口数が少ないのは元からです (ネコガミ)
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第1話『彼の名はデューク・東郷』

ティンと来たので書いてみました。


『東都』と呼ばれる日本の首都には『米花町』という町がある。

 

その米花町の隣町のとあるビルの階段を一人の男が上がっていた。

 

男は上下白のスーツに黒のシャツ、そして黄色のネクタイという装いにアタッシュケースを片手に持っている。

 

極自然な足取りで階段を上がっている姿は、どこかのビジネスマンの様にも見える。

 

だが彼の容姿を見る者が見ればただ者ではないと感じるだろう。

 

角刈りの髪型に太い眉、そして鷹の様に鋭い眼光は戦闘経験のある軍人ですら怯みかねない。

 

更にスーツの上からでも分かる程に鍛え上げられたその肉体は、見惚れる程の機能美に満ちていた。

 

そんな男は階段を上がり終えると屋上に続くドアを開ける。

 

飛び下りを防ぐ為に鍵が掛かっていたのだが、男の手により数秒と掛からずにピッキングで開けられていた。

 

屋上に出た男は自然な動作で周囲を確認する。

 

そして確認を終えた男はアタッシュケースを開け、中にあった何かのパーツを組み立て始めた。

 

数分と掛からずに組み上げられたそれは…米国製アサルトライフルの『M16』だった。

 

M16に取り付けたスコープを男が覗き込む。

 

覗き込んだ先にあるのは隣町である米花町のとあるビル。

 

そしてそのビルの中の一室で札束を手に下品な笑みを浮かべる外国人の姿だ。

 

男と外国人の距離は400m以上は離れている。

 

だが男は躊躇することなくトリガーに指を掛けると息を吐く。

 

そして…。

 

ヴスッ!

 

サイレンサー特有のくぐもった発砲音と共に一発の銃弾が発射された。

 

下品な笑みを浮かべた外国人がいるビルは周囲を高層建築物に囲まれており、それらの建築物の間には強い風が対流している。

 

故に銃弾を命中させるには神懸かり的な技術が必要だ。

 

しかしスコープの先で下品な笑みを浮かべていた外国人は、たった一発の銃弾で眉間のど真ん中に穴を空けて床に倒れる。

 

それを確認した男は特に高揚する事もなく、M16を解体してアタッシュケースに収納していく。

 

そして極自然な足取りでビルを出た男は、まるで通勤中のビジネスマンの様に人混みに紛れていくのだった。

 

 

 

 

Side:デューク・東郷

 

 

アメリカ軍の高官からの依頼を終えた俺は米花町のとある喫茶店に向けて歩いていた。

 

そこで傭兵時代の仲間と待ち合わせをしており、そこで合流した人物に米軍基地まで送ってもらう為だ。

 

米軍基地では依頼者の手回しで今回使用したM16を処分する用意がしてある。

 

まぁ狙撃したターゲットがいる米花町に向かうのは多少のリスクがあるが、タクシーに乗ってドライブレコーダーに姿を残すリスクと比べればマシだろう。

 

待ち合わせ場所に向かう道すがら、俺は過去の事を思い返す。

 

よくもまぁ、ここまで生き残ってきたものだ。

 

俺がゴルゴ13シリーズの主人公であるデューク・東郷と同等の才能を神から貰って転生してから二十年程の時が経った。

 

傭兵をしていた日本人の父と、同じく傭兵をしていたロシア人の母の間に生まれた俺は、幼少期から戦場に身を置き続けてきた。

 

原作のデューク・東郷の生い立ちは謎なのでわからないが、とにかく今生の俺は戦場を庭に育った。

 

ちなみにゴルゴ13と同等の才能を貰った理由は…神から転生先には『死がありふれている』と聞いたからだ。

 

だから高い生存能力を持つゴルゴ13の才能を欲した。

 

そんな才能を貰って転生した俺はゲリラ戦の達人の父と、超一流のスナイパーの母の2人から訓練を受けて一流の兵士へと育っていった。

 

その過程で父が率いていた少数精鋭の傭兵団『ゴルゴ』に所属していた傭兵達からも色々と教わり、両親からもらったデューク・東郷の名に不足ない数々の知識や技術は身に付けられたと自負している。

 

ちなみに父が率いていた傭兵団にはあの『次元大介』もいた。

 

俺がサブウェポンにリボルバーを選ぶのは彼の影響が大きいだろう。

 

10歳になった頃にはアサルトライフルのAK-47を片手に傭兵団ゴルゴの…13番目のメンバーとして戦場を駆け回った。

 

4年程経つと父と母が突如傭兵団を解散してしまったが、フリーのスナイパーとなった今でも当時の影響で裏の世界では『ゴルゴ13』の異名で呼ばれている。

 

まぁそれはそれとして…神に才能を貰った影響なのか、俺は名前どころか容姿まで彼にそっくりになってしまった。

 

見る人によってはイケメンらしいが、子供には大抵怖がられてしまうのが玉に瑕だな。

 

「あれっ?東郷さん?」

 

過去を思い返しながら待ち合わせ場所に向けて歩いていると、不意に『毛利蘭』の声を耳にする。

 

彼女が住んでいる米花町まで来た以上、こうして遭遇する可能性がある事は理解していたが、いざ遭遇してみると偶然では済ませられない必然性を感じる。

 

その原因は…彼女の隣にいる幼馴染みの少年のせいだろうな。

 

「蘭、誰だこの人?」

「もう新一ってば、話したでしょう?ちょっと前に道場に凄く強い人が来たって。」

「あぁ、お前が手も足も出なかったって言ってた人か。」

「そうよ。その手も足も出なかった人がこのデューク・東郷さん。私が通ってる道場で師範代をしてる人が昔、東郷さんのお父さんにお世話になっていたらしいの。その縁でうちの道場に顔を出したんだって。」

 

彼女に紹介をされて少年と挨拶を交わす。

 

すると彼女の幼馴染みである少年…『工藤新一』が俺を観察してきた。

 

まだ中学生で探偵を目指している途上であるのは理解するが、こうまで露骨に観察をされると不快に感じるな。

 

まぁ、彼が警戒するのは正しいんだが。

 

「えっと、東郷さん…休日の昼間に仕事ですか?」

「…あぁ。」

「どんなお仕事ですか?」

「ちょっと新一、いきなり失礼でしょ!」

 

ちょっとプロのスナイパーをと言える筈もない。

 

自分から事件に首を突っ込む彼は別として、彼女を裏の世界に巻き込むつもりはないからな。

 

俺は工藤新一への返答として鼻で笑う。

 

そんな俺を見て工藤新一は不満そうな表情をする。

 

「…なんだよ?」

「いや。大切な彼女に男が近付いて警戒するのは理解できるが…俺は子供に手を出すほど飢えてはいない。」

 

俺の言葉を聞いて2人は顔を真っ赤にして反論してくる。

 

「はぁっ!?ら、蘭は彼女なんかじゃねぇよ!」

「そ、そうです!私は新一の彼女じゃありません!それに子供ってどういうことですか!?私はもう中学生ですよ!」

 

初々しい2人の反応が微笑ましくつい笑みを浮かべてしまう。

 

そんな俺に2人はギャーギャーと喚くが、俺は腕時計で時間を確認する振りをする。

 

「…すまないが人と待ち合わせをしているんでな。これで失礼をする。」

「えっ?あっ、そうなんですか?呼び止めてすみませんでした。」

「…気にするな。」

 

歩き出すとまた毛利蘭の声が聞こえる。

 

「東郷さーん!また道場に来てくださいね!師範代も待ってますから!」

 

彼女の声に軽く手を振って応えながら歩みを進める。

 

さて、待ち合わせ場所である両親が経営する喫茶店『ポアロ』に向かうか。

 

少し前に公安の者を従業員として雇ったと言っていたが…まぁ、問題ないだろう。

 

俺の名はデューク・東郷。

 

この『名探偵コナン』と『ルパン三世』がクロスした世界に転生した転生者だ。

 

ルパンは見てたからそれなりに知っているが…コナンはよく知らない。

 

だから多少の不安はあるが、それでも生き残れるだけの技術や経験を積んできたという自負がある。

 

そんな自負を胸に俺はポアロの入り口を開け、両親と数ヵ月振りの再会を果たすのだった。




短編予定ですが、気が向いたら連載するかも?

連載する場合は活動報告にて報告します。


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第2話『元刑事とGの因縁』

様子見で投稿。

本格的な連載は9月からです。


Side:毛利小五郎

 

 

とある休日、今日は朝一からとある人物と会っていたのだが、その帰り道でとあるビルの前に止まっている数台のパトカーに気付いた。

 

近付いてみると刑事時代に顔見知りだった警察官の姿を見付けたので声を掛ける。

 

「よう。」

「あっ、これは毛利さん、お疲れ様です。」

「バカヤロー、わざわざ敬礼なんてしなくていい。今の俺は民間人だからな。」

「おっと、これは失礼しました。」

 

そう言いながら顔見知りが敬礼をすると思わず俺も敬礼をし返してしまう。

 

顔を見合わせた俺達は苦笑いをした。

 

癖ってのは中々直らねぇもんだ。

 

「それで、何があった?」

「…殺人事件です。」

 

顔を寄せて小声で問い掛けると、そんな返事が返ってくる。

 

なにか予感を感じた俺は関わる事にした。

 

「中に入ってもいいか?」

「毛利さんならいいですけど、正式に捜査協力の依頼をされてませんから無料(タダ)働きですよ?」

「構わねぇよ。今日は気分がいいんでな。」

 

言葉通りに今日は気分がいい。

 

理由は他人には言えねぇがな。

 

今なら浮気調査でも家出した猫を探すのでも無料でやってもいい気分だぜ。

 

そんな事を思っていると顔見知りの警察官が何かを察したのか、ニッと笑みを浮かべる。

 

「そういえば今日は休日でしたね。競馬で勝ったんですか?」

「まぁ…そんなとこだ。」

 

普段の俺だったらそうだろうから、あながち間違った読みじゃねぇ。

 

けど、そんなんだからこいつはいつまでも独り身なんだろうな。

 

「後で奢ってくださいよ?」

「バカヤロー、民間人の俺から奢られたら賄賂になっちまうだろうが。まぁ…缶コーヒーぐらいなら後で差し入れてやるよ。そんぐらいなら目くじらを立てられねぇだろ。」

「ご馳走さまです。」

 

帰りに本当に缶コーヒーでも差し入れてやろう。

 

そん時に男女の機微ってのも教えてやるとするか。

 

もっとも、探偵になった今でも女心って永遠の謎は解けそうにねぇがな。

 

敬礼をする警察官にヒラヒラと手を振りながら現場に向かう。

 

現場に到着すると目暮警部の姿があった。

 

「おや?おぉ、毛利くんか。」

「お疲れ様です。目暮警部。」

「敬礼はいらんよ。私はもう君の上司ではないのだからな。」

 

似たようなやり取りがあった事を思い出して俺は苦笑いをする。

 

「それで警部殿、ガイシャ…いえ、被害者は?」

「…あそこだ。」

 

刑事時代の癖での発言を訂正すると、警部殿に顎で指し示された方向に目を向ける。

 

「銃による狙撃で眉間を一発。まだ正式な鑑識結果は出ておらんが、おそらく隣町のビルの屋上から狙撃されている。」

 

現場を荒らさぬように注意をしながら窓際に行く。

 

被害者が狙撃された状況と窓に残る弾痕からおおよその狙撃地点はわかる。

 

警部殿が言った様に犯人が狙撃した場所は…数百メートルは離れている隣町のビルの屋上だろう。

 

…この状況にどこか既視感を感じた。

 

「警部殿…まさかこの事件は?」

「あぁ、おそらく『奴』の仕事だろう…。君、私は少し離れる。何かあったら声を掛けてくれ。」

「はい!分かりました!」

 

若い刑事に後を任せ、俺と警部殿はビルに備えられている喫煙所に足を運ぶ。

 

警部殿は早速とばかりに煙草に火を付けた。

 

「おそらく、そう遠くない内に上から捜査打ち切りの命令がくる。今回もな。」

「あの時と同じ様に…ですな?」

 

警部殿が頷くと俺は昔の事を思い出す。

 

数年前、俺がまだ刑事だった頃に今回と似た事件が起きた。

 

当時の俺は事件の被害者が新人時代に世話になった先輩の1人だった事もあり、殊の外事件の捜査に躍起になっていた。

 

そんな時に突如上から捜査打ち切りの命令がきた。

 

はっきり言ってそれはあり得ない事だった。

 

なにせ被害者は現役の刑事だったんだ。

 

普通は警察の面子に掛けてとことん犯人を追う。

 

だから俺は上からの命令を無視してでも、時間が許す限り事件を追っていた。

 

そんなある時…警告があった。

 

俺が身につけていた腕時計を一発の銃弾が破壊したんだ。

 

俺の腕は腕時計が破壊された時の衝撃で少し痺れた程度。

 

偶然と言いたくなる程の神業の狙撃に呆然としていた俺の目に映っていたのは…突如としてガラクタとなった腕時計。

 

その年の誕生日に当時まだ妻だった英理から贈られたもの。

 

そんな腕時計を破壊…狙撃された事で察してしまった。

 

俺は踏み込んではならないところに踏み込もうとしていると。

 

その時に俺は初めて刑事としての正義を曲げて捜査を止めた。

 

そして…辞職した。

 

万が一を考えて英理と蘭の安全の為に。

 

それが切っ掛けで英理と口論になって別れる事になっちまったが、あそこで刑事を止めてなければ、俺は刑事としての正義と俺個人の正義の間で板挟みとなり、どこかで心を壊していただろうから後悔はしていない。

 

そんな事を思い返していると、ふと聞き慣れた声を耳にする。

 

…ったく、ま~たあのガキが顔を出しやがったな?

 

「お~い、おじさん!」

 

俺はあのガキ…工藤新一の頭に拳骨を落とす。

 

「いってぇ!?なにすんだよ!?」

「なにすんだよじゃねぇ!てめぇ、また目暮警部の名前を出して潜り込みやがったな!?」

 

こいつの父親…工藤優作は有名な小説家だ。

 

そして警部殿と知己でもある。

 

それを知ったこいつは警部殿が現場にいると、しれっと潜り込んでくる様になりやがった。

 

このガキが探偵を目指している事は知っている。

 

そして今は無名の子供だから事件にはそう簡単に関われない事もだ。

 

だが、まだ子供で怖いもの知らずなこいつが事件に関わるのは危険過ぎる。

 

だからあいつの親である優作に連絡して止めさせようとしたが、ひねくれものなあいつは「流石は僕の息子だ。好奇心が強いね。すまないけど、新一を止めるのは小五郎君にお願いするよ。」とか言って笑いやがった。

 

まぁ、「僕と有希子が新一に探偵として活動し始めるのを認めたのは高校生からだよ。そう約束してあるから、それを理由として使ってくれ。あまりひどい様ならこっちでも対応するから報せてほしい。」っていう言質は取ってあるから、今回もそれを引き合いに出すしかねぇか。

 

「おい、クソガキ。」

「ガキじゃねぇよ、おじさん。俺には新一って名前があんだ。何回言ったらわかんだよ。」

「その言葉はそのまま返すぞクソガキ。優作達と約束してんだろ?探偵として活動すんのは高校生からだってな。約束も守らず、てめぇのやりてぇ事を優先すんのは子供(ガキ)だってんだ。そんなてめぇをガキって言って何が悪い?」

 

俺が睨みながらそう言うと工藤のガキは怯む。

 

「い、いや、けどよおじさん。」

「ったく、何回同じこと言わせりゃわかんだ。事件に関わるって事は巻き込まれるのと変わんねぇんだ。最悪、てめぇの命だって狙われることもあんだぞ?」

「わかってるよ、おじさん。そういうのも含めて、謎を解いて犯人を追い詰めるスリルがたまんねぇんじゃねぇか。」

 

ダメだこいつ…全然わかってねぇ。

 

そもそも探偵ってのは表に出るべき人種じゃねぇんだ。

 

例えば難解なトリックを用いられた事件を解決したとしよう。

 

事件を解決した探偵は有名になれるだろうさ。

 

でも10年20年経って犯人が出所してきた時はどうなる?

 

犯人が改心していればいい。

 

だが…犯人が改心していなければ?

 

探偵ってのは個人事業だ。

 

警察と違って組織という抑止力はない。

 

間違いなく命を狙われるだろうよ。

 

しかも家族や近しい人が巻き添えになる凄惨な形でな。

 

だから俺は捜査に協力する時は、わざと的外れな推理を披露する。

 

そうする事で犯人からの恨みを避けながら、可能性の一つを潰して捜査の進展に貢献してるんだ。

 

もちろん冤罪や名誉棄損として訴えられない様に細心の注意をしながらだ。

 

目暮警部を始めとした馴染みの連中はそんな俺の行動をわかってくれている。

 

だからこうして民間人となった今でも現場に入れてくれるんだ。

 

だというのにこのガキは…。

 

もう一発殴ろうかと思ったところで目暮警部から制止される。

 

「まぁまぁ、毛利くん。心配するのはわかるがその辺にしておきなさい。」

「しかしですなぁ警部殿。」

「そこで代案だ。私達の監視の元でなら新一くんが現場に入る事を認めようじゃないか。新一くんが現場を荒らさない様に我々が注意しておけば、後学の為として少しは目溢ししてもいいだろう?」

 

警部殿にそう言われてはこちらも強く言えない。

 

だが本当にいいのか?

 

言い換えれば『何かあれば警部殿が責任を取る』と言っているんだぞ?

 

その事に気付いた様子もなく、工藤のガキは満面の笑みを浮かべてやがる。

 

「もっとも、煙草をもう1本吸う時間ぐらいは貰うがね。新一くん、どうかな?」

「さっすが目暮警部!おじさんと違って話がわかるぜ!」

「ただし現場を荒らしたら今後二度と立ち入らせないよ。その事を約束出来るね?」

「もちろんさ!俺はシャーロック・ホームズの様な探偵を目指してるんだぜ?そんな常識は当然守るさ!それじゃ俺は現場の前で待ってるから、2人とも早く来てくれよ!」

 

そう言ってあのガキは走って行きやがった。

 

そしてあのガキに蘭も続こうとするのを慌てて止める。

 

「あっ、ちょっと新一!もう!」

「お、おい、蘭。」

「わかってるわよお父さん。私は現場に入らないわ。」

 

蘭の言葉に驚く。

 

少し前まで工藤のガキと一緒に行動する事に何も疑問を抱いてなかった蘭が、ここ最近では急に落ち着きを持ち始めた。

 

…どんな心境の変化があったんだ?

 

まぁ、それはいい。

 

それよりも、もう一言付け加えないとな。

 

「よくわかってるな。偉いぞ、蘭。あぁ、それとだ。」

「新一が待ち切れずに中に入ろうとしたら殴ってでも止めろ!でしょ?」

「う、うむ…。」

 

蘭の言葉を肯定しつつも、俺は内心で首を傾げる。

 

蘭は今…工藤のガキを止めるって言ったのか?

 

本当にどんな心境の変化があったんだ?

 

俺の疑問を他所に蘭は工藤のガキを追っていった。

 

呆然と蘭の背中を見送った俺は大きくため息を吐いてから煙草に火を付ける。

 

あぁ、煙が染み入るぜ。

 

「君も苦労しているな。」

「警部殿ほどじゃありませんよ。」

「そうかね?…ところで毛利くん。」

「なんですか、警部殿?」

「英理くんとはいつ縒りを戻すのかね?」

 

ちょうど煙を吸い込んだ瞬間だったこともあり、俺は盛大に噎せてしまう。

 

「い、いきなりなんですか!?」

「いや、君から英理くんが好んでいた香水の匂いがしてね。てっきり今日は会っていたのだと思ったが?」

 

ニヤニヤと笑う警部を見るに、どうやら確信している様だ。

 

確かに警部殿の言う通りに、今日の朝一から会っていたのは英理だ。

 

あいつとは口論の末に別れちまったが、それは夫婦として冷めちまったからじゃない。

 

むしろ俺は今も英理を愛している。

 

あいつも……まぁ、俺を愛してくれていると思う。

 

そうじゃなきゃ、陽が昇っている内から俺としけこんだりしねぇだろ。

 

まぁ、それはそれとしてだ…香水の匂いか。

 

蘭にバレてねぇよな?

 

あいつにバレると縒りを戻せってうるせぇからな。

 

実は俺と英理の仲はもう完全に修復済みだ。

 

当時は互いの言い分を受け入れられなかったが、今では互いの言い分を納得して受け入れている。

 

だが、それでも縒りを戻さないのにはわけがある。

 

男と女が良好な関係を保つには、時に適度な刺激が必要になることもあるもんだ。

 

まぁハッキリ言うとだ…俺と英理は今の関係を楽しんでるわけだな。

 

「まぁ男女の仲は人それぞれだから深く追及はせんが、蘭くんには内緒なんだろう?」

「…えぇ。」

「なら今日は帰る前に署の道場で一汗流していきなさい。蘭くんも今は気付かなくとも、家に帰って落ち着いた時には流石に気付くだろうからね。」

「お言葉に甘えさせていただきます。」

 

どこか気恥ずかしくなった俺は乱暴に煙草の火を揉み消す。

 

「それと英理くんと縒りを戻す事は真剣に考えるんだぞ。思春期の子供の心は変わりやすく、傷付きやすい。親として後悔のないようにな。」

「…はい。」




これで本日の投稿は終わりです。

こんな感じで今作は物語の進行がゆっくりになると思います。

それと察したかと思いますが…アンチ・ヘイトの対象はだいたい新一(コナン)くんになるかと。

まぁ、オリ主が裏側なので勘弁してくだしあ。

それでも『私は一向に構わん!』という方や『構わん。続けたまえ。』という方は、9月までゆっくりと待って差し上げてください。

それでは、また9月にお会いしましょう。


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第3話『推理小説家はGに焦がれる』

9月からと言っておきながらサプライズ投稿。

まぁ、そのあれです。

執筆感覚を鈍らせたくなかったという事で許してクレメンス。


Side:工藤優作

 

 

旅行の滞在先で小説の執筆を進めていると不意に電話が鳴った。

 

僕が旅行に出かける時に連絡先を教える相手はそう多くない。

 

故に僕に連絡をしてくる相手は、連絡先を教えた友人や知人達の中の1人の可能性が高い。

 

そしてその友人や知人達の中から僕に連絡をしてくる相手は……。

 

僕は手を伸ばしている間に推理を進める。

 

そして受話器を取ると相手に声を掛けた。

 

「やあ、小五郎君。何か用かな?」

『おい優作ぅ!てめぇの息子をなんとかしろぉ!』

 

やれやれ、驚かせる為にした推理が無駄になったな。

 

それはそれとして……小五郎君のこの様子はただ事じゃない。

 

彼の一声から新一が何かをしたのは察する事が出来る。

 

しかし……何をした?

 

僕達との約束を破って事件現場に行き、そして事件を推理しただけではこうはならない筈だ。

 

僕は新一の身になにが起こったのかを推理する。

 

現場を荒らしてしまった……これは可能性が低い。

 

先年、新一をハワイに連れていった時にヘリの操縦や銃の扱いと共にそこら辺も厳しくレクチャーしている。

 

更に新一が真剣に探偵を目指しているという要素も合わされば、現場を荒らしてしまうというミスを起こす可能性は限りなく低くなるだろう。

 

僕の推理が身内贔屓で鈍っていなければだけどね。

 

他に可能性があるとすれば……関わるべきでない事件に関わった?

 

そう考えた瞬間に、僕の脳裏にとある人物の姿が思い浮かんだ。

 

小五郎君の第一声でのあの剣幕……。

 

確証はないが確信があった。

 

確証もないのに確信するのは、推理小説家としてはあってはならない事だろう。

 

だが僕は小五郎君に問い掛けていた。

 

「小五郎君、新一は【例の人物】が関わっている事件に関わったんだね?」

『……あぁ。』

 

そうか……新一が【彼】が関わった事件に……。

 

「わかった、新一についてはこちらで対応するよ。おそらくだけど、新一の次の長期休みは潰れる事になるだろうね。有希子の付き人で。」

『それで反省すりゃいいんだがな。』

「そうだね。ところで小五郎君、事件現場の状況がどうだったのか聞いてもいいかな?」

 

そう問い掛けると彼の怒声が飛んでくる。

 

『バカヤロー!お前もいい加減にしやがれ!次は警告じゃすまねぇぞ!』

「心得ているよ。絶対に口外しないし、小説のネタにもしない。安心してくれ。僕は有希子を未亡人にしたくないからね。」

 

僕が小五郎君を名前で呼ぶ様になったのは、小五郎君が僕と同様に【彼】から警告を受けたのを知ってからだ。

 

それ以来、小五郎君とはこうして連絡を取り合う仲になっている。

 

有希子と英理さんの仲もいいしね。

 

『優作……すまんが俺の口からは言えん。』

「まぁ、そうだろうね。期待はしてなかったよ。」

『バカヤロー、だったら言うんじゃねぇ。』

「ははは、新一が掛けた迷惑共々謝罪するよ。迷惑料はウィスキーでいいかい?」

 

そう問い掛けると小五郎君が少しの間を置いてから答える。

 

『いや、英理が好きなワインにしてくれ。』

「交渉成立だね。それじゃそろそろ失礼するよ。さっきまで聞き耳を立てていた有希子が、日本への帰り仕度を始めているだろうから手伝わないとね。」

『おう、じゃあな。』

 

小五郎君との話を終えて受話器を置くとコーヒーで喉を潤す。

 

「やれやれ、血は争えないか。」

 

新一は今頃、必死になって犯人像を推理しているだろう。

 

僕が初めて彼を……【ゴルゴ13】を知った時の様に……。

 

僕が初めてゴルゴ13を知ったのは、鈴木財閥の相談役が主催したとあるパーティーに出席した後だった。

 

相談役はそのパーティーで700カラットものダイヤモンドを披露する予定だったのだが、そのダイヤモンドを盗むと怪盗キッドから予告があった。

 

僕が招かれた理由はキッドとの因縁があったからだろう。

 

他にも理由があったのかもしれないが、当時の僕はキッドがどの様にダイヤモンドを盗むかを推理するのに夢中で、他の事に思考を割くのを疎かにしてしまっていた。

 

だからこそ、あの事件が起こる事を予測出来なかったのだろう。

 

……いや、あれは予測出来る様なものではない。

 

なにせ700カラットものダイヤモンドが、たった一発の銃弾で四散してしまったのだから。

 

その一件は僕とキッドの勝負が佳境を迎えた時に起きた。

 

キッドが僕の推理通りの行動でダイヤモンドを盗み、後は手筈通りのタイミングで彼を捕縛するだけという状況。

 

そんな時に起こった。

 

キッドが得意気に掲げていた700カラットのダイヤモンドが、彼の手の上で四散してしまったんだ。

 

世界最高硬度の鉱物であるダイヤモンドが砕け散った光景はとても幻想的で、それでいてとても信じ難いものだった。

 

僕達とキッドはその光景に数秒間固まってしまった。

 

そしてその数秒が僕達にとって致命的なミスとなる。

 

一早く気を取り戻したキッドが逃走を開始すると全てが手後れとなり、僕達は千載一遇の好機を逸しキッドを逃がしてしまったんだ。

 

その後、僕は持てる全てを使って調べた。

 

あのダイヤモンドをたった一発の銃弾で砕いた人物を。

 

そしてわかったのは鈴木財閥の相談役がダイヤモンドを入手した経緯と、あの狙撃を成した人物…正確にはあの狙撃を成せるであろう人物の情報だ。

 

先ずあのダイヤモンドを鈴木次郎吉…相談役が入手した経緯だが、あのダイヤモンドは元々はイギリスのとある貴族が所有していたものだった。

 

そのとある貴族は保険引き受け人だったのだが、多額の保険金支払いで泣く泣くダイヤモンドをオークションに出品する事になった。

 

だがそのダイヤモンドは彼の知人であるイギリス貴族が落札する事で話が纏まっていた。

 

多額の金銭の譲渡で発生する贈与税を避ける為に仕組まれた、所謂出来レースだったんだ。

 

その出来レースのオークションに相談役が横槍を入れた。

 

ここからは僕の推理になるが……相談役に横槍を入れられた事で面子を潰された件の貴族が依頼したのが、あのダイヤモンドの破壊だったのだろう。

 

そしてそのダイヤモンドの破壊を依頼されたのが……あの狙撃を成せるであろう人物として名が挙がった【ゴルゴ13】だ。

 

あのダイヤモンドの破壊は報復としてはとても優雅な形だった。

 

