二天龍バカップルに祝福あれ (ogachan)
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第1話
「あああああ……どうしたらいいんだ……」
――つい、そんな言葉が出てしまう。この呟きがいったい何度目になるのか、数える気にもならなかった。
え~、みなさん、はじめまして。兵藤一誠といいます。気軽にイッセーと呼んでください。
テンション低いな、と思われた方々へ。ええ、その通りです。実は俺、とある悩みがあって結構参っております。しかも、その悩みが普通の人に相談できるようなものじゃなくてですね――
『おい』
そうそう、この声の主が俺の悩みの種なんです。その名も赤龍帝ドライグ。『赤い龍』の通称を持つ伝説のドラゴンです。ええ、あのドラゴンです。実は俺の中にはとある物騒なモノと一緒にドラゴンが宿っているんです。あっ、言っておきますが俺の頭はいたって平常です。中二病でもありません。俺は中三の十五歳です。でも、いきなりこんな話しを聞かされたって意味がわかりませんよね。わかりました、一から説明します。
まず大前提として、この世界には俺たち一般人が幻想だと思っている存在が実在しています。悪魔とか天使とか、さっき言ったドラゴンとか。当然神様もいます。話しはここからです。
数いる神の内の一柱、いわゆる聖書の神がとあるモノを作りました。
ここまで言えばわかりますよね。なんと、その
ハイ、どう考えても厄介なことこの上ありません。こんなのを宿してることが知られれば俺の人生は終わりです。
誰に知られても困るなか、一番知られてはならない相手が悪魔です。ドライグから聞いた話しでは、悪魔は人間をはじめとする他の種族を転生悪魔にして連れ去っているそうです。しかも近年は俺のような
でも大丈夫、そう簡単に見つかりっこない。
――なんて思った日が俺にもありました。
実は悪魔という存在は俺たち一般人が考えている以上に身近なものでした。
例えば駒王学園。近所のマンモス校にして、高校デビューを目指す俺の志望校なのだが……あそこは悪魔の巣窟だった。ドライグ曰く職員の大半が悪魔だそうです。ちなみにこれは実際に駒王学園を見て教えられたことです。見学に行ったのが運の尽きですよ、ホント。
つまり何が言いたいかというと、俺は既に悪魔たちに目をつけられている可能性があるということです。ピンチです、超ピンチです。そこでみなさんの知恵をお借りしたいというわけです。何か良いアイデアのある方は兵藤家までどうぞ。
『……』
「――って、何やってんだ俺。妖精の声が聞こえるわけでもないのに」
そう言って現実逃避から戻って来る俺。ああほんとう、何やってんだろうな。
『その通りだ。いったいいつまでウジウジしている、見苦しいぞ』
「そうは言うけどな、そもそもおまえのせいだからな。俺がこうして悩んでるの」
ドライグの言葉にもこうして言い返す始末。
『俺とて己の意志で宿ったわけではない。気がついたら
「だからって、そう簡単に受け入れられたら苦労しねえっての」
ああ、ダメだ。これじゃあ単なる八つ当たりじゃないか。トゲのある言い方だけど、こいつはこいつなりに俺に歩み寄ろうとしてくれてるのに。
「はあ」
そうため息を吐いてベッドに突っ伏す。受験生の身だがいまは夏休み中だ、時間はたっぷりある。宿題や勉強なんて手につくはずもない。加えて
「ふたりとも、楽しんでくれてるかな……」
今回の旅行は俺からふたりへのお祝いだからだ。まあ、日頃の感謝ってヤツだ。
これは余談になるけれど、俺にはきょうだいがいたんだ。産まれてこれなかった家族が。父さんも母さんも未だにそのことを話しに来ないが、祖母ちゃんが聞かせてくれた。俺が産まれる前のことを。死んだ祖父ちゃんも生前に言ってたっけ。
詳細は省くが、そんなこんなで俺は両親への想いが強くなったわけだ。知らなかったらこんなことしなかっただろう。
「兄貴だったのかな、姉ちゃんだったのかな、それとも両方?」
会うことの叶わないきょうだいへと思いをはせる。いずれにしろ、あの優しい両親の子どもだ。きっと良い兄姉になってくれたはずだ。
「ふ、ぁ~……。一眠りするか」
あくびとともにやって来た睡魔に身を任せ、そのまま眠りについた。
***
夢を見た。
これは――そう、小さい頃に見た紙芝居だ。
「昔々、あるところにひとりのおじいさんが住んでいました」
「おじいさんは今日も自慢の作物のお世話をしていました。するとどこからか大きなドラゴンがやって来ました。それは最近、村で悪さをしているドラゴンでした。おじいさんの自慢の木の実を狙ってやって来たのです」
「おじいさんは何も言わず木の実を一つ差し出しました。それは、おっぱいでした。小ぶりながらも確かな存在感を主張する、おっぱいの実でした」
「ドラゴンは早速それを口にしようとします。しかし、そこにおじいさんが待ったをかけます。そのままではダメだ、食べる前に揉んでほしい――と。ドラゴンは言われた通りに一頻り揉みしだいた後、そのおっぱいを食べました。そのあまりのおいしさに感動したドラゴンはそれ以来悪さをやめ、おじいさんと一緒におっぱいを育てるようになりました。めでたしめでたし」
***
「夢、か……」
意識が目覚める。それにしてもなんだってあの時のことを夢に見るんだよ。他にないのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。問題は今後の身の振り方だ。マジでどうしよう。
「あー、いっそのことあのおっちゃんみたいに開き直れたらなあ。でもそしたら俺の人生ジ・エンドだし」
思い出すのは最後に会った日、警察に連行される男性の姿。滅多に見られない光景だったため、よく覚えてる。あの出来事によって、世の中には公にしてはならないものがあることを俺は知った。おかげでそこそこの人間関係を築けてこれた。……未だに彼女ができたことはないけど。
「なあ、何かないか? 俺の身を守る方法」
