個性「魔轟神」 (グリムロ)
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魔轟神クルス

 転生した。「僕のヒーローアカデミア」の世界に。前世では男だったのに、今世では女だ。

 

 詳しいストーリーを知らない私ではあるが生まれたときは、世界を知ったときは喜んだ。けれど、世界は私に厳しかった。

 

 

 

 

 

 

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 真郷 来栖(まごう くるす)、それがこの世界における私の名前だった。父親はなし。

 母親の個性は「魅了(チャーム)」、三十秒間目を合わせ続けた相手を惚れさせるという使い勝手の悪いもの。さらには相手がより強くひかれる異性を見つけると魅了は解ける始末だ。サキュバスモチーフなのか背中には蝙蝠のような羽、額には二本小さな角がついている。その特徴は私にも遺伝していて、差異と言えば母親が金髪だったのに対して私が黒髪だったくらいだ。

 

 そんな母親は……まあ、一言で言うなら屑だった。見た目だけはいいので目を合わせ続けるイベントに持ち込むことはできる。しかし相手が惚れると露わになる本性が駄目だった。相手を奴隷のように扱うのだ。貢がせ奉仕させることを至上の喜びとしていた。

 

 最初は親切に生活費などを負担してくれていたとしても、そのうち愛想を尽かし男は縁を切る。すると「あたしの美しさに勝てる女がいるはずがない」と本気で信じている母親は「相手の見る目がないのが悪い」とまた男を探す。その繰り返し。

 

 

 

 そんな中、相手を落とす手段として行った性行為がたまたま当たり、妊娠した。彼女はこう思いついた。

 

「あたしの子供だし、あたしほどじゃなくとも素晴らしい美貌を備えているに違いない。そして個性も近いものを持っているはず。男であれ女であれいい物件を魅了させて結婚させれば、あたしはもっと楽ができるのでは?」

 

 そんな最高に頭の弱い発想から私は生まれた。黒髪は相手の男の遺伝子である。

 

 

 

 さて、そんな私であるが、個性は魅了ではなかった。五歳になってもまだはっきりとした魅了効果が出ない私を不審に思った母親が診てもらったところ、医者は私の個性を異形系の──つまりは、「角と羽が生えているだけ」と診断した。

 

 

 

 

 

 

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 病院からの帰り道。レンタカーの後部座席からは母親の顔は見えない。うちに車がないのは母親が送られてくる養育費の殆どを自分のために散財する所為である。

 

 ふと外の景色を見る。街灯が流れるように窓の外を通り過ぎるのが見えた。まだ家にはつかないのだろうか。

 

 

「お母さん、どこか寄るの?」

 

 返事はない。何か気を引かなくてはと思い、矢継ぎ早に話題を振る。

 

「あのお医者さん、お母さんのことずっと見てたね」

「………」

「今日の夜ご飯はなに?私ハンバーグ食べたいな」

「…………」

 

 

 車が止まった。全く知らない場所だ。

 

 

「降りな」

「ここどこ?」

「降りろっつってんだよ」

 

 

 有無を合わせぬ口調に私は降りる以外の選択肢を選べなかった。ドアを開け、後部座席から外へと出る。夜の、それも明かりの消えた建物に囲まれた空間はどうしようも無く私を心細くさせた。

 

 

「ねえ、お母さ──」

 

 

 バタン。ドアは閉められ、母親の車は走り去って行った。視界が涙で滲む。精神は肉体年齢に引っ張られるなんてこんな事で知りたくなかった。この涙は心細さの涙だ。あれだけのことをされてまだ私が母親を信じたいと思っているのは──

 

 

 

 ──母親が私に魅了をかけている所為だ。一日一度、効果を上書きするように母親は私と目を合わせる時間を作った。その度に私は行為の意味を知っているが故の恐れと植え付けられた愛情がごちゃ混ぜになる。

 

 

 でもそれももう終わりだろう。

 

 私は捨てられたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう自覚した途端、私の目の前に赤黒い魔法陣が現れた。そこから夜の中でも存在がわかるほど濃密な闇が吹き出し、徐々に人のような形をとって、そうしてそれは顕現した。

 

 

 目元を隠すような黒いマスク、憎々しげに歪められた口元。腕と背中には烏のような羽を持ち、爬虫類のような尻尾──まさに悪魔と呼ぶべき風貌の大男がそこに立っていた。

 

 

 

「………アシェンヴェイル。それが俺の名だ。お前の個性で召喚された()()()の一柱」

「……まごう、しん。魔轟神!?」

 

 それは、前世におけるカードゲームのテーマの一つ。()()()()()ことで効果を発揮する悪魔族と獣族が特徴のテーマだ。

 

 

 アシェンヴェイルは苦々しげに言った。

 

「初めに言っておくがな、クルス。お前の個性はお前が『捨てられた』と認識することをトリガーとして発動する個性だ。本来なら余程の事がない限り発動しねぇ」

「……そう、だね」

 

 

 

「だがな、発動条件が厳しいのは効果が強いのが相場ってもんだ。お前がこの俺、アシェンヴェイルを召喚した以上、俺はお前の(しもべ)となる」

「……ええと、その、よろしくね。アシェンヴェイル」

 

 

アシェンヴェイルは口元を僅かに──それでも口角は下向きだったが──笑うように歪め、

「任せておけ。俺一人でも十分お前を守るに足りると言うことを見せてやる」

 

 

 と、宣った。その言葉の真意はアシェンヴェイルのみが知る。




続かない思ったより見てくれる人がいたので続き書いてみる。


個性「魔轟神」

正確には「魔轟神クルス」。捨てられることによって墓地のレベル4以下の魔轟神の蘇生が可能。


この作品では「墓地」とは切り捨てたもの、あるいは可能性その他とする。主人公はTS転生することで性別上の「男」を捨てたので「墓地」から男らしい魔轟神としてランダムに選ばれたのがアシェンヴェイルだった。


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魔轟神アシェンヴェイル

予想以上のアクセス数に焦って逃げようとしたんだ。そしたらお気に入り数が俺のケツを引っ叩いてこう言ったのさ。

「じゃあ一体誰が続きを書くんだい?」


ってね。






 この世界においても、五歳の少女と顔の上半分を覆う仮面の大男の組み合わせは事案であろう。しかしながら捨てられた身、行く当てがないのも確か。

 

 警察を頼るとして……母親の元に送り返されたら?いや十分育児放棄は虐待だろう、母親が逮捕されたら里親を見つけてくれたりするのだろうか。顔は知らないが父親とかが来る可能性もあるな。

 

 

 

「どうしたら、いいかな?」

 

 

 

 話を振られたアシェンヴェイルは頭を掻き、

 

「悪い、俺はこの世界について詳しくねぇ。こんなことならクシャノでも無理やり連れてくるんだったな……。分かりやすい武力が必要かと思って出てきたんだが」

「クシャノ?」

「ああ、俺らの中でもとりわけ知恵が働くやつだ。それと、俺も一つ聞いておきたいんだが」

 

 

 アシェンヴェイルはことさら口元を歪めて言った。

「母親のことどう思ってる?」

 

 

 

 彼の口元はもはや不機嫌Lv.8みたいな様相だったが、目は確かに此方を見て、私はそこから此方を尊重するような意思を感じた。だから私も真摯に、取り繕わずに胸の内を吐露する。

 

「……腹立つ。五歳を深夜の郊外に放り出す神経も自分のために子供を利用しようなんて精神も許したくない」

 

「潰すか?今から追えば追いつくと思うが」

「……だめ。やるならもっと惨めに」

 

 

 復讐は何も産まないわけではない。マイナスをゼロにしているから何も産み出していないように見えるだけだ。復讐の本質は生産ではなく精算だ、というのが私の持論である。

 

 

 であれば、人生マイナススタートの私がそれをするのは実に自然なことであり、誰も止める権利などない。

 

 

「もっと地位を上げて、名声を得て、あいつの土俵(持て囃され具合)で完膚なきまでに叩きのめす。それで、ようやく私はスタートラインに立てる……と、思ってる」

「……好きにしろ。俺はお前の力だ、思うまま振りかざせばいい」

 

 アシェンヴェイルを見上げる。彼は紛れもなく私の個性で、私の味方だ。信じられる相手という存在は良いものだ……。

 

「それで、どうするんだ?」

「簡単な話、だよ。この世界には個性が強いほど高い地位に立ちやすくて、目立って、給料が高い職業があるんだ。ヒーロー、って言うんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後適当な廃墟を探して一晩休み、翌日は図書館やらを巡って情報を集めた。

 

 

 

 

 

 この世界における孤児院、それに準ずる施設というのは想像していたよりずっと待遇がいいらしい。この個性社会で埋もれた才能を腐らせないように、また不遇な生まれに絶望してヴィランとなるケースを防ぐために国が施設の管理をしているせいだ。ほかにも優秀な人材には政府が学費を負担したりと、「ヒーローを目指す身元不明の少女」には随分と都合が良かった。

 

 

 という訳でやってきたのは交番。さあ、私の演技力が試されるときだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎とある婦警さん視点■

 

 

 

 

 

 

 それは本当に偶々だった。

 

 

 なんとはなしに私はガラス製の自動ドアの向こうに視線を向けた。

 

 黒羽と薄汚れたワンピースに伸び放題の黒髪、俯く姿は涙を堪えているよう──そんな風貌の幼い女の子がドアの前を通って行った。

 

 気になった私は交番から出て、その女の子を呼び止めることにした。結論から言えばこの判断は間違っていなかった。

 

 

「ちょっといい?」

「………ぐす」

 

 女の子は手を顔で覆い、泣いているように見える。

 

 

「一人でどうしたの?お母さんは?」

「おかあ、さん、うぅ……」

「大丈夫、大丈夫よ。何があったのかお姉さんに聞かせてもらってもいい?」

 

 

 私はその子を落ち着かせるようにそうっと頭を撫でた。掌に硬いものが触れて、彼女の額に小さな角が生えているのがわかる。蝙蝠みたいな羽も相まって、なんだか童話に出てくる悪魔みたいだ。

 

 

 

「落ち着いた?」

 

 

 女の子はこくこくと頷いた。

 

「じゃあお名前聞いてもいいかな?」

「ん……来栖。名字、漢字、わからない」

「来栖ちゃんね。お母さんかお父さんは近くにいる?」

 

 

 

 

「……おいてかれちゃった」

 

 

 

 

 驚いたことに来栖ちゃんは昨日の夜に親に……その、捨てられたらしい。あり得ない話だ、母親は何を考えているのだろうか。思わず私は抱きしめてしまった。

 

「大丈夫。私に任せて」

「え、えっと」

 

 困惑する来栖ちゃんを抱き上げて、交番へと戻る。上司は事情を説明すると複雑な顔をして、

 

「君はその子の面倒を見ててくれ」

 

と何処かに電話をかけ始めた。私は来栖ちゃんを抱っこしたまま別室へと移動することにした。

 

 

 

 

「よっこいしょっと。もう降りて大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

「いいの。ちょっと待っててね、飲み物とってくるから」

 

 

 

 

 

⬛︎クルス視点⬛︎

 

 

 

 

 

「ちょっと待っててね、飲み物とってくるから」

 

 

 そう言って婦警さんは部屋から出て行った。

 

「……ふう」

 

 疲れた。なまじ精神が歳を食っているので五歳児の話し方がわからない。結局口数を減らして誤魔化すことにしたが……怪しまれずには済んだようだ。

 

 私は懐からカードを取り出した。褐色のそれには『魔轟神アシェンヴェイル』と刻まれている。

 

 アシェンヴェイルを図書館に連れて行くのは流石に無理があったので姿を消したりできないか聞いたところ、「カードにならなれる」との返事をいただいた。アシェンヴェイル自身の意思で元の姿に戻れるらしい。便利だ。

 

 

 因みに私はカードになれなかった。当たり前といえば当たり前である。というかアシェンヴェイル、こうやってみると攻撃力低いな……。

 

 

 

(喧嘩売ってんのか?)

