それが日常 (はなみつき)
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作者用設定資料と全く無意味なプロローグ

読む必要は全くなしですよ

むしろ読まれると恥ずかしいでう

投稿間隔が開き過ぎて設定を忘れる作者用

プロローグは資料だけだと文字数が足りないので文字数稼ぎ


 

 

 

次の話に行ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公:坂上 (さかうえ) 公輝(まさき)

 

能力:ウルトラジワジワキノコ(仮称)

   自分の認識次第で回復に幅がある

   なお、周りに影響が出る模様

 

容姿:設定なし

 

死亡時:20歳、大学合格直後

 

魔力光:紺色

 

魔力量:魔力弾10発分

    (念話の魔力量はほぼ0とする)

 

一人称:おれ

 

口癖:まあ、そんなことはどうでもいい(話が逸れたときに)

 

人の呼び方:基本さん付け 

      はやて、ヴィータは呼び捨て

      アインス→リインさん

      ツヴァイ→リインちゃん

      ヤッサン(骨董屋)→ヤッサン

      スカリエッティ→スカさん

      ゲンヤ→ナカジマ氏

      レジアス→ゲイズ氏

ジーク→ジークリンデちゃん、後にお嬢様

 

呼ばれ方:はやて→ハムテルくん

     ヴィータ→マサキ

     シグナム→坂上→マサキ、おまえ

     ザフィーラ→マサキ

     シャマル→マサキくん

     リインフォース→マサキ

     なのは→公輝君

     フェイト→公輝

     すずか→公輝君

     アリサ→公輝

     ツヴァイ→キミテルさん

     ヤッサン→まっちゃん

     アリシア→お兄さん

     プレシア→マサキくん

     スカさん→マサキ君

     ナンバーズ→先生

     トーレ→マサキ医師

     スターズ、ライトニング、ティーダ、ヴァイス→公輝先生、先生

     ヴィヴィオ→おじさん

     ドゥーエ→同志マサキ、マサキ

     ジーク→マサキさん

     アインハルト→マサキさん、先生

 

 

 

 

 

 

↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く無意味なプロローグ

 

 

 おれの名前は坂上公輝。と、こんなふうにギャルゲ風の自己紹介をしてみたり。しかし、実際にこういう風に自己紹介をするのはなかなか恥ずかしいものである。普通だったら「おれは[名前]」と、いった感じに自己紹介をするだろう。だが、英語ではMy name is [名前]と言うことを考えるとギャルゲ風自己紹介はグローバルスタンダードなのであろうか?しかし、最近では自己紹介をするときはI am [名前]とも言うそうだ。長いことは短縮されるのは言語の宿命であり、この変化は時の流れの中のあたりまえの現象であるのであろう。

 だが! おれはあえて日本発のギャルゲ、エロゲがグローバルスタンダードとなり、世界の人達が「この名前の紹介の仕方ギャルゲみたいでちょっと……」と、思うようになって言わなくなってきた説を推そう!

 

 まあそんなことはどうでもいい。今までこんな何の意味のないことをつらつらと考えていたのは今おれは大学入試本番以来の緊張状態にあるにもかかわらず、入試本番のように最後まで参考書を読むなどのやることがないから無駄な考えをめぐらし、今の時間を過ごしているのである。

 

「いやーマジで緊張するわー、なんであの時おれはあの問題を白紙で出したのかね? バカなの? 死ねよ! なんか書いときゃよかったのに……」

 

 心臓がドキドキするのがわかる。まるで長距離走を走っている時のようだ。

 

「しかもなんで午後3時なんだよ。他の私立は午前10時とかだったのに」

 

 とにかく、適当なことを考え続けないと入試本番の時を思い出しては自己嫌悪し、合格発表の時間に文句をいってはどうしようもないことにまた無力感を感じる。

 

「はあ、本当になんか、もう死にそう……あー早くこの時間よ終わってくれー」

 

 と、そんな感じに過ごしていた。そして、ようやく発表の午後3時。おれは大学のホームページを開き、合格者の受験番号が乗っているページを開く。

 

「と、とうとうか。よし……」

 

心臓がドキドキする

 

「俺の番号は……な、ない。はあ、まあそうだよな……」

 

 おれは一覧を上から見ていく。自分の番号は8810番そして8710と8934の間にあるはずの自分の番号はない。

なんとなくぼーっと見ていると。

 

「はあ……ん? あれ? これもしかして横に見るんじゃないか?」

 

心臓がドキドキする

 

 そう考えると8710と8934と言うのはあまりにも間が開き過ぎていると思う。

 

心臓がドキドキする

 

「あ、あ、あったああああああああああ!!!」

 

 どうやら一覧表は縦に順番になっているのではなく、横に並んでいるようだった。

 

「よっしゃああああああ! これでおれも大学生だぜええええええ!!」

 

 こんなに喜びを感じたのは高校に受かった時以来だろう。

 

心臓がドキドキする

 

なんだか心臓がうるさい

 

 




受験番号を探すときは縦横どちらも見なければいけない。経験者は語る。


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A's
はじまりと1話


初投稿です。作者が文を書く練習(日本語がおかしくないか的な意味で)をするなら楽しいほうがいいということで始めました。これで皆さんが楽しんでくれたら一石三鳥ですね。


 

 目が覚めたら一面真っ白だったとさ。

 

 思うんだが、こういう時「ここは? おれは確か(ry」って感じに言っているのはいったい誰に話してるのかね。誰もいないことはわかっているのに……いや、実はわかっているのかな? 背後で神様的存在が立っていることを。まあ、まじレスすると声に出して自分の今の状況を確かめてるんだろうね。じゃあここはおれも例に漏れずに、せーの

 

「ここh」

「」

「なんだよ、邪魔するなよ」

 

 ふむ、なんだか幼女の声に呼び止められたよ。どうやらおれにも背後にいる神様的存在を感知する能力があったようだ。

 

「」

「あ、目の前にいるんですか」

 

 全く気がつかなかったです。はい。いや、まじで見えないから気づきようがない。

 

「」

「え? 転生? 一つの世界で一人だけのビッグチャンス? そいつはラッキーだ」

 

 どうやらそういうことらしい。

 

「」

「ほしい能力を一つだけあげるって?」

 

 ほしい能力かー。王道だと王の財宝とか無限の剣製とか……かな? あ、でも転生する場所によってはゴミになりかねない。

 ふっ、だがなおれは中二病はもう4年前に完治しているんだ! どうせもらうなら便利なものがいいな。ふむ、勉強? 掃除? 料理? うん、よし

 

「常に最高の体調、体型を維持できるようにしてくれ」

 

 別に体が弱かったとか太りやすい体質だったというわけではないがおれの好物は甘いものなので食べれば食べるほどそれは糖尿病、肥満への着実な一歩になってしまう。どうせチートがもらえるなら好きなものを好きなだけ食べても大丈夫なくらいどうってことないだろ?

 

「」

「うむ、構わん」

 

 本当にいいのか? 見たいな確認をされたが、大丈夫だ、問題ない。あ、そういえば

 

「おれはどこに転生するんだ?」

「」

「魔法少女リリカルなのは……ね」

 

 アニメは結構見るほうだったから名前はよく聞くし、知っている。ただ興味はあったんだが結局見なかったね。物語の内容を知っていれば大分楽だっただろうに。ちょっと後悔。

 

 

 さて、プロローグが長いと物語を読む気が失せちゃうよね? おれもだよ。プロローグが全体の約1/5を占めていた小説を読んだ時があるからよくわかるよ。

 

「」

「ん、じゃあがんばりますか」

 

 そしてはじまりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、今日もいい天気や」

 

 カーテンを開けながらそう呟くのは車椅子に乗っている美少女。朝起きて、歯磨いて、着替えて、朝ごはん作って、朝ごはん食べて、皿洗いする。毎朝のルーチンをこなしてしまうと今現在休学中の身では、やることがなくなってしまい暇になってしまう。

 今日は図書館に行くか、家でグダグダ過ごすかなど考えながら冷蔵庫の中身が寂しくなてきたことを思い出す。

 

「こんな日には布団でも干したろか」

 

 とりあえずとして、せっかくのいい天気なので布団を干すことにする。少女は今まで自分をくるんでいた布団をできるだけ小さくなるようにたたみ、膝の上に置く。

 

「ふんふーん……ん? なんや、私もう布団出したんやったっけ?」

 

 庭にある物干し竿にはすでに布団が掛かっている。だがその布団はよく見ると布団にしては幅が狭いし、折れていることを考慮しても明らかに短い。

 というか、今現在自分が持っているもの以外の布団はタンスで眠っているのでありえない。

 

 !? この布団動くぞ!

 

 なんてことを考えながら少女は抱えている布団を一度置いて物干しざおにぶら下がっているそれに近づいてみる。よくわからないものが自分の家の物干し竿に引っ掛かっているから少し警戒しているがらも、確かめなくてはいけないので近づいている。決して好奇心だけではないのだよ?

 

 するとそれは少女の方を向いてこう言った。

 

「お腹すいた」

 

 この時少女は理解した。これから魔法と科学が交差するお話が始まると。だけとりあえず彼女はこう言う。

 

「ごめん。うちには夏の暑さでだめになっているであろう焼きそばパンも傷んだ野菜もないんや」

 

今は春である。

 

 

そして二人は出会う。

 

 

 

 




くっ!まさか…まさか…、投稿するためには最低1000文字必要だなんて…ッ!
圧倒的違和感!


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家族と天井と2話

##この話は修正されました##


 

 

 

 今おれがどこにいると思う? 誰かの家の物干し竿に引っ掛かっているよ。自分でもわけがわからないよ。

 するとこの物干し竿の持ち主であろう車イスの少女がこちらに来るのが見えた。なんとなく寝たふりをしてしまったおれを誰が責められようか。

 

「ふんふーん……ん? なんや、私もう布団出したんやったっけ?」

 

 ふむ、どうやらおれは彼女に布団と認識されているようだ。おや? この状況は……よし。

 車イスの少女が近くに寄ってきたところでおれは顔を挙げて少女を見る。うむ、かわいい。「とんでもない美少女がそこに居た」という表現がぴったりだと思う。

 それはそれとして、おれは言わなければいけないことを言う、

 

「お腹すいた」

 

 完璧だ。若干男と女の立場が逆な気がするがおれは満足である。ネタもわからなさそうな少女にネタを振っといていったい何がしたいんだと思うだろう。おれもわからない。本当にお腹がすいてて頭がまわらん。

 だが、彼女はおれの予想を裏切ってくれる。

 

「ごめん。うちには夏の暑さでだめになっているであろう焼きそばパンも傷んだ野菜もないんや」

 

 その時おれは理解した。この子……できる!

 

 とりあえず物干し竿から降りました。

 

 

 

 

 

「じゃあ自己紹介やな。私は八神はやてや」

「おれは坂上 (さかうえ) 公輝(まさき)です。って、えー自己紹介しちゃう? 朝起きたら物干し竿に引っ掛かってた人を家の中にふつうに入れちゃって自己紹介しちゃう? 超不審者じゃん、おれ」

 

 もしおれが彼女の立場なら即行で家の敷地から放り出すだろう。彼女はそうする事も無く、おれはそのまま家にまでいれてもらってしまった。

 

「で、なんであんなところにおったんや?」

 

 うむ、当然の疑問ですな。とりあえずありのままあったことを話すことにしよう。

 

「……ということなんですよ」

「ふーん、じゃあ公輝くんは転生してほんとは20歳で体型が維持できるんやな?」

「そうそう」

 

 どうやら伝わったようだ。

 

「またまた御冗談を」

 

 どうやら信じてはもらえなかったようだ。

 

「まあ信じてもらえるとは思ってないよ」

 

 ああ、言う機会がなかったから言わなかったけど私こと坂上公輝は二十歳でした。でも今はどう見ても小学生です本当にありがとうございました。うん? 中二病が治ったのが4年前って言ったな? そうだ、おれは高一まで患者だったよ。言わせんな恥ずかしい!

 

「まあ公輝くんがちょっと早い中二病患者だってことは置いといて」

「ちょっ」

 

 せっかく完治したのに中二病患者に見られるとは……ッ!

 

「家とかはどうするんや?」

「ちょっと今ホームレスです」

 

 知識とかは引き継げるから転生って楽できると思えたけど、無一文で知らない土地に放り出されるって結構きつくね?

 

「じゃあ……うちに住まへん?」

「君はもうちょっと警戒心を持つべきだね。そもそもこんな不審者を家に入れちゃだめだよ」

「でも私に何か悪いことせんやろ? 私これでも人を見る目はあると思ってるんや」

 

 なんかドヤ顔でこっちを見てきたけど、それは根拠にはならないとお兄さん思うな。

 

「やから、公輝くんは私の住み込みのヘルパーっちゅうことで、どうや?」

「どうやって言われても……とっても嬉しいです」

「せやろ」

「本当にいいの?」

「ええで。じゃあ決定やな! 今日からここは公輝くんの家で私は君の家族や! あ、家族なのに公輝くんっていうのもなんやな、公輝くんだからハムテルくんやな!」

 

 ……あの漫画を知っていたか。

 

「君あの漫画読んだね?」

「将来の夢が獣医やったこともあるで! ってハムテルくんは私のこと君って呼んだらあかんで、もう家族なんやから。はやてや。あだ名つけてもええで?」

 

 女の子を名前で呼ぶなんて小学校のとき以来である。え? 彼女? 独身貴族万歳。

 

「じゃあはやてで」

 

 帰る家と迎えてくれる家族ができたのだった。

 

 

 

「とりあえず何か食べさせてください」

 

お腹がすき過ぎていたことを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれが転生して最初の夜を過ごした。暖かいベットで眠れたことはとても幸運だっただろう。野宿の可能性が微レ存どころかほとんどだったこととを考えるとはやてには感謝してもし足りない。

 さて、こんなことも考えられるくらいには覚醒してきた。

 

 朝である。

 

「またこの天井だ」

「そこは『知らない天井だ』ちゃうん?」

 

 どうやらはやては起こしに来ていたようで、おれのすぐそばに居た。ちなみに知らない天井じゃない理由は昨夜寝る前に言ったからだよ。この一回目のセリフだけすごい有名になっちゃってるけど二回目もあるんだよね。

 

「まあええわ。いま何時やと思うてるん? もう9時やでいつまで寝とんねん」

「おれは目覚ましがないと起きるまで寝る体質なんだ」

「ほな目覚ましも買わなあかんな」

 

 どうやらおれの生活必需品をそろえてくれるようだ。だがしかし、おれとて二日前までは自分でお金を稼いで一人で生活していた身。こんな小さな子に養われるとはおれの小さなプライドが叫ぶ!

 

「お金は出すよ」

「どうやってお金稼ぐんや?」

 

 頭が真っ白になった。

 

「まあまあ、お金のことは気にせんでええんやで? 無駄遣いはさせへんけど必要なものをそろえて普通に暮らすくらいなら5,6人だって余裕や! 援助してくれるおじさんが私一人には多すぎるくらいのお金を振り込んでくれてるんや」

「出世払いで払う」

「本当に気にせんでええのに。まあ、そのことは後にして朝ごはんたべよな。私お腹ペコペコや」

 

 どうやらおれが起きるのを待っていてくれたようだ。これは悪いことをしてしまった。明日からはできるだけ早く起きるようにしよう。

 

「うん、顔洗ってくるよ」

「40秒でな」

 

 ちょっと難しいです。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。めちゃくちゃおいしかったです」

 

 二人ではやてが作ってくれた朝ごはんをおいしくいただきました。ていうか、はやてのごはんめちゃくちゃおいしい! 誰が作っても朝ごはんなんてたいして変わらないだろうメニュー(トースト、サラダ、スクランブルエッグ、牛乳)なのに、なんでこんなにおれが作ってきた朝ごはんと違うんだ! これはご飯を代わりに作ってあげて恩返し作戦は練り直す必要があるな……

 

「そう? そうやって言ってもらえると私もうれしいわ~」

「昼と夜も期待させてもらいます」

「期待してええで」

 

 そんなことを話しながら二人の朝は過ぎて午後になる。

 

 今日あったことはここに簡単にまとめとくよ。

 

・デパート行ったよ

・服を買ってもらったよ(短パンは買ってもらう身であるが断固拒否させてもらった)

・その他日用品を買ってもらったよ

・家に帰ったよ

・朝が遅かったから昼は軽く食べたよ

・夜はおれの歓迎会をしてもらって豪勢な夕食だったよ

・風呂入ったよ

・ゲームしたよ

 

 

「そしてまたこの天井……ってこれからはずっと見るのかな?」

 

・そして寝た

 



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ゲームとスイーツと3話

##この話は修正されました##


 

 

 

 はやての家に居候するようになってから一週間が過ぎた頃。

 

「いやーやっぱりゲームは二人以上でやるのが一番楽しいな~」

「確かにね、おれも一人っ子だったから、その気持ちはよくわかる……うん、本当によくわかる」

 

 友達が来た時用にコントローラーを複数個買うんだよ。一人っ子だけど……みんなと遊べてウレシイナー。

 今おれ達が何をしているかと言うと、はやてと二人で64のスマブラをしている。

 

「え、ちょ、なんやそのはめ方!」

「フハハ、64版は投げゲーだぜ」

 

経験の差は伊達ではないのだよ!

 

「むースマブラでは勝てへんな、じゃあ鉄拳やで! 勝負や!」

「え、あ、鉄拳は……」

 

 K.O

 

「ぐぬぬ……コマンド入力の多い格ゲーは苦手です」

「なんや本当によわっちいな」

 

 誰にだって苦手なものくらいあるやい。ちなみにファイアーエムブレムみたいなゲームもできません。

 

「そういえば、なんも考えずに一週間過ごしてもたけど、ハムテルは学校とか行かへんの?」

「行かなきゃだめです?」

「行ったほうがええやろ」

 

 そう。今のおれは学校に行っていない。勉強せず、働かず、就職活動もしない、まさしくNEET。そのため、見た目は完全に小学生で学校に行かない理由がないおれが昼間に出歩いているとすごい見られるのである。おれには見られて喜ぶ趣味はないんで……

 ちなみに学校に行くために必要な戸籍などは市役所に行って確認してきたら、普通にありました。

 

「でも住み込みのヘルパーが一日の大半を家で過ごさないというのはどうなんでしょう?」

「ああ、そういえばおたくヘルパーやったな」

 

 なんか、すみません。家事とか手伝うことあんまりなくて。買い物の荷物持ちくらいしかできなくて。

 

「学校……ね。おれが行くとしたら小学校だよね? ちょっと精神的に来るものがあるな」

「あーそういえばそういう設定やったね」

 

 こいつ、まだ信じてないな!

 

「まだ信じてないんですか」

「とりあえずハムテルくんが甘いもの食べまくって激太りしなかったら信じたるわ」

 

 うーん、それはおれもまだわからないな……。神様を疑うのもあれだけど。

 

「まあ小学校の話はまた今度ということで」

「面倒くさいですね、わかるで」

 

 ばれてたか。

 

「ま、行けるんやったら行ったほうがええと思うで」

「うん、考えとくよ」

 

 前向きに検討します。

 

「とりあえず次はマリオカートや!」

「おれの黄金ドリフト見せてやんよ」

 

 今はとりあえず二人でゲームをすることにした。

 

 

 

「スーファミのマリオカートだとは聞いてないです」

「ドリフトし過ぎて逆走しとったな」

「ちょっとおれの黄金ドリフトが火を噴き過ぎただけだよ」

「言い訳乙」

 

 ぐぬぬ……

 

「そういえば古いゲームばっかだね。64とかスーファミとかプレステとか。キューブとかWiiは?」

「今家にあるのはお母さんとお父さんが生きとった時に買ったもんで、おじさんのお世話になるようになってからは買ってないんよ」

「あーなるほど」

 

 深くは突っ込まない。

 

 よし、お金稼げるようになったら新しいゲームを買って一緒に遊ぼうじゃないか。

 

「じゃ、次はぷよぷよで勝負や!」

 

二人の一日は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

「出かけるで!」

 

 はやてがなんか言ってる。

 朝食を食べた後、二人で朝からゲーム三昧。いつの間に昼ご飯を食べるのにちょうどいい時間になってしまっていたのだ。楽しい時間が早く過ぎていくこの感覚……懐かしいなぁ……

 

「ちょっとだらだらし過ぎやんな? 偶には外出えへん? このままやともやしみたいになってまうで!」

「おっと一通さんの悪口はそこまでだ」

 

 出かけるらしいのだが今日(土曜日)まで昼間に出かけることはできなかったし、なんだかんだではやてとすごしていると夕飯の時間になってしまうので仕方がない。仕方がないのである。

 

「それでどこに行くんです?」

「とりあえずこの町を散歩して今日の昼は外で食べよか」

 

 今日は外食らしい。はやてのご飯はとても美味いから食べ飽きることはないのだが、そういうのもいいだろう。完全にヒモ状態だけど。大きなことは言えないけど。

 

「ほな、れっつごー」

「おー」

 

 

 

 

 車イスを押して進んでいく。

 

「いやーヘルパーっぽいことしてる気がするなー」

「せやねー」

 

 なんか軽く流されたな。まあいいけど。

 

 話は変わるけど車イスを押してもらうというのは結構怖いのである。実際に学校でそういう体験の授業があったから知っている。自分の行き先をすべて押す人に任すわけだからどこに行くかわからないというのは言い過ぎだが、自分の行方を他人に任せるという事は何ともいえない不安を感じるものなのである。

 ちなみにおれは学校の体験授業の時は車いすに乗せられたまま壁に激突させられました。まあ倍返しにしてやったが。

 はやてを見たところ肩に力も入っていないようだし、結構信頼してもらえていると考えていいのかな?

 

「で、どこに行くんです?」

「うーん一人で行くにはちょっと遠いから躊躇っとったんやけど、翠屋に行こか」

「どんな店?」

「シュークリームがおいしい喫茶店や。もちろん、ランチも最高やで」

「……ほう」

 

 それはとても、とっても楽しみである。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 見たところおれと同じくらいの年齢の少女が接客をしてくれた。

 

「こちらへどうぞ」

 

「どうも」

「どうもー」

 

 窓際の席に座ってメニューを見る。ふむふむ……これはすばらしいですな。オススメはシュークリームという事だったが、これはお土産として別に買うとはやては言っていた。ならば、店の実力がはっきりと出る他のものを頼むとしよう。では……

 

「ショートケーキとミルクティーで」

「ほな私も同じので」

「わかりましたー」

 

 いやー楽しみだなー。ここのケーキはどれくらいおいしいんだろうか。

 

「なんや嬉しそうな顔して」

「おいしい物は大好きです、でも甘いものはもっと好きです」

「せやったんか、ほなきっと気に入ると思うで、ここのシュークリーム」

 

 夢がひろがりんぐ~

 

「お待たせしました」

 

 今度はとてもきれいなお姉さんが頼んだものを持ってきてくれた。

 

「どうぞ。二人ともあまり見ないわね? 翠屋は初めて?」

「そう言う訳や無いんですけど、ちょっと遠いんであまり来る機会がなかったんです」

「あら、そうだったの? 来れるときでいいからまたいらっしゃいね」

「はい、ありがとうございます……あれ? なんやハムテルさっきから静かやな?」

 

 こ、これは……すごいプレッシャーを感じる……

 

「おーい、ハームーテールーくーん。何ケーキ見つめてるんや」

 

 絶対美味いだろ、これ……おや? はやてがなんか言ってる。

 

「どんだけ好きやねん。まあええわ、じゃ食べよか」

「おう!」

 

 いざ!

 

「いただきます」

「いただきます!」

 

……

 

「うっまー」

「うっまーうっまー! え、なにこれうっまー!」

 

 これは……多くは語るまい。

 

 

 お土産にシュークリームを二つ買って帰りました。

 ここの看板メニューはシュークリーム。

 

 期待で夢がひろがりんぐ。

 

 




だいたいこんな感じにgdgdやっていくよ。
すごいgdgdだからgdgdしたいときにgdgdしてください。
もちろん他の原作組ともかかわらせてgdgdやって(ry


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図書館とお友達と4話

目が痛い…PCの見過ぎ

##この話は修正されました##


 

 

 

 唐突だが人間が想像しうることは現実におこりうることであるという言葉を知っているだろうか? なんでこんなことを突然言い出したかというと、今になって転生ということについて考えていたのだ。

 

 コンコン

 

 某小説投稿サイトで『神様転生』で検索してみると4000件以上の小説がヒットする。ここで仮に一人が一つの作品を書いているとすると4000人以上の人が同じことを考えていることになる。

 

 コンコンコン

 

 もちろんこの理論ともいえない理論は穴だらけだが、こうやって考えてみると神様転生って結構よくあることなんじゃね? って思うんだ。

 

 コンコンコンコン

 

……

 

「ちょっとうるさいですよ」

「うるさくないですよ」

 

 コンコンコンコンコン

 

 そうです、今トイレです。

 

「あの、ノックでプレッシャーかけるのやめてくださいよ」

「別に気にせんでええで」

 

 私、とても気になります。とりあえず出ました。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと最近遠慮がなさすぎるんじゃないんですかね?」

「うんうん、それだけ親しくなっとるちゅうことや」

「親しき仲にも礼儀ありってね」

「あ、着いたで」

 

 スルーですか、そうですか。

 

 ということで図書館に到着しました。はやてはここにはよく来ているそうですが、おれは初めて来た。けど結構大きな図書館でなかなか楽しめそうである。

 

「よーし、今日は連れもおることやし本棚の上の方の本もたくさん読んだるでー」

「まっかせたまへー」

 

 はやてが指定した本を片っ端から取ってはやてに渡してあげる。10冊くらい渡したけど今全部読んじゃうのか? すごい速読だ。ぜひおれもできるようになりたいものだ。速読。

 

「じゃあおれも何か探してみるかな」

 

 ラノベラノベ

 

 

 

 本を読み続けるのは結構疲れる。おれ理系だし()。1冊読めれば充分だろ。さて、はやてはどうしてるかな……ってまじで? 全部読んだの、あれ。

 

「お、やっと来よったな。待ちくたびれてもう4冊ほど読んでもたで」

「どんだけー」

 

 これは速読の弟子入りをせざるを得ない。

 

「ほんならこれ借りて帰るで」

「まだ読むのかよー」

 

 もちろん限界数まで借りた本を持つのはおれの仕事である。重い。

 

「んでな、本を取ろうとしとったら女の子が手伝ってくれたんや」

「おーこの世知辛い世の中に親切な人もいるもんだ」

「せやなーこんなことから友達もできるんやな」

「やったじゃん」

「うん」

 

 友達ができるのはいいことだよね。うん。うん? あれ、おれこっちで友達いないな。あれーこれは現状を打破しなければいけない。学校にまだ通っていないおれが同年代の人と出会う機会は少ない。なら、はやてを通しておれも友達を作っていく方向でいいかな。

 

「ハムテルくんとも仲良うなれると思うで」

「はやてが読心術を心得たようだ」

「実は今日読んだ本に載っとっとんや」

「まじ?」

「嘘」

 

 こやつめ

 

「親しくなった証や」

「そうか親しくなった証か」

 

 親しくなることはいいことだよな。

 

 

 

 

 

 

 今おれは初めてのお使い中。

 

 別に明らかに怪しいカメラマンもいなければ後ろからはやてがこっそりとついてきている訳でもない。実年齢二十歳をなめてはいけない。

 図書館から家に帰ると、はやては醤油が無くなりそうなことに気付いた。無くなりそうだから濃い口しょうゆを買って来てくれとおれははやてから指令を受けたのだ。報酬は500円以内で好きなものを買ってもいいというものである。やったね。

 

「さーて何を買おうかなーっと」

 

 ちょっと遠回りになるが翠屋まで行ってシュークリームを買おう。そうと決まったらさっさとスーパーまで行って任務を遂行することにしよう。

スーパーまでの一本道を進んでいく。

 

 

「あっるっこーあっるっこー……ん?」

 

 頭にふと思い浮かんだ歌を口ずさみながら歩いていると綺麗な青い宝石が落ちているのを見つけた。ジブリって結構黒いよね? まあ、そんなことはどうでもいい。

 落ちている宝石を摘まんで拾ってみる。

 

「うーむ見れば見るほど綺麗な宝石である」

 

 海辺を歩いていると綺麗な青や緑の色で丸い物を見つけることができるだろう。それは海に捨てられたビンが割れて、流される内に角が取れていったものだ。こどもの頃、物珍しさで沢山拾い集めていたものだ。

 さて、今拾った物を見てみると形は菱形にカットされており、天然のものではないことは確かだ。

 

「落とし物ですか。これ本物なら売れば結構お金になるんじゃね?」

 

 ちょっと邪な考えが頭をよぎる。

 

「なーんてね。落とし物は落とした場所の近くの目立つ場所に置くのが普通だよねー」

 

 本当は落とし物は交番に届けるのが一番良いんだけどね。

 

「いや待てよ」

 

 よく考えるんだ。これが本物なら恐らく高価なものなのだろう。結構な大きさだしさ。

 で、高価なものなら関係ない人が持ち去ってしまって、落とし主は困ってしまうだろう。また、これが本物でなくガラスでできたイミテーションだとしたら? 落とし主の子供(想像)は無くなってしまっていたら悲しむだろう。

 そう、ダイヤモンドの形にカットされたガラスを宝物のように扱っていたあの日のおれのように!

 

「うん、交番に届けよう」

 

 交番に届けてきました。

 

 

 

 

「ほーそれはええことしたなー」

 

 はやてが紅茶を飲みながら言ってきた。

 

「だろ?いやー良いことしたあとに飲む紅茶は美味しいなー」

 

 おれも紅茶を一口飲む。

 

「うまー」

「うまー」

 

 はやてに貰った500円の権利で買ってきた翠屋のシュークリームを二人で食べた。

 

 

 

 

 

 

「あ、あのそれを渡して下さい」

「ん?ああ、これ君のなの? よかったね、さっき親切な男の子が持ってきてくれたんだよ。これからは気を付けるんだよ?」

 

 そう言ってお巡りさんは金髪の少女に手渡してあげる。

 

「え? え? え?」

 

 

 そんなことがあったそうだ。

 

 

 



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約束と徹夜と5話

ちょっとへこんでました


##この話は修正されました##


 

 

 

 はやての家に居候するのにも慣れてきた(?)今日この頃。おれは特に意味もなくカレンダーをめくっていたら丸が付いている日を見つけた。気になったおれははやてに聞いてみることにする。

 

「なーなー」

「はーち」

 

違うそうじゃない

 

「この丸ついてる日って何の日?」

「ん? ああ、その日は私の誕生日やねん」

「ほう、誕生日とな」

 

 どうやらこの丸が付いている日―6月4日ははやての誕生日らしい。ふむ、これは日ごろの恩返しをするのにうってつけではなかろうか?

 

「じゃあプレゼント用意しなきゃな!」

「え? 別にええで、そんなん気にせんでも」

 

 はやてはそう言っているが知ってしまったからには無視するという手はないだろう。

 

「まあまあ、いつもお世話になってるんだからこういう時くらい返させてくれや」

「うーん」

「代わりに美味い誕生日ケーキを分けてくれ」

「それが目的やなー」

 

 あら? ばれてしまった。うむむ。

 

 はやてはソファーに座っているおれの弁慶の泣き所を車椅子の車輪でこすってくる。え、ちょ、やめれ。痛い痛い痛い。

 

「ケーキが美味しければ美味しいほどいいものになるかもなー」

「えーそれでええんか居候」

 

 くっ……言ってくれるな。

 

「じゃ、おいしいケーキは翠屋で予約しよか」

 

 キターキター翠屋これでかつる!

 それは置いておいて、はやてへのプレゼントに思考を戻す。

 

「と、言っても自由に使えるお金もないし、何かアクセサリでも自作しようにもこれはこれで材料費がかかってしまう……やはりお金は必要だなー」

 

 どうも計画段階から頓挫してしまいそうだ。

 

「ほんま、そんな気にせんでもええで? でも、なんかくれるんやったらうれしいな」

 

 そんなこと言われたら是が非でも誕生日プレゼントあげたくなるじゃないか。

 

 うーん料理を作るか? いやはやてよりおいしくてくれる自信はない。なら絵でも描くか? おれの美術の成績はおれが一番よく知っているだろ! 馬鹿野郎!

 うーんうーん……あ

 

「なあ、編み物道具一式ってある?」

「うん、あるで。でもどうするん?」

 

 はやてが聞いてくる。まあ当然の反応だな。男が編み物なんて普通はしないだろう。だが! おれの特技の一つ「編み物」の腕を見せるときが来たようだ。もうこの際毛糸代は目をつむるとしよう。

 

「それでプレゼントを作ることにした」

「ホンマに? まあ、期待せんとまっとくわ」

 

 はやてはあまり期待してなさそうに言うが顔を見るだけでとてもうれしそうにしていることがよくわかる。

 

「ふん! 男子校家庭科実技筆記ともに学年1位のおれの力見せてやる!」

「えー、男子校かいな」

 

 男子高校生をなめてはいけない。やつらの一般科目以外の科目(体育、家庭科、美術、etc……)に対する情熱は半端ないのだ。そして、そういうある程度技能が必要な物には得意な奴が2,3人はいるもので、そんな奴らは女子より女子らしい。そいつらを倒して学年1位の座に上り詰めたおれの実力は言うまでもないだろう。

 

「ま、期待しとけ。いいもの作ってやるさ、約束な」

「せやな、じゃあ約束や」

 

 

 

 

 

 

 針と糸を使って縫物をするとき、人はそれを音で例えるとチクチクというだろう。じゃあ編み物のときは?サクサク?いやあみあみ?なんだろうね。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。おれは2本の棒と一本の毛糸を使いあるものを構成していく。

 

「ぬいぬいぬいぬいぬいぬい」

 

 チュンチュンチュン

 

 どうやら夜が明けてしまったようだ。

 

「でも全く眠たくないぜ!」

 

 深夜テンションだとかではない。これこそがおれの特殊能力! 「体調の維持」なのだ!

 体調の維持って病気にならないだとか、無駄にテンションが低くならないとかって思うじゃん? でも実際のところは「自分が考える体調に維持する」ということのだ。

 

 え?違いがわからないって?

 

 つまりだ、体調の好調不調は人によって違うわけなのである。いつも眠いのが普通な人はそれで好調だし、なぜかある日だけすっごい眠たいのだとしたらその人にとってそれは不調なのである。

 何が言いたいのかというと、たとえ徹夜をしようと眠たくない自分を想像したらおれは眠くないのだ。

 

「ふひーやっと終わったなー」

 

 文字通り三日三晩寝ずに活動している。何をしてるのかって? それは勿論はやてへの誕生日プレゼントの作成だ。時間がなかったからこれしか作れなかったが、妥協するしかないか。時間的な意味で。クオリテイ的な意味で妥協は全くしていない。

 

「さて、朝ごはんだ」

 

 ヒモニート生活の1日の始まりである。

 

 

 

 

 

「誕生日明日ですなー」

 

 はやてが作ってくれた朝ごはんをしっかりと味わい、口の中のものを飲みこんでから話しかける。

 

「あははーせやなー。ケーキも頼んだし、後は時間が過ぎるだけやなー。あ、そうそう今日は石田先生が1日早いけど私のために来てくれるんや」

「石田先生とは?」

「私の足の先生や」

 

 なるほど、主治医というやつですな。しかし、誕生日に来てくれるほど先生と仲がいいとは……それだけ付き合いが長いということか。

 

「ってその先生におれのこと話してんの?」

「んーや今日話す予定や」

 

 えーえーそういうのは早く言ってほしかったなー。いろいろ考えることがあるじゃん設定とか。

 

「なんて説明するんだ? まさか物干しざおに引っ掛かってたなんて言っても信じてもらえないだろ。いや、信じてもらっても怪しさ満点すぎておれめっちゃ怪しまれるよ」

「大丈夫やて」

 

 ちょっと回想

 

……

 

「この人は家の物干しざおに引っ掛かっとって、行くあてがないそうやから家で保護しとるんです」

「」←石田先生

 

……

 

 ありえないだろ。ないないない。ああ、でも今のおれって子どもだから男女の同棲という意味で反対はされないかもな。子供だけで生活ってところがあれだけど。ん? そうやって考えるとはやてっておれが来るまで一人暮らしだったんだよな?

 

 ……やばくね?

 

「ま、私から言うとくから安心しときーや」

 

 8歳児の一人暮らしについての考察をしていたが中断させられる。

 

「うーん、そう?」

 

 本当は自分で何とかしたいがいい案が思い浮かばん!

 

「ま!なるようになるて!」

 

 ちょ何も考えてないんかい!

 

 

 それは特別な日の前日の朝に交わされた特にの意味もなく、特に面白味もなく、いつも通りの会話。

 

 

 




がんばるよだからがんばれ

追記
ものすごい矛盾を発見、修正


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プレゼントと6話と非日常

何徹しても平気な体質がもし会社にバレたら社畜まっしぐらでしょうね


 

 

 

 はやてが作ってくれた朝ごはんも食べ終わり時間は過ぎていく。

 

 はやてと散歩して、

 

 はやてと昼食食べて、

 

 はやてとゲームして、

 

 はやてが夕食の準備をする。

 

 そんな頃だったインターホンが鳴ったのは。それに答えてはやてが玄関まで行く。

 

「こんにちは、はやてちゃん。今日は呼んでくれてありがとうね」

「いーえー、忙しいのに来てもらってほんま嬉しいです」

 

 玄関から話声が聞こえる。相手が件の石田先生だろう。ふふふ、朝からずっと考えてた、『突然はやての家に転がり込んだ怪しくない(ここ重要)少年の物語』を語る時が来たようだ。しかし、ここに住むようになってからはやての付き添いで病院に行くことは何度かあったんだが、担当の先生に説明するのがめんどく……なんて説明するのか思いつかなかったから顔を合わせないようにしてたのがこんなことになろうとは……面倒なことは先延ばしにしちゃいけないね。はっきりわかんだね。

 そんなことを考えていたら二人がリビングへやって来る。

 

「あら?」

 

 来た!

 

「は、初めまして。坂上公輝です。はy」

「あー! 君がハムテルくんね。話ははやてちゃんからよく聞いてるわ」

 

 あるぇー。なんでもう俺のこと知ってんの? ああさっきの間に話を通してくれたのか。いや、今先生は「よく」って言ったな。ていうことは結構前から何回か話題に出ていた?

 はやての方を見る。

 

 先生にハムテル君のことを言っていないとは言っていない

 

 目がそう語る。ハッ、やりやがった。おれがどれだけ悩んで考えてたのを知ってるくせに敢えて言わなかったな! まあ、話が早いのはいいことだけどね。せっかく設定考えたのになー。

 

「はやてちゃん家の物干し竿に干されてたんだって? そこがはやてちゃん家でよかったわね」

 

 うぇ!? その話をそのまま話したんですかはやてさん! ていうか先生もよくそれで納得したな!

 

 

 

 

 

 

「「誕生日おめでとう!」」

「ありがとうな、先生もハムテル君も」

 

 

 石田先生を含めていつもより豪華な夕食を楽しんだ後、石田先生が持ってきてくれたショートケーキを食べている。翠屋のケーキは明日のはやての誕生日当日のメインディッシュである。じゅるり。

 

「はい、はやてちゃん。誕生日プレゼント」

 

 そう言って先生ははやてに小さな箱を渡す。

 

「わーありがとうございます!開けてもええですか?」

「ええ、どうぞ」

 

 はやては箱の包装が破けないように丁寧に外していく。中に入っていたものはどうやらイヤホンのようだ。

 

「あまりいいイヤホンではないけど、たまには音楽でリラックスするのもいいことよ?」

「ありがとうございます!」

 

 む、シュア掛けタイプ? なかなかいい趣味しているな、先生。

 ふむ、先生がプレゼントを渡したことだし。おれも渡すしかないな。乗るしかない、このビッグウェーブに!

 

「はやてこれが、おれからのプレゼントだ!」

 

 スッっとはやてに差し出す。

 

「おー! ありがとな。開けてもええか?」

「うむ」

 

 はやてが石田先生からのプレゼントと同じように包装を剥いでいく。

 

「マフラー?」

 

 そう、おれがはやてのために編んでいたものはマフラー。

 

「今回は時間もお金もなくってこんなものしかできなかったけど受け取ってもらえるとおれは嬉しい」

「もらうに決まっとるやん、ほんまありがとな」

 

 これで冬もきっとあったかいね。

 

 

 

 

 

 

 時間は過ぎ、石田先生は既に帰った。早寝早起きが基本の八神家だが今日は珍しく夜遅くまで起きている。今いるのははやての部屋。ゲームをするでもなく、トランプなんかをするでもなく、二人でお話している。

 

「今日は楽しかったな~」

「喜んでもらえておれもうれしいな」

 

 11:58

 

「またこんなふうに楽しいことしたいな~」

「次はおれの誕生日があるじゃないか」

 

 11:59

 

「ふふ、せやね」

「楽しいことなんていっぱいあるさ」

 

 12:00

 

 突然だった。机の上に置いてあったゴツイ本が突然輝きだし宙に浮いてこちらにやって来る。

 

「なんや!」

「な、なにー!?」

 

 すると本をぐるぐる巻きに巻いていた鎖が弾け飛ぶ。

 

 [封印を解除します]

 

 おれたちはただ呆然とすることしかできない。

 

 [起動]

 

 だがそういうわけにはいかないようだ。本がそう言ったあとはやての胸から白く輝く球体のようなものが出てくると同時にはやてが苦しむ。

 

「お、おい大丈夫か?」

「う、くっ……」

 

 苦しみだしたはやてに近付き体を支えるようにする。

もう一度本の方に視線を戻すと、いかにも魔法陣ですって感じの魔法陣が展開されており、そこには見知らぬ4人が跪いている。

 

「……闇の書の起動を確認しました。」

 

 と、ピンク髪をポニーテールにした女性が、

 

「我ら闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます。」

 

 と、金髪のショートヘアーの女性が、

 

「降りかかる火の粉を払うがように」

 

 と、ガチムチ系(!?)の男性が、

 

「夜天の主の元に集いしが」

 

 赤髪の女の子が、

 

「ヴォルケンリッター。何なりと命令を。」

 

 最後にそう言って締めくくった。

 

 おれにとって新しい世界での生活は、その原因は非常識だが新しい日常でもあった。

 はやてにとっておれが来たことは新しいことが起こるかもしれない何かだったのだろうが、おれに何かを変える力があるわけでもなく、結局日常だった。

 

 しかし、今目の前におれ達二人を非日常へと誘う案内人がいる。明らかに普通とは言い難い何かが今目の前にいる。

 

 

 まあ、うだうだ考えるのはこの辺にしておこう。とりあえず言うことがある。

 

 

「家族が増えるよ! やったねはやてちゃん!」

「おい、やめーや!」

 

 

 ちょっと落ち着いたかな。

 

 

 




A'sも下手したらBADエンドですよねー

はやてが目を回してないのは仕様です。


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疑いと説明と7話

##この話は修正されました##


 

 

「む、貴様何者だ」

 

 ピンク髪のお姉さんがおれをめっちゃ睨んでくる。それに合わせて他の3人の視線も俺に集まる。こ、こえー!!

 

「お、おれは……」

 

 な、何て言えばいいんだ。職業? -ヒモ。 はやてとの関係? -居候。 

 あ、あるぇー。何かいい答えはないのか?

 

「お、おれは……おれはこの家の居候だー!!」

 

 まあこう表現する以外ないわな。はやてさん、「ぷぷぷ」って笑うの勘弁してくれません? なんか腹立つ。

 

「……」

 

 お? なんか4人の見る目が敵を見る目から残念な物を見る目になったな。それはそれで気に食わないが睨まれ続けられるよりはずっとましだ。

 

「ぷぷ、そんな力こめて言わんでもええのにな。コホン、まあええわ。で、あんた達いったいだれなんや?」

 

 それから自己紹介タイムに入った。はやては危機感がないというか、警戒心が薄すぎだと思うんだよね。まあ、そのおかげでおれは寝床とおいしいご飯にありつけたわけだがな。

 

 

 

 

 ピンク髪をポニーテールにして女性の象徴がとっても、とーっても大きな女性。おれをあからさまに睨んできた姉ちゃん。

 

「烈火の将 剣の騎士シグナム」

 

 金髪のショートヘアーで一見やさしそうに見えるが目が全く笑っておらず、おれを見つめ続けている姉ちゃん

 

「風の癒し手 湖の騎士シャマル」

 

 4人の中で唯一の男性でガチムチ系。はやてを見ながらもおれに意識を向け続けている(たぶん)兄ちゃん

 

「蒼き狼 盾の守護獣ザフィーラ」

 

 獣? ……!? あれは……獣耳……こいつはやばい(確信)

 

 他の人と比べて背が低く、どう見てもおれ達と同じ年くらい。これまたおれをめちゃくちゃ睨んでる赤髪の少女。

 

「紅の鉄騎 鉄槌の騎士ヴィータ」

 

 ていうかおれ睨まれすぎ。まじで精神力が削られる音が聞こえるんだけど。ピピピピピピピって。

 

「ところで主はやて、そこの男は信用できるのですか? 微量ながらも魔力を持っているようですが」

 

 シグナムさんがおれを見ながらはやてに聞いている。もうやめてーおれのライフは(ry……ん? なんだって? おれに魔力がある? ていうか魔力ってなんだよ。魔法でも使えるんですか。

 

「うん、ハムテル君は私の家族や。だからそんな睨まんといてあげて」

 

 おー! はやて、助かるよ。

 

「そうですか。わかりました。すまないなハムテル」

 

 ……

 

「あの、言いそびれましたが……おれの名前はハムテルではないです。坂上公輝です。ハムテルははやてがおれを呼ぶ時のあだ名です」

 

 まあこれは仕方がないだろう。ヴォルケンリッターのみんなが自己紹介した後はやては自己紹介してたけど、おれがその間に入って「おれの名前は(ry」ってやる勇気はおれにはないね。

 

「む、そうか坂上」

「ああ、いいですよ。しゃーなしです」

 

 おれは言う。そして

 

「じゃ、これからみんなは八神家の一員やで! やからみんな仲良くするように!」

 

 その発言に狼狽するヴォルケンリッター(以下ヴォルケンズ)。

 

 その発言に「やっぱりか」と思うおれ。

 その発言をドヤッとして言うはやて。 

 

 なにはともあれやっぱり家族増えたね。

 

 と、いうことは明日(実際は今日)の誕生日ケーキの取り分は減るな……

 

 

 

 

 

 

 ヴォルケンズの衝撃的な登場から一夜が明けてはやての誕生日当日。結局あのあとはやての「もう眠い」発言から後の説明は翌日にまわされた。 おれも体を起こしベッドから降りようとする。

 

「……」

 

 目に入るのは青い毛の狼。ザフィーラさんだ。おれのことを監視するためかは知らないが今日は一緒の部屋で寝た。一緒のベッドじゃないぞ? ザフィーラさんは狼に変身して床で寝た。

 

「……どうも」

「……うむ」

 

 そう一言行ってから部屋を出て行く。先に起きていたようだけど、まさか待っていてくれたのか?

 

 特に意味もないことを考えるのをやめてリビングに行くことにする。

 

 

 

 

 

 

「と、いうことです」

 

 朝ごはんを食べ終わってからヴォルケンズによる説明を受けていた。要約すると、はやてが持っていたあのゴツイ本は闇の書といい、魔力を一定以上集めるとその本の持ち主はすごい力を得るとかなんとか。

 

「では、魔力蒐集の命令を」

 

 シグナムさんはそう言ってはやてに跪くが、

 

「そんなんせんでええで。その魔力を集めるのって人様に迷惑がかかるんやろ? そんならそんなことしたらあかんわ。それに、シグナムもシャマルもヴィータもザフィーラも、もう私の家族なんやからそんな態度じゃあかんで?」

 

 その発言にまたしても狼狽するような様子見せるヴォルケンズ。なんだ? 夜といい、朝ごはんの時といいなんか妙な反応だ。

 どうやらはやてはすごい力には興味ないようだな。そのあとの発言ははやてらしいというか、なんというか。まあ、おれが仮に主だったとしてもそんなヤバげな力はいらないけどな。なんだよ「闇」の書って。怖すぎだろ。後で魂とか要求されそう。

 

 あ、そういえば

 

「そういえば夜おれに魔力があるみたいなこと言ってたけど、魔力があったら何かあるのか? ていうかおれもしかして魔法使い?」

 

 いままで忘れてたけど疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「ああ、貴様からは確かに魔力を感じる。だが実戦に耐えうるほどではない。消費魔力の少ない魔法なら使用も可能だろう」

 

 まじか。

 

 答えてくれたのはまたもシグナムさん。おれ魔法使いだったのか。DTは守ってたけど三十歳にはなれなかったんだけどな……

 

「闇の書起動の場に主以外の魔力保持者がいれば、闇の書を利用しようとしている者の可能性があるからな」

 

 ちょーっとぶっ飛んだ理論だけど一応納得。それだけ用心深いということで。

 

「じゃあはやても魔法使いなのか?」

「我々は魔導師と呼ぶが、そうだ。特に闇の書の主になるための第一条件に膨大な魔力が必要だ。故に闇の書に選ばれたというだけで主には魔導師の才能があるというのは確定している」

 

 ほえー、そんなになのか。

 

「はい! 魔法のことはもうええやろ! それじゃみんなの採寸せなな!」

 

 いままで黙って聞いていたはやてが話し出す。

 

「みんなその服だけじゃ不便やろ? 今まで考えとったけどみんなに似合いそうな服も思いついたし、すぐに買いに行かなあかんしな」

 

 そうだな。さすがにあの服はちょっと困るな。世間的にも。俺的にも。今ヴォルケンズが来ている服は黒い薄地の服だ。体の線がはっきりと出るデザインの服を着ている女性三人はとてもエロい。ただ……ザフィーラさんは……うん……

 

「あ、主、そのようなことは……」

「ええからええから、ハムテルくんはザフィーラのやっといてな」

「へーい」

「……わかりました。では、我々の騎士甲冑をお考え下さい。我らは剣は持っていますが騎士甲冑は主からいただくのです」

「騎士甲冑? 戦う時の衣装かいな? わかったで、そっちの方もばっちりかっこええの考えたるわ」

「ありがとうございます」

 

 どうやら話はまとまったようだ。すると、

 

「ほい、ハムテル君」

「っと」

 

 はやてがメジャーを投げ渡してきた。

 

「じゃザフィーラのこと頼んだで」

 

 はやては女性3人を連れて奥の部屋に行ってしまった。

 残されたのはおれと無口でいかついお兄さん、ザフィーラ。

 

「……じゃ、すませちゃうか」

「……ああ」

 

 おれ達は黙々と作業を進めていく。おれも話を切り出す方ではないので話は膨らまない。

 

「……」

「……」

 

 

女性陣はとっても楽しそうだ。

 

 

 

 




そういえば前回の石田先生のプレゼントは完全な自分の趣味


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尾行とミルクティーと8話

早く土曜日が来ますように(切実)

##この話は修正されました##


 

 

 

 今日ははやての誕生日から1週間経った日である。今何をしているかというと

 

「強靭! 無敵! 最強!」

「く、くっそー!」

「あははーシャマル、そんなまっすぐ突っ込んできたらあかんで?」

「え? キャー! こんなところにセンサー爆弾!」

 

 家族が増えるということは、大人数でゲームができるということ。それすなわちとっても楽しいということ。

 

「ハンマーをとったら勝ち確だと思った? 残念また来てね」

「だー!! そんなバカなー!!」

「あははーシャマル、さっきああ言ったからってこっそり後ろから近づこうとしてもあかんで?」

「え? キャーまたセンサー爆弾!」

 

 スマブラ4人対戦は盛り上がる。これは真理。

 

「ふふ、主たちが楽しそうで何よりだ」

「お前も混ざりたいのだろう?」

「う、しかし私はああいったことは……」

 

 シグナムさんとザフィーラさんが話しているのが聞こえる。

 

「次はシグナム達もやらへんか?」

「そ、そうですか? では次やらせていただきます」

「はい」

 

 ザフィーラさんはちょっとよくわかんないけどシグナムさんは少なからず興味があったようだ。スマブラはやってる人は楽しいけど、あぶれて見てるだけの人はつまらないからね。順番でみんなで楽しむ。それが一番楽しい。

 さて、今でこそこんなにも打ち解けて仲良く遊んでいるが、ここまで来るまでにあったことを話そう。と、言っても大したことはなかったけどね。

 

 

 

 

 

 

 はやての誕生日から3日後。シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさんとはそれなりに話すようになって警戒されるようなことはなくなった。さすが見た目通り大人だと言えるだろう。で、ここまで言ったらわかるだろう? あの中で唯一見た目は子どもメンタル面も子どもに近い少女が一人いるのだ。今でもしょっちゅう睨まれている。はぁ……

 

「じゃあはやて、おつかい行ってくるよ」

「うん、頼んだでー」

「行ってきまーす」

「いってらっしゃーい」

 

 まあ、気にしない方向でいくか。よく言うだろ? どんなことだって時間が解決しちゃうってな?

 

 

 

 

 

 

 よし、行ったな。それじゃ、あたしも行くとするか。

 

「はやて! ザフィーラの散歩に行ってくるよ!」

「ん? そうなん? そんなんやったらハムテル君に任せればよかったな?行ってらっしゃい」

「いってきまーす!」

 

(行くぞ、ザフィーラ! あいつがはやてが見てないうちに怪しい行動をしてないか確認しに行くぞ)

(……ああ)

(シグナムとシャマルも留守はたのんだぞ!)

(わかっている)

(いってらっしゃーい)

 

 そこでヴォルケンリッター全員につなげていた念話を切る。

 あたしははやての騎士としてはやてを守らなきゃいけない。そのためには怪しい奴は警戒しなくちゃいけないって言うのに、あいつらあんな奴にすっかり気を許しちまって。ここはあたしがしっかりするしかねぇ!

 

 坂上公輝

 

 闇の書起動のときから主のそばにいた人間で少量ながら魔力も持っている。その少量の魔力故に闇の書の莫大な力を狙っている可能性だって十分ありうる。尻尾をつかんでやる!

 

 

~道中(家→商店街)~

 

「ヤンマーニヤンマーニヤンマーニヤーイーヤ」

 

 あいつは変な鼻歌を歌いながら歩いてやがる。だけど……

 

(な、なんか今のあいつにはどんな攻撃も当たらないような気がするぜ)

(う、うむ。なんだこの感じは……プレッシャーとも違うなにか……)

 

 ザフィーラも認めるほどの何かを感じさせるやつはいったい何者なんだろう。もっと怪しくなってきた。

 

~商店街~

 

「おっちゃん! 鶏肉くれ鶏肉! 6人分のカレー作るのに必要な分」

「おう! 公輝くんいらっしゃい! 今日は一人でおつかいか。6人分も作るのか?」

「うん、ちょっと同居人の数が増えてね」

「そうなのかい? おいしいところ選んでやるぜ!」

「おお! 肉がおいしいとカレーもうまくなるからね!」

 

 どうやらあいつはここで鶏肉を買うらしい。

 

(普通に買い物してるな……あいつ今カレー作るって言ってたな。今日の晩御飯はカレーかー楽しみだなー)

(そうだな。ところで目的を忘れていないか?)

(そ、そんなことねーよ!お、動いたぞ、行くぞ)

(ああ)

 

~翠屋~

 

「いらっしゃいませー」

「こんにちは!桃子さんシュークリームまだありますか?」

「ええ、あるわよ。いくつ買うの?」

「6個で」

「あら? 今日は多いわね。」

「うん、このたび同居人が増えたんだ」

「そうなの。じゃあ、ちょっと待ってねー」

 

 今度は喫茶店みたいだ。話は聞こえないがここでも買い物をしてるらしい。買ってるものは……なんだろうあれ?

 

(あいつ何買ってんだろうな)

(おそらく食料だろう。見たところ食べ物を出している店のようだしな)

(食べ物か……あれおいしいのかな)

(そうだといいな)

 

「ところで公輝くんは学校はどうしてるの?」

「うぇ?! あ、ああ~学校は決まってるんですが手続きがどうのこうので夏休み明けてからなんですよ」

「あら、そうだったの。どこの小学校に決めたの?」

「市立海鳴小です」

「あら残念。聖祥だったらうちの娘と同じだったのに」

「そうだったんですか。なのはさんと一緒の学校だったら毎日楽しいでしょうね」

「ふふ、そう言ってもらえたらなのはも喜ぶわ」

 

(あー、はやての料理早く食いてーなー。はやての料理はギガウマだからなー)

(おい、なにやら話し込んでいるようだがいいのか?)

(わかってるって!)

(はぁ……)

 

~道中(翠屋→家)~

 

 このタイミングで何か怪しいことをするに違いない! そうに違いない! ……たぶん

 

「ラララ~ラララ~ララ~ラ~ラ~……ん? なんだ? にゃんこが二匹もいるよ。お~よしよしよし、ええの~かわいいの~わしゃわしゃわしゃ」

 

(すげー猫なでてるな)

(ああ)

(あの猫たちすげー気持ちよさそうにしてんな。どんだけだよ)

(確かにあれはすごいな)

 

 どうやらザフィーラが認めるほどの撫でテクらしい。侮れない奴だ……

 

 

 

 

 

 

 家に帰って来た。なんだか結局はやての作る晩御飯のことばかり考えてしまって意味がなかったような気がするが。ま、まあそういうこともあるよな。

 

 

「みんな~カレーできたで~」

「おー待ってました!」

 

 あいつはそう言いながらカレーを注いだ皿を並べるためにソファを立つ。あーいい匂いだ。

 

「いただきまーす」

 

 全員で食べる前のあいさつをしてからカレーを一口頬張る。 

 

 !! 

 

 うめー!

 

「やっぱりはやてが作るカレーはギガウマだな!」

「あはは、ありがとな、ヴィータ」

 

 やっぱりギガウマだー

 

「今日はデザートにシュークリームもあるで」

「しゅーくりーむ?」

 

 なんだろう。でもはやてが嬉しそうにしている。きっとおいしいに違いない。

 

「これや」

 

 あれ? これって……

 

「これは翠屋のシュークリームでほっぺたが落ちてまうほどおいしいんやで?」

「そしてそれに合わせるミルクティーとコーヒーはおれが入れる。絶対おいしいから覚悟しておけ?」

 

 あいつがあの時買っていたものはこれだったのか。しかし、今まで一緒に過ごしてきて一番張り切ってるなあいつ。

 

「どうぞ」

「お、おう」

 

 あいつが入れたものということで少し警戒している。だがみんなはためらうことなく飲んでいる。あー! はやても飲んじまった……ってお前らも飲むのかよ!

 なんかうまそうだな……ちょっと飲んでみるか。一口ミルクティーを飲む。

 

 う、うめー! ギガウマだー!

 じゃ、じゃあ今度はこのシュークリームってやつを

 う、う、う、うめー! うめー! なんだこれ? なんだこれ! うめー!

 

「はやて! これも、これもギガウマだな!」

「そうか~? じゃあそれはハムテル君に言わなな?」

 

 う、でも……なんかもういい気がしてきたな

 

「その、これギガウマだよ……マサキ」

「お? そうか? ヴィータが美味いっていうことは本当に相当美味いんだろうな」

「ふん!」

 

 な、なんだよ。いつも捻くれた評価しかしないみたいな言い方だな。

 でも、やっぱいい奴なのかもな。

 

 

 

 

 

 まあ、そんなところさ。え? なんでこのことをおれが知ってるかって? ヴォルケンズの他の3人が「まったくあいつは……」なんて言いながら話してくれたよ。なにも言わずに後をつけていたのを悪く思ったらしい。

 

「あーはやてもマサキも強すぎだよ。マサキお茶だ! お茶! ギガウマなミルクティー入れてくれ!」

「へいへい」

 

 と、おれは特に何もしてないがヴィータとも打ち解けることができたってわけだ。ギガウマってテラワロスの仲間みたいに思えて仕方がない。まあそんなことはどうでもいい。

 

なにはともあれ楽しく過ごしてますよっと。

 

 

 




☆→時間の移動
★→視点の変更
そんな感じ
たくさん書きました(俺比)

追記 
歌詞転載に当たりそうだったので一応修正


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お試しと魔法と9話

##この話は修正されました##


 

 

 

 6月も終わり、7月に突入した。気温が高くなり始め嫌になってくる季節だ。あー暑い。

 

「って、あー!! そういえばすっかり忘れてたよ!!」

 

 おれは叫ぶ。色々あって結局確認することができなかったこと。はやてのなんでもいいから家族だ発言、ヴィータの尾行大作戦、たのしい4人プレイ、おいしいおやつ、etc……色々あって結局日常を楽しんでいたからすっかり忘れていたおれの非日常要素。

 

「どうした、急に叫んで。とうとうおかしくなったか?」

 

 え? シグナムさんひどくね? おれそんな兆候あった? まあそれはそれとして

 

「有耶無耶になってたけどおれ魔法使えるんだろ? だったら魔法の使い方教えろください」

「おめー日本語おかしいぞ」

 

 うるさいよヴィータ。魔法。実に面白そうじゃないか。おれだって魔法を使うことを夢見ていたことがある。

 

「構わんが、貴様の魔力量だと基本的なことしかできんぞ?」

「いいよ、それでも」

「じゃあ、私が優しく教えてあげる」

 

 お、おうシャマルさん。ありがとうございます。

 

「おもしろそうやなー私も混ぜてーな」

 

 はやても参戦。

 よーしやるぞー

 

 ……あ、ちなみにじゃべってないけどザフィーラさんもいるよ?

 

 

 

 

「じゃあまずは念話からやってみるか」

「念話って?」

 

 なんとなーく分かるが一応聞いてみる。

 

「まあ言ってみれば電話だな。そういう通信機を用いずに離れた相手と会話をする」

 

 お? なんかいきなりすごい使えそうな魔法だな。それでそれで?

 

「とりあえずやってみるか」

(どうだ? 私の声聞こえるか?)

「おお? なんだこりゃ? すごいな」

「おー、私にも聞こえるで」

 

 これは……いいな

 

「受信は少しでも魔力があればなんてことなく使えるわ。で、送信なんだけど、自分の中の魔力という電波を話したい相手に飛ばすイメージよ」

 

 解説がシグナムさんからシャマルさんへと移る。しかし、魔力か……そんなもの今まで感じたことないしな

 

(こうか?)

「そうそうはやてちゃん! そんな感じよ!」

 

 なに!? はやてはできたのか。う、うぬー、魔力魔力……これか? これか? こっちの方がいいか?

 

(できたかな?)

「あ、公輝くんもできたのね!」

 

 お、おうやっぱりこっちだったか。なにはともあれ念話使えるようになったぞー!

 

「これで携帯の通話料が浮くな!」

「ハムテルくん携帯持ってないけどね」

 

 あ、そうだった

 

「じゃあ、次は魔力弾の生成でもやってみるか」

 

 今度はシャマルさんからヴィータへ。

 

「ほうほう、で、それは一体どんなの?」

「言っちゃえば魔力の塊だな。それを相手にぶつけて魔導師は戦うんだ。あたしたちはベルカの騎士だからあんまり使わねーけど、デバイスのないはやてとマサキだったらこっちのほうがいいだろ」

 

 ベルカの騎士。知らない単語が出てきたけど、つまりヴォルケンズは基本剣とかで戦うってことか?

 

「うーんでも人を傷つけるのはちょっとなー」

 

 はやてが懸念を示している。

 

「ああ、そこは大丈夫。魔力弾は当たった時に衝撃こそあるけど非殺傷設定なら魔力的ダメージだけで体に怪我はしないんだ」

 

 へー便利だなそれ。自衛隊とか警察とかに重宝されそう。

 

「それに何かあった時のためにこういう事を覚えとくと役に立つんだ」

 

 確かにヴィータの言うとおりだな。誰かに襲われることがあるかもしれないしな。何かあった時のために胸ポケットに懐中時計を忍ばせるのと同じような物だ。

 おれはうんうんと頷く。

 

「じゃあやってみるか。とりあえず、魔力を少し手のひらに集める感じで」

 

 よし! 行くぞう! さっきのこっちの感じで魔力を感じて手のひらにっと……

 

「わー、なんやこれすごい!」

 

 はやてしゅごい

 

「お? おおう! できたぞ!」

 

 手のひらにはテニスボール大の光球が浮かんでいる。色は紺色っぽい。おれの一番好きな色だな。

 

「そうそう、それを手から切り離して相手にぶつけるんだけど、ここでやったら大変なことになるからそのまま空気中に散らしていく感じで」

 

 おれとはやての手から光球が消える。

 

「でもマサキはこの魔力弾10発くらいで魔力切れ起こすんじゃないか?」

 

 え、おれの魔力どんだけ少ないの。

 

「だから戦うのは無理ってことか。まあだれかと戦う予定なんてないんですけどね」

 

 このあとザフィーラの身体強化教室も開かれた。身体強化してもはやての足は動くことはなかった。ちょっと期待していたが残念だ。

 

 こうしておれたち二人は魔力の扱いを少しだけ覚えた。お試し程度魔法だったが、今までありえないと思っていたことができるというのは不思議な感じだ。

 

 

 




はやてはこの頃魔法使えなかった(使ってなかっただけ?)気がしますが、これも仕様です。


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夏風邪と10話

自分の現実逃避メーターが上がれば上がるほど更新頻度もあがります。

##この話は修正されました##


 

 

 

 7月。もう一般的に夏といってもいい季節である。気温は上がり湿度も上がり日本の夏は最悪である。そんな季節にはやては……

 

 風邪をひいた

 

「バカは風邪ひかないって言うけど夏風邪はバカがひくって言うよね? ねえ今どんな気持ち? NDK? NDK?」

「やめんか馬鹿者」

「いてっ!」

 

 シグナムさんに殴られた。あーちょっと洒落になんないくらい痛いわ。

 

「だ、大丈夫なのか? はやて? なあシャマルー!」

「大丈夫よ。風邪になった原因はちょっとわからないけど、調べてみた感じ何か重い病気ってわけでもないし、疲れちゃっただけよ。」

 

 慌てふためいているヴィータをシャマルさんがなだめているようだ。

 

「ごめんな、みんな……ケホッケホッ……ちょっと最近はしゃぎ過ぎてもたんかな。あとハムテルくんは私が治ったら覚えときな?」

 

 あ、やべっ。口元は笑ってるのに目が全然笑ってねー。

 

「はやてちゃんは今日はおとなしくしててね? そうすればすぐ治るようなものだから」

「うん、わかったでシャマル。じゃあちょっと寝とくな?」

「おやすみなさい」

「おやすみはやて。早く元気になれよ?」

 

 二人がそう言っておれ達ははやての部屋から出てリビングに行く。

 

「さて、はやてが風邪でグロッキーだから今日の家事はおれたちでやらなきゃいけないわけだな」

 

 その時、ヴォルケンズは隠せないくらい動揺していた。まあ、しょうがない。今まではやての手伝いこそしてきたが、家事をまるまる全部やったことなんてないんだ。それにどうもヴォルケンズを見るにこういう生活は慣れていないようだ。一緒に1ヶ月ほど過ごしてきたが、最初の頃ははやての気遣い一つ一つに戸惑っていた。優しくされるのに慣れていないのだろう。一体どういう生活をしてきたのか……

 

「どどどどうすんだよ! あたしたちがはやての代わりなんてできんのかよ……」

 

 こんなにヴィータが不安そうにしているところは初めて見たな。

 

「うむ、正直私もあまりそういうことは……」

「……同じく」

 

 するとヴィータ、シグナムさん、ザフィーラさんはシャマルさんの方を見る。

 

「わ、私ですか!? そうですね……ここは私がしっかりしなければいけませんね!」

 

 ねえ、なんでみんなおれのことを頼らないの? ていうかシャマルさんなんでおれ見てから決意固めてんの? そんなに家事とか出来そうにないか?

 

「ちょっとみんな、なんでおれのことはスルーなわけ?」

「え、いやしかし,坂上は……なあ?」

 

 シグナムさんはヴィータの方を向く。

 

「え!? あ、ああそうだぜ。マサキの入れる紅茶はギガウマだけどよ……な、なあ?」

 

ヴィータはザフィーラさんの方を向く。

 

「……むう」

 

 ザフィーラさんはシャマルさんの方を向く。

 

「へ!? そ、そんなことないですよ。公輝くんにはおつかいをたのもうと思ってたのよ!」

 

 はあ、そうですか。まあそういうことにしときますがね。舐めてもらっちゃ困るということは覚えておいてもらおう。

 

「じゃあおれは夕飯の買い出しに行ってきますね。あと洗剤とかも切れたたのでついでに買ってきます」

 

「そう? 助かるわ」

「では私もついていこう。目的地まで乗せて行ってやるぞ」

「おお、そいつはありがたい」

 

 ザフィーラさんが付き添い兼アシをかって出てくれた。

 

「じゃあいってきまーす」

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

「ところでシャマルさんって料理とかできるの?」

 

 気になったことをザフィーラさんに聞いてみた。

 

「……」

「え!? ノーコメントってこと!? 大丈夫かよ? 答えて! ザッフィー!!」

 

 不安な気持ちを抱えつつ買い出しを済ませていく。

 

 

 

 

 

「ただいまっと」

「お、おかえりー」

 

 疲れ果てた様子のシャマルさんが出てきた。

 

「うお! どうしたの? シャマルさん?」

「それが……シクシク」

 

 突然泣き出した。え! 本当何があったの! おれがいない間に八神家に何があったのー!

 とりあえずリビングに行くとそこにいた。いや、あったのは机に突っ伏してピクリとも動かないシグナムさん。部屋の隅でガタガタ震えているヴィータ。そして机の上に置いてある何か。なんだろう,あれ……ものすごいプレッシャーを感じるんだけど……見た目は美味しそうなオムライスなのに。

 

「私が作った料理をシグナムに試食してもらったら……うえーん……」

 

なるほど、把握

 

「シャマルさんの料理はメシマズでしたと」

「うっ……」

 

 んでヴィータはシグナムを落とした料理におびえていると。こんな状況なんかのラノベで読んだな。ナンダッタカナー。きっと硫酸とか入れたに違いない。

 

「はあ、分かりました今日の昼と夜はおれが作ります」

「え! でも……大丈夫?」

「シャマルさんよりおいしく作れる自身はありますね」

「うっ……うっ……」

 

 じゃあ作りますか。

 

 

 

 

 とりあえずはやてはお粥(塩)でほかのみんなは焼きそばでいいや、ということで作った。

 

「じゃ、食うか」

 

 おれが言う

 

「う、うむ」

「ああ」

「くすん……」

「いただく」

 

 なんかみんな疑ってるな。特にシグナムさんはさっきあんなことになってるからかなり警戒してやがる。失礼な! 家庭科の先生にいろんな意味で「君良いお嫁さんになるわ……」って呆れながら言われたおれの実力を信じないとは!

 みんなが恐る恐る一口食べる。

 

「む、普通にうまいな」

「お、おおうまいぞ。メガウマくらいかな」

「おいしい」

「ズルズル」

 

 ほれみたことか。

 

「はやてのほど美味くはないだろうけど、シャマルさんのよりはマシだろ?」

 

 シグナムさんがめっちゃ頷いてる。おもしろい。逆にシャマルさんはまた泣きそう。かわいい。

 

「じゃ、おれははやてにこれ(お粥)わたしてくる」

「ああ、頼んだ」

 

 

 

 

 コンコンコンコン

 

 ノックは基本4回。2回だとトイレ。みんなもいいね?

 

「どうぞー」

「はいりまーす」

 

 そう言ってはやての部屋に入る。どうやらちょっと前から起きていたようだ。見た感じさっきよりだるそうではないし、良くなっているな。

 

「あーちょっとお腹すいてきたんや」

 

 まああんなことになってたしな。昼ご飯が出来るのが少し遅くなってしまって申し訳ない。

 

「これ、昼飯な。食えるか?」

「うん、大丈夫や」

「これ、ハムテルくんが作ったん?」

「そうだぞ。上出来だろ?」

 

 シグナムさんが生贄にならなければはやての病状は悪化していたことは黙っておこう。はやては一口お粥を食べる。

 

「ああ、おいしい……こうやって作ってもらう料理は久しぶりやなぁ」

「あー、いつもありがとう」

「えへへ……ええんやで、別に」

 

今度からはたまにおれも料理作るかな

 

「どうだ、調子は?」

「うん、大分ようなったわ。ちょっと頭が痛いけど」

 

 そう言ったのでおれははやての頭を撫でてやる。

 

「おれは文字通り元気の塊みたいなもんだからな、何か健康成分が分泌してそれも治っちゃうかもな?」

「なんやねん健康成分が分泌って? もっとええ言い方もあったやろ? ……あーでもホンマに楽なってきたわぁ」

 

 え? まじで? 完全にネタでやったのに。

 

「はー! 辛いのもどっかいってもうたわ! また気持ちよく寝れそうやからもうちょっと寝るな?」

「おう、次は夕飯の時に来るな。次のメニューはお粥(梅)かうどんどっちがいい?」

「おうどん食べたい」

「了解」

 

 おれははやての部屋を出る。

 なんか新しい発見もあった気がするけど、ちょっと判断がつかないな。まあ、それはそれとして、シグナムさんがほした洗濯物はあのままだと乾いた時に皺になっちゃうからやり直しだな。あとは……

 

 

 

 

 その後家事は全部おれがやり、その日を乗り越えることができた。

 あれから相当悔しかったのかシャマルさんははやてに料理を教えて貰いだしたし、シグナムは洗濯の仕方を聞いていたし、ザフィーラさんは掃除のコツを聞いていた。そして、ヴィータはいつものようにおれと遊んでいた。

 

 

 




ほんとははやてが治ったあとハムテルくんにも夏風邪をひいてもらい、はやてにNDKしてもらってオチをつけようと思いましたが、直前で「ハムテルくん風邪引く訳無いじゃん…」気づきました。

追記
シャマルさんは鍋を爆発させるタイプから味付けできない系女子に変更


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動物(闇の書含む)と釣りと11話

艦これやらなきゃ(義務感)

##この話は修正されました##


 

 

 

 やあ、こんにちは。今日は今まで言わなかったけど転生してから明らかに変わったことを話そうと思うよ。それはね……モテモテになった。

 羨ましい? 羨ましいだろ! それはもうおれが一歩でも外に出ればみんな見逃してくれないんだよ。おれも幸せだね。みんなに好いてもらえて……

 

 犬とか猫に。

 

 うん、これ自体はおれとしてはすごい嬉しんだよ。嬉しいんだよ? でもね、明らかに異常なんだよ。野良犬飼い犬、野良猫飼い猫問わずすげー寄ってきて体をこすりつけてくる。あー幸せ。

 

「あいかわらずハムテル君は動物にモテモテやな」

「なにか近いもの感じてるんじゃないか?」

「なんか変なのが出てんだろ」

 

 こちらも相変わらずのシグナムさんとヴィータである。距離が近くなったというか、遠慮がなくなったというか。まあ、睨まれ続けるよりはましだよね。

 

「はっはっはーなんだ? うらやましいのか? そうであろう?」

「そりゃー犬猫に気に入られるのはいいんだけどさ。限度ってもんがあるだろ」

 

 もうちょっと状況を説明しよう。今おれたちは公園に散歩に来ている。そうするとだ、犬の散歩をしている人達や一匹でふらふらしている猫などなどたくさんいるんだが、そいつらが全員おれに寄ってきている。

 

「ぶぶぶちょやめてやめめめ」

 

「マサキがめっちゃなめられて顔中ぐちょぐちょになってらーきったねー」

 

 ヴィータこの野郎

 わんことにゃんこは体をこすりつけるだけでなくなめまわしてくる。こうなったらおれだってやってやる。やってやるぞ! ナーデナデナデナデナデ

 

「お、おおマサキのやつが反撃をし始めたぞ」

「ああ、みんな気持ちよさそうだが、どうも気持ち良すぎてみんな腰が抜けてしまっているぞ」

「ハムテル君……恐ろしい子!」

 

 ふぅ、仕事した気分だぜ。後でヴィータの服で顔を拭いておくか。

 

 

 

 

 

 

 八神家に帰って来た。あの後翠屋に行ってシュークリームを買って帰って来たよ。今日はなのはちゃんは出かけているという事で、彼女には会えなかった。巡り合わせが悪いのか、はやてとなのはさんはまだ一度も会ったことが無い。はやてと友達になれればきっと楽しいことになっただろうに。

 そういえば、おれが転生してから犬猫にモテモテになったといったな。実はもう一つにもモテモテになった。正確には闇の書が起動してからなんだが。

 

 もうわかるね?

 

「おかえりなさい。はやてちゃん」

「ただいまシャマル。あ、闇の書も来てくれたんやな。あはは、闇の書もハムテル君が大好きなんやな。ちょっと嫉妬してまうなー」

 

 そう、そのもう一つとは闇の書である。ちなみに闇の書は空を飛んでいる。空飛ぶ本というのはかなりシュールだ。もっと大きな本だったらどこぞのフレイムヘイズ見たいに上に乗って移動手段にできるんだけどなー……やってみるか?

 

「そう言われてもな、こればっかりはおれにもさっぱり」

「不思議なこともあるもんだ」

「いままでこんなことなかったもんな」

 

 シグナムさんとヴィータによると主以外に特別闇の書が懐くなんてことはいままでなかったらしい。

 

「まあいいよ! 早くシュークリーム食おうぜ! マサキミルクティーはよ!」

「わかってるって。あわててもおいしいミルクティーはできんぞ?」

 

 不思議なことだとは思いつつ。おれは特に何も気にしなかった。犬猫闇の書が寄ってくる理由を。

 少なくとも今はおいしいミルクティーを作って翠屋のシュークリームをおいしく食べることの方が大切だからな。

 

「うまー」(八神家全員)

 

その間も闇の書はおれにぴったりくっついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、今は世間一般に言うところの夏休みというやつだが、家は世間一般ではないので今日も休み。しかし、小学校入学が迫ってきて辛い。なんで夏休みの終わりは世間一般と共有せにゃならんのだ!

 それはそれとして、今日も夏の思い出を作ろうと遊びに出かけている。

 

「今日の晩御飯はみんなにかかっとるからなー。じゃんじゃん釣ってな?」

「おっしゃー! 任せろはやて! あたしが食いきれないほど釣ってやる!」

「お任せを主」

「私も頑張りますよー」

 

 全員でシュークリームを食べた後、八神家は釣りに来ています。残念ながらシグナムさんは近所剣道場に行っているので不在。せっかく海鳴市は海に面しているんだから、ということではやて提案おれ企画ということでやってきた。つい最近まで海鳴を鳴海と呼んでいたのは余談。

 

「じゃあ、やるか」

 

 おれ達は釣り糸を海に垂らす。

 

 

 

 

 

 

「……予想以上に釣れねーな」

「……せやな」

「……」

 

 君たち釣り舐めすぎ! そんな20分でポンポン釣れるものではないぞ。ほら、ザフィーラさんは黙って釣り糸を垂らしているぞ。

 

「おいおい、たったこんだけで釣れるかよ」

「でもよー、だいたい待ってるだけっていうのがあたしの性にあわねーんだよ。」

「じゃあなんだ? モリ突きでもするか? モリないけど」

「モリか……シグナムにレヴァンティン借りてくりゃよかったかな」

 

 そいつはレヴァ剣さん可哀想だろ、いくらなんでも。ちなみにレヴァンティンというのはシグナムさんが持っている剣だ。簡単に言うと魔法使いの杖みたいなもので、デバイスと呼ぶらしい。おれの魔法使いのイメージが吹っ飛んだのは今は昔の思い出だ。さらに付け足すと、ヴィータはグラーフアイゼン、シャマルさんはクラールヴィントというデバイスを持っている。ザフィーラさんは使っていない。

 

「ここ魚いねーんじゃねーのか? 餌ぶちまけてみるか」

「撒き餌か? そんな単純に来るもんなのか?」

 

 撒き餌はやったことないからどういう風にすればいいのか分からないぞ。

 

「知らねーけどよ、なんかやって見ないと前には進めないんだ!」

「お、おう」

 

 このタイミングでなんかかっこいい事言われても困るだけだ。

 

「つーわけでマサキ、ジャンプ イントゥウ ザッ シー!」

「ミー?」

 

 Why? なんでおれが……おれが撒き餌か!

 

「それ、ガンダムフェチの少年風に」

「おれが、おれたちが撒き餌だ!」

「さりげなくあたしたち巻き込んでんじゃねーよ」

 

 ばれたか。

 

「いいからさっさと行け!」

 

 そんないくら犬とか猫とか闇の書が寄ってくるとはいっても魚まで寄ってくる訳……

 

 

 

 

 

 

「うっひゃー! 大漁だぜ!」

「さすがやヴィータ!」

「……」

「……」

 

 ザフィーラさんは相変わらず黙って釣り糸を垂らしている。おれ? おれはね……

 

「……」

「おいコラ! 動くなよ逃げちまうだろ」

 

 海の中で立っております。ヴィータはおれに寄ってきた魚を持ってきたアミで根こそぎ獲っている。夏ということで冷たくて気持ちいいからいいんだけど。解せぬ。

 

「はやてはやて! ほらこれすごいぜ!」

「わーほんまやな!」

 

 まあ、役に立ったようなら良かったよ。解せないけど。

 

「………むっ! テオヤー」

 

 あ、ザフィーラさん魚釣った。ってデカ!?

 

 今日釣った(獲った)魚は余りにも多くご近所に配ったあと近くにいたニャンコ達にあげてきて。きっと泣いて喜んでいることだろう。夕飯の焼き魚は買った魚とは一味違う味がした。

 

 

 




Q.尊敬してる人は?
A.ルルーシュ・ランペルージ


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猫とコロッケと12話

時系列考察の優秀さに脱帽


##この話は修正されました##


 

 

 今私たちはある家の女の子を監視している。監視対象の名前は八神はやて。年齢8歳。足が不自由で一人暮らしをしていた。……そうしていた。いつの間にか対象の家の物干しざおに引っ掛かっており、いつの間にか対象に回収され、いつの間にか一緒に住んでいた。完全なイレギュラーである。そいつの名前は坂上公輝。こいつには早く対処しなければいけない。私たち、ギル・グレアムの使い魔リーゼロッテの名において! 姉であるリーゼアリアと組めばできないことなんてないんだから! だけど……

 

「はー……なんか最近疲れてるね」

「あなたこそ」

 

 いや! 私は疲れていない! 何としてもお父様の願いを叶えるために、こんなところで弱音なんてはいてられない! ……でも、最近はいつの間にかいたあいつのせいで常に目を離さない生活が続いているから疲労がたまるのも無理はない。

 

「はー……」

「はー……」

 

 やっぱ疲れてる。あとお腹すいた。

 

 

 

 

 

 

 しばらくぼーっと家を監視していると。対象2が家から出てきた。どうやら一人のようだ。これは絶好の機会である。あいつを脅してこの家に関わらないようにしよう。

 

「あー、あいつ行っちゃったから帰ってきてからでいいよね」

「うん、いいんじゃない……」

 

 リーゼ、疲れたろう? 私も疲れたんだ。なんだかとっても眠いんだ……

 

 睡魔からは逃げられない……

 

 

 

 

 

 

 ハッ! いつの間にか寝てしまった。今何時だ? あいつは?

 

 ジー

 

 ハッ! ニギャー! めっちゃ見てるー! めっちゃ私たちのこと見てるー! 

 とりあえず威嚇しておく。

 

「シャー!」

「フシャー!」

「よーしよーしこわくないぞー」

 

 うっ、こっちに近づいて来る

 

「シャー!」

「シャー!」

「大丈夫だってほらほら」

 

 あいつが手を差し出してくる。……あれ? なんか気持ちよさそうな気がする。なんでだろう。どうやらリーゼも何か感じているようだ。

 

「おーよしよしよし」

 

 私たちはあいつが撫でてくるのを受け入れる。あ~なんか気持ちいい。変な意味じゃないよ? これは…そう! マッサージをしてもらっているみたいな感じだ。

 

「よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしおーよしよしよしよしよし」

 

 あにゃにゃにゃにゃにゃ

 くやしい!でも、感じちゃう!(意味浅)

 

「ふー一仕事したぜー。あ、君たちにこの肉屋のコロッケをあげよう……と、思ったけど猫に玉ねぎは駄目なんだった。代わりにパン屋でタダでもらったパンの耳をあげよう。本当はおれのおやつだったけど」

 

 あいつはそう言って私たちの前にパンの耳を置いて、家の中に入っていく。

 くっ、こんなはずじゃ……た、立てない……あんな撫でまわされると腰が……ぬけちゃった……

 

「リーゼ、大丈夫?」

「な、なんとか……」

 

 

 今日のところはこの辺で勘弁しておいてやる………あれ? なんか疲れが抜けてる気がする。気のせいかな? でもほとんど絶好調の時と変わらない感じだ。

 

「ねえリーゼ」

「もしかしてロッテも?」

 

 どうやらこの現象は私だけではないようだ。となると原因は? まさか……

 

「まさか……ね」

「たぶん……ね」

 

 どうやらそうらしい。

 

 

 

 

「はやてはやてー今家の前ににゃん子がいるぞ! それも二匹も! 今ならなんでか、あいつら全然逃げないからチャンスだ!」

「ホンマか! じゃあ撫でまわしてやらなあかんな!」

 

 それはまだ闇の書が起動していない頃のいつかのこと。

 

 使い魔達の受難()はまだまだ続く。

 

 

 




もうあの小説は更新しないのかな…

追記
猫にコロッケは拙いという指摘をいただきまして修正しました。


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騎士甲冑とのろいうさぎと13話

はやてと騎士達の平穏な日々←いまここ
時系列考察Wikiより引用

##この話は修正されました##


 

 

「主、その申し上げたいことが」

「ん? なんや?」

 

 シグナムがいつになく謙遜した様子ではやてに話しかけている。なんだろう? なにか悪いことでもあったんだろうか?

 

「あの、我々の騎士甲冑の件はどうなっているんでしょう?」

「……」

 

 あーそういえばヴォルケンズが出てきたときにそんなことを言っていたな。剣はあるけど甲冑がないって。はやて、忘れていたな。まあ、おれも今思い出したけど。

 

「なんだはやて忘れてたのか? ワロスワロス」

「ハムテルくんやって今まで忘れとったやろー! せやろー!」

 

 そうだけどさ。その通りだけどさ。おれ闇の書の主ちゃうし?

 

「だって、しゃ、しゃーないやん! みんなとの生活が楽しゅうて……ちょっと忘れてもとっただけやん……」

 

 はやて……

 

「主……」

「はやて……」

「はやてちゃん……」

「主……」

 

 おれとヴォルケンズははやてを温かい目で見つめる。

 

「な、なんや! そんな目で見んといてーな! は、恥ずかしいやんか!」

 

 はやて……

 

 

 しっとりした時間が流れる。

 

 

 

 

 

 そんな訳でヴォルケンズの騎士甲冑のイメージをわかせる為にやってきたのはおもちゃやさん。といざるす。ものすごい違和感を感じるけどきっと気のせいだろう。

 

「いやー! いくつになってもここに来るとテンション上がるなー!!」

「ハムテルくんが楽しんでどないすんねん」

 

 はやてが苦笑しながらこっちを見ている。

 

「体は子供、頭脳は大人だけど心は少年だからな!」

「ガキの間違いじゃねーか?」

 

 うるさいよヴィータ。

 

「じゃあ、みんなで見てまわろか?」

「イヤッッホォォォオオォオウ!」

「ちょ!店ん中走り回ったらアカンで!」

「なんか親子みてーだな」

「そうだな」

 

 そう言ってヴォルケンズはおれらを見ながら微笑んでいた気がした。

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

「そりゃあんだけ走り回ったらそうなるわ」

 

 ハア……ハア……ハア……

 

「おまえそんな人形の前でハアハア言ってると変態みたいだぞ? ああ、変態だったのか?」

 

 ヴィ、ヴィータのやろー……ハア……言いたいこと……ハア……言いやがって……ふぅ、落ち着いた。

 

「これが賢者モードってやつか」

「ちがうわい!」

 

 まったく、そんな風に育てた覚えはないぞ。

 

「あたしもねーよ……ん?」

 

 そうでした。ん? どうしたんだヴィータのやつ急に静かになって。ヴィータの先にあるのは……ぬいぐるみ? ははーん、わかったぞ。ヴィータはあれが欲しいんだな。

 

「ヴィータ、それ欲しいのか?」

「ち、ちげーよ! そんなんじゃねーですよ!」

 

 分かりやすいやつだ。

 

「おーい二人共ー次行くでー」

 

 どうやら次の場所に行くようだ。

 

「んじゃ、行くか」

「お、おう……」

 

 本当に分かりやすい奴。

 

 

 

 

 

 

「……ってことらしいぞ」

「まっかせとき!」

 

 

 

 

 

 

「それでは! 闇の書守護騎士の騎士甲冑お披露目会をはじめまーす」

「いえーい」

 

 ドンドンパフパフ

 

「それでは、エントリーナンバー1番! シグナムや!」

「む、むう、こういうのは照れるな」

 

 どこか恥ずかしそうにしながら立っているシグナムさん。

 

「どうですか? 審査員のハムテルさん?」

「はい。まず、彼女のイメージカラーである赤に近いピンクの色のインナー。手と腰の辺りの装甲は敵の攻撃を防ぐためのものだが、アクセントとしてバッチリだ。そしてロングスカートは彼女のエロイ太ももを相対する相手に見せつけるように大きく前が開いてるのはとてもポイントが高い」

 

「き、貴様……!!」

 

「恥ずかしがって顔を赤くしているのがさらに」

 

 殴られた

 

「次は、エントリーナンバー2番! ザフィーラや!」

「……」

 

 まったく動じていないようだ。

 

「どうですか? ハムテルさん?」

「服は彼のイメージカラーの青。その中で目を引くのは赤いベルトとチェーンだ。ファッションに疎そうなザフィーラさんだが、ただそれだけの装飾がとても似合っている。そして、拳を使って戦う彼には鉄の手甲とブーツ、実用性も確かだ。」

 

「まだまだ行くでー! エントリーナンバー3番!シャマルや!」

「うふふ、なんだか照れちゃうわ」

 

 このシャマルさんノリノリである。

 

「ハムテルさん? どや?」

 

「全体的なカラーは彼女のイメージカラーの黄緑。後衛ということで、硬そうな衣装ではないが、その服装はまさに僧侶! 勇者パーティーには必須のジョブ。まさに彼女の使う魔法との親和性もぴったりだ。さらに頭に載せたナースキャップ(のようなもの)はポイントをグッと引き上げる点でしょう。」

 

「じゃ、次が最後や! エントリーナンバー4番! ヴィータや!」

 

「ど、どうだ? はやて?」

「うんうん、かわいいで!」

「そ、そうか? ありがとな……」

 

 良いふいんき(何故か変換できない)だ。

 

「どうでしょう? ハムテルさん?」

「 ( ゚∀゚)o彡゜幼女! 幼女! ゴスロリ幼女!!」

「てめー! やるなら最後までちゃんとやれよ!」

 

 殴られた

 

 解せぬ

 

「いつつ……まあまあこれやるから機嫌直せ」

 

おれは二つの紙袋をわたす。

 

「なんだこれ?」

「プレゼントだ、おれからの」

「えー」

「あとはやて」

「はやて! ありがとな!」

 

 それは一体どういう意味ですかね?

 

「開けていいかな?」

「ええよ」

 

 ヴィータは袋-はやてのプレゼント-を開けて中身を取り出す。一瞬開けるのを躊躇ったのは何故だ? おれからのプレゼントかもしれないって一瞬頭を過ぎったのか? ん?

 

「わー! これって!」

「ヴィータが欲しそうにしてたって聞いたからな。」

 

 そしてもう一つの袋-おれのプレゼント-から中身を取り出す。

 

「あれ? これって……」

「のろいうさぎヴォルケンリッターエディションだ」

「ハムテルくんが一晩でやってくれました」

 

 おれがヴィータにあげたのはのろいうさぎにはやてから先に聞いていた騎士甲冑のイメージを付け加えたものだ。ちなみにのろいうさぎもおれ印。

 しかし、やればできるもんだね。なかなかの出来だと自負しているよ。

 

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 これでヴォルケンズのファッションショーは終了を迎えた。はやてから貰ったものは普段用。俺からのものはヴィータの夜のお供用となった。

 

 あ、夜のお供と言っても、エロいものじゃないぞ? ヴィータが添い寝する用だからね?

 

 

 




今A's見直してます。…自分の考えてた設定とかなりズレがある…
いいね?みんな。この小説はぼくの二次小説。何が起こるか(自分でも)わからないから、何かが違ってても全て気のせいだ。わかったね?


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夏の終わりと学校と14話

昔は虫全然平気だったんですがね…やはりダンゴムシにションベン(おそらく)かけられたのが…あ、別におれの中でされたわけではありませんよ?

##この話は修正されました##


 

 

 

 今日は8月31日。一般的な学生なら夏休み最終日ということで思い思いに過ごすなり、宿題のラストスパートをかけるなりしているだろう。まあ、おれの前世の学校は夏休みが8月30日で終わりという学生泣かせの学校だったが。

 

「あーあついー」

「はやてーアイス食べていい?」

「アイスは1日1本までやで」

「ちぇー」

「zzz」

 

 いつも通りに過ごしている。ていうか、いつも以上にだらけている。

 

「おいおい、みんなしっかりしろよ情けないぞ?」

「上半身裸の男に言われとうないわ」

「早くそのみっともない体隠せよ」

 

 うるさいよ。暑い時は服脱ぐだろ。ちなみに何故冷房も付けないでこんな状態なのかというと壊れたからだ。この時期は注文が多いらしく家に来るのは1週間後だそうだ。あっつー。

 今家にいるのはおれ、はやて、ヴィータ、ザフィーラさんだけだ。シャマルさんは山へ芝刈りに……ではなくお買い物のついでに涼みに行き、シグナムさんは川へ洗濯に……ではなくまた剣道場の方に行ったようだ。

 

「みっともなくないわ。見よこの健康的な体を」

「逆三角形の体つきになったらよう見たるわ」

 

 うーんそれはおれにとって健康じゃないからな……

 

「てかなんでザフィーラさんはこのクソ暑いのにフォルムワンコなんだ?」

「それ本人に言うてみ? 楽しいことになるから」

 

 遠慮しておく。ザフィーラさん的には狼らしいので犬扱いすると訂正してくるのだ。

 

「ザフィーラ曰く、床が冷たくて気持ちいいらしいぞ」

 

 なるほどな。無駄に老けた某神父の気分を味わえるわけだ。それにザフィーラさんがフォルムヒトで床に寝そべってる姿を想像するとこれ……写真を取らざるを得ない。

 

「おれも床で寝よー」

「あ、私も私も」

「あ、あたしも寝る!」

 

 今日の昼はみんなで床で昼寝。川の字+1で寝た。ちなみに1のところがおれ。はやて曰く、「半裸の男の傍で寝とうない」ということらしい。うん、最もだね。悔しいからそのままで寝たけど。ちょっと疎外感。はあ,床冷たい……

 

 

 

 

 

 

 夕食も食べ終わり、まだまだ暑いが昼より幾分かマシになってきた。みんなは夏休み最後の日の夜というのはどういう過ごし方をした? おれは夏休みの宿題を確認して、新しい学期を迎えるための準備だ。確認したらやったはずの宿題が消えていたのは今となってはいい思い出だ。結局どこに行ったのだろう。

 

「よーし! 花火やるで! 花火!」

「はやて花火ってなんだ?」

「花火っていうのはやな、いろんな色で綺麗な火花を見て楽しむもんや」

「へー火花見て楽しむって変わってんな」

 

 八神家が全員そろいみんなで庭に出ている。そしてみんな浴衣装備だ。おれ、ヴィータ、はやて、ザフィーラさんの浴衣はおれ印。シャマルさん、シグナムさんの浴衣ははやて印だ。結構前から作成に取り掛かっていたのだが、おれの無駄スキルによってだいぶ早く仕上がった。

 

「よし! ハムテルくん蝋燭立てて」

「あらほらさっさーと」

 

 缶の蓋の裏にロウを一滴垂らしその上に蝋燭を立てることで固定させる。

 

「ほな、みんな見とってや」

 

 そう言ってはやては適当に取った花火を蝋燭の火に近づける。

 

「わー」

「ほー」

「これはなかなか」

「おー!」

 

 はやての持つ花火からオレンジの色の火花が勢いよく飛び出す。よし、おれも後に続くとしよう。

 

「これから毎日家を焼こうぜ?」

「小僧、派手にやるじゃねぇか!」

 

 マッチ1本で家が焼けるんだからあるいは……そして、はやては流石である。ノータイムとは恐れ入る。

 

「ほらほらみんなもドゥンドゥンやっちゃってー」

 

 お許し下さい!

 

 

 

 

 

 

「これで最後やな」

 

 そう言ってはやてはみんなに線香花火を1本ずつ配る。

 

「これはあんまり動かしたらはよう終わってまうからみんな慎重にやるんやで?」

 

 ヴォルケンズ達に軽く説明をした後みんなは線香花火に火をつける。線香花火のか細くも存在感を示す火花が散っている。

 

「……こういう火もいいものですね」

 

 不意にシグナムさんは呟いた。それを聞いたヴォルケンズ達は何かを考えるように沈黙している。なんとなく暗い。よし!

 

「そんな暗くなんなって! 辛いこと思い出してもなんにもいいことなんかないぜ?今を楽しめよ! 明日はなにして遊ぶ?」

 

 ふぅ、おれ今いいこと言ったわ。

 

「ハムテルくん明日から学校やで」

「そうだったーーーーー!!!!」

 

 みんながクスクス笑っている気がした。まあ、いいか。

 

 みんなの線香花火の火球が地面に落ちる。線香花火が知らせるのは夏の終わり。そしておれのニート生活の終わりだった。

 

 

 

 

 

 

 みんなで花火をやった日から一週間ほど経っただろうか。つまり、暦は9月に突入している。

 9月と聞くと涼しそうだが、ついこの間までは8月だったわけでまだまだ暑い。

 

「で、学校はどんな感じや? ターンエンドや」

「強くてニューゲームってこんな感じかなって感じ。ターンエンド」

 

 また、9月に入ったということは先延ばしにしてきたおれの小学校二度目の入学である。

 

「あはは、まあそうやろな。ターンエンドや」

 

 これでも元二十歳だ。それに二浪して志望校に入ったおれに小学3年生が習うことなど簡単すぎる。気付いた? 二浪で二十歳ってことは志望校に合格して幸せ絶頂の時にいつの間にか死んでいたのだよ。ハハハ……ハァ……

 

「さすがに九九とか、円の半径と直径とか、簡単な分数の計算なんて余裕ですわ。ターンエンド」

「せやかて、工藤」

「誰が工藤や」

「いやついな、せやかてって言ったら反射でそう言ってまうねん」

 

 難儀なくせだこと。

 

「せやかて、授業はちゃんと聞かなあかんで? ターンエンド」

「実は寝ているところ先生に指されてノータイムで答えた時の先生の顔を見るのが最近の趣味です。ターンエンド」

 

 あれは楽しい。一回目は驚いたような顔。五回目くらいから悔しそうな顔するんだよなー。

 

「まったく。ええで、もっとやれ! ターンエンド」

 

 はやてからの許可も下りたし。ふふふ……

 

「ま、そこそこがんばりますよ。ターンエンド」

 

 って、あれ! いつの間にか場がひどいことになってる! おれの場にはリバースカードはなく、モンスターもいない。対してはやての場には青眼の究極竜(レプリカ)。そしておれのLPは残り200。どうしてこうなった。

 

「はっ! 決闘しながら考え事なんてしとるからやで。ハムテル君も一応魔導師なんやからマルチタスクくらい使いーな」

 

 なんだよマルチタスクって! おれそんなんしらねーよ!

