【遊戯王ZEXAL】 鉄男外伝 【短編】 (魔法使い?)
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【遊戯王ZEXAL】 鉄男外伝 【短編】

「遊馬。おっせーぞ。このままじゃ遅刻しちまうぜ」

「やっべぇ。今日、1時間目からテストがあるんだっけ」

 

 前髪を帽子から突き出している男、武田鉄男は豊満な体格に似あわないスケートボートを華麗に乗りこなしながら走り続ける。

 そして鉄男の後を追うように走っている元気のいい少年九十九遊馬も同じく急いでいた。

 

 鉄男と遊馬は、中学一年生。 また幼馴染であり、親友でもある。

 過去に鉄男はシャークこと、神代凌牙にデッキを奪われたことがあった。

 鉄男の友人でもある遊馬はデュエルで奪い返えそうとしたが、その代償にずっと大事にしていた父親の形見だった「皇の鍵」と呼んでいるペンダントを壊されてしまう。

 鉄男は遊馬のために失ったものを土まみれになって探し続けた。「たまたま見つけただけだ!」と一言を載せて。

 遊馬は皇の鍵から突如現れたアストラルというデュエルの精霊と強力してシャークの戦いに勝利し、デッキを取り返すことができた。

 このようなことがあったことから、2人の関係は切っては切れない縁。

 初めは自分との決闘に負け続ける遊馬を馬鹿にしていたが、 アストラルの出現から「ナンバーズ」と呼ばれるカードを使いこなし、どんな時でもあきらめない「かっとびんぐ」の精神から彼を徐々に親友として認めるようになる。

 

「遊馬君。鉄男君。よかれと思ってこの時の為に近道を考えてきました!!」

「おおっ。真月!! いいところに!!」

 

 鉄男と遊馬があわてて急いでいるとき、道路の角から突如オレンジ色で空中にぶら下げているかのように立たせてある特徴的な髪型の少年真月零が後ろから登場する。

 真月は最近、遊馬と同じ、中学に転校してきた。「良かれと思って」が口癖であり、その口癖通りいつもとっさに行動してしまうので、ドジでおっちょこちょい。

 ワールド・デュエルカーニバルの優勝者である九十九遊馬の大ファンで憧れているらしいが……。

 

 遊馬と真月の会話が背後から聞こえたことに気が付き、鉄男はスケートボードをくるっと簡単に足で回しUターンさせて戻ってくる。

 そして走っている遊馬と真月の近くへ戻ると、大きな体系を生かし、鉄男は片手で遊馬と真月を体でキャッチしてスケートボードを前へ動かす。

 

「しっかりとオレに捕まってろよ!! 真月!! 遊馬!!」

「鉄男!! スケボーに乗せてくれるのはありがたいんだけどさ、頭さかさまになってて地面にぶつかりそうなんだけど」

「乗せてもらわせてやってんだから、それだけでもありがたいと思えよ。遊馬」

 

 片手で乱暴に遊馬と真月を抱えているため、どうしても体の重心が逆さまになってしまう。逆さまにされて遊馬は体の血の巡りが悪くなったのか具合が悪そうだ。

 

「近道大丈夫なんだろうな? 真月!? オレに教えてくれよ」

「はい。僕に任せてください!! 次の道を右です!!」

 

 真月はスケートボードの振動で体が揺れながらも、顔色を一切変えることなくニコニコした顔で鉄男に、その近道とやらの道を教える。

 

「……。真月!! 学校が見える気配がしないんだけど、ここで間違えないんだよな」

「はい。よかれと思っていざって言うとときの為に毎日研究したんです。僕に任せれば大丈夫ですから」

「遅刻しないように、今は真月と鉄男を信じるしかないか」

 

 教えてもらっている道にたどっていくと、いつの間にか道路から離れた砂利道の道へ。鉄男のスケートボードが小さな石にぶつかり、遊馬と真月のバランスは不安定になる。

 真月がいつも良かれと思って行動した時は殆ど裏目に出ているのを知っている、隣にいる遊馬は少々心配だったが。真月の自信満々な笑みが必死に感じたので、信じることにした。

 

 

 

 

 

—————

 

 

 

 

 

「もうーー。危ないんだから近道しないで普通に登校すればよかったのに。結局遊馬だけ遅刻なんて」

 

 真月の近道と鉄男のスケートボードの作戦は失敗し、いくつもの危険を犯したわりには結局遊馬は遅刻に終わってしまった。

 それを哀れそうにみる観月小鳥。鳥のシルエットをした緑髪のリボンの小柄の少女。小鳥も鉄男と遊馬達と同じ小学生からの縁がある幼馴染。

 

「とどのつまり。鉄男君の話によると、鉄男君のスケートボートに乗せてもらって、真月君の近道を通って間に合うはずだったのに、学校の廊下で遊馬君だけこけてしまったんですね」

「遊馬はどんくさいウラ。本当にワールド・デュエルカーニバルの優勝者ウラか?」

「ニャーーー!! 遊馬を馬鹿にするとはゆるさないキャット!」

 

 遊馬の失態に合われそうにみるおかっぱ頭のクラス委員長等々力孝と無邪気な身長が小さな男、表裏徳之助。

 2人とは反対のことを言う猫耳がついたような髪型のゴスロリ娘の女の子のキャットちゃん。

 この3人も遊馬や小鳥や鉄男、と同じナンバーズのことについて知るために結成した団体ナンバーズクラブの一員である。

 ワールド・デュエルカーニバル終了後から「バリアン」と名乗る脅威が出現した。

 「バリアン」の進行は現在ゆっくりだが、『RUM-バリアンズ・フォース』というカードを人間に渡して洗脳し戦わせてくる。バリアンが直接手を出せればいいのにこんな面倒なことをするのは謎だが。

 この脅威と戦っている遊馬の為に、少しでも力になりたいとしているのがナンバーズクラブだ。

 

