教師への道を歩む (主義)
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四宮と桜

新しいシリーズものです。


営業中の厨房はとても慌ただしい。だから客がいる限り厨房が慌ただしくならない事はない。

そして今、僕はその慌ただしい厨房で料理を作っている。

 

「仕上がったか?桜」

 

眼鏡を掛けた細身で赤髪の男が自分の作業をこなしながら聞いてきた。

 

「終わってるよ。次の作業に取り掛かってるところ」

それだけ聞くと満足そうに微笑んでいた。普段は不愛想な顔をしている彼が微笑む事はとても難しい。僕は女じゃないから分からないけど多分、一般女性が見たら一発で惚れるぐらいの破壊力はあると思う。

「OKだ。十分」

 

時間は経ち店の客入りが減ってきた。

ここはフランスにあるSHINO'Sという料理店。僕が何でこんなところにいるのかと言うとそれは店主である四宮の手伝い。四宮とは学生時代からの付き合いで一応、仲が良い。同学年という事もあったり他にも色々と要因はあるけどまあ、そこら辺は省いても、今でも学生時代の付き合いが続いている。

 

一週間ぐらい前に四宮から「来週空いてるか?」って聞かれたから「まあ、空いてるよ」と言ったら「フランスの俺の店まで来い」と言われた。普段は海外に行く余裕なんてあまりないんだけど今回に関してはちょうどなっていたから行けると返事したら「待ってる」とだけ返事が来た。

 

そして、長いフライト時間とタクシーの移動時間を経て店にたどり着くと四宮は着いて早々に「金を出すからここで一週間働いてくれ」と言って来た。まあ、そうだろうな~と思ってはいたから難なく承諾して今に至る。

だけど普通、「ここまで呼んで悪かった」とか一言ぐらいあっても良いと思うのは僕だけかな。

まあ、四宮が普通に礼を言ってくるなんてほとんどないし期待もしていないからな。

 

 

「ねぇ、しばらく来れなくなるかもしれないけどいい?」

僕は唐突に今日の片付けをしている四宮に聞いた。

 

「何でだ?」

 

「遠月の総帥からちょっとお誘いが来ててね。教師にならないかってね。最初に誘われた時は別にそんな気はないから断ってたんだが総帥はしつこくて....渋々」

 

「....お前が珍しいな。人の頼みを引き受けるなんて、いつもは引き受けないくせにな」

 

「まあ...僕もね。色々思う事があってね。あの学校での事は今でも鮮明に憶えている。君や水原、乾、ドナートとかと一緒に過ごしていた日々はね」

昔はよく5人で集まったりしたな。お互いにお互いの料理を食べ「こうしたらいいんじゃないか」とか「この食材はこう活かした方がいいんじゃない」とかよく言い合ったものだ。今では遠い昔の事のように感じられるけどまだ10年ぐらいしか経っていない。

 

「...........お前が決めた事なら俺が文句言えるわけねぇだろ。元々、無理言って手伝ってもらってるんだからよ。お前も俺に大丈夫か?何て聞かなくていいと思うぞ」

 

「..じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

四宮のところに手伝いに来れないのは悪いけど、総帥にお願いすれば僕の休日の日ぐらいは手伝えるかもしれないし。

 

「でも、そうなると乾と水原がうるさそうだな....」

これから起こる未来でも想像しているのか四宮は天を仰ぎながら言った。まあ、あの二人....いや、特に乾はいつも騒がしいから特に変わりはしないだろう。

 

「大丈夫だと思うけどな。乾も水原も僕が居ない位じゃ変わらないと思うけどね」

 

「はぁ~相変わらずお前は......いや、止めておくか。これはいつもの事だし今に始まった事じゃないしな。でも、いつから行くんだ?それによって店の方のシフトも考えなきゃいけないからな」

 

「そうだな~総帥には4月には来てくれと言われているから...二週間後くらいかな。まだ、任されてる仕事もあるしそれを放り出しては行けないからね」

決まっている仕事もあるからそれはやらないといけないし教師になったらこっちの仕事はそんなに出来なくなってしまうからね。

 

「まあ、シフトもそうだけど少し寂しくなるな......」

 

そうだな。寂しく..............。

「おいおい、四宮なんか悪いものでも食べたの?どうした調子でも悪いの????」

寂しいなんて四宮には似合わないだろ。もう出会って14年~15年ぐらい経ってるけど四宮が寂しいと言ったところは見た事もない。

 

「何でもねぇよ!只....俺がやってるのはフランスでだからな。乾とかは日本でやっているから会おうと思えば会えるだろうが。暫くは絶対に会えねぇからな」

 

「気持ち悪い。電話番号とか知ってるんだから掛けようと思えば掛けられるし他にも連絡手段はあるから」

 

「.....確かにな」

 

「注文入りました」

そんな話をしているとウェイターが気まずそうに僕たちに言った。

 

どうやらお客さんが来たみたいだ。

「じゃあ、話はここまでにしよう。暫く、来れない分気合入れて働きますか~」

 

「頼む。じゃあ、今日はいつもより仕事を多く回すから覚悟しとけよ」

 

「....うわぁ......まあ、お手柔らかに」

 

その後、いつもと比にならないほどの仕事が回されたのはまた別の話。

 



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空港で...

僕は四宮のところでのシフトも終わり日本に帰ってきた。やっぱり日本の空気は良い。フランスも良かったけどやっぱり生まれ故郷の日本は格別だね。

さてこの後はどうしましょうかね~ちょっと迎えを知らせる時間を間違えちゃったからまだ迎えに来るまで時間があるんだよね。どうしようと考えながら空港の中を見て回っているとある事を思い出した。フランスに行く前に総帥からなんかお土産を買ってきてと言われたんだった。....買ってくるのを忘れた。

 

まあ、別に総帥のお土産だし忘れてもいいか。.....だけど、さすがにそれは可哀そうかな。日本の空港だけどフランスで買うのとさほど変わらないでしょ。

そして僕は空港の中を歩き回りやっとお土産屋を見つけた。空港ってかなり広くて探すのにかなり手間取ってしまったな。

 

じゃあ、どういう感じのお土産にしようか。あの人の好みって何なんだろう。もうかなりの年だし饅頭とかの方が良いのかそれとも洋菓子系の方が良いのか。それとも、ストラップ系とかの方が良いのかな~。全く分からないな~。

僕、こういうの悩むとずっと悩んじゃうんだよな。知り合いと一緒にいる時はどれが良いのかなぁ?と尋ねられるんだけど今回はそうもいかない。あ~~どうしよう。

悩んでいると後ろから誰かに声を掛けられた。

 

「桜さん」

後ろを振り向くとそこには.....私服に身を包んだ木久知 園果がいた。

 

「なん...木久知か」

何でこんなところに彼女が居るのかは分からないがどうやら彼女もどこかの国に行っていたらしく彼女が持っているバッグには、はみ出るほどたくさんのお土産が入っている。

「てか木久知もどこか旅行してきたのか?」

 

「旅行じゃありませんよ。ちょっと材料の調達に現地に行って来たんです」

料理人の中に拘りが強い人は木久知見たいに現地に赴く奴も少なからずいる。うちの近くにいる人たちは皆、食材は自分の目で見て判断する人たちだ。

 

「そうか。それで御眼鏡に適う食材があったの?」

 

「ありましたよ!予想以上に手に入りました。それで桜さんは何でこんなところにいるんですか?」

 

「あ...僕は四宮んところの手伝いに行って来た帰りでね。今、総帥へのお土産を悩んでいるところなんだよ...あ..木久知は今、暇?」

 

「いや......そうですね。この後、急ぐような用はありません」

これは好都合。一人で決めるとしたらもしかしたら、数時間は費やしてしまうかもしれないからここは木久知に助けてもらうのが一番かな。

 

「じゃあ、僕のお土産選びを手伝ってくれないかな?」

 

「..分かりました。手伝わさせていただきます!」

木久知は満面の笑みをしながら答えていた。水原もこんな笑顔が出来たらモテそう。表情筋が重いのか分からないけど水原はまるで表情が変わらないから。

 

「じゃあ、早速だけど総帥にお土産ってどんなのが良いと思う?」

 

「そうですね........これ何てどうですか?」

木久知は店内を見渡し一つのお土産を持ってきた。持ってきた物は......熊のぬいぐるみ。

 

「...木久知」

 

「何ですか?」

 

「一つ聞いていいかな?」

 

「はい」

 

「...僕が誰にお土産をあげるかを聞いてた?」

 

「聞いてましたよ」

 

「じゃあ、僕は総帥にその熊のぬいぐるみをあげるって事で良いのかん?」

 

「何か問題でもありましたか?私的には良いと思ったんですけど....ダメですか?」

上目遣いをされると弱いけどそうもいかない。だってもうそろそろ29歳の男がもうかなり年のおじさんにお土産で熊のぬいぐるみを上げるってかなりひどくない。総帥も熊のぬいぐるみを貰って絶対に困ると思う。もう総帥の困っている顔が目に浮かぶ。

 

「それはさすがにあげられないかな。他に何かないかな?」

僕も改めて店内を見渡し何か良い物がないか見る事にした。

 

「......そうですか。総帥さんってもうかなりのお年でしたよね?」

 

「そうだね。正確に年は分からないけどもう60ぐらいいってるんじゃないかな。お年寄りの人にあげるものって何が良いのか分からないんだよ。木久知は祖父とか祖母にお土産を買うとしたら何を買うの?」

総帥にあげるって考えるから決まらないのかも。じいちゃんとかばあちゃんにあげると考えた方が決めやすいかもしれない。

 