 

「よーし! これで止めや! 青眼の究極竜でダイレクトアタック!」

 

 クッ、使いたくはなかったが最終手段を使うしかないか。

 

「ここでおれの効果発動! 一度だけおれのLPは決闘開始時と同じになる。」

 

 テテテテテテン↑

 

「マジもんのハムテル君の効果やな。でもな、甘いでハムテル!」

 

 ダニィ!

 

 テテテテテテン↓

 

「家主権限により私以外のおれルールは無効になる! よって青眼の究極竜の攻撃は有効や! 行け!青眼の究極竜! アルティメットバースト!」

「ギャー」

 

 テテテテテテテュン

 

「負けた」

 

 おれの方が歴は長いはずなのに……

 

「じゃ、私の勝ちってことやな」

「ふむ、やはり主の勝ちか」

「あったりまえよー! はやてが負ける訳ねーって!」

「あらあら」

「うむ」

 

 ちなみにこの決闘は賭け決闘だ。賭けるのはおれとはやてではない。ヴォルケンズがどちらが勝つかというのを賭けているのだ。だがヴォルケンズは全員はやてに賭けてしまい賭けが成立しなくなってしまったので、はやてが負けたらヴォルケンズがおれになにか、おれが負けたら景品はおれが用意する方向でまとまっていた。なじぇ?

 

「じゃ! よろしく頼むな!」

 

 今日一日は八神家のパシリとなりそうだ。あれ? いつも通りか。

 

 

 




みんなわしの小説つまらんじゃろ?それはみんながわしの小説に日常を感じておるからなんじゃよ(言い訳)


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料理とカレーと15話

いつまで続くことやら(やる気的な意味で)

##この話は修正されました##


 

 

 

 学校に行き出してから1ヶ月程経っただろうか。めでたくクラスのまとめ役として先生に抜擢され始めた今日この頃。やはりにじみ出る風格は隠せないか。

 

「臭そうやな」

「ホント、失礼しちゃう!」

 

 まったく。困ったもんだ。

 

「あのー、次はどうすればいいのでしょう?」

「そこまで行ったら暫く放っておくんや」

 

 今何をしているかというとはやて先生によるお料理教室が開催されているというわけだ。生徒はシャマルさん。おれは見学。何を作っているかというと、今日は最終試験の課題に出される予定のカレーを作っている。なぜカレーかというと、それだけで色々なものが摂取出来るからだそうだ。

 

「ふぅーやっと形になってきましたね!」

「せやな。ここまで来たらカレー粉入れてまたちょっとあっためるだけやからな」

 

 なぜこんなことをしているかというと、夏のシャマルさんの料理という名の劇物事件から反省したシャマルさんがはやてに師事したというわけだ。この教室、おれはパート1から見ていたのだが、本当にすごかった……

 

 

 

 

 

 

「まず米をとぐで」

「はーい」←洗剤を持ちながら

 

「次は塩を入れるんや」

「はーい」←小麦粉を持ちながら

 

「醤油をちょろっといれるんや」

「はーい」←ソースを持ちながら

 

「じゃあ、ちょっと炒めてみよか」

「はーい」←何故かワインを持ちながら

 

 

etc

 

etc

 

……

 

 

 

 

 

 

 米を洗剤で洗おうとするなんてラノベの中だけだと思ったんだが、そういうわけではないらしい。あとシャマルさん、うっかりってレベル超えてます。わざとやってます? 絶対わざとでしょ? そうに違いない。塩と砂糖を間違えるのはもはや鉄板だけど小麦粉って……しかもなんで普通に炒めるだけなのにワイン持ってるの? フランベでもするつもりだったの? そういえばその日の前日そんなテレビ見てましたね。

 

「これでシャマルも一人で料理できるやろ……暫く監視が必要やけどな」

「うっ……でもはやてちゃん、ありがとうございます」

 

 美しきかな師弟愛(?)

 

「ま、これでシャマルさんも料理の手伝いができるようになったらはやての負担もだいぶ減るな」

「まだ一人でさせるわけにはいかんけどな?」

 

 そんなことさせたらシグナムさんの胃がマッハ。

 

「ほんならそろそろカレー粉入れるで」

「はーい」←チョコレートの塊を持ちながら

 

 シャマルさんェ……ここまできてすべてを台無しにする気ですか……チョコレートは隠し味にちょっといれるものであってカレー粉の代わりに入れるものじゃないですから。色しかカレーっぽくなりませんから。

 

 

 

 

 

 

「今日はシャマル特製のカレーやでー」

 

 八神家のリビングに緊張が走る。シグナムさんめっちゃカレー睨んでるよ。おれとの初対面の時並に。

 

「今日も私が見とったから大丈夫やって」

 

 はやてがそういうと部屋を包んでいた緊張感が薄れる。シグナムさんは表面上は納得したつもりだがまだ心の奥底では少し疑っている気がする。主の言っていることだから信じなくてはいけないのに、どうしても信じることができないジレンマと言ったところか。

 

「ほな、頂こか」

 

 いただきまーす

 

 八神家に日本における食前のあいさつが響き渡る。

 この時のカレーはヴィータにキロウマ認定されまし。

 

 

 




次は10月のお話。リリなのに詳し過ぎる諸兄なら何が発覚して、何が起こり始めるかわかるね?

追記
シャマルさんが入れようとしたものをブイヨンキューブからチョコレートに変更。ブイヨンキューブなら、普通に食える気がしたから…


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検診と真実と16話

ここからが本当の魔法少女

##この話は修正されました##


 

 

 

 10月に入り、日に日に涼しくなってきた。そんな日に八神家全員ではやての定期検診のために病院に訪れている。はやては検査室に入るがおれ達は外で待っている。すると、しばらくしたら何故か石田先生だけ出てきた。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 石田先生は「今だから言うわ」と言って話し始めた。

 

 

 

 

 

 

「治らない? 本当にですか!」

 

 そう言ったのはシグナムさんだろうか。しかし、その言葉はここにいるみんなの気持ちを代弁したものといってもいいだろう。

 

「ええ、はやてちゃんの足の麻痺は原因不明。麻痺の原因もわからないから対処のしようもないの。残念ながら治療の方法は今のところわからないわ。」

 

 はやての足は治らない。常々なるべく考えないようにしていたことだが改めて聞かされると堪えるものがある。

 

「でもね、良くはなってないけど最近ははやてちゃんの麻痺の進行はほとんど止まってると言っていいわ」

「それはどういうことなんでしょう?」

 

 次に聞いたのはシャマルさんだ。ヴォルケンズの治癒担当の彼女なら石田先生から詳細を聞けば何か分かることがあるかもしれないな。

 

「ええ、本当に今だから言うのだけど……はやてちゃんの麻痺があのまま進行していたら麻痺が徐々に上っていって心臓にまで達していた可能性があったわ」

 

 !?

 

「それって……」

「もしかしたら死んでしまっていたかもしれない……というわけね」

 

 こういうのを衝撃の事実というのだろうか。

 

「で、でももう大丈夫なんですよね!?」

「はい。麻痺はあれ以降進行している様子もないようですし、最悪の事態はしばらくないでしょう」

 

 みんなが安堵のため息をつく。石田先生は「でも」っと続ける。

 

「まだ安心はできません。進行が止まった理由も原因不明ならまた原因不明の理由で麻痺の進行が再開される可能性もあります」

 

 確かにそうだ。結局なにがいけないのかもわからない現状で安心してしまうなんて愚の骨頂だろう。しかし、本当に原因はなんなのだろう?

 

「ちなみに、いつ頃から進行は止まっていたんですか?」

 

 今度はおれが気になっていたことを聞いてみる。

 

「そうね、あれは……うーん……今から半年くらい前かしらね?」

 

 半年くらい前? ていうと季節で言うと春。月的には4月か5月と言ったところか……一体なにがあったんだ? もしかしなくてもおれか? でもおれの力は俺だけにしか効かないんじゃ……あの時そんなことおれは指定してないし神(仮)も何も言ってなかったな。おれに近い人(動物)にも効果が発揮されるってか? じゃあやっぱりおれか? でも、もしそうならはやての足の麻痺そのものが治ってもいいような気がするんだがな。わからん。

 

「みんなお待たせや」

 

 はやてが検査室から出てきたところでこの話は終わりになった。

 

 

 

 

 

 

 

 今あたしたちははやてとマサキが寝たのを確認してからヴォルケンリッターだけで話し合いをしている。

 

 はやての足が治らないなんて……

 今日病院で聞いたことはあたし達のすごい衝撃を与えるのに十分な話だった。それに……

 

「くっ! 私たちが主を苦しめていたとは! 仮にも主の騎士だというのに!」

「ごめんなさい、私が気づいていれば……」

「いやシャマルを責めているわけではない。これは私の落ち度だ」

 

 そう。ここ(地球)の技術で原因不明のはやての足の麻痺―もちろん今でも原因の分かっていない病はたくさんあるだろうが―だが、あたし達は分かっちまったんだ。

 

「はやてちゃんのリンカーコアが異常に収縮していること。そして、はやてちゃんの魔力は絶えず闇の書に供給されていること……」

「私達の維持のために少なからず魔力を消費していることも無関係ではないだろう」

 

 はやて……ごめんよぉ……

 

「闇の書を完成させなければ闇の書自身が主に魔力蒐集を催促する……ということなのか?」

「わからないわ。今までの主は闇の書について知るとすぐに私たちに魔力蒐集を命じていたからこんなことは初めてで……」

「しかし、魔力の蒐集を催促させるために主を動けなくさせるようでは意味がないのでは?」

「ええ、本当は少し苦しい程度でしょうね。それに魔力の蒐集を行うのは私たち守護騎士だということもあるかもしれないけど、主を殺してしまったら意味がないわ。おそらくはやてちゃんのリンカーコアが成長途中、それも本当に幼い時から闇の書に蝕まれていたからこその異常なのかもしれないわ」

 

 だったら闇の書をさっさと完成させちまえばいいってことだな!

 

「ならさっさと完成させちまおうぜ!」

「まてヴィータ。魔力の蒐集を行うとなると最も効率がいいのは人から奪うことだ。しかし、そんなことをすれば管理局の目に留まるのは確実。少し作戦を練る必要があるだろう。」

 

 そんなこと言ってる時間はないだろうに!

 

「666ページもあるんだ。幸い主の麻痺の進行はとま……ん?」

 

 ん? シグナムはペラペラとめくっていた闇の書のページをめくるのを突然やめ、話すのもやめてしまった。

 

「なっ! これはいったいどういうことだ!」

 

 な、なんだってんだよ、突然。それにそんな大声出したらはやてたちが起きちまうよ。

 

「シー! 静かにシグナム!」

「そんなことを言っている場合ではない! これを見ろ!」

 

 そういってシグナムは闇の書のあるページをあたしたちに見えるように向けてくる。ほんと、なんだって言うんだ……てっ!

 

「闇の書のページが埋まってやがる!」

「ホント! でも、なんで……誰かが勝手に蒐集していたの?」

 

 シャマルの言葉に一同が首を横に振る。

 

「では、一体何が理由なんだ」

 

 シグナムがそう言うと一同は考え込む。

 

「今までにこんなことはなかった?」

 

 シャマルが言う。

 

「ではいままでと何か違うことがあるのか?」

 

 シグナムが言う。

 

「でもそんなことあるか?」

 

 あたしが言う。そして……

 

「……あいつだな」

 

 ザフィーラが言う。

 

 あいつかー!!!!

 

 

 

 

 

 その時、ヴォルケンリッターの心は一つになった。今までの主は闇の書の力を手に入れるとどこぞの王の力のように孤独になっていった。強すぎる力は頼りにされるが、同時に恐れられもする。

 そして、今回の主はヴォルケンリッターに魔力の蒐集を命じることもなく、人柄も変わることもなかった。その主に守護騎士達が暮らし始める前から一緒に暮らしており、守護騎士達が現れてからも一緒に暮らして主といつも一緒にいる人物。今までとの相違点。

 

 坂上公輝

 

 

 




王の力は人を孤独にする・・・○
神(仮)の力は人を健康にする・・・○


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拉致と考察と17話

能力の拡大解釈が憲法の解釈改憲くらい無理が(ry

##この話は修正されました##


 

 

 

 石田先生からの衝撃の事実の暴露の次の日。だいぶ慣れてきた小学生生活をこなして家の前に到着したとき。おれは拉致された。ヴォルケンズに。

 

「な、なになになに!? なにごとですか!? まさかおれに乱暴する気だな! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

「ば、ばかやろう! こんなところでなんてこと言いやがる!」

 

 そりゃ、いきなりぬっと出てきたヴォルケンズに両腕をつかまれて連行される宇宙人みたいにされたら誰だって叫ぶわ。怖いし。

 

「いいからちょっと来い!」

 

 人目のつかないところに連れてエロ同人みたいに! のヨカーン。恨まれるようなことしたかな?

 

 

 

 

 

 

 

 ヴォルケンズに連れられて家の近くの公園につれて行かれた。どうやらはやてに聞かれたくない話があるらしい。

 

「で? こんなことまでしてまでおれに聞きたいこととは?」

「そのことなのだが、まずは主の足のことについて我々なりに心当たりがあるのだ」

 

 ザフィーラさんがそう言うと、ヴォルケンズははやての現状について話してくれた。

 つまり、闇の書を完成させればはやての足が治る可能性があるってことか。でも魔力の蒐集か……

 

「それはやてが許さないんじゃないか?」

「そうだ。それで坂上に今こうして話している。」

 

 どういうことだってばよ。

 

「こいつをどう思う」

 

 すごく、大きいですって何言わせやがるヴィータ。ヴィータが見せてきたのははやての九歳の誕生日の時からよく見ることになった闇の書だ。……おや? たしか闇の書は中は白紙だった気がするのだが、今は文字が埋まっているように見える。

 

「おう、で? それが?」

 

 結局何が言いたいのかわからん。

 

「ちょっとこれを持ってみてくれ」

「お、おう」

 

 シグナムさんに言われるがままに闇の書を持ってみる。おやぁ? 闇の書にゆっくりだが一文字ずつ文字が書き足されていく様が確認できる。

 

「おおお! やっぱりこいつが犯人だったか!」

 

 犯人って……ひどい言い方である。それに話が全く見えん。

 

「これは……不思議なこともあるものだ」

「いったいどういう仕組みなのかしら?」

「うむー」

 

 ヴォルケンズは何か納得しているようだが、おれが納得していないんですが。

 

「で! 結局どういうことなんだ?」

「うむ、そうだな。簡潔に言う。どうやら貴様の近くに闇の書があると闇の書は魔力を蒐集するのと同じ効果が得られるらしい」

「え、まじで?」

「おおまじだ」

 

 それすごくね?

 

「今闇の書には約300ページ分の魔力が貯まっている。これは全体の約半分の蒐集が完了していることと同義だ」

 

 そんなに? もしかして闇の書がおれにひっついてる間ずっと魔力を貯めてたってことか。

 

「そこでだ、私達も交代で他の次元世界に行き魔力を蒐集して来る。私達が魔力蒐集をしていないときはできるだけ闇の書を身につけておくようにしてほしい」

「まあ、それはいいけど。ほぼいつも通りだし。でも学校がある日中は少し厳しいかもな」

 

 闇の書はおれが家にいるときはいつも一緒にいると言ってもいいし。

 

「むう、そうだな。今まで並みの魔力の貯まり方は期待できないか」

 

 そうだな。それなら、おれももうちょっと協力するか。

 

「なら、おれもヴォルケンズたちの蒐集に連れてってくれよ」

「はぁ? お前みたいな足手まとい連れてけるわけないだろ?」

 

 なんかヴィータに言外にあんたばかぁ? って言われた気がする。

 

「危険なのはわかってるって。でもおれは怪我したって大丈夫だ」

「なんでそんなこと言えるんだ?」

「ふっふっふーおれの特殊能力を忘れたか?」

「あれか? 体調が維持されるってやつだろ?でもそれって精々病気にならない程度なんじゃねーの?」

 

 って、思うじゃん? おれもそれを思って希望したもん。しかし、約一カ月、小学生として生活してきてわかったことがある。小学生、というか子どもっていうのはしょっちゅう生傷を作ってくるものである。おれもなんだかんだで彼らに付き合っていると擦り傷をこしらえることがよくある。その時に気がついたのだよ。おれの傷がビデオの早回しみたいにして治っていくのが。おれの能力の本質は維持だからパッっと傷を治すのは無理だ。しかし、おれが求めたのは現状の維持ではなく健康の維持。そして、前も言ったが健康とは人によって認識が違う。すると、怪我をしたということはおれの健康という認識からズレが生じるため、そのズレを修復するためおれの特殊能力が発動すると言うわけ……だと思う。そして、本質が維持であるためウルトラキノコ的な回復ではなく、強いて言うならジワジワウルトラキノコと言ったところであろうか。

あとおまけとしておれの近くにいる人にもその恩恵が得られるということ。

 

「だからちょっとの怪我くらい気にしなくても大丈夫だぁ」

 

 さすがに腹に大穴が開くとかなったらどうかは想像できんが。

 

「だから頼む! おれも連れてってくれ! 聞いた感じだと魔力を蒐集するためには相手を黙らせる必要があるんだろ? その間の時間は闇の書はフリーになるはずだ。その時もおれが闇の書を持っていたら効率がいいだろ?だから……」

 

 ヴォルケンズはその案を一考してくれているようだ。だめかな? だめだろうな。はやてと留守番かな?

 

「……わかった。いや、こちらこそ頼む。主を助けるのに協力してほしい」

「お願いします」

「頼む」

「た、頼むよ」

 

 そう言ってヴォルケンズは頭を下げてくる。

 

「そ、そんな、頭あげてください。おれだってはやてには返したい恩があるんですよ」

 

 そして、おれ達「はやての足を治し隊」が結成されたのだった。

 

 

 




大丈夫かな?一撃必殺を食らったら死ぬなこりゃ
対策は考える


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蒐集とはやてと18話

おお!初めて評価のポイントを入れてもらいました!私の拙作に9点の価値を見出していただきありがとう!ございます!

##この話は修正されました##


 

「闇の書! できるできるできる諦めるなよ! なんでそこで諦めるんだよ! おまえはやればできる子なんだ! いけるいけるいける!」

「……! ……!」

 

 

 

「よしよしよし! その調子だ!」

「……おまえは何をしているんだ」

 

 シグナムさんがおれに質問してくる。おれが何をしてるのかって? それはな……

 

「闇の書の上に乗れれば移動が楽じゃないか」

 

 今おれは闇の書の上に乗っている。おれが闇の書を初めて見たときの感想は「飛ぶ本とな? 乗りたい」だった。そして今その計画を実行しているというわけだ。

 

「いいじゃないか。どうせこいつとはずっと一緒にいる必要があるんだ。上に乗ってれば移動も楽だし一石二鳥じゃん?」

「まったく、おまえは」

 

 どうやらシグナムさんは納得(呆れ)してくれたようだ。よいよい。ん? おお!

 

「闇の書ー! おまえやっぱできる子だな!」

「……!」

 

 おれは本の上に乗ってふわふわ浮いている状態だ。そしておれが示した方向に進んでくれる大変便利な乗り物と化した。これはいい!

 

「まあ良い。では行くぞ」

「はぐれないように?」

 

 ハーイ。

 

 さて今おれ、シグナムさん、シャマルさんがどこにいるかというと、地球ではありません。ではどこか? 他の次元世界です。まさか海外旅行すらしたことがないおれが次元世界旅行を先にすることになるとは思いもよらなかった。ここは管理外世界というやつで、魔法文化のない世界に分類される世界だそうだ。ちなみに、地球も管理外世界らしい。では、何故こんなところにいるのか? 目的はもちろん観光などではない。闇の書を完成させるために魔力を蒐集することが目的だ。ちなみに、今地球の時間は真夜中(ここでは日中)であるため、もちろんはやてにはこのことは内緒で来ている。おれは一睡もせずに行動可能なため大丈夫だがヴォルケンズは疲労がたまってしまうので、夜中の蒐集はローテーションで来ている。

 

「そういえば、魔力ってどうやって蒐集するんだ?」

 

 魔力は蒐集するもの。蒐集するためには相手を黙らせる必要があるというのはわかるのだが、具体的に誰(何)から取るのだろうか? ていうか誰(何)を黙らせるんだ? ……って黙らせるって今思うと物騒だな。

 

「ああ、そのことだが」

 

 答えてくれたのはシグナムさんだ。

 

「本来は魔力を持った人、つまり魔導師から蒐集するのが効率的なのだが……それをしてしまうと管理局に気付かれる可能性が高くなる。ただでさえ闇の書というのは奴らにとっては放っておけないものらしいからな」

 

 そうなんだ、初耳ですわ。そんなにやばいのか?

 

「人から魔力を蒐集している時点で被害が出るからな。まあ、今回はそれはいい。もし、主の麻痺の進行が止まっておらず、さらに闇の書のページを一から蒐集するのであれば我らは魔導師からも蒐集していただろうが今回はお前のおかげで余裕があるからな」

 

 シ、シグナムさんがおれに感謝している……だと……!? おれそんなにすごいことしてたんだな……

 

「それでだ、今回は原生生物から魔力を蒐集する」

「原生生物とは?」

「原生生物っていうのは、文字通りその世界にもともと住んでいる生物のこと。魔力を持っている生物からなら同じ様に魔力の蒐集は可能よ」

 

 今度はシャマルさんが話し出す。

 

「そして大抵の原生生物は駆除指定されているから、それこそ生態系を崩さないくらいなら大丈夫のはずよ」

 

 ああ、スズメバチ的な感じか。確かにそんなのなら駆逐してしまっても構わん訳だな。駆逐してやる!

 

「じゃあ早速探しに行くのか?」

「ああ、このあたりに魔力の反応はないからな」

 

 そういって二人は先に行ってしまう。……おれは? 本当はおれのこと心配してないでしょ? まあ良いけどさ。そういっておれは闇の書で進むことにする。

 

 さて、言っていなかったがこの世界を一言で表すなら湿地だ。おれの後ろには草がたくさん生えている水たまりがあり、周りもじめっとしている感じだ。え? なんでこんなことを行き成り説明したかって?それは……

 

「ぎゃー! 水たまりからでっかいミミズがあああぁぁぁーーーー!」

 

 まったく警戒していなかったところに体をミミズにぐるぐる巻きにされる。そして巨大ミミズはおれに顔(?)を近付けてきた。

 

「ぎゃー! くーわーれーるー!!!」

 

 そんな声を聞き二人は急いで戻ってきているのが見える。ってどんだけ進んでんだよ!

 

「ああああああーーー!」

 

 

 

 

 

 

「あああああぁぁぁぁ気持ちいいいぃぃぃこの触り心地きもちいいいぃぃぃ」

 

 さすがにあの巨体で巻きつかれた時は怖かったが、あの後何かされる訳でもなく何かを察したのかは分からないが控え目におれに顔を近づけてきた。

 

「この感触たまらんわ~」

「……」

「……」

 

 何か言おうとしてるのはわかるが何も言ってこない。でも、二人がめっちゃ引いてることは纏っている雰囲気だけでわかるぞ!

 

「さあ! おれがこいつを黙らせてるうちに蒐集するんだ!」

 

 忘れてたが魔力の蒐集をしに来たんだった。

 

「お、おう」

「わ、わかったわ。でも今やっちゃって大丈夫? このまま蒐集するとその子が暴れて公輝くんが大変なことになるんじゃ?」

 

「え? そういうもんなん? おう、おまえ。ちょっとだけだからな? 痛くない痛くない。痛いのは最初だけだから。大丈夫、(リンカーコアの)先っぽだけだからちょっと魔力ちょうだい」

 

 説得を試みる。

 

「……? ……!」

 

 あ、なんかよさげだ。

 

「どうぞーシャマルさん!」

「わ、わかりました……蒐集!」

 

 

 

 

 

 

「やはり原生生物からだとこんなもんか」

「まあしょうがないんじゃないかしら? 気長にやりましょう」

 

 シグナムさんとシャマルさんが蒐集した魔力量について話しているようだ。おれはその話の輪に入らない。

 

「おーよしよし。よく頑張ったな。ありがとな! またお前の体プニプニさせてくれ!」

「……!」

 

 あいつは出てきたところに戻っていった。シャマルさんによると、魔力蒐集後はしばらく動けないらしいがおれがいるおかげであいつも健康を維持されるため、アフターサービスもばっちりだ。

 

「ふう、なかなかいい奴だったな」

「もうこいつだけでいいんじゃないか?」

「わたしもそう思う」

 

 どうやらおれは犬猫闇の書以外にも動物に好かれるようだ。この調子ならすごくて、つよくて、かっこいい奴らとも仲良くなれる気がする!

 

 ドラゴンとか!

 

 その後同じような方法で魔力を蒐集していき、予定よりも早く今日のノルマは達成された。

 

 

 

 

 

 

 

 最近みんなの様子が何か変や。具体的に言うとみんなでいる時間が減った気がすること。なんだか疲れている気がすること(約1名を除く)。そんで、何か私に隠し事をしている気がすることや。

 

「なんやろうなー」

「どうしました? はやてちゃん?」

 

 そんな特に意味もない一言に返してくれたんは私の家族であり、守護騎士のひとりシャマル。今やって私と一緒にいるんはシャマルだけや。

 

「なあなあ、やっぱ私に何か隠し事しとるんちゃうか?」

「え? そんなことありませんよ」

 

 これや。私が直接聞いても「何でもない」の一点張り。これでも人を見る目っちゅうもんには結構自信があるつもりや。せやからハムテル君と一緒に住んどるんやからな。せやったら私がこれまで聞いて、見て、感じた事から推測するしかないっちゅう訳や! 名探偵はやてのはじまりやな!

 さて、まずはみんなにさっきの質問をした時の反応を思い出すことから始めよか。

 

 シグナムの場合

 

「主に隠し事など、するはずがありません」

 

 とのこと。ホンマのこと言ってるように見えるけど私の目は誤魔化せへん。あの顔はなんや後ろめたいことがある顔や。でも具体的なことはわからへん。

 

 シャマルの場合

 

「そんなことありませんよー」

 

 とのこと。どうもシャマルの言うことを聞くだけやとホンマに何もあらへんようにかんじるわ。あなどれへんで。

 

 ザフィーラの場合

 

「主、私がそのようなことをすると?」

 

 とのこと。フォルムワンコのザフィーラからは表情の判断ができへんかったし、話を聞くだけやとなにも怪しいことはあらへんかった。せやかて、工藤……おっと、せやかて、ザフィーラのあの言い方は私の経験(推理小説)によると相手に質問を返すことで自分の疑惑を相手自身でなくさせる高等技術の可能性があるわ。まだわからへん。

 

 ヴィータの場合

 

「そそそそ、そんなことある訳、ある訳ねーって」

 

 とのこと。怪しい。怪しすぎる。少なくともなんや関与しとることは間違いないやろう。

 

ハムテル君の場合

 

「ソンナワケナイダロ。マッタクハヤテハヘンナコトヲイウナー」

 

 とのこと。真黒すぎてなんも言えへんわ。

 

 以上のことから私が考えるに、当事者はヴィータとハムテル君。他の騎士たちは何らかの理由でそのことを知った。しかし、私にだけはどうしても言うことができへん。そこから導かれた私の推理は……

 

 ヴィータとハムテル君が付き合うとる!

 

 まず当事者がヴィータとハムテル君。つまり男と女という点。もちろんこれだけではそんな結論にいたるには無理がある。そこで、カギとなるのはヴィータ以外の騎士たちの反応や。それは私には言えへんということ。もしあの二人がなにか悪いことしたんならシグナムあたりが私に報告してくるやろう。でもそれがなかった。それは私の騎士という立場と居候という立場。うん、言えへんやろうな。いや、たぶんずっと言わへんということはないやろうけど、今は二人の様子を見て色々と考えとる時期なんやろう。なら、二人が健全な付き合いをするために私は生温かい目で二人が話してくれるその日が来ることを待つとしよか。

 

 

 

 

 

 

 最近、はやてがおれを見る目が変わった気がする。別に嫌な感情を向けられているわけでも、何かフラグが立った的な感じでもないようだ。

 

「……」

「……」

 

 どうやらおれだけではなくヴィータにも同じような視線が向けられているようだ。一体なんなんだろう……

 

 

<●><●>

 

 

 




何事も穏便に


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クロノと闇の書と19話


##この話は修正されました##


 

 

 

 時空管理局巡航L級8番艦アースラと呼ばれる艦に乗る時空管理局執務官クロノ・ハラオウンは考えていた。

 

 

 

 

 

 

 最近本局からおかしな情報が上がってきている。様々な管理外世界で原生生物が異様に活発になっているということ。今までそのような兆候は見られなかったのだが、しばらく前から見られるようになったらしい。一つの世界で起こっていることなら偶然の一言で片付けられてしまっただろうが、同様のことが様々な世界で起こっているというから何かが起こっていることは間違いが無いだろう。

 

「クロノくんはこの件どう思う?」

「ああ、それは僕も考えていたんだ」

 

 僕の同僚であり、アースラ通信主任兼執務官補佐のエイミィ・リミエッタがそう言ってくる。

 

「やっぱりなにかの間違いじゃない?」

「いや、これだけ様々な次元世界で同様なことが起こっているということを考えると偶然という言葉で片付けてしまうのはまずいだろう。誰かが何らかの思惑をもって行動を起こしていると考えたほうが合点がいくよ」

 

 さて、ここで何故管理局が管理外世界のことに首を突っ込み始めたかの説明をしよう。事の発端はある救難信号だった。その救難信号はある管理外世界から発せられたものであった。そして、それを発したものは違法物の運び屋である。管理外世界ということで管理局の目の届きにくい場所というのは同時に犯罪者にとっても格好の隠れ場所ということである。

 

「でもなーその現象が起こってる世界にこれといった共通点があるわけでもないしなー」

「そうなんだよ。強いて言う共通点だって原生生物の活発化くらいだ」

 

 それで、その犯罪者はいつものように隠れ家にいたところその世界の原生生物が多数で襲ってきたらしい。1匹程度なら逃げることも可能だったのだろうが数が多過ぎてそれもできなかったらしい。

 

「それにしてもよくあれだけの原生生物に囲まれて生きてたもんだよね」

「それも不思議なんだよ」

 

 多数の原生生物に囲まれた犯罪者は死を覚悟するが原生生物は一向に危害を加えようとはしなかったらしい。しかし、逃げようとするとどこまでも追ってきたという。その謎の緊張感から脱するために仲間に救援を求めるも助けは誰も来てもらえず、普段ならありえないが全方位に(管理局にももちろん届く)念話の救援信号を出したらしい。

 

「うーん……わからん!」

「まあ、そうかっかすることもないだろう。まだ可能性があるかもしれないって程度なんだから。僕たちにできることは近隣の世界の異変に出来るだけ気を向けることくらいだよ」

 

 これ以来管理外世界からのSOSはかなりの頻度で確認されるようになり、どこで起こるかもわからないので次元航行中の全艦には「出来るだけ気に留めておくように」という通信があったのだ。

 するとエイミィはパンっと手を打つ。

 

「ま! 考えたって仕方がないことはしょうがない!」

「全部が全部そういうわけにはいかないけどね」

 

 僕は苦笑いをすることしかできない。しかし、今の情報が少ない状況ではそれも仕方がないことだろう。

 

「そろそろフェイトちゃんはなのはちゃんに会えたかな?」

「そうだね、そろそろそのくらいの時間になるだろう」

 

 エイミィはこの話題はここまで、というように話題を転換する。

 フェイトとは少し前に起こった事件の重要参考人であったが情状酌量の余地が十分にありということで基本的に無罪となった少女である。また、なのはとはその事件に関わり事件の解決へと大きな役割を果たしたと言える少女であり、フェイトの友達である。

 

「なのははフェイトと合流したらアースラにも来るそうだよ」

「わーお! またなのはちゃんに会えるんだ! クロノくんも嬉しんでしょ? このこの!」

「なっ! そりゃ嬉しいけど、そういうのは全然ないからな!」

 

まったく、僕の相棒には困ったものだ。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりなの! クロノくん! エイミィさん! リンディさん!」

「久しぶりだな」

「久しぶり、なのはちゃん!」

「久しぶりですね、なのはさん」

 

 今ここには僕たちアースラ組となのは、フェイト、フェイトの使い魔のアルフ、ユーノが揃っている。ああ、リンディというのは僕の母で、ユーノはなのはに魔法を教えたスクライア一族の少年である。

 

「今日はフェイトと積もる話でもして、ここに来るのはまた今度でも良かったんだが」

 

 ぼくがそう言うと、

 

「会えるんだったらまた早くみんなに会いたかったの! それに、フェイトちゃんとはこれからもたくさんお話ができるしね」

「うん、なのは」

 

 なのははフェイトに向かってそう言っている。この子は相変わらずのようだ。

 

「それじゃ、再会を祝してお茶でも飲みましょうか?」

 

 母さんがそういう。本当ならこのあと久しぶりにあったなのはとお茶を楽しむところだったのだが、どうやらそういうわけには行かないようだった。

 けたたましくなるアラームがアースラ全体に何かあったことを知らせる。いち早く、アースラクルーとしての役目を果たすためにエイミィが自分の指定席に座り詳細を伝えてくる。

 

「近隣の管理外世界に魔力反応を確認! 場所は98管理外世界! 5名の無許可転移を確認!」

「行ってくれる、クロノ?」

「了解です艦長」

 

 僕はそう言ってバリアジャケットを展開する。

 

「あの……私も行っていいですか!」

 

 なのはが艦長に出撃の許可を貰おうとしているようだ。しかし、彼女は局員ではないためそんな義務もない。だというのになにかせずにはいられないらしい。僕は彼女には何を言ってもしょうがないことを前回の事件でなんとなく分かってしまっているがこれは言わなければならない。

 

「何があるか分からないし、君はここに残るべきだ」

「でも……」

 

 と、そこへ、

 

「私も出ます」

「そう、フェイトちゃんも行ってくれるのなら大丈夫よね?」

 

 母さんがそういうこともわかっていた。ハァ……

 

「……分かりました。それじゃ、行くぞみんな!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 出撃するみんなの返事が艦内に響く。

 

 

 

 

 

 現場に到着した。まだ奴らはなにかしているようではないが。無許可の長距離転移魔法の使用は違法だ。

 

「こちらは時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。おとなしくしてもらおう」

 

 その時僕は気づいた。今対面している奴らに見覚えがあるということを。バリアジャケットは以前と違うかも知れない。本の上に座っている少年はつばが大きい帽子を深くかぶっているため顔は確認できないが、おおよその見当はつく。

 そう。その少年が座っている本。闇の書と言われる魔道書。その本の主を守る守護騎士。闇の書。闇の書。……父さんが死んだ原因となった闇の書!

 

 

 

 




地球に1番近い管理外世界での出来事ということで


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遭遇と危機と20話

はやてとすずかを早くに会わせていたのはこのためだったのだ!(嘘)

##この話は修正されました##


 

 

「ほな行ってくるけどホンマに大丈夫やんな?」

「大丈夫だって、少なくともおれがいる限り八神家で飯テロ(ガチ)は起きないし、もーまんたい」

 

 今おれ達ははやてが図書館でできた友達の家にお泊まりに行くので見送りをしているところだ。

 

「じゃ、いってきまーす」

「いってらっしゃーい」

「楽しんできてくださいね」

 

 おれとシャマルさんがはやての乗った黒塗りの車が行くのを見送る。それにしてもはやての友達というのは何者なのだろうか。おれも会ったことはあるが普通の女の子であったが、迎えの車(おそらく高級車)と迎えに来た人(本人と執事らしき人)ですでに只者ではないことは明らかであろう。

 

「いっちゃいましたね」

「そうだな。はやてがいなくなると寂しくなっちゃうけど、これは絶好のチャンスだな」

「ええ、そうね」

 

 おれ達は10月のあの日からはやての目を盗んでちょくちょく魔力の収集に他の次元世界にまで行き続けている。ゆっくり、着実に、でもできるだけ早くやっていることもあってまだ完成はしていないが、もう少しで完成である。

 

「今日はこれから行くの?」

「そうね、今日はみんなも連れて一気にやっちゃいましょう!」

 

 家を空けてしまうとはやてから何らかの事情で電話などがあると面倒なことになると思ったが、どうやらシャマルさんははやてからの電話を謎の技術で念話として受け取り、会話できるそうなのでその点は安心だ。

 

「では行くか」

「……ああ」

「おっしゃあ!」

 

 家に入り、シグナムさん、ザフィーラさん、ヴィータを迎え今回の狩場へと向かう準備をする。あ、念のため麦わら帽子持っていかなくちゃ。何回か暑すぎる世界に連れて行かれ、バリアジャケットを展開できないおれは断熱機能のある服など着ているわけではないため、大変な思いをした。

 

「今回は98管理外世界で収集を行うわ」

「その理由は?」

「近いほうがさっと行ってさっと帰って来れるからよ。はやてちゃんに何かあった時のためにね。本当は私たちの誰かで護衛を付けるのがいいんだけど、向こうではやてちゃんの身に危険が迫る心配はあまりしなくて良さそうだったしね」

 

 はやてを迎えに来た人たちからそのことを判断したのだろう。ちなみに、今までは念には念を入れ地球から離れた世界で魔力の蒐集を行っていた。闇の書というのは存在自体が管理局に見つかることがまずいらしく、できるだけ地球と関連づけさせない為の処置だそうだ。

 

「よし、ならば今日で完成させる気で行こう」

 

 シグナムさんがそう言い、おれ達は転移魔法を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 転移が終了した。どうやらここは砂漠地帯のようだ。……あっつい! 暑い! 今地球は冬ということで長袖長ズボンのため本当に暑い。おれは上に着ているものを脱ぎ、半袖になり上着は腰に巻きつける。本来砂漠で肌を晒すという行為は駄目なのだが、紫外線なんておれには効かないので何の問題も無い。

 ふぅ、麦わら帽子最高。

 

「では、始めるぞ。シャマルとザフィーラは坂上に付いていてくれ」

「わかったわ」

「承知した」

 

 なんかみんなの発言の頭に一応が付きそうな雰囲気を感じ取ったぞ。まあいいけど。おれはいつもどおりに闇の書に乗り、移動の全てを委ねる。やっぱ楽だねこれ。……おっと風で帽子が飛ばされる。そう思っておれが帽子を深くかぶった時だった。

 

「こちらは時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。おとなしくしてもらおう」

 

 あっ……(察し)

 これまずいんじゃね?

 

(どどど、どうするん!?)

(落ち着け、まだ我々は何かやったわけではないからな)

(一応逃げる準備はしておくわ)

 

 おれの念話に答えてくれたシグナムさんとシャマルさん。

 

「いや、その前にこちらの質問に答えてもらおう。お前、それは闇の書だな?」

 

 ……? あ、おれに言ってんの? 先ほどクロノと名乗った少年がこちらに聞いてくる。ていうか、今気づいた。そのクロノくんの後ろに立っている少女が二人いる。白の少女と黒の少女のうち白の少女には大変見覚えがある。高町なのは。八神家行きつけの喫茶店翠屋の看板娘の一人である。彼女とヴォルケンズはたしか面識はなかったはずだが、おれは名前も覚えられているため非常に危険な状況である。その旨をシグナムさん達に話すと、どうやら逃げる方向で決まりそうだ。

 

「おい! 質問に答えろ!」

 

 おっと、そうだった衝撃的すぎてすっかり忘れていた。なのはさんがなんでこんなところにいるのかは置いといて、今はこっちのことを考えなければ。しかし、どういったものか……

 

「だったらどうした?」

 

 シグナムさんイケメンすぎて惚れるわ。そのことはバレたらまずいんじゃないのかよ。

 

「なら、それは管理局が責任を持って回収させてもらう!」

「そういうわけにはいかんのでな」

 

 そう言うと二人は臨戦態勢を取る。ちょちょちょ! なんでいきなりそうなるんだよ! まず話し合えよ! そんなパンチから始まる交渉術なんてお呼びじゃないから!

 

「まあ待ってよシグナムさん」

 

 おれはそう言ってシグナムさんを止める。シグナムさんは怪訝そうにこっちを見てくるが気にしない!

 

「僕たちは別に管理局に何か言われるようなことはしていないよ?」

 

 そうだ。おれ達は今なにかしていたわけではない。しかし、この気持ち、いつか味わったことあるな……ああ、18歳になったからエロ本を買うために棚を物色していたところ店員に呼び止められた時だ。懐かしい。

 

「管理外世界に無許可で転移した時点でそれは違法だ」

 

 あれー!? すでにアウトだったのか。なんか、身分証明証を店員に見せたら「あ、高校生の方はご遠慮願います」って言われた気分だ! もう何言ってんのかわかんねー!

 俺の頭は真っ白になっている。と、どうやらクロノくんの目標はシグナムさんからおれに移ったようだ。え、そんなもの向けられたら、冷や汗が止まらないです。

 

「お前が今代の闇の書の主だな? おとなしく投降してもらうぞ」

 

 え? おれが闇の書の主? バカいっちゃいけない、主ははやて……この状況を見たら闇の書の知識を持っている人ならそう判断するのか。その発想はなかった。だが、これは使える。これで闇の書の主がおれと認識されたならはやてが疑われるということは少なくなるだろう。

 めちゃくちゃ不服そうにしているシグナムさんに何も言わないように念話で伝える。

 

「ふふふ……だったらどうする?」

 

 できるだけ声を低めに出してなのはちゃんに悟られないようにしつつ、ジョジョ立ちならぬジョジョ座りをしてできるだけ大物感を出そうとする。こら! お前ら! 「誰だよ、お前」みたいな目でこっちを見るんじゃない!

 

「それなら、力尽くでもおとなしくしてもらう!」

 

 クロノくんがそういうのと同時に、おれが乗っている闇の書が後ろに移動する。あぶねーよ! 急に動いたら落ちるよ! と、そんなことを考えていたら目の前に光る紐のようなものが地面から生えていた。なにこれ?

 

「くっ、避けられたか」

 

 なんだかよくわからないが助かったらしい。それを合図とするようにシグナムさんとヴィータが相手のほうに突っ込んでいく。結局こうなるのね……

 クロノくんは相変わらずおれを睨みつけているため、シグナムさんの相手は黒い少女、ヴィータの相手は白い少女、つまりなのはさん、ザフィーラはオレンジの髪のお姉さんと戦うらしい。うわー、すげー、めっちゃ戦ってるわー。

 

「くっ!、当たらない」

 

 どうやら、クロノくんはおれに向かってさっきの紐のようなものを当てようとしているらしいが闇の書が全て避けてくれる。闇の書の上のおれはヴィータとシグナムさんの戦いに魅了されており全然気にしていなかった。!? シグナムさんが質量のある残像みたいになってる!?

 

「大人しくしないのなら仕方がない、強行手段で行かせてもらう!」

「させません!」

 

 クロノくんは今度は光球を飛ばしてくる。ああ、あれは以前の魔法教室で習った魔力弾というやつだな。あれ? なら今って警察に発砲されてる感じか。おれ達かなりやばくね? おれに撃たれた魔力弾を見て隣に立っていたシャマルさんが防ぐ。

 

(みんな! 転移の準備できました! いつでも行けますよ!)

 

 シャマルさんの声が念話で聞こえてきた。どうやら逃げる算段が立ったらしい。シグナムさんもヴィータも相手を圧倒しているようで、怪我もしていないようだし、相手に大きな怪我もさせていないようだ。

 

(了解)

(わかった)

(うむ)

  

 現在戦っているヴォルケンズ達からの返答を聞き、全員が集まる。

 

「転移!!」

 

 あらかじめ準備していた術式を起動させすぐに転移を行う。

 

「待て!」

 

 サラダバー

 

 心の中でそう言いながら、おれ達はまんまと管理局から逃げ切った。

 

 

 

 

 

「痛い痛い! 痛い!」

 

 おれは今ヴォルケンズ、主にシグナムさんとヴィータに叩かれまくっている。

 

「我々の主は主はやてだけだぞ。お前は何を言っている」

「そうだそうだ」

 

 どうやら根に持っていた(?)らしい。

 

 その後、おれの考えを話してとりあえず落ち着いてもらったのはこれから30分後。

 

 

 

 




ふぅ…


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願いとコスプレと21話

間違えて消してしまいましたああああああああああ

紛らわしいことしてごめんなさああああああああい!!!

##この話は修正されました##


 

 

 前回、はやてが家にいないということで「せっかくだからみんなで行こず」とか適当なこと言って大変な目にあった。これからは少し自粛しようと思います。結局あの後何事もなく逃げ帰って来て、シグナムさんとヴィータに「ばーかばーか」と言われながら寝ました。非常に遺憾である。翌日には何も知らないはやてがツヤツヤして帰ってきたんだが、いったい何があったんでしょうね? まあそれはいいんだ。

 

「はやて……俺は君を見たときから言いたかったことがあるんだ」

「ハムテル君……」

 

 おれは今まで心の中に思いながら今まで言うことができなかったことを言おうとしている。

 

「あのな、はやて……」

「うん」

 

 はやては一体どうしたのだろうか? といった感じでこちらを見ている。また、周りからシグナムさんとヴィータの何故か鋭い視線とシャマルさんの何故か微笑ましそうな視線がこちらを貫いてくる。

 

「はやて……」

「ええからはよ言いや」

 

 うっ、どうやらいらいらさせてしまっているようだ。しかし、今から言うのは少々、というかかなり恥ずかしい。だけど言う! おれは言う!

 

「はやて! これを着てください!」

 

 おれは後ろに隠していた灰色の箱を開けてはやてに渡す。

 

「……はぁ?」

 

 どうやらはやてはどういうことなのか理解が追い付いていないらしい。そこでおれは箱の中のものを出して改めて言う。

 

「こいつを着てくれ! 頼む! マジでお願いします!」

「なんかこいつ今までで一番一生懸命じゃないか?」

「うむ」

 

 ヴィータとシグナムさんがなんか言ってるが、おれは気にしない。腰を90度に折りさらにお願いする。

 

「なんや、そんなことならまあええけど、急にどないしたんや?」

「実ははやてに初めて会った時からこのことを考えていたんだが、今まで恥ずかしくて言えなかったのと、ついこの間すべての準備が整ったので言ってみました」

 

 そう、おれが渡したのは艦これに出てくるキャラクターの1人。駆逐艦陽炎型三番艦黒潮のコスプレだ。依然言ったように俺の特技の一つ裁縫でコスチュームを自作した。近所のおばさんに「裁縫が趣味なんです」って言ったら「あら~あらあら」って言いながらたくさんの生地をくれたので余裕で作ることができた。ぬいぬい言いながら黒潮のコスを作っていたのですごい違和感を感じたのは関係のない話。また、艤装に関しては学校の工作の時間の自由課題として作っていたものだ。素材はダンボールと画用紙。個人的にはなかなか上手く作ることができたと自負している。先生はちょっと引いていたが。

 

「うわ、この主砲? すっごい出来だな。遠くから見たら金属みたいに光りやがる」

 

 ヴィータとシグナムさんはさっきの鋭い視線から呆れる視線へと攻撃を変え、シャマルさんは「わーかわいい~」なんて言いながらコスをまじまじと見ている。

 

「まあええわ。ハムテル君が着てほしいって言うんなら私がひと肌脱いだるわ! 文字通りな!」

 

 お、おう、ありがとうはやて。だけど、唐突すぎて何も言えなかったぜ……

 

「ほんなら、着たるからちょっと待っとってや」

 

 ヤッターキターキター

 ずっと見てみたかったんだ!

 

 え? なんであんなにこのことを言うのを渋ったのかって? じゃあお前やってみろよ!! 女の子に「コスプレしてください!」って、言ってみろよ! めっちゃ恥ずかしいわ!

 

「あ、主……本当に着るのですか?(ボソッ」

「まあ、ええやん、この服結構かわええし」

 

 ん? シグナムさんがはやての方に近づいて何かしているぞ? そうか、わかったぞ! シグナムさんも興味あるんだな!

 

「シグナムさんの分もありますんでどうぞ」

「なっ!?」

 

 シグナムさんに黒い箱を渡す。

 

「あ、二人にもありますんで」

「なっ!? べ、べべ別にあたしは何も言ってねーぞ!」

「あら、うれしいわ」

 

 ヴィータには白い箱、シャマルさんには黄色い箱を渡す。

 

「じゃ、おれは出てますんで!」

「お、おい!」

 

シグナムさんが何か言ってる。まあいいか。

 

 

 

 

 

 

「それでは第2回八神家ファッションショーコスプレ編をはじめまーす」

「おー」

 

 ザフィーラさんの興味なさそうな掛け声が続く。ちなみに第1回は騎士甲冑編。あの時のは司会はおれとはやてだったが今回ははやても参加者側で、ザフィーラさんは見る側なのでザフィーラさんに手伝ってもらう。

 

「では1番のシグナムさんどうぞー」

「くっ、なぜ私のものだけこんなに露出が多いんだ!」

 

 シグナムさんは上はビキニのような感じで下は超ショートスカート。手には手甲、頭には2本の角のようなヘッドドレス。そして、一際目が行くのはその超弩級の艤装。

 

 シグナムさん(長門ver.)

 

「シグナムさんのキリッとした印象にその綺麗なロングヘアは長門の印象と400%的に一致。釣り目なところもそっくりで髪が黒なら本当に2次元の世界から出て来たようですな。ふつくしい……」

「そうだな」

「ふんっ」

 

 殴られた。なして? そして、ザフィーラさんよ、もっと何かありませんか? ……ありませんか。

 

「では2番3番は二人でどうぞ、ヴィータとシャマルさん」

「な、なんだよこれ……下タイツだけって」

「これって巫女服ってやつかしら? いいわね~」

 

 出て来た二人はヴィータとシャマルさん。ヴィータは白いセーラー服と言葉通り下はタイツだけ。手には魚雷発射管とロッド。頭のパーツはカチューシャからの伸ばした棒で支えるように作っていたのだが、どうやら魔法で浮かしているようだ。イヤーホントマホウッテベンリダナー。

 

 ヴィータ(叢雲ver.)

 

 シャマルさんのほうは改造巫女服のようなもの、下は緑のチェックのスカートでブーツを履いている。ブーツはどうやったのかって? ダンボールは万能だな。

 

 シャマルさん(比叡ver.)

 

「まずはヴィータ。ヴィータを誰にしようか一番迷ったが、そのツンデレな性格から結び付けていったが、髪をほどいてまっすぐにしたヴィータはいつもと少し違ったイメージでとてもいいですな」

「うむ」

「だ、誰がツンデレだっ!!」

 

 殴られた。なして?

 

「で、シャマルさんも結構誰にするか迷ったんだが髪の長さがだいたい同じくらいということで決めてみた。本来はスポーティーな感じの比叡だが、シャマルさんが演じることでおっとり系のイメージはとてもいいですな」

「せやな」

「あらあら、ありがとう」

 

 ザーフィーラーさーん。適当すぎて適当になってるよ。ただ、シャマルさんを比叡にした一番の理由はあえてここでは語るまい。

 

「では最後のはやて」

「黒潮や、よろしゅうな!」

 

 お、おおー! このためにいままで一生懸命準備して、恥ずかしい思いしてやったんだよな!

 はやては灰色をメインとした生服で、下はスカートでその下にはスパッツを履いている。おでこを見えるようにして髪を分け、いつもつけている髪留めのバッテンの方を外している。手には白い手袋、主砲を手で持っている。

 

 はやて(黒潮ver.)

 

「うんうん、やっぱり思った通りはやては黒潮にびっくりするほどそっくりだな。そっくりな故にシグナムさん以上に2次元の世界から飛び出して来たのではないか言わざるを得ない完成度、秋葉に行ったら有名人になること間違いなし! とってもかわいいと思います」

「うむ、さすが主だ」

「いやーなんや照れるなー」

 

 ザフィーラさんが初めてまともに評価したぞ。何よりはやてと黒潮の共通点、外見的共通点もそうだが、二人とも関西弁を操るということだ!これはもう神がいたずらをしたとしか思えないほどのシンクロ率だと思う。800%くらいかな。

 

「みんなそろったな。いやー我ながらすごい達成感だ」

「くっ、こんな破廉恥な……」

 

 胸を抱くようにするシグナムさん。それ余計エロいわ……

 

「いけー!!」

「撃てー!!」

 

 ちょっ、ヴィータ、頭のそれはファンネルじゃねーよ! そうやって使うものじゃ(たぶん)ないから! ……うわ! シャマルさんの主砲からあかるい緑色のビームがっ! あ、壁に当たったら消えた。いったい魔法ってなんなんだうごご。

 

「ほんならせっかくやからこれでみんなで写真と撮ろか?」

 

 はやてがカメラをもち言ってきた。シャマルさんがカメラをセルフタイマーにセットして置く。

 

「はいちーず」

 

 それは誰が言ったか、はたまたみんなで言ったのか。また楽しい記憶が1ページ増えた。

 ちなみに、おれは提督コス、ザフィーラさんは犬フォルムで提督の帽子をかぶせておきました。

 

 

 

 

 

 

「なあハムテル君」

 

 コスプレ大会の夜、テレビを見ていたおれにはやてが話しかけてくる。

 

「私たちは家族なんやから今日みたいなことはもっと気軽にお願いしてもええんやで? あれ、言うのが恥ずかしかったんやろ? まるで告白する少年みたいやったがな。」

 

 はやてはからから笑いながら言う。

 

「あ、でもお願い言うてもイケナイことは、あかんで?」

 

 そうやって言ってきたはやてを見ると、とても心が温かくなるような気がした。家族か……おれはまだ心のどこかで彼女たちを他人とは言わないが人間関係の一番近しいポジションにいると捉えていなかったのかもしれない。今はこんな姿だが、おれだって恋をしたことがある。その人と一緒にいれたらどれだけ素晴らしいだろうと考えたことがある。でも、今感じるこの心の温かさはそんなものではなく以前、家族と一緒にいた時に感じていてその時は気が付かなかったものだと思う。今にしてようやく気が付いた。

 

 こんなくだらないコスプレ大会だったけど、おれにとっては大切なことに気が付く大切な時間だった。

 

 

 



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ラジオ体操と鬼ごっこと22話

やったー受かったよー。

おみくじ引いたら受かったよー!

##この話は修正されました##


 

 何もしなかったり、何もしなかったりしていたらいつの間にか11月は去り12月がやって来た。現在時刻は朝6時。普段の俺ならこの時間は目覚ましをかけていて一度は起きるが、何事もなかったかのように2度寝をしていたことだろう。ではなぜおれはこんな朝早くに起きて外に出ているのかというと、

 

「あー寒いなーめっちゃ寒いわ―。それに眠いし、めっちゃねみー」

「あーもう! うっせーな! 黙ってついて来いよ! まったく、ハヤテに言われなけりゃこいつとラジオ体操なんて行かねーのに……」

 

 おれとヴィータは近くのじいちゃんばあちゃんが集まってやっているラジオ体操に参加しようと最寄りの公園に向かっている。

 

「大体なんで冬にラジオ体操なんだよ、普通夏だろ?」

「そんなことアタシに言われてもな。じいちゃん達すげー元気だからな」

「ああ、元気なのはいいことだな」

 

 ヴィータは仲良くしてもらっているじいちゃん達に朝のラジオ体操に誘われて今日から参加することになっていた。そこに何故おれまで参加することになったかというと

 

「ん? ヴィータ明日からラジオ体操行くんか? なら、ハムテル君も連れてってや! そしたらハムテルくんも少しは朝が得意になるやろ」

 

 という、家長の指令なのである。非常に面倒であるが八神家において家長であるはやての言葉絶対である。

 

「まあ学校の体育以外に運動するのも偶にはいいかもな」

「そうそう、マサキはもっと運動して筋肉つけるべきだな」

「筋肉ねー。そうだな、腹をうっすらと6分割するくらいには体締めたいな」

 

 割れた腹筋っていうのは男にとって憧れだよね。前世では太ってこそいなかったが目に見えて筋肉あるって程でもなかったから今回はちょっとは頑張ってみたいね。

 

「ならザフィーラに弟子入りしろよ」

「ザ、ザフィーラさんに弟子入り?」

 

 ザフィーラさんに教えを請うたらそりゃ腹くらい割れるだろうな。加えて腕、足ともにムキムキに太くなり高校に入学すればラグビー部の勧誘に引っ張りだこになるだろう。

 

「……ちょっとそこまではいらないかな」

「ならシグナムに頼んでみるか?」

 

 想像してみた。ボコボコにされる未来しか見えない。

 

「ボコボコは勘弁してほしいです」

「なんだよ、注文の多い奴だな。どこのレストランだよ」

「食われるのはおれなのにな」

 

 どうやらおれの肉体プチ改造計画は構想の時点で上手くいかないようだ。ふん! おれのことは軟弱者でもなんとでも言ってやがれ!

 

「シャマルはこういうのはちょっと違うしな。ならアタシがマサキの訓練見てやろうか?」

「え? ヴィータが? うーん」

「な、なんだよ! なんか文句あんのかよ!」

 

 文句? 文句はない。ヴィータが監督となるとそれは厳しいものになるだろう。しかし、シグナムさんのように全て体に教え込むようなモノでもなさそうだし、ザフィーラさんほど極めて行くということはないだろう。(まあこれはザフィーラさんがおれに合わせてやってくれればいいだけだが)

 ヴィータを見る。

 

「何見てんだよ」

 

 睨まれた。

 

「いや、ヴィータにおれの運動見てもらうのもいいかなって」

「え、それ本気で言ってんのか?」

「ああ」

 

 ヴィータのぱーふぇくと体育教室。結構いいかもしれない。

 

「小学校の体育はお遊びみたいなもんだから少し物足りなくてな。だから頼もうかな?」

「え? お、おう! 任せろよ! マサキの希望通り立派な騎士並みの体力にしてやるよ!」

「え!? そこまでは望んでない! それならザフィーラさんに頼んだ方がよさそうじゃないか!」

「何! アタシの指導じゃ気に食わないってか!」

 

 そうやってわいわいしていたら目的地の公園に着いた。これからが本番だというのになんだか疲れてしまった。そして、ヴィータ先生のぱーふぇくと体育教室の生徒になることが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふいー体操した後の朝飯は美味いだろうなー」

「おーそうだな。ただでさえギガウマなハヤテの飯がもっと美味くなるんだ!」

 

 朝飯が美味いのはいいことだ。

 

「レイジングハート! 今日は昨日より上手くいったの!」

「そうですね、魔力操作の訓練は順調ですよ」

「やったー!」

 

 んんん? なんか聞いたことある声が聞こえたぞ。

 

「うん! 次も頑張るの! って……ん?」

「おい、マサキどうしたんだ? ぼーっとして……ん?」

「まあ、割と近くに住んでるしな……」

 

 曲がり角で会いたくない人とばったり、なんて無さそうであって、ありそうで無い。稀によくある、という言葉はすごく的確だとおれは思うんだ。

 

「あー!!!あなたは!!!」

「げー!!!おまえは!!!」

 

 前回の遭遇後しばらくは気をつけていたんだが。気が弛んでしまっていたのだろうか。

 

 ま、仕方ないね。

 

 

「お、おまえは!」

「あなた闇の書の!」

 

 同時に声を上げたのはヴィータとなのはさん。うん、この状況は本当にどうすればいいんだろう。

 

「てめぇ! ヤんのか、コラ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! なんであんなことしてるのか話してよ! 話してくれたら何か力になれるかもしれないよ!」

 

 ヴィータ……おまえはどこのヤーさんだよ。さて、じゃあ二人の意見を検討してみよう。

 

 1、ヤる

 

 これはいくら何でもないだろう。状況をさらに悪くする未来しか見えない。

 

 2、お話

 

 おれ等の目的をすべて話してなのはさん側である管理局とやらに協力を申し込むというのは悪い手段ではないだろう。しかし、問題は俺ら、というよりおれ以外のみんなの身の上がどうも管理局にとって都合のいいものではないようだ。この間会ったクロノくんの様子から察するに、闇の書の主守護騎士であるヴォルケンズはもちろん主のはやてだって何をされるかわかったものではない。少なくともはやてと闇の書とヴォルケンズがバラバラにされるのは必須であろう。と、なるならば……

 

「仕方ない! 封s」

「逃げるぞヴィータ!」

「え、ちょ、ちょっと待てよ!」

「え? ……はっ! 待ってなの!」

 

 昔の人は偉大で、本当にいい言葉をたくさん残していると感心することが多々ある。

 

 三十六計逃げるに如かず

 

 今の状況ではすべてが悪手となり得る。というか自分の人並みより少し勉強ができるくらいの頭では物事が悪くなる方へ悪くなる方へとしか想像ができない。警察組織からの逃亡。字面だけ見れば小心者のおれなら夜しか眠れないくらい大それた出来事だが、すでに1度やってしまっているのでもう今更である。ならば、おれはごちゃごちゃ考えるのは頭のいい人(シャマルさんとか)に任せて現状維持の手を打とう。

 

「走れヴィータ! 逃げ切るまで!」

「お、おい! そんなんでいいのか?」

「ま、待って~!」

 

 おれとヴィータが並走し、少し後ろからなのはさんが追いかけてくる。だが、おれは無策で逃亡という手段を取ったわけではない。なのはさんのお母さん、つまり、翠屋の店主の奥さんである桃子さんからなのはさんの話はいくらか聞いたことがあるのだ。その時の情報の一つ、なのはさんは運動音痴で体力は無い!

 

「うおおおお! 走れヴィータ! 走れヴィータ!」

「おまえ! 「あ、これ走れメロスみたいで語呂がいいな」って思っただろ! 絶対そうだろ!」

「はあ……ま、待って……なの……はあ……」

 

 何故ばれたし。まあそんなことはどうでもいい。どうやらおれの思っていた通りなのはさんは体力が無いようでどんどん距離が離されていく。そういえば何故彼女は魔法を使わないのだろう? もしかして、おれ等が走って逃げたからつい走って追いかけてしまったとか?

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……ふう、この辺まで来ればいいだろ」

「そうだな。てか、お前体力ないな」

「体力は人並より少し下なんだ」

 

 能力を使えば体力も回復できるのだろうが、基本的に体力がないという事が自分にとっての基本である。必死で走っていた時は体力の回復なんて考える暇も無かったから能力を使い損ねてしまった。

 今俺らが歩いているのは商店街。木を隠すには森の中、人を隠すには人の中ってな。

 

「でもよ、本当にあそこで戦っとかなくてよかったのか?」

「そんな派手なことしたら向こうの他の奴らが出てきて面倒なことになるに決まってる。まあ、逃げた時に応援を呼ばずに一人で追いかけてくれたのも助かったな。何にしろまだ大人しくするべきだな」

「そんなもんか」

 

 そんなもんだ。

 

「さて、じゃあそろそろ帰るか。はやても待ってるしな」

「お、そうだな! 早く帰ってはやてのご飯を食わなきゃな!」

「ふっふっふぅ……見つけた……の!」

 

 !?

 

「逃げた方向から私のかくれんぼハンターとしての勘がここにいるってことは教えてくれたの!」

 

 なん……だと……まさかなのはさんは追うのではなく探したというのか。ハッ、そうじゃないか。人より体力が少なかったおれ少年はいつも鬼ごっこではタッチに制限をつけてもらうという痛すぎる善意をもらっていた。そんなおれが活躍できた外遊びは何だった! そう、かくれんぼ! かくれんぼなら友達と互角以上に戦えた。くっ……これは想像していなかった。想像をできたはずなのに。おれが浅はかだった!

 

「に、逃げるぞヴィータ!」

「お、おう!」

「え! まだ逃げるの!?」

 

 

 

☆~路地裏~

 

「見つけたの!」

「ぎゃあああああああ!!」

「ぎゃあああああああ!!」

 

☆~デパート家具売り場~

 

「いたの!」

「ぎゃああああああああ!!」

「ぎゃああああああああ!!」

 

☆~民家の屋根の上~

 

「よし、ここなら……」

「魔法は反則なの!」

「ひええええええ!!」

「アイエエエエエ!!」

 

 

 

 

 

「はあ……逃げられちゃった」

 

 今まで追いかけていたのは今アースラが追いかけている事件にかかわっているとされる人物たち。

 

「あの子、ヴィータって呼ばれてたの。名前はわかってるけどやっぱり自己紹介はしなきゃいけないよね!」

 

 うん! やっぱりお話したい!

 

「そういえば一緒にいた男の子どこかで……あー!」

 

 大きい声出しちゃったけど周りに人がいなくてよかったの。

 

「あの子! よく翠屋に来てくれる子! たしか公輝くん! ということはヴィータちゃんも公輝くんと一緒にいるのかな? でもどこに住んでるのかはわからないや……」

 

 うーん、大発見だと思ったんだけどな~……あれ? ということは……

 

「公輝くんが闇の書の主さん?」

「マスター!」

「ふえ! 何? レイジングハート?」

「ボーっとしてましたよ。それで、何故最初から魔法を使って追いかけなかったのです? そうしたら捕まえることもできたでしょう」

「え? ……あっ」

 

 

 

 

 

 

「た、ただいまぁ……はあ……はあ……」

「ただいま、はやて……」

 

 そんなこんなで約1時間。俺らは結局走り続けてなのはさんを撒いたと思われるタイミングで家に向かい、家に走り込んで帰宅した。

 

「あ、やっと帰ってきた。二人とも遅いで? どこで油売りよったん?」

「あ、ああ……ふう、色々あってな……なあヴィータ」

「うん、そうなんだ。本当に色々あって……」

 

 さて困った。さすがにこんなに長い間ラジオ体操やっていたなんてことは有り得ない。いったいラジオ体操第何まであるんだ。まあ、ヴィータがじいちゃんたちと話し込んでたことにでもすればいいか。

 

「ふ~んそうなんか。色々ってなんや……あっ(察し)」

「ん?」

「え?」

 

 ん? なんだ今の「あっ」って。おい、なんだ、その「わかってる。なんも言わんでもわかってる」っていう生暖かい目は!

 

「うん、まあ、お腹すいたやろ。みんな朝ご飯待ってるで」

「お、おう」

「わ、わかったよ、はやて」

 

 そんなこんなでおれとヴィータの長い朝は終わり、いつもと同じ一日が始まろうとする。

 

「そうやったな、ハムテルくんとヴィータは付きおうてるんやったな……(ボソッ」

 

 今はやてなんか言ったか?まあ聞こえるように言ってこないならどうでもいいことなんだろう。そんなことよりおれは今ある言葉が頭に浮かんでいる。昔(?)の人は本当に良いこと(?)を言うものだ。

 

 魔王からは逃げられない

 

 あれ? ということは逆に考えるとなのはさんは……

 

 

 

 




デバイスは自動翻訳ということで


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ムカデかウナギと23話

お気に入り100超えたぞ~
(∩´∀`)∩ワホーイ

##この話は修正されました##


 

 

 

「で、どうする?」

「ふむ、どちらにもメリットがあり、デメリットもあるな」

 

 おれの言葉に続くシグナムさん。今おれとヴォルケンズによりこれからの方針を話しているところだ。はやては先におやすみ中である。

 

「私としては時間がいつまであるかわからない以上素早くことを済ます必要があると考えるが?」

「でも、そうすると管理局が出てくるのは確実だし、今はわざわざ蒐集しなくても闇の書の完成は可能だから危険を冒す必要はないんじゃない?」

 

 シグナムさんの提案に待ったをかけるシャマルさん。

 

「それだと時間がかかっちゃうんですよ。時間がかかれば普通に探し出されちゃうかもしれません。この間だって道端でばったりなのはさんに会ってえらい目に遭いましたからね」

「ああ、あれは怖かったな……」

 

 なのはさんに追いかけられ続けたことを思い出し、俺とヴィータの周りの空気が少し重くなる。まあそんなことはどうでもいい。よし! ここで二つの意見を確認してみよう。

 

 1、管理外世界に赴き、魔力の蒐集を再開する。

 

 この方法を取ることによって生じるメリットは蒐集を積極的に行うことによって闇の書の完成を早めることができること。しかし、積極的に活動するということは管理局に捕捉される可能性が高くなるということである。できればこれは避けたいところである。

 

 2、おれの特殊能力でじわじわと闇の書を完成させていく。

 

 この方法では管理局に捕捉されることは基本的にはないだろう。では、これによって生じるデメリットはまず時間がかかること。おれが闇の書に出会ってから闇の書に魔力が蓄えられることが分かった時までのことを考えると約5か月で300ページと言ったところだ。残りのページは150ページほどであることを考えると、約3か月くらいは必要だろう。今、はやての病状は落ち着いているがいつまた悪くなるかもわからない。おれの能力のおかげだと思われるが、これがいつまで続くことか……

 そして、二つ目のデメリット、それは偶然による遭遇。これはこの間実践したとおりだ。いつ、どこで、誰に遭遇するかなんてわかったものじゃない。だからと言って、魔力の蒐集ははやてに隠しているから、おれ等がコソコソするとはやてに怪しまれてしまう。

 

「ならばどうするか」

 

 ザフィーラさんの一言でまた議論は始めに戻る。うーむ、どうしたものか……

 

 

 

 

 

 

 というわけでやってきました、管理外世界。今回は砂漠の世界で相棒はシグナムです。他にはヴィータ、ザフィーラも別の管理外世界へ行き魔力の蒐集。現在時刻はお昼と言うことでシャマルは家ではやてとお留守番である。また、おれは学校に行っていることになっているが学校は仮病で休みということになっている。

 結局危険を冒してまで管理外世界まで来たわけだが、決め手となったのはヴィータの言葉。「みんなでパッと行ってパッと帰ってくればすぐ終わるし、見つかることばっかり考えてても仕方ねーよ。見つからねーかもしれねーし」である。今回おれはシグナムさんについてきたということは他の二人は魔力蒐集を力づくで行わなければいけないということである。生き物を特に意味もなく傷つけるのは心が痛むが、そんなこと言ってたら肉は食えねぇ! ということで闇の書の魔力になってもらう。

 

「む、来るぞ!」

 

 シグナムさんが叫ぶ。おれは闇の書の上に乗っており、闇の書が自動で危険から回避してくれるので安心である。と、そんなことを考えていると、突然地面が爆発したように砂煙が揚がる。出て来たのは……

 

「百足?」

 

 体の上半分は茶色で下半分は薄肌色であろうか? 体中に小さな足のようなものがあり、一際大きい手のようなものもある。しかし、顔を見ると……

 

「ヤツメウナギか?」

 

 目は緑色に輝き、円形の口には鋭い歯が並んでいる。

 

「世界にはいろんな生物がいるんだなぁ」

 

 この世は不思議でいっぱいである。というか、見た目的にメカメカしい感じもするので生物であるかさえも怪しいものである。

 

「の、呑気なことを言っている場合か?! 早く離れろ! ……ッ! しまった……」

 

 あ! おれに注意を飛ばしてきたシグナムさんがヤツメムカデ(仮)の触手に捕まった! これって俺の所為なのだろうか? まあそんなことはどうでもいい。とにかく言いたいのは、シグナムさんの縛られ方がすごいことになってることであって、その縛られ方は大変お胸が強調される縛られ方であって、つまりだな、その……眼福です……て、そうじゃない!

 

「闇の書よ! ヤツメムカデに近づくんだ!」

「……!」

 

 おれの意をくんだ闇の書はヤツメウナギに近づく。

 

「おーよしよし、いい子だからシグナムさんを離しなさい。ゆっくり、優しくね」

 

 すると、数秒くらいたつとシグナムさんを締めていた力が弱まり、シグナムさんはそこから脱出し、宙に浮く。

 

「助かったぞ坂上」

「いえいえどうも」

 

 おれがやれることはこれくらいしかないしね。今度はヤツメムカデはシグナムさんではなくおれを触手に巻かれる。しかし、シグナムさんとは違って優しく、ふんわりと、落ちないように巻かれ、ヤツメウナギの顔の近くまで持っていかれる。

 

「お? なんだ? もっと撫でてほしいのか? よーしよしよし……と、物は相談だが、君の魔力少し分けてくれないかな? 痛くしなからさ?」

 

 首? 体全体を縦に振る。OKってことでおk?

 

「じゃあシグナムさん、魔力の蒐集頼みます」

「私、いらないんじゃないだろうか……」

 

 そんなことないですよシグナムさん! いいモノ見れましたし! できればシグナムさんのクッコロも見たいと思っちゃったりしました。

 

 さてさて、他の二人は上手くやってるのかな?

 

 

 



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紅白と闇炎の使い手と24話



##この話は修正されました##


 

 

 

 

 

 

「今日はこの辺でいいか?」

 

 あの話し合いの後、あたしたちはバラバラになり魔力を蒐集することにした。そして、あたしは一面森が広がる管理外世界に来ている。今回はマサキのやつがいねーから魔力蒐集の方法が多少荒っぽくなっちったが、何としてもでも闇の書は完成させる!

 

「でも、アイツがいたら生き物を傷つけることなく魔力を蒐集して穏便に済ませちまうんだろう……」

 

  思い出すのはシグナムに付いていった八神家の居候のあのやろう。シグナムはマサキの護衛も兼ねているが、今までのことを考えると必要はないだろう。何もやることが無くてしょぼーんとしてるシグナムの顔を想像するととても面白い。見たかったものだ。

 

「じゃ、そろそろ帰るとすっかな」

 

  すぐ近くに魔力を持った生物も見当たらないし、あまり長居すると管理局の奴等が来ちまうしな。

 

「ヴィータちゃん!!」

 

 この……声……は……

 

「高町なんとか!」

「な、なんとかじゃないよ! 高町なのは! な・の・は!

「てめえ! 何であたしの名前を知っていやがる!」

「ヴィータちゃんの名前は公輝君がそう呼んでたからね」

 

 なっ! あいつのことばれちまってるのか。マサキと高町なんとかはお互いの顔と名前を知ってるとは聞いてたからこれは仕方ねーか。しかし、名前はわかってても家には来てないってことは、まだ少し安心してもいいのか?

 

「お互いに名前は知ってても自己紹介は必要だよね? 私はなのは、高町なのは。管理局のお友達の手伝いをしてるの」

「……アタシはヴィータ。闇の書の守護騎士だ」

 

 つい流れで自己紹介しちまったが今アタシの頭の中を埋め尽くしていることはどうやって奴から逃げ切るかだ。頭をよぎるのは身を切るような風が吹き出した12月1日の出来事。逃げても逃げても見つけだし、どこまでもどこまでも追いかけてきた奴。人の多い所にいても確実に見つけ出し、かなり本気で隠れても探し出した奴。そう! 高町なのは。あの後マサキが言っていた、

 

「ヴィータ、世の中には魔王からは逃げられないという言葉がある。なら、逆に考えると逃げることができない人物=魔王だな」

 

 と、言う言葉が頭にこびりついて離れない。

 ど、どうする……落ち着けアタシ。マサキによると高町なのはは体力が無いらしい。だから、前回はなんとか捲くことができたからな。しかし、今対峙している高町なのはの魔力量はものすごい量だ。魔法込で鬼ごっこをしたら逃げ切れる気がしない。この魔力を闇の書に蒐集させたらそうとうページを稼げるだろう。まあ、管理局と遭遇した時はできるだけ戦闘は避け、逃げるっていうのは話し合いの時に決めたことだから高町なのはと戦うことはしない。

 

「ヴィータちゃん。やっぱり、お話聞かせてもらうわけにはいかない?」

 

 なにより、アタシは高町なのはと戦うのは色々な意味で避けたい!

 

「もしかしたらだけど、手伝えることかあるかもしれないよ?」

 

 じゃあどうやってこの場から離脱するか? 奴に隙ができた瞬間を見極め、一瞬で転移の式を立ち上げ、即離脱! これだ! これで完璧だ!

 

「ヴィータちゃん? ねえ、聞いてる?」

 

 とはいってもやはり、式の起動にはある程度時間がかかる。仕方ない、ちょっとおどかしてやっか。

 

「ヴィータちゃーん? おーい?」

「吼えろ! グラーフアイゼン!」

「アイゼンゲホイル !」

「え!? ちょっ」

 

 赤い魔力球をグラーフアイゼンで叩きつけ、轟音を伴う光を発生させる。今だ! 素早く距離を取り、式起動! はやくはやくはやく! ……って、ん? あいつ、砲撃態勢を取りやがった!

 

「なんだと……撃つのか!? あんな遠くから!」

 

 高町なのはのデバイスにピンク色の魔力が集まっていく。や、やばいいいぃぃ! あと、2秒! 2秒だけえええ!

 

「ディバインバスターエクステンション」

「ディバイーン、バ……ッ!?」

 

 ん!? 奴への魔力の集中が止まった? なんだかわからんが今しかない!

 

「次元転送ううううぅぅぅ!!!」

 

 こうして、この管理外世界からヴィータは脱出した。

 

 

 

 

 

 

「う、あっ……何、が……?」

 

 ヴィータちゃんの逃走を妨害するためにディバインバスターを撃とうとした所に、突然胸のあたりに痛みが走った。視線を下に向けるとそこには……腕? 私の体から腕が生えているの?

 

「あ……、きゃああああああああああああああ」

 

 今度は、さっきの比じゃないほどの痛みが走る。途切れそうな意識の中でぼんやりと輝いているのはなんだろう? でもわかる、これは私のリンカーコア。そして、意識が途切れる前の最後の瞬間に聞こえたものは

 

「さあ、奪え………あれ? いない……」

 

 そんな、男性のような声だった……の……。

 

 

 

 

 

 ヤツメムカデくんと友情を育むこと数十分、最初に出てきた奴を撫でまわしていたら他にも出てきて撫でまわし(調教)→蒐集→撫でまわし(回復)のコンボでなかなかの量の魔力の蒐集をすることができた。

 

「よしよし、お前らよく見たら愛嬌ある顔してるな! うーん連れて帰りたいけど、ちょっとでかすぎるよなぁ……はやても許さないだろうし」

「坂上……そいつらを連れて帰ってどうするつもりだ」

「かわいいじゃないか」

「ああ、そう……」

 

 シグナムさんのジト目がおれに突き刺さる! な、なんでそんな目でおれを見るんだ!? かわいいじゃないか! ヤ(ツメムカ)デちゃん!べ、別に仕込んでシグナムさんをぐるぐる巻きにしようとかは考えてないぞ!

 

「と、まあそんなことはどうでもいい。どうします? そろそろ帰ります?」

「そうだな。今日のところはこれくらいでいいんじゃないか? 長居すると面倒なことになるしな。……おまえはいつまでそうしているつもりだ」

 

 ふむ、シグナムさんもああ言っていることだし、そろそろ帰る支度をしますか。ちなみに、今のおれの状態はヤデちゃんの触手に巻き巻きされている状態である(もちろん壊れ者を扱うようにやんわりと)。見方によっては襲われているように見えるかもしれない。

 

「じゃあヤデちゃんよ、そろそろ帰るから、おろ……」

「だ、大丈夫ですか!! そこの人!!」

 

 ん? 今の声は誰の声だ?シグナムさんではないな。ということは……

 

「ハーケーン、セイバー!」

 

 黒い魔導師のデバイスから黄色の魔力の刃が飛んで来てヤギちゃんの触手を切り落とす。

 

「あー! ヤデー!」

 

 ヤデちゃんを撫でて切られた触手を回復させる。

 

「こら! そこの君! なんてことするんだ!」

「え? え? ……え?」

 

 おれは今空からやって来た魔導師を指差して言う。人を指差すのはいけないことだが。

 

「ヤデちゃんはおれの友達だぞ! ほら! ちゃんと謝って!」

「ご、ごめんなさい……?」

 

 ヤデちゃんを見ると体全体を縦に振り肯定しているようだ。

 

「許すってさ! よかったな」

「え、はい、ありがとう?」

 

 うむ、和解は済んだようだな。

 

「ほら、ヤデちゃん、もう家に帰りなさい」

 

 ヤデちゃんは体を一振りして地中に潜って行った。さて、

 

(シグナムさん、逃げますよ。時間は稼ぐんで、転移の準備をしておいて下さい)

(わかった)

 

「…………はっ! 私は時空管理局の嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ。あなた達は闇の書の関係者ですね」

「名乗られたら名乗るのが礼儀。私は闇の書の守護騎士、烈火の将シグナム」

「……」

 

 ここはどう返すのが正解か。

 

「あなたが麦わらの主さんですね? 名前は坂上公輝」

 

 ん? ん? ん? ん? 今なんて言った? 麦わらの何? 闇の書の主と勘違いされてるのは知ってるし、そういう風にしたのはおれだけどさ。

 

(ククッ……麦わらの主だそうだ。なんだか海賊王を目指しそうな呼ばれ方をしているな……ぷっ)

(言わないでくださいよ……)

 

 何だよその恥ずかしい呼ばれ方。そりゃ暑さ対策に麦わら帽子はかぶってきてたけどさ、もうちょっとなにかいい呼び方はなかったのかね?

まあそんなことはどうでもいい。さっきの会話で彼女、フェイトさんとやらは結構のりがいい性格ようだ。なら、やりようはあるぞ!

 

「あの、坂上さん?」

「くっくっく……フェイト・テスタロッサさん……違うな、間違っているぞ! 私は麦わらの主さんではない!」

「え!? じゃあ、あなたは?」

 

(シグナムさん、準備の方は?)

(テスタロッサに悟られないようにするためにもう少し時間がいる)

 

 よーし、高校時代に鍛え上げた即興演劇術!

 

「そう! 我が名は闇炎の使い手(ダーク・フレイム・マスター)! 血の盟約に従い、我、闇の書守護騎士達に協力している」

「だ、だーくふれーむますたー?」

 

(ブハッ! おまえは本当にバカだな)

(ちょっ、シグナムさんは聞かなくていいから!)

 

「我達は君達と争うつもりはないのだが、君達は我等を逃がすつもりはないようだな」

「そうです。あなた方が所持している闇の書は 第1級捜索指定ロストロギア。この世界のためにも、そして、あなた達のためにも、すぐ回収しなければいけないものなのです」

「ふっ……そうか、なら仕方がない!」

 

 おれは右手を胸の辺りまで上げる。

 そうすると、フェイトさんは身構え、戦闘態勢をとる。

 

「集え、集え、集え……わが身に宿りし、地獄の業火よ……」

 

 おれの紺色の魔力が薄く右手を覆う。魔力量的にはほぼ無いと言っていいくらいだ。おれの手がぼんやりと輝く。

 

「闇炎真拳超奥義!」

 

 拳を握りしめ、固めた拳を開きながらフェイトさんの方に掌を勢いよく向ける!

 

闇の炎に抱かれて消えろ(あ! あんなところにUFOがっ)!」

「っ!」

 

 

(シグナムさん!)

(よし、転移!!)

 

 そこに、いるのは大技が来ると思い大きく横に跳ぶフェイトさん。だが、残念! 特に意味もなく集めた魔力に意味はありません!

 

「? 何も来ない? ……あ、しまった!」

 

 上手く起動から実行までの時間は稼げたようで、俺たちはこの管理外世界から脱出した。

 転移の直前にフェイトさんの後ろから「何も出ないのかよ!」って聞こえたのはきっと気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

「おい、ダーク・フレイム・マスター。聞いているのか? ダーク・フレイム・マスター?」

「あの……おれ、何か気に障ることしましたか……」

「? そんなことはないぞ、ダーク・フレイム・マスター。お前はよくやってくれていると思うぞダーク・フレイム・マスター」

 

 もうやめてー!

 

 その後しばらくシグナムさんに弄られ、ヴィータもその事を知っておれを弄りに来たのは言うまでもないだろう。

 

 

 




う~ちゅらい


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イブとケーキと25話

昨日気付いたのですが、自分の作品に感想を下さった非ログインの方を片っ端からブロックしていました。自分は全く覚えがないのですが、このようなことになってしまい不快に思われた方もいると思います。遅くなって非常に申し訳ないのですがここで謝罪させていただきます。
ブロックしていたものは全て解除してあります。これからも感想もらえると嬉しいです。

失礼しました。

##この話は修正されました##


 

 

 

「検査入院?」

「はやて……どっか悪くなったのか?」

 

 おれが聞き、それにヴィータが続く。

 最近のはやての足の調子は良くなっているわけでもない。しかし、だからと言って悪くなっていることもない状態だ。石田先生によると、はやての足は悪くなる一方だったが、ある時からそれが止まった。でも、なんで突然足の調子の悪化が止まったのかがわからない。長くはやての主治医をしてきている石田先生はこれの原因を何としてでも知りたいのだろう。

 

「ちゃうちゃう、石田先生が私の調子が良くなった理由がようわからへんいうことで、ちゃんと調べたいんやて」

 

 石田先生的には、今回のことを調べればはやての足を完治させる手がかりが得られるかもしれないという心算だろう。まあ、おれとヴォルケンズはこのことについてはなんとなくわかっているのだが、さすがに石田先生に魔法云々を含めて説明する訳にはいくまい。

 

「主はやて、では何も心配することはないと?」

「うん、むしろごっつええ感じやで!」

 

 そうだね、家にはアカレンジャイが二人いるね。ってそんなことはどうでもいい。じゃあ、はやての入院のための準備をしますか。

 

 

 

☆~12月24日~

 

「うっす、はやて」

「あ! みんな! 来てくれたんか!」

 

 今日はヴォルケンズ全員をひきつれてはやてのお見舞いに来ている。

 

「はやて、元気か!」

「大丈夫はやてちゃん? 暇じゃない?」

「主はやて、御加減の方は?」

「主、お元気そうでなによりです。」

 

 はやての発言の後、ヴォルケンズが一人ずつはやてに声をかける。

 

「うん! 検査をいくつかしたんやけど、今回ほど気が楽な入院は初めてやで」

 

 まあそうだろうな。今まではやてが入院をするときは何か悪いことが有ったときだけであったのだろう。それに対して今回の入院が気が楽なのは当然だろう。

 

「おう、早く面倒な検査終わらせて家に帰ろうな。」

「当然や! もう慣れたとはいえ、やっぱ病院のベッドにずっとおるんは暇やからな」

 

 はやてのベッドの横の机の上にはゲーム機、携帯、本、etc……暇対策のものが積んである。

 

「ああ、まあそうだろうな。その気持ちよくわかるぞ」

 

 おれは入院したことはないが病気で寝込んでしまった時などの似たような状況は何度も経験したことがある。ベッドから出ることもできず、だからと言って何かすることもできない。しかし、何もしないというのはそれはそれで苦痛でしかない。うん、よくわかるぞ。

 

「ほんでも、今日明日で病院生活は終わり! そして、明日は楽しいクリスマス!」

 

 はやての言うとおり、今日が24日クリスマスイブということは明日は25日のクリスマスなのである! ……ん? 明日がクリスマスだから今日がクリスマスイブなのか? まあいいや。

 

「主はやて、クリスマスというのは何なのですか?」

「クリスマス言うんのはやな、簡単に言ってまえば昔の偉い人の誕生日で、その日をみんなで祝いましょうってわけや」

 

 シグナムさんがはやてにクリスマスについて聞く。違う世界にいたシグナムさん達ヴォルケンズにとって地球の行事はわからないだろうな。まあ、キリ=ストさんが世界を超える力があったら知ってるかもな。そんな訳ないか? 昔のおれならそう言っていただろうな。しかし、魔法だの魔法だのを経験したおれなので絶対ないなんてことは言えないね。

 

「ふむ、誕生祭ってことですか。宗教的な行事なのですか?」

「そうやな、本当はそうなんやけど、今はおいしい食べ物食べて、ケーキ食べて、プレゼント交換して、みんなでわいわいする日やで」

「おいしいご飯に、ケーキ……へへっ……」

 

 ヴィータの顔が尋常じゃないほど緩んでいる。携帯のカメラで撮っておこう。あ、携帯ははやてに買ってもらいました。おれがヴィータの写真を撮っても全く気にしないところをみると彼女の頭の中では御馳走とケーキが踊り狂っているのだろう。っと、もうこんな時間だ。

 

「じゃあ、おれは先に家に帰るよ」

「ん? ハムテルくんは帰ってまうんか?」

「ああ、そろそろ帰ってケーキ焼かないと、明日はやてが帰って来てからスムーズにクリスマスパーティーできないからな」

 

 ふっふっふ、この日のために本屋に通って上手そうなケーキの作り方の乗ったレシピ本を探して買っている。レシピとはすなわち秘訣、これに従って作っておいしくないものができるはずがない。

 

「お、マサキは帰るのか? 早く帰れ帰れ! 帰ってケーキと上手いミルクティー頼むぜ!」

「応! 任せとけや」

 

 ヴィータにこう言われたしな、見せてやろうか、おれの実力というものを!

 

 

 

 

 

 おれははやての病室を出る。

 えーと、階段は右だよなっと……う~ん……

 トイレ行っとこ

 トイレは左っと。

 

 

 

 

 

 

「すずかちゃん、ここ?」

「うん、ここがはやてちゃんの病室だよ」

 

 

 

 

 

 




先に言っときます。

キングクリムゾン!


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見舞いとサプライズと26話

う~ん…

##この話は修正されました##


 

 

 

 

 

 

 

 

「……マサキは帰っちまったな」

「なんや? ヴィータはハムテル君が帰ってもうて寂しいんか?」

「ち、違うよはやて! そんなわけねーじゃん!」

 

 まったく、はやてはなんてこと言うんだ。でも、あいつにはみんなのケーキを焼くという大切な役目があるからな。

 

「うんうん、そうやね。寂しくないね」

 

 な、なんだ……はやての私を見る目がなんとなく生温かい気がするのは気のせいだろうか?

 そんなこんなしていると、病室にドアをたたく音が響く。先生だろうか?

 

「失礼しまーす」

 

 ドアの向こう側から聞こえてきたのは女の子の声。声の感じからしたらはやてと同じくらいの子だろう。

 

「あれ? すずかちゃんや」

 

 どうやらドアの向こうの人はスズカらしい。少し前にはやてはそのスズカってやつの家に泊まったことがあったな。おそらくその人だろう。ドアが開き入ってくる。しかし、入って来た人は一人だけでなく、……ん!?

 

「あ、今日はみんなで来てくれたん? 大したことないから別にええのに」

「あ、みなさんこんにちは。そんなことないよ! 検査とはいえ入院は大変だからね」

「はじめまして」

 

 紫の髪の少女の後に金髪の少女が続いて話す。紫の髪の少女がスズカ、金髪の少女がアリサ。以前はやてに写真を見してもらったことを覚えている。だが、問題は……

 シグナム、シャマル、ザフィーラ、そして私はつい息を呑んでしまう。なぜならそこにいたのは私達の中で話題になっている魔王、高町なのはと、マサキこと闇炎の使い手(笑)にだまされたかわいそうな子、フェイト・テスタロッサがいたのだ。

 向こうの二人も予想外だったようでどうすればいいのか迷っているようだ。

 

「あの……今忙しかったですか?」

「そんなことないで! 来てくれてうれしいわ~」

 

 私達の微妙な雰囲気を感じ取ったのかスズカが尋ねる。

 

「はやてちゃんに!」

「サプライズプレゼントでーす!」

 

 スズカとアリサがかぶせていたコートをとるときれいに包装された箱が出てくる。

 

「今日はイブだから、はやてちゃんにクリスマスプレゼント!」

「わー! 二人ともありがとな!」

 

 はやては二人からのプレゼントを受け取る。……そういえば、奴らが来たのはマサキがここを出た直後だったな。あの後普通に帰ったならこいつらと鉢合わせしていたはずだ。マサキは! マサキはどうなった!? まさか人目があるから気付かれないように魔王が一瞬でどこかへやった、なんてことはないよな!?

 

「ん? なのはちゃんとフェイトちゃん? どないしたん?」

「あ、いや、なんでも……」

「ちょっと御挨拶を……ですよね?」

「はい」

 

 フェイトがシグナム達の方に聞く。奴らとのことははやてにばれてはいけないことなので、ここは話を合わせているようだ。

 

「みんな、コートを預かるわ」

「はーい!」

 

 シャマルの発言に訪問者達は肯定の意を示す。

 

 

 

 

 

 

「よし! これから作るものの準備はすべて整った! いざ、参る!」

 

 そんなことを誰もいない家で御近所の迷惑にならないくらいの声で叫んでいるおれは大丈夫だろうか? 大丈夫じゃない気がする。そういえば、なんだかんだでこの生活になってから一人という状況はとても珍しい気がする。常に周りにははやてやヴォルケンズがいたからな。まあそんなことはどうでもいい。

 これから明日のクリスマスパーティーのために、ケーキのスポンジ部分を作ってしまうのだ。クリームは明日作った方が新しくておいしいだろう。スポンジも明日焼いた方がいいのかもしれないが、スポンジを焼くのは結構時間がかかるから仕方ないだろう。明日のパーティーをスムーズに行うためだ。

 

「えーと……卵、砂糖をボウルに入れてリボン状になるまでかき混ぜる……リボン状ってなんだ? 教えてググルせんせーい!」

 

 本格的なケーキづくりというのは初めてだが、レシピがあればなんとかなると思っていたがいきなり躓いてしまった。まあ、おれにはググル先生という偉大で超頼れる仲間がいるから何の問題もないね。

 

「次に……サラダ油、牛乳、ふるった粉とココアを一気に入れ、サックリと混ぜ合わせる……サックリ混ぜるってなんとなくわかるけど考えれば考えるほどわからなくなるな」

 

 こういうノウハウ的なものをしっかり体にしみこませてこそおいしいものが作れるようになるということを考えると、なんと料理の奥の深いことか。

 

「そして、型に流し、180度に予熱したオーブンで湯せん焼きにして35~40分って、あー! 予熱するの忘れてた!」

 

 う~ん、普段のおれならこんなミスはしないのにな? な~んか調子が悪い。

 

「はあ……これ焼いて、ヴォルケンズとおれの夜ごはん作るか……」

 

 ちょっち寂しい……

 

 

 

 

 

 

 時間は過ぎ、あたりはすっかり暗くなった。シグナムとシャマルは訪問者達を見送るために下に降りている。

 

「ヴィータ、なんや今日ちょっと調子悪かったんか?」

「え? なんでだ? 別にそんなつもりはなかったけど」

「なのはちゃんと話とる時、なんとなく緊張? しとるみたいな感じやったやん」

「いやいや! 大丈夫だって! 私は元気だぞ!」

「そうか? ならええんやけど」

 

 うん、ほんと、私の体の調子は絶好調だぞ。ただ、あの日のことが私の思っている以上に頭というか、心というか……魂に刻み込まれていて、つい身構えてしまっていたようだ。

 そういえばマサキは大丈夫だったのだろうか?奴のことを聞きそびれてしまった。

 

「今日は雪になりそうやな……」

 

 

 

 

 

 

 

「おっそーい! あいつら何やってんだよ!」

 

 ケーキのスポンジは上手いこと焼きあがり、今日の八神家の夜ごはんも出来上がっている。あとはこれを食べる人物がそろえば完璧なのだが、ヴォルケンズが帰ってこない。

 

「何かあったのか? 一体どこで油うってるんだか」

 

 あーだんだん眠くなってきたな~

 

 そんなことを考えながら普段はみんなで使うテーブルに突っ伏す。一人で使うと中々大きく感じるものである。

 と、しばらくして気が付いた。いつの間にか21時じゃないか。子どもボディでこの時間に起きてるのはつらいよな~。あ~、そう思うと眠くなってきた~

 

「ぐー……」

 

 

 




眠いということは当たり前のことだから意識しなかったら公輝くんは眠くなります。
逆に眠くない状態を意識していたら公輝くんは寝なくてもいけます。


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夢と現実と27話

キンクリは1周遅れでやってくる

##この話は修正されました##


 

 

 

 

 

 

 夢を見ている。

 空を飛ぶ夢だ。

 自分は転生を経験し、魔法に触れ、自力で空を飛ぶことができることを知った。しかし、自分は飛行の適性がないようで魔法で空を飛ぶことができなかった。そんな自分が今空を飛んでいるということはこれは現実ではない。つまり夢であるとわかる。

 夢であるとわかってしまえば面白いことができる。明晰夢というのを知っているだろうか? 夢であることを認識することができると、その夢の内容を自分の好きなように変えることができるのだ。たとえば、空を飛んだり、魔法を使ったり、性別を変えたりだとか。だが、思い返してみると前二つの例は今のおれにとってそこそこ身近なことであることを考えるととても面白い。

 ちなみに、かつておれが明晰夢を見た時、夢だから何でもしていいと思ったから、歩いている女性の胸を触ったら悲鳴を上げられ、タイーホされるという夢を見たことがある。あれは本当に明晰夢だったのだろうか? まあ、そんなことはどうでもいい。今おれが夢を見ているのは確定的に明らかだ。なら、どうするか?

 

 好き勝手やっちゃうぜ!

 

 

 

 

 

 

「む、起きたか。さすがに悪いと思ったのだが急ぎなんだ」

 

 目が覚めた。なんだかすっごい損した気分なんだけど、なんでだろう? 夢でも見ていたのだろうか。夢というのはそんなものだから仕方ないだろう。

 

「ん……シグナムさんか? ……ていうか、ヴォルケンズ全員でなんでおれのこと起こしに来てんの? ていうか、まだ起こされるような時間じゃないよね? 何? みんなで人生相談?」

 

 あー、まだ頭がぼんやりしてるのか意味わからないこと言ってるな。おれの感覚が間違ってなければ、まだ午前6時ですらないと思うの。つまり、なんでこんな時間に起こされてるのっと。ていうか、

 

「おい! なんで君達帰ってこなかったんだよ! 八神家条例2条の所為で夜ご飯食べることなく寝落ちしちゃったんだぞ!」

 

 八神家条例とは、はやての独断によって制定された八神家においてできるだけ守らなければならない約束である。2条は『ご飯はみんなで食べること』

 

「そ、それはすまないことをした。私達もいろいろあってな」

 

 おや、シグナムさんにしては珍しくはっきりしない言い方をしているな。それに、まだ気になることがある。

 

「まずここはどこだ? それと、そこにいる人は誰? そして、なんでおれはシグナムさんに俵のごとく抱えられている?」

「うむ、では現状に至るまでの事を話そう」

 

 え? このままの体勢で話すの?

