斬魄刀を極めたらTSしたんだが? (MKeepr)
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なんでじゃ

「なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 一番隊隊舎に併設された鍛錬所の一角で、甲高い叫びが空高く放たれた。そこは丁度一番隊三席の鹿取左々乃介(かとりささのすけ)が鍛錬の為使用中であった為、通りすがった隊士は何事かとその扉を開いた。

 しかしその場に人の姿はなく、また霊圧も感じない完全な無人であった。優秀な隊士の集う一番隊の鍛錬所での明らかな異常にすぐさま副隊長である雀部長次郎忠息(ささきべちょうじろうただおき)が呼ばれた。

 現場に現れた雀部副隊長が鍛錬所の中を検分すれば、霊圧の残滓が感じられる。間違いなく鹿取三席の霊圧である。

 

「鹿取三席に何が?」

 

 彼もまた雀部と同じく総隊長山本元柳斎重国を信奉する隊士であり、しかもその土俵に立ち勝つことを目標とするなど、ある種雀部よりも傲慢で高い目標を持つ者であった。

 同じく卍解を取得しているが隊長昇格を曰く「それより修行」とのらりくらりと回避し続け、総隊長に次は問答無用で隊長に着いてもらうとキレられた問題児でもある。

 それでもその修行量に裏打ちされた戦闘能力は三席でも最強、というより隊長と比べても勝る程でそれが突如叫び声と共に消えるなどただ事ではないと雀部は冷や汗を流した。

 

「南の心臓、北の瞳、西の指先、東の踵、風持ちて集い、雨払いて散れ。縛道の五十八、掴趾追雀(かくしついじゃく)!」

 

 すぐさま雀部は縛道を用いて鹿取の居場所を探そうとしたが、肝心の鹿取の霊圧を縛道が探知しなかった。まさか、と嫌な予感がし縛道の出力を上げると、鹿()()()()()()()()()()()()を感知することができた。

 掴趾追雀に対する対抗措置を取っていたのかと訝しんだが、場所は判明した。一番隊隊舎内に存在する死覇装等を仕立てている縫製室である。ここからそう離れてはいない。念の為総隊長に報告すると「何かあった場合お主では抑えが効かぬ」と先頭に立って雀部が後ろに控えるいつもの状態になって縫製室の扉の前に立った。

 今日は休みの為中は静かで鍵もかかっている。

 

「あの悪戯小僧めが、いつまで経っても護廷の手本となることをわかっておらん」

「元柳斎殿からすれば皆小僧小娘赤子でしょう?」

「然り、だがついつい甘やかしてしまうのは悪い癖じゃ今回も意味のわからん騒動を起こしおって」

 

 総隊長の言葉こそ文句タラタラであるが、声色はそれをむしろ喜んでいるように聞こえる。小僧が自分を追い越そうと努力する様は見ていて気分の悪いものではないのだ。

 鍵を開ける瞬間内側で霊圧の揺らぎが発生した。中にいるのは間違いないようだ。隠している訳でもないのにここまで接近に気づかなかったとは、そして動揺が霊圧に影響するなど鹿取もまだまだであるとため息を吐いた。

 だが二人が見たのは想像を絶するものであった。

 

「そ、総隊ちょっ⁉︎ 雀っ⁉︎ いやっ違いますー(それがし)いや私鹿取ではなくごく一般的な死神でして‼︎」

 

 そこにいたのは身長六尺(180cm)の恵まれた体躯を死覇装に身を包み髪を総髪に後ろで纏めた偉丈夫ではなく、大きな死覇装の裾を全力で引きずりながら機織り機の影に隠れようと必死になっている身長五尺(150cm)程度の女死神であった。

 腰の両脇に太刀のように吊っていた斬魄刀や総髪など服装の特徴は完全に一致しているのだが着ている死神があまりにも別人である。

 雀部が顎を落としたまま固まっている中、元柳斎はその顔に笑みを浮かべた。

 

「ふ、鹿取め。儂が驚かさらるなど何時ぶりか。満足したじゃろう悪戯小僧め! 出てまいれ!」

 

 元柳斎はこの女死神が結界を纏っている事にすぐさま気づいた。恐らくはそれを利用して自身の霊圧をこの女性から発せられているように偽装しているのだと。

 杖で床を叩き霊圧を少し高める。この女死神も鹿取の悪戯に付き合わされ気の毒に、己一人で悪戯を仕掛けるなら多目にみるが、他人を巻き込んだ以上罰せねばなるまいと元柳斎は目を細めた。

 しかし鹿取は姿を現さない。

 

「そこの、鹿取の行方は?」

「いや、その総隊長」

 

 高まる霊圧に後ろに控える雀部が冷や汗を流す。出てこない鹿取に業を煮やしているようだ。

 女死神もあわあわしているが、ここでふと雀部は思った。これほどの圧を至近で受けては席官クラスでも膝をついてしまうであろうに目の前の女はケロリとしているのである。

 

「ああもう白状します! だから霊圧をお静めください総隊長!」

「よかろう、して鹿取は何処に?」

「こちらに」

 

 その場で女が伏せた。それを見て元柳斎は怒気を強める。

 

「茶番はやめぬか!」

「いえですから本当に某なんですって! ここにいる某こそ一番隊三席鹿島左々乃介でございまする!」

「証明は」

「先日茶を立てるのに流刃若火で湯を沸かしておりましたよね」

「……」

 

 元柳斎と雀部が顔を合わせた。雀部は顎をもう一度落とし元柳斎は目を見開いている。どちらも驚愕しているが声を上げないのは流石であった。

 

 

 

 

「して、何故このような状況に?」

 

 手頃な死覇装に着替えて一息ついた三名は執務室に戻り状況の確認に努める事にした。雀部が全員分の紅茶を注ぐ。なお二人分はティーカップでなく湯呑みである。鹿取が湯呑みを取ろうとして手が空を切り、自分の手を少し見つめてから口を開く。

 

「某、斬魄刀の極みを探求し修行を続けていた訳なのですが、某の斬魄刀、鎌風(かまかぜ)から一つの可能性を提示されたのです。非常に困難な、下手をすれば死神としての力を失いかねないと言われましたが護廷の為某はここ数年をその修行に費やしておりました」

 

 話し方や抑揚は二人がよく知る鹿取の物なのに見た目と声の高さによるギャップがあまりにもひどく雀部は目眩がしそうだった。一番目眩がしているのは偉丈夫から可憐な乙女になった本人であろうが。

 

「それで、その状態は失敗したと?」

「……なのです」

「何?」

「成功した結果なのです‼︎」

 

 鹿取は頭を抱えて呻き声を上げた。体を揺らすたび死覇装の下で双丘が暴れているがそこにツッコミを入れる者はここにはいない。それどころでは無いというのもある。

 

「某にも事態が呑み飲めていませぬ、某の鎌風も()()()()とは言っておりませんでした」

 

 ふわり、と無風の室内で小さく風が吹き、鹿取の背中側の死角から鼬が現れ、それに続いて浅葱色の着物に身を包んだ妖艶な美女がその姿を現した。

 

「お初にお目にかかります。主が何時もお世話に」

「鎌風?」

「主が申した通り私にも原因はわからないのです。なので私と主の行った修行の成果だけお伝えさせていただきます」

「良い、事態把握の為顛末を話せ」

 

 美女の頭の上に鼬が乗っかる。

 

「行った修行の成果は私と主の一体化でございます」

「なんと……」

 

 元柳斎と雀部の脳裏にはかつての重罪人の名が浮かぶ。同じようなことを成した者は尸魂界(ソウルソサエティ)の長い歴史の中に存在していた。しかしアレは突如隊士を襲う凶行に出て封印されており、仔細は不明だ。

 

「一体化したというのなら今何故別に存在しておる?」

「一体化とは言いますが、限りなく近いものの融合では無いのです。そして主がこのような姿になるのも全くの予想外。とても愛らしく精神世界に連れ帰って愛でていたいくらいですが、意図して発生した物ではございません」

「つまり対処手段は無い、と」

 

 コクリと鎌風が頷き空気に溶けるように具象化が解除される。

 場に重たい空気が漂うが、カツンと元柳斎が杖で床を叩いた。

 

「鹿島、お主の護廷に対する志はこの程度で折れるものか? いや敢えて言うならば儂を超えると宣う小僧め。この程度のことで止まってどうする?」

「……! たとえ姿形が変ろうとも護廷の為! この度の修行は失敗では無いのだから、いずれは先生をも超えさせていただく!」

「それで良い。変わらず励むのだ」

「御意‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、体が変わっては不便もあろう」

「先ずは女性死神協会に相談するのが良いかと、検査の為十二番隊にも相談する必要もあるのでは」

「えっ」

 

 

「……えっ」

 

 協会と技術開発局に連れて行かれた鹿取の尊厳は死んだ。




思いついたので書きました。


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いっそ殺せ

「こちらはアレじゃ、一番隊三席の鎌鼬の姪っ子の佐々乃じゃ。あやつが一身上の都合で勇退した代わりに新たに三席になるそうで皆に紹介させてもらった所存じゃ」

「鹿取佐々乃す………佐々乃デスミナサンヨロシクオネガイシマス」

 

 女性死神協会の集会の冒頭でそう紹介された鹿島が拍手を以て歓迎される。本人はとてもぎこちないが協会の面々は緊張しているんだなと微笑ましい様子だ。

 肩に手を掛けながらいい笑顔をしているのは現会長の四楓院夜一である。十二番隊の浦原喜助と親しく女性死神であり隠密機動であると言う最適な人材であった為、鹿取を任されたのである。

 ここに来るまでが鹿取の受難であった。

 

 

 

 

 先ず技術開発局、検診衣と呼ばれる服に着替えさせられ検査を受けさせられた。この検診衣、布一枚の下は何も身につけていない為非常に心許ない。

 

「チンタラ歩っとるんやないキビキビ歩けや日が暮れてまうやろ!」

「ひえっ」

「一々ビビんなや! タマついとるんかワレェ!」

 

 検査に同行してくれるのは色々な配慮から十二番隊の猿柿副隊長だが、怒鳴られるたびにびくりとしてしまう己の体に、自分の中の自分のイメージが音を立てて崩れていく。ちなみに検診衣に着替える時に再確認したがタマは竿ごと消えていた。

 全身くまなく調べ終えた頃には「これも護廷の為……護廷の為……」と死んだ目で呟きだしたりと、猿柿副隊長が気を遣い始めるレベルの有様であった。

 

「お疲れ様です。最後の検査は麻酔を使うので霊圧、限界まで抑えてもらっていいですか?」

「ハイ……」

「頑張ってください鹿取サン、何か掴めれば戻る手立てもあるかもしれませんから」

 

 最後の検査は浦原隊長自ら行うこととなり、霊圧をなるべく抑えて麻酔を受ける。並の死神ならすぐさま意識が落ちるが霊圧が高い故に少しの間微睡んだ。

 

「起きたら元に戻っているといいな……」

 

 と呟きながら鹿取は意識を落とした。

 

「鹿取サン、検査結果を言わせて貰うと、身体の面は一つ除けば実に健康的な女性死神です」

 

 残念ながらそんなことはなく、死覇装に着替え直して検査結果を聞いている。こっちもこっちで肩幅と胸囲と袖の長さが合っていない。

 

「確かですか」

「ええ、鹿取さんの隅から隅まで全部調べましたから痛い!」

「言い方がヤラシイわボケ!」

「まあさて置きまして、除いた一つの話をしましょう。鹿取さんの身体には鎖結と魄睡を覆うように謎の臓器があります。これを鹿取さんの斬魄刀との一体化が原因とし仮称ですが刃膜(ジンマク)と呼ばせてもらいますね」

「それがこの状態の原因なんですか?」

 

 浦原が首を横に振る。

 

「因果関係はあると思うんですが恐らくはこの刃膜がうまく生成されないと鎖結と魄睡両方が機能不全に陥りますね。つまり死神の力の消失」

 

 懐からどう見ても入らねえだろというサイズのホワイトボードが現れ

 

▲さけつ

❤︎はくすい

 

 と書かれた周りに円を描き刃膜と書き足し、そこにさらに×印を描いて無駄にリアルな爆発の絵を貼り付けられた。

 

「この刃膜を無理にでも取り除こうとすれば確実に二つの器官を傷つけますから、死神でありたいなら、手を出すのは得策では無いですね」

「うう……某、護廷の為なら姿形など関係ないとつい先程総隊長に宣言してきた所なので……浦原隊長独断でどうにかいい感じにできませぬか」

「未練タラッタラやないかい!」

「その宣言して出て行った部下が私の独断で死神の力を失ったとかなると責任問題がすごいので勘弁ですねぇ。そもサンプルなんて当然皆無なので刃膜をうまく切除できたとして元に戻るとは限りませんし」

「某、頑張るしかないですな」

「頑張ってください。二重の意味で」

「此奴があの鎌鼬の鹿取か? ずいぶんと縮んだのう」

 

 音もなく至近距離から声をかけられて肩を跳ね上げ振り向けば褐色の女性、四楓院二番隊隊長が立っていた。

 

「あ、夜一サン、お早いお着きで」

「総隊長に呼ばれたからの。それに大前田に仕事を全部押し付けられるんじゃから早くも来るってものじゃ」

 

 以前席官交流会の幹事をしてくれた大前田副隊長の嘆きを思い出し鹿取は心の中で合掌した。

 

「ではここからは夜一サンに引き継ぐので、頑張ってください」

「えっあの浦原隊長もぜひですね?」

「このハゲはまだ仕事があるからダメや」

 

 何故か合掌されているので嫌な予感がして浦原隊長も巻き込もうとするが仕事の邪魔はできないので引き下がるしかない。技術開発局から出て暫くは瞬歩する夜一の後を追う。そうして着いたのは二番隊隊舎である。

 

「さて先ずは採寸じゃ。死覇装を整えねばならん。そのほか色々装飾などもな、砕蜂」

「ここに、夜一様」

 

 音もなくまた人が現れた。装束からして隠密機動の者らしい。

 