 

 

 考えていることが伝わったらしい。ごめんよ、でも君攻撃力あげられるでしょ?

 

 

(……その効果は使わないようにしている。お前にとっても不幸なだけだからな)

 

 なんでよ。幾ら尋ねてもアシェンヴェイルは教えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お 知 ら せ

・元々一話で設定として残しておくつもりでしたのでプロットは存在しません
・作者は実のところヒロアカについてほとんど詳しくないです
・遅筆です
・スマホ君がいらん気を効かせて「クルス」を「クリス」に変換することがあります。誤字多いです


因みに作者は一応ヒロアカの二次創作を過去に一度書いたことがあります。治療キチの全六話くらいの。その時いろいろ調べた知識だけでこの作品を書いております。

ですので、続いてもUSJあたりが限界です。それ以降は単行本買わねばならぬ。新品は買う金ないしなぁ……


あ、あと次の話の展開に迷っているのでアンケートにご協力いただけると嬉しいです。孤児院にしろ婦警さんルートにしろ小学校とかの描写は限りなく薄くなると思います。

何れにせよさっさと高校まで行かせたいと思ってます。ストーリーが安定するので……。




*追記
作者が忙しいので八月の三日くらいまで執筆に手が付けられないです。なので三日午後四時ほどまでアンケートは開設しておくつもりです。一日二時現在で同投票数なのヤバいな


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個性

クッソ雑な導入話です。お許しください。


 結局私は孤児院に引き取られる運びとなった。そこでは幼児から高校生まで幅広い年齢の子供がいて、高校生などの高学年は個室、それ以下は数人で一部屋を使うそうだ。

 

 さて。孤児院で暮らし始めてわかった事であるが、高学年の面倒見が非常に良い。まさに兄、姉のように接してくる。それはありがたい事ではあるが、一人の時間が作れないというのはなかなかに問題であった。

 

 

 そこで私は深夜に相部屋の子たちが寝たのを確認して、こっそりと部屋の窓から抜け出し、アシェンヴェイルに運んでもらいとある海岸まで来ていた。この海岸、海流の関係で漂着物が多く重ねて不法投棄も横行しなかなかのゴミ山を築き上げている。

 

 

「さて」

 

 月の光のもと、私は冷蔵庫をぽんと叩いた。

 

「オールマイトは、弱体化しても冷蔵庫を余裕で潰せる。パンチで上昇気流を起こして天候を変えることもできる。私は原作をはっきりと覚えてないけど」

 

「……流石に天気を変えるのは無理だ」

「いや、そこまで求めてないから、大丈夫。とりあえず、そこの冷蔵庫殴ってみて」

 

 

 アシェンヴェイルは無言で拳を振り抜いた。バゴン!という音と共に冷蔵庫がひしゃげる。ううむ、

 

「力が強いのはわかったけど……どのレベルかわからないね。アシェンヴェイルって攻撃力1600じゃない?」

「そうだ。位階……レベルという表現が正しいか、とにかくお前の個性で呼べるのはレベル4以下。その中では俺は高い方だ」

「そっか」

 

 

 仮に原作の弱体化オールマイトをアーミタイルと仮定しよう。攻撃力は1万、だいたいアシェンヴェイルの6倍くらいか。妥当な気がしてきた。

 

「で、上げる方法は」

「教えないと言っている筈だ」

「せめて手札が何かだけでも教えてよ」

「碌なことにならん」

 

 強情である。

 

「にしてもアシェンヴェイルの相対的な強さがわからないなぁ。その辺のヴィランでも相手にしてみる?」

「やめとけ」

 

 

 

 ここのところアシェンヴェイルには断られてばっかりだ。

 

 

 

 

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 小学校、割愛。私の個性は「召喚」と偽っているが、見た目が恐怖感と威圧感満載なので人前で召喚しないようにしている。なので傍目に見ればただの悪魔っ子。十分個性的な見た目なので無個性と言われることもなかった。

 

 強いて言うならば低学年の時は精神年齢の違いがキツかった。少年名探偵はあの頭脳でよく一年生の中に混じって授業受けられているなと思う。授業足し算引き算レベルなのに……。

 

 

 

 

 中学校、大問題。同級生に緑谷出久がいた。

 

 そもそもの話、私は彼と同じ年齢だとは思っていなかった。何故って……同じ確率の方が低いだろう。転生しました、で主人公と同じ年齢な方が難しいと思っていたが、やはり世界は私に厳しいらしい。なるべく関わらんとこ。

 

 ……そんな思いむなしく三年生で同じクラスになったのだが。この時にはもう諦めて普通に、むしろ手助けする方向で行くことにした。主人公の強化はそのまま物語の難易度低下につながるんじゃないかと思ったのだ。別に私は№1ヒーローを狙っているわけではないので、強敵は彼に頑張ってもらう方向でいこう。

 

 

 

 

 

「三年ということで、お前らも進路を考える時期だ。と言っても大体ヒーロー科志望だろうけどね!」

 

 いまは進路志望調査の時間である。先生の声に沸き立つ周りに合わせて手を挙げてみる。と、先生が私の方を見て、

 

 

 

「ああ、そういや爆豪と真陣(まじん)は雄英高志望だったな」

 

 と言った。真陣は私の孤児院の名前だ。

 

 

 

 

「国立の!?」

「倍率もやばいんだろ!?」

「来栖ちゃんって個性なんだっけ?」

 

 

 

「うるせえええええ!黙れモブ共!」

 

 そして最も騒がしい彼──爆豪君は私に指さして言った。

 

「お前にはぜってー負けねぇ!!!」

「……頑張って、ね」

「あああああああああああ!」

 

 模試の成績上彼はいつも私に対してあんな感じである。そのあと緑谷君が雄英志望だと知ってさらにキレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わって、緑谷君がまた絡まれることを知っていたので私は先回りして降ってきた彼のノートをキャッチ。ついでにぱらぱらとめくってみる。ええ、これ十三冊目なの?この密度で?

 

「……すご」

「あ」

 

 

 うっかり読み入ってしまったらしい、目の前には緑谷君がいた。

 

「……ごめん。落ちてきたので読んでしまった」

「あ、えと」

「はい」

 

 

 緑谷君はぺこぺこと礼を言いながらノートを受け取り、すごい勢いで帰っていった。確かあの後オールマイトとの邂逅イベントがあるはずだし、これ以上引き止めないほうが良かっただろう。私も帰ることにした。

 

 

 

 

 懐からカードを取り出す。

 

「あれが未来のスーパーヒーローだよ」

(信じられねぇな……お前がそういうならそうなんだろうが)

「あれで数か月すれば200㎏は運べるくらいの筋肉をつけるらしい」

 

 

(……待て。この世界の人間は体の構造がおかしいのか?)

「アシェンヴェイルもそのうち抜かされるかもね。一緒に鍛えてもらえば?」

 

(……攻撃力は固定だ、鍛えたところでどうもならん)

「てことは……ニセ筋?」

(お前年々遠慮を忘れていくな)

 

 

 

「長い付き合いだし。あ、ちょっとスーパー寄るよ。牛乳とか買わなきゃ」

(もう成長期は終わったと思うが)

 

「……遠慮なくなったのはアシェンヴェイルも同じだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お願い……します」

 

 

 緑谷出久は未だ滲む視界を強引に拭って、オールマイトの問いに答えた。その決意は早い。

 だって、これはずっと思い続けてきた夢だから。

 

 

 オールマイト(トゥルーフォーム)はニヤッと笑い、

 

 

「そうくると『あ』………ん?」

 

 

 ここは別に秘密の部屋とかそういうのではなく、ただの路地である。故に、人が来る可能性は十分あることだった。曲がり角から現れて声を上げたのは、

 

 

 

「まままま真陣さん!?」

 

 

 

 買い物袋を手に下げた出久と同じクラスの少女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ようやっと原作に追いついた。正直たどり着くまでが一番きつかった。次回からもうちょっと原作キャラとの絡みが増えるはずです。


因みに五巻まで単行本買いました。なので少しだけ情報が増えました。



どうでもいい話ですが、皆さんは学校にテロリストが来て自分が敵をボコボコにする妄想をしたことありませんか?作者はしたことあります。



では、ボコボコにしたそのあとの話、事後処理や後日譚を考えたことあります?


私はないです。結局のところ、導入だけの妄想ばかりしているといざ小説を書いたとき設定だけできて着地点を見失いがちなんですよね……。オチを作る能力が鍛えられてない。

私はしょっちゅうこれなので見切り発車が多いんですよね。もう少しストーリー性のある妄想しとけばなぁ……!



