無気力学生が配信を始めてみた。 (16色のレイン・コーラス)
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1 内なる無気力を解放せよ

「……どうもこんにちは。……『B-Radar(ブレーダー)』と申します。……見に来てくださってありがとうございます。この度Vtuberチャンネルを開設しました……B-Radarです」

 

 まるで選挙活動のような固さですね。

 自分のことなのにそう他人事のように認識してしまうのは、画面に表示されているのが自分とは似ても似つかないキャラクターだからでしょうか。

 

 赤い装束のアバターが、PCのスクリーンの上をゆったりと動いています。発せられる声は自分のものなので、聞き取り辛くないかどうかと心配になりおなかが()()()()と痛みます。やばい、もうやめたくなってきました……。初配信ですけど。

 

 チャット欄には”こんにちは”と”こんばんは”が混じり合った挨拶コメントが流れます。午後5時は微妙な時間かもしれません。そしてそのチャット欄に表示されている名前は、どれもtwitterで見たことのある人ばかりです。告知から来てくれたのはありがたいですね。

 

 告知といえば、開始ツイートをしていません。今のうちにぽちぽちしておきましょう。ぽちぽちって語源は何ですか? ポチ袋?

 

「”五行明神(ごぎょうみょうじん)さん……”シャロ”さん……”ねすと”さん……。来てくれてありがとうございます……。あまり絡みがない方も来てもらったようで……もしかすると初見の方もいらっしゃいます?」

 

”初見です”

”全員初見だろ”ねすとはーつ

”落ち着く声だぁ”

 

 ねすとさん……。いやそうですけど、そうじゃなくて。

 落ち着く声? そうかな。音量あげろってことですか?

 自信がないから全部悪い方に解釈できます。

 

「それでは……改めて自己紹介をしましょう。B-Rader(ブレーダー)です。中学三年生で……中三って何歳でしたっけ……。15歳か? 15歳です。ブラッドタイプはAです」

 

”中三とか若いな”

”その年で憶えてないとか痴呆(ちほう)か?”

”性別は?”

 

 (わざ)とに決まっているでしょう? でも誕生日は祝われないので忘れます。それにしても、ですね。

 

「性別で迷うようなところあります? 見ての通り男ですが……。名前もそうですし……。このモデル、僕が頑張って作ってみたんですけど……どうですか?」

 

 そう言ってくるりと回ってみせ、アバターの全体像を見せます。見た目は剣士と陰陽師を混ぜた感じで考えたものです。

 ……少しよろけました。

 

”かわいい”

”こんなにかわいい子が”

”今どきの中学生はすごいな”

 

「可愛いですか? ありがとうございます……。何か聞きたいことあります? 僕についてでも何でも」

 

 ちゃんと男の子っぽく見えるように描いたので、かわいい理由がよく分からないんですけど。あるとすれば目つきでしょうか。中身が僕だから眠そうで目じりが下がっています。あとは僕が普段女の子しか描いてないから、とかですかね?

 

”何でもするって言いました?”

”住所どこよ?”

”3サイズ教えてくれるって?”

”趣味と特技とパンツの色教えて♡”

 

 わわっ、食いつきがすごい。みんなが僕に興味を持ってくれているのはうれしいですね。順番に答えていきましょう。……いや、これ答えちゃだめなやつですね。

 

「住所は……ナイショ。男だからバストもヒップも測りませんって。趣味と特技は……何でしょう。あまり考えたことがないんですよね。Vtuberをやっていること自体が趣味みたいな気がするんですけれど。……特技は……一応イラストが描けます」

 

 パンツは知りません。

 

”無気力すぎない?”

”もっと覇気を込めて話せ”

 

「覇気……? なんか気力が上がらないんですよね。お休みだからかな……?」

 

”中学生はお休みか。羨ましい”

”休みじゃなきゃこの時間の配信にはいないのでは?”

”ウチは夜勤なんで……”

 

 皆さんはこの時間だと仕事してるんですよね。ちょっと早すぎたかな?

 

「お仕事ですか……? 頑張ってくださいね」

 

”よっしゃあと3日は頑張れる”

”応援してる本人が一番やる気なさそうなんですが”

”好きな食べ物は何ですか?”

