底辺ローランくんのミッド暮らし (ryanzi)
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おまえのような底辺がry)

ミッドチルダ、クラナガン。

管理世界の中心ではあるが、犯罪率は高い都市。

そんな都市に、一人の底辺層の青年がいた。年齢は十七歳。

名前はローラン。嘘つけ、絶対底辺じゃないだろお前。

 

「・・・これくらい造作もないなっと」

 

警棒を持った彼の周りには彼以上に大柄な男たちが倒れていた。

レジアスの死後、クラナガンの再開発地区の問題はさらに悪化した。

こうした事態に対し、地上本部が取った手段は、現地民に協力を仰ぐことであった。

ローランはこうしたバイトで生計を立てていた。

 

「さて、後はこいつらを局に引き渡せば仕事終了だ。悪く思うなよ」

 

相手は犯罪者とはいえ、生活するために仕方なく手を汚していたのだ。

再開発地区出身のローランにはそれがよくわかる。だが、

 

「それはそれで、これはこれだからな」

 

全てはこの一言に尽きる。

誰もがどうしようもない事情を抱えて生きているのだ。

それをいちいち気にしていたら、おかしくなってしまう。

だからこそ、彼はこれを口癖にしている。

 

「・・・四人か。よく一人で対処できたな」

 

「おっと、局員様。まあ危ないところでしたよ」

 

ローランからの連絡を受けて、局員が現場に到着した。

 

「・・・ふん、まあいい。報酬を楽しみに待っておけ」

 

「ありがとうございます、局員様」

 

局員は犯罪者たちをバインドで拘束すると、すぐさま去ってしまった。

勇猛果敢な管理局員といえど、あまり再開発地区には長居したくないようだ。

 

「・・・まったく、これじゃあどっちが治安維持に貢献しているのかわからないな」

 

彼はそう呟くと、再開発地区の薄暗い路地を再び歩き始めた。

再開発地区から見える地上本部は灰色の墓碑のようであった。

JS事件以降、ミッドチルダは表面的には落ち着いていた。

しかし、火薬庫(ミッドチルダ)は爆発するために存在する。それと同じように、着火剤(犯罪者)も存在する。

常に火薬庫(ミッドチルダ)着火(クーデター)の危機に晒されていると言ってもよい。

これに対して地上本部が取った手段は消火剤(底辺層)を散布することだった。

底辺の人間が犯罪者を捕まえればそれでよし。もし失敗しても、底辺の人間が死ぬだけだ。

レジアスだったらこんな手段を取らなかったであろう。むしろ、止めようとしたはずだ。

良くも悪くも、地上本部からは彼が保っていた厳格さが消えてしまったのだ。

だが、ローランにとってはどうでもいいことだった。

報酬は意外と良く、再開発地区外に遊びに行くことも可能になったからだ。

幼少期に地区外を訪れたことは何度かあるが、孤児院を訪れたぐらいだった。

彼の祖母が、孫が将来必ずお世話になるであろう場所の下見に連れて行ったのだ。

 

「あの二人、元気にしているかなあ」

 

ローランはその時友人になった少女たちのことを思い出す。

その時、どこからか叫び声が聞こえた。

 

「・・・また稼がせてもらいますか」

 

ローランは叫び声がした方向に走っていった。こうして再開発地区の夜は過ぎていく。

そして、その様子をビルの屋上から見ていたものがいた。

 

「・・・あれがローランですか。確かに強そうですね」

 

彼の日常が慌ただしいものになるのはそう遠くないだろう。



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底辺VS覇王

その日、ローランは買い物帰りの途中だった。

経済的余裕ができたことで、地区外の安全な食料を買えるようになったのだ。

なにしろ、裏路地再開発地区の肉は何が使っているかわからない。

とくにレストランが多い地区に関しては行方不明者が多い。

もちろん、まともなレストランもあるが。

 

「暗いなあ」

 

ローランはつい食材選びに時間をかけてしまった。

それでも、再開発地区よりかは安全に歩くことができる。

 

「・・・おい、ローランじゃないか」

 

背後から声をかけてきたのは再開発地区担当の局員だった。

その服装はかなりラフなものであった。

 

「あっ、局員様。今日は休日だったんですねえ」

 

「まあな。そういうお前も・・・」

 

「ははは、俺みたいな底辺にはそもそも職すらありませんよ」

 

「それもそうだったな。それはそうと、気をつけろよ。最近通り魔が出るらしいからな。どうやら強い奴を優先的に狙っているそうだ。格闘技で名を馳せたような奴とか」

 

「その論理で行けば、俺は永遠に狙われませんよ」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

「・・・とにかく、気を付けろよ」

 

そういうと局員はどこかに行ってしまった。

ローランも再び歩き始める。地区外の通り魔なんて怯えるほどでもないだろう。

彼はそう思いながら、口笛を吹いて歩く。

 

「ずいぶんと余裕そうですね。ローランさん」

 