弁明は以上です。

こんな作品に100以上のお気に入りや評価ありがとうございます。低評価は……よく見る顔なので気にしない方向で行きます。





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手札を一枚墓地へ送って

喜びの投稿


 私は踵を返し、離脱を試みた。

 

「お取込み中でしたか、失礼しました」

「STAYだ悪魔少女!」

「……ちっ」

「思ったより口悪いね君!」

 

 

 

 やせ細った金髪の男性、つまりはオールマイト(トゥルーフォーム)は血を噴きながら私の肩をつかんで止めた。

 

「……何用、ですか」

「いやね? ……ぶっちゃけ、聞いてた?」

「何のことか、わかりかねます」

 

 

 ごまかす方向で行く。オールマイトの正体を知っているのは緑谷君一人ということにしておこう。何が楽しくて渦中に巻き込まれなくてはならんのだ。

 

 

「あ、あの!真陣さんはどうしてここに?」

「……緑谷君は、私の個性知ってるんだっけ」

「え?ええと……召喚、って聞いたけど」

 

 

 オールマイトが少し驚いたような顔をした。

 

「その見た目は個性じゃないのかい?」

「一部です。 ……実演したほうが、早いですか」

 

 

 

 私は懐から褐色のカードを取り出して、宣言する。

 

 

「召喚『魔轟神アシェンヴェイル』」

 

 

 

 赤黒い魔方陣がカードを取り囲むように現れ、そこから濃密な闇が吹きでる。あくまで演出だが、雰囲気があっていいと思う。

 闇が晴れると、そこには悪魔が立っていた。

 

 

「……!?」

 

 緑谷君が何やら驚いている。

 

「なんて威圧感だ、あんなのが自由に出せるのか!?いや真陣さんは名前を言っていた、ほかにも出せるとみていいかもしれない……なんて汎用性だ!あの羽が飾りじゃないならきっと飛べるんだろうし、パワーもおそらく体つきからして高い。けど何より気になるのは仮面の形、腕の羽、ベルト──どことなく、」

 

 

「オールマイトに、似てる?」

「……だって。その辺どうなの?」

 

 

「……知るか」

 

 その言葉に今度こそオールマイトは驚きを露わにした。

 

「自由意志があるのかい!? ……悪魔少女、君は、その個性を御しきれているのか?」

「それは──」

 

「それは、大丈夫だと思います」

 

 

 代わりに応えたのは緑谷君だった。

 

 

「今日だって、その、僕のノート拾ってくれたりして、その、優しい人、だと思うんです。それに雄英志望ですし」

「……そうなのかい?」

 

 

 

 

「……はい。お金、欲しいので」

「素直!!!!」

「じゃあ、失礼します。またね」

 

 

 

 

 さっさと逃げようね。わざわざ召喚したのはこのためである。普段なら目立たないように歩くなりなんなりしている、着陸場所選ぶのも大変だしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 自身の個性に背負われて、少女は飛んで行った。

 

 

 

「少年……君は悪魔少女の動機を知っているのかい?」

「あ、はい。真陣さんはええと、その、孤児院の出身なんです。うちの学校では見た目も相まってそれなりの有名人というか」

「なるほど……」

 

 

 目的のないヒーローなど存在しない。そしてその目的に懸ける思いが強いほど人は強くなるものである。だから、

 

 

「……彼女は強いぞ」

「わかってます。それでも、僕はやっと見えた夢をあきらめたくない」

「その意気だ!じゃ二日後の朝六時、この海浜公園集合ね」

「展開が早い!!」

 

 

 

 

(──だが、やはり気になる。話を聞いていなかった確証も無し、少し様子をみようか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 孤児院の近く、人通りのない路地に着地。アシェンヴェイルはカードに戻して、そのまま孤児院へ向かう道中に、見慣れない車があった。まあ、新しい子が来るならばそういうこともあるだろう。何も聞かされてはいないが、一先ずその脇を通り過ぎようとして──

 

 

 車のドアが開いた。そこから男の腕が伸び、私を強引に車に引っ張り上げる。その中には、

 

 

「野垂れ死んでなかったとは思わなかったわ」

 

 

 ──憎たらしいあのクソ女(母親)の姿があった。咄嗟に、

 

 

「アシェンヴェイルッ!」

「抑えときなさい」

 

 

 私の言葉に応じ召喚されたアシェンヴェイルは、即座に私の腕をつかんでいた大男を思い切り殴りつけた。しかし、

 

 

「そいつの個性は肉体増強。残念だけど貴方では無理」

「チッ……!」

 

 

 

 アシェンヴェイルの拳は受け止められていた。大男は私をクソ女に渡してから車外に降り立ち、アシェンヴェイルを分断する。つかみ合う二人の姿が見えた。

 

「さて。お前がまだ生きていると知ったときは焦ったけれど……よく考えたらそれはそれで利用価値があるものね」

 

 クソ女は座席に私を抑えつけるように私の首を片手で締めつつ、もう片方の手で私の瞼を抑えつけた。その眼が妖しく光る。

 

 

「お前はあたしほどじゃなくても見た目がいいから……捨てるよりは()()()方が得だったわ、どうして気が付かなかったのかしら。どうせまだ処女でしょ?付加価値も十分ね──はい、30秒」

「あ、あ」

 

 

 脳内に忘れたはずの親愛が渦を巻く。私の復讐心とそれがぶつかり合って、訳が分からなくなった。クソ、ああ、()()()()、いや、復讐を、それは、信じられる、

 

 

 

「あシェ、ん、ヴェイ、る、の、効果、を発動」

 

 外から、何かを悔しがるような声がする。

 

「──あああああ、クソがああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 ごっそりと何かが抜け落ちる感覚を覚えた。心が急激にその温度を下げ、目の前の女に憎しみしか覚えない。その横顔を見慣れた拳が撃ちぬいていく。アシェンヴェイルの体は赤黒く発光していて、その足元には血まみれの大男が倒れているのが見える。急に首を絞める手が離されたことで、私はえずいた。

 

「げっほ、ぐう、うえ」

「殺す」

 

「……だめ、私の、願いは」

「……………ああ」

 

 

 

 

 アシェンヴェイルはゆっくりと私を車から引っ張り出した。同時、クソ女を乗せた車が猛スピードで走り去る。運転手が見えなかったのは何かの個性かもしれないが……そんなことより、だ。

 

 彼の口元は憎々しげに歪められている。

 

 

 

「……何を捨てた」

「きっと、親愛。そっか、そういう効果だったんだね。手札っていうのは」

 

 

「……お前を構成する要素だ。つまりは、俺の能力は、一部だとしても『クルス』を捨てる行為に他ならない」

 

 

 アシェンヴェイルの傍に赤黒い魔方陣が生まれた。

 

 

「あくまで一部だから、個性は十全に発揮されない。直前に捨てたものを召喚するくらいが関の山だろう」

 

 

 

 魔方陣からは闇が噴出して、徐々に人の形をとる。それはアシェンヴェイルより細身な姿。

 

 

 

 

「捨てたのは親愛。それも特に母に対するもの。であれば、それを色濃く反映したやつが召喚される」

 

 

 

 闇が晴れて、姿を現したのは──

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、になるわね。魔轟神が一柱、グリムロよ」

 

 

 

 

 現れた女性はその烏のような羽を広げ、私を抱きしめて囁いた。

 

 

 

 

 

「──貴女が捨てた愛情の分、私が貴女を愛してあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






因みに捨てたものは効果を使わない限り墓地から回収することは不可能です。




グリムロさんは多少のヤンデレ属性が付与される予定です。世話焼きお姉さんLv10にさらに「レベルアップ!」を使用した感じ。


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魔轟神グリムロ

予約投稿ですので、コレが投稿された時分作者はスヤァしていることでしょう。コレも全て感想がいっぱいくるせいなのです。


なおおそらくですがこの作品でクルスちゃんの代わりに吹っ飛ぶのは青山君か砂藤くん。クラス21人って微妙ですしね……




  警察を呼んだ。あの女が私の母親であることは伏せて、ただアシェンヴェイルが叩きのめした大男だけを突き出す。掴まれた腕が赤くなっていたからか、私も同行する羽目になった。結局孤児院に戻ったのは七時過ぎだったように思う。

 

 

 心配する兄弟姉妹達を「疲れているからまた今度ね」とやんわり引き離し、中学生になって与えられた自分の個室に入った。

 

 

 

 ──全て見知らぬ人間のように、家族に対して何も感じなかった。昼のうちはちびっ子にスーパーでお菓子でも買ってやろうなんて思ってて、食材は兄や姉の負担を減らそうと思って。そんな同じ家に住むなら抱いて当然であろう親愛の情をも、母親へのそれと共に私は失ったのだった。

 

 

「召喚」

 

 カードを二枚掲げる。いつものようにアシェンヴェイル、その隣にはグリムロがいた。

 

 

「あまり気に病むべきじゃないわ。親愛は確かに大きな感情ではあるけれど、恋とか性愛とかとは別物だもの。それに貴女が望むなら……その何方も与える準備はできているのよ?」

 

 

 グリムロはにっこりと笑って見せた。

 

「……保留で」

「あら残念。ところでアシェンヴェイル」

「何だ」

 

「強化前だと私の方が攻撃力高いって知ってた?」

「………」

「貴方は、仕方がない話だけれど……能動的に手札を捨てる手段だわ。だからこその最初に呼ばれた魔轟神」

「何が言いたい」

 

「──一応、同性だし。これからはクルスちゃんの面倒は私が見たほうがいいと思う」

「……分かった。お前に任せる。有事の際に呼び出してくれりゃあいい」

 

 

 なんか二人で話が勝手に進んでいる。というか、別に私はアシェンヴェイルが嫌いなわけではない。これは……親愛ではないなら自己愛に入るのだろうか?そんなことを考えつつ、私は待ったをかけた。

 

 

「別に、何もなくたって呼ぶよ。付き合い長いし」

「……そうか」

 

 

 

 今度こそアシェンヴェイルはカードになった。

 

 

 

「優しいわね」

「信頼だよ」

 

 

 

 主人公にとってターニングポイントであった今日は、私にとってもそうであった。

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から数日後のおよそ深夜三時。これまた孤児院を抜け出して私は例の海浜公園に来ていた。季節は夏に近づいていようと、夜はまだ肌寒い。

 

 

「グリムロの言う、攻撃力ってのは、どう言う数値なの?」

「……まぁ、火力に関する総合的な評価と言ったところかしら。重要なのは力そのものじゃないってことね」

 

 

 グリムロは近くにあった軽トラを指差した。指先にバスケットボールほどの黒い球が街灯に照らされて浮かび上がる。グリムロが指を振るとそれは軽トラに突っ込み、ベキバキバキ!と音を立ててそれを破壊した。

 

 

「つまり、私はこういう攻撃手段こそあるけれど、腕力があるわけじゃないってこと。そういうのはアシェンヴェイルに任せておけばいいわ」

「なるほど……。他に何かできたりするの?あ、別に今のが、駄目って言ってるわけじゃないんだけど」

 

 

 グリムロが破壊したトラックを眺める。

 

「他に……?貴女を愛することなら」

「違う、そうじゃない」

 

 

 違うのである。一応私も元男、綺麗な女性に憧れがないわけではない。ないのだが……どうにも身近に外面良し中身クソな女性がいたもので。あえていうならもうこりごりって感じなのだ。

 

 男は恋愛対象にならん。そういう意味では気楽に接することができる。

 

 

 とりあえずアシェンヴェイルも呼んだ。先ほどの説明からして、アシェンヴェイルはどのくらいの重量を持ち上げられるのか気になったからだ。

 

 

「てなわけで。軽トラって、大体1トンくらいらしいよ」

 

 私はスマホを眺めながら言った。アシェンヴェイルはそうか、と呟くと軽トラの正面に両腕を突き刺して、そのまま持ち上げて見せた。

 

 

「………すご」

「このくらいならどうにかなるな」

「その筋力を超えるグリムロの攻撃力って一体………」

 

 

 

 色々と試した。軽トラの荷台に冷蔵庫やらなんやらを乗せ、重量を増して再チャレンジ。目算1600キロくらいが限界だった。この世界でそれが強いのか弱いのか……クソ女が連れてたあの大男、アシェンヴェイルと対等に渡り合っていたが。

