魔法科高校の被験者 (エウイオア)
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プロローグ
プロローグ Ⅰ


初めまして。今回からゆっくり書いていこうと思っております。

小説を書くのは初めてなので、誤字、脱字が多いかもしれません。温かい目で見てくれると助かります。

よろしくお願いします。

※追記:誤字報告ありがとうございます。


 「魔法」というおとぎ話の産物が科学的に証明されてから数十年、魔法はありとあらゆるとこで影響力を持ち、国際情勢にも大きく関係してくる。だが、この俺、早乙女崇秀は魔法とは程遠い生活をしている。

2079年に早乙女家で生まれ、両親と妹と祖父母とで食いていた。両親の仕事は、なんと一流の暗殺者。早乙女家は代々裏の世界で有名で、国内に留まらず国を跨いでの依頼なども多い。魔法師の方が向いていると思われるがそんなことはない。そもそも魔法士はどこの国でも不足しており、わざわざ裏の仕事などをしなくても、十分ってわけだ。そして、俺も家を継ぐためにいろんな国の言語の勉強をしているわけだ。この家は表向きでは現役を引退した祖父が主に道場を開いており、地域でも大きな道場として有名だった。もちろん俺も平日の夕方などには他の人たちと一緒に参加しており、夜に勉強をしているわけだ。道場では剣道や、柔道などの暗殺に必要なあらゆる体術を学ぶ。勉強も祖父母から主に教わることが多い。暗殺者の仕事は不定期なため、両親は2ヶ月以上帰ってこない時もあれば、2週間程家で休んでいる時もある。休みの日は、両親も面倒を見てくれたりしていたので、仲は良かったと思う。

 

 俺は小学校に通う頃には、すでに英語は実用レベルにまでなり、ロシア語、中国語などもある程度はできるようになっていた。なぜここまでになれたのかというと、俺は母の遺伝位より脳の演算能力、記憶力が人の何十倍も優れていたからだ。なので高校数学なども解けるようになっていた。

小学校には学年が上がるにつれて、通う日が減っていった。みんなには受験勉強をするためと伝えていたが、実際は家で体術の練習を祖父としていたのだ。疲れると思われるが、俺はもう一つ能力があり、筋肉の増強、体力が長時間持続する能力だ。でも昼間ずっと動いても大丈夫ではあるが、まだ子供なので、筋肉の負担が大きく睡眠は1日十時間近く取らなければならない。

 

 

 そして、中学の頃には両親の仕事の手伝いもするようになっていた。普通は高校を卒業してから手伝うのだが、俺は能力によって、すでに暗殺のスキルは身につけていた。

 

 だが、そんなある日の夜中、突如何者かよってに家が襲撃を受けた。魔法による放火によって家は跡形もなくなった。ほんの数分で。そしてなぜか俺だけは身をとらわれ、俺以外の家族は全員火の海に巻き込まれた。

 

 俺は気を失い、気が付けば研究所のような施設にいた。ガラス張りの部屋にある、人一人寝転ぶことのできる機械に閉じ込められていた。しばらくすると、扉をあけ、機械からは出ることができたが、部屋の上を見ると研究者のような人たちがたくさんいるのがわかった。首に何やら機械のようなものも取り付けられているののも気がついた。この時俺は、何かの実験体になるんだと思った。

「家族に会いたい。」

そう思ったこともあったが、魔法というものを実感した俺はそんなこともすぐに諦めてしまった。でもそのうち警察などがくるだろう、俺の命だけでも、と考えていた。

 

そうしていると、この研究所の一人が、マイクを使って部屋越しに俺に話しかけてきた。

 

「驚かせてすまないね。私の名は八代隆雷。ここ、魔法士技能師開発第八研究所の所長であり、この実験の責任者だ。君には悪いが、君のその優れた能力が私たちの実験に必要でね、少し手荒な真似をさせてもらったよ。」

「魔法...?研究...?ふざけんな。あんな真似して、警察などが許さないとでも思ってんのか?」

「ここは、国の管理下だ。それにこの第八研究所は国防軍と結びつきが、他と比べても強くてね...そう簡単に動くこともできないのさ。それに、あの襲撃で起きた火事も、今頃警察は事故として調べているだろうね...

 

「そんな... ど、どうして俺なんだよ、いったい俺に何をするつもりなんだ?何の実験だ?」

 

「君には人間離れした記憶力、演算能力、それに筋肉の増強といった能力がある。その二つの能力がどうしても被験体に必要でね...」

 

「そんな奴、俺の他にもいるだろ。それこそ魔法を使えばそんな人間も作れるだろ...?」

 

「確かに、遺伝子操作などで魔法師を作り出すこともできる。でも君には、いや君の家は、代々暗殺者として一族を継いできた。そう、君の遺伝子にはその先祖の遺伝子なども含まれている。その遺伝子には実戦経験などの記憶も含まれている。いくら魔法でここの記録はとるのに時間がかかる。そうゆうわけだ。」

 

「...理解はしたが納得はできない。それで何の実験だ?」

 

「君にはある魔法を使える魔法師になってもらう。その名を『一方通行(アクセラレータ)計画』」

 

「俺が魔法師に?それでその魔法ってのは何だ?」

 

「その魔法と言うのは『ベクトル操作術式』。『ベクトル反転術式』の応用で、成功すれば、運動量、熱量、電気量などといったあらゆるベクトルを触れただけで、変換できる術式。君にはこの魔法の最初の使用者になるってわけだ。」

 

「魔法のことはさっぱりわからないが、とりあえずすごいのはわかった。でも俺なんかで本当にいいのか?俺に魔法なんかは使えないと思うが。」

 

「それは、気にしなくていい。君には決まった時間にあのカプセルの中に入ってもらう。あとは自由にしてもらって構わない。変な真似をしない限り、安全を保証するさ。首につけているのはCADという、魔法を使用するのに必要なデバイスのようなものだ。気にしなくて良い。他に何かあるか?」