「だから聞いてくれよ。鉄男に乗せてもらったまではよかったんだけどさ、廊下でもう少しってところで真月の足に引っかかって……」

「遊馬君のためによかれと思ってやったのに!? ……ひどい……僕のせいにしないでくださいよ!!」

「俺にはわざとぽく見えたんだけど」

 

 遊馬には真月が行ったことが不運に見えてしかたがなかった。

 近道のはずなのに、その代償として匂いがきつい汚い溝の中、誰の家だかわからない屋根の上、凶暴な猛犬がいる家、川が流れる今にも崩れそうな橋の上など、普通ではありえない近道を進められたおかげで、ひやひやさせるような展開で命の危機にさらされていたのだ。

 またもう少しで遅刻を免れるはずだったのに、真月の足に引っかかれた。本人にはわざとではないと言っているが、廊下でこける前で真月が笑っているように遊馬は見えたのだ。

 

「たくよぉ。……これからバリアンと戦わなくちゃならないのに遅刻とかなさけねえな」

「シャーク!!」

「それに璃緒さんまで!!」

 

 ここにいる6人は声の主に振り返る。そこにいたのは青髪の鋭い目つきをした男、シャークこと神代凌牙。

 もう一人はシャークと同じ青髪だが、凌牙とは違い優しそうな目つきをしている神代璃緒。

 不良のシャークはかつて遊馬との敵だったが、遊馬とのデュエルを通して徐々に荒れている性格から、落ち着いたシャークへと公正することができたのである。

 そんなこともあって、遊馬とシャークは友と呼ばれる仲となることができた。

 

 

「凌牙だって人のことを言えるのかしら? 不良時代、毎日のように遅刻したって言うじゃない」

「うるせぇな。なんでわかるんだよ!! 璃緒。お前が入院している間のことだぞ」

「凌牙のことだからって思ったの。やっぱり図星? 」

「だから人前で言うのはやめろ!!! それに今は遅刻しないで毎日学校に行ってるじゃねえかよ!!」

「それって本当かしら?」

「本当だ!! だからこういうことを人前で言うのはやめろよ!!」

 

 璃緒とシャーク、2人は双子だ。

 Ⅳが父トロンの命令により使用したカードから発生した火災で璃緒は大怪我を負う。

 璃緒は目にけがをしてしまい、入院してしまうこととなったが、最近になって無事退院することができた。

 普段の性格はおしとやかで物腰柔らかなのだが、シャークのことになると勝気な一言を多く言うようになる。

 兄であるシャークに対してツンツンでひどいことをよく言うが、本質的には彼を強く慕っているので、実際は兄のことが好きなのだろう。

 

 

「シャークと口喧嘩している璃緒さんも素敵です」

「はぁ……」

 

 目にハートマークが付いたかのように、デレデレな鉄男を見て溜息をつく小鳥。

 

 鉄男は璃緒に対してべた惚れしている。丁寧な言葉づかいと優しい笑顔、美貌と抜群のスタイル。

 兄譲りにデュエルの腕前もかなりの物で、それにサッカー、バスケなどのスポーツはもちろん、将棋も、そしてボクシングや柔道と言う格闘技まで何でも得意。

 こんな勝気な性格から、男子は手のひら返しするかのようにあきらめる人が多かったが、鉄男だけは「ボクの理想の人」とそんな彼女に一目ぼれをしてしまう。

 普段敬語は使わないのに、一人称も「ボク」になってしまうなど、キャラが崩壊する程にベタ惚れになってしまうのだ。それほど璃緒が好きなんだろう。

 

「でもオレは……」

 

 ある日、鉄男は「シャークとのデュエルに勝利し、璃緒との交際を認めてもらおう」と考えたことがあった。

 だが、それを実行しようと訪ねてきた際に「力不足」と突っぱねられ、 シャークに「せめて遊馬のレベルにならない限り、諦めろ」とまで言われてしまった

 そこで鉄男は「璃緒さんの恋人は遊馬しか認めない」と思い込んでしまう。

 そしてシャークに言われるがままに遊馬に譲ってしまったのだ。恋愛より遊馬との友情取ったのだ。結局は鉄男の勘違いで終わったが。

 そんなこともあり、鉄男は現在失恋中である。だが、鉄男はあきらめてはいなかった。

 

 

 

 

 

—————

 

 

 いつからだろうか……。楽しかった日常が徐々に壊されていくなんて。

 親友だった真月が、遊馬をだましてバリアンのベクターだったという「衝撃の真実」を明かされ、真月との友情の証を打ち砕かれた。

 そこから今まで温かったバリアンの進撃が一揆にスタートして、人間世界を襲いかかる。

 そのバリアンの進撃で遊馬の友達だった徳之助は人間の欲を利用されて犠牲になってしまった。

 これだけでも遊馬の心を折るのには十分だったのに、さらなる犠牲がこれからなるとは……。

 

 そして、今、シャークと璃緒まで今、衝撃の事実を明かそうとしている。

 

 

 

「おい。シャーク」

「シャーク……」

「そういわれていたのがずいぶんと昔のように見えるぜ。だが、今の俺はシャークでも凌牙でもねぇ。俺はナッシュ。バリアンのナッシュだ!」

「そんなことあるわけねえじゃねえか」

 

 シャークと妹シャークの隣にはかつて遊馬と対立したバリアンのミザエル、ギラグ、アリト、ベクター、ドルべが並んでいる。

 遊馬は一瞬意味がわからなかった。敵であるバリアンの隣に友達のシャークが並んでいる意味が。

 

 

「「なら証拠を見せてやる。これが俺の本当の姿だ!! バリアルフォーゼ!!!」」

「「我ら バリアンの七ツ星!」」

「「真のギャラクシーアイズ使い ミザエル!」 」

「「すべてのものは我が手の中! ギラグ!」 」

「「うなる拳が神をも砕く! アリト!」 」

「「ジャジャーン! 俺 ベクター!」」

「「灼熱の太陽すら瞬間凍結! 氷の剣 メラグ!」」

「「バリアンの白き盾 ドルベ!」」

「「そして俺がバリアンの七皇を統べる者 ナッシュだ!」」

 