噂をすれば影とはまさにこのことであろう。

ローランの前に、バイザーをかけた女性が立ちはだかった。

彼は一瞬で理解した。目の前の女性は明らかに強者の部類に入る人間だと。

 

「・・・底辺の俺に何の用ですかあ?」

 

「・・・私の求める強さは、その底辺にあるのです」

 

次の瞬間、拳がローランの目の前に迫る。

もちろん、ローランは確実な回避でそれを避けることに成功した。

これくらいの攻撃は避けれなければ、再開発地区では生き残れないだろう。

 

「おいおい、突然殴りかかってくるなんて、穏やかじゃありませんねえ」

 

「・・・その余裕、いつまで持つんですか?」

 

彼女はまた拳をローランに対して繰り出す。

 

「危ないなあ!当たると痛いんだぞ!」

 

「当たらなかったじゃないですか」

 

ローランは納得した。

 

「確かにそれもそうだな」

 

「・・・準備運動は終わりです」

 

「えっ、今のが準備運動?どういうことだよ」

 

女性はバイザーを外した。その瞳は青系のオッドアイだった。

だが、ローランが気にしたのはそこではない。

裏路地・・・じゃなかった。再開発地区暮らしが長いからこそ、それに気づいた。

 

(クソ!いつ一目惚れされたんだ!?)

 

話は少しずれるが、再開発地区はどこかのゲームの貧民街と同じように理不尽だ。

もちろん、あっちの方が狂っているが、それは問題ではない。

再開発地区にも様々な理不尽が存在するのだ。

特筆すべき点は、男尊女卑と女尊男卑が同時に存在するということだ。

ローランは前者は言うまでもなく、後者の方に関しても何度も目撃したのだ。

知人(男性)が何とは言わないが責任を取らされるのを何回も見てきた。

彼の祖母(行方不明)でさえも

 

「今も昔も変わらないねえ」

 

と言っていたのだ。そして、さらに悪質なケースについても多く知っている。

そうしたケースの場合は、女性の目は明らかに危険なことになっている。

話を戻そう。目の前の女性の目はもちろん怖いことになっている。

 

「どういうことって?準備運動は準備運動ですよ?」

 

彼女は微笑みながら言った。その表情には恍惚が見て取れる。

 

「大丈夫ですよ。すぐに済みますから」

 

「何を言ってるんだ」

 

ローランは一瞬逃げることを考えた。しかし、こういった手合いは地の果てまで追ってくる。

ならば、諦めるべきか。だが、それはそれで酷い結果しかもたらさない。

だったら道は一つ。戦うだけだ。

 

「はあ・・・。やるしかありませんか」

 

「ええ、殺し合いましょう(愛し合いましょう)

 

「・・・一つだけ聞くが、いつ俺を見つけた?」

 

「風の噂で貴方のことを聞いたので、確認しに行ってみたんです。ビルの屋上から見てたんですが」

 

「それで?」

 

「貴方だったら、殺し合える(愛し合える)と思いました」

 

「ですよねえ」

 

この手のパターンは明らかにアウトだ。命が危ない。

 

「覇王断空拳」

 

さっきよりも拳のキレが明らかに違う。

当たったらひとたまりもないだろう。

 

「避けないでください。殺意(アイ)をたっぷり込めてるのに」

 

「その殺意は欲しいと思ったことすらないな」

 

ローランは反撃を試みる。警棒を取り出して、女性の肘に当てる。

確かに、その一撃は肘に当たったはずだった。

 

「痛いです・・・。もっと、もっと見せてください。貴方の(アイ)を」

 

ローランの敗北は決定した。これがどこかの図書館だったら、負けてもよかった。

だが、ここはミッドチルダだ。死んだらそれまで。本を取られるだけではすまないのだ。

 

「さすがに逃げるしかないよな・・・?」

 

ローランは無駄だとわかっていながら、逃げ出した。

 

「逃がしません」

 

女性もローランを追う。

そして、十分が経過しただろうか?ローランは背後を確認する。誰もいない。

だが、彼にはわかっていた。彼女を撒くことはできていないと。

彼女のような手合いは、本能的に獲物の場所を察知しているのだ。

そして、ここは人通りがない場所だった。彼の終わりはここだ。

 

「諦めてくれましたか」

 

彼女が来るのに、数秒もかからなかった。

ローランは生気を失った知人男性たちを思い返した。

 

「ああ、クソ。今まではあいつらを不注意だと馬鹿にしてたのに、いざ自分がそうなるとどうしようもないもんだな」

 

「そんな悲観的にならないでください。さて、さっきの続きをもう一度しましょう」

 

ローランは警棒を構える。

 

「こうなったらヤケだ。一矢報いてやる」

 

「それですよ。貴方の殺意(アイ)がたっぷり感じられます。こんなにうれしいのは初めてです」

 

勝負は一瞬でついた。ローランは倒れ、少女はせき込んだだけだった。

 

「痛いです・・・。でも、うれしい。貴方に会えて、本当に良かった」

 

