もし騎士くんが素性騎士の灰の人だったら (アストラの直剣)
しおりを挟む

もし騎士くんが素性騎士の灰の人だったら

 

 

 

 古い時代

 

 世界はまだ分かたれず、霧に覆われ灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった

 

 だが、いつかはじめての火がおこり、火と共に差異がもたらされた。熱と冷たさと、生と死と、そして光と闇、火の時代の到来

 

 しかし時は過ぎ神々は消え今や、火はまさに消えかけ世界は火を継いだ薪の王たちの故郷ロスリックに流れ着いた

 

 

 

『火は陰り、王達に玉座なし』

 

 

 継ぎ火が絶えるとき、鐘が響きわたり

古い薪の王たちが、棺より呼び起されるだろう

 

追放者───クールラントのルドレス

 

深みの聖職者───人喰らいのエルドリッチ

 

深淵の監視者───ファランの不死隊

 

罪の都の孤独な巨人───巨人ヨーム

 

おぞましい血統の末───ロスリック聖王

 

 

「5つの玉座に5人の王を。それは火継ぎの準備なのだよ。いよいよ陰り今にも消えんとする火を継ぎ再び世界を繋ぐため、最古の火継ぎを再現するために私は薪の王となったのだよ」

 

 クールラントのルドレスを除く四人の薪の王達は再び玉座に座ることを拒み自身の故郷へと去っていた。世界を再び火で照らすべく彼等を今一度薪の王とするために一人の不死者、かつて使命の果てに潰えそして火を失った亡者、火のなき灰が目覚の鐘の音と共に灰の墓所より目覚める。

 

「灰の方、火をお継ぎください。薪の王たち、灰の方々、すべての火継ぎに囚われた者たちのために───はじまりの火をお継ぎください」

 

 火継ぎの祭祀場にて瞳なき火防女は主なき灰に呟く。祭祀場には鍛冶屋や侍女、さらにはロスリックに囚われていた盗人や呪術師、聖職者や魔術師と素性を問わず多くの人々が火のない灰の使命を果たす為に支援を惜しまなかった。

 

「あんた、薪の王を探すんだろ?きっと強い武器が必要になってくる。俺にあんたの武器を鍛えさせてくれ」

 

「無事だったかねよかったよ。じゃあ、務めを果たすとしようか。欲しいモノがあれば、遠慮なく言ってくれよ?もっとも、出所の詮索はなしだけどな?」

 

「君が呪術を学ぶなら、私は師、君は弟子だ。昔からそういうものなのだよ。その気がなくても、まあ、老人をたてておきたまえ。呪術ならずとも、それが処世というものだぞ」

 

「点字聖書をお持ち頂けたのですね。これで、貴方に新しい物語をお聞かせできます。偉大な奇跡の物語は、少し長いかもしれませんが……」

 

「俺はヴィンハイムの隠密だったんだ。名ばかりの魔術師それでもいつか真っ当な魔術を学べると思っていた……この俺がここで魔術の秘に触れている。すべて、お前のおかげさ」

 

「貴公迷っているのだろう?だが道に迷う者は、道をゆく者に他ならぬ。 それは貴公が英雄であるという証だ。たとえ貴公が何を選ぶとも………私が貴公に感謝し抱く思いに何の変わりもありはしないよ」

 

 そんな祭祀場なかに一人だけ地に伏せ全てを諦めた男が居た。

 

「ああ、お前も死に損ないか……俺もそうさ。火の無い灰、何物にもなれず、死にきることすらできなかった半端者だ……笑わせるよな。そんな連中に、薪の王たちを探し、カビた玉座に連れ戻せなどと……あいつらは皆、火を継いだ英雄様だぜ。俺たちに、何ができるものかよ」

 

 男はかつて薪の王達の一人であるファランの不死隊に所属していた脱走者ホークウッド。彼は英雄達の正体がおぞましい存在でありどうしようもない存在であることを話した。

 

「お前は知っているのか?英雄様と呼ばれる薪の王たち、その正体を例えば、エルドリッチさ。聖職者だった奴は、反吐がでるような人喰いを繰り返し溺れた豚のように膨れ、蕩けた汚泥となり、深みの聖堂に幽閉された。そして、エルドリッチは薪の王となった。人品など関係ない、ただその力ゆえに……王とは、つまりそういうもの。そんなものに挑もうってのかい?」

 

 

 火のない灰は己が課せられた使命を果たすべく幾度なくロスリックに赴く。道中には同じく火のない灰として使命を果たす者達も居た。共に手を取り合い、時に襲いかかる闇霊を倒しそして幾度の死を乗り越え迫り来る敵を切り伏せる。

 

「お前……薪の王を……不死隊を倒したのか。王を玉座に連れ戻すとはそういうことか……憐れなことだ。これが薪の王というわけか」

 

「ありがとう……貴公には助けられてばかりだな。だがお陰で古き旧友との約束を果たすことが出来た。貴公、我が友よ……無事に使命果たしたまえよ」

 

「貴方は強い人だ。ただ一人で、使命に向かっている。そして私もそうあろうと思います貴方の旅に、炎の導きのあらんことを…」

 

 ついには三人の薪の王達を屠り、首を玉座に戻した灰の英雄は火防女に瞳を与える。

 

 それは最初の火防女の瞳であるといわれる。後に全ての火防女が失う光そのもの。

 

 それは瞳無き火防女に見るべきでないものを見せるという───火の消えた世界を……

 

 

「灰の方、瞳をありがとうございました。けれど火防女は瞳を持たぬもの。これは、禁忌です。私に微かな光を与え、恐ろしい裏切りを見せるのです。火の消えた世界を……貴方はそれをお望みでしょうか?」

 

 

 

『火の消えた世界を望む』←

 

『望まない』

 

 

 