ある意味でとても貴族らしい報復の仕方だろう。

 

これらの事を知った僕は夢中になってゴルゴ13の事を調べ、そして推理していった。

 

キッドの事が頭から消えてしまう程に。

 

僕やキッドの行動を読み切った頭脳、そして狙撃を成功させた技術と精神力。

 

あの一件でゴルゴ13がしたであろう行動の推理を進めれば進める程に僕は感動と興奮に包まれ…気が付けば万年筆を手に取っていた。

 

彼について僕が推理した有らん限りを書く為に。

 

自分でも驚く速さで執筆が進んでいた。

 

あれ程の速さで執筆が進む事は二度とないだろう。

 

そんな僕の手を止めたのは一発の銃弾だった。

 

銃弾が僕が手にしていた万年筆のペン先を破壊したんだ。

 

驚愕の余り固まる僕の目に映っていたのは、破壊されたペン先から飛び散ったインクが僕と原稿用紙を黒に染める光景。

 

その目に映るインクを血と錯覚したその時…僕は察した。

 

理屈ではなく本能で。

 

僕も所詮は表側の人間に過ぎなかった事を。

 

どれだけ僕が緻密に推理を練り上げて彼を追い詰めたと思っても、彼にとっては一発の銃弾があれば事足りる程度の遊戯に過ぎなかったんだ。

 

僕は書き上げていた原稿と彼について調べた資料を、銃弾が撃ち込まれた窓から見える様に燃やした。

 

そしてハッキリと口を動かして彼に誓った。

 

二度と彼について書かない事を。

 

彼について調べた事や推理した事を口外しない事を。

 

僕の誓いが認められたのか二度目の銃撃はなかった。

 

それ以来、僕は一線を引いて事件にはなるべく関わらない様にしている。

 

時折事件の捜査に協力する事もあるが、そういう時は極力表に出ない様に注意している。

 

まぁ、新聞等で事件を目にする度に推理をするのは変わらずにしているけどね。

 

これは僕の生き甲斐であり生き様であるから仕方ないだろう。

 

そういえば……僕が一線を引いた頃にキッドも引退を表明していたな。

 

ライバルである僕が一線を引いたからと考えるのは自惚れだろう。

 

おそらくはキッドの引退にも彼が何らかの形で関わっていると考えるのが自然だ。

 

それがどういったものなのかを知りたいと思うが…調べれば今度こそ僕は命を失うだろう。

 

残念だが諦めるしかないな。

 

「あなた。」

 

思考の海に沈んでいた僕の意識は有希子の声で引き揚げられる。

 

「あぁ、もう帰り仕度は終わったのかい?そんなに時間が経っていたのか……気付かなくてごめん。」

「別にいいわ。推理や考え事を始めるとあなたはいつもそうだもの。子供の様に夢中になって周りのことが見えなくなってしまう。まぁ、そんなあなたも愛しいのだけどね。」

 

有希子の言葉に僕は苦笑いをするしかない。

 

こんな子供染みた僕を変わらず愛してくれるのは彼女ぐらいだろう。

 

彼女と出会えた幸運に感謝しなければならない。

 

「さぁ、日本に帰りましょう。約束を破った新ちゃんにお仕置きをしなきゃいけないもの。」

「ふふ、そうだね。」

 

原稿を鞄に入れて立ち上がった僕に有希子が一言放つ。

 

「あなた、【彼】に夢中になるのは構わないけど、たまには私を構ってくれないと妬いちゃうわよ?」

 

そう言いながらウインクをする有希子に一瞬見惚れてしまう。

 

これだから僕の奥さんはたまらない。

 

平凡な日常に驚きと胸のときめきをくれるのだから。

 

「おやおや、それは大変だ。なら僕は君に妬かれない様に頑張らないとね。」

 

そう言いながら彼女を抱き寄せて唇を重ねる。

 

「残念だけど、これで誤魔化されるほど私は安くないわよ?」

「はぁ……降参だ。今度の旅行先は君が決めていいよ。」

「ふふ、交渉成立ね。」

 

以前までの僕はスリルの無い日常を退屈に感じる事から、自身を性格破綻者だと思っていた。

 

だがゴルゴ13にペン先を狙撃された事で気が付いた。

 

僕はスリルに酔いしれる僕自身に酔っていただけの子供だったんだと。

 

その事に気が付いてからはこういう平凡な日常にも幸せを感じられる様になった。

 

そう、それでいいんだ。

 

平凡な日常を送れるのがなによりも幸福な事なのだから。

 

そして平凡な日常の中でも推理をする事は十分に出来る。

 

態々危険に身を投じる必要なんてないんだ。

 

その事に新一も早く気付いてくれるといいんだけどね。

 

僕がハワイで教えたことなんて使わないのが一番だ。

 

……いっそのこと教えない方がよかったかな?

 

でも新一の性格を考慮すれば、教えておいた方が身を守れる可能性が高いと思えてしまうのが困りものだね。

 

さて、それじゃそろそろ息子の説教に向かおうか。

 

たまには親らしい事もしないと。

 

新一、早く気付けよ。

 

あの可愛い幼馴染みに愛想を尽かされてしまう前に。

 

その後、僕達夫婦は日本への帰路についた。

 

そして久し振りに再会した新一に約束破りの罰を伝えると、長期休みが潰れる事を察した新一が深く項垂れたのだった。




小五郎同様に工藤優作も拙作では変化しております。

それと今話内で触れておりますが、初代怪盗キッドこと黒羽盗一は拙作内では生きております。

そちらの話に触れるかは今後の展開次第ですね。

9:00にもう一話投稿予定です。


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第4話『成長する空手少女』

本日投稿2話目です。

皆さんは名探偵コナンの女性キャラで誰が好きですか?

私は鈴木園子ですね。

理由?金です。


Side:毛利蘭

 

 

私が通っている空手の道場で師範代の逆木詩緒さんと東郷さんが対峙してる。

 

二人の組み手は道場での普通の組み手や試合とは違うルールで行われるんだけど、そのルールが普通じゃない。

 

顔への正拳どころか金的や目潰しだって有り。

 

つまり禁じ手無しのなんでも有りで組み手をするの。

 

本当の実戦を想定して行われるから、見てるだけでも怖いぐらいに緊張感があるわ。

 

詩緒さんと東郷さんの組み手は、本当は中学生以下の子は見ちゃダメって言われてるんだけど、私は特別に許可を貰ってる。

 

そうなった訳を思い出すとちょっと恥ずかしいけど……。

 

東郷さんが初めて道場に来たあの日、私は東郷さんと組み手をして色々とアドバイスを貰ったんだけど、その後で詩緒さんのお爺さんで師範の逆木左門さんが、今日の練習は終わりだからって言って中学生以下の子を家に帰そうとしたの。

 

皆は普通に帰って行ったんだけど、私は詩緒さんがまるで大会の決勝戦前の選手みたいな雰囲気をしていたのが気になって帰らなかった。

 

帰らなかった私は見付からない様にコッソリと窓から覗こうとしたんだけど、東郷さんにあっさりとばれちゃったのよね。

 

それで東郷さんに『……覗きとは淑女のすることではないな。』って言われて凄く恥ずかしかった。

 

詩緒さんには大笑いされるし左門さんにはお説教されるしでもう散々。

 

でも東郷さんが左門さんに一言言ってくれて、私は特別に見学する事を認めて貰えたの。

 

そして……今日みたいな実戦を想定した二人の組み手を見た。

 

凄かったわ。

 

本当の空手があんなに凄くて、怖いものだとは思わなかった。

 

二人の組み手が終わった後にそれを伝えると東郷さんが、『……怖いと感じるのは悪い事ではない。その感情を制御出来れば、大会でも好成績を残せるだろう。』ってアドバイスをくれた。

 

なんで悪い事じゃないのかわからなくて聞いてみたんだけど、東郷さんが言うには自分を客観視する事はとても重要なんだって言ってたわ。

 

他にも直感的思考と論理的思考を併せ持てればもっといいみたいなんだけど……今の私には難しくてあまり出来ていない。

 

それでも意識して東郷さんのアドバイスを実践する様にしてみると、普段の生活で変わった事があった。

 

それは……新一の行動に疑問を持つ様になったこと。

 

切っ掛けは園子の一言。

 

中学校でちょっとした事件が起こったんだけど、事件って聞いた新一が細工をして火災報知機を鳴らすと授業を抜け出して推理をしに行ったの。

 

そうしたら園子が怒りながら文句を言ったわ。

 

いくら事件を解決する為だからって非常識だって。

 

最初は園子の言葉を否定したわ。

 

事件を解決する為にした新一の行動が悪いとは思わなかったから。

 

だけど東郷さんのアドバイス通りに考える様になっていた私は、時間が経つに連れて園子の言う通りに新一の行動が非常識だって思う様になった。

 

東郷さんの言う直感的思考……パッと考えた時は新一の行動が特に悪い事とは思わなかった。

 

でも論理的思考……落ち着いてよく考えてみると、園子の言う通りに新一の行動は非常識だと思った。

 

こんな事は初めてで私は混乱した。

 

新一は間違ってないと思う私と間違っていると思う私……どっちが本当の私なのかわからなくなってしまったから。

 

その後で事件は無事に解決したんだけど、話し掛けられても私はほとんど無視をしてしまった。

 

そして学校が終わると急いで帰ってお母さんに電話をした。

 

話を聞いてくれたお母さんは直ぐに時間を作ってくれて、家(事務所)の下にある喫茶店のポアロで待ち合わせをすることになった。

 

そしてポアロで飲み物を注文してからお母さんに相談したんだけど……。

 

「よく考えられる様になったわね。偉いわよ、蘭。」

 

そう言いながらお母さんに頭を撫でられた。

 

嬉しかったけどそれと同時に恥ずかしかったから、私はお母さんに「もう!子供じゃないんだから!」って文句を言ってしまった。

 

そしたらお母さんはクスクスと笑いながら…。

 

「親にとって子供は子供なのよ。何歳になってもね。」って言ってニコニコしながらコーヒーを飲んでた。

 

そんなお母さんが凄くカッコよく見えた。

 

私もお母さんみたいにカッコいい大人の女の人になりたい。

 

お母さんに相談をして落ち着いた私は、改めて私が混乱した原因……正確にはなんで新一の行動に今まで疑問を持たなかったのか聞いてみた。

 

するとお母さんは「それはおそらく、蘭にとって身近な人が事件に関わるのが自然なことだったからでしょうね。」って答えた。

 

言われてみると凄く納得した。

 

お父さんは元刑事で、お母さんは弁護士。

 

思い返してみても、月に一回どころか週に一回は事件って言葉を耳にしてる。

 

そしてその事件にお父さんとお母さんのどちらかが関わる事も少なくなかった。

 

でも事件に関わるって事は犯人と……。

 

そこまで考えたところで私はゾッとした。

 

東郷さんと詩緒さんの組み手を見て、実戦がどれだけ危なくて怖いのかを知っていたから。

 

弁護士のお母さんはまだしも、刑事だった頃のお父さんは……。

 

よかった……お父さんが刑事を辞めてくれて。

 

でも、お父さんは探偵をしているから今も……。

 

私はお父さんが心配になってお母さんに相談した。

 

そしたら……。

 

「大丈夫よ。あの人もわかってるわ。それに、探偵って蘭が思っている様な職業じゃないのよ?そもそも探偵に逮捕権はないの。例外として現行犯人や準現行犯人が相手の場合は私人……一般人でも現行犯逮捕を認められているのだけど、そういうのは万引き犯や痴漢等の基本的に逮捕時の危険が少ないケースがほとんどね。」

 

お母さんが言うには新一が目指している様な事件を次々に解決して、そして犯人を捕まえる様な探偵はあくまで物語の中のもので、本来はあまり表に出ない地味な職業みたい。

 

「だから心配しなくても大丈夫よ。あの人は探偵がどういうものなのかをちゃんとわかってるから。流石は元刑事よね。」

 

そう言ってお父さんの事を話すお母さんの顔が少し赤くなっているのに気付いた。

 

あの時はお母さんがお父さんの事をまだ好きなんだってわかって嬉しかったなぁ。

 

そんな感じで考える事に夢中になっていた私だけど、師範の左門さんに肩を叩かれてハッとする。

 

「考え事しているところ悪いがの、そろそろ東郷と孫が動くぞい。」

「は、はい!すみません!」

 

いけない、集中しないと!

 

この組み手を見せてくれるのは東郷さんの厚意のおかげなんだから!

 

東郷さんの御両親がポアロを経営してるんだけど、そのポアロは私の家(毛利探偵事務所)の下にある。

 

その縁で東郷さんは私が探偵の娘だって知っていたらしいんだけど、それで東郷さんは万が一の場合に備えて修羅場の雰囲気に慣れておいた方がいいって左門さんを説得してくれて、こうして私が見学出来る様にしてくれた。

 

考えてみれば確かに慣れておいた方がいいと思う。

 

お父さんもお母さんも正しい事をしてるって信じてる。

 

それでも逆恨みされる可能性がないわけじゃない。

 

もし逆恨みをした人に襲われた時に怖さから身体が固まったら…抵抗どころか逃げることも出来ないわ。

 

東郷さんのこの厚意を大切にしなきゃ。

 

私は集中して二人を見る。

 

すると私が集中するのを待っていたかの様に、東郷さんと詩緒さんは動き始めたのだった。

 

 

 

 

Side:毛利蘭

 

 

東郷さんと詩緒さんの組み手が終わると、私達はポアロに集まった。

 

東郷さんが仕事の関係で海外に行くって聞いたから、私が詩緒さんと左門さんに提案して東郷さんの送別会をする事になったの。

 

まさかポアロを貸し切るだけじゃなく私の両親まで喚ぶとは思わなかったけど……。

 

「それじゃデュークの活躍を祈って……乾杯!」

 

東郷さんのお父さんの音頭で乾杯をする。

 

私は未成年だからジュースだけどね。

 

もう、お父さん!ただ酒だからって勢いよく飲み過ぎよ!

 

お母さんに愛想を尽かされてもしらないからね!

 

そう思ったんだけど、お母さんはニコニコと笑顔でお父さんにお酌をしてるし……なんかいい雰囲気?

 

そう考えていると東郷さんのお父さんが……。

 

「随分とお熱いね御二人さん。こりゃ二人にも乾杯した方がよかったかな?」

 

そう言ってからかったんだけど、お母さんと目を合わせて頷いたお父さんが不意に真面目な顔になって話し出した。

 

「……コホンッ!不躾ではありますがこの場を借りてご報告させていただきます。私、毛利小五郎と妃英理は復縁をする事が決まりました。」

 

えっ?

 

「……えぇ―――っ!?」

 

驚いて思わず大声をあげちゃった。

 

だって、何も聞いてなかったんだもん。

 

ポアロに集まってた人達がお父さんとお母さん、そして私に拍手をしてくれる。

 

えっと……これ、夢じゃないよね?

 

お父さんとお母さんが二人揃って私を見てくる。

 

「蘭、今まで色々と心配かけちまったな。けど、また3人で暮らせるからな。」

「何も相談せずに私達だけで決めてしまってごめんなさい。でも、お父さんもお母さんもちゃんと蘭を愛してるからね。だからまた3人で一緒に暮らしましょう。」

 

色々と言いたい筈なのに何も言葉が出てこない。

 

嬉しくて涙が止まらない。

 

お父さんとお母さんにおめでとうを、おめでとうって言ってくれる皆にありがとうを言えないぐらい涙が流れ続ける。

 

ずるいよ。

 

なんで今日報告するの?

 

今日は東郷さんの送別会で、東郷さんが主役なのに。

 

その東郷さんにまでおめでとうって言われて、もうどうすればいいかわからないじゃない。

 

バカ!

 

お父さんとお母さんのバカ!

 

でも、また3人で一緒に暮らせるのは本当に嬉しい。

 

けど……東郷さんに泣き顔を見られちゃったのは2人のせいなんだから、しばらく許してあげないからね!

 

こうして東郷さんの送別会に毛利家のお祝い会も加わってしまった。

 

それでも嫌な顔一つせずに祝福してくれる東郷さんは本当に大人だと思う。

 

……そういえば東郷さんって何歳なんだろ?

 

お酒は飲んでるから少なくとも20歳?

 

恋人はいるのかな?

 

年下は……って、なに考えてるの?!

 

私は新一の事が!新一の事が……あれっ?

 

新一の事が……好き、じゃない?

 

えっ?どうして?

 

小さかった頃から好きだったのに……今は好きじゃなくなってる?

 

どうして?

 

考えてもなかなか答えが出てこない。

 

でも私は新一を異性として好きじゃなくなってる事をハッキリと認識した。

 

……なんで新一を異性として好きじゃなくなったのかは気になるけど、それを考えるのは後回しにしよう。

 

それよりも今はこの送別会兼お祝い会を楽しまなきゃね。

 

東郷さんとしばらく会えなくなっちゃうんだから。

 

この日、私は初恋が終わった事を知った。

 

でも悲しくはない。

 

家族3人でまた暮らせる様になったし、新しい恋も……えっと、まだ恋かはわからない……かな?

 

……後でお母さんに相談しよ。




これで本日の投稿は終わりです。

というわけで拙作では毛利小五郎と妃英理さんは復縁しました。

原作を見て「さっさと寄りを戻せよ」と思ったのは作者だけじゃないはず!

それと今話で登場した逆木詩緒は『史上最強の弟子ケンイチ』の逆鬼がモデルです。

ですが身体能力は拙作世界が基準なので、あの達人がわんさかいる世界の様なとんでもない動きは出来ません。

まぁ13代目の石川五右衛門レベルの動きなら可能ですが…。

それでは9月にまたお会いしましょう。

また来週にサプライズ投稿なんてしないからな!

9月までゆっくり休むからな!


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第5話『謎の女はGに首ったけ』

こっそり投稿。

本日投稿1話目です。


Side:デューク・東郷

 

 

とある国の過激派武装組織を壊滅させた俺は、密かに俺を狙っていた敵から身を隠す為に過激派武装組織のボスが作った地下道に入る。

 

そして地下道を移動して地上に出ると敵の不意をついて狙撃したのだが、敵は超反応で俺の狙撃を回避してみせた。

 

俺は僅かに驚くが回避して体勢を崩した敵をもう一度狙撃する。

 

しかしまたしても回避されてしまい敵に反撃されると、俺は転がって敵の射撃を回避して地下道に逃げ込む。

 

(あの反応速度…ドーピングか。)

 

地下道にて敵が来るのを待ち受けるが、地下道の入り口まで来た敵が退く気配を感じる。

 

俺を殺すのが目的ならば敵がこのまま退く筈がない。

 

なら敵は長期戦を選択したのだろう。

 

俺は警戒をしつつも心身を休めると、今回の一件を思い出していた。

 

事の始まりは日本政府関係者の男が、とある国の過激派武装組織の排除を依頼してきた事だ。

 

この過激派武装組織はとある国で親日派の現政権と対立する反日派を支援しており、その事から依頼者は先々の外交問題を危惧して依頼をしてきたのだ。

 

もっともこれだけならばよくある依頼の一つだ。

 

自国の組織を動かすよりも安上がりだからな。

 

もちろん国家の威信とやらの為に自国の組織で解決に動くケースもあるが、そういった時にはメディアコントロール等を含めた諸経費で莫大な金が掛かる。

 

故に日本政府の関係者が俺に過激派武装組織の排除を依頼してくるのは不自然ではないのだが、今回の依頼に俺は違和感を覚えた。

 

違和感の理由は依頼が依頼者個人でのものだったからだ。

 

過激派武装組織が壊滅すればその組織が根を張っていた国だけでなく、かの国と外交がある各国にも少なからぬ影響が出るだろう。

 

故にその影響を緩和する為に最低でも自国の政府閣僚へ根回しをしておく必要があるのだが……それをやるには依頼者では力不足だった。

 

特に日本は政党や派閥が多く意見調整だけでも時間が掛かるからな。

 

下手をすれば依頼者の政界での命運が尽きる案件なのだが……依頼者にそのデメリットを気にした様子はなかった。

 

そこで俺は依頼者の背後に何者かがいると予測した。

 

情報屋をやっている傭兵時代の仲間に依頼をして探ってもらうと、依頼者の背後にペンタゴンの関係者がいるのがわかった。

 

更に探ってもらうとそのペンタゴンの関係者は【バイオニック・ソルジャー計画】を推進している人物だと判明した。

 

バイオニック・ソルジャー計画…これは人工受精で造った子供を、科学的トレーニングとドーピングで最強の兵士へと育て上げる計画だ。

 

傭兵時代の仲間からの情報によればその計画は既に最終段階まで進んでいるらしく、後は造り上げた兵士の強さを証明するだけだったそうだ。

 

そしてその兵士の強さを証明する相手として俺を選ぶ可能性があると……。

 

あくまで可能性である内は見過ごしてもよかった。

 

甚だ迷惑な話だがな。

 

だがこうしてハッキリと敵対したからにはギルティだ。

 

虚偽依頼をした依頼者とペンタゴンの関係者の男へ報復をしなければならないが、先ずは俺の狙撃を回避したあの男を処理しなければならない。

 

(奴がドーピングに頼らずにコンディションを整えられるのならば少し面倒だが……。)

 

俺はコンディションを整える為に瞑想を始めながらそう考える。

 

そして地下道に潜ってから20日後、瞑想で心身共にベストコンディションに整えた俺は敵に仕掛けるのだった。

 

 

 

 

Side:デューク・東郷

 

 

敵対した男の処理を済ませた俺はニューヨークのとある高級ホテルに部屋を取りコールガールを喚んだ。

 

まだ依頼者とペンタゴンの関係者への報復が残っているが、敵対した男の処理の為に作ったベストコンディションである今の状態では、不意に誰かが近付いた際に反射的に攻撃してしまう可能性が高い。

 

このベストコンディションは兵士としてのものであるので戦場では役に立つが、平和な日常には不適格な程に感覚が過敏になってしまっている。

 

故に早々に鎮める為にコールガールを喚んだのだが、ホテルの部屋にやって来たのはコールガールではなく【峰不二子】だった。

 

「はぁい、デューク♪」

 

気軽に挨拶をした不二子が部屋に入ってくる。

 

「悪いけど貴方が喚んだコールガールには帰ってもらったわよ。代わりに私が相手を……ね。」

 

そう言って服を脱いだ不二子が俺をバスルームへと誘う。

 

そして慣れた手付きで俺を洗い始めた。

 

数年前に依頼を受けて以来、彼女は時折こうして俺と身体を重ねたり情報収集等で俺の仕事をサポートしようとしてくる。

 

そういう時はもちろん報酬を払っているのだが、彼女が自らの意思で俺をサポートしようとするのは何故だ?

 

原作の彼女の性分を鑑みれば……いや、今更原作知識を当てにしても意味は無いな。

 

この世界は物語の中ではなく俺が生きていく現実なのだ。

 

そこを間違えると夢と現実の境界を見失い、末には無様な破滅が待っているだろう。

 

裏の世界で生きていく以上、何時かは破滅が訪れるだろうが……その時はせいぜい俺らしく終わりたいものだ。

 

そう考えていると不意に不二子が視界に入り、反射的に彼女を手刀で攻撃してしまう。

 

辛うじて寸止めする事は出来たが危うく彼女を殺すところだった。

 

「ふふ、コールガールを帰してよかったでしょう?並みの女じゃ今ので腰が抜けちゃって、するどころじゃなくなってしまっていたもの。」

 

そう言いながら彼女は艶やかに微笑み股間を撫で上げてくる。

 

「さぁ、始めましょう。貴方のその滾り……私が全部受け止めてあげるわ。」

 

そう言って彼女はその瑞々しい唇と共に豊満な胸も押し当ててきたのだった。

 

 

 

 

Side:峰不二子

 

 

目を覚ますと隣にデュークの姿はなく、代わりに書き置きと共に100ドル札の帯封が3つ残されていた。

 

書き置きにはこのスイートルームを十日取ってあるから好きに使えと書かれている。

 

「もうっ!相変わらずなんだから!たまには私とゆっくりしてもいいじゃない!」

 

彼がいない事に不満を口にしながら書き置きを灰皿の上で燃やすとバスルームに向かう。

 

そして身体を洗い始めると思い浮かぶのは昨日の情事ではなく過去の事。

 

まだ鞍馬忍者の末裔だった頃の私。

 

人目を避ける様に鞍馬山の奥にあった里で私は生まれた。

 

物心ついた頃からくノ一になるべく養育されていた私だけど、世間を学ぶ為に小学校に通う様になってからは里の在り方に疑問を持つ様になった。

 

それも当然ね。

 

自分を出して人生を楽しんでいる皆と耐え忍んで自分を押し殺している私……疑問を持つなというのが無理な相談だもの。

 

それでも両親を始めとした里の皆が『かつて我等の先祖は九郎判官を~』なんて宣うから我慢をしていたけど、ついに我慢ならない事が起こった。

 

それは私が15歳になった頃、里長に彼の息子の相手を勤める様に言い渡された事。

 

くノ一である以上はそういう事も必要なんだと理解していたつもりだわ。

 

でも納得するかは別だった。

 

だって相手の里長の息子はどこが耐え忍んでいるのかわからない程に肥え太っていて、間違いなく忍び働きなんて出来ない豚だったんだもの。

 

そんな豚に初めてを捧げるなんて絶対にあり得ない。

 

だから私は床の間で下劣な笑いをしていた豚の股間を強かに蹴り上げると、豚が所持していた金品を盗んで里を抜け出した。

 

里を抜け出した私はとりあえず人目のあるところに向かおうとしたんだけど、そんな私の肩を掴む者が現れた。

 

追手がくるにしても早すぎると思いながらも私は肩を掴んできた者を攻撃する。

 

けどその攻撃は中断する事になった。

 

何故なら私の肩を掴んだのは私の父だったから。

 

私は父に何故私が里を抜けるのかわかったのかを問うと、父は『娘の事がわからず何が親か!』と返してきた。

 

見渡すと峰一族の皆が旅支度をしていた。

 

どうやら皆も里長の横暴に愛想が尽きたみたい。

 

私達は一族揃ってアメリカに渡った。

 

日本国内では里からの追手が尽きないと判断したから。

 

でも、その判断も甘いものだった。

 

私に拒まれて面子を潰された里長とその息子は、執拗に私達に追手を差し向けてきた。

 

追手との戦闘で一族の者が一人また一人と倒れていき、遂に私と両親も追手に追い詰められたその時…一人の男が現れた。

 

短い人生経験ながらそれまで出会った人達とは比べ物にならない存在感を発していた男は、ただそこに立っただけで私達や追手の耳目を集めてしまった。

 

数瞬の硬直の後に目撃者を消すべく追手の一人が男に仕掛けたのだけど、男は目にも止まらない拳銃の抜き打ちで追手の眉間を一発で撃ち抜いてしまった。

 

そこからは男の独擅場だった。

 

追手の一人があっさりと殺された事で残った追手の動きが一瞬止まると、男は一息で残り全員の眉間を撃ち抜いてしまったの。

 

追手を全て倒した男は拳銃のリロードをしながら……。

 

「……まだ生きる意思が残っているならついてこい。」

 

そう言って一人で歩き始めた。

 

私達三人は男についていくか戸惑った。

 

色々とあって疑心暗鬼になっていたから。

 

それでも辱めを受ける前に自決するか、犬死覚悟で里長と息子の首を狙って捕らわれの身となるかを迫られていた状態だった私達は、覚悟を決めて彼についていった。

 

彼に連れられてついた所は【クラブバー:ドッグタグ】という店だった。

 

彼は慣れた様子で店に入ると大柄な男と一言二言話をして店の奥へと歩いていった。

 

すると大柄な男は「うちの客は荒くれが多くてな。真っ当な従業員は直ぐに辞めちまう。だから荒事に慣れている従業員がちょうど欲しかったところだ。」って言って、私と同い年ぐらいの少女に後を任せて店の奥に行ってしまった。

 

急な話についていけず呆然とする私達に、私と同い年ぐらいの【レディ】と名乗った少女が声を上げた。

 

「ったく、【デューク】の旦那も【ファルケン】も勝手なもんだぜ。仕方ねぇ、そんじゃ適当になんか腹に入れるか。」

 

そう言ってレディは手早く作った料理を私達に出してくる。

 

おそるおそるとそれを口にすると、その暖かさに私達親子は涙を流した。

 

「おいおい大袈裟だろ。はぁ……デュークの旦那も面倒な奴等を連れてきたもんだ。」

 

言葉には少し棘があったけど彼女の雰囲気はとても優しいもので、私達親子は涙を流しながら食事を続けた。

 

