何も理解らん男に人理修復を任せるな (as☆know)
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専門用語は控えめに
燃え盛る中央管制室なんて呼ばれる部屋。文字通り火の海になりつつある室内の中で、僕は一体何を思っているのか。
とにかく、少女を助けるのに必死だった。
瓦礫を力いっぱい持ち上げ、退けて。少女の負った傷が、致命傷となるレベルのものだと理解しているのに。無駄な我儘をしていたんだ。
『いい、です……助かりません、から』
バカなことを言うなと、つい声を荒げる。自分は薄情な人間だと勝手に思っていたのに、実際目の前に人がいると、こんなにも変わるのか。
人が生きるには適していない灼熱。とてつもない不快感を覚える、何かの焦げる匂い。本能的に、これは嗅いで良いものではないと判断できる。あぁ、帰りたい。生きたい。助かりたい。
『それより、早く、逃げないと……ぁ……』
けたたましく鳴り響くサイレンの中に、消えゆきそうな少女の声が霞む。僕もヤケになってキレながらさけんじゃいるが、事態は最悪。
背から重々しく滑車がきしむ音が地響きしながらサイレンを押し込む。あぁ、あぁ。もう閉まったんだな。
『……隔壁、閉まっちゃい、ました……もう、外に、は』
今思えば、こんなよくわからない研究所に黙って半分拉致みたいな形で連れてこられたのがおかしかったんだ。さっさと帰ればよかった。
そこまでさかのぼらなくても、あのへんなドクターに言われたように回れ右して走ってれば、もう無事に戻れていたのかもしれない。
こんなかわいい女の子と一緒に死ねるなら本望かな。なんて、思うわけがない。
願わくば。というか、生きれるんだったら生きたいに決まってる。けど詰んでしまっては仕方ない。足掻くのもばからしい。
『あの……せん、ぱい。手を……握ってもらって、いいですか……』
何も言わずに、彼女の手を取る。やけに小さくて、温かい。周りは暖かいってもんじゃないし。弱々しいっていうか、不謹慎だがマジで死にかけてる。
どちらにせよ、文字通り俺はもう綺麗に燃え尽きて灰になるだけ。今なら裸踊りでも寒中水泳でもなんだってやってやるよ。こんなこと容易い。
『……ハハッ。死んだな、こりゃ』
人間、死を悟る瞬間には走馬灯を見ると聞いたことがある。これまでの人生が一瞬でフラッシュバックする。人生のエンドロールだ。
そんなものを死ぬと悟った瞬間に見せるだなんて、カミサマも大概良いな趣味をしている。
『あー、良い人生! 終わりだ、終わり!』
けど、あの話は嘘らしい。今、僕の目に映るのは無数の光。蛍よりも強く眩しく、そして僕と彼女を包み込んでいる。なんなら、僕の目には彼女の足が光になって行っているように見えている。
今から行く先は天国か、もしくは地獄か。こんなんだったら、小学生の時タクマくんのポケモンを借りパクするんじゃなかった。もっと徳を積んでおけばよかった。
最後くらい、辛くなく逝きたいもんだ。目を瞑って、そのまま眠るように。
願わくば、炎に包まれて全身を激痛に襲われて、地面でのたうち回った挙句、ポックリ。なんて言うのはやめてほしいね。
まぁでも、もうフワフワしてきた。これならきっと、楽になれるだろう。
もう一回。強がりだけ言っておこう。良い人生だった! さらば! この素晴らしい世界! 祝福なんてありゃしねぇが!
「どこなのよここ! 返しなさいよ! あなた返しなさいよ!」
「さっきまであんなにかっこよかったのになんなんですか急に! 帰れるもんなら私だって帰りたいですよ!」
セクハラなんてどこへやら。なんだかすごいコスプレみたいな格好に変わった少女、正しくをマシュ・キリエライトの肩をガッシリ掴んでガクガク感情のままに振り回してた。
我がら思うが、さっきまで死んだかのように気絶してたっぽいのに、起きてすぐにとは。中々元気な体をしている。
あーあ、死んだと思った。文字通り。正しくは、今現在も死にそう真っ只中なんだけど。
周りの景色は、例えるなら現代で作った地獄。空は曇天。家は倒壊し、ビルのガラスは全て割られている。所々に火の手も回っていて、軽くついさっきできたばかりのトラウマが刺激される。勘弁してほしい。
「なんなのよ急に! 丸焼きにされて死んだもんかと思えば! 急に外だし! 変なのには襲われるし!」
「全部撃退しましたけどね」
「あんたのおかげですよ! ありがとう本当に!」
「マスターの指示あってのものですから」
よく見ると、自分たちの周りには人型をした謎の躯が転がっている。
人型というか、骸骨だよなこれ。さっきは黄泉の国で襲われたと思って大してリアクションしなかったけど、よく見ると完全におかしいよなこれ。
というか、さっきまで普通にVRの指示してバトルするみたいなゲーム感覚でマシュにも指示だしてたけど、それもおかしいもんね。女の子を戦わせて、僕は少し遠くから指示出し人間だもんね。クズだよね、これ。
ここがいったいどういう世界観のどういう時空なのかは一切理解してないけど。どう考えても僕が生きていた世界ではありえない光景が広がっている。
「まぁそれはともかく。お怪我はありませんか先輩。お腹が痛かったり腹部が重かったりしませんか?」
「うん、何も問題はない……というか、キミ強かったんだねぇ。感心しちゃった」
「……いえ、戦闘訓練はいつも居残りでした。逆上がりもできない研究員。それが私です」
へー、逆上がりもできないの。じゃあ今度教えてあげるよ。こんなことに巻き込まれたのもなんかの縁だし。
まぁ彼女は元々訳の分からない研究施設的なところ側の人間だから、信頼も何もないんだけどね。僕としては一刻も早くこの訳の分からない日常から、いつもの家で過ごす日常にいち早く戻りたいんだけどね。
「今、私があのように戦えたのは……」
『ああ、やっと繋がった! もしもし、こちらカルデア管制室だ、聞こえるかい!?』
ええ、聞こえるとも! なんなんだね、急に出てきて……って出てきてるねぇ! 信用ならんドクターいるねえ、ここに! 何この技術? 3Dじゃん。いつの間に世界の技術はそこまで進歩してたんだ?