「はっ!!」

 

 さらに遊馬の心を抉るように、シャークは変身していく。

 今まで戦ったバリアンはバリアルフォーゼと言いながら、人間の姿から本来の姿であるバリアン体へと変身した。

 シャークの元の髪色の青に、バリアンを表す『バリアンズフォース』のマークと同じ胸元のペンダント。それに赤のマント。

 バリアンと何度も戦ってきたから遊馬はわかっていた。それはシャークがバリアンだったという証。

 

「そんな……お前が・・・バリアンのナッシュ・・・?」

「遊馬。こいつは決まっていたことなんだ。俺とお前の運命!!」

「運命? ふざけんな! 俺がもう一度デュエルで確かめてやる!!!」

 

 7枚の強力なナンバーズがあるといわれる遺跡に、遊馬とシャークは立ち寄ったことがある。

 遺跡のナンバーズが置かれている場所には、かつて七皇達が過去の伝説の当事者であったという記憶を遊馬は見ることができた。

 「No.73激瀧神アビス・スプラッシュ」を入手してからシャークの様子が徐々におかしくなっていたことを思い出す。

 遺跡の伝説がバリアンの真実なら、シャークもバリアンだったということなのか。

 

 

「シャーク……おまえっ!?」

 

 突如、遊馬が持っている皇の鍵と、シャークが持っているバリアンのペンダントが共鳴し始めたのか光る。

 それと同時に今まで怒りや疑問で元気いっぱいだった遊馬は、力が急にゼロになったかのように気絶してしまう。

 

「撤退もタクティクスのうちじゃぞ」

「ここは逝ったん退け!!」

 

 バリアンの周りに大量のボールのような何かが投げつけられた。するとモクモクとした白い煙が辺りにまき散らす。

 この危機に、気が付いたのか遊馬のデュエルの師匠である決闘庵の主三沢六十郎とその弟子闇川が駆けつけてくれたようだ。

 

「みんなここはいったん引くぞ!! 小鳥!! 鉄男!!」

 

 この隙に掛け声をあげるV。大人びた成人の風潮、長い白髪に透けるような肌の男性。

 ワールド・デュエル・カーニバルでは敵同士だったトロン一家。遊馬のデュエルを得てから改心し、ⅣVⅢが仲間になっているのは何とも頼もしいことだろうか。

 Vがあらかじめ止めておいたのか、オービタル、鉄男、小鳥、徳之助、委員長、キャットちゃん、Ⅳ、Ⅲ、倒れているカイトと遊馬は大きな車に案内される。

 

 

 

 

—————

 

 

 

 

「みんな無事か!?」

 

 窓の景色はどこを見てもバリアンの侵略の影響なのか、人は全くいる気配がなく静かな道なり。

 車を運転するVはハンドルを握りながら、安否の確認を取る。気になるのは小鳥の上にひざまくらをしてもらって倒れている遊馬の姿。

 遊馬とカイトが気絶してしまって意識がないのを除けば全員無事であるが。

 

「兄様。どうやら世界の危機を知ったデュエリストが駆けつけてきたようですね」

 

 無理やり感情を表しているのか、笑っているのに、顔の表情筋が動く気配がない赤髪のⅢが隣の助手席に座っているVに話掛ける。

 やはりデュエリストの漢なのだろうか。

 バリアンの侵略で世界が滅亡仕掛けているときに、先ほど助けに来てくれた六十次郎たちのように、遊馬の「かっとびんぐ」精神で仲間になったものが助けに来てくれた。

 神月アンナにエスパーロビン。車の窓ガラスからすれ違いで、遊馬をバリアンの脅威から守るため、現れたのを確認とれた。

 

「………」

 

 駆けつけるデュエリストを見ながら鉄男はマユを中央に寄せ、ある意思を固めていた。

 自分が好意を寄せていた璃緒がシャークと同じバリアンのメラグとして遊馬の敵となったこと。たとえ璃緒が人間でなくなってしまっても、今まで一筋縄で生きていた鉄男はあきらめきれなかったのだ。

 

「止めてくれ!」

 

 鉄男は覚悟して言った。キャットちゃんや小鳥は思わず「え?」と返してしまったが、鉄男の固い意志は変わることはない。

 

「どうしても……。どうしてもいかなければならないんだ。おろしてくれ」

 

 運転席のVは右目を後ろにしながら鉄男の発言を聞きながら見つめる。必死に何かをしたい。その目力が強かったことから自分が犠牲になるのを、覚悟の上の言葉に見えた。

 

 

 

 

 

—————

 

 

 

「なぜ来たの? 仲間を逃がすため? あなたらしいわね」

「オレはいつだってオレです。そして璃緒さん。あなたも同じなはず」

 

 鉄男は璃緒のところへとたどり着いた。迷うことなくすぐに見つけることができたのは、強い想いを寄せているからできることなのだろうか。

 だが、目の前にいる璃緒は、鉄男が好意を寄せていた人間のときの原型をしていない。

 

「残念だけど、あなたの前にいる私は璃緒ではないのよ。メラグ。璃緒はもういないのよ」

「璃緒さんは璃緒さんです」

 

 好きな人が見られない物となってしまっていても、それでもなお鉄男は諦めきれなかった。

 初恋の相手である璃緒。初めての出会いは鉄男が登校中のことだった。子連れのカルガモを構ってスケートボートで転倒してしまったこと。

 その時、助けてもらったのは璃緒だった。怪我をハンカチで手当てしてもらって、優しさに惚れてしまったこと。こんな想いをしたのは初めてだった。

 