食事が終わるとお腹が膨らんだからか心が落ち着き、私達親子はレディに自己紹介をした。

 

そして自己紹介が終わった後に、私は私達を助けてくれた男についてレディに聞いた。

 

「なんだ不二子、デュークの旦那の事が気になんのか?」

 

レディはあの男……【デューク・東郷】の事を教えてくれた。

 

曰く、傭兵団ゴルゴに所属していた一人で、裏の世界では【ゴルゴ13】の異名で呼ばれている男である。

 

曰く、傭兵団ゴルゴ解散後はフリーのスナイパーとして活動しており、その依頼成功率は99%に達する凄腕である。依頼の失敗もミスファイアによる一度だけ。

 

曰く、世界一の金持ちだったハワード・ロックウッドを殺し、ミステリーの女王を殺す為に軍の基地を壊滅させた……という噂がある。

 

他にも彼に関する話は色々あるらしいんだけど、レディは「あまり喋り過ぎるとヤバイからな。」と言って肩を竦めると話を打ち切った。

 

そしてちょうどその時、デューク・東郷が大柄な男と一緒に地下から上がってくるのを目にすると、私は土下座をして彼に依頼をした。

 

依頼内容は鞍馬山の里長とその息子の暗殺。

 

そして対価は……私の身体。

 

海外で一年に及ぶ逃亡生活を続けてきた私達に対価として差し出せるものなんて……もう命か体しか残っていない。

 

だからこそ私は自身の身体を対価として提示した。

 

けれど彼は……。

 

「……俺は複数の依頼を同時に受けない。」

 

と言って私に欠片も興味を示さずに去っていった。

 

彼に追い縋ろうとしたけどレディに止められ、去り行く彼の背中を見送るしかなかった。

 

崩れ落ちた私に聞かせる様にレディが話し始める。

 

「なぁ、【ファルケン】。旦那の今回の獲物はなんなんだ?」

「1キロ先のフットボールだ。」

 

「ひゅう、そいつはまたクレイジーだ。それで、終わったらどうするって?」

「一度戻ってくるそうだ。地下にいる【デイブ】に此処に来る前に使ったリボルバーの調整を頼むらしい。態々デイヴに頼むほどの消耗ではないんだろうが……まぁ、あいつらしい判断だな。」

 

そんな話を私に聞かせたレディはウインクをしてきた。

 

その後、ドッグタグに戻ってきた彼に改めて依頼をすると、私達親子は追手に脅えぬ日々を手に入れ……私は少女から女になった。

 

シャワーを止めた私は新しいバスローブを羽織って部屋に戻る。

 

「ふぅ、お腹が空いたわね。とりあえずルームサービスを取ろうかしら。」

 

私は峰不二子。

 

元鞍馬忍者のくノ一で、今はデューク・東郷のサポートをする者の一人。

 

情報収集だけじゃなくこうして彼と身体を重ねるのも恩返しの一つなのだけど……半分以上私情なのは乙女の秘密。

 

母さんとレディにはバレバレだけどね。

 

「それとファルケンに連絡を入れて休みを貰いましょ。彼の好意は素直に受けとらなくちゃね♪」




本日は2話投稿します。

第5話でお分かりいただけたと思いますが、不二子はゴルゴガール入りとなりました。

それと補足という名の蛇足をば…。


・峰那須人(みね なすと)

不二子の父。拙作オリキャラ。

元鞍馬忍者。


・峰鷹子(みね たかこ)

不二子の母。拙作オリキャラ。

元鞍馬忍者。


・ファルケン

ドイツ系アメリカ人。キャラモデルは海坊主。

ドイツ系である事に誇りを持っている為【ファルコン】というと怒る。


・レディ

中国系アメリカ人。キャラモデルは二丁拳銃。

完全にやさぐれる前にファルケンに拾われたのでキャラモデルよりもマイルドな性格。


・デイブ

30代前半でありながら世界で5本の指に入る若き天才ガンスミス。

いったい何マッカートニーなんだ…。


コナンの原作開始前にキャラ紹介を書く予定ですので詳しくはそちらで。

次の投稿は9:00の予定です。


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第6話『刑事と怪盗の事情』

本日投稿2話目です。


Side:銭形幸一

 

 

「局長!なぜ奴を!ゴルゴ13を追ってはならないのですか!?」

 

ICPOに出向して奴を追い続けること数年、これまで奴の捜査が中止になる事は何度もあったが、遂に奴の捜査そのものの禁止を言い渡された。

 

「奴を追って犠牲になった局員は既に数十人にも及ぶ。如何に正義の為とはいえ、これ以上の犠牲を受け入れるわけにはいかない。」

「ですが!」

「……お願い、わかって幸一さん。私は貴方まで犠牲になってほしくないの。」

 

局長としての顔から妻としての顔になったジャスミンに俺は二の句を告げない。

 

……ここいらが潮時なんだろうな。

 

「はぁ……わかった。降参だ。」

「よかったわ。わかってくれて。」

 

そう言って局長の席を立ったジャスミンは俺に抱き付いてくる。

 

こんな昼間からと思いつつも受け入れちまう俺は、もうすっかり嫁さんの尻に敷かれちまってるんだろうなぁ。

 

ジャスミンとこういう関係になったのは一年前だ。

 

ICPOに出向してから組んでいた相棒が奴に殺された事で弔い酒を飲んでいたんだが、俺は強かに酔っぱらって同席していたジャスミンに手を出しちまった。

 

幾ら酒の勢いとはいえ、手を出しちまったなら責任は取らにゃならん。

 

俺は直ぐにジャスミンの両親に頭を下げて入籍し、半年前には結婚式を挙げて同僚達に盛大に祝われた。

 

思えばあの時からだろうな。

 

俺が刑事としての正義を貫けなくなったのは。

 

一人の男としてジャスミンを幸せにする責任を背負うと、俺の背中にはもう他の何かを背負う余裕は無くなっちまっていた。

 

我ながら情けないと思う。

 

だが嫁さん一人幸せに出来ない男が、刑事として他人の幸せを守れる筈もねぇ。

 

さっきも思ったが、ここいらが潮時なんだろうよ。

 

ジャスミンを抱き締め返すと俺はゴルゴ13を追い始めた切っ掛けを思い出す。

 

切っ掛けはまだ新人だった頃の俺の世話をしてくれた先輩の死だった。

 

先輩は直ぐに東都の本部に栄転しちまったからそう長い付き合いでもなかったが、それでも俺に刑事としてのイロハを教えてくれた人だった。

 

だからこそ先輩が死んだ事件を捜査して仇をとろうとしたんだが、管轄違いもあって直ぐに上から捜査中止を言い渡されちまった。

 

それでも諦めきれなかった俺は暇を見付けては捜査を続けると、時の首相でさえ頭が上がらないと謳われる政財界の大物に行き着いた。

 

その人物は俺を招き入れると愉快そうに笑いながらゴルゴ13の事を語った。

 

警察はおろか自衛隊ですら止める事は叶わない、世界最高のテロリストであると。

 

そう語って嘲笑する様に笑った件の人物は、数日後に眉間を撃ち抜かれて死亡した。

 

そしてその事件は最低限の捜査の後に、驚くほど早々と捜査を打ち切られた。

 

それでヤツを追うには日本の警察では不可能だと見切りを付け、俺はICPOに出向した。

 

だが結局のところあの死亡した政財界の大物が語った通りに、奴を逮捕する事は叶わなかった。

 

小さくため息を吐いた俺はジャスミンに話し掛ける。

 

「奴を追わん事には納得したが、それではどうするんだ?対外的に何かしら理由がいるだろう?」

「ふふ、もう当てはあるわよ。」

 

そう言って離れたジャスミンが一枚の書類を差し出してくる。

 

「……ルパン三世?」

 

書類には猿顔の人物の名前と写真があった。

 

「怪盗アルセーヌ・ルパンの孫を自称する男よ。予告状を送ったりして派手にやってるから有名になってきているの。真偽は定かじゃないけどアルセーヌ・ルパンの孫というネームバリューは、対外的な理由として十分に使えるわ。」

 

書類にはルパン三世が盗んだ物が列記されている。

 

なるほど、随分と派手にやっているみたいだな。

 

「ジャスミン、こいつの居所は?」

「ニューヨークで見たって情報があるわね。彼の目的は不明。これ以上は現地に行って情報を集めないとわからないわ。」

「そうか、後は任せておけ。」

 

書類を返して踵を返す。

 

「幸一さん。」

 

ジャスミンに呼び止められて足を止める。

 

「帰りを待っているわ。二人で。」

 

そう言ってジャスミンは腹に手を添える。

 

俺はジャスミンに歩み寄ると彼女を抱き締める。

 

「直ぐに帰ってくる。」

「無事に帰って来てくれればそれでいいわ。」

「あぁ、それじゃ行ってくる。」

 

愛する嫁さんに見送られニューヨークに向かう。

 

俺も遂に父親か……。

 

待ってろよ、ジャスミン、俺の子。

 

父ちゃんは手柄を挙げて帰ってくるからな。

 

相棒の形見である機械式腕時計にゴルゴ13逮捕を諦める事を謝罪し、俺はニューヨークへと向かうのだった。

 

 

 

 

Side:ルパン三世

 

 

「へ~っくしょん!」

「どうしたルパン、風邪か?」

「な~に言ってんだよブラッド。何処かでカワイコちゃんが俺の噂をしてんのさ。」

「はっ、言ってろ。」

 

ニューヨークのとある高級ホテルの近くにある喫茶店でコーヒーを飲んでいると、不意に鼻がムズムズしてくしゃみをしちまった。

 

体調は万全だから誰かが噂をしてんだろ。

 

それがカワイコちゃんとは限らないのがこの商売の辛いとこだ。

 

「ルパン。」

 

ブラッドの小声でそれとなく高級ホテルの入り口を見る。

 

するとそこにはデューク・東郷の姿があった。

 

「こりゃまた随分とスッキリした顔をしちゃってまぁ。ムッツリした顔をしてやる事はしっかりやっちゃってんだから東郷ちゃんは。」

「それもその相手があんないい女なんだからな。流石は裏の世界ナンバーワンってところか。」

 

昨日東郷の部屋に入っていった女は、俺とブラッドが揃って身震いする程のいい女だった。

 

あの女が東郷の女じゃなけりゃ確実に口説いてたぜ。

 

「それで、どうすんだルパン?」

「どうもこうもないってぇ。今回も空振りだぁ。」

 

こうして俺がそれとなく東郷を張っているのは昔に受けた恩……借りを返す為だ。

 

それも借りは一度じゃなく二度もある。

 

一度目は数年前、俺がまだ駆け出しのルーキーだった頃だ。

 

当時の俺は名を売ろうと躍起になっていて、無謀にもカリオストロの城に忍び込んだ。

 

カリオストロ公国は小国だ。

 

それでありながらヨーロッパでかなり幅を利かせている。

 

その秘密を探ろうとしたんだが、しくじって死にかけた。

 

そして死にかけていたところを東郷に助けられた。

 

二度目はカリオストロ公国での傷が癒えてからの復帰戦だ。

 

俺はとあるダイヤを狙ってたんだが怪盗キッドと現場でバッタリ出会っちまうと、二人揃ってそのダイヤを狙ってた【黒の組織】に殺されかけた。

 

そこをまた東郷に助けられちまった。

 

礼の一言でも言おうとしたんだが、奴は『……仕事だ。』って言ってさっさと退散しちまった。

 

あの一件の後でキッドは引退。

 

俺はこうして借りを返す機会を伺っている。

 

まさかこのルパン三世ともあろう者が男の尻を追い掛けるはめになるとはなぁ……。

 

「さ~て、そんじゃ仕事すっかぁ。」

「ルパン、賭けは覚えてるよな?」

 

ブラッドの問い掛けに俺は笑って答える。

 

「もちろんさぁ。【ガルベス一家】が所有する【クラム・オブ・ヘルメス】を頂いた方が一味のリーダー……だろ?」

 

俺とブラッドは今まで誰とも組まずに仕事をしてきたが、名が売れるに連れて一人でやるには限界を感じる様になった。

 

ブラッドとは商売仇だが気心が知れた親友でもある。

 

そこで俺達は組む事にしたんだが、どっちも一味のリーダーになる事を譲らず、こうして賭けで決着をつける事になったわけだこれが。

 

「覚えてるならいいさ。」

 

立ち上がった俺達は拳を合わせる。

 

「しくじんなよ。」

「そいつはお互い様だぜぇ。」

 

互いに反対方向に別れて馴染みの情報屋の所に向かう。

 

「……それとなく気に掛けとくか。」

 

ブラッドは俺と違ってコツコツと小さな山をこなして名を売ってきた男だ。

 

堅実な仕事で失敗も少ない奴だが、それだけに修羅場の経験が少ない。

 

だからこそマフィアのお宝を盗む今回の一件ではより一層慎重になる必要があるんだが、どうも今回のブラッドは舞い上がってる様に見える。

 

「気ィつけろよブラッド。盗人稼業はそう甘いもんじゃねぇぜ?」

 

立ち止まって振り返るとそう呟く。

 

そしてポケットに手を突っ込むと、情報屋の所に向かって歩いていくのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また補足という名の蛇足をば…。


・ジャスミン

とっつあんの嫁さん。ICPOの局長。

原作でとっつあんとのエピソードがあったので抜擢。


・とっつあんの相棒(故人)

元は時計職人志望だったスイス人の警部。

オリ主ゴルゴに依頼妨害でギルティ判定された為に射殺された。

彼のキャラ名がわかった人とは美味い酒が飲めそうです。


・ブラッド

ルパン三世の商売敵にして親友。

ファーストコンタクトに登場したキャラ。

原作では不二子の恋人だったが作中で死亡している。

拙作では不二子の代わりに一味入りの可能性が…?


コナンの原作開始前にキャラ紹介を書く予定なので詳細はそちらで。

それとちょっとした裏話をば。

実は第2話のオリ主ゴルゴに殺された小五郎の先輩はとっつあんにする予定でした。

ですが第2話の投稿前に第6話の流れをティンと思い付いた事で生存。

流石はとっつあんの生命力ですね。

それと第6話時点での時系列はコナンは原作4年ぐらい前で、ルパンの方はファーストコンタクト直前なのでルパン一味はまだ出来ていません。

それでは9月にまたお会いしましょう。


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第7話『ガンマンの意地と侍の敬意』

本日投稿1話目です。


Side:次元大介

 

 

ガルベス一家から用心棒の依頼を受けた俺は奴等のアジトに出向く前に、コンバットマグナムの整備をする為にドッグタグへと足を運ぶ。

 

店に入るとちょうどデュークの奴が奥から歩いてくる姿を見付けた。

 

「仕事か?」

「……いや、報復だ。」

「そうか、手伝うか?」

「……必要ない。」

 

アタッシュケースを手に歩いていくデュークを見送ると、ファルケンが話し掛けてくる。

 

「久し振りだな、大介。」

「おう、デイブの奴の手は空いてるか?」

「ちょうど空いたところだ。」

 

ファルケンに先導されて地下に向かいながら話をする。

 

「不二子の姿が見えねぇがどうした?デュークがいたらいつもベッタリだろ?」

「あいつは今頃、デュークが取った高級ホテルのスイートルームを楽しんでるところだ。」

 

なるほど、既にデュークと楽しんだ後か。

 

ファルケンと話しながら地下の工房に入ると、デイヴにコンバットマグナムを預けて地上一階に戻る。

 

そして一階に戻ったらコンバットマグナムの整備が終わるまで、ゆっくりと煙草を楽しむ。

 

「そういやデュークは報復とか言ってたが……相手は?」

「ペンタゴンの関係者と日本政府の関係者だ。」

「やれやれ、これはまた随分と大物だな。」

 

ファルケンが店の準備に戻ると、俺は煙を吐き出しながら過去に浸る。

 

俺が裏の世界で生きる様になったのは、家族でフランスに海外旅行に行ったあの時からだ。

 

まぁ、運が無かったんだろうな。

 

強盗にあって家族は全滅。

 

残されたのはまだ毛も生えてねぇガキだった俺だけ。

 

大使館辺りにでも駆け込みゃ良かったんだろうが、生憎と当時の俺はそんなおつむは持ち合わせていなかった。

 

家族の仇をとろうと躍起になったが、平和な日本育ちの子供に出来ることなんてたかが知れてる。

 

1ヵ月もした頃には食うのにも苦労するストリートチルドレンが一人増えただけだった。

 

そんな俺に声を掛けた奴がいた。

 

フランス外人部隊の隊長をしていた男だ。

 

何故俺に声を掛けたのかは今でもわからねぇが、復讐の為の力を得られるならと俺はついていった。

 

それから隊長に銃の扱いを教わる事1年、隊長の伝手で家族の仇を見付けた俺は初めて人に向けて引き金を引いた。

 

復讐は何も生み出さねぇなんて言う奴もいるが、奪われてマイナスになっちまった時間をゼロに戻す程度は出来る。

 

仇を殺して過去に囚われてマイナスになっちまっていた時間をゼロに戻すと、俺は隊長の部隊に入って傭兵になった。

 

同じ部隊にいたファルケンを始めとした仲間に助けられて初陣を飾ると、2度3度と順調に戦歴を重ねていった。

 

そして傭兵生活にも慣れ始めて隊長を親父と呼ぶ様になった頃、仲間の裏切りにあって俺とファルケンを残し部隊は全滅した。

 

辛うじて生き残ったものの重傷を負ったファルケンに肩を貸しながら、俺は必死になって逃げ回った。

 

だがまだガキだった俺ではファルケンを連れて逃げるには力不足で、あっという間に敵部隊に囲まれちまった。

 

万事休すかと諦めかけたその時、俺達は傭兵団ゴルゴに救われ九死に一生を得る。

 

そこからは恩返しと復讐の為に傭兵団ゴルゴに入り、新たな仲間達と共に戦場を駆け抜けた。

 

短くなった煙草に気が付くと揉み消し、新しい煙草に火をつける。

 

煙を吐き出すと一人愚痴を溢す。

 

「……随分と差が開いちまったもんだ。」

 

外人部隊の仇を見付けたのは傭兵団ゴルゴが解散してからで、その仇を殺す為にデュークに手を貸してもらった。

 

デュークの奴は仕事だっつって貸しとは思っちゃいねぇみてぇだが、俺にしてみりゃでかすぎる借りだ。

 

だから何度か車の運転やヘリの操縦をしてあいつの仕事を手伝って借りを返したが、気が付けば俺とあいつの間には随分と差がついてた。

 

短くなった煙草を揉み消すと俺の前に氷水が置かれる。

 

「なんだ、バーボンじゃねぇのか?」

「酒が飲みたきゃ金を払え。」

 

ファルケンの言葉を耳にしながら氷水を一息で呷る。

 

そんな俺を見たファルケンは鼻を鳴らしながらドカリと椅子に腰を下ろす。

 

「大介、焦るなよ。お前はお前なんだ。」

「わかってるさ。」

 

デュークは仲間だ。

 

それも絶対に裏切らないと信用も信頼も出来る最高のな。

 

だから対等になりてぇのさ。

 

あいつみてぇに拘りなく色んな得物を使えばもっと上に行けるんだろうが……俺はガンマンだ。

 

出来る限りコンバットマグナムだけでやっていく。

 

こいつは俺の意地だ。

 

この程度の意地の一つも貫けねぇようじゃ……死んでねぇだけで生きてるとは言えねぇ。

 

そうだろ?親父。

 

とはいえ俺一人じゃ限界も感じてるのは確かだ。

 

どっかに組んで面白ぇ相棒がいりゃいいんだがな。

 

席を立つと俺は地下に向かい、整備が終わった親父の形見のコンバットマグナムを受け取る。

 

そしてそいつを定位置の腰に差した俺は、ガルベス一家の根城へと向かうのだった。

 

 

 

 

Side:石川五エ門

 

 

流失してしまった一族の秘宝がアメリカにあるという情報を得、拙者は日本から旅立つべく空港へ足を運んでいた。

 

だがアメリカのどこに秘宝があるのかまではわからず、空港にてどこに向かうべきか迷っていた。

 

そんな時、搭乗口から見知った一人の男が姿を現した。

 

藁にも縋る思いで拙者は見知った男……デューク・東郷殿に声を掛けた。

 

「東郷殿。」

 

目配せをして人混みから離れた場所へと誘う。

 

「拙者、一つ東郷殿にお聞きしたき義がござり、こうして声を掛けさせていただき申した。」

「……用件は?」

 

東郷殿は顔色一つ変えず対応してくる。

 

この冷静さは見習わなくては。

 

「身内の恥を晒し申すが、一族の宝が流失してしまい、それを捜しているのでござる。」

「……その宝の名称は?」

「失礼つかまつった。一族の内での呼び名は憚りがある故控えさせていただき申すが、外海では【クラム・オブ・ヘルメス】なる名称で呼ばれてござる。」

 

目を閉じ一瞬の間の後に東郷殿は口を開く。

 

「……ニューヨークのガルベス一家だ。」

「っ!?かたじけない!」

 

頭を下げると東郷殿が去っていった。

 

「東郷殿……一族の秘宝を取り返した暁には必ずや返礼に。」

 

誓いを胸にニューヨーク行きのチケットを取る。

 

待ち時間の合間に空港の片隅で瞑想をする。

 

だが未熟な拙者の脳裏には雑念が浮かぶ。

 

東郷殿と出会ったあの時の事が……。

 

東郷殿と出会ったのは示刀流空手の道場であった。

 

逆木殿と共に道場に来た彼と手合わせをしたが……完敗だった。

 

技で劣っていたわけではない。

 

経験と心が圧倒的に劣っていたのだ。

 

師の百地殿曰く、東郷殿は本物の戦場を知る者との事。

 

それを聞かされ東郷殿の強さに納得がいくと共に、彼の御仁に敬意を抱く様になった。

 

あれ以来、年に数度は逆木殿や東郷殿と手合わせをしているが、あの御二方には勝てた試しが無い。

 

「……むっ?」

 

気が付けば飛行機への搭乗時刻になっていた。

 

結局心静かに瞑想する事は出来なかったか。

 

まだまだ未熟。

 

精進せねばな。

 

ふむ……此度の一件が終わった後には、修行の旅に出るのも悪くはないか。

 

腰を上げ飛行機に搭乗すると、アメリカはニューヨークへと旅立ったのであった。




本日は2話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。


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第8話『一味結成と少女のお誘い』

本日投稿2話目です。


Side:デューク・東郷

 

 

報復を終えた俺はスイスにあるセーフハウスで心身を休める。

 

バイオニックソルジャー計画の一件から動き続けてきたからな。

 

しっかり休まないといけない。

 

そう思ってゆっくりとして日々は過ぎていき数日後、次元からルパン三世と組むと一報があった。

 

五ェ門の一件から近々ルパン一味が結成される可能性が高い事は知っていたが、こうして一味が結成されても特に感慨は湧いてこない。

 

前世の俺ならありえない事だな。

 

可能性でしかなくても間違いなくルパン一味結成の瞬間を見に行っていた筈だ。

 

だが、これでいい。

 

今や彼等はディスプレイの向こう側の憧れの存在ではなく、俺と同じ世界で生きている対等な存在なのだから。

 

ゆっくりと身体を休めてから日本に帰ると、ポアロで友人と軽食を取っていた毛利蘭と再会した。

 

近所付き合いがある両親の事もあるのでそれなりに会話をしていたのだが、突如脈絡もなく彼女が俺をプールへと誘ってきた。

 

話を聞くと彼女の両親や友人の両親が忙しく、同伴してくれる保護者がいなかったらしい。

 

依頼を受けていないので暇ではあるが、幼少時から戦場で育ってきた俺の身体には無数の傷痕がある。

 

少なくとも平和な日常を過ごしている一般人……特に日本人には見せるべきものではないだろう。

 

故に俺が同伴しない方が楽しめる筈だ。

 

そう思って断ろうとしたのだが、何故か両親が快諾してしまった。

 

……まぁ、依頼も無いので暇だからかまわないが。

 

毛利蘭が帰った後に両親に訳を問うと彼女の友人……鈴木園子の護衛の依頼が来ているらしい。

 

なるほど、あの老人からの依頼か。

 

随分と過保護な事だな。

 

だが護衛は専門外だ。

 

せいぜい近付く敵を排除するぐらいしか出来ない。

 

そう言ったのだが、両親曰くそれでいいらしい。

 

かの老人にとっては何よりの保証となるそうだ。

 

……まぁいい。

 

ここは両親の顔を立てて依頼を受けるとしよう。

 

話を終えた俺はポアロの地下に入りトレーニングを始めるのだった。

 

 

 

 

Side:ルパン三世

 

 

「ようブラッドぉ、調子はどうだ~。」

 

クラム・オブ・ヘルメスの一件で重傷を負った相棒の見舞いに訪れると、相棒は看護婦のお姉ちゃんに飯を食わせて貰っているところだった。

 

「ようルパン、まぁそれなりに入院生活を楽しませて貰ってるぜ。」

 

ブラッドが飯を食い終わると看護婦のお姉ちゃんはトレーを手に去っていく。

 

「どうやらナンパが成功したわけじゃねぇみてぇだなぁ?」

「怪我のせいか口説きのキレが悪くてな。」

「よっく言うぜぇ。」

 

こうして笑い話が出来てなによりだ。

 

あの時ブラッドは俺でもわからなかったクラム・オブ・ヘルメスの在りかを掴み、見事に盗み出してみせた。

 

だが、ガルベスの野郎にバレて後ろから撃たれそうになっちまった。

 

咄嗟に声を掛けた事でブラッドは致命傷だけは避けられたが、こうしてリハビリが必要な程度の傷は負っちまったわけだ。

 

まぁ、次元に腕のいい医者を紹介してもらったから後遺症は残らねぇのが不幸中の幸いだなぁ。

 

「そういえば次元達はどうした?」

「次元ちゃんは元お仲間さん達に連絡中、五ェ門先生は一度日本に帰るとさ。」

 

今回の一件で一番の収穫は次元と五ェ門が仲間になった事だな。

 

まぁお宝は五ェ門に譲っちまったから実入りはねぇが、それはこれから幾らでも取り戻せるからいいだろ。

 

適当なところでブラッドとの話を切り上げ、病院の近くにあるバーに入る。

 

するとそこには先に一杯やってる次元の姿があった。

 

「お待たせ~次元ちゃん。」

「おう、ブラッドはどうだった?」

「リハビリを含めて3ヵ月ってとこ。」

 

グラスを干した次元が息を吐く。

 

「そうか、そんじゃその間は好きにさせてもらうぜ。」

「わぁってるよぉ、そういう約束だかんなぁ。」

 

次元とは組むにあたって幾つか条件をつけられた。

 

1つ目が仕事が無い時は自由にするというもの。

 

こいつは元からそうするつもりだったから問題無い。

 

問題は2つ目だ。

 

デューク・東郷と敵対、もしくはデューク・東郷の仕事の邪魔をしそうな時は、お宝を目の前にしていても手を引くってものだ。

 

義理堅いのはいいんだけっども、土壇場で引かれた時の事を考えたら困るんだよなぁ。

 

……まぁ、俺も東郷には借りがあるし、しっかり計画を立ててそうなってもいい様に準備しとくしかねぇかぁ。

 

「あぁそうだルパン、さっき銭形を見掛けたぞ。」

「そりゃまた仕事熱心だことぉ。」

 

あのICPOのとっつあんがねぇ……。

 

今回の一件の終わり際、突然現れたと思ったら俺を逮捕するって宣言して来やがったんだよなぁ。

 

そして特に油断してたわけでもないのに手錠を掛けられちまった。

 

今回は関節を外して対処したが、次からは対応してくんだろうなぁ。

 

ICPOに追われる程に俺も名前が売れたと思えば悪くねぇけど、あの腕利きをあしらい続けるのは骨が折れそうだぜ。

 

「見つけたぞルパン!」

 

噂をすればなんとやらってか?

