人形と研究者 (鋭い縫い針)
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気づき
とある研究者


ある研究者がいた、その研究者は好奇心が強かった、探究心が強かった、そして自尊心も高かった。

その研究者がいる時代の人類は滅亡しかけていた。

ある日空から謎の巨人と赤い竜が出現したのだ。

その研究者は自衛隊によって撃墜された竜が秘密裏に政府に回収されていたことに気づいていた。

調べたい、解剖したい、実験したい。探究心が湧き出てくる。

だがその研究者はまだ若く、国家へと働きかけることができなかった。

歯痒く思っていた研究者だが次から次へと探求心をくすぐるイベントが起こる。

ああ!なんて素晴らしい時代に生まれたのか!

研究者は独自の研究を行い、とあることに気づいた。

運が良かったのか稀代の天才だったのか、その研究者は魔素と魂の存在に気づいた。

新宿を中心に世界各地で巻き起こる奇病、「白塩化症候群」の原因は魔素によるものであり、魔素は崩壊した謎の巨人化赤い竜によってもたらされるものだと推測する。

「白塩化症候群」は人間だけであり、遺伝子もしくは魂の存在によるものではないか、様々なことが芋づる式に判明することに研究者は興奮した。

そして悟った、ならば次期に私にもその症状が出てしまうのではないか、

なんてことだ!私はまだ研究を続けていたい!

何年も何年も考えた、どうすれば死から逃れられるのか、研究を永遠に続けてられるのか。

時に各地の研究所を襲い資材を奪った。時に民間人を殺し食料や衣服を奪った。武装した人を殺し武器を奪った。

全ては自身の研究のため、そしてそれが世界に認められる研究に繋がるのだと盲目的に信じて。

ある日政府がアンドロイドの開発をしていること知った。

そして、思い付いた、「白塩化症候群」が起こるのは人間の魂を持ったものだけ、ならば、魂をデータ化しアンドロイドに移せば半永久的に研究できるのではないか。

義体が壊れそうになったら政府のアンドロイドを奪取してしまえばいい。ああ!なんて私は天才なのだろうか!

それからその研究者の行動は早かった。すぐさま自身をデータ化しアンドロイドを作り上げた。

アンドロイドにデータを移すとすぐさま起動させる。

「おはようございます、私」

「初めまして、おはようございます、私」

軽いやり取りと問題がないか確認をしその研究者はアンドロイドに託した。

「あなたは私です、ということは私の探究心はあなたのものであり、あなたの探求心は私のものです」

「もちろんです、これから私は探究し続けるでしょう、私の意思を引き継ぐために」

そうしてその研究者は自殺をしました、もう自身は必要ないとばかりに。

アンドロイドになった私は考えます。人間の時とは違うその思考能力は速さが違います。

体だってそうです、アンドロイドの体は丈夫で、力も強い。

また、ナノマシン、魔素による「無より有を生み出す技術」を使った超小型の万能機械も作り出し、自身のメンテナンス、復元、強化を可能にしました。

素晴らしい体を手に入れた研究者は興奮します。

これなら素晴らしい研究ができると!

ある日大きな衝撃が走ります、それは地下に作られたその研究者の研究施設まで届きました。

その研究者は地上に出るためのハッチを開こうとしますが、押しても引いても開きません。

研究者は地上への興味をなくし魔素の研究を開始しました、何年も何十年も何百年も。

研究者は「無より有を生み出す技術」を使った別の技術、魔法を使えるようになりました。

そしてその魔法を使い地上へのハッチをぶち抜きました。

その研究者は変わり果てた世界を目にします。

その景色に目が奪われました。これからどんな素晴らしい未知が出てくるのだろう!