「私は貴方の火防女。貴方の望みに従いましょう。そしてこのことは、固く秘しておきましょう。誰にも知られてはいけません。私は瞳無き火防女。いつか貴方が、すべてを裏切るその時まで」

 

 ロスリック城の玉座にて居座る萎びた薪の王『ロスリック王子』そしてかつてデーモンを退治を行ったのち英華を喪った兄王子ローリアンを灰の英雄は倒した。

 

「灰よ……心しておくがよい。貴公もまた呪いに囚われているのだと」

 

 王子ロスリックの言葉を胸に全ての薪の王を玉座に捧げ祭祀場の篝火に膝を着いた。5人の薪の王達から火を継ぎ、火防女通じた儀式の果てに最初の火の炉、そして世界の終着点『吹き溜まり』に火のなき灰は辿りつく。

 

 降り積もった灰と色褪せた古びた武器が突き刺さった地の中心の篝火に佇む最期の王は螺旋の剣を持ち灰に立ち塞がる。鎧は焼け爛れ、兜は髑髏のような異形と化し、全身から火を放ちかつて火を継いだ英雄達の全てを継ぎ、はじまりの火護る為だけの存在……

 

 

 

 

 『王達の化身』

 

 

 

 

 異様な皆既日食の空は地を照らす

 

 僅かに咲き誇る花は二人が動く旅に舞い震えそして散り散りと花は消えていく。轟轟と燃え盛る螺旋の剣は立ち向かう灰を抹殺するべく襲いかかる。剣で、槍で、杖で、曲剣で。

 

 迫り来る卓越した技を躱し。投擲される雷鳴の響く雷の大槍を躱し。この世界のありとあらゆる術の極地を受けてなおも己の持ちうる朽ち果て折れられることを知らぬ強き意思のもと灰は王達の化身に立ち向かう。

 

「──────!!!!!」

 

 王達の化身は灰の英雄の渾身の一撃を受けついに地に両足を伏せソウルとなり主なき器である灰の元へ帰還する。

 

 はじまりの火が灯った篝火の前にて灰の英雄は祭祀場の火防女を召喚し、ついに火が火防女の手に包まれた。僅かに燃える火は陰り暗闇だけが世界を包み込んだ。篝火に佇む火防女の背中を視る灰は武器を取り出し残り火を奪おうとする私欲に囚われてしまう。

 

 かつて名のない老婆は言った

 

 名前もなく薪にもなれなかった呪われた不死。だからこそ灰は残り火を求めるものさね。

 

 しかしいつ如何なる時もロスリックにて自身の使命を果たす為に何度も支えてくれた火防女の事を想うと否そのような非道など出来るはずもなかった。

 

「灰の方……はじまりの火が消えていきます」

 

 火の消えた暗闇だけが拡がる世界で武器を地に捨て火防女の隣に座り彼女の小さな声だけに耳を傾ける。

 

「灰の方………私の声がまだ聴こえますか?」

 

 彼女の手をそっと握り締め二人で火の時代の終幕、そして神々が畏怖した見果てぬ可能性に満ちたりた観測出来ない新たなる世、闇の時代の到来のはじまりをみた。そして火の時代を終わらせた灰の英雄と火防女は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お目覚めですか?主さま?」

 

 

 コッコロと名乗る幼子の声と共に灰の英雄は異なる世界で再び目を覚ました。新たなる使命を果たす為に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし騎士くんが素性騎士の灰の人だったら』

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚 1/2


前編後編になります。
引き続き閲覧してくれると嬉しみです。
誤字修正及び報告ありがとうございます。


 

 

 青空

 

 空抜けるような澄み切った蒼さ、雲ひとつない冴え渡り乾いた清冽な空気の流れがひとしき身体をすり抜けるように、そっと爽やかな風が吹いた。それに釣られるように生い茂った草木が囁くような葉音をたてる。

 

「今日は本当に良き日でございますね」

 

 自然の奏でる草木と風の音楽を歩く耳の長い十を超えたばかりの小さな子供は身の丈に合わない畏まった口調で静かに微笑んだ。彼女の名前は『コッコロ』かつて繁栄し現在は衰退したエルフ族の生き残りであり、幼くして遠くの故郷を離れ父より信仰するアメスの託宣の使命を果たすべく遠方より遥々やって来たのだ。

 

「コッコロよアメス様より告げられた託宣、しかと成し遂げるのだぞ」

 

 故郷で敬愛する父に言われた言葉を思い返しコッコロは今一度忠義の気持ちを強くなった。

 

 火のない灰と呼ばれる人物に仕える

 

 不思議な名前をしたお方……

アメス様からの託宣を初めて聴いたとき失礼とは感じたが今後生涯仕える主に対して想った気持ちはそれが最初だった。

 

いったいどんな方なのでしょうか。

絵物語に出てくる勇者のような勇ましい方でしょうか?それとも聡明な智力のある魔術師のような方?それとも剛腕の力を持つ屈強な体の持主?未だ出逢えることの出来ない主に対してコッコロは日々に胸の踊る気持ちと僅かばかりの不安の気持ちはまるで白馬の王子と逢うことを待ち焦がれる一人の乙女のような感情だった。

 

「いけません、主さまに粗相のないように身嗜みはシッカリとしておかなくてはいけませんね」

 

 陽光の反射する近くにある水場で水面に映る自身の姿を観て問題のないことを確認した。そして地図を確認し託宣された丘の上に辿り着き坂道となった丘を登り終え草木の鳴く丘の頂上に着くとそこには独りの騎士が静かに鎮座していた。

 

 この方が…………私の主さま。

 