「此奴にふぁっしょんとやらを十二分に仕込んでやるがいい」

「いや某は今着てるので充ぶ」

「貴女は誰か尊敬する人はいますか?」

「え、総隊長殿のこと尊敬しております」

「ならば貴女は総隊長殿の前に今のような格好で立つのですか? 一番隊とは護廷十三隊の最も模範となるべき隊、そして全死神の頂点にして規範と言っても過言ではない山本総隊長に今そのような格好で会うのですか?」

「えっいやその」

「今はまだいいかもしれない未熟ゆえでしょう今着ている物で充分と言ってしまう程です。ですが今の姿で尊敬する人に会えばのちに必ず後悔します。"何故あの時自分はあのような格好で""なんと無礼な姿を見せてしまったのだ"と。今の貴女では乳を放り出して裸踊りを踊っているのとなんら変わりません。それを改善する為にもまず、夜一様の言うように採寸を受けるべきなのです」

 

 途中からなぜか目に嫉妬が宿って鹿取の胸部を凝視し始めた砕蜂だが捲し立てられる言葉に鹿取はそれどころではなかった。そんな格好で既に複数人に会っていると言う事実に地面に手をつけ絶望にうちひしがれ羞恥と情けなさに頬を涙が伝った。

 

「某は、裸踊りを晒すような格好をしていたのか……⁉︎ 何という無作法……いっそ殺せ」

「その様子、どうやら遅かったようですね……しかし貴女は幸運だ! ここには夜一様がいる‼︎」

「お、おうそうじゃの」

 

 あまりの勢いに四楓院隊長も引いているがツッコミを入れられる大前田副隊長は書類に忙殺されている為ここにいない。

 

「さあさあ採寸を!」

「ああ今すぐにでも某のを全力で測ってくれ!」

「いや落ち着くのじゃ」

 

 部屋に入り全力で採寸を終えるとそれを裁縫係に渡し、流魂街北一番にある装飾屋に神速移動。結べりゃいいや位の雑な髪紐を本人のイメージを基に選別すれば四楓院家の大きな風呂に放り込まれた。

 

「ちょちょっと待った某これでも」

「構わん構わん、あとソレは基本内緒じゃ。大丈夫じゃ洗うのは従者の奴らじゃ。それ頼んだぞ」

「かしこまりました」

「あちょまってアッーーーー!!!!」

 

 暴れれば容易く逃げられるのだがそれをやれば怪我人が出るのでされるがままに悲鳴を上げる鹿取を尻目に夜一と砕蜂は茶を飲んで待機していた。

 完成した死覇装の到着と髪が黒曜石のように艶やかに肌は真珠のように透き通った状態で湯当たりでもしたようにのびた状態で浴衣を着せられ運搬されてきたのは同時であった。

 

「ご、護廷……」

「ほれしゃきっとせい、服も着れぬ赤子でもあるまいし」

「ご、護廷……」

「お待ち下さい夜一様、総髪にしてしまうのは勿体ないのでは?」

「ご、護廷……」

「いやそこは此奴の持ち味じゃから変えんほうがええじゃろ」

 

 死んだ目で護廷朗読機と化した鹿取を無視して服を着せさせれば着膨れや布余りがせずスラッとしたシルエットの死神姿がそこにあった、ここに両脇に斬魄刀を吊るしたならば鹿取のいつもの姿になる。

 

「よしよしこれで体裁は整ったの」

「夜一様に感謝しなさい。裸踊りからは脱出しました」

「後は協会に紹介だけしておけばいいじゃろう。ほれ着いてこい」

「えっは、はい」

 

 意識を飛ばしていた鹿取が気づけばもう女性死神協会の集会に出席することになっていたのであった。道中は砕蜂に隠れてこっそり設定を練ることとなった。

 

 



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腕の長さ

 騒動から数日経った。ほぼ意味はないが身辺やら情報の隠蔽によるつじつま合わせに奔走させられて出来なかった修練をする時間をようやく取れた。隠蔽も主に斬魄刀との一体化に関する情報であって鹿取自体の変化はそこまで厳格に隠蔽された訳ではないが、色々やる羽目になって時間が取れなかったのだ。

 死神たるもの斬拳走鬼を疎かにしてはならないというのが個人的な思いで、早速修練所を借りて霊圧が悪影響を出さないよう結界を張ると基礎から見つめ直す為、体を動かす。

 しばらく動いた後は腰から抜いた二刀の小太刀を振るう。試し斬り用の巻藁を用意して試し斬りをしてみれば、見事切断させるはずであった立てられた巻藁を押せば中途半端に切れた芯の竹がぺきりと折れる。

 

「……体格の差か。今の某の体格で最適化されるまでどれだけかかることやら」

 

 踏み込みの歩幅、腕の長さ、胴体の長さ、が培ってきた剣術の感覚とズレを起こしている。数十年以上変わらなかった体格が唐突に一尺(30cm)も変われば仕方のない事ではある。本領からすれば関係ない事ではあるがそういう基礎を疎かにすれば足元を掬われるのが世の常なのだ。

 

「幸いにも膂力は以前と変わらず。しかし何とも言えない惨めさを感じるな」

 

 容易く竹を握り潰し、開いて、握る。その掌はもとより二回りは小さい。今日まで他人にされるがままで(悪い意味で)その暇が無かったが、自身の体の状態をようやく実感していく。

 習慣も烏の行水と言って良かった風呂が二刻近く時間をかけるようになった。

 これは髪の手入れに不慣れなだけで慣れればもう少し早くなる。女性死神協会の面々から椿油を筆頭に髪に関する道具を大量に渡されては厚意を無碍にできず鹿取は教えられた通りに手入れを続けていた。

 お陰かツヤッツヤである。元柳斎の前で「見てください総隊長の頭の如くピッカピカですよ」と冗談を言ったのに杖で叩かれなくて少し寂しかった。

 いつもならば「浮竹らのようにシャキっとせんか!」と怒られていたのに、そこの変化にどうしようもなく以前とは変わってしまったのを鹿取は感じた。

 

「では、やろうか鎌風」

 

 納刀し、両腰に佩いた二刀を重ねて胡座をかき刃禅を組む。意識をそのまま斬魄刀の存在する精神世界へと落としていく。

 

「あら主、ここ暫く心の乱れが多かったせいか、こちらはなかなか愉快なことになっておりましたよ」

 

 木々が立ち並ぶ湖畔の小さな小屋の縁側にいつの間にか座っている鹿取の隣に美女が歩み寄ってきて座る。

 

「紅葉、開花、落葉、萌芽、すべてを同時に見るなんて風情がない事この上ありません」

「すまない鎌風、某が未熟ゆえに」

「未熟でしたらこうはならなかった筈です。主がこのような事態になると知っていれば私はあんな提案などしなかった事でしょう」

 

 鼬が一匹づつ鎌風と鹿取の頭に乗るが二人とも乗った鼬を撫でつつ話を進める。

 

「なんだか鎌風達大きくなったか?」

「主が縮んだのです」

「精神世界でももうこの姿なのか……まあでないと修練の意味がないんだが」

 

 以前は同じ背丈だったのに、鎌風の方が頭ひとつ分大きくなってしまった。

 立ち上がり縁側から湖に降り立ち、鏡のようであった湖面に波紋が湧き起こる。

 

「主、ここは緊張感を高める為、主が一手打たれる度何か罰を受けるというのはどうでしょう」

「構わない」

 

 頭にいた二匹がそれぞれ縁側に飛び降りると、二匹は縁側で寝そべり日向ぼっこを楽しみ始める。

 そうして鎌風は着物を襷掛けにすると二刀を手に持ち、湖面に降り立った。鹿取もその手にはいつの間にやら二刀が握られている。

 湖の中程まで歩けば自然と構えをとる。そして両名の構えは完全に同一。

 

「さあいくぞ鎌風!」

「参りますよ主!」

 

 湖面の中心で炸裂する鍛錬と思えない勢いの戦闘音を無視して鼬は欠伸をした。

 そんな爆音が一刻と暫くの間は続き、拮抗していた戦いは徐々に鹿取が追い込まれだした。ここが技量と身体とのズレであった。そのまま最後には押し込まれるように一撃を腕に受けてしまった。

 

「主、以前と同じようにしようと躍起になるあまり防御が疎かになっております。お気をつけください」

「気をつけよう、打たれてしまうとは情けない」

「そんな事はございませぬが、主にはまず一度目の罰を受けていただきます。背をお向けください」

 

 罰って何をされるんだろうか、尻でも叩かれるのかと背を向けた鹿取の左肩に手が添えられる。あ、これ尻叩かれるなと痛みを覚悟した鹿取を待っていたのは予想外の事態であった。

 

 ズボッ。

 

「主のカチコチの大胸筋を触ってみたいとは常々思っていましたがこちらはこちらで良いものですね。吸い付くような柔らかさと確かな弾力があります」

「……えっ」

 

 なんと着物の襟から右手を突っ込まれ左の丘を揉まれているのである。予想外の事態に少しの間固まった鹿取が再起動して飛び上がり鎌風の顎に頭突きをかました。

 

「ちょっと待った鎌風! 待ったえ? いや一体化までいってまだ知らない事あるとは思わなかったんだがなんでじゃ! なんでそうなる⁉︎ 訳がわからないんだが??」

 

 頭突きの衝撃で仰け反っていた鎌風が至極冷静に顎をさすりながら鹿取を見据える。

 

「いえ、これならば主は次からは打たれるのを回避しようと、正しく実戦さながらの緊張感を持てると思い揉んだまで」

「一理あると言いたいがその鼻血はなんだ某の頭突きのせいか? そう言ってくれ」

「そうですね。主の頭突きが原因です。あとありがとうございます」

「やめんかい! そういうの知りたく無かったぞ‼︎」

「大丈夫です主への忠誠心が鼻を伝って顕現しているのです」

 

 鹿取本人は怒っているつもりで、昔の外見ならばかなり怖かった筈なのだが、今の鹿取では怖さゼロである。鎌風の鼻腔片側から出ていた鼻血が双方から出始めた。

 

「さて、罰も終わりましたし次に行きましょう」

「普通に流すな‼︎」

 

 立っている湖面の水を掬って顔を洗うという少しおかしな絵面を披露しながら血を落とし、また二人は構え合う。

 そうして今度は先ほどより長い間斬り合いが続いた。やっているうちに鹿取からぎこちなさが取れていく。

 最後には互いの肩と腰へ刀が当たっている。相打ちであった。

 

「流石は主、私の扱いをよく心得ている」

「ありがとう鎌風、某もだいぶ感覚を合わせられてきた」

「では主、打たれたので罰ですね」

「なんでじゃ‼︎ 相打ちなんだから無しってことでーーー」

 

 瞬間、不意を衝くように二刀を手放し動き出した鎌風に鹿取は刀を放り捨て両手で襟を押さえ防御の構えをとった。手を突っ込まれたのを経験として刷り込まれていたゆえの咄嗟の行動である。

 しかしそれに対し鎌風は湖面を這うかの如く姿勢を下げ、獣の如き敏捷性で下から鹿取の防御を抜け突き上げるようにその双丘を掴んだ。

 ぽちゃり、と湖面に鹿取が放った刀が落ちる、

 咄嗟とはいえ防御を貫通された同様、掴まれたことによる羞恥が思考の空白を生む。

 

 モミッ

 

 そのわずかな時間に成されたのはたったの一揉み。しかし大きな一揉みである。鎌風の鼻腔から赤いものが滴った。

 そして襟を掴んでいた鹿取の腕が弾かれたように一閃、鎌風の顎に裏拳として直撃した。その威力は凄まじく吹っ飛ばされた鎌風は湖面に巨大な水柱を立てながら突き刺さった。

 

「だからなぜ揉むんだ‼︎」

「主、やはり体の影響が出ているように見受けられます。以前の主ならば例え股間を掴まれようともここまで狼狽する事はなかった筈です」

「それは……いや某、股間掴まれたら流石に狼狽すると思うんだが?」

 

 突き刺さった頭を引き抜きながら至極大真面目な顔をしている鎌風が忠言のようなことを言っている。

 掴まれたことなどないのでなんとも言えない例えではあるが、確かに胸を揉まれた程度でここまで動揺していてはダメなのかもしれないと思った鹿取だが。

 

「つまり私が主のを揉むことで修行になるのです」

「いやそれはおかしい鎌風が揉みたいだけだろう!? なんか鎌風まで性格変わっていないか!?」

「確かに、一体化を果たしてからやけに胸に興味がいっている気もします」

 

 鎌風がはっと何かに気づいたように鹿取を見つめた。

 

「主が胸好きということ……?」

「いや何……? 核心をついたみたいな声色で言っているが違うと思うんだが?」

「では嫌いと?」

「いや好き嫌いで言ったら好きだが。というか嫌いな男はいないと思うんだが?」

「ではさっきの相打ち分、私のを主が揉みますか?」

「…………」

 

 思わず鹿取は鎌風の胸部を凝視した。鹿取より大きな双丘が着物の下に潜んでいた。ちょっと悩んだ。据え膳か? とか色々なものがよぎったが自分なりの斬魄刀への誠意を見せねばと邪な気持ちを振り払うように背を向ける。

 

「いや……某はそのような事はしない」

「ではその分私が主のを愛でますね」

「ウワアアアァァァア⁉︎」

 

 だから鎌風もそういうのはやめよう、と続ける前に鎌風が割り込んで背後から脇の下を腕が潜り抜け鹿取の胸を掴んだ。

 

「主、ですからこの程度のことで心を乱してはなりませんよ。次は能力解放しての鍛錬ですから」

 

 振り向きざまに鹿取の肘鉄が鎌風の脳天に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい鍛錬をしているようですな」

「然り、いつも張っているはずの結界越しでさえ霊圧のうねりを感じおる」

 

 刃禅による精神世界での訓練の内容を知らない一番隊の隊長格は感心した様子で修練所の霊圧の揺れを感じていた。

 

 




伏線(?)回


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お茶

短めです


「いやぁ……同期でお茶会なんて久しぶりだねぇ」

「……そうだな」

「いやぁ……同期の三人とも百年以上元気にやってた訳だけど今年は激動だねぇ」

「ああ、先生の薦めとはいえ茶会なんて久方ぶりだ」

 