 あいつの個性は制限時間と引き換えに一般的な増強系の個性より爆発力を上げるものだったらしい。あてにならん。

 

 

「……ん。そろそろ四時、帰らねば」

 

 空が明るみ始めているのが見えた。緑谷君の身体づくりのためにここはもう使われ始めているだろうから、もう利用しない方が良いかもしれない。良い実践場だと思ったんだけどなぁ……。

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 およそ、十ヶ月が経った。母親の襲撃なく、新しくカードが増えるようなこともなく。今日は入学試験、実技の当日である。

 

 そもそも対外的な理由として、私が孤児院に恩を返したいがためにヒーローを目指しているという話を先生や周りの生徒にそれとなく伝えている。だから孤児院の家族は私を応援して送り出してくれたし、その事には感謝している……が、同時に申し訳なさも感じる。

 

 どこまで行ってもやはり、私は彼らが「少し身近な他人」くらいにしか見えなかった。店員に親切にされたような、そんな感じ。

 

 だから。その店で買い物をすることが回り回って店員の給料になるように、私は孤児院に寄付なりなんなり還元をしよう。それは復讐という最大の目標とは違うけれど、副次的に叶うもの。それが私なりの感謝の表現方法である。

 

 

 

(作戦通り、私が単独でポイント付きの敵を破壊。クルスちゃんは──)

(俺と救助活動、だな)

(似合わないわね)

(喧しい)

 

 

 

 別に仲が良くないわけではないらしい。多分悪魔なりのコミュニケーションなんだろう。確かにアシェンヴェイルは顔からしてヤバいし、グリムロも黙っていればダウナー系お姉さんって感じで雰囲気あるんだけど……。どうにも私と接する時は世話焼きお姉さんとしての側面が出過ぎというか。

 

 

 

(任せなさい。試験でかっこいいところ見せて惚れ直させてあげるわ)

 

 

 聞こえていたらしい。それと別に惚れてない。そう心の中で言いながら私は受験会場の門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほとんどの作者さんがそうだと思うのですが、作者にとって感想というのは一種のドーピングであり魔剤でして、届けば嬉しくモチベーションがアホほど上がるものなのです。

なんならアクセス数、お気に入り数や評価もめちゃめちゃ嬉しいのです。しかし、感想は言葉で残るし時間経過で変動するようなものでもなく、いつ見返しても嬉しくなれるものでして。

長々と語りましたが、とにかく言いたいのは、読んでくださってありがとうございます、ということのみです。


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属性

感想に追いつけなかったので一先ず投稿を優先しました。今からお返事返します


「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!」

 

 

 

 一応いうならば彼は雄英の教師、「プレゼント・マイク」である。隣の席の緑谷君は偉く感動しているのか、先程から独り言が絶えない。

 

 

 そう。隣。

 

 うちの中学校で雄英志望の三人は何の因果か同じクラスであった。それで出席番号順に願書を提出したものだから、ば→ま→みと言う順番になる。つまり、私は爆豪君と緑谷君の間の席に座っているわけだ。もう片方からの爆豪君の圧が強い。こんな試験で唯一の救いと言えば、

 

 

 

 

「プレゼン後は各自指定の演習場まで向かってくれよな!」

 

 これである。爆豪君の言う通り同級生との協力を防ぐためであろう、私も緑谷君も爆豪君も別会場なのだ。

 

 

「てめェらを潰せねぇじゃねぇか」

「……私も、入ってるの?」

「舐めてんのかぶっ殺すぞ」

「残念だけど、会場が違うから、無理」

 

 

 爆豪君は静かにキレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界は個性によって人型を大きく外れることもあるからか、実にバリアフリー化が進んでいる。私が今着ているジャージもその中の一つで、背中の羽を通せるように穴が開いているのだ。正直いちいち羽を通すのが面倒なので受かった際のコスチュームは背中の開いたワンピースのようにしようと考えている。カードイラストのグリムロみたいな感じで。

 

 グリムロ本人には言わないけど。絶対お揃いとか言って調子に乗る。

 

 

 

 そんなことを考えながら演習会場に着いた。見た限り原作にいた人物はいないみたいだ。私は懐から二枚のカードを取り出し、後ろに下がって開けた場所を確保した。どうせ追い越すしね。

 

 

 

 

「ハイスタートー!」

 

「召喚『魔轟神アシェンヴェイル』、『魔轟神グリムロ』 ……じゃあ、手はず通りに」

 

 

 

 私はアシェンヴェイルの背中によじ登って、背負われる格好となった。え?自力で飛べないのか?

 

 ……翼のサイズが足りないのである。背は伸びても翼は成長しなかったため、グライダーのように使えればマシくらいに思っている。

 

 

 

 

 

「敵はお願いね、グリムロ」

「任されたわ」

 

 

「よし。じゃあアシェンヴェイル、まずは空から様子見。適度に敵に囲まれてる生徒の援護から入ろうか。まだけが人なんていないだろうし」

「ああ、わかった」

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターに映る試験会場の映像からでも、すでに「合格しそうな人間」は数人見てとれた。高所から敵を把握できる者、あるいは電気というある意味ロボットにとって特効的な個性を持つ者。中でも一際目立っていたのは、空を飛びまわる黒羽の男とその背中におぶさっている少女だろうか。

 

 戦闘能力の高そうな見た目と相反し、彼らは自分から攻撃することを一切しなかった。高所からの視界を利用して只管に救援に徹し続ける。

 

 

 

 

 だが観察していた教師陣がそれについて何か論ずる前に、別画面からの爆音が響いた。受験生の一人がポイントのない大型敵を拳一つでぶっ飛ばしたのである。沸き立つ周囲の中でオールマイトは一人、緑谷出久と同中学校の……悪魔のような見た目の少女を注視していた。

 

 

 

(……召喚したのは確かに二体だった。飛行能力を有する悪魔と、指先から黒い球を打ち出して敵を破壊しているあの黒羽の女性)

 

 

 トゥルーフォームで出会ったときは一体だけしか召喚していなかったからてっきり召喚できるのは一体のみだと思っていたが……いったいどこまでの召喚が可能なのか?召喚した女性の戦績からして合格はほぼ確実だろうから──あとで声をかけてみるのもいいかもしれない。そう考え、ふとほかの画面を見る。

 

 

 黒羽の女性がこちらを見ていた。

 

 

「──ッ」

 

 

 

 

 

「終了~!!」

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレゼント・マイクの終了の号令が聞こえた。私はグリムロを見つけて、アシェンヴェイルと共にその横に降り立つ。

 

 

「お疲れ、グリムロ。……どこみてるの?」

「何でもないわ。ちょっと、そうね、クルスちゃんに猫耳を生やす方法を考えてただけよ」

「なぜ猫耳……?」

 

 グリムロはにこにこしながら訊いてきた。

 

「犬と猫、あとは……ちょっとマニアックだけど馬とか。どれが好き?」

「それ、動物の話だよね?」

「……獣の話よ」

 

 

 何が違うというのか。

 

 

「でも、理解はしておくべきだわ」

 

 そう言ってグリムロはカードになった。舞い落ちるそれをキャッチすると、彼女の意思が伝わってくる。

 

(この世界での魔轟神グリムロ()の効果は『私を捨てることで()()()()()()()()()()()()()()()()』よ)

 

 

「グリムロを、捨てる?」

 

(まあやりたくはないけれどね。貴女を愛せなくなるんだもの。……でもね、もし貴女がどうしようもなくなったら迷わず効果を発動しなさい)

 

「……それは、やだね。そんなこと起きないようにしないと。で、それと猫耳何の関係があるの?」

 

 

 

 

 

 

(──いや、貴女を構成する手札にキャシーあたりを持ってきたら、それが反映されて猫耳属性が付与されないかな、って)

「馬鹿なの?」

 

(可愛ければいいのよ)

「馬鹿なんだね」

 

 

 

 

 

 

 

 すでに悪魔っ娘属性があるというのに増やしてどうしろと言うのだ。そう軽口を叩きながら、私の意識はUSJに向けられていた。

 

 最初の敵襲撃イベント。記憶の限りでは楽そうに思えるが、プロヒーローが負けている時点でとても安全とは言えない。何よりあの脳無という存在、文字通り私の手札では相手にならない。オールマイトがギリギリで撃退できた、そんなやつとまともに戦うなんて正気の沙汰ではない……逃走手段の一つや二つは用意しておかなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに無事合格した。こんだけ考えて不合格だったら笑い話にもならないので少し安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なおノズチを連れてくると肌が鱗っぽくなります。


実装は考えてません。


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攻撃力

BLEACHのチャドと最近の米津って似てますよね


 ここは雄英高校1年A組。倍率300を超えるとされるヒーロー科の成績が良い方のクラス。うちの中学校から三人も合格者が出たからか、中学校の担任の先生は驚きを通り越して焦っていた。自分のクラスから超難関進学者を輩出したせいで色々なところから話が来ているらしい。

 

 

 自分の席でそんなことを考えていると、緑谷君が大きなドアを開けて入ってきた。と言うことはそろそろ相沢先生も………

 

 

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 

 来た。おお、配られた体操服、背中に羽を出すためのスリットが開いている。市販のやつより数段着やすそうだ。

 先生に言われるがまま、体操服を着てグラウンドに出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そういえば。真陣さんは個性と自分、どっちの測定をするの?」

「ん……二回測定がある競技は一回ずつ。一回だけのやつは同時参加」

 

 

 例えばソフトボール投げなら二回のうち一回が私、もう一回がアシェンヴェイルといった具合。正直なところ私の個性は身体能力より指揮能力が求められるタイプだから、この個性把握テストはアシェンヴェイルのスペックと万が一私が一人になったときどこまで動けるか、それを測るつもりである。

 

 

 というわけで第一種目は50m走、因みに緑谷君が私のことを気にしているのは走るのが同じタイミングだから。

 

 

「じゃあ……召喚『魔轟神アシェンヴェイル』」

 

 いつも通りの演出を挟んでアシェンヴェイルを呼び出すと、

 

 

「な!?」

 

 

 先に走り終えて戻ってきていた飯田君が手を前ならえのような形にして驚いていた。

 

「真陣くんの個性はその羽ではないのか……!?」

「副作用みたいなもの。ほんとは『召喚』って個性、だよ」

「な、なるほど。いやそれにしても──」

 

 飯田君はアシェンヴェイルを見上げて、

 

 

 

 

「──随分、その。悪そうな顔に見えるな」

「だって、アシェンヴェイル」

 

 

「……知るか」

「喋った!?」

 

 

 

 試験、四六時中こんな感じだった。アシェンヴェイルに筋肉を触ってもいいか聞いていた麗日さんは大物だと思う。

 

 

 

 

 さらに余談ではあるが、私本人の試験結果は惨憺たる結果に終わった。せいぜい立ち幅跳びが少し良かったくらいだ。ソフトボール投げ15メートルってぶっちぎりで最下位じゃないか……葉隠さんだってもう少し飛んでたのに……