 灰に塗れ浅黒さが残る銀色の甲冑に地面に置かれた傷だらけの鞘に収まった剣と不思議な紋章の描かれた古めかしいボロボロの盾。お世辞にも目の前に鎮座している騎士の身嗜みは汚く粗相ある格好であったが、鎧や武具には至る所に擦傷や火傷の跡が深く残っており纏っている赤色の軍衣(サーコート)は擦り切れている。見方によっては戦場から逃げてきた情けない逃亡騎士にも見えなくもないが、眼前の騎士の背中は敵の前では決して引く事を知らぬ歴戦の勇士を沸騰させる大樹のような大きな背中だった。まるで先程(・・)まで何か強大な存在と死闘を終えたばかりにも見えた。

 

 はっ!いけません、自身の考えに耽って初対面の主さまに挨拶をしないのは従者失格。キチンと挨拶終え侍従の誓い結び主さまに決して御無礼のない挨拶をいたしましょう。コッコロは脳内で幾度となく繰り返しシュミレーションした主さまとの初めてのご挨拶を思いだしつつ勇気を持って声を上げた。

 

「初めまして、私の主さ……」

 

 コッコロの声を聴く前に灰の騎士はまるで重力に吸われるように地面に仰向けで倒れ伏した。辺りをよく見ると腕やら脚に二匹の獰猛な犬が怨敵とも云わんばかりに鋭い歯で噛みつき激しく振り回していた。

 

「キュッ!?あ、主さまああ!?」

 

 コッコロは狂った犬によって倒れた主の元へ武器を片手に大急ぎで駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして火のない灰」

 

「あたしは…………まぁ、アメスとでも名乗っておきましょうか」

 

「突然で本当に悪いけれど貴方にはこれからあるモノを捜し出して欲しいの」

 

「それは記憶よ。ある少年の失われた記憶の欠片をほんの少しでもいい、これから向かうアストライア大陸で貴方には見つけ出して欲しいの」

 

「その子はある出来事によって昏睡状態に陥っていて肉体は無事だったけど精神が深く欠けてしまったの。元に戻すには記憶の欠片を見つけ出すほかないの」

 

「あたしまだ自己修復を終えてなくてこの世界に干渉出来ない、けれど貴方なら出来るかもしれない。火の時代を救った貴方(英雄)なら」

 

 

 

 

《了承する》←

 

 

 

 

「……………ありがとう。初対面の名前も顔も知らないあたしを信じてくれて、本当にありがとう」

 

「あたしの代わりと言ってはなんだけどあっちの世界だと貴方は独りぼっちになっちゃうからガイド役を派遣しておいたわ」

 

「え?独りの旅は慣れている?というか常に独りの時が多かった?…………良いのよ強がらなくても?」

 

「ガイド役の子はとってもいい子だから安心して貰って大丈夫よ!なにせ稀にみるとっても賢くて可愛くて優しい娘なんだから!っと、もうこんな時間か。もっと貴方とお話したかったけど夢はいつまでもみてられないもんね」

 

「これからよろしくね、灰の騎士さん。また夢で逢いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【目覚めの丘】

 

 

 

「はじめチョロチョロ、なかパッパ。赤子泣いても……」

 

「あっ……お目覚めになりましたか主さま?」

 

「噛まれた箇所は……ほっ、お怪我がないようで何よりです」

 

「誰?っと言うお顔しておりますね。ふっふ、初対面であれ兜越しでもそのようにぼうっと立ち尽くされては誰でもわかってしまいますよ」

 

「それでは、自己紹介を。私偉大なるアメス様の託宣により主さまを御守りし、おはようからおやすみまで揺りかごから棺桶まで誠心誠意貴方さまに仕えることになりましたガイド役のコッコロと申します。よろしければ貴方さまのお名前を聴いても宜しいでしょうか?」

 

 

 

 

《火のない灰》←

 

《名前はない》

 

 

 

 

「火のない灰……間違いありません。貴方こそアメス様より言われた私の主さま。どうか私と従者の契りをお結び頂けないでしょうか」

 

 

 

《許可する》←

 

《許可しない》

 

 

 

「これより私は貴方さまに仕えるガイド役兼従者コッコロです。これから宜しくお願い致しますね、私の主さま♪」

 

「そうですね、よろしければこれを。私とのお近づきの記念としてお食べになって下さい」

 

 

 

 

  [コッコロのおにぎり]

 

 

 火のない灰の従者コッコロが愛情を込めた作った握り飯。生者と異なり不死人は食事を必要とせずその身が朽ち果てるまでただソウルを求める存在である。それ故食事は決して必要な物ではないが大切な者より受け取った食べ物は何よりも儚く尊い物だ。

 

 お米は大事。噛めば噛むほど甘くなり、気持ちも弾むものだろう。

 

 一定時間体力が小回復するようになる

 

 

 

「……どうでしょうか?えっ、美味しい?はい!それは良かったです。またお米が手に入りましたら主さまのため誠心誠意お作りいたしますね」

 

「はっ!後ろを主さま!」

 

 

 

 

 

 

 先程、主さまを襲っていた二匹の狂犬が再び現れました。興奮し体を震わせ涎を垂らし、血走った瞳はあらぬ方向に向いていますが姿勢は此方側を向けており今すぐにでも飛びかかって来そうです。私は今一度武器を取り出し、矛先を主さまに仇なす敵に向け呼吸を整え身体を闘いの姿勢に整える。

 

「主さまここはどうか私にお任せを」

 

 しかしその言葉を言う前に主さまは古びた剣と盾を取り出し私の前に立ち塞がった。

 

「なっ!?主さまはお目覚めされてまだ早いですしきっと身体の調子も決して良くありま……キュッ!?」

 

 主さまは私の口を優しく遮ると心配しなくても大丈夫と言わんばりに敵に振り返り大きな銀色の鎧の背中を此方に見せるのでした。

 

 なんと優しくも逞しいお方。

 

 コッコロは驚きと感動で一瞬言葉を失うが主を信じる。その言葉を胸にこれから起こる闘いに手を出さず静観することに決めた。

 

「主さま……どうかご武運を」

 