「そうですか.....あ.そう言えば、何で総帥さんにお土産を買うんですか?」

 

「あ、そうだね。言ってなかったね。僕、4月から遠月学園で教師やるの」

何故か木久知も固まってしまった。木久知が固まっているところなんて初めて見た気がする。まあ、人が固まっているところ何て見る機会はないしね。

 

「どうしたの?木久知。お~い、お~い」

木久知の目の前に手を振ってもまるで反応が帰って来ない。放心状態みたいな感じになってしまっている気がする。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「........え、あ、だいじょ..ぶです」

 

「いや、それは確実に大丈夫じゃない人の言い方でしょ」

 

「...ほ..ん..とうにだいじょうぶです」

え..まう、ちょっと待ってよく考えたら僕が教師になるって放心状態になるものなのか。そんなに驚くような事でもない気がするんだけどな。

 

「そんなに驚くような事でもないと思うんだけど...僕が教師ってそんなにヤバいの?」

もしかして、スタジエールの時のボクの教え方とかって下手すぎたとか。僕がまだ自分の店を営業していた時に何度かスタジエールが来た時があった。その中の一人が木久知だった。

 

「いや.......大丈夫だと思います。でも...」

 

「でも?」

 

「.........でも、桜さんに教わるのは私だけでいいのに...」

 

「ごめん!最後の方が聞こえなかったんだが....」

 

「何でもないです!!それじゃ早くお土産を決めちゃいましょう!!」

確かに木久知の言う通りだ。早くお土産を選ばないと迎えが来ちゃうかもしれない。そう思って腕時計を見てみるともう午後の6時になっていた。僕が空港に着いたのが午後の5時だからもう1時間も時が過ぎたという事。6時30分に向かいに行かせる見たいな連絡が来てたから後30分でお土産を買わないといけない。

 

「本当にそろそろ決めないといけないし本当にどうしよう」

 

「これ何てどうですか?」

 

「..饅頭....確かにこれが一番良いかもしれないね。これにしようか」

無難に饅頭にしといた方が多分良いだろう。まあ、日本で買ったのはバレるけど忘れたって言えば良いか。

 

その後、饅頭を買って店を出ると木久知が待ってくれていた。

「今日はありがとう!木久知が居なかったらずっと悩んでたと思う。本当にありがと!」

 

「..そんなにお礼を言われると照れます....また、何か困ったことがあったらまた呼んでくださいね!」

 

「さすがに木久知も店があるんだから気軽には呼べないよ。でも、なんか本当に困ったことがあったら連絡するよ。その時はお願いするね」

 

「はい!」

 

「じゃあ、今日はこれで」

僕はそう言うと迎えが待っているであろう空港前に向かって歩き出した。

 

 

 

 

「今年の宿泊研修には絶対に参加しなくちゃ!」

青年が去った後、密かにそんな決意を固めている一人の女性が居たという。

 

 

 

空港の入り口まで行き迎えの車を探すとその車をすぐに見つかった。だってあんなに目立つ車で迎えに来たら分からないはずがないね。それに運転席にスキンヘッドの男がサングラスをしているものだから周りの人たちも決してあそこには近付こうとしてない。

僕はその目立っている車に一直線で向かい乗り込んだ。

 

「何でこんな目立つ車で迎えに来たんですか?」

 

「悪いな。これしか俺には車はないからな」

 

「それならせめてサングラスを外した方が良いと思いますよ。そのサングラスが余計に怖さを増してますから」

どう考えても「スキンヘッド+サングラス=怖い」に結びついてしまう。

 

「そうか。俺はかなり気に入っているんだが.....」

 

「まあ、その話は後でするとして何で堂島さんが僕なんかのために迎えに来たんですか?」

薙切さんのところの使用人とかが迎えに来ると思っていたけど結果は予想と違った。まさか遠月リゾートの料理長が自ら来てくれるとは思っていなかった。まだ、僕が高校一年生の時に宿泊研修で少しお世話になった経験があって関わりはある。

 

「折角、芹野が帰って来るって言うんだから迎えに来ない訳がないだろ」

 

「...................」

 

「どうした?」

 

「いや、なんか急に寒気が一瞬しまして...」

 

「そうか。今日はそんなに寒くない気もするがな」

 

「..車の中の温度とかじゃなくて....」

 

「あまり遅くなると総帥に後で何でこんなに来るのが遅いのか問い詰められるからそろそろ出発するか」

 

「...安全運転でお願いします」

なんかこの顔でこんな目立つ車で安全運転じゃない気もするから一応、言っておく事にした。

 

「そんなの当たり前だ」

 



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ついに就任へ①

堂島さんの運転はお世辞にも丁寧な運転とは言えなかったけど無事に遠月学園には着けた。途中で何度か自分ここで死ぬのかと思ってしまったぐらい。本当に次からは堂島さんだけは迎えに来させないでくださいと総帥に言おうと心に決めた。

 

そして今は遠月の校門を潜り総帥が待っている場所まで向かっている。後ろには堂島さんがいるからか生徒たちからの視線が痛い。今は春休みに入っているけど生徒が一人も居ない訳でもない。なにか用で来てたり料理を上達させるためにとかで来てたりする。

「堂島さん」

 

「何だ?」

 

「さっきも言いましたけどサングラスは外してもらえませんか?」

空港の時も思ったけどこのサングラスで見られたら人は後退ってしまうぐらい怖い。僕は堂島さんだと分かっているけど分からなかったら怖くて後退ってしまうと思う。

 

「何でだ?これは案外、気に入っているんだが」

 

「いや、気に入っているのは良いんですけどそのサングラスの所為でさっきから生徒が逃げて行っているのが分かりますか?」

 

「いや、只急いでいるだけだろう」

この人はこれだから面倒だ。自分が今、避けられている事実自体が分かっていないから。元々、鈍感なところもあるけどここまで鈍感だと何とも言えない。

 

「はぁ~...もうそれで良いですよ。これ以上言ったとしても結果は変わらなそうですしね。そう言えば、何で堂島さんは付いて来ているんですか?一応、僕も遠月の卒業生だから場所ぐらい分かっていますよ。それに堂島さんは遠月リゾートの総料理長何ですからあんまり長い間、ここにいるのはまずいんじゃないですか?」

遠月リゾートの中でもTOPの料理人が抜けた穴は絶対に大きいはずだ。早く戻ってあげた方が良いんじゃないか。

 

「大丈夫だ。今日は一日休暇を取ってるしな。俺も総帥に会って行きたいからな」

そんなやり取りをしているうちに総帥のいる場所に着いてしまった。その場所とは理事長室である。

四度ほどノックをし、中から「入れ」という声が聞こえ理事長室に入った。理事長室の中は勿論、綺麗に整頓されていた。そして如何にも高そうな椅子に座っているのが総帥。

外見もさほど変化が無い感じだった。

 

「相変わらず変わらないね、総帥。一応、お土産を空港で買って来たからどうぞ」

僕は右手に持っているお土産を総帥へ渡した。こういう時に空港で買ったと言っておかないと、後でこれ日本で買っただろうと言われるのは面倒だから先に言っておいた方が良いだろう。

 

「悪いな。.....って日本で買って来たんか!!フランスに行くと言うから頼んだのに..」

 

「総帥。悪いね。お土産を買うのを忘れてた。だから空港で買って来た」

総帥は少し残念そうな顔をしていたが少し経つと吹っ切れたのかいつもの顔に戻っていった。まあ、フランスに行くときにフランスでお土産を買ってくるって言っちゃったからな。

 

「それで堂島は何でこの場に居るのだ?」

 

「総帥の顔を拝見しに」

 

「嘘を付け。まあ、いいわ。それでは改めて芹野桜。君を遠月学園は歓迎する」

総帥は片手をこちらに差し伸ばしながら言った。

 

「ありがとうございます。これから精一杯頑張らせていただきます」

僕も片手を総帥の手と合わせた。

 

「それでも良く決心を固めてくれた。お主ならずっと断り続けると思っておったが」

 

「あんなにしつこく言ってきたらOKするしかないでしょ。それに自分がぶつかっている壁を壊すにはもう一度この場所に来なくちゃならないと思ったから引き受けたまでですよ」

遠月学園に居た頃も何度も壁にぶつかってきたけどここで色々と壁をぶち壊してきた。だからこの場ならもう一度...という想いを胸に僕はここに来た。

 

「でも、お主が来てくれてよかったぞ。別にうちの学園は教師の不足が起こっている訳ではないが、腕の良い料理人が何人いたとしても損になる事はないからのう。それにお主の悩みを断ち切れると良いのう」

 

「そうですね......」

 

「それでお主が担当する料理は「和食」だ」

 

「まあ、妥当でしょうね。僕の得意料理は和食ですからね」

乾に和食なら教えた事もあるから大丈夫だろう。

 

「本当は今日のうちに担当のクラスの話とかをしようと思ったが、お主もここに来てまだそんなに時間が経っておらんし堅苦しい話は後日に回すから学校を見て回ってきたらどうだ?お主が居ない間に変わったところもあるからのう」

確かにこれからこの学校で働くうえで知らない場所とかがあるのは不便になるかもしれない。なら今のうちに少しでも見ておいた方が良いかもしれないな。

 

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

そう言って僕は理事長室を出た。その後は昔と変わっているところがないか校舎を見て回っていた。変わったところもあるけど変わっていないところもあったし色々とあった。そして第一調理室を見て出ようとした時に誰かが入ってくるのが分かった。誰かと思ってそっちに目線を映したが僕が来たのは今日が初めてなので誰かが分かる訳も無く見ていた。

