供に静かにするよう制する母親のように素早く優しく、しかし決して威圧の無い落ち着き払った寡黙な父親のように。全く動いた気配を感じさせずに口に指を添えられた竜司はその形のまま固まり、つい、ゆっくりと口を閉じた。それは今から怒られると悟った子供のように反射的なものであった。

 

竜司の中にあんなに燃え盛っていた憤怒が、冷水をかけられたように急激に冷えていくのがモルガナからも見て取れた。あっという間に静かになったその空間で、ジョーカーは添えていた指を離し竜司の肩に手をやる。

 

「気持ちは分かる、痛いほどに。だが今はここから出る事を優先しよう。一先ず外に出なければ先は無い。」

 

「そ、そうだな・・・悪ぃ熱くなっちまって」

 

「いいさ、誰かを思う心は尊い物だ。さぁ急ごう、一刻も早くここから出るんだ。」

 

「お、おう!」

 

あの一瞬で爆弾のようだった竜司を落ち着かせて見せたジョーカーにモルガナは驚愕の目を向けた。その仮面の中に隠された凄まじいカリスマ性を目撃した事で、彼は自分が思っている以上に途轍もない才の持ち主であると確信した。能ある鷹は爪を隠す所ではない。もっとそれ以上のナニカにモルガナは身震いした。

 

(あいつは・・・欲しい!何としても!)

 

先程よりも情熱に満ちた目をジョーカーの背中に向けながらモルガナは走っていく彼らの後を追っていった。

 

 

 

 

 

そしてその後、何個かのトラップやギミックを突破した彼らはやっとこさ地下から彼らが捕まった城の正面ホールへと戻ってきていた。相も変わらず気持ちの悪い鴨志田の絵が鎮座しているそこを通り過ぎるとその先にある通路に入った。

 

「着いたぞ、ここだ」

 

「よ、ようやくか・・・これでやっと外にっ・・・って!開かねぇぞ!?」

 

1番疲れている竜司が息を切らしながら待ってましたと言わんばかりに奥の扉にがっつき、勢いよく開けようとするがガチャガチャと音が鳴るだけで開く気配がない。騙したなと言いたげな目でモルガナを睨むとモルガナはわざとらしく絶妙に腹が立つように肩を竦めてやれやれと首を振ってから隣の扉に入っていく。

 

「ばーか、こっちだよこっち!」

 

その部屋に入ると出口があるのかと思いきや、やはりただの物置が広がるばかりであった。窓もなくただ灯りがゆらゆらと揺れるだけの部屋を見て竜司はまたモルガナに噛み付く。

 

「ここのどこが出口なんだよ!扉はおろか窓もねーじゃねーか!」

 

「これだから素人は・・・お前は分かるだろ?」

 

「換気口か」

 

「そうだ!パツキンと違って出来るやつは話が早くていいぜ。」

 

ジローッと竜司をジト目で睨むモルガナ。マスコット的な見た目では可愛さしか無いのだが竜司目線ではそれがシャットアウトされてるためイラつきしか感じない。その代わりにジョーカーが心の中で悶えてるのでプラマイゼロだ。

 

「うるせーな、この駄猫!つまりああの網を外せばいんだな!んじゃあせぇーの!!」

 

モルガナに悪態をつきながら早速棚に上って換気口を掴むと全力で引っ張る。固定されているが老朽化が進んでいたためか案外すんなりと外れたそれはすっぽ抜けた竜司と共に棚の下の床へと落ちる。その際に頭を打ちそうになった竜司をさりげなくアルセーヌで庇うと直ぐに引っ込めた。

 

頭に痛みがないことに不思議に思いながら立ち上がった竜司はジョーカーの方へ振り向いた換気口に親指を向けて早く出ようと催促する。

 

「やっと出れるぜ・・・さっさと行こうぜ!」

 

「あぁ」

 

「そんじゃ、これで一先ずお別れだな」

 

「は?お別れって、お前はどうすんだよ」

 

「吾輩はまだやることがあるからな。それを済ませてからだ。」

 

(それに、この様子だと恐らくコイツらはまた来るだろうしな・・・)

 

そう言って表では別れの挨拶をしながら心の裏でしめしめとほくそ笑むモルガナ。そんな彼の思惑を読むどころか知っているジョーカーはモルガナの前でしゃがみ、その小さな手と握手を交わす。

 

「ありがとう」

 

「ハッ!律儀な奴だな、外には奴らはいないだろうが気をつけて行けよ」

 

「おう、じゃーな猫!あんがとよ!」

 

「あばよ・・・って!猫じゃねーわ!!」

 

最後の最後までいがみ合っていた竜司とモルガナであったが、やはり案外彼らの相性はいいらしい。こうやって悪口を言い合いながらもいざとなると息があったりするのはきっと性根というかタイプが似ているからなんだろう。まぁそれ故に犬猿の仲ならぬ猫猿の中に見えるのだが。

 

ともかく、1度目の侵入はここでお開きだ。手を振るモルガナを後目に竜司と共に換気口へと潜り込み、城の外へと走っていった。

 

 




変な所で区切ったし、駄文でごめんぬぇ・・・

ここのジョーカー君の恋愛事情なんですけど、ハーレム路線で行くか迷ってます。それはもうめちゃくちゃ悩んでます。何故かって言うと私がゲームでは絶対一途派だから。ヒロインは変えるんすけど。だからハーレム路線には若干抵抗感があるといいますか・・・。なんで全股屋根ゴミルートを行ってる人は尊敬してる。メンタルすげぇ。

まぁここのジョーカー君も過去にやらかしてるけどね!いずれ描写するけど!

とりあえずそこら辺はおいおい考えていこうと思います。ヒロインすら決定していない現状なので。

多分、彼女になるんじゃないかな・・・


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Let's take back what's dear to you/Part1

ペルソナ5のヒロインって皆可愛くて魅力的だからマジで迷いますよね・・・色んな案も頂いたんですけどやはりこの子かなとあの子に決めました。皆さん感想と案の提供ありがとうございます。

後、フラグ全立てした挙句に竜司とくっつくまさかのジョーカーヒロインルートに思わず吹きました。

毎度毎度の誤字修正や指摘ありがとうございます

さぁ今回も〜!レッツ!マキマキー!


モルガナと別れた後、脱出するために城の門へと走った2人。一刻も早く脱出しようと全力ダッシュで木の橋を超えると視界いっぱいに赤と黒の波紋がぐにょ〜んと広がった。

 

「う、お・・・!?なんだ今の!?」

 

「ん・・・どうやら出られたみたいだ」

 

それと同時に感じる世界がねじ曲がる様な感覚と風船から空気が抜けていくような脱力感に見舞われると気がつけば辺りの景色は一変し、配管だらけの薄暗い裏道に戻っており空は通常の爽やかな青色に、振り返れば学校も気味の悪い城から元に戻っていた。どうにか無事、異世界から帰還したようだ。

 

竜司は自分の体や持ち物に欠損がないか確認し、無事だと確認すると大きく息を吐いた。

 

「良かったァ・・・生きて帰って来れて・・・なんか空気が美味く感じるぜ・・・」

 

あそことは違い、空気が新鮮に感じて風もどこか心地いい。竜司は思わず深呼吸をしてそれをなるべく多く取り込もうとした。それほどまでにあのパレスという場所は空気が澱んでいたようだ。

 

人の、しかも腐敗して歪んだ心の中というのはやはり体に悪い。その瘴気がまるで毒のように少しづつ蝕んでいくのだ。ジョーカーのように怪盗服という異世界に対しての耐性のある装備、言わば防護服じみたものが無ければ体調を崩してしまうだろう。

 

そうして空気を入れ替え体に入った瘴気を吐き出しているとジョーカーのスマホから無機質な女性の音声が響いてくる。

 

『現実世界に帰還しました、お疲れ様でした。』

 

「あ?帰還しました・・・?逃げきれたってことか?」

 

「そうみたいだ、学校も元に戻っている」

 

「うぉ、ホントだ・・・あ、お前も服戻ってんな。」

 

竜司が指摘した通り、ジョーカー・・・いや蓮の服はパレスから出たことにより元に戻り秀尽の制服に戻っており、肩にはいつの間にか鞄がかかっている。辺りのことを含め何から何まであそこに迷い込む前に元通りといった感じだ。

 

まるで今までの出来事が夢物語だったようにすら思えてくるが鴨志田に殴られたことで頬に残るジンジンと熱い痛みと走ったことで痛む両足によってあれが現実に起こったことであると竜司は確信している。

 

しかし、帰ってくるまでに数々の濃過ぎる体験をした竜司は一気に体に疲労感が襲ってくるのを感じた。今にも倒れそうなほどフラフラと体を揺らしているが蓮がいる前で情けなく倒れられねぇと男のプライドと気合いで何とか立っている。

 

「クソ、何が何だかって感じだぜ・・・」

 

「ともかく出れてよかった・・・さて、学校に入るか」

 

「えぇ・・・!?お前切りかえ早すぎじゃね?あんなことあったんだからよぉ、ちょっと休憩しても良くね?てか、もうサボりてぇよ・・・。」

 

未だ混乱の残る頭をくしゃくしゃとかく。今ここに立っている所も実はあの世界にある一部なんじゃないかととすら思うほど境界線が曖昧になっているのだ。そんな状態で学校に行かなければならないなんて罰ゲームか何かと言いたくなるが、彼の隣にいる男はそんな感じは一切感じさせず寧ろ元気いっぱいと言った感じで顔をキリッとさせている。

 

第一関門であるペルソナの覚醒とモルガナとの接触を済ませ目的達成した為、今の蓮はすこぶる機嫌がよく元気であった。

 

そんな蓮をジト目で見るがまぁ確かに、今自分が置かれてる状況でサボりなどという非行をすれば更に追い詰められるので仕方なく学校に入るかと言う所で真正面、つまりは校門の方から彼らに向かって声がかかった。

 

 

 

 

「ほぉ?遅刻しておいてそんな言い草とは、偉くなったもんだな?坂本?」

 

 

「ッ!鴨志田・・・!」

 

 

そう、2人を見下すように腕を組んでそこに居たのはあちらの世界で竜司達を無惨に殺す1歩手前まで追い詰めた異世界の王様としてふんぞり返っていた顎・・・失礼、すね・・・鴨志田本人であった。

 

あちらと違うのはちゃんと服を着てすね毛を露出していないことぐらいか。いや露出してたら刑務所に直行鴨志田全カットルートに入るのだが。

 

竜司は思わず鴨志田を睨み、身構える。それを見た鴨志田は更に眉間の皺を深くして竜司を見る。それだけで1人以外空気がピリつくのを感じた。

 

これだけ見ればわかる通りこの2人の相性は最悪の一言だ。周りの雰囲気が一瞬で最底辺まで落っこちるくらいには。馬鹿だが、義理堅く情に厚い竜司と自分の立場に天狗になり他人を道具のように扱う鴨志田。曲がったことは許さない青年と腐り切った大人がぶつかっていればそうなるのも必然だろう。

 

それに()()()もあって2人は犬猿の仲を飛び越して竜司と鴨志田という言葉が作れるほどに敵対関係にあった。

 

「なんでてめぇが・・・!」

 

「廊下の窓からお前らが見えたから、わざわざ来てやったんだ。もう昼だぞ、こんな時間まで何をやっていたんだ?」

 

「は?昼?なに言って・・・なぁ!?ま、まじで昼じゃねぇか・・・!」

 

竜司が何を馬鹿なとスマホをつけ時計を確認すると画面には12時過ぎを写していた。どうやらあの世界に行ってた間にいつの間にか結構な時間が経っていたらしい。

 

異世界と現実世界の時間の流れは僅かに違うようで、というか変にあべこべになっているようでこうやって1時間ほど中に入っていたら外では数時間経ってたとか、逆に数時間中にいたのに外では1時間ほどしか経ってなかったなど時間の概念が捻れているのだ。

 

中に入って直ぐに戻ったのに夜になってたとかね(ゲーム仕様)

 

それを竜司が知るのはもう少し先になるだろうと蓮も竜司のスマホに目をやりながらそう考えた。それを見た鴨志田は何を言ってるんだと馬鹿にするようにため息を吐いて不愉快そうに竜司を指さす。

 

「おかしなこと言って誤魔化そうとしてんじゃないぞ。どこ行ってたかさっさと吐け、時間が惜しい。」

 

「・・・城?」

 

「お前・・・巫山戯てるのか?そんなつまらん言い訳をしおって」

 

事情を知らなければバカにしているとしか思えないような言葉に鴨志田の目がさらに鋭くなる。まぁあんな体験をしたからといって馬鹿正直に話したって誰だって不機嫌になるだろう。しかし悲しいことに竜司はこういう時に働く柔軟な思考など持ち合わせていなかった。

 

ここで上手く法螺を吹ければいいのだが鴨志田の態度にカッとなった竜司は罵倒の言葉を吐こうとする。しかし、そこでそうなると話がこじれこちらまで巻き込まれると判断した蓮が動いた。竜司の前に腕をやって発言を止め、任せろと頷いてから鴨志田の方を見る。

 

「すいません、先生。僕から説明させてください」

 

「ん?お前例の転校生か・・・なんだ?言ってみろ。」

 

竜司が反抗してくると思っていた鴨志田は急になんだと訝しむような顔で蓮を見ている。相変わらず高圧的な奴だと考えながらそんな奴に向けて昔から使い回しているこの場面専用のカードを切った。

 

「実は登校中に僕が不良に絡まれているのを彼に助けてもらったんです。」

 

「何ィ?」

 

そのやや嘘くさい言葉に鴨志田はまた眉を顰める。隣にいる竜司も心当たりがないと驚いた様子で蓮を見るが合わせろという意味を込めた瞬きが通じたようで怪盗団の中でも意外にも演技派な所がある竜司とプロ演技の蓮の小芝居が始まった。

 

「あぁ・・・マジだよ、こいつが駅らへんでチンピラに絡まれてたんだ。」

 

「けど、そいつらがかなりしつこくて。ずっと追いかけてくるもんだから巻くのに時間がかかりまして必死に逃げてたら・・・気づけばこの時間に。」

 

「あれはお前が煽ったからだろ?」

 

「え?正論ぶつけただけだけど・・・」

 

「お前なぁ・・・」

 

嘘は言ってない。内容が現実的になっただけでそういう状況になっていたは事実だ。嘘を言う時は真実を混ぜるのが有効。真実の方を多めにすれば尚良し。それに加えて違和感の無い、本当にそうであったかのように振る舞う演技力を加えれば騙せない者などいない。それは目の前の鴨志田だって例外ではなかった。いや寧ろ数多くの人間と接しそれを騙してきた鴨志田だからこそ、蓮達を見下しているからこそ、それに引っかかる。

 

「ふむ・・・」

 

(疑わしいがあの目、そして表情を見ると嘘をついている様子はない・・・と、すれば事実か。たかがガキが俺の目を誤魔化せるはずが無いからな)

 

子供が自分を騙せるはずがないとタカを括った鴨志田は見事2人のドツボにハマり、完全に手玉に取られていた。本心では竜司にはここで更に痛手を負わせようと思っていたが問題児とはいえ転校生もいる前だ、今回ばかりは特別に目を瞑ってやってもいいだろうと上から目線で考える。それにここは校門前だ、どこから誰が話を聞いたり見たりしているか分からない。なら、ここは寛容な先生を演じるのが得策だ、と。

 

自分が騙されてることに気が付かないままそう考えた鴨志田はフンッと鼻を鳴らして校舎を親指で指した。

 

「事情は分かった、今回は大目に見てやる。ただし次はないぞ坂本。お前もだ転校生、いいな?分かったらお前は職員室まで行け、川上先生は待ちくたびれてるぞ。坂本は教室だ、そら、さっさといけ!」

 

それだけ言うと鴨志田は1度竜司を睨んでからずんずんと校舎の中へと入っていった。竜司も睨み返し、少しの間去っていくそのデカい背中を睨んでいるとふぅ、と気持ちを切り替えるため息を一つ吐き今度はニッと笑って蓮へと振り向いた。

 

「ヘッ!鴨志田の野郎まんまと騙されやがったぜ!ザマミロ&スカッと爽やかって感じだな!!」

 

「そうだな」

 

ニシシッとイタズラ小僧のように笑う竜司に蓮も釣られてしてやったりのイケメンスマイルを零す。下手をすればラスボスの歪んだ色欲効果すら上回りそうな慈愛と色気を含んだそれを不幸にも、いや幸運にも?たまたま校舎の3階の窓から見ていたとある女子生徒は突如鼻から鮮血を吹き出して廊下に勢いよくぶっ倒れた。保健室に連れていかれる彼女の顔は何故かは分からないがとても満足したように笑みを浮かべて「尊い・・・」と呟きながらサムズアップをして運ばれて行ったという。

 

この彼女が後に貴腐人となりBL業界に革命を齎す程の名作を数々生み出す伝説の超大物BL漫画家になるのはまた別のお話。

 

そうとも知らずに蓮達は校舎に入って行き、また後でなと合流する約束をしてから竜司は自分の教室へ蓮は職員室へ向かった。

 

(さて、行くか)

 

堂々とポケットに手を突っ込んだまま勇ましげに歩く蓮の姿に廊下がざわつき始める。少し耳をすませば「アイツが例の・・・」とか「田舎のヤベー奴」とか噂を鵜呑みにした奴らの恐怖を向けた言葉が聞こえ、腫れ物を見るような視線が蓮に集中している。

 

しかし、雨宮蓮は動じない。

 

こんな目線を一体どれほどの時間浴びてきたと思っているのか。今更こんなものに動じるほど蓮の心は弱くない。寧ろ、ここにいるこの目線を向けてくる奴らを愚かに感じ、同時に嘘を嘘と見抜けず噂を鵜呑みにする情弱さに情けなさを感じるぐらいだ。

 

まぁ今はこんなものに付き合ってる暇はない。さっさと帰って惣治郎の珈琲が飲みたいな・・・なんて考えながらふてぶてしく歩く姿にまるでモーセの海割りのようにササッと人が避け彼が歩く道が空く。そんな目立った状態でも彼は一切ブレることなく悠々と進む。範馬勇次郎かよ。

 

そうしている内に職員室まで辿り着くとドアをノックして失礼しますと一言かけてからドアをスライドさせ開いた。

 

中に入ると物が多く割とゴチャついた職員室の中に数人の先生が生徒と喋ったり課題の作成などをしている。チラリと視線を動かすと少し先のデスクに蓮と同じようなモサッとした髪型が目に入った。

 

このまま彼女の方へ行くとどこから湧いてきたのかThe 昭和の男といった感じのサスペンダーが特徴的な公民の先生、牛丸が名前も言わず用も言わずに入るとは何事か!と社会の礼儀やらなんやらの説教が始まるので声を上げて入室する。

 

「転校生雨宮蓮です、川上先生はいらっしゃいますか?」

 

「ん・・・やっと来た、どうぞ。」

 

こっちに振り向き頭を抱えながら許可を得たのでスタスタと川上の方へ歩いていく。そして目の前に着くと露骨にため息を吐き頭を振った。頭痛でもするのだろうか(すっとぼけ)

 

「先生、ご気分が優れないようですが」

 

「誰のせいだと思ってんの・・・初日で半日遅刻って、今まで何やってたの?」

 

「その事なんですが実はかくかくしかじか四角いムーヴでして・・・」

 

鴨志田に言ったことをそっくりそのまま純度100%でお届けすると川上はまたもやため息を吐き、しかしさっきとは違いなるほどねと腑に落ちた感じで同情するような様子だった。確かに転校初日に不良に絡まれるとか不幸の極みだし、なんならもっと酷い目にあってるし。寧ろ、不良に絡まれただけの方がすぐ済むから蓮としては楽なのだが。

 

しかしここで同情してくれるとは彼女の根本にある教師としての慈愛や優しさが垣間見得る。彼女は今はすっかり疲れきっているが本来は生徒に寄り添う優しい先生なのだ。原因は過去の出来事にあるのだが・・・まぁ今は置いておこう。

 

「まぁいいわ・・・でも、あの坂本君がね・・・」

 

「?あの坂本?」

 

「・・・なんでもない、ともかく事情は分かったわ。もう休み時間も終わるし教室に行きましょう。あ、そうそう。地下鉄事件の影響で今日は5限までだから、それと授業の前に自己紹介してもらうからね。」

 

「はい、分かりました」

 

そう言って教材を持って立ち上がり歩き始める川上の後ろをついて行く蓮。この時期はツンツンしてるけど打ち解けると嘘みたいにデレデレしてくれるんだよなーと懐かしい思い出に浸りながらフッと笑っている。何色男ムーヴしてんだと思うが残念な事にコイツはマジモンの色男なので恐ろしいほどに様になっている。イケメン滅びろ。

 

だが、蓮はそれは過去の記憶だとそっと蓋を閉め今は先生と生徒の関係だと意識を切り替える。それとこれを一緒くたにしてしまうのは良くないことだと頭に蘇ったトラウマで背筋に鳥肌が立たせながら考える。そうしたことで失敗した事がある故の危機感であった。

 

そんな蓮をたまたま通りがかった耳ざとい女子生徒2人が通りすがりに目撃する。

 

「ねぇ、今のって噂の・・・」

 

「うん・・・・・・クッッッソイケメンね・・・!」

 

「いや、ただの面食いじゃねぇか!?違ぇよアホッ!!」

 

彼らが通りすがった後で無駄に清々しい顔で鼻血を垂らす面食い女子生徒とツッコミの鋭い女子生徒による漫才が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が少し進み、2年D組の教室

 

 

 

 

 

 

今、この教室内の緊張感はピークに達していた。

 

 

本来ならガヤガヤと騒がしい教室内は風によって揺れ動くカーテンの音や時計の針の音が響くくらいにいやに静かであり、椅子に座る生徒達はほぼ全てが自分の机を凝視し正面を見ようとしない。しかもまだ肌寒さの残る春のはずなのにダラダラと汗をかいている。

 

その様子は蛇に睨まれた蛙のようで酷く怯えているのが容易に見て取れた。

 

 

この状況を作り出した原因は、勿論黒板の前に立つ1人の青年である。

 

 

まるで某奇妙な冒険に出てくるような『ドドドドド』という擬音が似合いそうなほどに凄みのある堂々とした立ち姿に決して出さないという鋼鉄の意志を感じさせるくらい深くポケットに入れられた手。そして威圧感たっぷりに怪しげに光るメガネ。名前に2個ジョが付いてますか?と聞きたくなるほど正に噂に勝るヤベー奴と言った感じのオーラを纏う男。

 

そう、我らが主人公。雨宮蓮である。

 

彼としてはちょっとした遊び心でちょこっと悪ぶってるだけなのだがそれはあくまでも彼の感性での話。それを三人称視点で見たのが上に書いた通りの状況である。正に地獄絵図と言った感じだ。やめたれ。

 

「え、えーと・・・じゃあ、その、転校生を紹介します。雨宮蓮君です・・・。」

 

蓮は川上の声にコクリと頷くとその場で振り返りおもむろに白チョークを手に取るとカッカッと音が鳴るほど素早く力強く黒板に走らせる。その間もクラスメイト達は無言で物音一つたてない。そして自分の名前を黒板に書き終わるとチョークを置き、再び振り返って淡々とした声で自己紹介を始めた。

 

「雨宮蓮です。紆余曲折あってここに転校してきました。好きな物は猫と珈琲とカレー。嫌いな物は・・・・・・。特技は色々あります。よろしくお願いします。」

 

普通、正に普通。これ以上もこれ以下もない。そんな特にこれと言って特徴の無い普通の自己紹介をするもクラスメイト達の心情は正に嵐の様に乱れまくっていた。

 

(嫌いな物なんだよぉぉ!!言えよォ!何だその間はぁぁ!?逆らってくるやつとか邪魔なやつとか言うのか!?ヤクザかよ!!!)

 

(噂通りなんかじゃねぇ!!噂以上じゃねぇかぁ!揶揄うとかそういうことが出来る次元じゃねぇやつじゃねぇーかぁぁぁ!!)

 

(てゆーか何!?なんであんな名前デカデカと黒板に書いてんの!?自己主張強すぎんだろ!!??怖ぇよもう!!)

 

そう、蓮は無駄にデカく黒板に名前を書いていた。そこに深い意味は無い。何となく、前の周回よりも大きく書くかというのを繰り返した結果黒板いっぱいまで大きくなってしまっただけのことである。しかしそれがクラスメイトに更なる圧をかけていることを本人は気づかない。自己紹介を終えなんのリアクションも起こさないクラスメイトを他所に黒板の名前を消していく。

 

まるでお通夜ムードになってしまった教室に川上は躊躇いながらも蓮を席へと誘導する。

 

「えっと、じゃあ、席はあそこで・・・」

 

「はい」

 

蓮の歩く音だけが教室に響く。隣になったことを嫌がる女子生徒の呟きもそれをイジるガヤも湧かない。湧くはずがない。ここでそんなことをするのは余程の命知らずだけだ。それほどまでにこの教室の空気は重く、悪い。しかもそれに蓮本人が気づいてないどうしようもなさっぷり。

 

しかし、そんな空気の中でも蓮に話しかける人物はいた。日本人離れした美しい顔立ちにふわもこの金髪ツインテールをした女子生徒。そう、今朝駅前で会った杏であった。

 

「・・・嘘」

 

「あ、朝の。あの時はどうも。」

 

「・・・・・・ん。」

 

会話とも言えないようなそっけない短いやり取り。まぁ知り合ってすらいないこの状況ではこうなのも仕方ない。早く気兼ねなく話せる仲になりたいものだと考えながら杏の真後ろの自分の席につく。2人の関係性が気になったが口に出したらやられるとマジで考えているクラスメイト達は口に厳重なチャックをして黙って早く時が過ぎるのを待っていた。

 

「あー・・・・・・そうだ、明後日球技大会だから親交を深めてね・・・じゃあ、じゅ、授業を始めまーす・・・」

 

ウサギ小屋にイタチが放たれたような状況に川上は軽く目眩を憶えながらも何とか耐えきりこの空気の中でやるのも嫌だが仕方なく授業を始めた。

 

その後、何の問題もなく(?)授業は進み時の流れが遅く感じ気が気でない時間を過ごしているクラスメイト達は蓮からの(かけられてない)プレッシャーに晒されながらも黙々と授業に取り組んだ。普段はお喋りが発生するはずなのだが今日はそれが一切なく皆真面目に話を聞いていた。川上に指された時以外は皆無言、一言も喋らずにただただこの時間の終わりを望んでいた。

 

ちなみに蓮の隣の女子生徒は終始涙目だった。

 

そうしているうちにチャイムが鳴りようやく授業終了時間となって地獄のような5時限目は幕を閉じた。クラスメイト達は皆緊張感から開放されたことで脱力し隠れて大きくため息を吐く。どんだけプレッシャー強かったんだよ。出てないのに。蓮の後ろの席の男子生徒に関しては変な扉を開きかけていた。その先は地獄だぞ()

 

この1時間でこれまでの人生で1番集中した気がする、恐怖を誤魔化すために勉強に集中するなんてこれからの人生で絶対に経験しないと後に地味オブ地味の三島は語る。

 

それは川上も同じだったのか心無しか最初よりもやつれているように見える。目頭を揉んでからため息を吐きさっさとSHRを切り上げ、早足気味に職員室に帰って行った。

 

さて、これで今日の学校はおしまい。俺も竜司に会いに行くかと少ない荷物を纏めカバンを持つと後ろのドアから出ていく・・・前にクラスメイト達にとって特大の爆弾発言を残していった。

 

「それじゃあ皆、()()()()()()()()()!」

 

その一言でクラスメイト達は比喩でもなく凍りつき、蓮が楽しげに教室から出ていった数瞬後凄まじい絶叫が教室を大きく揺らした。まるで地獄に叩き落とされた罪人の嘆きのような声を後目に周回の中で溜まった学校への鬱憤を少し晴らしてご満悦な蓮はややスキップ気味に廊下を歩いて行った。

 

「何かエラくご機嫌だな・・・なんかあったか?」

 

「ちょっとな」

 

その先で鉢合わせた竜司に若干引かれながらもニコニコと笑う蓮。不思議そうにしながらも「とりあえず屋上行こうぜ」と親指で階段の方を指さす竜司。どうやら誰にも聞かれない場所で話し合いたいらしい。もちろん断る理由がないのでついて行く。

 

屋上で2人きり・・・何も起きないはずもなく・・・え?何も起きない?あ、そう(落胆)

 

ちなみにここはタイミングが悪いと鴨志田が来てしまうので出来るだけ早く登るようにする。運悪くエンカウントとすると問題児2人が一緒にいるというだけで暇人なのかと言いたくなるくらいちょっかいをかけられるので大変面倒くさい。なのでパパっと上に行ってしまおう。

 

そしてどうやら蓮達が3階に登ったと同時に先程まで蓮達がいた2階に鴨志田と校長が来たらしい。この校長もありがたーい小言がうるさいから捕まると厄介なのだ。この2人にエンカウントするということは1周目の時にろくなペルソナを持ってない状態でシキオウジとキンキを同時に相手取るぐらい面倒だ。絶対に会いたくない。

 

ちなみに作者はその2体に単体で死ぬほどボコられたことがある。SP枯渇状態で出会って物理無効で連続クリティカルってなんだよ(ブチ切れ)俺は敵として出てくるこの2体だけは絶対に許さないと心に誓っている。あとインキュバス、テメーもだ。そのご立派な下半身の角をぶち折ってやっからな(憤怒)

 

さて、話は戻りそんなこんなでその会話を耳にしながら蓮は屋上へと出ていった。

 

そこにはフェンスで囲まれ机と椅子が散乱し、ちょっとした菜園と植物のプランターなどが置いてある如何にも問題児が溜まり場にしてそうな場所であった。竜司はキョロキョロと誰もいないことを確認すると散乱した机の方へ行きそこに仕舞われていた椅子を引いてドカッと座った。それに合わせて蓮も机を少し引いて丁度いい位置に置きそこに腰掛ける。

 

「ふぅ・・・悪かったな、急に連れてきちまって。川上に言われたろ?俺に関わるなとかどーとか。」

 

「別にいいさ、特に何も言われなかったし」

 

言われなかったというか言う暇も元気も奪ったというか。しかし蓮は悪びれもせずにそう言った。責任?何それ美味しいの?とでも言うように平然としている。流石、田舎のヤベー奴なだけある。

 

「あ?そうなのか・・・まぁいいか。だとしてもお互い様だな、聞いたぜ?『前歴』あんだって?噂んなってるよ。道理で肝が図太ぇ訳だ。」

 

「まぁな」

 

前歴のことなど最早屁でもない蓮はややドヤ顔気味にそう返すと竜司は困惑しながらツッコミを入れる。

 

「いや威張るとこじゃなくね・・・?って、そーじゃねぇ!話したいのはそんなじゃなくてあの城の事だ。」

 

ツッコんでから姿勢を変え、前かがみになって真剣な顔で迷い込んだ鴨志田のいたラブホテルじみた城について話し始めた。

 

「猫が言うには歪んだ認知が形になった場所・・・だったか?らしいけどよ、つまりは鴨志田の野郎がここを自分の支配する城だと思ってっからあんな分かりやすい城になってんだろ?」

 

「そうなるな」

 

「・・・お前は知らないだろうけどよ、奴には黒い噂があんだよ。」

 

「黒い噂?」

 

「あぁ、色々とな。けどバレー部の顧問で元メダリスト、しかも部を全国に行かせてったから誰も文句言えねぇ。そんなとこがあの城にいた王様気どってた鴨志田に被って妙にリアルなんだよ・・・くそ、もっかいあそこに行ければ何か分かるかも知んねぇのに・・・!」

 

パシンと拳と掌を合わせて悔しそうな顔をする竜司。彼が鴨志田にされた事を考えれば、そして奴が裏でやってる事を考えれば当然だろう。それを確かめる術があるのにどうやってあそこに行けるのかが分からない。あと少しで答えが分かるというのに解いていた問題を奪われたような感覚だ。

 

「・・・・・・つっても今日は色々あり過ぎて疲れたしな。帰って休もうぜ。この続きはまた明日にしてさ。」

 

苛立ちながらも今日の出来事を振り返り、ごちゃごちゃになった頭やフラフラの体を休めなければと竜司は後味の良くないものを残しながらも蓮にそう笑いかける。しかも自分も疲れてるというのに蓮の方を気遣っての提案だった。この男、ここまで気配りができるのに何故モテないのか理解が出来ない。色々余計なことを言うからだろうか(正解)

 

それに対して蓮は今、行く方法があるかもしれないととっくに知っている異世界ナビの事を知らせることも出来るがそれをせずにそうだなと頷き、スマホをポケットに戻した。確かに自分はまだまだ余裕があるが竜司はそうでは無い。ここで異世界ナビの事を知らせれば竜司はきっと無理をしてでもパレスに行こうとするだろう。

 

そうするとどうなるか?竜司が疲労困憊になり、最悪死ぬ

 

 

死ぬ(絶望)

 

 

何かが違うこの周回でリスクを犯す必要は無い。竜司にはまた後日これの存在を知らせれば安全に事を運べるのだ。ここは安牌を切るべき所、勝負の目ではない。そう考えながら蓮は「腹減ったー」と言いながら屋上から出ていく竜司の背中を見つめていた。自分もそろそろ行くかと机から腰を上げ、扉の方へ歩く。その途中で屋上のフェンスが目に入る。

 

「・・・・・・。」

 

蓮は少しの間そのフェンスを意味ありげに見つめてから自然と鋭くなった目を隠す様に眼鏡をクイッと直してから再び屋上の扉へ向かった。

 

「そーだ、言い忘れてた!」

 

「ん」

 

そして蓮が扉を開けようとした瞬間にガチャリと勢いよく扉が開くが何となく察知していた蓮はひょいと横に軽く移動して回避した。割と凄いことをした蓮は何事も無かったかのような涼しい顔で竜司を見る。竜司も一瞬ビックリしていたが直ぐに元に戻りサムズアップをしながら笑顔で忘れていた自己紹介をした。

 

「俺、『坂本竜司』な!学校で見かけたら話しかけっからシカトすんなよ?問題児同士仲良くしようぜ!」

 

「ああ、よろしく竜司。俺は雨宮蓮だ、レンレンと呼んでくれ。」

 

真顔で両手ダブルピースをかました蓮に竜司はキョトンとした後に盛大に吹き出した。それは竜司にとって久々に出た腹を抱えるほどの大笑いだった。

 

「ぶっは!!んだそれ、パ、パンダかよ!ハハハ!お前おもしれーな!噂より全然良い奴だし、何かお前となら超仲良くなれそーだわ!」

 

笑い過ぎて涙目の竜司を見て何だか度胸と魅力が上がった気がする蓮。出会った初日だと言うのにこの打ち解けよう。やはり最初に出会い、最後まで共に戦い続けたこのペアはかなり相性がいいようだ。まぁ片方が何度も相方と戦い続けた奴だからというのもあるだろうが。

 

「んじゃあ、また明日なレンレン!」

 

「また明日、竜司」

 

2人は一気に距離の縮まった彼らはまるで数年単位で絡んだ友人のような別れをしてそれぞれの帰路についた。

 

 

 

 

 

上手くコミニケーションが取れたと満足気に笑みを浮かべながら電車に揺られる蓮。そして四軒茶屋駅から降りてすっかり暗くなった道を歩きついでに買ったジュースをカバンに入れながら愛しのルブランへと帰宅した。心地いい鈴の音を聞きながら中に入るとカウンターの向こう側で惣治郎が仏頂面で蓮を出迎えた。

 

「ただいまです」

 

「よう、初日から半日も遅刻とはいい度胸じゃねぇか。学校から連絡あったぞ。」

 

「すみません」

 

意外にもなんの言い訳もせず素直に謝罪した蓮にパチクリと瞬きした惣治郎は目頭を揉んだ後、仏頂面を止め今度はニヤリと悪い笑みを浮かべる。どうやらさっきの不機嫌さは演技だったようだ。いい男はどんな一面も演じれるらしい。実は蓮にはバリバリ見抜かれていたが。

 

「冗談だよ、朝から災難だったみたいだな。登校初日に不良に絡まれるたぁ、まぁやり返さなかっただけ褒めてやるがな。改めて言うが問題を起こしたら今度こそ人生終わっちまうってんだからそこはよく考えて行動しろよ。」

 

「心得てます」

 

「なら良し」

 

蓮の返事にフッとお得意のダンディ大人スマイルをする惣治郎。やはりこの人いい男過ぎる。枯れ専の人は直ぐに堕ちるんじゃなかろうか。なんて考えていると惣治郎のスマホに電話が入る。惣治郎は蓮を見て蓮が頷くとスマホを取りだし、電話に出た。

 

「おう、どうした・・・あぁ店閉めた所だ、ちゃんと30分で着くよ。あぁ、んじゃあ後でな。」

 

「女ですか?」

 

「はっ倒すぞ」

 

電話を切った後今度は正面突撃右ストレートで失礼をかました蓮に惣治郎は青筋を立てながらカウンターに置いてある分厚い本を構える。それに対して蓮は「冗談です」と言いながら観葉植物を盾にした。惣治郎は2回目のやり取りにやはりこいつは小生意気な所があるなとため息を吐きつつ心の中で少し笑いながらエプロンを解く。

 

「それじゃあ俺ァ帰るから鍵閉めよろしくな、電気も消しといてくれ。飯は冷蔵庫のもん使っていいが、使い過ぎるなよ。買い出し面倒だからな・・・や、そうなったらお前に行かせるけど。」

 

「GIG」

 

「どういう返事だよそりゃ・・・まぁいい、頼んだぞ」

 

そう言ってパパッと服装を整えて帽子を被ると惣治郎は手を振りながら店から出ていった。どこかの作者の思い出の怪獣防衛隊で使われる了解の意を持つ言葉を放ちながら敬礼のポーズをとってその背中を見送る蓮。伝わりづらい言葉を使うな()

 

そして惣治郎が出ていった後は一旦上にカバンを置いてから再度降りて一応鍵をかけてから夕食の準備をする。カップラーメンでもいいが今日は少し()()()ものが食べたいなという気分であった。具体的に言うと塩気のある和食がいいと考えながら冷蔵庫を開ける。

 

「ふむ・・・これなら」

 

冷蔵庫を漁ると適当にあった有り合わせの食材で夕食を作り始める。その様子はとても様になっていてまるでこっそり帰宅して覗き見するとテキパキと家事を進め嫁の帰りを待つ専業主夫を見たかのよう(?)。

 

ちょっとよく分から無いがそうして手際よく作られたのはホカホカの白飯とカリカリのベーコンエッグ、インスタントの味噌汁にどこから出てきたのか秋刀魚の塩焼き、そして千切りにした山盛りのキャベツ。それに醤油などの調味料を用意し、客席の机に置く。

 

その全てが特に特徴もない庶民的で平凡、普通の料理だと言うのに何故か酷く食欲をそそられる美味しそうな出来となっている。

 

「ご機嫌な夕食だ・・・・・・じゃあ、いただきます」

 

一瞬だけ作画が板垣先生寄りになった蓮は手を合わせ食材への感謝を告げると手作りの夕食を美味そうに食べ始める。

 

ズズ・・・と味噌汁を啜り、ベーコンをパク・・・と口に運び、モリ・・・と山盛りのキャベツを食べ、メリ・・・モニュ・・・と咀嚼する。もう顔が完全に範馬○牙になりつつあるが気にせずに食べ続ける。自分で言うのもなんだがかなり美味しい。このままグラップラーになり神イントロが流れ出しそうな雰囲気を出しているとどこからかヨダレを飲み込むような音が聞こえた気がする。

 

きっとここを監視している彼女のだろうと気配を察知した蓮は考える。しかし彼女はそれを指をくわえて見ているしかない。ふはは、悔しかろう。カップ麺を啜って空腹を満たすがいい、いつか作ってあげるから(慈母神)

 

そしてあっという間に完食すると手を合わせ、自らの体の1部となった頂いた命達に再び感謝を込めて「ごちそうさまでした」と言いながら頭を下げた。今度は煮付けでも作ろうかなと考えながら食器を洗い片していく。

 

最後に帰りに買っていおいた缶コーヒーを飲んで食後の贅沢コーヒーを味わう。本当はルブランコーヒーがいいのだが生憎器具は全部使えないので仕方なくこれで代用している。まぁたまには悪くないがやはりルブランコーヒーに比べると味は格段に下がる。いや缶コーヒーと本格的なコーヒーを比べるのはおかしいと思うが。でもやっぱりルブランコーヒーがいいと思うほど蓮の中にその味は深く刻み込まれていた。

 

(さて・・・)

 

蓮は缶コーヒーを机に置き、手を口元を隠す様に組み思考を走らせる。いわゆるゲンドウポーズで今日の出来事、その一部分のことを思い返していた。

 

(これまでのループの中であの()()の存在は1度だって確認出来なかった。本来ならば無いものがここに来て急に現れた・・・それが何を意味するのか・・・もしかしたら、俺が思ってるよりもこれは重要な事なのかもしれない、そんな気がする。)

 

そんな自分の直感に引っかかったことを考えるがまだまだ核心に至るには材料が足りないなと一旦これを切り上げ、コーヒーを一気飲みした。

 

(明日は2回目の潜入だ・・・どんなイレギュラーがあるか分からない以上、気合い入れて行かなきゃな)

 

コーヒーを飲み込みながら密かにやる気を燃やす蓮。ぐしゃりと缶を潰してゴミ箱に捨て、荷物を持って銭湯に向かう。今日は魅力ジジイがいなかったがサッパリした蓮はまた魅力が上がって一段と色男度が増した。

 

こいつはどれだけステが伸びるのだろう。魅力に関しては俺に限界はねぇ!とでも言うつもりだろうか。

 

そのうち息で女性を堕としそう(小並感)

 

風呂も済ませた後はもうやることないのでストレッチをして体を解してから後はもう寝るだけである。制服を掛け、荷物は机に置いて観葉植物に水を上げる。そして今日の出来事を軽くメモしてから今度は日記をチョロっと書いて寝る前にやることを全て済ませた。

 

(よし、それじゃあベルベットルームにカチコミ行くか)

 

そう言って張り切りながら眠気に身を任せた蓮はベルベットルームに窓は無いぞというツッコミを無視して布団に入り込み、秒で意識を闇へと落として行った・・・・・・

 

 

 

 

 

その後、座標がズレたのか何故か突然上から降ってきてベッドの上にスーパーヒーロー着地を決めて枷である鉄球を地面にめり込ませ大きな音をたてた蓮にカロリーヌが驚き「ぴゃあっ!?」という可愛い悲鳴を上げたという・・・・・・

 

 

 

 

 

 




屋根ゴミ√のジョーカー君は女だけでなく男すら落とすから・・・魔性の男の極みを舐めちゃあかんで!


鴨志田「ん?こいつよく見たら・・・」

うんたらかんたら・・・今こそ汝、『欲望』の究極なる秘奥に目覚めたり。無尽の力を汝に与えん・・・

『欲望(鴨志田)』コープMAX!!

鴨志田「いい男じゃないか・・・♂」

蓮「ちょっ」

ハーレムルート、そういうのもあるのか・・・

次回辺り竜司覚醒かな


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Let's take back what's dear to you/Part2

生きてます(満身創痍)

いつも感想&誤字修正ありがとうございます!

1ヶ月以上も空いちゃった・・・ユルシテ・・・ユルシテ・・・

一応言っておくと竜司はノンケです。

蓮?あぁ・・・そういう時もあったね(両刀)

今回も駆け足早足いーとーマキマキー


即寝落ちしてベルベットルームにカチコミかけた蓮。その際に行ったスーパーヒーロー着地の時に出た音に驚いちゃったカロリーヌは自分からまさかあんな声が出るとは思わなかった恥ずかしさで1コンボ。

 

隣でそれを聞いて顔だけ背けて笑わないよう我慢してプルプル震えているジュスティーヌに気が付き2コンボ。

 

蓮の可愛いなぁとでも言いたげな優しい笑顔を見て計3コンボの羞恥をくらったカロリーヌは顔を真っ赤っかにして「貴様ァァァ!!きさ!きさっ!貴様ァァァ!!??」と警棒をブンブン振り回しながら暴走。

 

それを何とか収め、檻の横で涙目になって体育座りをして拗ねているカロリーヌに何故か持ち込んでいたキャラメルを上げてご機嫌を直してもらい、何とかイゴールの話が始まった。

 

正直毎回同じ内容を話すので飽きてほぼ聞いてない。ペルソナの話と異世界ナビについての説明に適当に返事を返しながら明日の朝食はパンにしようかなと考えてるとあっという間に夢から覚める時間になっていた。

 

「時間だ、帰れ。早く帰れさっさと帰れこのあんぽんたん。」

 

「次はチョコレートを所望します」

 

不機嫌そうに蓮を少し赤くなった目で睨みながらシッシッと手を振るうカロリーヌともう餌付けされ始めているジュスティーヌ。そんな2人に手を振りながらなら次はチョコレートを持ってくるよと言って蓮は牢獄の中から逆バンジーのようにはじき出された。

 

そして鎖だらけの青い空間を抜けると牢が閉まる音と共に現実世界に意識が戻り、ベットの上で目が覚める。やはり残る若干の疲れを振り払いながら体を伸ばし意識を覚醒させる。

 

「帰りにチョコ買って帰るか」

 

喜ぶ双子を想像しながらホクホクとした表情で制服に着替え、鞄を持って下に降りる。勿論、惣治郎はまだ来ていない。顔を洗ってから店内を軽く(当社比)掃除して次に店前の掃除に入る。

 

ササッと砂利などを掃き、窓を拭いてメニュー表も綺麗にする。最後に札もピカピカに拭いてからうん!と満足気に頷き、店内に戻った。

 

その後は朝食作りだ。ベルベットルームでイゴールの話をBGMに考えていたものを手短に手際よく作っていく。その為にまずキッチンからトースターを引っ張り出してきて汚れを取ってからそこにバターとグラニュー糖を塗ったパンをぶち込む。

 

その間に冷蔵庫から野菜を取りだし、洗って食べやすい大きさに切り水気をとってそこにドレッシングをかけサラダを作る。更にウィンナーを焼き、じっくり○トコトのコーンポタージュをそれっぽい皿に移し、出来上がったシュガートーストも皿に乗せて完成。

 

美味そうなそれっぽいモーニングの出来上がりだ。

 

「いただきます」

 

全ての食材に感謝を込めて礼をしてからシュガートーストを口に運ぶ。キツネ色になるまでトーストされたそれはサクッ!といい音をたてて口に含まれると温かさと程よい甘さが広がる。それだけで思わずう〜んと唸ってしまうほど幸福を感じる。この単純で素朴な作り方なのにこれほど美味いものが作れてしまうのだから料理というのは奥深い。

 

まだまだ料理について学べることはある。それらを覚えていくのが楽しみでならない。行ったことない国の食べたことの無い料理とかも食べてみたいなと思いながら温かいコーンポタージュを飲んでいるとふと、()()()()()()()()()()()()()()()などとマイナスな事を考えてしまった。

 

いつかはルブランを継ぐかもなんて考えていた日々もあったがそれも叶わず、一定より先に進めず繰り返す途中。未来に行く事など本当に出来るのか。

 

・・・いや、止めよう。そんなこと考えてもキリがないと言うことはとっくの昔に分かっている。分かっているがルブランという心休まる場所にいるとふとした瞬間にほんの少し闇がこぼれてしまう。ここらで思考を切り替えておこう。いきなり頭を本物に近い威力を持つ改造銃で撃つなんて事はしない・・・とも言いきれないしなんなら過去にやらかしてるので自分自身に気をつけなければならない。

 

(未来は自分で切り開くものだ・・・ってね。フェザーマン第23話より。)

 

好きな戦隊の名言を思い返しながら自分を制しているとドアの鈴が鳴り店に惣治郎が入ってきた。

 

「おう、店の前がえらく綺麗だったんだがまたお前が・・・って美味そうなの食ってんな」

 

「おはようございます、外は俺がやっておきました。これは自分で作った朝食で・・・あ、佐倉さんも食べますか?」

 

「いや、俺ァ家で食ってきたからいい。またの機会にしておくよ。」

 

そう言いながら上着と帽子を脱ぎ、汚れないように隠すといつものエプロン姿に着替える。また綺麗になってんなと店内を落ち着かない感じでキョロキョロと見回しながらカウンターに入るとテレビを点けた後、豆を取りコーヒーを作り始める。

 

「時間もあるし掃除の礼だ。食後のコーヒーでもつくってやるよ。」

 

「!ありがとうございます!」

 

さっきまで歳をとった熟年の紳士のように落ち着いた様子だったのにコーヒーを作ってやると言うとカレーの時のように年相応に明るくなった顔を見てやっぱりチグハグな奴だなと父性を刺激されながらも手馴れた動作でコーヒー豆を選ぶ惣治郎。

 

急いで朝ごはんをかき込んだ後、朝特有の少し冷えて爽やかな空気が漂う中コーヒー豆を挽いている音が店内に小さく木霊する。

 

それを豆の挽いた匂いを楽しみつつまるでプレゼントを待ちわびる子供のような顔でワクワクしながら見つめる蓮。この状況を傍目から見れば自分の子供にコーヒーを作って上げている父親というようなほのぼのとした親子の図に見えたことだろう。2人共眼鏡だし、容姿もどことなく似ているからきっと余計にそう思われる。

 

これを未来で仲間になる画家志望の彼が見たのなら「これはいい絵だ」と言って手でフレームを作った後、スケッチをし始めていたに違いない。それほどまでにここの空間は暖かく、緩やかだった。この人達まだ出会って3日しか経ってないんですけどね。

 

そうしているうちにコーヒーが出来上がり、コポコポと心地いい音を響かせながらカップに注ぎ湯気の上がるそれを蓮の前に出した。

 

「ほらよ、飲みな」

 

「いただきます!」

 

カップを丁寧に持ち上げそれをまず1口飲む、のではなく最初に香りを楽しむ。鼻腔に満ち満ちる独特の香りを一頻り堪能した後にカップに口をつけクイッと傾けてコーヒーを飲む。

 

 

 

その時、蓮に電流走る・・・!

 

 

 

「お、おい。どうした?急に固まって・・・」

 

目をひん剥いて固まった蓮に惣治郎が困惑して話しかけるがそれも蓮の耳には届いていなかった。

 

それもそのはず、蓮は今宇宙にいたのだ。

 

正確に言うならそれは比喩表現で愛してやまないルブランコーヒーを口にした事で自分の世界に入り込み、湧き出る感情の処理が追いつかない状態であった。

 

大量分泌され駆け巡る脳内物質。極限まで集中した意識。ただ舌に残り喉を通るこの一瞬を体感何時間もかけて堪能する。少しの香りも逃がさぬよう、少しの旨みも見逃さぬよう。

 

そうして現実の時間に換算して約10秒、目をひん剥いたまま固まってたホラーな絵面からようやく時が動きだしゆっくりとカップを皿に置いて一息ついた。

 

「美味しいです」

 

「お、おう、そうか・・・」

 

本当に幸せそうに言ってきた蓮に惣治郎はドン引きしながらもなんとか返事を返した。それも気にせずにもう一度コーヒーを飲んで満足気に頷き惣治郎に笑みを向ける。

 

「この香りに柔らかいコク・・・ブルーマウンテンですか?」

 

「!へぇ・・・意外だな、(つう)だったか。当たりだよ。」

 

 

 

────────────────────

 

 

『説明しよう!!』

 

ジャマイカ産、ブルーマウンテンとは!

 

この豆の生産地、ジャマイカは豊かな自然に豊富な雨量、強い寒暖差、水はけの良い土壌などコーヒー栽培には好条件の揃った凄い国だ!

 

ブルーマウンテンは栽培地である山の名前で数々の厳しい基準をクリアした高品質豆に与えられる豊かな香りと柔らかなコクを持つ人気ブランドなのであーる!

 

 

────────────────────

 

 

「なんだ今の」

 

「気にしないで下さい、それよりも・・・」

 

割り込んできた解説をスルーしてコーヒーの感想を言おうとする蓮だったが彼にしては歯切れが悪く一瞬言葉に間が空いた。今、彼の心には濁流が生まれていた。

 

「ん?」

 

「佐倉さんの淹れてくれたコーヒー・・・今まで飲んだものの中で断トツに美味しかったです」

 

そんな正直な感想を言う前にルブランコーヒーを飲んだことで心から安心し、僅かに揺れて理性や自制心から複雑な気持ちが零れ落ちてしまった。故に言葉に間が生まれた。しかしそれを吐露する訳にも行かない。自分はまだ未熟だなと思いながら誤魔化すかのようにカップを両手でギュッと握り締めながらそう言った蓮に惣治郎は急な褒め言葉に若干照れくさそうに腕を組んでそっぽを向いた。

 

「ハ、そうかよ。そりゃどーも・・・ところでお前学校は間に合うのか。」

 

羞恥を誤魔化すために露骨に話題を逸らした惣治郎。それに深追いせずチラッと時計を見てからまた優雅にコーヒーを味わい出す蓮。

 

「はい、もう少し余裕があるので。皿を洗って片付けたら出ようと思ってます。」

 

「そうか、なら皿は俺に任せてお前はゆっくりしてな」

 

「えっ、いや、自分で片付けますよ」

 

「いいから座っとけ」

 

そう言って微笑みながら蓮の使った食器を片し、洗い始める惣治郎。なんという気遣い。彼がモテる理由が存分に分かるくらいカッコイイ行動であった。きっと彼には蓮の不安が見えていたんだろう。これには魔性の男EXである蓮も思わずトゥンクしてしまう。

 

ここで引き下がらないのも何だがやな感じなので惣治郎に言われた通り、時間まではゆっくりと彼の淹れたルブランコーヒーをまるで宝物を見つめるように、愛おしそうに、大切そうに味わっていた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「それじゃあ行ってきます!!」

 

「おう、今度は遅れるなよ」

 

「はい!」

 

そんな静かだがとても有意義な時間を過ごした蓮は雨だと言うのに元気100倍どころか1億倍くらいチャージされめちゃくちゃウキウキしながらルブランを飛び出しついでに札を裏返してから傘をさして秀尽に向かっていた。その光景をルブランに向かう途中偶然目撃した武見は開発中の頭に効く薬でも渡そうかと思ったくらいドン引きしていた。

 

その後渋谷駅から乗り換えてガタンゴトンと揺れる電車の中で上機嫌に座って本を読んでいる蓮。タイトルは作者でも理解が出来ないほどとても難しい専門家などが読むような本・・・と見せかけてそのカバーの下は作者も大好き岸○露伴の小説シリーズ『岸辺○伴は叫ばない』を熟読していた。

 

(血栞塗・・・興味深い話だ)

 

人間の際限ない好奇心というものを題材にした作品であり、岸辺露○という人物の貪欲さに触れる作品でもある。独特な言い回しや表現も素敵でどこか消えぬ謎に引き込まれるまさに『奇妙』な話だ。気になる方は是非購入してその目で確かめて欲しい。そして次に『岸辺露伴は戯れない』を買い、岸辺露伴は動かないとジョジョ4部全巻を買って見て欲しい。きっとその頃には立派なジョジョラーになってる事だろう。

 

そんな作品を読む事に夢中になっていた蓮は自分の隣に自分と同じ秀尽の生徒が座っていることに気がつかなかった。血栞塗を読み終わった頃に視線の横にスカートの柄が写った事でようやく気が付いた蓮はなんとなくチラリと横を見てその生徒を見た。

 

 

視線の先にいたのは見惚れてしまいそうな程綺麗な赤髪を真っ赤なリボンでポニーテールにしており、整った顔は活力と優しさに満ちていて一目で朗らか性格だと見て取れた。一見、華奢に見える体は鍛えられ引き締まっているスポーツマンの体型であり、この細さだと恐らくは新体操など美しさを見せる競技の選手だと思われる。

 

最後に全体像を見れば正にお手本のような優等生と言うような誠実で清らかなオーラに満ちていた。

 

しかしここで蓮の頭に疑問が過ぎる。

 

(こんな生徒、秀尽(うち)にいたか?)

 

そう、蓮は今までのループの中でこの女子生徒を見た事がなかった。何度も調査しどこの組に誰がいるか、どこの部屋に何があるかなどほぼ全て記憶している蓮だがそれでも彼女の事を見た記憶は一遍たりとも無かった。こんな可憐な少女だ、一目見れば忘れるはずが無い。

 

だが、奇妙な事に彼女を知っている気もするのだ。何故かどこかで会ったり、見たり、話したりした様な・・・漠然とした感覚だが確かにそんな気がする。けどそれがいつ何処で起こったのかはてんで思い出せない。

 

蓮の中では会ったことがあるが、無い。知っているが知らないという矛盾した感覚がせめぎ合っていた。

 

「あの」

 

そうしていると彼女が話しかけるようにそう声を発した。蓮は自分が話しかけられたと思い、しまった、ジロジロと見すぎたかと少し焦ったがそうではなく目の前に立っているおばあさんに掛けた声だったようだ。彼女について考えていて全く気がつかなかった。この満員電車の中で立たせてしまっていたとはと蓮が配慮が無かった事を恥じている間に彼女はおばあさんに席を譲ろうと立ち上がっていた。

 

「どうぞ、直ぐに降りますから」

 

「いいのかい?じゃあ・・・」

 

彼女の親切に甘え席に座ろうとした瞬間、蓮は不届き者の気配を察知する。彼女が席を空け無人になった一瞬にぬるりと動きそこに座ろうとする目が死んでいるサラリーマン。疲れ果てた体を癒す為僅かな睡眠を取ろうとどんな席も逃さない熟練のその動きを蓮は見逃さなかった。

 

ブチッ!(カットイン)

 

唐突なカットインが入ると蓮はサラリーマンの腕を取り、目にも止まらぬ早業で流れるように自分と入れ替わり蓮が座っていた場所、つまりは一個隣の席へ座らせた。体重移動を利用した素晴らしい身のこなしである。しかも上手い具合に立ち上がった為周りに迷惑もかけていないという無駄に無駄の無い動きであった。ワザマエ!

 

え?そうはならんやろ?なっとるやろがい!(暴論)

 

「どうぞ」

 

「っ!?」

 

勿論、何が起こったのか理解できないサラリーマンは困惑したが目の前でニッコリと微笑む蓮を見て何も言わずペコリと小さく頭を下げてこの空気から逃げる為に直ぐに寝始めた。このサラリーマンも地味に肝が据わってんな。

 

まぁこうしてサラリーマンに席を譲った事でおばあさんは無事に席に座る事が出来た。別に蓮がおばあさんに席を譲れば良かったのではとは言ってはいけない、いいね?

 

「ありがとねぇ、お嬢ちゃん。それと貴方も。」

 

「い、いえ当然の事ですから」

 

ゆったりとしたおばあさんの感謝の言葉に戸惑いながらそう言った少女に同意して蓮も頷く。そんな2人を見てそうだと何か思い出したように荷物を探ると中から飴を取り出してそれぞれに何個か手渡した。

 

「これ、お礼よ。良かったら食べて」

 

「わぁ!ありがとうございます、おばあちゃん!」

 

「ありがとうございます、レディ」

 

「あら、お上手ね」

 

 

『蒼山一丁目〜蒼山一丁目〜』

 

そうしているうちに駅に着いたらしく、手を振るおばあさんに軽く手を振り返しながら電車から降りる蓮と少女。コロコロと口に含んだおばあさんに貰った飴ちゃんを転がしていると隣にいた少女が急に蓮へ頭を下げてきた。

 

「あの、さっきはありがとうございました!」

 

そう言って笑顔でお礼をしてきた。こちらは当たり前のことをしただけだと言うのに何と真面目で素直な少女だろう。やはり誠実な優等生というイメージは間違いなかったようだ。

 

「気にしないでくれ」

 

「いえ、そういう訳にはいきません。私だけだったらきっと座られちゃってそれまでだったでしょうし・・・それに秀尽学園の2年生の方ですよね?私、1年生なので先輩に失礼はマズいかと思いまして」

 

「あまり年功序列は固く考えない方がいいと思うよ、気苦労の方が多いし俺は気にしない。」

 

「え、そういう・・・ものでしょうか?」

 

「そんなもんそんなもん」

 

ある程度は意識してあとは適当にやるのが1番だと持論を述べながら歩く蓮に子犬のように少女はついて行く。目的地が同じなので一緒に登校するという形になったのでナチュラルに歩幅を合わせつつ歩いているとここで蓮は少女の名前を知らないことにようやく気がついた。

 

「自己紹介がまだだった、俺は秀尽2年の雨宮蓮だ。よろしく。」

 

「雨宮先輩ですね!私は芳澤かすみと言います!よろしくお願いしますね!」

 

元気よくハツラツとして自己紹介をした少女、かすみはニコッと見惚れてしまうほど可愛い笑みを浮かべた。それを見て蓮は何故か尻尾をブンブンと振る子犬を連想する。こう、屈託のない笑顔や態度を見ていると何となくそれを思い返してしまうのだ。

 

「それにしてもあの先輩の動き凄かったですね!こう、無駄がないというか洗練されてるというか!」

 

「鍛えてますから」

 

シュッ、口に出しながらと顔の前で手首を回して敬礼のような仕草をするとかすみはだからか〜!とポンと手を打ちながら納得する。いや納得するかそれで。

 

「じゃあ先輩は何かスポーツとかやってるんですか?」

 

「いや、特にはやっていない。大体はできるけど。そっちは何をやってるんだ?」

 

何か、ではなく何をと言われ何かしらのスポーツをやっているという事を確信しているような言い方にかすみは驚いたように蓮を見た。

 

「え?分かるんですか?」

 

「あぁ、体は鍛えられ引き締まっているし歩き方を見たら体幹もしっかりしてる。それに柔軟性も高そうだ。線が細い事を考えると・・・バレエか、新体操辺りか?」

 

「えぇっ!?凄い!当たりです!」

 

服の上から見てどれほど鍛えているかを見抜き、歩き方から体幹や柔軟性を見抜いて更に取り組んでいるスポーツを当ててくるという普通の人にやったらドン引きされるような超高度な観察眼にも引かず寧ろ凄い!と尊敬の眼差しを向けてくるかすみ。それにちょっと機嫌が良くなりふふん、と得意げに笑う蓮。微笑ましいがやってたことは変態染みていた事を忘れてはならない。

 

「先輩の言う通り、私新体操をやってるんです。」

 

「新体操か・・・そういえば手を付けたことが無かったな」

 

「なら是非やってみて下さい!ちょっと柔軟がキツイけど楽しいですよ!」

 

「考えてみるよ」

 

そうして他愛のない話をしているといつの間にか学校に着いていたのでここらで彼女と別れる事にする。すると別れ際にも「それでは先輩!また!」と頭を下げて言っていたがやはり体育会系とだけあってそういったのは抜けないのだろうかと考えた。余り固いのもやりにくさを感じるなと思うと同時に会った時から感じていた既視感についても改めて考えてみる。

 

(ぬぅ・・・話した感じ彼女とどこかで会ったという感じはしない。あれだけ特徴的なら忘れるはずもないしな。だがやっぱり違和感は抜けない・・・うーむ、一体なんなんだろうか。)

 

頭を捻って考えてもやっぱり何も出てこないのでため息を吐き仕方なく頭の片隅へ保留して教室に向かう。

 

 

蓮が来た途端に緊張で行き詰まる教室の中をスタスタと歩き杏におはようと挨拶してから着席する。急に話しかけられた杏は吃驚した様子で固まっていたが少ししてから小さな声で「・・・おはよう」と返してくれた。可愛い。

 

その後は特になんの変哲もない授業を聞き流しながら受けていた。だってもう内容全部頭に叩き込んであるし、知識の泉になるくらい勉強してるし、聞かなくてもテストなんてオール満点が取れるくらいだし。いざとなったらオンラインがある(メタ)周回プレイヤーを舐めるなよ。

 

まぁ成績が落ちるのは何となく嫌だから真面目な顔して傍から見たら勤勉に見えるように意識してるけど。

 

しかしこれをやっても内心を見透かしてきてるのか牛丸はチョークを投げてくる。だがこれをノートを書きながら人差し指と中指の2本で難なくノールックキャッチ。不敵な笑みを浮かべながらチョークをそこそこの速度で投げ返すと鼻を鳴らしながら手で掴み取りチョークを粉々にして「少しはやるようだな」と呟く牛丸。あれ?この作品いつの間に学園バトル作品になったんですか?

 

そんな突っ込みをホームランと共にどこかへ打ち飛ばすと始まるチョークとチョークの応戦。それを繰り返していると何故か芽生える教師と生徒の友情。最後にはお互いの実力を認め合い、笑顔で握手。何事も無かったかのように授業が再開した。なんだったんだあの時間は。

 

そうして時は流れあっという間に放課後。昨日に続き今日も濃い一日を経験してぐったりとしたクラスメイトを放って蓮が教室を出ると先に出ていた杏が顎に絡まれていた。

 

「あぁそうそう、例の転校生には気を付けて・・・チッ・・・まぁいい、気をつけて帰れよ」

 

「・・・はい、ありがとうございます・・・失礼します」

 

話している途中で自分を見ている蓮に気が付き杏に聞こえない程度に小さく舌打ちすると話を切り上げ体育教官室へと戻っていく。それに気が付かない杏は小さく言いたくもない礼を言ってからその場を去っていった。

 

(相変わらずあからさまな態度だな)

 

何故あんな様子で他の生徒達に気が付かれないのか皆目見当もつかない。余程節穴でもないと直ぐにボロに気がつくと思うが、そんなにこの学校には脳内お花畑が多いのだろうか。

 

なんて考えながら校門まで行くとその影からひょっこりと竜司が現れ、軽い挨拶をしてきた。

 

「よっ、レーンレン」

 

「竜君」

 

「え?何その呼び方、天然幼なじみ系美少女かよ。って!そうじゃねぇ!昨日のアレ、やっぱどうしても気になってよ。調べるの付き合ってくんねぇか?」

 

パンッ!と手を合わせて頭を下げる竜司に蓮はまぁ元からそのつもりだしと考えながら優しく微笑んでその頼みを了承する。

 

「あぁ、勿論だ」

 

「ホントか!やっぱお前良い奴だぜ!そんじゃあ早速駅から道を辿って・・・」

 

「その事なんだが」

 

「?なんだよ?」

 

1度駅の方に戻って昨日の朝通った道から調査しようと歩き始めた竜司を引き止める。不思議そうに首を傾げる竜司に蓮は自分のスマホを指さしてあたかもたまたま見つけましたと言うように演技しながら説明する。

 

「実は昨日の夜、色々調べてたらそれっぽいのがあったんだ。」

 

「マジで!?ナイスだぜ蓮!で!?どんなだ!」

 

「どうやらこの変なアプリが原因だったらしい。」

 

蓮がスマホの画面を見せると竜司はそれを覗き込む。「ほらこれ」と蓮が示すアプリのアイコンを見ると赤と黒の変な目玉のような不気味なデザインに竜司は若干頬をひくつかせた。

 

「これが?」

 

「あぁ、これはナビアプリらしくてあの時間に起動していた。竜司も聞いただろ?最後の方に『帰還しました』って声。」

 

「あ、確かに。つーことはこれであそこに・・・パレスに行けるってことか?」

 

「恐らく」

 

それを聞いて竜司は少し迷う素振りを見せた。最初の潜入で酷い目に合ってるからやや恐怖が強まってるのだろう。だが頬を両手で叩いて気合を入れて迷いを消し去り、覚悟を決めた顔で蓮と目を合わせ頷いた。

 

「うし!うじうじしてても仕方ねぇ!使ってみるか!」

 

「よしきた」

 

それに応えて蓮はポチッと変なアプリ『異世界ナビ』を起動する。すると画面いっぱいにアイコンが広がり自動的に目的地が入力されていく。1度入ったパレスの侵入条件をバックアップし、次に潜入する時にはオートに行ってくれるのだ。いちいち入力する手間が省けるからアイツにしては気の利いたシステムを入れてくれたものだ。

 

そう考えながら眺めているとスマホから音声が流れ始める。

 

『カモシダ・・・シュウジンガクエン・・・ヘンタイ・・・シロ・・・ナビを開始します』

 

そんな機械的な音声と共にスマホの画面が乱れ始めそこから世界に干渉する波がたち始める。その波は世界に揺らぎをもたらし周辺を包み始めると今度は現実世界を塗り替えるように赤と黒の模様が波紋のように辺りに広がり始める。

 

「な、なんだぁ!?」

 

竜司と蓮がそれに巻き込まれてから完全にそれが収まると世界は一変し、昨日も訪れたおどろおどろしい紫色の空の下に佇む怪しいラブホっぽい城がある不気味な世界、『カモシダパレス』へと潜入していた。

 

「お、おぉ・・・!ほ、ホントに来れた・・・!」

 

「どうやら成功したみたいだ」

 

「あぁ、みたいだな・・・って!うぉお!?お前また服変わってんぞ!」

 

驚きながらもまたここに入れた事に喜んでいる竜司が蓮の方に振り返ると蓮は前に最後まで身を包んでいた不思議なかっちょいい服に身を包んで『蓮』から『ジョーカー』へとなっていた。

 

「ふむ、快適だ」

 

「気に入ってんのか・・・?つーか妙に様になってんな。着慣れてるっつーか、違和感ねー。」

 

キュッと手袋を締め直すジョーカーをまじまじと見る竜司。確かに彼の言う通りジョーカーの服装はかなり様になっていた。まぁ蓮がテンションを上げて相応の振る舞いをしているからなのだが。こういうのは形に合うようはっちゃけるのが大事だとジョーカーは語る。

 

竜司がいーなーと言うような目でジョーカーを眺めていると急に物陰から声が聞こえた。

 

「おい」

 

「うぉぉおぉッ!?」

 

その声に驚いて飛び引いた竜司。そんな彼に対してやれやれと言った感じにため息を吐きながら声のした物陰から出てきたのは前回、脱出の際に世話になった不思議猫のモルガナであった。

 

「騒ぐな馬鹿、奴らに気づかれるだろ」

 

「おめぇのせいだろうが猫!」

 

「だから猫じゃねー!モルガナだ!そんなことよりお前ら何やってんだ?折角逃げ延びたのにまた正面から来るなんて。シャドウ共もザワついてるぞ。」

 

モルガナがクイッと顎で扉のちょっとした隙間から中を覗いてみるように指示すると蓮と竜司は片目を閉じて城の中を見てみた。城の中には確かに前に蓮達を捕まえた兵士達が警戒態勢にはいりながら人数多めに巡回していた。

 

虫一匹見逃さぬと言うような鬼気迫る雰囲気に加え城の中から聞こえてきた叫び声に竜司は少し顔を青くした。

 

「な、なんだ今の声?」

 

「捕まってる奴隷だろうな、鴨志田の命令で調教されてんだろ。珍しくない、ここじゃ毎日こうだ。ましてや昨日お前らに逃げられたからな、さぞ荒れてんだろうぜ。」

 

モルガナは耳障りなものを聞くように顰めた顔で片耳を抑えながらそう説明すると竜司は何かを思い出したようでハッとして目を見開いた。

 

「奴隷・・・?そうだ!俺達以外にもいたよな!捕まってる奴!あれ全員ウチの生徒だった!つーことは・・・!あの野郎ッッ!!」

 

つまりは、そういうことだ。

 

その事に気がついた竜司は昨日見たボロボロの生徒の姿を思い出すと血が出るのでは無いかというほど手を握り締め、歯を食いしばって城の頂上を睨めつけると思い切り助走をつけて扉にタックルをかます・・・・・・直前にジョーカーに襟を掴まれて止められた。

 

「ぐぇっ!?」

 

「落ち着け」

 

「そうだぜ、見つかったらどうすんだ。後先考えずに行動すんなよ。」

 

呆れるようにそう言ったモルガナにぐうの音も出ない竜司はジョーカーのおかげで少し冷えた頭を振って興奮を抑えると今度はモルガナの方へ向き直ってある事を頼んだ。

 

「なぁモナモナ!」

 

「モルガナだ!」

 

「モルガナ!お前この声の奴らがどこにいるか分かるか!?」

 

それを聞いて言いたいことを察知した大方の事情を知っているモルガナは目を細めて竜司を見る。

 

「連れていけってか?・・・まぁ案内してやってもいいけどよ。」

 

「ホントか!」

 

まるであまり意味の無い事をしようとする愚者を見るような目だったがある狙いがあったモルガナはこれを好機と見て条件を出した。

 

「ただし、こいつも一緒に来るってんならな」

 

チラリと目線をジョーカーへと移す。このパレスの中核にある物を入手するために必要となる強力な助っ人として十分な力をジョーカーから見出していたモルガナは恩を作ることによって自然な流れでパレス攻略の駒としてジョーカーを扱える条件を繰り出した。

 

ジョーカーに竜司の不安そうな目線が向けられるが彼が断るはずもなく秒で了承した。

 

「いいぞ」

 

「蓮・・・!ありがとな!」

 

「よし、決まったなら行くぞ。時間が惜しい!ついてこい!」

 

計画通りと言った感じに蓮達に見えない角度でニヤリと笑うとダバダバと走って前回に脱出で使った通気口の中へ軽い身の子なしで登っていく。モルガナ曰く、怪盗が正面から入らないのは基本中の基本と言う事だが竜司はピンとこないで何言ってんだこいつという目で見ていた。

 

蓮が華麗に跳んで登り、竜司が不恰好によじ登るとまたあの嫌な感じの空気が漂ってくる。モルガナ達が先へ進む中、思わず立ち止まり顔を顰める竜司だがここで止まっていられねぇとモルガナ達の後を追う。

 

 

さて、ここから先は完全なる敵地。求めている情報を得る為には影に潜み、音を忍ばせなければならない。詰まるところ潜入ミッションだ。

 

潜入、と言うからには勿論敵に見つからずに目的地へとたどり着く必要がある。見つかればしつこく追い回される事間違い無し。パレスの雑魚兵は質より量で攻めてくるため厄介な事極まりない。

 

故に地味だろうが何だろうがこうして物陰に潜んだり、カバーによって慎重にクリアリングをして進んでゆく。竜司は若干不格好な事に不満を持っているが状況が状況なので我慢しているようだ。

 

大広場の中を見回し、警備が全員違う方向を見ていることを確認して出来るだけ音を殺し一気に駆け出す。それを細かく繰り返して何とか地下にまでたどり着く事が出来た。

 

「げ!」

 

しかし地下に入って少し進んだ通路、ザアザアと激しく水が流れる音が響くそこには警備が一人道を塞ぐように佇んでいた。ギリギリでそれを発見したジョーカー達は壁に身を隠し警備が移動しないか観察する。だが警備は一向にそこから動かず、動いても少し移動しただけだったり向きを変えただけだったりとその場から離れる気が一切感じられない。

 

「こりゃ戦闘は避けられないな・・・」

 

「みたいだな」

 

「よし、丁度いいし戦闘の基礎を教えておくか」

 

「基礎ぉ?」

 

「あぁ、シャドウの顔を見てみろ。」

 

モルガナに言われて竜司は檻の中を見ている兵士シャドウの顔を見てみる。シャドウの顔面には無機質な人の顔を模した気味の悪い仮面が張り付いておりそれがシャドウの不気味さに拍車をかけている。

 

「仮面がついてんな・・・気持ち悪ッ」

 

「あれを背後からの不意打ちで剥がすんだ。そうすりゃどんなシャドウも前後不覚になり一瞬隙が生まれる。そこを先制攻撃して仕留めるんだ。分かったな?」

 

「ああ」

 

モルガナの簡潔で丁寧な説明に軽く返事をして手袋を締め直すジョーカー。その手にはいつの間に取り出していたのかミセリコルデをクルクルと回転させて構えていた。

 

「なるほど、あれを剥がせばいいんだな!」

 

「お前は見学だよ!ペルソナが使えないんだからな。準備はいいなくるくる頭!さぁ行くぞ!」

 

意気揚々に突っ込もうとする竜司を引き止めて引っ込めさせるとモルガナとジョーカーはお互いに合図もなく完璧なタイミングで物陰から音もなく飛び出し、低い姿勢で影を駆けると一気に距離を縮め接敵する直前に赤い軌跡を描きながら跳躍。その肩に飛び乗ると抵抗する間もなく顔面の仮面を無造作に引っ掴み、力づくで引き剥がした。

 

『ナッ!?ヌォオッ!?』

 

ベリベリベリィッ!と嫌な音をたてながら剥がれた仮面をその勢いのまま投げ捨てると肩を蹴ってシャドウの体勢を崩しつつ距離をとる。支配の象徴である仮面を失った事で兵士は正体を現し、鎧から赤と黒の液体を吹き出しながら中から花に体がついたようなシャドウ『マンドレイク』が出てくる。

 

モルガナの言った通り混乱してフラフラと揺れるマンドレイクにジョーカーの後ろにいたモルガナが速攻を仕掛ける。

 

「ハァッ!」

 

自身の持つサーベルと出現させたペルソナ『ゾロ』のレイピアで同時に攻撃して隙だらけのマンドレイクを切り刻んだ。断末魔をあげる暇もなく倒されたマンドレイクは黒い霧のようになって爆散し、地下の空気へと溶けていった。

 

一切の反撃どころか反応も出来ず消えたマンドレイクを後目にモルガナはジョーカーの足をその肉球でポンと叩き賞賛の言葉を送る。

 

「へッ!やっぱりやるなお前!文句無しの動きだったぜ!」

 

「そっちこそ流石だ、スマートな攻撃だった」

 

「あったりまえだろ!吾輩は百戦錬磨の怪盗、モルガナ様なんだからな!」

 

ムッフーン!と自慢げに胸をはるモルガナを自然と撫でているといつの間にか先に進んでいた竜司が牢の中を見て何やら叫んでいた。モルガナを抱えて近づいてみるとやはり牢の中にいたはずの生徒(シャドウ)がいなくなっている事に驚いていたようだ。

 

「何で誰もいねぇんだよ!前はいたのによ!」

 

「おい、落ち着けパツキン。見張りに気付かれ・・・」

 

「いや、他にも居たよな・・・あっちの方か!?」

 

「あっ!おい!・・・たく、人の話を聞かねぇ奴だな・・・ってか!お前も何ナチュラルにだっこしてんだ!下ろせコラー!」

 

ここにいた生徒(シャドウ)は修練場と言う名の拷問場に連れて行かれているのでいないのだがそれを知らない竜司はドカドカと忙しく走りながら奥の牢へ走っていってしまう。しかし少しすると竜司は焦りながら戻ってきた。

 

「や、やべぇ!足音が近づいてくる!かなりの数だ!」

 

どうやらシャドウ達がこちらに向かってきているらしい。多分、というか絶対竜司が騒いでいたことが原因のためモルガナはジト目で竜司を睨んだ。

 

「どう考えてもお前のせいだろ・・・仕方ない!あの部屋に隠れるぞ!ひとまずやり過ごすんだ!」

 

「よし」

 

「いや下ろせよ!」

 

モルガナが牢の真反対にある何故か歪みの薄い部屋を指差す。言わずもがな『セーフルーム』である。

 

このセーフルームとはパレスの干渉が薄い場所、つまり主の支配が弱い場所である。ここにはシャドウ達も侵入どころか気が付くことすらしづらく、ジョーカー達にとっての安全地帯、すなわち『セーフルーム』なのである。それを説明された竜司は頭を捻っていたが部屋の中が揺らぎ内装が変化して目を見開く。

 

「ここ、教室か?」

 

「ああ、これでここが主の心が生み出したもう1つの現実ってことが分かったろ。」

 

「んん・・・よく分かんねぇけど、鴨志田の野郎が思ってた以上に糞って事はよーく分かったぜ!あの野郎学校を自分の城だと!?巫山戯んのも大概にしやがれ!」

 

怒りに身を任せて椅子を蹴り飛ばす竜司。嫌悪感を隠そうともしないその態度にモルガナは何かワケありかと察する。

 

「余程鴨志田って奴が嫌いらしいな」

 

「嫌いなんてもんじゃねぇ!全部あいつのせいだ・・・!」

 

「・・・何があったか知らねぇが情で突っ走るのはやめとけよ、そこら中手下だらけだから下手したら死ぬぞ。そいつみたいに覚醒してなきゃな。」

 

竜司の絞り出すような悲痛な声に気まずくなったモルガナは話題を逸らしてジョーカーの格好について触れる。すると竜司も一旦怒りを潜ませてジョーカーの方をみた。

 

「・・・そういや何なんだよこの格好、知ってんのかモルガナ」

 

「だからモルガナ・・・あってた。おほん、簡単に説明するとそれはペルソナと同じパレスの影響を弾く強い『反逆の意志』が形になった物だ。その姿はまさにお前自身の『反逆のイメージ』なのさ。」

 

「つまり防護服であり、戦闘服でもあるって事だな」

 

「まぁそんな感じだ!」

 

ジョーカーがそう言うとモルガナは「やっぱり分かるやつだな!」と満足気に頷くモルガナ。ただ一人よく理解していない竜司は今度はジョーカーからモルガナへと目を移した。

 

「何となく分かったけどよー、じゃあお前はなんなんだよ。服よりそっちのが謎だわ。」

 

「なんなんだとはなんだ!吾輩は人間だ!正真正銘、人間様さ!」

 

失礼な物言いにプンスコとご立腹なモルガナ。しかしその姿は猫・・・にもあまり見えずだが人間と言えば決してそうは見えない。じゃあ何に見える?と聞かれれば辛うじて「猫?」としか言えないような不思議な見た目をしているため竜司の目が節穴とかそういう訳では無い。ただ単にデリカシーが無いだけである。

 

「本当の姿ってやつを失っちまっただけさ・・・だからこんな姿になってる。・・・多分、きっと。」

 

「いや多分て・・・」

 

「だが元に戻る方法は知っている。ここに来たのもその下調べの為だ。捕まって拷問されちまったが・・・吾輩も鴨志田にはお礼してやらなきゃ気が済まない。絶対な!」

 

ギリギリと悔しげに歯を食いしばりながら手をゴキゴキと鳴らす素振りを見せるモルガナ。その姿はとても殺る気に満ちていた。余程鴨志田による拷問を根に持っているようだ。プライドの高いモルガナだからこそやり返し、いや!倍返ししなければ気が済まないのだろう。これで竜司とモルガナの利害が互いに一致していることが分かった。

 

後はそろそろシャドウも離れてる頃なので休憩を終えて修練場に向かうだけだ。

 

「行くなら急ぐぜ。新人、お前の力存分にあてにさせて貰うぞ。」

 

「今回はお前ばっかりに苦労させねぇよ。家から()()持ってきたかんな。」

 

そう言って笑うモルガナに「任せろ」と微笑みながら返すジョーカー。既に信頼関係が築けているらしい。そんな2人を見て竜司もカバンを漁ってある物を取り出す。

 

「じゃん!どうだこのショットガン!中々リアルだろ?」

 

「確かにな・・・どうしたんだこれ?」

 

「前に蓮が使ってたモデルガンが本物みたいに撃ててただろ?それなら俺も戦えるなって思って一応持ってきてたんだよ!」

 

どーよっ!とドヤ顔をしながら前にカッコイイからという理由でとあるミリタリーショップで買ったショットガン『レビンソンM31』を胸にかまえる竜司。しかしそんな竜司にモルガナはまた呆れたようにジト目を向けた。

 

「いや持ってきたのはいいけどよ・・・お前シャドウ相手に近接戦出来ないのになんで射程距離の短いショットガン持ってきたんだよ」

 

「・・・・・・あ」

 

「まぁ無いよりもあった方がいいか。威力もあるし、念の為使えるようにしとけよ。」

 

「お、おぉ!任せろ!」

 

意外にも罵声は控えめにフォローしたモルガナに竜司もちょっと困惑しながらも返事をする。鴨志田をシバくと言ってるにも関わらずに何も持たずにこの城に来たのだとしたらモルガナは豊富な語彙から放たれる弾丸のような罵詈雑言を吐き散らしていただろうが、しっかりと身を守れる物を持ってきていた為に意外と関心していた。

 

そこに無い頭でよく考えたじゃねぇかという見下しが付くが。やはりこの2人、あまり相性が良くない。

 

「持ち場に戻ったようだ」

 

ジョーカーは少しだけ開けたドアの隙間から外を覗き見張りが戻った事を確認する。

 

「よし、そろそろ行くか。奴隷達は修練場の方にいると思うから見張りが居ないうちに急くぞ!」

 

シュババッと素早く移動する2人とダカダカと忙しなく走る竜司。すぐ先の牢にいた見張りのシャドウを隠れてやり過ごしながら修練場へと着実に進んでいた。

 

更に地下に入り、話し合っている見張りを奇襲し敵シャドウへと変貌させた所で派手に暴れずアサシンのように静かに仕留める為にミセリコルデで喉笛を切り裂き、速やかに沈黙させる。

 

戦闘音を聞いて道の角から現れたシャドウに対してはR.I.ピストルで狙撃し、顔面の仮面を破壊。怯んでる隙に大きく前転で接近し、現れたインキュバスの顎下に銃口を突き付け迷わずトリガーを引いて発砲。あっという間に消滅させた。

 

より効率的に、よりスムーズに。これパレス攻略の基本である。

 

「お前・・・実は殺し屋とかねぇよな?」

 

「親父はもっと上手く()る」

 

「殺し屋一家かよ!?・・・ってそれキ〇アじゃねーか!」

 

「にしてもあの動き見事だったぜ・・・流石、吾輩が見込んだだけあるな!」

 

エンカウントしても騒ぎを大きくする前にシャドウ達をぶっ倒して進むジョーカー達はそれからも大きな障害にぶつかることなく修練場へと辿り着いていた。

 

扉の前に居座っていたシャドウをモルガナがガルで扉ごと吹き飛ばし、消えていくシャドウを踏み越えながら中に入るとそこにはまた扉があり、何故か怪しい色の光で照らされていた。しかも上を見ると安っぽい布に『鴨志田愛の修練場』と巫山戯た事が書かれて飾られておりかなり異様な雰囲気となっている。

 

「糞みてぇなもん掲げやがって・・・!」

 

「自己愛塗れの拷問部屋の間違いだろ」

 

センスの欠けらも無いと酷評しながらその扉を開けて見ると先の通路からただ事ではない悲鳴が響いてくる。急いでその悲鳴の元へ駆け出すと橋を超えた所に柵で中が見える様になっている部屋があった。どうやらそこから悲鳴は聞こえてきており、監視に気をつけながら覗いてみるとそこにはさっきの旗がある部屋よりも更に異常な光景が目に飛び込んできた。

 

「んだ、これ・・・」

 

そこには兵士が警棒のようなものを持ってバレーのネットを掴ませた秀尽のジャージを着た生徒達の臀を思い切り殴打していた。その勢いは相当なもので棒が当たる度に地面を鞭で叩いたような痛々しい音が部屋全体に響いている。

 

そんな光景を見た竜司は少し呆然としたが隣の部屋から聞こえてくる悲鳴に気づき、今度はそちらへ向かう。隣の部屋では後方へ動く床を走らされる生徒がおり、床の先ではおびただしい棘の着いたローラーが勢いよく回っている。転べば一瞬でミンチだろう。しかも走り疲れて水を求める生徒を嘲笑うかのように動く床の先に水の入ったヤカンを吊るしているという外道ぶり。

 

竜司はクソみたいな光景に目眩がするが更に隣から聞こえてくる悲鳴に走って中を見に行っていた。

 

そこでは生徒を両手足を縛った状態で逆さまに吊るし、そんな無抵抗な状態の生徒に向けて壁にある大砲からバレーの球を豪速球で打ち出して直撃させるという最早修練ですらない暴力的過ぎる光景が広がっていた。

 

「これは・・・」

 

「おいおい、頭のヤバい奴だとは思っていたがここまでとはな・・・」

 

心底胸くその悪い光景の連続にモルガナも顔を歪める。それもそうだ、ここは鴨志田の認知世界。奴が認識する現実が形になった場所。つまり目の前の異様な光景も現実を元にしたもの。鴨志田によるバレー部員達に日常的な暴力が行われているという決定的な証明に他ならない。

 

 

修練と称して部員を殴り、水を飲ませず走り続けさせ倒れた者には罰を与え、棒立ちにさせた生徒に向けて遊び感覚でスパイクを当てる。この拷問を現実に当てはめれば恐らくそんなところだろう。

 

それに気がついた竜司は頭に血が登り、激昴しながら近くにあった樽を蹴り飛ばす。

 

「クソすぎんだろッッ!!」

 

「おい!落ち着けって!見つかるぞ!」

 

「落ち着けるか!お前が言ってた通りならコイツらバレー部の奴らは現実でも似たような目にあってるって事だろうが!クソ!どっからか開けられねぇのかコレ!」

 

「おいバカ!気持ちは分かるが冷静に・・・ん?」

 

幸い、中にいた兵士達は拷問に夢中でこちらの音には気が付かなかったが近くにいたバレー部員には聞こえていたらしく、怪我を抑えながらのそのそと近づいて柵越しに話しかけてきた。

 

「やめろよ・・・ほっといてくれ。逆らったってどうせ無駄なんだから・・・。」

 

「は!?」

 

「そうだ・・・!大人しくさえしていればお前らみたいに処刑されずに済むんだ・・・!分かったらとっとと消えてくれ・・・!」

 

その表情はとにかく必死であり、目からは光が消え失せている。ただただ鴨志田を恐れ、従順にしてその怒りの矛先が自分達に向かないよう己を殺し理不尽に耐え、しかし逃げるという選択を失った『奴隷』。抗う事も忘れ、去勢されたように大人しく道具に徹するその姿は情けないと言えないほど痛ましい。

 

「恐怖と暴力による調教か・・・あそこまで鴨志田を恐れてるのを見ると普段から相当な体罰を受けてるみたいだな」

 

「許せねぇ・・・!そうだ!証拠としてここを写真に・・・って!スマホ使えねぇ!」

 

竜司がスマホを取り出してカメラを起動しようとするが全く動かず画面すら点かない。どうやらこっちではスマホは使えないようだ。竜司はジョーカーの方を見るが彼もダメだったようでフルフルと首を横に振る。

 

「おい、これ以上は見つかっちまうぞ。そろそろ戻った方がいい。」

 

「ちょっと待ってろ!今、アイツらの顔覚えっから!」

 

急かすモルガナにそう言って柵に張り付いて中にいるバレー部の生徒の顔を一人一人覚えていく竜司。それだけ記憶力があるなら勉強にも生かせるのではというのは野暮だろうか。

 

「うし!これで全員覚えたぜ!」

 

「ならさっさとずらかるぞ!着いてこい!」

 

そうして修練場から出てきたジョーカー達は再び、セーフルームのある階へと戻ってきていた。そのまま橋の方へ走ろうとした3人だったが奥の方でガシャガシャと鎧を鳴らしながら走る兵士を見て急いで物陰へと隠れる。

 

「修練場近くの兵から定期連絡が途絶えた!賊が入り込んでいる可能性が高い!各員、警戒を高めろ!」

 

どうやら連絡係の兵士を倒した事で地下にいる事がバレてしまったようだ。パレス内部の警戒が上がっていくのを感じる。叫んで走っていく兵士を見てモルガナが舌打ちした。

 

「チッ!長居し過ぎたか・・・急いで脱出するぞ!」

 

「ああ、行こう」

 

ジョーカーはこの先の重要な出来事に向けて気を引き締めるながら手袋を締め直す。大きく()から外れていない為、恐らく大丈夫だろうが油断は出来ない。あらゆるイレギュラーを想定して動かなくては。そう考えながらチラリと竜司を見る。

 

認知による補正の入っていない彼はやはりやや辛そうに走っているが自分の責任であるという自覚があるため愚痴ひとつ零さず着いてきている。

 

この世界で初めての友人、最後まで自分のそばに居てくれた親友。彼をこの道へと進ませるのに少し罪悪感が湧くが彼には道理を吹き飛ばす力がある。ならばそれを飲み込み彼を心の底から信じよう。

 

 

最善の未来のために、どうか力を貸してほしい。

 

 

ジョーカーはポケットの中にあるスポーツウォッチを握り締めながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ!もう少しで出口・・・ッッ!?」

 

 

「あ?どうしたんだ・・・よ・・・!?」

 

 

「これは・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

「侵入者だと聞いて来てみれば、また貴様らとはな・・・」

 

 

 

そして、広間へと戻ってきたジョーカー達を待っていたのは・・・

 

 

 

「2度も同じ過ちを繰り返すとは、救い難いな!」

 

 

 

 

すね毛の汚い鴨志田(変態)と、それに付き従う広間を埋めつくすほどの圧倒的なシャドウの群れであった─────。

 

 

 

 




竜司覚醒と言ったな、あれは嘘だ(土下座)

次はちゃんと目覚めるから・・・(震え声)

蓮君、メンタルが鬼強いと言っても絶対的なセーフティゾーンで信頼しきってる人の大好きなコーヒーを飲みゃあそりゃ気持ちも揺れ動くってもんよ。

あと総治郎は魅力だけカンストしてると思う。魔性の男を通り越して魔性そのものじゃないかな。

付かず離れずだけど心は掴んでるって感じのやり取りは蓮より上だと思う。熟年のタラシは年季が違う(確信)


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Let's take back what's dear to you/Part3

お久しぶりです、私です。ウルトラマンZが最終回でしたね。ここ最近の作品でまじで大当たり枠だと思ってます。何から何まで最高でした、ウルトラ面白かったですぞ!!

とか何とか言ってるけどまた1ヶ月が経ってたよ・・・仕事関連でマジで心折れかけてました。このままだと月一更新とか月刊漫画かよって感じなので頑張って行きます。

後いつもいつも感想及び誤字脱字修正ありがとうございます!巻き寿司!


色欲蔓延るカモシダパレスへと侵入し、奴の悪事の証拠の一片を掴むべく地下へと向かいそこで修練という名の拷問される生徒達を発見したジョーカー達。

 

彼らの顔を覚える事で現実世界での手掛かりとなる情報を手に入れたジョーカー達は高くなる警戒度の中、1度撤退しようとするが広間へと出た所で待ち伏せていた鴨志田一行に囲まれることとなるのであった。

 

その数はザッと数えただけでも数十人。中には一般兵とは違い突出した強さを持つ上級シャドウの兵隊長も混ざっている。処刑場でジョーカー達を殺そうとした奴とはまた実力が違うらしく纏うオーラはその比では無い。気の所為でなければその鈍い金色の鎧は輝きを増している様に見える。恐らく、鴨志田がジョーカー達を殺す為に強化した個体なのだろう。

 

数による戦力差が大きいなんてもんじゃない、たった3人と比べればウサギとカメ、月とすっぽんレベルであった。

 

「なんだよこれ・・・なんで待ち伏せされてんだァ!?」

 

「くっ!仕方ない!一旦地下へ・・・んなっ!?」

 

想定外の事態に狼狽えるが状況を瞬時に理解したモルガナと流石に予想して無かった今まで1番で多い敵の数に内心冷や汗をかくジョーカーは前と左右を塞がれた今、唯一の逃げ道である地下へと再び戻ろうと振り返るとどこから湧いて出たのか通路いっぱいに文字通り兵士が詰まっており、とても下に行ける状態では無かった。

 

『オオォオォォオオォォォ・・・・・・』

 

無数の顔と腕が蠢いており、その中に入ってしまえば蟻地獄のように中へ中へと引きずり込まれもう二度と戻ることは出来ないのは明らかだ。倒して無理に通ろうとするにも数が多すぎる。きっとこの様子なら地下までシャドウが湧き出ているだろう。

 

やはり警戒度を高めてしまったのは失敗だったとモルガナは舌打ちを零す。広間に出てきてものの数秒程度だと言うのにあっという間に最後の逃げ道も潰されてしまった。

 

『オォオッ!!』

 

「うわっ!?」

 

「危ねぇッ!?」

 

前にいた兵士が3人を斬ろうと剣を振るう。シャドウが詰まって動きが鈍っていたので咄嗟に後ろに下がった事で3人は簡単にその危機は避けたが、下がった事で敵地の真ん中へ出てしまい結果的に更に追い詰められることになってしまった。

 

「ッ!!しまった!」

 

ジョーカー達が階段前から離れるとガシャガシャと喧しく音をたてながら湧き出たシャドウ達が素早く円陣を組み、完全にジョーカー達を取り囲んでいく。まるで蛇が獲物を絞めるように隙間なく周りを敵が埋め尽くしている。

 

「クソッ!完全に囲まれた!」

 

モルガナはグルグルと必死に逃げ出せる場所を探すが何処も彼処も兵士だらけで逃げられるような所は一切無い。いくら手練のモルガナとて数十人の敵と戦って勝てるかと言われれば間髪入れずに「NO」と答える。奇襲などで数を減らせるならばまだしも真正面から群に立ち向かうなど無謀の極みだ。

 

戦いは数を地で行く鴨志田達にモルガナはせめてもの抵抗としてサーベルを構えて冷や汗を流しながらいつでもどこからでも攻撃が来てもいいように体勢を変え続けながら敵を睨む。

 

ジョーカーも表情は冷静だが手に持つR.I.ピストルを握る力が若干強くなり、素早くリロードをして直ぐにでも撃てるようにしているのを見ると少し焦りを感じているらしい。今の今までこの場面でこの数の敵に囲まれてきた事が無いからだ。

 

これは正しく四面楚歌。行けども行けども映るのはシャドウの赤い瞳。それら全てが敵意を持って自分達を睨んでいる。こんな物量で攻撃されればただでは済まない。十中八九即死、良くて重体だろう。

 

しかも碌に装備も持ってきていないので怪我などすれば戦闘中に回復する事が出来ず直ぐに拘束され拷問の後に処刑される事だろう。完全に万事休すという状況であった。

 

どうにか打開できないかと焦る3人の前に手を叩きながら鴨志田が近づいてくる。とてつもなく腹の立つ顔のおまけ付きでだ。

 

「本当に馬鹿な奴らだ・・・折角俺の城から奇跡的にネズミのように這って生き返れたというのに、こうしてのこのこと自分から殺されに帰ってくるとは・・・」

 

くっくっくっとおかしくて仕方が無いと言うように肩を震わせながら攻撃を避けた際に床に倒れた竜司を見下している。その目は余りにも傲慢で、余りにも薄汚く、余りにも醜い我欲に塗れた下品な黄金色であった。

 

その瞬間、竜司の脳内にはかつて見た度重なる体罰の果てに自分達の部を潰した鴨志田の自分を玩具としか見ていないような、そんな馬の糞にも劣る程濁りきった瞳がフラッシュバックしていた。

 

「こッッの・・・野郎ォッッッ!!!」

 

その目は竜司がこの世で最も嫌悪する物であり、彼の激情を刺激するには十分過ぎた。

 

「うるせぇ!何が城だ!学校はてめぇの城なんかじゃねぇんだよ!」

 

倒れている姿勢から得意のクラウチングスタートの要領で走りながら立ち上がり、勢いを付けて全力で鴨志田を殴り飛ばそうと拳を振りかぶる。

 

中々の不意打ちだったが常人の状態である竜司の攻撃はシャドウ達にとっては余裕で対応出来るものであり、金色の鎧を着た兵隊長がドス黒い瘴気と共に一瞬で変貌したシャドウ、『アークエンジェル』が鴨志田の前に素早く立ち塞がり竜司の拳をその盾で軽く受け止めると鼻で笑いながらシールドバッシュによって吹き飛ばされてしまった。

 

「あがっ!?」

 

弾かれた際に拳の皮膚が擦れて血を出しながらゴロゴロと床を転がる竜司。ジョーカーとモルガナが竜司の側へ駆け寄ろうとするがその前へ兵士が割って入り剣を向けられ身動きを封じられる。戦力である2人を離すことでこの世界では無力な竜司を完全に孤立させられてしまった。

 

「邪魔だ!ペルソ・・・うぎっ!?」

 

このままでは竜司がなぶり殺しにされてしまうと感じたモルガナが無理にでも通ろうとゾロを呼び出そうとするが後ろから襲いかかってきた兵士によって首根っこを掴んで組み伏せられ形を成そうとしていたゾロが途中で分散して消滅してしまう。

 

「ぐっ」

 

「大人しくしていろ、首と胴体がお別れしたくなければな」

 

ジョーカーも同じく組み伏せられ床を舐めることになり、更に脅威として認識されているからか微塵も動けないように剣を向けられている。抵抗したりペルソナを出そうとすれば直ぐにでも切り殺すという無言の圧が見て取れた。

 

(そんなもの向けられなくても抵抗しないさ・・・今はな)

 

そう考えながら首に冷たい剣の切っ先を付けられているというのに焦りも恐怖もせずに冷静に抵抗の意志が無いことを示す為R.I.ピストルを投げ捨て両手を上げる。しかし、切っ先でペチペチと首を叩かれた為ため息を吐いてコートにしまっていたミセリコルデも投げ捨てる。どうやら相当に警戒されているらしい。

 

「んん〜・・・いい光景だ、なっ!」

 

完全に無力化された2人を見て上機嫌に笑みを浮かべた鴨志田はアークエンジェルを下げると傲岸不遜な歩き方で竜司へ近づき、痛みに悶えながらも鴨志田を睨むその頭を虫でも潰すかのように踏みつける。

 

「がっ!!・・・クソッ・・・鴨志田ァァァ!!」

 

激痛に意識が飛びそうになりながらも歯を食いしばり怨敵を睨みつける竜司を鴨志田は楽しそうに愉悦の笑みに顔を歪ませる。

 

「ハッ!喧しいな、『弱い犬ほどよく吠える』とはこの事よ。どうせ今回の侵入もお前の差し金なんだろう?なぁ、坂本ォ?」

 

「くっ・・・!・・・る・・・せぇ・・・!!」

 

心底腹の立つ顔でそう言ってくる鴨志田にぶん殴ってやろうと拳を握り締めるが押さえ付けられているせいで動くことが出来ない竜司。鴨志田はそれを嘲笑いながら両手を広げて更に煽り続ける。

 

「いやはやおめでたい奴だよお前は、流石は『裏切りのエース』と言った所か。今回は大事なお友達の命も潰そうとはねぇ。」

 

「ッッ!!テメェェェ!!!」

 

「裏切りのエース・・・?」

 

ジョーカーがまるで初めて聞きましたという様に小さく呟くと鴨志田はジョーカーを一瞬意外そうに目を見開いた後、ニンマリと気色悪く笑って竜司に視線を向ける。

 

「おいおいおい!坂本!お前まさか何も話さずにコイツらをここに連れてきたのか?ワッハハハハ!!こいつは傑作だ!」

 

ドッ!と鴨志田と共に兵士達も馬鹿にして爆笑する。一頻り笑った後、笑いすぎて出てきた涙を拭いながら下にいる悔しそうに顔を顰めている竜司を指差しながらジョーカー達に彼らの間にあった因縁の過去を話し始める。

 

「よく聞け、こいつはな、陸上部の()()()なんだよ。この俺の貴重で有難い指導が気に入らないからって暴力に走り、仲間を裏切り夢を潰した癖に1人のうのうと生きてるのさ。最低のクズにして恩知らず!正に『裏切りのエース』だよなぁ坂本ォ!!」

 

「なにが・・・指導だッ!あんなもんただの体罰だろうが・・・ッ!!テメェが陸上部の事気にくわねぇから・・・!」

 

「黙れ。目障りだったんだよ貴様らは!実績を上げるのは俺様だけでいいんだ!」

 

悔しげに涙を滲ませながらそう叫ぶ竜司に鴨志田は踏みつける力を強めて自分勝手な言葉を振りかざす。つまり鴨志田は自分の事は棚に上げ、その時に優秀な成績を残していた竜司や他の陸上部の生徒達の努力を踏み潰したのだ。

 

その歪んだ自己承認欲求は外道というのに相応しい。おおよそ人間とも呼べないような自己中心的な言動にモルガナはここまで下劣なパレスが出来た理由を垣間見た。

 

「クビになったあの監督も救えん馬鹿だ・・・正論並べて楯つかなければエースの足を潰すだけにしてやったものを・・・」

 

「なんだって・・・!まさかコイツ、あいつの足を・・・!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、モルガナは心底理解した。鴨志田という男の救いようのない狂気を。そして竜司があそこまで鴨志田に対して深い憎悪を向けていた理由を。湧き上がってくる怒りと共に強く理解した。

 

こいつは人の心を捨てた本物の『悪党』であると。

 

「な・・・・・・!」

 

「もう一本の脚もやってやるか?どうせ学校が『正当防衛』にしてくるしなぁ!」

 

理不尽な権力。社会で生きる上でどうしても逆らえぬ絶対的な暴力は例え虚偽であろうとその人物が地位を持つ者であった途端にハリボテの真実を纏って正当化させられる。それはまだ学生である身の竜司には決して逆らう事の出来ない横暴であり、とことんまで絶望させるのに事足りる一言であった。

 

何も出来なかった自分に対する無力感と鴨志田に対する憎しみが溢れ出し、涙となって頬を伝う。

 

「クソッ・・・俺また負けんのかよ・・・!!こんなクソのせいで走れなくなって・・・陸上部も失って・・・!!ちくしょう・・・!!」

 

今の竜司には立ち上がる気力も脚も持ち合わせていなかった。鴨志田に壊された脚は真の絶望から立ち上がる力すらも奪ってしまったように感じたからだ。

 

そしてそれは事実であり、心の奥底に無意識に存在していた恐怖が竜司の体をまるでコンクリで固めたかのように重く重くこべり付き、更なる絶望へと沈めようとその心にのしかかってくる。

 

「おいリュージ!しっかりしろ!下を向くんじゃねぇ!」

 

「・・・言われっぱなしでいいのか、許せないんだろう」

 

拘束されながらも項垂れる竜司に奮起するよう声をかける2人。

 

しかし心を粉々に打ち砕かれる寸前まで追い詰められた竜司はただただ手を握り締めるだけで立ち上がろうとはしなかった、いや出来なかったと言うべきか。

 

「そうだよ・・・俺が、アイツに奪われたモン・・・もう返ってこねぇ大事なモン・・・!!」

 

竜司は本来ならば反骨精神に溢れる青年である。怪盗団の中で誰よりも血の気が盛んで誰よりも前線に駆け出し無意識下で皆を引っ張っていく特攻隊長のような役割も果たしていた。その無謀ながらも勇敢な背中は誰よりも頼りになるものだった。誰であろうと間違っているのならそれを真正面から否定し、真っ直ぐに立ち向かっていくのが坂本竜司である。

 

しかし彼の心は既に限界であった。脚を壊され、部を潰され、全てを奪われたあの日から周りから疎まれ孤独に過ごしてきた彼の摩耗した精神はこの日この時に覚醒するべき彼の中から反逆の精神を奪い去ってしまっていた。

 

「でも俺には何も出来ねぇ・・・ちっぽけな俺じゃあ何したってコイツに潰される・・・!俺は・・・俺はァ・・・!!」

 

地に伏しながら情けない自分に対して血が出るほど唇を噛み締める。それを見た鴨志田は堪らなく嬉しそうに愉悦に満ちた歪な笑顔を作って竜司を更に追い詰めようと口を開きかけた瞬間。

 

 

 

 

「ペルソナッ!!」

 

 

 

 

蒼炎と共に黒き反逆の風が広場の中に吹き荒れた。

 

 

それは恐ろしい事にジョーカーが自身のペルソナであるアルセーヌを召喚した余波であるが、たったそれだけでジョーカーを取り押さえていた兵士は断末魔もあげられずに消し飛び、彼らの周りを取り囲んでいた兵士達を吹き飛ばしシャドウになる暇も与えずに消滅させてしまうほどの威力があった。モルガナを抑えていた兵士ももれなく吹き飛び壁に激突して力尽きたのか溶けてしまう。

 

ブンブンと頭を振って顔を上げたモルガナが見たのは背後にアルセーヌを従えながら高貴な漆黒の羽根が美しく舞う中、心地いい靴音を鳴らしながら竜司に歩み寄っていくジョーカーであった。その歩き方はまるで絵画の中から飛び出してきたのかと思うほど気品に溢れたものであり思わず見惚れてしまう魅力があった。その優雅さと威圧感たるや兵士達が怖気付いて何もせずにただその歩みを見つめる程。

 

「くっ・・・!チィッ!貴様っ!」

 

黒い風に咄嗟に腕で顔を庇っていた鴨志田は開放されたジョーカーを見た瞬間、処刑の時に見せた力に警戒し大きく下がると自分の前に肉楯として兵士達を立たせた。咄嗟にその行動を取れるとは鴨志田の警戒心の高さや狡猾さが見て取れる。

 

しかしジョーカーは鴨志田など眼中に無く、真っ直ぐに竜司の元へ歩いていく。そして竜司の前に立つと片膝をつき優しい笑みを浮かべながら紅い手袋をつけた手を差し出した。

 

「れ、蓮・・・!」

 

今のジョーカーは竜司にとっては正に闇の中に差した光のように感じた。それはとても眩しく暖かくまるで太陽のような光だった。窮地に現れた太陽の如き英雄。まるで御伽噺の世界に入ったかのような気さえ感じていた。

 

そんな彼の手を取り立ち上がる竜司。1人では立ち上がれない彼をジョーカーは優しく引っ張りあげた。少し転びそうになりながらも立ち上がり、ジョーカーの瞳を照れ臭そうに見る竜司。

 

「その、すまねぇ蓮、また助けて貰っちまって・・・」

 

「フッ・・・」

 

申し訳なさそうにそう言った竜司にジョーカーは軽く笑って目を伏せる。まるで友達を助けるのは当たり前だろ?と言うような笑みだった。それを見て竜司もまた笑みを浮かべた。

 

「俺のせいでこんな目にあってるってのに・・・お前って奴は・・・!」

 

「竜司」

 

「蓮・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歯ァ食いしばれぇッ!!」

 

 

「ぐぼへぇッ!?」

 

しかし残念ながらジョーカーはそこまで甘く暖かい男では無かった。手袋を締め直してから脚を踏ん張り勢いをつけ腰を捻り威力を最大限に高めた無慈悲な鉄拳が腑抜けた竜司の頬に突き刺さる。どこから見ても綺麗な右ストレートであった。

 

「ハァッ!?」

 

「なっ・・・」

 

凄くいい音を響かせながら竜司は宙を舞う。スローモーション演出が入りそうなその光景にモルガナだけでなく敵である鴨志田や兵士ですらまさかの鉄拳に唖然として固まっている。

 

頬を真っ赤に染めた竜司を含めジョーカー以外何が起こったのか分からず呆然としている中、ジョーカーは殴り飛ばした竜司のそばへと近寄るとその胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせる。

 

「な、何すんだよ蓮!?何でいきなり殴ってきたんだ!?」

 

竜司の困惑は最もだ。助けて貰ったと思ったら殴られしかも胸倉を掴んで来るときた。正直傍から見たら意味が分からない。モルガナですら竜司の言葉にうんうんと頷いていた。

 

しかしキャラ崩壊すら恐れないジョーカーはそんなもん全部無視して竜司に語りかける。

 

「竜司、お前はそれでいいのか?」

 

「ッ!!」

 

「このまま何もせずただアイツの影に怯えて過ごす、本当にそんな事でいいのか?」

 

真っ直ぐと竜司の目を見ながらそう問いかける。その目は鴨志田とは違い良く澄んでおり、その中に確かな誇りと眩い光が映し出されていた。それを見た竜司は先程とは違いつい逃げる様に目を逸らしてしまう。迷いと混乱の中にある彼にとってそれはとても眩しく見えてしまったから。

 

忸怩たる思いに駆られ体を震わしながらも竜司は言葉を紡がせる。

 

「・・・・・・いい訳ねぇ・・・いい訳ねぇだろ!でもどうしろってんだよ!俺みたいな問題児なんかが噛み付いた所でアイツは何も失わねぇどころかそれを利用してもっと力を付けちまう!結局何やったって俺はアイツには適わねぇ・・・!何やったって・・・全部無駄に・・・ッ!!」

 

 

それは正しく感情の爆発であった。今まで孤独の中で溜め込んでいたものを全て吐露するように叫んでいた。1人ではどうしようもないという無情な現実に対する苦悩を抱え込んでいた竜司の言の葉はとても痛々しく、悲痛なものであった。

 

だがそれでもジョーカーは揺るがない。未だ曇りなき眼で竜司を真っ直ぐと見据えある質問を投げかける。

 

「・・・竜司、お前はそれで『納得』出来るんだな?」

 

「・・・は?」

 

そう語り掛けてきたジョーカーに竜司は理解が追いつかず顔を上げて困惑の目を向ける。静かにその目を見返すジョーカーは極めて平坦に続きを話した。

 

「この畑に捨てられ、カビが生え、ハエもたからないかぼちゃのような腐った現実を受け入れられるのか?と聞いてるんだ。『納得』は全てに優先するぞ。お前は陸上部を潰され、脚を壊され、奴が王様気分でヘラヘラし続けるという現実に『納得』が出来るか?」

 

「納・・・得・・・」

 

噛み締めるように反復する竜司。やがて理解が追いついてきたのか大きく呼吸をすると一度目を閉じると腹を括ったように鋭い目を見開く。

 

「ラァッ!!」

 

手を固めジョーカーに殴られた方とは逆の頬を自分で殴る。鼻血を垂らすことも痛みなども気にせず震えが収まるとゆっくりと立ち上がり今度は目を逸らさず真っ直ぐとジョーカーの目を見つめ返す。

 

そんな竜司にジョーカーは再び問いかけた。

 

「お前から全てを奪い、今も尚奪い続けているクズを許す事が出来るのか?」

 

「出来ねぇ・・・出来るわけねぇッ!!そんなもん今までの俺を!俺の為に体張ってくれたお袋を!そしてダチのお前を!俺自身が馬鹿にするって事だ!!出来るわきゃねぇだろ!!」

 

そう叫ぶ竜司にはもう迷いも何も残っていなかった。ジョーカーの言葉で奮起して自分の足で立ち上がった彼は腹の底から湧き上がってくる闘志が心の闇を打ち払ったのだ。

 

その目はバチバチと稲妻を走らせるように()()に輝き始めている。己の弱さと向き合い、現実に立ち向かう強き意志の力が。我欲にまみれた怪物と戦う反逆の(いかづち)が宿った瞬間であった。

 

「ありがとよ、蓮。おかげで目ェ覚めたぜ・・・!」

 

「らしくなったな、竜司」

 

ニヤリと優しく笑い合う2人。ダチが迷っているのなら手を差し伸べそれを引き上げる。そんな当たり前に従った迄だとジョーカーは笑い、竜司もそれを感じ笑ったのだ。付き合いが短いながらも確かな友情を持っていた彼らはその繋がりを更に確固たる物にした。

 

そんな彼らの間に水を差すように焦った鴨志田が声を荒らげる。

 

「何をやってる!さっさとあのクズ共を始末しろ!」

 

その声に従って呆然としていたシャドウ達を再起動させ、その身をそれぞれの形へと変貌させて行く。たちまち大量のシャドウに囲まれたジョーカー達。殺意が倍増しで彼らを襲うが2人共全く動じていない。台風の目のように落ち着き払っている彼らは周りのシャドウなど目にも映さず鴨志田の方へ向き直る。

 

少なからず動揺はするだろうと思っていたにも関わらず全く効果が無いのを見て鴨志田は内心かなり驚いていたが小虫共にそれを悟られてはかなわんとプライドが高い故に出た見栄で冷や汗をかきながらも二チャリと気持ちの悪い笑みを貼り付けている。

 

「・・・違ぇな」

 

それを見た竜司はキッと更に目を鋭くすると鴨志田の方へに堂々と凄みを纏わせながら歩いていく。鴨志田はそんな彼を警戒して自身の前へ来れないよう道を遮る形でシャドウ達を集わせる。

 

だが竜司はそんなこと気にもせずに歩いていくとシャドウ達が彼を取り囲み、何時でも攻撃できるようにそれぞれの魔法を発動させ待機している。かなり危険な状況だがジョーカーとアルセーヌはそれを見守るように微笑みながら佇んでいる。

 

「人を利用する事しか考えてねぇテメェの方こそ本物のクズだッ!鴨志田ァ!!」

 

凄まじい胆力でシャドウ達など意に介さず鴨志田を指差してそう叫ぶ竜司。その気迫に鴨志田は更に顔をニヤケさせる。

 

その気味の悪い笑みが竜司の怒りの雷管を点火させた!