 灰の騎士は古びた中盾を構え鞘から切先が鋭利に尖った直剣を抜き狂犬の前に固い決意あるしっかりとした足取りは地面を踏みしめ歩みを進めていく。

 

 

 一歩、二歩、三歩。

 

 その僅かな歩みを終えた刹那の瞬間。怨嗟の唸り声と共に半狂乱した二体の狂犬はすかさず灰の騎士に冷たく鋭い犬歯を当てるべく大口を開けて襲いかかった。成長した犬の顎の力は成人した人間の骨をも砕き、肉を断ちそして離れに離れた獲物の臭いを嗅ぎとりそして仕留める。犬とは獰猛な種族でありそして素晴らしき狩人でもあるのだ。

 

「主さま!!!」

 

 灰の騎士は猪突猛進してくる狂犬に対してまず左に持つ盾で迎えうった。自慢の牙を盾に弾かれ怯んだ二匹の犬に右手に持つ直剣で即座に攻撃に転じる。振り下ろした剣は狂犬の生命を断ち、そして先の一撃で脚に致命傷を負ったもう一匹の狂犬に対してすかさず灰の騎士は再び剣を振り下ろした。頚椎を断ち切り狂犬は生命活動を停止した。慢心の欠片も一切の隙もなにもない、熟練の戦士が得られる完璧な勝利。彼の鎧や武具の傷は決してただの傷ではなく数多の敵を屠った勲章の傷だとコッコロは確信した。

 

「すごいです!主さま!」

 

 コッコロは従者として主を精一杯褒めたたえた。倒した敵に対して灰の騎士は綺麗な一礼をしていた。それは憐れみそれとも慈しみか。

 

 

「それでは向かいましょうアストライア大陸の王都ランドソルへ」

 

 灰の騎士と従者のエルフの少女は目的地へ草木の生い茂る地面を互いに踏み締め王都へと向かっていた。目覚めの丘を後にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹が空きましたー!」

 

 時を同じく遠く離れた場所にて一人の少女の声が虚しく青空に響いた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚 2/2


前二話加筆修正させていただきました。
誤字修正いつもありがとうございます。


 

 

 アストライア大陸

 

 そこは美しく、華美で尊き夢のような国。世界中から様々な人種の人々が到来し繁栄の一歩を辿った。獣人、魔族、エルフ、人間。それぞれ人種が違えど多くのもの達が手と手を取り合い協力し力を合わせることで天に昇る太陽のように輝かしい王都ランドソルはアストライア大陸で最も人口の多い国家へと変貌していった。

 

 ランドソル中央に聳え立つ人の願望をかなえると言い伝えられる『ソルの塔』には絶え間なく多くの願望者達が向かっていた。

 

 そんな街にやってきた異邦からの来訪者。忘れないで欲しい、平穏な日々そして平和は決して永遠に続くものではない。灰の人……貴方の使命はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 【王都 ランドソル】

 

 

 

「ここが王都ランドソルですか……」

 

 王都を囲む巨大な外壁を抜けコッコロは辺りを見回し見たことない街の空気を味わい呟いた。通りすがる多くの人々の賑やかな会話に最近舗装されたであろう綺麗な街並み。

 

 かつて自身が暮らしていた故郷では決してみることのない群衆の群れ。山奥育ちで鳥や草木が鳴く森林の風景に慣れていた彼女が大都市の雰囲気に呆気にとられるのも仕方のないことだった。

 

「はっ!す、すみません主さま。つい物珍しいものばかりで呆けていました」

 

 主である火のない灰は気にしてないと言わんばかりに自身もコッコロと同じようにこの世界の中心街ランドソルを兜の覗き穴から物珍しそうに静観していた。長い間彼の過ごした世界は灰と血に塗れた場所であった。理性なき亡者が闊歩し、神々は消え去り残され僅かに生き残った人間達は未だ未来を見ることの無くただ懸命に生きていた。

 

 この世界とはまるで別なのだ。

 

「主さま?あっ、見てください。あちらにあります魚屋さんはアストライア大陸で取られている新鮮な鮮魚のようです!是非見にいきましょう」

 

 年相応に見慣れない街に少々興奮気味のコッコロに先導されランドソルの街を共に歩いて行く。しかし道中歳若いエルフの少女とボロボロの甲冑を身に纏う騎士の変わった組み合わせは道行く人に異様に視線を浴びせられていたことは二人にとって知らぬが仏というのだろう。

 

 美味しそうな香りに釣られて灰と従者はクレープ屋と呼ばれる露店の前にやって来た。

 

「おや、いらっしゃい。可愛らしいお嬢さんと随分と強そうな騎士さまだね。もしかして二人は兄妹?」

 

「なっ!?ち、違います、私と主さまはご兄妹ではなくて」

 

「ん?なら恋人?」

 

「ち、ち、ち、違います!!!」

 

 慌てるコッコロを揶揄う赤髪の店主は優しく微笑みながら注文を促す。

 

「チョコレートにイチゴね、少し待っててね」

 

 店主が店の裏に消え、コッコロは灰の騎士に金銭を渡し主に支払いを一任する。しかし灰は見慣れない輝く金貨をじっと不思議そうに見詰めている。

 

「主さま?どうされましたか?」

 

 コッコロが声をかけた瞬間、何を思ったか灰は右手に金貨を目線まで掲げて力強く握り締め粉々に割ろうとしているではないか。

 

「んん?!主さま!?これはお金です!決して握り締めて割ろうとしてはいけません!」

 

 金貨が粉々になる前に慌ててコッコロは主の奇行をなんとか制止させた。

 

「はっ!主さま異邦からのお方とアメスさまより聴いております。知らないでしょうがこの世界では金貨を使って物々交換をしているのです。他にも紙幣などもありますのでお気をつけて下さい」

 

