あなたが結月ゆかりになって弦巻マキに食われる話 (Sfon)
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あなたが結月ゆかりになって弦巻マキに食われる話

 今日は12月21日。あなたは男性で、結月ゆかりのゲーム実況動画を投稿しています。ここ数日は都心のビジネスホテルに滞在しており、明日帰る予定です。

 

 ダブルベッドにユニットバス、机、小さなクローゼット、冷蔵庫など、一人で泊まるには悪くない部屋です。日が暮れてからホテルに帰ったあなたはベッドに突っ伏し、一日中用事を済ませるのに出ずっぱりで溜まった疲れからか、あっという間に眠りに落ちました。

 

 

 空腹のせいか、あなたは深夜に目を覚まします。時計を確認すると午前2時を回った頃でした。深夜のホテルは、住み慣れていない部屋と静まり返った時間帯のせいでどこか現実味が薄れ、奇妙な感覚がします。寝なおそうとしても寝られず、気分転換もかねてシャワーに入ることにしました。

 

 ベッドから起き上がり、着替えを取ろうとしてキャリーバッグの中を覗いたあなたは、入れた覚えのない服を見つけます。

 不思議に思いながら手にとって広げてみると、どうやらパーカーのようです。黒地のパーカーを基本としてウサ耳がフードに付き、裏地が赤くなっています。考えるまでもなく、あなたの大好きなキャラクター、結月ゆかりが羽織っているものであると確信します。

 

 あなたはキャリーバッグに入れた覚えがないどころか、所有してすらいない服が入っていることを奇妙に思います。家に無いものを間違えて入れるわけもなく、ホテルの部屋以外ではキャリーバッグを開けていないので、どこかで紛れ込むわけがありません。

 つまり、入っているこの状況は、絶対に有り得ないのです。

 

 有り得ないはずなのに、そんな異常現象を差し置いて、あなたは服が気になってしょうがありません。パーカーを持ってみると、しっかりとした少し厚めの生地で、縫製も丁寧です。通販で買えば手に入るような、安物のコスプレ服ではないことがわかります。体に当ててみると、胴回りはほぼジャストサイズですが、袖丈は少し短いです。彼女が着るからこそあのダボっとしたサイズ感になるのだろうと感じます。現実にいるわけでもないのに、そんなまじめな感想を抱きます。

 

 奇妙な状況ですが、好きな人のものを目の前にして鼓動が早まり、視界が狭まってくる気がします。まるで、服に魅了されている気分です。もしかすると、他にも紛れ込んでいるかもしれない。そう思ってキャリーバッグをひっくり返すと、入れた覚えのない服が次から次へと出てきました。

 

 紫のオフショルダーワンピースにニーソックス、靴、下着……。彼女の服が一式入っていました。どれも触り慣れていない、女性の服です。壊れ物を触るようにそっと手に取ってベッドの上に並べれば、中身のいない彼女の姿が完成しました。しばらく眺めていると、服の魅力に引き込まれていく感覚がするでしょう。

 

 フードの先から舐めるように視線を這わせ、ワンピースの裾を凝視したところであなたは我に返りました。軽く頭を振って、気分転換にシャワーを浴びることにします。

 

 頭からシャワーを浴びると、汚れと一緒に一日の疲れが抜け落ちていきます。顔を洗うと、だいぶ意識がすっきりしました。しかし、体を洗うと、その刺激のせいか妙に体が痒くなってきます。何度も頭を洗い、顔を洗い、体を洗い、ようやく満足しました。それがマッサージのような効果をもたらしたのか、体つきがすっきりした気がします。ホテルの備え付けのシャンプーや石鹸の質がいいのか、どことなくいい香りもします。

 

 髪を乾かし体を拭いたところで、着替えをもってきていないことに気が付きます。あなたは裸のまま部屋に戻り、足の裏にカーペットの感触を感じながらベッドの近くまで行きました。キャリーバッグの中から服を取り出そうとしましたが、ベッドの上に並べた服が視界の端に入ります。彼女の服です。前から多少なりとも女の子の格好が気になっていたあなたは、数秒そのまま視線がくぎ付けになったかと思うと、ベッドの上の服を手に取っていました。まるで体が勝手に動いて、服を身につけていくような感覚です。あなたは、どうしてサイズが合うと思えない服を着ようと思ったか不思議に思うでしょう。しかし、誰も入ってこないこの状況です。そのまま流されてしまいます。

 

 まず手に取ったのは下着類でした。あなたの体に対して明らかに小さいサイズですが、伸縮性に富んだショーツと肩紐のないキャミソールは、窮屈ながらも十分に体を包みます。ぴっちりとした着心地は今まで経験したことがないもので、少しずつ鼓動が早くなっていきます。

 

 次にワンピースを頭からかぶると、甘く心地よい香りが顔を包みます。思わず、鼻から深く胸いっぱいに吸い込みます。干したばかりの布団に飛び込んだような気持ちよさが広がります。

 

 その時、視界が服で覆われたあなたを立ちくらみが襲い、視界が暗転し、頭から血が引いていく感覚がします。タタラを踏みながらもなんとか転ばずに済んだあなたは、暫くして視界が回復すると、手から順に通していきます。肩まで通すと首の後ろでひもを結びました。なんとか着られたワンピースは丈が尻をギリギリ隠す程度で、とても短いものでした。挟むように締め付ける紐が付いているせいか、胸が少し盛り上がっているような気がします。また、服がぴったりと体に張り付き、お腹が心地よく締め付けられる感触にハマってしまいそうです。服の布地が脇下までしかなく、肩が丸出しになっているせいで男物の服との違いを感じます。

 

 パーカーは多少オーバーサイズなものの、袖が余るほどではありません。また、丈は長くワンピースをすっぽりと覆い、裾は太ももの半ばまであります。肩から先はワンピースで覆われていないため、パーカーの肌触りの良い生地の気持ちよさを感じます。パーカーを着ていれば、ワンピースの丈の短さも多少気にならなくなるでしょう。肩が露出していて少し肌寒かった室内も、これで快適に過ごせそうです。

 

 そして靴下。膝上まであるニーソックスを、片足ずつはいていきます。スルスルと抵抗なく引き上げられる靴下を見ながら、いつの間に体毛の処理をこんなに綺麗にやったのだろう、と疑問に思います。しかし、それ以上は頭が回りません。あれこれ考えるよりも、服を全部着たい欲求の方が大きいのです。太ももの中ほどまで来た靴下は少し食い込みますが、痛いほどではありません。かえって締め付けが心地よく感じます。

 

 最後に、靴を履いて完成です。かかとが少し高くなった、スニーカーとブーツ、ヒールの中間のようなデザインです。あなたの足を適度に締め付け、支えてくれます。

 

 ここまできて、ようやくあなたの頭が少しずつ回りだします。小さい靴を無理矢理履けるはずはないのです。冷静に考えれば何かがおかしいと気づくでしょう。しかし、そうは感じても、自分の格好を確かめてみたい欲求が勝つのでした。

 

 ベッドに並べたときは、まるで結月ゆかりの抜け殻のように見えた服たち。それらを全て身に付けたあなたは、どんな格好になっているのでしょうか。

 

 見下ろすと、案外悪くないように見えます。服のおかげか、少ないながら確かにある胸の膨らみが強調され、腹回りはすっきりとしています。太ももは少し肉付きがいいものの、ふくらはぎはほっそりとしています。

 

 自分の顔と服が同時に見えるのを気にしつつ、あなたは玄関脇にかけられた姿見の前へ向かいます。

 

 そして、期待と不安を胸に抱きながら鏡を覗き込んだとき、ありえないものを目にしたのでした。

 

 鏡の中には、結月ゆかりその人が立っていたのです。紫色の瞳と髪。現実にはそう見ない姿です。彼女は驚いた顔をしたまま、そこに立ち尽くしていました。

 

 数瞬固まったのち、鏡に向かって手を振ったり体を動かしたりすると、鏡の中の彼女はあなたと同じように動きます。

 

 当たり前ですね。

 あなたは結月ゆかり。

 そう、結月ゆかりになったのです。

 

 さらに、あたりを見渡すと違和感を覚えます。どうやら身長が縮んでいるようです。ドアノブの位置、机の高さ、どれもがつい先ほどまでの記憶より高くなっています。まさか建物が変わるとは思えません。あなた自身が縮んだのです。

 

 足元を見てみましょう。

 背が縮んだのと同時に、靴のサイズも小さくなっています。帰ってきてから脱いだ靴が床に転がっていたので、あなたは自分の履いている靴と並べてみました。すると、やはり3センチほど縮んでいるようです。

 

 軽く声を出してみましょう。

 あなたの知っている彼女の大人びて透き通った声がします。ただ、少しだけ違いますね。それはあなたの声が骨を伝って、頭の中で響いているからです。声が、確かにあなたの喉から出ている証拠です。

 

 その声が出ている、喉を触ってみましょう。

 凹凸もなく、すべすべとしています。喉ぼとけなんてありません。首筋は細く、筋肉はあまりついていないようです。

 

 そのまま顎、頬、唇、鼻と触ってみましょう。

 ヒゲもなく、しっとりとした肌です。唇は潤っており、リップクリームを塗ってあるかのようです。

 

 鏡を覗き込んで、顔をよくみてみましょう。

 紫の瞳が潤んでいるのがわかります。光に当たって、キラキラと輝いて綺麗ですね。髪も艶やかな紫で、こちらは瞳よりも少し薄い色をしています。光に当たった時にできる天使の輪が見えますね。もみあげは自然に下に伸び、襟足も記憶にあるものより伸びています。髪のどこを触っても、さらさらと指通りが良く、しなやかで素晴らしい髪質です。そうして髪を触ると、確かにその髪が自分の頭から生えているのだとわかります。

 

 今度は、肩を触ってみましょう。

 自分の記憶よりもほっそりとしていて、鎖骨が浮き出ています。色白な肌は透き通るようで、儚げな印象を与えますね。肩幅は胴と比べて同じくらいで、以前よりずっと狭くなっています。

 

 そのまま、胸を触ってみましょう。

 服のせいかと思っていた膨らみですが、どうやらちゃんと脂肪がついているようです。適度な締め付けで、その形がはっきりとわかりますね。胸の周りを円描くように撫でると、ふにゃりと形を変えます。そして力を緩めれば、服のおかげでもとの形に戻るでしょう。胸の先端を軽く触ってみると、少し硬く、大きくなっている気がします。そのまましばらく触っていると、やがて形が浮き出てきました。それは明らかに記憶よりも大きく、はっきりとしたものです。男性にはない、女性のものです。軽く触れるように撫でてみると、ゾクゾクとした快感が首筋に走ります。

 

 そして、お腹を触ってみましょう。

 贅肉はなく、しかし柔らかな感触がします。服が軽く締め付けるので、ボディラインは丸見えです。腰のくびれもはっきりとわかりますね。軽く下腹部まで手を伸ばすと、引っかかるはずの突起がないことにも気がつきます。

 

 そして、お尻を触ってみましょう。

 腰から緩やかにつながり、丸みを帯びています。横に広いせいで、くびれがさらに強調されていますね。きゅっと上を向いたそれはつかめば指が沈み、手を離せばハリのある形に戻ります。

 

 太もも、ふくらはぎを撫でてみましょう。

 柔らかで、弾力のある感触がします。太腿はもちもちとしており、ふくらはぎはすらっとしています。

 

 身体中を触った、手を眺めてみましょう。

 節だっていない、細く曲線的な手です。すべすべとしていて気持ちいいのは、今まで触られた体からの感触でもわかりますね。

 

 体中を触り、あなたはいよいよ自分の体の変化を受け入れなくてはならなくなりました。少し考え込んだあなたは、ふと気がつくでしょう。

 

 服を着て変わったなら、脱げば戻るのではないだろうか。

 試そうと思いましたが、せっかくの機会です。もう少しだけ楽しんでからでも遅くはありません。

 

 鏡の前で斜めに立ち、手を後ろに組んで、軽く胸を張ってみましょう。そのまま、上半身を前に傾けます。足は立っていられるように、前後に軽く開きましょう。

 すると、あなたの胸は強調されて上を向き、腰からお尻にかけてのラインが綺麗に見えます。

 

 パーカーを脱いでもう一度試してみましょう。腰のラインがわかりやすいですね。女性的な、曲線を中心としたボディラインです。

 

 さて、一通り体を見て堪能したあなたは、服を脱いでみようとしました。しかし、どうにも気持ちが乗りません。せっかく女の子になったのです。もう少し楽しみたい。そんな気持ちがさらに強くなりました。

 

 ベッドに仰向けになり、軽く足を広げます。全身の力を抜いて、リラックスしましょう。

 

 続いて、深呼吸をします。鼻から息を吸って、口からゆっくりと吐きます。胸が上下に動きますね。服が体に密着しているせいで、胸の膨らみや腰のくびれを感じます。

 

 深呼吸のおかげで,力が抜けてきましたね。

 では、そっと胸元に手をやって、軽く触れるように撫でてみましょう。心地よく押し返されるのを感じます。そのまましばらく続けましょう。

 

 だんだんと体が温かくなってきました。

 それでは次に手を少しずつさげてみましょう。あばら、おなかと順に撫でていきます。ここでも、触れるか触れないかくらいの力加減です。首筋にぞわぞわとした快感が走ります。

 

 少しずつ、呼吸のペースが上がってきました。

 足の間はお預けです。次は腰、太ももを触っていきましょう。さわさわと、なぞっていきます。くすぐったさと快感で、思わず腰を動かしてしまいますね。

 

 

 そのまま、全身の好きなところを触りましょう。

 いつの間にか目を閉じ、視覚を捨て、触覚に集中していますね。

 

 そしてお待ちかねのところを触わ……ろうとしたところで、あなたはそのまま寝てしまいます。

 

 

 

 

 あなたが目を覚ました時、時刻は朝の8時を回ったところでした。窓からは朝日が差し込み、鳥が鳴いています。

 

 あなたはベッドの上で肩を回したり伸びをしたりして、体をほぐします。昨晩の出来事は夢だったのでしょうか。そうに違いないと思いながら、目線を体に向けます。

 

 あなたはまだ、昨晩のまま彼女の服を着たままでした。そして、体もそうです。

 あの柔らかく繊細な体つきのままでした。

 

 さて、さすがにそろそろ戻らないといけないでしょう。いつもの生活に戻らないといけません。今日は9時にチェックアウトし、帰宅する予定です。それまでに戻らなくては。

 

 あなたはベッドから降りると、服を順に脱いでいきます。

 

 

 まずはパーカー。

 思ったよりも生地がしっかりしているせいか、昨日よりも少し重たく感じます。しかし、決して嫌な重さではなく、むしろ安心感を覚えます。

 

 次はワンピース。

 肩紐をほどき、スルスルと下ろして脱いでいきます。昨日は気づきませんでしたが、胸元のひもを緩めることで脱ぎやすくなりました。

 

 そして靴。

 かかとから脱いでいきます。一晩中靴の中にあったせいか、足が少し凝り固まっているように感じます。軽く手でもみほぐし、足首を回してストレッチしましょう。

 

 続いてニーソックス。

 太ももからするすると下げていきます。なめらかな肌の上を滑らせるのは気持ちがいいですね。

 

 最後に下着を脱ぎましょう。

 上も下も、体にフィットして気持ちよかったですね。順に脱いでいきましょう。

 

 

 服をすべて脱ぎ終えると、朝日に照らされた白い肌があらわになりました。体に変化はないようです。あなたは、どうやれば元の体に戻れるか少し考え、もともと着ていた服を着てみようと考えました。

 

 シャワーを浴びる前に脱いだのが、男物の服を見かけた最後の記憶です。たしか椅子に引っ掛けたはずなので、その場所を見てみましょう。

 

 そこには、見覚えのある服はありませんでした。代わりに、太ももの半ばまでを覆うデニム生地のショートパンツと、白のキャミソールがかかっています。

 

 あなたが不思議に思いながら部屋中を調べまわると、驚くべき事実に直面します。

 この部屋には、あなたがいた形跡がありません。正しくは、男の時のあなたがいた形跡がありません。

 

 あなたが持ってきた鞄の中には、あなたの身元が分かるものだけが無くなり、代わりに結月ゆかりのものが入っています。店の会員カードやクレジットカード、手帳などがそうです。保険証も彼女のものが入っており、どうやら戸籍の心配はないようです。小物類をはじめ、持ってきたはずの着替えも女性ものに置き換わっています。スマホはあなたの指紋認証で開き、中身に変わりはほとんどないものの、スケジュール帳の予定はすべて消えて真っ白になっています。SNSやチャットアプリなどの各種アカウントもすべて消えており、メールの一件も残っていませんでした。

 

 まだまだ調べたりませんが、さすがに寒くなってきたので、そろそろ何かしらの服を着たくなってきました。元々着ていた服を着たかったのですが、諦めるしかないでしょう。あなたはキャリーバッグから下着を取り出して着ると、椅子にかかっていたショートパンツとキャミソールを着て、パーカーを羽織りました。

 

 鏡の前に立つと、そこには少し活発的な格好をした結月ゆかりがいました。あなたが表情を変えれば、彼女も同じように変わります。

 当たり前ですね。あなたが結月ゆかりなのですから。

 

 時計を見ると、そろそろチェックアウトする時刻になっています。自分の体に降りかかった異変が解決しないまま、元凶にも思えるこの部屋を出るのは気が進みませんでしたが、しょうがありません。あなたはそう言い訳すると、部屋を出る準備をしました。

 

 

 部屋を出ようと玄関のドアノブに触れたとき、ふと考えます。ここから先は他人にこの姿を見られるだろうな、と。この部屋にいる間は、自分の姿を見るのは自分だけでした。しかし、これからは人の目にさらされることになります。

 

 もし女装をしている変な人に思われたらどうしよう。どこかでこの格好のまま元の姿に戻ったらどうしよう。そんな不安があなたを襲います。右手の壁にかかっている鏡をのぞき込むと、不安げな表情を浮かべた結月ゆかりがいました。

 

 大丈夫。どこから見てもあなたはかわいらしい女の子です。

 どうしても不安なら、フードを深めに被るといいかもしれません。多少は視線を気にしなくてすむでしょう。

 

 深呼吸を一度して気持ちを何とか落ち着けると、扉を開きました。

 

 

 エレベーターでフロントに向かいます。降りている間に手元の宿泊表を見ていると、宿泊者名には「結月ゆかり」と書かれています。まるで彼女の体に自分の意識が割り込んでしまったような気持ちになりますが、部屋番号はあなたがここ数日泊まっていた部屋のものです。結月ゆかりと入れ替わったというわけではなく、あなたが結月ゆかりになったと考えた方が自然でしょう。

 

 フロントでチェックアウトの手続きをすると、あっけなく完了しました。支払いはクレジットカードで事前に済ませてあり、カードキーを返すだけで済みました。フロントで対応してくれた女性があなたを「結月様」と呼ぶたびに、むず痒くもどこか嬉しい気分になったのは気のせいでないでしょう。

 

 スマホの地図アプリにあった履歴によると、あなたの家はもともと住んでいた場所と変わりないようです。ホテルから電車を乗り継ぎ、1時間ほどで着く郊外の住宅街にあります。電車で帰ってもいいですが、あまり人目につきたくなかったあなたは、タクシーで帰ることにします。念のためクレジットカードの口座を確認しますが、記憶通り、それなりの金額が入っていました。痛い出費ではありますが、今の不安定な精神状況のまま、大勢の人目につく電車で移動するよりはましだと感じます。あなたはフロントでタクシーを呼んでもらいました。

 

 ホテルのロビーでしばらく待つと、数分もしないうちにタクシーが到着しました。玄関を抜けると、朝の冷えた空気が肌の露出した肩と太ももにあたり、ショートパンツの裾から吹き込んできます。思わず両手でパーカーの裾と襟元を掴みながら、タクシーへと乗り込みます。運転手に住所を告げると、タクシーはゆっくりと発進します。

 

 

 運転手はあなたに話しかけようとはせず、黙って運転を続けます。いつもなら少し居心地が悪く感じるかもしれませんが、今のあなたにとってはありがたいものです。家につくまでの間に、自分の状況を確認しておきましょう。

 

 スマホで「結月ゆかり」と検索してみますが、全くヒットしません。「ボイスロイド」でも同じです。しかし、唯一「AHS」という単語は検索結果に引っかかりました。それはAHS芸能事務所という会社名で、どうやらここ一年ほどの間にできた会社のようです。

 ようやく現状をつかむ糸口を見つけたあなたは、その会社を詳しく調べることにしました。すると、所属している唯一の芸能人を見つけます。その人の名は「弦巻マキ」というようです。あなたはもちろん聞き覚えがあります。ボイスロイドの弦巻マキでしょう。

 

 彼女に聞いてみれば何かわかるかもしれない。そう考えたあなたは、どうにかして彼女と連絡を取る手段を考えます。もしも彼女があなたと同じ立場なら、きっと話を聞いてくれることでしょう。しかし、どこにも連絡先が見つかりません。SNSはあるようですが、運営が管理しているため、彼女のもとに届くとは考えにくいでしょう。そうなると、どうにかして彼女の方からあなたを見つけてもらうしかありません。

 

 どうすればそれが叶うか。あなたが思いついたのは「ゲーム実況動画を出す」ことでした。幸いなことに、彼女も数多くのゲーム実況動画を上げています。彼女にあこがれてやってみましたなどとコメントを付けてSNSに投稿すれば、彼女のエゴサに引っかかるかもしれません。彼女があなたの名前……「結月ゆかり」を知っていれば、きっと連絡をくれるでしょう。家に帰り次第、すぐにとりかかろうと決めました。

 

 

 やがて家につきました。見覚えのあるマンションです。あなたの記憶にある自宅と変わりありません。慣れた足取りで玄関前までやってきました。鞄から鍵を取り出し、開けようとしたところで、見覚えのないキーホルダーが付いていることに気が付きます。紫と黒を基調とした、ウサギのキーホルダーです。どこか彼女らしいなと感じます。

 

 玄関を開けると、ラベンダーのいい匂いがします。微かに香る程度で気になるほどではなく、リラックスを促してくれます。部屋の間取りや家具の配置は記憶と変わっていないですが、どの家具もデザインがシンプルながら明るく、白やピンクを基調としたものに変わっています。大きく様変わりしている覚悟を持っていたあなたは、ほっとしたことでしょう。

 

 冷蔵庫の中身も変わらず、どうやら大きな変化は起きていないようでした。しかし、クローゼットの中を見たとき、思わず固まってしまいます。そこにはハンガーにかけられた様々な女性ものの服があり、三段の引き出しには下着類と靴下類がきれいにしまわれていました。そして、隅に隠れるようにひっそりと置かれた箱の中身を見ると、思わずすぐに閉めます。中にはどことなく見覚えのある小型のマッサージ器やらなにやらが入っていましたが、気にしないように努めます。

 

 時計を見ると、お昼がだいぶ近くなっていました。家にあるカップ麺で済ませようかと思いますが、考え直してコンビニでサラダを買ってくることにします。これからこの体形を維持するのはあなたの仕事なのです。できるだけ体にいい食生活を送らなくてはいけません。

 

 食事を済ませると、パソコンを起動して中身を確認します。大きく変わりはないものの、結月ゆかり関連のデータはすべてなくなっていました。どうやら、あなたの記憶のある世界とこの世界の差は、「ボイスロイド関連のキャラクターが実在しているかどうか」のようです。さらなる検索の結果、ボイスロイドとして知っていたキャラクターは弦巻マキがいるだけでした。ボーカロイドに関しては、どうやらほぼ全員が実在するようです。

 

 一通り情報収集を終えたあなたは、いよいよゲーム実況の動画を撮ってみることにしました。ちょうど、最近買ったばかりのまだ手を付けていないゲームがあったのです。あなたは慣れた手つきで録画準備をし、以前とは違って自分の顔も同時に録画していきます。声を録音するためのマイクも付け、いよいよプレイ開始です。

 

 始めは少し慣れなかったものの、小一時間もプレイし録画すればすっかり慣れたでしょう。敵にやられれば悔しそうにリアクションをしてゲームを冗談交じりにディスり、うまくいけば調子に乗った発言をしてみます。ひと区切りついたところで録画を止めて見返してみれば、そこには楽しそうにゲームをするゆかりさんがいました。動画を編集し、字幕をつけ、5分ほどの動画が出来上がったときにはすでに日が暮れていました。

 

 動画を出力している間に、晩御飯の準備をしましょう。健康的な食生活をしたいところですが、撮影と編集で疲れてしまったので近くのファストフード店で軽めに食べることにしました。

 

 昼食では少し食べ過ぎてしまったため、今度はいつもより量を少なく注文しました。ハンバーガーとサラダを受け取って席につきます。すると、あなたは妙に周りから視線を集めている気がしました。目立たない程度に辺りを見渡し、耳をそばだててみると、制服を着た女子高生が友達同士で「あそこの人かわいいね」などと言っているのが聞こえます。会話の内容に「パーカー、紫」といった単語が含まれているので、どうやらあなたのことのようです。他人から容姿を褒められる、ましてやかわいいと言われるのに慣れていないあなたは、思わず照れてほほをほんのり染めてしまいます。しかし、決して嫌な気分ではありませんでした。

 