 

「あれ...新しい先生か?」

入ってきた二人のうちに赤い髪の女子が僕の事を指差しながら言った。

 

「..うん。四月から和食の担当になる芹野桜です。よろしく!」

 

「.....芹野桜」

 

「司、知ってるのか?」

 

「多分、「無席の無冠」って呼ばれてましたか?」

おい、まだ残ってるのか。

「...まあ、そうかな」

 

「何だよ。司、何知ってるんだ?」

 

「少し前に昔の遠月について調べた事があったんだけどその時に見た事がある気がする。確か79期生の卒業生の中の一人で在学中は一度も十傑に入る事は無かった。だけど在学中の食戟の回数は350回。歴代最多でありその中での勝利の回数は349回、敗北の回数は1回という記録をたたき出した。対戦相手の中には元十傑だったり後に十傑になる人だったり様々だけどそれでも敗北したのは一回だけ。その一回の敗北を与えたのは四宮小次郎シェフだった。だが、後に四宮シェフと食戟を行った時は勝利を収めており四宮シェフとの対戦成績は3勝1敗という記録で終わった。だから学生たちは畏怖を込めて彼の事をこう呼んだ。「無席の無冠」。四宮シェフとの食戟に一度は敗北しているから本人は決してこの名前を認めなかったみたいだけど。だけど349勝しているのは歴史的にあり得ない。だから今でも知る人ぞ知る料理人なんだ」

 

長ったらしい説明をしてくれたけどそんな感じで書かれているんだ。そんな大した事をやった感じはしないんだけどな。それに少し大げさにしすぎている気がする。

 

 

「そんな大した人間じゃないさ。それはちょっと大袈裟な気がしますよ」

 

「こいつそんな凄い人なのか!!そうは見れないけど」

この赤髪かなり失礼だな。後輩にこんなに言われたことないぞ。遠慮知らずとはまさにこの事を言うんだな。

 

「...さすがに失礼だな。確かにそうは見えないかもしれないけど....」

 

案外、気にしているんだよな。他人から言われるのは初めてだけど自分では何度も思った事あるんだよな。

 

「..それより、これからよろしくお願いします!桜先生」

 

「まあ、よろしく!.....えーと君の名前は?」

 

「僕の名前は司瑛士。現第一席です。そしてこっちにいるのが現第二席の小林竜胆です」

 

「よろしくな~」

最初に出会った生徒が第一席と第二席だとはな。運命かね。

 

「...よろしくな」

それから少し会話をして司たちとは分かれた。

 




中途半端な終わり方になってしまってすみません。次回はこの続きからスタートします。


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ついに就任へ②

司や竜胆と別れてからは他にも校舎内を見渡し外が暗くなって来ているのを見て一度理事長室に戻る事にした。

 

 

そして戻ってみるともう堂島さんは帰ったのか居なかった。

 

「やっぱりここは良いですね。校舎を見て回ると昔の事を思い出しますよ」

もう10年近く経っているのに未だに鮮明に思い出せた。

 

「それは良かった。それでお主は今日はどうするんじゃ?堂島を呼びつけて家まで送ってもらうか?」

 

「いや、大丈夫です。今日は久しぶりに寮で寝ようと思います。まだ、ここに来た挨拶もしていないですし寮の方も今、どうなっているのか見てみたいですから」

 

「そうか。お前の顔を見れて喜ぶじゃろう」

 

「それはどうだか分かりませんよ。ふみ緒さんは案外、お前か見たいな感じかもしれないませんよ」

あの人とももう10年近く会ってないからどんな風になったんだろう。

 

「まあ、それは会ってみれば分かるじゃろう。それで寮までの道は憶えておるのか?」

 

「それがお恥ずかしながら忘れてしまいまして...さすがに10年という月日は長かったみたいで」

 

「では...十傑の中で今、この学校内にいる者を呼ぶか」

 

「そんな事のために十傑を呼んでもらわなくても大丈夫ですよ。それぐらい地図を書いてもらうか口頭で教えてもらえれば....」

 

十傑の人たちもそんなに暇な人達じゃないし十傑に入るような人は個性の塊みたいなものだ。だからものすごく扱いに困る。

今、さっき会った....確か..司...と竜胆はそこまで個性たっぷりという感じでは無かったが..。

 

「だが悪いな。どうせお主の事だから場所を忘れているだろうと思って呼んでおいたのだ。この時間に残っている生徒は少ないからな。先に声を掛けておいたのだ。入れ」

総帥がそう言うと理事長室の扉が少しずつ開いて行く。そして扉の先に居たのは.....背の低い幼女見たいな人だった。もし、制服を着ていなければ小学生だと思ってしまっただろう。

 

「総帥。この子は?」

 

「十傑第4席の茜ヶ久保もも。お主がどうせ寮の場所を憶えてないだろうから呼んでおいた。では、これ以上暗くなる前に寮へと行ってこい。茜ヶ久保はこ奴の案内を頼んだぞ」

 

「はい...」

 

 

そして理事長室を出て今は寮への道を二人で歩いている。二人で歩いていると言っても茜ヶ久保さんが前を歩いてその後ろに俺が付いて行っている感じだ。

 

だけどさっきから空気が重い。理事長室を出てからこの子も一言も声を発していない。

さすがにこのまま寮まで行くまで無言というのも悪いかと思い僕は自ら話題を振ってみることにした。

 

 

「茜ヶ久保さんの得意料理は何なの?」

 

「.........スイーツ」

 

「そうか....スイーツか。今度、暇があったら食べさせてくれないかな?」

初対面の相手に食べさせてと言うのは少し気が引けたけど僕の周りの料理人の中にスイーツ専門は居なかった。だからこそ食べてみたい。

 

「................」

やっぱりまずかったか。

 

「いや、別に嫌だったら別に大丈夫だよ。初対面の人にこんな事を言われたら僕でもさすがに躊躇するしね」

 

これは引かれたかもしれないな。さすがに最初の会話にこれを選んだのはかなりの間違いだった。これはもう何も言わない方が良いかもしれない。

長い沈黙が続きこのまま寮まで行くのかと思った瞬間に茜ヶ久保さんが口を開いた。

 

「良いよ...」

 

「え?」

 

「だ・か・ら良いよ!別にそんなにもったいぶるような品でもないしね。だけどその代わりにあなたの料理を私に食べさせて。それだったらももの料理を作ってあげても良い」

僕は少しの間、唖然としてしまった。茜ヶ久保さんの口からこんな事を言われると思ってなかった。てっきり引かれたのかと思ってたから。

 

 

「あ....うん。僕の料理なんかで良ければ作っても良いけど...」

 

「本当に良いの!???」

茜ヶ久保は後ろを振り向き僕の方を少しずつ近づいて来ながら言った。少し食い気味に。

 

「..う..うん。良いですよ。別に学校側から生徒に料理を振舞っちゃいけない何て言われてないしね」

正直に言うとどうなのだろう。先生が生徒に自分の料理を食べさせているところ何て見た事がないからもしかしたら、ダメなのかな。そこら辺の事に関しては明日にでも総帥に確認してみるか。

 

「じ..じゃあ、二日後に第三料理室で良い?」

 

「何が?」

 

「場所と時間!!料理を作るんだったらキッチンがあるところじゃないとダメだし寮とかは下手に誰かに見られると面倒」

 

この子は案外、頭が回る方なのかもしれない。これこそ人を外見で判断しちゃいけない典型的な例な気がする。

 

「そうだね....それで二日後に第三調理室でやるという事で良いかな?」

 

「うん。それで良い」

そしてそれからはたまに話したりしながらたまに無言だったりしたけど寮に着いた。普通に来るより時間が倍以上に感じてしまったりしたけど無事についたならそれだけで良い。

 

「案内してくれてありがとう。俺の性で態態、寮まで案内させて悪いね」

 

「別にいいよ...そんなに手間が掛かる訳じゃないから。それに.......」

 

「それに?」

 

「いや、何でもない・それじゃ二日後に」

 

「うん!分かってるよ」

 




またまた中途半端ですみません!続きに関してはなるべく早く投稿できるようにします。
今はアンケートもあるのでご協力してくださると嬉しいです!