 コッコロの説明を聴いた灰は申し訳なさそうに頭を下げる際に自身の持つ大量のソウルでは物々交換出来ないことに哀しみを覚えた。そして直ぐに新しい知識を覚えた主を褒めたたえるコッコロ。傍からみたらかなり異様な光景であるが出来上がったクレープを持ってきた店主は普通に料金を頂いた。

 

 

 

 

 [赤髪店主のクレープ]

 

 異国の地にて灰の英雄が初めて食した甘味。

花柄の赤い包装紙に包まれたクレープやお店の赤い外観は店主の拘りなのだろうか。

 

 味は至って普通。しかし初めて食した時の感覚は子や大人までも歓喜に噎せることだろう。灰の幼き従者が大変美味しそうに食べる姿はなによりも嬉しきことである。

 

 体力が小回復しFPが僅かに回復する

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ランドソル中心街】

 

 

 日が沈み夜が世界を包む。

主人と従者は宿泊する場所を求めランドソルを歩いていたが、残念なことに安息出来る場所を中々見つけることが出来ずにいた。

 

「ごめんよお嬢ちゃん、ウチも商売だから。お金が入ってきたらまた来てくれよ、それじゃ」

 

 最後の施設を辿ったがここも値段が高くコッコロの所持金では到底出せる値段ではなかった。

 

「申し訳ございません……主さま……まさかここまでランドソルの宿泊施設の価格が高いとは……かくなる上は、父より貰ったこの杖を!」

 

 意を決して敬愛する父から貰った杖を質屋に売りさばいてしまおうとするが、すかさず灰の騎士によって止められてしまう。

 

「きゅっ?!主さま?!一体何処へ?」

 

 コッコロは主に連れられランドソルの壁外の草原にて柔和な火の音をたてる焚き火の前で火の中心をぼんやりと見詰めている。その姿はまるで気苦労の止まない長旅でようやく一息をつける安息の地を見つけた者のように火に全身を預けているようにも見える。

 

──案内役としての役目を失敗をした私を一切責めることなく、目の前の不都合が起きることを当たり前のように受け入れるとても大きな器をもつお方。

 

「主さま……あの……よろしければなにかお話をして頂けないでしょうか?」

 

 旅の外套に包まり焚き火に対面する主に質問をする。主のことをもっと知りたい。単純だがそれだけの気持ちでコッコロは呟いた。

 

 灰の騎士はゆっくりと自身の体験した郷愁ある思い出について話を始めた。

 

───騎士と心のある巨人の物語

 

『貴公の勇気、我が剣、我らのそれぞれ使命に太陽あれ』

 

 騎士は巨人と友になりたいと言う変わった男であった。絶望の拡がる世界にて彼は灰の騎士の行く道に幾度か手をかしてくれた人情のある心優しい男でもあった。

 

 そんな彼にも火のない灰としての苦しき使命があった……薪の王となった古き旧友を殺す。そのために幾度となく生と死を繰り返し旧友より貰い受けた巨人殺しの剣を持ち死地(ロスリック)に向かっていた。

 

『ヨーム……古い友よ』

 

『カタリナのジークバルト約束を果たしに来たぞ』

 

 そして騎士と灰の騎士は、嵐の力を持つ二振りの剣を互いに持ち、罪の都の孤独な巨人の王を打ち倒したのだ。しかし騎士は火のない灰としての使命を果たした直後、旧友の倒れ伏した玉座の間にて命を終えた。

 

「主さま……その方は幸せだったのでしょうか?」

 

 憐れで儚い夢の騎士の物語。

主さまはゆっくり縦に頷く。使命を果たしたのち、最期に盃を交わした時の彼はとても満足感に満ち溢れていた、と。

 

 長い話を聞き終えたコッコロは人恋しく思ったか主の元に近づき隣に座る。お互いに薪の焚べられた焚き火の火をじっと言葉を話すことなく見つめる。

 

 火とは人類の叡智だ。火を使い獣を狩り、暖をとり寒く厳しい世界に踏み入れることを可能とし人類の文化を発展させた。火と人は決して切っては切れないモノであり、かつて灰と古竜そして大樹しかない世界で『はじまりの火』に見出された名もなき小人を含む数多くの神々はみな火に惹かれ『王のソウル』を見出したのだ。しかし古龍を討伐したイザリスの魔女達は『火』に惹かれ模倣した結果、混沌のマグマに呑まれそこからデーモンが誕生した。火の時代の王、大王グウィンにいったては消える火を消さない為に身一つで『はじまりの火』に焚べられ燃え滓となってしまった。

 

 それから1000年後、不死院からやってきたロードランの英雄が大王グウィンの後を追い『はじまりの火』を継ぎ世界は再び照らされた。しかし時が流れ灰の騎士が復活した時代では火は残り火しか残っておらず火継ぎをしても世界を維持することなど不可能だった。選択肢はあった、再び火を継ぎ世界を僅かに照らし終わらない火の時代にその身を捧げるか。それとも「ロンドール」の勢力に手を貸し亡者の『王』となり火の簒奪者となり闇の時代に君臨するか。しかし彼は親愛なる火防女と共に世界の裏切りを選択した。火を消した彼であってもあの鮮烈な世界を歩み終えた灰の騎士にとって火は何よりも大切な存在であることに変わりない。

 

────それが『火のなき灰』なのだから。

 

「……主さま?どうしましたか?」

 

 考えにふけってしまったようだ、心配そうに見つめてくる少女の頭を灰の騎士は優しく撫でた。コッコロは一瞬驚いたが次第に受け入れ心地良さそうにつぶらな大きな瞳を閉じた。

 

「えっと……主さまは随分と撫でるのが上手でございますが……あの……他の方にもこのように撫でたりした経験があるのでしょうか?」

 

 

 

 

『ある』

 

『ない』←

 

 

 

 

「私が主さまの初めて…………」

 

 コッコロはその言葉を何度も心で復唱し頭を撫でられることにとても大きな幸福を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふにゃあ……あるじ……さまぁ……」