 

 

 

 やはり身長を伸ばすことが早急に求められる。帰りに牛乳を買わねば。

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっといいかい」

「……?」

 

 

 

 下校時刻。帰り際に校舎の陰から私を呼び止めたのはスーツ姿のオールマイト(トゥルーフォーム)だった。

 

「……緑谷君と一緒に、いた方ですよね」

「覚えていてくれたか。実は私ね、個性カウンセラーてのやってて、緑谷しょ……君とはそれで知り合ったんだよね」

 

 

 そういう設定で行くのか。

 

 

 

「で、君の個性について少し話をきいてもいいかい?」

「それなら大丈夫、です」

 

 

 

 私とオールマイトは校内の応接室にやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■オールマイト視点■

 

 

 

 

 

 少女のその個性は、召喚された者に意識がないのであればそこまで問題ではなかった。だが、そうではなかった。

 

 それは常闇少年のように体から離れないといった制約があるわけでもなく、それぞれが自分で判断し行動できる、ということだ。そしてそれぞれが並ではない戦闘能力を誇るとなれば、あまりにも汎用性が高く、そしてなんと悪用しやすいことだろうか。雄英に入学したのは正しい方向へと導くことができる、という点で正しく僥倖といえるだろう。

 

 

 

「さて。じゃあまずは……君の個性は何人まで召喚できるのかい?」

「今のところ、ふたり、です」

「今後も増える可能性があると?」

「そう、なります」

 

 

 

 ふむ。私と会った時にはまだ一体のみ召喚可能だった、とみていいかもしれないな。そうなると召喚数が増えた大きな要因として考えられるのは。

 

 

「今からさらに質問をするが、これは強制じゃない、答えたくなければそうしてもらって構わないぞ。……君は私と会った日、敵に襲われているね」

「はい。……ああ、確かにその時一人召喚権が増えたんですけど、理由はわからなくて……」

「……そうか、ありがとう」

 

 

 

 身体に危険が起きて、一体じゃ対処しきれない場合に二体目が召喚可能になる、といったあたりか。それなら雄英にいる間は万に一つも危険などないし、少女の家──孤児院にしたって、事件の後はパトロールが強化されているからこれ以上敵に襲われることはないだろう。

 

 

 

「ありがとう。こちらでも過去の個性から似たようなのを探しておこう。因みに、個性はある程度遺伝するというのは知っているかい?」

「……ええ、まあ」

 

 

 判別不明な個性のヒントを親族から得るというのは別段珍しい話ではないし、これほどの強個性であれば親もそれなりに目立つ個性を持っている可能性が高い。個性届を調べればすぐにでも特定できるだろうが……少女の出自を鑑みるとそこまで踏み込んでいいとは思えない。

 

 

 

「君の親族に似たような個性の方がいたのであれば、参考になるかもしれないね」

「……ごめんなさい、その、母親(クソ女)しか親族を知らないんです」

「すまなかった」

 

 少女はいえいえ、と手を振って否定した、が。

 

 

 

「お気遣いは有難いですが、あまり詮索しないでいただけると助かります。()()()の問題なので」

 

 

 

 

 

 

 その眼にやけに剣呑な光が宿っているように見えて、やはり私は少女が何か重いものを抱えているのではないか、と思うのだ。少年少女を導くのが教師である私の務めであるが、こればかりは今すぐどうにかできる問題でもなかった。

 

 そういえば、応接室にきてからずっと左手をポケットに突っこんだままだ。怪我でもしたのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お 知 ら せ

・作者、レポート三昧のためしばらく執筆お休み
・作者、早くクルスちゃんをいじめたいがために戦闘訓練のダイジェスト化を視野に



日常パートがあってこそシリアスが輝くっておばあちゃんが言ってたんですけど、戦闘訓練も個性テストもシリアスになる要素が一切ないのでもう次の話からUSJ行ってもいいかもしれない、などと考えてます。戦闘訓練は閑話的扱いでもいいかな、なんて





ここからはどうでもいい話。

作者はリンク召喚で遊戯王から離れたクチです。というのも、リンクモンスターには守備表示も裏側守備表示もないからです。



……作者はゴーストリックを使ってました。それも猫娘ナイトロック主軸の。



雑に説明しますと、レベル4以上のモンスターが召喚されたら「ゴーストリックの猫娘」がそれを裏側守備表示にして、永続罠「ゴーストリック・ナイト」で相手モンスターの反転召喚を封じる、というものです。

ゴーストリックのフィールド魔法には共通効果で裏側モンスターへの攻撃不可、さらに裏側のみの場合直接攻撃が可能、ってのがありまして、それで相手を動けなくしてから直接殴るといった戦法でした。



リンクモンスターが場にいたら直接攻撃できませんね。ふざけんな




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決闘

彼女の血統こそ決闘。「何かを使役する」という遺伝子。













*戦闘シーン、もしかしたらUSJの地図を見たほうがどこにいるのかわかりやすいかも。作者の技量じゃ表現がしきれなかったよ……

あと多分原作じゃ森だけどここではコンクリってことにしてください……


 入学して十数日が立った今日の午後からの授業こそ、私が気にしている「人命救助訓練」である。要望を反映させて作られた私のコスチュームは真っ黒なワンピースだった。羽が邪魔にならないよう背中が開いており、いくつかカードを入れるためのポケットがついている。

 

 

 バスの車内は賑やかで、誰も──当然ではあるが──この後襲撃があるだなんて思っていないだろう。伝えたところでどうにもならないが。

 

 

 改めて確認しておこう。私の目的はとにかく生き延びること。原作では死者など出なかったが、「崩壊」とかいう強個性に対オールマイト用改造人間……こいつらが容易に人を殺しうる存在だと忘れてはならない。それに13号の言う通り致死性の高い個性は存在する、ほかのモブ敵だって例外じゃない。

 

 

 

 

 そう考えているうちに、バスが停車した。

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 スペースヒーロー、十三号が話している間も私は広場の方が気になって仕方がなかった。黒い霧が見えたので、おや?というような表情をすると、

 

 

 

 

 

「一かたまりになって動くな」

 

 

 相澤先生がワープゲートを視認した。生徒たちがそこから出てきた集団を敵だと認識するとともに、一気に緊張が走る。この後黒霧が個性を使用して分断してくるのはわかっていたから、まだ召喚はしない。このあとどの災難ゾーンに飛ばされようが対策はしている。

 

 そう想定していたのだが。

 

 

 

 

「今回雄英高校に侵入させていただいたのは、平和の象徴に生き絶えて貰おうかと思いまして」

 

 

 

  相澤先生の隙をついて私たちの前に現れた黒霧は、爆豪くんが何かアクションを起こす前にこちらを見てこう言い出した。

 

「ああ、そうです。()()来栖さん、貴女は別です」

「……は?」

 

「こちらで感動の再会を用意させていただきました。そういう条件でしたので……では、ごゆっくり」

 

 

 想像より遥かに速いスピードで、黒霧のワープゲートが私の足元に発生した。周りから差し伸べられた手を掴む暇もなく、黒いモヤに飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──くそっ」

 

 

 飛ばされたのは火災ゾーンと山岳ゾーン、USJの壁に挟まれた三角形に近い教室*1二つ分ほどの空間だった。二つのゾーンの隙間が唯一の出口だったが、そこにはすでに数人敵が陣取っている。そいつらは私を見るや否や、

 

 

「ガァァァァァァァッ!!」

 

 

 と目を血走らせながら突っ込んできた。すぐさま上空を確認するも、蜘蛛の巣のようなものが張られている……強度は不明だが逃がす気がないのはわかった。この敵連合の襲撃が原作で用意周到に計画されたものだったように、私のこの状況も狙って引き起こされたもののようだ。すぐさま、

 

 

「グリムロ!アシェンヴェイル!」

 

 

 前口上も飛ばして二人を呼び出す。グリムロは黒球でもって牽制射撃を、アシェンヴェイルは最初に突っこんできた火を吹く赤ゴリラの顎を殴り飛ばしてから鎧を着た牛頭と取っ組み合った。

 

 

「理性的なふるまいには見えないわね……どうなっているのかしら」

「わからない、けど……普段からあんな感じでは、ないはず。なにかきっと原因がある」

 

 

 壁を背に状況のまずさを噛み締める。逃げ道を作れないことにはジリ貧である。

 

 

「アシェンヴェイル、ゴリラ起き上がった」

「またか、クソ」

 

 

 随分と打たれ強いのか、アッパーを決められたはずの赤ゴリラが立ち上がって吠えた。グリムロの黒球が殺到しダウンを狙うが、それらは少し血を流させるだけで赤ゴリラの勢いは全く衰えない。そのままアシェンヴェイルの方向にナックルウォークの要領で突進する。

 

 

「止められる!?」

「通すわけにはいかねぇからな……ッ!」

 

 

 アシェンヴェイルは腕をクロスさせ衝撃に備えた。赤ゴリラがその上から質量を乗せた拳を繰り出し、

 

 

 

ガオン!!

 

 

 

 と音がしたと同時、気づく間もなく私は吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。

 

 

 背中がひどく痛む、羽が特に尋常ではない痛みを訴えている。頭も打ったのか視界が安定しない。気分が悪くなり思わず吐いた。

 

「クルスちゃんッ」

「はーッ、はー、どう、なって……?」

 

「私にもわからないけれど……まるで衝撃がアシェンヴェイルを貫通して伝わってきたようだったわ。あいつの効果は火を吹くことではないの……?」

 

 

 

 

 

 

「──良いザマね」

 

 私の意識を鮮明にしたのは、よく聞き覚えのある女の声だった。

 

 

「……やっぱり、お前か、クソ女」

「あたし、そんな言葉教えた覚えないわ。にしても」

 

 

 クソ女(母親)は醜く顔を歪ませて、

 

 

「その反応だと、あたしの顔に疵をつけたのがどれほど許されないことかまだわからないらしいのね?」

「……は?」

「なにその顔。ムカつくわ、ああイライラする。子供なんて親の言うことに従ってればいいのに……でもおかげであたしの個性の()()()()に気付けたんだから、そこは褒めてやってもいいわ」

 

 

「本当の、力?」

 

 

 クソ女は悦に入るような、自分に酔うような口調で語りだした。

 

「そう。ずっと、相手を惚れさせる個性だと思ってた。でも、本当は……あたしの気持ちを共有する個性だった!」

 

 

 傍にいるグリムロがそっと私の手を握った。

 

 

「いままではあたしの『あたしは魅力的』って気持ちを共有してたワケ。でもあんたに、そこの男にあたしの大事な顔を殴られてから、あたしの個性を使った相手は全員キレた。当然よね、あたしもおんなじ気もちだったんだから。だからここにいる男は全員あんたに抑えきれないほどの殺意をもってるの」

 

 

 

 

 ……グリムロ?