「・・・ああ、もう最悪だ」

 

彼女は一歩、一歩、また一歩とローランに近づく。

 

「安心してください。最期に気持ちよくさせてあげれるので」

 

「・・・まさか、俺を犯すつもりか?」

 

「大丈夫ですよ。痛いのは私の方なんで」

 

「そこが大丈夫じゃねえんだよ。最悪の死に方じゃないか」

 

女性がローランのズボンに触れようとした、その時であった。

 

「そこのお前、何をしてる!」

 

赤髪の女性が叫んだ。

ローランは安堵した。その女性は明らかに状況を正しく把握していた。

彼女の敵意がこもった視線は、通り魔に向けられていたからだ。

 

「・・・邪魔しないでくれませんか。ストライクアーツ有段者ノーヴェ・ナカジマ」

 

「へえ、アタシの名前を知ってるのか」

 

「ええ、あなたに尋ねたいことがあったので。でも、後にします。それよりも・・・」

 

女性は自分の目を疑った。ローランがいないのだ。

 

「・・・そこですか」

 

女性は本能でローランの逃げている方向を察知した。

その方向に向かって走り出そうとしたとき、ノーヴェが彼女の腕をつかんだ。

 

「おっと、アタシに尋ねたいことがあるんだろ?」

 

「・・・人の恋路を邪魔しないでくれませんか?」

 

「明らかにアイツ嫌がってたように見えたけどな」

 

「・・・話が通じなさそうですね」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

そのころ、ローランは傷ついた体を引きずりながら、家路に急いでいた。

だが、不良少年たちに見つかってしまった。

地区外にも不良少年たちはいるものだ。

 

「おい、あいつローランってやつじゃね?」

 

誰かがそう言った。

 

「誰だよそれ」

 

「知らねえの?再開発地区でボランティアしてる奴らの一人だよ」

 

ボランティアというのは、地上本部の作戦を意味する隠語である。

 

「ふうん、とにかくお金を持ってるってことだろ。再開発地区のドブネズミにはもったいねえよ」

 

なにはともあれ、ローランは不良少年たちに取り囲まれてしまった。

普段のローランだったら安々と片付けることができるが、手負いの状態だ。

 

「・・・えっと、お金あげるから見逃してくれねえかな」

 

相手は何も言わなかった。いや、言う暇もなかったと言った方が正しかった。

突如現れた少女が、その不良少年たちを全滅させたのだ。

少女の後ろ姿はどこか頼もしく思えた。ローランよりもずっと背が小さいのに。

自分の心の拠り所はここだ、とローランはなぜかそう思った。

そして、ローランはその少女に見覚えがあった。

 

「・・・リンネ、リンネなのか?」

 

「・・・誰ですか?」

 

かつて下見に行ったことのある孤児院で友人になった少女だった。

あの時は何だか気弱に見えたのに、今ではすごく頼もしく思えた。

彼女の瞳は濁って見えたが、ローランは気にしなかった。

 

「多分、覚えていないだろうけど、ローランだよ。前に遊びに来た事あるじゃん」

 

「ああ、貴方でしたか。この辺は危ないですから、早く家に帰ってください」

 

そう言うと、リンネはどこかに行ってしまった。

ローランはどこか不思議な感覚を抱いたまま、家に帰っていった。

体が痛かったが、気にもならなかった。



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殺伐とした底辺に雷帝が!

ローランの人生は灰色であった。

もちろん、祖母は荒っぽいながらも、愛情をこめて育ててくれた。

それでも、再開発地区という場所は人生観を冷えたものにするのには十分すぎた。

だが、祖母に連れられて孤児院の下見に行った時、初めてローランの人生が着色された。

出会ったのは二人の少女。一人は言葉訛りがあり、もう一人は気弱ではあるが明るかった。

こうした出会いから、ローランの人生は少し明るくなった。

二回目にローランの人生に色が付いたのは・・・。

まあ、ローランの人生についての話はまた後にしよう。

通り魔に襲われかけた次の日。ローランの隣の部屋に誰かが引っ越してきた。

挨拶しに行ってみたら、いつもの局員だった。

 

「何があったんですか、局員様」

 

「もう俺は局員じゃないんだ。・・・なあ、なんで女性って強いんだろうな」

 

ローランは元局員の生気のない表情から何かを察した。

 

「・・・えっと、ご愁傷さまです」

 

「ありがとう・・・、お前も気を付けろよ」

 

もしかしたら、ローランも目の前の元局員のようになっていたかもしれないのだ。

ローランはそう思うと身震いした。

 

「・・・まあ、今まで通り、お前はお前の仕事をしろ」

 

「・・・わかりました」

 

「あと、俺のことはユンと呼んでくれ。これからは俺の後輩のフィンが見回りを担当する」

 

「・・・その局員は、大丈夫ですか?」

 

「・・・さあな。少し世間知らずなところがあるからな」

 