そんな未来に希望を持った研究者の名前は…蝨滄俣闍ア驥悟ュ

別の世界でドロシーと呼ばれているものであった。



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研究者の発見

地上に出て思ったことは自身をなんと呼称するかだった。

アンドロイドとして生まれ変わった自分に新しい名前を付けたいそんな理由だ。

今まで研究一筋で自分のことなど何も考えてなかったのだ。

ふととある物語を思い出した、『オズの魔法使い』だ、それに出てくる主人公の名前なんてどうだろう。

「そうです、ドロシーなんてどうでしょう。うん流石私ネーミングセンスも完璧です」

周りを見渡すとボロボロになったビルが多数あることが確認できた。

「地下の研究所にこもってから数千年たっているはず、それなのにこれほどまでに構造物が残ってるなんて、これらを管理するものがいるということでしょうか」

ドロシーはひび割れだらけのアスファルトの上を歩きだす。辺りを確認するため、あまり壊れていないビルを選び階段を使い屋上まで登る。

鳥の鳴き声、風の流れる音、植物が揺れる音。とても和やかな空気が流れる。

これからどこに行こうか、何を探究するか、ドロシーがそんなことを考えていると遠くの方で爆発音がなるのが聞こえた。

和やかな雰囲気を切り裂く爆発音にドロシーは目を輝かせる。

「あそこになにがあるんでしょう!気になります、立て続けに爆発音が聞こえてくるといことは、爆発物が連続で爆発しているか誰かが争っているということ!」

ドロシーはビルの屋上から飛び降り、魔法による重力操作で安全に着地する。

「人でしょうか、それともアンドロイド、はたまた新たな知的生命体かもしれませんね」

そうしてドロシーは音のなる方へ気持ちの昂るまま走っていった。

 

「あれは、なんでしょう」

そこには機械の大群と白く丸い顔の付いた大群が戦っていた。

「すごいです…今までみたことがありません!」

機械たちはミサイルや粒子法エネルギー弾を撃っている、丸く白い顔の方は魔素を使った魔法を駆使していた。

一回り大きな爆発が起こると大型の機械と丸く白い顔が落ちてきた。

大型の機械はまるで蜘蛛のような姿をしていた。白く丸い顔の方は小型の車に顔が付いたようなフォルムをしている。

「おお!なんて私は運がいいのでしょう!」

重力操作の魔法を使いその二つを浮かせ回収するとドロシーは小型のドローンを配置した。

「これがあればどこでもこの戦いが見れます!視覚の端にでもウィンドウを配置しておきましょうかね」

アンドロイド化したドロシーの視界はVRのようになっており様々なGUIが浮かんでいた。

自身の耐久度を数値化した物やリアルタイムで周囲をスキャンしその情報を表示するためのウィンドウなどが複数出ていた。

視界の端のウィンドウを見ながらドローンを遠隔操作する。

「ふむふむ、どうやら顔付きの方の魔法は純粋なエネルギーのようですね、魔素を元に起こせる、そうゲームのような魔法は使わなんですかね」

機械相手なら熱を発生させればオーバーヒートを起こせるだろう。防水されていなければ大量の水でもかければいい。絶縁されていなければ電気を生み出し回路を乱せばいい。

瓦礫を高速で打ち出せば速度と質量によってはただではすまない。

「もしかして、双方頭が悪いのでは?」

まぁ私より頭がいい存在なんていないでしょうけど、自信ありげにドロシーは考える。

そんなこんなで地下研究所のハッチについてしまった。ハッチの上にはビルが倒れ伏しており、ドロシーの撃った魔法により真ん中に大きい空洞が出来上がっていた。

ハッチの蓋はドロシーのドローンによって再設置してあった。

「いやぁこのドローンつくってよかったです!清掃用建造用戦闘用偵察用etc.etc。便利ですねぇ」

すでにドロシーは偵察用と回収用ドローンを飛ばしており、周囲の情報を集め始めていた。

ハッチを降り大型の機械を顔付きを降ろす。顔付きを小型の車と分離させると顔を研究台の上へと置いた。

「さて、結構堅そうですね」

手の甲でたたいてみると中身の詰まった音が鳴った。

「さて、頭上部を切ってみましょうか」

レーザーカッターに設置しようと手を伸ばすと、

「わあああ!待って!待ってください!」

頭が大声を上げた。

 