ひとりで考えても何も思い浮かばないため、ドライグに訊ねることにした。素直に答えてくれるかはわからないが、他に頼れる存在もない。そもそも運命共同体なんだ、頼らない手はない。
『そうだな、どこかしらの組織に所属して後ろ盾を得るというのはどうだ?』
「……」
『なんだ、せっかく答えてやったのに無視か』
「あ、いや……こんなにあっさりと答えてくれるとは思わなくて」
『俺はそれほど器の小さなドラゴンではない、相談事ぐらい乗るさ』
「そっか」
なんだ、思ってたよりも取っ付きやすいやつじゃんか。
「それで、おすすめの組織はどこなんだ?」
『そのぐらいは自分で調べろと言いたいんだがな、こんなことで失敗して死なれても困る。いいか、今回だけだぞ』
素直じゃねえやつ。
『俺が知る限りで最も安全だと思われるのは
「グラウ・ツァオベラー?」
『いわゆる魔法使いの協会、その最大手だ。灰色の魔術師と書くんだがな。そこの理事長が魔王と同世代なんだそうだ。後ろ盾としては充分だろう』
「で、でも悪魔なんだろ。売られたりしないかな」
『恐らくだが大丈夫だ。なんでもその悪魔――メフィスト・フェレスは、正式な契約でしか同族には紹介しないらしい。それに現政権とは距離を取っているそうだからな。おまえが心配しているようなことにはならないはずだ』
「けっこう好条件じゃん。よし、そこにしよう」
――と、決めたはいいものの、ひとつ問題があった。
「ドライグ。どうやって協会に申し込めばいいんだ? 俺の知り合いに魔法使いなんていないし、協会の連絡先だって知らないぞ」
そう、入会しようにも連絡の手段がなかった。しかも、ここは日本だ、運営施設自体あるのか怪しい。
「くそ、初手から躓くなんて……」
嘆く俺に対して、ドライグは常識を教えるかのように告げる。
『ネットがあるだろう』
その言葉に思わず、「えっ」となる俺。
「ネットって、インターネットのことか?」
『そうだ、それ以外に何がある』
「まあ、そうだけど……」
ネットか、盲点だったな。確かにそれなら――いや、でも……。
「魔法使いって、パソコンとか使うのか? 機械とか科学技術全般毛嫌いしてそうなイメージがあるんだけど……」
『使うぞ。時代の流れには適応しなければならないからな。それにそういった分野の技術をメインに取り扱う者もいるしな』
「マジか。魔法使いも近代化してるんだな」
『そんなくだらんことを気にしてないでさっさとググれッ』
「はいはい」
『はいは一回でいい!』
「わかりました」
オトンかこいつは。それに伝説のドラゴンがググれって……。
内心そんなことを思いながらスマホでキーワードを打ち込む俺。検索すると目的のページはすぐにでてきた。
「へえ、日本にも支部があるのか」
『まずは電話相談からだ。もしかすると他に良い組織を紹介してもらえるかもしれん』
「わかった」
ドライグの指示通り早速電話をかける俺。すると電話はすぐにつながった。
『お電話ありがとうございます。
電話からは若そうな女性の声が聞こえてきた。まあ、定番だな。
その後、基本的なやり取りの中、質問に答える形で
ちなみに知る由もないことだが、別の世界線では俺は何も知らないまま駒王学園に進学し、その結果初めての彼女に騙され、憧れの先輩に一度は見殺しにされ、人生初の彼女に殺された後、たまたま召喚された悪魔な先輩に死体をリサイクルされるのだとか。
結論――この世界線の俺はついていた。
TSヴァーリ「私の出番は?」
作者「おまえは次回!」
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第2話
某日、俺はとあるマンションの一室にてある男性と対面していた。相手は堕天使の首領、名はアザゼル。そう、今日は件の面談日だ。
「そうか、キミが今代の赤龍帝か」
「えっと、なんかそうらしいです」
男性――アザゼルさんは俺を興味深そうに見ている。いや、この場合は『観ている』か? どちらにしろ、なんだか落ち着かない。ソワソワしてしまう。いや、聖書に記された堕天使を前に落ち着くなんて無理なんだけどさ。
「メフィストから連絡をもらった時は驚いたぜ。まさか、あいつとのつながりがこんな出会いをもたらすとはな。――いや、今更か。これでもう三人目だしな」
「三人目?」
はて、なんのことだろう?
「言葉通りだよ。キミの前にも二人の
ああ、そういうことか。
……俺と同じ
「そう心配するな。俺の方で見つけた
「ほんとですかっ!?」
「ああ」
おお、これは良い知らせだ! 是非とも会ってお話ししたい!
俺と同じ境遇だった人の存在を知り、胸に希望が湧く。
「さて、前置きはこの辺にして本格的な話しを始めようか」
「――は、はい」
そうだ、舞い上がってる場合じゃない。まずはこのヒトとの話しを切り抜けて組織に所属しないとだ。
気を引き締める俺。アザゼルさんは真剣な表情で話しを始める。
「既に粗方のことは聞いているだろうが、俺からも改めて説明しておく。俺たち堕天使は――いや、俺を中心とした有志一同は世界のあらゆる超常現象の観測、研究を行っている。組織名を
「はい」
ここまでは大丈夫だ、電話で協会の人から受けた説明の通りだ。
だが、この後の一言に俺の思考は一瞬止められてしまう。
「しかしここでひとつ但し書きがつく。対象の人格や経歴に問題があった場合、これを拘束、最悪処分することもある」
「――え?」
「言っておくがこれは嘘や冗談じゃない。紛れもない事実だ」
「は、話しが違うじゃないですかっ! さっき保護するって、そう言ったじゃないですか!」
思わず声を荒げてしまう俺に対して、アザゼルさんはまっすぐにこちらを見て告げた。
「害があるなら話しは別だ。……こんな言い方は卑怯かもしれないが、人間だって『駆除』と称して他の生物を殺処分しているだろう?」
「――!」
その言葉を聞いた瞬間、この前ドライグから言われたとある言葉が頭の中に響き渡った。
――おまえは家畜の気持ちを考えたことがあるのか?