 

ずらかろうと立ち上がるが次元は座ったままだった。

 

「ありゃ?逃げねぇの?」

「俺はまだICPOに指名手配されてねぇからな。」

「とっつあん、こんなこと言ってっけどぉ?」

 

次元を指差しながらとっつあんに問い掛けると、とっつあんは肯定する様に頷く。

 

「次元大介の言う通りだ。だから俺に追う理由はない。」

「そこは現場判断で臨機応変に対処すべきとこなんじゃないのとっつあん?」

「地元警察との兼ね合いがあるからな。俺の判断で動くのにも限界があるんだ。」

 

そう言いながらとっつあんは手錠を手にすると俺ににじり寄ってくる。

 

「そんなせっかちだと女の一人も出来ないぜぇ、とっつあん?」

「余計なお世話だ!俺にはもう嫁さんがいるし、ついでに言えば妊娠中だ!」

 

あらま、とっつあんもやることやっちゃってるのね。

 

「それはおめっとさん。ならこんなところで油売ってないで、早く帰って嫁さんを安心させてやんないと。」

「言われんでもわかっとる!貴様をさっさと逮捕して地元警察に引き渡したら直ぐに帰るわい!」

 

すったもんだの末に俺はとっつあんに捕まっちまった。

 

ガルベス一家の一件で手持ちの道具は使いきっちまったかんなぁ。

 

その補充もしてねぇ現状じゃ、とっつあん程の腕利きを煙に巻くのは至難の業だぜ。

 

まぁ、いいさ。

 

折を見て脱獄すりゃいい。

 

「そんじゃ次元、また後で会おうぜぇ。」

「おう、ブラッド達にはよろしく言っとくさ。」

「余計なこと話しとらんでキリキリ歩け!俺は早く嫁さんのところに帰んなきゃいけねぇんだ!」

 

その後、俺は牢屋に入れられちまったがとっつあんが帰った頃合いを見て牢屋を抜け出すと、慌てふためく警察を尻目に行方を眩ましたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

活動報告に書いたのですが来週の投稿をお休みさせていただきます。

9月20日にまたお会いしましょう。


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第9話『お嬢様はGに興味津々』

本日投稿1話目です。


Side:鈴木園子

 

 

少し前から親友の蘭の様子が変わった。

 

あれだけ工藤君にべったりだったのに、今では完全に異性としての興味が失くなったみたい。

 

工藤君には悪いけど安心したわ。

 

蘭が工藤君のせいで危ない事件に巻き込まれたら堪らないもの。

 

そういえば工藤君は少し前に学校で起きた事件を解決した後、先生達にこっぴどく怒られたみたいね。

 

事件を解決したのは凄いけど、そこに至るまでの過程が人騒がせ過ぎたものねぇ。

 

蘭の様子が違ったのもあって私も根回しをしなかったし、彼が怒られるのも当然よね。

 

実はこれまで彼が事件と聞いて暴走する度に、私が根回しをして大きな騒ぎにならない様に調整をしてきた。

 

とはいっても私が何かをしたのではなく、おじさまにお願いして動いて貰っただけなんだけどね。

 

これは工藤君の為じゃなくて、あくまでも巻き込まれた蘭まで怒られない様にする為だったわ。

 

けどそのせいで工藤君が持ち上げられる流れが出来ちゃったのよねぇ。

 

普通の子供には出来ない事…事件を解決してみせて、非常識な行動をしても大人に怒られず、その上でアイドル顔負けの顔立ちとくれば、皆もヒーロー扱いしちゃうのも当然かもしれないわね。

 

私は友人の一人として何度も彼に自重するように言ってるんだけど、彼は全く聞く耳を持たないわ。

 

でもこれは蘭も同じだったのよねぇ…。

 

どういった心境の変化があったのか気になったから蘭に直接聞いてみたんだけど、どうも一人の男性が関わっているみたい。

 

その男性の名前は…デューク・東郷。

 

聞き覚えのない名前に疑問が浮かんだけど、その疑問は後回しにした。

 

蘭をからかうのに忙しかったからね。

 

帰ってからおじさまにデューク・東郷って人を知っているか聞いてみたんだけど、その時のおじさまの顔はいつもの優しいものじゃなくて、鈴木財閥相談役としてのものになっていた。

 

かなり軽い気持ちで聞いたんだけど、デューク・東郷はおじさまの顔色を変える程の人物みたいね。

 

鈴木家の家訓…おじさまが家族に伝えている教訓に『自らが一流になる必要はない。だが一流を知る人間になれ』って言葉があるわ。

 

これはおじさまの持論の『世を創るのは一握りの天才だが、大事なのはその天才に活躍の場を与える事だ』って考えからきてる言葉。

 

まぁ要するに、人を観る目を持てって事ね。

 

そんな事を言うおじさまの人を観る目は間違いなく一流よ。

 

なにせ鈴木財閥を日本どころか世界でもトップクラスの財閥まで押し上げたんだから。

 

まぁ、鈴木財閥が日本トップクラスから世界トップクラスになれたのは、ハワード・ロックウッドって世界一の富豪が転けた時におじさまが動いたのが大きいらしいんだけどね。

 

それでおじさまが言うには、デューク・東郷って人はおじさまが知る限りで世界最高の男みたい。

 

ここまで言い切るおじさまは初めてだから驚いたわ。

 

それでデューク・東郷に興味を持ったんだけど、彼と会う機会は意外と早く訪れた。

 

ある日、蘭と一緒にポアロで軽食を食べてたら不意に彼と会えたの。

 

一目見て全身に鳥肌が立ったわ。

 

私も鈴木財閥の者として小さい頃から人を観る目を養ってきたつもりだけど、おじさまと比べればまだまだなのよね。

 

でも、彼はそんな私でも分かるくらい一流の…いえ、超一流の男だったわ。

 

高身長に服の上からでもわかる分厚い筋肉…アスリート?格闘家?違うわね。

 

彼を観察しながら記憶を探る。

 

たしか彼みたいな雰囲気の人に会った事がある気がするんだけど…。

 

あっ!思い出したわ!自衛隊の人よ!

 

それも普通の隊員じゃなくてレンジャーの人!

 

思い出してスッキリしたわ。

 

でもあのレンジャーの人とは目付きというか眼光が違うというか…。

 

そうだわ!おじさまの友達!大戦で従軍経験のある人と似てるのよ!

 

でもそうなるとこの人って…。

 

そこまで考えたところでデューク・東郷さんと目が合った。

 

彼の目はまるでこれ以上詮索するなって言っているような…。

 

「園子?」

「へっ?」

 

蘭に話し掛けられて我に還った。

 

「あっ、いやーなんでもないわ!あははは!」

 

うわー、久し振りにやっちゃったわ…。

 

こんなにあからさまに観てたらそりゃわかるわよね。

 

反省反省。

 

そこからは私も会話に入って彼の人柄を知っていった。

 

博識、冷静沈着、経験豊富と、20歳前後とは思えない程に出来た人だったわ。

 

いったいどんな人生を送ればこうなるのかしらね?

 

しばらく話をしていると不意に蘭が彼をプールに誘った。

 

驚いたわ。

 

蘭が工藤君以外の男を誘うなんて初めてだったんだもの。

 

でも彼は断りそうな雰囲気で口を開こうとしたわ。

 

そうしたら彼の両親が了承しちゃったのよね。

 

いきなりの展開に流石についていけなかったわ。

 

でもちょうどよかったかしら。

 

長期休みに遊びに行くのに保護者が必要だったし、なんか彼に俄然興味が沸いてきていたし。

 

話が終わってポアロを出ると、私は蘭と別れて迎えに来ていた車に乗り込む。

 

車に揺られて思い返すのは彼…デューク・東郷さんの事。

 

同年代の子供とは違う大人の男性。

 

一見で全身に鳥肌が立つ程の何かを秘めた男性。

 

ふふ…遊びに行く日が楽しみね。

 

蘭、今はまだ憧れとかが強いみたいだけど、もたもたしてたら誰かに取られちゃうわよ?

 

彼は工藤君以上に競争倍率高そうだもの。

 

他の人に取られるぐらいなら私が貰っちゃおうかしら?

 

友情と恋は別だし。

 

まぁ、私も今は恋というよりはあの人に興味津々って感じなんだけどね。

 

気分良く鼻歌を歌っているとあっという間に家に着いたのだった。




本日は2話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。


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第10話『とあるガンスミスの日常』

本日投稿2話目です。


Side:デイブ・マッカートニー

 

 

「…くそっ!駄目だ!」

 

研磨をしたM16のトリガーパーツを廃棄ボックスに投げ捨て、未研磨のトリガーパーツを手に取る。

 

そして今一度研磨を施すが、納得のいく仕上がりには程遠いものになる。

 

「はぁ…少し休憩するか。」

 

コークとスナックを手に、工房に備え付けてあるディスプレイでフットボールの試合を見る。

 

だが俺の頭を占めているのは研磨の技の事だ。

 

羽根の様な軽さのタッチでありながら、不意に取り落とした際に暴発しない抵抗を残した研磨。

 

それがデュークの旦那がトリガーに求めた仕様だった。

 

スナックの破片をハンドタオルで拭い取ると、俺はデュークの旦那が見本として持ち込んだトリガーパーツを手に取る。

 

このトリガーパーツには日本で人間国宝に指定されている研磨職人の仕事が施されている。

 

研磨専門の職人の技だけあって、一朝一夕じゃ真似出来ない代物だ。

 

しばらくトリガーパーツを眺めていると、不意に工房のドアが開く音がする。

 

そちらに目を向けると…デュークの旦那が立っていた。

 

旦那は俺の所に歩いてくると手にしていたアタッシュケースを机に乗せて開ける。

 

中にはH&H社の水平二連バレルショットガンが入っていた。

 

「トリガーはフェザータッチに、バレルはスラグ弾用に交換し…。」

 

俺は旦那の注文をメモしていく。

 

旦那は注文を終えると一万ドルの帯封を数個置いて去っていった。

 

やれやれ、相変わらず払いがいいこって。

 

それにしてもガンマニア相手なら高値で売れるこいつを、こうも簡単にカスタマイズしろって渡されるとはなぁ…。

 

しかも破格の依頼料も出してくるときたもんだ。

 

職人冥利に尽きるが、だからこそ失敗出来ないというプレッシャーにもなる。

 

俺もまだまだ青いぜ…。

 

手早く、だが精密にカスタマイズを進めていく。

 

トリガーをフェザータッチに仕上げ、バレルをスラグ弾用に交換すると共に切り詰める。

 

更に右側のバレルに全体のバランスを合わせるためにストックも調整する。

 

ここで一段落。

 

後は旦那が持ち込んできた水を凍らせて弾頭を成型し、火薬量を減らした弾丸を作るだけだ。

 

水が凍るまでまだ時間があるな。

 

上に行って飯でも食うか。

 

地下の工房から一階のフロアに上がると、ファルケンとレディが話していた。

 

「なぁファルケン、今回の旦那の獲物はなんだ?」

「アイスホッケーのパックだそうだ。それもスラップショットされた状態のな。」

「相変わらずとんでもねぇもんを狙撃すんなぁ。まぁ、デュークの旦那らしいっちゃらしいか。」

 

話を耳にしてふと思い出す。

 

たしか【ホワイトウォール】の異名を持つ名選手の去就の噂を。

 

…まぁ、一介の職人の俺には関係ねぇや。

 

「ヘイ、レディ。なんか食い物を頼む。」

「あいよぉ。」

 

飯を頼むとレディがテキパキと作り始める。

 

あの跳ねっ返りが随分と慣れたもんだ。

 

ファルケンも意地を張ってないでレディと所帯を持ちゃいいもんを。

 

そう思いながらカウンター席に腰を下ろすと隣にファルケンが座る。

 

「デイブ、研磨の方はどうだ?」

「ようやく取っ掛かりを掴んだってとこだな。まぁ、まだまだあの領域にゃ届かねぇけど。」

「あまり根を詰めるなよ。人間国宝に指定される程の職人の技なんだ。一年や二年でなんとかなるような代物じゃねぇ。」

「わかってるさ。」

 

それでも、俺にだって職人としての意地がある。

 

他の誰に認められなくたって構わないが、デュークの旦那にだけは認められてぇんだ。

 

しばらくして出来上がった飯を食っていると、Mrs.鷹子がドッグタグにやって来た。

 

レディとの会話を耳にするに、どうやら彼女はストリップのピンチヒッターに入るらしい。

 

チラリとMrs.鷹子に目を向ける。

 

不二子の母親とは思えない若々しさだ。

 

初めて会った時と比べて10は若くなってやがる。

 

「ファルケン、たしか彼女は…?」

「あぁ、例の薬の被験者の一人だ。」

 

デュークの旦那がフリーのスナイパーとしてまだ駆け出しだった頃、一度黒の組織とかち合う事になったんだが、その時にとある科学者夫婦を保護した。

 

たしか【宮野】…いや、今は【灰原】と名乗っているんだったか?

 

その灰原夫婦が研究していた物が若返れる薬っちゅうやばい代物だった。

 

だがまぁ世の中そう上手くいかない物で、出来上がった薬は毒性が強く若返りが必要な老人には使えないどころか、若者ですら服用は危ない代物なんだそうだ。

 

それで黒の組織のボスの不興を買ったとかで消されそうになったんだが、依頼で黒の組織の幹部の一人を暗殺する為に潜入していたデュークの旦那に寸での所で助けられたわけだ。

 

駆け出しで黒の組織相手に仕事をする旦那も旦那だが、旦那の危険性を即座に察して蜥蜴の尻尾切りをした黒の組織も流石だ。

 

伊達に裏では世界的に有名な組織じゃねぇってな。

 

話は例の若返りの薬に戻るんだが、今では旦那が出資して研究を続けているらしい。

 

たしか【阿笠】とかいう発明家にも出資して、その発明家と共同研究させてるんだったか?

 

それで例の薬の被験者として旦那の母親やMrs.鷹子が名乗りを上げたと…。

 

改良を続けて毒性は下がったもののまだまだ危険性は高いって話なのに…女の若さへの執念は凄いもんだ。

 

飯を口に運びながらチラリとファルケンに目を向ける。

 

すると出会った当初は隻眼だったファルケンの顔が目に入るが、今では両目が揃っていた。

 

「新しい目の調子はどうだい?」

「見え過ぎて逆に調子が狂うな。まぁ、その内慣れるだろう。」

 

灰原夫婦と共同研究している阿笠だが、旦那が彼に依頼した研究のメインはクローニング技術だった。

 

こいつはハワード・ロックウッドが持っていた物を元にしているらしいんだが、先月になって漸く形になったそうだ。

 

それでファルケンの遺伝子情報を元に目を培養し移植。

 

そして現在は旦那や次元といった裏で現役の連中に万が一があった時に備え、諸々の準備をしているとか。

 

最後の一口を口に運び終えた俺は腰を上げる。

 

「さっきも言ったがあまり根を詰めるなよ。」

 

ファルケンの言葉に片手を上げて応えながら工房に戻る。

 

「さて、弾丸を作っちまうか。そしたらまた研磨の技のトレーニングだ。」

 

これが俺、デイブ・マッカートニーの日常だ。

 

日々成長に励む毎日はすこぶる楽しい。

 

飯も美味いし金の払いも良く、時折だが女を世話してもらえる時もある。

 

正に至れり尽くせりってやつさ。

 

だが、だからこそ手を抜けねぇ。

 

この環境に胡座をかき腑抜けてデュークの旦那に見限られたその時は、俺のガンスミスとしての信頼が失われる時だ。

 

それだけは死んでもごめんだね。

 

俺はガンスミスとして生きてガンスミスとして死ぬ。

 

それでこそデイブ・マッカートニーなんだ。

 

一通り仕事を終えた頃にはデュークの旦那が来て物を受け取り去っていく。

 

旦那を見送った俺は新たなトリガーパーツを手に取ると、研磨の技のトレーニングするのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

紛らわしいですが時系列としては第1話の前になります。

また来週お会いしましょう。


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第11話『余生を楽しむ老人達』

本日は1話のみの投稿です。


Side:鈴木次郎吉

 

 

部下に指示を出し終えた儂は秘書を退室させて一息つく。

 

すると不意に気配を感じたので目を向けると…そこにはゴルゴ13の姿があった。

 

「鈴木財閥の警備をすり抜けて儂の部屋に来るとは流石じゃな。依頼の件で来てくれたのじゃろう?まぁ、腰を掛けてくれい。」

 

そう言ってソファーをすすめたのだが、ゴルゴ13は壁を背に寄り掛かるだけで腰を下ろさなんだ。

 

ふふ、流石の用心深さじゃて。

 

並の者なら無礼と感じるこの対応も、ゴルゴ13がやると妙に様になって気にならぬ。

 

「あの御二方からあらましは聞いておるか?」

「…あぁ。」

「改めて依頼内容を伝えるが当日の姪の園子の護衛を依頼したい。可能であれば姪の友人に対しても同様の内容で頼む。」

 

「…依頼の理由はハワード・ロックウッドの一件が絡んでいるか?」

「っ!?」

 

気付くか…流石じゃな。そうでなくては。

 

「少しばかり阿漕に稼ぎ過ぎたようでな。方々から逆恨みされておる。海外は粗方片付けたんじゃが、国内にはまだ少しばかり跳ね返りが残っておるでのう。」

「…利で懐柔したか。」

「その通りじゃ。」

 

一流は話が早くて良いわい。

 

二流は察するのに時間が掛かり、三流では気付くことすら出来ん。

 

もっとも、そういう連中がいるからこそ勝ちを拾う事が出来るのじゃがな。

 

「後は義理やら面子やらで転ばぬ面倒な連中ばかりでな。儂の所にそういった奴等が姪を狙っとると情報が入っての。ならば姪を一度襲わせて、それを出汁に奴等を潰す大義名分とするつもりじゃ。」

「…囮か。」

「そうじゃ。どれほど警戒しても狙われるのならば一度で済ませる。そして万が一を考慮して御主に依頼したい。」

 

儂はテーブルの上にアタッシュケースを二つ乗せる。

 

そして開けて中を見せようとしたのじゃが…。

 

「…ゆっくりだ。」

 

いつの間にかゴルゴ13は拳銃を構えておった。

 

喉の渇きを覚える程の緊張が、儂に生を実感させる。

 

指示通りにゆっくりと開けてアタッシュケースの中を見せる。

 

「二億ずつ入っておる。園子とその友人の護衛に一億ずつ。残る二億は、御主の流儀に沿わぬ依頼の迷惑料じゃ。」

 

ゴルゴ13は拳銃を懐にしまい近付いてくる。

 

そしてアタッシュケースの一つを手にしたゴルゴ13は、儂に一瞥もくれずに去っていった。

 

「依頼料以外は受け取らぬか…利を貪ろうとする連中に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいじゃな。」

 

秘書に残ったアタッシュケースの対応を指示すると、儂は葉巻に火を着けて煙を燻らせる。

 

「先ずは一安心。」

 

姪には悪いが…鈴木財閥の者ならばこういった事は付き物となる。

 

権力、財力、種類は違えど力を持った者の宿命よ。

 

そういった苦労も知らず世の者は平等を謳って利を奪おうとしてくる…くそくらえじゃ!

 

じゃが社会の中で生きるならばそれなりに配慮せねばいかん。

 

上辺だけでも平等に見せ、不満は持たせても怒らせぬ様にな。

 

その塩梅さえ間違えねばよい。

 

短くなった葉巻を揉み消し、ソファーの背凭れに身を預ける。

 

「…くははっ。」

 

思わず笑いが込み上げてしまった。

 

かつては怪盗キッドと工藤優作の対決に夢中になった儂だが、今ではあんなものは児戯にしか感じられぬ。

 

所詮は安全圏の中のお遊びよ。

 

「火遊びを楽しむ様な歳でもあるまいに…。」

 

いや、残り少ない余生だからこそ熱く生きたいのじゃ。

 

この老骨を燃やし尽くす程に。

 

「後始末は史郎にやらせるか。あれにも鈴木財閥を率いる者として、色々と経験させねばな。」

 

後は園子じゃが…あれの気質は儂に近い。

 

それに次女だからこそ自由に動ける。

 

儂の後釜として期待するにはまだ早いが…先が楽しみじゃわい。

 

 

 

 

Side:阿笠博士(あがさ ひろし)

 

 

「阿笠さん、少し休憩しましょうか。」

 

宮野…いや、灰原夫人に誘われコーヒーを楽しむ。

 

うむ、美味い。

 

数年前まではインスタントコーヒーがせいぜいじゃったが、デューク・東郷君と契約してからは焙煎した豆を挽いて淹れたものを飲んでおる。

 

この味を知ってしまってはインスタントに戻れんわい。

 

ふと腰回りに手を当てると、肥満の象徴だった腹がだいぶへこんだ事に気付く。

 

随分と健康的になったもんじゃ。

 

「灰原さん、例の物のデータはどうですかな?」

「東郷さんと峰さんのデータを見るに、効果はほぼ定着した様ね。今解毒剤を飲んでも元には戻らない可能性が高いわ。被験者が二人だけだから確実とは言えないけど、およそ三年程で完全に身体に定着して、再度の使用が可能になりそうね。」

 

APTX4869…それが例の物の名称じゃ。

 

これは一言で言えば若返りの薬。

 

人類の夢の一つを実現する薬じゃ。

 

じゃが世の中はそう上手い話ばかりではなく、APTX4869には服用者を死に至らしめる程の強い毒性があった。

 

今儂達がしている研究はその毒性を可能な限り弱める事。

 

完全に毒性を消さぬのはその毒性が若返りの効果と密接に関わっており、毒性を完全に消してしまうと若返りの効果も無くなってしまうからじゃ。

 

先程も思ったが、世の中そう上手くはいかんもんじゃな。

 

「阿笠さん、コーヒーのお代わりはいかが?」

「いただきましょうかな。」

 

灰原夫人がキッチンに向かうのを見送ると、儂は数年前の事を思い出す。

 

数年前のある日、デューク・東郷君がアタッシュケースを手に灰原夫妻と共に儂の所にやって来た。

 

彼は一言、儂を雇いたいと言って手にしていたアタッシュケースの中の一億円を見せてきた。

 

儂は目を疑ったよ。

 

無名の発明家に渡す様な金額ではなかったからな。

 

事情を聞くと灰原夫妻は所謂訳有りで、二人の研究を続けさせるには大きな所は却って良くないと言われた。

 

儂も発明家…科学者の端くれとして二人の研究に興味を持ったが、人に仇なす物を作るのに協力するつもりはなかった。

 

だが研究している物を聞いてみれば、灰原夫妻が研究していたのは人類の夢の一つを実現する薬じゃった。

 

更に東郷君が儂に依頼してきた研究がクローニング技術。

 

クローニング技術が確立されれば、世の臓器移植の順番を待っている人達を救えるとあって儂の心は揺れた。

 

揺れる儂に東郷君は一つのデータチップを差し出してきた。

 

中のデータを拝見すると、クローニング技術の実用化が不可能なものではないとわかってしまった。

 

そして提示された雇用内容にも何一つ不満はなかった事もあり、気が付けば儂は東郷君と契約を結んでいた。

 

それからは研究の虫になった。

 

発明家としての功名心が無かったと言えば嘘になるじゃろう。

 

そして数年掛かりでクローニング技術の研究が実用段階にまで進んだのじゃが…そこで待っていたのは絶望じゃった。

 

人類の夢の一つを実現…言葉にすれば甘美なものじゃが、人類社会はその夢を受け入れられる程に成熟していなかったのじゃ。

 

この技術が世に出れば奪い合い、殺し合いが当然の様に起こり、更に人々の間に格差が目に見えて現れる様になる。

 

発明家として全力を尽くした結果、儂は世界中に争いを生みかねない技術を形にしてしまったんじゃ。

 

心の底から絶望した儂は酒に溺れた。

 

だが酒に溺れながらも彼からの依頼は続けた。

 

そして彼の依頼でとある人物の細胞を培養して造った眼球を彼に渡そうとした瞬間…儂は倒れた。

 

酒と肥満が原因の心筋梗塞だったそうだ。

 

争いの元となるあんな技術を形にした罰が降ったのだと思った。

 

じゃが…儂は病院のベッドの上で目覚めた。

 

助かった理由は、クローニング技術の実証実験で儂の細胞を使って造った儂の心臓を移植したからだそうだ。

 

あの時の儂は気付いてなかったが、彼は医者を連れていたんだとか。

 

それもただの医者ではなく、CDの表面に印字された微かな凹凸に触れるだけで文字を解読出来る程の触感を持ち天才と謳われる医者が。

 

目が覚めた儂にその先生は言ったよ。

 

儂が形にしたあの技術は、間違いなく一人の人間の命を救ったと。

 

その言葉を聞いた儂は年甲斐もなく号泣した。

 

それからの儂はまるで憑き物が落ちた様に爽やかな気持ちで、また発明や研究に打ち込む事が出来るようになった。

 

儂は右手を左胸に当てる。

 

力強い鼓動が儂に命を感じさせてくれる。

 

儂のクローニング技術が命を繋いだ…それが誇らしかった。

 

「もう少し休憩したら、APTX4869の研究を再開するとしようかのう。」

 

どんな技術や道具も争いの元になったり人を救えたりする。

 

要は使い手次第なんじゃ。

 

ならば憂うことなく、儂はただ物造りを楽しんでいけばいい。

 

それだけでいいんじゃ。

 

なんせ儂は救世主でも革命家でも無い…ただの発明家なんじゃからな。

 

「それともっとダイエットもせんとのう。健康にならなければ若返れん。儂はまだまだ物造りを楽しむぞぉ!」

 

争いの元になりうる技術を形にしておいて懲りておらんと思うかもしれんが…あれは人を救う技術にもなるんじゃ。

 

少しぐらいご褒美として若返ってもいいじゃろ?




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第12話『自覚した少女達』

本日は1話のみの投稿です。


Side:毛利蘭

 

 

約束のプールの日がやって来た。

 

今日は園子と遊びに行くんだけど、引率として東郷さんも来てくれる。

 

あっ、園子の家の車が来た。

 

ポアロの前で待ち合わせをしていたんだけど、東郷さんが運転してきた車の助手席には園子が座っていた。

 

「えっ?ちょっと園子、どういうこと?」

 

車の窓を軽く叩きながら助手席にいる園子に問い掛ける。

 

「おじさまが気前よく貸してくれたのよ。」

 

窓を開けながら園子はそう言ってくるけど、聞きたいことはそれじゃない。

 

東郷さんが運転手をしてくれるのは最初から知っていたんだから。

 

「そうじゃなくて、いつもは助手席じゃなくて後ろに乗ってるじゃない。なんで今日は助手席なのよ?」

「それはあれよ?おじさまの車は色々といじってあるから、慣れてない東郷さんをサポートしようと思って。」

 

なんか怪しい…。

 

ポアロで約束したあの日以降、園子との話題では東郷さんの事が増えた。

 

そしてその話題の時に限って園子は東郷さんの事を積極的に聞いてくる。

 

お話しする時の園子はどちらかというと受け身で、相手の話を上手に聞くから、学校の皆もついつい色々な事を話してしまう。

 

そんな園子が自分から積極的に話を聞いてくるのは誰かの恋愛話ぐらいなんだけど…恋愛話でもないのに東郷さんの事を積極的に聞いてくる。

 

そして普段は後ろに乗ってるのに東郷さんが運転する今日に限って助手席…やっぱり怪しい。

 

「ほら、早く乗りなさい。出発するわよ、蘭。」

 

なんか誤魔化された気がするけど…今は楽しもうっと。

 

その後は都外のスパリゾートに向かう為に高速道路に乗ったんだけど、私と園子が中心になって話が盛り上がった。

 

東郷さんは口数が少ないけど、適切に応えてくれるその様子がなんか大人の男性だなぁって思って、話をするのがとても楽しかった。

 

楽しかったからなのかあっという間にスパリゾートに着くと、私と園子は二人で女子更衣室に。

 

そして荷物から最後まで迷った末に決めた水着を手にすると、服を脱いで着替え始めたのだった。

 

 

 

 

Side:鈴木園子

 

 

服を脱ぎながら蘭に目を向ける。

 

「あら?結局それにしたのね?随分と攻めるじゃない。」

「もうっ!そんなんじゃないってば!」

 

そう言いつつ蘭が着替えている水着は上下共にビキニ。

 

なんとも思ってない男性に見せるような水着じゃないわよねぇ?

 

最近成長著しい蘭の胸が存在を主張し、更に空手で鍛えた健康的な身体で着こなしたビキニ姿は、そこいらの女の人じゃ早々に白旗を上げる程に光っているわ。

 

もっとも、私も負けてないけどね。

 

この日の為に専属トレーナーを雇って余計な部分を絞り、日々のエステで磨きあげた身体は蘭とは種類が違うけど十分に魅力的な筈よ。

 

そんな私が着る水着もビキニ。

 

けどちょっと趣向を変えて下にはパレオを纏う。

 

蘭が直球勝負なら私は緩急を活かして勝負ってところね。

 

まぁ、お互いにまだ勝負って程に東郷さんに異性としての好意を持っていたり、自覚しているわけじゃないけどね。

 

更衣室を出るともう着替え終えていた東郷さんが待っていた。

 

競泳用のピッチリとしたボクサーパンツタイプの水着ね。

 

…ちょっと目のやり場に困る。

 

だって彼の身体に刻まれている幾つもの傷が、鍛え上げられているその身体が見せ掛けのものじゃないって主張していて…なんというかこう…反則よね。

 

大人の男性の色気がこれでもかって程にあるんだもの。

 

周りにいる女の人達の視線は東郷さんに釘付けだわ。

 

蘭も顔を真っ赤にして固まっちゃってまぁ…。

 

あ~あ~周囲の生白い男達なんか、そそくさとTシャツを着て身体を隠し始めちゃってるし。

 

正に男として格が違うわね。

 

そんな東郷さんも今日は私達のエスコート役。

 

ふふ、優越感を感じるわぁ。

 

「さぁ、それじゃ早速泳ぎましょ。」

「…その前に準備運動だ。」

 

あら真面目。

 

東郷さんに習って準備運動を始めたんだけど、なんかうちで雇った専属トレーナーよりも詳しくない?

