Carnage Wars Online ((´鋼`))
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参入──序

 ソウルライク系VRMMORPG──【Carnage Wars Online】と呼ばれるゲームの発表によって、世界中のフロム脳患者が歓喜の叫びをあげたある日。Z指定にも関わらず地上波でのニュースが矢継ぎ早に流れた異常性、開発に稀代の天才ゲームクリエイター『WISE』が製作を手がけたとの話題性が反響を呼び、テスターの参加倍率がその他VRゲームと比べて400倍に上昇した記録が公表されたことも、人々の記憶に新しい。

 

 

 ソウルライクと題しているが、大元の()()()()までもが参加している時点で興奮冷めやらぬ事態であった。そこにWISEの参加ともなれば期待に胸が膨らもうというもの、一足先にテスターとして参加しその世界観を楽しんだプレイヤーは十人十色の反応であったが、あの理不尽さを最高に楽しむことが出来たと示していた。

 

 

 そうした出来事を経て幾ばくかの月日が流れたころ、ゲーム発売日になれば取り扱い店舗に普通では有り得ないほどの長蛇の列が流れており、そちらもまたニュースに取り上げられていた。製品版、ダウンロード版とわず購入されていったそのゲームは当日にも関わらず世界興行収入100位に手をかけていた。

 

 

 手に入れたプレイヤーはフルダイブ型ヘッドギアに意気揚々としながらデータをインストールしている間、様々な準備を済ませて開始までの時間を攻略サイトなどで情報収集を行い、期待に胸躍らせながら時間を潰していく。誰も彼もがその世界への期待を胸に、皆その意識を現実から別世界へと移していった。

 

 


 

 

 そのゲームが発売されてから7ヶ月後の平日、遅れながらも足を踏み入れるための準備を終えた1人のプレイヤーが参入する。目の前にキャラメイク画面が表示され、様々な設定を決めていく。所属地域*1、初期役職*2、初期武器*3を選び多少の見た目変更とプレイヤーネームと性別決めを経てその世界へと降り立つ。

 

 

 

Welcome(ようこそ) kigurui, a journey that is fortunate for you(貴方に幸多からん旅路を)

 

 

 

 夢から覚めるような奇妙な感覚に襲われ、次にその足が踏みしめていたのは《火の域:ロスティリオン》。火によって繁栄し、火によって終わりを迎え、火とともに再度始まりを(もたら)した国。そのためかレンガ造りの建築物が多く木造建築が見当たらず、NPCまでも火の術を使用しているのが特徴である。初期地点である銅像前で仮初の肉体の調子を確認し、ステータス画面を開く。

 

 

kigurui(male)Lv1(兵士)
HP15(300)
SP13(260)
MP11(165)
STR14(140《+15》)
DEF/MDF10/10(100《+35》/100)
INT10(100)
AGI11(110)
LUK10(100)

 

《装備:右手》

・始まりの曲剣(E.) ・

 

《装備:左手》

・なし ・

 

《装備:頭》

・なし

 

《装備:上半身》

・始まりの皮鎧(E.)

 

《装備:腕》

・始まりの皮篭手(E.)

 

《装備:下半身》

・始まりの皮靴(E.)

 

 

 

 このほか術欄、技巧欄、持ち物一覧などを確認し終え、クイックメニューに現在の装備一式を登録する。ちょうど終わったところに1人のプレイヤーがこちらに向かって来ている。kiguruiもそのプレイヤーに近寄り、お互い対面したところで尋ねた。

 

 

 

radda(ラッダ)、で良いんだよな。名前は」

 

「おう。そういうお前はまんまだな」

 

「安直なのが分かりやすいだろ。まぁ思いつかなかっただけでも」

 

「そっちがホントのことだろ。それよかお前、役職は?」

 

「兵士だ。狩人でも良かったがこっちになりたい役職があったし」

 

「ほーん。──あぁ武士か」

 

「それ。そんじゃま、さっさとレベリング手伝え。頼み事とやらに間に合わせたかったらな」

 

「んじゃ、行くかー」

 

 


 

 

