異世界転生のチートって、もう少しなんというかチョイス考えろや (madamu)
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異世界転生のチートって、もう少しなんというかチョイス考えろや

市街地を囲む巨壁はすでに500年を過ぎ、幼少時にその建築を見た都市エルフたちも年齢的には壮年へと足を踏みいれている。

北方西方東方を結ぶ大都市。800年の大帝国の心臓部。

 

世界でも3つある大陸でも最大の一つとして知られるその都市「 Κωνσταντινούπολη」は今日も多種族多様な人々が日々の生活を営んでいる。

15年前に発生した西方との8年間に及ぶ大戦も西方の盟主となったリザードマンの国王との和平条約も終わり、今は最前線に残された兵士たちが残党化し地方で山賊、盗賊団化した者たちが暴れ回る。

都市の南部にあるとある島では新たに3,000年前の古代王国の遺跡も新たに発見し、にわかに大陸最大の都市は戦後の復興と迷宮人気により多大なる経済隆盛を迎えていた。

 

 

「いいだろ!」

冒険屋、傭兵、ごろつき、チンピラ。

呼び名は多々あれど、暴力屋の側面を持つ人々を暫定には「冒険者」と呼んでいる。

その中でもあまり性質の良くないものが下町の酒場で看板娘に絡んでいる。

 

種族の混血は時折見え、この都市でも一定数の混血児はいる。

この看板娘に絡む冒険者気取りもオーガの血が混じっているのが、人間種よりも頭一つ半は身体が大きい。

オーガもどきは、ふざけながら酒の酌をするように看板娘を追いかけまわす。

看板娘は人間種で10か11歳ほどの少女。茶色の髪にそばかすのある頬。まだまだ子供だ。

「やめて」

追いかけまわされ酒場のカウンター裏に逃げ込む。

「お客さん、遊ぶなら花街にでも行って下さいよ」

少し太めの亭主。この店を仕切っているが少女とは叔父と姪の関係で一時彼女を預かっている。

亭主は苦笑いをしながら「オーガもどき」にエールの入った杯を出す。

奢るから大人しくしていろ、という意味だが「オーガもどき」はそれを受け取る気はない。

「酒場で酌するのは当然だろ」

ヒヒヒと下品な笑いをすると連れの取り巻き達も同様な下品な笑いをする。

 

戦争と言うのは人の精神を狂わせる。

酒場の看板娘と言ってもそれなりに歳を食った女の尻を触り叩かれるなどの下品なコミュニケーションは少なくないが

それを色を知らない少女にしようとすることを笑いにするのは精神が疲弊している証拠だ。

このオーガもどきも戦争の被害者であり、戦後は無辜の市民への加害者である。

 

「お客さん、悪いことは言わない。遊ぶなら花街行きな」

酒場の亭主ははっきりと言う。戦争経験者が多いこの街ではごろつきにいちいち慄いてはいられない。

カウンターの内側には暴漢対策の警棒を備えている。

それに店にいる他の客、常連の中には傭兵経験者も複数おり、「オーガもどき」が暴れても衛兵が来るまでは時間稼ぎができる。

 

店の入口上部の窓から差し込む夕日が衛兵の巡回時間が間もなくであることを知らせてくれる。

(日差しがもう少し弱まるころには・・・)

 

「旦那だ!旦那が来るぞ!」

表の通りから誰かの叫び声が聞こえる。

酒場の亭主は少しだけ後悔した。

もっと早くこのゴロツキを制していれば、今日姪を店に出さなければ。

 

「おい、さっきの娘だせや」

少し涎が垂れるオーガもどきが脅しをかける。

亭主は困った顔をした。

それはオーガもどきに対してではない。

 

この後来る常連の行動が予測できたからだ。

血の雨が降る。

 

 

 

「チート何が良い?」

「花の慶次の前田慶次、SAKONの島左近、るろ剣の比古清十郎、修羅の刻の陸奥鬼一、海皇紀のトゥバン・サノオかファン・ガンマ・ビゼン。以上のどれかか全部」

「やりおるわ」

老人姿の神は目の前のおぼろげな魂の回答にほんの少し頭が痛くなった。

 

神側の手違いによる死亡した魂に「冒険者がいるようなRPG世界への転生」と説明した上でチートの希望を聞いたら5秒の沈黙後に上記のリクエストが出た。

威厳のある台詞とは裏腹にここまで具体的なチート希望を述べるこの魂の業の深さ、端的に言えば盆暗加減に苦笑いをするしかない。

「まあ、よかろう。その希望に近しいものを出来る限り調整してやろう。だがチート希望提出後のチート管理は別部署の管轄でわしが出来るのはお前の希望を極力叶えられるよう提出することで、お前の望みの確約保証ではない」

 

この神はサラリーマンであった。

 

 

「邪魔するぞ」

旦那と呼ばれた男が入店を告げる。

 

東方からの移民は多種にわたる。

竜族やシン国の一団や大和国の人々など転移の門が普及しなければこの都市に来ることが出来ない人も移住団として都市へ来ていた。

 

15年前の戦乱期には東方から戦場を求めてこの都市にやってきた戦人もいる。

そして名を上げて定住し、傭兵兼冒険者として暮らす者が一定数いる。

東方の刀鍛冶、甲冑師なども移住しており都市の拡張部はまた別の国の香りがする。

 

件の酒場の常連は、この戦乱時には元服したばかりの少年であったが連日連夜の戦でいっぱしの戦人となった。

それだけではない。家伝の秘剣術を用い、冒険者としてもその名を都市に知らしめている。

やれ迷宮の悪魔を切った、疾風のごとし剣閃、ゴーレムさえも恐れぬ胆力。

冒険者としては都市の支配階級層とも渡り合える儀礼と知恵。

すでに幾人かの支配階級者は彼と誼を結ぶことに利を見出し、またその独特な人柄に興味を持ち友誼を結んでいる。

 

「おう!今日は貸し切り・・・」

オーガもどきが声の方に振り向き、男の容貌を見る。

 

 

その目、白目と黒目が反転し、怪異異貌の印象は爽やかさとはかけ離れる。

吸血鬼さえ逃げ出す肌の白さは不吉を越えて禍々しい。

蛇と猟犬を当時に想起させる美貌は悪意溢れる美しさを覗かせるのが余計にたちが悪い。

侍らしい髷はゆわずに伸びた髪を適当に首の後ろでまとめている。

それは血に濡れて湿気を帯びたように畝っており、余計で不必要で背徳的で無駄でしょうもない色気を醸し出している。

この邪な美貌に股を開いた娼婦や貴婦人は両手の指では足りない。

そして抱かれて殺された女の暗殺者も両手の指では足りない。

遥か東の島国の着物を纏う異美である。

 