 家に帰ってくると、動画の出力が終わっていました。動画を投稿し、事前に作ったSNSのアカウントで動画を宣伝。弦巻マキのアカウントを引用し、見てもらえることを祈ります。ここから先は運頼みでしょう。しばらくスマホを眺めていましたが、名の知られていない投稿者の最初の動画です。反応はなく、先が思いやられます。

 

 動画の投稿が終わったあなたは自分の収入源が気になり、口座の情報を見返しました。見れば、少なくとも数年間新しい入金はないようです。どうやら現在無職のようで、家のどこにもバイトを含めた就職関連の情報はありません。しばらくの間は貯蓄を切り崩して生活すればいいですが、なるべく早く仕事についた方がいいでしょう。

 

 

 さて、一通り今日やることが終わってしまい、あなたは暇になってしまいました。まだ午後8時でこれから何かすることもできますが、一日の疲れが出たのか眠くなってきました。シャワーを浴びて、すっきりすることにしましょう。

 

 クローゼットからふかふかのショートパンツと袖なしパーカーの寝間着をとって、脱衣所に向かいます。そして服を脱ぎ、軽くたたんでから風呂場に入ります。当然裸なわけですが、まだ慣れてはいないものの、今朝よりは冷静になっているでしょう。恥ずかしさは残っているものの、少しずつ自分の体だという自覚を持ち始めています。風呂場を眺めると、シャンプーや石鹸も、質のいいものに置き換わっていました。頭からシャワーの温かいお湯をかぶると、疲れが洗い流されていく気がしますね。髪が体に張り付く感覚は慣れず、頭を洗おうとシャンプーを手に取ろうとしたところで、長い髪の洗い方を知らないことに気が付きます。脱衣所に戻ってスマホで調べ、ついでに体の洗い方も調べ、風呂場に戻りましょう。

 

 きれいな体に傷をつけないよう、丁寧に洗っていきます。一日の汚れをきれいに落とし、疲れもお湯に溶かして流してしまいましょう。触り慣れてはいないものの、早く慣れるためにもしっかり隅々まで洗います。生まれたばかりの赤子かと思うほどにくすみもシワもない肌は、泡立てたタオルを滑らせるだけで気持ちがいいですね。肩から胸、腕、おなか、足と順に洗っていきます。大事なところもそっと洗いましょう。

 

 トリートメントなどできちんと髪のお手入れをして全身きれいにしたら、脱衣所に戻って体をふきます。肌や髪を傷めないよう、強くこすらないように水分を取ってから下着を身につけます。そして、ネットできちんと調べたとおりに髪を乾かしていきましょう。あまり高い温度で乾かすと髪を傷めてしまうので、ドライヤーを離れたところからあててゆっくりと丁寧に乾かしていきます。

 

 髪が乾いたら、寝間着を着て完成です。タオル生地で柔らかい着心地が気持ちいいでしょう。

 

 あなたは今日一日の疲れが出ているのを感じ、少し早いですがベッドに横になることにします。仰向けになって両足をすり合わせてみると、すべすべとした感触が気持ちよくて癖になりそうです。いつも寝る前にしていた行為は、この体になってからやろうと思えなくなっていました。興味は湧いているものの、昨日の夜、興味本位で試した時には痛みしか感じなかったのです。おもちゃも発見したときに少しだけ試してみたものの、よくわからなくてやめたのでした。

 

 ベッドの上で、あなたはこれからの生活について考えます。今後は結月ゆかりとして生きていこう。しかし、自分のやりたいこともやって、充実した生活にしよう。そう決めました。もちろん、元の体に戻ることを諦めてはいませんが、期待しても疲れるだけだと考えました。そして一番大きかったのは、前からひそかに望んでいた状況であるということでしょう。今後が不安なものの、彼女になれたのはとてもうれしいことなのです。これで、自分の状況を理解してくれる人が現れれば、さらに心強いのは言うまでもありません。

 

 目指すはAHS芸能事務所に入り、弦巻マキや今後現れるだろう琴葉姉妹たちと仲良くなること。その一歩を今日踏み出したと考えると、なんだかこれからが楽しみになるのでした。

 

 

 翌朝、あなたは自然に目を覚まします。時計を見れば7時半。ちょうどいい時間です。

 あなたはベッドの上でストレッチをすると、思い出したようにスマホをのぞき込みます。SNSの通知を見つけたあなたは、震える指先でその通知を開きます。そこには、なんとAHS芸能事務所からダイレクトメッセージが届いていたのでした。

 

 内容は「動画を見て興味を持ったので、話をしたい」という内容でした。そして、その席には弦巻マキも同席するというのです。あなたは確実に事態がいい方向に向いていると直感します。すぐに返信をし、事務所に行くのが明日と唐突に決まったのでした。あまりにもトントン拍子で進む事態に頭が追い付かなくなりそうになりますが、うれしい悲鳴だと自分を落ち着かせます。結局、この日は一日中ひたすらSNSで弦巻マキについてしらべたり、プレイ動画の続きを撮影したりしていました。

 

 

 翌日、あなたは何を着ていくか少し迷ったものの、初めての顔合わせということもあって、一番イメージに合った格好をすることにしました。寝間着を脱ぎ、下着を身に着け、紫のオフショルダーワンピースとニーソックス、トレードマークのパーカーを着て完成です。見慣れた結月ゆかりが完成しました。今日は電車で向かうため、マフラーを巻いていくことにします。年も変わろうとしているこの頃、朝方の冷え込みは厳しくなっていました。外に出れば足元から冷気が入ってきますが、長い靴下をはいている分、足は暖かいですね。しかし、スカートというのはやはり慣れません。ちょっと油断すれば中が見えてしまいそうになる緊張感は初めての経験で、自然と内股気味になってしまいます。

 

 駅につき、電車が来るのを待っていると、周りから視線を感じる気がします。スマホを見て気を紛らわしますが、やはり気になるものは気になります。でも、大丈夫です。それは周りの人があなたのことをかわいいと感じて、ついつい目で追ってしまっているだけなのです。自信をもっていいことなんですよ。

 

 電車に乗って揺られること一時間ほどで、事務所の最寄り駅につきました。事務所は都心から少し外れたビジネス街の一角にあります。まだまだ設立されて新しい事務所ですから、ちょうどいいのかもしれません。駅から十分ほど歩いて、事務所前につきます。

 

 事務所は雑居ビルの二階にあります。予定の時間をまってから事務所の玄関を通り、受付のインターホンを取ります。しばらくすると応答があり、あなたが名乗ると迎えに来てくれました。やってきたのは若い女性で、柔らかい表情で案内してくれます。事務所の中は小規模のオフィスのようで、数名の事務員が書類やパソコンに向かっていました。軽く見たところ、金髪の少女はいないようです。

 

 6畳ほどの応接間に案内され、待つように言われます。ソファーに座ると、座面の冷たさがお尻に伝わります。スカートが短いので、足をちゃんと閉じないと下着が見えてしまいますね。太ももをすり合わせて手のひらでさすると、少し気持ちが落ち着いてきます。

 

 待つこと3分ほどで、はつらつとした30台の男性と女性が応接間に入ってきました。どちらもマネージャーのようで、引き締まった表情をしています。あなたが立ち上がって軽く挨拶すると、二人も挨拶を返して対面のソファーに座ります。部屋の空気が引き締まった気がしました。

 

「突然のご連絡でお呼びしてすみません」

 

 会話を切り出した女性は、少し間を開けてから話を続けます。

 

「簡潔に申し上げますと、弊事務所の弦巻マキからあなたをどうしても仲間に加えたいと申し出がありました。私共の方でも結月さんの投稿された動画を拝見しまして、ぜひ我々と一緒に活動していただきたいと思っております」

 

 あなたはその言葉にしばし固まってしまいます。本当に、こんなに上手くいくとは思っていなかったのです。あなたはもちろん快諾し、契約についての話が始まりました。

 

 お堅い話が終わり、二人と入れ替わりで弦巻マキが入ってくると告げられます。再び一人で待機するあなたですが、いったいどうやって話そうかで頭がいっぱいになってきます。自分の身に起きたことを全て話すか、それとも小出しにしていって相手の反応を見るか。もしも弦巻マキが自分と違って元から彼女本人として生きていたらどうするかなど、事前に考えておけばよかった後悔も一緒にやってきます。

 

 今更あたふたしていると、応接間の扉が開きます。その音にはじかれるように、あなたは入り口の方を振り向きます。

 

 そこには長い金髪をなびかせた、翠瞳の少女がいました。スーツを基調に肩と胸元のあいた服装をした彼女は、まさに弦巻マキ本人です。彼女はあなたを見ると、いくつかの呼吸を挟んで恐る恐る問いかけます。

 

「結月ゆかり……さんだよね?」

 

 あなたが頷くと、彼女は表情をわっと崩してあなたに駆け寄り、覆いかぶさってきたかと思うと両手を背中に回して抱きしめます。あなたは彼女の体の柔らかさを感じながら、何が起こっているのかついていけずにいます。今まで難しく考えていた内容がすべて飛んでいきました。

 

「ようやく会えたね……ゆかりちゃん……!」

 

 彼女はソファーに座ったままのあなたを抱きしめ、頬ずりまでしてきます。片手で頭を撫でられ、あなたが息をすれば彼女の甘酸っぱい香りで胸がいっぱいになります。しばらくそのまま撫でられ、やがて解放されたときには頭がくらくらするほどになっていました。

 

「あ、ごめんゆかりちゃん……じゃないや、結月さん、つい……」

 

 我に返った彼女は、謝りながらあなたの隣に座ります。そして、彼女は一度深呼吸をすると、あなたの顔色をうかがいながら話しかけます。

 

「その、結月さんはボイスロイドって知ってる?」

 

 その一言は、彼女の立場があなたと非常に近いことを表しています。この世界では存在せず、あなたの知っている世界ではあなたと彼女を示す合言葉。あなたが頷くと、感極まったように瞳を潤ませながら語りだします。

 

 どうやら、彼女は一年ほど前にこの世界へやってきたそうです。その頃はAHS芸能事務所も存在せず、一人で動画投稿をして声がかかるのを待っていたそうで、当時の苦労と寂しさを語ってくれました。ただ、あなたとは違って彼女は初めから女性だったそうです。あなたは自分から元の性別を言い出せず、初めから女性だったものとして扱われました。

 

 そして、彼女はあなたにとって重大な現実を語ります。彼女はこの一年間元の世界に戻る方法を探したそうですが、手がかりの欠片すら見つからなかったそうです。彼女は寂しそうに言いながらも、あなたがいれば楽しく過ごせそうだと語ってくれました。

 

 あなたはこれを聞いて、結月ゆかりとしての新たな人生を歩むことを決意します。今を楽しく生きることが、きっと幸せな暮らしにつながると信じて。

 

 

 

 

 一月下旬。彼女と出会ってからひと月立ちました。彼女とは週一回のラジオ収録をはじめ、様々な機会で共演しています。また、事務所でもよく顔を合わせるので、お互い慣れてきたことでしょう。その証拠に、たまに開催されるゲーム実況のコラボ回では、お互い軽口を叩きあうこともあります。あなたが彼女に賭けやら勝負を持ち掛け、「養ってください」などと冗談を言うのです。あなたが勝てば煽り、彼女が勝てば直前の発言をいじられ、視聴者にはお約束のやり取りとして知られています。

 

 

 二月。先日は初めて彼女の家にお呼ばれし、お泊り会を開きました。寝間着などのお泊りセットをもってラジオ収録に向かい、午後4時ごろに仕事を終えたあなた達二人は、夕食の買い出しに向かいました。途中、彼女が「なんだか同棲してるみたいだね」と言ったときには考えなしに「してもいい」と答えたあなたですが、その後の彼女の態度はあからさまにぎこちなくなっていました。そこで、あなたは彼女の顔色をうかがいますが、なかなか目を合わせてくれないのでへそを曲げさせてしまったかと反省しました。

 振り返ってみればお泊り会は大成功で、夕食を二人で作ったり深夜まで映画を見たりゲームをしたりと、楽しみつくしたのでした。ただ、あなたが直前のゲームで負けた当てつけ半分に、一緒に風呂に入るかと聞いたのは悪手でした。あなたは照れたり慌てたりしながら断る彼女を見て楽しめると想像しましたが、実際には彼女が提案に乗ってきたため、あなたが慌てる羽目になったのでした。しかもその上彼女が「一緒に入るのが恥ずかしいのかにゃあ?」などとニヤニヤしながら煽ってきたため、売り言葉に買い言葉で一緒に入ることになったのでした。

 結果として、風呂場で自分以外の女性の体を見ることになったあなたは赤面してしまい、それを見逃さなかった彼女はあなたを煽るのでした。また、その直後にあなたをキレイだ可愛いと褒めるので、あなたは彼女に対して強く言えなかったのでした。

 

 

 三月。なんだかんだ初めて二人で居酒屋に行きました。ラジオ収録にゲストで呼んだ大物芸能人がわがままを言ったせいで、その日の仕事上りが深夜になったあなたたちは、翌日が二人そろっての休日ということもあり、そのイライラを解消するべくお酒の力を借りたのでした。結果としてあなたたちは無事終電を逃し、より居酒屋に近い彼女の家に帰ることにしたのでした。あなたは自分の家に帰ろうとしましたが、「お金がかかる」「遅くなる」などと説得されたのでした。

 彼女の家についたころにはお互い寝る寸前になっており、回らない頭を回した結果二人そろって同じベッドに潜り込みました。その結果、翌日起きたときには隣に感じる体温やら寝息やらで、ひと悶着あったのでした。

 

 

 

 

 

 

 五月。あれからあなたはゲーム実況者、ラジオパーソナリティとして活動し、弦巻マキと共にAHS芸能事務所の二本柱を担っています。また、この半年でお互いの距離もだいぶ縮まり、ゆかりちゃん、マキさんと呼び合うようになっていました。休日には二人でショッピングに行ったり、映画を見たり、充実した生活を送っていました。

 

 そして一番大きく変わったことと言えば、あなたが弦巻マキと一緒に住んでいることでしょう。

 

 四月中旬、家と職場の距離が遠いことを愚痴っていたあなたは、彼女から一緒に住むことを提案されます。彼女も職場近くへ引っ越すことを考えていたそうで、いいタイミングだし、とシェアハウスを提案されたのでした。一人暮らしの寂しさもあり、あなたは喜んで引っ越しを決めました。引っ越したシェアハウスはリビングとキッチンを共有し、それぞれに寝室を兼ねた自室がある物件です。お互い気軽に生活できる、ちょうどよい距離感でした。

 

 引っ越してから、あなたの動画にはしばしば彼女が登場し、視聴者からは「ゆかマキ」として人気を集めていました。あなたに飲み物を渡す彼女の姿をコメントでいじられたときにはあなたが「私の嫁ですから!」とリアクションし、後ろから彼女が「こらー!」とツッコミを入れるのがいつもの流れになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 六月。今日はあなたとマキさん、二人そろっての休日です。

 アラームをかけずに寝たため、カーテンの隙間から射す光はだいぶ高くなっていました。ベッドの上でストレッチをし、起き上がろうとした時のことです。顔を横に向けると、そこにはあなたをのぞき込んでいるマキさんがいました。

 

「あ、おはようゆかりちゃん」

 

 挨拶を返すあなたを見て、彼女は笑顔を返してくれます。何でも、あなたより早く起きた彼女は15分ほどあなたの寝顔を見ていたそうです。あなたは照れ隠しにあれやこれや言いますが、どれも上手くかわされてしまいます。彼女が嬉しそうにしているのをみると毒を抜かれてしまい、ついつい許してしまうのでした。

 

 洗面を済ませ、朝食を取った後は二人でダラダラする時間です。ソファーに座ったマキさんが手を広げて待っています。あなたは彼女を跨ぐようにして座ると、正面から彼女を抱きしめます。顎を彼女の肩に乗せれば、彼女があなたをぎゅっと抱きしめます。この体勢は先週ごろから毎朝リクエストされています。ほぼ毎朝、よほど忙しい日でない限りはいつも要求されるので、あなたはすっかり慣れてしまいました。とはいうものの、抱き着いている間は彼女の柔らかさや温もりを感じるため、ほほが紅潮してしまうのはしょうがないことです。

 

 しばらくそうやっていると、今日一日をどのように過ごすか聞かれます。あなたがどこに行きたいか聞くと、「ゆかりちゃんが一緒ならどこでも楽しいよ」と返されてしまいました。彼女はあなたのことがよほど好きなんですね。思わず照れ隠しでぶつぶつ文句を言いながら顔を彼女に見せまいとしますが、それも彼女にはお見通しのようでした。そのまましばらく黙っていると、彼女があなたに柔らかく話しかけます。

 

「それじゃあさ、デートしようよゆかりちゃん」

 

 あなたはその言葉に思わず身を震わせてしまいます。住まいを同じにし、こうして触れ合うことも多くなった今ですが、それでもやはり好意を受け入れ慣れていないのでした。あなたは今までも彼女の行動の端々に好意を感じていましたが、それが恋愛感情なのか友情なのか量りかねていました。相手は生まれながらの女性で、あなたは違います。はたしてこの距離感が女性の間では普通なのか、そうでないのかわからずにいました。

 

 あれこれ頭の中を考えが巡っているあなたに、彼女は嫌かと問いかけます。あなたは反射的に否定し、今日の日程が決まったのでした。

 

 

 服装を整え、彼女から習ったメイクをして、いざお出かけです。

 

 あなたは彼女に手を引かれながら、街を遊び歩きました。ショッピングモールではウィンドウショッピングをしてあれこれ感想を言い合い、夏物の服も買いました。カフェでのんびり話したり、楽器屋さんで彼女がギターに目を輝かせているのを見たりもしました。普段大人びた表情を見せることの多い彼女ですが、ギターを目の前にすると途端に子供のような無邪気さを見せるのでした。

 

 

 そして日もとっぷり暮れ、あなたたちは夕食の食材を買って帰ってきました。何時ものように二人で夕食の準備をします。その日はいつもより豪華なメニューで、少し特別感がありました。食卓につき、お互いにおいしいと言いながら食べれば、思わず笑みがこぼれます。あなたはこの時間がなんとも幸せで、いつもの楽しみになっていました。

 

 

 食後、休日を一日中楽しんだあなたは満足して、ソファーでゆっくり休んでいました。

 スマホでSNSを見ていると、あなたの隣にマキさんがそっと座ります。横目で彼女をみると、どうにも落ち着かない様子です。どうしたのかと気になり、あなたはスマホを下ろして彼女の方を見ました。

 

「ねえ、ゆかりちゃん。その、これからもずっと、今日みたいに一緒に居られるといいね」

 

 彼女は照れながら、そう呟きました。

 あなたはその言葉の意図がよくわからず、「そうですね」とただ同意します。それを聞いた彼女は少しむっとした表情になったかと思うと、何か諦めた顔で一つ深呼吸を挟んでからあなたの正面にしゃがみ込みます。彼女が指で頬を掻きながら、耳まで真っ赤に染めてあなたの目を見つめると、その雰囲気に押されてしまうでしょう。

 

「ねえゆかりちゃん。その……一応ね? 私、告白したつもりだったんだけど」

 

 あなたはしばらく呆けてしまいます。それもそのはず、あなたは彼女からの好意に気づいてはいましたが、やはり友情に過ぎないのではないかと思っていたのです。もし告白されるならとっくにされているだろうしと、勝手に思っていました。

 

「私、今までも結構アピールしたり、なんなら告白っぽいこといっぱいしたんだけど」

 

 あなたは今までされたことを思い出そうとしますが、そのどれもが女同士ならあり得るかもしれないと思っていました。朝抱きつくのも、たまに首筋にキスされるのも、直接言われないことを良いことに、多分女同士ならある事なのだろうと意識を逸らしていたのでしょう。

 

「そんなわけないじゃん。こんなにべったりするの、女同士でも親友のラインを越えてないとしないよ。それで、ゆかりちゃんは私のこと、どう?」

 

 あなたはいつになくグイグイ来る彼女に気圧されてしましますが、どう答えたものか悩んでしまいます。そしてその結果口に出したのは、あなたがかつて男性だったということでした。

 

「いや、何となく気づいてたけど、そんなの関係ないから」

 

 あなたがようやく口にした事実を、彼女は一手に切り捨てます。あなたが唖然としていると、彼女はあなたをまたぐようにしてソファーに乗り、あなたの両頬に手を当てます。いつも朝している体勢とは真逆で、全く慣れないものです。彼女の表情も真剣なものに変わり、その雰囲気にあなたはどんどん飲み込まれていきます。

 

「それで、ゆかりちゃん……ねぇ、私のものになってくれない?」

 

 そして彼女は一言「嫌だったらちゃんと拒絶してよね」というと、あなたと顔を近づけていきます。彼女の目はあなたの目を外すことなく見つめ、あなたは思わず目を閉じてしまいます。 

 

 次に目を開けたのは、唇に柔らかい感触が残ってからでした。思わず口もとに手をやれば、まだ温もりが残っている気がしました。そう思うと途端に頭が湯立ってきて、自分でも顔が赤くなっていくのがわかります。彼女は本当に自分のことが好きなんだと思い知らされたのでした。

 

「それで、受け入れてくれたってことはそういうことだと思うけど。ゆかりちゃんの口から直接返事が聞きたいな」

 

 あなたは眼前で柔らかく微笑む彼女に見つめられ、小さく「はい」と答えることしかできません。それほどあなたの頭は彼女のことで溢れていて、処理が追い付いていないのでした。

 

 あなたの答えを聞いた彼女は、目を閉じ、幸せそうな笑みを浮かべながら一つ深呼吸すると、再びあなたと顔を重ねるのでした。

 

 

 

 ソファーからベッドの上に移ったあなたは、彼女に押し倒されていました。あなたが知っているよりもずっと積極的な彼女に面食らっていると、彼女が耳元で囁きます。

 

「いままでずっと我慢してたんだよ。これからはしなくていい、でしょ?」

 

 甘ったるい彼女の声に、あなたは思わず身を震わせてしまいます。彼女の手があなたの頬、首筋、肩と撫でるたびに、そこからゾクゾクとした快感が流れてきます。今まで味わったことのない感覚に困惑しているあなたを見た彼女は、柔らかく微笑みます。優しくして欲しいとあなたが呟くと、彼女は面食らった表情をした後にまた笑いかけます。

 

「大丈夫だよゆかりちゃん。私に任せて、私を受け入れてくれれば大丈夫だから」

 

 そういうと、あなたの肩に口を寄せるのでした。よく耳を傾けていれば、彼女の息が荒くなっていることに気がつきます。あなたは少しだけ怖くなって、彼女にこう告げたのでした。

 

「まだ自分でも触ったことがないので、本当に優しくしてくださいね?」

 

 それを聞いた彼女は鈍い動きであなたの耳元に口を寄せると、吐息まじりにこう答えます。

 

「じゃあ、ゆかりちゃんの初めては全部私が独り占めできるんだね……。すっごく嬉しい。でも、もしかしたら我慢できないかも」

 

 そう言って顔を上げ、あなたの顔を覗き込んだ彼女の顔は、どこか獲物を狩る獣のように見えたのでした。

 

 

 

「ゆ、ゆかりちゃん? それは誘ってるのかなぁ?」

「スカートから下着見え放題、胸もちらちら見せちゃって」

「いや、どう考えても誘ってたよね?」

「ほらほら、照れないで」

「こーら……逃がさないよ?」

 

 

 

 

 翌朝、重い腰をさすりながら目を覚ますと、目の前にはあなたに覆いかぶさっている彼女の顔がありました。下を見てみれば、何も身につけていないあなたと彼女の体が目に入ります。思わず布団を手繰り寄せ、体の前で抱きしめました。おはようと挨拶をすると、彼女も返してくれます。腰が痛いんですが、と彼女に漏らすと、謝りながらも「あんなに良い反応するゆかりちゃんが悪い」と言われてしまいます。

 その一言で、あなたは昨晩何があったのか思い出してしまいました。初めは優しかった彼女ですがだんだんとあなたの制止を振り切って、最後には息も絶え絶え声のかすれたあなたと、満足げな彼女が残っていたのでした。

 せめて態度だけでもと文句ありげにしていたあなたでしたが、彼女から「昨日は本当に幸せだった」と満面の笑みで言われ、さらにキスまでされたあなたは顔を逸らして黙るくらいしかできなくなってしまいました。

 

 それからと言うものの、あなたは彼女から事あるごとに求められるのでした。あなたはまだ抜けない気恥ずかしさから断るのですが、彼女から囁かれ首元に口づけられると、力が抜けてしまうのでした。

 

 

 

 



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おまけの掲示板回

日間ランキング5位…だと…?

皆さん拙作を読んでいただきありがとうございます。
評価をつけてくれた方、感想を書いていただいた方、本当に励みになります。あと単純にめっちゃ嬉しいです。

感想に来ていた「掲示板回」を書いてみました。これで良いのか全然わかりませんが、それっぽい気がするので許してください。


【ラジオ放送】弦巻マキ#42 AHS芸能事務所【Twichier】

 

1 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28

「ぎゅんぎゅん行くよー!」

AHS芸能事務所に所属する弦巻マキに関するスレです。

■Twicter

httq://XXXXXXXX.com/tsurumakimaki

■Twich

httq://www.twich.com/channel/XXXXXXXXX

■避難所

【ラジオ放送】弦巻マキin 避難所【Twichier】

■前スレ

【ラジオ放送】弦巻マキ#41 AHS芸能事務所【Twichier】

httq://emg.8ch.net/test/read…/streaming/x68000/

 

 

 

487 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

発表ってなんだろうな

 

488 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

ライブ情報とか?