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始めての授業

ももとの料理対決?に関しては次辺りに番外編として書きます。


極星寮は思っていたよりも変わってなかった。ふみ緒さんは少し老けていたけど生徒の感じは変わっていなかった。生徒のあのどんちゃん騒ぎをする感じが極星寮らしいと僕は思ったけど。

 

 

それから始業式は始まるまでは変わった事も無かった。始業式では幸平創真くんが全員を敵に回すような発言をしていたのが記憶に残っているぐらいだ。

 

 

 

そして今日は初めての調理実習の監督をする日だ。緊張をする事があまりない僕だけどさすがに少しは緊張してしまう。調理実習というけど僕にとっては初めて生徒の前に立つ場だ。

 

まあ、この緊張も最初の授業が終わった後には無くなっているのだろう。

舌が肥えているわけではないけど人並みには美味しいとか不味いとか分かるから大丈夫だとは思うけどやっぱり心配になってしまう。

 

考えながら歩いていると第一調理室についてしまった。大きく深呼吸をしてからドアを開けるとそこには全員が揃っていた。まだ、授業が始まる前だから...まだ集まっていないと思っていたんだけどな。全員の注目が僕に向いている。新しく入って来た訳だし注目を集めるのは仕方ないか。

 

 

僕は先生が座るべき椅子に座り授業が始まるのを待つことにした。それから5分経つと授業開始の時間になったのでの僕は席を立ち説明を始めた。

 

「それでは授業を始めます。新任の芹野桜です。よろしくね。まあ、自己紹介はこれぐらいにして今日、君たちに作ってもらうのは....自由だ」

 

その瞬間、教室がざわつきだしたが僕は気にすることなく説明を続けた。

 

 

「今、君たちの調理台には材料が置かれている。その材料を使ってくれればどんな料理でも構わない。材料は使い切っても良いし使い切れなくても良い。それでは長話をするのも面倒なので調理に入ってください」

 

生徒を見渡すと生徒たちは戸惑いを隠し切れない感じだった。それはそうだろうな。僕も色々と考えた。料理は指定した方が良いのか、それとも指定しない方が良いのか...だけど結局悩んだ結論に選んだのは指定しないだった。指定しなければ生徒たちは自らでどんな料理を作るか考えなくちゃならない。

 

 

料理人にとって想像力は命。これからこの子たちには研修試験などたくさんの試験が待ち構えている。試験で生徒たちを判断する基準はどれだけオーダーに答えられるか。

 

大体、オーダーってのは無理難題が多い。簡単に出来てしまう事なら試験にならないからね。無理難題の中で一番必要なのは何よりも想像力が必要になってくる。だから今回は指定しないを選んだけど高校一年生に上がったばかりの人たちにとってはかなり難しいかもしれないなと今になって思ってしまった。今さら変えられないから何とも出来ないけど。

 

生徒たちも少しずつ動き始めた。悩んでいても時間が無駄になるだけだからね。授業中に料理の完成をしてくれないと判定すら出来ないからね。

 

僕は本人たちには決してどの評価かは伝えない。本当は伝えないとダメだなのかもしれないけど伝えない。これには色々と理由があったりするけど一番は...本人の意欲の低下になるかもしれない。厳しい評価をするつもりはないけど教師になったからには甘い評価も出来ない。だから多分、色々と考えて評価をすると思うけどそれでもA評価を取れる人は居ないだろう。

 

どんなに頑張っても無理だろう。

そんな事を考えているとどうやら始まって5分ぐらい経過してしまったらしくほとんどの生徒が調理に入っている。

 

 

折角だし少しどんな料理を作ろうとしているのか見に行くか。教師が見に行ったりすると生徒が緊張するかもしれないけど正直に言うとどんな料理を生徒たちが作ろうとしているのか気になってしまう。

 

僕が立つとまた生徒の視線のほとんどが僕の方を向いている。僕が動いた事がそんなに驚きなんだろうか。まあ、僕は視線を気にしながらも生徒たちの調理を見る事にした。

 

見てみると中にはそれなりの腕の人もいるみたいだな。....この少し赤みの掛かった髪の子の腕も確かだな。調理が早くもう頭の中でどんな料理にするか決めているのだろう。

 

他にも金髪系な感じのこの子も尋常じゃないくらい手際が良い。確実にこの場では一番早く仕上がるな。他の生徒との差があり過ぎるからな。

だけど今回は別に早く料理をしなくてはならない。時間内であればどんなだけ時間が掛かっても大丈夫だから早さはそこまで重要な事ではない。

 

この程度でいいかと思い自分の席に戻った。それから時間が経ち、やっと一人目が完成した皿を持ってこちらに来た。やはり一人目は僕が思っていた通りで金髪の女子だった。

 

「完成しましたわ」

 

「うん。では実食させていただきますよ」

金髪の女子が作った料理は..........

 

「ドフィノワ」

 

「そうです」

 

 

熱くて湯気が出ていて出来立てだというのが見ただけで分かってしまう。見た目は食欲をそそられるし匂いも文句なしで良い。

 

そして食してみると......美味しい。上手い。他に表現方法が思いつかないな。ドフィノワは難しい料理では無い。フランスの一派家庭でも作られる事のある郷土料理。だが、何かを足してるような気がする。レシピを憶えただけではこんな味を作り出せない。

 

何かがあるはず。

 

これを高校生で作れるんだったらここを卒業する時には一体どんな料理が出来るようになっているんだ。

 

下手したら僕の高校生時代にも卒業時には追い付くかもしれない。

 

 

「....うん。席に付いていいよ」

 

僕は生徒をずっと立たせておくのも悪いから席に付かせることにした。だけどそれがかなり予想外だったのか生徒たちから「え..」という言葉が漏れていた。それに金髪の女子も顔をゆがめている。僕はなんかまずい事を言ってしまったのだろうか。僕としては気づかいで言ったつもりなんだけど。

 

「...は、い」

 

苦虫をかみつぶしたような顔をしながら言っていた。そんなに何か屈辱的な事だったのだろうか。

 

それからは生徒たちも少しずつ僕のところに来るようになって最終的には全員が料理を完成させる事が出来た。一応、指摘するほどダメな料理も無かった。

 

あの中で飛びぬけていたのは....金髪の女子と....その次ぐらいに赤髪の女子と言ったところだろうか。思っていたより高校生の実力は高い。E評価がいると思っていたけど今回は居なかった。

 

これからに関しては分からないけどほとんどの在校生がこれぐらいの料理スキルを持っているならE評価を付ける必要性はないかもしれないな。

だけど何で金髪の女子が苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたのかだけは分からなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えりな様、怒ってなさいますか?」

後ろにいつも控えている緋沙子が聞きにくそうに聞いてきた。

 

「怒ってないわ........只」

 

「只?」

 

「私の料理を食べて一言も美味しいと発さなかったわ」

 

私の料理を食べて今まで美味しいと言わなかった人はいない。なのに芹野先生は顔色一つも変えなかった。あんな屈辱は初めて感じたわ。

 

「...誰の料理を食べてもあの先生は何も言わなかったですし」

 

「そんな事は問題ではないわ。芹野先生に絶対に私の料理を食べて美味しいと言わせるわ」

 

そんな決意をまじかで見ていた緋沙子はこのセリフをどこかで聞いたことがあると思っていた。



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憧れの人 前編 (番外編)

これは今までと比べてかなり短いです。そしてこの話が本編に関わってくるのはまだ先の話です。

肝心のこの話は茜ヶ久保ももと桜との料理対決?みたいなものをやる前の彼女の心情です。心情と言っても彼女が何で料理人を目指したのかについてのお話です。
前編は全部、ももの自分語りです。


この話を読まなくも本編に支障はほとんどありません。


ももが可愛いと言ったものが世の中では流行るという風になったのは何時からだろう。それにうっとおしく感じ始めたのは何時からかな。

昔の話をしてあげる。

 

ももは世間からもてはやされていた。企業が挙ってももの事を欲しかったらしくお金を積んでいたらしい事を知ったのは最近の事だ。

 

ももを料理人の道に引きずりこんだのは一冊の雑誌をペラペラと捲っていた時に目に入った料理だった。その料理はとても美しくて何より可愛かった。ももが今まで見た事があるものの中であそこまで可愛くて美しいものを見たものがない。どんな絵画や旋律でもここまで美しいものはない。

 

その料理は芸術品として扱われるべきと思うぐらい完璧の作品だった。その時にももにもこんな料理が出来るのかな。と思った。

 

 

 

それからももは少しでもその料理を作った人に近付けるように努力は惜しまなかった。

ももをスカウトに来ていた企業の人たちは何で料理の道に行かれるのか分からないと言っていた。確かに料理の道は険しくて生半可の覚悟じゃ生き残れない。だけど何度も諦めようと思う度にあの雑誌の一ページだけが蘇ってきた。私が今でも料理人を続けているのはやはりあの雑誌の一ページのお陰。

 

それからはももの目標は…その雑誌に載っていた料理を作った人にももが作ったものを美味しいと言わせる事だった。その料理人の名前は….桜。名前は女子みたいだけど正真正銘の男らしい。年は私より十歳ぐらい上らしい。

 

まあ、三歳の頃から包丁を握り始めて、五歳の時にはある程度の料理が出来るようになり、七歳の時にはプロからお声が掛かるくらいの腕前に、九歳の時に世界からも注目される人になったらしい。

いつかはこの人に会って美味しいと言ってもらう。

 

 

 

その雑誌を見た日からももは桜さんが載る雑誌は絶対に買うようにした。発売されたら発売日当日に買いに行ったしテレビに出るとなった時もそのテレビを録画して何度も何度も見返した。もも以上に桜さんに詳しい人なんて居ないと自負するぐらいに見た。それに桜さんがやっている店にだって親におねだりしたりして連れて行ってもらったりもした。

 

だけど桜さんの店はとても人気で一年後の予約まで全てが埋まっているので行ったと言っても数えられる程度しか行った事はない。けど味は今でも思い出せるほどに記憶に残っている。

私の家は裕福と言えば裕福な家庭だったから食べているものもそれなりに美味しいものを食べてきたと思っていたけど桜さんの料理を食べてからは桜さん以外の料理が美味しく感じられなくなってしまった。あんなに美味しい料理が存在すると思わなかった。

 

私は彼が遠月学園に教師として来るのを知った時はとても驚いたし嬉しかった。料理人の中で一番好きな料理人が来てくれるんだから嬉しくない訳がない。だけど私は人に話しかけたりするのがとても苦手だから教師として遠月学園で働き始めたとしても関わりを持てるとは思ってなかった。

 

だけどそれは良い方向で裏切られた。どうやら総帥は桜さんが寮の場所が分からない事を見越して生徒の誰かに案内をお願いしたかったらしい。

 

どうやら偶然、通りかかったのが私だった。これは本当に運が良かったとか言いようがなかった。そしてももは桜さんを案内する事になった。

 