あぁそこ勝手に話を進めないでくれたまえ。Aチームってなに? なんか最初に口うるさいねーちゃんが言ってたやつかい?
レイシフトなんて知らないよ? おじさんはカタカナに弱い生き物なんだから、あんまり専門用語とか使わない方向にレイシフトしてくれないかなぁ?
僕が全く話についていけずに唖然としている最中も、マシュとドクターは勝手に会話を続けている。コフィンだの、サーヴァントだの、特異点だの。うん、わからん。
何やら難しい用語が飛び交っているが、ここまで意味が分からないとむしろ清々しい。あまりにも置いてかれすぎて距離が遠ざかると、むしろおいてかれているという事実自体を認識できなくなって、逆に落ち着いていくといういい例だ。
『あー……小泉くん。今、話しても良いかな』
「なんでしょうサーヴァント?」
『ボクはサーヴァントじゃないんだけどなぁ……』
適当に専門用語をぶち込んでみたが、どうやら意味合いが違ったらしい。
うーん、日本語は難しいね。この人たちの使ってる専門用語はカタカナばっかりだから、果たして日本語と言い切れるのかは疑問ではあるけど。
『本題に戻ろう。小泉くん。そちらに無事シフトできたのはキミだけのようだ』
「今日、僕シフトの日じゃないんですけど。急な変更は困ります」
『そっちのシフトじゃないんだよね。それに、カルデアはシフト制じゃないんだ。あと休みは少ない』
「ブラックですね」
『ボクもそう思うよ』
この人もこんな楽観的でちゃらんぽらんな感じなのに苦労してるんだなぁ。ちょっぴり親近感を覚える。
自分語りにはなるが、僕も昔から巻き込まれ体質ではあったからねぇ。今回のなんて特に。
『おかしいなぁ……バイタルデータは正常なはずなんだけど、やっぱり混乱してるのだろうか……』
「先輩。この人の名前がわかりますか?」
「酷くうさん臭いちゃんぽんドクター」
「心理状態。正常なようです」
『それで正常だと認めたくないなぁ』
僕は何も間違ったことは言っていない。何ならここにいる人間? は全員うさん臭い人類だと仮定してるからな。今の僕は二次創作にありがちな簡易的人間不信に陥っているから。
『でも、なにもわからないままここにいるんだ。そうなるのも無理はない。すまない』
「謝るなら説明が欲しい」
『理解できるように懇切丁寧に説明するつもりだけど、理解できるかい?』
「愚問だな。100%無理だ」
『ごめんね。申し訳ないけど、このまま話を進めるね。なーに、安心してくれ。君には人類最強の兵器がツイているんだ』
「……最強というのは、どうかと。たぶん言いすぎです。あとで攻められるのは私です」
『サーヴァントってそういうものだから』
人類最強……吉田沙〇里より強いのか。マシュも確かにさっき見た感じはちゃめちゃに強かったけど、あの永鳥類最強を倒すのは難しいと思うな。あの人、目からアル〇ックビーム出せるし。
でも、この人の言い方的にサーヴァントがめちゃくちゃ強いらしいな。マシュは人間だけどサーヴァントと呼ばれるのか。よくわかんねぇな。ハーフみたいなもんなのか、もしくは二つ名というか、付属みたいなものなのか。皆目見当もつかないし理解も追いつかない。
『サーヴァントはそれほどの存在。今は小泉くんは、それだけ理解していてくれればいい』
「チートじゃないですか」
『いいや。それがそうでもないんだ。サーヴァントは頼もしい反面、弱点もある』
「その心は?」
『魔力の供給源となる人間。マスターがいなければ消えてしまう、という点だ』
『現状、キミがマシュのマスターになっている。キミが初めて契約した英霊が彼女、ということだね』
なんというか、本当にマスターなんだな。そして、その契約っていうのは勝手に結ばれるようなもんなんだな。
僕の知ってる契約っていうのは、まず契約書ってものにいろいろと記載をして、一つずつ説明を受けて双方納得の上で初めて受理される滅茶苦茶面倒なものなんだけどねぇ。
『キミにはマスターとサーヴァントの説明もしていなかったしね』
「せめてそれだけでも教えてくださいよ」
『わかった。いい機会だし詳しく説明するよ。今回のミッションには二つの新たな試みが……』
「ドクター、通信が乱れています。通信途絶まで、あと十秒」
「えっ」
『すまない、説明はまた後程。そこから2キロ先に礼脈の強いポイントがある。まずはそこになんとかたどり着いてくれ。そう知れば通信も安定する』
「ちょm」
ブツっ、分かりやすく通信が切れる音とともに、目の前にいたはずのうさん臭いドクターの姿が無くなる。
あの人、ちゃんと説明効いてたか? マスターとサーヴァントのことを教えてくれって言ったのに、今回のミッションがどうたらこうたら言ってたよな? あの感じじゃあ一生続かねぇぞ? 終わった。
「……まあ、ドクターのすることですから。いつもここぞというところで頼りになりません」
「今ので十二分にわかったよ」
「ここにいても仕方ありません。まずはドクターの言っていた座礁を目指しましょう」
「2キロは遠いよお。2キロは」