 

489 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

先月やったじゃん

また?

 

490 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

新曲?

 

491 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

新曲はよ

 

492 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

始まるぞ

 

493 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

何今日のマキさんめっちゃテンション高いんだけど

 

494 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー 20xx/12/28 ID:XXXXXX

グレートエレキファイヤー!

 

495 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

グレートエレキファイヤー!

 

496 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

声でかwwwww

 

497 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

顔ちけぇwww

 

498 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

めっちゃ溜めるじゃん

 

499 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

新人マ⁉

 

500 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

マジか

 

501 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

今から?

 

502 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

急すぎて草

 

503 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

ざわ…ざわ…

 

504 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

ゆかりんね

 

505 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

BBA?

 

506 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

>>505

ピチューン

 

507 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

>>505

おいおい死んだわあいつ

 

508 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

は?声かわよ

 

509 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

めっちゃ緊張してて草

 

510 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

こいつTwicterで動画上げてたやつか

 

511 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

これか

httq://twicter.com /yudsukiyukari/status/x68000

 

512 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

顔がいい

清楚!清楚!

 

513 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

ふーん、(服装が)エッチじゃん

 

514 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

大人っぽい感じの声ね

清楚枠か

 

515 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

さっそくスマ〇ラすんのね

 

516 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

ガッチガチで草

 

517 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

言うてマキさんそこそこ上手いからなぁ

 

518 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

あっ

 

519 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

あっ

 

520 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

 

521 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

ゆかりん声でかwwwww

 

522 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

めっちゃ音われたじゃんwww

 

523 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

確かにリアクションはマキさんおとなしいからなぁ

 

524 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

つまりいじる対象確保と

 

525 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

顔よwww

 

526 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

いい顔は崩れてもいい顔

 

527 名前:名無しさん@グレートエレキファイヤー! 20xx/12/28 ID:XXXXXX

これは期待だわwwwww

 

 

 

 

 

 

【ラジオ放送】結月ゆかり#1 AHS芸能事務所【Twichier】

1 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

「ああああああああああああああ!!!」

AHS芸能事務所に所属する結月ゆかりに関するスレです。

■Twicter

httq://XXXXXXXX.com/yudsukiyukari

■Twich

httq://www.twich.com/channel/XXXXXXXXX

■避難所

【ラジオ放送】結月ゆかりin 避難所【Twichier】

 

2 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

スレ建てはや

 

3 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

待望の二人目だし多少はね?

 

4 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

にしてもキャラ濃い奴来たな

 

5 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

顔がいい

 

6 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

声優れてるしモーマンタイ

 

7 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/12/28 ID:XXXXXX

今後に期待ですわ

 

 

 

【ラジオ放送】結月ゆかり#8 AHS芸能事務所【Twichier】

1 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/17 ID:XXXXXX

「ああああああああああああああ!!!」

AHS芸能事務所に所属する結月ゆかりに関するスレです。

■Twicter

httq://XXXXXXXX.com/yudsukiyukari

■Twich

httq://www.twich.com/channel/XXXXXXXXX

■避難所

【ラジオ放送】結月ゆかりin 避難所【Twichier】

■前スレ

【ラジオ放送】結月ゆかり#7 AHS芸能事務所【Twichier】

httq://emg.8ch.net/test/read…/streaming/x68000/

 

 

373 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

こんゆかー

 

374 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

こんゆかー

 

375 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

こんゆかー

 

376 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

開幕ゆかマキ助かる

 

377 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

ママかな?

 

378 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

なんか最近前にもまして距離近くない?

 

379 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

同居始めたということはそういうことでは

 

380 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

ルームシェアな

でもそういうことでは?????

 

381 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

ゆかマキ? マキゆか?

 

382 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

>>381

やめろ戦争を引き起こすな

マキゆか

 

383 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

>>382

は?

 

384 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

>>382

は?

 

385 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

死ぬほど煽った挙句押し倒されたら急にしおらしくなる結月ゆかり

 

386 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

あると思います

 

387 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

生ものはNG

 

388 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

推しがてぇてぇ

 

388 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

ゆかり!ゆかり!ゆかり!ゆかりぃぃいいいわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ゆかりゆかりゆかりぃいいぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!結月ゆかりたんの紫サラサラな髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…

 

 

 

 

【ラジオ放送】結月ゆかり#31 AHS芸能事務所【Twichier】

1 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/3/21 ID:XXXXXX

「ああああああああああああああ!!!」

AHS芸能事務所に所属する結月ゆかりに関するスレです。

■Twicter

httq://XXXXXXXX.com/yudsukiyukari

■Twich

httq://www.twich.com/channel/XXXXXXXXX

■避難所

【ラジオ放送】結月ゆかりin 避難所【Twichier】

■前スレ

【ラジオ放送】結月ゆかり#30 AHS芸能事務所【Twichier】

httq://emg.8ch.net/test/read…/streaming/x68000/

 

 

514 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

そういやなんだかんだでゲーム上手くなってて草

 

515 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

そりゃ(1年間毎日のように長時間配信していれば)そうよ

 

516 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

ん?

 

517 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

新人て言った?

 

518 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

未公開情報お漏らしマ?

 

519 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

ゆかりさんがお漏らし?

…ふぅ

 

520 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

>>519

おまわりさんこいつです

 

521 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

焦ってて草

 

522 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

いまマキさんの声入ったなwww

 

523 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

事務所逆凸で配信中断は草

 

524 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

ゲーム中断か

 

525 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

唐突に始まる情報公開枠

 

526 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/4/4 ID:XXXXXX

グレートエレキファイヤー!

 

527 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

グレートエレキファイヤー!

 

528 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

唐突なコラボ回

 

529 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

名前だけ公開か

 

530 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

姉妹っぽい?

 

531 名前:名無しさん@ピチューン 20xx/5/26 ID:XXXXXX

双子キャラ?

 

 




続くかは気分次第です。
マキさん視点とかも良いかもなぁ…。

一年ぶりの執筆は割と楽しいです。


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弦巻マキから見た結月ゆかり

連日の日間ランキング2位入りありがとうございます。
短いですが、マキさん回を書いたのでよかったらどうぞ。

2020/10/25

冒頭部分を編集し、マキさんがゆかりさんの中身をどう見ていたか少し細かく書きました。


 最近、ゆかりちゃんが可愛すぎてつらい。以前にも増して、どんどん可愛くなっている。

 

 顔も声もいい。それだけでも満足だが、それは天からの贈り物で、その人とは関係ないと考える人もいるらしい。しかし、あの小動物のような庇護欲を刺激しまくる言動が見目のよさと合わされば、向かう所敵なしだと思う。

 

 

 

 出会ったとき、彼女はまだ自分の体にも慣れていなかったと思う。周りにずっと怯えたままで、周囲との間に高い壁を作っていた。しかし、時を経ればそれもだんだんと溶けて、少なくとも私との間では気兼ねなく付き合ってくれるようになっていた。一月も経てば、ごく普通の友人くらいにはなっていたと思う。

 

 しかし、仲良くなる一方で困った事も起き始めた。彼女は無防備すぎるのだ。肩を回したり、ストレッチをしたり、何か動くたびに肩丸出しの服とパーカーの間から肌色がチラチラチラチラ見えるし、目の前でしゃがんだりする。こちとら、可愛い女の子が恋愛対象にバリバリに入っている身である。今までに味わったことのない、なんと言うか、「自分が食うしかない」ような感情がふつふつと湧いてきたのもこの頃だ。同時に、そんなガードの緩い彼女を悪い虫から守らないといけない使命感も湧いてきていた。ほかの人に彼女を渡してはいけない。

 

 そのあたりの言動から元々女の子らしいことをしていた娘じゃないだろうと、何となく見当がついた。意識してしばらく観察した結果、それはほぼ確実になったし、出会った当初のことを思い出すと、もしかしたら元々は男の人だったのではないかとも思った。振り返ってみれば、性別が変わり、相手と接する距離感を測りかねていたんだと思う。男性との距離が近ければ女性からの目線が怖く、女性との距離はそもそもわからないのだろう。

 

 そんな彼女ともっと仲良くなって、女の子の知識も教えてあげられる方法を考えた結果、いろいろしてみた。仕事が終わったら一緒に食事に出かけたり、女の子のイロハを色々教えたりして積極的に関わっていった。彼女からの申し出で家にお邪魔し、髪の毛のお手入れやらスキンケアやらを教えてあげたのはもはや懐かしい思い出だ。それもあってか、お互いに冗談を言い合えるくらいには仲良くなったし、だいぶ距離感が縮んだ。

 

 

 

 出会ってから二ヶ月ほど経った頃、思い切って彼女を家に呼んでみた。私をどう見ているか、ハッキリさせようと考えたのだった。結果はなんとも言えない感じで、少なくとも何かしらの好意は抱いてくれているようだった。勇気を振り絞って同棲してみないかと遠回りに言ってみたらまさかのオッケーが出たのは驚いたが、あまり考えずに言っていたようで、その後はずっと悶々としていたのを覚えている。それだけ心を許してくれていると考えればうれしいが、もっと真剣に返事してくれてもいいのにという不満もあった。加えて言えば、お風呂で彼女の身体を拝見できたのは眼福だった。ご馳走様でした。自分にはない、スレンダーだがつくところにはついている体型でした。エッチでした。

 

 その翌月、幸運なことに居酒屋で二人揃って終電を逃した時には、半ば無理やり自分の家に連れ込んだりもした。あのときは彼女が眠気の限界ですぐに寝てしまったので、これを好機と思って添い寝させてもらった。言質……許可はとった。初めは単に隣で添い寝をしていたが、彼女が自分の方に寝返りを打って胸元に顔を埋めたときに全てを置き去りにしたのはしょうがないだろう。あんなに可愛いものが目の前にいるのだ。心ゆくまま抱きしめ、頭を撫でて満喫したのだった。あれは彼女からの事だったので、私は悪くない。むしろ若干うなされていたようだったのが落ち着いたので、良いことをしたのだと思っている。ご馳走様でした。なお、起きて私に抱きしめられているのに気がついた彼女の慌てっぷりも可愛かったです。

 

 そして、とうとう五月には夢見ていた彼女との同棲……もといルームシェアが始まった。ちょうどこの頃から、彼女が私と気兼ねなくスキンシップをとってくれるようになったと思う。嬉しいことがあったときに抱きしめたり、暇だからと手を繋いでみても嫌がらなくなったり、わかりやすく距離が縮まった。それどころか、むしろ離れるときに寂しそうな表情を見せてくれることも多くなっていったくらいだ。あとひと押しでこちら側に堕とせる実感が湧いてきて、一層やる気になっていったのだった。

 

 それから暫くはさらに距離感を縮める事に集中して、朝一のハグを習慣づけたりもした。最初は控えめだった彼女だが、しばらくすると彼女が私を待つようになってき、ソファーに座ってじっと私の方を見つめる彼女は主人の帰りを待つ犬のようだった。この頃になると、自覚はしていない様子ではあるものの、どんどん彼女からの好意も増えてきたように思う。他には後ろから抱きしめたときにうなじにキスしたり、少しずつ許してくれるラインを広げていって着実に距離を詰めていった。

 

 

 そして遂に六月、彼女をデートに誘った。彼女はただのお出かけの延長だと捉えていたかもしれないが、私にとっては大真面目なデートだった。プランは特になかったが、彼女といれば楽しいものになることは間違いなかったし、彼女も気取らないほうが楽だろうと思った。……というのが建前で、実際はデートらしいデートにする勇気がなかっただけだったりする。それでもデートを通して彼女を想う気持ちはどんどん強くなって、その結果が帰った後の行動につながったのだった。

 

 帰ってからソファーでのんびりしていた彼女は満足げで、どこかいい雰囲気になっていた。この機会を逃すまいと告白してみたのだが伝わらず、鈍感さに呆れながらも強硬手段に出たのだった。あれに気がつかなかったのが運の尽きだと思ってもらおう、自重をやめた瞬間だった。

 

 結果から言えば、彼女は私を受け入れてくれた。このタイミングで彼女から元の性別のカミングアウトがあったが正直そんなのは私の気持ちの枷にならなかったので、止める理由にはならなかった。思いを告げ、耳まで赤く染めた彼女から返事をもらったときは、間違いなく人生で一番幸せだっただろう。

 

 そこから先はいっぱいいっぱいであまり記憶がはっきりしないが、彼女の潤んだ目に誘われて好き勝手やったのは覚えている。言い訳をすればあれは彼女にも問題があって、何をしても逐一素晴らしい反応を返すのが悪いのだ。口先で嫌がりはするものの、本当か聞いてみれば途端に黙って顔を逸らすし、もはや狙っているとしか思えないほどだった。それでいて初めてだから優しくしてほしいだの言って私の独占欲を刺激するし、攻めてみれば私の名前を呼びながら「好き」だの「大好き」だのと呟くし、体の反応も凄いし、確信犯じゃないのが信じられなかった。

 

 それから今にかけての彼女は変わりようがすごかった。お互いの関係が恋人になった途端、彼女からのアプローチが増えたのだ。聞いてみればあの夜の一件で吹っ切れたらしく、彼女から腕に抱きついてきたり、後ろから抱きついてきたり、前から抱きついてきたり、キスをねだってきたり、何なら夜のお誘いまでしてきたり……毎日繰り返されると幸せすぎて早死にするんじゃないかと思うほどだ。さらに言えば、彼女の浮べる笑みに小悪魔のような悪戯っぽいものが混じりだしたのもいけない。わからせてあげないといけない使命感が刺激されてしまい、そのおかげで、あえて彼女に私を煽らせて夜に思いっきり自分の立場を自覚させることにハマってしまった。生意気な口をきいたお仕置きと称してたっぷり遊んであげるのだ。もっとも、彼女はもはやそこまでの流れを楽しんでいるようで、もしかしなくてもマゾ気質があるのだろう。ひいひい言いながら求めてくる彼女は死ぬほど可愛いです。

 



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温泉旅館撮影with琴葉姉妹

お久しぶりです。
総受けと書いたからにはほかのキャラも出すんですよね? と誰かが言っている気がしたので、琴葉姉妹がログインしました。



 あなたがAHS芸能事務所に入ってから1年半ほど経った6月の下旬、温泉旅館の紹介番組の収録に来ていたあなたは、夕食後の休憩を楽しんでいました。スタッフたちは既に自室に戻り、寝る前までの自由時間を過ごしています。浴衣を着て旅館然とした大きなローテーブルを囲む4つの座椅子に座っているのはあなたとマキさん、そして最近できた二人の後輩です。

 彼女たちは琴葉姉妹。あなた達と同じ背景を持っています。

 

 琴葉姉妹がAHS事務所にやってくることを初めて知ったのは、五月頭でした。仕事で事務所にやってきていたあなたとマキさんはマネージャーに呼び出され、彼女たちの話を聞きます。そこで伝えられたのは彼女たちの名前と顔写真でした。あなた達二人は、それらが描かれた資料を見るなり嬉しいような、悲しいような、複雑な気分になって互いに顔を見合わせました。一つは仲間が増える安心感。もう一つは、違う世界に違う体で迷い込んでしまった人が増えたつらさ、そしてそれをどこかでうれしく思ってしまった罪悪感でした。

彼女たちと初めて会ったのはそれから1週間ほど経ってからでした。あなたはマキさんと共にどのように対応していくのかを話し合っていましたが、それらは会話を初めて数分で壊れることになりました。飲み物を取りにマネージャーが席を外し、あなた達二人と琴葉姉妹だけで話す機会が訪れるやいなや、琴葉茜がいきなり切り込んできたためです。

「琴葉茜やで。いきなりですけど、ボイスロイドって知ってはります?」

 その質問はかつてあなたがされたもので、背景を共にする者の合言葉でした。

 一瞬間が開いたのち、マキさんはあなた達の住んでいるマンションの応接室を借り、ゆっくり話をする機会をその日の夜に設けることにしました。事務所で話しては、誰に聞かれるか分かったものではないためです。彼女たちもその話に乗り、間もなくマネージャーが帰ってきたため、その場での話はそれきりになりました。

 その日の夜、マンションのロビーの一角にある応接室であなたとマキさん、琴葉姉妹の情報共有会が行われました。6畳程度の広さでワックスがかけられ光沢のあるブラウンの板張りの床に、月明かりと街頭の光が大きなはめ殺しのガラス窓を通って映っています。照明は柔らかく、むやみやたらに照らすことはありません。ガラス張りのローテーブルを挟むようにして二人掛けのソファーが置かれており、あなたの左隣にマキさん、向かいに葵ちゃん、向かって右隣りに茜ちゃんが座ります。布張りのソファーはあなたの体を柔らかく包んでくれて、心なしか気分が落ち着いた気がします。どうやら緊張していたようです。

「改めて、琴葉茜やで。こっちは妹の葵です」

 葵が会釈すると、茜ちゃん先導で話しが進んでいきます。

「とりあえず、うち達のことを軽く説明してから、お話をいろいろ伺いたいと思っとります」

 堂々とあなた達に目を合わせ、はっきりとした口調で話を進める茜ちゃんに対して抱いた第一印象は、まさに『しっかり者の姉』でした。あなたは『抜けている姉としっかり者の妹のコンビ』というイメージをどこかで持っていた節があり、余分な知識を排除し早々に認識を改めて、彼女たちにしっかり向き合う必要性を再確認したのでした。

 茜ちゃんから聞かされた内容は、おおよそ予想の付いたものでした。もともと彼女らはボイスロイドのことを知っており、今の姿になる前から双子の姉妹だそうで、そのこともあってボイスロイドの中では琴葉姉妹が一番好きらしいです。いわゆる「前世」の姉が茜ちゃんに、妹が葵ちゃんになっていたそうで、前の姿でも今の姿でも、関係性は大きく変わっていないそうです。

「でも、お姉ちゃんはたまーに大ポカするんですよ」

「大部分はしゃんとやっとるからええやろ?」

 と、話の途中で楽しそうに会話する彼女たちは、まさに生まれてからの付き合いにふさわしい仲を感じさせるものでした。

 彼女たちの身の上話が終わると、今度はあなた達の番です。マキさんが先に話し始めたため、あなたはマキさんにしばらく説明を任せることとしました。

 マキさんがかれこれ2年以上この姿で過ごし、今の状況に巻き込まれた原因がつかめていないと伝えると、彼女たちはあからさまに落ち込みました。それもそうでしょう。気づけば自分の知っている世界とどこかずれているところに迷い込んだのですから、戻りたい気持ちがあっても不思議ではなく、むしろ当然ですらあります。ただ、そのあとに続けて「でも、今となってはこの世界に愛着があるかな。ゆかりちゃんもいるし」とこぼした途端、葵ちゃんの眼が光ったような気がしました。まるで、獲物を見つけた獣のような雰囲気をまとった気がします。どこか嫌な予感を感じながら様子を伺うと、彼女はマキさんに向かって、こう相槌を打ちました。

「なるほど、弦巻さんは結月さんと付き合ってるんですね」

「そうだねー、もう1年くらいになるかな。葵ちゃんは付き合ってる人いたりするの?」

「お姉ちゃんですかねー」

「へぇー、そうなんだ。それで、今後のことなんだけど」

 唐突にお互いが色々カミングアウトし、そしてそれをまるで当たり前のようにさらっと流す二人の会話に、あなたは思わず待ったをかけました。二人とも、唐突に何を暴露しているんだと。

「でも、たぶん今言わなくてもそのうちばれちゃうだろうし、そもそも同棲している時点でバレバレだっていうか」

 悪びれもしないマキさんの弁にあなたは「ルームシェアですから!」と言及したうえで、それは納得するとして琴葉姉妹の方はどうなんだと聞きます。

「だって、今のうちに言っておかないと事務所でイチャイチャできないじゃないですか」

「葵は甘えんぼさんやからなぁ。せやけど、大勢の前はちょっとはずかしいから控えてな」

 あまりにもオープンな態度をとるマキさんと琴葉姉妹に衝撃を受けているあなたでしたが、それを受けてか茜ちゃんが付け加えます。

「まぁ、この世界は前いた世界よりも寛容みたいやから、同性愛やろが姉妹愛やろが、異性愛と変わらんと扱って大丈夫なのがええところやね」

 あなたはその発言を受けて、今まであなたを周囲の人がどう扱ってきたか思い出します。確かに、あなたとマキさんが付き合っていると噂されても、同性を理由とした偏見や悪意あるコメントは無かったように思います。あなたがそれに気づいて驚いていると、マキさんから「あれ、知らなかったの? 知ってると思ってた」と一言。教えてくれなかったことを不満げにこぼせば、「だって、人前でも割とイチャイチャしてたしさ」と返されてしまいました。記憶をたどってもそんな態度をとったとは思いませんでしたが、マキさんがそう言うならきっとそうなのでしょう。一応納得はしつつも不満げにしていると、マキさんが「例えばこれとかさ」と言って左手を持ち上げます。それにつれられて、あなたの右手も上がりました。一瞬の間を挟み、それがどういう意味なのか理解したあなたは、思わずほほを染めてしまします。あなたは意識していませんでしたが、不安だったり居心地が悪かったりすると、マキさんの手を握る癖がありました。それも、はじめは普通に握るだけだったのが、そのうち指を絡めるようにまでなっていたようです。その仕草はあなたとマキさんの関係を示唆するのに十分なものでした。あなたはそれに反論もできず、うつむいてしまいます。

「なんか、結月さんかわいいですね」

「でしょー? 後ろからちょこちょこついてくる感じがかわいくってさぁ」

「あー、小動物感ってやつですね」

「葵もそんな感じの所あんで?」

「えー、本当?」

「確かに、なんか葵ちゃんも雰囲気あるかも。私たちと琴葉姉妹って意外と似てたりする?」

「そうかもしれまへんね」

 何やら三人で会話が進んでいるようですが、あなたは失言するのを恐れ、視線を窓の外に向けてほかのことを考えました。あなたがこの世界に来た時のこと、事務所にやってきたときのこと、マキさんと会って仲間を得たこと。そして、マキさんがかけがえのない人になったこと。なんだかんだ、満たされた日々を今まで送れてきていたことをうれしく思っていると、頭に柔らかい感触を感じます。あなたは今まで何度もその感触を受けているので、見なくとも、それがマキさんの手であると分かりました。しばらくそうされて、どう反応するか悩みながら三人を横目で見やると、幸せそうに自分のパートナーについて話しているのが視界に映りました。それを見たあなたは、どうにもマキさんが愛おしくなり、彼女の肩に頭をそっと預けたのでした。

 

 その後お披露目会を経て琴葉姉妹は正式にAHS事務所の仲間入りを果たし、今ではすっかりお互いに打ち解けました。特に葵ちゃんはあなたの相談相手として適任で、どう甘えると効果的とか、しつこくなりすぎない秘訣とか、いろいろと話を聞いてもらったり、逆に聞いたりしていました。もっとも、どうやら彼女ら琴葉姉妹の方があなた達よりも、恋人としても長い付き合いのようで、教わる方が多いのでした。

 

 そして、暫くの間あった彼女らの慣らし運転が終わり、いよいよ四人での仕事がやってきました。舞台は温泉旅館。二泊三日の旅が始まります。

 

 撮影初日の12時、あなたとマキさんはタクシーを呼び、自宅から東京駅へと向かいました。運転手さんに温泉撮影に必要なチューブトップの水着などと着替え、そして暇つぶし道具の入ったキャリーカートをトランクに入れてもらって、出発です。

マキさんとこれからの日程を確認しながら車で向かい、駅につくと先にマネージャーさんと合流していた琴葉姉妹が出迎えてくれました。目立たないようにフードをかぶってマスクを付けながらタクシーを降りると、葵ちゃんが元気に挨拶してくれます。

「マキ先輩、ゆかり先輩、お疲れ様です!」

 あなたが挨拶を返すと、続けてマキさんが彼女に挨拶を返します。

「葵ちゃんお疲れ様。今日も笑顔で楽しそうだねー」

「だって、温泉撮影ですよ? すっごくこう、それっぽくて憧れちゃうお仕事じゃないですか」

 まるで遠足中の子供のように楽し気な彼女の出迎えで、今日一日うまくいきそうに思える明るい雰囲気が湧き上がりました。ムードメーカー気質でどことなく後輩感のある彼女は、いつも仕事の雰囲気をよくしてくれるので周りから重宝がられています。彼女と一緒に仕事をするときはいつもこの笑顔があるのですっかり慣れてしまいましたが、やっぱりいい子だなとほほえましく思えます。

 あなたはマネージャーさんに先導されて新幹線のホームに向かう途中、どこか違和感を覚え、しばらく考えた結果、そのマネージャーさんが仕事にいるのが久々なのだと気が付きました。今まではあなたとマキさんを見ていたマネージャーさんですが、琴葉姉妹がやってきてからは人数が倍になり忙しそうにしていました。四人の仕事を一人で見るため、すべての仕事についていくことはできません。特にあなたとマキさんよりは、仕事に慣れていない琴葉姉妹の方に重点的についていくことが最近多かったので、一日の最初から最後までマネージャーと一緒に行動するのは久々です。あなたはねぎらう意味も込めて、マネージャーさんに話しかけ、差し入れのお菓子でも買ってあげようとしましたが、丁重に断られてしまいました。なんでも、仕事中だからそういうのは良くないそうです。あなたは「私たちは別にそういうこと言われたことがない」と言って誘いましたが、まじめな性格のマネージャーさんは微笑みながらやはり丁寧に断りました。それから駅につくまでの間、暫くマネージャーさんと雑談をして、新幹線の入り口で別れました。