その時間は私にとって至福な時だった。今までももが生きてきて感じた事のないぐらいに高揚感を感じていた。憧れの人が近くに居て話せる距離にいる。これをどれだけ待ち望んだかな。だけどいざ現実になってしまうと話す事が出来ない。

このまま話さずに終わるのが嫌だけど話す事が出来そうにないなと思っていると彼の方から話し掛けてくれた。

 

 

そして最終的には.....桜さんの料理を食べられるようになった。私は極星寮からの帰り道に二日後の事を想像しながら歩いていると自然に顔がにやけてしまったりした。

 

 

 

 

そしてあっという間に二日という時間は過ぎていった。




なるべく早く続きを投稿できるように頑張りますので気長にお待ちいただけると嬉しいです。


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憧れの人 後編 (番外編)

約束をしてから二日という月日が流れて今、僕は約束の場所に向かっている。

 

 

総帥に確認もしたから教師の料理を生徒に食べさせたりするのは大丈夫らしい。だが、教師が一人の生徒だけを特別視するわけにはいかない。総帥からは「そこだけは分かっているな?」と聞かれた。

 

それは勿論、教師である以上は一人の生徒だけを過剰に評価する事はしない。そんな事をしてしまったらそれは教師と呼べない。

 

 

 

それと今は朝の5時だ。普段ならまだ毛布にくるまっている時間だ。二日前に茜ヶ久保と話し合ったがその時に時間を決めていない事に気付いた僕は次の日に急いで居場所を探し結果から言うと最終的には見つけて時間を決められた。まあ、見つけるためにかなり苦労をしたけど。

 

 

 

「こんな朝、早くからいるとはどうしたんですか?」

 

 

僕は急に背後から呼ぶ声が聞こえたために振り替えるとそこに居たのは……………司瑛士だった。

 

「君こそこんな時間にどうしたんですか?」

 

 

第1席はこんな時間に来なければならないのかと思ったけどそんな決まりは無かったはずだ。だとしたら何でほとんどの生徒が眠りについている時間にこんな場所に来ているんだろうか。

 

 

「…………少し野暮用があったもので……それこそ何で先生はこんなところにいるんですか?」

 

 

別に言って困るわけでもないし言ってもいいか。

 

 

「二日ぐらい前に茜ヶ久保から料理を食べて欲しいと言われてな。それの実行が今日でこの時間だからここにいるんだ」

 

なるべる教師っぽい喋り方で僕は返答をした。まだ、教師がどんな感じで生徒と話しているのか分からないから手探りだけとそれでもやってみた。

 

「………茜ヶ久保が先生に頼んだということですか?」

 

 

「…………まあ、茜ヶ久保から頼んできたと言うより俺からお願いしたの方が正しいのかもしれない」

 

記憶はうろ覚えだけど確か俺から食べさせて欲しいみたいなことを言った気がする。

 

「先生から興味を抱いて声を掛けたというですか?」

 

 

「いや、茜ヶ久保に極星寮まで案内してもらってたんだよ。その時に少し話して今の状況になったんだ」

 

 

「そうですか……………その場に俺が同伴しても良いですか?」

 

 

「その場とは?」

 

 

「先生と茜ヶ久保が料理を作る場所です。茜ヶ久保の料理はともかく先生の料理は数えられるぐらいしか口にした事がありませんから」

 

 

「別に良いんじゃないかな。茜ヶ久保に許可を取っているわけじゃないが見られて困るような事はないしな。それに茜ヶ久保から絶対に一人で来てくださいとは言われてないからな」

 

 

そんな感じで僕と司は第三調理室の前にいる。扉を開けてみるとそこには料理を作るのが万端であろう茜ヶ久保の姿があった。何で作るのか万端かと思ったかと言うとそれは実に簡単に言うとエプロンを着けて頭には三角巾が付けられているからだ。

 

茜ヶ久保は僕だけだと思っていたのか司の方を何でいるのという感じ見つめている。

 

 

「そこで司と会って話していたら来たいと言っていたから連れてきたんだか何か問題でもあるかな?」

 

茜ヶ久保は司の方に向けていた目をこちらに向けた。

 

 

「……………問題ない」

少し不満そうな顔をしてはいるが...そこら辺は見なかったことにしよう。

 

 

「それなら良かったよ。じゃあ、まずかはどっちから作る?」

 

 

「..私から作る。桜先生と司はそっちの方に腰を掛けて待ってて」

茜ヶ久保が指さした先には二つの椅子があった。俺はそこに腰を掛け茜ヶ久保の調理を見ていた。

 

 

 

僕が彼女の調理を見て素直に思った事は...きめ細やかで繊細だ。調理はその人の性格が現れたりするもので荒い感じの人がやれば料理も荒い調理法になるし逆に繊細な人がやれば料理は勿論、繊細な調理法になる。

それぐらい料理には心が現れるものだ。

 

そして茜ヶ久保の調理は僕が今まで見た料理人の中で最も繊細だと言っても良いと思う。それぐらいの調理を茜ヶ久保はしている。

さすが十席の第4席というべきかもしれない。

 

僕は茜ヶ久保の調理を見ていると...時間が過ぎるのがとても早く感じ気付いた時には調理を初めて一時間という時が流れていた。

 

そしてどうやら彼女も(りょうり)が完成したらしくこちらに持ってきた。

 

 

 

「完成した」

 

 

僕は茜ヶ久保が僕の前に持ってきた皿の上に持っている料理を見て驚いた。その皿の上に置いたのは...ロールケーキだった。僕が驚いたのは..その料理の見た目だ。

普通のロールケーキと違って..所謂、デコレーションが凄い。こんなにも見た目で食欲をそそられるのはいつ以来だろう。これが今の第4席の力と言うことか。

 

「では、いただきます」

 

 

僕はフォークを持ちロールケーキを口に運び噛むと中に包んであるクリームが一気に口に広がっていく。クリームの甘さとスポンジの触感はうまくマッチしている。スイーツで見た目と味がここまで良いと思ったのは久しぶりだ。

 

 

「どうかな?」

 

 

「...うん、美味しいよ。ここまでスイーツとしての完成度が高いのはさすがとしか言いようがないよ。さすが第4席としか言いようがないね」

 

 

「...良かった....それじゃ、次は桜先生が料理を作ってください」

 

 

茜ヶ久保が急かすように僕に言って来た。急かせすぎじゃないか.....。まだ僕はロールケーキを全部食べきれていないんだけど。

 

 

「もう少しゆっくり食べさせて欲しいんですけど....」

 

 

「早く作って!ももは桜先生の料理を楽しみにしているんだから」

 

 

「僕も先生の料理を食べるために態態、来たんですから」

 

 

司も隣に座っている僕に向かって言って来た。こいつらは僕が食べているのが見えないのかと思ってしまうぐらいだ。

 

 

「はぁ....仕方ない。作るとしましょうか。僕の食べかけは残しておいてね。自分の調理が終わったら食べたいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どんな料理を作るか。正直な事を言うと何も考えてなかった。どんな料理にするのか...いや、まずはどのジャンルの料理を作るか。

 

僕の得意分野は和食だが大抵の料理なら何でも作れる。だから別に和食にする必要もないが..茜ヶ久保の料理を食べてしまったからな。あの料理にも引けを取らない料理を出さなくちゃダメだから..やっぱり和食にしますか。

 

 

じゃあ、次に和食の何を作るかだ。和食って言っても天ぷらや茶わん蒸し....いや、汁物でも良いかもな。ヤバいな。考え始めるとどんな料理にするか悩んでしまう。あまり時間を掛ける訳にはいかないし調理時間の事も考えるとそろそろ取り掛からないといけないな。

 

 

「..............やはり、これにするか」

僕はどの料理にするか決めてすぐに料理に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり先生は凄いな」

 

 

「司は桜先生の料理を食べた事ある?」

 

 

「まあ...何度かね。最初、会った時は驚いたけどやっぱり...先生は日本で数店しかない..三ツ星を貰った「SAKURA」の総料理長兼創業者。俺も何度か食べに行ったことあるんだけど...よく憶えているよ。あそこまで美味しい料理を食べたのは初めてだったから」

 

 

「私は..最初、雑誌で桜先生の料理を見てこんな料理を作れる人が居るんだと思った。それからは桜先生が載っている雑誌は発売日に買ったし「SAKURA」にも行った。それから私の目標は彼に美味しいと言ってもらう事だった」

 

 

「だとしたらそれは今日、叶ったんじゃないか」

 

 

「うん。だから美味しいと言ってくれた時、この世の終わりでも良いと思えるくらい嬉しかった。だけど今はこんな近くに憧れの人がいるんだから...本物の料理をもう一度食べてみたい」

 

 

 

 

桜は集中していて気付く事は無かったが..離れたところで二人はこんな感じで会話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったよ....では召し上がれ」

 

 

僕は自分の作った皿を茜ヶ久保と司の前に一つずつ置いた。

 

 

「....茶わん蒸し」

 

 

「そうだよ。僕の得意分野の中で一番作ったと思う料理だ。君達は知らないだろうけどかなり昔に自分の店を持ったことがあってね。その店で一番の人気だったんだ。だから作ってみようと思ってね。茶わん蒸し何て何年も作ってないから味がどうか分からないけど...」

 

 

自分で自分の朝食とか夜食を作る事はあるが茶わん蒸しみたいに手間のかかる料理は店の時以外では作ろうと思わないから作らない。だって作るのに僕のは一時間近く掛かる。一時間も一品のために掛けれるほど僕も暇ではないから。

 