 

「え……? 好きな食べ物ですか? ……うなぎ、ですかね。最近また安くなったとか聞きますけど」

 

 やっぱり天然もののうなぎは最高です。

 

”贅沢な中学生だ”

”今世紀入ってから食べてないわ”

”ええ……()”

 

「今世紀は……長いですね。僕もまだ生まれてないですし。……うなぎ食べないと人生の半分は損してますよ。もう半分はカルビ。焼肉文化は強いです」

 

”中学生って若いねぇ”

”90年代生まれのワイ、前世紀と言われてプチショック”

”大丈夫だまだ若い”

”うちもうおじいちゃんだからさ、脂っこいのはキツイものがある”

”うなぎパイにやられてしまってな”

”焼肉かー、一人で?”

 

 ちょっとカオスになってきました。

 

「なんだかこのチャット欄歴史がありますね……。うなぎパイってそんなにうなぎじゃなくないですか? 焼肉は、友達と行きます。ん? ”スタイルとしてはVtuberなの? 普通の配信者なの?”……スタイルってちょっとよく分かりませんけど、モデルがあるからVtuberですかね。他に何か違うんですか?」

 

 ?

 

”?”

”?”

”?”

 

 止まっちゃった。僕、何か変なこと言いました?

 

 ◇ ◇ ◇

 

 僕の名前は征矢(そや)剣斗(けんと)。剣に矢なんて、いい武士になれそうな名前ですけど、剣道も弓道もやったことないです。配信者の名前……B-Radar(ブレーダー)というのは自分の名前から考えてみたんですが、ちょっと安直過ぎたかなと反省しています。

 

 僕がVtuberを始めようと思ったことには、特に深い理由があるわけではないです。

 

 大したことではないですが、中学三年の二月、高校への進学が無事に決まり暇を持て余していたことが一つの始まりです。僕は外出しないので、時間は余っていました。ゲームをやって、合間に小説を読んだりイラストを描いたりと自由に過ごしていたのですけれど、あまりの生産性のなさに身体に不調をきたしました。一応、成果物はあるんですけどね。

 

 そんな僕が『これではいけない、何か新しいことをしよう』と思ったときに目についたのがVtuberだったのです。目についたっていうか、元々好きだったんですけど。何人かのVtuberさんについてはポスターも持っています。僕のアバターを製作するときにちょっとだけ参考にさせてもらいました。ちょっとだけです。

 

 そうしてVtuberを始めてみたのですけど、Vtuberって具体的には何をするんです……?

 

 はてな。



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2 無気力ですが続きます

 名有りのキャラクターの発言でも、主人公がそうと認識できていない場合は飛ばされている可能性があります。
 配信を全て文字起こしすると想定した場合は仮に一万字あっても足りないので……。
 そこまでの気力はないです。


 チャットが止まってしまったので思わず回想に入りかけましたが、過去を遡っても特にイベントなんてなかったのですぐに戻ってこれました。続けていきましょう。

 

 しかしここで流れを一度リセットしたいですね。ゲームしましょうか。短く終われるものがいいので、短編フォルダを開きます。

 

 僕は元々それなりのゲーマーなので、面白いと思ったフリーゲームは分類して保存してあります。広く浅くですけどね。

 分類は……『3分以内』から選びましょう。初回からグダる可能性のあるゲームはやりたくないですし、ストーリー系は初見じゃないと生放送は難しいです。

 

「……自己紹介も一息ついたところなので、ゲームをやっていきたいと思います。やっていくゲームは……ありました。……こちらのゲームは【アップリング】です。りんごを重力砲で撃ち抜いて、落ちてこないようにリフティングさせるゲームです」

 

”まて今ゲームめっちゃあったぞ”

”なかなか意味が分からない”

”あー、ニュートン的な?”

 

 リンゴと重力ならニュートンだっていうのは分かりやすいですよね。実際のところニュートンは出てこないのですが、モチーフであるのは間違いないでしょう。

 

「……始めましょう。操作は右か左に移動するだけです。一見すると大したことのないゲームなんですが、実は奥が深い……のでしょうか? 物理演算がガバガバなのでほどよく難しいです」

 

”その説明だけでクソゲーっぽいんだが”

”不安そうにしないで”

 

 面白かったとは思うんですけど、面白く実況出来るかどうかは別のお話なんですよね……。

 

「1、2、3、……4、5ぁっと、落としました。……カウントするラインが高いところにあるので、しっかり中心を撃ち抜かなければポイントにならないです」

 

”カウントアップ?”