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずイスに座ってこれまでのあらすじを聞いた。ここはアースラという宇宙船みたいなものらしい。

 

「じゃあ、おれが病室を出てすぐになのはさんとフェイトさんが来て、やむなく戦って、いろいろあって闇の書は実は夜天の書ってやつで、夜天の書を闇の書にしてた元凶をみんなと協力してぶっ飛ばしたってこと?」

「うむ、その認識であっている」

 

 むむむ、おれが寝ている間にこんな大変なことが起こっていたとは……まあ、おれがいたところで何か変わっていたとも思えないが。

 

「そして、驚くことに、はやてにお金を援助していたグレアムおじさんが黒幕で、仮面をした猫だったってこと?」

「ちげー! その認識は合ってねー!」

 

 ヴィータちょっとうるさい。さっき気付いたけど、はやて寝てんだよ。それに、おれはこんな時間に起こされて眠いんだ仕方ないだろ。

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。で? おれはなんでわざわざここに連れて来られたんだ? その話をするだけなら、確かに大事ではあるが後ででもいいだろ?」

 

 シグナムさんに俵のごとく抱えられて拉致られたからな。急用に違いない。

 

「うむ、それは」

「烈火の将、そこから先は私が話そう」

 

 シグナムさんの話を遮って話をすると言う白髪の女性。

 

「そうそう、そういえばあなた、どちら様?」

 

 ずっと気になっていた白髪(銀髪?)の女性。さっきの話の中にも出てきていたことには出てきていたが、名前紹介位でさらっとながしていた。

 

「さっきも言ったが、私の名はリインフォース。……主はやてから頂いた大切な名だ。私は夜天の書の管制人格だ。私は夜天の書の中から君の事を見ていたから知っている、坂上公輝。よろしく頼む」

「あ、ああ、こちらこそ」

 

 管制人格? 夜天の書のAIみたいなものか? つまり、夜天の書の中の人ってことか。……あれに中の人がいたのか。

 

「率直に言う、私を助けてほしい」

 

 

 

 『助けてくれ!』

「宿題がわからない!助けてくれ!」「ちねり作業が終わらん!助けてくれ!」「厳選ががががが!助けてくれ!」

 

 おれが思い出せるだけでも『助けてくれ』、と言われたことはこれくらいある。だが、助ける内容なんてものはいつもなんてことなく、誰にでもできて、くだらないことだった。

 

 こんな真剣にこのセリフ聞くとは今の今まで思っていなかったな。




自分には原作以上にあの戦いを上手くまとめることはできないと思っちゃったのね(言い訳)

寝過ごし系主人公


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融合と28話

ハッピーエンド主義

Wikiより引用あり。

##この話は修正されました##


 

 

 

 

 

 

 長く、暗い夢が終わり、ようやく私の現実が始まった。そんな気分だ。だが、私に残された時間は限りなく少ない。現実と言うのはなんと残酷な物なのだろうか。だが私はそれに抗う。なぜなら、私は会ってしまったからだ。あのやさしい主に。まだ生きたいと思ってしまった、願ってしまった。

 それでも、わたしにはただお願いすることしかできないから……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなことおれにできんの?」

 

 あんなに畏まって助けを請われた経験なんてないからつい聞き返してしまう。

 

「できる、むしろマサキしかできないことなんだ」

 

 他の人にできなくて、おれにしかできないこと。はて、そんなすごいことをおれにできただろうか。

 あ、ひとつ心当たりがあるな。

 

「今まで夜天の書を闇の書たらしめていた防御プログラムはアルカンシェルによって蒸発させられた。それによって今は私が主導権を握っている状態だ。だが、しばらくすると防御プログラムは再生し、私が握っている夜天の書のコントロールは再び奪取されるだろう。それを防ぐためには過去の主たちによって改変された夜天の書を元あった正しい姿に戻さなければならない」

「戻すことはできないのか?」

 

 この話の流れならそれはできないのだろう。だが、一応相槌としてわかりきったことを聞く。

 

「ああ、恥ずかしながら、私が元の夜天の書を思い出すことができないのだ。元の夜天の書について調べるにしても防御プログラムが再生するまでに調べることは無理だろう。だが、君なら……君ならそれができる! 私は夜天の書の中から君の事を見て、君のレアスキルについて考えていた。君の能力は生き物をその個体が考える最高の状態へとするものなのだろう。その最高の状態とは、理屈でも、理由でもない、その個体が考えるふわふわとしたものなのだろう」

「まあ、そんな感じなんだろうな」

 

 おれが転生する時にもらったこの能力、おれが快適に生活するためだけの能力のつもりだったんだがな。おれのお願いが大雑把過ぎたから、あの時この能力をくれたやつが拡大解釈したのだろうか? 今となっては何も分からない。もういっぺん死んでみるか? さすがにお断りだ。この世は何が起こるか分からないものだな、本当に。……ん? おれの能力で夜天の書が直せるなら……

 

「夜天の書が闇の書だった時に、夜天の書はおれとずっと一緒にいたじゃないか。それで夜天の書は正常にならなかったのか?」

「あの時は防御プログラムが夜天の書のコントロールを持っていた。そのため、君の能力は防御プログラムのいいように使われていたというわけだ。だが、そのコントロールを私が持っている今なら、私の認識によって夜天の書を元に戻すことが可能だ」

 

 なるほどねー。防御プログラムに上手く使われていたものを、こんどはこっちが使ってやろうっていうのか。

 

「で、その方法はどうするんだ? 夜天の書が直るまでずっとおれが抱いてるのか?」

「それでも直すことはできるだろうが、おそらくとてつもない時間がかかるだろう。もっと君のレアスキルの根源に近づいた方がいい。つまり……」

「つまり?」

「私とユニゾンしてもらう」

 

 ユニゾン……ユニゾン? なんだろう、新しい言葉が出てきたな。

 

「ユニゾンとは?」

 

 おれはリインさんに聞く。

 

「まず、私は闇の書の管制人格であると同時に融合型デバイスでもある。融合型デバイスは状況に合わせ、術者と『融合』し、魔力の管制・補助を行うものだ。」

「へー、そりゃ便利そうだな」

 

 今までおれが見てきたデバイスはパソコンのように使用者を補助する道具のようなモノと思っていたが、意思を持つデバイスっていうのもあるんだな。

 

「しかし、融合適性を持つ者の少なさや術者に合わせた微調整・適合検査の手間、そして何よりデバイスが術者をのっとり、自律行動を始めてしまう『融合事故』というものが起こり、ユニゾンデバイスはあまり普及しなかった」

「適性が必要なのか、それはおれにはあるのか?」

 

 まあ、この流れならあるんだろ。

 

「いや、ない」

 

 ないんかーい。

 

「私とのユニゾンで必要なことは夜天の書との繋がりだ。だが、君とは特にその繋がりはない。しかし、君のレアスキルによって私が君を乗っ取ることを許さないだろう。なぜならばそれは君の考える正常な状態ではないからな」

 

 ふむ、適性の方もおれの能力がゴリ押しで何とかしてくれるってわけね。

 

「だが、この世に絶対なんてものはない。万が一君に危険があるかもしれない。それでもやってくれるか?」

 

 危険があるかもしれないからおれがリインさんを助けることをやめるって? 違うな、間違っているぞリインさん! もともと一度死んだ身、死ぬのなんて怖くはない! ……って言いたいところだが、正直言って、おれという人間が消えてしまうということを考えると、それはとても怖いことだと思う。むしろ、一度死んだ身であるからまた同じ喪失感を味わうのはいやだ。それでも……

 

「やるよ、リインさんとユニゾン」

 

 答えなんて決まってるじゃないか。リインさんは八神家の一員だ。リインがいなくなるのははやてが悲しむ。そんなことはさせたくない。半年ほど一緒にいて、彼女にはたくさんの恩がある。だが、そんなこと関係なく、おれははやてを助けるし、ヴォルケンズもリインさんも助ける。だって、おれも八神家の一員だからな!

 

「ッ! ……そうか……ありがとう……ありがとう……」

 

 どうか、この選択によってみんなが幸せになれる未来に行けたらいいと思う。

 

 

「ユニゾンイン!」

「ユニゾンイン!」

 

 

 




公輝くんはこのために生まれたと言っても過言ではない。


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空白期1
クリスマスと29話と日常


A's編しゅーりょー

##この話は修正されました##


 

 

 

 ユニゾンのときに生じた光が収まる。これは何とも言えない不思議な感覚だ。心臓、いや、リンカーコアのあたりが暖かく感じる。

 

「……マサキか?」

 

 ヴィータが尋ねてくる。何でそんなこと聞くんだ? ああ、失敗してたらリインさんがおれを乗っ取ってリインさんの意識が表に出てくるんだったな。ユニゾンする時に不思議と失敗する気がしなかったから、少し考えてしまった。

 

「大丈夫だ、問題ない」

「はぁ……よかった、ちゃんとマサキだな」

 

 うーむ、反応されないネタほど悲しいものはないな。まあ、そんなときでもないか。

 

「ちゃんとおれだぞ」

 

 今度はまじめに返す。

 

「ああ、そのようだな。だが、見た目の変化がほとんどないな。目が赤くなったくらいか?」

 

 え? ユニゾンって見た目が変わるのか?

 

(ユニゾンによって魔導師の姿がユニゾンデバイスの容姿に近づくんだ。その時、ユニゾンデバイスの容姿に近ければ近いほどその魔導師のユニゾンデバイスに対する適性が低いことを表す)

 

 今度はリインさんによる念話が聞こえてきた。ふむ、おれの見た目がほとんど変わっていないということは、おれの適性は本当はめちゃくちゃ高いってことか!

 

(どうやら君のレアスキルは私の想像を超えていたようだ。そのレアスキルによって君は自分を保ち続けている。その目は自分がユニゾンをしているということを認識するための、必要最低限に必要なことなんだろう)

 

 ですよねー。ってか、もうおれの能力がどんなものなのか分からなくなってきたな。もうこれわかんねーな、と言わざるを得ない。

 

「そういえば、おれはどれだけの間この状態でいればいいんだ?」

(うむ、夜天の書の書き換えは順調に進んでいる。防御プログラムが妨害してきているが、そこは私が押さえているから問題ない。だが、そのせいで時間がかかるようだ。5年、いや、7,8年は必要か)

 

 わお、結構かかるんだな。長い付き合いになりそうだ。

 

「そうか、ならこれからよろしくなリインさん」

(こちらばかり世話になって申し訳ない。こちらこそよろしく頼む)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんなら! クリスマスパーティー始めよか!」

「おー!」

「わー」パチパチ

 

 はやての音頭により始まったクリスマスパーティー。なんて言ったって今日は12月25日、キリストの誕生日という建前で騒ぎ、飲み、食いする時である。

 

「まったく、私にだまってあんなことしとったなんてな。次、私に黙ってみんなだけで悩んだりしたらあかんで!」

「あ、ああ、わかってるって……」

「ごめんな、はやて……」

 

 はやての言葉におれとヴォルケンズはしょんぼりとうなだれる。

 あの後、管理局の人が来て今後についてのお話があった。そういえば、あの少年は前会ったな。確かクロノくんだったか。クロノくんによると、第一級捜索指定ロストロギアである闇の書は消失し、この事件の過程で発見された夜天の書は過去の古代ベルカの貴重な文献であり、それの正当な所持者は八神はやてであると認め、保護するらしい。もちろん丁重に。

 しかし、闇の書とヴォルケンリッターとの関係は否定することはできないため、裁判でヴォルケンリッターの扱いを決めるらしい。ここで管理局独特の制度、「あー誰でもいいから管理局の仕事手伝ってくれないかなー(チラッ。例え罪人でも手伝ってくれたら、刑を軽くしてもいいかなー(チラッ」が発動すれば、ヴォルケンリッターは保護観察の後、管理局で働くことで刑が軽くなるそうだ。

 

「まあええわ、今日は楽しむでー!」

「そうだそうだー」

 

 今日はいろいろあったから一度家に帰って落ち着いてからまたしっかり話そうとなった。

 

「私達もいいのかな?」

「にゃはは……」

「全然かまへんでー。こういうことは大勢でやらな!」

 

 だが、この事件の渦中の人間をそのままで帰すわけにはいかないので、見張りという名目でフェイトさんとなのはさんが来ている。実際は二人は八神家のクリスマスパーティーに誘われたようなものだ。

 

 そういえば、管理局との話の少し後はやてが目を覚ましたのだ。そして、これまでにあったことと今起こったことを話すとこってり怒られた。

 

 曰く、危ないことはしたらあかん。

 

 曰く、困った時は(はやても含めて)みんなで考えろ。

 

 曰く、警察を見て逃げるのはやめましょう。

 

 だそうだ。……今思ったんだが、最初はやてに内緒で魔力の蒐集を始めたのは、魔力の蒐集で荒事になり、蒐集する相手を傷つける行為であるからだ。そして、その行為によってはやての足を治すことははやてを傷つけることになるだろうという判断からだ。だが、結局はおれの能力によって生き物との同意の上での蒐集となり、アフターサービスも忘れない対応になった。こんなことになるならはやてにも話してもよかったんじゃないだろうか? と、思ってしまった。まあ、今更のことである。

 

 その後、リインさんは長くは居れない状態だったこと。おれとユニゾンして何とかなったこと。そのユニゾンには万が一とはいえ危険性があったこと、などを話したら、これまた叱られた。

 

「しかし、ハムテル君の目真っ赤やな。これからは赤目のハムテルって名乗ればええと思うよ」

「何? おれはこれからテニスでもすればいいのか? それともゲームであってゲームでない世界で殺し屋でもするのか?」

 

 やめてくれーこれ以上おれに中二ネームを増やさないでくれー。

 

「赤目のハムテル、良い二つ名じゃないか。なあ! 麦わらの主(笑)」

「うむ、私もそう思うぞ闇炎の使い手(ダーク・フレイム・マスター)(笑)よ」

 

 おいぃ! まだ弄るの!? 勘弁して! 

 まったく、シグナムさんとヴィータはいつまでこのネタで弄ってくるんだ。ていうか、烈火の将だとか鉄槌の騎士だとか二つ名持ってる二人には言われたくねー! まあ、そのことを指摘しても「私はこの二つ名に誇りを持っている。恥じることなど何もない(キリッ」とか言って、恥ずかしがる様子もないから弄れないんだよな。なら、おれが反応しなければいいんだが、過去の古傷を抉られるような感じでどうしても反応してしまうのだ。もうこれは諦めるしかない。

 

「まあ、そんなことは置いといて」

 

 はやてが振った話題なのに!?

 

「ハムテル君が焼いてくれたケーキと入れてくれたミルクティーをいただこか!」

 

 なにはともあれ、これでおれ達の目的であるはやての足の治療は何事もなく進むだろう。

 

「メリークリスマース!」

「メリークリスマス!」

 

 はやてがメリークリスマスと言い、ヴォルケンズ、フェイトさん、なのはさん、おれもメリークリスマスと言う。

 

 今日という日はおれが転生し、闇の書の封印が解け、魔力を蒐集するという非日常の日々が終わり、やっとやって来た素晴らしき日常への最初の1日となる。

 

 自分で言うのもなんだが、ケーキの出来はなかなかだと思っている。そして、自慢のミルクティーと合わせて食べたらそれはそれは素晴らしい味だろう。この日にとって不足はない。

 

 

やっぱり日常っていいよな。

 

 

 

(わ、私も食べたい……)

 

味覚の共有ってどうやるんです、リインさん?

 

 

 

 

 




これから空白期を適当にやってSts編に行きます。

色々と描写できてない部分があり過ぎて突っ込みどころあり過ぎでしたが、許してちょんまげ


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おじさんと猫と30話

「あ、また評価くださった方がいるな~嬉しい限りだ……お、評価の色がついて…赤!?まじで!赤!」ってなりました。

ありがとうございます!!

##この話は修正されました##


 

 

 

クリスマスパーティーも終わり、管理局の人とお話をするまでの間はおれ達八神家は暇になった。暇になったが、その間にはやてに今まで援助をしていた(これからも続けてくれるそうだが)グレアムおじさんこと、ギル・グレアムさんが家に来て話がしたいそうだ。

 

「そのおじさんってあれだろ? あの猫仮面の人」

「お前まだ寝ぼけてんのか? だから違うって言ってんだろ。でも、あのおっさんは最初ははやてを封印してこの事件を終わらせようとしたんだ。闇の書に関わってた私達が何か言えることじゃないけど、それでも……会うのはちょっと気まずいな……」

 

 ああ、そうだったな。そのおじさんがはやて、と言うより闇の書の封印をしようとしてたんだな。

 

「ヴィータ、そんなこと言ったらあかんで。グレアムおじさんは自分のできることをしようとしただけやし、夜天の書の主として、私は過去のことも全部背負っていくつもりやで!」

「はやて……」

 

 今回の事件、過去の事件を合わせて裁判と奉仕労働をすることになったのはヴォルケンズだけだったのだが、はやては夜天の書の主としてけじめを着ける、と言って自分からヴォルケンズの奉仕労働を手伝うため管理局で働くことした。

 おれ? おれも管理局で働くことは内定している。今回の事件で人に対して魔力の蒐集をすることはなかったから深刻な問題となっていないが、闇の書の封印を解除するために魔力を蒐集するという行為はまずいことなのである。とはいえ、おれがやったのは原生生物と交渉して魔力を分けてもらったことだけだ。(決戦の日は寝てたしね)厳重注意だけで勤労奉仕をする必要はまったくない。

 だが、八神家の一員としてみんなの苦労をおれだけ避けるなんて言う選択肢はあり得ない! あり得ないですぞ! 八神家のみんなとは喜び、悲しみ、苦しみ、を共有してみんなで楽しく生きていきたいと思っている。

 決して、管理局で働けば就職活動しなくてもいいな~とか! この不景気で雇ってくれる場所があるのはいいな~とか! 思ってないから!

 

「私はこうして元気やし、夜天の書のおかげでみんなと一緒におれるんや……って、ちょっと恥ずかしいなぁ。それに、グレアムおじさんにはごっつお世話になってるんや! やから、そんなふうに言ったらあかんで!」

 

 あ、はやてが照れてる。

 

「ほら! ハムテル君! そろそろおじさん達来るで! お茶の用意や!」

「あ~らほ~らさっさ~っと」

 

 ん? 達? 他に誰かいるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお招きありがとう。こんな私でもまだ会って話してくれてうれしいよ」

「そ、そんなことありません! グレアムおじさんには感謝してもしきれないほどのことをしてもろうとりますんで」

 

 あの人がグレアムおじさんか。ダンディーなおじさまだな。しかし、おじさんだけ? 他にも人がいるような言い方だったけど……っと

 

「お? なんだお前達? かわいいな~おーよしよし」

 

 おじさん以外の訪問者の事を考えていたら2匹の猫がおれの足元に来て、スリスリしていたのでなでてやる。あ、もしかしておじさん達の達ってこいつらのことだったのか。そして、猫仮面ってこいつらの事か。なるほど納得。そして、今思い出した。この2匹の猫、いつか家の近くにいた猫達じゃないか?

 

「あ、こら、失礼だろう、二人とも。挨拶をしなさい」

「はーい、ごめんなさいお父様」

「すいませんお父様」

 

 おれが猫をなでまわしていたら猫から声が聞こえた気がした。いや、確実にしゃべった。

 

「私はリーゼアリア!」

「私はリーゼロッテ!」

「「よろしくね」」

「あ、はい。よろしく」

 

 び、びっくりした。2匹の猫だと思ったら2人の美人のお姉さんだった。と、言うことはおれは2人の女性を撫でまわしていたことになるのか?  や、やばい! これはおれの明晰夢(笑)が正夢になるのか!?

 

「ねえねえ、マサキ……だっけ? もっと私達のこと撫でておくれよ。君に撫でられると疲れが抜けてすごい気持ちいんだ」

「あ、私もお願いできますか?」

 

 ……どうやら大丈夫そうだ。

 

「あ、みなさん、こんなところで立ち話もなんですし、どうぞリビングの方にどうぞ。おいしい紅茶を用意してますよ」

「おお、それは有りがたい。では、上がらせてもらおう」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これは美味いな……」

「せですやろ?  ハムテル君……あ、いや、公輝君が入れてくれたんですよ」

 

 今はみんなでテーブルを囲み、おれの入れた紅茶を飲みながら色々とお話をしていた。話した内容はグレアムさんの謝罪、これからのはやて達の処遇など、詳しく話してもあまり面白いものではないだろう。

 

「にゃふ~」

「にゃ~」

 

 おれは紅茶を飲みながらアリアさんとロッテさんのご要望通り撫でまわしている。もちろん、猫の形態になってもらっているが。さっきは猫が女性になったから驚いたが、良く考えたらザフィーラさんと同じようなものと考えたら何も不思議じゃないような気がして来たから、おれも成長したなと思う。成長? まあいいや。

 は~やっぱりヌコはかわいいな~狼はかっこいいけど撫でまわすにはちょっと違うしな~(中身がガチムチマッチョメンなのもあるが)

 

「けっ、マサキのやつ……でれでれしやがって」

「ふふ~ん、何だい? 嫉妬かい?」

「ち、ちげーよ! おめーらにあっさり気を許してるマサキの不用心さにあきれてるだけだよ!」

 

 え、おれが悪いのか?

 

「ヴィータ、あかんよ?」

「うっ、ごめんなさい……」

「やーいやーい」

「いや、仕方ないことだ。ロッテ、あまりそういう風にいってはいけないよ」

「は、はい……」

 

 うーん、この関係が良くなることはあるのかな?

 

「公輝君」

「……あ、はい」

 

 さっきまでははやてとヴォルケンズが話の対応をしていたため、その間何も考えずヌコを撫でまわしていたため反応に遅れてしまった。

 

「君の活躍は聞いたよ。君のおかげで今回は今までと比べて信じられないほど少ない被害で解決することができた」

「そ、そうっすか」

 

 か、活躍? おれなにしたっけ? 巨大ミミズと仲良くなってウォーターベッドみたいにして遊んだことか? それともヤデと仲良くなってナウシカごっこしたことか? あ、ちなみに、ナウシカごっことは、ヤツメムカデの触手の上を歩く遊びだ。なかなか高さがあって怖かったが、主役の気分を味わえた。えっと、活躍……活躍……

 

「改めて、礼を言わせてくれ。ありがとう」

「どういたしまして? 自分は何かやったつもりはないんですけどね。防御プログラムとの戦いでは何もしなかったどころか、その場にもいませんでしたし」

「そんなことはない。君の存在は今回の事を大局的に考えるととても大きい」

「そうですかね」

 

 まあ、いいか。おじさんもそれで満足してるみたいだし。過剰な謙遜は嫌味って言うしな。

 

 この後ははやてがこれまでにあったことをおじさんに話したり、猫姉妹がヴォルケンズと睨みあいながらもなんだかんだと話していたりしていた。魔力の蒐集をしていた時は管理局の人とこんなふうに話すことは全く想像できなかったな。

 

ふぅ、紅茶うめー。

 

 

 

 




すずかからクリスマス会の誘いのメールあり。(wikiより)←!?!?!?!?!

また、史実をゆがめてしまっている……


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質問と年越しと31話

あーvividのアニメ楽しみなんじゃー

##この話は修正されました##


 

 

 

 グレアムおじさんとのお話も終わり三人は色々としなければいけないことがある、と言って帰って行った。それから数日過ぎ、ヴォルケンズは管理局の招集を受けたためヴォルケンズは管理局の本部? でいいのだろうか、本局というところへ行った。当初は夜天の書の主としてはやても付いていくと言っていたが、ヴォルケンズとしては足が治り始めた大切な時期なので大人しくしていてほしいそうだ。

 

「む~、またおいてけぼりや……」

「まあまあ、ヴォルケンズもはやてをないがしろにしているわけじゃないよ」

 

 そうです、おれもはやてとお留守番中です。

 

「せ、や、か、て、工藤!」

「落ち着きたまえ、はやてくん」

 

 はやてはこたつの天板を言葉の区切りに合わせながらバンバン叩いている。こらこら、紅茶がこぼれるからやめなさい。

 

「ヴォルケンズもすぐ帰ってくるって言ってたし、ちょっとくらい良いじゃん?」

「せやかて、もうすぐ年越しやで? みんなで過ごす最初の年越しやったんやで? そんな日はみんなで過ごしたいやんか」

 

 ああ、はやては置いてきぼりにされたことだけじゃなくて、みんなと年越しと正月を過ごせないかもしれないことを危惧しているのか。うーん、確かにそれはおれもいやだな。

 

「そうだな、だけどここにいるおれらには何もできないし、ヴォルケンズができるだけ早く帰ってくるのを待つしかないな」

 

 おれは紅茶を一飲み。紅茶はお茶と違って音を立てて飲んではいけないのだぞ? まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「む~」

「そういえば、こうしておれとはやてと二人っきりていうのは久しぶりだな?」

 

 ヴォルケンズが全員はやての傍を離れると言うことは魔力蒐集時代はなかったからな。

 

(私! 私もいるぞ!)

「あ、リインさんごめん。喋らないからてっきり寝ているものかと」

 

 起きているのならもっと会話に参加してくればいいのに。

 

「あ! そや! これまでリインとゆっくり話すこともなかったし、ちょうどええからリインのこと色々聞こか!」

 

 こたつに突っ伏しって「あうあうあ~」って感じにしていたはやてが突然顔を上げ、こんなことを言い出した。

 

(わ、私の事ですか?)

「せや、私リインのことなんも知らへんから、色々質問するわ」

 

 と、いうわけでリインさんへの突然の質問大会が始まることとなった。

 

 質問1「好きな食べ物はなんですか?」

 

(食べ物ですか……私としては食べることができれば何でも構いませんね。お腹いっぱいになれれば……あっ、すいません! 別に催促しているわけではないのです!)

 

 おれとはやての空気が暗くなる。

 

 リインさん……はやてのおいしいご飯を一杯、いーっぱい食べさせてもらえ! それで自分の好きなものを見つけるんだ! おれも協力するぞ! ケーキでもクッキーでもミルクティーでもなんでも作ってやる!

 

 質問2「趣味とかはありますか?」

 

(趣味……趣味……? 世界中の魔法の蒐集? いや、主の力になることですかね?)

 

 おれとはやての空気が重くなる。

 

 リインさん……夜天の書が完全に元の夜天の書になって、おれとのユニゾンが切れるようになったら山とか、海とか、秋葉とか行ったりしような! いくらでも案内するぞ!

 

 そんな感じの質問を続けていくうちにリインさんへの同情の念というか、やりきれない気持ちというか、なんとしてもリインさんを幸せにしなければいけないことをはやてと再確認することになったのだった。

 

 

 質問大会の後、リインさんにおいしい食べ物を教えるためにはやてが朝、昼、夜と張り切って作ったため、ついでにおれも大変満足できました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれとはやてとリインさんの三人の生活もまた数日が過ぎ、今日は12月31日。つまり、今年最後の日である。

 

「みんな帰ってこうへんなぁ……」

「連絡があったんだから、今日中には帰ってくるって」

 

 連絡があったので年越しそばを人数分作り、今年最後の日を過ごそうとしていたのだが……

 

「帰って、こーへーんー」

(主……)

 

 もう23時を過ぎたところである。9歳のはやてにはきつい時間のはずだが、今日だけはなんとしても0時の除夜の鐘を聞くんだ! と、言って頑張って起きているのである。

 

 ガチャン

 

 それは家の扉が開く音だろう。ということはようやっとヴォルケンズは帰って来たということだ。ふう、はやてもこれで落ち着くだろう。

 

「ごめんはやて! 遅くなっちまった!」

「申し訳ありません主、ただいま帰りました」

「はやてちゃん遅くなってごめんね」

「ただ今戻りました、主」

「もう! みんな遅いで! でも、0時には間に合ったから許す!」

 

 ヴィータ、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさんが帰って来て挨拶をする。

 

「みんなお腹すいたやろ? お蕎麦あるで! お蕎麦! 年越し蕎麦や!」

 

 ヴォルケンズが帰って来てはやてのテンションが有頂天なんだが。まあ、落ち込んでいるよりはずっといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなと蕎麦を食べてしばらくしたらもうすぐ0時だ。

 

「後10秒や!」

 

 はやてが言うとみんなはテレビの除夜の鐘の特集に注目する。

 

「3!」

「2!」

「1!」

「ハッピーニューイヤー!!」

 

 色々あった今年も終わり、新しい年が始まる。

 

 さて、去年は色々あったが、今年はどんなことがあるだろう。

 

 

 

「あ、はやては編入試験の勉強しなきゃいけないな」

「えっ」

 

 

 

 




あー劇場版3rd楽しみなんじゃー


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編入と条件反射と32話

なんだか最近想定以上の方に見てもらってすごい驚いてます。
そのため、序盤の文頭一文字とか三点リーダー偶数の法則の修正しました。(多少見やすくなったかと)

##この話は修正されました##


 

 

 

 季節は巡り、桜の季節がやって来ました。

 そんな言葉が頭のなかに浮かぶようになってきた今日この頃。はやての足の回復も弱った筋肉をもとに戻すだけとなり学校に復帰することになった。おれの能力を使えばあっという間に治るのだが、はやては自分の力で治したいそうだ。そのため、おれははやてにしばらくの間お触り禁止である。

 ……別に普段からぺったぺた触っているわけではないということは言わせてもらう。

 

「ちょっち緊張するなー。ゲームが出る度に転校させられるヒロインさんはご苦労なこっちゃ」

「そうだな。ていうか、はやてはヒロインだったのか。そいつは知らなかった」

 

 そうそう、はやてが復学するに辺り、おれも転校することになった。その学校は私立聖祥大附属小学校といい、クリスマスイブにお見舞いに来てくれた子達が通っているそうだ。まだはやてが一人で学校に通うのは少々辛いので付き添い、手伝いとしておれもついていくことになったのだ。私立ということでお金の方が少し気になったのだが、特待生になればなんの問題もないことに気付き、遠慮なく通うことにした。これでも、現役浪人生(前世)で、難関校と言われる大学に合格することができたおれにとって難しい事ではなかった。高校で特待生になれ、と言われたらどうなっていたかわからないが。

 

「そうやで、魅惑の転校生兼幼馴染み枠のはやてちゃんやで。後のヒロインは行き付けのお店の看板娘のなのはちゃん。なのはちゃんの魔法少女仲間のフェイトちゃん。私の読書仲間のすずかちゃん。そして、ツンデレクラスメイトのムードメーカー、アリサちゃんや。あ、もちろん主人公はハムテル君やで」

「主人公とヒロインが一緒に転校って新しいな」

 

 一体何時からこの世界はギャルゲーになってしまったんだ。しかし、こうやって言われると本当にギャルゲーの主人公のようだから困る。

 

「それにしても長く、苦しい戦いやった……」

 

 はやてがうんうん、と頷きながら言う。

 

「戦いって試験勉強か? そんな風には見えなかったけどな」

 

 私立聖祥大附属小学校には編入試験がある。この学校はこの辺りではとても有名な進学校らしく、試験もその辺の私立小学校のように知能テストのようなものではなく、中学校の範囲に片足を突っ込んだ様なものであった。はやては休学中に出来る限りの勉強をしていたとは言え、それは一般的な小学3年生のもの。この状態で編入試験を受けると言うのは中々厳しい。そこで、おれが教師代わりとなって勉強を教えたのだ。

 

「一度教えるとすぐに出来るようになっていったから余裕だと思ってたが、違うんだな」

 

 できすぎて教えがいがなかったというか、なんというか。同じ範囲を勉強をしていた当時のおれ少年がはやてをみたら嫉妬していたことは確実だろう。

 

「勉強したくないでござる! できるだけしたくないでござる!」

「さいですか」

 

 だめだこいつ、早くなんとかしないと。

 

「二人とも、入ってください」

「「はーい」」

 

 そう言えばここが何処だか言っていなかったな。転入初日、転校生はいつの間にか用意されていた机と椅子にいつの間にか座っているわけではない。朝のHRにでも紹介をするものである。その時転校生は先生の合図でドアから教室に入る。つまり、さっきまでいたのは学校の廊下。

 転校初日から緊張感ゼロである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで今日からみんなの新しい友達になります。仲良くしましょう」

 

 転校生であるおれたちの簡単な自己紹介が終わったところだ。小学校とはいえ、ボッチは辛いので自己紹介で好印象をもってもらおうと頑張った。あ、そういえば、はやての入学するにあたっての配慮としておれとはやては同じクラスにしてもらっている。

 とりあえず落ち着いたので改めて教室を見回してみる。

 

 ダッ

 

「何してるんや? ハムテル君?」

「いや、何でもない気にするな。ただの癖だ」

「どんな癖やねん」

 

 教室を見回したらなのはさんとフェイトさんが目に入ったために、つい彼女達から逆方向に走り出そうとしてしまった。

 教室になんとも言えない雰囲気が漂う。これで変人認定は確定的に明らかだろう。

 

(なんだ、その……なんかすまないな)

(別にいいって、リインさん)

 

 ええ、ほんと。別に闇の書の魔力蒐集の時の、『管理局関係者をみたらとにかく逃げる』癖が抜けてないだけですから。特に、誰かさんのせいで走るのが一番有効だと思っただけですよ。夜天の書、ひいてはリインさんのせいなんかじゃありませんから。うん。

 

「ん? 大丈夫? それじゃ、二人はそことそこの机使ってください。はい! これで朝のHRは終わります」

 

 先生が二つの机を指差し、挨拶をして教室を出ていった。そこまではやての車イスを押し、机の上に荷物を置くと……

 

「二人は兄弟なの? 兄弟だったらなんで名字が違うの?」

「兄弟じゃなかったらなんで一緒の家に住んでるの?」

「好きな事とか物は?」

 

 などなど、一瞬で生徒達に取り囲まれて質問攻めにあってしまった。はやても苦笑いである。そして、最初の二人よ、そう言うことは深い事情が有るときがあるから仲良くなってから聞くのが、世の中を上手く渡るコツだぞ? まあ、このくらいの子供達なら仕方ないが。

 

「はいはい! みんな質問は順番よ!」

 

 そんなおれ等に見かねたのか、金髪の少女が間に入る。容姿などから、彼女がアリサ・バニングスだろう。それにしても凄い統率力だ。王者の風格を感じる……ッ!?

 まあ、そんなことはどうでもいい。その後は落ち着いた質疑応答が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒達の質問に答えるので休み時間が終わってしまった。今日は始業式の次の日ということで短縮日程のため、もう学校は終わりである。

 

「はやてちゃん!」

「はやて!」

 

 ガタッ

 

「座れや、ハムテル君」

 

 おっと。

 

「やっと落ち着いて話せるわね」

「こんにちは、はやてちゃん」

 

 最初に話しかけてきたのがなのはさんとフェイトさん。次に話しかけてきたのがすすかさんとアリサさんだ。

 

「あんたと私は初対面よね? 私はアリサ・バニングス、アリサでいいわ。よろしく」

「私は月村すずか、すずかでいいですよ。はやてちゃんから話は聞いてます。よろしく公輝君」

「改めてどうも、坂上公輝です。よろしく」

 

 おれとアリサさんとすずかさんの自己紹介もつつがなく終わる。

 

「ねえ公輝君? さっきと今、私とフェイトちゃんを見た時どうしたの?」

「何でもないって」

 

 はっはっはー、なのはさん冗談きついっすわー

 

「ちゃんと紹介するのは初めてだね。わたしはフェイト・テスタロッサ。よろしくね」

「知ってると思うけどおれは坂上公輝。よろしく」

 

 フェイトさんとの自己紹介も終える。

 

「乗るしかない、この流れに! 私は八神はやて。みんな、よろしゅうな!」

 

 流れに乗ってはやても自己紹介。然り気無く持ちネタを突っ込んでくるはやてさん流石っす。

 

「「「「よろしく!」」」」

 

 

 

 おれ以外の四人の少女達がそれに応え、表(日常的な意味で)、裏(魔法的な意味で)での長い付き合いがここから始まる。

 

まあ、楽しい学生生活が送れそうでなにより。

 

 

 

 




編入後試験の設定は独自


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入局と合体技と33話

ずっと前から考えてた話。

後は何を書こうか。アリシアとプレシアさんでも助けるかな?

##この話は修正されました##


 

 

 

 無事小学校に馴染んできた頃、今は5月である。さて、今おれらはフェイトさんの保護者のリンディさんと言う方に連れられて時空管理局本局と言うところに来ている。ここにいるのはおれ、はやて、なのはさん、フェイトさんである。何故ここに来たのかと言うと、管理局で働くための手続きをしに来たのだ。手続きとともに身体測定、健康診断も行うため男女別行動である。つまり……

 

「見知らぬ場所で一人とかなにこれ寂しい」

(大丈夫だ、私がいるじゃないか)

 

 おれの心の支えはリインさんだけだー。

 

「しかし、まってる間にこの用紙の記入をおねがいしますって言われても、何を書くように求められてるのかがわからないからどうしようもないな」

 

 国が違えば言語も文化も違う。世界が違えば言語が違うことなど当たり前だろう。

 

(上から氏名、年齢、出身世界、志望理由、備考だな。書くのは自分の世界の言語でいいそうだぞ)

「おお! さすがリインさんだ」

 

 えーと、名前は坂上公輝。年齢は20……ではなく9歳。出身世界? 地球でいいのか? あ、そういえばシャマルさんが前なんか言ってたな。

 

「第98管理外世界っと」

(97だぞ)

 

 ええい! ややこしいぞ!

 

「志望理由か……私が貴局を希望した理由は、 御局の「市民のために」という理念に共感したからです。また若手局員でも責任ある仕事を任せていただけたり、入局後の教育制度がしっかり整っているので、自分自身を成長させることができると感じたからです。さらに、貴局では環境問題にも力を入れ、積極的にボランティア活動を行うなど、社会貢献されている点に惹かれ、貴局を志望致しました。……で、いいかな?」

(なんでそこはそんなにしっかりしているんだ)

 

 おっと、つい就活を楽にするために早めに勉強していた就活マスター~志望動機編~の丸暗記していたところを書いてしまった。

 

「じゃあかっこいいからでいいや」

(子どもか!)

 

 今は子供ですやん。

 

「備考ね。こういう時に備考って書くことないよなー」

(公輝の場合はレアスキルの事を書けばいいんじゃないか?)

 

 ああ、レアスキルね。自分と他人の怪我と病気を治しますって書いておけばいいか? あと融合機が憑いていますってことも書いておくか。

 

(え、私ってそういうやつだったのか)

 

 気にしない、気にしない。

 

「坂上さん、遅れて申し訳ありません。それでは、身体測定と健康診断を行います」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 健康診断を終えたおれはその日はそれで終わりだった。その日ははやて達と本局にあるホテルに泊まった。翌日、おれのレアスキルがどの程度のものか確かめるために担当の局員とともに第一管理世界ミッドチルダの病院へとやって来た。ここは管理局の通称陸と呼ばれる部署の管轄で、局員の生傷から重体まで色々な患者が絶えないためここで確かめることになった。

 

「じ、じゃあ次はこちらの方を」

「ほいほいっと」

 

 おれが患者さんの体に手を当てると見た目の変化こそないが、彼の体の奥にあるリンカーコアが活性化しているのがわかる。

 

「お、おおおおおお!!! 感じる、感じるぞ! おれの魔力だ! ありがとう、本当にありがとう!」

 

 そういっておれの能力検査の被検体になった人がすごい感謝してくる。これほど感謝されたのはさっき腕の欠損を治した人ぐらいだろう。

 と、こんな感じで管理局の医務室にいた患者さんの怪我、病状が軽い人から重い人へと試していき、今は向こうが用意した中で2番目に深刻な患者さんを治したところだ。ちなみに、一番下は擦り傷、切り傷、風邪などだった。

 

「こ、これも治しちゃうのか……こんな強力なレアスキル見たことも聞いたこともない……」

 

 そりゃ神様(仮)印ですしおすし。

 

「では、こちらが最後の方になります」

 

 ふむ、名前、アラン・スペイサー。年齢、17。まあ、ここはどうでもいい。先天的に目が見えない。原因は不明っと。先天的……ね。

 

「では……」

 

 さっきまでと同じようにアランさんの体に手を当ててみるがアランさんの目が治る様子はない。やはり、想像した通りだった。

 

「ん? あ! この方の場合は治らないんですか?」

 

 なんかあんた嬉しそうだな、担当局員よ。だが、この結果は実は予想出来ていた。おれの能力は自分の状態を自分の知る最高な状態にすること。先天的に目が見えていないのなら、目が見えないのが当り前で、自分の知る最高の状態なのである。目が見える状態は文字通り想定外と言ったところだろう。

 

(ふっ、私に任せろ)

(何! リインさん! 何をする気だ!)

 

 本当にリインさんは何をする気なのだろう、っと考えていたらおれが手を当てていたアランさんが突然倒れてしまった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 局員がおれの方を見てくる。

 

 え!? これおれの所為!?

 

(公輝、その人から手を離さないで)

(お、おう)

 

 そのまま2分ほどするとアランさんが目を覚ました。

 

「……見える? ……見えるぞ! うおおおおおおおおお!!! おれはお前の事が見えるようになったんだああああああ!!! ナナリイイイイイィィィ!!!」

 

 えー。まあうれしいのはわかるんだが、さっきまでのイメージと違いすぎてちょっと引く。

 

(何をしたんですか?)

(私を誰だと思っている? 夜天の書の管制人格、リインフォースだぞ)

 

 知ってるよ。

 

(彼を彼が望む理想の世界の夢に誘った。そこで自分の望む『最高の状態』というものを体験しただろう。まるで現実であるかのようにな)

(リインさんそんなことできたのかよ。全く知らなかった)

(ふふふ……)

 

 リインさんとおれが力を合わせればこの世の救えない人がいなくなるな。おれの手が間に合えばだけど。猫とアヒルが力を合わせてというか、カツオと昆布の合わせ技かな?

 

「なん……だと……」

 

 とりあえず、おれの担当局員ざまぁ!

 

 ……ざまぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 全ての検査が終わった。本来ならおれの希望を聞き、必要なら訓練を受けた後に正式に局員として働くことになるのだった。しかし、おれのレアスキルが自分の思っている以上に管理局の利益になるそうでおれの仕事は医務官で確定した。だが、問題はどこの所属になるかということになり、管理局を大まかに3つにわけた陸、海、空がそれぞれがそのレアスキルを欲しがった。どれだけ、話し合おうが結論は出ず、結局所属にこだわることなく管理局の共同財産的な地位に落ち着いたそうだ。なんだか、想定以上に働かされてオデノカラダハボドボドダになりそうな気がしてならない。レアスキル検査は自重するべきだったと後悔したもんだ。9歳児をこんだけ働かせる(予定)管理局は一度労基の監査を受けるべきだな。

 

「なんや、ハムテル君も大変そうやなぁ」

「はやてもな。なんか大変そうじゃん? 名前的に」

 

 はやてはヴォルケンリッターを伴って管理局に特別捜査官候補生として入局した。ロストロギア関連の事件捜査を専門としたいそうだ。

 

「まっ、お互い頑張ろうや」

「そうだな」

 

 そう言って二人で紅茶を啜る。

 

 こうやってゆっくりする時間もなくなるんだろうか? ふむ、本当に後悔してしまった。

 

 

 

 




GODのストーリーのコミックがあればいいのに


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夏休みとプラモデルと34話

(想像以上に空白期は難しい)

##この話は修正されました##


 

 

 

 管理局の入局が決まって早2か月。おれとリインさんによる容赦ない回復術によって、管理局においてどんな怪我だろうが病気だろうが治してしまうめずらしいレアスキル持ち回復魔導師と認識されて早2か月。

 

 パチン

 

 東に原因不明の病気の管理局重役があれば、体に触れて完治させ、

 

 西に疲れ果てた事務員があれば、体に触れ疲労を抜き、

 

 南に死にそうな武装局員があれば、体に触れ回復させ、

 

 北に犬猫の喧嘩があれば、撫でまわしてベロンベロンにさせる。

 

 パチン

 

 そんな鬼のような激務にもようやっと慣れてきて早2か月。地球の暦では8月に入ろうとしている頃である。局員でありながらも小学生であるおれは現在小学校の夏休みである。

 

 パチン

 

「ほら、この扇形の面積から三角形の面積を引くと余ったところの面積が出るの」

「ほうほう、なるほど」

 

 夏休みと言うことは、小学生には宿題が出るのは当然である。そのため、なのはさん、フェイトさん、アリサさん、すずかさんが八神家に来てみんなで宿題をしているところだ。

 

「あ、フェイトちゃん、そこの漢字間違ってるよ」

「え? あ、本当だ」

 

 パチン

 

 夏休みの宿題というのはその人の性格を見るのになかなか適した心理テスト染みたものだとおれは思う。几帳面、真面目、面倒くさがり屋(タイプB)の人間は夏休みに入った直後、また物によっては入る前に終わらせてしまう。コツコツ型、スケジュールを立てられる人は無理なく夏休み全体を使って宿題をする。遊び人、勉強嫌い、面倒くさがり屋(タイプA)は夏休みの後半にまとめてやってしまうというのがおれの考察だ。

 ちなみにおれはこの中で面倒くさがり屋(タイプB)だと思っている。補足として、タイプAは面倒くさいからやらないタイプ。タイプBは面倒くさいが故に先に終わらせるタイプ。

 

 パチン

 

「ところで、ハムテルくんは一人さびしく部屋の隅っこで何やっとるんや?」

「プラモ作ってる。勉強系の宿題はもう終わったんでな」

 

 タイプBのおれは夏休みの宿題は夏休みに入ってすぐの3日間寝ずにやって日記以外は終わらせているため、宿題のことは考えずに夏休みを満喫することができている。有名私立の聖祥大附属小学校の夏休みの宿題とはいえ、まだまだこれくらいなら余裕でできる。そして、おれの能力は本当に便利である。

 パチン。そういう音を鳴らしてニッパーでプラモのパーツを外していく。

 

「そんな暇があるんやったら私たちの宿題手伝って―な」

「んー、良いけどさ。おれがいなくても君達だけでできてるじゃん?」

 

 幸いと言うのかわからないが、今来ている少女たちは勉強が嫌いなタイプでも、タイプAの人でもないのでプラモを作りながら聞こえてくる話から察すると順調に進んでいるように思う。

 

「私はこの算数の問題を片づける! せやから、ハムテルくんはこの7月21日から8月31までの日記を頼む!」

「それはおれもやってほしいんだが……ていうかはやて、夏休みの思い出のねつ造は良くないと思うぞ」

 

 それよかこいつ、今日までの日記も書いてないじゃないか。何やってんだよ。実は面倒くさがりだったのか。

 

「毎日『いいとも見た』でいいなら手伝ってやらんでもない」

「そんなんお断りや」

 

 嘘でもなんでもないことを書くというのに文句が多いな、はやては。

 

「それより、あんた! そう言えば、なんでそんなに勉強できるのよ! まさか期末テストで全科目負けか、同点だとは思わなかったわ! それに宿題も終わらせたですって? どういうことよ!」

「どうといわれてもな……」

 

 まさか『もちろんです、元大学浪人生(プロ)ですから』とは言えない。

 

「ちょっと貯金が多いだけさ」

 

 本当にちょっとだけね。しかし、このままおれが前世の財産に胡坐をかいて高校生になれば、彼女に勉強で勝つことはできないだろうな。本当に末恐ろしい。

 

「? どういうこと? まあ、いいわ! 次のテストでは絶対に負けない!」

「あ、はい」

 

 なんだかライバル視されたようだ。まあ、勉強でもなんでも競い合う相手がいると実力の伸び方は大きく違ってくるからな。せいぜい彼女のライバルであり続けるようにおれも勉強するかね。

 

「あ、そうだ公輝くん。今度みんなで海に行くんだけど、公輝くんも大丈夫だよね?」

 

 なのはさんがおれにそう言ってくるが、そういうことは家長のはやてに御伺いを立てないと何とも言えないからな~

 

「はやてちゃんは大丈夫って言ってたよ」

 

 ああ、もうそこの確認はとってあるのね。ならなんの問題もないな。

 

「おう、もちろんおれも行くぞ。おれの黄金の左足を見せてやる」

「なんや、ハムテルくんは左足だけで泳ぐんかいな」

「違うそうじゃない、ビーチバレーだ」

「ビーチバレーで足の自慢されてもなぁ」

 

 おれのロブシュートを見たことがないからそんなことが言えるんだ。いいだろう、見せてやる。おれの左足の力を! ……まあ、ビーチがある海かどうか知らないんですけどね。

 

「それに、リインさんに色々なもの見せてあげないといけないしな」

「せやな! きれいなモン、楽しいこと、おいしいモン。いっぱい体験させなアカンしな!」

(そ、そんな気を使っていただかなくても……)

 

 いいや、だめだね! 前回の一問一答大会でリインさんを幸せにするってはやてと決めたからな!

 

 絶望しか知らなかったリインさんやヴォルケンズにこの世界にはたくさんの希望があるということをみんなで体験して、知っていってほしい。はやてと二人の時に交わした言葉だ(リインさんは寝てた)。照れくさいからみんなの前では言わないがな。

 

 とりあえず今はこのプラモを完成させることから始めよう。えーと、次はEの12にGの3と4を付けるのか。

 

「ん? あれ?」

 

 おかしい。パーツ版にあるはずのパーツがすでに無くなっている。間違えて違う時に取り外してしまったのだろうか?

 

「マサキ」

 

 そう言っておれを呼んだのはいつの間にか隣に座ってニヤニヤしているヴィータ。そして、おれが今作っているプラモのこれから使うであろうパーツ全てが並べてあった。

 

「全部外してやったぞ、ありがたく思え」

 

 

 

 絶望した。

 

 

 

 そして、よく見たらおれよりうまく処理してパーツを取り外してあってさらにへこんだ。

 

 

 




         ____
       /      \
      /  ─    ─\
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    |       (__人__)    |
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     ノ      |   |   \
             |r┬-|
             `ー'´

最後のハムテルくん代理


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海とバレーと35話

水着回(水着要素薄)

##この話は修正されました##


 

 

 

 夏だ! 海だ! ということでやってまいりました海。そこに広がるのは、人はおれ達しかいない白い砂浜。遥か彼方の水平線までくっきりきれいに見える広大な海。

 

(綺麗な海ですね)

 

 今まで生きてきてこんなに素晴らしい海に来たことはない! リインさんも感嘆しているようだ。

 

「おー! 今日は遊ぶでー!」

「よっしゃー! 泳ぐぞー!」

(主、お気をつけて下さい)

 

 はやてとおれが決意を新たに叫ぶ。こんなに叫んでも迷惑にならない海と言うのは本当にすごいと思う。これも全て、すずかさんのおかげである。すずかさんとアリサさんは海鳴ではとても有名なお金持ちのお嬢さんで、所謂プライベートビーチというものを所有しているそうだ。そして、今現在おれ達がいる場所はすずかさんの家、月村家が所有しているビーチである。

 いやー、やはり持つべきものは友達だな~……いや! 別にそういうやましい気持ちがあって友達付き合いをしてるわけじゃないぞ! ただ偶然友達がお金持ちだと、色々と良いことがあるのは必然であり、嬉しい誤算というか、ラッキーっていうことかな?

 

「主はやて、足の方はもう大丈夫ですか?」

「うん、絶好調やで。まあ、念のため遠くの方まで泳いだりはせんつもりや」

 

 着替え終わってやって来たのはシグナムさん。赤いビキニを身に付けたシグナムさんはとても目の保養になって言うことなしですね。

 ああ、そうそう、去年のクリスマスから約8カ月が過ぎ、はやては自分の力だけで歩くことが可能なくらいに衰えていた足は回復した。日常生活において車イスとの嬉しくも、なんとなく寂しい別れを経て今と言う時間を過ごしている。だが、過保護な守護騎士達ははやてのことがまだまだ心配なようだ。あ、そういえば忘れていた。

 

「はやてさん、特別捜査官の正式採用おめでとうございます」

「今言うんかい! どんなタイミングやねん」

 

 はやては特別捜査官候補生としての研修期間を終え、この間から特別捜査官に正式採用されたのだ。まだお祝いのケーキと紅茶とかによるパーティーをやっていないので家に帰ってから準備するとしよう。

 

「おーい!」

 

 シグナムさんにすこしだけ遅れて来たのはなのはさん、フェイトさん、ヴィータ、すずかさん、アリサさんのちびっこ組。その後ろを歩いているのはなのはさんの両親の士郎さん、桃子さん。なのはさんのお兄さんの恭也さん、お姉さんの美由紀さん。フェイトさんの保護者からお母さんにジョブチェンジしたリンディさん。すずかさんのお姉さんにして、恭也さんの彼女である忍さん。そして、パレオを付けた黄緑色のビキニを着た我らがシャマルさんだ。うんうん、こちらも眼福眼福。あ、ザフィーラさんは最初からここにおれ等と一緒にいる。

 

「よし、ヴィータ! 向こうのブイまで泳いで、折り返して浜まで競争だ! 先に着いた方がジュースおごりな!」

「はん! いいぞ! その言葉忘れんな!」

 

 そして、唐突に始まるおれとヴィータの水泳大会。やはり海に来たらこれは欠かすことはできない。

 

「おらぁ! 行くぞ! ヨイドン!」

「あっ! テメェ! 汚ねぇぞ!」

 

 はっはっは、勝負に慈悲はない!

 

「え、ハムテル君泳げるんか?」

 

 海に入るために走り出した時に聞こえたのは、そんなはやての声だった。当然じゃないか、勝てない勝負はしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

「マサキ、特別にジュースは買うんじゃなくて、家に帰った時においしい紅茶を淹れるので許してやるよ」

「まさかこうなるとは……」

 

 ああ、おれはヴィータとの水泳勝負に負けたさ。だがな、言い訳をさせて欲しいんだ。

 

「にゃー! すごいすごい! お魚がたくさんだー!」 

「何これ? いったい公輝はどんな不思議物質を分泌してるのよ」

 

 浜の近くの浅い所で座り込んでいるおれの周りには、小学生組と一部の大人組みが集まっている。

 

「へー、不思議なこともあるのね」

「公輝君がいれば無人島で食料を簡単に確保することができるな」

 

 おれが海に入水してほんの数秒後に、どこからともなく色々な魚達が集まって来てあっという間に取り囲まれてしまったのだ。海に浮かぶおれをあらゆる方向から魚に包囲されて前が見えなくなり、ブイを目指すもなにもなく、どこぞのGPSが故障してグルグル飛び回った鳥人間のごとく泳いでいた。はやての泳げるのか発言はこの事を言っていたのか……

 

(ふむ、魚に取り囲まれるとは。不思議な体験をしたものだ)

 

 まあ、リインさんが楽しそうで何よりです。

 君達も一度目をつぶって泳いでみるといいよ。まっすぐ泳いでいるつもりでも、まっすぐ泳げないから。その状況でまっすぐ目標に向かって泳げる奴はよく訓練されたスイマーだ。

 

「くそぉ! ならば、ビーチバレーで勝負だ! 負けた方が翠屋のシュークリームをおごる!」

「いいぜ、受けてたってやる」

 

 見せてやる、おれの黄金の左足!

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ!」

「来い!」

 

 すこし歩いたところに設置してあったビーチバレー用のコートを使いおれとヴィータのバレー対決が始まる。

 

「何故私も巻き込まれているんだ」

「まあまあ、ええやんシグナム。こういうのはみんなで楽しまなな」

「頑張りますよ~」

 

 ヴィータ、シグナムチーム対おれ、シャマルさんチームでの対決である。はやては審判兼観客。

 

「まあいい、坂上が負けたら私にも奢ってもらおう」

 

 えっ

 

「じゃあわたしも~」

 

 えっ

 

「ほんなら私も」

 

 えっ

 

「行くぞマサキ! とうっ!」

 

 ヴィータがサーブをして試合が始まる。やるしかないのか!

 

「必・殺! ロブシュート!」

「いきなりかいな」

 

 はやてがなんか言っているようだが、そんなことはどうでもいい。なんかよくわからないが罰ゲームが重くなってしまった今、容赦はしない!

 

「なんだ、ただ打ち上げただけじゃねーか」

 

 そう言いながらヴィータは上段のレシーブの姿勢をとる。だが、それはどうかな?

 

「な、何!?」

 

 落ちてきたボールがヴィータの手に当たった瞬間ボールは本来なら上に飛ぶところだが、左に飛んで行った。そう、おれがボールをけり上げると同時に、強力な横回転かけることによって着地、接触と同時にボールがあらぬ方向へ飛んで行くのだ。

 

「くっ、なかなかやるじゃねぇか」

「ふふふ、勝負はこれからだからな」

 

 

 

 

 

 

「なん……だと……」

「家に帰ってからの楽しみが増えたな」

(残念でしたね、公輝)

 

 ま、負けた……これは言い訳できないくらいに負けてしまった。あの後もおれの左足が輝いたが、その回転を無視するほどの強力なアタックをすることによって完全に攻略されてしまった。そして、途中でおれの左足が輝き過ぎて、蹴り損ねたボールかがシャマルさんの顔面にフレンドリーファイヤ! ボールは柔らかいビニールとはいえ、シャマルさんは目を回してしまい、試合途中からは2対1となってしまった。シャマルさんには地面に頭をこすりつけて謝った。

 

「いやー楽しみがある言うんはええことやな」

 

 ぐぬぬい……

 

 

 その後もみんなで海で遊びまくって、おれが誘蛾灯のごとく集めた魚を焼いて昼飯となってもらった。

 

 

 




次は時間飛びます


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ⅠとⅡと36話

物語は加速しない

##この話は修正されました##


 

 

 

 春には花見をし、夏には海や山に行き、秋には紅葉を見に行き、冬にはスキーをしたりと、おれたちは色々なことをした。

 時間の流れと言うのはその時の状況とその人の年齢によって変わってくるという。本来なら少年少女たちは次々と新しいことを知っていって1日の密度がとても濃いため、1年と言う時の流れはとても長く感じるものであるが、おれはすでに20年の人生を過ごしているため1年という単位はそれなりに早いものだと感じるようになった。さらに、人は楽しいことをすると時間が過ぎるのを早く感じ、面白くない時は時間の流れは遅く感じる。春夏秋冬とイベント盛りだくさんで楽しいこといっぱいの日常を過ごしているとだな……

 

「もうおれたちも5年生か。時の流れのなんと早いことか」

(ええ、この1年は今までで一番充実した1年でした)

 

 リインさんが来てから1年の記念日はとっくの前に終わらせ、八神家は2度目の春を経験しようとしている。

 

「春と言ったら花見だよな~おしゃべりをして、おやつを食べて、はやてのテラウマ弁当を食うのは至福の時だったからな~」

(はい、あれはとても素晴らしかった。そして、公輝は花も見ましょう)

 

 ちゃんと見ていたさ。散った桜の花びらがコップの中に舞い込んできたと来た時とか。すぐに出したけど。

 

「はやて、頼んだぞ」

(主、私も楽しみにしています)

「任せとき。それにしても二人ともほんま仲ようなったなぁ」

 

 はやてがそう言ってくる。そう言ったはやての顔からはうれしさと少しだけ複雑? いや違うな、とにかく微妙な表情が混じっている。

 

「なんだはやて、妬いてるのか?」

(そ、そうだったのですか主! 申し訳ありません! 私がこのような状態でなければ……)

「あ、いや、ちゃうちゃう! ちゃうで! ただ、二人のそういう関係をちょっとええなって思っただけやで」

 

 

 せっかく軽くサラッと言ったのにリインさんの所為で、はやてが本気で受け取っちゃったじゃないか。

 

 はやては手を振りながら言う。はやての表情から見えた感情は嫉妬ではなく軽い羨望といったものだったのか。確かに仕方ないとはいえ、今の状況はリインさんをおれが独り占めしているようなものだしな。あれ? リインさんを独り占めって世の中の男達なら誰もが羨むようなすごいことをしている気がしてきた。リインさん、超絶美人だしな。

 

(しかし、夜天の主として、夜天の書の管制人格であり、融合機でもある私とユニゾンしてこそ真の力を発揮できるというもの。私のふがいなさの所為で主をこのままにさせるわけにはいきません。主、もう一人融合機を自作してみるのはどうでしょう)

「もう一人融合機を?」

 

 リインさんの提案にはやては少し考えるようなしぐさをする。

 

(はい、きっと主の力になってくれるでしょう。夜天の書の修復が終わり、私が公輝とのユニゾンが解けるようになってからは状況に応じて主と守護騎士の誰か、もしくは守護騎士の2人をユニゾンさせるなどの戦略の幅が広がります。もちろん、私たち融合機が単体で何かを行うことだって可能です)

「うーん、そうやな~。聖王教会ってところから古代ベルカの話を聞かせて欲しいって話もあったしちょうどええかもしれんなぁ」

 

 ここで出て来た聖王教会というのは古代ベルカの王の一人である聖王を祭っている宗教団体だそうだ。だが、その宗教団体はただものでなく、時空管理局と深い関係にあり、管理局において大きな発言権があるとても大きな組織なのだ。

 

「よっしゃ! このはやて、リインの妹作ったるで!」

(はい! 私もこの身を以てお手伝いいたします!)

 

 こうしてリインフォース二号機、否(ツヴァイ)の製作が決定した瞬間である。

 

 これはどうでもいいことだが、リインさんがはやてと協力してリインさんの妹を作るというのは、わかっているんだがイケナイ妄想が捗……んんっ! いや、なんでもない。

 

 

 

 

 

 

「みなさん初めまして! マイスターはやての手により、新旧の技術を融合させて生まれたユニゾンデバイス、リインフォースⅡです! 私のことはツヴァイって呼んでくださいです!」

 

 イケナイ妄想捗る決意から約2か月。はやてと聖王教会の協力により完成したツヴァイは今日初めて八神家にやって来た。

 

「へー、こいつがツヴァイか。よろしくな」

「ツヴァイは小さいのだな。よろしく頼む」

「かわいい~! よろしくねツヴァイちゃん!」

「これからよろしく頼むぞ」

 

 ヴォルケンズに取り囲まれていたリインちゃん(ツヴァイのことはそう呼ぶことにした)は今度はおれの方に飛んでくる。

 

「初めましてです! お姉ちゃん! キミテルさん!」

(ああ、初めまして。主のこと頼むぞ)

「はいです!」

 

 そう言ってリインちゃんはこぶしを握って、フンスッと言う擬音が見えるかのように答える。リインさんとリインちゃんのあいさつも終わったようだ。だが、これだけは言わなければいけない。

 

「リインちゃん、僕の名前はキミテルではなく、公輝です」

「ああ、そうでした。キミテルさん!」

 

 こやつ……やりおる。

 

「今日はツヴァイの歓迎会や! おいしいごはん作ったるで!」

「やったーです! ありがとうございます、はやてちゃーん!」

 

 今度はそう言ってはやての方へツヴァイは飛んでいく。忙しい奴である。はやてに飛んで抱き着くリインちゃん。二人とも笑顔でこれはとてもいい絵になりますね。おれに画力があったなら。

 

 

 新たにリインちゃんを加えた八神家は今日も楽しく、これからも楽しく過ごしていく。

 

 

(……いいなぁ、私もツヴァイみたいに主に……)

 

 今度はリインさんかよ! まったく、八神家のみんなはあまえたがり屋さんで困る。(ザフィーラさんはちょっとわからないが)

 

「まあ、後5、6年の辛抱だ。そしたらリインさんだって」

(…………うん)

 

 おれ達は毎日楽しく過ごしているんだ。こんな時間が続けば5、6年なんていうものはあっという間だろう。それに、おれもリインさんも子供じゃないからさらに時の流れは早いだろう。このユニゾン生活を懐かしむ日が来るのもそう遠くじゃないと思う。

 

 ちなみにこの時、「はやてちゃーん」と、言いながらはやてに抱き着くリインさんを想像して萌えたのはおれの心の中だけの秘密でいいし、とてもどうでもいいことである。

 

 

 

 




それが日常は今日を以て終わり!(エイプリルフール)


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骨董屋と撃墜と37話

##この話は修正されました##


 

 

 

「あー疲れた」

(お疲れ様です、公輝)

 

 今おれが歩いている所は第一管理世界ミッドチルダの中心街、その大通りである。おれとリインさんの会話は他の人にはリインさんの声が聞こえないから、おれが一人でぶつぶつ言っているように聞こえる 。こんな人通りの多い所でみんなの注目を集める趣味はないので携帯電話(充電はとっくに切れてる)を耳に当てながら話している。

 

「しっかし、昨日は大変だったな」

(そうですね、流石にあれだけの量の食事を全部食べるとなると一種の拷問ですね)

 

 昨日おれは管理局に多額の出資をしているという管理世界のある国の王様のぎっくり腰を治しに行ったのだ。あっという間にぎっくり腰を治してしまったおれに王様は大層感激したらしく、これぞ満漢全席! というような食事を振る舞ってもらったのだ。

 

(しかし、あのような場合残しても良かったのではないですか? 咎められるようなことは無いでしょうに)

「いや! それだけは絶対に許されないことなんだ! 食事を出されたときは、その材料の生産者とおれの血肉となった動植物達に感謝し、その材料達を調理と言う名の魔法を使い、料理を作り出す料理人にも感謝する。その感謝とは、出された物は全部食べると言うことなんだ!」

 

 これだけは譲れん! どこかの国では出されたものを残すことによって「食べきれないほど食事を出してもらいありがとう」という意思を示すところもあるそうだ。ホストの人に対する感謝の念はもちろんあるが、生産者の方々にも感謝の念は忘れたくないのだ。

 

(そうか、それは立派だな。良い心がけだと思うぞ)

「でしょ~」

 

 そんな話をしながらやってきた場所は大通りから一本奥に入った小道にひっそりと佇む小さな店。

 

「ちわー、今日はなんかいい物入ってますか?」

「おう、まっちゃん。昨日珍しいものが手に入ったんだ。こいつをみてくれよ」

 

 この店は骨董屋『アルハザード』。店長はヤッサンと呼ばれているので、おれもそれにならってヤッサンと呼ばせてもらっている。このアルハザードというのは、技術が発展し過ぎたが故に崩壊してしまった遥か昔に存在した国……と、いう話が伝わっている伝説上の土地だそうだ。そこではマジックアイテムが多数制作されて、現在でもロストロギアとして存在しているものもたくさんあるだろうと言われている。ロストロギアとは、そんな昔の超技術によって作られた物で、今の技術では再現不可能の物の総称としてロストロギアというそうだ。

 つまり、かつてのアルハザードに存在したロストロギアのような珍しいものを取り扱いたい、と言うヤッサンの願いがこもった店名なのだそうだ。ここにあるものはどれも面白いものばかりで、お金が入るとついふらっと寄ってしまうのだ。この前買った懐中時計はとてもいいものだった。何よりかっこいいこと。ただ、時々時間が進んでいるのが玉に瑕だが。

 

「ヘッドホン?」

 

 そこに置かれていたのは高級ヘッドホンと一目でわかるようなヘッドホンの絵が描かれた化粧箱だった。

 

「そうさ! こいつはミッドチルダが誇る大企業、Y-SONが20年前に限定5台だけ発売したMDR-001.Magiだ! 装着者の魔力をヘッドホンが自動的に使用し、ヘッドホン全体にその魔力を纏わせることにより磁気回路内部で発生する共振を抑え込む。それによって、これまで体験したこともない高音質を提供する……と、言うキャッチフレーズで発売されたものだ」

(なんだその良くわからない理論のヘッドホンは。誰がそんな物を買うんだ?)

「まじかよ! すっげーなこれ! おれは興味津津だ!」

(えっ)

 

 おれの趣味は多々あるが、特にお金を掛けるものとなるとそれは一つに絞られる。それはオーディオ機器だ。イヤホン、ヘッドホン、アンプにプレイヤー。果てには線材までこだわりを見せるくらいにはこだわっている趣味なのだ。問題はおれのクソ耳が高音質に追いつけていないことなのだが、この世界は思い込みが左右するのでお金をかけたという事実があればそれでいいのだ。うん。

 

「ヤッサン、これいくらだ? 買うぜ!」

 

 

 4万、いや、5万までなら出すぞ。

 

「22万」

「は?」

「22万だ。どんなにごねても20万以下で売る気はないからな」

「イラネ、そんなん」

 

 オーディオ機器の闇は深い。さすがに20万はつらい。

 

「なんだ、いらないのか。まっちゃんもまだまだだな~こんな良い品がこの破格の値段で手に入るってのに。まあ、いいや。他の物も見て行きなよ」

「そうさせてもらうよ」

 

 そう言ってヤッサンは新聞を広げて読みだした。じゃあ、おれも店の物を物色することにしよう。

 

(お金をかければかけるほどいいのではないのか?)

「リインさん、物事には限度と言うものがある」

 

 働きまくってるからある程度高級取りではあるが、金銭感覚は庶民のままだと思っている。

 

「しかし、物騒だねぇ、我らがアイドルなのはちゃんが大怪我とはな。大事なけりゃいいけどな」

 

 今……ヤッサンなんつった……なのはさんが大怪我?

 

「ヤッサン! その新聞見せてくれ!」

「お、おう。なんだまっちゃんもなのはちゃんのファンだったのか。確かに歳も近いしな」

 

 いつ? -昨日か!

 どこで? -管理外世界での演習中

 何故? -未確認の敵性物体による襲撃

 状態は? -重体!?

 今は? -場所は詳しくは書いてないが、おそらく管理局系の病院だろう

 

 こうしちゃいられない!

 

「ヤッサン! これ返す! そんで、今日はもう帰るわ! じゃあ!」

「あ、ああ。気をつけてな」

「行くぞ、リインさん!」

(ああ!)

 

 おれ達はアルハザードを出て、事情を知っているであろうフェイトさんに場所を聞いて病院に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン

 

「坂上公輝です。入ってもいいですか?」

「公輝君? どうぞ」

「失礼します」

 

 そこにいたのはフェイトさん、ヴィータ、士郎さん、桃子さんだ。さっき応答してくれたのは桃子さんだろう。

 

「マ、マサキィ……来てくれたのか……たの、頼む……なのはを……なのはを助けてくれ!」

 

 ヴィータがおれに縋りついて来る。こんなに憔悴したヴィータを見るのは初めてだ。事の重大さがよくわかる。

 

「わかってる、そのために来たんだ。というか、何ですぐにおれを呼んでくれなかったんだ?」

「呼んださ! 呼んだけど……お前が答えなかったんじゃないか……」

 

 あ、そういえばこっちに戻ってきたの今日の午前。念話は世界を隔ててしまうと通じないし、携帯の電池も切れていた。それに、おれが仕事でどこに行くか、と言うのを伝えるのも忘れていた。クソッ! おれの所為じゃないか! だが、過ぎてしまったことは仕方ない。今おれができることをしなければいけない。

 

「なのはさんは今どこだ?」

「まだ集中治療室で面会謝絶だよ……」

「わかった。おれに任せろ! なのはさんは絶対に助けるからな」

 

 そう言っておれはこの病院の集中治療室に向かおうとする。

 

「公輝君、一体どうするつもりだい」

 

 士郎さんがおれにそう言ってくる。そんなの決まってるじゃないか。

 

「友達を助けるんですよ。時空管理局三尉相当医務官の力、今使わないでどうするって話ですよ」

 

 おれは待機室を出て集中治療室へ走る、全力で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「公輝君、本当に何と言ったらいいのか……とにかく、なのはを助けてくれてありがとう」

「ありがとう……ありがとう……公輝君」

「い、いえ! 自分こそ、もっと早く行くことができれば良かったのですが……」

 

 あの後、集中治療室を探しだしたおれは医務官権限で中に入り、レアスキルによる容赦ない回復術を施した。ほんの2分ほどでなのはさんは全回復して目を覚ましたが、何が起こったのかわからず混乱した様子だった。そして、しばらくして状況を把握したようで泣いていた。

 

「なのは……よかった……」

「なのは! なのは! 良かった……本当に良かったよぉ……」

「……ごめんなさい。心配かけて」

 

 フェイトさんとヴィータがなのはさんのそばによって泣いている。この涙が悲し涙にならなかったのは不幸中の幸いだろう。今回の事件は安全だと思っていた演習中に強襲を掛けられた所為というのもあるが、働き過ぎて疲労が溜まりに溜まってしまっていたために、なのはさんは敵に不覚をとってしまったそうだ。そのことについてはみんなにこってりと怒られていた。まあ、怒ってもらえるというのは幸せなことだと思う。その人に対して無関心なら怒ることなんてしないからな。なのはさんがみんなにどれだけ思われているか逆説的によくわかるというもの。彼女が理解しているかどうかはわからないが、今回の事で学んで欲しいものだ。

 

「なのは! 私はもう、なのはをこんな目には絶対合わせない! ベルカの騎士として、なのはのことを守るって誓う!!」

 

 ヴィータの誓いは力強くおれの心に届くような物だった。

 

 今のおれはなのはさんの治療に間に合うことができた事の安堵感で満たされていた。しかし、同時におれ達の仕事は死ぬ可能性が十分にある仕事だということも再確認させられることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(「友達を助けるんですよ。時空管理局三尉相当医務官の力、今使わないでどうする」か……あの言葉は私の心を揺さぶるようでした。公輝は本当に立派な人だ)

 

 ああぁ、あの時のおれは色々と天元突破してたから感じるままに喋ってたけど、そんなかっこいい事言ってたのか……

 

 は、恥ずかしいいいいいいいぃぃぃぃぃ

 

 あの事件の衝撃も収まりだしたある日のことであった。

 

 

 




新生活の準備が忙しくなるのでしばらく更新止まります。
許してちょ。



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近況説明と38話

10万文字突破!10万文字というのは自分が読む小説を選ぶときの一つの基準なんですが、こんなに大変だったとは……100万文字とか書いてる人は化け物ですね(誉め言葉)


 

 

 

 なのはさん撃墜から2年の時が経った。おれ達は地球では中学一年生となり、世の中では大人扱い(運賃の料金的な意味で)される歳となった。学友達はその事に喜びを感じているようだが、俺からしてみれば「使うお金が増えてやだなー」位にしか感じないことである。

 はやても「しばらく小学生ってことにしたろかな……」何てことを言っていたが、取り敢えず聞かなかったことにしておいた。まあ、この発言は歳の割に成長しなかった自分の身体を自嘲した発言だったような気もする。頑張れはやて、負けるなはやて。

 

 これまでにあったことを簡単に説明しておこう。まずなのはさんだが、あの後家族とよくお話ししたようだ。それでも彼女はこの仕事を続けたいと言う希望を両親も聞き入れ、今もほどほどにバリバリ働いている。魔導師ランクという、資格のようなものでSを取った後は教導隊に入り後進を育てている。ちなみに、ヴィータもなのはさんについて教導隊入りした。あ、さらにちなみに、管理局のマスコットガールであるなのはさんの治療や各世界の重鎮、管理局の財産である熟練魔導師達を治療したことによって二尉相当医務官に昇格しました。ぶい。

 

 次にフェイトさん。彼女は義兄であるクロノくんと同じ執務官の道に進むことを決めた。執務官というのは、管理局においてある程度の自由行動権限と佐官相当の権限を持つエリート局員なんだそうだ。所謂「私は司令部より独自行動の免許を与えられている」みたいなものだろう。

 だが、こんなにすごいエリートになるためにはそれ相応の試験と言うものがある。そして、この試験がとてつもなく難しいもので、筆記試験、実技試験ともに合格率は15%以下という意味のわからないほどの狭き門なのだ。流石のフェイトさんもこれには二回落第し三回目で合格した。だが、三回目で合格する、それもこの年齢でというのはとてつもなくすごいことらしい。あ、これはどうでもいいことだが、試験の直前直後、合格発表直前の涙目寸前のフェイトさんと合格を知ったときの泣きフェイトさんはとても可愛かったので脳内HDDに鍵つきで保存しておきました。

 その後、彼女も魔導師ランクSを取ったそうだ。管理局はこの短期間で最上級魔導師が二人も手に入ってさぞ、うはうはだろう。

 次ははやて、と行きたいところだが、フェイトさんについてはもうひとつ大きな出来事があった。それは、彼女が一児の母となったこと。これだけ聞くとエロ同人みたいに! な展開からの、中学生の母というドラマが始まりそうだが、実際はそんなことは全く無い。その子供の名前はエリオ・モンディアル。若干4歳にして親元から離されてしまった所を、フェイトさんに保護されたそうだ。その辺りの事情は詳しくは聞いていないが、エリオくんはとても良い子だったということは言える。まあ、良い子過ぎて保護者のフェイトさんに遠慮しているようだったが、これから打ち解けていくだろう。

 

 そして今度こそ、最後は我等が(家の)主、はやてだ。はやては上級キャリア試験に合格し、管理局において、中核を担う存在になろうとしている。このことは闇の書であった夜天の書の主として受けるであろうバッシングに潰されないために、足場を固めるためだろうとおれは思っている。かつての闇の書の被害者、被害者遺族に謝罪をしに行くはやてについて行ったことがあるが、あれは酷いものだった。こちら側の事情を知っているおれからすると、はやてへの罵詈雑言は的外れの逆ギレでしかなかった。だが、向こうはそんなことは知っちゃい無い。仕事を辞めざるを得ないような怪我を負った人。愛する家族を失った人。たくさんの人にあった。もちろん、おれが治せる人は全員治したが今度は失った時間は戻ってこないと言って怒鳴られた。

 その場では泣き言一つ言わずひたすら謝っていたけど、おれやヴォルケンズ、なのはさんやフェイトさんの前ではいつも明るく振る舞っていたけど、部屋で一人で声を殺して泣いていたことをおれ達は知った。そんな事を知ってしまってはおれ等が黙っているわけもなく、みんなではやての部屋に強硬突入してしばらく話し合った。こんなことを一人で抱え込んで泣いている水くさいはやてにはおれがなでなでしたった! おれのなでなでによって精神は安定し、不安感は消滅! さらに血行が促進することで健康にも良い。だが副作用として、血行の促進によって体温が上昇する、それによって顔が赤くなってしまうのだ! こんな事をしてしまうとは、なんておれは恐ろしい奴なんだ!

 

 その後、八神家の仲がさらに良くなったのは言うまでもない。

 

 

 




これがほんとのナデポってね。

繋ぎの話を書いてたら予想以上に長くなってしまった。

精神安定のために興奮するべき副交感神経と血行を促進させる交感神経が同時に興奮しているんじゃないか?と言うツッコミは無しだ。お兄さんとの約束だ。


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無印
メガネとオカリナと39話


骨董屋と撃墜と47話において、公輝が買ったカッコいい懐中時計の欠点は止まることとしてましたが、少し進むと言うことに変更しました。

これは言っておきたかったのでいっておきます。


##この話は修正されました##


 

 

 

「それは魂を刈り取ると言われる爪切り、魂を刈る死神(たまがり)だ。いるか?」

「なんで爪切りなんだ。そこはもっと、ナイフとかさ。色々あったと思うんだ。しかも、無駄にカッコいい名前だな。いらない」

 

 今日も今日とて依頼があった病人怪我人を治して骨董屋『アルハザード』に来ている。

 

「なんでえ、折角の目玉商品だってのに。まあ、ゆっくりしていけ」

「もちのろんですよっと」

(公輝、また無駄なものを買ったら主に怒られますよ?)

「むう」

 

 ここに通いだして結構な時間が過ぎた。と、言うことはここで買ったものの数も中々多くなってきたということだ。おれにとっては宝の山でもはやてにとってはガラクタの山にしか見えないようで、この間「いい加減要らんものは捨てろイド」と言われたのだ。

 

「いざとなったら貸倉庫を借りるから問題ない!」

(そこまでするのか……)

 

 骨董趣味をわかってくれる人が居なくておれはとても寂しいです。

 

「お、メガネか」

「それは、精霊水晶って奴をレンズに使ったメガネさ。それを掛けることによって幽霊、精霊、妖怪、エクトプラズマ、エトセトラ、エトセトラ、なーんて物が見えるようになるって言われてる」

「ほう」

 

 幽霊か。そいつは面白そうだ。妖怪が出てくるアニメを見ていつも、会ってみたいと思っていたのだ。

 

「まあ、俺がそれを掛けてもそんなもんは見えなかったがね」

「まじかー」

 

 やっぱ幽霊は居ないのかなー。でも、伊達メガネならイメチェンに使えるな。買っておくか。

 

「ヤッサン、これ買い」

「まいどー、そいつは千だな」

 

 よしよし、じゃあ次は……ん? ……えっ

 

「ヤ、ヤッサン……これは?」

「んー? ああ、それは時のオカリナって物だ。ある国で大魔王が神の力を手に入れてしまい、その国は暗黒の時代に陥った……そこに、時を越えてやって来た時の勇者が大魔王を封印して、めでたしめでたし。で、その時の勇者が所持してたのがそのオカリナってことだ」

 

 おれの目の前にあるのは空色をした陶器製のオカリナ。空気を吹き込むところの根本には、正三角形が三つ集まって一つの正三角形を形作った金色の紋様が付いている。

 

「俺もそのオカリナ吹いてみたが別に勇者さんみたいに時は越えなかったがな。綺麗な音はでたがよ」

 

 ヤッサン吹いたのかよ! まあ、洗って、消毒して、洗って消毒すれば問題ないか。

 

「ヤッサン! これも買いだ! いくらだ? いくらでも出す!」

「お、なんだ、まっちゃんにしては珍しく食い付いたな。あ、分かるぜぇ、こいつに一目惚れしたんだな。ビビっ! と来たんだろ? 俺もこういう仕事してっからよくわかるぜ。特別に五千でいいぜ」

(ああ、またそんなものを買って……)

 

 よっしゃー! これでおれも時の勇者だぜー

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、そんなわけないよねー」

 

 海鳴に戻ってすぐ、おれは時の歌の楽譜をググって近くの河原で吹いてみたのだが、時のブロックが出てきたり、三日前に戻ったりすることはなかった。逆さ歌や重ね歌なども試してみたが特に変化はなかった。

 

「ま、いいさ。ちょうど何か楽器をやりたいと思ってたんだ。オカリナを吹けるようになってはやてに自慢でもするかね」

(お、そうだな)

 

 リインさん、一体どこでそんな言葉覚えてきたんです? あ、おれが見てる動画サイトか。

 

「あれ? マサキ?」

「ん?」

 

 声の主は思った通りフェイトさん。

 

「こんにちは、フェイトさん」

「こんにちは、マサキ。アインスもこんにちは」

(ああ、こんなところで会うとは奇遇だな)

 

 海鳴は結構大きな街のため、偶然に出会うというのはそうそうあることではないのだ。

 

「うん、なんだか綺麗な音が聞こえてきたからなんだろうって」

「あー、なるほどねその音はこれだな」

 

 そう言っておれはフェイトさんにオカリナを見せる。

 

「わー、綺麗なオカリナだね」

 

 そうだろう、そうだろう。これはいいものだろう?

 

(かつて勇者が持っていた物だそうだぞ)

「え……ああ、公輝も男の子だし、そういうの好きだよね?」

 

 だー!! リインさん、そういう言い方されると夢見る少年見たいで恥ずかしいだろ! フェイトさんの可愛いものを見るような目が突き刺さる!

 

「マサキメガネ掛けてたっけ?」

「これは伊達さ。似合う?」

「うん! 頭が良さそうに見えるよ」

 

 それは今までは頭悪そうに見えてたってこと? ん? ん? 今のは聞かなかったことにするよ。

 

(っ!? マサキ! オカリナからとてつもない魔力反応が!)

「え?」

「何!?」

 

 すると、突然時のオカリナが輝きだした。おれ達は時のオカリナが発する光に包まれる。

 その時、おれはオカリナにこう言われた気がした。

 

「いつから曲を吹けば効果が発動すると思っていた?」

 

 そうしておれ、リインさん、フェイトさんは新暦69年6月12日午後1時30分5秒の海鳴から喪失した。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

☆ ☆

 

 

 

 

「あ?」

 

 情けない声が出てしまったおれを誰が咎められるだろうか。咎める奴はおれが許さないが。

 

「ここ、どこ?」

 

 どうやらフェイトさんも一緒に来ていたようだ。たがなフェイトさん、その質問の答えはすぐそこにあるぜ?

 

「フェイトさん、あれ見てみ」

「あれは……翠屋! さっきまで河原にいたのに。転移したの?」

 

 あっているけど、たぶんそれだと足りないな。おれの予想が正しければ……

 

「いってきまーす!」

「う、嘘……」

(なん……だと……)

 

 翠屋の近くにあるなのはさんの家から出てきたのは今よりももっと小さいなのはさん。おれの記憶通りなら9歳のなのはさん、いや、なのはちゃんであっているだろう。

 

 どうやらおれはオカリナで曲を吹けることではなく、時の勇者であったことをはやてに自慢するべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロストロギア『時のオカリナ』。これに関する伝説は全て創作で、意匠は製作者が未来で手にいれたゲームに出てきたものを参考にしたものである。つまり、製作者の趣味。まあ、そこはどうでも良いだろう。

 

 マジックアイテム『時のオカリナ』は時空跳躍型の願望機。使用者が時を越え、空間を越え、使用者本人が望む結果を自身で作り出す。

 

 変えたい過去があるなら介入し、作りたい未来があるなら未来を参考にし、現在をより良くする。

 

 ただし、使用者にはある条件がある。それは、心の底から運命を変えたいと思うことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




意外!それは無印編の始まり!

そんなに続かない予定です。

追記

違和感があったので修正しました。ストーリーの流れは変わりません。

修正箇所
公輝がオカリナを吹いていた場所をミッドチルダの河原から海鳴の河原に変更しました。


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インターホンとホテルと40話

##この話は修正されました##


 

 

 

「……これからどうしようか」

「とりあえず、お姫様と協力して大魔王を封印したら帰れるんじゃないかな」

 

 フェイトさんとリインさんと一緒に時を駆けたことが判明してから1時間。努めて慌てず冷静にいようとしていたのだが、おれもそれなりに気が動転しているようだ。

 

「と、冗談はさておき、今するべきことは寝床の確保かな? 次に、どうやったらもとの時代に帰れるかだな」

「あ、そうだね。ここには私達の家はないし……ど、どどどうしよう……」

 

 フェイトさん、時を駆けた衝撃が大きすぎてそこら辺のことを全く考えていなかったな。まあ、仕方ないね。こんな経験したことないだろうしね。おれは転生なんと言うビックリ仰天な出来事を経験しているため、そこまでの衝撃は無かったのだ。とは言え、驚いたことには変わりはないが。

 

(で、この後どうするんだ)

 

 リインさんが聞いてくる。そうだな、まずは寝床を確保することから始めよう。いっそのことはやての家に転がり込んでしまおうか? だが、今の時期だったらこの時間のおれ、つまり、おれくんがいるだろう。ここで問題になるのは未来のおれとおれくんが出会ってしまっていいのか、ということだ。所謂バタフライエフェクトだとか、現在との矛盾だとか、日本一の電気街であり、オタクの聖地秋葉原がただの日本一の電気街になってしまう可能性があるのだ。そんな何が起こるのか分からないことなんておれには……

 

 

 

 

 

 

 

 

「インターホンポチー」

「え!? 公輝!」

(ちょちょちょっ、何をしてるんだ公輝! さっき色々言っていたではないか!)

 

 当てもないおれ達は八神家宅に来ている。結局はやての家に来た理由は今ならヴォルケンズはいないので八神家の部屋が空いているということ。そして、一番の理由ははやての家におれくんがいること。さっきなんだかんだ言ったが、おれくんが未来の自分の姿であるおれを見れば一発で誰だかわかるので、話を聞いて貰える可能性がとても大きいからだ。では、他に寝床を提供してくれる場所がないか考えてみる。おれの知り合いである高町家、月村家、バニングス家に事情を話して、泊まらせてくれと言ったらどうなるか? 信じてもらえないのはもちろん、泊まらせてもらうというのは無理だろう。仮に泊まらせてもらえても変な目で見られることは確実だ。おれが寝床を貸す側なら確実にお断りする。しかし、おれなら? この世界で唯一未来の自分を知っている人物で、転生なんていうびっくりな出来事を経験しているおれくんならタイムスリップについてもある程度信じてもらえると思ったからだ。

 

(ならば、さっきはなんでああいう風に言っていたんだ?)

「お約束だろ」

 

 おれがドヤァって感じで言ったらリインさんにため息をつかれてしまった。

 

「はーい、どちらさんです?」

 

 お、来たな。

 

「坂上公輝くんはいらっしゃいますかー」

 

 ここではあえておれの名前ははやてには伝えない。同居人と同姓同名の人物が同居人を訪ねてくるというのは少し引っかかるだろう。ここでは不安要素はできるだけ排除しておく。とりあえずおれくんと接触できれば良いんだ。

 

「? 坂上公輝くん……ですか? 家にはいませんよ? 家間違えてませんか?」

 

 は?

 

「…………あー! すいません、表札が見えてませんでした。どうやら家を間違えたようです。ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、大丈夫ですよ~」

 

 どういうことだ? はやての家におれがいない? この時期ならもうはやての家に馴染み始めた時期だったと思うが。はやてが嘘をついたのか?そんな風には聞こえなかったが。

 

「公輝? どういうこと?」

「おれが一番聞きたいね」

(とりあえず宿かホテルにでも行くしかないですね)

 

 まあ、そうなるな。幸い飛ばされた時外にいたから財布も持ってるし、二人分の部屋を借りるしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 一部屋しか取れない?」

「申し訳ありません。本日は大変込み合っておりまして。ダブルの部屋を一部屋なら本日お泊りになることはできます」

 

 なんてこったい。なんでこんな普通の日にホテルや旅館が混んでいるんだ。おれたちはあの後ホテルや旅館を回ったのだが、どこも満室。ようやっと空いている部屋があるホテルに来たと思ったらこれである。いや、別におれはフェイトさんと同じ部屋に泊まるのは嫌じゃないよ? むしろ大歓迎だよ。しかし、おれたちももう中学生になったわけだしフェイトさんもそこそこ親しいとは言え、赤の他人の男と同じ部屋で泊まるというのは嫌だろう。

 

「よかったね公輝。これで寝るところの心配はしないですみそうだよ」

 

 え?

 

「フェイトさんはいいの? おれと同じ部屋で?」

「うん、私はいいけど? 公輝は嫌?」

「いえいえ、滅相もありません」

 

 おれは全力で否定しておく。フェイトさんと同室が嫌なんておれが風呂に入ってないために体臭がものすごい時くらいだろう。まあ、そんなことになったことはないが。

 

「それじゃあその部屋に泊まります」

「かしこまりました」

 

 そういうわけでおれとフェイトさんは同じ部屋に泊まることになりました。

 

(テスタロッサには色々と教育が必要だな)

 

 だよね。そうだよね。フェイトさんの反応は中学生女子としておかしいですよね? あまりにも平然としているから最近の女子中学生はそんなもんなんだと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~今日は色々あって疲れたね?」

「そうだな。こんな経験そうそうしないだろうな」

 

 時刻は11時。もう歯も磨き、寝る準備は万端である。え? 何か無かったのかって? 何もなかったよ。ホテルの中のレストランで夜ごはん食べて、フェイトさん、おれの順番で部屋の風呂に入って今に至るよ。

 

「じゃあもう寝ようか」

「明日も調べないといけないことあるしな」

 

 結局何故この時間におれがいなかったのかということはわからなかった。もしかしたらこのあたりに元の時間に戻る手がかりがあるのかもしれない。

 

「公輝、アインス、おやすみなさい」

「おやすみー」

(二人ともお休み)

 

 豆球だけつけておれたちは寝ることにした。

 

 

 

……

 

 

 

「あああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 うおっ、びっくりした。フェイトさんがこんな大声あげるなんて初めて見たよ。でも、ここはホテルだからあまり大きな声を出すと隣の人の迷惑になりますよ。

 

(どうしたテスタロッサ。そんな大きな声を出して)

「母さんが……今なら母さんに会える……」

 

 母さん? リンディさんのことか? でもリンディさんにはいつでも会えるだろ。死んでるわけじゃあるまいし。どういうことだ?

 

 この時おれは頭の上に疑問符を浮かべることしかすることがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は一つだけではない。ここでいう世界とは次元世界のことを指すのではなく、所謂平行世界のことを指す。平行世界とは、ある世界で同じ人が、同じ場所で、同じように過ごしているが、どこか異なる部分が存在する世界のことを言う。例えば、朝ご飯でなくパンを食べた世界。例えば、知り合いの性別が異なる世界。例えば、秋葉がただの電気街の世界。どの行動が世界にどんな影響を与えるかなんてことは誰にもわからない。

 

 では、マジックアイテム『時のオカリナ』を使用したとき、使用者が過去の出来事を都合の良いように変えたとしよう。その使用者が元の時間に戻った時、自分が起こした変化により予想外の更なる不利益が生じてしまうのでは意味がない。ここで一つポイントがある。それは、各平行世界は他の平行世界にも影響を与えることである。そこで時のオカリナの製作者はこのことを利用して、できるだけ自分の世界の現在に悪影響を与えることがないようにした。目的の過去だけを変えるために使用者を使用者の過去に送るのではなく、使用者をあえて他の平行世界の過去に送るのである。それによって自分の世界ではない世界をクッションとして挟むことによって余計な改変をなくすのだ。それによって、時のオカリナの使用者は自分の都合の良いように望みの過去だけを変えるのである。

 

 

 

 

 

 




最後のところの理論は適当。

つまり言いたかったことは、公輝君たちは原作の世界線に跳びました。

追記

最後のフェイトがプレシアさんが死んだように言っていたのを修正しました。

「母さんが……今なら母さんが生きてる……」

「母さんが……今なら母さんに会える……」


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メガネと幼女と41話

……お気に入り500超え?

一体何があったん?

あざーすっ!

##この話は修正されました##


 

 

 

「次元転移、次元座標876C-4419-3312-D699-3583-A1460-779-F3125。開け誘いの扉時の庭園。テスタロッサの主のもとへ……」

 

 これから寝ようって時に突然騒ぎだしたフェイトさんをなだめた翌日、フェイトさんから詳しい話を聞いた。なのはさんとフェイトさんの馴れ初め、フェイトさんの母親であるプレシア・テスタロッサのこと、フェイトさんのオリジナルであるアリシア・テスタロッサのこと、そして、フェイトさん自身のこと。フェイトさんがアリシアさんのクローンっていうのは驚いたけど、おれからすればまだまだ地味すぎるぜ。もっと腕にシルバー巻くとかさぁ、って感じだ。こういう言い方はあれだが、フェイトさんがクローンであることは何とも思わない。家にはプログラム体がいることだしな。

 おれが、「つまり、ちょっと違うけどフェイトさんも生き返った人ってことだろ? 生き返り仲間だな!」と、言ったら目を丸くしてとても面白かった。

 

「……それでは、行きます」

「よし来い」

(うむ)

 

 フェイトさんの母親、プレシアさんはなのはさんとの出会いの事件であるPT事件で生死不明になってしまったそうだ。しかし、その事件の真っただ中である今(過去)なら会うことができるということだ。母親とすっきりしない別れ方をしたプレシアさんともう一度話がしたいそうだ。

 そう言えば、話の途中に出てきたジュエルシードというものに見覚えがあるような気がしたが、それはどうでもいいことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、いいよ」

「ふー。やっぱ次元間の移動は少し疲れるな」

 

 海鳴の人目のつかないところからフェイトさんの家であった時の庭園に転移してきた。ちなみに、次元間の転移というのは船に揺られるような感覚なので人によっては転移後ゲロッパしてしまうそうだ。

 

「しっかし、暗い所だなここは」

「ごめんね~、前はもっと明るくてきれいな場所だったんだ」

 

 ここ、時の庭園を一言で表すなら豪邸。大きな庭、きれいな噴水、色々な花が咲いている花畑、一体何人を収容することができるのかわからない邸宅。ただし、庭は荒れ、噴水は枯れ、花畑に花はなく、邸宅は手入れがされなくなって久しいようだ。

 

「ちゃんと整備したらすっげー綺麗だろうな、ここ」

「うんうん! 君にも見せてあげたいよ!」

 

 そうだな、それは見てみたいな。

 

「公輝? 一人で何言ってるの?」

(公輝、医者が頭おかしくなったら世話ないな)

 

 は? 一人でって、おれは隣にいるフェイトさんと話してるんじゃないか。ただしそのフェイトさんは全裸で、服を着たフェイトさんは反対側にいる。そして、リインさん! あなたおれに対してちょっと酷くないですかね。別にいいけど。

 

「誰って、フェイトさんだろ?」

「私は何も言ってないよ」

「私だ私だ私だ!!」

 

 フェイトさん(全裸)がどこぞの芸人みたいなことをしている。フェイトさんのイメージがブレッブレである。

 

「じゃあ、あんた誰だ」

「私? 私の名前はアリシア、アリシア・テスタロッサだよ!」

 

 アリシア・テスタロッサ、聞いたことがある名前だな。いや、ついさっき聞いた名前だ。フェイトさんのオリジナルの女の子でプレシアさんが蘇らせようとしていた子だ。と、いうことは……

 

「……」

「公輝、さっきからどうしたの?」

(公輝、いい医者を紹介しよう……と、思ったが君ほどの医者はいないな)

 

 下げながら上げるリインさんに惚れてまうわー。まあ、そんなことはどうでもいい。アリシアちゃんはすでに死亡している人。つまり、故人。ならば、ここにいるのは……

 

「お」

「お?」

「おばけええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーひっどいなー。人をお化け呼ばわりなんて」

「ごめんごめん。流石にびっくりしたんでな」

 

 生き返った人ではなく死んだ人を見ることになることは想定していなかったよ。

 

「ほ、本当に……アリシアだ……」

(ほう、あの骨董屋は侮れんな)

 

 

 今おれたちが持っているものはこっちに来る直前にヤッサンの店で買ったお化けその他諸々が見えるようになる精霊水晶のメガネだ。おれは左のレンズを覗き、フェイトさんが右のレンズを覗くようにしてみている。リインさんはおれの視界を共有することによって見ている。

 

「じゃあ改めまして、私の名前はアリシア・テスタロッサ。どうしてこんな姿になったのかは分かりません!」

「どうもー、坂上公輝と」

(リインフォース・アインスでーす)

 

 リインさん、そこはもっと楽しそうに言うところですよ。無表情クール美女なのは知っていますが、ここはにっこり笑えばいいと思うよ。

 

「わ、私はフェイト・テスタロッサです」

「え? フェイト? いつの間にそんな大きくなったの? お姉ちゃんは経験したことないけど成長期ってそういうものなの?」

 

 そんな成長期は嫌だ。目が覚めたら身長がガッとあがるとか怖いわ。

 

「このフェイト、未来のフェイト。未来のフェイト、過去へタイムスリップ。OK?」

 

 おれがとってもわかりやすく説明してあげる。

 

「OK! ずどーん!」

 

 とっても可愛くてよろしいと思いますよ。

 

(公輝、顔がニヤついていてキモイぞ)

 

 おっと。

 

「それにしてもお兄さん、お兄さんにくっ付いてるととっても気分が良いよ」

 

 そういいながらアリシアちゃんがおれの背中に乗ってくる。残念ながら触れている感覚は無いが、裸の幼女が……おれの背中にッ!

 

(公輝)

 

おっと。

 

 

 



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母と時計と42話

あと1話で無印は終わりかな

##この話は修正されました##


 

 

 

「やっと着いたよ。ていうかこの扉でけー」

 

 時の庭園をアリシアちゃん、フェイトさんの案内の元で歩いて約10分。10分歩く家って一体なんなんだろう。そこら辺の大学と同じくらいの大きさなんじゃないだろうか。バカかと。

 

「……よし」

「ねぇ、フェイト」

 

 馬鹿でかい扉に手を掛けて入ろうとしたフェイトさんにアリシアちゃんが待ったをかける。

 ちなみに、メガネからレンズを取り外し、片方をフェイトさんに渡してあるので、フェイトさんはいつでもアリシアちゃんと会話できる。

 

「……フェイト、ごめんね……」

「どうしたの姉さん?」

 

 フェイトさんはアリシアちゃんのお願いによりアリシアちゃんのことはお姉ちゃんと呼ぶことにしたそうだ。

 

「ママがフェイトに酷いことしていたのは全部知ってる。私は止めたかったけど、こんな体だから声を聴いてもらうこともできなくて……」

「うん、わかってる。姉さんは何も悪くないよ。それに、母さんはちょっと一生懸命過ぎただけだから」

 

 う、うーん。こういう空気はあまり得意じゃないなー

 

「それじゃ、開けるよ」

 

 そう言ってフェイトは扉を押して開ける。

 

「……誰かしら? 正式な手段で入って来たからあの子かと思ったけど」

「……母さん」

 

 あれがフェイトさんのお母さんか。こんなだだっ広い部屋に椅子を一つ置いただけ。その椅子に魔王のごとく座っているプレシアさん。こう言うのはちょっと憚られるんだが、プレシアさんはもしかしなくてもバカなんじゃないだろうか。何? どういうセンスなの? ここはリビングには見えないし、一体何をする部屋なんだろうか。

 

「母さん? そうやって呼んでいいのはこの世界でただ一人だけよ。さっさと失せなさい」

「フェイトです、フェイト・テスタロッサです」

「フェイト? あの出来損ないにしては少し大きいわね」

「っ!」

「ママ! そんな言い方ないじゃん!」

 

 話には聞いていたがこれはきついな。プレシアさんがフェイトさんの名前を聞いてからフェイトさんを見る目が鋭くなったのがわかる。出来損ないという発言を聞いてフェイトさんがたじろぐのが目に見えて分かる。当然、メガネをかけていないアリシアちゃんの言葉はプレシアさんには聞こえていない。今回の作戦は何とかして精霊メガネ(仮称)をプレシアさんに掛けさせてアリシアちゃんの話を聞かせることだ。さて、どうするか。

 

「わ、私は未来から来ました。もう一度あなたと話をしたいと……」

「未来から? 時間跳躍……その技術があればあの事故より前に戻って……」

「もう! ママ! 私はここにいるよ!」

 

 フェイトさんの発言を受け、プレシアさんが時間跳躍の技術、つまり時のオカリナに興味を持っているようだ。オカリナ欲しいのか? おれはあげても良いぞ。そもそもこんなことになった元凶だしな。

 

「さあ、フェイト。あなたはどうやって過去へ跳んだの? その方法お母さんに教えて頂戴」

「か、母さん……あの……」

「けど、その前に邪魔なゴミを掃除しちゃいましょう」

 

 え? ゴミ? 誰のことです? 