 

「この実験はいつ終わる?そのあとはどうなるんだ?」

 

「そうだね。期間は大体3年ほどと予想している。そのあとは、この研究所を取り締まっている一族の養子にでもするつもりだ。質問はもうないかな?」

 

「...もういい。どうせ抵抗しても俺の力では無駄なんだろうな。」

 

「意外とと素直なんだな。今日はもう休むと良い。明日からはよろしく頼んだよ。」

 

そういうと部屋は暗くなり、俺はカプセルの隣にあるベットに入った。

 

 

 

 魔法というのは現在、世界情勢を揺るがすほどの力を持っており、それぞれの国では魔法に関するあらゆる分野に力を入れている。日本でも随分と魔法というのは力を持っており、様々な研究に力を入れている。

 日本には全国に十ヶ所の魔法技能師開発研究所があり、そこで様々な力のある魔法士一族を輩出してきた。その中の第八研究所は、北九州市にあり十師族の一つの八代家や八朔家などを輩出している。ここでは魔法による重力、電磁力、強い相互作用、弱い相互作用の操作の研究が行われている。そのため、核兵器などにも応用されたりする可能性もあるので、国防軍とは関わりが強い。今回の実験も国防軍は裏で資金援助などをしている。実験の責任者の八代隆雷は八代家の次男であ理、当主の雷蔵の補佐役などをしている。

 そして今回の実験の『ベクトル操作術式』。これは系統魔法の4系統の一つ、加速系・加重系魔法の二つの種を応用した魔法であり、先程言っていたように、あらゆる種類のベクトルを触れただけで自由に変換できる。ベクトル反転術式と違うのは、ただベクトルを180度跳ね返す、いわば元に戻すようなベクトル反転術式と違い、あらゆる向きに操作することができる点だ。 

 ただ、ベクトル操作といっても、操作できるのは向きだけであって、力そのものの大きさや量は操作できない。だが、力の向きをある方向に集中させることで、大きな力をもたらすしたりすることもできるのだ。

 それに、魔法は並の魔法師では使うことが難しい。触れたもののベクトルを瞬時に認識し、向きを変えるというのは、並の人間や魔法師の演算能力や記憶能力では不可能に近いからだ。それに、体の負担なども大きい。だから今回の実験の被験者に崇秀が必要なわけだ。崇秀の能力は今ではコンピューター1台に近いレベルの処理能力を持っており、もっと成長すればそのうち触れた魔法の起動式や魔法式を瞬時に逆算し、魔法のベクトルすらも操作できるかもしれない。なのでもし、この実験が成功すれば系統魔法の中でも、トップクラスの魔法となり、崇秀もトップクラスの魔法師となるだろう。

 

 

 

 それから俺は毎日決まった時間にカプセルに入っては、サイオンを流され記録を取られる日々。そのあとは、語学だけでなく化学や、物理学、を支給されたタブレット型端末で学んでいた。時には、実際に魔法を使用し記録を取ることもあった。

 

 だが俺はこの研究所に対しては一ミリも許すつもりはなかった。殺された家族のためにもいつか復讐するつもりでいた。でも、その家族の顔はなぜか思い出せない。 

 そして、俺の名前すらもいつの間にか思い出せなくなった。おそらく実験によって、脳にある過去の思い出を改変するようなことがいつの間にか起こったのだろう。そのため俺はこの実験名の『一方通行計画』からとった一方通行という名称で呼ばれていた。

 

 

 ここに来てから一年半が経つ。世間では俺の年齢だと、中学三年生になる。この頃から俺は、この研究所を壊し、脱走する作戦を立てていた。俺の脳はもう、今ではスーパーコンピューター並みの処理能力を持つようになり、自身の情報すらも、操れるようになっていた。それを使って、研究所には虚偽の結果を送り続ける。そして、半年後くらいに、研究所が想定していない、未知の力をつかってここを破壊し、脱出する。おそらく俺はもう、ある程度の魔法の起動式、魔法式の逆算は可能だろう。

 

 

 そして、2094年10月、ついに俺は脱出するために動いた。時間帯は監視の少ない深夜。首につけているCADを起動し、部屋にあるカプセルを丸々持ちあげ、強化ガラスの壁を破壊し、部屋から抜け出し、次々と研究室を破壊した。

 

 この緊急事態にすぐに研究所側も動いたが、銃弾などはもちろん、魔法すらも効かない今の俺には、どうしようもできなかった。そう、俺が襲われたときのように...

 

 

 




プロローグは全部で2,3話ほどにしようかと思っています。  

8月中には入学式編に入りたい...


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プロローグ Ⅱ

崇秀が研究所から脱走したところからスタートします。
独立魔装大隊の隊員たちが出てきます。
それぞれの隊員の喋り方などが、原作と異なるかもしれません...笑



 そうして俺はこの第八研究所研究所を破壊し、脱出した。だが俺は今後どうしようか悩んでいた。家族のいない俺には行くあてはなかった。それに、このCADとやらは充電式だ。あまり無闇に使うことはできない。

 俺は魔法協会の支部がある横浜方面に向かうことにした。魔法のことはあまり勉強していなかったが、適当に読んでいた文献で魔法協会は京都と横浜にあることは分かっていた。朝になればキャビネットも動くだろう。金は研究員から奪ったマネーカードだけで足りるだろうか。

 なぜ京都ではなく横浜に向かうかというと、ただ何となく潜伏しやすいのは首都圏の方だろうと思っていたからだ。

 

 朝になり、俺は博多から個型列車に乗り込んだ。途中、京都で降りて飯でも食べようと考えていた。

 京都で降り、ひとまず街中で飯を食おうと歩いていると、突如、人目が少なくなったそのときだ。俺は、武装した集団に囲まれた。人目が少なくなったのは、俺を誘うために魔法か何かが働いたのだろう。