ああ、すぐに交代するのだろう。ローランはそう思った。

そして、数時間が経った。今日も普通に仕事をこなした。

後任のフィンとかいう少年は明らかに再開発地区の担当には不似合いだった。

どうせ、どっかの路地に連れ込まれて、内臓を取られるところを見ながら死ぬのだろう。

運が良ければ、年上の女性に連れ込まれて、何とは言わないが卒業するのだろう。

 

「つ、捕まりたくないんだな」

 

「お、おれたち強いんだぞ」

 

「や、やってやる」

 

ローランは今日も犯罪者たちをボコボコにして、フィンに引き渡した。

今回は体を機械に改造した三人組を相手にした。さすがに厳しかった。

 

「ひ、ひどいや・・・」

 

「ああ、体が痛いな。昨日のあれがまだ響いてやがる」

 

ローランはいったんどこかで体を休めることにした。ちょうどいいところにベンチがある。

そこに座って一息ついた。すると、場違いな高級車が彼の前に数分間止まった。

車が走り出した時には、すでにローランの姿はなかった。リムジンだが、ハイエースだ。

 

「また人さらいか。不注意だな」

 

誰かがそう言った。裏路地では当たり前のことだ。

おっと、訂正。再開発地区では当たり前のことだ。

 

「あいつどうなると思う?」

 

「解体ショーに一万」

 

「逆レイプに三万」

 

「拷問に五万だ」

 

周りにいた者たちは賭け事を始めた。心配するのは時間の無駄なのだ。

こうしてローランの姿は再開発地区から消えた。

そのころ、フィンとユンはローランについて話していた。

 

「先輩、そういえばローランさんはどうしてスーツ姿なんですか?」

 

「やっぱり気になったか。確かに裏路地にしては珍しい正装だからな」

 

 

セリフにミスがあったことをお詫びいたします

 

 

「やっぱり気になったか。確かに再開発地区にしては珍しい正装だからな」

 

「どうしてなんでしょうかね?」

 

「前に聞いたことはあるが、昔どっかのお屋敷で働いていたそうだ」

 

それからしばらくして、ローランは柔らかいベッドの上で目を覚ました。

部屋の中を見回すと、ベルカ的な調度品で彩られていた。

ローランはその部屋に見覚えがあった。その部屋はかつてローランが仕えていた屋敷の・・・。

 

「ようやく起きてくれましたか」

 

部屋に入ってきたのは、気品あふれる女性だった。

 

「ヴィ、ヴィクトーリア様!?」

 

彼女はローランが仕えていた令嬢で、昔と比べてさらに美しくなっていた。

 

「もう、前から言ってるじゃない。ヴィクターって呼んでって」

 

彼女は笑いながら言った。だが、その目には光が宿っていなかった。

ローランはショックを受けた。ヴィクターこそ、ローランの人生に色を与えた人間だったのに。

祖母が行方不明になってから数か月。ローランは結局あの孤児院には入らなかった。

すでに、ローランは一人で生活をすることのできるまでに成長していたからだ。

すったもんだの末に、ローランは何とかベルカ貴族の屋敷の使用人になった。

裏路地と違・・・再開発地区と違い、こういった場所ではマナーが重要となる。

ローランは姉のごとき存在となったヴィクターからそういったものを教えてもらった。

祖母を失ったローランにとって、ヴィクターは雇用主であると同時に、保護者でもあった。

灰色であったローランの人生はこうして彩られることになったのだ。

しかし、ある少女が現れたことでローランは自主退職した。

 

「・・・ウチからヴィクターを奪わんで」

 

ローランよりも年上のその少女は泣きながら言ったのだ。

彼にはどうしようもなかった。ただ何も言わずにやめるしかなかった。

一言でもなにか言うべきだったのだ。そうすればハイエース(リムジン)されることもなかった。

だが、もう遅い。ローランは首に違和感を感じた。首輪だ。それも機械式の。

下手に外したら、ローランの首が爆発してしまう。

 

「もうどこにも行かないでくださいね、ローラン」



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底辺は屋敷から脱出しようとする

首輪を付けられたことと屋敷から出られないことを除けば、ローランは自由だった。

ヴィクターの目も、少しずつ光が戻りつつあった。

それでも、ローランは辛かった。

 

「やっぱりスパイス入れすぎましたか?」

 

「ヴィクター、”から”いんじゃない。”つら”いんだよ」

 

「何が辛いんですか?」

 

「あっ」

 

「お仕置きですね。尻たたきは可哀想なので・・・穴突きにしましょう」

 

「アッー!」

 

・・・話を戻そう。とにかく、ローランは軟禁状態に置かれていた。

だが、ここで一生を過ごしたら、話が終わってしまう。

ローランは考えた。この状況を享受してしまったら、

ローランのためにも、ヴィクターのためにもならないのは明白だ。

ローランはどうあがいても底辺にいるしかないだろう。

だが、ヴィクターは違う。ヴィクターはちゃんと陽に照らされた人生を歩むべきなのだ。

そこで、屋敷を脱出することに決めた。

 