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研究者と兵器

頭が話した、最初は驚いたが次第に探究心が湧き出てくる。

「しゃ、しゃべった」

「ええと、その」

ドロシーは笑みを浮かべる。

「興味深いです!頭部だけであるのに会話ができるだなんて、もしや機械の一種でしょうか、ですが構成物質の詳細がわかりませんね、会話ができるということは」

ギラギラとしたと目を向けられた顔はおびえたように震えた。

「あ、あの」

「ええ!ええ!好きなだけ話してください!あなたは誰ですか?この機械のことはどこまで知っていますか?なぜ彼らと戦っているのですか?お仲間は?」

「ま、まってください!一つずつ話すので」

顔の名前はエミールというらしい。何と、戦っていた相手はエイリアンが作り出した機械生命体といってそう、エイリアン!

エイリアンは地球を侵略しに来たらしく、エミール達が防いでいるそうだ。

解剖したいがサンプルないらしい、本体は出てこず機械生命体に任せっきりらしく、ドロシーはとてもがっかりした。

数で圧倒する機械生命体に対抗するため増殖能力を生み出し対抗しているらしいが、記憶が欠けたり精神や魔法が弱体化したりするデメリットがあるそうだ。

ドロシーはエミールから情報を聞けるだけ聞き出し大型機械生命体を調べる。大型だけであってスキャンする量も解体するポイントもパーツも多かった。

人類が作り出す機械とにた構造をしているところは驚いたが一番違うのはコアであった。

構造を調べてみたところ植物細胞ににた物質が使われているらしく、機械と植物細胞が上手く混ざり合っていた。

「すごいですね!有機物と無機物がうまく調和されています!」

手に持ち様々な角度見る、黒い球体の中に高エネルギーの結晶が見える。

植物細胞と金属を元に作られているのなら変動制を持ち合わせているのだろうか、これなら様々なものに流用できるかもしれない。

がちゃがちゃと大型の機械生命体を解体していくドロシー、オイルで汚れるのも構わず作業を続ける。

ドロシーは魔素で工具を創造し手際よく解体する、手の中でくるくると変わる工具を機械の隙間からエミールはそれを眺める。

「器用ですね、魔素をこのように使うなんて」

「数千年魔素について研究していますからね、大抵のことはできますよ」

「数千年…」

ドロシーは機械を解体する手を止めエミールに向き合う。

「私は一人の研究者でした、ですが紆余曲折してアンドロイドとなったのです!」

誇らしげに胸を張るドロシーの言葉に驚いたように、

「人間、だったんですね、ぼくもこんな姿だったんですけど」

元人間同士仲間意識が芽生えたのか互いに微笑み合う。

「んじゃ、私は作業に戻りますね」

 

エミールは考える、今後のことだ。ボディは取られてしまった、頭部だけでできることは限られてるし、彼女の方が強いのが分かる。

仲間たちは戦っているのに自分だけ何もしていない罪悪感と、今は戦わなくていいという安心感にさいなまている。

「どうしよう…」

もしかしたら解体されてしまうのかもしれない、ぞわぞわと恐怖も湧く。

爆発に巻き込まれた衝撃で意識が飛んでしまい気づいたらこのような事態になってしまった。

ふるまいも言動もどうみても人類にしか見えないアンドロイドだったが人間の記憶を丸々移したアンドロイドだというなら理解もできる。

「本当にどうしよう…あの、ぼくいつ帰っていいんですか?」

「ん~だめですよ、あなたは私の研究対象なので」

帰れないらしい、戦場に戻れないなんて、自信の存在価値は何なんだろう戦うために生み出されたのに。

「ちなみにこの子を解体し終わったら次はあなたですよ」

さらに絶望した。

 

数日間かけて解体が終わる。広い地下研究所の中にぎりぎり入るくらいの大きさの機械生命体を解体するのは一苦労だが、楽しくて休憩もなしに作業してしまった。

「あ、あの」

エミールが話しかけてくる。また有益な情報を話してくれるのか、そう思うと胸がときめく。

「もしよければぼくを助手として扱いませんか?ボディさえあれば何でもできますし、作業効率だって上がるはずです、それにそれに」

つらつらと話し続けるエミールにドロシーは気づく、あぁ解体されたくないんだなと、でも同時にこう思う、ナビゲート役にはぴったりなのでは?