 そんなことしても無駄だとは思っていた。どんなに銃弾を浴びせられようが反射するだけ、そう考えていた。

 

「ナニモノだ?」

 

「国防軍だ。君を捕らえるよう命令が来た。それだけだ。」

 

 俺の存在をよっぽど隠したいのかどうかは知らんが、これほどを力を持った魔法師を放っておくことは出来ないのだろう。

 

その後も追手は増えるばかりで追手は魔法を使うことのできる魔法師ばかりいた。

 このまま戦い使い続けていると、CADのバッテリー切れで俺は捕らえられる。いや、それが狙いなのだろう。

 その時俺はあることを思いついた。軍は俺のことを必要としている、そんで俺は行くあてを探している。ならばいっそのこと俺の能力を国防軍の戦力として使い、国防軍に所属すれば良いのではないのか?軍にはきっと住居もあるし、何より軍の技術があれば俺のCADを見ることもできるだろう。そう考えた俺は、抵抗するのをやめ追って来る部隊に

 

「国防軍が俺をそこまで必要としていることは分かった。一先ず話をしたいからそちらも攻撃を仕掛けて来るのはやめてくれないか?」

そういうと、向こうも抵抗をやめ部隊の1人が前に出て俺に話しかけてきた。その男は俺の反射の攻撃に柔軟に対応していた者だった。

 

「僕は国防陸軍第101旅団に所属している、柳だ。今回の作戦部隊の隊長だ。」

 

「作戦?その作戦とやらは俺を捕らえることか?」

 

「まあそんな感じだ。君の使うベクトル操作術式はどうやら国防軍も放っておけないからな。それに、その術式を使用できるのは君1人と聞いている。未知数の力を持つ魔法師を国防軍もただ見逃すことはできないからね。それで、国防軍と話をしたいというのは具体的にどういうことだ?」」

 

「ああ、俺はこのままいても行くあてなんてないからな。だから国防軍なら俺の住居なんかも用意してくれるかもしれないと思って、話だけでもしようかと考えた。」

 

「そうか。用件は分かった。俺たちはお前の身柄を確保するのが目的だからな。でもその用件については、ここにいる隊員だけではどうしようもできない。基地までついて来てもらって、そこにいる方たちとも交えてゆっくり話そうじゃないか。」

 

「なるほど。目的は大体理解できた。俺はお前たちについて行く。その代わり拘束したりなどなにかと仕掛けてきたら俺も容赦はしない。それで良いか?」

 

「分かった。なら魔法協会の近くにあるビルの屋上のヘリポートに俺たちが乗って来た軍用ヘリがある。そこから霞ヶ浦基地まで一緒に来てもらうか。」

 

「霞ヶ浦か。ちょうどそっちに向かおうとしていたとこだ」

 

そう言って、俺はついて行くことにした。

 

 

基地まで向かう途中に、柳とは色々話をした。俺が疑問に思ったことがいくつかあったので、そのことについて聞いていた。

 

「何故、他の隊員は俺の攻撃に苦戦していたのに、お前だけは避けることができたんだ?」

 

「お前の演算能力でいずれ俺の能力もバレるだろうし、特別に話しておこうか。俺は対人戦闘が得意でな。体術の中に古式魔法の結印の動作を交えて戦う古式魔法師なんだ。それに、俺のような白兵戦技を得意とする人間は相手の運動ベクトルを先読みして戦うのが得意だ。用は経験ってわけだ。」

 

「さすが軍人ってとこだな。それで、その古式魔法というのは何なんだ?俺は聞いたことがない。」

 

「古式魔法っていうのは、お前の使う現代魔法と原理はあまり変わらない。古式魔法は現代魔法よりも前に存在している魔法で、種類も豊富にある。でも古式魔法の習得にも時間がかかる。それに古式魔法の多くは伝統を守るためか、効率よりも秘匿性を重視するものも多い。魔法の展開も遅いものだと1分以上かかるのもある。」

 

「そうなのか。ならばCADを使ってなんとかならないのか?」

 

「古式魔法師はCADを使わない魔法師も多い。俺もそのうちの1人なんだ。でも特化型CADを使ったりはする。」

 

「なるほどな。」

 

俺は魔法についてあまりにも知らないんだとこの時改めて思った。

 

 

そうしているうちに霞ヶ浦の基地に着いた。国防陸軍第101旅団は霞ヶ浦基地に本部があり、また柳はその中でも独立魔装大隊に所属している。この独立魔装大隊は十師族をはじめ、民間の有力な魔法師たちに対抗できる部隊を作る目的で創設された。

基地の中に入り俺は、会議室のような部屋に案内され、そこで待っていた。

 しばらくすると、部屋に2人の軍人が入って来た。1人は見た目からして、只者ではないのが分かるほどの体格の男性。話さなくても上の階級なのだろうと分かった。もう1人はその男の秘書的な役割をしているのだろうか。そう思った。

 やがて席に着き、男性の方が口を開き、

「私の名は風間玄信。国防陸軍第101旅団所属、そして独立魔装大隊の隊長を務めている。それで、どうして君の方からこちらに...」

 

「どうしても何も、いきなり武装した集団で襲いかかったくせに謝罪の一言もないのか。まあそんなことは終わった話だからどーでも良い。俺はただある取引をしに来ただけだ。」

 

「その件については申し訳ないことをした。それで、取引と良いのは国防軍に加わりたい件のことか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「その件については、実は上層部の方と話をつけている。既に承諾を得ており、君の承諾も得ることができれば、おそらく国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊に配属されるだろう。」

 

「そんなにあっさり決めて大丈夫なのか?」

 