”重力砲で壊れないリンゴすげえな”

 

 きっと未知の金属でできたリンゴなんですよ。禁断の果実です。

 

「何といっても音がいいんですよね。『ぼーん』って。重い鐘を打ち付けたような……心が鎮まります」

 

”ジョヤジョヤしてきた”

”オモイカネを打ち付ける!?”

”煩悩が洗われていく音がする”

”↑結果何も残らなそう”

”最初から沈んでたようなものでは”

”そもそもリンゴが出す音じゃない”

 

 オモイカネって何ですか? 聞いたことはある気がするんですけど……。あっ、僕が『重い鐘』って言ったからですか。ダメですね、緊張で頭が回りません。もっと心頭滅却しなければ。あっぷるあっぷる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一回3分どころか10秒くらいで終わることもあるゲームですが、気がつけば10分くらい続けていました。やはり大変な中毒性です。

 

「……ランキング機能があるので、送信しておきます。本日のスコア:48点。大体の日は誰もやってないんでランキング一位ですよ」

 

 もう4年も前のゲームですからね。フリーゲームにとって4年が長いのか短いのかは分かりませんが、今がこのゲームのピークでないことは確かです。僕がやったことで増えるでしょうか?

 

”草”

”かなしいなぁ”

 

「あ゛っ。そういえば、でしたね……」

 

 ランキングの名前の入力欄は4文字しか打てない仕様です。しかも濁点と半濁点に一文字分使用するので、『B-Radar』とは入力できません。そもそもローマ字がないですし。

 

「『フ゛レイ』……うーん、まあいいです。ドラクエ*1リスペクトなのでしょうか、入力の欄が少ないので……納得しましょう」

 

”そこまで低スペックなのは逆に無理がある”

”もはやだれか分かんねえよ”

”曲がりなりにも物理演算できるのに濁音が打てないのか()”

 

   ◇

 

「……そろそろお話に戻りましょう。それでVtuberと一般の配信者さんの違いについてなのですけれど……」

 

”そこまで戻るのか”

”蒸し返すなw”

”せっかく忘れてたのに”

 

 それを言うなら、せっかく私が調べたんですから……。

 

「ですけれど。調べてみたところ、Vtuberというのは主にコンピューターグラフィックスを活用したキャラクターであり、また、近未来的な活動をしているものが一部にみられるそうです」

 

 読むだけなら一文くらい読めるんですけど、どもるわけではなく適当なことを言わないように考えていると話せなくなるんですよね。

 

”近未来的な活動って何だよ”

”ふわっとしてる”

”天気予報的な?”

”直近で草”

 

 やっぱりよく分かりませんけれど。

 

「……他の質問にもまた答えていきます」

 

”コロコロ話題が変わるなこの中学生”

”15分間に7回かな”

”それは別の人”

 

「”なんでそんなにテンション低いんですか”……逆に聞きたいんですけど、どうやったらテンションが上がるんですか?」

 

 これは本当に謎です。テンションって一日置いてリセットする以外では、だんだんと下がっていくだけですよね? 始めに一日分のテンションがあって、だんだんとそれを消費していく、ような……。

 

「”Vtuberをやる上での夢や今後の展望を教えてください”……夢も展望もそんなにないんですけど……うーむ」

 

 この問題に答えられるかどうかは重要な気がします。

 

「実況者みたいにフリーゲームをやって、ときどきイラストを描く……メイキングですね。それをやりたいと思っています。せっかくVtuberになったので、世界中のVtuberさんとコラボして友達になりたいと思っています……」

 

”メイキングいいぞ”

”ワールドワイドか”

”ならコラボしようぜ”ねすとはーつ

”ブレ君からそんな言葉が出てくるとは”

”私ともやろう!”C.F.シャーロット

 

 皆さんアグレッシヴですね……。誘っていただけるのはうれしいんですけれど、今はもう少し配信に慣れたいです。

 

「ありがとうございます。そのあたりは追って決めていきます。……ほら、ねすとさんは陶芸家ですし、シャロさんは歌い手さんですし」

 

”ちゃんと見てるんだなぁ”

”一緒に歌おうよ”C.F.シャーロット

”(陶芸やってて)何か問題が? そして本職ではない”ねすとはーつ

 

「歌は苦手なんですよね。中学の成績も音楽3でしたし……人前で歌うのは恥ずかしいです」

 

”それはまた微妙な”

”何とも言えん”

”いや5だったら歌えるってわけでもないけどね?”

