異世界にて、烈海王、復ッ活ッ!!烈海王、復ッ活ッ!! (浦井朝時)
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烈海王 復ッ活ッ編
第一話 「アイツが来たッッッッ!!!」


勢いで書いちまった。



 

 

 烈「・・・む、ここは――――」

 

 体に触れる草の感触に目を覚ます烈海王

 

 烈「!?」

 

 しっかりとつながった自らの胴体――――

 

 さらには、

 ピクルに食われ、武蔵に斬られたはずの五体の充足という明らかな異常事態

 

 しかし―――

 だがしかし――――

 

 目覚めた彼がまず驚いたのは・・・・・・

 

 烈「ッッ」

 

 蒼天を舞う翼竜(?)の群れ

 それを追うように火を噴く巨大なドラゴン(?)の姿

 高々とそびえる山脈からは、あの夜叉猿よりも太く響く、猛獣のものと思わしき咆哮

 深々と茂る森から発せられる複数の殺意や敵意入り混じるどす黒いオーラ

 

 およそ、現実世界にはありえない環境

 

 有象無象―――――――

 弱肉強食―――――――

 群雄割拠―――――――

 

 このとき、烈は既に確信していた

 

 ここが――――

 

 数多くの格闘士と雌雄を決した地下闘技場の環境よりも――――

 ピクルの生きていた太古の時代よりも――――

 宮本武蔵の生きた戦国の世よりも――――

 

 

 

  最、最、最過酷ッッッッ

 

 

 

 (そ…………ッッそうきたかァ~~~~~~~ッッッ)

 

 ・

 ・

 ・

 

 烈「むぅ…なぜかはわからんが、現実世界での死をもって、五体満足の状態でこの地に転生した…………そう考えるべきか…………」

 

 

 ?「【呪文(スペル)】フレイム!」

 

 

 烈「むッッ!?男の声、だと?」

 

 烈が声の方を振り向くと、男二人、女二人の集団が、

 醜悪な見た目をした小人(?)の軍団と対峙しているのが目に入った

 

 回復魔導士「くそ、くそ、何よこいつら! 倒しても倒しても湧いてくるじゃない! 

 どうなってんの!?簡単なクエストだったんじゃない!?」

 

 剣士「知るかよ!! ゴブリンの巣が集団発生してるなんて掲示板には書いてなかったんだよ!」

 

 格闘家「ちょっと、早く支援魔法打ってよ! こっちはもう、体力底つきそう……!」

 

 

 窮地に立たされている――――

 見知らぬ異世界で初めて遭遇した状況であったが、烈にもそれだけは感じることが出来た

 

 

 (救わねばッッッ)

 

 

 そう心で思うか思わないかの刹那――――

 

 脳のニューロンからの電気信号が全身に伝わる前に

 烈の筋肉は既に「走る」という行為を実行するための運動を開始(はじめ)ていた———

 

《ダダダダダダダダダダダダダダッッッッッッ》

 

 

 

 烈「君たちッッ、私が助太刀致そうッッ」

 

 魔導士「ぼ、冒険者の方ですか!?た、助かります!」

 

(す、すごい筋肉……)

 

 魔導士「あなた、【呪文】は何が使えますか?」

 

 烈「【呪文】? 西洋の魔術かなにかか? そんなもの、私は使えん!」

 

 剣士「え、まじかよぉ・・・じゃあ意味ねぇじゃんかよぉ・・・・・・」

 

 烈「中国拳法になら、多少の造詣があるが・・・それではダメか?」

 

 格闘家「拳法家、ですか!?すいませんが、あたしと一緒に、前線で戦ってもらえませんか!?」

 

 

  「馬鹿を言うなッッッッッッ!!!!!」

 

 

 全員「ッッッッッ!!!!! (ビクッ)」

 

 

 このとき――――

 

 敵味方問わず

 あらゆる活動――――

 

 

 殴る――――

 斬る――――

 走る――――

 叫ぶ――――

 唸る――――

 

 

 遂には最低限の生命活動である呼吸でさえ一時的に停止したのである――――

 

 

 そして――――

 その場のすべての生命体は――――

 本能的に自分の脳裏にある言葉が浮かび上がるのを感じる――――

 

 

  (コイツを怒らせたら、マズいッッッッッッッッッ!!!)

 

 

 烈「――――お嬢さん・・・」

 

 格闘家「・・・あ、あぅえ?」

 

 

 しかし――――

 

 

 烈「本来、戦いとは男の役割・・・」

 

 

 その男の表情は――――

 

 

 烈「ここは私一人に任せて、その傷ついた体を早く手当てしてもらいなさい――――」

 

 

《ニコッッッッ》

 

 

 格闘家「////」

 

 

 およそ、恐怖とは似つかずッッ――――

 




対異(形)種格闘技始まるッッッ!!!


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第二話 「vs小鬼」

なんだこれ


烈「ここは私に任せて、君たちは固まって防御陣形を組むんだッ!」

 

魔導士「む、無茶ですよ!いくらあなたが強くても、このゴブリンの軍勢は・・・」

 

 

烈「――――小鬼、西洋の空想上の生物か・・・」

 

格闘家「そうですよ!見ただけでも100体、いや・・・巣にいるのも考えるとその倍以上いると考えられます!」

 

剣士「それにおっさん魔法使えないんだろぉ?基本一対一(タイマン)の拳法家じゃ話にならないぜ」

 

回復魔導士「それに、ゴブリンの皮膚は人間より何倍も硬いのよ⁉支援魔法なしの素手の攻撃じゃダメージ与えるどころか自殺行為よ!!」

 

 

烈「問題はない!!500匹までなら!!!」

 

 

 (ど、どういう理屈だよッッッ???)

 

 

 

戦闘という緊張の真っ只中における、

『雑談』という明らかな『非常事態』――――

 

生来から人を襲うことを本能とする悪鬼(ゴブリン)にとって、

それはある意味敗北より憎むべき『侮辱』である――――

 

 

ゴブリンA「キシェェェェッッッ!!!」

烈「ハッ!」

 

 

およそ小さな体躯からは想像できないような跳躍の後、

棍棒を振り上げながらの背後からの不意打ち、という

考えうる限りの最高(ベスト)な攻撃態勢をとったはずのゴブリンは、

烈の振り向き様の上段蹴りによって頭部を捉えられることになる

 

 

格闘家「す、すごい・・・見事な蹴り・・・」

 

回復魔導士「馬鹿!ゴブリンに支援魔法なしの素の蹴りなんて効くわけ・・・」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

ブリュミエール大学 学園長

『都市郊外における危険な魔法生物』 著者 ブリュミエール・ラドグリフ

 

 

「ゴブリン・・・ですか・・・」

 

そう呟くと、ラドグリフ氏は小さなため息をつき、ソファーに体重を預ける。

 

「――――多くの冒険者や魔導士にとって、ゴブリンという存在はある意味で非常に身近

な存在です・・・」

 

「初心者向けクエストにおける登竜門・・・、都市郊外において最も多く観察される魔法生物・・・、剣術や魔法に多少なりとも通じているものにとっては、いわゆるザコ敵として、技や魔法の練習台にされることもしばしば――――」

 

 

 大いに間違った認識であるッッッッ

 

 

「彼らは非常に狡猾残忍で、かつ慎重な魔法生物です。」

 

「自分が相手の戦力より低いと思えばすぐに撤退し、自分を矮小な存在だと相手に印象付ける行動をとります。」

 

「それが、例え自分の身体能力が相手の数倍あったとしても、です。」

 

「あまり知られていませんが、ゴブリンは単独行動を行う生物でなく、本来我々と同じく集団行動を旨とした生物なのです。」

 

「実は大半の冒険者たちが討伐して喜んでいる単体のゴブリンは、弱くて巣から追い出されたはぐれゴブリンにすぎません。」

 

「巣を作り、繁殖活動を行うようなゴブリンの三分の一のLvにも満たないでしょう。」

 

「――――そして」

 

机に置かれた紅茶を一口すすると、ラドグリフ氏は話を続ける。

 

「彼らは、集団を単位として戦力を判断します。」

 

「仮に一人の冒険者が3体のゴブリンと遭遇した際、圧倒的優位と判断した彼らはその凶暴性をむき出しにし、人間離れした身体能力と頑強な体でもって襲い掛かり、まぁ、その冒険者のLvがそれぞれのゴブリンのLvの合計の最低でも3倍、いや、4倍はなければ、まず一方的にやられてしまうでしょう。」

 

「それほどまでに集団のゴブリンとは手ごわいのです。」

 

「この都市では冒険者の行方不明者が後を絶ちませんが、私の目算ですと恐らく3分の2はゴブリンの仕業でしょう。

 

「イメージが先行して正しい知識が広まらないのも考え物ですね。(フフッ)」

 

 

 

「――――え?もし巣を形成するようなゴブリン100体に一人で遭遇してしまったら、ですか?」

 

苦笑いをしながらラドグリフ氏は答えた。

 

「・・・・・・考えたくもありませんね。」

 

「そのような状況を一人で打破するには、まぁ、かの伝説に名高い獄炎火竜一体を倒せるぐらいの力量でもないと無理でしょうね。」

 

「もっとも、そんな化け物じみた人間なんて、この世にいるかどうか・・・」

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 否ッッッッッッッッ!!!存在するッッッッッッッッ!!

 

 

 

白林寺における数えきれないほどの鍛錬の日々――――

来日後繰り広げられた数多くの死闘に次ぐ死闘――――

 

 

そして――――

自らの命を落とすことになった大剣豪宮本武蔵との死闘――――

 

それらすべてを経験量を数値化した際の

烈海王氏の戦闘経験値から算出される異世界でのLv、

 

実に――――

 

 

 100000000Lvッッッッッッッッッ!!!!

 

 

 

そのような烈が放つ【ただの蹴り】、その破壊力――――

 

《シュパァァンッッッッ》

ドタッッッ

 

魔導士「――――き、消え・・た・・?」

 

ゴブリン頭部<消滅>に至る――――

 




海王の名は伊達じゃないッッッ!!!


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第三話 「弟子ッッッ!?」

今更だけど、読みにくいとかあったら言ってください。


あと名言いいたいだけだ、これ。


 烈「ッッ!!」

 

 およそ尋常ではない自身の身体能力の向上

 烈海王の心中はこのような異常事態に少なからず動揺していた

 

 しかし――――

 

(あくまでここはこの者たちを守ることが優先、まずはこの状況をなんとかせね

 ば・・・)

 

 

 烈「――――おい」

 ゴブリン集団「ッッッッッ!!!!????」

 

 

 烈「まだやるか?」

 

 

 ゴブリン集団「――――《カタカタカタカタカタカタ》」

 

 奇しくも――――

 ゴブリンの相手の戦力を瞬時に見抜く野性的才能

 それらが呼び起こされるのは先ほどの怒号と

 仲間の頭を蹴り飛ばし(?)た烈の行動で十分であった。

 

 その天賦の才能が――――

 彼らの細胞に死に物狂いで呼び掛けている本日最初の行動――――

 

 

  〈逃亡ッッッッ〉

 

 

 ドダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッッッッッッッッッッッ

 

 そう――――

 

 ダダダダダダッッッッッッッッ・・・・・・・・・・・・・・

 

 この野性的本能は――――

 

 タタタタッッッ・・・・・・・・・

 

 

 この過酷な異世界で生きてくための必須の能力(スキル)なのである――――――――

 

 

 《シ──────────────ン》

 

 

 

 4人「――――す」

 

 すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 ・

 ・

 ・

 

 烈「君たち、傷の手当などできるようなものはもってないのか?」

 

 回復魔導士「は、はい!一応薬草などは一式持っているので、応急手当ぐらいはできるかも、ですけど……」

 

 烈「それはなによりだ」

 

 

 剣士「あ、あの・・・」

 

 烈「ん?」

 

 剣士「お、おっさん、名前は?」

 

 烈「こ、これはすまない、私としたことがうっかりしていた――――」

 

 

 パンッッッ

 

 

 烈「烈 永周。白林寺にて海王の位を習得している。烈と呼んでくれッ」

 

 

 魔導士「か、海王ってなんだ・・・?」

 

 格闘家「れ、烈さん!!」

 

 烈「む?どうした?お嬢さん?」

 

 

 

 格闘家「で、弟子にしてくださいッッッ!!!」

 

 烈「?!」

 

 

 三人(え~~~~~~~~~今ぁ~~~~~~~?!)

 

 

 烈「・・・」

 烈「・・・・・・・・」

 烈「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 格闘家「・・・」

 

 

 烈「――――すまないが」

 

 格闘家「!」

 

 烈「君を弟子にはとれないッッッ」

 

 

 格闘家「・・・それは」

 

 格闘家「それは私が女だからですかッッッ!?」

 

 

 烈「・・・・・・それも少しはある」

 

 格闘家「ッッ」

 

 

 烈「しかし、それ以上に――――」

 

 

  今のわたしが弟子を持つには若すぎるッッッ!!!

 

 

 四人(――――ッッッ、こ、この人)

 

 

(どこまで強くなるつもりなんだぁ~~~~~~????!!!!)

 

 

 烈「・・・・・・しかし」

 

 格闘家「!」

 

 

 友人として、君たちと共に行動することは出来るッッッ!!

 

 

 スッ(手差し出し)

 

 烈「こちらからお願いしたい、よいだろうか?」

 

 

 格闘家「――――ハイッ!!」

 

 

 

  喜んで!!!!

 

 




ここから烈海王伝説が始まるッッッッッッ――――


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第四話 「異世界の理(ルール)」

名前クッソ適当です。



 異世界 

 バルゴニウム王国

 首都 マギカリーゼ

 

 通称:『魔導士の故郷』――――

 

 

 四人の冒険者グループを助けた烈は、

 異世界という未開の地における情報を得るため

 彼らが拠点にしているという都市に来ていた――――――――

 

 

 

 烈「つまり、この世界では【呪文】というものが、戦闘における重要な手段というわけ

 だな? レガロさん?」

 

 レガロ(魔導士)「はい。そうなりますね」

 

 レガロ「人によって覚えられる【呪文】は異なるのですが、大半の魔導士は成人までに基礎的な自分の系統【呪文】は身に着けるようになります」

 

 ケンジ(剣士)「そ~そ、んで、魔導士以外の人間は、俺やランのように剣士とか格闘家み

 たいな職業になるわけ」

 

 ミネルバ(回復魔導士)「烈さんって、多分他の世界から転生してきた方、ですよね?」

 

《ピクッ》

 

 烈「なぜそれを?」

 

 ラン(格闘家)「実はこの世界って、現実世界――――ここでいうと元々私たちが暮らして

 いた世界ですね、そこで死んでしまった人が稀に転生してくるみたいなんですよ」

 

 ケンジ「そういうこと。だから俺とかランみたいな【転生者】はもとからこの世界の住人じ

 ゃないから、基本的には【呪文】を使えないってわけ」

 

 ミネルバ「正確に言うと、ちゃんと訓練すれば【呪文】は使えるようになるけど、生まれた

 ときから【呪文】に触れてきた私たちとではブランクがありすぎるわね」

 

 

 烈「しかし、そうだとすると、【転生者】とこの世界の住民とでは、戦力にあまりにも差がありすぎるのではないかね?」

 

 レガロ「そのために、【転生者】には転生後に【補正】がかかるみたいなんですよ」

 

 烈「【補正】?」

 

 ケンジ「そ、転生者はもとの世界より身体能力とか体の頑丈さが上がるし、あと転生前には

 なかった能力や武器がもてるんだぜ!」

 

 ラン「私は『殺気を持った相手がとる次の行動を読む』能力、ケンジは『対魔法生物に対し

 て殺傷能力が向上する』剣だよね?」

 

 ミネルバ「こんな感じで、この世界でも暮らしていけるように転生者には【転生神】様によ

 る【補正】のご加護が施されて、私たちとあまり力の差が出ないようになっているんです」

 

 

 烈(な、成る程オオオオッッそういう仕組みかッッッ)

 

 

 レガロ「そ、それにしても烈さんの【補正】はすごいですッ!! あんなに強力な蹴りを出せるような【補正】能力は今まで見たことありませんよ!」

 

 ケンジ「おっさん、マジでうらやましいわぁ~、あんなのチート能力だぜ」

 

 ラン「中国拳法は転生前から知ってたんですか? それとも【補正】能力なんですか?」

 

 烈「いや、まぁ、なんだ……中国拳法自体は転生前から習得していたが、あの破壊力は【補

 正】によるものかもしれん――――」

 

 パンパン

 

 ケンジ「あったりまえじゃねぇか!! あんなのよっぽどいい【補正】受けてねぇとできるわ

 けねぇだろぉ?」

 

 

 烈「むぅ――――」

 

 

 実際のところ――――――――

 烈は彼らの言う【補正】とやらの効力を今一つ感じることは出来なかった

 

 いつも通りの構え――――

 いつも通りの蹴り――――

 いつも通りの手ごたえ――――

 

 烈が先程のゴブリンに対して行った一連の動きは

 白林寺入門後から海王の座を得るまで幾度となく繰り返した行為そのものであった

 

 

 

 しかし――――

 

 烈(先程の破壊力を説明する上でも、私になんらかの【補正】とやらがかかっていると考える方が自然か――――)

 

 ミネルバ「はぁ~いいなぁ~~~、烈さんみたいな能力があれば、【呪文】なんていらないのになぁ~~~」

 

 

 烈「そんなことはないッッッ」

 

 

 ミネルバ「!?」

 

 烈「――――とどのつまり」

 

 全ての『技』とは――――

 強者による不当な暴力に対し――――

 圧倒的不利な立場に置かれる弱者が抵抗するための――――

 

 

 

「理」性的防衛手段ッッッ

 

 

 

 烈「君たちから見れば、私の力は「理」から外れた圧倒的な力に見えるのかもしれん」

 

 烈「だが、それは私の世界における「技」と君たちの世界の「技」が違っていただけにすぎん……」

 

 烈「武「道」か魔「道」か、たったそれだけの違いだ――――」

 

《ポンッ》

 

 烈「君たちは君たちの「道」を極めなさい……」

 

 

 

 それが君たちの「道義」ではないかね――――? 

 

 

 

 ミネルバ「…………う、うす///」

 

 

 レガロ「……い」

 

 

(いいなぁ~~~~~~~~~ッッッッ)

 

 ・

 ・

 ・

 

 ラン「着きましたよ! 烈さん!」

 

 ここが――――

 

 異世界の冒険者や魔導士たちが集まる――――

 

 クエストギルド ~マギカリーゼ支部~ 

 ですッッッッ――――

 

 




「海王」初の冒険者ッッッ!?——————


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第五話 「【補正】」

地の文書くと滅茶苦茶刃牙感なくなる(なお、解説口調のものは入らず)



 ガランガランッ――――

 

 クエストギルド 

 マギカリーゼ支部――――

 

 

 烈(建材は黄褐色に近い色合いの針葉系樹木…………規模こそ大きいものの、外装や内装はさしずめ、アメリカ西部開拓期によく見られた酒場に近い、といったところか……)

 

 

 

 烈が初めて体験する異世界特有の存在「ギルドハウス」――――

 

 しかし、そこで目にしたものは――――

 

 仲間と語らい笑い合う者――――

 掲示板(?)を見てなにか思案する者――――

 自らの武勇伝を他に聞かせて自身の力を誇示するもの――――

 

 窺える人間の本質は、烈の世界のものと変わりは無く

 

 烈は少し、胸をなでおろす――――

 

 

 

 受付嬢「あ、お疲れ様です! どうでしたか? クエストの方は?」

 

 レガロ「どうでしたかじゃありませんよ。ゴブリンの巣があるなら総注意書きに書いてもらわないと……」

 

 ペラッ……ペラッ……

 

 受付嬢「おかしいですね……依頼書には【第八級】相当の難易度だとのことでしたが……」

 

 ケンジ「おいおいおい! 複数のゴブリンの巣の掃討なんてどう考えても【第二級】以上の難易度だぜ? ちゃんと事実確認はしてくれよ」

 

 

 ? 「――――負け惜しみはつらいねぇ? 下位冒険者」

 

 

 ケンジ「ッ!?」

 

 ケンジ「キリクッッッ!!」

 

 

 烈(? なんだ? あの者は?)

 

 烈(およそ戦闘には似つかわしくないヒラヒラとしたマントのような黒い装束に、背中に十字の形で携えた二本の剣、どちらも型としては西洋騎士のロングソードに近いものと見える)

 

 烈(周囲の人間が彼を見た時の反応からも、このギルドハウス内での彼の立ち位置はかなりの上位と見受けられる)

 

 烈(そして……彼を囲むようにして存在する十人にもなる女性……彼女たちも冒険者や魔導士なのだろうか……?)

 

 

 キリク「ゴブリン討伐だって? 俺と同じ時期にギルドに加入して、まだそんな低級魔法生物討伐の依頼なんか受けているのかい?」

 

 レガロ「構わないでください! あなたには関係ないでしょう!!」

 

 キリク「関係大有りだね。困るんだよ、仮にも僕と同期の奴がその程度だと。僕の沽券に関わる」

 

 ケンジ「くッ……」

 

 ミネルバ「ハッッ!! ちょっと【補正】がよかったからって調子乗んなよ!」

 

《チラッ》

 

 …………フゥ~~~~~~~――――

 

 キリク「ミネルバ……君、見た目はいいんだけど……」

 

 

 

 

 やっぱり馬鹿だなぁ~~~~~~~~~~~~ッッッ??? 

 

 

 

 

 キリク「いいかい? この世界の出身である君がどう思うのかは知らないが、【補正】っていうのはいわば生まれ持った才能と同じなんだ」

 

 

 

 生まれつき持った頭脳――――

 生まれつき持った魔道力――――

 生まれつき持った身体能力――――

 

 

 

 キリク「君は才能をもって生まれた、それだけの人間に対して、「卑怯だ」「インチキだ」というつもりかい?」

 

 ミネルバ「ッ!」

 

 キリク「確かに僕の【補正】武器である『物体を確実に切断する』【哭閃剣】と『あらゆる魔法攻撃を切断する』【冥刹剣】は、【補正】の中では最高峰、いや最強の部類であるといっても過言じゃない…………」

 

 

 だけど――――

 

 

 それは俺の個性! 

 

 幸運!! 

 

 天賦の才!!! 

 

 

 キリク「俺の力そのものなんだよ、分かる? 下級冒険者諸君?」

 

 四人「ッッッッ」

 

 キリク「ま、弱者は弱者なりに技でもなんでも磨けばいいってことさ、じゃ、僕たちはこれから【第一位】クエストに行かなきゃだから、帰ってくる頃にはせいぜい【第六位】クエストくらいはできるようになっておいてねぇ~~~~」

 

《ニヤッ》

 

 キリク「まっ無理だと思うけどね~~~」

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ギルド内 

 1F

 ルイージの酒場――――

 

 

 ケンジ「クソッ、あの野郎ッッ!!」

 

 ミネルバ「ホント、いけ好かないッ!」

 

 レガロ「まぁ、あの人のチームがこの都市の中でも随一の成績なのは周知の事実ですから…………」

 

 

 烈「――――ランさん」

 

 ラン「は、はい。なんですか?」

 

 烈「先程の話に戻るようだが」

 

 烈「私には、見たところ【転生者】それぞれが受ける【補正】には、なにか大きな差があるように思われる……どうかね……?」

 

 ラン「そ、そうですね……」

 

 ラン「――――先程、【補正】はこの世界の魔道士たちと【転生者】との力の差を埋めるもの、と説明がありましたよね?」

 

 烈「あぁ、だからこそ、君たちは異なる世界で生まれたもの同士、共に戦うことが出来ている……私はそう解釈しているが?」

 

 ラン「その通りです……ですが――――」

 

 ラン「――――どうも近年の【転生者】の【補正】は今までよりも強力なものになっていることが多いそうなんです……」

 

 烈「ほぅ?」

 

 ミネルバ「だから最近活躍しているような冒険者チームのリーダーは、ほとんど強力な【補正】を受けた【転生者】なの。私は系統的に補助魔法が得意だからいいんだけど、そういうチームでは魔導士は【転生者】の補助しかさせられないとも聞くわ」

 

 烈(ふむ……先程の私の【補正】(?)に対する羨望の眼差しは、【転生者】ごとによる【補正】能力の格差からきている、ということか……)

 

 ケンジ「そ~ゆ~こと、だからランはともかく、俺の【補正】はハズレってわけ」

 

 レガロ「ケンジッ! なにもそんなことは……」

 

 バンッッッ

 

 ケンジ「いいじゃねぇかッ! 事実なんだから!」

 

 

 烈、三人(!?)

 

 

 ケンジ「俺だって良い【補正】をもらいたかったさ! この【補正】だって最初はいいと思ったよ! 簡単な剣術もいつの間にか身に着けてたし、一瞬だけど、自分が滅茶苦茶強くなったと思った!」

 

 ケンジ「でも、周りには最初っから俺よりも強い奴がいて、どんなに努力してもそれは埋まらなくて……」

 

 

 所詮、【転生者】にとっては【補正】が全てなんだよッッッ!!! 

 

 

 ミネルバ「そ、そんなことないわよ!」

 

 

 烈「――――――――いや」

 

 四人(!?)

 

 烈「ケンジさん、もし君がそう思ってしまうのなら――――」

 

 

 この世界における【補正】以外のすべて、闘争における不純物に過ぎないッッッッッッ

 

 




烈、【補正】に対し何を思う!?


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第六話 「志」

やべ、前回の話の予約ミスった


 ケンジ「――――そ……」

 

 ケンジ「そりゃあそうですよッ」

 

 ケンジ「烈さんみたいな超絶【補正】受けてる人から見れば――――」

 

 烈「――――これは、私が生きていたころに出会った二人の男の話だが」

 

 

 ケンジ(おいおいおい、語りだしちゃったよこの人?!)

 

 烈「一人は、生まれながらにして『喧嘩師』としての才を持ち、「鍛えない」ことを信条として無類の強さを誇り、その「鍛えたことのない」握力は束ねたトランプの一部を平気で引きちぎるまで至り、【握撃】と呼ばれる彼の攻撃は、素手で人体一部を爆発させる域にまで達していた」

 

 レガロ(じ、人体の爆発って? というか、素手?)

 

 烈「――――もう一人は」

 

《フゥッ》

 

 烈「もう一人は、生まれ落ちたその時から『地上最強の生物』として君臨し、自分以外一切を弱者として捉え、その戦力は大国一つの全軍隊と匹敵するともといわれていた」

 

 ミネルバ(一国の戦力と同等って、そんなの伝説上の存在じゃない……)

 

 烈「つまり――――」

 

 

 私は過酷なこの世界に住む君たちよりも以前に

「圧倒的暴力」を持つ生物に遭遇しているッッッ

 

 

 四人(……………………)

 

 

 ケンジ「ぎ、ギャグっすよ――」

 烈「大真面目だッッッ」

 

 烈「事実、先程君にかけた言葉はその『地上最強の生物』が、わが師と戦うまさにその最中に宣言した言葉だ」

 

 

(……………………)

 

 

 

 ラン「そ、それで……」

 

 烈「ッ」

 

 ラン「それで、その戦いってどうなったんですか? 烈さんのお師匠様対……『地上最強の生物』」

 

 烈「………………」

 

 烈「――――――――「武」の勝利……」

 

 ラン「……ていうことは、烈さんのお師匠様の――――」

 

 烈「試合自体は、わが師の「死亡」によって幕を閉じた」

 

 

 

 四人「………………は?」

 

 烈「フッ、まぁ、そうなるだろうな」

 

 ミネルバ「イヤイヤイヤイヤ」ブンブンブンブンッ

 

 ミネルバ「どう考えてもそれって……負け、でしょ?」

 

 烈「――――確かに」

 

 烈「「試合」の勝ち負け、という意味ではそうだったかもしれない……」

 

 

 烈「しかし――――」

 

 烈「試合後、師はその悠久の時間をかけて培った「理合」によって、息を吹き返したのだッ」

 

 

 四人「………………え?」

 

 

 レガロ「そ、その「理合」っていうのは、魔法とか呪術とか、そういう類のものではなくてですか?」

 

 烈「ハハッ、師が用いたのがそのような類のものであったのなら、私も魔導士の端くれ、というわけだな」

 

 ミネルバ(いやむしろ、超絶強化魔法の使い手といってくれた方が私的には納得できるんだけど……)

 

 ラン「……てことはさぁ?」

 

 三人「?」

 

 ラン「そんな常識はずれなことをしちゃう人がお師匠様だったらさぁ?」

 

 ラン「さっきの烈さんの蹴りって、ひょっとして【補正】によるものじゃなくて、元からあった「武」とか「理合」の力、だったりして……」

 

 

 全員(…………………………)

 

 

 四人(ど、どぉ~~~~~だぁ~~~~~~ッッッ??)