 

こういうところも一流なわけ?

 

本当に何者なのよ?

 

準備運動も終わってさぁ楽しもうと思ったその時…。

 

「おう嬢ちゃん、ちょいとツラ貸してくれや?」

 

随分とガラの悪い男達数人が私に絡んできた。

 

ガラの悪い男の一人が着ているアロハシャツから入れ墨がチラッと…。

 

「はぁ…おじさまが言ってたのはこのことかぁ…。」

 

面倒だけど蘭達に迷惑を掛けられないからと覚悟を決めようとした時…。

 

「なんだぁてめぇ!」

 

東郷さんがガラの悪い男達と私の間に入った。

 

「…彼女は俺の連れだ。」

「あぁん?サンピンはすっこんでろ!」

 

サンピンはそっちでしょうに。

 

睨み、罵倒しても退かない東郷さんを見てガラの悪い男達の一人が東郷さんに殴り掛かった。

 

でも…。

 

「ぶっ!?」

 

鼻っ面にあっさりとカウンターパンチを受けて、殴り掛かった男は倒れた。

 

「てめぇ!」

 

仲間を倒された男達は複数同時に東郷さんに襲い掛かる。

 

それでも…。

 

「うっ!?」

「ごっ!?」

「ぶへっ!?」

 

東郷さん相手には力不足で、これまたあっさりと倒されちゃったわ。

 

少しすると警備員の人達が来て、ガラの悪い男達を取り押さえて連れていこうとしたんだけど。

 

「顔は覚えたぞコラァ!せいぜいてめぇの身内の身辺に気をつけるんだな!あぁ!」

 

連れていかれる途中でガラの悪い男の一人がそう言った。

 

はぁ…東郷さんに迷惑を掛けちゃったわ。

 

「…ギルティ。」

「えっ?」

 

東郷さんが何か呟いたから思わず反応しちゃったけど、彼は首を振って何でもないって言った。

 

…まぁ、いっか。

 

帰ったらあのガラの悪い男達への対処をおじさまに頼もうっと。

 

その後は気分を取り直して三人で思いっきり楽しんだわ。

 

そして蘭と一緒に飲み物を買いに行って東郷さんの所に戻った時…。

 

「ねぇお兄さん、私達と遊ばない?」

 

盛りのついたメス猫共が東郷さんにまとわりついていた。

 

「ねぇ、その人は私達の連れなんだけど?」

「あら?お子様達じゃ彼の相手はつとまらないんじゃないかしら?」

「ふ~ん?おばさん達よりは私達みたいに若い娘の方がいいと思わない?」

 

私とメス猫の間で火花が散った。

 

「それじゃ、あそこで出来るビーチバレーでどっちが彼に相応しいか…勝負する?」

「上等よ!コテンパンにしてやるんだから!」

 

私は蘭に発破を掛ける為に振り向く。

 

蘭はいつもこういうのにあまり乗り気じゃないのよねぇ。

 

そう思ったんだけど、振り向いてみれば蘭もやる気満々だったわ。

 

「園子!絶対に勝つよ!」

 

あら?なんか蘭の中で東郷さんの株が急上昇してない?

 

まぁ、それは私もなんだけどね。

 

「よっしゃあ!あのおばさん達をぶっ飛ばすわよ!」

「うん!」

 

 

 

 

Side:鈴木園子

 

 

「う~ん!楽しかったわぁ!」

 

ポアロまで戻ってくると私は車の外に出て伸びをする。

 

「うん!私も楽しかった!」

「楽しかったのは東郷さんと一緒だったからじゃないのぉ?」

「もう!園子ったら!」

 

あら?否定しなくなったわ。

 

これはいよいよかしらね?

 

…なら。

 

「もたもたしてると、私が貰っちゃうからね?」

「えっ?」

 

耳打ちをした私はパッと蘭から離れて車に乗り込む。

 

「ちょっと園子!?」

「あははは!東郷さん、出して!」

 

抗議しようとする蘭を置き去りに車が走り出す。

 

すると直ぐに携帯が鳴ったけど、私は優雅に電源を落とす。

 

「…出なくていいのか?」

「大丈夫ですよ。ちょっとからかい過ぎただけですから。」

 

さて、蘭は私なりの宣戦布告をどう受け取るかしら?

 

チラリと東郷さんの横顔を見る。

 

あらゆる事に精通している超一流で荒事も出来る。

 

工藤君とは種類が違うけど、容姿だって男らしくて十分に合格点。

 

考えてみれば鈴木財閥としても私個人としても、これ以上ない程に優良物件なのよねぇ。

 

でも私が見るに東郷さんは一人の女に縛られる様な男じゃないわ。

 

海外での仕事も多いって聞くし、彼程の男なら既に現地妻がいても不思議じゃない。

 

う~ん…どうしようかしら?

 

蘭と友達をやめるつもりはないけど東郷さんを諦めるつもりもないし…。

 

いっそ重婚が出来たら話が早いんだけど…あっ、なるほど。

 

後でおじさまとパパに相談ね。

 

まぁ、それはそれとして…東郷さんを夕食に招待しましょ。

 

ガラの悪い連中に絡まれて怖い思いをしたんだから、これぐらいのご褒美は貰ってもいいわよね?

 

それに迷惑を掛けちゃった東郷さんへのお詫びにもなるだろうし、正に一石二鳥だわ。

 

蘭には悪いと思うけど…後でフォローの電話でもしとけば大丈夫でしょ。

 

その後、東郷さんを夕食に招待してパパとママに紹介したんだけど、何故かパパは胃薬を飲んだわ。

 

仕事で疲れてるのかしらね?




これで本日の投稿は終わりです。

そろそろ新一君目線の話も書こうかな?

また来週お会いしましょう。


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第13話『探偵を志す少年は難しい年頃』

本日は1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

長期休みに母さんの付き人として連れ回されてアメリカに滞在すること十日、これといった事件に関われることもなく暇な日々を過ごしている。

 

そんな暇を潰す為に日本で何か事件が起きてないか調べると、とある暴力団構成員の一人が射殺されたらしい。

 

死因は眉間への一発の銃弾で、それ以外に発砲された形跡は無い。

 

情報が非常に少なく警察の捜査は難航しているとか。

 

随分と推理しがいがありそうな事件じゃねぇか。

 

はぁ…早く日本に帰りたいぜ。

 

今日は母さんの知己である映画監督の誕生日パーティーに行く予定なんだが、正直に言って気が進まない。

 

俺がパーティーに出席しても、親父や母さんの付属物程度にしか見られないからな。

 

「しっかし、金持ちってパーティーが好きだよなぁ。」

「それは違うよ。必要だからパーティーをするんだ。」

 

振り向くと親父がいた。

 

いつ部屋に入ってきたんだ?

 

「新一、金持ちの武器がなんだかわかるかい?」

「金だろ?」

「そうお金と、後は人脈だ。」

「人脈?」

 

首を傾げると親父が講釈を始める。

 

「人間一人に出来る事には限界がある。ホームズにも助手のワトソンがいるだろう?」

「あぁ。」

「ホームズでさえ助手を必要とする。ならばそれ以外の人はどうかな?答えは当然、誰かの助けが必要だ。けれど誰かに助けを求めるには、その誰かと知り合う必要がある。その為の機会を得る手段としてパーティーを開くんだ。もっとも知り合ったからといって、無償で助けて貰えるとは限らないけどね。」

 

限らないって…。

 

「普通、頼めば協力してくれるもんだろ?」

「日常のちょっとしたことだったらそうだろうね。けれど多くの人は面倒な事に関わりたくないんだ。誰だって損はしたくないからね。そういう時に誰かに協力してもらうには、何らかのメリットを提示しなければならない。」

 

メリット?まさか金か?

 

なんというか…。

 

「金で解決とか、スマートじゃねぇなぁ。」

「馬鹿を言っちゃいけない。これほど楽で早い解決方法は他にはないさ。自分が損をするのを承知で動く人間の方が珍しいんだ。こういうのは一般論で考えないといけないよ、新一。」

「…俺の考えは一般的じゃねぇって言いたいのかよ。」

 

ジト目で見ると親父は肩を竦める。

 

「やれやれ、推理力はともかく人としてはまだまだ未熟な子供だね。」

「俺は中学生だぞ!もうランドセルを背負ってるガキじゃねぇんだ!」

「年齢は関係ないよ。幾つになっても心が子供のままな大人だって沢山いる。僕自身がそうだったからね。」

「はっ?」

 

親父の心が子供だった?

 

「いや、いきなり何言ってんだよ。」

「親として君への忠告だよ。」

「はぁ?忠告?」

「僕と同じ失敗をして欲しくないのさ。」

 

…失敗?

 

「失敗って、何があったんだよ?」

「それは…秘密だ。」

 

思わぬ肩透かしに転けてしまう。

 

「親父…ここまで話しておいてそれはないだろう?」

「僕だって恥を感じる心はあるからね。そう簡単には教えられないよ。」

 

にゃろう。

 

「じゃあ、何かヒントを。」

「事件解決に犯人がヒントをくれるとでも?」

「いや、それはそうだけどよぉ…。」

 

頬を掻いていると親父が笑う。

 

「ふふ…まぁ、世の中にはそういう犯人がいないこともないけどね。」

「じゃあ。」

「生憎と僕はそれほどの自信家でもなければ、もうスリルを楽しめる人間でもないよ。だからヒントは無しだ。」

 

そう言って親父は部屋を出ていった。

 

ったく、何がしたかったんだよ?

 

それにしても…。

 

「もうってどういう事だ?」

 

親父の言い方だと昔はスリルを楽しんでいた筈だ。

 

なのに今は楽しんでない?

 

…わかんねぇ。

 

スリルを楽しむ以上に面白い事なんてねぇだろうに。

 

解けない謎に悶々としながら、俺は母さんの準備が終わるのを待ち続けるのだった。

 

 

 

 

side:工藤新一

 

 

母さんの知己の映画監督が誕生日パーティーの会場として借りたホテルの大部屋に着くと、そこで思わぬ人物…デューク・東郷と再会した。

 

「…ちわ。」

「…あぁ。」

 

互いに言葉少なく挨拶を交わすと、東郷はアタッシュケースを片手に映画監督の元に歩いていく。

 

東郷に気付いた映画監督は笑顔で話し掛けたが…何かが変だ?

 

…そうか、握手をしてないんだ。

 

何故握手をしない?

 

日本でならともかく、アメリカでなら握手をする方が自然だ。

 

それに何故アタッシュケースを持っている?

 

ハンドバッグの様な小物を入れる小さいバッグなら持っているのもわかるが、誕生日パーティーにアタッシュケースは不自然だ。

 

俺は東郷に近付くと話し掛けた。

 

「失礼、東郷さん…そのアタッシュケースの中身はなんですか?よければ見せてもらいたいんですが?」

 

東郷は無言でアタッシュケースを床に置くと中を見せてくる。

 

「…町の模型?」

「あぁ、それは私がミスター東郷に頼んだものだよ。次の映画の撮影に使う場所のロケーションをシミュレートしたくてね。」

 

映画監督が俺達のやり取りに入ってくる。

 

「町の模型の横にある袋は?」

「それも私がミスター東郷に頼んだものでね。懐炉だよ。」

「懐炉?」

 

俺が首を傾げると映画監督は快活に笑い声を上げる。

 

「この年になると寒い時期の外での撮影が辛くてね。まだ夏ではあるが今の内に常備しておきたい。でもアメリカでは手に入りにくいから、彼にわざわざ日本から持ってきてもらったんだ。」

 

監督さんの話には筋が通ってる…だけど、わざわざ模型にする理由はなんだ?

 

今の時代ならコンピュータグラフィックで済むのに…。

 

更に問い掛け様としたその時…。

 

「いてっ!?」

 

不意に誰かに耳を引っ張られた。

 

「ほほほ、ごめんなさい。私の息子が失礼しました。」

「ボーイの好奇心の強さはミスター優作譲りのようだね、ミセス有希子?ハッハッハッ!」

 

母さんにグイグイ引っ張られてあの場から離される。

 

「ちょ、母さん、なにすんだよ!」

「それはこっちの台詞よ。新ちゃんこそ何をしてたのかしら?」

 

声色から察するにかなり怒ってやがる。

 

俺はただ変に思ったから話を聞いただけじゃねぇか。

 

それを伝えると母さんは大きくため息を吐く。

 

「新ちゃん、ここは日本じゃなくてアメリカよ?」

「わかってるよそんなこと。」

「いいえ、わかってないわ。極端な話、さっきみたいな行為は訴えられる可能性もあるのよ。新ちゃんはそれをわかっていてやったの?」

 

…えっ?

 

「待ってくれよ、なんで俺が訴えられないといけないんだよ?」

「プライバシーの侵害とかハラスメント行為ね。」

「いや、ちょっと何を持ってるか確かめたぐらいでプライバシーの侵害とかハラスメント行為で訴えるとか…おかしいだろ。」

 

また母さんがため息を吐く。

 

「はぁ…いい新ちゃん?さっきも言ったけど、ここは日本じゃなくてアメリカなの。日本の常識は通用しないわ。私や優作さんはそれなりに有名だから、さぞや訴えがいがあるでしょうね。落ち着いて考えれば、新ちゃんもそのぐらいわかるでしょう?」

「けどよぉ…。」

「新ちゃん。」

 

母さんがジッと目を見てくる。

 

「誰だって間違う事はあるわ。それこそどんな名探偵だって間違う時はあるの。大事なのは間違った時にどうするか。新ちゃんは推理を間違えてもゴリ押して、罪の無い人を犯人にするつもり?」

 

そう言って俺の頭をポンッと軽く叩いて母さんが去ると、俺はイライラとして頭を掻き回してしまう。

 

するとそんな俺の肩に、親父が優しく手を置いてきたのだった。

 

 

 

 

side:工藤優作

 

 

やれやれ、有希子も手厳しいな。

 

彼女は正しいけど、僕には新一の気持ちもわかる。

 

この年頃の男というのは非常に気難しい。

 

幼少時特有の万能感がまだ抜けずに思春期に入ってしまう子がいるからだ。

 

新一もその一人だね。

 

親馬鹿かもしれないが新一は優秀な子だ。

 

それこそあの子が持つ強い承認欲求を満たせてしまっていた程に。

 

僕自身の経験上…こういう人物は危険だ。

 

心が子供のまま大人になってしまう。

 

そしてそういう人物が社会に出たら…些細な失敗や挫折で心身のバランスを崩し、立ち直るのが難しいほどに自信を喪失してしまうだろう。

 

僕みたいにね。

 

だが幸いにも僕には支えてくれる妻がいた。

 

だから立ち直ることが出来たんだ。

 

もし彼女がいなかったら…僕は自信を取り戻すためと称して半ば自暴自棄にゴルゴ13を追い、命を落としていただろう。

 

新一には僕と同じ失敗をしてほしくはない。

 

だが自分の失敗体験を話すのは想像以上に恥ずかしく、つい誤魔化してしまった。

 

やれやれ、僕もまだ大人に成りきれていないみたいだね。

 

だがゴルゴ13について語るわけにもいかないので、僕の失敗体験をどう話したものか迷うところだ。

 

パーティーが終わった後にでも有希子に相談することにしよう。

 

有希子…随分と遅くなってしまったけど、僕は本当の意味で新一の父親に成れる様に頑張るよ。

 

だからどうか…これからも側にいてくれ。

 

僕は笑みを浮かべると一つ一つ言葉を選びながら、息子に真摯に語り掛けるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

年頃の少年を書いていると黒歴史がフラッシュバックしそうになる今日この頃。

また来週お会いしましょう。


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第14話『憤る少年と去り行く男達』

本日は1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

母さんの知己である映画監督の誕生日パーティー開始予定時間になった。

 

ホテルのスタッフから会場にいる全員にクラッカーが渡される。

 

そしてパンッとクラッカーを鳴らすと火薬特有の匂いがパーティー会場を包む。

 

皆に祝われた監督は笑顔だ。

 

子供かよ…いい歳したおっさんがクラッカーってよ。

 

小さくため息を吐くと立食形式で食事が始まった。

 

わざわざ外部の業者に食事の用意を頼んだようで、ホテルのスタッフとは違う格好の男数人が参加者に料理を盛って渡す。

 

俺もスープを貰いに行った。

 

カセットコンロを使って温められているスープは熱くて旨い。

 

それぞれがグラスを片手に談笑を始める中で、デューク・東郷がパーティー会場を出ていく。

 

(トイレか?アタッシュケースを持っていくなんて…おっと、母さんと親父に散々言われたばかりだったぜ。)

 

しばらくしてパーティー会場に戻ってきたデューク・東郷と目が合うと、謝罪するように目礼する。

 

はぁ…母さんと親父の言った事は理解出来るし、それが正しいんだってのもわかる。

 

けど…なんか納得出来ねぇんだよなぁ。

 

謎を解いた時みてぇにスカッとしねぇってういうか…なんかモヤモヤしちまうんだよ。

 

俺自身、これはよくねぇことだってわかってるんだけど、どうも上手く自分をコントロール出来ねぇ。

 

いつからだ?俺がこうなっちまったのは?

 

中学校で起きた事件を解決した後に先生に怒られてからか?

 

それとも…。

 

そこまで考えたその時。

 

バァン!

 

一発の銃声がパーティー会場に響き渡った。

 

「キャア!」

 

一人の女性が悲鳴を上げながら伏せるのに続いて皆が伏せる。

 

そんな中で俺は状況を確認するために周囲を見渡そうとするが…。

 

「新一!」

 

親父に取り押さえられる様にして床に押し付けられた。

 

「何すんだよ親父!」

「しー…」

 

静かにというジェスチャーに渋々従う。

 

「新一、以前教えただろう?名探偵になるためのレッスンその1、身の安全は最優先にだ。」

「…そんな悠長なことしてたら犯人に逃げられるじゃねぇか。」

 

そう言うと親父に鼻で笑われる。

 

「銃を所持している犯人に丸腰でどう対応するつもりかな?」

「えっ?そんなの、そこら辺の物を投げて気を逸らして…。」

「事件が起きた場所が日本でかつ、更に犯人が日本人ならそれで通用するかもね。けど、ここはアメリカだ。変な動きを見せた瞬間に射殺されてもおかしくない。」

 

反論しようとしたところでパーティー会場に悲鳴が響き渡る。

 

「市長!…ダメだ、死んでいる。」

 

くそっ!犠牲者が!

 

立ち上がろうとすると親父に止められる。

 

「離せよ親父!」

「新一、今この場で君に出来る事は何もないよ。」

「そんなことは!」

「何度も言うけどここはアメリカだ。目暮警部のような知人の刑事がいるわけでもないのに、無名の少年が現場の捜査に参加出来るわけないだろう?」

「…くそっ!」

 

悔しさのあまり床に拳を叩きつけると、親父が俺を慰めるように肩を軽く叩いてきたのだった。

 

 

 

 

side:工藤優作

 

 

発砲から二十分程経つと地元の警察が到着した。

 

事情聴取で僕を担当した警察官が偶然僕の事を知っており、彼から事件の概要を聞く事が出来た。

 

被害者はリチャード・ギブソン。

 

爽やかなマスクが人気なこの都市の市長だ。

 

だがこのギブソン氏…マフィアとの繋がりが噂されている。

 

そういった経緯から警察はマフィア絡みのトラブルからの犯行を推測したのだが、現場での捜査は遅々として進まない。

 

何故なら凶器である銃がどこにもないからだ。

 

もちろん警察官が一人一人の持ち物をチェックしたが、誰も銃を所持していなかった。

 

事件が起きてからパーティー会場にいた人達は誰も外に出ていない事もあり、この事実はとても不可解なものだ。

 

ならばと硝煙反応を確認してみれば、パーティーの始めにクラッカーを鳴らした事で、パーティーに参加した全員に反応が出てしまい捜査は混乱してしまう。

 

…なるほど、その為のクラッカーだったのか。

 

後は凶器の銃をどう始末したのかだが…。

 

顎に手を当てながら思考を進めるが皆目見当がつかない。

 

銃の中でも小型のデリンジャーを特注で更に小型にすれば口の中に隠せなくもない…いや、そんな一時凌ぎでは直ぐに露見してしまうか…。

 

ふむ、いったいどこに…。

 

「すんませ~ん、これ、そろそろ片付けてもいいっすかねぇ?」

 

謎が解けずに頭を悩ませていると、不意に料理を用意した業者の声が聞こえた。

 

「うん?警部、どうしますか?」

「写真は取ってあるな?なら片付けていいだろう。証拠もないのに下手に留めて、訴訟を起こされてもつまらんからな。」

 

彼等の会話を耳にしてハッと閃いた。

 

まさか…いや、彼ならば…ゴルゴ13ならばあるいは…。

 

おそらく凶器に使用された銃は、融解温度が低い特殊な樹脂を成型して作られた特製の銃の可能性が高い。

 

もちろんその様な銃では一発弾丸を撃ったら歪みが生じ、二発目を撃つのは非常に危険だ…けど彼なら一発あれば十分。

 

そして事が終わった後は熱々のスープが入った寸胴鍋に沈めて銃を融解させ、業者が鍋を片付ければ…いや、完璧を期す彼ならあの業者を買収している筈だ。

 

外に運び出された鍋は確実に処分されるだろう。

 

さて、残る問題はその特製の銃をどうやって用意したかだが…その鍵はあのアタッシュケースにあるんだろうね。

 

ふぅ、今ある情報で推理出来るのはここまでか。

 

残念ながら迷宮入り事件がまた一つ増えてしまうな。

 

まぁ彼が関わっている以上、僕は捜査に参加するつもりは欠片もない。

 

うん、ここまでにしておこう。

 

もう十分に推理は楽しめたからね。

 

それにこれ以上彼に気を取られてると…また有希子に妬かれそうだ。

 

「お見事。」

 

そう小さく呟くと笑みを浮かべながら家族のところに戻る。

 

そんな僕とすれ違う様に彼はアタッシュケースを手に去っていくのだった。

 

 

 

 

side:ルパン三世

 

 

次元に便乗してデューク・東郷から依頼を受けた俺達は、無事に鍋を回収して車に乗り込むと変装を解く。

 

「これで一人十万ドルか。」

「ブラッド、気を抜くのはまだ早い。鍋を処理するまでは、東郷殿の依頼は完遂せぬのだからな。」

 

ブラッドと五ェ門の声を耳に車を発進させる。

 

「しっかし特殊樹脂たぁな。どうよ次元ちゃん、お前さんも出来るか?」

「出来るかどうかなら出来る。だが、俺じゃそもそもその発想に行き着かねぇな。そういうお前はどうなんだ?」

 

俺の問い掛けに次元はそう返してくる。

 

一発の弾丸に事の成否を賭けるか…。

 

必要ならやるしかねぇが、もっと別の手段もあった筈だ。

 

となると依頼人のリクエストか?

 

まぁ、どちらにしろ。

 

「思い付いたとしても、自分でやろうとは思わねぇだろうなぁ。」

 

俺はガンマンじゃなければ兵士でもない…盗人だ。

 

盗人には盗人の流儀がある。

 

東郷と張り合うにしても、それはもっと別のところでだ。

 

まぁそれはそれとしてあの坊主…銃声を聞いて身を隠さなかったのはいただけねぇが、直ぐに状況を確認しようとした行動力は大したもんだ。

 

あいつは磨けば光る。間違いなくな。

 

後は生き残れるかどうかだ。

 

それが出来れば…とっつあん並みに面白い相手になるだろうよ。

 

「ところでルパン、次の仕事はどうするか決めてあるのか?」

 

ブラッドの問い掛けに俺は思考を巡らせる。

 

今回の報酬で入念に準備出来るようになったからな。

 

さて…何を狙おうかな?




これで本日の投稿は終わりです。

ちなみに悲鳴を上げて真っ先に身を伏せた女性は不二子ちゃんです。

ああして周囲の人々の行動を誘導して、オリ主ゴルゴのサポートをしたわけですね。

また来週お会いしましょう。


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第15話『元公安の日常』

本日は1話のみの投稿となります。


side:安室透

 

 

ある日、公安の任務で黒の組織に潜入した僕は、表向きの身分を得るために喫茶店ポアロに身を置いた。

 

それが僕の人生で最大の失敗だと気付かずに…。

 

公安の事前調査ではポアロに怪しいところはなかったのだが、いざポアロで働きだすと、僕は公安として死んだも同然となってしまった。

 

理由は…ポアロの店長夫妻だ。

 

ポアロの店長である東郷一斗は、あの傭兵団ゴルゴの団長だった男だ。

 

そして彼の奥方である東郷ソーフィアは傭兵団ゴルゴの副団長だった女性だ。

 

なぜ公安が事前調査していながら、僕が彼等の事を事前に知らなかったかと言うと…公安が僕を人身御供として彼等に差し出すために、意図的に彼等の情報を伏せられたからだ。

 

事の経緯はこうだ。

 

公安の調査員がポアロの事前調査をしていた事が、東郷夫妻にバレてしまった。

 

ただバレただけなら手を引けばそれで問題なかったんだろうが、公安の調査員は彼等がゴルゴ13の両親だということも知ってしまった。

 

そこでゴルゴ13による口止めの為の暗殺を恐れた公安上層部は、彼等の情報を口外しない証として僕を差し出したんだ。

 

もっとも、その行為は無駄に終わってしまったけどね。

 

僕がポアロで働き出してから数日後には、公安に所属していた数名が何者かに暗殺されてしまったのだから。

 

後で聞いた話では公安上層部の一人がいらぬ欲を出し、東郷夫妻を楯にゴルゴ13を制御下に置こうとしたらしい。

 

はっきり言って愚かとしか言いようがない。

 

赤井が知ったら鼻で笑うだろう。

 

日本の公安上層部は危機管理能力が欠如しているってね。

 

だが僕は欲を出した上層部の一人を笑うことは出来ない。

 

実際に東郷夫妻やデューク…ゴルゴ13に出会うまでは、傭兵団ゴルゴの伝説は眉唾物だと思っていたのだから。

 

以前に赤井が日本の公安は情報戦で後れを取っていると言っていたが、それは嘘ではなく真実だったんだ。

 

僕は赤井のそういった態度が鼻持ちならなくて奴に噛みついていたが、赤井からしてみたら僕達日本の公安は裏の世界ではモグリに等しかったのだろう。

 

それもそうだ。

 

デュークに対する認識が甘過ぎたのだから。

 

あの一件以来、公安ではポアロに関してアンタッチャブルとなったと元同僚から聞いている。

 

過ぎ去った時へと思いを馳せていると、不意にカランとドアベルが鳴った。

 

「いらっしゃいませ。」

 

来店した人物に目を向けると、そこには常連の毛利蘭と鈴木園子の姿がある。

 

二人が定位置の席についたので氷水とお手拭きを出す。

 

「いらっしゃい、二人共。残念だけど、デュークはまだ海外から帰ってきてないよ。」

 

そう告げると二人は残念そうにする。

 

以前は否定していたが今ではハッキリと反応を見せる二人に、僕はついクスクスと笑ってしまう。

 

ふふ、青春してるね。

 

「安室さん、デュークさんの夏祭りの日の予定って知ってる?」

 

園子くんの問い掛けに僕は記憶を探る。

 

「米花町の商工会の付き合いでポアロでも出店を出すんだけど、その手伝いをする予定だよ。まぁ、二人をエスコートする時間ぐらいは出来るさ。」

 

そう告げると二人は嬉しそうに笑う。

 

「園子、抜け駆けは無しだからね。」

「わかってるわよ。蘭も疑り深いわねぇ。」

「プールに行った日に抜け駆けしたこと、忘れてないからね。」

 

以前の仕事先で元同僚が情報を引き出すために複数の女性と深い仲になった事があるが、その時は随分と殺伐とした雰囲気になったものだ。

 

だが二人の間柄に大きな変化は見られず、今も親友として仲良くしている。

 

これが今の若者の感性なのかな?それとも…。

 

そこまで考えたところで二人から注文が入ったので、僕は用意をするべくカウンターに戻る。

 

「店長、コーヒーをお願いします。」

「あいよ。」

 

店長の一斗氏がコーヒーを入れている間に僕はポアロ自家製のケーキを準備する。

 

やれやれ、随分と手慣れてしまったものだ。

 

僕は今も黒の組織に潜入をして情報収集を続けているが、それは愛する日本のためだ。

 

だが集めた情報を公安にリークするつもりはない。

 

元同僚達には悪いけど、僕を切った連中に手柄を立てさせてやるほど、僕はお人好しじゃないからね。

 

時が来たらデュークに依頼する。

 

それを出来る程度には彼からの信用を勝ち取っている。

 

事が終わったら…このままここで働いて、時折デュークのサポートをしていくつもりだ。

 

公安の降谷零は死んだ。

 

今の僕は喫茶店ポアロ従業員の安室透だ。

 

思わぬところで人生が変わってしまったけど、こんな生き方も悪くない。

 

コーヒーとケーキを彼女達に持っていくと、他にお客さんがいない事もあって彼女達と談笑する。

 

不意に二人から恋人はいないのかと問われると、僕は笑って誤魔化した。

 

恋人か…そんな事を考えられる余裕がある今の生活は、やはり悪くはないな。

 

そう思える程度には、僕もポアロの一員になったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

11月1日と11月8日の投稿をお休みさせていただきます。

ここ最近忙しくて少し疲れておりまして…。

11月15日にまたお会いしましょう。


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第16話『元公安も今はGファミリーの一員』

本日は1話のみの投稿です。


side:デューク・東郷

 

 

アメリカでの依頼を終えて両親の店に戻ると、毛利蘭と鈴木園子の二人が軽食をとっていた。

 

二人は俺を見るなり夏祭りに誘ってくる。

 

ふと疑問に思い工藤新一の事を問い掛けたが、二人共に既に彼に対して興味は無いらしい。

 

アメリカで見た彼からは才能を十分に感じた。

 

だが彼はその才能の発露を非日常に求めている。

 

彼女達はそんな彼に気付いたのだろう。

 

ならば彼女達が彼から離れるのも致し方ない。

 

だが、俺を夏祭りに誘うのは何故だ?