「璃緒さん。オレとデュエルをしてください。オレがデュエルで勝って璃緒さんを救って見せます」

「しつこいわね。たとえデュエルをしたとしても私は璃緒に戻ることはない。私はナッシュと同じ、バリアン世界の住人メラグなのよ。デュエルをしてもそれは変わることはない」

「今だったら戻れるはずです。今までと同じ優しい璃緒さんに戻ってください。あなたはそんなことをする人間ではない」

 

 璃緒を救うのにはデュエルしかない。鉄男はD・ゲイザーとD・パッドを装着してデュエルを構えようとする。

 だが、いざとなると右手が震えてしまう。相手は今までずっと憧れていた璃緒だから。全国大会に出場したあのシャークの妹だ。デュエルの差は歴然だ。

 反射で動いてしまう右手の震えを、鉄男は反対の左手で押さえて止める。

 

「あらあら。かっこうつけたわりには震えていますわよ」

「いや、オレは諦めねえ。必ず璃緒さんを遊馬や小鳥たちの為に連れ戻す!! これがオレのかっとびんぐだ!!」

 

 

「デュエル!!」

 

 鉄男はD・ゲイザーを構え、メラグは左目を赤く変化させてARビジョンをそれぞれ見ながらデュエルが始まる。

 2人は別々の想いを載せて。

 

 

「先攻はオレだ! ドロー!! オレは『アイアイアン』を召喚!!」

 

 タンバリンを鳴らしながら現れるのは鋭い爪、太いしっぽ、大きな耳をしたブリキのサルのおもちゃ。

 

「そして手札から装備魔法『スプリング・パンチ』を『アイアイアン』に装備!! そして『アイアイアン』の効果で自身の攻撃力を400ポイント上げる」

 

 グローブにバネを取り付けたギミックをおもちゃのサルに装備される。そしてサルのブリキはタンバリンを鳴らすと攻撃力が上がった。

 

 

「『スプリング・パンチ』の効果発動!! 装備モンスターの攻撃力が上がった時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える。よって『アイアイアン』の攻撃力は2000。よって璃緒さん。1000ポイントのダメージを受けてもらいます!!」

 

 サルのおもちゃが持っているグローブがバネのギミックでメラグに向けて発射された。

 あの璃緒相手に先制をとれることができた。そう思ったが、手札のカードが発動され、その野望は打ち砕かれる。

 

「私は手札から『ガード・ペンギン』の効果を発動!! 自分が効果ダメージをダメージを受ける場合、このカードを特殊召喚することでそのダメージを0にする!!」

 

 鏡を持ったペンギンがおもちゃのグローブを弾き返す。奇襲をしかけようとした鉄男の攻撃を、真顔でカード一枚で防ぐメラグ。

 

「先攻で効果ダメージを狙ったようだけど残念ね」

「でもこれでオレの攻撃は終わりませんよ。璃緒さん!! オレはさらに永続魔法『ネジマキのカタパルト』と『自動ネジマキ機』を発動!!」

 

 『アイアイアン』の隣にゼンマイのネジで動かすタイプの巨大な発射台と、その発射台の隣にゼンマイの回転を補助する機械が現れる。

 

「『自動ネジマキ機』は発動時にこのカードにネジマキカウンターが2つ置かれる。そしてこのカードを墓地に送ることでネジマキカウンターを別のカードに置くことができる。オレは『ネジマキのカタパルト』にカウンターを入れ替える」

 

 ネジマキ機が消滅すると、発射台のゼンマイについているカウントが0から2へと変わる。

 

「そして『ネジマキのカタパルト』の効果発動。このカードのカウンターを1つ取り除くことで自分フィールド上のモンスターの攻撃力をエンドフェイズまで500ポイント上げることができる。この効果で『アイアイアン』の攻撃力を上げる。そして攻撃力が上がったことで『スプリング・パンチ』の効果が再び発動する!!」

「キャーーーッ!!」

 

 メラグ LP4000→2750

 

 効果ダメージによるおもちゃのパンチを受け、悲鳴を上げながら後ろへと後退するメラグ。

 自分が好きだった璃緒が苦しむ姿を見るのは余計に辛いもの。本来なら有利になって喜ぶところだが、璃緒の苦しむ姿を見ているとそれは複雑な心境だった。

 

「これは闇のゲーム……」

「……くっ……。ええ……そうよ。言い忘れていたけどこれは命や精神を掛けたデュエル……。これはバリアンの為の戦い……。それにナッシュの為のものでもある……。私は負けるわけにはいかないのよ!!」

「璃緒さん……。ごめんなさい……。オレは……」

 

 かつて親友である遊馬がNo. 96 ブラック・ミストの脅威にさらわれたとき、遊馬が闇に飲み込まれそうになったことがあった。

 そのとき、鉄男は遊馬のもっとも大切にしていた『皇の鍵』と切り札である『No. 39 希望皇ホープ』を借り、遊馬を助けるためにブラックミストとデュエルしたことがあった。

 遊馬がいつも経験しているデュエルもそうだった。前のブラックミストのデュエルもナンバーズが関わるデュエルだったため、もちろん闇のデュエルだった。

 

 璃緒が苦しみながら闇のゲームのことを説明されると心が痛い。

 鉄男はバリアンのことは詳しくなかったが、璃緒が今まで大切にしてきた仲間を捨て、シャークやバリアンの為に命を簡単にささげる今の姿を見て、この覚悟はとても強いものだとわかる。

 闇のゲーム。鉄男は一度経験したことがあるからわかっている。

 

「敵である私に謝る? まだ私のことを仲間だと思っているのかしら。私はとっくの昔にあなたたちの縁を切ったというのに。あなたたち人間は私達バリアンにとって目障りでしかないわ」

「く……。オレは再び『ネジマキのカタパルト』の効果で『アイアイアン』の攻撃力をさらに500ポイント上げます!!』 そしてもう一度『スプリング・パンチ』の効果で『アイアイアン』の攻撃力の半分のダメージを受けてもらいます……っ…」