「エドガーさん、協力してもらえませんかねえ?」

 

「無理です。そんなことしたら、殺されます」

 

「まさか。エドガーさんが・・・」

 

「あの目を見なかったんですか?」

 

「ですよねえ」

 

ローランはもう一つの手段に出た。

紙飛行機、どこの次元世界だろうと似たようなものはある。

 

「ヴィクター、紙飛行機作ろうぜ」

 

「あら、久しぶりね。ローランと折り紙するのは」

 

ローランとヴィクターは調子に乗って、三十個くらい作ってしまった。

だが、むしろローランにとって都合がよかった。

 

「・・・ローラン!手から血が出てるじゃない!」

 

「あっ、本当だな。多分、はさみ使った時に切れちまったんだろうな」

 

「えっと、絆創膏・・・ないわね。・・・ペロッ」

 

「ヴィクター??なんで舐めたの?」

 

とにかく、ローランの血が付いた紙飛行機は屋敷の敷地から離れたところに着陸した。

そして、その血に込められた意味を知るものがローランの期待通りに拾うことになった。

 

「・・・これはローランの匂い!クンカクンカ!」

 

「アインハルトさん??」

 

覇王の奇行に聖王はドン引きした。

 

「なるほど、雷帝の子孫の屋敷に閉じ込められているのですか」

 

「なんで舐めただけでわかるんですか?」

 

「とにかく、彼を助けに行かなければいけないので!」

 

アインハルトは全速力で走っていった。

 

「・・・ノーヴェさん、アインハルトさんが約束を破ったよ」

 

ヴィヴィオはすぐにコーチであるノーヴェに連絡を取った。

 

「オーケイ、今すぐ向かう」

 

それはともかく、ヴィクターはずっとローランの傷口を舐めていた。

良い子のハーメルンの皆さんはマネしないでね。

 

「ヴィクター、いつまで舐めるつもりだ?」

 

「血が止まるまでです。もう血で手紙が書けないほどまでに」

 

「なにを言ってるんだい?ヴィクター」

 

「見てましたからね」

 

「バレてた?」

 

「はい、何枚もの紙飛行機に血を付けて飛ばしていたじゃないですか」

 

「・・・お願いがあるんだけど」

 

「いやです」

 

わかっていた。話し合いは無意味だと。両者は武器を構えた。

 

「懐かしいですね、こうして武器を向けるのも」

 

「・・・いつもヴィクターには負けていたな」

 

ヴィクターが勝てば、状況維持(飼い殺し)

ローランが勝てば、自由(底辺逆戻り)

普通の者であれば、前者を選ぶだろう。だが、ローランは後者を望んだ。

これはむしろヴィクターのことを思っての行動であった。

ローランはヴィクターにまともな人生を送ってほしいのだ。

そのまともな人生に、底辺(ローラン)は相応しくないのである。

 

「始めますよ、ローラン。覚悟はできてますよね」

 

「まあ、ゆるくやっていきましょうか」

 

本当であれば、ここから繰り広げられる戦いを描写したいところだ。

しかし、作者にはバトルシーンを書く文才がないのだ。

そこで、戦いの様子を想像できるように、一言で表現しようと思う。

 

 

争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!!

 

 

勝負はついた。ローランはうつ伏せになって倒れていた。

ヴィクターは口からドバドバと血を吐いているが、それだけだ。

 

「強くなりましたね、ローラン。それでも私には勝てませんでしたね」

 

「・・・ちくしょう・・・」

 

ローランの人生の終着点はここであると決定されたのだ。

現実は非情だ。さっき飛ばしたいくつかの紙飛行機も無意味になるだろう。

 

「・・・ヴィクター、どうして俺みたいな・・・奴なんかに」

 

「自分を卑下する悪い癖、変わってませんね。私に色々なことを教えてくれたのはローランです」

 

ローランは驚きのあまり顔を上げた。

 

「えっ・・・どういうことだよ・・・」

 

「ローランと会うまで、私の人生には何かが欠けていたんです。そこを貴方が埋めてくれたんです。見たことも無いような場所、想像できないような料理、冷えているようで実は暖かい人たち、普通だったら体験できないような話を聞かせてくれたのは貴方でした」

 

ローランがヴィクターからマナーや常識を教えてもらっていたように、

ヴィクターもまたローランから再開発地区のとんでもない話を教えてもらっていた。

 

「それに、そんな場所で孤独に生きている貴方を見て思ったんです。貴方の母親になりたいって」

 

おかんの誕生である(白目)。

 

「貴方はずっと辛い人生を送ってきた。貴方に会わなかったら、そういった人たちのことを想像できないままだった。だから、思ったんです。そういった人の母親になりたいって」

 

「ヴィクター・・・。そんなことに、人生を棒に振るつもりなのか・・・」

 

その時、何者かが窓ガラスを割って、部屋に飛び込んできた。

 

「・・・ローランさん。やはり大変なことになっていましたか」

 