「では、いただきます」

 

 

「いただきます」

 

 

二人は茶わん蒸しをスプーンで掬い口に含むと...とても幸せそうな顔をした。それを見て久しぶりに僕は..人に料理を振舞って良かったと思った。最初は茜ヶ久保との約束も破棄にしようかも悩んだが今になって思えば破棄しないで良かった。

 

 

「美味しい!桜先生」

 

 

「やっぱり先生の料理は他と比べ物にならないくらいうまい」

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいね。作ったかいがあったいうものだよ。こんなもんならまた言ってくれれば作ってあげても良いですよ」

 

毎回、茶わん蒸しを作るのは面倒だけどもっと簡単な料理なら作る事も出来るだろうしな。

 

 

「本当?」

 

 

「本当だよ。まあ、あんまり頻繁には無理だけどね」

 

 

もう人に振り舞う事何てないと思っていたがまさか、生徒に料理を振舞うなんてな。こんな事予想もしていなかった。

 

そんな話をしながらしていると時は進み、もう生徒が来る時間との事で解散をした。




次からは元の話に戻ります。


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再会

初めての授業をしてから一週間ぐらいが経ち..学内では幸平創真が水戸郁美と食戟をするという話で持ち切りになっている。まあ、転入生がいきなり食戟をするってなったらこうなる事も仕方のない事だとは思うけどね。

 

でも、幸平くんも思い切った事をするよな。食戟をこんなにも早くやるとは...野心があるのは良いし目標があるのもいいがあまり生き急がない方が良いと思うけどな。まあ、それも若者の特権という奴かもしれないな。この年でそんな事を言っていたら僕より年上の人達に「まだ20代だろ」とか言われそうだな。

 

 

 

この食戟の結果がどんな風に転ぶのか..僕も一料理人として楽しみにしている。僕は校舎の窓から食戟が行われている会場の方を見据えながらそんな事を思っていると.....

 

 

 

「無事、教師になれたようで良かった」

 

視線を窓から声のした方向に移すとそこに居たのはシャペル先生だった。

 

 

「...ご心配をお掛けしてすみませんでした。どうにか無事に就任する事が出来ました」

 

 

この学校に来てからそれなりの時間が経過しているもののシャペル先生と話す機会は今まで無かった。僕も初めて教える側にたって色々と忙しかったから時間が取れなかった。

 

 

「まあ、私はあまり心配はして無かったがな。芹野は在籍時から確固たる信念を持って何事にも取り組んでいたから。その程度でくじけるような人間ではないだろうからな」

 

 

「..失礼ですね。僕も一人の人間なんですから色々と悩みましたしこの決断に至るまでに色々とありましたが..やはり何事もやってみない事には正解なのか不正解なのかは分からないと思い総帥のお誘いを受ける事にしたんです」

 

この決断が正しかったのかに関しては早くて一年後には結果が出ていることだろう。

 

 

「そうか。まあ、芹野は教師にむいているだろう。在籍時には四宮や乾にも料理を教えていたほどの実力者だからな」

 

 

「もう昔の話ですよ。今では四宮にも腕を抜かれていると思いますしね」

 

あいつは今でも客に料理を振舞っていて俺はもう本気で自分の料理を作った事がない。自炊のために作る事はあったりするけどそれもかなり簡単の料理だけだしな。

 

 

「それはやってみないと分からないと私は思うがな」

 

 

「そうですかね.....」

 

 

「...芹野は幸平創真は勝つと思うか?」

 

俺はさっきまでしていた話と全く違う話を振ってきたのですぐに反応が出来なかった。

 

 

「..........あ..幸平くんの事ですか。どうですかね....水戸さんは中等部のデータを見る限りそれなりの成績を収めているし生徒からの人気も高い。会場の雰囲気に飲み込まれたりすると幸平くんの勝利は限りなくないと断言出来ますが.....幸平くんは会場の雰囲気に飲まれるような人間じゃないですからね。正直な事を言うと全く分かりませんね。幸平君の料理は未知数なところも多々ありますから」

 

 

「確かにな。あの幸平創真という男はこれからの遠月に大きな影響を与えそうな気もするな」

 

中等部から遠月にいる訳でも無く高等部から入って来て始業式では宣戦布告のようなものをして周りからは反感を物凄く買ってしまっている。ここまで生徒から反感を買っている人間はそうもいないだろう。

 

 

「...そうですね。そうだとしたら僕たちは遠月が変わる貴重な瞬間を見る事が出来るのかもしれないですね」

 

 

「そうだな」

 

その後も色々な事を話したりしてシャペル先生とは別れた。

 

 

 

 

 

-同時刻--------あるレストラン

 

 

 

ここは東京にあるレストランで俺は()()()()と待ち合わせをしていた。一週間前まではこの時間なら厨房で料理を作ってお客に出していただろう。だけど今は違う。そろそろ遠月学園で一年生を標的として宿泊研修が行われる。俺はそこに審査員として呼ばれた。普段なら断っていたかもしれないがあいつが教師としてどんな風にしているのか気になるから受けた。

 

 

「四宮先輩~~」

 

どこからか俺を呼ぶ声が聞こえ声をした方向を見ると俺と待ち合わせをしている人物がそこにはいた。こいつはここがレストランだって事が分かっていているのだろうか。いつもはうるさくてもこういうところでは少し自重しろよ。お前が俺を呼ぶ声が大きいから周りの客が俺たちの方を見ているじゃねぇか。

 

 

「相変わらずうるせぇよ。少しは静かにしたらどうだ」

 

俺は向かい側の席に腰を下ろしたバカを見ながら言った。見た目だけなら大人しそうに見えるらしいが中身はそれと間反対で途轍もないぐらいにうるさい。こいつと一度でも接した事のある人間なら分かると思うが本当にうるさい。

 

 

「え~静かにしてますよ」

 

 

「静かじゃねぇよ....まあ、このやり取りをしていても話が全く始まらないな」

 

 

「そうですね。四宮先輩がうるさいから話が全く始まりませんしね」

 

 

「誰のせいだとこのやろ!お前のせいだろうが」

 

これは泥の沼の言い合いに発展すると思った俺はここは引いた。

 

 

「それでお前をここに呼んだ理由だが」

 

 

「そうですね。これでも私も忙しいんですからね」

 

これでもこいつも一国一城の主なわけだからそう簡単に店を抜けられないはずだが態々、時間を取ってくれているわけだから早く話を済ませた方が良いな。

 

 

「お前たちにはよく考えたら知らせてなかったと思ってな」

 

 

「知らせていない事?」

 

 

「ああ、桜の事でな」

 

 

「桜先輩!!!桜先輩に何かあったんですか!??」

 

急に乾が前のめりになった。まあ、桜の話をすればこうなる事はすぐに予想が出来る事だから驚きはしない。

 

 

「何かあったと言えばあったな...」

 

 

「何!??」

 

 

「....桜が教師になった」

 

それを聞いた乾は驚きすぎて今にも失神するような感じになっていた。普通、同期が教師になるだけで失神するような奴なんているのか...まあ、この場にいるんだけどな。

 

 

「........な・な・何でですか!???」

 

 

「前々から総帥からお誘いがあったようだったけど自分の店の事もあって受ける事が出来なかったんだが一回店を閉めた事で受けようと思ったらしい。まあ、店を閉めてから2年ぐらい俺たちの事を手伝ってくれていたのは桜の気まぐれだったんだろう。それにすぐに教師になると言ってもなれるわけではないからな」

 

桜なりに考えた結果が教師になるという選択肢だったんだろう。でも、あいつには考える時間が必要だ。店の事をどうするのかとかこれからの事とか桜には考える事で一杯だからね。

まあ、後...息抜きになればいいだろ。今まで店の事や俺たちの事を手伝ってたりして時間が取れなかっただろうからな。

 

 

「...そうですか。桜先輩も新たな一歩を踏み出したんですね。なら仕方ないですね。本当は先輩には手伝って欲しかったりしたんですけどね」

 

乾なりに桜の事を考えているのかもしれないな。乾が料理の事で悩んでいたりする時に助けていたのも桜だったから乾にとって桜は只の先輩という訳ではない。だから、乾だったらもっと反対とかすると思っていたけど...案外、簡単に受け入れるな。

 

 

「....それでこの話をまだ....水原にもしてないんだ」

 

 

「...............それは私から水原先輩に言えと遠回しに言っているんですか?」

 

 

「そうだ。俺から言ったらあいつの事だから信じないだろうしな。それにあいつが何してくるか分かったもんじゃないからな」

 

前に桜がしばらくの間、手伝いに行けない事を俺が伝えに行った時に.........思い出すだけでも寒気がしてくるな。

 

 

「...こっちも水原先輩に桜先輩関係の事を言うとなると命がかかわってくるんですから。私もそれ系のお話を水原先輩に言うのは嫌です」

 

身の危険を感じるのは仕方のない事だ。水原は本当に怖いからな。だけどここで引き下がったら俺が水原に伝える羽目になってしまう。ここは多少、リスクを冒してでも乾に行ってもらわなくてはいかない。

 

 

「...じゃあ、ここは取引をするか」

 

 

「取引?」

 

 

「ああ、もし、お前が言いに行ってくれるんなら桜の料理を食わせてやる」

 

これは一般人が聞けば別に何も価値がない事かもしれないが俺たちにとってそれは違う。桜の料理を食べる事が出来るのは...各々の誕生日の時ぐらいだ。そうでもしないと桜の料理を巡って俺たちの中で争いが起きてしまうだろうからと言う理由で桜の料理を食べられるのは各々の誕生日だけにした。