 

 

「ニヤけた面で!!こっち見てんじゃねぇよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

バチバチィッ!!!

 

 

 

 

 

 

『随分と待たせたものよ』

 

 

 

「がっ!?あぁっ!?」

 

 

 

その声と電が弾ける音ともに大きな心音が響き、竜司に頭が割れるのでは無いかと思う程の頭痛が襲いかかった。

 

余りの激痛に立っていることすらままならず、床に蹲り頭を抱えて悶える。心の奥底から聞こえてくる声は溢れ出てくる痛みと力が竜司の体を蹂躙していく。

 

 

 

 

『力がいるんだろう?ならば契約だ。』

 

 

 

 

 

 

『どうせ消えぬ汚名ならば、旗に掲げてひと暴れ・・・お前の中の『もう1人のお前(この俺)』がそう望んでいる。』

 

 

 

 

逆襲の鎖が深き海底から秘められた力を引き上げる

 

 

 

 

『我は汝、汝は我・・・我は汝の心の海原より出でし者・・・!』

 

 

 

 

 

 

バチバチバチバチッッ!!

 

 

 

激しく弾ける電気が蒼炎と共に竜司の顔を走るといつの間にか髑髏の仮面が目元を包み込んでいた。

 

突如として出現したそれに疑問を持つ事も無く力強く掴むと無理矢理引っペがし始める。ベリベリと剥がす度に痛々しく血が吹き出し、彼の顔を赤く染めていく。

 

 

 

 

 

 

 

『覚悟して背負え!これより、反逆の“髑髏“が貴様の旗だッ!!』

 

 

 

 

 

そして完全に引き剥がした仮面を頭上に向けて思い切り投げ飛ばす。過去の後悔も、雁字搦めの現実も、真っ暗な未来も全て共に投げ捨てるように。

 

 

 

それでいて叫ぶ。

 

 

 

 

高らかに呼ぶ。

 

 

 

 

 

己に眠る、反逆の略奪者を。

 

 

 

 

「あ“ぁ・・・行くぜっっ!!

 

キャプテェェェン・キッドォォォーーーッッ!!!』」

 

 

 

 

 

 

ガッシャァァァァンッッッ!!!

 

 

 

 

 

呼び声と共に雷霆が大気を引き裂き、爆音を轟かせた。

 

 

 

 

 

突如降り注いだ巨大な雷の柱を中心に、まるで嵐により荒くれる海の如し凄まじい落雷が降り注ぎシャドウ達を襲う。不運にも竜司の周りにいたシャドウはその直撃を喰らい悲鳴をあげながら焼け焦げ炭となって倒されていく。

 

その電撃の余波は鴨志田まで届き、シャドウ達を貫きながら突き進み右腕を焼く。

 

「ぐおぉぉおぉ!?」

 

「鴨志田様!」

 

「ぐっ・・・!?クソ・・・!俗物の分際で・・・!!??」

 

右腕を焼かれ痛みにより大粒の汗をかきながらも巨大な雷の柱から目を離さないのは流石パレスの主と言った所か。

 

そんな鴨志田に応えるように雷の中から荒っぽい靴音を鳴らしながら蒼炎を纏った竜司がゆっくりと姿を現す。

 

「コイツァいいぜ・・・この力がありゃ借りが返せるってもんだ」

 

その格好はペルソナに目覚めた者特有の服に変化している。

 

ジョーカーのように紳士服じみた物では無く自由人の様な、言い方を変えるなら暴走族のようなイカすライダースーツに身を包み、雷を形にしたかの様な黄色い手袋を付け首には彼の燃えるような情熱を表すように赤いマフラーを巻いている。

 

肩にショットガンを担ぎ、悪どい笑みを浮かべた竜司はその背後に自らの化身であるペルソナを連れ漂わせていた。

 

放電を繰り返しながら浮かぶそれは鎖の蠢く音を響かせながら悠々と己のペイントの施された漆黒の小型船に乗り、その姿は海賊と言うに相応しい。

 

海賊帽から覗くその顔は皮膚も肉もない眼帯を付けた頭蓋骨のみが敵を睨み、地獄の亡者の如しその瞳は合わせた者を恐怖に震えあがされる冷たさが宿っている。

 

更に特徴的なのが右腕であり、そこには手の代わりに大砲が取り付けられている。時折そこから電撃が漏れ空気に火花を散らしていた。

 

 

深海の闇より蘇りし伝説の海賊、祖なる海を駆けた稀代の荒くれ者。

 

 

 

それこそが竜司のペルソナ、『キャプテン・キッド』である!!

 

 

 

『フハハハハ!!相変わらず荒々しい奴よ!だがその意気や良し!』

 

暴れ馬のように広場を駆け巡る雷を見てアルセーヌは高々と懐かしげに、しかし楽しそうに笑う。竜司の性格を表すようなその光景にかなり気分が高揚し、ご機嫌な様だ。

 

かく言うジョーカーもかなり嬉しそうに笑みを浮かべており、キャプテン・キッドを従えた雄々しい竜司の背中を誇らしげに見つめていた。拘束から抜け出し、隣に来ていたモルガナはまさか竜司が覚醒するとは思って無かったようで口をあんぐりと開け愕然としている。

 

鴨志田を睨んでいた竜司はふと後ろを振り返るとジョーカーとモルガナに向けてニッと彼らしい笑顔を向ける。

 

「ほんっと、待たせちまったな!行くぜ2人共!」

 

「あぁ」

 

「へっ!仕方ねぇ!足引っ張るなよ?」

 

「ぐぅ!この賊共がァァァ!!」

 

そう言って手を拳で叩いた竜司の隣にジョーカーとモルガナが並び立つ。ジョーカーは手袋を直し、モルガナは相変わらず上から目線で腕を組んでいる。そんな頼もしい2人の肩を叩いてから臨戦態勢に入ったシャドウ達にキャプテン・キッドの砲口を向け、悪を焼く雷撃を放ち戦いの火蓋を切った。

 

 

「ぶっ放せよ!キャプテン・キッドォ!!」

 

 

咆哮と共にキャプテン・キッドの右腕から登場時と同威力の強烈な電撃魔法、『ジオ』が蛇のように畝りながらシャドウ達を蹴散らす。

 

「ぐあぁあぁぁッッ!!??」

 

「ギャアァァアァッッ!?」

 

「なっ・・・!?雷だと・・・!?」

 

「なんて威力・・・!し、痺れ・・・!?」

 

電撃が弱点のシャドウは一撃で消し飛び、弱点ではないが耐性も無いシャドウでさえ初覚醒補正により大ダメージを受け加えて感電して動きが鈍くなる。動けない隙にジョーカー達がシャドウ達をペルソナと武器を使って殲滅していった。

 

だが勿論、電撃に耐性を持つシャドウも居る。インキュバスやアガシオン、マンドレイクなどの耐性持ちシャドウ達と兵隊長クラスの上級シャドウはキャプテン・キッドの放つ電撃を掻い潜り竜司達へと殺到する。

 

「喰らえ」

 

『フハハハハ!』

 

「威を示せゾロ!」

 

だがマンドレイクやアガシオンなどの通常シャドウは辿り着く前にジョーカー達によって倒されて、残った上級シャドウも足止めを喰らう。アルセーヌの右手から放たれたエイガオンの呪怨エネルギーがシャドウ達を飲み込み闇へと葬り、ゾロのガルが疾風の力でシャドウを細切れにしていく。

 

何とかそれらを抜けた上級シャドウのアークエンジェルは剣による強力な斬撃を竜司へと放つがそれはキャプテン・キッドの華麗な船捌きにより受け流され、バランスを崩したアークエンジェルの腹にキャプテン・キッドの砲口が着けられる。

 

「しまっ!?」

 

それに気が付いたアークエンジェルは直ぐに距離を取ろうとするがキャプテン・キッドが剣を左手で掴むことでそれすらも出来ずに完全に逃げ道を奪われたアークエンジェルに悪い笑みを向ける。

 

「散々痛めつけてくれた礼だ、受け取っときなァ!!」

 

「グオォアァアァァッッ!!??」

 

これまでの鬱憤を晴らす為に密着させた砲口からジオの零距離放出を受けたアークエンジェルはそのまま勢いよく天井までまるで雷のように昇り、その上で力尽きて消滅した。

 

「へっ、ざまぁみろ。・・・ん?」

 

それを眺めていた竜司の視界に何かが映る。ひゅんひゅんと音を立てて回りながら落ちてくる物は丁度真下にいた竜司の手元にピンポイントで収まった。

 

「いいモンが落ちてきやがったぜ」

 

そう、それは何故か真上にあった足場が先程の衝撃で崩れた事で落ちてきた1本の鉄パイプであった。丁度近接武器を持っていなかった竜司はこれ幸いと片手でブンブンと振り心地を確認すると満足気に頷いた。

 

「めちゃくちゃ使いやすいぜっと!!」

 

そして振り向きざまにフルスイングをして近づいてきていたケルピーの顔面をぶっ飛ばす。どうやらかなり手に馴染んでいる様子。更に気分が上がった竜司は笑みを深めてキャプテン・キッドとシャドウ達に向けて突っ込んでいく。

 

かなり猪突猛進でラフな戦い方だが元が不良じみた竜司なのでかなり様になり、また戦いやすい様子でタガが外れている事もあって凄まじい暴れっぷりであった。

 

「オラオラァ!行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」

 

雷が降り注ぐ中、片手で鉄パイプを振り回し、片手でショットガンをぶっ放つその姿はまさに荒くれ者。邪魔するのならばあらゆる物をなぎ倒す戦車の様である。

 

「すげー暴れっぷりだなアイツ・・・」

 

「2人共、そろそろ決めるぞ」

 

モルガナが竜司の戦い方に呆れ気味にそう呟き、頃合を見たジョーカーがそう声を上げる。

 

「ああ!そろそろ終わらせようぜ!一斉攻撃だァッ!!」

 

竜司が響く声でそう叫ぶとそれに合わせる様にジョーカーとモルガナも一気に力を解放する。

 

 

ブチッ!!

 

 

ブチ切れカットインが入ると影だけが残るほど素早く動き、残った残党を切り裂き、潰し、貫いた後3人は一箇所に集まり竜司がズッコケながらも直ぐに立ち上がってロックな決めポーズを決める。同時にシャドウ達は血飛沫を上げると断末魔を上げながら一斉に消滅した。

 

「そのまま寝てなっ!」

 

決め台詞を決めながら消えるシャドウ達を見送ると今度は鴨志田だと気合を入れて振り返る。

 

が、鴨志田はとっくに逃げた後のようでその姿は何処にも無い。部下を置いてさっさと逃げるとは上司の風上にも置けない奴だ。いやそもそも人間としての風上にも置けない奴だった。

 

「ふん、少しはやるようだな」

 

と、思ったらちゃっかりいた。いつの間にか自画像の前にまで移動しており避難したくせに偉そうに右腕を隠しながら竜司達を見下していた。

 

「今更謝っても遅せぇぞ鴨志田!」

 

「確かに()()、だがここが俺の城だと言う事を忘れていないか?兵力は無限に生み出せる!そして・・・俺好みの女もな」

 

「は?何言って・・・」

 

いきなり意味不明な事を言ったかと思えばまた気持ち悪い笑みを浮かべて指を鳴らす鴨志田。すると奴の隣に黒い影が現れ、1人の少女の姿を形作る。それは彼らも良く知る鴨志田と関わりの深い少女であった。

 

「た、高巻・・・?」

 

そう、影は杏の姿を形作っていたのだ。しかも何故かピンクの豹柄ビキニに猫耳を着けたなんというか、()()()()()で出てきそうな格好をして。完全に鴨志田の欲望がダダ漏れの格好であるのは明白であり、事実鴨志田はそんな彼女を見て鼻の下を伸ばしていた。

 

対して、いきなり知り合いが鴨志田の隣に現れて混乱する竜司。

 

「え、は?な、なんで高巻がここに、つーかアイツのとこに?」

 

「ニャ、ニャンて綺麗な女の子・・・じゃない!おい落ち着け!言ったろ!ここはパレス!そこにいる人間は認知存在で全くの別物だってよ!」

 

「あ、あぁそうだった!ありゃ鴨志田が作り出した偽モンって事だよな!」

 

ここに来るまでに何度も説明され、やっと理解していた竜司はすんなりとこの光景を受け入れたが今度は現実の認識が反映されているという事を思い出して強い嫌悪感を顕にした。

 

「だとすりゃあ、高巻はあいつにそういう目で見られてるってこったよな・・・キメーんだよこの変態野郎が!!」

 

「何度言ったら理解するんだ?ここは俺様の城だぞ、何をやっても許される。どころか、誰もが俺に気に入られたいと願ってるのだ・・・貴様らのような頭の悪い奴以外はな。」

 

ぶん殴りたくなるような酷くムカつく顔で巫山戯た事をぬかす鴨志田。その気色悪さに流石のジョーカーも目元を若干引くつかせた。何度やっても鴨志田の時折見せるマジの気持ち悪さには慣れないようだ。思わずR.I.ピストルを乱射しそうになるが耐え代わりにまだ消滅していなかった兵士の剣をその顔面目掛けてぶん投げる。

 

だが、それはまた湧き出てきた兵士の盾によって防がれる。小賢しいヤツめと強く警戒しながらジョーカーを睨む鴨志田。その熱視線にも特に当たると思ってなかったジョーカーは少し薄れた気持ち悪さに満足したようで手袋を直しながらフゥと息を吐く。

 

「フン・・・おい!さっさと掃除しろ!」

 

鴨志田がそう叫ぶとまた広場の床から黒い影が蠢き、その中から兵士達が墓場から蘇るゾンビのように溢れ出てくる。それを見た竜司はうげっと生命の冒涜すら感じる兵士の登場の仕方にドン引きし、モルガナは更なる増援に流石に消耗したままではジリ貧になるだけだと判断したのか退却の姿勢をとる。

 

「くそ、このままじゃまずい!また囲まれる前にズラかるぞ!」

 

「ハァ!?このまま逃げるってのかよ!そんなの・・・くっ!」

 

やはり納得しない竜司は噛み付いたがペルソナ覚醒の反動による疲労でふらついてしまう。こんな調子でシャドウと戦い続ければ途中で力尽きてやられてしまうのは目に見えている。竜司は悔しいが撤退した方がいいと嫌でも理解した。

 

「竜司、死んだら元も子もないぞ」

 

「・・・クッ!そうだな・・・絶対テメェの化けの皮ひっぺがしてやっかんな!首洗って待ってろ!」

 

「ククク・・・ここの連中は甚ぶり飽きていた所だ!いつでもかかってこい!命が惜しくなければな!!ハァッハッハッハッハ!!」

 

「相手にするな、行くぞ!」

 

そう挑発しながら笑う鴨志田にまた突っ込みそうになる竜司の襟首をジョーカーが掴み少しの時間も惜しいので無理矢理引き摺ってモルガナ先導の下、湧き続ける兵士達と笑い続ける鴨志田に背を向けて広場を出て前回にも脱出に使った物置部屋に駆け込み換気口から抜け出し、漸く城の外に出る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

チラリと後ろを確認するがどうやら追っ手も来ていないようだ。この様子だと逃げ切れたというよりは見逃されたという様な気がするのでちょっと気に入らないがあのまま戦うよりかはマシなのでここは気にしないでおく。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・クソ、マジでブランクやべぇ・・・」

 

「大丈夫か竜司」

 

「あ、あぁ・・・てか、なんか、服変わってんだけど!?」

 

息を切らしながら今更な事を言う竜司。戦闘中は興奮状態で服の事まで気にしてる余裕も無かったから仕方の無い事なのかもしれない。そんな竜司にサムズアップをしながら「似合ってるぞ」と笑顔で褒めるジョーカー。暗に賊っぽいというより族っぽいなと言ってる訳だがそれに気が付かない竜司は「そ、そうか?」と満更でも無さそうに照れている。

 

「にしても髑髏とは・・・イカスな」

 

「えぇ・・・まじかお前」

 

竜司の不良寄りなファッションセンスに少し引いているモルガナ。ほぼ全てが真逆の彼らはファッションセンスも真逆なようで、紳士的な物を好むモルガナと竜司はこんな所でも相容れないようだ。

 

「あっ!なぁ、ネコガナ。こっちの鴨志田に見つかっても現実の鴨志田には影響ねーのか?これで外出たら鴨志田が襲ってきたーなんて勘弁だぜ」

 

「確かに」

 

「おぉ、バカの癖にいいとこに気がつくじゃねーか。バカの癖に」

 

「一言多いーんだよ!てかなんで2回言いやがった!」

 

竜司とモルガナが取っ組み合いになりそうなのをジョーカーが獣を宥めるようにどうどうと抑えて話を続かせる。

 

「それについちゃ問題ねーよ。現実の鴨志田はこっちの事は知りえない。処刑の事、あっちの鴨志田は覚えていたか?」

 

「そういや覚えてなかったな・・・なら大丈夫なんだな」

 

「そういう事だ」

 

昨日のパレスから出た後に校門前で出会った鴨志田は敵意こそ向けていたがパレスの事や竜司達を処刑しようとしていた事など知っているようにも見えなかった。それはパレスの鴨志田とリアルの鴨志田が意識や情報を共有している訳でなく、あくまでも別物であることを証明していた。同一の存在なのに別物というのもおかしな話だが、まぁ表と裏くらいに考えとけばいいだろう。

 

「よし、それさえ分かれば後は現実の方で・・・」

 

「おい待て、何サラッと帰ろうとしてんだよ。約束通り案内してやったんだ。今度は吾輩に協力して貰うぞ?」

 

パレスから帰還し早速現実の方で調査を進めようとした竜司をモルガナが呼び止める。どうやら危険を冒してまでそっちのお願いを聞いてやったんだから今度はこっちの願いを聞いて貰わなきゃ割に合わないということらしい。

 

別に「案内するからその後こっちの言うこと聞けよ?」とかそういう契約は一切結んでないのだが、道中の戦闘や広場での事を負い目にさせて断りづらくしている。モルガナ、中々の策士である。

 

「あ?協力?」

 

「そうだ、その為に丁寧に教えてやったしあんな危険な戦闘にも身を投じたんだ。吾輩の身に受けた歪みを取り払う為、真の姿を取り戻す為にな!その為には遥かメメントスの・・・」

 

恩を感じやすかったりすればこれを断わるのはかなり難しいだろう。だがそれは普通の人間が相手だった場合だ。

 

「ちょっと待てよ、何話し勝手に進めてんだ。付き合うなんて一言も言ってねぇだろ?」

 

「え、まさか・・・タダでお世話になろうってのか!?」

 

「いや、だって別にそういう約束してねぇだろ?事前に言ってんならまだしもよ。」

 

「いや待てよそりゃ無いぜ!特にお前!既に吾輩のプランの1部なのに!」

 

そう言って慌てたモルガナに指さされたジョーカーは数秒考えるように顎に握り拳のような形で指を置くと何も言わずに誤魔化す感じでイケメンスマイルを放った。

 

「・・・・・・(ニコッ)」

 

「いや何爽やかスマイル決めてんだコラァッ!」

 

「悪ぃな、こっちも色々やんなきゃならねぇんだ。世話んなったぜモルガナ、中々、いやかなりガッツのある奴だったぜお前!ん?猫か?」

 

わざわざしゃがんで目線を合わせ、ニカッと明るく笑って別れの挨拶を告げる竜司。凄い、堂々とモルガナからの恩を蹴っ飛ばしている。

 

「いやうるせーわ!猫じゃねーって言ってんだろ!吾輩がニンゲンじゃないからって馬鹿にしてのか!?」

 

「じゃあな!またどっかで会おうぜ!」

 

モルガナの怒声を完全にスルーして立ち上がり、手を振りながらパレスの出口に向かって走る竜司。そしてジョーカーもモルガナの小さい手をとって握手をすると竜司の後を追って出口へと向かった。余りにあんまりな光景に一瞬固まっていたモルガナだが直ぐに再起動してなんだか良い話風にシめた竜司達の背中に向かって叫ぶ。

 

「ちょ!?おい待てお前ら!ねーわ!そりゃねーわ!マジねーわっ!何いい話風に纏めてんだ金髪モンキーッ!」

 

しかしそう叫んでも2人は止まらない。まるで青春を駆けるように振り返ることも無く、真っ直ぐと迷わずに出口に入り、現実世界へと帰還してしまった。グニョンと揺れる世界が2人を包むとやがてパレスから完全に姿を消した。

 

マジで取り残され、ポツンと城前に取り残されたモルガナはフルフルと体を震わせるとキレて光の中へ消えた奴らに向かって吼える。

 

「いや、ねーわ!!ねぇーーーーッわ!!ぬぇぇーーーわぁぁーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして竜司と蓮は窮地を脱し、無事に証拠となり得る情報を持ち帰ることに成功した。

 

更に蓮の狙い通り竜司もペルソナに目覚め確実な戦力増強と凡そルート通りの展開で事を進めることが出来たので大いに満足のいく結果であった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

潜入進行ログ

 

 

‪NEW 一斉攻撃を習得した

 

NEW 証拠を持ち帰った

 

NEW 竜司のペルソナを覚醒させた

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 




文才が無いので似たような文が多いけど許して!ごめんなさい!ぶたないで!(幼女)

本当の竜司覚醒回でした。竜司のペルソナ覚醒する時のセリフ好きなんですよね〜。宮野さんの演技が超カッコイイ。

ウチの竜司はかっこよさと素直さマシマシで行きたいと思います。元のふざけた感じも好きなんだけどね、ギャップが欲しいので。

次回は杏殿のお話!女豹!


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A beautiful rose has thorns!/Part1

魅力を極めたからこそ至れる究極の境地、それこそセクシーコマンドー蓮

感想誤字修正、指摘ありがとうございます。と同時に新年明けましておめでとうございます(激遅)

どうですか皆さん。新年明けて猫が人間になってたり友達が飛び降りてなかったり親が甦ったりしてませんか?してたら反逆の意思でなんとか目を覚ましてくださいね。私は夢の中にいるので(即落ち)

毎回巻きとか言ってるけどあんま巻いてない事実。ペルソナ5回収しなきゃいけないとこ多すぎんよ〜。でも今回は巻いてます!巻貝!地の文減らしてサクサクッと行きます!どうぞ!


『現実世界に帰還しました、お疲れ様でした』

 

 

 

スマホから音声が響くと赤と黒の模様が広がる。世界が捻じ曲がり景色が一変して無事にパレスから現実に飛び出してきた蓮達。走っていた竜司は襲ってきた脱力感によりコケそうになるがグッと持ち堪えると辺りを見渡して帰ってこれた事を確認する。そして長らく晒されていた緊張感から解放された事で額の汗を拭って深く息を吐いた。

 

「うぉっとっと・・・ふぅぅ〜、何とか帰ってこれたな」

 

「そうだな」

 

「お、服戻ってんな。って、俺もか。」

 

竜司と同じく走っていた筈なのに息も切らさずケロッとしている蓮が手に持っていた武器をカバンに仕舞いながら竜司の後ろから歩いて出てくる。パレスから出た事により反逆の怪盗服から元の制服に戻っている現象にどうなってんだと困惑する竜司を後目にくるりと振り返ると秀尽の校門がお出迎えしてくれた。

 

ほぼ腹黒人間しかいない魔境学校と知らなければ安心感のある景色なのだがと蓮はカバンから取り出した伊達メガネをかけながら考える。実際、内部事情を知っているとこの光景に安心感など微塵も湧かない。なんなら現実世界にあるパレス的なもんだと思ってる。それぐらいここの人間関係はドロドロしたものなのだ。教師も生徒も。

 

「うお、鉄パイプはそのまんまかよ」

 

そう言って無意識に持ったままだった鉄パイプを見て驚いている竜司。武器や装備などは所持品としてカウントされパレス内に入る時も出る時も歪みの影響を受けずに手元に残るのだが、パレス内で手に入れたこの鉄パイプもどうやら覚醒状態の竜司が手にした事でそのカウント内に入ったらしくそのままの形で現実世界に持ち帰ってきたようだ。

 

しかし制服姿のまま鉄パイプを握る竜司はやはりというかだからこそというか、凄く様になっている。今から喧嘩しに行く不良にしか見えない。バイクに股がって肩にポンポンと鉄パイプを揺らしているのが容易に想像出来る。まぁバイクに乗るのはまた違う世紀末覇者だが。

 

「竜司、とりあえず鉄パイプは置いた方が良いと思う」

 

「んぁ?」

 

そう言われた竜司が蓮の顔を見ると蓮はくいっと顎で軽く校門前の方を指す。竜司が釣られて校門前を見ると女子生徒達がこちらを見てヒソヒソと小声で話し合ってるのが見えた。最初は意味が分からなかった竜司も彼女達の目が危険人物を見るような目付きであったのに気づき、その意味を察した。

 

「あー・・・、なるほどな」

 

「一先ずここを離れよう」

 

「そだな、んじゃこっちから行こうぜ」

 

どうやら彼女等の目には竜司が路地裏で今にも殴り込んできそうな不良が屯しているように見えているらしく、今にも教師を呼びに行きそうな怯え方をしている。そのことを察した竜司は慌てて鉄パイプを近くに立てかけて蓮の提案により路地裏の奥へと進んで行った。

 

「にしても疲れたァ・・・腹減って死にそうだぜ」

 

「ふむ、なら何か食べに行くか?」

 

「おっ!いいね!ならセントラル街の牛丼屋行こうぜ!あそこなら近いし安いしな!」

 

「牛丼屋か・・・」

 

そう呟いた蓮の頭にほわんほわんと蘇ってくるのは初めてあそこでバイトをし始めた時の事。攻略の為に自作のアイテムを作るにあたっての素材に使ってしまい死ぬ程金が足りず仕方無く始めたバイトであったがまぁ酷かったのを古い記憶ながら鮮明に覚えている。

 

少しマニュアルを読ませ口頭で説明しただけで後はこっちに全投げというお前それ店としてどうなんだと言うほど雑な対応をされ、更に人件費削減と抜かすと蓮以外のアルバイトはおらずたった1人で店を回さなければならないというクソのような仕事であった。

 

さっさと退散していったあのマネージャーの背中に牛丼をスパーキングしてやりたいくらいのブラックさ加減に2週間も持たずに辞めてやった。まぁ政治家の彼に会えたのは良かったが、二度とあそこでアルバイトはするまい。

 

あそこでアルバイトしなければ彼に会えないって?そんな事しなくてもの鍛え抜かれた話術で一発ですよ(知恵の泉&超魔術)

 

「おーい蓮?どうしたんだよボーっとして」

 

「ん?あぁ、すまんなんでもない」

 

「そうか?ならいいけどよ、さっさと行こうぜ。」

 

そう言って路地裏を抜けて初めて出会った道へと出た2人は駅前広場の先にあるセントラル街へ向かった。丁度下校時間と被っているため学生達が多くざわざわと賑わっている。そんな人波を抜けて着いたのが例の牛丼屋『俺のベコ』である。

 

早速入店するとあの時の自分と同じように1人で接客している男性が汗をかきながらもいい笑顔で「いらっしゃっせー!」と挨拶をしてくれた。そんな彼に蓮はかつての自分を重ねとても微妙な顔をしている。それに気付かず座ってメニューを見始める竜司。蓮も気にしないようにしようと小さくため息を吐くと竜司の隣に座り彼の見ているメニューを覗き見ながら出てきた麦茶を飲む。

 

「うし!決めた!蓮はきまったか?」

 

「あぁ」

 

「んじゃ、すんませーん!」

 

手を挙げて店員の男性を呼ぶ竜司。それに「はーい!」と元気よく返事して駆け寄ってくる。

 

「高菜明太マヨ牛丼大盛りで!」

 

「牛丼とん汁たまごセット、特盛でお願いします。」

 

「かしこまりましたー!高菜明太マヨ大と牛丼とんたま特ですね!お持ちくださーい!」

 

独特の略し方をしながらそう言ってバタバタと慌ただしく厨房へと戻っていく男性。そんな彼に心の中でエールを送る蓮。どうか心が折れる前に転職してくれと願った。あんな奴の下など飛び出して辞表を顔面に叩き付けてしまえと。そう考えているとジッと自分の顔を見てくる竜司に気が付き、コテンと首を傾げる。

 

「?どうした?」

 

「んー、うんにゃ。やっぱ噂なんかアテになんねーなーって思ってさ。」

 

「噂?」

 

蓮は再びなんの事だと頭に?を浮かべたような顔をしながら聞き返した。

 

「お前ももう知ってんだろ?おかしな噂が学校中に広まってんの、しかも滅茶苦茶レッテル貼られてよ。やれ超凶暴とかやれクスリやってるとか、ナイフ持ってるとか言われてんだぜ?まぁ俺も聞いてちょっとやべーかなと思ってたけどさ・・・話してみりゃ全然良い奴だからさ!」

 

「そんな事ないさ」

 

「だからさ、少しでもお前に同じようにレッテル貼ってたのが情けなくてよ・・・俺だって似たような事されてんのに。ごめんな、蓮。」

 

頭を下げて謝ってくる竜司はいつもの元気がなりを潜めやけにしょんぼりしている。恐らく、自分でも言ったように似たような経験をしてるのに蓮に同じような目を少しでも向けてしまったことを恥じているのだろう。単純で、だからこそ根が良い奴な竜司はその事を強く気にしているのだ。そんな竜司に慈愛の笑みを零した蓮は肩に手をやって慰める。

 

「そんなの気にしてないさ。寧ろそんなレッテルを気にせず接してくれてる事に感謝してるくらいだ。ありがとう竜司。」

 

「蓮・・・!」

 

蓮の優しい言葉に感極まったのか思わず目元が緩み涙を潤ませる竜司。それを見て蓮は泣かれては困るのでまぁ落ち着けと麦茶を差し出す。ありがとなと二重の感謝をしながら麦茶をぐいっと飲んだ竜司はコップを叩きつけるように、しかし割らないように加減して机に置くとキッと目を鋭くする。あの怨敵を睨むような目だ。

 

「だからより一層鴨志田の野郎が許せねぇんだ!噂流したのは絶対アイツだからな!じゃなきゃ即バレなんてする筈ねぇ!」

 

「教師なのにか」

 

()()()()()()!生徒の知らねー様な情報ばら撒けるのは教師以外有り得ねー!野郎は気に入らなきゃ部だろうが生徒だろうが平気で潰しやがんだ、俺ん時みてぇにな!」

 

鴨志田と一番因縁が深い故にそういった事にも鋭く気がつけるのだろう。奴の本性が腐りきってるのは良く知っているがやはり改めて聞くと何とも陰湿でそれでいてアホらしい嫌がらせが出来るものだ。

 

「俺は野郎の事が絶対に許せねぇ。何がなんでもぶっ飛ばさなきゃ気がすまねぇんだ!今日パレスに入って野郎に奴隷扱い受けてる奴らの顔は覚えた。そいつら片っ端から捕まえて体罰を吐かせりゃ鴨志田も終わりだ。頼む、体罰の証人探し手伝ってくんねーか?」

 

竜司がコップをグッと握りながら不安げにそう願ってくる。そんな彼に勿論断る理由なんざ1ミリもない蓮は即答で手を差し出した。

 

「あぁ、俺で良かったら幾らでも」

 

「〜〜ッ!あんがとな!蓮!俺も気合い入れていくからよ!」

 

心強い味方を得た竜司はいい笑顔で差し出された手を力いっぱい握り返した。お互いが強い信頼によって契りを結び、長い付き合いとなる相棒(バディ)となった瞬間であった。

 

 

そして、今ここに契りによって新たなる(アルカナ)が解放された。

 

 

 

 

我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「戦車」のペルソナの誕に祝福の風を得たり

へと至る、更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPERATION:『坂本竜司』

 

 

ARCANA:『戦車』 RANK.1☆

 

 

 

蓮は己の中で新たなる力が芽吹くのを感じ取った。これで絆の象徴であるコープは結ばれた。これのおかげでより強力な戦車のペルソナを生み出せるようになった。因みにこのコープ、上げれば上げるほどいい事があるので是非とも全てのコープ相手のランクをMAXまで上げ切りたい所だ。別にこれを上げる為に契りを結ぶわけじゃないんだが、あくまでも絆を深めた副産物的な物なのでこっちをメインに捉えるのを止めよう。とんでもないことになるぞ(白目)

 

 

「お待たせしましたー!高菜明太マヨ大と牛丼とんたま特でーす!」

 

「おほぉー!きたきた!」

 

と、そうしているうちに出来上がった牛丼が蓮達の元へ運ばれてきた。湯気を上げた出来たてホカホカの美味そうな牛丼に竜司は目を輝かせて蓮に箸を渡してから自分の箸を取ると直ぐに割って手を合わせ、がっつくように食べ始めた。

 

「んじゃ早速!いったっきやーす!はぐはぐはぐ!」

 

「いただきます」

 

「うんめェ〜〜!!つゆが疲れた体に染み渡るゥ〜!」

 

「そうだな」

 

竜司はよほど腹が減っていたのかガツガツと夢中で食らいつき牛丼がみるみる減っていく。思春期男子高校生の胃袋、恐るべし。だが真に恐ろしいのはその隣のヤツ。竜司よりも量が多いにも関わらずあっという間に牛丼が消えていっている。口内ブラックホールか。

 

それもただ胃に流し込んでる訳ではなくしっかりと咀嚼し、味わい、飲み込んでこのペースなのだ。常人のそれを逸脱した食事ペース。このループの中で何億、いや、何百億と繰り返された食事という行動を蓮は極限まで無駄を無くし、効率化した事により彼の咀嚼はあらゆる早食い選手を凌駕するスピードへと昇華されたのであった。

 

なんと意味不明な技術だろうか。聞いていて頭が痛くなる。流石は胃袋ビックバン級の男、頭もビックバンなのだろう。

 

まぁそんな感じで特盛をペロリと平らげてしまった蓮はゆっくりと豚汁を啜っていた。すると突然竜司が何か思いついたようで口周りの米を舐め取りながら蓮に向き直る。

 

「そーいやさ、なんで転校になったんだ?別に悪さした訳じゃねーんだろ?あ、いや答えたくねーならいいけどよ。ちょっと気になっただけだし。」

 

「いや、大丈夫だ。そうだな、竜司の話だけ聞いて俺の話をしないのも不公平だし。特に面白くもない話だが。」

 

口元を拭きながらそう前置きをして自分が転校するきっかけとなった事件について話し始めた。

 

「そう、あれは突然デルト〇クエストが読みたくなり近くの図書館へと行った帰りだった・・・」

 

「いや、開幕一番でもう面白いぞ」

 

 

ほわんほわんれんれん〜

 

 

 

ここからあの回想→

 

 

薄暗ーい夜の道を歩いているとなにやら男女が言い争っているのが聞こえた。野次馬根性が働き「お?修羅場か?」なんてちょっとわくわくしながら見に行ったらなんとびっくり、いい歳したハゲのおっさんが女性に乱暴しているではないか。

 

「思ってたよりやべー展開になってんなおい!」

 

よく見るとハゲの顔は真っ赤で一発で酔っていると分かるくらいふらふらしていた。凄まじくアウトな光景にこりゃまずいと思った俺はもしもしポリスメンしようとおもったが何とここでハゲが強行手段に出る。なんと自分の車に女性を無理矢理乗せようとしたのだ。どこからどう見ても拉致です本当にありがとうございました。

 

「ホントにヤバいやつだなそのハゲ・・・」

 

警察に通報する時間も無いと判断した俺は女性を助ける為、颯爽登場。とりあえずハゲのドたまに落ちていたビール瓶を伝統芸に従いスプラッシュ・・・はせずに普通に女性の目の前へ割り込みモウヤメルンダッッ!!とハゲを止めようとした。だがハゲは完全に酔っているためかフラフラしながらこっちに寄ってきて掴みかかろうとしてきた。その瞬間鼻を貫く独特の酒息と酔ったおっさん特有のきしょく悪さにちょっと無理と感じた俺はそれを女性と共に回避。

 

するとどうだろう。ハゲは勝手に一人で転び挙句には額から血を出してるでは無いか。ダサい、余りにもダサい。無様すぎて憐れみすら湧いてくる。全人類の恥がここに固まっている気がした。

 

「めちゃくちゃ罵倒するじゃん、どんだけヤだったんだよ・・・」

 

すると痛みで酔いが覚めたのか頭を抱えたまま立ち上がったハゲは訴えてやるだかなんだか喚き始めた。額を傷つけたそのまま頭蓋骨までかち割れてしまえばいいと思いながらそれを眺めていると女性がハゲに果敢にも反抗した。しかしどうやらハゲはそれなりの地位を持っているらしく逆に女性を脅し始め、女性もそれに屈してしまった。

 

そしてあれよあれよと時が進んでいき、結果的に俺がハゲに暴力を振るったという歪んだ事実が捏造されなんやかんやあり今に至るわけだ。

 

ちゃんちゃん

 

 

 

←回想終了

 

 

 

「・・・・・・とまぁ、こんな感じだ。」

 

「んだよそれクソすぎんだろ!お前なんも悪くねぇじゃんか!そのハゲ絶対に許せねぇ!!」

 

「落ち着け、米が飛ぶ」

 

蓮の話を聞いてとても腹を立てている竜司。その気持ちは嬉しいのだが牛丼を食っている途中だったので色々と飛んできそうになっていて行儀が悪い。それを指摘された竜司は1度しっかりと口の中のものを飲み込んで水を飲んでから再び話し始めた。

 

「聞いてるだけでも腹たってきやがるぜそいつ!・・・そんで地元からこっちに来て居候か・・・お前も苦労したんだな」

 

「あぁ、竜司ほどじゃないけど」

 

「まぁでもなんつーか、やっぱり俺ら性根が似てんのかもな。周りから厄介者扱いされて居場所無いとかさ・・・わり、暗くなっちまったな。」

 

そう言ってしんみりとしながら牛丼を一気にかき込んでいく竜司。絵に書いた様な豪快な食いっぷりは見事という他ない。それにしてもこれだけ他人に寄り添えて気持ちも共有できる良い奴だと言うのにレッテルを貼って問題児扱いする秀尽の人達はやはりどこか良心が欠けていると思うのは自分だけだろうか。蓮はそう訝しんだ。

 

「そういや住んでるのって四茶だっけ?地下鉄、この時間ラッシュだから少し時間ずらした方がいいぜ。あ、それと連絡先教えてくれよ。チャットのIDも。なんかあった時、連絡取れた方がいいかんな。」

 

「あぁ、分かった」

 

そう言ってお互いの連絡先を交換し、登録する。これで正式に取引相手兼仲間として成立したと言ったところだろう。

 

「うし、んじゃあ明日から本格的に行くぞ。まず奴隷にされてた奴らに話を聞く。球技大会あんだろ?鴨志田のバレー大会とか胸糞悪ぃがそんなもん今はどうでもいい。おかげで午後は授業ねぇしみんな浮かれてる、ウロついてても気づかれにくいはずだ。」

 

竜司、意外とこういう時は頭が回る男である。普段からは考えられないほどしっかりと予想を立てツラツラと練ったプランをあげていく。地頭が良い、というよりこれは本能的なセンスだろう。極たまに竜司はその部分が覚醒し、突出したセンスを見せるのだ。そういった意味では怪盗団随一の爆発力を持っていると言える。

 

「まっ、詳しい話は明日に改めて話そうぜ。今日はもう遅いしな、さっさと会計済ませて明日に備えて早めに帰ろうや。」

 

「そうだな」

 

「んじゃ・・・」

 

「「ご馳走様でした」」

 

器の中をピカピカにするほど綺麗に平らげた二人は手を合わせ感謝を込めて頭を下げた。その後、会計を済ませ店を出ると地下鉄のラッシュから時間をずらす為に本屋に寄り、少し立ち読みをしたり何となく目に付いた『開眼ビリヤードテク』という本と小説を何冊か買って時間を潰した。竜司は集めている漫画の最新刊を何冊か買って軽くなった財布に嘆いていた。可哀想だが自業自得なので放っておく。

 

そうしていい感じに時間を潰せたので本屋を出てラッシュが収まり始めたであろう地下鉄に向かおうとして、少しよそ見をしていた為か道行く人にぶつかってしまった。その拍子に買った本を落としてしまい、相手も私物のハンカチを落としてしまっていた。

 

「あっ、すみません」

 

慌てて自分の本よりも相手のハンカチを汚れてしまう前に拾い上げ、パッパッと払い謝罪しながら手渡す。するとどうやら相手も同じように考えていたらしく自分の本を拾い上げ汚れを払って渡そうとしてくれていた。

 

 

 

 

「こちらこそ、ごめん。話に夢中で余所見をしてしまっていたよ。怪我は無い?」

 

 

 

 

そして、その声を聞いて思わず絶句してしまった。

 

そこに立ってニッコリと笑みを浮かべるのは蓮が良く知る男であり、巷ではイケメン高校生探偵として有名であり、そして嘗て()()()()()()()()()()、『明智吾郎』が相も変わらず貼り付けた愛想笑いをしてそこに居たのだから。

 

『明智吾郎』

 

彼を簡単に説明するとこの頃流行りの女の子・・・では無く先程言ったように有名な高校生探偵。成績優秀、品行方正、容姿端麗と全てが揃った正にパーフェクト王子様と言った感じの青年だ。才色兼備を欲しいがままにする彼はこれまでに様々な事件を解決へと導いてきたらしい。

 

傍から見れば一分の隙もない美しき白鳥のような彼だが、一皮剥けばその羽根は作り物であることを皆は知らない。彼の心の奥にある真の姿を・・・まぁこの話については来るべき日にするとしよう。

 

そんなこんなで余りの驚愕で一瞬、頭が真っ白になってしまったが直ぐに再起動して答えながらハンカチを手渡す。

 

「大丈夫、そして改めて済まない。ハンカチが少し汚れてしまった、弁償しよう」

 

「あぁ、気にしないで。こんなの洗えば済む話だから。それと、はいこれ。君の本だろう?こっちこそ落としてしまって傷つけてしまったんだから弁償しようか?」

 

「いや、読むのに支障はない。気を使わせて悪かった。」

 

「こちらこそ」

 

そう言うと互いにハンカチと本を手に取り、同時に私物を受け取る。明智はハンカチを少し確認してから問題無いと判断したのかポケットにしまい込んだ。蓮も本を受け取るとちょっと確認してカバンにしまい込む。そうして改めて明智の方へ向き直ると彼の後ろにまたまた見覚えのある顔が見えた。

 

嘗て蓮を追い詰め、最後には取引をして引き込みその優秀さで裏方を支えてくれた美しい灰色の長髪をした女性、『新島冴』が何をやってるのと言うような呆れた目でこちらを見ていた。そして蓮の視線に気づいたのか彼の事を見るが興味が無いのか直ぐに目を逸らしてしまった。

 

この頃はまだツンケンしてるなと思っていると明智が手榴弾の如くとんでもない発言をぶっ飛ばしてくる。

 

「ふむ・・・ねぇ、君。どこかで会ったことあるかい?」

 

「!?・・・いや、無いと思うが・・・」

 

その質問に思わず内心、意味もなく焦ってしまったが勿論この時点で彼との接点などあるはずも無い。初対面もいいところだ。

 

なんらかのメッセージか?いや、彼はそんなに回りくどい事はしない。彼の性根ならその時点で何がなんでも行動を起こす事を蓮はよく知っている。もし、仮にこの彼に自分と同じ様に『記憶』があるのだとしたら、その時点で自分は殺されるなり何かしらの変化があるだろうがそれも無い。その為、蓮は彼が記憶を持っていることは無いだろうと判断した。

 

あとは可能性があるとしたら・・・自分と同じ『性質』を持っていたから、だろうか。波長が合った為にそう感じた、とか。いや今は考えてる暇はない、蓮は努めてポーカーフェイスで焦りを見せずに普通に困惑した感じで返した。

 

「そっか、なんでだろうね。一目見てどこかで会ったかなと思っちゃって。」

 

「明智君、そろそろ」

 

「あぁ、すみません。そういう事だから、悪かったね変な事聞いて。あ、それと僕がこの辺にいたってことはネットには書き込まないでね?色々と大変だから・・・それじゃあね。」

 

そう言って新島さんに急かされた明智は手を振って去っていった。相変わらずキザったらしい奴だ。本当はそういうのとは真逆な性格のくせに。それにしてもなぜこんな所に居たのだろうか。いや別に居て悪いとかそういう訳でもないのだが。

 

彼らが訪れるとしたら十中八九何かしらの事件だろうが・・・まぁいいか。考えても仕方ない事は考えない。たまたまエンカウントしてしまっただけで特に心配することも無いだろう。

 

「おーいレンレン!なんで立ち止まってんだよー!居ると思ってずっと喋ってたんだぞ!おかげで俺独り言言ってる感じになっててクソ恥ずかったんだからなー・・・って、なんだ今の?知り合いか?」

 

「ん、いや、ただの明智吾郎だった」

 

「は?明智?あー、なんか聞いたことあるような・・・無いような?ま、いいや。それより早く行こーぜ、つーか恥かかせたんだからなんかねーの!なんか!」

 

「悪かった、詫びとしてジュースを奢ろう」

 

「やりー!炭酸な!強いやつ!」

 

「はいはい」

 

そうして二人で並んで駅まで行き、ジュースを奢ってから少し話をしてそれぞれ帰りの電車に乗って別れた。蓮が四茶に着く頃には日は沈み、空は暗くなっていた。

 

鈴を鳴らしながらルブランのドアを開けると暇そうにカウンターで座りながらクロスワードをしている惣治郎がいた。店としてどうなんだと思うだろうがこの時間はほぼ客がいないので別に問題無いのだ。たまに武見先生や気取った男などの常連の客が来ることもあるが。

 

「ん、おう。帰ったか。今日はちゃんと学校行ったんだろうな。」

 

「友達が出来ました」

 

友の前に悪が付くが、出来たことは事実である。

 

「ほぉ、そいつは良かったな。だが妙なのとツルむなよ。面倒起こしたら流石に放り出すからな。お前は自由の身じゃねぇんだ、そこんとこしっかりしろよ。」

 

「勿論、分かってます。」

 

ミリも分かってないがいい笑顔で返事をする蓮。その警告をゴーミ箱に捨てちゃえ〜と言わんばかりに破って捨てている事を惣治郎はまだ知らない。

 

そんな蓮にほんとに分かってんのか・・・と呆れ顔になる惣治郎。すると誰かから連絡が来たのか蓮のスマホが震えた。ポケットから取り出して画面を見ると連絡先を交換したばかりの竜司からメッセージが来ていた。

 

 

>『早速連絡したぜ!』

 

>『届いてる?』

 

『届いてない』<

 

>『届いてんじゃねーか!』

 

>『まぁいいや、明日は頼むぜ』

 

『OK牧場』<

 

>『ふっる!!古いわそれ!』

 

>『ともかく!頼りにしてるからな!』

 

>『俺らで体罰されてるヤツらを助けてやろうぜ!』

 

 

やる気満々といった感じの竜司に蓮も気合いが入る。明日は球技大会に加え体罰の調査があるから早めに休もうと考えて二階に向かおうとすると惣治郎が声をかけてきた。

 

「俺はもう上がる、もう客もこねーしな。ほれ、これやるよ。」

 

そう言って惣治郎は何かを蓮に投げ渡してきた。難なくキャッチした蓮は渡された物を見てみるとそれは何かの鍵であった。まさかと思い惣治郎の顔を見ると彼は軽く頷き、ドアを親指で指さした。

 

「ここの鍵だ。つってもスペアだがな。銭湯行ったりすんだろ、渡しとく。だからって余計なとこまでほっつき歩いてくんじゃねーぞ。」

 

「佐倉さん・・・ありがとうございます!」

 

「ふっ・・・んじゃ俺は行くからな。鍵は頼んだぞ。」

 

「はい!!」

 

珍しく素直で元気な返事にフッと笑みを零しながらドアを開けて帰宅した惣治郎。それを見届けると蓮は初めて貰ったスペアキーに感動し、「ヨシッ!」とガッツポーズをとった。何だか惣治郎とのコープが深まった気がした。契約結んでないのに。

 

あまりの嬉しさにスキップしながら銭湯に行き、笑顔で買い物をして、ニッコニコで作ったハンバーグを食べて寝巻きに着替えてからベットに寝転がるとスペアキーを眺めた。まるで恋する乙女のようだが残念ながら総治郎は攻略対象に含まれていない。残念。

 

しかしスペアキーなんて貰ったのは初めての経験であった。まさかここまで早く信頼してもらえるとは。早い段階で信頼している人に心を開いてくれていると考えると蓮はとても嬉しくなった。

 

その後、竜司から異世界ナビが入っていたと連絡が来てるんるんで返信したらちょっと引かれた。そしてこの後イゴられる事を忘れながら笑顔で眠りについた。

 

 

 

 

長々とイゴールの話を聞いていた蓮が終始不機嫌だったのは語るまでもない。

 




士郎、僕はね・・・苦境の果てに大切なモノを失って皮肉にも其れが最強の力を手に入れるトリガーになる、みたいな展開が大好きなんだ・・・でも、最後には夢や光を思い出して失ったモノを背負って更に進化するって展開もそりゃもう死ぬほど好きなんだ・・・

爺さん・・・王道はどうなんだよ?

大好きだ!大好きだ!バカヤロォォォオォッッ!!うわぁぁぁぁぁ!!

オーマジオウとかウルトラマンオーブとか大好きです、切嗣も士郎もエミヤも好きです。ヒーロー物・・・いいよね・・・


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A beautiful rose has thorns!/Part2

目に映ったシャドウは例外なく轢き殺す、どうも駄文の悪魔です。

いつも感想、誤字修正ありがとうございます!バットエンドではラスボスの悪神を受け入れるエンドが一番好きだけどトラウマな私です。あのジョーカーの悪い笑みとねじ曲がった現実が胸糞悪くて良かったです。二度と見たくねぇけどな!!

丸喜エンドの虚無感は凄かったけど悪神エンドには勝てないっすね。あれはホントにキツかった。

話変わるけど丸喜エンドって個人的にはバットエンドの中のバットエンドって感じしますね。ジョーカーが今までの全てを捨てて虚構を選ぶの、P5においては最悪の決断だと思うんすよ。でもそれを切り捨てると今度は人々から虚構とはいえ幸福を奪う事になる。グッドでもバットでも無い、正しく『トゥルーエンド』ですよね。

でもきっとジョーカーはそれを選ぶんですよ。悲しいね、でも嬉しいね。けれど虚しいね。

つーわけで今回もノリで作って展開をマキマさんです。ペルソナ5最高と言いなさい。マキマキィ〜!


我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「愚者」のペルソナの誕に祝福の風を得たり

へと至る、更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『イゴール』

 

 

ARCANA:『愚者』 RANK.1☆

 

 

 

 

 

不機嫌なままイゴールと契約し、帰り際にカロリーヌとジュスティーヌに約束のチョコレートを渡してベルベットルームから帰還した蓮。ブスーッとしながら起き上がって着替えると下に降りて定番のパパッと掃除してから朝食を作り始める。

 

今日は新鮮なレタスにハム、卵を挟んだシンプルなサンドイッチだ。ついでに残っていたプチトマトもつけている。なんともヘルシーな朝食だ。気分は英国人、何となく心が踊る。

 

もしゃもしゃと食べていると惣治郎がやって来て開店準備をしていく。二人でゆったりと朝のニュースを見ながらコーヒーを飲み、またもや内なる宇宙(コスモ)へと旅立った蓮は暫く幸せなひと時を過ごし、登校時間になると歯を磨いて爽やかにルブランを出発した。

 

因みに今回の豆はエメラルドマウンテンであった。

 

 

 

──────────

 

 

 

『説明しよう!』

 

 

コロンビア産 エメラルドマウンテンとは!

 

国土の約半分が山岳地帯のコロンビアでは、山脈の急斜面がコーヒーの栽培地となり、高い生産力の礎となっているのだ!

 

エメラルドマウンテンはみんな思っている通り宝石のエメラルドからその名を付けられたぞ!選び抜かれた豆に相応しいブランド名だ!

 

酸味・苦味・甘みのバランスが良く、鮮明なコクとまろやかな口当たりが魅力な豆なのだ!!

 

 

 

──────────

 

 

(ブルーマウンテンとはまた違うコクに匂い・・・やはり惣治郎さんの淹れるコーヒーは最高だ・・・)

 

今朝の不機嫌はどこへやら、恍惚な表情を浮かべながら歩く蓮。鼻歌を歌いそうな勢いで歩いていると途中で竜司と偶然会ったので一緒に登校した。小声で今日の作戦の事を話し合ってから学校に着くとまた後でとそれぞれの教室へ向かった。

 

特に言うことも無いほど直ぐに午前の授業が終わり、昼休みを迎えると午後からは球技大会が始まった。生徒がジャージに着替えて体育館へと向かう。蓮も勿論ジャージに着替え前を開きポケットに手を突っ込む威圧感たっぷりスタイルで教室を出るとこれまた奇遇に竜司と鉢合わせ一緒に体育館に行った。

 

体育館の中にはバレーのネットが張られクラス対抗で競い合っていた。きょろきょろと中を見渡すと他の教師達と話しながら生徒達のバレーを見ている鴨志田の姿もあった。この球技大会の顔みたいなものなのだから当たり前だろう。視線に気づいたのかこっちに目を向けてきたのでふっと目を逸らし、変に声をかけられても面倒なので睨み返そうとしていた竜司の襟首を掴んで引き摺って体育館の隅に座った。

 

「あーあ、だりぃ。帰りてー。球技大会なんかやりなくねーっつーの。どうせ鴨志田の野郎の自慢大会だろ?ならまだ授業やってた方がいいぜ。寝れるし。」

 

「意外だな、竜司はこの手の運動は好きだと思ってた」

 

「まぁ嫌いじゃねぇけどよぉ、チーム戦とかだと運動神経良くても俺は浮くしな。問題児の辛いとこだぜ。」

 

「言えてる」

 

竜司もやはりクラスでは孤立している為こういった団体競技には苦手意識・・・と言うよりかは面倒に感じるのだろう。蓮も同じような思いなので理解出来た。それはそれとして楽しむ気なのが蓮なのだが。

 

そんなこんなで適当に駄べりながら時間を潰していると蓮のクラスに順番が回ってきてルールである『全員1回は参加する事』、というボッチ特攻によって強制的にコートへ出ることになった。別にその事への不満はないがやはり他のクラスメイト達はわざとらしく距離を取り蓮をチラチラ見ている。

 

いくらなんでもビビりすぎだろう、借りてきた猫の方がまだマシだぞと転校初日に威圧感で縮こませた本人がそう考える。正直、自業自得です。

 

対して対抗チームはなんと教師チーム。運動の出来るそこそこ若い方で固められ、しかも鴨志田がいるチームだ。生徒達相手だと言うのにこのガチデッキ、大人気ないとしか言いようがない。どんだけ良いとこ見せたい&負けたくないのだろうか。作り笑顔が凄まじく腹が立つ。

 

「試合開始!」

 

審判役の生徒の声で試合が始まり、こっちが側からのサーブでスタート。教師陣があからさまに手加減してちょっとの間続くボールの応酬。現在左後ろにいる蓮は適当に後ろにきたボールを拾いながら様子を見ていると鴨志田が早速行動を起こしてきた。

 

蓮の顔面に放たれる高速のスパイク。素人では反応も出来ないそれにしかし普段からこれよりも速い即死攻撃のオンパレードを受けていた蓮にとって全く驚異にならない。無表情でシレッとレシーブで返して痛がることも無い。ムキになった鴨志田に何回も狙われるが尽く返された。

 

ここで蓮を潰そうと全力を出そうと考えた鴨志田だがそれをすると流石に大人気なさ過ぎて生徒からの評判に関わると考え、仕方なしに標的を変更。鴨志田の標的に選ばれた哀れな生贄は蓮と同じチームだったバレー部員の地味マン三島であった。

 

顔を歪めた鴨志田を見ていつも練習を受けている三島は何をされるか察したのか体を強ばらせる。そして恐怖の余りに棒立ち状態の三島に鴨志田は容赦なくスパイクを叩き込んだ。故意に狙われた球は高速回転しながら三島の顔面へと吸い寄せられる。

 

「うっ・・・!・・・・・・あれ?」

 

せめてこれから来る衝撃に耐えようとキュッと目を瞑った三島だったが、彼の顔に衝撃が走ることは無かった。いつもは激痛を知らせるだけの耳を塞ぎたくなるような生々しい音が体育館に響き渡ったというのにだ。三島は不思議に思い、閉じていた目を恐る恐るゆっくりと開く。するとそこには衝撃的な光景があった。

 

「・・・・・・。」

 

なんとあの悪い意味で話題の青年、蓮が三島の前に庇うように立ちその左手で鴨志田の放った豪速球を弾いていたのだ。あの威力の球を止めるとは凄まじいパワーである。だが、その代償は決して軽いものでは無かった。

 

あの豪速球を弾いた手を見ると真っ赤に腫れ上がり、酷い内出血を起こしているのが見えた。とても先程まで血色のいい健康な手だったとは思えないほどグロテスクになってしまっている。それを見て三島はサッと一気に血の気が引いていくのを感じた。あれを顔面に受けていたらと思うと酷く恐怖したからだ。しかし同時になぜ彼は自分を庇ったのかという疑問が湧いた。

 

チラリと三島は蓮の顔を見ると彼は全く意に介した様子も無く痛がる素振りすら見せない。腫れた手を確認するようにグッパッと握ったり開いたりながらスパイクを放った鴨志田をジッと見るだけである。

 

緊張感が支配し、シンッと静まり返った体育館。そんな静寂を破ったのもまた蓮であった。鴨志田から目を外した蓮は振り返ると呆然としている三島に声をかけたのだ。

 

「怪我は無いか」

 

「えっあっ!う、うん・・・大、丈夫・・・」

 

「そうか、良かった」

 

ただそれだけ言ってずっと昔から友として絆を深めていた青年に微笑みを向けると「保健室に行ってきます」とだけ言って体育館を出ていってしまった。勿論竜司もそれを追って鴨志田を一睨みしてから体育館を出る。本来なら教師陣も動かなければならない場だったというのに唖然として去っていく蓮の背中を見る事しか出来なかった。完全に教師としてのプライドに傷がついた訳だ。

 

それに気がついた鴨志田は射殺さんばかりに蓮の背中を睨んだが生徒達に囲まれている事を思い出し慌てて三島に駆け寄り「大丈夫だったか?」と手遅れのいい教師ムーブをした。何ともまぁ滑稽な姿であった。

 

 

「おい蓮!大丈夫なのかその手!めちゃくちゃ腫れてんぞ!」

 

「問題無い、かすり傷だ」

 

体育館から出てきた2人は自動販売機のある中庭の休憩所に来た。蓮は何ともないように淡々と言うとどこに隠し持っていたのか包帯を取り出して腫れた手をグルグル巻きにして目立たないように隠す。そんな彼に竜司は心配しながらも呆れた目を向けた。

 

「いやかすり傷て・・・そうは見えねぇぞ」

 

「そんな事よりも、これで動き易くなったんだ。早速バレー部の人達に話を聞きに行こう。」

 

「お前まさかそれ狙いで・・・いや、そうだな!折角お前が体張ってくれたんだ、グズグズしてる暇ねぇよな!」

 

そう言って顔を合わせ頷いた彼らは作り出した機会を無駄にしないよう城の中で奴隷として扱われていた生徒達の所へ行き話の聞き出しを開始した。

 

竜司の記憶を頼りにまずは蓮と同じDクラスのバレー部の元へ行くと直ぐに見た顔のボロボロの生徒を見つけた為、早速話しかけるとビクッと肩を震わせて酷く怯えながら振り返る。

 

「な、なにか・・・ひっ!?」

 

その直後、小さな悲鳴。無理もない、彼の前にはこの学校の問題児2人が威圧感たっぷりに佇んでいるのだから。きっと彼の目には目を鋭く光らせた猛獣が2匹、牙を剥き出しにして威嚇しているように見えているだろう。荒い息を吐き、今にも喰らいつきそうな獣にバレー部の生徒はガクガクとマッサージ機のように凄まじい微振動で震えてる。膝も波のように揺れている。今にも気絶しそうだ。

 

「君、バレー部・・・だよね?」

 

「なぁ・・・少し、話聞かせてくれねぇかァ・・・?」

 

「あ・・・あ・・・」

 

絶望感の余りにドラゴンボールの様なリアクションをとるバレー部の生徒。そんな彼に2人は北斗の拳のタッチに似た顔になりながら彼を見下ろしている。可哀想。

 

「バレー部の体罰について・・・さ」

 

「た、体罰・・・」

 

その話を口に出した瞬間、今度は違うものに怯え始めパクパクと金魚のように開閉していた口を噤み、何も喋らないと表現するように固く口を閉じてしまった。ふるふると首を横に力無く振って拒絶の意思を示している。ガタガタと心底に根付いた恐怖で蓮達ではない何かを見ている。それはきっと・・・。

 

「おい、黙ってないで何か・・・」

 

「竜司、よそう」

 

これ以上脅し・・・話を聞いても何も喋らないだろうと判断した蓮は竜司に次へ行こうと肩に手を置き声をかける。竜司も押し黙ってしまった生徒を見てこれ以上は無意味だと感じたのか震えている彼の肩に手を置いて「悪かった」と言ってから教室を後にした。

 

どうやら鴨志田の体罰による闇は蓮達が思っているよりも深く根強く彼らの心に巣食っているらしい。恐怖という鎖で雁字搦めにされていることを理解した。

 

それからも二手に分かれて同じように上級生下級生問わず話を聞きに行くも尽く失敗、その全てが最初こそ蓮達に怯えていたが『体罰』というワードを聞いた途端に今度は鴨志田の事で怯えて始めとても話を聞ける状態では無かった。途中で新聞部の女子生徒に話を聞くも収穫はなく敢え無く時間切れとなった。

 

 

スマホでお互いの状況を確認し合い、再び休憩所に集まることとなった蓮は一足先にそこに着き喋って乾いた喉を潤すため買ったジュースを飲んでいる。

 

するとそんな彼に話しかける物好きなある人物がいた。

 

モフモフの金髪にクォーターゆえの青眼、端正な顔立ち。そう高巻杏である。

 

「・・・ちょっといい?」

 

「高巻さん、何か用?」

 

「すぐ済むから・・・てか、あんたなんなの?こないだの遅刻も嘘だし。妙な噂、あるし」

 

腕を組んでそう聞いてくる彼女は警戒しながら蓮の事を睨んでいる。噂の内容と不可解な行動で変に警戒心を持たれているようだ。この頃のツンケンしてる彼女もちょっとしか期間が無いから何度見ても新鮮に感じるなぁと心の中で考えていると曲がり角から竜司がやってきた。

 

「そいつになんか用かよ」

 

「坂本・・・そっちこそ、クラス違うじゃん」

 

「たまたま知り合ったんだよ、そんで何か用でもあんのか」

 

強気な杏にやや気怠そうに頭をかきながら再度質問をする竜司。すると杏は少しむっとしながらも腕を組み替え姿勢を崩して竜司に質問を投げかけた。

 

「・・・鴨志田先生に何するつもり?」

 

「はぁ?・・・あぁそうか、お前鴨志田と仲良かったもんな」

 

「ッ!坂本には関係無くない!?」

 

一気に険悪になる2人、お互いの事情を知らない同士ギスギスした空間が広がるが蓮は慌てもせず何食わぬ顔でジュースを飲んでいる。ツマミにすな。

 

「アイツの裏の顔見りゃお前も・・・いや、かんけーねーか」

 

「裏?それ・・・なに?」

 

「・・・言ったってわかんねーよ、もういいだろ」

 

そう冷たく突き放して竜司は杏の横を通り過ぎて蓮の隣へ近づく。そんな彼に一瞬複雑な顔をした後に鋭い目を向けた杏は2人に忠告をした。

 

「あんた達の事、もう噂になってるから。何しようとしたって皆協力してくれないし。」

 

「・・・・・・。」

 

「一応・・・忠告。それだけ。」

 

一見、厳しい現実を突きつけているだけのように聞こえるこの言葉だがこれは今の彼女が出来る精一杯の優しさからくる言葉なのだ。精神的に疲れているにも関わらず蓮達のこれからの立場を危惧してという事を汲み取れるようになったのはいつ頃だったか。蓮はそう考えながら去ろうとする杏の背中にそんな現実に逆らう意志を示した。

 

「例え周囲が力を貸してくれなくても、その全てが俺達を迫害しようとも、俺達は自分が正しいと思う道を歩んで行く。忠告感謝するよ・・・高巻さん。」

 

強く強く、意志を込めたその言葉を聞いた杏は一度立ち止まり下を向いて拳を震わせたが直ぐに早足でこの場を去ってしまった。そんな彼女の背中を見送ると目を後ろに向けてこっそり見ていた竜司はため息を吐いた。

 

「相変わらず気の強え女・・・」

 

「知り合い?」

 

蓮が買っておいた新品ジュースを渡すと竜司はサンキュと礼を言いながら一気に飲み込んだ。

 

「まぁ、中学が一緒だってだけだ・・・てかそんな話よりもだ、こっちは全然ダメだったわ。そっちはどうだった?」

 

「報告通り・・・というのは嘘で新しい情報をゲットした」

 

「マジで!!教えてくれ!」

 

収穫があったことに喜びを隠せず蓮に詰め寄る竜司。勢いが良すぎて飲んだばかりのジュースが礫となり蓮の顔にかかる。明らかに不快そうにしながら竜司の顔を掴んで引き離すと顔を拭きながら説明し始めた。

 

「俺と同じクラスでバレーで庇った三島がいるだろう、彼は何やら特別な指導を受けているらしい。それが何を意味するのか・・・想像に容易いな」

 

「あいつか・・・そういやいつも怪我してたな。うし、帰っちまう前に話聞きに行こうぜ」

 

そうと決まればすぐに行動に移った。球技大会は既に終わっている為、このままだと帰ってしまうかもしれないと早速2人は三島を探しに行き丁度正面玄関に差し掛かった時に帰ろうとしていた三島をギリギリで見つけ出しダッシュで近づいて背後から話しかけた。

 

「いたァ!ちょっと待った!」

 

「三島、少しいいか?」

 

「え、うぇ!?あ、雨宮!?それに坂本!」

 

最初に話しかけたバレー部生徒と同じように2人に話しかけられたことで恐縮し、逃げようとするも固まった足が言うことを聞かず結局2人に捕まってしまった。

 

子供のように涙を浮かべながら震える三島にまたかと竜司はうんざりした顔をしながら三島に体罰についての話を持ちかけた。

 

「そんな怯えんなよ・・・取って食おうって訳じゃねぇんだから。」

 

「う・・・うん・・・はい」

 

わざわざ敬語に言い直すほど怯えきっている三島。蓮はそんな彼を見て何となく最近話題になったモルモットが車になっている番組を思い出していた。可愛いよね、あれ。

 

「単刀直入に聞くぜ、お前鴨志田に『指導』されてんだろ?それって体罰なんじゃねぇのか?」

 

やはりというか当然というか、その質問をした瞬間から怯えが恐怖に塗り替えられ目に見えて別のものに警戒するように周りをバッと見渡してから無理のある否定を口にする。

 

「ち、違いますよ!」

 

「なんで敬語なんだよ・・・今日だって球ァ当てられそうになってたろ。体も傷だらけだし、無理あんぜ」

 

確かに竜司の言っていた通り、三島の体はよく見なくても傷だらけであった。腕に包帯を巻き、青アザが目立ちシャツから覗く首元にはガーゼや絆創膏などが見え隠れしている。顔の方もよく見れば血が滲みカサブタが多い。これは行き過ぎた体罰が行われているのは決定的だろうと竜司は確信した。

 

「これは、練習で・・・」

 

「練習、ねぇ・・・それだけでそんななるかふつー。もしかして口止めされてんのか」

 

「そ、それは・・・」

 

聞かれたくないところを的確につかれた為しどろもどろしている三島。こんなに動揺しているを見て最早前置きも必要ないだろうと判断した竜司は鴨志田の体罰について切り出そうとした所でそれを遮る者がいた。

 

「三島、竜司、一旦外に出るぞ」

 

なんと意外な事にそれは蓮であった。本来ならここにキモ顎(鴨志田)が来て三島が捕まる流れなのだがわざわざ怪我しに行く友人を見捨てることも出来ない為、有無を言わさずに2人を引っ張り鴨志田に見つからないように玄関を出てすぐ横の壁に隠れる。別にここで鴨志田に見つからなくても後の流れに影響は特に無いし改変しても問題は無いだろう。

 

蓮の考え通りその数秒後には廊下の先から鴨志田が湧いて出てきて先程まで蓮達がいた玄関前を通って行った。それを壁から覗いて見ていた竜司(と、こっそり三島)は鉢合わせなかった事にホッと息を吐いた。

 

「あっぶねー・・・もう少しあそこにいたら野郎に見つかってたぜ」

 

「何となく嫌な予感がして咄嗟に隠れて正解だった」

 

「そ、そうだね・・・」

 

そうして廊下の先に消えていくモンスター(鴨志田)を見送る三馬鹿組。脅威が去った事で力が抜け地面にへたり込む三島。そんな彼の肩に手をやって蓮は出来る限り優しく声をかけた。

 

「三島、バレない内に今日は帰れ。」

 

「・・・・・・うん」

 

鴨志田による体罰で身も心の彼を労わっての言葉だった。このまま部活に行かせるのは気が引ける。そんな蓮の意図を汲み取ったのか三島は素直に頷く。久しぶりに人の暖かさに触れたからというのも大きいだろう。

 

2度も蓮に助けられている三島は彼に対して自らが犯した罪に内心で強い罪悪感に苛まれながら、しかしそれを口にする事の出来ない卑怯な自分に苛立ちを感しながら三島はトボトボと帰って行った。それを知っている蓮はけれども言葉は投げかけ無かった。いっぱいいっぱいの彼は今はそっとしておいた方がいいだろう。

 

「・・・って、結局話聞けてねぇし」

 

「まぁ仕方ないさ、あの状態で聞いてもマトモな情報は得られないだろう。」

 

「まーそうだよな・・・仕方ねぇ。他の奴らにもっかい話を聞きに行くしかねーけど、今日は一旦帰るか。どうせこの後直ぐ聞きに行っても誰も話聞いてくんねぇだろうしな。」

 

三島の背中を見ながらボリボリと頭をかいて竜司は今日の調査を諦めることにした。賢明な判断だ。彼の言う通り2度訪れても口は割らず寧ろ更に固く黙秘するだろうから。

 

これ以上の収穫は望めないと判断すると仕方なく2人は荷物を揃えて大人しく帰宅した。途中、駅でチラシを取るために少し寄り道したがその後は真っ直ぐに帰った。

 

ルブランに帰ると夕飯を食い、風呂に入った蓮は早めに二階の自室に上がると自身の荷物から長年使い続けた道具を取り出す。そして明日からのパレス攻略に使用するにあたって問題は無いか一つ一つチェックしながら整理していく。

 

次の潜入に備えて、必要な物を揃えて並べる。

 

「キーピック、各種装備品、使用可能スキルカード・・・」

 

机の上に何年、何十年・・・いや、最早数など問題ではない。最初期からこれまでずっとお世話になってきた道具達を置いて手に取って丁寧に確認していく。傷だらけの万能の永久キーピックを見て少しだけ感傷に浸る。

 

思えばこいつとも長い付き合いだ、もしかして自分の恋人はこのキーピックなんじゃないかと意味不明な事を考え始める蓮。ちょっと何言ってるか分からない。これがジョーカーのジョーク、略して『ジョーク』である(ブフダイン)何も上手く無いしつまらないので忘れて欲しい。

 

大丈夫だと目視で確認するとポンポンと投げていたキーピックを掴んでカバンの中へ入れた。

 

各メンバーの装備品も問題なさそうだ。と言っても最初から強力な物を使う気は無い。どうせ使っても使いこなせず増した力に振り回されるだけだ。それに何でこんなもの持っているのかと疑われるのは勘弁だ。面倒だし。

 

強い力は強い意志と実力を持ってようやく扱えるのだ。それは蓮が1番よく知っている。だから武器の威力や防具の頑強さなどはレベルに合わせた装備を出してある。まぁだからといって最初の段階で使う気も無い。フラグを回収して少ししたら使い始めるつもりだ。確認が済んだら一度荷物の中へ戻す。あ、貼る気功各種(シップ)だけは持っておこう。

 

次にスキルカード。大体のカードは揃えてある、数もそこそこある。これならスキル構成も楽に済むだろう。何年もかけて複製し続けて貰った甲斐があった。種類ごとに並べていたそれをマジシャンのように纏めて回収するとトントンと最後に綺麗に揃えてカバンの中へしまう。

 

それらを整理したら次に回復アイテムなどの消費アイテムの確認に入る。

 

「ふむ、魔石、ナオール錠、宝玉、ソウルドロップ、etcetc・・・。」

 

本来なら失われるはずのアイテム。しかしどういう訳か何時しかそのアイテム達も少数は手に残るようになっている。今現在手元にある体力回復とSP回復アイテム、それに状態異常回復など、数こそ少ないが充分だ。これだけあればもしもの事があっても対処しきれる。

 

これも問題ないと確認し、取り出しやすいように袋に纏めて何個か入れておく。残りは荷物の中へ。

 

後はドロン玉や気配消臭剤、カエレールなどのアイテムも確認し何個か袋に詰め込む。そしてその袋は机の上に置いておく。

 

最後にミゼリコルデとR.I.ピストルの調整を済ませて潜入の準備を終わらせる。カバンを机に置いて伸びをすると電気を消してベットに倒れ込んだ。

 

「・・・・・・出来るだけ大筋からは離れず、か。」

 

蓮は()()()()()()()()()について考え、ため息を吐いた。自分で言ったことを直ぐに破ることになるかもしれないとは、いやはや難儀というものだ。そもそも大筋から外れなければならぬ事が多すぎる。果たしてこの調子で正しいエンディングまで辿り着けるのだろうかと不安を覚える。

 

「・・・・・・ま、なるようになるか」

 

最後には無理矢理ポジティブに締めて思考をそこで区切り、毛布を被る。

 

>ピロン

 

と、そこで丁度竜司からメッセージが届いた。あぁ、そういえばそうだったと思いながらスマホを取って返信する。

 

>『起きてるか?』

 

『あぁ』<

 

>『気づいたことがあんだけどさ、バレー部の体罰って校長も親も知ってんだよな?』

 

>『ならなんで誰も何も言わねぇんだ?』

 

『バレー部という象徴を失わない為、そしてその上に立つ鴨志田を失わない為だろうな。』<

 

『残念な事にバレー部は秀尽の顔だ。鴨志田がいなくなればその顔に傷が付く、それを恐れているんだろう』<

 

>『そういう事だよな・・・どいつもこいつも腐ってるぜ!体罰だぞ!皆傷ついてんだぞ!なのに我慢するしかねぇなんて・・・!』

 

>『高巻はいいな、呑気でよ・・・』

 

『彼女も彼女で悩んでる、気がする』<

 

>『どーだろうな・・・とにかく、このままじゃ終われねぇ』

 

>『明日の休み時間使ってもっかい情報持ってる奴探してみようぜ』

 

『諦めきれないしな』<

 

>『ああ!!頼むぜ蓮!!』

 

 

メッセージのやり取りが終わると蓮は再びスマホを置き、あの時の杏の苦悩した顔を思い浮かべる。彼女と、そして()()()()()の為にも最善の明日を取ろう。

 

そう考え、そのまま目を閉じ意識を暗闇に沈めていった。

 

 




本当は杏の下りまでいこうとしたんですけど長くなったので分けました。

唐突ですけどどっかで番外編やりたいですね。ぶっ壊れたジョーカーとかやってみたい。つってもアイデアあんまり無いのでこういうのが見たいとかあったら感想にお願いします。いいなと思ったら作ってみたいっす。

ジョーカーが世界を征服するエンド・・・それなんて始皇帝?

ジョーカー「大罪を超越し、悪神を凌駕せし覇者!それこそが始皇帝!即ち、朕である!」

ジョーカーFGO編・・・ありかもな


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A beautiful rose has thorns!/Part3

今回も私の頭が足りないせいでかなり無理矢理な展開になってます。なのでなんかもうそんな感じだと理解して貰えると幸いです。

本当の事言うと・・・行き当たりばったりなんだ・・・この作品・・・

もう1人の僕「そうか・・・そういう事なら、仕方ないよな」

違う!違うんだ!もう1人の僕!俺はあの日、アイデアが思い浮かんででも構想も何も決まって無かったのに・・・俺は、俺を無理矢理説得して作品を投稿したんだ・・・俺はペルソナ作品を増やしたかった・・・!ペルソナ5の素晴らしさを知って貰いたかった・・・時代や環境のせいじゃなくて・・・

俺が悪いんだよ、この作品が中身のない行き当たりばったりなのは俺のせいだ!!

というわけで進撃の巨人を全巻購入してすぐ影響されるパラディ島の悪魔こと作者です。あれは劇物ですね。マジで伏線が敷き詰められ過ぎててヤバい、マジで面白い。なんで発売当初から集めてなかったんだろうって思うくらい。こんなに胸躍らせた作品は久しぶりでした。エレン・・・。

つーわけで今回も立体機動装置のワイヤー並に巻いてくぜぃ。文才を捧げよッ!!



━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

球技大会後日。

 

 

掃除朝食朝コーヒーをキメてきた蓮はすこぶる絶好調。通学の電車で華麗に開眼ビリヤードテクを読んでビリヤードの知識を深めステを伸ばすくらいには快調であった。

 

つまりいつも通りである。

 

午前午後の聞くだけで退屈な授業など語っても何も面白くないので全部ぶっ飛ばして放課後。

 

今日も今日とて周りを萎縮させている途中、授業中に竜司からの連絡で出た杏の親友『鈴井志帆』さんの下へ向かっていた。

 

彼女は女子バレー部に所属しており、それだけで分かる通り鴨志田に練習という名の体罰を受けている子の一人だ。ポニーテールが特徴的でホワホワと見ているだけで癒しを感じる彼女は周りから敬遠されがちな杏の良き理解者である。

 

しかし体罰のせいで常に傷が耐えず、服の下に包帯を巻いてたり痣を隠すために湿布を貼ってたりする。原作でもアニメ版でもサブキャラとは思えないほどの可愛さを誇る彼女を傷つけるとは・・・鴨志田ぜってぇ許さねぇッ・・・!(一般果実神並感)

 

初対面では見ているのも辛いくらい負のオーラを纏って光の無い目をしている彼女だが、実は言うと本来彼女と関わり合うことはあまり無い。と言うよりも関わり合う前にとある()()が起きてしまう為そうそう関われ無いのだ。

 

その事件と言うのが蓮達に怪盗になることを決意させるきっかけになり、杏が蓮達の仲間になるタイミング。つまるところ全ての始まりと言っても過言ではない事件なのだが、それだけにかなり胸糞悪い内容となっている。

 

どれくらいかと言うと説明する気すら起きないレベルとだけ言っておこう。知らない人は調べて欲しい。いや、あまり知らない方がいいかもしれないが。覚悟して調べる事をオススメする。

 

兎に角、彼女は唯一この後の事を知っている蓮が彼女を救う行動を何もせずにこのまま行くと彼女はこの後鴨志田の手によって・・・あぁ、言葉にするのも忌々しい。

 

そんな彼女に話を聞きに行くという事で中庭の方に続く通路へ行く、前に少しトイレに行く事で乱数調整して近くの階段から降りて歩いていく。

 

勿論、この行動には意味がある。用を足すとかそんな事ではなくこれによってとあるアクシデントを引き起こさせるのだ。このアクシデントを発生させるのがなかなか難しく少し時間を間違えるとただの時間の無駄になってしまうのだが蓮はそれを完璧に把握している為確実に発生させることが出来る。

 

そう言っている間にそのタイミングがやってきた。中庭に続く通路に行こうと蓮が歩いていると丁度中庭入口の角で女子生徒とぶつかってしまった。いや、狙ってやったのだからぶつかりに行ったが正しいか。

 

「む」

 

「きゃっ!?」

 

見た目によらず筋肉質でありちょっとやそっとでは揺らがない塗り壁のような蓮に当たった相手は弾かれて転びそうになってしまう。しかしそれを待っていた蓮の行動は早かった。

 

ぶつかってしまった相手の体に素早く手を回し、まるでラブコメの王子様キャラみたいに頭と腰を支え首などを痛めないようにして抱き止めたのだ。

 

「すまない、大丈夫か?」

 

「え、あ、はい・・・大丈夫です・・・」

 

抱き止めている為、所謂ガチ恋距離といわれる程の至近距離でそう聞くと女子生徒は今にも蒸気が出そうなほど顔を赤らめ困惑しながら何とか返事をした。顔も相まってもう完全に乙女ゲーの王子様キャラみたいな事をしている蓮に周りで見ていた女子生徒達は静かに沸き立ち、男子生徒達は嫉妬で舌打ちを零した。作者もそちら側である。チッ、爆発しろ。

 

そんな事気にせずに女子生徒を割れ物を扱う様になるべく慎重に立たせると蓮はぶつかった事を謝罪する。

 

「角を注意するのを怠っていた、本当にすまなかった」

 

「う、ううん。私もボーッとしてたし・・・というか私が飛び出してぶつかっちゃったから、私の方こそごめんなさい」

 

そう言い合い、お互い頭を下げた状態から顔を上げると目を合わせて少し無言になってからクスリと笑う。

 

「じゃあ、オアイコってことで」

 

「フフ、そうだね」

 

なんかいい感じを出しているところ申し訳ないが、説明させて貰おう。

 

実はこのやり取りをしている相手こそ蓮が探していた相手『鈴井志保』さんである。上着を脱いだ白い制服に右足のサポーター、そして先程言っていたポニーテールが特徴的な薄幸そうな雰囲気。間違いなく彼女だ。

 

「・・・あの、もしかして貴方D組の転入生?」

 

「あぁ、この頃噂の転入生だ」

 

「フフフ、何それ。余計なお世話で噂なんか気にしないで良いって言おうと思ったけど、なんか大丈夫そうだね」

 

ジョークに微笑んだ鈴井を見て蓮も微笑みを浮かべる。ボロボロの彼女の心が少しでも晴れてくれているのを感じ取れて嬉しかったからだ。

 

「まぁ人に誤解されるのは慣れてる」

 

「そっか・・・私の親友もね、見た目だけで色々誤解される子で・・・あ、ごめんいきなりベラベラ喋っちゃって。」

 

「友達思いなんだな」

 

1人で初対面の人に色々と喋ってしまった事に羞恥を感じている鈴井に対して蓮はそう言った。それを聞いた鈴井は一瞬、嬉しそうにしたが直ぐにそれは鳴りを潜め暗い表情に隠れてしまった。

 

「ありがとう、でも私は・・・」

 

そこまで言って顔に影を落とした彼女はハッと何かを思い出したように顔を上げて時計を確認すると焦り始める。その表情は嫌という程見た、バレー部全員が浮かべていたあの表情だ。鴨志田によって歪められた心の反映だ。

 

「もうこんな時間、ごめん私そろそろ部活だから・・・またね」

 

暗い顔のまま、思い出した恐怖に目を濁らせながら鈴井は蓮の横を通り過ぎてバレー部の練習へと向かって行ってしまった。

 

()()()()に行くのなら彼女はこのまま練習に行ってそして言葉に表せないほど悲惨な体験をする事となる。余計な手を加えずに筋を外れるという少しのリスクも排除するというのなら、それを知っていたとしても彼女を行かせた方がいいのだろう。

 

何故ならその方がこの後の流れが読みやすくなるからだ。

 

蓮はこのループを抜け出したい。その為ならどんな事もするつもりだ。だからこそこれは仕方の無い事だ。彼女という犠牲を見逃すのは、自由と天秤に掛けた上で切り落とすべきものだと自分を納得させこの場から去る彼女の背中を見送る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それでも蓮は選択した。

 

 

「待った」

 

これから地獄に向かう彼女を止める者がいた。勿論、蓮だ。

 

横を通り過ぎた彼女の手を取って止めると、鈴井は戸惑いながら蓮の顔を見る。不安げに自分を見つめる彼女に蓮は決意を込めた真剣な目で見つめ返す。

 

「えっと・・・何、かな?」

 

ただ何も言わずにジッと彼女を見ていた蓮はグイッと彼女の腕を痛ませない為に加減をして引っ張って近くに寄らせる。そしておもむろに手を伸ばすと、反射的にビクリと目を瞑った彼女の額に手をやって息を吸い込み・・・

 

 

「熱ッ!!凄い熱じゃないか!通りで少しふらついてると思った!」

 

 

周りにも聞こえるようにハッキリとそう叫んだ!!

 

「えぇ!?」

 

当然、全く事実でないことを指摘された鈴井は大きく困惑した。熱?ふらつく?一体何を言ってんるだと頭の中が『?』で埋め尽くされていく。しかも何故それを大声で叫んだのか、周りの人がポカンとしながらこっちを見てるでは無いかと困惑に更に羞恥が混じった鈴井の頭は混乱が加速していく。

 

しかも、蓮はここからもっと意味不明な行動に出た。

 

「そんな状態で歩くなんて危険だ!直ぐに保健室に連れてくからしっかり掴まっててくれ!」

 

「え、や、ちょ!?えぇ!?」

 

またしても意味不明な言葉を続けた蓮は何と流れるように鈴井をお姫様抱っこしたではないか!!何やってんだこいつ!

 

鈴井も急展開過ぎて最早思考がついて行かずただただ蓮の顔と抱えられている自分の体を狼狽えながら交互に見る事しか出来なくなっている。

 

そして中庭の通路を抜け、保健室への廊下を進んでる最中にようやく自分がどうなってるかを正しく理解し、しかし抵抗も出来ないので奇っ怪なものを見るような目をしている他生徒達の視線に気が付き顔を真っ赤に染め手で覆い隠すしか出来なかった。

 

だが蓮はそんな事知ったことかと言わんばかりに猛進する。そのまま保健室へ辿り着くとノックもせず「失礼します」とだけ言って足で乱暴に扉を開け、そしてこれまた乱暴に閉めた。前置きしたにしても失礼過ぎる。先生がいなかったのが救いだった。

 

羞恥に茹でダコのようになりながら思考停止している鈴井をベットに座らせると蓮は体温計を探し出しピッと起動させ、先っぽを指で適度に擦り始めた。摩擦熱で体温を偽装しているのだ、学生の時よくお世話になっていた(良い子は真似しないで下さい)

 

「な、なんて事だ。体温が37.7もあるじゃないかー(棒)これはもう完璧に風邪的なあれだーこんなんで練習なんて出来るわけないー(クソ棒読み)」

 

そしてピピッと表示された37.7という数字を見てこれまたわざとらしく棒読みでそう言った。保健室には他に誰もいないので真顔で大根演技をしながら鈴井の方を振り向くと急に冷静になりながら肩に手を置いた。

 

「というわけで、今日はもう帰った方がいい」

 

うん、意味が分からない。鈴井も全く理解出来ずに真顔でこちらを見ている蓮に困惑を極めている。漸く動くようになった覚束無い口で何が言いたいのか聞こうとした。

 

「え?えっと、あの〜」

 

帰った、方が、いい

 

それに対して返ってきたのはゴリ押しであった。凄んだ顔で鈴井を圧する蓮に鈴井はカタカタと小動物のように怯えてしまった。ああ可哀想、可哀想だが狙い通り。わざと脅かして罪悪感が刺激された感じを装い、ここで仕方ないと言うようにため息を吐く演技をしてスムーズに本当の目的について零し始めた。

 

「・・・正直に言おう、鈴井さん。もう知ってるだろうけど俺達問題児組は今鴨志田の体罰について調べている。」

 

「え・・・」

 

鈴井はそれを聞いた瞬間、やはり鴨志田を思い出したのか更に怯えたような顔をし始める。しかしそれを想定していた蓮はここでカードを切る。

 

「かく言う俺もその被害者でな、これもそれ関係だ。」

 

蓮は昨日の球技大会の時に負った怪我を隠す為、包帯を巻いた腕を上げて見せた。鈴井の信頼を少しでも得る為にそれを鴨志田の体罰で負ったものだとでっち上げたのだ。別に鴨志田のせいで怪我したのだから間違ってはいない。

 

おかげで鈴井も自分と同じ被害者と感じ、警戒心も下げてくれたようで少し強ばっていた肩の力が抜けた。話を聞く姿勢にもなってくれたようだ。こっちに来てまだ数日しか経ってないのに体罰を受けている事に言及されたら面倒だったがそれには触れられなかったのは幸運だった。

 

「じゃ、じゃああそこに来たのも偶然じゃなくて私に会いに・・・?」

 

「そうだ、でもそれだけじゃない。君を守るためだ。」

 

「え?」

 

そこまできて蓮は言いづらいように少し頬を指をかき、眉を下げて汗を滲ませる。これから伝えるを躊躇ってますアピール、効果は上々らしく鈴井も不安そうな顔をする。これくらいの演技は朝飯前だ。

 

そして、少し間を開けて言葉を溜めた後に喋り始めた。

 

「・・・たまたま耳に入ったんだ。鴨志田が妙な言動をしていると。その内容は・・・君の親友、高巻さんについてだった。」

 

「そ、それって!!」

 

ガシャンッ!とベットが大きく軋むほど身を乗り出した鈴井。そんな彼女に蓮も言うのを決心したような顔で残酷な事を伝えた。

 

「あぁ、恐らくあいつは・・・彼女に手を出すつもりだ。」

 

それを聞いた鈴井は大きなショックを受け、口に手を当て顔を青くして力無くベットに腰掛けた。親友が狙われていると知れば動揺するのは当然だ。だが蓮は彼女に視線を合わせるように椅子に腰掛け、顔を更に引き締めさせて重要な事を話し始めた。

 

「けどその場合1番危険なのは彼女じゃない、君だ。鈴井さん。」

 

「私が?な、なんで・・・?」

 

青い顔と光を失った目で震えている鈴井は頭が回らず、ただ蓮にそう聞き返した。そこで蓮は少し言いずらそうにした後、悔しそうにちょっと顔を顰める演技をしながら説明し始めた。

 

「高巻さんがもしも脅されたとしてその材料として君を使うだろう。あいつの事だ、脅しではなく直接手を出してくる可能性もある。そして、最悪の場合・・・。」

 

「ッ・・・!」

 

「突拍子のない話だとは思うがどうか信じて欲しい」

 

頭を下げる蓮の言う最悪が何を指すのか鈴井も察したようで青かった顔が悪化して白くなっていく。とても残酷な事だ、出来ることなら伝える事はしたくなかったがこうしなければ彼女を説得するのは難しいだろう。本当にそうなってしまうよりは遥かにマシなのだ・・・そうなってから後悔しても遅いのだから。

 

「・・・すまないが、高巻さんに電話できるか?彼女に連絡して合流してくれ。一応、護衛として俺もついて行く。」

 

「・・・うん、分かった。」

 

鈴井はそう言うと震える手でスマホを取り出し、杏に電話をした。その間に蓮は鈴井の教室まで行き事情を話して脅し荷物を預かり再び保健室へ戻った。戻ってくる時には電話も終わっていたようで鈴井がベットの上で不安そうに待っていた。あんな話をした後だ、不安にもなる。だがその不安が自分では無く親友に向けたものなのが彼女がいかに杏を思っているのかよく分かるだろう。

 

「悪い、遅れた。鴨志田に見つからないうちに帰ろう」

 

「うん・・・」

 

やはり暗く苦悶の表情で頷く鈴井。そんな彼女を見て蓮は少し考え、素の姿では行動しづらいかもなと思った。ちょっと頭を捻りピコンと思いつく。なら、変装してしまえばいいと。

 

「ふむ、このままでは見つかった時直ぐに止められるかもしれないな・・・そうだ、鈴井さん。ちょっと・・・」

 

「え・・・あ、なるほど・・・ん、分かった」

 

蓮の考えを聞いた鈴井は素直に従い、少し見た目に変化を加えた。

 

具体的に言うと蓮から伊達メガネを借り、ポニーテールを下ろしてストレートにして前髪もピンで右側に寄せいつもとは全く別の髪型にした。制服も上着を着てリストバンドもサポーターも外している。文系美少女と言った感じでかなりのイメチェンだ。

 

しかしこれだけならよく見れば鈴井だと気が付かれるだろうが、その隣にいる奴のおかげでそれも対策されている。

 

いつもは止めてる制服の前を開き、髪を少し上にかき上げてワイルドさが増している。更に伊達メガネを貸しているため素面の状態で多少睨みつけるように眉間にシワを寄せ、ポケットに手を突っ込んでいる。そんな不良感の増した蓮である。

 

「お、おいあれ・・・」

 

「こっわ・・・」

 

「やべぇ・・・なんだあれ不良漫画に出てくる奴だよ・・・」

 

「こいつぁクセェ!ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇ!!」

 

「・・・今説明王いなかった?」

 

シンプルなものだがかなり効果的だ。事実、ただでさえ問題児として騒がれている蓮が不良感を増しただけで周りは直ぐに彼らを避け目を逸らしている。これで鈴井に視線が集まることは無い。蓮の評判が落ちるだろうが既に地に落ちている為問題無い。唯一英語教師の蝶野先生のみが「あらっ、いい男♡」と彼に熱視線を送っていた。

 

「よし、出られたな。急ごう。」

 

「う、うん」

 

こうしてあっさりと学校から出ることの出来た2人は直ぐに集合場所に指定した駅へ向かった。道中、上着を直し前髪もいつも通りにした蓮は鈴井の案内の元、駅地下モールを歩いていると鈴井が杏を見つけたようで小走りで彼女の下へ向かう。そんな彼女に杏も気がついたのか影を落としていた顔がパッと明るくなり、向かってきた鈴井を抱き止めた。

 

「杏ッ!」

 

「志帆ッ!良かった無事で・・・!本当に良かった・・・!」

 

抱き合ってポロポロと涙を流す2人を見て友情の美しさを眺めほっこりして歩いていた蓮が近くに来ると杏は一気に警戒度を上げて鈴井を庇う為に後ろに隠し、蓮を豹のように睨む。

 

「杏!雨宮君は・・・!」

 

「分かってる、けど・・・」

 

「いや、高巻さんが正しい。いきなりこんな事になったんだから怪しむのも無理は無い。」

 

威嚇する杏に対し、両手を上げ1歩下がって距離をとった。自分に敵意は無いと示すために。それを見た杏は警戒度を多少和らげて睨むのも止めてくれた。

 

「それで・・・どういう事なの?あんた何考えてんの?いきなり変な事を志帆に吹き込んで・・・!鴨志田にも手を出そうとしてて!!そもそも最初から怪しいと思ってたの!嘘と脅しで周りを怖がらせて何がしたいのよ!?」

 

「杏・・・!」

 

「ねぇ、答えてよッ!」

 

親友が巻き込まれたと知り激情を顕にする杏。しかもその相手が蓮と来れば更にヒートアップしても仕方が無い。何を考えているか分からず、鴨志田にちょっかいをかけ、親友を巻き込もうとした。

 

杏の蓮に対する評価は最低だ。というかぐうの音も出ない。反論の余地も無い。だがそうなってもしょうがないことをした。蓮もそこは割り切っている。だからこそ質問には答えず話を進める為にある事を振った。

 

「高巻さん、鴨志田から電話か何か来ていないか?」

 

「なっ!?なんでそれを・・・!?」

 

「杏!そうなの!?」

 

まさかピンポイントで動揺する話題を突かれるとは思わなかったのか杏はつい反応してしまいそれを聞いた鈴井に問い詰められる。最初はグッと口を閉じようとしたが、心配でいっぱいになっている親友の瞳を見て耐えられずに鴨志田から電話があったことを白状した。

 

「・・・・・・うん、ついさっき。」

 

「鴨志田は、なんて?」

 

「・・・・・・この後、ひ、1人で、部屋に来いって・・・そうしなきゃ志帆がタダではすまないって・・・私、私・・・!!」

 

「そんな・・・ッ!?」

 

杏は嫌な事を思い出してしまい震えて蹲ると小さい嗚咽が聞こえ始めた。相当恐ろしかったのだろう。いや、それはそうだ。つまるところ意味するのはさっき鈴井に話したものと同じなのだから。そんな杏を落ち着かせる為に鈴井は彼女を優しく抱き締めた。

 

空気の読める男として定評のある蓮も彼女が落ち着くまで離れる事にして、とりあえず水を買ってきた。泣けば疲れ喉も乾くだろう。そして杏が落ち着いた頃に戻り、目元を赤くした杏に水を渡した。貰い泣きした鈴井にも渡し、蓮も自分の水を飲んだ。

 

「落ち着いたか」

 

「うん・・・ごめん、気が動転しちゃって・・・」

 

先程まで余程切羽詰まっていたんだと分かるほど大人しくなった杏。度重なるセクハラを受けて心を擦り切らせていたのだろうと誰でもわかるほどに精神的に参っていた所にあの電話だ。寧ろこれだけで済んでるのが幸いと言えるだろう。

 

「雨宮君は志帆を守ってくれたんだよね・・・ありがとう」

 

「いや、お礼なんて」

 

「ううん、あなたのお陰で志帆は無事だったんだもん。私なんて、何も出来なかったのに・・・」

 

水の入ったペットボトルをギュッと両手で握り締めながら悔しそうに項垂れる杏。

 

「高巻さん・・・」

 

「杏・・・」

 

「雨宮君、言ってたよね。自分が正しいと思う道を行くって。だから鴨志田と戦ってるんだよね。坂本も・・・。いいな・・・私にもそんな強さがあれば・・・」

 

「・・・高巻さん、俺は強くなんかないよ。」

 

「え?」

 

ポロポロと弱った心を吐き出す杏に蓮はそう返した。意外な返答に杏は顔を上げて蓮の顔を見る。うるうると涙を溜めている美しい青い瞳を真っ直ぐと見つめて蓮は微笑みながら拳を胸の前で握りしめた。

 

「俺も悪に立ち向かうのは怖い、何度立ち止まろうとしたか分からない。出来ることなら逃げてしまいたい。」

 

「雨宮君・・・」

 

「けれど俺は許せなかった、何もしないで後ろを向くのは。俺はただ諦められなかっただけだ、何も。ただ、それだけなんだ。」

 

「許せない・・・立ち向かう・・・」

 

「だから俺達は鴨志田に歯向かう道を選んだ。奴の影響は大きい、けれど策はある。内容は言えないけど・・・きっと上手くいく。だから安心してくれ。高巻さんや鈴井さん、そしてバレー部の皆も必ず解放してみせる。」

 

まるで何か不安に怯える小さい子を安心させるように杏の両手を包んでそう言った。ニコリと笑みを浮かべる彼にとても暖かい気持ちが溢れてきた。そして杏は蓮の瞳の中にある確固たる意志を見て、心の底から憧れの感情を向けた。

 

あぁ、なんてカッコイイんだろう。きっとヒーローとは彼のような心を持つ人の事を指すのだろうと憧憬した。そして思い出した、自分もかつて憧れた存在がいた事を。

 

なんで忘れてたんだろう、私もそんなカッコイイ人を目指していたはずなのに。私も自分の意思で道を開く人になろうと決めていたのに。

 

杏は空っぽの掌を見つめ、自分に対する失望と怒りを募らせる。

 

「高巻さんと鈴井さんはここ数日は自宅で待機して欲しい。特に鈴井さんには。鴨志田との因縁はその数日で決着を付ける。それまでは耐えてくれないか?」

 

「・・・うん、分かった。雨宮君を信じるよ。」

 

「私も。貴方なら出来るかもって感じるから。」

 

「2人共ありがとう・・・おっと、すまない。用事が出来てしまった、今日の所はこれで。奴は必ず俺達で何とかする、それじゃあ!」

 

この短い時間の中で強い意思を見せつけ2人の信頼を勝ち取っていた蓮。すんなりと蓮の言う事を聞いてくれた杏と鈴井の前で今度はスマホを取り出し、竜司から連絡が入ってたのを確認すると彼女達と別れ学校へ急いで戻って行った。

 

こうして完全に頼りの道筋を自分の意思で改変した蓮は走りながらも肩の荷を降ろしてフゥ、と脱力の息を吐いた。

 

(さて、これでもう後戻り出来ない・・・)

 

鈴井が犠牲になるというシナリオを丸々塗り替えたのだ。筋から大きく外れもう何が起きても不思議では無い。もしかしたらこの時点で全く予想だにしない出来事が起こるかもしれない。折角、何かが違う世界に来たというのにそれが崩壊してしまうかもしれない。それほどまでにこの改変は大きなものだ。

 

だがもう逃げない、目を逸らすこともしない。その選択が例え未来を不確定にするとしても。

 

この選択をしたからにはもう戻れない。けれど、筋から外れたとしても人の道を外れるより万倍いい。

 

 

だからこそ、蓮は手を取ったのだから。

 

 

それは確かに、悔いなき選択だった。

 

 

 

 

 

 

「私も、なりたい・・・彼みたいに!」

 

 

そしてその覚悟は、1人の少女の心に炎を宿した。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 




今回マジで雑でした・・・すみません、どうにも文章化するのが難しくて・・・でも鈴井さんは救ったから許して・・・

信じられるか?こんな色々してるけど転校して数日しか経ってないんだぜ、こいつ

アニメでも恐らくルート確保は一日で済ませてたので1周目でこの速さってやべーなこいつらって思いながら見てました。プレイヤー視点で見ると実際すごい。



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A beautiful rose has thorns!/Part4

生きてます(2回目)

新しい職場はストレスがいっぱい!(虚無)

社会に出て分かることは、労働はクソという事です(NNMN並感)。経験が云々言ってる人は労働が生活になってる人です。私とは分かり合えぬ。

Part4まで行っちゃったよ第11話

浮かんだことを打ち込んでたらいつの間にか長くなってるのでなかなか前に進めないジレンマ。でもちゃんとしないとあとのストーリーに支障が出る・・・ツライナァァァァ!!ツライナァァァァ!!