それが誰なのか、ローランには一瞬でわかった。

この前の通り魔だ。紙飛行機は役目を果たしたのだ。

 

「ローラン、友達は選ばなきゃダメでしょ?」

 

ヴィクターは冷えた笑みを浮かべながら言った。

 

「友達?違います、夫婦です」

 

「あらあら、ローランの妻になりたいなら、母親(わたくし)に認められないと」

 

ある意味では地獄だったが、ローランにとっては都合がよかった。

ローランはこの隙に部屋から脱出した。体のあちこちがずきずきと痛む。

彼が向かったのは設備室だった。そこにはデバイス調整用の機械や、整備器具もそろっている。

幸い、この首輪は旧式のものであるから、パスワードを打ち込む必要はない。

ただ器具でいくつかの部品を慎重に外すだけで済む。

 

「そうはいかんぞ、ローラン君」

 

設備室の前にはヴィクターの父親、つまりダールグリュン家の当主がいた。

それだけではない。ダールグリュン家に仕える執事たちが武器を構えて並んでいた。

あのベルカ出身の貴族だ。彼らは全員腕利きと言ってもよいだろう「。

 

「当主様、俺逃げたいんですが。ほら、俺がいると、お嬢様のためにもよくないし」

 

「ふむ、君はわかっていないようだ。逃げられたら、ワシらがどんな目に遭うと思う?」

 

「そうです、ローラン。死にたくありません」

 

当主の言葉に、エドガーも強く頷いた。

 

「・・・やるしかないな」

 

ローランは再び武器を構える。

 

「手負いの状態で、ワシらに勝てるとでも?」

 

「勝つしかないんだよ」

 

執事たちが一斉にローランに向かってくる。

ローランは彼らの攻撃を上手く受け流し、一人また一人と気絶させていった。

もちろん、手負いの状態なので、いくつかの攻撃を食らった。

だが、それでもローランは立っていた。

気がつけば、残っているのはエドガーと当主だけだった。

 

「ふふふ・・・。エドガー、謝ってすみそうかね?ワシ雷撃もらいたくないんだけど?」

 

「無理ですね、全員雷撃確定ですね」

 

ローランと違い、彼らはずっとヴィクターと一つ屋根の下にいたのだ。

だからこそ、ローラン以上にヴィクターの恐ろしさを知っていた。

 

「ですが、彼はもう立っているのもやっとです」

 

「・・・そうだな。すまんなローラン君」

 

だが、またまた何者かが彼らを不意打ちして、気絶させた。

 

「・・・オレはハリー。てめえがローランってやつか?」

 

「あ、ああ。そうだけど・・・」

 

「この紙飛行機がヴィクターの家から飛んできたからな」

 

彼女は紙飛行機を広げた。アインハルトが拾った紙飛行機とはまた違い、

それには血で「ROLAND」と書かれていた。

 

「あいつの様子が少しおかしいのはわかってたけどさ、こんなことまでしでかすとは・・・」

 

彼女はローランの首輪に向かって魔法を放った。首輪は爆発することなく壊れた。

 

「アンタは早く逃げとけ。オレはあいつを叩きなおしてくる」

 

「・・・すまない」

 

「・・・早く逃げろ」

 

ローランはその場から走り去った。

ローランはこの屋敷に勤めた経験があったので、いくつもある出入り口を知っていた。

彼は一番近くの、それでいてヴィクターも知らないような出入り口に向かった。

だが、どういうわけかメイドたちが待ち構えていた。

あのベルカ貴族のメイドたちだ。弱いはずがない。

このままではメイドたちによって冥土に送られてしまうだろう。

 

「ヴィクター様の予想通りですね」

 

「ちくしょう」

 

「悪く思わないでくださいね。ローランさん」

 

さすがに連戦がたたって、ローランはもうまともに攻撃を受け流せなかった。

それでも、メイドたちの何人かを倒すことはできたが、無意味だった。

視界がだんだんと暗くなっていく。だが、また誰かがメイドたちを一瞬で全滅させた。

白い髪、紫色の淀んだ瞳、それは間違いなくリンネだった。

 

「・・・紙飛行機、拾いました」

 

彼女は紙飛行機を取り出した。ハリーとかいう少女が拾ったのと同じように名前が書かれていた。

 

「じっとしていてください」

 

彼女はローランを抱きかかえると、とんでもない速さで屋敷から走り去った。

ローランには、その姿はとても頼もしく思えた。

通り魔に襲われた夜と、同じような感覚に襲われた。

さて、そのころ・・・・

 

「アインハルト、接近禁止命令を破るなと言ったよな?」

 

「ヴィクター、てめえ何やったのかわかってんのか!?」



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聖王は底辺に(健全な)アプローチしようとする

ヴィヴィオはローランとかいう男が善良な人間とは思えなかった。

もとから痛い子であるアインハルトをさらに痛くするような人物だからだ。

そして、ヴィヴィオはローランの顔を知らなかった。

知っていたら、一目惚れはなかったかもしれない。

・・・もしかすると、顔を知っていたとしても一目惚れしたかもしれないが。

それはコロナとリオと一緒に喫茶店でケーキを食べていたときのことだった。

突然、大声が店内に響いた。不良少年たちが店員に言いがかりをつけているのだ。

 