「君の使うベクトル操作は使い方次第では驚異的なものになる。場合によっては国家の安全にも関わることだからな。これには軍も見過ごすわけにはいかないからな。そんな君の方から軍の配下に入り、戦力になると言うのだから、軍の方も承諾したのだろう。」

 

「そうか。だが、俺が軍の配下になるにはいくつか俺の条件を聞いてもらう。」

 

「聞こう。」

 

「まず一つは、俺の居住スペースの確保だ。手持ちも少なく、あてもない俺は宿がない。」

 

「それについては、この近くにある兵舎の空き部屋を与えるよう話はしていた。」

 

「それはありがたい。なら後2つ用件を聞いてもらおうか。一つは俺のこの首につけているCADの調整だ。俺はCADのことはおろか、機械すらまともにいじれないからな。」

 

「それについても、こちらで対応する。実は、君のいた第八研究所のデータベースの一部が残っていてね。そこに残っているデータを私の隣にいる藤林のハッキングスキルで取得した。」

 

「ええ、そのデータの中には君のCADについてのこともあってね、そのデータを参考にうちの開発部で調整するわ。」

と風間に続き、今まで口を開かなかった藤林が話した。

 

「ほう。どおりで俺のことを知っていると思ったら、そんな訳か。国防軍と言うのは、単なる戦力意外にも優れているのか。ならCADの件も任せるが、最後の一つを聞いてもらおうか。」

 

「なんだ。」

 

「国立魔法大学付属高校に進学したい。俺は魔法について、あまりにも知らないことが多すぎる。だから、魔法師のいる高校に行けば、何か学べるものも増えると思ってな。場所はここから一番近いところで良い。」

そう言った途端、2人の表情が変わったような気がした。

 

 国立魔法大学付属高校。全国に9カ所存在する国立の高等魔法教育機関だ。第一、第二、第三高校は一学年200人、それ以外は一学年100人となっている。入学試験では、魔法の実技試験、一般科目の筆記試験で決まる。評価は魔法実技の方が重要視される。崇秀ほどの実力のある魔法師ならば、実技は満点近くの点数を取ることができるだろう。

 

「この条件は飲まないか?」

 

「いや、実はうちの隊にも来年入学を希望する者がいてだな... それでできないことはないが、それには少し、こちらからも条件を出すことになる。」

 

「ここに俺と同じ年齢の奴がいるのか?それはおもしろいな。で、その条件ってのはなんだ?」

 

「簡単なことだ。軍人であることを隠す。非常事態の時には一部に正体を明かすことにはなることもあるが、そのときは俺たちが対応する。」

 

「わかった。それでここから近いとこはどこだ?」

 

「ここから近いとこだと確か、八王子にある第一高校だ。ちょうど、さっき話した者も、第一高校志望だ。よければ後で紹介しよう。」

 

「そうね。高校の件については、特尉にも話しておくわ。受験については、こちら側で対応しておきます。」

 

「そうか。なにかと何まですまないな。」

 

「言っておきたいことは他にないか?」

 

「ああ、俺からはもうない。いつでもここに加わるのは大丈夫だ。」

 

「そうか。それでだが、こちらからはなしておきたいことがあってな。」

 

「なんだ?」

 

「実は、さっき言ったデータの中に君の過去に関するものもたくさんあってだな、君が覚えていない情報もあることが分かった。」

 

「情報...?」

 

「ああ。例えば、君の実験前の頃の名前とかな。」

 

「!?」

この時俺は前に名前があるのを思い出した。

 

「君は今、自分のことを実験の計画から取った一方通行であると思っている。でも、それは違う。

 

「じゃあ本当はなんなんだ?」

 

「『早乙女崇秀』これが君の本当の名前だ。」

 

「早乙女...崇秀... どこか聞き慣れたような感じがするな。」

「だがその名前がわかったところでどうなる?俺は死んだことになってたりしないのか?」

 

「君以外の家族の人は事故で亡くなったことになっているけど、君は行方不明者となっている。だから届出を出せばこの名前で生活することもできるが、どうする?」

 

「そうだな。このままってのもアレだし、その名前が良いな。亡くなった家族のためにも。」

 

「そうか、ならあとはこちらで手続きを行なっておこう。」

 

「いろいろすまないな。」

 

「問題ない。それと階級なんだが、君には今日から特尉として、国防軍に加わってもらう。特尉の階級は国防軍でも大黒特尉に続き君が2人目だ。」

 

「大黒...それがあいつの名前か?」

 

「いや、独立魔装大隊で任務にあたる時の名前であって、戸籍上は別の名前だ。詳しくは本人と顔を合わせてから話そう。」

 

「そうか。」

 

「では、君を今日から特尉に任命する。改めてよろしく頼む。特尉は基本的には緊急事態の時以外は任務にあたることはない。なにせ、進学希望というのなら学業優先になるだろう。だが、緊急時にはこちらの任務を最優先してから、そのつもりでいてくれ。」

 

「分かった。」

 

「よろしくお願いしますね。ですが特尉にはしばらく、昼間は訓練に参加してもらいます。いくら魔法師であっても、軍人には魔法を使わない体術なども必要ですからね。それと、目上の人には敬語を使うように、しっかりと教育いたしますから。」

 

「....」

 

こうして俺は、国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊に所属することで話が終わり、今日は用意された部屋で休むことにした。




今年は新型コロナウイルスの影響で、例年よりも夏休みスタートが遅れました。勉強との両立になりますが、できる限り進めようと思っております。
次でプロローグ編は終わります。いよいよ次回はあの兄妹が出てきます。
はやく入学編を見たいという方、申し訳ないです


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プロローグ Ⅲ

プロローグ編の最終話です。少し長くなりました。

そうです、あの兄妹が出てきます。


 翌日から、俺は本格的に活動するようになった。特尉といっても、俺は2年近く運動をしていないため、魔法を使っていない状態では歩くことが精一杯だった。筋肉増極の能力も、ベクトル操作を使用して踏み込む時などに、足に負担がかかるのを抑えるために温存しておかなければならなかった。そのため、魔法を使わない体術の練習もしておかなければならなかった。