頼む・・・静かに・・・

あ、ちなみに鈴井さんはヒロインではありません(無慈悲)


今回も、展開が巻き巻きになっていくよオ〜!?


NARUTOの忍術身に付けた転生者が鬼滅の世界で歴代柱+縁壱を穢土転して鬼側をフルボッコにする作品下さい


━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「おせーぞ蓮、どこ行ってたんだよ?学校中探したんだぜ?」

 

「悪い、少し用事があった」

 

「まぁいいけど・・・そんでよ、話ってのが〜・・・・・・」

 

蓮が鈴井と会って説得した後、中庭で竜司と合流して毎回やってる似たような会話をしていると途中で猫が乱入してきた。そう、現実世界でのモルガナである。自称人間なのに猫になってしかも喋ってる彼に竜司から総ツッコミが入っていたがそれをガンスルー。

 

そして鴨志田を何とかする方法を知ってると言われまんまと釣られた竜司はその話に乗り屋上へと場所を移した。

 

綺麗な夕焼けが照らす屋上でモルガナの説明を聞く2人。若干1名は理解が追いついていないのか渋い顔をしている。

 

「・・・と、言うわけだ。分かったか?特に金髪。」

 

「えぇ〜と?つまり、パレスを消せば鴨志田がマトモになって?その為にはパレスにあるお宝・・・?を奪う必要があって、でもそれをすると鴨志田が死んじまうかもしんねぇ・・・って事、だよな?合ってる?」

 

「大丈夫、満点だ。」

 

「少し怪しいがな」

 

不安げな竜司にサムズアップする蓮とジト目を向けるモルガナ。

 

「けどよ、幾らぶっ飛ばしてぇあいつでも殺すのは・・・」

 

「確かにな」

 

「おいおい、じゃあ他にあいつをやる方法はあんのかよ?パレスが無くなって廃人になったとしても足はつかないんだぜ?」

 

「足つかねぇって、バレなきゃ何してもいいってんじゃ鴨志田とやってることが一緒じゃねぇか!」

 

やれやれと言った具合に軽く言い放つモルガナ。例え吐き気を催すような悪人であっても殺すのは憚るものだが彼はどうやら殺られるなら殺るタイプのようでほぼ気にしている様子が無い。

 

蓮も別にそうなってしまっても軽く流せる。だが一般的な感性を持つ竜司は別だ。当たり前に人を殺すのに躊躇いを覚える。それに自分が鴨志田と似たような事をするというのに抵抗を持っている。

 

しかし現状を打ち破るにはそれしかないのは確かだ。

 

「・・・詳しく話を聞こう」

 

「ほう、やっぱりお前は話が早いな。前の件は許さんけど。」

 

「ハッ!?おい蓮お前何言って・・・!?」

 

消極的な竜司に対してモルガナに話を聞こうとする蓮。彼からすれば迷う理由など一片たりともありはしないのだがそれに意を反するのはやはり竜司。ダチが目の前で悪魔と契約しようとしてるのだから止めようとするのは当然だろう。

 

なのでここは竜司の良心を刺激する事にした。ここに来る前に会って避難させていた2人についての話を凄く深刻そうな顔をして2人に話し始める。

 

「・・・・・・実は、ここに来る前ある話を聞いた」

 

「話?」

 

「あぁ、簡単に話を纏めると鈴井さんと高巻さんが鴨志田に狙われている。」

 

「何だと!?高巻達が!?」

 

目をひん剥いて驚いた竜司はこうしちゃいられないと言うように慌ただしく扉に向かおうとしたので蓮は手で制し続きを話した。

 

「それについては既に手は打った。2人を説得し鴨志田に見つかる前に帰宅して貰っている。事情も話したので数日は大丈夫だろう。」

 

「そ、そうかそりゃ良かった・・・だから学校中探してもいなかったのか」

 

蓮の説明に納得した竜司。そしてそんな彼に決意を固めた視線を向ける蓮。

 

「俺達がやらなければ、2人に鴨志田の魔の手が届いてしまうだろう。それを知っていて行動しないなんて俺には出来ない。それに今この瞬間にも苦しんでるバレー部の皆も見捨てる事になる。」

 

「こいつの言う通りだぜ、待ってるだけじゃチャンスなんて訪れねぇ。この状況を覆すには多少のリスクを背負ってでもやるべきだと思うがな。」

 

蓮に続いたモルガナは静かに力強くそう言った。まさしくその通りだ。何かを変えることが出来るのは何かを捨てることが出来る者。例え殺してしまう可能性があったとしても暗闇の中に唯一の光なのだ。しかもそれは竜司達だけの光じゃない。鴨志田の被害者達全員の光だ・・・などというのは結局は方便、竜司を揺さぶる為に言ったに過ぎない。蓮は未だ残る罪悪感にまだ人としての感性がある事に安堵を覚えながら竜司を見る。

 

それを聞いて竜司は酷く悩む。腕を組んでむぅ〜と唸ったと思ったら数秒経たずにうがーっ!!と頭を掻きむしり、自分の中にあった迷いを投げ捨て覚悟を決めた。

 

「・・・それもそうだな。やらなきゃ色んなやつが鴨志田にビビりながら生きることになる、誰かが終わらせなきゃなんねぇんだよな。」

 

「ハッ!ようやく意思が固まったか金髪!ちんたら悩みやがって!」

 

「うるせー!決まったんだ、いいからさっさと行こうぜ!鴨志田の欲望ぶん取りによォ!」

 

若干ヤケクソが混じっている竜司に続いて蓮もモルガナを抱えて裏路地へと向かった。部活で残っている生徒以外下校し、日中の騒がしさは消えやや不気味な雰囲気が漂うそこで3人はスマホを用意しパレス潜入の準備を整える。

 

「ん?なんだスマホなんて出して、そんなもん出してどうすんだ?」

 

「あ?どうするってこれであそこに行くに決まってんだろ?」

 

そう言いながらスマホに映る異世界ナビを見せる竜司。モルガナは趣味の悪いアイコンがデカデカと出てる画面を見ながら興味深そうに唸る。

 

「ふーん・・・そういうことか、変わったもん持ってんな」

 

「そういうお前はどうなんだよ、絶対スマホ持ってねぇだろ。どうやってあっちに行ってんだ?」

 

「吾輩は特別だからな、そんなもん無くてもあっちに行けるのさ」

 

猫の姿でふふーん!とドヤるモルガナ。大変可愛らしくて結構。無意識に手を伸ばしていた蓮がわしゃわしゃと撫でててやるとそのテクニックにモルガナはふにゃーと普通の猫のように気持ちよさそうに体をくねらせる。

 

だがハッ!と何とか意識を取り戻し「猫じゃねー!ふしゃー!」と蓮の手を振り払った。あぁ、これは猫だなと竜司は声には出さなかったがそう思った。振ってみれば猫じゃらしにでも反応するんじゃないか。

 

「ったく、いいか?あそこに行ったら吾輩達は『怪盗』なんだ。気を引き締めて行けよ!」

 

「は?怪盗?」

 

「その通り!密かに入り込み、華麗にオタカラを盗み出す。まさに『怪盗』じゃねーか!」

 

モルガナが目をキラキラさせながらそう言うと竜司もウキウキした少年のような表情になってやる気が湧き出てきていた。

 

「おぉ・・・なんかカッコイイな!」

 

「悪くない」

 

蓮も便乗するとモルガナはそうだろうそうだろう!と嬉しそうに体を揺らしている。正しく愛らしさの権化だ。

 

「うし!んじゃあ行くか!見てろよ鴨志田・・・テメェの汚ぇ欲望根こそぎ奪ってやる!」

 

「あぁ!行くぞ!」

 

「潜入開始だ」

 

 

 

『ナビを開始します』

 

 

 

 

スマホからお馴染みの音声が鳴り響き、世界が歪み塗り替えられて行った。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

歪みが収まり、現実と認知が入れ替わる。

 

 

ナビによって異世界へ移動したジョーカー達は気合を入れて通気口へ向かい再び瘴気が漂うパレスに潜入した。

 

「よし、それじゃあ城に入る前にコードネームを決めるぞ」

 

「コードネーム?あれか、映画でよくある二つ名的な奴」

 

「そうだ!怪盗なのに本名で呼び合うなんてマヌケだろ?吾輩イヤだ!それにパレス内で名前を呼びあってたらどんな影響があるか分からんしな、念の為だ」

 

「後半が建前にしか聞こえねぇ・・・まぁ確かにこのカッコで名前で呼び会うのはダセェな」

 

竜司はペルソナを使って戦闘中に名前を呼び合ってるのを想像して渋い顔をした。それならコードネームの方がカッコつくなとモルガナの意見に賛同する。

 

「んじゃ俺はスカルな!このイカすドクロマスク着けてっからよ!」

 

「スカルね・・・ヤンキーの方がいいんじゃないか?」

 

「あぁ!?ならてめぇはチビ猫だ!」

 

「誰がチビだ!そんで猫じゃねー!そうだな吾輩は・・・」

 

「『モナ』だな」

 

「は?」

 

モルガナが自分の名前を考えてる時に蓮が横からそう言った。モナ、『モ』ルガ『ナ』からとった超キュートなコードネームだ。しかし言われた本人は横から入ってきたそれに困惑して目を丸くしている。そしてその間に竜司も乗ってきてそのコードネームを推してきた。

 

「お!いいじゃねぇかモナ!言いやすいし!」

 

「どういう理由だ!・・・まぁ、お前が言うならかまわん。」

 

やや不満気味だが確かに言いやすいし、なんかこうミステリアスな感じがする。それに蓮がそう言うのならばとモルガナ、『モナ』は納得しそのコードネームを採用した。

 

「じゃあ最後はこいつだな!うーんとそうだな・・・マジシャンとか?」

 

「怪盗だっつってんだろ!ふむ、それなら・・・『ジョーカー』だな」

 

ニヤリと笑みを浮かべてそう言ったモナにスカルは?と首を傾げた。

 

「ジョーカー?なんでトランプが出てくんだよ」

 

「ちげーよ、『切り札』って意味だ。コイツは怪盗としてあらゆる面で優れている、ペルソナの強さもな。それに吾輩の見立てでは更に何かある気がする・・・故に『切り札(ジョーカー)』だ」

 

どうだ?とドヤ顔で聞いてくるモナにジョーカーはフッと笑って親指を立てた。

 

「気に入った」

 

「決まりだな!これからは竜司はスカル、吾輩はモナ、蓮はジョーカーだ。今後はこのコードネームを徹底していくぞ!」

 

「うっしゃ!んじゃ決め終わった事だし、早速行こうぜジョーカー!モナ!」

 

コードネームが決定した所でスカルが気合を入れながらジョーカーの肩とモナの頭を叩きながら城の方へ歩いていく。それに続くようにジョーカーもお決まりの手袋を直す動作をしながら歩みを進めた。

 

「ああ、行こう」

 

 

 

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カモシダパレス 攻略開始!!

 

 

 

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前の潜入時のようにジョーカー達よりもこの城内部に詳しいモナの先導のもとシャドウ達の目を掻い潜りながら先へ進み、ジョーカーのみが持つ特殊な観察眼『サードアイ』を用いて様々なギミックを影と共に突破していく。

 

このサードアイが中々、いやかなり便利でアイテムや宝箱を発見出来るしギミックの場所や利用出来るカバー場所や登れる場所など幅広く見つけることが出来る優れ物だ。

 

しかもシャドウを見るとある程度の強さも見抜ける。しかもしかも現実世界でも使う事が出来ちゃう為、超便利。最早これ無しでは生きていけない、一家に一台サードアイである。

 

そんな訳でサクサクパレス攻略をしているとジョーカーはまた妙な相違点を見つけた。

 

それがこの階段である。

 

ジョーカーの記憶ではこの階段はここまで壊滅的に崩壊はしておらず登るのに問題は無かった筈なのだが彼らが見上げる階段、いや元階段だった場所は大きく崩落し本来の役目を投げ出した状態であった。

 

「これは・・・」

 

「酷いな」

 

これでは上に行くことが出来ない。しかし物理的に登るのはほぼ不可能、ペルソナを使えば行けるだろうが警備に気付かれてしまうかもしれない。そうなるととても厄介だ。こういう狭い所では動きにくい上に一度湧くと次から次へとやってくるから出来ればそれは避けたい。

 

「どーするよ、外から登れっか?」

 

「いや、リスクが高すぎる。それは出来ない。」

 

どうするかとジョーカーが思案しているとモナが得意顔である物を取り出した。

 

「あそこに丁度いいのがあるな。よし、どうやらこいつの出番みたいだ!」

 

ぺこぺこんと某猫型ロボットのようにポーチから出したそれを披露する様に頭上に掲げる。というかもう完全にドラ〇もんである。ご丁寧に背景まで一致しており完璧なパク、いやオマージュだ。大手に喧嘩を売るのはやめてください。

 

「んだこりゃ、剣道の小手か?」

 

「お前は目までモンキーなのか?」

「喧嘩なら買うぞ迷子の迷子の子猫ちゃんがぁ・・・!」

 

「誰が迷子の迷子の子猫ちゃんだこの日光猿軍団がぁ!」

 

「はいはい、喧嘩は後にして説明の続きを頼む」

 

一触即発となった2人を宥めながらモナにこの道具について説明を求めた。何しろここに来て初めての怪盗道具だ、興味津々の津々である。未だスカルと睨み合うモナの手から拝借し色々と観察してみる。

 

(今まで見た事と無い形状だ。とてもコンパクトで軽量なので動きを阻害しない、これを付けたままでも戦闘は問題なく行えるだろう。そしてこの射出口、なるほどここからワイヤーを出してフックを引っ掛ける事で高い所にも移動できるというわけか。ウェブシューターみたいだな。)

 

「そいつは銃と同じように認知の影響を受けた道具だ。現実じゃ少し紐が飛び出すようなもんだが認知世界では頑強なワイヤーを打ち出しアクロバティックな動きを可能にする!吾輩の力作だ!感謝して使えよ!」

 

「ほう・・・」

 

「早速腕に取り付けて実践してみろ!」

 

「分かった」

 

モルガナに言われた通り左腕にワイヤーフックを装備して外れないか軽く動いて確認し付け心地を堪能すると満足気に「うん」と頷いた。やはり全然動きを阻害しない、これはいいものだと思わず笑みを零す。

 

そして左腕を先程モナが目を付けた装飾物に狙いを付けてワイヤーを射出しようとするが、そう言えばこれどうやって出すんだろと考えた瞬間何故かジョーカーの左腕が真っ赤に燃える!・・・ではなく青く輝き光って唸り始めた。

 

正確には左腕に付けたワイヤーフックが青い光を発し始め、ジョーカーの意志を反映したようにワイヤーが勢い良く飛び出し狙っていた装飾物に引っ掛かる。おぉ、と軽く驚いていると今度はそのワイヤーが勢い良く巻取られていき強制的に飛ッび上がライズし、釣り糸を引かれた魚のように逆バンジーする事となった。

 

だがそこはジョーカー、慌てることなく極めて冷静に到達点を確認してぶつかる前にタイミング良く手摺に手をかけ、向こう側の階段へ華麗に着地してみせた。

 

これにはモナも高評価。文句無しの10点である。

 

「流石だな!もう完璧に使いこなしてるじゃないか!」

 

「確かにすげーけどよ、これ俺らどうすんだ?」

 

「・・・・・・あ」

 

「おい」

 

どうやらジョーカーだけが上に行ってから残された自分達には移動手段が無いことをスカルの指摘で思い出したようで「やっべ」と言う感じに目を逸らした。そりゃモナが用意してたのは一つだけなんだから当たり前なんだが上手く作動したのを見てはしゃいでたら忘れてたみたいだ。

 

「スカル、投げるからキャッチしてくれ」

 

「おっしゃ任せろ!」

 

「おぉい!それ1個しかないんだから丁寧に扱えよ!マジで!」

 

「行っくぞー」

 

「おーらいおーらい」

 

「頼むぞお前ら!マジで頼むぞ!ア゙ア゙ア゙ア゙!雑に投げんなァ!」

 

男子高校生のように、いや実際に男子高校生なのだが休み時間に飲み物を投げ渡すかのようなものっすごい軽い感じでワイヤーフックをポイッと空中に投げるジョーカーと掃除の時間に野球をやってる奴みたいな軽さでキャッチするスカル。モナは当たり前に怒り心頭である。

 

つるっと手を滑らせ地面に激突、粉砕玉砕大☆喝☆采!とはならずなんとか壊さずにスカルの手の中に落ちたワイヤーフック。心底ホッとしているモナを心の準備をする前に乱暴に抱えてスカルがワイヤーを飛ばして逆バンジー。

 

「よっしゃ行くぞ!」

 

「え、ちょ、待っ!?」

 

「FOOOOOOO!!ぶべ!?」

 

「にゃああああああ!ぎゃっ!?」

 

そこまでは良かったがどう着地するか考える前に飛ばした為にワイヤーが外れると勢いそのまま手摺を飛び越え2人揃って壁に無様に激突した。

 

「い、いでぇ・・・」

 

「なんで吾輩まで・・・」

 

「ナイスフライト」

 

「皮肉かこの野郎・・・」

 

痛みに震えながらちゃっかり避けたジョーカーを睨むモナ。しかしこれで3人とも無事(?)に崩壊した階段を登れたのでぶつけたデコに申し訳程度の絆創膏を貼って先に進むことにした。

 

再び巡回している兵士を物陰に潜みながら避けて進み、たびたび見つかる宝物やアイテムを回収して行く。

 

兵士達は甲冑に身を包んでいるからか非常に視野が狭い。真正面に立ったりしない限りは足元にいても一切バレないというお前それ警備としてどうなんだというガバガバぶりである。鴨志田の慢心が反映された結果だろうか。

 

そのおかげでとてもスムーズに探索が進む。戦闘をしなくて済むのは有難いがそれだとスカルの経験が積めないというデメリットもある。リスク承知でそろそろ戦闘してみるかと考えていると前を走っていたモナが急に動きを止めた。

 

「どうした?モナ」

 

「なんだ・・・この感覚。妙な感じがするぜ、よく分からんが何故かとても惹かれる」

 

そう言いながらピコピコと耳を揺らし、スンスンと鼻を鳴らしながら少しの手がかりも逃すまいと周囲を探知しながら移動する。それは獲物を見つけた獣のように朧気ながらも確かな道筋を辿っていた。その後を顔を見合せ不思議そうにしながらもジョーカー達はついて行く。これもジョーカーにとって初めての事象であった。

 

「お宝ってやつか?」

 

「いや違う、違うが・・・とても惹かれるんだ。」

 

あのモナをして『惹かれる』とまで言わしめる代物。それもお宝では無いナニカ。単なるアイテムだとか宝箱では無いのは確かだ。そんな希少な物を探さない手は無い、内なる期待と好奇心に従ってそのナニカを探す事にした。

 

「ふむ、気になるな。行ってみるか」

 

「れ・・・ジョーカーが言うならいいぜ」

 

「よし、全会一致だな。こっちから感じる、着いてこい!」

 

ナニカの場所を正確に突き止めたのかモナは迷いなく道を進んでいく。勿論シャドウにも警戒しながら進んでいくとどうやら辿り着いたようで小さな手でその場所を指さした。

 

「あそこだ、間違いない。あの扉の向こうに確実にある。」

 

そう言うモナの手の先を見ると不自然に途切れた薄暗い廊下の向こう側に不気味に存在する扉が目に入った。その扉はツタが生い茂り長年誰も訪れていない事が分かるほど古びておりこれまでの城の雰囲気と明らかに違う事が見て取れる。

 

(やはり()()()()()()だ・・・一体幾つ相違点があるんだ?)

 

ジョーカーが向こう側にある扉を観察しているとスカルが手摺に捕まりながら下を覗いている。

 

「おいおい、つっても足場になるもん何もねーぜ?飛び移ろうにも距離があるしよ。」

 

拾った本を落として暗闇に消えていくのを見ながらスカルはそう言った。本が落ちた音はかなり遅れてから微かに聞こえた為、床までの距離は相当なものであると分かる。落ちたら確実にゲームオーバーだろう。しかしモナはそんなスカルにため息を吐いた。

 

「お前な、さっきのやり取り忘れたのかよ?今はあんだろ、移動手段が。」

 

「あ?あ〜!さっきのか!確かにあれなら向こう側に行けんな!」

 

言われてやっと思い出したスカルはポンと呑気に手を叩いた。そんな彼にあからさまに呆れた溜息を吐いたモナ。それによってまた2人は喧嘩しそうになるがその前にジョーカーがモナを脇に抱え、スカルの襟首を掴んでからワイヤーフックを飛ばして悲鳴をあげる2人を無視して向こう側へと移動した。

 

シュタッ!と着地したジョーカーとまたもや顔面から突っ込んだ2人。仲良く床とキスしている2人をスルーして扉へと近づいたジョーカーは蔦だらけの扉に触れてみる。

 

(・・・どうやらトラップの類は無いようだ)

 

ひんやりとした扉を触っても何も起こらない事を確認したら今度は邪魔な蔦を懐から取り出したミセリコルデで素早く切り落とし、扉を開けてみることにした。錆によってやや開けにくいが何ら問題はない。更に力を込めて無理にでも開く。

 

ギギギ・・・とらしい音で開いた扉は中に籠っていた空気をジョーカーへと吹かせた。

 

 

その瞬間、ジョーカーは目の前に()()()()を幻視する。

 

 

 

反射的に凄まじい速度で腕を振るい、その幻を切り裂いたジョーカーはそこで漸く気が付き薄らと冷や汗を流しながらミセリコルデを仕舞う。

 

「なんだ・・・今のは。幻覚?まさか俺が見抜けないなんて・・・」

 

思わずそう呟いてしまう。強い精神力を持ち、戦い慣れたジョーカーが幻と気づけ無かった程に濃厚な悪意を見せた空間に最大限の警戒をしながら侵入する。何時でもペルソナを発動できるようにしながらゆっくりと慎重に中を歩くと冷たいような、生暖かいような不気味で不愉快な空気が今までに感じた事の無い()()()()()()をジョーカーに感じさせた。

 

だが意外にも中にはシャドウも居らず、トラップも無い。薄暗い部屋に何かの音が響くだけ。その音に耳を澄ましてみると・・・ジョーカーはこれまた珍しくゾッとした。

 

『俺様からは逃げらんぞ・・・』

 

風が吹き抜ける音だと何気なく思っていたそれは鴨志田の声であった。恐らくは鴨志田の欲望から漏れ出た声、内容からして杏と鈴井に対してのものだろう。なんとも気持ち悪い声だ。

 

顔を顰めながら歩いて奥に進むとジョーカーは暗い部屋の中に赤く発光する何かを見つけた。床から侵食した様に生えた何本かの管によって形成されたそれは流れてくるエネルギーが強い光を放って循環しており、その形は正面から見るとどこか子宮を思わせる。

 

そしてその管の上にモナが察知したと思われる例の物がジョーカーを見つめていた。

 

「これは・・・」

 

近づいて良く見てみるとそれはまるで石で作られたような、だが植物の種をくり抜いたような、しかし骨のような。そんな要素をごちゃ混ぜににしたような感じの頭蓋骨の中に大きな赤い宝石が埋め込まれている随分と悪趣味な物体であった。

 

「こいつは『イシ』だ。」

 

「モナ」

 

ジョーカーがジッとその物体を見ていると顔にバッテンの形で絆創膏を貼ってるモナが歩いてきて説明をし始めた。

 

「パレスが元々の場所が認知が歪んで出来たってのは前に説明しただろ?その()()が集まって生み出されるのがコレさ。吾輩はイシと呼んでる。ようは搾った後の果実がパレスなら果汁がコレだな。」

 

「成程・・・歪みそのものの結晶という訳か。どうりでこんな歪な雰囲気を纏っている訳だ。」

 

モナの分かりやすい説明にジョーカーが納得して頷いているとその横でこれまたバッテンに絆創膏を貼ったスカルが腕を組んでアホっぽく首を傾げていた。いや実際アホだった。

 

「歪んで・・・集まって・・・イシ・・・?」

 

「もっかい説明するか?ん?」

 

「あーいい!とりあえずイシな!んで?これどうすんだよ」

 

スカルが妖しく光る赤いイシを明らかに気味悪そうにしながら指さした。その指も汚物に向けるように引き気味になってる。こんな空間にある悪趣味な物を見ればこんな反応にもなるだろう。

 

「とりあえず頂いていくか」

 

「いいんじゃないか?お宝ほどじゃないがコレもレア物だ、貰っておいて損は無い。」

 

「えぇ〜・・・大丈夫なのかよ、こんな見るからにやべーの。呪いとかあるんじゃ・・・」

 

「そいっ」

 

「うわぁ迷いがねぇ!?」

 

明らかにやべぇ雰囲気を出すイシをなんの迷いも無く手に取って持ち上げるジョーカー。多分、呪いとか逆に殺すタイプな彼はそんなものに屈しなかった。そんな怖いもの知らず過ぎる彼の行動にスカルは度胸が高すぎると驚愕して若干引いた。その人ライオンハートなんです。

 

だがイシを取っても何も変化は無い。扉が閉まって部屋に閉じ込められるとかイシからビームが出るとか毒ガスが出るとか想像してたが全く何も起きなかった事に逆にジョーカーは落胆した。

 

「何も無いのか・・・」

 

「いや落ち込むとこじゃなくね・・・?」

 

しょんぼりしたジョーカーは赤いイシを四次元懐に仕舞い薄暗い部屋を出る。特に淀みが酷かった部屋から出たからか城の内部ですら空気がスッキリしたような気さえした。

 

それだけイシのある部屋には歪みが集中してたという事だろう。この感覚をモナが覚えてしまえば今後パレス内にあるイシを苦もなく見つける事も出来るなとジョーカーは考え、モナに目配せする。

 

その考えが通じたのかモナは部屋の独特な空気と雰囲気を覚えたようで目を閉じてパレス内に他のイシが無いか探し始めた。するとモナレーダーに引っ掛かったようでピコンと耳を立てて目をカッと開いた。

 

「む!どうやらこのパレス内にあともう1個・・・いや2個あるみたいだな」

 

「マジか!?よく分かったなモナ!」

 

「ふん!この程度吾輩にかかれば朝飯前だ!」

 

「ちなみにどの辺かは分かるか?」

 

「そうだな・・・ここから上、頂上近くに1つと地下に1つ感じる。もっと近くにいけば正確な位置が分かるんだが。」

 

「いやそれだけでも十分だ、ありがとうモナ」

 

そう言って自然とモナの頭を撫でるジョーカー。気持ち良さそうに目を細めるモナにスカルも悪ノリして喉元をかいてみる。ゴロゴロと喉を鳴らしてされるがままになっていたモナだがハッと我を取り戻して2人の手を振り払った。やっぱり猫じゃね?

 

そんな茶番を繰り広げていた彼らだがなんだか城の中が騒がしくなっていることに気が付き、ガシャガシャと幾つもの鎧が揺れる音が聞こえた為手摺の影に隠れ先の廊下を覗き見する。

 

すると警戒心を上げた兵士達がドタドタと騒がしく駆けており何か異常事態が起きていることを察知した3人は隙を見てワイヤーフックで元の廊下へと戻ると近くの部屋の扉に身を隠し、 兵士達の話に聞き耳を立てる。

 

「どうした!?何があった!?」

 

「あぁ、どうやら城内部に侵入者がいたらしい」

 

「何だと!」

 

(なぁ!あれって俺らのことか!?)

 

(いや違うな、()()と言ってるのを考えると既に見つかって捕まってるという状況だろう。問題はその侵入者が何者かだが・・・)

 

「それでその侵入者は!?」

 

「まぁ慌てるな、その侵入者2()()は既に捕らえて鴨志田様の命令で中央ホール近くの部屋に連れて行ったそうだ。」

 

モナの予想通り侵入者は既に捕まっているらしくいつもの部屋に連れて行かれてるそうだ。だがジョーカーはその話に引っ掛かりを覚えた。

 

「なんだ、それなら安心だな。それにしても馬鹿なヤツもいたもんだ、賊が入ってから警戒を高めていたこの城に忍び込むなんて・・・」

 

「ははは、全くだ。そら、俺達は持ち場に戻るぞ。いつ例の賊が現れるか分からんからな」

 

「あぁ分かってるよ」

 

鎧を鳴らしながら去っていく兵士達を気にもせずジョーカーは考える。そうだ、奴らは侵入者2()()と言っていた。1人ではなく2人。その予想だにしなかった事態にジョーカーは焦りを見せる。

 

「・・・まさか高巻さんと、()()()()・・・?」

 

 

 

どうやらまだまだ想定外のイレギュラーは続くらしい。内心冷や汗をかきながらジョーカーは手袋を直した。

 

 

 




遅くなって本当に申し訳ない。精神的に参ってたもので・・・これからも不定期ながら更新していきます。

そんでもちろん始めましたウマ娘。皆可愛い、中でも今1番熱いのはメジロライアンちゃんです。ただの元気っ子かと思いきや繊細でちょっと卑屈で可愛いのに憧れてるってもう・・・身近にいる人に劣等感抱いてるキャラ好きの私としてはぶっ刺さる訳でして。

こちらもうまぴょいしなければ無作法というもの・・・(馬死牟)

誰かヤンデレメジロライアン書いて♡あと信頼しているトレーナーが休眠中に魔が差して頬を撫でたり唇を触ったりしてたら段々ヒートアップしていって最終的に貪るように首周りにキスしたり噛み跡を付けたりする欲塗れのエロエッティな独占力全開メジロライアンちゃん書いて♡(末脚)(ハヤテ一文字)(究極テイオーステップ)

最近新しく作りたい作品が多いけど自分の更新の遅さを考えるとやめとこ・・・ってなっちゃうんですよ。アイデアがあっても形に出来ない。俺が悪いんだよ・・・俺が遅筆なのは俺のせ((ry


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A beautiful rose has thorns!/Part5

人知れず大衆の闇を利用し他者を陥れる者とそれを人知れず阻む者



果たしてこの世界ではどちらが悪と嗤われるだろう。







この世に生まれたことが消えない罪なので生きてます。ハンターのビスケの念能力がめちゃくちゃ有能だったことを知る今日この頃。

それはそうとネコマタの尻が好きです(唐突な性癖暴露)

状態異常特化型ネコマタを作る位には好きです。相手を惑わし時に眠りに誘い時に絶望へと沈める、その姿正しくセクシーキャッツ。

ついでにオラッ!俺の白濁液(魔力)射出装置と化した高火力ギンギンマーラ様をくらえッ!(メギドラオン)弾丸(物理)だってお手のもんだ!(ワンショットキル&至高の魔弾)

ちなみに作者が最初に惚れたペルソナはアラハバキです。理由は単純にカッコイイから。ペルソナ4Aで動いてるのを見てお気に入りになりました。あと多分、子供の頃見たOVウルトラマンティガの影響を受けている。

今回も黄金長方形を描きながら巻いていきましょう。


隠し部屋の中でイシを見つけた後、警戒態勢に入っていた兵士達の会話を物陰からこっそり聞いたジョーカーが呟いた名前にスカルは驚愕して思わず大声で反応してしまう。

 

「なっ!?んだと!?嘘だろ!?あいつらがここに来てるってのかよ!有り得ねぇぜ!」

 

「おいうるせぇぞスカル!もっと声のボリュームを下げろ見つかるだろ!」

 

モナに指摘されたスカルはやべっと自分で自分の口を抑え、辺りに兵士が来ていないか物陰からちょっとだけ頭を出してキョロキョロと見渡す。幸いにも兵士は居なかったらしくホッとしてから今度はボリュームを落として会話を続けた。

 

「どーゆー事だよジョーカー。なんだってあいつらがこんなとこに?アプリ持ってんのは俺達だけだろ?」

 

「その通りだ、だが可能性として考えるならあの二人しか考えられない。周りに生徒がいないの入念に確認したし・・・。恐らくだが話を聞いた後に俺を追ってきて結果的に・・・」

 

「タイミング良く、いやこの場合タイミング悪くあの歪みに巻き込まれちまったって訳か・・・ヤバいぜ、急がなきゃその二人が危険だ。」

 

「なんつータイミングだよクソっ・・・中央ホール近くの部屋って言ってたよな?でも地図見ても部屋が多すぎて分かんねぇぞ、どうする?」

 

「しらみ潰しに探すしか無いだろうな」

 

嘘だ、とっくに連れてかれた部屋など分かってる。というか近くに来た時点で杏の声がするから迷いようもない。とにかく部屋の近くまで誘導して自然と部屋を見つける、これがベストである。

 

問題なのは()()()()()()である鈴井の存在。まさか彼女まで巻き込まれているとは・・・。ジョーカーはどうするべきか悩んだが今は難しく考えるのは止めた。とにかく時間が無い為、2人を救出する事だけに専念する。対処についてはその場その場で考えるしかない。

 

スカルとモナと顔を見合わせて頷くと一気に影から飛び出して素早く移動する。勿論、兵士に見つからないように最低限の警戒と身を隠す事を忘れずに。その姿、まさにゴキブ・・・NINJAの如し。

 

時たまどうやっても避けられない奴がいたら後ろからアゾットし、瞬殺して杏達が捕まっている部屋に向かっているとその近くまで差し掛かった所で杏の声が聞こえてきた。

 

「ちょっと!なんなのアンタ達!これ外してよ!てかここ何処なの!?」

 

ガシャガシャと鎖が鳴る音と共に困惑した杏の声が響いてくる。

 

「この喧しい声・・・間違いねぇ!高巻だ!マジで捕まってんのかよ・・・!」

 

「ふむ、声はこの先の右側に在る部屋からだな。急ぐぞお前ら!」

 

先に兵士が居ないことを確認してから一気に走って部屋に向かうジョーカー達。赤い絨毯がひかれ、鎧が設置してある廊下に入ると「覚醒イベの時間だコラァ!」と言わんばかりにドアを蹴破り杏達がいる部屋に凸を仕掛けた。

 

バコォンッ!と勢い良く吹っ飛んだ扉が兵士を巻き込んでいくのを見ながら前転して着地したジョーカー。それを見て何やってんのコイツという目線を送る後ろの2人。しかしこれまた気持ち悪い絵が飾ってある趣味の悪い部屋の中で拘束されている杏達と鴨志田を発見すると直ぐに臨戦態勢に入った。

 

「高巻ッ!鈴井ッ!鴨志田テメェ2人を放しやがれ!」

 

「え・・・その声、坂本!?それに隣にいるのって、もしかして雨宮君・・・?」

 

「なんだ、またお前らか・・・いい加減しつこいぞ。」

 

肩を落としながらうんざりと言った感じに鴨志田はそう呟いた。それはこちらのセリフである。しかもその傍には本人がいるというのに水着姿の杏(シャドウ)もいる。流石は変態の名を欲しいがままにする男、こんな時でも脳内まッピンクだ。

 

しかしそれだけでは無い。この部屋の中には上裸にブルマを履いたピンク色の人形がまるで誘うように、だがそうは思えないほど機械的に動いている。

 

「なんだ・・・コイツら!?人・・・か!?」

 

「こりゃあ・・・認知の影響を受けたシャドウだ。奴の歪んだ認知が歪な形となって現れたんだろうさ。何をどう見てるかは・・・想像に容易いな。」

 

モナのこの言いようから恐らく、この人形達は鴨志田から見た女子生徒を表しているのだろう。

 

性的に見ているゆえにピンク、しかし顔や個人を主張するパーツが無くどれもこれも似たような形をしているのはきっと鴨志田が女子生徒を都合のいい人形として一括りでしか覚えておらず個人としては見ていないという事だ。余りにも下衆なもの故モナは言葉にするのを控えたのだ。

 

「んだと・・・!!巫山戯やがってぇッ!!」

 

その事に持ち前のカンの良さで気がついたらスカルはこめかみに血管を浮かび上げながら鴨志田の前に躍り出た。

 

「このクズ野郎が!テメェ女子生徒達にこんなクソみてぇな目ェしてやがったのか!どこまで腐ってんだテメェ!!」

 

怒り心頭に叫ぶスカルに鴨志田は心底面倒くさそうな目を向けて、どうでも良さそうに耳をほじりながらこう答えた。

 

「あぁ〜?違うな、全く間違っているぞ。人形如きが俺様に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「ッッ!!??テッメェェッッー!!腐った脳味噌ごと焼けちまえぇ!!」

 

ド外道の言葉にブチ切れたスカルは怒りのままにキャプテン・キッドを呼び出し(ジオ)をぶっ放そうとするが、それをモナが至極冷静にゾロのレイピアを彼の前に停止線のように置いて遮る事で静止させる。

 

「おいどけモナ!邪魔すんじゃねぇよッ!」

 

「落ち着けスカル、安い挑発に乗るな。アイツの近くには()殿()達がいるんだ、ヘタに手は出すのは危険だ。彼女達まで黒焦げになるぞ。」

 

「グッ・・・!?それも、そうだな・・・悪ぃ」

 

彼の言う通り奴のすぐ側には杏と鈴井がいる。しかも鈴井は気絶していて無防備である。この状態で雷を打ち込むのは非常に危険だ。万が一外してしまったら大惨事では収まらない。モナのおかげで冷静さを取り戻したスカルはキャプテン・キッドを引っ込めて1度深呼吸をして怒りを鎮めた。

 

「全く・・・どいつもこいつも俺様の邪魔ばかりしやがって。本当ならお前が相手してくれないからほら、この・・・まぁ名前忘れたけどコイツに相手して貰おうと思ったのにいつの間にか帰ってるし・・・あ”あ”あ”!思い出しただけでムカついてきたぁ!」

 

内容的に今日、ジョーカーが鈴井を盗み出した()事だろう。杏を待ってても来ず鈴井を探しに行ったら既に帰っていたという予想外の事態に相当ムカついているらしい。イライラした様子で額に血管を浮き出しながら気絶している鈴井を磔にしている台を力任せに蹴る。その衝撃で未だ意識が戻らない鈴井が痛みによって苦しげに顔を歪めた。

 

「志帆ッ!」

 

「テメッやめろッ!」

 

「動くなァ!」

 

凄まじい形相で助けに入ろうとしたスカルを睨みつけて鴨志田は叫び、その動きを止める。その迫力に思わず動きを止めたスカルに見せつけるように兵士を動かし彼らの動きを阻害すると同時に2人に剣を向けて脅しを掛けてきた。

 

「それ以上動くと即、殺すぞ」

 

そう言ってのける鴨志田には並々ならぬ狂気と殺意が宿っており、確実に()()目をしている。それを感じ取ったスカルは出しかけた足を戻し悔しさに歯噛みしながら鴨志田を睨みつける。

 

「ククク・・・折角だからお前らも見ていけよ・・・コイツらの()()()()()!」

 

そんなスカルを見て愉快そうに歪な笑みを作りながら兵士の1人から剣を取って鈴井の胸元に持っていき・・・そのまま下に線を引くように剣を落とした。ボタンがそれに耐え切れるはずも無く容易く切り裂かれてしまい隠されていた鈴井の肌と下着が、そして痛々しい傷が丸見えの状態になってしまった。

 

それを見て口笛を吹く鴨志田。度を超えた鬼畜の所業にスカルは激情を顕にし、杏は悲痛な声を上げる。

 

「鴨志田ッ!テメェどこまで腐ってんだァッ!!」

 

「やめて!志帆には手を出さないで!」

 

「やめて、だと?」

 

杏の言葉を聞いて鴨志田はゆっくりと彼女の方を向き、ニタリとヘドロのような邪悪な笑みを浮かべる。

 

「いいか、これはお前の自業自得なんだよ。この俺様を無視したお前の、なぁ?こうなるなんて分かってただろ?分かっててやったんだよな?」

 

「そ、れは・・・・・・」

 

「ならお前が()()()()()()()()()()()()()()()()()!いやほんと酷い奴だよお前は!我が身可愛さに友達を売るなんてなぁ!ワーハッハッハッ!」

 

「私・・・?私のせいで、こんな・・・?そんな、私は、ただ・・・」

 

詭弁も甚だしい、余りにもこじつけが過ぎる。何故こうも自信満々に身勝手極まりない発言ができるのか。傲岸不遜が人の形をしているかのようなこの男は本格的に人としての感性を捨てていることが分かる。

 

しかし、今の杏にとってその言葉は何よりも彼女の心を抉るものであったのも事実。高笑いをする鴨志田に絶望の表情を浮かべる杏。

 

 

どうしてこうなったんだろう?

 

 

彼女はただ、待っているだけなんて出来なかったから、立ち向かう強さが欲しかったから蓮の後を追って彼に協力しようとしただけだった。鈴井と2人で少しでも蓮の力になれればと。

 

その結果、彼らのナビに巻き込まれこのパレスに意図せず迷い込みあっという間に兵士に捕まりこうして見世物のように処刑されようとしている。

 

情けなくて仕方なかった。

 

結局何も出来て無い、それどころかまた大切な友達を巻き込んでしまった。彼女はもう後悔と絶望しか思い出せない。何時だってそうだ、何もしない癖に失って初めて後悔して。

 

そんな自分が嫌いで、そんな時に出会った人に光を見て漸く自分も前に進めると思ったのに。

 

 

立ち上がるだけ傷付くならいっその事・・・・・・

 

 

結局、こうなるのかと己の弱さ、軽率さ、愚かさに深く深く絶望していく杏。

 

 

ごめんね、志帆。ごめんね、雨宮君。ごめんね、ごめんね・・・。

 

 

頭には謝罪の言葉しか思い浮かんでこない。自分のせいで窮地に陥っている事をただただ謝ることしか出来ない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな彼女と鈴井に兵隊長が剣を抜いてゆっくりと迫る。

 

「クソ!高巻ィ!」

 

動きたくても動けないスカルが焦りながら叫ぶ。もうこうなったら奴らが杏達を攻撃する前に一か八かで・・・!と考えた所で、彼が動いた。

 

「スカル」

 

「ッ!ジョーカー・・・」

 

鉄パイプを握り締めるスカルの前に手を出して視線で任せてくれと伝えるとジョーカーは1歩前に躍り出る。それを見て鴨志田が警戒心を強めて直ぐにでも剣を振り下ろす合図を出せるようにジョーカーへガンを飛ばしながら手を上げる。そんな鴨志田を一瞥するとジョーカーは目を猛禽類のように鋭く細めながら絶望に俯いている杏に問いかける。

 

「高巻さん、それでいいのか。こんな奴の言いなりのままで、好き勝手言われて、それでもまだ下を向くのか。」

 

「雨宮君・・・でも、無理だよ。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・私、私ね。私が思うよりも弱かったの。馬鹿だよね、何も力が無い癖に強がって。ずっとそうだった、誰かに気を使って誰かに従ってた・・・こんな私じゃ君みたいに、強い人には・・・」

 

発破をかけるも杏は既に自信を喪失し、完全に殻に閉じこもってしまっている。これではこちらがどれだけ声を投げかけても彼女の()には届かない。

 

ならどうするか

 

 

簡単だ

 

 

 

ダァンッッ!!

 

 

その殻が剥がれるほどの衝撃を与えればいい。単純明快。

 

いきなり真上に向けて銃弾を放ったジョーカーに全員が目を向ける。勿論、項垂れていた杏すらもその音に思わず顔を上げジョーカーを見ていた。そして、彼と目が合った。強く、燦然たる瞳が彼女を射抜く。

 

鈴井を連れてきた時とは違う鋭利な視線。息を呑む程の威圧感。誰だって分かる、彼は()()()()()

 

「目を背けるな、()。君が戦わないで誰が鈴井さんを助けるんだ。」

 

「それ・・・は・・・でも、私じゃ・・・」

 

「弱さに逃げるな、現実に膝を折るな。強くあろうとする心を持て。その気高い心が、君に力を与えてくれる。」

 

杏は本能的に感じ取った。目の前の彼は心底自分を信じている、と。こんなにも弱りきって底の底に這い蹲る(自分)を見てもそれでも前を向ける人だと信じてくれている。

 

なんで?どうして良く知りもしない私をそんなに信じてくれるの?と疑問が過ぎる。

 

だがそんなの些細な事だ。

 

一番大事なのは彼のような強い人が自分を心から信頼してくれているという事。そんな彼を裏切るような真似は、いやそんな彼が信じてくれている自分を裏切るような真似は出来ない!

 

「強く・・・なれるかな。私でもなれるかな・・・!」

 

ポロポロと涙を零しながら問う杏にジョーカーは先程までの鋭さはすっかりなりを潜め優しく微笑んで肯定した。

 

「当然だ、だから立ち上がれ杏。君はもう持っているはずだ。友の為に立ち上がる強さを、孤独に立ち向かう勇気を!」

 

その言葉を聞いた杏にはもう欠片も迷いは無かった。

 

弱さは涙と共に流れ落ち、その目は覚悟を固めた証拠に黄金に染まっていく。

 

「そうだよね・・・こんな奴の言いなりなんてどうかしてた・・・!私もなるんだ、胸張って生きていけるカッコイイ人に!!」

 

「き、貴様ら一体何を言って・・・」

 

 

 

 

そして、心の灰に炎が灯る

 

 

 

 

 

『全く、出番が遅すぎるのよ』

 

 

「ッッ!?うっ・・・あぁ・・・ッ!!??」

 

 

 

突然の頭が割れるような頭痛に杏は声を上げ、苦しみ始める。身を悶えながらもその痛みはやがて熱へと変わっていき、心の中から飛躍的に膨張してゆく。

 

 

紅蓮が咲き、誇りが開花す(目覚め)る。

 

 

 

『お前が立ち向かわないで、誰が恨みを晴らしてくれるの?』

 

 

 

灰が舞い、陽炎が踊る。華麗に、妖艶に。決意の炎が劇場を赤一色に染め上げる。

 

 

 

『許す気なんて始めから無かった・・・お前の中のもう1人のお前()がそう叫んでいる・・・』

 

 

やがて炎は現実へと実体化され、彼女の体を拘束する手錠を破壊した。自由になった杏がぐらりと体を倒すが、ダンッと力強く踏みとどまり伏せていた顔をゆっくりと上げる。

 

 

そこには、血塗れた決意の仮面が青い炎と共に顕現していた。

 

 

 

『我は汝、汝は我・・・やっと契約、結べるね・・・』

 

 

 

「うん・・・聞こえるよ、『カルメン』・・・!」

 

 

「分かった・・・もう我慢なんてしない!」

 

 

 

炎より赤く、薔薇より紅く、血よりも緋く。()()の仮面を力強く握りしめ血が出るのも構わずにひっぺがしていく。

 

 

ベリベリと皮膚が破れようとも、強かな挙動で仮面を完全に外すと青と赤の2色の炎が彼女を優しく包み込んだ。

 

 

『そうよ、我慢なんてしてたって何も解決出来ない。分かったのなら力を貸してあげる・・・さぁ、情熱的に踊りましょう?』

 

 

衝撃波と共に炎が弾け飛ぶ。スカルやモナ、鴨志田もそれから目を逸らすとバキンと何かが破壊される音がする。

 

鴨志田が慌てて杏のいた方向を見ると立てていた磔が完全に壊されていた。代わりに炎のカーテンが2人を守るよう広がっていた。

 

そして激情の中から鈴井を抱えて現れた杏の姿は制服とは一変し、彼女の怒りを、決意を表したように過激な赤いボディスーツに身を包んでいる。

 

更に彼女の傍らには青い炎と蠢く鎖を踊らせながら己の下僕を踏みつけて葉巻を吸う薔薇のような豪奢なドレスを着たペルソナ、『カルメン』が挑発的な笑みを浮かべていた。

 

「こ、これは・・・!?」

 

「す、すげぇ!!」

 

「おいおいまさか杏殿までペルソナを・・・!」

 

三者三様な反応をする中、ジョーカーだけは確信していたような笑みを浮かべていた。杏と目を合わせ頷き合うと杏はキッと鴨志田を睨みつける。先程とは違う完全な覚悟と反逆の意志を持って。

 

 

「あんたなんかに私も、志保も、もう好きにはさせない。今まで志保を傷付けて踏み躙ってきた分・・・その分だけアンタから奪い取ってやる!!覚悟しろ鴨志田ッ!!」

 

 

 

 

 

灼熱の女豹が、目を覚ました瞬間であった。

 

 

 

 

 

ジョーカーが杏の啖呵を聞きながら怪盗姿はやはり気高く、情熱的だと考えていると鴨志田がすっかり離れた所に退避しながら兵士達に怒号を吠えた。

 

 

「くっ!?貴様ら何をしている!奴を始末しろ!!」

 

「ハ、ハッ!!」

 

杏の気迫にビビっていた兵士達も鴨志田の命令とあらば聞かぬ訳にはいかない。その身を弾けさせそれぞれのシャドウの姿を形作ると杏の前に立ちはだかる。

 

「んしょ・・・志帆、少し待っててね」

 

湧き上がるシャドウ達を前に杏は一切の焦りも動揺も見せず、近くの柱に鈴井を割れ物を扱うようにそっと背を預けさせるとその頬を優しく撫でてから再び激情を燃え上がらせシャドウ達へ振り返る。

 

「すぐ終わらせるから」

 

『死ねぃ!鴨志田様の愛を拒んだ愚か者め!』

 

押し寄せるシャドウ達。波状攻撃を仕掛けてくる奴らに高揚した気分のまま笑うと杏は姿勢をしなやかに低く、さながらネコの様に構えてペルソナの力を解放した。

 

「踊れ『カルメン』ッ!」

 

シュボッ!とカルメンの咥えている葉巻に火が灯ると踊るように腕を振るう。すると彼女の周りに幾つもの炎の弾、『アギ』が浮かび上がり意志を持っているかの様にシャドウに向けて飛んでいきその身を燃やし焦がした。

 

『ぎゃあぁあぁ!?』

 

「あんなのが愛だとか烏滸がましいっての!」

 

一際大きなシャドウ、『ベルフェゴール』を始め殆どのシャドウを焼いたがそいつらを肉壁として炎を回避していたシャドウ、『エリゴール』が駆け出し馬体の上から強烈な槍の一撃を喰らわそうと振りかぶった。

 

『ウオォッ!調子に乗るな!』

 

「甘い」

 

『ぬぉ!?』

 

だがそれはジョーカーの手によって阻まれた。いつの間にか発射されていたワイヤーがエリゴールの槍に絡みつき体勢を大きく崩される。騎手がバランスを崩した事で馬も釣られてよろけ、急ブレーキを掛けたように減速してしまう。

 

素人であっても見逃すはずも無い完全な隙。ならば杏がそれを逃す理由も無い。

 

「喰らいな、よ!」

 

『ぐほぉおぉぉ!?』

 

連打、連打、連打。ついでにアギ。灼熱の鞭が馬とエリゴールの鎧すら貫通する程のダメージを与える。そして仕上げとばかりにアギをぶつけられて吹っ飛ぶエリゴール。彼は悲鳴にも喘ぎ声にも聞こえる絶叫をして馬と共に同じ表情をしながら消えていった。どんな表情かと言えばエクスタシーに顔を赤らめて目をにやけさせていた。

 

無闇に突っ込めば鞭の餌食になると理解するとシャドウ達は距離を取って火炎のアギを掻き乱して軽減させることの出来る疾風のガルを杏に向けて一斉発射する。

 

だがそれが杏に届く前に彼女の元へ躍り出た小さな影によって両断された。

 

「吾輩達を!」

 

「忘れてんじゃねえぞコラァ!」

 

モナがガルを同じく疾風の剣で真っ向から切り裂き、その隙にスカルががら空きのシャドウ達の横っ側からキャプテン・キッドの船体による強烈な体当たりを食らわせる。

 

「敵が怯んだ!」

 

「チャンスだぜジョーカー!」

 

「ああ!」

 

モナとスカルのファインプレーによって敵に大きな隙が生まれた。そこにジョーカーが更にワイヤーを使ってシャドウの頭上へと飛び上がり銃弾の雨あられを降らせ完全にシャドウ達の動きを止める。

 

「今だ、杏!」

 

『焼け溶ける程の激情をもって一切を灰燼に帰すがいい!』

 

 

「うん・・・任せて!」

 

 

蓮とアルセーヌからのバトンタッチを受け取る杏。

 

黄金の瞳がより一層の輝きを見せるとカルメンが下僕を踏みつけながら両手にアギを灯し、それを頭上へと放って1つへ融合させる。2つの火球が1つになったことで巨大な炎へと変貌した。

 

それを杏が鞭を巧みに操って縛り付けるとシャドウ達に向けて叩きつけるように思いっ切り振りかぶった。

 

『待っ!待って・・・!?』

 

「これで!終わりぃ!!」

 

『うぎゃああああああああ!?』

 

命乞いも虚しく巨大な灼熱はシャドウ達を飲み込み容易く消滅させる。しかもそれだけに飽き足らず床と壁の一部を融解させ、部屋の半分を轟音と共にぶっ飛ばす程の威力を見せた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ざまあないっての」

 

「す、すごいな杏殿・・・」

 

「俺絶対怒らせないようにしよ・・・」

 

荒い息を整える杏の後ろでコソコソとそんなことを話し合うスカルとモナ。彼らを放っておいてふらつく杏を支えに行くジョーカー。

 

「大丈夫か」

 

「うん、ありがと・・・っあ!鴨志田は・・・!?」

 

「もういない、相変わらず逃げ足が早い奴だ」

 

「なら早く追いかけて・・・ッ!」

 

駆け出そうとする杏だったが1歩を踏み出す前に力が抜け倒れそうになってしまう。それを再び支え肩を貸すジョーカー、初のペルソナ覚醒の反動により思うように体を動かせず焦燥する杏にモナが声をかける。

 

「無理は良くないぜ、杏殿。ただでさえペルソナの覚醒で精神削ってるんだ。ここは一旦退いた方がいい。」

 

「え!?何これ喋ってる!?化け猫!?」

 

「ば、化け・・・ッ!?」

 

顔をキリッとさせカッコつけていたにも関わらず化け猫呼ばわりされた事にガビーンッとショックを受けて静かに涙を零すモナ。それに同情しながらもスカルは鈴井をお姫様抱っこしながら脱出の準備を進めていた。

 

「んまぁ、そうなるよな。って、んな事してる場合じゃねぇんだよ。さっさとこの2人担いで外出ようぜ。」

 

「何言ってんの・・・!このままあいつを追いかけて、あのニヤケ面ぶっ叩いてやるんだから・・・!」

 

足を震わせながらも鴨志田を倒しに行こうとする杏に俺もこんな感じだったのかとため息を吐くスカル。

 

確かにペルソナに覚醒した時は大きな高揚感に包まれる。強い衝動、全能感により勘違いしそうになるがそれは感情の爆発により力の栓が無理矢理ぶち抜かれた状態なだけだ。例えるならダムが決壊したように。その場の勢いと破壊力は凄まじいが溜め込んだ水は一気に放出されてしまい空になってしまう。

 

つまり初めてのペルソナ制御はその覚醒の条件によってエネルギーコントロールが上手くいかず、破壊力と引替えに燃費がすこぶる悪いのだ。強い疲労と倦怠感はその為である。

 

「あのなぁ、気持ちは分かっけどその状態でどーやって追いかけんだよ。それに、今は気絶した鈴井がいるんだぜ?お前、このまま巻き込むつもりかよ。」

 

そう言って抱き上げている鈴井を見せつける。するとその説得は効果抜群だったようで杏の中からみるみる高揚感は薄れていき、興奮による闘争心も収まってきた。

 

「うっ・・・そ、それは・・・」

 

「俺が言うのも何だけどよ、焦った所でどーもなんねーぜ。寧ろここじゃドツボにハマるだけだ。冷静になれよ、高巻。」

 

まぁ、全部ジョーカーの受け売りだけどと心の中で付け足すスカル。それでも十分杏には届いた様で頭の冷えた彼女は撤退の提案を呑んだ。

 

「・・・分かった、そうする。でも志帆に傷一つつけないでよ。女の子は繊細なんだから。あと変な目で見ないでよね、色目使ったらマジぶっ飛ばすから。」

 

「へーへーわーったようるせぇな・・・あん?なんだよモナ、変な目で見てきやがって」

 

杏の脅しにうんざりした様なリアクションを取りながら受け流したスカルは目を丸めてこちらを見ているモナに?マークを浮かべた。

 

「いや、お前からあそこまで理性的な言葉が出てくるなんて思わなくてな。自分の時はネズミ花火みたいに暴れてたのに。」

 

「んだとッ・・・とと、後で覚えとけよ・・・!」

 

馬鹿にされたのに加えよりにもよって猫にその例えをされてスカルは噛みつきそうになるが鈴井を抱えてるのを思い出して出かかった大声を飲み込み、モナを睨みながら出口の方へ歩き始めた。

 

「俺達も行こうか。それとモナ、あまりスカルをいじり過ぎないでくれよ。」

 

「分かってるよ、ちょーっと揶揄っただけさ。」

 

そう言って若干うんざりした様に口を尖らせるモナにホントに似てる2人だなと苦笑いを零す。同族嫌悪というか似た者同士というか。

 

そこで杏が自分の事をジッと見ている事に気が付き、首を傾げると彼女が質問してきた。

 

「そう言えばなんで雨宮君達はそんな服着てるの?雰囲気出す為とか?」

 

「あぁ、これは怪盗服と言ってこのパレス、異世界の中で活動する為の防護服であり戦闘服なんだ。」

 

「へー、凄いね。」

 

「というか、高巻さんも着てるぞ?」

 

「へ?」

 

そう言われて杏は自分の姿を確認するとそこには赤くて結構ピッチリとして体のラインがモロみえな怪盗服を着た自分の姿があった。その事に気が付いた彼女は途端に顔を赤くしてワタワタと忙しなく手を動かして体を隠そうとする。全く隠せてないが。

 

「えぇ!?何で!?どうしていつの間に!?恥ずっ!」

 

「ペルソナに覚醒すると覚悟が形になって怪盗服として自動的に装着されるんだ。似合ってるぞ。」

 

「え、ありがと。じゃなくて!なんでこんなピチッとしたスーツなの!?というかペルソナって何!?」

 

「そこら辺もここを出たら説明するさ。その為にさっさと脱出してしまおう。頼んだモナ。」

 

「おう、先導は任せろ!」

 

2人がどちらも女性を抱えている事にやや不満を感じたモナだったが、その瞬間「いや待てよ?ここでカッコよく先導して出てくる敵をバッタバッタとなぎ倒せば杏殿の印象も一気に変わって好感度アップも有り得るのでは?というか確実なのでは?」と思考が駆け巡る。この間0.2秒。

 

そうして張り切って前を走っていたが悲しい事に敵には一切会わずにパレスを脱出出来てしまった。モナは普通に落ち込んだ。

 

 

 

パレスから抜け出したあとは気絶した鈴井を抱えたまま駅に行く訳にも行かなかったので近くの小さな公園に行きそこで話し合うことにした。

 

女子二人をベンチに座らせ、服を切られてしまった鈴井に竜司は制服をかけると自販機から飲み物を全員分買って来て各々に配る。しかしその全てが炭酸という罠。こいつ、配慮の欠けらも無い。これにはモルガナもため息を吐く。が、竜司は気にせずに杏の前に飲み物を差し出した。

 

「ほらよ、飲みモン。どれがいい。」

 

「・・・炭酸じゃないやつ」

 

「全部炭酸だな」

 

「・・・じゃあ、これ」

 

そう言って1番微炭酸なMETCHを選ぶ杏。残った中でモンタを蓮に渡すと杏と同じMETCHを鈴井の隣に置くと自分は残ったコーラを飲み始めた。

 

「いや待て吾輩のは!?」

 

「え?いやだって猫に炭酸とかダメだろ」

 

「水でも何でも良かったろーが!つーか猫じゃねーっての!!」

 

また2人がぎゃいぎゃいと戯れ始めたので放っておいて杏に優しく話しかける。

 

「落ち着いたか?高巻さん。」

 

「うん、少しは。でも未だに信じらんない、あんな変なとこ行って変な力に目覚めるなんて・・・ファンタジー過ぎて全然実感無いよ。」

 

「混乱するのも無理はないさ、事実非現実的な出来事だから・・・ところで鈴井さんに怪我は無い?」

 

気がかりだった事を心配そうに聞くと杏は鈴井の頭を撫でて微笑む。

 

「うん、大丈夫。ちょっと手首に跡が残っちゃったくらい。」

 

「そうか、良かった。高巻さんも大丈夫?」

 

「私?うん、私も大丈夫だよ。なんか知らないけどちょっとした傷とかあの、ペルソナだっけ?それが出た時に治っちゃったし。・・・ねぇ、それで、何なの?ペルソナって?というかあの場所は何?」

 

疲れているからか詰め寄りこそしないものの、聞くまでは絶対に帰らない譲らないという強い意志を込めて蓮を見る。その目を受けて若干気圧されて身を反らす蓮。

 

「ちゃ、ちゃんと説明するさ。あの世界に入り込んだ以上無関係じゃないんだし・・・っと、その前に。」

 

そう言って蓮が目線を杏の隣に移すと杏もそれに釣られて隣を見る。すると丁度鈴井が目を覚まし始め、ゆっくりと目を開いていた。

 

「ん・・・あれ、杏?それに雨宮君?どうして・・・私・・・」

 

「志帆ッ!」

 

鈴井が無事に目覚めた事に感極まった杏は思わず鈴井に抱きつきぎゅうっと抱き締めた。それに対してやや混乱しながらも震える杏の背中を摩る鈴井。

 

「わっ、どうしたの杏?急に抱きついて・・・」

 

「ごめんね・・・!私のせいであんな目に合わせて・・・ホントにごめん・・・!」

 

「あんな目・・・?あ、そっか・・・じゃああれ、夢じゃなかったんだね。」

 

鈴井は杏と自分の手首に残る跡を見てあの城が、そしてあそこで捕まった事が夢ではなく現実に起こった事だと理解する。余りの恐怖と捕まった時の衝撃で知らぬ間に気絶してしまっていた様だが、悪夢だったでは片付けられないほどリアルだった事に納得していた。

 

「多分だけど、雨宮君達が助けてくれたんだよね。ありがとう、また助けられちゃったね」

 

持ち前の察しの良さで蓮達が恩人だと気が付き、やや顔を青ざめながらも優しく笑みを浮かべてお礼を言う鈴井。それを受けて蓮は気にしないでくれと言って杏に目線を送る。

 

「俺達だけじゃないさ、高巻さんも死力を尽くしてくれた。鈴井さんを怪我も無く助け出せたのは高巻さんのおかげだ。」

 

「え!?いや、私なんて別にほぼ何も・・・雨宮君達がいなかったら何も出来なかったし、それに・・・志帆?」

 

いきなり名指しされた杏はわたわたと自分の力ではないと主張するがその途中で今度は鈴井が杏にふわりと抱きつき、とんとんとゆっくり背中を叩いた。

 

「そうなんだ、ありがとう杏。私を助けてくれて。」

 

「ッ・・・!でも、私は・・・!」

 

「ううん、違うよ杏。私はずっと貴女に助けられてきた。これまでもずっと。何時だって杏は私の光だった。だから、ありがとう杏。」

 

「ううん!私も・・・私だって・・・ッ!!ありがとう志帆・・・ありがとう!」

 

これまで培ってきた友情、しかしどこか溝のあったそれが漸く氷解したような気がした。全ての事情を知り、互いの心を知った事で彼女達の仲は更に深まった事だろう。涙を流しながらお互いに感謝を伝えて抱き合う。

 

そんな2人の様子を見守っていたモルガナは顔をぐしゃぐしゃにしながら男泣きをしていた。

 

「いい話だぜ・・・」

 

「うわ、モルガナ顔汚ッ」

 

ギョッとして流れるように罵倒する竜司。その瞬間、第2Rが開始された。蓮は何やってんだコイツらという目を向けていた(おま言う案件)

 

そして少しの間、彼女達が再び落ち着くのを待つと蓮はハンカチを渡しながら話を始めた。

 

「それじゃあ、2人共落ち着いた所で説明していこうか。ペルソナとは何か、そしてあの世界はなんなのか、少し長くなるができるだけ簡潔に纏めて話すよ。」

 

渡されたハンカチで涙を拭いた杏と鈴井は今度は気を引き締めて真剣な目で蓮の説明を待っている。それを確認した蓮は頷くと夕日に照らされる静かな公園の中で異世界について落ち着いたか口調で分かりやすく説明していった。

 

 

 




文が雑で申し訳無い


ーif、もしも鈴井が気絶せずペルソナに覚醒していたら?ー

コードネーム:バニー

仮面は純白の兎の仮面。怪盗服はバニーガールとナース服を合わせた感じ。勿論、うさ耳着用。体のラインは装飾品でなるべく隠し露出は少なくスケベ過ぎず、かと言って固すぎない純潔なエロスを感じさせる。

鴨志田とは違うのだよ鴨志田とは!!

多分絵にしたら製作者の性癖がこれでもかと積まれてる。看護婦、というより医学に関わる人達は病に立ち向かう、つまり反逆していると言えるのでモチーフ的にはセーフなはず。

発生条件:鈴井の好感度(コープ)を全てベストコミュニケーションで稼ぎ、その後鈴井が杏と共にパレスに迷い込み、かつ気絶せずに連行され心の弱さを乗り越える、などの条件をクリアしてやっと覚醒する。ハッキリ言って覚醒させるのは無理ゲーに近い。

ペルソナ:ナイチンゲール

体力回復、状態異常回復に特化したペルソナ。更に世にも珍しい『SP回復』という固有スキルを持つ。また、シャドウの鎮静化なども出来るため彼女を覚醒させるとパレス攻略が格段に楽になり超ヌルゲーと化す。見た目はFGOのナイチンゲールの宝具に出てくる後ろの方みたいな感じ。剣持ってるので当然物理攻撃可能。割とゴリラ。速のステが延びにくい代わりに耐と力が伸びやすいゴリラ。

特性:鋼の看護師

味方全体のHP、SPの回復効果を50%上昇。かつ毎ターンメディラマ発動。


くれよ!そのペルソナくれよォ!!



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Steal it, if you can/Part 1

お久しぶりです、メンタルが再生怪人の私です

鈴井は戦わせたくない・・・!!彼女を戦いになんて巻き込めない・・・!!

本音を言うと絶対に扱いきれなくなると確信してるから。俺ちゃんの頭が足りてないばかりに・・・!!

というか、鈴井のペルソナ覚醒に関しては後書きに書いたように無理ゲーです。HP1のヒュンケルを倒すくらい無理ゲー。なぜなら鴨志田を前にしたら問答無用でトラウマ発症からのメンタルブレイクがデフォだから。杏よりも肉体的指導が多かった故の弊害です。

確率的にはイベント開始直後最初の単発で人権キャラが出るくらい。余程の奇跡が重ならない限り覚醒しません。だからアホ強な訳ですね。回復の出来るゴリラとか手の出しようが無いですもん。

それはそれとしていつも感想、誤字修正ありがとうございます。皆さんも鈴井を仲間にする為に周回していきましょう!(仲間に出来るとは言ってない)

今回もかっぱ巻き!


━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

パレスから杏達を救出して来た蓮達。その後公園へ移動した彼らはペルソナに覚醒した杏と巻き込まれた鈴井にパレス、シャドウ、ペルソナ・・・認知により形を成す世界について噛み砕いて説明を終えた蓮は手に持っていた若干温くなったモンタを一口飲むとふぅ、と息をついた。

 

「・・・・・・というのが、俺たちの知る限り異世界についての知識だ。」

 

そう締めくくって杏達を見てみると想像以上に現実離れしている話に頭が追いついていないのか目をパチクリとさせて硬直している。そんな2人を見て可愛いなぁと思いながら笑う蓮。ズレてんなコイツ。

 

「まぁ受け入れるのには時間はかかるだろうけど、全て事実だと言うことは信じて欲しい。」

 

「それは勿論、信じるよ。でも、やっぱりどうしてもこう、理解が追いつかないというか・・・」

 

「無理に理解はしなくてもいい、そういうものだと納得さえしてくれれば大丈夫だ。正直俺達も全部理解してる訳じゃないからな。」

 

これに関しては事実だ。検証を繰り返して仕組みは理解しているがじゃあその全貌が分かるか、詳細に説明出来るかと聞かれると正直苦しい。蓮は頭は良いが常人の域を出ない。研究対象とまで称して調べていた科学者・・・いや訶学者か?彼女ほどこの認知事象を解明していける程の頭脳は持ち合わせていない。つまりこれはフィーリングで考えるべき事象なのだ。

 

それは公式を当てはめて解く数式のように。そういうものだと納得するのが大事という事だ。そこに疑問を挟むと途端にややこしくなる。事実、認知が現実になるのだからその捉え方は間違いではない。・・・まぁ、ある種の開き直りである。

 

「無理に難しく考える必要は無いさ杏殿。『そういうものだ』と思っておけばあの世界では問題ない。あそこは常識は通用しないからな、そういう柔軟性が大事なんだ。」

 

顔を引っかき傷だらけにした竜司の頭の上からモルガナがそう言った。彼の言った通り想定外の事態が当たり前の異世界ではそれに対応するのが大切だ。その点、切り替えの早い竜司に飲み込みが早い杏は問題ないだろう。

 

「・・・ねぇ、すっごい今更だけどなんで猫が喋ってるの?」

 

「ん?あぁ、こいつはモルガナ。コードネームはモナ、パレスで見た2頭身の彼だよ。」

 

そう紹介するとムフーとドヤ顔するモナを2度見して驚愕のあまりツインテールを跳ね上げて叫んだ。

 

「え、はぁ!?この子があの!?嘘でしょ!?てか猫じゃん!」

 

「うにゃああああ!!猫じゃなぁぁーい!!吾輩は!れっきとした!人間だ!」

 

「人間って・・・いや・・・どっからどーみても猫じゃん?」

 

人間と言われたのでジロジロと彼の全身をくまなく見てひっきりなしに動く耳にピンと伸びた尻尾、そして逆立つ黒毛を見て結局同じ結論を出した。これには流石にモルガナもご立腹。

 

「これは仮の姿なんだ!本来の姿は人間・・・そう!人間さ!」

 

「へ、へぇ・・・そんな漫画みたいな事あるんだ。」

 

「どーだかな、そのまんま猫かもしんねーぞ?あっちでも猫のままだし。なぁネコガナ。」

 

二度あることは三度ある。爪を立てた者と拳を握った者がぶつかり合う。蓮は安定のスルー。何も起こってないと言わんばかりにモンタを飲んでいる。そんな彼らに困惑の目線を向ける杏だったが隣にいた鈴井がおずおずと手を挙げたので喧嘩している奴らを無視して彼女に意識を向けた。

 

「どうしたの?志帆、もしかしてどっか痛む?」

 

「う、ううん・・・別にそういう訳じゃなくて・・・その、モルガナちゃん?が喋ってるっていうのは・・・」

 

「え?さっきからずっと喋ってるよ?」

 

「えっと、私にはにゃーにゃー言ってるようにしか聞こえないんだけど・・・」

 

「へ?」

 

志帆の衝撃的な一言で再び目を丸めてモルガナの方を向く杏。現在進行形で竜司を罵倒しながら引っ掻いている彼の声は杏にはどう聞いても日本語にしか聞こえない。断じてにゃーと猫らしい声を出してはいない筈だ。

 

「あっちでモルガナの『声』を聞いた人は現実でもちゃんとした言葉として認識できるようになるんだ。鈴井さんは気絶しててモルガナの声を聞いてなかったからただの鳴き声にしか聞こえないんだと思う。」

 

「な、なるほど・・・?なんか色んなこと詰め込みすぎて頭痛くなってきた・・・。」

 

げんなりして頭を抱える杏に同じく困惑しながらも苦笑いをしている鈴井。とりあえずこれ以上の情報を伝えると本格的に頭がショートしてくると思ったので蓮は1度話を区切り、また明日改めて話をしようと提案した。

 

それに対して同感だと素直に了承した2人。明日には鴨志田についてやら更に複雑な説明が待ち受けているのでじっくりと脳を休めて欲しいのだ。しかもお宝ルート確保に装備の準備、今後の方針も決めなくてはならない、やることは山積みだ。

 

「だが、学校で集まるのはややリスクが高い。放課後、別々に帰って後に集合するっていう形でもいいか?」

 

「賛成だぜ、学校だと下手すると野郎に絡まれるしな。けどよ、俺達ゃまだしも鈴井は鴨志田に目ェ付けられてるぜ。どうする?」

 

そうだ。鈴井は蓮の手で部活に行かずにここにいる。パレスの様子から見ても鴨志田には当然目をつけられているし、相当ご立腹なので彼女が奴と鉢合わせると非常にマズイ。どうせ奴の事だ、教室に押入る事くらいはするだろう。

 

ならば解決策は勿論、用意してある。

 

「鈴井さんは数日学校を休んでもらおうと思う」

 

「あーなるほど、そもそも学校に来なきゃ手出し出来ねぇな。名案だぜ。」

 

「その通り、風邪を拗らせたとか何とか理由を付ければ問題ないだろう。保護者の方も普段真面目な鈴井さんが言う事であれば信じてくれる筈だ。」

 

「う、うん分かった。やってみる。」

 

両手をぐっと握りながら頷く鈴井に蓮もまた頷き返す。これで鴨志田が鈴井に直接手を出す可能性は無くなった。あいつの事だ、評判を気にして自宅にまでは押しかけることは無い。賭けよりも保身を優先する男だ、そこら辺は分かりやすくて助かる。

 

「しかしそれも出来て数日、つまりこの僅かな間で奴を何とかするしかない。」

 

「だがお宝へのルートを確保するのに1日、それを実行に移すのに準備を含めて2日か3日・・・諸々を含めて考えると最低でも5日間はかかるぞ?それに相手は更なる戦力を蓄えているかもしれない、大きなリスクは背負えないぜ。」

 

落ち込んでいた所から一転、怪盗モードに入ったモルガナは必要な日数を正確に割り出し短期決戦は望めない事を伝える。確かに本来ならばパレスに侵入するにあたってしなければいけない準備の事を考えるとどれだけ切り詰めてもそれほどの日数は避けられない。

 

しかしそれは本来ならば、だ。ここにいる(イレギュラー)にかかればそんな問題は軽く解決する。

 

「問題ない、()はあるし策もある。この後そこを訪ねるつもりだ。装備に関しては・・・」

 

「銃とか扱ってるとこなら俺知ってるぜ、本格的なミリ屋だ。そこなら良いのが見つかると思う。」

 

「そうか、ならそこも当たろう。案内頼めるか?」

 

「おう、任せろ!」

 

スラスラと流れが決まっていく中、置いてけぼりをくらう杏と鈴井。何が何だかと目をパチクリさせていると予定が固まった蓮達は移動の準備を始めた。

 

「という訳で俺達は少し攻略の準備に行く。2人は帰宅してゆっくり休んでくれ。」

 

「あ、うん、分かった」

 

そう言ってまずミリ屋に向かおうとする前に蓮はピタッと止まり振り返ると2人に軽いアドバイスをした。

 

「それじゃあ、また後日。あ、寝る前にホットミルクを飲むといいよ。そして軽くストレッチすれば朝まで熟睡出来る。」

 

「う、うん。やってみる・・・。」

 

「今度こそ、それじゃ。」

 

そこのお前!レモンに含まれるビタミンCはレモン1個分だぜ!と言わんばかりの勢いとポーズにやや困ったように返事をする杏を尻目に今度こそミリ屋に向かうべく公園を後にした。

 

駅に着いた辺りでクシュンッ!とくしゃみを1つかます竜司。まだ肌寒さの残る春に半袖はまだ少し辛いものがあった。

 

「あ、そういや上鈴井に貸したまんまだったわ・・・まぁいいか。今度返してもらえば。んじゃ行こうぜ蓮。」

 

「ああ」

 

そして竜司の案内の下、電車に乗って数駅して渋谷で降りると複雑な駅から抜け出しセントラル街へと向かう。流石は若者文化の発信地と唸るほど多くの人で賑わうそこを3人(2人+1匹)は歩いていくとクレープ屋とカラオケ店の間、目立ちはしないが明らかに雰囲気の違うそこに入り込み裏路地へと歩を進めた。

 

そして角を曲がると直ぐに目的の店は見つかった。カラオケ店の真後ろにある為か、やや薄暗く()()()()雰囲気があるその店は『untouchable』と書かれた緑色のネオンの看板を引っ提げて静かに開いていた。

 

見るからにマニア向けと言った感じのその店を見てウキウキした蓮は今すぐにでもあの扉を開けてしまいたい衝動に駆られたがそこをグッと我慢して竜司に確認した。

 

「あれか?竜司、その店っていうのは」

 

「ああ、あれだぜ。前にモデルガン買ったんだ。ほら、俺が使ってるカッチョイイショットガンの。」

 

それを聞いてほーぅと声を漏らしたモルガナは潜り込んでた蓮のカバンから身を乗り出し彼の肩に乗って店の外見を観察するとやがて少し目を顰めた。

 

「だが・・・見るからにマニア層向けでビギナーお断りって感じだぜ。大丈夫なのか?というかこんなとこどうやって知ったんだよ。」

 

「大丈夫だよ、店主の親父は柄悪ぃけど普通に売ってくれたし。どう知ったって、まぁ、調べてヒットしたから?」

 

「随分雑な・・・まぁ玩具丸出しのとこに案内されるよか万倍いいが。よし、早速入ってみよう。」

 

「そうだな」

 

呆れた目を竜司に向けるモルガナだったが持ち前の切り替えの速さで店に入るように催促する。そしてそれに間髪入れずに応える蓮はなんの躊躇も無くドアに手をかけると堂々と店の中に入っていった。

 

「おぉ・・・これは」

 

店に入るとそこに広がる光景に潜り込んだカバンの中からモルガナが声を漏らす。無理も無い、そこに広がっていたのはまさに彼らが求めていた情景そのものなのだから。

 

種類別に棚に飾られた無数のモデルガン、防弾チョッキやメットなどの防弾装備類、ショーケースに飾られたお高いアタッチメント類や塗装用スプレーや塗料に油。メンテナンス道具や耳当て、弾にカタログ。必要なものをゴッソリと集め、それでいて安物は扱わず信頼のおける製品を揃えているとひと目でわかる内装は正しく深いオタク心に突き刺さるマニア向け店舗と言った感じだ。

 

しかも奥にカスタマイズルームがあると言うのだからもうその層には堪らない。店の配置から見てもビギナーは殆ど寄り付かないのだから文句の付けようもない。まさに理想の穴場といった具合だ。

 

「こりゃ期待出来るぞ・・・にゃっ」

 

モルガナが関心したように呟いた後、チラリとカウンターの方を見るとそこにはある意味この店に相応しい柄の悪い男が入店してきた蓮達をギロリと睨んでいた。その目付きは明らかにカタギが出せる威圧感では無く、現にモルガナがビックリしてカバンの奥に引っ込んでしまった。まぁカタギでは無いというのはある意味あっていたという感じだが・・・その辺はまた後で。

 

そんか威圧感を正面から受けても動じずに逆に見つめ返してきた蓮に取り敢えず合格を認めたのか見定めるような目を止めて雑誌に戻すとぶっきらぼうに挨拶をしてきた。

 

「・・・・・・らっしゃい」

 

それに笑みを抑えて軽く会釈をする事で返した蓮は店の中に入るとそれに続いてそろりと竜司が入ってきてすぐさま棚を見始めていた蓮の隣に張り付くように移動した。

 

「おっかねぇ〜!やっぱ怖ぇよあの店主!絶対ぇ表社会の人間じゃねーって。ヤのつく人だって!」

 

「そうか?別に普通だと思うが」

 

「いやいや、吾輩でも流石にそれは無いと思うぞ!普通じゃあんな目付きは身につかねぇ、何度か修羅場潜ってるはずだぜ・・・!」

 

「生きてれば修羅場の一つや二つ潜ることもある」

 

「や、ねぇだろそれは・・・」

 

コソコソとそう話して2人からジト目を向けられるも気にせずひょいひょいとモデルガンを鑑賞する蓮。まぁコイツがズレてるのはいつもの事かと気にしないことにした竜司は蓮につられてモデルガンの棚を物色するがどれがいいのかさっぱり判らない。

 

「ダメだ・・・どれがなんだが全然分かんねぇ・・・こういうのってやっぱ勘で選んじゃダメなんだろ?」

 

「当たり前だ。道具は実用性あってこそだぜ、命かけんなら尚更だ。そうだな・・・それならあの店員に聞いてみたらどうだ?」

 

あまりにも罰ゲームじみた発言に危うく吹き出しそうになった竜司。チラリと後ろを向いて店主を確認すると汗をダラダラ流して視線を戻しモルガナに詰め寄って出来る限りコソコソとやり取りをする。

 

「ハァ!?あの親父にぃ!?無茶言うなよモルガナ!株の木をつつくようなもんだぜ!!」

 

「だがそれが一番手っ取り早いだろ?ほら早く行けよ。それにそれを言うなら薮蛇だ。」

 

「こ、この野郎他人事だからって・・・」

 

モルガナの態度にイラついて口をひくつかせるが、店内で騒ぎを起こすと店主が黙っていないので何とか怒りを堪えて仕方ないと腹を括りゆっくりとカウンターへと振り返った。するとそれを察した店主が雑誌から竜司へと目を移す。帽子の先から覗くその目は敵意こそないものの威圧感たっぷりで竜司は今すぐにでも回れ右したくなる気持ちでいっぱいになる。

 

「・・・買うもん決まったのか」

 

「す、すんません。そのー、オススメっつーの?こう、いい感じの銃とか、あります?」

 

あははー、と頭をかいて棒読み気味にそう言った竜司にモルガナは頭を抱えた。

 

「交渉下手過ぎんだろ・・・」

 

「あ?・・・そんなもん自分の気に入ったの買えばいいだろうが」

 

巫山戯た質問だと取られたのか若干不機嫌になりながらぶっきらぼうにそう返してくる店主。竜司はもう色々と限界だった。主にメンタル面で。

 

「ハハハ・・・デスヨネー」

 

「・・・ハァ。オートマチックとリボルバー、どっちだ。」

 

しかしそんな様を見て心の変化でもあったのか、適当に見繕ってくれそうな雰囲気で聞いてくる店主。お、これはいい流れだぞ!とモルガナが思ったのも束の間、竜司がその雰囲気をぶち壊した。

 

「へ?オ、オートマ?なんでいきなり車の話?」

 

店主が聞いたのは基礎中の基礎知識。ビギナーでも分かるような質問。しかし竜司はカッコイイか否かで物を見るタイプだった。この間買ったショットガンだって見た目がカッコイイからと映画で見て欲しくなったからという単純な理由。つまりは仕様など少しも気にしていない。

 

これは断じて悪いことでは無い。見た目が好きだから、カッコイイと思ったから、気に入ったから。大いに結構、十分肯定されるべき理由だ。そういう好きもある。それは理解して欲しい。不幸だったのはここがマニア向け店だったという事だ。

 

好きならば少しでも深くそれを知るべき、と考える人もいるしその思想が強い人もいる。この店主もどちらかと聞かれればそちら側だった。と、いうよりもそんな基礎も知らずにこの店を訪れたという事実にイラついていた。マニア向けミリ屋の店主にこんな事を聞けばその質問が自分をからかっているものだと捉えられるのも当然ともいえる。

 

この作品が好き!と言ってたのにキャラの事や内容について全然知らないと言われたらなんだコイツと思う人もいるだろう。そんな感じだ。

 

あからさまに青筋をたてて苛立ち始める店主、それを見て青くなるモルガナ。俺何かやっちゃいましたと困惑し始める竜司。事態は最悪とも言えた。あわや店主という手榴弾が爆発、という所で蓮がカタログを持ってきて店主の前に商品を指さして注文をした。

 

「ブランコ・サバスを一つ。それとアタッチメント類と油、安くてもいいからナイフを幾つか。ついでにパチンコはあるだろうか。」

 

苛ついた表情から一転、目をパチクリとさせると飴を口の中でコロッと転がし今度は蓮を試すように視線を移した。

 

「・・・なるほど、こっちは話が通じるみたいだ。だが、お前さんはまだ顔見知りでもねぇ。新米にゃ大層なもんは売れねぇな。」

 

「構わない、ここならそれでも価値ある物が手に入ると踏んでいる」

 

店主の嫌味に近い物言いも軽くいなして店に対する信用を見せると店主は帽子のツバを摘むとニヤリと笑う。そしてずっと読んでいた雑誌を閉じて漸く立ち上がった。

 

どうやら認められたようだ。

 

「はっ、そうかい。なら待ってな、幾つか用意してやる。」

 

「有難い」

 

そう言って店の奥へブツを取りに行った店主。どうやら交渉成立したらしい。そんな雰囲気を察した竜司はスススッと蓮に近づき店主に聞こえないよう焦りながら耳打ちする。

 

「な、なんか話纏まっちまったみたいだけどそんな頼んで大丈夫なのかよ!?俺あんま金ねぇぞ!?」

 

「大丈夫だ、金なら貯めてたのがある。ここは俺に任せてくれ。」

 

そう言って財布を取りだしてドヤ顔を決める蓮。某サッカー選手の『俺は持ってる』と同じレベルのドヤ顔だ。普段ならウザいと言う所だか、今回はすげぇ頼りになる。それにしてもここは俺に任せてくれなんて、人生に一度は言ってみたいものである。

 

「すげぇ・・・カッコイイぜレンレン!マジに感謝するぜ!俺今月ピンチだからよぉ!」

 

「な、情けねぇ・・・」

 

言い方はかっこ悪いが普通の高校生の財布事情は厳しいのだ。バイトでもして無ければ直ぐに金など吹っ飛んでしまう。社会人になったら、気をつけよう!(散財癖など)

 

そうしていると店主が戻ってきてブランコ・サバスとアタッチメントを選びその他諸々の会計を済ませ、それらが詰まった袋を受け取る。すると店主か袋を渡す時にボソリと呟いてきた。

 

「・・・通い詰めりゃカスタムも出来るようになるかもな。まぁ精々頑張れよ。」

 

「ああ、用があればまた来る」

 

「・・・まいど」

 

最後までクールな態度を崩さずにいた店主。会計を済ますと用は済んだと言わんばかりに椅子にドカッと座り雑誌の続きを読み始めた。それを見た竜司は接客態度わり〜と言っていたが聞かれると面倒だと判断した蓮に首根っこを掴まれて引き摺られながら店を出た。

 

やけに暗かった店内より、街頭や店の光が点いた外の方が明るく感じる。眩しそうにするモルガナを他所に呑気に伸びをする竜司。

 

「ヒュー、いやーどうなるかと思ったけど何とかなったなぁ!」

 

「お前はなんもしてないけどな」

 

「うっせ。さぁてこれで装備の方は何とかなった訳だし、次はどうすんだ?」

 

「次は潜入にあたって何かしらのアイテムが欲しいな・・・特に回復手段が欲しい。薬とか効くやつなら何だっていいが効果が高いのが理想だ。蓮、宛があるって言ってたよな?どこだ?」

 

「俺の居候させて貰ってる所の近くだ、早速向かおう。」

 

「おう、確か四茶だったよな。」

 

用事を済ませた彼らは電車に乗って次の目的地である四茶へと向かった。竜司は初めて降りる駅だからかほえーと興味深そうにあちこちを見ている。渋谷などに比べるとややレトロな雰囲気の残るここは確かに彼の目には物珍しく映るだろう。

 

「それでその宛ってのはどんなとこなんだ?」

 

「武見という町医者がひっそりと経営してる小さな診察所だ。行ったことは無いが、良く効く薬を売っていると聞く。」

 

嘘である。そんな噂聞いたことが無い。何故なら蓮はまだこっちに来て数日しか経ってないのだ。ルブランの経営時間にも居らず、ご近所付き合いもままならぬというのにそんな噂話を耳にするはずも無いのだ。

 

まぁここに来て初日に本人には会ってるが。それは伝えなくてもいいだろう。

 

「ほう、それは期待できそうだな」

 

「診察所かぁ、じゃあ俺は外にいた方がいいな。そんなとこに2人で入る意味もねぇし。」

 

「そうだな、近くにバッティングセンターがあるからそこで暇を潰していてくれ」

 

「吾輩も外にいる。薬の匂いは苦手だからな・・・。」

 

「ああ、猫だから・・・」

 

「猫じゃぬぅえぇーッ!!」

 

そんなこんなで診察所の前までやってきた蓮達。落書きされた看板やぼんやりと青い光に照らされた入口は少し入るのを躊躇わせるような独特な雰囲気が漂っている。

 

「ここか、その医者がいるっていうのは」

 

「ああ。じゃあ早速行ってくるから竜司、モルガナ。済まないが待っててくれるか」

 

「OK、適当に時間潰してるわ」

 

「吾輩も散歩して来る。終わる頃には戻るぜ。」

 

「ああ、それじゃあまた後で」

 

そう言って離れていく2人の背中を見送ったらエレベーターを登って診察所の扉をゆっくりと開く蓮。鼻に入り込んでくる独特な空気、ツンとするような鼻通りが良くなりそうな薬の匂いが彼の心を刺激する。

 

何とか顔に出さないように表情は平静を装いながらカウンターの方を見ると青みがかった髪に白衣、それにパンクなトゲ付きチョーカーとチグハグな見た目をした女性が気だるげに座っていた。

 

彼女こそがこの武見内科医院を開いている女医、『武見妙』である。派手な見た目とは裏腹に患者一人一人と向き合う誠実な心を持つ町医者だ。

 

パタンと扉を閉めると目が合ったので手を挙げて軽く挨拶をした。

 

「すみません、診察お願いします」

 

「はいどうぞ・・・あら?貴方、あの時の・・・」

 

「どうも、宣言通り来ました」

 

そう言ってカウンター前まで来てペコリと一礼する。武見は「ホントに来るとはね・・・」と呟きながら蓮を見て若干困惑したように首を傾げた。

 

「なんか、キャラ違くない?もっとハツラツとしてた気がするけど」

 

「ああ、あの時は引越し直後で舞い上がってまして。ギャル風に言うとバイブスぶち上がってました。」

 

「なるほど、キャラ違わなかったわね。それじゃ中にどーぞ。」

 

イェーイと真顔でピースをかます蓮に武見は苦笑いを浮かべながら診察室へと案内する。隣の扉をガラリと開けるとそこには The 診察室と言う感じの白い部屋があり、アルコールなどの薬品の匂いも強まって独特な匂いが漂っていた。武見も入って来てカルテなどが貼られたパソコンや資料が置かれた机の椅子に座ったので蓮も手前側にある椅子に座る。

 

「それで?今日はどうなさいました?」

 

椅子に座るなり足を組んで肘を膝に立てて前のめりの姿勢でこちらを疑うようにジト目で圧をかけてくる武見。どうやら既に怪しまれているようだ。まぁ数日前にピンピンしてて来た時もなんの異常も無さそうな様子だったのにここを訪れる意味が分からないので警戒してるのだろう。特につける薬の無さそうなこの(バカ)に対しては。

 

一瞬、生足の魔力に引き込まれそうになりつつも薬を貰う為にワザと辛そうな演技をしながら嘘を吐き始める。

 

「実は最近・・・」

 

「ストレスね」

 

「即診ありがとうございまーす!」

 

聞く前に原因を特定した名医に敬意を評して壁に向かってボディビルの掛け声のように叫ぶ蓮。ちくしょう取り付く島もねぇ。

 

「いや違うんですよホントなんですって」

 

「何言ってるのかしら、健康体そのものの癖に。心身共に良好、だと言うのに不調を感じるのならストレスしかないわ。」

 

「ぐっ・・・!右腕が疼く・・・!!」

 

「それは厨二病、時間が解決してくれるわ良かったわね」

 

くっ、流石は名医。こちらの(ガバガバ)演技をこうも素早く見抜くとは。まぁどうせ何やってもバレるし、武見先生サードアイ並の観察眼持ってるから。なんて思いながらやりとりを楽しんでいると武見がため息を吐いて机の上にボードを置いた。

 

「どうせ貴方も噂を聞いてここに来たんでしょ?ワケありの薬を求めて。違う?」

 

まるでこちらの心を見抜くような鋭い目をしてそう問い詰める武見。その雰囲気と相まってまるで死神の鎌を突きつけられてるかのようなプレッシャーを感じる。流石に蓮もマズいと思ったのかキリッと真剣な顔に切り替えて・・・

 

「あ、はいそうです。鎮痛剤くれません?」

 

「貴方、緊張感って知ってる?」

 

滅茶苦茶あっけらかんとしてそう言った。コイツイカれてんのか?(辛辣)

 

アホみたいに肯定してしかも薬まで強請ってくる蓮に武見も警戒するのがバカバカしくなったのか椅子に深く座り直して頭に手を添える。

 

「アホらし・・・鎮痛剤なら出すから早く帰ってくれる?変に気を張ったせいで疲れたわ・・・。」

 

「それはそれは」

 

「下剤ぶち込んであげましょうか?」

 

青筋を立ててボードを突きつける武見に蓮は両手を上げて降伏の意を示す。

 

「はぁ・・・もういいからさっさと薬を持って・・・いや、ちょっと待って。」

 

「?なんですか?あ、身体を見られるのはちょっと・・・」

 

「違うわよ!貴方、良く効く薬が欲しいんでしょ?処方してあげる。」

 

「おお」

 

「但し、出す薬は私の『オリジナル』。病院の受け付けで見た事ない?薬事法的に医師の裁量による調剤ってやつ。それで体調を崩しても自己責任、つまりは自由診療ね。それでもいいならどうぞ?」

 

「ふむ」

 

つまりは脅しだ、蓮は心の中でそう思った。下手に手を出せば手痛いしっぺ返しが来るぞと警告されているのだ。自己責任、なんと恐ろしいワードであろうか。だがここで怯むようなら彼は怪盗なんざやっていないし、この周回を耐えてきてはいない。

 

彼女の薬はこの先に必要不可欠だ。その為に関係を早く発展させる必要がある。なので、彼は逆にカマをかけ始めた。

 

「ええ、構いません。()()()()()()ものでも何でもドンと来いですよ。」

 

 

「・・・・・・へぇ」

 

 

結果は大当たりだ。

 

蓮の言葉を聞いてから無言になった武見は立ち上がると彼の横を通り、扉の前まで歩いて・・・ゆっくりと鍵をかけて扉に背を預けた。先程よりも鋭い圧を背中越しに感じる。

 

「・・・その話、どこから聞いたの?」

 

「なんの事ですか?」

 

「とぼけたって無駄、バレバレだから。で?どこで盗み聞きしたのかしら?」

 

「黙秘権です」

 

「それは白状してるようなものよ・・・はァ、まぁいいけど。残念だけど、アレは廃棄する予定だから。」

 

圧が緩くなり、武見の態度も少し軟化したのを見計らってくるりと後ろを向く蓮。武見はプラプラとボードを揺らしながら蓮をジト目で睨んでいた。

 

「でも、どうしてあんな薬に興味持つ訳?体は鍛えてるようだけどスポーツマンって感じじゃないし。一体何を企んでいるんだか。」

 

「ぼくらの七日間戦争」

 

「は?」

 

「受験戦争っス」

 

意味不明な事を言った蓮にドスの効いた声で脅すとやや萎縮した蓮は素直に嘘を吐いた。それに少しだけキョトンと目を丸くした武見は納得したように息を漏らした。

 

「受験?・・・なるほどね、集中力と疲労回復が目的か。バカなこと考えるわね。なんか他にも隠してそうだけどそういう事なら・・・」

 

そう言うと武見は扉から背を離し、鍵を開けて横にズレた。

 

「お大事に」

 

「あ、どうもどうも・・・ってなんでやねーん!」

 

「別にボケて無いわよ!」

 

「ナオールッ!?」

 

ぴょこぴょこと忍び足のように扉から出てからまた戻ってきてツッコミをかました蓮に武見はボードを縦に叩き付けた。シュ〜と出来たタンコブから煙を出しながら真顔で座り直す蓮に本日何度目かのため息をもらす。

 

「あのね、別にあの薬じゃなくても市販の栄養ドリンクとか飲めばいいだけでしょ?それにあれはお高いの。高校生じゃ買えないくらいにはね。分かったのなら帰んなさい。」

 

「金ならありますよ」

 

そう言って蓮は取り出した財布から万札を10枚ほど出して武見に向けて突き出した。それを見た彼女は一瞬、金に目を取られて固まったが直ぐに思い直してボードで顔を隠した。

 

「ダメなものはダメ、もういいでしょ。早く帰って勉強したら?」

 

「む、ならバイトは雇ってませんか。」

 

尚も折れない蓮に対して、そしてバイトというワードに反応して武見は少し考えるように顎に手をやると何か思いついたようでボードを外して悪い笑みを浮かべながら蓮を見た。

 

「なら、貴方体力に自信はある?」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

そうして裏に入って戻ってきた武見が持っていたのは赤黒く、とても飲み物とも薬とも思えないような色をした液体が入ったビーカーであった。

 

「丁度貴方みたいな若者の協力者が欲しかったとこなの。募集かけてもなかなか見つからなくてさ、()()()()。」

 

ビーカーを握る蓮を見ながら意地の悪い表情を浮かべる武見。

 

「あ、副作用とか気になる?別に気しなくていいよ、立派なの書いてあげるから・・・死亡診断書。」

 

「それってデコレます?」

 

「プリクラじゃないわよ!・・・で、飲むの。飲まないの。」

 

急かしてくる武見を横目にチラリと謎の液体Xへ目を向ける。いつ見てもドス黒い瘴気を感じる薬だ。見てるだけで拒否反応が疼いてくる。しかし、これを飲まなければ今後一切、武見はあの薬を売ってはくれないだろう。

 

薬を得る、武見との取引も結ぶ。両方やらなくっちゃあならないってのがリーダーの辛いところだな・・・。

 

「飲まないのなら出口はそっち・・・」

 

覚悟は良いか?俺は出来てる。

 

「いただきます」

 

ビーカーに口をつけた蓮はまるで上等なワインを飲むかのように優雅にそして一気に液体Xをクイーッと飲み込んだ!!

 

苦いような、酸っぱいような。なんとも形容しがたい味が口いっぱいに広がる。うーん、シンプルに不快。

 

まさかの行動に武見も驚愕し、信じられない物を見るように目を見開いている。

 

「・・・え!?ほ、ほんとに飲むなんて・・・!?」

 

「ふっ、俺は鋼の胃袋を持つ男。恐れるものなんてありませんよ。」

 

ドヤ顔でそう語る蓮に冷静になってきた武見はじっくりと彼の様子を観察してデータを取っている。そんなこんなで5分が経過。そこまで来てようやく時がやってきた。

 

「・・・今のところ平常か。確かに言うだけのことはあるわね。」

 

「言ったでしょ?俺は鋼の胃ぶくr メギドラッ!?」

 

「あ」

 

突如としてやってきた遅延ダメージにより吹っ飛んで天井に叩き付けられた。鋼も蝕まれ溶かされれば意味は無い。幾ら防御力が高くてもずっと1のスリップダメージを与え続ければやられてしまうのと同じである。

 

あの液体Xは蓮の鋼の胃袋を突き破り見事に彼を討ち取って見せた。これは逃れられぬカルマである。床にヤムチャポーズをしながら「ああ、今回も勝てなかったよ・・・」とどこぞのエルシャダイな天使の様に呟きながら込み上げてくる異臭によって意識を落として行った。

 

 

 

 

 

 

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「ハッ!・・・知らない天井だ。」

 

 

嘘、バチバチ知ってる。言ってみたかっただけ。とりあえず体に異常が無いことを確認してガバリと起き上がると隣の椅子に武見が座っていた。

 

「やっと起きた。こんばんは、あの後の事は覚えてる?」

 

「川の先から青い服を着た金髪の幼女にこっちにおいでと呼ばれる夢を見た気がする・・・」

 

「いい夢見れたようね」

 

蓮の言う事をサラッと流す武見。もう慣れ始めてきたようだ。

 

「あの後、1回昏睡から回復したの。でも検査中はぼーっとしてるし、急に「エクストリィィームウィンドッ!」とか奇声を発するとかしてたらまた意識が飛んじゃった。」

 

ふむ、やはり液体Xは何度飲んでも恐ろしいものである。蓮を持ってしても耐えきれない程の衝撃を与えてくるとは・・・それにしてもそんなことを言っていたのか。どこの世界にそんなセリフを叫ぶ奴がいるんだ、1度見てみたいね(鏡を見ろ)

 

「普通あんなの飲む?馬鹿としか思えないけど」

 

「飲まなきゃ薬売ってくれないじゃないですか。」

 

「・・・ああ、もう分かった。私の根負け。アレ飲まれたら何も文句つけられないし。いいデータも取れちゃったし。するわよ、取引。」

 

今日1番のため息を吐いて武見はそう言った。それを聞いて喜ぶ蓮に武見は顔の間近まで指を差して注意という名の釘を刺す。

 

「けど、これは他言無用。この薬に関しては決して外に漏らさない事。そしてこれからも治験に付き合う事。これを守るなら取引してもいい。どう?win-winでしょ?」

 

「分かった、その取引で行こう」

 

「OK、取引成立ね。10代のモルモットは貴重だから助かるわ。まぁ成り行きでの取引だったけどプラスに働いたし、良しとしとく。今後とも、ご贔屓に。」

 

その手に求めていた薬を持ちながら妖艶に笑う彼女を見て、蓮もまたニヒルに笑った。

 

 

ここに、新たな取引。新たな絆が結ばれるのを確かに感じた。

 

 

 

 

我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「死神」のペルソナの誕に祝福の風を得たり

へと至る、更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『武見妙』

 

 

ARCANA:『死神』 RANK.1☆

 

 

 

 

 

 

 

「武見先生」

 

「何、言っとくけどこれ以上は無いからね」

 

「ブレスケアありません?」

 

「・・・ごめん」

 

 

 

この後、めちゃくちゃ口臭ケアした

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━




獅堂への宣戦布時にマフティーダンスを踊る怪盗団の動画下さい。

「やってみせろよ!ジョーカー!」

「何とでもなるはずだ!」

「ペルソナだと!?」

(流れ出すあの曲)(怪盗団全員で例のダンス)(クソコラ)(何故か頭身の上がるモナ)(途中で息切れるナビ)

黒い仮面の男「狂ってやがる・・・(クソデカブーメラン)」


更新が遅いせいで蓮のキャラがブレブレ。仕様です(苦しい言い訳)

後半駆け足気味だったなぁ、この作者大丈夫か?()


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Steal it, if you can/Part 2

こちらがビックバンバーガーさんのコスモタワー・バーガー ピクルス抜きです!