 

「はっ! 公輝!」

(公輝! 後ろに大きくジャンプしろ!)

 

「のわあああ」

 

 リインさんの指示通り後ろに跳ぶと、おれが立っていた場所に魔力弾が一斉に襲い掛かってきていた。ここで余談だが、車に引かれそうな人がいた時その人にかける言葉は「危ない!」ではなく「走れ!」という具体的な指示なのだ。つまり、リインさんの忠告は最適。まあ、そんなことはどうでもいいことだ。

 

「危ないじゃないか!」

「あら、避けたのね。当たっていれば楽だったものを」

「母さん! なんでそんなことするの!」

「なんで? だってここに必要ないもの」

「うわっと」

 

 また魔力弾が跳んでくる。

 

「お兄さん大丈夫!?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 なんとか見てから避けることができるくらいの攻撃だからまだイケル。

 

「ん?」

 

 後ろを見ると壁。

 

「もう避けられないわね」

 

 そう行って、プレシアさんはさっきと同じように魔力弾をとばしてくる。

 

「公輝!」

 

 フェイトさんがこっちに飛んでくるのが見える。だが、この距離では間に合わないだろう。

 

「お兄さん!」

 

 アリシアちゃんがおれの前に盾になろうとしてくれる。しかし、アリシアちゃんがこっちを向いてるため色々と問題があるので目を瞑る。

 

(公輝! くそっ、こんな時に!)

 

 リインさんがおれの体の制御権を取って何とかしようとしているがおれの能力が邪魔をする。

 

 ちょっとした傷ならおれの能力であっという間に完治させることができるが、おそらく殺傷設定の魔力弾をこれだけ大量に一度に食らうと体がバラバラになってしまうんじゃないだろうか? バラバラになった経験はないのでどうなるのかおれにもわからない。

 

「おさらば」 

 

 そんな言葉がつい口から出てしまう。前方、左右から殺到する魔力弾。後ろが壁だとわかっていても反射的に後ろに飛んでしまう。

 

 当然壁に当たる。

 

 カチッ

 

 

 

 

 

 

 脳裏をよぎるのは前世と今世を合わせた喜んだり、怒ったり、悲しんだり、楽しんだりした時の記憶。ああ、これが走馬灯なんだな。話にはよく聞くが自分がこれを体験することになるとは思わなかった。ここで死んだらもう転生のラッキーには当たらないだろうなぁ。結局キャンパスライフをエンジョイすることもできなかったし、結婚なんて夢のまた夢だったし、孫に囲まれて息を引き取るという誰しもが夢見る夢をかなえることもできなかった。残念だ。

 

「……」

 

 あれ? おかしい。

 

 死の危機に瀕すると、人間の思考速度が加速するとは言うが、これはちょっと加速しすぎな気がする。もうそろそろ痛みを感じてもいいはずだが、一向にその痛みはやって来ない。

 

(これは一体……公輝、今度は何をやったんだ?)

 

 なんだその、いつもおれがなにかやらかしてるような言い方は! 確かに、おれの買った物の所為で過去に跳んだり、幽霊見たりしてるけどさ!

とりあえず、アリシアちゃんに配慮して瞑っていた目を開ける。

 

「どういうことなの?」

 

 目の前にあるのはおれの方に殺到していた大量の魔力弾。ただし、その魔力弾は動きを止めている。よく見たらプレシアさんやフェイトさん、アリシアさんも動きを止めており、ピクリとも動かない。

 

(公輝、後ろのポケットには何を入れているんだ? 壁に当たった時そこから何か音がした)

 

 そういわれておれはケツポケットからあるものを取り出す。

 

 ……ヤッサン、正直オカリナとメガネの件でもうヤッサンの店では何も買うまいって少し思ったけど、これからもヤッサンの店で物買うわ。

 

 

 それは、これまたヤッサンの店で買ったカッコいい懐中時計だった。

 

 

 

 

 

 

 かつて、「時間が止まった世界で自分だけ動ければ面白いことができるんじゃね?」という昔の人のちょっとした発想により、時を止めるマジックアイテム『時を刻まない時計』は誕生した。

 その時計には文字盤を覆うガラスの部分を保護する為の蓋が無いにもかかわらず、通常の蓋付き懐中時計にある蓋を開けるためのボタンが付いている。使用者はこのボタンを押すことによって世界の時の流れを止め、このマジックアイテムに触れているものだけが時を進める。一度ボタンを押すと使用者の時間で5分間時を止め続ける。時を止めるには『時を刻まない時計』に魔力を充てんする必要がある。

 

 

 

 

 

 




うーん


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過去と現在と43話

うおおおおおお!他の場所で連載なさっていた作者の大好きな小説がハーメルンに出てきてテンション上がってキタ━(゚∀゚)━!

追記 
アリシアの容姿の描写を修正しました。

##この話は修正されました##


 

 

 

「つまり時間が止まってるってことか?」

(おそらくは。この時間停止が世界全体に影響を及ぼしているのか、はたまたこの時計を中心とした空間内に存在する人の時間を止めているのか、詳しい効果は分からないがそういうことだろう)

 

 時間が止まっている中、この時計は針を進め続けている。そうか、どうもこの時計は進みやすいと思っていたけど、壊れていたんじゃなくておれが知らず知らずのうちに時間を止めていたんだな。誰も話相手がいなくて暇しているときに無意識のうちに時計のボタンの部分をカチカチしてたから時間が止まっているということに気づかなかったんだ。それにしても危なかった。魔力弾がもう目の前まで迫ってきていたギリギリの所で止めることができたようだ。

 

「……」

 

 カチッ

 

 

 

「まs」

「おに」

「ふん」

 

 カチッ

 

 

 カチッ

 

 

「輝!」

「いさ」

「死n」

 

 カチッ

 

 

(公輝、遊ぶんじゃない)

「いやぁ、これはおもしろいな」

 

 本当に時が止まってるのかな? これで自分の心臓も一緒に止めてしまうなんてことがあれば大変だぞ。

 

 カチッ

 

 

「公輝いいいぃぃぃ!!」

「-ん!!」

「んだわね」

 

 うわぁ。なんか完全におれ死んだことになってませんか? どんな顔して出ればいいんだろう。ヌルっと出て行っていいものなのだろうか。

 

(笑えばいいと思うぞ)

 

 いや、それはおかしいだろ。想像してみろよ、今さっき攻撃を受けたやつが笑いながら平然としていたら、そいつは戦闘凶かただのよく訓練されたMだぞ。とりあえず、この時計を使って予定通りプレシアさんにメガネをかけてしまうとしよう。

 

 カチッ

 

 

 プレシアさんに近づいてメガネをかけようとしてプレシアさんに触れる。

 

「ん? なっ!? あなたっ!」

「えっ」

 

 びっくりしたおれはとっさにプレシアさんから離れる。そうするとプレシアさんはそのままの姿で固まってします。これは……

 

(どうやら時計の所持者に触れている人物は動けるようになるようだな)

「まじかー。じゃあなんとか触れないようにメガネを掛けさせてみよう。」

 

 と、いうわけでメガネのつるの端を持つようにして掛けることを試みる。

 

「生きt」

 

 やっぱり、だめだったよ。おそらく、使用者が触れているものに触れても動けるようになるのだろう。

 

「とりあえずフェイトさんに触れて状況を話し合おう」

 

 フェイトさんの腕を掴む。

 

「え? 公輝!? 大丈夫!?」

「おう、傷一つないぞ。心配かけて悪かったな」

「それに、これは一体?」

 

 フェイトさんが止まってしまったプレシアさんを見ておれに問いかけてくる。おれは懐中時計によって時間が止まっていることと、時間が止まっている間にプレシアさんにメガネを掛けさせる作戦は難しいことを話す。

 

「うーん……どうしたらいいんだろう」

「アリシアちゃんがプレシアさんにも見えるようになればいいんだけどな」

 

 話しながら止まっているアリシアちゃんの方に向かってアリシアちゃんに触れる。

 

「あ! お兄さん! 大丈夫だったの!?」

「うむ、大丈夫だ」

 

 アリシアちゃんに触れた感触は無かったけれど、どうやらアリシアちゃんも動けるようになったようだ。

 

「そうだ! 公輝、姉さんを生き返らせたりとか!……できないよね……」

「ちょっとフェイトー、お姉ちゃんは死んでないよ!」

 

 確かにアリシアちゃんが生き返れば万事解決だな。でも死んだ生き物は生き返らない。これはわかっていてもやったことがある。しかし、幽霊であるアリシアちゃんもおれの能力の影響を受けているようだった。もしかしたら、もしかするかもしれない。

 

「一応試してみよう。アリシアちゃんの体はどこにあるんだ?」

「あっちの部屋だよ」

 

 アリシアちゃんとフェイトさんの先導に従ってこの部屋の唯一の家具であるイスの向こう側に向かう。こんなところに部屋があったのか。

 

「ここだよ」

(どうやら肉体の損傷などはないようだ。プレシア女史は相当気を使っているようだな)

 

 そこにいたのは大きなポッドに満たされた溶液の中で浮かんでいるアリシアちゃんだった。で、これはどうやったらアリシアちゃんの体を外に出せるんだ? さすがにガラスの部分を割るのは少々躊躇われる。

 

「ちょと待って、ここで操作できるみたいだから」

「頼みますぜ」

 

 

 未だにミッドチルダ語はリインさん翻訳に頼っているおれでは機械の操作に時間がかかってしまう。そもそもこの機械を扱えるかもわからないしな。しばらくするとアリシアちゃんを包んでいた溶液が排出されて行き、ガラスの部分が開きアリシアちゃんの体にさわれるようになる。これでアリシアちゃんが元気にならなければプレシアさんに殺されるのは確定的に明らかだな。おー怖。もう後戻りはできない!

 

「公輝お願い」

「頼むよお兄さん!」

「まっかせとき」

 

 ここでおれの能力をつかって治療する時のことを話そう。今までの患者さんは全員5分以内に完治させることができた。すり傷や切り傷などの軽い怪我は1分もかからない。病気全般は1~2分ほど。部位の欠損はその度合いによって3~5分ほどだ。

 さらにここである漫画に載っていたことを話そう。人間は肉体、精神、魂の三つの要素から成り立っている。精神は肉体と魂を結びつける紐のようなもの。

 おれの能力はおれの認識によって大きく左右されるということはわかっている。アリシアちゃんの肉体はプレシアさんの処置によっておそらく何の問題も無いだろう。アリシアちゃんの魂(?)もここにいる。なら足りないものは精神。肉体と魂が分離してしまっていることからもそのことは正しいだろう。ならば、精神を人間の部位と認識して、部位の欠損を治療するようにすれば治るのではないだろうか、というのがおれの考察だ。

 とにかくやってみないことにはわからない。

 

「じゃあアリシアちゃん、自分の体に重なるようにしてくれる?」

「いいけど、それは何回もやったよ? ゆーたいりだつーってやつみたいに」

 

 そういいながらアリシアちゃんは体に重なる。おれはアリシアちゃんの体に触れる。

 

「どんな感じだい?」

「うーん、やっぱりお兄さんに触れられると気持ちいいね。あ! なんだか引っ張られるような感じがするよ!」

 

 キター。これはおれの想定通りに事が運んでいるな!

 

「よし、じゃあそのままでいくよ」

「わかった!」

 

 

 

 

 

 

 その状態のまま約2分ほど経っただろう。おれの経験上部位の欠損ならそろそろ完治するころだろう。もう少しだ。

 

「アリシアッ!!」

「なっ!」

「母さん!?」

 

 そんな! なんでプレシアさん動いてるんだ!? もう少しだって言うのに。

 

「貴様、アリシアからその手を放しなさい!」

 

 再びプレシアさんの魔力弾が迫ってくる。右手はアリシアちゃんから放すわけにはいかない。左手はフェイトさんを掴んだままなので一瞬で時計を掴みボタンを押すには間に合わない。

 

「そうはさせない!」

 

 おれの腕を振り払ってフェイトさんがおれの前に出てくる。魔力弾はフェイトさんに直撃するがなんとか防ぎ切ったようだ。

 

「大丈夫フェイトさん?」

「うん、なんとか。流石は母さんだ」

 

 殺傷設定の魔力弾を受けて辛そうにしている表情のなかに少しだけ誇らしげなように見える。それだけ母親のことを思っているのだろう。おれは放された手をもう一度フェイトさんに当てて傷を治す。

 

「マ……マ……」

 

 やった! アリシアちゃんの魂が肉体に定着したんだ!

 

「え……アリ……シア……?」

 

 まだしゃべり辛そうだがアリシアちゃんは完治したようだ。

 

(流石だな公輝)

「公輝、やった、やったよ!」

「どんなもんだい」

 

 二人にブイサインをしながら答える。失敗したとき、プレシアさんにどんなふうに殺されるのかが脳裏をよぎり続けてガクブルしてたのは隠しておこう。

 

「ああ……アリシア、もっと私に語り掛けて頂戴……」

「マ……マ……そこに座りなさい!」

 

 え?

 

「アリシア?」

「私全部見てたよ! 私のために色々してたことはとってもうれしかった、うれしかったよ。でも、妹のフェイトにあんな酷いことをしてたのはぜーったいに許さないよ! 絶許だよ!」

「アリシア……」

 

 いわばずっと意識を失って寝たきりだったようなものなのにアリシアちゃんは何事もなかったかのようにプレシアさんに説教を始める。

 

 とりあえずアリシアちゃんは何か着てくれると助かるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、フェイト。今更私が何を言ったってあなたは許してはくれないだろうけど……本当にごめんなさい」

「そんなことないよ。母さんはちょっと一生懸命すぎただけだから。私が母さんを許さないなんてことはないよ」

 

 アリシアちゃんの説教によってプレシアさんはフェイトさんに謝罪をしている。だが、これは決してアリシアちゃんから説教を受けたからいやいややっているわけではないよう。フェイトさんの話によるとプレシアさんは死に至る病を患っていたそうだ。それをおれがちょちょいと完治させたらプレシアさんは落ち着いた様子だった。みんなも経験したことはないだろうか? 病気や不安の時、特に意味もなくイライラしたことはないだろうか。プレシアさんはそれのちょっと極まっちゃった奴だったのだろう。それに加えてアリシアちゃんが元気になったこともあり、プレシアさんの精神は正常なものとなりフェイトさんへの罪悪感が湧き上がってきたようだ。

 

「まあ、何はともあれ、一件落着だな」

「公輝、何かが光ってるよ?」

 

 うん? あ、時のオカリナが光ってるな。これは元の時代に帰れるかもしれない。今まで元の時代に帰ることなんてすっかり忘れてたけど。

 

「フェイトさん、そろそろお別れのようだよ」

「うん……姉さん、母さん元気でね。こっちの私にもよろしくね」

「ええ、もうあんなことはしないわ。アリシアもフェイトも私の大事な娘……」

「もっちろーん! なんて言ったってフェイトは私の妹だからね!」

 

 テスタロッサ家のお別れは済んだようだし、おれも挨拶するかな。

 

「それでは二人とも、またk」

 

 おれとフェイトは過去の時間から元の時間へ戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま……母さん」

 

 ジュエルシードはまだ3つしか集まっていない。こんなことじゃ母さんの役に立つことなんてできないよ……

 

「おかえり! フェイト!」

「お帰りなさい、フェイト」

「え? え? え?」

 

 目の前にいるのは母さんと私? それに母さんの雰囲気がいつもより柔らかい、いや、前みたいに柔らかい。何かいいことでもあったのかな?

 

「フェイト、ちょっとお話ししましょう」

「は、はい!」

 

 

 

 

 そのあとは衝撃の連続だった。私に似ている人は私の姉さんだったり母さんがしてきたことを私に謝ってきたり、ジュエルシード集めはもう必要なくなったけどけじめとして回収して持ち主に返すのを協力してってお願いされたり。

 

 驚きの連続だったけど、それはわるいことではなかった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

☆☆

 

 

 新暦69年6月12日午後1時30分6秒

 

「戻って来たか」

 

 目の前にあるのは海鳴に流れる川。つまり、おれが過去に飛ばされる前にいた場所ということだ。

 

「もう一度母さんに会って話すことができて嬉しかった。ありがとう公輝」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 おれが意図してやったことではないんだけどね。戻ったらオカリナを叩き割ってやろうかと思ったけど、思わぬ言葉をもらったから叩き割るのはよしてやろう。

 

「じゃあ帰りますか」

「そうだね」

 

 色々あって疲れたのもあって二人で帰ろうとした時、

 

「おーい! フェーイトー! あ! お兄さんもいるじゃん! やっほー」

 

「え」

「えっ!」

 

 帰ろうとしていた反対の方からやってきたのはさっきまで一緒にいたアリシアちゃん。しかし、その姿はちっちゃい幼女のものではなく小学生くらいの幼女のものだ。そして、その横にはプレシアさんがいる。

 

「姉さん……母さん……?」

「こんにちは公輝君」

「こ、こんにちは」

 

 さっきまで鬼みたいな顔で殺傷設定の魔力弾を放ってきたい人と同一人物とは思えないな。

 

「どうしたのフェイト、そんな驚いたような顔して」

「え? い、いや、なんでもないよ」

「そう? 暗くならないうちに帰ってくるのよ」

「じゃっ、後でねーフェイトー」

 

 そう言って二人はフェイトさんの家の方へ帰って行った。まあ、なんだ、

 

「よかったね、フェイトさん」

「うん……うん……っ!」

 

 色々あったけど、終わりよければ全て良しっと。

 

 

 どうでもいいけど、お姫様(アリシアちゃん)と協力して大魔王(プレシアさん)封印したら(なだめたら)帰れるというのはあながち間違っていなかったな。

 とりあえず、はやてとヴォルケンズにおれが時の勇者であることを自慢しなければいけないな。

 

 

 




本文に書くと違和感しか出なかったのでここに書きます。別に読まなくても大丈夫。

時のオカリナによって過去を変えると現在は変えた過去と同じような経緯を辿るわけではなく、望んだ現在へとなります。

公輝君たちの世界ではフェイトはプレシアにいじめられることはなく、ジュエルシードによってアリシアの蘇生も成功したという経緯を辿っています。しかし、ロストロギアの無断使用でプレシアは管理局に捕まってしまう。プレシアの立場を少しでも良くするために管理局で働くことを決意する。その後ろ盾となるためにリンディはフェイトにハラオウンの名を貸す。今はプレシアもほぼ自由の身でリンディが住むマンションと同じマンションに住んでいる。

という経緯を辿っています。このことを本編で絡める予定はないですが、世界は矛盾の無いように修正されましたということです。



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空白期2
兄と兄と44話


一番くじのはやてとヴィータのポスターをばら売りでゲットできたのはとてもうれしいのですが、売れ残っていたということを考えると何とも複雑です。

##この話は修正されました##


「なあ、リインさん」

(なんだ公輝)

 

 時間旅行から早三日。フェイトさんは突然現れた母親と姉に戸惑いながらも楽しくやっているそうだ。

 

「なんでおれがはやてにタイムトラベルをしたことを話したら「またまた御冗談を」って言って、リインさんが言ったら「なん……やと……」っていう反応なんだ?」

(今までの行いじゃないか?)

 

 解せぬ。おれがいつも冗談を言っているみたいじゃないか。って思ったけど、おれがはやてと初めて会ったときに転生の事を話した時もこんな感じの反応だったな。

 

 

(ところで公輝、その麦わら帽子似合っているぞ)

「そいつはどーも」

 

 イメチェンでメガネを掛けていたのをおれのマネージャー的な人に見られて「何かトレードマークみたいなものがあった方がいいですよ!」って言われたから麦わら帽子をかぶることにした。ちなみにメガネは見えなくていいものが見えすぎて鬱陶しいから掛けるのをやめた。

 

「こいつのおかげで『麦わらのお医者さん』とか呼ばれるようになっちゃったよ。何? おれは海賊王を目指しながら獣医にでもなればいいのか? いや、この言い方だと麦わら帽子を直す人みたいじゃないか」

(マネージャーの言う通り知名度は上がったじゃないか)

 

 確かに帽子をかぶり始めてから知名度は上がったと思う。今までは管理局所属の凄腕の医者みたいな認識だったのが、麦わら帽子をかぶった医者という個人を特定するような知られ方をするようになった。

 

「まあ知名度が上がれば仕事が増える。仕事が増えれば給金も増える。それでいいということにしよう、うん」

(もう十分なほど稼いでいると思うがな)

 

 神の手と呼ばれるような凄腕の医者が他の誰にもできない手術を何時間、場合によっては10時間以上かけてやっと一人を助けることができるのに対し、おれは最大5分で死人以外の人を治すことができるので患者の回転がとても速い。いっぱいだった待合室が空になることなんてざらにある。そんな成果を出しまくっていたらおれの給料は目ン玉が飛び出るような金額になるのは当然のことである。

 

「じゃあ助けられる人が増えるからいいことにしよう」

(ふふっ、それはとてもいいことだな)

 

 そんな会話をしながらおれはミッドチルダの裏道を通っていく。次元世界の中心を名乗っている世界ではあるが、実はここの治安は少し前はかなり悪かった。だが、今の陸の実質的なトップであるレジアス・ゲイズが指揮を執るようになってから犯罪数は激減。巷では英雄視する声もかなりある。とはいえ、どんなに治安の良い街であっても行ってはいけない所と言うものは存在する。たとえば今おれたちが歩いているところとか。では、何故今こんな道を使っているのかというと、職場までの近道だからだ。信号もなくスラスラ行けるから愛用してるのである。時々襲われることもあるがリインさんに回避を任せておれの神の手(笑)で打ち破って来た。神の手って言うのはだな……

 

「ん? なんだ今の音は」

(公輝、近くで魔力反応があった)

 

 こんな街中で魔力反応というのは穏やかじゃないな。

 

「行くか」

(ああ)

 

 けが人がいたらおれの出番だしな。

 

 

 

 

 

 

 

 リインさんが魔力反応を感じた方へ走っていく。

 

「どけー!!」

 

 すると前から人相の悪いおっさんがこっちに走って来た。おれの襲われた経験上ああいう奴は大抵悪いやつだ。おれに何もしてこないならおれも何もしないが、こちらを攻撃してきたら容赦なく反撃する。

 案の定おっさんはおれにデバイスを向けてくる。……ばかなやつだ。

 

「リインさん!」

(任せておけ)

 

 おれは足の操作権限をリインさんに渡す。そうすることによって熟練の戦士であるリインさんが相手の攻撃を避けてくれる。そこらへんのゴロツキなら足運びによる回避だけでなんとかなるのである。おそらく殺傷設定の魔力弾を避けながらおれは準備を進める。

 

「食らえ!!」

「あばばばばばばばばばばば」

 

 おっさんの懐に入り込んだおれはおっさんをなで回す。この時の撫でまわし方は動物に対してやるようなものではなくて本気を出して手をこすりつけるのだ。ガガガガガガガガって感じだ。

 君たちはゲームをしたことはあるだろうか? ゲームの中で何らかのゲージをためるためにAボタンを押し続けろという指示が出た時どうする? もちろんAボタンを長押しするだけでいいときもあるが、時にはAボタンを連打した方が早くゲージが溜まることがあるのだ。おれの能力の一環で血行が促進されるというのがある。だが、おれがすごい速さで断続的に能力を行使すると血行が促進され過ぎて心拍数が上がりまくり、苦しくなってしまうのだ。全力疾走した後の疲労が無い版だと思ってくれるとわかりやすいだろう。これがおれの神の手(笑)である。

 

「ふっ、またつまらぬものを撫でてしまった」

(相変わらずえげつないな)

「ハッ……ハッ……」

 

 息も絶え絶えと言った所だろうか。こんなおっさんがハァハァしてても気持ち悪いだけだな。とりあえず常備しているこの縄(ヤッサンの店で買った物)で縛っておこう。

 

(! 公輝、向こうに人が倒れている)

「ん、分かった!」

 

 そこに倒れていたのは茶髪の青年。この制服は……ってどこの部隊がどんな制服着てるかなんて知らねーよ。まあ、おそらく管理局員だろう。さっきの男にやられたのであろうか、その体は酷い傷が多くあり、このままでは命に係わるだろう。

 

「そうはさせないよ」

 

 おれは青年に手を当てて治療を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、君のおかげで助かったよ」

「いえいえ、どういたしまして。自分はそういう仕事に就いているので人を助けるのは当たり前ですよ」

 

 傷だらけだった青年は完治して、ちょっとお話ししている。

 

「へー、妹さんがいらっしゃるんですか」

「ああ、大切な家族さ。妹のためにもまだ死ぬことはできないんだ。君のことは知っているよ、今噂になってるからね、麦わらのお医者さん」

「やはは、恥ずかしいですね」

(よっ、有名人)

 

 そ、そんな噂になるような程なのか。ちょっと効果あり過ぎじゃないですかねぇ。有名になりすぎるとそれはそれで恥ずかしいよ。もう仮面とかかぶっちゃおうかな? また中二病が再発したみたいでいやだけど。

 

「あ! まだ自己紹介してませんでしたね。自分は首都航空隊所属ティーダ・ランスター一等空尉です。今回は命を助けていただきありがとうございました」

「これはご丁寧にどうも。坂上公輝……あ、いえ、マサキ・サカウエ二尉相当医務官です。どうぞよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、仕事始まる前から仕事しちゃったよ」

 

 ティーダさんにビクンビクンしてるおっさんを引き渡しておれは職場に到着した。あのときのティーダさんのひきつった顔は中々傑作だった。

 

「先生! 急患の方がいらっしゃいました!」

「わかりました」

 

 事務員の人が走ってやってくる。じゃあ今日の仕事を始めるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです」

 

 そこにいたのは茶髪の少女と茶髪の青年。患者は少女の方で、事件に巻き込まれて左目に魔力弾が当たってしまったらしい。青年は少女の兄だろう。少女の名前はラグナ・グランセニック。青年の名前はヴァイス・グランセニック。

 

「先生! ラグナを……ラグナを治してください!」

「大丈夫ですから、そこで見ていてください」

 

 おれはラグナちゃんの体に手を当てる。

 

「せ、先生? 大丈夫なんですか? 先生!」

「落ち着いてください、先生に治せない患者はいないんです!」

 

 看護師の人がそんなことを言っているが、そんな胸を張られて言われると恥ずかしいんですけど……

 

 3分ほど経った頃だろうか。ラグナちゃんの左目は見たところ元通りになった。

 

「ラグナ……大丈夫……か?」

「おにいちゃん、大丈夫! ちゃんと見えるよ!」

「ラグナ!」

 

 グランセニック兄妹が抱き合う。こういう場面を見ることができると、おれもうれしい気持ちが心の中に満ちるのがわかる。医者をやっていてよかったと思う瞬間である。

 

「先生! ありがとう!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「どういたしまして、お大事に」

 

 

 これはおれの仕事のある日の出来事。

 




もう空白期のネタもないのでここからStrikerSはっじまるよー


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ドクターとマッサージと45話



##この話は修正されました##


「あー、今日も疲れたな……って、もうリインさんいないんだった」

 

 おれも15歳の中学3年生となった。つまり、リインさんとのユニゾンから6年が経ったことになる。リインさんの予測では7,8年が必要だったのだが、ユニゾンから6年目にして夜天の書の完全修復は終了した。夜天の書の修復が終了したということはおれとリインさんがユニゾンする必要はなくなったということだ。6年の間ユニゾンしていたためすぐそばにいるのが当たり前になっていたので返事が返ってこないというのはなかなか寂しいものである。

 

「いかんなー、独り言が癖になっちまったよ。まったくリインさんの所為だぞー」

 

 はぁ、寂しい。本人の前では絶対に言わないけど。まあ、これでよかったんだよ。再びリインさんと会えたはやての喜んだ顔は一生忘れることはないだろう。

 ちなみに、リインさんがいないと先天的に体に障害を負った人を治療することができないから毎週金曜日はリインさんとユニゾンして治療するのだが、これがちょっとした楽しみになっていたりする。

 

「はぁ……早く家帰ろう」

 

 地球行きの転送ポートがある場所を目指してミッドチルダの裏通りの近道をすごすごと歩いていく。

 

「坂上先生ですね。ドクターがお呼びです。一緒についてきてもらいます」

「はい?」

 

 そこに現れたのは紫髪(長髪)の女性だ。それにしてもドクターって誰だ? そんな奴に呼ばれる覚えはまったくないぞ。あっ、もしかしてこれ絡まれてる? 「ちょっとジャンプしてみろよ」のバリエーションか。今はリインさんがいないから回避からのナデポ(健康)が使えない。とは言え、おれも無防備でこんなところを歩いているわけではない。懐中時計を使ってなんとでもなるのだ。おれはそっと手を懐中時計が入ってるケツポケットに向かわせる。

 

「あなたの所持するロストロギアのことはわかっている。あまり動かない方が自身の身のためだ」

 

 ポケットに向かわせていた手を思わず止めてしまう。どんな人かは分からないがいつの間にか後ろに人が立っている。さっきまで誰もいなかったことは確かだったはずだ。もし変な動きをしたら後ろから刺されそうな気配を感じる。

 

「それでは行きましょう」

 

 前から来た女性が近づいてきて魔法を発動させる。どうやら転移魔法のようだ。おれはどこかへ転移する。どうやら家に帰るのは少し先になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞこちらです」

 

 そこは洞窟の中のようで、岩をくり抜いた通路に電気が設置されている。そういえば、さっき気づいたのだが、後ろにいる紫髪(短髪)の女性の着ているスーツ? タイツ? はなんなのだろうか? ピッチリ全身タイツでエロい目で見る前に見ているこっちが恥ずかしくなってくるんだが。

 

「ようこそ、坂上公輝君! 君を歓迎するよ」

「あ、はい」

 

 たどり着いた部屋にいたのはこれまた紫髪の人物。だが今度は男性。両手をバッと広げてポージングしている。

 

「私のことはドクターもしくはスカさんとでも呼んでくれ公輝君」

「はあ」

 

 なんだかテンションの高い人だな。こういう人に絡まれると厄介なんだよなぁ。

 

「君の噂は聞いているよ。君のレアスキルはとても興味深い。生命を専門とする私からすると君の人を治療する能力はあり得ない。あり得ないからこそ面白い。ぜひ君の力を調べさせてもらいたいものだ」

「お断りします」

 

 能力の調査は管理局でさんざんうけたけど結局彼らは何一つ解明することはできなかった。その調査というのはおれにとっては暇で暇でしょうがなく、もう一度やりたいとはとても思わない。

 

「さらに! 君のレアスキルによって活動を停止していたロストロギアが復活することもわかった。これはとても興味深いことだよ公輝君。君のレアスキルの影響を受けたということはロストロギア自体が意志を持っている、もしくは過去の状態を記憶しているということだ! つまり! 今現在使用不可能なロストロギアもやりようによっては再び使用可能になるということのだよ!」

「な、なんだってー」

 

 今新しい事実を知ったような気がする。そうか、だからヤッサンの店で買った物はヤッサンが試して使ってみた時には何も反応せず、おれは使うことができたのか。まさか、無機物まで守備範囲内とは……

 

「それでは、これからが本題だ。公輝君、君にやってもらいたいことがある」

「うっ……」

 

 な、なんだ? スカさんから発せられる雰囲気が鋭くなった気がする。一体おれは何をさせられるというんだ。

 

「ふふふ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

グイグイグイ

 

 

「あ”~」

 

 スカさんの変な声が部屋中に響き渡る。

 

「ここか~ここがええんか~」

 

グイグイグイ

 

「いいっすね~」

 

 あの後スカさんに頼まれたのはマッサージ。あんな怖い雰囲気を出し始めたから一体何をやらされるのかと思ったが、頼まれたのはただのマッサージだった。

 

「それにしてもスカさん結構凝ってるね」

「ああ、上から色々とせっつかれていてね。こっちも頑張っているのだが、中々仕事がうまいこといかなくてね。おかげで疲れる疲れる」

「スカさんも大変なんだな。公務員みたいだな」

「公務員か……まあ、あながち間違ってはいないかもしれないね」

 

 スカさんも苦労してるんだなぁ。

 

「公輝先生、どうもありがとうございます」

「いえいえ、これくらいなんてことないですよ」

 

 そう言ってきたのはウーノさん。紫髪(長髪)の女性だ。ちなみに、紫髪(短髪)の女性はトーレさんというらしい。そういえば、スカさんも含めここにいる人は全員紫髪だな。家族か何かだろか? 一番あり得るのは3人全員兄妹ということだが、もしかしたらスカさんと二人の内どちらかと夫婦でもう一方が二人の娘という可能性が微粒子レベル?

 

「スカさんとウーノさんは夫婦的な何かなのか?」

「ふふ、そう見えますか? それはうれしいですね」

「いや、ウーノは私の娘だ」

 

 えー!! ウーノさんはスカさんの娘!? スカさんとウーノさんの見た目的にほとんど同じ年齢じゃないか? じゃあ母親はトーレさんか?

 

「トーレも私の娘だ」

 

 なん……だと……じゃあ母親は別いるのか。スカさんの奥さんというのがどんな人なのかちょっと見てみたいな。

 

「まあ、色々あるのだよ」

「そうだな、あまり人の家庭に深く入り込むのはいけないことだしな」

 

 人には言えない事情というものがあるのだろう。事情か、なんだろう。……近親相姦……とか? ちょっとエロ同人の読みすぎだな。

 

「ドクター、少しお話が……ん? ああ、君が例の先生か。ドクターが世話になっている」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 やってきたのは銀髪で眼帯をつけた少女だった。これまた青い全身タイツに身を包み、上にコートを羽織っている。なんだ、最近は全身タイツが流行っているのか? その上にコートを羽織るのがトレンドなのか!?

 

「私はチンクと言う。以後よろしく頼む」

「はい、よろしく」

「チンクも私の娘だ」

 

 3人娘? それもすごく年が離れているようだ。

 

「スカさん……本当に近親……いや、なんでもない。うん、人には色々な事情があるんだよな。うん」

「ちょっと待ちたまえ、君は私がぼかした事情をどんな風に解釈したんだ!?」

 

 やっぱりぼかさざるを得ない事情があるんじゃないか。

 

「スカさん……そういうことが許されるのはエロ同人の中だけだぞ。通報しますた」

「ちょちょちょちょっと待ち給え! それはまずい! 色々な意味でそれはいけない!」

 

 

 

 

 なんだかんだでおれはスカさん家族と仲良くなった。スカさんとメアド交換して改めて帰路に着くのであった。

 

 




vividのコミックを買わなきゃ(使命感)


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火事と空港と46話

自分の好きな作品の作者さんが拙作をお気に入り登録してくれているのを見ると、なんとも不思議な、うれしい気持ちになりますねぇ。

##この話は修正されました##


「って感じな出会いがあったわけよ」

「ほーん、面白い人がおるんやな~」

 

 現在はミッドチルダで借りた家ではやてと歓談中である。はやての仕事が忙しくなり、もう中3と言うことでミッドにも家を借りてこっちで寝泊まりするようになった。いずれはこっちに住むようにするそうだ。

 

「でもあかんで? 知らん人に付いていったら」

「そうですね、私が一緒にいないときはあそこの道はあまり使わない方がいいでしょう」

 

 はやて、リインさんがそう言ってくる。 

 

「う、う~ん……あの道は便利なんだがなぁ。それにはやて、その言い方だとおれがお子ちゃまみたいじゃないか」

 

 まったく失礼な奴である。別にお菓子とかでつられたわけじゃないし。トーレさんに後ろから脅されたから付いて行っただけだし。……あれ? こっちもかなり問題なんじゃなかろうか? 一種の誘拐だよな。おー怖。

 

「ていうか、はやての方がお子ちゃまじゃないか! ずっとリインさんにくっついちゃってさ」

「お、なんやハムテルくん。羨ましいんかいな? へっへーん、ここは私の特等席やで」

 

 はやてはリインさんに抱き付きながら言ってくる。闇の書の修復が完了し、リインさんがおれとのユニゾンが解けてからはやてはずっとこの調子である。長い間直に会うことが出来なかった反動は大きかったようだ。あーうらやま。

 

「はやてちゃんはやてちゃん! 次は私です! そこ交代してくださいです!」

「あ、ツヴァイも来るか? ほらほらこっちおいで~」

「はいですぅ~」

 

 はやて達の方に飛んでいくとリインちゃんははやてとリインさんの間に挟まれるような体勢になる。リインちゃん、その場所いいな。ぜひとも代わってもらいたい。そういえば、おれも中三、つまり思春期の時期に入り大分生前のようにあーんなことや、こーんなことがしたいなーなんて気が湧くようになってきたのだ。いや、原因はそれだけではない! 問題ははやてだ! 一体いつから育て方を間違えたのか分からないが、はやては……はやては……おっぱい魔人なのだ! 大きなおぱーいを見つけたらもみしだき、形のいいおぱーいを見つけたらやさしい手つきでなで回す。そんなわけで、はやてがそんなことをするところを見せつけられるおれはしたくなくてもムラムラしてしまうのである。あ、ほら、今だってさりげなくリインさんのおぱーいを揉んでいるぞ。リインさんの顔が僅かに上気しながらも、声を出さないように耐えているよう様子がエロいのなんのって……ゴホン。まあそんなことはどうでもいい。

 

「何はともあれ、ハムテルくんは気をつけなあかんで?」

「はーい」

 

 今度からは最初から手をポケットに入れてノータイムで時計を使えるようにするとしよう。

 

「よーし、今日はゆっくり休むぞー」

 

 体力的な意味で疲れるということはないことはないが毎日仕事に行くというのはなかなか面倒なことなのだ。おれは世の中のお父さんを本当に尊敬する。

 

「そうやな、ゆっくりするんはええこと……」

 

 はやての発言の途中に遮るように鳴る通信機の着信音。

 

「ハムテルくん、どうやらゆっくりするんはもうちょっと後になりそうや。ミッドチルダ臨海第8空港で大規模火災が発生。今すぐ救援に行くで!」

「了解」

「承知しました、主」

「わかりました、はやてちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、これはひどいな」

 

 おれはリインさんに抱かれて現場まで飛んできた。現場であるミッドチルダ臨海第8空港は全体が炎に包まれ、全焼は確実と言える程だ。

 

「なんやて!? まだ中に人がおるんか!」

「はい、まだ確認が取れていない人がいるという報告です」

 

 この中にまだ人がいる? 魔導士ではない普通の人ではこの炎の中での生存は絶望的だ。

 

「ハムテルくん、任せてええか?」

「できるだけのことはする。リインさん!」

「うむ」

 

 おれとリインさんは手のひらを合わせるようにする。

 

「「ユニゾン・イン!」」

 

 おれたちの周りを光が包み、光が収まると目が赤くなったおれが現れる。

 

「じゃあ行って来る。リインさん、温度調節お願いしますよ」

「頼んだで、ハムテルくん」

(任せておけ、公輝)

 

 ユニゾンしたリインさんによっておれの周りの温度を常温に保つようにすることを頼む。多少の火傷くらいなら問題はないだろうが、熱いものは熱いのだ。好き好んで炎の中に突っ込む趣味はない。リインさんとのユニゾン時代はこれで暑い夏は涼しく、寒い冬は暖かくとても過ごしやすくさせてもらったものだ。はやて達の羨ましがる顔は今でも鮮明に思い出せる。

 

「それじゃあ行きますか」

(ああ)

 

 おれたちは燃え盛る炎の中に突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫ですよ」

「た、助かった……」

 

 ここにいたのは3人。中に魔導士がいたらしく、シールドを張って凌いでいたようだ。だが、魔力量が少なくちょっとした時間稼ぎしかできなかったのだろう。

 

「外の仮設救護施設に転送します。そこで受付をしてください」

「分かりました」

 

 生存者の足元にベルカ式の転移魔法の魔法陣が浮かぶ。

 

(転移)

 

 リインさんの掛け声とともに生存者3名は外に転移される。ここで一つ補足しよう。おれの総魔力量は魔力弾(小)10発分しかないが、おれの能力によって魔力弾(小)を1発撃つとすぐさまその分の魔力は回復する。それによってマシンガンのように魔力弾を運用することが出来るのだ。しかし、魔力弾(小)20発分の魔力を使って魔力弾(大)1発を作るということはできないのだ。なので、おれの魔力量では転移魔法なんて使うことは夢のまた夢だ。ここで、ユニゾンしたリインさんの魔力を使うことによっておれは大掛かりな魔法を使うことが出来るようになるのだ。ちなみに、使ったリインさんの魔力はおれの能力ですぐさま回復する。

 

「よーし、次だ!」

(200mほど先に生命反応を感知した)

「分かった」

 

 炎の中を走り抜けるとそこには青い髪の少女がいる。だが、そばの石像が傾いて今にも少女の方に倒れそうになっている。

 

「させない!」

 

 おれはさっきからずっとポケットの中に入れていた右手で懐中時計のボタンを押す。

 

 カチッ

 

 

 

 

 

 

「想定とは違うけど、時計にあらかじめ手を掛けといてよかったぜ」

(あそこまで走るのでは間に合わなかっただろうな)

 

 傾いていた石像は台座の辺りが崩れて少女の方へ落ちている最中だ。本当にギリギリだったようだ。とりあえず、あの少女をあそこから避難させよう。おれは少女に触れる。

 

「お嬢さん、大丈夫?」

「え……私……生きてる?」

「ああ、君は生きてるよ」

 

 あれだけ大きな石像が倒れかけていたのだ、相当怖かったのだろう。これくらいの少女が自分が生きていることを噛み締めるように言うことなど、そうそうあることではないだろう。

 

「ふぇ……」

「ん?」

「ふええええええぇぇぇぇぇぇん!!!!」

「お、おう? よしよし? もう大丈夫だぞ」

 

 突然がっしりと抱き付かれて泣き出してしまった。ていうか、この子力強くね? おれの腰の辺りがギシギシ言っているんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 その後ガッシリホールドされて動けないこと約5分。少女も落ち着いてきたので転送する準備に移る。

 

「じゃあ行くよ?」

「は、はい」

 

 魔力を集中させて転移の式を立ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ……時計の効果切れた。さっさと転移させちゃおう。

 

「な、なんだ!?」

「な、何!?」

(……この魔法は……)

 

 時が動き出してすぐに轟音と呼べるような音がする。後ろを向くと先ほど崩れていた石像が上から降って来たゴン太ビームによって消し飛ばされてしまった。

 

「大丈夫ですか! ってあれ? いつの間にそっちに? それに公輝君!?」

「なのはさんか」

 

 空からゴン太ビームと共に降りてきたのは白いバリアジャケットに身を包んだなのはさんだ。……初めて見たけど、なのはさんの魔法ってあんな感じなんだな。余り怒らせないようにしよう。

 

「なのはさん、この子お願いします。おれはまだ先にも行ってみるので」

「うん、任せて!」

 

 青い髪の少女はなのはさんに抱かれて飛んでいく。飛んでいく前にまたなのはさんがビームを打って天井をぶち壊していったのだが、もうちょっと穏便にはできないのだろうか……別にもうこの建物は諦めるしかないからいいけどな。

 

(まだ生命反応がある。ん? こっちに近づいてきているな)

「まだ残っているのか。とりあえずその人も転送で送ってしまおう」

 

 おれたちも走ってその反応の方へ走っていく。

 

「え? 公輝?」

「フェイトさんも来ていたのか。その子が取り残された子だね」

「うん、この子で全員が避難したことになるよ」

 

 フェイトさんに抱かれていたのはまたもや青い髪の少女だ。

 

「じゃあお二人とも転移魔法で送ります」

 

 おれたちはその後転移魔法で空港の中から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、空港の火災ははやてとリインちゃんの合わせ技による氷魔法ですべての炎を凍らせて消してしまった。後で聞いた話だが、今回救出した青い髪の少女たちははやての師匠的な存在であるゲンヤ・ナカジマさんの娘さんだったらしい。まあ、だからと言って何かあるわけではないのだが世間は狭いなってことだ。

 

「ってことがあったんだよスカさん」

「そ、そそそそそれは大変だったね公輝君。ハハ、ハハハ」

 

 なんでスカさんは汗だらだらなんだろうか?

 

 




時のオカリナによる最小限のバタフライエフェクトによってスカさんは性格が変わってしまいました。どんな性格になったのかは後々。

ちなみに、平衡世界のワンクッションを挟まずに直接過去を変えていた場合、ハムテルくんがヒロイン達にモテモテとなる世界線になっていたことでしょう。

ね?時のオカリナの配慮は大切でしょ?


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トイレと誘いと47話

【注意】お食事中の方は全部食べてから見ましょう。

まあ、そこまでのことは書いてないですがトイレの話ですから。


##この話は修正されました##



 人間というものは不思議なものである。風土、言語、文化が違っていても同じ価値観を持つのだから。もちろん、その土地特有の価値観だってある。外国のことわざを調べてみたらそれはよくわかることだろう。日本人のおれにとっては信じられないことを言っているものもたくさんある。しかし、逆に表現の仕方は異なるが、まったく同じ内容を言っていることわざもたくさんあるのだ。例えば、『覆水盆に返らず』は『It's no use crying over spilt milk.』つまり、『こぼしたミルクのことを嘆いても無駄だ』と言う感じになる。表現の仕方は異なっているが言いたいことは同じだ。やはり、人間というものは人種が異なろうと同じなのだということを再認識させられる。

 ここでちょっと話は変わるが、例え地域が異なろうと、国が異なろうと、世界が異なろうと、トイレの基本的な構造は同じものなのだ。何故なら、人間の考えることというものはそう変わらないから。それはここミッドチルダとて例外ではない。レバーを引けば水が流れるし、匂いや蛆虫の逆流を防ぐために排水管は複雑な形をしている。それ故、ビッグでハードな排泄物、大量のトイレットペーパーやトイレに流すことを想定していない物を流せば詰まるのは道理というものだ。つまりだな……

 

「うわああああああああああああ、トイレの水が溢れる溢れる溢れるうううううぅぅぅぅぅ」

「だから、詰まった時に水を流すのは拙い!って言ったじゃないか!」

「なにぃ! マサキだって「流せば詰まりも流れるかもしれないな(ボソッ」って最後は賛成したじゃんかよ!!」

 

 ミッドの家のトイレが詰まった。詰まらせた犯人はヴィータ。いつものごとくトイレットペーパーをカラカラカラカラカラ使って便器にそれをシュート。水を流そうとしたら流れるどころか便器内の水位が高まりだしたそうだ。どうすればいいのか分からなくなったヴィータが家にいたおれ達に助けを求めてきたのだ。

 

「どどどどどどうすんだよマサキ。なんとか溢れなかったけど、いつも通りに流れる様子もないぞ?」

「まあ、待て。今シャマルさんにスッポンを買いに行ってもらっている。それで何とかなるかもしれない。が、おれたちでできることをしてみよう」

 

 最終手段はミッドの暮らし安全に電話するしかないが、トイレの詰まりと言うのは自分で何とかできる場合が多いのだ。さっきネットで色々調べたからやってみようと思う。

 

「スッポンを用いない対処法その1! 50度前後のお湯を便器に流し込む!」

「そんなことで何とかなるのか?」

 

 わからん。が、それで直ったという人も確かにいるようだ。

 

「じゃあヴィータよ、バケツをこっちに渡したまえ」

「え? こっちの家にバケツはねーよ」

 

 え……あっ、こっちの家に来てまだ間もない。バケツが必要な機会に迫られたことがないからまだ買ってなかったんだった。じゃあ洗面器でも使うか……ってこっちはシャワーで全部済ませるから洗面器もねぇ。鍋を使うのは少し躊躇われるしなー。

 

「ならばその2! 重曹と酢を使う作戦だ! ヴィータ、重曹と酢をこっちにくれ」

 

 酢は勿論、重曹もはやてが買っていたはずだ。

 

「酢はいいんだがよ、重曹ってどこにあるんだ? はやてがいつもどこにしまってるか私知らないぞ」

 

 掃除洗濯は基本全部はやてが担当していることだから、それに使う道具もはやてが管理している。ちょっと探さないといけないのだ。

 

「じゃあちょっと探すか」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ? 見つからない? そんなはずはないんだが……」

「もしかしたら切らしてるのかもしれねーな。しょうがない、ほかに方法はないのか?」

「後はもうスッポンを使うしかない……」

 

 くっ、万策(2つ)尽きたか……

 

「ただいま帰りました~」

 

 来たか! スッポン(リーサルウエポン)! スッポン、正式名称をラバーカップと言う。こいつを使うことでトイレは勿論、風呂場、洗面所の排水溝の詰まりを解消することが出来る優れものなのだ! まあ、トイレで使ったスッポンを洗面所で使う気はしないが。

 

「しゃあ! おらぁ! いくぞぉ!」

「おー!」

 

 スッポンの力を見せてやる!

 

「ただいま~」

 

 む? はやてが帰ってきたか。だが、スッポンがおれの手にある今、はやての手伝い(重曹)など不要!

 

「そりゃああああ!!」

 

 スッポンを便器の穴の開いた所に勢いよく押し込む。一度引いて、また力強く押し込む! その行動を何度も何度も繰り返す。

 

「ハムテルくん、ちょっと聞いてほしいことがあるんや」

「おう、なんだ」

 

 押しては引くの一連の行動を繰り返しながらおれははやてに返事を返す。……はじめてこれ使うんだが、結構体力使うんだな。

 

「私、自分の部隊を持ちたいんや。この間の空港の件で強くそう思うようになったんや。海、陸、空に縛られることのないフットワークの軽い部隊をや。その部隊でハムテルくんにも協力して欲しいんや!」

 

 はぁ……はぁ……本当にこれ結構疲れるな。

 

「な、何? もうい、もう一回言ってくれ」

「……」

 

 いかんな。作業に没頭しすぎてはやての話が頭に入ってこなかった。だが手は止めない。なぜなら詰りが解消される気がしないから。

 

「ふんっ!」

「あ! はやて、何するんだよ!」

 

 突然はやてがおれの手からスッポンをひったくる。

 

「……スッポンはやな……こうやって使うんやあああぁぁぁぁ!」

 

 そう言いながらはやてはスッポンをぐぐっと奥に押しこんだ後に力強く引っ張る。おお、そうか! スッポンは押す時じゃなく引くときに力を入れるのか! その動作を何回かするとトイレの奥の方から「ごぼごぼ」っという音がし始めた。はやてがレバーを少しずつ引いて水がちゃんと流れるかどうかを確かめる。どうやら正常に排水できるようになったようだ。流石はやて! おれにできないことを平然とやってのける!

 スッポンを横に置いたはやてがゆっくりとこちらに向く。

 

「ハムテルくん!!」

「は、はい」

 

 なんだ、突然大声出して。

 

「ハムテルくんは私が作る部隊に強制参加や! これは決定事項やで!」

「あ……はい……」

 

 まあ、はやてに頼まれたら無茶なことでない限りは手伝うつもりだからいいけどね。

 

 

 

 

「あ、マサキ直ったか?」

 

 ヴィータの奴、途中から飽きてどっかに行ってやがったな。

 

 

 

 




トイレの水が迫り来る時の絶望感は半端ない。


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百合とコミケと48話

##この話は修正されました##


「ハムテルくーん、ちょっち頼みたいことがあるんやけど」

 

 ある休日の朝、海鳴の八神家リビングにて。はやてにしては珍しくおれに頼み事をしてきたのだ。あの全部自分で物事を片付けてしまおうとするはやてが! おれに! 頼み事! こうやって頼られるというのは家族として素直にうれしいものだ。

 

「なんだ? おれにできることなら何でもするぞ!」

「ん? 今何でもするって言ったやんな?」

 

 えっ……なんでそんな「言質は取ったぞ!」みたいな言われ方されるんだ。なんか急に不安になてきたんだが。

 

「ほんなら、このバツをつけたところにベタをベタっとしてほしいんでベタ」

「ベタがゲシュタルト崩壊してきた。ていうかベタだって? なんだはやては漫画を描いていたのか」

 

 長年一緒に暮らしていたがはやてが漫画を描いているとは知らなかった。絵を描くのは壊滅的にだめなおれでもベタを塗るくらいなら気を付けてやればできるだろう。

 

「よし、任せとけ。で、どれをベタベタすればいいんだ?」

「ほい」

 

 はやてからおれがベタを塗る原稿を受け取る。それにしても、はやては一体どんな漫画を描いているのだろうか? もらった原稿に視線を落とす。そこにあったのは金髪ツインテールの女の子と栗色ロングの女の子がくんずほぐれつしながら、あんなところをペロペロしたり、こんなところをモミモミしているところのページのようだ。さらにはやての画力は驚くべきもので肌の質感、人物の構図、背景にもこだわっているようだ。特に力を入れて描いたのであろう。おぱーいへのとてつもない執念を感じる。

 

「ぶはっ! は、はやて! 何……これ……」

「何って同人誌やん。ハムテルくんこういうの好きやろ?」

 

 ええ、好きですよ。大好物ですよ。だが、問題はそこじゃない!

 

「次の夏コミで発表するんや。今年ようやく受かったんや」

「でも、こういうの売るのは少なくとも18歳以上じゃないといけないんじゃないか?」

「ふっふっふー。それは大丈夫や」

 

 はやてが自信ありげに言う。代理人にでも売ってもらうのだろうか?

 

「テクマク マヤコン テクマク マヤコン 大人になーれー……」

 

 はやて一体歳いくつだよ。

 

 光に包まれたはやてが光の中から出てくると、そこにいたのは今より少し成長したはやてだった。今から大体5年後くらいの姿だろうか。

 

「どや。大人のはやてさんは美しいやろ?」

「お、そうだな」

 

 それにしても、大人のはやてはこんな感じなのか。体のあちこちが成長してとても美人さんである。街中ですれ違ったら振り返ることは確実だな。声を掛ける勇気はないから声は掛けないが。

 

「ちぇー、なんやねんその反応。つまらへんなー」

「わー、はやてさんちょー綺麗だわー」

「もうええわ」

 

 折角お望みの反応をしたというのに、そこは棒読みで喜ぶところだろ。流石にそんな言い方されたらちょっと「うっ」ってなるわ。

 

「あ、そういえばヴォルケンズはどうした。あいつらにも手伝わせよう」

 

 恥ずかしがりながら作業をするシグナムさん、シャマルさんの様子が目に浮かぶぜ。くっくっく。

 

「今日はシャマル以外出かけとるんよ。ほんで、シャマルはほれ」

 

 はやてがリビングの隣にある部屋を指さす。そこは和室で普段は使わないが、和室で和食を食べたくなった時に使う部屋だ。その部屋にある机に向かってシャマルさんが座って作業をしている。

 

「何だ、見ないと思ったらシャマルさんそっちの部屋に居たのか……シャマルさん?」

 

 おれが話しかけてもシャマルさんは反応しない。いつもなら返してくれるのだが。それだけ作業に没頭しているのだろう。

 

目標(局部)をセンターに入れてスイッチ(修正)……目標(局部)をセンターに入れてスイッチ(修正)……」

「ひっ」

 

 つい声が引き攣ってしまう。作業に集中していたというのは間違っていなかったが、集中しすぎてうわ言を言いながら局部修正している。違う、おれが見たかったのはレイプ目で局部を修正しているシャマルさんじゃなくてはやての漫画の内容に頬を赤く染めて恥ずかしがりながらも作業をするシャマルさんなんだ!

 

「はやて、これは一体」

「ん? ああ、シャマルか。シャマルには3日前から手伝ってもろとるからコツを掴んだんやろな」

 

 コツを掴んだ? おれの知ってるコツはこんなのじゃないぞ。ていうか、シャマルさん以外のヴォルケンズはこれが嫌で出かけたんじゃないだろうか。こんなものを見てしまってはそう思わざるを得ない。

 

「まあ、それは気にせんと、ハムテルくんも頼むで! 締め切りは近いんや」

「あ、はい」

 

 そして、おれははやての作業を手伝うべくバツ印がある部分をベタベタする作業に没頭するのであった。

 

 

 

「ところではやて、この同人誌のモデルって……」

「(ニヤリ」

 

 で、ですよねー。髪の色と髪型が逆だし、顔もデフォルメされているため本人と似ているというわけではないが、この二人ってどう見てもなのはさんとフェイトさんだよな。

 

 こうしてはやての初作品『親友の秘め事』が完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やって来ました、決戦場有明!」

 

 同人誌も完成し、今日はとうとう販売する日であるコミックマーケット当日である。はやては自分の作品に自信があるらしく、初参加だというのに100部も刷ってきたのだ。初参加では20~30部くらいしか売れないというのに。お金は管理局でたくさん稼いでるから在庫が余りまくって破産する、なんてことにはならないだろうが、たくさん売れ残ってしょんぼりするがよい。

 

「それにしても、初参加のコミケが買う側ではなく売る側になるとは思っていなかった」

「なんやハムテルくんはコミケ初めてなん? ほんなら暇な時間は他の所見に行ってもええで。売り子さんはたくさんおることやしな」

 

 ここにいるのはおれとはやてだけではなくヴォルケンズとリイン姉妹も来ている。ただし、女性人は全員バリアジャケット装備だ。ここはコミックマーケット会場東京ビッグサイト。魔法少女なんてものはちょっと見渡せばどこにでもいるすごい場所なので、はやて達は魔法少女のコスプレをしているということになっている。 

 

「なんならハムテルくんの好きなエロ同人を仕入れてきてもええで」

「流石に15歳には売ってくれないだろ」

 

 ちょっと老け顔なら何の問題も無く物を手渡してくれるだろうが、残念ながらおれは年相応の顔なのでどっからどう見ても中坊である。

 

「アインスとユニゾンして私がつこうとるテクマクマヤコン使えばええやん?」

 

 冗談だろ? そんなことしたらおれの趣味が視覚共有してるリインさんに筒抜けじゃないか。そして、その情報ははやてにも筒抜けなんだろ。そんなことしてたまるか。何故かリインさんとユニゾンしたとき目関係のことはオンオフできないんだよな。リインさんの特徴がそこだけは出てくるし。

 

「いえ、遠慮しときます」

「そうなん? ほんならお使いたのむわ」

 

 手渡された紙にはサークルの名前とサークルが展開している場所が記されている。この中のいくつかはおれも知っている有名サークルだ。全部おぱーいの描き方が上手いことで有名なサークルだ。

 

「どうせ「おれの趣味がー」とか思うとるんやろ? お使いのお礼にその同人誌は後で貸したるわ」

 

 まじで!! あ、んんっ! はやての頼み事なら仕方ないな。うん、仕方ない。やってやろう、そのお使い!

 

 おれたちの3日間はこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 コミックマーケット83にて、突如彗星のごとく現れた新興サークル『八人の神様』。魔法少女の格好をした美しい女性たち(一人はマッチョイケメン)が売り子をしているということで有名になり、そのサークルで販売していた同人誌はあっという間に完売。しかし、このサークルのすごいところは売り子さんだけではない。この同人誌こそが即完売した本当の理由である。『八人の神様』初の作品にして圧倒的な完成度を見せたユリ本はSNSを通じて拡散され、さらに完売を促す結果になった。現在初版は万単位で取引されているとかなんとか。

 

「で、はやては今度は何をしているんだ」

「決まっとるやん、次は冬コミやで。次の作品の題名は『騎士の秘め事』で決定やな。今度は500部完売やー!」

 

 こぶしを握り、決意をするはやて。今度の作品はヴォルケンズに手伝いは頼めないな。

 

 

 

 サークル『八人の神様』の秘め事シリーズが人気を博し、はやてがそれでちょっとした財をなしたのはこれからちょっと先の話。 

 

 




[速報]なのは完売! なのは完売!


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健康診断と再会と49話

ダイコンがダメコンに見えたおれは提督の鏡

##この話は修正されました##


「はーい、次の人どうぞー」

「はい!」

 

 今日も今日とてお仕事です。今日のお仕事は第四陸士訓練校に新しく入校する予定の子の健康診断だ。え? 医学的な知識も何もないおれに健康診断なんてことできるのかって? はい、できません。でも、やりようはあるのだ。

 

「では問診しますね。先天的に何か疾患はありますか?」

「ないです」

「では次に触診しますんで、手をこの台に置いてください」

「? はい」

 

 この訓練校には男の子だけではなく女の子も多数入校する。そんな女の子たちに触診と称してムフフなことをしたいところだが、そんなつまらないことをしてクビになっては何の意味もないので勿論そんなことはしない。おれは差し出された女子訓練生候補の腕に手を当てる。その状態のまま一分間過ごす。訓練生は何をしているのかわからずそわそわしている感じだがそんなことは気にしない。

 

「はい、健康診断は終わりです。状態異常は特になし、健康ですね」

「は、はい。ありがとうございました?」

 

 訓練生候補は腑に落ちない様子だったが椅子から立ち上がり健康診断を行っている救護室から退出する。医学的な知識が何もないおれには健康診断によって訓練生候補たちのどこが悪いかを判断することはできない。しかし、健康と言うことを判断することはできる。何故なら、おれが触った時点でその人は健康なのだから。もしここに先天的に問題がある新訓練生が来たとしても今日はリインさんとユニゾンして来ているので本来なら落とされていたはずの人を入校させることができるのだ。

 ちなみに、この仕事の依頼人は陸の実質的なトップであるレジアス・ゲイズ氏。戦力の乏しい陸の戦力をできるだけ多く、確実に入れるために入校前の検査なんかで貴重な陸士希望の人材を落とさないようにしてくれと依頼されたのだ。

 

(しかし、まあ、なんだ……マッチポンプ……とは違うな。出来レースというのか? こういうのは)

「何も悪いことしてないしいいんじゃない? 言うとすればみんなが1番のレースだな」

 

 マッチポンプとか出来レースとか、あんまりイメージの良い言葉ではないな。その点みんなが一番。実にいいことではないか。こっちはゆとり教育のイメージがあるが。

 

「じゃ、次の人どぞー」

「は、はい!」

 

 こういうわけで今回の健康診断は担当の先生がおれ一人しかいないのでちゃっちゃと済ませないと終わらないのだ。問診触診合わせて一人40秒だ。

 

「では問診しますね。先天的に何か疾患はありますか?」

「あっ……ないです」

「では次に触診しますんで、手をこの台に置いてください」

「あの! もしかして、空港の火災の時私を助けてくれた麦わら帽子の人ですか?」

 

 うん? 火災の時に助けた? おれは一応渡された訓練生たちのカルテで今前にいる子の名前を確かめる。この訓練生候補の名前はスバル・ナカジマ。ああ、ナカジマ氏の娘さんじゃないか。流れ作業的に健康診断(仮)を行っていたため顔をしっかり見ていなかったから気づかなかった。

 

「そうだよ、確かにそれはおれだね」

「やっぱり! あ、あの時は助けてもらってありがとうございます!!」

 

 スバルちゃんは立ち上がりおれにお辞儀をしながら感謝の意を述べてくる。いやはや、いつまでたってもこうやって感謝されるというのは慣れないものである。

 

「どういたしまして、ナカジマ訓練生候補。あれから大丈夫だった?」

「はい! なのはさ……ああ、いや、高町二尉に救護テントまで運んで頂きました! 姉も無事でしたし、何事もありませんでした!」

「うむ、そいつはよかった」

 

 あれだけの事故だったというのに死者が誰もいなかったというのは本当に奇跡としか言いようがないな。だが、今はそれより

 

「とりあえず健康診断を済ませよう。後ろの人たちの帰りが遅くなってしまうからね」

「あ……す、すみません!」

 

 うんうん、しっかり謝れるというのはとても大事なことだと思うぞ。

 

「じゃあ触診しますねー」

「はい」

 

 スバルちゃんの腕に手を当て今までと同じように一分間過ごす。

 

「はい、健康診断は終わりです。状態異常はなし、健康ですね」

「はい! ありがとうございました!」

 

 そう言ってスバルちゃんは退出する。あの子は本当に元気のいい子だな。

 

(世界というのは広いようで狭いな。それにしてもあの泣いていた子が陸士を志望していたとはな)

「いや、あの子の力(物理)は陸士として武器になるだろうな」

 

 陸とは主にミッドチルダにおいて活動する管理局局員の組織である。陸士はミッドでの警察のような役割を果たすことが多いので腕っぷしの強さは重要な要因の一つなのだ。あの歳でおれの腰に悲鳴を上げさせるほどの締め付けを見せたのだから、将来有望である。

 

「次の人ー」

(公輝、だんだん雑になっているぞ)

 

 同じことの繰り返しというのは結構辛いのだ。これくらいの変化はさせないとつまらない。

 

「はーい」

「ちょっと、お兄ちゃんが返事したら意味ないじゃない!」

 

 え? お兄ちゃん同伴? その発想はなかったわ。

 

「失礼します! ん? なんだ、男か」

 

 なんだ、貴族か。とでも返せばいいのか? モンペならぬ、モンブのヨカーン。

 

「いくら先生とは言え、僕のかわいい妹には男である限り触らせないぞ!」

「ちょっとお兄……兄さん! 何恥ずかしいこと言ってんの!」

 

(随分と兄妹仲が良いようだな。いいことじゃないか)

 

 いいことなんだが、この場で兄妹仲の良さを発揮されても困るのだが。

 

「先生、誰か女性の先生と交代して……ん? よく見たらマサキ先生じゃないですか」

「えっ! マサキ先生ってあの麦わらの!」 

 

 え? また知り合いかよ。んー……ああ! ティーダさんじゃないか。妹がいるから死ねないって言ってた人だ。じゃあこの子が自慢の妹か。

 

「あの! サカウエ先生ですよね! 兄の命を救って頂きありがとうございました。ずっとお礼に行きたいと思っていたのですが、申し訳ございません」

「あーいえいえ、そんな気にしないでいいですよ。どういたしまして。」

 

 今日はよく感謝される日だな。

 

「むむむ……マサキ先生なら……いいか……。マサキ先生が担当なら僕は特別にティアの健康診断をするのを許可します。しかし! ティアに触れるのはティアの許可を取ってからですよ!」

「わかってますってー」

 

 シスコン? シスコンなのか? 重度のシスコンっておれ初めて見るなー。

 

「それでは問診しますね。先天的に何か疾患はありますか?」

「ないです!」

「兄さんには聞いてない! ないですよ」

 

 ティーダさんってこんな人だったんだな。一度死にそうになってシスコンをこじらせたんじゃないか?

 

「じゃあ触診しますねーそこの台に腕を置いてください」

「何! だが、ぐぎぎ……」

「わかりました」

 

 ティアナちゃんの腕に手を当ててしばらく待つ。

 

「マサキ先生、何をやっているんですか! はっ! まさか、そうやってティアの柔肌を味わって……」

「兄さんちょっと黙ってて」

 

 ティアナちゃんにたしなめられたティーダさんは何も言うことが出来なくなり、四つん這いになりうなだれてしまった。

 

「はい、お疲れ様でした。何の問題も無い健康体です」

「ありがとうございました。先生もお疲れ様です」

 

 そう言い残してティアナちゃんは退出した。いやー、おれを気遣ってくれるとはティアナちゃんはいい子だな。

 

(世の中にはこれほど仲のいい兄妹と言うのは本当にいるんだな)

「ああ、おれの知ってる兄妹ってやつはいつも妹が兄を毛嫌いして、兄は妹を無視するパターンだったから今回のパターンは新鮮だったな」

 

 仲良きことは美しきかな。良い言葉だな。

 

 

 

 

「ティーダさん、もうティアナ訓練生候補は帰っちゃいましたよ。後、ずっとそこにいられると流石に邪魔です」

「……」

 

 仲……良い……よね?

 

 




orz←ティーダ


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中二病と計画と50話

感想で指摘があったことの説明話です。まあサラっと流します。

##この話は修正されました##


「やっほースカさん。で、用事ってなんだい?」

「ようこそ公輝くん、ちょっと手伝ってほしい事があるんだよ」

 

 ある日の午後、携帯にスカさんから「ちょっと来てほしい」という旨のメールが来た。その1分後にお迎えのウーノさんがやってきた。幸い今日は特にやることもなかったのでウーノさんと一緒にスカさんの住処にやって来たのだ。

 

「あら~、あなたが例の先生ね~。私はクアットロ、どうもよろしく」

「よろしく」

 

 横からやってきたのは茶髪でメガネを掛けた女性だった。クアットロさんもトーレさんやチンクさんと同じようなスーツを着て上から白衣を羽織っている。彼女たちが着ているスーツがおれの知らない間に流行っていたのかと思っていたが、どうもこのスーツはスカさんの趣味のようだ。おれはスカさんとの付き合い方を本気で考えた方が良いのかもしれない。

 

「あら~あらあら、冴えない顔にピッタリな冴えない返答ね~」

「……」

 

 可愛い見た目してとんでもないこと言われた気がする。だが、今はそんなことはどうでもいい。だって、この人……この人は……!!

 

「近所のおばさん!」

「誰がおばさんよ! 誰が!」

 

 近所のおばさんにめっちゃ似てる! 近所のおばさんとは、はやて達に艦娘のコスプレ衣装を作るときに材料をくれたおばさんのことだ。髪型も微妙に似てるし、特に「あら~あらあら」っていうところがめちゃくちゃ似てる! あー、懐かしいなー最近はミッドにいることの方が多いからおばさんに最近会ってないんだよな~。ちなみに、おばさんの名前は陸奥さんと言う。

 

「キーッ! 人をおばさん呼ばわりとは、失礼な人! ふんっ!」

 

 そう言いながらクアットロさんはどっかに行ってしまった。ていうか、人を冴えない呼ばわりしていた人がおれのことを失礼な人呼ばわりするのは如何なものなのだろうか。

 

「うんうん、公輝君もクアットロと仲良くなれたようだね。クアットロも私の娘だ、仲良くしてくれたら私はうれしいぞ!」

「あれが仲良く見えるスカさんは一度人との関わり方を勉強し直した方が良いな」

 

 それにしてもスカさん本当に娘多いな。息子はいないのか? まあ、スカさんみたいなやつがもう一人居ても面倒くさそうだが。

 

「おっと、公輝君を呼んだ本題を忘れていたよ。うっかりうっかり」

 

 おっさんのテヘペロは何にもうれしくないからヤメロ。

 

「公輝君の力を借りたいと思っていたのだよ。ちょっとこれを持ってみてくれないか」

 

 スカさんがおれに渡してきたのは青い菱形の宝石なようなもの。なんだか見覚えがある宝石だ。

 

「ウーノ、どうだい?」

「はい、内部から発せられる魔力量が元の何倍にもなっています」

「おー! 流石公輝君だね。これがジュエルシードの本来の姿と言うわけだ。今のままでも大量の魔力を有しているというのに、まだこんなにもキャパシティを残していたとは! すうううぅぅぅばらしいいいぃぃぃ!!」 

 

 ジュエルシードって……まあ、いいや。スカさんのテンションが有頂天でやばい。

 

「では公輝君、それをこっちに渡してくれたまえ」

「ほい」

 

 おれはジュエルシードをスカさんに返す。

 

「あら? ジュエルシードから発する魔力が元の値に戻った?」

「ん? そうなのかい? ふーむ、公輝君の能力は元々生き物に対して使う物なのだろう。ロストロギアに使うというのは、そもそもの使い方と異なっているわけだ。それ故、人に対して使った時の様に効果が維持されることはないのだろう」

 

 へー、そうなのか。そういえばこの間、局員に「ロストロギアの無断所持の疑いがあります。その懐中時計をしばらく預からせてもらいます」と、言われたのだ。しかし、結局それがロストロギアであるという事実はどれだけ調べても出てこなかったそうですぐに返してもらった。局員にこういわれた時に初めてほぼすべてのロストロギアは所持するのに許可が必要と言うことを知って焦ったものだ。

 

「ふむぅ、まあ計画に支障はあるまい。元々のジュエルシードで実行するように計画は立てていたのだからな」

 

 計画? 計画とはなんのことなのだろうか。

 

「なあ、スカさん。計画って何の計画だ?」

「ん? 知りたいかい、公輝君。ふふ……知りたいだろう?」

 

 あ、なんかそういわれると知りたくなくなってきた。

 

「良いだろう! ならば教えてあげよう!」

 

 スカさんはいつのまにか用意されているお立ち台の上に上り、白衣を翻すようにしながら腕を体の前でクロスさせる。後ろからスカさんにライトを当てているウーノさん、ご苦労様です。

 

「私は混沌を望み、世界の支配構造を破壊するのだ! だが機関の奴らは強大な力を持っている。それを打ち砕くために私はとてつもなーい計画を立てているのだよ。フゥーハハハハ!!」

 

 こ、これは……まさか……

 

「フゥーハハハハ、我が名はジェイル・スカリエッティ! 我が目的は世界の支配構造の変革! この研究所は、その目的達成のために、この世界を混沌に巻き込む発明をしなくてはならないっ!」

 

 なんて恐ろしんだ……

 

「ふぅ、少々語り過ぎてしまったようだ。エル・プサイ・コングルゥ……」

 

 スカさんの演説が終わると後ろからライトで照らしていたウーノさんがパチパチと拍手をしている。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。スカさんは恐ろしい病気に掛かっているんだ……

 

 みなさんは『中二病』という言葉を(ry

 

「どうだい、公輝君。恐ろしい計画だろ?」

 

 ああ、確かに恐ろしい。まさか、スカさんが男の子ならば高確率でかかる流行り病にかかり続けていたとは。あな恐ろしや。

 

「公輝くんには是非私の計画に協力してほしいんだよ。まあ、そこまで無茶なことは頼まないよ。君の予定が空いているときに手を貸してくれればいいから」

「アーソウダネー、ソレクライナラカマワナイヨー」

 

 仕方ない、手伝ってあげよう。おれはスカさんのことは友人と思っているのだ。友人が病気に掛かっているというのなら付き合ってやるのが友人と言う物だろ。

 

「申し訳ありません、公輝先生。ドクターがご迷惑かけて」

「いえいえ、別にいいですよ」

 

 おれにも覚えのあることだし。経験者として、また、一人の医師として、スカさんを完治させるのがおれの仕事だ!

 

「フゥーハハハハ、フゥーハハハハッハ……ゲホッゲホッ……」

 

 

 

 治せるかな……

 

 

 




技術をもった中二病患者……

厄介すぎるな。


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中将とマッサージと51話

あー忙しい忙しい

追記
ノック四回って言っときながら三回しかしていなかったの修正

##この話は修正されました##


 

 

 コンコンコンコン

 

 ノックは4回。今から入る部屋はトイレではなく、親しい人の部屋でもないのだからノック4回は必然である。

 

「入れ」

「失礼します」

 

 扉の向こうから聞こえてきたのは腹に響くような低いおっさんの声。今から入る部屋の主はミッドチルダの治安維持を一手に担う陸の長、レジアス・ゲイズ中将の執務室である。

 

「貴様がマサキ・サカウエ二尉か。貴様の功績は儂の耳にも入っているぞ」

「ありがとうございます」

 

 一介の二尉ごときでは中将と一対一で面会するなんてことは不可能なのだが、これまでの仕事で築き上げた無駄に洗練された無駄のない無駄なコネを使って中将との面会のアポを取ったのだ。

 

「それで、本題はなんだ? 儂は忙しいから手短にな」

「はい、一つお願いがあるのです」

「お願いだと? ふざけるな……と、言いたいところだが、貴様には借りがあるからな。とりあえず言ってみろ」

「はい」

 

 そう、今日おれがこんな場所に来た理由はお願いが一つあるからだ。この度、はやてが作る新しい部隊に入ることになったのだ。しかし、一つ問題が浮上した。ここで問題になってくるのはおれの立場だ。現在おれは管理局において区分されている陸海空三つの枠組みのどれにも属していない状態なのである。そんなおれが特定の一部隊に属してしまうと、おれは全くそんな気はなくても実質的にその部隊が属している区分に属すと取られてしまうのだ。

 

「この度八神はやて二等陸佐が新設する古代遺物管理部機動六課の施設を自分の主な活動場所に変えさせて頂くのを認めてほしいのです」

「何!? ふざけるな!!」

 

 結局ふざけるなって言うのかよ。

 

 部隊長であるはやての所属は陸。新部隊の施設はミッドチルダに設置されるし、部隊の所属も陸に区分される。自分で言うのもなんであるが、おれがある特定の派閥に属するというのはそこそこ大事なことなのである。では、何故陸のトップであるゲイズ氏はおれが陸の部隊に実質的に所属するというのに、こんなにもキレッキレなのか? それは古代遺物管理部機動六課という部隊の特徴と、管理局の情勢が問題なのである。

 

「あんな犯罪者の小娘の下に貴様をつけるわけにはいかん!」

 

 まず問題としては隊長であるはやての身の上である。事情を知っている人ならはやてのことを犯罪者なんて言う目で見る人はいない。しかし、表面的な情報だけではやてのことを見ると、はやては危険なロストロギアを無断で所持し、闇の書の封印を解除しようとした犯罪者として見られてしまうのである。そして、このゲイズ氏ははやての事情は表面的なことしか知らず、さらに犯罪者と言うものを問答無用で嫌悪の目で見るタイプの人なのである。ゲイズ氏から見て元犯罪者で近頃頭角を現しだした小娘というのは面白くないのだろう。

 

「それに、何やら本局の奴らともつるんでいるそうじゃないか」

 

 だが、本当の問題ははやてではない。それは管理局の体質と関係してくるのだ。ここで、管理局について少し説明しようと思う。管理局と言う組織は大きく分けて二つ、強いて言えば三つの派閥に分けられる。ミッドチルダの治安維持を担当し、ミッド内で起きた事件解決を担当するのが陸。ここにははやてが所属している。次に、管理局本局を中心に活動し、次元世界の監視、管理世界の治安維持などを担当するのが海。ここにはフェイトさんの保護者だったリンディさんが所属している。最後に、本局直属の少数精鋭部隊であり、危険度の高い任務をこなすことも多いエリート部隊の空。ここにはシスコンのヴァイスさんやシスコンのティーダさんが所属している。シスコン二人が相当やり手の局員ということが所属を見るだけでよくわかる。

 それで何が問題なのかと言うと、陸と海は心底仲が悪いのである。海はその管轄の広さから予算は多く、優秀な人材を多く必要とする。しかし、お金も人材も無限にどこにでもあるというわけではない。では、それをどこから持ってくるか? それは、管轄がミッドチルダだけと狭く、基本的には警察程度の武力で対応できる陸から持っていくのである。陸の予算が減ると陸の局員への給料は減る。陸の待遇に不満があり、優秀な陸の局員は海に引き抜かれる。残った陸の局員に抜けた人の仕事は振り分けられ、仕事はさらに大変になる。仕事が大変になると陸の局員は海に――っと、この悪循環が繰り返されるのである。これによって陸の局員は海に対して不信感を抱くようになる。陸の実情を知らない海の局員からすると「こっちはこっちで大変なんだ。そんなにグチグチ言うことないだろ」っと、こんな感じで陸に対して良い感情は持たない。これの繰り返しで管理局の陸と海の仲が悪くなったのだ。

 そして、はやての新部隊のコンセプトは陸海空に縛られない、フットワークの軽い部隊。陸において一番海に不信感を抱いているゲイズ氏にしてみれば、陸海空仲良し小良しの部隊は言語道断なのである。

 

「そんなことは認められんな」

「そうですか、まあ仕方ないですね」

 

 この返答は想定済みだ。むしろ許可されたら二度聞きする自信がある。

 

「なんだ、随分と聞き分けが良いじゃないか」

「いえいえ、そんな。ああ、そうだ。(棒)折角ですから肩もみやマッサージはいかがですか?(棒) きっと疲れが取れますよ(笑)」

「む、そうだな。では頼もう」

 

 ニヤリ

 

 自慢じゃないがおれのマッサージは有力者の中では相当有名だ。デスクワークの多い人たちにとって体の疲労が抜けるおれのマッサージは至高のひと時なのだそうだ。

 今回は念入りにマッサージさせてもらおう。念入りに……ね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あべべべべべべべべ」

「どんな感じですか~」

 

 まずは手始めに肩もみから始めた。ただ、肩もみをするときはずっと手を当て続けるのではなく、分からない程度に、揉むときに力を入れる時と抜くときの間に手を体から離して体を連打気味にした。顔がほてり始めたゲイズ氏を横にさせて肩甲骨から腰に掛けてのマッサージを開始する。しかし、この時も体に手を当て続けずに、わからない程度に手を体から離して当てるを小刻みに繰り返す。そうするとあら不思議、不思議な声で鳴くゲイズ氏の出来上がり。

 

「これ関係ない話なんですけど~自分、有給一年くらい溜ってるんですよね~。あれれ~一年って六課の試験期間と同じですね。ちょうどいいから有給まとめて取らせていただけますかね~?」

「な、何だと? そんなことととととと……で、できるわけけけけけ」

 

 ゲイズ氏の顔は赤くなっており、息も少し荒くなっている。そろそろ行ける頃合いだろう。おれはボイスレコーダーの電源を入れる。

 

「まあ、自分も社会人ですし、有給一年なんて取ったら同僚達にも悪いですしね。有給は少しずつ取るんで、活動場所を六課にすることに対して文句は言わないでもらえませんかね?」

「くっ……いたし方あるまいいいいいいぃぃぃぃ……儂はもう何も言わぬううううぅぅぅぅ」

 

 グッと隠れてガッツポーズ。おれはボイスレコーダーの録音を停止する。

 あれだけ頑なに拒んでいたゲイズ氏もおれのマッサージから始まる交渉術でイチコロだぜ。まず始めに普通にお願いしてみるが、これは失敗に終わるのは想定内だ。次に、おれの能力を生かしたマッサージでベロンベロンにしてやり、相手の思考能力を低下させる。この時に相手にとってメリットに思えるが当たり前な条件を提示しながらもう一度お願いしてみる。正常な状態ならこんな条件は飲まないだろうが、今は思考がぼんやりとした感じであるためハイハイ言ってしまうというわけだ。ちなみに、ここに来る前に海の上層部、空の上層部、管理局全体を総括する人たちや人事部の人たちともOHANASHIして来ている。

 

 

「それじゃあラストスパート行きまーす」

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」

 

 

 

 その後、執務室ではため息をつきながらもいつもよりキビキビとした手つきで仕事をこなしていく中将がいたそうだ。

 

 



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StrikerS
下見と花見と52話


お酒は二十歳になってから。

※ゲロ注意

##この話は修正されました##


「今日は楽しむでー!」

「おー!」

 

 中将とのオハナシから時は流れ、今は新暦75年3月。今日は間もなく稼働する、はやてが立ち上げる新部隊の庁舎の視察に来たのだ。

 

「花見では無礼講やでー!」

「いえーい!」

 

 ええ、視察ですよ。真面目な仕事ですよ。

 

「今日は飲みまくるでー!」

「よっしゃあああああああぁぁぁぁぁあ!!」

 

 ここミッドチルダでは酒タバコは18歳からOKなので、今年で19歳のおれたちは法的に何の問題も無いのである。

 

「なぁハヤテ、本当に良いのか?」

「ええんや、ええんや。これは空間シミュレーターのテストを兼ねた立派な仕事なんや。起動は確認したから、次はちゃんと規定の時間起動し続けるかの確認や。少なくとも花見の時間分くらいは動いててもらわなあかんからな」

 

 ヴィータの質問に答えるはやての言う通り、この花見はただ花見をするのではなく、これから新人たちが訓練する大切な施設が正常に動くかどうかを確認するための大切な仕事なのである。大切な仕事なのである。3月なのに花見? と、思った人も多いだろうが、秘密はこの空間シミュレーターにある。これは言ってみれば本物のようなホログラムを空間上に映し出すという代物なのだが、これのすごい所は映し出されたホログラムは触った感触があるということだ。そこにあるものを壊そうとしたら本物の様に壊れるし、そこに瓦礫が落ちていたら持ち上げて移動させることだってできる。ちなみに、遠くから見るとぼんやりとした蜃気楼のように見える。これを使って季節外れの桜を満開にさせているということだ。

 

「それでは、機動六課設立とハムテルくんの二佐昇進を祝ってかんぱーい!」

「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 

 そうです、私、はやてと同じ階級の二佐になりました。確かに、一尉相当医務官への昇進のお話はもらっていたのだが、いつの間にかこんなことになっていたのだ。二尉から二佐への昇進だから驚きの三階級昇進である。なんだろう、おれは英雄になったうえで殉職したのかな? 

 

「それにしても、マサキが二佐って管理局大丈夫なのかよ」

「どういう意味だよそれ。それだとおれがバカみたいじゃないか」

「バカじゃねーか」

 

 うるさいよ。

 まあ、冗談は置いといて、原因は100%ゲイズ氏であろう。ゲイズ氏をマッサージした時、ついでに機動六課で実質働くことを黙認してもらう言質は取ったのだが、ゲイズ氏がそれでもなんとか六課、ひいてははやての邪魔をしようとした結果だとおれは考えている。おそらく、おれの階級をはやてと同じかそれ以上にすることで、はやてがおれに好き勝手命令することを抑制しようとしたのだと思う。外から見て二佐が二佐をホイホイ命令して従わせるというのはアレだからな。

 どうやら、もともとおれの働きに階級が見合ってないのではないか? と言う声が管理局内であったのも助けとなり、ゲイズ氏が提案したおれの昇進もすんなりいったのであろう。ちょっとすんなりしすぎだと思うけど。

 

「まあ、私はそんなん気にせずハムテルくんは顎で使うけどなー」

「知ってた」

 

 ゲイズ氏の誤算はおれとはやてが親しい関係であることと、はやての精神はそんなことで躊躇うほど細くなかったことだな。

 

「まあ、その話はいいじゃん。ん? シグナムさん! な~に持ってるの?」

「ん? さっき公輝がついでくれたビールだが」

 

 もしかしてシグナムさん分かってないのか。

 

「な~に持ってるの!」

 

 はやてが乗ってくる。

 

「飲み足りないから持ってるの? ハイ! いっきっきのきーいっきっきのきー」

「一気だと? するわけないだろ」

 

 まったく、シグナムさんは堅物だな。だが、その調子でいられるかな?

 

「いっきっきのきーいっきっきのきー!」

 

 はやてが乗って来たということは逃げられないということなのだよ。

 

「なっ!? 主まで……んぐっ!」

 

 ゴクゴクといい音を出してシグナムさんは紙コップに注がれたビールを飲み干していく。

 

「ぷはぁ!」

「おーみーごーと!」

 

 ビールを一気に飲み干したためかシグナムさんの頬が少し赤くなっている。ここから畳みかけるぜぇ!

 

「とーこーろが、隣の、シャマルさんも、飲み足りない! そ、こ、 で、いっきっきーのきーそこでいっきっきのきー!」

「えっ! 私ですか……えい!」

 

 一瞬戸惑っていたシャマルさんだが覚悟を決めたようにビールを一気飲みしていく。勢いよく傾けたせいでシャマルさんの口の端からビールがこぼれていく様がなんともエロくて素晴らしい。ていうかシャマルさん、勧めたおれが言えたことじゃないから言わないけど、医者として一気に応じるのはどうなんだろうか?

 

「ふいー」

「おーみーごーと!」

 

 一気飲みによって頬を赤らめているのと、さっき口元からこぼれていたビールと合わさりエロさ倍増でベリーベリーグッドね。

 

「ここで飲まなきゃ男が廃る! ザフィーラさん! それそれそれそれ、それそれそれそれ」

「……」

 

 何も言わずに飲んでいく。

 

「ふぅ……」

「おーみーごーと!」

 

 うーん、流石ザフィーラさんだ。ビールをコップ一杯一気飲みしたというのに顔に全く現れていない。

 

「リインさんのちょっといいとこ見てみたーい。飲め! 吐け! 飲め吐け死ぬまで! そーれ、イッキ、イッキ、イッキ、イッキ!」

「えっ!? なんか私の時だけ激しくないか!」

 

 そりゃおれとリインさんの仲だからじゃないですか。

 

「むぅ……そぉい!」

 

 おお! リインさんが行った!

 

「どや」

「おーみーごーと!」

 

 リインさんのドヤ顔がなんか可愛い。可愛いから携帯で撮っておこう。

 

「やめんか」

「あーおれの携帯がー」

 

 リインさんにおれの携帯を没収されてしまった。

 

「ハムテルくんの友情一気が見たーい!」

 

 今度ははやてがおれに一気を振ってくる。良いだろう、やってやろうじゃないか! だがはやて、お前も道連れだ! おれははやての腕を持ち上げてむりやり組む。そして、おれとはやてはコップの中身を乾かしていく。

 

「おーみーごーと!」

「おーみーごーと!」

 

 おれとはやてでお互いの健闘を称え合う。

 

「よし、とりあえずこれで全員やったかな?」

「むー、ツヴァイも飲みたいですよー」

「私! 私まだやってねーぞ!」

 

 おれの質問に答えるリインちゃんとヴィータ。

 

「仕方ないだろ、二人はまだ子供なんだから」

「私は大人だ!」

 

 そう言って反論してくるヴィータ。

 

「ああ、そういえばヴィータはおれより年上っちゃ年上だったな」

「なんかそういわれると私が年増みてーじゃねーか」

 

 えぇ……じゃあどうすればいいんだよ……

 

 こうして楽しい花見の時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー飲み過ぎた~気持ち悪い~」

 

 気持ち悪さを訴えるはやて。

 

「くっ、流石にこれだけ飲むと堪える……」

 

 目を瞑りながら座って休んでいるシグナムさん。

 

「……」

 

 小型ワンコフォームで伏せているザフィーラさん。

 

「ぐおおぉぉ……頭が割れるぅ……」

 

 頭痛に苦しまられているヴィータ。

 

「でへへ……」

 

 上半身薄着になって緩んだ顔をしているシャマルさん。

 

「……」

「……」

 

 白目をむいて気絶しているリインさんと騒ぎつかれて眠ってしまったリインちゃん。この面白い顔は是非とも記録に残しておきたい。

 

「全く、みんなだらしないなー」

 

 はやて達から少し離れたところで腰を90度にまげて口を大きく開けているおれ。

 

「マサキは……何……やってんだ?」

 

 ヴィータがおれに聞いてくる。何をやっているかだって? そんなの決まっているだろ。……来た!!

 

「ケロケロケロケロケロケロケロケロ」

「うわああああぁぁぁぁマサキが吐いたああああぁぁぁ」

 

 吐いたんじゃない、吐いてるんだ。何をそんなに騒いでいるんだ。酒を飲んだら吐く。基本だろ。

 

「ペッ……飲んで吐いて飲む! これが花見での酒の飲み方だろ。よく訓練されたドリンカーは指突っ込んでえずかなくても自分の意思で吐くことが可能なのだよ」

「あれ? ハムテルくん前世は二十歳やったんやろ? 今世も酒解禁は去年やし、そんなにすぐ習得できるもんなん?」

「…………フッ」

「なんや今の「フッ」って。ハムテルくんまさか!」

 

 はやてよ、そこに突っ込むのは野暮ってもんだぜ……

 

「ていうかマサキ、お前のレアスキルで酔うことなんてないんじゃないのか?」

「おれの力は使わないこともできるんだ。それに、酒は酔うために飲むもんだろ」

 

 ヴィータが指摘してくるが、おれの能力はおれのことに関しては大分自由が利く。そういうわけで、能力を使いたくない時はOFFにすることが出来るのだ。

 

「とにかく、みんなもゲロって楽になっちゃいなよ」

「いやや、そんなん……うっ……まだきぼぢわどぐなっでぎだ……」

 

 本当にやわだな~。

 

 

 

 

 その後、ザフィーラの腹筋を枕にした公輝、公輝の右腕を枕にしたはやてとリインフォース・アインス、左腕を枕にしたヴィータ、お腹の上で寝るリインフォース・ツヴァイ、右太ももを枕にしたシグナム、左太ももを枕にしたシャマルが寝ている姿が海上訓練施設で見られた。

 

 




お酒の一気飲みは大変危険です!

近くに公輝君がいない方は絶対に真似しないでください!

追記
マサキの能力がOFFにできるという説明を追記しました。


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試験と兄妹と53話

StS見返してて気付いた。六課って本局所属なのか……でも登録は陸だし……まあ、気にしない方向で

###この話は修正されました#


 

 

 試験。それは人が経験する最も身近な関門の一つであろう。試験直前の人達を観察してみると、色々なタイプに分類することができる。これまでに自分が培ってきた物を信じてその時が来るまで大人しくしているタイプ。最後の最後まで試験の対策をするタイプ。何もかも諦めてお喋りをしたり眠っていたりするタイプ等々。人間観察というのは趣味にすると非常にアレだが、やってみると結構楽しいものなのである。ちなみにこれは余談だが、「やべー、俺勉強してないわー」と、話しかける奴は実際のところそれなりに勉強していて、話しかけられて「おれもー」と、言う奴が本当に勉強していないことが多い。

 どうやら、あそこで時が来るのを待っているティアナさんとスバルさんの二人は一番目と二番目のタイプであることがわかる。特にスバルさんは悪あがきではなく最後の確認としてやっていることが表情からわかる。

 

「うんうん、二人とも受験生として100点満点の対応だな」

 

 おれは手に持っている双眼鏡を覗き込みながら言う。二人が受けようとしている試験は魔導士ランクBになるための昇格試験。会場はあの大火事があった臨海第8空港近隣の廃棄都市だ。おれがいる場所は試験会場が一望できる高いビルの屋上だ。

 

「あー、ティアとスバルちゃん大丈夫かなぁ」

「それ、もう10回くらい聞きましたよ」

 

 ここにいるのはおれだけではない。ティアナさんの兄のティーダさんも見学に来ているのである。

 

「ていうかティーダさん、仕事は?」

「有給を取ったから何の問題も無い」

 

 シスコンここに極まれりって感じだな。

 

「それにしても、この双眼鏡すごいね。ティアの可愛い顔がくっきりきっかり見えるよ」

 

 おれとティーダさんが使っている双眼鏡はスカさん印の双眼鏡だ。おれたちが立っているビルは会場を一望できる。しかし、会場は魔導士が飛んだり跳ねたり走りまわったりするためとても広い。そんな場所を一望できるということは、二人の人間はとても小さくなってしまう。そんな状態でもこの双眼鏡ならはっきりとみることが出来るのだ。ちなみにこの双眼鏡、数年前にスカさんから使ってみて感想を聞かせてくれと言われて渡されたものだ。

 

「友人の変態が作った変態装備なので」

 

 スカさんへの認識はこの数年で変態中二病ということで落ち着いた。家に行くたびに娘が増えるというのは一体どういうことなのだろうか? もしかしたら、スカさんが足長オジサン的な人で、身寄りのない子供を引き取っている善良な一般市民という仮定も捨てきることはできない。しかし、あんな人目を避ける様に作られた洞窟の中の家とか、娘全員におそろいの全身タイツを着せていること等を考えると、スカさんが一般的な感性を持った善良市民とは全く思えない。まあ、スカさんの娘たちはみんな楽しそうにしているからおれは何も言わないがね。

 

「お? 先生、始まるみたいだよ」

「そうみたいですね」

 

 スバルさんとティアナさんが動き出す。ローラーで移動するスバルさんに対してティアナさんは走りで追いかけている。ずっと走りっぱなしのティアナさん流石っす。

 

「む、建物に入ってしまったね。熱センサーモードに切り替えよう」

「ティーダさん使いこなし過ぎでしょ」

 

 スカさん印の双眼鏡は無駄に高性能で多機能なのである。

 体温を感知して人型に赤くなっているシルエットが建物内を順調に進んでいる。立ち止まることなく進んでいることから、まだ大きな問題は起きていないようだ。

 

「うん、二人とも良いペースで進んでいるね」

「おお、惚れ惚れするほどのリロードの手際の良さだ」

 

 二人は建物を出た後合流し、高速道路のような所のターゲットを壊しに行く。その時に見せたティアナさんのデバイスへのカートリッジのリロードがとても格好良かったのだ。

 

「そうだろう! ティアのリロードしているときの姿は凛々しくも美しいだろう? いやー、やっぱり先生はその辺わかってるな~」

 

 いっけね、ティーダさんのスイッチ押しちまった。

 

「って、何!? ティアに惚れてしまうだって!? そんなことは兄のこの僕がゆるさんぞぉ!」

「えー、別にそういう訳じゃ……」

「何!? ティアに魅力がないとでも!?」

 

 あーもう! めんどくせーなこの人。

 おれはティーダさんを無視して二人の方へ視線を戻す。

 

「あれ?」

 

 しかし、いつの間にか二人の姿は消えてしまっており、代わりにティアナさんのデバイスが敵の攻撃の集中砲火を受けている。デバイスウウウゥゥゥゥゥ!!