 伺うような様子で話題を出そうと苦心する二人に、鹿取は苦笑した。百年以上友人をしているのに、いやしているからこその余所余所しさなのかもしれないが。

 三人が三人後ろ手に髪の毛を縛っていて謎の統一感があった。

 

「やめてくれ。変に気を使わないでもらえると嬉しい。某がなんだか惨めな気分になってくる」

「……ああ、そうだな! すまなかった鹿取」

 

 十三番隊隊舎に存在する雨乾堂にてそこの主とも言える浮竹十四郎隊長、京楽春水隊長、鹿取佐々乃三席の三人が茶菓子を囲んで茶を飲んでいた。副隊長の志波海燕が裏に控えているが、それ以外の者は近寄らないよう人払いがされている。

 この雨乾堂に尸魂界史上三人しかいない二刀一対の斬魄刀の使い手が集まっていた。当時真央霊術院の三羽鳩と呼ばれていたのは懐かしい思い出である。

 

「酒を用意すればよかったのだが、海燕に止められてな」

「やめておけ。院の頃、無理に酒を飲んでゲロと吐血を同時に某の袴にぶち撒けたの忘れとらんぞ」

「あったねぇ、音頭を取って飲んでるうちに限界が来て次の日医者に一同死ぬほど怒られたよ」

「それは言わない約束だぞ!」

「おっいつもの調子が戻ってきたねぇ」

 

 隊長である二人は敢えてその証たる羽織を着ていない。人払いの訳はそれである。他隊の席官と隊長格が無礼講で談笑して茶を飲んでいる等山本総隊長から一目置かれていると自負している彼らからすれば大っぴらにできることではないのだ。尚いつもの事なのでこっそり忍び込んで外に隠れている七番隊副隊長の存在は皆が無視した。

 

「それでどうだい? 体の調子は」

「今日はいいぞ、でなければ茶会なんて許してもらえないからな!」

「浮竹のことじゃないよ〜」

「浮竹は常に調子悪い方だろう。某の方は絶好調だ。総隊長にも良くしてもらっている」

 

 煎餅を手で割りながら胸を張った。なるほど血色もよく艶々とした髪やしっとりとした唇はとても健康的な生活を送っているように見える。というか手入れをしっかりしているのが伺えた。以前の鹿取は総髪で誤魔化して見かけの体裁は整えていたが、髪は荒れ放題であった。

 

「いやあ不思議なものだねぇ背は僕たちの中で一番低かったのに一番山みたいって形容するのが似合ってたんだけど。座布団にすっぽりおさまって座れちゃうんだから」

 

 二人の前に居る鹿取は今までも使っていた専用の座布団に座っているのだが、明らかにサイズが大きい。それでも姿違えど、所作からはこれは鹿取であるという確信が二人は得られてうんうんと無言で頷いた。

 

「これだから伊達男と病弱はもっと鍛えろ。華奢となったとは言え某、お前らに腕相撲で負ける気がしないな」

「いや華奢ではないぞ! 今の鹿取はないすばでぃと言う奴だ!」

 

 京楽と鹿取がお茶を吹き出した。浮竹の口から予想外の言葉が飛んできた為だ。

 

「え、そこ触れちゃうの? ボクその辺りはスルーしようかと思ってたんだけれど」

「京楽からそう言う発言されるとは思ってたが浮竹から言われるとは思わなかったぞ」

「いや二人とも。俺も自分で驚いている。枯れているものだと思っていたが、何故だか鹿取の胸を揉んでみたい」

 

 なぜか胸を叩いて清々しいいい顔表情をしている浮竹。京楽と鹿取は顎を落としていた。

 

「いやぶっちゃけすぎだ浮竹どうした⁉︎ いやまあ、昔から世話になってるし減るもんでもないから構わないが……」

 

 修練中に鎌風に触られすぎて感覚が麻痺している。そんな鹿取の肩を掴んで真剣な顔で浮竹が口を開く。

 

「ダメだ、体は大事にしなさい」

「どっちだよ‼︎」

「ちょっとこのお茶お酒でも入ってるのかい?」

 

 京楽が腹を抱えて蹲ってしまった。笑死にしそうになっているのだ。

 しばらくして収まったのかフーと涙目をこすりながらお茶をすすった。

 

「ボクもリサちゃんから"隊長の知り合いの三席の姪に会った"なんて胡散臭い話と聞いてはいたけど本人とは思わなかったなあ。どうしてそうなっちゃったの?」

「それは言えん。四十六室から直々に機密指定だ。知りたくば総隊長に直訴してくれ」

「それは恐ろしいなぁ。聞くに聞けないじゃないか」

 

 それからしばらくの間和気藹々と茶会を続け、時間もいい頃合いとなった。

 

「鹿取、君の目標は変わっていないのかい?」

「ああ、某の目標は変わらず。総隊長を超え隠居させてやる事だ」

「遠い目標だ。でも鹿取ならきっと為せると俺は信じている。先生もそれを心待ちにしているはずだ」

 

 三人が立ち上がり、二人が羽織を纏う。もうここからは同期ではなく、隊長と三席の関係だ。

 

「京楽隊長、浮竹隊長、本日はありがとうございました」

「またやろうよ。まあボク達みんな忙しいから年がら年中と言う訳にはいかないけど」

「ああそうだな、またやろう」

 

 海燕が風呂敷を二つ携えて京楽と鹿取に渡す。

 

「お土産だ。是非隊の人達で食べてくれ」

「リサちゃん喜ぶかな?」

「ありがとうございます。浮竹隊長」

 

 京楽は微笑んで、鹿取は深々と礼をし、雨乾堂を後にする。浮竹は去っていく二人を名残惜しそうに海燕と共に隊舎の出入り口まで見送った。

 今後この場にいた者たちで茶会が行われる事は、二度となかった。

 



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お面

「火急である!」

 

 一番隊にて行われる臨時の隊首会にて総隊長山本元柳斎重國が宣言し、状況を説明する。そこには話に出た九番隊隊長六車拳西、遅れている十二番隊隊長浦原喜助を除いた全ての隊長が集結し護廷十三隊の総力戦を思わせる物々しさを充満させていた。

 

「これより隊長格を選抜し直ちに現地へと向かってもらう」

 

 総隊長のその言葉とほぼ同時に扉が開かれ、浦原が自身を選抜するよう願い出るが拒否される。

 

「……続けるぞ。三番隊隊長鳳橋桜十郎(おおとりばしろうじゅうろう)、五番隊隊長平子真子(ひらこしんじ)、七番隊隊長愛川羅武(あいかわラブ)……さらに一番隊より鹿取佐々乃(かとりささの)を出す。以上四名は直ちに集結し現地へ向かってもらう」

 

 鹿取の名に何名かは驚き他はああ、鎌鼬の、と言った程度の反応だ。

 朽木六番隊隊長、京楽八番隊隊長、浮竹十三番隊隊長には瀞霊廷の守護を、隠密機動でもある四楓院二番隊隊長には待機命令、治癒部門の責任者である卯ノ花四番隊隊長は総合救護詰所で待機となった。

 すこし不服そうな卯ノ花を無視し、大鬼道長と副鬼道長の二名がさらに現地に向かう旨を総隊長が伝えた。

 

「おーい山じい」

 

 公の場でそう呼ぶなと言わんばかりの総隊長の目線に謝りつつ、京楽の提案で大鬼道長に代わり八番隊副隊長の矢胴丸リサが出ることとなった。

 

「それでは鳳橋楼十郎、平子真子、愛川羅武、有昭田鉢玄、矢胴丸リサ、鹿取佐々乃、以上六名を以て魂魄消失案件の始末特務部隊とする!」

 

 

「大丈夫、ひよ里ちゃんは強いよ」

 

 不安の隠せない浦原の肩に京楽は優しく手を置く。

 

「まっ、ウチのリサちゃんほどじゃないけどね。……それに鹿取ちゃんも。あ、ちゃん付したの本人に言わないでね。ひっぱたかれそうだから」

 

 京楽はいたずらっ子のようにすこしおどけた。

 

「信じて待つのも隊長の仕事だよ」

 

 去っていく京楽の背を浦原は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「総隊長から出撃命令?」

「はい。()()()()()()鳳橋三番隊隊長、平子五番隊隊長、愛川九番隊隊長と共に九番隊夜営地へ向かうよう通達がございました」

 

 伝令の面持ちも硬い。いつもに比べ緊張しているのだと鹿取は思った。ことの詳細を伺い重々しく鹿取は頷いた。

 

「こちらが集合地点になります」

「感謝する」

 

 日が暮れるまで待ち、指定場所へ早めに到着すれば既に鳳橋、平子、愛川の三人が待っていた。鹿取は慌てて頭を下げる。

 

「遅れてしまい申し訳ありません」

「ええ、ウチらがはよきすぎただけや」

「その通りです構いませんよ」

「気にすることはないぜ」

「ありがとございます」

「集まったんならすこし早くとも出発やな」

 

 あまり面識は無いが優しそうな隊長達だと鹿取はホッとした。

 夜も更け月明かりが照す流魂街の一角、九番隊が用意した夜営を発見した。九番隊お馴染みの六車九番隊の羽織が死覇装と共に落ちている。明らかに魂魄消失案件に関係していた。

 

「報告通りやな。変わらず警戒するんやで」

 

 そうしてしばらく周囲を調査していると、突如平子の霊圧が乱れた。

 

「鹿取三席!」

 

 鹿取が叫びに振り向いた時には、愛川が既に平子を切った瞬間であった。しかし平子は崩れ落ちる事なく目、口、鼻から謎の物質を噴出させ、すぐさまそれは仮面のように固まった。

 

「なん……」

 

 そのまま猛然と鹿取目掛け突進してくる。 乱雑に振り抜かれた斬魄刀を二刀で咄嗟に受け止める。信じがたい膂力に地面が耐えられず踵で地面を削り後退していく。

 

「平子隊長! どうしたんですか⁉︎ 正気に戻ってください!」

 

 驚くべき光景が続く。鳳橋隊長も突如仮面が現れたかと思えばこちらに加勢しようとしていた愛川隊長を全力でぶん殴ったのだ。あまりの威力に羽織と死覇装が弾け飛んだ。そしてすぐさま顔が仮面に覆われ鹿取に猛然と襲い掛かった。

 

「なん……だと……⁉︎」

 

 理解不能な事態に目を見開くが、応戦せねば鹿取自身の命が危うい。

 

「"()ぎ切れ" 鎌風‼︎」

 

 爆発するような猛烈な風が二刀から吹き出し三人を弾き飛ばし、上から叩きつけるように風を起こして動きを拘束する。

 

「縛道の七十七、天挺空羅(てんていくうら)!」

 

 詠唱破棄、その上補助用の文様も無く瀞霊廷から距離が離れているという三重苦を霊圧の出力をあげて無理やり行使する。精度が低くほぼ内容は伝わらないかもしれないが、緊急事態である事だけでも伝えねばならない。送信先は己が上官である山本元柳斎重國、そしてこの事態をなんとかしてくれそうな浦原喜助である。

 

「現在謎の仮面のようなものが現れた隊長達だと交戦中! 魂魄消失の原因はおそらくこれに関連す……」

 

 思考で送る事もできるがそれどころでは無いので言葉で伝えていたが、突如立ち昇る巨大な結界に天挺空羅が阻害された。結界の外を見ればそちらにも仮面を被った恰幅の良い大男がいる。

 

「ぐっ⁉︎」

 

 驚く間も無く蹴り飛ばされ結界に叩きつけられる。その仮面から出る緑髪には見覚えがあった。そしてその両脇に現れた人物にも。皆仮面に覆われているが見覚えある姿で、その腕には副官章が付いている。

 

「久南副隊長……矢胴丸副隊長……猿柿副隊長……! 一体これはどういう事だ‼︎」

 

 風による拘束を突き破りながら更に新手が現れた。

 

「六車隊長……!」

 

 久南白がこうなっていた時点で予測はしていたが、実際に見ても信じられるものでは無い。なにより何故矢胴丸リサと猿柿ひよ里がここに居るのか。

 

風舞(かぜまい)青嵐(あおあらし)‼︎」

 

 猛然と迫り来る隊長格七名を風による盾を形成して受け止める。その様は獣そのもので理性があるようには見えない。切り捨てるという選択肢が頭に浮かぶがそれはできない。

 

「各々方! 自身が護廷の要たる事を思い出せ! 正気に戻ってくれ‼︎」

 

 

 

 

 そこからしばらく、一刻以上も戦いわかったのは、幸いにも秩序だって殺しに来ているのでは無くただ目標を定めて暴れているだけなので傷だらけになりながらも致命傷を避けることはできるということだ。

 しかしあまりこの場に居座ればもしかすれば平子隊長の様に突如としてあの様なことになるかも知るない。せめて浦原等が到着すれば原因を突き止められるかもしれない。

 

「縛道の三十、嘴突三閃(しとつさんせん)!」

 

 風による吹き飛ばしを避け接近してきたリサを地面に叩きつけ詠唱破棄でそのまま地面に縫い付ける。しかし詠唱破棄とはいえそれを解術するのでなくただ乱雑に破壊し鹿取へ向け飛びかかるという常識外の行動に反応が遅れた。そこへ拳西の豪腕が迫り、諸共殴り飛ばされかけるが咄嗟にリサごと風の壁で守った。しかしそんなことは知らぬとばかりに壁の内にいたリサに足を突き刺される。

 限界が近い。いくら連携も理性もないとはいえ隊長格の獣である。切り捨てる他ないのかと苦い顔を鹿取がしながらひよ里を迎え撃つ。

 

「なっ……ぐっ……⁉︎」

 

 その瞬間、突如視界と音が失われた。そして何かに胴を貫かれた。

 

 鹿取の腹を貫いていたのは斬魄刀であった。それもとても長い。引き抜かれるとゴホ、と血を吐き、結界の外へ戻っていく刀身を見つめる。

 結界が解除され見やれば、大男は切られ倒れ伏していた。

 

「無事でしたか鹿取三席」

「あ、藍染副隊長……?」

 