”大丈夫! 手取り足取り教えてあげるから!”C.F.シャーロット

”もしかしてやべーやつ?”

 

 手取り足取りって……オフコラボするわけでもなければそんなことはできないと思いますけど……。

 

「……その機会があったらよろしくお願いします」

 

”期待してる!”C.F.シャーロット

”ちょっと嫌そう”

 

 うそ、顔に出てますか? 嫌というわけではないんですけど、ぐいぐいと距離を詰められると困ってしまいます。ほら僕、友達居ないので。……ゼロではないよ?

 

「そんな感じでやっていくので、今後ともよろしくお願いします。……今日はこのあたりで終わりです。一時間だけの予定でしたので。チャンネルのご登録をよろしくお願いします……」

 

 これからの予定は、どうしましょうか。

 コラボをするなら、先に知り合いを呼んで練習してみましょうか?

*1
特に2



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ーー すごい失礼なパロ①

 配信者系の小説主人公、全員友達居ない説。
 友達書くの面倒なんですよね……。自分の友人を参考にしても人気の出るキャラクターになるとは思えないですし(失礼)。


「……今日は……フリーゲームをやっていきたいと思います。【喪女(もじょ)の家】というゲームなんですけど……」

 

”ダメだろ”

”パロで草”

 

 いや僕もダメだとは思うのですけどね。せっかく見つけてしまったので、削除される前にやっておきたいです。……と思って早速配信を始めてしまいました。今は午後7時過ぎです。

 ゲリラ配信なので多少は落ち着いていますけど、まだ緊張しています……。twitterで開始を告知しなければいけませんね。

 

「レヴューを見る限り実際の内容はパロではないようなので大丈夫だとは思いますけれど……裁判になっても逃げ切れるレベルのようです」

 

”逃げ切れるとは”

”やっぱりアウトなのでは?”

 

 セーフですって。それにもし何かあっても、まだお金取ってるわけでもないですし、僕がどうこうなるわけではないと思います。

 

「……それでは始めていきましょう。マンションですね。コンクリートジャングルです」

 

”確かに魔女はいなさそう”

”魔女って言うな”

”名前を言ってはいけないあの人みたいになってて草”

 

「……ピンポン、お邪魔します……。鍵が開かないですね。周辺を探索……でしょうか」

 

”どういうゲームだ?”

”その右の箱みたいなのは違うの?”

”それは牛乳配達ボックスや”

 

 牛乳ってマンションでも配達できるのですか? 通路は邪魔になるので物を置かないものだと思っていました。

 キャラクターを操作していると、立てかけてある赤い斧を手に入れます。

 

「ハチェットがありました。これで扉をこじ開けるのでしょうか」

 

”ハチェットww”

”確信犯で草”

 

 そういえば、確信犯は今使われている意味は誤用みたいですね。少し前にクイズ番組で出題されていました。

 

「扉の前で……メニュー画面を開いて……。あらイケメンさん。こっちは男の人なんですね。……扉を壊しました。音が大きいですかね?」

 

 メニュー画面ではシルバ、という名前とともに銀髪赤眼の俺様系の青年が映し出されていました。B-Radar(ブレーダー)を5秒で考えた僕が言うのもアレですけど、安直過ぎじゃないですか? ……うん? シルバでハチェット? ここはアクアリウムでした?

 

”おネエみたいになるな”

”ハチェット一本で扉粉砕するとかやべ”

”近所迷惑すぎる”

”近隣住民に通報されるぞ”

”喋る声を大きくして”

 

 喋る声ですか。気をつけます。おネエではないです。

 

「お邪魔します……。あっ、お猫様。……一人暮らしで猫飼い始めたらヤバくないですか?」

 

”辛辣すぎる”

”わかる”

”えっ”

 

 いや、だって、喪女なんですよね……。

 

「わっ、すり抜けました。化け猫ですか? 化け猫を飼っている家……」

 

 あるいは飼い主さんが死んでしまったから、猫も死んでしまったとかでしょうか? 考察が捗りますね。

 

「箪笥の中には……紺色の服……役に立つものは何もないですか」

 

”勝手に箪笥を漁るな”

”イケメンでも許されんぞ”

”役に立つとは(意味深)”

 

 いや仕方ないんですよ。この人も悪意を持ってやっているわけではないのです。深い意味もないです。

 

「あれ、死んでしまいました。なんで?」

 

”見ちゃいけないものだったんだ”

”やめろ、(見られた羞恥心で家主が)死ぬぞ!”