「ふ~ん、まぁいいでしょう。助手として雇ってあげますよ、そのかわり、あなたの価値がなくなったら即解体ですからね」

がちゃがちゃと両手の工具を打ち鳴らし脅すドロシーに器用にエミールはうなずく。

こうして新たなコンビが誕生したのであった。

 



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研究者と第一村人達

エミールから様々なことを聞いた、どうやら人類は滅びたらしい。

「へ~さすがに滅んだんですね、まあ白塩化症候群などありましたし、それにしてもゲシュタルト計画ですか」

無謀としか思えなかったが人類はそこまで追い詰められていたのだろう。

たった一人の人間と思考の自由を許したアンドロイド達に任せるなんて人類の存続にやる気があるのかないのか。

それにしても困った。世界に、人類がいる世界に自身の研究結果を認めてもらおうと思っていたが、絶滅してしまったのなら認められるものも認められない。

「人類の遺産であるアンドロイドに認めてもらうのもありですね」

顎に手を置きドロシーは考える。技術というのは万人が使えなければ意味がない。

馬鹿でも理解できるようにしなければ伝わらないし、馬鹿でも使えるようにしなければ意味がないのだ。

馬鹿に合わせるのはくだらないが相手はアンドロイド、思考速度も技術レベルを人類より上のはず。

思考の自由を許した結果アンドロイドに感情が芽生えたらしいのできっと興味深いことになっているだろう。

そんな奴らに自身の技術を発揮できればなんと気持ちの良いことか!

まずこの魔法を使いやすくしなければ、これは個人の力量に頼りすぎている。

さてどうするか、魔素を収集する機械を作り法則を作成、それで魔法を動作させるシステムを積んだ道具とかどうだろう。

いや、魔素を使って粒子データに働きかけ転送装置を作る?

自身出る変えるような魔法の研究に没頭していたため他者に使えるようにする方法は研究していなかった。

研究内容が増えたことに笑みを浮かべてしまう。

急ににやにやし始めたドロシーに困惑するエミール。

「あの、もしよければアンドロイドで構成されている『人類軍』に会いませんか?」

「アンドロイドが作った人類軍ですか、確かにいいですねぇ、見たことのない機械や武器、技術があるかもしれませんし、それにアンドロイドが自ら行動したとなると興味深いです」

エミールは魔法を使い宙に浮く。

「では!早速行きましょう、案内はぼくがします」

浮いたことに対して驚きを見せないドロシーは一度頷くと、

「では!出発です!」

と張り切って声を上げた。

 