 新幹線のグリーン車にとってある指定席につくと、二列シートに予約がとってありました。もちろん、あなたとマキさんで一列、琴葉姉妹で一列に分かれて座ります。窓側にあなたが座り、通路側にマキさんが座りました。

 マネージャーさんと別れたあと、新幹線が出発しても、あなたとマキさんの間で会話はありません。しないというより、できないのです。今やテレビにラジオ、ネットのどれかであなたを見かけない日はなく、すっかり売れっ子の仲間入りを果たしたあなたは、人前でのふるまいに制限がかかっていました。どこで誰が盗撮しているかわからない現代です。プライベートなことは口に出せず、複数人で行動するときにも誰一人しゃべらないことが往々にしてありました。ロケバスなど少人数で移動できるありがたみを実感することもよくあります。

 口に出しての会話はできないため、スマホでお互いにチャットを介しての会話が進みます。席に座ると真っ先にスマホを開いて、グループチャットを開きます。今日は葵ちゃんが会話を切り出しました。

『今日行く温泉、結構有名なところなんですか?』

 それを皮切りにして、みんな一斉に話し始めます。こんなおいしい夕食があるとか、こんな景色がきれいだとか、楽しい会話は目的地の越後湯沢駅につくまでの1時間20分、ずっと続きました。

 

 駅をでると、駐車場の向こうに青々とした山がそびえたち、都心から離れた実感として胸の中に広がってきます。空気も心なしか澄んでいるような気がします。やがてスタッフさんたちが出迎えてくれて、駅の看板を背に、番組の冒頭の撮影が始まります。この1年半でだいぶ撮影になれたあなたとそれより先輩のマキさんは琴葉姉妹を手助けしつつ、撮影を進めていきます。もらった台本通りに進んでいき、無事撮り終わりました。

 次は温泉街での撮影です。足湯やお土産屋さんを背景に、四人で会話をしながら歩きます。時々店先に並んでいるものに目を引かれては少し立ち止まってあれこれ会話するのを20分ほど続け、このカットも撮影終了です。次はようやく旅館での撮影ですが、移動風景も撮影します。マイクロバスにあなた達四人と撮影スタッフが乗り込みます。後部座席はコの字型になっていて、奥一列にあなた、マキさん、茜ちゃん、葵ちゃんの順で座り、移動しながらの撮影が始まりました。

 小一時間の移動の間、休憩を挟みつつ短い撮影が何度か続き、到着したころにはだいぶ疲れてきました。温泉での撮影準備ができるまでは部屋で待機することになっているので、ちょうどよい休み時間になりそうです。マネージャーさんとみんなで向かった部屋は畳に大きな黒いローテーブル、四つの座椅子、部屋の向こうには景色を一望できる窓と広縁と呼ばれるちょっとしたスペースがあります。まさに旅館といった趣で、全員来るのが久々なこともあってテンションは上がり目です。しかし一応まだお仕事中なので、あまりはしゃぎすぎないようにしているのがあなたを含めたみんなの様子から何となく伝わってきます。どことなくムズムズした感じで過ごすことになるかと思いきや、マネージャーさんは一旦部屋を離れるらしく、準備ができたら呼びに来ると言って部屋を出ました。

 監視の外れたあなた達はようやく一息つけると各々伸びをしたり、部屋のものをあれこれ見て回ったり思い思いに過ごし始めました。あなたが座椅子の一つに座ると、マキさんが空いている座椅子を引っ張ってきて、あなたのすぐ横に座ります。

「ゆかりちゃんお疲れー」

 あなたが挨拶を返すと、彼女はあなたの手をとりながら琴葉姉妹の方を見ます。あなたもその視線に誘われて、彼女たちを見やると、外の景色についてあれこれ言っているようでした。あの山は何という山で、あっちに流れている川は何という川でとスマホの地図と見比べながら楽しんでいるようです。それを眺めながら休んでいると、マネージャーさんがやってきました。撮影の再開です。用意されたベンチコートを受け取り、部屋で水着に着替えます。

 室内にはあなた達四人だけがいるのみですが、おのおのベンチコートをはおりながら着替えていきます。あなたはもちろん、ほかの三人もむやみに裸をさらしたくないのは当たり前の話で、番組側の心遣いに感謝しながらありがたく使います。水着に着替えてそのままコートを着ると、温泉に向かいます。

 

浴室内は撮影のために貸切られているようです。脱衣所に入ると、すでにスタッフさんが準備を終えていました。スタッフさんからバスタオルを受け取って体に巻き、ベンチコートを脱いで撮影開始です。湯気や景色など、温泉の魅力を引き出す映像をとるため、気合の入った撮影が行われていきます。体調を崩してはいけないので、あなたとマキさんで1ペア、琴葉姉妹で1ペアと、片方が撮影している間はもう一方が脱衣所で涼み、二交代制で効率よく撮影していきます。その場で映像の確認したのち、メイクを直して撮影をしなおす工程を何度か繰り返し、結局、撮影には2時間ほどかかりました。

 浴室内の撮影が終わるといったん部屋に戻り、浴衣姿に着替えて、大浴場の暖簾をくぐるシーンの撮影です。日帰りのお客さんが帰ってからでないとこの撮影ができないため、順番が前後しての撮影となりました。スタイリストさんにきっちり着付けをしてもらい、さっと撮影して終了です。

 撮影から帰ったあなた達四人は部屋で待機していました。この後は別室で夕食の撮影ですが、準備に時間がかかり、加えて食事だけでの撮影もあるため、約2時間の待機となります。ここでただ2時間待っているとなると時間をつぶすのに大変ですが、あなたには秘密兵器がありました。持ってきたキャリーカートの中からゲーム機を取り出すと、備え付けのテレビに接続します。

「ゆかりちゃん、やっぱり持ってきたんだ」

 マキさんはちょっと呆れながらもコントローラーの準備をして、琴葉姉妹もすぐ横に座ってスタンバイしています。

「さすがゆかり先輩、準備いいですね!」

「仕事うまく進めるコツ知ってはりますよね」

二人からの誉め言葉で得意げになっているあなたをマキさんが小突きます。

「調子乗っちゃだめだからねー?」

 軽くたしなめられながら、ゲーム機を起動して、突発ゲーム大会の開催です。

 

 国民的人気のレースゲームに熱中していると、あっという間に時間は過ぎました。結局あなたは2位で、3位にマキさん、4位は茜ちゃん、今回の優勝は葵ちゃんです。口々に感想を言っているとマネージャーさんがやってきて、出番の呼び出しがかかりました。部屋の前で浴衣にピンマイクを付けてもらいながら、撮影は部屋に入るところから行うと説明を受け、きちんと気持ちを作ってから部屋に入ります。扉は空いているものの、スタッフが部屋の中にいるため、様子はわかりません。

 部屋に入ると、テーブルには四人分の夕食が並べられ、周りには照明機材とカメラが立っています。

「うわぁ、おいしそうですね!」

 部屋に入って早々に声を上げたのは葵ちゃんでした。彼女は思ったことを素直に口に出すタイプながらちゃんとポジティブなものにとどめているので、やはり雰囲気をよくする筆頭です。彼女に続いて各々リアクションを取り、さっそく食事をいただきます。メニューは一人ずつ小さな鍋でいただくすき焼きと地魚のお造りを中心に、本格的な会席料理が並べられています。どれから手を付けるか迷うほどですが、とりあえず近くにあった前菜をいただきます。親指の先ほどの大きさにそろえられた鮭のお寿司、河豚の煮こごり、蒸しエビ等、どれもかわいらしく、味も素晴らしいです。思わずほほが緩んでしまうのが自分でもわかるでしょう。続いて吸い物、お造り、茶わん蒸し、カツオのワイン煮、すき焼き、お米にデザートと楽しく会話しながら一通り食べたころには1時間ほど経っていました。たっぷり食べ、ご飯のシーンの撮影終了です。これで今日の撮影が終わり、スタッフ含め全員でお疲れ様の挨拶をしたのち、解散となりました。

 

 最初に通された部屋に戻り、マネージャーさんとの明日の予定の確認をしていると、布団を敷きに女将さんがやってきました。それを横目に見ながら打ち合わせを終え、おかみさんと一緒にマネージャーさんが出ていくと、ようやくお仕事モードから解放されます。あなたは手早くメイクを落とし、布団に飛び込みました。

「こらー、はしたないぞー」

 マキさんから優しくたしなめられますが、ひんやりしながらも柔らかな布団に頬ずりすると、仕事の緊張感が一気に解けていきます。枕を抱きしめると、体はすっかり休止モードです。食後の満腹感もあって今にも寝てしまいそうですが、マキさんから提案がありました。

「せっかくだし、みんなで温泉入る? 今日は貸し切りみたいだし」

「ええやん、裸の付き合いってやつ?」

「お姉ちゃんが行くなら私もー」

 あなたは思わず起き上がるものの、どう返事しようか悩んで固まってしまいます。マキさんと一緒に温泉に入りたいものの、琴葉姉妹に裸を見られるのはちょっと抵抗があるのです。それを見越してか、マキさんがあなたの手を取ります。

「ほら、ゆかりちゃんも行こうよ。それとも、一緒に入るの嫌?」

 もちろん来てくれるよねと言わんばかりの表情で、あなたを誘います。しかも、マキさんと入るのが嫌かと聞かれてしまえばしょうがありません。あなたは着替えを準備すると、みんなと一緒に大浴場に向かいました。

 大浴場につくと、みんなそれぞれ服を脱ぎ始めます。あなたは脱衣所の隅でできるだけ体を隠しながら脱ぐと、三人の後ろからついていくようにして浴室に入っていきます。マキさんを先頭に茜ちゃん、葵ちゃんと続き、彼女たちの後姿を眺めると、思いのほかみんな体形に差があることに気が付きます。マキさんはもちろんのこと、葵ちゃんも思ったより女性らしい体つきで、後ろから見て一番スレンダーなのは茜ちゃんでしょうか。あなたは自分の体形を思い出し、ほんの少しだけナーバスになります。あなたは最近お尻が大きくなってきたことを気にしていました。マキさんはグラマラスな体形で整っていて、スレンダーという面では茜さんが一番それらしく見えます。葵ちゃんはその中間で、バランスのいい感じです。それに比べると、ちょっと気になるのが正直なところです。

 浴室に入ると、撮影の時には気にならなかった熱気が襲ってきます。どうやら撮影時には換気などをして多少なりとも過ごしやすくしていたようです。入った順に座ると思ったあなたは、入口にほど近い椅子に座りました。すると、あなたの左右を琴葉姉妹に固められてしまいます。右に葵ちゃん、左に茜ちゃんが座り、さらに左にマキさんが座っています。マキさんは座ってからそれに気が付いたようで、「ゆかりちゃん人気者だねぇ」と弄ってきますが、あなたは裸を見せ慣れていない二人に固められてしまい、緊張して返す言葉がぱっと浮かびません。左右を見ては彼女たちの裸が視界に入ってしまうため、真正面を向いてさっさと体を洗うことにしました。暖かいシャワーをかぶると、一日の疲れが解けて洗い流されていく気がします。水であらかた汚れを落としてから、持ち込んだシャンプーで髪を洗います。それを見たのか、葵ちゃんがシャンプー談義を始めます。

「あ、ゆかり先輩はどこのシャンプー使ってるんですか? わたし、ちょっとシャンプー変えてみようかなって思うんですよね」

「ウチもきになるなぁ。ゆかりさんの髪きれいやし」

左右からの声にこたえながら髪を洗います。手でシャンプーを伸ばして、頭頂部から順に泡で包むようにして柔らかく汚れを落としていきます。こめかみあたりから長く垂れた髪もすくようにして洗い、シャワーで流します。続いてコンディショナーで一日のダメージをケアし、しっかりと洗い流してひとまず完了です。そこまでしたところでふと気になり、横目で左を見ると、茜ちゃんがまだ髪をシャンプーで洗っているところでした。

「あれ、ゆかりさんはもうコンディショナーまでおわったん? やっぱ髪短いと洗う手間もかからんでええなぁ」

確かに、琴葉姉妹もマキさんも腰あたりまである長い髪の持ち主で、マキさんが風呂に入るときはいつも髪を洗うのに時間がかかっていました。琴葉姉妹もやはりそのようです。あなたが二人の髪の長い美しさを褒めるとマキさんが「私はー?」と聞いてくるので、「もちろんとってもきれいですよ」と答えます。

このやり取りに何か思うところがあったのか、何やら左側でやり取りが聞こえてきます。あなたは体を洗いながら聞き耳を立てました。

「マキさんはゆかり先輩が大好きなんですねぇ。妬いちゃいました?」

「妬いてなんかないよ? ただ私も話に混ざりたいなーって」

「ちなみに私はお姉ちゃんとおそろいのヘアスタイルにするのが好きなんですけど、マキさんはゆかりさんの髪型どんなのが好きなんですか?」

「私はあのままが好きかなぁ」

「やっぱり、そのままの君がいいってことです?」

「それもあるけど、後ろ髪が短いと首にいたずらしやすいし」

 ちょうど首を洗っていたあなたは思わず肩をすぼめて反応してしまいますが、それがばれては弄られるのが目に見えてるのですぐに戻し、隠そうと努めます。

「あ、ゆかりさん今びくってなりましたね。やっぱり敏感やったりするん?」

 ただ、努めても隠しきれるかは別の話で、茜ちゃんには見られていたようです。あまりその手の話が得意でないあなたは答えに困りますが、マキさんが代わりにこたえてくれました。

「ゆかりちゃん、今ではすっかりいい反応をしてくれるようになってさー」

「ということは、昔は……?」

「ゆかりちゃんの体は私が開発した」

 あんまりな言い方にあなたは抗議しますが、「でもそうでしょー?」とあけすけに言われてしまいます。恨めし気にマキさんを見ても、「はいはい、そういう顔してもかわいいので無駄ですー」と流されてしまいます。あなたは言い返すのをやめ、手早く体を洗いました。1年半もこの体で過ごせば、もう慣れたものです。自分の体に欲情するわけもなく、さっさと風呂につかることにしました。

 あなたがしばらく風呂に浸かっていると、ようやく体を洗い終わった三人がやってきました。みんな髪を頭の上でまとめ、湯船に入ってきます。どことなく嫌な予感がしながら待っていると、また琴葉姉妹があなたの左右にやってきました。しかも今度は肌が触れそうなほどの距離です。右に茜ちゃん、左に葵ちゃんが来ます。せめて距離を取ろうと前に移動しようと腰を上げると、それを阻まれてしまいました。なんとマキさんがあなたの目の前に陣取ったのです。壁際で三方向から追い込まれたあなたはもはや詰みでした。あなたはどうしてこんなに近くにいるのか三人に聞きますが、聞き流されてしまいます。

「それにしてもゆかり先輩って、本当にスタイルいいですよね」

「ほんまにそう。まさにモデルさんって感じでうらやましいわぁ」

「でしょー?」

 いや、マキさんはどんな立場で言っているんだと突っ込みたくなりますが、それを言うとまた弄られる気がするので黙ることにしました。体を見られている気がして、膝を抱えて縮こまります。

「どないしてんゆかりさん。恥ずかしいん?」

 茜ちゃんの質問にも黙っていると、葵ちゃんがどことなく楽し気にして、あなたにより近づきます。

「そんなにゆかり先輩が黙ってるなら私にも考えがありますよ~?」

そういうと、彼女はあなたの左腕をとって胸元に抱きしめます。それを見た茜ちゃんも続き、あなたの右腕をとって抱きしめます。あなたは腕に感じる感触からなるべく意識を逸らしつつ、マキさんに助けを求めました。

「いやぁ、ゆかりちゃんの困ってる顔、かわいくて好きなんだよねぇ」

「わかります! ゆかり先輩って何というか、こう……弄りがいのあるというか」

「わかるわぁ」

 明らかにあなたの意見はこの場において劣勢で、もう諦めるしかありません。あなたはおとなしく受け入れるほかありませんでした。

 

 風呂から上がってしばらくまたゲームで遊び、ちょうど体も冷えてきたのでそろそろ寝ようとなったときです。あなたは今までの流れだとまた琴葉姉妹に挟まれる羽目になるかと心配していましたが、今度はそんなことありませんでした。マキさんが「ゆかりちゃんは私と一緒に寝ようねー」と布団に連れ込んだためです。それには琴葉姉妹も口を出せず、無事に寝ることができたのでした。

 しかし、そう思えたのもはじめのうちだけでした。いつものようにマキさんに後ろから抱きしめられて目を閉じていると足元を誰かに撫でられ、思わず腰を動かしてしまいます。それがマキさんに伝わったのか、彼女から声をかけられます。

「ゆかりちゃん、どうしたのかな?」

 彼女から毎晩かけられた、どこか艶やかなその声はあなたの耳をくすぐり、その刺激は背筋にまで伸びていきます。それを見たのか、マキさんはあなたを抱きしめていた手を胸元とおなかにずらしていきます。あなたは小声で「琴葉姉妹に気づかれては困る」と抵抗しましたが、止まる様子はありません。マキさんはあなたの首筋に唇を落とすと、軽くついばみます。すっかりその気の彼女ですが、あなたは気が気でありません。なにせ、足元をマキさん以外に触られているのです。今あなたは少なくとも3つの手で触られていて、琴葉姉妹のどちらかがあなたにいたずらしているのは明らかです。姉妹が寝ていた布団を見ると、どちらの姿もありませんでした。そして、あなたの隣に敷かれていた布団の足元が膨らんでいるのが、暗いながらもかろうじて見えます。あなたはマキさんに姉妹のことを伝えようと口を開きましたが、マキさんはあなたの口を手で覆い、「声出したらばれちゃうよ?」と囁きます。ばれるも何もすでに参加されているのですが、伝えることはできません。今ここで大きな声を出してしまえば、姉妹のもう片方も参戦してしまうかもしれないのです。あなたは流れに身を任せることにしました。もっとも、あなたはこの後すぐ、両足をなめられ、行くところまで行ったことに気づきます。

 

 翌朝、あなたが目覚めると、マキさんはまだ寝ているようでした。そっと腕から抜け出すとまだ足元の布団が膨らんだままだったので、ゆっくりとのぞき込んでみます。

 そこには琴葉姉妹両名が抱き合って寝ていました。思えば、途中からはマキさんの感触しかしなかった気がします。なんだか、盛大に遊ばれたような気がするのでした。

 

 その日の撮影はこれといった問題も起きず、また夜がやってきました。照明は既に消され、あとは寝るだけです。恐ろしい狼が三匹放たれた檻の中にウサギが一匹迷い込んだら、きっとこんな気持ちになるのでしょう。あなたはマキさんに、二人を背にして眠ってもらおうとしました。しかし、彼女は一手にそれを切り捨て、布団に寝転がったあなたの頭の両側に手をついて、覆いかぶさります。それはまるで自宅で過ごす夜のようでした。まさか琴葉姉妹がいる中でするとは思えず、あなたはその意図が分からなくて混乱します。その様子を見ていたマキさんは満足げに笑った後、いつもの意地悪な顔を見せました。

「ゆかりちゃん、ゆかりちゃんは罪な女だね。みんなから愛されてしょうがないの」

 彼女の発言の意図をくみ取ろうと頭をひねっていると、あなたの両側に琴葉姉妹が座りました。視界の右には茜ちゃんが、左には葵ちゃんがいて、二人からも見下ろされます。自分を見下ろす三人の顔に、あなたの思考回路は追い付かずリミッターをかけました。首筋から頬、耳と熱が伝わっていくのが自分でもわかるでしょう。

「ゆかり先輩。私達、マキさんと話し合ったんです」

「ゆかりちゃんが可愛すぎるからあかんのやで」

「ということで、今日はいつもの三倍、ゆかりちゃんを可愛がってあげるから……たっぷり楽しんでね」

 マキさんの顔は、いつもよりもさらに恍惚としていて、意地悪で、あなたの目を離しませんでした。

 

 二日連続で襲われたあなたは最終日の撮影を疲れた体で何とか終え、新幹線に乗り込んで帰宅します。なんだか、琴葉姉妹との距離が近くなって仲良くなったのは良かったのですが、さすがになりすぎた気もします。しかし、相変わらずあなたはマキさんを独占できていたので、マキさんがいいならこの関係もこれはこれでいいかもしれないと思えてきているのも本音でした。

家に帰り、流れでマキさんと一緒にお風呂に入ったあなたは彼女に聞いてみます。琴葉姉妹にちょっかいを出されているのを受け入れるのはどうしてなのかと。すると、彼女はこう答えました。

「私が独占しているゆかりちゃんの顔も、いろんなところから攻められていっぱいいっぱいになっているゆかりちゃんの顔も、どっちも大好きだからなぁ……。でも、二人に渡したつもりはないから。ゆかりちゃんは私のもの」

 そんな都合のいいセリフも、惚れた弱みの前にあっては受け入れてしまうのでした。

 




感想、お気に入り、ありがとうございます。
こんなもんなんぼあってもいいですからね。
まだの方はしていただけるととっても喜びます。
あまり返せるものはありませんが、もしよかったらぜひお願いします。


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新居への引っ越し

豚もおだてりゃ木に登るぶひぃ。

ゆかいあも書いているのでそのうち投稿します。
2020/10/30
改行を増やし、先頭の一字下げを修正しました。


 温泉旅館の撮影で茜ちゃんと葵ちゃんがマキさんと共にあなたを可愛がるようになって以来、事務所はあなたの心安らぐ場所というより、煩悩を揺さぶられる場所になっていました。三人のうち誰かが一緒にいる時点で、それは確定してしまうのです。

 例えばマキさんの場合、あなたを見つけると正面や後ろから抱きしめてきます。柔らかな胸はあなたの首元と顎にちょうどあたり、あなたを優しく包み込みます。そしてあなたの後ろ髪を優しく撫でながら「いい子だねー」などと声をかけ、あなたを甘やかすのです。あなたを端から端まで認めてくれる彼女は聖母のような包容力を感じさせ、ずっとそのまま抱きしめて欲しくなるでしょう。

 茜ちゃんならあなたをひと目見ると元気に飛びついてきて、ギュッと抱きしめます。あなたの耳元に顔を埋めて匂いを嗅いで来たり、匂いをつけるように頬擦りしたりしてくるのは犬か猫か、どっちにしても可愛い動物じみたところがあります。そしてその後すぐ横にピッタリとくっつき、あなたの片腕を抱きしめてからお喋りします。マキさんのように大きな胸があるわけではありませんが、その分女の子の柔らかさをお腹から胸元まで全部使って伝えてきます。ペットと言うと聞こえが悪いかもしれませんが、わかりやすく懐いてくれるいい子です。

 葵ちゃんなら少し上目遣いに近づいてきて、首筋や胸元の広めな服装で誘ってくることが多いでしょう。もちろんあなたの前以外では上着を着ているので、その光景はあなた専用の特別なものです。シミひとつなく透き通るような肌を見せつけられ、ついつい目が追ってしまいます。そして服の胸元を摘んでパタパタと風を送ったり、髪をかきあげたりしてわざと隙を見せられると、作為的なものだと分かっているのにじっと見てしまうのでした。そして、あなたとキスできるほどに近づいてから「何見てたの?」とそれを弄ってあなたを赤面させるまでがいつものお約束ですが、どうにもあなたは毎回これに引っかかってしまうのでした。

 そうして、各々自分の個性や長所を使った誘い方であなたを夢中にさせようとしてきます。それはあなたにとってはまさに急所に当たるものばかりで、そんなことをされた時にはいつも耳まで赤くしてしまいます。この生活が温泉旅館の取材からずっと続いていますが、未だに慣れる様子はありません。そして、そんな反応は彼女たちを色めき立たせ、ますますエスカレートしていくのでした。

 

 しばらくはそれでも上手くいっていました。しかし、しばらく経ってあなたが事務所によく行くようになると、不都合が起き始めます。マキさん、茜ちゃん、葵ちゃんの誰もが暇を見つけると事務所に入り浸り、あなたを待ち構えるようになったのです。そして、あなたが行くと三人全員が待ち構えていることも珍しく無くなって行きました。そうなってしまうと、各々が満足にあなたと触れ合えなくなってしまうのも無理はありませんでした。

もちろんそんな状況には皆不満を抱き、解決策が出されました。日替わり制です。一週間のうち、二日ずつをそれぞれに割り当て、残った日はあなたに選んでもらおうと言うのです。

 しかし、この案には琴葉姉妹から猛反対がありました。マキさんはあなたと同棲しているのだから、その分少なくするべきだという意見です。また、あなたは我が弱いので、誰かを選ぶのは難しいのではないかと言う意見も出ました。しかし、そうは言ってもなかなか折り合いは付かず、話し合いは難航しました。

 

 その答えは、意外なことにあなたから出てきたのでした。あなたが呟いた「もう皆一緒に住んじゃえばいいのに」という一言が、琴葉姉妹の弁を加速させたのです。つまり、マキさんだけがあなたと同棲しているからいけないのであって、皆ひとつ屋根の下同じ家に住めば解決するのではないかと。この意見にはマキさんも納得が行ったようで、新しい住居探しが始まったのでした。