 

 家主が死ぬんですか? ホラーではなくてギャグゲームなんですかね……。

 

「予想外すぎました。……それにしても、皆さんの理解力が高いですね。ではその辺りは触らないでおくとして……次の部屋です。真っ暗すぎて何も分からないですね……。ここも後回しです。というかマンションの中なのに広いですね……」

 

”明かりつけろ”

”高給取りだ”

 

 高給取り……なんですかね? オートロックとかなかったですけれど。

 

「こちらの部屋はお風呂場ですね。所謂シャワールームです。ピクミン2なら大きな○メクジがいるところです。『んべー』ってやつ……ちょっと手触りが気になりますよね、あれは。一度触ってみたいです」

 

 ねばねばしなさそうですし、コーヒーゼリーみたいなものでしょうか。でも意外と固いのかもしれないですね。

 

”ええ……”

”わかる。かわいいよね”

”可愛いか?”

”けめくじ?”

”それは別物”

 

 ? 他にも似たようなものがいるのですか?

 

「可愛いですよ。ぬいぐるみが出たら欲しいです」

 

”(キャラ人気でも、時期的にも)出ません”

”深海生物がブレイクしてた時ならワンチャンあったかも?”

”てかなんで分かるんだ? Wii版でも11年前だろ……”

 

「中古を買ったんです。ほら、『キューブ時代の名作トップ10は~?』みたいなまとめに上がっていたので興味があって……」

 

”なるほど”

”それは過大評価”

”は?”

”Wii版は劣化してる”

”一気に燃えるなこれは”

 

 チャットが加速してしまいます。地雷でしたか……? やっぱり、まとめサイトはだめですね……。

 

「やめてください炎上は……評価は個々人でお願いします。ゲームに戻りますよ。石鹸があって……一人暮らしで石鹸って使います? ……使いますか。そうですか……」

 

”逆に誰が使わないんだ”

”洗顔用にってこと?”

”どこに使うんだよ”

”ミューズ石鹸?”

”それは手洗い用”

 

 僕は洗顔フォームとかを使用してて石鹸は使わないので、風呂の中に石鹸は持ち込みません。

 と、いきなり排水溝から真っ黒なものが飛び出してきます。

 

「うわ、髪の毛のお化けが出てきました……」

 

”ちゃんと掃除しないから”

”『IT』やんけ!”

”初見で回避できててえらい”

”髪よこせ”

 

 躱せたのは偶然です。捕まったらどうなるのでしょう?

 入っていいのでしょうか?

 

「あっ。まだいました」

 

 追いかけてこないのでいなくなったと思っていましたが、シャワールームに入った瞬間に髪の毛につかまりました。

 

「……この場合のバッドエンドとは。死んでいるわけではなさそうですが……」

 

”まじかよマンション怖いな”

”戻れないのか”

 

 しかし一つ、分かったことがありました。

 

「僕が驚かないので、この手のゲームは盛り上がりに欠けますね……。友達を呼んでやらせた方が面白そうなので、続きはまたの機会にすることにします」

 

 ゲームウィンドウを閉じて、『配信中』のフォルダに投げ込んでおきます。友人にやらせるとしたら、初めからでしょうか?

 

”おつおつ”

”えっ、でも友達はいないって”

 

「言ってないです。友達はいます」

 

 言いましたっけ……? 配信をしている間の記憶が曖昧ですけど、多分言ってないでしょう。まだ配信二回目なのでボケるには早いはずです。

 

「まだ配信は終わりませんよ。そうですね……あと24分ですか。『15分以内』のものをゆっくり実況していきましょうか。……ゆっくり実況ではないです」

 

 ダウンロードファイルを開いていきましょう。

 

”どっちだよ”

”草”

”『200時間以上』とかあって気になる”

 

 『200時間以上』は大半が途中で止まっていますし、最初から実況する気にはとてもではないですがなれませんね……。暇ですけど、そこまで暇ではないのです。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 なお、今回のゲームは次にサイトを確認したときには消滅していました。製作者さんが自主的に消したようです。何か問題があったのでしょうか?