悪魔が他の種族を転生悪魔にしていることを知って憤ったときに言われた言葉だ。
そうだ、このヒトの言う通りだ。俺たち人間だって似たようなことをしてるんだ。責める権利なんてない、同じ穴の狢だ。
俯いて歯を食いしばる俺にアザゼルさんは続けて言う。
「俺たちも自分たちの行いが真っ当じゃないことはわかってるんだ。ただそれでも、これはキミたち能力者を、ひいては世界を守るために必要なことでな。キミたちの存在が公になれば迫害や魔女狩りの類が始まり、二極化が進めばいずれは戦争にも発展しかねない。……未知の力や存在というのはそれだけで世界の均衡を崩してしまうものなんだ」
そうだ、突き詰めればきっとそういうことになるんだろう。
「――なんてもっともらしいことを口にしたところで言い訳にしかならないけどな。所詮、根底にあるのは飛び火を避けたいっていう自分勝手な理屈でしかない。まったく、堕ちたとはいえ天使が聞いてあきれるぜ」
ああ、そうか。このヒトは言い訳をしないんだ。生きていくうえで誰もが目を背けているものとちゃんと向き合っているんだ。
それに比べて俺はどうだ。ドライグを厄介者扱いしながら都合のいいところだけ利用した。なんて恥ずかしい男だろうか。
「さて、今ここでの話しは終わりだ。百聞は一見に如かず、続きは実物を見ながらにしよう」
***
「あの」
「何かな」
「さっきの話しですけど、能力者の存在をあえて公表してそれに係る法律を作るとかじゃあダメなんでしょうか?」
施設に向かうエレベーターの中でそう訊ねた。
さっきの話し、理解はできた。でも、俺たちは獣じゃないんだ。言葉を交わせる、ちゃんと意思疎通ができるんだ。なら、話し合えば互いに納得のできる答えを見つけられると思うんだ。人間の中だけでもいろいろと問題はあるけど、でもだからって何も相談しないのはもっとダメだと思うんだ。
アザゼルさんは腕を組みながら答える。
「それは俺も考えた。実際各国首脳や諜報機関にはある程度の情報を渡してある。加えて北欧やギリシャといった異なる神話体系や妖怪勢力とも秘密裏に接触している。いまも人間と人外の完全なる共存社会を目指して活動中だ」
驚いた。アザゼルさんは既に行動を始めていたのか。まあ俺みたいなガキでも思いつくんだからそのくらい普通か。
「ただな、それで新たに生じる問題があるのも事実なんだ。そもそもそれ以前に外敵と認定されて戦争を仕掛けられる可能性だってある。現状維持に傾くやつがいても非難できん。かく言う俺もその一人だしな」
そうかもしれない。異能の解明を目的とした非人道的な研究とかは俺も考えてた。それに転生悪魔のこととか、解決しなきゃいけない問題はいろいろとあるんだろう。それはわかる。だけど――
「……それでも俺はみんなが幸せに暮らせる世界が欲しいです」
誰かが損をしたり不幸を背負ったりする世界なんて嫌だ。
俺の
「ハハッ、そりゃそうだ。どうせならみんなで幸せになりたいよな」
「現状維持派なんですよね? 甘いとか夢物語だとか言わないんですか?」
それにしては活動的だとも思うけど。
「個人的にはな。ただ、詳細は伏せるが諸事情でそれを実現したいって気持ちもあるんだよ」
「?」
この時はわからなかったが後でそれを知った時、アザゼルさんのことをお人好しで友達想いだと感じた。
***
「さて、こうして一通りの設備と生徒たちの姿を見てもらったわけだが、何か感想はあるかな?」
あれから俺はアザゼルさんの案内の下、
「そうですね、ラノベに出てくる特殊な養成学校もこんな感じなのかなって思いました」
「そいつはここに来たやつらの大半が思ってることだろう。事実その通りだしな」
「あと、意外と活気がありました。失礼ですけど、もっと暗いギスギスした感じだと思ってました」
「なるべく普通と変わらない環境を提供することを心掛けているからな。メンタルケアにも配慮している。とはいえそれでも落ち込むやつは落ち込むけどな」
それはそうだろう。俺だって落ち込んだ。ドライグが非協力的なやつだったらふさぎ込んでいたかもしれない。
「理由は二つ。
「……」
俺はまだ
アザゼルさんのことはなんとなく信用できそうだけど完全に信じるのはまだちょっと怖い。
だけど他に頼りになる場所がないのも事実だ。
「さてと、それじゃあ肝心なことを訊くとしよう。キミには二つの選択肢がある。まず一つは
「摘出? そんなことできるんですか?」
「ああ。一つ注意事項があるがな」
「?」
なんだろう? リスクやデメリットって言わないから直接的な害はないんだろうけど。
「
なるほど、そういうことか。なら、返事は決まってる。
「わかりました。摘出は必要ありません。俺を
俺は迷わずそう言った。
「確認するぞ。それでいいんだな?」
「はい。誰かに押し付けてまで解放されたいとは思いません」
そんなことしたら俺は家族に合わせる顔がないうえにみんなから叱られる。ここの生徒にも軽蔑されるだろう。
「ふっ、良い眼だ」
アザゼルさんが手を差し出す。
「ようこそ、
俺がその手を取ろうとした次の瞬間――
「アザゼル! 赤龍帝が見つかったって本当!?」
勢い良く扉が開かれるとそんな言葉とともにひとりの女の子が現れた。ちなみにかわいい。
アザゼルさんはその娘を見た途端にため息を吐いた。そしてそんなアザゼルさんに詰め寄る女の子。
「よくも私に黙っててくれたわねっ」
「たく、メフィストの野郎、黙っとけって言っただろうが……」
「それよりも赤龍帝! 早く紹介しなさいよ!」
なんなんだろうか、この女の子は。赤龍帝ってたぶん俺のことだよな?