 

 

 烈「そ、そうなのかッ? たしかに、君たちが言うような【補正】による変化は、この地に降り立ってからあまり感じないのだが……」

 

 レガロ「……本来、【補正】というのは【転生者】に身体能力のわずかな上昇と、この世界の魔導士にはない特別な能力や武器を付与するというもの……後者についてはこの地に降り立ってすぐにその変化に気が付くといいます」

 

 ラン「うん! 私も転生したとき、周りの殺気を持った魔法動物の気配とかがなんとなくわかったから、能力も自動的に発動するし、発動したら気付くと思うよ!」

 

 ミネルバ「武器だったら真っ先に気付くし……確かに今まで『身体能力の向上』っていう【補正】における+αの効果が著しかったという例は今までみたことないわね……」

 

 

 三人(じゃあ、烈さんの本当の【補正】能力は……)

 

 

 

 まだ発揮されてないってこと? ――――――――

 

 

 

 ケンジ「は、話し戻すけどさぁ!!!」

 

 他四人(!?)

 

 ケンジ「さ、さっきの「武」対「暴力」の話だけどさぁ……」

 

(……………………)

 

 ケンジ「け、結局は相手を倒せてないから負けなんじゃ……」

 

 

 烈「ッッッ!!」

 

 

 ケンジ(ビクッッッ!?)

 

 烈「……ケンジさん」ガタッ

 

 ケンジ「ちょっ、ちょっと待ったッッ取り消しますッ今の質問なしッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 烈「私もそう思うッッ!! (ニコッ)」

 ケンジ「はぁ~~~~~~~~~?!」

 

 

 

 烈「いくら生き返ったとはいえ、勝負は勝負。それに、相手が力を緩めず死亡後もなお攻撃を続けていれば、師に生き返るための余力は残されていなかっただろう――――」

 

 

 しかしッッッ

 

 生き残ったのもまた事実ッッッ

 

 

 烈「「技」というもの、「武」というもの、あるいはこの世界でいう「魔法」というものが、不当な暴力に対する弱者の抵抗手段だとすれば、あの時「武」は勝利していた、いや、もっと正確に言えば、目的を果たしていた、そういえるのではないだろうかッ」

 

 

 四人(――――――――ッッッ)

 

 

 余りにも現実離れすぎる烈の経験と「武」への思想――――

 

 それは、異世界という「非現実的」な環境に住む者たちであっても、

 到底、すぐには飲み込めるような代物ではなかった――――

 

 

 しかし――――

 

 そのような話を聞いてもなお、

 若き冒険者ケンジに残る、残ってしまう一つの子供じみた『わがまま』――――

 

 

 ケンジ「……でも、烈さん」

 

 烈「んッ?」

 

 ケンジ「おれ、勝ちたいッ」

 

 ケンジ「ちゃんと、相手に勝ちたいッッ」

 

 

 勝負が終わった時、自分の頭が相手の頭より高いところでありたいッッッ

 

 

 烈「!!!」

 

 ケンジ「証明したい! 先天的暴力に後天的技術が勝ることッ!」

 

 

 このとき――――

 烈 永周海王の心にある一つの思い(アイデア)が去来する――――

 

 

 

 烈(――――或いは……)

 

 烈(或いは、これを証明するために、私はこの地に降り立ったのかもしれんな)

 

 

 

 烈「――――ケンジさん」

 

 ケンジ「!」

 

 烈「残念ですが、あなたが今からそれを成し遂げるには、いささか時間がかかりすぎるのではないだろうか?」

 

 ケンジ「ッ……」

 

 烈「だから、その代わりに――――」

 

 

 この地でッ私が証明しようッ! 

「技」が「力」に勝ることをッッ! 

 

 




志、定まるッッ!!


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マギリカーゼ闘技場編
第七話 「異世界闘技場ッ!?」


来たッ来たッッ来たッッッ アイツらが来た!!!

戦闘シーン書きたくてウズウズ
世界観等で分からないことがあったら言ってくださいね


 ? 「…………遂に……」

 

 

 遂にこの時がやってきたぁッッッ!!! 

 

 

「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!」」」

 

 

 ? 「ここッ、魔道都市マギカリーゼにて一年に一度開催される、全市民の、全市民による、全市民のためのストレス大解放(ビックバンカタルシス)ッ!」

 

 

『第376回 マギカリーゼ クラス争奪戦大会』ッッッ!!! 

 

 

 ? 「ルールはみんなバッチリかと思うが、おニューなそこの【転生者】諸君のために、改めてオレ、当闘技場実況解説おなじみ、マイク・スタンダードが解説しちゃうゼ☆」

 

 マイク「この大会では、チャレンジャー諸君が闘技場の【クラスマスター】達に一対一(タイマン)、武器・魔法何でもありの死闘(デスマッチ)を挑み、チャレンジャーが勝利した場合は晴れて新しい【クラスマスター】としての名誉、それにこのマギカリーゼにおけるあらゆる特権を得ることが出来るヨ~☆」

 

 マイク「た~だ~し~~~~?」

 

 マイク「挑戦権を得るには、そのクラスの名前に応じた魔法生物達を倒さないといけないんだ!」

 

 マイク「クラスは下から、『小人(ホビット)』、『小鬼(ゴブリン)』、『ニンフ』、『ガーゴイル』、『ドラゴン』クラスの計5つだッ! なお、『ドラゴン』クラス挑戦には、現在の『ドラゴン』【クラスマスター】が3年前にぶった切っちまって以降、特例としてガーゴイル3匹と戦うことになってるぜ!」

 

 マイク「ま、今まで挑戦した奴なんていないんだけどナ☆」

 

 ハハハハハハ…………

 

 マイク「さぁ~て、今回はどんな選手たちが【クラスマスター】に挑戦するんだッ?! それじゃあ、張り切って、選手入場だぁッッッ!!!」

 

 

 ワアアアアアアァァァ――――――――――――

 

 

 ザッザッザッ…………

 

 烈「…………」

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 時は少し遡り――――

 

 

 烈「『クラス争奪戦大会』?」

 

 ケンジ「はい。年に一度、中心街のコロッセオ闘技場で開催される格闘大会なんですけど…………」

 

 烈(ふむ、地方擂台賽のような催しか……)

 

 ケンジ「こ、これに参加して、もし……もし一番上の『ドラゴン』クラスになったら、烈さんの「武」の強さが証明できるんじゃ――――」

 

 レガロ「ケンジッッッッッ!!!!」

 

 烈(!?)

 

 レガロ「いくら……いくら烈さんが強いからって…………」

 

 

 私怨のために烈さんを殺していい訳ないでしょうッッッ!!! 

 

 

 烈「……それは、どういうことかね?」

 

 ミネルバ「それはね、烈さん」

 

 烈(!?)

 

 烈「ミネルバさん……!」

 

 ミネルバ「この大会は5つの各クラスを保持する【クラスマスター】に挑戦するために、そのクラス名に冠された魔法生物を倒さなきゃいけないんだけど」

 

 ミネルバ「現在ドラゴン不在のため、『ドラゴン』クラスに挑戦するにはガーゴイル3匹を代わりに倒さなきゃいけないの」

 

 

 烈「……それに、何か問題でも?」

 

 ラン「問題も何もありません!!!」

 

 ラン「ガーゴイルは本当に滅茶苦茶強いんです! 熟練の魔導士や冒険者でも10,20人でようやく一体倒せるかどうか……」

 

 ミネルバ「えぇ、このあたりに生息する魔法生物の中では、まず間違いなく単体でトップクラスの性能といっていいわね。生まれてこの方、あの闘技場でガーゴイルを倒した人間はみたことないわ」

 

 レガロ「…………烈さんが強いのは十分承知しています。現にあのゴブリンの群れをたった一撃で撤退まで追い込むのだから、この都市の中でも烈さんは指折りの実力者に違いはありません――――」

 

 レガロ「……でも、でもガーゴイルはゴブリンなんかとは比較にならないッッ!! 一説にはガーゴイル三匹の合計戦力はドラゴン一体よりも遥かに上回るとか……文字通り悪魔のような存在ですッ」

 

 

 烈「しかし、実際に【クラスマスター】という存在がある以上、ガーゴイルやドラゴンを倒した者がいるのではないかね?」

 

 ミネルバ「実際のところ、『ドラゴン』と『ガーゴイル』のクラスに関しては第一回大会が始まって以来数回しか【クラスマスター】が存在しなくって、ここ50年間はずっと空席だったの」

 

 ミネルバ「けど『ガーゴイル』の方は、詳しくはよくわからないけど、主催者側の意向で2年前の大会の時点で既に決まっていたみたい。だからガーゴイルに関しては、近年この闘技場で本当に倒した奴がいるかどうか、ちょっとわからないわね」

 

 烈「では、『ドラゴン』の方は……?」

 

 

 ケンジ「――――――――キリクだよ」

 

 烈「! ……君たちに罵声を浴びせていたあの少年のことか!」

 

 烈「成る程……だから「私怨」、というわけだな?」

 

 ケンジ「…………」

 

 

 レガロ「――――烈さん……彼の持つ二本の剣は、それぞれ『物体を確実に切断する』【哭閃剣】と『あらゆる魔法攻撃を切断する』【冥刹剣】というこの世界においてまさしく最強の【補正】武器といっても過言ではありません」

 

 ラン「私も、格闘家の端くれですのでこれだけは分かります!」

 

 

 いくら拳が強くても、剣には勝てない! 

 

 

 ラン「それが何でも切断できるならなおさらです! 烈さんにもそのような経験があるんじゃないでしょうか!?」

 

 

 烈「…………」

 

 

 ————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————

 

 

「さて……と 長引かせるものでもなし」

 

 ・

 ・

 ・

 

「九節鞭」

「中国的だなァ~~~~~~~ッッ」

「はいィイッッ」

 

 ・

 ・

 ・

 

「これ…………」

「この玩具でこの武蔵を討ち取れると…………?」

 

 ・

 ・

 ・

 

「掴んだぞむさァし!!!」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

(これが"斬る"ということ)

("斬られる″ということか!!!)

 

 ・

 ・

 ・

 

(立ち上がることすら……遥かに遠い……)

 

 ・

 ・

 ・

 

(大きな収穫だ……………………)

 

 ・

 ・

 ・

 

(次に活ゕ。.…………………………)

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 ————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————

 

 

 烈「……実を言うと」

 

 烈「私がこの世界に来るきっかけになったのが、まさにその「剣」による敗北だった――――――」

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 そして、現在――――

 

 

 闘技場 選手待合室――――

 

 レガロ「全く! あれだけ言ったのにエントリーをするなんてッ!!」

 

 ケンジ「まぁ、いいじゃねぇか! 烈さんならいけるって!」

 

 レガロ「元はといえば君が焚きつけたからでしょうがッッ!!」

 

 ミネルバ「ほんと、男ってバカッッ」

 

 ラン「烈さん…………」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ザッザッザッ……

 

 

(恐らく私は試されているのだろう……)

 

(転生前には成しえなかった対先天的「力」における後天的「武」の勝利……)

 

(「剣」にも勝る「拳」の完成…………)

 

 

 烈(ピクルと武蔵との闘い……そこで得た経験と五体満足の私の体をもって……)

 

 ザッ、ダンッッッ

 

 マイク「選手が出揃ったぞッッ!!」

 

 

 

 この大会にてッッ証明するッッッッ!!!! 

 

 

 

 

 ? 「――――――――そうですか……あなたもこちらに来ましたか…………」

 

 

 

 

 

     『烈海王』

 

 




「活かす」時が来たッッッ!!!
 
 そして、烈を知るコイツはッッッ!!??


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第八話 「君もそうか」

知識が少なくてすいません。

追記:
最近発覚したパソコン版とスマホ版での表示の違い

スマホ版だとめっちゃ見にくかった・・・

スマホで観てた方いたらごめんなさい。

一応過去のものはスマホ版でも自分なりに見やすいようにしましたのでよかったら見てやってください・・・

烈の回想シーンパソコン版で頑張って回想っぽいレイアウトにしたんだけどなぁ・・・

(´Д⊂グスン


 

 マイク「勝者! チャレンジャー、タカシ選手ッ! これで今大会3度目の新たなゴブリンマスターの誕生だぁッ!」

 

 ワアアアァァァ――――

 

 

 

 闘技場 選手登場口付近 通路――――

 

 烈(…………)

 

 ぴらっ

 

 烈(私の出場順は43番、そろそろか……)

 

 

 

 計5つのクラスがある本大会――――

 

 しかし、その実、選手たちが挑戦するクラスは未だ『ゴブリン』と『ニンフ』の二つのみであった

 

 

 理由は主に二つ――――

 

 

 一、最下級のクラスである『小人』への挑戦は、第三回大会において無理やり出場登録をさせられたという下級魔導士が『小人』との対決を望んだことに由来し、それ以来、『小人』は「名誉無き腰抜けの称号」として伝統的に受け継がれてきた。

 

 そのために、挑戦そのものが嘲笑に値するとされ、現にその後の第四回大会以降、『小人』への挑戦者はほんの数例を除いて存在していない。

 

 

 二、『ニンフ』への挑戦権獲得と『ガーゴイル』への挑戦権獲得にある圧倒的な難易度の差である。

 

 ニンフとは、魔法生物にして一般の魔導士と同じく魔法を使えることが出来る人型種族であり、その内容も【魅力】、【火炎】、【水弾】と多岐にわたり、魔導士でいうとLv50を超えてようやく一対一で互角に渡り合えるといわれる。

 

 しかし、一方で身体能力や耐久度といった面ではゴブリンにも劣り、優れた【補正】を持った【転生者】であれば訓練せずとも倒せることしばしばであった――――

 

 

 

 

 

 他方ッガーゴイルッッ

 

 

 

 

 身体能力、物理的・魔法的耐久度、知性全てにおいてそこらの魔法生物とは一線を画し、伝説上における【悪魔審判】の使い魔とされるこの存在

 

 僅か一匹のガーゴイルに優秀な冒険者チームが壊滅まで追い込まれたという例も数多くあり、相対するにはLv70相当の魔導士五人をもって

 

 

 やっと彼らにとっての『遊び相手(暇つぶし)』!!! 

 

 

 そのような超規格外の存在に一対一を挑むこと愚かさは、

 この世界に転生して間もない【転生者】であっても、この世界の住民との些細な交流の中で間もなく明らかになるのである――――

 

 

 

 

 烈(この世界においての「技」である魔法という存在……)

 

 烈(それを知るために、是非ニンフとやらに手合わせ願いたいものと思っていが……)

 

 チラッ

 

 

 転生者A「俺の【補正】の力を食らえ! 【必中矢 ストライクアロー】!」

 

 ニンフ「ギャアァァッッ!!」

 

 

 烈(対魔導士における遠距離での魔法攻撃の読み合いに関してはさておき、相手の身体的動作に対する反射速度やそれへの対応は、常人のそれ、あるいはそれ以下であるように見える)

 

 烈(あれならば魔法を一つ空打ちさせた後、死角に回り込んでの一撃、これで事足りてしまうだろうな……)

 

 

 マイク「おぉっとッ! なんとなんと、ここで初の『ニンフ』挑戦権獲得者が現れたぞぉ!?」

 

 オオオォォォ――――――――! 

 

「おぉ! すげぇ!!」

「『ニンフ』倒されたの初めて見たわw」

「早く次見せろ、マイク!!!」

 

 

 烈「――――成る程、【補正】能力にはあのようなものもあるのか……」

 

 

 

 ? 「久しぶりですね、ニンフが倒されるなんて……『あの時』以来でしょうか……」

 

 

 

 烈(!)

 

 烈「君は……?」

 

 ? 「お噂はかねてから、烈『海王』」

 

 

 烈「むッ!?」

 

 

 烈「……私を知っている、ということは、君も私がいた世界からの【転生者】というわけだな?」

 

 ? 「如何にも……」

 

 パンッ

 

 黄「『八極拳』 槍術使い 黄梓豪(ファンズーハオ)ッ! 以後、お見知りおきを!」

 

 烈「『八極拳』ッ!?」

 

 

 

 ――――――――『八極拳』

 

『超近距離型』を旨とするこの流派だが、

 以外にも現代の中国国内における知名度はあまり高くないのが実際のところである

 

 しかし――――

 武に精通したものならだれもが知る

 

「中国史上最強の拳法家」と謳われた

『李氏八極拳』開祖『李書文』――――

 

 彼が実は拳法ではなく、槍を極めんとして生まれたのが『李氏八極拳』であったのはあまりにも有名な話である――――

 

 そして――――

 

「八極」=「八方の極遠に達する威力」という意味にもあるように

 

 その威力の凄まじさは語るところを知らない――――

 

 

 

 烈「八極拳伝承の槍術である、『六合大槍』――――まさか、この異界の地にその使い手がいるとは……」

 

 黄「いやいや、私の槍術の浅さでは、『六合大槍』などという称号などとてもとても……」

 

 黄「それに……」

 

 黄「あなたのような中国武術の最高峰の前で、八極拳を語るなどという無礼、平にご容赦を……」

 

 烈「よしてくれ……私もその中国武術にて破れ、この地に転生してきた身……元の世界の称号など、この世界ではもはや何の意味も持たぬ」

 

 

 黄「そうだとしてもッ!」

 

 

 

 あなたが私に、いや、中国武術にもたらした恩恵は計り知れないッッ!! 

 

 

 

 黄「あなたへの賛辞の言葉は言い尽くせぬほどありますが、奇しくも私の試合が次に始まります故……」

 

 烈(!?)

 

 烈「すると、君が現在の『ニンフ』【クラスマスター】ッ……!」

 

 

 マイク「さてさて、アツい観客からのリクエストにお応えして、『ニンフ』【クラスマスター】のこの男に登場していただきま~~ショウッッ!!」

 

 

 黄「烈海王、見ていてください、この異世界で私が生み出した槍術を……そして――――」

 

 

 マイク「『無双の槍術使い』!! ファン・ズーハオ選手の登場だッ!」

 

 

 

 八極拳がこの世界でも通用するということをッッ!! 

 

 

 




異世界でも志を共にする者がいるッ!

以下、ちょっとネタバレ注意





















前回最後に出てきた人はこの子じゃないです。


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第九話 「八極拳の『槍』」

マイクのキャラがブレまくり。
あと『拳児』ね。好きだったなぁ。





 マイク「なんとッ最後にニンフが倒されたのは実に3年前、チュウゴク拳法の目にもとまらぬ槍捌きによる一方的な展開でファン選手の圧勝ッ!」

 

 マイク「その後のクラス獲得戦でも当時の【クラスマスター】との熾烈な戦いを魅せてくれたぜ!」

 

 マイク「そんなファン選手が今回初のクラス防衛戦に挑むッッ!!」

 

 マイク「対するは、『標的に当たるまで追撃する』【補正】武器の持ち主、弓使いッヤザワ選手だッッ!!」

 

 

「やってやれーヤザワー!」

「ファン! 【クラスマスター】の維持を見せろー!」

「絶対勝て! お前にどんだけ賭けたと思ってんだ!!」

 

 

 黄「…………」

 ヤザワ「…………」

 

 ヤザワ(槍使いだぁ? コイツ、話にならないぜ!)

 

 ヤザワ(元の世界では弓道全国大会進出の俺の腕と、『標的に当たるまで追撃する』【補正】武器【紅蓮弓】、この二つがあれば、正直ガーゴイルなんて目じゃねぇぜ……)

 

 ヤザワ(だが、わざわざこちらから危険を冒すことはない……早いこと勝って、クラス特権乱用して女と遊びまくるぜ!)

 

 マイク「それでは、Ready~~~~?」

 

 

 ファイッッッ!!! (ゴワッアアアアンン~~~~~)

 

 

 ザザザザッッ

 

 マイク「おぉっと!? ヤザワ選手、開始の鐘の音と同時にすぐさま後退だぁ~~!?」

 

 ヤザワ(へッ、槍使いに近距離戦を挑むやつがいるかよ……)

 

 マイク「一方、ファン選手は……ワット!? どうしたんだ!? スタート位置から全く動いていないッッ!?」

 

 

 ヤザワ(…………なるほど、読めたぜ)

 

 ヤザワ(あいつ、俺の矢が外れないことを見越して、あえて遠距離からの矢を射らせることで、発射から到達までの到達時間(インターバル)を確保……)

 

 ヤザワ(あとはそれを見切って槍ではじくなりいなすなりで俺の矢弾数を減らそうってわけだ……)

 

 キリキリキリッ———————

 

 マイク「おおぉぉ?! ここでヤザワ選手、弓を構えた~! 発射かァ~~?!」

 

 

 果たして、うまくいくかな? 

 

 

 ヤザワ「【必中矢 ストライクアロー】!!!」

 

 シュンッ

 

 マイク「射ッッた~~~~ッ!」

 

 キュイーーーーーーーーン

 

 黄「……」

 

 ヒュッ

 カキンッッッ

 

 マイク「なんとッファン選手! これを難なく槍ではじいたぞ~~~!?」

 

 ヒュンヒュンヒュン

 

 マイク「はじかれた矢が寂しげに宙で回っている! ヤザワ選手、矢を防がれて万事休すか!?」

 

 ヤザワ(フッ、ここからさ……)

 

 ヒュンヒュンヒュ———————

 ピタッ—————

 

 マイク「……? こ、これは? はじかれたはずの矢が? 宙で止まっ……て……?」

 

 …………ヒュンッ!! 

 

 マイク「ふ、再びファン選手の方に飛び始めたぁ~~~!?」

 

 ヤザワ(そう、【必中矢 ストライクアロー】は標的に当たるまで『絶対に』追撃を止めない最強の矢……)

 

 ヤザワ(矢を射るときに『腹』をイメージしたから、矢は腹に達するまではじかれようが、かわされようが、いなされようが、絶対に動きを止めないッ!)

 

 ヤザワ(おまけに矢先には痺れ薬を塗り込んである……少しでも傷がつけばそこでアウト……!)

 

 

 まさしく、最強! 

 やられる前にやるッ!! 

 攻撃の隙も与えず、一方的に射殺す!!! 

 

 

 黄「…………」

 

 ヒュッ

 カキンッ

 

 マイク「ファン選手ッ! 先程と同じくまたもはじき返す!」

 

 ヒュッ

 カキンッ

 

 ヒュッ

 カキンッ

 

 マイク「またも、またも、そのまたまたもッ! 何度も襲い掛かる矢を一切の狂い無く中二はじき返しているッ!」

 

 ヤザワ(チッ……しつこいな、あの中国人……)

 

 キリュッ

 

 ヤザワ「しょうがねぇ、もう一本追加だ! 【必中矢 ストライクアロー】!」

 

 シュンッ

 キュイーーーーーーーーーーン

 

 マイク「二本目も来たーーーーーーッ!?」

 

 黄「……」

 

 ヒュヒュッ

 カキンカキンッ

 

 ヤザワ(!?)

 

 マイク「これもはじいた!?」

 

 ヒュヒュッ

 カキンカキンッ

 

 ヒュヒュッ

 カキンカキンッ

 

 ヒュヒュッ

 カキンカキンッ

 

 マイク「なんとッ! 二本目の矢がまるでジャグリングの玉を追加するかのようにファン選手の槍捌きのの中に加わったぁ!!」

 

 ヤザワ「そ、そんな……ありえない……【必中矢 ストライクアロー】!?」

 

 シュンッ

 キュイーーーーーーーーーーン

 

 ヒュヒュヒュッ

 カキンカキンカキンッ

 

 マイク「三本目も加わったぁ~~~!」

 

 ヤザワ「【必中矢 ストライクアロー】! 【必中矢 ストライクアロー】! 【必中矢 ストライクアロー】! 【必中矢 ストライクアロー】! ……」

 

【必中矢 ストライクアローレイン】!!! 

 

 マイク「ヤザワ選手! 怒涛の攻撃!! 矢がゲリラ豪雨のようにファン選手に襲い掛かるぜ~~~~!」

 

 

 黄「…………!」

 

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンッ

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンッ

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンッ

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンッ

 

 

 烈(!!!)

 

 烈「こッこれはッ……!」

 

 

 マイク「す、スゴすぎる~~~~~~~~~!!!!!!」

 

 マイク「戦いというより踊りッ! 「武」というより「踊」ッそのものだぁ~~!?」

 

 マイク「華麗で複雑な動きに目が追いつけないッ!」

 

 

 烈(————いや、正確に言うと、「複雑」ではない…………)

 

 烈(一見、高度な演武のようにも感じられる彼の槍捌き……)

 

 烈(しかし、その実態は『攔(ラン)』と『拿(ナー)』……『六合大槍』において最も基礎的な型の反復とその応用に留まっている————)

 

 烈(彼の槍術の凄まじさはそれら基礎の型に周到に練られた彼の功夫に他ならないッ!)

 

 ・

 ・

 ・

 

 黄(……師よ、あなたの教え、異世界の地にてもその偉大さを感じます…………)

 

 

 

 

 黄「なぜですか!? なぜ私には彼らのように他の型を教えては頂けぬのですか!?」

 

 師「……あんなもの、お前には無用の長物よ————」

 

 黄「それは、私の功夫がそれまでのものッ! ということですか!? 師よ!!」

 

 師「…………「逆」よ、黄」

 

 師「儂はお前の「武」への執念を深く認めておる。このまま正しい鍛錬を積み重ねれば、『海王』の座を手にすることもやぶさかではないとも感じておるくらいだ……」

 

 黄「! ……ならばどうして正しい鍛錬を積ませては頂けないのですか!?」

 

 

 うぬぼれるかぁぁぁッッッッッッ~~~~~~!!!!! 

 

 

 黄(!?)

 

 師「黄よ、あの者たちのように槍術の基礎も出来ぬままに、見た目のみ派手な型を次々と覚えようとする……それのどこが正しい鍛錬というのかね?」

 

 黄(…………)

 

 

 師「この修練場の門には私の好きな字が書いてある……それはなにかね?」

 

 黄「確か……『永』———」

 

 師「そう……」

 

 スッ、スッ

 

 師「この、『永』という字には、書道におけるもっとも基礎的な技が八つも備わっている」

 

 師「側、勒、怒、趯、策、掠、啄、磔…………」

 

 師「一つ一つが書においてなくてはならない技、それらがこの『永』というなんとも慎ましき一字を極めんとすることでごく自然に備わるのだ……」

 

 

 礎は全に通じ、全は礎に帰するッ

 

 師「賢者は一滴の水を見るのみで、そこに偉大なる大海の存在を知るという……」

 

 師「槍でいう『一滴の水』とはなにか、お前ならわかるだろう? 黄よ」

 

 黄「……敵の槍を払う『攔』、敵の槍を抑える『拿』、……そして、敵を倒す『扎』!」

 

 師「然り……」

 

 ポンッ

 

 師「極めなさい……黄よ。それら三つを極めればお前は…………」

 

 

 どの様な相手であっても決して負けぬッッ!! 

 

 

 

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

 バリバリバリバリバリバリバリッ

 

 マイク「こ、これはッ……」

 

 

 ————およそ、数百にも及ぶ、はじかれ、いなされの矢と槍の攻防

 

 

 ヒュヒュヒュヒュッ

 シュッシュッシュッシュッ

 

 マイク「矢が……原型を無くし……て?」

 

 

 ————その中にあっても、「必中」を主人に命じられた矢達は決死の思いで標的に突き進み

 

 

 マイク「ついに……」

 

 

 ————遂に

 

 

 パラパラパラパラッ…………

 

 マイク「バラバラの木片に代わってしまったァ~~~!?」

 

 パスッ……パスッ……パスッ……

 

 

 ————標的への「到達」という役目を終える

 

 

 

 黄「ハィイイイッ~~~~!!」

 

 

 

 ウォオオオオオオオ~~~~~~!!!!! 

 

「すげぇぇぇーーーーーーーー!」

「ファン選手~~~~~~!」

 

 

 

 ヤザワ「そ、そんな…………嘘、だろ……?」

 

 

 黄「ヤザワ君ッ!! ……だったか?」

 

 ヤザワ(!?)

 

 黄「君は、どうやら槍というものが近距離でしか活躍しない武器だと思っているようだが……」

 

 グググッ……

 

 ヒュッ

 

 

 

 スパッ

 

 ガキンッッッ

 

 ヤザワ「ひ、ひいいぃぃぃ」

 

 

   槍は『投げること』もできるんだぜ? 

 

 

 ヤザワ「ま、参りましたぁ~~~」

 

 

 決着ッ~~~~~~~!!!! 

 

 




八極拳の槍は伊達じゃないッ!


擬音語多スギィ!
どういう光景か、皆さんの想像力で補ってもらえると幸いです。
人任せでごめんなさい。

追記:

申し訳ありません!手違いで第八話のものと同じ内容のものが投稿されていました。

今後、このようなことが無いよう、注意いたします!


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第十話 「悪魔」

来るわよ・・・・・・


 

 マイク「ファン選手ッ! その圧倒的な槍術を魅せつけ、見事! 初の防衛戦を終えましたーーーー!!」

 

 

 

 ファン(……)チラッ

 

 烈(……!)

 

 ファン(見ていただけましたか? 烈海王?)

 

 パンッ

 

 烈(見事であったッ! 八極拳の戦士よ!)

 

 パンッ! 