うっひょ〜〜〜〜〜!

着席時テーブルにポテトの残骸があるのを見て大きな声を出したら店主さんの誠意でナゲットをサービスして貰いました!俺の能力次第ではこの店潰すことだって出来るんだぞって事で、いただきま〜〜〜す!まずはポテトから

コラ〜〜〜〜〜〜〜!

これでもかってくらいギトギトのポテトの中には虫が入っており怒りの余り卓上の広告用紙を全部倒してしまいました!すっかり店側も立場を弁え誠意のグラビティバーガーを貰ったところでお次に圧倒的存在感のクソデカバーガーを食べる〜!

殺すぞ〜〜〜〜〜〜!

パサパサとしたバンズの中にはキャプテンバッジが入っており流石のRENも厨房に入っていってしまいました!ちなみに社長が土下座している様子はサブチャンネルをご覧下さい!



という訳で五等分の花嫁では五月推しの私です。やってきました月刊更新の時間です(自虐)

誠に申し訳なく思っておりますで候。それもこれも労働の悪魔が悪いのです。ワシは無実じゃ!(POWER並感)

まだ鴨志田パレス攻略すらしてないってマジ?もうまぢ黒棺…秋のGIラッシュで何とか乗り越えて行きましょう

そしていつもこんな作品に感想、誤字修正、評価ありがとうございます。皆様には感謝しかないです。これからはサボっ・・・怠っていた感想返信もしていきたいと思いますのでよろしくお願いします!

ということで納豆巻き!


前回、回復アイテムを手に入れようと武見内科医院へと訪れた蓮。カマをかけつつ脅すという主人公らしからぬ方法で武見を説得。液体Xを命懸けで飲む事で取引を成立させた。後ついでに口が臭くなった。

 

異世界で飲むと不思議なことに体力を回復させる事のできる錠剤『ナオール錠50mg』を何個か買った蓮は完璧に口臭ケアを済ませてからエレベーターに乗って下に降りる。ゴゥンと音を立てて開いた扉の先には丁度プルプルしながらボタンを押そうとしていた竜司と鉢合わせた。

 

「うぉおうっ!?れ、蓮!?」

 

「やっと出てきたか!」

 

「竜司、モルガナ」

 

驚く竜司の頭から生えてきたモルガナに「おまた」と手を挙げた。いやおまたじゃないが。

 

「心配したぜ!?1時間経っても全然降りてこねーからよ!俺ァなんか変な薬でも飲まされて実験されてんじゃねーかと・・・。」

 

流石は竜司。変なところで鋭い。バッチリ大正解、変な薬自主的に飲んでました。しかも遅れた大部分はこの薬のせいという。しかしそれを説明するのも面倒なので蓮は話を合わせる事にしていた。

 

「ばーか、んなわけねぇだろ。単に交渉に時間がかかったってだけで大袈裟なんだよ。」

 

「んだとォ!?」

 

「まぁ落ち着け。ほら、例の薬は手に入れた。」

 

油断すると直ぐに喧嘩を始める2人を仲裁しながら薬の入った袋を取り出す。それを見ると2人は揃って喜び始めた。本当は息ぴったりだな。

 

「おぉ!良くやったぞ蓮!」

 

「うし、これで準備は整ったって訳だな!」

 

「そうだな」

 

「後は明日に備えるだけだ、しっかり休んでおけ。吾輩もこっちに残って備える事にしたしな。というわけで蓮、吾輩のお世話を頼むぞ。」

 

チラリと竜司の方を見る。眉間に皺を寄せてめちゃくちゃ渋い顔をされた。明らかに嫌がっている。

 

「・・・頼むぜ、俺ん家ぜってー無理だから」

 

「居候先、飲食店なんだが」

 

「じゃ無理だな。モルガナ、諦めろ」

 

どちらも理由がある為即決してズバッと切り倒した竜司はポンとモルガナの肩を叩いていい笑顔でそう言った。慈愛すら感じる。慈も愛も切り捨てられたが。

 

「おぉーい!そこを頼むよ!吾輩も室内でぬくぬくして寝てーんだよ!お前らにわかるか!他の動物達に見つからないよう身を縮こませながら物陰で寝てた吾輩の気持ちがー!」

 

にゃーにゃーと喧しく鳴きながら爪を立てて竜司の裾に引っ掛けグイグイと引っ張り回すモルガナ。超必死である。

 

「わーったわーったよ!一旦落ち着け!」

 

「仕方無い、俺も佐倉さんに掛け合ってみよう」

 

まぁ仕方無いもクソも最初から住まわせるつもりだったが。ただ反応を楽しみたいが為にモルガナを弄るゲスがここにいた。まぁタダで住まわせるのもあれだし、多少はね?

 

「本当か!本当だな!男に二言は無しだぜ!!」

 

にゃっほーい!と喜ぶモルガナを尻目に別れの挨拶をしながら明日の確認をする2人。

 

「ヨカッタナー」

 

「後は明日、集まってからって感じだな。」

 

「うーし決定。んじゃまた明日な蓮。モルガナ、おめー住ませてもらうんだから大人しくしとけよ」

 

「はんッ!言われるまでもない!どんな手を使っても住ませてもらうからな!」

 

「いやそういう事じゃなくて・・・まぁいいや」

 

モルガナに呆れながらも駅に向かって歩いていく竜司の背中を小さく手を振りながら見送ると蓮もルブランに帰る準備をする。薬をカバンに入れながら無意識にモルガナの首の後ろを無造作に掴んでカバンの中に詰め込むとにぎゃー!?と悲鳴があがる。

 

「あ、ごめん」

 

「何すんだコノヤロー!あ、でもなんか落ち着く」

 

いきなりの失礼にお怒りのモルガナだったが思ってたよりカバンの中がしっくり来たのか直ぐに落ち着き始め、端っこから顔だけ出してゆったりしている。やはり猫の本能には勝てないのだろう。それを見た蓮は結果オーライとあまりカバンを揺らさないように意識しながらルブランに帰宅した。

 

その後はやはりというか「うち飲食店なのは百も承知だろ」とごもっともな事を言われたがめちゃくちゃ綺麗な土下座をしながら「モルガナは俺なんだ!俺だ!モルガナの腕のキズは俺のキズだ!」的なことを言って惣治郎の同情を煽りしっかり躾をして営業時間には1階に降りないようにする事、拾ったからには責任を持ってちゃんと世話をする事を条件に何とか許可を貰うことが出来た。

 

やったぜ(投稿者:変態糞怪盗)

 

そんな訳でモルガナの動物病院行きが決定した夜、惣治郎から貰ったご飯に貪り付きながら部屋の中をキョロキョロと見回して満足気に頷くモルガナ。

 

「最初は物置かなんかかと思ったが、よく見ると掃除は行き届いてるしこの薄暗さが逆に落ち着くな。何より飯が美味くて屋根がある!吾輩気に入ったぜ!」

 

「それは良かった」

 

どこか上から目線が外れないモルガナを微笑ましげに見ているとあっという間にご飯を平らげペロリと顔の周りを舐めていたモルガナが急に真面目な顔になって蓮に向き合った。

 

「さて・・・ここまで来たからには吾輩も色々話しとかなきゃならんな。」

 

「色々?」

 

蓮が首を傾げると「ああ」と呟いて顔に影を落としながら今まで隠してきた事情を話し始めた。

 

「あぁ、まず第一に吾輩には記憶が無い。異世界の歪みにやられて記憶と本来の体・・・前にも言ったが人間の体を失っちまったんだ。だから歪みの『元』を晴らして自分を取り戻す。それが吾輩の目的だ。」

 

力強く宣言するように言うとピョンとベットを飛び降りて今度は机に飛び乗って前足を舐めながら話を続ける。

 

「方法もだいたい分かってる。城にいたのもその調査の為、方法が合っているのかってな。だからお前達に協力してるんだ。」

 

「利害の一致という訳だな」

 

「まぁ、拷問された恨みを返したいってのもあるけどな。何回でも言うがお前達は実に頼りにしてるぜ?」

 

鴨志田の顔を思い出しながらシャドーボクシングという名の猫パンチを虚空にシュッシュッと繰り出しながらニヒルと笑ってそう告げるモルガナ。

 

「ああ、そうだ。吾輩タダで世話になる気は無いぜ、ギブアンドテイクだ。吾輩の世話をしてくれるのと引き換えに『潜入道具』の作り方を教えてやる。」

 

机の上に置いてある工具類を器用にそのお手手で掴みながらそう言ってくるモルガナの姿を脳内フォルダに保存しながら「ふむ」と腕を組んで一拍考えるふりをしてから取引に乗った。

 

「潜入道具・・・便利そうな響きだ。分かった、取引しよう。」

 

「お前はホントに物分りが良くて助かるぜ。これにて取引成立だな!よーし!改めてよろしく頼むぜ蓮!」

 

「こちらこそよろしく、モルガナ」

 

食住を手に入れた喜びからか目に分るほど嬉しそうにするモルガナに萌えながらもそのお手手とぐっと握手をする。ぷにっとした肉球の感触がもうたまらんと思っていると彼と自分の間に繋がり(コープ)が発生するのを感じた。

 

 

 

 

我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「魔術師」のペルソナの誕に

祝福の風を得たり

 

へと至る、

更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『モルガナ』

 

 

ARCANA:『魔術師』 RANK.1☆

 

 

 

 

 

「よし、んじゃあ早速潜入道具についてレクチャーしてやる。お前は手先が器用そうだからな、直ぐに覚えるだろう。」

 

「お手柔らかに」

 

 

その後、キーピック5本とカエレール1つ、煙幕を3つ作ってモルガナを「いや器用すぎだろぉ!?吾輩の立場!」と驚愕させてドヤ顔をかました蓮はご機嫌に床についた。

 

 

そして後日、朝食に納豆ご飯と味噌汁、山盛りのキャベツを食べ朝コーヒーをキメた蓮は今日も元気に魔境という名の学校へと向かった。モルガナも朝からミルクと惣治郎特製猫まんまを食べた事でかなりご機嫌である。「吾輩、あんなに穏やかな朝は初めてだ・・・」とうっとりしながら言うモルガナに分かりみと蓮は深く同意していた。

 

しかし残念ながら学校生活に特に変わったことは起こらなかったので全カットである。一つ上げるとしたら三島からの好感度がやや上がってた位だろうか。とりあえず無理はするなと伝えると嬉しそうに微笑んでいた。チョロいヤツめ(和み)

 

という訳で待ちに待った放課後。杏と共に竜司と合流してさっさと立ち去ろうと思っていたのだが途中で川上に止められてしまった。立場上無視することは出来ないので杏には先に行ってもらって話を聞くことにする。

 

どうやら他の人には余り聞かれたくないらしく指導室へと向かうと丁度そのタイミングで指導室のドアが開いた。中から出てきたのは見覚えがあるんだが無いんだか、どっちかと言われたらあるよりの顔をした名前も知らない教師と変態()、そして何時ぞやに出会った赤髪が印象的な少女、芳澤かすみであった。

 

あの時ぶりに見る彼女に軽く手を上げるがどうにも表情が曇っており顔色も良くない。はて?どうしたのかと思ったがこの野郎と一緒にいたということはあることないこと吹き込まれたのだろう。まぁある事の方が多いだろうけど。

 

チラリとココリコ田中に目を向けると露骨に顔を顰めて今にも舌打ちをしそうな(というか今した)奴は川上を見るとコロッと表情を変えて話しかけてきた。改心後役者でもやれば大成するんじゃないかコイツ。

 

「おや川上先生、早速今朝の件を進めてくれているようで。助かりますよ。」

 

「いえ・・・」

 

どうやったらここまで顔面から胡散臭さを滲み出せるんだろう。普段の食生活に秘訣とかあるのか?あれか?臭いとかけてニンニク直に食ってるのか?気持ちわりぃなオメェ!(ド偏見&罵倒)

 

「おっと、芳澤。こいつと関わるのはやめた方が良いぞ、君の輝かしい未来に傷がつく。さっき話しただろう?この学校には関わらない方がいい生徒が何人かいる。その筆頭がコイツさ。」

 

火の玉ストレートで草。

 

「・・・・・・。」

 

それを聞いて更に表情を曇らせる芳澤。そんな法螺話信じない方がいいぞと言いたかったが鴨志田の相手をするのも面倒くさかったので無言を貫く蓮。代わりにおどける外国人のように唇を尖らせて眉を動かす。

 

恐喝(シャドウにはしてる)も暴力(シャドウにはしてる)も犯罪(だいたい破ってる)もナイフを所持してる(事実)のも全部噂だから!

 

「あの、そろそろいいですか?指導室入らせて貰って・・・」

 

「おっとすみません、それでは我々はもう行きましょう。指導の邪魔をする訳にも行きませんから。」

 

そう言って今にも剥がれ落ちそうな薄っぺらい薄っぺらい笑顔を浮かべながら去っていく鴨志田。画鋲でも刺しとけ。

 

沈痛な表情の芳澤も少し迷ったように身体を揺らしたが「・・・失礼します」とだけ言って去ってしまった。ちょっと傷ついたが、まぁこればっかりはしょうがない。レッテルを貼られるのは慣れている、願わくばこれからの関係でそれが解消されるのを期待しよう。

 

そんなことを思いながら指導室へと蓮は入っていった。

 

 

・・・・・・結局あの名前も知らない教師は一言も喋らなかったな。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

話というのは鴨志田についてだった。お小言を貰ったので何かあったのかと。心当たりは無いけどまぁ強いて言うなら行動を邪魔しまくってますね、とは言わず何食わぬ顔で「知らないです」とだけ言って帰ってきた。どうやら鈴井の事も感づかれていたらしい、どうでもいいけど。

 

面倒事も終わったので待っててもらった杏と合流していた竜司と共に学校を後にして渋谷に到着。駅で待ってた鈴井とも合流して4人、いや5人はビックバンバーガー・・・に行こうとしたが杏のダイエットの都合でファミレスとなった。

 

1番目立たない角の席に座った彼らは着席してとりあえずドリンクバーだけ頼み、飲み物をとってきてから話をし始めた。

 

 

「さて、前回は異世界やらペルソナやらの説明をしたが今日は吾輩達の目的について説明するぜ」

 

「その2つについてもまだ整理が追いついてないけど、うん、大丈夫。お願いモルガナ。」

 

「おう!任せてくれ杏殿!」

 

カバンの中から頭だけ出しながら胸を張るモルガナ、可愛い。

 

「まず吾輩達は鴨志田を『改心』させる為に動いている。この改心ってのは言葉の通りで奴を心の底からひっくり返してマトモにしちまうのさ。」

 

「そんなこと出来るの?」

 

驚いた様子の鈴井にモルガナは頷く。器用に猫の手でペンを握って分かりやすい絵を描いて説明を続ける。

 

「あぁ、異世界、即ちパレスには『オタカラ』と呼ばれる精神の核が存在する。言わば歪みの大元だな、これを盗み取る事で歪みを正し精神を安定させるんだ。するとどうなると思う?」

 

「えっと・・・?つまり悪人が普通の人になるって事だよね?」

 

「そう、そして普通の人間が自分のしでかしてきた罪を自覚するとどうなる?」

 

強欲が無くなり、まっさらになった人間に重りを乗せるような絵を描くモルガナ。それを見て蓮の翻訳も聞いた鈴井はおずおずとしながら答えた。

 

「えと、つまり良心の呵責に耐えきれなくなって罪を自白する・・・ってこと?」

 

「その通り!杏殿も鈴井殿も勘がいいぜ!」

 

「でも、その『オタカラ』ってどこにあるの?そんだけ重要な物なら簡単に見つけられないんじゃない?」

 

「それについても抜かりはない」

 

モルガナが「頼む」と声をかけると蓮が頷き、カバンの中から数枚の紙を取り出した。やや古ぼけたそれは何かの建物の図に見える。

 

「これがカモシダパレスの城内図だ、吾輩達が攻略済みなのは古城の3階まで。吾輩の見立てでは『お宝』があるのはココ、塔の頂上だ。」

 

「頂上?んな目立つとこにあんのか?」

 

「ああいう人の上に立ちたがる傲慢ちきな奴は大事な物を最も分かりやすく最も()()()()()()所に置くもんなのさ。よく言うだろ?馬鹿は高いところが好きだってよ。」

 

「なるほど・・・」

 

「おい高巻、なんでこっちみてんだよ」

 

馬鹿という単語に反応してるジッと竜司を見る杏。それに気がついた竜司は半目で睨むが彼女は無視して話を続ける。

 

「別にー?それより、わざわざ塔の上に隠すなんて。モルガナの言うことも分かるけど幾ら自慢したいからって大事な物を分かりやすいとこにおく?そういうのって普通誰にも知られないような場所に隠さない?地下とか。」

 

確かに、それほどに大切なものならばもっと厳重に隠すのではないか。その疑問は最もだ。しかしここでパレスの特性、歪んだ心が実態化した物だと言うことを思い出して欲しい。つまりこれには主の心の『有り様』が浮き彫りになるのだ。

 

いつの間にか頼んでいたポテトをつまみながら蓮は上記の事を混じえてその疑問に対して自分なりの限りなく正解に近い答えを出した。

 

「奴は実力主義の世界を勝ち上がってきた。より上へ、より高みへと。奴にとってその()()こそが偉さであり強さの形なんだろう。他者に見せつける時にそれ以上自分を証明する物は無い、ってね。」

 

実力主義とは終わりのない崖を他者を蹴落としながら延々と登り続けるような過酷な世界。時に卑怯な手を使おうとも上に登ればその全てがお咎め無し。ある程度のことは許容されてしまう。そんな汚い弱肉強食。それが鴨志田の生きて来た世界だった。

 

上へ上へと登った向上心が人を見下す慢心に変わった時どうなるか。そんなもの実物を見れば分かり切っている。

 

凡そ常人の発想では無い考えに竜司は苛立ちながらメロンソーダを一気に飲み干す。

 

「それで城をこさえて王様気取りって訳か。へっ!巫山戯てやがるぜ!要は自分は凄いって心酔してるだけじゃねぇか。」

 

「そうだよ、そんな奴が誰かを傷つけてるのに皆見て見ぬふりをして・・・ううん、私もしてた。だからこそ、アイツを止めたい。」

 

杏は隣に座っている鈴井の手にそっと自分の手を重ねて、今までとは違う決意の炎が灯った目を蓮達に向ける。逆境など溶かしてしまうほどの熱に蓮も思わず笑みがこぼれた。

 

「だから、私も戦う。雨宮君達と一緒にあの悪魔を倒す。今までの借りを返したいってのもあるけど、それ以上にもうアイツから被害者が出ないように。だから、私達も仲間に入れて。」

 

 

「あぁ、勿論。断る理由なんて無いさ。こちらからもよろしく頼む、高巻さん・・・いや、()

 

「うん!よろしくね!()!それにモルガナとついでに竜司も!」

 

「おう!歓迎するぜ杏殿!」

 

「俺はついでかよ・・・」

 

蓮と杏が握手をする中、目を輝かせるモルガナと呆れながらズゴーッと空になったメロンソーダを吸う竜司。

 

ちぇっと若干不貞腐れた様に口を尖らせながら空になったコップを持ってドリンクバーに向かおうとした竜司だったが、立ち上がる寸前に目の前にいる人物が目に入った。鈴井だ。

 

その表情は何処かぎこち無く、寂しげな笑みと見栄を浮かべていた。まるで居場所を無くした兎のように。それを見た竜司はニッと笑う。

 

「まっ、これで晴れて高巻も仲間になったわけだ!勿論!鈴井もな!」

 

「・・・・・・え?」

 

まさか名指しをされるとは思ってなかったのかキョトンとして目を丸くしている鈴井。まさか自分も仲間に数えられるとは思わなかったのかしどろもどろになっている。

 

「で、でも、私にはその、ペルソナ?ってものは無いし・・・杏と違って戦う力も心も持ってないし・・・そんな私が、仲間なんて・・・」

 

「なーに言ってんだ、そんなもん使えなくたって仲間は仲間だろ?あーいや、言い換えるなら・・・()()だな!」

 

「ダ・・・チ・・・?」

 

「おう!!」

 

困惑気味な鈴井にいい笑顔でサムズアップする竜司。まるで細かいことなんざ気にすんな、と言うようなそんな直球な眩しい優しさに鈴井は滲んできた涙を拭ってくしゃりと笑った。

 

今まで、こんなにも真っ直ぐと自分に向き合ってくれる人達なんか、それこそ杏を覗いたら他にいなかった。だからこそ分かる、今の自分にとっての居場所は『ここ』なんだってことに。

 

「そっか・・・友達・・・うん・・・!うん・・・!!ダチ、だね!」

 

グッと杏の手を握った鈴井は今までとは打って変わって、本来の明るい笑顔を浮かべながら蓮と向き合う。あんなにも暗かった瞳には、綺麗な光が灯っていた。

 

「雨宮君、私はその異世界に行ける力は無いけど、出来る限りの事はするよ!なんて言ったって、()()だからね!」

 

ふんす、と意気込むと竜司を見る鈴井。するとよく言ったぜ!と言うようにこれまたいい笑顔で返す竜司。何やらいつの間にか仲良くなったようだ。その様子を見てモルガナがポツリと漏らした。

 

「・・・あれ、なんか竜司と鈴井殿いい感じになってないか?」

 

「はぁッ!?ダメダメダメ!竜司なんかに志帆は渡さないから!志帆は私の親友なの!ぜぇ〜ったいにダメ!特に竜司!主に竜司!」

 

「あぁ!?なんだそりゃ!意味わかんねぇぞ!?」

 

 

「ふふ・・・よろしくな、皆」

 

 

途端にギャーギャーと喧しくなったのを見て蓮も嬉しそうに笑って改めて言葉にした。

 

 

 

 

 

ここに、新たなる仲間が2人加わった。

 

 

そしてついに、反逆の狼煙は上げられたのであった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━




うおぉお〜!!くそ駄文だぜ〜!!

杏が陽射しなら、鈴井は月光のイメージ。

ちなみになんですけどこのジョーカー君、具体的にどのくらい周回してるとは決めてません。気が狂う位してる程度の考えなので多分その時によって変動してます。多分世界中の人がプレイした数だけ周回してんじゃね(鼻ほじ)



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Steal it, if you can/Part 3

本気出して負ける気がしないので生きてます、私です。近々出すとか言って放置して結果的に年末まで引っ張ったクソ野郎がいるらしいですよ、許せませんね()

俺は更新は遅いけど死なねぇからよ・・・止まるんじゃねぇぞ・・・

そしていつも感想、誤字報告ありがとうございます!今回は超巻きでいきます!アクセル!


無事に仲間入りを果たした杏と鈴井。チームのようなものになった彼らはドリンクバーで乾杯した後、腹ごしらえを済ませてから再び学校近くまで戻ってきていた。

 

時間は既に夕暮れ、殆どの生徒が帰宅した後の学校はやはり静かだ。普段は不気味と感じるがこの状況では好都合、目撃者が出る可能性を無くせる。

 

「3人とも、大丈夫か」

 

「あぁ、いつでも行けるぜ」

 

「勿論だ」

 

「うん、いけるよ」

 

さて、準備万端と言った感じの4人はそれぞれ別々の気合いの入れ方をしている。そして時刻が丁度18時になった所で、巻き込まないように鈴井には離れてもらってからスマホを取り出しアプリを起動させる。

 

『ナビゲーションを開始します』

 

 

「行くぞ」

 

 

波打つ模様が現実を塗り替え、ペテンに塗れた虚像を映し出す。そうして現実と異世界が入れ替わり、いや正確に言うのなら異世界へと入り込みジョーカー達はパレスへと足を踏み込んだ。

 

それを見ていた鈴井の目には空間が蜃気楼のように揺らめいたと思ったら4人がまるで消しゴムで消されてしまったかの様に見えていた。

 

「ほ、ホントに消えちゃった・・・頑張ってね、皆・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

カモシダパレスを攻略せよ

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、ホントに服が変わってる・・・わ、私も・・・!」

 

歪みの波が収まると、服が制服から怪盗服に変わり顔にはそれぞれの仮面(ペルソナ)が現れる。3人の格好が大きく変化したのを見て杏は自分の服も見てみるとやはりあの赤く際どいボディスーツになっていた。

 

やや恥ずかしがりながらも仕方が無いと唸る杏に対して竜司が余計な口を開いた。

 

「にしてもお前の怪盗服派手だよなー。赤いボディスーツに尻尾とか、あれだSM・・・」

 

 

バチィッ!!

 

 

竜司の顔のすぐ横を空気が切り裂く音と共に何かが通り過ぎると破裂音と地面が抉れる音が弾けた。恐る恐る後ろを見てみると煙を出しながら粉々になった地面の1部が、そして杏の方へ振り返るとその手には深紅の鞭を構えた修羅がいた─────。

 

「それ以上言ったら当てるから」

 

「・・・・・・うす」

 

鞭をしならせる杏を見てお口チャックをする竜司。懸命な判断である。

 

「よ、よく似合っているぞ杏殿!」

 

「ありがとモルガナ」

 

ちなみにここでファスナーを下ろそうとすると先程のマッハを超えるスピードの鞭で顔面を叩かれるので注意しよう(実体験)

 

そしてシャドウなどについての軽いおさらいをした後でいざ、潜入・・・する前に竜司がそう言えばと手を叩いた。

 

「なぁ、高巻のコードネームどうするよ」

 

「コードネーム?」

 

首を傾げる杏を他所に確かにと頷くモルガナとジョーカー。

 

「あぁ、吾輩達はパレスで動く際はお互いコードネームで呼び合う様にしてるんだ。本名はどんな影響が起こるか分からないからな。」

 

「なるほど」

 

「ちなみに俺がスカルで、れ・・・コイツがジョーカー、そんでモナだ。」

 

「へぇー、意外とちゃんとしたコードネームじゃん」

 

「じゃなきゃ意味ないだろ」

 

3人のコードネームを聞いたところで杏は自分のコードネームを考え始める。しかしいきなり考えろと言われても急にはアイデアは浮かばず、悩んだ彼女はやめておけばいいのに3人に聞いてみる事にした。

 

「コードネーム、コードネームかぁ・・・うーん、なんかいいの無い?」

 

それを聞いた3人は顔を見合せた後、杏の格好を見てティンときた名前を順番に口にする。

 

「キャットガール」

 

「セクシーキャット」

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン」

 

 

それはもうズタボロボンボンであった。

 

 

「却下却下却下!!全部センス無い!ヤダ!そもそも最後!長いし色々変でしょ!?何ドラゴンって!?」

 

「じゃあスカーレッド・ノヴァ・ドラゴン」

 

「いや、ここは伝統的な真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)で・・・」

 

「方向性を変えろっての!遊○王から離れろ!」

 

そもそも真紅眼の黒竜の色は黒である(無慈悲)

 

杏の怒涛のツッコミを受けた3人はブーたれ、竜司は面倒くさそうに頭をかいた。

 

「逆にお前は何がいいんだよ」

 

「え?まぁ、この仮面とか見て思いつくのは・・・パンサー?」

 

「意味は?」

 

「豹・・・」

 

「女豹・・・」

 

「女豹言うな!」

 

モルガナの零した言葉に顔を真っ赤にして怒鳴る杏、いやパンサー。

 

何はともあれこれで全員のコードネームが決まった訳だ。巫山戯ていたジョーカーが切り替え、手袋を締め直すとスカルもそれを察して肩に鉄パイプを乗せながら城の頂上を睨む。

 

「うーし、これで決まったな。んじゃ行こうぜ、オタカラ探しによォ!」

 

 

 

ヨシ、イクゾー!(デーデーデデデデーン,カーン)

 

 

 

 

「待ちなさい」

 

 

まぁその前に消化イベントが挟まるんだが。

 

青い衝撃が走るとジョーカーの周りが急に九割偽物の時間停止物みたいに止まる。これが残り一割の本物の力か・・・とアホな事を考えながらいつの間にか現れていた牢屋への扉とその隣に立っているジュスティーヌの方に向き直る。

 

「主よりお言葉です、入りなさい。あとなにか持ってるなら渡しなさい。」

 

仕事の合間にちゃっかり甘味を要求するジュスティーヌにニコニコしながら飴ちゃんを渡したジョーカーは心做しか頬を染めて嬉しそうに飴をコロコロするジュスティーヌと共に扉の中へ入っていった。

 

 

そして更生が何たらやら合体処刑について説明を受け前半の話は全く聞いてなかったジョーカーは何故か深まった愚者のコープを感じながらポケッとした意識を戻すとカロリーヌがジョーカーを睨んでいた。

 

「・・・おい囚人、私に渡す物があるだろう」

 

そう言って不貞腐れるように頬を膨らませているカロリーヌ。その視線を辿るとしれっと飴を舐めているジュスティーヌが。

 

なるほど、と納得したジョーカーはゴソゴソとポケットを漁りたまたま取っておいたクッキーをあげた。パッと笑顔を咲かせるカロリーヌだが、ジョーカーの前だと思い出してそっぽを向いてクッキーをむしり取る。まぁ手遅れな訳だが。

 

 

その後はカロリーヌの警棒による金剛発破によって吹き飛ばされたジョーカーは扉から飛び出し、打ち上げられたマグロのように地面に叩きつけられた。しかし何事もなかったかのように立ち上がり突っ立ったままの自分の体へ()()()()()

 

そう、彼が扉の先、ベルベットルームへと入ってる間は肉体から精神が離れる為傍から見たら口からクシミタマを出しながらボーッと突っ立ってるように見えるのだ。いや精神が離れてるのでボーッとしてると言えばそうなのだが。

 

「おーい、どうしたんだよジョーカー。急にボーッとして。早く行こうぜ?」

 

「・・・すまない、HUNTER × HUNTERはいつ完結するのだろうと気になってしまって・・・」

 

「え、今!?今気にすることそれ!?」

 

適当に考えた事を伝えるとめちゃくちゃいいリアクションをしてくれる杏。やはり彼女のツッコミ力は瞬間火力で言えば竜司を上回る・・・即戦力だ(意味不明)

 

「じゃあ、改めて・・・ショータイムだ!」

 

「うわ、急にテンション高っ。雨、じゃなかったジョーカーっていつもこうなの?」

 

「まぁ、大体・・・?」

 

情緒不安定に見えるジョーカーに不安を覚えるパンサーとモナ。そして確かに・・・とさっきの事を真剣に考え始めたスカルの襟を掴んで今度こそ城の内部へとカチコミをかけていった。

 

 

前と同じルートを辿りながら城の内部を駆け回るジョーカー達。初心者の杏にスニーキングを教えながら着実にポイントへと向かっていく。

 

「ホントにバレないね・・・思いっ切り足元に居るのに」

 

「こんだけご立派なヘルメット被ってりゃあな・・・」

 

視界の悪い兜をしているザル警備なシャドウ達を突破していき、古城3階に着いたジョーカー達は先に進む前にある事を思いついた。

 

それはパンサーを加えてのシャドウとの戦闘。戦うのが初めてのパンサーにまだ戦い慣れてるとは言えないスカルもいるのでここで少し経験を積んでおこうと考えたのだ。

 

「大丈夫かな、私喧嘩もしたことないんだけど」

 

「難しく考えずに思う通りに動きゃいいんだよ」

 

「戦況を冷静に見極めるのも大事だが、まぁスカルの言い分にも一理ある」

 

「大事なのは攻め時と引き際だ、それに俺達も出来る限りのサポートをする。安心してくれ。」

 

鞭を持って不安そうに呟くパンサーにそう声をかける面々。内心あんだけ鞭使いこなしてるなら大丈夫だろとこっそり考えながら一体のシャドウに狙いを付ける。

 

「よし、行くぞ」

 

ジョーカーの声に3人は揃って頷き、一斉に物陰から飛び出しシャドウに向かう。それに気づいたシャドウが声を上げようとするがそれよりも早くジョーカーが顔面を掴み、仮面をひっぺがした。

 

それによって殻が溶けたシャドウの中から真の姿、『ピクシー』が数体現れる。そしてその前に対峙するパンサー、スカル、モナ。事前に説明を受けていたがやはり実物を目にすると驚いてしまい、硬直しているパンサーにピクシーの『ジオ』が襲いかかる。

 

「おっとさせるかよ!」

 

それをスカルが呼び出した『キャプテン・キッド』の船体で弾き、パンサーを雷撃から守る。その間にモナが『ガル』でピクシー達を引き離し、仕切り直しをさせた。

 

「突っ立ってちゃいい的だぜパンサー!ビビってねぇでやるぞ!」

 

「べ、別にビビってないし!もう!やったろうじゃん!」

 

そう意気込んだパンサーは深呼吸をしてから仮面に手を翳し、こちらに突っ込んでくるピクシーに狙いを定めた。再びピクシーの放ったジオがパンサーに迫るがそれを華麗な身のこなしで避ける。

 

「踊れカルメン!!」

 

 

パキィンッ!

 

 

『キャアァ!?』

 

仮面が砕けると共に現れたカルメンがアギを放ち、見事命中。ピクシーは火達磨になりながら消えていった。

 

「やるじゃねぇかパンサー!おーし、俺らも負けてらんねぇぜキャプテン・キッド!!」

 

パンサーの奮闘を見て奮起したスカルは己の半身をピクシーに突っ込ませる。迎撃しようと放たれたジオを海原を切り裂く海賊の如くかき分けながら進む船体。そしてお返しとばかりに船体を捻り遠心力を加えた船尾による強烈な一撃を叩き込まれたピクシーは堪らず淡い光となって消滅した。

 

「やるじゃねぇか2人共!」

 

とても初心者とは思えない身のこなしを見てモナが嬉しそうにそう声を出した。片手間にピクシーを倒してるのが経験の差を物語らせる。そんなこんなでジョーカーを除き1人1体ピクシーを倒した彼らは残ったピクシーに一斉に目をやる。

 

仲間が全員倒された上に倒した相手全員に狙われているという事態にオロオロとし始める最後のピクシー。そして諦めたように両手を上げ降参のポーズをとった。

 

『こうさーん。無理無理、4対1とか勝ち目ないっての。』

 

明らかに戦意喪失しているピクシーを見てジョーカー達は警戒態勢を解く。そして全員で顔を見合わせてどうしようかと相談し始める。

 

「どうする?」

 

「どうするって・・・・・・どうすっか」

 

「こういうパターンは初めてだな・・・」

 

いくらシャドウと言えど無抵抗の奴を甚振るのは気が引けるが、逃がしてまた襲われても面倒だとモナは苦い顔をした。この状況で手を出しても手も足も出ない事に気づいている件のピクシーは逃げもせずその場にふよふよと浮かんでいる。

 

『煮るなり焼くなり好きにすれば・・・ん?』

 

しかし、ふとモナ達とは少し離れた所で立っているジョーカーを見たピクシーは偶然にも彼と目が合ってしまう。

 

 

「ふっ」 (マリンカリン)(ブレインジャック)(魅力)(スタン)(洗脳)(ニコポ)

 

 

『はぅあっ!!??』(トゥンク♡)

 

 

その瞬間!魅力MAXの魔性の微笑みが彼女の心を撃ち抜いた!!

 

メトメガアウシュンカンスキダトキヅイター(確定演出)

 

頬を紅潮させたピクシーがパタパタと羽を動かしてジョーカーに近づくと肩に座って小さな手を彼の白い頬に付けゆっくりと舐るように動かす。小さいながらもその色気は蠱惑的だ。

 

『ね、ねぇ。貴方、今フリー?どう?この後私と痺れる一夜を過ごさない?』

 

「すまない、今夜はパーリィでトゥナイトなんだ」

 

『そんなぁ・・・でも素敵・・・』

 

 

「何言ってんだアイツ・・・てかなんだこの状況」

 

「意味重なってるし、てか何でシャドウにナンパされてんの?敵じゃないのアレ?」

 

「知らん・・・怖・・・」

 

まさかのシャドウにナンパされるという事態に陥ったジョーカーを見て困惑して軽く引いてる3人。当の本人は特に気にした様子もなくピクシーに撫でられている。何だこの状況。

 

すると、突然ピクシーの体が青い光に包まれ始めた。

 

『あれ?何これ・・・そうだ、思い出した。私は人の心から生まれた存在、鴨志田様だけのものじゃない・・・というか今はもう私は貴方のモノ的な?魂が引かれあってる的な?そんな感じだから・・・!』

 

「なら俺と共に来るか?」

 

『もちろん!私の名前は“ピクシー“!よろしくねダーリン!』

 

そう言って抱きついたと思ったらピクシーはその姿を仮面に変え、ジョーカーの仮面と重なり合うと溶け込むように一体化して、彼の中に姿を消して行った。

 

その一部始終を見ていた他3人は目の前で起こったことに理解が追いつかず呆然としている。

 

「え?ジョーカーが口説いたと思ったら仮面になって消えちゃった・・・?」

 

「んだ今の!?何が起こったんだよジョーカー!」

 

「まるで意味がわからんぞ!!(上官並感)」

 

「ふむ・・・どうやら彼女は俺の心と一体化したようだ」

 

そう言ってジョーカーが仮面を砕くと、そこから現れたのは何時ものアルセーヌでは無く先程のピクシーが飛び出てきた。敵の力を吸い取り、己の力とする。まるで漫画みたいだなーと考えていたスカルとパンサー。だが、有識者であるモナだけはその意味を理解し、そして異常性に驚愕していた。

 

「なに!?まさかお前シャドウを取り込んで自分のペルソナにしたってのか!?」

 

「それって凄いの?」

 

「凄いというか、()()()()()。心は1人1つ、ペルソナは1人1つのハズ・・・なのにそれを増やす?そんな芸当が出来るなんて見た事も無い!」

 

それを聞いて「また俺なんかやっちゃいました?」とでも言うようななろう顔をしているジョーカーを無視して話を続けるモナ。

 

「だが、これは使えるぜ。原理は分からんが色んなペルソナを持てるってことは単純に手札が増えるって事だ。様々な敵や状況に対応できる切り札、正に()()()()()って訳だな!」

 

「ふっ・・・どうやら切り札は、常に俺のところに来るようだぜ」

 

「うわっ、あからさまに調子乗り始めた」

 

「殴りてぇ〜」

 

ジョーカー繋がりで何処ぞの半熟卵のハーフボイルドみたいな事を言い出したジョーカーに白い目を向ける3人。先程までの驚愕と僅かな敬意はガイアメモリと共に砕け散った。立木の声真似をしながら決めポーズを取るアホを無視して先に進もうとする3人。

 

だが、そんな彼らの前にまたもや邪魔者が現れた。

 

 

 

『ちょっと待つヒホー!』

 

「今度は何!?」

 

 

シャドウとは思えない程どうどうと後ろから話しかけてきたのは、魔女のとんがり帽子に青黒いローブ、手には怪しい火を灯すランタン。もっとも特徴的なのは顔に当たる部分がカボチャになっている事。目と口の形がくり抜かれていて、その目の奥にはランタンと同じ灯りが点いている。

 

ハロウィンと閃光のハサウェイ(ミーム汚染)でよく見る一見可愛げなカボチャのシャドウ『ジャックランタン』であった。

 

彼は身構えているモナ達3人を無視してピクシーが頬に抱き着いているジョーカーの元へ一直線に向かうとその白い手袋を付けた指を突きつけた。

 

『アンタ!そこのアンタヒホ!』

 

「俺か」

 

ピクシーを頭の上に移動させながらジャックランタンに向き合うジョーカー。そんな彼をジャックランタンはキラキラと物理的に光ってる目で見て、興奮気味に話した。それはまるで憧れのスターに合う人のように。

 

『オイラ!オイラあの時、その後も見たヒホ!アンタの力を!意志を!魂をー!端的に言って惚れたヒホ!オイラも連れて行ってくれホー!』

 

そう必死にアピールするジャックランタンは驚く事に、あの時たまたま生き残ったあのジャックランタンだったのだ。どうやら彼の姿に魅せられてしまったらしくあの後もずっとジョーカーの事をストー・・・見ていた様子。

 

しかし下手に目の前に出てきたら倒されると学習してた彼は仲間になるチャンスを伺っており、今回たまたまピクシーがジョーカーのペルソナとなったところを見た為、飛び出してきたのだ。

 

「いいぞ」

 

『軽っ!?』

 

ブンブンともう片方の手まで出して両手を振って悲願するジャックランタンにジョーカーはサラッと許可を出す。これには思わずピクシーもビックリ。

 

『やったヒホー!オイラの名は“ジャックランタン“!よろしく頼むヒホ!!』

 

 

 

ジャックランタン が 仲間に なった !!

 

 

ピクシーと同じく仮面となってジョーカーと一体化するジャックランタン。一気に2体のペルソナを増やしたジョーカーはご機嫌だった。ペルソナ全書が白紙に戻ってるのでペルソナは交渉やらで地道に増やしていかなければならないので、幸先よくゲット出来たのは僥倖だったからだ。

 

「今ので3体目、更にここからペルソナを増やせると考えるとここから先の戦いをより有利に進められるな。全く、味方に引き込んでおいて良かったぜ・・・。」

 

「苦しゅうない」

 

「ムカつく〜!(うろジョジョポルナレフ並感)」

 

そんなこんなでピクシーとジャックランタンをゲットだぜ!(地元にさよならバイバイ)して、ついでに経験値も手に入れたジョーカー達はここから先、塔へ行くために屋上へと向かった。

 

そこにいたシャドウ達を経験値を稼ぐついでにぶっ飛ばし、ちゃっかりシルキーとケルピーを手に入れたジョーカー達は屋上からそそり立つ塔を見上げる。今考えるとこれって言い難いけど男性器の暗喩だったんかなという作者は思いました。

 

「あの上にお宝が・・・」

 

「もうすぐだな!ちゃちゃっと攻略しちまおうぜ!」

 

「そうだね、戦い方もなんか慣れてきたしどんどん行っちゃおう!」

 

『でもあんなとこにどうやって登るヒホ?』

 

ジョーカーの傍らに浮遊するジャックランタンが塔を眺めながらそう言うと彼の宿主が見やすいように左腕を上げる。そう、みんな大好きワイヤーアクションである。

 

「これを使う」

 

「何それ?」

 

「ワイヤーフックだ、これをあそこに引っ掛けて・・・()()

 

「え」

 

「飛ぶ」

 

「ちょっと何言ってるか分からない」

 

絶句するパンサーと無言で諦めてるスカル達に念押しするように2回言った鬼畜は旗を支えている支柱に指差すついでにちゃっかり狙いを定めていた。しかも逃がさんとばかりにアルセーヌの腕だけ出現させて右手にスカルを、左手にパンサーをそして蓮の右手にモナをいつの間にか掴んでいた。

 

「待って、これって1つしかないの?一人一人飛ぶとかさ・・・?」

 

「残念ながら」

 

昨日の時点で人数分作れたら良かったんだが如何せん、素材が足りず増やす事は出来なかった。序盤も序盤だからね、仕方ないね♂

 

「よし、じゃあ皆捕まってくれ」

 

「捕まってくれってか、もう掴まれてんだけどな」

 

「え、マジで行くの?これで!?」

 

「安心しろ、扱いはスマ〇ラの復帰で慣れた」

 

「スマブラの方はワイヤー使ってないでしょ!(メタ)」

 

「見ろジョーカー!あっち!あっちのルートから登ってけるから!無理して飛ばなくていいから!」

 

「無限の彼方へさぁ行くぞ!」

 

「「「ちょ待っァァァァァァァァァ!!!???」」」

 

 

空の彼方に映る影、黒い翼のジョーカーマァァァァン!!(唐突なガッチ〇マン)

 

多分、ムービーにしたらスローの演出が入ると思うほど迫真のリアクションをする3人。それを見て笑ってる飛行型サイコパス。月夜に似つかわしくない絶叫が木霊する。

 

 

_人人人人人人人_

 

超かっこいいワイヤーアクションシーン

 

 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 

 

 

僅かな空の旅を堪能した4人は無事塔へとたどり着き、ジョーカーは満足気な笑みを浮かべモナとパンサーは疲労し、スカルは吐いていた。うーん、カオス。

 

その後3人にボコられ土下座したジョーカーは前が見えねぇ状態になりながらもピクシーのディアによって回復し、乱れた服装を直す。尚、反省はあんまりしていない。

 

「さて、気を取り直して探索を続けるか」

 

「メンタル鋼かコイツ」

 

「ジョーカーって思ってたよりヤバいやつだったんだね・・・」

 

「ヤバいやつっていうか、ヤバいやつになるというか」

 

鋼どころかオリハルコンメンタルを誇るジョーカーはこの程度では動じない。そして後悔もしてない。しろ。

 

「そう言えばモナ、イシの反応はどうだ」

 

「ん?あぁ、ちょっと待ってろ」

 

完全にさっきまでの事を過去として流したジョーカーはそうモナに聞くと彼はどこぞの鬼を滅す刃に出てくる獣の少年のように手を合わせてから左右に開き、イシの位置を探る。というか完全に『空間識覚』です本当にありがとうございました。オマージュだからセーフセーフ(アウト)

 

「モナ、それはパクリと言うんだ 「よし、見つけたぜ。早速向かおう」

 

ジョーカーの指摘をぶった切ったモナは探り当てたイシの場所へ向かう。道中、イシについてパンサーに説明しながら外壁の足場を登って塔の中へと侵入した。そして気配を辿ってダクトのような穴を通ってみるとまたアンカーポイントがあったのでお前だけで行ってこいと言われたジョーカーは渋々単独でイシを確保しに行った。

 

「む、ここか」

 

アンカーを巧みに使いながら目的地に着くとやはりと言うか、城の中でも見たあの不気味な扉が鎮座していた。周りに生い茂る蔦を切り裂き、重厚な扉を押して開くとやはり鴨志田の『歪み』が不快な笑い声と共にジョーカーを襲った。

 

「邪魔だ」

 

だがこれはあくまでも歪みの波、攻撃の類では無いなら警戒する必要も無い。精神攻撃など今更痛くも痒くも無いわ。という訳でズカズカと中へ入っていきイシの下に行くとあっさりと取り上げる。1個目とは違い、中が緑の宝石になっているそれを懐に仕舞うと身を翻しさっさと出ていこうとするがその途中でまた鴨志田の声が響いてきた。

 

『俺は王だ・・・俺は絶対なのだ・・・』

 

「・・・・・・哀れだな、裸の王様。空虚な玉座は心地いいか?」

 

 

それを聞いて無意識に溢れた独り言。傲慢な獣に対する皮肉。

 

 

「鴨志田、ずっと勘違いしてるお前に教えてやる。王は民無しでは生きていけないんだ。膨れ上がった傲慢はいつか破滅を齎す。」

 

 

頭に過ぎる悪魔の顔と、そして、鈴井の笑顔。

 

 

「待っていろ。お前の色欲、必ず頂戴する。」

 

 

 

そう言ってジョーカーは外壁から飛び降り、モナ達の待っている場所へと戻って行った。彼が去ったイシのあった部屋は僅かに歪みが強まり、その後緩やかに戻っていた。パレスに影響を及ぼすほどの覚悟を持って、ジョーカーは獣と相対する。

 

 

 

お宝まで、そして決着まで、あと僅か。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で見つけました、オタカラ」

 

 

 

温度差ァッッ!!

 

 

「動く床とか、振り子ギロチンとか、鴨志田ギミックとかあったが何とかここまで来たな」

 

「まさかギミックまで鴨志田の形してるなんてね・・・」

 

「にしてもすげーなこの部屋!マジでお宝部屋って感じがするぜ!」

 

あっさりと場面転換した中で様々な事が起きた為、疲労した様子のパンサー。と言うよりも道中に見た鴨志田の混沌とした心と自己顕示欲に溢れた内装に辟易している感じであった。様々な事、という部分は是非ゲームをプレイして確認して見てほしい(宣伝&省略)

 

その逆に部屋の中にある財宝を見て子供のようにはしゃいでいるスカル。族みたいな怪盗服を着てる為、怪盗というより強盗みたいである。

 

「んで、この金銀財宝がオタカラって訳だな!」

 

「ちげーよ、アホ。これはあくまでも()()()()()だ。お宝じゃねぇ。」

 

「は!?これがオタカラじゃねーのかよ!?」

 

「じゃあオタカラはどこに・・・」

 

()()さ」

 

モルガナの手が示す先、それを辿っていくと金銀財宝の中にまるで雰囲気の違う()()のようなそれがふよふよと雲のように浮いていた。

 

特別煌びやかでも無い、特別美しい訳でも無い、特別目を惹かれる訳でも無い。そんな曖昧で、不定形な、とてもでは無いがオタカラとは思えないその()をモナはオタカラだと言う。

 

「これが?」

 

「は?こんな変な靄が?嘘だろ?」

 

「まぁ待てよ、ここまで来たら話そうと思ってたんだ。」

 

そう言って楽しい種明かしの時間だと言わんばかりに にゃふふと笑ってオタカラの下にある大きな金の杯の上に飛び乗るモナ。

 

「実はオタカラは場所を突き止めただけじゃ奪えないんだ。『実体化』させてやらないとな」

 

「実体化?」

 

「ああ、欲望には元々形なんて無いからな。自分の欲望が狙われてるオタカラだって事を、まず本人に自覚させなきゃならん。」

 

そう言ってモナがオタカラに手を伸ばすと、靄は煙のようにふわりと形を崩し、モナの手が通過する頃には元の形に戻ってまた不定形に動き始めた。

 

「欲望を『奪われる』って強く意識させるんだ。それで初めてオタカラは姿を現すのさ。」

 

「でも、そんなのどうやってやるの?」

 

「本人に()()してやるのさ、『お前の心を盗むぞ』ってな」

 

「予告状かよ!まさに怪盗じゃねぇか!」

 

まさにそれっぽいワードに興奮し始めるスカル。多感な彼にはとても魅力的なものだったらしい。ジョーカーも同感です。

 

「そうすればオタカラは絶対に出る!・・・はず」

 

「なんでそこで自信なくすんだよ・・・」

 

また目を逸らすモナにため息を吐くスカル。だって吾輩も初めてだし・・・と小声でブツブツ言うモナの頭に手をやりながらジョーカーは3人に目配せする。

 

「けど、実行する価値はある」

 

「うん、そうだね」

 

「・・・・・・まっ、やってみっか」

 

ジョーカーの言葉にやる気になった2人。えいえいむん!と手をグッとするパンサーはとても可愛い(分かりみ)

 

「よし!これでオタカラルートも確保出来た、後は現実で『予告状』ぶちかまして、オタカラを貰いに行ってやるだけだ!」

 

「いよいよ・・・ってことだね」

 

「負ける気がしない」

 

「たりめーだぜ!俺達ならな!」

 

ガツンと拳同士を合わせるスカルとジョーカー、その後にパンサーとハイタッチし笑いあった。めちゃくちゃノリがいい奴らである。結成初日とは思えない。なんなら知り合ってあんま経ってないのに。コミュ力MAXのなせる技だ。

 

「気合十分だな、だが今日はやれることはもう無い。オタカラも見つけた事だしな、どうする?探索でも続けるか?」

 

「ふむ、なら最後のイシでも見つけに行くか」

 

「成程、いいかもな。ならイシ探しの旅に出発だ!」

 

モナの言葉にオー!と一斉に手を上げるジョーカー達。やっぱりノリがいい奴らである。

 

かくして、オタカラルートの確保を完了したジョーカー達は3つ目のイシを確保した後に鴨志田の欲望を刺激し、オタカラを出現させるだけになった。目的を達成した彼らは長居する必要も無い為、鴨志田にバレないようにパレスから脱出すると外ではあまり時間が経って無かったようであまり暗くなってなかった。

 

しかし余りにも唐突にパレスから出てきたので無から生えてきた蓮達にビックリした鈴井が腰を抜かすという珍事もあったが予告状を出す明日に備えて解散となった。

 

ついに、明日は決戦の日。鴨志田との因縁に決着が着き、そして怪盗団として本格的に活動を始める為の運命の日だ。

 

過酷な戦いになるだろう。どれだけ経験を積んでも、油断は出来ない。いつ、どこでイレギュラーが発生するか分からないのだ。何が起こってもいいように万全の準備をして臨む。

 

 

 

 

第一の壁、色欲の魔人との激戦が始まるのだ。

 

 

 

 

ちなみに予告状は毎度の如く、竜司の担当になった。不安だ・・・。

 

 

 

 

 

 




アルセーヌ「契約だ!」(変身アイテム化)

『アルセーヌ!!カモーン!!ア、ア、アルセーヌ!カモーン!!ア、ア、アルセーヌ!』

変身(ペルソナ)!!」

『バディアッープ!!思わぬ反逆羽ばたく黒翼!アルセーヌ!!お前の心を頂戴する!』

「湧いてきたぜ・・・!」


※変身する予定はありません


いやほんとに遅れてしまって申し訳無い・・・。リアルが忙しくなりまして全然手をつけられなかったのです・・・アリスちゃんのパンツあげるから許してください!その後の事は責任は負いませんが。

あれ?アリスちゃんどうしたの?君の出番はまだまだ先・・・待って!その指を下ろして!呪怨パワーを収めて!あ、ちょっと、アーッ!!


ちなみに地下のイシを取りに行った時のやりとりがこちら


「うわ・・・なんか強そうなのいる」

「すげぇオーラだ・・・」

「やつはかなりの強敵だ・・・皆、気を引き締めて行くぞ!」

「おう!」

「うん!」

『ええ!』

『ヒホー!』

『バンッ!』

「よし気合十分・・・バン?」

「ああぁあぁあぁぁぁ・・・・・・」

「よし」

「いや『よし』じゃないがぁ!?なに狙撃して落としてんだ!?」

「え?」

「今完全に皆で協力して攻略する流れだったじゃねーか!なに弾丸1発で終わらせてくれてんだ!」

「これが一番早いと思います」

「いや早いけども!合理的だけども!納得いかねぇーんだよぉー!!」


この後、イシが合体して皆ドン引きしてました


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The LUST

ハーメルンよ!私は帰ってきた!

うおぉおぉおぉおぉぉ!!!!越前止まんねぇ!!(止まってた)

というわけでまた期間が開きました、私です。ここ数ヶ月はとても忙しく、余り手をつけられていませんでした。仕事は多いし、展開は思いつかないし、競馬は負けるし、アメコミと特撮は両方向から激重展開してくるし、シンウルトラマンは面白いし、五等分の花嫁は最高だし。まぁ1番の原因はウマ娘なんですけども()

と言うわけでその分クオリティは上がって・・・・・・る訳では無く、寧ろ下がってる節があるのでご了承ください。


今回は長め

えいえい、巻き!


────オタカラ奪還、決行日

 

 

つまるところ、翌日

 

 

朝から気合を入れていつも以上に珈琲を楽しんでから登校した蓮。何やらやる気な感じな彼に「まさか彼女でも出来たか?」と総治郎に変な勘違いをされているとは知らずに学校にまで来ていた。

 

登校中に購買の焼きそばパンの話を耳にしてモルガナと世話話をした蓮は校門を通って直ぐに待っていた3人と合流した。竜司が妙にニヤニヤしてるので既に予告状を貼ってきた後らしい。杏と鈴井の目が若干引いていた。

 

ここでこれまでの展開を覚えている天才ニキ達は「鈴井おるやん!またガバか?」と思われるかもしれませんが、まぁ待て待て(謎の上から目線)

 

何でも、皆が戦うのに自分だけ安全な所で待ってるなんて出来ないと考えたらしく、怖くて堪らないだろうに学校まで来てくれたのだ。何と健気で勇気のある決断だろうか。アーカード兄貴に見せたら絶頂しそう。

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「で?作ってきたの?『予告状』」

 

「おう!今朝こっそり提示版に貼ってきたから見てこいよ!最高傑作が出来たぜ!」

 

ふっふーん!とまるで某アイドルでマスターに出てくる輿水で幸子な女の子みたいな胸の張り方をする竜司。相当出来に満足して、自信があるらしい。それを聞いて杏は若干怪しみながらも興味が湧いたようで予告状を見に行った。

 

提示版にびっしりと貼り付けられた予告状、そのうちの一枚を見て内容を読み上げる。

 

「ふーん、自信満々じゃん。どれどれ・・・

 

 

『色欲のクソ野郎 鴨志田卓殿。抵抗できない生徒に歪んだ欲望をぶつける、お前のクソさ加減は分かっている。だから俺たちは、お前の歪んだ欲望を盗って、お前に罪を告白させる事にした。明日やってやるから覚悟してなさい。

 

心の怪盗団より。』」

 

 

提示版に貼ってあった予告状の内容を見てきた杏はなんとも言えない顔をしながら戻ってきた。物凄くコメントに困ってる感じだが、とりあえず思っていることを口にしてみる。

 

「・・・なんかビミョー」

 

「はぁ!?どこが!?ちょーいい感じだろ!なぁ鈴井!」

 

「え!?えーと、あはは・・・」

 

「あれぇ!?」

 

予告状の出来にめちゃくちゃ自信のあった竜司は批評を受けるとそんなはずは無いと鈴井にも聞いてみるが、目を逸らされ意味深な愛想笑いをされる。どうやら、全員に受けが良くなかったらしい。竜司は何故!?と驚愕してる。いや、まぁ、センスがね・・・。

 

「なんというか、頭の悪さが滲み出てるというか」

 

「馬鹿なヤツが背伸びしてる感あるよな、マークもイマイチだし」

 

「で、出てねーし!なぁ蓮!」

 

「出てない出てない」

 

「ほら!」

 

杏とモルガナに切り捨てられ納得のいかない竜司が蓮に聞くとコクコクと人形のように首を縦に揺らしながら棒読みで同意する。赤べこかお主は。

 

「蓮!竜司を甘やかさないの!」

 

「甘やかさない甘やかさない」

 

「ロボットみたいになってる・・・」

 

カクカクとした動きでプログラミングされたように同意する蓮。全自動全肯定思考停止ロボット蓮君の爆誕である。ただし死んだ魚の目をしている。

 

そんなコントを繰り広げていると、モルガナが提示版の前にやってきた影を捉えた。

 

「見ろ、鴨志田だ」

 

「ッ!来やがったか・・・!」

 

全員で振り返ると確かに提示版に貼り付けられた予告状を怒りの形相で食い入るように見る鴨志田の姿があった。その様子は正に心当たりありありと言った感じで、焦りと苛立ちが入り交じった表情をしている。

 

「ッ!!これをやったのは貴様か!あぁ!?それとも貴様かぁ!?」

 

それを見られたからか、周りにいた生徒達にその感情をぶつけるように喚き始めていた。なんとも愚かしい滑稽な姿である。

 

「焦ってる焦ってる」

 

「相当効いてんなありゃ」

 

やがて周りにいた生徒達がその姿に恐怖し立ち去った後、こちらを見つめる蓮達を見つけズカズカと大股で近づいてくる。

 

「貴様らかァ・・・!?」

 

「はァ?んなわけねぇだろ、八つ当たりしてんじゃねぇよ」

 

「こんな事するのは貴様ら問題児しかいないだろうが!」

 

「何それ、いいがかりしないでくれます?」

 

「き、貴様ら・・・!この俺に楯突くつもりか・・・!?」

 

演技派な竜司と演技派(大根)の杏がすっとぼけながら鴨志田を煽るとこれまた分かりやすく激昂し始め、ビキビキと青筋を立て始める。そしてその怒りの篭った目を鈴井に向けるといい的を見つけたと言わんばかりに口を開いた。

 

「鈴井・・・お前まで俺に歯向かうつもりか?今まで部活で鍛えてやった恩を忘れたかァ?」

 

「ッ!」

 

相手の恐怖心を煽り、屈服させる様な口調。手馴れたその脅し文句に鈴井はビクリと肩を震わせたが、それを見た蓮が彼女と鴨志田の間に庇うように遮って立つ。ギラリと光るレンズの奥に潜む反逆の意思、それを見て鴨志田は苛立ちを隠せなくなったのか彼に手を伸ばすが・・・・・・

 

「どうかしましたか、鴨志田先生?」

 

「ッ!い、いえ、何も・・・少しコイツらに指導を・・・」

 

その時、タイミング良く現れたモブ教師が声をかけるとその手を直前で止め、わなわなと震わせた後に引っ込める。やはりな、と蓮は笑う。プライドが高く、立場が危ぶまれる事を恐れるが故に、第三者がいればコイツはなんの手出しも出来ない。鴨志田の最大の弱点だ。

 

「では私はこれで・・・覚えていろ」

 

モブ教師の前では何も出来ない奴はうっすい作り笑いで誤魔化し、これ以上ボロが出ないうちに去ろうとする前に、そんな捨て台詞を吐いた。

 

 

 

『クズ共が・・・ッ!』

 

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

そしてその瞬間、蓮達の前にパレス内の王が現実の鴨志田とリンクするようにして現れた。先程まで学校の廊下だったのが古ぼけた城の石壁となり、白Tシャツに下ジャージだった鴨志田も変態スタイルのパレスの王となってこちらを睨みつけてくる。

 

 

『盗ってみろ・・・盗れるものならな!!』

 

 

警戒心が上がるサイレンの音と共にそう啖呵を切ったパレスの王が消えると鴨志田の姿も普通に戻り、大股で去っていく背中が見えた。突然の事に身構えていた竜司達はバレないよう抑えていた汗を拭いながらモルガナに今の現象について聞く。

 

「今のは・・・・・・」

 

「あぁ、間違いねぇ。確実に反応していた。これならオタカラも現れてる筈だぜ。」

 

「チャンスは今日しか無いんだよね?」

 

「あぁ、予告状を目にするインパクトは長続きしないし、二度は起こせない。オタカラを盗めるのは今回限り、たった一回だ。」

 

「一日もありゃ十分だ!よっしゃ、なら早速パレス行ってぶんどってやろうぜ!!」

 

竜司の気合いの入った一声を皮切りにそれぞれ顔を見合わせて頷き合う。そして最後に蓮に視線が集まると彼は伊達メガネを外しながら玄関口に向けて振り返り、ニヤリと笑った。

 

「行こう、ショータイムだ」

 

そんな彼の背に竜司と杏も続き、校門を潜ると同時に彼らはパレスの中へと入って行った。そんな彼らを鈴井は見守りながら、両手を握って無事を祈っていた。

 

 

 

 

 

今、怪盗団の始まりの闘いが幕を開ける

 

 

 

 

 

鴨志田のオタカラを頂戴せよ!

 

 

 

 

 

パレスに入って一番最初に感じたのはその警戒度の高さ。昨日までとは違い、シャドウの一匹一匹が鋭い緊張感を纏い、いつものガバ警備とは打って変わって虫の一匹も逃さぬと言いたげなほどパレス全体に厳重な警備が張り巡らされた。それはシャドウの見た目にも反映され、何やら赤いオーラを纏い、目からは赤い光がライトの様に光っている。さながら人型のパトランプだ。

 

「おぉ・・・・・・こりゃ酷く警戒されてやがるな。これまで以上に慎重に動く必要がありそうだ。」

 

モナが耳をピクピクとさせてパレスの雰囲気を感じ取るとそう忠告する。確かに、これほどの警備の中動き回るのは困難を極めるだろう。

 

だが、とモナはニヤリと笑う。既にオタカラへのルートは確保し、警備の傾向からシャドウ達が手薄になる所も把握済みだ。つまり、とっくにこのパレスは攻略されたも同然なのだ。これも鴨志田が慢心の権化だった故である。他人を見下してばっかいるから足を掬われるのだ。

 

「けど、鴨志田の野郎俺たちがもうオタカラまでのルートを確保してるなんて夢にも思ってねぇだろうな!今更焦ってもおせーっつーの!」

 

「ほんとそれ、まぁおかげでリスクも少なくオタカラまで行けるから今だけはその能天気っぷりに感謝だね」

 

パンサーがふんっ、と口を尖らせて皮肉たっぷりにそう言うと全くだとスカル達も同意して城の頂上を睨みつける。そこに存在するオタカラを盗み出す為、彼らは動き出す。

 

「よし、じゃあ一気に行くぞ」

 

「「「おぉー!!」」」

 

 

そうして、予め確保していたルートを影と同化して突き進むジョーカー達。シャドウ達の目も掻い潜り、最速で最短でオタカラへと走る。高まった緊張感の中、闇に潜む蛇のようにスルスルと障害を避けて行く。

 

あっという間に頂上へと辿り着いたジョーカー達は王の間へと侵入する。前に来た時は鴨志田とその護衛がいたそこには誰もおらず、王である鴨志田の姿も見当たらない。恐らく、護衛は他の警備へと当たっているのだろう。鴨志田の行方は分からないが、いないのならば都合がいい。

 

扉の影から中を見回して誰もいないことを再度確認してからジョーカー達はオタカラのある部屋へと向かう。

 

「・・・・・・OK、クリアだ。行こう。」

 

「んだよ、思ってたより警備も厳重って訳でも無かったな。これなら余裕でオタカラ盗めんじゃね?」

 

「油断すんなよ、例え手薄でも何かあるかもしれねぇと考えとけ。お前が覚醒した時みてぇにな。」

 

「うっ、確かにそうだな・・・・・・ありゃもうごめんだ」

 

スカルはあの時の事(七話参照)を思い出して渋い顔をする。あの時はペルソナが初覚醒した時だから良かったものの、四方八方をシャドウに囲まれた四面楚歌の状況など二度とゴメンである。

 

「だとしても手薄過ぎじゃない?なんか罠でもあるんじゃ・・・」

 

「いや、その類は見当たらないな」

 

「吾輩にも何も感じない、多分ホントに何も無いぞ。どれだけ無警戒なんだ?」

 

サードアイで確認するジョーカーとキョロキョロと悪趣味な内装を見渡すモナ。彼の鋭い感覚には何も感じ取れない、まさか自分ですら見抜けない罠があるのかとモナは思ったがあの男にそんな物を設置できるとは思えない。自分の顔のギミックを設置するような奴だし。

 

「ならこのままオタカラまで行っちまおうぜ!」

 

「あ、おい!警戒しろっつってんのに!」

 

罠が無いと知るやいなやオタカラのある部屋へダカダカと走って行くスカル。何の迷いも躊躇いもなく駆ける彼に無警戒なのはコイツもだったと頭を抱えるモナとパンサー。

 

しかし警戒しすぎて身動き出来ないという状況も打ち破るあの頼り甲斐のある特攻隊長の背中が、ジョーカーは好きだった。それでこそだとニヤリと笑ってそれに続くとモナとパンサーも慌ててそれを追った。

 

「オッラァ!」

 

一足早くオタカラの部屋へ突っ込んだスカルは扉を思い切り蹴り破り中へと入るとそこには昨日と同じくオタカラがふよふよと浮いている。しかし、オタカラは靄だった昨日とはまるで大きく姿を変貌させ、実態を持って鎮座していた。

 

思わず、スカルは足を止めてオタカラに目を奪われる。

 

「な、んだこりゃあ・・・」

 

「スカル?どうしたの・・・って、これ!」

 

それに続いて部屋に入ってきて、様子がおかしいスカルを見た後にオタカラを目にしたパンサーも目を見開く。

 

ただただ漂うだけだった靄は暴かれた本心が、大切な物を奪われるという強い焦燥が主にとって大切だと思う物へ形を形成し、眩いまでの欲望の光を散乱させている。

 

その形は正に王の証、その光は正に王の穢れた威光

 

 

「これが、オタカラ・・・?」

 

「ああ、これが鴨志田のオタカラだ」

 

 

そこにあったのは・・・・・・

 

 

 

「でっっっかぁッ!!??」

 

 

 

クソでかい王冠であった!

 

 

 

「デカすぎんだろ!?こんなもんどうやって持ち出すんだよ!?」

 

「三人がかりで運ぶにしてもデカすぎるでしょ・・・」

 

「困ったな」

 

クソでか王冠は今でこそ浮いているが持とうものなら人一人分の大きさに加え豪華な装飾のせいでかなりの重量があるだろう。三人で運んでも時間がかかるし、シャドウに見つかる可能性も高まり、何より邪魔である。カバーアクションも使えないので隠密もクソもない祭りで神輿でも担いでんのかレベルで王の間を真正面から出ていく羽目になるのだ。アホか。無謀過ぎるわ。

 

まさかそんなおバカな盗み方をする訳にもいかず、どうしたものかと王冠を見上げているとさっきから黙っていたモナが体を大きく揺らし始めた。らしくないその挙動にスカルは?マークを浮かべながら声をかける。

 

「おいどうしたんだよモナ、急に震えて。う○こか?」

 

「ニャハーーッ!!もう我慢出来ん!オタカラァーー!!」

 

「は!?」 「え!?」「●REC」

 

しかしその瞬間、モナのテンションが爆発した!普段の姿からは想像できないほどのハイテンションで王冠に飛びついたモナはさながらマタタビに夢中な猫の様に恍惚としている。そりゃもう全身を擦りながら笑っている。ジョーカーは即座に録画し、その映像を脳内フォルダに保存した。なんて素早い仕事、俺でなきゃ(ry

 

「何やってんだこの猫」

 

「まるでボールを追いかける犬だな」

 

「猫じゃないんだ、例え・・・・・・」

 

ジョーカーが適当言いながらその光景を継続して脳内保存し、スカルとパンサーが呆然としている間もモナはすりすりと王冠に頬擦りをしていた。いつもの彼は何処へ行ってしまったのかと思うほどその姿は大変可愛らしかった。

 

「にゃふ!にゃふぅぅ!」

 

「って!何時までやってんだアホ!!」

 

「ハッ!!」

 

スカルの怒号によって漸くこちらに意識が帰ってきたモナは一気に冷静さを取り戻し、急いでオタカラから離れて擦り寄ったことで乱れた身嗜みをマッハで整えて一息入れたら気まずそうに振り返る。

 

「あ、いや、なんだ。レディの前ではしたない真似を・・・・・・。」

 

先程までの醜態を思い返して堪らず顔を赤くしながら頭を搔くモナ。はしたないというよりも微笑ましい光景だったと思うんだが、と1人後方保護者面しながら考えるジョーカーを置いて困惑するパンサーがモナの跳ねた毛を直しながら今の行動について聞いていた。

 

「や、別にいいけど。というか今のなんなの?完全にキャラ変わってたし。」

 

「吾輩にも分からん・・・・・・何故か体が勝手に動いたというか。」

 

恥ずかしそうに呟くモナに何言ってんだ?と言うような視線を送るスカル。とある性質に無意識的に惹かれるという彼独自の特性、というか感性なのでスカルが理解出来ないのも無理はないだろう。自分でも自覚はしてるのか居た堪れない様に目を右往左往させるモナにスカルは「別に責めてるわけじゃねぇけどよ」と軽くフォローを入れた。

 

優しい(幾万の真言)

 

「まぁいいや、んで?どうするよこれ。」

 

「ふむ」

 

「ペルソナで運ぶ?」

 

「目立つだろ」

 

「窓から投げる」

 

「それ不法投棄!」

 

「ゴミ扱いなのか・・・・・・」

 

 

とりあえず皆で考えるだけ考えてみる。そして考えついた結果・・・・・・。

 

 

「結局こうなんのかよ!」

 

「しょうがないでしょ、他に方法なんて無いし」

 

結局、3人がかりで王冠を持ち出すというおバカな盗み方をする事となった。怪盗としてこれ以上無いほど間抜けな図である。だって窓から投げ出すとかワイヤー使って外壁を降りるとかミッションなインポッシブルじみた事する訳にはいかないし。というかどう足掻いても奴は来るので戦いやすい様に中にいた方がいい。

 

ので、わざわざ変な案を出さず(当社比)に運び出しているジョーカーはそろそろかなとタイミングを測っていた。

 

「にしても重ェなこれ!」

 

「つべこべ言ってないで早く・・・」

 

「!2人共避けろ!」

 

そして変態の気配を感じた瞬間にそう叫ぶ!そんで同時にジャンプ回避!すかさず2人をアルセーヌの腕に包み、ある程度離れた場所に着地する。王冠を持ってなかったモナも持ち前の勘で察知していたようでジョーカーの近くに華麗に着地した。

 

一方、捨てられた王冠の近くには凄まじい勢いでバレーボールが着弾し、床にヒビを入れていた。あのままあそこにいれば確実に直撃し、痛手を負っていただろう。こんな卑劣な事をする変態は一人しかいない!

 

「な、なんだ急に!?」

 

「ビックリしたァ!いきなり掴まないでよジョーカー!」

 

「すまない、けどそうも言ってられないみたいだ」

 

「え?」

 

混乱している2人を他所に手放した王冠の方へ向くとそこには・・・・・・

 

 

「ふはははは!出てきたなネズミ共め!これだけは絶対に渡さんぞ!お前らの様な下等な奴隷が俺様のオタカラを盗もうなど100年、いや1000年早いわ!」

 

 

先程までジョーカー達がいた場所に見覚えのある変態すね毛野郎(鴨志田)が小さくした王冠を手に持ってこちらを見下していた。最早すね毛が名前になりつつある奴は相も変わらずニタニタと見る者をイラつかせる笑みを顔に貼り付けている。正しく殴りたい、この笑顔。

 

しかもその傍らには認知存在の猫耳ビキニの杏がくっついている。羨まけしからん。だが野郎が脳みそ真っピンクなのは今に始まった事じゃない。ここで変に挑発しても「我、王ぞ?」とふんぞり返るに決まってる。なのでスカル達は斜め上の方向から口撃を繰り出した。

 

「出やがったなこの変態野郎!汚ねぇすね毛見せんじゃねぇよ!」

 

「何なのそのすね毛は!早く隠して!」

 

「巫山戯たすね毛しやがって!」

 

「なんだ貴様ら揃いも揃ってすね毛を弄りおって!いいだろ別に!」

 

まるで事前に話あっていたかの様な華麗なコンビネーション。モナも『うるるる』と威嚇するように唸っている。これには思わず、鴨志田も動揺していた。しかも認知存在の杏に否定させない所を見るに意外と余裕がないくらいのダメージはいってるらしい。自信満々にさらけ出してる所をボロクソに言われたからだろうか。ザマァ。脱毛して出直してこい。

 

何だか妙に足元が落ち着かずにソワソワしだした鴨志田に対してスカル達は自らの武器を取り出して臨戦態勢に入る。そしていの一番にスカルが鉄パイプを肩に起きながらビシッと鴨志田を指さして啖呵を切った。

 

「ハ!ちょうどいいぜ、ここでテメェとの因縁に決着つけてやる!!」

 

「・・・・・・ふん!カスがいきがりおって!俺様が直々に始末してやる!」

 

「お、エンジンかかってきたな」

 

「ジョーカー、黙ってろ?な?」

 

「それはこっちのセリフだっての!何でも自分の思い通りになると思ったら大間違いなんだから!」

 

スカルを見て調子を取り戻した鴨志田はまた傲慢な顔に戻り、その手にある王冠をクルクルと指で回しながらパンサーに向けてにやけ顔を向けた。ジョーカーは茶々を入れてモナに叱られてた。シュンとするジョーカーを置いて会話は続く。

 

「ふっ、それは勘違いだなぁ」

 

「はァ!?勘違い!?あんた何をッ!」

 

ニヤを通り越して『ニチャア』という音さえ聞こえて来そうな程気持ち悪い笑みを浮かべた鴨志田は現実世界では決して公表しない自身が隠している所業を暴露し始めた。

 

「勘違いも勘違いさ、お膳立てをしたのは周りの連中だよ。俺様の実績にあやかりたい奴らが進んで動いていたんだ!分かるか?悪いのは俺じゃない!甘い蜜を求めてきた取り巻き共さ!!」

 

「そんな・・・!」

 

「腐ってるな・・・」

 

奴の口から明かされた事実。薄々、いや大方そうだろうと思っていた事だがそれを現実だと突きつけられるとやはりショックは大きい。余りにも腐り過ぎて聞きたくもない現実に思わず顔を歪ますスカル達。ジョーカーも余り表情は変わらないがその瞳は酷く冷たいものになっていた。やはりどれだけ周回してもこの胸糞悪い事実は聞くに絶えないと。

 

どれだけの人が傷ついてきたと思っているのか、どれだけの人が夢を潰されたと思っているのだろうか。いや、コイツらにはそんなもの全く、微塵も、これっぽっちも興味無いのだろう。なぜなら()()()()()()()()()()

 

ただ自分達が甘い蜜を吸う為に他人を蹴落としてきた奴らが生み出した負の遺産。穢れ大き王。それが目の前にいる男の本性。

 

それに気がついた時、鴨志田の体に変化が訪れる。

 

 

 

「世の中、結局は他人をどう利用するかだ。道具は使うものだ!誰だってそうだろうが!俺のやってる事は正しい事なんだよ!」

 

 

突如としてボコンッ!と膨張し始める目玉。それは留まることを知らず膨らみ続け、まるで出目金のような不気味な眼が人の何倍にも肥大化する。

 

目玉だけでは無い、その肉体全てが空気を入れられた風船のように、されど肉を流し込むように生々しく膨張していく。ベキベキと嫌な音を立てながら新たに生えてきた2本の腕、元の腕と合わせて4本腕となりそれぞれにナイフにフォーク、鞭にワインを握っている。体はシックスパックだった腹筋が残っているものの見るも無惨な肥満腹となり、ギョロギョロと動く目を填めた頭部はまるで肉食獣のように鋭い歯が生え揃っている。後ろの2つの金玉には触れないで置く。

 

そしてもじゃもじゃの髪から羊のような角が生え、先程ジョーカー達から奪い返した王冠を見せびらかすように被っていた。

 

 

 

そう、その姿はまるで・・・まるで・・・!!

 

 

 

「それを分からないバカが多すぎるんだ・・・・・・俺様は才能ある人間、言わば選ばれし存在!!他の人間共とは違うンだよォッ!!!」

 

 

「ああ、そうだな。お前は王でも、人間でも無い。腐りに腐った人の皮を被った・・・・・・!」

 

 

「ただの悪魔だ!!」

 

 

 

『そうさ!!俺は悪魔!!人の上に立つ者!!至高の存在なのだァァァァァッッ!!』

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

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カモシダ・アスモデウス・スグル

 

 

━━━━━━戴冠━━━━━━

 

 

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「お前ら気を引き締めろ!これまでの雑魚とは訳が違うぞ!」

 

 

「なに、あれ・・・・・・」

 

「へっ、腹の底が見えたな。それがホントの姿って訳だ!お似合いだぜ!」

 

鴨志田がパレスの王としての真の姿、『カモシダ・アスモデウス・スグル』に異世界事情にやや慣れてきていたが流石に理解が追いつかなくなったのか呆然とするパンサー。

 

対してスカルにあまり動揺はない。そも、彼は鴨志田の事を元から化け物と認識していた為か逆に漸く薄皮一枚の下にあった本性を剥き出しにしてやったと戦意を顕にしていた。

 

『潰してやるぞ虫けら共!王に逆らった者は死刑だァ!!』

 

「行くぞお前らァ!」

 

 

「決着を付けるぞ、鴨志田!!」

 

 

 

ナイフを突きつける鴨志田に対し、ジョーカーも同じくミセリコルデを突きつけて応えた。

 

 

 

──────第一関門、開幕だ。

 

 

 

 

『やれ!奴隷共!奴らを倒せば金でも名誉でも何でもやるぞ!勿論、女もなぁ!』

 

『きゃー!鴨志田様素敵ー♡』

 

「最っ低!」

 

「下品な野郎だぜ!!」

 

まず先手を取ったのは鴨志田、鞭を床に叩きつけるとそれに呼応して奴の認知によって奴隷となったバレー部達がどこからとも無く現れ整列し、銃弾のように強烈なスパイクを放ってきた。

 

「うぉ!ボール打ってきやがった!」

 

「気を付けろ、当たると追撃が厄介だぞ」

 

まさに銃弾、いやバレーボールの雨霰。だがその程度ではジョーカー達は怯まない。こんな直線だけの単純な、しかも威力も大した事ない弾幕など彼らは簡単に対処出来る。これならまだシャドウとの戦闘の方が危なげがあった。

 

「ハッ!」

 

「ラァッ!」

 

モナはガルによって軌道を変えることで外し、パンサーは鞭とアギで叩き落とし、スカルは逆にバットで打ち返していた。打ち返したボールは綺麗に跳ね返り、何体かの奴隷を弾き飛ばす。

 

勿論、ジョーカーも皆の様子を見ながら最低限の動きでボールを避けていた。見もしないでひょいひょいと避け、片手間に奴隷を撃って消していると手応えの無さにイラついたのか鴨志田が声を上げた。

 

『ええい何をやっているグズ共が!傷一つ付けられていないではないか!貴様らその程度の事も、ぐおっ!?』

 

腕をブンブンと振ってご立腹な鴨志田だったが余りにも隙だらけだった為にスカルのキャプテン・キッドから放たれたジオが鴨志田に直撃した。唐突なダメージにビキビキと血管を浮かばせながらスカルを睨みつける鴨志田。

 

「おー、わりーなァ?あんまりにも隙だらけだったんでよ?」

 

『き、貴っ様ァァ〜・・・!!よくもぉ!!』

 

「よっと!分かりやすいんだよばーか!」

 

『ぬぐ!?』

 

大層お怒りな鴨志田はスカルに対してフォークを突き刺したがヒラリと躱され、逆に突き出した手に新たなショットガン『ブランコ・サバス』をぶち込まれ思わず手を引っこめる。傷ついてこそいるが目立った傷が見えないのは流石はパレスの主と言うだけはある。

 

しかしダメージを受けたのは事実。どんな小さな傷でも王にとっては見過ごせない大事である。

 

『クソ!王である俺様に傷を・・・・・・!だがしかし・・・・・・!』

 

プラプラと手を振った鴨志田は傷ついた方の手に持つフォークで目の前に置いてあるトロフィーに入った《人の下半身だけの何か》を突き刺すと何とそれを貪り食い始めた!

 

「なっ!?」

 

「なにしてんのあいつ!?」

 

これには思わず口を抑えるパンサーと嫌なもん見ちまったと顔を顰めるモナ。だが、それを口にしてから鴨志田の体にある変化が起き始めたのをモナは見逃さなかった。

 

「おいあいつ、回復してるぞ!?」

 

「げぇ〜、気持ち悪っ!」

 

そう、なんとあんなものを食っただけで鴨志田は瞬く間に負ったダメージを回復してしまったのだ。ジオによってやや焦げ付いた肌も、スカルに負わされた手のダメージもすっかり完治し、元気いっぱいになってしまっている。なんつーインチキ。

 

だが目の前で食っててそのカラクリは全部お見通しな訳で。

 

「どうやら、あのトロフィーにあるゲテモノで回復するらしいな」

 

「それじゃあれを壊せば」

 

「もう回復は出来ねぇな!」

 

「狙いをトロフィーに絞れ!」

 

秀でた者が得られる金のトロフィー、そこに入った生贄らしき人々の下半身。何やら濃い闇を感じるが今はそんな事気にしている余裕は無い。ジョーカーの鋭い狙った一言によって狙うべき物を判断したスカル達は奴隷の攻撃を捌きつつ、トロフィーに向けて攻撃を仕掛ける。

 

『な!止めろクソガキ共!これがどれだけ価値あるものか知らないのか!?』

 

「止めろと言われると!」

 

「逆にやりたくなるな!」

 

鴨志田の必死の制止も虚しく、言われて直ぐにトロフィーを攻撃し始めるモナとスカル。いつもの犬猿の仲ならぬ猫猿の仲な様子はどこへやら、スカルの背にモナが立ちまるで幾年も共に戦ってきた戦友のように息ぴったりの連携を繰り出す。

 

トロフィーを守ろうとした鴨志田をモナのパチンコで抑え、邪魔な奴隷達をガルで吹き飛ばし、取りこぼしたバレーボールをスカルが弾きつつ、ジオで再び鴨志田の動きを封じる。

 

「今だ!パンサー!ジョーカー!」

 

「トロフィーをぶっ壊せ!」

 

「ああ」

 

「任せて!」

 

相手の攻撃を完璧に潰した2人は残る2人にバトンタッチをして決め手を任せるとパンサーとジョーカーは前に躍り出る。それぞれのペルソナ、カルメンとジョーカーはペルソナチェンジによってジャックランタンを呼び出すと互いにアギを唱えた。

 

「俺が合わせる、同時に行くぞパンサー!」

 

「OK!行くよジョーカー!」

 

『やったるひほー!』

 

「「 FIRE!! 」」

 

そしてジョーカーがパンサーに合わせて同時に同出力のアギを放つ。カルメンの掌から、ジャックランタンのランタンの灯火から撃ち出され完全なタイミングで二方向から放たれたアギはやがて突き進む中で交わり、一つの強力な炎塊となってトロフィーに炸裂した。

 

その炎塊は瞬間的な火力はアギの上位版、中級魔術であるアギラオを超える程であった。勿論、そんな攻撃をトロフィーが耐え切れる筈もなく呆気なく炎塊によって破壊される。その余波で鴨志田もダメージを受けたようで熱そうに手を払っていたが、トロフィーが破壊されているのを見て酷く狼狽え始めた。

 

『あ、ああぁあ〜〜!!ト、トロフィーがぁぁ〜〜!!??全日本で優勝の時のぉ・・・・・・!!』

 

それほどショックだったのか、予想以上に動揺している鴨志田。そして攻撃がピタリと止んだこの瞬間を見逃す程、ジョーカー達は甘くなかった。

 

「よし!一斉攻撃だ!」

 

「しゃあっ!」「行くよ!」「トゥッへァー!」

 

一気に袋叩きにしてやろうと鴨志田達に一斉攻撃を仕掛けるジョーカー達だったが、それは他ならぬ鴨志田自身によって阻まれた。

 

『よくも、よくもぉぉおぉぉ!!絶対に許さんぞ虫けら共!じわじわとなぶり殺し、いや!確実に()()()()()くれるわぁ!!』

 

トロフィーを壊された事によって怒りが爆発した鴨志田は怒号を上げると同時に強い魔力の突風を吹き出し、それでジョーカー達を吹っ飛ばして強制的に引き剥がした。突然の事にも動じずに綺麗に着地をしたモナとジョーカー、何とか転ばずに済んだパンサー、派手にすっ転ぶも直ぐに起き上がるスカル。

 

「くっ、無理矢理距離を引き離されるとは!」

 

「あっぶな・・・!もう、悪あがきすんなっ・・・・・・て!なんかアイツ変じゃない!?やばくない!?」

 

パンサーの驚愕した声につられて鴨志田の方を見ると確かにヤバめな雰囲気を纏っている奴がいた。ドロドロと毒のような魔力が溢れ出し今まで無かった悪魔感を増幅させながら鴨志田はこれまでで1番力を込めて鞭を床に叩き付けた。

 

『おい奴隷共!!()()持ってこい!!』

 

鴨志田がそう叫ぶとまだ残ってた奴隷達が慌ただしくダカダカと喧しい足音を立てながら奴の指す()()とやらを持ってきた。

 

「あれは・・・・・・」

 

「またバレーボールかよ!」

 

その()()とやらは先程までの奴隷達が使っていたのとは大きさが段違いな鴨志田専用のバレーボールであった。悪魔状態の鴨志田の顔面程の大きさもあるそれを見てモナは警戒を引き上げる。

 

「ありゃあやばいぞ!注意しろ!」

 

ジョーカーを除く2人よりも経験豊富なモナからの一言でただの攻撃ではないと認識したスカルとパンサーは身構える。戦闘の勘においてはジョーカーにさえ並ぶモナのその予感は正しく、これから放たれる一撃は鴨志田にとって最も高威力な技であった。

 

だがそれよりも驚く事が起きる。

 

『よし、来い!三島ァ!』

 

 

「はいぃ!た、ただいまぁ!!」

 

「は!?」「えぇ!?」

 

鴨志田がもう一度鞭を叩くと、奥の方からジョーカーとパンサーのクラスメイト、そしてスカルも知っている地味めな男子『三島由輝』が足をもつれさせながら走ってきた。現実世界と寸分違わぬ彼の姿にスカルとパンサーは大いに動揺し、思わず構えを緩めて彼に声をかけてしまう。

 

「三島!?おまっ、なんでここにいんだ!?」

 

「どうやって入ってきたの!?私の時みたいに巻き込んで・・・・・・」

 

「落ち着け!ありゃただのシャドウだ!本物がここに居るはずが無いのは分かってるだろう!」

 

動揺する2人に対し、ピシャリとそう言い放つモナ。その通り、自分達が異世界に入る時に誰も巻き込まないように確認してから潜入したのは分かっている。そもそも彼は教室に居るはずだ、巻き込まれようがない。だがやはり目の前で本物そっくりのシャドウが現れると反応してしまうのは仕方がないと言える。ご丁寧に傷や包帯なども再現してるのが腹が立つ。

 

(アイエエエエエエ!!??三島!?三島なんで!?)

 

かくいうジョーカーも内心割とビビってた。一瞬で切り替えたものの、三島シャドウなど今まで見た事も無かったので「え!?三島覚醒フラグ!?」と結構動揺して珍しく目をまん丸にしていた。

 

『遅いんだよ愚図が!呼んだら1秒以内に来いといつも言ってるだろうが!』

 

「も、申し訳ございません!」

 

そんな三島シャドウが鴨志田の横に来ると彼に鞭を叩きつける。他の行動と同じく普段から行われている体罰の現れだろう。胸くそ悪くなるが今から来る攻撃はそれに気を取られていると一瞬でやられてしまう大技だ。3人を庇えるよう前に出てて何時でもアルセーヌを呼び出せるようにしておく。

 

『まぁいい、さっさとトスを上げろ!』

 

「は、はいぃ!!」

 

そうこうしてる内に鴨志田はその巨体では考えられないぐらい軽やかな動作で飛び上がり、それに合わせるように三島シャドウは奴隷が上げたクソデカボールを特に苦もなくトスで鴨志田の元へ上げた。マジかお前。

 

まさか、と感づいたジョーカーを除く3人だったが既に鴨志田はスパイクの体勢に入っている。阻止しようにも既に遅かった。

 

『見せてやろう、これが現役の頃ブイブイ言わせていた俺様の必殺スパイクだ!!『必』ず『殺』すスパイクだァ!!』

 

奴は信じられない位のど外道だが元オリンピック金メダリストの実力は伊達では無い。その醜悪な見た目からはおよそ似つかわしく無い程綺麗なフォームでボールを捉え、無駄を排除し、しならせた体の力を最大限伝えた完璧なスパイク。

 

名を『金メダル級スパイク』!

 

 

まんまじゃねぇかッッ!!

 

 

『これが世界を掴んだ一球だァッ!!』

 

 

ドンピシャなタイミングで叩き込まれたスパイクは殺人的な加速力を持ってまるで流星の如くジョーカー達へと放たれた。予想以上の迫力に碌に防御体勢も取れてないスカルとパンサーを庇うようにモナがゾロを召喚して何とか弾こうとするが咄嗟に取った行動の為、このまま行けばモロにボールの威力を食らうことになるだろう。

 

だからこそ、それを事前に知っていたジョーカーが前にいたのだ。

 

 

「アルセーヌッ!!」

 

 

『ハァッ!!』

 

 

予め溜めていたエイガオンを金メダル級スパイクに向かって放つ。少しでも勢いを殺す、あわよくば返してやろうと考えていたがここでジョーカーは思わぬ誤算に気がついた。

 

(今までよりも威力が、()()ッ!?)

 

 

これまでの周回の中で同じようなことをしてスパイクを防いでいたジョーカー、しかし今回のスパイクは比べものにならない程、威力が向上しておりこのアルセーヌをもってしても相殺できず、逆に押し返されている。

 

(この威力では逸らしても後ろの3人が巻き込まれるかもしれない・・・・・・なら!)

 

 

「済まない、頼むアルセーヌ」

 

『クク、構わんさ。我は汝の片割れ故にッ!』

 

 

予想外の事態にも焦らずに状況を整理、即座に最善の判断、決断を済ませる。覚悟がガンギマッているジョーカーはアルセーヌに謝罪しながらスパイクを止める為に、エイガオンを掻き分けてきた金メダル級スパイクに向けて鋭利な爪を立てて『ブレイブザッパー』をぶつけた。

 

 

その瞬間、轟音と衝撃波が辺りに響き渡った。

 

 

「ぐ、うぅ!」

 

『これは、中々・・・・・・!』

 

本来ボールからは鳴らないであろう金属音をギャリギャリと響かせながらアルセーヌの爪とぶつかり合う金メダル級スパイク。エイガオンで威力を減らしたにも関わらず拮抗するのを見るとどれだけの威力か伺える。手が裂け、血が飛び出るのを感じながら少しでも力を抜けば確実に押し負けると確信し、床を力強く踏み締めて耐える。

 

「ジョーカー!?」

 

「嘘だろ!ジョーカーでもキツイのかよ!」

 

「馬鹿!言ってる場合か!手を貸すぞ!」

 

「っ!そうだ、悪ぃ!今助けるぜ!」

 

あの普段は余裕すら見せるジョーカーでさえ苦戦する威力に驚愕する2人だったがモナの喝に気を取り戻し、自分達もボールを止めるのに加勢する。その声を聞いたジョーカーは瞬時に後ろに下がり、その代わりにすかさずスカルとモナがボールに攻撃を加える。キャプテン・キッドの舳先とモナのレイピアの先端がボールに突き刺さり更に勢いを殺す。

 

「ハァァッ!!」

 

「オラァ!」

 

アルセーヌのブレイブザッパーでかなり威力を下げられていた為、2人の攻撃で金メダル級スパイクは弾かれ部屋の窓を突き破って外へと飛んで行った。何とか渾身の一球を防いだジョーカー達。

 

(何とか凌いだか)

 

その事に少し安堵するジョーカーに駆け寄り体を支えるパンサー。

 

「ジョーカー!大丈夫!?」

 

「ああ、少し右手を痛めた位だ」

 

「痛めた位って、血が出てんじゃん!」

 

ペルソナ使いは己の半身であるペルソナとは感覚がリンクしてる為、受けたダメージがそのままとは行かずとも返って来てしまう。だがジョーカーの場合はそのリンクを極限まで高めて精度やステを底上げしているのでほぼ全てフィードバックされてしまうのだ。

 

それ故にジョーカーは先のスパイクのダメージを諸に受けて手から血を流していた。手袋によって直接は見えないが恐らく中は酷い有様になっているだろう。

 

だが死ぬこと以外は無傷が心情のオリハルコンメンタル持ちである蓮は顔色一つ変えずに懐から武見印の『ナオール錠50mg』を取りだし、口に入れて噛み砕く。するとなんということでしょう、現実ではありえない速度で傷が治り血も止まって手が元通りになったではありませんか。

 

「よし」

 

「えぇ!?それだけでそんな直ぐに回復するの!?」

 

「これくらいならな、パンサーは大丈夫か?」

 

「あ、うん。ジョーカーが庇ってくれたし。」

 

「なら良かった、怪我したら直ぐに回復してくれ。スカルとモナもな。」

 

「庇ってくれた奴に言われちゃ立つ瀬がねぇな!」

 

「済まないジョーカー!反応が遅れた!」

 

金メダル級スパイクを弾いた2人もジョーカーの元へ下がってきて負傷を治した彼へそう声をかける。「大丈夫だ、問題ない」と問題ありそうな返答をしたジョーカーだが、その目は先の悪魔から外されていない。それはそうだ、なぜならこれはただの()()なのだから。

 

「大丈夫だ、それより警戒しろ。()()()()()()()()()

 

「「「 !! 」」」

 

 

『うぅ〜ん、やっぱり三島じゃ調子が出ねぇなぁ。おい、目障りだ!さっさと消えろ!!』

 

「も、申し訳ございません鴨志田様ァ!」

 

 

ぐるぐると肩を回しながら三島を怒鳴って下がらせる鴨志田。なんと驚くべき事に今のジョーカーですら止めきれなかった一撃が本調子では無かったのだ。ありえない、アレだけの威力があって不完全だと言うならば本調子の一撃を食らえばどうなるか。想像に容易い。下手しなくてもゲームオーバーである。

 

「う、嘘だろ?あれが本気(マジ)じゃねぇってのかよ!?」

 

「あれ以上と打たれたりなんかしたら・・・!」

 

そう戦慄する3人を他所に、鴨志田はまた鞭を叩きつけて奴隷共に向かって叫び散らかした。

 

『次だ次!さっさとボール持ってこい!』

 

あんなものを二度も打たれたらとてもではないがこちらの身がもたない。何とかしてスパイクを阻止しようとジョーカー達はボールを待って無防備な鴨志田に向かって攻撃に移ろうとした。

 

「打たせてたまるか!その前に潰してやる!」

 

「っ!!ちょ、ちょっと待って!!」

 

スカルが鉄パイプを握り締め今まさに特攻を仕掛ける!という所でパンサーが大きく声を上げた。出鼻をくじかれた様な形となったスカルが「あんだよ!?」と苛立ちげに叫ぶとパンサーが鴨志田の後ろからゆっくりと歩いてくる人物を指さした。

 

 

「今度は誰だっつーんだ・・・よ・・・」

 

「な、あれは・・・・・・!?」

 

 

コツコツと足音を鳴らしながら歩き()()の人柄を知っていれば断じて着るはずもない破廉恥な白のバニーガールのコスプレをして鴨志田に対して媚びるように尻尾を揺らしている。()()()()というのがこれ程似合う状況は無いと思う程に、その人物が現れるのは予想外過ぎた。

 

 

「なんで・・・・・・」

 

 

 

 

そう、彼女の名前は。

 

 

 

 

 

「何で、志帆がいるの・・・・・・!?」

 

 

 




瞬殺がパレス内でも適用されることに2年近く気が付かなかった男!スパイダーマッ!

あとペルソナコンプして、パーフェクトアルセーヌを作って各属性最強ペルソナを作ったりなんだりして満足してた俺氏、アワードコンプでめちゃ強アイテムを貰える事を知らなかった(アホ)

しかもそのうちの1つに『愛大き怪盗紳士』という対俺特攻の項目が・・・・・・ラスボスより攻略ムズいってか、めんどくねー?

あ、そうだ。考えるだけ考えて小話の方に出なかった逆位置ペルソナ置いときますね。適当なのであまり深く考えないで大丈夫です()

(アルカナ)(ペルソナ名)
(魔術師)サマエル、ヒュドラ
(女教皇)カーミラ
(女帝)ヘラ
(正義)メアリー・スー
(運命)アラクシュミー
(剛毅)カーマ
(刑死者)タルタロス、イクシオン
(死神)ペスト
(節制)サンソン、ギロチン
(悪魔)ディアブロ
(塔)バベル
(星)テスカトリポカ
(月)ヒュプノス
(太陽)コキュートス
(審判)アンラ・マンユ





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Steal it, if you can

自分の葬式には米津玄師さんの『M87』を流してもらう事にします。私です。

チェンジ全開、じゃなくて前回は半端な長さになってしまい申し訳ない。1つにすると長くて見にくいかと思ったので・・・。まぁ知っての通り文才が無いので纏められなかっただけなんですけどね!

意外と皆さんに待ってて貰えててとても嬉しいです!これからも頑張ります!(尚、投稿は不安定な模様)

そしていつも感想、誤字報告ありがとうございます!ほんとに助かります!

今回も、短めパワー!ゼンカイザー!


 

 

 

お宝を盗み出すために鴨志田へと予告状を出したジョーカー達。そしてお宝を盗み出すあと一歩の所でパレスの主、カモシダ・アスモデウス・スグルによって阻まれてしまう。戦闘中、強烈な技を放とうとした鴨志田に警戒していた彼らの前に現れたのはジョーカー達の仲間であり、パンサーの親友。『鈴井志帆』であった。

 

まさかの出来事に放心してパンサーも、スカルも、モナも皆一様にバニーガール姿の鈴井を信じられないと目を丸くして見ていた。先の三島の時よりも衝撃が強かったのか鴨志田の目の前にいるというのに固まってしまっている。

 

ただ1人、気を抜かず冷静に戦況を見ているジョーカーを除いて。

 

 

 

 

 

 

 

(アイエエエエエエ!!??鈴井=サン!?!?鈴井=サンナンデ!?!?)

 

 

 

前言撤回、一番動揺していたのがこの男であった。

 

 

顔は得意のポーカーフェイスという仮面を被っているが内心では想定外過ぎる状況にこれまで見た事ないくらいめちゃくちゃ乱心していた。三島だけでも驚愕でボロが出そうだったのにそこに鈴井までお出しされたら最早ビックリ仰天激ヤバチョモランマである*1

 

(いや待て落ち着け彼女がここにいるはずが無い、あの鈴井さんはシャドウだ。それに彼女があんな格好する訳が無いだろう。そうだ、それは理解してる。けど三島もだが彼女がここに現れたことなんて今まで無かった!なんなんだ今回の世界は!)

 

注視しなければ分からないほど薄い一筋の汗をかいて無表情の仮面が剥がれそうになるくらい驚いたと言えばその衝撃も分かりやすいだろう。余りのイレギュラーに脳が軽くバグるくらいには困惑してしまっている。だがここで少し錯乱した事でジョーカーの意識は別の事へギアが入ってしまった。

 

(というか・・・・・・何だあの衣装は。バニーガールだと?確かにいいチョイスだ。大事な部分は隠されているのにお腹と四肢がもろ見え、しかも手首にモフモフのアクセ、そして丸い尻尾。成程、確かにセクシーだ。見る者の目を奪うだろう。だがそれは鈴井に合った衣装じゃない。彼女にこんな肌面積の無い物を着せるなど情欲に塗れた怪物らしい安直さだ。もしここに恥じらいというワンポイントがあれば話は別だがあんな媚びを売る様な態度で着ている鈴井さんなど解釈違いにも程がある。ブチ切れそう。彼女にはパジャマ風のうさぎ衣装やゴスロリのようなドレス衣装などの可愛い系の方が似合うに決まっている。いやあえてディーラーなどのキッチリとした衣装も似合うかもしれない。つまるところ奴は彼女の良さを全然活かせていない!!何故やたらと脱がせたがる、着衣には着衣にしか出せない気品と華があると言うのに!エロの事しか頭に無いのかこの鴨志田!!)

 

と、ジョーカーは早口で憤慨する。違う、そうじゃない。

 

何故か脳内で衣装についてブチ切れていたジョーカーはいかんいかんと軽く頭を振り思考を切り替え、鈴井に似合いそうな衣装リストを一旦心の奥底にしまってから対策を考える。

 

(さて、どうするか。あのスパイクを二度喰らいたくは無い。しかも先以上の威力となれば確実に押し負ける。ならトスを上げる鈴井さんを狙うか?彼女の姿をしているが所詮はシャドウ。迷う必要も無い。)

 

カチャリと重い音を出すR.I.ピストルの引き金に指をかけてそんな冷たい思考を過ぎらせる。そう、結局はガワが鈴井なだけのハリボテだ。撃とうと思えば簡単に打ち消せる。

 

そんな事を考えていると鴨志田が鈴井シャドウをその手で抱き寄せ・・・・・・

 

 

『おぉ、いーい子だ鈴井。ったく!他の女共も俺様に対して従順であるべきなんだ!コイツみたいになぁ!!』

 

 

 

(よし殺す*2。)

 

ねっとりとその長い舌で鈴井シャドウを舐るのを見て一瞬にして殺意MAXになったジョーカー。いつもの温厚さはなりを潜めまるで張り詰めた弓矢のような一点に凝縮した殺意を鴨志田に向けて解き放とうとして、しかしコンマ1秒で冷静さを取り戻し殺意を収めた。いかんいかん、危ない危ない危ない・・・(申レN)

 

(落ち着け落ち着け、まだあわてるような時間じゃない*3判断を間違えてはならないぞ。あんな物を見せられてるパンサーの前で彼女を撃てば信頼関係が揺らぎかねない。ここは鴨志田を妨害するのがベスト。というか鴨志田狙う以外無い。その飛び出た目玉ぶっ潰してやる。)

 

思ってたより静かにブチ切れているジョーカー。多分、性癖の解釈違いが半分を占めてる。まだ少し暴走気味な彼を見てアルセーヌはやれやれとシルクハットのブリムを摘みながら呆れていた。

 

 

「志帆・・・!」

 

「落ち着けパンサー!あれは本物じゃ・・・」

 

 

「分かってる!!」

 

 

「!」

 

そんなジョーカーの耳にパンサーの怒号が聞こえてくる。彼女の方へ振り返るとパンサーはキツく両手を握り締め、俯きながら震えていた。それを見た瞬間、ジョーカーはあらゆる雑念が消え、怒りも沈静化し元の冷静さを取り戻した。

 

ああ、そうだ。これに本当に一番怒っているのは彼女だ。

 

目の前で親友を歪ませられ、弄ばれ、そして侮辱された。それも自分と同じ様に己の意のままに動く玩具にされるという最大の侮辱だ。

 

耐え難い怒りが、憎悪が、そして悲しみが彼女を襲ってるだろう。そんな時に自分は何をしている?下らない事を考えてる場合か?