 

「これは一体どういう状況なんだ?」

「ふむ、これはオプティックハイドだね」

「オプティックハイド?」

 

 何か知っているような言い方をするティーダさんにおれは聞く。

 

「オプティックハイドは術者と術者に接触した対象を透明にし、見えなくする幻術魔法さ。ちなみに、幻術魔法を使える魔導士は珍しいんだ。そんな魔法を使えるティアはすごい! どうだい? すごいだろう」

「あ、はい」

 

 体をそらせて自慢するように鼻を鳴らせるティーダさん。まったく困ったお人である。

 だが、確かにティーダさんの言う通り、姿を消していたのであろうティアナさんとスバルさんが現れ、ターゲットと敵を次々と破壊していった。あの可哀想なデバイスくんは二人への反応を鈍らせるための囮だったというわけだ。

 

「よし、これは良いペースだ。このままなら最後の難関も……ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「今度はなんっすか」

 

 双眼鏡をのぞきながら叫んでいるティーダさんにつられておれも同じ場所を見てみる。どうやらティアナさんが怪我をしてしまったようだ。特に血が出ているというわけでもない足首をかばっているところを見ると、おそらく捻挫か、悪ければ骨折だろう。

 

「あんのコンクリート! ティアが躓かないように僕が粉々にして、まっ平らにしてやる!」

「ちょちょちょ、ティーダさん!? 何する気ですか!?」

 

 今にもティアナさんの所へ飛んで行きそうな様子である。ティーダさんは空戦魔導士なのでそれも可能であるが、平時における魔導士の飛行は局に許可を取らなければいけないのだ。もちろん、ティーダさんは今そんなものを取っている訳はないので、おれはティーダさんにしがみついて止めようとする。

 

「うおおおおお、止めるな先生ー……あっ」

「え?」

 

 ティーダさんが突然動きを止める。それと同時におれも力を緩めてしまう。

 

「今だああああああぁぁぁぁ」

「アイエー」

 

 ティーダさんはおれの下に一気に潜り込み、おれを肩に担いで走り出す。俵のように持たれたのはこれで2度目だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティアアアアアアアァァァァァァァァァ」

「あああああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ」

 

 ティーダさんはおれを担ぎながらものすごい勢いで走っていく。見えてきたのはピンクのネットにキャッチされたスバルさんと白い木? いや、太めの触手だろうか? 触手に引っ掛かっているティアナさんだ。おそらくここはBランク昇格試験のゴール地点なのだろう。結局この試験の一番の目玉である大型スフィアをどうやって攻略するのか見ることができなかった……

 

「……ッ! そんなんじゃ魔導士としてダメダメです!」

 

 近づくにつれて聞こえてくるのはリインちゃんの少し怒ったような声。リインちゃんは管理局の空曹長の地位に就いており、今回の試験の試験官でもあるのだ。

 

「まあ、細かいことは後回しにして、ランスター二等陸士」

「は、はい」

 

 リインちゃんのお小言の後に空から降りて来たなのはさん。ここからではリインちゃんの様に怒鳴っているわけではないなのはさんの声は聞こえないが、おそらくティアナさんの怪我を気遣っているのであろう。

 

「怪我はあs……」

「ティアアアアアアアァァァァ、足の怪我は大丈夫なのかああああああぁぁぁ」

「に、兄さん!?」

 

 突然自分の兄が人を抱えながら、ものすごい勢いで走って来る姿を見た妹は驚くことしかできないのは仕方がないだろう。

 

「ラ、ランスター執務官!? どうしてここに?」

「野暮用だよ、高町一等空尉」

 

 おれがティーダさんを助けた時から早6年。その当時は一等空尉だった。この6年の間にティーダさんは目標である執務官になったのだ。

 

「ツヴァイが治療しますですよ」

「いや、ここはこの兄が!」

「いいえ、ここは試験官のこの私が!」

「いや、ここはこのお兄ちゃんが!」

 

 なんだこれ……

 

「兄さん……恥ずかしいからやめて……」

「はははー、ティーダさんは相変わらずだね」

 

 恥ずかしがるティアナさん、笑うスバルさん。

 

 ティアナさんの足はおれがしっかり治しておきました。

 

 

 

 

 二人の試験の結果は危険行為や報告不良によって不合格になってしまった。しかし、特別講習を受けた後、再試験を受けることになった。この再試験で二人はしっかりと合格した。

 試験不合格の方を聞いた後のティーダさんの落ち込みからの再試験を受けることができると聞いた時のテンションの盛り上がりは見ていておもしろかった。

 

 




ティーダさんって空飛べるよね?
調べてもわからなかった。


追記
ティーダの立場を三佐から執務官に変更しました。


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緊張と社会の窓と54話

前回の作者の素朴な疑問に答えていただきありがとうござます。
答えが二通り出たということは、ティーダの設定は特にないんですかね。
と、言うことで、この小説ではティーダは空戦適性がありバリバリ空を飛べることとします。

##この話は修正されました##


 

「機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長、八神はやてです」

 

 壇上に立っているはやてが挨拶をすると、ここに集まっている人が拍手で返す。もちろん、おれもその中の一人だ。

 周りを見渡すと知った顔がかなりいる。Bランク試験の時に勧誘されていたスバルさんとティアナさんは勿論、執務官としてのフェイトさんの補佐官であるシャリオ・フィニーノさん、シスコン同盟の一人のヴァイスさん。少し外れたところに立っているのは、フェイトさんが保護した子供のキャロ・ル・ルシエちゃんとエリオ・モンディアルくんだ。以前写真を見せてもらったからわかる。

 

「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を守っていくことが私たちの使命であり、成すべきことです」

 

 壇上に立っているのははやて以外に、なのはさん、フェイトさん、グリフィスさんだ。六課が有する戦闘部隊の隊長であるなのはさんとフェイトさん。そして、部隊長の補佐をし、部隊長が不在の時は代わりに指揮を執るなど、実質的に機動六課ナンバー2のグリフィスさんだ。

 グリフィスさんはリンディさんの友人であるレティ・ロウラン提督の息子さんだ。はやて達とは結構交流があったそうなのだが、残念ながらおれは彼と話したことはない。これからの1年で仲良くなることにしよう。

 

「実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性にあふれたフォワード陣。それぞれ、優れた専門技術の持ち主のメカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって事件に立ち向かっていけると信じています」

 

 壇上には立っていないものの、隊長陣の横に立ち、一般隊員の前に立っているのはヴォルケンズとリインさん。シグナムさんはフェイトさんの隊の副隊長、ヴィータはなのはさんの隊の副隊長を務める。シャマルさんは六課の医務室の主で、リインさんはグリフィスさんとは違った方面ではやてをフォローするそうだ。

 ここにいないザフィーラさんは六課の隊員と言うよりも、はやての個人的なボディーガードとなる。

 これは関係ない話だが、おれがあの場所に呼ばれなくてちょっと仲間はずれにされた気分だ。まあ、人の前に立つの苦手だから良い事にしよう。それに、おれは所謂客将みたいなもんだし。全然気になんかしてないし!

 

「ま、長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長および部隊長、八神はやてでした」

 

 はやてが手を上げて挨拶を締める。再びこの場に拍手の音が満ちる。

 

 そういえば、まだこの状況を説明していなかった。現在行われているのは、機動六課が始動するために一番最初にやらなければいけないこと。つまり、部隊長の挨拶から始まる設立式だ。お偉いさんの長話はたいくつだということをよくわかっているはやては流石である。まあ、大して長くない話だったにもかかわらず、おれは話を右の耳から左の耳に受け流していたがな。

 

「と、本当はここで終わりなんですが、一人みなさんに紹介しておきたい人がおります。機動六課の運用期間である1年間、この隊舎にいることが多くなるマサキ・サカウエ二佐相当医務官です。どうぞこちらに来て一言お願いします」

 

 ああ、そうだ! まだ今年一年間の目標を決めていなかった。そうだな……よし、今年の目標はシャマルさんの仕事をなくすことにしよう。何やら六課の設備に感動していたようだが、おれがそんなものは使わせないぜ。きっとシャマルさん泣いて喜ぶことだろう。

 

「サカウエ二佐~? どうしましたか~?」

 

 ん? おかしいな、さっきはやては話を終わらせていたはずなのに何でまだ話しているんだ? それに、なんだか皆さんの視線がこちらを突き刺しているのは何故だろうか?

 

(ハムテルくん、話聞いてなかったやろ。なんでもええから前来てしゃべってや)

 

 はやてから念話が飛んでくる。おれがスピーチだと? そんな話は事前の打ち合わせで言っていなかったじゃないか! 

 視線をはやてからずらしてヴォルケンズに向ける。

 

「……」

「ニヤニヤ」

「……」

「……」

 

 くっそ、あいつら知ってやがったな! ヴィータなんかあからさまにニヤニヤしやがって。残りの3人も内心で笑ってることはおれにはわかるんだからな! 笑うことを隠そうとする時、シグナムさんは口をいつも以上に引き締めて、シャマルさんは目を細めて、リインさんはちょっと口が開くこと知ってるんだからな!

 10年も一緒にいたらこういうことは好きじゃないってわかるだろうに。はやてなんかはおれが学級委員長に推薦された時全力で拒否したこと知ってるはずだ。わかってるからこそか……

 10年……こっちの世界に来てもう10年か……つまり、精神年齢は30歳。もちろんDT。とうとう魔法使いになっちゃうのか……あ、もう魔法使いだった。

 

「坂上二佐、はよ」

 

 いけないいけない、ついどうでもいいことを考えて現実逃避してしまった。やらなければいけないのだから仕方ない。やってやろう。

 おれは決意を胸に込め、はやて達が立つ壇上に上がる。

 

「ご紹介に預かりましたマサキ・サカウエ医務官です。先に言っておきますが、私の階級は飾りなのでみなさん気兼ねなく私の所に来てください。シャマル先生と同じ医務室にいると思います。死人以外なら全員元気にさせてみせます。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 お辞儀をしておれのスピーチを終わらせる。拍手もなり、なんとか終わらせることが出来た。

 決まった……緊張しているかと思ったが、すべて噛まずに言うことが出来たようだ。よかったよかった。

 

 

 

 

 

 はやてに社会の窓が全開だったということを指摘されるまでは。

 やっぱり緊張してたようだ。

 

 

 




ヲー


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訓練と有給と55話

休日楽しいいいいいいぃぃぃぃ

##この話は修正されました##


「こんな朝早くからご苦労なこった」

 

 おれは機動六課の訓練場を見渡せるビルの屋上で呟く。双眼鏡の向こうでは厳しい訓練で汚れまみれになっている機動六課フォワード陣と、汚れ一つない驚きの白さを見せつけるなのはさんがいる。

 

「お、これからシュートイベーションってやつをやるんだな」

 

 シュートイベーションとは、なのはさんの攻撃を5分間逃げ切るか、なのはさんに一撃を与えると成功となる。しかし、なのはさんの攻撃を誰かが一度でも受けてしまったらもう一度やり直しだ。これだけ聞くと特に難しそうというわけではないのだが、問題はこの訓練をどのタイミングでやるかだ。それはなのはさんの鬼のような訓練を受けた後、訓練の締めとして行われるのだ。学校の体育でひたすら走らされた後、最後に全力疾走させられるのと同じような物だろう。なのはさん鬼だな。

 

「始まったな。最初に攻めるのはスバルさんか」

 

 スバルさんの魔法であるウイングロードがなのはさんの周りに張り巡らされ、その上をスバルさんが滑走する。滑走による速度を加えた協力なパンチを当てようとするが、なのはさんのバリアによって防がれてしまう。

 

「あっ! 危なかったな……」

 

 攻撃を防がれたスバルさんはなのはさんからいったん離れ、ウイングロードに着地する。しかし、着地の瞬間バランスを崩してよろけてしまう。今、スバルさんのローラの車輪(?)の部分がぐらついて見えたのは気のせいだろうか。おれのチャリみたいになっている。

 スバルさんはなんとか体制を立て直すが、なのはさんの魔力弾がスバルさんを追いかける。

 

「ふむ、ティアナさんがスバルさんの援護をするんだな」

 

 建物の影から狙いをつけているティアナさんの姿が見える。おそらく、スバルさんを追いかけているなのはさんの魔力弾を撃ち落そうとしているんだろう。

 

「ん?」

 

 ティアナさんが引き金を引いた瞬間、デバイスに集められていた魔力が霧散してしまう。ティアナさんの驚いた顔を見るに、あれは予想外の事だったようだ。デバイスの不具合でもあったのだろう。

 

「あんな使われ方を普段からされているのでは不具合が出てくるのは当たり前だろう」

 

 おれが思い浮かべるのは昇格試験の時に見た、デバイスが魔力弾の嵐に襲われる光景。

 

「それにしても、ティアナさんのこんな顔は珍しいな。ティーダさんに売りつけよう」

 

 スカさんの高性能双眼鏡には録画機能も付いているため、今の部分を切り取り、写真にしてティーダさんに渡す算段をつける。

 

「お、キャロちゃんとエリオくんの方に動きありかな」

 

 呪文を唱えるキャロちゃんと槍を構えるエリオくんが見える。今までのスバルさんとティアナさんは囮で、二人から注意をそらせようとしたのだろう。キャロちゃんは補助魔法を得意とする魔導士だ。エリオくんのスピードやパワーをブーストして一気に決めるだろう。

 キャロちゃんの補助魔法がエリオくんにかかり、エリオくんのデバイスがジェットのように火を噴きだす。あれ……エリオくん熱くないのか……

 

「あの構えは、やり投げか!」

 

 エリオくんが両手で構えていたデバイスを片手に持ち直して、肩の高さ辺りまで上げる。そして、次の瞬間にデバイスのジェットの勢いが強くなり、すごい速さで飛んでいく。

 

 エリオくんごと。

 

「えええええええええぇぇぇぇぇぇ」

 

 あれに片手で掴まることが出来るエリオくんの握力は恐ろしいことになっているに違いない。

 エリオくんのステミタックル(仮)がなのはさんにぶつかる(と言うか、なのはさんがぶつかりに行った)と大きな爆発が起きる。爆発によって生じた煙からはじき出されるエリオくんと煙の中、悠然と空中に浮かんでいるなのはさん。

 

「これはだめだったか?」

 

 そう思ったが、なのはさんがみんなに向けて笑いかける。どうやらエリオくんの攻撃は、なのはさんにしっかり当たっていたようだ。

 あんな鋭い槍がものすごい勢いで飛んできたにもかかわらず、バリアジャケットがちょっと汚れる程度で済むなのはさんは本当に流石である。

 

「よし、時間もいい具合に潰せたな」

 

 今日は友人と会うために有給を取っているのである。しかし、妙に早起きしてしまったおれは、二度寝すると昼まで起きないことは分かっているのでフォワード陣の早朝訓練を見学していたのである。

 

「行くとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 上っていたビルから降り、六課の隊舎の前の辺りでさっきまで訓練をしていたフォワード陣となのはさんと遭遇した。

 

「やあ、みなさんお疲れ」

「あ! 先生! おはようございます!」

 

 一番に返してきたのは元気いっぱいのスバルさんだ。さっきまであれだけ動き回っていたというのにすごい体力だ。

 

「先生、おはようございます」

「「おはようございます!」」

「公輝君、おはよう」

「はい、おはよう」

 

 スバルさんに続いてティアナさん、エリオくん、キャロちゃん、なのはさんが挨拶してきてくれる。

 

「お、なんだフリード。こうか? こうして欲しいのか?」

 

 おれの頬にすり寄って来たフリードを捕まえて、控えめになでなでする。これからまだ仕事があるのにフリードをベロンベロンにするわけにはいかないので、控えめのなでなでだ。

 

「もう、フリードは本当に先生が好きだね」

 

 キャロちゃんによると、竜と言う生き物はよく知らない相手に心を許すことは少ないそうだ。初対面のおれに飛びかかって甘えだしたフリードを初めて見た時は目を丸くして驚いていた。今ではもう慣れたものだ。

 

「公輝君、私服だけどお仕事は?」

「今日は有給を取ったので、これから友人に会いに行くのさ」

 

 有給だって立派なお仕事だ。なんて言ったって、ゲイズ氏に懇願されたんだからな。

 

「そっか。公輝君のミッドでのお友達ってちょっと興味あるな~」

「なーに、ただの中二病を患った変態さ」

「へ、変態さんなんだ……」

 

 ちょっと引き気味のなのはさん。なのはさんの中でおれのお友達(スカさん)の株がダダ下がりである。

 思い返してみると、おれのミッドでよくつるむ男友達がティーダさん(シスコン)、ヴァイスさん(シスコン)、スカさん(変態)、クロノさん(シスコン)、ユーノさん(常識人)って、ちょっと問題じゃなかろうか? まあ、そんなことはどうでもいいか。奴らと一緒にいて面白いし。

 

「そんじゃ、もう行くわ。なのはさんも根詰めすぎるなよ」

 

 おれはなのはさんの肩に手を5秒ほど置く。

 

「あっ……ありがとう、公輝くん」

 

 笑顔でお礼を言ってくるなのはさん。いやはや、照れるね。

 

 世間話を終えておれはウーノさんと落ち合う予定の場所に向かう。

 

 

 

 




休日終わったああああああああ


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電車とファーストアラートと56話

初 出 動

##この話は修正されました##


「おっす、スカさん」

「よく来たね、公輝君」

 

 ウーノさんの転移魔法でいつものスカさんの家に転移する。

 

「で、今日は何作ったんだ」

 

 スカさんは何か新しいものを作ってはおれを呼んで、使ってみてくれと言ってくるのだ。おれの愛用する双眼鏡も数年前にこうやって手渡されたものだ。双眼鏡の様によく使う便利な物も多くあるのだが、まったく使い物にならない意味不明な物が圧倒的に多いのが玉に瑕だ。全自動卵割機(オートエッグオープナー)が最たる物だろう。

 

「うむ、今日は少しゲームを作ってみた」

「ほほう」

 

 ゲームか。このパターンは新しいな。

 

「題して、電車DEゴー!改だ」

 

 電車でGO!……また懐かしいものを。おれも昔よくやったものだ。スカさんのことだからコントローラーが本物の電車さながら……とかかな?

 

「ルールは、プレイヤーが操作する車両を可能な限り早く終点の駅に突っ込ませることだ。途中列車を止めようとする邪魔者がやって来るが、加速と減速をうまく使って邪魔者を振り落とすんだ」

 

 おれの知ってる電車でGO!と違う……ちゃんと駅で停まれよ。それに、邪魔者ってなんだよ。電車の走行を邪魔するとかとんだ命知らずだな。

 

「まあまあ、とりあえずやってみようじゃないか。これがコントローラーだ」

 

 スカさんに渡されたのは電車のスロットルレバーを模したコントローラー。書いてある文字は減速と加速だけと、なんとも極端なコントローラーだ。もう少し刻んでもいいだろ。

 

「では始めよう。私は警備ロボの操作を担当する。敵が内部に侵入してきたときは任せたまえ」

 

 スカさんは64のコントローラーを握りしめながら言う。

 電車に警備ロボってどういうことなの……しかも敵って……

 

「スタートだ」

 

 スカさんがそう言うと画面に映っていた列車が動き始める。

 

「ああ、言い忘れていたが、スピードを出し過ぎた状態でカーブに入ると脱線するから気を付けて運転してくれ」

「そういうギミックを付けるならもっとコントローラー頑張れよ」

 

 

 

 

 

 

 

「あぶねええええええええ」

「うおおお、危ないところだったッス! 今片側浮いてたッスよ!」

 

 ゲームを開始して40分ほど経った。まだスカさんが言う邪魔者というのは出てきていないが、減速と加速だけでできるだけ早く、脱線することなく列車を走らせるというのは中々難しく、意外と面白いものだった。景色がものすごくリアルというのも面白さの要因の一つでもあるだろう。

 

「あ、もうすぐカーブがあるよ」

「任せろ!」

 

 今話しているのはスカさんの娘の一人のセイン。さっき話していた「~ッス」って言葉遣いの子もスカさんの娘の一人でウェンディと言う。おれとスカさんが遊んでいたところを見つけて寄って来たのだ。

 

「次は私に代わるっす!」

「いーや、次は私だよ!」

「そうしてやりたいのはやまやまだが、このステージが終わるまではコントローラーは渡さんぞ!」

 

 と、こんな感じで楽しんでいる。

 

「ん? 公輝君、とうとう来たよ」

 

 レーダーにプレイヤー以外の光点が映る。これが例の邪魔者だろう。

 

「ようやく登場か。おれの列車を止めさせやしないぜ」

「公輝君、コントローラーの側面についているボタンを押してみ給え。それによって加速と減速をさらに急激に行うことが出来る。振り落す時に使えるだろう」

「よっしゃ」

 

 スカさんの言う通りコントローラーの側面には赤いボタンがあり、それを押してから列車の減速と加速が激しくなった。

 

「来た!」

 

 レーダーだけでなく、画面にも邪魔者が映る。その姿は人型だが、黒で塗りつぶされており、推理漫画の犯人の様になっている。

 

「空から侵入しようってか? そうはさせん!」

 

 邪魔者が列車の屋根に着地した瞬間に加速の方にレバーを倒す。邪魔者はそれによってバランスを崩し、最後尾の車両に乗り込もうとした邪魔者の一人は乗り込めずに落ちてしまう。残りの3人は車両に取り付いてしまった。

 

「乗り込まれてしまったか。だが、ここからは私の出番だ! ……あっ」

「おー! ドクター、頑張るッス! ってどうしたッスか?」

 

 スカさんはコントローラーを握り直し、警備ロボとやらの操作を始めようとしたが、何かに気づいたような声を出す。

 

「列車の急加速と急減速の所為で列車に配置してたガジェット同士がぶつかり、ぐちゃぐちゃになってる……」

「えー! それじゃあ敵に対抗できないじゃん!」

 

 ……え? おれの所為?

 

 列車は邪魔者に停車させられ、おれはゲームオーバーになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 スカさんと別れ、六課の隊舎に帰ると、六課はなんとなく慌ただしかった。話を聞いてみると、どうやらおれが遊んでいた間にアラートがかかっていたらしい。六課の初出動は、暴走する車両に積んであるロストロギア『レリック』の確保だったそうだ。列車の予想外の動きによってエリオくんが崖下に落とされるというアクシデントがあったが、キャロちゃんとフリードの活躍によってエリオくんには傷一つなく、列車の内部はほぼ抵抗が無かったため問題なく任務を完了することが出来たそうだ。出動しているなのはさん達も、もうじき戻って来るらしい。

 

 なんだかどこかで聞いたことのある話のような気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 




公輝君はスカさんの研究所を「いつもの」と言っていますが、実際は違う場所の研究所です。公輝君は見分けがついていません。


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かくれんぼと裏切りと57話

どんな立場になっても試験と言うものがあります。試験を受けるには対策が必要です。つまり……

小説更新ギアがローに入りました。

##この話は修正されました##


「くっ……このままでは……」

 

 おれは大きな機材の影に身をひそめ、息を殺し、存在感を極限まで薄くする。

 

「だが、捕まるわけにはいかない……」

 

 この場所に来てから結構時間が経ったおれは、隣に置いてあるコンテナまで移動しようとする。隠れるとき、同じ場所に居続けるのはあまり良くない。かと言って、移動の際に追跡者に見つかってしまっては元も子もないが。

 

「よし……今……!?」

「キミテルさーん。どこですー?」

 

 身を低くしてすばやく移動しようとしたが、追跡者はおれの想像を上回るスピードで接近していたようだ。コンテナの影に移動するのを中止し、再び機材の影で身を潜める。

 

「むー、大人しくはやてちゃんの前に突き出されるのがいいですよ。そんなに隠れるのならはやてちゃんに教えてもらった秘策を使わせてもらうですよー」

 

 ひ、秘策? はやての奴、いったいリインちゃんに何を吹き込んだんだ。おれに対する弱みか? おれを脅すつもりか? だが、おれは脅しには屈しないぞ! 必ずこの場を逃げ切ってゲイズ氏との契約を履行しなければいけないんだ。

 

「良いんですか? いくですよ?」

 

 来いや!

 

「あなたは……そこにいますですか?」

 

 え……

 

「あなたは、そこにいますですか?」

 

 こ、これは……

 

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

「あなたは、そこにいますですか?」

 

 ぐわあああああああああああああああ

 

「あなたは、そこに……」

「いるぞ! おれは……ここにいる!」

 

 おれは隠れていた機材の影から飛び出し、リインちゃんの前に立ちはだかる。

 

「確保ですよー!」

「しまったー!」

 

 リインちゃんのバインドがおれの手足を縛り、身動きが取れなくなる。

 

「まったく、手間を掛けさせるな」

 

 そう言いながらこちらに来たのはシグナムさんだ。

 

「主の元へ行くぞ」

「はいですー!」

「はーなーせー」

 

 おれはシグナムさんとリインちゃんにはやての前まで連行されて行った。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、ハムテルくんはアレでおびき出すことができたんやな」

「はいです! 効果は抜群でした!」

 

 もうあれは条件反射と言ってもいい。はやての「せやけど」って言ったら「工藤」って続けないと気が済まないアレみたいなものだ。

 

「ほんで、ハムテルくん。何か言い訳はあるか? これは私に対する嫌がらせ、いや、裏切りと取ってええんか?」

 

 さっきまでの家にいるときのようなはやての様子は一変し、厳しい顔をしたはやての、いつになく厳しい言葉がおれを攻めてくる。

 

「……」

「黙秘は肯定とみなすで?」

 

 おれははやての質問に答えず、黙り込んでしまう。しかし、これでは話が先に進まないのでおれははやての質問に答えることにする。

 

「おれは、おれができる最善の選択をしたと思っている」

「それがレジアス中将が示した選択肢で、その選択が私たちの部隊に悪影響を与える可能性があるとしても、か?」

 

 確かに、おれが取ろうとしている行動は六課に悪影響を与えかねない行動だ。だが、これは契約。ゲイズ氏と交わした契約なのだ。契約は履行しなければならないのだ。

 

「おれは……それでも、おれは……」

 

 バンッ!

 

 飛び込んできた音は扉が勢いよく開く音。

 

「マサキ! マサキがはやてを裏切ったなんて嘘だよな!」

 

 おれが言葉をつづけようとしていたところに、はやての執務室に飛び込んで来たのはヴィータだった。

 

「おれは有給休暇を取らなければいけないんだ」

「え?」

「せやけど工藤……んんっ、ハムテルくん、1週間はやり過ぎや。せめて3日……いや、2日くらいにせえや。せやないとハムテルくん目当てに六課に来る患者さんに何言われるかわからへんねん」

「え?」

 

 さっきからヴィータが何か言っているが気にしない。

 そう、今回の論争の原因はおれの有給だ。おれが六課に異動する条件としてゲイズ氏に出された1年の有給休暇をできるだけ迅速に消費するというもの。しかし、1日ずつちまちま有給を取っても全く減らないので、おれはできるだけまとめて有給を取ろうとしたのだ。もちろん、他のみんなに迷惑が掛からないように配慮したつもりだったが、はやて的にはまだまだ足りなかったようだ。

 ちなみに、何でおれが逃げ回っていたのかと言うと、有給の申請を出した瞬間にはやてに呼び止められたので、つい逃げ出してしまったのだ。

 

「それの対処法もちゃんと明記してあるだろ。比較的症状が軽い人は後日来てもらって、重症、重体の人にはおれ印のエナジードリンクを患者に飲んでもらえばいい。飲むことが出来ない人にはそれをぶっかければいいって」

 

 このエナジードリンクはスカさん監修、協力おれで作られたものだ。そのエナジードリンクを飲む、もしくは全身に浴びると、その人の体調を最高の状態にするドリンクだ。これを作った経緯と苦労はまた今度語るとして、協力のお礼としてこのドリンクをスカさんから30本ほどもらったので、これをおれの代わりに使えばいいというわけだ。

 

「だから、そのハムテルくん印のエナドリってなんやねん。どっから湧いて出たんや? 製造者は? 原材料は? もしかして体液か? ハムテルくんの体液なんか!?」

「それは……言えない……」

 

 スカさんにこのエナジードリンクを貰った時に言われた注意として、製造者が誰かを言わないでくれと言われているのだ。おれは約束は守る男だからな。

 

「やっぱり言えへんようなもんなんやな! なんやねんそれ!」

 

 そう言われても、おれにはスカさんの無駄に洗練された無駄のない無駄な技術から生まれた物は理解できないからな。

 

「ともかく、おれは有給をとるぞ!」

「最高3日間しか許可せんで!」

 

 おれとはやての論争は続く。

 

「そんなことだったのかよ!!」

 

 執務室の中心で叫ぶヴィータがそこに居た。

 

 

 

 久々の地球帰省は3日間だけということになりました。

 

 

 




次回はみんな大好きお風呂回


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親と帰省(前編)と58話

すまんな、風呂までたどり着かんかった(´・ω・`)

##この話は修正されました##


 

 

「海鳴よ、私は帰って来たー!」

 

 と、大声で叫んだ気持ちでおれは海鳴の商店街の真ん中に立っている。こんな場所で大声を出したら迷惑なうえに、かなり恥ずかしいからな。

 

 はやてとの大論争の成果として許可が下りた有給の日数は3日間。おれはこの3日間を使って海鳴に帰って来たのだ。ミッドから地球へ行く手段は大きく分けて4つある。一つめは、次元航行艦に乗って地球まで連れて行ってもらうこと。普通に考えてこの方法は使えない。二つ目は個人の魔法で転移すること。無許可の次元間転移は禁止されていることだし、「帰省するので許可ください」と、言っても許可が下りるわけはないのでこれも現実的ではない。3つ目は事故でロストロギアを使ってしまって、偶々地球に転移していまうこと。常識的に考えてこの方法もあり得ない。そして、最後の方法は地球の3か所に設置されたポートを利用して転移することだ。地球のポートはアリサさん、すずかさん、リンディさんの家に設置してある。今日はリンディさんの家のポートを使わせてもらった。

 

「よし、じゃあひとつずつ回って行こう」

 

 今回の帰省の目的は買い物。新作ゲーム、漫画の新巻、趣味のプラモデル等々が標的だ。ミッドチルダでもゲームや漫画もあるし、プラモデルだってある。しかし、おれが欲しいのは地球の、日本のゲーム漫画プラモデルなのだ。これらをゲットするためには業者に頼んで輸入してもらうか自分で買いに行くしかないので、おれは里帰りもかねて自分で買いに来たというわけだ。

 

「それにしても、里帰り……ね」

 

 自分で言っておいて何なのだが、おれにとってこっちの世界の海鳴が自分の帰る場所になったというわけなのかな。この世界に来てからなんだかんだで10年だ。改めて考えると、色々と思うところがあるね。まあ、色々思ってもおれにはどうすることもできないんだけどな。

 

「よーし、今日でミッションをコンプリートしてなのはさんの家に行こう」

 

 地球に来るのなら寝泊まりははやての家ですればいいのだが、おれが地球に帰ることを知ったなのはさんが「大きな家で一人は寂しいでしょ?」と、言って士郎さんと桃子さんに話を通してくれたのだ。おれはガキかっちゅうの。しかし、八神家と言う大家族に慣れきってしまったおれは、一人で寝泊まりすることに対して少々寂しく感じるのは否定しない。なのはさんまじなのはさん。

 

 おれはなのはさんに心の中でこっそりと感謝しつつ一個一個標的を集めて回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ミッションコンプリート。余は満足じゃ」

 

 おれはすべての買い物を終わらせ士郎さん達と合流するために翠屋に向かっているところだ。

 

「む?」

 

 おれは見つけてしまった。ヨレヨレの白衣を着、男にしては長めの紫色の髪。こちらからは後ろ姿しか見えないが、おそらく彼の瞳は金色でオレンジ畑を耕していそうな声をしているだろう。そして、その隣にはこれまた紫髪で、後ろ姿からとてつもない秘書感をにじみだしている女性。

 

「おーい、スカさーん、ウーノさーん」

「……うむ、これであとは彼女たちが……ん? この声は」

 

 

 おれの呼びかけに気づいたスカさんとウーノさんがこちらを向いてくる。

 

「や、やあ、公輝くん。奇遇だね」

「おや? 先生じゃないですか、こんにちは」

 

 そこにいたのはミッドでの友人のスカさんとウーノさんだった。

 人通りの多い道ではないとはいえ、天下の往来でもその白衣姿で歩き回るスカさんは流石としか言いようがない。

 

「スカさんはこんなところで何やってるんだ?」

「え? ははは……いやぁ……ちょっと落し物をしに……」

「は?」

 

 「落し物をしに」ってどういう状況だよ。「落し物を探しに」と、いうのを聞き間違えたのか? 

 

「先生、私たちはこの世界まで買い物に来ていたのですよ。しかし、ドクターが財布を落としてしまったので探していたところなのです。幸い財布は先ほど見つかりました」

「あ、やっぱり落し物を探してたのね。見つかって何よりだ」

 

 ていうかスカさんが落し物か。男がドジっ子アピールしてもなぁ……落としたのがウーノさんなら……ドジっ子ウーノさんか……普段とのギャップがすばらしいね。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

「じゃあ、おれはもう行くわ。さよなら、スカさん、ウーノさん」

「うむ、また会おう」

「失礼します」

 

 それにしても、あの二人は一体地球まで何を買いに来たのだろうか? ミッド在住の人が地球に関心を寄せることと言えば、今イケイケの管理局員のなのはさんやはやてに関してだろう(フェイトさんを地球組としていいのかは微妙なところなので除外しておく)。そして、彼女たち関連で地球にまで買いに来るものという事は……

 

「翠屋のケーキか……」

 

 はやて要素は全くないが、その二人に関係があって、地球にまで買いに来るものと言うのはそれくらいしか思い当たらないから仕方ない。

 

「とうとう、翠屋も次元進出かー。とんでもない喫茶店だな」

 

 そうつぶやきながら、おれはミッドチルダにまでその名を轟かす翠屋に向かって歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさかこんなところで公輝くんと遭遇するとはね」

「ドクター、不測の事態が起きても慌てないで対処してください。あれではわざわざ遠くの次元世界まで落し物をしに来る変人でしたよ」

 

 予期せぬ知り合いとの遭遇。今行っていることをその知り合いに知られてしまうと色々と不都合なことになっていただろう。

 

「ああ、助かったよ。流石は私の助手だ」

「はい、私はあなたの助手です」

 

 優秀な助手がいると助かるな。

 

「私が居ないとドクターは本当にダメダメなんですから……もっとしっかりしてください」

「……はい」

 

 最近ウーノが厳しいのは気のせいだろうか。きっと気のせいだろう。

 

「まあいい、これで彼女たちがここ、第97管理外世界に出てくるはずだ。彼女たちがミッドを留守にしている間にやるべきことを済ませておこう」

「はい、ドクター」 

 

 私たちは転移の形跡を辿られないようにラボへ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです士郎さん、桃子さん、美由希さん。三日間よろしくお願いします」

「久しぶりだね公輝くん、こちらこそよろしく」

「自分の家だと思ってくつろいでね?」

「ゆっくりしていってね~」

 

 おれの挨拶に続き、士郎さん、桃子さん、美由希さんが返してくれる。美由紀さんはなのはさんのお姉さんだ。高町家には恭也さんと言うなのはさんのお兄さんもいるのだが、恭也さんは今ドイツに行っているためいない。

 

「それにしてもすごい荷物だね。今日は疲れたろ? 先に風呂に入ってから夕食にしよう」

「ありがとうございます。それではお先に」

 

 士郎さんがおれの持っている戦利品を見ながらそう言ってくれる。こっちに来てからゲーム屋、本屋、ホビーショップを回りまくったために溜ったおれの疲れを見抜いたのだろう。時刻ももうすぐ午後6時という事もあり、ちょうどいい時間だ。風呂に入って体と心を洗濯するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

「お粗末様でした」

 

 夕食で盛ってあった皿が並んでいるテーブルをおれたち4人が囲み、食事の後の挨拶をしっかりとする。桃子さんがつくるご飯はそれはそれは良いものだった。桃子さんの作る料理ははやての料理とはまた違った美味しさだった。言葉で例えるとするのなら、それは母さんの味。おふくろの味ではない、母さんの味だ。わかるかなー、この微妙なニュアンスの違い。わからないな。おれもわからない。そうすると、はやての味を言葉で表すとどうだろう? お袋の味? 彼女の味? ばあちゃんの味? ああ、ばあちゃんの味が一番近い気がする。

 

「お茶入れますね」

「お母さん、手伝うよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って桃子さんと美由紀さんは空の皿を持ちながらキッチンの方へ行く。何から何までやってもらって申し訳ないな。何か手伝った方が良いのだろうか……しかし、ホストはあっち。相手が友人なら何も考えずに手伝うのだが、桃子さんも士郎さんも自分より年上で目上の人だ。ゲストの自分が手伝うというのはホストに失礼に当たってしまう気がする。いや、一度手伝うという意思を示して断ってもらう方が良いのだろうか? もちろん、そこで手伝ってほしいと言われれば手伝えばいい。やはり、声を掛けるべきか……

 

「公輝くん」

「はい」

 

 おれがそんなことをつらつら考えていると、この場に残った士郎さんが声を掛けてくる。

 

「君と二人で話すというのは初めてだね」

「そういえばそうですね」

 

 士郎さんと話す時にはいつも桃子さんなり、なのはさんなりがそばにいたから士郎さんと二人きりで話すという機会はこれまでなかった。

 

「最近なのははどうだい? 無茶はしてないかい?」

 

 士郎さんがなのはさんについて聞いてくる。なのはさんが撃墜された原因は疲労が溜まったことによって敵に不覚を取ったことだ。再びそんなことが無いか心配なのだろう。

 

「そうですね……無茶はなくなってきてると思います。でも、頑張りすぎるところは変わってないですね」

「うーん、もうなのはのそれは変わらないだろうね」

「おれも気づいたらなのはさんの疲労を抜いてるんですけど、いつも一緒に居られるわけじゃないので余り役には立ててないですね……」

「いやいや、公輝君が気にかけてくれるだけでも大分違うよ。ありがとう」

 

 士郎さんがおれに向かって頭を下げてくる。おれは慌てて返す。

 

「そ、そこまでのことはしてませんよ」

「そんなことはないさ。君はもちろん、フェイトちゃんやはやてちゃんという良い友人がいてくれるおかげで、なのはは今も元気でやっていけるのさ」

「そうですかね……」

 

 面と向かってこういうことを言われると照れてしまう。

 

「親として、君たちにはいつも感謝しているよ」

 

 親……か……。

 

 成り行きでこの10年過ごしてきたけど、今頃母さんと父さんはどうしているだろう。大学合格と言う節目で親より先に死んでしまった親不孝な息子をどう思っているのだろう。悲しんでくれているだろうか? いや、きっと怒っているな。

 士郎さんと話しているとおれの両親について思い出してしまう。ただ一つ前世に未練があるとするのなら、初任給で二人に何か買ってあげたかったな……

 

「公輝くん? ぼーっとしちゃて、大丈夫かい?」

「え? あ、いや、ちょっと思うところがありまして」

 

 いけないいけない。つい物思いに耽ってしまったようだ。今のおれにはどうすることもできないことだ。天国に行ってから二人には全力で謝ることにしよう。

 

「そうだ士郎さん、マッサージしますよ? おれのマッサージって結構評判なんですよ。マッサージしながらなのはさんのこれまでの活躍をお話しします」

「お、そうかい? 最近仕事が忙しいから助かるよ。なのはの話も楽しみだな」

 

 話題を逸らすために士郎さんをマッサージすることを提案する。

 おれは士郎さんを全身マッサージしながらなのはさんについて沢山話した。

 

 

 

 マッサージが終わった後、士郎さんの体の調子が全盛期並みになったのは特に関係のない話。

 

 

 




なんでこんなしんみりしてるんだ……


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お土産と帰省(中編)と59話

|д゚)チラッ

|д゚)つ新話 スッ

|三サッ 新話

##この話は修正されました##


 地球帰省二日目。

 

 昨日は高町家で桃子さんが作る美味しい夜ご飯をいただいた。はやての作る料理とはまた違った美味しさだった。言葉にするなら、母さんの味……かな? お袋の味ではない、母さんの味だ。わかるかな、この微妙なニュアンスの違いが。わからないな。そうすると、はやての料理を例えるとするとなんて言えばいいのだろう? お袋の味? 彼女の味? ばあちゃんの味? うーむ、迷いどころだ。まあ、どうでもいいことだな。夕食の後、風呂に入り、早めに就寝した。ベッドは現在ドイツに行っている恭也さんの物を使わせてもらった。恭也さんと言うのはなのはさんのお兄さんである。他人のベッドではあるがぐっすりと眠ることが出来た。

 

「いらっしゃいませ! 喫茶翠屋へようこそ。お二人様ですね? こちらへどうぞ」

 

 そして、今日は地球でゆっくりする日と決めていたのだが、翠屋のアルバイトが一人病気でお休みという事で助っ人をかってでたのだ。

 

「公輝くん、チーズケーキとショートケーキ。コーヒー二つ3番ね!」

「はーい」

 

 桃子さんの指示を受け、出来上がったケーキとコーヒーを3番のテーブルに持って行く。翠屋の看板メニューは特性シュークリームであるが、他のケーキも絶品なのである。そして、このコーヒーは士郎さん自慢のコーヒーでありこれまた絶品なのである。圧倒的紅茶派で、コーヒーはあまり飲まないおれが唐突に飲みたくなるコーヒーは後にも先にも士郎さんのコーヒーだけだと思う。

 

「お待たせしました。こちら、チーズケーキとショートケーキ、コーヒー二つになります」

「どうもー」

「ありがとう!」

 

 3番テーブルの女性二人組に注文の品を届け、新たに出来上がった料理を取りに戻る。

 

「公輝くん、今度はシュークリーム3つとミルクティー2つとコーヒー。5番ね!」

「了解!」

 

 こんな風に、海鳴でとても有名な喫茶店翠屋のウエイターとして忙しくも充実した時間を過ごしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 人の勢いも落ち着いたため、一息つくことにした。

 

「ふいー、疲れたー」

 

 肉体的にではなく精神的に。客商売は大変だなぁ。社会の荒波に揉まれてるって感じがする。

 

「ご苦労様、公輝くん。君が居てくれたおかげで助かったよ」

「お役に立てて何よりです」

 

 ねぎらいの言葉をかけてくれる桃子さん。確かに、これだけ店が繁盛していると人が一人欠けただけで一人当たりの仕事量が大変なことになるだろうな。

 

「お疲れ公輝くん。もうすぐなのはが帰るって言ってたよ」

「え? なのはさんが? 何でです?」

「偶然仕事で近くに来てるらしい」

「あ、そうなんですか」

 

 管理局の仕事で地球に来たのか。すごい偶然だな。こういうことってあるんだなー。

 

「じゃ、ちょっとおどかしてやりますか」

「お、いいね」

 

 士郎さんの許可も下りたことだし、ちょっとしたドッキリを仕掛けてやることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 カラン、カラン

 

 それは翠屋のドアに取り付けてある来客を知らせるためのベルのようなものがなった音だ。来客したのが普通の客ではなく、ターゲットであることを確認し、おれは息を潜めてタイミングを計る。

 

「お母さん、ただいま」

 

 よし、今だ。出る!

 

「あれ? 居ないの? お父さん? お姉ちゃん?」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 そこに居るのは呆然とした様子のなのはさんとリインちゃん。驚いた様子で固まっているスバルさんとティアナさん。そして、燕尾服を着て執事スタイルでワックスでオールバックのパッと見誰か分からないおれ。もちろん、おれは執事の見本のようなお辞儀をしている。

 

「え……あの……誰?」

 

 まだまだ畳みかけるぜ!

 

「お嬢様の大好きなビールはキンキンに冷えてやがります。どうぞ、お風呂上がりにぐぐっとやってください」

「ちょっ! 私の生徒もいるのに、それじゃあ私が酒飲みみたいに聞こえるじゃん! ていうか、私まだ未成年だからお酒は飲まないよ!……って、あれ? もしかして公輝くん?」

 

 むぅ、もう気づかれてしまったか。オールバックバージョンのおれを鏡で見た自分ですら「誰だ?」ってなったのによくわかったな。流石だと言わざるを得ない。まあ、後ろで「なのはさんって酒飲みなんだ……」とか念話で話してそうな雰囲気を醸し出しているスターズの二人と慌てふためくなのはさんの姿が見れたので良しとしよう。リインちゃんは変わらず呆然としている。

 

「ふふふ……なのは、お帰り」

「なのは、帰って来たな」

「なのは、お帰り!」

 

 裏にいた桃子さん、士郎さん、美由希さんが出てくる。

 

「お母さん、お父さん、お姉ちゃん! もう、びっくりしたよ!」

「ははは、ごめんごめん。公輝くんがなのはを驚かしてやろうってね」

 

 あ! さらっと罪を擦り付けられた! 士郎さん、恐ろしい人だ。

 

「え! あの執事さん先生だったの!」

「ほ、本当……よく見たら先生だわ……」

「びっくりですー!」

 

 なのはさんの後ろにいたスターズの二人とリインちゃんもおれに気が付いたようだ。

 

「この子たち、私の生徒」

 

 そう言いながらなのはさんはスバルさんとティアナさんを高町家のみんなに紹介する。

 

「おお! こんにちは。いらっしゃい」

「ゆっくりしていってね」

「は、はい! あ、私はスバル・ナカジマです」

「こんにちは。私はティアナ・ランスターです」

 

 士郎さん、桃子さんと二人が挨拶を交わす。

 

「ケーキは今箱詰めしてるから」

「うん、フェイトちゃんと待ち合わせ中なんだけど、居ても平気?」

「もっちろん」

 

 桃子さんとなのはさんが言葉を交わす。どうやらフェイトさんも地球に来ているようだ。機動六課の中心戦力の二人がミッドを離れるというのはいいのだろうか? まあ、こういうことはおれが考えることではないから深く考えるのはよしておこう。

 

「コーヒーと紅茶もポットに入れておいたからな。もちろん、なのはのビールも忘れてないぞ」

「その設定まだ続いてるの!」

 

 もう終わったことだと思って油断していたなのはさんに襲い掛かる士郎さんの不意打ち。うむ、良いきょどり具合だ。しっかり写真に収めたから後ではやてに見せてやろう。

 

 その後、なのはさん達と一緒にお茶を飲みながらゆっくりしてながらフェイトさんが来るのを待った。お店も落ち着いたという事もあり、士郎さん達のご厚意でおれもなのはさん達に付いて行くことになった。夜ご飯はアリサさんの家の庭で……庭? 庭っていうには広すぎるが、庭で食べることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ここにいるのは初対面の人などもいるので、初めに全員が自己紹介をして夕食を食べることにした。今日の夕食は外でバーベキューである。

 

「いただきます!」

 

 いただきまーす!

 

 ここにいる全員が食事を始めるための挨拶をする。

 

「おっす、はやて。久しぶらない」

「久しぶらないやな、ハムテルくん」

 

 驚くべきことに、機動六課部隊長のはやても地球にやってきていたのである。流石にこれはおれでも異常だということは分かる。

 

「なあ、はやて。機動六課の主力全員地球に来ちゃってるけど、ミッドでのレリック確保はいいのか?」

「ハムテルくん、私は戦力の分散という愚は犯さんのや!」

 

 いや……そうは言っても、戦力の一括投入のしどころおかしいだろ。

 

「というのは冗談で、上からの命令なんよ」

「上からの?」

「聖王教会を通しての任務の依頼やったけど、機動六課の全主戦力を投入し、早急に解決せよって管理局の上の人に言われたんよ」

 

 六課の全主戦力を投入するほどヤバイ事件が地球にあるっていう事なのか?

 

「確保するロストロギアは人に害を与えるタイプやないんやけど、持ち主ができるだけ早く確保してほしいって話らしいで」

「その持ち主ってのは相当管理局に関わりが深い人物なんだろうな」

 

 すごい人もいるもんだ。しかし、管理局も組織だ。組織には金が要る。それも、とてつもない規模の組織となると必要な金は大変な量だろう。そこを支える出資者と良い関係を築き続けるのは必要なことのだろう。まあ、そういう事だろう。

 

「まーまー、そんな細かいことを気にしてもしゃーないわ」

「そうだな」

 

 六課は管理局の命令に従って行動しているし、問題が生じても言い訳はできるだろ。起きないのが理想だが。

 

「あ、キャロちゃんいるじゃん」

 

 はやてとの会話を切り上げ、おれは目に入ったキャロちゃんとエリオくんの方へ向かう。二人にはお土産があるのだ。

 

「キャロちゃーん、エリオくーん、楽しんでる?」

「はい! とってもおいしいです」

「キュクルー!」

「こういう食事もいいですね」

 

 

 うんうん、楽しんでいるようでなにより。おーよしよし、フリード、よしよしよしよし……って、こんなことしてる場合じゃない。

 

「キャロちゃん、これ付けてくれないかな」

「? いいですよ」

 

キタ━(゚∀゚)━!

 

 おれが紙袋から取り出し、キャロちゃんに渡したものは秋葉で買ったコスプレグッズだ。詳しく言うと、ピンクの犬耳とピンクの犬尻尾だ。あ、この尻尾はベルトと一体化していて、ベルトをつける要領で取り付けるタイプであって、決して尻の穴に差し込むタイプではないことは明言しておく。

 

「うんうん、思ってた通りぴったりだ!」

「キャロ、とっても似合ってるよ」

「そ、そうですか? ちょっと恥ずかしいですね」

 

 もうどこからどう見てもビスコッティの犬姫である。うーん、余は満足じゃ。

 

「あ、エリオくんにもお土産があるんだ」

 

 再び紙袋に手を突っ込んで取り出す。

 

「エリオくんにはこのリストバンド(ビスコッティの勇者仕様)をあげよう。ガンガン使い倒してくれ」

「あ! ありがとうございます。丁度欲しいと思っていたんですよ」

 

 うむ、どんどん使ってくれ。アニメショップで買った物だけど汗拭きとしての役割を果たすことを信じているよ。

 

「二人とも、先生のお土産いいな~私も欲しいな~」

「こら、スバル。図々しいわよ」

 

 おれたちのやり取りを見ていたスバルさんとティアナさんがこっちに来たようだ。

 

「ふっふっふ、抜かりはない。二人にもちゃんとあるぞ」

「おー!」

「え、そうなんですか? ありがとうございます」

 

 またまた紙袋に手を突っ込み二人のために買ったお土産を取り出す。

 

「はい、スバルさんには東京で買った仙台牛を使ったサラミだ」

「おお! おいしそう! ありがとうございます!」

「うむ、フリードと仲良く二人で食べるんだぞ」

「えー! 私とフリードで二人で一つですか!?」

 

 ビックリ!っと、顔に書かれているというのはこの事を言うのだろう。スバルさん、良いリアクションだ。

 

「冗談さ。フリードにはこの東京で買った仙台牛を使ったビーフジャーキーをプレゼントだ」

「キュクルー!」

「フリードよかったね。公輝先生ありがとうございます」

 

 しゃべれないフリードの代わりにキャロちゃんがお礼を言ってくれる。

 

「ビーフジャーキー……ねえフリード、サラミ半分あげるからジャーキー半分くれない?」

「キュク」

 

 結局二人で分けるのか。まあ仲がよさそうで何より。

 

「ティアナさんにはこの目薬を。ガンナーも目が命だからね。目が疲れた時は使うとよいよ」

「あ、ありがとうございます」

「あ、それとティーダさんにはこれを渡してもらえるかな。地球土産って言っておいて」

「分かりました。わざわざ兄の分まで申し訳ありません」

 

 本当にティアナさんは礼儀正しい子だなぁ。ちなみに、ティーダさんに渡したものはラノベだ。疎遠だった兄妹が人生相談を繰り返すうちにお互いの気持ちを知っていく物語だ。

 

 こんな感じで地球土産のお披露目をおれの予定よりも早くに終わらせ、楽しい食事の時間が終わったのだった。

 

 食事の次は風呂だな。




……風呂に……たどり着かない……

こんなはずでは……


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風呂と帰省(後編)と60話

なんとかここまでは書いておきたかったので頑張りました。

追記
13歳以上の露天風呂→全年齢対象の露天風呂
石鹸を投げ込む前に公輝が安全を確かめる描写を追加

##この話は修正されました##


 ご馳走様でした!

 

 この場にいる全員の声を重ね、食事の終わりの挨拶をしっかりと済ませる。夕飯の後片付けをしながら、おれたちは次の予定について話し合う。

 

「さて、サーチャーの様子を監視しつつ、お風呂済ませとこか」

「「「「はい!」」」」

 

 はやてがそう言うと、ティアナさん達が元気に返事を返す。

 

「まあ、監視と言ってもデバイスを身に着けていれば、そのまま反応を確認できるし」

「最近は本当に便利だね」

「技術の進歩です!」

 

 そういえば、彼女たちは現在管理局の仕事で地球に来ているんだったな。アリサさんの所有地でバーベキューしたりとレジャー気分ですっかり忘れていたよ。そして、今のなのはさんの台詞。おれはどこか聞いたことがある。……ああ、そうだ、思い出した。おれのばあちゃんがパソコンを前にした時に発した「最近はなんでも便利になったねぇ」とほぼ同じなんだ。なのはさん……ババくさいぞ……

 

「あー、ただ、ここお風呂ないし、湖で水浴びって季節でもないし」

 

 美人ぞろいの機動六課と地球組が湖で水浴び……それはとても絵になりそうな情景ですねぇ。

 

「そうすると、やっぱり……あそこですかね」

「あそこでしょう」

「それでは六課一同着替えを準備して出発準備!」

 

 あー、あそこね、あそこ。なるほどなー……どこだろう……

 

「これより、市内のスーパー銭湯に向かいます」

 

 そういえば、そういう施設があった気がする。

 

「すーぱー……」

「銭湯?」

 

 スバルさん、ティアナさんの疑問を含む発言を聞きながら、おれたちはそのスーパー銭湯に移動した。

 

 

 

 

 

 

「はい、いらっしゃいませ! 海鳴スパラクーアへようこそ! 団体様ですか?」

 

 愛想のよさそうな受付のお姉さんが早口言葉のごとくテキスト通りの対応をする。

 

「えーと……大人13人と」

「子供4人です」

 

 はやてとフェイトさんが受付の人に人数を報告する。子供が4人? ああ、ヴィータは大人に含めているのか。

 

「エリオとキャロと……」

「あたしとアルフです!」

「おう!」

 

 スバルさんが子供4人と言うところに疑問を持ったようで人数を確認している。その確認にリインちゃんが答えている。

 

「えと……ヴィータ副隊長は?」

「あたしは大人だ」

 

 ヴィータは相変わらずこだわるなー。まあ、今回の料金ははやてのポケットマネーから出されるから何も言わないが、もし、おれが払うんだったら問答無用でヴィータは子供扱いである。お金はそこそこ稼いでいる自覚はあるが、無駄遣いはしないに越したことは無いのだ。

 

「あっ……はい! では、こちらへどうぞ!」

 

 ほらー、受付の人が一瞬「え? 大人? ああ(察し)そういう年か」って、感じの反応を示したぞ。

 

「お会計しとくから、先行っとっててな」

「はーい」

 

 はやて以外のみんながそれに返事をする。勿論、おれも返事をしている。

 

「はい、では、大人13人、子供4人で計8740円になります」

「はーい」

 

 後ろからはやてがお代を支払っているようだ。何となくおれは後ろを振り向く。

 

「ん!?!?!?」

 

 はやてがお金を出そうとしている財布、おれのじゃねーか! いつの間に抜き取ったんだ!

 おれは堪らず、はやての所へ駆けつける。

 

「ちょっ、はやて! それおれの財布じゃねーか!」

「ん? これは私のやで?」

 

 まさか、お前のものはおれの物、おれの物はおれの物ってやつか。

 

「何言ってるんだ、だって……うん?」

 

 おれは財布があるべき場所に無いことを示すために鞄の中を見せつけようとしたら、そこにはちゃんとおれの財布があった。

 

「……ある……」

「へっへっへー、引っかかったー! これは私がハムテルくんにドッキリを仕掛けるために新しく買ったもんやで」

 

 ……ドッキリ……見事に引っかかったよ……

 

「ほらほら、ハムテルくんとおそろいやで?」

「ああ、そうだな」

 

 おれはドッキリでどっきりさせられた衝撃で生返事することしかできない。いずれこの借りは返してやるぞ、はやて!

 

 覚えてろよー。

 

 

 

 

 

 

「よかったぁ。ちゃんと男女別だ」

 

 おれとはやてが前の集団に追いついた時、エリオくんがとても興味深い発言をしていた。混浴を経験したことがあるというのか! 羨ましい……

 

「広いお風呂なんだって。楽しみだね、エリオくん」

「あ、うん。そうだね。スバルさん達といっしょに楽しんできて」

「え? エリオくんは?」

 

 んんん??? キャロちゃんよ、それは一体、どういう意味で……

 

「ぼ、ぼくはほら、一応男の子だし」

「でも、ほら。あれ」

「注意書き? えーと……女湯への男児入浴は11歳以下のお子様のみでお願い……します?」

「折角だから一緒に入ろう?」

 

 なんと! 現在エリオくんは10歳。つまり、エリオくんは合法的に女湯に入ることが出来るという事じゃないか! これはうらやまけしからん。キャロちゃんとフェイトさんに一緒に女風呂に入ることを誘われるエリオくんはもて男だなぁ。

 

「え!? あー……ほら! 公輝先生が一人になっちゃうじゃないですか!」

 

 エリオくんがそう言いながらおれの方を見てくる。そのエリオくんの視線は何かを語っているようだ。なになに? 「助けてください」かな? そうか、エリオくんもいくら子供って言ったって女性の裸を見るのは恥ずかしいお年頃か。これがさらに歳を重ねると女性の裸が見たくなるんだから不思議である。まあ、そんなことはどうでもいいか。では、エリオくんに助け舟を出すことにするか。

 

「キャロちゃん、フェイトさん、今日はエリオくんを貸してくれないか? 男同士、裸の付き合いってやったことないからな」

「そ、そうなんですよ! ですから、キャロ、フェイトさん、すみません」

 

 おれの助け舟にここぞとばかり乗っかってくるエリオくん。そんなに女風呂が嫌なのか。

 

「でも、女風呂に入れるのは今だけやで? きっとあの時入っておけば良かったって後悔する時が来るで」

 

 そんなことをはやてが言う。

 

「そうだな、確かにそうかもしれない。エリオくん、この機会を逃せばもうこんな経験はできなくなるぞ」

「え!?」

 

 よく考えれば、おれも転生した当初は9歳児相当だったから女風呂に合法的に入ることが出来たんだな。クソッ! おれは何というミスを犯してしまったんだ!

 

「エリオくん! 後悔先に立たずだぞ!」

「い、いいいや、あ、あのですね、それはやっぱり……スバルさんとか、隊長達とか、アリサさん達もいますし!」

「別に私は構わないけど?」

「ていうか、前から頭洗ってあげようか? とか、言ってるじゃない」

「う、え……」

 

 外堀を埋められていくエリオくん。そんな捨てられた犬のような目で見ないでくれ。キャロちゃんに上げた犬耳をエリオくんにもつけたくなっちゃうじゃないか。

 

「うん、いいんじゃない? 仲良く入れば」

「そうだよ。エリオと一緒にお風呂は久しぶりだし」

「あっ……」

「入りたいなぁ」

 

 フェイトさんのダメ押しがエリオくんを襲う!

 

「あ、あっ……あの……お気持ちは非常に……なんですけど……すいません!遠慮させていただきます!」

「えー」

 

 女性人の残念がる声が上がる。エリオくんは本当に愛されてると思う。

 

「先に上がって、この辺で待ってますので。すみません! 失礼しまーす!」

「あー行っちゃった」

 

 そう言い残してエリオくんは男風呂の暖簾が掛かっている方へ走って行ってしまった。

 

「あーあ、もったいない。じゃあ、みんな、また後で」

 

 おれもエリオくんの後を追って男風呂に入ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いですよ先生、ぼくが助け求めてたの分かってたじゃないですか……」

「いやー、はやての意見も一理あるなーってな」

 

 おれが更衣室に入るとエリオくんの抗議の声が聞こえてきた。おれも今後悔してるから、エリオくんに後悔してもらいたくなかっただけなんだがなぁ。とりあえず謝っとくか。

 

「ごめんな、エリオくん」

「もう、いいですけど」

「はっはっは、風呂に入ってさっぱりしようじゃないか」

 

 露骨な話題逸らし。

 では、参る! いざ、風呂へ!

 

「エリオくん!」

「キャ、キャ、キャ、キャロ!? ふ、ふ、ふ、服!」

「うん、女性用更衣室で脱いできたよ」

「え!? あ、ほら! 先生もいるし……って、もう居ない!」

 

 おれが風呂場の扉を閉めようとした時、後ろからそんな声が聞こえてきたような来なかったような気がした。

 

 

 

 

 

 

「ふいー……極楽、極楽」

 

 体を念入りかつ速やかに洗った後、室内の浴場には目もくれず露天風呂に来ている。

 ここのスーパー銭湯には2種類の露天風呂がある。一つは11歳以下の男児は入ることができ、女湯とも繋がっている所謂家族風呂。もう一つは男性全員が入ることが出来る露天風呂。もちろん、おれが今入っている露天風呂は全年齢対象男専用露天風呂である。ここで間違えて混浴の方に入ってしまうようなうっかりはしないさ。

 

「エリオくん来ないなー。室内でゆっくりしてるのかな?」

 

 まあ、風呂の楽しみ方は人それぞれだしな。おれは露天風呂を堪能してから室内風呂を満喫し、最後の締めにまた露天風呂に入るのだ。

 

「おーい、ハムテルくーん。どうせ露天風呂におるんやろ?」

 

 露天風呂でまったりしていたところ、隣の女性用露天風呂と思われるところからはやての声が聞こえてくる。

 

「なんでわかんだよ」

「ハムテルくんのことやからさっさと体洗って露天風呂に来とると思ってな」

 

 行動が……読まれている!?

 

「まあ、それはええんや。石鹸貸してくれへん?」

「ここの備え付けのやつじゃダメなのか?」

「うーん、やっぱりいつものやないと、なんかあかんのや。シャンプー、リンス、ボディーソープは持って来たんやけど石鹸は忘れてもてな」

 

 その気持ちはよくわかるが、なんでおれが石鹸持ってるって思ったんだ?

 

「ハムテルくん洗顔石鹸には謎のこだわりがあるやろ? やから、今日も持っとるやろなーって」

 

 好みが……ばれている!

 ついでに、心も読まれている!

 

「……まあ、いいけどな。んじゃ、投げるぞ。ああ、そっちに石鹸投げ込んで危なくないか?」

「大丈夫や、女湯には私しかおらへんから。ばっちこいや!」

 

 おれは声がする場所からはやての位置を予測しておれ御用達の石鹸を女湯の方へ投げ込む。

 

「おお! これやこれ。サンキューなー」

「どういたしまして」

 

 そう言ってはやては露天風呂から出て行ったようだ。

 

「……行ったか」

「いやー、若いっていいねー」

 

 おれにそう声を掛けてきたのは見知らぬおじいさん。そう、この露天風呂はおれ一人と言う訳でなく、他の客もいたのである。つまり、さっきのやり取りめっちゃ恥ずかしかった。

 

「ははは、そうっすかねー」

 

 こんな感じでじいちゃんの話を適当に流しながらおれは風呂を満喫したのだった。

 特に関係ない話であるが、おじいさんに「彼女?」って聞かれた時は、「姉で妹で母で娘みたいな存在です」って返しておいた

 

 

 

 

 

あ、問題のロストロギアは六課メンバーが危なげなく確保していました。




小説を書く上で一番書きたかった出張編終わりました。


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変身魔法とたい焼きと61話

あ、勉強してない……

(´・ω・`)

)´ω`( ゲッソリ

##この話は修正されました##


 

 

 有給を使った地球帰省からもう数日が過ぎた。これは後で聞いた話なのだが、海鳴のスーパー銭湯でおれが露天風呂でゆっくりしていたころ、男湯の方にキャロちゃんが来ていたそうなのだ。そして、エリオくんはキャロちゃんとしばらく男湯で楽しんだ後、女湯の方へ移動したそうだ。つまり、何が言いたいかというと、

 

「うらやましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「あ、あははは……」

 

 別に、おれはロリコンだとか、ペドだとか、そういう一般人以上に小さい女の子に異常な関心を寄せる人間と言うわけではないが、女の子と一緒にお風呂に入るというすばらしい状況に憧れるのは仕方ないことだと思う。そう思うだろ?

 

「そう思うだろ!」

「ははは……そうだね。そうだね? いや、それはだめでしょ」

 

 そんな悔しさに身を焦がれるような思いをしていた時、おれはこんな話を聞いたのだ。かつて、変身魔法を用い小動物に変身した少年が、何も知らないいたいけな少女と一緒に女湯に入ったという話だ。

 

 変身魔法。

 

 そう、変身魔法だ。そういえば、はやてがコミケで同人誌を売る時、年齢を詐称するために使っていた魔法も変身魔法だ。変身魔法で年齢を実際より上に見せることが可能なら下に見せることも可能だろう。人間ですらない動物に変身することが出来るのだからその応用力は素晴らしいものだと思う。

 

「そういう訳で、おれに変身魔法を教えてください」

「えーと、今の話を聞いた後で君に変身魔法を教えてあげようとは思わないよ……」

 

 そんな素晴らしい魔法を会得するために、おれはある場所にいる、ある人物を訪ねている。その相手は時空管理局無限書庫司書長ユーノ・スクライアさんだ。彼はなのはさんに魔法を伝えた人その人で、なのはさんの師匠と言っても良い人物だ。

 また、管理局の無限書庫はあらゆる世界のあらゆる時間から自動的に情報が集められる超超超ドデカイ図書館だ。しかし、そこに所蔵されている情報の整理は長年行われておらず、ある特定の情報を探す時はチームを組んで週単位、時には月単位で捜索していたほどだ。例えて言うなら、ネットで見かけたお気に入りの画像を同じフォルダに保存しまくったような感じになっていたのだ。そんなカオスな書庫の文献をジャンル分けし、著者ごとに分け、世界で分け、時代で分け整理することによって、無限書庫の価値を飛躍的に上げた人物こそ、ユーノさんその人である。色々な画像が入ったフォルダーより、ジャンルごとに分類分けされており、その日の気分で使いたい画像が一目でわかる方が良いに決まっているからな。え? 一体画像を何に使うかだって? 言わせんな恥ずかしい。

 

「そ、そんな! お願いだよユーノさん! お願いだよ!」

「あ、あははは……ところで、その小動物に変身した少年と少女の話はどこで聞いたんだい?」

「え? ああ、あれはネットで「合法的に女湯に入る方法」で調べたらヒットしたんだ」

「あ、ああ! インターネットか。いや、ならいいんだ」

 

 ユーノさんが何か安心したようにつぶやく。一体何なんだろうか。それにしても、ネット掲示板の住人の発想力は感心せざるを得ない。こんな方法を思いつくとか、やはり天才か……

 

「あ! もう良い時間だよ。そろそろ会場に向かわないと間に合わなくなっちゃう」

「ああ、もうそんな時間か。それならそろそろ行くことにしますか」

「そうだね」

 

 ユーノさんは腕時計を見てそう言った。

 今日ユーノさんを訪ねた理由は変身魔法を教えてもらうためではない。ユーノさんはある催しの司会者として、おれは客として一緒に行くために合流したのだ。

 その催しは、ホテルアグスタと言うホテルで行われる骨董品のオークションだ。ここで取り扱われるものはただの骨董品ではなく、ロストロギアなのだ。ここで取り扱われるロストロギアは管理局によって危険はないと断定されたもので、一般人も所持することができるものである。こういうロストロギアは大企業の社長みたいな金持ちや、王侯貴族などのコレクションアイテムとして大変人気なのだ。

 では、何故そんな身分が高い人ばかりしか行かないようなイベントに、おれが客として行くことが出来るのか? これはひとえにコネのおかげである。仕事で知り合いになった、あるやんごとなきお方からお誘いを受けたというわけだ。おれもこういう骨董品的な訳の分からないものは大好きなので、今日のイベントは大変楽しみである。

 

「じゃあ行こうか」

「おう!」

 

 おれとユーノさんは無限書庫から出て、ホテルアグスタに向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「おー、ここがアグスタか。立派なホテルだな。一度はこんなところに泊まってみたいものだ」

「じゃあ、僕は主催の人と打ち合わせをしないといけないから行くよ」

「OK、わかった。じゃあおれは始まるまでそこらへんブラブラしてるよ」

 

 そういっておれたちは分かれることになった。司会者と主催者との打ち合わせがイベントの直前に行われるわけはないので、今はまだ開始時間の6時間前である。開始2時間前から入場できるとはいえ、まだ4時間も時間がある。どうしたものか……

 

「ん?」

 

 そこにいるのはタイ焼き屋の目の前で店主が焼いているたい焼きを見つめている紫髪の少女。なんだか、彼女を見てたらおれまでたい焼き食いたくなってきた。よし、買おう。そういえば、最近紫髪の人物に縁があるような気がするのは気のせいだろうか。

 ……あの少女はたい焼きが欲しいのだろうか? 仕方ない、おれが彼女に買ってあげよう。

 

 とはならないよ。

 

 今のご時世、少年少女に物をあげたり声を掛けるのは勿論、ちょっと見ただけで事案となる生きづらい世の中なのである。自分から厄介ごとに突っ込む必要もあるまい。

 おれはそう思いながら店の前にいる彼女の横に立ち、店主にたい焼きを注文する。

 

「おっちゃん、たい焼き3個くださいな」

「はいよ!」

 

 店主に代金を支払い、代わりにたい焼き3個が入った紙袋を受け取る。たい焼きの甘い匂いがおれに早く食えと訴えかけてくる。訴えかけてくるならば食わねばなるまい!

 おれはたい焼き屋の近くに設置してある椅子に腰かけ、たい焼きを食すことにする。

 

「いただきます!」

 

 ところで、みんなはたい焼きは頭から食べる? 尻尾から食べる?

 おれは……背びれからだ!

 

 ガブリ

 

「うめー」

 

 外の表面はカリカリでありながら生地はモチモチというダブル食感。たい焼きの命である餡子も最高だ。今おれはこの餡子に合うお茶が猛烈に飲みたい。だが、残念ながらここにお茶が無いのが残念だ。

 では、二つ目を……

 

 ジー……

 

 ふ、二つ目を食べ……

 

 ジー……

 

 ……食べ……食べ……

 

 ジー……

 

 おれはこのたい焼きをたい焼き屋の近くに設置してある椅子に座って食べている。つまり、意図したわけではないが、たい焼きを欲しそうにしている少女の真横で、買ったたい焼きを見せつけながら食べていたことになる。そうすると、どうなるか?

 

 ジー……

 

 当然こうなる。

 紫髪の少女がさっきからこちらを穴が開くんじゃないかと言うほど見つめてくる。むちゃくちゃ食いづらいんだが……しゃーないな……大丈夫だよな? おれ通報されたりしないよな? 信じてるぞ、周りの人達と幼女!

 

「ごほん……そこな幼女よ、このたい焼きが欲しいのか?」

 

 おれはそう聞く。

 

 フルフル

 

 なんと首を横に振るではないか。

 

「なんだいらんのか。ならいいんだ」

 

 おれは幼女を気にせず食べることにする。

 

 ジー……

 

 ……

 

 ど、どうしろと言うんだ……

 2個目のたい焼きを食べようとしている格好のまましばらく固まってしまう。しかし、このまま固まっていてはたい焼きが冷めて美味くなくなってしまう。仕方ない……

 

「そこな幼女、これを君にプレゼントしよう。いらなければ食べて処分してくれたまえ」

「……ありがとう」

 

 食べ物を粗末にするのは絶対に許さない。

 そう言いながらおれは彼女にたい焼きを差し出す。すると、彼女は小さな声で感謝の意を述べつつ受け取った。やっぱり欲しかったんじゃないか。

 ようやく、おれは彼女を気にすることなくたい焼きを食べることが出来る。2個目は彼女にあげてしまったので3個目を食べることにする。

 

「はぁ、おいしい……」

 

 本来おれが食べるはずだった2個目が幼女の小さな口に食べられていく様子を眺めながら最後の一個を食べることにした。

 

 あ、君は頭から派なんだな。

 

 

 




アグスタ編の始まり
ティアの活躍にご期待ください

追記
ティア編は無かったことになりました


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アグスタとティアと62話

ティアのしゃべり方がいまいちよくわからんかった(´・ω・`)

##この話は修正されました##


「やっと入場だー。とは言え、まだまだ開始までは時間がある。どうしたものか」

 

 あのたい焼き幼女と一緒にたい焼きを食べること十数分、どこからともなくフードをかぶったゴツイおっさんがやって来た。おっさんはおれと幼女を交互に見た後「世話になったようだな。ありがとう」と、言って幼女を連れてどこかへ行ってしまった。自然な流れで連れて行ったから保護者だと思うけど、あのおっさん誘拐犯とかじゃないよね? もしそうだったらあの幼女が大変なことになるんじゃ……気にしないようにしよう。そういえば、幼女幼女と呼んでいるが、名前を聞くのを忘れてしまった。まあ、いいか。

 紫幼女のことを考えるのをやめ、これからの時間をどのように過ごそうかと考えながらぼーっと過ごしていると、おれは見覚えのある姿を見つけた。向こうもこちらに気付いたようで、こちらに歩いてくる。

 

「やあ、ハムテルくん。こんなところで奇遇やな」

「……おお、はやて? 奇遇だな」

「なんで疑問形なんや」

 

 いや、決してドレスアップしたはやてが普段のイメージとかけ離れすぎていて誰か分からなかったわけじゃないぞ。「誰だこいつ」とか考えてなかったぞ!

 

「あ、もしかして私のこの格好に見惚れとったんやな? このこの」

 

 はやてはそんなことを言いながら肘でおれのことを小突いてくる。

 

「あ、あはは~実はそうなんだよ。ついつい見惚れちゃってさー。あはは……」

「なんやろな、そう言われるのは嬉しいはずなんやけど、全然嬉しい無いな」

 

 べべべ別に適当におだててはやてのことが誰か分からなかったことを誤魔化そうとしているわけじゃねーし!

 

「ところで、はやては何でここに? そんな恰好っていうことはプライベートか?」

「残念、どこかの不良査察官とかどこかの有給取りまくる二佐殿と違って私は仕事ですぅ」

 

 おやおや~それはおれに対する嫌味ですか~?流石にあの査察官と同列に語られるのは心外だぞ。

 ここで話題に上がった査察官とは、はやてやクロノさんの旧知の仲であるヴェロッサ・アコースさんである。彼はクロノさんもその腕を認めるほどのやり手の査察官である。しかし、決して良いとは言えない勤務態度に遅刻やサボリなど若干、いや、そこそこ問題があるのが玉に瑕なのだ。ちゃんと勤め先に許可をもらって休んでいるおれと一緒にしないでもらいたい。

 ちなみに、今日も有給取って遊びに来てます。

 

「ほんなら、そろそろ私は行くわ」

「うむ、お仕事頑張り給え」

「言われんでも」

 

 そう言ってはやては行ってしまう。

 

「また暇になってしまった」

 

 こんどこそおれはぼーっとして時間をつぶすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課に配属されてから最初の出動の時は敵が初めから動けなくなっていたこともあり、特に大きな問題も起こることなくこなすことが出来た。第97管理外世界への出張任務だって大丈夫だった。だけど、これまでの任務だけじゃ、自分がどれほど強くなれたのかわからなかったし、これまでやって来た訓練で強くなれた実感も特にない。

 あたしの周りには優秀すぎる相棒、将来有望すぎる後輩、強すぎる隊長達。そして、普段はどうしようもない人だけど、仕事になれば何だかんだとなんでもこなせるお兄ちゃん。

 そんな人たちと比べると私は見劣りしてしまうかもしれない。でも、あたしも同僚達や隊長達に後れを取らないように……いや、追いついて、追い越せるようにするんだ!

 

「遠隔召喚、来ます!」

「あれって、召喚魔方陣?」

「召喚ってこんなこともできるの?」

 

 キャロの言葉が合図となるように、目の前に紫色の魔法陣が浮かび上がる。突然現れた召喚魔方陣にエリオとスバルは驚いているようだ。もちろん、あたしも少し驚いている。

 

「優れた召喚師は、優れた転送魔法のエキスパートでもあるんです」

「なんでもいいわ。迎撃行くわよ!」

「「「おう!」」」

 

 あたしがみんなの会話を打ち切って、迎撃に集中するように促す。

 敵側の召喚魔導師が使った遠隔召喚によって多数のガジェットが目の前に現れる。

 現れたところを私のデバイス、クロスミラージュによる魔力弾をガジェットに撃ち込む。しかし、敵の動きが素早いため躱されてしまう。隊長達の話によると、有人操作に切り替わっているらしく、中々手ごわい。

 

「くっ……」

 

 あたしの弾を避けたうえにミサイルによる攻撃を仕掛けてくる。ミサイルは着弾させると爆風や地面の破片が飛び散り、完全に避けることが困難なので空中で迎撃する。

 

「ティアさん!」

 

 キャロの警告を聞き、自分が後ろから狙われていることに気付く。ミサイルの迎撃に集中していたところだったので危ない所だった。

 敵の攻撃を避けた後、あたしを撃って来たガジェットに攻撃を仕掛けるが、AMFによって魔力が減衰してしまい、有効なダメージを与えられない。やはり、今のあたしでは時間をかけて攻撃しないとだめなのだろう。

 

「防衛ライン、もう少し持ちこたえててね。ヴィータ副隊長がすぐに戻って来るから」

 

 ヴィータ副隊長が戻ってくるまで耐える? それではだめだ。もし、副隊長が来るのが遅れたら? ヴィータさんの実力を疑っているわけではないが、今回の敵は今までとは違う。いつもより手間取っているはずだ。もし、敵の増援が現れたら? 相手には召喚師がいるため、こっちに増援をよこすことは容易い。どちらにしても私たちの防衛ラインをすり抜ける敵が出てきてもおかしくない。ここは敵を全機落として次の攻撃までに余裕を持たせるべきだ。

 

「守ってばっかじゃ行き詰まります! ちゃんと全機落とします」

「え、ティアナ大丈夫? 無茶はしないで」

「大丈夫です」

 

 大丈夫、できる。いつも練習して来たんだから。

 

「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く」

「は、はい!」

「スバル! クロスシフトA。行くわよ!」

 

 エリオとスバルに素早く指示をだし、敵の殲滅に掛かる。クロスシフトAはスバルが敵の注意を引きつけて時間を稼ぎ、その隙にあたしが確実に仕留める。単純、それ故どんな時でも有効な陣形だ。

 

「おう!」

 

 スバルはあたしの指示に気持ちよく返事をしてくれる。

 現状で敵の増援が来るかもしれないという可能性を排除できない限り、単体での攻撃力が高いスバルとエリオの体力と魔力は温存しておくべき。あたしの普通の攻撃ではだめだったが、やりようはいくらでもある。

 

 カシュッ カシュッ

 

 両手に持ったクロスミラージュからそんな音がする。カートリッジ2発×2丁、計4発のカートリッジをロードする。

 

「ティアナ! 4発ロードなんて無茶だよ! それじゃ、ティアナもクロスミラージュも!」

「撃てます!」

「Yes」

 

 4発のカートリッジロードを注意されるが、こうするしかあたしの弾丸はガジェットには届かない。クロスミラージュもあたしに同意してくれる。できないわけがない!

 

「クロスファイヤー……」

 

 スバルはこちらの様子を伺ってあたしの射線上から退避する。撃つタイミングはここだ!

 

「シュート!」

 

 あたしの撃ちだす魔力弾が次々とガジェットに命中し、破壊していく。

 

「うわあああああああ!!」

 

 今扱っている魔力量は正直に言って自分の身の丈に合ったものではないが、これくらいできなければ仲間たちを追い越すなんてことは出来ない!

 

「!!」

 

 最後の一発がガジェットに避けられてしまう。だが、あたしの行動は早かった。

 

「てええぇい!!」

 

 さっきスバルが外したガジェットのいる方向に退避していたことは見ていた。つまり、このままではあたしの外れ弾がスバルに当たってしまう。そんなことをさせるわけにはいかないので、魔力弾が外れたと思った瞬間にその弾丸の魔力を解除し、消滅させる。すかさず、改めてもう一発魔力弾を撃ちガジェットに命中させ、破壊した。これで全機のガジェットを破壊したことになる。

 

「やったね! ティア!」

「ええ」

「お前達、やれたのか?」

 

 どうやら今ヴィータ副隊長が到着したようだ。

 

「はい! ティアがほとんどやっつけちゃったんですよ!」

「へー、ティアナやるじゃん」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ヴィータ副隊長に褒められた……なんだか不思議な気分だ。

 

「でも、まだ油断するんじゃねーぞ。これで敵が来ないかどうかはわかんねーからな」

「「「「はい!」」」」

 

 あたしを含めて全員が返事をし、再びオークション会場の警備の任務に戻る。

 

 

 

 

 

 

 あの後もちょくちょく現れたガジェットを撃墜していき、オークション会場の警備任務は無事に終わった。今回の任務はあたしにとって大きな収穫があった。それはこれまでの訓練の成果とこれからの課題。まず、成果の確認として、今までのあたしなら4発のカートリッジロードによる魔力弾など扱えなかっただろう。しかし、今日はそれで敵を撃墜し、ミスショットにも冷静に対応することが出来た。だが、本来ならミスショットなどあってはならない。それも、その射線上に味方がいたというのは大問題だ。もしあのミスショットに対処できていなかったら……想像もしたくない。だから、こんなことをなくすこと。他にも、敵の攻撃の迎撃に気を取られて危ない時があったことなどがこれからの課題。

 

 今回の出動を通して、あたしは少しの自信とまだまだ強くなることが出来るという確信を持つことになった。

 

 

 

 

 

 

「くっそおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 おれは、慟哭した。

 

「若返リングを落とせなかったああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 若返リング

 

 金色の金属でできた腕輪状のロストロギアだ。効果は文字通り使用者を若返らせること。

 どれくらい若返らせるのかって?

 

 

 

 

 

 

 使用者の5~9歳児相当の頃まで。

 

 あとはもうわかるな? これを使えば変身魔法を覚えることなくスーパー銭湯の女湯に入れたというわけだ!

 

「お~いおいおいおいおい……」

「公輝、どういう泣き方だい、それ。でもまあ、あんな話を聞いた後だと君が落とせなくて安心してるよ」

 

 ユーノさんの無情な一言はおれの耳に入ることなく、消えていく。

 

 




撃った後の魔力弾を消せるのかどうかという疑問は投げ捨ててください。

追記
ティア編は無かったことになりました


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自主練と妹と63話

##この話は修正されました##


「夜風が気持ちいいな……」

 

 今日は六課でしっかり仕事をした後、自分の部屋で自慢のミルクティーを楽しんでいた。そうしていたら一体どこでかぎつけてきたのか、はやてとヴィータとリインちゃんが現れたのだ。その後はおれも含めて4人でクッキーをつまみながら駄弁っていた。2時間ほど経つと3人も自分たちの部屋に帰って行ったので、おれももう寝ようと思ったのだ。しかし、なんとなく寝つきが悪かったので夜の散歩としゃれ込もうと思ったわけだ。隣を歩いてくれる彼女でもいれば言う事なしなんだがな。

 

「お、先生じゃないっすか」

「ん? おー、ヴァイスさんじゃないか。ヴァイスさんも散歩かな」

 

 向こうから歩いてきたのは機動六課のアッシーこと、ヘリパイロットのヴァイス陸曹だ。彼の妹を以前おれが治療した時がヴァイスさんとの初対面だが、まさか機動六課で再会することになるとは思っていなかった。

 ヴァイスさんは妹のラグナちゃんを誤射してしまった時のトラウマで自身のデバイス、ストームレイダーを用いた射撃をすることが出来なくなってしまったのだ。おれも彼のトラウマを何とかしてみようと思ったことがあるが、ダメだった。おれがヴァイスさんに触れている間はストームレイダーを使うことが出来たが、おれが触れるのをやめてしまうとまた使うことが出来なくなってしまったのだ。心の病というのは本当に難しい。やはり、最強の万能薬「時間」か、最強の劇薬「必要に迫られる」に頼るしかなさそうだ。

 

「あー、俺はちょっとな。ところで、先生の方からティアナに言ってやって欲しいんすよ。おれが言ってもあまり効果は無くて」

「何かあったのか?」

 

 おれが何か注意しないといけないようなことを真面目なティアナさんがするとはちょっと思えない。一体何なのだろうか?

 

「あいつ、最近遅くまで自主練してるんだけどよ、ちょっと頑張り過ぎてるっていうかな。とにかく、先生から休憩も大切ってこと言ってやってくれませんかね?」

 

 なるほど、真面目だからこそでしたか。

 

「わかった。じゃあ差し入れでも持って行くよ」

「お願いします」

 

 そう言って、おれは部屋に置いてある差し入れにするものを取りに帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

「よう、精が出ますな」

「ハァ……ハァ……先生?」

 

 ティアナがデバイスを次々に光の球体に向ける動作をする訓練をしている。おれは訓練の区切りがよさそうなところで声を掛けることにした。

 

「こんな時間にどうしたんですか?」

「ああ、ヴァイスさんにティアナさんの様子を見てくれって頼まれてな。ほら、あそこに覗きのごとく木の上から君を観察しているヴァイスさんが居るだろ」

「……」

 

 ヴァイスさんの居る位置はここに来るまでに把握していた。そして、やっていることがやっていることだったので、ついティアナさんに教えてしまった。あっちを向いた瞬間にヴァイスさんが勢いよく木から降りて行く様子は大変面白かった。

 

「まあ、ヴァイスさんも妹がいるからな。ティアナさんのことが気になるんだろ。妹みたいで」

「私の兄は兄さんだけで十分ですよ。……色んな意味で」

 

 ティーダさんもそうとうのシスコンだからな。きっとティーダさんとヴァイスさんとクロノさんと恭也さんを一堂に集めたら妹自慢で1日が終わるに違いない。その場には絶対居たくないものだ。

 

「シスコンのことは置いといて、ティアナさん、そろそろ寝ないと明日に疲れが残っちゃうよ? 昼もいっぱい訓練してるから、もういいんじゃない?」

「あたしは、人一倍どころか3倍でも4倍でも訓練しないとみんなに追いつくことができないんですよ」

 

 ティアナさんは努力をすることが出来るんだな。おれだったら「そこそこでいいや」とか言って妥協するところだ。こんなことだから前世で2浪してるんだよなぁ……

 

「そうか……ティアナさんはすごいな」

「い、いいえ! そんなことありません。でも、こうして訓練をすることによって自分が強くなれていることが分かったので楽しくなっちゃって。それに、もう少しで何かが掴めるような気がしているんですよ」

 

 あー、勉強して、模試でいい結果が出るとそれが嬉しくて、楽しくてもっともっと勉強する。もっともっと勉強したから模試でもっともっといい結果が出るっていうあれか。そんなサイクルに嵌まった経験はおれには無いがな!

 

「なるほどねー。その感じだと、ティアナさんはまだまだ強くなれそうだね」

「そ、そうですか?」

「でも、もう今日は寝なさい。早く寝ないと六課のアッシーこと、六課のシスコンにずっと見られちゃうよ?」

「……今日はもう休もうと思います」

 

 それが良いと思います。

 ティアナさんは傍に置いていた訓練用の道具などを片付け始める。

 

「では先生、失礼します」

「あ、ちょっと待って」

 

 ティアナさんが自分の部屋に帰ろうとするのを引き留め、おれが自分の部屋から持ってきた差し入れを渡すことにする。

 

「これ、差し入れな。おれ印のエナジードリンクだ。疲れ、眠気、病気、その他諸々の体の不調をふっとばし、体調を万全に整える自信作だ」

 

 おれが作ったわけじゃないけど。

 

「注意事項として、寝る前には飲まない方が良いぞ。寝れなくなるから。明日の朝起きてから飲むと良い。そうすれば、明日の訓練に疲労を持ち込むことなくこなせるから」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

「はい、おやすみ」

 

 おれからエナドレを受け取ったティアナさんは自分の部屋へと戻っていく。

 

「さて、おれも散歩でいい具合に疲労感が溜まってきたことだし、寝ることにしよう」

 

 おれも六課の宿舎の自分の部屋に向かうことにする。

 すると、向こうからヴァイスさんが小走りでこちらに向かってくる。

 

「ちょっと先生! 酷いじゃないですか! なんで俺のことティアナに話したんっすか。あそこは俺の存在は隠して、先生がティアナのことを心配する場面でしょ!?」

「大丈夫だってヴァイスさん。ちゃんと、ヴァイスさんがティアナさんのことを妹として心配しているって言っておいたから」

「ちょっ!? 何も大丈夫じゃないですよ!」

 

 こうして、なんの問題も無くおれは今日は寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「先生に注意されちゃったな」

 

 あたしは部屋に戻りながら一人つぶやく。

 

「それにしても……ヴァイス陸曹……」

 

 ヘリパイロットの彼との付き合い方を少し考え直す必要があるのかもしれない。

 それはそれとして、このエナジードリンク……何なんだろう? ただのエナジードリンクが病気まで治しちゃうってどういうことなのだろう。一体なにでできているのか大変気になる。先生がくれたものだから疑っているわけではないが、なんとなく飲むのが躊躇われる。

 ちなみに、ここでの「疑う」はこのエナドレの効果のほどではなく、果たして体内に取り込んで良いものなのかという事だ。

 

「とりあえず、明日起きてしんどかったら飲もう」

 

 そう結論付けて、あたしも寝ることにした。

 先生からもらったエナドレにスバルも興味を示していたようだったので、今度先生にもらえばいいと言っておいた。

 

 

 




追記

次の話は話の都合上邪魔になってしまったので削除させてもらいました。


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休日と護衛と64話

##この話は修正されました##


「へー、じゃあ今日はフォワード陣はお休みなんだな」

「せやで。あの子たち、ここに配属されてからずっと訓練訓練出動訓練やったからな。息抜きは大切や」

 

 おれは部隊長室ではやてとなんてことない世間話をしているところだ。

 ……よし、この流れならいける!

 

「じゃあおれも有給とって息抜きしようかな」

 

 そう言いながらはやてに有給休暇申請用紙を差し出す。

 

「却下や」

 

 差し出された用紙をスムーズな流れで破り棄てやがった。

 

「なんてことするんだ。紙を破り捨てるなんて資源の無駄じゃないか」

 

 おれはもう一枚の申請用紙をはやてに差し出す。

 

「そう思うなら用紙こっちに渡すのやめーや。それと時間も無駄にしとるで」

 

 受け取った瞬間にぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に投げ入れられてしまう。

 

「いやほら、フランクルだって余暇によって人生を意味あるものにすることが出来るって言ってたじゃん?」

 

 最後の申請用紙をはやてに差し出す。

 

「フランクルさんは自分のできることをやれる範囲でこなすことでも人生を意味あるものにできるとも言っとったやろ。良いから働け」

 

 最後の申請用紙も無残に散り散りにされてしまう。そして、おれの大学受験用付け焼刃の倫理の知識にしっかりついてこられるあたり、流石である。文学少女の名は伊達ではないという事か。

 

「はやて~頼むよ~」

「だめったらだめ」

 

 ちぇー

 

「主、失礼します」

「どうぞー」

 

 そんなやり取りをしていると、部隊長室の扉の外側からリインさんの声が聞こえてきた。リインさんの管理局での立場はリインちゃんとは違い、はやて個人の戦力とされている。そのため、管理局の位は持っていない。ザフィーラさんと同じようなものだ。

 

「高町から書類を預かって参りました。ん? 公輝もいたのか」

「おう、はやてがお休みくれなくて困ってるんだ」

「ハムテルくんは休み過ぎやで」

 

 いやいや気の所為だって。確かに人より有給の数は多いけど毎日休んでるわけじゃないし。

 

「休みですか……主も偶にはお休みになってはどうでしょう? ここの所働きづめではないですか」

「え? 私は大丈夫や」

「またまた~なのはさんみたいなこと言っちゃって」

 

 おれの周りの女性は強がりさんばかりで困ったものだ。いや、実際強いんだけどね。

 

「でも仕事が……」

「ロングアーチの人達に協力を要請しますから」

「ある程度階級の高い人やないとできん仕事もあるから……」

「そこに暇してる二佐殿がいるじゃないですか」

 

 ……おれ!? おれに書類仕事をやれというのか! ミスが多発しても知らんぞ!

 

「うーん、でもやなー……」

 

 なおも渋るはやて。確かに、部隊長と言う立場は責任ある重大な役職ではあるが、無休と言うわけではあるまい。はやても少しくらい休むべきだとおれも思う。

 

「はやて、休息も重要だぞ」

「ハムテルくんに言われると説得力があるような無いような感じやな」

 

 それはおれが有給取りまくってることを皮肉っているのか? それともおれの能力のことを言っているのか?

 まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえず、肉体的な疲労だけならおれが何とでもしてやることが出来るが、精神的な物は難しい。やはり、休息は必要だろう。

 

「もう……分かった。ほんなら、今日一日休みもらおうかな」

「そうしてください。私は皆に仕事を代わってもらうようお願いに行きますので同行できません。ですので、公輝を護衛として連れて行ってください」

「護衛なんていらんと思うんやけどな」

「備えあればなんとやらです」

 

 あのー、本人抜きで話進めるのやめてもらえませんかねぇ。別にいいけど。

 

「じゃあちょっと準備するから六課の入り口で待っとってや」

「へいへい」

 

 こうして、今日の休暇ははやてと一緒に過ごすこととなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 はやての指定した場所に向かってみるとそこには、エリオくん、キャロちゃん、そして、二人を送り出そうとしているフェイトさんが居た。

 

「おーでかーけでーすか?」

 

 レ~レレ~のレ~っと。

 

「あ、マサキ。うん、二人が街に行くの」

「公輝先生、こんにちは!」

「こんにちは!」

「はい、こんにちは」

 

 エリオくんとキャロちゃんに元気にあいさつしてもらう。こうやって先生って言われながら挨拶されると、おれが小学校の先生になったみたいだ。なかなか嬉しく思う。小学校の教員というのもいいものかもしれないな。

 

 まったく、小学生はゲフンゲフン

 

「フェイトさんは行かないのか?」

「私は仕事が残ってるから」

「フェイトさんも息抜きした方が良いぞ?」

「うん、考えとくよ」

 

 ああ、この人も自分では休み取らないタイプってはっきりわかるな。

 

「ちゃんと休めよ」

 

 おれはそう言いながらフェイトさんの肩にポンと手を置く。

 

「うん、ありがとう」

 

 本当に困った奴等が多いこと。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきますね、フェイトさん」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてな」

 

 そう言い残してキャロちゃんとエリオくんの二人は街の方へと向かっていった。

 

「そういえば、マサキもどこか行くの?」

 

 フェイトさんはおれが持ってきた自転車を一瞥して尋ねてくる。

 

「これから休暇を兼ねたはやての休暇の護衛だ」

「それってつまり……デート?」

 

 デート……

 その発想はなかったな。確かに、女の子のショッピングに一緒に行けばそれはデートなんじゃないか? あれ? いや、何か違う気がする。デートだったら付いて行くだけでなく、おれも楽しまなければいけないのか。果たして護衛中に楽しむことが出来るだろうか? 答えは否。ならば、これはデートではないのだろう。

 

「たぶん違うと思う」

「えー……まあ、楽しんできてね」

 

 たぶんおれは無理だろうけどな。

 

 それだけ言うとフェイトさんは隊舎に戻って行った。

 

「おーい、ハムテルくん待たせたね」

「いや、そうでもないさ」

 

 現れたはやての姿はさっきまでの機動六課の制服ではなく、私服だ。白のブラウスに黒のミドルスカートというシンプルだがかわいらしい服装だ。

 

「ほな、行こか……って、なんやのそのママチャリ」

「おれの愛車、ブラックイーグル号だ。はやく後ろに乗れ」

「どう見ても銀色なんやけど、そのネーミングはネタか? ネタなんやな」

 

 見事なセミアップハンドル、前にはカゴ、後ろにはダンボールなどを運ぶときに便利な荷台。そして、全体は鈍く銀色に輝くステンレス製。ミッドのホームセンターでイチキュッパで買ったおれの愛車だ。

 ちなみに、ミッドでは自転車の二人乗りは禁止されていないので問題はない。

 

「もうちょっと他に無かったん? 大型バイクとか」

「何を言ってるんだはやて。おれは免許を持っていない」

 

 地球はもちろん、ミッドでも自動車、自動二輪に乗る場合は免許が必要だ。しかし、おれは免許を取っていないので中距離の移動は決まってこのブラックイーグル号だ。

 

「まあええけどな」

 

 そう言ってはやてはクッションを巻き付けてある荷台にまたがり、おれの腰に手を回してくる。

 

「ほんなら、ミッドの市街地まで全速力や!」

「おっしゃ!」

 

 おれは三速しかないギアを巧みに使いながらミッドの市街地に向けて走り出した。



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アイスとシラミと65話

すいません、どうしても先の話を書くにあたって旧74話の内容が邪魔をしてしまうので、無かったことにさせてもらいました。
自分で書いててひどいもんです。

なので、ティアには順調に行ってもらうことにしましょう。

##この話は修正されました##


「お客さん、着きましたぜ」

「うむ、ご苦労や」

 

 おれは自転車を止めて、はやてに自転車から降りるように促す。はやてもその意をくみ取ったようで、自転車から降りる。

 

「それにしても乗り心地わっるいなー。これを機会に免許取って車でも買ったらどうや?」

「嫌だ! おれは前世で車の免許を取ろうとしたんだぞ」

「ほう?」

 

 はやてはおれの話を意外そうにしながら聞いている。

 

「そして、見事免許の試験に受かったおれは決めたんだ……」

「何をや?」

 

 何を? そんなの決まっている。

 

「もう絶対に車は運転しないというを事だ」

「……そうかい」

 

 何だその呆れたような顔は! 車の運転って怖いんだぞ! 周りの人は技能研修の中盤頃には運転に慣れて楽しくなるって言ってたけど、そんなこと全く無かったわ! 卒業試験のその日までビクビクしながら乗ってたわ!

 

「まあ、それは置いといて。はよ行こ」

「そうしよ」  

 

 ミッドの歩道は大きいため、自転車を押しながら歩くことが可能だ。ミッドチルダの街並みは現代日本の都会とそう変わることは無い。

 

「しかし、科学技術はこっちの方が発達してるだろうに、街並みってものは大して変わらないな」

「ん? なんや突然」

「ほら、100年後の未来とか想像しなかったか? 科学が今よりすごい発達して、空を飛んだりチューブの中を走る車とか、今の感覚で考えたら異様な服装とか。そういうのを想像してたんだが、期待外れだなーってさ」

 

 ミッドチルダの科学技術は地球のものを超えている。次元航行を行う技術がその最たる例だろう。つまり、ミッドは地球の未来の姿の様に考えていたのだ。しかし、ミッドの車は地上を走るし、街行く人々の服装はおれの感覚からして何の違和感もない。このあたりが人の到達できる限界なのだろうか? なんて考えてしまう。

 

「なんやのその昔の未来予想図。ハムテルくん年いくつやねん。おっさんかいな」

「誰がおっさんだ! 誰が!」

 

 バカな……おれの未来予想が古い……だと……おれってもうおっさんだたのか……

 あれ? じゃあそのイメージを知ってるはやては……

 

 ……

 

 そういう訳で、おれはブラックイーグル号をお供にしながらはやての付き添いをすることにする。

 

「で、どこ行くんだ? 服でも見るか? それとも映画? もしくはゲーセンで時間つぶすか」

「んーそうやなー……」

 

 おれが聞くとはやては考え込んでしまう。これはもしかすると……

 

「仕事のし過ぎで遊びを忘れたか?」

「んなアホな。なのはちゃんとフェイトちゃんやないんやで」

  

 今はやて、さらっとなのはさんとフェイトさんの事バカにしなかったか?

 

「きっと二人は二回くしゃみをしていることだろうな」

「ん? なんで二回なんや?」

 

 はやてがおれの言ったことに疑問を持ったようだ。では、お答えしようじゃないか。

 

「一褒め二腐し三惚れ四風邪って言って、くしゃみが一回なら誰かが自分を褒めて、二回なら悪口、三回なら恋バナの対象、四回ならただの風邪ってやつさ」

「へー、って私は別に悪口言ったわけやないで。あの二人は仕事熱心って遠まわしに褒めたんや」

 

 いやいやいや……直接褒めろよ。まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「で、結局どこに行くんだ?」

 

 おれはこれからの目標の話に戻す。

 

「決まったで。ウインドウショッピングをしながら面白そうな店に入ることにしよか」

 

 結局決まらなかったようだ。はやてもあの二人のことをバカにできないな。

 

「くしゅん……へっくしょい!」

 

 おやおや。

 

 ていうか、はやてよ、くしゃみの仕方についてもう一度考えるべきだと思う。

 

「……ハムテルくんハムテルくん、そこにアイス屋があるで?」

「そうだな、あるな」

 

 盛大にくしゃみをした拍子に少し出た鼻水を誤魔化しながらはやてが言ってくる。

 

「今日は暑いし、食べたら美味しいやろな」

「……何味がいい?」

「抹茶で頼むわ」

 

 はやての無言の圧力(何も言わないとは言っていない)によって、おれははやてにアイスを買わざるを得なくなってしまった。まあ、ここでおれが甲斐性無しではないことを見せつけようじゃないか。

 

「抹茶アイス二つください」

「ありがとうございます!」

 

 アイス屋の兄ちゃんにおれとはやての分のアイスを注文する。

 

「お兄さんお兄さん」

「はい?」

 

 注文したアイスを待っていると、アイスを作りながら店員の兄ちゃんが話しかけて来た。

 

「お兄さんの彼女、管理局の八神はやてさんじゃないですか?」

 

 どうやら店員ははやての事を知っているようだ。

 管理局は言ってしまえば公務員であり、非常に安定した収入を得られる素晴らしい職場である。しかし、広い管理世界全体に対応するためにはどうしても人手が足りない。また、武装局員となるとさらに話は難しくなる。武装局員になるにはまず魔法が使えると言う適性が必要。そして、怪我をする可能性がある非常に危険な仕事である。そういった理由で武装局員の志望者は大変少ない。そういうわけで、管理局は事務員から武装局員まで募集をかけっぱなしだ。

 人々が管理局という職に興味を持ってもらうために、イメージ戦略としてやり手で美人の女性局員や頑強でイケメンな男性局員をメディアや雑誌で積極的に露出しているのである。

 

「ほ、本物なら是非サインをお願いしたいんですが?」

 

 そして、最近人気を博しているやり手で美人な女性局員と言うのが、なのはさん、フェイトさん、はやての三人娘なのである。非常に驚きである。非常に驚きである。

 つまり、彼女達はある種の有名人なのである。そんな人が街中を歩いており、アイドル視している人が見るとどうなるか?