 そこに現れたのは柔らかな微笑みを崩さない五番隊副隊長の藍染惣右介だった。それが平子達を切り捨てていた。

 

「申し訳ない、救援に来るのが遅れてしまいました。ですので刀をお下げください」

 

 そんな事を曰っているがどう聞いたところでおかしい

 

「某の腹を貫いておいて救援とは片腹痛いわ。見たところ正気だな、何が目的だ」

「いえ、もう目的は果たしましたので、見ているだけですよ」

「巫山戯るな‼︎ 鎌かーーー」

 

 奥の手を使おうとした瞬間、鹿取の顔からも謎の物質が現れた。それを無理やり引き剥がし藍染を睨み付ける。

 

「そうか、そうか貴様が原因か藍染‼︎」

「やはり、良い実験となった。鹿取三席のお陰で」

「護廷を汚した罪を償え‼︎」

 

 二刀で切り捨てたはずの藍染が消え失せる。そこにはただの木の枝しかない。そのまま背後から袈裟斬りにされる。

 

「まだだ、まだだ!」

 

 顔面にまとわりつく物を引き剥がすが、引き剥がすよりも早く仮面が形成されていく。頭の中に鎌風の声が聞こえるが意識が混濁してゆく。

 再び視界と音が消えるが、何かに切られた瞬間そちら目掛け風の刃を解き放つ。視界も音も戻るが、不鮮明で歪みまともにもう見えも聞こえもしていない。限界であった。

 

「ぐ……申し訳ありません」

「構わないさ要。鎌鼬、瀞霊廷最強の飛び道具使いの名は伊達じゃないようだ」

「護廷の為……総隊長を安心させ……浮竹……京楽……」

「これでおしまいとしよう」

 

 斬魄刀をこちらに向ける藍染の顔を最後に鹿取の意識は濁流に飲まれるように落ちた。

 



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現世い

「……ここは」

 

 目が覚めた時、そこは知らない空間だった。流魂街の建物のようにも見えたが、霊子濃度が低い。そのせいか呼吸に対して若干息苦しさを感じた。

 ぼやける目でゆっくりと頭を回せば同じように壁にもたれて平子達が座らされているのが見えた。拳西などの異形化していた体は元に戻っている。

 そうして自分の顔にも平子達と同じように仮面がついていてることも。右手でそれを掴んでみれば砂糖菓子のようにたやすく砕け、水に溶けるかのように消えていく。

 それでも後遺症か何かなのか、身体が重い。そして胸のところに違和感があった。そこに手をやるとサワリ、と毛の感触と硬質な、頭蓋骨の形。

 

「いやなんで??」

 

 見下ろせば矢胴丸リサが胸に突っ込む形で壁にもたれかかる鹿取に乗っかっていた。なんで顔が胸側になるようになっているんだ身体が海老反りになってて一寸も安静になってないだろうがと内心突っ込みを入れつつ裏返してみればしっかりと仮面が顔にくっついている。退かすのも億劫なので海老反り状態を脱させてそのままリサを抱く。腹をさすってみれば怪我をしたはずなのだがいつの間にか治っている。

 藍染の凶行の後誰かに救出されたのだろうか、と楽観的な事が浮かんだがそれなら四番隊隊舎で寝かされている筈だ。ならば藍染に捕まったかとも思うがならば拘束も斬魄刀も没収されていないのは杜撰すぎる。

 

「首尾はどうじゃ?」

「地下空間の形成は完了しましたぞ」

「こちらも偽装はなんとか終えました。次は彼らです」

 

 障子の先から声が聞こえた。鹿取は警戒して斬魄刀を抜きリサを脇に退けて障子隣の壁に背を着ける。

 

今は魂魄自殺の抑制はできてますのでなんとかうわ!」

 

 障子が開かれ現れた者に刃を突きつけるが、鹿取が見知った顔であった。浦原喜助である。続くように四楓院夜一と、鬼道衆の文様を携えた大男が慌てたように入ってきた。

 

「浦原隊長? 良かった某の天挺空羅(てんていくうら)は届いていたんですね! という事はここは十二番隊隊舎ですか」

 

 斬魄刀を納め喜色を浮かべる鹿取に三人は苦虫を噛み潰したような顔をした。頷き合い、意を決したように浦原は口を開く。

 

「違います。鹿取サンよく聞いてください。皆さんは虚として処分される事が四十六室で決定されました」

「な……?」

 

 咄嗟に動こうとした鹿取を夜一が制止する。

 

「安心……とは言えませんが、我々は皆さんを処分する為にここにいるわけではありません。皆さんを助ける為にここにいます」

「……四十六室の決定には従わねばなりません。それに背いてでも某や平子隊長達を助けようとしていただき感謝します。だがあまりやり過ぎれば護廷が乱れ、浦原隊長達の立場が危うくなる筈です。某の身は護廷に捧げたもの、無理と判断されたなら構わず処分してください」

「いえ、違うんです。我々は皆さんを()()させた下手人としての濡れ衣を着せられ尸魂界を追われた身です。ここは現世です」

「何故⁉︎ 下手人は藍染副隊長と明らかな筈!」

「……完全催眠や」

「おい、こりゃ、どう言う状況だ?」

 

 のそり、と平子が起き上がり続くように拳西が、声を上げた。共に仮面が地面に落ちて粉々に砕け消える。どちらもその眼光はひどく気怠げな動きと裏腹にギラギラと輝いていた。

 二人へ浦原が状況を説明する。

 

 

 

 

「ーーーといった状況ですね」

「いつか借りは返してやらねえと気が済まねえな」

「ようやりおる。魂魄消失案件で合流した鹿取に藍染のやつ化けとりおった。それくらいできるなら罪のおっかぶせ位わけないっちゅうことや」

「藍染が某に?」

「ジブン、そう己を呼ぶんやな。初めて会うたからすっかり騙されとった」

「では某が見せられていたのも幻……実際には矢胴丸副隊長に猿柿副隊長も部隊に加わっていた訳ですし……つまり某が伝令を受けた時点で奴の術中だったと」

 

 悔しそうに拳を握りしめる鹿取に浦原が話を切り出す。

 

「現状まずは皆さんの虚化をどうにかせねばなりません。今は死神と虚の境界を張り直していますが、この障子紙と同じ位薄っぺらなモノです。いずれ破られれば良くて魂魄自殺、悪ければ隊長格と同格かそれ以上の霊圧を持った虚の誕生です。それまでに何か対策を見つけなければなりません」

「それなら良い方法があるぜ」

 

 目線が拳西に集まる。

 

「今俺の中には虚がいる。卍解と同じ理屈だ、そいつを屈服させりゃ良い」

「それは……」

 

 うまくいく保証もない。失敗すれば待っているのは死だ。拳西はそんな様子の浦原に獰猛な笑みを浮かべた。

 

「なに辛気臭い顔してんだ。解決法が見つかったんだぜ? 笑えよ」

「いやなに無茶いうとるねん」

「当然初めにやるのは言い出しっぺの俺だ文句はねえな?」

「‥…まずは全員の意識が戻ってからにしたらどうじゃ?」

 

 夜一の提案が採用された。

 

「なんや真子、寝覚めにその顔は心臓に悪いわやめてくれへん?」

「そう言えるなら元気やな。祝いに接吻でもしたろか」

「やめーや顔が爛れる」

 

「おいなんでそいつが? そいつは俺を」

「あれは偽物や。こっちは本物やから安心せい」

「全く、彼女も僕たちも悲劇という他ないね」

 

「マシュマロ畑の女神に抱きついたら気持ちよかった……」

「いやなに寝ぼけてんねん。ヤラシい手の動きしとらんでおきいや」

 

「あっおはよー、お腹すいたんだけど!」

「おめえはいつも通りかよ‼︎」

 

「皆さん無事だったんデスネ、良かったデス」

「ああ無事やで、調子はどうや?」

「疲れてマス」

「せやな」

 

 全員が目を覚まし、状況を把握したところで地下に降りる。偽装が施され、ここならば霊圧が感知される事はないらしい。

 一同は意味わからないほど巨大に掘られた空間に驚きつつ、壁に『私が掘りました』と鉄裁の顔が描かれている事に気付いた鉢玄がなんとも言えない顔をしていた。

 

「なにが起こるかわからねえ備えておいてくれ。そして俺が虚になったなら、迷わず殺せ」

 

 義骸を脱ぎ捨て地下空間のど真ん中に座り、刃禅を始めた拳西を皆で見守る。そして突如変化は起きた。顔から吹き出すように虚の仮面が現れたのだ。全員に緊張が走る。乱れた霊圧のままに跳ねるように立ち上がると襲いかかってきた。

 

「縛道の六十一、六杖光牢(りくじょうこうろう)!」

「縛道の七十五、五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)!」

 

 鉢玄の六杖光牢でタタラを踏んだ虚拳西に鉄裁の五柱鉄貫が直撃し五体を拘束する。本来であれば隊長格でさえ身動ぎ一つできない盤石の拘束。虚拳西の両腕から突起が突き出すとその拘束が揺らぎ始める。

 

「ムッ鉄砂の壁、僧形の塔、灼ーーー」

「無理じゃ。拘束ではなく空間での閉じ込めに切り替えよ」

「しかしそれでは」

「構わん、中で儂が相手をする」

「鉢玄、お主も内に虚がおるんじゃ休んでおれ。他の皆もじゃぞ‼︎」

「そ、そうさせていただきマス……」

 

 後述詠唱で縛道を強化しようとした鉄裁を夜一が制し、鉢玄や抜刀していた面々に忠告する。鉢玄が従って六杖光牢を解除すると五柱鉄貫へ負荷が集中し、後述詠唱が中断され不安定化していた術が崩壊を開始する。

 緩んだ拘束ごと無理やりに起き上がろうとした虚拳西の顔面に白打が叩き込まれる。それと共に二人の周囲に十分な広さを確保した結界が形成される。

 

「儂と大人の鬼事といくとしようか」

 

 夜一はその瞬神の異名に恥じぬ戦いぶりを見せた。白打を用いての打撃と瞬歩で髪の毛一本触れさせない。しかし戦うには十二分でも瞬神には狭すぎる結界内で、虚拳西の攻撃の苛烈さは増していく。もう殺すべきなのか、まだ希望はあるのか、先の不明瞭さが夜一の体力を余計に消耗させ疲労を濃くしていく。

 そうして四十五分ほど、経過したあたりで異形と化した拳西が動きを止めた。

 

「どっちだ……?」

 

 誰がそう呟いたか皆が見守るなか異形化したその体にヒビが入り、弾け飛ぶ。するとそこには仮面だけをつけた拳西が立っていた。

 

「な、うまくいっただろう?」

 

 仮面を取り得意げに拳西は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうじゃな。ところでお主儂を見て何か思うことは?」

 

 そちらを皆が見れば虚拳西の最後の破裂が結界のせいで逃げ場なく直撃し大怪我こそないものの逆さまに結界と壁の角のところへ押し込まれた夜一がいた。しかも服はズタボロである。

 

「……なんかすいません」

 

 あまりの状態に特に悪く無い拳西が素直に敬語で謝った。



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内在

「よし、それでは次は某が」

「「「いや少し待て」つのじゃ」ってください」

 

 拳西がいきなり虚化を克服して喜んだ勢いで鹿取が立候補したところ拳西、夜一、浦原に同時に止められた。三人が顔を見合わせていると平子が間に割って入ってくる。両手を上げ三人を見渡し、スッと夜一へ手を差し出し発言を促す。

 

「相手をするの儂だけでは少し辛いのじゃ、輪番にせぬか? あともうクタクタじゃ休ませてくれ」

 

 もっともすぎる意見に皆がうなずいた。

 次、と浦原が促される。

 

「今回の拳西さんの情報を精査してより安全性を高めたいですね。あと、鹿取さんは最後の方がいいと思いますよぉ」

 

 じゃ最後はという感じで拳西を促す。

 

「鹿取左々乃介の姪で後任とはいえ三席だ。俺が危険無視でやっといてなんだが浦原のいうように安全を確保して臨んだ方がいいんじゃねえか?」

「あ、それに関しては問題ありませんよ。彼、いや彼女? 本人です」

「は?」

「いえですから、彼女が鹿取左々乃介です」

「あ、ハイ。某が左々乃介です六車隊長」

「はぁぁぁぁぁあ⁉︎ あの鍛錬やろうが⁉︎」

 

 拳西の顎が落ちた。平子、愛川、鳳橋、リサはまあそうだろうなと言った顔だ。

 

「まあ、総隊長が俺達と一緒に指名してきたしな」

「信頼が無ければ為せない命令、まさしく一番隊の清廉なる志の象徴」

「正直姪っ子がただでさえ珍しい二刀一対の斬魄刀より性別変わったの方が信頼性あるわ」

「というか硬いねん鹿取は。もっと遠慮なくいこや。うちらもう護廷十三隊じゃ無く藍染ブッ殺隊やろ?」

「なんやそのクソダサ隊は抜けるわ」

 

 ひよ里はそも検査を手伝ったので事情を把握している。

 

「ププー! 拳西ったら一人だけ気付いてないんだーー!」

「うるせえお前が聞いてもいねえのに協会の話しまくってただろてかあの口ぶりお前も気付いてなかっただろうが‼︎」

 

「という訳で、今日はもう休みましょう。あ、拳西さんここから出るならちゃんと義骸着てくださいよ」

 

 その後、重症度順に白、ひよ里、リサ、鉢玄、羅武、ローズ(名称本人希望)、真子、鹿取の順でこの()()()()と名付けられたかなり乱暴な虚化克服手段を用いていくこととなった。

 ハラハラさせたのは内在闘争最長レコードのひよ里、面倒な事になりかけたのはローズと真子の二人で、ローズの方は浦原特製"もうなにも聞きたくねえぜ耳栓"でなんとかなり、真子の方は同士討ち防止に拳西以外は結界の維持を除いてなにもしないという選択肢がとられた。

 その期間鹿取は延々と炊事洗濯をし続けた。最後なのでそれまで内在闘争の外での補助にも参加できないのである。その間はどんな影響が出るか分からず修練も禁止でその鬱憤を家事で晴らした。