「紹介もなにも隣にいるだろ……」
「えっ、本当!?」
アザゼルさんに言われてようやく俺の存在を認識したのだろう。輝かんばかりの笑顔を向けてくる女の子だが、その表情はみるみる陰っていく。なぜだ?
「こんなのがそうなの?」
こんなのとはなんだ、こんなのとは。
「そう言ってやるな。それにおまえに比べたらほとんどのやつがこんなのだからな」
否定してくださいよアザゼルさんっ。
女の子は膝をついて嘆く。
「うわーん、私のソウルメイトがぁ。なんで男なのにイケメンじゃないのよぉ。あんまりだー」
ぐっ、なぜかはわからないけど、がっかりされていることだけはすごくわかる。
くそぉ、俺だって三枚目なんだぞぉ、黙ってればイケメンなんだぞぉ。
そしてさらにカオスは深まる。
『このオーラ、もしやアルビオンおまえか!』
声の発生源は俺、だが俺の声ではないそれはつまりドライグの声だ。どうしたんだ急に?
『その通りだドライグ! 私だ!』
俺が不審に思っているとドライグに答えるようにまた別の声が発せられた。発生源は女の子だ。しかしその声はさっきのそれとは違う。誰の声だ?
俺の疑問をよそに二人? の会話は進む。
『『会いたかったぞ、我が友よ!』』
え、なに、ドライグの友達?
状況を理解できていない俺にアザゼルさんが説明してくれる。
「さっき言ったろ、キミの前にも
「ええっ!?」
この娘が俺と同じ
「こいつの名はリンスレット。キミの
「……」
あまりにピンポイント過ぎて何も言えなかった。ドライグに至ってはアルビオン、さん? とのお話しに夢中になっている。仲いいねキミたち。
「おいリンス、おまえしばらくこいつの家庭教師やれ」
「そ、それはつまりこの赤龍帝を私好みにプロデュースしろってことね!」
何を言ってるんだこの娘は。
「バカ、プロデューサーは俺だ。おまえは先輩役でいいんだよ」
アザゼルさんも乗らなくていいですから。
「先輩……先輩ね、うん、それはそれでいいかもしれないわ」
ちょっとキミ、何考えてるの? 怪しさ満点なんだけど。
そんな俺の心の声など聞こえないと言わんばかりに女の子――リンスレットは詰め寄って来た。う、近い……。
「あなた名前は?」
「……兵藤一誠」
「そう、じゃあイッセーね。私のことはリンスって呼びなさい。赤龍帝だから特別よ」
そう言うリンスレット改めリンスの表情は実にかわいらしかった。
そしてリンスはこの後、俺に指を突きつけてこう告げた。
「
ちなみに知る由もないことだが、別の世界線のこいつはヴァーリという名の男だそうだ。
結論、この世界線の俺は恵まれていた。
執筆速度が欲しくて仕方ない気分です。なんでみなさんあんなポンポン更新できるんですかね……。
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第3話
衝撃的な出会いをもたらしたあの面談から一夜明けた。
善は急げ。早速今日から
まあそんなことはどうでもいい。いま俺の胸中を占めているのは別のことだ。
「あんなに取り乱したところ、初めて見たな……」
「ご両親に恵まれたわね。あなたは幸運なのよ。異能を発現したことで迫害される、異能の所持を知られることで腫れ物のように扱われる、そういうケースは珍しくないのだから」
そう言葉をかけてきたのは
「はい、自慢の両親です」
こう答えるのは二度目だ。彼女と同じことをドライグからも言われたからだ。実際過去にそういう経験をした宿主がいたことも。
「とはいえお母様はご自分を責め過ぎだとも思うけれど」
その通りだ。母さんは頻りに俺に謝っていた、何度も何度も。どうしてだろうか。母さんが謝る必要なんてないのに。それともそれが母親というものなのだろうか。
俺が母さんの謝る姿を思い出していると突然車が停まる。はて、どうしたのだろうか。
疑問に思っていると白井さんがこんなことを訊いてきた。
「変なことを訊いてもいい?」
「え?」
「あなたのご両親はご高齢のようだけど晩婚だったのかしら?」
「――」
確かに変な質問だ。どうしてそんなことを訊くのだろうか。
「……結婚した時期自体は決して遅くありません。ただ――」
「ただ?」
「母が不妊症を患っていて、俺を産む前に二度の流産を経験しています。高齢なのはそれが理由です」
ありのままを答えた。やましいこともなければ隠すことでもない。それになぜかはわからないが答えなきゃいけない、そんな気がしたから。
「……そう、そういうことね」
白井さんはただ目を伏せていた。
「あの、それが何か関係あるんでしょうか?」
「気にしないで。まだそうと決まったわけじゃない、あくまで可能性の話し。もしもそうだったらちゃんと説明してあげるから」
「?」
この時の俺はまだ知らなかった。俺の、母さんの血筋に隠されたある秘密。そのすべてを知ることになるのはこれから二年後のことだった。
***
車が走ることしばらく、俺が連れてこられたのは昨日訪れたマンションだった。なんでもここが生徒たちの暮らす寮のひとつらしい。同時に今日からここが俺の住処となる。
「三階から上が居住スペースね。何か用がある時は一階と二階の貸店舗を使ってちょうだい。大抵のものは揃っているからそこで事足りるはずよ」
マンションの中を歩きながら白井さんが説明してくれる。見ればコンビニやドラッグストア、美容室などおよそ生活に必要となるであろう店が並んでいる。なるほど、確かに大抵のことはここで済ませられそうだな。
「ちなみに外出を許可された生徒たちのバイト先にもなっているわ」
「バイトできるんですか!?」
俺は我が耳を疑った。当然だ。だってこんな境遇でそんな一般人らしいことができるなんて思ってなかったんだ。
「あくまで
総督とは昨日面談をしたアザゼルさんのことだ。部下や生徒にはそう呼ばせているらしい。今日から生徒となる俺も当然そう呼ぶことになる。
それにしてもバイトか……いいねえ! まさに学生の青春の一幕じゃないか。この分だと半ば諦めていた高校デビューをここで果たせるかもしれない。いやそれどころか彼女だってできるかもしれない! それで互いの部屋を行き来して、果ては同棲までして……それでそれで、あわよくば学内結婚とかしちゃったりして!