 

今自分がすべき事はこの怒りを足に込め己を、そして仲間を支える礎とし、最大限彼女のサポートをする事だ。

 

ミセリコルデを握り直し雑念を消したジョーカーはパンサーの傍まで歩き、彼女の肩を優しく叩いた。

 

「パンサー」

 

「ジョーカー・・・・・・」

 

「ぶん殴ろう」

 

「!」

 

その一言に顔を上げ、仮面の下で目を丸くしたパンサーにジョーカーはグッと握り拳を見せて笑う。

 

「あの変態の顔にキツイのお見舞いしてやろう」

 

あまりに単純。励ましでも何でもないまるで遊びに誘うかのような軽い言葉。複雑に考える必要は無い。友を侮辱したあの悪魔に文字通り、怒りの鉄拳を振りかざすのだ。

 

 

「うん、そうだね・・・!ぶん殴る!」

 

 

怒りに歪んだ顔から打って変わって『絶対にぶん殴る』という決意を固めたパンサーはギュッと拳を握って宣言した。

 

 

 

「そんで、何度でも思い知らせてやる。私は、私達は!あんたなんかの玩具じゃないって!!」

 

 

 

「よっしゃ!やってやろうぜパンサー!鈴井にあんなマネしたんだ、ギッタギタにしてやろうぜ!」

 

「こいつと同じ意見なのは癪だが、吾輩達も鈴井をバカにされて頭にきてんだ!覚悟しろよ鴨志田!」

 

そしてパンサーとジョーカーの後ろからスカルとモナが歩いてきて、怒りを顕にしながら横並びになる。それぞれの武器を構え、担ぎ、そして戦意を漲らせて。ただ一つ、友の為に。

 

 

それを見て相対する鴨志田は心底下らないものを見るように見下している。彼の目に映る『仲間』という存在を軽蔑するように。孤高、いや孤独な王となった鴨志田にはまるで価値が分からないのだ。その仲間との絆とやらは。

 

 

『はん!クズが粋がるな!俺は!世界に輝く鴨志田様だぞ!貴様らが刃向かっていい相手じゃないんだよォ!!』

 

ジョーカー達とは対象的に独りで笑う鴨志田。城の王という権力の頂点に立つ奴にとっては全てが茶番、おままごとにしか見えていない。

 

たった一人で玉座を手に入れたと()()()()()()のに。

 

 

「・・・テメェ1人の力じゃねぇだろうが!!」

 

『・・・・・・あぁ?』

 

 

だが、スカルの鋭い一言に動きを止めた。

 

鴨志田がスカルを睨むと彼はメンドーくさそうにガリガリと後ろ髪を掻きながら睨み返しながら続きを話し始めた。

 

 

「俺よォずっと思ってたんだよ。なぁ、バレーはチームで戦ってんだろ?ならテメェだけで世界取れた訳じゃねぇだろ!あぁ!?それをさも自分だけのもんだと思い込みやがって!」

 

『ち、違う!世界で勝てたのは俺様のスパイクのおかげで・・・・・・!』

 

 

スカルの言葉に鴨志田は分かりやすく動揺している。そこに畳み掛けるようにスカルはずっとずっと心の底にあった言葉を正面からぶつけた。

 

 

「そのボールを上げたのは!そのボールを拾ったのは!相手のボールを防いだのは!全部てめぇか!?あぁ!?」

 

 

『・・・・・・黙れ』

 

 

「いい加減気づけよ!お前も!誰かに支えてもらってたんだろうが!!」

 

 

『黙れぇぇぇぇぇ!!!!!!!』

 

 

恐らく、自分が最も目を逸らしていた事を最も毛嫌いしている相手に核心を突かれる様に言われた鴨志田は今日一番の激情を見せて、その体から魔力の嵐を吹き出した。

 

その威力は凄まじく、辺りの装飾を全て吹き飛ばし部屋の窓も全て割れ、近くにいた鈴井シャドウも勿論吹き飛んで壁に衝突して泥のように溶けてしまった。

 

獣の如く息を荒立たせる鴨志田の充血して真っ赤な瞳は、先の風に晒されても微動だにしていないジョーカー達を捉える。まさに怒髪天を衝くという状態の鴨志田を見てモナはジト目でスッキリしたスカルを見上げた。

 

「・・・・・・おい、どうすんだあれ」

 

「悪ぃ、でも後悔してねぇ」

 

「お前なぁ・・・まっ、お前が色々言ったから吾輩もスッキリしたが。」

 

「両思いか」

 

「「やめろよ気持ち悪い!!」」

 

スカルとモナのやり取りを見てたジョーカーの一言に食らいつく2人。それを見てクスリと笑うパンサー。どこまでもリラックスをしている彼らを見て舐められていると感じた鴨志田は更に怒気を強めた。

 

『覚悟しろ、息の根を止めてやる』

 

「そうか、なら俺達は・・・・・・お前の(オタカラ)を頂戴する」

 

 

『ほざけえぇぇえぇえぇぇ!!!』

 

 

絶叫を上げた鴨志田が四足で駆け出し、ジョーカー達に向かって飛び跳ねると今までとは比べ物にならない程の速さでナイフとフォークを突き出して来る。喰らえば串刺し、もしくは真っ二つなその攻撃をひらりと躱したジョーカー達は散開してそれぞれ鴨志田に向けて攻撃を始めた。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」 「あぁ!」 「うん!」

 

 

『おのれっ!ちょこざいなァ!』

 

 

右からはスカルとパンサーのジオとアギが、左からはモナのガルが、そして正面からはジョーカーの銃弾の雨が鴨志田を襲う。だが奴はパレスの主、これまでに見た通りそれ相応の耐久力を有している。詰まるところ、タフだ。この程度では怯みこそすれど、倒せはしないだろう。

 

その証拠に左右からの攻撃をそれぞれの腕で受け止め、銃弾をある程度受けると舌で弾き始める。並大抵の敵なら今ので沈んでるハズだ。なので、ある()()を突く必要があるのだ。

 

「ふんぬァ!」

 

「フッ!ハッ!」

 

スカル達の攻撃を受けた際に出た煙を掻き分けるように現れたキャプテン・キッドの突進と、ゾロの剣撃が鴨志田に迫るがその4つの剛腕でそれらを受け止めてしまう。

 

『ゲハハハ、捕まえたァ!』

 

「ちっ!離しやがれ!」

 

「この!・・・なんてな!」

 

『なに、ぐおっ!?』

 

2人の攻撃を止めて余裕の表情で浮かれていた鴨志田のがら空きの顔面に素早く移動していたパンサーの鞭、そしてカルメンのアギが直撃した。これには思わずたたらを踏む鴨志田。その隙を突いてスカルのショットガンとモナのパチンコが追撃した。

 

『うぐぐ!?クソォ!!』

 

追撃を喰らった鴨志田はそれでも倒れずスカルとモナを薙ぎ払うようにナイフを振るった。回避しようにも攻撃の直後でスカルは間に合わずギリギリ避けたモナとは違いこのままでは直撃である。これには思わず「やべっ!」と咄嗟に防御態勢をとったがそれでも大ダメージを負ってしまうだろう。

 

モナも、目を見開いて助けようとするが回避行動中なので間に合わない。ジョーカーとパンサーも距離的に助けには入れない。では、このままスカルはやられるしかないのか。

 

否、ジョーカーがいる限り彼がそれを許さない。

 

 

「チェンジ『ゲンブ』、『ラクカジャ』」

 

 

パキン、と仮面が割れた音が響くとスカルを紫色の光が包み込む。その直後、ナイフがスカルを襲う。それを見た鴨志田は殺った、と確信した。

 

 

ガキッ!!

 

 

『んん!?』

 

だが、ナイフから伝わってきたのは人体を切った感覚では無く。まるで金属に刃を当てたような硬質な物だった。そして、勢いそのままスカルを吹き飛ばす。壁に当たったがドスッとまるで固く重い物体がぶつかったような鈍い音が鳴り、思わずスカルの方を見る。

 

当然、感覚通り彼は斬られておらずましてや大ダメージを負った様子も無い。「イテテ」と軽く頭を抑えてる程度だ。

 

有り得ん、と驚愕する。あれほどの勢いで攻撃したのに仕留め損ない、大したダメージにもならずにいるなんて。どういうカラクリだと考え、攻撃が当たる直前にスカルの体が紫に光ったのを思い出した。

 

直感的に、バッと彼の方へと振り返る。

 

『・・・・・・やはり貴様かッ!』

 

鴨志田の視線の先には先程とは違うペルソナを従えたジョーカーが居た。淡い光を纏ったそれは亀の姿に龍蛇の尾を持つ中国の神話や思想に多く登場する『四聖獣』の一角、『ゲンブ』が彼の盾となる様に構えている。亀の頭と龍蛇の頭の2つで威嚇をして鴨志田を睨んでいた。

 

「さて、なんのことやら」

 

ゲンブの龍蛇を撫でながらそう返すとそれはもう面白いくらいにイラついて青筋を立てまくっている鴨志田。メロンみたい。

 

煽る為にすっとぼけているが、勿論彼の仕業である。スカルに攻撃が当たる前に彼は防御力が上がる魔術『ラクカジャ』を()()()()してスカルに積んだのだ。当然、ゲームではそんな芸当は出来ず、なんならリアルなこの世界でも本来2回唱えて効果を伸ばすだけで重ねる事は出来ない。

 

だが、気の遠くなる試行錯誤の末ジョーカーはそこにある裏技を発見した。

 

2回目以降に更なる向上効果が望めないなら、1回の発動に2回分の魔術を重ねればいいじゃない、と。

 

お前はなにを言ってるんだ*4

 

こいつの言ってる事はつまり、1回の斬撃で3つの剣筋を生み出せるというとあるNOUMINがTSUBAMEを斬る為に生み出した多重次元屈折現象を発生させる技みたいな無茶ぶりを現実にしてしまったのである。

 

つまり普通に高等技術過ぎてヤバイ理論上可能な方法を可能にしてしまった変態野郎だ。そしてこの場合、ラクカジャの効果は倍近くの効果があり超高等技術の名に恥じない破格の効果を誇っている。

 

ちなみに少しのズレが魔術の不発を呼び、互いの干渉によって1回分以下の効果になってしまう為注意が必要だ。

 

『おのれぇ・・・・・・!!思えばいつもそうだ!!何か不都合があれば必ず貴様がいる!!貴様が来てから俺の統制が乱れ始めたんだ!!貴様のせいでェ!!』

 

そんな変態技術でスカルを救った変態に怒り狂う変態はグワシと近くにあったバレーボールを乱暴に掴み取ると魔力を注ぎ込み、巨大なボールに変化させる。

 

「げ!あの野郎またあれやるつもりか!」

 

「打たせるな!攻撃して止めるんだ!」

 

『邪魔だァ!』

 

それを見て妨害しようとスカル達が攻撃を仕掛けるが鴨志田は長い腕でのリーチを生かし空いている2本の腕を振るってそれを妨害する。それに直接当たる事は無かったがそれによって発生した強風で近づけなかったスカル達。その隙に鴨志田はボールを1度手の間でギュルリと回転させてから宙に投げ、サーブを上げる要領で飛び上がり再び金メダル級スパイクを放つ・・・・・・

 

『死ね!虫けらァ・・・ァ!?』

 

が、それは鴨志田が飛び上がる直後にガクンと突如体が沈みこんだことで中断された。完璧な流れでスパイクまで放つ気であった鴨志田は慌てて手を床について転ぶのを防いだものの、その現象に理解が追いつかず目を白黒させて混乱している。

 

『な、何が・・・!?』

 

起こった!?と言う前に鴨志田は気がついた。手が付いた床が嫌に冷たい。ハッとして自分の立っている床を見ると白い冷気が漂っており、自分の足を巻き込んでバキバキと凍りつかせていた。

 

そしてその氷の先を辿っていくと、行き着くのはやはりあの男。ジョーカーから鴨志田に向かって一直線に氷の道が出来ていて、鴨志田の足を凍らせてスパイクを打つのを阻止していたのだ。

 

「させると思うか?」

 

ゲンブの『ブフ』が瞬時に鴨志田の動きを止めて、したり顔で鴨志田を見下すジョーカー。必殺技も止められ、強者である自分が上から目線をされているという事実に耐えかねた鴨志田はその苛立ちのままあらん限りの力を持ってフォークを振りかぶる。

 

『ぐ、ぬ、ああぁあぁぁぁぁ!!!巫山戯るなぁ!俺様を見下してんじゃねぇぇぇ!!!』

 

そのまま足元を固めている氷を突き壊し、スカル達が再度妨害する隙も与えない程の速度で飛び上がりジョーカーに接近すると、腕を引き絞り己の巨躯を最大限に生かした強烈なナイフによる突きでジョーカーを刺し殺そうとする。

 

その速さたるや、まるで野獣の如し。

 

『グラァァアァァァァッッッ!!!』

 

「ふっ」

 

しかしやはり、単調な直線的な動きはジョーカーには通じない。どれだけ速くとも来るのが分っていればヒラリと飛んで紙のように避けてしまう。歴戦の怪盗であるからこその余裕の回避。

 

 

だが、実はそれが鴨志田の狙いであった。

 

 

『馬鹿め!!空中では身動きがとれまい!!』

 

 

そう、鴨志田はジョーカーが回避した瞬間、飛び上がり宙に浮いている状態になるのを狙っていたのだ。獣のような愚直な攻撃では無く、狡猾な悪魔による計算された攻撃は見事、ジョーカーを空中へと踊り出させ撃ち落とされる哀れな鴉へと成り下がらせた。

 

身体能力ならばこちらの方が圧倒的に上。こうなれば蜘蛛の巣に囚われた虫と変わらない。防御を上げる暇もなくいとも簡単に刺し殺すことが出来る。

 

『これで終わりだ!今度こそ死ね虫けらァ!!』

 

フォークを構え優雅に飛ぶ蝶の羽をもぐように、宙にいるジョーカーの命を絶つ致命の一撃が放たれる。当然、距離が離れているスカル達はそれを見ていることしか出来なかった。

 

体感にしておよそどれくらいか。1分?1時間?それ以上かもしれない。ゆっくりゆっくりとジョーカーの命を奪う瞬間が近づいていく。興奮による脳内物質の分泌により異常なまでの時間縮小が鴨志田にその瞬間を楽しみに熟視させた。

 

 

そして、確かに見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

『ッッ!?!?』

 

 

 

この状況下に似合わぬ表情に思わず驚愕し目を見開くと、たちまち時間の流れが戻っていく。間に合うはずがない、こんな状態で何が出来る!!と鴨志田の頭にはそんな強い否定の言葉で埋め尽くされていく。

 

だが理解していた。

 

 

この男が笑った時、それは打開策がある時であると。

 

 

「モナァッッ!!」

 

 

これまでで1番大きな声で仲間のモナを呼んだジョーカーは次の瞬間、何もない空間に向かって勢い良く()()()()()()()()()

 

ヒュンッと鴨志田のすぐ横を通り過ぎていくワイヤー。

 

『何をっ!?』

 

 

「おぅよォッッ!!」

 

そんな声を上げた瞬間、鴨志田の後ろからモナの声が響いた。

 

(しまった!!背後を取られた!!)

 

その一瞬の気の乱れが、僅かな隙を生んだ。その隙がモナのパチンコによる妨害を許し、甲高い音と共にフォークの挙動をズラしてジョーカーが避ける余裕すら生み出してしまった。

 

ギュルッと空中で身をひねり、回転しながら華麗にフォークを避けるジョーカー。そした放ったワイヤーはモナの召喚したゾロが掴み、その身を一本釣りして引き寄せる。

 

『なァッ!?クソォ!』

 

フォークが空ぶり、しかもジョーカーが逆にこちらに接近してくるのを見て鴨志田は反射的に顔を覆うように腕で庇い、防御体勢をとっていた。だが、それは致命的なミスである。

 

ジョーカーの狙いは鴨志田では無く・・・・・・

 

 

「言ったはずだ、お前の(オタカラ)を頂戴すると」

 

 

 

 

ガキンッ

 

 

『はっ・・・・・・』

 

 

ゴトンッと重厚な音を立てて、それは床へと転がり落ちた。

 

 

 

『お・・・・・・』

 

 

思わず、鴨志田は呆然とした目でそれが遠い床でコロコロと回るのを追っていた。

 

 

ジョーカーはすれ違う瞬間、アルセーヌの蹴り(ライダーキック)でそれ、()()()()()()()()である王冠を奴の頭から蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

『あああああああああああああああ!!!???王冠!!俺様のっ!!王冠がぁぁぁ!!??』

 

 

その事を認識した途端、鴨志田はこれまでの姿が嘘のように酷く取り乱し発狂し始めた。お気に入りの玩具を取り上げられた子供のような焦燥と絶望の入り交じった顔で王冠に手を伸ばしている。

 

だが拾いに行かせないように再びゲンブのブフで足元を凍せる。ジョーカー達の事など目に入らず王冠を見て狂乱する鴨志田にいよいよ大詰めだとジョーカー達は一気に勝負を仕掛けた。

 

「よし!総攻撃チャンスだ!」

 

「今だ!畳み掛けるぞ!!」

 

「よぉッしゃァ!!」 「行くよっ!」

 

 

ブチィッ!!

 

 

 

『ぐ!?ぬぉ!?ああぁ!?』

 

 

ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!ナイフで、銃で、鉄パイプで、サーベルで、鞭で、ペルソナで。ひたすらに攻撃しまくって体力を削り取っていく。そして鴨志田の体力を大きく奪った所で一旦距離を取り、最後の締めに入る。

 

勿論、鴨志田もこのままタダでやられる訳には行かない。心体共に衰弱しきっていても何とか抵抗しようとその手に持つナイフとフォークを勢いよく投げた。

 

『ク、クソォ!来るなァ!!』

 

「ふん!」

 

「だぁ!」

 

 

しかし、最後の悪あがきもジョーカーとモナによって簡単に弾き飛ばされ無情にも壁に突き刺さるだけに終わった。これで鴨志田はいよいよ武器も無い丸腰の状態まで追い込まれたのだ。

 

そして、そんな鴨志田に向けてジョーカーとモナの間から飛び出し、駆け抜けてきた2つの影が迫ってくる。

 

「よし!行け!スカル、パンサー!」

 

「ぶちかまして来い」

 

『過去の栄光に縋る愚かな暴君に革命の鉄槌を!』

 

 

「まあァかしとけぇぇぇ!!」

 

「うん!行ってくる!」

 

 

その2つの影はスカルとパンサーであった。2人はキャプテン・キッドの船体に乗って海を渡るようにホバー飛行して鴨志田に向けて突っ込んでゆく。

 

それを見て鴨志田は逃げ出そうとするがキャプテン・キッドの右手の主砲からジオが、そしてその背後に抱きつくカルメンの周囲からアギが飛び出し、鴨志田の動きを無理矢理止める。

 

『ぎゃあああああ!!??』

 

「不利になったら逃げ出すなんて都合よすぎんだよ!」

 

『こんな・・・俺様が、こんな奴らに・・・負ける・・・?そんな・・・そんな・・・。』

 

 

最早抵抗する力も残っていないのかフラフラと揺れながらブツブツとそう呟く鴨志田。もう既に戦えない程にボロボロだが、残念ながらまだ彼の精算は終わっていない。

 

 

「うし!んじゃあ決めてこい!パンサーッ!!」

 

「ッ!分かった!!」

 

そう言ってスカルは勢いをつけたままキャプテン・キッドの左手で彼女を投げ飛ばした。急な事で一瞬目を見開いていたが、意図を理解したパンサーは直ぐに意識を切り替え豹の如き鋭い目付きで獲物を捉え、力強く握り拳を作った。そして、その拳に魔力を練ると荒々しい炎が宿る。同時に、カルメンもその隣に現れ同じように拳を握った。

 

 

『お、俺は・・・俺は・・・王・・・・・・』

 

朦朧とする意識の中鴨志田の目に映ったのは、赤き女豹、紅蓮の炎、深紅の薔薇。

 

いや、散々自分が見下していた少女、高巻杏(パンサー)であった。

 

 

「最後にアンタに教えてあげる」

 

 

『『人形如きが俺様にそんな目を向けられる事を光栄に思うべきなんだよ』』

 

 

『『悪いのは俺じゃない!甘い蜜を求めてきた取り巻き共さ!!』』

 

 

『『俺様は才能ある人間、言わば選ばれし存在!!』』

 

 

鴨志田の脳内にかつての自分の発言が木霊する。それは浮かんでは消え、突きつけられる現実の前に泡のように弾けてゆく。まるで、まるで、走馬灯のように・・・・・・。

 

 

 

「綺麗な薔薇には・・・・・・」

 

 

 

『『俺様は』』

 

 

『俺様は・・・・・・』

 

 

『『他の人間共とは』』

 

 

『他の人間共とは・・・・・・』

 

 

 

『『違

 

 

「棘があんのッ!!」

 

 

 

ドゴシャアッッッ!!!

 

 

『ぶ・・・・・・』

 

 

凄まじい音を立てて鴨志田の顔面に突き刺さったパンサーとカルメンのアギを纏った拳は華奢な体からは想像も出来ない程の力で鴨志田の顔面を変形させ、悲鳴を上げる暇も与えずにぶっ飛ばした。

 

『ガフ・・・・・・!ゴハッ・・・・・・!』

 

何度もバウンドしながら吹き飛び、王冠の近くまで転がった鴨志田。完全に戦闘不能状態になった為かその悪魔のような巨躯はみるみるうちに萎んでいき、元の人間の姿に戻った。最初の姿とはかけ離れたボロボロの姿で痛みに呻いている。

 

それを見たパンサーは手に宿った炎を腕を振って消して鋭い目のまま、カツカツと音を立てながら奴に近づいていく。

 

そして奴の近くに落ちている王冠を拾おうとして、直後それを素早い動きで奪い取ってボールを取られまいとする子供のように腹に隠し、芋虫のように這いずって逃げるという威厳もくそもない手段を取った鴨志田がいた。

 

『ひ、ひぃ・・・ひぃ・・・』

 

「・・・・・・。」

 

それを先程の炎とは打って変わって氷のように冷たい目で見下しているパンサーはわざと大きく足音を立てて鴨志田の後を追っていく。それに心底怯えながら逃げていく鴨志田の行った先は、逃げ場も何も無いベランダであった。

 

慌てて右往左往するが、そんな事をしても逃げ場など出来るはずもなく、唯一の道は何も無いベランダの外だけ。酷く絶望した顔で追いかけてくるパンサーを見上げる。

 

「どうしたの?逃げないの?逃げたらいいじゃない。運動神経、バツグンなんでしょ?」

 

『う、うぅ・・・俺は、俺はみんなの期待に答えようと・・・昔からそうだ、ハイエナ共が期待という押し付けばかり・・・・・・俺だって必死だったんだ・・・!す、少しくらい見返りを求めたっていいだろ!?』

 

「ここまで来て言い訳かよ・・・!だからってお前がしてきた事が許される訳ねぇだろ!今までの分、全部償いやがれ!」

 

パンサーの隣まで来たスカルが言い訳を並べる鴨志田を正論で叩き伏せる。それに言葉を詰まらせた鴨志田。

 

「一か八か飛んでみる?それともここで・・・・・・死んでみる?」

 

依然として負けを認めない奴に対し、絶対零度の眼差しを向けたまま脅しでも何でもない、本気の殺意を覗かせながらアギを灯らせるパンサー。酷く危うい状況だが、モナとジョーカーはそれを静かに見守っていた。

 

『や、やめてくれ!!頼む!!やめてくれぇー!!』

 

そして、これまでの自分の行動を忘れたかのような恥の無い鴨志田の命乞いに我慢の限界を迎えたパンサーは一層炎を荒立たせ、その怒りを爆発させてしまった。

 

「皆、アンタにそう言ったんじゃないの!?けどっ!けどアンタは平気で奪ってったんだ!!」

 

「杏っ!?」

 

『う、うわぁぁぁぁぁ!!??』

 

彼女は本気で鴨志田を殺す気だと感じたスカルの静止も間に合わず、ゴウッと一気に巨大化したアギは一直線に奴へと飛んで行く。情けなく悲鳴をあげる鴨志田に無慈悲に怒りの炎が迫り・・・・・・

 

 

バチンッ・・・

 

 

『ひっ、あぁ・・・・・・?』

 

その炎は、鴨志田の目の前で四散し軽い火の粉だけが奴の周りに降り注いだ。死を確信していた鴨志田は呆然とパンサーを見つめる。彼女は息が荒くなっているものの、その目に宿るのは怒りではなく冷静さであり殺意もなりを潜めていた。

 

「廃人になられたら罪を証明出来なくなる、だから殺してなんかやらない・・・・・・!」

 

やはり、彼女は優しいなとジョーカーは頷く。彼女の立場ならば殺してもおかしくないというのに、その怒りを抑えて敢えて生かして罪を償わせる道を選んだ。傍から見れば当然と考えられるだろうが当事者の彼女がこの選択をするのは難しいだろう。

 

どこまでも人としての道を選べる彼女は自分とは違って真に優しい人と言えるだろう。そうジョーカーは1人考えていた。

 

「杏・・・・・・パンサーは優しいな」

 

モナの言葉に再び赤べこのようにコクコクと頷くジョーカー。感動が台無しである。

 

『俺は、負けた・・・負けたら終わりだ・・・俺は、どうすれば・・・・・・』

 

そう言って項垂れて涙を流す鴨志田。全くもって同情心など湧かないが、ここでずっと泣かれてても困るので答えを渡してやる。

 

「罪を償え、そして背負い続けろ」

 

ジョーカーがそう言うと鴨志田はピクリと反応し、涙を流しながら顔を上げる。その顔は涙でぐしゃぐしゃになり、酷い事になっていたが今までの中で1番スッキリとした、憑き物が落ちたかのような穏やか顔をしていた。人が変わるとはまさにこの事だなとジョーカーは考える。

 

『・・・・・・分かった、俺は現実の俺の中に帰ろう。そして、必ず積み重なった罪を償うよ・・・・・・そして、これも。』

 

傲慢さは欠片も感じられなくなり、人の心を思い出した悪魔は安らかな声でそう言ってオタカラをジョーカーに投げ渡すと淡い光となって宙に溶けるように消えていった。

 

過去に何があったなんて知らない、あいつがどんな思いをしてきたのかも知らない。どのようにして歪んだなんか知ったこっちゃない。人としての道を踏み外した奴だったが、ようやく人に戻れたのだ。これで、あの支配も終わる。それだけが確かだ。

 

「終わった・・・・・・のか?」

 

「ああ、オタカラも奪ったしな。これで現実の鴨志田も改心されている筈だ。」

 

「そうか、そうか・・・・・・なんか、実感湧かねぇな」

 

「そりゃ、直ぐに成果が分かる訳じゃないからな。なに、いずれ分かるさ。それよりも、早く脱出しないとまずいぞ?」

 

「え?なんで?」

 

「なんでってそりゃ・・・・・・」

 

改心され心が元の形となった事で歪みが消失した。しかし、ジョーカー達がいるのはその歪んだ心が形となった『パレス』。つまりこれから起こるのは・・・・・・

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

 

 

パレスの崩壊である。

 

 

「こうなるからな」

 

 

「・・・・・・それ早く言えやァァァァァ!!!」

 

「言わなかったか?」

 

「ちょちょちょ!!やばいって!早く逃げなきゃ!」

 

ガラガラとみるみるうちに崩壊が進んでいき、大きな瓦礫も降り始めている。完全に壊れるまでそうはかからないだろう。騒いでる内にも降り続けている瓦礫に押し潰される前に慌てて王の間から逃げ出すジョーカー達。

 

あちこちから破壊音が鳴り響き、どんどん亀裂が広がって全てが壊れていく。そんな中を追うように崩れる瓦礫から逃げながら走り続ける。

 

「死ぬ!死ぬってこれぇ〜ッ!」

 

「うおおぉぉぉおぉぉぉ!!」

 

「走れ風のようにホプキーンス!」

 

「誰!?誰なの!?怖いよぉ!」

 

「こんな時にコントしてんじゃねぇ!」

 

何故か変な電波を感じ取って謎のコントを繰り広げながら走るジョーカーとその頭にしがみつくモナに律儀に突っ込むスカル。そんなもんほっとけ。そのツッコミが足に響いたのか足をもつれさせて転んでしまうスカル。

 

「竜司!」

 

「問題ねぇ!久々だから足がもつれただけだ!」

 

そう言って直ぐに立ち上がるスカル。だが崩壊は割とシャレにならんくらい近くまで迫ってきていた。後ろを振り向き、雪崩のように崩れる天井を目にして再び猛ダッシュで逃げ始める。

 

「出口!出口はまだかァ!?」

 

「もうひと踏ん張りだ!降り絞れ!」

 

「ひぃぃ〜!!」

 

全員が必死に走る中*5、廊下の先に眩い光が見え始める。どう考えてもあれが出口だろう。疲れる体に鞭を打ってラストスパートを駆ける。がんがん迫る崩壊にあと少しで追いつかれるという所まで来て、ギリギリ光の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

鴨志田パレス 攻略完了!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・キッツゥ・・・・・・!」

 

「だっはぁ・・・!し"ぬ"か"と"思"っ"た"ぁ"〜"!」

 

「うわ、声汚ったな」

 

「るせ〜・・・久々に全力走ったんだからしょーがねーだろ・・・」

 

 

パレスが崩壊し、現実世界に戻ってきた4人。息たえだえになっている杏と竜司に比べ、巫山戯た走り方をしてたにも関わらずケロッとした顔をしてる蓮。あと走らずに蓮の頭に乗ってたモルガナが竜司をディスったがそれに返せる余裕が無い竜司は息を整えながらそう返した。

 

ようやく息が戻ってきた竜司がハッとしてスマホを取り出し、ナビを確認する。

 

「おい!ナビ見てみろよ!」

 

そう言われて杏と蓮はスマホを取り出し、ナビを見てみるとそこには来る前にはあった鴨志田パレスの表示が消え、そしてそれを伝える音声も流れてきた。

 

『目的地が、消去されました』

 

「行けなくなってる・・・ホントに無くなったんだね」

 

「それより!オタカラは!?」

 

皆してナビを見てるとモルガナがそう声を上げたので蓮はポケットに入れて置いたオタカラをスッと取り出して見せた。

 

「あ?んだこりゃ?メダル?」

 

「あれ?王冠はどうなったの?」

 

そう、蓮が手に持っているのはどこからどう見ても王冠では無く、似ても似つかないメダルになっていたのだ。杏と竜司が?を上げているとモルガナが説明に入る。

 

「鴨志田にとって欲望の源がそれだったって事だ。奴にとっちゃこのメダルがパレスで見た王冠くらいの価値ってことだろ。」

 

やや疲れ気味にそう説明したモルガナはピョンと蓮の肩に乗って頭にぐでっとのしかかった。お疲れ、と顎辺りを撫でるとされるがままにして気持ち良さそうに目を細める。可愛い。

 

「それ、オリンピックのだろ。あの野郎、過去の栄光にしがみついてただけって事か・・・・・・なんつーか、一周回って憐れに思えてきたぜ。」

 

「でもこれで鴨志田の心も変わった・・・て事なんだよね」

 

「多分な、まぁ大丈夫だろ。鴨志田のシャドウ、現実の自分に還るって言ってたろ?シャドウが自分からそう選択したんだ。きっと改心してるだろうぜ。でも今は鴨志田の出方を待つしかねぇな。」

 

「どっちみち、待つしかねーって事か。モヤモヤすっけど仕方ねぇか・・・。」

 

そう言ってため息を吐いた竜司は次いで出てきた欠伸を噛み殺す事もなくデカい口を開ける。それにジト目を向ける杏だったが彼女も竜司の欠伸を見て連鎖するように登ってきたそれを無理矢理噛み殺す。やはりパレスの主との戦闘は相当な疲労になっている様だ。

 

「とりあえず、今日は帰ろう。どうやら外はもう放課後の様だし。」

 

「んぁ?放課後?って!マジかよ!ホントに放課後じゃん!」

 

慌てて携帯で時間を見て、そしてもう日の落ち始めている空を見て驚愕した竜司。パレス内部の時間と現実世界の時間のズレ、今回は割と大きくズレていたようだ。一日丸ごと授業をバックれた事になった訳だが、まぁ些細なことだろうと蓮は全く気にしていなかった。

 

「あ、皆!!」

 

とにかく、これ以上はする事も無いので解散しようという所で校門からパタパタと鈴井が走ってきた。どうやら丁度下校するタイミングだったようで不安げな顔で慌てて駆け寄り、杏の体をポンポンと叩き怪我がないか確認し始める。

 

「大丈夫!?どこも怪我してない!?雨宮君も坂本君も!それにモルガナちゃんも!」

 

ワタワタと皆の安否を確認して「はいこれ!飲み物!」とカバンの中からスポーツドリンクを出して全員に素早く手渡して更にエナジーバーも渡していく。その勢いに身を逸らしてやや引き気味にそれを受け取る竜司と杏。

 

「お、おぉ・・・サンキュ、鈴井・・・・・・」

 

「あ、ありがとう志帆・・・・・・」

 

「ありがとう鈴井さん」

 

全く動じずにエナジーバーを一瞬で平らげモルガナに少しだけ分けてからスポーツドリンクを飲み干した蓮。彼女はこうやってパレスから帰還すると疲労してる皆を労わって色々と献身的にサポートをしてくれるのだ。

 

「ホントに大丈夫なの!?もしダメなら任せて!私これでもスポーツ選手だから杏を背負いながら帰宅するのも楽勝だよ!」

 

「いや大丈夫だから!流石にそんなの悪いって!ていうか普通に恥ずかしいからやめて!」

 

「心配しないで!杏は軽いから!」

 

「そういう問題じゃなくてー!」

 

「な、なんかキャラ変わってねぇ?」

 

「それだけ心配だったんだろ、いいじゃねぇか。少しくらい。にゃぁふ・・・・・・眠ぃ・・・・・・」

 

そうして心配からやや暴走気味になっている鈴井を宥めながら帰宅しようとして、ふと、蓮が周りを見渡す。

 

「?どうしたんだ蓮?急にキョロキョロして。」

 

「・・・・・・いや、なんでもない。帰ろうか、マイホームへ」

 

「なんか、変な意味に捉えられそうだから止めてくんね?」

 

そう言って、帰路に着く蓮にマジレスをする竜司。だが時すでに遅し、ならぬお寿司。遠くない未来BL業界を震撼させる革命児になる例の女子生徒がそれを目撃し、謎の衝撃波に吹き飛ばされヤムチャポーズでぶっ倒れた。「スパダリ × ヤンキーツンデレ、私の好きな言葉です・・・」と言いながら保健室に運ばれていっている事など知らずに蓮達は帰宅していく。

 

 

「確かに視線を感じたんだが・・・・・・一体誰だ?」

 

 

最後に感じた視線、その先へ目を向けたのだがいつの間にかその気配は消失し、どこにも感じ取れなくなってしまっていた。

 

(あの一瞬で気配を消すなんて、何者だ?立て続けにイレギュラーか・・・・・・これはまたしばらく警戒が必要だな)

 

その視線に未だかつて無い違和感を感じながら、蓮はモルガナと共に我が家に帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・。』

 

 

 

そんな彼を、静かに見つめる1つの影が踵を返しゆっくりと彼らとは逆方向の道へ消えていく事に気づかずに。

 

 

 

 

 

世界はここから確かな分岐を果たしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ヤバイという意味

*2
ダメです

*3
仙道の画像

*4
例の画像

*5
ジョーカーは十傑集走り





BGM:Blooming Villain

うおぉぉぉ!!鴨志田編、完結!長かった!いやほんとに。自業自得だけど。変態は綺麗な変態になって現実へ還りました。すね毛は汚いままだけど。

補助魔術の重ね掛け、ゲームでは効果持続しか出来ませんがジョーカーの手にかかればあら不思議。謎の超変態高等技術で倍くらいの効果が出ます。破っ格〜(IKKO並感)デメリットは少しでもタイミングをミスると効果が1回分以下になる。デメリットにしては軽すぎる。ゲームにも欲しい。

鈴井は裏方係、こんな感じに異世界から帰ってきたら過保護なおばあちゃんみたいに色々もやってくれます。怪盗団がでかくなるにつれてそのサポートが手広く過激になっていく。

ちなみに今回、長くなり過ぎたのでゴリゴリ削ってます。毎回短めとか言ってるのにそこそこ長くなるのなんとかしなくては・・・。


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before the flower of blood blooms

ペルソナ5スクランブル

RISKYプレイ前 「うるせぇ!行こう!」ドン!!

RISKYプレイ後 「俺は!!!弱いっ!!!」


お久しぶりです皆様。自分探しの旅を検討し、約3ヶ月。今日も元気に自宅でごろごろしております。

さて、季節はすっかり秋を通り越して冬。最近は気温差が激しいですね、皆さん体調は大丈夫でしょうか。私は四六時中パンツ一丁で過ごしています。職場でもです。外では全裸です。通報よろしくお願いします。

ご都合主義、私の好きな言葉です。

感想及び誤字脱字修正ありがとうございます!励みになっております!じゃんじゃん下さい!

今回も、巻くぜ巻くぜ巻くぜぇ!・・・って言いながら駄文長めです。申し訳ない。


 

 

鴨志田パレス攻略から日曜を挟み2日が過ぎた。あれから寄り道もせず各々の家に帰りゆっくりと体を休め、疲労からいつの間にか寝て朝になっているというあるある現象を体験した竜司と杏は*1重い体を引きずりながら登校していた。

 

「うぁ〜・・・まだ眠ぃ・・・全然疲れが取れねぇ・・・」

 

「分かる・・・1日かけてリラックスしたのに・・・ふわぁ・・・」

 

「おいおい、だらしねぇな。そんなんじゃいざって時に動けなくなるぜ。蓮を見習えよ、あの後にもランニングして来るっつってかれこれ1時間は帰ってこなかったんだぜ?しかもその後筋トレもしてっからな。コイツ。」

 

「えぇ・・・マジかよ。バカじゃん・・・。」

 

ペシペシと蓮の頭を叩くモルガナ。まさかの追い運動に元陸上部の竜司もドン引きして罵倒してくる始末。まぁあんな事があったのに更に自分を追い込んでしかもその癖自分達の中で1番元気な様子を見たらそんな感想にもなる。

 

「何だかジッとしてられなくてな」

 

パレスの中で起こった数々のイレギュラー。その事について整理したくて外に出てた、とは言わずにソワソワして落ち着かなかったと説明する蓮。彼も鴨志田が改心したのか気になって仕方が無いと言った感じに言うと竜司達はそれを信じて「確かにな」と納得言ったように頷く。

 

(まぁホントはそれだけじゃないんだけど)

 

そう考えながら「授業だりぃ〜」と何気ない会話をする竜司の頭に飛び乗って説教してるモルガナを横目にスマホを取り出して、今はもう何も表示されていないイセカイナビを見る。()()()()()()()()()()()()()()()()小さくため息を吐く。

 

(これで、()()()()は起こらず、()()()()()()()()()()()。この1件だけはどうしてもこの時期でないといけないからな。)

 

かつての数多の世界において、様々な方法で調べなんとか特定した彼女を救う唯一の手段。それがこの4月の時期にしか出来ないというシビアなもので、それ以降になると()()()()()での深度が深くなり助けるのに大幅なロスとなってしまう。

 

『黒羽エリ』

 

どす黒い大人の闇に汚されたその少女を、勝手だがどうしても助けたかったのだ。

 

 

 

彼女と出会ったのはいつ頃だったか。最初の方のループにはいなかった、と言うよりも気づかなかった、知らなかったというのが当てはまる。いつか、ループ中にとあるミッションから様々な事件へと発展し、偶然彼女の家庭の事情を知った事がある。

 

それが始まりで、あまりに過酷な境遇にどうにか彼女を救えないかと四苦八苦した。時に校内情報を探り、時に周辺住民の聞き込みをし、時に本人に聞いてみたりした。さすがに最後のは酷く警戒され上手くいかなかったが、少しづつ交流を深めたりして彼女自身から事情を聞いたりしてどうすればいいかを模索し続けた。もちろん、メメントスも使って。

 

1度、それが起点となってそういう関係になった事もある。まぁそう言った事情もあって使える物を全て使って彼女を救い出す手段を発見したのだ。

 

それがこの時期、4月の内にメメントスがまだ第一層『思想奪われし路』のみが解放されている中でエリア1に彼女の内縁の父親、そして母親の2人のシャドウがいる事が発覚した。

 

どうりで今まで気が付かなかった筈だ。流れに身を任せると初めてメメントスに向かうのは5/7から。4月にはメメントスのメの字もない。ループしている自分にしか気が付きようのない特殊条件だったのだ。しかもそれを過ぎるとより深い所へ潜ってしまうというクソ仕様。

 

たまたま何となくメメントスに潜らなければきっと永遠に見つからなかっただろう。マジのマジでクソ仕様過ぎる。

 

まぁしかし、見つかってしまえばこっちのもの。彼女が父親から性的虐待を受ける前に奴らを改心させ、起こるはずだった復讐を事前に摘み取る。

 

父親と母親の二人は心を入れ替え、これからは罪を背負いながら生きるだろう。彼女はそんな二人を許さないかもしれない。彼らとは別れる道を選ぶかもしれない。復讐を防いだからといって、それ以降はこちらでは干渉できない。なぜならこの世界では彼女と自分は他人なのだから。

 

きっと、辛い道のりになるだろう。きっと、苦しみながら前に進む事になるだろう。それでも彼女なら大丈夫と、僅かだが彼女と過ごした日々がそう思わせるのだ。

 

どうか、彼女の未来に幸福があるように。過去の重りは捨て去り後悔ばかりの徒花を吹き飛ばして、どこまでも飛んでいけますように。誰も知らない鳥籠の中から、そう願う。

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ」

 

なんて、らしくなくシリアスに浸っていると背中にドンッと何かがぶつかったようで軽い衝撃が走る。

 

何だろうと後ろを振り向くと、蓮は目を見開いた。

 

 

「ごめんなさい、ちょっとボーッしてて・・・・・・」

 

 

そこにいたのは、目元にややクマがある光の薄い瞳をした長髪の美少女。つい今まで回想していた相手、『黒羽エリ』だった。

 

まさかの相手に一瞬固まったが、直ぐに柔らかい笑みを浮かべて返した。

 

「いや、大丈夫。そっちこそ怪我は無い?」

 

「ええ、何とも・・・って、貴方もしかして噂の転校生?」

 

すると、振り返った事で改めて蓮の顔を確認した黒羽エリは先程の申し訳無さそうな顔から一転して警戒した目で彼を見始める。まぁ当たり前だが彼女の元まで噂は届いている様だ。

 

「まぁ、ね。うん、何ともないなら良かった。それじゃあ・・・・・・」

 

その事に「それもそうか」とやや悲しげに目元を僅かに歪めた蓮はこれ以上はマズイかなと彼女から離れ少し先にいる竜司達と合流しようとする。こればっかりはどうしようもないとまたため息を吐きそうになる蓮だったが・・・・・・

 

「あ・・・!」

 

「おぉ」

 

そんな彼の腕を彼女がガシッと掴んで止めていた。思わずビンッと張った糸のようになった蓮は疑問符を浮かべながら彼女へと振り返る。しかし彼を止めた張本人である黒羽エリ本人も何故か困惑しており、それによりお互いが困惑するという変な状況となっていた。

 

「えーと・・・・・・?」

 

「あ、ご、ごめんなさい!自分でもよく分からないけど、つい止めちゃって・・・!」

 

「そ、そう・・・・・・」

 

ワタワタと両手を振るう黒羽エリにやや圧っされた蓮は体を若干反らせながら彼女の瞳見ていると、必然的に彼女も蓮の瞳を見る形となる。

 

すると、さっきまで慌ただしく誤魔化していた黒羽エリは人形のように黙り込み、ただ蓮の瞳の()を覗き込んでいた。

 

「・・・・・・貴方の目」

 

 

ぽつり、と彼女がそう呟く。まるで光を映さない濁ったガラス玉のような瞳で。

 

 

「暗いのに光を失ってない。汚れてない。私と似てて、まるで違う目。」

 

 

恨むように、羨むように。自分に無いものを持つ蓮に無垢な子供の様な感情を孕んだ瞳で彼女はそう言った。恐らく、彼女はまだ両親の変化に気づいていないのだろう。だから彼女は自分が汚れた人間だと思い込んでいる。

 

しかし、自分の瞳が綺麗だって?それは違う。それは自分の瞳に彼女の瞳が映り込んでいるだけだ。

 

「綺麗だよ、君は。」

 

ジッと、彼女の瞳をしっかり見ながらそう言うとまさか褒め言葉を言われるとは思わなかったのか目をぱちくりとさせ少しの間呆然とするとその目に光を戻しながらクスリと微笑んだ。

 

「何それ、私が綺麗って」

 

「事実を言ったまでだ」

 

「そう・・・貴方、聞いてたよりも優しいのね。うん・・・・・・ありがとう。」

 

蓮の真っ直ぐで嘘のない言葉に久々に素直な感謝をした黒羽エリの顔はまだ目元にクマはあるが、やはりとても綺麗で優しい顔をしていた。

 

そんな初対面なのに初対面じゃない不思議な2人の空間を展開していると後ろに蓮がいないことに気づいた竜司達が振り返って蓮を呼んでくる。

 

「おーい何やってんだ蓮!先行っちまうぞー!」

 

「ああ、今行く・・・俺は2年D組の問題児、雨宮蓮。何かあれば相談に乗るぞ。」

 

「ふふ、なにそれ。変な先輩ね・・・私は黒羽エリ、1年A組。よろしく。」

 

お互いに自己紹介をして握手をした蓮と黒羽エリの間には確かな絆が結ばれていた。アルカナは解放されないけど、それでも彼女と知り合えた事がとても嬉しい。今自分は酷く浮ついた笑みをしていると思う。それくらいには嬉しいのだ。

 

「それじゃ、またね?雨宮先輩。」

 

「ああ、また。後輩。」

 

そんなやり取りをした後に黒羽エリは最初よりも明るい顔をして蓮よりも先に学校へも向かっていった。まさかの会遇にウッキウキで超ご機嫌になった蓮の傍に竜司がやって来て耳打ちする。

 

「誰だ今の!まさか、まさか彼女かァ!?」

 

「まさか、ぶつかったから謝っただけだよ。」

 

「嘘つけぇ〜!それだけであんな仲良さげになる訳ねぇだろ〜!ホントの事言えって!な!レンレン!あれなんで俺の頭に手を当てテテテテテッ!?!?」

 

「ほら行くぞ竜司、遅刻してしまう」

 

「わか、分かった!分かったから離しテテテテテッ!?!?とれるっ!こめかみとれるっ!」

 

酷くニヤついた顔でからかってくる竜司の頭に強烈なアイアンクローをお見舞しながら学校に向かい始める蓮。余程痛いのか絶叫しながら無理矢理引きずられる竜司を見てモルガナは「えげつねェな・・・」とキャットエンペラータイムを使いそうな顔をしながらそう呟いた。対象にされる側なのに。

 

「ふふ、2人共仲良しだね、杏。」

 

「そう、だね?」

 

あのやり取りを見てぽやぽやした笑顔でそう言う鈴井に苦笑いしながら同意?をする杏。まあ男同士の友情なんて割と雑なもんなのであってはいるのだが、それにしても鴨志田から解放されてから親友の天然気質が増してきてる気がする杏であった。

 

 

 

 

何はともあれ、痛ましい過去の清算及び未来に起こる事件の未然解決を達成し、朝からルンルン気分の蓮は笑顔で授業を受けながら放課後までクラスメイトの胃を追い詰めていた。

 

そんなこんなで既に放課後。本来ならまだ鴨志田パレスを攻略してる途中だが、最短ルートでぶっちぎった為決着がついてしまっている。そして鴨志田の罪の告白も元の期限である5月2日まで結果も分からない。つまり、暇なのだ。

 

ならば勉強すればいいじゃない。

 

知は力なり、エロい人もそう言っている*2

 

せっかくだし4人で勉強しようかと思ったがどうやら皆予定があるそうなのでソロで図書室にレッツゴーである。ちなみにあくまでもソロだ、ぼっちでは無い。これ大事。

 

ちなみに知識は知恵の泉なのでこれ以上は上がらない。なら何故勉強するかと言うと、ある人物に会うためである。

 

「へぇ、率先して勉強しようなんていい心がけじゃないか」

 

「学生の本分は勉強だからね」

 

カバンに隠れてるモルガナとそんな話をしながらガラガラと図書室の扉を開けると図書委員の生徒が先にこちらを見るやいなやガチンと固まってしまった。今話題の超高校級の問題児が唐突なエントリーをかましてきたのだ、悲鳴を上げ無かっただけマシなリアクションだろう。

 

恐怖と緊張で固まったその子の前を通り過ぎて堂々と図書室に入る。すると異変に気がついた図書室内の生徒達が一斉に蓮の事を視界に入れて、図書委員の子と同じように彫刻のように固まった。

 

こしょこしょと小さな声で会話していた女子生徒達も、目当ての本を探していた男子生徒も、「検索を始めよう」と目を閉じて集中していた生徒(?)も・・・いやこいつは元から固まってたわ。

 

皆一様にして蓮を見ていた・・・・・・()()()1()()()()()()

 

「・・・・・・。」

 

円形の机を1人で使い黙々と勉強をしている女子生徒、その姿からは近寄り難い雰囲気を感じ、いかにも堅物というようなイメージを抱かせる。キリッと整った顔は僅かに眉間に寄った皺も気にならない位の美少女、いやこの歳にして美女と言えるほどであった。

 

彼女こそ、頭脳明晰、品行方正、文武両道。生真面目故に手が抜けない苦労人。この秀尽学園の生徒会長『新島真』である。バチくそネタバレすると後の怪盗団のブレーン役を担う少女だ。

 

そう、図書室に来た理由は彼女との接触である。しかしこれで後の展開に大きなブレが起きることはほぼ無い。なぜならこの時点では彼女の立場は完全に学園側であり、言ってしまうと蓮達とは対立した状態だ。しかも彼女の耳に入るのは蓮の悪評のみ。つまりどう足掻こうと一定から好感度が上がることは無い。精々噂よりもマシ程度だ。

 

なら何故彼女に会うのか?

 

 

会いたいからですが何か?(侠客立ち)

 

 

「なんだ?お前が入ってから皆黙り込んじまったぞ?」

 

「かくかくしかじかで怖がられてるから」

 

「・・・なるほどなぁ、完全に厄介者扱いって訳か。鴨志田の野郎、とことん下衆な奴だぜ。改心させてもこっちは残っちまうんだからやりきれねぇ。」

 

「なに、気にしなければ良いだけの話さ。」

 

まぁ二割くらいは自業自得な所もあるけど*3

 

というわけでとりあえず彼女の視界に入る場所までスタスタと移動。そうすれば微かな会話も無くなり急に静かになった周りに違和感を感じた真が顔を上げてこちらを視認してくれる。ここまで来たら彼女の方から話しかけて来るのでごく自然にコミュニケーションが取れる。

 

ふ、完璧な作戦だ*4

 

「あら、貴方噂の転校生ね?問題児の貴方がここになんの用かしら?」

 

「そう言う貴女はジョナサン・・・・・・失礼、生徒会長さん。なに、少し静かな所で自習でもしようかと思いまして。自分もこの学園の生徒ですので問題は無いでしょう?*5

 

「・・・・・・まぁ、そうだけど。」

 

そう言うと彼女は反論が出来ず押し黙ってしまう。腐ってもここの生徒ではあるので強くは出れないし、別に悪さをしようとしてる訳でもなくただ学生らしく勉強しようとしてるだけ。それを責める程、彼女は意地の悪い人間では無かった。

 

「ここ出会ったのも何かの縁、同席させて貰っても?」

 

「え?あ、あぁ別に構わないわ。私専用って訳でも無いもの。」

 

「ありがとうございます、では失礼して」

 

やや強引に相席することにした蓮は遠慮なく彼女の真ん前に座り、筆記用具と教材を広げて早速勉強を開始した。その事に少しの間呆然としていた真だったが、その後すぐに人の事を気にしている場合ではないと自分も勉強を再開した。

 

(相変わらず肝据わってんなコイツ・・・・・・)

 

モルガナがカバンの中で蓮に向けて引いた目を向ける。初対面の、しかも年上相手にこうも手玉にとるとは最早肝が無いんじゃないかと思うくらいのライオンハートだ。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

当然ながら、勉強中なので互いの間に会話は無い。ただ文字を書く音だけが静寂の中に子鳥のさえずりの様に鳴っているだけだ。しかし、真はどうも目の前の問題児が気になるようで時折チラリと目線を彼に向けている。蓮もそれに気づいていたが別に指摘するつもりは無かった。

 

ちなみにモルガナは寝始めている。

 

そして真の目線は蓮のノートへと移る。見るからに普通のノートだが、その内容に彼女の目が僅かに見開いた。

 

「・・・・・・それ」

 

「はい?」

 

「2年生のレベルじゃないわね、それどころかかなり先の・・・・・・」

 

そう、蓮が解いていた教材は今学んでるものよりも先のレベルの物。作者の頭が悪いので詳しくは書けないが某東大レベルの難題が記述されているものだった*6

 

「随分勉強熱心なのね、正直意外だわ」

 

「よく言われますよ、ただ知らない事を理解するのが好きってだけなんですけど。勿論、復習して自分のものにするのも。」

 

ペンを止めずにそう言う蓮。これは正直な本心であり、昔は嫌いだったがいつの間にか勉強は趣味の一部になっていたのだ。知識は幾つあってもいいし、結果もハッキリしてる。それに知を蓄えてるという感覚が妙に癖になるのだ。竜司には理解できないと言われたが。

 

「・・・好き、ね。」

 

「会長もそうですか?」

 

そう聞くと、真の手がピタリと止まりちょっとだけ思考してから口を開いた。

 

「いえ、私は・・・・・・どう、なのかしら。好きと聞かれると・・・必要だからやってるの方が正しいんじゃ・・・」

 

「そうなんですか」

 

「・・・それより、そんなに勉強してるならやっばり大学も良い所を狙ってるのかしら」

 

「うーん、いえ、今の所それは考えてませんね。」

 

蓮がペンを軽く口に当てながら言うと今度は顔を上げて蓮を見る真。まさかと予想していなかったと伝わるくらい目には困惑が映っていた。

 

「え・・・・・・なんで?」

 

「別に良い所に行かなくてもやりたいことはやれますし、選択肢は増えるんでしょうけど、そこまで拘りは無いですから」

 

たははと笑いながら後頭部をかく仕草をする蓮。そしてこの先でコミュを進めやすくするために彼女が()()()言葉を敢えて突きつける。

 

「参考にお聞きしたいんですけど会長はどうですか?なんかやりたいこととか先に考えてる事とか何かありますか?」

 

「・・・・・・やりたい、こと・・・・・・先・・・・・・?」

 

「会長?」

 

蓮の質問に対し、うわ言のように呟いてフリーズしてしまった真。

 

そう、この質問こそ彼女に揺らぎを与える言葉。彼女自身も気がついていなかった根幹への刺激。

 

言わずもがな、彼女は大変優秀な人間である。しかし、持って生まれた生真面目さ故に他人の干渉を受けやすく立場による板挟みも多い。()()()()()()を被った彼女は周りの大人の言う通りエリートの道を進んでいるだけで、そこに彼女自身の意思は現時点でははっきり言って薄い。

 

他人の敷いたレールの上を歩き、しかしその事に内心疑問を持つが逆らうことも出来ない少女。それが新島真なのだ。

 

そのことを、敢えてこの時点で触れて彼女の中にある疑念を大きくする。そうする事で後々、彼女と関わる時に絆が深まりやすくなるのだ。あとは単純に下手したら見つけられなかったり変に拗らせる可能性があるので早めに向かい合わせたかったってのもあるのだが。

 

「あ・・・いえ、ごめんなさい。私は、その・・・・・・」

 

「あ!」

 

自身の境遇とふつふつと湧いてきた疑念に苛まれながら蓮の質問に答えようとした所で何かを思い出した風に声を上げて立ち上がると真もビックリして思わず声を上げた。

 

「え!?」

 

「すみません、今日ワンピー・・・用事があるの思い出したので。今日はこれで失礼します。」

 

「あ、あぁそう・・・え、ちょっと待って?ワン〇ースって言いかけなかった?最新刊買いに行こうとして無かった!?」

 

「ははは、まさか(棒読み)。では、ありったけの夢をかき集めなくては行けないので。相席ありがとうございました。」

 

「ちょ、ちょっと!・・・・・・行っちゃった。何だったのあの子・・・・・・。」

 

よし、これでフラグ準備は完了。あとは時が来るのを待つのみである。蓮はそう考えながら僅かに笑を零した。

 

爆発するように突如現れ、嵐のように過ぎ去った蓮に困惑を極めた真は質問の事もあって勉強に集中出来ず悶々としながら帰宅したという。

 

 

 

 

 

 

そしてその原因である蓮は学校を後にして、渋谷駅に向かっていた。

 

途中で起きたモルガナが寝ぼけ眼を擦りながらカバンから顔を出すといきなり景色が変わっていて驚いていたのがとても可愛かった(小並感)

 

さて、渋谷駅に来たのは言わずもがなとあるコープの進展のためである。このコープというのは中々に意地が悪いもので基本的に流れに沿っていけば殆ど解放出来るのだが、中には自分から行動しなければ解放されないものも存在する。

 

その内の1人がこれから向かう場所にいる人物、指し示すアルカナは『太陽』。意外と存在を忘れられがちだが、国の未来と真摯に向き合っている数少ないマトモな大人。

 

『吉田寅之助』である。

 

過去に若さゆえの不祥事を起こし政治家失格の烙印を押されているが、そんな自分を改め今度こそ国の為に尽くそうと渋谷駅前で街頭演説を行っている。

 

しかしそんな背景を持っているからか彼の演説に足を止める人は少なく、心無いヤジが飛ぶこともあるのだがそれに対して自分の不甲斐なさを痛感するという懐の広さと誠実さを持つ大人の鏡みたいな人だ。

 

いやほんと秀尽の奴らこの人見習ってくんねーかな。

 

「ん?なんだありゃ?」

 

そんなこんなで寅之助がいる渋谷駅まで来た蓮達は早速彼の所までやって来ていた。モルガナも熱心に民衆に語りかける寅之助に興味が湧いたのかそちらの方に顔を向ける。そして蓮もそれに続いてごく自然に彼の方へ向かって行った。

 

「街頭演説みたいだ」

 

「ほーう、熱心なもんだな。人となりも良さそうだし、言ってる事も悪くない。後はあれが真実かどうかってとこか。政治家ってのはどうも胡散臭いからな。」

 

「全くだ」

 

主にハゲとか、あとハゲとか、それとハゲとかな。

 

モルガナとそう話していると立ってこちらを見ている蓮に気がついた寅之助が区切りのいい所で演説を止めて蓮に声をかけてきた。

 

「やぁ、私の演説を聞いてくれてたのかな」

 

「えぇ、まぁ」

 

「ははは、そうか。それは嬉しいな。君のような若い世代が耳を傾けてくれるとは。それとも政治に興味があったのかな?」

 

「両方です。貴方の話に共感したので。」

 

「ほう、そうか!いや嬉しいものだね。面と向かってそう言って貰えるのは。今日はたまたまズレてしまったが、何時もは日曜日の夜に演説をやっているんだ。気が向いたら聞きに来てくれ。」

 

それでは、と演説に戻る寅之助。小さく「今日の牛丼は美味いだろうな」と呟いているのを聞き、ホッコリしているとモルガナが少しだけ顔を出して寅之助の背中を見ていた。

 

「あのおっさん、中々の貫禄だったぜ。あの感じだと演説の内容も嘘じゃないかもな。今時珍しい正統派って雰囲気だ。」

 

「そうだな」

 

「ああいう弁舌は将来役に立つぜ、教えて貰うといいんじゃないか?」

 

「ふむ、考えておく」

 

怪盗のスキルを育たせる気満々のモルガナを軽くいなして今は深く関わらず退散する。そして来週の日曜日に偶然を装って逢いに行くのだ。後は過去に本人から教わった話術で彼の演説の手伝いをする。くく、完璧だ。

 

さて、このまま帰ってもいいのだが折角なのでもう1人コープ構築準備をしておこうと思う。

 

ので、真反対の神田へと出発進行〜。その事にモルガナが何故わざわざ反対方向に?と疑問を浮かべてるので「神の啓示が降りてきた」と返すと残念な人間を見るような目で見てきた。

 

まぁ別に止めやしねぇけどよとカバンの中で寝始めるモルガナを極力揺らさないようにして目的地へと向かっていく。神田、まぁ正確には水道橋駅で降りて約10分ほど。見えてきたのは立派な西洋風の建物、屋根の上に付いた十字架。

 

そう、教会である。

 

普通なら教徒以外入る事は無いし、入ろうと思っても躊躇するであろうそこへ何の躊躇いも無く突入していく。キィ、と小さく擦れる音を立てる扉を開くと静かで少し薄暗いが不気味では無く、寧ろそれが心に安らぎを与える。

 

中を見回してみると全く人はおらず、神父様も今は留守なようだ。しかし1人だけ、こっちに背を向けて椅子に座っている人が目に入る。

 

その人、いや彼女の髪は薄暗い教会内でも絹のように美しく夜空の様に吸い込まれそうな黒。講談に近づく振りをしながら彼女の所まで歩いていくと、彼女もこちらに気がついた様で手元から目線を上げて見つめてくる。

 

そうして顕になった彼女の容姿は良く整っていて、その雰囲気はクールでミステリアス、左髪につけた赤い髪飾り。正に大和撫子と言った美少女であった。

 

彼女こそ目的の人物、将棋を打ち自分を通して怪盗団の戦術強化をしてくれた"美し過ぎる将士"と呼ばれる少女。

 

指し示すアルカナは『星』。

 

 

『東郷一二三』である。

 

 

 

「あ、教徒の方ですか?今神父様はちょっとした用事で留守でして・・・」

 

サラリ、と流れる髪を耳にかけ直しながらそう声をかけてくれた。どうやら教徒だと勘違いされたらしく、彼女のせいでは無いのに申し訳なさそうに言う姿に少しの罪悪感を覚えながら言葉を返す。

 

「いや、教徒じゃないんだ。少し教会に興味があって、調べて気になったから来てみたんだ。」

 

「そう、なんですか。すみません、いらないお節介を・・・」

 

「そんな事は・・・ん?」

 

自然な動作でチラリ、と彼女の手元に視線を落とし将棋盤を見た。

 

「将棋、か。1人で指してるのか?」

 

「あ、はい。新しい戦術を考えてた所でして。それにはこういった静かな場所で1人の方が・・・って、すみません。興味の無い話ですよね。」

 

「いや、何となく分かる。昔少しチェスにハマっていた時期があったんだ、確かに戦術を考える時は1人で黙々と考えてた方が良く捗った。」

 

「そうなんですか・・・あ、ちなみに将棋は・・・」

 

「指せるぞ、良ければ一局。」

 

「!そうですか、ありがとうございます。丁度新しい戦術を思い付いたので試したかったんです。」

 

そう言うと駒を定位置に戻し、こちら側の駒も揃えてくれた彼女にお礼を言いながら反対側に座る。

 

そしていざ対局開始という直後、彼女の目付きが目に見えて鋭くなり纏う雰囲気も勝負師の()()に変化した。

 

それ即ち・・・・・・

 

 

 

 

 

「「決闘(デュエル)ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

将棋(バトル)の始まりである。

 

 

 

は?

 

 

「先行は私から!!私はノーマルソルジャーを進軍!ターンエンド!」

 

いきなり作画が切り替わった東郷がデュエルディスク(将棋盤)の歩をセットするとソリッドビジョン(セルフイメージ)によって軽装の歩兵が現れ一歩先に動いた。

 

「後行、俺のターン!勇み足の突撃兵を前進!ターンを終了するぜ!」

 

ビッ!とカードを引くように歩を手に取った蓮は独特な手の形で歩を進めるとこれまたソリッドビジョン(セルフイメージ)から足軽が姿を現し一歩前進した。

 

これこそが決闘者(デュエリスト)同士の決闘(デュエル)でのみ見ることの出来る新感覚の将棋。

 

デュエルモンスターズ(将☆棋☆王)(パチモン)である!!*7

 

 

「私のターン!再びノーマルソルジャーを進軍!」

 

「俺のターン!・・・・・・!」

 

「私の・・・・・・!」

 

「ちくわ大明神・・・・・・!」

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ゆけ!青眼の究極竜王(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)ンッ!!ふはははー すごいぞーカッコイイぞー!」

 

 

まぁあれからなんやかんやあり、何となく蓮が優勢みたいな感じとなった盤面。飛車から竜王と成り、どっかで見た事のあるドラゴンが彼の背後に陣取る。その迫力に、どこぞの社長の過去の姿のような顔で勝ちを確信している蓮。

 

「くくく、これじゃMeの勝ちじゃないか・・・この盤面!この布陣!もう勝負は決まったも同然ナノーネ!敗北は有り得ないデスーノ!」

 

余りにも小物過ぎる顔で小物以下のセリフを吐く蓮。慢心という名のインクに塗りたくられたインクリングはマンメンミを浮かべながらナイスを押しまくっている。 下手すれば煽りイカと呼ばれそうな程の表情をしていた蓮はこんな状況下でも不敵な笑みを浮かべる東郷に眉を顰めた。

 

「ふふふ・・・・・・それはどうでしょう」

 

「何?何を言って・・・・・・」

 

「敢えて言わせて貰おう、それを待ってたと!

 

「ひょ!?」

 

 

カン☆コーン

 

 

 

「刮目せよ!我が兵は地を抉り、天を割り、星を掴む!現れいでよ!ジ・エンペラー龍馬ッ!!」

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

爆発のような着地音を響かせながら現れたのは煌びやかで重厚な鎧に身を包んだ巨人兵であった。その手には禍々しい漆黒の魔剣が握られており、青眼の究極竜王にも怯まずに真正面から向かい合っている。

 

 

「ダニィ!?馬鹿な・・・・・・まさか!」

 

「次に貴方は『これも全て計算の内かJOJO!』と言う!」

 

「これも計算の内かJOJO!・・・・・・ハッ!?」

 

「その通り!何から何まで計算づくなのです!これでとどめ!王手・終局(ドゥームズ・デイ)ッ!」

 

「ぐおぉぉぉおぉぉっ!?参りまし、た・・・ッ!!」

 

「粉砕!玉砕!大☆喝☆采!!」

 

巨人兵が振り下ろした魔剣の一撃は究極竜王を容易く切り裂き、王将である蓮を討ち取った。その衝撃で何故か吹き飛んだ蓮は教会の壁に叩きつけられ、自身の敗北を認めながら地へと倒れ伏した。

 

かくして、激闘の末勝利を収めたのは新たな戦術を見出したキャラ崩壊を起こしている美し過ぎる将士の東郷であった。

 

 

将棋とは────?*8

 

 

「いや驚いた。強いな君は。」

 

「これでも将士の端くれですから」

 

壁から剥がれ落ちた蓮は何事も無かったかのように立ち上がり服を叩きながら元の位置に戻ると彼女を称賛する。それに謙虚に対応する東郷だが、その顔は満更でもなさそうだった。可愛い。

 

「リベンジいいか?」

 

「勿論」

 

まるで今まで本気じゃ無かったんですけど?と言うように上着を脱いで腕まくりをした蓮は再び彼女に決闘を挑み、まさかの第2回戦が勃発した。

 

そんなこんなをしている内に時間はみるみる過ぎていき、すっかり夜になってしまった。実は途中からちゃっかり帰ってきて楽しそうに将棋をする東郷を見守っていた神父様が声をかけてくれてようやくその事に気がついた蓮は慌てて時間を確認した。

 

ついこの間門限も解除されたものの余りに遅いと店を閉められず惣治郎がお冠になってしまう。それはまずいとここで切り上げる事にした。

 

「もうこんな時間か、つい熱中してしまったな」

 

「え、あ本当ですね。私も気が付きませんでした・・・」

 

将棋に夢中になっていたのは彼女も同じな様で結構な時間が過ぎていた事に気が付き、母親が心配してしまうと焦り始める。

 

「すみません、つい夢中になってしまって・・・」

 

「こちらこそすまない、こんなに将棋が出来る人が周りにいなかったからつい・・・」

 

2人揃って謝り倒した後に何だかシンパシーを感じて顔を見合せてふふっ、と笑い合う。

 

「もう遅いから駅まで送ろう。と言っても俺も電車なんだが。」

 

「ふふ、ありがとうございます。よろしくお願いしますね?」

 

そうして片付けを済ませて神父様に礼をしてから教会を後にした2人は道中は学校の事や将棋の事を話しながら駅まで歩いていくとあっという間に着いてしまった。最後に別れの挨拶を済ませる前に蓮が彼女にある提案をする。

 

「もし良ければ時間がある時にまた将棋を指さないか?」

 

「え?」

 

「君との勝負は勉強になる事が多かったし、何より楽しかった。」

 

「それは・・・ありがとうございます。私も貴方との勝負はとても有意義な時間でした。是非、またやりましょう。」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

そうして、再び彼女と将棋を指す事でコープを深める準備を済ませた蓮は手を差し出し、東郷もそれにおずおずとか細い綺麗な手を伸ばして軽い握手をした。

 

「じゃあ随分遅いけど自己紹介を。俺は秀尽学園2年、雨宮蓮だ。よろしく。」

 

「私は洸星高校2年の東郷一二三と申します。以後、よろしくお願いしますね。雨宮さん。」

 

 

 

我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「星」のペルソナの誕に

祝福の風を得たり

 

へと至る、

更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『東郷一二三』

 

 

ARCANA:『星』 RANK.1☆

 

 

 

 

 

星コープGETだぜ!

 

 

 

 

 

この後、惣治郎にそこそこ怒られた。ぴえん。

 

*1
体力お化けの蓮は除く

*2
ちはちでも痴の方

*3
多分五割は行ってる

*4
尚、この時点の好感度

*5
問題児とかけた激ウマギャグ(マハブフ)

*6
ちなみに東大レベルがどれ位かも把握していない。見ただけで頭痛がしたので。

*7
やけくそ

*8
プロフェッショナル 仕事の流儀のあの音





・黒羽エリ

ペルソナ5のコミック、『メメントスミッション』にて登場するキャラクター。多分本編にはいない(作者が見落としてる可能性もある)。見た目は冴さんに似てる。恐らく茶髪か薄紫とかだと思う、瞳も勝手にイメージ。カラー版がないので妄想でカバーして貰えれば・・・

ネタバレになるので細かい事は書けないけどめちゃくちゃ辛い目にあってる子。あの作品で報われなかった分、幸せになって欲しい。

今作ではまだ父親に汚されていない。これは作者の個人的な解釈で彼女の父親は元々彼女を虐待していたが高校生になってからバイト代を奪う→それが過激になっていく→彼女に手を出す→事件へ。的な流れかと考えたからです。ええ、ご都合主義さ!

蓮と偶然話した事で少し心が救われた。蓮を止めたのは何故か既視感を感じたから。この後両親が改心したことを知り、更に前向きになって行く。この後の出番は不明。

・黒羽エリの父親

ゴミカス。死んで正解だったがこの世界では罪悪感に押し潰されかけながら生きてる。一生そうなってて欲しい。

・黒羽エリの母親

ゴミカス2。ついでに改心された人。罪悪感に押し潰されかけながら生きてる。もしかしたら和解するかもしれないし、ダメかもしれない。知る由もない。



というわけでコープ回でした。ゲームと違って最速でコープ相手に会えるのがこの世界のいい所。ちなみに私は将棋のょの字も知りません。

ゲームの最初に総治郎宅のインターホンを残酷な天使のテーゼのリズムで押すと最速で双葉に会えるらしい。


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glory and downfall

警察「ここに名前を書け」

蓮くん「・・・・・・。」

警察「書いたか」

「『うるせ〜〜!!

知らね〜〜〜〜!!

FINAL FANT

ASY』」

こうすると修正パンチが5発くらい飛んできて前が見えねぇ状態でストーリーが進みます(大嘘)

て事でどうも皆さん。お久しぶりです。最近見た作品にすぐ影響を受ける男、好きな忍術は塵遁・限界剥離の術、好きな魔界777ツ能力は無気力な幻灯機(イビルブラインド)、私です。鬼滅を読み返したり、リコリコを見たりしました。推しはミカさんです。よろしくお願いします。

あ、あと今更ながら『鬼と鬼殺とサムライソード』って作品を新たに投稿してますのでよろしければそちらもご観覧おば。見て見て見て見て見て!(承認欲求の塊)

では今回も、駄の呼吸 参の型 流流巻き!


 

さぁ日付をすっ飛ばしてとうとう鴨志田の一世一代の告白が行われる全体集会の時間である。

 

この見せしめを見たくて何度眠れない夜があった事か。無かったなそんな夜。ぐっすり8時間快眠してたわ。

 

そんなことは置いといて早速鴨志田の懺悔タイムへとレッツゴー!

 

・・・と、その前にこちらをご覧ください。ジャジャン!

 

 

 

 

我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「塔」のペルソナの誕に

祝福の風を得たり

 

へと至る、

更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『織田信也』

 

 

ARCANA:『塔』 RANK.1☆

 

 

 

はい、この日まで暇だったので塔のアルカナを司る少年。毒親気味の母の元で暮らし、徐々にその思考に飲まれかけるも最後にはしっかりと強さと向き合う可愛い天才ガンシューティングプレイヤー。『織田信也』君ともコープを結んできました!やったー!

 

あ、折角なのでダイジェストをどうぞ。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

秋葉原、ゲームセンター『ジゴロ』にて

 

 

「エンペラー!弾丸だってスタンドなんだぜぇ!!」

 

「おい見ろよ!あのプレイヤー!ホル・ホースのコスプレしながらプレイしてるぜ!」

 

「クオリティたけー!しかもめちゃくちゃ上手いぞ!何者だあいつ!?」

 

「ホル・ホースになりきってるのは置いといても、あの『キング』にも引けを取らねぇ上手さだ!」

 

「へぇ、僕に匹敵する、ねぇ。」

 

「こ、この声は!?」

 

「やはりキングか、いつ出発する?私も同行する」

 

「キング(IN)

 

「キングがインしたお!」

 

「俺と勝負しようよ。どっちが強いかハッキリさせてあげる」

 

「銃は剣よりも強し!んっん〜〜名言だなこりゃ」

 

「すげぇ!!会話が成立してねぇ!!」

 

「モノマネに力を注ぎ過ぎてんだ!語彙が死んでやがる!」

 

「キングたんぺろぺろ」

 

「誰だ今の」

 

 

〜 ガンナバウト対戦中 〜

 

 

「か、勝ったぁ〜〜・・・・・・」

 

「一番よりNo.2!これがホル・ホースの人生哲学!モンクあっか!」

 

「名言だけど、これの後だとめちゃくちゃ情けねぇぞ!」

 

「でもめちゃくちゃ接戦だったよな」

 

「ああ、あのキングをあそこまで追い詰めるなんて・・・只者じゃねぇぜ」

 

「ホル・ホースたんぺろぺろ」

 

「上級者がいるな」

 

 

「ねぇ、あんた強いね。ここまで追い詰められたの初めてだ。名前は?」

 

「俺の名ァホル・ホース!」

 

「あ、そういうのいいから」

 

「ウッス。雨宮蓮っす。おなしゃす。」

 

「俺、織田信也。ねぇ、たまにでいいからまた一緒にプレイしようよ。あんたのプレイ、正直勉強になったし。対戦中になんとかコピーしなきゃ負けてたし・・・なにより、た、楽しかったし。ど、どう?」

 

「勿論だ、よろしくなァ!」

 

「うん、よろしく!」

 

 

コープぺかー!

 

 

FOOOOOOO!!!

 

 

 

ダイジェスト終了

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

ってな感じで直ぐに仲良くなりました

 

それにしてもやはり信也は本当の弟のように可愛い。義理の弟として家に持って帰れませんか?え?お前、前科持ちだろって?

 

ちっ、うっせーな・・・反省してまーす(棒)

 

無能な警察の戯言なんてほっておいて続きを。それからというもの、信也とは何度も会って一緒にゲームをしている。ガンナバウトに限らず、ソシャゲや、最近秋葉に行ったついでに買ったテレビでテレビゲーム、パソコンなどで色々なゲームをしていた。

 

周りにはそういう人がいなかったからととても喜んでいた。ふふ、可愛い!しかし勉強もしっかりなと釘を刺すと渋々頷いていた。

 

とまぁ、こんな感じに鴨志田大暴露会までは皆とコープを深めていたのだ。竜司とラーメン食いに行ったり、杏や鈴井さんと買い物に行ったり、武見先生の所に治験に行ったり、惣治郎のコーヒーを楽しんだり、一二三んと将棋を指したり・・・あ、あと吉田さんともコープを結んだ。

 

ついこの間、一緒に牛丼を食べ、持ち前の話術であれよあれよと契約したのだ。ふっふっふっ、本人から学んだ話術で本人をたらし込む。まさに免許皆伝と言った所だろう*1

 

そんな訳でかなり順調に交友関係を広げているのだ。これなら最速コープMAXも夢では無い。ふふふ、もっと皆と仲良くなっていくぞ!友達が増えるよ!やったねたえちゃ(*2

 

 

「皆さん、おはようございます。今日はうんたらかんたらペちゃくちゃほにゃらら〜・・・・・・」

 

と、やる気になっている間に集会の時間である。長々と永遠にも感じられるほど聞く価値もない話を続けているお前どこで買ったんだよってスーツ着てる校長の声をBGMにしていると、突然体育館の入口が開かれる。

 

全員そちらの方を向くと、そこにはなんと!1ヶ月近く来なかった鴨志田がいるでは無いか!!

 

まるで待たせたな!と言うヤンクミみたいな登場をした鴨志田は沈痛な表情で壇上に上がると校長からプロレスラーのようにマイクを奪い取り、今までの罪を懺悔し始めた。

 

「私は、生まれ変わったんです。だから、皆さんにすべてを告白しようと思います。」

 

「え!?鴨志田先生、一体何を・・・?」

 

「私は教師として有るまじき行為を繰り返してきました。生徒への暴言、部員への体罰、女子生徒への性的ないやがらせ・・・・・・そんな人間として屑のような行いを日常的にしていたのです・・・!」

 

困惑する校長をガン無視して懺悔を続ける鴨志田。改心前ではありえないほど意気消沈しながら語る姿に体育館にいる生徒や教師は驚愕を隠せない。

 

そして同時に、明かされた真実に怒りや軽蔑、嫌悪を沸き立たせて行く。俺?くっそどうでも良さそうにしながら欠伸噛み殺してるよ。

 

口々に罵倒を垂れ流しながら、傍観している周囲の生徒や教師に鴨志田はガクリと膝を折り、膝立ちになって自分の手を見つめ始める。

 

「私は、この学校を自分の城のように思っていました。気に入らないという理由で部を潰したり、退学に追い込もうとした・・・なんの罪も無い青少年を酷い目にあわせて本当に、済まなかった。」

 

言葉を口にする度にまともになった心から滲み出してくる後悔が涙となって鴨志田の頬を伝い、床を濡らす。それは欺瞞だらけだった鴨志田が久方振りに流した嘘偽りの無い涙であった。あ、なんか痛いと思ったらささくれ出来てんじゃん。やだー。*3

 

「私は、私は、傲慢で浅はかで・・・恥ずべき人間、いや、生きる価値の無い人間以下だ・・・・・・!死んで、お詫びします・・・!」

 

鴨志田の死ぬ発言にざわ・・・ざわ・・・と騒がしくなる生徒達。

 

ここでめちゃくちゃシリアスなBGMを鳴らしたい気持ちをグッと抑え、見届ける。それやったら空気読めないなんてもんじゃないからね、時の破壊神になれるからね。

 

 

「逃げるな!!」

 

 

土下座をする鴨志田を見て慌てて生徒を解散させようとする教師達の声すら飛び越えて、杏の声が響き渡った。

 

「アンタに虐げられた人達は、今日まで逃げる事も出来ないで来た!辛い思いを抱えながら、それでも今日まで耐えてきた!なのにアンタは罪を自覚したから死にます!?ふざけんな!!そんなの自分がやってきたことから目を逸らしてるだけじゃない!」

 

 

「あんただけ、逃げないで!」

 

その一言に、体育館は完全に静寂を貫かざるを得なかった。そこに込められた思いが、意思が。あまりにも重く、無意識下で他人事と片付けようとした自分に気づいたからだ。

 

きっと、それでも無関心を装う人は多いだろう。しかし、残った少数の人々の心には沈痛な思いを抱かせた筈だ。それだけでもきっと価値のある事だと俺は思う。

 

「・・・・・・その通りだ。全く、その通りだ。私はきちんと裁かれ罪を償うべきだ。」

 

杏の言葉を聞いた鴨志田は下げていた頭を上げ、彼女の目を真っ直ぐと見た。

 

「君にも、酷いことをした。私は、鈴井さんにポジションを与える事を条件に、高巻さんに、関係までも迫ったのです。」

 

その告白にまたざわつき始める体育館。最初とは打って変わって、鴨志田を罵倒する声が殆どを締めている。だが、それに目を背けるでもなく真っ直ぐと受け止めた鴨志田は今までにないくらい澄んだ瞳をしていた。

 

「今日限りで教師の座を降り、自首致します。どなたか、警察を呼んでください!そして私が虐げた人々への精一杯の謝罪をしたい。本当に、申し訳ありませんでした・・・!!」

 

 

「・・・・・・鴨志田」

 

心の底から改心した鴨志田の謝罪を、隣の竜司は複雑ながらもしっかりと受け取ったらしい。溜飲が下がるような思い、とまではいかなくとも自分の思いに決着は付いたようだ。

 

そして勿論、警察への連絡は済ませてある。あんな大っぴらに自首発言をされては誤魔化しは聞かないだろうが、万が一それを有耶無耶にしようとする可能性もあるので先に手を打っといた。

 

これでしっかり鴨志田は檻の中に入る事だろう。あとは、この先の活動についてだな。

 

周りが予告状の『怪盗』についてで盛り上がる中、俺達は各々の教室へと戻って行った。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「マジで改心してたな、鴨志田」

 

「うん、でもまさかあんな大勢の前でいきなり罪の告白し始めるとは思わなかったよ」

 

時間が飛んで放課後、屋上に集まった蓮達。体育館での鴨志田の豹変ぶりを見て改心に確かな効果があることが判明し改めて自分達が成し遂げた事に達成感と同時にこれで良かったのかと疑問を感じている2人。

 

それに加えて周囲の目も変わり、杏に対して流れていた噂を信じて偏見の目を向けていた生徒数名と三島に謝罪をされた事で色々と考えてしまっているようだ。

 

「俺達のやったことは間違ってなかった。けど、本当にこれで良かったのかってどっかで思ってんだ。おかしいよな、やる前はあんだけやる気だったのによ。」

 

「分かる、私も散々酷い事されてそれの仕返しをしてやるって考えてたのに、いざ終わったらモヤモヤしてるもん。私達がやったのは結局人の心を弄って都合のいい様に変えてるだけじゃないのかなって・・・。」

 

そう言って暗い雰囲気に包まれる2人にオロオロする鈴井の膝に座っていた猫の姿に戻ったモルガナはにゃーにゃーと抗議する。

 

「何言ってんだ。現状を打破して廃人化もせず、最悪な展開も防げた。万々歳じゃねぇか。しかもシャドウが死んじまう前に説得して本人の下に返してやれば廃人化は起きないって事も分かったんだぜ?大勝利だろ。」

 

「まぁ、そうだけどよ。」

 

結果だけ見れば大儲け。しかしそれでも納得の出来ない竜司達はもにょもにょと口をまごつかせる。確かに、倫理観的に人の心を変えてしまう自分達の行動は余りよろしいとは思えないのだ。その心は怪盗として活動する上で大切な物だ。是非忘れないで欲しい。

 

「少なくとも決して裁かれる事の無い奴に罪を認めさせた。今はそれだけで十分じゃないか?」

 

「・・・・・・だな」

 

「うん」

 

蓮の優しい方面の言葉に取り敢えず納得した2人はあの日々から開放された事を噛み締めるように頷いた。

 

「それよりも今はこっちの方が大事か」

 

そう言って自身の目の前に金メダルを持ってくる竜司。夕日に照らされたメダルは汚れ一つ無く、かつての栄光を示すようにキラキラと光り輝いている。

 

「けっ、大層な王冠が金メダルになるとはな。どんだけ認識が歪んでたんだっつの。」

 

「でもどうするのこれ?手元に残しとくのはなんか嫌だし、捨てる?」

 

元々の持ち主が鴨志田という事で、そのオタカラであったそれにも嫌悪感を顕にする杏に竜司も頷いて同意する。あの鈴井ですら特に否定もしていない為、余程所持していたくないのだろう。蓮も流石に願い下げだった。

 

そんな彼らを見て、モルガナはいいアイデアが出たと耳を立てる。

 

「それもそれで問題になりそうだが・・・そうだ、いっその事売っちまえばいいんじゃないか?」

 

「え、売れんのかこれ?だってあっちの世界のモンだろ?偽モン判定されんじゃね?」

 

「例え異世界の物でもこっちに持ってくりゃ同じ物質だ。現実のモデルガンも性能は変われど見た目は変わらんだろ?それだってそうだ。こっちでメダルとして認識されるのなら本物に()()()()()のさ。」

 

異世界と現実世界はある種相互関係にある。こっちの物質はあっちでは認知によって性能は変わるのと同様に、あちらの世界で見つけた物質もこっちに持ち込めば似たような性質、近しい物質に『当て嵌められる』事で現実世界に持ち帰れるのだ。

 

金や宝石類がいい例だろう。ちなみにあちらの武器もこっちでは玩具として認知されるから持ち帰るとレプリカになる。

 

認知が現実に、現実が認知に。互いが互いに作用し合う事で起こる特殊な事象である。

 

「よく分かんないけど、本物が2つに増えたって感じの認識でいいの?」

 

「まぁその認識で構わんさ。」

 

あくまでも複製品では無く、紛れも無く本物であるというのは間違いない。問題なのはその金メダルが2つあるという事だ。つまり、調べを入れられたら何故か本物が2つあるという異常事態に気づかれてしまう危険性があるという事。

 

となると、表立った普通の店での換金は行えない。黒過ぎず、しかし決して白では無い。そんなグレーゾーンにあるような店でない限り売ることは出来ないだろう。

 

そう、正しくあの店(アンタッチャブル)のような。

 

「それならいい店を知ってる」

 

「え?マジで!?どこどこ!」

 

「竜司も知ってるとこだぞ」

 

「は?・・・・・・まさかあの親父のとこか!?うげーマジかよ!確かに行けそうだけど、バレたらタダじゃ済まねぇんじゃ・・・!!」

 

そう言って青ざめる竜司の脳内ではあの店主が凄まじい剣幕でこちらに何十丁もの銃を突き付けて来てるイメージが思い浮かばれていた。ひぇ〜!と震える竜司にモルガナが呆れてため息を吐く。

 

「はぁ、妄想が過ぎるだろ。まぁ確かにそんないわく付きを買い取る時点で普通じゃないっての証明されちまうが。同時にこっちは面倒事を回避し報酬も貰える。ほぼギブテクだろ。」

 

「そんな呑気なもんで済むかァーッ!」

 

また小さな事で取っ組み合いを始めた2人を放って金メダルを持って早速アンタッチャブルへと向かおうとする蓮に杏達が声をかけた。

 

「本当に大丈夫なのそこ?話聞く限りあんまいいイメージ湧かないんだけど」

 

「もし危ないとこなら無理しないでもいいよ?」

 

心配そうに眉を下げる2人を見て蓮は金メダルをくるくる回して少し考えた後、微笑みながら振り向いた。

 

「まぁ、大丈夫さ。何とかなる。」

 

何を言うかと思えばそんな能天気な事をいい笑顔で言いのける蓮に心配も薄れたのか2人もフッと微笑んだ。

 

彼なら、きっと心配は要らない。「ほら行くぞ」と竜司とモルガナの首根っこを引っ掴んで引き摺って行く頼りになる背中をそう信頼して2人は笑顔で見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は飛んで、アンタッチャブル店内─────

 

 

「オメェら、()()を何処で手に入れた?」

 

 

鋭い眼光でこちらを射抜きながらそう尋ねてくる店主の親父に竜司は完全に萎縮し、蓮の背中にスっと隠れてしまった。モルガナも完全に沈黙しカバンの中で縮こまっている。

 

だが彼と正面で向かい合ってる蓮は違う。まるで1人だけ快適な空間で静かにコーヒーを飲み新聞を読み込むような、そんな緩やかさすら感じる涼しい顔で彼の目を見つめ返していた。

 

「まぁ色々事情がありまして」

 

「なんだそりゃ、嘘ならもっと上手くつくんだな・・・・・・だが、見た感じ偽物ではねぇな。だとすりゃ盗品か?」

 

「んな!?そんな訳ねー・・・でしょうが、です、ます、ございます」

 

初めは勢いよく噛み付いた竜司だったが店主にギロリと睨まれるとドンドン萎んでいき、しわしわのポメラニアンと化した。アーニャヤクザ嫌い。

 

これ以上ストレスを与えたら毛が抜け落ちてしまうかもしれないと蓮は竜司をそっと店の外へと出して、再び店主と向かい合う。

 

「盗品でもねぇ、かと言って偽物でもねぇ。ハッ、()()()()()って訳か。」

 

「で、どうです?」

 

「随分肝の座った奴だ・・・・・・よし、事情は聞かないでおいてやる。その代わり、金と一緒に()()持ってけ。」

 

店主が3万と共に取り出したのは小さな紙袋。『モデルガン』程度ならすっぽりと入るサイズのそれを一緒に持っていけと圧をかけてくる。勿論、蓮はその『中身』を知っている。この後、紙袋に入っているブツを巡って()()とのやり取りがある事も。

 

なので、特になんの疑いもなく、ギブ&テイクの形でその取引に応じた。

 

「分かりました。こちらも事情は聞きません。」

 

「フッ、話が分かるじゃねぇか。だが中は見るなよ、次来る時持ってこい・・・そろそろ時間か、そら、用が済んだならさっさと行きな。」

 

そう言ってこちらに背を向ける店主。これ以上の会話は見込めないので礼を言ってからさっさと店を出る。

 

そして店の前でソワソワしながら待っていた竜司が飛びついてきた。

 

「おお!無事だったか蓮!」

 

「まぁな」

 

「にしても相変わらずおっかねぇ親父だったぜ。やっぱカタギじゃねーわあれは。」

 

「ふ、まるで借りて来た猫みてーに縮こまってたのは滑稽だったぜ」

 

「は?猫はテメーだろカバンの中で丸くなってろや」

 

「やるかァ!?」

 

「そっちこそ!!」

 

なんでこの2人こんな直ぐにとっ組み合うんだろうか。喧嘩するほど仲がいいとは言うがここまで酷いと逆に面倒くさくなってくる。仕方ない、両者をデコピンで鎮めて、もとい沈めて途中ですれ違った警察が店の方へ歩いていくのを横目に見ながら駅まで2人を引き摺って行くのだった。

 

 

その後は普通に竜司と別れ、最近作ったグループチャットで金メダルが3万で売れた事を杏と鈴井に報告しつつお祝いでもしようという話になり、杏が行きたいという店でやろうと盛り上がっているのを見つつ帰宅した蓮は自室で紙袋の中を拝見する。

 

「ん?それはあの店主に貰った奴か?」

 

「ああ、中を見るなと言われた」

 

「ほーん?・・・でも?見るなと言われると?」

 

「見たくなるぅ〜!!」

 

ゴールデンなカムイに出てきそうな変顔でキャッキャッとはしゃぐ2人は早速紙袋を開けて中のブツを取り出す。簡素な袋から重厚な音を立てて机の上に躍り出たのは本物そっくりのモデルガンであった。

 

「なっ!?こりゃあ・・・本物、ではねぇな。凄まじく精巧に作られたモデルガンだ!」

 

「そのようだ、見た目だけなら本物だな」

 

「どーなってんだ?いや、そういや吾輩達が店を出た後警察が入ってったよな?」

 

あの状態で見えてたのか、と蓮は驚きつつも肯定する。

 

「あのミリタリー屋何モンだ?待てよ、これなら・・・なぁ蓮、この銃売ってもらおうぜ!」

 

「ふむ、確かにこれ程リアルなら異世界での効果も期待出来そうだな。分かった、交渉してみよう。」

 

「さっすが蓮!話が分かるぜ!よし、近日中に行ってみよう!」

 

よし、これであの店主、『岩井宗久』とのコープフラグも立った。後はお祝いの後にでもこの銃を突き付けて交渉すればOK(蛮族)

 

これで早めに銃の改造も出来そうだな。ふふふ、楽しみだ。なんて笑いつつもお祝いの話も進めていき、トントン拍子で5/5に決まり場所も決定した。こちらも楽しみだ。ループの中で何度も行ってるけど、皆と行くとまた格別な味がするからな。

 

 

楽しみだぜ〜とニヤつくモルガナと共に就寝し、次の日。

 

 

どうせ暇だろうと店の手伝いをするように頼んできた惣治郎の願いを快諾し、朝からルブランの手伝いで皿洗いや卓吹き、トイレ掃除に棚掃除、隅から隅まで綺麗にして行く。それを未だ慣れないのかジト目で見ながら居心地悪そうにニュースを見ている惣治郎だったが、あるニュースを見て目を丸くする。

 

『さて、次の話題です。過去の栄光から一転、逮捕された五輪メダリストに一体何が・・・・・・』

 

「ん?おい、これ・・・お前の学校じゃねぇのか?」

 

「そうですね、もうここまで話題になってるなんて知りませんでした」

 

「マジかよ・・・ったく、学校騒がしくなるかもしれんがお前は大人しくしとけよ、頼むから」

 

「ウッス」

 

蓮の気の抜けた返事に不安を隠せない惣治郎は「ホントに頼むぜ・・・」と頭を抱えて呟いた。おかしい、今のところそんな変な事はしてない筈なのに(無自覚)

 

まぁいいかと作業を再開する。勝手に窓の方に食虫植物を置き、本の種類を増やして惣治郎に脇でヘッドロックされてる最中に入口のベルが鳴り響いた。どうやらお客さんが来たようだ。それに気づいた惣治郎がヘッドロックを解き、カウンターの中へ入っていく。

 

痛む(痛くない)頭を抑えながら今しがた入店してきたお客さんに目を向ける。

 

 

(おや)

 

 

どうやら、1日早くの御来店となったようだ。

 

 

「いらっしゃい」 「いらっしゃいませ」

 

 

「・・・・・・取り込み中?」

 

 

サラリと伸びる灰色の長髪、黒スーツを着こなすクールビューティ。セントラル街で一度出会った女性。

 

『新島冴』がそこにいた。

 

そんな彼女に、俺はニッコリと笑みを浮かべてコーヒーカップ片手に一言。

 

 

 

 

 

 

「オリエンタルな味と香りの店、ルブランへようこそ!」

 

 

 

「だからウチにはそういうのいらねェんだっつの!」

 

 

そう言って惣治郎の投げたクロスワードの本が俺の額を直撃した。

 

 

いいと思うんだけどなーこの謳い文句。

 

 

 

 

*1
とても調子に乗っている

*2
おいバカやめろ

*3
無関心の極み




書きたい二次創作が多くて困っちゃいますね。アイデアが多くても出力する蛇口が1ミリくらいなもんで。

特にリコリコ、ウマ娘、ヒロアカですね。基盤は出来てるけど継続は出来ない・・・そんなんばっかです。やるなら短編、1発ネタになる感じ。この作品みたいにダレるからね!!

という訳で次話が出る間になんか出るかもしれないです、間が長いからね(自虐)


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The PHANTOM

うぉぉぉぉぉぉぉ!更新うぉぉぉぉぉぉぉ!

皆様、季節の変わり目ですが如何お過ごしでしょうか。春になると変態が活発になると聞きます。皆様もお気をつけください。それはそれとして最近イヤに元気が有り余ってるんですけどなんでですかね?(旬の時期)

ビックバンバーガーのチャレンジの時の店員さんの声って上田瞳さんですか??教えて有識者!

それでは今回もまきまき禪院真希!


 

「ええと・・・その、大丈夫かしら?」

 

「大丈夫です、衝撃は逃がしました」

 

「そうは見えないけど・・・・・・」

 

額にたんこぶを作りながら少し傾きがある椅子を直している蓮。そんな彼にやや困惑していた冴だったが、持ち前のクールさと切り替えの速さで冷静さを取り戻し、惣治郎に注文をする。

 

「ブレンド1つ」

 

「あいよ」

 

「ブレンド一丁ぉぉ!!」

 

「居酒屋か!」

 

「へべれけッ!?」

 

惣治郎の返事にちょっと合いの手を入れたら孫の手が飛んできたでござる。そのまま蓮の額にクリーンヒットし、たんこぶを二重にした蓮はまた椅子修理に戻った。そんな彼に心配そうに汗をかきながらやや引き気味な冴に蓮はそういえばと話題を振った。

 

「あ、そういえばお姉さんあの明智君と一緒にいましたよね?あの後どうでした?」

 

「え?・・・・・・ああ、貴方どこかで見た事があると思ったらあの時の・・・。」

 

その話を聞いた事で蓮に一度会っている事を思い出した冴は、店に入ってから感じていた既視感に気が付いた。取るに足らない出来事だったが、彼女は蓮がやけに()()()()()()()を覚えていたのだ。

 

検察官という職業柄、常人よりもよく人を見ている彼女はその観察眼、或いは勘で彼に微かな違和感を感じていた。見た目や纏っている雰囲気はまるで一般人、だが、行動の節々に感じる洗礼された所作。そしてこちらを逆に一瞬で隅々まで観察するその目。

 

とてもでは無いが一般人とは思えないそれらは、直ぐに彼の素朴な雰囲気の中に溶けていった。彼と相対していた明智は他の事に気を取られ気付いていなかったようだが、彼女は確かにそう感じたのだ。

 

「まさかこんな所で再会するなんてね」

 

そのことを思い出してから、冴の目付きがやや鋭くなり蓮は小首を傾げる。

 

「明智君なら特に気にしてなかったわよ。仕事の途中だったからそんなこと直ぐに忘れてたわ。」

 

「そうですか、いやあのハンカチ高そうだったから。何だか気になっちゃって。あ、サイン貰っとけば良かったかな。」

 

そう言ってははっと笑いつつ椅子をイジる蓮。そんな特に普通の少年と言った感じの彼の一挙手一投足を見逃さないように観察している冴は耳に流れ込んでくるニュースにふと顔を上げた。

 

『続いてのニュースです。先日、地下鉄で起きた列車暴走事故は未だに原因が解明されておらず、多発している精神暴走の関与と併せ、警察は事件の究明をいそいでいます。』

 

「ああ、今話題になってるやつか」

 

「・・・これ気になりません?普通に暮らしてた人がある日急に乱心したり錯乱状態に。それも立て続けに・・・偶然かしら。」

 

「どうかねぇ」

 

ニュースを見て、精神暴走に懐疑心を持っている冴は顎に手をやってそう語る。確かに、今まで悪に傾向していた訳でもないただの一般人が特に理由も無くいきなり暴れるなんて普通に考えて意味不明だ。

 

ただの精神鑑定なんかじゃ解析できないだろう。それこそ、自分達怪盗と同じように『心をイジれる異世界に行ける人間』でもない限り。

 

まぁ、犯人は既に知ってるのだが現時点で彼女に伝えても疑いをかけられるだけなので放置でいいだろう。今はせいぜい泳いでるといいさ。

 

「それにしても、アルバイトなんて余裕あるんですねここ。」

 

「いや、そういう訳じゃ」

 

なにか含みのある言い方にやや狼狽える惣治郎。それを無視して彼女は蓮に話しかける。勿論、観察も忘れずに。

 

「貴方、大学生?」

 

「現役バリバリの高校生です」

 

「え?高校生?そ、そう・・・学校は?」

 

「秀尽です、今話題の」

 

見た目が大人びていたからか大学生かと思っていた冴はほんの少し動揺したが、そういえば会った時も制服を着てたなとらしくないミスに内心ため息を吐きながら聞き覚えのありまくる高校の名前に反応する。

 

「へぇ・・・知り合いもそこに通ってるわ。今大変よね。」

 

「ええ、まぁ。突然な事で皆困惑してますよ。」

 

「鴨志田って教師、人が変わったように自分の罪を告白したんですってね。それもある日突然・・・人間の心理状態ってそう簡単に変わるものかしら」

 

そう言うとまた顎に手を当てて自分の思考の海に入り込む。どうやら彼女の癖のようだ。

 

「ねぇ、貴方何か知らない?どんな小さな事でもいいの。」

 

「おいおい、あんま踏み込むもんじゃねぇだろ。」

 

「精神暴走と少しでも接点があるなら疑ってかかる、当然の事では?」

 

「相手は子供だろ」

 

「だからなんです?解決の糸口をみすみす見逃せと?」

 

なんかほっといたら勝手に口論が始まった2人。やめて!私の為に争わないで!と無駄に瞳を潤ませながらヒロインぶって間に挟まると2人はアホらしくなったのかスン、と大人しくなった。もっと可愛くやれば良かったか?と斜め上な反省をしている蓮にどうなの!?と言うような目線を送る冴。

 

「うーん、俺も多少関わったけどそれ以上の接点は無かったですし。寧ろビックリと言うか。」

 

椅子をピカピカに拭きながらシレーっとそう答える。嘘はついてないよ嘘は。ただホントのことに混ぜてるだけだから*1

 

それを聞くと冴は「そう・・・」と興味が無くなったように蓮から目を逸らし、また顎に手をやって考え込む。まぁ大きなヒントを得たかと思えばこんな曖昧な言葉を聞かされれば落胆も大きいだろう。ごめんね、どうせ後であの部屋で全部バレるしええやろ(鼻ほじ)

 

「お待ちどう」

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

そんな彼女に惣治郎がブレンドコーヒーを差し出す。暖かな湯気を出す大人の友を一瞥すると思考を止めて静かに飲み始めた。やはりコーヒーブレイクに余計な思考は不要。風味と雰囲気を全力で楽しむべき。

 

という訳で、自分も休憩がてらコーヒーを頂こうと綺麗になった椅子に座ってキリッと格好付けて注文する。

 

「マスター、何時もの」

 

「働けアホ」

 

 

ひーん

 

 

 

その後、コーヒーを楽しんだ冴は直ぐに会計をして帰ってしまった。仕事が忙しいのは分かるがもう少しゆっくりして行けばいいのに、と上品に牛乳を飲んでると惣治郎にコブラツイストを食らったので真面目に手伝って今日は終了。

 

次の日、気合いの入った服装で惣治郎に出かける事を伝えると(こいつ、まさかデートか・・・?へっ、やるじゃねぇか)と変に勘違いした惣治郎に暖かく見送られ、引き止められることなく出掛けることが出来た。

 

 

 

そうしてやってきたのは渋谷にあるビュッフェ会場である。お値段なんと4人1時間で約4万円。つまるところ1人約1万円だ。正確にはランチで8000円だけど。サイゼで良くない?*2ちなみにはみ出た1万は蓮が自費で出しました。金ならある(富豪並感)

 

だが、その高さも納得の料理の質がある。普段食べられないお高い料理がズラリだ。まぁ俺ならなんなく再現出来るけどと鼻息をふんすと吐きながら1人胸を張る蓮。

 

そんな彼を無視して解き放たれた犬のように料理へと一目散に駆けていく竜司と杏はせっせと食べたいものを詰むと空いている席に座って黙々と食べ始めた。

 

「いや早っ・・・バーゲンセールのおばちゃんかよ」

 

「余程楽しみだったんだな・・・」

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

珍しくモルガナと2人で呆れた目を向ける蓮。流石の鈴井も空笑いだ。そんな彼らもとりあえず皿に料理を乗せ、席に着く。勿論、モルガナの分もよそって。

 

「何言ってんの!1時間しかないんだよ!ノルマまで食べ尽くさなきゃ!ほら、志帆も食べよ!」

 

「だからってスイーツばかりは・・・・・・」

 

「そーだそーだ、太んぞ?あ、この肉うんめェ・・・!」

 

「うっさい!!その分走るからいーの!!」

 

「杏、ほどほどにね・・・?」

 

話をしつつも竜司は肉汁の海に溺れながら、杏は甘みの波に呑まれながらバクバクと食い進める。頬を緩めて心底幸せそうにしている2人に何よりだと思いながらモルガナにご飯を食べさせる。こちらも幸せそうにしていた。

 

(さて、この後はあの()()に会うことになるがさてさて・・・今度はどんな嫌がらせしてやろうかな)

 

ヒョイヒョイとモルガナにご飯をあげながら悪い顔で考える。前は何だったか・・・そう、降りようとしてる時にボタン連打してやったんだ。開閉を繰り返す向こうでイラついてるハゲの顔は傑作だったな。

 

その前は突き飛ばそうとしてきた付き添いの男を強靭な体幹で逆にはね飛ばしてハゲをピンボールのように突っ飛ばしたりしたっけ。

 

後は顔にクリームぶつけたり、頭からワインを被せてやったり、ビール瓶をハゲに叩きつけたり・・・・・・やっぱ1番はズボン降ろした上できん玉蹴り大会を開いた事かな。周りの付き添いもノリノリで蹴ってたもん。相当鬱憤が溜まってたんだろう。

 

今回はどうするか、シンプルに罵倒してみるか?あんま派手な事はしたくないし。よし、最高にキレキレなものを用意しておこう。くく、面食らうハゲの顔が楽しみで仕方ないぜ。

 

ニヤニヤしてると蓮の手に猫の手がポンポンと乗せられる。

 

「ん?」

 

「おい、料理が無くなっちまった。取りに行こうぜ!吾輩魚料理がいい!」

 

「あぁ、そうか。うん、行こう。」

 

悪事を考えてたらいつの間にか料理をモルガナが食い尽くしてしまったらしい。キラキラと目を輝かせるモルガナを満足させる為に料理を取りに行くことにした。その際に2人を見ると何故か最初よりも量が増えている。いつの間におかわりしたの・・・?