 

 

 

 

 マイク「さてさて、続いての挑戦者は……42番!」

 

 マイク「……!? この名前は!?」

 

 マイク「『ファン・ズーハオ』選手!?」

 

 黄「如何にもッッ!!」

 

 

 ザッ――――

 

 

  黄「私は、『ガーゴイル』への挑戦を希望する!」

 

 

 マイク「なんとなんとッ! こりゃサプライズッ!? 次の挑戦者は先ほど防衛戦を終えたばかりの『ニンフ』【クラスマスター】ファン選手その人だったァ~~~!?」

 

 マイク「正直、『ガーゴイル』への挑戦は俺が解説に立ってから10年間、一度も体験したことない未知の領域(テリトリー)!」

 

 マイク「実際に見るのは今回で初めてになるガーゴイルだが、果たしてその強さは噂に違わぬものなのか~~~!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 闘技場 選手入場口付近通路――――

 

 

 ラン「早く早く! 烈さんの試合始まっちゃうよ!」

 

 レガロ「ま、待ってください~~~早すぎですよ、ランさん!」

 

 ケンジ「ったく、元はといえばお前のトイレがなげぇんだろうが……イテッ!」

 

 ミネルバ「こらケンジ! 女の子にそういうこと言わない!」

 

 

 烈(……)

 

 ラン「あ! 烈さん」

 

 烈(!)

 

 烈「おぉ、君たちか!」

 

 ミネルバ「その様子だと、出番はもう少し先のようね……」

 

 烈「あぁ、次の黄選手とガーゴイルとの闘いの後、試合となるが――――」

 

 レガロ「えッ!? 烈さん以外にガーゴイルと戦おうとしている人がいたんですか!?」

 

 ケンジ「信じられねぇ……そんな奴がまだこの闘技場にいたのかよ――――」

 

 烈「見たところ、彼の功夫は中々のものだ……」

 

 

 烈「或いは……そのガーゴイルとやらも、私より先に倒してしまうやもしれぬな……」

 

 ラン「な、なんだかうれしそうですね? 烈さん?」

 

 烈「ん? そう見えるかね?――――」

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 マイク「準備が整ったみたいだ! それでは登場してもらおう!」

 

 

 

 

 これが、ガーゴイルだッ! 

 

 

 

 

 ガラガラガラガラ――――

 

 

 

(……………………ッッッッッッッッッ!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――諸君は本物の『マーライオン』像を見たことがあるだろうか? 

 

 

 上半身が獅子、下半身が魚の形であるこの像

 シンガポールに行ったら一度は見てみたい観光スポットとしても知られている

 

 

 しかし、

 

 

 シンガポールに旅行した人々に

 この『マーライオン』についての感想を聞くと、決まってこう言う――――

 

 

 

「『思ったより』も小さかった――――」と

 

 

 

 そう―――

 

 実際には8mほどの、

「石像」としては大きい方である『マーライオン』が――――

 

 旅行雑誌での文章のみの説明や『世界的な名所』としての噂の伝播に従って――――

 

 

 2,30mにも至る「巨大な怪物像」として

 

 人間の頭の中で膨れ上がってしまうという事実―――

 

 

 とどのつまり、

 人間の『イメージ』とは――――

 

 

 

 

 物事を大きく誇張しがちな頼りなきもの――――

 

 

 

 

 怪しげな書籍で示唆される秘密結社の存在――――

 不景気などの社会不安の中で必ず囁かれる大国の陰謀説――――

 退屈な学校生活に刺激を求める学生たちが語る七不思議や都市伝説――――

 

 

 

 そのほとんどが、情報元(リソース)の不確かな、人間が勝手に作る妄想(イメージ)の産物に過ぎない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

  では、ガーゴイルは? 

 

 

 

 

 

 

 

 

  妄想(イメージ)以上ッッッッッッッ!!!!!! 

 

 

 

 

 人間の生々しさと蝙蝠の骨格を併せ持つような、黒々とした異様な体形――――

 体長は実に3m近くにもなり、およそ地上生物としてはあり得ない大きさから、

 鎖を持ち引き連れている人間がまるで子供のようにに見える体格――――

 細身な体つきだと思いきや、程よい筋肉を付けたその姿は、

 繋がれている太さ3㎝にもなる首輪の鎖が頼りないものと意識させる――――

 顔には見たものを畏怖させる深いしわと、爛々とした白目のみの眼――――

 

 

 そして、なにより――――

 

 バサッ

 

 広げると直径10mはくだらないと思われる巨大な黒翼――――

 

 これら特徴を統合し、そして表象するような言葉は、

 この異世界においてもただ一つ――――

 

 

 

 […………ギシャアアアッッッ!!!!!!]

 

 

 

 

 

 【悪魔】ッッッッッッッッッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 黄「……ッ!」

 

 黄「よもや、ここまで……」

 

 

 

 

  ここまで、「種族」とは絶対的なものなのかッッ!? 

 

 

 

 

   「ファーーーーーーーー――ンッッッ!!!」

 

 

 

 黄、四人「!?」

 

 

 烈「すぐに棄権するんだッッ!! あれは君の手には負えん!!」

 

 

 

 

 黄(…………)

 

 黄「烈海王……心遣い感謝します……」

 

 

 

 

 しかし、私は退くことは出来ませんッ!! 

 

 

 

 

 烈「――――黄」

 

 

 

 ダㇺッ……

 

 

 黄「いざ……」

 

 

 

 ガシャンッッ

 カランッカランッ

 

 

 

 [グルルァァァァァ…………]

 

 

 

 マイク「――――そ、それでは、鎖も外されたところで……れ、Ready~~~?」

 

 

 ファイッッッ!!! 《ゴワッアアアアンン~~~~~》

 

 




ガーゴイル、その実力や如何にッッ!?


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第十一話 「異世界の『八極拳』」

なんか・・・異世界格闘っぽい!?

追記:
毎日投稿を目指していますが、今日から登校時間がランダムになるかもしれません!
ちょいと仕事の都合上で……
定時に待ってくれていた方、ご迷惑おかけします。
なので今日は報告も踏まえて早めに出しときます!


 

 [キシャアアアーーーーー!! ]

 

 

 マイク「ああっと!? ガーゴイルが試合開始から仕掛けてきたぁ~~~~!!」

 

 黄「…………クッ!!」

 

 

 カッ!!! 

 

 ガキンッガキンッガキンッ

 

 

 マイク「黄選手、ガーゴイルを間合いに近づかせない見事な槍捌き~~!! ガーゴイル、手を伸ばそうにも槍の先端にはじかれて全く意味をなしていないぞ~~!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 烈「まずいぞ、これは……」

 

 レガロ「え? どうしてですか? 私には黄選手の方がまだ優勢のように思えますけど……」

 

 ミネルバ「えぇ、さっきからのガーゴイルの攻撃は、完全に黄選手にいなされているように見えるのだけれど…………」

 

 烈「はじかれる直前の槍の穂先をよく見てみるんだ」

 

 ケンジ「穂先? ………………あ!」

 

 

 ケンジ「刃先が常にガーゴイルの方に向いているのに、一切ガーゴイルの腕にはダメージの跡がないッ!」

 

 

 烈「本来、槍というのはその武器の性質上、刀剣類と比べて切断効率が悪いため、あのように刃先をコントロールしたとしても、『切断』までは難しいだろう……」

 

 烈「しかしッそれでもあの素早い応酬の中で一切の傷がないッ」

 

 

 つまり――――

 

 

 ガーゴイルに対して、槍の斬撃は無意味ッ!

 

 

 

 烈「この場合、黄選手が次にとるべき行動は……」

 

 ・

 ・

 ・

 

 黄(……こうなれば、速攻で決める……!)

 

 

 

 ガキ~~ンッ

 

 

 

 [!?]

 

 

 

 マイク「黄選手、今までとは異なる強いはじき返しだぁ~~~!」

 

 

 黄(『攔』の発展形であり、てこの原理を応用した『攔發』、そして……)

 

 

《ギュンッッ》

 

 

 マイク「すかさずガードが甘いガーゴイルの腹に槍を突き刺す~~~!」

 

 

 [……! ]

 

 

 黄(渾身の『扎』で致命傷を与えるッッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バサッ

 

 

 

 黄(!?)

 

 

 マイク「こ、これはッッ!?」

 

 

 バサッバサッバサッ……

 

 

 烈「そ、そうだった……!」

 

 

 

 

 

  アイツ、飛べるんじゃンッッッッッ!!!! 

 

 

 

 

 

 […………]

 

 

 《ニヤリ》

 

 

 黄「…………(ギリッ)」

 

 

 マイク「飛んだガーゴイルの不敵な笑みッ! まるでファン選手、お前が『人間』なんかに生まれたのがいけないのだろう? といわんばかりの不気味な嘲笑だぁ!」

 

 

 […………キェェエエエ!!! ]

 

 

《シュッ》――――

 

 

 黄(!?)

 

 

 ガッッッ!!! 

 

 ガキンッガキンッガキンッ…………

 

 

 マイク「これは……! 空中で飛びながらの突進攻撃! まさに異次元からの強襲だぁ~~!」

 

 

 黄「…………ハッ!!!」

 

 

 ガキ~~~ンッ

 

 

《ギュンッッ》

 

 

 […………!]

 

 

 バサッバサッバサッ

 

 

 マイク「なんという事でしょうッ!? ファン選手の見事な槍も、翼を持つガーゴイルにとってみれば、空中全てがその射程範囲から逃れることのできる安全圏(セーフティプレイス)ッ!」

 

 マイク「これではいくらやっても体力(スタミナ)をいたずらに消耗するだけだぞファン選手!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ラン「れ、烈さん……」

 

 烈「……いや、大丈夫だ」

 

 

 

 彼の眼はまだ武術家の魂を失っていないッ! 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 黄(…………こうなることは既に予測していた)

 

 黄(翼を持つ生物ならまず間違いなく行う空中という得意領域(プライオリティ-)からの攻撃……)

 

 

《グググググッ》――――

 

 

 黄(それが、よもや自らの首を絞める逃げ場なしの修羅の巷となるとは思うまい!!!)

 

 

 

 マイク「……? どうしたことだ? ファン選手、地上から離れて飛んでいるガーゴイルに対し、槍を後ろに引いて構えている……!」

 

 マイク「これはもしかして、投げるのか!?」

 

 

 

 

 黄(これが、私がこの地で生み出した『八極拳』槍術の更なる境地だッッ!!)

 

 

 黄「ハァァァァアアッッ!!!」

 

 

 

 ブルルゥゥワンンンンッッ!!!!! ――――

 

 

 

 

 マイク「ファン選手! ついに槍を投げ…………て、ない?」

 

 

 

 黄「ハッッ!! 、ハッッ!! 、ハッッ!! 、ハッッ!! …………」

 

 

 

 ブルルゥゥワンンンンッッ!!!!! 

 ブルルゥゥワンンンンッッ!!!!! 

 ブルルゥゥワンンンンッッ!!!!! 

 ブルルゥゥワンンンンッッ!!!!! 

 

 

 

 マイク「こ、これは……チュウゴク拳法でいうところの、『エンブ』? でしょうか?」

 

 

 

 烈「………………!?!?」

 

 烈「ま、まさかこれは……!?」

 

 

 

 黄「ハッッ、ハッッ…………ハァァァァアアッッッッ!!!!!」

 

 

 

 ブルルゥゥワンンンンッッ!!!!! ――――

 

 

 

 マイク「ファ、ファン選手、残像が残るほどの『エンブ』を終え……」

 

 

 「えぇ!?」

 

 

 

 

 ――――そのとき、

 

 闘技場にいたほぼ全ての人間が自らの眼を疑う…………

 

 

 何故なら――――

 

 演武(?)を終えた黄選手の姿は変わらず一人なのに対し、

 

 その場に残った槍の数

 

 

 

 

 ――――――――実に8本!!!!

 

 ・ 

 ・

 ・

 

 烈「レガロさん、これはッッ!!」

 

 レガロ「そうです!烈さん!」

 

 

 

  十中八九、【補正】によるものです!

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 黄「先程の試合では『必要性』に駆られなかったため温存していたが」

 

 黄「私の【補正】武器【八極槍】は、『突いた際の残像を実体化し、大気中に固定する』」

 

 黄「そして————」

 

 

 《ヒュッ》

 

 

 黄「『それらを半径20m以内なら質量や運動エネルギーを保持しながら自在にコントロール』することが出来るッッ!」

 

 

 

 

《ダダダダダダダダッッッッ!!!!》

 

 

 […………ギェッ? ]

 

 

 マイク「ざ、残像が空中に浮かぶガーゴイルを上下左右問わず、360°囲むように空中に固定されたッッッ!!!」

 

 

 マイク「まさしく、『八方』塞がりだぁ!!!!」

 

 

 黄「終わりだッ!!」

 

 

 

【真槍:八門の極み】!!!! 

 

 

 

 ギュギュギュギュギュギュギュギュンッッッッッッッッ

 

 

 マイク「容赦なくガーゴイルに槍の雨が上から横から、そして下から飛びかかる~~!!」

 

 

 [ギェエエエエッッッ!!! ]

 

 

 バシバシバシバシッッッッ

 

 

 黄「無駄だ! 例え正面からの槍を防ぎきっても、まだ背後と下からの攻撃が残っている!空中に逃げたのが仇となったな!」

 

 黄「魔法生物といっても、所詮は動物ッ! 急所に全力をもって打ち込めば致命傷は必須ッッッ!」

 

 

 

 ガーゴイルッ敗れたりッッッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシバシバシバシッッッッ――――

 

 

 (!?)

 

 

 

 ラン「あ……あぁ……そんな…………」

 

 レガロ「そんな……なんで……さっきまでは……」

 

 ミネルバ「『隠してた』……とでもいうの? ……」

 

 ケンジ「これが……生物としての『差』…………」

 

 

 烈「…………ッ」

 

 

 

 ――――完全に死角を突いたと思われる黄の槍

 

 

 ――――それを防いだのは…………

 

 

 

 マイク「し、尻尾オオおぉぉぉッッッッ!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

 黄(………………迂闊だった)

 

 黄(私の生きていた自然界において、生物の尾というのは基本的に樹上生活でのバランス保持や感情の伝達装置、仲間への合図などといった目的が主流……)

 

 黄(しかし、ワニのような尾の発達した生物において、それは叩きつけるなどの用途にも使われ、また蛇の胴体といったものも尾として捉えるのというのなら……)

 

 

 尾はまさしく敵を倒すための立派な凶器! 

 

 

 黄(ましてや異世界ッ! ガーゴイルという超規格外モンスターにおいて、尾は武器だけでなく守りの手段としても使われうるなど、考えればわかるものを……)

 

 

 

 烈「黄選手の技が防がれるのも無理はない……」

 

 烈「黄選手が【補正】武器の力を発揮するまで、ガーゴイルは体に同化させる形で尾を収納していたのだッ……」

 

 レン「でも……それって…………」

 

 烈「あぁ、それはつまり……」

 

 

 

 ガーゴイルも黄選手同じく、尾の『必要性』を先程まで感じなかったという余力の証ッ! 

 

 

 

 黄「くッ、なればもう一度……」

 

 

 [……キシャアアアーーーー!! ]

 

 

 黄「!」

 

 マイク「が、ガーゴイルがファン選手に追撃をさせまいと突進していきます!!」

 

 

 ガッッ

 

 ガキンガキンガキンガキンガキンッ

 

 

 マイク「先程と同じく、また槍との応酬を繰り広げるガーゴイル!」

 

 

 《ブンッ》

 

 

 バキュワッッッッ

 

 

 黄「ッッし、しまったッッ!!」

 

 

 マイク「な、なんとッッ!? 槍が自分の方を向いている隙に、先程見せた尻尾を横から黄選手の槍めがけて薙ぎ払いッ!?」

 

 マイク「や、槍との攻防の中、まさしく『横やり』を入れたぞぉぉ~~~!?」

 

 

 烈(こ、こんなにも長さ(リーチ)がある尾を隠し持っていたのかッ!?)

 

 

 カランッカランッ――――

 

 

 […………(ニヤッ)]

 

 

 マイク「マズイぞッ!? ファン選手には戦う武器は残されていないッッ!!」

 

 

 [グギャアアアアアーーーー!! ]

 

 

 マイク「ファン選手、絶体絶命ッッッ!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 レガロ「れ、烈さんッッ!? これはマズいですよッッ!」

 

 烈「…………『黄選手には戦う武器は残されていない』ためか?」

 

 フッ

 

 烈「君も、あの実況者も、どうやら『中国拳法』を誤解しているようだ…………」

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 黄「……スゥ」

 

 黄「…………」

 

 

 ダダンッッッ

 

 

 黄「……………………ハッ!」

 

 

 

 『震脚』!!!!! 

 

 

 

 ガンッッッッッ!!!! 

 

 

 […………!? ]

 

 

 

 マイク「が、ガーゴイルがぶっ飛ばされたぁ~~~~!? 

 

 

 

 中国拳法において

 

 鍛え抜かれたその身体こそ真の『武器』なのだッッッッッ

 

 




渾身の一撃ッ入るッッッ!


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第十二話 「反撃・・・そして」

ホント擬音語多くてすいません。




 

 マイク「ふぁ、ファン選手のカウンターがガーゴイルの顎を直撃ィィィィ~~~!」

 

 マイク「ガーゴイル、たまらず宙に吹っ飛ばされていくぞ!」

 

 

 黄(『八極拳』の爆発的な力を引き出す『震脚』による踏み込みからの急所である顎への攻撃……)

 

 黄(ガーゴイルといえども、生物としての急所への全力の攻撃には…………)

 

 

 

 

 え? 

 

 

 

 

《グルグルグルグルグル》………………

 

 

 

 マイク「な、なにが起きているんだ…………」

 

 マイク「宙に、宙に飛ばされたガーゴイルが、その場で回転して…………」

 

 

 

《グルグルグルグルグル》………………

 

 

 

 バッ

 

 ファサァ

 

 

 

 マイク「お、大きく飛び上がったぁ~~~!?」

 

 マイク「…………! そ、そして」

 

 

 ゴキュッゴキュッ……

 

 

 《ニヤッ……》

 

 

 黄(!?)

 

 

 マイク「ど、どういうことだぁ~~~~!?!?」

 

 マイク「ま、まるでダメージのないような邪悪な笑みですッッッ!!!」

 

 

 

 烈「あり得ない……」

 

 

 

 ガーゴイルがッ『消力(シャオリー)』を駆使(つか)ってる!!! 

 

 

 

 レガロ「な、なんですか? その消力って?」

 

 烈「『消力』とは、中国武術において脱力を旨として生じる力相手の攻撃を無効化する極技……」

 

 ミネルバ「て、ていうことは、あのガーゴイルは……」

 

 烈「恐らく、それを『生来的特技』として備えた生物なのだろう……」

 

 

 烈「―――考えてもみれば……」

 

 

 衝撃後、その背後に空間があることを想定している『消力』――――

 

 対範馬勇次郎と郭海皇との闘いの中でも起こった、「壁」という『消力』にとっての天敵

 

 

 もし―――――

 

 それがなかったら――――? 

 

 

 

 烈「空中で戦うことを基本とするガーゴイルにとって、背後とは、常になにも存在しない絶好の『消力』実行空間ッ」

 

 烈「そのような環境の中で遺伝的に『消力』が継承されていくのは、生存競争の中での必須条件だった、ということか……」

 

 レン「そ、そんな……「技」である中国武術の奥義を使いこなすなんて、こんなの勝てっこないじゃないですか……」

 

 

 烈「いや、よく見なさい、ガーゴイルの動きを……」

 

 

《ピクピクピクッ》

 

 

 ケンジ「……け、痙攣してる? 少しだけど……」

 

 烈「いかにあれが『消力』といっても、所詮は訓練されていない未熟なもの……功夫の積まれた黄選手の『震脚』による脳へのダメージの全ては無力化できていないとみえる……」

 

 烈「現に先程から一向に黄選手の方へ向かっていかないのも、空中での回復を図っていると見た……」

 

 

 烈「そして……」

 

 烈「それは恐らく、黄選手も理解している……」

 

 

 

 つまり―――――

 

 

 黄(…………スゥ)

 

 ザザッ

 

 

 次の渾身の一撃でケリがつくということッッッッ!!!! 

 

 

 

 黄(来い、ガーゴイル……)

 

 黄(次、私の間合いに入った時…………)

 

 

 黄(それがお前の最後だ!)

 

 

 […………!]

 

 

 バサッ

 

 

 黄(キタッッッッッ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トンッ―――

 

 

 黄(え?)

 

 

 マイク「ど、どうしたのか? ガーゴイル、ファン選手とは真逆の方向に降り立ち……」

 

 

 カチャッ

 

 

 [………………]

 

 

 ヒュンッ

 

 

 

 グサッッッッ

 

 

 

 

 

 

 黄「……えっ……?」

 

 

 マイク「あ……あぁ……」

 

 マイク「ファン選手の……ファン選手の腹に……」

 

 

 

 槍がッッッッッッ!!!!!! 

 

 

 

 黄「……ゴブッッ」

 

 

 烈「ファ――――――――――――――――――――ンッッッ!!!!!」

 




黄ッッッッッッ!!!!!!


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第十三話 「グルグルパンチ」

こ、このタイトルはッッッ!?


 

 黄「ハァ、ハァ…………ゴフッ」

 

 マイク「や、槍が……」

 

 マイク「ファン選手が先程手から放した槍が……」

 

 

 マイク「思わぬ形でガーゴイルに利用されてしまったァ~~~~!?」

 

 

 ? 「フッ、ざまぁないね」

 

 烈(!?)

 

 マイク「あ、あなたは……」

 

 

 現『ドラゴン』【クラスマスター】 『二刀竜鬼 キリク』選手ッ!? 

 

 

 キリク「全く……」

 

 ドサッ

 

 

 キリク「そもそも、力の根源である【補正】武器を手放してしまった時点で、既に彼の負けは決定していた……」

 

 キリク「あまつさえ、それを敵に利用されてしまうなんて……失笑もいいところだ」

 

 

  タンッタンッ

 

 

 ?「そう言うもんじゃあないですわよ、キリクさん」

 

 

 マイク「そ、そして……当闘技場運営責任者、第212代目ラドグリフ家当主、ラヴェーナ・ラドグリフ氏!!!」

 

 ラヴェーナ「私の飼育するガーゴイルちゃんに尻尾を使わせるなんて、並みのお方ではそうそうできることではありませぬわ」

 

 ラヴェーナ「まずは、彼の見事な槍捌きに名誉ある喝采と、刺さったお腹の治癒を……」

 

 

 

  ふざけるなッッッッ!!!! 

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 黄「ま、まだ私は戦える……」

 

 

 

  いや、戦ってみせる! 

 

 

 

 

 レガロ「む、無茶だ……あんな状態では、戦うとかの話じゃ……」

 

 

 烈「………………」

 

 

 

 

 

 

 黄(……こ、ここで)

 

 黄(ここで私が倒れてしまったら)

 

 黄(……敗北を、敗北を認めてしまうことになる)

 

 

 

  『中国武術』の敗北をッッッッ!!! 

 

 

 

 黄(そ、それだけは)

 

 黄(それだけは阻止せねばならないッッ!!)《ガッ》

 

 

 

 グチュウ―――

 

 

 

 (!?)

 

 

 [グギャア? ]

 

 

 

 ブシュッ!

 

 

 

 カランカランッッ

 

 

 

 ラン「そんな! 槍を引き抜いたら傷口から出血が!」

 

 

 烈「………………………………」

 

 

 

 黄(烈「さん」、すいません……)

 

 

 ―――自らの敗北を悟った「元」『八極拳』門下 黄梓豪(ファンズーハオ)

 

 

 黄(私は……)

 

 

 ―――奇しくも、彼が最後にとった行動、それは

 

 

 黄(『中国武術』を捨てますッッッ)

 

 

 ―――烈が、ピクルとの闘いにおいて取った行動と同じく…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄「ウワアアアアオオオォォ————————!!!」

 

 

 《ブンブンブンブン》

 

 

 

 

 

 マイク「な、なんだこれはぁ~~~!?!?」

 

 マイク「ファン選手、先程のようなスマートな戦いから一転、子供のように手をぶん回し、泣きながらガーゴイルに突進していくッッ!?」

 

 

 マイク「圧倒的な実力差を前に錯乱してしまったのかぁッッ!?」

 

 

 

 […………キキッ]

 

 

 ピュッ

 

 

 ゴキュッ

 

 

 黄(…………カッ)

 

 

 バタッ

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ―――重い

 ―――重い沈黙の後、

 ―――そこに突如響いたのは……

 

 

「はっはっはっはっは!」

 

 

 キリク「おい見たかよみんな! あの情けない最後ッ!」

 

 キリク「くたばっちめェやんの! 尻尾で首折られてッ!」

 

 キリク「これが『中国拳法』の奥義ってやつですか!? なぁ、みんな!?」

 

 ラヴェーナ「……クスッ」

 

 

 

「た、たしかに、最後のあれは……なぁ?」

「みっともないっていうか、なんというか……」

「チっ、途中までガーゴイルに勝てると思ったのによ、最後あっけな!」

 

 

 

 クスクスクス…………

 

 

 

 キリク「あぁホント傑作! おい、誰か! あれ【記憶(メモリー)】で記録してる奴……」

 

 

 

 カァッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!! 

 

 

 

《ピタッ》

 

 

 

(!?!?!?)

 

 

 スタッ

 

 

 烈「黙りなさいッッ」

 

 烈「彼は君たちが笑っていいような戦士ではないッ!!!!」

 

 烈「黙らぬ者は遠慮なく私が叩き伏せるぞッッ!!!!!」

 

 

 

 

 《シーーーーーーーーーーーーーーーン》

 

 

 

 烈「………………ミネルバさん」

 

 烈「早く、彼の手当てを……まだ、間に合うかもしれん……」

 

 ミネルバ「分かったわ!」

 

 

 【高等治癒 骨復元】! 

 

 

 

 烈(………………黄よ)

 

 烈(確かに、君はあのガーゴイルに負けた……)

 

 烈(最後に見せた君の姿は、なんとも情けない、見るに堪えないものだった)

 

 

 

 烈(それでも……)

 

 烈(それでも君は、守り通したのだ)

 

 

 

 

 『中国武術』無敗の歴史をッッ!! この異世界の地にてッッ!! 

 

 

 

 

 烈(私も経験したからこそ痛いほどわかる、君の中国武術への思い……)

 

 烈(最後に『武』を捨てることで、「敗北」の一字を自らのみ負うことによって保たれた中国武術の威厳……)

 

 

 烈(そう……)

 

 

 スクッ―――

 

 

 烈(大丈夫だ……)

 

 

 

 

  君の繋いでくれた『中国武術』無敗の歴史、

 

  私がその1年目をこの地に刻もうッッ!! 

 

 

 

 

 キリク「―――あんたは、確かあのときギルドハウスにいた……」

 

 烈「43番、烈 永周だ。彼と同じ中国拳法を生業とする。次の挑戦を所望する」

 

 キリク「へぇ、あんたも中国拳法……」

 

 キリク「どうする? 同門の敵討ちでもするかい? それともビビッて『小人』をご所望かな?」

 

 

 烈「……もちろん」

 

 

 

 

 ガーゴイル3匹、『ドラゴン』クラスへの挑戦を所望するッッッッ!!!! 

 

 

 




コイツならやってくれるッッッ!!!


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第十四話 「格の違い」

因みにラヴェーナ嬢はゴブリンの解説をしていたラドグリフ氏の娘さんだそうです。
(言えないッ!適当にキャラに名前つけてたら『ラドグリフ』が早くもかぶってたことなんて絶対言えないッ!!)

どんだけハリポタのダニエル・ラドグリフの印象強いんだよってね。


マイク「・・・・・・・・・え?」

 

マイク「そ、ソ―リー、挑戦者レツ選手?」

 

マイク「今、何に挑戦すると言ったのカナ?」

 

 

烈「『ドラゴン』クラス挑戦の条件である、ガーゴイル三匹だ」

 

 

「あのチュウゴク人まじかよ・・・」

「目の前であんなことがあったのに?」

「オイオイオイ死ぬわアイツ」

 

 

マイク「え~~~~申し訳ないが・・・レツ選手、先ほどの試合はちゃんと見ていたかな?」

 

烈「無論」

 

マイク「・・・・・・見たところ、武器は所持していないが・・・」

 

烈「かまわん」

 

マイク「・・・・・・気持ちはわかるが、あまりにも力の差が・・・」

 

烈「かまわん」

 

マイク「・・・・・・し、死ぬかもしれないんだぜ!?レツ選手ッ!?」

 

 

 

 「わたしは一向にかまわんッッ」

 

 

 

マイク「・・・・ッ」

 

マイク「お、オーナー、認めてくれッ!こんな一方的になっちまう試合、俺は実況なんてできないッッ」

 

マイク「これ以上何を見るってんだッ!?選手がガーゴイルに蹂躙されるところかッ!?」

 

マイク「ほぼ無傷なんだぜ!?あれだけの槍使いが、【補正】能力まで使ってあのザマだ!」

 

マイク「どんな【補正】なのか知らないが、【補正】武器もなしにあのバケモンと戦わせるなんて――――」

 

 

ラヴェーナ「・・・・・・・いいんじゃない?別に?」

 

 

ラヴェーナ「『いかなる場合であっても選手のクラス挑戦権を奪うことは出来ない』・・・これはこの闘技場において最も尊重される不文律だったはず。まさか、この闘技場の解説実況者であるあなたが忘れるはずないわよね?」

 

ラヴェーナ「それに・・・」

 

《グイッ》

 

マイク(!?)