「でへへ」
「こらこら、何を考えているか知らないけど口で言うほど簡単じゃないのよ。あなたの
だらしない表情の俺を白井さんが咎めた。それによって俺は現実へと引き戻される。
「そういえば
ふと気になったので訊ねてみた。
「一応あるわよ。
「そうですか」
よかった。がんばればちゃんと家族のところに返してくれるんだな。なら気合い入れねえと。
それからしばらく進むとある部屋の前で立ち止まり、鍵を開けて中へ入る。
「ここが兵藤くんのお部屋ね。部屋の中は質素だけど必要な物は揃っているわ。お金が必要な時はこのキャッシュカードを使って」
普通に生活する分には充分な待遇だと、キャッシュカードを受け取りながらそう思った俺は間違っていないはずだ。
「あとは食事だけど――」
あっ、そうだ食事どうしよう。食堂とかあるかな。
「食事の提供はしていないから各自で摂ってもらっているわ。たぶんリンスレットがいるグループから声がかかるからそこに混ぜてもらいなさい」
「リンスレット」という言葉を聞き、昨日出会った少女の顔を思い浮かべる。
赤龍帝の対になる白龍皇の
綺麗な銀色の髪のかわいらしい女の子。
ただ――
――
あの言葉が強烈だったので若干の苦手意識を覚えてしまった。当然本人には内緒だ。
「そうそう、隣はリンスレットの部屋だから」
「ええっ!?」
「フフ、がんばりなさい。応援してるから」
驚く俺をよそに笑う白井さんは実に愉しそうだった。
***
あれから俺はコスプレじみた青い制服に着替えたうえで白井さんとともに
入口に到着するとやはりと言うべきか、そこには総督とリンスの二人が待っていた。
見ての通り出迎えだ。それ自体は何も問題ない、むしろありがたいことなのだが到着早々リンスに
「待ってたわよ♪」
――なんて言われたものだからそのあまりの破壊力に直前まで抱いていたはずの苦手意識がきれいさっぱり吹き飛んでしまったんだ。……チョロくないか俺。
それから教室のような場所で他の生徒たちと顔合わせをしたのだが、俺が
その後――顔合わせを済ませた俺は総督とリンスに連れられてトレーニングルームへと来ていた。早速これから
ちなみにここに来る途中でまたしても着替えさせられたわけですが……たまらんねこりゃあ、大変眼福です。
内心スケベ心が反応してはいるが溢れ出してはいないから大丈夫だ。表情に出さなければ問題ない。自然に見ろ、自然に。いやまあ意識しなくても目移りしちゃうんだけど。
「よし、準備運動もこの辺にして訓練を始めるぞ」
総督のその言葉を合図にスイッチを切り替える俺。なんせ今後の生活が懸かってるんだからな、ふざける気はない。早く一人前の
「まずは能力の確認だ。ドライグ、
そういえば俺もこれの力がどんなものなのか知らなかったな。どんな力なんだろ?
『10秒ごとに力を倍増させる「倍加」。高めた力を他のものに移す「譲渡」。それがこの
は?
『……なるほどねえ。
え、何それチートじゃん。
俺の中で二天龍に対して抱いていたイメージが崩れかけるその時――
『おい、見誤るなよ小僧。貴様勘違いしているぞ』
待ったをかけるようにドライグが声を発した。
「えっと、もしかしなくてもバレてる?」
『当たり前だ。貴様の考えていることなど手に取るようにわかる。能力頼りで実はそんなに強くなかったのではないかと考えているのだろう。……侮るなよ、そんなもので至れるほど天龍の称号は甘くない』
う、マジでバレてる。そうですか、つまり赤裸々な内心も全部伝わってるってことですよね。ハハ、恥ずかしいなあ。しかもなんか怒らせちゃったみたいだし。
「じゃあ教えてくれよ、なんだよ勘違いって」
『ハア。俺たちがしているのは
機能……って、ああそうか!