 

さて、2人を鈴井に任せて色々と豪華な料理が並んでいるテーブルの前に着くと何を盛ろうか迷い始める。モルガナが。

 

するとたまたま、たまたま近くにいた主婦達やらIT企業の社員やらどっかのハゲの部下やらTV局の社員やら、()()()()()()()()()の会話が耳に入ってくる。皆一様に鴨志田の事件について話をしていたが内容は特に興味が無く、そこに発生する話題性にのみ注目しているらしい。何とも腐った世間話である。

 

綺麗事のように煌びやかな料理の中にいるのが泥のような醜い欲望に塗れた人間達とは、笑えない冗談だ。おーやだやだと思いながら料理を積んでいると視線を感じる。

 

なんだ?と思い周囲を見ると、話をしていた主婦やらIT企業の社員やらが皆蓮を横目に見ている。はて、目立ったことはしてないんだが。そう思っているとまた会話が聞こえてくる。

 

「ねぇ奥さん、見てあそこの・・・・・・」

 

「あら!いいじゃない・・・!」

 

「ん?あのガキ・・・可愛い顔してんじゃねーか」

 

「えぇ・・・(ドン引き)」

 

「ほう、なかなか・・・」

 

「へ、おもしれーガキ」

 

「うほ♂いい男♂」

 

「お前ホモかよォ!!」

 

 

・・・・・・ふっ、どうやらここでも俺は魔性となってしまうらしい。知らず知らずのうちにこの場にいた人達を魅了してしまった蓮はとりあえず主婦達に向けてウィンクをバチコンとかまし、気絶させてから皆の所に戻った。

 

「吾輩が料理見てる間なんか騒がしかったけど、何かあったのか?」

 

「いや、特に何も」

 

ご馳走に夢中だった為、あの会話には気が付いなかったモルガナにまた料理を食べさせ始める。鈴井も一緒にあげ始め、2人でモルガナの世話をしていると竜司と杏が盛り沢山の料理を指摘する。

 

「おいおい、流石に持ってきすぎじゃね?」

 

「食べ切れるの?残すのは行儀悪いよ?竜司、手伝ってあげれば?」

 

The、お前らに言われたくない。その山盛りの肉とケーキはどうなんだ。

 

「いや、ならお前も食えよ」

 

「ごめーん、私もうお腹いっぱーい、力になれなくて凄く残念!」

 

「めちゃくちゃ食ってんだろが!」

 

竜司に処理を押し付けつつ、ケーキをパクパクしている杏に噛み付く竜司。これには流石の鈴井も「杏、めっ!」とお叱りが入り杏の頬を引っ張っている。

 

とはいえ、この量の料理など蓮にとっては腹八分目どころか五分目にもいかないが取りすぎた料理に苦戦する2人が面白いのでわざとペースを落としながら食べていく。

 

「おぶ・・・もう、食えね・・・」

 

「う・・・流石の吾輩も・・・むり・・・」

 

「PON、CRASH CRASH!PAPAPA!!グルメスパイザー!!うんまそォ〜!!」

 

「やめて・・・大声で叫ばないで、出ちまう・・・」

 

「大丈夫?坂本君、お水飲む・・・?」

 

「お、おお。さんきゅ鈴井・・・おぶ。」

 

食い過ぎた為にグロッキーになってる竜司とモルガナの隣で元気いっぱいに一時的にト〇コ並の肩幅になってポータブルなんたらかんたら、縮めてプラゴミをシャコシャコしている蓮。胃袋がトリ〇並にブラックホールな彼の様子に更に吐き気を増加させる竜司。かわいそう(他人事)。

 

「お疲れ様、最後にお口直ししたら?オススメは季節のタルト!グレープフルーツが甘酸っぱくてもう最高!」

 

「今酸っぱい話とかやめろ・・・ヴ、やばい・・・俺、トイレ・・・!」

 

それはさておき、そろそろ2人が限界なので両頬を引っ張られる杏とめっ!してる鈴井に一声かけてからプラゴミをあるべき場所のゴミ箱にCRASHして慎重にトイレへ向かう。

 

嫌味を言ってくる大人?ああ、優しく目を合わせたら何も言わずにそそくさと消えてくれたよ、HAHAHA*3

 

レストランの階のトイレは清掃中だったので上の階までやってきた竜司とモルガナは急いで個室に駆け込み、仲良くキラキラとマーライオンしてスッキリするとまだ突っ張る腹を抱えてエレベーターの前まで戻ってきた。

 

「はぁ・・・マジで危なかったぜ。ギリギリセーフだったわ。」

 

「吐くまで食うとか豪語しててホントに吐くとはな」

 

「おめェもだろが!え〜と、レストラン何階だっけ?」

 

「上がってきたから下の階だろ」

 

「おぉ、そだった」

 

ポチッとな、と声に出しながらエレベーターのボタンを押す竜司。もう少ししたら到着するだろう。その僅かな時間に、運命の瞬間がやってくる・・・・・・。

 

 

 

 

ざわ・・

 

ざわ・・

 

ざわ・・

 

ざわ・・

 

 

 

周囲がやたら福本先生作品のような作画になりながら騒がしくなり始めた。

 

 

コツ・・・

 

 

コツ・・・

 

 

 

 

聞こえる・・・奴の足音が・・・ゴミクソ腐れ外道鬼畜畜生ハゲの足音が・・・!!

 

その音のする背後を愉悦で一杯になった胸を抑えながらゆっくりと振り返る。

 

 

そしてそこには───────

 

 

 

いたぞぉぉぉぉぉ!!!!

 

いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!

 

 

 

思わず釣り上がる口角を無理矢理抑え込み、わざとぶつかってくる取り巻きを体幹で逆に弾き飛ばし、何事かと言うような感じに目を向ける。

 

その瞬間に目に飛び込んでくるツルツル卵のような頭部、そんな頭部とは逆に整えてある髭にセンスのない眼鏡。見間違えようがない、こいつこそがあのハゲ!!何度も殺り合った大物感を纏った小物!!()()()がいないと特に何も出来ないハゲ!!

 

名前はまだ伏すッッ!!!何故ならハゲで覚えてくれた方が面白いから!!!*4

 

 

そんな奴がチラリと蓮を一瞥する。だが直ぐに目線を逸らし、エレベーターを注視し始める。お?ビビっとんのか?おぉん?赤い彗星さんよォ!!*5

 

なんて思ってると蓮を突き飛ばそうとした連れ添いが今度はイラつきながら手でどかそうとしてくる。

 

「このっ・・・おぉッ!?」

 

「ん?」

 

連れ添いの男の手がハゲの頭部に目がいってる蓮の肩に触れた瞬間、彼が幻視したのは・・・・・・

 

 

ズゥゥゥン・・・・・・

 

 

全貌の見えない岩(コレ)

 

・・・・・・いや、これは最早、山と言うべきか。個人でどうこうできる物じゃない。人の身に余る重さ。連れ添いはこの時を持って確信した。コイツは絶対に敵に回してはいけないと。

 

だが、ハゲの手前、障害を排除しない訳にはいかない。そんな立場故の板挟み。どうする!?どうするべきか!?困惑の渦の中、刹那的な加速を見せる彼の脳内では幾十、幾百ものプランが浮かんでは消えていく。いっそ、もう手遅れでも知らないフリを・・・。

 

そう考えた所で蓮が男に目を向けた。

 

「〜〜〜ッ!?」

 

こ、殺される!?!?

 

蓮のプレッシャーに当てられた唯一の人物だからこそ、そう思い込んでも仕方ないほど混乱していた彼に蓮はしぃ〜と人差し指を口に当てた。

 

この動作が意味する事、それは『黙って業務に戻ってね♡』という事である。優秀故にそれに瞬時に気づいた男はまるで何事も無かったかのようにスーツで見えないがぐっしょりの背を向けた。

 

さて、これで軌道修正は完了。さぁさぁ、早く来いっ!

 

 

「おいっ、普通に割り込みだろ!」

 

ウキウキ気味の蓮とは真逆の竜司が割り込んで来たハゲに向かって突っかかる。

 

「な、なにか・・・?」

 

それに対し、蓮と相対した男が振り返ること無くやや震えがちな声でそう返す。あちゃ、少し脅し過ぎたか。まぁ受け答えが出来るならその後は問題ないか。

 

さて、そんな茶番を繰り広げているとハゲはこちらを見下したように鼻を鳴らした後、目線すら合わせずに吐き捨てるように呟いた。

 

「少し来ない間に客層が変わったな、託児サービスでも始めたか」

 

 

Foooooooo!!来たァーー!!見て見て見て!この上手いこと言いましたよって顔!!内心絶対にドヤ顔してそうなこの顔!!

 

うふふふふ!!じゃあこっちもね!上手いこと返さないとね!無作法と言うものだからね!

 

殴りかかりそうな竜司を抑え、こちらもハゲをジロっと見たあとフッと笑いながら傑作な返答をしてやる。

 

 

 

「へぇ、ここって少し前は老人介護もしてたのか。知らなかった。」

 

 

「・・・・・・あ?」

 

 

俺の言葉に少しの間理解が追いつかなかったのか、絶句して硬直していたハゲは辛うじて絞り出した声でこちらに振り返る。

 

権力者として人の上に立ってから久しく聞いてないであろう小馬鹿にするような皮肉。しかも自分よりも一回り以上も年下のガキに鼻で笑われながらというオプション付き。

 

ハゲの怒りの沸点は容易く突破した。

 

 

「大変そうだな?そんなに介護士を雇って」

 

 

けど楽しいので燃料追加ァ!

 

「ぶふっ!」

 

隣で竜司が吹き出すのと同時にハゲが怒りの形相でこちらに突っかかってきた。おぉ、怖い怖い。どうしたんでちゅかぁ〜?おじぃちゃぁ〜ん?ご飯ならさっき食べたでしょ〜?皮肉っていう肉をよォ!!(ドヤ顔

 

「先生っ、お時間が・・・!!」

 

「ッッ・・・・・・チッ!!!」

 

今にも殴りかかりそうなハゲを付き添い達が必死に止めている。そりゃそうだ、こんなにギャラリーがいる中で政治家が暴力騒ぎなんて起こせないよな?しかも相手はただのガキ、理由も低俗な罵倒だ。メンツに関わるってものだろう??

 

顔を怒りに染めて腹の虫が治まらない様子のハゲだったがその事が分からない程馬鹿では無いので特大の舌打ちをかまして丁度来たエレベーターに乗り込んで行った。この後個人を特定しようとして予約の名前も偽名で監視カメラにも絶妙に顔が写ってない事を確認して屈辱の苦渋を舐めてくれ。

 

「またのご利用お待ちしておりま〜す」

 

「貴ッッ様・・・!!」

 

扉が閉まるまで鬼のような目つきで睨んできたので、ドアが閉まる直前に最高にいい笑顔で頭を撫でる動作をするとまたブチ切れて突っかかろうとするのを付き添いに抑え込まれながら騒がしく下に降りていった。

 

 

ふぅ〜⤴︎、面白いお笑い芸人達だったなぁ。あんな笑えるキレ芸なかなかお目にかかれないよ。ハゲのプライドを傷つけられた事に大変満足した蓮は見た事も無いくらい笑顔を浮かべている。それはもうニッコニコだ。

 

「ダッハハハハ!!蓮!お前最っ高だな!見たかよあのハゲの顔!タコみたいに真っ赤だったぜ!」

 

「フハハハハハ、かなり大爆笑ぉ〜!!」

 

「下らねぇ・・・が、良くやったぜ。溜飲が下がるとはこの事だな。」

 

大盛り上がりのクソガキ2人は手をベチベチと合わせて即興ハンドシェイクで更にアゲアゲになっていた。アホアホコンビの戯れを見たモルガナはため息を吐きながらも最高に悪い顔で笑っている。同類じゃねぇか。

 

こうして第一の気分スッキリ爽快イベントを終え、最高の気分で元の階に戻った3人は何故か落ち込んでいる杏と鈴井にも陽気に喋りかけた。

 

 

「わりーわりー、遅れた!」

 

「遅い!どこほっつき歩いてたのよ!」

 

「うお、そんな怒んなよ。楽しく行こうぜ楽しく!」

 

「え、何そのハイテンション。普通に怖いんだけど・・・。」

 

「何かあったのか?」

 

何時もより更に優しげな表情を浮かべる蓮にやや引き気味になりながらも先程、自分達が巻き込まれた事を話し始める。どうやら他の客がぶつかってきて皿を落としてしまったのを自分のせいにされたらしい。しかも店側の人間も何のフォローもせずまるで「あーあ」と言うような面倒くさげな顔をしていたそうだ。

 

こちらがお気楽にやってる時に何とも不幸な事態に巻き込まれてしまったものである。

 

「ケッ、クソみたいな大人がわんさかいやがるな。」

 

「私達、やっぱ場違いだったのかな・・・」

 

「そう、なのかも・・・」

 

「そんな事ないさ」

 

蓮が励ますが2人の気分が戻ることは無い。思っているよりも引きづっているらしい。

 

そこで竜司が少し黙り込み、真剣な顔でモルガナに向かい合う。

 

「・・・・・・なぁ、モルガナ。パレスって誰にでもあるんだよな。」

 

「ん?あぁ、歪んだ欲望を持ってれば、な。」

 

「オタカラ盗れば改心すんだよな?」

 

「そうなるな」

 

「どうしたの急に?」

 

急に竜司がし始めた真面目な質問に杏が疑問を持つと、彼は拳を握り締めてある提案をする。

 

それは彼らの今後を決める大きな大きな決断であった。

 

「さっき俺らも会ったんだ。身勝手で人の事を素で見下してやがるクソな大人に。・・・俺らならそんなヤツらも改心させられるんじゃねぇかと思ってよ。」

 

「!・・・怪盗、続けるってこと?でもさ、それって・・・。」

 

「分かってる!それは自分達にとって都合のいい事なんじゃねぇかって!でもよ!!それで今まで我慢するしかなかった奴らを救えるんだぜ!?」

 

怪盗続行に乗り気では無い杏に、そう思いをぶつける竜司。そこにあるのは微かな迷いと、確かな正義。自分達と同じような境遇の人を助けたいと思う青臭く、しかし美しい人の清き心だ。

 

かつては承認欲求から怪盗を続けていた竜司は何時しかこうして他人の痛みに寄り添うようになった。それがループの影響なのか定かでは無いが、好ましいとは思う。

 

「俺自身もそうだったから分かる、お前らだって分かるだろ?理不尽に押し潰される怖さがさ。」

 

「そりゃあ・・・そうだけど」

 

「『怪盗チャンネル』でそういう奴が、感謝してくれてたんだ。で、思った。俺らならもっと色んな奴らを救えんじゃねぇか?それこそ、表には出てこないような奴らから!」

 

『怪盗チャンネル』、正式名称『怪盗お願いチャンネル』略して怪チャンはとある一生徒が開いているサイトではまぁ誹謗中傷の方が多いが、それでも鴨志田に虐げられていた生徒達から感謝のメッセージが届いていた。それに刺激された竜司は誰かの為に怪盗を続けたいと思っていたのだろう。

 

「私も、思うよ。困ってる人を見過ごしたら、前の私に戻っちゃう。でも、その・・・またシャドウと戦う事になるんだよね?」

 

「うむ、それは避けられん」

 

どうやら杏はシャドウとの戦闘に嫌悪を感じてるらしい。いや、ここは素直に恐怖と言った方がいいか。だがそれはとても当たり前の感情だ。一般人だった彼女がいきなり戦えと言われても無理がある。

 

前は必死だったとは言え命の危険だって感じてたのだ。それももう一回、いや何度も繰り返せと言われれば怖気ずくのも仕方の無い事だ。

 

「私も、あまり同意出来ない・・・かな。皆と違って力が無い私が何言ってんだって感じだろうけど、やっぱり危険な目にあって欲しくない。」

 

そして鈴井も反対のようだ。彼女からしたらいつ死んでもおかしくない場所に見送らなければならないのだ、気が気でないだろう。そんな彼女の真剣な目に少したじろぐ竜司だったが直ぐに立て直すして説得を試みる。

 

「鈴井・・・それは、まぁ・・・でも大丈夫だろ!なんてったって俺らには頼りになる蓮がいるんだからな!ついでにモルガナも。」

 

「ふっ・・・っておい!!なんで吾輩がついでなんだよ!!普通メインだろ!先輩だぞ!!専門職だぞコラァ!!」

 

「や、だって強さなら蓮の方が上じゃん」

 

「それは、うむ・・・・・・」

 

竜司の鋭過ぎる一言に押し黙ってしまうモルガナ。ごめんね、強くって。チクチク言葉ダメ絶対。

 

「勿論頼りっぱなしになんてならねー。足手まといにならないように力を付けてくさ。な!どうだ蓮!!」

 

「おっけー」

 

「ほら!本人も了承したぞ!」

 

「軽っっ!?軽過ぎでしょ蓮!もっとこう、ないの!?迷いとか!」

 

「雨宮君・・・・・・」

 

ハゲを揶揄って機嫌のいい蓮はロ〇ラ並の軽さで返すと杏には驚かれ、鈴井には呆れられた。おかしい、最近鈴井から残念な人扱いを受けてる気がする。*6関係ないけどロー〇って今通じるのかな。

 

「でも、うん。確かに蓮がいるなら大丈夫だよね。安心して!私も強くなるから!」

 

「私もできる限り全力でサポートするね!直接関われないけどそのくらいなら!」

 

ともあれ、蓮というまぁ色々不安もあるが心強い存在がいる事で2人も前向きになり怪盗活動に賛成してくれた。

 

「2人とも、ありがとう」

 

「フフ、これで吾輩達、駆け出しだが『怪盗団』になれるってことだな。そんじゃ、リーダーは吾輩って事で・・・。」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

世の中の悪人に巣食う欲望を盗み奪う怪盗団の結成がここに果たされたが、モルガナがシレッとリーダーに立候補すると蓮以外の3人が心の底から疑問の声が上がった。鈴井だけは他二人に対する声だが。

 

「おぉい!!なんだよその反応!!」

 

「いや、何となくリーダーは蓮って感じだったし」

 

「モルガナはどっちかと言うと、参謀?とかそんなんじゃない?」

 

「む、参謀・・・・・・悪くないな」

 

杏殿がそう言うなら仕方ねぇなぁ〜とくねくねするモルガナは自主的にリーダーを降りたので自動的にリーダーは蓮となった。というか押し付けられた。なお、参謀役は後に入ってくる世紀末覇者先輩に取られる模様。

 

 

「うーし!んじゃ、名前決めようぜ名前!」

 

「名前?なんの?」

 

「決まってんだろ!怪盗団のだよ!そうだな・・・イナズマイレブンってどうよ!」

 

「お前自分の属性全面に押し出してんじゃねーよ、てかイレブン要素どこだよ。5人だぞ吾輩達。」

 

「じゃあエターナルブリザード!ウルフレジェンド!ウルティメイトフォースゼロ!!」

 

「お前なんか別人格に引っ張られ過ぎだろ!!どっから受信してんだ!!」

 

多分、作者の中の人に対するイメージだと思う()、中の人が強過ぎるからねしょうがないね。

 

「じゃあおめーはどうなんだよ」

 

「ふむ、『アマダイノポワレシャンピニオンソース』とかか?」

 

「料理名じゃねぇーかアホッ!」

 

人に文句つけといて自分も巫山戯たモルガナの鼻に酸っぱいケーキの皿を押し付けゲロの匂いを思い出させる拷問を仕掛けた竜司は次に杏に話を振る。

 

「杏はどうだ?なんかいいのねぇか?」

 

「えー、じゃあ・・・『ピンクダイヤモンズ』とかどう?よくない?」

 

それを聞いた瞬間、蓮とモルガナの頭の中に河川敷で笑顔で野球をする人達が思い浮かんだ。おとさん、俺、ジュネスで働くよ。

 

「草野球感半端ねぇな・・・鈴井はどうだ?」

 

「わひゃ!わ、私!?えっと、えっと・・・影に潜むって感じで『ザ・ファントム』とか?」

 

「おぉ!めっちゃ良いな!ナイス案だぜ鈴井!」

 

「そ、そう?えへへ・・・。」

 

なんと、ゲームではデフォルトで入力されている名前が鈴井から提案された。ホントなら蓮がこれを提案するはずだったのだが、これによって自動的に名前でボケなければいけない事が確定してしまった(芸人魂)

 

ううむ、どうしようか。ここはやはりインパクトを重視して頭に残るようなのにしたいな。となると・・・・・・これしかない!

 

突然のアドリブにも対応してこそ真の怪盗というもの。蓮は即座に思考し、無駄にスペックの高い頭脳で最適な答えを弾き出した。

 

「なんか鈴井のでいい気もするけど、蓮はどうだ?なんかあっか?」

 

「フッ・・・・・・『毛狩り隊「うし!鈴井の『ザ・ファントム』に決定な!!」

 

「異議なーし!」

 

「吾輩もー!」

 

 

ぴえん

 

 

そりゃそうである。カスみたいな名前をスルーして決定された怪盗団の名前は『ザ・ファントム』。このループの中で最も多く名乗った愛着のあるその名前に蓮は思わず笑みを零す。やはりこの名前が1番しっくり来るな。

 

ちなみに過去1番ヤバい名前だったのは『マジックミラー団』だ、こちらからは見えてて向こうからは見えない的な理由でゴリ押した悪ふざけだったのだが意外と皆ノリノリで言うに言えずに結局最後まで名乗る羽目になったのを覚えてる。勿論、世間からは弄られまくった。あと権利的に『幻影旅団』。

 

「あ、食べ放題の時間終わっちゃった」

 

「マジで?ま、充分食ったし今日は解散にすっかー。」

 

その後、ひとまずターゲットや全会一致などの諸々の話を済ませ解散した蓮達。3人と別れた後、帰り道でモルガナと談笑しながら次の試練について考える。

 

色欲の悪魔を倒し、次に現れるは『虚飾』の呪物。己こそを真とし、他を偽りで塗り潰す贋の巨匠。

 

そして新たに加わる独自の感性の中に確かな芯を持つ男。彼を中心として絡まる運命の鎖。

 

出会いの時は、近い。

 

 

「お、見ろよ蓮」

 

「ん?・・・ふふ、いい写真だ」

 

「にゃふふ、そうだな!」

 

 

スマホに届いた1枚の写真、竜司が撮ってくれた何気ない日常のフィルムに鈴井さん(彼女)がいる事が何よりも嬉しい。

 

 

月光のように美しい彼女の笑顔に選択の答えを見て、微笑みながら帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 

*1
詐欺師の発想

*2
庶民のユートピア

*3
殺意の波動

*4
作者の中ではハゲで定着している模様

*5
人違いだけど人違いじゃない

*6
ヒント:今までの行動




どこを削ればいいか分からなくなって結局長くなるのなんなん?

作者はP5の時に怪盗団の名前を†ナイトメア†にして後悔しました。ゲームで共感性羞恥を刺激されるとは思わなかったが故の愚行です。ネタに振り切るならまだしも、素面でやるならみんなはマトモな名前を付けようね!

次回からやっと斑目編!できる限り早く出します!


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Unknown



迷走に迷走を重ね、悩んだ結果迷走しながら走ることに決めました。どうも私です。詰めるだけ詰め込みました。私の脳ではRの要素を組み込んで話を広げるのは難し過ぎる・・・。読みにくいと思います、すみません。

そして今回は大幅にカットしていきます

うおおお!!巻き巻き巻き巻き巻き巻き巻き、巻きィ!!


 

 

「・・・・・・最近、つけられてる気がする」

 

 

 

杏のその言葉から、この一件は始まった。

 

 

ビュッフェに行った日から何日かたった頃、三島に怪盗であることを見破られたのでちょっと脅しつつ*1新たなコープを発生させたり、取引相手達とコープを深めたり、惣治郎にコーヒーを入れる許可を貰ったりして楽しく過ごしていた。

 

その際、屋上でほぼ校長に脅されて怪盗団の事を探っている生徒会長に絡まれたりしたが何故かダンスバトルを仕掛けようとして会長を困惑させていた。

 

その際の映像がこちら。

 

「ここ、進入禁止のはずだけど?」

 

「・・・話し終わったら直ぐに帰るって。つか、カイチョーさんがなんか用すか?」

 

「問題児君に噂の彼女にバレー部の子、そして訳ありの転校生。変わった取り合わせだと思って。」

 

「う・・・。」

 

「・・・っ!感じワル・・・!」

 

「ワルイージ」

 

「雨宮君、ステイ」

 

「うす」

 

「ところで、鴨志田先生と色々あったみたいだけど?」

 

「尻を撫でられた」

 

「えっ・・・・・・そ、そう。災難だったわね・・・。えと、そう、憎くない?前歴の事だって鴨志田先生が広めたそうじゃない。」

 

「さっきからなんなんスか?つーか、こいつスゲー人間出来てるんで・・・出来てるよな?」

 

「あ、あったりまえじゃん!」

 

「え?う、うん。勿論!」

 

「なんでそこで言い淀むのよ・・・」

 

「ふむ、つまり会長さんは俺達を疑ってると」

 

「・・・・・・別にそうは言ってないわ。」

 

「なるほど、ならば・・・正々堂々ダンスで勝負だ!!!」

 

「・・・は?」

 

「勝ったら俺達に絡むのは止めてもらう!さぁ!レッツダンシングスターナイト!」

 

「いややらないけど・・・」

 

「(´;ω;`)」

 

「あ、泣かせた」

 

「えぇ!?そんな事で!?ちょ、やめてよ私が悪いみたいじゃない!」

 

その後、なんやかんやあって杏達が怪盗活動に対する決意を強めたり蓮がキレキレのダンスを披露して4人に絶賛されたりした。ナートゥはご存知か?

 

そしてその後、モルガナからメメントスの存在を知らされ車となったモナを湾岸ミッドナ○トをプレイしたことがあるという意味不明な理由で運転役を買って出たジョーカーは盗んだバイクで走り出すように豪快に乗り回し、鈴井を入口に待たせて突入。

 

ジョーカーがしっかり掴まってろよ!と言った直後にシャドウを引き飛ばしながら加速した為、車内でもみくちゃにされたスカルとパンサーにお仕置されつつもターゲットとして元交際相手のストーカーと化した『中野原夏彦』をボコし、もとい改心させたジョーカー達は彼から『マダラメ』の情報を僅かに得る。

 

それが終わると今度は下に降り、謎の行き止まりを発見。モナが確信を持ちつつ調べると、なんと壁が動き更に下に降りる為のエスカレーターが姿を現した。奥に興味を持つが今突入してもジョーカー以外が危険な為、ここで帰還する。

 

 

 

しかし、ここでイレギュラーが発生した。

 

 

 

「あ?なんだあれ」

 

「どうしたのスカル?」

 

「いや、鈴井の隣になんか、子供?がいるような・・・」

 

エスカレーターを登って後は帰るだけ、という所でまたまたジョーカーの知らないイベントが発生していた。それは今までのループの中で1度も見た事がない不思議な雰囲気を纏った少年。まるで宇宙服のような装いをして玩具のような車をバックに漂っている花のような物に手を翳す。

 

「よっと」

 

すると花のような物が解け、何故かグラスに入ったジュースになって少年の手に収まってしまった。

 

「あれは・・・」

 

なんだ?とは続けなかった。続けたら矢継ぎ早に疑問を口にしてしまいそうだったから。困惑を押しとどめて顔には出さずに鈴井の隣にいる子供?の所へ向かうと彼もこちらに気がついたようでジュースを一口飲むと不思議そうにこちらを見ていた。

 

「あ、皆・・・」

 

「ん?なんか変な気配がするなと思ったら・・・おにいさんたち、何者?」

 

こてん、と首を傾げる子供?にモナ達も同じように首を傾げる。

 

「いやこっちのセリフなんだが・・・」

 

「志帆、この子何時からいたの?」

 

「えっと、皆が降りてからちょっとしたらあの花みたいなのが現れて、そしたらこの子が車に乗って現れたの。その後すぐにみんなが帰ってきたからあまり喋ってないけど、いい子だったよ。悪意とかも感じなかったし。」

 

「えぇ・・・怪しくねぇ・・・?」

 

「あ、もしかしておねえさんのお友達?じゃあ悪い人達じゃないね!おっと、ごめんなさい、先に挨拶しないと。」

 

鈴井と杏達の会話を見てそう判断したのか、少年はジュースを手品のように消し、ニコッとキュートに笑って自己紹介をし始めた。

 

「僕は『ジョゼ』!ここで『花』を探してるんだ!」

 

「花?」

 

「花って、さっきの黄色いシャボン玉みたいなやつ?」

 

「うん!そうみたい!僕は人間を勉強しなきゃいけなくて、あの花をいっぱい集めたいんだ。」

 

「勉強って、さっきのジュースにして飲んでたやつか?・・・花のジュース飲むのが勉強になんのぉ?」

 

そんな簡単な方法があるなら教えて欲しいとあからさまに羨ましがっているスカル(とついでにパンサー)を置いてジョゼは話を進める。

 

「ねぇ、お兄さん達、僕の勉強手伝ってくれないかな?花を集めてそれを僕に譲って欲しいんだ!勿論、タダでとは言わないよ。この場所は色々役立ちそうなのが落ちてるし、それと交換しようよ!」

 

「えぇー・・・どうするよ、ジョーカー」

 

「ふむ」

 

困惑するモナに聞かれ思議する。メメントス内を散策するついでと考えれば特に問題は無い、それに落ちてるアイテムと交換というのも魅力的だ。異世界攻略に使うものもあるし、花とやらを集めるだけでそれが貰えると言うのなら断る理由もないだろう。

 

それにこの少年からはカロリーヌ達のような独特の雰囲気を感じる。並大抵の敵は寄せ付けない程の実力を秘めているに違いない。そんな相手との取引だ、正体は分からないがこちらを騙す様子も無いし今後の事を考えれば利益の方が勝る。

 

「その取引、乗った」

 

「ほんと!?ありがとう、お兄さん!」

 

取引に応じたジョーカーが膝をつき視線を合わせて手を差し出すとジョゼもニパッと可愛らしい笑顔を咲かせて手を取った。これにて取引成立である。

 

それを確認したジョゼは自分のコミカルな車へと乗り込み、見かけによらずバリバリなドリフトで切り替えエスカレーターの前に移動すると立ち去る前にパッとジョーカー達の方へ振り向く。

 

「じゃあ、僕そろそろ行くね!あ、そうだ。人間は遊びが好きって勉強したから面白そうな仕掛けを準備しておくよ!」

 

「仕掛け?」

 

「うん、楽しみにしてて!・・・っと、思い出した。勉強して覚えた人間の挨拶!」

 

そして最後に笑顔で手を振って一言。

 

「おつかれ〜!」

 

その後、フルスロットルでメメントスへと消え去って行ったジョゼに思わず手を振り返した5人は思った事を口にしてみる。

 

「なんか、変わったヤツだったな」

 

「だね・・・でもいい子だった」

 

「うん、あと可愛かった」

 

「シャドウの気配は感じなかった。何者かは分からんが、あの様子だと少なくとも敵では無さそうだな」

 

「そのようだ」

 

まぁ、実際に敵に回ったとしたら非常に厄介な相手になる事は確実だろう。前提として自分以外は全滅するだろうなと冷静に戦力分析するジョーカー。それほどまでにあの小柄な少年は底知れない力を宿しているらしい。

 

そんなこんなでジョゼと知り合ったジョーカー達。今更そんな新要素が生えてきたところでなんの動揺もありませんよと余裕をかましてメメントスを出たジョーカーに待ち受けていたのは更なる新要素であった。

 

鴨志田の件が思っていたよりも深刻化し、生徒達のメンタル面の心配・・・という世間的な建前の元、なんと非常勤のスクールカウンセラーがやってくると言うのだ。おいおいおい、これ以上俺の悩みの種を増やさないでくれとモルガナ吸いをして顔面を引っかかれた翌日、その噂の担当男性教師が集会にて発表された。

 

「それでは先生、自己紹介を」

 

達磨校長の長ったらしい前座が終わり、壇上に現れたのはどこか抜けた印象もあるが春の日差しのように柔らかな雰囲気を纏う優男。顔も整っており、少々無精髭が生えているがそれもチャーミングに映る程の物腰の柔らかさがあった。

 

そんな彼はコホンと喉を調節すると自己紹介を始める。

 

「初めまして、僕の名前はまる・・・・・・」

 

と、名前を言おうとした直後にブツリ、とマイクが切れてしまう。あれ?と困惑する彼だったが直ぐにマイクをつけ直し、トントンと叩いて音を確認してから再び自己紹介に入った。

 

「失礼、丸喜拓人と申します。よろしくどうぞ。」

 

ニコリと微笑を浮かべる彼に女子生徒の多くは「かっこいい」や「大人〜」と早くも魅了されていたが、当の本人は一礼するとマイクに額をぶつけてしまっていた。

 

「あっだ!?」

 

ガツンと痛そうな音が鳴り響く。思わず、自分の額を抑えたくなってしまった。

 

どうやら彼は見た目通り抜けているらしい。間抜け、と言うよりは愛嬌に感じる辺り彼の人の良さが分かる気がする。クスクスと生徒に笑われながらも恥ずかしげに笑って紹介を続ける。

 

「担当はカウンセリングです、堅苦しく構えなくて大丈夫だから。相談なら何でも・・・あ!お金の相談は困るかな〜アハハ。」

 

そうゆる〜く言うと周りからも笑い声が聞こえてくる。ふむ、流石カウンセラー、場を和ませる才能があるようだ。しかしそれが気に触ったのか校長は無理矢理彼を押しのけると強制的に話を終わらせてしまった。お前そういう所やぞ(辛辣)

 

ともあれ、全体集会が終わりまた4人で集まると竜司が気だるそうにして先のカウンセリングについて話をし始める。

 

「はぁ、まさかうちの学校がメンタルケアとか言い出すなんてなー」

 

「ニュースにもなってるし、放置はマズイって思ったんじゃない?」

 

「つか、なんだっけ名前?」

 

「坂本君、丸喜先生だよ」

 

「そーそー、丸喜。ツッコミどころ満載過ぎだろ。なんか抜けすぎっつーか。本当にカウンセリング出来んのかね。」

 

その言葉には半分賛同である。だが彼の纏う雰囲気が癒しとなり人とコミュニケーションを取る際に非常に話しやすくなるのは確かだろう。今ある判断材料から見ても彼は生粋のセラピストだと蓮は感じていた。

 

なんて話していると何やらこちらに近づいてくるゆるーい感じの気配を感じる。どうやら早速お出ましの様だ。

 

「!竜司・・・。」

 

「ん?おぉ。」

 

竜司の背後から近づいて来ていた彼に気が付き、杏が小声で注意すると直ぐに意図を汲み取り口を噤む竜司。そして振り返って見るとやはり思い通りの人物が彼の前に立っていた。

 

先程、集会にて自己紹介をしていたゆるふわ系男子、丸喜拓人である。

 

「どうも、坂本君に高巻さん、鈴井さんだよね。それに雨宮君。」

 

「「「「!?」」」」

 

緩い雰囲気から飛び出した刺さる様な言葉。第一声から自己紹介もしていないのに名前を言い当てられた事で警戒心を最大まで上げた竜司がずいと前に出て杏と鈴井を庇うように立ち塞がる。

 

「なんで名前知ってんすか?」

 

そう言って不良感を前面に出して睨む竜司に丸喜は慌てて両手を振りながら弁明を始めた。

 

「えーと、鴨志田先生と、その・・・色々あった生徒の何人かは、前もって聞かせてもらってたから。」

 

「なるほど」

 

「いや納得がはえーよ5歳児か!」

 

直ぐに相手を信じちゃう蓮くん(5歳)に鋭くツッコむ竜司。それを見て笑っていた丸喜だったが4人の視線に気が付くとコホンと咳き込み気を取り直してから話を続ける。

 

「雨宮君、転校早々大変だったね」

 

「ええ、色々と」

 

「つか、俺らになんか用すか?」

 

「ああ、そうだった。さっき集会でも言ったけど君達カウンセリングに興味あったりするかな?」

 

「は?カウンセリング?」

 

唐突な質問に4人は思わず目をパチクリとさせ、顔を見合わせる。そして言葉は交わさずに完全に思考が一致した4人は同時に丸喜の方を見て手を横に振った。

 

「いや、ねっすけど」

 

「え?あー、でもほら、今ならお菓子とかあるよ?食べ放題・・・はちょっと無理だけど、でもそこそこ食べられるし・・・どう?」

 

「ほう」

 

「雨宮君、甘味に釣られてない?」

 

「まさか」

 

だって5歳児だもん。お菓子に吊られそうになる蓮を鈴井が釘刺してる間に丸喜はわたわたと手をあっちにこっちに動かしながら説得を試みている。

 

「実は、鴨志田先生の事で関係性の強い生徒は必ずカウンセリングするように言われてね。一応、学校側からの気遣いなんだけど・・・。」

 

「気遣い、ねぇ」

 

それを聞いて湧き出るのは『呆れ』。今更何を、としか思わない。そっちは見て見ぬふりを続けて助けて欲しい時に手を振り払ったくせに。最早学校に対して少しも信用を寄せていない竜司は不機嫌に鼻を鳴らしてハッキリと拒絶の対応を見せる。

 

そんな竜司に対し、丸喜はそれを汲み取り慎重に言葉を選びそれでも寄り添おうという意思を表した。成程、学校側ではあるが確かに善人ではあるようだ。

 

「いきなり見ず知らずの僕と話せって言われても、困るのは分かるよ。こういうの強制でやっても意味無いし、せっかくなら君達にもなにかメリットが・・・」

 

むむむと唸り考え、閃いた!と頭に電球を浮かばせながら手を叩いた。

 

「そうだ!カウンセリングに来てくれたら、代わりにメンタルトレーニング教えるよ。テスト前の集中力の上げ方とか、デートのときに緊張しない方法とかさ。どうかな?」

 

「ほう」

 

丸喜の頭の上から落下して地面で割れた演出の電球を見ていた蓮は再び興味を惹かれたらしく眼鏡を光らせる。自分で使う分にはまぁ必要ないが丸喜のように他人のメンタルを操作するなどの応用の方には興味が湧く。話術、交渉術は習得しているのでそれと組み合わせる事で仲間のメンタルを安定させるのが容易になるかもしれない。

 

だが、そんな彼に今度は杏が釘を刺す。

 

「蓮?」

 

「まさか」

 

恐怖心、俺の心に、恐怖心(蓮 心の俳句)

 

彼女の圧に屈した蓮は眼鏡の位置を直しながら振っていた尻尾をシュンと垂れ下げたが、諦め切れない蓮はどうにか皆に提案してみる。

 

「だが、興味深い話だ。受けてみよう。」

 

「えぇー・・・まぁ、受けねーなら受けねーで面倒な事になりそうだしな。」

 

「うーん・・・確かにそうだね」

 

「皆が受けるなら私も・・・」

 

やったぜ。言ってみるもんだとご機嫌になった蓮は頭の中でコロンビアのポーズを取っていた。そして4人の肯定的な返事を聞いて丸喜はパッと表情を明るくして嬉しそうに笑う。

 

「本当かい!?よ、良かった〜。それじゃあ、とりあえず取引成立って感じかな!僕は保健室にいるから都合のいい時にでも来てよ。」

 

その本当に嬉しそうな顔になんかこれで行かなかったら可哀想だなと罪悪感が湧いてきた蓮を除いた3人は微妙な顔をしてそそくさと彼の前から立ち去ろうとする。

 

「う、うぃっす、んじゃ俺らはこれで」

 

「うん、またね」

 

人がいい丸喜の雰囲気に何だか絆されそうになって警戒心が緩んだ事に危機感を覚えた3人は直ぐに歩いて行ってしまったが、そんな彼等を借りてきた猫を見る様な慈母神の瞳で後ろから見つめていた蓮は、あっと声を漏らした丸喜に呼び止められていた。

 

「?どうした?」

 

「その、ありがとう、カウンセリング受ける気になってくれて。取引した分、君の力にならないとね。何時でも頼ってくれていいから!最大限力になるよ!」

 

「ああ、頼りにさせてもらう」

 

主に技術提供と情報収集の面で。何もかもが未知な人物という点でも関わりを持っていた方が監視がし易いからという冷徹な部分もあるが、勿論一人の協力者として仲良くしたいのも本音だ。ククク、貴様のスキル、友好的な関係を築きその上で互いを尊重し、決して悪用すること無く誰かの心を支える為に有効活用させてもらうぞ・・・!*2

 

そして丸喜から差し出された手に応え、ガッチリと握手を交わす。

 

 

 

「よろし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか、汝もまた、星の子か

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ぇ」

 

 

 

 

その瞬間、彼のよく知る()()()()()()()()()と全く未知の()()()()()()()()()()()()()が頭の中を支配した。

 

 

 

 

 

我は汝・・・汝ハ・・・

汝、こコにたなル契りを得タり

 

契リは

囚わレをらンとすル反逆ノ■なり

 

我、「顧問官」のペル■ナの誕ニ

祝福の風ヲ得たり

 

へト至る、

更ナる力となラん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『丸喜拓人』

 

 

ARCANA:『顧問官』 RANK.1☆

 

 

 

 

 

 

目の前に浮かぶ青く光るタロットカード、見た事もないアルカナ。これまでどうやっても増えることが無かったコープの固定数を覆す新たなる契約者。その突然の契りに蓮の思考は完全に停止していた。

 

いや、それだけじゃない。コープが繋がった直後、本能が警告を鳴らすほどとてつもない圧と視線を感じていた。そして聞こえた"ナニカ"の声。ノイズにしか聞こえなかったが、それは確かに知性のある言語だった。

 

(何が、起こって・・・・・・!?)

 

理解不能。百戦錬磨の蓮も暫く出くわさなかったその規格外な緊急事態には瞬時に対応できず、再起動に数秒を要いた。

 

 

「?雨宮君?」

 

突然虚空を見てフリーズした蓮に握手したまま首を傾げる丸喜。その声でようやく正気に戻った蓮は荒れ狂う思考を何とか押さえ込み、溢れ出そうな冷や汗を塞き止める。あまりにも不自然なそれを目の前の正体不明(アンノウン)に見られる訳にはいかない。

 

「い、いえ・・・立ちっぱなしだったので少し目眩が」

 

「うわ!大丈夫!?顔が青白いよ!?」

 

やはり全て隠しきるには無理があったようで少し顔に出てしまった様だ。だがここで隙を見せる訳にはいかない。迅速にここから立ち去り思考を整理しなければ。それだけが蓮を突き動かしていた。

 

「ご心配なく・・・直ぐに収まると思うので」

 

「そ、そう?無理しないでね?」

 

「では俺もこれで・・・・・・」

 

「うん、引き止めちゃってごめん、それじゃ」

 

「はい・・・・・・」

 

強烈な寒気を感じながらその場から早足で離脱した蓮は校舎に入ると直ぐに壁に身を隠し、背を壁に預けると口に手を当ててドッと冷や汗を流す。かつてないほどの異常事態に目まぐるしく動く思考を何とか落ち着かせて冷静さを取り戻していく。無意識に手袋を直す動作をしている辺り相当混乱していたようだ。

 

(よし・・・なんとか落ち着いてきた。とりあえず、()()はなんだ?)

 

そう言って掌に浮かび上がらせるのは先程意図せずに獲得したアルカナ。描かれる数字は"1"。刻み込まれる名は"顧問官"。

 

(どういう事だ?何故いきなりコープが解放されたんだ?彼も協力者という事か?だとしたら彼は何者なんだ。)

 

それにこのアルカナも奇妙だ。何故数字が1なんだ?それでは魔術師とは被ってしまう。顧問官というのも・・・いや、待て。

 

冴え渡る彼の頭脳が知恵の泉から知識を引っ張り上げてくる。

 

タロットで顧問官・・・少し言い方を変えれば質問者や相談者ともとれる。と、なるとこのアルカナは古典秘教タロット、エテイヤ版のタロットカードにおける1、ウェイト・マルセイユ版の教皇に該当する男性の質問者なのでは無いか。

 

よく見るとこの数字はアラビア数字だしこれは確定で間違いないだろう。意味合いは確か・・・"正位置が"理想"、逆位置が"知恵"だったか。そしてカオスの名も持つのは何とも彼、善か悪も分からない正体不明の丸喜には絶妙に合っているアルカナだ。

 

(理想にカオス、か。何とも意味深なものだ。)

 

何故いきなり彼という存在が生えてきたのか、何故今になってこんな劇的な変化が訪れたのか全く分からないが、彼が台風の目で、この世界において重大な鍵となる人物だというのは確かだ。出来る限り仲良くしておいたほうがいいな、と蓮は落ち着いてきた息を深呼吸で整えながら考える。

 

(これは本格的に兆しが見えてきたのかもしれないな)

 

今まで見えなかった希望の光が僅かにだが見えてきた。蓮の心が今度は急速に高揚に包まれていく。だが勿論油断も慢心もしない。この機会を逃さず、積極的に関係を築き確実に希望を手繰り寄せてみせる。

 

ひとまず、ニヤケ初めている頬を抑えながら3人に合流するとしよう。

 

そう考えた彼は歩き出そうとして・・・

 

 

(・・・?)

 

 

視界の端に青い蝶が横切った気がして振り向くと、そこには何も無くただ廊下が広がっているだけだった。

 

(気の、せいか)

 

()()が現時点でいるはずが無い。恐らく未知の現象に思った以上に疲弊しているのだろう。頭を振り思考を晴らした蓮は待っている3人の元へ急ぐのであった。

 

 

 

 

『・・・・・・マイトリックスター

 

 

その背中を1匹の青い蝶が見守っていると知らずに。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

その後、杏が放課後に丸喜のところに赴き変な罠や事情聴取もなく普通に世間話をして終わった様で話せる範囲で話してスッキリしたと語っていた。蓮も行ってみたら?と言われたのであんな事があった後で少し抵抗があるがこれもループ脱出の為だと腹を括って丸喜の所へ向かう。

 

モルガナはその辺で時間を潰すと言って別れ、蓮だけで保健室を訪れるとそこには意外な人物がいた。

 

「あ、雨宮先輩。お疲れ様です。」

 

「芳澤後輩」

 

そう、鴨志田のせいで少し疎遠になってしまっていた芳澤であった。どうやら先に丸喜のカウンセリングを受けていたようで保健室の前で談笑している所に来てしまったらしい。

 

「はい、先輩もカウンセリング受けられるんですか?」

 

「まぁ、色々あって」

 

「そうなんですか。安心して下さい!丸喜先生は良い方なので!私、秀尽に来る前からお世話になってるんです!」

 

前に会った時とは違い、よそよそしさもなくキラキラした目でそう語る芳澤。なるほど、彼女はかなり丸喜を尊敬しているらしい。それにここに来る前から世話になっていたと言うので彼女程の快活な少女が頼るのならば彼の腕も本物だろうと蓮は確信した。

 

「あれ、2人は知り合いなんだね」

 

「はい、困ってた時に助けて貰って・・・あ、すみません。時間が・・・私もう行きますね。」

 

「ああ」

 

「あ、うん。気をつけて帰るんだよ。」

 

蓮との出会いの話を説明しようとした芳澤だったが時間を見るとすぐにそれを打ち切り、急いだように帰ってしまった。この後、練習でもあるのだろうか?と考えながら彼女の背中を見ていたが丸喜に招かれて保健室に入る。

 

そこからはお菓子を食べながらこれまでの事情を少し話した後、他愛もない話を繰り広げ最終的にかなり脱線してお菓子はどれが好きかという話題になって今日のカウンセリングは終了した。

 

「やっぱりコンビニのお菓子は最高だよね・・・値段も手頃だし、何より美味しい。」

 

「セ〇ンのバタークッキーは至高」

 

「通だね〜!」

 

きゃっきゃっと子供の様にはしゃぎながらお菓子を貪る自称5歳児共。しかし途中で丸喜が正気に戻り安心したように笑った。

 

「?なんだ?」

 

「いや、精神的に無理してるんじゃないかと思ってたけどそんなことは無さそうで安心したよ。君は自分の中と外にある『現実』できちんと折り合いをつけてるんだね。」

 

「そこまで大人な理由じゃないさ。ただあるがまま受け入れてるだけだ。」

 

「いやいや、凄いことだよ。大人でもそれは難しい事なんだから。理想と現実のギャップに苦しむ、なんてよくある事さ。」

 

そう言うと、丸喜の顔に影がさす。彼もまたそのギャップに苦しめられた人間である事はそれで理解した。そして、それに折り合いを付けられる人間である事も。

 

「君に起こった事を思うと苦しむどころか()()()しまっても不思議じゃないと思う。けど君は辛い現実に真っ直ぐ立ち向かっているように見えてね。それが凄いと思ったんだ。」

 

「・・・何も思わない訳じゃないさ。」

 

そう呟く蓮の中に、これまでのループの記憶が蘇ってくる。

 

辛い現実にそれでもと立ち上がった事、厳しい現実に打ちひしがれ涙を流した事、終わりの無い現実に絶望し折れた事、醜い現実に心底失望した事、見失った現実に再び立ち向かった事、繰り返す現実に何度でも挑んだ事。

 

その全てが蓮にとってかけがえのないものであり、今の自分を作り出した大切な記憶だ。自分の理想の為に現実に抗う。仕方がないと折れるなどもう沢山だ。誰かの評価や扱いなど知った事でない。だから寧ろ逆なのだ。折り合いを付けるのでなく、自分を押し通しているだけなのだから。

 

「誰に何を言われてもただ、自分として歩きたい。誰かのせいにしたくない。俺は、俺が納得出来る人間でありたいんだ。」

 

それが他人から見たら現実を見ているという風に見えているだけなんだ。と蓮は思う。事実ドライに現実を受け入れている所もあるが、それすらも理想を求める為の手段として考えている。理想が先か、現実が先かの違いなのだと彼はそう考えていた。

 

「・・・凄いな君は。確固たる自分を持ってるんだね。そうか、君は君として完結してるのか。それも、柔軟な形で。」

 

「丸ぼうろ美味しい」

 

「うん、台無しだね」

 

余りにもあんまりな崩壊具合にシリアスな雰囲気は爆散し、丸喜も悲しげな顔をやめて一緒に丸ぼうろを食べ始める。その後はまた楽しげにお菓子を食べ時間も遅くなってきたので解散の流れになった。

 

純粋に蓮との談笑が楽しかったのかまた来てくれるか?とあざとく聞いてきたのでこれは一部の女子に刺さりそうだなと考えながら了承し、更に研究の手伝いをするという新たな取引も受ける事でコープを深める口実を手に入れたのだった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

そして、話は冒頭に戻る。ここまで長くて忘れているかもしれないのでおさらいすると杏が誰かにつけられているかもしれないと言ったのだ。

 

杏のいきなりの発言に竜司は眉を上げ、蓮は昨日丸喜に貰ったチョコバーを食べていた。

 

「はぁ?つけられてるって、誰に?」

 

「それは分かんないけど、なんか妙に視線を感じるって言うか・・・」

 

「気の所為じゃねぇの?」

 

暗に自意識過剰じゃね?と言う竜司に杏はむっとして竜司に食ってかかろうとしたが、鈴井がフォローに入る事で事なきを得た。

 

「ううん、気の所為じゃないと思う。私も時々感じるもん。」

 

「なら気の所為じゃねぇな」

 

「コイツ・・・!」

 

残念な事に竜司の中では発言の説得力が鈴井>>>杏の形で成り立っていた。この仕打ちに杏は殴ってやろうかと拳を震わせていたが再び感じた視線に寒気を走らせる。

 

「う・・・ほら今も感じた!」

 

「うん、確かに・・・でもどこから・・・?」

 

「分かんない、でも近くにいるのは確かなの。う〜、どうすれば・・・。」

 

「とっ捕まえればいいじゃねぇか。」

 

「でもどうやって・・・」

 

「あ?ンなもん簡単だろ」

 

「「?」」

 

 

首を傾げる杏と鈴井に竜司は渾身のドヤ顔を繰り出してこう言った。

 

 

()()()()だよ」

 

 

 

 

超古典的手段であった。

 

 

 

「んで?この2人に何かよーかよ?」

 

 

 

そして超効果があった。

 

 

杏に先に歩いて貰ってストーカーが接触しようとした瞬間に3人が間に入るという分かりやすいトラップ普通に引っ掛かった犯人に竜司は啖呵を切る。

 

白昼に晒さられた犯人の姿は・・・

 

 

スラリと伸びた手足(股下500m)

 

 

サラリとして青みがかった黒髪

 

 

腰に付けた幾つかの鍵

 

 

そして、芸術品のように整った顔立ち

 

 

追い打ちに儚げな雰囲気を纏った普通の美男子であった。

 

 

 

「うおおお!"突撃"ィィィ!!!」*3

 

 

「竜司!落ち着け!顔面偏差値で敵と判断するな!」

 

犯人のイケメンっぷりに嫉妬が爆発した竜司が襲いかかろうとするが蓮が何とか阻止して口にリラックスゲルをぶち込む。味のしない謎のゲルを無理矢理飲まされ、ビクンビクンし始める竜司を置いておいて犯人と話を始める杏。

 

「君たち、なんなんだ?」

 

「それはこっちのセリフ!付きまとってたくせに!」

 

「付きまとう?心外だな。」

 

「ずっと尾けてたでしょ!電車の中から!」

 

「一般的にはそれをストーカーと呼称する」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

蓮の付け足しに漸くその事実に気がついたのか少し焦りを見せながら口を開く犯人。しかし、そこに車のクラクションが割り込み蓮達の隣に一台の車が止まった。

 

 

そして、窓が下がるとそこには意外な人物が座っていた。

 

 

「やれやれ、いきなり車を降りたかと思えば・・・呆れるほどの情熱だな。結構結構。はっはっは!」

 

 

現代日本画界の巨匠、そしてメメントスにて改心させた中野原から飛び出たビッグネームの持ち主。

 

 

"斑目一流斎"

 

 

その本人が蓮達の前に姿を現していた。

 

 

 

そしてこれより、"虚飾"に塗れた博覧会が幕を開けるのであった───

 

 

 

 

 

*1
本人基準

*2
善人の鑑

*3
敵一体に小ダメージ




途中の理想と現実が云々は要約すると蓮は超自己中だけど空気は読めるよ、精神攻撃?何それしらねって事です。

地の文を減らしたらなんかあっさりしてしまう、うむむ。

そして蓮君がここまで動揺したのはいきなり生えてきた謎の人物+高めてた警戒心+不意打ちSAN値チェックと色んな要素が重なったから。普段ならすぐに立て直せる。これによって蓮はかなり丸喜先生に注目する事になりました。結果オーライ。


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記憶-1

いつかの記憶、いつかの記録、いつかの過去、いつかの思い出


忘れられない大事な在りし日への追憶。




彼との出会いは、まるで映し出されたフィルムのようにハッキリ覚えている。

 

 

 

「お、おい!そこのお前!頼む、吾輩をここから出してくれ!」

 

 

 

出会いはとてもおかしなものだったけど、それでも奇跡のような出会いだったんだ。

 

 

 

「お前、まさかペルソナ使いか?おいおい・・・とんだ掘り出し物だぜ。ん?いや、こっちの話さ。気にすんな。」

 

 

「ふむ、センスも悪くないと来たか。こりゃ更に期待出来るな。」

 

 

「なぁ、お前、悪人を成敗したいんだろ?なら、吾輩と手を組まないか?その代わり、吾輩の技術を教授してやる。どうだ、win-winだろ?」

 

 

 

最初は利用し、利用されあう様な関係だったけど数々の修羅場をくぐり抜けていくうちに俺たちの間には確かな友情が芽生えていった。

 

 

「ふう、今回のはヤバかったな。お前が居なきゃお陀仏だったぜ。ありがとな、■」

 

 

「人間ってのはよくわかんねー生き物だよな。善意と悪意、理性と欲望。全く真逆のものを矛盾させることなく中に飼っている。少しバランスが崩れればどんな善人でも悪に転げ落ちて、少しのきっかけがあれは悪人が善に傾く事もある。」

 

 

「愚かで不安定だが、そこが愛おしいとも感じる。不思議なもんだ・・・なに?吾輩の方が不思議生物だって?やるかコラー!!」

 

 

()()()の怪盗として世の為、人の為に認知の世界を駆け回った。ただ少しでも誰かの力になる為に、ただ少しでも人間を理解する為に。

 

様々な戦いをくぐり抜け、歴戦の友となった俺達だったが、無情なタイムリミットが迫っていた。

 

たったの1年、あまりにも短過ぎる時の牢獄。その網がもうすぐそこまで来ている。偽神を倒すには至らなかったものの、あらゆる手を使って封じる事に成功した俺達は思い出の場所、ルブランの自室にて向かい合っていた。

 

 

「んだよ、改まって話って。四六時中一緒にいた吾輩達の間に今更そんな大層な話なんてねぇだろ?」

 

「あれか?実家に帰るにあたって、実は猫は飼えませんとか言う気か?やめろよ、吾輩野宿なんて御免だ・・・っと、そういう雰囲気でもねーか。」

 

 

「今更気がついてねーと思ってんのか?言えよ、ずっと隠してたことについてなんだろ?」

 

 

彼の優しい声に、思わず堰き止めていた事情についての話を、全て打ち明けた。ループの事、もうすぐリミットが近づいていること。言えることを全て。

 

彼は、黙りこくって下を向いていた。

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

「そう、か。成程・・・な。」

 

 

「・・・・・・まず一つ」

 

 

 

「そういう大事な事は!!!事前に伝えとけよぉぉ!!!!」

 

 

「なんでお別れって時に話すかね!!??こちとら覚悟もなんも出来てねぇんだけど!!??」

 

 

「ごめんって、謝って済むかバァァァーーカ!!!」

 

 

謝罪をするとべしべしと肉球で叩かれる。爪も出てて地味に痛い。数分ほどそれが続いたが疲れたのか息を整えてまた座り込んだ。

 

 

「はぁ・・・、正直まだ整理がつかねーが無理矢理納得しておこう。」

 

 

「それにしても、お別れ、お別れ・・・か。」

 

 

「・・・・・・くそ、唐突過ぎて実感がわかねぇが、お前のその顔を見るに事実なんだろうな。」

 

 

「ったく、先に言っとけよ・・・急にそんな事言うなんてよぉ・・・いや先に言われても逆に気を使っちまうか。」

 

 

「・・・ま、最後なんだ。折角だし色々言わせてもらうぜ。」

 

 

それからは、これから別れとは思えないほど穏やかに思い出話に浸った。静かに、しかし暖かく、2人で思い出を振り返っていく。

 

やがて、話題も尽きた頃、彼がポツリと話し始めた。

 

 

「次会う時には、吾輩はお前を忘れちまうのか・・・正直、寂しいな。」

 

 

「・・・・・・吾輩達、色んな奴と戦ったよな。そして、色んな奴を救った。中には強敵もいて、救えなかった奴もいる。反吐が出るような奴を助けなきゃいけなかったり、罪の意識に苦しむ奴を捕まえなきゃいけない時もあってさ。」

 

 

「挫けそうな時も、全部を投げ出したくなるような時もあった。」

 

 

「でも、それでも戦い続けられたのは、人間を理解できるようになったのは、全部お前のおかけなんだ。お前がいたから今の吾輩がある。」

 

 

 

「感謝してるぜ、■。」

 

 

 

 

「お前は最高の相棒だ!」

 

 

彼の屈託の無い笑顔を見て、思わず泣き崩れ彼を抱き締める。彼も、嫌がる素振りを見せずに抱き返してくれる。酷く暖かな体温は、やがて薄れていく体と共に宙に溶けていく。

 

 

「・・・・・・時間、か。」

 

 

「なぁ、■。お前は忘れるなよ?吾輩の事。」

 

 

「たとえ何度別れても、吾輩に会いに来てくれ。何度でも吾輩と仲間になってくれ。約束だぞ?破ったら高級寿司1年分だからな!」

 

 

 

やがて、体が消え、首にまで迫ってきた終わりの中、彼は溢れてきた涙を拭ってぐちゃぐちゃの顔をした俺と真っ直ぐに見つめ合う。

 

 

「ちぇっ、湿っぽい最後にはしたくねーと思ったのによ。よし、せめて別れの挨拶くらい爽やかにしとくか。」

 

 

 

 

 

最後は、お互い笑顔で

 

 

 

 

 

「またな!! 蓮!!」

 

 

 

 

 

 

きっと会いに行くよ。何度も、何度でも。

 

 

だから

 

 

 

 

 

 

「またな、俺の最高の

 

 

 

 

 

 

相棒(モルガナ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・バァーカ」

 

 

 

 

主人の居なくなった部屋は、春の暖かさはなく、酷くもの寂しげであった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語を最初から始めますか?

 

 

 

 

はい

 

いいえ

 

 

 





魔術師 MAX

魔術師 RESET 0


地の文少なくてゴメンね


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Our next target is…


お久しブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブリ大根ですわ皆さん!!(コピペ)

帰ってきたぞ帰ってきたぞ、どの面下げて〜♪私は戦え!ウルトラマンも好きです。

これだけは言っておきます、遅れてごめんなさい(土下座)

そしていつもいつも感想、誤字報告ありがとうございます!是非どんどん送ってください!

そういえば久々にps3のペルソナ5起動したんですけどタイトル前の電車の音でめちゃくちゃワクワクしました。当時もこれで心奪われたんだよなぁって勝手にしみじみして初期春ちゃん見て爆笑した。キャラ違いすぎやろ君。

そして・・・うおおおお!!ペルソナ5Tうおおおお!!ペルソナ3R!!うおおおおお!!(遅い)

楽しみ過ぎてヤバい

そんなら今回も、術式反転『巻』


 

 

前回、丸喜とあれこれした後日、ストーカー美男子を捕獲したら斑目一流斎がログインしてきた。突然の超大物人物の登場に固まる杏と鈴井だったが、蓮は呑気にきなこ棒を食べていた。竜司はまだ痙攣している。

 

突然の斑目に気を取られ美男子の存在を忘れていた杏だったが、マイペースな彼が事情を話し始めたので取り敢えずそれを聞くことにしたようだ。しかし機嫌は斜めであり、半目で彼をジロリと睨んでいる。可愛い。

 

「車から見かけて、追いかけずにはいられなかった。先生の着信に気が付かないほど・・・でも良かった。追いついた。」

 

「へ!?な、何言って・・・」

 

ペルソナリアリティショック!*1突然美男子から飛び出した殺し文句。人生で初めて言われた漫画やドラマでしか聞かないようなアチチなセリフに思わず紅潮して後退る杏。しかし美男子はその距離すらも詰めてきて更に聞く方が恥ずかしくなりそうなセリフを浴びせかかる。

 

「君こそ、ずっと探していた女性だ!ぜひ俺の・・・・・・」

 

「え、ちょ・・・」

 

「わぁ・・・」

 

「おぉ」

 

美男子の凄まじい熱。それに圧倒される杏。まさかまさか!と期待に胸を高鳴らせる鈴井、相変わらずお菓子を食っている蓮、痙攣してる竜司。

 

 

 

今まさに、一世一代の告白が・・・・・・!!

 

 

「ぜひ俺の、絵のモデルになってくれ!」

 

 

「・・・・・・は?」

 

「・・・・・・え?」

 

「おぉ」

 

 

行われなかった。

 

代わりに行われたのは絵のモデル勧誘。予想していた熱い告白などまるで陽炎のように消え去り、残されたのはまさかの斜め上の回答に思わずポカンと呆ける杏と鈴井。

 

「モ、モデル・・・?」

 

「俺は今まで納得のいくものが描けなかった。君からは他の人には無いパッションを感じる!」

 

「いや、怪しすぎんだろ・・・」

 

ペラペラと喋り続ける美男子を見てこぼしたモルガナの呟きに同意する蓮達。これはいくら何でも警戒するに決まっている。彼は情熱はあるようだが、その情熱が強すぎるが故手順を完全に間違えていた。

 

まずは自分がどういう人物なのか明かさなければ信用もされないだろう。だが、蓮はもちろん彼の事を()()()()()のでこの状況を放置していた。淡々と蒲焼さん太郎を食べている。

 

するとリラックスゲルが効いたのか冷静になった竜司が復活し、美男子に食い付く。

 

「なんか変な状況になってっけど、それってやべースカウトじゃねぇの?」

 

「失敬な!そんなわけあるか!それで、協力してくれるのか?どうなんだ?」

 

竜司の言葉に憤慨するが、すぐに切り替えまた杏に詰め寄る美男子。普通に絵面は事案である。そろそろ我慢の限界を迎える鈴井がもしもしポリスメンしそうなので竜司と蓮が間に入って彼を止めた。

 

「待てって、まずお前誰よ?」

 

「自己紹介は大事だ」

 

「む、確かに。俺とした事が、失礼した。俺は洸星高校美術科2年、『喜多川祐介』だ。」

 

そう言うと鉄壁の竜司と蓮の間からずいっと顔を乗り出して、杏の眼前まで迫ってきた。これに小さく悲鳴を上げて1歩下がる杏。再びスマホを耳に当てる鈴井を何とか宥める蓮。彼はそれすらも気にせずに図太い精神で杏にアピールを続ける。

 

「俺は斑目先生の門下生で住み込みさせてもらってるんだ。画家を目指している。」

 

「え、斑目って・・・あの!?じゃあやっぱりあの車の人は・・・!」

 

「ああ、先生本人だ。」

 

「?知ってるか?蓮。」

 

「有名な日本画家だ、なんでも世界で評価されるとかなんとか。」

 

「へぇ・・・」

 

蓮の説明に興味無さげにそう返す竜司。きっと彼の頭の中では既に斑目の話はラーメンや牛丼の事に侵食されているだろう。それぐらいの興味関心の無さであった。ほら、もう顔がラーメンになってきた。

 

しかしその名前に記憶の奥底からメメントスでの事を引っ張り出してきたのか、コソコソと蓮に耳打ちをする。

 

「なぁ、蓮。斑目ってよ。」

 

「ああ、同じだな。」

 

「だよな・・・あの中野原が言ってた名前だ。これあれか、鳩が豆背負ってきたってやつか。」

 

「そのようだ(ツッコミ放棄)」

 

正しくは『鴨が葱を背負って来る』である。

 

すると、車の中から笑っただけで今まで静観していた変なおじさんこと、斑目がチラリと時計を見たあとに喜多川に向けて声をかけてきた。

 

「祐介、そろそろ」

 

「は!すみません先生!今、戻ります!」

 

「あの爺さんが斑目・・・?ほーん」

 

どうやら、時間が押しているらしい。喜多川は慌てた様子で杏に何かのチケットを差し出してきた。というか無理矢理握らせた。

 

「明日から駅前のデパートで斑目先生の個展が始まる。初日は、俺も手伝いにいくんだ。是非来てくれ。モデルの件、その時にでも返事を貰えると・・・。どうせ絵画に興味は無いだろうが、チケットは人数分、渡してやろう。」

 

杏にはご機嫌そうに矢継ぎ早に説明をしていたのに、竜司の方を見ると一転して不快そうに皺を寄せ、そう吐き捨てる喜多川。まるで氷のようなその態度に竜司は「お?やるか?お?」と喧嘩腰で睨みつけるがそれもスルーされ、今度は蓮と目が合う。

 

「君は・・・少しは分かりそうな人間だな。まぁ楽しんでくれ。そこの彼女も。」

 

「ああ、ありがとう」

 

「どうも・・・」

 

芸術家としての目が蓮の審美眼*2を見抜いたのか、竜司よりかはかなり柔らかい雰囲気でそう言う喜多川に礼を言う蓮の後ろから更にがんを飛ばす竜司。かなり面白い顔になっている。だが彼はそれすらもスルーして最後に再び杏の前に行き、目を輝かかせて別れの言葉を告げた。

 

「じゃあ明日、ぜひ会場で!」

 

そう言って喜多川はウキウキムードで車に乗りこみ、そのまま去っていった。いやはや、爆発するかのように現れ、消える時は嵐のように過ぎ去るを体現する様な美男子だったと蓮が考えていると竜司がケッと不機嫌そうに遠ざかる車を睨んで口に出す。

 

「わっかりやすい奴。そんで?どーするよ杏」

 

「・・・行ってみようかな」

 

「え〜マジか〜、まぁ斑目探るってんなら仕方ねぇか」

 

「いや、別にそういう訳じゃ・・・」

 

竜司が声をかけると、杏は少し迷ったがそう言った。竜司は調査の為とは言えアイツに会うのは気が引けるなとゲンナリしていると、杏がスマホで時間を確認する。そして慌てて鈴井の手を取った。

 

「やば、時間!ごめんまた後でね!行こ、志保!」

 

「え、あ、うん。後でね、2人とも!モルガナちゃんも!」

 

そう言って走り去ってしまった2人。その速さに竜司は止める暇もなく見送ってしまった。蓮?止めるわけないじゃんこいつが(辛辣)

 

「お、おい!・・・行っちまった。」

 

「杏殿を狙うとは・・・ユースケ、顔覚えたからな!」

 

去った喜多川の背中に向けてふしゃー!と威嚇をするモルガナ。ふふ、そんなことしても可愛いだけだぞと頭を撫で繰り回す。あ、痛い、噛まないで。

 

「というか俺達も急がないとマズイぞ」

 

「あ?何が?」

 

「ん」

 

何も分かっていない竜司にポケットからスマホを取り出し、現時刻を見せつける蓮。そこに表示される時間は登校時間ギリギリを指していた。

 

一瞬の静寂の後、2人揃って無言でクラウチングスタートを構え全力ダッシュをかます。

 

「・・・・・・急ぐぞレンレン!!Bダッシュだ!!」

 

「今通じんのそれ?」

 

みんなもBダッシュを、聞こう!そう宣伝しながら蓮達は学校へ日常のみおちゃん並の速さで走っていくのであった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

そんでもって何とかHRに間に合った蓮達は連日続いていた試験も終え、放課後を迎えていた。結果?待つまでもなく満点である。最早寝ぼけてても五分で終わるので残り時間は適当に生物教師の蛭田先生の超絶美化した似顔絵を描いていたら彼から「やるね、君」と言うような視線を貰ったりしたがまぁ些細なことである。

 

4人それぞれ違う表情を浮かべて集合し、杏はやっと試験が終わった解放感に伸びをし、鈴井は何とかやり遂げたとやや疲れた顔をし、最後の一人は魂を試験に囚われていた。この一日で体重10キロくらい減った?

 

「ん〜、やっと終わった〜!」

 

「終わったね〜」

 

「ああ、終わった・・・」

 

「いや朝と違いすぎだろ・・・どんだけ絶望的だったんだよ」

 

「るせー・・・なぁ、蓮はどうだった?」

 

疲労困憊の竜司にそう聞かれ、難しい顔をしながら蓮はスッと手を広げて掲げる。お手上げ侍とも取れるそれを見て、竜司の瞳が同士を見つけたと言わんばかりに目が光りよろよろと蓮に擦り寄った。

 

「ま、まさか・・・!」

 

「全て五分で片付けた」

 

「裏切り者ーッ!!」

 

だがそれは知恵の泉の主による卑劣な罠であった。HAHAHAとガッシュのギャグ顔調になって笑う裏切り者をガクガクと揺さぶる竜司。その姿はまるでマラソン大会で置いてけぼりを食らったかのような哀れさを感じさせる。ごめんね知恵の泉で。

 

「だぁー!もう試験の話やめ!んな事よりも、斑目の事だ。そういや、探る訳じゃないって言ってたよな。どーゆー事だよ杏。」

 

「あー、それね」

 

「ま、まさか杏殿・・・あの祐介とか言う奴に一目惚れを・・・!?」

 

「なわけないじゃん!前にテレビで絵を見た時結構良かったからタダで見れるならいいかなって思っただけだっての。」

 

そう言ってプンッと頬を膨らませる杏。確かにプロと評される人物の作品が金を払わずに見れるならそう考えるだろう。まぁ自分はあんな継ぎ接ぎ博物館を積極的に見に行こうとは思わないが。蓮がそう考えてると杏の言葉に同意した鈴井が確かにと頷いた。

 

「確かに、絵を無料で見れるならいいかもね」

 

「うむ」

 

「ええー?タダって言っても絵だぜ?腹も膨れねーじゃん。」

 

「お前は食い物の事しか頭にないのか?」

 

退屈そうに頭に両手を組みながらそう言う竜司。違うよ、食い物の事だけを考えてる訳じゃなくて芸術というものから1番遠い場所にいるだけだから。野生に生きてるだけだから。

 

「勿論、メメントスでの情報についても探るつもりだよ?」

 

「ったりめーだ。情報を掴む絶好のチャンスだぜ、逃す手はねー。」

 

「とはいえ祐す・・・彼は俺達に対して興味を抱いていない。杏以外には話を聞くことは出来ないだろう。」

 

「確かにな、アイツ杏にベタ惚れだったし」

 

「変な事言うな!」

 

「あだ!?事実じゃねーか!」

 

竜司がニヤつきながらそう言うと、今朝のことを思い出してしまったのか頬を染めて彼の頭を割と強めに叩く、というか殴る。ゴチンといい音を立て立派な山を作った竜司の頭に鈴井が湿布を貼ってあげている。流石は女神だ。

 

そして竜司が痛い目にあってやや上機嫌なモルガナが猫状態で可愛らしく腕を組みながら杏に嘆願する。

 

「となると話を聞けるのは杏殿だけか。悪いが頼む。変に踏み込まなくていい、それとなく探ってみてくれ」

 

「う、うん。いけそうなら、頑張る」

 

皆からの期待を背負い、両手を握り締めて頑張るぞいと気合を入れる杏。大変可愛らしい。鈴井もニコニコだ。

 

 

 

という訳で情報収集の為に全員で個展会に行く事になり、早めに解散した次の日。惣治郎のコーヒーをキメ、朝早くから集合したものの生憎の雨が降り、なーんかやな感じとぼやく竜司を宥めて指定の建物へと入場した。

 

やはり有名人の個展ということで雨の日でも賑わいを見せるブースの中からこちらを見て嬉しそうな顔をしながら喜多川がパタパタと駆け寄ってきた。その嬉しそう度たるや、彼に尻尾があったなら横にブンブンと降っていただろうというくらいだ。

 

「来てくれたんだね!」

 

パアッと花が咲くような笑顔を見せてから後ろでメンチを切る竜司を見てあからさまにテンションを落とし、チベットスナギツネの様な目を向ける。

 

「本当に来るとはな」

 

「てめーが券置いてったんだろ!それとこいつに変なことしねー様にな」

 

「ふん、下品な奴だ」

 

「あぁ?」

 

顔面強者に対して当たりの強い竜司のリード*3を離さないように掴んでおく。このままでは中に入れないので鈴井に頼んで頬伸ばし「めっ!」して貰う。竜司は彼女に対して強く出れず尻に引かれているので効果はテキメンだ。

 

叱られた犬のように大人しくなった竜司を置いて喜多川に挨拶をする蓮。挨拶は大事、ペルソナ全書にもそう書かれている。挨拶しないと100%にならないから気をつけよう(大嘘)

 

「チケットありがとう」

 

「構わない、折角だ。先生の作品を存分に楽しんでくれ。」

 

「ああ」

 

やはり竜司よりもだいぶ柔らかい対応だ。笑みすら浮かべている。芸術を理解してるか否かでこれほどまで差が出るのが芸術家というものなのだろう*4

 

そしてまたチベスナ目になって竜司に釘を刺していく。

 

「決して他のお客様の迷惑にならないようにな、いいか、決してだぞ。」

 

「わーってるわ!ガキじゃねんだから騒がねーよ!」

 

「どうだか・・・さ!案内するよ!俺の描きたい絵の事も、色々話したいんだ。」

 

「あ、うん。じゃ、後でね。」

 

「気をつけて」

 

杏の方を向くと一気にニコニコになる喜多川に若干引き気味ながらも付いていく。その際に小声でそう伝えるとウィンクをして応え、彼の案内の元場内を周りに行った。

 

「チッ、嫌味なヤローだぜ。んでどうするよ、このままゲージツ鑑賞するか?」

 

「雨宮くん、この絵凄いね」

 

「うむ」

 

「あれぇ!?ふつーに楽しんでらっしゃる!?」

 

彼を置いて既に絵画を見ている2人にもしかしてこれに興味無いの俺だけ!?と軽くショックを受ける竜司。表面上取り繕ってるだけでこの絵の事情を知っている蓮も興味は無いので安心して欲しい。とはいえそれを気取られる訳には行かないので普通に楽しんでるから結局味方はゼロである。どんまい。

 

「うぇえ、ここで待つだけってのは勘弁だぜ。入るしかねぇか・・・。」

 

このまま行くと自分だけ入口で取り残される羽目になりそうだと思った彼は特に見たくもないが中へ入り適当に絵を眺め始めた。壮大なタッチの絵から繊細な筆の絵までまるで1人が描いたとは思えないほどの幅広い表現の仕方。

 

それらに特に感情の揺れ動きもなくボーッと絵を見ていた竜司だったが、ふと目に止まった絵にピタリと動きを止めた。

 

「これが芸術ねぇ、俺にはなにがなんやら・・・ん?」

 

その絵は他の絵画に比べれば派手さも儚さも無かった。特に何の変哲もない様な、田舎の風景の中に子を背負う母親。どこか懐かしさを思い起こさせるような平凡な日常を切り取ったそれは何故か竜司の心の中に入り込んできていた。

 

「これ・・・なんか・・・」

 

酷く心が揺さぶられ、そして同時に思う。これは本当にあの爺さんが描いたのか?と。どうしてそう思ったのかは自分でも分からないが彼は絵と作者の間にある齟齬のようなものを感じていた。とてもでは無いがこれをあの爺さんが描けるとは思えないのだ。

 

タイトルも『故郷』と淡白なもの。そんな簡単に言い表すものでは無いのではないかともやもやが募る。

 

そんな言葉に出来ない違和感を感じていると耳に入ってきたつい最近聞き覚えのある声に反射的に振り向く。その視線の先には彼らが怪しんでいる張本人。『斑目一流斎』がインタビュアーに囲まれて質問を受けている真っ最中であった。

 

「なぁ蓮、あれ」

 

「ん、ああ、本人だな」

 

「取材中みたいだね」

 

それを確認した蓮達は鑑賞を中断し、様子を伺いながらバレないようごく自然に近づき、あたかも作品を見て感動している若者を装って声が聞こえるギリギリの範囲に陣取り聞き耳を立てる。

 

「先生のイマジネーションにはいつも本当に驚かされます!全てを1人の人間が描き出したとは到底思えない縦横無尽の作風、いったいどこからこれほどの着想が?」

 

「そうですな、言葉で伝えるのはなかなか難しいのですが・・・泉にひとつ、またひとつ泡が浮かぶように心の内から自然と湧き出てくるのですよ。」

 

「自然と、ですか」

 

「重要なのは、金や名声などの俗世から離れることですな。私のアトリエはあばら家ですが、美の探求には充分なのですよ。」

 

などとあっっさい回答をする斑目をよいしょして褒めちぎっているインタビュアー。随分とまぁ、そんな中身の無い事が言えるものだと冷たい視線を送る蓮。なにが泉から泡が〜だ、どころか沈んだお宝を独り占めしているくせに。

 

と、ここまで来れば皆さん察するに余りあると思うのだがこの斑目、かなりの外道である。詳細は後ほど明かすが、人の作品を自分の作品として発表している芸術家の風上にも置けないような事を平然とやっているのだ。縦横無尽な作風?そりゃそうだ作者が違うのだから。

 

だが傍から見ればそんな事分かりっこない上に斑目自身ビッグネームだからどんなに作風が変わろうが必ず評価されるというたちの悪さ。

 

芸術家の皮を被った悪鬼と言うに相応しいだろう。

 

そんな奴の反吐が出る話を聞いていると竜司が何かを察して辺りを見渡す。

 

「あばら家、ねぇ・・・・・・ん?なんか・・・」

 

「見て!斑目先生よ!」

 

「本当だ!」

 

「やっぱり初日に来て良かった!」

 

「是非お話を!」

 

「先生!」「先生!」「先生!!」

 

 

ドダダダダ!!!

 

 

「人多くね!?」

 

「これはまずいな」

 

「とにかく避けんぞって、うお!?入口まで埋まってやがる!?」

 

そう、彼らの周りにはいつの間にか斑目目的の客が溢れ返っており、しかも全員が斑目に凸仕掛けようとしていた。キャーキャーと喧しい黄色い悲鳴を上げて群がる姿はまるでゾンビパレード。

 

しかし割とマジめにこの人数の人波に巻き込まれたらたまったもんじゃない。竜司は慌てて蓮と鈴井の手を取りその場から退避した。だが、どこから湧いたと言わんばかりの人だかりは入口付近まで続いており、奥に戻ろうにも既に後ろは人集りで埋まっている。

 

こうなったらと竜司と蓮は互いに頷き合い、モルガナの入った荷物を鈴井に預けて自ら先陣を切って道なき道を切り開いて外に出るのであった。その際、蓮は眼力による圧力を50%ほど解放した事で人が退きやすくなり肘鉄を受けることも無くなっていたという。

 

「だはぁー!キッツ!んだあの人の量!」

 

「まるでバーゲンセールみたいだった」

 

「いや、それよかマシだな・・・」

 

予想外の出来事に予想以上の疲弊を受けた2人は(正確には1人)はゲンナリとしてため息を吐き、連絡通路で座り込んでいた。

 

人混みの激しさをバーゲンセールに例えた蓮だったが、その過酷さを知る竜司は否定し母親に連れてかれたあの戦場を思い出す。血で血を洗う主婦の戦場、あれに比べたらまだまだ可愛いものだと身震いしながら一笑した。

 

「くそ、あいつ巻き込まれてねぇといいけど」

 

「心配だね・・・」

 

「あの二人は最奥にまで行ってたから多分大丈夫だろう」

 

「だとしてもあの騒ぎが落ち着くまで合流は出来ねぇな・・・杏殿ぉ・・・。」

 

寂しそうにみゃーと鳴くモルガナの喉を優しく撫でて数秒後に指を噛まれていると何かを思い出したらしく「そういや・・・」と呟くとスマホを弄って何かを探し始める。そして数分するとやっと見つけ出したようで画面を3人に見せてきた。

 

「これ、見ろよ」

 

「んん?なんだ、怪チャンじゃねーか。それがどうした?」

 

「そうだけど、これ!この書き込みだって!」

 

首を傾げるモルガナに竜司は画面を更に拡大して見やすいようにしてからまた見せつける。それを覗き込むように見るモルガナと鈴井。読み上げてみるとそのとんでもない内容に驚愕した。

 

「えーと、『日本画の大家が弟子の作品を盗作している。テレビは表の顔しか報じていない』・・・盗作!?」

 

「まだ続きがあるぜ、『アトリエのあばら家に住み込みさせている弟子への扱いは酷く、こき使うだけで絵など教えて貰えない。人を人とも思わない仕打ちは、飼い犬を躾けるかのよう』・・・だとよ」

 

「酷い話だが、これがなんだって言うんだ?」

 

「これ、斑目の事かもしんねぇ」

 

「え!?」「にゃんだと?」

 

「さっき爺さんがインタビュアーに答えてた時に聞いたんだ。()()()()はあばら家ってよ。そんで前に見たこの書き込みの事思い出したんだ。こんな偶然の一致あるか?」

 

「ふむ、確かに。日本画家の大家にあばら家という要素の合致。たまたまでは済ませられない、か。」

 

あまりにも似通いすぎている類似点。誰がどう考えてもこの件は斑目が絡んでいる事は明確だと思えるほどのものだ。全員の中で疑惑が確信に変わった時、怒り足でずんずんと迫ってくる者がいた。勿論、置いてけぼりを食らった杏である。

 

「ちょっと!なんで先帰んの!」

 

「いーでで!!違ぇって!俺ら人だかりに巻き込まれて・・・というかお前も聞け!」

 

「は?何を?」

 

合流して早々に竜司の頬をぐにーんと引っ張り、ゴムのように引っ張った杏に慌てて怪チャンを見せて今話していた事を痛みに耐えながら伝える。見てるだけで痛そうな光景に蓮とモルガナは自身の頬を抑えて震えていた。

 

「え!?盗作!?ホントなのそれ!?」

 

「限りなく黒に近いグレーってとこだな。けど、俺は確実にやってると思うぜ。こんな一致ありえねーって。」

 

「もしホントだとしたら、喜多川くん・・・」

 

先程まで一緒に絵を見ていた張本人が作品を取られていたかもしれないという不安に苛まれる杏。しかもそれを殆ど顔に出さず、尊敬する師の絵だと語る姿を思うと・・・酷く胸が痛んだ。

 

「されてっかもな、あいつも」

 

「だとしたら相当な悪党だぞ。一体どれだけの被害者がいるか・・・。」

 

「何にせよ、本人に聞いて見なきゃ分かんねぇだろ・・・って言っても流石に信じらんねぇか。メメントスとか1から説明するわけにゃいかねーし。」

 

「それに現実で表立って動いたらマダラメ本人にバレる可能性がある。変に探るのはマズイぞ。」

 

「一応、斑目先生のアトリエの住所は喜多川君から貰ってるよ」

 

行動に対するリスクを考え、うーんと考え込む竜司とモルガナ。杏の言葉を聞いても決心がつかず、尻込みしてしまっているようだ。怪盗団を続ける理由に自己呈示欲が薄れ他者救済の意思が強くなった影響が出てしまったかもしれない。そこで蓮は少し2人の背中を押すことにした。

 

「・・・行動しない事には始まらない。とりあえずやれる事を最大限やろう。」

 

優しい熱の篭ったその言葉に立ち止まりかけた2人の意識は再び歩みを始め、前向きになっていく。相手は大物なのだ、ここで止まってしまっては何も出来ずに終わってしまう。怪盗団を掲げる以上、そんなことはしたくない。

 

「それもそうだな、うし!んじゃ明日行ってみっか、()()()()に!住み込みって言ってたし、ちょうどいいぜ。ボロいかどうかも確かめてやる。」

 

「え、明日!?モデルは、その、急に言われても・・・」

 

そんな気合いを入れ直した竜司のセリフに顔を赤くして慌て始める杏。そんな彼女に彼は不思議そうに首を傾げた。

 

「あん?ちげーよ、喜多川に話聞きに行くんだよ」

 

「あ、ああ、そっちね・・・良かった」

 

「杏、私は反対だからね」

 

「う、うん?志帆、なんか怖いよ・・・?」

 

あの時の祐介の行動を思い返してスンッと表情が冷たくなった鈴井。どうやら想像以上にヘイトを買ってしまったらしい。南無三、祐介。事件解決後、どうか生きてますように。

 

「・・・って事はあの絵も盗作っつー事か?」

 

「ん?どした、竜司。変なもの食ったか?」

 

「ちっげーよ!あの個展会で1枚だけいいなって思った絵が盗作って考えると、なんかモヤッとしてな」

 

「・・・そうか。ま、気にすんな。」

 

「おう」

 

そうこぼした竜司にモルガナはからかいの言葉をかけることなく、手短に気使かった。それに既に切りかえた竜司も軽く返す。胸の取っ掛りも少し消えていた。確かな男の友情を感じた蓮だったが、竜司の心を裏切った斑目に対し向けた怒りで僅かに浮かべた不機嫌顔に鈴井と杏は軽く頭を撫でるのであった。

 

 

という事で後日!

 

電車内で人形扱いされてご立腹なモルガナをあやしながら斑目のあとりえ前までやってきた怪盗団御一行。日本を代表する画家の家とは思えないほど驚愕のオンボロさに蓮を除く4人は絶句していた。知らないでみれば倉庫か何かかと勘違いしてしまいそうな程、ボロボロなそこに近づき表札を確認すると確かに『斑目』と書かれている。どうやらマジのようだと4人がまた絶句してボロ屋を見上げた。

 

「これはひどい」

 

「なんつーか、想像以上っつーか。」

 

「思ってた斜め上を行く感じ・・・」

 

「うん・・・」

 

「にゃあ・・・」

 

「とりあえず、ピンポンしてみよう」

 

「う、うん、そうだね」

 

蓮に促されるままに玄関にまで行き、チャイムを押す杏。周囲に響く絶妙に古臭い音に竜司の微妙な表情は更に深まる。

 

「いきなりぶっ壊れねぇだろうな」

 

「タライが落ちてくるかもな」

 

「そこまで行くと面白屋敷だろ」

 

なんて言って笑っているとインターホンから祐介の声が聞こえ、それに杏が返答すると即座に中からバタバタと慌ただしい音が聞こえ始め、勢いよく玄関が開かれた。

 

「高巻さっ・・・お前らもか」

 

出てきた瞬間は超絶スマイルだったのに竜司の姿を確認した途端に急激にテンションが下がり、半目になる祐介。甘い卵焼きかと思ったらしょっぱい卵焼きだった時くらいのテンションの急降下である。あまりにもあからさまな彼の態度に早くも慣れたのか竜司は軽く挨拶を返す。

 

「うぃっす。悪いな、今回はモデルの話じゃねぇんだわ。」

 

「ならば何の用だ」

 

しかもモデルの件でも無いと聞いて祐介の機嫌はいよいよ最低値にまで下がっていた。機嫌の悪さを隠そうともせず睨むように竜司を見る彼に言いずらそうに頭を掻きながら話を始める。

 

「あ〜、ちょいデリケートな話なんだけどよ。思い切って聞くぜ、お前、虐待とかされてねぇか。あと、盗作に心当たりとか。」

 

「・・・なんだと?」

 

いっそ清々しい程ストレートな質問に祐介は最低値をぶち破って超不機嫌となった彼はズカズカと竜司の前まで押し迫り、そのまま突き刺さんばかりに指を差し向ける。指先にまで力が篭っており、正に怒り心頭と言った感じだ。

 

「巫山戯るのも大概にしろ!ネットの記事でも鵜呑みにしたか!?虐待するほど子供が嫌いなら住み込みで弟子など取るものか!」

 

彼のもっとも()()()言い分、特にネットの記事〜の部分が効いたのか僅かに言葉を詰まらせる竜司。それを図星を突いたと捉えた祐介は更に畳み掛ける。

 

「それに今、住み込みの門下生は俺一人。俺が無いと言うんだから疑う余地は無いだろう。」

 

完全な、反論の余地もない論破を叩きつけたと思っているのだろう。祐介はどこかしてやったりと言った感じの子馬鹿にする様な笑みを浮かべて竜司を睨む。確かに、本人にそうまで言われてたらこちらから出せる言葉は無い。

 

だが、その本人の論という部分に竜司は目を付け、今度はこちらの番だと言わんばかりに踏み込んで行った。

 

「お前が嘘ついてる可能性はあんだろ」

 

「そ、れは・・・」

 

鋭い指摘に、今度は祐介が言葉を詰まらせる。明らかに()()を隠している反応だ。一瞬、目を逸らしたのもその事に一層真実味を帯びさせる。そこに更に追撃を仕掛けようとするも、彼の強い拒絶に阻まれてしまう。

 

「・・・くだらない。身寄りの無い俺を引き取って、ここまで育ててくれたのは先生だ!これ以上俺の恩人を愚弄するのは許さん!!」

 

「お前・・・」

 

「どうした祐介?大きな声を出して。」

 

そうして玄関前で騒いでいると中からインチキおじさん・・・ならぬ、斑目が人の良さそうな顔を貼り付けてあとりえからひょっこり姿を現した。

 

この瞬間、某逆転裁判並の迫力で本人しか知り得ない情報を突き付けると面白いくらい取り乱して即座に警察に連絡し、祐介を連れて異世界に行ける短縮ルートがあるのだが・・・竜司達から疑心を買い、特に祐介から深い猜疑心を持たれ最悪仲間にならないという可能性があるので面白半分でやらないようにしよう*5

 

さて、この先は正直言って茶番なのでカットさせて頂く。簡単に説明すると怒った祐介から事情を聞いた斑目がこういう時と為に用意しておいた好々爺の仮面を被ってこちらを笑って許すという流れだ。

 

お前どんな気持ちでそんな演技してんの?と聞きたくなるほど本性とはかけ離れた控えめな笑い方をする斑目に思わず丸ボタンを連打したくなるような気持ちに襲われる。そして最後に声を荒らげていた祐介を諭すと家の中に帰っていった。鴨志田といい、演技の道に入った方が良かったんじゃないか?

 

「・・・すまない、非礼だったな」

 

「え、あぁ、いや、こっちこそ悪かった」

 

斑目の言葉を受けて人の気持ちを考えてなかったと反省した祐介は蓮達に素直に頭を下げる。それを受けてこちらも真実を明かそうとするあまり踏み込みすぎたと謝罪する。互いに折り合いが出来たところで、祐介があるものを見せてくれた。

 

「そうだ、あの絵を見れば先生を信じて貰えるかもしれない。」

 

「あの絵?」

 

「先生の処女作であり代表作、『サユリ』だ」

 

そう言って出されたスマホの画面には、まるで天女の如き女性が柔らかく暖かな笑みを浮かべているシンプルながら非常に趣きのある絵が表示されていた。細やかな色合い、表情、絵全体から滲み出る儚さと包容力。そのどれもが見る者を魅了する不思議な雰囲気に包まれていた。

 

思わず、「おお」と声を漏らす蓮を除いた3人(+1匹)に祐介は満足そうに笑う。

 

「フ、分かって貰えたようだな。そして、高巻さんを初めて見た時、この絵を見たのと同じ感動があった・・・」

 

「え!?これと!?ハードル高くない!?」

 

「そうだぜ、これと比べたら月とスッポ、ンッッ!?!?」

 

杏に同調した竜司は井上尚弥を彷彿とさせる強烈なレバーブローによって崩れ落ちた。口は災いの元、南無三。

 

「俺はこんなに美を追求したい、君を描くこともその一環だと思っている。どうかモデルの件、よろしく頼む。」

 

そう語る彼は真剣そのものであり、美という終わりの無い果てしない道程を歩む者としての矜恃を感じられた。最後に、祐介は丁寧に腰を折ると玄関へと入っていく。

 

「折角訪ねて貰ったところ悪いのだが、今日はこれから先生の手伝いなんだ。また日を改めて話そう・・・それじゃ。」

 

そう言ってパタムと閉じられた玄関。中から聞こえる足音は奥へと消え去っていく。『サユリ』の衝撃から抜け出せないのか3人(+1匹)は未だに言葉を発さない。いや1人は物理的に喋れない状態。

 

とりあえずご近所さんに変な目で見られないように少し離れようと竜司を引きずりながら向かいのガードレール付近まで移動する。

 

「なんか、いい人じゃない?2人とも」

 

「あぁ、なんか話で聞いてたのと違ったよな。ぐぅ・・・!」

 

杏の言葉に痛みを堪えながら同調する竜司。無理しなさんな。

 

「だがそういう外面を取り繕ってるって可能性もありうる」

 

「うん、そうだよね・・・」

 

そこに待ったをかけたのがモルガナと鈴井。モルガナは斑目から感じたきな臭さから、鈴井は鴨志田と似たような表情の裏に隠れた悪性を僅かに感じとったからだ。特に悪人の裏を見抜く事に長けた2人だからこそ気づけた僅かな違和感に蓮も流れに乗って便乗する。

 

「ああ、上手いこと隠していたがコイツにはお見通しのようだ」

 

 

『ヒットしました』

 

 

「「あ!!」」

 

「イセカイナビが反応したってことは・・・」

 

「うむ、『大当たり』だぜ」

 

 

『マダラメ』『盗作』『あばら家』、3つのキーワードが埋まり残すのは斑目があばら家を何と勘違いしているか。信じられないと絶句する竜司と杏、やはりかと確信を得るモルガナと鈴井を横目に振り返ってあばら家を見つめる蓮。

 

先程まではただの古ぼけた家にしか見えなかったものが、一転全てを騙す為のハリボテのように映る。あの裏に隠された虚飾に塗りたくられた悪辣な本性が、認知を歪める程にパースの狂った醜悪の怪作が不気味に笑っているように見えた。

 

 

それを無感情に見つめながら最後のキーワードに四苦八苦している4人を他所に、蓮は静かに呟いた。

 

 

「キーワードは、『美術館』」

 

 

『ヒットしました、ナビゲーションを開始します』

 

 

「え?」

 

「開始って、おわ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

現実が歪み、認知が彼らを迎え入れる。

 

 

ぐにゃりとした視界が晴れてくると、そこに現れたのは・・・・・・

 

 

「おいおい、こりゃ随分と・・・」

 

「これが、斑目先生の認知世界・・・」

 

「マジかよ・・・」

 

「パレス、あばら家の認知がこんななんて・・・」

 

 

下品に金で装飾され、デカデカと自分の名前を貼り付けた悪趣味な美術館の姿があった。

 

 

「第2ステージ、開始だ」

 

 

欲まみれの美術館を捉えて、ジョーカーは僅かに微笑んだ。

 

 

 

第2章、本格スタート

 

 

 

*1
アイエエエエ!?コクハク!?コクハクナンデ!?

*2
サードアイ

*3
首根っこ

*4
個人の偏見です

*5
苦過ぎる思い出




いやほんと、遅れてごめんなさい。マジでエタる気は無かったんですけど、なんというか、やる気が出なくってぇ・・・仕事にイベントに忙しくってぇ、暑さにもやられて疲れちゃってぇ・・・サムライの方は更新してたろって?あれは別腹のストレス発散というか・・・はいすみません。

お詫びに小話の方で使いそうなネタを置いときます。お詫びになるか分からんけど。ストーリー上のネタバレを含みますのでご注意下さい・・・・・・今更か!!




『もしも、佐倉惣治郎がペルソナ使いだったら?』


双葉の心の闇がオリジナルよりも深く、母の呪いが強まっていた世界線によるお話。ジョーカー達怪盗団は双葉のパレスに巣食う闇の根源、『一色若葉』が歪んだ形で具現化した認知存在に追い詰められていた。

「くっ!?何だこの強さ!?尋常じゃないぞ!」

「多分、双葉の恐怖がアレを強くしてるんだ!」

「しっかりしろ双葉!アレはホントにお前の母親か!?違うだろう!」

「分かってる・・・分かってるけど・・・うぅ」

「駄目!このままじゃ双葉を追い詰めるだけだわ!彼女を下げさせて!」

「とは言っても・・・!」

『ふぅぅぅたぁぁぁばぁぁぁ!!!』

「ひっ!?」

(くそ!マズイぞ、今までよりも数段階強い!このままじゃ・・・仕方ない、やるしか・・・)

怪盗団の成長の為、過度な力は使わないつもりだったが、やむを得ない。ジョーカーは自身に秘められた更なる力を解放しようとして・・・後ろから聞こえてきた声に動きを止めた。



「・・・・・・随分と、待たせちまったな」

「・・・えッ!?!?」

「嘘、なんで・・・」

「マジでか!?」


そこに居たのは、本来この場に現れるはずの無い特大のイレギュラー。双葉の義理の親であり、ジョーカーの預かり先である佐倉惣治郎がいつもの白い服を着こなしながら歩いていたのだ。

その場にいた全員が困惑で動きを止めてる間に、双葉の下へ行きその頭を優しく撫でる惣治郎。双葉も思わずぱちくりと目を丸めている。


「ぇ・・・惣治、郎・・・?」

「あぁ、ごめんな双葉。こんなになるまで、俺ァ何も出来なかった。いや、しなかったってのが正しいか・・・お前らも、悪いな。」

双葉と怪盗団のメンバーを見ていつもと違う黒い帯の帽子を外して柔らかい笑みを浮かべる惣治郎。どうやら怪盗団についても全てお見通しな様だ。ちなみにジョーカーはそれどころじゃなくてフリーズしている。

『お前はぁぁぁぁ!!何故ここにぃぃぃ!!??』

「決まってるだろ、決着を付けに来たんだよ。俺の罪にな。」

一色若葉の化身が突風を吹き荒らすも、涼しい顔で受けて帽子を被り直し、懐から銃を取り出す。それはかの有名なリボルバー『S&W M19』であった。

『うっ・・・ぐっ!?なんだお前はぁぁ!?シ、ネェェェェ!!』

その姿に異常なまでの危機と心を侵食してくる謎の懐かしさに、警戒度を一気に引き上げ彼に向けてこれまで以上の威力を誇る疾風を叩きつける。

「佐倉さん!!」

「マスター!!」

「惣治郎ッ!!」


全員の悲鳴が響く中、ジョーカーが動こうとするが直後に止まる。なぜなら、その視線の先で惣治郎が鋭い目で彼を制していたから。そした、そのまま疾風の中に巻き込まれた彼は無惨に引き裂かれ・・・




『ペルソナ』


バギィィィィンッッ!!!



その疾風の中を我が物顔で歩き、ゆっくりと出てくると彼の後ろに付き従う鎧を着込んだペルソナがその手に持つ槍で風を裂き払う。


「1つ、俺は娘の心に巣食う闇を祓え無かった。」


全身を包むのは、先程までの白い服とは真逆の漆黒のスーツ。所々に白いラインが走りマントのようにはためく上着に、首元には紳士的な白いマフラー。


「2つ、娘に歩み寄るのを、躊躇ってしまった」


顔を包む仮面は無い、代わりに深く被った帽子のツバが彼の目元の冷たさと、優しさを隠してくれる。


「3つ、そのせいで娘を泣かせた」



「・・・俺は俺の罪を数えたぜ、若葉」



その姿は正に、ハードボイルド。



「さぁ、お前の罪を・・・数えろ」



この世界線における最初のペルソナ使い、あえて言うなら怪盗団ナンバー『0』。


コードネーム『バリスタ』


渋い漢が愛する娘の為に、かつて愛した者と対峙する。


『Wにさよなら/貴女に愛の花束を』




※本編とは何も関係ありません

ってな訳で思いつきネタです。惣治郎が昔の研究で密かにペルソナに覚醒していたっていう世界線。この時以外に使ってないし、危険すぎるので使う気も無かったけど双葉の苦しむ姿と怪盗団が彼女の為に奮闘するのを見て使う事を決断した。ちなみに戦うのはこれ1回きり。

双葉に使えなかった理由は他にも『心を操ってはい終わりで本当にいいのか』『そもそも後遺症は残らないのか』『どの程度影響が出てしまうのか』『心の中など安易に踏み入っていいものか』『自分にその権利があるのか』と様々な不安要素に雁字搦めになっていた事が原因。

コードネーム『バリスタ』

勿論、珈琲職人の為。他にもギムレットとか、バーボン、ジェスターとか色々あったけど若葉と双葉との思い出を重要視するならこれ以外ないと思ったので。

怪盗服はスカルマンと仮面ライダースカルを足して2で割ったような感じ。そこに戦う覚悟を決めた時にだけ被る黒い帯の帽子を被っている。仮面は付けておらず、目元は常に帽子のツバで隠れており、ペルソナを使ってそこから青い炎が覗いても目元が見えることは無い。

覚醒ペルソナ『ヘクトール』

護る者、子を想う父としての力が顕現したペルソナ。防御力がとにかく高く、弱点も無い。寧ろ耐性や無効の方が多い。特性『兜輝きし者』はあらゆる攻撃を半減させる。バフをかけるとそれはもう酷い事になる。物理攻撃が中心でスキルはオマケ。オマケなのにステが高く普通に火力が出る。なんだコイツ。初期属性は祝福。

見た目はデュエマの「命」の頂き グレイテスト・グレートにFGOのヘクトールの槍を持たせたみたいな感じ。


初期ペルソナ『ビリー・ザ・キッド』

後世において義賊として語られることになったガンマン。速のステータスが高く確実に先手を取り早期に仕留める。銃撃に特化しており、呪怨が弱点。祝福と火炎に耐性。特性『刹那の早撃ち』は銃撃ダメージを1.5倍にする。見た目は黒いジョリーザジョニー。

ちなみに登場時からヘクトールなのでビリー・ザ・キッドは設定上でしか確認できない。不遇ポジション。絆を深めると使える・・・かも?

これらの元ネタは勿論、鳴海荘吉と次元大介。銃はS&W M19だし、武器のステッキの名前はフィリップ。バリバリやないかい!だって?

そうだよ(開き直り)

関係ないけどスカルのひかりのまちMADが好きでした

近々、小話更新もするかもだし、本編もなるはやで進めますので皆さんどうか気長にお待ちください・・・良ければサムライソードの方も見てね。


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Our next target is…/Part2

シャドウとか知らないけど多分全員抱いたぜ、私です。いつも誤字報告感想ありがとうございます!

私の初の宝具5はミドラーシュのキャスターさんです。褐色ケモ耳守銭奴重要キャラなお姉さんは好きですか?

それはそうと貯めてた呪術廻戦2期を見ました。メカ丸対真人がめっちゃ盛られてて笑っちゃった。スタッフの悪意が酷すぎて泣いちゃった。ちなみに好きなキャラは脹相です。お兄ちゃん語録がカッコよすぎるし面白過ぎる。特に彼の精神というか、心情が大好きです。それ故に彼の独白はとても刺さりました。

展開の巻き、いいね。私も長編相手であれば積極的に取り入れるべきだと思うよ。


 

「あばら家が美術館、か。なんとも壮大な解釈だな。」

 

「これって、つまり、あばら家にそれだけの価値があるって考えてる・・・って事だよね」

 

「そうなるな」

 

「あばら家が、美術館・・・?わっかんねぇな」

 

ギンギラギンにさりげなくどころかド派手に主張している悪趣味美術館を見て話す怪盗団。とてもあのあばら家がこんなになるとは思えないスカルとパンサーは揃って頭を傾ける。

 

「本人にしか分からないような認知があるってこったろ。きな臭くなってきたぜ〜!」

 

早くもお宝の気配を感じとったのかウキウキし始めるモナ。腕をブンブン振ってとても楽しげだ。うふふ、可愛い。

 

「あんな人の良さそうな爺さんがこんなもん抱えてやがったなんて・・・っぱ、人は外面だけじゃ判断出来ねぇな」

 

「あの話の信憑性も高くなってきたね・・・なんか、複雑。」

 

あれほど優しい態度で祐介や自分達に接してくれていたのに、蓋を開けてみればドス黒い本性を隠し持っていた。人であるなら裏があるのは当然だが、このパレスという存在はそんな常人を遥かに超える異常性を持っているということ。パンサーが悲しげに顔を曇らせるのも頷ける。

 

なので、ここは気合いを入れるふりをして空気を変える事にする。

 

「ショータイムだ!!」

 

「うおぉびっくりしたァ、いきなりはやめろよれ・・・ジョーカー!」

 

「なんで怪盗服になるとそんなテンション上がるの?」

 

「まぁ精神が形を成した物だし、解放されちまうんだろ、色々。」

 

空気を変えることには成功したが、いきなりのテンション爆アゲにまだ慣れてないメンバーは呆れた目でジョーカーを見る。そんな・・・人をまるでいつもは真面目なのに遊ぶ時だけ奇行を繰り返す変な友達を見るような目で見ないで!・・・全部あってんなこれ。

 

「でも、皆かっこいいよ!杏はやっぱりちょっと、その、大胆だね・・・。」

 

「ちょっ!!やめてよ志帆!気にしないようにしてたんだから!」

 

鈴井の指摘に顔を赤くして手で体を隠すように覆うパンサー。どうやら羞恥心はまだ捨てきれてないようだ。嫌なら他の衣装貸そうか?今手元にあるのモナ用のメイド服しかないけど。彼がこれを聞いたら確実に実は裏で人を殺してた親友を見るような愕然とした目で見てくるだろう。というかサイズ的に入らないだろ。

 

そして、邪な目で見られてやしないかとスカルの方をキッと睨むパンサーだったが、それに対してスカルは何睨んでんだコイツと言わんばかりに真顔で首を傾げている。もう全くそんな目で見てなんか無かった。なんか逆に負けた気がしたパンサーは更にスカルを睨む。益々混乱するスカルだったが目的を思い出してパッと話を戻した。

 

「おいおい、ここで無駄話してる場合じゃねぇだろ。とにかく、パレスに入ってみようぜ。」

 

「そうだな、あばら家が美術館になる理由も分かるかもしれん。もちろん、メインはオタカラだがな!」

 

目をキラキラさせて楽しげに言うモナにはいはいとリアクションを返すスカル。そんな2人を見て恥ずかしがってるのが馬鹿らしくなってきたパンサーもパレスに入る準備をする。

 

そして今回一緒に巻き込まれてしまった鈴井はパレス内の入口で待機してもらうことにした。流石に美術館の中にまで連れていく訳にも行かないし、かと言って外で待ってて貰おうにも本人がいる気満々なので、瘴気もかなり薄くシャドウも寄り付かないここなら大丈夫だろうと判断したからだ。それに、万が一にも備えて何重にも秘策は用意してある。

 

「じゃあ、鈴井さんはここで待っててくれ。もし危険が迫ったらこの『ドロン玉』を投げて、この『催眠ミスト』や『メギドボム』を投げるんだ。そしてその隙に現実世界に帰還する、OK?」

 

「う、うん。分かった。」

 

まるでお出かけ前に子供に色々持たせるオカンのようにひょいひょい道具を渡していくジョーカー。これらは事前にモナに教わった手作り潜入道具で『超魔術』の器用さで量産したもの。素人が自分以上のクオリティの潜入道具を作ったことでモナの自尊心がボドボドになったが、コラテラルダメージと言うやつである。

 

ちなみに各メンバーにも『ドロン玉』と『催眠ミスト』、加えて『カエレール』を渡してある。いずれもピンチの時に使うようにと説明してあり、『メギドボム』は量産が難しいという体で鈴井にしか渡していない。この時点で渡すと雑魚がヌルゲーになっちゃって経験が詰めないのである。つまりは、甘えるな!という事だ。

 

念の為、使い方をもう一度説明してから渡してようやくパレスに入る準備が整った。

 

「よし、では改めて・・・行くぞっ!!」

 

「やっぱテンション高ぇ〜」

 

「シャドウにバレるからもうちょっと控えめにねジョーカー」

 

「鎮静剤打っとくか?」

 

「あ、ね、ねぇ皆!」

 

そして、さぁ出発だ!というタイミングで鈴井から声がかかる。

 

「?どったぁ、鈴井?」

 

「志帆?ハッ!もしかして体調悪い!?やっぱ帰る!?」

 

「い、いや!違うの!えっと、その・・・気になる事があって・・・」

 

「気になる事?」

 

そう言ってもじもじと指を合わせる鈴井。脳内で可愛いとコメントを打ちまくるジョーカーだったが、次の彼女の言葉に雷鳴に打たれたかのような衝撃を受ける。

 

 

「あの、今更だけど、皆は名前で呼び合ってるのに、私は苗字なんだなって・・・うぅ、ごめん!やっぱりなんでもない!忘れて!」

 

 

 

ビシャァーーンッ!!