(わかるわね?もう効果を使う以外突破策がないってこと)

 

 ……たしかに私が考えた策はどれも『USJ内のどこかの施設に飛ばされること』を想定してた。でも、まだ策はっ

(策ならあるわ。こんなクソみたいな状況も、あの女もぶっ飛ばす最低の策が)

 

 ……最低?

(ええ。こんなのじゃ貴女の愛なんて口が裂けても言えなくなるような、そんな策)

 

 

 

 クソ女の声が私を現実に引き戻す。

 

「……聞いてんの?随分と余裕じゃない、五里くん(赤ゴリラ)に苦戦するような分際で……!」

 

 

 

 

 

(……すぐに決断なんて無理な話よね。だからこれは私の所為、全部私がやったこと。ごめんなさい、そして最後だから──)

 

 

「──愛しているわ、クルス。『魔轟神グリムロの効果を発動』」

「そん、な」

 

 

 制止も聞かずグリムロはカードになって、そうしてそれは端っこから黒ずんだ灰になっていく。灰は小さな魔方陣を描いて、新しい一枚のカードを呼び出した。

 

 

 震える手でそのカードを手に取る。

 

 

 

 

 

「やだ、嘘だ、そんな、これじゃあ、」

 

 

 

 ──アシェンヴェイルはどうなるの?

 

 

 

 返事は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
雄英基準




解 説



・赤ゴリラ

個性「憤怒」
キレるとゴリラっぽくなり火を噴く。ナックルウォークってのは猿とかゴリラとかがやる拳と足で四足歩行するアレ。


元ネタ:怒れる類人猿(バーサークゴリラ)

獣族 ATK/2000 DEF/1000

このカードが表側守備表示でフィールド上に存在する場合、このカードは破壊される。このカードは攻撃可能な場合には攻撃しなくてはならない。







・牛頭

個性「浸透(震盪)
拳にしろ角にしろ自分の体にある程度の勢いがあれば物体とぶつかった際それによる衝撃が増幅され空間を伝わる。実は特定の相手、特定の状況で自身の個性を共有できるが本人は気づいていない。


元ネタ:激昂のミノタウルス

獣戦士族 ATK/1700 DEF/1000

このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。









・母親

本名、真郷 美姫。個性の名は『強制共感(仮)』……30秒目を合わせた相手に自分がいま抱く最も強い意識を植え付ける。今までは自分の美しさが絶対かつ最高だと確信していたので相手には「最高の女」というイメージを抱かせていた。


勘のいい方ならクルスちゃんが何を手に入れたのかわかっちゃうかもしれないけど秘密にしといてね。一応手札に加えるはずなのにカードとして表れたのも理由っぽいのはあるから……




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エラッタ

「人は何かを捨てて前へ進む」




 アシェンヴェイルが赤ゴリラを思い切り蹴飛ばし、私のところまで下がってくる。

 

「多人数を相手にしている場合はこうするつもりだった。相手が一人ならまだやりようがあったが……」

「き、聞いてない!それにこれ、アシェンヴェイルは」

 

 

 

 彼はいつも通り不機嫌そうな顔で、何でもないかのように言ってのけた。

 

 

「まぁ消えるが……」

「そんな簡単に」

「機会がありゃまた会える。効果の使い過ぎには気を付けにゃならんが」

 

 

 

 

 そうして、アシェンヴェイルは私の頭を軽くたたき、「早くしろ」と急かした。迫ってくる敵たちを前にして、私は覚悟を決めなくてはならなかった。

 

 

 

 

 滲む視界を強引に拭い、拾い上げたカードを掲げる。

 刻まれたレベル(位階)は8。

 

 

 

「それでいい」

 

 アシェンヴェイルを中心に二重の魔方陣が現れた。彼を取り巻くように闇が噴出し、より大きな人型を象る。最後に見えたその横顔は、どこか満足気で──少しだけその口角が持ち上がっている、気がした。

 

 

「……くそっ」

 

 

 結局また頼ることになった。何かを失わずに進めたためしがない。私だけでは力不足で、この命は二人の上に成り立っていて、だからこそ──私だって向こう側へ進まなければ二人に顔向けができない!

 

 

Advance(更に向こうへ)──召喚『魔轟神ディアネイラ』ッ!」

 

 

 

 

 効果により捧げるのはアシェンヴェイル一人でいい。闇が晴れて、三メートルほどの巨体が姿を現す。

 

 肌色というにはいささか生々しい色の血管が浮き出た肌に、蝙蝠に近い大きな羽。腕輪や仮面などそのすべてが鋭く尖ったフォルムであり、指先につけられた金属製の爪と鋭い牙が凶暴性を物語っているかのよう。

 

 

 

 

 私が何か言う前にディアネイラは飛び出して赤ゴリラの脇腹に爪を突き刺し、楽々と待ちあげて投げ捨てた。その巨体に見合った膂力を発揮してゴミ屑のように敵を吹き飛ばして行く。それはまさに蹂躙だった。その攻撃力は2800である。

 

 

 

 と、先ほどの牛頭がディアネイラに突進を仕掛けるのが見えた。先ほどの衝撃が伝わってきた時を思い出すが、背中の痛みの所為で素早く避けることができない。思わず目を瞑る。

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 しかし一向に何かが起きる気配がない。恐る恐る目を開けてみると、ディアネイラはいまだ敵陣の中で蹂躙を続けており、残りの敵もわずかと「わん!」「わん!」「わん!」「ああちょっと!いうことを聞いてください!」

 

「えっ」

 

 

 

 足元を見ると、赤毛で三つ首の子犬がこちらを見上げていた。その首輪につけられた鎖を、小さいデフォルメされたような姿の悪魔が持っている。まるで飼い主とそのペットのような構図だが。

 

 

 知っている存在だった。

 

 

「ケルベラル?」

 

 

 魔轟神獣ケルベラル。犬の方、レベル2のチューナーである。わふわふと返事するケルベラルに代わって話し始めたのは鎖を持った悪魔の方だった。

 

 

「ご存じでしたかクルス殿。あ、私めはまだ名もなき魔轟神の端くれでありまして、ケルベラルの世話を任されているものであります。クルス殿の効果、ああいやこちらでは個性でしたか、によって呼び出された次第です」

「……ディアネイラが何か、した?」

 

 悪魔は小さな腕を組んでうんうんと頷く。マスコット感があって微妙に可愛い。

 

「説明する前にディアネイラ殿を引き留めておいた方が良いかと」

 

 

 

 

 振り向くと敵は全て地に伏し、ディアネイラはクソ女の方に向かっていた。流石に殺されては困るので、彼を引き留める。別に温情とかではなくただもっと苦しんで生きてほしいだけだが、クソ女は安堵したような表情を見せた。腹が立ったので、

 

 

 

「やっぱお願い、ディアネイラ」

「は!?待って、待っ」

 

 

 

ドゴン!

 

 

 

 

 

 

 

 ディアネイラが拳を引き抜いたのを確認して、溜息をついた。まだ背中は痛い。ああ、クソ。どうにも腹が立つ。やっぱり正当防衛扱いで皆殺しの方が良かったかな?いやでも一応ヒーローだしなぁ。そんなことを思いつつ外に出る。

 

 大男とケルベロス(子犬)。傍から見れば私たちが敵じみた風貌だろうな。

 

「……そういえば。私って、何を捨てたの?」

 

 

 話を聞くと、ケルベラルは『甘え』だそうだ。これ、心の隙とかそういうのより他人に頼る気持ち、心を許す、あるいは甘えるという行為の時働く心情のことらしい。甘える相手いないし、あったところでどうにもならないからいいけど。

 

 

 

「ディアネイラは?」

「グゥゥ……」

「狂気だそうです」

「わかるの?」

 

 

 ケルベラルを抱えて、セントラル広場を目指しながら話を聞くことにした。彼の効果の話も聞いておかないと。

 

 

 

 

 

 ……ケルベラルやわこいなぁ。可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生き、てる」

 

 

 

 気絶から意識を回復した女の顔の傍にはクレーターが存在していた。拳をわざと外された、生かされたのだと理解して無性に腹が立つ。だが自身の能力の条件のためここから追いかけるのは困難である。

 今は退却するしかない。あの黒霧とかいうやつを捕まえて、ここから──

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだなァ?美姫」

 

 

 かけられた声は女にとって既知のものであった。最も会いたくない男の声。

 

 

「あたしをその名前で呼ぶな」

「いいじゃねぇか、その通りなんだから。そんなことより聞いたぜ、個性がただの魅了じゃなかったんだって?」

「あんたには関係ない、そもそもどうしてここにいるのよ!」

 

 

 男は笑った。

 

 

「そりゃあお前、可愛くて麗しの妹が生んだ子供だ、見てみたいに決まってるだろ?いやあ、ありゃお前より数倍優秀な個性だなぁ。何体出せるか知らないが、それぞれが個性持ちみてぇなもんだ。完全にお前の上位互換だな」

「……」

 

 

 

 女──美姫は言い返せなかった。それを楽し気に眺めて、男はいつも愉快そうに上がっている口角をさらに引き上げて提案した。

 

 

 

「そんな哀れなお前に仕事をやろう」

「……どういうつもり?」

「変な意味じゃねえさ、ただ今まで通りお前の娘にちょっかいかけてればいい。お前が娘を殺すことができれば、その時はお前に居場所をくれてやる」

 

 

 

 

 

 

 美姫はその手を取るしかなかった。断れば個性によって命が使いつぶされて死ぬ。それが嫌だから、私は──

 

 

 

「それでいい。幹」

『はいなっ』

 

 

 

 

 

 そうして二人は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 




難産でした。自分でもこんなに時間かかるとは思わなんだ。





解 説


遊戯王知らないけど読んでるって方がいてくれるようなので用語だけ解説しときますね。知ってる人は読まなくても大丈夫です。


・アドバンス召喚

 モンスターを生贄にささげる(=リリース、フィールドから墓地へ送る)ことで高レベルのモンスターを召喚すること。レベル4以下は普通に召喚できて、レベル5,6は一体、レベル7以上は二体の生贄が必要になります。



・エラッタ

 直訳で誤字(複数形)やその訂正表という意味。遊戯王では「すでに発売済みのカードの効果などが変更されること」。表現をわかりやすくしたり、強すぎる効果を下方修正する行為にあたります。



「魔轟神ディアネイラ」

悪魔族 レベル8 ATK/2800 DEF/100


このカードは「魔轟神」と名のついたモンスター1体をリリースすることで表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手が発動した通常魔法カードの効果は「相手は手札を一枚選んで捨てる」となる。この効果は1ターンに一度しか発動できない。


最後の方わかりにくいかと思いますが、相手からみた相手はこちら側ですので、こちらが手札を捨てる効果になる、ということです。

















因みにAdvanceには進歩とかの意味もあります。
初めの言葉はSBRのアクセル・ROの台詞。シビル・ウォーかっこいいですよね……



あと設定が固まってきたのですが作者が体育祭までのストーリーしか知らないので一先ず進めてもそこまでです。

そこから先は単行本買うまで更新できないと思われます。作者は5巻までしか手元にないです。





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魔轟神獣ルビィラーダ

プロットができました。ようやく。すべて回収できるのがいつになるかはわかりませんが……






■■出久視点■■

 

 

 

 

「相澤、先生……?」

 

 

 

 

 水難ゾーンをどうにか切り抜けた僕たち(出久)が目にしたのは、脳味噌がむき出しの敵が先生を無力化するっていう最悪の光景だった。戦闘経験も個性の扱いもはるかに僕たちの上を行くプロヒーローが、負けた。

 

 

 手だらけの敵の傍にワープゲートが現れ、しばらく話したのち、そいつは急に大きな声で独り言を言い出した。

 

 

「ゲームオーバーだ。あーあ、今回は終わり。でもその前に──平和の象徴様の大事なものをへし折ってから帰ろう!」

 

 

 

 気づけば手だらけの敵が僕らの目の前にいた。いつの間に、とかそんなことを考える前に、蛙吹さんの顔がそいつに掴まれて、脳裏に先生の戦闘シーンがフラッシュバックする。掴んだものが『崩れ去る』個性……!