「なんだ。騒ぎのにおいがするな」

鼻を少しならし臭いをかぎ取る。冗談ではなくこの男は酒場の中に剣呑な美臭を感じていた。

つまりは刃物にこびり付く人間の脂の香りである。

 

東方武士団の一人、通称黒笠。

東方人が使用する笠を黒く染めて使っていることから付いた異名であり、その剣さばきは都市でも屈指。

また魔術とも違う「心の一方」という気合術を使う妖術師でもある。

 

その心の性質は容貌に出ている。

仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌の心得は最小限にとどめ独自の生死感で刃を振るう。

血と刃と女を好むこの都市きっての怪人の一人である。

 

「そいつらが看板娘にちょっかいを!」

常連の一人が簡潔に、そして囃し立てるように伝える。

周りはこれから起こる惨劇を恐怖しつつも楽しみにしている。

黒笠は余計な血は流さない。だが目当ての相手の血は最後の一滴迄欲する。

 

「なに~。股ぐらから血も流さぬ小娘狙うキチガイか~」

蛇というよりももっとたちの悪いモノをイメージさせる。

少しだけ舌先を出して唇を舐めると黒笠は腰の一刀を鞘から抜く。

 

侍たるもの腰の一刀は軽々に抜いてはならぬ、という一般的な話はこの黒笠には通じない。

「おい、お前らも抜けよ。その腰の手斧とナイフ。ちゃっちゃと抜け、おい」

気おされてオーガもどきとその取り巻きは各々刃物を手にする。

 

黒笠は凶笑。

 

店の常連たちは壁際に寄り、立ち回りが出来る空間を作る。

それはまるで円形の処刑場を形作るようでもあった。

 

「お前ら、上半身と下半身の泣き別れと首と胴の泣き別れ、好きな方を選ばしてやるから言ってみろ」

笑みを残したまま黒笠は切っ先をオーガもどきと取り巻き一人一人に向けて質問する。

「同じじゃねぇか!」

取り巻きの一人が勇気を出して答えるが、黒笠はその答えにさらに笑う。

「お前らが首なし騎士なら首と胴がわかれたところで不便もあるめえよ」

 

殺すのだからどっちでもいいだろう。冗談だ。

 

言外にそう言っている。

 

場が静かになる。常連たちは息を飲む。

「!」

一歩踏み出したオーガもどきの取り巻きの首が飛ぶ。

疾風の横薙ぎ。

首が天井近くまで飛んだ。

 

「なんだ、人かい」

久々の手ごたえに言葉とは裏腹に笑みが残る。

この数か月は都市外苑での魔獣狩り。

自分と同じ手足の数の生き物を斬るのも久しぶりだ。

 

鵜堂刃衛。それが彼のチートの源泉である。

 

 

「じゃあ、このるろうに剣心?に出て来る剣豪キャラなのね(古代ゲルマン語)」

「そうです、クライアントからはこの作品の登場人物が」

「携帯鳴ってますよ(古代ゲルマン語)」

「あ、すいません。お疲れさ…え、メールですか?先日返信しましたよ!?ちょっちょと確認します。ええ15分程度でお戻しできるかと」

「で、チートの設定は(古代ゲルマン語)」

「いや、登場人物で一番強い比古というキャラで。申しわけない、急ぎオフィスに戻りますので」

「わかりました、適宜選択しておきますね(古代ゲルマン語)行っちゃった…にしても日本の漫画の美的感覚はよくわからない。この白眼の人かっこいいわ~(古代ゲルマン神話的な人間が理解しがたい美醜感)」

 

 

 

とってんぱらりんのぷぅ




思いついたので。



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エロい文章書きてぇな~

牛の大きさを超える獣として、この周辺には地霊と牛の混血であるベヒモスが放牧されている。

野生化すると、古の暴獣と同じような名前暴れまわるが去勢すると野性より一回り大きくなり食用としては非常に有用な生き物であった。

 

王国首都を取り囲む城壁の外では遊牧を糧とする者たちが日差しを遮る用のつばの広い帽子をかぶり、強い日差しを避けながら仕事をしていた。

 

西と東の衝突となった戦争も収まり、剣と魔法と血の時代から剣と魔法と銭の時代になりつつあった。

戦費の支払いに長年苦しむ貴族はその体面を保つため、商人への借金で工面することが常識になっている。

 

 

(っても、殺し屋仕事は面倒なんだよな)

黒笠こと東方武士団の一人、鵜堂刃衛は気に入りの娼館fで馴染みの娼婦を膝に乗せながら目の前の男の話を聞いていた。

一晩で金貨を払うような高級娼婦館では客の話は外には出ない。

というよりも、黒笠が膝に乗せ、胸やら尻やらを撫でまわす娼婦は昔の出来事で声を失っている。

 

左の指先が娼婦の身体を這い進むと胸に膨らんだ時にあたり、黒笠はその場所を少し擦るように弄る。

娼婦は少し感じたのか「声が出せないなら感じたら噛め」の約定通り、黒笠に顔を近づけ、黒笠の耳を甘噛みをする。

話せないことが「不具」物として忌避されている娼婦だが、それにもまして健康的な容姿をしており、黒笠のお気に入りの一人である。

 

「お聞きいただけますでしょうか」

商人と武士団、特に戦人たちの間をつなぐ人物。

30は越えている。ふくよかと肥満の間程度の体格。

身なりは汚くない。麻の服は清潔で腕には下品にならない程度に装飾品が付いている。

表向きは酒の卸しを生業としているが、どちらかというと人と人の間に立つのが主な収入源だ。

 

黒笠は男の話を今一度思い返した。娼婦の股に右手を差し入れながら。

 

ある晩にある場所を通るある人物を殺してほしい。

 

完結に言えばそれだけだが、ある晩は明日、ある場所は貴族の屋敷がある区画近くの人通りの少ない小道、ある人物とは借財伯爵と異名をとる伯の息子”この親にしてこの子あり”の道楽息子である。

 

原因は借財の取り立て、そのあたりのトラブルだろうと予想は付いた。

黒笠の右手が少し生暖かいところを触る。

黒毛に娼婦がまた耳を噛んでくる。

 

「お断りだね」

「おや、血が見れますが」

黒笠のことわりに言葉の割に驚いた様子はない。

「問題は道楽息子を斬っても楽しくないところよ。昨日も一緒に呑んだが護衛もナマクラ間抜けぞろい。楽しみがないね」

肩すくめると娼婦はもう一度耳を噛む。

 

「明晩ですが、道楽息子が行くのは剣闘大会、それも貴族屋敷でです。道楽息子の性格なら一人二人は剣闘士を自分の屋敷に案内するかと思いますが」

(いい釣り文句だな)と黒笠は思いつつ、右手の指先を柔らかいところから抜きつつ出口当たりの突起を軽く撫でる。

黒毛の娼婦は突然のことに耳を噛めずにその愉楽に身を震わせた。

そして娼婦は黒笠の耳を舐める。

ベッドに連れて行けという催促の取り決めである。

 