 なので平日の昼間は、訓練兵と一緒に体づくりに励んでいた。訓練兵の中に混ざるのは違和感があったが、仕方ないないことだと思い、あまり気にはしなかった。

 また、厳しそうと思うかもしれないが実は全部が全部縛られてるわけではない。訓練の時間以外は基本自由で、外出もいくつかの条件を守ればすることもできる。

 

 そうしているうちに2週間ほど経った。今日はの日曜日なので訓練は休みだったが、ある人物に会うために、俺は独立魔装大隊の本部に呼ばれていた。中に入ると、風間少佐とその隣にはどうやらその人物もいた。そして二人のいる所まで来ると

 

「早乙女特尉、せっかくの休みの日に呼び出してすまない。」

 

「いえ、とんでもないです。それで少佐、その隣の方はもしかして...」

 

「ああ、こちらが、この前話をした大黒特尉だ。」

風間はそう言って隣の大黒竜也特尉が

「紹介に預かりました、大黒竜也特尉です。同じ部隊の一員としてよろしくお願いします。早乙女特尉」

彼そう言った。

 

「初めまして。自分は早乙女崇秀特尉です。こちらこそよろしくお願いします。」

俺もそう言った。

 

「それで何だが早乙女特尉、第一高校の入学の件について、君にいろいろ話しておこうと思ってな。それで、その件については同じ第一高校に入学志望の大黒特尉からいろいろ聞くと良い。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

「いえ、早速ですがいろいろ説明したい事があるので、あちらの部屋で二人でゆっくりと話しましょう。」

そう言って、俺と大黒特尉は奥の会議室に入った。

 

 部屋に入り、お互い向かい合わせで席についた。そして、

「改めて、大黒竜也こと司波達也だ。国防軍の任務遂行時以外は、タメ口で構わない。それと俺のことも達也と呼んでくれ。」

さっきとは全く違う雰囲気になっていた。

「了解、達也。俺はそのまま早乙女崇秀、崇秀で構わない。」

 

「わかった。それでだが、俺は崇秀の事について色々聞きたい。これは、仲間としてではなく、一人の友人となって、な。」

 

「友人...ね。俺も達也のことは色々気になっていてな。ならこれからは一人の友人として、よろしく頼む。」

そう言って俺は、達也に握手を求めた。

 

「ああ。よろしく」

そして、達也と握手を交わした。

「なら早速、お互いちゃんとした自己紹介といこうか。」

俺はそう言って達也と話を始めた。俺は達也に自分の過去のこと、ベクトル操作の魔法についても話した。ベクトル操作の魔法は独立魔装大隊の隊員はある程度は把握している。今更話そうが、話さまいが同じことなのだ。

 

 

だから俺は、達也の得意とする魔法についてなどを聞いた。分解の魔法についてはもちろん、再生の魔法には驚いた。

 

「再生...つまり達也は、怪我なんかも一瞬で直してしまうのか。」

 

「まあ、そういうことだ。」

 

「...これは驚いた。人間業ではねーな。」

 

「ベクトル操作なんてのも、相当なものだとはは思うがな。」

 

 

 互いのことについては終わり、俺は本題の第一高校についても、色々話を聞いた。

 

「なるほどな。入学試験では、実技試験の方が重要視される訳か。」

 

「そうだ。崇秀ならおそらく今の実力でも実技の成績はトップクラスだろうな。」

 

「...その言い方だと、達也の方はどうなんだ?」

 

「さっき説明したように実技の項目は、魔法の発動速度、魔法式がエイドスを書き換える強さ、キャパシティ、それらを合わせた総合的な魔法力の四つの観点で評価される。俺は先天的に分解と再生が魔法演算領域を占有している影響で、魔法力が普通の魔法師よりも劣っているんだ。だから実技の成績はおそらく芳しいものではないだろう。」

 

「そうなのか...」

 

「だが、入試は実技が全てではない。魔法理論といった筆記試験は得意な方なだ。」

 

「筆記試験か...」

 

「筆記の方は自信がないのか?」

 

「俺は魔法についてはまだわからない事が山々だからな。それに、下手に自分の能力を使うことも魔法使用時に影響が出るかもしれないからな。」

 

「そうなのか。」

 

「ああ、いくら演算能力や記憶力が優れていると言っても負荷がかからないことはないからな。」

 

しばらく間が空いたが、崇秀はあることを思いつく。

「さっき達也は魔法理論が得意と言ったな?なら早速、友人の頼みとして俺に教えてくれたりはできないか?」

 

「...そういうことなら別に構わない。実はちょうど、同じ入学志望の妹の家庭教師もしていてな、二人くらいなら面倒も見ることもできるだろう。」

 

「妹...? しかも今年入学志望ということは双子なのか?」

 

「いや、よく言われるが実は違う。俺が4月生まれで、妹は3月生まれだ。今度会う時にでも紹介しよう。」

 

「そうか。まあ話を戻して、その今度会う日程なんだが、来週のこの日でも大丈夫か?」

 

「そうだな。崇秀も平日は訓練があるだろうし、俺も普段は中学に通っている中学生だ。そのあとはまたお互い話し合って決めようか。」

 

「ならそれで決まりだ。場所はどうする?」

 

「すまないが、俺の家は実はプライバシー面の問題で、他人を招くのはできなくてな... 都内のカフェなんかでも大丈夫か?」

 

「別に問題ない。家の事情が色々あるのは俺もわかる。それに俺の頼みだからな、達也が謝る必要はない。そうだな...ここなんかはどうだ?両方からでも行きやすいと思うが。」

 

「わかった。そこで構わない。それで、教えてもらいたい科目はあったりするか?日はないからそこを中心に教えることになるが。」

 