 

 暫く時間が経過すると余程心地良かったのだろうかコッコロは灰にもたれかかり膝の上で睡魔の世界へ旅立ってしまった。灰の騎士は落ち着き深い眠りに陥った幼き少女の柔らかい髪を優しく梳かしつつジークバルト()より貰ったエストの入った最後のジョッキを夜空に掲げ彼等の軌跡そして今までの想いを胸に飲み干した。

 

『乾杯』←

 

 

 夜はまだ続きそうだ。そしてこの旅も。

 

 

 

 

 

 

 





アンケートご協力ありがとうございます。
結果として……自分自身が納得出来る作品にしていきます。なので投稿スペースは遅くなりますが、読者の皆様の楽しみになるように精進して執筆させていただきます。ではまた会いましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

茸人


大変遅くなりました。
リハビリも兼ねて執筆しました。



 

 

 夜の帷が堕ちた闇夜の森に多くの影が蠢く。

鳥の囀る音に、不規則に揺れる動く長々と生えた木々から現れた怪異を屠り歩み続ける一人の騎士。地中より現れる「樹人」は前へ進む騎士の行く手を阻むが如く絶え間なく襲いかかる。

 

 騎士は斬り飛ばし、叩き伏せ、そして体力がある限り迫り来る敵を倒す。幾度も繰り返し遂には樹人達の群れは消え去り自身と敵の遺体だけが残った。騎士は懐に隠した一杯の盃(エスト瓶)を飲み干し体力の回復に勤しみ一息をついた。

 

 身に纏う銀に輝く兜と鎧は至る所に傷跡が残っているが未だその鋼の光沢を失ってはいなかった。鎧の上に羽織る蒼色の軍衣は僅かな劣化しかしておらず、騎士の持つ上質な一振りの直剣と金に描かれた紋章の盾はこの荒んだ世界であろうと身に纏う者の身分の高さを意識させた。

 

カジャリ、ガシャリ、ガシャリ。

 

 重厚な鎧を着込んでいる故になる鋼の音色。

 

 騎士は一切疲れた様子を見せることなく淡々と荒れた野道を時折走り休みを繰り返し淡々と先へ先へと独りで魑魅魍魎の住まう『黒い森の庭』と呼ばれる危険地帯を進んでいく。道中に朽ち果て潰えた人間の遺体から「ソウル」を見つけ自らの糧にするべく入手したその瞬間、何かが迫り来る音が森に響いた。騎士は警戒心を高め武具を構えようとした瞬間………

 

「───────ッ!!!!!」

 

 突然、雄叫びと共に騎士に向けて漆黒の針鼠が高速回転を描き猪突猛進してくるではないか。騎士は咄嗟に遮蔽部のない右手側に身体を遅いながらも回転し、針鼠の奇襲の一撃をなんとか回避し終える。即座に武器を構え針鼠ではく、巨躯の黒猫に向かい追撃を始める。

 

「───────」

 

 小回りの効く直剣で敵の僅かな動きから攻撃を観察、そして回避、隙をみて刺突による攻撃で着実に身の丈以上はある化猫に対して一切怯むことなく勇猛果敢に挑む騎士。

 

 敵もただ斬られるのを良しとせず鋭利な爪で鎧を切り裂く。後方に吹き飛ばされるのと同時に騎士から鮮血が飛び出る。彼はすぐさま剣を取り再び敵に襲いかかる。すかさず攻撃に転じられたことによる驚きと余りの連撃によって怯む化猫にさらに容赦なく連撃を加え攻め続けることで騎士は遂に黒猫を倒したのだ。

 

そして黒猫を自らの「ソウル」の糧とした。

 

 騎士は黒猫を殺めたことに対して一切感傷に浸ることもなく、己の為すべき事を為すために先へ先へと森の奥へ進む。

 

 

 道中、二足歩行をする不思議な茸を見つけ彼等についていくと小さな湖の中心にある宝箱を発見した。しかし秘宝を護るように立つ二体の巨大な茸人に遭遇する。彼等は騎士の方へと非常に鈍足ではあるがゆっくりと前へ進んでくるではないか。騎士は警戒心を高め盾を構え後方に下がりつつ敵を観察する。しかし観察すればするほど敵が弱く見えてくる。鈍重な速さに切断しやすいであろう貧弱そうな肉体、敵は二体ではあるがこれならば容易に勝てる。

 

「───────」

 

 好機を見出した騎士は走り剣で切り伏せるべく盾を背に背負い、両手に持った剣の重い一撃で茸人に襲いかかる。体力の続く限り茸に対して剣を何度も何度も繰り返し振り続けたが、しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          YOU DIED

 

 

 

 

 

 

 

 幾度も繰り返される剣撃をものともしない茸人から腰から腕にかけて美しく放たれた右ストレートの拳によって騎士は地面に地を伏せた。

 

 たった一撃の拳。

 

 その一攻撃により騎士は生身を失い、ソウルと血痕を残し黒い森の庭から霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ランドソル中心街 】

 

 

 

 

「主様、私働きに出ようと存じます」

 

 昨夜野営をし終えたランドソルの壁外から都市に戻ってきた幼き従者は、鎧を着込んだ主にそうしみじみと申し上げた。コッコロの表情は何処か奇妙な焦燥感に満ちているが、その理由を灰の騎士は知る由もない。

 

 現在の二人の状況はほぼ無一文に等しい金銭状態で、これからの活動拠点となる王都ランドソルで生活するとなれば日々の路銀稼ぎは必須である。

 

 不死人として永く人としての生活を忘れた灰の騎士にとっては大変瑣末な問題であるが普通の生者の者ならば、三食しっかりと食べ、屋根のついた宿に泊まり、そして収入を得るのが生きていく中で最も重要なことである。

 