「アアァッアアアアアアア…!!!」

 

 もう一撃。攻撃はしたくなかったが、心を鬼にして攻撃したことで起きた悲鳴。目を瞑りながら見たくもない璃緒の悲鳴だけを耳で聞く鉄男。

 

 メラグ LP2750→1250

 

「オレはカードを1枚セットしてターンエンドだ!!」

「私のターン!!」

 

 先攻1ターン目だが、「ライフはオレが押している」と有利と考えている鉄男。だが相手は学校でもデュエルの腕はトップクラスな璃緒だ。

 バリアンになる前の璃緒でもとても強かったのに。今のバリアンになった璃緒は油断できない。

 

「私は手札から『ブリザード・サンダーバード』を通常召喚!! このカードをリリースし、効果により手札から鳥獣族モンスター『霊水鳥シレーヌ・オルカ』を特殊召喚。そしてマジックカード『使者蘇生』を発動するわ。効果により、『ブリザード・サンダーバード』を復活させる」

 

 ソリッドビジョンから吹雪が発生し、黄色い羽根に全身が青い神鳥と半人半鳥の女の怪物が現れる。

 

「『ブリザード・サンダーバード』と『ガード・ペンギン』でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!! 『No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ』」

「オーバーハンドレットナンバーズ……」

 

 2体のモンスターがエクシーズ素材となり、高貴な深窓の令嬢へと変わる。

 オーバーハンドレットナンバーズ……。遊馬が持っているナンバーズとはことなり、3桁の数字を持ちカード名が文字が赤で書かれている特別なカード。

 それはバリアンが持っているナンバーズ。これを今から相手をするとなると、考えると鉄男の緊張が高まる。

 

「私はさらに『幻影の吹雪』を発動!! このカードの効果で『霊水鳥シレーヌ・オルカ』の種族・属性・レベル・カード名をコピーしてこのカードをモンスターカード扱いにするわ。ただし攻撃力は0になる」

 

 シャチの半人半鳥の隣に同じ幻影が現れる。レベル4のモンスターが2体に続き、今度はレベル5のモンスターが2体。

 

「『霊水鳥シレーヌ・オルカ』2体でオーバーレイネットワークを構築!! エクシーズ召喚!! 『零鳥姫リオート・ハルピュイア』」

「2回目のエクシーズ召喚! 璃緒さん。流石です……」

 

 オーバーハンドレットナンバーズだけでも厳しいのに、ここにきて璃緒が兄であるシャークと100回目の兄妹喧嘩で使用したエクシーズモンスターまで。

 鉄男が璃緒に告白しよう悩んでいたとき、徳之助と委員長の勘違いからシャークと璃緒の喧嘩が始まってデュエルになって印象が強かったわけだから、このカードの効果はもちろん鉄男の頭の中に焼き付いている。

 

「オーバーレイユニットを1つ使い、このカードの効果で『アイアイアン』の攻撃力を0にする。そしてさらに『ラグナゼロ』の効果で相手モンスターの攻撃力が下がったとき、そのモンスターを破壊する!! ガイダンス・トゥ・フューネラル」

 

 『リオート・ハルピュイア』の効果でおもちゃのサルが氷つく。そしてその氷ついたものを『ラグナゼロ』が粉砕させる。

 エクシーズモンスター同士のコンボ。シャークのマジックコンボ同様、妹のコンボはカードを破壊するだけだが単純で強い。

 

「そしてさらに『ラグナゼロ』の効果で1枚ドロー!! バトルフェイズに移動するわ。私は『リオート・ハルピュイア』でダイレクトアタック!!」

「ぐあーっ!!」

 

 零鳥の羽根から飛ばされる刃が鉄男の体に無数に降り注ぐ。鉄男は膝をつきながら痛みがこらえる。これは夢ではない。

 前の鉄男のターンで与えた璃緒のダメージ同様、このデュエルが闇のデュエルだっていうことは本当だと実感した。

 

 鉄男 LP4000→1500

 

「あら。ずいぶんとあっけなく終わったわね。『ラグナゼロ』でダイレクトアタック!!」

「まだです……! オレは『ガードブロック』を発動!! 戦闘ダメージを無効にします!! そしてオレはカードを1枚ドロー!!」

「私はこれでターンエンド。あなたじゃ私を倒せない。もうあきらめたらどう?」

「はぁ……。はぁ……」

 

 痛みを感じていないのか余裕そうに立っているメラグに対し、一撃のダメ―ジで発生した痛みと苦痛から息切れをする鉄男。

 

「オレのターン!! ドロー!! この瞬間。『ネジマキのカタパルト』のカウンターが1つ置かれます!!」

 

 顔を力みながらドローカードを確認する鉄男。今の手札は3枚だ。ライフの差は鉄男が有利だが、場ががら空きの絶望てきな状況。

 痛みに耐えながらもまだ、好きな人を助けるために希望は捨ててはいない。

 

「まだオレは諦めてはいません! オレは手札から『ブリキンギョ』を召喚!! 効果により手札から同盟カードを特殊召喚します」

 

 ブリキの形をしたキンギョが2体。

 

「そしてオレは手札から『アイアンドロー』を発動!! 自分の場に機械族モンスターが2体のみ存在するので、2枚ドローします!!」

 

 攻撃力が800しかないブリキのキンギョ2体では、この状況を打破することなんてとてもできない。

 だが、魔法カードの効果でドローできる2枚のカードでは、何とかなるかもしれない。強い希望を持ちながら、恐る恐るカードをめくる鉄男。

 そして2枚の引いたカードを見ながら、その1枚をプレイする。

 

「来た。オレは手札から『アイアンコール』を発動します。この効果で墓地にある『アイアイアン』を守備表示で特殊召喚」

「レベル4のモンスターが3体」

「そうです。オレは『ブリキンギョ』2体と『アイアイアン』でオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。『ブリキの大公』!!」