「俺は機械の扱いは苦手だからな。魔法工学とかはできるのか?」

 

「大丈夫だ。それに魔法工学は俺が得意とする分野だしな。」

 

「魔法工学もできるのか?あれだけの力があるのに、すごいな。」

 

「俺は魔工技師志望だからな。高校に通うのも、あそこでしか閲覧できない文献を読む為でもある。」

 

「そうなのか...まあそういう訳だ。俺からはもう無い、来週はよろしく頼む。」

 

「ああ。俺からも特に無い。今日はこれでお開きとするか。」

 

そう言って俺たちは部屋を後にし、俺は兵舎に、達也は家に帰った。

 

 

 

 そして日曜日、俺は都内の待ち合わせの場所に向かっていた。そこに向かうとすでに達也たちは待っていた。

「待たせて悪かったな。 で、隣にいるのがもしかして、妹か?」

 

「そうだ、俺の妹の司波深雪だ。」

 

「妹の司波深雪です。初めまして、早乙女さん。」

 

「ああ、初めまして。俺の名は知っていると思うが早乙女崇秀だ。よろしくな。」

 

俺は普通に返事をしたが、心の中では驚いていた。長い黒髪に、華奢な体型。この世のものとは思えないほどの完璧な清楚系の女の子だ。

俺は思わず達也に聞き返していた。

「...達也、本当に妹なのか?彼女とかではなくて?」

その時深雪が少し顔を赤くして喜んでいるような気がしたのは気のせいか。

「妹だ。」

 

「そうなのか。で、俺は司波さんのことはなんて呼べば良い?俺のことは任せるが。」

 

「私のことも、崇秀君が呼びやすいので構いません。」

 

「そうか。なら深雪って呼ばせてもらうよ。改めてよろしくな。」

 

「よろしくお願いします。」

 

そう言って俺たちは挨拶を交わした。

 

「挨拶も終わったことだし、そろそろ始まるか。」

達也がそう言って、俺たちは席に着き、勉強を始めた。

俺は魔法工学を中心に達也に教えてもらった。まだまだ分からないことだらけで俺はとても苦労した。深雪の方は俺よりもずっと出来ていた。

 

 そして、俺たちは夕方に勉強を終え、3人で駅に向かっていた。だが、俺はそこで違和感を覚える。

「なんか、色んな方向から妙な視線を感じるのだが気のせいか?」

 

「そうか?深雪といる時はいつもこんな感じだ。」

達也のその一言で俺は察した。深雪のモデル級の美貌(いや、モデルなんかも相手にならないくらい)は街中で注目を浴びるのは。しかも、深雪に視線を送るのは、男性だけでなく、女性ですらも見惚れてしまう程だ。だが、同時に男性の視線は次に達也のほうに来る。それも嫉妬のような感じの視線だ。だが、その気持ちもわからなくはなかった。深雪は達也の手を握って歩いているからだ。俺は勉強しているときにもなんとなく感じていたのだが、深雪は重度のブラコンであるのでは、と思っていたがここでそれが確信に変わった。

「いろいろ苦労するんだな。」

そう言って俺にとっては複雑な感じのまま駅まで向かっていた。

 

 それから俺は達也たちが空いている日曜日は、勉強に付き合ってもらった。平日の夜も、出来る限り自主勉強するようにしていた。

 

そして、遂に入学試験の時が来た。実技の方は自信があるが、筆記に関しては魔法工学以外は、ある程度できた。そんなとこだ。

 

試験が終わった帰り、俺は達也と深雪と途中まで帰っていた。

「そういえば、達也は体術とかはどうなんだ?受験があったから終わったら聞こうと思っていたんだが。」

 

「今はある有名な古式魔法師の元で体術の稽古を受けているよ。その方は俺だけでなく、風間少佐の師匠でもある。」

 

「そうなのか。なら相当な凄腕なんだな。」

 

「ああ、俺もまだまだあの人には敵わないね。そうだな、毎朝寺で稽古をしているから暇な時に見に来るか?挨拶くらいなら出来ると思うが。」

 

「本当か?なら日が決まったら連絡する。」

 

そう言って俺は達也たちと別れた。

 

 数日後、俺は達也がいつも鍛錬に励んでいるという九重寺に来た。

少し遠かったため、俺が着いた頃にはもう達也は稽古を始めていた。

その光景を見て、俺は驚いた。自らの体術だけで、3.4人を相手にしているからだ。その様子を見ていると、突然横から話しかけられた。

「君が、達也君の言っていた子だね。」

俺は横から突然話しかけられて、思わずびっくりした様子を見せてしまった。人の気配がしなかったからだ。そこには法衣を坊主のいかにも寺の住職ような人がいた。

 

「あ、初めまして。早乙女崇秀です。」

 

「うん、僕の名は九重八雲。ここの住職をしてるよ。そして、達也君の師匠でもある。」

 

「達也の師匠ですか...」

そう言いながらまた達也の方を見ていたが、達也の体術は、俺なんかとは比べものにならないくらいのものだと言うのに、それを超える... もう自分でもよく分からなくなっていた。

「そうだ、一体俺にバレずにどうやってここへ...?」

 

「僕は忍びだからね。」

 

それだけ言って、詳しいことは話さなかった。

 

 

達也の稽古も終えたとかで、3人で話をしていた。

「ほーう、達也は3年前からここで稽古をしているのか。」

 

「ああ、風間少佐の紹介でな。」

 

「いやーそれにしても、達也君にはもう体術だけだはきついくらいだよ。」

 

そんな会話をしていた。試しに組み手の相手をするかと聞かれていたが、やっと本格的に軍の訓練で体術の稽古をしている俺は今回は遠慮しておいた。

 

 春休み(学生にとって)の間にそんなこともあって、いよいよ新学期になり、試験の結果も返ってきた。俺の総合成績は学年3位。実技は満点近くを取り、学年トップだった。(深雪は僅差で2位)