二人は荒れ果てたアスファルトの上を進む。

他にいる動くものといえば動物しかいない。

「イノシシにシカですか、ずいぶん大型ですね独自に進化したんでしょうか、そういえば植物も巨大化してますね」

キョロキョロと辺りを観察しながら歩くドロシーの前をエミールが先導する。

「この先に人類軍のキャンプがあったはずです、ええと、機械生命体から隠れるためか全然みつからない」

「しょうがないですねぇ」

ドロシーは気体中の魔素にアクセスをするため魔法を使う。

「どうするんですか?」

「魔法の一つです。空気中の魔素を操作して周囲の物体を読み込むんですよ」

手元にホログラムのように小型の立体地図が構成される。ミニチュアの動物が動いているのがリアルタイムで動いている。

ドロシーが索敵範囲を拡大すると人型の動く物が複数体いることが分かった。

「おや、アンドロイドのキャンプを見つけましたよ」

手元のホログラムを拡大してみると、破損しているアンドロイドがちらほら見える。

このアンドロイド達には感情があるのだろうか、誰もかれも浮かない顔をしていた。

武器は全員が小銃とサーベルを装備しており、隙がないかと言われれば皆疲れているようであった。

「アンドロイドなのに疲労感ってあるんでしょうか」

ドロシーはアンドロイドになってから身体的疲労を感じたことはない、確かに数年間も休憩なしに作業をすると心的疲労のためか作業効率が落ちることはあったが、ここまでではなかった。

このアンドロイドたちは随分人間らしい。

「だとしたら効率が悪いし、無駄ばかりですねぇ」

疲れないことが機械の特徴なのに感情のせいで疲れてしまうだなんて、そんなの失敗作だろう。でも人間に近づけることが目的なら成功なのかもしれない。

だがそれは戦闘用の兵器に必要なことなのだろうか、疲れを感じさせるほどの感情があるだなんて。

でも個性は生まれる、多様性があるなら柔軟な思考もできる。そのための代償なのか。

「とりあえず会ってみましょうか」

「友好的にしてくれるでしょうか」

「もし敵対的なら研究の材料になってもらいましょう!」

戦場の状況を変える天使か、それとも敵味方区別せず自身の目的のために暴虐を尽くす悪魔か、それはドロシーの気分次第であった。

 



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研究者と虐殺

キャンプ地は建物に囲まれた場所に機械生命体から隠れるように存在しており。

四本の支柱で支えられたテントが複数設置されていた。

テントの下にはアンドロイド達が休息とっており、皆疲れ果てているように見える。

そこに不用心にドロシーは近づいていく。エミールは恐る恐るその後ろをついていった。

「っ、誰だキサマ!」

一人のアンドロイドがドロシー達に気づき声を上げると一斉にアンドロイド達が武器を構える。

ドロシーはそれを気にせず話し始めた。

「こんにちは!私はドロシー、こっちの浮いているのはエミールです。まぁしがない研究者ですよ、今回は皆さんに挨拶をしに来ただけです」

ドロシーの見た目は汚れた白衣を羽織る軽装の女性型アンドロイド、それに比べて彼らはがっちりと重装だった。

「手を上げて大人しくしろ、識別番号を送れ」

一人の男性型アンドロイドが警告する。識別番号、各アンドロイドに渡された味方を識別するための番号であるが、個人で作られたアンドロイドであるドロシーが持っているはずがない。

「すみませんが私はオンリーワンでナンバーワン、識別番号は存在しないんですよねぇ」

アンドロイド達の警戒が高まる。ドロシー達を囲む範囲網がすこしづつ形成されていく。

「なぜなら私は個人が作ったアンドロイドなので、政府が作った量産型アンドロイドと違うんですよ」

量産型、それを侮辱だと受け取ったのか先ほど声を上げたアンドロイドがドロシーの足元に発砲する。

エミールはおろおろとしているがドロシーは涼しい顔だ。

「我らを侮辱するか!敵に鹵獲され改造されたアンドロイドの可能性がある、捕獲か破壊しろ!攻撃開始!」

そのアンドロイドの掛け声とともに銃弾が発射される。だが銃弾がドロシーに到達する前にドロシーが張ったバリアに塞がれてしまう。

一心不乱に撃ち続けるアンドロイド達をドロシーは観察する。

「ふむふむ、一人ひとりに個性があるんですね、的確に急所を狙ってくるものもいればでたらめに当ててくるものもいる。そもそも全然当たっていないのもいますね」

「ど、どうするんですかぁ!?」

エミールは銃弾に当たらないようにドロシーの後ろに隠れている。

「う~ん」

ドロシーは少し悩み、

「じゃあ両手両足もいでお話ししましょうか」

アンドロイド達にとって地獄の始まりであった。

 