 ロスティリオンとは国の名前ではなく領域の名前となっている。そのため2人は領域外に出たわけではなく、領域内の国外に赴いたことになる。初心者が初めにレベリングを行う《荒れた地》では昼に盗賊、夜にスケルトンやゴーストなどのモンスターがポップアップされる。くわえて敵MOBも集団で行動するように設定されているのか常に3体が役割をこなし、プレイヤーを見つけたものなら即リンチする鬼畜仕様と攻略情報にある。

 

 事前にある程度の情報を仕入れることが出来ていても、このゲームは7ヶ月の間に死にゲーとして名高く評価されている。どれだけ対策しようと死ぬ事がある危険性が、プレイヤーの緊張感を高めていき、緊張しすぎた者がここぞとばかりに死んでいくのはこの世界で見慣れた光景の1つである。

 

 しかし時が経つにつれて初心者と呼べるプレイヤーも少なくなってきたため、この時期の新規にとってこの場所は良い狩場の1つとなっている。そんなフィールドと化した《荒れた地》の廃屋、一戸建ての家屋と思わしき場所で盗賊MOBは監視と物色を行う者に分かれていた。

 

 1階で監視をしていた盗賊MOBの耳に音が入る。不自然な場所で石ころが転がる音であったため行動パターンに沿ってそちらを確かめに行った。音の鳴った場所に訪れ、その付近の場所を見回していくも何もなく。それが分かると踵を返して監視を続けようとした。

 

 その一瞬、盗賊MOBは口を塞がれ同時に首を深く斬られた。何の抵抗もできないままゆっくりと仰向けに倒され、その命は呆気なく終わった。盗賊MOBをステルスキルしたkiguruiの手際の良さに、raddaは素直に拍手を送った。明らかに手馴れている動き方であったため本職のそれかと思ったことは何度かあったが、その度にkiguruiの返答は「ゲームで覚えた」と一貫している。

 

 2階に居る残りも一体ずつ仕留めていき、一息ついた頃にはkiguruiの残証も2万を越えていた。十分なレベル上げも可能なほどに貯まっていたため、1度安全地帯である旗の掲げられた場所まで戻りレベルアップしたことで安全マージンは確保され、戦闘中に得た技巧により初心者から抜け出したのは間違いない。

 

 

「んー、まだもうちょい欲しいな。武器欲しい」

 

「まぁドロがなぁ、ゴミだしなぁ。しかもこの調子だと夜はバラけそうだし」

 

「バラけ?」

 

「考察者曰く、この荒れた地のMOBは昼に倒した盗賊の数が夜にアンデット系に変化して現れる。って掲示板で」

 

「成程。敵MOBがバラけるのか」

 

「そゆこと。少し待つことになるけど安定して手に入れるなら昼が良い」

 

「んあー……いや、夜も行くわ。興味あるし」

 

「オッケ、なら渡すもんあるからちょっと待て」

 

「ほん?」

 

 

 ラッダが画面操作したあとメッセージ通知が視界に入る。確認すると《黄昏の火打ち石》を5個受け取ったとあり、アイテム説明欄を読み、オブジェクト化させた火打ち石を持ってラッダを連れて夜のフィールドへと赴いた。

 

 

*1
4つある内の中から選ぶ

*2
狩人 兵士 一般人

*3
剣類or長物類




《始まりの曲剣》装備時STR+15
 キャラクリ初期武具設定、剣類にある3つの内の1つ。先端がほぼ直角になっており盾を引っ掛けたり防具の隙間を縫って損傷させることが可能。
 しかし扱いづらさから、かつての大戦争で使われることはあまり無かった。今となっては無いよりマシといった物である。


《始まりの防具シリーズ》
 鎧:DEF+15 篭手:DEF+10 下半身:DEF+10
 この世界での最初の防具。動きやすいように必要最低限の部分に皮を付けている簡単なもの。しかし敵に襲われればひとたまりもない、生き残るためには無いよりマシなのだろう。


《黄昏の火打ち石》
 一見何の変哲もない火打ち石。この火打ち石で火をつけると黄昏時の空のように、橙と碧の境界が曖昧になった色となる。この火は死に近い者を遠ざけるらしい。
 この火をつけることで生者は死者と共に在ろうとした。それが叶わぬことを知っていながら。