 魔女の家、面白いですよね。
 魔女の家はストーリーを弄るのと世界観を弄るのを禁止という、二次創作をする上で大きな制限があります。ただ、二次創作そのものは禁止されていないです。では支援絵の他に何ができるのかというと……心理描写くらいなら可能なのではないでしょうか。詳しいことは作者さんに突貫してみるのも一つの手ですね。


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3 蝉ですよ

 前書きで自己紹介を始める作者が嫌いなんですが、下らない前書き自体は嫌いじゃないんですよね。多分、分かれ目は自分の名前を出しているかどうか。

 尤も、この前書きは客観的に見ていらない話ですけど。


「……それでは実況を始めていきたいと思います。【Cicada(シケイダ)】というゲームでして……蝉のお話ですね」

 

 ダウンロードファイルの中には自分で分類したものでないゲームもあるのですが、このゲームはその中でも特に評価が高かったものです。せっかく実況するなら面白いゲームの方が良いでしょう。

 

”物騒な名前だ”

”蝉の英語名やぞ”

”そうなの?”

 

 そういえば、海外の蝉は日本の蝉とは違う種類なんですよね? やっぱり大きかったりするのでしょうね。

 

「『彼は地下室で目を覚ます。滴り落ちる雫の音が、彼を地上へと誘う。』……ノベル要素もあるのでしょうか? 『新しい自分になる日だ。殻を破り捨て、じっくりと翼を広げていく。』……蝉ですからね。『パーティ会場へと急がなければ。』避けゲーですか。でも蝉がそこまで長い距離を飛べるとは思えないのですが……どうでしょう?」

 

 蝉が空を飛んでいるイメージはあまりないですけど。

 

「これは……操作が難しいですね。入力した方向へかなりの速度で進んで行きます」

 

 やってみるとこれはかなり難しいですよ。そうこうしていると接敵してしまいます。

 

「何とも言えない気色悪さの敵が……。蛹の中に入っている蜂みたいな見た目をしています。ああ、後ろからも。……飛び過ぎて画面外に出ると駄目なんですね。理解しました」

 

”どんなイメージだ”

”分からんでもない”

”まっくろ……”

 

「ブロックを貫通してくるのはどういう了見なんですかね」

 

”了見で草”

”いや分かるよ、理不尽だもんね”

 

 いや、だって石の中ですよ。すり抜けてくるのは平面ゲームとはいえどうなんでしょう。洞窟物語にあるような網の足場ならまだ分かるんですけど。出現の直前まで分からないですし。

 

「……よく見たらずっと向こうから見てるんですね」

 

 うっすらと、障害物の陰になっていて分からないのですが、黄色がかった怪物の顔がじっと主人公の蝉を見つめています。

 

”ん?”

”本当だ、怖え”

”何が?”

”背景に目が浮かんでる”

”ああ! フクロウっぽいな”

 

 フクロウっぽいという意見は斬新ですね。見え……ません、残念ながら。

 

「うわっと、変なところを触ってしまいました……。変換ですかね。半角を。使わないボタンは削り取りたいですね」

 

”あるある”

”なんて?”

”発想が物騒”

 

「うわ、挙動がバグっているのが来ましたね……。これは、なんでしょう。ハチスズメ? スズメバチ? いやスズメバチではないですね……」

 

”これ正常なんか?”

”ハチスズメとスズメバチは全然違うんですが……”

 

 集中が必要な場面のためチャットを見る暇もありません。

 敵Mobはいろいろな方向へ曲がりくねった挙動をしながらも、少しづつ近づいてくるようです。

 

”ハチドリ的な?”

”追尾してきてる?”

 

 幸いある程度の時間制限があるのか、自機*1が画面の中を逃げながら一週した後は風に流されるようにして画面の外へと去っていきました。

 

「今度は群れを成してきましたよ? 上からも来ますね。虫って上下に飛行できるのですか? いったん画面外ぎりぎりにまで出て、……無理して抜ける必要はありませんでしたね。体力を半分ほど持っていかれました」

 

 やっぱり操作が難しいです。僕はゲームが好きですけど、得意だというわけではないんですよね……。

 

”上から来るぞ、気をつけろ!”

”ほんとに上から来るやつやん”

”細かいことは気にするな”

”右腕と左足持ってかれてそうなダメージだ”

 

 進んで行くと、今度は様々な高低差の足場に乗ったカエルが現れました。

 

「カエルが……痛い。カエルの正面に近づいてはいけないんですね。コースがかなり限定されますね。……そもそもカエルって、蝉を食べるんですか?」

 

”大きいカエルなら食べるんじゃね?”