 

 

ラヴェーナ「二度と私のガーゴイルちゃんを「バケモン」扱いしてみろよ!!オォ!?」

 

ラヴェーナ「てめえをガーゴイルちゃんたちの腹の虫として実況中継させてやろうか?あぁん!?」

 

 

マイク(!?!?)

 

 

キリク「フフッ、都市一番の魔法生物愛好家であるラヴィーナさんにとって、魔法生物とは愛すべき我が子そのもの・・・以前はあなたのドラゴンを斬ってしまい申し訳ないね」

 

《パッ》

 

ドサッ

 

ラヴェーナ「あらいいですのよ」

 

ラヴェーナ「アイツ、年取ってニオイきつかったですし、餌代も馬鹿にならなかったので殺していただいて逆に処分の手間が省けましたから」

 

キリク「ハハハ、流石、名門ラドグリフ家の当主様は心がお広い!」

 

キリク「では、なぜ今回お気に入りのガーゴイルを闘技場に?」

 

ラヴェーナ「あぁ、あれは・・・近年お家にこもりがちでしたから」

 

 

――――運動不足解消ですわ♡

 

 

マイク「ゴホッゴホッ・・・・・・」

 

キリク「ほらほら、早く司会進行しないと・・・」

 

マイク「で、ですが・・・」

 

 

《ギラッ》

 

 

マイク「ヒッ」

 

キリク「早くしろよ」

 

キリク「あの身の程を知らないバカな中国人に思い知らせてやるんだよ」

 

 

 

貴様では『ドラゴン』クラスに挑戦することすらおこがましいという、格の違いをなッ!

 

 

 

マイク「そ、それでは、レツ選手の挑戦を受け、試合を始めたいと思います!」

 

マイク「まずは、今いるガーゴイルとは別に、もう2体のガーゴイルの入場ですッ!」

 

 

 

ガラガラガラガラ――――

 

ガラガラガラガラ――――

 

 

[[ギシャアアアッッッ!!!!!!]]

 

 

烈「・・・・・・・・・」

 

 

レガロ「す、すごい迫力・・・まるで魔界に迷い込んだみたいだ・・・・・・」

 

ラン「だ、大丈夫だよね?・・・烈さんなら倒せるよね?」

 

ミネルバ「・・・・・・・・」

 

ケンジ「オッサン・・・・・」

 

 

ガチャンッ

 

ガチャンッ

 

 

マイク「首輪が外されたようです・・・それでは・・・」

 

 

 開始(はじ)めッッッ!!!《ゴワッアアアアンン~~~~~》

 

 

[[・・・ギッ]]

 

 

[ギシャアアアッッッ!!!!!!]

 

[[!?]]

 

 

 

――――近寄るなッ!!俺の餌だッ!!

 

 

 

[[・・・・・・・・]]

 

 

《ピタッ》

 

 

マイク「ど、どうしたんだ?仲間内で何やらコミュニケーションがあったようだが・・・」

 

ラヴィーナ「あれは餌の取り合う際の優先権を決めているんですわ」

 

マイク「ゆ、優先権?」

 

ラヴィーナ「えぇ、三匹のガーゴイルが一体の人間と戦うなんてひどく稀なこと」

 

ラヴィーナ「そもそも空中を自由に飛び回ることを戦闘体系(ファイトスタイル)とするガーゴイルにとって、単体の獲物を複数で一度に取り合うことは極めて非効率的(ナンセンス)・・・」

 

ラヴィーナ「だからあのように戦力の一番高い個体を先鋒とし、その後に続く順序に応じて『餌』の配分を決めているのですわ」

 

キリク「単体での強さもさることながら、複数体になったときにもあのような連携をすることが出来るという知能の高さ・・・・・・これもガーゴイルの並みの魔法生物と一線を画す強さの一つと言っていいだろうね」

 

マイク「じゃ、じゃあ、あのバ・・・ガーゴイルたちはレツ選手を食べようと・・・!?」

 

フフフフッ

 

ラヴィーナ「安心なさい、あれはあたしが都市随一の魔導士たちによる調教によって育て上げた従順な子たち・・・」

 

ラヴィーナ「選手へのダメージの多さで今日の餌の量が決まるという私の決めたルールに基づいた、いわばちょっとしたゲームに過ぎませんわ・・・」

 

ラヴィーナ(ただし、臓物をまき散らすような重傷を彼が負った場合、あの子たちの本能が爆発するかもしれませんが♡)

 

 

 

 

ドダッ・・・ドダッ・・・・

 

 

[キシュルルル――――]

 

 

マイク「が、ガーゴイルがゆっくり、ゆっくりレツ選手へとにじみ寄っていくッ!」

 

 

烈「・・・・・・・・」

 

 

ブチブチッ

 

《ズラ・・・・》

 

 

[?]

 

 

マイク「あ、アレはッッッ!!!」

 

マイク「クナイだッッッ何十本ものクナイを衣服の裏に隠し持っていたレツ選手ッッ!!」

 

マイク「正直、ほっとしました!レツ選手がなにも持たずガーゴイルに挑むような蛮勇の持ち主ではなかったことをッッ!!」

 

 

キリク「ば~~~か、逆だよ逆」

 

 

スッ

 

ニギュッ

 

 

キリク「あんなものを『武器』として携えてくる方がよっぽど蛮勇だろ?」

 

 

《グググッ・・・》

 

烈「・・・・・・・・!」

 

ビュンッ

 

 

キリク「そもそも、【補正】武器が通用しなかったのにあんな玩具が使えるわけ・・・」

 

 

 

 

バギャッッンンンンッッッッ!!!!

 

[グギャアアアアァ!?!?!?!?]

 

 

「!?」

 

 

マイク「な、なにが起こったのかッ!?」

 

マイク「レツ選手が放ったと思われるクナイがッ!?ガーゴイルにあたったと思いきや」

 

マイク「そ、その原形をなくしてしまいましたぁッ!?!?」

 

 

 

 

烈(・・・・むぅ)

 

烈(予想以上に脆い・・・これでは常用の器械としては使えんか・・・)

 

 

――――烈は落胆していた

 

 

――――転生によって入手が不可能となった武器術に使用される元の世界の器械

 

――――これらの代用品を入手するため立ち寄ったマギリカーゼ市

 

――――そこで売られている武器類の

 

 

 なんとも質の悪く、種類の少なきことッ・・・・・

 

 

烈(・・・おかしい)

 

烈(都市の文明レベルから推測するにも、もっと高度な武器が生産されていてもおかしくはないと思うのだが・・・)

 

烈(それに剣や弓、防具一般はある程度種類があるのに対し、棍や青龍刀といった中国武術の武器の種類は圧倒的に少なく、質も格段に低い・・・)

 

烈(・・・致し方あるまい。とりあえず一度きりで使用できる苦無を大量に仕入れていくことにしよう・・・・・・)

 

 

スッスッ――――

 

烈(――――よもや衝撃で粉砕してしまうとは・・・)

 

ビュッビュッ――――

 

 

バギギャッッンンンンッッッッ!!!!

 

 

[・・・・グギャアア!?]

 

 

スッスッ――――

ビュッビュッ――――

 

スッスッ――――

ビュッビュッ――――

 

 

 

バギギギギギギャッッンンンンッッッッ!!!!

 

[ミギャアアアアアアアアアッッッッ!!!!!]

 

 

 

 考えねばならんな・・・異世界での戦い方をッ!!

 

 




烈にとっては、ただの試合(テスト)ッッ!!


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第十五話 「vsガーゴイル①」

今回ちょっと少ないです。

いやぁ、ちょっとガーゴイル戦は小分けに出したいなと思いまして


 [ミギャアアアアアアアアアッッッッ!!?? ]

 

 

 マイク「な、なんという事だ……」

 

 マイク「痛がっているッ! 明らかにッ! あのガーゴイルがッ!」

 

 マイク「ファン選手の攻撃に全く動じなかったガーゴイルがッ、今は父親の拳骨に泣く子供のようだッ!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ミネルバ「ど、どういうことなの? 一個もクナイは刺さってないのにあの痛がり様……」

 

 レガロ「えぇ! 頑強な皮膚を持つガーゴイルにクナイが通じているとは思えませんッ!」

 

 

 ケンジ「……いや、違うぜ」

 

 ミネルバ「ケンジ?」

 

 ケンジ「あれは苦無の『鋭利さ』に痛がってるんじゃねぇよ……」

 

 

 

 ――――あれは俺がまだあっちの世界でガキやってた頃だった

 

 

 そん時のオレは結構な悪ガキ(?)でさ? 

 学校の中でもメンチきってはしょっちゅう喧嘩してたんだ

 

 ある時、オレが喧嘩打った相手が空手部の主将でさ

 放課後に素手で決闘やり合うことになったんだけど

 

 流石に空手部の主将はヤバいって思って

 腹と胸に『5㎜の鉄板』仕込んで喧嘩に行ったわけ

 

 当然相手は空手部の主将だからさ? 

 喧嘩のおっぱじめから胸に『正拳突き』叩き込まれたよ

 

 相手の右手もそれで使い物にならなくなったんだけどさ…………

 

 

 

 打たれたこっちも痛ェんだ! これが! 

 

 

 

 ケンジ「俺がいた世界で銃弾撃ち込まれても平気なように装備する『防弾チョッキ』っていうのがあるけどよ」

 

 ケンジ「普通の拳銃ならまだしも、ライフルとかショットガンとか……威力が高いものになると、貫通はしなくてもその『衝撃』で、着ている人間が死んじまうこともあるそうだ」

 

 ミネルバ「つまり、あれは……」

 

 ケンジ「あぁ……」

 

 

 オッサンの投げた苦無の持つ『衝撃力』が、

 

 ガーゴイルの頑丈な皮膚を通り越してッ

 ヤツの体の内部に響いてるってことなんだッ!! 

 

 ・

 ・

 ・

 

 [グ……グギィ……]

 

 

 烈「……どうした?」

 

 

 もう終わりか? 

 

 

 [! ]

 

 

 ――――この言葉は、

 

 ――――人間の言葉の通じぬガーゴイルにも

 

 ――――『本能的』にその意図するところを理解することが出来た

 

 

 

 『嘗められているッッ!!』

 

 

 

 ――――その感じたガーゴイルは、

 

 ――――烈を自らのために存在する「餌」ではなく

 

 ――――自らの存在を脅かす「敵」として、自己の認識を改める

 

 

 

 [……ギャオオッ!]

 

《グワッ》

 

 烈「……!」

 

 

 ダンッ

 

 ダダダダダダダダダダダダダダッッッッッッ

 

 

 

 マイク「は、激しい激突だぁ~~~!?」

 

 マイク「しょ、正直ガーゴイルとレツ選手の打ち合いに目が追いつきませんッ!」

 

 

 

 […………]

 

 

 シュッ――――

 

 

 ――――ガッ! 

 

 

 [……!? ]

 

 

 

 マイク「あッ! ガーゴイルが繰り出した尻尾攻撃が、レツ選手の脚によって防がれているッ!」

 

 

 

 烈「悪いが、先ほどのファンとの試合、この尾のこともしっかり見させてもらった」

 

 烈「拳法家に同じ手は二度通じぬぞッガーゴイル!!」

 

 [!?]

 

 烈「……早めに決着付けさせてもらおう」

 

 

 シュッ

 

 ガッ

 

 

 

 『打』ッッ!! 

 

 

 

 ダンッッッッッ!! 

 

 

 [!? ]

 

 

 

 マイク「ふ、吹っ飛んだぁ~~~!!!」

 

 

 

 ――――しかし

 

 

 

 

 烈「!?」

 

 烈「こ、これは……」

 

 

 

 ――――烈がガーゴイルの胸部への打ち込み時にイメージしたもの

 

 ――――それは……

 

 

 

 烈(ビスケット・オリバ!?)

 

 




異世界で「オリバ」ッッッ!?



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第十六話 「vsガーゴイル②」

虚実、織り交ぜて・・・


 マイク「吹っ飛びましたぁ~~ガーゴイルッ!!」

 

 マイク「しかもガーゴイル、先ほどの空中での回転による攻撃の受け流し(?)をしていないぞ!? これはもろに攻撃を食らったかッ⁉」

 

 ラヴェーナ「馬鹿ね…………」

 

 

 ――――受け流す必要がないのよ

 

 

 

 

 

 

 ――――生物が空を飛ぶために必要な胸部の筋肉

 

 実は、ほとんどの地上活動生物において

 

 胸筋は全体の筋肉の半分以上の比重を持っている――――

 

 

 そして、肝心な空を飛ぶ鳥類の全体重に対する胸部の筋肉の割合――――

 

 

 平均で約20%

 

 

 では対する人間は?—————

 

 

 

 

 

 

 

 実は約1%にも満たないッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 つまり

 

 

 

 仮に体重65kgの人間が空を飛ぶには

 

 約13kgの筋肉が胸部になければならないというわけだ――――

 

 

 そして

 

 それを実現するための筋肉の長さ――――

 

 

 

 

 

 ――――『2m』? 

 

 

 

 明らかに生物として不完全(アンバランス)――――

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかしッッッ

 

 

 異世界にはそれを実現させた生物がいたのだッ!

 

 

 およそ通常の7倍という筋密度を胸筋部において実現させ

 

 人型体型にて『飛行』という偉業を成し遂げた生物

 

 

 

 

 それが『ガーゴイル』なのであるッッッ

 

 

 

 

 

 ラヴェーナ「あの一見細身な胸回りに蓄えられた圧倒的な筋肉量……」

 

 ラヴェーナ「それこそがガーゴイルの生物としての原動力でもあり、また圧倒的な破壊力を生み出す攻撃の要でもあるのよ……」

 

 

 

 […………! ]

 

 [キシャアアアーーーー!! ]

 

 

 マイク「ラ、ラヴェーナ会長の言う通り、ガーゴイルにはダメージを負った形跡はないッッ!? レツ選手に向かって飛ばされた空中から突進していくぞぉ!?」

 

 マイク「ファン選手との戦いで見せた攻撃の受け流しは必要ないという事なのかァッ?」

 

 

 

 烈(……成る程)

 

 烈(自らの体を宙に浮かせるだけの飛行力)

 

 烈(実はその原動力は、目につく派手な翼などではなく)

 

 烈(それを動かすための胸筋部にあった、というわけか)

 

 烈(道理で胸部を打った際にオリバ氏の顔が頭によぎるわけだ)

 

 

 烈「フッ……」

 

 

 

 マイク「レツ選手? が? わらっている?」

 

 

 [……!!!]

 

 

 

 戦闘の中で生じた烈の心ここにあらずの「笑み」

 

 

 ――――《ビキビキビキ》

 

 

 これはガーゴイルの生物としての矜持を

 

 

 [グルァァアアアアッッ!!!]

 

 

 ひどく傷つけ《ボキッ》

 

 

 

 

 [……?]

 

 マイク「こ、これは……?」

 

 

《プルプルプル》

 

 

 マイク「お、オーナー?」

 

 ダンッ! 

 

 ラヴェーナ「あ、あのヤロ~~~ッッ」

 

 やりやがったッッ!! 

 

 

 

 

 [ギ、]

 

 [ギィヤアアアァァァ~~~ッッ!?]

 

 

 

 烈「ガラ空きだったぞ……」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ミネルバ「な、なに? 何が起きたの?」

 

 ラン「……あ! み、見てください! ガーゴイルの脚が!」

 

 

 ひゃしげたスプーンのようにひん曲がってるッッ!! 

 

 ・

 ・

 ・

 

 烈「……『武とはずるきもの』」

 

 烈「私はここに君と力比べをしに来たのではない……」

 

 

 

  君に勝つために来たのだッッ!!

 

 

 

《ピクピクッ》

 

 [グ、グギュウウウ……]

 

 

 マイク「ど、どうすればいいのか?」

 

 マイク「あれほど頑強だったガーゴイルが、こうも簡単に脚を折られている」

 

 

 この事実をッオレは一体どう受けとめたらいいのかッ!? 

 

 

 

 

 

 

 烈「……別に難しい話ではない」

 

 

 烈「生物において必然的に起こる『退化』という現象」

 

 烈「使わなければ衰える、ただそれだけのこと」

 

 

 

 それはガーゴイルという超規格外生物でも変わらないッ

 

 

 

 烈「空を自由に飛び回る君たちにとって「足」とは「翼」」

 

 烈「もはやその「脚」は、例えるなら人でいう虫垂のようなもの」

 

 

 『脆い』一方で『痛い』

 

 

 烈「私はただ、それに付け込んだに過ぎない……」

 

 

 

(((えぇ~~~~~~~~ッッッ!?)))

 

 

 

 その時会場にいたもののほとんどが心の中で叫んだ――――

 

 

 

 

 それ化け物(ガーゴイル)の前で言えるッッッ!? 

 

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 [グギャァ……]

 

 ――――もういい! 戦いたくない! 

 

 

 生まれて初めて経験する『物理的な痛み』に

 

 

 ――――痛いのはやだ! 早く帰って飯を食べるんだ! 

 

 

 先ほどの怒りはどこへやら、ガーゴイルはもはや戦意を失っていた――――

 

 

 

 そして、翼を広げ――――

 

 

 バサッ

 

 

 闘技場(ここ)から離れようとして『アイツ』の方を見ると――――

 

 

 ――――『アイツ』はどこだッ? 

 

 

 

「仮に……」

 

 

(ビクゥッッッ!?)

 

 

 烈「仮に君が黄選手と真っ向から向き合い」

 

 

 ――――首元に感じる服の繊維の感触

 

 

 烈「一つの嘲笑なく試合を終えられたのなら、或いはこうはならなかったのかもしれんが」

 

 

 ――――そしてこの声が、まず間違いなく

 

 

 烈「黄選手との『約束』故、見るものすべてが『武の勝利』を認めるような形で終わらせてもらう……」

 

 

 ――――自分の頭上から発せられていることに、ガーゴイルは戦慄した

 

 

『転蓮華』ッッ

 

 

 ボキッ

 

 




圧倒的「格」の違いッッッ


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第十七話 「vsガーゴイル③」

ガーゴイルも生きていくのは大変だね。


 マイク「……お」

 

 

 

  オレは何回驚かされればいいんだッッ!!

 

 

 

 マイク「レツ選手が……レツ選手がガーゴイルに胡坐の姿勢でまるで肩車されているようにしがみついた後」

 

 マイク「刹那ッガーゴイルの首が、曲がってはならぬ方向に折れてしまいましたッッ!!」

 

 マイク「元から白眼のガーゴイルでは、完全にダウンしているかはどうかは確かではありませんが」

 

 マイク「まず! 間違いなく! 足元から崩れ落ちたガーゴイルに戦闘は不可能!」

 

 マイク「そして、残ったガーゴイル二体ですが―――」

 

 

 

  てめぇらあぁぁ~~~~~ッッッ!!!

 

 

 

 マイク「ひっ」

 

 ラヴェーナ「仲間の敵討ちだ! その目障りな【転生者】をぶっ殺せ!!」

 

 ラヴェーナ「喰っても構わねぇ! 二人掛かりで本気で殺りにいけ!!」

 

 ・

 ・

 ・

 

 [[・・・・・・・]]

 

 

 

 

  実際のところ―――

 

  ガーゴイル達は『主人』であるラヴェーナ嬢の命令など気にも留めていなかった

 

 

  事実―――

 

  彼らにとって、人間とは『餌』であり、

 

  ラヴェーナ嬢も所詮『餌』を定期的に供給する都合のいい『餌』であり、

 

  今まで命令に従っていたのも、

 

 

  

  ただ、安定した『餌』の供給を確保したかったからに過ぎないッッ

 

 

 

 

  実は―――

 

  このマギカリーゼ王国周辺でも類を見ない強さを持つこのガーゴイルだが、

 

  ある一つの深刻な問題に対峙していた。

 

 

 

 

 

    『食糧不足』

 

 

 

 

 

  圧倒的強さ故の他の生物からの『畏怖』

 

  それは、時としては彼らの捕食行動の大きな阻害となり得る。

 

  

  疑問に思ったことはないだろうか?

 

 

 

  なぜ―――

  時速100㎞近くで走るチーターがはるかに遅いシマウマを捕らえられない時があるのか?

 

  なぜ―――

  力も耐久力も生物の中では桁外れの性能を持つゾウが肉食ではなく草食なのか?

 

  なぜ―――

  牙も爪も持つライオンが圧倒的弱者であるシマウマに対して必ず群れで狩りを行うのか?

 

 

 

 

  それらの原因はみな、本来生物が持つ強者への『畏怖』に起因するッッ

 

 

  

 

  『畏怖』するから死に物狂いで隠れ、見つかったら逃げるのであり、

  

  『畏怖』されるから逃げる獲物(えさ)を喰らうより、逃げない植物(えさ)を選び、

 

  また『畏怖』されるから群れで行動しないと獲物(えさ)を狩れないのである。

 

 

 

  しかし―――

 

 

 

  単体であまりにも高い生物的強度を保持するガーゴイルは

 

  裏を返せば自然界の中で最大級の『畏怖』を持って迎えられ、

 

  結果、ガーゴイルが安定的に食料を自然界の中で得ることは意外にも困難なのである。

 

 

 

  そんな彼らが見つけた

 

  人間という強者への『畏怖』だけでなく、『畏敬』という感情を持つ稀有な存在

 

 

 

   『餌』を提供する『餌』というガーゴイルにとっての新たな概念

 

 

 

 

  

[[・・・・・・]]

 

 

 烈「……これで」

 

 烈「これで()()()も理解したのではないのかね?」

 

 [[・・・!]]

 

 烈「恐らく、君たちの中で強さという面では一番上であった先のガーゴイル……」

 

 烈「その者が私に、完膚なきまでに倒された。これが何を意味するのか、戦闘において優れた知能を持つ君たちなら既に理解できているはずだ」

 

 [[・・・・・・]]

 

 

 烈「降伏しなさいッ!」

 

 

 烈「最早この世界における中国拳法の威厳は保たれた。これ以上君たちと拳を交えても何も生まれない……」

 

  

 

 

  ―――しかし、

 

  その一見恵まれたように見える環境の中で、

 

  ガーゴイル達は「大切なもの」を失い、

 

  およそ自然界で生きていくには「不必要なもの」を得ることになる。

 

 

  ―――それは……

 

 

 

 [[………ギ]]

 

 [[ギャオォォォーースッッッ!!!]]

 

 

 

  『畏怖』と『傲慢』

 

 

 

 バサバサバサバサッッッ

 

 

 マイク「ああッ!ラヴェーナ会長の呼びかけに答えるように、残るガーゴイル二体もレツ選手に飛び掛かっていった~~~!」

 

 

 

 烈(……)

 

 烈「愚かな……」

 

 

 スゥッ

 

 《プク~~~~~~~~~》

 

 

 

 マイク「!?」

 

 マイク「な、なんだ?」

 

 マイク「レツ選手の上半身が、まるで風船のように膨れ……?」

 

 

 《ピタッ》

 

 

 プップッ―――

 

 

 

 《ピシッピシッ》

 

 

 [[!]]

 

 [[グ、グギャオ!?]]

 

 

 マイク「ど、どうしたんだ? ガーゴイル!?」

 

 マイク「まさに今、飛び掛かろうという直前、あろうことか目を抑え始めたゾッッ!?」

 

 

 烈「……(シュタッ)」

 

 

 マイク「……!? そ、それを待っていたのかの如く、レツ選手が飛び上がり……」

 

 

 シュシュッ

 

 ゴキリッ

 ゴキリッ

 

 

 [[・・・・・・ッッッ・・・]]

 

 

 

  ―――その二つの感情の有無が、

 

 

 

 マイク「ガ、ガーゴイルの首に両足同時に蹴りを叩きこみ……」

 

 

 ドサドサッ―――

 

 

  

  今回、ガーゴイルに『自然界』における勝利条件であった「逃走」という選択肢を失わさせた

 

 

 

 マイク「……」

 

 マイク「…………」

 

 マイク「…………け、決着……」

 

 

 

  決着ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 




遂に、遂に決着ッ!!


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第十八話 「お前もか」

そう、この人でした。


 ラヴェーナ「……ガ」

 

 ラヴェーナ「ガーゴイルちゃんが……私のガーゴイルちゃん達が……」

 

 《ヘナヘナヘナ……》

 

 

 マイク「い、未だかつて見たことがあっただろうか……」

 

 マイク「【補正】による武器や能力もッ」

 

 マイク「魔術による攻撃もッッ」

 

 マイク「およそ、魔法生物と渡り合うために俺たちが必要であると想定したもの全てッッッ」

 

 

  それら一切を使用しない【ドラゴン】挑戦者ッッッ!!!

 

 

 マイク「……正直」

 

 マイク「今思い返せば、【ドラゴン】への挑戦に必要とされたガーゴイル3体の討伐……」

 

 マイク「あの『ガーゴイル』が『3体』という衝撃……」

 

 マイク「しかし、その実、圧倒的強者の前では『1体』との対決における難易度と『3体』との対決における難易度になんら大差はなかったというこの事実」

 

 

 マイク「この事実を目撃するまで、一体誰が想定できただろうかッ!?」

 

 

 マイク「そう、オレ達……いや、私たちは認めなければならない」

 

 

  転生者、烈永周は【ドラゴン】挑戦における紛れもない「有資格者」であることをッ!

 

 

 マイク「そして……」

 

 

 チラッ

 

 

 キリク「……」

 

 マイク「この事実を前に、現【ドラゴン】クラスマスターであるキリク選手は受けねばなりません」

 

 マイク「彼の挑戦をッ! 今ッ!! ここでッッッ!!!」

 

 

 

 キリク「……」

 

 キリク「…………」

 

 キリク「………………フッ」

 

 

 キリク「マイク、君は勘違いをしている」

 

 

 マイク「……どういう意味でしょうか? キリク選手?」

 

 キリク「……今、君は自分で解説したじゃないか」

 

 キリク「圧倒的強者……であるかどうかは別として」

 

 キリク「ガーゴイル『1体』と『3体』の間に大きな難易度の差はないという事実」

 

 キリク「つまり、本来難易度としてはかけ離れているはずの【ガーゴイル】と【ドラゴン】の挑戦権獲得の試練の間に、実はそこまでの差異はなかったという事実」

 

 キリク「今一度聞こう、彼は本当に『有資格者』といえるのかい?」

 

 「そ、それは、確かに……」

 「実は、ガーゴイルそこまで強くなかったんじゃ……」

 「どうせ、あのファンってやつが弱すぎたんじゃないの???」

 

 

 (・・・・・・・・)

 

 

 

 ケンジ「屁理屈だッッ!!」

 

 

 

 キリク(!)

 

 烈「……ケンジ君」

 

 ミネルバ「ちょ、ちょっとケンジ!」

 

 レガロ「や、やめた方がいいですって!」

 

 

 ケンジ「……オッサン」

 

 

 ドゲザッ

 

 

 ケンジ「今まで、少しでも烈さんを……いや、『武』の強さを疑ってすいませんでしたッッ!!」

 

 ケンジ「そして……」

 

 

 

  教えてくれて有難うございます! まだまだ人は強くなれることをッ!

 

 

 

 烈「……」

 

 烈「……ケンジ」

 

 烈「こんな言葉、まだまだ拳法家として未熟な私が言うべきではないが……」

 

 烈「君がもし、それを心から理解できたのなら―――」

 

  

  学んでいきなさい……『武』の何たるかを……

 

  これからの戦いにてッッ!!

 

 

 ケンジ「…………ッ!」

 

 ケンジ「押忍ッッ!!」

 

 

 

 

 キリク「美しい師弟愛だね? ケンジ?」

 

 ケンジ「……!」

 

 キリク「君が弱いことは知っていたけど、まさか筋肉だけで【補正】も使えないような奴の弟子になるなんて……正直、失望を通り越して脱帽だよ。そこまでしてまで強くなりたいのかい?」

 

 ケンジ「駄目か? 強くなることを望むのは?」

 

 キリク「望むも何も、強者と弱者は生まれながらにして―――ここでは『転生』しながらにしてか、既に決まっているものだと何回言えば理解するのかな?」

 

 キリク「弱者が強くなれるのには限界がある―――そんな弱者が強者になることを本気で望むのは、いささか傲慢だと思わないかい?」

 

 ケンジ「…………」

 

 

 

  なんとでも言うがいい

 

 

 

 烈「この世界においてそれが真実であるかどうか、それを私が証明しに来たのだ」

 

 烈「規定された【ドラゴン】挑戦への試練は既に突破した。であれば、君はその挑戦を受ける必要があるはずだ」

 

 キリク「だからそれは【ドラゴン】挑戦への試練として不適切だったとさっき……」

 

 

 

 ???「では、私との対戦に勝ったら、という事ではいかがかね?」

 

 

 烈(!)