 

「明日、あたしの内在闘争なんだけれど、一生のお願いやから同衾させてくれへん?」

「いやなんで?」

「なんや怖いんか? ならウチが一緒に寝たろうか? なんやその目線は」

「いや、だって埋もれる程胸ないやない」

「なんや⁉︎ 人が心配しとんのに喧嘩売っとんのか⁉︎ 存分に埋めさせて窒息させたろか⁉︎」

「こっちも死ぬまでに乳に挟まってみたいんやよええやろ‼︎」

「ま、まあ二人とも落ち着いて」

「無駄に乳腫らしよる奴は黙っとれ!」

「とりあえず今夜は同衾やからね‼︎」

「ひどい‼︎」

 

 そんな一幕もあったが鹿取を除いた全員が虚化の制御に成功し、最後鹿取の番が来た。

 ようやくやってきた出番に最早いつも割烹着を着ている鹿取は嬉しそうだ。その鹿取を横目に他のメンバーは作戦会議である。

 

「これをまずみてください」

「なんやこの表。鹿取が一番やな」

「胸囲順ちゃう?」

「いやそれならワタシが一位になるハズ」

「これはですね、霊力量の測定結果です」

「「「「!!!」」」」

「ワテや拳西の1.5倍とは恐ろしいわ。なんで三席なんや」

「いえ、そこは測定の上限値、つまり測定不能です」

 

 皆がポカンとした顔をした。

 

「は? なんで隊長やっとらんのや。一番隊なんやからローズより先にコイツが総隊長に推薦されとるハズやろ」

「いえ彼? 彼女? は護廷十三隊という括りで見たなら常識人なのですが、一番隊という括りで見ればかなりの問題児でして……総隊長の推薦何度も蹴ってるんですよね。本人は大真面目に、あの山本元柳斎重國を超える為と言ってましたが」

 

 なる程はたからみれば鍛錬を怠らない真面目な三席、一番隊でみれば隊長であり総隊長の推薦を蹴る問題児という訳だ。全員が納得した。

 

「鉄裁さんは三重に結界を、鉢玄さんはその上から更に三重の結界を貼ってください。内部での戦闘はワタシ、夜一さん、拳西さん、ラブさん、ローズさん、平子さんの輪番で行います。ひよ里さんとリサさんに白さんは結界維持の補助をお願いします」

 

 聞くと過剰な配置かもしれないが、未知に立ち向かうには万全を期す必要がある。斬魄刀との一体化を成した死神の虚化など想像した者すらいなかった代物故にだ。

 

「これまでの戦いで内在闘争中の虚化は理性無しの力押しなのが幸いですが最悪です。理性なくともその素地は瀞霊廷最強の飛び道具使いの異名を持つことを忘れないでください」

 

 皆が準備を終え、鹿取が結界の中央で刃禅を組む。その前には浦原が斬魄刀、紅姫を解放した状態で立っていた。

 

「さあ、鹿取さん。さっさと内なる虚を倒してみんなでお祝いとしましょう。いつも鹿取さんばかりに当番やらせてますから、今日は皆さんが料理作ってくれますよ。あ、白さんはちゃんと隔離しておくのでご安心を」

「浦原、ありがとう。万一が有ればその時は後始末をお願いする」

「万一はありませんよ鹿取さん。おや、行きましたか」

 

 鹿取は意識を集中させ、精神世界に突入した。

 

 

 

 湖畔が血の池のように赤く染まっている。樹々は石英のように白く枯れ、古屋は焼き討ちにあったように炭化していた。小屋の残骸の中心に鹿取はいつの間にか立っていた。

 

「これはひどいな。某の心はここまで荒んでいた覚えは無いのだが」

これはこれは、俺じゃないか

「!」

 

 声をかけられ、振り向く。そこにいたのは鹿取だった。

 鍛え上げられ筋骨隆々となりながらも無駄を剃り落とした山のようと形容された肉体、それに似合う少し野性味を感じさせる巌のような顔は自分でも信じられない程口角が上がっている。

 そこにいたのはこの姿になる前の鹿取を脱色し尽くしたような存在だった。

 

どうも俺、初めまして

「こちらこそ某、初めまして」

 

 互いに敬意の籠もっているのか怪しい挨拶を済ませると鹿取は辺りを見渡した。いつもいる鎌風がいない。

 

「鎌風はどうした?」

ああ、あの強情なら、仕置きの最中だ

 

 虚の鹿取が手を挙げれば血の池の水面がせり上がり、水の中に閉じ込められた鎌風の姿があらわになる。意識はあるようで鹿取に気付きもがいているが意味を成していない。鹿取が見たのを確認したなら無情にも鎌風は血の池へ沈められていった。

 

「……あまり時間をかけられないから単刀直入させてもらうが、某の物になってもらえないか?」

いやだね

「どうすれば言うことを聞く?」

そんな問答に意味があるか?

 

 目線が火花を散らした瞬間、互いの下へ鼬が飛び込み二刀に変化する。

 構えは、違う。以前の鹿取として作られた剣術の構えと、今の鹿取として再構築した構えはもう別のものになっている。

 

「ならば某が力を持って押し通させてもらう!」

できると思うか? そんな姿でな!

 

 衝突した二人の斬撃が血の水面に巨大な波紋を起こし石英と化した樹々を木っ端微塵になぎ払った。



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まずはお手並み拝見といこうじゃねえか‼︎」

「行くぞ!」

 

 衝突した斬撃の威力と相まって共に斬魄刀が弾かれる。

 弾かれたままに虚鹿取が二刀を重ね交差させ両手の膂力を最大に活かした振り下ろしが迫る。体格差をそのまま活かす一撃に鹿取は左手の斬魄刀を逆手に持ち直した。

 剣撃を力のまま弾くのでなく、刃を滑らせ太刀筋をずらす事で最小の力で攻撃の防御と返しを両立する。その迫る刃に柄頭を叩きつけ無理やり鹿取の体勢を崩し弾き飛ばすのは虚鹿取だ。様子見の剣戟の結果は互いに無傷。

 

そんな小技に頼るのが強さか? 俺として情けねえ限りだ。俺が求める強さはそう言うものか? 違うだろう? 俺が憧れたのは全てを真っ向から叩き潰す"力"の筈だ!

「ぬかせ。その小技を破れない癖に」

 

 火花を撒き散らしながらの切り合いの終端は、互いの高速の刺突。それを同じように互いの刀で逸らし、受け止め、双方の動きが一旦停止する。霊圧が高まる瞬間も口を開いたタイミングも完全に同一だった。

 

「「()ぎ切れ! 鎌風!」」

 

 二人を中心に爆風と遜色ない風が撒き散らされ衝撃波が荒れ狂う。ただの余波で焼け焦げた小屋は完全に倒壊し血の池は風圧に負け水を弾き飛ばされ湖底を晒す。

 

風舞(かぜまい)(こがらし)!」

風舞・野分(のわき)!

 

 竜巻が池の水を吸い上げ樹々を巻き上げあらゆる物を破壊しながら突き進むなら、終わる事ない暴風の奔流がそれを受け止め包み込む。その爆心地に立つ二人に飛来物が衝突する度、まるでそれがチリだったかのように木っ端微塵になっていく。

 鎌風は烈風系の斬魄刀に分類され、開放する事で風を生み出すと共に不可視の飛び道具"風刃"を得る。初めこそ三枚までしか生み出せなかったそれは修行の果てに今や三十枚存在し、鎌鼬の名に違わぬ最強の飛び道具と化している。

 一つ一つが自在に形を変え、それはいま二人の体を触れるもの全てを切り裂く鎧として纏っていた。

 そのまま両者が飛び込み白打で殴り合う。体術は質量がモノを言うため威力では虚鹿取に軍配が上がり小さな鹿取は手数でそれをカバーする。発する音がノコギリを互い違いに引き合っているかのような非常に喧しい物である。

 殴ると見せかけ斬魄刀が突き出された。そこからは一瞬で殴り合いから切り替わり、斬り合いへ移行する。先ほどから得意の遠距離戦を捨てゼロ距離の乱打戦を選択しているのは風や飛来物程度では互いに防御を破れず千日手となる為で、至近距離での風刃の攻撃は通し易いからだ。

 時間は虚の味方故に鹿取は突撃し、力に固執する虚鹿取はそれを真っ向から受け止める。

 

俺に主導権を寄越せ! そうすれば元に戻れるかもしれないぞ!

「要らない! 黙って某の力となれこの石灰岩が!」

ツレないな! 思わなかったのか? 俺が生まれる時、元の姿だったならと!

「!!」

 

 鹿取の腹に防御を突き抜けた刀が突き刺さり、血を吐く。その血はすぐ様風に吹き飛ばされ霧のようなった。

 

思ったのだろう⁉︎ 元の体であったなら遅れを取らなかったのではないか? 今の体で最善の動きが本当にできたのか? と!

 

 グリ、と刺さった刀を捻り、鹿取が表情を歪めた。隙間に差し込むように蹴りをたたき込んで吹き飛んだ虚鹿取ごと刀が引き抜かれる。溢れ出していた血が風の鎧によって無理やり堰き止められる。

 

「その姿となってお前は弱くなった! ならば俺が受け継いでやる! 最強へと至ってやるとも!」

 

 そう言って虚鹿取は止めと言わんばかりに足に力を貯め、開放した。

 飛来する隕石と見紛う威力を持つ突進を真っ向から受け流す事なく受け止めた。口の中に残った血を唾と共に吐き捨てる。

 鍔迫り合いする四本の斬魄刀は共に同じ長さ。しかし鹿取の持つそれは大きく見え、虚鹿取が持つそれは小さく見える。変わったのは持ち手であり斬魄刀の大きさに差はない。

 白い死覇装からのぞく鋼のような前腕に比べ鹿取の腕は今にもへし折れそうなほどか細く柔らかそうに見える。

 だがこの腕は鹿取自身が最も信頼せねばならぬ己の腕なのだ。これのせいで負けた等と言い訳に逃げるなどあってはならない事だ。護廷とはいついかなる時戦うことになるかわからない。常在戦場、敗けた言い訳など何の役にも立たないのだから。

 

「確かに! 思わなかったといえば嘘になる! 成る程お前はまさしく某であるのだな。だが、()()()()()()()!」

 

 快活な笑みを浮かべてから鹿取が歯を食いしばる。鹿取のさらに高まる霊圧に虚鹿取の霊圧が追いつかなくなり出した。

 拮抗していた鍔迫り合いの形勢が徐々に鹿取へ傾いていく。驚愕に目を見開く虚鹿取が渾身の力を込めても押し返すことができない。

 

なん……っだとッ⁉︎

「力にのみ固執するから本質を見誤る。確かに以前の某の方が強かった! だがそれはもう先のない、己の山の(いただき)だ!」

 

 血の池の水は今や全て吹き飛び、拘束から解放されたズタボロの鎌風が湖底から二人の様子を見守っていた。

 

()()が目指すのはその程度の限界か⁉︎ 違うだろう! 目指すは全死神の頂点、山本元柳斎重國を超える事! だからお前も某ならば、鎌風と共に某へ力を貸せ!」

 

 虚鹿取の斬魄刀にヒビが入った。見開いた目に喜色が浮かぶ。

 

成る程成る程成る程‼︎ 俺も捨てた物じゃないわけだ‼︎ さっきまでの俺をぶん殴ってやりてえくらいだ! だかならば、最大の一撃をもって証明して見せろ‼︎

 

 互いが互いを弾き飛ばし、その間には大きな距離が開く。そして互いに斬魄刀を十字に構え、叫ぶ。

 

「「卍‼︎」」

 

 先ほどとは比べ物にならない霊圧が互いに溢れる。

 

「「解‼︎」」

 

 そして世界は閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あかんぞ! ローズ出したれ!」

 

 四十七分、ローズの出番の最中虚化した鹿取が動きを止め悲鳴を上げた。虚化した陶器のような体にひびが入り始め大慌てで結界に穴をあけてローズを退出させる。

 しかし、外皮がはじけ飛ぶことなく、そのまま崩れるようにして中から狐のような虚の仮面をつけた鹿取が現れる。仮面がひとりでに崩れ大気に溶けていけば鹿取が目を開けた。

 

「虚の力、どうにか納めることができた。みんなのおかげだありがとう!」

 

 胸をドンと叩いて辺りを見渡した。

 

「そ、それは良かったっス」

「う、浦原?」

 

 結界が解除されると大きな敷物の上に座布団を大量に置きそこに頭をうずめて倒れている浦原の姿があった。連なるように夜一、拳西が続き、ラブに至っては起こさないでくださいと書かれた立て看板を抱えていた。そしてローズもその仲間入りした。続いて鉄裁と八玄も入る。

 

「いやほんと良かったっス。二週目に入られたらやばかったっス」

「ねえ鹿取乳揉ませてもうそれくらいないとやってられウグゥ」

「みんな疲れとんねん黙っときや」

 

 なんか言っていたリサがひよ里に鳩尾を突かれて悶絶している。輪番の最後で待機していた平子を除く全員が疲労困憊状態であった。

 

「いやホンマ、鹿取最後でよかったわな。スマンが鹿取、メシの当番はウチラや」

「わかった。みんな迷惑かけてすまん。某の腕によりをかけて精のつく食事を作るぞ」

 

 何故か砂まみれになっていた義骸を着直して埃をはたき落とすと意気揚々と梯子を登って地下空間から出ていく様子を平子は下から半目で眺めていた。そして思い返す。浦原が結界の中で風に洗濯されるかの如く吹き飛ばされ続けていた様子や元大鬼道長と元副鬼道長の六重の結界をぶち抜きかけた全方位への攻撃。交代しようと結界を小さく開くたびに内圧がヤバいことになっているのか地下空間に吹き出す暴風。

 

「俺が最後でよかったぁ」

 

 ポリポリと頭を掻きながら平子も鹿取の後に続いた。




ご感想誤字報告誠にありがとうございます


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瀞霊廷にて

タグにギャグと入れた理由です
少し短めです


「本日より沖牙源志郎を一番隊三席とし四席には天野草海を任命する。両名、護廷の為励むがいい」

「「ハッ‼︎」」

 