「気が向いたら遊んでおこう。ただし遊び賃は高いと承知しておけよ」

黒笠は娼婦を抱え上げベッドのある隣室へと向かって歩き出した。

「あい、承知いたしました」

依頼人はそれだけ返事し部屋を辞した。

 

 

「残りはアンタと俺だがどうするね?」

二人の剣闘士の腕を切り落とし最後の一人に切っ先を向ける。

一番の腕っこきである。

黒笠の足元には腕を落とされた剣闘士が自分の腕を抱え、しりもちをついたまま後ずさる。

金はかかるが腕は付く。明日の太陽が沈むまでに寺院に走れ込めば、神秘魔術でくっつく。

 

「黒笠に挑まれれば引くわけにはいかないな」

剣闘士は一度両手を腰の後ろに回し、二本の短刀を両手に持つ。

「いいね~、剣闘士らしいよ。あんたゲンコツでも有名だ。それでその獲物なら最高だ」

剣闘士である拳闘士。

二刀はゆっくりと黒笠の周りを円を描くように歩き出す。

間合いは5歩。黒笠の腕なら一足、相手の技量でも二足か三足で似たようなもの。

 

徐々に間合いを詰めながら円は狭まっていく。

1周、2周とそのころには正眼に構える黒笠の切っ先に剣闘士の鼻先が付くほどに接近している。

黒笠はにやりと笑う。緊張感が高まるのを楽しむ笑いであり、瞬く間の後に刀に肉が振れる感触を待つ笑いでもある。

 

さらに円が狭まり刀の切っ先が鼻に触れた瞬間。

 

剣闘士は二刀を一呼吸で面前の黒笠に投擲する。

手首のスナップを効かせた鋭い投擲だ。

必殺の間合い。これほど投擲に向かない間合いだかそこに心理的活路を見出した。

 

だが反応と思い切りにおいては黒笠は数段上を行った。

剣闘士の手から二刀が離れた瞬間に前に詰め、切っ先を剣闘士の鼻の下にある人中という急所目がけて突き出した。

首のけ反らせ、直撃は避けたものの刀の切っ先を上唇から鼻先、眉間をぱっくりと思いの外深く切り裂いた。

 

剣闘士は痛みに耐えながら倒れることなくバックステップをした。

自分の投擲で黒笠の胴には二本の短刀が刺さっている(勝負はついた!)と思った。

 

しかし

 

「ん~、結構深くいったな~」

心の一方【痛覚麻痺】

黒笠が気まぐれに自分にかける自己暗示の一つだ。

別段相手が強敵だからということではなく遊びとして「痛覚麻痺」や「痛覚鋭敏」「聴覚封鎖」そういった珍妙な自己暗示で遊ぶのだ。

それが今日は良い方に転んだだけだ。

 

胴に深々刺さった二本の短刀を抜くのではなく、その柄を弄って刺さっている個所を確認する。

「拳闘できると離すのも躊躇いがない、いいね~」

拳闘士へとなった剣闘士は背中に酷く汗をかきながらも黒笠に話しかける。

「こっちの意地は果たした。他の奴らを連れて逃げたいんだが?口は堅いぞ」

「そうだね、生かした方が今後も楽しめそうだ。切った張ったで負けたとあれば・・・信用しても?」

黒笠の視線は拳闘士ではなく、しりもちをつきながら己の切れた腕を抱える二人の剣闘士に向いていた。

ひげ面の一人が痛みに耐えながら答える。

「俺たちだって、馬鹿じゃねぇ。叩けば埃も出る。衛兵の類には告げ口できる身分はない」

剣闘士と響きは良いが結局はごろつきの別名でもあるし、剣闘士と名乗るまではそれこそ辻斬りで実戦の間合いを掴む輩も少なくない。

「よし、じゃあ恨みたかったら武士団屯所においでな。あそこなら好き放題だ」

快く回答を受け取った黒笠は再度笑みを浮かべる。

三人の剣闘士は切断面の出血を抑えながら、夜の小道へと逃げていく。

 

「じゃあだ」

黒笠が振り向くと腰を抜かし失禁している道楽息子。

 

 

黒笠は道楽息子の指を3本落とすだけで終わらした。それを恨みに刺客の5人か10人を送りつけることを期待して。

 

 

 

借財伯爵は、道楽息子が借金踏み倒しの報復でひどい手傷を負ったこと、それを癒すのに踏み倒した相手に再度頭を下げて金を借りたこと、借財のかたが踏み倒し前の倍になったこと、犯人が黒笠だが恐ろしくて報復できないこと、心労が重なり2年後に病で没する。

領地、貴族株は借金のかたに商人たちが競売で競り落としていた。

 

とってんぱらりんのぷう



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あれ?アクションシーンは?

「あ、旦那。すいません、殿様はまだ」

「女連れ込んで腰振ってるのか」

屋敷の勝手口から文字通り勝手に入ってきたのは黒笠だ。

異名の黒笠を小脇に抱えつつ、着流し姿と寒さ避けの首元迄ある黒い肌着を身に着けている。

 

腰から刀を抜き、台所上りに座り込む。

応対している老僕はいつものこととして、そそくさとお茶と沢庵を数切れだした。

この帝国では本国大和の国の物はそれほど出回っていない。

大戦によって得た東方武士団の慰留地は狭くは無いが、住宅街や練兵地を除くとそれほど畑に避ける地面は多くない。

 

本国から続く転移門は神社の脇にあり管理は大社であり、輸出入についてはあまり好き勝手できない。

ただ武士団の武力があってこその帝国側から与えられた慰留地なので、本国との流通についての交渉駆け引きはこの数年武士団と大社で綱を引き合っている。

 

久しぶりに食べた沢庵に満足げな、この東方武士団の慰留地では時折見せる、普通の笑顔を黒笠は見せた。

「腰振ってからどのくらいになる」

「へぇ、一刻(2時間)前ですんで、半刻後には終わるかと」

「そうかい。じゃあ碁盤でも持ってきてもらおうか」

そう言って黒笠は懐から碁の指南書を取りだした。

 

意外とこの男は遊びに勤勉でもある。碁も打つし将棋も指す。

和歌や蹴鞠、茶の湯も嫌いでは無い。ただ客を呼ぶなどの外交的な形で行うのが嫌で、出来れば気心知れた者同士で嗜むのが好きだった。

 

 

「刃衛兄上」

優しく呼びかける声とともに少し裾が乱れだ着物姿で現れたのはこの屋敷の主。

五百石取りの旗本であり、東方武士団きっての神速剣士、赤毛の美青年、通称“赤様”である。

 

神速を誇る剣、飛天御剣流の伝承剣士であり、東方武士団女狂い三人衆の一角であり、転生者でもある。

 