 

 烈(この声……どこかで)

 

 

 キリク「…………あぁ、君か」

 

 キリク「ん~そうだね。君だったら確かにあの転生者にうってつけだし」

 

 キリク「第一、何か彼とは因縁があるようだしね?」

 

 ???「フフフ、流石、キリク殿は鋭い……」

 

 キリク「まぁ、君だったら勝てるよね?」

 

 キリク「現【ガーゴイル】クラスマスターの君だったら」

 

 

 烈(誰だ? 私との因縁? そして現【ガーゴイル】クラスマスターだと?)

 

 ・

 ・

 ・

 

 ミネルバ「現【ガーゴイル】クラスマスターですって?」

 

 ラン「ミネルバ、確か、現【ガーゴイル】クラスって……」

 

 ミネルバ「えぇ、今まで一度も表舞台に姿を現していないはずよ」

 

 レガロ「それに、烈さんと認識があるってことは、おそらく転生者でしょうか?」

 

 ケンジ「……なんにせよ」

 

 三人(!)

 

 ケンジ「あのキリクが相当の信頼を置いているという事は、かなりの【補正】能力か、あるいは武器を持っていることに間違いなさそうだな……」

 

 ・

 ・

 ・

 

 キリク「それじゃあ解説君、彼を紹介してあげてよ」

 

 キリク「万が一、彼が倒されたら僕もあのレツ選手と戦ってあげるからさ」

 

 マイク「し、しかし、オレはこの選手のことを全く知らないぜ?」

 

 キリク「彼はね――――」

 

 マイク「…………」

 

 マイク「……わ、分かりました」

 

 マイク「それでは、先ほどの烈選手とガーゴイル三体との試合結果が【ドラゴン】クラス挑戦への試練として果たして本当に適切であったのかという疑念にお応えして」

 

 マイク「長らく皆さんにもその存在が明かされなかった謎の男、現【ガーゴイル】クラスマスターであるこの方と烈選手とのスペシャルマッチを急遽執り行いたいと思いますッッッ!!!」

 

 

 マイク「では、……選手、準備の方を……」

 

 ???「必要ない」

 

 

 スタッ

 

 

 マイク「……!? なんと、観客席4階部分に相当するこの解説展望室から飛び降りたぁ!?」

 

 

 ズシーーーーーーーーーーーン

 

 

 烈「…………!?」

 

 烈「お、お前は!?」

 

 烈「君もこちらに来ていたというのかッ!?」

 

 

 ???「……久しぶりだな、烈海王」

 

 マイク「なんとッ! 烈選手を以前から知る、その人はッ!」

 

 

  

 

 

 

 楊「退屈しないだろう? この世界は」

 

 

 マイク「烈選手と同じく、転生前は【海王】の称号を持っていた」

 

  

  楊選手だぁッッッ!!!

 

 

 




そ、そう来たかァ~~~~~


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第十九話 「『金剛拳』」

もう、こいつは本編で死んでるという事で勘弁してくださいな。
すぐ死んだからキャラ分からん……

あと、すっごいここからふざけます。


 烈「楊海王ッッ!?」

 

 烈「貴様もこの世界に来ていたのかッッ!?」

 

 楊「大擂台賽振りだろうか、烈海王……」

 

 楊「ビスケット・オリバ氏との闘いの後、どういう訳か、このような世界に飛ばされていたという訳よ……」

 

 クックック―――

 

 楊「恐らく、それはあの場で私のあの世界での命は潰えたのだろう……ということは、君も、負けたのだな? それとも病かな?」

 

 烈「……」

 

 楊「ククク……聞くまでもないか」

 

 

 烈「貴様はいったい、ここで何をやっているんだッ」

 

 

 楊「何って、君が先ほどまでガーゴイルとやっていたことだよ」

 

 

  競い、戦い、殺し合うッッ!!

 

 

 楊「もっとも、今の私に勝てる者が、あそこにいるキリク氏を除いてこのマギカリーゼにはおらず、『表』の大会にこうして出るのは初めてだがね?」

 

 烈「『表』の大会?」

 

 楊「そう―――」

 

 楊「烈海王、このクラス争奪戦は一般大衆に向けた、ただのお遊戯なのだよ?」

 

 楊「皆が暗黙の了解で【小鬼】か【ニンフ】のクラスに挑み、生存の保証という『安全圏』で行われる見せかけの死闘―――まるで地方擂台賽ようだ……」

 

 烈(ピクッ)

 

 ・

 ・

 ・

 

 ラン(あ、あれ? 烈さん?)

 

 ラン(なにか、怒っている?)

 

 ・

 ・

 ・

 

 烈「―――先ほどまでの黄選手のガーゴイルとの闘いもそれだと?」

 

 楊「―――あぁ、あの男か。いやいや、そこまでは言うまいよ」

 

 楊「『ガーゴイル』―――あの郭海王が極めたと噂に伝え聞く『消力』をも先天的に備えるこの世界における最上級モンスター……」

 

 

 楊「宣言しよう……」

 

 

 

  今の私ならガーゴイル10体にだって勝てる!!!

 

 

 

 マイク「……な」

 

 

 マイク「なんという暴言でしょうッッッ」

 

 

 マイク「私たちは既に知っているッ! ガーゴイルの恐ろしさ、ガーゴイルの強さ、そしてガーゴイルの強靭さッ!」

 

 マイク「いくら先ほど烈選手対ガーゴイルとの戦いに不服ありと言えども、このような暴言を許していいのでしょうか!?」

 

 

 

 

 烈「……」

 

 烈「…………」

 

 

  フッ―――

 

 

 

 マイク「そ、それを受けた烈選手は、笑っている!?」

 

 

 

 烈「―――随分と」

 

 

 烈「随分と言うじゃないか?」

 

 

 烈「海王の称号はなくとも、その志と【補正】武器という+αを考慮すれば」

 

 烈「その称号に準ずるだけの力を持つ黄選手」

 

 烈「その彼が苦戦したガーゴイルを」

 

 烈「あの『怪力』ビスケット・オリバに感情に任せて自分から勝負を仕掛け、あまつさえ不覚を取り、『金剛拳』を志す我が中国武術門下生の期待を踏みにじった貴様が、10体相手にして倒す?」

 

 

 サッ―――

 

 

  笑いを通り越して怒りすら覚えるッッッ!!!

 

 

 烈「貴様が今、どれほどの実力か知らんが、その体ではこちらに来てから十分な鍛錬を行っていないように見える」

 

 烈「そんな者と、私は戦うつもりはない―――」

 

 

 

 

 ―――ビキ

 

 ・

 ・

 ・

 

 レガロ「……な」

 

 レガロ「楊海王の額に、青筋が……」

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ビキビキビキビキビキッッッ!!!

 

 

 楊「……烈海王よ」

 

 

 マイク「れ、烈選手の挑発に、怒り心頭の楊選手ッ!」

 

 マイク「これは、仕掛けるのか!?」

 

 

 

 

 

 フッ―――

 

 

 楊「バカだぜアンタ」

 

 

 烈(!?)

 

 

 マイク「い、いたって冷静だ!? これは!?」

 

 

 楊「なぁ? 烈海王よ?」

 

 

  中国武術とは、そんなに偉いものか?

 

 

 烈「……なんだと?」

 

 

 楊「―――中国武術において、自然に存在するものに自己を模して戦う『象形拳』、そしてその動きの要素を拳に取り入れた『形意拳』といったものの類」

 

 

 

  蟷螂のように切れのある攻撃を旨とする『蟷螂拳』―――

 

 

  龍・虎・猴・馬・黽・鶏・鷂・燕・蛇・隼・鷹・熊、計12種類の動物の動きを模した『十二形拳』―――

 

 

  果ては先ほどの黄選手も使っていた『太極拳』に至るまで―――

 

 

 

 楊「中国武術のありとあらゆる拳派が、その拳に自然由来の動きや形を忍び込ませているという事実ッ」

 

 

 楊「かくいう私の『金剛拳』も、自然界に存在する「金剛石」の如き高質化を五体に求めているという点でそれらと類似したものであるといえる―――」

 

 楊「烈海王よ。この意味が君に分かるかね?」

 

 烈「……」

 

 

 楊「そう……」

 

 

 

 

   どこまで極めても「1」にはなれぬ紛い物ッッッ!!!

 

 

  

 

 楊「ビスケット・オリバ氏との闘いでの敗北―――それは私にある一つの、非常にシンプルな真実を教えてくれたよ……」

 

 

 

 

  『強いもの』が勝つ

 

 

 

 

 楊「なんのことはない。至極真っ当な、闘争における真実」

 

 

 

 

 

  蟷螂拳を極めた拳法家 vs 身長体重知能が人間と等しい蟷螂

 

 

  十二形拳を極めた拳法家 vs 具現化した龍

 

 

 

 

 

 楊「この答えも既に分かり切っているだろう?」

 

 楊「これら事実が我々に教える『闘争における定義』」

 

 

 

  0.99999999999……は、いつまでも「1」にはなれない

 

 

 

 

 楊「この数学的にも単純明快で反証の余地なき真実を、4000年という歴史を積み上げてきた中国拳法は今まで隠し通してきたのだ」

 

 フフフ

 

 楊「もっとも、私がそれに気づいたのが死んだ後だったというのもお笑い種ではあるが」

 

 

 

 

 烈「……それで?」

 

 楊「ん?」

 

 烈「それで、それに気づいただけで」

 

 

 烈「なぜガーゴイル10体を倒すという言葉が貴様の口から出てくるんだ?」

 

 

 楊「……そうだな」

 

 楊「それでは、そろそろお喋りも終わりにして、始めようか?」

 

 バッ――― 

 

 

 

 

 

 マイク「楊選手が両腕を上げました! やる気でしょうか!?」

 

 

  ククククク―――

 

 

 マイク「ど、どうしたんですか? キリク選手?」

 

 キリク「……実況者」

 

 

 

  アイツの【補正】能力は見ものだぜ?

 

 

 

 

 

 

 楊「―――そうだ」

 

 

 

 ―――パキ

 

 

 烈「!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ケンジ「……な」

 

 

  なんだ! ありゃあ!?

 

 

 レガロ「……こ」

 

 

  こんな【補正】能力もあるのかッ!?

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 楊「……魔拳、烈海王よ」

 

 パキパキパキパキパキ―――

 

 烈「……」

 

 

 

 マイク「これは!? 驚きを通り越して、美しさ、まで……」

 

 

 パキパキ、パキ……パキッ―――

 

 

 マイク「楊選手の体が、光り輝くダイアモンドに変化したァ!?」

 

 

 

 

 

  私はこの地で「1」を手に入れたぞッッッ!!!

 

 

 

 




『金剛拳』完成ッ!?


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第二十話 「夢だった」

昨日は投稿できなくてすいません……

ちょいと忙しくなりまして……

お詫びに今日は二本この後も上げたいと思いますので、それで勘弁してくれいッ!


 楊「―――どうだ、烈海王よ」

 

 楊「この自然の中で完成された最硬の物質によって構成された肉体……」

 

 

 

 ―――私が幼少期の頃、父の他愛もない雑談の中で知った

 

  

  

 「鉛筆の芯」と「ダイアモンド」という見た目にはひどくかけ離れたものが

   

 

  実は同じ原子で構成されているという驚愕の事実

 

 

 

 『鉛筆の芯に思いきり力を加えればダイアモンドが出来る』という

 

 都市伝説じみた父の言葉を信じ、修行の傍らに黒鉛を握り続けた日々―――

 

 

 

 

  当然、そんなものは出来るはずもなく……

 

 

 

 

 それもそのはず―――

 

 

 もし、通常の炭素からダイアモンドを作ろうとした場合に必要なエネルギー

 

  

 

  およそ10万hPa分の高圧力と、1600℃という超高温

 

 

 

 もはや人体に可能な域をはるかに超える―――

 

 

 その圧倒的なエネルギー量が、地底深くで凝縮した結果生まれた存在

 

 

 

  それが『金剛石』ッッッ!!!

 

 

 

 楊「中国拳法『たかが』4000年」

 

 楊「ダイアモンドが地中深くにて形作られた途方もない年月に比べれば」

 

 

 

  私たち、いや、君たちが妄信している中国拳法の歴史は生ぬるいッ

 

 

 

 楊「そして、この超えられない圧倒的な差は既にこの世に生まれ落ちたときに決められているのだよ」

 

 楊「美しく硬質なダイアモンドになる『Ⅽ』と、黒ずんで脆い黒鉛になる『Ⅽ』のように」

 

 楊「強者となるべくして生まれる『人』と、それに虐げられる存在として生まれる『人』」

 

 

 楊「悲しいかな、私は以前の世界では後者だった」

 

 楊「―――しかし」

 

 

  転生したこの世界で、私は『強者』として生まれ変わったのだよッッ!!

 

 

 (…………)

 

 

 ス―――

 

 烈「……?」

 

 

 

 マイク「どうしたんだ楊選手?」

 

 マイク「まるで自らの体を差し出すように烈選手の方へ近寄っていくぞ?」

 

 

 

 楊「……烈海王」

 

 楊「見たところ、君は先ほどから【補正】能力を使っていないように見えるが」

 

 楊「何かあったのかね?」

 

 烈「……」

 

 烈「私には【補正】能力がない―――それだけだ」

 

 

  ハハハハハッッッ

 

 

 楊「はったりはよしたまえ」

 

 楊「私の経験上、どんなに元の世界で弱かった人間でも」

 

 楊「なんらかの【補正】能力か【補正】武器は必ず持っていた」

 

 楊「君ほどの実力の持ち主だ。どんな【補正】を持っているのか少し期待したが……」

 

 

 楊「―――まぁいい」

 

 ガキンッ

 

 楊「どうだ? 一発殴ってみては?」

 

 烈「!?」

 

 

 

 マイク「こ、これは、明らかな挑発だぁ!?」

 

 マイク「楊選手、打ってみろといわんばかりにその胸を差し出しますッ!」

 

 

 

 楊「正直、私も少し気になるのだよ」

 

  

 

   『魔拳』烈海王が金剛石にどれだけ戦えるのかッ!?

 

 

 

 楊「完全な金剛の五体を得た私と【補正】を使わない君とでは、戦力に差がありすぎる」

 

 

 楊「遠慮はいらぬ―――」

 

 

 

  存分に叩き尽くし給えッッッ

 

 

 

 

 烈「………」

 

 烈「…………………」

 

 烈(………学ばないな、貴様も)

 

 

 楊「―――何?」

 

 烈「楊よ。先程、貴様は中国拳法における象形拳・形意拳が『模倣』であると言ったな?」

 

 烈「確かに、これらの拳派は自然界に存在する動きを取り入れるという点で、『模倣』と言えなくもないだろう―――」

 

 グググ―――

 

 

 

 マイク「れ、烈選手が拳を構えるッッ!」

 

 マイク「あのダイアモンドの体を持つ楊選手に対して、果敢にも攻撃の構えを見せておりますッッ!!」

 

 

 キリク「フッ、馬鹿な中国人だ」

 

 キリク「ダイアモンドはこの世界の中でも屈指の高度を誇る物質の一つ」

 

 キリク「俺の『物体を確実に切断する』【哭閃剣】なら造作もないが、人間の―――しかも【呪文】も何も使わない素手では、傷すらも………」

 

 

 

 

 破ッッッッ!!!!

 

 

 バキバキバキッッッ

 

 

 楊「!?」

 

 楊「な、なん……だと!?」

 

 

 

  キサマは中国武術を嘗め過ぎたッッッ

 

 

 烈「『模倣』だと? 馬鹿を言うなッッッ!!!」

 

 烈「象形拳・形意拳とは、『自己を自然に近づける』ものではなく、『自然を自己に取り込む』もの」

 

 烈「貴様のように、既に完成形が見えているものを目指すことに何の意味があるものか」

 

 

 ブンッ

 

 バキッ

 

 

 楊「く、くわ………」

 

 マイク「あ、顎が、楊選手のダイアモンドの顎が、砕けてしまいましたッッッ!!!」

 

 

 烈「貴様は金剛石が人間には製造が不可能という話をしていたが」

 

 

  実は天然ダイアモンドを模して造られた人工ダイアモンドの方が

 

  物質的な強度ではすべからく上回るという事実

 

 

 烈「そもそも、真に天然の金剛石はたいして美しくも強固ではない」

 

 

 

  「人」が砕き、削り、磨くからこそ輝くもの

 

 

 烈「楊。この世界で鍛錬を積まなかった貴様の五体は、見せかけだけのもの」

 

 

 

 

  ―――然るに

 

 

 

 

 ヒュンッ

 

 

 ダダダダダダダダダダダダダダアダダダダダダダダダダッッッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

  私が『研磨』してやろうッッッ!!!

 

 




烈の怒りの連撃、炸裂ッッッ!!!


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第二十一話 「打○○完成」

もうこれがやりたかっただけ。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ―――

 

 楊「ぐがががが―――」

 

 烈「破ァァァァッッッ!!!」

 

 

 

 (……………………)

 

 

 

 ―――武器も能力も何も持たない男が

 

 

 

  長さ2mにもなる巨大なダイアモンドの体を持つ【補正】能力を持つ超人に対し、

 

  

  『ただ』殴り、蹴り続けるという異様な状況

 

 

 

 ―――闘技場の人間

 

 

 魔導士・転生者関わらず全ての者が目の前の光景に驚愕し、口を閉じる。

 

 

 

 ガガガガガガガガガ―――

 

 

 

 烈が楊を殴打(?)する音以外一切の音は許されず、

 

 

 

 ―――ゴクリ

 

 

 「「………………」」

 

 「///」

 

 

 その空間では、生唾を飲み込む音さえ発するのを憚られる………

 

 

 

 

 ―――そんな中、

 

 

 烈は楊への怒りの傍ら、長年の悲願達成の悦びを感じていた

 

 

 ダダダダダダ―――

 

 

 烈(………楊よ)

 

 烈(貴様は性根こそ腐り切り、およそ海王を名乗るのには到底かなわぬ存在になり果ててしまったが)

 

 烈(唯一、兼ねてからの私の願いを叶えてくれたという事については、貴様に感謝せねばあるまい)

 

 

 

 ―――『打岩』

 

 

 頑強な岩を己の五体の身で粉砕研磨し

 

 

 完全な球体にすることで一人前の拳法家の証とされるこの鍛錬…………

 

 

 通常の拳法家では石を削ることすらやっとであり、

 

 

 直径15㎝の見た目も球体とはいいがたいようなものでも、何十年という歳月がかかるといわれている―――

 

 

 

 

 

  足りぬッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 そう、何度思ったことか―――

 

 

 その思いはやがて、中国国内の工場にて製造された巨大な鉄の塊を道場まで取り寄せるに至り、

 

 

 遂には、中国某所で発見された黒曜石にまで手を出した―――

 

 

 

 「………」

 

 「………こんなものか」

 

 

 

 

  それでもなお、私の功夫を試すものとして満ち足りないという悲しい現実

 

 

 

 

 そこである時ふと思った。

 

 

 

 

 もし、手つかずの巨大な金剛石の塊がこの世に存在したら?

 

 

 もし、あらゆる物質の中で最強の高度を誇る巨大な物質が、目の前に現れたら?

 

 

 

 私は、果たしてこれを球にできるだけの力があるのだろうか…………?

 

 

 

 

 

 烈(この時は、非現実的な夢物語として胸に奥に留めておいたはずだったが)

 

 烈(現実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。まさかこのような好機が巡ってくるとはな……)

 

 

 ―――そんな烈に去来した静かな悦びとは裏腹に

 

 

 

 ダダダダダダ―――

 

 

 マイク「楊選手の体が……烈選手の数多の連撃に押されるようにして」

 

 マイク「いや、烈選手の拳や足技のの数々に持ち上げられるようにして、宙に浮かび上がっていきます………」

 

 マイク「―――というか」

 

 

  あれは、もう人の体と言えるのかッッッ!?

 

 

 

 ―――その攻撃は苛烈さを増し、

 

 

 

 烈「―――しかし」

 

 

 

 スッ―――

 

 

 

 ―――遂に、その動きを止めたときには

 

 

 

 ゴトッ

 

 コロコロコロコロ―――

 

 

 烈「フッ」

 

 

 

  案外、「柔い」ものだな。金剛石とは…………

 

 

 

 

 

 (……………………………………………………)

 

 

 マイク「―――なっ」

 

 キリク「………」

 

 

 

 レガロ「………信じられない」

 

 ラン「………私も」

 

 ミネルバ「………それ、言うの今日何回目?」

 

 ケンジ「………これから飽きるほど言うことになるさ、オッサンの戦いを見ていれば」

 

 

 

 

  烈海王ッッ!! 

 

 

  異世界の地にて打『金剛(ダイアモンド)』達成ッッ!!

 

 

 

 




コイツに出来ないことなどないッッッ!!!


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第二十二話 「やればできる」

久しぶりに解説者の登場です。


 コロコロコロコロ―――

 

 ゴトッ―――

 

 

 烈の連撃を受け、すっかり沈黙した楊「だったもの」……

 

 

 それは、ちょうど大の大人が体育座りでうずくまったような

 

 直径80㎝位の大きさを保持しながら闘技場内を転がり、

 

 

 そして、壁にぶつかって静止した―――

 

 

 

 それらの事実が意味するところは

 

 

 傾斜0.1度未満のこの闘技場で、楊、もとい金剛石の球体が「転がる」という

 

 

 

 烈による完璧な『打金剛』の完遂を意味する―――

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ギルドハウス ~マギカリーゼ支部~ 所属

 

 下級魔導士 エリク・マラクソン

 

 当時、その闘技場設立以来の歴史的瞬間を闘技場内客席にて目撃していたこの男は語る―――

 

 

 

 「………あの時のことを覚えているかだって?」

 

 

 エリク氏が乾いた笑い声をあげる。

 

 

 「覚えるも何も、忘れようとしても忘れられないよあんな光景は」

 

 

 そう言うと、真剣な顔つきになってエリク氏は話を続ける。 

 

 

 「いいかい? 俺たち魔導士はね、昔はそれはそれは尊敬されていたそうだよ」

 

 「俺のおじいさんの代なんかは、ギルドハウスの仲間内でニンフを討伐した日になんかは町中お祭り騒ぎだったらしい」

 

 「その中でも【一等上級魔導士】。この人たちはそれはもう大変な尊敬と敬愛の眼差しを国中の人々から集めていたとよくおじいさんは言っていたよ」

 

 

 ―――国内有数の魔導士学校での血のにじむような訓練

 

 ―――何千冊にも渡る書物の読破によって得た魔道への豊かな教養

 

 ―――そして、なにより魔道を志す者としての誇りと高潔さ

 

 

 「郊外の末端地域や魔法生物の住む区域と国との境界で、ガーゴイルなどの危険生物から命を懸けて俺たちを守り、日々強くなることへの努力を怠らない彼らの姿は、マギカリーゼに住む少年たちの憧れの存在だった……」

 

 

 

 

  しかし、今はそんな魔導士も潰えた―――

 

 

 「原因は至極単純、転生者という生まれながらにして【補正】という能力を持つ人々の増加だよ」

 

 

 

 ―――古くからの歴史を持つ闘技場で

 

 ―――英雄と呼ばれた魔導士たちが

 

 ―――訓練も何もしていない【補正】能力を持つ転生者たちに為す術なく破れていく

 

 

 

 「それ以降、マギカリーゼにおける魔法生物討伐や闘争の主人公は転生者たちに取って代わられ」

 

 「魔道の鍛錬がもはや無意味であることを知った魔導士たちのレベルは極端に低くなってしまったんだ」

 

 「俺たちはそれが当たり前になっちまったけど、当時の魔導士はどんな気持ちだったんだろうな」

 

 

 

  所詮生まれながらの化け物には、生まれながらの化け物しか敵わない―――

 

 

 

 「『目には目を歯には歯を』とはよく言ったものだ―――」

 

 

 

 

 

  ―――そんな俺たちが、闘技場で何を見たと思うッ!?

 

 

 

 

 「およそ俺を含めた魔導士たちが諦めていた『鍛錬』による魔道力の強化によって生来的強者を倒そうという目論見」

 

 

 「―――それを」

 

 

 「【補正】能力も魔道も使わずに! 己の五体のみで! ダイアモンドを球体にしてみせたあの転生者は、再び蘇らせたんだ!」

 

 

 

  生まれながらにして完成された「1」を

 

  己の鍛え抜かれた拳のみで「(ゼロ)」に還したッッッ!!!

 

 

 

 

 「………気づいたら立ってたよ。オレは」

 

 「そしてね―――」

 

 

 

 

 

  拝んでたんだよ―――手を合わせてさ……

 

 

 

 

 

 「驚いたのはそれだけじゃねぇよ」

 

 

 

  

 ―――周りを見渡してみると、

 

 

 

 「………」

 「………」

 「………」

 

 

 

 

  同じように、みんな拝んでんだッ! こう両手を合わせて!

 

 

 

 「世界にはいろんな宗教があるっていうけどさ……」

 

 「やっぱ、人間って本当に心から信じられるものに出会えた時は、こう手と手を合わせちまうんだなって痛感したよ」

 

 

 「―――でも、その表情は様々でさ」

 

 

 

  感涙にむせび泣く魔導士もいれば―――

 

 

  ただぽけーとしてる闘技場で敗れた転生者もいたり―――

 

 

  あぁ……なんか呪文みたいなもん呟きながら拝んでる老婆もいたな―――

 

 

 

 「それでも、そん時みんな心の中で思っていたことはさ、きっと同じだと思うよ―――」

 

 

 

 

   嗚呼、努力や訓練を重ねれば、人って何でも出来るんだって!

 

 

 

 「それからかな、オレが魔道の訓練を毎日怠らずにやるようになったのは―――」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ―――異様な光景

 

 

 闘技場内のあちらこちらから聞こえる嗚咽の音

 

 

 そして、闘技場中央に鎮座する一人の転生者……

 

 

 

 彼らの胸に去来したはちきれんばかりの感動は

 

 

 

 ―――勿論燦然と輝く金剛石の美しさなどではなく

 

 

 ―――または、烈海王の持つ「強さ」そのものでもなく

 

 

 

  鍛錬によって得られる人の強さに限界はないという「可能性」―――

 

 

 

 そこから来ていることは、もはや言うまでもあるまい……

 

 

 

 

 

 

 「くだらないね」

 

 

 スタッ

 

 

 烈「………」

 

 キリク「くだらないよ、烈選手」

 

 

 ガンッ

 

 ゴロゴロゴロゴロ―――

 

 

 キリク「こんな塊を作ったところで、一体何が図れるというのか……」

 

 キリク「拳の頑丈さ? 技の練度? 破れない皮膚の厚さ?」

 

 

 

  全て本当の強さには必要のない不純物なんだよッッ!!

 

 

 

 キリク「その証拠に、ほら」

 

 

 斬ッ

 

 

 スパッ

 

 バカリ

 

 

 キリク「こんな塊、俺の【補正】武器で真っ二つだ、はは」

 

 

 

 

 (……………………)

 

 

 

 ―――そうか

 

 

 

  まだ、こいつがいたのか………………

 

 

 

 

 

 烈「……それで」

 

 烈「そろそろ、お相手してくれるのかな?」

 

 烈「キリク君?」

 

 

 

 ビキビキビキ―――

 

 

 

 キリク「……あぁ」

 

 キリク「いいぜ―――」

 

 

  オレがてめぇらの幻想ごとぶった切ってやるよッッッ!!!

 




真打登場ッッッ!!!


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第二十三話 「異変」

オリジナル要素がどんどん入っていく!
(いまさらですね)


  「………」

 

 烈「………………」

 

 

 シュュュュューーーーーー

 

 

 

 ―――闘技場地下 烈永周選手 個別控室

 

 

 

 烈(……そろそろ一時間か)

 

 

 烈(【ドラゴン】のクラスマスターの提案によって設けられた一時間の準備猶予時間)

 

 烈(別段やることもなく、ただ站椿をとりながら瞑想をしていたが)

 

 

 

 

  ―――一体どういうことだ?