 一番隊の隊舎では山本()()()()()が席官の任命を行なっていた。任命式を終え、席官となった両名が退出した後もしばらくの間その場に立ち尽くす元柳斎を雀部が労る。

 

「元柳斎殿……」

「みなまで言うな長次郎。わかっておる。あやつめで駄目ならば誰を送り込んでも同じであったろう」

 

 目に浮かぶのは、山の様であった鹿取と、まるで孫娘の様であった鹿取の双方だ。杖で小さく床をつけば、音が反響していく程に一番隊隊舎は静かであった。暇さえあれば鹿取が剣道の稽古を申し込んできたり悪戯を仕掛けられたのが懐かしくさえ思う。

 

「悪ガキであったが、居なくなるとやけに静かに感じるものだのう」

「そうですね。元柳斎殿」

 

 まるで息子と娘を同時に失ってしまったかの様な喪失感を二人は感じていた。

 浦原喜助の事件から一ヶ月近くが経った。大混乱の様相を呈していた護廷十三隊も少し落ち着きを取り戻し始めている。隊長不在となった五番隊では副隊長である藍染が隊長代行として精力的に動いた事で早くも業務だけは真っ当にこなせる様になり始めていた。

 平子が居なくなったことへの悲しみを隠す様に働き続ける藍染の様子を見ていた隊士たちが奮起したのだ。

 一番隊では三席に沖牙源志郎が就任。二番隊は大前田希ノ進副隊長がそのまま隊長および隠密機動総司令代理となり死にそうな顔で業務に追われている。三番隊は元から射場千鉄副隊長が仕切っていた面もあり問題なく機能した。が彼女の喫煙頻度が上がって心配されているらしい。七番隊は小椿刃右衛門が鹿取とはまた試合がしたかったなぁとぼやきながらも隊長代行を頑張っていた。十二番隊では涅マユリが隊長代行に就任し以前にも増して怪しい雰囲気が漂い始めていた。

 そして副隊長を失った八番隊の京楽春水はというと瀞霊廷の貴族たちの居住地の一角で、とある人物と会っていた。

 

「やあ京楽。今日は何か御用かな? 君達のところは今大変だろうさっさと帰って仕事でもしていたほうがいいんじゃないか?」

綱彌代(つなやしろ)君こんにちは。君がこうしてボクの前に姿を現すということは……どうやらアテが外れたようだね」

 

 切れ長の吊り上がった常に嘲笑をしているかのような眼をした男が口角を吊り上げながら京楽に声をかけた。それに対し京楽は残念そうな顔をしていた。

 

「全く、何か悪いことが起きれば私が原因だと思っていないか? たかが京楽家の次男坊風情で無礼だぞ」

「いやいや、四十六室から虚になったリサちゃん達の処分が言い渡されたとき"ただし鹿取佐々乃に関しては綱彌代家の者が処分を実行する"なんて言われたら気にもなるでしょう」

「実際にはならなかったわけだがな。まあ今のお前の顔を見れたんだ、それで我慢するとしよう」

「……なんで鹿取ちゃんをわざわざご指名したのかな?」

「簡単だ。お前のそういう顔が見たかっただけだよ」

 

 この件に関し何かを知っている、と京楽は確信を持った。だが相手は分家とはいえ五大貴族筆頭の血筋。この男が今ボロを出す筈もなく、例え証拠を見つけたとしても現場を押さえて切り捨てるくらいでしか罰する術はないだろう。それでも京楽がこの男に会ったのは、怒りがあり、その矛先かもしれない相手を確認しておく必要があったからだ。

 

「それでは、五大貴族様のお時間を取らせてしまい申し訳ないね」

「ああ、二度と御免だな。だが……親友を失ったお前の顔は中々良いものだ。今夜の酒の肴にでもさせてもらおう」

 

 互いに踵を返し、別れを惜しむことも振り返ることもせず京楽はその場を後にした。

 

 

 

 その頃、藍染は秘匿された研究室で得られた実験成果の精査を行なっていた。部下である東仙は九番隊の主要席官もいなくなってしまった為臨時に副隊長に格上げされ隊をまとめる事に奔走させられている。つまり今ここに付き従っているのは市丸ギンだけである。

 この場は単純に発見されにくい秘匿がなされた上で鏡花水月の影響下にある為、関係者以外は発見は不可能な代物である。

 

「この間のやつですかいな」

「そうだよギン。彼、いや今はもう彼女か。アレは様々な知見を我々に与えてくれた」

 

 藍染は上機嫌そうに様々な資料を眺めていた。ギンが見てもわからないものばかりだ。

 

「以前私が採取した特殊な魂魄と同質と彼女は該当すると言っていい。()()()()()の一部とはいえそれを宿す死神の例はまさしく類を見ない。私が採取した"爪"の使い道さえ彼女は示したのだから」

「やり方がエグかったわぁ、お仲間の虚化実験の結果をそのままつこうなんて」

「彼女には最も有効な手段だ。彼女はまだ甘い。護廷の為と言うが元柳斎と違い全てを切り捨てる事ができないのがその証拠だ。だからこそ平子達を利用して虚化因子を注入するのは容易かった。予想値の数倍を注がれても虚化が起きなかった辺り、我々が手を下す羽目になってしまったがね」

 

 眼鏡の反射で目の表情は窺い知れないが、その口には微笑が浮かんでいた。

 

「特に、その身に宿した物を奪えなかったのは残念だが」

「昔のは爪とか言うてはりましたけど、鹿取はんには何が宿っとったんです?」

 

 振り返った藍染のその手には、未完成の崩玉が収まっていた。これを用いて魂を削ろうとしたが浦原喜助の妨害により為すことができなかったのだ。

 醸し出す雰囲気が重くなり、想い人から奪われた物に関する情報を少しでも聞こうとしていたギンは内心冷や汗をかいた。

 

「あんなもの、いや、この場合は正しく言おう」

 

 藍染が笑みをたたえながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「彼女に宿るのは"霊王の乳房(ちぶさ)"だよ」

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 何とも言えない間が発生した。

 

「…………はい?」

「おや? ギンには早かったかな? つまり"霊王のおっぱい"という事だ」

「……そないなもんが?」

 

 ギンは思わず自分の鉄面皮に感謝した。いやべつにそう言うのを知らないわけではなく藍染という人物像から絶対出てこなさそうな単語が出てきたのに困惑しているだけである。間抜けな面を晒すことはなく幸いにも首を傾げる程度に抑え込むことにギンは成功した。

 

「疑問に思うことは当然だ。霊王はその通り"王"、つまり男性を意味している。しかしアレはすべての力を持つ神の如き存在であったものだ。雌雄同体、いや性別の概念すら超越した存在であったと想像するのは難しくはない。現に鹿取佐々乃に宿っていたのは乳房だ。この仮説を後押しする素晴らしい情報だよ」

「ハイソウデスネ」

 

 ギンは表情を変えずにただ話を聞いている事にした。しっかり記憶することは忘れずに。



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鍛錬

「斬魄刀との一体化を教えてほしいって?」

「ああ、藍染の野郎を倒す為なら戦力は強ければ強いほど良いだろ?」

 

 夕飯の為、割烹着に三角巾をつけて大鍋で肉じゃがを作る鹿取に拳西が話しかけてきた。

 

「……それより先ずは基礎訓練じゃないか?」

「いや、藍染の野郎がいつ決起するかわからねぇ以上やるなら早いに越したこたねぇ筈だぜ」

 

 少しの間手を止めて鹿取が考え込んだ。

 

「それも確かに……だが虚化の制御時間を伸ばす必要もある上に一体化までとなると……いや一体化自体は一発勝負だから時間はかからないが確実に成功させるにはやはり基礎訓練が」

「というか斬魄刀との一体化のやり方はどうなってんだ?」

「ちょっと拳西ーー! 佐々乃の邪魔しないで! ご飯が遅くなるじゃん‼︎」

「うるせえ! 話すくらいで変わらねえよ‼︎」

「だったら佐々乃の料理食べないでよ! 拳西は自分で脇の下でも使ってジャガイモ潰してサラダでも作って食べれば良いじゃん! あたしがその分食べるから!」

「なんだその作り方⁉︎ 食えるか‼︎」

「こらこら喧嘩しては駄目だぞ。白はご飯を早く食べたいなら食器を用意するのを手伝ってくれ」

「ハーイ!」

(母親かな?……)

(お母さんかよ……)

(母君デスネ……)

(オカン二号や……)

 

 座敷におとなしく座っているローズとラブとハッチと平子はそんなことを思った。ちなみにオカン一号は鉄裁である。

 

「でだ、一体化のやり方はーーー」

「聞くのはやめといた方が良いと思いますよ拳西サン」

 

 拳西に横槍が入った。リサとひよ里、鉄裁と共に浦原が買い出しから帰ってきたのである。リサの挙動が若干怪しいが。

 

「いやぁこっちで商売始めようと思ったんすがなかなか難しそうですね」

「胡散臭すぎて警戒されとったで」

「おい浦原、やめといた方が良いっていうのはどういうことだ?」

「方法を知っちゃうと無茶でもやるのでって事っす。ただ前提条件だけお話ししますと斬魄刀との一体化は"斬魄刀との完全同調"が最低条件っす。拳西サン、虚化という不確定因子が入った今、あなたはそれができますか? 失敗すれば死神の力を永遠に失うという重大な危険を負ってまで? なればこそ今は基礎の強化にに専念すべきですよ」

「基礎の訓練だったらどこまでもやれるから拳西、食事を終えたら某と立ち合いでもするか? 少し気になる鍛錬法もあるんだ」

「……良いぜ。ハッチ、手伝い頼むぞ」

「分かってマス」

 

 買ってきた物を仕舞っている面子の中に夜一がいないことに気づく。たしか一緒に出て行ったはずなのだがと鹿取は首を傾げた。

 

「浦原、夜一は?」

「今日は帰らないそうっすよ」

「それじゃ作りすぎになってしまった」

「申し訳ないっす」

「アタシが食べるからヘーキヘーキ!」

「それは名案だ」

 

 和気藹々とする様子の中ひよ里がジトーとリサを見つめリサは忍足で別室に移動しようとしていた。

 

「リサお前どないしたん?」

 

 気づいた平子が少し驚かせようと無音で肩に手を置くと、びくっと体を跳ねさせたリサのスカートの中からボトボトと本が落ちてくる。

 

「うおっなんや?」

「いやだめやってみんといて!」

「いやそう言われてみない奴はおらんで」

 

 ハッハッハと笑いながら本を手に取った平子が固まる。本の閉じ方や紙の質は瀞霊廷のものに比べれば悪いそれは凄まじい感じに〇〇が〇〇な感じでうふーんな〇〇だった。つまり春画集(エロ本)である。

 

「いや買い出しに行っといて何買うとるねん⁉︎」

「え、ええやろ‼︎ みてみたかったんやから‼︎」

「なんだリサ助平か?」

「ちがうわラブ! 興味津々なだけや!!」

「ほ、ほら某そう言うのは気にしない故に調理が終わったから食事にしよう?」

「やめてや! 変に気を使われると逆に恥ずかしいわ! オカンか⁉︎ 次から揉みにくいやろ!」

「なんでじゃ」

 

 リサの理不尽に鹿取はため息を吐いた。

 

 

 

 

 食事を終えて大満足と言わんばかりに地下空間で腹を膨らませた白を横目にハッチが拳西と鹿取を包むように結界を張る。内在闘争の時のように無秩序に大暴れするわけではないので強度を妥協して広さを確保していた。

 立ち合いは一見地味な物だ。二刀を縦横無尽に振り回す鹿取とそれを防ぐ拳西の図である。剣撃の衝突音が凄まじい筈だがハッチの結界のおかげで騒音被害はかなり軽減されていた。

 しばらくやっていると交差させた二刀に絡みとられ拳西の斬魄刀が空中に吹っ飛ばされて結界に刺さった。唖然とした様子の拳西に鹿取が歩み寄ってかて動きの講釈を始める。

 

「拳西のいい所は野性味のある挙動だけどそのせいで無駄も多いから野性味を残しつつ余分な所を削ぎ落としていくといい。どうした?」

「普通に打ち負けるとは思わなかったんだが」

「解放無しの剣術の立ち合いなら一刀より二刀の方が強いからな」

「いやその理屈はおかしいからな?」

 

「お二人、刀を落としますヨ」

 

 結界を開いて刺さっていた斬魄刀を落下されると拳西が受け取った。

 

「じゃあ次は虚化の持続練習だ。拳西はいまどれ位だった?」

「一分だ」

 

 これは結構いい数値である。白が一人だけ十五時間程出しっぱなしに出来るので感覚が麻痺しかけるが。

 

「訓練してて気付いたんだが虚化してから刃禅を組むといい感じになる」

「本当か?」

「考えるに虚化は斬魄刀で言うと対話、同調、具象化、屈服、全部が同時に必要になってるような気がするんだ。某達が出来ているのは屈服のみだから他もやれば成果が出る筈」

「成る程……内なる虚なんかと対話なんて考えたこともなかったな」

 

 拳西が虚化してすぐに刃禅を組んだ。そのまま精神世界に突入したであろう拳西は少しして大汗を吹き出し始めるとうぐ、ぬ、と苦悶の声を上げ始める。既に先程の申告の一分を超え二分をすぎた頃。

 

「ブハァ⁉︎」

「お帰り拳西」

 

 仮面が割れると同時に疲労困憊となった拳西が大きく息を吸った。

 

「はい、もう一回、もう一回」

「ちょ、ちょっと待て今内なる虚とぶん殴り合いしてきたばかりで」

「いやいや鍛錬なんだから実戦より厳しいやり方しないと駄目だろう。被って被って」

「わかったよ!!」

 

 拳西がまた虚化し刃禅を始めると鹿取は一人で刀を振り回しなにやら仮想敵との立ち合いをしているようであった。刃禅をする脇でやってるせいではたから見れば見た目がすごく滑稽な感じになっているが二人とも大真面目である。

 