 

 

 

 

 

 

 

 ……は、発動しなかった。相澤先生は取り押さえられたままなのに。

 

 

 

「……あ?イレイザーヘッド……じゃないなぁ、誰だオマエ」

「はぁ。また捨てた。こんなはずじゃあ、なかったんだけど」

 

 

 

 大きな、それこそ2,3メートルはあろうかという悪魔の背中に乗って降り立ったのは、

 

 

「さっさと、帰りなよ。どうせオールマイトには、勝てない」

「……はー。大きく出たねガキ。脳無、そいつ殺していいよ」

 

「ディアネイラ、お願い」

 

 

 

 真陣さんだった。すぐさま悪魔が脳味噌敵に思い切り拳を叩きこみ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……個性無効の個性かよ、オマエ」

「まさか。そんないいものじゃないよ」

 

 

 新たに赤黒い魔方陣が二つ現れた。そこから出てきたのは白い羽の眼鏡悪魔と……何というか、エキゾチックな風貌の大きな鳥だった。南米の部族の絵みたいな、そんな感じのヤツ。

 

 

「蛙吹さん」

「! わかったわ」

 

 

 真陣さんが大鳥をこちらに向けて飛ばす。蛙吹さんは僕たちをひとまとめに縛り上げて備えた。

「飛ぶわよ」

 

 

 

「させるわけないだろ。馬鹿なの?」

「させるんだよ。ディアネイラ、足止め」

「……邪魔すんなよガキ」

 

 

 手だらけは個性の無効を気にしてあまり攻めきれないようだった。真陣さんが時間を稼いでくれている間に、僕たちは鳥に運ばれて距離をとることに成功した。けれど、このままじゃ今度は真陣さんが一人になってしまう。遠くの方で巨体が起き上がるのが見えた。

 

 

「真陣さんっ!」

 

 

 

 

 

 思い切り踏み込み今にも飛び出しそうな脳味噌を止めたのは響き渡る轟音だった。

 

 

ドゴォン!

 

 

 

 

 扉を吹き飛ばして、ついに、彼が──オールマイトが、来てくれた。

 

 

 

「私が来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■クルス視点■■

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが来た。これできっと終わるはずだ。新しく召喚したガルーダのような生き物、「魔轟神獣ルビィラーダ」は緑谷君たち三人を少し離れたところまで運びきってくれた。私も脳無の気がそれているうちにディアネイラと後退する。

 

 

 後は、ええと、何だったか。脳無とオールマイトが戦って、それで終わり……だったはずだ。じゃあもう干渉はしなくていいよね。

 

「助かったわ、真陣ちゃん」

「ん、無事で、なにより」

 

 死なれるよりはマシである。私が何も捨てずに済むのがベストだが。しかしまあ拳だけでここまで余波が出るとは……と、私は脳無と殴り合うオールマイトを見て思う。

 

 

「Plus Ultra!!」

 

 

 脳無がUSJの天井をぶち破って、彼方へ吹き飛ばされた。残るは強者は死柄木と黒霧だけ、オールマイトなら大した時間もかからないだろう。

 

 

 …………?いや、違った。確かオールマイトは全力を使い果たすんだった。それで緑谷君が助けに入って、それでようやく終わりだ。

 

 

 

 

「オールマイトから、離れろっ……!」

「緑谷ァ!?」

 

 

 

 うん。これで先生が来て、終止符が打たれる。私はいそいそと魔轟神たちをカードに戻した。手元に残ったのは、

 

 

「魔轟神ディアネイラ」

 

「魔轟神獣ケルベラル」

 

「魔轟神獣ルビィラーダ」──大型の鳥。南米で祀られてそうな風貌。

 

「魔轟神クシャノ」──魔轟神の中で唯一白い羽の、眼鏡をかけた悪魔。右手に持つ大きな本が目立つ。

 

 

 

 

 後でまた何を捨てたか聞いておかなきゃなあ。そんなことを考えながら、私は消えゆく敵を見送った。そして、羽の痛みと疲労やらなんやらでぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校襲撃から数日後のことである。雄英教師は警察と共に一連の事件について話を勧め、主犯格の「死柄木」という男についての分析を終えたところだった。次なる話題は1-Aの女子生徒、「真陣 来栖」について。

 

 

 

「13号の話によると、黒霧は彼女のことを『マゴウ 来栖』と呼んだそうだ」

 

 ワープゲート持ちの黒霧がわざわざ一人だけ別の場所に転送した結果、少女は背中の羽の骨折などかなりひどい怪我を負いつつも生還して見せた。

 

 

「確かオールマイトは個性カウンセラーと偽って真陣君に接触していたね?話は聞いたのかい?」

「……ええ、校長。真陣少女が孤児院の出だということはご存じですね」

「知っているよ。確か苗字はそこの物だったね」

 

 

 オールマイトはやや話しにくそうに切り出した。

 

 

「……少女が転送された先には、自分を捨てたはずの母親がいた。母親は少女に恨みがあり、仲間を引き連れて殺しにかかってきた──というのが大まかな流れ。母親の身体的特徴から個性届を確認してもらったところ特定ができた」

 

 

 

 

 話を引き継いだのは塚内警部だった。

 

 

「母親の名は『魔轟(マゴウ) 美姫(ミキ)』。魔物の魔に轟かすという字です。親とは縁を切り、『真郷」の姓を名乗っていたようです」

「魔轟って……あの魔轟かい?」

 

 

 反応したのは校長だった。最近の人間にはあまりなじみがないが、魔轟家といえば個性婚の法律の制定を声高に掲げていた政治家がいたので有名だ。今はもう隠居らしいが。件の法律の内容も「ヒーローは個性が重要である以上、個性婚は社会秩序を保つ方法として適しているため、制度として制定すべき」など、倫理観からとても素晴らしいとは言えないようなものだ。それに今は政治にかかわっていないはずだった。

 

 

 

 

「ええ。彼女は魔轟家の現在の代表である、魔轟 出歩(いずほ)の娘に当たります」

「連絡は?」

「ええ、取りました。しかし『私と美姫は縁を切っている。行方も知らないし責任も取れない』、と」

「そうか……」

 

 というのも、この母親はいまだに捕まっていないのである。教師たちがUSJに着いたのち死柄木は撤退したため、魔轟美姫を回収する時間はなかったはず。また来栖が母親を気絶させたといっているため、自力で脱出は不可能だろうという観点から、教師たちは敵連合とは別の勢力が関わっている可能性を考えていた。

 

 

 そして一番の根拠が監視カメラの映像である。倒れ伏す人影の傍に現れた人影は背中に羽のようなものを持っていた。しばらくすると二人とも姿を消すのだが、オールマイトには羽の方に見覚えがあった。

 

 

 

 

 ──どうにも真陣少女の召喚体に似ている。名前は確か「アシェンヴェイル」だったか。この相似がどのような意味を持つのかは、オールマイトにはわからないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






おそらく、勘のいい方は、クルスちゃんが何を捨てたかわかってしまうんじゃないかな、と。

美姫さんには兄弟姉妹が結構います。大家族だね


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魔轟神クシャノ

「……ん、ぅ」

 

 

 

 意識が浮かび上がる。微かなアルコールの匂い。どうやらうつ伏せにベッドに寝かされているようだった。

 

「痛っ……つぅ」

 

 

 首を回して背中を見ると、私の羽がギプス的なモノで固定されているのが見える。多分折れてたんだろうなぁ。

 

 

「ん、起きたの?まだ動かないほうがいいよ」

 

 

 逆に首を回すと、ベッドの脇に知らない女性が腰かけていた。年齢は大学生くらいだろうか。しばらく見つめあって、向こうが何かに気付いたようだ。

 

 

「あ、自己紹介! 私は虚意(うつろい)(ミキ)っていうの。新しくお手伝いとして来栖ちゃんの家で働くことになったんだ」

 

 

 ……うちに限らずどこの孤児院も慢性的な人員不足である。原因は家事スキルを持ってかつ面倒見もよく長時間勤務可能な人員が軒並み高齢で、新人がいないからだ。そんな中若い女性はかなり珍しいんじゃなかろうか、と思う。

 

 

「配属されていざ行ってみたら雰囲気が暗くて、聞いたら怪我した子がいるっていうからお見舞いと自己紹介も兼ねて来たの。……片方忘れてたけど」

 

 

 ショートカットをふわりと揺らして虚意さんは無邪気に笑い、鞄から何かを取り出した。

 

 

「これね、お守り。あまり無理しちゃだめだよ」

 

 

 んん。やっぱり心配かけたのだろうか?別に自分が怪我したわけじゃないのに気にしすぎでは、と思わなくもないが一先ず私はそれを受け取った。『無病息災』と刻まれている。

 

 

「善処、する」

「政治家みたいなこと言うんだねぇ。まあ、早く良くなって帰っておいで。みんな待ってるから」

「……わかった」

「ん、よろしい」

 

 

 最後に私の頭をくしゃりと撫でて虚意さんは出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。窓から月明りが差し込む病室。学校側の過失もあってか個室を用意されているから、内緒の話もできるってもので。私はカードを一枚取り出した

 

 

「召喚『魔轟神クシャノ』……久しぶり」

「うん、そろそろだと思っていたよ」

 

 

 現れたのはクシャノ──眼鏡悪魔である。

 

 

「聞きたいことがあるの」

「いいとも」

 

「じゃあ、まず……私が捨てたものが何かわかる?」

「ああ、それは確か、ルビィラーダが『躁』だ。わかりやすく言うならハイテンション。躁鬱の躁だ」

「クシャノは?」

「僕のは……やめておこう。知らないほうがいい」

 

 

 

 いくら問いただしても理由を答えてくれない、仕方なく私は諦めて次の質問に移った。

 