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 ―――遡ること約一時間前、

 

 

 キリク「………とは言ってみたものの」

 

 キリク「烈選手、君はガーゴイル、そして楊選手との連戦で体力を消耗している」

 

 キリク「そのような状態で僕との対戦に望むのは、あまりにも酷すぎる」

 

 烈「私は一向に構わんが?」

 

 キリク(…………イラッ)

 

 キリク「君が良くても僕が良くないんだよ。魔法生物ならまだしも、人間相手に弱っている者をいたぶるというのは僕の流儀に反する」

 

 キリク「それに、後からそれを言い訳にして勝負の結果をうやむやにされたり」

 

 クルリッ――

 

 キリク「どうやら君のファイトに傾倒した様子の闘技場内観客の皆さんによる、勝負の不公平さから来る猜疑の視線を以降受けることになるのは僕としても避けたい」

 

 キリク「よって、これより闘技場内の整備を含め一時間の休憩を取りたいと思う」

 

 キリク「これは現【ドラゴン】クラスマスターである僕の決定事項だ。君に異論をはさむ権利はない、いいね?」

 

 烈「……了解した」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ―――闘技場地下 キリク選手 個別特別控室

 

 

 女魔導士1「―――あの、今なんて?」

 

 キリク「だ、か、ら」

 

 

 キリク「強化魔法を俺にかけろよって言ってんの」

 

 

 女魔導士1「………」

 

 女魔導士2「………」

 

 女魔導士3「………で、ですけど」

 

 キリク「ん?」

 

 女魔導士3「確か……闘技場規定では出場選手自身以外による選手への強化魔法の使用は禁止されていたはずでは?」

 

 キリク「そうだけど?」

 

 女魔導士2「そうだけどって……」

 

 

 キリク「―――おい!」

 

 女魔導士2(ビクッ)

 

 キリク「今口答えしたよな? お前」

 

 女魔導士2「く、口答えってそんな……」

 

 ヒュッ

 

 スパッ

 

 プシャアーーー

 

 女魔導士2「………………ッ」

 

 女魔導士1「ゆ、ユズちゃん!?」

 

 

  口答えするんじゃねえよアバズレがッッッ!!!

 

 

 キリク「いいか? お前らは所詮自分達だけじゃガーゴイル一匹すら倒せないザコ人種なんだよ」

 

 キリク「転生して【補正】武器を持った俺とは人間としての格が違う」

 

 キリク「そんな奴が俺に対して口答えすることが許されると思ってんの?」

 

 

 女魔導士1「……だったら」

 

 女魔導士1「だったら私たちの強化魔法なんて必要ないじゃないですか」

 

 女魔導士1「自分の手だけであの烈選手に挑めばいいじゃないですか!?」

 

 女魔導士3「ちょ、ちょっと!?」

 

 

 キリク「………………」

 

 ガッ

 

 女魔導士1(!?)

 

 キリク「何勘違いしてんの?」

 

 キリク「俺がお前らを必要としてるんじゃねぇよ」

 

 

  お前らが俺たち転生者のことを必要としてるんだろ?

 

 

 キリク「お前らの魔道力では到底倒せない魔法生物を倒し」

 

 キリク「その補佐として、お前らの強化魔法をわざわざ使ってやってるんだよ。分かる?」

 

 キリク「それに―――」

 

 キリク「今回強化魔法を使うのも、別にアイツに勝てそうにないとか言う陳腐な理由じゃない」

 

 

  圧倒的な勝利ッ!

 

  完膚なきまでの勝利ッ!

 

 

  生まれ持った才能の勝利ッ!

 

 

 キリク「その手伝いをさせてやってるんだ。むしろ感謝してほしいね」

 

 

 

 女魔導士2(……無茶苦茶よ)

 

 女魔導士1(堪えて! ユズちゃん!)

 

 女魔導士3(今までだって散々耐えてきたじゃない!)

 

 女魔導士2(…………)

 

 

 

 キリク「ほら、分かったらさっさと詠唱してよ」

 

 三人(………………)

 

 

  【腕力増加】

 

  【脚力増加】

 

  【肉体強度上昇】・・・・・・・・

 

 

  烈選手、ごめんなさい………………

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 時は戻り、現在―――

 

 

 闘技場地下 烈永周選手 個別控室

 

 

 

 ギィ―――

 

 烈「!」

 

 ケンジ「おっさん、そろそろだぜ~」

 

 ケンジ「てか、アッツ! そして湿気スゴッッ!?」

 

 ケンジ「おっさん! 汗まみれでなにしてんだよ!? そろそろ試合始まるぜ?」

 

 烈「……あぁ。済まないな、ケンジ君」

 

 スゥ―――

 

 

  発ッ!!!

 

 

 ビシャビシャビシャビシャ――――

 

 

 ケンジ「………………」

 

 

 ポタポタポタ……………

 

 

 ケンジ「……きたねー」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 闘技場 選手入場口付近 通路

 

 ケンジ「お~い、みんな~」

 

 ラン「あ! 遅いですよ! 烈さんは呼んできてくれましたか?」

 

 ケンジ「あぁ、もうすぐ来るよ……て、そっちの二人はどうした?」

 

 ラン「そ、それが」

 

 

 ミネルバ「………………」

 

 レガロ「………………」

 

 

 ラン「二人共15分前くらいからずっとこの調子で……」

 

 ケンジ「オイ! 二人ともどうしたんだよ!? 顔真っ青じゃねぇか!?」

 

 

 レガロ「……!」

 

 ミネルバ「近づいて来る!」

 

 レガロ「えぇ! 先刻から感じた気配の主で間違いありません!」

 

 

 ケンジ、ラン「?」

 

 ケンジ「オイオイ……ホント顔真っ青にしてどうしたんだよ」

 

 トタ――トタ――

 

 ラン「あ! 烈さん! 試合そろそろですよ!」

 

 

 

 烈「あぁ、向かおうか」

 

 

 

 

 レガロ、ミネルバ「!?」

 

 

 

 

 

 ―――い……

 

 

  一体どういう事なんだッッッッッッ!!!???

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 マイク「……それでは、笑っても泣いても、これが本大会最後の試合です」

 

 

 

 烈「………………」

 

 キリク「………………」

 

 

 

 マイク「前代未聞の【ドラゴン】クラス挑戦、それを転生者でありながら【補正】能力でなしえた謎の中国拳法家 烈永周選手」

 

 マイク「その挑戦を受けるは……」

 

 マイク「僅か一太刀によって決着した【ドラゴン】クラスマスター挑戦後、一度もその座を他に譲ることなくその座に君臨し続ける 二刀竜鬼 キリク選手」

 

 

 マイク「もはや、これは彼らの身の対決ではなく」

 

  

   【補正】 VS 非【補正】

 

 

 マイク「それを代表した戦いといえるでしょう……」

 

 

 

 マイク「―――それでは、蛇足はこのくらいにして」

 

 

 スッ―――

 

 チャキ―――

 

 

  レディイッッッッッファイッッッッッ!!!!!

 

 




最終試合、遂に始まるッッッ!!!


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第二十四話 「vsキリク①」

最近あんまり自分で書いた奴見返せてないので、前回のような間違い・誤字脱字等あればぜひ教えてくださいな……
(人任せでごめんなさい)

あと書いててなんですが、フラグビンビンですねこれ


 烈「まずは小手調べ―――」

 

 烈「現【ドラゴン】クラスマスターとしての実力、見させてもらう」

 

 バサッ

 

 

 マイク「烈選手! 先ほどの対ガーゴイル戦のように衣服の下に新たなクナイを仕込んでいたッ!」

 

 

 ニギュ

 

 スッ―――

 

 

 キリク(……来たか)

 

 キリク(近距離戦では、まず俺に勝ち目はないと踏んで先程見せた苦無を持ち込むことは既に見切っていた)

 

 キリク(破壊力は確かに桁外れだったが、俺の【補正】武器なら剣先に触れた瞬間に斬ることが出来る……)

 

 チャキン―――

 

 キリク(問題は苦無のスピードに対応できるかどうかだが、手下の女魔導士共に身体強化魔法全般、それと念のために【動体視力増強】、【飛び道具耐性】のエンチャント)

 

 キリク(まぁ、これだけあれば問題ないだろうな……)

 

 

 シュッ―――

 

 

 キリク(あとはアイツの苦無が切れるのを待って、近距離戦に持ち込んでジエンドってところ―――)

 

 

 

 ギュインッ!

 

 

 

 キリク(!?)

 

 キリク(て、速―――)

 

 

 ブワッ

 

 カシュンッ!

 

 

 ゴギャゴギャンッ

 

 

 

 マイク「キリク選手! 寸でのところでクナイを防ぎましたッ!」

 

 マイク「速すぎてよく見えませんでしたが、どうやら烈選手の手から放たれたクナイはキリク選手の剣先に触れた後切断され」

 

 マイク「その後の衝撃音から察するに、キリク選手の背後の壁に当たって砕けたと思われますが―――」

 

 

 マイク「!」

 

 マイク「ご、ご覧ください! キリク選手の背後の壁ッ!」

 

 

 パラパラパラ―――

 

 

 マイク「ま、まるで銃弾が炸裂したように砕けていますッッ!!」

 

 

 

 キリク(銃弾だと? 冗談じゃねぇ!)

 

 

  まるでキャノン砲一発分のエネルギー量が込められているようなイメージッッ!!

 

 

 キリク(物体切断の際、抵抗や摩擦という概念が無い俺の【哭閃剣】だから何とかなったが)

 

 キリク(普通の剣だったら苦無の勢いに押されて腕ごと吹っ飛ぶレベルのこの威力ッ!)

 

 キリク(速さも尋常じゃないが、さっきの苦無と比べて強化されているように感じるのは気のせいか!?)

 

 

 烈「…………」

 

 烈「……この程度は当然として」

 

 

 ススス―――

 

 

 烈「これならどうかな?」

 

 

 キリク「!?」

 

 キリク(そ、そうだ……)

 

 

  アイツが持ってるの、一本だけじゃないじゃんッッッ!!!

 

 

 

 シュシュシュシュシュシュ――――

 

 

 ギュギュギュギュギュギュンッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 マイク「再び烈選手の無数のクナイがキリク選手に襲い掛かるッッ!!」

 

 

 

 キリク「う、うおおおぉーーーー!!!」

 

 

 

 ブンブンブンブンブンブン―――

 

 

 カシュカシュカシュカシュンッ!―――

 

 

 

 キリク(し、しかも全部俺の体にの部位を捉えてやがるッ!)

 

 キリク(はじかないくていい苦無がねぇッ!?)

 

 

 

 キリク「くそがぁーーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 シュン――――

 

 カシュンッ!

 

 

 烈「………スゥ」

 

 

 キリク「ハァハァハァ………………」

 

 

 マイク「―――烈選手のクナイ攻撃が終わった今、二人の選手の様子を今一度見てみますと」

 

 

  果たしてどちらが挑戦者でどちらが【ドラゴン】クラスマスターなのでしょうかッ!?

 

 

 マイク「あの怒涛のクナイ攻撃を受け切ったキリク選手も流石と言えますが、問題は近距離戦に絶対の強さを持つキリク選手に近寄る隙を一切与えず」

 

 マイク「あまつさえ歴然たるスタミナ差を魅せつけた烈選手がッ! 一歩先んじているといわざるを得ませんッッッ!」

 

 

 

 キリク「て、てめぇ……」

 

 

 烈「―――あのクナイの攻撃を全てかわし、一切肉体へのダメージを受けることなくさばききったのは、流石【ドラゴン】クラスマスターといったところだが」

 

 

 烈「……どうしたのかな? 息が上がっているようだが?」

 

 

 キリク(ピキピキピキ―――)

 

 キリク「き、汚ねぇぞてめぇ!」

 

 烈「―――何が汚いのかな?」

 

 キリク「武術家なら武術家らしく拳で戦えよッ!?」

 

 烈「……………」

 

 

 プフ―――

 

 

 烈「汚いも何も、これも立派な『中国拳法』なのだがな……」

 

 

 烈「先の黄選手然り、武器術やそれに付随する暗器術は『中国拳法』立派な継承武術の一つ」

 

 烈「それを、こともあろうに【補正】武器とやらに頼っている君にいられる筋合いはないと思うのだが……」

 

 キリク「こ、これは……」

 

 

 烈「『自分の強さ』かね?」

 

 

 キリク「……!」

 

 

 烈「若いな……君は」

 

 

 烈「まるで日本に来る前の私を見ているようだ……」

 

 

 

  『自分』の強さを信じ―――

 

  『力』が己に付き従っているという―――

 

 

 

   なんとも愚かな思い上がりッッッッッ!!!!

 

 

 

 烈「真の『強さ』とは最初から備わるものではなく」

 

 烈「数多の鍛錬、師からの継承、そして強者との死闘によって得られる『賜りもの』―――」

 

 

 フフ―――

 

 

 烈「もっとも、『中国武術』、そして己の強さの証明のため死に絶え、こうして転生した私が言えた義理ではないが……」

 

 

 

 キリク「……お喋りはそこまでだ」

 

 烈「………………」

 

 キリク「御託を並べてるようだが、あんたが頼りにしていたクナイが一切のダメージを与えられず全て消費されたのは痛いんじゃないのか?」

 

 

 烈(……別にあれは小手調べのつもりだったのだが)

 

 

 

 烈(しかし……確かに先ほどクナイを投げたときに感じた、自分の感触と実際の攻撃の威力との差に生じる何らかの違和感)

 

 烈(この地に転生した際、小鬼討伐の時にも気づいたこの感触……)

 

 

 

 

  これはいったいどういう事なんだッ?

 

 

 

 キリク「クク…黙っているという事は、どうやら図星みたいだな」

 

 キリク(そうだ、近距離なら、俺の【哭閃剣】ならどんな奴でも敵うはずはない……)

 

 キリク(何をビビっていたんだ俺は……自分ながら恥ずかしい)

 

 

 キリク「こないならこっちから行くぜッ!」

 

 

 ―――ダダダッ

 

 

 マイク「キリク選手! 体力を回復したのか!? クナイを使い切った烈選手に迫るッ!」

 

 烈「………!」

 

 

   正面から叩き斬るッ! それで終わりだ!

 




烈、万事休すッ!?


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第二十五話 「vsキリク②」

書いていたら日を跨いでしまった………遅れてすいません

余談ですが感想コメントを書いてくださっている方々、本当にありがとうございます!

最初の方は返信できていたのですが、大変喜ばしいことに感想の数も増えてきて、反面返信を中々できていないのが心苦しい限りです………

でも、感想はにやにやしながら全部しっかり見させてもらっているので、色々な感想待ってます!

蛇足失礼しました。本編です。


 マイク「キリク選手ッ! クナイを使い果たした烈選手へ切り込んでいくッ!」

 

 

 ダダダダッ

 

 

 キリク(……どんだけ体を鍛えても、所詮は【補正】なしの生身の肉体)

 

 

 キリク「……ぶった切って終わりだッッ!!」

 

 

 烈(……!)

 

 

 シュタッ―――

 

 

 ブンッ!

 

 

 

 

 キリク(!?)

 

 

 キリク「き、消えた!?」

 

 キリク「あ、あいつ、どこへ行きやがった!?」

 

 

 

 烈「―――ここだ」

 

 キリク(!)

 

 キリク「なッ……!?」

 

 

 

 マイク「な、なんという神業だッ!?」

 

 マイク「乗っている! 烈選手がキリク選手の払ったその剣に!」

 

 マイク「およそ、人間業とは思えませんッ!」

 

 

 

 キリク「て、てめぇ~~~!」

 

 

 ヒュッ―――

 

 

 烈(……)

 

 

 ブンッ

 

 シュタッ―――

 

 

 マイク「か、空振り! 烈選手ッ、双剣使いであるキリク選手のもう一本の剣も艶やかにかわし、地上に鳥のように降り立ちますッ!」

 

 

 キリク「舐めんなぁッッ!!」

 

 

 ブンブンブンブンッッッ!!!

 

 

 烈(……)

 

 

 ヒラリヒラリヒラリ―――

 

 

 マイク「よ、読まれているッ!」

 

 マイク「キリク選手の怒涛の剣撃も、烈選手に完全に読まれているッッ!!」

 

 マイク「本来であれば目にもとまらぬ超高速の太刀筋も、こうなっては子供のチャンバラごっこのように見えてしまうのは私だけでしょうかッ!」

 

 

 烈(…………)

 

 烈(……あまりにも酷過ぎる)

 

 烈「もしや……」

 

 

 ダンッ

 

 フワリ

 

 

 シュタ―――

 

 

 マイク「烈選手、華麗なバックステップでキリク選手の間合いからいったん距離を置きます!」

 

 

 キリク「おい! 逃げんのかよ!?」

 

 烈「キリク選手……もしや、君は剣の鍛錬をまともにしたことはないのではないかね?」

 

 キリク(!?)

 

 キリク「そ、それがどうしたんだよッ!?」

 

 キリク「必要ないからな、そんなもん! この剣ならなんでも切れるんだから!」

 

 烈「『この剣』なら、か―――」

 

 

 烈「……キリク選手」

 

 

  剣とはそんなに不便なものか?

 

 

 キリク「………は?」

 

 烈「剣が無くては人が切れないのか? 君は?」

 

 キリク「いきなり何言ってんだ、オマエ?」

 

 

 烈「―――いや」

 

 烈「正直、この戦いには万全を期して挑みに来たつもりだったのだが」

 

 烈「現状、あまりにも拍子抜けしてしまっている自分に私自身が驚いている―――」

 

 

 キリク「あ”!?」

 

 

 烈「―――『物体を確実に切断する』という【補正】を持つ剣」

 

 烈「その触れ込みに、それこそ前世で剣によって命を絶たれた私は……」

 

 

 

  心躍っていたッッ!! 

 

  あの時の経験を『活かせる』とッッ!!

 

 

 

 烈「……しかし」

 

 烈「実物を見てみるとどうという事はない……試合前に見たニンフのような感触」

 

 

 

  殺られる前に、殺れてしまう―――

 

  なんという退屈で救いようのない現実―――

 

 

 

 キリク「………………ッ!」

 

 

  

 ギリギリギリ――――

 

 ・

 ・

 ・

 

 ケンジ「……頭では想像できたが、実際に見るとやっぱり信じられないな」

 

 ケンジ「オレ達では、いや、マギカリーゼの全冒険たちが足元にも及ばなかった、あのキリクが」

 

 

  

  おちょくられているッ!

 

  けなされているッ! 

 

  失望されているッ! 

 

 

   一方的にッ!

 

 

 ラン「………慢心でも傲慢でもない」

 

 ラン「闘技場内の全ての人間が、それを頭だけではなく心からも理解できるほどの実力差―――」

 

 ラン(………………?)

 

 ラン「レガロ? ミネルバ? まだ具合悪いの?」

 

 

 レガロ「………………」

 

 ミネルバ「………………」

 

 

  勝てるわけないッ! あんな存在にッ!

 

 ・

 ・

 ・

 

 烈「宮本武蔵と立ち会ったことで、改めて身に染みて感じる―――」

 

 烈「剣の性能ではなく、剣を持つ者の技量によって生じる剣が放つ殺気」

 

 

 キリク(………な、何言ってんだこいつ?)

 

 キリク(宮本武蔵? 戦国時代に死んで転生してきたのかこの中国人?)

 

 

 烈「……確かに」

 

 烈「君が右手に持つその剣からは尋常ならざる危険な香りがするが」

 

 

 烈「肝心の君自身からはそれらが微塵ほどにも感じられない」

 

 

 

  そのような相手に何を『活かせ』というのかッッッ!!!

 

 

 

 マイク「………………」

 

 マイク「………お聞きいただけたでしょうか」

 

 マイク「烈士 烈選手―――その戦闘における熱き思いは」

 

 

 

  この国最強の剣士を相手に、未だ満たされておりませんッッッ!!!

 

 

 

 

 ブチブチ―――

 

 

 キリク「………ごちゃごちゃと」

 

 キリク「さっきから何を―――」

 

 

 ダンッ!

 

 シュンッ―――

 

 

 キリク(………え?)

 

 

 

 ぐわっ!

 

 

 バンッ―――!

 

 

 

 キリク(嘘………目の前………)

 

 

 ヒュン―――

 

 

 烈「カッ!」

 

 

 ダン!!!!

 

 

 キリク「ごがぁ!?」

 

 

 ビュオァァァ―――

 

 

 

 マイク「せ、正拳突き炸裂ぅ!?」

 

 

 

 ドザザザザザザザ――――――――

 

 

 

 マイク「そしてキリク選手の体が吹っ飛ばされ、まるで水切りの飛び石のように地面で跳ねた後、そのまま自身の入場口に吸い込まれるようにフェードアウトしてしまったぁ!!!???」

 

 

 烈「………キリクよ」

 

 

 クルッ

 

 

 

 

  【ドラゴン】クラスマスターの名を返上し、今一度剣の素振りからやり直せ

 

 

 

 




早くも決着ッ!?


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第二十六話 「vsキリク③」

烈vsスライムというメチャクチャな戦いを思いついて、早く書きたいと思っている今日この頃です。


 闘技場 選手入場口 (クラスマスター側)

 

 ゴホッ! ガ八ッ!

 

 キリク「ハァハァハァ……」

 

 キリク「―――く、くそが……」

 

 女魔導士1「き、キリク様、大丈夫ですか?」

 

 キリク「大丈夫に見えるか!? ア”ァ!?」

 

 女魔導士1「ひっ……」

 

 女魔導士2(……良いザマ)

 

 

 キリク(な、なんだアイツの拳の破壊力!?)

 

 キリク(こっちは全身強化魔法付与してんだぞ!? ガーゴイルとまではいかなくても正拳突き程度なら相手の拳の方が砕けるレベル……)

 

 キリク(それなのに、拳が砕けるどころかこっちが数十メートル吹っ飛ばされていい笑いもんだ!) 

 

 三人「………………」

 

 

 ギロッ

 

 

 キリク「何ぼさっとしてんだ!? 回復魔法だろ! 普通!」

 

 三人「…………はい」

 

 

 【治癒】

 

 

 ポワワワワ―――

 

 

 キリク「おい! 本当にいつも通りの強化魔法を付与したんだよな!?」

 

 女魔導士2「………言わなくてもわかるでしょう。いつも通り、キリク様の全身にもてる限りの魔道力で強化魔法をかけたわよ」

 

 女魔導士3「私たちの強化魔法に抜かりはなかったと思いますが……」

 

 キリク「てめぇ、それは俺が弱いから吹っ飛ばされたって言いたいのか?」

 

 女魔導士3「いえ、決してそのようなことは……」

 

 キリク「てめぇらの強化魔法が弱すぎるんだろうが! ったく魔道都市最強レベルの女魔導士三人が聞いてあきれるぜ!」

 

 女魔導士2(……強化魔法は私たちの専門外だから仕方ないじゃない)

 

 キリク「なんか言ったか!?」

 

 女魔導士2「……別に」

 

 キリク「チッ!」

 

 

 キリク(とは言ったものの、このままだとアイツを斬るどころか近づいただけでアウトだ)

 

 キリク(なんとかして、アイツの動きを止めれれば、はらわた切り裂いて即決着なんだが)

 

 

 女魔導士三人「………………ッ」

 

 女魔導士1(す、すごい……)

 

 女魔導士1(あんなに勢いのある打撃を正面から食らっているのに、内臓や人体的急所といった致命的な部位への損傷が全くない!)

 

 女魔導士1(けど骨折や打撲は体中にあるから、私たちの回復が無かったら再起不能……)

 

 女魔導士2(私たちの強化魔法が彼の打撃力を上回っていたから?)

 

 女魔導士2(―――勿論違う! 現に防御系の強化魔法は解けててコイツ自身にダメージはあるし、第一あんな破壊力は絶対に私たちの強化魔法で防ぎきれる訳ない!)

 

 

  ―――つまり、意図的に力を抜いていた!? あの状況で!?

 

 

 女魔導士3(―――それに、普通の打撃攻撃ならまず解除されることのない強化魔法の消滅……)

 

 女魔導士3(そして、試合開始前から他の二人も気付いているこの感じ……)

 

 女魔導士3(信じがたいけど、間違いない)

 

 

  彼は……烈選手は、恐らく―――

 

 

 キリク「おい」

 

 女魔導士3「!」

 

 女魔導士3「は、はい! なんでしょう?」

 

 

 (ニヤリ) 

 

 

 キリク「良~いこと思いついた」

 

 キリク「お前らの強化魔法、防御と脚力増強にだけ回せ」

 

 女魔導士3「そ、それでは、先ほどのような高速の剣技は使えないかと思いますが?」

 

 キリク「いいんだよ! 『剣自体の速さ』は!」

 

 キリク「要は、アイツとの距離を詰められれば問題ない―――」

 

 ・

 ・

 ・

 

 マイク「さぁ! さぁさぁさぁ!」

 

 マイク「もはや、雌雄は決したといえるでしょうッ!」

 

 マイク「キリク選手に一切の隙を与えずッ! 一太刀も浴びずッ! 一撃にて葬ったッ!」

 

 マイク「皆さんッ! 今日! この闘技場の歴史がッ! マギカリーゼの歴史が変わるのですッ!」

 

 マイク「【ドラゴン】クラス争奪戦ッ! その勝者は……」

 

 

  待ったッッッ!!!

 

 

 マイク「!?」

 

 烈「実況者、彼はまだやる気みたいだぞ―――」

 

 

 

 ズシャ―――

 

 キリク「そうだぜ? 勝手に終わらせてもらっちゃ困るなぁ? マイクさん?」

 

 

 マイク「な、なんと!?」

 

 マイク「選手入場口へ吹き飛ばされ、再起不能と思われたキリク選手がッ」

 

 

 

 マイク「無傷で生還しているッッ!!!???」

 

 

 

 キリク「あの程度でこの【ドラゴン】クラスマスターである俺が再起不能になるわけないだろ?」

 

 キリク「烈さんも、まさか勝ったとは思ってないですよね?」

 

 烈「………………」

 

 

 

  反則だッッッッ!!!!

 

 

 

 レガロ「キリク選手は明らかに反則を行っています!」

 

 ミネルバ「私も同じ意見よ!」

 

 ミネルバ「解説のマイクさん! キリク選手は間違いなく外部からの治癒魔法を受けていることは、不自然な彼の回復からも明白!」

 

 

 ミネルバ(本当は試合開始時から既に強化魔法も使っているのは薄々分かっていたけど、もしも下手に指摘して勝負自体がなくなることは、何より烈さんに対して申し訳なかった……)

 

 ミネルバ(でも、『一対一』の勝敗が決した今なら言えるッ!)

 

 

 ミネルバ「よって、この試合は―――」

 

 

 

 キリク「だからどうしたッ!?」

 

 

 

 ミネルバ「!?」

 

 キリク「それがどうしたんだ? 魔導士ミネルバ?」

 

 ミネルバ「ど、どうしたって……」

 

 

 キリク「―――いいか?」

 

 キリク「俺の存在はこのマギカリーゼにとって不可欠な存在なんだよ」

 

 キリク「この地域周辺における、およそ他の冒険者には手に負えない数々の危険魔法生物の討伐を今まで誰がやったと思ってるんだ?」

 

 キリク「この国の魔導士たちを誰が守ってきたと思ってるんだ?」

 

 

  当然なんだよッ! 魔導士が俺に使役することはッ!

 

 

 キリク「この国におけるおよそ全ての魔法は、俺の力そのものと言っても過言ではない」

 

 

 

 

 ミネルバ「…………ザ」

 

 

 ミネルバ「ザケんなッッッ!!! そんなもん通るかッ! この―――」

 

 

 バッ―――

 

 

 ミネルバ「!?」

 

 ミネルバ「れ、烈さん?」

 

 

 烈「―――もういい」

 

 烈「ミネルバさん……君が怒るのも無理はないが」

 

 

 烈「ここは一つ、私に任せてもらいたいッ」

 

 

 ミネルバ「烈さん……」

 

 

 

 キリク「ハイハイ。カッコいいねぇ烈さんは」

 

 キリク「そんなカッコいい烈さんだ。例え俺が魔法による支援を受けてたとしても」

 

 

 (ニタァ~)

 

 

 

 キリク「卑怯とは言うまいね?」

 

 

 

 烈「………………」

 

 烈「……かまわん」

 

 

  ある程度知りながらやっていたことだ

 

 

 キリク「!?」

 

 

 烈「およそ本人から感じられない強者の風格」

 

 烈「両手剣を使うには心もとない脆弱な肉体」

 

 烈「なにより、己の強さと【補正】武器の強さを混同し、あまつさえ自分以外の一切を弱者と断じるその傲慢さ」

 

 

 フフ……

 

 

 烈「【補正】あるいは魔道の力に頼るのはなんとなく目に見えていた……」

 

 烈「むしろ感謝せせねばなるまい。この世界における魔道の奥深さと多様さ……その片鱗を、少なくとも君は見せてくれたのだから」

 

 烈「―――いや、君ではなく、選手口で待機しているそちらのお嬢さん方と言うべきか」

 

 

 

 女魔導士たち(!?)

 

 女魔導士たち(気づいてたの? 私たちに?)

 

 

 

 ―――ダンッ!

 

 

 

 烈「謝謝ッ!」

 

 

 

 女魔導士たち(!)

 

 

 

 

 ―――長きに渡って忘れていた

 

 

 

  他者から己へと向けられる『感謝』と『尊敬』という崇高な感情

 

 

 

 それを受けた三人の女魔導士たちは…………

 

 

 

 「「「……う、うぅぁ……」」」

 

 

 

 苦痛や屈辱、悲哀によってしか流せなかった液体が瞳からとめどなく押し寄せ、

 

 枯れ切ったと思われたその液体が、実はこんなにも体内に存在していたことに驚きを隠せないでいた――――――

 

 

 

 

 キリク(おい)

 

 三人(……!)