「おっと、そこまでにしとけ。カレーがマズくなる」

 

その少年たちをスーツ姿の青年が諫めようとした。

 

「ああ?うるせえ!」

 

当然、不良少年たちは逆上した。青年ひとりに対し、少年たちは五人。

誰が見ても、青年の方が不利だった。だが、青年はその不利を覆したのだ。

警棒を取り出した青年は五人のうち三人を一瞬で気絶させた。

それで一人は逃げ出し、最後に残った一人は青年に無謀にも突進してきた。

ヴィヴィオはその技を見たことがなかった。

青年は不良少年の腕を変わった方法で掴み、捻り上げたのだ。

 

「それ以上いけない」

 

店員がそういうと青年は不良少年を離した。少年は逃げ出した。

 

「あーあ、やってしまったな・・・」

 

青年はそう呟くと、またカレーを食べ始めた。

後に母親に聞いてみたのだが、それはアームロックとかいう技らしい。

詳しいことはわからないが、それは地球の格闘技の技の一つらしい。

だが、ヴィヴィオにはそんなことはどうでもよかった。

かっこよかったのだ。始まりはそんな単純な事であった。

しかし、色々と壁が多かった。まず、名前すら知らなかったのだ。

そこで、彼女は聞き込みから始めた。

 

「アインハルトさん、少し聞きたいことがあるんですが・・・」

 

まだ何も言ってないのに、覇王は理解した。

 

「・・・ローランさんのことですね!」

 

アインハルトは滅多に笑わないが、ローランのことになると顔が輝いてくる。

最初の難関は一瞬で突破できた。しかし、第二の難関が立ちはだかった。

彼は再開発地区に住んでいるのだ。遊びに行くのは言語道断だ。

では、彼が再開発地区から出てくるのを待つべきか。だが、近くにいるだけでも少し危険だ。

仕方がないので、またアレに聞くことにした。

 

「たまに西の方のスーパーで買い物をしていますよ」

 

ヴィヴィオは地図を広げて思案した。スーパーで少女が一人でいるのはおかしいだろう。

そこで、彼女は再開発地区からスーパーまでの近道を地図で探した。

案の定、ローランはその道を通っていた。そして、彼女は幸運だった。

彼女は天気予報を見ていたが、ローランは見ていなかったのだ。雨が降り出した。

 

「あの・・・傘入りませんか?」

 

「えっ、いいのか?」

 

おまわりさんこいつです。・・・とにかく、接点を持つことには成功した。

だが、第三の難関が待ち構えていることはとっくに知っていた。

明らかに身分違いなのだ。聖王と底辺、周囲の反対は明らかだ。教会は許さないだろう。

そもそも、義母が許してくれるかどうかさえ怪しい。

さらにいえば、覇王が怪しい。

 

「・・・最近、やけにローランさんのことを気にしているようですが」

 

「気のせいですよ!」

 

目が怖いことになっていた。もうすぐ合宿なのに、不安である。

だが、ヴィヴィオは諦めない。そこで、味方をつけることにした。

 

「フェイトママ、実はね・・・」

 

だが、彼女からの返答は意外なものだった。

 

「異性愛は不毛だよ、ヴィヴィオ」

 

ヴィヴィオはすぐに逃げ出した。フェイトが自分に賛同しなかったからではない。

フェイトのすぐ後ろで、魔王が砲撃準備を整えていたからだ。

 

「・・・フェイトちゃん、何を吹き込んでいるのかな?」

 

「なのは!?これは違うの!ヴィヴィオにちゃんとした知識を・・・」

 

「滅」

 

悪は滅びた。

 

「・・・ヴィヴィオ、やるなら全力全開だよ」

 

「・・・わかった!」

 

ヴィヴィオには思わぬ味方がつくことになった。

 

「あっ、ローランさん!」

 

「おっ、奇遇だな。ヴィヴィオ。これから買い物に行くところだ」

 

「私もついてっていいですか!ちょうどお使いを頼まれているので」

 

「いいけど、俺と一緒だとつまらないと思うぞ」

 

「いいんです!むしろ、ローランさんと一緒のほうがいいんです!」

 

「うん?そうなのか?」

 

ローランは気づかなかった。

ヴィヴィオの目が病んでいなかったから、自分に好意を持っていると気づかなかったのだ。

もちろん、ヴィヴィオはそこも承知の上であった。

アレのように目が病んでいたら、ローランが逃げてしまうからだ。

ちゃんとローランのことも考えて、アプローチしていくのだ。

 

「やはり聖王は倒すべきでしたか」

 

「同感ですね、アインハルトさん」

 

「ほう?懲りてないようだな」

 