「緋村剣心!ただし、晩年でも飛天御剣流を放てる身体の頑丈さ付き!」というチートリクエストを神が叶えたことで、原作における短身痩躯ではなく、長身の部類に入る黒笠より気持ち背が低い程度で、決してその肉体は見劣りするモノではない。

 

緋村剣心の実力に左之助の身体、と他の転生者は評している。

 

「お前、自分から稽古の話しておいて、まあお盛んで」

一つ嫌味を言う黒笠だが、台所の棚から少ししけった煎餅を何枚かみつけて齧りだす赤様は事もなげに返す。

「兄上も混ざればよかったのに」

「弟分とナニ比べなんぞ御免被る」

 

東方武士団の女狂い三人衆の女狂いは各人ちょっと違う。

1人は上流階級の優雅な女ばかりを口説く風流人気取りである。

もう一人である赤様は、美女であれば素人であれ玄人であれお構いなし、玄人も呼び寄せ娼婦でも館待ちの娼婦、素人では辻夜鷹や人妻、生娘なんでもござれ。

黒笠は娼婦館通い一筋である。ただ美女もいれば醜女もいる。

ことの仕方も三者三様である。

 

「どうするんだ。お前の腰振っている時間で稽古なんぞしてられんぞ」

「じゃあ、先に受け取りに行ってから稽古して娼婦館なんてどうです?」

赤様の提案に黒笠は首を縦に振った。

 

「玄関に回ってる間に身だしなみ整えろ」と言って勝手口からひょいと黒笠は外に出る。

しけた煎餅を加えたまま赤様は着替えにもどった。

 

 

東方武士団の慰留地、通称【大和街】には武士だけでなく商人や職人、もっと単純な労働をする人々がひしめき合っている。

というのも大和の国での78年続いた戦乱期が終わり、負けた側に着いた人々や勝ち側に付ききれなかった多くの人々がこの地に流れてきている。

勝った側、現幕府からは負けた側に対して遠征団として名目が与えられ監視役は付くものの大和より遥か彼方で新しく勢力範囲を作るべく活動しているのだ。

 

黒笠も赤様も負けた側の一族であったが少年期に活躍しきれぬまま長い戦乱は終わった。

勝ち負けにも参加できなかった年代の者たちはその猛りを西方で発散し確固たる地位を築いたのだ。

 

遠征団にいる職人に刀の研師も複数人いる。

数百名の武士にその倍以上にいる足軽雑兵、そして流れの浪人者。

西方の刃物よりやや扱いが難しい刀の研ぎについては、東方武士は国元から連れてきた研師に任すのが通例だ。

 

赤様の屋敷より歩いて少し。

「虎眼流」の看板が掲げられている小さな道場。

その横にある工房。

そこに黒笠の目当ての人間がいる。

 

工房前では道場の師範である源之助が掃き掃除をしている。

年齢は黒笠より二つ三つ下で、顔を合わせるようになってから10年は立つ。

剣の腕は師匠には及ばぬ者の西方騎士との決闘で三人を瞬く間に切り殺したこともある。

口数の少ない性格で、虎というより猟犬のような精悍さを持つ。

 

「源之助、先生は工房か」

黒笠は日頃の行いに似合わぬ丁寧な口調で源之助に声をかける。

「はい」

掃除の手を止め黒笠に正対すると頭を下げ答える。

 

元は双子の孤児で、兄と共に幼少期に虎眼に引き取られ名前を与えられた。

兄である清玄は大和の国元で「虎眼流」の道場経営を引継、源之助は師匠の身の回りを世話するため西方に同道している。

 

剣の腕はほぼ五分。ただ口が立つことから道場は清玄が引継、師匠と共に剣を極める栄誉は源之助が受けた。

清玄は虎眼の娘である三重と婚姻したが、三国一のヤンデレ妻(大和訛り)で死ぬまで浮気が出来なかったことを記載しておく。

 

源之助は黒笠の前に立ち案内をする。

その背に黒笠は一太刀、二太刀と剣気を飛ばす。

「御戯れを」

「一太刀目、横に避けるの良いが二太刀目で額が割れたぞ」

「額の血では死にませぬ」

黒笠は丁寧だが負けん気の強いこの男が気に入っていた。

以前に虎眼流に入り浸っていたときは日がな一日、源之助と木剣で切り結んでいた。

 

「兄上、遊ぶのは後にしてください。源之助さん、あとで道場でどうです?」

「お相手つかまつります」

 

赤様の問いかけに源之助はそれだけ言うとあとは黙して、工房へと案内した。

 

「おや、いらっしゃったか」

岩本虎眼 50歳。

身の丈は刃衛と変わらない。非常に体格の良い壮年男性である。

 

転生者「岩本虎眼」としてこの地に生をうけるとともにチート「曖昧・痴呆症無し」を得たことにより、この歳でも曖昧にならずに過ごしていた。

虎眼流を起こし、10人近い孤児たちを引き取り育て上げ戦場でも比類なき働きをした人物である。

 

この西方では研師として移り住んでいるが、剣客としての名声と実力は東方武士団でも鳴り響いている。

「先生、受け取りにまいりました」

黒笠は頭を下げて先日頼んだか刀の引き取りに来たことを告げた。

「ええ、出来ておりますよ」

好々爺の笑みを浮かべながら工房の奥へと戻っていく。

奥からは「中に入って待ってておくれ」と声がしてくる。

黒笠と赤様は一礼して工房入って行き、源之助は道場へと戻っていった。

 

「爺様~、次の月には稽古あるけどどうします?」

赤様は近所の翁に話す様に雑然と話が嫌味は無い。

こういった天真爛漫さは赤様特有のものであるが、転生者の多くは個々人特有の豪放磊落さ、寛容さ、偉大さといった「人たらし」の属性を持つものが多い。

そうでなければ凶刃と呼ばれる黒笠が好き勝手出来ないのだ。

黒笠と赤のいる玄関脇の上りにある客待ちの空間に虎眼が奥から一本の刀を持って戻ってくる。

 

「そうですな、源之助は八雲殿と立会いを約束しておりますし、私もたまには高槻殿と将棋でも指しますかね」

黒鞘の刀。両手で丁寧にそっと黒笠の前に差し出す。

黒笠は受け取ると鯉口を切り、二寸ほど刃を露出させる。

 

「うむ」

納得すると鞘に納めた。

「先生、毎度ながらありがとうございます」

深々と頭を下げる。

黒笠が頭を下げる人間はこの西方には5人。

岩本虎眼はその一人である。

 

虎眼は頷く。

慰留地の外のうわさは聞いているが、目の前にいるのは可愛い教え子。

虎眼自身も戦乱時期は太刀片手に戦場を剣豪狩りに勤しみ無駄な血を意図的に流していたので、黒笠の動向は見て見ぬふりをし(あの頃のわしよりかは幾分は大人しい)と言い聞かせている。