 

 ある有名な音楽家と同じ髪型に剣を構えたヨーロッパ貴族の格好をしたブリキの人形。『ブリキの大公』は鉄男のエースカードだ。

 

「オレは『ブリキの大公』の効果を発動!! オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、相手モンスターの表示形式を変更する!!」

 

 『ブリキの大公』は持っている剣で『リオート・ハルピュイア』の羽根を突き倒し転倒させる。

 

「オレは『ブリキの大公』で璃緒さんの『リオート・ハルピュイア』を攻撃します」

 

 『ブリキの大公』の攻撃力は2200。『リオート・ハルピュイア』の守備は2100。

 ブリキの大公は持っている剣を振りかざし零鳥を破壊する。

 

「オレはカードを1枚セットしてターンエンド」

「私のターン」

 

 

鉄男

LP:1500

手札:0枚

場 :モンスター

   ブリキの大公 (ORU2)

   魔法・罠

   ネジマキのカタパルト (カウンター1)

   1枚セット

 

メラグ

LP:1250

手札:2枚→3枚

場 :モンスター

   No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ (ORU1)

   魔法・罠

   伏せ0枚 

 

 

 

「『ラグナゼロ』で攻撃!」

「『ブリキの大公』の効果!! 『ラグナゼロ』を守備表示にします」

「ナンバーズはナンバーズでしか破壊できない。時間稼ぎのようね。まあいいわ。少しずつ『ブリキの大公』のオーバーレイユニットを外してあげるから。これで私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 ナンバーズはナンバーズでしか倒せない。それはナンバーズが持っている超耐性能力。

 鉄男がずっと見てきたナンバーズ同士のデュエルは遊馬との付き合いで何度も見てきた。

 

「オレのターン! この瞬間『ネジマキのカタパルト』のカウンターが2つに変わります」

 

 遊馬はホープというナンバーズを持って、相手のナンバーズを攻略していたのを友としてずっと見守ってきた。

 ナンバーズのデュエルは鉄男もブラックミストのデュエルを通して経験したことがある。

 その時はホープを借りて攻略していたが、今はナンバーズなんて1枚も持っているはずがない。

 

「オレはセットされている『禁じられた聖杯』を発動します!! このカードの効果で『ラグナゼロ』の攻撃力を400ポイント上げ効果を無効にします」

「……っ!?」

「バトル!! 『ブリキの大公』で『ラグナゼロ』を攻撃!! 『ラグナゼロ』を撃破!!」

 

 シャークと遊馬のデュエル時に、ナンバーズであるホープを、ナンバーズを持っていないシャークが『ブラック・レイ・ランサー』の効果で、ホープの効果を無効にして勝利していたのをみた。

 つまり、これをヒントにして考えたのはナンバーズ同士で破壊できないのはモンスター効果。無効にしてしまえばどうってこともない。

 鉄男の『ブリキの大公』が、ナンバーズを破壊する。『ラグナゼロ』は悲鳴を上げながら消えていく。

 

「オレはカードを1枚セットしてこれでターンエンド。やった……。オーバーハンドレットナンバーズを倒すことが……」

「……。くっ……。私のターン。私はモンスターを1枚セットしてターンエンド」

「オレのターン。ふたたび『ネジマキのカタパルト』のカウンターを3つに変えます。オレがついに璃緒さんを……」

 

 苦い顔をしながら、モンスターをセットしただけで鉄男に回すメラグ。

 鉄男は絶対に勝てないと思っていた璃緒を、この辛そうな顔を見るに守備型目のプレイングに徹底するまで追い込むことができたと確信する。

 勝利はもうすぐ目の前だ。璃緒をもうすぐ救うことができると思っていた。

 

「オレは『強欲な瓶』を発動!! 効果によりデッキからカードを1枚ドローします。そして『ブリキの大公』のモンスター効果を発動!!」

 

 まだオーバーレイユニットは1つだけ戻っている。

 この効果を使って守備のモンスターを表にする。表になったのは『ガード・ペンギン』。

 先攻1ターン目で見たモンスターだ。効果ダメージを受けるとき、効果ダメージを無効にして手札から特殊召喚できるモンスターだ。

 それに優秀なモンスター効果を持っているが、攻撃力は弱小の0。このカードを場に伏せたことは、璃緒はかなり追い込まれているとなるだろう。

 

「これで終わりです!! 璃緒さん!! オレは『ブリキの大公』で『ガード・ペンギン』を攻撃!!」

「速攻魔法!! 『絶対零度』!! エクシーズ素材が無いモンスターエクシーズの攻撃力をこのターンのエンドフェイズまで0にする!」

「……。そんな……」

 

 このターンで終わり。その野望は1枚のカードによりここで打ち砕かれた。

 今から2ターン前に伏せられたカード。おそらく、『ブリキの大公』のオーバーレイユニットをなくす時間稼ぎをしたのは、このカードの発動を狙っていたからであろう。

 攻撃力が0となった大きなブリキのおもちゃは、攻撃しようとしたが、足が氷ついてしまい、動きが止まってしまう。

 

「攻撃力が0と0同士の戦闘はお互いに破壊されない。残念だったわね」

「……。まだ救えないのか……。オレはカードを2枚伏せてターンエンド……」

 

 残念な顔をしながらも、 鉄男はターンを終わらせる。

 もう少しで勝てるっていうのに、メラグとのデュエルで震える手汗がびっしょりで緊張してしまい、落ち着きがない。

 

 フィールドを見る限り有利なのはまだ鉄男のほうだ。

 機械族のモンスターの攻撃力を、カウンターの数だけ任意にあげられる『ネジマキのカタパルト』のカウンターはまだ3つも残っている。

 それにこのターン引いて、今伏せた2枚の伏せカードに自信があったからだ。

 1枚は機械族の攻撃力を倍にできる『リミッター解除』。相手の攻撃に合わせて発動することで『ブリキの大公』の攻撃力は2倍になる。

 そして『ネジマキの爆弾』。このカードはネジマキカウンターが置かれたときに発動でき、発動時に場にあるネジマキカウンターの数×800ポイントのダメージを相手に与えることができる。