「愚痴をこぼしてもどうにもなりませんよ? そこまで行けばベースキャンプも作れるはずですから」
こんなところに来てまでキャンプとは、案外楽観的思考の持ち主なのかもしれないね。僕はもう色々と巡るましすぎて脳内的に疲れたよ。
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盾とは鈍器
「先輩。もうじきドクターに指定されたポイントに到着します」
「マシュ……ここって車とかないのかな……僕、一応免許は持ってるんだけど」
「あると思ってるんですか」
「うーんと、ないね」
「はい」
周りは見渡す限りの火の海。まるで戦争映画で空襲に遭った町。もしくは、ゴジラに襲われた都会のようだ。
車らしき鉄の塊もあるが、もちろん使えるようなものではない。
ある程度原型が残っていて使えそうだったとしても、走行中にガソリンが洩れてて大爆発。なんてことされて死んでしまっては意味がない。結局のところ、安全面も配慮すると歩くしかないのよね。
「そういえばさ。聞きたいことがあったんだ」
「何でしょうか。私に答えられることであれば、何でも」
「君みたいな子が何でもっていうと悪用する大人がいるから気を付けなきゃだめだよ」
「はぁ……? お心遣いありがとうございます」
マシュちゃんって、もしかしたら天然なのかもしれない。
何故か僕の事を先輩っていうし。なんで先輩呼ばわりするのか聞いたら、先輩は先輩だからとかいうし。どちらかというと、僕の方が後輩じゃないの?
「僕の右手についてるこの赤い趣味の悪そうなタトゥー。なにか知らない?」
「あぁ、それは令呪です」
「令呪」
「はい、詳しくはドクターが後に説明してくれると思います」
「後回しね」
「私もそれなりに知識はありますが、間違った知識を伝えるわけにはいかないので」
この子はやはりできた子である。
むやみやたらに知らないことを教えてその人が死ぬようなことがあれば、お互いに責任は取れないからね。
「そうですね……私から伝えられるとするなら、令呪は先輩がマスターであるための証。とでもいうのでしょうか」
「免許みたいなものかな」
「先輩がそういうのなら、間違いはないのかもですね」
そっかぁ。でもこのデザインはやめて欲しかったなぁ。なんかすっごく中二病っぽいんだもん。
これって後とかちゃんと消せるんだよね? ガチタトゥーみたいに掘られてて後から消すことはできないなんてオチだけはやめてくれ。
「……それにしても、ここは資料にあるフユキとは全く違いますね」
「へぇ、資料にここの情報があったのかい」
「はい。資料では平均的な地方都市であり、2004年にこんな災害が起きたことはないはずですが……」
「ここ、2004年なんだねぇ」
災害が起きたことはない、と言いましても。実際、目の前にしてここにいる冬木は一面火の海なわけだからねぇ。
それこそ、冗談抜きで戦争が起きて空襲でも起きたんじゃないかっていう風には。
というかね、僕にとってはその情報すら初耳だよ。当たり前のように初情報を使ってくるのは勘弁してほしいなぁ。
とってもびっくりするし、全てをそうやすやすと現実に受け止められるわけではないんだからね。僕はただの一般ピーポーなんだから。
「大気中の魔力濃度も異常です。これではまるで古代の地球ですね」
「僕はそもそも、この世界に魔力濃度ってものがあるのが知らなかったよ」
「……失礼ですがマスター。出身はどちらで?」
「北の大地、北海道」
「日本人ですよね……? それにしてはなんだか……」
なんだなんだ。キミは北海道のことを馬鹿にしてるのかい? 北海道はいいところなんだぞ。雪しかない。
その代わりに夏場は超快適。あとはゴキブリもいないしね。
「──────!!!」
「っ! マスター!」
「あの、あんまりこういうのは何なんだけどね。マスター、面倒ごととかは避けたいなーって」
「行きましょう!」
「マシュちゃんって結構強情だよね!」
そんなことを反論しようとすると思っていると、遠くから甲高いの叫び声がこだましてくる。こんな地獄絵図に人なんて、どうせ罠以外の何物でもだろう。
だってここまで生存者どころか人の影もなし。人型の動くものなんて骸骨だけ。
こんな役満状況に置かれてこのイベント、死地に来たことの無い俺でも罠だって分かるね!
……なんて思うよりも早く、マシュが声のする方へ走って行ってしまった。なーんで遠回しに止めたのに行っちゃうのかなぁ!
あのね。僕は普通の一般人だから! 貴方においていかれたら、それすなわち死、あるのみだから! だから待って! ちゃんと行きますから!
それに建前としても、赤の他人のピンチを黙って見過ごすのってなんだか都合が悪いからね!
「見つけました! マスター!」
「うわぁ……囲まれてるじゃんか……」
恐らくあれが先ほどの叫び声の主であろう、生存者と思われる人物。それを取り囲んでいるのは、さっき相対した骸骨たち。
というか、あいつら骨だから隙間から見えるのよね。あれは確実に人間だね。とりあえず害はなしと判断しよう。そうじゃないとせっかくここに来た意味がなくなるもんね!