 あなたはウェブサイトで物件を探してみますが、四人が一緒に暮らすとなると、なかなかいい物件は見つかりません。都内のマンションはどこも狭く、キッチンとリビング以外に四人それぞれの部屋を設けるとなるとかなり選択肢が絞られるのです。さらにあなたはよく配信をするため、防音がしっかりしているか後から防音室を導入できる物件でなくてはいけませんでした。今住んでいる家や今払っている家賃と比較して、いい感じに住めるところとなるとなかなか見つからず、困っているとマキさんが覗き込んで来て、ちょっとびっくりする発言をしました。

「ゆかりちゃん、そんなに安いところ頑張って探さなくてもいいのに」

 随分と羽振りのいい台詞だと驚いたあなたですが、ふと気がついて経理担当のスタッフのところに向かいます。その担当者はあなたの給料を管理している方で、あなたは毎月決まった額を普段使いの口座に入れてもらい、それ以外を貯金用口座に入れてもらっていました。そして、給料が上がっても普段使いの口座に入れてもらう額はあなたが事務所に入ってからずっと変えていませんでした。つまり、給料が上がっても口座に入る額が変わらないのです。そこで、あなたは経理の方に今現在、毎月いくらもらっているのかを確認しました。すると驚くことに、あなたが入ってすぐの頃にもらっていた額の数倍にまで上がっていたのです。おそらくですが、同じように働いているマキさんも同程度の収入があるのでしょう。それを考えると、あの発言もありうると思えたのでした。今思えば入った頃よりも仕事の幅は広がり、レギュラー番組も増え、先々での待遇もよくなっていた気がします。それらも全て繋がり、なんだか急に偉くなった気がします。その一方で、プライベートで人前に出かけるのも怖くなってきました。それだけ人に顔が知られているのです。出先で何かあったら困ります。今度から買い物に行く先はちょっといい所にしようと心に決めたのでした。生活水準の上がる見込みが立ったとは言え、ここで慢心しては足をすくわれるかもしれません。あなたは経理の方に振り込む額を倍にしてもらい、みんなのところに戻りました。

 あなたがマキさんに給料の話をすると、どこかでみた呆れ顔をされてしまいました。

「ゆかりちゃん、結構前にお給料の明細ちゃんと見なって言わなかったっけ?」

 言われてみれば、そんなことを言われた気がしないでもありません。しかし、まさか入って二年の間にこれほど変わるとは思っていなかったのです。

「ゆかりちゃん。私たちは人気商売なんだから、人気が出れば一気に動くお金が変わるんだよ。それはつまり落ちる時は落ちるってことだけど……。もらえる時にはもらっておかないとね」

 言われてみればそれもそうです。きちんと貯金をしつつ、消費もして社会に還元しなくては。そう考え、新しい気持ちで物件を探すのに戻りました。

 予算が増え、物件の選択肢が増えると、今度はいろいろこだわりたくなってきます。四人一緒に住むのですから部屋も多くないといけませんし、セキュリティも大事です。相変わらずコンビニには行くと思い、その距離も気になるところです。いろいろ考えた結果、結局都内にある、5LDKの戸建てを借りることになりました。その金額は、一月借りるだけで新入社員の1年分の家賃を使うほどです。マキさんにその額を見せたところ、「これ、人数で割ったら今住んでるところにちょっと色をつけたくらいだよ?」と言われてしまいました。よくよく聞いてみると、今住んでいる家の家賃は7割程度がマキさんの負担、残りがあなたの負担だったそうです。そんな風に分けた理由を聞くと「新人さんは最初お金持ってないしねぇ」と言われてしまいました。実際そうだったのですが、少しくらい相談してくれても良かった気がします。琴葉姉妹に今住んでいるマンションの印象を聞いてみたところ「すっごくいいところだとは思ってました」と当たり前のように言われ、家のランクに気が付いていないのはあなただけだったようです。値段の理由を聞けば立地が大半だそうで、マンション自体の豪華さとはまた別の価値に気付いていなかったようです。

 

 新居の話が出た翌月、手続きや引っ越しが完了しました。下見をし、契約、業者の手配など諸々がとんとん拍子で進んだことに驚きつつ、立派な一軒家に住める嬉しさとワクワクで胸がいっぱいです。引越し前日は楽しみでなかなか寝付けないほどでした。

 新居は表参道駅に徒歩で20分ほどのところにあり、スタジオへのアクセスも良くなりました。茜ちゃんは無邪気に嬉しそうにしていましたが、葵ちゃんはこの家に住むと決まってからずっとどこか固くなっていました。訳を聞いてみると「あんなに高いお家に、ほぼマキさんとゆかりさんのお金で住むなんて緊張します!」とのこと。実際家賃の4割ずつをあなたとマキさんではらい、他を琴葉姉妹に払ってもらっているので、気持ちはわかります。しかし、彼女たちの人気は最近どんどん伸びており、噂に聞けば仕事量はあなたとさほど変わらないそうです。遠くない将来、あなたやマキさんと同じくらい稼げるようになった時には割り振りを改めようというと彼女は一応納得したそうですが、付け加えて「お金で払えない分、いっぱいゆかりさんに尽くしますね!」と言われてしまいます。あなたは初日の夜がちょっと怖くなったのでした。

 

 新居で過ごす初日は四人全員が休みを取れるのが理想でしたが、毎日忙しいあなたはなかなかタイミングが合わず、他三人の休みが重なっている日になりました。他三人は先に生活の準備をし、あなたは仕事終わりに直接向かうことになりました。朝起きて、マキさんと玄関で別れ、気合を入れて仕事に向かいます。

 

 今日の仕事はスポーツ番組の司会です。取り上げるのは年に一度の世界大会で、今年はロシアで行われるようです。その大会前のいわば振り返り番組の撮影で、昼過ぎにスタジオに入り、打ち合わせ、メイクを経て収録が始まります。収録自体は3時間ほどで終了し、夕方にスタジオを出ることができました。

 

 新居は閑静な住宅街の一角にあり、明らかに高級住宅街の雰囲気が漂います。今日からあなたはここの住人となるのです。地図を見ながら家に向かうと、中からカーテン越しに光が漏れています。電気のついている様子を見るのは初めてなので、なんだかワクワクしてきますね。

 インターホンを押すとマキさんが出てくれました。しばらく待っていると玄関が開き、出迎えてくれます。

「おかえり、ゆかりちゃん」

 満面の笑みで迎えてくれたマキさんに「ただいま」と挨拶をすると、なんだか新婚家庭のような感じがしてつい照れてしまいます。マキさんを見ると口元がにやついているので、どうやら気づかれたようですが、あえて口に出して弄ってこないあたりマキさんも同じように感じたのかもしれません。玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えるとマキさんがあなたの手を引いてリビングに向かいます。そしてドアを開けると、単板の広々としたテーブルの上にオードブルが並べられ、その向こうには茜ちゃんと葵ちゃんが座っていました。

「今日は記念にオードブルでパーティーっぽくしようかなって」

 マキさんがあなたを席まで案内すると、葵ちゃんがグラスに飲み物を注ぎ、茜ちゃんがあなたのリクエストで食べ物を取り分けてくれます。あなたがどうしてそんなにもてなすようにしてくれるのか聞くと皆「してあげたい」の一点張りで、気になったものの深くは聞かないことにしたのでした。

 

 お腹いっぱいご飯を食べ、美味しい飲み物も飲んで満足したあなたはようやく自室に向かいます。あなたは部屋のレイアウトを前住んでいたものと変えなくて良いと言ってありました。特に不便もなく、満足していたからでした。そのため特に気負いもせず自分の部屋に向かい、扉を開けたところ、予想しない光景に思わず一歩後退りしてしまいます。見慣れた防音室と作業机はそのままですが、ベッドはセミダブルからキングサイズにランクアップし、少し離れたところには冷蔵庫も備え付けられていました。軽く中を見ると水とお茶の他にエナジードリンクまであります。

 不思議に思いながらも荷物を置き、とりあえずはお風呂に入ることにします。マキさんに聞くと既に沸かしてあるそうで一番風呂を薦められ、部屋から着替えを持って早速入ることにしました。服を取り出そうと部屋にある引越し用のケース(今回の引越し業者はちょっと良いところなのか、段ボールではなく樹脂のケースで運搬しました)を片っ端から開けてみますが、どこにも服がありません。もしやと思いクローゼットを開けてみると、そこにはきれいに服が並んでいました。そしてまるで当然のように下着まで引き出しに入っています。上着などは業者が運んだかもしれませんが、まさか下着までは触らないでしょう。三人のうち誰かがやったに違いありません。そう思うと妙に接待されているような今日帰ってからの様子も、どこか怪しく思えてきました。しかし、あなたはあえて何も言わず、その目論見に嵌ってあげようと考えます。なんだかんだ言って、あなたが嫌に思うことをやってきたことは無かったのです。

 お風呂場はよくあるものをそのまま一回り大きくしたようで、湯船の周りにはL字型に洗い場が広がっています。リフォームが入ったのか、どこも傷一つなくきれいです。あなたはいつも通りに髪や体を洗い、ついでにもう少し体を念入りに洗い、各部をしっかりケアして風呂から上がりました。意外なことに、乱入してくる人は誰もいませんでした。てっきり悪戯を仕掛けてくるなら風呂場かと思っていたあなたは肩透かしを喰らった気分です。

 ため息をつきながら脱衣所に戻り、体を拭き、下着を身につけようとしたときのことです。ようやく異変が起きました。持ってきた寝巻きがなくなり、持てば向こうが透けて見えるほどに薄い生地でできた紫のネグリジェが代わりに置いてあったのです。明らかに着ろと言わんばかりの面持ちでした。体に当ててみてそのサイズ感のちょうど良さにため息をついたあなたは、ひとまず髪を乾かすことにしました。

 指定されたネグリジェを着てその上からバスローブを羽織ったあなたは、恐る恐る自室に戻ります。風呂に入る時にはリビングにみんないましたが、今通った時には誰もいませんでした。それどころか、家のどこからも物音がしません。明らかに不審な状況です。なんとなくこの後の展開が予想できながらも、あなたは自室の扉を開けました。

 

 あなたの部屋のベッドの上には、それぞれのカラーに染まったスケスケのネグリジェを着た三人が揃って寝ていました。

 あなたは扉を閉めました。

 

 あなたは一度深呼吸し、今度はゆっくり扉を開けてみました。

 あなたのベッドの上にそれぞれのカラーに染まったスケスケのネグリジェを着た三人が揃って座っていました。

 あなたは扉を閉めました。

 

 あなたは再度深呼吸し、今度はもっとゆっくり扉を開けてみました。

 あなたのベッドの上には誰もいません。どうやら気のせいだったようです。安心して部屋に入ると、入り口の脇から出てきた三人に抱きかかえられ、そのままベッドに連れていかれました。

 




感想もらえてやる気出ました。
もしできれば、あと一回分もらえるとすごくうれしいです。

前回送っていただいた方、本当にありがとうございました。

では。


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琴葉姉妹から見た結月ゆかり

豚はおだてりゃ空も飛べるはず。

話数が5話を超えたので、短編から連載に移行しました。
短編のころは年間短編ランキング2位をいただくことができ、非常に光栄でした。
この作品を読み、評価し、お気に入りに登録してくださった方々のおかげです。
本当にありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。


 琴葉葵は前世より可愛い女が大好物である。幼い頃から人に好かれる行動を学び、媚び、懐に入って相手を自分に惚れさせる過程を学んだ。自分の思い通りに相手が態度を変えるのを見るのは何度繰り返しても心地よい。小学生の頃には同学年の可愛い子たちを一人除いて上から順に取り込み、巨大なグループを作ったこともある。その一人とは彼女の姉、現在の琴葉茜である。

 琴葉茜は前世より可愛い女が大好物である。幼い頃から人を惹きつけるリーダーシップを磨き、その背を追うものを増やしていった。中学生の頃には生徒会長も務め、同学年のみならず学校全体から一目置かれる存在となっていた。その威光を持って可愛い女を生徒会に引き寄せ、自らの理想のグループを作っていった。しかし、一番可愛い女だけは取り込むことができなかった。現在の琴葉葵である。

 この姉妹は互いに女好きを極め、なおも成長していくポテンシャルを秘めていた。自分の興味が身内に向くことも不思議だと思ってはおらず、事実一時期は向いたこともあった。しかし、それでもそれぞれが最も可愛いと信じている自らの姉、妹はその手に収まらなかった。理由は各々の作ったグループが示していた。あけすけに言えば、彼女らは両名とも生粋のタチだったのである。

 

 彼女らはそれぞれお互いの性格を理解していた。彼女らは一度自分のグループに入れた女に対して平等に接し、決して誰かを雑に扱ったり特別扱いしたりすることはなかった。それはつまり、手中に収められる人数も限りがあるということである。そして、彼女らの嗜好にはズレもあった。妹は見目の可愛さを、姉は仕草の可愛さをより重く見ていたのである。それらを使い、各々が満足できる環境を構築したのが高校生の頃だ。

彼女らは全寮制の女子校に入学した。

 

 しかし、正直言って、女子校での生活は彼女らにとって生温いものだった。端的に言えばどの女もチョロすぎたのである。彼女らは見目もよく、生まれてから今まで磨いてきた自分の武器は鉄をも貫き、向かう所敵なしであった。そして得るものを得てしまえばより高望みをするのが人の性であり、それを満足する人が周りにいなくてはどうなったか。

彼女らは2次元にまで手を伸ばした。

 

 彼女らがボイスロイドに出会うまで、そう長くはかからなかった。動画サイトをあさり、小説サイトをあさり、そして『琴葉姉妹』を見つけた。それは自らと姉妹という共通点を持ち、ボイスロイドに興味を持つには十分な理由だった。

動画を見ていくうちに、一際興味を惹かれるキャラクターに出会った。結月ゆかりである。動画によってブレはあるものの、彼女は妙に強気に出るくせに、その割には諸々によく負け、そしてまた懲りずに強気に出てくるキャラクター性だった。初めて彼女を見たとき、彼女らは今までに感じたことがないほどの欲望を感じ、それがキャラクターであることがひどく残念だった。万人に開かれた二次元の存在では、手中に収めることは不可能である。

 

 そんな彼女らにとって、その身に降りかかった異変はむしろ天恵であった。ある日起きると、容姿が変わっていたのである。姉は琴葉茜のものに、妹は琴葉葵のものになっていた。それは一目瞭然で、なにせ髪の色も瞳の色も見たことがないほど、不自然に『自然』だったのだ。染めてはいない、カラコンでもない、生まれつきのものである存在感による圧倒的な説得力で、その現状は速やかに受け入れられた。さらに、部屋の様子は変わらないものの、壁に貼ってあった写真の中の姿も、学生証も、何もかもが琴葉両名としてのものに置き換わっており、もはや否定材料はなかった。そもそも、否定しようとも思っていなかった。

 

 それからの行動は早かった。自分たちが琴葉姉妹になったのであれば、結月ゆかりも同じく存在しているのではないだろうか。そう考えた彼女らは検索サイトで結月ゆかりと検索し、そして確証を得た。テレビ番組に、ラジオ番組に、雑誌に、幅広い媒体に出演している薄い紫髪の女は求めていたその人に違いなかった。すぐさま今後どうするべきか話し合い、AHS事務所に直接話を付けることにした。今まで鍛え上げた対人技能と見目の良さを売りに自らを売り込み、彼女に接近し、そして二人の力を合わせてでも彼女を堕とすために。

 

 事務所に入るのは、思いのほか簡単だった。すでに所属している結月ゆかりと弦巻マキがもし自分たちと同じ境遇であったのならば、彼女からの口添えがあったのかもしれない。もしそうだった場合、つまりそれぞれの中身が彼女たちのイメージしている結月ゆかりのものと違っていて、琴線に触れるものから変わってしまっている若干の不安であったが、よくよく調べていくうちにそれは解消された。ネット上に上がっている彼女の実況動画を見たためである。そこにいたのは、確かに求めていた強気な割にすぐ負ける、しかし負けず嫌いで諦めない結月ゆかりだった。もともと存在していたのか、それとも似た性格の人が容姿を変えてこの世界に迷い込んだのか。どちらにせよ、満足できそうな相手だった。

 

 事務所に入って初めて結月ゆかりと会ったときは、それはもう感極まるものがあった。絶対に叶えられるはずのなかった望みが、現実味を帯びてきたのである。しかし、それを感づかせては今後堕とすのに支障があり、そしてそれを見せない上手さは持ち合わせていた。

彼女たちは、落ち着いた様子で二人と対面し悪印象を受けないようにうまく立ち振る舞えたと自分たちを評価していた。そして、それだけ冷静に状況を見ることができていると考えていた。しかし、結月ゆかりと弦巻マキ両名とボイスロイドについて聞くと案の定食いついてきたのを見て同じ境遇なのだろうと感じ、妙に安心したとき、姿も世界も変わったことが思った以上に自分たちの負担になっていたことを知った。

 

 その日の晩、弦巻マキのマンションで詳しく話を聞いた時、目の前に結月ゆかりがいることはもちろん素晴らしく幸せな光景だった。だが、気になるのは弦巻マキの存在である。彼女は横に座っている弦巻マキに、妙に懐いているのである。日中あったときはそれほど長い時間対面しなかったので気が付かなかったが、マキが横に座るとゆかりはマキの手を取るし、マキの発言にゆかりは信頼を置いているようだった。長年連れ添った夫婦のようにもみえ、ただの事務所仲間にしては仲が良すぎる。この時点で、彼女らは嫌な予感がしていた。そしてマキがゆかりと付き合っていると明言され、彼女らはまさに生まれて初めて、自分たちより先に手を付けられた獲物を見つけることになった。その気持ちたるや簡単には言い表せないが、自分の見る目に間違いがなかった自信が現れるとともに、その強者に媚びをうる腹をくくったのである。彼女たちは捕食者であるがゆえに、上位のものへの立ち振る舞いはわきまえていた。何とかして結月ゆかりの端くれだけでも自分のものにすべく、きっかけを模索し始め、今までは互いに関わらなかった自分の姉、妹と力を合わせることもいとわないと決めた。

 

 事務所に所属してからしばらくは我慢を強いられる時期だった。事務所に行けばゆかりがいる。しかし、たいていの場合マキもセットになってそこにいるのだ。いくら彼女らがやり手だとはいえ、パートナーの目の前では手が出せない。それどころか、近くに立とうとしたりボディタッチをしようとしたり、ちょっとでも気を引くそぶりを見せるとマキから牽制が入るのだ。さすがに分が悪かった。せいぜいできたのは一緒に食事に行ったり、遊びに行ったりするくらいだった。もちろん保護者のマキ同伴である。そして、いろいろ方法を考えた結果ただ一つの方法のみが残った。最後の手段だ。本丸に乗り込み、直談判するのである。

 

 マキに話を付けだしたのは、事務所に入ってから二週間ほど経ってからのことだった。最初はチャットで、そして仕事の合間を縫って直接話を伝えた。マキの仲間に入れてもらい、マキがゆかりから離れるわずかな時間だけでもゆかりを可愛がらせてもらいたいと、ゆかりのすばらしさを交えながら語ると、チャンスをもらうことができた。月末に予定されている温泉旅館の取材では四人全員が一緒に泊まることになる。そこでゆかりが彼女らを受け入れればある程度は許す。そういう話になった。

 

 温泉旅館の取材当日。ゆかりにはできるだけ仲のいい姉妹という印象を与えつつ、徐々に距離を詰めていった。夜に一緒に風呂に入り、裸でゆかりの腕に抱き着くと、ゆかりは嫌がらず、恥ずかしがっていた。その様子を見て、彼女らはゆかりが自分たちを受け入れるだろうと予想した。この女は根っからのネコで、しかも複数人からの手を全て受け止めることができる器であると示されたようなものだった。

 

 そして一日目の就寝時にはあらかじめマキと話を付けていた通りに事を進めた。先にマキが手を出し、その上で彼女たちがちょっかいをかけた。急にゆかりに迫っては、驚きよりも嫌悪感が強く出てしまうという彼女らの弁をマキが受け入れたのだった。結果、ゆかりはその流れに身を任せ、一部分とはいえ彼女らを受け入れたのだった。翌日昼間にはマキからフィードバックを受け、実際に弄るときのためにゆかりの反応する場所を勉強し、ゆかりが琴葉姉妹を受け入れつつあるお墨付きをもらって二日目の夜を迎えた。マキ先導とはいえ面と向かってゆかりに近づき、襲い、弄び、啼かせ、懇願させた。ゆかりは彼女らの想像していた数倍の、今まで経験したことのない、非常にいい反応を返し、彼女らはますますゆかりに魅かれていったのであった。

 

 温泉旅館の一件が終わり、ゆかりが彼女らを受け入れた後はなかなか面白い状況になった。彼女らからのアプローチが認められ、なおかつゆかりもそれを嫌がっていないため、マキも口を挟みかねているのだ。これはいい機会と彼女らはアプローチを激化させ、それに張り合うようにマキも今まで以上の頻度でゆかりに関わろうとした。その結果、彼女らとマキが別々にアプローチできる機会が無くなってしまったのである。これを打開するために日替わり制が提案されたが、それはマキがゆかりと同棲しているためフェアではないと彼女らが反発した。

 そもそものパートナーはマキであり、パートナーの方がそれ以外よりも長く触れ合えるのは、別におかしいことではないはずだった。しかし、彼女らがマキに対して『時間が多くないと取られちゃうって思ってます?』と煽ったため、売り言葉に買い言葉でマキは時間的にも平等にしてやろうと心が動いた。妙に方々への対応がうまい彼女らへマウントがとれる絶好の機会だとマキは考えたのである。そしてそこにゆかりが四人で一緒に住む案をこぼし、これ幸いと彼女らが乗っかり、プライドをかけてマキもその案を受け入れたのだった。

 

 結果として、やはり一年分の差はそう簡単に覆るものではなかった。一週間はそれぞれが単独でゆかりと遊べる日を一日、みんなで遊ぶ日を二日、そしてゆかりに任せる自由な日を二日取ってある。そのため、その週のゆかりの気分は最後の二日分に現れるわけだが、大抵は片方がマキ、もう片方が琴葉姉妹二人になった。バランスを考えるとそれが妥当にも思われるが、次の日が休みの方がマキ、次の日仕事がある方が姉妹二人になるのが普通で、その差は明らかだった。そうなってしまっては彼女らのプライドが許さず、ゆかりの開発と研究は激しさを増し、指数関数的にゆかりの堕落度は上がっていったのだった。しかしそこは流石なもので、ゆかりは普段の気丈な態度を崩すことがなかった。それどころか、甘んじて受け入れる以上に誘ってくる素振りすらしたのである。その割には行為の際すぐにいっぱいいっぱいになって涙目で許しを請うのは、まさにプロフェッショナルのネコであった。もちろん、やめる者はいなかった。

 

 引っ越してから一月経ち、彼女らがゆかりに対して抱いた感想は「この世のネコの真理がここにいる」というものだった。タチのポテンシャルを最大限まで引き出し、双方ともに最高の経験ができる、類まれな存在であった。体、表情、声、態度、すべてを使って表現するゆかりは、タチにとってこの上ないほどの快楽を与えるのであった。




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また、感想はどれもうれしく読ませていただいております。
指摘なども喜んでお受けしたく思いますので、気兼ねなさらずお書きくださいませ。


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ゆかり久々な一人の夜

宙に浮きました。




 9月。四人で過ごし始めてから初めて、あなた以外全員が仕事で外泊する日が来ました。マキさんは二泊三日の収録、琴葉姉妹は三泊四日の収録が同じ日に始まるため、少なくとも二晩は一人で過ごすことになりそうです。

 あなたは朝起きると、隣で寝ているマキさんを起こします。声をかけてもなかなか起きないので、肩を軽くゆすります。あなたもマキさんも下着しかつけていないため、彼女の白い肌がまぶしく、手にはしっとりとした肌の感触が伝わります。パートナーになってすぐのころは薄氷を扱うよりも恐々と触れていた彼女の体ですが、最近はいつもこうなのですっかり慣れてきました。

 夜はあんなに頼もしいマキさんですが、寝ている姿を見るとやっぱりかわいい女の子です。華奢な肩を上下させて寝息を立てている彼女をしばらく見ていたい気持ちはありますが、起こさないと仕事に遅れてしまいます。しばらくゆすり続けると、どうやら目を覚ましたようです。

 まぶしそうに眼を細めながらあなたを見たマキさんはしばらくそのまま目を合わせて、おもむろにあなたを抱き寄せます。バランスの悪い座り方をしていたあなたはすぐにマキさんの方に倒れこみ、胸元に抱きかかえられました。首元に彼女の柔らかな胸が当たり、包まれます。しばらくそれを堪能したいのはやまやまですが、そうは言っていられません。あなたが仕事に遅れると言って腕を離すように説得すると、彼女は無言で唇を突き出します。あなたはしばらくその端正な顔を下から眺め、それから「仕方ないですね」とあくまで妥協している素振りをしてから、高鳴る胸を押さえ、彼女の頬に手を添えて、そっと唇を重ねるのでした。

 