”あいつらバッタとか食べてるからなぁ”

”指も食べるし”

”なにそれこわい”

”かわいいやで”

 

 チャット欄を流し読みしてみてもよく分かりませんでしたが、食べないということはないのでしょうか? アマガエルより大きなカエルは見たことがないのですが、都市部にある両生類館にでも行ってみましょうか。

 ……そういえば、このカエルの見た目はアマガエルですね。それなら蝉は食べないということで……。

 

「蜂がテーマなのでしょうか。また別の種類の蜂の群れが……顔が怖いですね。これはどこにいても当たりませんか? ライフが……よし、残りました。僕の勝ちですね。赤ゲージ*2ですけど。到着です。ここからはずっとEDですか?」

 

”おつおつ”

”よく残った”

 

 本当にぎりぎりでした。初見殺しが多かったので慣れればもっと効率よく進むことができるとは思いますけれども。

 

「あとはエンディングが流れているだけのようですね。燃え尽きました……融ける」

 

 エンディングの陽気なサンバのような音楽が流れています。疲れているときに音楽流されるとちょっとイラッとしませんか? クラシックにしてください。そもそも蝉も関係ないですし。

 

「今日の配信はここまでにしておきます。中学生なんで、8時前に終わらないと……どうなるんですか?」

 

”自分で分からないのかよw”

”そうだね労基だね”

”収益化もしてないし平気じゃない?”

”そもそも本当に中学生かどうかは分からないし”

”免許証出せや!”

”だから中学生だって”

 

「免許証は持ってないです。……そういうわけなんで、次もよろしくお願いします。チャンネルのご登録もよろしくお願いします……」

 

 今日の配信も無事に終了しました。

 

 久しぶりに、最近参加していなかった放送部のチャットでも見てみましょうか。

*1
自分の操作しているキャラクター。

*2
残り体力がほとんどない



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4 無気力以前の問題

 難産でした。
 配信パート以外はもう書かねえからな!


 ◇小刈中学校放送委員会◇

 

【system】:『けんと』さんがログインしました。

けんと:こんにちは。

ミカゲ:こん

✝アキ✝:こんちゃ

ミカゲ:以上

✝アキ✝:しばらくぶり

けんと:そうですね。最近忙しかったので

✝アキ✝:嘘つけ。特に用事とかないだろー

けんと:暇すぎても逆に忙しいんですよ?

ミカゲ:哲学?

✝アキ✝:その人生哲学すごい浅そう

けんと:僕のことはいいのです。

けんと:今は、二人は何か話していました?

ミカゲ:特に。

✝アキ✝:人数少なすぎて一人でお経読むしかないよね

ミカゲ:うるさくしてた

けんと:そうですか。そのアカウントからお経垂れ流されるのは面白いですね。

✝アキ✝:えっ、そう?

✝アキ✝:でもさ、ここほんとに動いてないよね

✝アキ✝:剣斗も来ないし

けんと:悪かったです

✝アキ✝:後輩でも招待する?

ミカゲ:やだ

けんと:あんまりINしていない僕が言うのもあれですけど、それはちょっと。

✝アキ✝:ダメかー

ミカゲ:ダメ

けんと:です

 

 ここは僕が通っていた中学校の……まだ過去形にするのは早いですか? 兎に角その中学校で、僕は放送委員会に入っていました。そこで生徒同士の連絡の為に全員がスマホに入れたのが、この【Connected Clover(コネクテッド・クローバー)】というチャットツールです。

 僕はスマホ持ってないですけどね。絵描き用のタブレットならありますけど、学校へは持ち込み禁止でしたし。

 PCからでも使用できて、会話ごとに新しいルームを作り内容を出力することが出来ます。あと背景がきれいです。……正直な話、チャットツールの違いはよく分からないのでLINEかディスコードでいいと思うのですが。みんなが使っているのでしょう?

 

 そのチャットツールについて、『最近入っていないな』とふと思ったので開いてみた次第です。

 その(つい)でにVtuberの宣伝でもしようかと。

 

✝アキ✝:この間釣り行ってきたんだけどさ、めっちゃ水冷たかった

けんと:でしょうね

ミカゲ:アホなの?

けんと:まあまあ。この時期は何が釣れるんですか?