『そうだ。俺たち自身の能力ではない』
そうだ、総督もドライグの能力じゃなくて
『倍加と吸収は我々の生前の能力をモチーフにしたものだが、半減と譲渡に関しては二つの
「じゃあ生前の能力は具体的にどんなものだったんだ?」
『倒れずに戦い続ける、そういう能力だ』
「……つまりどういうことだ?」
よくわからん。なんだよ倒れずに戦い続ける能力って?
『どんな強者とていずれは体力が尽きる。だから俺とアルビオンはそれを超えるための技をそれぞれで編み出した』
『私は周囲のエネルギーを自身に還元する。ドライグは己の中の力を増幅させる。至った答えは真逆だったがな』
「なんとなくわかったけど、それって卑怯じゃないか? 要するに回復技だろ」
『違う、そうじゃない。確かにそういう一面もあるが俺たちが回復させていたのは体を動かすために必要な根底のエネルギーであってスタミナではない』
『スタミナは気合と根性でどうとでもできるが体力ばかりはそうもいかん。だから技を編み出した』
『『すべてはこいつの前でひざを折りたくなかったからだ』』
なるほど、そういうことか。それにしても――
「よっぽど負けたくなかったんだな」
『ああ。一目見た時から「こいつにだけは」とな』
『戦い続けた結果は完全なる相討ち。その後のことに不満はあれど、勝敗そのものに不満はなかった。最期に互いを認め合えたしな』
あれ? これってなんか――
「腐女子が聞いてたら喜びそうなシチュエーションね」
ちょ、ここでそれ言う!? いやまあ俺も思ったけど!
『そんな下賤な物と一緒にするな!』
『諦めろドライグ。リンスはこういう娘なのだ』
『むう、仕方ない』
それでいいのか二天龍よ……。
「あー、話しを進めるぞ。次は……リスクについてだ」
総督の言葉によって空気が重くなるのを感じた。
「
『ああ。俺たちの場合機能上避けられん』
「……なんなんですか、そのリスクって」
なるべく重くないのがいい、そんな思いを抱いていたが次の言葉で打ち砕かれた。
「龍化よ」
「りゅうか……それってまさか!」
「そう、文字通り肉体が龍のそれになるのよ」
「なっ」
あまりに重いリスクに俺は愕然としたが――
「大丈夫よ。安全装置になる排出機能がついてるし治療だってできるんだから」
絶望するには早かったようだ。
俺が一安心しているとリンスが総督にあることを訊ねた。
「と、ところでアザゼル」
「なんだ?」
「い、イッセーのケアって、誰がやるのかしら……?」
「おまえに決まってるだろ」
「そ、そうよね。私以上の適任者なんて、いないわよね……」
どうしたんだろうか、快活なリンスらしくない。しかもチラチラとこちらを見ては顔を背けるし、その顔自体ほんのり赤い。それと――
「あの、ケアってなんのことですか?」
「――っ」
リンスがビクリと震える。だからどうしたんだよまじで。
「あー、今は気にすんな。後でリンスが説明すっから。とりあえず今は調子に乗ってホイホイ
「はあ、わかりました」
「よし、じゃあ正真正銘訓練開始だ。現状でどれだけ動けるか確認するためにリンスと模擬戦な。ああ安心しろ、こいつは女だがか弱くはない。だから全力でやれ」
「はい」
「失礼ね、私だってか弱い女の子だっての」
ごめんリンス、総督の言う通りだと思う。だってか弱い女の子はあんなこと言わないから。
俺とリンスは総督から離れた位置で向かい合い、互いに
人間が憧れ夢にまで求めたもののひとつである翼――それを生やしたリンスからは神々しささえ感じられた。
「……」
元一般人の俺にはリンスの力量なんてわからないけど、模擬戦の相手に指名されるんだからきっと強いのだろう。
『動き始める前に体力を増強しておけ。そうすれば倍とまではいかないが身体能力も多少上がる』
「……」
ドライグの言葉に俺はすぐに肯けなかった。
『安心しろ、一回使ったぐらいで龍化することはない。少しでも異変が生じたらすぐに教えてやる』
「……わかった。やってくれ」
覚悟を決めた俺は
『Boost!!』
倍加の発動を示す音声が鳴り響く。
『Boost!!』
10秒後、再度音声が鳴り響く。
10秒、20秒と時間は経過し、14回目の倍加が告げられた直後――
『Explosion!!』
増強された体力の解放が告げられ、体に力が流れ込む。溢れ出る力の波動はやがてオーラとなって俺の体を包む。
『14回か。現時点でこれだけの力に耐えられるなら破格だな。誇っていい、おまえの肉体は高スペックだ』
「そうなのか? 確かに運動神経が良いとはよく言われるけど」
『ああ。歴代の宿主もここまではいかなかった。この分ならいずれは倍加せずとも充分戦えるようになるだろう』
それはありがたい。なるべくなら使いたくないからな。治療できるとしても龍化は嫌だ。
「これは嬉しい誤算ね。溢れ出るオーラが心地良いわ。それでこそ私のソウルメイトよ」
『うむ、私同様ドライグも今代は宿主に恵まれたようだな』
俺の力を感じ取りリンスとアルビオンが嬉しそうに笑う。
「さあ、どこからでもかかって来なさい」
リンスの言葉に応えるように走り出す俺。
残念ながら俺はケンカもしたことのないど素人だ。だからできるのは正面対決のみ。
籠手を纏っていない右手の拳で殴りかかる俺に対してリンスはジャンプで躱し、落下しながら俺の背後へと回り込み蹴りを放ってくる。
俺はすぐさま攻撃方法を裏拳に切り替えて対応する。が、力負けしたのは俺の方だった。
拳が弾かれたことで体勢を崩した俺にリンスが肉薄する――かと思いきや、着地したリンスはただ掌を向けるだけだった。
一瞬疑問に思ったその刹那、衝撃が俺を襲った。そして気づいた時には数メートルほど吹き飛ばされていた。
「っ」
なんだ今の。衝撃波? でもさっき聞いたものから連想できる能力じゃない。いったいなんだったんだ?