 マキさんを起こした後スウェットに着替え、洗面をしてダイニングに向かい、朝食の準備をします。今日はほか三人が仕事なので、あなたがご飯の当番です。マキさんは割と朝食べない派で茜ちゃんはそこそこ、葵ちゃんは比較的しっかり食べるので、各々の食べ方に合わせて作ります。はじめは慣れなかったものの、この二月ほどですっかり慣れました。シリアルや目玉焼き、パン、ベーコン等それぞれの朝ご飯を並べていくと、ちょうどみんなが起きてきました。あなたが挨拶すると、みんなは挨拶を返したのち、マキさんを先頭に茜ちゃん、葵ちゃんの順番であなたの前に縦に並びます。毎日の儀式で、もうすっかり慣れてしまったあなたは両手を広げて受け入れます。

 みんなが順番にあなたを優しく抱きしめます。これが毎朝のルーチンになっていました。仕事でしばらくあなたから離れるとあって、特に今日は長めにあなたの体を抱きしめ、それから食卓に着きました。

 

 食事をすませ、みんなを玄関で見送ります。二晩続けてあなたと別の場所で過ごすのは初めてのことで、マキさん始め、みんな少し不安そうです。自分が寂しいというよりは、あなたが寂しがるのではと心配しているようです。「一人暮らしをしていたんですから、余裕です!」と言ったあなたですが、結局みんなにもう一度抱きしめられた後、出発を見送りました。

 

 みんなを見送ったあなたは、暇な時間をどう過ごすか考えた結果、配信をすることにしました。いつもは時間を決めて配信をしていましたが、今日は何も決めず気の向くまますることにします。

ゲリラ配信を始めるとたくさんの視聴者があなたの放送を見にやってきます。少し期間が空いての配信だったため、コメント欄はかなり盛り上がっているようです。あなたは人気のバトロワFPSゲームを起動し、視聴者参加型のゲーム配信の開始です。あなたのリアクションにみんな反応し、みんな楽しんでくれているようでした。

 

 夜になり、配信にも疲れてしまったあなたはリビングのソファーでだらだらと過ごしていました。結局昼ご飯はコンビニ弁当で済ませ、晩御飯をどうしようか考えていると名案が浮かびます。宅配ピザを取り、コーラも注文し、ネットで借りた映画を見ることにしました。以前マキさんと見た映画がとても面白かったのを思い出し、それをもう一度見てみようと思ったのです。注文してから30分ほどで熱々のピザと冷えたコーラが届き、引っ越してから買った大画面のテレビで上映会が始まりました。

 

 見始めてすぐはとても楽しく過ごせていました。役者のおどけた演技に笑い、キレのあるアクションシーンは手に汗握ります。しかし、映画が中盤に差し掛かったころ、面白かったはずの映画がどうにも退屈に感じ始め、ソファーでゴロゴロしながらスマホをいじります。あなたは気づいているでしょう。マキさんと一緒に見るからこそ、楽しかったのだろうと。急に冷めてしまったあなたは、マキさんに電話をかけることにしました。チャットで電話をかけていいか聞くと、明日の準備が終わって時間ができたら向こうからかけてくれると言ってくれました。あなたはベッドに寝転がって、かかってくるのを待ちました。

 

 しばらくして、マキさんから電話がかかってきました。彼女は少し芝居がかった口調で話しかけます。

「どうしたのゆかりちゃん、寂しかった?」

 あなたはただ暇になったから話し相手が欲しくなったと言いましたが、「それってさみしいってこと?」とまた聞かれたので、話題をそらすためにマキさんの状況を聞くことにしました。順調に撮影は進んでいるそうで、予定通り明後日に帰ってくるそうです。それを聞いてあなたは、もう一晩は一人で過ごさないといけないことを思い出しました。それで少しだけさみしくなったあなたは、通話をしながらマキさんの部屋に入りました。

 マキさんの部屋には何度か入ったことがあります。12畳程度の部屋の中心にはカーペットと座椅子が置かれ、壁にはテレビがかけられています。そしてダブルベッドに本棚、机が置かれていて、いくつかのクローゼットが備え付けられています。

 あなたは軽く部屋を見回してからベッドに入りました。マキさんのベッドは彼女のにおいで溢れていて、布団にもぐって深呼吸してみると彼女に抱きしめられている気分になれそうです。彼女はそんなあなたの様子を電話越しに感じ取ったのか、今何をしているのか聞いてきました。あなたはベッドの上で軽くストレッチをしていると答え、また他愛もないお喋りを続けました。

 そうしてマキさんとしばらく話しているとだんだんと眠くなってきたので、あなたは彼女にそろそろ寝ると伝えました。

「あ、ゆかりちゃん寝るなら、最後にお顔が見たいなぁー」

 すっかり眠くなって頭がぼんやりしてきたあなたは。布団を足元に寄せ、ベッドに仰向けになってからカメラを付けました。マキさんもカメラを付け、ようやくお互いの顔を見ての通話が始まりました。画面越しのマキさんは一瞬驚いた顔をしたと思うと、すぐに優しい顔付きでおやすみなさいを言ってくれます。あなたは今朝ぶりにマキさんの顔をみて自然と頬が上がるのを感じましたが、それを抑えることはできませんでした。

 そしてしばらく喋り、あなたが眠気に耐え切れなくなったところでマキさんが最後に一言あるそうで、カメラを切ってスマホを耳に当てます。そして聞えてきたのは、いつも寝る前に話しかけてくるマキさんの柔らかい声でした。

「おやすみ、ゆかりちゃん。愛してるよ」

 あなたはその声を聴いてとても安心すると、あなたも「大好き、愛してます」と返して電話を切りました。そしてマキさんの布団に包まって、朝までぐっすりと眠ったのでした。

 

 朝起きると、なんだかいつもよりも体が軽い気がします。夜寝ている間に誰からもちょっかいをかけられなかったからでしょうか。疲れがすっきり取れて気分もよかったので、あなたは朝から散歩に出かけました。帰ってくるとちょうどおなかがすいてきたのでブランチにします。キッチンにある材料を見て、ホットケーキにすることにしました。

 ご飯を食べ終わり、また配信をして時間をつぶすと、ようやく夕方になりました。あなたは晩御飯に出前を頼んで食べると、散歩と配信の疲れからか眠くなってきたので、またマキさんの部屋で眠ることにしました。彼女の匂いに包まれ、また気持ちよくまどろみに包まれ、そのまま眠りにつきました。

 

 深夜、あなたは目を覚まします。スマホを見ると午前二時前を示していました。変な時間に寝てしまったせいか、妙に目がさえてしまって寝付けません。あなたは自室の冷蔵庫から持ってきた水を飲むと、マキさんのベッドの上でスマホをいじりだしました。あなたが見始めたのはマキさんの動画チャンネルです。どうにも深夜のこの時間帯は寂しくなりがちで、極々たまに誰も相手にしてくれない夜はこうしてマキさんや琴葉姉妹の動画を見て寂しさを紛らわすのでした。

 どうしてか、今日は動画を見ても気が紛れません。それどころか、見たせいでもっと人恋しくなっている気がします。あなたはスマホを閉じ、寝転がって天井を見つめます。いつもならこの時間帯はもろもろ終わって充実した気持ちで眠りにつく頃です。振り返ってみればマキさんと初めてして以来、二日間ご無沙汰なのは初めてかもしれません。あなたは眠るのに邪魔な妄想が頭に浮かびかけ、それを消そうと枕を抱きしめて布団に潜り込み、目をつぶりました。

 それがいけませんでした。暖かい布団の中で枕にしみ込んだマキさんの匂いを胸いっぱいに吸ってしまったあなたは、この行為が完璧に逆効果だったことに気づきます。枕を抱きしめるほどに胸の高鳴りが加速し、大きくなっていきます。それはあなたの体を伝わって耳まで届き、うるさいほどです。

 あなたは何とか気をそらそうとしますが、先ほど見た動画の中のマキさんを思い出してしまいます。あんなにみんなに笑顔を振りまいているマキさんが、家ではあなたを啼かせることに夢中になっているギャップ、そしてその時の支配欲に満ちた目つきを思い出し、ますます鼓動は強くなっていきます。

 結局、あなたはその欲に打ち勝つことができず、自分で自分を慰めることにしたのでした。スウェットを脱ぎ、手を肌に滑らせ、下着の中へと進めていきます。初めての経験ではありませんでした。マキさんと一緒にするとき、たまに意地悪な彼女が見ている前でさせられることもあり、彼女のアドバイスをもらってだいぶうまくなったと思っていました。

 しかし、どうにもうまくいきません。マキさんに見てもらいながらしたときはあんなにうまくいったのに、今はいくらやってもむなしいばかりです。何とか欲望を解消しようと励みますが、一向に満たされる気配はありませんでした。結局、小一時間続けてもうまくいかず、手が疲れてしまったあなたはそのままの格好で眠ってしまうのでした。

 翌朝、寝起きの気分はあまりいいものではありませんでした。悶々とした気持ちは解消されないまま若干静まり、腹の底でくすぶり続けていました。あなたはベッドから起き上がり、足を床に下ろそうとしました。その時、認めたくないものを目にしました。

 目の前にマキさんがいるのです。そばには仕事で持ち歩いていたキャリーカートが置かれています。なぜか帰ってきているようです。

「おはようゆかりちゃん、お寝坊さんだね?」

 どうしてマキさんがもう帰ってきているのかわからず、慌ててスマホを見ると午後1時を示していました。そして、スマホにはメッセージの通知が何件か続いてきています。マキさんからのようです。開いてみると、午前中に仕事が終わり、早めに帰宅すると書かれていました。あなたはだんだん事態が呑み込めてきて、冷静ではないものの少しずつ頭が回り始めます。そして、ようやく自分がマキさんの部屋で寝ていて、しかも下着姿であることに気が付きました。加えて、その下着にはしわが付いていたり、付け方がずれていたりと、あなたが昨晩ここで何をしていたかを十分に物語っていました。

 あなたは真っ赤にさび付いた首を無理やり動かしてマキさんの様子を窺いました。彼女はそんなあなたの様子を一から全部見ていたようで、ゆっくりと口を開きます。

「やっぱりゆかりちゃん寂しかったんだね。私の部屋に入って、一人でそんなことまでしちゃって、かわいいなぁ」

 マキさんはあなたをベッドの上にそっと押し倒すと、おでこ同士をくっつけてあなたの目を見つめると、いつもの支配欲にまみれた目であなたを縛り付けました。

「寂しがらせちゃったぶん、いっぱい愛してあげるね。ゆかりちゃん、大好き。愛してるっていっぱい教えてあげる」

 

 日が沈み、昇ってもまだ愛され続けたあなたは、視界の端に朝日が昇るのを収めながらベッドの上、布団をかぶってまどろんでいました。もちろん隣にはマキさんがいて、彼女の肌のぬくもりを感じながら幸せな時間を過ごしています。彼女の腕を抱きかかえ、肩に口づけして、耳元に顔をうずめると胸いっぱいに彼女の匂いが満ち溢れます。それは枕の匂いを嗅いだ時のような寂しさとはまるで違う、甘酸っぱくてあなたを惚れさせた、安心する香りでした。

 マキさんはそんなあなたの髪をなでると、あなたの顔を抱き寄せて一言、愛をつぶやいたのでした。

 

 なお、琴葉姉妹は帰ってくるなりあなたとマキさんを見て事態を把握し、その晩はいつもよりなおさら長くお楽しみになったそうな。




感想、お気に入り、評価などありがとうございます。
嬉しく読ませていただいてます。
もしこの小説を気に入られた方でお気に入り、評価がまだの方は、是非よろしくお願いします。


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イアがボイロハウスに来た日

20万PVありがとうございます。
しばらく続いた連日の更新も今日で一区切りです。
元はと言えばこの話を投稿しようと思っていたのですが、その間に挟みたい話がどんどん増えた結果のこの連続投稿でした。


 11月。新しいメンバーが事務所にやってきました。彼女の名前はイア。ピンクがかった銀髪の少女です。琴葉姉妹が事務所に来て以来、事務所がホームページに掲載している応募フォームから届いたメールは、名前と志望理由をあなたを含むメンバー四人にも共有するようになっていました。これはマキさんのアイデアで、今まであなたや琴葉姉妹を発掘した実績が裏付けとなって採用されたのでした。もっとも、実際見ているのはほぼ名前だけで、ボイスロイドの名前が載っているかどうかが気になっていました。これで問題なのはメンバーの誰もが自分と同じ境遇の人の名前を知らなかったとき、例えばメンバーがこの世界にやってきた後に発表されたボイスロイドがこの世界に来た場合ですが、その場合はファンレターの方にメッセージが来ると踏んでいます。

 そんな中、その応募フォームのリストで見つけたのがイアの名前でした。もちろん、あなた達はその名前を見た瞬間にマネージャーさんに連絡し、彼女と会ってみることにしました。

 

 事務所にやってきたイアはあなたよりもこぶし半分ほど低い背をしていて、高校生だといいます。あなた達四人にとっては当然のように見覚えがあり、親近感を持って接しようとしましたが、彼女自身はまさしく借りてきた猫のように縮こまり、あなた達との距離を保とうとしていました。マキさんはあなたにもしたように「ボイスロイドって知ってる?」と聞きましたが、どうやら知らないようでした。

 この返事には少し困ってしまいました。当然のように彼女も前世の記憶を持っていて、いつの間にかこの世界に紛れ込んでしまったクチだろうと、あなた達の誰もが考えていたからです。あなた達はもとの世界に帰りたい気持ちがほとんどなくなったものの、自分の身に何が起こったのかを知りたいという気持ちは消えたわけではありませんでした。そしてなにより、ボイスロイドを知っていることがあなた達の結びつきを強めているのです。その中に一人だけボイスロイドを知らない、そしておそらくは前世の記憶も持っていない彼女を仲間に迎えて、彼女自身がこの事務所に居づらくなってしまうのではないかと危惧しました。

 

 しかし、いろいろ話し合った結果、イアをメンバーに迎えるべきであると結論が出ました。容姿も、声も、あなた達の知っているイアと相違なく、何かあなた達とつながりがあるに違いないと踏んだのでした。正直言って博打に近いものもありましたが、仲間は少しでも多い方がいいと考えたのです。

 

 イアが事務所の一員になり、改めて顔合わせが事務所で行われました。あなたは早く仲良くなろうとイアに声を掛けて話題を振りますが、彼女は明らかに緊張で体が硬くなっていました。返事もおぼつかなく、完璧に上がってしまっているようです。考えてみれば、今やアイドルに配信者、司会者などいくつもの顔を持つメンバーがそろったこの事務所に突然放り込まれているのです。無理もありませんが、いつまでもこれでは困ってしまいます。

 これでは先が思いやられるとあなたが気をもんでいると、マキさんが彼女に声をかけました。スマホを取り出し、アプリを開いて、まずは連絡先の交換をすることにしたようです。彼女のアカウントがあなた達のグループチャットに追加され、メンバーが五人に増えました。

『イアです。これからよろしくお願いします』

 歳がそれほど離れているわけでもないのにちょっとかしこまりすぎている気はしますが、それが今の彼女のスタンスなのでしょう。あなたは気負わせないようにラフな返事をして、ついでにかわいいスタンプも送っておきました。

彼女の様子をうかがうと、微笑みをこぼしている気がしました。

 

 続いて、あなた達は彼女と仲良くなるために事務所で歓迎パーティーを催しました。前日の夜からあなたとマキさんで仕込んだ料理を振る舞い、みんなで一緒にパーティゲームで遊び、たっぷり話しました。

そうやってあなたたちの方から彼女に積極的にかかわると次第に打ち解け、一週間もすれば事務所にすっかりなじみました。敬語は外れないものの、事務所で何人か集まった日には昼食を一緒に食べたり、仕事で一緒になれば打ち上げと称して外食に行ったりしました。

 

イアちゃんがやってきてから一月ほど経ったある日、あなたは彼女から相談を受けます。それも、彼女の家に呼び出されてのものでした。どうやらイアちゃんはあなたにずいぶんと懐いていて、マキさんを苦手にしているようです。振り返ってみれば、確かにマキさんは彼女特有の勢いがあるため、慣れていなければ少し困惑してしまうかもしれません。琴葉姉妹はいつもずっと二人でくっついているので、間に入るのを躊躇する気持ちもわかります。あなたに相談事をするのはある意味適任なのかもしれません。

 

 彼女はあなたに「マキさんには内緒で来てほしい」と頼みました。マキさんに隠し事をするのは忍びなく思ったあなたですが、隠さずに言ってもそれはそれでマキさんを傷つけるかもしれないとも思いました。結局あなたは彼女のお願いを受け入れ、マキさんには仕事で外泊すると説明しました。

 加えて言えば、彼女があなたの目の前で、少し上目づかい気味に言ったその雰囲気にも飲まれた部分もありました。あなたがマキさんを愛していて、大好きであるのは疑いようのないものでしたが、かわいい女の子のしぐさはどうしても心に響くものがありました。いつもマキさんを見上げるのに慣れていて琴葉姉妹もあなたとほぼ同じ身長のあなたは、近くで自分が見上げられることに慣れていなかったのです。わずか数センチの差ではありましたが、あなたはイアちゃんに対して庇護欲のようなものを感じていたのでした。

 

 寒さが一層厳しくなってきた12月、金曜日の夜7時。あなたはマキさんに嘘をついたことを引きずりつつ、イアちゃんの自宅へとやってきました。白い吐息とともにあらかじめ伝えられていた住所に向かうと、そこは都心から少し離れた郊外との境目あたりで、4階建てのマンションが建っていました。

 外廊下を歩きながら、何処となくその雰囲気に懐かしさを覚えます。マンションの雰囲気が一人暮らしをしていたころと似ていて、イアちゃんは事務所に来てからまだそれほど経っておらず、お金がそれほど溜まっていないのかもしれないと感じたのです。

 イアちゃんも活動が波に乗ればもっといい家に住めるだろうに……と考えが進んだところで、自分が調子づいていることに気づき、反省するのでした。そして、むしろイアちゃんもみんなと同じ家に住めばいいのではと考え、あなたは帰ったらみんなに相談してみようと決めたのでした。

 

 ベージュに塗られた鉄製の玄関にたどりつき、インターホンを鳴らしてしばらくするとドアが開きました。半分ほど開けられたドアの向こうに見えるイアちゃんはだいぶ着崩した格好で、起毛のホットパンツにオーバーサイズのTシャツを着ています。襟元はサイズのせいでだいぶ余裕があり、鎖骨がすべて見えるほどの勢いです。思わず視線がその奥へと向かってしまいます。この2年で女の子の体にだいぶ慣れたとはいえ、新しい子はまた別の話でした。

「どうかしました? どうぞ中に入ってください」

 彼女から声をかけられ、あなたは視線を彼女の顔に戻しました。頬をほんのり染めながら笑っている彼女は、どこかあなたの考えを見透かしている気がします。あなたは先輩としての威厳を壊してはいけないと思い、彼女をじっと見ていたのは私服らしい私服が珍しいと思っただけでやましい気持ちがないことを強調しましたが、聞き流されたような気がしました。

 

 部屋に入ると、暖かな空気があなたを迎え入れてくれます。冬とは思えない室温で、外の気温に合わせて着こんでいたあなたは上着とパーカーを脱ぎ、いつも来ている紫色のワンピース一枚になりました。

 彼女の家の内装はシンプルで、ワンルームの部屋がモノトーンで統一された家具でコーディネートされていました。黒を基調とした木製の作業机の上にはラップトップとスピーカー、フォトフレームが置かれ、白いデスクチェアが添えられています。白く塗られた金属の棒で組まれたフレームのシングルベッドが隅に置かれ、同じく白いラグマットが床に敷かれています。その上には黒い木製のローテーブルが置かれ、さっきまで読んでいたのだろう雑誌とマグカップが置かれています。脇には丸いクッションが二つ敷かれ、そこに座っているように言われました。ちょうど、ベッドとローテーブルの間です。

 正座を崩し、足の間にお尻を落として座ったクッションは厚くない割にしっかりとしていて、床の硬さはそれほど感じません。何となくあたりを見回していると彼女が「紅茶かコーヒー、どっちがいいですか」と聞くので、あなたは気分にあった方を選びました。返事を聞いた彼女は電気ケトルでお湯を沸かし、飲み物の準備をしてくれています。しゅうしゅう、こぽこぽ、とお湯の沸く音だけが部屋に響きます。

 

 彼女はスリッパを履いてキッチンに立ったまま、電気ケトルを眺めていました。手持ち無沙汰なのか両手をすり合わせたり、つま先でリズムをとったりしています。そして、思い出したかのようにマグカップを持ってきたり、あれこれちょっとした作業をしたりするたび、その音が普通より大きく響いている気がしました。

 

 あなたは彼女から視線を外し、ローテーブルの上に置かれた雑誌の表紙に移しました。月刊のティーン誌で、マキさんが読んでいるのを何度か見たことのあるものでした。今月の目玉は『5000円以下でできる大人っぽいメイク特集』のようです。人の雑誌を勝手に読むのも、彼女に声をかけるのもはばかられたので、視線を壁へと移しました。

 A3サイズのコルクボードには、いくつかのメモと写真が貼られています。メモの内容は文字が小さくてわかりませんが、写真の内容は何となく見えました。何人かの友人と一緒に撮った写真、年頃は中学生ほどでしょうか。黒を基調として白と赤の差し色が入ったセーラー服を着ています。ほかにはスキーに行った写真、お祭りに行った写真、たくさんのイベントごとで撮った写真が並べられています。

 

 しばらくそうしていると、白と黒のマグカップを二つ持った彼女がやってきて、白い方をあなたの目の前に置くと、対面に座りました。あなたは暖かい飲み物でほっと一息つくと、彼女が会話を切り出すのを待ちました。彼女も黒いマグカップを傾けてしばらくしてから、「その、いきなり相談事から始めちゃっても大丈夫ですか」と、あなたに問いかける形で、視線を手元のマグカップに向けたまま、口を開きました。

 

「私は、ずっとゆかりさんを探していたんです。小さいころ……小学5年生の時に見た夢が最初でした。その時はゆかりさんの顔はぼんやりとしていて、ただ私を優しく抱きしめてくれていました。体格差もあって、私を包み込んでくれました。その夢をきっかけに、一月に一度くらい、ゆかりさんを夢で見るようになったんです。最初は、まさか実在する人だなんて思っていませんでした。それで、中学生になってしばらくしてから、ゆかりさんを夢に見る頻度が上がってきて、たぶん週に一回は見ていました。そのころはゆかりさんと街に遊びに行ったり、お家でのんびりする内容だったと思います」

 

 彼女はマグカップを両手で握りしめ、少し呼吸を落ち着けるとまた話を続けます。あなたは彼女の言っていることがすぐに頭に入ってきませんでしたが、ただ、何か彼女の様子が怪しいのはわかりました。話している内容は見ず知らずの人が聞けば妄想にしか思えないような内容ですが、会ったこともないあなたが出てくる夢ときいて、なにか人知を超えた力が介在しているのではないかと気になり、話に聞き入ります。今までにない切り口の神秘体験を垣間見たのです。

 

「そのころまでは、単なるお友達くらいの感覚だったんです。でも……その、ゆかりさんならきっと理解してもらえると思うんですけど……。あ、その、確認なんですけど、ゆかりさんとマキさんは付き合ってるんですよね?」

 

 唐突に投げかけられた質問に、あなたは思わず素直にうなづいてしまいます。なぜか、はぐらかせないと感じたのです。

 

「わたし、高校生になってから毎晩ゆかりさんのことを夢に見るんです。それで、ようやく気付いたんです。私、ゆかりさんのことが好きなんだなって。いつの間にか年も近くなっていて、扱われ方も対等になって、子供っていう、フィルターを通した見方をしないでくれるようになっていたんです」

 

 唐突に告白され、あなたは目の前で起きている事態を追うので精一杯になっていました。あなたがマキさんと付き合っていると知っているうえで、彼女は告白してきたのです。琴葉姉妹はマキさんに話を付けて外堀を埋める手を使いましたが、直接告白されてはどう反応すればいいのかわからず、あなたは彼女の顔を見つめることしかできませんでした。だんだんと空気が張り詰め、息が浅くなり、自分の心臓の音がうるさく感じるようになってきています。完全に、彼女の雰囲気に飲み込まれていました。

 

「そして、そのころになると、よくわからない……男か女かもわからない声で、私に語り掛けてくるんです。『彼女はあなたにとってどうしても必要な人だから、絶対に手に入れなさい』って」

 

 彼女はそういうと、あなたと目を合わせました。その目は少し潤んでいて、若干焦点があっていないようにも思えました。あなたは彼女に何か声をかけようと思うのですが、まるでのどが張り付いてしまったように、かすれた声すら出ず、ただ吐息が漏れるだけです。そんなあなたの様子を見ながら、彼女はあなたの背後に回って腰を下ろします。

 あなたは彼女の方を振り向こうとしましたが、体は答えてくれません。テーブルの上で組んだ手はそこから動かず、足の指先すら反応しません。

 あなたが困惑していると、彼女がそっと、あなたの腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめました。体全体を密着させ、頭をあなたのうなじあたりに当てているようです。柔らかな感触が薄いTシャツ越しに当たります。あなたもワンピース一枚と下着しか着ていないため、ほぼダイレクトに、その感覚がやってきます。彼女の浅く暖かい息づかいが首筋を撫で、彼女の呼吸が胸の動きを通じて背中に伝わります。マキさんが抱きしめる時とは違う、体をいっぱいいっぱいにくっつけた感触は、今まで経験したことがありませんでした。……いや、思い返せば葵ちゃんと茜ちゃんに抱き着かれたことはありましたが、ここまでぴったりくっつくことはなかったように思います。