 

「...その約束を四宮先輩が絶対に守るという事が証明できるんだったら良いですよ」

 

バカなのにそういうところはしっかりしているんだよな。

 

「..誓約書を書けばいいか」

 

 

「はい」

 

 

その日は解散してそれから数日後に俺は乾に誓約書を渡し取引が完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よくよく考えれば俺たちは何をしているんだ。



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宿泊研修①

シャペル先生と話をしてから一週間が経ち一年生は宿泊研修へと向かう季節となっていた。僕は本当は宿泊研修に付いて行くことはないはず...だった。だが、いきなり宿泊研修へと一年生が出る一日前に総帥から「お前も行って来い」と言われた。最初はこの人一体何を言っているんだろうと思った。こんな一日前になって変更になって普通はないだろう。

だけど総帥も何か考えがあったようで僕が他に適任がいるのではと言っても一歩も引くことは無かった。最終的には僕が折れて行くことになった。だけど総帥があそこまでゴリ押しのような事をしてくると言う事は何か僕を行かせたい事情があるんだろうなと思いながらも僕が行かないとダメそうだったので行くことにしたけど..。

 

 

 

------------------

 

今、僕は遠月リゾートホテルに一足先に着き卒業生を待っている。予定されている時間より圧倒的に遅れている。ちゃんと時間を守って欲しいものなんだけどな。四宮たち以外は卒業生は全員が到着して自分の部屋で待機してもらっている。

 

彼らが来たのは....待ち合わせの時間から15分後だった彼らが言うには少し道が混んでいて遅れたそうだ。僕は決してそんな事は信じないけど....一応、そういう事にしておくことにした。下手にここで問い詰めて時間を無くすのだけはマズイ。只でさえ押しているだから。

 

 

「四宮達も早く自分の部屋に荷物を下ろしてきて。それから10時になったら大広間に集合。これは遅れないでね」

 

僕はそれだけ言って自分の仕事に戻る事にした。時間は押したが後15分もすれば一年生たちを乗せたバスが到着するはずだ。それまでに何としてでも全て整えておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

そして一年生たちが到着して大広間に少しずつ移動し始めたのをフロントで確認して裏口から大広間の壇上裏に移動した。壇上の裏には卒業生たちが待機している。

 

 

「もう少しで一年生が揃うから準備をしておいてください」

 

全員に聞こえるぐらいの声でそう言った。

 

 

 

「それにしても桜先輩が教師になる何て考えもしなかったです」

 

 

如何にも和装な感じの服で身を包んでいる女性が僕の近くまで来てから口にした。

 

「そう言えば、君と会うのも久しぶりだね、乾。四宮には言っておいたんだけど他の皆には面と向かっては言えなかったからね」

 

 

 

「四宮先輩から聞いた時は耳を疑いましたよ。だけど四宮先輩も冗談で言っているような感じではなかったので信じましたけどやっぱり今日、来るまでは半信半疑でした。だけどこうしてみてみると本当に先生になったんだと実感しますね」

 

 

確かに僕も総帥から誘われなければ教師になる何て選択肢はなかっただろう。

 

 

「確かにね。僕でもこんな自分は想像できなかったよ」

 

 

 

「だけど桜が教師なんて今になって冷静に考えたら大丈夫か?」

 

 

 

「何が?四宮」

 

 

「だってお前、あまり美味しい料理を食べても表情が動かないねぇじゃねぇか。こればっかは生徒にも同情するぜ。それに表情が動かないだけならまだいいがお前は「美味しい」「マズイ」の一言すら口にしない。これは生徒も頭を悩ませるだろうな。何も言ってくれないんだからな」

 

 

 

四宮の言う通りで僕は在学時から料理を食べるときは表情も動かないし喋らない。これに関しては昔からの癖で今に至るまで治っていない。確かに四宮の言う通りかもしれない.....僕も誰かに料理を出して「美味しい」とかうまそうな表情をしていると嬉しかったりする。

 

 

「それはそうかもしれないですね。私も在学時に桜先輩に料理を教えてもらっている時に何回か料理を出したことがあるんですけど..最初はとても心配になりましたもん。だって何を出しても表情が動かないし何も喋ってくれないんですもん。普段は表情豊かなのに料理の時だけだから余計に不安になりましたよ」

 

 

 

そんな会話をしていると用意を全て整え終わった..水原が近づいてきた。水原が近づいてくるのが分かったのか..四宮や乾は少し僕から距離を取った。

 

 

「水原も久しぶりだね」

 

 

「............」

 

何故か水原は僕の目の前まで来ると無言で俯いてしまった。僕って何かやってしまったっけと不安になってしまうほどにずっと俯いている。

 

 

「...どうしたの?水原...」

 

 

「.....どこに行ったのかと心配だった

 

 

「何...もうちょっと大きい声で頼む」

 

 

「すご~~い、心配したんだよ~~~」

 

水原はいつもと比べものにならないぐらいの大きな声で言いながら顔を上げた。

 

 

「え......どうしたんだ。水原。おかしな物でも食べたのか...」

 

僕が困惑していると外野の人たちは遠くから静かに僕たちの事を見ていた。まるで巻き込まれないように離れているかのように...。

 

水原が落ち着きを取り戻すまで...しばらくの時間を有してしまったが..事情を聞くとどうやら僕の事を心配してくれていたみたいだ。水原の方に情報が届くまでかなりの時間が掛かってしまったみたいで僕が教師になったと聞いたのは三日前ぐらいらしい。それまでは料理にも身が入らなくて..前と比べると料理の腕が落ちてしまったりもしたみたいだ。

 

 

 

「ごめんね。水原。僕が言わなかったばっかりに」

 

 

「そう。そのお詫びとして料理を作ってよ」

 

 

「別に良いけど...この宿泊研修が終わったらね。そしたら少しの間は暇を貰えることになってるから」

 

 

総帥も本当なら宿泊研修に僕を行かせる気が無かったのに...行かせることになってしまう事に少し罪悪感があるらしく宿泊研修が終わったら三日ぐらいの休みをくれると言ってくれた。一年生も宿泊研修が終わったら少しだけ休みがあるからそれと同じだ。

 

 

 

 

 

この時点で一年生は大広間にほぼ全員が集まっており...卒業生の登場まで後10分をきっていた。



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宿泊研修②

一年生にとって今の料理界でTOPを走っている者たちの姿はとても鮮明に映るだろう。そして憧れになるのはほぼ間違いないと言っても良いかもしれない。

だが、一年生たちも宿泊研修が本格的に始めれば嫌でも知る事になる。この宿泊研修が振るい落とすためのものだと。

 

 

 

 

 

最初に学長も言っていたが『諸君の99%は1%の玉を磨く為の捨て石である』。これが現実的になってきたと言えばいいのだろう。この試験が終わるころには一体、なん人の生徒がこの場に残っているだろうか。教師の立場としてはなるべく多くの生徒に残って欲しいがそれは多分、難しい。例年、この宿泊研修でかなりの人数が退学になっている。

 

 

 

 

 

 

そしてそんな宿泊研修が今、始まりの火ぶたが切られようとしている。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、諸君。これより簡単に合宿の概要を説明する」

 

 

 

シャペル先生のそんな声と共についに宿泊研修が始まった。

 

 

 

 

------------------

 

 

 

説明や顔合わせが終わり堂島さんに「移動開始」の掛け声と共に生徒たちは一斉に出口へと向かい始めた。それぞれのブロックによってお題は全くと言って良いほどに違う。

 

 

どのお題、どの卒業生に当たったとしても地獄に変わりはない。普段は優しそうな顔をしている卒業生でもこと料理においては卒業生は料理のプロフェッショナルと言っても良い。そんな人たちが料理に関して甘いわけがない。

 

 

 

 

「さて、僕はこれからどうしようか……一応、これで僕の仕事はひと段落したしな」

 

 

 

僕の仕事は卒業生たちの案内だから、もう終わった。そしてこれから試験が始まる。これから先の事において僕が手伝えるような事はない。それに試験の途中で教師が生徒に干渉しようものなら僕の首が飛ぶかもしれない。

 

 

 

「それでは私の話相手になってくれるか?」

 

 

 

いつの間にか僕の隣に立っていた堂島さんがそんな事を口にした。本当にこの人を間近で見ると迫力が凄い。体が大きい上に鍛えているのが服の上からでも分かってしまうほど筋肉だ。この人を見たことがない人にこの人の職業は何だと思うと聞いても『料理人』なんて答えは百人に聞いたとしても出てくる事は多分、ないだろう。

 

 

 

「別に良いですけど……堂島さんはこんなところに居て良いんですか?遠月リゾート総料理長」

 

 

 

「その呼び方を止めてくれないか。確かにそうだが今日は料理長ではなく只の料理人として若き卵たちを見に来たのだから」

 

 

 

「でも、仕事は多いでしょう。いくら宿泊研修中と言っても」

 

 

別に宿泊研修をやっているかと言って仕事がなくなるような事はないはずだ。この人は多忙で暇を取るのも難しいと聞いた事がある。

 

 

 

「まあ、それはそうだが…………そんなに急ぐような仕事はないからな。お前と話すような事はこんな機会でもなければないからな」

 

 

 

「それもそうですね……僕は遠月学園の教師、堂島さんは遠月リゾート総料理長兼取締役会役員。普通に仕事をしているだけじゃ絶対に会う事はありませんからね。そう言えば、前は言い忘れていましたが『長らく僕の店をご贔屓してくださり誠にありがとうございました!』」

 

 

 