 

その後、黒笠と赤は四半刻(30分)ほど世間話をし、源之助の待つ道場へと足を運んだ。

 

 

「この世界には山田風太郎はいない!ならばパクっても問題なし!」

陣羽織というには派手、娼婦館でもひと際派手で歌舞いている。

大柄、黒笠と比較しても頭一つは近く大きい。

茶筅髷に快活な男ぶり。

前田慶次という名前である。

 

高級娼婦や貴婦人目当ての女狂い。

そして「封魔忍法帖」を執筆し、忍びの恐ろしさを西方地方に知らしめた「大作家」でもある。

 

岩本虎眼の道場で一刻汗を流し、歓楽街の高級娼婦館に足を踏み入れたところ大柄の女狂いがいたので「おい、似非作家」と声をかけたところ返ってきたのが先ほどの声だ。

 

娼婦館は小部屋ごとに娼婦がいるわけではなく、酒が出るラウンジに娼婦はおり酌をしながら客の誘いを待つのだ。

慶次のいるテーブルには、慶次の右に一人、膝の上に一人と美女が座っている。

 

「盗作宣言を爽やかに言ってもね~」

「クズOFクズOFクズ。肥だめの糞でさえ立派に見えるな」

赤は冷たい目、黒笠は前世が出版社の著作権関係の業務に関わっていたこともあり、慶次の振る舞いは気に食わなかった。

「妬くな妬くな、はっはっはっ!」

 

慶次は文筆だけではない。

ドラゴンボールも「絵想紙」としてパクっている。

ドラゴンボール、この国では「竜撃玉」という作品は売れに売れ、巨万の富が慶次の懐に入った。

しかし即座に慶次の上役であり東方武士団の副頭領である陸奥鬼一老の一喝で富の大半を武士団の運営費用に寄付したのだ。

 

「貴様は鳥山明先生を愚弄するか!」と鬼一老は激怒した。

ドラゴンボールをパクったこと以上に「パフパフ」シーンを露骨に書いた慶次への怒声で武士団の屯所の屋根瓦が20枚は落ちた。

さすがの慶次も二刻(4時間)正座をさせられたうえに、レッドリボン軍編におけるブルマの水着姿がいかにお色気要素と少年漫画の海洋冒険イメージに寄与したかを説教され心が折れた。

その後も鬼一老はレッドリボン軍編から鶴仙流との天下一武道会の一連の流れをトクトクと説明、そこに虎眼が合流し「わしはドラゴンボールも好きだが鳥山明〇劇場が好きだった」と言えば鬼一老は虎眼とがっちり握手をし、さらに〇劇場の良さを慶次に説明し、範馬勇次郎が「ふん、それならウイングマンも読んでいないとな」と絡むと鬼一老は慶次に対して、アラレちゃんにおける桂正和の重要性をさらに一刻かけて慶次に説明した。

 

「それなら俺の出た花の慶次は・・・」と少しだけ口答えをすると原作となる隆慶一郎の小説の話を夜が明けるまで鬼一老はした。

 

それ以来慶次は武士団の屯所は必要最低限に顔を出すことにして、娼婦館や自分の懇意の騎士団で稽古を積んでいた。

漫画と遜色ない実力はやはり武士団でも群を抜いていたが、前世からの引き継いだ性格が多少のトラブルを生んでいた。

それが前述のパクリ騒動であった。

 

「で、俺に用事か」

「貴様ではなく女の尻に用がある」

ふと真面目な慶次の言葉をバッサリ切ったのは黒笠の一言である。

 

 

 

「おい!」

高級な娼婦館と言ってもガラの悪い客はいる。

 

ひと際ラウンジで大きな声を出したのは賓客テーブルに陣取る貴族の次男坊グループであった。

戦争が続いて、それが終わり暇を持て余した軍人崩れ、騎士崩れの中年たちだ。

武力も高く、実家の地位もある。

下手に騒ぎを大きくすると、騎士崩れの愚連隊が店に押しかけ暴れる。

国に訴えても拘束しようとしても騎士崩れでは衛兵も命懸けであまり手を出したがらない。

 

「新しい女と酒だ!」

店中に聞こえる声で要求を伝える。

騎士崩れの一人のそばには顔を抑えてすすり泣く女が二人。

ラウンジではマナー違反とされる乳房をもろ出しにしている。

いや、正しくはもろ出しにさせられたといったところだ。

騎士崩れは8人。

みな決して店の品にあった服装とは言い難い。

野戦を意識した華美のない服に、実戦向けの肉厚の片手剣。

上品なごろつき、と言って不足は無い。

 

「ディナーノ様」

 

店の人間が酒を運びながら注意の声を騎士崩れのディナーノ準男爵にかける。

「なんだ!貴様は我らの働ぎを知らぬわけではなかろう!」

ディナーノと呼ばれた騎士崩れは、酒によった赤ら顔をさらに激高で赤くして立ち上がり店の人間の襟首をつかむ。

「おやめください」

少し離れたテーブルから別の声で店の人間の心の声を当てる人間がいる。

 

赤様だ。

 

「およよよ、騎士崩れのディナーノ様は女の扱いも知らぬ童貞豚。個室に誘う程の金も無ければ度胸も無い、およよよ」

口元を隠し、困り果てた娼婦の真似をするのは慶次であった。

その姿を見て黒笠と赤様は爆笑をする。

黒笠などは「豚!豚に例えると豚に申し訳がたたんな」と爆笑している。

 

ディナーノと呼ばれた騎士崩れは腰から剣を引き抜くと大股で黒笠たちのテーブルへ近づく。

 

「きさ・・・・・」

酔った足で近づくとその声の存在を改めて視認した。

「おいやめろ、ディナーノ」と騎士崩れの仲間から恐怖におののく声がかかる。

ディナーノもテーブルにいる三人の武士が誰なのかわかった。

 

「おい、豚。ブーと鳴くか裏口から退散するか選ばしてやろうか。出なければ三枚におろして豚ではなく魚の刺身だ」

凶笑、というのを初めてディナーノは見た。

黒笠の笑みは反抗することを求めていた。

 

黒笠はふらりと立つと、受付に歩いてい行く。

ディナーノたちのように受付を脅して無理やり帯剣していたのとは違う。

受付から刀を受け取ると腰に差す。

「よっ!兄上、チャンバラ馬鹿!」

「馬鹿チャンバラ!」

赤と慶次が囃し立てる。

周りの娼婦は血を見るのを恐れ、皆部屋の隅へと集まって成り行きを見る。

ディナーノは恐怖に喋れず、抜いた剣を鞘に納めることも出来ず固まっている。

騎士崩れの仲間は各々、剣を持って裏口へ走る者、ディナーノに「謝れ!」と小声でささやくものと逃げ腰だ。

 