そして、しばらくそうしてあなたを抱きしめていた彼女ですが、やがて手の位置をだんだんと胸元や足元に向けて動かし始めます。その焦らすような動きは、あなたの呼吸のペースを少しずつ、確実に速めていきました。

「ゆかりさん、私、マキさんからあなたを奪えるだなんて思ってないです。でも、どうしても欲しいんです。ゆかりさん……私のものになってください」

 さすがに抵抗しようとしたあなたですが、やはり体に力が入りません。彼女が少し力を加えただけで、あなたの体は彼女の方に倒れこみます。彼女は背後のベッドに体を預けると、あなたの耳元でこう囁きました。

「さっきの飲み物、体の力を抜くお薬が入っているんです。だから、抵抗しても無駄ですよ。ゆかりさん。わたし、ゆかりさんがどうしても欲しいので……私を忘れられなくしてあげます」

 あなたは彼女の言葉をきいて、背筋になにか刺激の走る感覚を覚えます。それは、ベッドの上でマキさんに掛けられる、甘い誘惑の言葉を聞いた時の感覚と似ていました。

 あなたの反応に気をよくしたのか、彼女は息をこぼします。それがあなたの耳にかかり、また軽い刺激が走ります。後ろから抱きしめられ、片手は太ももをさすり、もう片方は胸元を抱きかかえています。マキさんや琴葉姉妹にほぼ毎日触られ続けたあなたの体は、望んでいようがいまいが、彼女の思い通りの反応をしてしまいます。

 今思えば、妙に暖かい部屋も服を脱がすために仕組んでいたのかもしれません。彼女はあなたの肩に手をかけると、肩ひもを下ろして下着をあらわにします。そして、あなたの肩にそっと口を付けると、少し吸い、そのまま首元まで口を移していきます。

「はぁ……ゆかりさん、大好きです。愛してます」

 そう呟くと、今度はあなたの耳を口ではさみ、舌でそっと舐めあげます。耳から伝わる刺激があなたの背中を通り腰まで伝わっていきます。もう彼女に食べられてしまうのはほぼ確定しました。あなたは諦め、目を閉じて受け入れようとします。せめて痛くされないことを願って、彼女に体をゆだねるのでした。

 

 まさにその時でした。玄関の開く音とともに、いくつかの足音がどたどたと聞こえます。目を開けてそちらを見れば、マキさんと琴葉姉妹がいました。イアちゃんはそれを見て、あなたを後ろからぎゅっと抱きしめると、あなたの後ろに隠れようとします。この状況に焦っているのか、あなたのうなじに彼女の荒い息がかかります。熱く感じるほどです。

「やーっぱりここにいたね、ゆかりちゃん。私に黙ってたことはとりあえず置いといて……イアちゃん、ちょっとお話しようか」

「マキ先輩はともかく、なんで茜さんと葵さんまで……」

 どうやら、玄関のカギをかけ忘れていたようです。あなたを盾にイアちゃんは部屋の奥へと逃げようとしますが、当然逃げ切れるはずもありません。琴葉姉妹によってイアの腕はあなたから外され、家の外へと連行されていきました。マキさんもあなたにパーカーを着せるとおんぶして、一緒に外に行こうとします。背負おうとしているマキさんをあなたがじっと見つめると、彼女はあきれた様子であなたにこう言いました。

「大丈夫。悪いようにはしないから安心して」

 

 マンションの外にはタクシーが二台停まっていて、前の一台に琴葉姉妹とその間に挟まれたイアちゃん、後ろの一台にあなたとマキさんが乗り込みました。行き先はあなた達の自宅のようです。マキさんに肩を抱かれながらしばらく車で揺られているうちに、だんだんと体に力が入るようになってきました。首を回し、手を握ったり開いたりすると、少しずつ感覚を取り戻してきます。それを見たマキさんは安心した様子で微笑むと、あなたにスマホを手渡します。あなたのものです。チャットアプリを開くと、同居組、全四人のグループチャットにあなた宛てのメッセージが届いていました。

『ゆかりちゃんはイアちゃんのことどう思う?』

 あなたはイアちゃんが喋っていた内容をかいつまんで話します。この世界にもともとは存在しないあなたを夢で見ていたことが本当なら、この状況に巻き込まれた背景が違うとはいえ何か関係している可能性があるのです。それなら、イアちゃんは自分に対して悪くはしないだろうと考え、あなたは彼女を仲間に入れても大丈夫ではないかと考えました。みんなからは襲われかけたことを心配されますが、あなたはイアちゃんの手綱をみんなに握ってもらえば何とかなると丸投げしたのでした。

 

 自宅に戻り、マキさんたちによるイアちゃんの入居面接が始まりました。面接と言っても、イアちゃんがあなたに害を与えるつもりがあるのかどうか、あなたをどう思っているのかを聞くだけで、すぐに終わりました。イアちゃんは害を与えるつもりが無いと前置きしたうえであなたがどれほど可愛いかについて延々と語り、その熱意はマキさんたちにも伝わったようです。暫く一緒に住んで様子を見ることになりました。目の前で自分が褒めちぎられるのを聞くのはあなたにとって羞恥プレイ以外の何物でもありませんでしたが、その恥ずかしがっている様子までもイアちゃんは褒め、素晴らしいと語り続けたのでした。

 

 そして、この日はこれだけで終わりませんでした。イアちゃんがあなたを襲ったと知っているマキさんたちは、『あなたがどれだけマキさん、琴葉姉妹に順応しているか』を見せるべく、イアちゃんに研修を受けさせることになりました。あなたはベッドの上に寝かされ、あなたを囲むようにマキさんと琴葉姉妹が座っています。そしてベッドの脇に置かれた椅子にイアが座り、あなた達を眺めています。

 一時間後、いつも通り三人に弄ばれるあなたの一部始終を見たイアは、自分のテクニックがまだまだ及ばず、あなたをマキさんから引きはがせないことを悟ったようでした。

「ゆかりさん、もうとっくに堕とされていたんですね……」

 イアちゃんはそういいながらなんだか達観した目であなたを見つめます。あなたは息が落ち着かないまま彼女をぼんやりと眺めていると、何やら決心した面持ちでイアちゃんがマキさんに歩み寄ります。

「マキさん、私を弟子にしてください! ゆかりさんをもっと堕として見せます!」

「いい心意気だねぇ、イアちゃん。それじゃあさっそく基本のテクニックから……」

 ただでさえ三人同時に責められていっぱいいっぱいのあなたですが、今後はもう一人増えるようです。イアちゃんとマキさんは話している内容を除けば仲のいい先輩後輩ですが、内容が内容でした。あなたの敏感な部位やら指の使い方やら、身に覚えのある弱点が伝授されていく光景を間近で見るのは末恐ろしいものがありましたが、どこかで期待している気持ちがあるのは否定できないようです。

「ゆかりさん、私、いっぱい勉強してたくさんご奉仕しますね!」

 無邪気に笑うイアちゃんと口から出る言葉とのギャップの倒錯的な魅力が、あなたの視線を釘付けにしたのでした。

 



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いまさら水着回(上)

お久しぶりです。
結月ゆかり雫発表おめでとうございます。
長くなったので上下編に分けての投稿です。 


 7月。アイドルにとってはかき入れ時です。その理由は、目の前に広がっている光景が如実に示しているでしょう。

 ここはあなたの自宅。正確に言えば、あなたを含めたボイスロイド、そしてそれに関連するキャラクターに酷似した者たちが集まって住んでいるシェアハウスです。あなたはこの家に弦巻マキ、琴葉茜、琴葉葵、イアとともに暮らしています。今日は、あなた達が所属しているAHS事務所から届けられた荷物をみんなで開封し、見ることになっています。

 開放的なリビングの片隅、L字に置かれたソファーの前に置かれたガラステーブルの上に、届いた段ボールが置かれています。一辺は肩幅ほどの大きさで、あなたにとってはギリギリ持ち上げられるくらいの重さです。

「じゃあ、ゆかりんが開封の議をおねがいしまーす」

 あなたの右隣りに座っているマキさんが、カッターナイフを手渡してくれます。受け取ろうとして差し出された手に視線を向けると、視界には彼女の体がうつり込みました。自宅だからとくつろいでいる彼女は、キャミソールとショートパンツしか着ていません。豊満な胸がキャミソールを押し上げており、ちょっと気まずくなってしまったあなたは、努めて冷静を装いながらカッターナイフを受け取り、段ボールの封を切りました。

 蓋を開けると、中には透明なビニール袋で分けられた大量の服が入っていました。一番上にあったオレンジ色のものを手に取り、袋から取り出して広げてみると、どうやら下着の上下セットのようです。しかし、パンツが両端を紐で結ぶタイプに見えながらも実はただの飾りだったり、ブラは背中側の構造が普通のものと違ったりしていて、ちょっとおかしいことに気が付きます。

「うわぁ、かわいい水着ですね! 海で撮影でもするんですか?」

 あなたの左隣に座っている葵ちゃんが、気になってたまらないとばかりに箱の中の小袋を次々と取り出します。言われてみれば、確かに手に取ったのはビキニタイプの水着でした。女性ものの水着といえば上下セットでそれ専用のハンガーにかかったイメージがあったので、すぐに思い当たらなかったのでしょう。

「ゆかりさん、これ着てください!」

 あなたの左前、L字になったソファーの一番遠くに座っているのはイアちゃんです。彼女が広げて見せているのは、黒いマイクロビキニのトップスでした。500円玉程度の布地に紐がくっついているだけの、もはや水着といっていいかわからない代物です。彼女は一緒に暮らすようになってから自分の欲を非常にオープンにしており、その量はあなたを囲っているほかのメンツより数段上を行っています。そして、どう対処しようかあなたが迷っているところにマキさんが助け舟を出すのもまた、いつもの流れです。

「いや、撮影の衣装選びだからね。これ。ゆかりちゃんをかわいがる時のコスプレ衣装選びじゃないからちょっと落ち着こう」

「私、別に撮影で着てほしいって言ってないです。私と一緒に寝るときに着てほしいなーって」

「はい、没収でーす。預かっておくからまた今度ね」

「今晩使うつもりですよね、それ」

 マキさんとイアちゃんの間で何かが起き始めましたが、あなたは考えないようにして左隣の葵ちゃん、そしてその奥、イアちゃんとの間に座っている茜ちゃんと一緒に水着の検討会を始めました。

「ゆかりさん、これはどうやろか?」

 茜ちゃんが見せてくれたのは、フリフリとした生地で飾られたトップスの黒いビキニです。なるほど確かに可愛いと思ったあなたは、胸元にあててみます。あなたが今も着ている、いつもの紫色のワンピースはあなたの体にぴったりとフィットするものなので、イメージが付きやすいことでしょう。サイズはおおよそちょうどよく、あなたの鎖骨の下あたりから胸元全体を覆います。

「はい、これが下ですわ」

 続いて茜ちゃんから渡されたのは、手に持っているトップスと対になるものです。あなたはトップスをいったんおいてそれを受けとり、しばらく眺め、前から思っていたことを口に出しました。ビキニタイプの水着、下着と変わらないのでは?

「まあ、隠す面積的には変わらないですよね。でもこっちはいろんな人に見せることを念頭に作られているし、絶対に透けないように厚手の布で作られてますよ」

 わからなくはないですけど、と葵ちゃんがフォローを付け加えてコメントすると、ほかの面々も、イアちゃんやマキさんもそれに同意しました。

「男の人からしたら水着も下着も変わらない感じ?」

 マキさんがそう尋ねたので、あなたはイメージしてみました。あなたがベッドの上であおむけになり、マキさんがそこに覆いかぶさってきます。彼女がおもむろに着ていたブラウスとスカートを脱ぎ、水着姿になりました。

 ……何か違う気がするでしょう。何というか、いけないことをしている背徳感の欠片もありません。見られる前提の格好をしているだけといえばそれだけでした。最も、場違いな格好をしているという点でのコスプレ的な要素はありますが。

「まぁ、そういうことだよ」

 マキさんは完全に理解してもらえた気になっているようですが、あなたはまだ水着姿に抵抗が残っています。水着を着ること自体恥ずかしくないということは、ひとまず受け入れました。しかし、自分の肌の大部分を見せることになるのは変わりないのです。難色を示していると、マキさんがあなたの腰に片手を回し、もう一方の手で適当な水着をあなたに渡しました。わき腹を抱き寄せられたのがくすぐったくて手から逃げようとすると、自然とマキさんの体に寄り添うことになります。今まで何度もされてきましたが、毎回彼女の思い通りに乗せられてしまうのです。彼女はあなたの耳元に顔を寄せて話しかけます。

「まぁ、その辺は小さいころからの積み重ねで慣れていくところだからしょうがないよ。ゆかりちゃんはそもそも女の子の水着を着たことがないだろうし、今回から頑張って慣れていこうね。……着たことないよね?」

 もちろんありません。さすがに撮影当日が初めて水着を着る日だったら、仕事に影響が出てしまうでしょう。少なくとも一回くらいは事前に試して、慣れておく必要がありそうです。

 自分が水着を着て、人の前に立って、カメラで撮影される。そして、それを大勢のファンたちに見られると考えると、なかなか恥ずかしいものがあります。

 そんなあなたの様子を見たイアちゃんが、良いことを思いついたとばかりに、満面の笑みで提案しました。

「それじゃあ、今度海水浴に行きましょうよ。撮影とか配信とかない完全プライベートで、私達しかいないプライベートビーチに!」

 

 イアちゃんの一言で急に決まった海水浴旅行は、意外にもとんとん拍子で話が決まっていき、いつの間にか当日を迎えました。飛行機で向かった先は沖縄、宮古島。貸し切りのビーチがあり、しかも今度の撮影も宮古島なので、予行演習にはぴったりです。

 空港に降り立ち、併設されたレンタカーの受付に向かいます。今回は念のためについてきた女性のスタッフさん一名以外に水を差す人はいないので、ほぼほぼ完全なプライベートの旅行になりました。

 9人乗りの広々としたバンに乗り込み、あなたは一番後ろにある三連シート真ん中の席に座ります。その左をマキさん、右をイアちゃんが固め、茜ちゃんと葵ちゃんは前の方で二人並んで仲良く座り、楽しそうなお喋りタイムが始まりました。

 いつものパーカーを脱ぎ、いつものワンピース一枚で座ると、ようやく一息付けた気分になるでしょう。すっかりこの格好に慣れたあなたは、胸元をつまんでパタパタと熱気を追い出しながらシートに深々と腰かけます。

 一年半前は恥ずかしかったこの服ですが、人前で気軽に着られないことを除けばかなりお気に入りでした。長いスカートと違って座るときに気を使わなくていいし、露出の量はソックスやパーカーで調整できるし、肩が出ているので夏でも涼しいのです。ただ、体に張り付くので体形がくっきり見えてしまうのが難点ではあるでしょう。好きなだけ食べても体形が変わらず、スキンケアをしなくてもスベスベな肌を保てるあなたとって大した問題ではないのが幸いでした。

 ただ、ちょっと困ることもしばしばあります。

「ゆかりさん、これから行くビーチ、すっごくよさそうですね! ほら、この写真とかすっごくいい感じですよ!」

 イアちゃんはあなたの右腕に抱き着きながら、スマホを差し出して写真を見せてくれます。真っ白な砂浜に青い空、典型的なものの、とても美しい浜辺の写真です。あなたは「いいですね」なんて余裕ぶって返事をしますが、意識の大半は別のところにあります。

 一つは右腕に感じるイアちゃんの体の感触です。毎日のようにマキさんたちと夜を共に過ごしているからといって、ダイレクトな好意やスキンシップに慣れきってしまったわけではありませんから、当然のように意識してしまうでしょう。少し体重を預けるようにしているイアちゃんからはラベンダーの良いにおいが漂い、それがどうにも落ち着きません。あなたの着ている服の露出が多いだけに、彼女のぬくもりや柔らかさが直接伝わってきます。

 もう一つは、あなたの左隣りで首から下げた一眼レフカメラを弄っているマキさんの視線です。あなたは心の奥底でマキさんのことを特別視していることもあり、彼女からの視線はいつも気になってしまいます。こちらを見てはいませんが、視界の端で見られているかもしれないと思うと落ち着きません。

 マキさんや茜ちゃん、葵ちゃんはあなたへのベッタリ期が終わり、少なくとも家の外では女友達に収まるくらいの接し方になったものの、その代わりにイアちゃんがどんどん積極的になってきました。オフィスでの過ごし方やロケ先での接し方でイアちゃんがスタッフさんに注意されることもしばしばあり、最近ではマキさんがイアちゃんの手綱を握っている状況です。もちろんあなたがイアちゃんを制御できるわけもなく、いつもマキさんに視線を送っては助けてもらっているのでした。

 しかし、今日のマキさんは妙なことに、イアちゃんをあまり止めません。イアちゃんはここぞとばかりにあなたに甘えており、はじめはただ抱くだけだった右腕ですが、いつの間にか右手がイアちゃんの太ももに添えられていました。その上にはイアちゃんの左手が重ねられているので、彼女が自分から触らせているのです。

 イアちゃんはいつもの黒いオフショルダーにピンクのミニスカートをはいているので、あなたは彼女の生足を強制的に触らされ、そのしっとりすべすべした感触を強制的に味合わされています。あなたは抵抗の意味も込めてイアちゃんの顔を覗きこみましたが、彼女は満面の笑みを返すのみでした。

「どうしたのゆかりちゃん、そんなに顔を赤くしちゃって。まるで何も知らないうぶな生娘みたいだよ?」

「いや、さすがにその発言はおじさんっぽいぞ? そこそこにしなよ~」

 頼みの綱のマキさんはあっさりした対応で、イアちゃんが何をしているかわかりながらも気にしていない様子です。それをいいことにイアちゃんはあなたの右手をさすり、そのせいで彼女の太ももの柔らかさが伝わってきます。

「ゆかりちゃん、耳まで真っ赤だよ?」

 立ち上がって逃げようにも腕をがっちりと掴まれていますし、そもそも走行中の車の中なので気軽には動けません。あなたができるのはマキさんに助けを求めることだけですから、何とかしてもらおうとマキさんの右手を握り、どうにかしてくださいと頼みます。

 しかし残念なことに、マキさんはあなたの顔を見るやいなや、あなたの左腕をがっちりと抱きしめました。その表情はムッとしていますが、それならイアちゃんを止めてくれてもいいはずです。それなのに、彼女はイアちゃんと張り合って胸を腕に押し付けたり、手を握ったりするだけでした。

「まぁ、イアちゃんは私達よりも後にゆかりちゃんと出会ったわけだし、多少はね?」

 何が多少なのかはわかりませんが、海につくまでの間はこの悶々とした気分のまま耐えるしかないようです。

 

 借りるビーチに併設された宿泊施設についた頃、あなたはすっかり疲れ切っていました。今までほとんど我慢をせずに済む生活をしていたあなたにとって、生殺しの時間は他の人よりもよっぽど効くのです。

 今回借りた部屋はツインベッドが三つ。あなたとマキさんで一部屋、葵ちゃんと茜ちゃん、イアちゃんで一部屋、そしてスタッフさんで一部屋です。

 部屋に入ると、大きな窓からオーシャンビューが広がっています。白を基調としたインテリアが室内を明るく照らし、まさに南国といった雰囲気です。

「いやー、良い感じだね! どうする? 早速泳ぎに行ってもいいし、ちょっと休んでもいいよ」

 マキさんは早速荷物を広げ、水着や日焼け止めなどを机の上に並べています。あなたはそれらを眺めながらしばし考え、体がじっとりと汗ばんでいることに気が付きました。さすが沖縄の夏。駐車場から宿泊施設の間をちょっと歩いただけなのに肌がべたついています。もともと体にフィットする服を着ているだけに、ちょっと汗をかいただけでも不快感があるでしょう。この後、水着を着る前に日焼け止めを塗りますから、汗をかいたままというのは抵抗があります。

「あー、確かにね。きちんと全身に塗らないといけないし、先にシャワー入ろっか」

 着替えの下着を持っていこうとして手荷物を漁っていると、マキさんがおもむろに服を脱ぎだします。あなたが慌てて顔を背けると、後ろからニヤついた声がかかりました。

「なにさ、今さら恥ずかしがっちゃって。毎晩楽しんでるのに」

 衣擦れの音があっという間に途絶えたかと思うと、あなたの後ろから腕が回されてぎゅっと抱きしめられます。薄い服装が災いして、彼女の胸の感触が背中へと明瞭に伝わりました。

「はい、お風呂入って、そのまま日焼け止め塗りましょうねー」

 首元の紐を解かれ、ワンピースがそのまますとんと足元に落ちます。こんな日に限ってチューブトップと紐パンだったのが運の付きで、下着もあっと今に脱がされてしまいました。

 まだ昼間でこの後海に行くというのにいったい何をされるのだろうと期待半分困惑半分な心境のあなたは一歩も動けません。車の中であれだけ焦らされていたのはこの伏線だったのか……と、次にはどんなセリフを囁かれるのか身構えていたあなたですが、残念なことにそのままお風呂場へと連れられました。

 お風呂場は思ったよりも広く、ユニットバスではないので二人で一緒に入ることも問題ありません。マキさんはあなたをからかって満足したのか、腕を解くと一人で体を洗い始めました。あなたは弄ばれたのが不満で彼女をじっと見ますが、飄々とした様子で気に求めていない様子です。しかも、そんな様子のあなたに追撃を食らわせました。

 「あれ、もしかして期待しちゃった? これからみんなで遊ぶのに、ゆかりちゃんはエッチだなぁ」

 彼女にちょっとでも意表返しをしてやろうと、あなたは切なそうな表情を作って誘惑してみることにしました。彼女の左手を両腕で抱え、顔を覗きこんでみます。いつもは受け身に徹しているあなたからのアピールは予想以上に効果的だったようで、マキさんはあっという間に白旗を上げました。

「……あの、私が悪かったので許してください」

 なんだかんだで、マキさんもあなたに弱いのです。今回はあなたの勝ちでしょう。



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いまさら水着回(中)

伸びました。中編です。
昨日、いただいた感想ほぼ全件に返信しました。今後も逐次返信していくので、ぜひ感想をよろしくお願いいたします。


 砂浜にはすでに大きなパラソルが二本立てられており、レジャーシートまで敷かれていました。スタッフさんがやってくれたようで、パラソルの下で休んでいます。あなた達が来たのに気づくとバトンタッチして、施設へと戻っていきました。

 あなたはとりあえずパラソルの下に座り、みんなを眺めることにしました。風が吹いているのでそれほど暑くもなく、東京の方が過ごしにくい気がするほどです。視界の先では茜ちゃんと葵ちゃんがさっそく海に入って遊んでいます。イアちゃんはパラソルを挟んで隣に座り、マキさんは持ってきたカメラで琴葉姉妹を撮影しているようです。

 貝殻を拾ったりして遊んでいる琴葉姉妹を眺めていると、隣のイアちゃんから声を掛けられました。視線を向けると、イアちゃんがレジャーシートにうつぶせになって背中の紐を解いています。

「ゆかりちゃん、背中に日焼け止め塗れなかったから、塗ってもらえないかな?」

 日焼け止めを手渡してきたイアちゃんの体はあなたから見ても華奢で、身長もあなたの方がわずかに高いですから、ほかの面々とは少し違った印象を持つでしょう。誰よりも白い肌をしており、腕も腰も首も病的ではない程度に細いので儚い印象を持たせます。

 イアちゃんもあなたに対しては常にタチですから、基本的に背中を見せることはありません。そういう場であればもともと心構えができているので多少はマシでしょうが、今回のように不意打ちだとかなり面食らうでしょう。

 マキさんの様子が気になり横目で確認しますが、琴葉姉妹のすぐ近くでの撮影に夢中であなた達がちょっと何かした程度で気づく様子はありません。あなたは一つ深呼吸をして、日焼け止めを受けとりました。

 日焼け止めを背中に出し、邪念を一生懸命に排除しながら手のひらで塗り広げていきます。今はそういう場でないのでよこしまな視線を向けるのはイアちゃんに悪いですし、きっと彼女もそんなことを考えて頼んではいないでしょう。

 そうは言ってもマキさんに塗ってあげたときとはまた違う手の感触で、あまり肉がついていないスレンダーな体つきではありますが、女の子には変わりないので柔らかさはあり、そしてなんといっても時折漏らす息が色っぽくて胸が高鳴ります。

 下半身に近いところを触るのに抵抗があったあなたは触るのを肩甲骨当たりまでにとどめていましたが、すぐにイアちゃんからクレームがついてしまいました。

「ゆかりちゃん、もうちょっと下の方までお願い」

 そこは自分でも塗れるだろうと文句をつけますが、塗りムラがあったら嫌だからと説得されてしまいました。反論したくはあるものの、確かに塗りムラによる指の跡が付くこともないとは言えません。

 腰まで塗っていると、自然とイアちゃんのお尻が視界に入ってしまいます。そんなにまじまじと見たことが無かったですが、誤って触れてはいけないので見ずに塗ることはできません。

「ゆかりちゃん、どうしたの?」

 どうやらあなたの初々しい反応に気づいたようで、イアちゃんはあなたをからかい始めました。あなたの方に向けた彼女の表情は、できるだけ抑えているもののちょっとニヤけているように見えます。