 

 

あったまからつま先までの衝撃の稲妻が突き抜けるが如くショック!その破壊力たるや、パンサー以外にはあまり靡かないモナが感銘を受けるほどであった!

 

「・・・・・・あー!確かに!ジョーカーもスカルもモナも名前呼びしてない!なんで!?」

 

「や、何でって言われても・・・特に気にしてなかったっつーか、なんかその、恥ずいっつーか。」

 

「はぁ!?私の時はそんなリアクションしなかったでしょーが!!」

 

「お前は別に」

 

「ふんッ!」

 

「フリッカーッ!?」

 

杏の目に見えない程の速度で放たれるフリッカージャブにより地に沈んだスカル。そんな漫才をスルーして普通に反省しているジョーカーとモナ。

 

「吾輩、全く意識してなかったぜ・・・ごめんな志帆殿」

 

「済まない・・・本当に、済まない・・・!」

 

「ううん、大丈夫だよモナちゃん。れ、ジョーカーもそんな落ち込まないで!私も苗字呼びだったし・・・それに凄いことになってるから!頭が埋まる勢いだから!」

 

土下座どころか土埋座になりかけているジョーカーを見て慌てて止める志帆。類まれなる謝罪をしたジョーカーは前は大丈夫だったのにまさか名前呼びを無意識にしていなかったとは、仲間と言ったのにこれは余りにも失礼だ!と本気で反省していた。

 

「今度高級スイーツを奢らせてくれ」

 

「いやそこまでしなくても・・・杏みたいに名前で呼んでくれれば」

 

「分かった、済まない志帆さん」

 

「違うよ、謝罪じゃない。そこは肯定だけだよ。」

 

「わかった、志帆さん」

 

「さんじゃない、そこは呼び捨てだよ」

 

「わかった、志帆」

 

なんか何処ぞのシンシリーズみたいなやり取りをしていた2人。このままWポーズでも決めるか?という感じの所で、パンサーに足を引きずられてスカルが志帆の前まで連れてこられた。

 

「っのやろ、本気で殴りやがって・・・」

 

「そんなことはいいから、ほら」

 

「うっ・・・その、悪かった。ダチッて言ったのに名前で呼ばなくて、その・・・し、し、シ帆・・・」

 

「・・・ううん!大丈夫、ありがとう、スカル!」

 

「ッ!お、おう・・・」

 

なんでか、名前を呼んだだけなのに物凄いアオハルを感じさせる食う気になった2人。おやおや?これはまさか?とジョーカーとモナがコソコソニヤニヤしているとパンサーがスカルを押して志帆から引き離した。

 

「はい!呼んだなら離れて離れて!」

 

「んだよ!近付けたり離したり!」

 

「いいから!」

 

わちゃわちゃしてるスカルとパンサーを見てお淑やかに笑う志帆。パレス内にいるとは思えないほどホンワカした様子だったが、モナがハッと元の目的を思いだした。

 

「おーい、盛り上がってるとこ悪いが早いとこ中に入ろーぜ」

 

「あ、そうだった」

 

「忘れかけてた」

 

「じゃあ志帆、安全第一でね!危なくなったら直ぐそれ使ってね!あとお腹空いたら私達の事は気にしないで持ち込んだの食べていいからね!あと・・・」

 

「ジョーカー、連れてっちゃって!あと、頑張って!」

 

意外と強かな志帆は心配により無限過保護マシーンと化したパンサーを連れてくようにジョーカーに指示する。それに「イエス、マム!」と応じた彼はパンサーをお米様抱っこしてパレスへと旅立っていった。どっちがリーダーだ。

 

その際、彼の目にのみ映る青い扉に立つジュスティーヌに対し賄賂としてたけのこの里ときのこの山を渡し、「もしもの時は彼女を頼む」と書いたメモも付けてアイコンタクトを交わした。それを一瞬で読み理解した彼女は「・・・仕方がないですね」とたけのこの里を食べながら了承するのだった。断じてお菓子に釣られた訳では無い。*1

 

 

そんな訳でたまたま空いていた屋上の天窓から美術館内へと侵入したジョーカー達。外があれだけ混雑していたにも関わらず中は異様なまでに静かで不気味さすら感じる。更に不気味さを増すようにジョーカー達の前には巨大な絵画が幾つも並んでいた。そのどれもが人物画であり、絵なのにぐにゃぐにゃと揺れ動いている。

 

「何これ、動いてる・・・」

 

「まぁ、パレスだしそういうのもあんだろ。」

 

「ふむ、パレスの在り様は主の心の在り様だ。ちょいと調べた方がいいかもな。」

 

モナの言う通り、この美術館を理解するピースの可能性がある。そう考えた彼らはとりあえず適当に決めた一枚の絵を調べ始める。

 

「仕掛けっぽいのはねぇな」

 

「あるのは・・・絵の説明だけだね」

 

「なになに、書いてあんのは・・・名前と、年齢?」

 

「単純に絵のタイトル、作者の名前、という訳では無いだろうな」

 

「ああ、いよいよ臭うぜ」

 

「え?それって・・・」

 

何かに感づいたモナとジョーカーの言葉に疑問を持ったパンサーとスカルだったが、確証を得るために更に先へと進もうとする彼らの後を慌てて追う。何枚もの絵を見る度にスカルの顔は意味が分からんと眉間にシワが増え、パンサーの顔は個展の時と違い様々な画風など無く人物画しかない事に困惑を深める。

 

そして、ある一枚の絵を見つけ疑念は更に深まる事となった。

 

「ッ、おい、これ!」

 

「え?あ!この人!」

 

「・・・確か、中野原だったか。」

 

目の前でゆらゆらと動く人物画。そこに描かれていたのは少し前にメメントスにて改心させた元ストーカーの中野原夏彦であった。これでプレートに書かれてるのは絵の人物のものと判明したが、なぜ彼がこんな所に人物画として飾られているのか。益々謎が深まり、そして益々真実へと近づいている気配がする。

 

 

 

そして、次に見つけた絵で全ての疑念が、確信に変わった。

 

 

「これっ・・・て・・・!?」

 

「おいおいなんでコイツが!?」

 

 

「・・・『喜多川祐介』」

 

 

最後に飾られていたのは、見覚えしか無い少年の人物画。青みがかった髪に整った顔立ち、どこからどう見ても祐介本人の絵であった。

 

どうして彼の絵がここに?そう考えたパンサーだったが、『中野原』『祐介』『マダラメ』『怪チャンの書き込み』など朧気な点と点が線で繋がるように全ての事柄が繋がり、その事実にブワッと鳥肌が立つのを感じる。

 

「この絵達って、まさか、斑目の『弟子』の人達?」

 

今まで見てきた人物画達、その数は十を優に越している。つまり、もし盗作などの話が真実ならそれだけの数の被害者がいるということになる。勿論、目の前にある祐介も。

 

「なるほど、な。弟子は自分の『作品』・・・いや、もっと歪な、『作品を生み出す物』って事か?」

 

「恐らく、その認識でほぼ合ってるだろう」

 

「んだそりゃ!?弟子なのに、作品!?つまり、どういうこった!?」

 

「静かにしろ、多分だがもう少し進めば分かると思うぜ。ここはパレス、思ってる事は隠せねぇ。認知は必ず形になってる筈だ。」

 

モナの落ち着いた言葉にスカルも確かにそうだと納得する。ならばと早いと先に進もうとするスカルの首根っこを掴んで警戒しながらファントムムーヴしていく。

 

ご丁寧に置いてある館内のパンフレット『見取り図・上』をおひとつ頂戴し、先のゾーンへと進むとこれまた派手な黄金で彩られたオブジェクトが鎮座していた。

 

「うわ、なんかあるぞ!」

 

「こりゃまた随分と・・・」

 

パッと見では壮大で開放感のある芸術品に見えなくもないが、ちゃんと見てみると金の中には人の形をした装飾があり、それらはどれも金に囚われもがき苦しんでるように見える。近代芸術やオカルト品と言い訳を付けてもなお悪趣味だと感じるそれを見て彼らは全員顔を顰めた。

 

「んだこりゃ、なんか気持ち悪ぃな。」

 

「プレートになんか書いてある。えっと、タイトルは『無限の泉』・・・?

『彼らは斑目館長様が私費を投じて作り上げた作品群である。彼らは自身のあらゆる着想とイマジネーションを生涯、館長様に捧げ続けなければならない。それが叶わぬ者に、生きる価値無し』・・・!?」

 

「はぁ!?」

 

「なっ・・・!」

 

パンサー含め読み上げられた内容に絶句するメンバー達。酷いなんて言葉では収まりきらない程の悪意がこの文章には詰め込まれていた。斑目本人の嘘偽りの無い本音。これにより、彼の悪性は確定的なものとなった。

 

簡潔に言うとこう言いたいのだ、自身の弟子は『金の成る木』と。

 

「これ、多分盗作のことだよね・・・」

 

「クソ!とんだ食わせジジイだ!腹の底真っ黒じゃねぇか!」

 

怒りに任せて台座を蹴るスカル。いつもならモナから叱咤するだろうが、この事実に怒りと嫌悪感を抱いているのは彼も同じ。故に今回ばかりは目を瞑っているらしい。

 

「弟子は俺の『物』ってとこか。これがホントならマトモな絵描きですらないぜ。画才のある弟子の着想を、生活を保障する代わりに盗んでる事になる。」

 

「ということはやっぱり・・・」

 

「ああ、あの人物画は『認知上の弟子』で確定だな。にしても、生きる価値無しとまで来たか。こっちは多分虐待の事じゃねぇか?役に立つうちは置いとくが用済みになれば・・・チッ、言っててヤになるぜ」

 

「巫山戯てる・・・!まるで奴隷や道具じゃない!」

 

パンサーも拳を握って怒りを顕にしている。当たり前だ、これほどまでに悪意を煮積ませた物を見せられて冷静でいられるはずも無い。しかし、この先に進むのならその感情は返って邪魔になってしまう。

 

だからジョーカーは一度パレスから帰還するように上手く誘導する事にした。

 

「個展の時も、飾ってあった絵を褒めたら様子が変だったの。もしかしたらあの絵は喜多川君の・・・」

 

「育てて貰った恩義があるからって、こんなの許される訳ねぇ!なぁ、コレもう斑目がターゲットでいいだろ!?」

 

「ああ、しかしその前にもう一度喜多川に事実を確認しよう」

 

「うむ、吾輩も賛成だ」

 

「ああ!?んだよ確認って!?」

 

「実際に悪事があったのかどうか、『ウラ』を取っといた方がいい。」

 

「その通り、その方が揺さぶりが効くしな。それにまだ斑目の事何も知らなさ過ぎるだろ。悪人である事は確定的にしろ、現実でもその裏付けをしておいた方がいい。吾輩達は遠慮が無くなるし、奴は逃げ場が無くなる。」

 

「めんどくせぇ・・・ま、けどやるしかねぇか。」

 

パレス攻略する気満々だったスカルも納得したのか渋々ながらもジョーカー達に従う。パンサーも同意し、全会一致となった彼等はそこで引き返してパレスの入口まで戻ってくるとわたわたと出迎えてくれた志帆を抱えてすたこらと現実へと帰還する怪盗団。

 

その際、志帆を見守ってくれていたジュスティーヌにコーラ(賄賂)を献上し、見たことの無いシュワシュワに目を煌めかせて可愛らしくちびちび飲む彼女に見送られながらパレスを後にした。

 

後日、杏がモデルの話を受けることで喜多川を釣り話を聞こうと決めた彼等はそこで解散しそれぞれ帰路についた。その頃には日は沈んでしまっていたが、そのまま帰るのも何となく勿体なかったのでアンタッチャブルへと寄り、あのモデルガンについて聞いてコープを結ぶことにした。ついででやる事じゃねぇ。*2

 

「らっしゃ・・・おめぇか」

 

「どうも」

 

店のドアを開き、店主がこちらを確認すると面倒なのが来たと言うようにしかめっ面で睨んできた。とてもカタギに出せる雰囲気では無い。だがそんな事知らねぇと言わんばかりに蓮はズンズンと距離を詰め、例の紙袋をカウンターに置いた。大胆不敵である。

 

「これについて聞きたくて」

 

「・・・・・・けっ、お構い無しかよ。まぁいい、そりゃ俺が極限までリアルに改造したカスタムガンだ。」

 

「ほう」

 

蓮が全く怖気付かずに聞いてきたことで誤魔化しは効かないと判断した店主は大人しくカスタムガンについて話し始める。

 

「ちょいとアテがあってな、お前が運び屋やってくれて助かったよ。デカに目ェ付けられずに済んだ。・・・要は、共犯ってことだ。妙なことチクるなよ?うちの防犯カメラにも映ってる。」

 

それにしては簡単に話しすぎでは無いかと思った貴方、大正解。クイッと親指でカメラを指差す彼の顔には巧みに裏を取ったことで悪い笑みが張り付いていた。これには思わずモルガナも絶句である。

 

(セ、セケェ〜!ほぼ、いや完全に脅しじゃねぇか!)

 

MAX脅しを真っ向からぶつけられた蓮。普通ならばここで踏み入る話では無いと判断し、芋を引くような場面だが、あいにく彼はイカレ具合が違った。

 

「ああ、それはいいんですけど。他のはありませんか?良ければ見せてもらいたいんですけど。」

 

「へぇ・・・」

 

(おばー!?蓮ー!?)

 

いつの間に取り出したのか紙袋に入っていたカスタムガンを手に持ちカチャカチャと色んな角度で見つめる蓮にモルガナは心の中で絶叫した。なんでお前こんな場面で刺激するような事するんだ!と考え顔を青くしながらチラリと店主の方を見る。

 

「・・・ちょっと裏で話そうか?」

 

(こ、怖ぇ〜!!??)

 

不機嫌気味に吊り上げられた帽子の裏から覗く鋭い眼光が蓮を射抜いていた。これにはもうモルガナもショッキングピンクである。完全にスジモンオーラを出している店主の後を極めていつも通りにのほほんとした顔でついて行く。

 

そして店裏に連れ込まれると奥の方に立たされ、1つしかない出口を完全に封鎖されてしまった。こんな時くらいポケットから手を出せ。

 

「何モンだよ、お前」

 

「タダのガンマニアですよ。気に入ったんです、アレ。」

 

眼前まで顔を詰められ、目線だけで人を殺せるんじゃないかと思うくらい迫力を叩きつけられているのに全く動じない蓮を見て、数秒は様子を見るように動かなかった店主は小さく笑って身を引いてコロリと飴を転がした。

 

「ハ、その歳でか?・・・まぁたしかに、その執念はマニア独特かもな」

 

蓮の態度に並々ならぬ執念を見た店主はとりあえず納得し、その後小さく「待てよ?」と呟くと少し考えこんだと思えばまた小さく悪どい笑みを浮かべて蓮を見た。

 

「・・・クク、なるほど、ガキってのもありか」

 

そう言う彼の前にはクルクルとカスタムガンを回してガンマンごっこに興じる蓮がいる。「・・・多少アホだが、まぁ許容範囲だ」と見なかったことにして話を続ける。モルガナは白目を剥いた。

 

「いいぜ、お前の望み。叶えてやってもいい。だが、金はあるんだろうな。一丁数十万で取引してるシロモンだぞ。俺の気分次第で百にも千にもなるぜ?」

 

「ええ、是非とも」

 

ここで現金を叩きつけると愕然とした顔を見れるが逆に高値の客扱いされて終わってしまうのであえて表面だけは強気な学生を演じる。

 

そして言い淀んでしまっても根性無しと判断されるので、ネジがちょっと飛んじゃってる系男子を演じて*3ニヤリと笑いながら返すと少し驚いたように目を剥いてから更に笑みを深めて蓮を見る店主。どうやらお眼鏡に適ったようだ。

 

「ハッタリか、ますます使えるぜ・・・よし、いいだろう。ただし条件がある。お前、俺の『シゴト』を手伝え」

 

「シゴト?」

 

「運び屋、証拠隠滅、etc・・・その報酬として特別メニューを案内してやる。ガキでも払えそうな良心価格でな。どうだ?悪い取引じゃねぇだろ?」

 

聞いただけでも、カタギの仕事では無い怪しさ満点の内容。正気ならばこんなもんと関わりなんて持とうとしないだろう。というか絵面からしてヤバい、どう見ても裏取引に騙される学生だ。それとは違うのは、騙される側が全てお見通しで、その上で滅茶苦茶悪い顔をしながら交渉にノリノリに乗ってることだろうか。

 

「面白そうだ」

 

「くく、更にイカれてるときたか。いいだろう、お前は使えそうな駒だ。」

 

互いに利害が一致した事により契約が結ばれ、青い縁がコープを紡ぐ。

 

 

 

我は汝・・・汝は・・・

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りは

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我、「刑死者」のペルソナの誕に

祝福の風を得たり

 

へと至る、

更なる力とならん・・・

 

 

 

 

COOPEARTION:『岩井宗久』

 

 

ARCANA:『刑死者』 RANK.1☆

 

 

 

「コンゴトモヨロシク・・・」

 

「・・・なんだ?急に寒気が・・・」

 

悪魔と契約したのは果たしてどっちか。少なくとも、意地悪く笑っている方では無いのは確かだ。

 

ってな訳で、アンタッチャブルの店主『岩井宗久』とコープを結んだ蓮。ご機嫌になってカスタムガンを堂々と握ったまま外に出ようとした彼の後頭部を殴り阻止した岩井はそれを彼のカバンにネジ込み、無理矢理外に連れ出す。

 

「ったく、仕事についてはおいおい連絡する。念の為言っとくがこの事は誰にも話すなよ、お前は指示に従えばいい。これも一応言っとくがお前が補導されたりパクられたとしても俺は無関係だ、いいな?」

 

「了解」

 

連絡先を交換した後、後頭部を腫らした蓮は敬礼する。岩井はもう完全にアホを見る目で見ていた。

 

「ちなみに今日はいいんですか?」

 

「へぇ、やる気じゃねぇーか。ま、そうガツガツすんなよ。今日は遅いしな、準備が出来たら連絡する。まぁ、うん、期待してるぜ?」

 

「うす、おなしゃす」

 

僅かな時間で壮絶な奇行を見せた蓮に契約相手を間違えたかもしれないと若干後悔が見え隠れする岩井。しかしもう遅い、コープが結ばれた以上最早逃げることなど出来んぞと脳内でキラのような笑い声を上げながら頭を下げると、スッタカターと四茶に帰り、思ったよりも時間が余ったので今度は武見の所へ訪れた。

 

モルガナを退避させてから診察所に着くと嫌そうな目で見てくる武見。何故だろう、そんな目をされる様な事をした覚えが全くない*4。そう考えながらそんな彼女にまるで青い青春を共に過ごした親友の体を乗っ取ったやつみたいな軽さで挨拶をする。

 

「やっ、武見先生」

 

「・・・どうも、何か用?」

 

「つれないなぁ、私と先生の仲じゃないですか」

 

「私達、出会って3回しか顔合わせてないけど?」

 

「量より質、そう思いません?」

 

「量に質が伴ってないけど」

 

「・・・・・・それは置いといて、治験しましょ」

 

「ハァ、全く・・・どうぞ。」

 

完全に論破された蓮は分かりやすく話題を逸らす。そんな彼に呆れながらも治験をすると言うならば成果の為追い返す訳にはいかず、彼を診察室へと招く。

 

治験最高治験最高イェイイェイと腕を振り上げながら喧しさ全開で入室する蓮に後ろから鎮静剤でもぶち込んでやろうかと考える武見だったが、治験結果に響かれても困るのでそれは後回し*5にして早速例の液体を目の前の馬鹿に押し付けた。

 

「はい、じゃこれね。」

 

「うーん、色と臭いのダブルコンボ」

 

「イッキイッキ」

 

「加えてノミハラ*6・・・役満ってとこか」

 

まぁ別に気にしないけど。そう考えながら武見のコールに応えてグイッと一気に飲み干す。口の中に苦味と酸味、そして生臭さとほんとに薬ですか?と聞きたくなるほどの不快感のアイドル達が武道館コンサートを開いている。

 

しかし、昔から良薬口に苦しと言うものだ。甘んじて受け入れよう。更に言えば所詮は味覚。初回の内部からスリップダメージを与えてくる劇物ほどでは無い。これくらい、余裕だ。

 

そう考える蓮の顔はシレッとしているものの、まるでバグった機械のようにカタカタ小刻みに震えている。人体で非常に敏感な部位である舌に化学兵器をぶち込まれたのだ。いくら彼でも反応はしてしまう。

 

「うん、効力は出てるみたいね。どう?ボーッとしない?」

 

「あれは彗星かな?いや違う、違うな・・・彗星はもっと、バーッて動くもんな」

 

「反応も上々っと。じゃあ次、体温と血圧。後は血も抜かせてもらうわね?」

 

「オレサマオマエマルカジリ・・・」

 

メタル系バンドみたいにグワングワンと頭を振る蓮からパッパとデータと血を取っていく武見。その姿に容赦というものは存在しなかった。まぁ蓮だし。

 

そんなこんなでついでに運動検査まで終え治験を済ませた蓮達だったが、そこで予想内の部外者が乱入してきた。

 

「悪いわね、運動検査までさせちゃって」

 

「いえ、役に立てたなら何よりです」

 

「ふぅーん、殊勝なモルモット君だこと。ま、おかげで最終調整までいけたし。」

 

 

「なんだ、いるじゃないか」

 

ガラリと診察室に入ってきたのはなんとなんと警察官。ふてぶてしい顔でズンズン中に入ってくると武見の前に仁王立ち。とてもでは無いが正義感を持つ者とは思えない圧のかけ方である。

 

「・・・診察中ですけど?前にも言ったよね?捜査したいなら証拠見せてって」

 

「今日は通報があったんだよ。医療報酬明細書だったか、あとカルテ一式も見せてもらおう。流石に誤魔化すヒマも無かっただろ?」

 

「・・・医局長の差し金、か。まぁいいや、どうぞ。」

 

「む?」

 

ニヤリと嫌味ったらしい笑みを浮かべていたが、武見のあっさりとしたリアクションに困惑する警察官。

 

「今日の患者はこの子1人。医療費の明細を見せろってことは、その通報は不正請求疑惑ってとこ?でも、そもそもレセプトなければ本末転倒でしょ。」

 

「ど、どういうことだ・・・?」

 

「踊らされたね、その通報、ただの嫌がらせだよ。私に対する・・・ね。」

 

「む、ぐ・・・!き、君!どうしてこんな病院にいるんだ。見たところ体調も悪くなさそうだし、ここで何かやましいことをしてたんじゃ・・・」

 

自信が騙されたと知りプライドが傷ついた警察官は何とか罪でも疑惑でも作り上げようと今度は蓮を標的にするが、残念ながら武見よりも腹黒く更に警察嫌いを持ってる彼に目をつけたのは完全に間違いである。普段より数段冷えた視線で睨み返し、ド正論パンチでカウンターを放つ。

 

「どうして他人で素人のあなたが僕の健康を判断するんですか?」

 

「う・・・ぐぅ・・・!」

 

キレッキレの返しに警察官は口篭り、武見は小さく笑う。それが更に警察官のプライドを刺激したのか顔を真っ赤にしている。タコみてぇ。

 

「ふ・・・で?他に容疑は?こっちも忙しいんだけど」

 

「・・・もういい。本当に面倒な医者だ。『疫病神』とはよく言ったもんだ」

 

「・・・・・・。」

 

最後の最後まで嫌味ったらしかった警察官は置き土産に意味深に見えて全然そうでも無いことを言ってそそくさと帰って行った。ぺっ、素直に謝罪も出来ない無能警察官め。二度と来んな、と背中に中指を立てていた蓮は武見とシンクロしてため息を吐く。

 

「・・・はぁ、めんどくさ」

 

「まったくだ」

 

珍しく年相応のむくれた顔を見せる蓮に意外なものを見たと笑みを作る武見。

 

「へぇ、気が合うじゃない。ま、気にすることじゃない。通報したの、前の職場の上司だから。警察けしかけてプレッシャーかけてるつもりなんでしょ。」

 

「大変ですね」

 

「まぁね、さて。治験も終わった事だし、もう帰ってもいいよ。それともお買い物してく?」

 

「あ、じゃあこれとこれとこれを」

 

「ん、毎度あり。」

 

 

無事治験も終わり、回復アイテムの補充も完了した。更にコープが進み、武見との関係が深まるのを感じる・・・。

 

 

ARCANA:『死神』 RANK.2☆☆

 

 

そして診察所からの帰り道、怪盗団のグループチャットにメッセージが届く。

 

>『恩人なら何でも許せるもんなのかな』

 

>『なんかよく分からなくなってきた』

 

>『どした、急に』

 

『話聞こか?』<

 

>『蓮?』

 

『ウス』<

 

>『喜多川くんの話だと、斑目問題なさげじゃない?』

 

『というと?』<

 

>『斑目は悪いやつだって分かってはいるんだけど・・・』

 

>『被害にあってる人を実際に見てないからかな?』

 

>『まぁ確かに、そこは鴨志田の時とは違うよな』

 

>『極論かもしれないけど』

 

>『どんな悪いやつでも誰にも迷惑をかけてないなら』

 

>『私達が出てかなくてもいいんじゃないかって』

 

>『迷惑かどうかは祐介が決めるってことか?』

 

>『確かに・・・そうかも』

 

>『まぁな、でも俺だったら絶対許せねぇけどな!』

 

『まずは真実を探ろう』<

 

『その判断はその後でもいいはずだ』<

 

>『そうだね・・・悩むのは後にする』

 

>『じゃあ明日、放課後の渋谷でね』

 

>『おう』

 

>『うん』

 

『OK牧場』<

 

>『いやだから古いってそれ!』

 

 

「ふーむ、なるほど。当人達の問題に割り込むのは逆に迷惑になるかもって事か・・・。しかし、もしもそれで誰かが被害を受け続け搾取されるのなら・・・吾輩は手を出すべきだと思うけどな」

 

チャットの内容に自分なりの見解を出すモルガナ。そんな彼の顎を撫でながら、ルブランへと帰宅する。

 

正義と善意は時に傲慢と成りうる。その境界線を見誤れば、自分達とてそうなるだろう。そうならぬよう、怪盗団を導く。それこそがリーダーである蓮の役目。

 

「ふ、世話が焼ける・・・」

 

「こっちのセリフだアホ。さっさと手伝え」

 

「ウス」

 

カッコつけて呟いた蓮に本当に珍しく繁盛している店を手伝うように叱る惣治郎。彼に頭の上がらない蓮はあの警官のようにそそくさと上にあがり爆速で着替えると直ぐに手伝いに入るのであった。

 

そして、注文を受けた客に一言。

 

「オリエンタルな味と香りの店、ルブランへようこそ!」

 

「やめろアホォ!」

 

「ポレポレッ!?」

 

諦めず完全に定着させに来ている蓮の後頭部にジャガイモがクリーンヒットする。常連さんはそれを見て仲良くなったわねぇとほっこり。

 

 

今日も、ルブランは平和です。

 

 

 

*1
この後、カロリーヌの分だったきのこの山も食べてしまい喧嘩になる模様

*2
モルガナもそうだそうだと言っています

*3
演じて?

*4
都合の悪い事は忘れるタイプ

*5
確定事項

*6
飲み物ハラスメント




お気に入りの作品画いつの間にか更新停止していたり、好きだった作品の作者さんがアカウントを消していたり、そんな小さな絶望が人を大人にするのです。

・蓮
顔だけはいいのでルブランに彼目的で来店する人が増えた。チェキは断っている。

・惣治郎
イケおじなので彼目的の人も割といる。チェキは断っている。

・ルブランコーヒー
美味しいので彼目的の人が大半。チェキは断っている。

・ルブランカレー
美味しいので彼目的の人も大多数。チェキは大歓迎。

・観葉植物
彼らをある人物と共に優しく見守っている。

・この世界の警察官
は? クズ やめたら?この仕事 圧倒的無能 馬鹿なん? ワロタ まず謝れや猿ぅ!と散々なコメントをうたれる人。なお、反論出来ない模様。


ゲーム版になると志帆はマダラメパレス以降パレスの入口で待機してて、攻略中に1回だけHPとSPを半分回復してくれます。ありがてぇ。


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Our next target is…/Part3

感想誤字報告いつもありがとうございます!

最近、些細な事で自己肯定感を満たすのが趣味です。それはそれとしてペルソナもっと増えろ1000作品くらい増えろ。皆もガンガン作ってくれよな!鴨志田×校長のBL作品とか(誰得)

最近ペルソナ5の舞台版が凄い気になってるんですけど、正直そういう系ってあんま得意じゃなくて尻込みしてます。面白いか知ってる方いたら教えてください。

今回も、彼らは目撃する。全てを捨て去った者のむき出しの巻き巻き、その躍動を!


 

 

マダラメパレスに潜入し、虐待の噂がほぼ真実であると確信を得た蓮達は祐介に連絡を入れた後日再び斑目のあばら家を訪れていた。

 

「それじゃ、押すよ」

 

「おう、頼む」

 

意気込む杏にGOサインを出すと、1つ深呼吸をしてからチャイムのボタンを押し込む。そして中から聞こえる昨日も聞いた絶妙に古臭いチャイムと喧しい足音。全く同じ勢いで祐介が玄関を開けて現れた。

 

「待ってたよ!高巻さ・・・お前らもか」

 

「おっす、悪ぃな。2人きりじゃ気まずいってんでよ」

 

「・・・まぁいい、予想していたことだ。上がってくれ。」

 

少しの間チベスナ顔になっていた祐介だったが蓮達が来るのは予見していた様で特に抵抗もなくすんなりと家に入れてくれた。お邪魔しまーすと声をかけて床に足をかけるとギシギシと不安な音が廊下に鳴り響く。これいきなり抜けたりしねぇよな?と考えながらも祐介の後をついていくと彼の部屋へと招かれた。

 

「ここが俺の部屋だ、高巻さんはそこへ、お前らはそっちだ」

 

「ほーん、なんか質素というか・・・これ全部描くやつ?」

 

「ああ、全て画材や参考資料だ。触るなよ。」

 

キョロキョロと人の部屋に興味津々と言った感じに見渡す竜司に釘を刺す祐介。流石にそこまで馬鹿じゃねぇよとジト目を向ける彼だったがやはり目は画材などに向いており気になっていることに違いは無いようだ。

 

いや、全然違うわ。これエロ本とかの隠し場所を探ってる目だわ。そういや男子高校生だった。

 

「わーってるよ。てかさ、気になってたんだけどぶっちゃけお前杏の事どう思ってんの?」

 

「ぶっ!?」

 

ひとしきり見渡して飽きたのか隠し場所探しを止めたと思ったら単刀直入にぶっ込んだ。いきなりの切り込み隊長に吹き出したモルガナがバレないよう隠れながらケツに爪をぶっ刺す。

 

(おいバカ竜司!何聞いてんだお前!!)

 

(いっで!!爪立てんなよ!!だって気になるだろ!!)

 

コソコソと喧嘩してケツに爪を刺しながらモゾモゾする竜司に祐介は不思議そうに頭を傾げたが、自分たちの間に認識の違いがある事に気が付きポンと手を打った。

 

「?ああ、安心してくれ。彼女に異性としての興味は一切ない。ただ俺の絵のモデルにピッタリだと言うだけだ。」

 

「ほ、ほーん・・・」

 

「俺は彼女に惚れている!」くらいの熱が飛んでくるかと思ったら予想に反してそんなことは無く、あっけらかんという彼に思わずポカンとしてしまう竜司。

 

そしてそれを言われた張本人である杏、いくら何でも本人を目の前にそうまで言われてしまうとご機嫌斜めになってしまうものだ。ブスッと可愛らしく不貞腐れて椅子に座った。

 

「・・・ふーんだ」

 

「・・・・・・。」

 

「志帆さん?あの、笑顔が。笑顔が怖いっす。」

 

そして一番恐ろしいのは蓮の隣に座る志帆だ。先程の発言を聞いた時からニコニコと凄くいい笑顔で祐介を見ている。というかよく見ると薄目で睨んでいる。誰がどう見ても激おこ状態であった。最早殺意すら感じる程の無言の圧力があの蓮ですら震えさせる。

 

「よし、ではそろそろ始めよう」

 

何とか彼女を宥めつつ、これ以上余計な事を言わないことを祈るとそれが通じたのか祐介はスムーズに絵を描き始めてくれた。真剣な目で杏を観察しながらスラスラとまるで滑る様にキャンパスに筆を走らせていく。そこに迷いも澱みも無く、動きが止まることは無い。

 

その様子になんとなく関心を抱いた竜司はへぇ〜と声を漏らしながら見ていたが、ふと本題を思い出して筆を止めない祐介に話しかけた。

 

「なぁ、喜多川。お前やっぱさ、あいつに・・・」

 

「・・・・・・。」

 

・・・しかし、竜司の問いかけに祐介は答えない。ただ黙々と自身の絵と向き合っている。

 

「・・・?喜多川?」

 

「・・・・・・。」

 

やはり祐介は答えない。ただひたすらに自身のインスピレーションに従って筆を踊らせるのみ。痺れを切らした竜司が大声で彼を呼び、被写体である杏も彼に呼びかける。

 

「おい、喜多川って!」

 

「喜多川くん?えと、聞こえてる?」

 

「・・・・・・。」

 

それでも祐介は答えない。他者の声というノイズなど完全に遮断し、己が感性に集中させているが故に。恐らく、筆を物理的に止める以外に彼に声を届けさせる方法はないだろう。だが、それをするには余りにも彼の放つ圧が強すぎた。

 

「ダメだなこりゃ」

 

「完全に自分の世界に入ってるね」

 

「想定外だぜこりゃ・・・」

 

呼べど呼べども返ってくるのは筆を走らせる音のみ。まさかの事態に途方に暮れる3人。絵の完成にどれほど時間がかかるか分からない為、更にげんなりする。既に飽きを覚えていた竜司は適当に暇つぶしでもしようかと思ったが、しかし他人の家で好き勝手する訳にもいかず、やはり彼の絵が描き終わるのを大人しく待つことにした。それに面白そうなの無さそうだし。

 

一方蓮は志帆の気を祐介から逸らそうと猫じゃらしを彼女の前で揺らしていたが笑顔で叩き落とされていた。

 

そんなこんなでかれこれ数時間後・・・

 

途中、暇を持て余したモルガナが家の偵察に向かった以外は特に何も無くひたすら祐介の作業が終わるのを待っていたが、唐突に彼が筆を止めたことでそれは訪れた。

 

「お、終わったか?」

 

「・・・・・・ダメだ」

 

「は?」

 

そう言って項垂れる祐介に素っ頓狂な声を出す竜司。散々待たされた挙句にこの返答、短気な彼が我慢出来るはずもなく数秒の硬直後、噴火した火山の如く湧き上がった怒りを爆発させた。

 

「ざっけんな!何時間待たされたと思ってんだ!」

 

「芸術とは感性との戦い、そんな日もあるさ」

 

「いやなんでお前はそっち側に立ってんの!?待たされた側だろお前!?共感性で反復横跳びしてんのか!?」

 

怒れる彼の肩に手を置き聖母のような笑みを浮かべる蓮に青筋を浮かべながらツッコミをする竜司。流石の即興具合である、見習わなければならないと無駄に感心する蓮に竜司がコブラツイストをかけていると深刻な顔をしながら祐介が顔に手を当てた。

 

「今日は少し、調子が出ない。悪いが日を改めさせてくれ。」

 

「や、だから・・・!ああ〜めんどくせぇ!今日はお前に話があって来たんだよ!」

 

「話?」

 

調子の悪さにため息を吐く祐介にガシガシと頭をかいて、待つのも面倒になった竜司が直球にそう投げかける。それに祐介は頭から?を出して耳を傾けた。

 

「お前んとこの先生についてだ!悪ぃが色々聞かせてもらうぜ!」

 

「またそれか・・・」

 

愚問も愚問、とでも言うように先程出したものよりも何倍も深いため息を吐くと心底迷惑そうに鋭い視線を向けてきた。暗にそれ以上踏み込んで来るなと言うようなその目に、杏は逆に一歩踏み込み気になっていた疑問を投げかける。

 

「ずっと聞きたかったの、私が個展で見たあの絵、あれって本当は喜多川くんが描いたんだよね?」

 

「そ、それは・・・」

 

「やっぱり、そうなんだ・・・」

 

杏が祐介と共に個展周ったあの日。気になっていたという絵を鑑賞していた際、彼の顔はとても尊敬する師の絵を見るものではなくよりにもよって何故その絵なんだというような悲痛な表情だったのを彼女は覚えていた。その日の違和感が、あのパレスで確信に変わり彼の複雑な気持ちを汲み取った杏。そんな彼女の純粋な心配が、祐介の表情を益々曇らせる。

 

「・・・それで、君達になんの関係がある?」

 

「お前、他にも色々されたんじゃねぇのか?虐待とかよ!関係者にだって話を聞いた、信じらんねぇかもしれねぇが俺達ならアイツを・・・」

 

「くだらないッ!!」

 

そう言って一歩近づいた竜司を、祐介は強い拒絶を含んだ目で睨みつけそれ以上は決して踏み込ませないと言わんばかりに指をつき付けながら淡々と吐き捨てる。

 

「それを何と言うか知っているか?”余計なお世話”と言うんだ。そもそも、あの絵は俺が着想を譲ったもの、盗作では無い。先生は今、スランプに陥っているだけのこと・・・部外者が首を突っ込まないでくれ、迷惑だ。」

 

「なっ・・・!?てめこのッ・・・!!」

 

本人の口からハッキリと事実を否定されたあげく、部外者が関わるなと不快さを隠しもせずに告げられた竜司はついカッとなり、売り言葉に買い言葉を返しそうになった。しかし、そうしてしまえば状況は最悪の方向へと転げ落ちる。

 

ブチィッ!

 

「フィンセント・ファン・ゴッホ!!」

 

「ぐぁああぁぁッッ!?!?」

 

それを黙って見過ごすはずもなく、蓮は目にも止まらぬ早業で竜司を亀甲縛りの餌食にした。

 

(なんでゴッホ?)

 

(どうしてゴッホの名前を叫んだんだろ・・・)

 

(なぜゴッホの名前を?)

 

見るも無惨な姿となった竜司は血反吐を出して倒れ込むが、蓮の奇行に慣れ始めていた2人はそっちに動揺せずにゴッホの本名を叫んだことに疑問を持っていた。祐介?元から感性がズレてるから(辛辣)

 

ともあれ、状況悪化を防いだ蓮は祐介にある提案を持ちかけた。

 

「うちのが失礼した。話は変わるが君は目に自信はあるか?」

 

「む、ああ勿論だ。この世界は審美眼が無ければ生きていけないからな。確かな目を持っていると自負している。」

 

「なら見てみないか、真実と言うやつを」

 

「・・・急に何を」

 

巫山戯た行動からキリッと真面目な顔に切り替わった蓮の言葉に動揺する祐介。まるで夢と現実の境目を歩く夢魔のような得体の知れない雰囲気を感じて思わず冷や汗をかく。

 

「蓮、まさか・・・!」

 

「『百聞は一見にしかず』、ぐだぐだ揉めるよりその方が早い。」

 

ここで流れ通りに彼に杏のヌードを描かせるのもいいが*1それよりも実物を見せた方が彼の場合早い。遅かれ早かれ、彼は巻き込まれてこの世界に来る事になるし自分の目で見る事を重要視するので交渉よりも断然確実なのだ。あと志帆が怖い(本音)

 

ちなみに早めにパレスに入るだけでこの後の流れはヌードトラブルも起きず上手いことスムーズに進むのでオススメだ(急なRTA要素)

 

「さっきから何を言ってるんだ」

 

「まぁまぁまぁ、とりあえず行きましょうや」

 

「な、何だ急に。気持ちが悪いぞ。」

 

さっきまでオーラを纏っていたのにいきなり下手に出てへーこらし始める情緒不安定の蓮にやや引き気味の祐介だが、これでペースをこちらに持ってこれた。後は流れで祐介を外に連れ出し、パレスに向かうのみである。

 

「ほないきまひょか」

 

「む、むぅ・・・」

 

「んしょんしょ」

 

「ちょっと竜司!いつまで寝てんの!志帆に運ばせないで!!」

 

「んごふっ!?」

 

(杏殿からの平手打ち!羨ましい!!)

 

という訳で祐介を手厚く先導しながら外に出ると、志保がズルズル足を引きずりながらも抱き締めて連れてきてくれた竜司を杏が叩き起し適当に説明して丸め込んだ後全員の準備が完了する。

 

「じゃあ行くぞ」

 

「おう」 「「うん」」

 

「行く?何処へ?」

 

 

 

 

 

「異世界さ」

 

 

 

 

 

毎度おなじみ、ぐにょーんと現実が捻じ曲がっていく感覚が襲いかかり認知世界へと入り込んでいく。

 

「くっ・・・なんだ、急に目眩が・・・今のはいった、い・・・」

 

赤黒い波紋が止むとそこにはあばら家の姿は影も形もなく、代わりに昨日も見た趣味の悪い金ピカ美術館がお出迎えしてきた。

 

「なんだこの悪趣味な建物はッ!?」

 

「なるよねぇ」

 

「芸術家視点でもそうなるかぁ」

 

それあなたの恩人のお城なんですよ

 

目にして最初に出てくるのがそれの辺り誰がどう見てもお下品な建物らしい。というか唯一の弟子にすらそう言われるのだから相当な品の無さだ。金閣寺を見習って欲しい。

 

それにしても祐介にこれ伝え辛いなと全員がしかめっ面をしていると彼が困惑しながら辺りを見渡してジョーカーに問いかけてきた。

 

「ここはどこだ!?家はどこに消えた!?というかなんだ君達の格好は!?スケッチさせてくれ!」

 

「おちちおちおちおおち、落ち着け祐介。今説明する。」

 

「いやお前も落ち着けよ」

 

何故か祐介と共に動揺するジョーカー。こぐまのト○ピーちゃんのようだ*2。スカルのツッコミも決まった所で祐介にこの世界のことを分かりやすく説明していく。

 

「・・・・・・つまり何か?ここは、先生の心の中とでも言うつもりか?」

 

「まぁそうなるな」

 

「くくく・・・何を言うかと思えば。巫山戯るのも大概にしてもらおう!先生があんな欲望に塗れた薄汚い心の持ち主な訳無いだろう!幻覚か何かで騙そうとしてもそうはいかんぞ!」

 

しかしやはり外見だけでは判断がつかないようでそう反論してくる祐介にジョーカーは今度は動揺せず、悪趣味な建物を親指で指さす。

 

「ここは真実で塗り固められた世界、嘘では決して誤魔化せない・・・とはいえ、一目で納得して貰えないのも織り込み済みだ。」

 

「む」

 

「だから入る、喜多川も一緒に」

 

「おいおい!そりゃ無茶じゃねぇかジョーカー!?」

 

「この中に覚醒前に自分からパレスに突っ込んだ人がいます」

 

「俺は賛成だぜ!!」

 

「おいコラ」

 

素人を連れて入るのは厳しいのではないかとジョーカーに詰め寄ったが痛い所を突かれ、即座に手のひらを返すスカル。これにはパンサーも思わずノリツッコミ。

 

「ま、あの時よりも戦力は増えてるし、現状パレス内に厳しい警戒は見られねぇ。目的が()()ならまぁ、問題は無いだろう。」

 

「行くなら早く行こう、時間が惜しい・・・・・・所で疑問なんだがこの着ぐるみはなんだ?」

 

「きっ!?誰が着ぐるみだコラァ!!吾輩は人間だコラァ!!」

 

「にん・・・げん・・・?」

 

「なんだその未知の存在を見たようなリアクションはァ!」

 

真剣に語るモルガナを見た祐介が宇宙猫の顔をしながら失礼な事を口走るとその足元でブチ切れるモナ。それを見てスカルとパンサーは顔を逸らしてプルプルしていた。

 

「彼はモルガナ、この世界ではモナというコードネームで呼ばれている。猫人間だ。」

 

「猫人間じゃねぇ!普通の人間だ!」

 

「ジバ○ャンだ」

 

「やめろ!訴えられるから!!」

 

「コードネーム・・・君がジョーカーと呼ばれてたのもコードネームか?」

 

「ああ、この世界で本名で呼び合うのは少しリスクが高いんだ」

 

そう説明すると祐介は顎に手をやり考え始める。それも、斜め上のことを。

 

「ふむ・・・仮にここが先生の心の中だとして、あそこに入るというのなら俺もコードネームをつけた方がいいのか?」

 

「かもしれない・・・じゃあ祐ちゃんで」

 

「分かった」

 

「いやニックネームだろそれ!?」

 

「なら油揚げで」

 

「分かった」

 

「いやなんでだよ!?思いつきで付けただろ!?」

 

お前が言うな*3

 

さて、祐介のコードネーム(仮)が決まった所で美術館内部へと潜入していく。前回同様、志帆にアイテムを持たせジュスティーヌに賄賂のつぶグミを渡してからトラックを登り、天窓を目指す。

 

「入口から入らないのか?」

 

「この世界には無意識の防衛本能としてシャドウという監視役がいるんだ。奴らに見つかるのはマズイからこうして見つからないよう潜入する必要がある。」

 

「なるほどな、まるで泥棒だ」

 

「にゃにおう!?怪盗といえ怪盗と!」

 

「よくアイツ背負ったまま軽快に動けるよな」

 

「まぁジョーカーだし」

 

祐介を背負いながらひょいひょいと軽やかに飛び跳ねるジョーカー。しかも質問に答えるくらいに余裕があるようだ。そんな彼を見たが段々麻痺してきているスカル達は最早驚かなくなっていた。忘れてはいけないが、祐介が181cmで63kgと身長に対して軽いとはいえそれを背負って飛び跳ねるのは普通におかしいのだ。例え怪盗服に身を包んだとしても簡単なことでは無い。

 

まぁ、ジョーカーだし(洗脳済み)

 

そんなこんなでパレス内部へと入ったジョーカー達。早速揺れ動く絵画達がお出迎えしてくる。

 

それを見た祐介は僅かに目を見開き、絵画に釘付けになった。

 

「こ、れは・・・まさか・・・」

 

「見覚えが?」

 

「あ、いや、しかし・・・」

 

「まだ先にある、行こう」

 

混乱極まるといった具合に狼狽える祐介を先導しながら飾ってある絵画達を見ていく。1枚1枚を見る度に、祐介の顔には困惑と疑念と悲しみが増していく。その絵画に描かれた人達一人一人を知っているが故に。一人一人消えていくのを見てきたが故に。

 

そして、前日のジョーカー達と同じように中野原の絵の前で立ち止まる。

 

「この、人、は・・・」

 

「・・・俺達も驚いたよ、まさか斑目を探るキッカケになった人がここに描かれてるなんてな」

 

「・・・・・・。」

 

まさに絶句といった具合に黙り込み、少しの間彼の絵をジッと見ているとまた残りの絵を見るために歩き出した。しかし、その足は先程までよりもずっと重苦しく、ふらついていた。

 

心配そうに彼を見るスカルとパンサーだったが、それと同時に止めてくれるなという雰囲気を出す祐介に声をかけられず、彼に付いていく。

 

1枚1枚に目を通した後、最後の最後に待っていた一際大きな絵画。そこに映し出された自分自身に彼の足は再び止まった。

 

「最後は俺・・・か」

 

「ああ」

 

ジッと自分自身を見上げていた祐介だったが、力が抜けたように下を向き、ポツリポツリと語り始める。

 

「・・・・・・ここまで見てきた絵は全て先生の下から去った俺の兄、姉弟子達だ。」

 

「やはりか」

 

「ああ・・・君達が彼らを知るはずが無い。信じたくは無い、信じたくは無いが・・・これを見せられては、俺も飲み込まざるを得ないか。」

 

飾られた絵画達を見渡しながら重々しくそう呟く。

 

「これだけじゃないんだろう、見せたい物というのは」

 

「・・・見るか?」

 

「当然だ、ここまでならばまだ自身の弟子という枠組みで済む。お前達が先生を疑う理由を持たせた核心的な物がまだあるはずだ。」

 

流石、鋭い洞察力で見抜いた祐介にジョーカーは頷いて肯定する。背後にある開けたブースに入り、例の物がある部屋の前まで行くと祐介に問うた。

 

「心の準備は大丈夫か?」

 

「無論、ここまで来たんだ。それを見なければ俺も納得出来ん。」

 

「・・・分かった、なら行こう」

 

意志が固い祐介を見てジョーカーは彼をその物の前に案内する。

 

 

そう、あの腐りきった作品『無限の泉』の前に。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・これが、先生、の・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・こんな、こんな物が、こんな・・・」

 

 

 

 

ただ、呆然と見上げる。

 

 

そこにある意味を見抜けないほど愚かでは無い。

 

 

信じたくない真実、包み隠されない本音の塊。悪意の象徴。

 

 

『金』で作られた欲望の形

 

 

 

見上げる。

 

 

「確認する、確かにこれは、先生の心の具現化なんだな」

 

「・・・ああ」

 

「・・・この美術館も、絵画も、コレも」

 

「全て」

 

「そうか・・・・・・」

 

 

ガクリ、と膝を折り、膝を着く。

 

ただ、信じたくない現実に打ちのめされて。信頼していた恩師への疑念が確信に変わってしまった事実に。

 

しかしそれでも、僅かに残った世話になった恩義と信じたいという気持ちが彼を支え・・・同時に覚醒へと至ら無い原因となった。

 

 

「・・・お前達の言う通り、先生は盗作をしていた。弟子の作品を自身の作品と偽って発表したりなんかは日常茶飯事だった。虐待も、少なからず見た事はある。」

 

「やっぱりか・・・」

 

「あんの野郎・・・!」

 

「けど、そんなの認めたくないじゃないか・・・世話になった人が、そんな・・・もしかしたら、何か理由があるのかもしれない。そう思って俺は誤魔化し続けてきた。情けないことに、今もそうだ。まだ、疑い切れないでいる。」

 

悔しげに手を握りしめる祐介の肩にジョーカーは優しく手をのせる。

 

「済まなかった、無理矢理こんな物を見せて」

 

「いや、気にしないでくれ。遅かれ早かれ、向き合わなければならなかったんだ、きっと。それが今になったと言うだけさ。・・・ただ、今は心の整理がしたい。」

 

見たくないものを見せるというのは本人の為になるとはいえ、やはり申し訳なさが残る。そんなジョーカーの心を汲み取ったのか、祐介は首を横に振って穏やかに答えた。

 

「ああ、どうか休んでくれ。もしも力が借りたくなったらその時に声をかける。」

 

「・・・・・・助かる」

 

 

そうして、真実を見て疲れ果てた祐介を連れて美術館を抜け出したジョーカー達は一度祐介を出してパレスを攻略しようとしたが、ジョーカーの無理は良くないという発言によって今日はこのまま撤退する事となった。

 

つぶグミをちいちゃなお口でもきゅもきゅさせながら手を振っているジュスティーヌを尻目にパレスを後にし、ふらふらと家に戻る祐介を見送ったらあばら家の前でプチ会議を始める怪盗団。

 

「これで斑目が本格的にターゲットって事でいいんだよな?」

 

「ああ、問題ない。裏も取れた。」

 

「許せない!喜多川君の気持ちを踏みにじって、色んな人を傷つけて・・・!」

 

「うん・・・私も同じ気持ち」

 

「全会一致、だな」

 

「おう!」「うむ」「「うん!」」

 

蓮の一言に大きく頷くメンバー達。これにて条件である全会一致を果たした彼らは斑目改心の為、ひいては祐介の救出の為。あのパレス、言い換えるなら『マダラメパレス』を攻略することを決定した。

 

「斑目のジジイ、ぜってー改心させてやる!」

 

「ああそうだな・・・っと、竜司」

 

「あん?・・・あー、なるほど」

 

ターゲットを決めたことで俄然やる気が湧いてきた竜司が手を叩きながらそう気合を入れていると、離れた所にいた人影がフラリとこちらに向かってくるのが見えた。蓮がそれを目線で伝えると余計な事を言わないように口を噤む竜司。

 

そして怪しげな人影はこちらに近づくと気安く軽い感じに話しかけてくる。

 

「や、君達。ちょっといい?」

 

「え?」

 

「なんすか?」

 

かなり気さくに話しかけてきたのは何やら独特な雰囲気を持った女性だった。世間一般と少し違う世界に生きる人が持つズレと言うべきか、闇に片足を突っ込んだような危うさと言うべきか、兎に角そんな雰囲気を持っている。

 

そう、何を隠そう彼女は後に取引相手となる者であり、グレーゾーンを反復横跳びする生粋の記者。意外と細かい場面で見かけている女性、『大宅一子(おおやいちこ)』であった。

 

思わず「うぇーい!一子さーん!いぇあー!」と返事しそうになったのを口にモルガナを突っ込むことで防ぎ事なきを得る。高速猫デンプシーロールを食らいながら彼女の方を見るとやや引きながらもただの猫好きの少年と見られたのか逃げずに話を続けてくれた。

 

「あーっと、見たとこ君ら、押しかけファンって感じじゃないよね。」

 

「え、えと?」

 

「ごめんごめん。実は斑目の門下生と知り合いの人間を探してんの。昔、盗難にあったっていう『サユリ』って絵があるんだけどね。」

 

「!サユリ・・・。」

 

大宅の口から出てきた聞き覚えのある名前が出てきたことでピクリと露骨に反応を魅せる。竜司が。

 

杏からの鋭い視線に竜司が縮こまっている間に大宅が話を進める。

 

「お、知ってる?んでさ、当時の門下生が斑目の虐待の腹いせに盗んで出てったって噂を掴んだわけ。なんか聞いたことない?」

 

幸いな事に質問はこちらが知り得ない情報だったので表情を読まれて根掘り葉掘り聞かれることは無かった。勿論蓮は全て知っているが得意のポーカーフェイスでそれを全く悟らせない。

 

「いえ、特には」

 

「んー、そっかー。」

 

全員の顔を見て*4情報を持っていない事を確認すると小さく唸り、ここは潔く手を引く選択を取る。

 

「被害者がいて初めて事件になる。虐待が無いとなれば書きようがない。一旦出直すとしますか・・・時間、とらせて悪かったね。」

 

「いえ」

 

手をヒラヒラと振りながら去っていく大宅だったが、「あ」と呟くと反転して小走りで戻ってきた。不思議に思った竜司達だったが、カバンから取り出し差し出してきたものを見て納得する。

 

「アタシ、記者やってんの。何かネタあったらここに連絡くれる?そんじゃー。」

 

「これはどうも」

 

名刺を渡すと今度こそ足早に去っていく大宅。そう遠くない未来で彼女にはかなりお世話になるのでこの名刺は決して無くさないよう管理しておこう。まぁ無くしても蓮は完璧に覚えてるからなんとかなるが。

 

いきなり現れ、風のように去っていった大宅にポカンとした表情を浮かべる竜司達。

 

「・・・行っちゃった」

 

「何だったんだ?」

 

「さぁ、だがいい情報が入ったな」

 

蓮の肩に乗るモルガナの言葉に全員が頷く。

 

「ああ、サユリの盗難か」

 

「本当なのかな?それも嘘っていう可能性も・・・」

 

「す・・・し、志帆の言うことも分かるぜ。あのパレス見た後だとなぁ、ぜーんぶ嘘臭く感じちまう。」

 

「疑ってかかるのはいい事だ。何でも鵜呑みにしちまうよりゃ断然な。その事も調べてみるとして・・・色々あったしな、今日はもう帰ろうぜ」

 

「う・・・何故か寒気が」

 

「なんでだよ」

 

絶対眠らせるマンの亜種を聞いた事で反射的にブルリと震える蓮。そのセリフを聞いたが最後絶対に逃れられないのだ、例えパラメータを上げようとしても、取引相手とのコープを深めようとしても絶対に。おおブッタよ!寝ているのですか!(寝てる)

 

ともあれ、これでやる事も終わったので一時解散となりルブランへと帰る・・・前に教会により、一二三と将棋を指してコープランクを上げてから帰るとスマホに着信が入る。相手はここ最近番号を交換した三島からであった。

 

『あ、もしもし雨宮?』

 

「我が名は大将・雨宮!天下を取り日ノ本を手中に収める者!」

 

『え!?何その前口上!?てか大将って何!?』

 

一二三との将棋(デュエル)の影響が残ってるのかまだ人格が変わったまま電話に出ると思いのほかナイスな反応をしてくれた。ふっ、いいツッコミじゃないか。中の人の影響か?*5

 

「我が軍の正義は絶対じゃけぇ!!」

 

『いやそれ大将は大将でも海軍大将でしょうが!?徹底的な正義の人でしょうが!?』

 

「今は元帥じゃけぇ」

 

『知るかっ!?って!そんなコントしてる場合じゃなくて!耳寄りな情報があるんだよ!』

 

「耳寄りな情報?」

 

ふざけ倒していたが、それを聞いて反応を示す蓮。こんな情報に釣られるわけ、わけ・・・釣られクマー!

 

「実は最近いやーんなサービスが気になって電話しようとするけど勇気が出なくて悶々としてる事とか?」

 

『いや違っ、待ってなんで知ってんの!?』

 

「ふむ、違ったか。冗談だ、忘れてくれ。」

 

『忘れられるかぁッ!?てか違ったかって何!?他の情報も握ってそうなの何!?怖いんだけど!?』

 

「気にするな、知らない方が幸せな事もある」

 

『説得力があり過ぎるッ!!!』

 

その後、怯えた三島が電話を切ろうとしたが今度一緒にメイド喫茶に行ってやると言うと機嫌を戻して続きを話してくれた。コイツめ、だからチョロいって言われるんだぞ。そのままでいろ(慈愛の瞳)

 

『怪チャンがきっかけで改心したって人から連絡があったんだ。他にも改心して貰いたい奴がいるから会えないかって。』

 

「改心した奴・・・まさか中野原か?おいおい、こりゃ上等な魚がかかったな!」

 

直近で改心したとなると彼しかありえない。モルガナの言葉に賛同しながらなんでもないように三島に返事をする。

 

「ふむ、なるほど」

 

『ま、後のことは本人と話してよ。でもその改心させたい奴ってのが相当ヤバいらしくてね、ネットで名前を出すと面倒な事になるかもしれないんだって。だから放課後、渋谷駅で待たせとくよ。中野原って人。』

 

「ビンゴだぜ・・・!ついてるな!」

 

「なら、地下通路の7a出口前で待つように伝えてくれ。こちらから声をかける。おっと、勿論俺じゃなくて怪盗団がな。」

 

『ふふ、分かってる分かってる。んじゃ向こうにも伝えとくよ。よろしくね。あ、メイド喫茶の件忘れないでよ!』

 

「ああ、勿論」

 

最後に念押ししてきた三島に笑みを浮かべながらそう返し、通話を切る。そしてモルガナと目を合わすと同時にニヤッと笑った。

 

「まさかあっちから声がかかるとはな!聞けること全部聞き出してやろうぜ!」

 

「そうだな、このチャンス無駄にはしない。えっちゃんの名にかけて!」

 

「誰だよえっちゃん」

 

 

というわけで翌日!

 

放課後渋谷駅の地下通路に向かうと指定した通り、7aの出口前に見覚えしかないキノコ頭の男性が立っていた。チラチラと時計を確認している隙に近づき、彼の隣に立つ。

 

急に出てきた事に加え、フードで顔を隠しマスクまでして徹底的に正体を隠した状態の蓮にビクリとした中野原だったが、怪盗団の使いであることを伝えると落ち着いて肩の力を抜いてくれた。ちなみに竜司達も周囲に自然と溶け込みながら話を聞いている。

 

「改めてどうも、中野原さんですね?私は怪盗団の使いの1人です。彼らは表舞台で活動しにくいので代行で話を聞きに参りました。」

 

「は、はぁ、よろしくお願いします。ご存知かと思いますがこちらも改めて・・・彼ら怪盗団に改心された中野原夏彦と申します。その説は本当にお世話になりました。」

 

ペコリと頭を下げる中野原に手を上げて答える蓮。

 

「いえ、こちらもやるべき事をやっただけですので」

 

「それでも感謝しています。彼女にも申し訳無い事をした・・・心から謝罪をしました。心を入れ替えられたのは彼らのおかげです。本当に、ありがとう。」

 

そう語る中野原の顔はシャドウの時のように狂気と執着には囚われておらず、至って普通の正気を宿していた。これが本来の彼が持つ穏やかさなのだろう。感謝の言葉を受け止めながら冷静に言葉を返す。

 

「・・・ええ、彼らにも伝えておきます。それで、改心させて欲しい人というのは?」

 

「・・・『斑目一流斎』という画家です。」

 

「!斑目・・・!」

 

勿論、その名が出るのは知っていたが意外そうな声を上げる演技をして中野原に視線を向ける。そしてその際に聞き耳を立てている竜司達も斑目の名前が出てきた事にバレないようにリアクションを取っていた。

 

「おいおい、キタんじゃねぇかこれ?」

 

「やっぱり元弟子だったんだ・・・それなら」

 

「うん、有益な情報を知ってるかも」

 

(にゃああ!あいつら危なっかし過ぎるぅ!)

 

いつの間にか集合していた3人はバッチリこちらを見てコソコソと話していた。ちょ、近づき過ぎないで。バレるバレる。

 

危うい3人にモルガナと共に内心冷や汗をかきながら中野原の話を聞く。

 

「私は斑目の元弟子なんです。住み込みで絵の事ばかり考えてました、本気で画家になりたいって、思ってました・・・。少し上に兄弟子がいて、とても才能がある人だったんです。けど、彼の作品は全て斑目のものにされた・・・!まぁそれは兄弟子に限った話ではないんだけど・・・。」

 

「盗作の確実なウラまで取れたぜ!っても、胸糞過ぎてあまり喜べねぇな」

 

痛々しい表情で語る中野原は1度話を止めると、拳を強く握り締め絞り出すように呟いた。

 

「その兄弟子は・・・自殺したんです。」

 

「ッ!」

 

「んなっ!?」

 

「えっ」

 

「じさ・・・!」

 

衝撃的な事実に竜司達は目を見開く。自分達の想像よりも遥かに闇が深い話を聞いて竜司達はショックを受けていた。特に精神的ダメージが大きかったのは志帆で、大人に追い詰められる恐怖とストレスを人一倍知っているからこそ酷く動揺を起こしていた。そんな彼女の手を杏が握って落ちつかせている。

 

そんな彼女達を心配そうに見ながらも、中野原の話を聞く蓮。

 

「斑目が自分の作品で評価されてるの、よほど耐えきれなかったんだと思います。それで流石に怖くなって、斑目の反対を押し切ってアトリエを出ました。けど、方々に圧力をかけられて私は絵の道を断たれてしまった。」

 

「そうだったんですか・・・」

 

「心機一転で絵とは別の道を、区役所に務めたけど・・・ダメでした。絵の執着で気持ちが歪んでしまい、何にでも執着するようになったんです。遂にはストーカーに・・・お恥ずかしい話です。」

 

そう言って自傷的に笑った中野原は蓮に向き直り、真っ直ぐな瞳で彼を見た。

 

「お願いします、どうか斑目を改心させて欲しい。1人の少年の命を救うためにも。」

 

「少年?」

 

「今も1人だけ、斑目のところに残ってる少年がいるんです。高校生くらいの歳の子が。」

 

「喜多川の事か・・・」

 

小さく呟くモルガナの言葉にバレないように同意しながら続きを聞く。

 

「絵の才能があるばかりか、彼は身寄りが無くて斑目に恩義がある・・・斑目には格好のカモでしょう。まだ斑目のところにいた頃、その彼に聞いた事があるんです。斑目と一緒にいて辛くないのかって・・・。」

 

 

「そしたら、彼は「逃げられるものなら逃げ出したい」って、そう言ったんです。」

 

中野原の証言にパレス内で真実を目の当たりにして傷心する彼の姿を思い浮かべて悲痛な表情を浮かべる杏。

 

「喜多川君・・・」

 

「許せねぇ・・・!反抗できねぇやつを言いなりにして道具扱いなんて、クソすぎんぜ!」

 

「酷すぎるよ・・・」

 

 

「逃げ出した私が言うのもなんだけど、自殺した兄弟子の悲劇を繰り返したくない!せめて前途ある若者だけでも、助けられないかと・・・」

 

「・・・なるほど」

 

「斑目の改心、検討して頂けるよう・・・どうか、よろしくお願いします」

 

そう言うと深々と頭を下げる中野原。弟弟子を思ってここまでできる人をストーカーに堕ちる程に心を歪めた斑目に怒りを覚える。

 

「分かりました、怪盗団には詳細に報告します。そして、貴方の勇気ある告白に最大限の感謝と敬意を。必ず、何とかすると約束します。」

 

「・・・ッ!ありがとう、ございます・・・!」

 

「ちなみに何ですが『サユリ』ってどうなったかご存知ですか?」

 

「え?サユリ?・・・確か、兄弟子の誰かが盗み出したとか・・・斑目もそう言ってました。でも、正直そんなことが出来る人がいたとは思えないんです。皆、斑目を恐れていたから・・・それに誰もサユリの場所を知らなかった・・・もしかしたらまだ斑目が持ってるのかもしれませんね。なんて、ただの予想ですけど。」

 

「なるほど・・・貴重な情報ありがとうございます。それでは、俺はこれで。」

 

「は、はい。ありがとうございました。」

 

 

「かなり良い情報を得られたな。中野原がここまで重要なものを持ってるとは思わなかったぜ。」

 

「斑目のクソっぷりも更に増したしな。後腐れなく改心出来るってもんだぜ。」

 

「それにしても蓮が聞いてたサユリの事、まだ斑目が持ってるかもしれないって・・・」

 

「もしそうだとしたら、何でそんな噂が?斑目本人も言ってたって言うのもおかしいよね。」

 

「まぁその辺は改心させれば勝手にゲロるだろ。とりあえずアジト、の屋上は会長に目を付けられてるんだったな。んじゃ新しく場所を移すとして・・・前の個展に行った時の連絡通路でいいか。そこで話の続きをしよう。」

 

モルガナの提案に賛同し、一旦そちらに移動する蓮達。そこに着くと改めてターゲットの確認と情報の整理を行う。

 

「さて、今回のターゲットは斑目だ。あのパレスは鴨志田の時とは全く別物だ。舐めずに心してかかれよ。」

 

「ったりめぇよ!」

 

「とはいえ、やる事は同じだ。まずは潜入ルートの確保、その上で心を頂く予告、オタカラを実態化させて頂戴する。」

 

「でも、斑目のパレスにはシャドウがいなかったよね?なら今回は楽にいけるんじゃない?」

 

「いや、あれはたまたまだろう。個展の成功とかで浮き足立っていたからって感じか。だが既に二度、その内の一回は弟子である喜多川を連れ込んでいる。次からは警戒を高めてくるはずだ。」

 

「なるほど・・・」

 

「正確な期限は設けないが、なるべく速く攻略していこう。のんびりしていたらパレスの力が増すかもしれん。」

 

「うげ、そりゃ勘弁だぜ。ならちゃっちゃと片付けねぇとな。」

 

「話は纏まったな、なら早速作戦開始と行こう。怪盗団『ザ・ファントム』初仕事だ。絶対成功させようぜ。」

 

「ああ、皆、行くぞ。」

 

「おうっ!」「「うん!」」

 

 

全員が気合を入れたところで異世界ナビを起動し、パレス内部へと入っていく。

 

 

さぁ、お仕事開始だ。

 

 

 

 

 

☆マダラメパレスを攻略せよ ☆

 

 

 

 

*1
合ってるけど合ってない

*2
痙攣しながら太鼓を叩くメタルバンドみたいなくまの玩具

*3
後にコードネームを付ける時に竜司が出した案

*4
特に竜司

*5
パっつぁん




最近色々あって仙台に行きました。めちゃくちゃ5Sで見覚えるのあるとこしか無かったです。興奮しました。ジェイルはありませんでした、一安心。牛タンとずんだシェイクは美味かったです。

祐介が覚醒しなかったのは作中で言ってたのに加えてサユリの事をまだ知っていないからです。しかしその時点でそれを伝えても信じて貰えないし、下手したら斑目にバレて即座に逮捕ルートです(1敗)。鍵を壊して見せてもじゃあなんでお前それ知ってんだってなってあぼんっです(1敗)。いやー、ルート攻略って難しいですね!


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記憶-2

友との回想、確固たる絆


 

どこかの世界線、何度目かのやり直し。機神を打ち倒し、全てに決着を付けた彼ら怪盗団。

 

戦いの終わり、それは同時に時間のリセットが始まる時でもあった。刻一刻と迫るリセットに、戦いが終わって盛り上がる怪盗団から1人静かに離脱し、フラフラと街を歩き回る。

 

どこに行くわけでもなく、ただ気の向くままに歩き続け、最終的に秀尽学園にやって来ていた。

 

時期は12月、すっかり冬に入っている為、校舎を見上げてほぅと息を吐けば真っ白に染まる。冬休みに入っているので学校は休校中だが、そんな事構わずに入り込み、手馴れた手つきで校舎内に侵入し屋上に出る。

 

仲間と共にはしゃぎながら作った野菜のプランターを横目に見ながら、屋上の手摺りに寄りかかって景色を眺めた。

 

寒空の下ぼーっとしながら過ごしているとふと、転校したての頃を思い出した。初日からパレスに迷い込んで、殺されかけてペルソナに覚醒して・・・そして、鴨志田を倒す決意を固めた。そんな懐かしい思い出。

 

思えば転校早々濃すぎだろうと苦笑いが漏れる。しかし、だからこそ『彼』と出会えたのだ。自分が怪盗になるきっかけをくれた遥かなる親友と・・・。

 

 

ある日、ここで爪弾き者同士で飲んだモンタは美味かった。

 

 

そうしんみりしていると、ガチャリと後ろから音が聞こえた。振り返って見ると意外な来訪者に■は目を少し見開いて驚愕した。

 

 

「よっ、こんなとこにいたのかよ。探したぜ。」

 

 

そこには彼が最初から最後まで隣で支えられて来た親友、『坂本竜司』が両手にモンタを持って立っていた。

 

「隣、座るぜ」

 

そう言って竜司はガタガタと放棄されていた椅子を持ってきて景色を見ている■の隣にドカッと座ると片方のモンタを差し出した。無言でそれを受け取り、蓋を開けると静かに飲み始める。竜司もそれを見てグイッと豪快に流し込んだ。

 

そして同時に口を離すと、同時にゲップをして、同時に冷えで震え上がった。

 

「うひぃ、冬の外で冷てえ炭酸飲むもんじゃねぇな・・・」

 

「ん?んだよ、しゃーねーだろ、飲みたかったんだから。ううう、寒ッ・・・!」

 

カタカタと震えつつもモンタを飲み続ける2人。会話は無い、ただ景色を見る■と灰色の空を見上げる竜司。肩を並べて戦ってきた親友同士、互いに居心地がいい静寂を過ごしてモンタを飲み干す。

 

やがて、空になったモンタの缶を両手で握りながら竜司が話し始めた。

 

「・・・なぁ」

 

「なんか隠してんだろ」

 

「ハッ!バレバレだっつーの」

 

「・・・言いたくねぇか?」

 

「言っときゃ後が楽だぜ?ほら言っとけ言っとけ」

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

「いや早く言えよ焦れったいな!!」

 

2人の定番の漫才を繰り広げて顔を見合わせると声を上げて笑い合う。やっぱり彼とのやり取りは最高だ。何時だってキレのいいツッコミを見せてくれる。

 

心が軽くなった彼はゆっくりと竜司に全ての事情を話した。ループの事、そしてリセットの事も包み隠さずに。

 

それを茶化さず最後まで静かに聞いていた竜司は無言で立ち上がると■の隣の手摺りに同じように寄りかかった。そしてどデカいため息を吐いて遠い目をするとダランッと両腕を手摺りの外に伸ばす。

 

「・・・・・・なるほどな、そりゃ言えねーわ。」

 

「いやなんで言ってくれなかったんだとは思うけどよ、流石にそこまで行くとな。」

 

「辛かったろ、1人で」

 

「・・・あ?大体俺がいたからそんなに?」

 

「プッ、アッハッハッ!!どこまで行っても俺ら親友か!最高だな!!」

 

■の言葉に竜司は腹の底から笑う。それにつられて■もまた笑う。2人の笑い声が寒冷な屋上に温もりをもたらしていた。

 

その後は2人で今までの思い出話に花を咲かせ、時折挟まる下品な下ネタに下品に笑い、遅れてやってきた頼ってくれなかった怒りに竜司が■を殴り、何故か■が殴り返し喧嘩に発展して灰色の雲の下で2人仲良く顔を腫れあげて倒れていた。

 

「だー・・・痛え。久々だな殴り合うの。ラーメン論争以来か?」

 

「あ、そうそうラーメンと言えばよー・・・──」

 

寒さでジンジンと熱と痛みを広げながら、また思い出話をし始める。穏やかに話し込んでいると、シンシンと雪が降り始めた。ぉぉー、雪だすげーと男子高校生丸出しの感想を漏らしながら降ってくる雪を見上げていると、まるで時が来たと言うように■の体が解けるように消え始めた。

 

それを見て体を起こし、2人あぐらをかいて並び合う。

 

「お別れか・・・次会う時は全部忘れて最初からだもんな」

 

「ま、安心しろって。お前がどんだけ繰り返しても、俺が何度でも親友になってやっからよ!!」

 

「そんでまた怪盗団としてクソな大人を改心させようぜ!約束な!あ!あと牛丼も食おうぜ!贅沢に特盛で豚汁にたまごもセットな!」

 

そう言って、拳を突き出してくる竜司。

 

ああ、そうだ。何時だってこの優しさに支えられてきた。何時だって自分達の先頭を走ってくれた。その真っ直ぐな在り方で勇気を与えてくれた。

 

彼がいたから俺は皆に会えた、彼がいたから今の俺があるんだ。

 

彼の拳に、涙を堪えながら自分の拳を突き合わせる。これは、男と男の約束だ。

 

必ず、また友達になろうと。

 

「だーっ、ちくしょう。男の別れに涙はいらねーってのに・・・ズビッ」

 

手で目元を隠して涙を抑える竜司に余計涙腺を刺激されて涙が溢れ出る■。しかし、竜司が言ったように男の別れに涙は要らないと涙を腕で拭き取り、最後は笑顔で別れる。

 

 

「へっ、んじゃまたな!頑張れよ、親友()!!」

 

 

「ああ、またな。親友(竜司)。」

 

 

 

竜司の激励と共に穏やかな微笑みを浮かべた蓮は雪が振る中、静かに消えていった。

 

 

「・・・・・・負けんなよ」

 

 

2つ並んだ空き缶が、ここに確かな繋がりがあった事を証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

物語を最初から始めますか?

 

 

 

 

はい

 

いいえ

 

 

 

 

 

 

 

 





戦車 MAX

戦車 RESET 0

前回は地元に帰る3月での別れでしたが、今回は機神を倒した直後位の話。雪の中でお別れシーンが書きたかっただけ。男と男のベタな友情、いいよね。


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Our next target is…/Part4

汚いけど美術館とか図書館とかのカーペットの手触りが好きな私です。子供の頃は寝っ転がってました。

いつも誤字報告、感想ありがとうございます!

舞台版1を見ました。ジョーカーの声が思ったより低くて迫力あってカッコよかったです。特に終盤。あと竜司が竜司だし、鴨志田が鴨志田してて思わず笑っちゃいました。しかも原作よりも鴨志田と校長に愛嬌があるし鴨志田いい体してるしでなんか腹立った。紅生姜の下りもめっちゃ笑ったし何より、モルガナ・・・お前・・・なんて姿に・・・。

あと舞台だから当然なんだけど\トツゼンウタウヨ!!/するのがハチャメチャにおもろかったです。演出面も凝ってて凄かった。

あと、ペルソナ5タクティカ楽しいFooooooooo!!!!!!

エル可愛いFooooooooooo!!!!!!

という訳でクリアしました、DLCも。ペルソナも全部解放して大満足。なんか意外と評価が分かれてるみたいだけど私は好きです。ネタバレになるからあんま語れないけどキャラも可愛いしこういう系統のゲームってあんまやったこと無かったけど楽しめました。ただし愛野郎、テメェはダメだ。DLCは私の知らない記憶が挟み込まれてるし。まぁ気にしたら負けかなって。

追加コンテンツの方に切り替えると唐突にかすみの太ももが出てきてビックリしちゃった。うぉ太ももって思わず言っちゃいましたもんね。あれは卑劣な罠ですよ。

前書きに詰め込みすぎました。今回も鉄火巻!



 

 

様々な思いを胸にパレスに入り、早速美術館へと潜入するジョーカー達だったがいきなり昨日までは無かった警戒網が御出迎えしてきた。

 

「ん、待てジョーカー。あれを見ろ。」

 

「あぁ?なんだあの赤い線?」

 

「ふむ、赤外線か」

 

あれほど無防備だった美術館の通路には通せんぼするように赤外線センサーが張られており、奥からはシャドウの気配も感じられる。やはりモルガナの予想通りパレスの警戒度は高まっているようだ。触れば警報がなり更に警戒度が引き上がるのは目に見えている。

 

だが、一部のセンサーは故障なのか何故か途切れている箇所があった。ちゃんと整備しといた方がいいよ。

 

「早速警戒されてるって訳か。触らねぇよう気ぃつけないとな。」

 

「一部赤外線センサーがないところがあるようだ。慎重に見分けながら進んでいこう。」

 

モナのアドバイス通り、ジョーカーの観察眼もといサードアイによってセンサーを完全に見切り、ひょいひょいと交わして行く。当然、道中にシャドウもいるのでセンサーを避けつつダイナミックファントムムーブ*1によって即座に戦闘、増援を呼ばれないよう気をつけながらスカルやパンサーに優先的に戦闘を任せつつ始末し先へ進んでいく。

 

「おっと」

 

そして中野原と祐介の絵が飾ってあるベースに入るとそこには夥しい数のセンサーがこれでもかとヤケクソ気味に張り巡らされていた。

 

「なんじゃこりゃ!?」

 

「数ヤバすぎでしょ!?どうやって通るのこれ!?」

 

「スパイダークモノス」

 

「まぁ落ち着け、まずは冷静に周囲を見渡して使えるものが無いか確認するんだ」

 

恒例の仙道のように両手を広げて首を振るモナの言葉に従って周りを見て何か無いか見てみると天井近くに突起があるのを発見した。

 

「ふむ」

 

「気がついたみたいだなジョーカー」

 

「ああ、任せろ」

 

モナの言葉に頷いたジョーカーは右腕を上げてみせると装備しているワイヤーフックが青い光を灯し始める。燃えてるんじゃないかと思うほど激しく光るそれにパンサーが指摘した。

 

「うわ!出たそれ。熱くないの?」

 

「クソ熱い」

 

「え!燃えてるの!?」

 

「萌え萌えきゅん」

 

「馬鹿やってないで早く行け!!」

 

アホみたいな嘘を付くジョーカーの背中をモナが蹴り飛ばし、その勢いのまま赤外線センサーに突っ込みそうになるもその勢いを利用して跳び上がり突起に向かってワイヤーを発射する。そしてすぐさま巻きとると宙を駆ける流星のように赤外線センサーの僅かな隙間をくぐり抜けていく。

 

着地も完璧内村航平。これには思わずメンバーオール10点カードである。

 

「おおー、カッコイイ!」

 

「流石の身のこなしだぜ!」

 

「ふ、まぁ中々だな。吾輩も?出来るけどな?出来るけど、な?」

 

「分かった分かった」

 

パンサーに褒められているのを見て対抗心を燃やすモナの頭を乱暴に撫で回しグルングルンと回すスカル。取れるわぁッ!と手を弾くモナだったが、パンサーの手は寧ろ嬉々として受け入れにゃうにゃうと声を上げる。猫か、猫だったわ。

 

「猫じゃねーよッ!」

 

「うおっ、何だよ急に」

 

「ん、いや、なんか急に猫と言われた気がして・・・」

 

「取り敢えず早く来てくれ」

 

着地した先で侵入した部屋に繋がっている扉のロックを外したジョーカーにそう言われ、そそくさと来た道を戻ってジョーカーと合流した3人。コントをしている場合じゃないぞと言うと3人から無言の肩パンを食らった。

 

気を取り直して奥へ進むジョーカー達、道中遭遇するシャドウ達をボコして何体かはペルソナとして取り込みどんどん進むと何やら金ピカのツボが展示されたブースに出た。

 

「ん?何だあれ?壺か?」

 

「壺だね」

 

「壺だな」

 

「罠だよな」

 

「罠だね」

 

「罠だな」

 

「にゃ、にゃ、にゃ〜・・・!」

 

「あ、やばい」

 

「発作か!」

 

左右に開けた部屋のど真ん中にドンと置いてあるその壺は見るからに罠の臭いがプンプンするのだが隣でうずうずし始めたモナが静止をする暇もなく近づいていってしまった。

 

「うひゃ〜!オタカラまでとは行かずとも中々の値打ち物〜!ニャブッ!?」

 

「まぁ落ち着け」

 

「にぎゃーっ!?」

 

だが勿論、わざわざ罠を起動させる訳もない。ワイヤーフックを加減して尻に刺して無理矢理止めると巻きとってむんずと後頭部を掴み、お尻に塗り薬を塗ってあげる。悲鳴をあげながらHPを回復するモナ、ギャーギャーと騒ぐがどうやら正気は取り戻したようだ。

 

「あにすんだゴラァッ!!」

 

「こっちのセリフだバカ猫!何自分から罠にかかりに行ってんだ!!」

 

「もう!なにやってんのモナ!」

 

「メイド服着せるぞ」

 

「うにゃ・・・わ、悪かったよ・・・なんかオタカラ見た時みたいに惹き付けられたっていうか・・・っていうか待て、なんか不穏な言葉が・・・おい!チラつかせんな!どこで買ったそんなもん!」

 

キレ散らかしてたが、逆に3人から責められて萎れるモナ。ジョーカーが懐の謎空間から引っ張り出したメイド服を見て震え上がっていた。どこって有料DLCだよ。

 

そして縮こまったモナをまた暴走しないように抱きかかえてながら壺を観察する。

 

「惹き付けられた、か。オタカラでは無いんだよな?」

 

「ああ、だがこの雰囲気は・・・」

 

冷静になったモナが罠にかからないよう気をつけながら再度壺に触ろうとした、その時!

 

突如壺が弾けるようにその形を崩し、煌びやかに光る巨大な宝石へと変貌した!それを見たモナはビーンッ!と尻尾を上へ伸ばし、声を荒らげる。

 

「うにゃ!こいつが居たのか!おい逃がすなよ!『宝魔』だ!」

 

「宝魔?」

 

「金銭が美味しいレアシャドウだ!ジョーカー!ペルソナとしても役立つかもしんねぇ!捕まえとけ!」

 

「分かった」

 

モナの声に驚いたのか即座に逃走しようとする宝魔の前へジョーカーが立ち塞がり、逃げられないように四方を取り囲む陣形を取るメンバー。周囲を見て逃げ道が無いと悟ったのか、戦闘態勢へと入り宝石の中から隠れていたシャドウが飛び出してくる。

 

 

宝魔 リージェント

 

 

「あ、なんか可愛い」

 

「カタツムリみてぇに宝石の中に隠れてやがったのか!」

 

「弱点は分からん!取り敢えず攻撃を仕掛けてみろ!」

 

モナの言葉通り、各々ペルソナの属性攻撃を仕掛けるがイマイチ効果が見られない。耐性がある訳では無さそうだが防御力が高く大したダメージになっていない。銃撃と物理は耐性を持っているようで更に効果が薄い。このままではジリ貧で逃げられてしまう。

 

「かっってぇ!?(ジオ)も銃も殴りもあんま効かねぇぞ!?」

 

(アギ)も効いてないみたい!」

 

「吾輩の(ガル)もだ、ジョーカーの呪怨(エイガオン)も通るには通るがダウンが取れないな・・・ジョーカー!他の手はあるか!」

 

「任せろ」

 

頼られたことでやる気満々となったジョーカーはペルソナチェンジでアルセーヌから別のペルソナへ切り替え、新たな属性で攻撃を試みる。

 

「『シーサー』ッ!」

 

『ガゥッ!』

 

仮面が砕ける音と共に現れたのは見たまんま、沖縄県で魔除として屋根などに設置されている伝説の獣像のシーサーであった。

 

「『核熱(フレイ)』!」

 

ジョーカーが指示を出すと「バウッ!」と元気に返事をして口を大きく開き、そこからフレイをリージェントに向けて吐き出した。着弾すると青い光を散らして爆ぜるフレイはリージェントの弱点だったようで大きく仰け反ってダウンする。

 

「おぉ!すげぇ!」

 

「炎?とは違う、今のは熱?」

 

「ダウンを取れた!今だジョーカー!」

 

「ダイナミック交渉!」

 

その隙を見逃すジョーカー達では無い、即座に一斉攻撃で畳み掛ける!・・・事はせずにリージェントにワイヤーを巻き付けて身動きを封じた後に手元に手繰り寄せる。流石にボコすと倒してしまうのでここは交渉により確実にペルソナとして確保することを優先した。

 

『・・・我を屈服させるとは、見事。我が名はリージェント、お前の中に居場所を移すとしよう。』

 

ジョーカーと視線を合わせたリージェントはそう言い、その姿を仮面へと変えてジョーカーのペルソナとして宿った。このリージェントは金銭などでもそうだが、戦闘能力もこの時点では優秀なペルソナだ。というのも、原作ゲームではリージェントだけに関わらず宝魔は戦闘では使用出来ないのだが、ここではそんな事関係なく使う事が出来る。全属性の全体攻撃、『マハ』系統が使えるので大抵の敵の弱点を突きダウンさせる事が可能なのだ。

 

しかし、反面殆どのステータス、特に防御面が低いので使うタイミングを誤れば大ダメージを受けることになるので要注意である。

 

「いい拾い物をしたなジョーカー。これからも見つけたら積極的に狙っていこうぜ。」

 

「宝魔っつったか?あれもイシとかと似たようなもんなのか?」

 

「いや、ありゃそういうのじゃない。高価な物や価値のある物に取り付くレア物ってだけだ。あれだ、はぐれメタルみたいなもんだな。」

 

「おー、わかりやすい」

 

という訳で宝魔をゲットしたジョーカー達は引き続き、パレス探索に勤しむ。その過程でトリックアートに翻弄され、女子トイレにまで潜入してパンサーに殴られ、なんやかんやイシを1つゲットした一行は広い庭園に行き着いていた。

 

これまでのブースよりも遥かに広くそして派手なそこには立派な襖が中央に鎮座している。それを開けようとジョーカー達が近づいた途端、襖がいきなり開き、しかも奥に何枚も置いてあったようで連続してスコココココン!といい音を響かせながら開いていく。

 

「うおおおお!?」

 

「めっちゃ開いた!」

 

「随分派手な演出だな、こりゃ先にあるのは何か特別な・・・んな!?」

 

まるで来るなら来いと言うような演出に警戒しながら進んでいくと次に彼らの前に現れたのは一層大きな襖。そしてそれを守るように何重も展開されている赤外線による厳重な警備体制。とてもではないが現状、これを突破するなど不可能だ。

 

「んだこれ!?辺り全部センサーだらけじゃねぇか!?」

 

「これじゃ通れないね・・・」

 

一度触れば警備シャドウがわんさか湧いてくるであろうその守りの硬さに呆然とするパンサー。先の襖の演出はこの守りに絶対の自信があったからこそのものだと理解する。悔しいが、確かにこれは城壁のように堅牢だと認めざるを得ない。

 

「あ、なんか立て札ある。なになに、『警備員各位。展示期間中、宝物殿への扉は殿内の警備室のみで開閉が管理される。外からの開錠は不可能となる為、各員とも注意されたし』・・・えっと、つまり」

 

「外から絶対あかねーって事かよ!ンなのありかよ!」

 

「ふむ、パレスの主、斑目の認知に影響を受けてるなら絶対に開けられない理由があるだろうが・・・」

 

ジョーカーがそう呟き、奥の襖へ視線を移す。それに釣られて3人も襖を見て何か心当たりがないか考えてみる。しかし、あの場で祐介の部屋にしか通されていないスカルとパンサーには分かるはずもなく、頭から煙を出してショートしてしまう。

 

しかし、代わりに暇潰しと称してあばら家を探検していたモナはあることを思い出した。

 

「あの襖の模様・・・喜多川の家で見たな。」

 

「ん、ほんとか」

 

「ああ、やたらゴツイ鍵で閉められてたが・・・そういうことか!」

 

「お?まさか開け方分かったのか?」

 

「おう、だがここからじゃ無理だ。一旦パレスから帰還しなきゃならねぇ」

 

「はぁ!?なんでだよ!」

 

「うるせっ、耳元で叫ぶなよ!」

 

「あ、わり」

 

「ったく。いいか、この襖は現実の斑目の家に()()()()()()()()

 

「は!?こんな最後まで赤外線たっぷりの襖がっ!?」

 

「ちげーよ!逆にあったかこんなスペース!?」

 

あまりにもおバカな発言をするスカルに思わずツッコむモナ。ごめんね、その子あの家に行ってからエロ本探しに熱中してたの。

 

「吾輩が見つけたゴツイ鍵付きの襖。それが厳重な警備の襖になってるんだ。自分以外誰にも開けられない秘密の部屋って認知がこの特性を付与してると考えていいだろう。」

 

「なるほど・・・あ、じゃあ逆に現実世界でその鍵を開けちゃえば!」

 

「こっちの守りも無くなるって訳か!」

 

攻略法見つけたり!と顔を見合せてはしゃぎ始める2人。大変微笑ましい光景にジョーカーはニコニコしていたがそこでモナが釘を刺す。

 

「ああ、だが一筋縄ではいかないぞ。ただ鍵を開けただけじゃこの襖は開かない。斑目本人の目の前で開けて見せなきゃいけないんだ。」

 

その言葉にはしゃいでいた2人が露骨に顔を顰めてモナの方を向いた。言葉にせずとも「なんでそんな面倒な事を?」と顔に書いてある。ジョーカーもその言葉で気がついたという風にリアクションを取り、2人に分かりやすいように言葉を纏める。

 

「そうか、本人に守りは破られたと『認知』させなければならないのか。」

 

「うぇ。それかなり面倒くさくね?」

 

「だがこれ以外に方法が無いのも事実だ。方法は・・・まぁ喜多川に頼むしかないだろうな」

 

「でも、大丈夫かな・・・喜多川君かなり参ってたし・・・」

 

「けどそうしなきゃ斑目改心できないんだぜ。俺もあれだとは思うけど、やるしかねぇだろ。」

 

当然ながらその手段は喜多川を頼らざるを得ないもの。しかし今の彼に精神的負担をかけるのは如何なものかとパンサーは後ろ向きだったが、スカルのもっともな反論を聞いて少し押し黙る。しかし直ぐに切り替えて今度は腹を括った顔で提案を出した。

 

「・・・分かった。なら私が行く。」

 

「大丈夫か?」

 

ジョーカーの心配に強く頷くパンサー。どうやら意思は固いらしい。

 

「うん、そもそもこの件は私から始まったようなものだし。その件で訪問したって言えば本人がいても怪しまれないでしょ?」

 

「ふむ、確かに。そう考えると適任か。」

 

「けど鍵はどうすんだ?パンサーにキーピック使えんのか?」

 

スカルがそう聞くとジョーカーが懐から指に挟めるだけ挟んだキーピックを取り出して見せる。パンサーはそれを見て目を見開くと、やる気満々だったのが目線を逸らして語気も段々尻すぼみになっていった。

 

「そ、れはちょっと自信ない・・・」

 

「パンサー、安心してくれ!吾輩がチャチャッと開けてみせる!猫の手でもその位は容易いさ!」

 

まさに猫の手も借りたいと言った具合のパンサー。その時、1匹の猫がにゃーふ!と立ち上がった!

 

「ホントに?じゃあ一緒に行こっか!」

 

「うむ!うむ!!」

 

パンサーが提案に乗るとそれはもうふにゃふにゃのでろでろに溶けた顔になるモナ。どれだけ嬉しいのかが一瞬で分かるその蕩け具合にスカルは引き気味になる。

 

「あからさまにデレデレしやがって・・・ま、そういうことなら鍵はそっちに頼むぜ。俺とジョーカーは襖が開いた後の警備室にカチコミかけっからよ。」

 

「ああ、任せとけ。吾輩とパンサーのスーパーコンビネーションで秒で開けてやる!秒で!!」

 

「分かった分かった」

 

一気にやる気満々となったモナが眼前に迫るほどアピールしてくるのを顔面を引っ掴んで引き剥がす。 それでもなおテンションが上がって仕方ないのかスカルの手の上で喜びの舞を踊っている。器用だね。

 

そうと決まればスタコラサッサ。美術館から抜け出して志帆を回収、彼女の手作りおにぎりを食べながらパレスから撤退する。ぐにゃぐにゃと捻れる景色を突破して、誰かに見られないうちにあばら家の前からも撤退。

 

その後は軽く作戦会議をしてから今日は解散。それぞれ帰路に着いた。勿論、蓮はそれで帰る訳もなくちょうど岩井から連絡が来たのでコープを上げてから帰った。特に何でもない依頼だ。レストランで飯を食いながら下っ端ヤーさんの電話を盗み聞きして岩井に報告するだけの簡単なお仕事でした。

 

一般人に会話ぶっこ抜きされるとか恥ずかしくないの?と言いたくなるほどのガバガバっぷりを見せてくれた下っ端に感謝しつつ店を後にしてルブランへと帰る。こんな簡単な仕事でコープ上げられるなんて、ありがとう下っ端。お前が海に沈むまで忘れ・・・誰だっけお前(鳥頭)

 

ついでに早くコーヒーを入れる許可を貰う為に総治郎の手伝いを全力でしてから床に就く。この調子ならもう少しでコーヒー許可証を貰えるだろう、楽しみ。

 

 

 

そんなこんなでワクワクしながら眠りについた次の日。祐介に事前に連絡してあばら家へと訪れた杏とモルガナ。手筈通り、蓮と竜司はパレス内で襖の前に待機している。鈴井も杏の方について行こうと思っていたが、もし斑目が強行に出た時を考えると出来る限り少人数の方がいいというモルガナの判断もあって彼女はパレスの入口で待機している。

 

「よし、行くよモルガナ」

 

「ああ、行こう杏殿!」

 

杏の足元で初めての共同作業〜・・・♡と浮かれていたモルガナも杏の言葉に身を引き締める。多分、杏にいい所を見せるぞというやる気が大半を占めているだろうがまぁモチベーションは大事だし、問題ない。

 

チャイムを押すと、少し元気の無い祐介が扉を開けてくれる。

 

「高巻さんとモ、モ・・・モルカーだったか?」

 

「ちげーよッ!モルガナだモルガナ!!名前どころか種族ごと変わってんじゃねぇーか!」

 

「すまん、どうも覚えづらくてな」

 

「わざとだろ!!」

 

「まぁまぁ、それよりもその、斑目先生は・・・」

 

怒るモルガナを宥めながらあばら家に上げてもらい、前に来た部屋に招かれる。画材の独特な匂いが漂う中で祐介の出した茶を飲む2人。その最中で杏は本題について問いかける。異世界や改心について諸々の説明を受けていた祐介は少し間を置いてから話し始めた。

 

「ああ、先生なら連絡した通り帰ってくるまで後2.30分ほど・・・しかし、あの話は本当なのか?」

 

「本当だ、あの鍵付きの襖。あれを開けなきゃ吾輩達は先に進めない。悪いが協力してくれ。」

 

「・・・・・・先生を、改心させるためにか」

 

「ああ」

 

「・・・・・・。」

 

「喜多川君・・・」

 

モルガナの説明を聞いて彼は黙り込む。顔は俯き、表情は見えない。しかし強く握り締められた手を見れば彼がどんな心境かは簡単に見て取れた。また少し時間を置いてから震える声で彼は自身の気持ちを吐露する。疲弊した表情も相まって、まるで罪を懺悔する迷い人のようだ。

 

「分かっては、いるんだ。それが正しい事だとも。ただやはり同時に、先生を信じたい自分もいる・・・本当に先生は改心させるべき人なのか?何かの間違いじゃないのか、と・・・。」

 

疑念と信用の間で揺れ動く心に苦しむその姿はあまりにも痛ましく、人の心に寄り添える杏も彼を見て苦しげな表情を浮かべる。そんな中、その苦悩に天啓を降らせるが如くモルガナが重要な情報をだしてきた。

 

「気持ちは分かるぜ。そして多分、その答えがあの襖の奥にある。」

 

「え?」

 

「それは、どういう・・・」

 

泥沼に差し伸べられた手を見るように目を見開いて当然食らいついた祐介にモルガナは机の上に飛び乗って自身の考察を話し出す。

 

「考えてもみろ、認知に絶対防衛を取らせるほどのもんなんだぜ?余程大事なもんが先にあるに違いねぇ。それこそ()()()()()()()()()()()を隠してるんじゃないか?」

 

「バレたら相当」

 

「マズイもの・・・」

 

「ああ、例えば・・・『サユリ』、とかな。」

 

「「ッ!!??」」

 

「誰もどこにあるか知らなかったのに盗み出された、なんておかしいだろ。寧ろ、嘘八百振りまいて後生大事に隠し持ってるって方が納得出来ないか?」

 

いきなり出てきたその名前に2人は瞠目して思わずモルガナを凝視する。特に祐介の動揺は酷く、手で口を覆ってよろよろとたたらを踏み勢い余って画材の山へと背中をぶつけてしまった。だがそれを気にすることも無く、あるいは気が付かずにブツブツとその考察の可能性へ頭を回していた。

 

「いや、だが、それは・・・辻褄は、合うが・・・しかしそんな・・・」

 

「喜多川君!大丈夫・・・?」

 

「あ、あぁ・・・大丈夫、だ。大丈夫・・・。」

 

何を馬鹿なと思いながらも決して否定出来ない考えに激しく狼狽している祐介を気遣い、背中を摩る杏。それが効いたのか段々と呼吸が安定してくる。その間にもグルグルと考えを巡らせ、それをぶつけるように宙に絵を描くように指を走らせる。そして、考えが纏まり先程までの迷いなどが全て吹っ切れたのか決意の籠った目でモルガナを見た。

 

「・・・すまん、動揺した。先生が帰ってくるまであと10分ほどだ。準備を始めよう。」

 

「どうやら腹は決まったようだな。よし!早速取り掛かろう!杏殿、キーピックを!」

 

「う、うん!分かった!」

 

行方を眩ませた自身の始まりとなった名画、そして師の汚職。その真実を明るみにする為に結託した彼らはすぐさま斑目が帰ってくるまでに鍵を開けるというミッションに取り掛かった。杏がポケットから取り出したキーピックを口にくわえ、鍵の下へ向かったモルガナはその猫の手で持ち前の器用さを発揮し、カチャカチャと鍵穴を弄る。

 

「おお、よくその手でそんな正確に動かせるな」

 

「これでも、元の姿より、かなり、劣化してるん、だけどな!」

 

「やるじゃんモルガナ!」

 

「お、おう!うへへ、杏殿に褒められた・・・うおおお!待ってな2人共!吾輩が直ぐに開けてやるぜ!」

 

祐介が感心するのも分かるほどに確かな技量でキーピックを動かしていくモルガナ。その普段の可愛い姿とは違って怪盗としてのスキルを魅せ付けるモルガナにときめき・・・はせずとも尊敬の目を向ける杏。その視線でより手先が早くなる。この調子が続くのならば!

 

「凄い、これならあっという間に・・・!」

 

 

数分後・・・

 

 

「開かないッ!」

 

 

開かなかった。

 

まぁそら猫の手ですし。

 

最初の勢いはどこへやら、明らかに落ちたペースに杏と祐介は焦りを隠せない。チラチラと玄関を気にしながら苦戦中のモルガナを急かす。

 

「モルガナ早く!帰ってきちゃうって!」

 

「や、その、やっぱり猫の手だとやりにくくて・・・」

 

「急いでくれ、そろそろ先生が・・・ハッ!?」

 

こんなはずではと涙目のモルガナ、可哀想可愛い。

 

そうこうしていると祐介が気配を感じて取り、バッと玄関に目を向ける。そこには見覚えのある人影がガラスに映っていた。

 

祐介は確信する。あれは確実に己が師であると。

 

「ま、まずい・・・!」

 

なんとタイミングが悪い事か、ここに来て斑目が用事から帰ってきてしまったようだ。まるで死刑宣告かのようにガチャガチャと玄関の鍵が開けられる音が廊下に響き、間もおかずに扉が開かれてしまった。

 

「帰ったぞ・・・ん?祐介、それに君は・・・そんなところで何をやってる!」

 

当然、玄関からモロに見える場所にいる祐介と杏は簡単に見つかり普段とは違い優しい態度が崩れかなり圧の籠った声を上げる斑目。その豹変ぶりに驚きながらもどうにか時間を稼ごうと2人は口を回す。

 

「せ、先生、これはその・・・」

 

「えーと、その〜私がモデルに飽きちゃって〜家の中をイロイロ見たいってイイマシテ〜アハハ〜!」*2

 

(ぼ、棒読み・・・!)

 

「そ、そうなんです!それを止めていたところで・・・そうだ、先生!今度の絵についてなんですけど・・・」

 

「そんな事よりも早くそこから・・・!」

 

終わった、と思いながらも騙し騙しで足止めをしようとしていた2人だったが、ガチャリという希望の音が聞こえたことで一気にそちらに振り向いた。当然その音は斑目の耳にも入ったようで聞き覚えのある音にまさかと慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「よし!開いたぜ2人共!」

 

「ナイスモルガナ!喜多川くん!」

 

「うぉ!?」

 

「なっ、待てッ!その部屋はッ!」

 

モルガナが鍵を取り外して開けた襖からドタドタと部屋になだれ込んだ2人は真っ暗闇の中を歩き、何とか明かりのスイッチを見つけて部屋に光を灯す。そのタイミングで斑目も部屋に入ってきたが時すでに遅し。祐介はこの光景を既に目にしてしまっていた。

 

「祐介ッ!」

 

「こ、これは・・・ッ!?」

 

「何、これ」

 

 

 

言葉を失った。それ程までの衝撃を3人は脳に叩き込まれていた。

 

 

そこにあったのは

 

 

 

 

部屋中に置いてある『大量のサユリ』だった

 

 

 

 

師の口より盗まれたと語られていた自身の原点、それが劣化された贋作とはいえ量産されているというおぞましい光景。フリーズから復帰した祐介はまるで顔を泥で塗りたくられるような最大限の侮辱を受けた様に感じていた。

 

「なんだ、なん・・・何故、こんな・・・説明を、説明をして下さい先生ッ!!これは一体なんなんだ!!」

 

吹き上がる激情、混乱、悲哀、失望など多くの感情が入り交じった声で斑目に説明を求める祐介。今にも殴りかかりそうなのを必死に押さえつけながらまさに鬼気迫る表情で睨み付ける。

 

返答次第では容赦はしないという凄まじい怒気に観念したのか顔を手で覆った斑目はこれだけは見られたくなかったと哀愁の籠った顔で呟く。

 

「・・・・・・見られてしまったのなら、黙ってはおけんな。」

 

その態度に祐介の怒りは更に燃え上がり、今まで上げたことがないような乱暴な怒声を浴びせかける。

 

「答えてくれッ!」

 

それを聞いてようやく斑目はその口を開き、同時に気まずそうに視線を逸らす。

 

 

「・・・・・・実は、借金を抱えているのだ」

 

 

「しゃ、借、金・・・?」

 

 

それを聞いた祐介の体がピシリと固まる。

 

師の口から出てきたのは、余りにも当たり前で、厳しい現実の話であった。まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃が祐介を襲った。クラクラと視界が定まらなくなるほどにショックを受けている中、斑目は説明を続けている。

 

「ああ、このサユリは私自身が模写をして特別なルートで売ってもらっているんだ」

 

「ど、どうしてッ・・・」

 

「本物のサユリは昔の弟子に盗まれてしまった・・・厳しくし過ぎた事を恨んだのかも知れん。その事が酷くショックでな・・・それ以来、スランプに陥っている」

 

「苦悩から、弟子の着想を譲ってもらった事があるのも事実だ・・・このままではいかんと、私は何度かサユリの再現を試みた。だが出来上がるのは所詮模写・・・」

 

「そんな時、その模写でいいから譲って欲しいという人が現れてな・・・・・・全て私の責任だ。有名税というものを払いきれなかったのさ。期待され、活動を広げていかねば、多くの方々に迷惑が掛かるようになった。」

 

ツラツラと語られる衝撃の真実。最初のショックから更に現実的な情報を得た祐介の脳はもう限界状態であった。見たこともない師の表情。そこに染み渡る師の言葉。苦渋の決断だったと言われてしまえば、祐介はそこに同情を芽生えさせてしまう。

 

そうすれば、恩がある彼の目はその情報に眩まされ斑目の情報を鵜呑みにする状態へとなってしまうのは時間の問題であった。

 

「祐介、お前の才能を伸ばすのにも・・・金がいる。不甲斐ない師を、どうか許してくれ・・・!」

 

「や、やめてください先生・・・」

 

弟子である自分に頭を下げる師を目の前にしてとうとう祐介は斑目の耳さわりのいい言葉に翻弄され・・・

 

 

「・・・やっぱなんか変」

 

 

そして、杏の発言で直前に引き戻された。

 

斑目の言葉をぶった斬るように発された声に2人の視線が杏に集中する。

 

「え?」

 

「何?」

 

「元絵は盗まれたんでしょ?それでどうやって模写したの?」

 

「それは、画集用の精密な写真が残っていてね・・・」

 

「絵を買う人ってそれなりに芸術分かる人なんじゃないの?なのに写真の更に模写が売れるっておかしくない?本物を知ってるなら尚更。」

 

「ッ!素人に何が分かる!」

 

鋭い指摘に言葉を詰まらせた斑目。苦しい言い訳も通じずに切り捨てられた事で苦し紛れにそう叫ぶと祐介の目はまた疑念の色を帯びていった。この反応は何かを隠していると。

 

それに気がついた斑目はまたその場しのぎの言い訳を考え、この部屋から2人を追い出そうと画策するがそこでモルガナが状況をひっくり返す為に飛び出した。

 

「杏殿、こっちだ!」

 

そう叫びながらモルガナはある物に飛びつく。それは不自然に一つだけ布が被せられたキャンバス。そこにかけられた布をモルガナが口で引っ張ると中からある絵が姿を現した。

 

それは部屋の中にあるものと同じく、サユリ。しかし隠されていたの言うのなら。

 

「これは・・・」

 

「怪しさ満点だぜ、さしずめこれが本物の・・・!」

 

祐介は驚愕に目を開く。それを見て勝利を確信したモルガナだったが、

 

 

 

斑目がその裏でニヤリと頬を歪めていた。

 

 

 

「ち、違う!これは()()()()()()()()()()ッ!」

 

「ニャッ!?」

 

 

 

 

*1
全力で殴りかかりながら仮面を剥ぎ取る

*2
演技力パンサー




核熱と火炎って正直違いがよく分かってない。調べた感じ熱攻撃か原子と波動かって違いらしいけど、ほーん?ってなりました。なるほど分からん。

こまけぇこたぁいいんだよ!!(AA略)

火力が出れば何でも一緒よ。属性なんざ関係ない、ブースタ積んでコンセライザ真言で炭も残さなきゃ勝ち(脳筋の鏡)


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he is my other self


私です、舞台版全て見ました。めちゃくちゃ面白かったです。こんなに夢中になるとは思いませんでした。いきなり歌うのも慣れれば普通に演出として見られるし、合間に挟まるギャグ(多分アドリブ)が最高に面白いし、何より演技に熱が入ってて凄く引き込まれましたね。

特に舞台版3が好きです。双葉パレスが好きなのも相まって夢中になりました。あと双葉が双葉。お前のコードネームは『もったいない』だ!で腹筋メギドラオンしました。

2も祐介役の人の演技が良かったり金城が面白かったりで好きだし、4も冴さんや明智、ラスボスまで全部良くて面白かったし。もう最高でした。この場をお借りして『チョコッピ☆』さん本当にありがとうございます!!