「ブオッハア!!」

「お帰り拳西。ほらもう一回もう一回」

「嘘だろ!?」

「大丈夫だ。某が二十回まで連続でやっても安全だったのは確認している。拳西がうまくいったならみんなにも提案しようと思っているから頑張ってくれ」

「なんだそれ!?」

「だが拳西、ただ虚化を維持しようと気張ってたよりも多分維持時間の伸びはいい」

 

 立ち上がった拳西の肩を背伸びしながら引っ掴んで無理やり座らせる。最近鹿取に対し割烹着を着た温和な印象が強くなっていた拳西がそうだこいつ元はゴリゴリムキムキ鍛錬バカだったということを思い出した。

 そして合計十七回目で動かなくなるまで延々と拳西は虚化刃禅を続けた。

 結界が解除されその場で疲労困憊で気絶した拳西にハッチが布団を掛ける。上の寝床に連れてってやれやとツッコミを入れられる平子はここにいない。

 

「あの、ワタシ必要でした?」

「ありがとうハッチ。いやもしかしたら暴走とかもあるかもしれなかったから。某が止めるにしても周りに大被害が出ては不味かったのでな」

 

「暴走拳西サンと佐々乃サンの大乱闘はチョット勘弁デスネ」

 

 絵面を想像してハッチは遠い目をした。そうして鼻ちょうちんを作る白を優しく横抱きにした。

 

「佐々乃サンはこのあとどうするんデス?」

「某も虚化して刃禅する。白もハッチもおやすみ」

 

 鹿取は拳西が寝てる脇で虚化刃禅を始めた。結果その日の拳西は悪夢にうなされる羽目になるのだった。




前話では沢山のご感想ありがとうございました!
がんばります


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今へ

「ハイ、第一回目。藍染対策会議の時間や。司会担当は俺平子真子がお送りするで」

 

 浦原がよい感じで商売の伝手を見つけ平子達がそれを利用して金銭を稼いだりとようやく現世での行動基盤が安定し、各々が虚化をある程度使いこなせるようになった為会議が開かれたのである。

 

「最大問題は崩玉の防衛と完全催眠っスねぇ」

 

 いまだ最終的な藍染の目的が分かっていない。ただ虚化の実験をしていたことから虚と死神の境界を取り払う崩玉は優先的な防衛対象だ。

 

「なんやろな完全催眠ってアレ、俺の逆撫の上位互換かいなって感じやわ」

「戦った経験則なんだが、そこにある物を置換する幻覚なんじゃ無いだろうか。いやそう見せてるだけの可能性も高いが」

「それはありそうやな。わざわざ自分の影武者役用意して俺につけてたわけやから」

「鹿取サンの天挺空羅で私らも異常に気づけたのもあるので、認識外の事をされると精度が落ちるのかもしれませんね」

 

 あの藍染がわざわざ能力の限界を見せているかは疑問符がつく。だがわざわざ足がつきそうな程度に能力を抑える意味はないのでここの全員は藍染の完全催眠は何か媒体が必要という前提で話を進める。

 

「効くかどうかはわかりまセンが、幻術対策の結界は張れマス」

「藍染がその場に居るなら某なら辺り一体吹き飛ばせばなんとかなるのでは?」

「何もないところやったらええけどそうじゃなきゃ佐々乃そんなことできないやろ」

「少なくとも幻覚な訳だからよ、幻覚で騙された上で反撃できるだけの強さになれば良いんだろ」

「完全催眠前に不意打ちでぶん殴るっていうのはどうや?」

「ならば儂の瞬歩でどうじゃ?」

「発動条件わからないんっスよねぇ。事件当時の瀞霊廷でのアリバイ作りからして少なくとも平子サンの卍解の様な一定範囲無差別型では無い筈ですが。でなければあまりにも範囲が広い」

「霊圧で圧倒すれば無理やり破ることも可能と思われますが、詠唱破棄の断空で私の鬼道を防ぐほどです。流石に無謀ですな」

「つまるところまず実力で上回らんと話にならんね」

 

 全員がうんうん唸りながら色々意見を出すが、藍染の完全催眠の性能が高すぎて対処する方法すら迷走している。後大体みんな物理的である。実際鏡花水月の前にまずは藍染自体を倒せる程の強さがなければ話にならないので間違ってはいないが。

 

「まず、『完全催眠は発動条件があり、我々全員がそれを満たしてしまっている』と『長大な範囲内を完全催眠をかけることが可能』の二つに絞りましょう。私としてはせめて前者であって欲しいっスけどね」

「下が普通にあり得るのが恐ろしいな」

 

 如何に高性能な斬魄刀の能力といえど使用するならそれなりの霊力を消費する。後者であれば事件時の位置関係からして瀞霊廷どころか尸魂界東梢全体を覆える程の霊力を常に消費しているという凄まじい事態になるが、推定される強さから見るとありえてしまうのが恐ろしい。

 

「前者に関しては崩玉の隠匿方法と一緒に私の方で対策を練って置きます。後者だった場合や前者であっても皆さんは変わらず戦力の拡充に努めてください」

「それじゃ、虚化組の俺らは浦原らとは別行動のといくとしようや」

「それが良いだろうな」

「別れもまたいずれ出会う布石、悲しみは無いさ」

「ええー! 分かれちゃうの?」

「悲しいことデスが、白サンが居れば百人力デスね」

「しょうがないなもう、任せときなさい!」

 

 ハッチが白をおだてているのを横目に少ししんみりした様子の浦原の顔面にひよ里のパンチが炸裂した。

 

「痛い!」

「なにしんみりしとんねん! 今生の別れちゃうぞ!」

 

 頬を撫でて涙目になる浦原を夜一と鉄裁が苦笑して見ていた。

 

「私達は重霊地を拠点にしようと思っています。その方が研究やら色々と都合がいいっスから」

「俺らは放浪やな。ここいらでも最近怪しまれはじめとるやろ」

 

 最近、外見も変わらぬよそ者の集団ということで周りから怪しまれはじめている。浦原も重霊地に拠点を作ったらここは一切合切綺麗さっぱりさせる予定の様だ。

 そうして会議を終えた後、平子は重大そうな顔で虚化組を集める。浦原、夜一、鉄裁は蚊帳の外で見守っている。

 

「俺らの集団としての名前、決めへんか?」

 

 虚化組の面々が顔を見合わせた

 

「え? 某、藍染ブッ殺隊になったとばかり」

「それは却下だ。現世愚連隊ってのはどうだ?」

薔薇の騎士団(ローズナイト)なんてどうだい?」

「いやそりゃ無いだろ」

「九人の侍」

「十四番隊」

「春画愛好会」

 

 全員が好き放題思いついた名前を言うがどれもしっくりこない様子。

 

「アレや。俺ら虚化しとる訳やし虚側に合わせて、仮面の軍勢(ヴァイザード)なんてどうや?」

「藍染ブッ殺隊からやけに進化したやんけ」

「いいんじゃ無いか? 僕たちを表す美しい名前だ」

「某はそういう感覚に疎いので文句は無いぞ」

「いいデスネ」

 

 意外に良い名前を提案した平子に称賛がもたらされ蚊帳の外をしていた浦原達も「それではこれからは皆サンの事を仮面の軍勢(ヴァイザード)と呼ばせていただきますね」最近被りはじめた不審な帽子を撫でながら微笑んだ。

 分かれた二つの勢力が再びあい見える事間なるのはそれから数十年以上先のことになる。

 その間鹿取は"特訓オカン"というちょっと謎な称号を貰い、仮面の軍勢全員の訓練を担当した。これに一番苦労させられたのは結界を張って存在を隠蔽するハッチであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、某の自信作だ」

 

 ある日、鹿取が満足げに台所で鍋の蓋を閉じた。玉ねぎを大量に鍋で炒める事から始め現世で培った知識を総動員しスパイスの組み合わせにまで拘った無水カレーが完成したのだ。

 現世では炊飯器という機械が生まれ米のたき具合は気にせずとも万全、現状の鹿取の至高のカレーライスがここに誕生したのである。それを大型の炊飯器と一緒に抱えて倉庫の方へ向かう。

 

「みんなお疲れ様! 飯を作ってきたぞ!」

 

 倉庫の中ではハッチが結界を張った内で鍛錬が行われていた。鹿取の姿に気付いた白がテンションを上げ、拳西やラブはクールダウンをしはじめた。

 

「今日はカレーだぞ。某の自信作だ。お茶を取ってくるから先に食べててくれ」

 

 鹿取が炊飯器と大鍋を置いて倉庫から一旦出ようと扉を開けた瞬間、何かが飛来した。

 全員が一斉に虚化し、ハッチは内側を封じる結界を外部からの防御結界に切り替えさらに鹿取と自身を新たに覆う。襲撃を受けるならば浦原の方という認識はあったがこちらも万一に備えてはいたのだ。

 ガッシャンと大鍋に衝突しはじけたそれが倉庫の床に撒き散らされる。そうしてまるで生きているかのように蠢き、文字を形作っていった。

 

仮面の軍勢の皆様へ。霊圧などの探知を受けない新たな情報交換手段の開発に成功しました。並びに崩玉の隠蔽手段、藍染への対策も目処が立った事を報告させていただきます。映像資料も添付いたしますのでご精査ください。今後ともご贔屓によろしくお願いいたします。浦原商店

 

 大きくなっていた血のようなモノの塊が崩れると、内側から浦原製の映像再生機が姿を表す。

 ハッチの結界に守られる皆が沈黙した。大鍋の蓋が転がり、壁にぶつかってカランと乾いた音を立て倒れた。

 

「か、か、」

 

「「「「「カレーーーーー!!!」」」」」

 

 そこには無惨にも豊潤な香りを倉庫内に満たしながら床にぶちまけられたカレーの姿があった。白は泣いた。鹿取も泣いた。

 その日の仮面の軍勢の食事は白米と梅干しとお茶になったのであった。

 



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浦原のいつもの

お久しぶりです


「いやー鹿取サンお久しぶりっス! よろしければ何故平手打ちを受けたのかの説明も欲しいっすけどね!」

「鹿取殿の見事な平手打ちでしたな店長」

「……この間テレビで見た……店長、不倫した……?」

「バッカ(ウルル)ありゃ恋愛ドラマだぜ。ビンタの後体ごと3回転半してたらギャグじゃねえか」

 

 どこかの機動戦士のオヤジにも打たれたことないみたいな姿勢をしている浦原に鹿取は悲痛な面持ちで数枚の写真を差し出した。そこに映されていたのは例の連絡メッセージの脇にぶちまけられたカレー、そして白米を死んだ目で食べるラブと涙目の白の写真だ。

 

「フンヌッ‼︎」

「痛いッ‼︎」

 

 鉄裁のチョップが浦原の頭頂部を直撃しふくらはぎ半ばまで地面にめり込んだ。ビヨンビヨンと上半身がばねのように揺れる。そしてそれを成した漢の眼鏡の裏からは、一筋の涙が流れていた。

 

「いけませんぞ。皆様には大変なご無礼。この鉄裁責任を持って代わりの食事を準備する所存」

 

 高速で鉄裁は梯子を駆け上っていった。

 

「着弾時に衝撃が発生しないよう改良を加えさせていただきマス……策に関しては時期が来れば連絡するっスから、鹿取サン達は変わらず戦力の増強に努めててください」

 

 わかったとうなづく鹿取に雨が近寄ってきた。

 

「ん? どうした?」

「……どうすればお姉さんみたいにバインってなれますか?」

「……………三食欠かさず食べてしっかり運動をするといい。某はそれくらいしかしていない」

 

 ジン太に引きずられていく雨をなんとも言えない顔で眺めていたがゴホンと咳払いをして鹿取は浦原の方へ向き直る。ちょうど足を地面から引っこ抜いている所であった。

 

「それで、あの映像はなんだ?」

「ああ、見てくれましたか」

「全部がぼかしが入ってて何も分からなかったんだが? リサがこの間買ってきてたスケベなビデオ以上にぼかしがすごかったぞ」

「いや何みてんスか」

「いや男なのを忘れない為にもリサの奴が見た方がいいって言うのでな」

 

 それ騙されてますよとは浦原は言わなかった。

 

「とりあえず、皆さんに詳細を見せても楽しいものではなかったので証拠に渡しただけっスよ。"晴れろインフィニティモザイククリア"って動画に叫べばぼかしが消えますから。それと、皆さんに無駄な心労は掛けたくないのでこれからは便りがなければ元気の証とでも思っていてください。緊急があればまたアレ、飛ばすので。……ちなみに、アレをみてどう思いました?」

「? ああ、カレーで頭一杯だったが、この間テレビで見たダイイングメッセージみたいだったな」

「へえ、ちなみにひよ里さんはなんて?」

「"なんで赤単色やねん白で縁取らんかついた場所によっちゃ見えんやろがダボ!"って」

 

 人差し指で目尻を吊り上げてひよ里の真似を鹿取がする様を見て浦原も帽子をさする。

 

「うーん白で縁取るのは技術的に難しいんスよねぇ」

「まあまだ色々突っ込みたい事はあるんだが、今日は帰るよ。あとうちの奴らに会う時は全員が多分一発殴ってくると思うから気をつけるのがいいぞ」

「それ私死んじゃいますよぉ? 会うに会えないじゃないですか困ったな」

「いつも後出しジャンケンみたいな事するのと食べ物の恨みは恐ろしい、観念してくれ。それではまたいずれ何かあれば」

 

 鹿取が見回した先には謎の縦穴と太い柱で作られた枠みたいなのが鎮座していた。浦原の事だから何かの実験なのだろう。梯子を登っていく鹿取を浦原は扇子を開いて雨が紙吹雪を撒きジン太が大団扇で風を起こし感動の出発と言った感じでそれを見送る。

 

「……問題ありません。今にアレは表舞台に引き摺り出されます」

 

 扇子で口元を隠し、小さく浦原は呟く。その目線は太い柱の集合体、穿界門に鋭く向けられていた。

 

 鉄裁弁当を受け取った鹿取はついでにお茶でも買っておくかと来た道と違う方へ歩き出した。

 

「……ん?」

 

『これからすぐに

(浦原)商店前に集合

P.S.