「ヴィクター、覚悟はいいな?」

 

アインハルトには腕立て伏せ千回が言い渡された。

ヴィクターはハリーに引きづられていった。

 

「・・・なるほど、陛下の意中の者があのような下賤の者とは」

 

ローランは知らない間にとんでもない相手を敵に回していた。

 

「・・・おや、ローランじゃないですか」

 

「あっ、リンネ」

 

ヴィヴィオはローランの表情から、新しいライバルが現れたと察した。

幸いにも、目の前のライバルはローランをそこまで気にしていないようだったが。

 

(・・・よし、まだ大丈夫)

 

何はともあれ、彼女の(戦争)は始まったばかりなのだ。



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底辺を巡る陰謀

ヴィヴィオたちは試験を終え、ついに合宿に行くことになった。

もちろん、アインハルトもついていくことになる。

 

「抜け駆けしないでくださいね、雷帝」

 

「わかっていますよ」

 

もちろん、ヴィクターは破る気満々だった。

そして、ヴィヴィオはそんなことはとっくに予想していた。

だが、対策の取りようがない。魔王は味方とはいえ多忙だ。

教会の人々は絶対にローランの護衛など断るに決まっているだろう。

いや、もしかすると暗殺に乗り出そうとしているかもしれない。

そうなると、予防策が会ったことも無いハリーだけでは心もとない。

あのリンネとかいう少女は論外だ。

 

「・・・困ったなあ」

 

「この機会に同性愛に乗り換えようよ、ヴィヴィオ」

 

「フェイトママ、うるさいよ」

 

ヴィヴィオはフェイトを見よう見まねのアームロックで気絶させた。

 

「うるさいのがいなくなったからいいとして、ほんとどうしよう」

 

「どうしたんや?こんな河原で考え事して」

 

「実はかくかくしかじか」

 

「まるまるうまうま・・・なるほど、だったらウチにいい考えがある!」

 

「えっ!?ありがとうございます。ところで、誰ですか?」

 

「ウチの名前はジークリンデ・エレミアや。ジークって呼んでな」

 

数日後、ヴィヴィオは安心して合宿に出発した。

そのころ、ローランのアパートでは・・・

 

「またローランさんが行方不明なんですが、ユン先輩」

 

「またか。どうせ雷帝サマがまた誘拐したんだろう」

 

「失礼な。今から誘拐するところですよ!」

 

「なるほど。それでは詳しいことは署で聞かせてくださいね~」

 

「ふふふ、私に勝てるとでも・・・」

 

「坊主、オレも手伝うぞ」

 

「・・・俺も元局員だからな。腕に覚えはある」

 

「三人は卑怯ですよ」

 

ヴィクターがどうなったかは言うまでもないだろう。

それで、ローランがどうなったかというと・・・

 

「今から生存訓練や!」

 

「あれ、ジーク?どういうこと?」

 

「隊長と呼ぶんや!バツとして腕立て伏せ十回!」

 

「・・・なんてこった」

 

安全な場所に退避させられていた(白目)。

底辺の青年がこんなキャンプをさせられている間、大人たちは陰謀を練っていた。

 

「・・・なるほどなあ。確かにこれはアカンわ」

 

狸はファイルに目を通して言った。

そのファイルはローランの情報がびっしりと書かれていた。

 

「確かに人の恋路に口出しするつもりはないけどな、身分差がありすぎるわ」

 

「別に悪い人物ではないのですが、やはり無理がありますね」

 

狸の姉分は溜息をついた。まさか聖王陛下がこんな男に恋をするとは予想外だったのだ。

相手が底辺であるという生々しい事実を除けば、甘酸っぱい話ではあるが。

 

「・・・ちょっと聞きたいんやけど、本当にこの男強いの?」

 

「そうですね。おそらく私達の騎士と渡り合えるほどには」

 

「・・・恐ろしいわ」

 

さらに別の場所でも陰謀は張り巡らされていた。

 

「やっぱり教会が怪しい動きをしていたか」

 

地上本部司令官レプカは狸と同じようにファイルを見ながら言った。

なるほど、お前が司令官なら酷いことになりそうだ。

ギガントと一緒に沈んで、どうぞ。

 

「だが、都合がいい。目くらましにはなるな。こいつを存分に利用させてもらおう」

 

やっぱり酷いことを考えてた。

ちなみに、第一話で説明したことは、こいつが考案したのだ。

さらにさらに、別の場所でも陰謀が張り巡らされていた。

 

「地上本部、教会。奴らが一匹の虫けらに必死になっている」

 

「その虫けらを追って、我らの庭に踏み込もうとしている」

 

「だからこそ、都合がいい。あとは一石を投じるだけだ」

 

ローランは別の意味で修羅場に巻き込まれようとしていた。

 

「く、悔しい!雑草がこんなおいしい料理になるなんて!ウチの負けや!」

 

「再開発地区だと、適当なもんで済まさないといけないからな。得意になるんだよ」



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