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kigurui(male)Lv10(兵士)
HP18(360)
SP18(360)
MP12(180)
STR16(160《+15》《+4》)
DEF/MDF20/20(163《+35》/163)
INT15(150)
AGI17(170)
LUK13(130)


【装備】
 右手武器:始まりの曲剣(E.) ・
 左手武器:松明 ・
 防具:始まりシリーズ一式

【技巧】
《受け流しⅠ》(成功時、初撃の威力をSTR5%分プラス)
《格闘Ⅰ》(常時STR3%プラス、端数切り捨て)
《暗殺Ⅰ》(非アクティブ時、レベルの低いモンスターを8%の確率で即死)

【術】





 黄昏の火打ち石を使って炎を纏わせた武器を振るい、着々とエネミーを倒し続けるkigurui。ゴースト、スケルトン、ゾンビ、犬をラッダの援護などを受けつつ手に入れた技巧を上手く使用し着々と残証を集めていた。夜に現れるアンデット系のエネミーには火打ち石を使いアンデット特攻を付与させるなどをしなければ与ダメが5割減少する仕様らしく、途中で効果が切れた武器の攻撃では倒すのに時間がかかったのが腹立たしかったようで。

 

 夜の時間帯では灯りが無ければ満足に戦うことも出来ないため、火打ち石を灯り代わりにしていたものの松明を入手したことで左手に持ちながらレベリングをしていた時であった。とある廃屋の床に違和感を持ったkiguruiが探索を始め、そう時間もかからない程に()()を発見した。一部の床だけが他とは違う模様であり取手まで付いているとなると確信するのに余計な思考は挟まなかった。

 

 風化した扉自体は木材であったため簡単に開くことができ、短い下り階段の先を照らしてみるとkiguruiの視界の端に白骨化した死体の一部が見えた。地下室に降りて部屋の内情を観察していくが、見つかったのはアイテムとどこかへ続く下り階段だけ。そのアイテムを取ろうとして──骨が鳴ったと理解した途端、背後を斬る。僅かにノックバックを与えたスケルトンへ猛撃し漸く安全になったところでアイテムを入手する。

 

 

《空の容器 ×5》

 

 

「えぇ……」

 

「あーそれな。定番定番」

 

「ほんっと、初心者殺しというか。今更だが」

 

「ってか、さっきの反応速度なに? AGI幾つだよお前」

 

「まだ17」

 

「PSであれかよ……俺が初心者の時より上手いじゃん」

 

「動くだろうなとは思った分、速く動けたんだろ多分。まぁさっさと行くべ」

 

 

 少しだけ上擦った、自身の声色の変化に気付いたkiguruiが一呼吸を終えてテンションを抑えると階段を降りていく。僅かにその顔を歪ませていることに気付いたのは、1段目を降りてからと早く、頬を叩いて元に戻した。

 

 下った先に見えたのは地下水道を思わせる光景、実際に地下水道でありその匂いは鼻が曲がるほど様々なものが混ざりあったのだと理解出来る。顔を顰めながらも探索していくと、槍、剣、材木、それらの破片などが入ったスライムの奇襲にあって死にかけたり──

 

 

「ぉぶェェェ……」

 

「よしよし。誰もが通る道、通る道」

 

「こんな道絶対やだ……ウォエ、くっさ」

 

 

 肥大化したネズミ、所々に爛れた箇所のあるネズミ、もはや原型さえ留めていないネズミが襲いかかったり──

 

 

「ビビったぁ……いきなり水の中から にゅっ と出てきたのはビビったぁ」

 

「未だに慣れないんだよなぁ俺も」

 

「つーかあれなに、攻撃の通りが悪すぎる。何でネズミの癖に硬いんだよ」

 

 

 脇道から待ち構えていたであろう目の潰れたワニが襲いかかり、1度は避けて反撃したものの噛みつきの連打によって無事に死亡1回目記念となった。

 

 

「ぁああ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

「いやスゲぇわ。よくここまで生き残れたな」

 

 

 なお、kiguruiの残証はそのワニに取り込まれたため、不可抗力で倒してしまったraddaのものになってしまった。

 kiguruiは泣いた。raddaは困った。

 

 


 

 

 旗掲げられし地での復活と帰還を果たし、あそこまで生き残れたにも関わらず残証がraddaのものになってしまったことを不憫に思ったのか。始まりシリーズからの脱却の分の費用はraddaから出すことにした。kiguruiの元残証もそこに含まれているのだが。