 たとえ『リミッター解除』のカウンターを失敗したとしても、次のターンがまわれば『ネジマキのカタパルト』のカウンターが再び置かれ、次のターンにカウンターが4つになるので、3200ポイントのダメージをメラグに与えるエンドカードになりうる。

 この2枚の完璧な伏せカードに絶対的な自身を持っている鉄男。確実に璃緒を遊馬達の所へ連れて帰ることができると。

 

 

 

鉄男

LP:1500

手札:0枚

場 :モンスター

   ブリキの大公 (ORUなし)

   魔法・罠

   ネジマキのカタパルト (カウンター3)

   2枚セット (ネジマキの爆弾、リミッター解除)

 

メラグ

LP:1250

手札:2枚

場 :モンスター

   ガード・ペンギン

   魔法・罠

   伏せ0枚

 

「まさか、ナンバーズを所持していない一般人であるあなたがオーバーハンドレットナンバーズを破壊して、私をここまで追い込めるとはね。流石、ナッシュが認めたデュエリストだけはあるわ」

「オレがシャークに認められている……?」

 

 初耳だった。シャークが不良時代は、散々鉄男は馬鹿にされていた。だけど、実際は違っていた。

 昔から親友である遊馬の為だったら鉄男は、体を張って奮闘するそんな男だった。

 璃緒の兄のシャークは、それを知っていた。シャークも遊馬と対峙することは何度もあったが、その時、鉄男の強い意志を何度も見てきた。

 そんなこともあり、鉄男を一流のデュエリストとして尊敬し続けている。

 そして兄を通して璃緒の耳にも入っていた。いつも純粋で誠実な人柄で、仲間想いな人だなと、学校でも璃緒の目から鉄男を見てきた。

 

「だけど、今の私にとってはあなたは邪魔の存在でしかないわ。しつこい男は嫌いなの」

「璃緒さん……」

 

 けどいつも兄しか見えていない璃緒にとっては、たったそれだけの人としか鉄男を見ていない。

 こんな仲間想いで口うるさくて面倒な人物、今にとっては鉄男は邪魔の存在であると。

 

「バリアンズカオスドロー!!」

「……っ!?」

 

 ドローフェイズに入るメラグ。デッキからカードをドローするとき、引いたカードが赤く輝く。そしてその光が空中へと向かって飛んでいく。

 そしてその赤い光は雲へと飛んでいき7つの光が集まる。どうやら別のバリアンの力が連動しているようだ。

 通常のドローとは違う雰囲気に鉄男は驚く。

 

「そろそろ私達バリアンの本気を見せてあげるわ。カオスの深淵を見せてあげる。これこそが七皇の真の力。私は手札から『RUM-七皇の剣』を発動!」

「ランクアップマジック!?」

「ええ。そうよ。墓地からオーバーハンドレットナンバーズを復活させ、そのモンスターをカオス化させる! 私は『ラグナ・ゼロ』でオーバーレイネットワークを再構築。エクシーズ召喚!! 現れなさい、時をも凍らす無限の力が今、よみがえる。『CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ』」

 

 渦巻く黒いブラックホールが、『ラグナゼロ』を進化させる。倒したはずのナンバーズが再び蘇る。鉄男にとってはそれは脅威でしかない。

 カオスナンバーズ。ナンバーズがカオス化して強化される。それはバリアンが持つ力。どんな効果かわからないが、『ラグナゼロ』の強化カードであること。油断はできない。

 

「どう? これこそが人間には到達できぬカオスの深淵。さあ鉄男さん。決着のときよ」

「オーバーハンドレットカオスナンバーズ……」

 

 鉄男は闇のゲームで受けた傷をこらえながら、デュエルを続ける。

 ライフ差は鉄男のほうが有利であるが、オーバーレットナンバーズを召喚したメラグのほうが澄ました顔をしている。

 バリアンだから余裕なのだろうか、普通の人間である鉄男にとっては、メラグとは違ってかなりボロボロである。

 

「遊馬……。まってろよ。オレは必ず、オレ達と璃緒さんとの絆を必ず取り戻してみせる!!」

 

 

—————

 

 

 

 今から人間世界を襲う数時間程前、親友のドルべによって記憶を取り戻してた。。

 バリアン世界のとある崖の近くでシャークと璃緒は、紅色に輝く景色を見ながら運命について語り合っていた。

 

「凌牙……。またここに来ていたのね」

「もうその名で俺を呼ぶな」

 

 この名前はもうとっくの昔に捨てた。2人はナッシュとメラグ。

 前世はバリアンだった。遠い昔に2人は一緒に死んでしまったが、アビスプラッシュの助けによって人間に転生した。

 だが、最近になって記憶を取り戻した。バリアンのリーダーとして、アストラル世界と戦う運命だったということを。

 

「そうね。今のあなたはナッシュ。冥界の怒り、悲しみを抱えたまま流れ着いた魂を背負うもの。そうさせてしまったのわ私」

「違う! これは憎しみに憎しみでしか応えられなかった。俺が招いた運命」

「でもナッシュ。あなたはこの世界を守るため、遊馬達と戦えるの?」

「戦う。戦ってやるさ。俺はナッシュ。かつての仲間でも全て葬りさる!! バリアン世界のために!!」

 