「何なの、何なのよコイツら!? なんだって私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」
「それは僕も同感ですね! 突っ込め!」
「はいっ!」
物の見事に取り囲んだ人間に意識が向いている脳みそすっからかんどもの頭を、問答無用で後ろからマシュが盾で強打する。
ありゃ効くぞ。脳天カチ割るどころか、頭蓋骨粉砕してらぁ。もう立ち上がれんだろう。物理的ヘッドショットってな。
それにしても、あんな華奢な体で自分の投身ほどはあるどでかい盾を、よくもあんなに振り回せるよな。
俺なんかなんか多分支えるのでも必至になること間違いなし。マシュのことはあんまり怒らせないようにした方がいいのかもしれない。
「大丈夫ですか! ……って、オルガマリー所長……!?」
「あっ、知り合い?」
「先輩も知ってるはずです! ミーティングの時に……」
「あ、貴方たち!? ああもう、いったい何がどうなってるのよーっ!」
マシュの突撃によって空いた隙間に滑り込んで合流。ここで突っ込まないとマシュと俺で分断されて、主に俺が終わるからね。是が非でも突っ込まなきゃいけなかった。まさに死の二択。
骸骨どもに囲まれていたのは白髪の女性。どっかで見たことあるような、無いような……そんな淡い記憶しなかなったけど、マシュの反応曰く、やっぱり会ったことあるらしい。全然覚えてないや。この人影薄いんだね。
それにしても、さっきから情報があっちこっち飛び回ってて何が何だかわからない。俺だって叫んでやりたいわこの状況。
「先輩! 囲まれてます。指示を!」
「囲まれてるっつーか。囲んでたところに僕たちが入りに行ったんだけどね! とりあえず陣営を崩すぞぉ! この人は俺が見張っとくから! 片っ端から殴り飛ばせ!」
「はいっ!」
せっかく身を挺して救いに来たのに、理科室の化け物たちにやられてしまっては元も子もない。先ほど頭蓋骨カチ割った骸骨が持っていた、いびつな形をしたサーバルを拾い上げる。これで0から0.1にはなるだろう。
幸いにも複数とは言え、数自体は少ない。先ほどのが一体。その他、三体。
「マシュ! 手っ取り早く行くぞ! そいつらは骨だからな、盾に体預けながら突っ込んじゃいな!」
「やあぁっ!!!」
『──────!?』
攻めは最大の防御なり。発信元がどこかは知らないし、この発言が一言一句間違ってない原文ママなのかも俺にはわからないが、世の中にはこんな言葉があるんだ。
守るだけじゃなくて、逆に攻めこんでしまって敵に攻める隙さえ与えなければ守る必要なんてないじゃないのっていう話である。
「敵に背だけは向けるな。片っ端から殴り飛ばせば、マシュなら行ける!」
「うりゃああああっ!!!」
うん、とてもバカだ。簡潔に言って脳筋思考。けどこの言葉、相手が一撃で崩れるようなもろい相手だと、あながち間違いではなくなる。ほら、危険な目は鼻から摘んでおくってやつよ。ニュルニュルっとね。
現にほら、あいつらもういない……って、これはマシュが強すぎるだけかもしれんな。
「……ふぅ。戦闘、終了しました。お怪我はありませんか、所長」
「……………………どういう事?」
「おいおいおいおい。助けてもらっといてどういう事とはとんでもないねーちゃんだなゲッヘッヘ」
「先輩、何ですかそのキャラ」
いやいや、こういう時にはこういう下劣なセリフが一番似合うんだよ。マシュも覚えておきな。多分一生使うことはないから。
それにしても、個人的には俺の心配もしてほしかったなー。まぁ起きた直後にビックリするくらい心配してもらったから、別にいいんだけどね。
「それに……なによりも私の状況ですよね。信じがたいことだと思いますが、実は──」
「サーヴァントとの融合デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ。わたしが訊きたいのは、どうして今になって成功したかって話!」
「無能上司がいなくなったからでは」
「貴方は黙ってなさい!」
「おーこわ」
実際にあるでしょ? 圧だけかけてくる上司がいないときに死ぬほど仕事が捗るとかいう話。Twitterの現場猫で見たんだからね。
それにしても、マシュはデミ・サーヴァントとか言う生き物になったのか。
通りで格好も変わって盾を振り回してるけど、中身はマシュのままなのか。マシュがどうなってるのかやっと理解したよ。頼もしいね。今更ながら。
「……いや、それ以上に貴方!」
「ぼく?」
「貴方よ、私の演説に遅刻した一般人!」
「一般人とは、よくご存じで」
「わたしの演説に遅刻した挙句、目の前で寝るなんて……そんな失礼な奴のことを忘れるはずがないでしょ!」
あー、なんかそういえばそんなこともあったな。なんかマシュと変な毛むくじゃらのおっさんに言われるがまま連れてかれたやつ。
あれミーティングじゃなかったのかよ。なら遅刻しても別によかったわ。人の話なんて長く聞いても忘れるから意味ないしな。なんなら眠すぎて寝落ちしたし。
「なんで貴方がマシュのマスターになっているの!? サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!」
「そうなの?」
「そうよ! アンタがマスターになれるハズないじゃない! その子にどんな乱暴を働いて言いなりにしたの!?」
「乱暴したらマスターになれるもんなの?」
「私に聞かれても困ります……」
契約って言ってるのに、強引に逝けば勝手にマスターとサーヴァントの関係になれるもんなのか。飛んだ悪徳商法じゃねぇか。詐欺もいいところだな。
それにしても魔術師がどうだのこうだの。本当にここは俺が言ってる日本なのだろうか。いや、ここは俺の知ってる日本じゃないけど。あー、もうこんがらがってきた。誰か説明書か攻略本を持ってきてほしい。
「えーっと、強引に契約を結んだのは、むしろ私の方です。所長」
「……そうだったの? なんて、納得できないけど」
「はい。なので、お二人にも経緯を説明します。その方がお互いの情報把握にも繋がるでしょう」
一番は俺がなんでこういう状況になってるのかを説明してほしいんですけどねー!