 しかしコッコロには金銭以外にもとても大きな問題があった。昨夜コッコロはあろう事か主の膝の上で頭を神父の如き優しい手触りで髪を撫でられ野営をしていたにも関わらず、翌日には疲労感を忘れるほどぐっすりと熟睡してしまったのだ。

 

 自身はアメス様より遣わされたガイド兼案内人、そんなことでは従者失格だと。コッコロはこの世界の案内人として主に役立つことを証明するべく働き出ることを懇願しているのだ。

 

 

 ………決して主と二人きりで眠るまで、安閑するまで談話し膝の上で安心しきって熟睡をまたしたいなんて口が裂けても言えない。優しく慈愛に満ちた手触りに、冷たいはずの重苦しい甲冑すらなぜか温かさを感じてしまう…………

 

 そんなことは言えないったら言えないのだ。

 

 

「主様はお心のままにその辺で遊ぶなり美味しい物を食べるなりご自由にお過ごし下さいまし」

 

「こちらが本日のお小遣いです!夕刻にはここに戻りまのでここで待ち合わせとしましょう」

 

 

 

 [コッコロの全財産]

 

 

それは、灰の従者コッコロが持つ全財産。

使用すれば一時の路銀となるなるが、これを使用するのは、かつて世界蛇に誑かされ深淵に呑まれたのち狂気に堕ちた魔術師の呪われた深淵の業を使うのに均しい。

 

不死人とはいえど尊厳は護らればならぬ。

それは何よりも遵守するべきことである。

 

使用する度に徐々に呪いが溜まる。

 

 

 

 

 

「主様はこのお金を使って遊ぶなり食事を楽しむなり自由にお過ごして下さいまし」

 

「……主様如何なされましたか?もしかすれば、こちらのお金では物足りませんか?すみません…それが全てなのです。はっ!私の装飾品を売って少しでも…………にゅ!?」

 

 

《コッコロの全財産を返す》←

 

《コッコロの全財産を返さない》

 

 

 迷うことなくすぐさま質屋に向かおうとするコッコロの身体を抱き締め制止させ止める灰は、彼女の手を引き別の方法で金銭を得る方法を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

【カド遺跡】

 

 

「主様こちらです!」

 

 灰の人とコッコロは街の掲示板から情報を得て、ランドソルのギルド管理協会へと向かいギルドを仲介する形で初心者にもオススメされたカド遺跡にて(きのこ)を採取するクエスト(任務)を受けたのだ。

 

 ギルド管理協会に行った際に、ランドソル周辺に住む人的被害を行う(ドラゴン)退治など討伐隊募集などといった高難易度かつ危険なクエストの張り紙を見て、灰の人はこれを無意識に挑もうとしたがコッコロに制止された。

 

『お独りでドラゴンを退治に向かうのはめっ!ですよ主様』

 

 と、言われ灰はしぶしぶ依頼の書かれた紙を戻した。そしてギルド管理協会の『カリン』にオススメされた茸採取へ向かっている最中なのだ。

 

「このような場所に茸が沢山生えていますので沢山採取いたしましょう」

 

 落ち葉の積もった葉を避けると手のひらサイズの成熟した茸が生えている。湿った場所などは茸にとってよく育ちやすい場所なのだ。

 

 コッコロと灰は二手に別れ、カド遺跡周辺に生えた茸の採取に務めた。その際、コッコロは「プチプチ」と声を発する茸を発見し、プチペちのプチ子と名付けポーチに入れた。

 

 そんなことをしてる間に灰は不思議な人物と出逢う。腰まで伸びた黄金色の頭髪に銀の装飾品を身に纏っているが、腹の音を響かせ情けなくうつ伏せに青空の下で地に伏している女性を。

 

 

「お腹ペコペコペコ…………」

 

 

 とりあえずこの場に行き倒れを残すのは危険なため灰は彼女を背負いコッコロの下へ合流しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はむ!はむはむ!美味し〜です!」

 

 先程採取した茸を焚き火で焼き、コッコロが持参した食べやすいサイズのおにぎりを物凄い速さで咀嚼し飲み込み、そしてまた別の食糧に手を伸ばす元行き倒れの娘に対して対面するコッコロと灰は驚いて何も言えなかった。

 

 しかし彼女はよく食べる。

 陽気な笑顔で大変美味しそうに食べている。見ているこちらも次第に微笑ましい気持ちになってきた。などと思っている内に二人前の料理を食いしん坊の少女は食べ終えてしまった。

 

「ご飯は生命のエネルギー!見ず知らずの私にご飯を恵んでくれるなんて、ありがとうございます!一生恩に着ます!」

 

「あの、どうしてあのような場所に?」

 

「えぇ、実は────」

 

 曰く、彼女は旅人で故郷のランドソルに帰ってきたそうだ。そして道中、病気に苦しんでいる人が居て助ける為に薬を取りに向かい帰ってくると病気(嘘)だった盗賊に所持品を盗まれてしまって追いかけてきたのだ。さらに夢中で追いかけていた為食事を取らなかったのが原因で空腹感に負けてしまい森で倒れていた所を灰の人に救われ現在に至るとのことだった。

 

 

「─────ふぇ〜コッコロちゃんに火のない?灰の人?灰の騎士さん?ですか!不思議なお名前をしているんですね!ヤバいですね☆」

 

 そんな至って普通なほのぼのとした会話をしている最中に突如、森からざわめきが響く。

 

 重音な足音が森に響く。

 敵意を剥き出しにしたモノがやって来る。

 

 何かが走ってやって来てた。

 茸である。否正しくいえば茸人が群れをなして食事をしている娘の前にやってきたのだ。あきらかに瞳は敵意に染まっており少女の顔を見ると素早い拳で襲いかかってくるではないか。

 

「わわわ!?灰の騎士さん!?」

 

「あ、主さま!?」

 

 灰の騎士の動きは素早かった。茸人が攻撃してくる動作をした瞬間にすぐさまコッコロと食いしん坊の娘を両脇に抱え後方に勢いよく下がった。

 