 追撃とばかりにお尻をクイクイ振ったり、太ももを開いたり閉じたりするものですから、お尻の間に水着が挟まってシルエットが浮き出てきました。ほっそりとした太ももやふくらはぎにも視線が行ってしまい、ここまでされては誘われているのが明白です。どんどん耳元が熱くなり、居心地が悪くて足をムズムズさせてしまうでしょう。

 あなたは流石に耐えられなくなって手を引くと、新たなリクエストがイアちゃんから飛んできます。

「水着の紐、結んでくれない?」

 もう耐えがたくなっていたあなたは半ばヤケになり始め、手早く結んであげてそそくさと距離をとりました。体を起こしたイアちゃんはあなたを見てニヤニヤしていますが、努めて知らないふりをします。

「ゆかりちゃんは照れ屋さんだねぇ~」

 些細な抵抗をするあなたにイアちゃんはにじり寄ると、耳元の髪を触られました。そしてそのまま耳を撫でられ、囁かれます。

「ゆかりちゃん、耳、真っ赤だよ?」

 彼女の指先は魔法がかかっているのではないかと思うほど、あなたの体を繊細に刺激して、背中に痺れを流し込みました。思わず鼻から大きく息を漏らし、身震いしてしまうでしょう。気が付けば思考が回らなくなっており、すっかり受け身の体制になってしまいます。

 唇はくっついてしまい、声を出すこともできません。腕は縮こまり、イアちゃんがパーカーの上から肩を撫であげた刺激をこらえようとして、袖を握りしめます。

 いつの間にかイアちゃんはあなたの腰へお腹をくっつけ、あなたのお尻を太ももで挟むようにしてあなたと密着しています。そして右の太ももが撫で上げられてそちらに意識が向かった隙に、彼女の左手がパーカーの下に入ってあなたのお腹をさすり始めました。

「ゆかりちゃん、今なら……」

「はーい、そこまででーす」

 いよいよかと体をこわばらせていると、図ったようなタイミングでマキさんからの助けが差し伸べられました。イアちゃんは不満げにしながらも、素直にあなたから離れていきます。

「もうちょっと楽しませてくれてもいいじゃないですか」

「車の分と合わせたら十分楽しんだでしょ? それに今晩だってあるんだから」

 聞き捨てならないセリフがあったような気もしますが、とりあえずこの場は鎮められたようです。

 気分転換のためにあたりを少し散歩しようと立ち上がると、マキさんに引き止められます。

「あ、ゆかりちゃん、パーカー脱がないの? さすがに暑いと思うけど」

 確かに暑いことは暑いですが、我慢できないほどではありません。それよりもパーカーを脱ぐこと自体に抵抗がありました。パーカーを脱ぐということはもちろん水着姿をさらすということになりますが、水着姿というのが思ったよりも恥ずかしいのです。

 ボディラインが出るのはもういつものワンピースで慣れっこですが、太ももが付け根まで出たりへそが出たりする経験は今までありませんでした。周りにいるのが見知った間柄だけだとは言え、それとこれとは別の話です。

 あなたが渋っているとマキさんが立ち上がったあなたの目の前にやってきて、両肩に手を置きました。いつになく真剣な表情を見せている彼女は流石にからかえません。ちょっと面食らっているあなたに、彼女が話しかけます。

「今までは無かったけど、人気がもっと出てきたらどんどん撮影のお仕事も増えてくると思う。写真集だって出るかもしれないし、ドラマや映画のお仕事だって出てくるかもしれない。私たちはそういう時に求められた役をちゃんとやらないといけないし、事務所がNGを出さなければ基本的に受けるっていう気概は必要だと思うんだよね」

 確かに、人気のある女性声優が写真集を出すのはそれほど珍しいわけでもありませんし、夏なら水着だって着ていてもおかしくないでしょう。かなりの納得感があります。これはマキさんが正しいだろうと胸を張って言えるほどです。

 すっかり腹落ちしたあなたは覚悟を決めました。その表情にマキさんも気づき、柔らかく笑みを浮かべます。気づけば彼女の後ろに茜ちゃんや葵ちゃん、イアちゃんも立っており、優しく微笑んでいました。

「というわけで、ゆかりちゃんの水着撮影会を行います!」

 余談ですが、笑顔の根底には威嚇や攻撃があるそうです。

 

 マキさんにカメラを向けられ、ほかの面々からも熱い視線を受けながらパーカーを脱ぐというのはかなり緊張するでしょう。あなたの一挙手一投足を観察されており、ちょっと指先を動かせば、そのたびにマキさんが持つ一眼レフの連写音が鳴り響きます。

 パーカーのチャックを下げ、思い切って一気にパーカーを脱ぐと誰かが「おぉ……」と声を漏らしました。彼女たちの視線があなたの首筋から胸元をたどり足先に至るまでを撫で上げ、頬や耳へと熱が集まっていきます。

 何とかその視線から体を隠そうとパーカーを抱えてしまいますが、すぐに思い直してすぐ後ろのレジャーシートの上に放り投げました。今のあなたは人前に出るのが仕事です。記者会見の場に水着で現れるグラビアアイドルだっているのだから、身内に水着を見せるくらいなんだ、と自分に言い聞かせます。地面を見つめていた視線も上げて、マキさんが構えているレンズを覗き込みました。

 あなたの雰囲気が変わったのに気づいたマキさんは、カメラを構えつつ良いアングルを探し始めます。あなたには写真を撮られた経験なんて宣材写真くらいしかないので、何をすればいいかまるでわかりません。ですから、やる気を見せるという意味も込めて、取ってほしいポーズを聞いてみることにしました。

「おっ、やる気出てきたねぇ~。じゃあ、そうだなぁ……」

 それから、マキさん主導であなたの撮影会が始まりました。茜ちゃんや葵ちゃん、イアちゃんもあなたにスマホを向けながらあれこれ取ってほしいポーズのリクエストをし始め、あなたはそれに答え続けます。足をきれいに見せるポーズや腰のラインを見せるポーズなどなど、目的に応じた数多くのポーズを次々に試すにつれて、だんだん自信がついてくるでしょう。

 幾らか撮影してはマキさんに見せてもらい、カメラの液晶に映る自分の姿を確認しては改善点をみんなで話し合う。これを何度も繰り返していると、陽があっという間に傾いていきました。

 

 映画のような夕焼け空の下、みんなでマキさんの持つ一眼レフの液晶を覗き込み、今日撮った幾枚もの写真を眺めれば、胸いっぱいに充足感が満ちていくでしょう。あなた一人のポートレート、タイマーで撮った集合写真、あなたが見よう見まねで撮影した、三人それぞれの写真。どの一枚にもエピソードが詰まっています。

「いやぁ……たくさん撮ったねぇ。じゃあ最後に一枚、気軽に集合写真を撮って終わろっか」

 太陽は今にも水平線に接しそうで、あと数分もしないうちに空が染まるでしょう。マキさんは三脚を立て、カメラを取り付けて波打ち際に向けました。

 あなた達はカメラの前に向かい、マキさんに言われた場所へ腰を下ろしていきます。昼間は痛いほどに焼けていた砂浜ですが、既に熱を失いかけていました。

 あなたはカメラの真正面に女の子座りをして、葵ちゃんと茜ちゃんはあなたの左右に腰を下ろします。二人ともあなたの太ももに手を置き、あなたの手を握ってしなを作りました。イアちゃんはあなたの右後ろで膝立ちになり、あなたの肩に手を置いて体を寄せます。

「よーし、良い感じ! じゃあいくよー!」

 タイマーをセットし、マキさんが小走りであなたの左後ろにやってきて膝立ちになりました。イアちゃんと鏡合わせになるようにして肩に手をかけ、顔をあなたの耳元まで近づけます。

 シャッターが切られるまでの時間は思いのほか長く感じますが、変な顔で映らないようにと自然な笑顔を意識して保ちます。早く早くと願っていると、カメラから断続的な電子音が鳴り始めました。もうすぐシャッターが切られるのでしょう。

 電子音に耳が向かっていたその時、不意にマキさんの囁き声が流れ込んできます。

「ゆかりちゃん、水着、とってもかわいいね。すっごく似合ってる」

 シャッターが響いた時、左頬に熱を感じました。そして視界一面が夕暮れに染まった空で埋め尽くされ、自分が今砂浜に仰向けになっていることに気づくでしょう。

 起き上がろうとしてもできません。おなかの上にはマキさんがまたがり、両腕を頭の横で掴まれています。頭の上にはイアちゃんの顔が逆さにうつり、上から覗き込まれているようです。困惑しているあなたに、マキさんが顔を近づけて言い放ちました。

「ゆかりちゃん、無防備すぎ。写真撮りながらずっとお預け食らってたんだから、覚悟してね?」

 直後、あなたの唇が熱に包まれると、なにかが吸い出されていきました。それは意識かもしれませんし、理性などといわれるものかもしれません。少なくとも、体を洗うのにかかる時間はこれで延びたに違い無いでしょう。

 



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いまさら水着回(下)

 夜の砂浜でみんなにもみくちゃにされた後は、疲れを癒すお風呂の時間です。部屋に備え付けのお風呂しかないですから、みんな一緒に入ろうとはなりません。それに先ほどまで存分に遊んでいましたから、みんな満足しています。

 日焼けしないために髪の毛にも専用の日焼け止めを塗っていましたから、丁寧に髪を洗っていきました。ヘアケアまでしっかり行ったら次は体です。使い捨てのスポンジでボディーソープを泡立て、手ですくって肌を撫でていきます。全身が砂にまみれていますし、部分的にべたついてもいますからしっかりきれいにしなくてはいけません。

 鏡に写った自分の姿を眺めながら、肩から順に洗っていきます。日焼け止めのおかげで水着の跡は全く残っていません。少し恥ずかしかったものの、やはりしっかり塗って正解でした。もしも塗っていなかったら、胸元に肌色の恥ずかしい帯が浮かび上がってしまったでしょう。

 お腹を撫でて洗っているとき、明るい空の下でみんなに自分の水着姿を見られた時の恥ずかしさがちょっとフラッシュバックしました。おなかが出るような服は着たことがありませんでしたから、ベッドの上以外であそこまで肌を見せたのは今日が初めてだったでしょう。

 あの時は場にあてられ、暑さにもあてられて水着姿になれました。しかし改めて鏡越しに自分の体を見ると、ちょっとお腹周りが気になってきます。別に太っているわけでもないですが、自分の体を見慣れているだけに『もしかしたらちょっと肉が多いのではないか』と気になるのです。

 そういえば、と足に視線を向ければ、なんだがちょっと太くなっている気もします。ふくらはぎは変わらないものの、太ももの肉付きが良くなっている気がしますし、ちょっとお尻も大きくなったような気がします。

 目に見えて太ったわけではないですし、一般的に言えば非常に整ったスタイルではあります。しかしどことなく罪悪感が出てきて、今後の食事には気を付けよう心に決めたのでした。

 

 せっかく海へ遊びに来たのですから、ただご飯を食べるだけではもったいないでしょう。

 ということで、今日の晩御飯は施設の駐車場脇でバーベキューです。コンロや炭などは施設から借りることができるので、後は食材を買ってくるだけです。車で十数分のところにスーパーがあるので、みんなで買い出しに行くことになりました。

 空港から施設に来た時とは席順が変わり、あなたの右側には葵ちゃん、左側には茜ちゃんが座っています。二人ともショートパンツにTシャツを着て、ちょっとした変装用に帽子をかぶっていました。

「おなか減ったなぁ~。ゆかりさん、何食べたい? ウチはカルビでしょ、タンでしょ、豚トロとかもええなぁ…」

「ちゃんとお野菜も食べてよ? お昼だってそんなにお野菜摂ってないんだから」

「わかっとるって。むしろ葵はお肉をちゃんと食べなあかんよ~?」

「最低限はちゃんと食べてるから大丈夫」

「ふーん……その割には腰にお肉がついてたけどなぁ。おなかすいて夜にお菓子でも食べてるとちゃうん?」

「太ってないから」

「太ってないっていうのは、ゆかりさんくらいのことを言うねん。ほら、全然お肉ついてんとしょ」

 姉妹の軽口はただ微笑ましいものでしたが、急にわき腹をつままれては何も言わないわけにはいきません。ただ言い返しただけでは軽くあしらわれて終わりそうだと考えたあなたは、二人のわき腹もつまんで抵抗の意を示しました。

「わっ、もう、お姉ちゃんのせいでゆかりさんにつままれたじゃん!」

「ウチのせいちゃうもん。葵が嘘つくからやで」

「ついてませんー!」

 なんだ、とつまらなく思うほどに、二人とも全く太っていません。女の子らしい柔らかさの範囲に十分収まるものですし、むしろ少し痩せているようにも感じます。あなたが二人にむしろもう少し食べてもいいんじゃないかと聞くと、意外なことに茜ちゃんから猛反発を食らいました。

「いや、お肉を食べるのと甘いものを食べるのは全くの別物やからな。一日の摂取カロリーを消費カロリー以内にきちんと収めんと、後で自分が泣くことになるで……」

 葵ちゃんもうなずいてはっきり同意しているあたり、過去に苦い経験をしたのでしょう。

 しかしよくよく考えてみれば、『ボイスロイド』の姿になったのならその辺りを気にしなくていいのではと疑問が浮かびました。実際、あなたはその姿になってから、食べ物に気を付けていなくても太っていません。お風呂に入ったとき多少の肉付きの変化は気になったものの、甘いものを何も気にせず食べていてはもっと大胆に太っていてもおかしくはないはずです。

 もしかしたら、彼女たちは前の体の頃の知識と経験にとらわれているのかもしれない。そう思ったあなたはアドバイスになると思って、太らない自分の体質を教えました。もちろんそれは彼女たちにとっての朗報だと思ってのことでしたが、予想とは真逆の反応が返ってきます。

「そんな都合のいい話がありますか!」

「せやせや、ここは漫画の世界ちゃうんやで!」

「食べれば太る、運動しないと痩せない、この体だって同じです!」

「もしかしてあれか? ゆかりさんは本当にその体で太ったことないんか?」

「ゆかりさん、そうなんですか?」

 なぜか詰問されて戸惑い、どうやったらこの場を収められるかいろいろ考えていると、イアちゃんが前の席から振り向いてあなたの方を見ました。もしかしたら助けてくれるのかもしれません。

「ゆかりさんは毎晩運動してるから太らないんじゃないですか?」

 デリカシーのかけらもない発言に何も反応できないあなたと対照的に、茜ちゃんと葵ちゃんは合点がいったようです。

「確かに、毎晩あれだけ運動していればカロリー消費しそうですよね」

「全身運動やもんなぁ。声も出すし。ウチたちも毎晩してみるか?」

「え、なんでお姉ちゃんとしないといけないのさ」

「それもそうやなぁ」

 男子高校生のようにオープンな会話ですが、もしかしたら女子校でもこんな感じなのかもしれません。なんだかどんどん肩身が狭くなってきたあなたはどうにかして話題を変えようとしますが、なかなかいい話題が思いつかないのでただ黙ってこの場をしのぐしかありませんでした。

 

 スーパーで食材を買い込んで施設に戻ると、駐車場には既にバーベキューセットが設営されていました。四角い四つ足のコンロの横に大きめのテーブルと人数分の椅子が置かれており、配慮が感じられます。

「おー、もう準備できてる。じゃあ早速はじめようか!」

 マキさんとイアちゃんはかなりノリノリで、テーブルの上に買ってきた食材を広げています。葵ちゃんと茜ちゃんもみんなの分の食器を用意していますし、あなたも何かしら手伝いをしたくなりました。ほかにやることといえば、コンロの火の準備でしょうか。

 コンロ上に着火剤を並べ、炭をコンロ上へ井形に並べていくはずです。確か、空気の通り道を意識しながら積むと良いとどこかに書いてあったでしょう。着火剤は保冷材のようなビニールに入ったゲル状のものがあったのでそれを置きましたが、炭についてはわからないところがありました。

 コンロ脇には二種類の炭が置かれていて、それぞれ薪のような形のものと、細長くて丸いものでした。両方置いてあるということはそれぞれ使い分けるのでしょうが、違いがよくわかりません。悩んでもしょうがないのでスマホで調べてみると、薪のような『木炭』を先に入れて火をつけてから細長い『備長炭』を入れるようです。

 言われたとおりに木炭を並べ、着火剤に火をつけて様子を見守っているとイアちゃんが興味深そうに寄ってきました。

「ゆかりさん、意外とそういうのできるんですね」

 意外というのは心外ですが、ちょっと見直してくれたならやった甲斐があったというものです。

 だんだんと炭に火がつき、パチパチと弾け出します。街の明かりはもちろん、街灯も遠いので、テーブルに置いてあるランタンとコンロの火が主な光源です。真っ暗闇な中ではじける炭火はずっと眺めてられそうなほど心地よく、コンロの横にしゃがんで火を眺めているとなんだか心が落ち着いてくるでしょう。

 イアちゃんもあなたの隣にしゃがみ、一緒に炭の火を眺めています。ちょっと気になって横目で彼女の様子をうかがうと、随分リラックスした表情でした。変なことを口走らなければイアちゃんは三人の中で一番イケメンなので、このような、ふとした瞬間に見せる表情にはドキッとさせられるでしょう。

 穏やかに吹いた夜風が、彼女の香りを運んできました。シトラスのさわやかな香りが夏の暑さをやわらげます。心地よくて鼻から深く息を吸うと、彼女の匂いが胸いっぱいに広がりました。

 いつの間にか、あなたは彼女の表情をまじまじと眺めています。クールな目元、すっと通った鼻、淡いピンクに潤んだ少し薄めの唇、きらきら光って綺麗なプラチナブロンドの髪、そして透き通るような白い肌。

 いつもあなたを振り回す元凶である彼女がとっても可愛らしいと認めるのがちょっと悔しくなったあなたは、「黙っていれば可愛いんですけどね」とからかってみました。すると、彼女は柔らかく微笑んで、あなたの目を見つめます。

「ゆかりさんはいつでも可愛いですよ。真面目な時も、自信満々にしているときも、恥ずかしがってる時も、ぜーんぶ可愛いです」

 碧い瞳で覗かれながらそんなセリフを言われては、さすがに恥ずかしくなって顔を背けました。

「ほら、ちょっと褒めただけで恥ずかしがっちゃうところとか、とっても可愛いです。大好きですよ、ゆかりさん」

 あなたの心をくすぐる甘い声で囁かれると、体の力が抜けてくるでしょう。立ち上がって距離をとろうにも、転ばないようにするのが精いっぱいで腰が上がりません。ちょっとマウントをとろうとしてすぐに崩されるのは、あなたにとっていつものことでした。

「火の準備できた? ……イアちゃん、またゆかりちゃんをイジメたの?」

「イジメてなんかいないですよ。ゆかりさんは可愛いって言っただけです」

「ゆかりちゃん、まだ可愛いって言われただけで恥ずかしがってるの? さすがにそろそろ慣れてもいいと思うんだけどなぁ……。配信なら平気そうだけど」

 そんなことを言われても、ただのリスナーに言われるのと大好きなみんなから言われるのでは全く違いますから、どうしようもありません。あなたの様子にため息を漏らしたマキさんは「しょうがないな」とつぶやき、あなたに肩を貸して椅子まで連れていってくれました。

 

 バーベキューはつつがなく進んでいきました。お肉や野菜をおいしくいただき、定番の焼きマシュマロもやって大満足のあなた達が休んでいると、イアちゃんが何かを持ってきました。

「花火、しましょ!」

 どうやらスーパーで食材を買ったとき、一緒に買っていたようです。よくある、厚紙に並べられたやつで、様々な種類の花火が詰め合わせになっています。

「おー、良いじゃん、それっぽいじゃん」

「夏って感じがしますね、お姉ちゃんもやろ?」

「あいよー」

 みんなイアちゃんのところに集まり、バーベキューの時に使っていたガスライターを片手に各々好みの花火へ火をつけていきます。真っ暗な中の花火はとても明るくて、あたりを煌々と照らします。赤や青、緑と次第に色が変わっていくのを、あなたは席から眺めました。

 花火で楽しそうに遊んでいる4人の姿はまさしく等身大の女の子そのものです。動画配信をしたり、ラジオに出演したりとちょっとした芸能人のような生活をしている彼女たちですが、結局はまだ若い女の子なのです。その屈託のない笑顔に、心が洗われるような気分でした。

 しばらく経って、あなたが席から眺めるばかりだと気づいたマキさんが声を掛けました。

「ゆかりちゃんも一緒にやろうよ。楽しいよ?」

 あなたとしては席で眺めている方がみんなの姿が見れて楽しい気もしますが、彼女に誘われては流石に断れません。重い腰を上げてみんなのところに合流すると、イアちゃんから線香花火を渡されました。

「誰が最後まで持ちこたえるか競争しましょ」

「お、定番のやつだね」

「どうせなら何か罰ゲームとか、商品とか決めへん?」

「お姉ちゃん……ま、私は構わないけどゆかりさんがどうかな?」

 せっかく雰囲気が盛り上がってきたのに、ここで断って場をしらけさせたくはありません。それに、内容によってはマキさんたちに一泡吹かせられるかもしれません。あなたは自信満々に、勝負を受けて立ちました。

「それじゃあ……最後まで残った人にはゆかりちゃんのキスをプレゼントってことで。ゆかりちゃんが勝ったら……みんなからキスをプレゼントかな」

 

 

 花火の片付けを終えて自室に帰宅しました。とはいってもいきなり「おやすみなさい」とはならないので、比較的広い部屋である茜ちゃんと葵ちゃんの部屋に集合です。あなたとマキさん、イアちゃんは自室から二人の部屋に椅子を持ち込み、みんなでテーブルを囲みました。

 みんなすぐ寝られるようにラフな服装をしています。あなたは肌触りのいいショートパンツとTシャツ、ほかの面々もTシャツの類にスウェット生地のショートパンツなど涼しく快適な服装です。

 みんな家では下着で歩き回ることもあることを考えると、少しはまともな格好をしているということになります。さすがに家ほどラフな格好はしないようで、肌色面積も机の下を覗かない限りは多くないですから安心でしょう。

 

 トランプや人生ゲーム等、旅行の定番を次々に遊ぶと時間はあっという間に過ぎていきます。一日中遊んでいたこともあって、だんだん眠くなってきました。すでに頭はふわふわしていて、自然と瞼が落ちてきます。椅子がふかふかしていて座り心地が良いこともあり、眠気を助長しているでしょう。

「ゆかりちゃん、大丈夫? 無理しないで寝てもいいよ?」

 まだみんなは元気なようですから、あなたとしてはもう少し頑張りたいところでした。眠くて一人先に寝てしまうとか、なんだかちょっと子供っぽい気がするのです。

「そう? ならいいけど、寝落ちしたら起こさないでおくからね」

 そう簡単に寝落ちするはずがない。そう強い心をもってゲームに挑んだあなたの意識は、それからほどなくして暗転したのでした。

 

 翌朝。あなたが目を覚ましたのはベッドの上でした。珍しいことに、誰もあなたに添い寝しておらず、もう一つのベッドにはマキさんが寝ていました。もともとは葵ちゃんと茜ちゃんに割り当てられた部屋のはずですが、みんなが気を利かせてくれたのでしょう。

 ベッドから起き上がると、少し肌が汗ばんでいます。夏の夜ですから、いくらクーラーが効いているとはいえ汗ばんでしまうのはしょうがないでしょう。あなたはマキさんを起こさないようにこっそり部屋から抜け出し、着替えを取りに向かいました。

 あなたの荷物がある部屋の鍵はもともと持っていましたから、入り口のドアは特に問題なく空けられました。まだ寝ているかもしれませんから、音を立てないようにして部屋の中へ進みます。

 片方のベッドには茜ちゃんと葵ちゃんが並んで寝ています。この姿になる前からの姉妹であるのが感じられるほど、仲良さそうな光景でした。もう一方のベッドにはイアちゃんが寝ています。おへそが出ていたり、枕が床に落ちていたりと寝相の悪さに思わず微笑んでしまうでしょう。

 三人を起こさないようにしながら着替えの下着とブラウス、ミニスカートを回収したあなたは、部屋に戻ってシャワーを浴び、すっきりさっぱりしました。

 

 ぐっすり寝ているみんなを起こすのも忍びなかったあなたは、朝の海岸を散歩することにしました。まだ辺りは涼しく、海風が気持ちよく拭いています。座れる場所を見つけて腰かけて、あたりに耳を澄ませば波の音があなたを包み込み、リラックスできるでしょう。

 しばらくそうして休んでいると、遠くから足音が近づいてきました。

「おはよう。みんな朝ご飯にいってるよ」

 腕時計を見ると、いつの間にか30分ほど経っていました。思ったよりもゆっくりしていたようです。あなたはマキさんと共に、朝食会場へ向かいました。

 

 朝食を食べ終え、荷物をまとめ終えたあなた方一行は帰路につきました。帰りの飛行機の中では、みんな疲れていたのか、あなたとマネージャー以外はぐっすり眠っていました。

 

 家につき、みんなで旅行の写真を披露しあったり、水着の講評をしたりしているとマネージャーさんから電話がかかってきます。ついさっきまで一緒に居たのに何だろうとみんなで顔を合わせながら、電話を取り、スピーカーホンにしました。

「伝え忘れてたけど、来月から新しい子が仲間入りするからよろしくね。あと、その子含めた6人でアイドルデビューするから、よろしく。じゃ」

 




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