「おい、そこのそうだそうだ」

慶次は近くにいた男性店員を捕まえ、耳打ちをする。

 

「前田慶次様のご提案でございます。そちらの皆様が酒代を全て持つなら不問とする。ただし酒代も持たずにここにいるなら…黒笠の玩具とのことです」

 

その言葉を聞いてディナーノは剣を手から離すと大急ぎで懐の財布を出し床に落として裏口へ走る。

仲間の騎士崩れも財布を投げ捨てるようにテーブルに置くと逃げていく。

 

「腰抜けか・・・腰か」

黒笠は騎士崩れの姿が消えるともう一度受付に刀を預けると、置いていった財布を集めて慶次に投げ渡す。

「興が覚めたな」

「興が覚めたなら、もう一度盛り上げればよい!さて、酒だ!女だ!豚殿の財布が空になるまで遊ぶぞ!」

と言って、店員へ中身を確認せず、置いて行かれた財布を全て投げ渡す。

 

明け方まで三人は飲み明かした。

拾った財布も何とか底は付かずに済んだ。

 

これがこの三人の日常茶飯事である。

 



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筆記問題:転生直後に路地裏で助ける少女は奴隷少女、没落貴族の娘、お忍びの他国の姫、訳あり冒険者少女のどれが妥当か(ただし、二人組かつ片方はケモミミ少女とする)

都市南方に広がる街道脇には王国の練兵場が広がる。

最大で1万人規模の訓練が行われ、時には魔法、方術などの爆炎が上がる。

 

先の月から東方武士団が長期間の陣をひいている。

戦ではなく、練兵の為である。

武士、足軽、傭兵含め1,000人規模となり賑やかしさと平時とは思えぬ血の匂い、猿叫と狂気と刃の噛み合う音、軍馬の嘶き、そして益荒男たちの楽しそうな笑い声が響いている。

 

 

「手間かけさせやがって!クソガキ!」

歓楽街の裏路地、まだ娼婦としては客を取れる年齢ではない少女、童女といっても差しさわりの無い子供が帯剣する男たちに足蹴にされている。

 

夕刻。日中の人の出と、夜の人の出の境。裏路地に視線を送る者も少ない。

 

童女は仕事場の娼婦館で店主からの使いで近くの薬師のところに寄っての帰りだ。

最初は小銭狙いの若いチンピラが絡んできた。

「よるな!」と表通りで声を出し、周囲の耳目を集めチンピラから逃げた。

そのすぐ後にはチンピラの仲間、これは冒険者、傭兵然とした男たちに追いかけられ裏路地に逃げ込んだどころ、投石をまともに頭部に受けて倒れ込んだどころ2発、3発と蹴られた。

 

「こんなガキでも、金鹿館の1人だ。少しは金になるだろうよ」

「だが、それより頭領の話だと金以外にもせびるそうだ」

「女か!?」

「それもあるが、乗っ取るとよ」

「じゃあ、あれか。ついに裏に場所築こうって」

「これで、この街で俺たちも組織持ちよ。騎士団やら傭兵団やら東方の文字知らずどもにデカい顔はさせないな」

「さすが兄貴だ。じゃあ、あの糞ムカつくキセル野郎の首も」

「すぐじゃあねぇが、時が来たらた前田慶次も島津豊久も暗殺団に依頼して首にしてやると」

 

童女は視界が真っ赤にそまり石畳の冷たさを頬に感じ、脇腹の痛い身を感じなくなった今周辺の男たちの言葉を聞き漏らすまいと聞いていた。

男の1人が童女を抱え上げ脇に持つ。

「戻って一杯か」

「馬鹿いえ、すぐに戦争の準備だ。まずは根回しした方々のギルドに中立をするよう依頼して」

「そのあとは東方の跳ねっ返りの一人か二人を殴るつけて」

「その首でお披露目か!」

何人かの馬鹿笑い。勝利に酔いしれ、暴力を楽しむ笑いだ。

 

東方という言葉に童女は助けとも取れぬ呟きをした。

 

「く…ろかさ」

 

小さな呟きだが、場の空気が凍った。

裏路地を進む男たちはその名前で血の気が引いたのだ。

童女を抱えていた男は怒りの表情を作ると容赦なく童女を石畳に投げる。

「つまんねぇ名前言ってんじゃねぇぞガキ!」

 

石畳に投げつけられた童女がその痛みに体を縮こませるよりも早く男は童女の身体を蹴りつける。

一回だけではなく、二回、三回、童女は最初から泣きわめくことをしなかったが、今度は意志とは関係なく泣きわめくほど身体に力は残っていなかった。

 

周囲の家からは物乞いよりから幾分かマシな姿をした住人たちが見送っている。

「止めとけ。死なれたら面倒だ」

肩で息する男に別の男が止めに入る。

童女は生きているか、死んでいるかよくわからない。

別の男が童女を抱える。

 

かつては傭兵団として荒事に熟達した男たちだが4年前の戦役で解散。

その後この都市を中心に傭兵や冒険者稼業をしており「血なまぐさい」仕事でそれなりに名前を売ってきた。

そして東方武士団の1か月近い練兵の空きに組織拡大を図り、暗闘の準備を進めるため童女を狙ったのだ。

腕に覚えのあるものばかりだが、それでも黒笠の怖さは別格だった。

1人は腕と足を2本ずつ落とされ、また別のモノは顔の突起を全て切り落とされもした。

理由が「酒場での喧嘩がうるさい」というものだったのだ。

 

歩く狂気。

 

それはこの男たちに深く刻み込まれている。

 

夕日が沈む、裏路地でも誰かが街灯に火をともし、最低限の明かりがある。

男たちは言葉少なに歩を進める。

「黒笠」の一言は男たちに「慎重さ」と「恐怖」を呼び起こすに十分であった。

男たちが歩みを進めると道の先から人の走る音。

その足音に感じるのは「不吉」である。

 

「なんだ~、血の匂いがするな。若い餓鬼の血だな」

それはまるでおやつを見つけた子供がする喜びと興奮を彩った声音だった。

 

 

練兵での陣退きが終わると黒笠は身の回りのものは付き人役の足軽に任せ、同輩を連れて歓楽街に向かっていた。

「そう凹むな、凹むな」

 

肩を並べて歩くのは同じ転生者。

 

「ですけどね、もう少しで八雲と源之助ヤレそうだったんですよ」

「ヤレそう」の意味は多々あれどここでは「殺害」を意味する。

 

血を見るのが三度の飯より好き、というのがこの「志々雄真実」であった。

彼もまた転生者だが、赤様とは敵対関係ではなく年下の従兄弟である。

 

「強ければ生き、弱ければ死ぬ!この世は全て弱肉強食!」と少年の頃口にした時に年長の転生者、特に上下関係に厳しいと評判の範馬勇次郎(東方武士団の会計面の責任者で、旗本に籍を置く)に完膚なきまで叩きのめされ、原作準拠の思想信条はあっさりと撤回された。