いまこれを見て

「ダイイングメッセージみたい」

とかありきたりなこ事を

思った人は

 

ツッコミの才能が

ないです

 

 路地に薄くなっているがそんな事が血文字で書かれていた。実験の為に近所で使ってみたのだと思ったが、鹿取は少ししょんぼりした。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おーすおかえり〜」

「アレ、なんかコンビニ弁当にしちゃやけに豪華だな?」

「先日の詫びにと鉄裁殿が持たせてくれたんだ。飲み物も好きなの持ってってくれ」

「さすがはオカン一号やな。それで、映像のボカシの件はどやった?」

 

 平子が割り箸を割りながら鹿取に問いつつ蓋を開ければ良い香りが鼻腔をくすぐる。唐揚げ弁当だがその香りはコンビニ弁当の比ではなく油断すればよだれを垂らしてしまいそうな代物だ。

 

「ちゃんと聞いときたぞ。あまり気分いい物じゃ無いらしいが?」

「結局は見ないとあかんやろ。飯でも食いながら見よか」

「行儀悪く無い?」

「いや適当に座って食ってるのに行儀もなんも無いだろローズ」

「君はジャンプ読みながら食事するんじゃ無いよラブ」

 

 そう言いつつひよ里謹製のモニターに映像を映す。ぼかしがひどく何も見えないそれに向け、鹿取が向きなおる。

 

晴れろインフィニティモザイククリア!!!

 

 平子とひよ里と拳西が喉に米や唐揚げを詰まらせラブがコーラをリサがお茶を吹き出しローズが割り箸を割るのに失敗した。ハッチは黙々と結界で吹き出されたお茶から自分を守り白は弁当に夢中であった。

 

「おお、言ってた通りぼかしが消えたな。ん……」

「ブッハァ!! 何いうとんねん笑かすな‼︎ 窒息するかと思ったわ‼︎」

 

 顔を青くしたひよ理が水で詰まりを解消してキレるも、鹿取が反応しないので蹴りをぶちかまそうとする。

 

「ノールックで受け止めるなや腹立つわ!!」

 

 ひよ理の蹴りを左手で掴んでそのまま画面を注視しているので。ひよ理もそのまま画面を見る。

 映し出されるのはオレンジ髪の青年の軌跡だ。その中でも特に目についたのが、虚の仮面をつけた青年の姿。

 

「浦原の奴、こないな大事な情報ぼかし入れるんやないで、まあどうせ聞いても答えてはくれへんやろうけど」

「ちょっと待てなんか俺たちの冒険は続くってなんかくぐってったけどどこ行ったんだよ」

「あ、浦原の家に行ったとき某みたなコレ。ひよ理これ何かわかる?」

「普通に考えれば穿界門やろ。ここまで太い代物でもないはずやし何かハゲが装置を後付けしてるんとちゃうかというかいい加減離さんか!!」

 

 穿界門で行く先なんて一つである。尸魂界だ。全員が飯を食い終わって目線を合わせる。何も語ることは無く沈黙が状況を支配している。

 

「「……」」

 

 全員が浦原の秘密主義に沈黙するが、まあもう慣れたモノである。決まって浦原はやること全部終えてこちらが許せば円満な状態に持って行ってそのうえで「いやぁみなさん。秘密にしてて申し訳ありませんでした」と言うのである。

 

「……このガキ、ウチらの力が必要になるかもしれへんな」

「どう見ても内在闘争もしてないだろうしな。こりゃいずれ虚に食われるぜ?」

「某としても、死神の力を得たとは言え現世の人間に重荷を背負わせるのは御免だな」

「じゃ、こっちに帰ってきたらいっそ仲間にしちゃおうよ!」

「ウチは嫌やでこんな乳離れもできてないガキ」

「まあまあ」

「乳ない奴がなに言うとるん」

「現世の奴ならジャンプの良さもわかってくれそうだしな」

「ワタシは反対する理由はないデスネ」

「ああ、彼も我々の同胞に……これも運命」

「誰じゃ乳ないとか言った奴は!! ぶち転がすぞボケがァ!!?」

 

 このオレンジ髪に何かあったら助けになろうというのがおおよその仮面の軍勢の意見として固まった。

 なおこの後浦原から連絡があったのは藍染関連ではなく別件であった。



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空座防衛隊、新たなる仲間

「縛道の五十八、摑趾追雀」

 

 倒壊し焼け焦げた寺の跡地で、狐面をかぶった鹿取が縛道を用いて霊圧の残滓の追跡を行っていた。あたりはひどいもので周囲に張られた隠蔽用の術式や封印式は木っ端みじんに吹き飛んでいる。器子で構成される現世でこれだけの事態になっていることに驚きを隠せない。

 本来いたはずの鬼道衆や死神の霊圧残滓が一切ないことも気になるが、そこは霊圧を追いかけるのに便利なのであえて考えないこととした。

 しかし霊圧をしっかり隠蔽しているらしく、摑趾追雀の座標指定がぐるぐると正確な数値を出そうとしない。いったん諦めて現場の状態をみようかと思った時、急に座標が割り出された。

 

「これは……空座町の方面か。瀞霊廷での使用前提なせいで正確な座標がわからんが、某と同質なら見つけるのは容易いか?」

 

 瞬歩で一足飛びに霊子で足場を作って空を移動していく。義骸に入っているので一般人に悟られないよう曲光での隠蔽も忘れない。

 鹿取がこうして単独で調査を行っているのには理由がある。浦原の策により藍染が遂に護廷の敵となったのだ。崩玉の覚醒期間から推察する戦闘時期に対し仮面の軍勢は追い込み鍛錬を開始、そんな所へ斬魄刀一体化の検体となる人物、梅針の封印が解かれたという報が入ったのである。

 言い方が悪いが相手は罪人、鹿取と違い検体として浦原は使えると踏んだらしく捕縛を狙い鹿取に協力要請をしたというわけだ。その為の装備も浦原からもらっている。

 

「これを。霊圧を隠蔽するマントを縫い直して作ったエプロンと鹿取さんの虚の面のデザインに合わせた狐のお面っス」

「なんで?」

「討伐に来た護廷十三隊の方々との面倒ごとは避けたいスからね。平子さんたちと違って貴女の顔がわかる人は今の護廷十三隊にはほとんどいませんが、居るには居ますからね名前を聞かれたらこう名乗っておけば誤魔化せますあとこんな感じのを言ってれば正体に言及されることもないでしょう」

 

 ごにょごにょと小声で浦原は鹿取に伝えた。

 

「わかった」

 

 といった具合で。鹿取は了解していた。

 

「それにしても空座町か。重霊地だから仕方がないと言えばそうだが」

 

 霊が集まりやすいとは言え藍染に狙われそれゆえに浦原の拠点にされ今回も梅針がやってきている訳なので土地に対して鹿取は若干同情した。

 

()()()?() いや、これが初めてか」

 

 その時空座町のビル街で尋常ならざる霊圧が揺れた。鹿取は進路を定めて瞬歩で現場にすぐ様に駆けつける。

 

「なんだお前は!」

 

 そこではショットガン持って襲来した恋次とルキアと共にオフィス街のカフェで話を聞いていた一護だが、突如その話題の梅針の襲撃を受けることとなっていた。恋次が死神の自分にそんなのが効くのかと言われれば効かないだろうにショットガンで応戦し負傷、一護が代行証で死神化する事態になった。

 

「ククク……我は刃なり!」

 

 射出される剣を斬月で弾き斬りかるとまさかの素手で斬月を掴まれる。それに動揺した一護が隙を見せそうになった瞬間、梅針の顔面に蹴りが直撃した。

 

「はっ?」

「なにっ?」

「ふえっ!?」

 

 地面に火花を散らしながら顔面から突っ込んだ梅針から目線を蹴りをたたき込んだ者に一護や恋次が向けて唖然とする。変な狐みたいなお面を被ったエプロンを着た主婦みたいなのが刀を二本腰に下げてなんか構えをとっているのである。その胸部は豊満であった。

 立ち上がろうとした梅針の顎に右ストレートを叩き込み倒れた所を更に顔面にスタンピングをして地面にめり込ませながら暴力で気絶させる。抵抗すら許さない。

 

「ななな、なんだあんた⁉︎」

「某か。某は空座防衛隊カラクラグレート。カラクラ博士ウラハーラの命令でこの悪をボコボコにしに参った」

「何言ってんだあんた⁉︎ ウラハーラって絶対浦原さんの関係者だろ⁉︎」

 

 気絶から起きない様に定期的に梅針の顔面を金属バットでコンクリートをぶん殴っているような音を出しながら蹴り飛ばすカラクラグレートに一護がツッコミを入れる。

 本来斬月でも切るのが困難な存在をぶん殴って気絶させる方が突っ込まれるべきなのだが見た目と口上が突っ込みどころ満載すぎて忘れられていた。

 

「浦原? 某は知らんな。某はカラクラグレート。空座町の平和を守る感じのことをする奴である」

「なんでちょっとふわっとしてんだよ‼︎」

「この男は某の方で預からせてもらう! 縛道の六十三、鎖条鎖縛グレート捕縛縄!

 

 カラクラグレートが光る鎖を出して梅針を簀巻にして肩に担ぐ。

 

「おいちょっとまった縛道って聞こえたぞ⁉︎」

「フハハさらばだ!」

「話を聞けええええ‼︎」

 

 ツッコミに息を切らした一護と顛末を茫然と眺めた恋次にすごくシリアスな顔をしたルキアをその場に残し、カラクラグレートは姿を消したのだった。

 

「おい、コレはどう言う状況なんだ?」

 

 そこに入れ替わる様に日番谷冬獅郎が現れた。

 

「いや……」

「何というか……」

 

 恋次と一護が微妙な顔でどう言ったもんかと顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

「成る程、カラクラグレートなる闖入者が梅針を捕縛して去っていったと」

 

 とある一室で一護達は状況説明を日番谷に終え、一息をついていた。

 

「というか、そもそも冬獅郎が出張ってくる必要あんのかよ?」

「日番谷隊長だと何度言ったら……。良いか? 梅針は当時の護廷十三隊六十三人を手にかけ、さらに隊長二人を犠牲にようやく封印できた様な怪物だ。十二時間以内の再封印か消滅が命令として下っている以上こちらもそれなり以上の戦力を集めるのは当然だろう。だが、浦原がもう手を打ったとなると……」

 

 過去の顛末を聞き、一護ルキア恋次花太郎は思う。白打でそんなのをボコボコにしていたカラクラグレート何者だと。

 

 そこへ穿界門が開かれ地獄蝶が羽ばたき現れる。

 

「後続も来たみたいだな」

「京楽隊長! 浮竹隊長⁉︎」

「やあ日番谷隊長、今どんな状況だい?」

「梅針には浦原が既に対処した可能性が高いが、確証が持てない」

「じゃ行くしかないんじゃない? その浦原くんの所にさ」

「おい阿散井、二人に移動中に顛末を話しておけ」

 京楽の提案に全員がうなづき行動を開始し、さっさと浦原商店へと向かう。

 恋次が二人へ説明を終えた辺りで丁度浦原商店へと到着した。その商店の軒先で、ダンボールを椅子にして何かをしている集団がいた。

 

「というわけで本日付で空座防衛隊の時折助っ人に来てくれるめっちゃ強いキャラ役の謎の隊員になったカラクラグレートだ! みんな拍手‼︎ あの女がいない今真のレッドとして鼻が高いぜ‼︎」

 

 もう一人のレッドがいない原因は今到着した一団の赤髪のせいである。

 

「カラクラグレートだ! みんなよろしく!」

「新たな仲間! 喜ばしいです! ボハハハー!!」

「……歓迎」

 

 パチパチパチとカラクラレッドとカラクラピンクの子供二人、カラクラゴールドが拍手を送り駄菓子で乾杯をしている。

 

「グレートお面取らないと食べられないんじゃない?」

「大丈夫だウラハーラの技術力でお面の口がぱかっと開く様になってる」

「「おお〜〜」」

「いやなにやってんだ!?」

「おおマイ一番弟子‼︎ ボーイも新メンバーを祝ってくれるか!」

「おい待てカラクラキングたる俺を差し置いて新メンバーったどういふぐおっ」

「面倒くさくなるから今はすっこんでろ」

 

 哀れコン義魂丸に戻された。

 

「ん? ひょえっ⁉︎」

「てかなんでドン・観音寺⁉︎ じゃなかったおいカラクラグレート! 浦原さんどこだ!」

「いやぁそ……わたくしここに連れてこいとしか言われてないのでよくわからないでしてよ!」

「いやキャラブレてんだろもっと頑張れよカラクラグレート!」

 

 開いていた口元を速攻で閉めてそんな事を言い出すグレートに一護が困惑しながらツッコミを入れるのを浮竹が制す。

 

「ダメだぞ一護くん。こんな素晴らしい胸を持つご婦人に詰め寄っちゃ」

「浮竹さんは浮竹さんで真面目な顔でなに言ってんだ‼︎」

「おっと思わず口が滑ってしまった。失礼したカラクラグレートさん」

「い……いえいえ構いませんでしてよ」

 

 浮竹の発言を聞いて京楽が何かを察した顔を一瞬してスケベ親父な顔をニンマリと作る。

 

「胸……良いよねぇ」

「おい冬……日番谷隊長どうにかしろよ同じ隊長だろ」

「こういう時だけちゃんと呼ぶんじゃない。それでカラクラグレート、ここを通すつもりは?」

 

 一護が小声で助けを求められため息を吐きながら日番谷が話を進める。よかったまともだと一護が思う一方、恋次は(乱菊さん相手にしてるから胸は慣れてるんだろうな)とかとても失礼な事を思っていた。

 

「わたくしがし、特にそういうの言われてないあるよ! 好きに入れば良いでござる!」

「いやだからブレすぎだろ……まあいいやじゃあ入らせてもらうぜ」

 

 そう言って一行を見送る空座防衛隊。カラクラグレートは手を振りながら変な汗をかいているのだった。

 




カラクラグレート
エプロンに仮面をつけたミステリアスに防衛隊の成長を見守る新メンバー。
デカレンジャーで言うとドギー・クルーガー ポジション


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