 

彼女達が俺に好意を寄せられる理由は何だ?

 

何のメリットがある?

 

会話をしながら思考をしていると、降谷零…もとい安室透が会話に交ざってくる。

 

すると不意に…。

 

「デューク、夏祭り当日は僕がヘルプに入る。だから折りを見て彼女達のエスコートをお願いするよ。」

 

この透の言葉に両親も賛同してしまい、俺は夏祭りの日に彼女達をエスコートする事が決まってしまった。

 

それからしばらくして彼女達が帰り店に客がいなくなると、不意に父が話し出す。

 

「近頃近所で騒がしいネズミがいるのに気付いているか?」

 

俺と透は父の言葉に頷く。

 

「そいつらはどうも黒の組織と繋がって『物』を持ち込んでいるらしい。随分と近所迷惑なもんだ。…駆除するぞ。」

 

また揃って頷くと父が透に目を向ける。

 

「透、今回の一件はお前が仕切れ。」

「っ!?…いいんですか?」

「お前はもう俺達の身内だ。なら、俺達の流儀に慣れてもらわねぇとな。」

「…わかりました。」

 

満足そうに頷いた父は次に俺に目を向けてくる。

 

「というわけだ。今回の一件は透がプロデュースする。後で口座に振り込んでおくから、確認したら透の指示通りに動いてくれ。」

「…了解。」

 

話を終えた俺は日課のトレーニングをする為に地下へと向かうのだった。

 

 

 

 

side:安室透

 

 

初めて一斗氏に仕事を全面的に任された高揚から身体を震わせる。

 

「怖いか?」

「いいえ、武者震いですよ。」

「そうか。」

 

コーヒーを口にする一斗氏に問い掛ける。

 

「一つ聞いても?」

「答えられることならな。」

「何故御二人は隠居を?貴方達ならまだ第一線を張れる筈だ。」

 

一斗氏が煙草をくわえると、店の片付けを終えたソーフィア氏が火をつける。

 

阿吽の呼吸は正に夫婦のものだ。

 

「…親の役目が何かわかるか?」

「養育…でしょうか?」

「それは親の義務だな。俺が考える親の役目は…子に生き方の選択肢を増やしてやることだ。」

「生き方の選択肢…。」

 

一つ頷いた一斗氏は語り始める。

 

「例えばプロのアスリートになりてぇって子供がいる。親はその夢を応援するなりして子供の歩みを手伝ってやるだろ?けど夢敗れた時の保険も用意しておくのが親の役目ってもんだ。」

 

ギュッと煙草を揉み消した一斗氏が新たな煙草をくわえるとソーフィア氏が火をつける。

 

「貴方は知らないだろうけど、デュークは一度心を壊してしまったの。」

 

ソーフィア氏の言葉に驚いて目を見開く。

 

「親馬鹿に聞こえるでしょうけど、デュークは本当に才能がある子だったわ。それこそ、初陣を迎える前に私と一斗の技術を余すことなく受け継いでしまえる程に…。」

「それが嬉しくて俺達は…あいつの心の悲鳴を聞き逃してた。」

 

二人は懺悔をするように語り続ける。

 

初陣を終えたデュークはそれからも少年とは思えない戦果を上げ続けたそうだ。

 

だがある日、彼は無表情で声も無く一人涙を流していたらしい。

 

「…戦場から離すことは出来なかったんですか?」

「今までやってきた事に意味がなかったと捉えかねない。そう考えるとそれは出来なかった。」

「だから戦場でどうにか折り合いをつけさせるしかなかったわ。」

 

僕はどこかで彼が神話に登場する英雄の様に考えていたのかもしれない。

 

…馬鹿か僕は。

 

彼だって僕と同じ人間なんだ。

 

ただ出来る事に違いがあるだけだ。

 

その出来る事の違いだって個性に過ぎない。

 

「話が逸れちまったな。俺達が引退したのは、デュークに裏の人間も表で生きられるって教えるためだ。」

「でもあの子はそう簡単に表で生きようとは思わないでしょうね。」

「なるほど、それで女ですか。」

 

僕の言葉に東郷夫妻が揃って頷く。

 

「女は男で変わるって言うが、その反対も然りだ。」

「そういうわけで透にはこれからも協力してもらうわよ。第一候補は不二子だけど、あの娘は今の状況を楽しんでしまってるからね。だから梃入れの為にあの娘達をってわけ。」

「なるほど。」

 

例の薬も完成が近い。

 

それはつまり、デュークが常に全盛期のパフォーマンスを維持し続けられる様になるということだ。

 

それが福音となるのか悪夢となるのか…それは個人個人の立場によるだろう。

 

少なくとも僕にとっては福音なのが幸運だ。

 

願わくば日本にとっても福音となってほしいものだ。

 

だがデュークとて不死身というわけじゃない。

 

だからこそ二人はデュークに日常を生きるという選択肢を増やそうとしているのだろう。

 

その一助を担うか…存外楽しめそうだと思うと、僕も随分と染まってしまったと実感するな。

 

ポアロでの仕事を終えての帰り道、僕はネズミ駆除の構想を練っていくのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第17話『少年の周囲は変わりゆく』

本日は1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

母さんの付き人から漸く解放された俺は日本に帰り付くと、その足で阿笠博士の所に向かった。

 

「博士ぇ~、いるか~?」

「はぁ…新一、依頼案件の物を手掛けとる事もあるから、ちゃんと許可を取ってから入ってくれと前に言ったじゃろ?」

「おっと、悪いな博士。」

 

博士は俺を見ながらため息を吐く。

 

「なんだよ?」

「なんでもない。」

 

しかし、博士も随分と痩せたもんだな。

 

どんな心境の変化があったんだ?

 

そんな事を考えていると博士が幾つか新聞を持ってくる。

 

「ここ最近の事件を知りたいんじゃろ?すまんが今は忙しくてのう。こいつを持っていって構わんから今日のところは帰ってくれんか?」

「しょうがねぇなぁ…わかったぜ博士。また今度な。」

 

愚痴とか色々聞いて欲しかったんだけどな。

 

まぁ、仕方ねぇか。

 

あっ、そういや夏祭りが近かったな。

 

今年も蘭を誘ってみるか。

 

新聞を脇に挟みながら携帯を手に取ると、蘭に電話を掛けて夏祭りに誘う。

 

だがあっさりと断られてしまい、俺はわけもわからずに呆然とするのだった。

 

 

 

 

side:阿笠博士

 

 

「はぁ…。」

 

窓から新一が帰ったのを確認すると思わずため息が出る。

 

危なかったわい。

 

下手をしたら新一は消されていたかもしれんからのう。

 

振り向くとデューク・東郷くんの姿がある。

 

儂はアタッシュケースを机の上に置くとゆっくりと開ける。

 

ここで急ぐと銃を向けられて怖い思いをするからの。

 

あんな寿命が縮む思いは一度で十分じゃ。

 

「一番左が注文された物じゃ。特性のワイヤーを仕込んであり、300kgまでの負荷に耐えられる。」

 

東郷くんは機械式の腕時計を手に取り確認する。

 

「真ん中の腕時計は麻酔針を撃ち出す代物じゃ。注文にはなかったが、あれば便利かと思ってのう。」

「…詳細な仕様は?」

「アタッシュケースの隠し底に針と一緒に説明書を添えてあるから、後で確認してほしい。不明な点はいつでも聞いてくれて構わんよ。そして最後に一番右の腕時計は安全ピンを抜くとグレネードになる仕様にしてある。言わんでもわかっとると思うが、扱いには十分に気を付けてくれ。」

 

アタッシュケースを閉じた東郷くんは机に札束が幾つも入った紙袋を置くと、アタッシュケースを片手に去っていった。

 

「毎度思うことじゃが、払いのいい男じゃのう。」

 

東郷くんは年俸とは別にこうして報酬を払ってくる。

 

だからこそ仕事に手は抜けない。

 

まぁ、彼が依頼してくる仕事は面白くもあるから、報酬とは別に楽しめるがのう。

 

報酬を金庫にしまうと宮野夫妻が顔を出す。

 

「さぁ、阿笠さん、後一息です。研究の続きをしましょう。」

 

例の薬の完成も近い。

 

それが終われば今度は薬の解毒薬の研究じゃ。

 

先は長いが…毎日が楽しいわい。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第18話『黒の組織実行部隊リーダーは一時日本を去る』

本日は1話のみの投稿です。


side:ジン

 

 

「兄貴、東都に行った連中との連絡がつきません。」

「…バカどもが!」

 

ウォッカの報告を聞いた俺は苛立ちから鉄柱を蹴り飛ばす。

 

バーボンからの情報で事前にゴルゴ13が動く可能性がある事はわかっていた。

 

だから何度も警告したが、金に目が眩んだバカ共は取引を続けてこの様だ。

 

だが、あのバカ共が取引を続けたのもわからなくはない。

 

俺達が奴に殺し屋を送った報復に、組織の資金源を幾つも潰されちまったからな。

 

「兄貴、どうします?」

「…引き上げるぞ。くそったれ、あのバカ共のせいで新しくアジトを探さにゃならねぇ。」

 

このアジトを構えるにもそれなりに金が掛かったが、背に腹はかえられねぇ。

 

「ふふふ、随分と荒れてるわね。」

「…ベルモットか。」

 

組織で一番気に入らねぇ奴が来やがった。

 

「ボスからの指示よ。バカなチンピラ達から慰謝料を取ってこいですって。」

 

ベルモットが投げ渡してきた指令書に目を通すとその場で燃やす。

 

「了解だ。すぐに取り掛かる。」

「ふふ、それじゃ代わりにここの引き上げは私がやっといてあげるわ。」

「…ちっ。」

 

ウォッカを引き連れアジトから出る。

 

「兄貴、いいんですか?」

「いいも悪いも、ボスからの指示だ。」

 

懐から煙草を取り出し火をつける。

 

チンピラ達の根城に向けて歩いていると、ウォッカが話し掛けてくる。

 

「兄貴、疑問があるんですけど、少し前に宮野姉妹を組織に引き入れたじゃないですか?確かあの姉妹の親はゴルゴ13が囲ってる筈ですよね?」

「…あの姉妹を組織に引き入れたのは、ベルモットがボスにワガママを言ったからだ。もっとも、それでベルモットはボスに警戒される様になったがな。」

 

短くなった煙草を吐き捨てる。

 

「ボスにしてみれば自身に被害がこなければいいのさ。ボスがあの姉妹に何を研究させているのかまではわからねぇが、ベルモット一人の命で済むなら安い買い物だと判断したんだろうよ。」

「ベルモットはボスのお気に入りだと思ってましたが…。」

「お気に入りだったさ。少し前まではな。だが巻き込まれるとわかっていて側に置いとくほどボスもバカじゃねぇ。今じゃベルモットもボスの居場所を知らねぇよ。」

 

新しい煙草に火をつけながら得物を手に取る。

 

「さて、チンピラ共を掃除するぞ。誰に迷惑を掛けたのか、きっちりわからせてやらねぇとな。」

「ちっとは歯応えがあればいいんですがね。」

「平和ボケした日本のチンピラ相手に、期待するだけ無駄だ。」

 

その後、チンピラ共に鉛弾を馳走してやると、裏のルートを使って日本から離れる。

 

「ところで兄貴、バーボンはどうするんで?」

「少なくとも、今回の一件でゴルゴ13はバーボンに疑念を持った筈だ。ほとぼりが冷めるまでは使えねぇな。」

 

「となると、しばらくは公安の情報を得るのに金が掛かりますね。」

「ゴルゴ13の情報に比べりゃ安いもんだ。」

「それもそうですね。」

 




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第19話『娘の変化に複雑な気持ちの元刑事』

本日は1話のみの投稿です。


side:毛利小五郎

 

 

依頼を受けてとある人物の素行調査をしたその帰り道、ふと東都湾の倉庫が騒がしい事に気付いて足を運ぶ

 

「あっ、毛利さん。」

「よう、何があった?」

 

顔馴染みの警察官と挨拶をすると話を聞いていく。

 

どうやらかなり大きな銃撃戦があった様だ。

 

それも二課や公安まで出てくる程の大きな銃撃戦が。

 

暴力団同士の抗争か?

 

「公安まで出てきたとあっちゃ、今回は関わらない方がよさそうだな。」

「すみません、毛利さん。」

「気にすんな、今や俺は民間人だからな。」

 

そう言って現場から離れようとしたら目暮警部と目が合う。

 

そして彼に誘われて車の助手席に乗り込んだ。

 

「どうしたんです、警部殿?」

「少し話しておこうと思ってね。」

 

パイプを咥えて火を付けると警部殿が話し出す。

 

「今回の事件には少なくとも三つの勢力が関わっている。」

「三つ?」

「うむ、一つは東都に根を張る暴力団組織。これは二課が現場に残っていた遺体を照合して判明した。」

 

煙を吐き出すと警部殿が話を続ける。

 

「二つ目の勢力は黒ずくめの男達だ。」

「黒ずくめ?何者ですかそいつらは?」

「わからん。だが、彼等の遺体を見た瞬間、公安の連中の雰囲気が修羅場のものになったよ。」

「…つまり、それだけやばい奴等ってことですね。」

 

どうやら思ったよりでかい事件の様だ。

 

「そして三つ目…おそらく『奴』が関わっている。これは私の勘だがね。」

 

警部殿の言葉で俺の背中に冷や汗が流れる。

 

「どうやら東都の暴力団組織と黒ずくめの男達の間で薬物の取り引きが行われていたようだ。物も現金も現場に残されていたからまず間違いないだろう。まぁ、そのおかげで捜査は混乱しているがね。」

 

物も現金も残されている事で第三の勢力の目的がわからないんだろう。

 

だが、取り引きを潰したのがゴルゴ13ならば有り得る行動だ。

 

それにしても…。

 

「まるで取り引きに気付かなかった警察に対する嫌味ですな。」

「おそらくそういう意向で依頼されたのだろう。随分と耳のいい依頼者だよ。はぁ…マスコミのコントロールもせねばならんし、いったい何人の首が飛ぶことやら。」

「…御愁傷様です。」

 

二課と公安の数人は首が飛んでもおかしくない。

 

まぁ、それで警察全体の気が引き締まるなら安いもんだろう。

 

「そういうわけだ毛利くん。間違っても今回の一件は調べないようにな?」

「ご忠告痛み入ります。それじゃ、失礼します。」

「まぁ待ちたまえ。私の勘ではそろそろ来る頃なんだが…。」

 

来る?誰が?

 

コンコンと車の窓がノックされてそちらに向くと…そこには工藤新一がいた。

 

俺は思わず頭を抱える。

 

「…はめましたね、警部殿?」

「少し前に優作くんから連絡があってね。そろそろ来る頃だと思っておったんだ。まぁ、今回ばかりは新一くんを関わらせるわけにはいかん。すまんが情報料代わりに彼を連れて帰ってくれんか?」

「はぁ…引き受けましょう。」

 

俺は車を降りるとクソガキを睨みつける。

 

「おじさん、今回の事件は…。」

「来いっ!」

 

首根っこを掴んでクソガキを引き摺っていく。

 

「ちょっ!?待ってくれよ!まだ俺は何も聞いて!」

「今回のは公安も出張る程にでかい事件だ。だから帰るぞ。」

 

俺の言葉を聞いたクソガキは目を輝かせる。

 

「本当か!?なら尚更推理…いでぇ!?」

 

クソガキの頭に拳骨を落とす。

 

「てめぇ話を聞いてねぇのか?公安がいるっつたろうが。幾ら未成年でもしょっぴかれるぞ。」

 

その後、クソガキを事務所に連れ帰った俺は小一時間に渡って説教をくらわせる。

 

少しは反省の色が見える様になったから、前と比べりゃマシになったがよ…。

 

「このままじゃいつか痛い目を見るぜ…どうすんだよ、優作?」

 

クソガキを帰すと俺はまたため息を吐く。

 

するとクソガキと入れ替わる様にして蘭が帰ってきた。

 

蘭はカタログを手に英里と話に華を咲かせる。

 

チラリと覗き見ると…浴衣のカタログだった。

 

…そういえば夏祭りが近かったな。

 

俺は蘭に釘を刺すべく話し掛ける。

 

「おい蘭、まさか工藤のガキと夏祭りに行くんじゃねぇだろうな?」

「新一となんて行かないわよ。行くのはデュークさんよ。」

「デューク?蘭の学校にそんな名前の奴いたか?」

 

誰かわからず首を傾げると英里が床を指差す。

 

「下のポアロの息子さんよ。」

「…あぁ、あいつか。」

 

俺の言葉を肯定する様に二人は頷く。

 

「けどよ、たしかあいつは二十歳だろ?ちと蘭と歳が離れちゃいねぇか?」

「あら、恋に年齢は関係ないわよ。」

「おい弁護士、淫行条例はどうした。」

 

ジト目を向けるが英里はどこ吹く風だ。

 

「母親として娘の恋は応援しなくちゃね。」

「そうか、じゃあ俺は父親としてデュークと話し合いに…。」

「蘭、確保!」

 

英里の指示で蘭が俺を捕まえてくる。

 

「離せ蘭!俺は父親として果たさにゃならん使命があるんだ!」

「もう…いい加減にしなさい!」

 

そう言いながら英里が首を絞める振りをしてきたので、俺も落ちた振りをする。

 

「わぁ、お母さん凄い!」

「ふふ、まぁこのぐらいはね。」

 

ったく、自分ばかりカッコつけてずりぃぞ。

 

しかし蘭が恋たぁな…。

 

あのまま工藤のガキに付いて回るのに比べりゃマシだが、なんとも複雑な気分だぜ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第20話『夏祭りを楽しむ少女達』

本日は1話のみの投稿です。


side:鈴木園子

 

 

夏祭り当日、私は約束通りに蘭と一緒に東郷さんにエスコートしてもらっていた。

 

あれこれ考えて浴衣を選んだけど、私を一見した時の東郷さんの反応が薄かったのが悔しいわ。

 

これでも育ってきているからそれなりに自信があったんだけどね。

 

浴衣でのアピールに失敗した私は色々と出店を回った後に射的屋に誘った。

 

「おじさん、もう一回!」

 

女の子らしさのアピールも兼ねて大きなヌイグルミを狙っているんだけど…まぁ落ちないわよね。

 

わかっていて狙ってるんだけどそれは…。

 

「あ~もう!あっ、そうだ!東郷さんお願い。あのヌイグルミを落として。」

 

こうして東郷さんに話を振るため。

 

万が一東郷さんがヌイグルミをゲット出来ればそれを称賛出来るし、ダメならダメで話のタネにはなるしね。

 

東郷さんは射的屋の店主にお金を払うと、チラリと周りを一瞥した。

 

…何を確認したのかしら?

 

蘭に話し掛けながらそれとなく私も周りに注意を向けるけど、東郷さんが気にする様なものは無いんじゃないかしら?

 

あら?なんか安室さんが携帯電話を片手に歩いている女に声を掛けてるわね。

 

ナンパかしら?それとも危ないから注意?

 

…まぁ、私達には関係ないしいいか。

 

後で安室さんをからかうネタにはするけどね。

 

目を戻すと東郷さんの射的が始まったんだけど驚いたわ。

 

先ず一発目が当たってヌイグルミが揺れると、二発目も全く同じ所に当たって更にヌイグルミの揺れが大きくなったの。

 

そして三発目、ヌイグルミの揺れが一番大きくなった瞬間に弾代わりのコルクが当たると…ヌイグルミは台の上からあっさりと落ちていった。

 

「かぁ~やるな兄ちゃん。ほれ、受け取りな。」

 

店主からヌイグルミを受け取った東郷さんが私に渡してくる。

 

「スゴイスゴイ!カッコ良かったわ東郷さん!」

 

いや、もうスゴイどころじゃないわよねこれ。

 

スポーツ射撃で金メダルを取った事があるって言われても納得いく腕前だわ。

 

私に続いて蘭も射的屋で景品を取って貰うと、私達は祭りが行われている通りから離れてポアロに向かう。

 

その途中、ふと見上げると東郷さんが何かを見ていた。

 

その視線の先を追うと誰かが走り去る姿がある。

 

あれは…工藤くん?

 

「あれっ?もしかして新一?」

 

蘭も気付いたみたいね。

 

その場では特に工藤くんについて話さなかったけど、祭りの打ち上げ的な感じで貸し切りになったポアロでゆっくりし始めると、私は蘭に問い掛けた。

 

「ねぇ蘭、ちょっといい?」

「何、園子?」

「蘭、貴女…ちゃんと工藤くんに好きな人が出来たって伝えた?」

 

そう問い掛けると蘭はキョトンとした。

 

「…その様子だと伝えてないみたいね。」

 

はぁ…本当にこういうところは疎いんだから。

 

「えっ?ちょっと待って園子、私と新一は付き合ってたわけじゃないわ。なのになんで新一にデュークさんが好きって伝えないといけないのよ?」

「それを本気で言ってるんだから余計に性質が悪いわよねぇ…。」

 

親友の天然っぷりに頭が痛くなるわ。

 

「あのね蘭、以前の貴女は工藤くんとの距離が凄く近かったわ。それはわかるわよね?」

「えっと…新一とは幼馴染みだし普通じゃない?」

「端から見てるとあれで付き合ってないとか詐欺よ。クラスの皆で、いつ蘭と工藤くんが正式に付き合い始めるか賭けがあったんだから。」

「嘘!?私、知らないわよそんなの!」

 

当たり前でしょ。そういうのは本人の知らないところでやるから楽しいんだから。

 

「まぁそんなこんなで蘭と工藤くんは半ば公然のカップルとして認識されていたのよ。蘭が工藤くんをどう思っていたのかは別としてね。」

「そうだったんだ…。」

「うん、それじゃ話を続けるわよ。さてここで問題、公然のカップルと見られる程に蘭と工藤くんの距離は近かったわけだけど、それが急に離れたら彼はどう思うかしら?」

「えっと…?」

 

顎に手を当てて蘭が考え込む。

 

蘭がどう考えるかはわからないけど、私としては工藤くんは自分が悪いとは一切考えないと思うわ。

 

工藤くんが愛想を尽かされたのは、間違いなく工藤くん自身が原因なんだけどね。

 

彼は自分に自信があるだけじゃなく、それ相応に才能もある。

 

けどそれが彼の不幸なところよね。

 

生まれ持った才能と努力の結果、今まで大きな失敗をした事がないし、面倒な後始末は私がおじさまに頼んで処理してもらっていた。

 

失敗知らずに成功を積み重ねる彼の姿は、まるで物語の主人公の様にも見えたわ。

 

おそらく工藤くん自身もそう感じていたはず。

 

だからこそ彼は自分が間違えているとは思わない…いえ、自分が間違えているって思いたくないのね。

 

おじさまが言っていたわ。人は時に自分が見たいものしか見なくなるって。

 

今の工藤くんは正にその状態じゃないかしら?

 

一度この状態になってしまうと、理想と現実の差に折り合いをつけられる様になるのに時間が掛かるらしいわ。

 

まぁ、理想という夢を見ていられるならその方が楽しいでしょうし無理もないわね。

 

もし工藤くんがその状態なのだとしたら…しばらくは近付かない様にした方がいいわね。

 

だって前以上に無茶をするのが目に見えてるもの。

 

蘭をそんなバカな行動に巻き込ませるわけにはいかないわ。

 

うち(鈴木財閥)の調査員の話だと工藤くんもちょっと変わってきてるらしいけど…。

 

うん、やっぱり近付かない様にしましょ。

 

リスクマネジメントはしっかりしないとね。

 

さて、それはそれとして…さっき蘭は東郷さんの事をデュークさんって名前で呼んだわよね?

 

これはどういうことかしら?

 

その辺の事は後でキッチリと聞かせてもらわないといけないわね!