 

 王都グリムウィタの武具店で物色しているものの、NPCが経営している形であるため、めぼしい物よりも“これが妥当だ”と思えるものしか無い。あれでもない、これでもないと無い無い尽くしのなかでraddaのある提案に乗ることにした。『そうだ、鍛治職のプレイヤーに頼もう』と。

 

 言うや否や早速!と言いたいところだが、一度その場所に訪れなければ転移は出来ない仕様となっており、raddaはともかくkiguruiが条件に当てはまってないため馬での移動を余儀なくされた。raddaの操作する馬に乗って暫くの時間が経ち紆余曲折あって、やっとの思いで《西の工房都市 トレープシュ》へと到着した。

 

 この場所はNPC経営店よりも鍛治職を生業とするプレイヤーが多く、割合にすれば3:7の比率という人気の工房都市。他にも《東の工房都市 トゥワシュトラ》があるのだが、radda曰く「西と東でコンセプトが違うため対立関係にある」のだとか。東にも行こうかと考えながら物色を始めたkiguruiは──2時間後。

 

 

「しっくりこねぇよ……」

 

「まぁ、ここINTの要求値とか高いからな。武器の追加技巧で」

 

「戦技よか使い勝手をば」

 

「ガチ変態のヤベェのなら東西どこにでもあるが」

 

「そっち行きたくなったんだけど?」

 

「知らねぇよ」

 

 

 結局、件の変態どころを巡るも要求値の関係上買えずに終わり東の方へと行くことにもなった。その道中でまた残証が増え、ステ振りをしたあとトゥワシュトラへと赴いた。

 

 《東の工房都市 トゥワシュトラ》は目立つ限り仕掛けを施した武具が多く見られ、鍛治職の他に技術士なる職業もあった。懐かしのノコギリ鉈や、かの仕掛けが施された聖剣もあり嘗て血に塗れて狩りに身を費やしていた日々を思い出す。西の方では不死人として人間性を捧げたり火継を完遂したり深淵に落ちたりなど、あの時の思い出が想起されていった。

 

 思い出に耽けるのも束の間、やはりkiguruiからすればこれと言ったものが見つからないらしい。正確にはお目当ての物品はあったものの、その性能面やロマンを鑑みるに納得がいかないようで。防具の方もどこか納得がいってないため収穫なしの状態で現在はフィールドに出て、結局初期状態でエネミーを殺し続けレベルも18に上がった。それまでに12回死んだ。

 

 

「……はぁ」

 

「どーすんだよ、いつまでも初期装備だとキツいぞ」

 

「縛りプレイと思えばワンチャン?」

 

「ドMかお前は。死にゲーの時点であれだけども」

 

「あーでも、防具買った方が良かったかにゃぁ。せめて篭手だけでも──」

 

 

 ━━…ぃかげ……しろ!

 

 

「ほん?」

 

「どした」

 

 

 遠くから微かに聞き取れた声の主を捜し辺りを確認してみると、何やら揉め事が起きているようで。あれだと確信したkiguruiはraddaに指さし、エネミーの群れの中へ向かうことを示した。

 

 

「何だあれ……?」

 

「たーぶんトレインされたかもにゃ。さっき人の声聞こえた」

 

「マジ? 耳いいな」

 

「それよか行くべ。はよせんと不味い」

 

「オッケー」

 

 

 馬を早駆けさせ突っ込んでいく。確認できただけで盗賊5体、犬8体と明らかに危機的状況に陥っているのが見て取れる。kiguruiは笑みを直そうともせずraddaに指示を出した。

 

 

「犬狙って。盗賊はやる」

 

「はいよ」

 

 

 流石に蹄の鳴る音に気付いたが、その前に馬上から飛び出したkiguruiが盗賊の1体に兜割りを繰り出し、raddaが煙玉を投げて視界を奪った。kiguruiは笑っていた。

 

 

 




《空の容器》
 何も入っていない空の容器。

 何も無いため、何かを容れることが出来る。


《煙玉》
 投げると周囲に煙を発生させる玉。威力は無いが目くらましには十分な効果を発揮する。


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