 

ドロシーは戦闘システムを起動させる魔法使い自身が生み出し倉庫代わりに使っている空間から先端に瓶のようなものが付いた杖を取り出し右手に持つ。

頭上には360度の情報が収集できる天使の輪もしくはギザギザの角に見えるものに鈴のような補助演算装置の付いた戦闘補助装置を浮かべた。

どこからともなく杖の瓶に90度ごとに丸い穴が開いた美しい装飾のカバーが被せられる。

ドロシーが杖に魔素を集め起動させると穴から黄色く光るとげが生えた。

「さあて、大人しく研究材料になってくださいね」

「あの、ぼくは…」

「援護よろしくお願いしますね!」

ドロシーは一歩踏み出しリーダー格なのであろう声をかけてきたアンドロイドの目の前まで一気に移動する。

驚き連射が止まるアンドロイドの両腕を右から左に薙ぎ吹き飛ばす。

勢いで後ろに倒れるアンドロイドの両足も逆方向に戻るように杖を振ることで吹き飛ばした。

破損個所から赤い液体と火花が散る。

「これは血…?いや血を模した液体ですか、もしや人間に近づこうとしているんですかね」

同じように距離を詰め四肢をもいでいくドロシーにエミールは何もできずおびえていた。

人間の記憶が強く残っているのにもかかわらず人型のモノを淡々と破壊するドロシーに異質を覚えたのだ。

ドロシーは特別制、ナノマシンや自己改造を行い常に内外問わずアップデートを繰り返してきた。

鋼鉄をも素手で引き裂けるドロシーの怪力によって振るわれる魔法で強化された杖はアンドロイド達を破壊するのに十分であった。

戦いはすぐに終わった、ドロシーの虐殺であった。

周囲には四肢が破壊されたアンドロイド達が転がっており痛みでうめいていた。

「へぇー痛覚があるんですね、私にもにたような機能はついていますが人間のように苦痛を味わう機能ではないんですよね」

「おやおや、こちらは完全に壊れてしまいましたか、コアは、ふんふん、内部もこうなっているんですね」

「全体的に人間に寄せているようですね、なるほど人類は尊く神のような存在であるから模範するのは当たり前だと、それでは進化の停滞を促すだけですよ」

「この液体何の意味があるんですかね、明らかにアンドロイドには必要ないと思うのですが」

ドロシーはすぐ観察を始めた、稼働している状態で腹部のユニットを引き裂きアンドロイドの悲鳴と血を浴びながら解剖をし壊す。

ほしい情報があれば拷問をし吐き出させる、それでも話さないならハッキングしデータを根こそぎ奪い、システムを調べ内部をぐちゃぐちゃにして壊す。

痛覚テストのため様々方法で痛めつけ、ハッキングしながらどのような反応をするのか調べて壊す。

気づけばドロシーはアンドロイドの血やオイルで汚れ、周りにはむごたらしく壊されたアンドロイドが転がっていた。誰もかれも苦痛の表情を浮かべている。

エミールはドン引きしていた、道徳観も倫理観も何もないサイコパスに出会ってしまったこと、きっと逃げても追いつかれてつかまって解剖されてしまうことに絶望した。

「さあて、比較的綺麗なものを持ち帰って引き続き調べましょうか、さあ帰りますよ」

「は、はい」

ドロシーは綺麗なアンドロイドの遺体を浮かべるとエミールとともに地下研究所へと向かった。



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人形と研究者

「なるほど、内部器官も人間と酷似した配置をしていますね、どうして酸性の液体が入った胃を模した物、って肺ですかこれ、アンドロイドに呼吸は必要なのに、わざわざ呼吸をする器官を取り付けたんですか、効率の悪い」