 

その後は「剣とは凶器、修羅道なり」という路線に変え、武士団の筆頭剣士になるべく修練を重ねる若干20歳である。

原作のように全身包帯巻きはしないが、日々の怪我もあり顔は傷だらけで今日も包帯を額に巻いている

「「俺は不死身の杉元だ!」って言ってみ」と最終日の無手練習で陸奥八雲におちょくられ、見事敗北をした。

 

剣の腕なら赤様にも匹敵するが経験不足と、思いの外短気なところで周りの年長者には手玉に取られる。

そういう青年でもある。

黒笠の「行くぞ」と無理くり歓楽街に連れ出されたが、女の経験が少ない真実としては期待半分不安半分と言ったところだ。

 

都市の門をくくり、近道として裏路地を進むと、黒笠が鼻を鳴らす。

「おい、真実。こりゃいい匂いするな」

血を見るのが三度の飯より好き、な志々雄真実であったが、横を歩く鵜堂刃衛は「三度の飯のオカズに血の匂いを嗅ぐ」というhentai(東方訛り)である。

 

黒笠は一切の躊躇もなく腰の刀を抜くと走り出した。

「マジか!」

真実もこの都市に住むものとして、いきなり抜き身で刀を持ち走り出す異様さは承知している。

それを躊躇なくする黒笠はやはりヤバい先輩だとも認識した。

 

真実は何時でも抜刀できるよう鯉口だけは緩め追従して走り出す。

路地を右、左と進むと黒笠は止まり、正面にいる男たちに言った。

 

「なんだ~、血の匂いがするな。若い餓鬼の血だな」

 

追いついた真実が黒笠の横顔を見ると少し涎が垂れていたのを見た。

 

 

「お前ら、その餓鬼はあと9年はしたら俺が血を流させるつもりだったんだぞ~、抜け駆けしやがって!」

 

先輩、そこじゃないっす!という力を入れた突っ込みをしたかった真実だったが既に黒笠は速足で間合いを詰め、集団の先頭に突きを放つ。

先頭の男は剣の柄に手をやる前に腹を刺され前のめりに倒れる。

 

「いいか!そっと置け。ゆっくりだ。そうすれば痛くなく殺してやる」

童女を抱える男に先頭の男の腹から抜いた刀の切っ先で指示しながら、抱えた童女を下ろすよう説得する。

抱えていた男はゆっくり下ろすのではなく、恐怖のあまり力が緩み少女が重力通りに落ちる。

 

「俺が一番槍を着ける予定を貴様らみたいな野良犬共が食い散らかしおってからに。真実、一人も生かすな。全員首だけにしろ。首から下は野良犬に食わす」

 

その言葉を聞いて、男たちは今更ながらに剣を抜き戦闘態勢に入るが恐怖に負け、腰は引け、膝が笑っている。

真実は「へいへい」と言いながら容赦なく、男たちの命を奪う。

 

黒笠も童女の方へと歩みを進め邪魔するものは横薙ぎに首を飛ばす。

裏路地に面した家から様子を見ていた住人たちは黒笠の物言いと有言実行ぶりに、窓も閉められずただただ凄惨な現場を注視するしかなかった。

 

志々雄真実はこの後、娼婦館で盛大に酒盛りをする黒笠と別口で合流した前田慶次、島津豊久と練兵終了の打ち上げをした。

 

ちなみに童女はこの一件から「ピンチを助けてくれる男性」に滅法弱い娼婦へと成長し、常にピンチが発生するようなトラブルを起こす悪女へと成長する。

後の志々雄真実の妻である。

 



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ぶっ●し案件ですわ

「マジ何なんすか!マジで!」

金を基本に毛先に赤が混じる髪。

そんな髪の青年は怒りに任せブツブツと言うと隣にいた赤毛の青年は声を殺して笑う。

金髪の方は煉獄杏寿郎という名の転生者である。

 

先日起きた、白狼騎士団とのイザコザ。

白狼と高貴そうな名前だが実態は傭兵混じりの実戦的な戦闘を行う騎士団であり、目下のところ東方武士団の目の敵である。

 

事は簡単。

黒笠が夜の花街をぶらついていると、正面から白狼騎士団の団員が数名。

黒笠は凶笑一つすると「腕が立つようだな、俺に殺されないか?」とラブコールを送る。

それが喧嘩を売ったことになり、30秒後には刃傷沙汰となった。

 

腕が2本ほど宙を舞い、人体に空いた穴は3つで済み、死人は無し。

一部の白狼騎士団は名誉と看板に付いた泥に怒り、大半の東方武士団からは「刀抜いといて一人もやれねーとは稽古不足だろ!!しっかりやっとけ!」と怒りの声。

 

当の黒笠としては「いやいや、イザコザ作れば入れ食いと思って」と反省の弁を述べており、昨日まで東方武士団の剣劇指南である赤石剛次(転生者)に猛稽古をさせられていた。

 

とばっちりを受けたのは若い転生者やその子息達である。

東方武士団のトラブルメーカーの双璧の片方によるトラブルは結局のところ、「若い奴による正面からのカチコミで黙らせる」というゴリ押しの力業をすることになり、そのカチコミ役は赤様と煉獄の役目となった。

 

「ちゃんと首跳ねてればこんな面倒にはならなかったのにね~」

隣を歩く煉獄に話を合わせているが赤様は口元に笑みを浮かべている。

赤様としては最近はモンスター狩りばかりで刃傷沙汰は少なくちょっとした刺激でもある。

 

一方煉獄は年長の年長者としての自重を知らぬ刃物キチ●イのせいで大事な時間を削って刃傷沙汰を積極的に起こしに行くことに面倒くささと怒りを感じていた。

 

(どうも一世代前のジャンプ系転生者は正々堂々感が欠如している)というのが煉獄の印象だ。

 

女!酒!血!というのが年長の特にトンデモ格闘漫画系転生者に対しての印象だ。

 

煉獄杏寿郎の能力と外見を持ち転生し、他の転生者を見渡すと転生時のチート選択で大きくそのスタンスが違う。

黒笠をはじめとした平成一桁台漫画のキャラクター能力保持転生者は圧倒的にバイオレンス、酒、女、血!ついでに名刀と美女と名酒と暴力!を求めていた。

単語を変えただけで、各自の目的の終着点は同じだ。

 

勿論東方での大戦争や西方に来てからの立場づくりの一大奮闘も承知いているが、あまりにも年長者は嬉々として血を流す。

 

「もう少し穏便にというか、帝国上層部に仲介を…」

煉獄が眉間にしわを寄せながら話をしていると白狼騎士団の宿舎前の通りに到着した。

 