✝アキ✝:私が釣ってたのはアオリイカ。他は太刀魚とかアイナメとか? ついてっただけだからよく知らん

 

 釣りですか。釣りもいいかもしれませんね。常に一定のファンがいるジャンル……ですよね? でも何も知らないんですよね。魚釣りに詳しい配信者さんとか居たら僕も連れていってほしいのですが。

 とりあえず今は行く予定なしですね。

 

けんと:なるほど。船ですか?

✝アキ✝:そそ

ミカゲ:この時期外出るとか自殺行為

けんと:分かります。正直何もしたくないです

✝アキ✝:お前らそればっかじゃん。外出ようぜ。

✝アキ✝:外行くで思い出したんだけど、卒業旅行とかしない?

ミカゲ:するの? ディズニーとか?

けんと:行くなら行きます。計画立てたら教えてください。

✝アキ✝:お前も話し合うんだよ!

けんと:ええ……なら逆に今する話題じゃなくないですか?

✝アキ✝:そもそも剣斗が全然こないから

けんと:電話してください

✝アキ✝:かけても出ないじゃん

ミカゲ:大体留守電

けんと:うぐ……セールスとかいろいろかかってきますし。twitterとかなら……。

✝アキ✝:最近動いてないじゃん!

 

 ……。そういえば、Vtuberを始めるから新しいアカウントを取得したのでした。そちらで呟いているから、もともと使っていた個人アカウントにはログインしていない、ですか? ……面倒臭いですね。僕はVtuberの自分をそれとなく宣伝しに来ただけなんですけど。

 

けんと:やっぱりきっと僕も最近忙しいんですよ。

ミカゲ:他人事……

✝アキ✝:それ嫌い

【system】:『シアン』さんがログインしました。

シアン:グッモーニンエブリワン!

シアン:ハウアーユー!

シアン:アイムファーイン・センキュー!

✝アキ✝:のーせんきゅー

ミカゲ:誰もいなくてもやってるよね

シアン:アイデンティティです

けんと:もうすぐ昼ですよ。

シアン:こんにちは

✝アキ✝:こんちゃ

けんと:こんにちは。

ミカゲ:こん

シアン:ここ数日ずっとVtuberの動画見てる。知ってる? Vtuber。

けんと:知りません。

 

 思わず反射的に否定してしまいました……。いきなり話を振ってくるのが悪いです。きっとそうです。

 

 しかし全員揃ってしまうとは、余程暇なんですかね。僕の友好関係は狭いので何とも言えませんが、ここのメンバーも中々に休暇を持て余しているようです。釣りに行く前に友達とショッピングにいったりはしないのでしょうか?

 

 このチャットは放送委員三年生のグループで、僕:征矢(そや)剣斗(けんと)、ミカゲ:大筒(おおづつ)美景(みかげ)、✝アキ✝:秋空愛(あきぞらあい)、シアン:城島(じょうじま)史行(しあん)の四人で構成されています。

 

 配信二回ですでに面倒になってきたので、誰かを呼んで雑談しながら配信しようと思ったのですが。冷静になってみると、放送部とはいえ配信経験のない素人ですし、もっと配信できそうな人を探した方がいいですね。それでは撤収。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その後しばらく話をしていましたが、お昼になったのでチャットはお開きになりました。昼ごはんは冷蔵庫からうなぎを出して焼いて食べました。料理を配信するのもいいかもしれません。

 

 しかしまずはコラボです。コラボで相手に引っ張ってもらえばモチベーションが上がる気がします。もっと言うと、自分で思ったより視聴者・登録者の数が伸びないので知名度を上げたいという魂胆です。

 

 僕はずっと考えました。

 コラボってどうやってするのでしょうか、とか。

 気軽にコラボしてくれる近所のお姉さんとかいないですかね、とか。

 

 コラボって結構入念な準備が必要ですよね。

 どういった進め方で配信していくのか、しっかり決めておかなければなりませんし。

 

 趣味が同じ人なら簡単な雑談でもうまく盛り上がれるのでしょうか?

 

 僕は二日ほど悩みました。

 

 いまいち気分が乗らなくて気になり過ぎて配信もできないほどでした。

 

 コラボとは。僕の趣味とは。

 

 そもそもコラボを人に持ち掛けるのが難易度高いんですが!




 ポケットミラーやってたんですけど難易度高すぎて禿げる


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