 めんどくさい奴だった遊馬といろいろなことがあった。

 初めは荒れていた自分を助けるために、遊馬は何度もデュエルをしてくれた。

 デュエル中にナンバーズに洗脳されていた自分を助けてくれたデュエル、そこから荒れた不良の自分を校正するために一緒に組んだタッグデュエル。

 ナンバーズハンター天城カイトに負け、廃人となってしまった自分を遊馬が、助けてくれたこともあった。

 デュエルを通して、遊馬との距離を徐々に近づけていたような気がした。友になったがした。

 でも、その友と戦わなければならない運命。アストラル世界を滅ぼすのがバリアンの宿命なのだから。

 

 ナッシュは、幼い凌牙だったときからずっと大事にしていた、首についているペンダントを外して崖から投げ捨てた。

 その行為は遊馬との覚悟を決めるようにも見えた。

 

 

 

—————

 

 

 

 

「私は手札から『サイクロン』を発動!! 一番右のカードを破壊よ」

「それにチェーンします。『リミッター解除』を発動。効果によって『ブリキの大公』の攻撃力を倍にする……!!」

 

 鉄男はメラグに狙われたカードを発動する。

 隣に伏せてあったネジマキの爆弾ではなくて安心する。『ラグナインフィニティ』の攻撃力は2800。

 『ブリキの大公』の攻撃力が4400となったわけだからそう簡単に突破できるものではない。

 これでこのターンを何とか持ちこたえることができるので、次のターンに決着を付けられる。そう考えていたその時だった。

 

「この瞬間『ラグナインフィニティ』のモンスター効果発動。相手モンスター1体の攻撃力が変化した時、このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動できる。変化した攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。ガイダンス・トゥ・パーガトリィ!!」

「そんな……!!」

 

 変化した数値。すなわち2200ポイントのダメージ。

 『ラグナインフィニティ』の持っている杖がくるりと何度も回転していき、その杖から波動がいくつにも発射された。

 これで自分の命が終わったとわかった鉄男にはこの攻撃がスローに見えた。そして、攻撃を食らった鉄男は吹き飛びながら仰向けで倒れる。

 

 鉄男 LP1500→0

 

「あなたの気持ち。デュエルを通して確かに伝わってきた。けれど。今の私にとってそれは迷惑でしかないわ!!」

「ちきしょーー……。このデュエル遊馬の為に勝たなければならなかったのに……。オレは璃緒さんを連れて遊馬のところに戻るはずだったのに……」

 

 すべてが終わった。その表情でバリアンによって汚染された空を見つめる鉄男。

 親友である遊馬の為に、璃緒を救いたかった。けどそれが叶いそうにない。鉄男は闇のゲームで負けてしまった代償としてゆっくりと、光の粒になって消えてしまう。

 

 

 

 

—————

 

 

「凌牙ぁ…!!」

「気持ち悪いんだよ。離れろ!! 」

 

 シャークと璃緒がまだ、人間だった記憶。

 璃緒が退院してから数週間程度たって久しぶりに登校した中学校にも慣れてきた時期。

 シャークに対して璃緒はデレデレであった。今まで、ずっと寝たきりだったため、好意的な態度になる。大好きだった兄のシャークと暮らすことがとっても嬉しかったのだろう。

 

「別に凌牙以外の男には興味がないからいいのよ」

「俺にしか興味がない?」

「べ、べつにそういう意味じゃないわよ」

 

 シャークに対して、好意的な態度から急に敵対的な態度へと変わる。

 

「お前はあのデブのことをどう思ってる?」

「誰それ?」

「誰って鉄男のことだよ。あれって明らかにお前のことに好意があるだろ」

「えっ……。そうなの?」

 

 好意があると言われ頬をリンゴのように赤くする璃緒。

 ちょっぴりうれしかった。今まで璃緒はお嬢様的な美貌からいろいろな男に好意を持たれていたことがあったが、スポーツやデュエルの腕が男達数人掛かりでも叶わないとわかると皆ドン引きして立ち去ることが多かった。

 

「とにかく人に頼りたい性格のお前にぴったりだと思うぜ。あのデブ」

「ば、馬鹿にしないで。私は恋なんて全く興味がないんだから」

 

 多少ふざけているようなことを言っているシャークの発言に、噛み噛みで答える璃緒。

 好きと言われるのは、恥ずかしい。でも璃緒はいつも兄のシャークにしか眼中にないので、鉄男のことは別に好きでもなんでもない。どうでもいい存在だ。

 

「でも鉄男さんはどうして私のことを……」

「あいつの動揺っぷりで見れば誰でもわかるだろ」

「気が付かなかった……」

「でも、あのデブはいつも前向きで、仲間想いで、自分が思ったことはぶれないで一直線に突き進むタイプだ。あいつはデュエリストの腕はまだまだだが、あのデブは仲間の為なら本気で命さえも捨ててしまうタイプだぜ。お前もいざっていうときに守ってもらえるかもな」

「あの人はいい人だけど、でも私は鉄男さんのことは興味がないってば」

 

 あの人は初めてあったときから好印象だった。

 確かに、シャークが言うように、鉄男と話して感じたことはまじめで誠実そうで優しそうな雰囲気で、何でも頼れそうなタイプだから、いつもあの人の周りに友達がいっぱいいるのは何となくわかる。

 

 こんなことをシャークから話され、次に、気を持っている鉄男と会う時、どんな顔をすればいいのか悩む璃緒であった。

 

 

 

 

—————

 

 

 

「………」

 

 デュエルで負けた鉄男の魂が、粒子となってバリアン世界へ吸収されるのを、無言で見続けるメラグ。

 

 思ってみれば、彼は過去にナッシュの言っていたことと同じだった。

 いつもぶれない真っ直ぐ全力で突き進むキャラクター通り、このデュエルでも鉄男は挑んだ。

 一般人がバリアンに勝てるなんてありえないのに、負けるとわかっていてもわざわざメラグのところにやってきた。

 仲間のため璃緒を救いたいという強い意志を持って。とっくに人間だったころの過去はもう捨てたというのに。

 

 

 メラグは小粒の涙を流しながら、鉄男の光が最後まで消えていくのを最後まで見送った。



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