僕は隣にいる堂島さんに頭を下げた。これは絶対に言っておかないといけない事なのだ。料理長兼オーナーとして。店にとってお客は大事だ。お客が居なければ店は成り立たない。ならば一旦、閉めてしまった事を詫びると同時に今までの感謝を伝えなければならない。

 

 

 

 

「それを君の口から生きているうちには聞きたくなかった」

 

 

 

「それは誠にすいません。でも、堂島さんは一週間に一度ぐらいの頻度で来ていただいていたのでこれをいつかは言わないといけないと思っていました」

 

 

 

「まだ言わなくて良い。俺はお前がもう一度、店を開ける事を待っている。お前の料理は中毒性があるからな。俺はあまり我慢が好きではないからなるべく早くもう一度開けてくれよ」

 

 

理由を見つけたらもう一度僕があの店を開く日も来るかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまり期待しないで待っててくれると助かりますがもし、もう一度開く事があったらその時はまたご贔屓をお願いします」

 

 

 

「ああ、必ずな」



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宿泊研修③

そして今…僕の目の前では四宮と在校生である幸平創真くんと田所 恵さんが食戟を行おうとしている。何でこんな事になってしまったのだろうか。僕は現場に居たわけじゃないから本当のことは分からないけど事情を知っている人に聞く限り、幸平くんの友達である田所さんが四宮に退学を言い渡されたのを見て…四宮に対して食戟を挑んだらしい。

 

 

 

 

 

普通ならそんなの食戟するまでもなく四宮の意見が通るものだけど、今回は少しイレギュラーらしい。四宮のお手本通りではないがアレンジを加えた。四宮の試験では四宮と同じものが作れるのかが査定基準。だけど田所さんの場合はその材料が無くてそれを補おうとして行ったこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

料理人として働くようになれば…材料が届くのが遅れる事もあったりする。その時にある材料でお客様に対して最高の皿を提供するのも必要になってくる。だから試験とは違うけど…田所さんがやったことも必ずしも間違っているわけではないと個人的には思っていたりする。

 

 

 

 

この食戟を止められるのなら止めたい。だって卒業生と在校生の食戟なんて過去を振り返ったとしても一度たりともなかった。それは在校生と卒業生には簡単には埋められない『差』というものが存在するから。

だから最初にその事を聞いた時には正直な事を言うと「嘘だよね」と口にしてしまった。幸平くんの勇気も凄いね。あの四宮に恐れることなく食戟を挑むとはね。

 

 

 

 

「桜先輩」

声のした方向を向くとそこには…乾がいた。彼女もこの食戟を見るためにここに来たのだろう。

 

 

 

「何かな?」

 

 

 

「こんな時に言うのも何なんですけど……この特別試験が終わったら私の料理を食べてくれませんか?」

 

 

乾からの予想だにしないようなことを言われたので一瞬、反応が出来なかった。

 

 

 

 

「……あ、別に良いよ」

 

この状況で話すような話ではないと思うけどね。

 

 

「本当ですか!!???」

 

 

 

「うん。それに乾の料理を食べる機会なんて今じゃないからね。今では超有名店の『霧のや』の女将の君の料理を食べられるなんて嬉しいよ」

 

 

 

彼女の料理を食べるのは僕が遠月学園に在校生として在籍していた時が最後だからもう何年以上前だろうか。それに普通に乾の料理を食べるとしたらそれなりのお金を払わないといけない。なんかそのことを考えると少し負い目を感じる事もあるけどね。

 

 

 

 

「桜先輩の料理に比べたら私なんて足元にも及びませんが…あなたの『弟子』としてそれに恥じないほどの料理を提供することを約束します」

 

 

 

 

「乾がそんな丁寧な口調を使うなんて久し振りに聞いた気がするよ。そんな風な口調で言われると……少し気持ち悪いよ」

 

 

 

 

「ひどくないですか!!!」

 

 

 

 

「…ごめんね。でも、乾は普通の口調の方が良いと思うよ。その方が僕も好きだしね」

 

 

乾が僕に対して丁寧な口調を使ったのは……初対面の時だった気がする。それからはタメ口+敬語みたいな感じだった気がする。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「急に無言になってどうしたの?」

 

 

 

 

「………桜せんぱい……もう少し言葉に気を付けた方が良いと思いますよ」

 

 

 

 

「何で?」

 

 

 

 

「変に誤解する女子が現れるかもしれないので」

 

 

今さっきのところで誤解するようなことがあったかな。いくら考えてもそれに思い当たるような発言をしたとは思えないんだけどな。

 

 

 

 

 

 

僕たちがそんな風な会話を繰り広げている間にも田所くん×幸平くんVS四宮の食戟は進んでいく。



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宿泊研修④

久し振りの更新です


調理を始めてそれなりに時間が経過した事もあって四宮も田所くん×幸平くんの方も料理は完成に近づいているのが見ているだけでも分かる。この時点で勝敗に関して言う事は出来ないが個人的な予想では四宮が勝つと予想している。学園の教師としては生徒たちを押してあげたいところなんだけど…学生時代や自分で店を持ってからの四宮を近くで見てきた僕から言わせればどこまで努力をしたとしても今の時点ではまだ勝てないんじゃないかな。自分の城を持つ主は自分の料理にある程度の誇りは持っているものだ。自分の料理が一番だと。それぐらいの自信を持っていないと生き残ってはいけない。

 

 

「水原はどっちが勝つと思う?」

 

 

「どうだろ……まだ料理も食べていないから何とも言えない」

 

 

「まあ、そうだよね」

 

 

 

 

それからもう数分が経つとどちらの料理も完成した。そして料理を口にして素直な感想は美味しいだった。どちらの料理もおいしい。高等部1年生がこれほどの料理を作れるのかと素直に関心してしまう。僕は高等部2年生や3年生の教科も持っているけど、決して引けを取っていない。これからの成長が本当に楽しみだと感じてしまうほど。でも勝者は四宮だった。

 

審査員が票を入れたのは四宮の皿にだった。当たり前と言えば当たり前のような結果だ。確かに田所くんと幸平くんの料理は今の1年の中では少し抜けて美味しいと思う。でも相手は…一人立ちしている料理人。今では日本を代表するような料理人とも差支えのないような人物だからね。

 

 

 

「やる前から結果は見えていたな」

 

四宮は少し相手を見下すように言った。幸平くんは本気で悔しがっている姿が目に映る。料理人にはそういう負けん気がないと進めない。誰よりも美味しい料理を作ったやる。日々の研鑽が最終的な結果に結びつくのだ。

 

 

「大丈夫だよ。幸平くん」

 

 

「………」

 

 

「キミはすごいよ。田所くんのために四宮に勝負を挑むなんて誰にでも出来ることではないから。この悔しさを忘れなければ絶対に次のステージに進むことが出来る」

 

 

 

 

 

「せんせい…」

 

 

「田所くん。本当によくやった。やっぱりキミは遠月学園に相応しい生徒だ。キミたちの料理の過程を見させてもらったけど、幸平くんが上手く誘導をしながら田所くんがそれに答えていたように感じた。キミたちの連携は本当にすごいとしか言いようがない。だからここは僕に任せてくれないかな?」

 

 

「先生に_?」

 

 

「はい。田所くんを退学させるのはやっぱり惜しいしね。キミたちが料理をする姿に僕も惚れたからさ」

 

そして立ち去ろうとしている四宮を呼び止めた。

 

 

「四宮」

 

 

「なんだ?」

 

 

「……田所くんの失格を取り消しにしてくれないか?」

 

 

「お前までそんなことを言いだすようになったか。教師らしいことをしてるじゃねぇか」

 

 

「まあ、教師だからね。これでも」

 

別に教師だから助けようとしているんじゃなくて…この子たちだから助ける。別に生徒だからといって誰でも助けるわけじゃない。少なくとも皿に真剣に向き合っていて、日々自分の皿を高めるために頑張っている姿。それは多くの人の心を動かす力を持っている。

 

 

「お前の頼みであったとしてもそんなことをオレが聞く理由はない」

 

「だったら四宮と僕で料理対決でもしようか。幸い、この場所には審査員もいるんだ。これほどまでに揃っているステージもないしさ。それにここで僕もおめおめと引き下がれないんだよ。生徒の手前ね」

 

別にカッコつけたい訳じゃないけど、助ける風の感じをしていて断られたから引き下がるんじゃ話にならないしね。それに四宮の料理センスに関してはやっぱり店を手伝っていた僕の目から見ても目を見張るものがあるのは事実だが、彼はスランプに陥っている。店を手伝っている時に…ちょっとの違和感から確信に変わった。

 

 

「オレがお前と対決をする理由はないな」

 

 

「そうかな。僕はお前とそれなりに長い付き合いになるから分かるんだけど、お前は売られた喧嘩は絶対に買うタイプだからな」

 

 

「……やって勝ったらもう文句ないんだろうな」

 

 

「もちろん、それに関しては保証するよ」

 

僕も負けてうじうじと負け惜しみを言うつもりはない。単純な料理勝負で負けたとしてたら仕方ないと受け入れる。田所さんには申し訳ないが…僕を恨んでくれても構わない。

 

 

 

そして僕と四宮の料理バトルは始まった。さすがに四宮も真剣な顔になった。さっきまでが別に手を抜いていた訳ではないだろうが、生徒相手ということもあってそれなりに気楽に出来ただろうからね。

 

「それじゃあ、僕も料理を始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まけた…」

「ああ、キミの負けだよ。四宮」

 

 

 

 




感想などもありましたらコメントしてくれると有難いです。進みが遅くてすいません。


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