 

 

 ―――しかし、それも束の間

 

 

 キリク(分かってるよな? 指示通りにやれよ?)

 

 三人「………グスッ…ヒク……」

 

 

 

 キリク(……やらなかったら)

 

 

 

  この試合が終わった後どうなるか、分かるよな?

 

 

 

 三人(ビクッ!)

 

 

 三人(……コクリ)

 

 

 

 キリク「……フン、流されやがって」

 

 烈(……?)

 

 

 キリク「……さ~て」

 

 

 

  仕切り直しといこうか?

 




なにを企むのかキリクッ!?


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第二十七話 「vsキリク④」

色々言われてるけど、アニメ地上波放送でバキ好きになる人が増えるといいなぁ―――


 マイク(……残念ながら)

 

 マイク(キリク選手の言っていることは大方間違いではない)

 

 

 マイク(近年の魔法生物の凶暴化・繁殖区域の拡大、それに伴って増大したギルドハウス並びに所属冒険者たちへの討伐クエスト)

 

 マイク(そのような状況の中でもずば抜けた成績を残していたのは他でもないキリク選手を始めとした転生者たちであるのは周知の事実……)

 

 マイク(王族とのつながりもあると噂されるキリク選手―――俺に彼の反則を指摘し、試合を無効にする判断権は存在しない)

 

 

 マイク(……故に、烈選手の仲間と思われる女魔導士には申し訳ないが、この試合はキリク選手がいかなる反則を行おうと、続行せざるを得ないッ)

 

 

 

 マイク「―――それでは、キリク選手も試合続行可能という事で、続けさせてもらいたいと思います……」

 

 

 ミネルバ(!?)

 

 ミネルバ(くそ! 解説も見てみぬフリかッ!?)

 

 

 キリク「フッ……当然だ」

 

 キリク「―――さて」

 

 

  いくぜッッ!

 

 

 ダダダダダダッッ!!

 

 

 烈(!?)

 

 

 マイク「キリク選手ッ! 猪突猛進に烈選手のもとへと駆けていくッ!」

 

 マイク「先ほどにもまして移動速度が遥かに上昇しているのは目の錯覚でしょうかッ!?」

 

 

 キリク(【動体視力向上】に【脚力増強】による移動速度上昇……)

 

 キリク(お前の一挙手一投足は俺には止まって見えるぜ!)

 

 

 烈「………………」

 

 烈(―――魔法という存在)

 

 烈(ものの数分にて、あそこまで人間の身体能力を向上しうるのか)

 

 烈(……本当に、いい勉強になる)

 

 

 ダンッ

 

 

 マイク「烈選手も拳を構えて応戦態勢に入ったぞッ!」

 

 

 キリク(無駄無駄無駄ァッ! さっきとは比べ物にならない俺の動きを目で捉え、あまつさえ防御するなんて不可能ッ!)

 

 キリク(そもそも拳で剣に勝とうなんていう発想自体ナンセンス!)

 

 キリク(念のため、女魔導士共に保険をかけておいたが……)

 

 

 ダダダッ!!

 

 ジャキリ―――

 

 

 

  そんなものも使わず、一気に決め――――――

 

 

 

 烈「………………!」

 

 

 

  グワッ!

 

 

 

 

 キリク(!?)

 

 キリク(み、見切られてる、のか!?)

 

 

 キリク「く、クソッ!」

 

 

 ダンッ!

 

 

 シュタッ――――

 

 

 烈「………………」

 

 

 キリク「ハァ、ハァ……」

 

 

 マイク「どうしたッ!? キリク選手!?」

 

 マイク「果敢にも切り込んだものの、寸でのところで後方に飛びのき、およそ二人の攻撃がともに届かない間合いへと再び下がってしまいましたッ!?」

 

 

 キリク(ど、どうなってんだ?)

 

 キリク(アイツの構えはさっきと変わらない……移動速度も強化した……)

 

 キリク(それなのに……)

 

 

  ま、まるでアイツを斬れるイメージが湧かねぇッッッ!!!

  

 

 烈「………なぜ」

 

 キリク(!?)

 

 烈「なぜ自分が飛びのいたか、君は分かるか?」

 

 キリク「………………」

 

 烈「………それは」

 

 

 

   君は既に私に負けているからだッ

 

 

 

 烈「対魔法生物においては『戦闘力』という観点のみで容易に戦えたのかもしれないが」

 

 烈「対人間においてはもう一つ、闘争における重要な要素が存在する」

 

 

  『精神力』

 

 

 烈「私が過去にそれを身に染みて感じたのは―――」

 

 

  私と同じ「海王」の位を持ち、潜在能力という面では私をはるかに上回る大男が

 

 

  全身を負傷し、医者からも体を動かすことすら禁じられていた再起不能であるはずの青年に『精神力』にて圧倒され

 

 

  

  赤ん坊のように泣きじゃくり許しを請うという異常事態ッ!

 

 

 

 烈「それはもはや身体的能力を超え、『武』への執念と努力によってのみ構成される純粋な『闘争能力』」

 

 

 烈「―――優れた【補正】武器持つ君にはないものだ、キリク君」

 

 キリク「………………ッ」

 

 烈「先の交戦において、君の精神は既に再起不能にまで陥っている―――」

 

 烈「いくら不可思議な力を使う魔道も傷は癒せても、心までは癒せない……か、いい勉強になった」

 

 

 

 キリク「………………」

 

 

 スゥーーー

 

 フゥウウウウウーーーー

 

 

 キリク(お、落ち着け―――ペースを乱されるな)

 

 キリク(虚言だ、あんなのは、俺の冷静さを乱す虚言だ)

 

 キリク(精神力で負けている? オレが? この国でも随一の剣士である俺が?)

 

 

 キリク(―――そんなことはもはやどうでもいい!)

 

 

 キリク(俺の【補正】武器で切れば決着がつく! その事実はいかにアイツが強かろうとも変わらないッ!)

 

 

 キリク(どんな手段を使ってもアイツを斬るッ! 考えることはそれだけだッ!)

 

 

 ―――ギロッ

 

 

 女魔導士たち(!)

 

 キリク(やるぞ。しっかり合わせろよ?)

 

 

 ………………コクリ

 

 

 キリク(―――よし)

 

 

  行くぞッッッ!!!

 

 

 ダダダダッッ!!

 

 

 マイク「キリク選手、再び烈選手へと駆けていくッッ!!」

 

 

 烈「………………!?」

 

 烈(先程とは纏う雰囲気が異なる………)

 

 

  何か来るのかッ!?

 

 

 バッ

 

 

 烈「!?」

 

 烈(目元を覆い隠した?)

 

 

 キリク(オラッ! やれっ!)

 

 女魔導士1(………………)

 

 

  【閃光】

 

 

 

 ビカァァァァァッッッ!!!

 

 

 

 烈「なに!?」

 

 

 マイク「うぉ!? 眩しッ!」

 

 

 

 キリク「オラァ!」

 

  

  ブンッ!

 

 

 烈(!?)

 

 烈(右か!)

 

 

  ヒラッ―――

 

 

 

 女魔導士1(躱した!? 目が一切見えないあの状況で!?)

 

 

 女魔導士1(………だけど)

 

 

 烈(………………!)

 

 烈(気配が左にも!?)

 

 

 女魔導士2(………………)

 

 

  【虚影】

 

 

 女魔導士2(実物と同じ質量と姿を持つ虚像の生成………)

 

 女魔導士2(………ごめんなさい烈さん、あんな言葉をかけてもらったのに)

 

 女魔導士2(………妹のためにも、許して―――)

 

 

 烈「…………くッ!」

 

 

 ダンッ!

 

 

 烈「破ッ!!!」

 

 

 ズガァン!

 

 

 女魔導士2「嘘………まだ反応できるのッ!?」

 

 

 

 女魔導士2「―――悔しいけど、アイツの作戦はビビりすぎじゃなかったわけね」

 

 

 ブワン――――――

 

 

 烈「なッ!?」

 

 

 

  これもフェイクかッ!?

 

 

 

 

 女魔導士3「………………」

 

 

  【虚影】

 

 

 

 キリク(掛かった!)

 

 キリク(本体は………………)

 

 

 

 ブンッ!!!

 

 

 

 烈(!?)

 

 烈「………しまった!」

 

 

 

  後ろだッッッ!!!

 

 

 

 キリク「これで終わりだぁァァァァッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

  起きてはならぬことがその時起こった!!!

 




どうなるッ!? 烈海王ッ!?


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第二十八話 「vsキリク⑤」

今回内容少なくて申し訳ないです………………
この流れで是非次に持っていきたくてですね………………


また前もって言っておきますが、次の話で自分なりにその原理を説明するつもりではありますが、もしかするとこういう烈さんはみたくないよ! という人もいるかもしれないので、先に謝っておきます………………

では、本編をどうぞ



 マイク「………………」

 

 観客「………………」

 

 ケンジ「………………」

 

 ラン「………………」

 

 

  !?!?!?!?!?

 

 

 烈「………………!?」

 

 烈(………………そうかッ)

 

 

 烈(これが、違和感の正体ッ!)

 

 

 

 

 キリク「………………ど」

 

 

 

  どうなってんだよッ!? 一体ッ!?

 

 

 

 

 【閃光】による一時的な眩みから解放された彼らが見た光景

 

 

 それは――――――

 

 

 

 

 烈に切り込むまさにその態勢のまま()()()()()()キリク選手

 

 

 

 

 とどのつまり、烈の背後に回り、その頸椎を捉えたキリク選手の右手に握られた【哭閃剣】が、

 

 

 

 烈の体に触れるまであと30㎝程度という所で()()()()()()という

 

 

 

 連写した写真の中からベストショットを抜き出したような、そんな光景―――――

 

 

 

 江戸期における武士の不始末の責任を取らせるために役人などが執り行ったという切腹の儀

 

 

 罪人が腹を斬り、それでもまだ苦しみ生きながらえる彼の者の首を介錯人がはねんとする

 

 

 まさにその直前を切り取ったような、そんな光景―――――

 

 

 

 

  ―――寸止めか?

 

 

 

 最初はだれもがそう思ったが、

 

 

 

 キリク選手が【閃光】や【虚影】といった魔法という反則行為を使ってまで作り出したこの好機をみすみす寸止めで終わらせるはずもなく、

 

 

 

 闘技場内にいたわずかな魔導士たちを除いて、その真実を雄弁に語ることが出来る者は皆無であった――――――

 

 

 

 

 

  あたりまえよ――――――

 

 

 

 

 ケンジ「え?」

 

 ミネルバ「早かれ遅かれ、あぁなるのは烈さんが休憩時間を終えて私たちの前に姿を現した時からなんとなく察しがついていたわ」

 

 ミネルバ「……むしろ、()()以外の影響がなかったのが異常なくらい―――」

 

 ラン「……どういうこと? ミネルバ?」

 

 ケンジ「まさか、それがさっきからお前らがとってた態度に関系があんのか?」

 

 

 レガロ「大ありです」

 

 

 ケンジ「! レガロ……」 

 

 レガロ「転生者である二人には分からなかったかもしれませんが、烈さんは控室に入った前と後では明らかに大きな変化がありました……」

 

 レガロ「―――そして、その変化とは私たち魔導士にとっては、とてもではないですが信じられないものだったんです」

 

 ミネルバ「今思えば、烈さんがゴブリンを倒した時もなんとなくその気配は感じてはいたんだけど―――あまりにも非現実すぎて当時は考えもしなかったわね―――」

 

 ケンジ「お、おい! つまりどういう事なんだよ!?」

 

 ラン「な、なにが起こってるのか早く教えてくれないかな、二人共!?」

 

 

 ミネルバ「――――いい?」

 

 ミネルバ「信じられないかもしれないけど……」

 

 ミネルバ「烈さん………いや、転生者、烈永周は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  魔法を使っているのよッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 




果たしてその言葉の真意とはッッ!?


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第二十九話 「vsキリク⑥(『マナ』とは)」

例にもれず滅茶苦茶理論です。

烈海王にこんな改変加えてほしくないという方にはほんとごめんなさい。

どうか温かい目でご覧になってくださいね……


 ブリュミエール大学 魔道力学部 応用魔道力学科 最年少名誉教授

 

 

 アテナ・グラディウス

 

 

 

 「え? 転生者が魔法を使えるかだって?」

 

 こちらが投げかけた質問を聞き返すと、アテナ教授はまたかと言わんばかりに美しい容姿に似合わない、なんともめんどくさそうな面持ちでブロンドの髪をぼりぼりと搔き毟る。

 

 「はぁ……あんた、転生者?」

 

 「あ、違う? 記者? あっそ」

 

 「良かったわぁ~ 学園長から話聞いた時にはまたか~て思ったけど……」

 

 「よくいるのよね~ 転生者特権? みたいなもん使ってうちの研究室に来て、『魔法の使い方を教えろ』って聞きに来る転生者共」

 

 「こっちもさ? 近年の魔道軽視の風潮の中で研究費補助金を捻出するだけでも毎日糞忙しいって言うのに、魔法のまの字も知らないガキが聞きに来るなっつーの。せめて幼少教育レベルの教科書ぐらいの知識をつけてから来いってんだよ、ゴミ共」

 

 どうやら、相当転生者に対してご立腹のようだ。

 

 「まぁ、あんたが私の話を分かりやすく、それこそ転生者たちが集まりやすいギルドハウスとかの掲示板とかに記事として載っけてくれるんならめっけもんかもね」

 

 そう言うと、アテナ教授は立ち上がり、縦横30mはあるのではないかという巨大な黒板に、チョークを浮遊魔法で浮かせながら何かを描き始めた。

 

 

 

 「そんじゃま、軽く説明しますか」

 

 完成された模式図を見ると、中心に人間と思われる絵が描かれており、その周りに丸い粒のようなもの、そして番号の割り振られた矢印が何本か描かれていた。

 

 「いい? まぁ、あんたがどのくらいの知識を持ってるのか分からないから、この世界に来たばかりの転生者にもわかるように話すけど」

 

 

 「そもそもこの世界において『魔法』という存在と『マナ』という概念は切っても切り離せない物なの」

 

 そう言うと、浮遊するタクトで先ほどの模式図の人間の周りに漂う粒状のものを指し示す。

 

 「『マナ』っていうのはこの世界における―――言ってみればエネルギーの源みたいなものね。これを体内に取り入れ利用することによって魔導士は初めて魔法と言われる現象を発現させることが出来るわけ」

 

 「で、このマナというのはこの世界にの大気中の至る所に存在するんだけど、それを人間―――もとい魔法生物が体に取り入れて魔法として発現させるまでには……まぁ細かく見るともっと色んな工程があるんだけど、主に5つ存在するの」

 

 そして、タクトを操り、各矢印に標準を順に合わせていく。

 

 

  Ⅰ.大気ないしは外部からのマナの体内への吸収

 

  Ⅱ.Ⅰで得たマナの体内における蓄積

 

  Ⅲ.蓄積したマナの自身の使用する系統魔法で使用する基礎属性への変換

 

  Ⅳ.属性変更したマナの外部への放出

 

  Ⅴ.詠唱ないしは魔方陣によって放出したマナを『魔法』として形式化

 

 

 「以上が簡単に説明した魔法発現までに至る工程なわけよ。分かった?」

 

 もう少し詳しく教えてほしいと頼むと、アテナ教授はこれまた目を細めいかにも気だるげに「しょうがないなぁ~」と言いながら再び解説を始めてくれた。

 

 

 「まず、ⅠとⅡについては大丈夫よね? 要は食事と同じように外からマナを取り込んで、それを魔法発現の必要量まで蓄えるっていうことだし」

 

 「問題はⅢとⅤかしら? マナという概念になじみがない転生者には理解しがたいかもね」

 

 

 「マナっていうのはね、大気中に存在する状態や未使用の状態では属性としては『中性』なの」

 

 「ただ存在しているっていうだけで、それだけでは何の利益も危害も及ぼさないわけよ……基本的には」

 

 「んで、それを生物が取り込むと、変換速度に差異はあれども自分が使用可能になるようにマナの属性変更が行われるわけね」

 

 「例えば炎系統の魔法を頻繁に使う魔導士が吸収したマナは『赤』属性に変換されがちだし、回復魔法を頻繁に使う魔導士が吸収したマナは『白』属性に変換されやすいってこと―――もっとも、その種類は多岐にわたるし、蓄積されたマナが魔導士の体内で同時に複数系統の属性に変更されることもあるけど」

 

 「ともかく、そうやって魔導士はマナを魔法発現の糧として利用できるようにするわけ」

 

 そして、今度は模式図の人間から伸びている矢印に標準を合わせる。

 

 

 「そうして属性変更したマナをⅣで放出……そして、そのときに放出したマナに定型化した様式を持たせるように、詠唱や魔方陣、魔術紋といった外部的な知識が必要になるわけ」

 

 

 「例えば同じ『白』属性に変更したマナを放出したときでも、外的要因である傷や打撲痕を回復する治癒魔法と、内的要因である内臓や代謝といったものを回復する治癒魔法とでは、効力が全然違うでしょ?」

 

 「つまり、発現したい魔法に応じた文脈化された法則性っていうのがきちんと存在して、それについての知見が無ければいくらⅠ~Ⅳがうまくいっても思い通りの魔法は使えないってわけよ」

 

 

 メモを取り終わるのを見届けると、アテナ教授は満足げに頷いた。

 

 

 「ま、ざっとこんなもんね。魔道の発現に至るまでの本当に基礎的な説明については」

 

 「ね? 私たちが簡単にポンポン出しているように見える魔法にも、ちゃんとこういう定式化された方法論があるわけよ」

 

 

 

 「……それなのに、あの糞転生者共ときたら」

 

 「さも自分が魔法を使えるのが当然であるのかのように上から目線で聞いて来るし」

 

 「一番頭に来たのは『なんで転生したのに魔法が使えないんだよ!?』……だと?」

 

 

  ふっざけんなよッ!? 

 

 

 「太古からの高名な魔導士たちによって積み上げられてきた魔法がそう簡単に使えるかってんだよ!?」 

 

 「というかなんで転生前の世界では魔法という概念があんのに魔法に対して楽観的な奴が多いんだよッ!? あいつらの世界で魔法ってどんだけ軽く見られてんだよッ!?」

 

 「てかこっちが【補正】能力とか言う自然法則無視したデタラメな力がなんで使えてるのか知りたいわ! 努力もしてないくせにイキりやがってこの○○○○ッッッ!!!」

 

 

 ひとしきり叫び終えると、はっとしたように顔を上げ、先ほどのオタク気質な会話はどこへやら、本来の美しい容姿が際立つように人差し指を口元に当ててアテナ教授はこう言った。

 

 「……今のはオフレコでお願いね。記者さん♡」

 

 

 

 「あ、忘れた」

 

 「そういえば、最初の質問は『転生者が魔法を使えるか』よね」

 

 

 

 「―――理論的には不可能ではないわ」

 

 

 

 「現に魔法を発現した転生者の事例もごく稀にだけど確認してるし、そもそもマナはあらゆる生物と自然とのかかわりの中で循環するものだから、さっきの工程をちゃんと踏まえさえすれば転生者でも魔法は使えることは事実よ」

 

 

 

 

 「―――ただ」

 

 

 「魔法を使えた転生者つっても、ほとんどが幼少期という学習や生活習慣の吸収効率が高い時期にこっちに転生してきて、たまたま生き残ってマギリカーゼに来れた子たちがほとんどだし」

 

 「ある記録だと、成人後の転生者がこの世界の10代後半で一般的に使えるような魔法を習得するまでに20年かかったともあるから」

 

 「転生者が魔法を使えるかという問いについては、基本的には不可能と考えた方がいいと思うわよ―――無駄な期待を持った転生者を増やさないためにもね」

 

 

 

 

 「――あ」

 

 突然何かを思い出したように声を上げるアテナ教授。

 

 「でも……もしも、だけど―――」

 

 

  

  前の世界で『マナに似たもの』への理解が深い転生者なら、

 

  あるいは可能かもね……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ―――『気』

 

 

 

 中国武術において重要な役割を持つ、自然から得られる根源的エネルギー

 

 

 高名な武術家たちはこれを身に宿し、体内で移動・放出することによって超人的な力を得ることが出来るという

 

 

 

 そして、実はこの『気』という概念

 

 

 他の地域や時期、果てには異なる世界において、様々な名称で呼ばれている

 

 

 

 ―――『オーラ』

 

 ―――『霊気』

 

 ―――『チャクラ』

 

 

 ―――そして、『マナ』

 

 

 

 実はこれらの諸エネルギーは根源的には同一のものであり、

 

 どれか一つの要素における親和性が高い者は、総じて他の諸エネルギーへの親和性も高いのである。

 

 

 

 

  ―――すなわち

 

 

 今回烈に起きた『異常事態』

 

 

 これは、烈が転生前の世界において猛烈な中国武術の鍛錬によって習得した、

 

 常人ならざる『気』という自然エネルギーとの親和性の高さと見識の深さによって生じた帰結に他ならない

 

 

 

 

 ―――約一時間における站椿をしながらの瞑想

 

 

 

 この期間内に烈が体に取り入れた『マナ』量は、当時のマギリカーゼの一級魔導士が常時体内に蓄積している『マナ』量とは比べ物にならないものであり、

 

 

 

 吸収・蓄積されたその高密度の『マナ』は―――

 

 

 体内のみに留まらず―――

 

 

 

 

 

 

  ついに、烈の周囲30㎝に高密度のマナのシールドを構成するに至るッッッッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  いやいやいやいや!!!!

 

 

 

  いくらなんでもそれはないでしょ?

 

 

 

  それに、第一そんなことが出来るんなら転生前でもシールド使えてたっしょ? 烈海王?

 

 

 

 

 

 

 そう思った一部の諸君もいるのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『エネルギー保存の法則』

 

 

 

 

 

 

 古くから議論されてきた

 

 『この世界におけるエネルギー量は一定量である』

 

 という科学的理論に基づいた自然法則における一つの仮説

 

 

 

 実は、この法則はあらゆる世界においても普遍的に通用する。

 

 

 そして、それはこの異世界でも例に漏れないのだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

  それと烈海王の膨大なマナの蓄積とどういう関係が?

 

 

 

 

 

 

 

 

 現代社会に生きる諸君の周囲を見てみよう。

 

 

 

 張り巡らされる電線

 

 大量の化石燃料によって動かされる大型機械

 

 

 

 

 人の力を超えた、近代産業革命が生んだ膨大なエネルギーを使用する文明の利器の数々

 

 

 

 ―――とどのつまり、

 

 

 

 この世界の大気中に残った『気』を始めとした根源的エネルギーは、

 

 

 もはや枯渇状態にあるといっても過言ではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中でもなお大気中に残る僅かな『気』を五体に取り入れ、

 

 中国武術が生んだ天才と言われた烈海王が、

 

 

 

 世界の大半が樹木におおわれ、大気中に膨大なマナを含むこの世界に転生したら―――

 

 

 

 

 

  そんなもん、最強に決まってるでしょッッッッッ!!!???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――しかし、

 

 

 

 『気』には深い見識のある烈であっても

 

 

 転生直後においては自身と既に一体化したマナの気配を察知するには至らず、

 

 

 

 

 ガーゴイルとの戦闘――― 

 

 

 站椿前後における自身の体の変化―――

 

 

 

 

 

 そして、今まさにキリク選手の剣が五体に達する前に押し留められているという

 

 

 およそ信じ難い状況において、自身の力の根源を確信する―――

 

 

 

 

 

  烈海王ッッッここに『魔道拳士』としての己の道を見出すッッッッッ!!!!!

 

 




『魔拳』烈海王ッッッここに誕生ッッッ!?


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第三十話 「vsキリク⑦」

勘のいい子は嫌いじゃないよ……


 マイク(………………)

 

 観客(………………)

 

 

 

  どうなってんだ!? 一体!?

 

 

 

 キリク「な、なんだよ!? どうなってんだよ!? これ!?」

 

 

 ガキンッ

 

 ガキンッ

 

 

 キリク「止められてんのか!? 俺の剣が!?」

 

 

 ガキンッ

 

 グググググ―――

 

 

 キリク「押し込んでも何かに防がれているように体まで届かねぇ!」

 

 キリク「何をしたんだ!? 中国武術家!?」

 

 

 

 ミネルバ「―――当たり前じゃない」

 

 

 キリク「………………!?」

 

 キリク「……ミネルバ、お前、何かコイツに防御魔法をかけたろッ!? そうなんだろ!?」

 

 

 フッ

 

 

 ミネルバ「馬鹿ね……身体的な強化魔法ならまだしも、剣撃を身体に触れさせずに宙で食い止めるような防御魔法を使える魔導士なんて、私はおろか、このマギリカーゼに存在しないわよ」

 

 ミネルバ「………ある一人を除いてね」

 

 キリク「そ、それがコイツだっていうのかよ!?」

 

 

 烈「………………」

 

 

 ミネルバ「正確には『魔導士』ではないけどね……」

 

 

 ケンジ「ちょ、ちょっと待ってくれよ!?」

 

 ミネルバ「?」

 

 ケンジ「確か、転生者は魔法は使えないんじゃないのか?」

 

 ラン「それに、烈さんはつい先日こちらの世界に転生してきたばかりの方ですよね? 詠唱はおろか、魔法の存在そのものも詳しく知りえないと思うのだけれど……」

 

 

 レガロ「―――転生者には魔法は使えない」

 

 レガロ「そんな風に考えていた時期が私にもありました」

 

 

 ラン「レガロ……!」

 

 レガロ「しかし、現実には存在したんですよ。現に今、烈さんが使っているように」

 

 

 レガロ「魔法……というか、膨大なマナの蓄積によって発生したマナの障壁」

 

 レガロ「それが、あのバリアの正体です」

 

 

 

 ケンジ「……し」

 

 

 ケンジ「質問に答えられてねぇよ!?」

 

 ケンジ「じゃあなんでオッサンがマナを体に蓄えられてんだよ!?」

 

 レガロ「そ、それは……」

 

 

 

 ???「それなら、私が答えるわよ!」

 

 

 

 四人(!?)

 

 

 レガロ「あ、あなたは……」

 

 

 

 アテナ「いや~ 高密度のマナにあてられて発生源の闘技場まで来てみたら、まさかあの転生者のものだったとはね~」

 

 

 

 ミネルバ「………お」

 

 

 ミネルバ「お姉ちゃん!?」

 

 

 三人「え!?」

 

 

 アテナ「久しぶりだね~ 我が妹よ」

 

 レガロ「お、お姉さん!? マギリカーゼ随一の天才魔道博士、アテナ・グラディウス様とミネルバが姉妹!?」

 

 ミネルバ「ま、まぁね……」

 

 ラン「そ、そういえば名字一緒だったね……」

 

 

 アテナ「―――そんなことよりもさ」

 

 アテナ「なんであの転生者―――烈さんだっけ? 彼が体内にマナを取り込めているのか聞きたくないかい? 少年?」

 

 ケンジ「えっと、その……はい」

 

 フフン

 

 アテナ「いい返事だぞ、転生者の少年」

 

 ・

 ・

 ・

 

 アテナ「要は、この『吸収』『蓄積』『変換』『放出』『形式化』の五段階を経て魔法というのは発現するんだけど、烈さんの場合はチュウゴク武術における『気』の概念が私たちでいうところの『マナ』と同等の関係にあるわけね」

 

 レガロ「なるほどッ! つまり、烈さんが転生前の世界で既に身に着けた『気』との親和性が、今回『マナ』に置き換わることで、あのような現象が起きたという事かッ!」

 

 アテナ「正解ッ!」

 

 ミネルバ「いや、それでもあのマナ量は化け物過ぎるけどね……」

 

 

 アテナ「でも、『吸収』『蓄積』『放出』に関してはとんでもない練度に達しているけど、『変換』『形式化』に関してはからきしね」

 

 アテナ「文献に記載された転生者から得たチュウゴク武術の項目によれば、『気』は自然と己を一体化させること、自然の力をあくまで『借りる』ということみたいだから、己の力に『変換』するという概念がそもそもないのかもね」

 

 アテナ「あと、『形式化』に関しては言わずもがな、詠唱も魔方陣の知識もない彼が私たちの知るような魔法を出せるとは考えられないわ」

 

 

 チラッ

 

 烈「………………」

 

 

 アテナ「―――彼から発せられるマナ自体からは敵意や属性的なものは感じられないし、本当にただ自然本来の中性的なマナで全身を包み込んでる……そんなところね」

 

 

 

 

 

 キリク「―――なるほどな」

 

 キリク「勉強になったよ。流石最年少でブリュミエール学園の博士号を取得した天才女魔導士だ」

 

 四人「!?」

 

 ケンジ「キリクッ! 盗み聞きしてたのかッ!?」

 

 キリク「失礼だな。あんな大声で話していたら、闘技場内の全員に聞こえてるよ」

 

 

 ミネルバ「れ、烈選手は!?」

 

 キリク「心配しなくていいよ。ほら、あそこにいるから」

 

 

 烈「………………」

 

 

 キリク「なんでも、自分に起きた現象を知りたいから一時休戦して考えさせてくれないかだってさ。ハッ、健気だよね」

 

 烈(……成る程)

 

 烈(転生後から感じていた違和感……この地に存在する『気』に代替する自然エネルギーである『マナ』によるものだったか)

 

 

 グググ―――

 

 

 烈(道理で打撃による破壊力が段違いなわけだ。よっぽどこの世界の『マナ』は純度が高いらしい……)

 

 烈(―――さて、どうしたものか……)

 

 

 

 

 キリク「…………ククク」

 

 烈「?」

 

 キリク「ククク、いやぁ、焦ったよ」

 

 キリク「もしアンタのそのバリアが【補正】能力だったら、流石にヤバかったかもしれないけど」

 

 

 チャキン

 

 

 キリク「マナによるものだったらどうという事は無し……心から良かったと思うよ、僕に『二つ目』の【補正】武器があってさ」

 

 

 レガロ「!?」

 

 レガロ「ま、不味いッ!?」

 

 ケンジ「そうかッ! キリクの持つ二本目の【補正】武器、『あらゆる魔法を切断する』【冥刹剣】なら、マナによる障壁も切り裂けるのかッ!?」

 

 

 ミネルバ「―――大丈夫よ」

 

 ミネルバ「案だけ策を弄してようやく烈さんに斬りこめたのよ?」

 

 ミネルバ「二回目が烈さんに通用するとは思えないし、烈さんも許さないはず……」

 

 

 

 烈「……キリクよ」

 

 キリク「あん?」

 

 烈「その片方の剣は、『物体を確実に切断する』わけではないのかね?」

 

 キリク「……あぁ、【補正】武器に能力は基本一つだからな。左手のこの【冥刹剣】は『あらゆる魔法を切断する』だけだ」

 

 

 キリク(まぁ、切れ味はそこらの剣よりははるかに優れているけどな)

 

 

 烈「そうか―――」

 

 

 バサッ

 

 

 キリク「?」

 

 ラン「烈さん?」

 

 アテナ(何をする気? 上半身裸になって?)