これで本日の投稿は終わりです。

それと少し早いですが今年の投稿はこれで終わりです。

また来年お会いしましょう。


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第21話『侍の年貢の納め時』

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

本日は1話のみの投稿です。


side:石川五ェ門

 

 

まさか未熟者の拙者が婿入りすることになるとはな…。

 

ルパン達との仕事を終えて日本に帰った拙者を待っていたのは、墨縄紫殿との婚姻だった。

 

墨縄一族とは以前から交友があったのだが、その縁で拙者も幼き頃より紫殿と親交があった。

 

そしてあの頃から将来を約した仲ではあったが…こうも早く紫殿と夫婦になるとは思わなかった。

 

「五ェ門様、どうしたんですか?」

 

溌剌としていて可愛いらしい紫殿が、微笑みながら拙者に問い掛けてくる。

 

「いや、拙者の様な未熟者が本当に紫殿と一緒になってよいものかと…。」

「五ェ門様は私と夫婦になるのが嫌なのですか?」

「そんなことはござらん!」

 

強く否定すると紫殿は花開いた様な笑みを見せる。

 

「嬉しいです、五ェ門様。」

 

あぁ、この笑顔だ。

 

この笑顔に拙者は惚れたのだ。

 

今度こそ拙者の手で守らねば。

 

少し前に風魔一族が墨縄一族の秘宝を奪おうと襲って来たのだが、折よく東郷殿が養祖父殿に仕事の依頼をしに訪れており、彼の力を借りて無事に撃退する事が出来た。

 

彼がいなかったらと思うとゾッとする。

 

なにせ風魔一族の術中に嵌まった拙者は正気を失い、危うく紫殿を傷付けてしまうところだったのだから。

 

もはや東郷殿には足を向けて眠れぬ。

 

「ふふ、来週の式が今から楽しみです。」

 

式といえば東郷殿からは過分な結婚祝いも貰ってしまった。

 

まさか三千万円を祝儀としてポンと渡してくるとはな…。

 

気が付けば恩ばかりが積み重なっていく。

 

いずれ返す機会があればいいのだが…。

 

拙者は紫殿を優しく抱き寄せると彼女を守ること誓うと共に、その瑞々しい唇に接吻をするのだった。

 

 

 

 

side:ルパン三世

 

 

「ま~さか五ェ門ちゃんが結婚たぁねぇ。」

 

式への招待状を片手に言葉を溢す。

 

「それでルパン、五ェ門は一味を抜けるのか?」

「理解ある嫁さんらしくてな。これからも俺達とやっていくってよ。」

「そいつは朗報だな。」

 

ブラッドの問い掛けに答えると、次元が煙草を吹かしながらそう言う。

 

「ところでブラッド、例のお宝の在りかは掴めたか?」

「あぁ、バンク・オブ・リバティーにあるらしいぜ。」

「さっすがブラッド、情報を集めさせたら天下一品だぜ。」

 

ブラッドの言葉に俺は笑みを浮かべる。

 

「そんじゃ五ェ門ちゃんの結婚式に出席する前に準備を終わらせちまうかぁ。ロシアから流出した500tの金塊…ロマノフ王朝の財宝をいただくための準備をな。」

 

その後、老婆に変装した俺はバンク・オブ・リバティーに堂々と入って金塊の在りかを探る。

 

そして諸々の準備を終えて五ェ門の結婚式に参加した俺達は、新婚の五ェ門を置いて仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

side:赤井秀一

 

 

ニューヨークのとある一角に奴は時間通りに現れた。

 

「久し振り…とでも言っておこうか、ゴルゴ13。」

「…用件はFBIからのものか?」

「あぁ、そうだ。」

 

写真を取り出そうと懐に手を入れたら、いつの間にか奴は俺に銃を向けていた。

 

「…ゆっくりだ。」

 

銃を抜くのを知覚出来なかった己の未熟さに僅かに苛立つのと同時に、流石はゴルゴ13だという思いも沸いてくる。

 

「…ラスプートン。」

「そうだ。」

 

写真を一瞥しての奴の言葉に肯定を返す。

 

「奴の予言染みた言葉にアメリカの有力者が幾人も心酔している。その影響はホワイトハウスにまで及ぶ程だ。これ以上は看過できない。」

「…なぜFBIが自身で手を下さない?」

 

その言葉に歯噛みする。

 

「可能であるなら俺自身の手で奴の眉間を撃ち抜いてやりたいが、ここ最近の黒の組織の動きがきな臭くてな。そのせいでFBIは動けん…いったい日本で何があったのかな?」

「…それを調べるのはFBIの捜査官の役目だ。」

 

その捜査官が動けぬからこうして依頼をするしかないのだがな。

 

俺は横に置いておいたアタッシュケースに目を向ける。

 

「100万ドルを用意した。必要とあれば人手も出そう。引き受けてもらえるか?」

 

ゴルゴ13は写真を燃やすとアタッシュケースを手にせず踵を返す。

 

「ゴルゴ13?」

「…俺は同時に二つの依頼を受けない。」

 

そう言ってゴルゴ13は去っていく。

 

「まさか既にラスプートンの暗殺依頼が?いったい何者が…。」

 

俺は携帯電話を取り出すと仲間に繋ぐ。

 

「俺だ。彼のスカウトに失敗した。どうやら他の一座と演目が被ったようで、彼は既にスカウトされた後だった。…いや、違うな。彼等は今忙しい。幾人かの役者に舞台から退場してもらうための準備をしているからな。」

 

仲間と会話しながらアタッシュケースを手にして歩き出す。

 

「…あぁ、わかった。」

 

携帯電話をしまい小さくため息を吐く。

 

「主導権は失ってしまったがまだやりようがあるのが救いか。やれやれ、宮野明美に接触出来るのはいつになることやら…」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第22話『天才美少女は姉と語らう』

本日は1話のみの投稿です。


side:宮野志保

 

 

黒の組織が用意した研究室で両親が残したデータを元に研究を進めていると、姉さんが鼻歌を歌いながら研究室に入ってきた。

 

「志保、ただいま。」

「お帰り、姉さん。随分と御機嫌ね?またバーボンとキャンパスデートでもしてきたの?」

「もう、バーボンじゃなくて安室透さんよ。公私は使いわけなくちゃ。志保もまだまだね。」

「…はぁ。」

 

私は思わずため息を吐いてしまう。

 

姉さんには黒の組織の一員という意識が少し…いえ、かなり欠けている。

 

危なっかしくて仕方がないわ。

 

なんかどこかの国の諜報員に騙されそうな気がするし、私がしっかりしないと。

 

「それで、安室さんはなんて?」

 

そう問い掛けると姉さんは無言でUSBメモリを差し出してくる。

 

私はそれを受け取るとPCにある処理をしてからデータを閲覧した。

 

「…これはいつ?」

「『彼』の手が空いたらだそうよ。」

「そう。」

 

USBメモリの中には私達姉妹が黒の組織を抜けるための作戦が記されていた。

 

私は作戦内容を暗記すると直ぐにデータを消去し、PCを元の状態に戻す。

 

「あらあら?随分と機嫌が良くなったわね。そんなに『彼』に会えるのが嬉しい?」

「…そういうのじゃないわ。『彼』はただの恩人であって。」

「またまたぁ、恥ずかしがらなくてもいいじゃない。」

 

姉さんにからかわれて少し顔が熱くなるのを感じる。

 

彼…デューク・東郷と初めて会ったのは、私達姉妹が黒の組織に入ってから一ヵ月程経った頃だったわ。

 

黒の組織に始末されそうになっていた両親を助けて保護した彼は、両親のスポンサーとなって研究を支援している。

 

彼から渡された両親からのメッセージでそれを知った時、私達姉妹は愕然としたわ。

 

両親の行方を求めて黒の組織に入った事が全くの無駄になってしまったのだから。

 

それでも両親が無事であると知った私達は喜び、今では形だけ黒の組織に協力して両親と再会する日を待っている。

 

「それより姉さんこそどうなのよ?安室さんとは上手くいってるの?」

「ふふ、透さんったらね?」

 

惚気全開で話す姉さんの姿に私はため息を堪える。

 

これでまだ正式にお付き合いしてないというのだから、男女の仲が複雑なのがよくわかるわ。

 

30分程語って満足したのか姉さんの話しも途切れる。

 

「そういえば姉さん、『彼女』はどうなるのかしら?『これ』に随分と御執心みたいだけど。」

 

そう言いながら私はディスプレイに表示したAPTX4869の研究データを指し示す。

 

「彼女については『彼』が対応してくれるそうよ。」

「そう、じゃあ安全ね。」

 

そう言うと姉さんが悪い顔をする。

 

「あら、随分と信頼してるわねぇ?」

「…だからそういうのじゃないって言ってるでしょ。」

「いいのかしら?彼、競争率が高いみたいよ?」

「…どういうことかしら?」

 

問い掛けると姉さんは勝ち誇った様な顔をする。

 

「ふふ、やっぱり気になってるんじゃない。」

「…恩を返すのに情報が必要なだけよ。」

 

そう説明するものの、姉さんは終始わかってると言わんばかりにニヤニヤとした顔をしていた。

 

それにしても競争率が高い…ねぇ。

 

まぁ彼程の男なら女の影の一つや二つあって当然でしょうね。

 

はぁ…姉さんもそうだけど、私も難儀な相手に惚れてしまったものだわ。

 

いったい父さんと母さんのどっちに似たのかしら?




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第23話『ロシアより愛を込めて』

本日も1話のみの投稿です。


side:ラスプートン

 

 

アメリカのマフィアに流れていたロマノフ王朝の財宝である500tの金塊…その金塊を手に入れるために、テレパシーを使って所有者たるマフィアのボスを私に心酔させていたのだが、あろうことかルパン三世とかいうこそ泥に横からかっさらわれてしまった。

 

だが教団の力を駆使してこそ泥から金塊を取り戻すことに成功した。

 

私は教団が所有する倉庫に積み上げられた金塊を見て笑いを溢す。

 

「少々手間取ったがこれで金は私の物だ。」

 

テレパシーを元に築き上げた教団の影響力は、今では各国の有力者にまで及んでいる。

 

「いずれ世界中の富も私の物となるだろう。くくく…ハーハッハッハッ!」

 

高笑いをしながら倉庫を出た直後、眉間への衝撃で私の身体は後ろに倒れる。

 

身体に力が入らず動けない。

 

いったい何が…?

 

テレパシーで周囲の状況を探る。

 

そしておよそ400m離れた所から私の状態を確認している者の存在を認識した。

 

(雪が吹雪いている中で狙撃だと…!?いや、その前にどうやって私のテレパシーに察知されず…!?)

 

混乱が続く中で意識が薄れていく。

 

(馬鹿な…私の栄光は…これ、から…。)

 

 

 

 

side:ジュディ・スコット

 

 

(ありがとう、デューク…。)

 

ラスプートンが死んだ事で求心力を失った教団は、そう遠くない内に解体されるはず。

 

そしてこの500tの金塊があれば多くの祖国の民を救えるわ。

 

「ジュディ、本当にここまででいいのね?」

「…えぇ、後はロマノフ王朝の末裔として私が責務を果たします。」

 

彼…デューク・東郷に依頼してから私のサポートをし続けてくれていた不二子にそう言葉を返す。

 

「それじゃ私は帰るわ。あぁ、そうそう。ルパン達に一抱えぐらい金を分けてあげなさい。彼等を利用したんだもの。そのぐらいの手土産がないと彼等も立つ瀬が無いわ。」

 

そう言いながら不二子は手を振り去っていった。

 

その後ろ姿を見ながら私は彼に依頼した時の事を思い出す。

 

私が彼に依頼したのは祖父の遺言がキッカケだった。

 

祖父の遺言には彼の父の連絡先が記されていたのだけど、ロマノフ王朝の財宝の行方を知った私は藁にもすがる思いでそこに連絡をした。

 

すると彼の父から彼を紹介され依頼をするに至る。

 

(デューク…。)

 

私は彼に依頼をするにあたり報酬としてこの身体を差し出した。

 

それ以来、女としての私は彼と共に在ることを求めている。

 

でもロマノフ王朝の末裔として私は責務を果たさなければならない。

 

だから私は彼と共に行けない。

 

けど…いつか責務を果たし終えたその時は…。

 

私は女としての心を封じると、ラスプートン暗殺で浮き足立つ教団内で動き始めるのだった。

 

 

 

 

side:次元大介

 

 

「あれだけ苦労して手にした金塊が30kgぽっちたぁな。」

「うるへぇ~、仕方ないだろうがぁ。東郷ちゃんが関わってきちまったんだからよぉ。」

 

ロマノフ王朝の財宝を取り巻く一連の騒動にデュークの奴が関わってきやがった。

 

俺達の動きは全てラスプートンの野郎を暗殺するために利用されたんだが、だからこそこれ以上は金塊をいただくことが出来ない。

 

デュークの依頼人の依頼内容によっては俺達も撃たれちまうからな。

 

「まぁラッキーとビッグが一味に入るんだ。それでよしとしとこうぜぇ。」

「二人の治療費で今回の儲けもすっ飛ぶけどな。」

 

ラッキーとビッグとは傭兵団ゴルゴが解散してから知り合ったんだが、あいつらとは用心棒として何度か組んだことがあってその腕は見事なものだった。

 

今回の一連の騒動でも何度も出し抜かれた事を考えても、あいつらの腕は一流の領域にあるだろうよ。

 

そんなあいつらだがラスプートンに裏切られて重傷を負った。

 

幸いにも二人共に一命を取り留めて入院している。

 

二人はラスプートンに復讐を考えていたんだが、さっき奴がデュークに暗殺された事を伝えると、どんな心境の変化があったのか二人はルパン一味に入れてくれって言ってきたのさ。

 

「二人の治療費ぐらい安いもんよぉ。あの銃弾の雨を受けて生き残れる運を持ってるんだぜ?これからいっくらでも取り返せるさぁ。」

 

裏で生きていくのに何よりも必要な素質…それが運だ。

 

どれだけ腕がよくてもこいつばかりはどうしようもねぇ。

 

たとえ英雄だろうと運が悪ければ流れ弾一発で死ぬんだ。

 

だからこそ裏で生きる者達は運を持ってる奴を求める。

 

少しでも生き残る可能性を上げるためにな。

 

「ルパァン!」

 

そんな事を考えていると不意にとっつぁんの声が聞こえてきた。

 

「あらま、とっつあんったらなんだってロシアくんだりまで来ちゃってんのかしらねぇ?奥さん臨月でしょうが。」

「貴様がバンク・オブ・リバティーを強盗したからだろうが!」

 

まぁ、500tの金塊をアメリカから盗めばICPOも動くか。

 

だが、その前にFBIやCIAはどうした?

 

「とっつぁん、こういう時って普通はFBIとかCIAが動くもんじゃねぇの?」

「俺もそう言ったわい!だが奴等は国内の事で忙しいつってICPOに要請してきたんだ!」

「そりゃ御愁傷様なこってぇ。」

 

そう言いながらルパンは30kgの金塊を俺に渡すと、とっつぁんから逃げるために走り出す。

 

「じゃあな次元、ブラッド達によろしくな!」

「おう、またな。」

「待てぇルパン!とっととお縄につかんかぁ!俺は出産に立ちあわなきゃならんのだぁ!」

 

その後、ブラッドと合流した俺はラッキー達が入院している病院に足を運んだ。

 

そしてラッキー達の病室でルパンがとっつぁんに捕まったって情報を得ると、皆で大笑いしたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第24話『東の少年は傷心し、西の少年は春を迎える』

本日も1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

「それではな工藤くん。」

「はい、送ってもらってありがとうございます。目暮警部。」

「うむ、それと…あまり気に病まぬ様に。あれは仕方ないことだったんだ。」

 

そう言ってパトカー発車させて去っていった目暮警部を見送ると、俺は自室に入って鍵を掛ける。

 

そして…。

 

「…くっそぉぉぉおおおお!」

 

悔しさのあまり思いっきり叫んだ。

 

今日とある殺人事件に遭遇した。

 

事件が起きた時に現場にいたから、関係者の一人として事件に関わったんだ。

 

そして事件を推理して犯人を追い詰めたんだが、犯人を追い詰めすぎて自殺に追い込んじまった。

 

やるせない思いで一発二発と右拳を壁に打ち付けると血が流れた。

 

「…ちくしょう。」

 

救急箱を取り出して右拳を治療する。

 

治療を終えた頃には少しだけ落ち着いて、事件の事を振り返ることが出来た。

 

推理は間違ってなかった。

 

でも…それだけだ。

 

それだけじゃダメなんだ。

 

「…次は失敗しねぇ。」

 

治療を終えた右拳に左手を添えると、誓いを立てる様にそう口にしたのだった。

 

 

 

 

side:服部平次

 

 

「オトン、邪魔すんで。」

「邪魔すんなら来んなや。」

「息子にそう連れへんこと言うもんやないで。」

 

オトンの書斎に入ると俺は新聞を差し出す。

 

「なんや?」

「ここにラスプートンっちゅう奴が死んだ書いてあるやろ。事件とも事故とも書いてへんからちと気になってな。オトン、なんか知ってへんか?」

 

そう問い掛けるとオトンは腕を組みながら俺を睨んできた。

 

「平次、こいつは間違っても調べたらあかんで。」

「…つまりそういうことなんやな?」

 

オトンが頷くと納得がいった俺は頭を掻きながらため息を吐く。

 

「はぁ…ほんまに先に聞いてよかったわ。」

「それが出来るようになっただけ成長したっちゅうことやな。少しは安心したで。前は怖いもん知らずのアホやったからな。」

 

そう言うオトンに俺は肩を竦める。

 

「しゃあないやろ。あの頃の俺はガキやったんやから。」

「今も十分ガキやけどな。」

「それは言わんお約束やで。」

 

そこで一度話が途切れるとオトンがニヤリと笑う。

 

「なんや?」

「平次、和葉ちゃんとは上手くいっとんのか?」

「ぶっ!?」

 

なんやねんいきなり!?

 

思わず吹いてもうたわ!

 

「付き合い始めたんやろ?」

「なんで知っとんねん!」

「そら向こうの親御さんから聞いたからに決まっとるやんか。和葉ちゃんが嬉しそうに話した言うてたで。」

 

くっそ、和葉に口止めするの忘れてたわ。

 

「まぁええやんか。お前が考え無しに事件に首を突っ込むのに比べたらよっぽどマシや。」

「うっさい!ほっとけや!」

 

ほんまにこのオッサンは…。

 

頭を抱えるとオトンが真面目な顔をして話し出す。

 

「平次、改めて言うとくで。これは調べたらあかんぞ。」

 

オトンはそう言いながら新聞をヒラヒラと振る。

 

「わかってるって。そう心配すなや。」

「一応釘を刺しとかな。和葉ちゃんを巻き込みたかないやろ?」

 

その一言で俺は一年前の事を思い出す。

 

一年前、大阪で起きたとある事件に違和感を感じた俺は、オトンの伝手を使ってその事件を調べた。

 

その結果…俺は警告の一弾を受けた。

 

あん時、被っていた帽子の鍔を撃ち抜かれたんやけど、そん時の俺の隣には幼馴染みの和葉がいた。

 

いきなり帽子が飛んだ事に和葉は驚いとったけど、俺が狙撃されたことには気付いとらんかったからなんとか誤魔化せた。

 

けど、あん時の一発で俺は気付いてもうた。

 

これから先、事件に関わろうとすれば和葉も巻き込まれる可能性があるってな。

 

それ以来、俺は事件の推理をする時は出来る限り表に出んように気をつけとる。

 

まぁほんまなら推理もせんようにして事件に関わらへんのが一番なんやろが、そんなこと言うとったら探偵どころか刑事にもなれへんからなぁ。

 

つらいとこやで。

 

「そんじゃ、俺は用事があるから出掛けてくるで。」

「デートか?」

「ほっとけや!」

 

1年前までの俺はホンマに怖いもの知らずやったけど、思い返すとうすら寒くなるわ。

 

手遅れになる前に気付けて運がよかったで。

 

俺はニヤニヤと笑うオトンを見て鼻を鳴らすと、和葉との待ち合わせ場所に向かうのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第25話『天才美少女と発明家の交流』

本日も1話のみの投稿です。


side:灰原愛(宮野志保)

 

 

私達姉妹が黒の組織を抜け両親と再会してから数ヵ月が過ぎた。

 

あの黒の組織で過ごした日々がまるで嘘かのように平和な時間が過ぎていく。

 

「愛君、ちょっとこれを見てくれんかね?」

 

阿笠博士に呼ばれた偽名に自然に反応すると席を立つ。

 

私は両親に合わせて偽名を名乗ることにしたのだけど、その偽名を『灰原愛』とした。

 

愛はデュークへの想いから想起したもの。

 

もし両親と再会出来ず姉さんを失っていたら…『愛』ではなく『哀』と名乗っていたかもしれないわね。

 

「何かしら博士?」

「東郷君の役に立つかと思って作ってみたんじゃが、君の意見を聞いてみたくての。」

 

そう言いながら博士はネクタイと仕様のデータを見せてきた。

 

「強い伸縮性で車に積んであるジャッキの様にも使える特殊なネクタイなんじゃが…どうかね?」

「発想はいいと思うわ。後は彼が気に入るかどうかね。」

 

現物と仕様データを目に思考をする。

 

おそらく彼はこれを気に入ると思うわ。

 

「ところで博士、これは特許を申請するの?」

「いや、そのつもりはないのう。金には困っておらんし。」

 

博士の言葉を聞いてため息を吐く。

 

もしこれやこれに類する物が災害現場等で活用されるようになれば、阿笠博士の名前は一躍世界的なものになってもおかしくないわ。

 

だというのに本人にはそのつもりが全く見られない。

 

阿笠博士のこういう行動は今日だけのものじゃないわ。

 

博士が言うには彼一人に認められればそれで足りるんだとか。

 

個人的にその気持ちはよく理解出来るけれど、科学者としては少し複雑ね。

 

「そういえば明日香君はどうしたんじゃ?」

「姉さんなら透さんとデートよ。」

 

姉さんは偽名を『明日香』とした。

 

本名の『明美』の一字は残したかったみたい。

 

「若いというのはいいのう。」

「博士も十分若いわよ。その見た目ならね。」

 

博士と出会った当初は頭頂部に毛髪がなく、更に残っている毛髪が白くて正に老人という表現が相応しかった。

 

けど今は違う。

 

改良したAPTX4869を服用した博士は、頭頂部に黒々とした毛髪が戻って若々しく、見た目は40代前半ぐらいに見える。

 

もっともそのせいで日常的に毛髪を白く染め、更にメイクで元の年齢に近付けないといけないのだけどね。

 

「若返ったのはいいんじゃが、ご婦人方から質問攻めにされるのは勘弁してほしいわい。」

「あら、私には博士が喜んでいる様に見えたけど?」

「そりゃ最初は嬉しかったがの。じゃが、ああも有無を言わせぬ重圧を掛けられ続けると老け込みそうなんじゃよ。」

 

毛髪を染めてメイクをしても、美に敏い女性なら博士の肌の艶が違うのは直ぐにわかるわ。

 

それに博士を質問攻めにするのは女性だけじゃない。

 

以前の博士を知る男性も博士を質問攻めにするわ。

 

こういう男性は毛髪に悩みを抱える人が多いわね。

 

APTX4869の研究に一区切りがついた両親は現在、そういった人達を誤魔化す為の物を研究している。

 

これは今後継続的にAPTX4869を使用する為に必要なもの。

 

それでも誤魔化すのには限界があるから、ある程度の月日が経ったら引っ越して別人にならないといけないけどね。

 

「愛、すまないが少し手伝ってくれるか?」

「わかったわ、お父さん。それじゃ博士、失礼するわね。」

「愛君、根を詰めすぎないようにな。儂達には時間がたっぷりあるんじゃから。」

「…えぇ、わかってるわ。」

 

博士の言う通りに私達には無限にも等しい時間がある。

 

人の心がそれほどの長い時間を生きることに耐えられるかはわからないけど…少なくとも退屈はしないでしょうね。

 

何故なら私達は世界一刺激的な男を知っているのだから…。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第26話『天才美少女と謎の女の交流』

本日も1話のみの投稿です。


side:灰原愛

 

 

月日が経つのは早いもので、私達姉妹が両親と再会出来たあの時から4年近くが経った。

 

それだけの月日が経てば色々と変わるわ。

 

その変わったものの一つ目、かつて私とお姉ちゃんが所属した黒の組織…以前は世界的な規模の裏の組織だったのだけど、今では規模が縮小して日本に幾つかの拠点を残す程度になっている。

 

この黒の組織弱体化には各国のエージェントだけでなく、デュークも大きく関わっているわ。

 

それでもまだ日本では最大級の裏の組織だから、黒の組織の底力は侮れないわね。

 

そして変わったものの二つ目…私はデュークと男女の関係になった。

 

もっとも彼とそういう関係を持っている女は私一人ではない。

 

そんな女の一人が、今目の前にいる峰不二子よ。

 

彼女と私は同じ男を愛する女だけれど関係は良好。

 

そんな関係であることが出来るのは、先ず彼女が彼を独占しようとしないからね。

 

そして彼女は私がデュークと男女の関係になれるように協力してくれた恩人でもある。

 

そういった経緯があり、私と不二子は親友と言える間柄になっている。

 

「それで不二子、今回はどういった用件かしら?」

 

詳しい話を聞いていくと、デュークにイギリス王室から依頼があったみたいね。

 

依頼内容は筋弛緩剤の一種を投与された競走馬に狙撃で中和剤を注入すること。

 

それもレース中の競走馬に。

 

また随分と無茶な依頼が舞い込んだものだこと。

 

まぁ、デュークにとってはいつものことね。

 

「なるほど、それで私は中和剤を造ればいいのね?」

「そういうことよ。話が早くて助かるわぁ。レースは30日後だから、その3日前にはお願いね。」

 

そう言いながら不二子は使用されるであろう筋弛緩剤のサンプルを渡してくる。

 

それを受け取ったところでなにやら玄関の方から騒がしい声が聞こえてきた。

 

「何かしら?」

「また阿笠博士が誰かに問い詰められているんじゃない?」

「それにしては聞こえてくる声が若いわ。多分相手は声変わりもしていない子供よ。」

 

鞍馬忍者の末裔である不二子は五感が鋭い。

 

それこそ扉を隔てた先にある玄関の話し声が聞こえる程に。

 

「なにを話しているかわかる?」

「…なんか子供が自分を工藤新一って言っているわね。」

「工藤新一?あの自称高校生探偵の?」

 

最近東都のニュースで彼の事がよく取り上げられるけど、裏の世界を知る身の私の目には、彼がしている事はちょっと火遊びをして得意気になっているだけのお子様。

 

そんな自称高校生探偵の名前を声変わりしていない子供が名乗る?

 

私の脳裏にAPTX4869の事が過る。

 

不二子に目を向けると彼女も同じ事を思い浮かべたみたいね。

 

「愛、例の物は流出してないわよね?」

「してないわ。それにもし流出しても…。」

「そうよね…となると、黒の組織?そういえば今日、黒の組織がどこかの会社の社長と取り引きをするって情報があったわね。」

 

不二子の言葉から推察していく。

 

「つまり彼はなんらかの経緯で取り引き現場を目撃。」

「そして黒の組織のメンバーに見つかって、例の物を飲まされた…ってところかしら?」

 

APTX4869は改良しなければ非常に強い毒性がある。

 

改良していない…いえ、改良途中のAPTX4869の効果を確かめる為に、敢えて彼を直接殺さずに飲ませたとしたら?

 

「危ないわね。」

「そうね。」

 

そう言いながら不二子は携帯電話を取り出す。

 

「もしもし、逆木?ちょっと護衛を頼みたいんだけど。次元?彼は一味の仲間と一緒にカリオストロ公国に行ってるわ。だから急ぎで頼めるのが貴方しかいないのよ。」

 

不二子は逆木に事の経緯をかいつまんで話していく。

 

「そういうことだから、急いでね。」

 

電話を終えた不二子は大腿部に備えていた銃を手に取って状態を確認する。

 

「ここはデュークに関わりがある所だから、黒の組織もそう簡単には手を出してこないでしょうけど…。」

「落ち目な黒の組織だからこそ、敢えてデュークに宣戦布告して一発逆転を狙う…。可能性は低いけど、万が一には備えなくちゃね。」

 

胸元から銃を取り出して確認しながら話すと、不二子がウインクをしながら応えてくる。

 

「それじゃ、傍迷惑な自称探偵君を見にいきましょう。」

「随分と辛辣な言い方ね。デュークが他の女とデートしてるから虫の居所が悪いのかしら?」

「別に…ただ自称探偵君が迷惑だから、文句の一つも言いたいだけよ。」

「ふふふ、そういうことにしておきましょ。」

 

察しが良すぎる親友から顔を逸らすと、銃を胸元に仕舞いながら工藤新一の元に向かう。

 

するとそこには幼い少年が、必死になって阿笠博士と話している姿があった。

 

…彼は何をしてるのかしら?誰に聞かれているのかわからないのに。

 

危機感が無い彼にため息が出そうだわ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第27話『小さくなった高校生探偵は困惑する』

本日も1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

「まぁコーヒーでも飲んで落ち着くといい。今知人がお前さんの家から子供の頃の服を持ってくるからのう。話はお前さんが着替えてからにしよう。」

「サンキュー、博士。」

 

博士の家の居間に通された俺は、灰原愛という女に採血された。

 

どうやら博士達は俺が子供になった理由に心当たりがあるらしく、それを確認するために採血したらしい。

 

もっとも、採血された時に灰原って女に文句を言われたけどな。

 

「なんだよ、危機感が足りねぇってよ。」

「儂も愛君と同じことを思うぞ。」

「けどよ博士。」

「まだ確定しておらんが敢えて新一と呼ばせてもらうわい…新一、お前さんは儂達を巻き込んでおる自覚はあるかのう?それも高校生を小学生ぐらいの子供に変えてしまうような何かを持った連中との諍いに。」

 

そんなことは俺だってわかってる。

 

けどよ、直ぐに頼れて俺の言葉を信用してくれそうなのが博士ぐらいしかいなかったんだ。

 

「悪かったよ、博士。」

「はぁ…本当に危機感が足りておらんのうこれは。」

 

ため息を吐く博士の姿にムッとする。

 

しばらくコーヒーを飲んでゆっくりしていると、鼻筋に横一文字の傷痕がある男がスーツケースを片手にやってきた。

 

「爺さん、持ってきたぜ。」

「おぉ、助かるぞい逆木君。」

「いいってことよ。なんか面白そうな臭いがするからな。」

「やれやれ、君は相変わらずだのう。」

 

逆木と呼ばれた男はスーツケースを博士に渡すと去っていった。

 

「博士、今の男は?」

「近くに空手の道場があるじゃろ?」

「あぁ、蘭が通ってるやつか?」

「そうじゃ。そこの師範代じゃよ。」

 

博士に空き部屋を借りて着替えながら考える。

 

蘭が師事するだけあって随分と雰囲気があるやつだったが…。

 

(あの黒ずくめの奴等と似たような雰囲気も感じたぜ…。)

 

着替え終わって博士の所に戻ってきたちょうどその時、灰原が部屋に入ってきた。

 

「結果が出たわよ、阿笠博士。」

「おぉ、どうじゃった?」

「当たりね。」

「そうか…。」

 

会話の流れから察するに、俺が子供になったことと関係があるみたいだな。

 

すると…元に戻れる可能性も?