 

「お願いします!」

 

 当然こうなる。

 

「よく似てるでしょ? 残念ながらあいつはアイスをおれに買わせるただのたぬきですよ」

「そうですか……本当によく似てますね」

 

 可哀想ではあるが、店員さんには我慢してもらおう。こういうことは一度やってしまうと俺も俺も! となってしまうからな。はやての休暇もぱあになってしまう。

 

「はい、抹茶アイス二つ」

「どうも」

 

 おれは店員からアイスを受け取りはやての方へ戻ることにする。

 

「なんや、さっきすごい失礼なこと言ってへんかったか?」

「気のせいさ。はい、アイス」

 

 そう、全ては気のせいなのさ。

 おれははやてにアイスを渡し、おれ自身もアイスを食べ始める。

 

「うーん、やっぱり買い食いは特別な美味しさがあるなぁ」

「小中学生が禁止されるくらいには禁断の味なんだろうな」

 

 バニラ、チョコ、ストロベリー……アイスの味は沢山あるが、やはり抹茶が一番美味い。異論は認める。それを分かってるはやては流石だ。

 

「で、何か買いたいものとか思いついたか?」

「無いな」

 

 この調子である。ここに来るまで、服屋、ジュエリーショップ、鞄屋、帽子屋と、様々な店の前を通り、それぞれの店が客を引き込むためのサンプルの前を通ったわけだ。しかし、はやてはそれらに興味は示すものの、買おうとすることは一度もなかった。

 この娘、本当に大丈夫だろうか……

 

「欲しいもんも特にないし、ゲーセンでも行こか」

「ん、了解。……あ、そうだ」

 

 おれは自分がかぶっている麦わら帽子をはやてにかぶせる。

 

「これで面倒な事にはならないだろ」

 

 変装と言うわけではないが、麦わら帽子だけで印象は大分変るはずだ。人と言うのは特定の人物をある特徴から判断することが多い。その特徴を隠してしまえばその人だと認識することが難しくなる。

 

「ん? まあええけど。シラミが移るやん」

 

 そう言うこと言うなよ。いねーよ、シラミ。清潔だよ。

 

 ……たぶん

 

 

 

 

 

 おれ達はミッドの街を周り、色々な店をひやかしていった。

 

 そんな時、エリオ君から全体通信が来た。

 

 

 



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幼女と追手と66話と非日常

ナンバーズの稼働時期とか固有装備を使ってる時期がグチャグチャだけど仕方ないね。

##この話は修正されました##

追記

後の話と矛盾が生じてしまう部分があるので、修正しました。
ヴィヴィオは気絶していないことになりました。


「あ! 先生! ……って八神司令!?」

「八神司令!?」

 

 現場に到着したおれ達に気付いたエリオくんが、はやてもこの場にいることに驚いている。その声を聞いてキャロちゃん、スバルさん、ティアナさんが慌てた様子ではやてに敬礼する。

 

「ええよええよ。で、状況はどうなっとるん?」

 

 エリオくんによると、幼い少女がレリックの入ったケースを引きずりながら地下から出て来たというのだ。しかし、その幼女はエリオくんに発見されるや否や倒れてしまったそうだ。気絶こそしていないが、意識がもうろうとしている状態だ。

 

「よしよし、先生に任せなさい」

 

 おれはキャロちゃんに抱かれている幼女に近づき、撫でてあげる。け、決してやましい気持を持ちながら幼女に接しているわけではないぞ!

持ってないぞ!

 

「う、うーん……」

 

 お、幼女の意識がはっきりしてきた。

 

「ここ……は……おじさん……誰?」

 

 ん? おじさん? はて、今この場におじさんと言われるような年齢の人物はいないと思うのだが。

 

「ハムテルくん、現実を受け入れるんや……プププ」

 

 おかしいな。はやての言い様だとおじさんと呼ばれているのがおれみたいじゃないか。おれはまだピチピチの19歳だぞ。おじさんと呼ばれるのではなくお兄さんと呼ばれてしかるべき年齢だろう。

 

「おじさんではない! おれはまだおじさんではない!」

「ふぇ……」

 

 いかん! 幼女を怯えさせてしまった! 

 

「だめやで、ハムテルくん。ごめんな、このおじさんが怖い声だしてもて。君、名前はなんて言うん? 私は八神はやて。こっちのおじさんはハムテルくん」

「ぐぬぬ……」

 

 はやてよ、さっきからおじさんおじさんうるさいぞ。おれはまだおじさんではない! しかし、さっき幼女を怖がらせてしまった手前、何も言えない。また怖がらせてしまいそうだ。

 

「……ヴィヴィオ……」

「そうか、ヴィヴィオちゃん言うんか。よろしゅうな」

 

 幼女の名前はヴィヴィオちゃんと言うらしい。それにしても、ヴィヴィオちゃんの服はボロ布と言っても言い様なものだ。一体彼女に何があったのだろう?

 

「八神司令、この子に繋がれている鎖の様子からレリックの入ったケースはもう一個あったようです。あたし達はこれからその捜索に向かおうと思います」

「そうやな、もしまだレリックがあるようならガジェットが街中に出てくる可能性もあるしな。レリックの捜索頼んだで」

「はい」

 

 ティアナさんとはやてがこれからの行動について話しているようだ。それじゃ、次はヴィヴィオちゃんをどうするかだな。

 

「ヴィヴィオちゃんはどうする? 病院に連れていくか?」

「何言うてんねん。ここに動く病院がおるやん」

 

 ああ、おれのことですね。わかります。

 

「一旦六課に連れて行こか。ちょっと気になることもあるしな」

 

 はやてはヴィヴィオちゃんに思い当るところがあるようだ。素人のおれが見ても、ヴィヴィオちゃんは何らかの事件に関わっているとわかる。その道のプロのはやてなら、おれ以上の事を考えているに違いない。

 

「うーん、今からヴァイスくんにヘリの準備をして来てもらうより、自分で行った方が早いな。と言うわけで、アッシーくん頼んだで」

 

 おれのことですね。わかります。

 

「でっていうー」

 

 とりあえず、了承と答えておこう。

 

「それでは、八神司令、マサキ先生、お気を付けください」

「みんなも気を付けるんやで」

「はい」

 

 そう言ってフォワードのみんなはヴィヴィオちゃんが出て来たであろうマンホールから地下へ向かって行った。

 

「ほんなら、私達も行こか」

 

 はやてはそう言って、抱えていたヴィヴィオちゃんを自転車のかごに乗せ、はやて自身も即席の後部座席に座った。

 

「おいおいおい、大丈夫なのかこれは」

「しゃーないやん、そこしか空いてないんやから」

「こんなことするならヴァイスさん呼べばいいのに。ヴィヴィオちゃんだって怖がって……」

「おじさん! おじさん! 早く行こうよ!」

 

 うっそ! めっちゃ喜んでる!?

 目までキラキラさせちゃって。そこってそんなにいい席だっけ?

 

「わかったわかった。二人ともしっかり掴まってるんだぞ」

「「はーい」」

 

 本当に大丈夫なのだろうか……

 

 おれは出だしでわずかにふらつきながらいつも以上に思いペダルを必死にこいで行った。

 

 

 

 

 

 

「気持ち良い~」

 

 自転車の籠に収まっているヴィヴィオちゃんは風を切りながら走るのを楽しんでいるようだ。

 さっきまで気を失っていたとは思えないくらい生き生きとしているヴィヴィオちゃん。彼女の適応能力はすさまじいな。

 

「ん? ……!? ハムテルくん! 後ろから追いかけてきてる奴がおるで!」

「何!?」

 

 首を回して後方を見てみると、宙に浮かぶボードに乗りこちらのスピード以上の速さで追いかけてくる人物を見ることができた。

 

「な、なんだありゃ!」

「ハムテルくん、スピードアップや!」

 

 おれははやてに言われるまでもなく、ペダルを踏む足の力をさらに強くする。 

 さっき見たボードの上の人物は赤い髪の女性の様だった。何故、女性と分かったのかと言うと、彼女が来ている全身タイツ的なサムシングの所為で体のラインがまるわかりだからだ。すばらけしからん。

 しかし、正体を隠すためのマスクのせいで顔は詳しくはわからなかった。あの目元を隠すマスク……まさか、UMRさんか!? ……そんなわけはないか。とにかく、彼女が誰だか全く分からない!

 

「待つッス! その女の子をこっちに渡すッス!」

 

 どうやら追手の目的はヴィヴィオちゃんらしい。一体ヴィヴィオちゃんは何者なのだろうか?

 

「そんなん言われて渡すアホはおらへんで!」

 

 後ろに座っているはやてが追手を煽る。

 

「そう言うことならこっちも容赦しないッスよ!」

「ハムテルくん! 右にハンドル切り!」

 

 はやてが突然そう言ってきた。はやての言うとおりにハンドルを右に切ると、さっきまで走っていたコースに魔力弾が着弾する。こえー。

 どうやら追手がおれ達に向けて魔力弾を放ってきたようだ。

 うわー、はやての煽りの所為で追手が容赦しなくなっちゃったじゃないか!

 

「次は当てるッスよー」

「キャー!!」

 

 ヴィヴィオちゃんも怖がってしまっているようだ。

 仕方ない、ならこっちも相応の対応をさせてもらおう。えーと、確かあの懐中時計は右ポケットに入ってたよな。

 

「あれ、こっちはハンカチだった……って、あー! ハンカチー!」

 

 手が滑って取りだしたハンカチを落としてしまった。お気に入りのハンカチだったんだけどなぁ……

 とりあえず、おれは改めて時計を取りだそうとする。正しい場所は左のポケットだった。

 

「ギャー!! なんッスかこれ! 前が見えない……フギャ!!」

 

 ん? なんだ今の猫が踏まれたような声は。

 

「さすがハムテルくんや。私にできないことを平然とやってのけるな」

「おじさんすっごーい!」

 

 なんのことだ。それにいつの間にか後ろを猛追していたマスクド少女オンボードもいなくなってるし。まあ、結果オーライだな。折角時計出したのに出し損だよ。

 

「ハムテルくん、またさっきみたいな奴が来るかもしれんから、気をつけて」

「わかった」

 

 おれは周りに注意を払いながら六課への道を急ぐ。

 

 

 




一体何ンディなんだ!


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怪我猫と500円と67話

##この話は修正されました##


 

 

「うっふっふー……もうすぐあいつ等と陛下がここを通るわ」

 

 今回のドクターからの命令は陛下を連れてくること。だけど、周りの人は極力傷つけちゃいけないっていう難しい条件付き。

 

「極力傷は付けないけど、不慮の事故ってあるわよねぇ。事故なら仕方ないわよねぇ? ディエチちゃん」

「意図的に起こす事故は事故とは言わない」

 

 もう、かわいくない子ね。事故って言ったら事故なのよ。これであのいけすかない医者をギャフンと言わせることができるわ。思い起こせば初めて会ったときから気に食わない奴だったわ。初対面で人の事をおばさん呼ばわりしてくれちゃって。

 

「奴らは自転車で移動しているわ。だ・か・ら、この画鋲を進路上にばら撒いておきましょう」

「陰険」

「お黙り、ディエチちゃん」

 

 この画鋲を踏みつけた自転車はパンクする事は必至。きっとあいつはパンクの所為でハンドルを取られるはず。でも、あからさまに画鋲がばら撒かれていたら誰だって避ける。それをさせないためには工夫が必要。

 

「そ・こ・で、私の先天固有技能(インヒュレントスキル)幻惑の銀幕(シルバーカーテン)で画鋲を見えなくしてしまいましょう」

 

 これで普通の人間には画鋲があるはずの場所は何もないように見える。

 

「こすい」

「ちょっと! こすいって何よ、こすいって。そこは賢いって言いなさいな」

 

 最近ディエチちゃんがかわいくなくて困っちゃうわ~。

 

「そしてそして、あいつがハンドルを取られて慌てふためく顔を、このドクター謹製超高解像度カメラで保存してしまいましょうか」

 

 この写真をミッドの匿名掲示板に投稿するのも良いわね。そうしましょう。

 

「その位置はちょっと近すぎない?」

「いいのよ、ディエチちゃん。折角だから私の目であいつのアホ面を見て大笑いしてやるから」

 

 私自身も幻惑の銀幕(シルバーカーテン)を使って姿を消し、カメラを構えて配置に着く。場所は画鋲を設置した場所から少し離れた位置。あいつ等が来る真正面だ。

 

「奸悪」

「はいはい、私は奸悪ですよ」

 

 ……奸悪ってどういう意味?

 

 それに、あり得ないとは思うけど、万が一、いや、億が一失敗したらトーレ姉さまがバックアップに回ってくださる。気楽にあいつを痛めつけてやりましょう。ふふふ……

 

「ふふふ……あーはっはっはっは!! ほら、ディエチちゃんも私の指示通りにしなさい」

「はぁ……」

 

 この私、クアットロの完璧な作戦に度肝を抜かれるといいわ!

 

 

 

 

 

 

 ボード少女の追跡を振り切ったらおれ達は今のところ何の問題もなく六課へ続いている道を走っている。

 

「油断したらあかんでハムテルくん。まだ、何があるかわからんからな」

「わかってるって」

 

 さっきのボード少女の首元にローマ数字の11が見えた。あれが意味のある数字だとしたら、少なくとも彼女の様なのが11人いることになる。気を付けるに越したことはないだろう。

 

「!! アカン! これはアカンで! ハムテルくん! 急いでこの道から外れるんや! すぐそこの曲がり角を曲がって!」

「お、おう!」

 

 はやてがいつになく慌てたような声でおれに指示を出してくる。おれ達がさっきまで走っていた道を外れて路地に入って数秒後、

 

 ゴン太ビームが通り過ぎて行った。

 

「な、なんだ……ありゃ……」

「びっくりー……」

「私の感覚で、魔力Sランク以上の砲撃や。あんなんに当たったらただじゃすまへんで」

 

 そんなにやばいものだったのか。身近にあれに近いことを平然とやってのける人物がいるからどれくらいすごいのかってことを知らなかったぜ。

 

「さっきの道に戻るのは危険やな。まだ射手が狙うとるかもしれへん」

「ここの道も把握してるから問題はないぞ」

 

 おれは今まで以上に周りに注意を払いながら道を進んでいく。

 

「!?」

 

 突然物陰から野良猫が出て来たのだ。

 このままのスピードで進んでいたら野良猫を轢いてしまう。おれは例え野生動物だろうと無闇に傷つけたくはない。

 いつも以上に注意を払っていたおれだからこそ反応することができた。急ハンドル切るとバランスを崩し、後ろに座っているはやてや籠に乗っているヴィヴィオちゃんに危険が及んでしまう。そのため、急ブレーキをかけることにした。ただ急ブレーキをするのではなく、体重移動を利用し、自転車の向きを進行方向に対して垂直になるようにする。こうすることでさらに強い摩擦がかかって止まるはずだ。

 

「にゃー!!」

「な、なんや!?」

 

 ブレーキによって回転を止めた車輪が地面をこすることによって、土ぼこりを巻き上げ、ジャリジャリと凄い音を鳴らす。

 そんな状態がほんの数秒続くと、自転車は止まった。

 

「あ、危なかった……」

 

 どうやら猫は足を怪我をしているようで、すぐさま逃げることができなかったようだ。健康な猫だったら猫自身が避けていたかもしれないが、この子の場合は無理だっただろう。

 

「なるほど、そういうことかいな。流石やな」

「おじさん、えらい!」

 

 はやてとヴィヴィオちゃんも状況を察したようで、おれを称賛してくれる。照れちゃうじゃないか。

 おれは一度自転車から降りて、猫をしばらく撫でてやる。すると、怪我は治った様で、おれの指をペロペロなめてくる。猫の舌の感触って独特だよなぁ……

 

「って、和んでる場合じゃない。じゃあな、猫よ。もう怪我するなよ」

「バイバイねこさーん」

 

 そういえば、さっき何か恐ろしいものが自分めがけて飛んで来た時のような悲鳴が聞こえたような気がしたのだが、気のせいだったろうか? 気のせいじゃなければきっとゴキブリが飛んできたに違いない。

 

 怪我をしていた猫に別れを告げ、再び六課へ向かう。

 

 

 

 

「!?」

 

 おれはさっきのような急ブレーキではないが、ブレーキを引いて、自転車を止める。

 いつも以上に注意を払っていたおれだからこそ反応することができた。

 

「500円(相当)玉落ちてるじゃん!! ひゃっほーい!」

「ハムテルくん……」

「おじさん……」

 

 なんだ、その呆れたような目は。500円玉だぞ、500円玉。自転車を止めて拾うレベルの落し物だろ。

 

「はよ自転車こぎーや」

「へいへい」

 

 おれははやてに注意されてしまったので、返事をして再び自転車をこぎ始める。

 

 おい、はやて。さっきおれが拾った500円玉を入れた右ポケットをあさるのをやめなさい。

 

 そういえば、さっき自転車を止めた時、新幹線が通過するホームに立っている時に感じる様な突風が起こったのはびっくりしたな。ミッドはビル街だし、ビル風が吹いたのかな?

 

 

 

 その後、おれ達は問題なく六課に到着することができた。

 

 

 

 

 

 

「うんうん、ディエチちゃんは上手くやった様ね」

 

 ディエチちゃんの砲撃によってあいつらをこちら側へ誘導することができた。後はここで待機してるだけで、おもしろ画像が撮れるってわけね。

 

「さあ、いらっしゃい」

 

 私はカメラを構えてシャッターチャンスを待つ。

 

「ん?」

 

 なぜかあいつは画鋲のトラップの前で急停止した。

 

「なんで? まさかトラップを見抜かれ……って、イヤアアアァァァァァ!!」

 

 普通の人間には何も見えないだろうが、私の眼にはこのように見えている。

 無数の画鋲が私の方に向かって飛んで来ている。どうやら、あいつが急ブレーキをかけることで、その衝撃によって画鋲が飛ばされたようだ。

 戦闘機人の見え過ぎる眼は状況を事細かに把握することができる。尖った針の部分を私の方に向けて飛んでくる画鋲がいくつもあると言う状況を。

 しかし、戦闘機人だからこそ、その状況を回避するため、体が反応することができる。

 

「ち、ちょっと怖かったわね……」

 

 飛んできた画鋲を回避して、息を整える。

 

「って、あれ!? いつの間にか居なくなってるじゃない!」

 

 ハッ! まさか、あいつは私の目をそらすために私のトラップを利用したと言うの? これを狙って……ムカツクー!

 でも、トーレ姉さまが何とかしてくれるはず。……後で叱られるかもしれないけど……

 

 そう思い、行ってしまったあいつ等を探すと、少し先の方で見つけることができた。そこはトーレ姉さまが攻撃を仕掛けようと狙っている場所。これで作戦は完了ね!

 

 ゴスッ

 

 言葉で表すとそんな音だろうか? いや、こんな生易しい音ではない。文字であらわすのは不可能な、音を聞くだけですっごい痛いことが伝わってくるような、そんな音が鳴り響いた。

 

「ト、トーレ姉さまー!」

「うっ……痛い……マサキ医師は中々やるようだ……」

 

 信じられないことだが、あいつはトーレ姉さまが突っ込んできた瞬間に自転車を止め、姉さまの攻撃を回避したのだ。姉さまの高速機動(ライドインパルス)を見切ったなんて……

 そうこうしているうちにあいつ等は行ってしまい、完全に見失ってしまった。

 

「作戦……失敗しちゃった……」

 

 あいつにひと泡吹かせることもできず、ドクターに頼まれた事もできず。

 

「次は絶対泣かしてやるんだから~!」

 

 とりあえず、今日はビルに突っ込んだ痛みの所為で涙目になってるトーレ姉さまを見ることができたからよしとしましょう。

 

 

 




一体何ットロと何エチと何ーレなんだ…


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ヴィヴィオとAAと68話

原点回帰

##この話は修正されました##


 

 

 

 ヴィヴィオちゃんを保護した次の日。

 六課に連れて行かれたヴィヴィオちゃんは色々あって聖王教会で引き取ることになった。と、思いきや、なのはさんに付いて再び六課に来ることになった。ヴィヴィオちゃんからすると迷惑極まりない。

 そういう訳で、休憩時間に入ったおれはヴィヴィオちゃんと遊ぶべく、レクリエーションルームに向かっている。あのくらいの子と遊ぶのは大変ではあるが、独特のセンスと感覚で一緒に居るとおもしろいんだよな。

 そんなことを考えながらおれは部屋の扉をくぐる。

 

「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁん!!!!やあああああだあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「おーっす……って、何事!?」

 

 部屋に入って飛び込んできたのはヴィヴィオちゃんの泣き叫ぶ声だ。部屋の扉を開けるまで全く気が付かなかったぞ。うむ、六課の防音設備はすばらしいな。

 六課の壁に感心しつつ、おれは状況を把握する作業に努める。

 

 何やら困惑している様子のスターズとおろおろしているライトニングの面々。

 ヴィヴィオちゃんをどうにかしようとしているなのはさん。

 そして、泣き叫ぶヴィヴィオちゃん。

 この状況から導き出される答えは……

 

「なのはさん! いくらなんでもこんな人目のある場所で幼女誘拐はマズいよ! みんなも、上官だろうと間違いは間違いとしっかり指摘しないと!」

「ちょっと待って、公輝くん! それはとてつもない誤解だよ!」

 

 嘘だ! 犯罪者はみんなそう言うってはやてが言ってたぞ!

 

「なにやっとるんや」

 

 そんな感じでグダグダしていると、おれの後ろからはやてとフェイトさんがやって来た。

 なにやらフェイトさんとなのはさんが視線を交わしあったと思ったら、フェイトさんがヴィヴィオちゃんの方に向かってヴィヴィオちゃんをなだめ始めた。

 

「はやて、なのはさんがフェイトさんと協力してヴィヴィオちゃんを連れ去ろうとしてるけどいいのか?」

「はぁ?」

「誤解だって!」

「えっ」

 

 はやてには「お前は何を言っているんだ」と言うような表情で見られ、なのはさんは無罪を主張し、フェイトさんは驚いている。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、そういうことか」

 

 何があったか知らないが、ヴィヴィオちゃんはなのはさんにとても懐いている。そんななのはさんがこれから出かけなければいけないと知って、なのはさんと一緒に居たいヴィヴィオちゃんがぐずっていたそうだ。 

 

「おれはてっきりなのはさんに誘拐されそうになってるヴィヴィオちゃんが必死に抵抗しているものかと」

「そんなわけないでしょ……」

 

 なんだか疲れた様子で返事をするなのはさん。

 

「そんでな? 私たちもちょっと出なあかんから、ハムテルくんもみんなと一緒に留守番頼むわ」

「おっけー」

 

 元々おれはヴィヴィオちゃんと遊んで和むためにここに来たので拒否する理由もない。

 

「じゃあヴィヴィオちゃん、お に い さ ん と遊ぼうか」

「うん! おじさん!」

 

 ヴィヴィオちゃんの機嫌も良くなったようだし何よりだ。ただ、一つだけ解せないことがある。

 

「ヴィヴィオちゃん、おれのことはお兄さんって呼ぼうな? お兄さんとの約束だ!」

「約束? わかった! おじさん!」

 

 うん、何も分かってないね。

 この子、光の速さで約束を破っていくスタイルか。侮れん。

 

 

 はやての笑いを押し殺しているように見せかけて、実はおれに聞こえるギリギリの大きさの声で笑っているはやての笑い声を聞きながらおれはヴィヴィオちゃんとの遊びとヴィヴィオちゃんにどうやってお兄さんと呼ばせるかという方法を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋のスライドドアが開く音が聞こえた。

 

 

「ただいま~」

「ヴィヴィオ、いい子にしてた?」

「帰ったでー」

 

 なのはさん、フェイトさん、はやてが用事を済ませて帰ってきたようだ。

 

「あ! おかえりー!」

 

 さっきまでおれと一緒に遊んでいたヴィヴィオちゃんだったが、なのはさん達の声を聴いた瞬間に飛び出していった。

 

 じゃあおれは、仕事から帰った夫風に帰って来たはやてに対して返事をしてあげよう。

 

「おかえりなさい。シーツにする? 枕にする? それとも……ふ、と、ん?」

「取りあえず寝具単品やなくて、ベッド一式よこしーや」

 

 うん、もっともな意見だと思う。

 

「ヴィヴィオは何して遊んでたの?」

「おべんきょー!」

 

 なのはさんがヴィヴィオに今まで何をしていたのか聞いている。きっと用事を済ませている間も気になっていたに違いない。

 

「よし、ヴィヴィオちゃん。みんなに成果を見せてやるか!」

「おー!」

 

 おれはヴィヴィオちゃんと勉強していた時に使っていたスケッチブックを取り出す。

 

「行くよ、ヴィヴィオちゃん」

「おっけー」

 

 スケッチブックの1ページ目をめくり、ヴィヴィオちゃんとなのはさん達にも見せるように掲げる。

 

「これは?」

「モナー!」

「これは?」

「ギコ!」

「これは?」

「しぃ!」

「これは?」

「つー!」

「流石だよな?」

「俺ら!」

「ヴィヴィオちゃん! 完璧だぜ!」

「やったー!」

 

 おれとヴィヴィオちゃんはハイタッチをして喜びを共有する。まさかしぃとつーをしっかり見分けることが出来るようになるとは……成長したな!

 

「……」

「……」

 

 テンションアゲアゲのおれとヴィヴィオちゃんとは反対に、なのはさんとフェイトさんの反応は冷たい。

 

「……あの……何の勉強してたの?」

 

 なのはさんがおれに聞いてくる。何の勉強って、そんなの決まってる。この情報社会で生き抜くために今やインターネットは必要不可欠。そのインターネットの中で広く使われている特殊記号を瞬時に理解することは、顔の見えない相手と意思疎通をする時に重要な役割を果たす。

 なんの勉強かというと……

 

「アスキーアートの勉強」

「何教えてるのおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 なのはさんの絶叫が部屋中を駆け巡る。でも、六課の壁は有能だから外に漏れることは無いだろう。

 

「流石やなハムテルくん」

 

 だろ? やっぱりはやては分かってくれたか。

 

「けどな、そのAA最近はもう使われてへんで」

「えっ」

 

 時の流れのなんと残酷なことか。

 

 

 

 ちなみに、まだヴィヴィオちゃんにお兄さんと呼ばせることはできていない。

 

 

 

 

 

 




( ´∀`)←モナー
(,,゚Д゚)←ギコ
(*゚ー゚)←しぃ
(*゚∀゚)←つー
( ´_ゝ`)←兄者 と(´<_` )←弟者 二人合わせて流石兄弟


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訓練とカードと69話

⌒*(・∀・)*⌒


##この話は修正されました##


「よし、ヴィヴィオちゃん。何して遊ぶ?」

「うーんとねー、えーっと……」

 

 今、なのはさんとフェイトさんをはじめ、いつもヴィヴィオちゃんの面倒を見ているフォワード陣は訓練を行っている。そういうわけで、今は六課の寮母をしているアイナ・トライトンさん、ヴィヴィオちゃんの護衛のザフィーラさんと共にヴィヴィオちゃんの面倒を見ているのだ。

 

「私もママ達みたいに訓練したい!」

「えっ……訓練かー」

 

 ヴィヴィオちゃんの言うママ達と言うのはなのはさんとフェイトさんのことだ。なのはさんが保護責任者で、フェイトさんが後見人をしている。

 これは特に関係ない話だが、ヴィヴィオちゃんはなのはさんとフェイトさんと一緒に寝ている。つまり、なのはさんとフェイトさんは一緒に寝ている。

 

 ……

 

 まあそれはどうでもいいか。

 そういう関係となって、ヴィヴィオちゃんはあの二人をママと呼ぶようになった。こうなってくるとおれだけおじさんと呼ばれるのが解せない。お兄さんと呼んでくれないのなら、せめてパパと呼んでくれた方が嬉しい。

 ……いや、決して社会的になのはさん達そういう関係であるかのように見せかけるために、その呼称を望んでるわけじゃないぞ? おじさんとパパだったら、パパの方が若そうな感じがするからそう呼んでほしいだけだからな?

 

 それよりも訓練か。ヴィヴィオちゃんでもできる訓練って何があるだろうか。まだ彼女はなのはさん達の様に魔法を自在に行使することは出来ないから、みんなに混ざることも出来ない。そもそも幼女にやらせるようなものではない。

 ならば、体力づくりの基礎トレーニングでもやらせるかというと、ヴィヴィオちゃんが途中で飽きる未来しか見えない。

 どうしたものか……

 

「むむむ……あっ」

 

 ヴィヴィオちゃんでもできる訓練を考えていたおれはある技術を思い出した。この技術なら必要なものはただ一つだけでいいし、できた時の達成感はきっとヴィヴィオちゃんを満足させることが出来るだろう。何より、実用的だ。

 

「よし! ヴィヴィオちゃんにはおれの必殺技を伝授するための訓練を付けてあげよう!」

「本当!」

 

 ヴィヴィオちゃんのキラキラとした視線がおれを突き刺してくる。うむうむ、この期待に満ちた視線はなんともこそばゆいな。

 

「そういう訳でアイナさん、ちょっと外に出てきますね」

「はーい。御昼までには帰ってきてくださいね」

「わかりましたー」

 

 おれは自分の部屋に行き必要な物を取りに行く。

 

 

 無事、目的の物を確保したおれはヴィヴィオちゃんに向き直る。

 

「それじゃ、ヴィヴィオちゃん。訓練に行こう!」

「おー!」

 

 おれは40枚ほどの紙束を手に、外の訓練場へ向かう。

 その間、おれはザフィーラさんに胡散臭そうなものを見るような目で見続けられた。何故だ。

 

 

 

 

 

 

 ヴィヴィオちゃんにアレを教え始めて2時間ほど経った。ヴィヴィオちゃんは飽きることなくおれが要求したことをすべてこなしていった。 

 

「……やった……やったよー!」

「やったな、ヴィヴィオちゃん! この短時間でここまで習得できるとはおれの想定以上だ!」

 

 ヴィヴィオちゃんは今おれが教えることのできるすべてを習得したのだ。これ以上を教えるとなると、おれが知っている限りでははやてに教えを乞うしかない。

 正直、ヴィヴィオちゃんの呑み込みの速さには嫉妬してしまうほどである。しかし、教えている子が出来るようになったときのこの感覚は、何とも言い難い素晴らしいものなのだな。教職を目指す人の気持ちが少しだけわかった気がする。

 

「っと、そろそろみんな終わった頃かな。なのはさん達の所に行くか。そんでもって、ママたちにできるようになったこと見せてあげような」

「うん!」

 

 おれたちはなのはさん達が訓練を行っている場所へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 みんながいる場所へ向かうと、少し離れたところに女性二人がフォワード陣を見ていた。一人はフェイトさんの補佐のシャリオ・フィニーノさんだ。シャリオさんはみんなからはシャーリーと言う愛称で呼ばれている。おれもそう呼んでくれと言われたのだが、おれは人を、特に女性を愛称で呼ぶことに慣れておらず、呼ぶのが躊躇われてしまったのだ。それからずっとシャリオさんと呼んでいる。べ、別に女性経験が少ないから緊張してるわけじゃねーし!

 もう一人は見たことのない人だ。

 

「おっす」

「おはようございます」

「ああ、えっと、おはようございます」

「おはよう、ヴィヴィオ」

 

 ヴィヴィオちゃんはしかっかり挨拶のできるいい子である。それに答える様に白衣を着た女性とシャリオさんも挨拶を交わす。

 

「うん。失礼します」

「ああ、どうもご丁寧に」

「転んじゃだめだよー」

 

 ヴィヴィオちゃんの丁寧過ぎるあいさつに白衣の人は戸惑っているようだ。うん、おれもびっくりしている。これじゃあおれがちゃんと挨拶できない人みたいじゃないか。

 ヴィヴィオちゃんは走ってなのはさん達が集まっている所へ行ってしまった。

 

「ところで、あなたは? おれはマサキ・サカウエと言います。医務室の(ぬし)をやっています」

 

 おれは見たことのない女性に自己紹介しつつ、名前を尋ねる。最近ようやっとミッド式の名前の言い方に慣れてきたところだ。

 

「失礼しました。今回、本局の方から機動六課へ出向となりましたマリエル・アテンザです。よろしくお願いします」

「よろしく、アテンザさん」

「どうぞ、私のことはマリーと呼んでください」

「えっ……あ、はい。マ、マリー…………エルさん」

「ん?」

 

 マリエルさんが不思議そうな顔をする。やめて、見ないで、恥ずかしいから。

 

「あはは、だめだよマリー。マサキ先生女の子に不慣れだから恥ずかしがって愛称じゃ呼んでくれないの。私も」

 

 やめて! おれも頑張ってるんだから!

 もう10何年も前の、それも前世の頃の男子校生活の弊害がこんなところまで……

 はやて達と会った時はまだみんな幼かったから何とも思わなくて、今もその流れで緊張するということは無い。しかし、新しく知り合う大人の女性相手だとどうにも緊張してしまう。

 

「おっと、ヴィヴィオちゃんのことを忘れてた。それじゃ、おれはこれで」

 

 おれはヴィヴィオちゃんを追いかける。

 

「あ、先生逃げた」

 

 シャリオさんがなんか言ってるけど何も聞こえないから。

 

「おーっす、みんなお疲れー」

「あ、お疲れ様です。マサキ先生」

「もしかして、マサキ・サカウエ二佐ですか?」

「ん? そうだけど。君は?」

 

 スバルさんと同じような髪の色をしている女性が話かけてきた。

 

「陸士108部隊より出向してまいりましたギンガ・ナカジマです」

 

 ナカジマ? スバルさんと同じ苗字だ。そういえば、スバルさんにはお姉さんがいた気がする。

 

「空港火災の件では、本当にありがとうございました!」

「ああ! あの時の! いえいえ、どういたしまして」

 

 スバルさんを発見した後、フェイトさんに抱かれた少女が彼女だ。そうか、大きくなったなぁ。こんなに大人の女性に囲まれるとおれの精神が削られるなぁ。

 

「ヴィヴィオと公輝くんはどうしてここに?」

「おお、そうだ。みんなにヴィヴィオちゃんの訓練の成果を見せてあげようと思ってな」

 

 ここに来た目的を忘れていた。なのはさんが聞いてくれたおかげで思い出すことが出来たよ。

 

「えー……もしかして公輝くんが?」

「もちろん、そうだが?」

 

 なのはさんとフェイトさんがおれをジト目で見つめてくる。

 な、なんだよ……そんな目で見つめられたら新しい扉を開いちゃうぞ!

 

「変なこと教えてないよね?」

「失礼な。ヴィヴィオちゃんは微妙な状況だろ? それで、何かあった時のために護身術を教えていたのさ。もちろん、ヴィヴィオちゃんでもできるものをな」

「へー、意外とちゃんとしたものだね」

 

 意外ってなんだよ。

 

「ヴィヴィオちゃん、ママたちに訓練の成果を見せつけてやるんだ」

「うん!」

 

 そう言ってフェイトさんに抱かれていたヴィヴィオちゃんはそこから飛び降りる。

 おれは目標となる木に目印となる的を設置していく。数は三だ。

 

「いいぞ、ヴィヴィオちゃん」

「うん! いくよー……えい!」

 

 ヴィヴィオちゃんが掛け声の後に的に何かが突き刺さる音がこの場に響き渡る。

 

「うーん、惚れ惚れするほど完璧だ」

「ほんと? やったー!」

 

 本当にすごい。全部的の真ん中を射抜いている。

 

「どや? なのはさん、フェイトさん。ヴィヴィオちゃんすごくね?」

「……」

「……」

 

 二人とも固まってしまった。確かに、これは固まっても仕方のないほどすごいものだ。

 

「あの……これは?」

 

 なのはさんが聞いてくる。

 

「うむ、これは極めれば時に曲がり角で潜む敵を撃退し、時に拳銃の発砲を阻止し、時に鉄の鎖すらも切り裂くことが出来る技術。カードを信じる心さえあれば扱えるからヴィヴィオちゃんの護身術にはぴったりだと思ったんだ」

「えっと……つまり?」

 

 フェイトさんが聞いてくる。

 

決闘者(デュエリスト)の基本スキル、カード手裏剣だ」

「「だから何教えてるのおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

 ピッタリだと思ったんだけどなー。

 

 ちなみに、はやてはカードで鉄を切ることが出来る領域にいる。

 

 

 

 

 




早朝訓練ですが、午前の訓練という事で。


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キャラメルミルクとミルクティーと70話

StSの終わりも近くなってきましたね。
終わりがあっけなくてもがっかりしないでくださいね(予防線)


##この話は修正されました##


 

 今日機動六課の主力は地上本部で行われる公開意見陳述会の護衛任務に当たっている。この陳述会は約半日をかけて行われる非常に大規模なものである。護衛であるフォワード陣も昨日の夜から現地入りしている。本当にお疲れさんですな。

 

「ま、まあまあ。そんな落ち込まないで。おじさんがあま~くて、おいし~いミルクティーをいれてあげよう」

「……キャラメルミルクが良い……」

「キャラメルミルクの作り方は知らないな……」

 

 だけどな、おれのこともお疲れさまと労ってほしい。具体的にどれくらい参っているかと言うと、自分で自分のことをおじさんと呼ぶくらいには参っている。

 

「あー、じゃあ! 特製ミルクティーに加えて、この間なのはママのママが送ってくれた美味しいケーキも付けちゃおう!」

「……じゅるり……」

 

 今ヴィヴィオちゃんにあげようとしているものは本当はおれが食べる予定だった物だが、この際仕方ない。

 

「うーん、困ったな……」

「……ママ……」

 

 もうヴィヴィオちゃんのテンションをあげる策が思いつかない。

 はい、もうわかっていると思うが、今おれは長い間ママと離れ離れになってしょぼんとしている女の子をどうにかして元気づけようとしている。

 

「仕方ない、アイナさんに救援を頼もう」

 

 おれはいつもヴィヴィオちゃんの面倒を見ている女性の事を思い出す。彼女を呼びに行くためにおれはヴィヴィオちゃんのいる部屋から出ようとするが、

 

「……」

「あ、あのー……ちょっと……」

 

 ヴィヴィオちゃんがおれの服の裾を掴んで離さない。決して力が強いわけではないが、小さい子供特有の謎の力の所為でおれはそこから動けなくなる。

 まあ、なのはさんとフェイトさんの次くらいには懐かれているってことかね?悪い気はしない。

 

「よし! 気分が落ち込んでるときは散歩して気分転換するのがいいんだぞ! おじさんと一緒にミッドの街に行こう!」

「……うん」

 

 どうやら外に出るという選択肢は間違いではなかったようだ。ヴィヴィオちゃんが肯定を示したのがその証拠。

 ちなみに、今日の仕事はきっちり終えているため、何事も無ければ自由にできるのだ。急患が来た場合もまだエナドリ残ってるから大丈夫。まあ、外に出ているという旨を知らせるためにはやての机の上に外出届を置いておく。

 そんなこんなあり、おれとヴィヴィオちゃんはミッドの街で遊ぶことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった? ちょっとは気分も紛れたんじゃない?」

「……うん」

 

 おれはヴィヴィオちゃんを肩車してミッドの遊べる施設を巡りまくった。ゲーセン、カフェ、図書館、水族館、動物園、etc……おかげで、周りは薄暗くなってきてしまった。早く帰らないとはやてに怒られるかも。まあ、遅くなるかもとはアイナさんに言ってあるから問題ないだろう。

 ヴィヴィオちゃんの口数は少しずつ増えてきたとはいえ、まだまだ最高のテンションとは言えない。精神的なものはおれの能力でも治してあげることは出来ない。せいぜい、ずっと触れていることで落ち着かせる程度だろう。

 他に面白い場所はあっただろうか……

 面白いか……

 面白い奴ならいるな。

 

「ヴィヴィオちゃん、これからおれの友達の所に行くか?」

「おじさんの友達?」

「ああ。変な人だけどきっと面白いと思うぞ」

 

 正直、あの人とヴィヴィオちゃんを合わせてしまって良いものか分からないが、あそこにはしっかりした娘たちが沢山いるから大丈夫だろう。

 

「……行く」

「よっしゃ。じゃあ行こうか」

 

 そうと決まったらまずは人目のつかない場所へ移動する。

 おれはスカさんの家の場所を知らない。行く時はいつもウーノさんが連れて行ってくれるからだ。しかし、もしおれが一人でスカさんの家に行く時のためにとスカさんがあるアイテムをくれた。

 それは、魔力池駆動簡易転送装置と言う。魔力池とは電池の魔力版と考えてもらっていい。魔力が絶望的に足りないおれが転移魔法を使うために、あらかじめ魔力が赤い宝石部分に貯められており、その魔力を使って転移が出来るという物だ。また、この中には転移魔法の式も込められている。転移先を限定することによって、本来は巨大な転移装置を携帯できる程に小型化できたらしい。

 さて、じゃあ何故転移するのに人目を避ける必要があるのか? それは、転移魔法はその性質上、基本的に管理局の許可なしに使ってはいけないのである。スカさんはこれを渡す時に許可は取ってあると言っていたが、同時に人目のつかない場所で使ってくれと言ったのだ。本当に許可取ってんのかよ。

 

「ヴィヴィオちゃん準備は良い? 転移するよ」

「うん」

 

 おれたちは次の遊び場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 クックック……とうとうこの日が来たのだ。

 この私が既存の世界秩序を破壊し、新しい世界が始まる第一歩の日だ!

 

「ドクター、ルーテシアお嬢様からの報告です。機動六課にて聖王の器を発見できなかったそうです」

「何? なかなか思い通りにはいかないものだね」

 

 ウーノの報告は私としては好ましくないものだった。が、これくらいでなければ面白くない。

 

「また、マサキ医師の姿も見えないことから、彼が聖王の器を連れ出した可能性があるそうです」

「ふむ」

 

 私の動きを予想していたのか? 彼も機動六課の一員。これまでに様々なヒントを与えてきたから、上司から聞くなりして私が一連の事件の首謀者であるという事に気が付いているだろう。

 ふふふ、やはり彼はいつも私の想像を超え、私のことを楽しませてくれる。

 

「なーに、やりようはいくらでもある。ならばプランBを発……」

「おーっす、スカさん。遊びに来たぜー」

「お、お邪魔します」

 

 高らかにプランBへの移行を宣言しようとしたその時、私の後ろから想定外の声が聞こえてきた。

 

「え?」

「え?」

 

 本当に……彼は私の想像をいつも超えてくれる。

 

 プランBを発動する必要がなくなった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 




プランB…高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する


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【速報】地上本部にジャムパン仕掛けた【71話】

スカさんの生放送のタイミングとか、はやてがいる場所とか機動六課のボコられ具合とかに関しては突っ込んじゃだめだぞ。わかったね?

##この話は修正されました##



 

 

 現状は混乱の極みと言っても過言やあらへん。

 オペレーターは絶えずどこかと連絡を取り、現状の報告をしている。

 武装局員は今なお続く敵の侵攻を食い止めようとしている。

 医務室はけが人で溢れかえっている。

 お偉いさんは緊急の会議でもしていることやろう。

 

「六課はどうなってるんや……」

 

 地上本部で行われる公開意見陳述会の護衛任務のため、私たち機動六課は地上本部まで来とった。途中までは順調に行われていた陳述会やけど、そこにやはりというかなんというかガジェットによる妨害が入った。今回の今までと違う点はガジェットだけやなく、戦闘能力に秀でる戦闘機人もその中におったことやろう。

 私たちも自身の任務を全うするため、機動六課フォワード陣も迎撃に向かった。もちろん私も隊長として状況を把握するために臨時の対策本部となっている地上本部の一室にすぐに向かった。

 

 地上本部は酷いものだった。

 神経性のガスを吸って動けなくなった局員。

 そこらに散らばっているガジェットの破片。

 ジャムパン。

 ガジェットの質量兵器によって破壊された本部の瓦礫。

 いたるところから上がる炎。

 ジャムパン。

 

 地上本部の対処に追われていると、ある連絡が入った。それは、地上本部襲撃と同時に機動六課にも戦闘機人による襲撃が行われているとという物やった。

 しばらくするとシャマル、ザフィーラとのつながりが消えてしもた。ここでは何が起こって、どうなっているのか何も分からん。

 

「!? 通信が回復した!」

 

 さっきから何度も試みていた六課への通信がようやく繋がった。

 

「グリフィス君! そっちはどうなってるんや!」

『八神部隊長! はい……機動六課の施設は壊滅状態です。しかし、ザフィーラさんやシャマルさん達が防衛に当たってくれたおかげで職員全員、無事に避難することが出来ました』

「そうか……」

 

 とりあえずは安心や。

 

「そや! シャマルとザフィーラは! 二人はどうしたんや?」

『はい、気を失っているようですが、怪我も見当たりません』

「はぁ……」

 

 よかった。ほんまによかった。嫌な予感がしたからものすごい心配やったんや。やけど、二人が一切の抵抗も出来ずに気絶させられたとは思えへんのやけど……。まあ、怪我がなく何よりや。スカリエッティは絶対に許さん!

 

『八神部隊長……一つお話が……』

「なんや?」

 

 なんかあったんやろか?

 

『マサキさんとヴィヴィオちゃんが行方不明に……』

「……なんやて?」

 

 何かの聞き間違いであることをここまで願ったことは無い。

 

『襲撃を受ける前に二人で街へ向かったところまでは分かっているのですが、その後連絡が取れず……』

「そうか……。またなんかあったら連絡してや」

『はい』

 

 それを最後にしてグリフィス君との通信は途切れる。

 二人の身に何もなければええんやけど。まあ、ハムテルくんが付いてるなヴィヴィオちゃんが怪我するなんてことは無いはずや。

 

「ん? なんだ? 通信が割り込んで……」

 

 オペレーターの一人がそんなことを呟いたのが聞こえる。

 壁に大きく投影されているスクリーンに映像が映し出され、そこに居る人達の視線がそこに集まる。

 

『ミッドチルダ地上の管理局員諸君、気に入ってくれたかい? ささやかながら、これは私からのプレゼントだ』

 

 割り込み通信の相手、スカリエッティの演説の最初の言葉それやった。

 

『治安維持だとか、ロストロギア規制などと言った名目のもとに圧迫され、正しい技術の進化を促進したにもかかわらず、罪に問われた稀代の技術者達。今日のプレゼントはその恨みの一撃とでも思ってくれたまえ』

 

 なんてふざけた奴なんや。確かに、管理局がやっていることのすべてが正しいとは思ってへんけど、規制されるものには規制されるなりの理由がある。その技術者がどれだけすごかろうが、人としてやってはあかんことをやったから罪に問われたんやろうに。

 

『くくく……そう! 私たちは地上本部にジャムパンを仕掛けた!』

 

 モニターを見ている人たちの時が止まったような気がする。

 

『ああ……命を愛する私ではあるが、流石にこれは非道なことだと思うよ』

 

 言うまでもなく、私も呆然としている。

 

『さーて、次はどこだろうねぇ? 時空管理局の本局かな?』

 

 だがその時、私はある可能性に気付いた。

 

『忌むべき敵を一方的に制圧することのできる技術。それは十分に証明できたと思う』

 

 私はその言葉を聞いてやはりと思う。あのジャムパンは誰にも気づかれることなくいつの間にかそこにあった。もし、あれが爆弾だったなら。もし、あれが生物兵器のようなものだったら。想像するだけで恐ろしい。

 つまり、今日のスカリエッティのジャムパンはただのデモンストレーションでしかないという事や。

 ステルス迷彩的な物を使ってそこに置いたのか、はたまた高性能な転送装置を使ってそこに置いたのかは分からないが、これはとても危険だ。

 

『今日はここまでにしよう。この素晴らしき力と技術が必要ならば……』

『おい、スカさん! 次はスカさんの番だぞ! 早く電話終わらせてくれ! はよ!』

『ああ、もうちょっとだから』

『ウーノさん、ヴィヴィオお腹すいた……』

『え……こ、困りましたね……食事ですか……お恥ずかしながら私は料理は……』

『え? そうなのか。意外だな。じゃあおれが作ろう。ウーノさん、キッチンどこでしたっけ?』

『それでしたらあちらに』

『やったー! おじさんのご飯だー』

『……ゴホン。必要ならば、いつでも私宛に依頼してくれたまえ。格別の条件でお譲りする。フゥーハハハハ!!……待ちたまえ! 私は人参はいらん』

 

 ブチッ

 

 実際にそんなブラウン管のテレビが切れるような音がしたわけではないが、そんな音がしたような切れ方をしてスカリエッティの通信は終わった。

 

 ……

 

 うん、色々突っ込みたいことがある。

 

「予言は……覆らなかった……」

 

 隣でシャッハがなんか言うてるけど、そんなことはどうでもええ。

 

「なにやっとんねん!! あいつー!!」

 

 

 一度殴って連れ帰って話を聞かなあかんな。

 

 ハムテルくん。

 

 

 

 

 




正直すまんかったと思う。

六課のボコられ具合は原作より大分マイルドです。だけど建物先輩は原作通りぐちゃぐちゃです。

ちなみに、スカさんがジャムパンを仕掛けた理由は特にない。


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公輝とはやてと72話

意外! それはJS事件の終結!

司令官のはやてが前線に出すぎてる?気にしたら負けなのです。

##この話は修正されました##


「まずいよなぁ……」

 

 ヴィヴィオちゃんの気を紛らすためにスカさんの家に来てから一日が経った。そう、スカさんの家で夜を過ごしてしまった。あっ、決してR-18的な意味はないぞ? 何が問題かと言うと、一応重要参考人であるヴィヴィオちゃんを無断で外泊させたということだ。はやてに何を言われるかわからない。めちゃめちゃ怒られるかも。

 いやね、言い訳させてほしい。どうもスカさんによると、今ミッドで前代未聞級のテロが起こっているらしい。そんな中六課の隊舎に戻るのは危険だということで一晩停めさせてもらったのだ。そうだ! おれは悪くねー! テロリストが悪いんだ!

 

「どうっすかなぁ……」

「どうしたんだいマサキくん? そんなに難しそうな顔をして」

 

 どこからともなくキメ顔で現れるスカさん。なんでもいいけどその顔はウザいです。

 

「ああ、このままだとはやてに怒られるなーって考えてたのさ」

「ふむ、そのはやてとは八神はやてくんのことだね?」

 

 どうやらスカさんもはやてのことを知っていたようだ。相変わらずはやては有名人だな。

 

「私にいい考えがある」

「本当かスカさん!」

 

 とてつもない失敗フラグが立ってるような気がしないでもないが、今は藁にも縋る思いだ。おれだけでは何も思いつかないのだからスカさんの案を試してみる価値はある。

 

「君の頼みで作っていたものがついさっき完成してね、それを伝えに来たのだよ」

「ま、まさかあれが……」

 

 スカさんがすごい発明家だという事を知っておれはあるものの作成を依頼した。ただ、システム自体はすぐにできたのだが、膨大な量のデータをシステムに取り入れるのに手間取り、完成するまで時間が掛かっていたらしい。それが今完成したそうだ。

 

「ああ。これではやてくんのご機嫌をとる切っ掛けになるのではないか?」

「絶対に有効だと確信できるね」

 

 それはおれだけでなくはやても欲しがっていたもの。「架空の物を何か一つだけ実現できるとしたら何が良い?」 と聞かれたら、おれとはやてはヘリトンボやどこでもドアでもなく、これを望むだろう。

 

「ふっ、それはよかった。君の憂いが少しでも無くなれば私は嬉しいよ」

 

 フゥーハハハハ!! と笑いながらスカさんはまたどこかへ行ってしまう。スカさん……ありがとう……これで何とかなるかもしれない!

 

 おれはスカさんからもらった物の一つを左腕に装着した。

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやあり、スカさんがおれとヴィヴィオちゃんをミッドまで送ってくれることになった。正確にはクワットロさんが操縦する艦に乗せて行ってもらう。これは関係ないが、クアットロさんがヴィヴィオちゃんを呼んだとき、ヴィヴィオちゃんがクアットロさんのことを「クアットロおばさん」と呼んでいた。おれが内心で引き攣った顔をしたクアットロさんのことを笑いまくっていたのは言うまでもないだろう。

 

「しかし、この艦でか過ぎだろ」

 

 スカさんが用意してクアットロさんが操縦している次元航行艦のようなこの艦、何を隠そうとてつもなくでかい。正直これで送ってくれるといわれた時はドン引きしたものである。一体このでかいのをミッドの街中のどこに止めるのか疑問である。まあ、それはクアットロさんが何とかしてくれるだろう。何も考えてないはずはない……はずだ。

 

『マサキくん、聞こえるかな?』

 

 そんなどうでもいいことを考えていると、艦内放送を使ってスカさんの声が聞こえてきた。

 

「どうしたん?」

『いやなに、どうもはやてくんが君の事を迎えに来たみたいでね。一応知らせておこうと思って』

 

 何!? わざわざはやてが自分で迎えに来るほど怒っているのか! ……これは……やばい……

 

『どうする、マサキくん』

 

 どうすればいい。怒っているであろう相手が先手を取るという事は、相手がこちらの対応の遅さに不満があるという事だ。

 もう時間は無いな。

 

「わかった。はやては今どこに? はやてと会うよ」

『そうかい。はやてくんには君の居る部屋を出て左の通路を真っすぐ行くと会えるだろう』

 

 今おれにできることは、できるだけ早くはやてと接触してお話するしかない。手遅れかもしれないが少しはマシかもしれない。

 

「ありがとう、スカさん」

『なーに、幸運を祈るよ』

 

 そう言ってスカさんの声は聞こえなくなる。

 こうなってしまってはもう仕方がない。はやての怒りを可能な限り収めるしかない。

 

 おれは戦場へ向かう戦士の気分で通路を駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……来たな、ハムテルくん」

「……来たか、はやて」

 

 何でバリアジャケット着てんのおおおぉぉぉ!?!? どんだけ急いで来たんだ……

 おれの心臓がこれまでにないほどバクバクして、おれがどれだけ緊張しているのかを伝えてくる。大学受験の結果発表の時の比じゃない。

 

「心配したんやで?」

「……ごめん」

 

 はやては下を向いているため、表情が見えない。これは怖い。

 

「…………ハムテルくんはなんでこんなことしたんや?」

 

 こんなこと? ああ、ヴィヴィオちゃんを連れ出したことか。

 

「ヴィヴィオちゃんのためさ」

 

 あの時のヴィヴィオちゃんの落ち込みっぷりは見ていられなかったからな。

 

「ヴィヴィオのため? これがヴィヴィオのためになるっちゅうんかい!」

 

 なっ! その言い方は流石のおれもカチンと来ちゃうな。

 

「おれはおれが出来ることをやっただけだ! 何より、自分のためにな」

 

 ヴィヴィオちゃんがあの状態のままでいられるとおれの方も参っちゃう勢いだったからな。

 

「自分の為言うたか……今……そんな身勝手な……」

「……そうかもしれない。だけど、これはおれがやらなきゃいけないことだから」

 

 なんだかんだ言ってもヴィヴィオちゃんは笑ってる顔が一番かわいいから。おれはヴィヴィオちゃんには笑顔でいてほしいと思っただけさ。まあ、幼女の笑顔を見てニヤニヤしたいという下心が無かったとは言わないが。

 

「ほんなら、スカリエッティに協力してるのも?」

「スカリエッティ?」

 

 誰だ。

 

「ああ、スカさんの事か。スカさんはおれの友達だ。友達に協力するのは何も不思議なことじゃないだろ?」

 

 ……スカさんに協力したことって何かあったな……カロリーメイトとサプリメント生活をしているスカさんとその娘たちの食生活を見ていられなくなって手料理をふるまったことだろうか? 

 

「そうか……どうやらハムテルくんとは全力でお話する必要があるみたいやな……」

 

 !

 来た!このタイミングだ!

 

「待てはやて! これを受け取れ!」

 

 おれはそう言いながら右手に持っていたものをはやての方に放り投げる。

 

「!」

 

 それを受け取ったはやてもそれが何であるか気が付いたようだ。

 

「そうだ。もうおれとはやては全力でぶつかり合うしかない。そして、おれたちのぶつかり合いに相応しいものはこれしかないだろ」

 

 はやての機嫌を取りにいくぜ!

 ここからがおれの話術の見せどころ!

 

「はやて……もちろん今も持っているだろ?」

 

 そう言うと、はやては服の内ポケットから40枚ほどのカードを取り出した。

 

「やっぱりな。この場には剣と盾がある。その二つがそろった時、おれ達決闘者(デュエリスト)がやることは一つしかないだろ?」

 

 すべてを言い切ったおれは羽織っていたマントを放り棄て、決闘盤(デュエルディスク)を起動させる。 

 何でマントなんか羽織っているかって? 演出だよ。

 

「行くぞはやて! デュエッ……」

 

 高らかにゲーム開始の宣言をしようとしたが、おれはそれをやめざるを得なかった。何故なら……

 

 おれの顔面にはやてに渡した決闘盤(デュエルディスク)がめり込んでいるから。

  デュエルディスク手裏剣……そんな大技をいつの間に……

 

「とりあえずこれで許したるわ。もちろん連れて帰ってからまたたっぷり話も聞いたるからな。後、決闘盤(デュエルディスク)は私が有効に使ったるわ」

 

 

 意識が途絶える直前聞こえてきたのはそんなはやての声だった。

 

 

 

 




補足1

 公輝くんとヴィヴィオはスカさんに不思議な薬を飲まされて一週間ほど寝てます。本人は一日しか経っていないと思っています。

補足2

公輝くんは能力で気絶しないんじゃね?という方へ

 公輝くんの能力は意識することが大切です。気絶してしまうと、意識のない公輝くんの特殊能力は発動タイミングを逃し発動できません。
 何が言いたいのかと言うと、コンマイ語は難しい。


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落着と友人と73話 ←修正前最新話

!ごめんなさい!修正中に間違って消してしまった話を何も考えずに再投稿したら上がってしまいました!紛らわしいことしてごめんなさい!




StS編しゅーりょー!!

なんかスカさんが一番ヒロインしてるかも……
wiki引用あります。

##この話は修正されました##

補足

この物語ではドゥーエ姉さまも生きて捕まっています。


 

 

 

 

 

 夢を見ている。

 何故夢と分かるのか? その説明はなんだか前もしたような気がする。それじゃあ今回の夢だとわかった理由は何か。それは自分の体が女であるからだ。いくら夢の中のぼんやりとした意識であっても、今年で30年近く付き合ってきた自分の体を間違えるわけがない。

 ところで今日の夢は、ある日平和なオークの村へオークを討伐しに行った女騎士になった夢だ。しかし、圧倒的数になすすべもなく、女騎士おれの奮闘むなしくオークに捕まってしまう。そして今は両手を荒縄で縛られてオークたちの前に転がされている。

 

「ぐへへ……エロ同人みたいに乱暴してやる……」

「クッ……殺せ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ! なんだかとても危ない所だった気がする」

 

 さっきまで見ていた夢を詳しくは思い出せないが、なんだか縛られていたような気がする。寝起きだというのになぜか高鳴っている心臓が夢の中で危ない所だったという事を証明している。

 

「ふぅ……って……なんじゃこりゃ」

 

 落ち着くために顔に滲んだ汗を手でふき取ろうとしたのだが、両腕がバインドによって縛られているため汗を拭くことが出来なかったのだ。

 

「ま、まさか、正夢……だと……!?」

 

 そういえば今おれがいる場所も身に覚えがない場所である。おれが寝ているベッドは清潔感溢れる白いシーツに白い布団でふかふかベッド。床や壁は金属質でアブナイ連中の住処って感じではなさそうだ。アブナイ研究室って可能性は捨てきれないが。

 

「……逃げるか」

「何逃げようとしてんねん」

「クッ……殺せ!」

「とりあえず話を聞いてから考えよか」

 

 部屋にあったドアから入って来た人物ははやてだ。ていうか、今のはやて言い方からすると話の内容次第ではおれは殺されるのか! どうしてこうなった……

 

 

 

 

 

 

「と言う訳でして」

「ふむふむなるほどな。まあ、そういうことにしといたるわ」

 

 おれははやてがする質問に答える形でこれまでの話をした。はやての話によると、ミッドで起こっていたテロはジェイル・スカリエッティことスカさんを主犯として、スカさんの娘たちが起こしていたのだ。そのテロの中で六課は壊滅し、ミッドの街中をとても危険でとても巨大な艦の形をしたロストロギア『聖王のゆりかご』が飛び回っていたらしい。果てしなく覚えがあるのは気のせいではない。

 だが、六課の施設が破壊された程度では諦めなかったはやて率いる機動六課が管理局から次元航行艦を一隻借り、それを仮の本部として事件に対処したと言う訳だ。

 はやての話を聞いて、スカさんがテロリストだったという事実は驚きを隠せない事であるが、それ以上に驚きを隠せない事実がある。それは……

 

「つまりなんだ……世間一般から見たおれは、史上最悪のテロリスト『ジェイル・スカリエッティ』に様々な協力をしたうえ、事件収拾に努める管理局員のはやてを足止めした管理局の裏切者……とな?」

「まあ、そうなるな」

 

 なん……だと……

 まさかおれの知らない間に社会的に死ぬことになろうとは……

 

「まあ、一般人どころか一般の局員にすらハムテルくんのことは知らされてへんけどな。知っとるのは管理局の上層部の一部だけや」

「ん? それって人知れず消されるという意味なのでは?」

 

 果たして社会的に死ぬのと人知れずひっそりと死ぬのとどちらがマシなのか……

 

「そうはならんと思うで」

「えっ?」

「なんやハムテルくんが今まで元気にしてきたお偉いさん達が「あの優秀な人物を管理局から失くすわけにはいかない」とか何とか言うて、ハムテルくんのことを擁護しとるからな」

 

 ああ、あのおっちゃん達……ありがてーなぁ……

 

「まあ、それ以上にジェイル・スカリエッティ自身がマサキ・サカウエを利用したのは自分で、彼は何も知らなかったと供述したからってのが大きいな」

「スカさん……」

 

 一度スカさんとは話さないといけないな。

 

「ほんでも、組織としての体裁を保つために一応ハムテルくんに罰を与えることになったんよ。少しだけとはいえハムテルくんにええ感情もっとらん人もおるからな」

「罰ねー」

 

 おれに悪感情を抱いてるっぽい人がいるというのは知ってた。どうも彼らにとっては都合の悪い人を沢山治してきたらしいからな。まったく、難儀なことだ。

 

「具体的には二等陸佐相当から一等陸尉相当への降格やな。二階級降格とかやるやん」

「これ、おれが局の本当の士官だったら士官人生終わりだな」

 

 左遷コースまっしぐらである。

 尤も、お飾りの階級であることに加えて、おれは階級に興味はないから実質御咎めなしだな。給料も三尉の時ので十分だったし。

 

「スカリエッティと繋がっとったレジアス中将も逮捕されて、ハムテルくんの後見人がおらんようになってもたし、まあしゃーないっちゃしゃーないな」

「え? ゲイズ氏捕まったの?」

「どうも中将はスカリエッティに戦闘機人の技術を貰うつもりやったみたいや。地上の平和を守るためにな……」

 

 戦闘機人。

 人体に身体能力を強化するための機械部品をインプラントし、人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得たサイボーグの総称。ただ、この技術は倫理的に問題が大ありのため、禁止されている技術なのである。そんな技術を使ってでもゲイズ氏はミッドの平和を守ろうとしたのだ。

 

「そうか……ゲイズ氏捕まっちゃったのか……おれは嫌いじゃなかったけどな、あの人の事」

 

 何が何でも自分の故郷の平和を守ろうとしていた(おとこ)のことをどうして嫌いになることが出来ようか。やり過ぎちゃったことは否定できないけど。

 

「そうなん? それはそうとして、スカリエッティもナンバーズも全員捕まえて今回の地上本部襲撃を始めとした一連の事件は終わりを迎えたっちゅうわけや。誰も大きな怪我もせんかったし、一件落着やわ」

 

 一件落着……か。

 いや、まだだ。まだ、おれには一つやらなきゃいけないことがある。

 

「はやて。おれちょっと出かけるところがある」

「……そうか。なんか手伝えることあるか?」

 

 はやてはおれがどこに行きたいのか分かってくれたようだ。なら、早速はやてに手伝ってもらうことにしてもらおう。

 

「とりあえず、このバインドを解いて自由にしてくれ」

「あ、それは無理や。ハムテルくんまだ一応参考人だから」

「クッ……殺せ!」

 

 拘束が解かれたのは数時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 おれが今日訪れたのは管理局の施設の一つである軌道拘置所。ここにはスカさんを含め、ウーノさん・トーレさん・クアットロさん・セッテさんの5人が収監されている。

 

 

「やあ。久しぶりだねマサキくん」

「ああ、久しぶりだな」

 

 今日ここへ来た理由はスカさんと面会するためだ。軌道拘置所とは世界規模のテロリストや次元犯罪者の中でも「危険人物」とされた重犯罪者を収容する施設である。そんな場所に収監されている人物と面会は基本的に許されないのだが、今までおれが作って来たコネを駆使して面会の許可を得た。だが、面会はアクリル板越しにすら直接顔を合わせることが出来ず、モニター越しの通信で行われる。警戒の仕方が尋常ではない。

 

「そちら側にいるという事は無事だったようだね」

「ああ、スカさんのおかげ……っていうのも変な話か?」

 

 そもそもがスカさんの所為だしな。

 

「それで、私に何か用かい?」

「ああ。ヤンチャやらかして捕まった友人と話をしにな」

 

 スカさんは手を組む所謂ゲンドウポーズでおれの言葉を聞いている。相変わらずのようだ。

 

「ふぅん、私は君の友人なのかい?」

「え、もしかしておれが一方的に思ってただけなのか? それはとても恥ずかしいぞ」

 

 うん、すごい恥ずかしいぞ。

 

「私は君を利用したのだぞ? 下手をすれば君は稀代の凶悪犯罪者の協力者だ」

「まあ確かに、犯罪者にされるのは流石に勘弁だ。だけどそのことはスカさんが否定してくれたじゃないか。だから、おれはそのことに関してスカさんを許す」

 

 友人のためとはいえ流石に犯罪者にされるのは堪ったものではない。だけど……

 

「友人なんてもんは利用してなんぼさ。おれだってスカさんに色々なもの作ってもらうように頼んだしな。おれだってスカさんを利用してる」

「それはそうかもしれないが」

「おれが思うに友人関係ってのはな、友人に利用されて、そのことを気持ちよく受け入れることが出来る関係だと思うんだよ。そんで、利用されたことに対して怒りやなんやらの負の感情が浮かぶなら、その人とは友人ではないってことさ。もちろん、利用されるのにも限界はあるけどな」

 

 おれは肩をすくめながら言う。

 

「おれはスカさんに利用されても何とも思わない……いや、違うな。友人の助けになれるならおれは嬉しい」

「……君はまだ……私の事を友人だと思ってくれるのかい?」

 

 いつも自信満々に振る舞うスカさんとは思えないほど弱々し気だ。こんなスカさんをおれは見たことが無い。

 

「もちろんだとも。ところで、おれは一方的にスカさんの事を友人と思っていたのだろうか?」

 

 おれはさっき判明したかもしれない驚愕の事実を確かめることにした。これで一方的な感情だったとしたら……

 

 とても……恥ずかしいです……

 

「……いいや、私は……君のことを友人だと思っている」

 

 よかったぁ。これで「え? 友達な訳ないじゃん」とか言われたら泣く自信がある。

 

「ふふ……じゃあスカさん! おれは今からスカさんを利用する!」

 

 持ってきた鞄の中から一枚の紙を取り出し、スカさんに見える様にカメラに写す。

 

「次はこいつを作ってくれ! 期限はいつまででもいいぞ。出来ればおれが元気な内に完成させてもらえると助かる」

 

 おれがスカさんに見せた紙は『Dホイール』の仕様書。いや、設定資料とも言っていいかもしれない。つまり、おれがスカさんに依頼したのは『Dホイール』の作成である。

 

「! ふっ……良いだろう……私は喜んで君に利用されよう!」

 

 スカさんはそういうとフゥーハハハハ!! といつものように笑う。

 おれに友人が一人増えたことが確定した瞬間である。

 

 

 取りあえず、バイクの免許を取ることにしよう。

 

 

 




 みなさん、ここまでお読みいただいてありがとうございました!
 書き始めた当初の目標のStS編完結までなんとかこぎ着けることが出来ました。約17か月間、約20万文字。よく書いて来たなと思います。(約10か月間の放置期間から目をそらしながら)

 さて、目標のStSまでやって来ましたが、もちろんこのままこの物語はvividもやるつもりです。しかし、作者はvividのアニメを見て小説を書く気でいたのですが、アニメは「私たちの戦いはこれからだ!」エンドでvividの小説を書くにはちょっと情報が足りません(適当に書いて矛盾が出てもいやですし)。
 そこで、vividの原作を手に入れようと思うのですが、イゴース=ド=イカーナに住んでいる私は本を手に入れるためには少し時間が掛かります。資金が潤沢と言う訳でもありませんし。ちょっと待っていてください。その間空白期でお茶をにご……物語を紡いでいく予定です。

 ただ、直近の予定としては序盤の話をいくつか統合し、1話当たりの文字数を増やしたり、誤字脱字を減らしたり、細々修正したりする予定です。

 これからも拙作『それが日常』をよろしくお願いいたします。
 もちろん、外伝『こんなの非日常』もね!


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空白期3
近況説明と臨時講師と74話と日常


修正終わりました。
ちゃちゃっと終わると思っていたのですが、想像以上に大変でした。
後半の話は見直しが大分雑になっているので誤字脱字がそのままかもです……


 

 スカさんが起こしたテロの後、全壊した機動六課を修復し、通常業務をこなして行く内に約半年が経った頃。辺りでは桜が咲き乱れ(まあ、ミッドに桜はないのだが)、出会いと別れの四月。機動六課の試験運用期間はこの四月で終わり、隊長達、フォワードメンバー、ロングアーチメンバー、事務員は元の所属部隊へと戻ったり、新しい部隊へ配属されたりしていった。戦う人たちは試験運用終了のその日に最後の模擬戦をするという少年漫画バリの別れを果たし、みんな笑顔で機動六課は解散した。

 おれの処遇も予定通り二階級降格で一尉相当医務官としてジャンジャンバリバリ人や動物の怪我や病気を治している。階級が低かろうが高かろうがおれがやることは変わらないのである。

 処遇と言えば、ヴィヴィオちゃんのことなのだが、事件後なのはさんが正式にヴィヴィオちゃんを引き取りヴィヴィオちゃんの母親となった。これで晴れてヴィヴィオちゃんは高町ヴィヴィオちゃんへとなったのだ。二人とも幸せそうで何よりである。ただし、おれが未だにおじさん呼ばわりなことに関してはおれは幸せではない! ……もうほとんど諦めてるけどな……

 

「それじゃあ、今日は特別講師のマサキ先生をお呼びしています。みんな先生のいう事を聞く様に」

「はーい」

 

 さらにさらに処遇と言えばの続きなのだが、事件の犯人であるスカさんと娘たちは管理局のお縄についた。スカさんは事件の首謀者という事で、一部の娘たちは事件捜査に協力する気がないと言う訳で重犯罪者が入れられる軌道拘置所へ収監されている。

 一方、他の娘たちは事件捜査に積極的に協力するということで海上隔離施設に入れられている。この海上隔離施設は牢獄と言うよりは更生施設と言った方が良いだろう。灰色の壁に灰色の床、灰色の天井と言った悪い感じではなく、ガラスから入る日光で部屋の中は大変明るく、地面は芝生で良い感じの雰囲気である。

 

「やあ、みんな。お久しブリーフ」

 

 時が凍った。

 

「コホン。ウィットに富んだ冗談は置いといて、みんな知ってる人がほとんどだと思うがマサキ・サカウエだ。今日はおれが特別講師としてみんなにお話しまーす」

 

 この隔離施設に収監された娘たちはドゥーエさん・チンクさん・セインさん・オットーさん・ノーヴェさん・ディエチさん・ウェンディさん・ディードさん・ルーテシアちゃん・アギトちゃんだ。また、この子たちの更生の担当はスバルさんの父のナカジマ氏ことゲンヤさん、姉のギンガさんである。

 今回、「いつも同じ人に教えられてもつまらねーだろ」というゲンヤさんのお考えにより、仕事がなくて地上本部をぷらぷらしていたおれに声を掛け、臨時講師として呼んだと言う訳だ。

 

「といっても今日は堅苦しい講義ではなく、息抜きとでも考えて貰ってもいい」

 

 臨時講師と言う訳で、おれはここでどのようなことを教えているのかはよくわからない。そう言う訳で好きなことをなんでもいいから話してやってくれと言うのが今回のゲンヤさんの依頼である。

 

「じゃあここで質問! 息抜きをするときは何をしますか? はい! いつだったかおれを追っかけまわして来たウィンディさん!」

「ウェンディッス」

 

 あれ? 間違えた。あの伝説ポケモンの名前とごっちゃになってしまったか。

 後で判明した事なのだが、ヴィヴィオちゃんを保護した日、自転車に乗ったおれを追っかけまわしていた少女はウェンディさんだったらしい。いや、もう本当にびっくりだ。

 

「息抜きッスか……息抜き……息抜き? 楽しいことを……楽しいこと? うーん……」

「うん、時間切れね。じゃあ次はチンクさん」

 

 息抜きで何をするのかウェンディさんが答えられなかったので次はチンクさんに振ってみる。

 

「ふむ、そうだな……やはり、私なんかはナイフの手入れをしていると気が休まるな」

「うん、それは一般的な息抜き方法ではないね。まあ、息抜きの仕方は人それぞれだから、チンクさんがそれでいいなら良いのかもしれないが」

 

 そんな感じでみんなに質問をしたら答えられないか、一般的な答えとかけ離れたものばかりだった。

 

「というわけで、君たちは一般的な息抜きの仕方を知らないようなので、おれ流の息抜きを一つ伝授しよう」

「えー、先生の息抜きかー。変なことじゃないよね?」

「地面の中で泳ぎまくるセインさんより変ではないと思う」

 

 スカさんはもっと娘に常識を教えるべきだったな。

 

「それじゃあ、おれと一緒に紅茶を入れてみましょう」

「紅茶?」

 

 おれの言葉に疑問を呈するのはディエチちゃん。これまたヴィヴィオちゃんを保護した日に見たゴン太ビームを放った張本人である。

 

「紅茶には色々な効能があります。栄養補給からダイエット、疲労回復ストレス解消まで様々。そんな紅茶を飲むのは息抜きにするのに最適と言えよう」

 

 スカさんの娘たちに話をしようとなって、何を話そうか考えたおれは紅茶を入れることを話そうと決めた。おれには自慢できる特技がいくつかあるが、その中で紅茶を入れることはあの素直じゃないヴィータが認めるほどなのでかなり自信がある。

 

「とりあえず、有名どころの茶葉を三つほど用意したので好きなのを選んでください」

 

 おれは持ってきたカバンの中から三つの袋を取り出す。おれはその袋を一つずつみんなによく見える様に掲げ、種類ごとの特徴を説明していく。

 

「一つ目はダージリン。紅茶の王様なんて呼ぶ人がいるほど人気な茶葉で、とても繊細で香り高い紅茶だ。オススメはストレートで飲んでその香りを楽しむ飲み方だな」

「へー、なかなかよさそうですわね」

 

 今話した人はドゥーエさん。彼女はずっと管理局に潜入していたそうで、スカさんの家で会ったことは無い。なので、彼女とは今日が初対面だ。

 

「二つ目はアッサム。濃い味わいで甘みがあり、ミルクティーにするのに向いている。ちなみに、おれはミルクティーが大好きなので、アッサムを愛飲している」

「……そんな情報いらねーよ」

 

 ちょっと反抗的な態度を取った彼女はノーヴェさん。気のせいかもしれないが、彼女はスバルさんと容姿がとてもよく似ている。声もそっくりだしな。まあ、彼女がそんな態度を取れるのは今の内だけさ。あのヴィータさえも唸らせたおれのミルクティーを飲んでもそんな態度でいられるかな!

 

「最後はアールグレイ。これはベルガモットの香料を付けた紅茶だ。アイスティーにするのに向いている。まだ四月とはいえ、今日は結構暖かいからアイスティーを飲むのもいいかもな」

「……じゃあ、私はそれにしようかな」

「私もルールーと同じのにするぜ」

 

 最初に声を挙げた子はルールーことルーテシア・アルピーノちゃん。おれが食べていた鯛焼きを無言の圧力で獲得したあの子だ。彼女もスカさんの協力者だったらしく、ここに収監されている。そして、もう一人はアギトちゃん。なんとアギトちゃんはリイン姉妹と同じユニゾンデバイスなのだ。

 ルーテシちゃんの話をするのなら、あの時ルーテシアちゃんと一緒に居たフードを被ったゴツイおっさんの話もしなければいけないだろう。

 彼の名はゼスト・グランガイツ。かつては時空管理局の首都防衛隊に所属するストライカー級の魔導師だったのだ。だが、数年前スカさんが絡んだ事件に携わっていた時、スカさん達の隠れ家を突き止めたグランガイツ氏はチンクさんと戦闘になった。だが、隠れ家の老朽化によって起きた岩崩れに巻き込まれ重体となってしまう。この時、当時グランガイツ氏の部下だったスバルさんの母親、クイント・ナカジマさんは残念ながら亡くなってしまい、もう一人の部下だったルーテシアちゃんの母親、メガーヌ・アルピーノさんも重体に陥ってしまったそうだ。

 流石に命までは取ろうと思っていなかったスカさんはまだ生きてた二人の命を救おうとした。その時スカさんが使った物は機動六課が探していたロストロギア、レリックである。レリックによって、グランガイツ氏は長くは生きられないにしても一命をとりとめたそうだ。

 しかし、メガーヌさんはレリックに適合できず、意識を取り戻すことは無かった。いずれ何とかしようと思い、スカさんはメガーヌさんの肉体を今まで保存していたのだ。ちなみに、メガーヌさんはおれが治しておきました。

 

 メガーヌさんの話はそこまでとして、グランガイツ氏の話に戻ろう。

 自分の命が長くないと知ったグランガイツ氏は友人であり、上司であるゲイズ氏の正義の在り方に疑問を持ち、もう一度話をしようと思ったそうだ。

 そして、JS事件が解決したその日、グランガイツ氏とゲイズ氏は再開した。いったい二人の間でどのような会話がなされたのかは知らないが、その場にいたアギトちゃんやシグナムさんの話によると、グランガイツ氏もゲイズ氏も互いに納得した様子だったそうだ。

 ゲイズ氏やシグナムさんはグランガイツ氏がおれに治療してもらうことを勧めたそうだが、彼もおれのことはスカさんから聞いて知っていたそうだ。だが、グランガイツ氏はすでに自分は死んだものと納得してしまっているから、おれの能力では治すことは出来ないだろうと思ったそうだ。その後、グランガイツ氏は静かに息を引き取ったらしい。

 おれも出来ることならグランガイツ氏を助けたかった。ストライカーと言うのは少年達のヒーローみたいなもので、おれも名前は聞いたことがある。だから、とても残念だと思うと同時に、これからのミッドの平和を見ていてほしいものだ。

 

「じゃあ各自、自分の飲みたい紅茶を選んで作ってみよう。作り方はおれがみっちり教え込んやるぜ」

 

 

 

 

 

 

「う~ん……これは落ち着きますね~」

「僕も好きかも」

 

 ダージリンの香りを楽しみながら美味しそうに飲んでいるオットーさんとディードさん。スカさんの娘たちは特徴もバラバラで姉妹とは思えないのだが、オットーさんとディードさんを比べたら確かに姉妹に見える。

 

「……はぁ……うめぇ……」

 

 バッ!

 

 おれが声がした方に勢いよく顔を向けると仏頂面をしたノーヴェさんがいる。

 

「ふん……」

 

 彼女が言っていたような気がしたのだが、気のせいだったようだ。おれはワイワイしながらアイスティーを飲んでいるウェンディさん達の方に目を向ける。

 

「ほへ~……」

 

 バッ!

 

「なんだよ、こっち見んなよ」

 

 なんかノーヴェさんに怒られた。やっぱり気のせいだったのか。おれはチンクさんと一緒にチンクさんがいれた紅茶を飲んでいるゲンヤさんとギンガさんの方を向く。

 

「あまぁ~い……うまぁ~い……」

 

 バッ!

 

「これは落ち着くぅ……ハッ!」

 

 どうやらノーヴェさんもミルクティーの虜になったようだ。満足満足。

 

 おれの紅茶の授業は彼女たちにもそこそこ評判だたようで、この後も何回か彼女たちの臨時講師として呼ばれたのだった。

 

 

 




ドゥーエさんは事件捜査に協力的ということで。
ていうか、ドゥーエさんの話し方分からねえ……

後、ゼスト隊壊滅の話とかゼストとレジアスの再会とかオリジナル設定多数。


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保健室と小学生と75話

マリアージュ事件……
vividの前にそういうのもあるんですね。


「うえーん!! 痛いよー!!」

「よしよし、泣かない泣かない。おっとこのこだろ」

 

 今日も今日とてはりきってお仕事をしている。ただし、今回のお仕事はいつものように管理局の施設で治療をしているわけではない。

 

「痛いの痛いの飛んでいけ~」

「わーん! ……ん? あれ? 痛くない? 痛くないよ!」

 

 今相手をしているのは日本で言えば小学生に当たる男の子だ。

 St.ヒルデ魔法学院。その初等科の保健室が今おれがいる場所である。

 St.ヒルデ魔法学院は巨大宗教団体、聖王教会系の学校なのだ。管理局でも大きな発言権を持つ聖王教会との関係を向上させるために管理局がおれを聖王教会に貸し出したのだ。協会に派遣されたおれは教会での上司であるカリム・グラシアさんにSt.ヒルデ魔法学院で保健室の先生をやるように頼まれた。

 ちなみに、このカリム・グラシアさんははやての友人でもあり、リインちゃんの製作にも協力してくれた人である。

 

「先生! ありがとうございました!」

「どういたしまして。また安心して怪我して来い」

 

 そう言い残して男子生徒は走って保健室を出て行ってしまった。うむ、やはり子供は元気が一番である。

 保健室と言う場所は人によっては縁のない場所であるが、怪我をした時や学校で発病してしまった子たちのために絶対必要な場所なのである。そんな大事な場所を預からせてもらっているので、おれは真面目に働いている。

 男子生徒が出て行って静かになったところだが、保健室にドアをたたく音が鳴り響く。再びの来訪者だろう。今は授業中でどこかのクラスが体育の授業をやっているらしく、保健室に来訪者が絶えない。一体どんな授業をやってるんだろう。

 

「おじさん、こんにちはー!」

「おじさんではない、お兄さんだ」

 

 そう、ここSt.ヒルデ魔法学院初等科にはヴィヴィオちゃんが通っているのだ。事件の後、ヴィヴィオちゃんの希望によって学校に通うこととなった。

 おじさんと呼ばれることは諦めてはいるが、無駄だろうとわかっていながらもお兄さんと呼ばせるのは止められない。

 

「失礼します、マサキ先生」

「おや、コロナちゃん。いらっしゃい」

 

 ヴィヴィオちゃんの次に入って来た子の名前はコロナ・ティミルちゃん。ヴィヴィオちゃんの親友でとても礼儀正しいいい子である。何より彼女はおれのことをおじさんと呼ばないしな!

 だが、彼女の名前の「コロナ」なのだが、かつておれが自動車学校で乗っていた車種がコロナだった。なので、心の古傷が……いやだ! もう路上は嫌なんだー! でも、スカさんにDホイール作ってもらうまでに二輪の免許取らないといけないなぁ……

 

「で、二人ともどうしたんだ? どこか怪我でもしたか?」

 

 ここは保健室。用がなくてくる場所ではないはずだ。まあ、中には仮病を使って保健室で授業をさぼるけしからん奴もいるが、彼女たちはそんなタイプではない。

 

「あ、そうだった。コロナがね、手首を捻挫しちゃったからおじさんに治してもらおうと思って」

「お願いします」

 

 どうやら今回の患者さんはコロナさんで、ヴィヴィオちゃんは付き添いだったようだ。

 

「捻挫か。それじゃ、捻挫した場所を出してください」

 

 コロナちゃんは右腕を差し出してくる。おれはコロナちゃんの右手首に触れて捻挫の治療に入る。

 

「そういえば、今君たちは何の授業をしてるんだ?」

「組体操です」

 

 おれの質問にコロナちゃんが答えてくれる。そうか、組体操か。それだったら今日の怪我人がやけに多いのも納得できる。組体操はかなり危険な種目だからな。

 

「今は帆掛け船って技をやってるよ!」

「帆掛け船!?」

 

 おれはヴィヴィオちゃんの補足に驚かずにはいられない。

 帆掛け船とは、二人組で行う組体操ものである。一人は膝を立てて仰向けになる。仰向けになった人はペアの肩を支える。そのペアは手を仰向けになっている人の膝の上に置く。その後、上になる人は仰向けになる人の上で倒立を行うのだ。この技、失敗すると上の人の頭が下の人の腹部にクリーンヒットする大変怖い技である。

 おれもやったことあるが、高校に入って初めてやった技である。そんな技を小学生がやるというのはどうなんだろう。

 だが、冷静に考えて見たら、おれの周りの小学生は9歳で魔法戦闘をしていたし、この世界の小学生は帆掛け船程度余裕なんだろうか……末恐ろしい子供たちやで……

 

「そろそろ痛くなくなったかな?」

「うーん、はい! ばっちりです!」

 

 コロナちゃんは手首を回して痛くないか確かめている。どうやらしっかり治ったようだ。

 

「そうだ二人とも、こっち向いて」

「ん? 何?」

「はい?」

 

 おれは机に置いていたカメラを手に取り、二人に向ける。

 

「いえい!」

「ピース!」

「Baby」

 

 二人がポーズをとったところでシャッターを押す。

 

「なのはさんに頼まれててね。ヴィヴィオちゃんの写真を撮って来てくれって。もちろん、後でコロナちゃんにもあげるね」

「ありがとうございます!」

 

 まったくなのはさんも困った人だ。自分の子供に対して厳しく躾ながらも、愛情たっぷりの親ばかである。

 

「それじゃあ、私たちは授業に戻るね。バイバーイ、おじさーん!」

「ありがとうございました! 失礼します!」

「おじさんではなーい」

 

 おれの反論は空しく保健室に響くだけで、さっさと出て行ってしまったヴィヴィオちゃんには届かなかったことだろう。

 

 まあヴィヴィオちゃんのことは置いておいて、やはり小学生の女の子は可愛いな。今が一番素直でお父さんとしては楽しい時期だろう。おれは残念ながら子供は居ないのでその気持ちは分からない。しかし、この職場で少なからずその気持ちの一端を味わえた気がする。

 だけど、このまま成長して中学生くらいになると「お父さんの服と一緒に洗濯するの嫌!」とか言われるようになるんだろうなぁ……やっぱり、女子小学生はかわいいな。

 

 まったく、小学生は……

 

 コンコン

 

 おれが他愛もない事を考えていると、再びドアを叩く音が聞こえた。やれやれ、やはり今日は患者が多いな。

 

「入るでー、ハムテルくん」

「え? はやて? なんでここに?」

 

 なんとはやてだった。ここはSt.ヒルデ魔法学院初等科の保健室。まさか……

 

「はやて……まさかもう一回小学生を……やるのか? 流石にその身長じゃ無理があるだろ」

「んなわけあるかい。ちゅうか、そう言う問題やないやろ」

 

 初等科の制服着たはやて……十年前ならぴったりだったかもな。

 

「カリムにハムテルくんが初等科の学校で働いとるって聞いてな? 私はハムテルくんの仕事ぶりを見に来たんや。私の予想やと、そろそろ女子小学生の良さに気が付いて「まったく、小学生は最高だぜ!! 」とか考え出す頃やと思ったから来たんや」

 

 ……は、はは……そんなまさか……はは……

 

「ソンナワケ、ナイジャナイカー。ハハハ」

「ほんま、昔から分かり易いやっちゃな」

 

 なん……だと……

 

「とにかく、流石に小学生はあかんで? 私も身内から性犯罪者は出したくないからな」

「当たり前だよ!」

 

 全く、恐ろしいことを考えるようになったものだ。はやても小さかった頃はもっと素直でかわいい子だったような気がするんだがな。

 

「ほんなら、私は帰るわ。今日の夕飯はカレーやで」

「よーし、頑張って働くぞー!」

 

 おれはカレーが大好きだあああああぁぁぁぁ!!

 

 はやてが帰った後も怪我をした生徒たちが何人か来たが、全員全力全開にして今日の職務を全うした。

 

 もちろん、はやてのカレーは言うまでもなくギガウマである。




結論:まったく、小学生は最高だぜ!!

追記
後書きの結論が「まったく、小学生は生が最高だぜ!!」に見えなくもなかったのを修正。

酷い誤字を見た。


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自然とハーレムと76話

リインさんとユニゾンした理由は特にない。
強いて理由を挙げれば最近しゃべって無かった気がしたから。


 おれは草木が青々と茂っている森の真ん中に立ち、耳を澄ます。静かにしていると、今まで気にしていなかった自然の音が聞こえる。

 

 耳元を通り過ぎる風の音。

 風に揺られる枝の音。

 風に揺られて葉同士が擦れる音。

 鳥の甲高い鳴き声。

 虫のか細い鳴き声。

 竜の体全身がビリビリするような鳴き声。

 そして、腹の虫の鳴き声。

 

「腹が減ったな。飯にしよう」

(黙って立っていれば絵になっていたのに、その一言で台無しだな)

 

 おれの何気ない呟きに突っ込んでくるリインさん。今日は珍しく仕事以外でリインさんとユニゾンしている。

 本来なら、おれがリインさんとユニゾンするのははやてが動くことが出来ず、かつ人手がどうしても足りない時か、おれが先天的に体にハンデを持って居る人の治療をする時だけだ。

 では、何故今日は特に理由もなくリインさんとユニゾンしているのか? それには色々と事情があるのだ。

 

「しかし、まさかはやての病気が再発するとはな」

(……思い出させないでくれ)

 

 ああ、別にはやての足がまた動かなくなったという訳ではないので心配はいらない。はやての病気……それは……

 

「で、感想は?」

(相変わらずの指使いだったとだけ)

 

 乳揉みである。

 そう、乳揉みである。はやての乳揉み癖は中学の時にピークを迎え、時間が経つにつれて他人の乳を揉みしだくようなことをすることは少なくなった。少なくとも人前では。

 六課での役目を終えたはやては再び海と陸を渡り歩きながら、密輸物や違法魔導師関連の捜査指揮に取り組み始めた。それだけなら、六課で部隊長をやる以前と変わらない。だが、大きな事件を解決した部隊の部隊長であったはやての評価は爆上げ。それによって、今まで以上に管理局のお偉いさんと話す機会が増えて行ったのだ。

 それによって、はやてのストレスは有頂天。そこで、ストレスのはけ口を乳揉みに見出したと言う訳だ。

 

「はやても大変なんだ。一日くらいその胸貸したらいいのに」

(マサキ、君は勘違いをしている。私とて、主の心労を癒すためならいくらでもこの身を捧げるつもりだった)

「それなら……」

 

 そのはやて好みのおっぱいを差し出せ、と言おうとしたおれの台詞は遮られる。

 

(三日分だ)

「え?」

(今日までの四日間の内、主が私の胸を揉んでいた総時間は約72時間、三日分に相当する)

 

 ど、どんだけ……

 

(主が部屋で一人、仕事をしているときなどは、右手にペンを左手に胸をの状態だった。寝るときも私を抱き枕にしつつ揉んでいた)

 

 リインさんが言ったことが本当だとしたら流石にドン引きせざるを得ない。

 リインさんははやてのユニゾンデバイスであるという都合上基本的にいつもはやてと一緒に居る。そのせいでリインさんははやての主目標となり、揉まれまくったのだろう。

 

「家でリインさんやシグナムさんの胸が揉まれてたのは知ってたが、仕事場でもそんなだったとは思わなかった」

 

 おれもはやてが疲れた様子だったらしばしば疲労抜きをしていたが、やはりおれの能力は精神的な物に対してはあまり効果がないな。

 

「なるほどね。それならリインさんがおれにユニゾンしたくなるのもわかるわ」

 

 何故リインさんとおれがユニゾンをしているのか? それは、はやてに乳を揉まれ過ぎたリインさんは精神肉体共に限界を迎えたため、おれの中で回復するのを望んだからだ。

 

(主のユニゾンデバイスとして、とても情けないことだが……その……流石にもう限界でな……)

 

 よしよし、おれはリインさんの苦労を分かってあげるぞ。

 おれにユニゾンを頼んできたときの緊迫感はリインさんと初めて会って、助けを求められた時と似たものがあったからな。

 

「あれ? じゃあ今のはやてのストレスのはけ口は? リインさんが居ないとはやて発狂するんじゃね?」

(そこは問題ない。代わりに烈火の将に代理を頼んだ)

 

 シグナムさんは犠牲になったのだ……

 

「まあ、今日はおれの中でゆっくりしたらいいさ」

(うむ、そうさせてもらおう)

 

 そう言ってリインさんは眠ってしまったようだ。

 

「さて、じゃあおれも本題を済ませるとするかね」

 

 今おれがいる場所はミッドチルダでも地球でもない。何番目の世界だったかはちょっと忘れてしまったが、一般的に辺境世界と呼ばれる場所である。ここには、豊かな自然や珍しい動植物が多数生息している。そのため、管理局の外部組織である自然保護隊がそれらの自然や動植物の保護、各種の探索、密猟者対策等をしているのである。

 この部隊には現在キャロちゃんとエリオくんが所属している。その二人がおれに手伝ってほしいことがあるという事で、おれは今日この世界へ来ている。

 

「さっき竜の声が聞こえたからもうすぐ迎えが来るかな?」

「マサキせんせーい!」

「お久ぶりですー!」

 

 噂をすれば影。

 なにやら大きな影通り過ぎたと思ったら、件の二人の声が空の上から聞こえてきた。何の影かと思い見上げて見ると、そこには二人を乗せたでかい竜がいた。その竜の特徴を見るに、おそらくあの竜はフリードだろう。

 手綱を握ったエリオくんはフリードをおれの傍に着陸させ、二人は地上に降り立った。

 

「やあ、二人とも久しぶりだね。エリオくんは少し背が伸びたか?」

「そ、そうですか?」

 

 男子三日会わざれば刮目して見よと、言った所だろうか? いや、少し意味合いが違うか。それでも、やはりこの年頃の男の子と言うのは成長がとても早い。それに、エリオくんのことだから六課が解散してからも鍛錬は怠っていないだろうから、あながち間違いではないだろう。

 

「キャロちゃんもまた可愛く……いや、美人さんになったんじゃないか?」

「えぇ! えっと……ありがとうございます?」

 

 成長しているのはエリオくんだけではない。むしろ、この年頃の子は女の子の方が成長が早い。やはり、キャロちゃんもエリオくんに負けないくらい成長している。

 

「それに、フリードも大きくなったな?」

「それは何か違うような……」

 

 キャロちゃんが苦笑いしながら答えてくれる。そう、フリードの本当の姿はこのでかい竜の方なのだ。おれは見るのは今日が初めてなので、中々びっくりした。

 

「おーフリードー、よーしよしよしよし」

 

 小さいフリードにやっていた時の様にフリードをなで回すと、フリードも目を細めて気持ちよさそうにしている。ただ、そのでかいバージョンの低い声でゴロゴロ言われても怖いだけだ。

 

「あれ? 先生の瞳って赤色でしたっけ?」

「ああ、今はリインさんとユニゾンしてるんだ」

 

 おれの瞳の色の変化にエリオくんが目ざとく気付く。

 

「え? 先生がリインフォースさんとユニゾンを?」

「あー、うん。色々あってな。今リインさんは寝てるよ。申し訳ないけど、起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れてるから……」

「? 分かりました」

 

 リインさんは本当に疲れてるんだ……

 

「それで、おれに手伝ってほしいことがあるとか」

「はい、今絶滅が危惧されている希少動物の個体調査をしてるんです。ですけど、その子はすっごい警戒心が強くて中々出て来てくれないんですよ」

 

 キャロちゃんの説明に合槌をしながら聞く。

 

「そこで、先生にはその子にこのチップを取り付けてほしんです」

 

 キャロちゃんの説明にエリオくんが補足の説明を入れる。なるほど、おれにしてほしいことは分かった。

 

「おーけーおーけー。おれのやることは分かった。で、それはどういう動物なんだ」

「この子です」

 

 おれはキャロちゃんからその目標が写った写真を受け取る。そこに映っている動物は簡単に言えば、銀色の狼だ。遠くから取った写真のようだから写りはあまり良くないが、なかなかかっこいい奴だという事は分かる。

 

「よし、お兄さんに任せなさい!」

「「ありがとうございます!」」

 

 そんじゃま、二人の頼みを遂行しましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 キャロちゃん、エリオくんと別れて一時間ほど経っただろうか。

 

「これは……所謂ハーレムと言う奴じゃなかろうか?」

 

 おれが背をもたれているのはかなりの大きさの熊のような動物。熊のような動物はおれの後ろで伏せの状態で、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 右腕は狸のような動物をひじ掛けのようにして楽にしている。もちろん、右腕に体重は掛けていないし、右手で狸のような動物をワシャワシャするのを忘れない。

 左側は鷹のような動物がその羽をゆっくりと動かしておれに柔らかい風を送ってくれる。手持無沙汰な左手で鷹のような動物のお腹をなでなでしている。

 

「幸せなんだけど、何とも複雑な気分だ……」

 

 いや、モコモコに囲まれて幸せなんですけどね?

 

「と、どうやら本命のご登場だ」

 

 目の前の草むらが動いたと思ったら、そこから銀色の狼のような動物が現れた。

 

「ほーら、こっちにおいでー。こわくないよー」

 

 なんか、誘拐してる気分になるな……

 そんなことを考えながらも続けていると、狼のような動物はおれのすぐ傍まで近づいてくる。

 今だ!

 

「よーしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

 

 右手を狸のような動物から放してすかさず狼のような動物をなで回す。狼のような動物の注意が散漫になっている隙に、エリオくんから受け取ったチップを狼のような動物の毛に付ける。

 これでミッションコンプリートである。

 

「よしよし、良い子だな。それじゃ、おれはもう行くよ」

 

 そう言い残してエリオくん、キャロちゃんと合流することにした。

 

 

 

 

 

 

「おーい二人ともー。ミッションコンプリートだぜー!」

「あ、先生。お帰りなさ……いっ!?」

「お疲れ様です……って、えー!?」

 

 なんだか二人ともすごい驚いてるようだけど。何かあったのだろうか?