マジでおうちに帰りたい。
取りあえず10話くらい投稿させていただいて様子を見させていただきたき。
fateシリーズを何も知らないので、感想などで片っ端から突っ込んで頂けると幸いです!
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初めての相手はとても大事
「なるほど、ね。状況は理解したわ」
「僕は何も理解できてないんですけどね」
「貴方が理解したところで何も変わらないわ」
ひっでぇ言い分。俺だってマシュちゃんのマスターとして少しくらいは色々と状況理解をするべき人物の一人でしょうに。ま、当の本人に理解する気が全くないんですけどね!
それにしても、マシュが色々と説明をしてくれたんだけど、ものの見事に全く持って何も理解できなかった。
専門的な用語が多すぎるんだよね。機密事項だからわざと暗号化してるのかどうか知らんけど、理解できなきゃ意味ねーべ。バカにもわかりやすく教えるっていうのが天才の役割でしょ?(丸投げ)
「とはいえ、緊急事態ということで。小泉和也とキリエライトの契約を認めます」
「認める認めない以前に契約は終わってるらしいんだけどね」
「先輩……あまり刺激しないほうがいいですよ……」
ほんとだ、所長とやらの額がぴくぴくなってる。あれじゃまるでスズムシだねぇ。外も暑いし、夏の風物詩みたいじゃないか。良いことだ。
事実、僕とマシュのマスターとサーヴァントの契約はもう済んだ話であるんだからね。偉そうなこのねーちゃんが何を言ったところでどうしようもないわけよ。
そもそもここで『私はあなたたちの契約を認めないわ!』なーんて言われても、俺は契約の解除の方法とか全く知らないしね。スマホの課金契約なんかとは全く持って違うんだから。
「ここからはわたしの指示に従ってもらいます……まずはベースキャンプの作成ね」
「ここをキャンプ地とするのか」
「お黙り」
なんだよ、悲しいなぁ。こんな見た目でも、一応野宿とかにはそれなりに慣れているんだぞ。もう少し野宿のスペシャリストとしての敬意的な何かを払ってほしいね、僕は。
というか、自身の安全がある程度確保されるや否や何なんだね君は。そんなに人の上に立つ人間っていうのは強欲の塊みたいな思考をしているのかい。
カーッ! 人間ったら卑しくて仕方がないねぇ!
「マシュ、貴方の盾をここに置きなさい。宝具を触媒にして召喚サークルを設置するから」
「武器を手放すのか? 正気か?」
「危険だけど、やるしかないのよ。これが出来ないとこの現状から話が進まない」
ならば仕方なし。現状ここでうだうだやってても、話が進まなければ永遠にここに取り残される羽目になるかもしれないんだからねぇ。野垂れ死にっていう結末だけは、自分の人生としても染みすぎてご先祖様に顔向けできないから勘弁してほしいね。
よっこいせ、なんてすることもなく、まるで発泡スチロールでも扱うようにマシュが地面に盾を置く。サーヴァント? ってすげぇな。さっきからずっとそうだけど、その華奢な腕のどこにそんな力が隠されているんだい全く。
そのうちマシュと所長さんがよくわからんことをいろいろしているうちに、地面に置かれたマシュのどでかい盾から何やら光臨野物体がフヨフヨ出てくる。ほんとにCGでも見てるんじゃないかって思うね。これね。
「っていうかさ。召喚っていうくらいだから、なんか出せないの?」
「出そうと思えば……でもそれが出来るのは一流のマスターだけ。貴方には無理よ、だからさっさとカルデアと通信を……」
「開け! 夢の扉!」
「ってちょっと!?」
「うわっ!? ま、マスター!?」
物は試しと、光るマシュの盾に向かって指パッチン、そのあとは適当に手をかざしてみた。すると、マシュの盾を囲うようにいくつかの光体が浮かび上がる。その中心にはもう一回り大きな光体まで。
急な出来事に呆気に取られていると、周りの光体たちがマシュの盾を中心にして回転し始める。回転速度はゆっくりと、次第には少しずつ早くなる。
あれ? なんか嫌な予感がしますぞ。わてくし、もしかしてこれやったというやつでは? やってしまったのでは?
「……嘘」
「あれ? 僕、なんかやっちゃいましたか?」
「何かやったどころじゃないわよ! 止めなさい! 今すぐあれを止めなさい!」
「いやいやいやいや! 止め方なんか知るわけないじゃない!」
「バーサーカーでも出てきたらどうするつもりなのよ!」
「落ち着いてください、所長!」
そもそも俺なんもやってないしね! 適当に手をかざして適当な呪文を言ったら、勝手にあの光る球が出てきたんだから! どうにかしろって、できるはずないじゃない!
光体の回転速度はみるみる上がっていき、次第には個体一つ一つを確認できなくなり、円になっていく。
あそこに指突っ込んだらちょん切れそうだな。なんて呑気な考えを捨て置き、とりあえずなんとか止める方法を模索。
「ねぇ、マシュの盾を動かすのは無理?」
「じゃあ、貴方がやりなさいよ!」
「あんな得体のしれないものに突っ込めるわけないでしょ!?」
やけどとかしたらどうしてくれんの? 労災とか降りるんだよな! カルデアって!
ブラック企業とはいえ、そこんところはしっかりしてくれないとマジで困るぞ!