 

拳に力が入る。

 

「何を考えているのかは想像がつくけど、そう簡単にはいかないわよ。」

「何でだよ?戻れるんだろ?」

「えぇ、戻れるわ。」

「だったら!」

 

灰原はため息を吐きながら首を横に振った。

 

そんな灰原の態度が鼻につく。

 

「新一」

「どうした博士?」

「よく考えるんじゃ。お前さんは子供になって困っておるが、それがどういうことかを。」

「どういうことって…っ!」

 

言われて気付いた。

 

たしかに俺は子供になっちまって困っていただけだが、見方を変えれば『若返る』ってことだ。

 

「博士!これは!?」

「たぶん想像通りじゃよ。お前さんは若返る薬を飲まされたんじゃ。おそらくはまだ毒性が強く、服用に耐えられるかわからん物をのう。」

 

ゾッとした。

 

もしかしたら俺は子供にならず死んじまってたからだ。

 

けど…俺はまだ生きてる。

 

いや、待て。

 

それほどの薬を飲ませた俺を放っておくわけが…っ!?

 

「博士すまねぇ!ここはあぶ…。」

「大丈夫じゃよ。もう対応しておるわい。」

「…博士?」

 

なんだ?俺の知ってる博士じゃないぞ?

 

少なくともこんなに荒事に慣れてなかった筈だ。

 

いったい博士に何があったんだ?

 

注意深く観察すると顔には皺があるのに手には皺が無い。

 

「博士、まさか…。」

「おっと、すまんの新一。もしもし…ふむ、お疲れ様じゃな。あぁ、そうそう。このこと彼には?わかった、任せるわい。」

 

不意に携帯電話が鳴ると博士が慣れた様子でそう対応した。

 

「待たせたの。」

「いや、それよりも博士、あんたにいったい何が?」

「新一、世の中には知らん方がいいこともあるんじゃ。」

 

まるで諭すようにそういう博士の姿に憤りを感じる。

 

「謎は解き明かすものだぜ、博士。」

「では一つ聞こうかの。新一、なぜ連中の取り引き現場を目撃したのかのう?たしか連中が取り引き現場に使った場所はトロピカルランドの筈なんじゃが?お前さん…なぜトロピカルランドにいたんじゃ?」

 

博士の問い掛けに動揺する。

 

先日、学校で蘭がトロピカルランドに遊びに行くという話を聞いた。

 

相手は園子だって話だったが、蘭の様子が園子と遊びに行くというにはどこか違和感を感じた俺は…蘭達を尾行したんだ。

 

「…どうやら知らん方がいいことらしいのう?」

「いや、それとこれとは別…。」

「同じじゃよ。ただ自分にとって都合が良いか悪いかの違いじゃ。そうじゃろう?」

 

そう言ってコーヒーを口にする博士の姿にはどこか凄みを感じる。

 

あの人の良かった博士がこんな凄みを出せるようになるなんて…本当に何があったんだ?




これで本日の投稿は終わりです。

痩せて若返った博士は40代ぐらいのシブいイケオジになっております。

また来週お会いしましょう。


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第28話『悪運の強い少年と安堵する発明家』

本日も1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

博士から感じる凄みに飲まれたのか声が出ねぇ…。

 

くそっ!幾つも事件を解決してきたじゃねぇか俺は!

 

固まる俺を一瞥した灰原が小さくため息を吐く。

 

…くそっ!

 

「さて新一、お前さんを元に戻す事について話そうかのう?」

「っ!あ、あぁ。」

 

動揺を隠せなかった俺は内心で歯噛みをする。

 

「さっき愛君が言った様にお前さんを戻すことは出来る。まぁ、金は掛かるがのう。」

「…幾らだ?」

 

問い掛けると博士が指を一本立てた。

 

「100万か?なら俺の貯金から…。」

「1億じゃよ。」

「1億ぅ!?博士!いくらなんでも高過ぎるだろう!」

「そうかのう?まぁ知人価格でも5000万じゃな。もちろん先払いでのう。これ以上は儂の裁量では無理じゃ。」

 

そう言ってまたコーヒーに口をつける博士だったが、どうやら空だったらしい。

 

それを見た灰原が博士のカップにお代わりを注ぐ。

 

「すまんのう愛君。」

「別にいいわ。ちょうど私もお代わりが欲しかったところだから。」

 

灰原は自分のカップにもお代わりを注ぐと少し離れたところに座る。

 

喉の渇きを感じた俺もコーヒーに口をつける。

 

冷めていたがそれでもいい豆が使われている事がわかる上等な味だった。

 

…博士の凄みに圧されていたけど、味を感じられる程度には落ち着いたみてぇだ。

 

「少しは落ち着いたかの?」

「あぁ。けどよ博士、さっきも言ったけど高すぎだろ。」

「新一、お前さん自身で体験した通り実際に若返る薬…まぁお前さんが欲しがっているのは元に戻す薬じゃが、どう考えても希少な物だと思わんか?」

「そりゃそうだけどよ。」

 

頭を掻くと灰原が口を挟んでくる。

 

「別に貴方が払う必要はないでしょ。ご両親に泣きついてみたら?」

「んなこと出来るか。」

「その姿じゃ貴方の口座からお金を引き出すのは難しいと思うけど?どうやって対価を払うつもりかしら?」

 

確かに灰原の言う通りだ。

 

くそっ、こんなことしたくなかったが…。

 

「いいのかよ、もしかしたらその希少な薬の存在が明るみに出るかもしれないぜ?」

「好きにすれば?危機感の足りないお馬鹿さん。」

 

んなろう…本当に広めてやろうか?

 

「新一…。」

「冗談だよ博士。でもよ、せめて後払いにしてくんねぇか?この姿じゃどうにも身動きが取れねぇし。」

 

博士はため息を吐く。

 

「新一、さっきも言ったが儂の裁量ではこれ以上の譲歩は無理じゃよ。」

「そこをなんとか頼むぜ博士。」

 

俺の頼みを無視するように博士はコーヒーに口をつける。

 

もう少し脅してみるかと思ったその時、欠伸が出てしまった。

 

「どうやら疲れておるみたいだのう。とりあえず今日のところはここまでにしておかんか?話し合いはまた明日ってことでの。」

「いや博士、俺はまだ疲れては…。」

「気絶する程に強く頭を殴られ、更に身体が小さくなるなんてトラブルが立て続きだったんじゃ。疲れて当然じゃよ。気が張っていたから疲れを感じておらんかったんじゃろうが、これ以上は思考を鈍らせるだけじゃないかのう?」

 

博士の言うことも一理あるか…。

 

「わかったよ博士。けど、明日の話し合いじゃ手加減しねぇからな。」

「了解じゃ。あぁ新一、しばらくは泊まっていくといい。一人で寝るには今のお前さんの状況は危険過ぎるからのう。」

「わりぃな博士、お言葉に甘えさせてもらうぜ。」

 

立ち上がった俺は欠伸をしながら身体を伸ばす。

 

「今日のところは儂の寝室を使ってくれ。場所はわかるかのう?」

「前と変わってなけりゃな。」

「変わっておらんよ。それじゃ、ゆっくり眠って疲れを取るんじゃぞ。」

「子供扱いするんじゃねぇよ。まぁいいか、おやすみ博士。」

 

その後、博士の寝室にあったベッドに潜り込むと、余程疲れていたのかあっという間に眠りに落ちたのだった。

 

 

 

 

side:阿笠博士

 

 

新一が寝室で寝たのを確認すると、安堵の息を吐きながらリビングに戻る。

 

「よかったわね博士、彼が睡眠導入剤入りのコーヒーを飲んでくれて。」

 

リビングに戻ると開口一番で愛君がそう言ってきた。

 

愛君の言う通りに、儂は新一に出したコーヒーに睡眠導入剤を混入していた。

 

理由は新一の性格から考えて、デューク・東郷君のルールに抵触する可能性があったからじゃ。

 

だからそうなる前に寝てもらおうと思ったんじゃ。

 

しかし新一が中々コーヒーを口にしなかったので内心ではかなり焦っておったんじゃが、こうして無事に事が済んで一安心というわけじゃな。

 

儂がソファーに腰を下ろしたちょうどその時、不二子君がドアをノックして入室してきた。

 

「あら?あの坊やはどうしたのかしら?」

「彼なら寝たわよ。」

「そう、後5分遅かったらデュークから一発プレゼントされていたのに。悪運が強いのね。」

 

彼女の言葉に冷や汗が背中を流れる。

 

詳しく聞くと彼女が戻ってきた時に新一がまだごねていたら、彼女がリビングのカーテンを開け、そこからデューク君が警告の一弾を新一に見舞う手筈になっていたそうじゃ。

 

…本当に危なかったわい。

 

しかし不二子君の言う通りに新一は悪運が強いのう。

 

黒の組織に直接命を奪われず、毒性の強いAPTX4869を飲まされても適合して生き延びた。

 

そして本来ならさらわれて実験台にされるところを儂等の所に逃げ込んだことで防ぎ、最後には儂がお膳立てしたとはいえ、デューク君の警告の一弾すら受けずに済んでしまった。

 

こうして列挙してみると呆れる程の悪運の強さじゃ。

 

じゃが、だからこそ新一は失敗らしい失敗をせずに成長してきてしまった。

 

これを幸と呼ぶべきか不幸と呼ぶべきかわかれるところじゃが…いや、だからこそ悪運なんじゃろうな。

 

失敗をしなかったのは紛れもなく幸運じゃが、成長の為の失敗を経験出来なかったのは間違いなく不運じゃ。

 

正しく悪運というべき運の強さじゃのう。

 

「ところで不二子君、優作君とは連絡が取れたかのう?」

「えぇ、現地の情報屋に依頼して坊やの状況をリークしてもらう手筈になってるわ。そろそろ連絡が来るんじゃない?」

 

不二子君の言う通りに儂の携帯電話が震えた。

 

噂をすればってやつじゃのう。

 

「もしもし。」

『博士!新一は!?』

「無事…とは言えんが命に別状はないわい。」

『そうですか…。』

 

優作君もやっぱり親じゃな。

 

放任気味ではあるものの、やはり新一が心配なようじゃ。

 

『今、有希子がプライベートジェットをチャーターしているので明日の昼には…。』

「了解じゃ。待ってるわい。」

『貴方、ちょっと代わって。あっ、阿笠さん、新ちゃんを縛り付けてでも確保しておいてくださいね。たっぷりお説教をしないといけないので。それじゃ、また明日。』

 

電話が切れると有希子君の目が笑ってない笑顔を幻視した。

 

ぶるる…くわばらくわばら…。

 

「それじゃ博士、私達は失礼するわね。」

「うむ、気をつけるんじゃぞ。」

 

愛君にそう返事をすると不二子君が妖艶に微笑む。

 

「大丈夫よ、今夜はデュークと一緒だから。」

「…ちょっと不二子、今回は私の番よ。」

「いいじゃない、3人で楽しめば。それじゃ博士、あの坊やに入れ込むのも程々にね。」

 

手を振って彼女達を見送ると、入れ替わる様に儂を護衛してくれる逆木君がやって来る。

 

逆木君は久し振りに暴れられたからなのか、とても爽やかな笑顔をしておった。

 

儂はコーヒーカップを手に取る。

 

そして…。

 

「やれやれ、みんな若いのう。」

 

そう呟くと残っていたコーヒーを一気に飲み干したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

警告の一弾で新一君の目を覚まさせるか最後まで悩みましたがこうなりました。

また来週お会いしましょう。


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第29話『工藤優作は恐れて楽しむ』

本日も1話のみの投稿です。


side:峰不二子

 

 

『おはよう新一、よく眠れたかのう?』

『おはよう博士。おかげさまで良く眠れたぜ。逆木さんもおはよう。』

『おう、おはようさん。』

 

阿笠邸の書斎で盗聴器を使い、デュークと二人で阿笠博士達の会話を聞く。

 

デュークがタバコを咥えたのを見た私は、火をつけながら昨日の事を思い出す。

 

昨日、工藤新一がAPTX4869の存在を広めると脅迫した瞬間、デュークは彼に警告することも出来た。

 

けど阿笠博士と工藤優作への貸しにするために警告はしなかった。

 

デュークに借りが出来た工藤優作はどんな顔をするのかしらね?

 

私は彼に寄り添うと、まだホテルのベッドで寝てるであろう愛を想像して優越感に浸る。

 

あの子も少し鍛えないとね。

 

デュークの相手をするには体力が足りないわ。

 

『そういや博士、昨日いた灰原とはどういう関係なんだ?』

『愛君は共同研究者の一人じゃよ。たまにああして儂の所に来て一緒に研究しとるんじゃ。』

『…若返りの薬をか?』

 

工藤新一の問いに阿笠博士は答えない。

 

幾ら貸しにするとはいえ、おいたが過ぎれば警告…最悪は有罪判定を受けてしまう。

 

なんとか守ろうとする健気な博士の気も知らずいい気なものね。

 

『…まぁいいか。それより博士、元に戻る薬だけどよ。』

『その前に飯にしよう。新一も腹が減っとるじゃろ?』

『ちぇっ、わかったよ。』

『逆木君も一緒にどうじゃ。』

『じゃ、遠慮なくご馳走になるぜ。』

 

そこからしばらく三人の世間話が続いていく。

 

すると一台のタクシーが阿笠邸の前に止まった。

 

監視カメラで訪れた人物を確認すると…工藤優作と工藤有希子だった。

 

「予定より早い到着ね。余程急いで来たみたい。」

 

昨日の連絡では昼頃と言っていたけど二時間は早い。

 

インターホンの音が聞こえると博士が声を上げる。

 

『どうやら来客のようじゃな。逆木君、すまんがちょっと出てくれんか。』

『あぁ。』

 

その会話を耳にしたデュークはイヤホンを外して立ち上がると玄関に向かう。

 

私もイヤホンを外して懐にしまうと彼に続いた。

 

そして玄関前で合流した逆木がドアを開けると…デュークを目にした工藤優作が目を見開いた。

 

「あら?デューク・東郷さん?お久し振りね。アメリカ以来だわ。」

「その節は…。」

 

目礼をしたデュークを見て工藤優作が我に還る。

 

「有希子、先に上がっていてくれるかい。僕はちょっと東郷君と話をしていくから。」

「わかったわ。それじゃそちらの…。」

「逆木だ。」

「逆木さん、案内を頼むわ。」

 

逆木に先導されて工藤有希子がリビングに向かう。

 

残った工藤優作は一つ大きく息を吐く。

 

「君がいるということは、僕の想像以上に厄介事みたいだね。」

 

デュークに目配せをすると彼は小さく頷く。

 

「こんなところで話す内容のものじゃないわ。博士の書斎を借りて話しましょ。」

「そうだねミス…。」

「峰不二子よ。不二子と呼んでちょうだい。私は彼の秘書のようなものだと思ってもらえばいいわ。」

「了解だミス不二子。案内を頼むよ。」

 

息子と違って余計な詮索をしない工藤優作に少しだけ感心しながら、彼等を先導して書斎に向かったのだった。

 

 

 

 

side:工藤優作

 

 

「さて、ミスター東郷、今回の一件の詳細を聞いてもいいかな?」

 

書斎にある椅子に座った僕は、隙を見せずに壁に背を預けたデューク・東郷…ゴルゴ13にそう声を掛けた。

 

「…聞けば戻れなくなるが?」

「切っ掛けは息子だが、息子がああ育ったのは僕の責任だ。ならその責任は取らないとね。」

 

そう、全ては僕の責任だ。

 

危険だと知っていながら新一の才能に期待して自由を与えた僕のね。

 

彼の口から事の真相が語られていく。

 

APTX4869という薬を飲んだ新一。

 

その薬を飲ませた黒の組織。

 

そして阿笠博士と彼の関係。

 

「随分と迷惑を掛けてしまったみたいだね。慰謝料は必要かな?」

「…必要ない。」

「そうかい?ではお言葉に甘えさせて貰おうかな。それと話は変わるけど、APTX4869の購入は可能かな?有希子が今頃欲しがっていると思うからね。」

「…購入のルールは不二子に聞け。」

 

そう言って彼は壁から背を離し立ち去ろうとする。

 

「すまないがもう少しだけ時間をくれないか。君に一つ依頼をしたい。」

「…俺は複数の依頼を同時に受けない。」

「わかった。なら君が今引き受けている依頼を終えるまで待とう。必要なら手付け金も渡す。」

 

彼は僕を一瞥するとドアノブに手を掛ける。

 

そして…。

 

「…30日後にこちらから連絡を取る。」

「っ!…了解した。必ずスケジュールを空けておこう。」

 

彼が書斎から去ったのを見送ると、僕は椅子に身を預けて大きく息を吐いた。

 

「随分とお疲れみたいね。コーヒーでもいかが?」

「あぁ、ありがとう。ミス不二子。」

 

彼女からコーヒーを受け取り喉を潤すが、まだ緊張が残っているのか味を感じなかった。

 

「さて、ミス不二子、APTX4869の購入の際のルールを聞いてもいいかな?」

「あら、切り替えが早いのね。」

「本音を言えばもう少し時間が欲しいところだが、阿笠博士が困っているだろうからね。」

 

軽く肩を竦めた彼女がルールを語る。

 

そして語り終えると剣呑な雰囲気を持って一言付け加えてくる。

 

「わかっているとは思うけど…。」

「違反者は処分される…だろう?」

「えぇ、物分かりが良くて助かるわ。」

 

コーヒーを口にすると今度は味を感じた。

 

漸く平常心に戻れたようだ。

 

「ミス不二子、話は変わるんだが護衛が欲しい。誰かいい人はいるかな?」

「玄関であった逆木はどう?彼ならデュークよりも安く済むわよ。」

「紹介はしてくれるかい?」

「ふふ、自分で口説いてみなさい。それぐらい出来ないとデュークへの依頼も…ね?」

 

そうだな。彼女の言う通りだ。

 

「生憎と男を口説いたことはないものでね。なにかコツはあるかな?」

「女と違って駆け引きは必要ないわ。必要なのは面白いかどうか。それと面子が立つかどうかってところね。」

 

なるほど、どうやら彼女は強かな女性のようだ。

 

いや、そうでなければ彼の側にいることは出来ないか。

 

「アドバイスありがとう、ミス不二子。」

「どういたしまして。それじゃ、そろそろ行きましょうか。」

「そうだね。新一はともかく、博士も困っているだろう。」

 

今回の一件でゴルゴ13に大きな借りが出来てしまった。

 

いや、僕に貸しを作るために敢えて姿を見せたんだろう。

 

全て彼の掌の上か…どういう形で借りを返すことになるやら。

 

怖くもあり、楽しみでもある。

 

やれやれ、火遊びは卒業した筈なんだけどなぁ…。

 

そう考えながら書斎を出て彼女に続きリビングに入ると、予想通りに博士に迫る有希子の姿があったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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第30話『黒の組織の終焉』

本日も1話のみの投稿です。


side:工藤新一

 

 

身体が小さくなってから一ヵ月と少しが過ぎた。

 

俺は今も身体が小さいままで博士の家に居候している。

 

リビングで新聞を見ながら両親との話し合いを思い出す。

 

先ず話し合ったのは元に戻る薬についてだ。

 

情けないと思いながらも親父と母さんに頭を下げて頼んだんだが、自業自得だから反省の意味も込めて1年から2年は小さいままで過ごせと言い渡された。

 

渋々ながらもそれには俺も納得した…いや、納得せざるを得なかった。

 

なんせその話し合いの翌日には学校に俺の休学届けを出しやがったからな。

 

しかも俺が小学校に通う為の諸々の根回しまで始めてやがる。

 

流石は普段から世界中を飛び回っているだけあって、親父も母さんもフットワークが軽いぜ。

 

次に話し合ったのは黒ずくめの男達についてだ。

 

俺をこんな状態にした奴等を取っ捕まえるためにも奴等の情報が欲しい。

 

だから俺は情報が集まりやすい探偵事務所…小五郎のおじさんの所に居候させてもらいたいと話した。

 

結果は二つ返事でダメどころか、母さんに小一時間説教されちまった。

 

曰く、毛利家も巻き込むつもりか。

 

曰く、年頃の娘さんと同居しようとか何を考えている。

 

とまぁこんな感じで本気の説教を受けちまった。

 

もしかしてこんなに説教されたのは初めてじゃねぇか?

 

とにかく毛利探偵事務所への居候はダメになったんだが、黒ずくめの男達を何とかしねぇとって話をした。

 

けど、それもダメ。

 

親父が言うにはそもそも黒ずくめの奴等を追うのは探偵の仕事じゃなくて、警察や公安の仕事だとよ。

 

その通りって言えばその通りなんだが…なんだかなぁ。

 

こう、胸の中がモヤモヤするぜ。

 

そう思いながら何気なく新聞の端に目を向けると目を見開く記事があった。

 

黒ずくめの奴等の関係者だろう男達…記事では暴力団関係者か?って書かれてるが、そいつらが何者かに射殺されたと載っている。

 

「いったいなにが起きてるんだ!?俺の知らないところでなにが起きてるんだよ!?」

 

 

 

 

side:ベルモット

 

 

一人路地裏を歩いていると不意に一人の男が立ち塞がる。

 

「あら?生きていたの?」

 

立ち塞がった男…ジンにそう声を掛ける。

 

するとジンは懐から銃を抜いて私に向けた。

 

「てめぇだけは殺す。」

「ふふ、ゴルゴ13に狙われている以上先が無いものね。」

 

ジンが引き金を引こうとしたその時、一発の銃声と共にジンの持つ銃が弾かれた。

 

「あら?貴方が来たのね、次元。」

「そいつにはちょいと借りがあってな。デュークに譲ってもらったのさ。」

 

私と次元の会話を聞きながら隙をうかがっていたジンが問い掛けてくる。

 

「ベルモット…てめぇは…何者だ?」

「その問いにはこう答えましょうか。私はかつて、ゴルゴ3と呼ばれたこともある女…ってね。」

 

驚いて目を見開くジンに向けてクスリと笑うと私は踵を返す。

 

「それじゃ、後はお願いね。」

「おう。さてジン、銃を拾いな。その程度の情けは掛けてやるよ。もっとも、それ以上の情けは掛けねぇがな。」

「…ベルモットォ!次元大介ェ!」

 

路地裏を抜けると同時に断続的に銃声が響き出す。

 

私はそれを気にせず路地裏を抜けた先で待っていた車の助手席に乗り込む。

 

「あら、お迎えはデュークだったのね。それじゃポアロに送ってちょうだい。久し振りに団長のコーヒーが飲みたいわ。」

「…了解だ。」

 

座席に身を預けて大きく息を吐くと、自身の内側にあるベルモットという役をデリートする。

 

黒の組織…中々楽しめた相手だったわ。

 

APTX4869っていう破格のお宝も手に入れられたしね。

 

「んーっ!」

 

軽く伸びをしてまた座席に身を預ける。

 

「さて、しばらくは女優業に専念しないといけないわね。だから潜入工作は当分無理よ。」

「…了解した。必要なら不二子にやらせる。」

「あら、私以外の女に甘えるなんて妬けちゃうわ。」

 

そんな言葉で揺さぶりを掛けてみるけど、デュークに揺らぎは見られない。

 

ほんと、いい男に育ったものね。

 

親友の息子じゃなければ本気になるのに。

 

世の中ままならないものだわ。

 

けど、楽しく生きるにはそのくらいがちょうどいいのかもね。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。


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最終話『少年は新たな人生を始め、Gの伝説は終わらない』

拙作最終話でございます。


side:工藤新一

 

 

身体が小さくなってから二年の月日が流れた。

 

今の俺は帝丹小に通う小学生として日々を送っている。

 

「あっ、コナン君!」

 

通学路を歩いて学校に向かっていると、同級生の歩美ちゃんがいた。

 

「ねぇコナン君、今日も学校が終わったらサッカーをするの?」

「あぁ、そのつもりだよ。」

「もう少年探偵団はやらないの?」

 

少年探偵団…俺がコナンを名乗って小学校に通うようになってから、同級生の歩美ちゃん、元太、光彦を合わせた四人で始まったものだ。

 

元々は俺一人で事件に関わろうとしてたんだが、何を考えたのか歩美ちゃん達三人も関わってくる様になっちまった。

 

危ねぇからって何度も言ったが聞き入れやしなかった。

 

そうこうして少年探偵団が活動を始めてから半年経った頃、文字通りに元太が死にかけた。

 

本人は気絶していたからトラウマはねぇみてぇだけど、まだ子供のこいつらをそんな目に合わせちまった俺は、もうどうしたらいいのかわからなくなっちまった。

 

そんなある日に見ちまったんだ…蘭がデューク・東郷と笑顔でデートをしているところを…。

 

その時、俺の中で何かが折れた。

 

それから俺はしばらく不登校になった。

 

歩美ちゃん達は心配して何度も俺を見舞いに来てくれた。

 

結局、心に整理を付けて学校に再度通う様になるまで三ヵ月掛かった。

 

そしてそれ以来…俺は探偵を辞めた。

 

「あぁ、やらないよ。」

「そっかぁ…うん、歩美もその方がいいと思う!だってコナン君、サッカーをしている時の方がカッコいいもん!」

「はは…ありがと。」

 

そう、俺は探偵を辞めてからはサッカーをしている。元太や光彦も誘ってな。

 

探偵を辞めてサッカーを始めた理由…それは、蘭のデートを見て何かが折れた俺を奮い立たせてくれたのがサッカーだからだ。

 

あの日、何かが折れて無気力なった俺は、学校にも行かず無気力に日々を過ごしていた。

 

そんな俺が呆然とテレビを見ていたある日、プロサッカー選手達のスーパープレーを目にして熱くなるものを感じる事が出来たんだ。

 

そこからは簡単だった…とは言えねぇか。

 

散々葛藤した。探偵業を続けるかどうか。これ以上歩美ちゃん達を事件に巻き込まない為にはどうすればいいか。

 

出た結論は探偵を辞めて、歩美ちゃん達を少年探偵団以上にサッカーに夢中にさせることだった。

 

その試みは成功した。

 

光彦はDMFとして相手の攻撃の芽を摘むことに楽しさを覚え、元太はデカイ身体を活かしてGKとしてゴールを守る楽しさを覚えた。

 

そして俺はトップ下で相手チームの守備を攻略する楽しさに夢中になっている。

 

謎を解く爽快感とは種類が違うが、スルーパスで相手DFを出し抜いた時や、ゴールを奪った時の快感はサッカーだからこそ味わえるものだ。

 

不意にパトカーのサイレンの音が聞こえて振り向いてしまう。

 

「コナン君?」

 

心配そうに見詰めてくる歩美ちゃんに笑顔を返す。

 

「大丈夫だよ、歩美ちゃん。ほら、学校に行こう。」

「…うん!」

 

差し出した俺の手を歩美ちゃんが嬉しそうに掴んでくる。

 

時間が掛かっちまったけど漸く俺も日常で生き甲斐を見付けられた。

 

未練が無いわけじゃねぇけどもう迷わない。

 

だって俺には…サッカーがあるんだから。

 

歩美ちゃんと手を繋いで歩いて行くと、やがて元太と光彦もやって来て一緒に学校に行く。

 

先月、工藤新一は行方不明から失踪宣告がされた。

 

つまり事実上の死亡扱いになったんだ。

 

だけどこれでいい。

 

俺は江戸川コナンとして生きていく。

 

まぁ、来月には親父と母さんの養子になるという形で、江戸川コナンから工藤コナンになるけどな。

 

「事実は小説よりも奇なり…ってな。」

 

 

 

 

とある埠頭に一人の男の待ち人が訪れる。

 

男が待ち望んでいた相手…それはデューク・東郷だ。

 

「おぉ、ミスター東郷!」

 

男から喜色を含んだ声が上がるが、デューク・東郷は感情を見せない様子で声を発する。

 

「用件を聞こう。」

 

こうして依頼が行われまた一つゴルゴ13の伝説が積み上がる。

 

ゴルゴ13の伝説はこれからも続いていくだろう。

 

彼が死を迎えるその日まで…。




これで拙作完結でございます。

終始原作主人公をこき下ろす感じだった拙作。不快に感じられた方には大変申し訳ございませんでした。

来月には新作を投稿する予定です。

よろしければそちらもお読みいただければ嬉しいです。

また機会があればお会いしましょう。


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