 

「「先生! 後ろ、後ろー!」」

「え? 後ろ?」

 

 二人に言われて後ろを振り返ると、さっきまで一緒に居た動物たちがついて来ていた。

 

「あらら……お前たちついてきちゃったのか」

「う、嘘……あの凶暴なゲフェーアリヒベーアとブルータルファルケが……」

「それに、フリーエンダクスとエングストリヒヴォルフが人前に……」

 

 ドイツ語だな。いや、確かベルカの言語がほとんどドイツ語と一緒だったからベルカ語か。危険グマに凶暴タカ、逃げタヌキに臆病オオカミって所か。

 え? なんでおれがドイツ語を知っているかって? あれは中学二年生、14歳の時だった……全ては語るまい……

 人生何が役に立つかわからないね。

 

「おう、みんないい子だぞ。そうだ、折角だから写真撮ろうぜ。カメラ持ってきてるから」

 

 おれは鞄からデジカメと超コンパクトに折りたたんでしまえる三脚を取り出してセッティングをする。

 

「フェイトさんに二人の写真を頼まれてるんだよ。ほらほら、みんなそこに集まって」

 

 おれの指示を受けて動物たちは二人を中心にするようにして集まる。

 

「それじゃあ撮るよ。はい、笑ってー」

 

 おれの合図に合わせてエリオくんとキャロちゃんはにっこりと笑う。うむ、良い笑顔だ。取り直す必要はないだろう。

 今度はカメラのタイマーをセットして、おれも二人の横に立つ。

 

「はい! チーズ!」

 

 おれのタイミングとぴったり合うようにカメラが自動的にシャッターを切った。

 動物たちに囲まれてみんな笑顔で写ったいい写真を撮ることが出来た。

 その後は二人に挨拶をして、動物たちを一撫でしてからミッドへ帰った。

 

 

 後日、二人を写した写真をフェイトさんに渡すと、とても喜ぶと同時に私もその場にいたかったと言って残念がっていた。

 フェイトさんもなのはさんに負けず劣らずの親ばかである。

 




ドイツ語に突っ込んだら駄目ですよ?単語を適当にくっつけただけですから。


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新しい家族と77話

ちょっちエロい話。別に15禁ですらないけど。
エロいというかスケベ。


 年は明け、今年は新暦77年。

 分かりやすく言うならば、JS事件から二年後。おれ達の年齢は21歳になったし、ヴィヴィオちゃんは初等科の2年生へと進級した。

 この二年間の間にこれと言った問題も起きることなく、平和に暮らしていた。問題は無かったが、変わったことならある。それは、更生施設に入れらていたスカさんの娘たちとルーテシアちゃんが保護観察期間に入ったことだろう。

 ルーテシアちゃんとアギトちゃんは他の子たちより少し早くにそこを出ている。ルーテシアちゃんは魔力を大幅封印した上で管理局の保護観察の下、母親のメガーヌさんと第34無人世界の「マークラン」第1区画の静かで自然豊かな草原の中で暮らしている。

 一方のアギトちゃんは管理局に努めることになり、シグナムさんを新たなロードとしてシグナムさんと共に行動するようになった。シグナムさんをロードとすることとなったアギトちゃんは新しい八神家の一員として迎えることになったのは言うまでもないだろう。

 そして、今年、他の娘たちも更生施設を出て保護観察期間として各所で生活するようになったと言う訳だ。まだ誰がどこへ行ったという話は耳にしていないが、きっと彼女たちも楽しい日常を送って行けるだろう。もちろん、おれもこれからも変わらず平和な日常を送って行くだろう。

 

 

 

 と、思っていた時期がおれにもありました。

 

 

 

 

 

 

「今日も仕事で疲れた……あ、疲れてないわ」

 

 そんな特に意味もない事を呟きながら、仕事場から家への帰り道を歩く。仕事終わりという事で、辺りはすっかり暗くなってしまった。今日ははやて達は遅くなるという事らしいので、おそらく家に帰るのはおれが一番乗りだろう。

 おれの帰宅時間でさえそこそこいい時間だというのに、おれが一番早いとは……あいつらはちょっと働き過ぎだな。

 そんなこんなしていると、ミッドでの八神ハウスに到着した。

 

「あれ? 電気が付いてる。誰か早く帰ってこれたのかな?」

 

 真っ暗だと思っていた家には電気が付いており、誰かがそこに居ることを示している。

 

「泥棒でしたーって落ちは無しだぞ……ただいまー」

 

 ふと脳裏を過った怖い考えをできるだけ気にしないように、おれは家へ入る。

 

「おかえりー」

「あれ? 早かったんだね」

 

 おれを出迎えてくれたのはなんとはやてだった。一番遅く帰って来るだろうと思っていた人物がそこに居たのでちょっと驚いてしまった。

 

「うん、仕事が思ったよりはよう終わってな」

「ふーん、それは何よりだ」

 

 仕事が早く終わるのは良い事だ。

 

「ところでハムテルくん、ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」

 

 ……ん? はやてがこんな冗談言うなんて珍しいな。いつものはやてなら「ご飯にする? ライスにする? それともお・こ・め?」くらい言いそうなものだが。

 なんにせよ、はやてがノリノリなので折角だからおれも乗ってやろう。 

 

「それじゃあ……はやてを貰おうか」

 

 言葉の最後に(キリッってつくような感じで宣言する。正直とても恥ずかしい。

 

「ふふ、もうハムテルくんはエッチやなぁ。ほんなら、ちょっと待っててな」

「ちょっ!?」

  

 はやてがいつにもまして妖艶にほほ笑んだと思ったら、つけていたエプロンを外して、おもむろに上着を脱ごうとする。

 

「ストップストップストーップ!! 嘘嘘! 冗談だから。今日は先に風呂に入るよ」

 

 まさか脱ぎ出そうとするとは想像していなかった。くっ……認めようじゃないか……今日はおれの負けだ……

 

「ん? そうなん? じゃあ先に入っといてな。後から私も行くから」

 

 いや、入って来るなよ! そう言うサービス頼んでませんから!

 

「違う違う違う! えっと、じゃあご飯にするから」

 

 なんなんだ今日のはやては……そんなにご飯に誘導したかったのか……なら最初からご飯かライスか米の選択肢にすればいいのに……

 

「わかった。今日のおかずは私やで?」

「詰んでるやん……」

 

 一体どれが正しい選択肢なんだ……全く分からない……

 いつもと様子が異なるはやての対応をどうするか、驚き過ぎて回転が遅くなった頭を必死に使って考える。

 

「まあまあそう言わんと、楽しいことしようや?」

「た、楽しいことって……」

 

 さっきの服を脱ごうとしていた時の影響で少し上着をはだけさせたはやてがおれの腕に抱き付いてくる。 

 ていうか、楽しいことって言うのは……その……所謂そういう……

 

「本当にどうした? 熱でもあるのか? それとも変なもん食ったか?」

「もー、失礼な人やなー。これが私の本心や」

「うおっ!?」

 

 油断していたおれははやてに押し倒される。これは……大外刈り! 抵抗できなかったおれは綺麗に仰向けにさせられる。仰向けになったおれの上にはやてがすかさずのしかかって来る。

 

「ちょっと待て、こんなところで……ここ玄関だから」

「じゃあベッドの上やったらええんか?」

 

 そう言うことを言いたいんじゃない!

 

「あーもう! はやく……」

「ただいまやー」

 

 どいてくれ、と言おうとしたところにドアが開き、誰かの声が聞こえてきた。この声は……はやて? え? でもはやてはここに……

 

「みんなとそこで会えたから一緒に……帰って……来た……で?」

「あ、あはは……おかえり……」

 

 はやて視点で今の状況を考えて見よう。

 

 家に帰ったら自分が同居人を押し倒しているのを見た。

 

 うん、混乱することは必須だ。

 

「私がハムテルくんを押し倒しとるシーンを横から見とる……どんな哲学や」

「いいから早く助けてくれないだろうか」

「私のこと無視したらあかんで~」

 

 二人のはやてが何か言っているようだが、今のおれには何も入ってこない。

 そういえば、さっきみんなと一緒に帰って来たって言ってたか? こんな場面をシグナムさんやヴィータに見られたら……

 

「貴様……」

「マサキ……テメー……」

「ちょ、ちょっと待て! 本物のはやてはそっちのはやてなんだろ!? 落ち着け! これは違うんだ!」

 

 ゴミを見るような目でこっちを見てくるシグナムさんとヴィータさん。やばいって、背中に変な汗が。

 

「それに、おれは被害者ッ……」

「フンッ!」

「ていっ!」

 

 仰向けになっているおれに対して二人が行った攻撃は無慈悲な顔面への踏み付け。踏む直前に靴を脱いだのはわずかながらの優しさだろうか。

 

「あ、そういえば、言うの忘れとったわ。ドゥーエは家で預かることになったから」

 

 あとから帰って来た方のはやてがそんなことを言う。

 

 そう言うことは早くいってほしかったな。




最近更新頻度高いでしょ?
作者の現実逃避度が今アゲアゲなんですよ。


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同志と風呂と78話

>姉妹中最もスカさんの影響が強く性格から行動原理にいたるまで共通点が多く

だってwikiにこうやって書いてあるから……


「そう言う訳でこれからよろしくお願いします」

 

 そう言ってソファに座りながらお辞儀をしている女性はドゥーエさん。金髪長髪の美人さんだ。彼女はスカさんの娘たちの中でも更生施設組であり、おれ自身は初対面の紅茶についての講義から何度か会話したことがある程度だ。その時の印象としては礼儀正しく、なんでもそつなくこなす委員長みたいな人という物だった。

 しかし、本当はかなりのいたずら好きのようだ。

 

先天固有技能(インヒューレントスキル)……でしたっけ? そういうのは封印されてるんじゃなかったっけ?」

 

 更生施設を出て保護観察期間に入ったとはいえ、彼女たちは一応犯罪を犯した身。そのため、彼女たちの力は魔力から個人の能力まで大幅に封印されている。

 

「はい、私の先天固有技能(インヒューレントスキル)偽りの仮面(ライアーズ・マスク)は普段は使えません。ですけど、事前に八神二佐にお話したら限定的に解除してくれました」

 

 はやて……

 おれははやての方を見る。

 

「てへっ」

 

 職権乱用するんじゃないよ。

 はやてのあの顔は知っていてドゥーエさんが家に来ることを話さなかったな。ペコちゃんみたいな顔しやがって。

 

「あ、そうや。これからドゥーエは家族になるんやから私のとこは八神二佐やのうて、はやてって呼ぶんやで?」

「よろしいんですか?」

「もちろんや」

 

 はやてめ……一見良い話をしているようでおれからの追及を逃れやがった。

 

「しかし、なんでドゥーエさんははやてを保護者に選んだんですか?」

  

 おれはドゥーエさんが八神家に滞在すると知った時から不思議に思っていたことを聞くことにした。

 

「よくぞ聞いてくれました」

 

 ん? なんか変な流れだ。

 さっきまでおしとやかに座っていたドゥーエさんはすっくと立ちあがる。

 

「本当のところ、私は保護者としてマサキ先生を指名していたのです」

「おれを?」

 

 何故だろう。正直ドゥーエさんがおれを保護者として指名するほど親しくなった覚えはない。

 

「ええ。私はドクターの唯一の友にして、理解者のあなたをもっと知りたいと思った!」

 

 唯一とか言ってやるなよ。スカさん可哀想だろ。スカさんにだっておれ以外に友達くらい……いるのかなぁ……

 

「そうです、マサキ先生、いえ、同志マサキ!」

「同志!?」

 

 その称号はびっくりだ。

 ドゥーエさんのテンションゲージが目に見えてどんどん上がっていくのがわかる。

 

「私の創造主にして親であり、友であり、理解者のドクター! そのドクターの友であり、理解者である同志マサキ! ならば、なればこそ! あなたと私は同志ではありませんか!」

「あ、はい」

 

 すごい理論だ。友の友は友理論とでも言おうか。しかし、実際に友達の友達と言うのは微妙な立場だろう。それをここまでポジティブに受け取れるドゥーエさんは流石としか言いようがない。

 ドゥーエさんは手をこちらに向けて、おれに手を取るように促すような体勢になる。

 

「これは運命! 私とあなたが出会うのは前世より定められたこと!」

 

 ドゥーエさんはおれに向けていた手を空へ向けて、歌うようにして話し続ける。

 あ、おれドゥーエさんのことがなんとなくわかって来た。

 

「しかし! 私たちの出会いの運命に対し、残酷な神は試練をもたらしたのです!」

 

 あーはいはい、試練ね。

 

「ハムテルくんて今回の事でちょっと微妙な立場になったやん? そんな人に事件の当事者の保護者をさせるのはどうなんやろうってことになったんや」

 

 あ、そこではやてが続きを話すのか。

 まあ確かに、おれは自覚していなかったとはいえ、一応事件の関係者と言うことになっている。そんな人物に事件の当事者を預けるというのは無理な話だろう。常識的に考えて。

 ドゥーエさんは今度ははやての方に手を向けて再び話し始める。

 

「そこで! 私はマサキの保護者であるはやてに私の保護者となることを要請したのです!」

 

 ちょっと待って……おれの保護者がはやて? ……いや、深くは考えないでおこう。

 

「こうして、私のこのパーペキな作戦によって同志マサキと共にいることが可能になったのです」

 

 ドゥーエさんは言いたいことを全て言い切ったのであろう。またソファに座り直しておれが淹れたミルクティーを優雅に飲む。そのままだったらただの美人さんだったのに……

 

「これからドクターが作り変えたこの世界をともに観測していきましょう! オーッホッホッホッホォ! オエッ、ゲホッ! ゲホッ!」

「そ、そうですね……」

 

 おれの周りにはこんな人しかいないのか。

 おれの友人(ドゥーエさん視点では同志)にまた一人中二病が追加されたのだった。

 

「これから楽しくなるな?」

「楽しすぎるのもどうなんだろうな」

 

 おれに小声で話しかけてくるはやてにおれはそう返す。

 

 

 

 

 

 

 風呂。

 そこでは体の汚れを洗い流し、湯船につかることで体と心の両方に癒しを与える場所である。そんな場所にいる人は気分が緩み、歌を歌いだしたり、独り言を呟きだしてしまうのは仕方のない事だ。

 

「ふいー……やっぱり風呂は良い……」

 

 疲れ知らずなこの体とはいえ、風呂につかることで味わえるポカポカ感は相変わらず体に癒しを与えてくれる。風呂は心の洗濯だと言う。ここまで的を得た表現はないだろう。

 リリンの生み出した文化の極みだよ……

 

「しかし、まあ……これからどうなることやら……」

 

 おれは今日の出来事を思い返す。

 ドゥーエさんが八神家で暮らし始めるという出来事。このドゥーエさんが中々の曲者で、スカさんに負けず劣らずの中二病患者。一体スカさんは彼女に何を教えたんだ。残念美人という言葉がこれほどまでにぴったり合う人物に始めて会ったよ。

 

「ま、退屈はしなさそうだな……」

 

 これからの日常は今までより悪くなることは無いだろうと結論付けて、おれは一息付く。そして、湯船に深く浸かる。

 はぁ……落ち着く……

 風呂場に漂う蒸気が天井に凝縮し、再び湯船に帰る時の音だけが響くこの空間に別の音が割り込んでくる。

 

「同志マサキ! ここはお互い丸腰、肉体以外の障壁をとっぱらい、心と心をぶつけ合いましょう! 裸の付き合いというやつです!」

「ふぁっ!?」

 

 風呂場に裸で突入してきたドゥーエさん。残念ながら(幸い)風呂場に漂う大量の湯気によって大事な部分は見えなかったが、残念美人の『美人』の部分をまじまじと見てしまった。

 

「前をタオルで隠しなさい!」

 

 ついつい敬語になってしまうのを誰が責められようか。

 

「そんな物、私たちの間には必要ないでしょう。さあ! 朝まで語り尽くしま……あら?」

 

 

 興奮気味に話していたドゥーエさんにバインドが仕掛けられる。そして、疑問の声を挙げたと思ったらすごい勢いでドゥーエさんは風呂場から退場した。

 

「ドゥーエのことは気にせんと、ハムテルくんはゆっくりしててええからな」

「お、おう」

 

 ドゥーエさんを強制退場させたのははやてだろう。正直助かった。

 

「ふぅ……これから騒がしくなりそうだ」

 

 おれはこれからの騒がしい未来を想像するのだった。

 

 

 

「……ていうか、はやて……おれの入浴シーンを見て平然としてたな」

 

 それでいいのか、21歳乙女よ!




ドゥーエさんはこの小説のエロ担当となりました。


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インテリジェンス・コーンとおいしい棒と79話

注目!

66話にて、気を失ったヴィヴィオを治した描写がありましたが、今回の話の都合上その描写を修正しました。
ヴィヴィオは意識を失う寸前ということに変更されました。


「そこや! そこそこ! そこで相手をタコ殴りや!」

「うおー! やるなこいつ!」

 

 今日は珍しくみんなの休みが重なり、八神家は休日を堪能している。それで、今何を堪能しているかと言うと、この間行われたインターミドル・チャンピオンシップ、その世界代表戦の録画放送を一日かけて見ている。ちなみに、今は決勝戦の試合である。

 

「よーし、流れ来てるで! そこで相手のみぞおちに全力の一撃や!」

「同志マサキ、私と一緒にインテリジェンス・コーンについて話し合いませんか?」

「おれはコーンだ。インテリジェンス・コーンだ」

 

 何気に恐ろしいことを言っているはやての言を無視しつつ、ドゥーエさんの訳の分からない会話を適当に流す。

 

「流石は同志マサキです! つまり、マサキ自身が宇宙の根源たるインテリジェンス・コーンになることによって、この世界の知性を統制し、世界を観測し続ける存在へと昇華するというのですね!」

「お、そうだな」

 

 どういうことなの。ドゥーエさんのことがどんどん分からくなって来た今日この頃。

 

「ふいー、ずっと興奮しっぱなしやったなー」

「そりゃあんだけはしゃいでたら疲れるだろうな」

 

 どうやら試合の決着が付いたようだ。優勝したのは黒い髪のツインテールの可愛い女の子だ。名前はジークリンデさんと言うらしい。

 ……可愛い女の子であるのだが、その……ちょとバリアジェケットエロ過ぎじゃないかな? 全体としての露出はそう多くはない。しかし、露出している部分が胸元とお腹に集中していて……すごく……良いとおもう!

 

「結構大声出したから喉乾いてもたなー。な! ハムテルくん」

「熱々のミルクティーでも入れてやろうか?」

 

 はやては日頃溜まった鬱憤を全て吐き出すがごとくテレビに映る選手たちをすごいテンションで応援していた。それが決勝戦ともなるとすごい騒ぎようだった。

 ちなみに、今家に冷たいジュースの類は無い。

 はやてがおれにさせたいことは分かるが、絶対に素直に従ってやるものか。頼みがあるならちゃんと言うべし。

 

「うーん、それはとても魅力的な提案やけど、私としては冷たいのがええねん」

「蛇口を捻ればミッドの美味しい水が出るし、冷蔵庫の中にはミッドの美味しい水から作られた氷があるだろ。それで美味しい冷水が飲めるぞ」

 

 これはおれが論破したに違いない!

 

「余ったお金で好きなもん買って来てええで」

「ふぅ……ちょっくらコンビニ行ってくるわ」

「カルピスで頼むわ」

 

 流石ははやてだ。管理局のお偉いさん達と舌戦を日夜繰り広げている二佐どのに口論で勝つのは難しかったよ。

 

「……安い男だな……」

 

 うるさいよヴィータ! ていうか、その言い方外で絶対にするなよ!

 おれははやての依頼をこなすべく、夕暮れ時のミッドチルダに繰り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

「ううむ……今回もはやてにうまいこと乗せられてしまった」

 

 はやての望み通りカルピスを購入し、どうせ外に出るなら私たちの分も買って来いという意思を込めた視線をヴォルケンズとドゥーエさんから受けたおれは彼女たちの分の飲み物も買って来た。こうなると、はやてに貰う報酬はほとんどなくなるのは言うまでもないだろう。

 

「まったく……困った奴等だ。仕方がないのでヴィータにもおれと同じように安い女になってもらうことにしよう」

 

 多少多めに貰っていたとはいえ、元ははやての分のお金だったので、八神家全員分の飲み物を買うほどのお金はない。であるから、さっきおれにとんでもないことを言い放ったヴィータには我慢してもらうことした。

 おれとヴィータの分を買うとなると、安いものしか買えない。そこでおれが選んだものは子供でも買えるくらい安い駄菓子の『おいしい棒』。

 

「うまい棒じゃなくておいしい棒って言うとなんだか卑猥に……聞こえないか」

 

 一瞬「これなんか卑猥じゃね?」って思ったおれは随分汚れてしまったなぁ……

 何気ない所で自身の怪我れ具合を認識させられ、落ち込みながら家への近道の裏通りを通る。

 

「ん? あれは……」

 

 暗い道と言うこともあって、近づくまで気が付かなかったがおれの前方数メートルの所に人が倒れている。

 

「おい! あんた、大丈夫か!」

 

 倒れて居る人がいたら、むやみに動かさず、声を掛けて反応を見る。これは基本だ。

 

「お腹……すいた……」

 

 なんだかすごいデジャヴが……シチュエーションは少し違うが。今のおれの視点は嘗てのはやて視点って、そんなことはどうでもいい!

 

「あっ、おい!」

 

 すると、倒れていた人は少し反応を示したと思うと、一言呟いて気を失ってしまった。

 黒いジャージのフードをすっぽりとかぶっているため、性別が分からなかったが、声から察するにどうやらこの人は女の子のようだ。

 

「困ったな」

 

 おいしい棒が2本あるにはあるが、気を失った娘の口においしい棒をねじ込むというのはちょっと……

 まあ、仮に彼女の意識があったとして、近場の店で何か食べ物を買って来てやりたいところだが、はやてからもらったお金は全て使ってしまったので食料を買うことは出来ない。こんな時に限って自分の財布は持ってきていない。

 一度家に帰って財布を持ってくるか? その間に彼女の意識が戻ってるかもしれないし。しかし、その間この娘をここに置いたままにするというのは問題があるだろう。

 気を失っている相手におれの能力は効かない。なので、この娘が意識を戻るのを待ってから容赦なく治してあげようか? いや、さっき彼女は空腹を訴えていた。おれの能力で必要分の栄養を補給することは可能かもしれないが、胃の中に何もない事は変わらない。おれが彼女から手を離した瞬間に彼女はとてつもない空腹感に襲われることになる。それに、ここで時間を食ってしまうと後ではやてに何を言われるかわかったものではない。

 そうなるとおれの取るべき手段は……

 

「……だが……しかしッ!」

 

 これらすべての問題をクリアできる方法が一つある。しかし、この手を使って良いものなのか……

 

「……」

 

 おれは意識を失った娘の方を見る。

 

「はぁ……」

 

 おれはこの場に彼女を放置することなく、お金も必要とせず、また、おいしい棒を彼女の口にねじ込む必要がない方法を選ぶことにした。

 

「よっこいしょ」

 

 空腹少女をお姫さま抱っこし、出来れば人目につきませんようにと祈りながら八神ハウスに向かうのだった。

 

 空腹少女一名お持ち帰り。




┗(^o^ )┓≡インテリジェンス・コーンだ≡┏( ^o^)┛

ジークがチャンピョンになったのってvividの2年前であってますよね?


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腹ペコ少女とチャンピオンと80話

(アカン、まだvividの本手に入ってないのにジークを出すのは危険すぎる)

追記

インターミドルで賞金は出ないという指摘をいただき修正しました。


 裏通りで黒づくめの腹ペコ少女を保護したおれは人目につかない場所を選びながら無事に家につくことが出来た。

 

「こちらハムテル。目標地点に到着……なんちて」

 

 スニーキングミッションをするが如く行動していたため、気分は蛇だ。

 

「とはいえ、問題はここからだな」

 

 家の中に入ればはやてを始め、ヴォルケンズの特にヴィータとシグナムが今のおれの状況に対して説明を求めてくるだろう。上手く伝えることができなければ、はやてに誘拐犯として管理局に突き出されかねない。とはいえ、あいつらとてちゃんと話せばわかってくれるはずだ。そう思うと気も楽になるってものだ。

 おれはドアを開けるためにお姫様抱っこしていた少女を肩で俵を担ぐように担ぎ直し、片手をフリーにする。

 

「ただいまー」

「おかえりー」

 

 リビングの方から聞こえてきたのははやての声。きっとまだダラダラと休日を楽しんでいることだろう。

 おれは手を使わずに足だけで靴を脱ぎ、みんながいるリビングへと向かう。万が一のことを考え、おれは先手を取ることにする。

 

「みんな、ちょっと聞いてくれ」

 

 リビングに集まっていたみんながこちらに注目する。

 みんなが注目しているうちに、おれはさっき有ったことをみんなに説明しよう。

 

「さっ……」

「ヴィータ、判決は?」

「ギルティ」

「ちょっ!?」

 

 ヴィータがおれに有罪判決を下してからのヴォルケンズの行動は早かった。いつの間にか後ろに回り込んでいたシグナムさんが肩に担いでいた少女を確保し、シャマルさんがおれにバインドを仕掛ける。狼状態のザフィーラさんが後ろからおれに突進することで、おれはバランスを崩しうつ伏せに倒される。最後にヴィータがおれの背中に乗って行動を封じる。

 詰みである。

 

「弁護の機会すら無しかよ」

「まあ、せやな。確かにちょっといきなり過ぎたとは思うけどな。客観的にさっきのハムテルくんのことを見ると、『中学生? やろな……中学生をハイエースしてダンケダンケしようとする誘拐犯』そのものやったで」

 

 い、言い逃れできない……そして、はやての使う隠語を理解できることが残念過ぎて困る。

 

「なあ? ハイエースしてダンケダンケするってどういう意味だ?」

「ヴィータは知らんでええんやで?」

「え? なんでだ? なあ、なんでだ? シグナム」

「私にもわからぬ」

 

 ヴィータが他のヴォルケンズに意味を尋ねているが、皆首をかしげている。

 どうやらヴォルケンズはこの意味わからないらしいな。わからなくていいよ、こんな意味。

 すると、さっきまで静かにしていたドゥーエさんが立ちあがり、おれの方に歩いて近づいてくる。

 

「同志マサキ……」

「な、なんだよ」

 

 なんだ? おれに何を言う気だ。

 

「その……マサキがどんな趣味嗜好であろうと、同志マサキは私の同志だからな?」

「やめて! そんな、『君がどんな人であろうと私たち友達だよ』みたいに優しく言わないで! へこむから……」

 

 ドゥーエさんの事だからおちゃらけた感じで弄って来ると思っていたので想定外だ!

 

「んん……なんや……ここ? どこや?」

「む? 目を覚ましたか。安心して良い、もう大丈夫だぞ」

「?」

 

 おれ達がぎゃーぎゃー騒いでいた所為だろうか、おれが連れてきた少女が目を覚ましたようだ。そして、シグナムさん。その言い方は誠に遺憾である。

 

 

 

 

 

 

「ハムッ……ハムハムハムッ……」

「ゆっくり食べるんやで」

 

 少女のお腹減った発言を聞いたはやては状況を理解してくれたようで、すぐに作ることでが出来る簡単な料理を作ってくれた。メニューは炒飯だ。

 

「美味しい……ほんまに美味しいです!」

「そうか? そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 腹ペコ少女とはやてはどうやら打ち解けたようで、良い雰囲気で話している。そう言えば、腹ペコ少女の話し方は、はやての関西弁特有のイントネーションの影響を受けたミッドチルダ語とよく似ている。それもあって、シンパシーを感じているのだろうか?

 

「まったく……みんなが話聞かないからえらい目に遇ったぜ……」

「すまなかったな、疑ってしまって」

 

 腹ペコ少女が目を覚ましてから彼女の証言と共におれが説明することによってヴォルケンズとドゥーエさんは納得してくれた。

 おれ、なんでこんなに信用されていないのだろうか……それとも近い人に対する時特有の軽い冗談なのだろうか? そうだと信じたい。

 

「仕方ないからヴィータの分のおいしい棒はおれによってボッシュートです。シャクシャクシャク」

「あー! 私のおいしい棒! この野郎! なんで私だけ!」

 

 ヴィータはおれの首元を掴んでグワングワン揺らしてくるが、気にせず口に含まれた二本のおいしい棒を噛み続ける。

 親しいが故の軽い冗談……さ。

 

「……楽しそうなご家族ですね」

「そうやろ? 自慢の家族やで」

 

 はやて、その言葉信じていいんだな? 疑わしきは罰せよの理念で罰せられたおれもその中に含まれているって信じていいんだよね!

 

「ところで、フードは取らんの? 食べづらない?」

「あ、すんません! 失礼しました」

 

 そう言えば、少女は今までジャージのフードをしっぱなしだな。

 腹ペコ少女がフードを外すと、その中から立派なツインテールと可愛い顔が露わになる。そのツインテールはどうやってしまっていたんだ……ん? いや、そんなことよりこの娘……

 

「あ」

「あっ!」

「あー!」

 

 それは、さっきまでテレビでインターミドル・チャンピオンシップを熱心に見ていたおれ、はやて、ヴィータの声である。

 

「「「チャンピオン!」」」

「えっ……あ、あはは……」

 

 今おれ達の目の前にいる腹ペコ少女は、腹ペコ少女改め十代女子の次元世界最強のエロいチャンピオン、ジークリンデ・エレミアちゃんだったのだ。

 ジークリンデちゃんはおれ達の反応に恥ずかしそうにしている。……今の状況に恥ずかしがるような娘がよくあんなデザインのバリアジャケットを着て居られるな……

 

「あれ? でも十代女子限定とはいえ次元世界最強なら、色んな大会で優勝して賞金たくさんもろうとるんちゃうん? なんで行き倒れなんかに?」

「えっと……それは……あはは……」

 

 ジークリンデちゃんは何とも微妙な表情をしながら笑ってごまかした。余り聞かれたいことではないのだろうか。

 

「まあ、それはええか。あ、私としたことが自己紹介がまだやったな。私は八神はやて。よろしゅうな」

「はい、よろしくおねがいします!」

 

 はやても何かを察したようで、まだやっていなかった自己紹介をすることにしたようだ。

 

「ほんで、あっちにいるのが君を連れてきたハムテルくんこと公輝くん」

「よろしくね」

 

 はやての紹介のバトンを受け取って挨拶する。

 

「この度は、どうもありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 ジークリンデちゃんはおれに対してお礼を言ってくれる。とても礼儀正しい娘のようだ。大変よろしい。

 その後はヴォルケンズとドゥーエさんの紹介をしてから、おれがミルクティーをジークリンデちゃんに振る舞ってあげた。

 

 幸せそうに飲んでもらえるとおれとしてもうれしい限りである。

 

 

 

 

 

 

「ほんまにええんか? もう遅いからハムテルくんに送って行ってもろたらええのに」

「ええですええです! これ以上迷惑かけられませんから」

 

 食後のデザートを食べ終わった頃には結構な時間になっていた。そのため、ジークリンデちゃんは家に帰ることになったので、おれも付き添って行こうとなったのだが、ジークリンデちゃんが遠慮して断ったのだ。

 

(ウチ)強いですし! 何の問題もありませんよ!(家バレしたないし……)」

「確かに、次元世界最強と比べてもたら家のハムテルくんは大したことないわな」

「しょぼーん」

 

 確かに正しいのだが、何となく傷つく。

 

「そうか? ほんならまあ、またお腹減ったら家に来たらええで。いっぱい食べさせたるから」

「え……でも……」

「また倒れとってハムテルくんが見つけた時、また上手いことジークリンデちゃんを家に連れ込めるとは限らんしな。途中で局員にでも見つかったら面倒やし」

 

 本当にな……ジークリンデちゃんを運んでる時の緊張感と言ったらそれはもうすごかった。スニーキングごっこをして気を紛らわせないとやってられないくらいに。

 

「おれも君が来るのは大歓迎だよ」

「また来てええんですか?」

「もちろんや!」

 

 ジークリンデちゃんとまた来るという約束を交わし、今日の所はこれでお開きとなった。

 

 ジークリンデちゃんが帰ってからしばらくして、はやてがこんなことを言ってきた。

 

「普通人が倒れ取ったら自分の家やのうて、病院とか警察、ミッドやと管理局とかに連れて行くやろ」

「……ハッ」

 

 普段人を助けるときおれだけで物事が完結していたからそういう施設を利用するという考え全くなかった。今度から困った時はそうしよう。自分からそれらの施設に行けば気を失った人を担いでいても何の不思議もないしな。

 

 そんなことを考えながらも、今日の出会いも何かの縁だろうと思う。

 そんなこんなで休日は終わった。

 

 




はやてのジークの呼び方を教えて頂けたら作者は嬉しいです。
今回は初対面だからこれでいいこととします。


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覇王とアヘ顔と81話

SSX聞きました。
聞いた結果、どう自分の小説に組み込めばいいか思いつかなかったのでカット!
想像以上にシリアスだった……


 時の流れが早く感じるようになったのは歳を取ったせいだろうか? いつもと変わらない日常を過ごしているだけでさっさと一年が過ぎていく。今年は新暦0079年、JS事件から四年もの時間が経ったことになる。

 そういえば、おれが長期出張で別の世界に行っている間にマリアージュ事件という物が起こっていたそうで、中々大変だったみたいだ。マリアージュと言う人型兵器が殺人事件を起こしまくったり、黒幕がティアナさんの補佐官だったり、マリアージュの製作者の少女は実は良い娘だったり。

 その女の子は事件の後、深い眠りについてしまい、いつ目を覚ますかわからない状態になってしまったそうだ。なんでも、不完全な目覚め方をしたため機能不全に陥り、そのせいで活動し続けることが出来くなってしまったとか。彼女がまだ起きる事が出来たうちにおれが何とかしてやれば、彼女は今も元気にしていたのかと思うと非常に残念だ。こんなときに限って月単位の出張が入るのだから困ったものだ。これがなければ、ヴィータに「お前は大事な時にいつもいないな」なんて言われなくて済んだだのに。

 

「しっかし、天気予報は当てにならないな」

「まあ、ええやん? 備えあればなんとやらって言うしな」

 

 今日も今日とて管理局で仕事をこなして家へ帰る途中だ。途中で偶然帰宅途中のはやてと出会い、一緒に家へ向かっている所だ。

 

「確かに、雨が今にも降りそうな空模様だったらおれも許せる。しかし、雲一つない程の快晴になると、持ってる傘が何とも物悲しいじゃないか」

「わからへんでもないけど、しゃーないって。予報はどこまで行っても予報やで」

 

 今日の朝のニュースのお天気キャスターは「午後から大雨、傘必須」と言っていた。しかし、何のことは無い。実際は雨が降る様子など微塵もなかった。ミッドの街を歩いてるほとんどの人は傘を持ってなかったことを考えると、あのテレビ局の天気予報士は解雇した方が良いな。

 

「まあいいか。今日の晩御飯は?」

「今日はハンバーグやで」

 

 よっしゃ! ハンバーグは二番目に好きな料理だからとてもうれしい。とてもうれしい。とてもうれしい!

 

「23にもなってその喜び方はどうなん?」

「つい、喜びが体からにじみ出てしまったよ」

 

 人通りの少ない細い道とは言え、公共の場で踊りだすのはやり過ぎたか。でも最近は学校でダンスを習うほどダンスで表現する能力が必要らしいから別に良いんじゃないかな?

 ……そう言えば、おれももう23歳か……そろそろ結婚を……いや、その前に彼女を作らないと……

 そんなことを考えて、自然と白目になるおれを誰が責められようか。責める奴は爆発すべき。

 

「管理局のマサキ・サカウエさんとお見受けします」

「なんだ?」

 

 白目になりながら歩いていると、突然声を掛けられた。声の持ち主はおれ達の前方に立っている。

 おれもはやても会話に意識を割き、光源はポツポツある街灯と月明かりだけで薄暗いということもあり、前にいる相手に声を掛けられるまで気が付かなかった。

 

「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」

「なんです?」

 

 話している相手に意識を向ける。声の様子から女性で間違いないだろう。バイザーを装着しているため、顔は分からないが、身長から察するに10代~20代、もしくは30代~40代、または50代以上の女性だろう。

 

「聖王オリヴィエの複製体と、冥府の炎王イクスヴェリア。貴方は、2人の所在をご存知ですか?」

 

 聖王オリヴィエの複製体? それってヴィヴィオちゃんのこと……で、良いんだっけ? 確かそんな話を聞いたような気がする。覚えてない。それでもって冥府の炎王なんて言う中二病的二つ名は知らないが、イクスヴェリアの名前は知っている。イクスヴェリアはさっき話した眠ってしまった女の子の名前だ。彼女は今聖王教会に保護されているはずだ。

 

「ああ、イクスちゃんなら、せ……」

「そんな人等の居場所なんて知らへんで」

 

 おれがヴァイザーの娘に質問の答えを返そうとしたところ、はやてがおれの言葉を遮る。

 

(ハムテルくん、たぶんアレは最近話題の通り魔や)

(通り魔? それは穏やかじゃないな)

(そんな奴に教えることは無いで)

 

 はやてがおれの言葉を遮った理由を念話を使って教えてくれる。確かに、そんな奴にわざわざ欲している情報を与える必要はないな。

 

「……サカウエさん、それは本当ですか?」

「オ、オウ。シラナイゾ」

「……」

 

 バイザーの人はおれのことを見つめてくる。バイザーによって目線は分からないが、すごい疑った目でこっちを見てる気がする。大丈夫だろうか?

 

「……そうですか。では、この件については他を当たることにして、もう1つ確かめたいことが」

 

 お! なんとか誤魔化せたっぽいぞ。そして、彼女はもう一つ知りたいことがあるそうだ。何であろうと答える気はないぞ!

 

「あなたの拳と私の拳。いったいどちらが強いのかです」

 

 ……何?

 

「あなたは医務官でありながら、武装局員が捕まえることが出来なかった犯罪者を無傷で取り押さえたという話を聞きました。そんな芸当ができると言うことは、あなたは格闘技の相当な使い手なのでは?」

 

 なるほど。おれが武装局員が手間取った犯罪者を無傷で取り押さえたという事実は確かにある。しかし、それはリインさんとユニゾンし、体の操作をリインさんに全て任せていた時である。つまり、本当の使い手はリインさんである。

 ここは丁重にお断りしよう。

 

「おこと……」

「流石名だたる格闘家相手に喧嘩を売りまくっとる通り魔やな! そう、何を隠そう、ここにおるハムテルくんはストライクアーツの派生武術、ストリートアーツの使い手や」

「ストリートアーツ……それは一体……」

 

 おいィ? 何ではやてが話進めてるんだ! そして、バイザーの人もはやての言葉を信じて話を進めるんじゃないよ!

 

「ストリートアーツ……それは街中やここみたいな細い道で最大の力を発揮する武術。その場に落ちているあらゆるものを利用し、傘を利用した剣術を得意とする武術や」

「なるほど……それで、こんな晴れた日でも傘を持っているのですね」

 

 傘を持ってるのはそんな理由があってじゃないよ……

 バイザーの人ははやての適当な設定に対して得心が言ったといった風にうなずいている。

 ちらっと見えたはやての顔。それはにやけ顔。はやての奴……通り魔は通り魔でも凶悪な犯罪者じゃないってことを知ってたな。おそらくバイザーの人は格闘家経験者に対してゲリラ的に試合を申し込んでいるのだろう。確かに通り魔的ではあるが、所謂通り魔と言う訳ではない。

 そんな相手を使ってはやてはおれを遊んでやがる。

 

「バイザーの人よ。こいつが言ってることはほとんど嘘だぞ」

「え! 嘘なのですか?」

 

 この人……すごい素直だ。詐欺とかに遭わないか心配になるレベル。

 

「あ、名前……失礼しました。私はカイザーアーツ正統。ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王と名乗らせて頂いてます」

 

 バイザーの人改め、イングヴァルトさんはバイザーを外して自己紹介をする。素性を隠すためのバイザーじゃなかったのか……仮面の下は若い女性。おそらく16~20歳といったところだろうか。

 ていうか覇王を自称するとはなかなか気合の入った中二病だな。まあ、それはどうでもいいか。

 

「おれの名前はご存知の通りマサキ・サカウエ。医務官なのに犯罪者を取り押さえたのも間違いじゃない」

「それでは……」

 

 イングヴァルトさんが言い切る前にしっかりと補足を加える。はやてに何も言わないように目で伝えることも忘れない。

 

「だがしかし、今は訳あって当時のようなことは出来ない。君の望むような戦いをしたらおれは負ける自信がある。そこで、一つ提案があるのだが」

「提案ですか」

 

 イングヴァルトさんがただの犯罪者だったならはやてに任せて殲滅してもらうのだが、なんだか残念な感じがする人なのでちょっとサービスしてあげることにした。

 

「犯罪者達を沈めてきた技なら今のおれでも使える。それを君が耐えることが出来たら君の勝ち。出来なければ君の負けと言うのはどうだろうか?」

 

 よくある力試しみたいなものだ。

 

「君の知っている通り、この技は殴る蹴るのようなものじゃないから怪我の心配はしなくていい。ただ、そこに立って何かされるという心持ちでいれば良い。簡単だろ?」

「……なるほど、とても興味深いです。相手の一撃を受けきることも時には必要でしょう。分かりました。その勝負受けます」

 

 どうやらイングヴァルトさんは勝負を受けることにしたようだ。一体彼女は何のためにこんなことをしているのだろう?

 まあ、それは今関係ないな。とりあえず、彼女にはおれの全力を受けてもらうことにしよう。

 おれはイングヴァルトさんに手が届く位置まで歩いて近づく。

 

「心の準備は良いか?」

「いつでも来てください」

 

 ふっ、この勝負を受けたことを後悔すると同時に、感謝するが良い! 体力全快にしてやるよ!

 

「行くぞ!」

「ッ!」

 

 おれがそう言うと、イングヴァルトさんは身を固くする。

 おれはぶらんと下げていた右手をゆっくりと挙げる。

 その右手をイングヴァルトさんの頭部へ持って行く。

 

「ふぇ!?」

 

 突然頭に手を乗せられて驚いたような声を挙げるイングヴァルトさん。だが、まだまだこれからだ!

 

「ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ」

「えっ! あっ……あふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁ」

 

 全ての神経を右手の掌に集中させ、紙やすりを使って角材を丸くするが如く掌をこする。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

 擦る。擦る。擦る。

 今まで一番多く擦っている気がする。NPS(Nadenade Per Second)が史上最高だ。

 10秒だろうか、20秒だろうか。おれはイングヴァルトさんの頭をひたすらなでなでしまくる。

 

「とりゃあああああああああ!!」

「ハムテルくん」

 

 イングヴァルトさんの頭を撫でまくっていると、はやてがおれに声を掛けてくる。

 

「もうその人意識無いで」

「え?」

 

 その言葉に驚いて手を止めると、イングヴァルトさんは膝から崩れ落ちる様にして倒れ込む。膝を地面に着けると、耐え切れなくなったのかそのまま仰向け状態になる。

 イングヴァルトさんの顔は赤くなっており、目は虚ろ、口は半開き状態。体は痙攣してビクンビクンしている。これは……

 

「ハムテルくんが女性をアヘ顔にしよった」

「いや! 待って! 言い訳をさせてほしい!」

 

 久しぶりで加減が出来なかったんだ! 本当にごめんなさい!

 女性をアヘ顔にしてしまうという驚きの事態に陥り、オロオロしていると、イングヴァルトさんが突然輝きだした。

 

「なんや!」

「うおっまぶしっ」

 

 イングヴァルトさんを光源とする光が収まってから、何があったのか確認する。

 

「……」

「……」

 

 そこにはイングヴァルトさんが相変わらず倒れている。碧銀の髪に、右が紫で左が青の虹彩異色の瞳はイングヴァルトさんのものと同じものだ。ただ、一つだけ変わったことがある。

 

「小さい」

「小さいな」

 

 イングヴァルトさんの身長が大幅に縮み、大人びていた顔は子供っぽいものになっている。ギリギリ小学生か中学生と言った所だろうか。

 イングヴァルトさんの変化は年齢のみ。他に変わったところはない。つまり、それは……

 

「ハムテルくんが少女をアヘ顔にしよった」

「これは……言い逃れできないッ」

 

 そこに居るのはアヘ顔状態の少女だった。



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覇王と睡眠と82話

(´・ω・`)


 

 

 私は意識が浮上する感覚を覚える。

 この感覚はよく知っている。夜、疲れた体をふかふかのベッドに沈め、翌日の朝に目を覚ました時に感じるあの感覚だ。疲労感を全く感じなくなった身体から今日も一日頑張れる気がする。

 それよりも、私はいつの間に眠ってしまったのだろうか? 眠った時の状況をよく覚えていない。しかし、目の前が真っ暗なのは目蓋を閉じているからだろうし、体の調子が良いのはよく眠れたからだろう。眠っているのならば起きなければいけない。早く起きないと学校に遅刻してしまう。

 私は絶対に起きるという決意をし、未だに私を眠りへと誘っている心地よいまどろみを振り切る。

 

「あ、起きたんやな」

 

 目を覚まして最初に聞いた声は聞き慣れない声だった。聞き慣れない声ではあったが、その声の主を私は知っている。

 ハヤテ・ヤガミさん。

 彼女は管理局で働く局員さんだ。数年前にミッドで起こった事件もあって、彼女の名前は広く知られている。しかし、そんな有名人が何故私の部屋にいるのだろう? いや、よく考えてみたら私の体に伝わるベッドの感触がいつもと違う気がする。

 色々と不可思議な点がある。それを確かめるために私はぼやけた目を擦り、辺りの様子をよく見る。

 

「ほら、ハムテルくん。覇王ちゃん起きたで」

 

 八神さんが向いている方に目を向けると、一人の男性がいることが分かる。

 マサキ・サカウエさん。

 管理局で働く医務官なのにとても強いという噂がある人だ。

 そうだ、だんだんと思いだして来た。私はサカウエさんに勝負を挑んだんだ。そして、私は……負けた? うーん、よく覚えていない。でも、私がこうして眠っていたという事は私が負けたのだろう。

 

 ……

 

 ふー……

 これまでにあったことを思いだして、整理したら大分落ち着くことが出来た。

 ところで……

 

「おはよう」

「お、おはようございます?」

 

 なんでサカウエさんは椅子にバインドで縛りつけられているんでしょう?

 

 

 

 

「とりあえず覇王ちゃんはソファに寝かせてっと」

 

 そう言いながらはやてはさっき自分の事を覇王と名乗った少女をソファに寝かせる。おい、イングヴァルトちゃんのこと覇王って呼んでやるなよ。いずれ彼女の黒歴史となるかもしれないんだから。

 まあ、それは置いておいて、おれがイングヴァルトちゃんを倒した後、彼女をその場に残して置くのはマズいという事で、とりあえず家にお持ち帰りすることにした。

 言っておくが、彼女を運んだのはおれではなくはやてだ。イングヴァルトちゃんのアヘ顔を整えて、普通に眠っているとしか思えない状態にしていたとはいえ、おれが少女を背負っているという状態は色々と問題があるだろう。

 

「シグナム、ヴィータ、ハムテルくんを確保や」

「何!?」

 

 はやてがそう言ってからのシグナムさんとヴィータの動きは早かった。ヴィータが傍にあった椅子をおれの後ろに配置し、シグナムさんがおれを無理やり椅子に座らせる。椅子に座らせられたおれごとはやてがバインドを掛ける。これで椅子に縛り付けられたおれの完成である。

 

「ところで主、何故マサキを拘束するのですか?」

 

 すべてを終わらせてからはやてに疑問をぶつけるシグナムさん。

 おい、そう言うことは行動を起こす前に確認しておけよ。

 

「ハムテルくんがこの女の子をアヘ顔にさせたんや」

「ああ」

 

 ちょっ、何納得してるんですか! そこはもっと「そんな……マサキがそんな事する訳……」とか言って疑ってくれよ。全く、一体八神家のおれに対する認識はどうなってるんだ。いかん! ここはしっかりとおれの無実を主張しなければ。

 

『僕は悪くない!』

「何括弧付けてんねん」

「マサキがその台詞いうと「それでもボクはやっていない」に聞こえるな」

 

 ヴィータよ、それはおれが罰せられるべきという意味で言っているのか? それとも冤罪だということを信じているという意味で言っているのか? 判断が付かない所に何とも言えない微妙な印象を受ける。

 

「あ、起きたんやな」

 

 そんなことをグダグダとやっていると、ソファで眠っていたイングヴァルトちゃんがモゾモゾと動きだした。どうやら目が覚めたようだ。

 

「ほら、ハムテルくん。覇王ちゃん起きたで」

 

 む、むう。とりあえず彼女には謝らないといけないのだろうか? しかし、おれは普段行う医療行為よりもちょっと派手にやっただけだし……だが、手段はどうあれ、結果としてアヘ顔になってしまったのだからやはり男として謝らないといけないのだろうか。

 とりあえず、目を覚ました彼女にこの挨拶を送ることにしよう。

 

「おはよう」

「お、おはようございます?」

 

 うん、そりゃ目が覚めて椅子に縛り付けられた男が目に入ったら驚くのは仕方ないよね。

 

 

 

 

「と言う訳で、ストラトスちゃん。ごめんなさい!」

「そ、そんな! 顔を上げてください。私の方こそ、不躾なお願いをしてしまったのがいけなかったんです。申し訳ありませんでした」

 

 おれがストラトスちゃんと呼んだ人はさっきまでイングヴァルトちゃんと呼んでいた少女と同一人物だ。

 事のあらましを話し合っていくうえで、彼女が名乗っていたハイディ・E・S・イングヴァルトというのはリングネームと言う名の偽名であり、彼女の本名はアインハルト・ストラトスと言うことがわかった。

 なんか格好いい偽名、覇王と言う自称の称号。

 間違いない。彼女は中二病だ。それに加えてコンタクトによるオッドアイ……と、思ったのだが、彼女の虹彩異色症は生まれつきの物らしい。オッドアイの人を見るのはヴィヴィオちゃんに加えて二人目だ。そうそう見るものではないと思っていたが、居るところに居るものだ。

 これは関係ない話だが、彼女が最初に着けていたバイザー。あれ、なかなかイカスと思う。ああいうグッズに心踊らされると、まだまだおれの心も若いなと思える。え? なにはやて? 中二病乙? アーアーキコエナーイ。

 

「まあ色々あったけど、落ち着くまでゆっくりしてってや」

「はい。ありがとうございます」

「とりあえず紅茶いれるね」

 

 

 

 その後、みんなで紅茶を飲んでまったりしていたら、ストラトスちゃんが「はっ! もう家に帰らなきゃ」と言って帰って行った。その時はやてがおれを付き添いに着けることを提案したのだが、お断りされてしまった。確かにストラトスちゃんは格闘家にゲリラ試合を仕掛けて勝っちゃう位だからおれよりよっぽど頼りになるだろう。むしろおれの護衛がストラトスちゃんなんて言う事態になりかねない。

 なんだか前にもこんなことがあった気がする。

 

「ところで、ストラトスちゃんのゲリラ試合についての注意とかはしなくてよかったのか?」

 

 彼女の通り魔的ゲリラ試合に対して被害届はまだ出ていないらしいが、公道で試合をするのは余り褒められたことではないだろう。常識的に考えて。

 その辺のことをおれははやてに質問してみた。

 

「……テヘペロ」

 

 ああ、忘れてたんですね。わかります。




(   ´・ω・`   )


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免許と決闘盤と83話

決闘盤のモデルはバトルシティ編。

追記
自動車学校で二輪免許を取るために路上教習は無いと教えて頂きました。ああ、恥ずかし。
ま、公輝くんはミッドの車校に通ってるから(小声)
ほら、ミッドでは仮免でも一人で公道を運転できて、教官は魔法を使って危険があった時対処してるんですよ(震え声)


「はやて……世界がおれを殺しに来ているよ……」

「ほう、とうとう機関に狙われてしもたか」

 

 ある日の昼下がり、おれは家へ帰ってそうそうこたつに入ってうなだれる。そして、そんなことを言うおれにはやてが突っ込む。しかし、はやてはどんだけおれを患者にさせたいんだ。この間のストラトスちゃんじゃあるまいし。

 

「今日、車校で二輪免許の卒検だったんだけどさ」

「うん」

 

 車校とは自動車学校のことだ。おれはスカさんがいずれ完成さしてくれるであろうDホイールを乗りこなすために、免許取得を目指して暇があれば車校に通っていたのだ。今日はその練習の成果を試す卒業試験、つまり卒検の日だった。

 

「路上教習の時は何の問題も無く順調だったのに、今日という日に限ってばあちゃんが飛び出して来てもう少しで引きそうになったんだよ」

「はー、そりゃ危ないな」

「それが危険行為で一発失格ですよ」

「そりゃ災難やったな。やけど、偶々やろ? また受けたらええやん」

 

 どうやらはやてはただ単におれの運が無かっただけだと思っているようだ。確かに、これだけだったらおれも特に気にしてはいなかっただろう。

 

「今日で卒検受けるの四回目なんだよなぁ」

「落ちすぎやろ」

 

 自分でもそう思う。

 

「毎回じいちゃんかばあちゃんが突然飛び出して来てそこで失格なんだよ。これは車校とじいちゃんばあちゃんがグルで、生徒から受験料を巻き上げているに違いない」

 

 こういう話はネット掲示板でよく聞く話だ。試験を受ける前に教官に菓子折を渡しておかないと不自然な老人の飛び出しで試験不合格になるという。

 

「そんなんハムテルくんが教官さんに黄金色のお菓子わたさへんかったからやん」

「えっ……」

 

 え? 嘘だろ? そんなことがまかり通っているのか? 流石にネタだと思っていたけど、管理局でそこそこの地位に居るはやてが言うと洒落にならないぞ。ミッドで自動車免許を交付しているのは管理局だから、はやてが言うんだったらまさか……

 

「嘘や! 嘘。流石にそんなんある訳ないやろ」

「だ、だよな! うん、そんなことあっちゃいけないよな」

 

 あー、びっくりした。

 

「少なくとも私が知っとる限りではな」

「えっ」

 

 それは、可能性はない事はないかもしれないという事なのか。

 

「まあ、仮に車校とじっちゃんばっちゃんがグルやったとして、それはこれから自分一人だけで車やバイクを運転せなあかん初心者ドライバーが予期せぬ出来事に冷静に対処できるように、じっちゃんばっちゃん達が体を張って教えてくれとるんや」

「そうなのか……?」

 

 じゃあ、まあ……そう言うことにしておくか……

 あそこで突然飛び出してくるじいちゃんとばあちゃんに対して冷静に対処する、いや、飛び出すことすらも予測し、あらかじめ止まるくらいできるようになって初めてドライバーになる資格が手に入るのか。うーむ、Dホイーラーへの道のりは長い。

 

「あ、そうや。Dホイールで思いだしたわ」

 

 はやてがそう言ったかと思うと、どこかへ行き、すぐに戻って来た。その手にあるのは決闘盤(デュエルディスク)だ。

 

「お! 決闘盤じゃないか! やっと管理局から返却されたんだな」

「そういうこと」

 

 決闘盤はスカさんからおれが貰った物であったが、あの事件の直後管理局に没収されていたのだ。スカさん謹製の何かと言うこともあって、管理局に今の今まで取り上げられていた。それが今日ようやっとおれの手元に戻って来た。

 

「管理局としては、「盤上に置いた何かを読み取ってそのソリッドビジョンを投影するだけの物。中の記憶領域には信じられへん数のAIの感情データが保存されとるだけで、特に危険性はないだろうから返却を許可する」やて。どうも、このAIを一つ一つ精査したからえらい時間が掛かったみたいやな」

「それはご苦労なことだ」

 

 しかし、決闘盤の有用性を正しく理解できないとは、管理局もまだまだだな。まあ、遊戯王というカードゲームが流行っているわけでもないミッドでそれは仕方のない事だが。

 

「よし、それなら早速これで遊ぶとしようじゃないか!」

「わくわく」

 

 どうやらはやても決闘盤に興味があるらしい。流石は一流の決闘者(デュエリスト)だ。

 おれははやてから受け取った決闘盤を左腕に装着し、腰に付けたデッキケースからおれの魂の分身たるデッキを決闘盤に差し込む。 

 え? 何でデッキを常に身に着けているかだって? いくらおれがカード手裏剣すら満足に使いこなせない二流の決闘者とは言え、これくらいの心得はデュエリストとして当然さ。同じようにはやてとヴィヴィオちゃんもいつも身に着けている。

 

「決闘盤をメンテナンスモードで起動!」

 

 メンテナンスモードは使用者がモンスターの召喚条件や発動条件を無視してモンスターを召喚したり、魔法や罠カードを発動したりするモードだ。このモードの目的はその名の通り、決闘盤が正常に動作するかを確かめるための物。

 山札から引いた五枚のカードの中にいた、この場にふさわしいカードを決闘盤の盤面にあるカードを収める五つの枠の内の一つに叩きつける。もちろん、カードを傷めないように紳士的にだ。

 

「ブラック・マジシャン・ガールを召喚!!」

「おー!」

 

 カードの名前を宣言すると、決闘盤はカードの絵柄を読み込む電子音を鳴らし、ソリッドビジョンシステムを司る部分の機械が唸りをあげる。

 目の前に魔法陣が出現し、その場所にソリッドビジョンの像が結ばれて行く。

 ウィンクを一つして現れたのは、時代を先取りした魔法使いの帽子を被り、魔法使いのステッキを持ち、中々際どい衣装を着た金髪の魔法少女。

 

「すごいぞーカッコイイぞー!!」

「ブラック・マジシャン・ガールキター!!」

 

 目の前にアニメや漫画で見たブラック・マジシャン・ガールがそのまま表れておれとはやてのテンションが上がりまくる。

 

「あ! マスター! はじめまして!」

 

 素晴らしい笑顔でおれのことをマスターと言ってくれるブラック・マジシャン・ガール。

 素晴らしい……これは素晴らしいな……

 

「ん? もしかして、これってカードの精霊を再現しとるんか?」

「その通り。流石はやて」

 

 遊戯王には大切にされたカードには精霊が宿るという伝説がある。決闘者ならば一度は自分のデッキのお気に入りカードに精霊が宿っており、その精霊と面白おかしく楽しむという妄想をしたことがきっとあるだろう。その妄想をこのスカさん印の決闘盤は完全再現しているのだ。

 

「ははーん、決闘盤に記録されとる謎の大量のAIはそれぞれカードの精霊の人格に対応しとるんやな。そういえば声もアニメの声と同じやな」

 

 はやての言う通り、大量のAIはカードの精霊の人格を再現するもの。決闘盤の製作をスカさんに依頼した時、同時に現在発売されている遊戯王のDVDを全巻プレゼントしてあげた。そこからアニメで精霊として登場したカードの人格を参考にし、また声もそこからサンプリングして用いているのだろう。ちなみに、アニメで精霊として描かれていないカードは、全てではないがスカさんの独断と偏見によって精霊化されている。

 これは余談だが、決闘盤の開発に年単位の時間が掛かったのはスカさんが原作を全て見たり、大量の人格を作成したり、オリジナルの精霊の声をサンプリングするために色んなジャパニメーションを見ていたらはまってしまって色々なアニメに手を出したからだったりする。

 

「うん、こっちこそよろしく。ブラック・マジシャン・ガール」

「はい!」

 

 スカさんに渡された仕様書によると、この決闘盤には年季システムという物が搭載されている。カードの印刷に使われているインクの劣化具合や表面の傷の具合などを読み取り、そのカードがどれだけ使われているかを判別する。それによって、よく使いこまれていれば使いこまれているほど、カードのAIはそのマスターに対してより大きな信頼を寄せるのだ。このシステムによって、よりカードの精霊を再現している。

 

「それにしても、ほんまにリアルやな。特におっぱいなんかごっつええ感じや」

「ど、どこ見てるんですかー!」

 

 衣装の性質上がっつりと見えている大きな胸によってできる大きな谷間を隠すようにして腕で隠すブラック・マジシャン・ガール。その素晴らしい眺めを何とかしてみようとするはやて。

 

「その辺のことは完全再現するようにってスカさんに頼んだからな」

「ちょっとマスター! 何してるんですかー!」

 

 仰向けになってブラック・マジシャン・ガールのスカートの中を覗こうとしていたおれ。そんなおれに気付いて恥ずかしそうな声を出しながら足を閉じて、スカートを押えるブラック・マジシャン・ガール。

 チッ、はやてが良い感じにブラック・マジシャン・ガールの気を引きつけて居たから、もうちょっとで見えそうだったのに。何がって? もちろんヴァルハラですよ。

 

「ふっふっふ……スカさんのソリッドビジョンは完璧だ……」

 

 おれは意味が無くなった仰向け状態をやめ、立ちあがる。

 ところで、今行っているメンテナンスモードは決闘盤が正常に動作するか確かめるためのモード。しかし、それはただの口実。実際は使用者が目的のカードのソリッドビジョンをよく観察(意味深)するための物だ。

 そして、カードのAIは使用者をマスターとし、その命令は通常のデバイスと同じように遂行してくれる。つまり……

 

「ブラック・マジシャン・ガール……」

「はい?」

 

 こんなこともできるってわけだ!!

 おれは高らかにある命令を宣言する。

 

 

 

「君のパンツを見せるのだ!」

「え? 嫌ですよ」

 

 ……

 

「そりゃ、リアルの女の子やったらそういう反応するやろな」

 

 おれの足は力を失い、崩れてしまう。

 膝をついて四つん這いになる。

 そして、思わずこう呟いた。

 

「こんなはずじゃ……」

「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりなんやで」 

 

 はやての言葉がおれの体を貫いた気がした。

 

 

 

 

 

 その後、同じ決闘者であるヴィヴィオちゃんを家に呼んで、おれ、はやて、ヴィヴィオちゃんの三人でダイナミックな決闘を楽しんだのだった。

 

 

 




私も霊使いといちゃいちゃしたーい。
ダルクは……まあ、うん。


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vivid
雷帝と執事見習いと84話


みなさん、メリーよいお年を明けまして今年もよろしくお願いいたします。
今年もぐでーっとまったり行きましょう。


 ノーヴェさんが最近話題の通り魔に襲われた。

 犯人の性別は女。特徴は碧銀の髪と右が紫で左が青の虹彩異色の瞳。バイザーで顔を隠していると思ったら何のためらいもなく外し、自身のことを覇王と称したそうだ。おれの推理が正しければ、きっとその犯人はアヘ顔の似合う人物だ。

 

「どう考えてもアインハルトちゃんです。本当にありがとうございました」

 

 やはりというかなんというか、おれ達がアインハルトちゃんにであった時に注意しなかったのはマズかっただろうか。きっとこれまでと同じように強そうな人に勝負を挑んだのだろう。全く……はやてにはもうちょっとしっかりして欲しいものだ! だって、おれがしっかりしてないからな。

 とは言え、その事件のすぐ後にアインハルトちゃんはティアナさんに保護され、管理局できっちりこってりお話をしたようだ。おそらくこれからアインハルトちゃんは通り魔なんてすることは無くなるだろう。彼女は真面目そうだから、人からの注意を無視するということは無さそうだし。

 そういえば、アインハルトちゃんとなんやかんやあって仲良くなったとヴィヴィオちゃんが嬉しそうに報告してくれたな。色々な共通点があるから二人はいい友達になることだろう。それはもうなのはさんとフェイトさんのような関係に……う、うーん……あの二人みたいにとなると……ちょっとユリっぽい関係に……胸が熱くなるなぁ。

 

「……ん?」

「ぅぅ……」

 

 今日も今日とて考え事をしながら歩いていると、河川敷で気持ちよさそうに昼寝をしているように見えて実は空腹に喘いでいる真っ黒い少女を見つけた。

 

「やあやあジークリンデちゃん。ちょっとその辺(家)でお茶でもどうだい?」

「行きます! 行きたい……けどもう一歩も……動けないん……よ……」

 

 ジークリンデちゃんはそう言ったかと思うと力尽きたかのようにピクリとも動かなくなった。

 腹ペコチャンピオンは今日もお腹がすいて力が出ないご様子。

 彼女とは今日みたいな感じに出会うことが稀に良くあるのだ。おれはそんなジークリンデちゃんを見つけるたびに家へお持ち帰りして餌付けを敢行している。おれの彼女に対する印象は猫みたいな女の子。そんな子に定期的に餌付けしていればいいことがあるかもしれないなんて考えてないぞ!

 

「そんじゃ、ま、行きますか。よっこいしょっと」

「あーうー……せめて、せめておんぶでー……」

 

 これまたいつもの通りにおれはジークリンデちゃんを俵持ちにする。腹ペコで力が入らないジークリンデちゃんをおんぶすると、すぐにずり落ちちゃうから面倒なんだよな。そこで、安定して、多少重いものでも楽に運ぶことが出来る俵持ちを採用したわけだ。流石に普通の抱っことかお姫様抱っこで街中を歩くのは中々キツイものがある。ジークリンデちゃんが幼女だったら抱っこでも大丈夫なんだが……まあ、この場合の欠点は誘拐だと思われたら一発でタイーホされるという事だ。

 その点、女の子を俵持ちにするのは不自然すぎて逆に怪しまれない! やはり俵持ちが至高だな!

 

「待ちなさい!」

 

 おれが自分の家へ向かおうとした時、後ろからそんな声を掛けられた。

 

「あなた、一体ジークをどうするつもり?」

 

 後ろを振り向くと、そこには金髪の長髪にリボンを付け、お嬢様然とした女性がそこに立っていた。

 

「ハッ! あなたまさか……誘拐犯ね!」

「んん?」

 

 誘拐? 誘拐だって!? まさかおれの近くでそんな事件が起こっているなんて! 大事件じゃないか! おれは金髪お嬢様が見ているであろう方向に目をやってみる。しかし、そこには河川敷の原っぱが広がるばかりで誘拐事件なんて起こってはいない。一体どういうことなのだろうか?

 

「あなたですわ! あなた!」

 

 金髪お嬢様が指をさしているのはおれ。

 えっ……おれ!

 そんなバカな。一体おれのどこをどう見れば誘拐犯なんだ! 女の子を俵持ちしているなんて「あ、こいつら友達なんだな」って逆に考えるだろ!

 ……逆に考えなければ普通に怪しいんだろうか。

 そして、今気付いた。ジークってジークリンデちゃんのことだったのか。なるほど納得。

 

「雷帝ダールグリュンの血をほんの少しだけ引いているこの私が、あなたを成敗して差し上げますわ!」

 

 雷……帝……だと!?

 覇王を自称する女の子の次は雷帝の子孫を自称する女の子か。どうもミッドチルダには中二病患っている子が沢山いるみたいだ。まさか……あのお嬢様っぽい格好と仕草も中二病発症に伴う発作なのか……

 なんだかそう思うと途端に可愛く見えてきたんだが。

 

「? 何を黙っていらっしゃるの? さあ、早くジークを離しなさい」

 

 そうなると、彼女の目から見るとおれは友人を誘拐しようとしている機関のエージェントに見えている訳だな? だから、誘拐なんて言う突飛な発想が出て来ているんだ。

 そうと分かれば、彼女のために話を合わせてあげようじゃないか。やはり、(中二病の)先輩として彼女に協力してあげようと思う。

 どれ、ちょっと付き合ってあげてジークリンデちゃんは彼女に渡してしまおう。

 

「ふっふっふ……この娘は頂いて行く。星の屑成就のために」

「なっ! まさか……あなたエレミアの神髄を狙って!」

 

 エレミアノシンズイ? いいねいいね。なんだか古代文明の財宝みたいな響だ。さしずめジークリンデちゃんはその財宝にたどり着くために必要なキーパーソンで様々な機関に狙われているのだろう。

 

「そうはさせませんわ! あなたを倒してジークを取り返す!」

 

 ふぅ。まあこんなもんだろう。そろそろお嬢様も満足しただろうし、ジークリンデちゃんを彼女に渡してしまおう。

 

「だが、今日の所は……」

「素直に渡さないというのなら……力づくで!」

「え゛っ」

 

 おれがジークリンデちゃんを引き渡そうとした瞬間、お嬢様はどこからか斧と槍を足したような武器を展開させてこちらに向けてくる。恐らくはデバイスだろう。

 

「消えッ!?」

 

 今の今までそこにいたはずのお嬢様がいつの間にか消えてしまったかと思うと、おれは後ろから首の辺りに衝撃を感じたのだった。

 

 

 

 

 

「あー痛かった」

 

 おれはどこぞのプロデューサーのごとく首を手でさする。

 

「一体マサキさんは何をしたかったん?」

 

 ジークリンデちゃんがおにぎりを食べながら半目でおれを睨んでくる。

 

「全く……本当に何を考えていらしたのかしら?」

 

 優雅にティーカップを傾けながらそう言うのはさっきおれが対峙していたお嬢様。名前はヴィクトーリア・ダールグリュン。

 ダールグリュンさんはお嬢様(カリ)ではなくお嬢様(ガチ)だったのだ。びっくりだよ。

 ダールグリュンさんに首を強打されておれは意識を失った……かの様に思われた。しかし、そこは流石のおれの能力。「あ~意識飛びそう」と、一瞬感じたとたんにそんなことは無かったとばかりに意識がはっきりした。もちろん、痛みも一瞬の内に消えてしまう。 

 しかし、突然の出来事に固まってしまうおれ。まさか何事もなかったかのように起き上がるとは思っておらず、思わず動きを止めてしまうダールグリュンさん。

 数秒のにらみ合いの末、ジークリンデちゃんが最後の力を振り絞って彼女におれのことを説明してくれて今に至る。ちなみに、現在はダールグリュンさんのお屋敷にお邪魔している。

 

「ははは……」

 

 不幸な行き違いって……あるよね……

 おれは二人のジト目を伴う追及を避けるために適当な笑みを浮かべながら出してもらった紅茶を一飲みする。

 

「ッ!!」

 

 その時、おれの体に電流が走る。

 

「ん? どうしたん、マサキさん?」

 

 ジークリンデちゃんはおれの様子がおかしいことに気が付いたのだろう。

 おれは紅茶を一口含んでからワナワナと震えている。

 

「こ……この紅茶を淹れたのは誰ですか!」

「私ですが」

 

 名乗りを上げたのはダ-ルグリュンさんの後ろに立って控えていた執事のエドガーさんだ。

 キッチンにいるであろうコックさんか、エドガーさんのどちらかが淹れたのだろうとは思っていたが。そうか、彼がこの紅茶を……

 ならば!

 

「エドガーさん! おれを弟子にしてください!」

「はい?」

 

 繊細で香り高いダージリンの王道の香り。

 秒単位で管理された蒸らし時間による薄すぎる事も無く、渋すぎる事も無い程よい風味。

 甘いのが苦手の人でも甘党の人でも美味しく飲むことが出来る具合の砂糖の量。

 シンプルだからこそ淹れ手の力量がはっきりと出るダージリンのストレート。

 ごちゃごちゃと言ってきたが、おれが言いたいのはただひとつ。

 うますぎる。

 そんな、今まで経験したことのない紅茶を飲んだおれはそう言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 その後、呆れた様子の女性陣を無視してエドガーさんに紅茶の淹れ方を教えてもらうために全力でお願いして、無事執事見習いとなったのだった。



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執事と家族と85話

忙しい……でも書いちゃう(ビクンビクン


 夕食を食べ終わり、後片付けを終えたはやてとおれは駄弁っている。

 

「ん? じゃあはやて達は今年は行かないのか?」

「うん。ちょっと休めるかどうかギリギリにならんとわからへんから、今年は遠慮しとこうと思って。私たちの分まで楽しんで来てや」

 

 おれ達が話しているのは来月行われる合宿兼旅行についてだ。旅行先は無人世界カルナージ。一年を通して温暖で大自然の恵み豊かな世界だ。今カルナージは無人世界と言ったが、現在は無人ではない。そこにはルーテシアちゃん、ルーテシアちゃんの母親のメガーヌさん、そして、ルーテシアちゃんの召喚獣であるガリュー達アルピーノ一家が暮らしている。

 今回の旅行ではアルピーノ一家の家に泊まり、川遊びをして、バーベキューをして、滅多に集合できない旧機動六課のメンバーで訓練をしたりするのである。去年ははやてとヴォルケンズも参加して、模擬戦で暴れまわっていたのもいい思い出だ。

 その訓練におれも誘われたのだが、どう考えても医務官が行うような訓練内容では無かった。模擬戦は言うまでもなく、ロープを使って崖を降りてみたり、豚の丸焼き状態でロープを使ってビルを渡ってみたり。おれはレスキュー隊員ではなく医者なんだよ。……医者? 医者でいいんだろうか。医師免許は取った覚えはない。とにかく医者(仮)なんだよ。肉体労働はおれの仕事ではない。男としてどうなんだと思わないでもないけどね。

 

「ふーん、はやてだったら無理にでも休みをぶんどって来そうなのに」

「ハムテルくんは私をなんやと思ってるねん」

 

 基本的にお祭り女なはやてはこういった行事には積極的に参加する。だから仕事の予定がどうなるかわからないという理由で今回の旅行を見送るというのは大変珍しい。明日は雪かもしれない。

 

「まあ、それはそれとして。じゃあ今年は八神家からの参加はおれとドゥーエさんだけか」

「去年はとても楽しかったですからね。今年も楽しみです」

 

 ドゥーエさんはそう言いながらほほ笑んでいる。きっと彼女の頭の中では旅行で楽しむ様々なことが浮かんでは消え浮かんでは消えしているのだろう。

 

「あ、そういえばハムテルくんの執事修業はどうなったん?」

 

 はやては思いだしたかのようにして聞いて来た。

 

「おう、エドガーさんからは80点の合格点を貰ったぜ。まだまだあの人の淹れる紅茶程の物は淹れられないけど、かなりいい線行ってると自分でも思う」

「ほほう、それは楽しみやな。ほんなら淹れてもらおうかな?」

「マサキ、紅茶に合うお菓子も頼んだぞ」

 

 さっきまで居なかったはずのヴィータがいつの間にかおれ達の傍に座っており、そんなことを言ってきた。どうやら話を聞いていたようだ。

 

「いいだろう。今おれが淹れられる最高の紅茶を提供しようじゃないか」

 

 席を立ったおれは紅茶を淹れる準備をするため自分の部屋へ向かう。キッチンではなく自分の部屋へと向かうおれを見てはやて達は首を捻っているが、そんなことは気にせず自分の部屋へと向かう。

 自分の部屋へと向かいながらおれは今日までに受けたエドガーさんの執事教室を思い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

「それでは始めましょうか」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 おれは先生であるエドガーさんに対して礼を行う。やはりこう言った挨拶は大事だと思う。

 

「まず一つ言っておきます。先日マサキさんが飲んだ紅茶は私の全力ではありません」

「えっ!」

 

 おれはエドガーさんの言葉に驚く。あれほど美味しかった紅茶なのに、彼は全力ではないと言ったのだ。どうして驚かずにいられようか、いやいられない。

 ちなみに、エドガーさんのおれに対する呼び方は初めはマサキ様だったのだが、エドガーさんにとって生徒であるおれに対して様づけはおかしいという理由をこじつけてとりあえずさん付けで呼んでもらうことにした。様づけで呼ばれてむずむずしたって、それは仕方のない事である。

 

「ああ、勘違いしないでくださいね。決してあの紅茶を淹れるのに手を抜いたわけではありません。執事の私がお客様に対してその様な振る舞いをしますと、お嬢様の顔に泥を塗る結果となりますので」

 

 お嬢様の顔に泥を塗ると言った所で泥パックをしたヴィクートリアさんを想像してしまって噴き出しそうになったのは秘密。

 

「ところで、マサキさんはあの紅茶を飲んでどのような感想をお持ちになりましたか?」

「えっと、誰もが美味しく飲める紅茶だなと」

 

 さっきの想像が消えないうちに話しかけられた所為で少しどもってしまったが、関係ない事を考えていたことはばれていないはずだ。

 

「そうです。あれはお客様が不満に思うことが無いように淹れた紅茶なのです。このような消極的な淹れ方では最高に美味しい紅茶なんて淹れられるわけはありません」

「なるほど」

 

 エドガーさんの説明に納得しながらしっかりと聞く。

 

「私はお嬢様のお客様、例えばあの時はマサキさんですね、お客様のことは基本的に何も知りません。性格、趣味、嗜好。その人の人となりを完璧に把握してこそ最高の一杯をお出しすることが出来るのです」

「……つまり、エドガーさんが最高に美味しい紅茶を淹れることが出来る相手は……」

「はい。お嬢様だけですね」

 

 確かにエドガーさんの紅茶の淹れる腕は経験に裏打ちされた確かなものなのだろう。しかし、その味を支えるものは技術だけではなく、自分が仕えるお嬢様のためという思いこそが真の隠し味だったと言う訳だ。客のために淹れた紅茶でさえも、お嬢様の評判を落とさないようにと言う主に対する思いが込められているわけだ。

 

「そこで、マサキさんには主に仕える執事の心構えを身に着けてもらいます。お嬢様の執事は私だけなのでお嬢様を仮想の主としていただくわけにはいきません。そこで、こちらでマサキさんの主となってもらう方をご用意いたしました」

「あのー……つまりどういうことなん?」

 

 そこに居るのはいまいち状況を把握できていないジークリンデちゃん。ああ、どうしてジークリンデちゃんも一緒に居るのか不思議に思っていたのだが、これで納得した。ジークリンデちゃんはおれのお嬢様になるためにエドガーさんに連れてこられていたのだ。

 

「それでは、マサキさんにはこちらに着替えてもらいます」

 

 おれがエドガーさんに貰った物は執事服。おそらくエドガーさんが着ているものとデザインは同じだろう。

 

「それを着た瞬間からマサキさんは主に仕える従者です。ジークリンデ様に対する呼び方もジークリンデちゃんではなくお嬢様ですよ。そのことをよく胸に刻み込んでください」

「はい」

 

 そうして、おれの執事への道は始まったのだった。

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました、お嬢様、旦那様」

 

 執事服を着たおれはお嬢様達(はやて、ヴォルケンズ、リイン姉妹、ドゥーエさん)の前に紅茶と焼き菓子を置いて行く。旦那様はザフィーラさん。

 おれが最高の紅茶を出すことが出来る人達。それは八神家のみんなだろう。残念ながらドゥーエさんとの関係はまだ数年ぽっちなので好みを完全に把握出来てはいないが、今できる最高の物を出したつもりだ。もちろん、はやて達にもこれまで一緒に暮らして来て知った全ての情報を考慮し、一人一人の好みに合う物を淹れている。

 ただ、一人一人淹れ方を変える必要があるために、全員分を淹れ終わるまでに最初の人達の紅茶が冷めてしまう。今回は淹れた順にどんどん飲んでいってもらったが、これは要改善だろう。

 

「ん~……これはこれは」

「テラ……ウマ……」

「ほう」

「美味しいですねぇ……」

「うむ」

「良いじゃないか」

「美味しいです!」

「流石同志ですね」

 

 おれの紅茶を飲んだみんなは各々そんな感想を述べていった。どうやらお嬢様達はお気に召したらしい。これならおれも頑張って淹れた甲斐があるってものだ。

 

「ありがとうございます」

 

 おれは慇懃な態度で礼を言う。お嬢様に対する慇懃な態度も執事の基本技能だ。

 

「ぷっ……」

「「「「「「「「あはははははははははは!!!」」」」」」」」

 

 静かに頭を下げていると、誰かが噴き出した。それにつられる様にしてみんなが笑いだす。

 

「ひー、あかん。もう我慢できんわ」

 

 はやてが大笑いして苦しそうにしているのを我慢しながらそう言う。

 

「はあ……うん。ハムテルくんの真面目な態度とか全く似合わんわ」

 

 はやての言葉にみんなも頷いている。どうやら全員一致で賛成らしい。

 

 ふう……すいません、エドガーさん。

 どうやらおれははやて達の執事には成れそうもありません。

 だって、家族だもんな。



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旅行と合宿と86話

みなさん、お久しぶりです。覚えていらっしゃるでしょうか? 忘れていらっしゃっても仕方ありませんね。

短めですが、どぞ(´・ω・`)つ【新話】


 さて問題です。今おれ達はどこにいるでしょうか?

 正解は……

 

「いやぁ……今年も観光が捗るなぁ」

「そんなに良い所なのですか?」

「おう、あの世界は一年中ポカポカ温かいし、ルーテシアちゃんの家はまるで別荘みたいだし、メガーヌさんの料理はギガウマだし。言うこと無しだな」

「ほう、それは楽しみですね」

 

 あっ、正解は無人世界カルナージに向かう途中の臨行次元船の中でした。

 目的はカルナージで行われる、毎年恒例の合宿兼旅行である。

 

 次元船の中ではある人は会話を楽しみ、ある人は読書に耽り、ある人は睡眠をとる等思い思いに道中の暇な時間を過ごしている。

 そんな中、窓側の席に座ったおれは窓の外の流れる景色をぼんやりと見つめている。景色と言っても、見えるのは暗い色の絵具を沢山混ぜてぐちゃぐちゃにしたような次元の海だけであるが。ちなみに、おれの隣にはドゥーエさんが座っている。

 

「しかし、次元の海ってのはいつになっても慣れないな」

「そうなのですか? 同志マサキとて、魔法に触れて十年以上経つでしょうに」

「それはそうなんだが……なんとなーく、見てると不安になるんだよな」

 

 その不気味な色合いの所為だろうか?

 地球人たる自分にとって馴染みの無いものだからだろうか?

 それとも、この次元船で事故が起きたら乗客乗務員共々全滅だからだろうか?

 

「あ、そういえば、おれ飛行機も船も嫌いだったわ」

「ああ、怖いんですね」

 

 端的に言わないでほしい。恥ずかしくなる。

 

「こういうときは寝てしまうに限る。おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 生温かい目でこちらを見てくるドゥーエさんの視線を振り切るかのように夢の世界に逃げた。

 

 

 

 

 

 

 夢の世界に逃げてから三時間ほど経った頃だろうか。おれ達を乗せた次元船は無事に目的地へと到着したようだ。到着したことに気が付かなかったおれはドゥーエさんによってやさしく起こされた。これが隣にいたのがはやてだったら叩き起こされたに違いない。

 

 次元船から降りたおれ達はルーテシアちゃん宅に向かう。この星は本来無人世界であり、ここに住むのはルーテシアちゃんの家族だけだ。よって次元船はルーテシアちゃんの家の近くに泊めてくれる。究極の駅近である。

 

「みんないらっしゃ~い!」

「こんにちはー」

「お世話になりまーすっ」

 

 家の前でおれ達を出迎えてくれたルーテシアちゃんとメガーヌさん。これからお世話になる挨拶をするなのはさんとフェイトさんの大人二人組。

 あれ? ここは年長組の一人としておれも一緒に挨拶をすべきなのではなかろうか? ヴィヴィオちゃんやアインハルトちゃん達年少組と一緒に並んでるおれって……そんなに若く見えるのかぁ、照れちゃうなぁ。

 

 と、そんな感じで照れていると、アインハルトちゃんを知らない子たちに対して彼女の紹介も滞りなく終わったところ。

 

「むっ」

「ん?」

 

 ルーテシアちゃんがおれに気付き、こちらにスタスタやって来る。

 こちらにやって来るルーテシアちゃんを捕捉したおれは、懐に忍ばせたある物に手を伸ばす。そして……

 

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁおいしいいいいいぃぃぃぃぃムシャムシャムシャムシャ」

「たい焼きちょーだ……ってあああああ! ずるい! ずるいよ!」

 

 おれはおもむろに懐から取り出したたい焼きをルーテシアちゃんに見せつけながら背びれからバリバリと食べていく。おれより背が低いルーテシアちゃんはおれの服の裾を掴み、すごい勢いでゆすって来る。

 

「分かってるって、こいつが欲しいんだろ?」

「わーい!」

 

 懐にしまっていたもう一つのたい焼きをルーテシアちゃんに渡してあげる。

 これはルーテシアちゃんと会った時のお約束である。何でこんなことを始めたのかと聞かれたら、それは初めの出会いが理由だろう。

 それにしても、あの時と比べてルーテシアちゃんは随分と明るくなったな。一体どんな心境の変化があったというのか。まあ、どっちのルーテシアちゃんでもいい友達になる自信はあるけどな。

 

「じゃ、着替えてアスレチック前に集合にしよう!」

「「「「はいッ!」」」」

 

「こっちも水着に着替えてロッジ裏に集合!」

「「「はーいっ!」」」

 

 

 と、ルーテシアちゃんと戯れて居たらいつの間にか話がまとまっていたようだ。

 元機動六課組はなのはさんのパーフェクト訓練教室に、ノーヴェさんを含めた年少組は川遊びと言う名の訓練に向かうことになった。もちろん、心も体も若くありたいおれは年少組と共に川遊び組だ。

 

「むあーい! ムグムグ」

「ルーテシアちゃん、物を食べながら話してはいけません」

 

 たい焼きをたっぷりと頬に詰めて喋るルーテシアちゃんであった。



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川と水着と87話

水着回


 昨今、分別のつかない大人が年端も行かない少女に乱暴するという非常に悪質な犯罪が絶えない。奴等は自分の欲望を満たすためという理由だけで、キラキラと輝く少女の笑顔とその両親の気持ちを踏みにじる。

 

 全くけしからんな!

 

 おれはこれでも医者の真似事をしている。仕事柄色々な人たちの笑顔を見てきた。

 

 一生残るはずだった自分の怪我が治った時に見せる、未来への希望溢れる笑顔。

 大切な人が患った、今までどんな医者でも治せなかった病気が治った時に見せる、過去の絶望に別れを告げる笑顔。

 そして、病床に伏せった両親が元気になった時に見せた、少年少女達の笑顔。

 

 こんなに素晴らしいものを奪うとは、なんと言う卑劣さか。

 だがまあ、奴等が可愛い女の子を見た時に抱く感情もわからないこともなくはない。ちょっとイケない気持ちになってしまうのも仕方のない事である。男ならな。

 

 だがな! やっていいこととやっちゃいけないことの区別はしっかり付けるべきだ。

 そして、そういう感情は表にだしちゃいけないんだ!

 

 真の男ならな!

 

(ふつくしぃ……)

 

 以上、川辺で水着姿のヴィヴィオちゃん、コロナちゃん、リオちゃん、ルーテシアちゃんがキャッキャウフフしている様子を真顔で眺めている坂上公輝でした。

 あ、リオちゃん、リオ・ウェズリーちゃんはヴィヴィオちゃんやコロナちゃんの同級生の女の子だ。明るくてノリのいい性格で、八重歯とショートヘアーが特徴的な少女である。なんだか、地球一有名な魔法使いの友達みたいな苗字だ。

 

「同志マサキ。心拍数が上がっているようですが、何かありましたか?」

「なんでもないよ、ドゥーエさん」

 

 いくらそういう感情を表に出していなくても、内側の情報を読み取れる存在がいたらどうしようもないね、うん。

 

「アインハルトさんも来てくださ―――いっ!」

 

 一足先に川に入っていたヴィヴィオちゃんが未だにパーカーを脱ぎもしないアインハルトちゃんを川へ誘っている。

 良いぞ良いぞ。グッジョブだ、ヴィヴィオちゃん! ヴィヴィオちゃんの誘いに乗ったアインハルトちゃんは羽織っていたパーカーを脱ぎ、水着姿になる。

 

(な、なんと! アインハルトちゃんは紺色のビキニ……すばらしぃ……)

 

 スク水のコロナちゃんにお子ちゃま水着のルーテシアちゃんとリオちゃんは良いとして、地球で言えば小学4年生のヴィヴィオちゃんがビキニを着ているのを見た時は何の冗談かと思ったが、アインハルトちゃんくらいになれば実によく着こなしている。

 

「マサキ、さらなる心拍数の上昇を検知しました。大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 いかんな。ドゥーエさんの近くでは迂闊に女の子も見られない。

 

「ところで、どうですか? 私の水着姿は」

「うむ? うーむ……」

 

 おれは川遊びから鍛錬に移行し始めた少女達から視線を隣に立つドゥーエさんに移す。

 白いビキニに淡いピンク色のパレオを合わせている。その様は綺麗なビーチを歩いているお姉さんだ。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込むナイスバディなドゥーエさんには似合い過ぎるくらいに似合っている。大人の色気がムンムンだ。

 頭の先からつま先までじっくり観察したおれは、一つ頷き結論付ける。

 

「最高です」

「ふむ、先ほどより心拍数の上昇が少ない。同志マサキはロリコンの気がおありで?」

「ちょちょちょーっと待って、ドゥーエさん。それは誤解だ。そんな心拍数という情報だけでおれがロリコンか否かを判断するなんて早計だよ。個人の趣味や嗜好というものは、そんな上辺の情報だけで判断できるものじゃないんだ!」

 

 べべべ別に大人の色気に魅力を感じていない訳じゃないんだ。ただ、美人の水着姿というのははやてやなのはさん達と毎年海に行くから、見慣れてるだけなんだ。ありがたいことだと思う。

 一方少女達の水着姿というのはそうそう見られるものじゃ無いため、ちょっとドキドキというかドギマギしてしまっただけなのだ。

 え? 転生直後の小学生だった時に沢山見たんじゃないかって? 小学生の頃の記憶って10年も経てばかなり薄れるよね……

 

「そうなのですか? では、同志マサキはどのような嗜好をお持ちで?」

「えっ、いやー……あの、そう言うことをはっきり言うのはちょっと……」

 

 それは流石に恥ずかしい……

 

「まあ、この間ハヤテと飲んだ時にその辺のことは聞きましたから別にいいです」

「はやてええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

 家に帰ったらあいつとお話しないといけないことが出来たな。

 

「先生も大変そうだな」

「ノーヴェさん……」

 

 少女達に鍛錬のアドバイスをしていたノーヴェさんが川から上がり、こちらに来たようだ。

 

「ま、いつものことさ。八神家において、おれにプライバシーは無いに等しい」

「……ほんとどんな扱いされてんだよ」

 

 はやてはおれの考えてることを悉く読んでくるからエスパーだと思うの。

 まあ、おれのことはどうでもいい。

 

「しかし、ノーヴェさんも随分丸くなったもんだ」

「う、うっせ……」

 

 そういってノーヴェさんはそっぽを向いてしまう。

 隔離施設にいた時はあんなにツンツンしてたノーヴェさんだが、ゲンヤさんの家に住むようになってから大分角が取れたようだ。今ではヴィヴィオたちに格闘技を教えてあげたりしている。

 

「なんにせよ、ツンツンされるより今の方が付き合いやすいし、良い事だ」

「ふん……」

 

 ノーヴェさんはそう言ってどこかへ行ってしまう。

 ツンツンしているように見せかけて、顔が赤くなっていた。

 

「ははは、可愛い奴め」

 

 さーてと、少女達の水遊びの様子を再び見ることにしましょうかね。

 そう考えたおれは川の方に視線を戻す。

 

「ごはっ!?」

 

 突然川の方から大量の水が飛んで来て、おれに直撃する。

 ところで、バケツ一杯分の水を掛けられた程度では人はびくともしないだろう。しかし、非常に大量の水だった場合、人は立っていられなくなるかもしれない。さらに水の量が多ければ人は水に攫われてしまうことだろう。

 水というのは怖いものだ。身をもって実感したね。

 大量の水がものすごい勢いで飛んで来たら人も飛べるんだな……って。

 

「ぐえー……」

「マ、マサキさん! ごめんなさい!」

 

 おれに謝罪の言葉を述べるのはアインハルトちゃん。

 

 これだから少女達の水遊びから目が離せないんだよな…………危ないから……

 

 

 

 

 

 あ、ドゥーエさん。いつの間にそんな遠くに……



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BBQと天然温泉と88話

久しぶりに書きました


 水に浸かる予定は無かったが、年少組の強烈な水遊びによって濡れ濡れのぐちょぐちょになったおれはもう何も怖くない状態となったので、濡れた服も脱がずに年少組に混ざって水遊びをすることにした。

 

 波にのまれてひどい目にあった。

 

 

 ☆

 

 

「さー、お昼ですよー! みんな集合──!」

「「「はーいっ!」」」

 

 年少組は川へ遊びに、年中組(なのはさん、フェイトさん率いるスターズ、ライトニングの子達のこと)は山へ訓練に行っている間に昼食の準備をしていたメガーヌさんから号令がかかる。どうやらなのはさん達は遊んでいたおれ達より早く訓練を切り上げて手伝いをしていたようだ。

 

「はーい!!!!」

 

 ま、当然おれは子供たちに混ざって元気に返事する訳ですわ。

 だって、おれは紅茶くらいしか淹れられないし(最低限の料理はできるけど)、なにより人手は足りてるみたいだから素人は黙って母鳥が餌を運んでくるのを巣で待つ雛鳥のごとく食事を待つのだ。

 

「体冷やさないようにあったかいものいっぱい用意したからねー」

 

 メガーヌさんが言うように庭のデッキに設けられた昼食会場のテーブルにはBBQがずらりと並び、エリオ君が『それ魔女と給食のおばちゃんくらいしか使わなくね?』ってくらいデカイ鍋でスープが焦げ付かないようにぐるぐるとかき混ぜている。

 

「なんで公輝君はそんなにびしょぬれなの?」

「クールビズ」

「あ~……え?」

 

 串に刺さった肉にタレをぬりつつなのはさんがおれに言う。おれの思考停止の返答にちょっと納得しかかってるあたりなのはさんも訓練で疲れてるのかな? 彼女の場合99割素の様な気もしなくもないが。

 

「着替えて来なよー……」

「着替えは持って来ていない!」

 

 おれはキメ顔でそう言った。

 

「えぇ……? なんでそんなに自慢げなの……」

 

 いやだってさぁ、ゲーム(ビデオ)とかゲーム(ボード)とかゲーム(カード)とか鞄に詰めたら空きが無くなって……。はやてもおれの荷物チェックした時に「うん、100点満点や!」って言ってたし、大丈夫かなって。後ろでヴィータが「ガキかな?」とか言ってた気がするけどおれには聞こえなかったな。

 替えの服くらい宿泊施設としてさらに進化を果たしたホテルアルピーノにあるやろ(適当)と高を括って来たのだ。

 

「マサキ先生、部屋のクローゼットに浴衣があるのでそれを使っていいよ!」

「え? まじであんの? すげーなホテルアルピーノ」

 

 すげーな。期待を裏切らない。ていうか、浴衣て。

 そういうことなら、ルーテシアちゃんの助言通り、部屋の浴衣を借りることにしますかね。

 

「それじゃあ着替えて来ます」

「あ、マサキ先生」

 

 借りている自室に向かおうとしたおれをメガーヌさんが呼び止める。

 お? おれも年少組に対するみたいに風邪をひかないように気にかけてくれてるのかな? 

 

「家にあがるときは床を濡らさないようにしてくださいね?」

「あ、はい」

 

 誰もおれの健康状態なんて気にしてくれないのだ。知ってた。

 だって風邪ひかないもん。

 

 

 

 ☆

 

 

 訓練合宿としてカルナージまで来ている面々は空かした腹を満たした後、腹ごなしもそこそこに再び訓練へと向かっていった。いや、むしろ訓練自体が腹ごなしみたいな部分もあるのだろうか。あれだけ食った後に動き回るとか、おれだったら吐く自信しかない。

 なのはさんやフェイトさんはもちろん、彼女たちに育てられた部下たちももう向こう側の人間となってしまったか……

 

 さて、みんな目的をもってここにきている一方で完全な休暇の旅行としてカルナージにやって来たおれはというと……

 

「メガーヌさん! 男湯のブラシ掛け終わりました!」

「はーい! それじゃあお湯張っちゃってくれる?」

「了解っす!」

 

 風呂掃除をしていた。

 

 

 ??? 

 

 

 あれ? きゅう……か……? まあ、いいけどさ。ホテルアルピーノは別に営利企業でも何でもないただの家だし、合宿の宿として提供してもらってるから手伝うのは当然だ。

 それに、今回はエリオくんとおれという男が二人もいるために、普段は使っていない男湯を稼働させている。手伝わない理由がない。

 

「しかし、まあ……ルーテシアちゃんの趣味もここまでくると感心するなぁ」

 

 おれはすごい勢いで溜まっていくお湯をぼーっと眺めている。

 計画案では男湯と女湯を分けずに全部ぶち抜いて一つの大きな風呂区画にする計画もあったとかなんとか。

 もしそうなったら、男と女の風呂の時間が分けられて滅茶苦茶デカイ風呂に対しておれとエリオ君だけという悲しいことになってただろうな。ああ、もしそうなってたらルーテシアちゃんの召喚獣のガリューとフリードも付き合ってもらってただろうか。それでも4人か……まだまだ広すぎて寂しいことになったろう。

 

「……静かだ……」

 

 いつも横には大抵はやてか、はやてが居なかったらヴォルケンズの誰かが居るのが常だったから、こうして仕事でもないのに一人で居るととても静かに感じる。たまにはこういう時間も悪くはないと思いつつもついつい物足りなさを感じてしまう。

 

「あ」

 

 今のなんだかフラグな気がする。すごい面倒なことに参加させられる気がしてきた。主にはやてのせいで。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 今はこのめずらしい状況を楽しもうじゃないか。

 みんなが帰ってきたら風呂だ。温泉だ。温泉は大好きだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あ゛~~~~~~……」

 

 この風呂場を自分で洗ったこともあって気持ちよさも倍増してる気がする。

 

「先生、おじさんみたいですよ」

「二十歳越えたらもうおじさんに片足突っ込んでるみたいなもんよ。年々時間の流れが早くなっていく感覚が怖い怖い」

「そんなもんですか?」

「そんなもんなんです」

 

 訓練を終えて戻ってきたエリオ君と一緒におれは温泉に来ている。

 厳しい訓練には慣れているのか、エリオ君の動きに疲労からくるぎこちなさのようなものが見えないのは大したものである。

 

「10代は全力で楽しんでおいた方が良いぞ? 華の10代って言うし」

「毎日楽しいですよ? 訓練もやりがいがありますし」

「……まあ、本人が満足ならいいか」

 

 なのはさんもだが、こんなに若い頃から仕事仕事ですごいなぁ。(小並感)

 

「とはいえ、普段は女所帯で過ごしてるエリオ君には経験が足りないと思うんだよ」

「経験……ですか?」

 

 エリオ君は何のことを言っているのか全く想像がつかないのか、首を捻って考える。

 

「ああ、経験だ。ここにはおれとエリオ君の男だけの空間だ。……まあ、向こうの女湯では女性陣がキャイキャイしてるけど……」

 

 さっきから隣の女湯が賑やかだ。あれだけ女性が集まればそうもなるか。

 

「それは置いておいて、ここは男だけの空間だ」

「は、はあ……」

 

 やはり検討がついていないエリオ君。

 そんな彼におれはこう言った。

 

「男同士で恋バナしようぜッ」

「こっ!?」

 

 恋バナのこの字しか言えずに口をパクパクしてるエリオ君。やはり彼の周りでこういう話題はあまり出ないらしい。

 修学旅行の寝る直前にやるバカ話みたいなものはやっておいて損はないよなぁ? 

 おれ自身も普段は女所帯に挟まる男だからこういう話をする機会が中々ないため、少しはしゃいでしまっていることは自覚している。え? ザフィーラさん? あの人と恋バナしても……あれ? ちょっと面白そうだな。今度話題振ってみるか。

 

「やっぱりエリオ君はキャロちゃんの事が好きなん?」

 

 男と女がちょっと仲良くしているからと言ってそういう関係だと邪推するような年齢ではないが、つっつきやすい的が目の前にあるのでとりあえず話の種として投げてみる。

 

「な、な、なッ」

 

 ななな? ナナちゃんという女の子がいるのだろうか? 