 茸人が殴ったせいで先程座っていた地面はヒビが割れ土埃が舞う。

 

「た、多分私を狙って襲ってきたんだと思います。ごめんなさい……って灰の騎士さん?」

 

 抱えた二人を降ろし携えた直剣を抜刀し中盾を構え二人の前に立つ。

 

「えっと、お腹ペコペコのペコリーヌ様、っと仮にお呼びしますね。乗りかかった船です、共に窮地を脱しましょう」

 

「おやおや?ペコリーヌって私の事ですか?可愛い名前です!ヤバいですね☆ それにお二人のお気持ちとても嬉しいです!」

 

 

『──────────!!!!』

 

 ペコリーヌが発言した瞬間、武器を持った大勢の茸人が三人へ向かって猪突猛進と言わんばかりに一斉に襲いかかってくる。灰の人は素早く腰のポーチから炭のような黒松脂を包んだ『炭松脂の薬包』を取り出し右手に持つ直剣に振りかけると、直剣の刀身が炎に包まれ燃え盛る剣とかした。

 

 これはかつてロスリックの『不死街』で不死人を火葬する際に使用された松脂であり火を嫌う者に対して有効なのだ。

 

 

 襲いかかる茸人を直剣で横薙ぎに切りつけ、進んでくる茸人を体力(スタミナ)の続く限り片っ端から容赦なく燃やしたたっ斬る灰の騎士。

 

「はああぁぁーーー!!!」

 

 灰の騎士に便乗し、ペコリーヌは身に纏う銀の装飾の輝きと共に勢いよく跳躍し茸人の中心に拳を掲げ流星の如き速さで落下する。大量の茸人は彼方へと吹き飛び残った敵を持ち前の武術で応戦している。

 

「主様に光の御加護を」

 

 コッコロは主に力を付与し援護に回る。

奇跡により灰の騎士の動きが俊敏になりさらに勢いよく敵を蹂躙していく……が、しかし。

 

 慣れない俊敏さに身体が追いついて行かず体力を減らしてしまった。灰の騎士は懐から新たなアイテムを取り出そうとした瞬間。

 

 突如、灰の騎士の両脚を地中に隠れた茸人が掴み一瞬身動きが取れなくなってしまった。

 

「主様!!!」

 

 茸人達はその一瞬の隙を見逃すわけもなく、強力な拳で灰の騎士の兜を風切る音と共に殴り飛ばした。

 

───ゴン!

 

 金属の叩かれる音に灰は後方に吹き飛ばされ、地面に一直線の軌跡を残し仰向けに倒れ血を吹き出してしまった。

 

「主さ……ま!?」

 

 主が殴られ倒されたことに動揺し駆け寄ろうとしたコッコロに茸人はすぐさま襲いかかり彼女身柄を拘束する。

 

「コッコロちゃん!灰の騎士さん!」

 

 ペコリーヌは敵の武器を奪いとり二人の元へ向かおうとするが敵の数が多く中々向かうことが出来ずにいた。

 

『─────────!!!!』

 

 茸人は拘束したコッコロを突き刺そうと槍を構え攻撃を加える。

しかしすぐに立ち上がった灰の騎士がコッコロを護るように前へ立ち塞がる。敵の動きと攻撃にタイミングを合わせ槍の一撃を盾で受け流し(パリィ)をしガラ空きの胴体に直剣で必殺の一撃を深々と突き刺した(致命の一撃)

 

灰はすぐさまコッコロを拘束した茸人も切り倒す。

 

「主様!ご無事ですか!?」

 

 コッコロに無事を伝え、灰の騎士は己の手に持つ直剣の真の力を解放する。

 

 

 

 

 

 騎士は天に祈りを捧げた。

 なんの変哲もないただある剣、しかしそれは呪われた者達が今際に「太陽」を掲げそして宿した力は決して輝きを喪うことなく現在まで忘却されることなく人々に力を与えた。

 

 

 

《戦技 太陽の誓い》←

 

 

 真珠のような輝きの光と共にコッコロとペコリーヌの身体は黄金の光に包まれた。

 

「…………凄い」

 

 コッコロは小さく呟いた。

 掲げた剣はなんの変哲もない直剣だが空に輝く太陽のような光を放っている。まるで地上に降り立った神の導きの光。風景に愛情を与え希望を与える様はまさに奇跡。

 

 アメス様……これが主様の力の一つなのですね。

 

 

「力が溢れてきます!これなら!」

 

 ペコリーヌは茸人から奪った刃こぼれだらけ剣に力を蓄え、蒼空へ跳躍しそして全身に蓄えられた力を一気に解放する。

 

 

 

「プリンセス・ストライクー!!!」

 

 

 

 その日、カド遺跡に銀の王冠が降り立った。

 

 

 

 

 

 

        QUEST CLEAR

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰の騎士はポーチからエスト瓶を取り出し身体を回復させつつ倒し終えた茸人をコッコロ、ペコリーヌと共に森の中心に寄せギルドに回収の依頼を頼んだ。

 

「すごいです!この茸ナマでもいけます!ヤバいで…………ぷしゅうううう」

 

「ペ、ペコリーヌ様!?」

 

 作業の終わりランドソルに帰ろうと帰路に向かうなさいにペコリーヌが小さな茸人をナマで食べて倒れてしまったのだ。

 

「わたしはおなかペコペコのペコリーヌ……うへへへ」

 

 顔を真っ赤にしながらうわ言を呟くペコリーヌペコリーヌを背負う灰の騎士と従者コッコロは朱色に染まる夕陽の世界を三人で歩んでいく。

 

 コッコロは初めての主と共にクエストを達成を心の底から喜び、そして今後もこの方の為に共に歩いて行こうと心の底から願った。

 

 

 

 

 

 






次回も気長にお待ち頂けると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。