ドロシーは体中に血液を模した液体を付け解剖を続けていた。

傍から見ればスプラッタな光景だろう、実際エミールが引いている、自身が液体で汚れようとも気にせずに解剖を続けていく。

器官を取り外し、それぞれどのような機能があるのか調べ、再利用できるパーツは綺麗に保管する。

アンドロイドのソフトウェアは戦闘という名の虐殺の際分析しつくしていた。

人間に近い無駄が多い、戦闘用に作られたくせに感情を持ち一体一体に個性を持ち疑似記憶によりさらに人間味を増している。

ドロシーは戦闘用ではなく何でもできるように作られた万能型だった、人間だったドロシーが全てを尽くして作り上げアンドロイドあるドロシーが自己改造を繰り返し行った完璧で完全なアンドロイド。

ドロシーは自身を誇りに思っていた。ずっと引きこもっていたためどのくらい通用するかという疑問はあったが先ほどの虐殺で程度は知れた。

「だから私は外に出ても大丈夫、でもサンプルは少しでも欲しい、もっと比較対象が欲しい」

自分が弱かったら?あっけなく破壊されてしまったら?

認められない不安が湧き出てくる、エミールに勝てるだろうか、あの機械生命体共に勝てるだろうか、あのアンドロイド達は捨て駒で本当はもっと強い個体がいるんじゃないのか。

恐怖、未知への恐怖だった。

「未知なんて認めない、全て調べつくしてやる」

解剖するための道具が手に力を込めたからか歪む。

ドロシーは外の世界が怖かった、ずっと一人っきりで引きこもっていたため思考する時間が増えたのだ。

それは研究の合間に考えてしまう、今より思考スピードが遅かった人間の時ほど楽観的な思考ができていなかった。

とどのつまり、アンドロイドのドロシーは少し、人間の時と比べるとほんの少しだけ現実を見えていた。

頭を振り思考を戻す、ドロシーは一晩かけアンドロイドを調べつくした。

 

解剖し終わった後シャワーを浴びる、その際着替えは洗濯機に突っ込んだ。

身体に水が伝い汚れを洗い流す。老廃物はなくとも汚れはする、今回はさらにだ。

「ふぅ」

アンドロイドになった後でもシャワーは気分も洗い流してくれる。

「これからどうしましょうかね」

外の世界には未知が多すぎる、やることが盛りだくさんだ。エミールについてもまだわかっていることは少ない。

手短なエミールと機械生命体から調査するか、それとも他にアンドロイドの集落がないか探すか。

「ははっ」

アンドロイドは先ほど大量に壊したじゃないか。また繰り返すのか。

でも、

「寂しい」

人間だったころのドロシーならあり得ないだろう言葉だ。

エミールという話し相手ができて安堵を覚えた。

アンドロイドが人間に近いとわかって、仲良くできればと思った。

そう、あり得ない思考。

ドロシーは生前の記憶と今の自分の差に大きな違和感を覚える。

「私はどうしてしまったのでしょう」

気づきたくなかった、気づいていた、自覚したくなかった。

「私はドロシーであって」

そうだって彼女は、

「蝨滄俣闍ア驥悟ュじゃない」

アンドロイドのドロシーなんだから。

 

それから着替え自室に戻った。ベットに倒れこむ。

他者と出会って自分を知ってしまった。

「私はドロシー、蝨滄俣闍ア驥悟ュという名の人間の大量の疑似記憶を持つアンドロイド。だからこそ錯覚していた私は蝨滄俣闍ア驥悟ュなのだと」

でも違かった。

「私は新たな存在だった、蝨滄俣闍ア驥悟ュの思考パターンと私の思考パターンを比較すれば分かる」

蝨滄俣闍ア驥悟ュなら殺しても何とも思わない。蝨滄俣闍ア驥悟ュ悪逆非道な行いをしても何も感じない。蝨滄俣闍ア驥悟ュなら自分のためと割り切れる。

でも私は?アンドロイドを殺したとき、自分のためと壊した、でも心のどこかで仕方がなかったと言い訳をしている。

「私は私です」

そう割り切れれば楽なのに、私は目をつむりスリープモードに落ちていった。



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