だが筆記は所々点数を落としてしまい、7位だった。(筆記は原作同様達也と深雪でワンツーフィニッシュ)

 

 俺は高校への入学も無事決まり、新たな生活が幕を開けようとしていた。だが、それは波乱万丈な日々の始まりでもあった。

 




プロローグ編が終わりました。まあプロローグというか、崇秀の過去編といったところでしょうか。なので、プロローグ編では崇秀視点で話を進めていたので、「俺」という一人称を使っていましたが、次回からは崇秀のことも名前で呼ぶことになります。でも主人公は崇秀なので、崇秀を中心に話を進めていくのであまり変化はありませんが。
次はいよいよ入学編です。入学編は結構サクッと終わるかもしれないです。8月中には九校戦まで入るつもりなので、よろしくお願いします。


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入学編
入学編 I


いよいよ入学編です。
結構長くなってしまいました。


 入学式の朝、崇秀は自分の部屋にある鏡の前で昨日渡された制服を着た自分を眺めていた。制服のブレザーの左胸には花弁の刺繍があった。

崇秀の容姿は、特別整っていると言うわけではない。身長は170cm程と現代の平均的な成人男性の身長と比べると、少し低く目つきが少し怖いこと以外は普通だ。

だが、普通の人とは少し違う点がある。崇秀は想子量が他の魔法師とは規格外であり、CADを使わなくても微弱ながら崇秀だけが使えるベクトル操作による反射の効果が常に働いているため、紫外線などのちょっとした外的のものは、自然と反射していた。そのため、普段は外からの刺激は受けないことにより、体が色素を必要としなくなり、次第に肌や髪の色が白色になっていった。いわゆるアルビノというのに近い見た目をしている。そのためか、制服はあまり様になっていなかった。

 

 だが、そんなことは思っても仕方のないことなので、崇秀は兵舎を後にし、最寄り駅から個型列車に乗って、今日から崇秀が通うことになる国立魔法大学付属第一高校のある東京の八王子まで向かっていた。

 

 駅から徒歩で高校まで一人で向かっていたが、その道中ではちょくちょく視線を向けられた。やはり現代では目立つような容姿をしているためだろう。

 

 校内の敷地に入り、崇秀は達也のとこへ向かった。達也が待っているベンチまで行くと、どうやら他の人と話しているようだった。崇秀は誰と話しているかも気になっていたので構わず達也の方へ向かい、声をかけた。

 

「おはよう、達也」

その声に達也と達也と話していた女子生徒が反応する。

「崇秀か。おはよう」

 達也はそう言って返事をし、それから崇秀は次に話していた女子生徒の方に目を向け、

「この人は?」

 

「ああ、この方は七草真由美先輩。ここの生徒会長だ。」

達也はそう説明し、真由美はそれに続き

「初めまして、七草真由美です。七草と書いて、さえぐさです。司波くんの言っていた通り、ここの生徒会長を務めております。よろしくね。ところで貴方は、司波くんのお知り合い?」

 

「はい、自分は早乙女崇秀と言います。達也とは、入学前からの友人です。」

そう言って俺は軽く頭を下げた。その時に真由美の手首にCADがあるのが見えた。

(生徒会だからか、それに七草といえば、達也の言っていた数字付き(ナンバーズ)の。)

「まあ、あなたがあの早乙女くんね。確か、入試の実技の成績が一位の。まさか実技の一位の子が、筆記一位の子と知り合いだったとはね...」

この言い方は決して達也のことを馬鹿にしているわけではない、あまりの偶然に驚いている様子だ。

 

 そうこうしているうちに、入学式の時間が近くなり、真由美は式のリハーサルへ、二人は式の会場の席へと向かった。

 会場に向かう途中に、俺たちをジロジロ見ながらコソコソと話す様子を見せている人が何人かいた。多分一科生が二科生といるからだろうか。

ブルームの子がなんでウィードなんかと...?

もしかして、脅されたりしてるんじゃない?

 

そんなことを言ってるのが聞こえた。だが二人は気にせずやがて会場に着いた。だが、会場の席の分け方には驚かされた。

前半分は一科生、後半分は二科生となっていたのだった。そのため俺たちは仕方なく、会場内で別れ、それぞれ席に着いた。

 さすがに差別化されすぎなのではと思ってしまった。そもそも崇秀があまりそういったことは気にしない性格であり、この制度にもあまり納得がいかないようだった。達也のように、入試の成績が芳しくないだけで、二科生であっても、優れた生徒がいるのを知っているため、その思いは他よりも特に強かった。

 一科生か二科生かは、制服を見れば一目でわかる。ブレザーに花弁の刺繍があるかどうかだ。花弁が付いているのは一科生。そのため『ブルーム』なんて呼ばれ方もする。付いていないのは二科生。花が咲かない雑草ということから『ウィード』なんて呼ばれ方をする。

そんなことを崇秀は席に着きながら考えていた。

 

 そうしていると式が始まり、新入生総代による答辞が読まれるところだ。今年の新入生総代は司波深雪。入試の総合成績のトップが毎年新入生総代となり、答辞を読み上げる。そんな新入生総代の深雪は達也の妹だ。

 

 式が終わり、新入生たちはIDカードを発行するため窓口へ向かった。

IDカードの発行も終え、崇秀は帰ろうとしていたが、偶然深雪の姿を見かけたので、声をかけた。

「深雪!」

俺はそう呼ぶと、深雪は周りを囲う人混みの中から姿を見せた。

「あ、崇秀くん。久しぶりですね。」

そういって崇秀の近くに駆け寄ってきた。どうやら人混みから抜け出したかったのだろう。

「今日はもう帰るのか?」

 

「はい、私は既にカードの発行を終えているのでこれから兄の元へ向かうところです。」

 

「そうか。なら俺も一緒しても良いか?」

 

「もちろんです。それに、誰か着いてくれている方が私も助かります。」

(そうだろうな)

と崇秀は思っていた。これは嫌味とかではなく、紛れもない事実だ。深雪は男女問わず誰もが見惚れてしまうほどの美貌。それに成績も優秀となれば、仲良くしたい人も沢山いるのは分かる。

そのせいか、崇秀は達也たちの元に向かうまで、変に視線を集めてしまった。

彼氏?