 

「これさ、ディアネイラのカードだったんだけど。黒ずんで文字が見えなくなってる」

「ああ、それは君の個性を使っていないからだ。召喚するのに君は構成要素を捨てていないだろ?」

 

 

 

 彼の話を自分なりにかみ砕くと、ディアネイラに対応する私の要素を捨てていないから召喚できなくなっている、ということらしい。

 

 

「あんまり、ぴんと来ない」

「来なくていいと思うよ。そちらの方が幸せだ、なんたってディアネイラに割り振られた要素は狂気だからね」

 

 それは前聞いた。できれば新しい情報が欲しかったんだけど……。

 

 

「あんまり詳しいこと、教えてくれないんだね」

「おそらく最も君に詳しいのは僕で、その僕がこう言っているんだ。諦めてはくれないか」

「まあ、いいけれど」

「うん、助かる」

 

 

 クシャノはそういいつつ片手に持っていた本の装丁を撫でた。少しだけ見えたその本の中身は文字というより図形のような感じだ。どこかで見たような気がするが、何だったか。ぴんと来ないことばかりでどうにも……もやもやする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退院して、学校に復帰する初日。スイー、と私の身長からすると些か大きすぎる教室のドアの向こうは、どこか浮ついたような雰囲気に包まれていた。

 

 

「あ、真陣ちゃん」

「……おはよ、蛙吹さん」

「梅雨ちゃんでいいわ。怪我は大丈夫なのかしら」

「重傷じゃなかったし、治ったみたい。……で、何でみんなこんなテンション高いの?」

 

 周りを見渡すと暑苦しいテンションで会話している人ばかり。何かあっただろうか。

 

 

 

「体育祭がもうすぐ開催されるせいね。昨日発表だったから」

 

 

 聞けば雄英体育祭、今年は例年以上に一年生に注目が集まるであろうこととB組の宣戦布告によってやる気が爆発しているらしい。

 

 

「真陣ちゃんはそうでもなさそうね」

「私本人は運動神経、あまりよくないから……体育祭って言ってもいい成績は取れないと思う」

 

 

 

 それにもしかしたらルビィラーダの所為かもしれないが、体育祭にあまり焦りを感じない。USJの時はほら、敵が来てたから緊張してたけど……体育祭は警備を五倍にして開催するっていうし、敵の襲撃は無いだろう。

 

 そして私の身体能力は個性把握テストでわかるようにポンコツである。ディアネイラがいない以上綱引きとかの腕力重視競技があるとかなり厳しいのだ。うう……アシェンヴェイル……。個性を使えばまた会える可能性はある……?

 

 

 

「梅雨ちゃん、私を窓から投げ捨ててみてほしい」

 

 梅雨ちゃんははっと何かに気付いたような顔をした。

 

 

「頭を強く打ったのね」

「……違う。違うから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の夕方。台所にて。

 

 

 

「あら。牛乳、切れちゃった」

「それくらいなら今買ってきましょうか?私の個性なら時間もかからないですし」

「いいのかい?じゃあお願いね」

 

 

 

「はいなっ!お任せください!」

 

 

 

 虚意 幹はそう言い残してその場から消え去った……と思うと、また現れた。

 

 

「……お財布忘れちゃいました」

「ふふ、せっかちなのね」

「うう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









作者、農家ではありませんが三日ほど農作業をすることになりまして。今までエアコンの効いた室内で生活していたものですから炎天下の作業に慣れておらず普通に熱中症になりました。


投稿間隔がちょっと遅れ気味なのはそういう理由もあります。絶対魔獣戦線の短編二次創作に手を出したりしていたのが結構大きかったりしますが。






さて。作者はヒロアカのネーミングセンスが好きです。当て字みたいなやつね。そういう意味ではオリジナルですが『虚意』って苗字気に入ってます。この小説は名前でネタバレする仕様になっています。














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体育祭

 個性のコンビネーションの練習や基礎訓練に時間を費やして、いよいよ今日は体育祭である。

 

 

 ここは1-A控室。飯田君が叫んでいるようにあと数分で入場である。

 

 

真陣さんは緊張してなさそうだね

「そういう麗日さんは……」

 

 

 ガッチガチだった。彼女の震える握りこぶしから緊張が伝わってくる。あ、いいこと思いついた。

 

 

「そんな貴方には、あにまるせらぴー。召喚『魔轟神獣ケルベラル』」

 

 

 とりあえずケルベラルを呼んで、抱き上げて見せた。腕の中のケルベラルはわふわふと尻尾を振っている。

 

「触って、みる?」

「いいの!?じゃあ……」

 

 そうっと麗日さんが手を伸ばした。ケルベラルがくすぐったそうに眼を細める。

 

「わん!」「わん!」「わん!」

「か、かわいい。もふもふだ」

 

 

 ひとしきり撫できると、麗日さんは息を吐いた。どうやら上手く緊張も解けたらしい。たしか両親が見ているとか……気持ちはわからなくもない。私だって自分の価値を示す必要があるし、それに今日は虚意さんがカメラ片手にやってきている。

 

 やけに張り切っていたうえに後で孤児院で上映会をするとも言っていた。……そう思うと確かに少し緊張する。私はケルベラルの赤毛に顔をうずめつつ開会を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今年の第一種目は……これよ!」

 

 

 

 電光掲示板に映し出された文字は『障害物競争』。普通の競技に聞こえるがここは雄英である。簡単な障害など出るはずもない。

 

 

 

 

 

「スタート!」

 

 

 同時にカードを掲げる。召喚するのはもちろん飛行手段。

 

 

「来て……『魔轟神獣ルビィラーダ』」

「ア”ア”ア”ァァーー!!」

 

 

 南米感あふれるこの大きな鳥こそルビィラーダである。実はこいつ欠点がいくつかあって、その中の一つが滅茶苦茶喧しいこと。隠密行動など夢のまた夢…だけど、今日に限っては人目を引くのはプラスにも働く。

 

 

 

 

 

「第一関門はこれだぁ!ロボ・インフェルノ!」

 

 

 入試の時の0P敵だ。会場に一体ずつだったやつが十数台こちらを阻むように現れた。

 

「クシャノの言ってた通り、あいつらの上から行くよ」

「ア”ァ」

 

 

 見れば私の他にも空ルートを選んだのが何人かいる。その先頭は爆豪君だ。後ろ手に爆発を放っているのでうかつに近づけないが、まあ最終的に予選が通過できれば何でもいいのでここは様子見、高みの見物と行こうじゃないか。

 

 

 ……爆豪君より高いところにいたら怒るかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

 

 オールマイトには教え子である緑谷出久の他にもう一人注目している生徒がいた。真陣来栖だ。画面の向こうでは彼女が怪鳥に乗って第二関門を突破した。空を飛べる個性にこの障害物競走は些か簡単だろう。

 

 

 USJ襲撃以来、彼女の扱う召喚体は一変した。今までの悪魔は姿を見せなくなり、奇妙な動物群に変化している。監視カメラの映像から見て、あの二人の悪魔は死んだのかもしれないなどと推測は立てられるが、それを面と向かって聞けるほどオールマイトは無神経ではない。

 

 

「隣、いいでしょうか」

「ん?」

 

 

 今はトゥルーフォームだからヒーローとしての知り合いではないはずだ。そう思いつつ声の主を見た。

 

 つい最近写真で見た顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三関門は地雷原であった。このまま飛んで最後まで行ければ良かったのだが……。

 

「ア”ァ……」

「……わかった」

 

 

 実は、サイズなどの問題からルビィラーダは人を乗せての長時間飛行ができない。スタミナ切れを起こしたのだ、最後は自力でどうにかするしかなかった。私は懐のカードに触れ意思疎通を図る。

 

 

『あの地雷、派手だけど威力は低いんだって。()()()()()()()()()?』

『奇遇だね、僕も同じことを考えていたよ。起爆役はケルベラル達がどうにかできるはずだ』

『えっ』

 

 声を上げたのはちび悪魔の方だった。

 

『……できる?』

『……了解しました』

 

 

 よし、やろうか。今の順位は20くらい、うまくいけば後続を一気に突き放せるだろう。私はルビィラーダに触れ、カードに戻した。同時にケルベラルを呼ぶ。

 

 

 一瞬の浮遊感。背中の羽を思い切り伸ばして、私は滑空を始めた。さらにケルベラルを投下する。

 

「ケルベラル、お願い」

「わふー」「わふー」「わふー」

 

 

 ちび悪魔が必死に羽をはばたかせ、ケルベラルは軟着陸に成功した。その周りの生徒がけげんな表情を浮かべている。

 

 ケルベラルは走って私の前方に行き、地面を嗅ぎ始めた。……準備ができたようだ。タイミングを合わせて──

 

 

 

「今!」

「「「わん!」」」

 

「えっ」

「ちょっと──」

 

 ケルベラルが思い切り地雷を踏みぬいた。

 

BOOM!

 

 

「……くうっ!」

 

 弾ける爆風に煽られて、私は上空に吹き上げられた。無理やりだがこれで高度が確保できた!

 

「よし、これでまだいける。あと二回くらい手伝ってもらえば──」

 

 

 

 

 

BOOOOOOOOOM!!!!

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……隣、いいでしょうか」

「ん……!? いや、どうぞどうぞ」

「失礼」

 

 

 隣に座った中年の男に見覚えがある。オールマイトは取り敢えず会話を続けることにした。

 

 

 

「お子さんの応援ですか?」

「ええ、そんなところです。音沙汰の無かった娘に子がいると知りまして、一目見てみたくなったのですよ。そちらは?」

「ああ、ええと……私はこの学校で個性アドバイザーのようなものをやっておりまして」

 

 もちろん嘘である。職員室にも保健室にもよく行くオールマイトにとっては思ったより都合がいい言い訳だった。

 

 

「なるほど……そのような仕事もあるのですか。まあ私は見ての通り異形系、しかも人の形をあまり外れていない方ですから、お世話になったことはないのですが」

 

 

 浅黒い肌に長い白髪はダークエルフという表現が一番近いだろうか。そこにドラゴンのような緑の翼を足したような風貌である。

 

 

「そもそも長所と短所は表裏一体、片方が弱ければもう片方も弱い……逆も然り。そう考えればほぼ無個性でも悪くないものです。代償もほぼないのですから」

「……それはもしかしたら真理かもしれませんね」

「半分ほど父の言葉ですがね」

 

 

 そういって男──魔轟出歩(いずほ)は画面に視線を向けた。その向こうではちょうど『元無個性』が意図的な大爆発でもって先頭に猛追しているところだった。

 

 

「……」

「……」

 

 

 その中に若干一名、爆発に巻き込まれて盛大に墜落した少女の姿が見えた。オールマイトはなんと声をかけるべきか最後まで分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




可愛いものとか小さいものに対する擬音を平仮名にする傾向にあります。

そもそもあまりカタカナの擬音語は使わない傾向にありますが、読みにくかったらお知らせください。


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