通りにはすでに木箱が積み上げられバリケードとなっており、10名以上の鎧姿の騎士や従騎士たちが完全武装で待ち受けていた。

「来やがったな!東方の糞共!」

 

大柄のひげ面が通る声で煉獄と赤様を罵倒する。

騎士団の宿舎から金属のぶつかる音とと追加の兵士たちがやって来る。

皆怒りに顔を赤くしている。

 

「この度は当方の鵜堂 刃衛の行い」

「うるせぇ!金赤頭のくそ変態共が!」

煉獄が離れたところからことの説明をしようとしたところ、騎士たちの中から罵声が飛んだ。

 

「そうだ!街中で刃物を抜く、治安の意味を理解しない東の猿共が!」

「市民たちの怯えもわからん、耳無し共に話し合いは無用!」

「どうせ、お前達など戦が無ければ存在意義を持たぬ暴徒ども!」

「お前らの国ではお前たちのことをボウハチと呼ぶのだろう!」

 

20m以上離れたところから投げられる罵声に徐々に煉獄の血圧が上がっていく。

横ではニコニコしながら赤様が刀を抜く。

「よし、じゃあ先に切りこ」

「くそてめぇらが!こっちは馬鹿どものしりぬぐいでここまで来てるのによ!なんだてめぇら!文句ばっか言いやがって!なますにしてサイコロステーキにしてやるから待っとけ!」

赤様が先に切り込むことを伝える前に煉獄は一気に抜刀すると走り出しながら罵声に罵声を返す。

 

これが煉獄杏寿郎の「白狼騎士団との大喧嘩」としてこの年の話題をさらうこととなる。

 

 

 

結局のところ、この1か月後に邪教の教徒によるゾンビ事件の発生で白狼騎士団は半壊、その尻ぬぐいで東方武士団が動いたことで黒笠と煉獄の件は有耶無耶となった。

 

とってんぱらりんの、ぷぅ



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東方武士団が真面目にするわけないじゃない

こんな下らない話に時間をかけたことを謝罪する。誰に?作者に。



「そうら!」

槍の一閃で重武装のトロルたちは上下両断された。

偵察兵の報告では一団、約500体のトロルが南下していたが、その前に立ちはだかったのは東方武士団一の色男を自認し、ついでに「東方武士団一正座で説教されるのが似合う男」の称号を持つ前田慶次であった。

 

巨馬に跨り、女人の胴の太さはある主槍を振り回すとさらに数体のトロルの胴が上下分断。

空に輝く太陽はすでに正午を指す高さまで昇っており、朝焼けの頃から暴れている慶次としてはそろそろ一息入れたいところだ。

 

「どうした、どうした!」

慶次の勢いとは反面巨馬は今にも崩れ落ちそうなほど足元がおぼつかない。

内心舌打ちしながらも慶次は巨馬を降り、周囲を取り囲むトロルたちを睨み、口元に微笑みを讃える。

 

(いい加減、登場しろや!仲間がピンチなんだぞ!)

槍はその軽やかな振る舞いと違い、慶次の二の腕に重量を感じさせていた。

威圧の為の笑顔も張り付き、表情を変える余力もない。

 

岩場と言っても巨石が数カ所あるばかりで身を隠せる場所は無い。

既に500のトロルも300程度までは減らした。

 

事の起こりは、怪物退治の依頼であった。

地方領主からの依頼で自前の兵士では対応できず、しかし傭兵団に任すと選定が悪ければならず者の傭兵が領地を闊歩することになる。

そこで「人品卑しからずや、しかし蛮なり」と評判の東方武士団に依頼を出したのだ。

 

数十人の手勢での領内での怪物退治は、大波の前の小さなさざ波であった。

人間種が納める辺境領土のギリギリには数千から万を超える亜人種、特にリザードマンや砂オーク、トロルが軍を整え侵攻の準備を進めていた。

 

その第一陣であるトロル500体と接敵し足止めを引き受けたのが前田慶次である。

どちらかといえば貧乏くじの類で、慶次を含めた5人組のうち大槍を携えた慶次が殿で奮闘するのに適していたのだ。

 

 

「ちっ」

太陽の日差しが目に入り慶次は一瞬動きが止まる。

 

視界が回復するまでやみくもに槍を振り回すがトロルたちは少し距離を置き、慶次を囲む輪を作りにじり寄って来る。

(いらん知恵があるな!)

 

 

「待て待て待て!」

 

慶次は声の方を向く。周りのトロルたちもそれにつられて声の方を意識し動きが止まる。

 

「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!この名乗りを不承知ならば矢にて問おう!」

「ばばば~ん!」

 

少しばかり離れた巨岩の上。

 

五つの人影。中央の1人が台詞を言うと皆ポーズをとる。

中央の1人を挟んでシンメトリーというにはやや違うが、それでも調和のとれたポーズだ。

一番左の人物が何やら効果音を叫んでいる。

 

(昭和か!平成か!)

 

この見極めに前田慶次は死中に活を求めた。

転生者、日本の盆暗オタクとしてはこの名乗りのポーズがオリジナルなのか、それとも何かの戦隊のパロディなのか、その戦隊は何なのかの見極めをせず死ぬわけにはいかない。

名乗りを上げたのが剣桃太郎(転生者)でその左右を挟む面々も転生者ばかりだ。

 

剣桃太郎、ファン・ガンマ・ビゼン、竈門禰豆子、ジャック範馬、沖田総司(るろうに剣心)

 

剣「そこは五色の煙だろう!」

ファン「はぁ!何言ってんですか!?CG処理なんだから出来るわけないでしょ!」

 

ジャック「俺、黄色、それとも緑かな?」

禰豆子「あ、私白で」

沖田「え、戦隊って女子で白いるの?」

ジャック「確か、フラッシュマンでいたよね?ちがった?」

禰豆子「フラッシュマンいないですよ。ガオホワイトとかいるんですよ」

沖田「戦隊知識が初代パワーレンジャーくらいだからびっくりした~」

禰豆子「出たww沖田さんのアメコミベースの知識」

沖田「僕、帰国子女(笑)」

ジャック「転生先だと関係ない(笑)」

 

剣「昭和は煙だったんだよ!」

ファン「転生後に昭和なんて大昔の年号聞いたの初めてっすね!」

剣「やんのか平成小僧!」

ファン「喧嘩なら買うぞ、おい!」

 

学ランに長刀の剣桃太郎と、ニホントウを携えた着物をイメージさせる丈の短い服のファン・ガンマ・ビゼンが喧嘩をしている。

 

トロルたちは突然に始まった大声の喧嘩にポカンとしている。

その隙である。

 

「喝!」

大音響の一喝でトロルたちは動きを止めてしまう。

気合負けをしたトロルたちを巨馬を駆る前田慶次は囲みを突破する。

 

 

これが東方武士団の戦闘の日常である。



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