 

 

 

 烈「では……」

 

 

 

  その剣にて、私の体に一太刀浴びせてもらいたいッッッ

 

 

 

 キリク「!?」

 

 

 

 アテナ「は!?」

 

 ミネルバ「れ、烈さん!? 正気なの!?」

 

 ラン「い、いくらなんでもそれはッ!」

 

 レガロ「無茶すぎますよッ!?」

 

 ケンジ(……いや、もう驚くのも疲れたわ……)

 

 

 

 

 キリク(……ホント、あんたには舐められっぱなしだよ)

 

 キリク(さっきまでの俺だったら即ブチギレてるところだが)

 

 キリク(―――もう、怒る気力すら起きてこねぇ)

 

 

 

 キリク「男に二言はねぇな? もう取り消せねぇぞ?」

 

 烈「かまわん」

 

 キリク「どうなっても知らねぇぞ? もちろん死んでも」

 

 烈「かまわん」

 

 

 

 

 キリク「―――後悔するなよ?」

 

 

 烈「私は一向に構わんッ」

 

 

 

 

 ―――ダダダダッ

 

 

 キリク「なら死ねぇッッッ!!!」

 

 

 

 ブンッ

 

 

 キリク(正面からブッタ斬るッ!)

 

 

 

 ――ヒュるり

 

 

 

 キリク(!)

 

 

 キリク(突破したッ! マナの障壁ッッ!!)

 

 

 

 ザンッ

 

 

 

 キリク(そして手ごたえありッッッ!!!)

 

 

 キリク「本当にこれで終わりだぁぁぁァァァァッッッ!!!」

 

 

 

 

 ブァサァアアアアアッッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギュルルルルルルルルルルルルンッッッ!!

 

 

 

 ギュルルルルルル―――

 

 

 

 ―――スタッ

 

 

 

 

 

 

 キリク「……な」

 

 

 カランカランカラン―――

 

 

 キリク「うそ、だろ……」

 

 

 

 

 

 烈「………………ふぅ」

 

 烈「どうやら、成功のようだな」

 

 

 烈「満足には程遠いが、一応の成果は得られた……というべきか」

 

 

 

 

   『対剣術 消力 完成ッッッ!!!』

 




遂に活かせたッッッ!!


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第三十一話 「vsキリク(決着)」

とりあえず書きたいことは書けた~~~

次は何書こうかな? 

とりあえず烈vsスライムを書いて、書けたら新章突入でもしますかね~

こんな続くとは思わなかった………………


 キリク「………………」

 

 四人「………………」

 

 アテナ「……まじ?」

 

 女魔導士たち「………………」

 

 マイク「………………」

 

 観客「………………」

 

 

 烈「………(ゴキッ、ゴキッ)」

 

 

 烈(……しかし、『対剣術 消力』一応の成功とはいったものの)

 

 烈(あの武蔵とは剣の速さも重さも比ぶるべくもなく)

 

 烈(今度、この世界で武蔵に比肩する剣士に出会った際に、果たして通用するのかどうか……)

 

 

 ぎゅっ―――

 

 

 烈(まだまだ、改善の余地はありそうだな……)

 

 

 

 

 

 ……勝てるわけがない、こんな生物

 

 

 

 

 キリク(強化魔法も存分に施した)

 

 キリク(そして、反則である妨害魔法も女魔導士たちに使わせた)

 

 キリク(あまつさえ、【補正】武器も二本とも使った)

 

 

 キリク(……なのに)

 

 キリク(それなのに―――)

 

 

 

 

  目の前に立つ中国武術家との間にそびえる巨大な壁――――――

 

 

 

 

 

 『物体を確実に切断する』【哭閃剣】と『あらゆる魔法を切断する』【冥刹剣】

 

 

 

 

  その両方をもってしてもなお斬れぬ、「烈 永周」という存在―――

 

 

 

 

 一方は烈の体から発せられる膨大なマナの障壁に防がれ、

 

 もう一方はその障壁を突破するとも、烈の技術によって無効化される。

 

 

 

 

 

  一つは斬るべき五体に達せず、一つは斬るべき五体を斬れず。

 

 

 

 

 

 最強と呼ばれた二つの剣における「役割の分離」という未熟さの露呈ッッッ

 

 

 

 

 矛と盾ならぬ、剣と剣との間に生じた「五体切断」の目的不履行という「矛盾」ッッッッッ

   

 

 

 

 

 

 キリク(……これが)

 

 キリク(これが『本当の強さ』だというのかッッッ)

 

 キリク(オレが今まで信じてきた強さは、偽りだったというのかッッッッッ)

 

 

 

 

 ―――いや、

 

 

 

 ぽたぽたぽたぽた―――

 

 

 

 ケンジ「!?」

 

 ケンジ「泣いているのかッ!? キリク!?」

 

 

 

 

 キリク(本当は気づいていたんだ……)

 

 

 キリク(俺ら転生者たちのことを表では賛美しながらも、裏では魔物討伐をさせることしか考えていない王宮貴族やギルドハウスのクエスト管理者たち)

 

 キリク(俺たち転生者の存在を疎ましく思う魔導士たちや、ハズレとされているような【補正】能力を掴まされた他の転生者たちからの嫉妬に満ちた視線)

 

 キリク(こき使っている女魔導士たちや同業者からの闇討ちを恐れ、風呂に入る際や寝る時にも片時として【補正】武器を手放せなかった日々)

 

 

 キリク(そうしてそんな日々に遂には慣れて、自分を強く、自分の地位を高く見せるように傲慢に振舞ってきたこの異世界での生活)

 

 

 

 キリク(それも、全て)

 

 

 

 

  心、技、体、そして力の欠如という明白な事実故の帰結―――

 

 

 

 

  両手に握られた【補正】武器という与えられただけの偽りの強さが覆い隠してきた真実

 

 

 

 

 

 キリク(それを……アンタは……烈さんは)

 

 キリク(文字通り、この闘技場において己の五体と拳で証明してくれた……)

 

 

 

 

 

  武の勝利――――――――

 

  魔の勝利――――――――

 

 

 

  技の勝利――――――――

 

 

 

 

 キリク「……烈さん」

 

 

 烈「………………!」

 

 烈「何だね?」

 

 

 キリク「……おごがましいのはわかってます」

 

 キリク「身の程知らずなのはわかっています」

 

 キリク「自分に資格がないのはわかっています」

 

 

 キリク「――――だけど」

 

 

 スッ―――

 

 

 

 キリク「オレと、拳で戦ってくれませんか」

 

 

 

 烈他「!?」

 

 

 

  (キリクが、【補正】武器を捨てたッ!?)

 

 

 

 烈「………………」

 

 烈「……いいのかね? 武器を拾わなくても?」

 

 キリク「かまいません」

 

 烈「『剣士』キリクではなく、『拳士』キリクとなれば私も容赦はしないが?」

 

 キリク「かまいません」

 

 

 烈「死ぬ覚悟はできているのだな?」

 

 

 キリク「オレは一向にかまいませんッッッ」

 

 

 

 フッ――――――――

 

 

  いい顔になったじゃないか

 

 

 

 烈「……いいだろう」

 

 烈「では……」

 

 

 

 

  全身――――――――

 

 

 

 キリク(―――こッ)

 

 

 

  全霊にて! (わら)

 

 

 

 キリク(怯え~~~~~~~~)

 

 

 

 

  叩き潰す!!

 

 

 

 

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――――――

 

 

 

 

 

 

 ドガンッ

 

 

 

 ヒュんッ――――――――

 

 

 

 

 ガコンッッッ!!

 

 

 

 

 

 キリク「………………」

 

 

 

 

 ケンジ「き、キリクが」

 

 ケンジ「ふ、吹っ飛ばされて、めり込んだ、壁に……」

 

 ラン(し、死んじゃったの?)

 

 

 

 (シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリク「………………ガハッ」

 

 

 (!?)

 

 

 (い、生きてたッッ!?)

 

 

 

 烈「魔導士のお嬢さん方ッッッ」

 

 

 女魔導士たち「!?」

 

 

 烈「キリク選手に、迅速な回復魔法の施術をお願いしたいッッッ」

 

 

 烈「よろしいだろうか?」

 

 

 女魔導士たち「………………」

 

 

 女魔導士1「よろしいだろうかって……」

 

 女魔導士3「あなたが言う事じゃないでしょうに……」

 

 女魔導士2「……相手選手に言われちゃ、仕方ないわよね」

 

 

 ダダッ――――――――

 

 

 マイク「………………」

 

 マイク「………………………………」

 

 マイク「……ハッ!」

 

 

 マイク(やべ、オレすっかり実況忘れてたッ!?)

 

 

 

 マイク「そ、それでは」

 

 マイク「き、キリク選手、試合続行不可能と判断し」

 

 マイク「この勝負、勝し―――――」

 

 

 

  ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 「すげぇぞ! チュウゴク武術ッッ!!」

 

 「烈選手サイコーッッッ!!」

 

 「魔道に希望をありがとうッッッ!!」

 

 

 

 マイク「――て、オレが言う必要ないか………………」

 

 

 

 

 

 

 この闘技場での一件を機に、

 

 

 一時は【補正】を持つ転生者の天下であったマギリカーゼでは、

 

 

 烈が魅せたマナ利用の新たな可能性から、国内魔導士育成における重要性が再検討されることになり、

 

 

 同時に『中国拳法』というこの世界にはない新たな「技術」を魔導士の戦闘に取り入れることで、

 

 

 

 『魔道戦士の故郷』といわれるようになったのは、また別の話である………………




マギリカーゼ闘技場編完ッッッ!!


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第三十二話 「新たな地へ」

新章突入の幕間です。

断片的にこれやりたいな~とかは色々あるのですが、物語としてうまくまとまっていないところも多いと思うので、

引き続きあたたか~い目で見てくれるとありがたいです……


 

 ―――烈【ドラゴン】クラスマスター就任、その二か月後

 

 

 首都マギリカーゼ セレンティア地区 ブリュミエール学園 新設道場

 

 

 

 

  フンッ!

 

  ハッ!

 

  フンッ!

 

  ハッ!

 

 

 

 烈「よしッいいだろう!」

 

 

 烈「次は二組になり、最初は強化魔法を使わずに組手を行ってもらう」

 

 烈「その後、30分の站椿による瞑想をもってマナを全身を充填」

 

 烈「以後、思い思いの強化魔法を自身に施して再び組手だ」

 

 

 烈「一度目と二度目で拳の破壊力や自身の身体能力に変化を感じる一方で、如何に格闘における基本の型が重要であるかを知れるだろう」

 

 

  はいッッッッ!!!!

 

 

 

 ???「おぉ、やってるね。烈講師」

 

 

 烈「……………!」

 

 

 烈「ブリュミエール学園長―――」

 

 

 ブリュミエール「呼び捨てにして構わないよ。年としては君と同じくらいではないか」

 

 烈「そ、そうか……」

 

 烈「どうも、この地に来てから自分と同じ年代の者と話していなくてな……」

 

 ブリュミエール「はは、あの冒険者たちのことだね?」

 

 コクリ―――

 

 ブリュミエール「いいチームだ。アテナ君の妹さんが一員だと聞いてたまに私情の軽い依頼を出すが、昨今には珍しい魔導士・転生者同士で互いを尊敬でき、チームワークも統制が取れている」

 

 ブリュミエール「聞けば、君が彼らをゴブリンの巣窟から救い出したのが彼らとの出会いのきっかけであったと聞くが?」

 

 烈「如何にも」

 

 ブリュミエール「それで、どうだった? ゴブリンの巣は?」

 

 ブリュミエール「いかに君のような拳士でも、ガーゴイルとはまた違った手ごわさがあったのではないか?」

 

 

 烈「………………」

 

 ス―――

 

 ブリュミエール「なんと! 一時間で殲滅か!」

 

 

 烈「いや、一蹴りで相手の軍勢が瓦解……逃亡していった」

 

 

 ブリュミエール「え………………」

 

 

 

 ……………ハハハハハッッッッ!!!! 

 

 

 ブリュミエール「全く敵わないな! 君には!」

 

 ブリュミエール「私の著書もすぐに修正しなくてはらないな!」

 

 烈「………………フフ」

 

 

 

 ブリュミエール「……本当にありがとう、烈君」

 

 烈「………………?」

 

 烈「それはどういう意味だ?」

 

 ブリュミエール「君は、このマギリカーゼで失われていた魔導士たちの尊厳を取り戻し、鍛錬や修練によって習得できる力に限界はないことを証明してくれた」

 

 烈「……私は『武』、『技』の強さを証明したかっただけにすぎないが?」

 

 

 ブリュミエール「だとしても、だ」

 

 ブリュミエール「君は結果として、中国武術だけでなく魔道……いや、鍛え抜かれた人間の底力というものを証明したんだ」

 

 ブリュミエール「もっとも、私は今でもあの馬鹿げた強さが【補正】能力によるものでなかったとは今でも信じられないがね」

 

 烈「むぅ……」

 

 ブリュミエール「はは。冗談さ。【補正】かそうでないかの違いくらい、あの闘技場にいた全ての観客にも理解できる」

 

 

 ブリュミエール「―――そして」

 

 

 ザッ―――

 

 

 烈「!?」

 

 

 ブリュミエール「こうして、この学園において魔導士たちに君の中国武術の稽古をつけていただき、本当に君には感謝の言葉を言い尽くせない」

 

 

 烈「あ、頭を上げてくれッ! ブリュミエール殿!」

 

 

 ブリュミエール「いや、頼むからしばらくこうさせてくれ」

 

 

 ブリュミエール「君のおかげで、転生者と己との比較の中で無力感にさいなまれていた若き魔導士たちに活気が戻り」

 

 ブリュミエール「また今まで【補正】を持った転生者の後方支援にしか従事してこれなかった、強化魔法を旨とする魔導士たちも新たな可能性を見出せるようになった」

 

 

  魔道は再び力を取り戻し、弱者による強者への道が切り開かれた

 

 

 ブリュミエール「このブリュミエール学園を皮切りに、マギリカーゼに新たな風が吹こうとしている」

 

 

 烈「……私が教えているのは、中国武術の初歩の初歩に過ぎないが?」

 

 ブリュミエール「それでも君の名声は既にこのマギリカーゼの随所に届いている」

 

 ブリュミエール「現に、君の中国拳法の教えを受けた魔導士の所属するギルドチームでは、以前と比べ格段に依頼の成功数が増え」

 

 ブリュミエール「それと反比例するように負傷数や敗走数が減っているというデータがこの一ヵ月で出ていることも事実だ」

 

 ブリュミエール「いかに私たちが今まで転生者の【補正】に頼り、己の強さを磨くことを怠っていたか……恥ずかしい限りだよ、全く」

 

 

 烈「………………」

 

 

 ブリュミエール「……あぁ! うっかりしていた!」

 

 ブリュミエール「君に伝言があってここに来たの忘れていた―――すっかり辛気臭い話になってしまったね」

 

 烈「伝言?」

 

 ブリュミエール「あぁ、アテナ君からね。なんでも研究室に来てほしいそうだよ」

 

 烈「アテナ殿が?」

 

 

 烈「……分かった。この授業が終わり次第すぐ向かおう」

 

 ブリュミエール「そうしてもらえると助かるよ」

 

 

 

 

 ブリュミエール「……そうそう!」

 

 ブリュミエール「彼らも呼ばれていたから、もしかすると何かの依頼かもしれないね?」

 

 

 

 烈(……彼ら?)

 

 

 ブリュミエール「フフフ―――」

 

 

 

 ―――頼んだよ、烈永周。希望の転生者よ。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ブリュミエール学園 校内 魔道力学部 アテナ研究室前

 

 

 

 烈「―――やはり君たちだったか」

 

 

 ラン「お久しぶりです! 烈さん!」

 

 ミネルバ「お久しぶりって、アンタ。三日前に会ったばっかりじゃない」

 

 レガロ「私とミネルバは学園内で何度も会っていますからね。仕方ありませんよ」

 

 ケンジ「オッサン聞いてくれよ。こいつクエスト中もオッサンの話ばっかりでうるさくてうるさくて……」

 

 

 ドガッ

 

 

 ケンジ「ゴホッ!?」

 

 

 ラン「余計なことは―――喋らない」

 

 

 

 ミネルバ、レガロ(こ、怯え~~~~)

 

 

 

 烈「はは。賑やかで何よりだな、君たちは」

 

 

 

 烈「ところで、君たちはアテナ殿に何故呼ばれたのか知っていないのか?」

 

 レガロ「はい。全く内容を知らされていません」

 

 ミネルバ「どうせいつものおつかい程度の研究用の資源採集依頼かと思ったけど……烈さんがいるとなると、その線はないわね」

 

 ラン「一体どんな依頼なんでしょうか?」

 

 ケンジ「………………」

 

 ミネルバ「ったく、いつまでぐったりしてんのよッ!」

 

 

 ボカッ

 

 

 ケンジ「痛っ!? なにすんだミネルバッ!」

 

 

 

 

 ギギギギギ―――

 

 

 

 アテナ「皆揃っているようね?」

 

 

 五人(!)

 

 

 ミネルバ「姉さん!」

 

 アテナ「やっほー、我が妹―――」

 

 ・

 ・

 ・

 

 ブリュミエール学園 校内 魔道力学部 アテナ研究室内

 

 

 

 烈「それで、私たちに何の要件かな? アテナ殿?」

 

 

 アテナ「今回五人を呼んだのは他でもないわ」

 

 アテナ「そう。烈さんたちにはある高難易度クエストを頼みたいと思っているの」

 

 

 アテナ「―――その内容とは」

 

 

 

 

  このバルゴニウム王国を旅立ち、

 

  マギリカーゼと他国の地域と貿易協定を結んでもらうことよッッッ

 




烈ッ新天地へと旅立つッッッ!?


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第三十二話 「○○復ッ活ッ」

昨日は投稿できなくてすいません…

月末って色々イベントありますよね…


なにがとは言いませんが。


 

―――バルゴニウム王国より数百㎞

 

 王国を囲むようにして「アラマンダ大森林」

 

 別名:「悪魔の住む森」

 

 

 国内ギルドハウスでもこの森林地帯より先の地域を活動場所とするクエストの依頼や受諾は禁止されている超危険地帯―――

 

 

 その実際の全長面積を知る者はいかに王国広しといえども片手に数えるほどしかいない―――

 

 

 その入り口境界付近……

 

 

 

 

 

 ミネルバ「……いよいよね」

 

 烈「これがアテナさんの話にあった『悪魔の住む森』―――」

 

 レガロ「ここに入った冒険者グループの中で、五体満足で帰還できた者はマギリカーゼのギルドハウスの歴史の中でも数えるほどしかいません」

 

 ラン「既に途中でゴブリンの集団に遭ったりニンフの群れに遭ったりレッサーデビルの巣に遭ったりとトラブル続きでしたけど……」

 

 ケンジ「おっさんがいなかったらここまでたどり着けなかったな。いや、マジで」

 

 

 烈(―――研究室におけるアテナ殿の提案)

 

 烈(一時はいかがなものかと思ったが、この森から発せられるすさまじいほどの獣臭、強者の予感)

 

 烈(アテナ殿の言う通り、この異世界における新たな中国武術を模索するうえで早くもいい経験になりそうだ……)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時は遡る―――

 

 

 

 烈「―――私たちに他国との通信使としての任務を依頼すると?」

 

 アテナ「そういう事。話が早くて烈さんはホント助かるわ」

 

 

 ケンジ「ちょ、ちょっと待てよッ!?」

 

 アテナ「ん? どうした、少年?」

 

 ケンジ「いや……『他国』ってどういう意味だよッ!?」

 

 ケンジ「この国以外にこの世界には国家が存在するのか!?」

 

 ラン「私もてっきりバルゴニウム王国がこの世界の主要な王国なのだと……」

 

 

 アテナ「……あーーー」

 

 アテナ「そういえば、これ転生者にはオフレコなんだっけ?」

 

 ミネルバ「オフレコって……国家機密レベルの最重要事項なんじゃなかったの? 姉さん」

 

 アテナ「あら? そうだったか?」

 

 レガロ「この国において沈黙を保てという暗黙のルール……『悪魔の住む森』の向こう側の話ですね?」

 

 アテナ「そうそう! 今回はそれについての依頼ね」

 

 ミネルバ「それって! 確かギルドハウスでも以来自体が禁止されてるんじゃ……」

 

 

 烈「―――お三方、すまないが……」

 

 三人「!」

 

 烈「私達転生者にも分かるように詳しく説明してはいただけないだろうか?」

 

 烈「依頼を受けるにしろ受けないにしろ、私たちにはその内容を知る権利があると思うのだが?」

 

 ケンジ「お、おっさんの言うとおりだぜ!」

 

 ラン「どうなっているのか、説明してくれませんか?」

 

 

 アテナ「―――そうね」

 

 ミネルバ「ごめんね? こっちが内輪だけで話し過ぎちゃって―――」

 

 レガロ「アテナ博士の話があまりにも突拍子過ぎてつい……申し訳ありません」

 

 

 アテナ「……でも、これだけは知っておいてほしいの」

 

 

 アテナ「この『秘密』は決してあなたたち転生者を貶めるためではなく、むしろ守るのためのものであると」

 

 

 烈「守る?」

 

 アテナ「えぇ……」

 

 

 アテナ「実は、この世界においてこのバルゴニウム王国は」

 

 アテナ「魔道・文明レベル、そして国家としての軍事力においても最も劣っているといわれているの」

 

 

 三人「!?」

 

 

 ケンジ「バルゴニウム王国が、この世界では後進国だって言いたいのか?」

 

 アテナ「えぇ。それもぶっちぎりでね」

 

 

 アテナ「そうたらしめているのが、このバルゴニウム王国を囲むように広がる大森林『アラマンダ大森林』」

 

 アテナ「この森林地帯による地図上の隔絶によって、太古には『魔導士の故郷』といわれたこの国は外界と関係を絶たれ、国同士で盛んに貿易協定を結んでいた他国との国力の差が歴然となったの」

 

 

 アテナ「簡単に言えば、この国は他の国から見れば貿易も進行もする価値のないド田舎ってわけね!」

 

 

 ケンジ「この国が、ド田舎……」

 

 ミネルバ「ま、他国に超危険区域であるアラマンダ大森林を抜けてまでわざわざこの国に出向くメリットは無いわね」

 

 レガロ「実際、私達魔導士もアラマンダ大森林を超えた先に高度の文明を持った国々が存在している……ぐらいにしか情報がありません。その情報というのもかなり前にこの地に訪れた旅人による伝聞でしかないですし」

 

 ラン「―――つまり、他国が実在するのかどうかも分からないってこと?」

 

 

 アテナ「いえ、それはないわ」

 

 

 アテナ「現に王立図書館に保管されている歴史文書にも過去に他国との交流を示すものが存在していて、この地で生まれた多くの優秀な魔導士が他国に渡ったという事が研究の中で明らかになっているわ」

 

 アテナ「恐らく、それら稀代の魔導士の他国への流失による魔道研究の遅延が、この国の国力が他国に劣る大きな要因の一つでしょうね……」

 

 

 

 烈「―――それで?」

 

 

 烈「今回何故その国交回復の任を私たちに依頼する運びとなったんだ?」

 

 烈「正直、他にも適任の者がこの国には大勢いると思うのだが?」

 

 

 四人(た、確かに……)

 

 ミネルバ(うちのパーティーは決して弱くはないといっても、このような国家規模かつ難易度もすこぶる高い依頼を受けるにはあまりにも名声も実力も伴っていない……)

 

 ケンジ(俺たち転生者が魔導士の国を代表するっていうのもどうかだし……)

 

 ラン(どう考えてもたかが5人の冒険者パーティーに依頼するのには無理があるクエスト)

 

 レガロ(なにより、なぜ今この国が他国との国交回復に動き出そうとしているのか? それが一番の疑問ですね……)

 

 

 

 アテナ「―――そうね。みんな思うところもあるようだから、順を追って今回の依頼の訳を説明するわ……」

 

 

 アテナ「まず、なんであなたたちにこの超難度クエストを依頼したのか?」

 

 アテナ「それはぶっちゃけ、烈さん、あなたの存在が大きいわ」

 

 烈「私が?」

 

 アテナ「この国でも間違いなく最強といわれる烈さんと深い親交がある冒険者パーティーはあなたたち4人……」

 

 アテナ「正直、別名『悪魔の住む森』といわれるようなアラマンダ大森林を超えて他国と国交を結ぶなんてクエスト、この世界の知識のないおバカな転生者はおいといて、魔導士には立候補者すらいないわ」

 

 

 アテナ「でも、烈さんが、いわば4人のボディーガードとして同行してもらえればこのクエストの成功率は格段に上がるッ!」

 

 

 烈「………………成る程」

 

 

 アテナ「―――それに、この話は烈さんにとってもおいしい話だと思うの」

 

 烈「私に?」

 

 アテナ「以前、烈さん言ってたわよね?」

 

 

 

  強いものと戦いたい――――――――

 

 

  「武」の最強をこの異世界で証明したい――――――――

 

 

  この異世界における「中国武術」の新たな歴史を築きたい――――――――

 

 

 

 アテナ「恐らく―――」

 

 アテナ「アラマンダ大森林やそれを超えた土地にはキリクなんて目じゃないほどの強い魔法生物や魔導士……それに転生者だっているはずよ」

 

 

 烈「ッッッッッッ!!!」

 

 

 アテナ「どう? 決して悪くはない提案だと思うんだけど?」

 

 

 

 烈「……確かに」

 

 烈「常在戦場を望む私にとっては、願ったり叶ったりの心躍る提案―――」

 

 

 

 烈「……しかし」

 

 

 ペコリ―――

 

 

 烈「申し訳ないが、アテナ殿。この依頼、謹んでお断りさせていただきたい」

 

 4人(!?)

 

 アテナ「……理由を教えてもらえないかしら? 烈さん?」

 

 

 烈「依頼自体に全く問題はない……」

 

 烈「今すぐにでもこの地を出立して未知なる強者と一戦交えたい……その気持ちに嘘偽りはない」

 

 

 烈「……だが」

 

 烈「現在この学園にて中国武術の指導者として、この地を離れるというのは心苦しい」

 

 烈「語るべくもなく……いや、この異世界の地では知る由もないか。4000年という歴史を積み上げてきた中国武術……」

 

 烈「国王や学園長直々の懇願から身不相応とは思いつつ受けたものの、やるとなったらせめてその基礎だけでも学園の門下生には伝授したい」

 

 烈「少なくても、10年……いや、そもそも「武術」という概念が無いこの世界の魔導士ではそれ以上か………………」

 

 

 4人(す、ストイックッッッッッッ!!!!)

 

 

 アテナ「あぁ、それに関しては……」

 

 

 バンッ――――――

 

 

 (!?)

 

 

 

  それに関しては私に任していただきたいッッッッ!!!!

 

 

 

 烈「き、君は……」

 

 

 

 烈「黄梓豪(ファン・ズーハオ)ッッッッッッ!?」

 

 

 

 黄「お久しぶりです。烈海王ッ!」

 

 




黄梓豪、復ッ活ッッッ!!!


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