 

「ぼ、僕は別にキャロとはそういう関係では……」

「そうなのか? 確かに、相棒としての面が強いか」

「そうですそうです! キャロは相棒です!」

 

 人生の? っと切り返してやろうかとも考えたが、ちょっとかわいそうなので言わないでおく。

 

「せ、先生こそ、はやてさんとの関係はどうなんですか?」

「はやて? はやてかぁ……」

 

 エリオ君からの返球はおれとはやてについてだった。

 だがしかし、はやてか。そういう目ではやてを見たことは無かったな。だって……

 

「はやては、なんというか……おかんじゃん?」

「おかん……」

「もしくは手のかかる妹? いや、姉?」

「妹……」

「おれとはやては血がつながってないけど、なんというか、過ごした時間が長いうえに距離が近すぎて……最早半身?」

「えぇ……家族とかも超越してるんですね」

「うん、冷静に考えてみるとおれとはやての関係ってなんなんだろうな」

 

 考えれば考えるほどわからなくなる。血がつながってないからこそ余計にこの関係性が不明である。とはいえ、その関係が心地よいのでおれは満足しているが。

 

(あれ? 半身ってそれは所謂……)

「昔はおれがあいつの足代わりだったし、半身ってのは間違ってないかもな。うん。おれ、あいつの下半身だったわ」

「その言い方はちょっと」

 

 なにか考えて居たようなエリオ君だったが、おれの言葉を聞いて苦笑いしている。

 

「おれの事は置いておいて、そうかぁ……エリオ君にはまだ好きな女の子は居ないのか」

「ははは、そうですね」

 

 もう14歳とも思ったが、まだ14歳だもんな。地球で言えば中学生。ませたガキンチョならそれくらいから彼氏彼女だの言うやつも居たけど、まだまだ早いか。

 おれだってそのくらいの時は……スッー……??? 学校と管理局の手伝いが無い時ははやてたちとスマブラやったりマリカやったりポケモンやったりした記憶しかねぇな……

 

 それはそれとして、

 

「エリオ君、あの衝立にある扉をくぐれば女湯に行けるぞ?」

「ぶふっ!?」

 

 おれは男湯と女湯を隔てる衝立にある業務員用の扉を指さしてそう言う。とりあえず創作の中でしか起こりえない覗きイベントを消化することにした。

 

「犯罪ですよ!」

「まあそうだけどさ、エリオ君なら許されるんじゃね?」

「許されませんよ!」

 

 そうかな? むしろフェイトさんなんか喜びそうな気がするけど。あれ? そもそも今フェイトさんは風呂に入ってないか。確かなのはさんと打ち合わせしてるっぽいし。じゃあだめか。

 

「いつだったか、地球でスーパー銭湯に行った時は結局女湯に移ってたじゃん。ちょっと大人になった今こそまた入ってみたいんじゃない?」

「な、ないですよ……」

 

 声音が弱弱しくなっていくエリオ君。何を想像しているんだか、彼の顔は風呂の熱気も合わさって真っ赤になっている。

 やれやれ、初心というかなんというか。まあ、保護者がフェイトさんだしな。フェイトさんもそういう話題には弱そうだ。ここは男としてフェイトさんでは教えづらいこともエリオ君に教えるべきだろうか? とりあえずそこは将来の課題としておこう。

 

 エリオ君を一通り弄って満足した俺は大分体が暖まって来たので風呂の縁に腰かけて足だけ湯につける。暖かい気候だが、温泉で暖まった体にこの風は心地よい涼しさを感じさせる。

 

「ん?」

 

 絶 招 炎 雷 炮

 

 さっきまでおれとエリオ君でワイワイやっていたためあまり気にしていなかった女湯からドゴンッという尋常じゃない音が聞こえて来た。

 

「ぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」

「な、なんだ!?」

 

 誰かの叫び声とともに何かが湯舟へと墜落してきた。

 ていうか、落ちてきた場所がさっきまでおれが居た場所なんだが……え? なに、こわ。

 

「おや? よく見たらセインさんじゃないか」

 

 落ちて来たなにかはスカさんの娘の一人であるセインさんだった。お湯に対してうつ伏せの状態で浮かんでいるため顔は見えないがその特徴的な髪色と体格で判断できる。

 彼女は保護観察終了後は教会に勤めていたはずだが、どうしてここに? そしてなんで水着? 

 

「同志マサキ」

「わお! びっくりした。ドゥーエさんか」

 

 空から落ちて来たセインさんを見ているといつの間にか後ろにドゥーエさんが立っていた。さっき話題に出した扉を通って女湯からこちらに来たのだろう。

 彼女も今の時間に風呂に入っていたようで、体にはバスタオルを巻いている。八神家に来た当初は男のおれに全裸を視られようが気にしないような人だったが、ある程度の慎みというものを知ったらしい。

 

「こちらにセインがお邪魔してきたかと思い、回収に来ました」

「ああ、うん。なんか目回してるっぽいから連れて帰ってあげて」

「はい」

 

 そういうとドゥーエさんはセインさんを俵のように持ち上げて女湯の方へと戻っていく。……え? ちょっと? その扉ちゃんと閉めてってくんない? 

 

 あ、ルーテシアちゃんが扉から顔だけ出して手を振っている。おれも手を振って返しておこう。あ、そのままルーテシアちゃんが扉を閉めてくれたようだ。よかった。

 

「ふう……とんだトラブルだったなエリオ君……?」

 

 エリオ君に声をかけてみるが、彼からの返事がない。

 湯舟に視線を戻すとそこには仰向けの状態で浮かぶエリオ君。彼の顔はのぼせた以外にも原因がありそうなほどに真っ赤になっている。

 

「エリオ君!?」

 

 セインさんに押しつぶされて気絶したらしいエリオ君を救助するため、おれは風呂を上がった。

 

 

 ……あれ? そういえばエリオ君はさっきまでセインさんの落下地点とは少しずれた位置に居たような気がしたんだが。これがラッキースケベかぁ。




久しぶりに書いた話が野郎とのお風呂回なの笑う


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模擬戦と逆転の女神と89話

この模擬戦の話、めっちゃ書きたかったけど着陸点が全く思いつかずに2年くらい悩んでました


「んが?」

 

 目覚め。二度目の人生を始めてからすっきりしない目覚めを経験したことがないのは密かな自慢だったりする。

 

「……今日の午前は自由行動だったな」

 

 おれは三日目の日程を思い出す。え? 二日目はどうしてたかって? おのれはやて、許さん。

 

 

 ☆

 

 

 合宿二日目

 

 

「公輝君? どこ行くの?」

「川釣りでもしようと思ってね」

 

 おれは手に持つ釣竿とバケツをなのはさんに見せつける。ここは自然豊かであり、近くを流れる川には多くの魚が生息していることは確認している。……昨日の少女たちによる遊び(水切り)に巻き込まれた魚たちには同情を禁じ得ない。

 

「え? これから陸戦試合だよ!」

「え? うん。それはまあ知ってるけど」

 

 陸戦試合(りくせんエキシビジョン)

 合宿参加者を2チームに分けてのチームバトル。相手チームを全滅させた方が勝ちの全力バトルだ。

 前回の合宿ではヴォルケンズ、リイン姉妹、アギトちゃんを全員引き連れたはやてチームが大暴れしたのを覚えている。戦闘要員ではないおれは当然参加していない。おれが生粋の武装局員たちがガチンコする戦場にノコノコ出て行ったら瞬ころである。

 

「今回は公輝君も出るんでしょ?」

「はい?」

 

 初耳だが。

 

「はやてちゃんが言ってたよ? 今回は公輝君も参加するからしごいてやってや、って」

「は~や~て~」

 

 ウインクしながら舌をペロっと出したはやてが脳裏を過る。

 

「おれが参加しても邪魔にしかならないでしょ」

「そんなことないよ! フェイトちゃんと一緒に公輝君の役割もちゃーんと考えたから!」

「えぇ……」

 

 おれが知らない間におれの予定が決められている。

 

「たまにはいいんじゃない? ね?」

「いい……のか?」

 

 う~ん、正直そんなとんでもない訓練に付き合いきれる気はしないが、折角なのはさんとフェイトさんが色々考えてくれたのに断るというのも気が引ける。なにより、なのはさんにそんな風に言われたら断れないじゃないか。

 

「んじゃ、ちょっと準備してくるわ」

「うん、待ってるね」

 

 そう言うとなのはさんは集合場所へと向かっていく。さてと、俺も準備してくるか。

 必要な道具を取りに部屋へと戻る。

 

「同志マサキ。どうされたのですか?」

「あ、ドゥーエさん」

 

 おれと一緒に釣りに行く予定だったドゥーエさんだ。涼しげな白いシャツにキャップをかぶって熱中症対策万全といった感じの釣り師の格好である。

 ……いい事考えたぞ。

 

 

 ☆

 

 

「えー……ルールは昨日伝えた通り、赤組と青組6人ずつのチームに分かれたフィールドマッチです。ライフポイントは今回もDSAA公式試合用タグで管理します。後は皆さん怪我のないよう正々堂々頑張りましょう」

「「「はーいっ」」」

 

 ノーヴェさんのルール説明も終わり、これから試合が始まろうとしている。

 ……の前に、なのはさんがルールの補足を行う。

 

「今回は公輝君が参加するので特別ルールがあるよ」

「え!? おじさんも参加するの?」

 

 ヴィヴィオちゃんがおれの参加を知り驚いた表情をする。ね? びっくりだよね。おれが一番びっくりしてるんだわ。

 

「試合開始5分後にフィールド内に公輝君が参加します。フィールのどのどこかに居る公輝君を捕獲もしくは撃破した人はライフを1000ポイント回復しまーす」

「おー」

 

 おれは回復アイテム扱いか。

 

「想定してる状況としては、第三者勢力の妨害が入ってくるって設定。特にスターズのみんなはこのことに留意してね」

「ライトニングのみんなもね」

「「「はい!」」」

 

 なのはさんとフェイトさんの言葉に管理局所属組は元気に返事をする。

 

「ちなみに公輝君には護衛としてドゥーエさんが付くので注意してね」

「どうも」

 

 全体の説明が終わり、各チームごとに細かい作戦の話し合いが行われる。そうしたら両チームとも開始ポイントに待機する。

 

「それではみんな元気に……試合開始~!」

 

 メガーヌさんの開始宣言と共にガリューが銅鑼を鳴らす。それを合図として試合が始まった。

 

 

 スバルさんのウイングロード、ノーヴェさんのエアライナーによるバトルフィールド形成から始まる。空を巡る魔力の道を通って両チームの前衛が衝突する。

 

「ひえ~。やっぱりおれは場違いだよな」

「皆さんをぎゃふんと言わせるんでしょう? 頑張りましょう」

 

 そう。巻き込まれるにしてもただで巻き込まれる気はない。ここはドゥーエさんと協力して第三者チームを優勝へと導くつもりだ。

 

「ところでドゥーエさん。みんなの中なら誰に成りやすい?」

「姿形だけなら誰にでも。しかし、彼女らの特筆すべき戦闘能力や特技までとなると厳しいですね。例えば、私は召喚魔法などは使えせんし」

「シューターとかはどれくらいいけます?」

「なのは程の非常識なものは無理ですが、ある程度なら」

 

 なるほどなるほど……

 成り替わりの難易度が比較的低く、成り代わりのタイミングがあり、そのうえ生存確率が高い人物……

 

「そうなると、狙うは……」

 

 

 

 ☆

 

 

 

(居た)

 

 おれの目線の先にはビルの上から戦場を俯瞰しているティアナさんが居る。

 前線指揮官のティアナさんは前に出ずに後ろから指示を出すこともある。多くの人の目から外れるそのタイミングこそが狙い目だ。

 ティアナさんは何かを考えて居るからか、はたまた辺りに散布された魔力に紛れたおれの小さすぎる魔力量を感知できないからか、理由は不明だがあちらはまだおれの存在に気が付ていない。

 

(今ッ!)

 

 リインさんとユニゾンしていた6年間。その間になんだかんだ自分の身体を使って荒事を解決することもあった。強者のリインさんの動きを直接体感していたおれは足捌きなどをある程度再現することが出来る。

 足音を消して限界まで近づいたところで一気に駆け寄る! 

 

「なっ!? マサキ先生!?」

 

 そこでティアナさんも俺の存在に気が付いたようだがもう遅い! 

 想定外のおれの突撃にティアナさんの判断が遅れる。

 

「はーいよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

「ふへっ!?」

 

 数々の悪漢どもを腰砕けにしてきた高速なでなでによってティアナさんを落とす。

 いい歳の女の子の頭をなでなでするのはちょっとどうかと思うが、ここは戦場。何が起こるか分からないということで勘弁してもらおう。

 顔を上気させ、息を乱しながら仰向けに倒れるティアナさんを見下ろしながら、懐から短冊状の紙を取り出してティアナさんの顔に張り付ける。

 その紙にはこう書かれていた。

 

『死亡』

 

「はい、これでティアナさんは死にました」

 

 たぶん後10分は満足に動けないだろう。

 この試合ではDSAA公式試合用タグとやらでライフポイントを管理しているため、おれのなでポでそれを0にすることはできない。むしろポイントが増えるまであるかもしれん。

 しかし、今回の作戦においてティアナさんの体力を0にするわけにはいかない。ドゥーエさんがティアナさんに成りきるためには必要だからな。

 

「ドゥーエさん、よろしくね」

「はい。任せてください。腕が鳴ります」

 

 ティアナさんが持っているタグを回収してドゥーエさんに手渡す。そうすると彼女の姿はティアナさんと寸分たがわないものになる。

 

「いや~、はやてに変身してた時も思ったけど、すごいねこれ」

「ふふふ……これこそ私のインヒューレントスキルよ」

 

 ティアナさんの顔でニヤリと笑うとすごい違和感がある。口調はティアナさんロールをもう始めているのに端々でドゥーエさん味が見え隠れするな。

 

「さて、それじゃあ作戦を最終段階に進めよう」

「ええ、任せて。私の射撃能力だとなのはに歯が立たないから頼むわね」

「おうよ」

 

 ドゥーエさんはビルから飛び降りながら、レッドチームの面々にティアナさんとして指示を出していく。

 

「さて、行くかな」

 

 遠くに空飛ぶ要塞と化しているなのはさんを見つけた。

 

「……とりあえず、ビルから降りないと」

 

 リインさんが居ないと碌に魔法を使えないので、自身の足を使って次のポイントへと赴く。

 

 

 

 ★

 

 

 

(ティアナの姿が見えない。それに、まだ公輝君とドゥーエさんの発見報告もない。なんだか色々と不安なんだけど……)

 

 色々と不安はあるが、ここらで一気に攻める! 

 

「青組各員! 作戦通達! 収束砲で一網打尽にします!」

 

 向こうも同じ考えなのか、全体の戦況が大きく動く。

 2on1の状況を作り出し、狙った相手を速攻で潰す。

 

「あら?」

 

 フルバックのルーテシアちゃん、ウイングバックのリオちゃんがやられてしまったみたい。で~も。

 

「へうーっ!!」

「!!」

 

 二人に打ち勝ったキャロの後頭部にシューターをぶつけて撃墜、コロナちゃんはチェーンバインドで捕獲する。

 

「えーー! なのはさんいつの間に!?」

「勝ったと思った時が危ない時!! 現場での鉄則だよ~!」

 

 コロナちゃんに指摘した後、射撃体勢に移る。

 

(私の魔力も多くはないけど、分割多弾砲(マルチレイド)で一網打尽!)

「分割多弾砲で敵残存戦力を殲滅、ティアナの集束砲(ブレイカー)を相殺します!」

 

 魔力を収束させ、一気に放出する! 

 

(?)

 

 ティアナの集束砲、なんだかいつもより魔力が少ないような気がする。

 何か考えがあるのだろうか。いや、ここは何にしても全力で撃つ! 

 モード《マルチレイド》によって私の周りにシューターを撃ちだすビットが形成される。これらのビットは私が持つレイジングハート本体の動きに同期して照準を付ける。

 

「スターライト」

 

 レイジングハートを大きく振り上げ、

 

『マスター!』

 

 振り下ろしてスターライトブレイカーを発射しようとした瞬間、相棒が声をあげた。

 

「ブレイ――ッ!」

 

 振り下ろそうとしたレイジングハートが何かに下から弾かれたために振り下ろしきれなかった。その結果、狙いは大きく外れ、ビットから放たれるブレイカーも含めてその射線は大きくずれてしまった。

 

(な、なんで!?)

 

 衝撃を受けた瞬間、何かが飛んできたような気がした。

 だが、それには魔力反応を感じなかった。つまり、物理的な何か。

 

 飛んできた何かの発生源へ視線を向けてみると……

 

(あ……)

 

 手を振り切った状態の公輝君がそこに居た。

 

 

 

 ★

 

 

「やったぜ」

 

 やっぱりカード手裏剣は強い。

 なのはさんに投げつけたカードを彼女のデバイス、レイジングハートにぶつけたのだ。

 本当はレイジングハートがリロードするとこに目掛けて投げて、カードを挟ませることでリロードを失敗させようとしたんだが、それだとなのはさんの砲撃を完全にとめてしまうことになり、レッドチームを消耗させることが出来なくなるのでやめておいた。おれの決闘者レベルがもっと高ければレイハさんを切断することもできたかもな。まあ、出来てたとしてもそんなことはしないが。

 ちなみに、今回使用のデッキは逆転の女神40積みデッキだ。我ながら逆転してぇという圧が強い。

 

 ティアナさんの全力砲撃程ではないが、ドゥーエさんによる全力砲撃に直撃したなのはさんチームの面々はほとんどが脱落。なのはさんの集束砲を大きくずらしたとはいえ、その余波によってティアナさんチームに大きな被害を及ぼしていた。余波とは……。

 

「おれとしては共倒れが一番だから、結果よし」

 

 残りはヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃん、そしてドゥーエさんが扮するティアナちゃんのみ。

 

「お?」

 

 なんて色々考えてたらヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんは相打ちで決着がついた。

 

「勝ったな」

 

 さて、みんなの前でネタばらし&勝鬨をあげてくるとするか。

 とりあえず、まだ動けていないであろうティアナちゃんを回収しなきゃ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「試合終了~。青組、行動不能1名に撃墜5名。赤組、行動不能1名に撃墜4名。結果は赤組の勝利で~す! 試合時間は15分27秒でした」

 

 おれがティアナさんを回収して戻ると、ちょうどみんなが集まってメガーヌさんによる結果発表を聞いているところだった。

 ちなみにティアナさんは倒れたその場から動かず、すやすやと眠っていた。……この子も相当疲れ溜まってるな。全く……。

 

「ティア、お疲れ……え?」

「よっ」

 

 ティアナさんを囲んでその健闘を称えているところにティアナさんを背負ったおれが登場したのだ。みんな目を丸くして何も言えないでいる。

 

「お疲れ様、ドゥーエさん」

「え? ドゥーエ姉さん?」

「ここに至ってまだ気が付かないとは、ノーヴェもまだまだですね」

 

 ドゥーエさんはノーヴェさんに答えると同時に能力を解いて元の姿へと戻る。

 

「はっはっはー! つまり、最後まで戦場に立っていたのはおれとドゥーエさん。チーム回復アイテムの勝利だ!」

「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」

 

 おれの勝鬨に、みんな驚きを隠せない。

 うんうん、この顔を見られただけで似合わない模擬戦に参加した価値はあったかな。

 

 まあ、リインさんとユニゾンしていないおれを模擬戦に放り込んだはやてには今度罰ゲームを受けてもらう事は確定してるけどな。

 

 

 

 

 

 余談だが、次に行われた二戦目、三戦目では戦闘開始5分後のおれが参戦すると同時にティアナさんに親の仇のごとく付け狙われて瞬ころされ、彼女のマキシムトマトとしておいしく頂かれたのだった。




最初は戦闘開始前にスバルとすり替わらせるつもりでしたが、全く話が思いつきませんでした。


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朝と通信と90話

 陸戦試合が終わり、ティアナさんから絶え間ないジト目攻撃を受け続けていたが彼女がスバルさん達と一緒に風呂に行ったことでなんとか切り抜けることが出来た。

 ふぅ……もう少しで新しい扉が開かれるところだった。危ない危ない。

 

 危機を乗り越えたおれは特に予定もないのでとりあえずちびっこ達を冷やかしに行くことにした。なのはさんとメガーヌさんは談笑しているし、フェイトさんは自身の子供たちと団らん中、他の大人組はお風呂タイム。逆に言えば行く場所がそこしかないのである。

 そこでは昼間の試合で気力を使い果たした少女たちがグロッキーになっていた。

 

「おじさーん……たすけてぇ……」

「せんせー……」

「うー……」

「……動けません……」

「限界超えて張り切りすぎるからだよー」

 

 ルーテシアちゃんの言うとおりである。

 

「そうだな、ヴィヴィオちゃんはおれの事をお兄さんと呼んでくれたら疲労を抜いてやろう」

「あ、じゃあいいです……」

 

 ヴィヴィオちゃんの頑ななおじさん呼びはまじでなんなん? そんなにおれの事をお兄さんと呼ぶのが嫌か。嫌なのか!? おれはまだおじさんと呼ばれるような歳では……まあ、19の時とは違って自嘲で自身のことをおじさんと呼ぶことは最近多くなってる気がするが……

 とりあえずヴィヴィオちゃんにはこのまま疲労と仲良くなってもらうことにしよう。

 

「じゃあみんなと一緒にそこで転がってるんだな」

「あうー」

 

 

 少女たちの話は進み、話題は今年のインターミドルシップチャンピオンシップへと移っていく。何やら今年はみんなも参加資格を得るから参加するらしい。みんな元気だな~。おじさんが10歳の頃は体を動かすよりゲームしてる方が好きだったよ。

 

 百合の間に挟まる男……ではなく幼女達の間に挟まるおじさんじゃね? なんて思考も一瞬沸いて出てきたがそんなものは吹き飛ばして彼女たちの話に相槌をうつ。

 

 しばらくして栄養補給の甘い飲み物を持ったなのはさんとメガーヌさんも加わり、本格的にインターミドルについて話す。

 

「あ、そういえば参加資格の方は……」

「年齢と健康面は問題なくオッケーよね」

「何かあっても公輝君が何とかしてくれるよね?」

「うん? おう、次元世界一と謳われたおれに任せておくがよいぞ?」

「なはは……公輝君が言うと冗談に聞こえないね」

 

 まあ、実際に管理局の偉い人にそう言われたしな。世間じゃ伝説の三提督なんて言われてるが、話してみると気のいいじいちゃん、ばあちゃんだったわ。

 

「あともう一つ……これ今も変わってないわよね? 安全のためクラス3以上のデバイスを所有して装備する事」

「デバイス……持ってないです」

 

 おや、どうやらアインハルトちゃんはデバイスを持っていないらしい。そう言えば彼女がデバイスらしきものを持っているところは見たことが無いな。

 

「あら、じゃあこの機会に作らなきゃ」

「その……でも、真正古代(エンシェント)ベルカの端末(デバイス)は作るのが難しいと……」

 

 アインハルトちゃんの覇王流は現在普及しているミッド式でも、近代ベルカ式でもなく古代ベルカ式。今は失われた技術が必要になるためその辺の技術者では太刀打ち出来ないだろう。

 

「フッフッフ、私の人脈を甘く見てもらっちゃー困りますねぇー」

 

 ルーテシアちゃんが意味深に呟く。

 

「私の一番古い親友とその保護者さんってば、次元世界にその名も高いバリッバリに真正古代ベルカな大家族!」

 

 なんと! ルーテシアちゃんには当てがあるらしい。侮れないな、ルーテシアちゃんの人脈。

 感心感心。

 

「あのぉー、マサキ先生は何感心してるんですか」

「え?」

 

 え? 

 

「その人は先生の一番身近な人じゃないですか」

「……ああ」

 

 はやてのことか。

 確かに、よく考えればはやて達は真正古代ベルカ由来の歩くロストロギアみたいなもんだったわ。そう考えると、リインさんとかクラス9999999くらいありそうだな。伝説のデバイスみたいなもんだし。ていうかデバイスのクラスって何さ。

 

「もしかして、はやてさんですか?」

「そうそう、あんなんでも真正古代ベルカ、夜天の主様だからね」

「あんなんって……」

 

 なのはさん、あんなんはあんなんだよ。

 

「そういえば夜天の王とか呼ばれたりもしてたな」

 

 あ、今アインハルトちゃんが『王』って聞いてピクッってなった。この子の王様フェチも相当だな。フェチじゃないか。本人に言ったら殴られそうだ。殴りかかってきたらまたアヘらせたるけどな。

 

「それじゃあ先生、八神司令に連絡お願いできますか?」

「オッケー」

「今ミッドは早朝だからメールとかで」

 

 そういえば時差が7時間くらいあるんだったな。

 ……うん。

 

「ピッポッパッっと」

「え!?」

 

 アインハルトちゃんはルーテシアちゃんの言葉を秒で無視して電話をかけ始めるおれに驚きを隠せない様子。

 ふん! おれを大変な目に合わせたはやてには丁度いい。今日はちょっと早起きしてもらおうか! 

 

 いつもより長めのコール音の後、向こうと通信がつながった。

 

「もしもーし」

『……………………帰ってきたらぶっ飛ばす』

 

 ブチッ

 

「……」

「あれ? 今の声って」

「ヴィータちゃんだったね」

 

 なのはさんの言う通り、通信に出たのは目的のはやてではなく、寝起きで声がガラガラのヴィータだった。通信に出た途端にぶっ飛ばす宣言とは穏やかじゃない。おそらく端末に表示されたおれの名前を見ての判断だろう。

 

「……合宿延長したい」

「私の家は別に良いけど、そうすると先生はもっと大変なことになるんじゃないですか?」

「なるかもしれん」

 

 なるかもしれん。

 仕事もあるしな。

 

「もう、そういう事しちゃ駄目だよ公輝君」

 

 なのはさんの苦笑いしながらの注意になんも言い返せねぇ。これはおれの自業自と……いや! 大元を正せばやっぱりはやてが悪いんじゃないかな!(責任転嫁)

 つーか、なんでヴィータははやて宛ての通信に応答してるんだ。いい加減自分の部屋で寝ろや。あいつは昔っからはやてと一緒に寝てるからな。

 色々と言いたいことはあるが、まあいいか。

 

 そう言ったところで二日目は終了となった。

 

「とりあえず、私からメール送っとくね」

 

 あ、うん。ルーテシアちゃんはしっかりした子だなぁ~。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 と、これまでが合宿二日目の内容である。

 そして、時は現在、合宿三日目に至る。

 ホテルの朝食みたいな豪勢な食事を済ませ、おれ、ルーテシアちゃん、アインハルトちゃんの三人ではやてにデバイスの件で連絡を取ろうとしていた。

 

「そういえば、アインハルトは八神司令と面識あったんだね」

「はい。えーと……まあ、色々とありまして……」

 

 そんなことを言いながらおれの事をちらちらと見てくるアインハルトちゃん。

 そうだね、色々あったね。おれ達とのファーストコンタクトで彼女はストリートファイターだったな、そういえば。

 

「あ、繋がった」

 

 昨日の音声のみの簡易通信ではなく、お互いの顔が見えるテレビ通話がはやての元とつながる。

 

『あ-、ルールー、オーッスー』

「おいーす、アギト」

『デバイスの件だよね?』

「うん、お願い」

 

 通信に出て来たアギトちゃんとルーテシアちゃんは挨拶をかわす。

 

『あ、マサキ』

「ん?」

 

 すると、アギトちゃんはルーテシアちゃんと一緒に移っているおれに目を向け呼びかけて来た。

 

『ヴィータがバチクソキレ散らかしてたけど、なにしたんだ?』

「気のせいだろ」

 

 うん、それはきっと妖怪のせいなのね。

 

『まあいいけど、それじゃあちょっと待ってて』

 

 アギトちゃんが画面から居なくなる。きっとはやてを呼びに行ったのだろう。

 しばらく待つと、画面の下からたぬきが生えて来た。

 

『はあーい。ルールー。お久しぶりやー』

「八神司令、お久しぶりです」

 

 それは何故かたぬきのお面を被って現れたはやてだった。

 

『あ、おいそこにおる早朝から通信送ってくるアホ』

「いきなりひでぇな」

 

 本当にひどい言いようである。間違ってないけど。

 

『ヴィータが、帰ってきたら楽しみにしてろ言うてたで』

「はて? 元はと言えばいたいけなパンピーを魔力弾飛び交う最終戦争の戦場に放り込んだたぬき妖怪のせいではないだろうか」

『ん? 今の世の中にもそんなけったいな妖怪がおるんか? 怖いなぁ~』

「お?」

『ん?』

「ちょっとお二人さん、話が進まないのでその辺で」

 

 ああ、そうだった。この通信はアインハルトちゃんのデバイスの相談をするためのものだった。

 

 ☆

 

 

「ですから、その……この子のような補助・制御型がいいなと」

 

 アインハルトちゃんの手にはヴィヴィオちゃんのデバイスであるうさぎのぬいぐるみ型のデバイス、セイクリッドハートが握られていた。

 

『なるほどなー。ほんならクリスの性能を参考に真正古代ベルカのシステムで組むのがええかな』

 

 はやてに加えてアギトちゃん、リイン姉妹も加わってアインハルトちゃんのデバイスの仕様がつつがなく固まっていく。

 なんだかんだと言ってもはやては自身でリインちゃんを作り上げている。真正古代ベルカ式デバイスの作成に関しては一家言あるのである。

 

『まあ、詳しい話も聞きたいから合宿が終わったら一度うちか本局に遊びにおいでー』

「はい」

『そやけど合宿ええなー。うちらもまた行きたいなー』

「またいつでもいらしてくださいー」

 

 二等陸佐。わかりやすく軍の階級で言えば中佐。組織の中でもかなり上の方に位置するはやてはいつも忙しくしている。

 そんな彼女が数日の休みをとるのはかなり厳しい。日程が合わないのも仕方がないだろう。

 まあ、おれはそんなはやてに合宿で楽しんでいることを自慢するように見せつけるのだが。飯も美味いし風呂もデカイ。近くの川では水遊びも魚釣りもできる。控えめに言ってサイコーなサマーバケーションである。

 

「いえーい、超楽しいぜー」

『ほーん、なら次はなのはちゃんに頼んでもっと訓練に参加してもらうようにするわ』

「え、ちょ」

『ほんならなー』

 

 はやてがそう言うと通信は切れてしまった。

 

 

 ……次の合宿は欠席しようかな。



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栄養ドリンクと若返りと91話

 アインハルトさんのデバイスに関する相談を終えた頃には時間は正午になろうとしていた。その後は昨日出来なかった釣りに今度こそ行き、訓練とは程遠いまったりとした時間を過ごしたのだ。

 

 やはり、おれはこういう時間を満喫する方があっているな。

 ドゥーエさんと一緒に無心で糸を垂らしていたら一日なんていうものはあっという間に過ぎるもので、その日は夕食、風呂、そして就寝となった。

 

 

 

 ☆

 

 

 合宿四日目。

 とうとう色々あった合宿も最終日である。

 今日の昼頃にはミッドに帰る次元船に乗り込まなければいけないので、午前中は朝練以外は特に予定は無しだ。

 え? おれ? 朝練に出るほど熱心な局員ではないので当然朝はゆっくりである。まあ、朝食を食べ損ねるくらい惰眠を貪ることもないけどね。 

 

「よく寝た……ん?」

 

 今日の朝ご飯は何だろうかと考えながらボサボサになった髪の毛を手櫛でなだめていたところ、昨日ベッドに入る前には無かったはずのものが目に入った。

 

「……ダンボール?」

 

 ダンボールだ。まさか、誰か中に隠れている? 

 

 ! 

 

 ってそんなにでかいサイズではない。密林さんに小物を頼んだ時に使われるくらいのサイズ感だ。両手にすっぽりと収まるくらい。

 誰かがおれが寝てる間に置いたのか。そんなことする意味あるかね? 

 

「あ。名前が書いてある」

 

 よく見たら箱の下側に送り主と思われる名前が書かれていた。

 

「女子小学生……スカさんか」

 

 女子小学生(JS)はスカさんがおれになにか物とか手紙とかを送ってくるときに使うハンドルネームみたいなものだ。相変わらずひどいハンネである。それに、なんでおれの居場所が家ではなくここだとわかったんだろうか。少し怖い。

 ていうか、スカさんが収容されてる監獄ってめちゃくそ厳しい監視があるって話だが、意外と緩いのかね。まあまあの頻度で俺に何か送り付けて来て、彼が作った試作品の試用をお願いしてくるんだが。

 

 と、スカさんの事は置いておいて、今回の発明品は何かな? 

 なんだかんだ言ってスカさんは稀代の天才。三回に一回はとても使える物が送られてくるので結構楽しみにしている。

 ……まあ、前回送られてきた炭酸に入れてもシュワシュワならないメントスは微妙だったな。メントスを炭酸に入れる奴なんて今時YouTuberくらいしか居ないっての。

 

 さてさて、今日の中身は何かな~? 

 

「ふむ、液体が入った瓶。飲み物かな」

 

 遮光性の高い茶色い瓶に何かが入っている。容量は100ml程だろうか。

 

「あ、いつも通り取り説が入ってるな」

 

 スカさんが送ってくる試作品には決まってミッド語、ベルカ文字、日本語の三カ国語で書かれた取扱説明書が入っているのだ。無駄に凝っている。

 

「何々、名称は『マサキ君でも効果があるかもしれない栄養ドリンク』?」

 

 ふむふむ、なるほどね。普段から元気一杯なおれがさらに元気になるとどうなるのかという事を確かめてみたいらしい。

 確かに、おれは自分が知っている自分の健康を実現している。しかし、もし、それ以上のものがあるとするなら気になるものである。

 

「使い方は……とりあえず飲めばいいんだな、よし」

 

 単純でよろしい。

 

「よし、それではグイっとな」

 

 ……うっ!!?? 

 

 そこでおれの意識は途絶えた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「わー今日も美味しそうです!」

「もうお腹ペコペコだよ~」

 

 ヴィヴィオちゃんやリオちゃんをはじめにテーブルを囲むみんなが今日の朝食に期待の目を向けている。

 

 うっ……階段が降りにくい……。

 おれも早く朝飯食いたいのに……。

 

「冷めないうちに早く食べようよ!」

「あれ? マサキ君がまだ来てないみたい。寝てるのかな?」

 

 なのはさん、ちょっと待って。今転ばないようにゆくっり階段降りてるから。もうすぐそっち行くから! 

 

「マサキの事だから、夜更かしして起きられなかったんじゃない?」

 

 ちょっと、フェイトさん。そんな小さい子みたいに言わないでよ。

 ……まあ、ある意味では間違っていない状況ではあるんだが。

 

「え?」

 

 よし、やっと階段を降り終えたぞ。

 そんなおれに一番に気が付いたのはヴィヴィオちゃんだ。

 うん、言いたいことは分かるが、今は何も言うな。

 

「おはようさん。みんな、とりあえず今は何も聞くな。冷める前に朝ご飯食おうぜ」

「えっ? え……ぅ……」

 

 滅茶苦茶話を聞きたそうにうずうずしているヴィヴィオちゃんをステイさせ、この合宿期間中自身の定位置となっているイスに……うぐ……イスに……座りにくい。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 今日の朝ご飯もおいしゅうございました。

 なんだかいつもよりお腹が一杯だ。

 

「「「「マサキ先生!」」」」

「公輝君!?」

「「マサキ!?」」

 

 ああ、うん。わかってる。そんなみんな一斉にこっち向かないでくれ。ちょっと怖いじゃないか。

 

「「「「なんで縮んでるの!!」」」」

「色々とあったんだ」

 

 はい。色々あって背が縮んでしまいました。色々と言っても原因は明らか。スカさんが送ってきた謎の栄養ドリンクだ。詳しい仕組みも書いてたけどさっぱりわからなかった。しかしまあ、なるほどね。おれの健康のさらなる健康とは若返りだったか。

 部屋にあった姿見で自分の格好を確認したが、おそらく10歳前後の頃の姿だった。今のヴィヴィオちゃん達と背丈はほとんど変わらないくらいである。

 

「おじさん! 詳しく説明してよ!」

 

 おれの適当な説明では満足できなかったのか、ヴィヴィオちゃんが食い気味に聞いてくる。しょーがないなー。

 

「おれは成人管理局局員、坂上公輝。幼なじみで同期の高町なのは、フェイト・テスタロッサと避暑地に遊びに行って……」

「いや、そういうのじゃなくて……」

「不思議な薬を飲んで、目が覚めたら体が縮んでしまっていた!!」

「え!? そこは本当なんですか!?」

 

 割と本当だから困るよね。

 

「拾い食いなんてしちゃだめだよ?」

「危ないと思ったらすぐぺってしなきゃ」

「おい、二人とも。おれの事をなんだと思ってるんだ」

 

 だから子供か! 

 一度なのはさんとフェイトさんの認識を改める必要を感じる。

 

「でも、変なものを口にしたんでしょ?」

「うーん……確かにそれは否定できない。けど、危険は無いはずだから」

 

 そもそも、危険があったとしてもおれを老衰以外で害するのはほぼ無理だろう。

 

「なんか半年もすれば勝手に戻るらしいよ。もしくはすぐに元に戻りたければ38℃以上のお湯に2時間浸かれば良いらしい」

「え? 解決方法は分かってるの?」

「うん」

 

 一緒に入ってた取説にその辺もしっかり載っていた。何やらスカさん製作のおれの健康に対する認識をずらす天然酵素が半年もすれば失活するそうだ。もしくは一定温度以上の環境が一定時間続けばそれでも酵素が失活するらしい。若干ぬるめの温度とは言え、二時間お湯につかり続けるのは地味に厳しいな。

 それにしても人工なのか天然なのか。黄金で出来た鉄の塊みたいな匂いを感じる。

 

「ま、これも珍しい体験だ。半年くらい懐かしの子供生活を楽しむのも良いじゃないか」

「そう? 公輝君がそれで良いなら良いけど」

 

 そうそう。おれが良いから良いのだ。

 

「あ! いい事思いついた!」

「うん?」

 

 そう言うと、イスから飛び降りたヴィヴィオちゃんはうさぎのぬいぐるみのセイクリッドハートを呼び出し、大人モードへと変身する。

 

「わーい、これでおじさんより大きくなったー!」

「むう……」

 

 ヴィヴィオちゃんと出会った時からおれの身長は大人のものであった。そう考えると確かに彼女にとってこの状況はとても珍しいものであるのは違いない。

 

「えへへー、こうやっておじさんの頭を撫でることが出来るのってなんだか不思議~」

「うむむ……」

 

 自分より年下なのに身長が高い少女に頭を撫でられるのは非常に複雑である。恥ずかしいんだが……

 

「私の事はお姉さんって呼んでも良いですよ?」

 

 今度はおれの脇に手を差し込んでそのまま持ち上げる。そうなるとおれは宙に持ち上げられるため、目線がヴィヴィオちゃんと合う。

 こういうところはなのはさんとよく似ていると不意に思う。

 

 ……ニヤリ

 

「そうか。確かに今はヴィヴィオちゃんの方が見た目上は年上だな。それじゃあ、ヴィヴィオおばさんで」

「……」

 

 おれの言葉を聞いたヴィヴィオちゃんは無言でニッコリ顔のままスッとおれを床に下ろす。

 

「いだいいだいいだい」

「お~ね~え~さ~ん~」

 

 脇から引き抜いた彼女の手はおれの頬へと移され、そのまま左右の頬を引っ張られる。結構痛いんですけど。

 

うわい(つまり)おえあいうおおえあおおえうおおあよ(それがいつもおれが思ってることだよ)。」

「む~~~~~~~ママあああああぁぁぁぁ」

「よしよし、公輝君は失礼だね~」

「ちょっと待て、それは普段のヴィヴィオちゃんにもよく言って聞かせるべき言葉なのでは?」

 

 なのはさん、ちゃんと教育しようよ! 

 

「まあ、悪い事が無いならいいんじゃないですか? そろそろ帰り支度を始めないと次元船に間に合わなくなりますよ」

 

 話がまとまったと見てティアナさんが声を掛けてくる。

 おお、そうだった。今日はミッドに帰るんだった。あ、そうだ。忘れてた。

 

「エリオ君、予備の服を貸してほしいんだが」

「良いですよ。今持ってきます」

 

 おれの背丈よりエリオ君の方が若干背が高い。しかし、今着ている服(元々おれが来ていたものを全力で裾を折ったもの)よりはましだろう。上の服に関して言えばでかすぎてTシャツがワンピースみたいになってしまっているのだ。これのせいで歩きづらいったらない。

 

 

 ……ん? 

 

「あ」

「どうしたの公輝君!?」

 

 何か異常があったと思ったのか、なのはさんが少し慌てながら聞いてくる。

 

「今のおれなら次元船に子供料金で乗れるじゃん! ラッキー!」

「……もう。ちゃんと大人料金で乗らないとダメだよ」

 

 ダメかな? 

 ダメかぁ……




スカリエッティとかいう万能キャラすき


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おんぶとレモンと92話

「ねぇ、ドゥーエさん。そろそろ降ろしてもらってもいいんですよ?」

「そうですか? うふふ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ドゥーエさん、重くない?」 

「今の公輝はとても軽いので何の問題もありません」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「家に着いたね」

「そうですね」

 

 結局バス停から家までこのままだったな……

 

 四日間のサマーバケーション合宿も終わり、おれとドゥーエさんはミッドチルダにある自宅へと帰ってきていた。

 

「どうぞ」

「ありがと」

 

 ドゥーエさんは腰をかがめて背負っていたおれを降ろしてくれる。

 はい、この年になって女性におんぶされるという貴重な体験をさせていただきました。

 次元船の発着空港から家まではバスと徒歩による道程なのだが、突然身長を約50cmも持って行かれたおれは、変わった歩幅の感覚に慣れず、何度も転びかけてしまった。それを見かねたドゥーエさんがおれを背負って帰ることを提案したのだ。

 もちろん、最初は遠慮して断った。しかし、何故かやたらグイグイ来るドゥーエさんに結局押し切られる形で背負ってもらっている。その時のドゥーエさんが何だか若干嬉しそうというか、興奮していたような気がしたのは気のせいだと思いたい。

 余談だが、ドゥーエさんの提案として1におんぶ、2に抱っこ、3にお姫様抱っこという事だったので案1を選ばせていただきました。

 

「苦労かけるね」

「それは言わない約束ですよ」

 

 と、言葉では労いの言葉をかけるおれであるが、本来おれが持っているべき荷物は今もドゥーエさんが持っている。まだまだ苦労を掛けている状態である。

 ……だって、おれのカバンはゲームとかゲームとかゲームが詰まっててクッソ重いし、今の体格だとカバンをずってしまうんだもの。仕方ない。それに、ドゥーエさんは頭脳派とはいえ戦闘機人の一人であるため力という観点で言えば通常のおれよりも力持ちだ。

 

「みんなー、ただいまー」

「ただいま戻りました」

 

 せめてと思い、荷物で手が空いていない彼女の代わりにおれが家のドアを開ける。……ドアノブが高いぜ。子供の頃ってこんなに不便だっただろうか。こういう細かい所で子供と大人の違いというものを改めて気づかせてくれる。

 

「おー、おかえり~」

「マサキ、てめぇ……ようやく帰って来やがったな」

 

 真っ先に声を掛けてくれたのははやてとヴィータ。その後もシグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさん、アインスさん、アインスちゃん、アギトちゃんも声を掛けてくれる。

 

「おう、マサキ。ガムやるよ」

「お、サンキュー……って、そんな古典的な罠に引っかかるわけ……ん? パッチンガムじゃないのか」

 

 唐突過ぎるからどうせそういうビックリ形のイタズラをしてくると踏んだのだが、そういう訳ではないらしい。板ガムの横を摘まむように引く抜いたが、想像していた衝撃は起こらなかった。

 なら、このガムが激辛とか? ふふふ……甘いなヴィータ。おれに激辛は効かな……

 

「うっ!? すっっっっっっっっっっっっっっっっっぱああああああああ、なんらこれぇぇぇ」

「あーっはっはっはぁ! バーカ、お前の弱点は把握済みなんだよ!」

 

 

 人間が感じる辛味というのは正確に言えば味ではない。これは痛覚を通して感じるものである。おれにとって痛みというのものは健康状態から離れることと認識しているため激辛ということを認識した瞬間に消えてなくなる。

 しかし、酸味は正式な味覚の一つ。酸味を感じることは人間にとって普通の事である。つまり、おれは強烈な酸味を消すことが出来ない! 

 そのことを見抜くとは……流石はベルカの騎士。騎士としての観察眼というものか! 

 

「唾液が出すぎて脱水症状になりそう」

「果汁120%のレモンジュースなら冷蔵庫にあるぞ。存分に水分補給すると良い」

 

 嫌がらせが極まりすぎている。

 ていうか、それはもはやレモンだろ。いや、果たしてそれはレモンなのか? レモン1個にレモン1.2個分のレモンが……ん? 

 

 ……

 

 ヴィータからの早朝電凸に対する制裁を受けながらも、荷解きもなんとか終えることが出来た。途中でレモン汁を水鉄砲で口に向けて発射されたものが的を外して目に入った時は一瞬死にそうになった。

 時刻は午後4時。夕食にするにはまだ早いが少し小腹が空いてくるような時間。

 

 ──小腹が、減った……。

 

「お茶にしよう」

「お~、ええね~。冷蔵庫にシュークリームもあるから食べようか~」

「最近クラナガンで話題のケーキ屋で買って来たあれですね! お皿の準備してきますね~」

 

 そう言うとシャマルさんは冷蔵庫にしまってあるというシュークリームを取りに行く。

 

 よし、ならおれも準備しますかね。

 合宿中もみんなに紅茶を振る舞っていたのだが、なんだかこうして紅茶を準備するのは随分久しぶりな気分になる。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「結構美味かったな。途中から何故かおれのミルクティーがミルクレモンティーになってたのは頂けなかったが」

「でもやっぱり翠屋のシュークリームには敵わへんな」

 

 甘いスイーツにレモンティーって個人的にはあんまり……ストレートかミルクティーだろ、やっぱり。いや、ミルクレモンティーだからそれ以前の話だったわ。

 

 だけども、はやての言う通り今まで色々な店のシュークリームを試してみたが翠屋のシュークリームに匹敵するものは未だに出会えていない。

 うむむ……今度地球に帰った時にまた買わないと。

 

「ところで」

「うん?」

「君たちは何か思うところはないのか?」

 

 家に帰ってきて数時間。それだけ経っても今のおれの状況に関して誰も何も言わない。

 ヴィヴィオちゃん達が滅茶苦茶反応してきたのと比較すると滅茶苦茶反応が薄い。というか無い。

 あー、それ考えると、これから仕事でイチイチ説明するの面倒くさいなー。今日だって、次元船の到着ゲートを通るときに身分証明書と顔が違い過ぎてひと悶着あったのだ。結局指紋と虹彩と魔力を管理局に預けている個人データと照らし合わせてようやっとミッドに入ることが出来たくらいだし。

 

「? またなんか新しい遊びでも思いついただけやろ?」

 

 はやては何の気なしにそう答える。

 なのはさんとフェイトさんのおれに対する認識もどうかと思ったが、はやてははやてで適当だな~。

 

「どうせマサキだしな。何も心配することは無いだろ」

「そうだな、少し身長が低くなっただけだろう?」

「むしろ、若返って身体が軽いんじゃないですか?」

「うむ」

 

 そう言うのはヴォルケンズ。

 

「うめーな! これ!」

「シュークリームに埋もれて幸せです~」

 

 特におれの事を気にしていないアギトちゃんとリインちゃん。

 融合機(小)組はその体の小ささを生かしてまだシュークリームを堪能している様子。幸せそうで何よりです。

 

 でも、おれと同じ時をはやての次に長く過ごしたリインさんなら……! 

 

「大人の姿に戻る必要があるなら私に言うと良い。その時はユニゾンして変身魔法を使ってやる」

 

 むふ~、とどや顔で言うリインさん。

 あ、はい。ありがとうございます。素直に助かる、それは。

 

「とまあ、実際大したことはないやろ。まさか黒の組織の取引をうっかり見てしまったばかりに毒薬を飲まされた訳でもないんやろ?」

「まあね」

 

 全然違うとは言い難いけどそんな危機迫った状況でもないのも事実である。

 

「ほんなら、私は特にいうことは無いな~」

「流石は八神家だぜ、なのはさんもフェイトさんも慌てふためいてたというのに」

「ま、ハムテル君が何かやらかしても今更驚きもせんわ。昔から訳分らんことしまくっとったけど、スカリエッティの事件ではいっちゃんぶっ飛んどったしな」

 

 原因がスカさんであることは黙っておこう。

 

「へへっ……信頼が厚いぜ……」

「その信頼、燃えまくって熱くなってるだけだぞ」

 

 うるさいよヴィータ。

 

「あ!」

 

 その時、はやてが何かを思いついたかのように声をあげた。

 

「今なら電車も映画も遊園地も子供料金でお得やん!」

 

 流石はやて、なのはさんもフェイトさんも言わなかったことを平然と言ってのける。そこに痺れる憧れはしないけど。

 

 だがそれでいいのか、法の番人管理局員。

 

 

 あ、そういえばおれも管理局員だけど同じこと考えてたわ、なーんて思いながらもいつもの日常に戻っていく。



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丸太とミウラと93話

「「「せいッ! やあッ!」」」

 

 外から聞こえてくる少年・少女たちの元気な声を聞きながらまったりと過ごす昼下がり。開けた窓から吹き込む海風はこの季節には心地よい。

 

 今日も今日とて休日を満喫していた。え? お前いっつも休みだなって? 気のせいだろ。

 

 そんなことはどうでもいいんだ。昨今、子供たちの声を騒音扱いする大人たちも多いが、おれは小さい子供たちの騒ぐ声は嫌いではない。何より、子供たちがそうやってはしゃぐことが出来る環境というのは平和で良い事じゃないか。

 子供たちの声についてインタビューされた時、「人間誰しもいつかは静かな場所に行くんだから今くらい良いじゃない」的な返答をしていたドイツ人のおばちゃんをおれは無限に尊敬するね。

 ……まあ、時々とんでもない金切り声が聞こえて来てびっくりすることはあるけど。あんな声、どこから出てるんだろう? すごいよねー。子供の甲高い声は耳に付く。耳に付くという事は大人がよく気付くということ。そう考えるとこれは生物の子供として合理的な仕組みなのかもしれない……なーんて、スカさんなら考えそうだ。

 

「うーん? 今回の茶葉は微妙だな。それとも蒸らし時間を間違ったのか」

 

 そんな休日におれは何をしているのかというと、より高みの紅茶を目指すために研究をしていた。茶葉、湯の温度、蒸らし時間……茶葉によって最も適した条件があるのはもちろんだが、何よりみんなの好みに合わせたものを探ることが肝要だ。

 完成品に至るまでの試作品ははやて達には出さず、自分だけで確認している。みんなには自信のあるものだけを提供したいからな。これはちょっとした自負というか、拘りだ。

 

「次は蒸らし時間を5秒短くするか」

 

 今回の茶を淹れた時の条件と改善点をメモに残しつつ、なんだかんだ言いながらも決して不味いわけではない紅茶を飲み干していく。

 

「やあああああ!!!! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!」

 

 外から一段と気合の入った掛け声が聞こえて来た。

 だが、どうも後半は掛け声というよりも悲鳴に近いものだったような? 

 

「ガッ!?」

 

 丸……太……? 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「ごごごごごごご、ごめんなさい!!」

「ああ、良いってミウラちゃん。丸太にぶち当たったのがおれで幸いだったな」

 

 今おれの前ですごい勢いで謝罪している子はミウラ・リナルディ。ザフィーラを師範とする八神家道場に通う近所の子供の一人だ。ちなみに、八神家道場とは、ザーフィーラを師範とする基礎を中心とした格闘道場だ。管理局に正式に在籍していないザフィーラにはやてが提案したのだ。「最近暇してへんか?」ってな。

 

「何より、窓ガラスが割れなかったのは幸運だった」

 

 おれの怪我はすぐ直せても、窓ガラスを直すのは面倒だからなぁ。

 それに、もしここにおれが居なかったら机に直撃して目も当てられないことになっていただろう。それを考えたらおれの無いに等しい被害だけで済んだのは奇跡だ。ナイス、ホームラン。

 

「それにだ、短時間とはいえおれの意識を物理攻撃で持って行ったのは、はやてとミウラちゃんだけだぞ!」

 

 意識外からの攻撃という事もあって、流石に一瞬意識が飛んだ。

 

「あ、でも次からは打ち込む方向をよく考えてやってくれよ? もしこれがはやてだったらえらいことになってただろし」

「……あのぉ…… なんでボクの名前を?」

「え?」

 

 って、あーそうか。そういえばこんな姿になってからまだ道場のちびっ子達と顔を合わせてなかったな。

 

「あー……色々あってこんなチンチクリンになっているが、おれはマサキだよ」

「ええ!? マサキさん!?!?!」

 

 彼女はおれの子供時代を知らないため、今の姿を見て坂上公輝だと判別できないのは仕方のない事だろう。

 ちなみに、ミウラちゃんはアインハルトちゃんと同じく中等科1年生の12歳。そんな彼女より身長が低いおれ。やっぱり複雑だぁ……。

 

「てっきり、道場への入門希望者かと思いましたよ」

「ははは、確かにそう見えるかも」

 

 おれがもし普通の子供だったら、ウキウキで道場に入門しようとしていた所に後ろから丸太でどつくやべぇ奴認定するだろう。いや、それ以前に普通に命の危機だった。

 

「邪魔して済まなかったな」

「もーまんたい」

 

 部屋の掃除を終えたのか、飛んできた丸太を脇に抱えたザフィーラさんが声を掛けてくる。ザフィーラさんはおれの心配より作業の邪魔をしたことについて謝罪してくるあたりおれのことをよく分かっている。

 しかし、打ち込み用の丸太が真っ二つに折れている。とんでもないな。

 

「これ、ミウラちゃんがやったん? すげーな」

「えーと……あはは……」

 

 おやおや、照れちゃってまあ。

 

「これは今年のインターミドル・チャンピオンシップは楽しみですな」

「はい! 頑張りますよ?」

 

 はい、頑張ってください。

 

「マサキも出場するか? 今なら出場条件も満たしているだろう」

「冗談。おれが出たら相手選手のライフを限界超えてオーバーフローさせちまう」

 

 試合開始とともに増え続ける相手の体力、そして減らないおれの体力。

 うん、泥仕合なんて目じゃないぜ。

 

「アインスをデバイス登録して出場したらいいところまで行けるんじゃないか? お前だったら相手の防御力などあってないようなものだからな」

「いや、だから出ないって」

 

 なんだ、随分ザフィーラさんはおれをインターミドルに出場させてくるな。

 それに、おれが出場したとして、おれの戦いに会場が盛り下がること間違いなしだ。戦い方が邪道の極み過ぎて意味がわからん。比喩ではなく撫でたら相手が倒れるからな。

 

「それに、今年はおれは主催側で仕事があるんだよ」

「そうなのか?」

 

 実は、去年のインターミドルでちょっとした事件があった。

 

 本来、インターミドルなどのスポーツ競技大会などではDSAAが定める「クラッシュエミュレート」という技術を用いて試合が行われる。これは受けた攻撃を仮想的なダメージとして再現する技術だ。例えば、腕を脱臼させられるような攻撃を受けた時、競技者は腕を脱臼したという状態を再現させられる。これの凄い所は受けた攻撃を絶対的な数値のダメージとするわけではない所だ。

 技:右フック→ダメージ50ってなんない訳だな。

 例えば、選手Aにとって致命的な一撃でも、選手Bにとってはデコピン程の威力の攻撃があったとすると、そのダメージはそれぞれの人物に適したダメージとして反映されるのだ。

 どういう技術? 

 

 それは置いておいて、通常なら受けるダメージは仮想的なダメージであり、実際の肉体に損傷が及ぶことは無い。しかし、去年、ある選手がとんでも威力の一撃を受けたためにクラッシュエミュレートを貫通して右腕をボロボロにされたのである。見た目は腕の形を保っていたが、骨はぐちゃぐちゃ、筋肉はズタボロ、神経・血管なんてコマ切れ状態、それはもう酷かった……。

 ちなみに、腕をぐちゃぐちゃにした人物は我らがチャンピオン、ジークリンデちゃん。えげつねぇとしか言いようがない。

 どんなに安全を確保しようと事故は起こるという事だな。

 

 とまあ、そんな事があって、今年の大会では万が一の救護要員として管理局から派遣されたのがおれと言う訳だ。

 

「ふむ、それなら仕方が無い。自身の務めを果たしてくれ」

「おうともさ」

 

 言われるまでもない。

 

「ミウラ、そろそろ戻るぞ」

「はい、師匠! マサキさん、本当にごめんなさい」

「はいな」

 

 ミウラちゃんはもう一度おれに頭を下げてザフィーラと共に訓練場としている浜辺へと戻っていく。

 

「インターミドルか……」

 

 今年はミウラだけでなく、ヴィヴィオちゃん、コロナちゃん、リオちゃん、アインハルトちゃんも出るそうじゃないか。それにお嬢様にジークリンデちゃんにミカヤさんも当然出てくるだろう。

 ……あ、ミカヤさんてのは腕をぐちゃぐちゃにされた人ね。

 

「今年は例年以上に楽しめそうだな」

「なんや、丸太で人体をフルスイングしたみたいな鈍い音が聞こえた気がするんやけど?」

「はやての耳は凄いな。満点回答だ」

 

 二階で昼寝をしていたはやてが起きて来たみたいだ。今日ははやても休みという事で昼食をとった後に優雅な昼寝を今まで敢行していた。

 ていうか、外で子供たちがワイワイやっている状況ですやすや眠っていたくせに丸太で人体を殴打する音には反応するとは。いや、異常な音だからこそ目が覚めたのか。流石は現役武闘派司令官。

 

「涎の跡がついてんぞ」

「んぐ……」

 

 おれは自分の口元を指で叩いて場所を示してやる。それに気付いてはやては腕で涎の跡を拭っている。

 こういう所は昔のままだな。

 

「あ! 一人でお茶しとるやん。ずるいで。私にも頂戴な」

「これは試作品。あんまり美味くないぞ? 満足いくのが出来たら飲ましてやるよ」

「ええよ、私はそれも飲んでみたいんや」

 

 はやてはおれの対面に座り、この紅茶を飲むまで不動の構えをとる様子。

 ふう……本当は自分の拘りに反するところだが……

 

「しょうがないな」

「やった」

 

 おれははやて用のカップを準備して彼女の分も注ぐ。

 そんな休日。

 

 

 

 

 

 

「? あんまり美味しゅうないな」

「だからそう言った」

 

 



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疑念と後悔と94話

また、またここから


 

 

 雨が頬を打つ。

 

 ―お前が悪い。

 

 雨がおれにそう告げているようだった。

 

 ―疑念。

 

 おれは信じきれなかった。彼女の事を……。

 信じれば良かったんだ。それだけで……それだけで全ては上手く行っていた。

 

 ―後悔。

 

 あの時、ああすればよかった。

 人生なんて言うものはそればかりだ。今となっては何の意味もないというのに、それでもおれは未だにずっと考えてしまう。

 

 あの時、ああしていれば良かったと……。

 

 ―お前が悪い。

 

 雨は止まない。

 雨は言い続ける。お前が悪いと。

 

 髪を濡らした雨水は前髪の房から地面へと落ちていく。雫が目の前を過ぎる様がゆっくりと見える。

 頬を濡らした雨水は顎へと伝わり、また落ちていく。

 

 落ちていく。

 

 重力に引かれて落ちていく。

 

「……」

 

 だが、ある時を境におれを責めるように打ち付けていた雨は止まった。

 

「……はやて」

 

 落ちていく雨粒を追うように地面に向けられていた顔を挙げてみると、そこにははやてが居る。

 彼女がおれに傘をさしてくれたのだ。

 

 傘に当たる雨粒はギャアギャアと騒ぐかのようにバタバタと音を上げる。だが、もうおれには雨の非難の声は聞こえない。だって、今、傍には彼女が居るから。

 楽しい時も、嬉しい時も、悲しい時も、寂しい時も、怒っている時も。長い時間を共に過ごした彼女がいる。

 

「はやて」

「うん。わかっとる。もう……ええんや」

 

 だからもう大丈夫。

 おれは歩くことが出来る。前へ進むことが出来る。

 

「傘忘れた」

「せやな、ほんなら帰ろうか」

 

 ―家へ! 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「まさか天気予報が当たるとはな」

「まあ、本当は当たらなあかんのやけどな~」

 

 雨。それも豪雨と言っても良いほどの雨。

 今日も容赦なく怪我人・病人を全快させてしっかり8時間働いて「さあ、家に帰ろう」と、管理局地上本部の正面ロビーを通り抜けるとそこは一面バケツをひっくり返したような世界だった。

 

「普段の天気予報的中率は約6割程度。しかもゲリラ豪雨なんて当てられるとは思ってなかったんだが……」

「こういう事もあるからあの人は解雇されへんのやろなぁ」

 

 何のことはない。おれは天気予報士の彼女の言葉を信じずに傘を持たずに家を出てしまったのだ。しかも、運の悪い事に置き傘は前回の思わぬ雨の日に使ったまま元に戻すことを怠っていたために使うことが出来なかった。

 ……置き傘くらいさっさと戻しておけばよかったんだよ……。

 

「それにしても、もし私と帰る時間が合わんかったらどないするつもりやったん?」

「ゲリラ豪雨だし、止むまで本部で待機することも考えたんだが、うっかり外に出てしまったばかりにすっかりびしょ濡れになってな。もうこれなら気にせず家に帰っても良いんじゃないか? って考えてたところだ」

「それで、あそこでぼーっとしてたんやな」

「そういうこと」

 

 傘ははやてが持っているはやて自身の折り畳み傘が一本だけ。

 はやては成人女性としては小柄であり、今のおれは成人男性としてはあり得ない位小柄なため、小さい折り畳み傘でも二人を雨から十分守ることが出来る。とはいえ、結構な土砂降りなため多少は濡れるがそれは仕方ない。

 ……あ、嘘。おれの身長が低すぎて結構降り込んできてるわ。

 

 はやてもそれに気が付いたようだ。

 

「大丈夫?」

「問題ない。どうせ風邪なんて引きはしないしな」

 

 せめて高校生……いや、中学生時代くらいの身長があれば大体はやてと身長が釣り合って丁度良かったんだけどな~。まあ、言っても仕方のない事だ。

 

「おんぶでもしたろか? そうすればええ感じや」

「勘弁してくれ。それは前回のドゥーエさんので満足したよ」

 

 とんでもない提案をしてくるものだ。

 

「考えてもみろよ。その状況。ヤベーだろ」

「そうかぁ? 精々年の離れた姉弟に見られるだけやろ」

 

 ……そっか。それもそうだな。

 おれ自身は体はこんなのでも意識はしっかり大人のため、女性におぶられるのは色々な観点でためらわれるのだが、少なくとも何も知らない人が外から見る分には問題はないのか。

 社会的に死ぬことが無いのなら、はやてにおれの足となってもらう事は前向きに検討しておこう。

 

「そういえば、アインハルトちゃんのデバイスはどんな調子よ」

「うん、もうほぼ完成しとるよ。後はアインハルトにマスター認証してもろて、名付けが終わったら真にデバイスとしては完成や」

「ほー。早かったな。はやてもデバイス作りに大分慣れたか」

「一人目が失われた古代ベルカの融合機、なんていう難易度SSSランクのデバイスやったしな。よゆーよゆー」

 

 ふふんっ、と言いたそうな顔をするはやて。どうやら随分自信がある様子。

 アインハルトちゃんのデバイスは大丈夫そうだな。まあ、別に心配しているわけではないのだが……。

 

 アインハルトちゃんのデバイスとなる子をおれは既に見たことがある。まだAIも積んでいないシャーシだけの状態であったが。その子の見た目は完全に猫ちゃん。本当は虎だったか豹だったかと言っていたが、あれは誰がどう見ても猫ちゃんである。とってもかわいい。おれもちょっと欲しいくらいだ。

 ところで、『ガンガンガン、ギイイイイイイィィィ、ピピピピピピ、チュイイイィィィィン』とかいう音がはやての作業部屋から聞こえて来ていたが、何をどういう作業をしたらあんな本物の猫みたいなシャーシが出来るのだろう……? 

 デバイス作りは不思議でいっぱいだ。

 

「それは何よりだ」

 

 アインハルトちゃんもきっと喜ぶだろう。

 

「うお!?」

 

 この体になってしばらく経つ。ようやっと自分の歩幅にも慣れて普通に歩く分には何の問題もないようになっていたのだが、会話しながらというのに加えて、傘の範囲から外れないようにはやての歩幅に合わせて歩いていたこともあり、アスファルトの歪に足を取られてとうとうすっころんでしまった。

 それはもう盛大に。顔からベシャァ! って行った。おれがホントに子供だったら泣いてたなこりゃ。

 

「あちゃー……」

「あーあ。やっちゃったなぁ」

 

 当然、地面はこの雨でぬれている。所々水たまりだって出来ている。そんな場所で全力スライディングを行えば当然服が汚れる。それも盛大に。

 よく舗装されたクラナガンの道という事もあって泥がほとんどなかったのは幸いだった。

 それでもかなりがっつりと管理局の制服(急遽仕立てて貰った一張羅)が汚れてしまった。洗濯機君に任せる前に手洗いしなきゃだなぁ……。

 

「もう、しゃあないな。ほれ」

 

 はやてはそう言うとおれの目の前でしゃがみ込む。

 

「え? いや、良いって。それに、このままだとはやての服も汚れるぞ」

「なーに、管理局の制服なんてジャンル的には汚れてもええ服やろ」

「いや、あなた司令官でしょ。それは現場の考え方だ」

 

 はやて……さん!? 考え方が男前すぎる。

 相変わらず現場主義というか、現場の時の考えが抜け切れていないというか。そういう所は直すべきなのか、そのままの方が良いのか。下っ端のおれには判断しかねる。

 

「ほらほら、ええからはよ」

「え? ああ、うん」

 

 どうせここまでくると今のはやてに何を言っても動くことは無い。なので、おれが取れる選択肢は一つしかないのだ。

 

「じゃあ失礼して」

「ほい、よっこいしょういちっと。あ、傘はハムテル君が持ってな」

「はいはい」

 

 はやてが持っていた傘を受け取り、おれははやての背に掴まる。足を前に出すと、彼女はおれの太ももの辺りに手をやって支えてくれる。

 

「ハムテル君、私の知らん間にこんなに軽くなってもうて……」

「そういう言い方されると悲惨な出来事があったみたいに聞こえるからやめてくれ」

「あはは」

 

 立ち上がったはやては、おれと言う重荷を背負っても歩く速度は変わることは無かった。

 最近、こうやって周りに迷惑をかけることが多い事を考えると、さっさと元に戻った方が良いような気がしてきた。他人に迷惑をかけ過ぎるのはおれの本意ではない。……風呂に2時間浸かり続けるのは面倒だけどな。

 

「ハムテル君」

「ん?」

「少なくとも、私は迷惑とは思っとらんから、気にせんでええんやで」

 

 エスパーかな? こわ。

 

「ハムテル君は普段から頑張っとるんやから、たまにはこういうのもええやろ」

「それははやてだって同じだろ」

 

 なのはさんだって、フェイトさんだって。

 みんな頑張りすぎな位に頑張っている。

 

「それはそれ、これはこれや。ハムテル君は子供の頃から大人みたいなもんやったし、ちょっとくらいええやんか」

「……そうかな」

「そうや」

 

 そう言うと、はやては言いたいことは言い切ったのか、黙ってしまう。

 聞こえる音は傘に跳ね返る雨粒の音だけ。

 

 ―ああ。

 

 昔はおれがはやての足だったのに、今日は反対だな。

 なんとなく、昔の事思い出してしまった。

 

「まあ、こういうのも良いか……」

「そうそう」

 

 おれははやての背にさらにもたれ掛かる。

 はやては最近髪を伸ばし始めているようで、後ろ髪が顔に当たってこそばゆい。

 

 雨はまだ止まない。

 それでも、いつの間にかその勢いは弱弱しくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「あ! ついでに、一緒にお風呂も入ったろか?」

「いや、それは断固拒否する」

 

 

 




盛り上がりも盛り下がりも無いけれど。山も谷も無いけれど。毒にも薬にもならないけれど。
そんな日常系小説はみなさんお好きですか?


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学生服と転入と95話

私の呟きに対して5人もの方が声をあげてくださって、とても嬉しい。
続けます。
ギルドにずっと張られてる常設の薬草採取クエストみたいな感じで続けます。


「で、これは何のマネかな? はやて君」

 

 大雨の中、はやてにおんぶされて帰宅したところを先に帰って来ていたヴィータに爆笑されてプルプルしていたのも昨日の話。

 煽られてプルプルしていたおれではあるが、なんだかんだでそういう時間も悪くないと思っていた。

 

 ああ、家族って良いな、迷惑を掛けて掛けられ、それでいて最後には笑うんだ。

 良い関係じゃないか。

 

 そうやって思っている時が私にもありました。

 

「何って、ハムテル君の編入準備やん」

「何も聞いていないんだが?」

 

 そう言いながら、はやての手は止まることなくおれにどこかの小学校? の制服を手早く着せていく。体格差で押し切られたというのもあるが、どれだけ抵抗しても彼女の良すぎる手際によっていつの間にかズボンもベストも着せられてしまった。

 

「助けてリインさん」

「主のしたい様にさせるのが私の役目だ」

 

 おれは横で見ているリインさんに助けを求めるが、すげなく断られてしまう。

 役に立たんな、元相棒!

 

 あの……この年でこの丈の短い短パンは……キツイんですけど……。

 

「あれ? おっかしいなぁ? これは管理局と聖王教会からの正式なお仕事やで」

 

 嘘だろ? 

 

「管理局はいつでも人手不足。そこで、子供たちに管理局の仕事を知ってもらおうとアッピルしてもらおうと考えた訳や」

 

 それはわかる。

 聖王教会絡みという話を聞いて思い出したが、今おれが着ている制服はSt.ヒルデ魔法学院の物だ。前におれが保健室の先生として派遣された場所でもある。

 

「でも、大人が行って説明するんやとどうしても上からの話になってまう。そこで、同年代の管理局員で、しかも大人の視点から管理局の人手不足の深刻度合いをよう理解しとる人物が望ましいと考えられた訳や」

 

 それも分からんでもない。

 ゲイズ氏が地上本部のトップから降ろされて数年。後任の人も頑張っているようだが、ゲイズ氏程のカリスマも、残念ながら能力もない様子。地上所属の管理局員は今も辛い立場を強いられている。残業とか、オーバーワークとか、残業とか……

 地上本部としては一人でも多くミッドチルダの平和の番人を増やしたいのだ。それに、ヒルデはその名の通り魔法学院。授業カリキュラムに魔法も組み込まれている。つまり、魔法を使える学生が多くいる。管理局としては喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

 

「そんで、子供たちにじっくりこってり管理局をアッピルしてもらうためにハムテル君には編入してもらう事になった」

 

 うん? それは分からない。

 

「どうしてそうなる」

「まあ、それはほれ? 聖王教会の方にもハムテル君にやってほしい事が色々とあるんや」

 

 ああ……。

 カリムさんとか、そういう所ぬかりなさそうだしね。

 

「それは分かった。いや、納得してないが。だけどよ、おれがヒルデに行きっぱなしになるとして、患者さんはどうするんだ?」

「重症、重体の患者さんは聖王教会本部かヒルデ学院の方に送ってもらう事になるわ」

 

 ヒルデに患者が輸送されるのは分かるが、教会本部? あっ、ふーん……。そっちでも色々やれってことっすね。

 

 そもそも、おれの身体はこんなことになっているが、登録している戸籍上は23歳である。そんな奴が普通の学校へ編入することが許可されるなんてあり得ない。

 そこで、管理局と癒着……失礼、べったり……うーん……懇ろの関係である聖王教会にお願いしたのだろう。

 聖王教会がおれを有効活用することを交換条件にな。

 

「そういう訳やから、安心してスクールライフを楽しんできてちょーだい」

 

 スクールライフって普通は高校生活とかじゃないんですかねぇ……? 

 

「はやても道連れにしたい」

 

 そうだ、はやてにもスカさん印の栄養ドリンクを飲ませたら身体が縮んでしまった!? ってなるんじゃね? 灰原枠でいいじゃん。

 あ、駄目だわ。実はあの栄養ドリンク自体に若返りの効果は無い。あれが持つ効果はおれの身体を騙すことが本質だ。説明書にそう書いてあった。

 つまり、あの栄養ドリンクはおれの能力を応用して効果を発揮させてるから栄養ドリンクだけだと駄目って訳。そうなると、おれがはやてに触れながらあの不思議な薬を摂取させる必要がある。

 飲ませるだけなら難易度もそこまで高くないと思ったんだが……。

 

 ヘッドロックしかけながら無理やり流し込むか? って、アカン。体格差がありすぎてそれも出来ない。

 なんてこったい。

 ……もう寝込みを襲うくらいしか……ヴィータかシグナムさんかザフィーラさんに阻止される未来しか見えない。シャマルさんは気付かずに寝てそうだな。

 

「ほーん、なら授業参観で母親役と姉役、どっちがええ?」

「ごめんなさい、勘弁してください」

 

 ちびっこ達に紛れて一緒に授業をするおれ。

 教室の後ろで保護者達に紛れて、おれを見ながらニヤニヤしているであろうはやて。

 うん、地獄かな? 

 

「まあまあ。何を言ったってもう編入手続きは終わっとるんや。すっぱり諦めや」

「まじかよ」

 

 いやまあ、すでに制服が用意されてる時点で全ての話は終わっていると予想は付いていたが、まじか。

 

「そういう事や……はい、完成」

 

 はやてはそう言うと、手鏡をおれに向けてくる。

 うわ、いつの間にネクタイも付けやがったんだ。全く気が付かなかったが。

 しかし……まあ、なんだ……。

 

「うーわっ……」

「よー似合ってるで? ブフッ」

 

 どこからどう見ても100%小学生。似合い過ぎて悲しくなる。

 

 後はやてよ、ケータイのカメラで連写するのはやめるんだ。ZOなんとかスーツを使った身体測定の時みたいに360°クルクル回りながらくまなく全身を撮るな! どこかにメールで送信しようとするなぁ!? 

 

「お、返信早いな。なのはちゃんもフェイトちゃんも『かわいい~』言うてるで?」

「男はね、格好良いって言って欲しい生き物なんだよ」

 

 そこの所頼むわ。

 

「その格好で渋みを出そうとしたって、背伸びしてるかわいい子にしか見えへんで」

 

 くぅ~ん……。

 

「ヴィヴィオちゃんも『おじさんと一緒に学校に行くの楽しみです!』言うてるで」

 

 おい! 一体どれだけの人間にメールを送ってやがる! 

 まあ、ヴィヴィオちゃんに関してはなのはさん経由か。

 

「はぁ……退屈しなさそうだ」

 

 よく考えたら大人やってたのに突然小学生に戻る経験は既にしている。2回目なんてもう何も怖くないどころか、怖い事なんて既にないのだ。こんな経験してるやつ中々居ないだろう。

 出来ればしたくなかった経験である。

 

「取り合えず、勉強しとくか」

「そうそう。ちゃんと学生やるんやで? 話によるとSt.ヒルデ魔法学院の授業内容は結構高等らしいから気ぃつけや?」

 

 小学生がやるような算数レベルとかなら何もしなくても行けるだろうが、中学レベル以上となると……あれ? 結構心配になってきた。

 前回は大学受験直後というのもあって割と余裕だったけど、今回は学校と言う環境から離れて早数年。数学はもちろん、当時得意だった理科系科目も大分怪しいぞ? しかも、歴史なんて特にヤバイ。何て言ったっておれのルーツは地球だ。ミッドチルダはもちろんベルカの歴史なんて全くわからん。

 

 おやおや? 結構どろこか滅茶苦茶心配になって来たぞ? 

 

 おれが授業や試験でダメダメな様子を子供たちに見せる。

 →子供たちが「なーんだ、管理局しょぼいじゃん」と言う感想を抱く。

  →管理局のイメージダウン。

   →おれの評価ダウン。

    →そして、クビへ……。

 

 まあ、おれにはレアスキルがあるから本当にクビにされることは無いだろうけど、そんな事態に陥ったら白い目で見られそうだ。

 

「うおおおおおおおおおおお、勉強せねばあああああああああ」

「うんうん、ハムテル君が職務に忠実で、上司としては嬉しいで」

 

 まさかまた勉強に追われる時が来るとは思わなかった。

 折角二度も逃げきったというのに……。

 

 

 はあ……。

 とりあえず、何とかしてはやてに触りながらスカドリ(スカさん印の栄養ドリンク)を飲ませる作戦を考えるとするか。ヴィータ辺りも巻き込めればなお良し。

 

 

 

 

 独りぼっちは、寂しいもんな……。

 

 

 

 

 おれが。

 

 

 




ひょっとこ仮面も、シャチさんも、なのはさんのお稲荷さんも、そしてオリーシュも……
そんな物語に惹かれて始めたという事を思い出した夏。


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初登校とテロリストと96話

「ほな、気をつけてなー」

「精々恥をかかない様になー」

「どんな環境だろうと気を引き締めていけ」

「いってらっしゃ~い」

「マサキ、まあ気楽に行ってこい」

「なにこれ」

 

 うん、なにこれ。

 おれの知らぬ間にSt.ヒルデ魔法学院に編入が決まってから数日。とうとう登校日が来てしまったのだが……。

 

「なにこれ」

「二度も言わんでええがな。ただのお見送りやん」

 

 八神家総出でおれを見送りに来ることなんて今まで無かったじゃないか。家族総出で見送られる小学生。初登校かな? 初登校だったわ。

 絶対みんな楽しんでるよ。あ、ちなみにリインちゃんとアギトちゃんはまだ眠っている。小学生の朝は意外と早いのである。

 

「自身の務めを果たせ」

「はい」

 

 はい、ザフィーラさん。了解ッス。

 

「……んじゃ、行ってくる」

「あ、ちょい待ち! 忘れもんや!」

 

 忘れ物? はて? そんなはずはないのだが。今日の時間割の教科書だって朝起きてから慌てて急いで準備したから抜けは無いはずだ。うん。

 

 一度家へ戻ったはやては再び外に出て来て何かをおれに向かってシュッと投げて来た。

 

「とと……って、これは……」

「今日は暑いから、それかぶって行きや」

 

 はやてが投げて来たものは麦藁帽子だった。

 

「えぇ……」

 

 確かに、小学生の時にキャップをかぶって登校していた子は居たが、麦藁帽子をかぶって登校していた子は見た事が無いぞ。

 しかもこの帽子、おれが闇の書に乗って魔力蒐集活動をしていた時に使っていたものだ。よく残ってたなこんなもの。

 でもまあ、麦藁帽子のつばは大きい。これかぶってれば周りからの視線は気にならんだろ。

 

「「「いってらっしゃ~い」」」

「行ってきます」

 

 別におかしなやり取りでもないのにとてつもない違和感を感じる。

 きっとはやてとヴィータがニッッッッッッコニコだからだろう。いつか絶対お前たちも小学生にしてやるから覚悟しろ……。

 

「あ、そうそう。今日はカリムに用事があるからついでにハムテル君のこと見に行ったるわ。しっかり授業受けるんよ~」

「は?」

 

 登校初日から授業参観日とか……私のスクールライフ、難易度高すぎ……? 

 

 

 

 ☆

 

 

 他の多くの生徒たちが登校するよりも少し前に学校に入り、職員室へと向かう。そこには担任となるシスターと管理局の職員がすでに来ており、おれも合わせてこれから事について軽い打ち合わせを行った。

 職員によると、あまり露骨すぎるのもよくないのでさりげなく「管理局に入ってみたいな~」って思うくらいに日ごろから話をしておいてくれ、とのこと。

 いや、むっずいな。なんだそのふんわりとした指示。それならいっそ毎週授業の半コマでも貰って管理局についてプレゼンした方がよっぽど楽だわ。

 いきなりの難題に頭を悩ませつつ、今日から世話になる教室へと足を踏み入れる。

 

 

 

「坂上公輝です。管理局で医務官をしています。今日からしばらくの間ですが、よろしくお願いします」

 

 

 

 おれの自己紹介から、3度目の小学生生活が始まった。

 

 

 ……

 

 

 

「良いか、諸君! 今日、皆に伝えた技術は自分たちの身を守るための技術だ! その技は必ず皆の役に立つ!」

「「「「「サー! イエッサー!」」」」」

 

 時は休み時間。何だかんだと思っていたよりもミッドの子供たちの精神は大人だったため、会話等も比較的苦労することなく行えていた。

 そんな中、おれはクラスの男子たちに身を守る術を管理局に勤める職員として伝授している。

 次元世界の平和を守るためにはまずミッドから。ミッドの平和を守るにはまず身の周りから。身の周りを守るためにはまず自分から、という事で護身術である。

『護身術とかやってみたくない?』ってボソッと言ってみたところ、みんな食いついてきた。

 わかる。なんとなくかっこいいもんね、護身術。

 

「今日、この場に万が一テロリストがやって来たとしても、諸君等は自分の身を守ることが出来る! 自分の身を守ることが出来れば皆も守ることが出来る! 常に仲間の事を意識し、お互いに助け合え!」

「「「「「サー! イエッサー!」」」」」

 

 学校で突然テロリストが突入して来たらっていう妄想は世界問わず全国津々浦々誰でもするらしい。え? しない? またまた、そんな馬鹿な。

 

「今の状況を見てるとむしろおじさんがテロリストの指導者だよ……」

「マサキ先生ってあんな感じだったっけ?」

「確かに前会った時よりテンション高いわね」

「でも、おじさんって昔からああいう所あるよ?」

「「そうなんだ……」」

 

 こらそこ! ヴィヴィオちゃんとコロナちゃんとリオちゃん! 聞こえてるぞ! 誰がテロリストだ! 

 あと、コロナちゃん。そんな目で見ないでくれ。こっちは真面目に職務を全うしているんだよ! 

 ……あ、そうそう。おれのクラスはヴィヴィオちゃん、コロナちゃん、リオちゃんと同じクラスだ。知り合いと一緒の方が気が楽っていう配慮なのかね? 

 

「よし! 今日、テロリスト役の人間がこの教室にやって来る予定だ。君たちは見覚えのない人間を見たら、おれの指示に従って一斉に攻撃を仕掛けよ!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 くくく……はやてめぇ……目に物を見せてやる。

 男子たちに教え込んだ決闘者必須スキル、カード手裏剣。休み時間と言う短い時間でしか教えることが出来なかったため、大した攻撃にはならないが、総勢16名から一斉に食らえば流石にビビるだろう。

 

 さあ来い、はやて! 

 

「やっほー、ハムテル君。ちゃんと勉強しとるかー?」

 

 本当に来やがった。

 教室の後ろのドアからひょっこりと顔を出して声を掛けて来たのは件の人物、はやてだ。

 

「今だ! みんなかかれー!」

「うわー! 八神司令だー!」

「え!? 本物ですか!」

「すごーい!」

「なんやなんや? えらい人気者になってもうたなー」

 

 子供たちは突然やって来たミッドの英雄に興奮を隠せない様子。男女問わずみんなはやてのもとへと行ってしまった。

 

「って、おいー!」

 

 20分休憩での絆なんてそんなもんだ。仕方ない。

 だが、おれは諦めない。

 

 腕に装着した決闘盤。そこにはまっているデッキの一番上のカードに指をかけ、デッキホルダーから引き抜かれる。デッキケースをレールに見立てて加速し、カードが手から離れる瞬間に最高速へと到達する。その様はまさに抜刀術! 

 

 おれの手を離れたカードははやてへと一直線に向かっていく、が……。

 

 ダニィ!? 

 

 それを認識したはやては右手の人差し指と中指で飛んでくるカードをスタイリッシュキャッチ! 

 今度はノータイムでカードをおれに向かって投げ返してくる。

 ロクな構えも取っていないのに、その速さはおれが投げた物の1.3倍くらいある。

 

「ゴハッ!?」

 

 リインさんとユニゾンしていないパンピーのおれは当然そんな速さに対応できることもなく、はやてに投げたはずのカードが額にクリーンヒットしてしまう。

 その衝撃は中サイズのスーパーボールを結構な速度でぶつけられた感じだ。カードだよねこれ? はやてはとうとう『敢えて切らない』という高等技術まで手にしていたのか……。中途半端に訓練された決闘者だったら今頃おれの額にカードが刺さっていた所だ。

 

「うごご……」

「大丈夫、おじさん?」

 

 衝撃にビックリして額を抑えながらうずくまるおれを心配してか、ヴィヴィオちゃん、コロナちゃん、リオちゃんの三人娘が駆け寄ってきてくれる。優しいね君たち。これからもその優しさは大事にして欲しい。

 

「八神司令すっげええええええええええええ」

「今の技何ですか!? めっちゃかっこよかったです!」

「管理局に入ったら、そういうことも出来るようになるんですか!」

「私、将来管理局員になりたーい!」

「ホンマに? そうやったら私たちは助かるわ~。いつかみんなと一緒にお仕事出来る日を楽しみにしとるで~」

「「「「「はーい!」」」」」

 

 あれ? なんだかよくわからんが管理局の評判が上がっている。

 

 よくわからないけど、管理局に志望者が増えてそうなのでよし!

 

 

 

 

 

 

 いや、やっぱり納得いかんわ。

 

 

 



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神父と弟子と97話

「……はい、もういいですよ」

「おお! こりゃすごい」

 

 おれは前に座る男性の腕に触れていた手を離す。

 

「あまり怪我はなさらないようにしてくださいね」

「ははは! 俺としたことがドジっちまってな」

「あなたに聖王陛下のご加護があらんことを」

「助かったぜ、小さな神父先生!」

 

 そう言うと男性は部屋から出ていく。

 

「ふう……」

 

 今日も今日とておれは怪我人・病人の治療をしていた。いつもとやっていることは変わらないのだが、今日はいつもと違うところがある。それは、おれが聖王教会の神父として振る舞っている事である。

 服装はヒルデの制服でも管理局の制服でも、ましてや私服でもない。神父が着るような祭服である。分類としてはキャソックと呼ばれるものだ。

 

 ちなみにこの服、聖王教会から支給されたものではなく、どこからかはやてが持ってきた祭服(モデル:KOTOMINE)だったりする。こっちは真面目にやってるというのにもうコスプレにしか思えない……。ていうか、聖王教会はそんななんちゃって祭服をよく許してくれたな。まあ、聖王教会はその辺緩い宗教だというのはよく聞く話ではあるが。

 

「お疲れ~」

「おう」

 

 今日の予約分の患者さんを治療し終わったおれに、少女が声を掛けて来た。

 

「相変わらず先生の治療は意味が分からないねー」

「おれも意味分かってないから大丈夫」

 

 シャンテ・アピニオン。

 彼女はここ、聖王教会に所属するシスターの一人である。シャッハさんの弟子的存在で、使うデバイスは双剣……らしいんだが、見た目も使用方法も完全にトンファー。一応、刃があるから剣らしい。トンファー剣だ。

 彼女とは、教会の広場で素振りをしていた彼女にトンファーキックをしてくれと頼んだ時からちょっとした交流があったりする。

 ちなみに、トンファーキックはやってくれた。おれは滅茶苦茶キャッキャしてた。

 

「しかし、これは思っていた以上に疲れるかも……」

「そりゃあ、ね? 先生がそんな話し方をするところを最初見た時は吹き出しそうになったよ」

「慣れないことはしないに限るねぇ」

 

 とはいえ、これも仕事だ。少しでも聖王教会のイメージアップに努めるべく、おれはエセ神父として振る舞うのだ。

 たとえ、決まり文句である『聖王陛下のご加護があらんことを』を言う時に、脳内でヴィヴィオちゃんがニパァーって笑ってる情景が思い浮かんで笑いそうになっても、おれは今この場ではクールで敬虔な聖王教会所属のエセ神父なのだ。

『聖王陛下のご加ブフゥ!?』とかなったら締まらないにも程がある。

 

「そ・れ・よ・り・も! 終わったならお茶にしよう! お茶! 菓子はオットーとディードが用意してるから、後は先生待ち!」

「ん? そうか? ……って、別におれを待たなくとも、お茶はオットーさんが淹れてくれるだろ」

 

 現在、オットーさんはカリムさんの秘書として聖王教会で働いている。いつだったか、ナンバーズのみんなが保護観察処分中に行った紅茶の淹れ方講座が役に立ったのかどうかは定かではないが、最近のカリムさんが飲む紅茶を淹れる係はもっぱらオットーさんらしい。

 結構な紅茶狂いのカリムさんを満足させられるくらいのお茶を淹れることが出来るオットーさんのものなら問題はないだろうに。

 

「もうオットーのじゃ満足できないんだよ! 先生のじゃないと!」

「おっと、そこまでだ。誤解を招きそうなセリフをこんなところでそんな大声で言うんじゃない」

 

 ほらぁ! あっちの方で掃除をしているおれの事をよく知らないシスターさんがぎょっとした顔でこっち見てるよ! 教会の評判は上がってもおれの評判がダダ下がりだよ! 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ほいっと。そんじゃ、頂きましょうかね」

「「わーい」」

 

 全員分のカップに紅茶を注ぎ終わったところ。その時を今か今かと待っていたセインさんとシャンテちゃんがクッキーを摘まみ始める。

 セインさんはお茶会を開くといつもどこからともなく現れてはお茶をしばいて行く。彼女は床や壁を自身の能力ですり抜けることが出来るらしいが、嗅覚も壁越しで発揮することが出来るのだろうか? 

 

「うーん……いい香り。相変わらず素晴らしい腕ですね」

「どうも」

 

 そしてこの人も、お茶会が始まるといつもどこからともなく現れる。

 

「カリムさん、仕事は良いんですか? 忙しいんじゃ……」

「適宜休憩をいれてこそ効率よく仕事が出来るのですよ?」

「そうですか」

 

 その割には前回のお茶会で長居し過ぎてシャッハさんに首根っこ掴まれて執務室に引きずられて行っていたようだが……。果たしてそれは適宜と言っていいのだろうか。

 

「良ければ、おれよりも腕の良い紅茶師を紹介しましょうか? おれの師匠なんですけど」

「エドガーさんのことでしょ?」

 

 まさか師匠の事を知っていたとは。

 もしかして、カリムさんは美味い紅茶の噂を聞きつけるたびに味わいに行っているのか? 

 夜な夜なミッドのお宅に突撃して紅茶を要求する……。新手の妖怪かな? 

 

「彼のお客様用紅茶は確かに美味しいのだけれど、私の好みではないのです」

「ああ」

 

 どんな物も質が高ければ誰でもある程度の高評価を付ける。だが、それ以上の評価をするとなると、個人の好みの問題になってくる。

 つまり、師匠の淹れる紅茶はカリムさんの好みとは少し違っていたのだろう。

 

「私はあなたの方が好みですよ?」

「ありがとうございます」

 

 普通に誤解しそうになるから困る。紅茶の話なんだよね、これ。

 最近のエセ神父ロールで鍛えてなかったら口角が少し上がってたかもしれない。

 カリムさんも超美人だし、浮かれちゃっても仕方ないよね。

 

「オットーはマサキさんの指導を受けたと聞きました。ですから、あなたの弟子とも言えるオットーの淹れる紅茶は私の好みに合っているのね」

 

 ふむ。確かにそう言われると、オットーさんはおれの弟子かもしれない。

 

「師匠」

「弟子ッ!」

 

 新たな師弟の絆が芽生えた瞬間であった。

 

「そのまま聖王教会でオットーと一緒に力を発揮してもらっても良いんですよ?」

「それはそれという事で」

「あら? 残念」

 

 さらっと引き抜きにかかるカリムさん。抜け目がない。

 

 お茶会は続く。

 

 程々に時間が経った頃、部屋にシャッハさんが現れた。

 

「やはり、ここでしたか。カリム、まだ執務の途中でしょう。休憩は十分にしたようですし、戻りますよ」

「あらら、見つかっちゃいましたか」

「それと……シャンテ!」

「はいッ!」

 

 ガタリと椅子から立ち上がるシャンテちゃん。彼女は過去に色々あったためか、シャッハさんには逆らえないようだ。

 

「あなたには仕事を申し付けたはずですが」

「あー……えーっと……テヘッ」

「……ふん!」

「キャン!?」

 

 これには流石のシャッハさんも鉄拳制裁。頭をはたかれたシャンテちゃんが上げた声はかわいらしいものではあったが、痛みはそこそこだったのか涙目である。

 シャンテちゃん、やることはやっておこうね。

 

「それと……」

 

 

 二人を確保したシャッハさんは辺りを見渡す。

 あれ? そういえば。いつの間にかセインさんの姿が見えないな。

 

「……そこ!」

「うわあああああ!?」

 

 シャッハさんが地面に腕を差し込み、引き抜く。すると、彼女の手に掴まれたセインさんがヌルリと現れる。

 物質透過跳躍魔法の応用なのだろうが、地面に腕を突き刺すシャッハさんの絵が面白すぎた。アイアンマンの着地シーンみたいだ。

 

「あなたは何故逃げたのですか? セイン」

「いやー、思わず身体が反応してしまいまして」

 

 どうやらセインさんは別に仕事をサボっていたとか、そういう訳では無かったらしい。でもまあ、普段から何かやらかしてシャッハさんに追い掛け回されているのだろう。想像に難くない。

 

「オットー、ディード。あまり三人を甘やかしてはいけませんよ」

「「はい」」

「それでは、マサキ先生。私たちはこれで失礼します。どうぞ、ゆっくりしていってください」

「マサキさん、また次も楽しみにしていますよ」

「あ、はい」

 

 そう言うとカリムさんは部屋を出行く。右脇にシャンテちゃん、左脇にセインさんを抱えたシャッハさんはカリムさんについて行く。

 

「あれぇ!? 私は別に良いじゃないか!」

「丁度いいので、あなたにやってもらいたいことがあります」

「うわあああああああああん! まだお菓子食べ足りないよー!」

 

 バタン。

 

 部屋に残されたのはおれ、オットーさん、ディードさんの三人だけになってしまった。

 

「師匠、僕にもっと紅茶の淹れ方を教えて欲しい」

「よし。エドガーさんから教えてもらった知識をおれ流に昇華させた技術をオットーさんに教えるとしよう」

「では、判定役は私が」

 

 おれは見逃さなかった。

 クール系美人のディードさんが思わず垂らした涎を手で拭った所を。

 

 

 



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炒飯と麻婆豆腐と98話

 聖王教会でのお勤めとオットーさんのための紅茶教室を終え、帰宅の途に就いた。着替えるのも面倒だったので祭服のまま帰って来てしまった。

 

「ただいま」

 

 八神家のリビングのドアをゆっくりと開きながら、折角なので出来る限りのジョージボイスで帰宅を宣言してみる。リビングやキッチンなどから「おかえり」というみんなの声が聞こえてくる。

 

「声変わりもしてないのにあの声の再現は無理があるやろ。おかえり」

「は? ジョージさん舐めてんのか? ぶっ飛ばすぞ。おかえり」

 

 ジョージ過激派のヴィータが怖すぎる。

 

「ごめんて」

「許さねぇ」

 

 謝っても許されなかった。

 

「随分遅かったやん。なんや、夜遊びでもしてたん?」

「そうそう、友人たちとカラオケに……って、違うよ」

 

 今の時刻は7時を回ろうとしている。仕事が忙しく、普段から残業をしがちのはやても流石に家に帰って来ている時間であった。

 

「オットーさんと紅茶談議が捗ってね。あの人おれの弟子だから」

「とうとうハムテル君も弟子をとるようになったんやなぁ」

 

 そんなことをしみじみと言いながら「うんうん」とうなずいているはやて。一体彼女はどんな立場の人間なのだろうか? 

 

 それにしても、オットーさんの淹れるお茶も美味かったなぁ……。おれはミルクティーが好きだからそれを淹れる回数が多いが、彼女はレモンティー、オレンジティーのようなさっぱりとしたフルーツ系のものを好むようで、それらは断然おれのものよりも美味かった。

 

「おれからオットーさんへ、オットーさんからまた誰かへと。こうしておれの系譜がミッドチルダの紅茶史に侵食していくのだ」

「ばい菌か何かなん?」

「でも、マサキはばい菌もなんもかんも消しちまうじゃん」

「ていうことは、ハムテル君は自分で自分の系譜を潰すことになるんやな」

 

 人の系譜をばい菌呼ばわりとは失礼な奴らである。

 そう言う君たちもおれの紅茶の虜になってしまっていることを忘れているようだな。

 

「今日の二人のお茶は色の付いたお湯でよろしいか?」

「「ごめんて」」

「もっと、自分から船を降りたけどやっぱり仲間のままでいたかった男っぽく言って」

「え、やだ」

 

 普通に拒否するヴィータ。

 駄目じゃないか。はやては滅茶苦茶熱が入った感じで「ごべええええええええん!」って言ってるじゃん。ていうか、迫真過ぎてビビるわ。

 ヴィータにはこれくらい素直になって欲しいものである。ヴィータの今日の紅茶は色はついてるけど味はミッドの美味しい水道水のお湯に決まった瞬間である。

 

「近所迷惑だぞ、マサキ」

「え? 今騒いでたのははやてじゃん」

 

 ソファに座って新聞を読んでいたシグナムさんが何故かおれに対して苦言を呈してくる。

 

「原因はお前だろ」

「はい」

 

 言い訳も何もできない圧倒的真実なので何も言い返せねぇよ。

 

「マサキ君も帰ってきたことですし、ご飯にしましょー」

 

 キッチンから現れたシャマルさんがそう言う。一瞬、今日の晩御飯はシャマルさんが作ったのかと身構えたが、少し遅れてドゥーエさんもキッチンから出て来たので安心した。

 シャマルさんが一人で料理すると未だに味の怪しい料理を作ったり作らなかったりするから油断ならない。

 

「今日の献立は炒飯と麻婆豆腐です」

「わーい」

 

 別にこんな格好をしているからという訳ではないが、炒飯も麻婆豆腐も普通に大好きだ。

 

 

 

 ☆

 

 

「炒飯と言えば、チャーハンメテオだけどさ」

「いや、その認識はおかしい」

 

 みんなで食卓を囲み、やたらパラッパラの炒飯をれんげを使ってぱくついていると、唐突にそんな事が思い浮かんできた。

 

「炒飯よりも麻婆豆腐みたいなとろみがあって熱々の物の方が攻撃力は高そうじゃん?」

 

 今度はれんげで麻婆豆腐をすくって口へと運んでいく。

 あっつぅ。火傷しそう。

 

「確かにとろみがある食べ物程、人に火傷をさせるために効率化された物はないやろなぁ」

 

 まあ、食べ物を粗末にするのはあかんけどな、と言いながらもおれの意見に賛同するはやて。

 

「常々考えてるんだよ。リインさんとユニゾンする機会が少なくなって、おれの攻撃力が下がった問題」

「それでマーボーメテオかいな」

 

 そういうこと。

 ミッドチルダは比較的治安の良い世界だ。しかし、それでも人通りの少ない通りを歩けばならず者に襲われる可能性がないわけではない。実際、襲われたことあるし。

 

「とはいえ、いちいち片栗粉を水に溶かして沸騰させたものを持ち歩くのは面倒だ。今度友人に無限とろみ熱々お湯射出機でも作ってもらおうか」

 

 リアルな銃型にしちゃうとまずいから、見た目は水鉄砲で。

 

「それは質が悪いな」

 

 渋い顔をしながらシグナムさんはそう言う。

 その状況を想像したのか、シャマルさんはれんげにすくった麻婆豆腐を見ながら固まっている。

 

「それって、質量兵器扱いされるんじゃねぇの?」

「ダメかな?」

「ダメやろ」

 

 ダメかぁ……。

 質量って感じはなさそうだけど……。そもそも質量兵器の定義ってそういうもんじゃないしな。

 

「残念だ。おれ強化計画は白紙になってしまった。仕方ないから護衛としてシャマルさんの料理を連れて歩くことにしよう」

「それって、私の料理が兵器ってことですか!?」

「間違っちゃねーだろ」

「うむ」

「……」

 

 どこからも否定の声が挙がらないところに全おれが泣いた。

 悲しいね……シャマルさん……。

 

 真に人々が判り合うなんてことはできないけれど、飯が美味い/不味いってことについては判り合えるんだな……って。

 

 

 

 

 ちなみに、宣言通りヴィータの食後のお茶だけ色付きお湯にして飲ませてから「愉悦ッ!」って言ったらぶっかけられた。

 

 くっそ熱かった。

 

 図らずともおれの作戦の有効性を示してしまった。

 

 おかわりを汲み始めたヴィータを見て「ごべええええええええん!」と言うしかなかったおれであった。

 

 




            。・゚・
  ∧,,∧ て     。・゚・。・゚・
 (; ´゚ω゚)て   //
 /   o━ヽニニフ
 しー-J    彡


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