俺が攻撃の正体をつかみかねていると――
『なんだ白いの、おまえ悪魔に宿ったのか』
『その通りだ』
突然ドライグが問いかけ、アルビオンがそれを肯定する。
リンスが悪魔? どういうことだ、
俺の疑問を察したのかリンスが答えを述べる。
「私は混血児なのよ」
「混血……そういうことかっ」
そういえばドライグも言っていた。
そうか……リンスは悪魔の血を継いでるのか。じゃあさっきのはその力ってことか。
俺がそんなことを考えているとリンスがこんなことを言う。
「怖い? それとも軽蔑した?」
「え?」
どうしたんだ急に?
「はっきり言っていいのよ。自分が恐れられるに値する異形の存在だってこと、自覚してるから」
「……」
どうしてそんなことを言うのだろうか。
さっきの総督の言葉に対する同意は取り消そう。こいつは確かにか弱い女の子だ。
「怖くねえよ」
「え?」
俺は立ち上がりながら答える。
「どこが怖いんだよ、どこからどう見てもとびきりかわいい女の子だろうが。ああちっとも怖くねえよ」
リンスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているが俺は構わずに続ける。
「ちゃんと言葉を交わしてコミュニケーションができるなら種族の違いなんて大したことないと思うぞ」
紛れもない俺の本心だった。
俺の言葉を聞いたリンスは俯き、そして笑い出した。
「ぷっ、ふふ、アハハ。なんだ、心配して損した。そっか、あなたも……そう言ってくれるのね」
顔を上げたリンスの笑顔はとても魅力的だった。
「ありがとう、イッセー」
***
あれから時は進み俺たちは保健室と呼ばれる場所へとやって来ていた。
そこには白井さんの姿があった。彼女はここの医療スタッフらしい。そしてやって来た俺たちを見るなりこう述べた。
「予想はしてたけど兵藤くんもリンスレットに一方的に負かされたようね」
対して俺は力なくこう返す。
「返す言葉もないです……」
事実だ。あれから力の続く限りリンスに挑んだが結果は聞いての通り。
「そんなに落ち込まないの。この娘とまともな勝負ができた人なんて片手で数えるほどしかいないんだから」
マジか、どんだけ強いんだこの娘。
「イッセー。さっきの模擬戦を見た俺の感想なんだが」
俺が内心驚いていると総督が切り出した。
「ドライグも言っていたがスペックは問題ない。が、戦い方に才能やセンスと呼べるものはないというのが正直なところだ」
「――っ」
正直へこんだ。自信があったわけじゃないけど面と向かって言われるのはキツイ。だが総督の言葉はまだ続いた。
「じゃあ強くなれないかというとそうでもない。失敗を糧にする知恵はあるようだからな。訓練を積めば充分成長できるはずだ」
『その通りだ相棒。何よりおまえには気合と根性がある。自信を持て、おまえは強くなれる』
「……俺、がんばります」
総督とドライグの言葉に励まされた俺はちょっとだけ自信を持てた。
「それじゃあ今日のところは食事を摂ったらぐっすり休みなさい。疲れてるでしょう」
「はい。もう少ししたら部屋に戻ります」
「そう。じゃあついでにここでケアしてもらいなさい。リンスレット、あとは頼んだわよ」
「まあ、ほどほどにな」
そう言い残して二人は部屋を出ていった。
ケア……またその言葉か。
「なあ、ケアっていったい――って大丈夫か? 顔赤いぞ」
リンスの顔はまたもや赤くなっていた。それはもう真っ赤に。
「だ、大丈夫よ。け、ケアなら、ちゃんとシ、してあげるから……」
いや大丈夫じゃないだろ。すげえ動揺してるし。
そんなことを思っているとリンスは床に両ひざをつき、俺の左手を取り、口元に持っていく。
「い、言っとくけど、私、こんなことするの初めてで、上手にできないかもしれないけど、い、一生懸命するからっ」
それから俺はある意味至福の、またある意味では地獄の時間を過ごしたのだった。
最後のシーンは原作にもあったものです。だから私は悪くありません(暴論)
とまあ冗談? はさておき、オリジナル設定やら伏線やらいろいろあった第3話です。
白井百合香はオリキャラです。白衣の似合うお姉さんです。
二天龍とそのセイクリッド・ギアについてオリジナル設定を入れました。透過と反射はなかったことにしましたのでご注意ください。
ではまた次回。
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第4話
今回は短めですが、朝のワンシーンをどうぞお読みください。
カーテンの隙間から入る日差し、スマホのアラーム。光と音、ふたつの刺激によって俺は目を覚ます。
起きてからまず一番最初に気づいたことは、ここが自宅の部屋ではないということだった。それはつまり昨日の体験が夢ではないということ、自分が一般社会から完全に外れたことを意味している。今更ではあるが、それを改めて認識させられた。
次に気づいたことは――ベッドの上の謎のふくらみ。
それを視界に入れた途端、現状俺と最も長く過ごしているであろう銀髪美少女の顔が思い浮かび、昨日の保健室での行為の先ともいえるイケないイメージが頭の中を埋め尽くしていく。
「ま、まさか、シたのか……? 出会って一週間も経ってないのにもうヤっちゃったのか? ヤバい、全然覚えてない。保健室でのことはしっかり覚えてるのにその先の肝心なところが思い出せない。いやそもそも本当にヤったのか? 勘違いだったらすげえ恥ずかしくね? それ以前に女の子にこんなイメージ持つこと自体よくないし……いやでもこのふくらみは明らかに誰かが入ってる感じだし他に考えられる相手いないし」