「あの……お二人とも……」
「「なに!?」」
「そ、そろそろ終わりそうというか……終わったというか……」
マシュがそういった数秒後、電気がぶつかり合ったような激しい光に一瞬包まれる。
目がやられる。瞬時にそう判断し、体を捻り顔を隠したは良いもの、それすら貫通するような眩さだった。
ポリゴンショックもびっくりな眩い光が消えて、数秒。いまだ回復しきらない視界の奥に、何やら見えた。
「……あえ? 人」
「……おう。おまんがわしのマスターか」
チカチカする視界のせいで上手くとらえることが出来ないが、間違いない。人影だ。それも、さっきまではここにいなかった。
マシュのでも、所長のでもない。明らかに大きな男性と取れる影。少しずつ視界が回復していくにつれて、情報が入ってくる。
色合いは淡く、身にまとっている様式はまるで着物。もしくは、袴。さらに腰元には、日本刀。
現代で言うマフラーのようなものを纏い、口元は隠れしている。が、そこから零れる眼つきはまさしく鬼をも殺すよう。正直見つめてると喧嘩を売られそうなので、あまり凝視はしたくない。
「……人?」
「あぁ。確かに、人じゃき……って、まだ名も名乗っとらんかったか」
口元を隠していたマフラーをグイっと下げ、見えた口元は何かたくらむように歪んでいた。正直、悪役にも程がある。
はっきり言って、風貌は人殺し。というか、雰囲気からも嗅覚では感じられない血なまぐささを感じる。視覚からくる錯覚なのか。はたまた、脳が混乱をしているのか。
さっき所長が言っていた、バーサーカーとか言うのを引き当ててしまったのかもしれない。和訳すれば狂戦士、なんていうくらいだもんな。せっかくここまで生きてきたのに。終わったかもしれん。
「わしが土佐の岡田以蔵じゃ。人斬り以蔵の方がとおりがえいかの?」
あぁ。こいつは狂戦士なんて聞こえがいいものじゃない。
もっとわかりやすく。単純で。それでいて、愚行な。
人斬りだ。
「岡田以蔵……クラスは、アサシン……?」
「勘違いすな、わしのクラスは人斬りじゃ」
「貴方! なんてサーヴァントを召喚してるのよ! 私たちがここで斬られたらどう責任取るつもり!?」
「サーヴァントってそんなに恐ろしいの」
「チッ……うっさいのぉ……」
アサシン……わかりやすく直すと、暗殺者。まぁ、言ってしまえばこいつに背を向けたら僕の頭と体がさようならしそうな人ってことか。まぁ人であって人ではないサーヴァントなんだけど。
クラスについてはよくわかっていない。さっきドクターがセイバーだのなんだの言ってたけど、正直理解できていなかったしね。
「えっと、岡田以蔵さん……だっけ」
「あぁ。で、マスター。わしは誰を斬ればいいんじゃ」
「ほら! こいつ、人を斬ることしか考えてないじゃないの! 実質バーサーカーよ! バーサーカー!」
「わしを暴れるしか能のないボンクラと同じにすな! わしは列記とした人斬りじゃ!」
この人、自分から斬られに行ってるんじゃないかってくらい騒ぐじゃん。
そんなに怖いの? この人って過去に自分がやった悪行が全て帰ってきてるとかいう自覚かなんかでもあるの? 子供の時に隣の家のじいちゃん家のカキでも盗んでたのか?
「結局、以蔵さんは僕に従ってくれるのかい」
「あぁ、仕事みたいなもんか。ま、わしは人斬りじゃき。そういうことなら任せとき」
あっ、コンタクトは取れそうだね。あと、なんかツッコミ適正もそこそこありそう。
話が通じないやつが出てきたとかだったらもう死を覚悟したけど、話が通じるならば話は別。協力してくれる人は多いに越したことはないしね。
「……貴方、こいつのサーヴァントだってことは分かってるんでしょうね」
「……あぁ? 主従? もうその手の話はまっぴらごめんじゃ!」
「ほら! やっぱりこのサーヴァントはダメよ! 何とかしなさい!」
「人斬りは斬ることだけ考えた方がええんじゃ。その方が楽じゃしのぉ!」
「いやー……そんな悪いようには見えないんだけど」
以蔵さんもなんか楽しんでるように見えるし、そんなにヤバイ人なのかな。
この人が善か悪かで言えば悪側の人間であることは変わりないんだろうけど、ちゃんと人間っぽいし。
「ちなみにだけど、斬れるのって人だけなの?」
「そんなわけなか。わしは剣の天才じゃ、この世のもんなら全部斬りふせたる」
「じゃあ決まりだ。ここら辺は人紛いが多くて困ってたんだ。全部斬ってくれるなら、それに越したことはないね」
正直、僕は地球上にいた歴史の上で多大なのを残した人物の話とかは全く持って知らない。
はっきり言って、目の前にいるこの人斬りの名前だって、どっかで聞いたことあるなぁ程度で終わっている。
それは逆に言えば僕の持っている唯一のメリットなのかもしれない。
彼が過去にどんな悪行を犯していても、それを知らずに接することが出来るんだからね。まぁ、彼の場合は自分で人斬りって明言してたから、過去に何をやらかしたのかは明白なんだけどね! 怖えよ!