では本編を〜巻ーかーない!!パワー!ハッ!!


 

 

 

「ち、違う!これは本物のサユリじゃない!」

 

 

「ど、どういう事だ!?流れ的にこれが本物じゃないのか!?」

 

祐介の指摘に当てが外れたモルガナはそう叫んだ。見られたくないと言わんばかりに隠されたそれは必ず斑目を追い詰める切り札だと踏んでいたのだ。

 

しかし、蓋を開けてみれば現れたのは紛い物。そんな馬鹿なと動揺するが相当な審美眼を持つ祐介が自身の原点となる本物と贋作を見間違えるはずもない。ならばこのサユリは間違いなく贋作なのだろう。事情を知らぬ素人が見れば違いは分からないが。

 

まさかの展開に困惑する彼らを見て、下衆な笑みを零した斑目はわざとらしく咳払いをするといけしゃあしゃあと喋り出す。まるで全て己の掌の上と言うように。

 

「だから言っているだろう。本物は盗み出されたと。この部屋のどこにも本物などありゃせんよ。」

 

「そ、そんな・・・!」

 

「なんなら、部屋中見て回るかね?それか家中見て回るか?まぁ盗まれてるのだから何処にもありはしないがね。」

 

「ぬ、ぐぅ・・・!」

 

憎たらしい表情でそう語る斑目。この自信に満ち溢れた顔から察するに本物はかなり巧妙に隠されていると考えられる。モルガナは物陰で歯噛みした。

 

(ク、クソ!まさかあれが偽物だなんて!と、という事はまさか本物はほんとうに盗まれて・・・!?)

 

本来ならばここで本物のサユリがお披露目され祐介に全てを悟られるはずだったのだが、どういう訳かそのイベントが発生していない。

 

どころか本物のサユリは何処かへと隠され、真実が揉み消されようとしている。これが周回の影響なのか、はたまた流れを変化させたバタフライエフェクトなのか。いずれにせよ、このままでは祐介の疑念が完璧に晴れず仲間に加わらない可能性が高い。それどころか最悪恩師を疑い切れず改心を止められる可能性すらある。

 

更に最悪なのは、それを歪みだと認識してその修正が出来る蓮本人がここにおらず、またこの事態を把握してすらいないという事だ。知らない所で知らない間に勝手に詰みかけている状況、それを何とか出来るのは現場にいる杏とモルガナの2人だけだ。

 

しかし切れた頭を持つモルガナは先の出来事で思考が混乱してしまっている。

 

頼みの綱は杏のみ。

 

そんな彼女はまだ冷静に部屋の中を見渡していた。まるでその全てを見透かすように。

 

イメージするのは尊敬する彼の事。カモシダパレスを探索している時に聞いたある言葉を思い返す。

 

 

『ねぇ、ジョーカーってなんでそんな罠とか見抜けんの?私全然分かんないんだけどさ。コツとかあるの?』

 

『ん・・・簡単だ。周囲をよく見るんだ』

 

『よく見る?それだけ?』

 

『勿論、ただ見るだけじゃない。自分なら、相手ならどこに仕掛けるか、どう隠すか。どう騙すか。今回なら鴨志田ならばどうするかを考えて()()んだ。そうすれば観えてくる、そこに隠されている全てがな。』*1

 

『へぇ〜、なんか難しそう・・・』

 

『そうでも無い、慣れれば楽だ。それにパンサーなら多分出来ると思うぞ』

 

『え?ほんと?』

 

『ああ、素直で感受性が高く、直感も鋭くて観察力もある。やろうと思えば、直ぐにでも出来るさ。』

 

『そ、そう?えへへ、なんかすっごい褒められちゃった・・・!』

 

『お、なら俺どう俺!出来るようになる!?』

 

『スカルは見破るより蹴破る方が早いってなるから向かん』

 

『お前に聞いてねぇよモナァッ!!』

 

『割とそう』

 

『あれぇッ!?』

 

 

(蓮の言う通りに、相手がどうするか考えて、周囲を観て、導き出す・・・)

 

 

杏は蓮の言葉を思い出し、全てを観察し答えへのピースを探し出す。まずは辺りに散らばったサユリの贋作を見る。人々を騙し私欲を肥やす為に数え切れない程量産された、嘘で塗り固められた商売道具。

 

そして次に斑目本人。未だにこちらを舐め腐った目で見てきているが、お構い無しにその目を覗き返す。そこに映るのは他者を欺く為に温厚篤実を装ったどす黒い悪意と虚飾に溢れた本性。

 

最後に見るのはモルガナが明かした意味深に隠された贋作のサユリ。

 

自分なりに感じた事を、事細やかに思い返し、探っていく。

 

どうしてわざわざ、あんなあからさまな置き方をしていたのか?贋作ならそんな隠し方をする必要なんて無いはず。

 

そう、まるで()()()()()()()()()()()()()()

 

自分だったらどんな心理で、斑目ならばどんな狙いで。

 

探して、観て、考え出した全てを纏めある可能性を導き出す。己の直感、観察眼を最大限発揮した彼女の推理は斑目への静かな怒りと祐介への同調などあらゆる要素全てが彼女の潜在能力を引き上げる事で、一時的に蓮を凌ぐ程の鋭さを見せつける。

 

「何となく、アンタがどんな人間か分かった。」

 

「なに?」

 

贋作のサユリへと歩み寄り、それを見ながら告げると斑目が片眉を上げて聞き返した。何を馬鹿なと言いたげに。だが杏は斑目の方を見もせずに語り続ける。

 

「嘘で全部塗り潰して、真実を隠して皆を騙す。厚顔無恥な詐欺師、それがアンタの本性。」

 

「・・・・・・。」

 

「だから、サユリを隠す方法も何となく分かる」

 

「なっ」

 

突然言われた思わぬ言葉に固まる斑目、何を馬鹿なと目を見開くが寧ろそのリアクションが杏の推理に真意を持たせる事になる。杏も確信を持ったのか、斑目の方へ向き直りキッと睨み付けた。

 

「嘘を聞かせて、贋作を見せて、本物なんて無いって()()させる。だから隠すなら・・・」

 

 

そう語って杏は贋作のサユリへと手を伸ばし、その表面を掴むと・・・・・・

 

 

「あっやめっ!?」

 

 

()()()()よね」

 

 

思い切り引き裂いた!

 

 

 

「ニャッ!?まさか!!」

 

「あっ!!そ、それは・・・!!」

 

 

そして、ビリビリと破られた贋作のサユリの下から現れたのはクリアケースの中に厳重に入れられた1枚の絵画。虚飾によりその姿を隠されていた真実が明るみになる。

 

サユリの下から出てきたのは、()()1()()()()()()。一見すれば同じ絵が下から現れただけだが、彼らの前では違った。

 

「これは・・・!間違いない!本物のサユリだッ!!」

 

「違う!!贋作だ!!」

 

「いや!俺の目は誤魔化せない!どういう事なんだ、先生!!」

 

まさか贋作の下から本物が出てくるとは思わず、動揺していたが真っ先にそれを見抜き、直ぐに激情を顕にした祐介とそれを誤魔化そうとする斑目。しかし彼の審美眼も心も既に師への信用を完全に失っており、通用しない。

 

そして彼の頭には、異世界の中で見た斑目の心の具現化、無限の泉が過ぎっていた。弟子も、作品も、芸術も。全てが自身の金を生み出す道具であると、考えていると。その事もあり怒りの籠った憤怒の目で斑目を射抜いている。

 

それに怖気付き、たたらを踏む斑目に更に追い打ちをかける様にずいっと身を乗り出し、迫る事で更に後ろへ下がり、遂に壁へと背中を付ける。

 

「これみよがしに隠された物、その下から偽物が出てくれば誰もそこに本物が隠されてるなんて思わない。流石、巨匠様ね?その心理と嘘を利用したんでしょ。」

 

 

「いつか喜多川くんにバレてもいいように」

 

「ぬぅ、うぅう〜・・・!!」

 

彼女の言う通り、贋作被せのサユリは万が一祐介がこの部屋を見ても誤魔化せるように掛けた保険であった。例え正確な審美眼を持っていても本物を隠されれば意味が無い。木を隠すなら森の中とはよく言ったものだ。

 

だが、その保険がやって来た万が一の事態で自分の首を絞める事となったのだ。完全に逃げ道を塞がれ、言い訳すら出てこない様で唸り声を上げるのみ。

 

「とんだ認知トリックだぜ、本物を偽物で隠すなんて芸術家として終わってやがる!」

 

「お、おのれぇ〜・・・!!」

 

完全に偽りのメッキを剥がされた斑目はその本性をもう隠そうともせずに杏達を忌々しげに見ながら歯を食いしばっている。やがて腕の袖口に手を突っ込むと携帯を取り出し、即座に何処かへと連絡を入れた。

 

「警備会社に通報してやったわ!!話ならそこでたっぷりするといい!お前もだ祐介!!」

 

「ッ!アンタって人は!」

 

豹変した斑目は最早なりふり構わなくなり、師の仮面すら外して祐介すら捕らえようとしている。この事実を外へ漏らさない様に、自身の保身の為に。その余りにも身勝手な振る舞いにとうとう我慢の限界を超えた祐介が掴みかかろうとしたが、直前に杏が押さえ込んで止める。

 

「ちょ、待って喜多川くん!」

 

「杏殿!異世界ナビだ!あっちに避難しよう!」

 

「そ、そっか!うん!喜多川くん来て!」

 

「待ってくれ!俺は!俺は!!」

 

「いいから早くッ!!」

 

モルガナの提案を聞いた杏はまだ斑目へと向かおうとする祐介の手を両手で掴んで無理矢理引っ張って部屋の外に出し、モルガナが追い付いた瞬間に異世界ナビを起動し、パレスの中へと緊急避難した。

 

 

 

 

 

 

一方その頃─────

 

 

ジョーカー&スカルペア

 

 

 

「アイツら大丈夫かなー、正直かなり成功率低いと思うんだけどよ」

 

「大丈夫、2人ならきっと成功させるはずだ」

 

「えー?マジで?」

 

「よし、じゃあ次は指スマやろう」

 

「え?いっせーのじゃねぇの?」

 

「え?いやいや」

 

「え?いやいやいや」

 

モルガナと杏の作戦を待っている間、マダラメパレスの襖前でアルプス一万尺をやって暇潰しをしている2人。それまでに様々な指遊びではしゃいでいたが、遊びの名前で議論に投じていた所突然辺りに張り巡らされていた赤外線が消失した。現実世界で斑目の襖が本人の前で開かれたのだ。

 

「お、おぉぉぉ!!!開いたァ!!やったのかアイツら!」

 

「ああ、やってくれたようだ。早速行こう、スカル。」

 

「おう!!アイツらが頑張ったんだ!今度は俺らの番だぜ!!」

 

遊びを切り上げて漸く開かれた堅牢な襖の中へ気合いたっぷりに乗り込んでいく2人。当然、制御室までは警備員の守りが厚かったが破竹の勢いで突っ込んでくるスカルとジョーカー*2に尽くなぎ倒され、あっさりと突破されていく。だが、それに耐えた強敵シャドウがその姿を変貌させて彼らの前に最後の壁として立ち塞がる。

 

『うおおおお!!ここは通さんぞ賊共!!マダラメ様の為にぃ!!』

 

「ハッ、んなら力ずくで突破させて貰うぜぇ!」

 

「押し通る」

 

『バゥッ!』

 

警備員のかたちが溶けて辺りに墨のように黒い液を撒き散らしながら上級シャドウ、『夜鳴きする合成獣(ヌエ)』が姿を現しその巨大から想像出来る通りの怪力でスカルをなぎ倒そうと鋭い爪を振りかざす。

 

『喰ラエェェ!!』

 

「うぉ、狙いは俺か!けどよぉ・・・俺だってパワーにゃ自信があるんだぜぇ!!迎え撃てキャプテン・キッドォォォ!!!」

 

『ヌォッ!?』

 

迫り来る爪に対し、走りながら殴り飛ばすように腕を振り抜きそれに呼応して凄まじい勢いで飛び出したキャプテン・キッド。砲弾の如き『アサルトダイブ』により船体がヌエの腕を弾き、どころかその巨体すらも吹き飛ばす。着地も出来ずに背中から落ちたヌエは即座に起き上がろうとしたが目の前に身麗しい踊り子のような女性が現れていた。

 

『コイツハッ・・・!』

 

「『アプサラス』ッ!!」

 

それはこのマダラメパレスで手に入れたジョーカーのペルソナであるアプサラス、彼女はその綺麗な空色の手をヌエに向けて翳す。スキルを発動しようとしているようだが、そこに感じる冷気にヌエはほくそ笑んだ。

 

(フ、馬鹿メ!ソイツノ技ハ知ッテイル!私ハ氷結ニ対シ耐性ヲ持ッテイルンダ!発動シタ瞬間ニ反撃デ痛手ヲ負ワセテヤル!!)

 

そう、ヌエはアプサラスが持つ氷結(ブフ)に対し強く大したダメージを与えられない上に攻撃後の隙を突かれて反撃されてしまうのだ。初歩的で単純だが致命的なミス。あの百戦錬磨のジョーカーがこんなつまらないミスで反撃を許してしまうのか。

 

否、そもそも

 

 

 

ギチィッッ!!

 

 

『エ?』

 

 

誰も馬鹿正直に氷結を使うとは言っていない。

 

 

「『金剛発破』!!」

 

『オォラァッッ!!!』

 

『ウゲェェェェッッー!!??』

 

その細腕からは想像もできないほどに強烈な腰の入った打撃が叩きつけられ、ヌエの腹部に波を起こしながらめり込む。その衝撃たるや床に円形の陥没を作るほどであった。

 

『キャオラッ!!』

 

『チョ、マッ、グベ!?』

 

何を隠そうこのヌエをボコるアプサラス、こういった相性面で意表を突く為に物理面を強化したタイプなのだ。マダラメパレスにシャドウとして普通におり、通常の手の内がバレてるからこその戦術だ。

 

勿論、ブフも使えるが寧ろメインはこっち。氷の妖精から拳で戦う系美女にスタイルチェンジ。こっそりタルカジャ二重掛けにアドバイスも積んでるので先の打撃は想像を上回るほどの馬鹿威力となっていた。ヌエ可哀想。見てあれ、世紀末覇者先輩みたいに殴った拳の形に陥没してるよ。

 

コォォーと白い吐息を出して佇んでいる姿は正しく鬼神。背中に鬼が宿ってる。しかも指示出して無いのにヌエを蹴り飛ばした。これにはジョーカーも困惑。

 

しかしアプサラスが横目に見ながら顎で使うとジョーカーは従順にペルソナを切りかえて追撃を行う。

 

「チェ、チェンジ!『ジャックランタン』!」

 

『うぉぉー!やったるヒホー!』

 

「燃やせ、『アギ』!」

 

蜃気楼のように消えたアプサラスの代わりに元気いっぱいに飛び出して来たのはピクシーを出し抜きマスコットキャラ枠を狙っているペルソナ、ジャックランタン。手に持つ角灯に揺らめく炎が火球となり、ヌエへと襲いかかる。

 

『ウ、グ・・・ハッ!シマッ!?グアァァァァッ!!??』

 

氷結のブフとは違い、火炎のアギが弱点のヌエ。アプサラスから受けたダメージが大きく、回避できずに致命的なダメージを受けてしまった。グラリと巨体を揺らし倒れ伏したヌエに一気に畳み掛けに行く2人。

 

『ヤッター!火達磨ヒホー!』

 

「トドメだ、行くぞスカル!」

 

「しゃアッ!!」

 

2人だけだが総攻撃でヌエを袋叩きにすると最後にはキッドとアルセーヌが同時に仕掛け自慢のフックと爪でX字に切り裂き、完全に消滅させた。

 

「おっしゃ!ナイスコンビネーションだったぜジョーカー!」

 

「ピカチュウ!」

 

「それ属性的に俺の枠じゃね?」

 

「俺はコイツと旅に出る、利休〜!」

 

「人違いです」

 

「利休の腕、俺によく馴染むぜ」

 

東の海(イーストブルー)に帰れ」

 

「父親似のゾロ」

 

「いらん情報寄越すな」

 

ともあれ、強敵を倒した2人は仲良くハイタッチした後に制御室に向かう。奥に見える巨大な像を見て「ああ、なんかカモシダのとこでも見たなあれ」とシラケた目を向けながら制御室へ入り込み、警備システムをダイナミックタッピング*3で解除してその場を後にした。

 

道中、警備に見つかりそうになったものの得意のゴリ押しで全員叩き潰して襖前まで戻ってきた2人。*4

 

「ちゃんと警備は解除されているようだ」

 

「ふぃー!これでこっちのミッションは達成だな!後はパンサー達と合流するだけだ!アイツら上手く逃げてっかな・・・ん?」

 

2人が達成感に浸っていると上の空間が変に歪み始めた。まさか新手か!?と警戒するスカルだったが、そこから聞こえてきた悲鳴に来訪者の正体を察する。

 

「ぬおぉぉぉぉーーッ!?」

 

「きゃあぁぁぁーーッ!?」

 

「にゃんとぉぉーーッ!?」

 

歪みの中から降ってきたのはパンサー達3人だった。あのあばら家から誰にも捕まらずに逃げる為に異世界へと入り込んだが、起動の瞬間に移動しながらの異世界への侵入は侵入地点を大きく歪めてしまったようで美術館の入口前とは全く違う場所に飛ばされてここへと、しかもZ軸もズレて宙へと投げ出されてしまったらしい。

 

3人仲良くフライアウェイしたが、祐介はパンサーを落っこちないように抱えて地面へと着地する。当然、彼の腕には彼女のふんわりウェイトが乗っかりビリビリと衝撃に震えていた。おっと、女の子は羽毛のように軽いのでこれは祐介の着地の仕方が悪い。間違いない。うん。

 

「ぐぅぅ・・・」

 

「にゃぁーーっ!?ぎゃふっ!?」

 

「ぬおぉっ!?」

 

しかもそこへモナが頭上に落ちてきた事で祐介はパンサーを抱えながらダウンすることとなる。

 

「おぉー・・・大丈夫か?」

 

「だ、大大、大丈夫・・・だ」

 

「めっちゃ足震えてっけど・・・てかパンサーも早く降りてやれよ」

 

「ご、ごめん!今降りる!」

 

プルプルと産まれたての子鹿のように足を震わせる祐介を見て慌ててその腕から降りるパンサー。ほぼ無いも同然だが、多少の重みか無くなったからかドサッと腰を下ろす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ここは、例の異世界か・・・先生の心の中・・・」

 

「ああ、まさか直接ここに落ちてくるとは思わなかったぜ」

 

「夢中で逃げてたからね・・・喜多川くん?」

 

腰を下ろしてから辺りを一瞥し、俯いて黙り込んでしまった祐介。そんな彼の異変に気がついたパンサーが駆け寄り、降りた時に足を捻ったのかと心配していると彼は拳を強く地面に叩きつけた。

 

「クソッ!!何故だ!!何故・・・!!この世界もやはり真実だと言うのか・・・!今までずっと騙していたのか・・・!サユリも・・・!」

 

ただ怒りのままに地面を叩きつける祐介。無理もない、心から尊敬していた偉大なる師が、雄大なる義父が裏では自身の原点である絵を複製して売り払い、金儲けの道具にしていたと知れば。これまでの弟子も、自分自身もその道具の一つと知ってしまったのなら、ここまで怒りを顕にするのも当然だ。

 

あれほど信じていたのに、斑目は最後には祐介の手を振り払い彼を裏切った。それが、彼の心の中にある兆しを見せる。心の底から冷えていく、怒髪天の極みが。

 

「お、おいおいどうしたんだよ」

 

「実は・・・」

 

「待った、パンサー。パレス内の警戒度が恐ろしく上がってる。ここに留まるのはマズイ、その事は移動しながら話そう」

 

「そ、そうだね・・・喜多川くん、大丈夫そう?」

 

「・・・・・・あぁ、すまん」

 

明らかにパレス内の警戒が高まっており、今にもシャドウが湧き上がってきそうなのを感じ取ったモナの助言により移動しながら事の顛末を説明するパンサー達。その間も後ろを走る祐介の表情は暗く、怒りが滲んでいる。

 

「ハァッ!?本物はホントに斑目が持ってて、しかも偽物を上に被せて隠してただァ!?どこまで腐ってんだあのジジイ!そんなん喜多川騙し続ける気満々だったって事だろ!?とことんクソだな!」

 

「パンサー、良くやってくれた。ホントに。マジで。なんでも奢ります。」

 

「う、うん。ありがと。え?どうしたのジョーカー?そんなに?」

 

知らない内に予測不可能詰み要素が襲いかかっており、絶対絶命のピンチを解決してくれていたということでジョーカーは本気でパンサーに感謝していた。それはもうめちゃくちゃ感謝していた。なんなら走りながら土下座しそうな勢いだ。等速直線運動で。

 

そりゃ(知らない内に詰みかけてたのを回避してくれたなんて)そう(五体投地どころか五体浮遊もする)よ。

 

ハンター協会の会長並に感謝を伝えるジョーカーは仏に祈るように手を合わせて頭を垂れている。走りながら。からのフォトンストリーム。

 

「だぁーっクソッ!怒りが収まらねぇ!とにかくこっから出るぞ!んで、喜多川志帆に預けてソッコーで攻略してやる!!」

 

「あほ、こんな警戒度の中でどうやって攻略すんだよ。気持ちは分かるが一旦帰還して少し時間を置かなきゃ袋の鼠だ。」

 

「んなのやってみなきゃ分かんねぇだろ!」

 

「思い上がってんじゃねぇぞ!向こうは実質無限の兵を持ってんだ!数の暴力が如何にヤバいかはお前もよく知ってんだろ!鴨志田のとこで何学んだんだ!」

 

「っ!け、けどよぉ!!」

 

これからの事を決めようとしていがみ合う2人。いつもの事だが、今回は空気が宜しくない。怒りと焦りと意地が口論をヒートアップさせないうちに鎮火させなければ、と考えたジョーカーは先程までのお巫山戯ムーヴを潜めリーダーらしく堂々と、引き締まった雰囲気を纏って2人の方を向く。

 

「そこまでだ2人共、いがみ合っても仕方がない。スカル、どうあれ喜多川を抱えてるなら一度退くしかない。悪いがここは折れてくれ。モナ、何時だってクールなのがお前だろう?心配しなくともスカルを思っての事だとは分かっているさ。」

 

「べ、別にそんなんじゃねぇーし!!」

 

「う、むぅ・・・ぁーったよ!悪かったな、モナ、ジョーカー。」

 

リーダーらしくビシッと決めた事で2人の雰囲気が軟化し、無事大火事にならなくてすんだ。よしよし、みんな仲良くね。

 

久々にリーダーらしい所を見せたジョーカーに「こういう所は流石だよね」と尊敬の眼差しを向けるパンサー。よせやい*5。まぁ数秒も経てば直ぐにいつもの変なジョーカーに戻るんだが。

 

逃走中に仲違いという最悪な事は起こらず、順調に出口へと進むジョーカー達。しかし無限の泉があるブースへ入った瞬間、異様な雰囲気を感じ取った。

 

「ッ!これは・・・!?皆、逃げっ」

 

経験からそれが何かを察知したジョーカーだったが、しかしもう遅い。ジョーカーの警告が届く前に通って来た扉のロックが閉まり、引き返すことが出来ずに上から降ってきた()()()()を無防備に被ってしまった。

 

「うぉ!?なんだこれ水か!?」

 

「いやこれは、墨だ!」

 

「なんで墨がっ、て・・・あれ?」

 

いきなりかけられた液体の正体は祐介が直ぐに看破したように、大量の墨であり全員が全身にそれを浴びてしまった。とはいえただ濡れただけで特に問題は無いと判断したパンサーが駆け出そうとして体を倒した瞬間、ガクリッと膝を折り坂を転がり落ちそうになる。

 

「おいパンサー!うおっ!?」

 

「うにゃっ!?」

 

「ぬぉっ!?」

 

「ぐぅっ」

 

それを助けようとしたスカルも自慢の力が入らずにパンサーと共に倒れ、巻き込まれるようにモナと祐介、そして彼らのクッションになろうとしたジョーカー達全員が坂を転がっていく。

 

アルセーヌを呼ぼうとしたが大きな倦怠感によって呼び出せず、仕方がなくコートを脱いで全員を覆って少しでも怪我をしないように配慮したジョーカー。下まで落ちるといつもよりもキレが落ちているが皆の無事を確認してから華麗にコートを着直し、周囲を警戒する。

 

(アルセーヌが呼べなかった・・・それにこの独特の倦怠感・・・やはり)

 

ジョーカーは自身がかぶった墨の正体に気が付いた。このパレスの主が使う特殊な墨、喰らえば力を吸い取られ全ての攻撃が弱点となる非常に危険な物。そんなものを不意打ちで浴びてしまった。

 

この状況はとてもマズイ。まさかこんな手を使ってくるとは、ジョーカーは歯噛みしながら何とかペルソナを引き出そうとする。これから現れるこのパレスの主に対抗する為に。

 

「くそっ!んだよこの墨!力が入んねぇ・・・!」

 

「ペルソナも・・・出せない・・・!?」

 

「マズイぜ・・・こんな状態で敵でも来たら!」

 

スカル達も同様、いやまともに動けない分ジョーカーよりも酷い。モナがそう焦って口にするのと同時に、憎たらしい笑い声が響き渡る。

 

 

「ウワァーハッハッハッハッ!!」

 

 

ピカーーッ!!

 

 

「なんっうぉ眩しッ!?」

 

その笑い声が聞こえた方へ反射的に顔を向けると・・・

 

 

「妙な気配がすると思えば、こんなにでかい鼠が入り込んでいたとはな」

 

 

無限の泉の中からいきなり眩い光がビカビカと溢れ出す。

 

そしてその光と共に無駄に壮大なポーズでゆっくりと見せびらかすように現れたのはこのパレスの主、斑目であった。しかもその姿は非常に成金めいており、金の浴衣に金の草履、金の扇子、etc・・・そして何より白塗りの顔に偉そうなちょんまげ。

 

その姿はまさに城の殿様である。

 

「誰!?って、うっそ・・・」

 

「こんの・・・巫山戯た格好しやがって・・・!王様の次は殿様かよ!あの銅像のまんまじゃねぇか!」

 

まさかの登場に絶句するパンサーに斑目の趣味の悪い格好に舌打ちを零すスカル。そんな彼らを見下しながら斑目は無限の泉の前へ降り立ち、ふんぞり返って両腕を大きく広げた。

 

「ようこそ、斑目画伯の美術館へ。」

 

「斑目・・・!?な、んだその姿は・・・!」

 

斑目の普段の質素な格好からは想像も出来ない程に金を塗りたくった風情も何も無い様な姿を見て目を見開く祐介。それを見てシワの多い顔を更に笑みで歪めて楽しげに話し始める。

 

「んん?あぁ、これか?これが本来の正装なのだ。あんなみすぼらしい格好は『演出』だ。有名になってもあばら家暮し?そんな訳あるまい、別宅があるのだよ・・・女名義だがな。」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

あまりにも低俗な本性を見せた斑目に大きなショックを受ける祐介。ワナワナと怒りと失望に震えながら自身を見る彼に斑目は楽しげに髭を弄ってニヤついていた。

 

「随分と汚れた名義だ、巨匠の名が泣くな」

 

「ふん、現実も知らぬ青臭いガキめ。気に食わん、今すぐ消してやろうか。」

 

しかし墨を浴びながらも唯一自分に対抗出来そうなジョーカーが皮肉を飛ばしてきたのを見て笑みを消し、彼を睨みつける。目障りだと感じたのか警備員でもけしかけようと手を僅かに上げたが、祐介が奴に語りかける事でそれは中断された。

 

「・・・聞かせてくれ。何故、サユリを隠していた。どうしてあんなにもサユリを書き置いていた。お前が本人だと言うのなら、その本心を・・・。」

 

力が入らない体に鞭を打ち、無理矢理起き上がってそう聞いた。その顔は、項垂れているので表情は見えない。そんな状態の彼にまた愉悦の笑みを出した斑目はまた語り始めた。

 

「ふむ、まぁいいだろう。例えばこんなのはどうだ?『本物が見つかったが公にできない事情がある、特別価格で譲りたい』・・・どうだこの特別感!俗人共は大枚はたいて食いついてくる!『盗まれた』という演出!デマから産まれた特別という『ブランド』!最高のビジネスだと思わんか!」

 

大口開けて笑う斑目。そこから語られたのはあまりにも汚く、あまりにも欲深い人の醜さの極地。人を騙し、芸術すらコケにした最低の亡者。その醜さは彼らに前パレスの主鴨志田を思い起こさせる。

 

「サイテー過ぎるでしょ!!」

 

「絵の価値など所詮は思い込み、ならばこれも正当な『経済行為』だ!ガキには想像出来んだろうがな。」

 

「さっきから聞いてりゃ、金、金、金・・・道理でこんな気持ち悪ぃ美術館が出来る訳だぜ!」

 

「あんた芸術家なんでしょ!盗作とか恥ずかしくないわけ!?」

 

「ふん!芸術など道具に過ぎんわ!金と名声の為のな!」

 

パンサーとスカルの糾弾を聞いても鼻で笑い、相手にもしようとしない。ただの雑音として聞き流した斑目はまた祐介へと向き直る。

 

「お前にも稼がせて貰ったぞ?祐介。」

 

「・・・あなたの才能を信じている者は。天才画家と信じてきた人々は。今までの弟子達は・・・。」

 

最早言葉に力が入らず、小さくそう呟いた祐介に斑目はまたつまらないことを、とため息を吐きながら答える。

 

「これだけは言っておいてやる祐介。この世界でやっていきたいのなら私に歯向かわぬ事だ。私に異を挟まれて出世など出来ると思うか?ハハハハハ!!」

 

「テメェェェ!!ぶん殴って・・・ぐぅ!?クソ、力がでねぇ・・・!」

 

あれほど尊敬していた師の口から吐き出された下衆な思考。これまでの思い出も、投げかけてくれた優しさも、暖かさもその全てが打算の上でのものだったのか。嘘に塗れたものだったのか。

 

祐介は心を染める絶望に膝を折って床を力強く殴りつける。

 

「こんな・・・こんな我欲に塗れた男に世話になっていたとは・・・!!」

 

「ただの善意で引き取ったとでも思っていたのか?有能な弟子を集め、着想を吸い上げれば才能ある目障りな新芽も摘み取れる。着想を頂くなら大人より言い返せん子供の将来を奪った方が楽だ。家畜は毛皮も肉も剥ぎ取って殺すだろう、それと同じだ。」

 

「なんて野郎だ・・・正気の発想じゃねぇ」

 

「ッ・・・・・・!」

 

「喋り疲れたわい、そろそろ・・・」

 

外道も外道。最早人の形をした悪魔とも言えるほどの醜悪な心を隠そうともせず教え子であり育て子の祐介の前で無遠慮にベラベラと喋り倒した斑目は項垂れたまま動かない彼に全く興味を見せずに手を上げて周囲に無数のシャドウを呼び出してジョーカー達を消そうと囲い込む。

 

そして1番斑目に近い場所にいる祐介が最初にその脅威にさらされてしまい、彼の前に苦渋の鍛冶師(イッポンダタラ)が現れその手に持つハンマーを振り下ろさんと大きく振りかぶる。それを見たスカルは慌てて助けようとするが力が入らず床に倒れてしまい、声を上げることしかできない。

 

「喜多川くん!!」

 

「おい喜多川!下がれ!そこに居たら!」

 

「待て2人共」

 

「え!?」

 

「何すんだよジョーカー!このままじゃッ!?」

 

スカルは必死にそう叫ぶが、ジョーカーが彼らの前に庇うように立ち逆に彼から離れるようにジリジリと後退していく。それに抗議の声をあげようとしたスカル達だったが、ジョーカーの冷静な返答に口を噤んだ。

 

「いや大丈夫だ、寧ろ・・・」

 

バキッ・・・

 

ジョーカーは感じ取っていたのだ。彼の中で目覚めた凍えるほどの激情と強大な力の目覚めを。

 

 

「下がるのは俺たちの方だ」

 

 

しかもその覚醒は恐らく従来のものを遥かに超えた・・・

 

 

 

 

「・・・許せん」

 

 

 

「んん?」

 

 

 

「・・・・・・そんなはずは無いと、俺は長い間目を曇らせてきた。人の真贋すら見抜けぬ節穴とは・・・まさに俺の(まなこ)だったか・・・!!」

 

 

 

「貴様を親と慕った子供達・・・将来を預けた弟子達・・・一体何人踏みにじってきた・・・?一体どれほどの夢を金で売った!?」

 

 

「決して・・・決して許すものかッ!!斑目一流斎!!」

 

 

 

 

凄まじい爆発力を発揮すると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようやっと目が覚めたかい?』

 

 

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

 

そして、氷の蕾が花開く

 

 

 

 

「ぐあぁ!?」

 

 

 

頭が割れそうな程の痛みに祐介は頭を抑え、悶え苦しむ。体の芯から冷え込むような痛みは、やがて心の奥底に眠る氷塊にヒビを入れ封じ込めていた囚人(思い)を解き放つ。

 

 

『真実から目を背ける貴様こそ、何より無様なまがい物・・・』

 

 

長い長い冬を超え、降り積もられた分厚い雪下を超えて、今まさに百花繚乱が姿を現し、目覚めた怒りが産声を上げる。

 

 

『たった今、決別するのだな・・・!』

 

 

痛みに倒れ、血が滲むほどに力強く爪を床に這わせる。血の盟約を果たすようにその血痕は青い炎と蒼き氷に包まれて周囲を渦巻く嵐となる。イッポンダタラを巻き込み、凍らせ、打ち砕く嵐はやがて祐介の姿が見えなくなる程に激しさを増していく。

 

 

『いざや契約、ここに結ばん』

 

 

 

『我は汝、汝は我・・・』

 

 

 

『我は汝の心の氷獄より出でし者・・・!』

 

 

 

「こいつは凄いぞ・・・!にゃにゃにゃ・・・!?」

 

「すげぇ、けどこれ俺らも巻き込まれてブブブ!?」

 

「凄まじい気の流れ・・・」*6

 

シャドウも、斑目も、ジョーカー達すらも見境無く、周囲の全てを凍てつかせ氷の壁を形成しながら吹雪いていた嵐は突如としてその姿を消し蕾のような形となった氷の中で、祐介がその顔に狐の仮面を付けて姿を現した。

 

 

『人世の美醜の誠のいろは・・・今度は貴様が教えてやるがいいッ!!』

 

 

 

 

 

「よかろう・・・」

 

 

 

 

 

心の声に従って、体を大きく動かして仮面にゆっくりと手をかけると・・・

 

 

 

 

 

「来たれよ・・・

 

 

 

 

五右衛門ッ!!

 

 

 

 

 

呼び声と共に勢いよく剥ぎ取った!

 

 

 

バキィィィンッ!!!

 

 

 

 

踊り舞う鮮血、花と散る仮面、そして溢れ出る力の奔流。

 

飾られた徒花の姿はもうそこには無い、そこに立つは己が道を行く雄々しき一本晚花。絶許を誓う美しき黒百合。

 

その身を和モダンな印象のゆったりとした白黒スーツの怪盗服へと包み、水色の手袋を着け、腰には狐の尻尾のような装着品を下げている。

 

そしてその後ろには巨大なキセルを咥えた歌舞伎役者のような粋な偉丈夫、地獄の大釜より鎖と共に現れた世紀の大盗賊『ゴエモン』が出現していた。

 

 

カンッカンッカンッカンッ

 

カカカカカカッ

 

 

カカンッ!!

 

 

 

「絶景かな」

 

 

 

 

その言葉とどこからが響いてくる柝の音と共に2人は全く同じ動きで見得を切り、斑目達を鋭く睨みつける。今にも襲い掛かりそうだったシャドウ達もその圧力には動きを止めざるを得ない。

 

「まがい物とて、こうも集まれば壮観至極・・・悪の華は栄えども、醜悪、俗悪は滅びる定め・・・!今この場で、成敗してくれよう!」

 

「お、おのれいきがりおって!者共!出合え出合えぇー!!」

 

祐介の見得の迫力に僅かに後ずさっていた斑目だったが、直ぐに立て直すと無数のシャドウを呼び出す。無限の泉の中から溢れ出すように湧いてくるシャドウ達を前にして祐介は手を大きく振るうと飛びかかってきたシャドウを凍てつく風によってなぎ飛ばし、同時にジョーカー達を苦しめていた墨を凍らせ、砕く事でデバフから解放した。

 

弱体化が無くなって自由に動けるようになった彼らはすぐさま祐介の隣に並ぶように立ち、シャドウの軍勢の前に立ちはだかる。

 

「すまない、助かった」

 

「気にするな、もののついでだ。それよりも手を貸してくれ、奴をたたっ切る。」

 

「ハッ、言うじゃねぇの。お手並み拝見ってやつだな!」

 

「望むところだッ!」

 

祐介がそう叫びながらシャドウ達に単身突っ込む事で戦いの火蓋は切って落とされた。いつの間にか出現した日本刀を向上した身体能力で抜き取り目にも止まらぬ居合切りでコッパテングを両断すると流れるように次々と切り伏せていく。

 

『こ、このっ!』

 

「邪魔だ!」

 

『おぐっ!?』

 

持ち前の素早さでどんどんシャドウを切り倒していく祐介にハンマーを振りかぶるイッポンダタラだが、彼の後ろに立つゴエモンがその手に持つ巨大なキセルでがら空きの胴体をぶん殴り吹き飛ばした。多数のシャドウを巻き込み壁をぶち抜いて消滅したイッポンダタラに目も向けずすぐさま後ろから襲い来る敵へターゲットを移す。

 

「凍りつけ!」

 

『ギャッ!?』

 

『つ、冷っ!?』

 

「切り捨て御免!」

 

『グアアアア!?』

 

振り向きざまにブフを放ち、襲ってきたシャドウ達を纏めて凍らせてそのまま切り砕く祐介。同時にゴエモンもそのキセルでシャドウ共をなぎ倒していく。その暴れっぷりは凄まじく、ジョーカー達も下手に近づけもしない程であった。

 

「すっげーなアイツ、俺んときより暴れてね?」

 

「そんだけ怒りが凄いって事だろ、こっちも負けてらんねーぜ」

 

「そうだね、いくよ『カルメン』!」

 

「しゃあっ!俺も!ぶっぱなせ『キッド』!!」

 

「おいおい、はしゃぎすぎんなよ。怪盗はクールにかつスマートにだぜ?そうだろ、『ゾロ』!」

 

祐介の戦いを見て負けていられないと奮起した3人はそれぞれのペルソナを呼び出し、シャドウ達を蹂躙していく。

 

「チェンジ『アメノウズメ』、『メディア』『闇夜の閃光』『マハラクンダ』」

 

『ふふっ』

 

もちろんジョーカーもそれに合わせて攻撃し、更に戦況を優勢に運んで行く為にバフデバフを振りまいて回復までこなしていた。流石怪盗団の過労死枠。クソギミックぶりにシャドウ達はブチ切れ状態だ。

 

『ぐぁ!?急に防御が!?』

 

『くそ!まずアイツを何とかギャッ!?』

 

「オラオラァ!ジョーカーの邪魔はさせねぇぞ!」

 

「ジョーカーのおかげでかなりやりやすくなってる!今が好機だ!畳み掛けるぞ!」

 

『ヌオォォ!!サセルカ!!』

 

「む」

 

進撃が止まらない怪盗団に向かって持ち前のタフネスで突っ込んでくるヌエ。ジョーカーとスカルの2人が戦った個体よりかは弱いがそれでもその巨体は脅威だ。特にまだ相性の有無も知らない祐介にとっては。

 

「ゴエモンッ!」

 

『馬鹿メ!コノ程度!!』

 

「何っ!?」

 

覚醒補正のあるブフですら耐え切るヌエ。反撃の爪を突き立てようとするが、しかし奴が戦っているのは祐介だけでは無い。フルメンバーの彼らに死角はないのだ。

 

「パンサー、頼む『タルカジャ』」

 

「うん!任せて!踊れカルメンッ!」

 

『ハ!?ヌギャァァァー!?』

 

氷結の向こうから舞うように現れたカルメンが投げキッスを投げるとたちまち情熱的な業火となり、ヌエの体を焼き尽くす。その隙に斬撃を浴びせ、確実にトドメを刺す祐介。

 

「すまん、助かった」

 

「気にしない気にしない!さ、ドンドン暴れちゃお!」

 

「ああ、俺も筆が乗ってきたところだ・・・!」

 

その言葉通り、先程よりも速度が増した斬撃で次々とシャドウを切り刻んでいく祐介。そしてそれに続くようにジョーカー達も暴れ回り、斑目の兵が押され始めている。それを見て斑目は顔を歪ませて更にシャドウを湧かせ始めた。

 

『おのれ〜・・・!図に乗るなぁぁぁぁ!!!』

 

「チッ、やっぱり無限湧きかよ!お前ら!一気にぶっぱなして隙を作るぞ!」

 

「おう!んならぁ・・・総攻撃だァッ!!」

 

 

ブチィッ!!

 

 

 

斑目を守る為に無限の泉から次々と溢れ出るシャドウ達。それを前にしてもジョーカー達は揺るがない。シャドウの群れを吹き飛ばし、総攻撃で一気に数を減らして堅牢な守りを剥がして撤退の隙を作ったが、その際に斑目の守りが手薄になったのを見て祐介が単身突っ込んでしまう。

 

「よし今だ!撤退・・・ってにゃあ!?」

 

「バっ!?喜多川!?」

 

制止をする暇も無く、祐介は抜き身の刀を構えながら即座に接近し、奴を斬ろうと振りかぶる。その激しい怒りに身を任せてかつて恩師であった外道を討つ為に。

 

「この期は逃さん!斑目、覚悟!!」

 

「待って!今斬っちゃったら!!」

 

パレスの主を殺してしまえば現実の斑目も廃人となり死亡してしまうかもしれない。例えどんな大悪党だろうと殺すのはマズいと止めようとしたパンサーだったが、その言葉が届く前にその事実を知らない祐介は迷いなく刀を振り抜いた。

 

 

・・・・・・しかし。

 

 

「ふぅ、危ない危ない。もう少しで斬られるとこだったわい。」

 

「なに・・・!?」

 

幸いと言うべきか、斑目は斬られることは無かった。奴の足元から現れた巨大なシャドウ『シキオウジ』が祐介の攻撃を弾いたのだ。

 

「残念だったのう・・・では、さらばだ」

 

「ッ!待てぇ!!斑目ぇぇえぇぇ!!!」

 

『貴様の相手は私だ!』

 

「邪魔をするなぁッ!!!」

 

シキオウジに阻まれている間に斑目は無限の泉の中へ解けるように消えていく。それを見た祐介はシキオウジを弾き飛ばして後を追おうとするも、相手は物理無効を持つ厄介なシャドウ。怒りと焦りに任せた攻撃を尽く無効化され、標的を目の前でみすみす逃す羽目になってしまった。

 

「斑目・・・!!斑目ぇぇぇ!!!」

 

『ふん、愚かな賊め。偉大なる館長様に歯向かうとは・・・許さん!今まで授けられた大いなる愛に背いた罪、死を持って償え!』

 

「・・・なんだと?」

 

怒りに燃える祐介はシキオウジの『挑発』にまんまと乗ってしまい、行き場のなくなったその刃を容易く向けてしまう。

 

「貴様、今なんと言った。愛、愛だと・・・巫山戯るな!!あんなものが愛な訳があるか!!」

 

『大人しく道具に成り下がっていればこれからも無償の愛を与えられたものを・・・救えん奴らだ。貴様も、今までのガラクタ共も!!』

 

「もういい、黙れ・・・!貴様は鯰切りにしてやる・・・!」

 

『ハッ、馬鹿め!返り討ちにしてやろう!』

 

「バカ!無闇に突っ込むな!クソ、邪魔だシャドウ共!」

 

頭に血が上りシキオウジに向かって無策に突っ込んでいく祐介。彼を止めようとするがモナ達は新たに湧いてきたシャドウ達に邪魔されて援護に迎えない。対するシキオウジは祐介の攻撃を無効にした後、確実に仕留める為に『ダブルシュート』を構える。

 

流石にこれは見過ごせないとジョーカーは目にも止まらぬ速さでミセリコルデを振り、周囲のシャドウを切り裂いて僅かな隙を作る。その間にスカルに向かって走り寄りながら手でサインを送る。

 

「スカル、頼む」

 

「は?・・・ああ、そういうことか!任せろ!!」

 

サインがしっかり伝わり、スカルは手に持つ地味に新装備の重鋼管を斜め下に構える。それにサムズアップをした後、重鋼管に向けてジャンプし飛び乗った。

 

「シャアッ!行ってこい!!」

 

当然スカルの腕に大分負荷がかかるがそこは元運動部の脳筋マン、ギチギチと音が鳴るほど力を込めて上空へジョーカーを打ち上げる。シャドウの群れを飛び越えてシキオウジの真上まで飛んでいく。それを阻もうとしたイヌガミを呼び出した『彼女』のスキルカードで追加した『目眩し』で眩暈状態にした後、足場にしてシキオウジに狙いを定める。

 

「『ピクシー』、『ジオ』」

 

『はぁい、ダーリン♡』

 

ジョーカーにひっつきながら指先に溜めた電撃を真下のシキオウジに向けて放つ。祐介が接敵するよりも速くシキオウジに届き、その体を貫く。

 

『グオォ!?な、なんだ・・・!?体が、痺れ!?』

 

「これは・・・」

 

麻痺状態になったシキオウジを見て目を丸めた祐介の隣にイヌガミを撃ち消したジョーカーが顔にピクシーを貼り付けた状態で降り立つ。

 

「祐介、コイツには物理攻撃は効かない。氷結をぶつけろ。」

 

「む、そういう相性もあるのか・・・ならば!」

 

それを聞いた祐介はすぐさまゴエモンの拳にブフを固め、動けないシキオウジに向けて思い切り殴り付けた!

 

「こうしてくれる!!」

 

『ウゴベェ!?』

 

ぶん殴られたシキオウジはあまりの威力に体をくの字に曲げて吹っ飛んでいき、他のシャドウを巻き込みながら無限の泉にぶつかり、墨になって溶け消滅した。しかもその衝撃でシャドウの湧きが止まり無限クソゲーもストップとする。

 

「ナイスだ!シャドウの湧きが止まったぞ!」

 

「じゃあちゃっちゃとコイツら倒しちゃお!」

 

「オラァ!ぶっ倒れろこの野郎!」

 

残るシャドウ達も一網打尽した彼らはジョーカー達に駆け寄る。

 

「大丈夫か2人共!」

 

「ああ、問題ない」

 

「俺も・・・うぐ」

 

ジョーカーと同じように平気だと返そうとした祐介だったが、シャドウがいなくなったことで張り詰めていた緊張が緩んだのかガクリッと膝をついてしまう。初覚醒の反動が来たのだろう、極度の疲労により体が震え脂汗が溢れだしている。

 

そんな彼にジョーカーは肩を貸し、体を持ち上げる。その足元でパレスの気配を感じ取っていたモナは舌打ちを零し、先導して出口への道へ駆け出す。

 

「一息つきたいとこだが、まだ警戒度は高いままだ。さっさと外に出よう。」

 

「待ってくれ!奴を、斑目をまだ・・・!」

 

「いい加減にして!!」

 

満身創痍の状態でも斑目を追いかけようとする祐介にパンサーが声を張り上げて叱咤する。急な大声に目を白黒させてパンサーを見る祐介。彼女の鋭い視線が彼を射抜く。思わずジョーカーも身震いしてしまった。

 

「な・・・。」

 

「気持ちは痛いほど分かる!でももう限界でしょ!そんな状態でアイツと戦っても逆にやられるだけ!今は私達の言う通りにして!いい!?」

 

「あ、あぁ・・・分かった」

 

きっと祐介の姿に自分が覚醒した時の事を重ねているのだろう。気持ちが分かるからこそ、自分の時以上に激しいその暴走を止めるのも自分の役目だと判断し厳しく当たっているのだ。そしてその威圧感にみるみるうちに戦意が萎んでいく祐介。大人しく彼女の言う事を聞いてくれた。

 

見ていたスカルとモナも抱き合って縮こまっている。仲良いね。

 

「怖ぇ〜・・・」

 

「逞しいな」

 

「パンサー、凄まじい迫力だ・・・そこがまたいい・・・」

 

「アンタらもうっさい!さっさと脱出!はい走って!!」

 

「「「イ、イエスマム!!」」」

 

あれ?リーダー枠取られた?

 

そう思いながら祐介を抱えてえっちらおっちらと美術館を抜け出すのであった。

 

 

*1
男子高校生が持つスキルでは無いという点はスルーされてる。ジョーカーだし。

*2
シーサーに跨り腕を組んでフレイを撒き散らしている

*3
サンドウィッチマンの富澤さんがたまにやるギャグ、動きが派手な事以外特に意味は無い

*4
潜入とは?

*5
可愛い・・・(ラッコ鍋)

*6
SKN




ペルソナ3Rがもうすぐ発売しますね。自分3は序盤の覚醒と主人公がキタローって呼ばれてる事と結末以外ミリしらなのでめっちゃ楽しみです。アルセーヌも出るっぽいしやるっきゃないぜ!心が持つかは知らん!

あとペルソナ5D、実はやった事がなかったので買ってみました。セールで安かったし。リズムゲーが苦手なのでやらなかったけど、ファンとして、二次創作作ってる身としてやってみようと思いまして。Q2?3DS持ってないし・・・(震え声)


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The subject of heart

どうも、当然ペルソナ3Rを買った私です。いつも感想、誤字報告ありがとうございます!全ての話の修正をして下さった方もいたので頭が上がりません。申し訳ねぇ・・・気をつけてるはずなんですけど・・・。これからもそういうのがあったら容赦無く報告して下さい!

それにしてもペルソナ3R面白すぎる!!タルタロス徘徊だけで時間が溶けていく!レベル上げに勤しみ過ぎて全然ストーリーが進まない!オブジェ破壊たのちぃ〜!1周目で150時間超えるとは思わなかったぜぃ。そのくせ絆MAX出来なかったし。パラメータ上げで精一杯でしたよ。初手でMAXレベル要求って中々鬼畜じゃないですか?

ストーリーは最高でした。というかBGMが良すぎてヤバい。

皆さんは主人公の名前何にしましたか?私は1周目は公式に使われてるのではつまらないと思ったので自分で考えました。その名も『水無月 紫苑』君です。名前は花言葉から、苗字は語感で選びました。

取り敢えず2週目は軽い気持ちで挑戦して消し炭にされた裏ボスを倒すことを目標に頑張ります。

さぁて今回も〜黄金長方形の軌道で回転せよ!そこには無限に続く展開がある筈だ!


 

 

前回、斑目パレスから志帆のお手製スポーツドリンクを飲みながら脱出した彼等は周囲に警戒しながらセントラル街まで避難してファミレスへと転がり込んでいた。

 

杏と志帆の前に男3人がギチギチに詰まって座っているというむさくるしい状況下でも祐介と蓮はマイペースにメニューを共有して見ている。間に挟まる竜司は目が死んでいた。

 

ひとまず注文を済ませ、各々ドリンク*1を持ってきたところで祐介が頭を下げて謝罪をした。

 

「・・・すまない、冷静では無かったとはいえ先走り過ぎた。君達に止められてなかったら俺は・・・情けない限りだ。申し訳ない。」

 

「いや謝罪がガチ」

 

「武士みたいになってる・・・」

 

パレスから出てきて蓮達から軽い説明を受けた事で改めて自分が無謀な行いをしていたのかを自覚した祐介は頭から冷水を浴びた気分で猛省している。最早切腹すらしだしそうな彼の態度にそこまで思い詰めなくてもとフォローを入れた。

 

そもそも自分達も同じような過ちを犯しているのだ。責める道理などありはしない。武士のようにガチガチな礼をする彼の背中をバシバシと叩きながら竜司は杏の方を見てニヤつく。

 

「謝んなよ、仕方ねぇってあれは。俺もあんなんだったし。杏だって、なー?」

 

「その腹立つ顔やめないと目にレモン汁入れるよ」

 

「うぃっす・・・すぃやせん・・・」

 

腹立つ煽りに半ギレになった杏がスっと取り出した拷問器具(レモン汁)を見て竜司は縮み上がり弱々しく謝った。手痛い反撃をくらったしおしお竜司を横目で観察。oh、竜司くんお子様メニューの間違い探しwatch・・・カワイイカワイイね。

 

想像するだけで目が痛くなる脅しを横に志帆はモルガナを撫でながら労わっている。

 

「皆大変だったね・・・モルガナちゃんもお疲れ様」

 

「ありがとな志帆殿、ついでに吾輩にもなんか頼んでくれ。お腹ぺこぺこだ。」

 

「分かった、でもあまり顔を出さないように。追い出されてしまうからな。」

 

「わーってるよ、不服だがそこんとこは割り切ってるさ」

 

蓮の言葉に少し不貞腐れながらも大人しくカバンの中に潜むモルガナ。飲食店にペットを持ち込んだら最悪消されるのでみんなも気をつけよう。そんなこんなでそれぞれ注文した物を食べながら祐介に細やかな異世界についての説明を行っていく。

 

「─────以上が俺達が現状知っている異世界の全てだ。」

 

「なるほど・・・にわかには信じ難いが、実物を見ているんだ。飲み込む他あるまい。」

 

「ま、俺らも最初は戸惑ったよな。すぐ慣れたけど。」

 

「改めて考えてもすっごいファンタジーだよね。蓮に言われた通りそういうものって納得しないと私もまだ受け容れられてなかったかも。」

 

「私はまだ慣れないかな・・・どうしても有り得ないって考えが出てきちゃう時があって。多分、力に目覚めてないからだと思うけど。」

 

「それは仕方ないさ。志帆殿は吾輩達の帰る場所になってくれてる、それで十分だ。」

 

「ありがとうモルガナちゃん」

 

認知世界という一見非科学的なものにそれぞれ適応している2人と未だ慣れない志帆。そんな彼女は寄り添うモルガナに感謝しながら優しく撫でる。

 

以前にも言ったが莫大な時間をかけて認知訶学を調査してきた蓮でさえ詳細は分からず開き直って『そういうもん』に落ち着いた程だ。認識ひとつで人々に影響を及ぼすという理解の範疇を超えた事象を詳細に解析する事は出来なかった。まぁ簡単に説明してしまえば大体あの金メッキのせいなんだけど。

 

じゃあ金メッキが作り出したその力に自力でアクセスした認知訶学研究者のあの人は一体何者なんだよって話なんだが。

 

定かでは無いが自分達程ではなくとも多少は人の心を弄れるまでに研究を進めてた辺りあの人はおかしいと思う。だからこそ目を付けられてしまったのだろうが。

 

話が脱線してしまった。この件はまた後々。ともかく認知世界について理解を深めた祐介は顎に手をやってある疑問を蓮達に投げかけた。

 

「・・・パレスに、ペルソナ、そして異世界ナビだったか。何とも奇っ怪なものだ。こんな摩訶不思議なもの、どこで手に入れたんだ?」

 

その質問に竜司と杏は顔を見合わせ目をキョトンと目をまん丸にして固まる。その表情に今度は祐介が目を丸くする。

 

「あ?どこでって・・・なんか、いつの間にかスマホに入ってて?」

 

「何となく使ってるって感じ?」

 

そういや特に疑問もなく使ってたわがははと無警戒が過ぎる答えに祐介は頭が痛くなるような感覚を覚え訝しげに彼らを見やる。

 

まぁどこの誰が作ったか何が仕掛けられてるかも分からないようなものを使ってますとか言われたら誰でもそのリアクションになる。

 

大丈夫大丈夫、生産者は生産者シールと顔写真がついてるレベルで分かってるから。ただそいつは信用も信頼も出来ないし相容れない安心安全とは程遠い存在からの贈り物というだけで(致命的)

 

「・・・大丈夫なのかそれは」

 

「・・・なんか今更不安になってきた。」

 

「まぁ大丈夫だろ、なんかあったら・・・そんときはそんときで!」

 

「使えるものは使った方がいい」

 

「そういうものか・・・」

 

イエーイ!とお気楽にアホなハイタッチをかます蓮達に困惑しながらとりあえず納得しておく祐介。俺もこの乗りに習った方がいいのだろうかと血迷い始める。そこは習わなくていいよ。そいつらただの馬鹿だから。

 

「つーかよ、喜多川のペルソナ凄かったよな。氷バキバキーってよ!火力っつーの?とにかく迫力がさ!俺らも巻き込まれたし!」

 

そう言って祐介のか細い背中をバシバシ叩く竜司。折れそう。まぁ確かにあの覚醒は過去に見てきたものの中でも断トツに強烈なものだった。募りに募っていた感情が偽サユリトリックの件で更に大きくなり爆発したからだろう。彼の心情を考えるとあまり褒めたり喜べたり出来るものでは無いが。

 

それを聞いたモルガナがカバンの中から小さい声で説明し始める。

 

「前にも言った通りそれだけ怒りが大きかったってことだろう。ペルソナは心の力だからな、感情の爆発と覚醒時の出力が掛け合わさった結果あれほどの力が出たんだ。」

 

「怒り・・・か。そうだな、あの時俺は凄まじく頭に血が上っていた。まさか世話になった人が想像を超える外道だったとは・・・」

 

そう言って右手で顔を覆い、俯く祐介。

 

「母も、騙されていたのか。」

 

最後の方にポツリ、と小さく零した言葉を偶然聞き取ってしまった杏は目を丸くして聞き返した。

 

「え?お母さん?」

 

思わぬ声掛けに目を丸くしてパッと顔を上げた祐介は聞こえてしまったかと反省しながら口に手を当てる。しかし今更口に出してしまったものは仕舞えない、同情を誘う訳では無かったのだがと自責して自身の過去を話し始めた。

 

「ああ、母親も斑目に世話になっていたらしい。尤も、俺が3つの時に事故で死んでしまったんだが・・・。」

 

「そうだったんだ・・・その、お父さんは?」

 

志帆が遠慮がちにそう聞くと彼はくしゃりと眉間にシワを作る。それを見て踏み込んではいけないところに踏み込んでしまったかと焦った志帆だったが、構わないと祐介は片手で謝罪を止めて暗い表情で語る。

 

「父はいない、母が女手一つで育ててくれていたようだが・・・正直、母の事はあまり覚えていないんだ。だから斑目を親と思って尽くしてきたが・・・あの人は変わってしまった。」

 

語りながら彼の握り拳が力強く締められギチギチと音を立てる。それが彼の氷山に吹きすさぶ吹雪のように荒れ狂う心を明確に表していた。

 

「自分の原点である『サユリ』までも、あんな風に・・・!」

 

「・・・お前も苦労してきたんだな」

 

そう言って彼の肩に手をやる竜司。これはまだ彼の口からは語られてはいないが彼は父親にDVを受けていた過去を持っている。祐介とは事情は違うが親という存在からの裏切りがどれだけ子へ影響を齎すかはよく知っていた。

 

竜司の言葉を受けて少し冷静になったのか激流のように荒れていた瞳の炎が和らぎ、「すまん、熱くなった」と謝罪する祐介。そんな彼に謝らなくていいと止めながらこれからの事を問いかける。

 

「喜多川君はこれからどうする?私達は斑目を改心させる予定だけど」

 

「ああ、あんな奴野放しにする訳には行かねぇ。野郎にゃきっちりと引導を渡さねぇとな。それに個人的に野郎はぶっ飛ばしたくなった。」

 

パシンと拳を叩いてそう言う竜司。彼の中で斑目と自身の父親だった男が重なって見えたのだろう。気合いが段違いに入っているようだ。彼のそんな姿を見て杏やモルガナ、志帆も気合いが入ったようだ。目に闘志が湧いている。勿論、事情を全て把握している蓮もだ。

 

「・・・なら、俺も加えてくれ。奴への引導は俺自身が渡さねばならない。それだけは譲れないんだ。」

 

そんな義憤に燃える彼らを見て祐介も決心したようで強い意志の籠った瞳でそう持ちかけた。当然それを蹴るはずもなく全員が歓迎して笑いながら頷く。

 

「こっちとしちゃ戦力増強になるんだ、願ってもないぜ。」

 

「ほんと!頼もしいよね!」

 

「うん!私ももっと頑張ってサポートするから!」

 

「っしゃ!よろしく頼むぜ喜多川・・・や、祐介!」

 

「ああ、よろしく頼む。」

 

あ、俺は竜司でいいぜ!じゃあ私は杏で!わ、私は志帆だよ!と名前呼びを提案して騒がしく新しい仲間と親睦を深めるメンバー達。揉みくちゃにされる祐介も何処と無く嬉しそうだ。

 

そんな和気藹々な彼らを見て地母神の微笑みを浮かべた蓮はフッとわざとらしい笑みを零すと彼らの前にメニューを広げ、伝票受け取りのカップを持ち独特なポーズ*2をして宣言をした。

 

「目出度い新メンバーの加入だ、お祝いとしてここは俺が持とう」

 

今度は祝福しろ、歓迎会にはそれが必要だと何故か見えるアルセーヌと共に独特で奇妙なポーズを取る蓮。なんだてっていいけどよォ〜ファミレスのソファーで立つなんてめちゃ許せんよなァ〜!?と思ったそこのあなた、安心してください。その場の床でやってますよ!代わりに竜司のスペースが犠牲になってる模様。わぁ、ギチギチだぁ。

 

「本当か・・・!?恩に着る・・・!!ならこのエスカルゴとやらも食べていいだろうか、前々から気になっていてな。それとこのサラダとピザと・・・!」

 

「いや奢りって聞いた途端めっちゃ食うじゃん」

 

「遠慮ねぇなおい」

 

「よっぽどお腹空いてたんだね・・・」

 

食え・・・存分に食え・・・!!と完全に保護者目線となった蓮は彼の注文をマリアナ海溝の如き懐の深さで受け入れていき、それに続いて竜司達も自分の注文を追加していく。勿論モルガナの分も。学生の青春、ファミレスでのプチ贅沢パーティは周囲に配慮をした上で盛り上がり彼らの間に短いながらも確かな友情を育んだとさ。

 

 

 

 

「めでたしめでたし」

 

「その話を私達にする意味が全く理解出来んのだが」

 

「ペルソナ合体のし過ぎで頭がおかしくなりましたか」

 

そんな話を翌日にベルベットルームにて合体ギロチン刑を何度もしながら双子に話すと気持ち悪いものを見る様な目でそう吐き捨てられた。だって他の人に語る訳にはいかんし。この湧き上がるエモを吐露するにはこの子達が1番最適だったし。結果は見ての通り超見下されてるけど。

 

「絆っていいよね・・・いい・・・」

 

「自己完結し始めたぞ」

 

「どうしましょう、一度殴った方がいいでしょうか」

 

こう、斜め45度くらいからとボードをシュッシュっと振りながら言うジュスティーヌ。それじゃあ治んないよ、昔の家電じゃないんだから。コラコラカロリーヌ、棒で頭を殴っても意味無いよ。というかやめてくれ、君ら人間の範疇を大きく超えた力持ってるんだから。頭取れちゃう。

 

「というか貴様何時まで合体をするつもりだ、現実時間に換算すればかれこれ2時間はぶっ通しでやってるぞ」

 

「更生に意欲的なのは結構ですが何事にも限度というものがありますよ。付き合わされるこちらの身になって下さい。」

 

ジト目で苦言を呈するジュスティーヌ。いくらベルベットルームでは現実時間がほぼ経過しないといっても彼女達にとっては相応の時間が過ぎている。そりゃ精神的苦痛も感じるだろう。勿論蓮にとっても。とはいえ彼の方は全く疲弊せずに説教中にもひたすら合体を繰り返し全書埋めと合体事故を利用したペルソナの選別を行っているが。

 

更にどこからか生えてきたこの謎の特性という面白い新要素。これが中々興味深くこれも合わせて厳選すると時間が溶ける溶ける。

 

「もう少し待ってくれ、あと一回、あと一回事故起こしたら帰るから」

 

「そう言って何回目だ貴様!事故を起こす度にそう言って粘ってるだろう!こっちはもう腕が痺れて来てるんだ!見ろ!ギロチンとチェンソーのやり過ぎで震える手を見ろ!この馬鹿者!」

 

「これ以上やるというのなら貴方自身をギロチン刑に処すのも吝かでは無くなりますよ」

 

ギャイギャイと騒ぎ立てるカロリーヌとスンッとした顔で恐ろしい忠告をしてくるジュスティーヌの抗議に蓮もこれ以上は本格的にマズイと判断して合体を中止する。そろそろお菓子で誤魔化すのも限界だと感じていたので逆にちょうど良かったかもしれない。

 

いい感じのペルソナも揃えられたし、まぁまぁ満足だ。欲を言えば補助スキルなどを更に厳選したかったが、それはまた別の機会にするとしよう。

 

「すまない、迷惑をかけた。お詫びと言っては何だが・・・」

 

「なんだ、菓子ならもう要らんぞ」

 

不機嫌な顔をしながらちゃっかりポケットにお菓子を詰め込んでる彼女にどこから出したのかそこそこでかい箱を鉄格子の間から渡す。

 

「なんだこれは?というかどこから出した?」

 

「こちらジュース詰め合わせセットとなっております。りんご、オレンジ、ブドウ、パイナップルにマスカット、そしてミックス・・・様々な味をご堪能頂けるかと」

 

「ほう!じゅーすか!」

 

「これが・・・様々な果物のテイストを楽しめるというジュースギフトという物ですね。お中元やお歳暮なるものの定番だとも聞いています。」

 

パカリと開かれた箱の中で何となく光り輝いているように見えるジュース達を前に先程までの不機嫌は何処へやら、こちらも負けないくらい目をキラキラと輝かせて箱を覗き込む2人はハッとすると蓮からジュースの箱を受け取り誤魔化すように咳払いをする。

 

「ゴホン!い、いい心がけだ囚人!これに免じて今回の所は許してやろう!」

 

「ええ、決して贈り物を前に胸を躍らせたわけではないですとも、ええ。」

 

「ちなみにこちら、それとは別に炭酸ジュースのセットとなります。コーラにラムネ、モンタにメッチなど・・・多種多様な炭酸を味わって頂けるかと。」

 

「なにっ!?こんなにか!?というかほんとにどこから出したんだ!?軽く3箱以上はあるだろ!?」

 

ジュースでウキウキ気分になっている2人に更に炭酸ジュースの追撃をぶち込む。謎空間からポンポンと炭酸を出していく蓮に謎の恐怖を感じたカロリーヌだが、それよりも未知の飲み物に興味津々なようでその視線は彼の出す炭酸に夢中だ。

 

「これが”こぉら”、何でも人の骨すら蝕むほどの糖度を誇るがその中毒性から愛飲するものが後を絶たないというまさに魔性の劇薬・・・と聞いた事があります。」

 

「なぁ!?ほ、骨を溶かすのか!?そ、そんなものを愛飲するなどどんな自殺志願者だ!?恐ろしい人間もいるものだ・・・!」

 

ジュスティーヌのやや偏った知識にカタカタと震えながら手に持ったコーラを見て戦慄するカロリーヌ。まぁ間違っては無いが大分誇張されたそれを面白いから放置してついでにアドバイスを送る。

 

「ちなみにそれらは冷やして飲むのが絶品なのでどうぞキンキンに冷やした上でお飲みください。暑い所で体を暖めてから冷えたジュースを飲むのも乙なものですよ。」

 

「なるほど・・・一考の余地ありか。流石にここでマグマを出すのは無しか・・・?」

 

「カロリーヌ?」

 

蓮の営業トークにベルベットサウナというよからぬ事を考え始めたカロリーヌにジュスティーヌが鋭い視線を浴びせると彼女はワタワタと慌てて取り繕い、蓮に労いの言葉を投げかけることでそれを誤魔化した。

 

「むぁ!?じょ、冗談だ!で、ではな囚人!この貢物は有難く貰ってやろう!次来る時は更に凄い物を持ってくるがいい!」

 

「更生もですが、そちらも期待していますよ」

 

そう言って微笑むジュスティーヌが指でボードを軽く叩くと蓮の体が後ろへ引っ張られる。それに抵抗することも無くスマブラのサンドバットくんのように直立で扉へと吸い込まれ、ガキンッとジュース群をブフダインで作った冷蔵庫もどきで冷やす彼女達を見ながら現実世界へと半ば強引に放り出されるのであった。

 

 

そしてドシャッと地面へと叩きつけられる蓮の精神体。釣り上げられたマグロのようにビタンと跳ねると綺麗に着地し、埃を叩いてから自身の肉体へと入り込んでいく。そして精神が完全に肉体に戻ると現実時間が動き始め、蓮も、いやジョーカーの肉体も意識を取り戻す。

 

ボーッとしていた肉体が瞬きを数度繰り返し、ぶれた視界を修正し出ていた涎を拭う。

 

「おーい、ジョーカー!どうしたんだよ!また考え事かー?」

 

背後からスカルがそう声をかけてくる。パンサーとモナ、そして志帆と新たに祐介、もとい『フォックス』も首を長くして待っていた。フォックスの話によると全員を告訴すると息巻いていたという斑目。そんな奴を改心させる為の期限は個展の終了まで。つまり6月5日、予告状のことを考えるとその前日の6月4日までとなった。

 

まだ余裕はあるがうかうかはしていられない。早速彼らはパレスへと乗り込みフォックスへ戦い方をレクチャーすると同時にオタカラへのルート確保へと乗り出していた。

 

「ふむ、何やら放心していたようだが大丈夫なのか?」

 

「あー、大丈夫大丈夫。リーダーってたまにああなるの。」

 

「それに大抵考える事は大した事ないものなんだよな」

 

「そうなのか?聡明そうな彼ならこの異世界でどう動くか考えてそうだが・・・」

 

「すまない、ゴ〇ゴ13がいるならゴル〇1から12もいるのだろうかと気になってしまって・・・」

 

「ほらな」

 

「・・・いや、確かに言われてみればそうだ。ふふ、やはり彼は柔軟な思考を持っているようだな。心強い、今度美術について議論を交わしてみようか・・・面白い答えが聞けそうだ、ふはは・・・!」

 

「おっと、そう来たか。」

 

「こっちもこっちで変人だったわ・・・」

 

「んだよゴル〇1〜12って・・・じゃあやっぱそういう組織的なのあんのかな!殺し屋育成機関的な!」

 

「ほぅ、これは面白くなってきたな・・・!」

 

「ああ〜収拾つかなくなってきた」

 

頓珍漢なことを抜かすジョーカーにパンサー達が呆れるもそれに謎の同調を見せるフォックスとそこに混ざるスカル。男子陣のアホアホトリオは男子高校生特有のノリでウキウキと盛り上がっている。

 

「3人とも!時間がもったいないからそろそろ行くよ!」

 

「「「はーい!」」」

 

「これもう志帆殿がリーダーでよくね?」

 

「ありかも」

 

志帆が引率の先生のように声掛けをすると素直に戻ってくるトリオ。リーダーとしての威厳が地の底を貫通してしまってコロコロと交代を検討されてしまっているが、気を取り直してジョーカーはキリッと気を引き締めてパレスへと向かっていった。

 

「ショータイムだ!!」

 

「相変わらず切り替え速いな」

 

「これ言えばいいと思ってるよね」

 

「そこがジョーカーのいい所だから」

 

「フォローなのか怪しいラインだなそれ・・・」

 

「仲が良いな君達は」

 

まぁそんなこんなでパレス攻略が始まった。内部へと潜入すると取り敢えず警戒の薄い弟子の絵画ゾーンでシャドウを強襲し、フォックスに対し戦闘のイロハをおさらいする。

 

「さて、シャドウには相性が存在し耐性を持つ属性と弱点となる属性があるんだったな。」

 

「ああ、例えばあのモコイ。奴は雷撃に耐性を持ち大したダメージを与えられず反撃の恐れがあるが、反面疾風に弱くそこを付けばダウンを取れる。」

 

「そしてある程度敵をダウンさせたら総攻撃で一網打尽と。」

 

「その通り、そして他にも物理攻撃を駆使したり状態異常を使ってクリティカルやテクニカルによって急所に大ダメージを与えダウンさせることも出来る。あとは補助スキルを使って味方の攻撃や防御などを上げたり、逆に相手のを下げたりするのも有効だ。」

 

「なるほどな・・・何となく分かってきた。しかし、弱点やらなんやらはまるでゲームのようだな」

 

「ゲームはゲームでも命懸けのデスゲームだけど、なっ!」

 

説明を聞きながら戦闘をするフォックスの言葉にそう返しながらモコイにクリティカルを与えダウンを奪うスカル。それに合わせてコロポックルにパンサーがアギを当て、カハクにパチンコの玉を当てるモナ。それにより敵シャドウが全員ダウン状態となり、総攻撃チャンスが訪れた。

 

「よし!行くぞお前ら!総攻撃チャンスだぁ!」

 

「しゃ!合わせろよフォックス!」

 

「善処しよう」

 

 

ブチィッ!!

 

 

全員が息を合わせて動きシャドウ達を袋叩きにする。苛烈な総攻撃にシャドウ達は耐え切れずに消滅していき、戦闘は終了。一息つくフォックスにメンバー達が集まってきた。

 

「おー!フォックス!中々いい総攻撃だったじゃねぇか、えぇ〜?」

 

「上手いじゃないか、ホントに初めてか〜?ああ〜?」

 

「む?ああ、初めてだが」

 

「おいおい初めてであれとはとんだテクニシャンだな!」

 

「こりゃとんだ麒麟児だぜッ!」

 

「やめろ馬鹿共!」

 

無垢なフォックスにセクハラをするスカルとジョーカーに鞭が飛ぶ。スパンッ!といい音を立てて打たれて2人は痛みに転げ回る。声を抑えながら無様に暴れる彼らにモナは呆れながらディアをかける。

 

「ったく、悪ふざけも程々にしろ。しかし、いい動きだったぞフォックス。新戦力として申し分ないぜ。」

 

「うんうん!ホントに!頼りにしてるよフォックス!」

 

「そう言われると光栄だな」

 

戦いっぷりを賞賛され、少し気恥ずかそうながらも嬉しげに首を回すフォックス。彼の動きはとてもしなやかでかつ力強く豪快だ。スピードの1点ならば現時点で最も高いと言えるだろう。勿論、ジョーカーを除いての話だが。

 

彼の攻撃は氷結と物理スキルで構成されている。物理アタッカーというとスカルと被って見えるが1発の威力はスカルの方が高い。連撃と速度のフォックス、一撃の破壊力のスカルと差別化出来る。

 

また彼は速度を上げて命中率と回避率を上げる『スクカジャ』を持っているのも魅力だ。

 

「よし、チュートリアルはその辺にして早速オタカラを探しに行こう」

 

セクハラ親父モードから怪盗モードに切り替わったジョーカーは真剣な顔付きでそう宣言し、手袋を直しながらパレスの奥へと向かっていく。その彼の背中にはいはいと少々呆れながらも笑みを浮かべてついて行くメンバー達。

 

真面目にパレス探索へ勤しみ始める彼らは奇跡の詰みイベ回避を見せたパンサー達が開けた襖の奥へと向かい、制御室の奥へと足を踏み入れた、

 

「さて、そこにあった『下』のパンフレットに乗ってる見取り図から考えると・・・オタカラは恐らくここだな」

 

「メインホールか、ここに行くにはラウンジとギャラリーを抜けるしかないな」

 

「奥に行くほど警備も厳重な筈だ。慎重に行こうぜ。」

 

「道中のイシも見落とさないようにしたいな」

 

「イシ?」

 

「まぁ見てのお楽しみだ」

 

新しい単語に興味津々なフォックスにそう告げてから彼らは足を進める。赤外線の張り巡らされたラウンジをここは任せろと単独で侵入し奥の警備員の目を盗み近くの警備員をサイレントキルして、即座に奥の警備員の方へ近づきこちらもサイレントキルをするという殺し屋さながらな腕を見せたジョーカー。

 

前から思っていたがコイツ実は怪盗じゃなくてアサシンなんじゃないかと引いているメンバーの目を気にせずにセキュリティルームへ向かうとその前にこれまでの警備員とは一線を画すオーラを放つ強敵が虫一匹通さぬと言わんばかりに立ち塞がっていた。

 

「おわ、あれ制御室の時もいたよな。」

 

「只者では無い佇まいだ・・・どうする?」

 

「避けられるならそうしたいところだがそうもいかん、奴があそこを守ってるってんならやるしかない。」

 

「リーダー、作戦はある?」

 

「ふむ、まず俺がやつに向かって目眩の小ビンを投げて視界を奪う。その隙に仮面を剥ぎ取るから混乱する奴をスカルの電撃で麻痺させ、パンサー、モナ、フォックスの銃撃で蜂の巣にする。これで行こう。」

 

「うむ、異議なしだ。お前らも問題無いな?」

 

即席作戦を組み立て、承認の共有をした副リーダーの言葉に全員頷くと、モナもジョーカーに目を向けて頷く。全会一致だ。それを受け取ったジョーカーはポケットの中に忍ばせていた目眩の小ビンを手に取り、作戦開始の合図を出した。

 

「よし、それじゃあ・・・1、2の、3!!」

 

「む!?なんだ貴様ァがァッ!?」

 

物陰から一気に飛び出したジョーカーは警備員に向かって駆けながら顔面へ正確に小ビンを投げつけた。割れると途端に効力を発揮したのか目を抑えふらつく警備員に接近しその仮面を剥ぎ取った。

 

たちまち肉体が溶けシャドウの姿が現れる。幽谷の怪僧とたわけた山伏が2体、目眩状態で出てくるとジョーカーは直ぐにその場から退き、それを確認したスカルのキャプテン・キッドがジオを放つ。

 

「しゃあっ!やれキッド!」

 

「な、にを、ってギャアアアアア!?」

 

唸る雷鳴が怪僧達を包むとその体を焦がし、同時に感電状態となり体の自由を奪った。バチバチと弾ける音が怪僧から響き、完全に動けない状態となった奴らに2つの銃口と1つのパチンコが向けられた。

 

「う、動けな・・・ま、待て・・・!!」

 

「待てと言われて」

 

「待つ奴がいるかってんだ!」

 

「行くよ!ファイヤー!!」

 

「こ、こんな、恥ずかしくないのかァァァァ・・・ッ!?」

 

怪僧の静止に一切聞く耳を持たずに躊躇無く引き金を引く3人。フラッシュが幾重にも弾け、鉄の殺意が音速で突き進み怪僧達に襲いかかる。無数の弾丸とパチンコ玉を無防備に受けては如何に強力な力を持っていようと意味をなさない。

 

消える直前に絶叫した怪僧だったが彼らには全く響かず無慈悲な雨霰にそれも掻き消され完全に消滅する。

 

「ハッ、外道相手に恥もくそもあるかっつの」

 

「まぁ、正直卑怯だとは思うけどね」

 

「気にすんな、吾輩達は怪盗。戦士じゃねぇんだ、戦い方でとやかく言われる筋合いはねぇさ。そんな事よりもさっさとセキュリティルームに行こうぜ。」

 

怪僧の捨て台詞をバッサリと切り捨て、倒した際にドロップしたスキルカードにジョーカー以外が首を捻りながらも部屋の中に入りセキュリティを切ろうと端末を操作するがパスワードが必要だと発覚する。それにまたかよと愚痴を零しながら渋々パスワードを知ってそうな警備員を探そうと部屋を出るとタイミング良く警備員同士が話をしていた。

 

「なぁあれって」

 

「グットタイミングだ、もしかしたら・・・!」

 

そう言って近くの物陰に隠れながら聞き耳を立てていると予想通りパスワードの事を報告している最中であった。これ幸いとしっかりと耳をすませて待機しているとそんな輩がいるとはつゆ知らず簡単にパスワードを漏らし始める。

 

「おい、例の侵入者中庭のセキュリティも突破してるらしいぞ」

 

「知ってるよ、さっきここのパスワードを変更しておくようにって連絡があった。」

 

「へぇ、それでパスワードは何にしたんだ?安直な語呂合わせじゃないだろうな」

 

「いやー急で思い付かなくてな。取り敢えず斑目様の足元の数字にしておいた。」

 

「足元・・・?どういう事だ?」

 

「まぁまぁ、取り敢えずパスワードは変更したから問題無い。警備に戻ろうぜ、奴らが近くにいないとも限らないんだ。」

 

「うぅむ、それもそうだな・・・」

 

そう言って別れた警備員達。それぞれの配置へと戻っていく奴らを確認してからジョーカー達は集まりパスワードについて議論する。

 

「斑目の足元って言ってたよな?足元、足元ぉ?」

 

「どういう意味だろう?足のサイズ?フォックス知ってる?」

 

「いや、残念だが聞いたことがないな。そもそも本当に足のサイズなのか?」

 

「足の長さ?」

 

「それパスワードにする?」

 

「ふぅむ・・・なんの事だろうな。何か思い当たることは無いか?」

 

モナがそう聞くとスカル達3人は顎に手をやり、?を頭に浮かべて頭を捻る。しかし全くもって心当たりが無く、?が2つ3つと増え始めた辺りでジョーカーがわざとらしくポンと手を打った。

 

「ああ」

 

「お!まさか分かったのかジョーカー!」

 

「長座体前屈のきろ「巫山戯たら太腿しばくかんね」・・・冗談だ」

 

注目を集めてから巫山戯ようとしたジョーカーにパンサーは聞くだけで痛そうな脅しで遮り、彼は割とマジの冷汗をかいてこれを撤回した。流石の彼もそこは勘弁願いたいようだ。というかこれは過去に食らった反応だわ。

 

的確な脅しに屈したジョーカーはスラスラと自身の推理を語る。

 

「足元の数字っていうのは恐らくあの銅像の下にあるプレートに書かれているものだろう」

 

「銅像?・・・ああ!斑目の足元ってそういう!」

 

「なるほどな、足元にある数字はそれか。となると、手間だがあそこまで戻らなきゃならんってわけか・・・。」

 

それを聞いて「うげぇ」と露骨に嫌そうな顔をするスカル。その反応も当然だ。戻ればまた強敵があそこに湧いている可能性が高く、そうなれば戦闘は恐らく避けられないからだ。

 

だが見にいかない訳にはいかないので仕方なく重い腰を上げて来た道を戻ろうとしたスカル達だったが、ツカツカとセキュリティルームへ戻ってしまったジョーカーを見て慌てて彼を追いかける。

 

「お、おいおいジョーカー!何してんだよ!まずは銅像を見に行かねぇとだろ?」

 

「面倒臭いのは分かるけどさ、後回しにするともっと面倒臭くなるよ?ほら行こ?」

 

「彼は幼子か何かと思われてるのか」

 

ジョーカーの周りをひょこひょこ回ってそう諭す、というかあやすパンサー達を見て思わずそうこぼすフォックス。まぁ普段の言動がね。しかしジョーカーはそれに反応もせずにさっさと端末の前に立つとこれまたダイナミックタッピング*3で数字を打ち込むとターーンッ!と力強くエンターを押す。

 

するとなんということでしょう。セキュリティの横からラウンジに続く壁や一部の壁が一気に解除されたではありませんか!これにはスカル達もびっくりびっくりどんどん。

 

「はぁ!?マジかよ!あんな適当に打った数字で解除出来たのか!?」

 

「それなんて奇跡!?」

 

「超衝撃波!?」

 

「なんでお前がびっくりしてんだよ!?」

 

打ち込んだ本人が驚いてスカル達と顔を見合せてるのを見て突っ込むモナ。そいつミラクルって単語に反応しただけだよ。

 

「というかジョーカー、お前まさか銅像の足元の数字覚えてたのか?」

 

「ん?ああ、パッと見て何となく覚えてた。忘れる前に発覚して良かった。」

 

ハハハ、と笑うジョーカーに内心で舌を巻くモナ。なんという優れた記憶能力。やはりこいつは侮れんほど、底無しの怪盗としての才能を持ってやがる!と戦慄し、同時になのに何故普段の挙動は残念なんだと頭を抱えた。

 

「よく覚えてたなー、まぁこれで通れるようになった訳だし!さっさと行こうぜ!」

 

「ついでに宝箱取りに行っていいか」

 

「おっけー」

 

「・・・あ、コラ!吾輩を置いていくなー!!」

 

超ハイスペックで見た目も超イケてる高級車なのにクラクションが幼児の靴が出す音だったみたいな、そんな残念感にモナが打ちひしがれてる間に彼らは壁が開いた宝箱を取りに行ってからラウンジを通り抜けようとするが、奥の扉へ行くための道には赤外線が張られており、通れそうもない。全員でキョロキョロと周りを見てみるがやはり通り抜けられそうなところも無かった。

 

「登れそうなところも通れそうなところもないね・・・」

 

「うえぇ、マジかよ。あのセキュリティ切っても赤外線は生きてんじゃどうしようもねぇぞ。こりゃ別ルート探すしかねぇか?」

 

「むぅ・・・ジョーカー、お前の目で見たらどうだ?」

 

モナも一頻り辺りを見渡した後にそれらしきものが無いことに渋い顔をして、これまでも数々の罠を見破ってきた慧眼(サードアイ)を持つジョーカーにそう聞いてみる。彼がそれに応えてゆっくりと周囲を見ていくとある一点で視線の動きがピタッと止まった。

 

「ふむ」

 

「ん、やはりお前も気になるかジョーカー。この絵が。」

 

その視線の先にあるのは壁に展示された巨大な絵画。このラウンジの中でも一際存在感のあるそれに特別な目を持つジョーカーとフォックスの2人はこれの異質な性質を見抜いていた。

 

「絵?この絵がなんだってんだよ?」

 

「いや、なにか・・・妙な雰囲気を感じてな。この絵にはなにか不思議な、吸い込まれるような力が・・・」

 

そう言ってフォックスがその絵へ手を伸ばし、表面へ触れようとすると・・・

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

「おぁーっ!?フォ、フォックス!?お前、腕が!?」

 

「安いもんさ、腕の1本くらい」*4

 

「死活問題なんだが。いやそれよりもこれは、まさか絵の中に入り込めるのか?」

 

まさかの事態にぎゃいぎゃいと騒がしい他メンバーを他所に彼は入り込んだ手を縦横無尽に動き回す。どうやら異常はないようだ、そのまま腕ごと突っ込みそれでも大丈夫そうだと分かったら今度は全身で絵の中へ入り込んでしまった。

 

「ちょ、何やってんの!?」

 

「アイツ絵の中に落ちたぞ!?」

 

「落ちたってよりかは自分から入ったようだが・・・」

 

「Foooooooooooooo!!!!!!」

 

「あ、ちょ、ジョーカー!」

 

「えぇ・・・躊躇無しかよ・・・よ、よっしゃ!!俺も!」

 

「行くしかないか・・・行こうパンサー!」

 

「う、うん!ど、どうにかなれー!」

 

狼狽えるスカル達、ちょんちょんと揺れる絵の表面を触ってフォックスの後を追うか躊躇っているとその隣をスパイダーマンの飛び込み並みの勢いで絵の中へ入り込んでいくジョーカー。ドパンッ!と凄い音を立てて消えていった彼を見て意を決して飛び込むスカル達。

 

ザパンッと波打つ絵画、その先にある二次元世界へと足を踏み入れた彼らはその奇妙な世界観に目を見開いた。三次元的な奥行きは無いが足場はあり、表面的なのに立体的に捉えることが出来る。そんなあべこべな、敢えて言うのなら2.5次元的な絵画の世界はその絵が表現するものをリアルにジョーカー達へと体感させていた。

 

「おぉ、これは・・・」

 

「な、なんだこりゃ・・・これホントに絵の中かよ!」

 

「笹が揺れる音も風も感じる・・・でも不思議、なんかこう、舞台の上にいるみたい。背景が横にあるみたいな・・・」

 

「吾輩達が絵の中に入った影響だろうな。なるほど絵の中を移動できるか・・・画家のパレスらしいギミックだな。と、なると・・・ジョーカー、先に進んでみよう。」

 

「ああ」

 

モナの提案に乗り、半透明な次元の壁のような膜のような絵の端へ走って行き、そこを通り抜けるとなんと別の絵へと移動してしまった。どうやら絵と絵が繋がり、通り道として機能してるらしい。

 

「おぉ、すげぇ!別の絵に飛んだぞ!」

 

「絵と絵が繋がってるのか・・・だが境目があれではどこにどう飛ぶか分からんな。ジョーカー、フォックス、お前らの目に頼る事になりそうだ」

 

「了解」

 

「うむ、絵の事ならは任せてくれ。」

 

この先も同じようなギミックがある可能性は高い。そもそも斑目は贋作作りに手を染めてたとしても芸術家の端くれだ。絵を使ったギミックは必ずあるだろう。モナは極めて高い審美眼を持つ2人の力が必須であると考え、ジョーカーに加えフォックスも前衛に配置し進もうとした矢先に絵の中に斑目の声が響いてきた。

 

『我が心の静ひつな竹林に土足で踏み込む賊どもめ・・・生かして返さぬわ!』

 

「うわっ!?この声、斑目!?」

 

「見つかったのか!?」

 

いきなり聞こえてきた斑目の声にパンサーとスカルは戦闘態勢に入り、周囲を警戒するがモナとジョーカーが手を上げて危険は無いことを伝えると武器を下げて戦闘態勢を解除した。

 

「いや、近くにいるわけじゃない。多分思考が声として聞こえただけだ。」

 

「思考が・・・じゃあ今のは斑目が考えてる事?」

 

「ざけやがって!土足で踏み込むだァ!?弟子達の夢を踏み潰してた癖によく言うぜあの狸ジジイ!」

 

「絵に込められた想いとは言うが・・・皮肉過ぎて笑えんな」

 

「気持ちは分かるがそれは後にとっておけ。今はとにかく進むぞ。」

 

モナの言う通り、奴への思いはオタカラをぶんどって改心させるまで取っておいた方がいい。あとどうせ戦うことになるし、そこで全てぶつけてしまえばいいのた。だから今は耐える、耐えて探ってこのパレスを攻略するまでは心の奥に秘めておくのだ。

 

斑目への怒りを新たに、彼らは奥を目指す。パレスの中心、オタカラを狙って。絵から抜け出し、ダクトを通った彼らはセーフルームで志帆の手作りおにぎりとコンソメスープを食べて一息ついた後、更に先へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

*1
祐介は水

*2
54巻のジョルノのジョジョ立ち

*3
前話推奨

*4
続投




異世界ナビ(サブスク月額550円)

カロリーヌ「おぉ!美味い!上手いぞコーラ!命知らずが執着するのも頷ける!」

ジュスティーヌ「りんごの爽やかな喉越し、そして柔らかな甘さ・・・いいものですね」


ペルソナ3Rで語りたいことが多すぎてやばい。ていうか主人公背負わされてるものが重すぎる。結末も思ってた数倍重い。キツいしんどい。

というか長くなりますけど語らせて貰ってもいいですかいいですよねありがとうございます未プレイの方はネタバレ注意です。









世界を救う為にその身を捧げた少年に涙する男!スパイダーマッ!!


まずストーリーはとても良かったです。思ってたよりも壮大で絶望的、けど複雑じゃなくてスラスラ進むので満足感は高かったですね。特に中盤終わりのどんでん返しが凄かった。そ、そうきたか!と思わず膝を打ってしまいました。逆にそこまでのストーリーは謎が多すぎてタルタロスを攻略するのと大アルカナシャドウ倒す以外なんかふわふわしてたのに一気に収束していく感じが気持ち良かったです。肩組んでた相手が急に脇腹にナイフ突きつけてきた気分。

ペルソナ5が味濃すぎて若干薄味に感じたけど多分量が少ないだけでそう錯覚してるだけ。ペルソナ5が大盛り二郎系ならこっちはトッピング全盛りこってりラーメンって感じです。終盤までギスってたというか衝突が起こるのがリアルでしたね。まぁ彼らまだ学生ですし、しかも全員お辛いもの抱えてるし。切れたナイフを抜き身で同じ箱に入れるな。というか大体桐条グループのせい、ストーリー全部ここの尻拭い。序盤はゆかりっちが正しいとは思わなかったよ。これの次の作品がアトラスの顔になるダンシング番長ってマジ?

作品要素も至ってシンプルでやりやすい、けどミニゲームとかは無いからやり込み要素は薄れるって感じ。裏ボスという最大のやり込み要素があるから無問題、かな?あと恒例のメンバーヒロインとコミュをするには高い人間パラメータを求められるってのが一周目には辛い。なんであいつら一緒に命かけてる仲間にそこまで求めんねん・・・。それとこれとは別ってことか。

最初の覚醒ですっごいワクワクしたんですけど後から見返すとこれが全ての引き金とか分かるか!ってなった。ペルソナ覚醒と同時に終わりの始まりとか誰が予想できんねん。というか召喚演出カッコよすぎる。全員分のカットインもめちゃくちゃ決まってるし、特に順平。弱点突くとキラキラエフェクトバリーンからのペルソナが現れるの最高。お気に入りペルソナはグルルです。テウルギアも最高、ひたすらジャックブラザーズ連打してました。

キャラの印象は

順平、序盤は良くいるお調子者キャラ。子供っぽく目立ちたがり屋で助平。かと思いきや主人公に嫉妬したり後先考えずに突っ込んで勝手にピンチになったり、その割には軽薄で命懸けの戦いの中でリーダーにこだわってたり、暗いのが嫌いと言いつつ場の流れを乱したり滑ったりと悪い所が目立つ。最後までプレイすると精神的に一歩成長したのが分かってなんか嬉しい。主人公の重大な秘密が分かった時の反応も一番等身大の人間してて個人的には好きです。ちゃんと面と向かって謝ったしね。嫌われる理由も一番人間の見たくない部分をさらけ出してるからだろうなと何となく分かる。周りの人間の覚悟がキマリ過ぎててヘイトの貧乏くじ引かされてる印象。


ゆかり、ストッパーかと思ったらバーサーカーだった。順平と同レベルに扱いが難しい。序盤は頑固で勝気な性格とひたすら独立に拘る姿勢も相まって気難しい子とか腹黒系か?と思ってたらそんなレベルじゃない拗らせ方してた。コミュとか過去を知ればそらそうなるよと。どこで変なスイッチを踏むか分からない全身地雷源。要所要所で順平より空気読めない時がある。敢えて読んでないだけだと思うけど、ぐいぐいと場を引っ張っていく様はもはや大将。けど追い詰められてる順平にあの弄り方は彼女なりの信頼もあるんだろうけど流石にちょっと引いたよ。順平と主人公とこの子で誰をリーダーにするかで主人公を選んだのは最良だったと思う。


風花、なんかヌルッと仲間になった気がする。貴重な探索サポートペルソナ持ち。覚えるスキル、サーチとオーラしか使わん。全体ヒートライザをまいてくれる最高の有能。なんならHPとSPも回復してくれるし、チャージコンセもまいてくれる神。パーティの要にして緩衝材。この子がいるだけでゆかりのストレスが60%くらいカットされてる。内気なので変に主人公に当たってこないし、自虐的だけど急にキレない女神。順平とゆかりっちは土下座した方がいいよ。


真田パイセン、頼りになる堅物脳筋。強さに拘りシャドウとの戦闘に胸躍らせているのを見てやべー戦闘狂かと思ったら割としっかりした人だった。成績優秀だし。飯を奢ってくれたり勉強を見てくれたりと良い先輩としての一面も見せてくれる。けど順平には当たりが強い気がする。軟派と硬派の違いか。何事も理論的に考えるから女性の扱いに難ありという意外な所もある。あんた女生徒侍らせてた訳じゃなくてマジで相手にしてなかったんかい。というか先輩組はもっと過去を語れ。誰もあんま語らないから気になって仕方ない。戦闘では通常が打属性なのでスタメンでした。



美鶴、クールビューティでブリリアントな美人生徒会長。けど大事な事は伝えないし、事前情報も伝えないし、隠し事が多すぎる後出しジャンケンウーマン。というか命懸けのミッションやらせてるのに事後報告が多すぎる。全部話してから協力を仰げ。無理でも加入後には話せ。聞かれなかったから言わなかったは詐欺だ。タルタロスに突っ込ませる前に死神の事は最低限伝えろ殺す気か。そらゆかりっちもキレるんだよなぁ。でもこの人自体も隠し事めっちゃされてる可哀想な中間管理職。親父も似たような感じだから遺伝だと思う。エプロン姿と可愛い服に憧れを持ってるのがキュートなので全て帳消しになってる。当然スタメン。可愛いでしょ?僕の彼女。まぁその後すぐ目の前で死んだんですけどね。酷くない?


アイギス、前作主人公、というか第二の主人公。主人公の特性というか物語の根幹に関わるキーマン。個人的にはMVP。登場時のロボ感満載時も終盤の人間に近付いた時もとても可愛い。人間とか機械とか関係ねぇ!可愛いもんは可愛いんだよ!!なるほどなー。生と死に向き合い、自分なりの答えを見つけていくのがとてもエモい。彼女だから出来る事を見つけた時は泣きそうになった。人の心を手に入れて幸せになった方のピノキオ。


コロマル、パーティ内随一の男気を持つ。戦う理由が常に大切な人を守る為、かつての主人が愛した世界を守る為ってお前ホントに犬か?余裕でニチアサ主人公やれるぞ。しかも加入時から強い、時期的に闇弱点が多いからSP消費が激しい。ソウルドロップは大体彼に消える。ブラッシングや散歩など凄まじくシステムがあざとい。好きになるに決まってんだよな。しかもギスらないし。ここ一番で活躍かっさらうし、パーティで一番信用出来る。ペルソナ覚醒が無いのが残念。テウルギアがズル。


天田、声優繋がりで乙骨にしか聞こえない。たまにシンジくん。最年少なのに復讐の為に生きてるとかいう覚悟ガンギマリなやつ。相手殺して自分も死ぬとかお前ホントに最年少か?最終的に手はかけなかったけど、おかげで死と生について考えて立ち直るのはメンタル強すぎてびっくりしたよ。並のガキなら絶対拗らせるのに。ハムスターを頼みますとか言ってたけど寮からいなくなるからかな?と思わせといて死ぬ気でしたは分かるかアホ!ってなった。特撮好きなので多分作者は仲良くなれる。アイギス辺りで性癖歪んでそう。というかあそこにいたら歪むでしょ、というか歪ませたい。


荒垣、何死んどねん。は?何死んでんの?え?まさかぁ、助かるでしょ?って思わせといてマジで死んで心底ビビった。好きだったのに・・・と悲劇のヒロインちっくな事言っちゃったよ。復学届の所でフラグ折ったと思ってた自分が浅はかでした。というか過去に犯した罪の為に力封じて手を引いたとか言ってたけどやるべき事逆やないか?寧ろ背負って戦うべきやったんやないか?と思うがそれは全てを知ってるプレイヤー側だから言えることであり、彼の心情を思うとそんな事言えるわけないのだ。料理上手なのがあざとい、オカン属性なのもあざとい。だからこそ言える、何死んどねん。最後の写真でウルっと来たよ。カストールとポリデュークス似てるのなんかエモい。


幾月、大体コイツのせい。裏切ると思わせて裏切らないと思わせて裏切ってきたやつ。中途半端な知識と都合良く曲解した認識でラスボスを起こして自分が王になるとか言ってた痛い奴。魅力のない夜神月。戦うのかと思ったらムービー死した。桐条父も死んだ。えぇ・・・。というかわざわざ磔にしてるの考えると笑える。ウルトラ兄弟かよ。あとなんでコロマル見逃しとんねん。一番警戒すべき男やろがい。というかなんでこいつの改竄に誰も気が付かないの?ワンマン作業だったの?違うよね?チームで研究してたんだよね?しかも桐条グループの。なのに誰も怪しいと思わなかったの?シャドウの反応とかさぁ、力増してる理由を各方面から探るとかさぁ。研究者全員コイツと同じ思想で動いてましたの方がまだ納得出来るよ。だとしても無能極まるけど。まぁコイツいなくても大型シャドウ倒さなきゃ影人間は増えてくクソゲーだったけど。


ストレガの皆さん、桐条グループの被害者。死んだ同胞達の犠牲の果てに手に入れた力を消させるかという割と共感出来る理由で立ちはだかってきた。境遇的には同情出来る奴ら。命懸けでペルソナ能力得てそれしかアイデンティティが無いのにそれを消されるとかたまったもんじゃないだろう。言いたいことも分かるし。ニュクス目覚めさせるとかも別にどう足掻こうがもう死ぬんだし受け入れようぜ!って感じだったし。万が一勝ったら影時間消えるから立ちはだかって来ただけだし。つってもやってる事が復讐代行とかだしそれはそれとして倒されるべき敵だった。ペルソナ5に出てきても違和感無い。作者は嫌いじゃない。なんかラスボスのおまけ感凄かったけど。荒垣殺したのは許さない。


コミュの皆さん、大体最初は明るい雰囲気なのにシレッと激重発言してお辛い展開を見せてくれる方々。特に神木。アイツ一人でペルソナ3やってる・・・。印象強すぎて他が霞む。でも一番好きなコミュ。小田桐君とかも好き。


エリザベス、どちら様にもメギドラオンでございます。史上最凶のエレベーターガール。強すぎて草。あんまり対策しないで取り敢えず挑戦してみたら消し炭にされた。攻略見てみたら対策ペルソナ作成がめんどくさいこと。これでも原作に比べたら大分楽ってマ?お出かけ関連は全部可愛かった。特にダンス。なんで攻略出来ないんですか?(大声)攻略した後タナトス使ってるのを見るとめちゃくちゃしんどくなった。


主人公、全ての負債を背負わされた男。幼少期に両親死んだ上にデスを封印されて騒動の原因になってしまうとかどんだけ重い因果持ってんだよってくらい可哀想。大体まどか。これ死んだの?って思って調べたらガチめに死んでるっぽいしこの後も重責背負わされてて草も生えない。救いは無いのですか?序盤も序盤に知らず知らずのうちに世界崩壊の引き金を引いてしまったって分かるかボケ!!ワイルドの演出かなんかだと思うだろ!主人公解放したらもれなくラスボスもこんにちわすんのマジでクソ仕様過ぎる。何とかならんのか。これのせいでジョーカー差し込めなくなった。2次小説でくらい救わせてくれよォ!!キミの記憶は神。というか歴代主人公の中でもワイルドとしてかなりの才能の持ち主だったんじゃなかろうか。ミックスレイドとか受胎とかしてたし。


綾時、あの子供だよなぁーって思ってたら更にヤバい奴だった。彼自体はめちゃくちゃいい友達だったのに正体があれとかもう、なんというか、救いが無い。なんなんだよマジで。可哀想だろ、せめてこう、なんかなかったの?戦うのくそ辛かったんですけど。いつの日か主人公と一緒に帰ってきて欲しい。


はー、スッキリした。語りたいこと大体語れましたありがとうございます。色々言ったけどほぼ皆好きですよ。ついでに、作者が一番連れ添ったペルソナは恐らくマガツイザナギです。なんか知らんけど合体で作ったらずっと使ってた。気がついたら90レベル超えてたし。おかしいな・・・アルセーヌより成長が早い。

長くなって申し訳ありません、次回もよろしくお願いいたします。


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