ひとり悶々とする俺。だがこれも仕方ないだろう。あんなことをして翌朝がこれなら無理もないことだと思う。
「と、とにかくまずは確認しよう……二重の意味で」
ある種の覚悟を決めて掛け布団を取り払う。するとそこにいたのは――
結論からいうと昨日の俺とリンスの間にアレ以上のことはなかったようだ。
そもそも俺のベッドで眠っていたのはリンスじゃなかった。
「……」
ラヴィニア・レーニさん。
俺と同様に
彼女が俺のベッドで寝ている……裸ワイシャツで。
「ええええええええええええ!」
驚きの余り大声を上げるとともに後ずさりしてそのままベッドから落っこちる俺。するとそれが目覚ましとなってラヴィニアさんを起こしてしまう。
起き上がったラヴィニアさんは俺の存在に気づくと、男の部屋にいることなどなんでもないかのようにあいさつをしてきた。
「おはようなのです、いっくん」
余談だが、ラヴィニアさんは俺のことを「いっくん」と呼んでいる。慣れない呼ばれ方で非常にむずがゆく感じたのは言うまでもないことだ。
「お、おはようございます――じゃなくてっ、なんでラヴィニアさんが俺の部屋にいるんですか!?」
こんなところ誰かに見られでもしたら入学早々あらぬ疑いがかけられる、なんとかしないとっ。
「昨夜トイレに立ったのです。起きたらこの部屋にいたのです。……なぜでしょう?」
まさか寝ぼけてこの部屋まで来たのか? 寝相が悪いで済む問題じゃないぞ、病気だろこれ。いやそれよりも早く自分の部屋に戻ってもらわないと――などと考えているうちにタイムリミットは過ぎていた。
「イッセー、起きてる? もうじき朝食の時間よ。早く準備しなさい」
こ、この声! ヤバい、もう隠れてもらうことすらできないぞ、どうする!? と、とにかくなんとかしてやり過ごそう。よし、ドアの影に隠れよう、それでリンスがラヴィニアさんに意識を割いてるうちに部屋を出よう。
「たく、しょうがないわねえ。ほらイッセー、早く起きなさい!」
そんな声とともにドアが開かれるのと俺が隠れたのはほぼ同時だった。
「ら、ラヴィニア!? あんたまた寝ぼけて他人の部屋に。しかもよりにもよってイッセーの部屋に入るなんて! バカバカっ、あいつは私のソウルメイトなんだからちょっかい出さないでよっ」
リンスは言いながらラヴィニアさんに詰め寄るとポカポカ叩く。ナニアレカワイイ。
「ごめんなさいなのです」
ラヴィニアさんは言葉の上では謝っているが表情は笑顔だ。気持ちはわかる、だってかわいいもんあれ。
このまま見ていたい気もするがバレたら大変だ、だから今のうちに――そう思って移動を始める俺。すると――
「なにこっそり抜け出そうとしてるのかしら、イッセー?」
見事に気づかれた。
「ねえ、こっち向いて。大丈夫、怒ってないから」
「……っ」
そういうことを言う女の子は内心では怒っていることが大抵というのが相場のお約束なんだが――などという感想を抱きながら壊れたブリキ人形のように振り向くとリンスが眼前に迫っていた。
「ねえ、なんで隠れたの? 何があったかはわかるわよ。目が覚めたらラヴィニアが隣で寝てたんでしょ? それはいいのよ、この寮じゃよくあることだから。でもそれだけでしょう、何もやましいことはなかったんでしょう? じゃあ隠れる必要はないわよね? なのになんで隠れたりするのかな? ねえ、どうして?」
「こ、この状況自体が既に問題かと……」
「何もなかったなら堂々としてればいいじゃない」
「入学早々変な噂立てられたくなかったから……」
「噂は所詮噂。誤解は解けばいいじゃない」
「そ、それでも勘違いされたくなかったから……」
「――」
思考する間もなく思いつく限りの言い訳を口にしているとリンスの態度が急変する。
「誰?」
「え?」
「勘違い。誰にしてほしくなかったの?」
「――」
言われて初めて考えた。この状況を誰に知られたくなかったのか。
「そ、その、誰か、気になる娘でもいるわけ?」
「……」
何も答えられない、誰の顔も浮かばない。ただ目の前の少女から視線を外せない。顔が熱く、動悸が激しくなる。見ればリンスも顔を真っ赤に染めていた。
こ、これは、アレ……なのか? いやそもそもなんでこんなこと訊くんだ? まるで俺のこと……はっ、ソウルメイトってそういうこと!? マジでか!?
リンスの気持ちに少しだけ気づいた俺だが、同時にとある違和感にも気づく。
「――」
リンスの視線が俺の体のある部分に集中していた。そのことに気がついたと同時に自分の体に起きている現象にも気づいてしまった。
恐る恐る視線をそこへ向けると――
俺のパンツがテントを張っていた。これが意味することは勃起、いわゆる朝立ちだ。
「わ、わたしっ、さきいってるから!」
死にたい……。
いかがでしたか?
あと、知らない人はいないと思いますが前回の最後のシーンは公式でもあったアレこと指ちゅぱです。一線は越えてません。リンスは処女です。いずれ出会うであろう赤龍帝ことイッセーのために大事にとっておきました。だからみなさん安心してご覧ください(なお、作者にR18は書けないので各自ご自由に妄想してください。代わりに書いてくれると言うのであれば喜んで許可を出します)
ではまた次回。
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