「天誅の岡田以蔵。幕末の四大人斬りとして名を遺した、剣の天才ですね。なのにアサシンでの召喚とは……」
「その天誅ってのがキモなんでしょう。言ってしまえば、岡田以蔵は歴史上でも類を見ない暗殺者なんだから」
「褒められると照れるのぉ! 酒はないんか、酒は!」
「褒められてるんすか」
あと、酒もないです。あるのは火の海地獄です。
いやー、にしてもついさっきに知らないのが僕の唯一のメリットだと言ってたのに、女性人二人があれよあれよという間にばらしてしまった。
剣の天才。天誅の名人。歴史上でも類を見ない暗殺者。
「さぁ、行くぜよマスター! 目の前に立つ奴は片っ端から首の根掻っ切ったるわ!」
なんで寄りにもよって一番最初にこんなの引いちまったんだろうなー!(半ギレ)
この小説ははっきり言ってテスト投稿なので、もうバンバン行きます。バンバン。
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人斬りの性
「……なんか所長さん、不機嫌じゃない?」
「マスターはあまりにもカルデアのことを知らなさすぎです。所長の機嫌が悪くなるのも無理はないです」
「人生のうちでここまで人の話を聞かない人を見たのも初めてだわ……」
「はっはぁ! 脆いのぉ! 脆いのぉ!」
元気だなぁ、以蔵さん。さっきからこっちに向かってくる有象無象を全部斬り倒しちゃうんだもん。切り倒す通り越して切り殺してるんだけど。
事故的なアレで以蔵さんを召喚したのち、本来の目的でもあるカルデアのドクターとの通信出来たわけなんだけど……どうやら中々にカルデアの方も大変な状況らしい。所長さんも上の立場の人間的に、色々と大変なようで……よくわかんなかったけどね!
結局のところ、所長の判断は冬木を探索して冬木が焼け野原になった理由かなんかを調査するという風になった。
ここで救助を待てよ! ってその場でハチャメチャに抗議したんだけど、カルデアが取られるどうのこうので無理やり同行する羽目になった。
絶対許さんからな。覚えとけよ(半泣き)
「いやー、ええとこに来たわ! 骸骨風情じゃ多少斬りがいにゃかけるが、結局斬れればなんでもいいぜよ!」
「以蔵さん気を抜いて刺されたりしないでね」
「そんな下手するほどバカじゃないきに。マスターは戦闘の全てをわしに預けちょけ」
「頼もしいねぇ」
「私としても、あまり戦闘は得意じゃないので……」
以蔵さんにはしばらくは僕たちの護衛をしてくれって頼んだのは事実なんだけど、まっさかここまで強いとは。
マシュちゃんの先頭を見ていて度肝を抜かされてたのに、その上から目ん玉飛び出るような戦闘を見させられた。
問答無用の捨て身とも取れるような特攻。手段を択ばす、ただ人を殺すことを考えた実践的な剣術。
いつか見た剣道の試合なんかとは全く違う、まさに殺しに特化した戦闘だ。今のところ暗殺者というよりは、ただの戦闘狂に見えるんだけどなぁ。
「それよりも貴方! 話はちゃんと聞いていたんでしょうね!」
「何が? マシュちゃんが成長と可能性に満ちた可愛い後輩って話?」
「口に出されると照れますよ、先輩……」
「なんでそこだけ覚えてるの! 貴方もマスターなんだから! 宝具やらサーヴァントの性質やら覚えなきゃいけないの!」
そんなことを急にまくしたてられたって困ります。
本来、こういうのって順を追って体にしみこませるものじゃない。そんなのを数分間マシンガントークされたところで頭に入りますか?私は入りませんでした。専門用語って難しいね。
聖杯戦争ってなんだよ。そんなはた迷惑なことするなよ。じゃんけんで決めろよ。
サーヴァントって何だよ。要するにクソ強い過去の偉人じゃダメなのかよ。
クラスってなんだよ。ポケモンのタイプじゃあるまいし、サーヴァントだってほとんど人間みたいなもんやん。
なんだよ制限って。神を縛るな不届きもの。
宝具ってなんだよ。必殺技じゃダメなのかよ。メカニズムを教えられてもわかんねぇよ。
「以蔵さんって宝具打てるの?」
「打てるぞ」
「なんでこんなところで打たせようとしてるのよ! そういうのは奥の手って言うのよ!」
「なんじゃ、詰まらん女じゃな」
「そーだそーだ。以蔵さんの必殺技見たかったのに」
「こんのっ……!」
所長大丈夫かな。ブチギレすぎてファイヤードレイクか何かに進化しそうになってるんだけど。
おぉ、怖い怖い。
「それにしても、その異変の原因なんていうのかまだ見つからんのか」
「だって手掛かりがねぇ……所長が探すなんて言い出したけど」
「何か文句でも? 異変の原因がわからない限り、貴方が現代に帰れないのは事実よ」
「それは困る」
「わしはサーヴァントじゃから関係ないがのぉ」
僕たちが変な骸骨に襲われつつもこんな火の海を歩いているのにも理由がある。それは、2004年の冬木がこんなようになった理由の解明だ。
詳しいことは例によって全く理解できてないが、ともかく理由が分かれば僕たちは家に帰れるらしい。そうと決まればやるしかないっていうのが定め。
実際のところ、戦闘が楽になり動きやすくなった、というのも僕が前向きになった理由の一つである。
マシュ一人でも非常の心強かったが、マシュだって一人の人間だ。一対多数なんていうのは気を遣うし、こっちには生身の人間が二人いるんだ。
どのくらいここに居なきゃいけない、なんてことも視野に入る以上、マシュの負担もなるべく考慮しなければならない。マシュが動けなくなればそれは一貫の終わりだからね。
「それにしても、わしを召喚するまでよく生き残れ取ったのぉ。その娘も戦闘を怖がっとんのに」
「マシュちゃんは頼りになったぞ」
「はははっ! こんなん、本物の戦闘じゃなか! 娘も今のうちに慣れとけよ」
「は、はいっ!」
「何、わしがおるうちは一匹たりとも譲らん。安心してマスターたちを守っときゃいい」
なんて言いつつも、マシュの方にいくらか敵を流しているのを僕は知っている。俺だから気が付けたとかじゃなくて、普通に見ていれば分かる。
以蔵さんなら瞬殺出来る敵を少ない数流しながら、本人も戦闘を楽しむ。難しいことを考えるのは好きじゃない、なんて言いつつも。やっぱりこの人は大悪党ではない気がするな。
こうやって会話をしている時でも、剣から手を放そうとしていないあたり、気を張り詰めているのがうかがえる。
マシュのことも考えないといけないけど、以蔵さんのケアも考えなくてはいけない。実際、苦手だと言っていたんだ。慣れないことをさせると余計に負荷がかかるのも間違いないから。
「……止まれ」
「どした?」
「おまんら、わしから離れてろ」
以蔵さんの足が止まったと思うと、グイっと肩を押し込まれ、後ろに下げられる。
目の色が変わった。今までの戦闘時とは眼つきが全く違う。いやな、予感がする。
『ごめんみんな! 急で済まないが、すぐにその場を離れてくれ!』
「ドクター! どういうことですか!」
「……あれって」
「────────」
見えた。黒い影。文字通り真っ黒な靄に隠れてはっきりとした姿は見えないが、人の形をしていることは確かだ。
顔が見えないのに、足が竦む。はっきりとした敵意を感じる。
『サーヴァントの反応だ! 小泉君! マシュ! 君たちにサーヴァント戦はまだ早い!』
「アホ抜かせ。それはこいつら二人だった場合じゃ」
鞘から赤に染まった光が零れる。姿勢を低くして、敵を見据える姿はまさに幕末を生きた侍。
「どのみち、もうここはアイツの射程範囲内じゃ」
ハッとして回りを見渡すと、周りはいつの間にか鉄の鎖で囲まれている。まるでデスマッチ専用のプロレスリングだ。
あの黒い影のサーヴァントの武器なのだろうか。ともかく、分かるのはここから逃げることは許されなくなったという事実だけ。
「……えぇ、戦うしかないわ。同じサーヴァントでしょ! マシュ!」
「……最善を尽くします」
足が震えている。初めて見る敵対したサーヴァントを目の当たりにして、恐怖という感情がより一層強くなる。
やらなきゃやられる。生死の間際をさまよった人たちも、きっとこういう気持ちだったのだろう。
「敵影……影のサーヴァントと仮定しよう。戦闘のメインは以蔵に任せる。マシュはサポートだ。大丈夫、キミには盾がある。信じろ」
「……あぁ。足を引っ張ったら承知せんぞォ!」
「はいッ!」
以蔵と影が地を蹴る音が同時に響く。と、同時に鉄と鉄がキツくぶつかり合う鈍重な響きが体を襲った。
今までのは本気なんか微塵も出していなかったのだろう。早く、重く。ただただ眼前の敵を殺すことしか考えない動き。
さっきまで話していた人物とは持つものが別人じゃないか、少し体に寒気が走る。
それでも、僕は彼のマスターだ。ぶっつけ本番甚だしいが、やることは決まっている。
「……少しは、やるのぉ」
『────ソノ、首、モラッタ』
「あ? ……チィッ!」
「マシュ! 以蔵の裏っ、来るぞ!」
視線は確実に鍔迫り合いの形になる以蔵と影に向いていたんだ。ただ、急に変なイメージが湧いてきた。大きな槍を抱える黒い影が突っ込んでくる
火の海に紛れていた影が出てくる数秒前には、もう叫んでいた。
「っ! はい!」
『──────!!!』
「────ッぅ!」
「嘘……サーヴァントが二体も……マスターはどこ!?」
大きな槍を背負い、握る槍持ちの影のかかったサーヴァント。上から振り下ろされた圧し掛かるような一撃。マシュは僕の指示のまま、真正面から見事に防ぎきる。
影のサーヴァントたちは仲間意識を持ち、そして戦術を練って僕たちを狙っている。いつから、何故。
そんな思考が頭をよぎるが、振り切る。
こちらは本来なら虚を突かれたはずだが、それを防ぎ切った。それは相手からしても予想外の出来事なはず。
そしてそれは、
「────今、目ェ逸らしたな」
一瞬、影のサーヴァントが槍持ちに影の意識が向いたそのコンマ数秒。意識を前に戻したとき、以蔵は視界から消えていた。
鍔迫り合いをしていた相手が急に消えて気が付かないはずがない。
えぇ、持っての通り。だけど、気が付いたとしても、思考が探すという段階に変わっただけ。見つからなければ、状況としては何も変わらず、敵は隙だらけ。
何も姿を消したなんて言う話ではない。単純だ。
大きく右にステップし、視界からまず外れる。そのまま最短距離で相手の背に回り込む。言葉にすれば、これだけ。
この少なく、完結された動き。秒数にして一秒かかるか、かからないか。その一秒が文字通り命取りになる。
気配を消して。
忍び、殺す。
彼は人斬り。
そして暗殺者。
「──ァ」
今度は、鉄と鉄がぶつかり合う音ではない。短く、細く、鋭い音。
先ほどよりも質の重い、
ビチャビチャと赤い雨がアスファルトに打ち付ける音。
ぐしゃりと、モノが水の溜まった地に重力のまま伏せる音。
「──────終いじゃ」
彼の目は、少しだけ詰まらなさそうに赤く染まった地を捉えていた。
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