なんて声も聞こえれば、目つきのせいでか

あの子、答辞を読んでた子だよね?隣に怖そうな人がいるけど大丈夫なのかな?

なんて声も聞こえた。だが、崇秀はそんなことは聞かないことにしていた。

 

 そして達也たちのとこへ行くと、深雪は真っ先に駆け寄った。達也のとこにはどうやら同じクラスの子がいるようだった。

「お兄様、お待たせしました。」

深雪はそう言うと達也は「早かったね」と返事し、崇秀の方にも

「深雪と一緒に、すまないな。」と言った。

 

「気にしなくて良い。」と少しかっこつけたような返事をした。

 

そして、俺たちの後ろには別の人も来ていた。

「こんにちは。司波くん。それに、早乙女くんまで。」

そう声をかけられたので崇秀たちは軽く頭を下げた。

だが、深雪はどうやら達也の隣にいる二人が気になっているようで、

「ところでお兄様、早速その方たちとデートですか?」

なんてことを聞き、崇秀はその後のやりとりを呆れたように見ていた。

崇秀と深雪が達也の隣にいる美月とエリカと挨拶したところで、達也は通行の邪魔になるかもしれないと、生徒会の方々に話を戻した。

「深雪、生徒会からの用は済んだのか?」

「いえ、大丈夫ですよ。」

 

「今日はご挨拶に来ただけですから。深雪さんっと呼んで良いかしら?」

「あっ、はい。」

「では、詳しいお話はまた、日を改めてゆっくりと」とやりとりし、講堂を出てこうとしたが、隣にいた男子生徒が呼び止め、

「会長、それでは予定が。」

「いえ、別に予定が入っていたならそちらを優先するべきですよ。」

と言い、真由美は深雪と達也、それに崇秀の方に微笑みを向け、

「それでは深雪さん。今日はこれで。司波くんにそれから崇秀くんも、

いずれまた、ゆっくりと。」そう言って真由美は講堂を立ち去っていった。隣にいた男子生徒は、達也の方を睨んで舌打ちし、その後に着いていった。

 

 崇秀たちはその後、近くのケーキ屋により軽い会話をし、その日は解散した。

 

 入学二日目、今日から早速通常の時間で行われる。崇秀は今日も一人で登校している。土浦からだとまあまあ距離はあるため、達也たちに会うこともない。

 崇秀は自分の教室の1年A組に向かっていた。深雪とは同じA組であり、教室に入ると、深雪の周りには既に人だかりができていた。

崇秀の席は後ろから2列目、深雪の前。崇秀の「さおとめ」、深雪の「しば」で席の並びは五十音順だろう。

「おはよう、深雪」

崇秀はそう挨拶だけした。

「おはようございます、崇秀くん。」

深雪の返事に崇秀は小さく頷き、崇秀は自分の席で情報端末を操作していた。崇秀は魔法についてはまだまだ知らないことだらけだ。空き時間があれば、日本のものをはじめ、あらゆる国の魔法に関する文献などを読み漁っている。

崇秀に話しかけたいと思っている男子生徒も少なくなかった。だが、崇秀の見た目のせいか、近づき難いと思う生徒もいるようだ。崇秀も、自分に話しかけたいと思う生徒がいることを何となく察している。もちろんその訳もだ。どうせ深雪のことなんだろうと思い、自分からは話しかけるつもりはないようだ。

 

 昼になり、崇秀は深雪と食堂に向かった。その周りには午前の見学の時にいた1Aの生徒もいた。

だが、深雪は達也たち1Eの姿を見つけ、そこに駆け寄って相席しようとしていた。崇秀はいつものことのように眺めていたが、周りにいる1Aの生徒、特に男子生徒は気にくわないようだった。崇秀と深雪の関係は、見学の時にただの前々からの知り合いだとだけいって置いたこともあって、恋人関係なんかではないことが知られたようだが、そのせいで余計に深雪のことを狙っている男子生徒たちには、今の状況は気にくわないようだった。

最初は1Aの生徒たちも、相手の邪魔しちゃ悪いなどとオブラートな表現をしていたが、やがてヒートアップしていき、一科と二科のけじめだのといった二科を馬鹿にするような発言になっていき、達也たち1Eのメンバーが席を空ける羽目になった。深雪は4人に目で謝り、崇秀も達也にアイコンタクトを送った。

 

 崇秀は放課後、風紀委員本部に呼ばれていた。実は実技の成績が良いのがあって、教職員枠で早速今日から風紀委員として活動するよう言われた。今日は見学と言ったとこだろうが。

「失礼します。」

そう言って入ると、中には二人の女子生徒が待っていた。一人は何故か生徒会長、もう一人はとてもクールビューティな女子生徒がいた。

「やっほー、昨日ぶりね、タカくん。」

崇秀は心の中で

(タカくん...?)

と疑問に思っていたが、スルーしていた。

「何故七草先輩がここにいるんですか?」

 

「摩利から聞いてね、ちょうど暇だし、気になったから来て見たの。」

 

「今日は説明と見学だけと聞いているんですが...」と言ったが、真由美はそれに答えず、そこに摩利が入り、

「随分と真由美に気に入られているようだな、早乙女。まあ今日はお前の言う通り簡単な説明と巡回の付き添いだ。それで、私は渡辺摩利。ここの風紀委員長を務めている。よろしく。」

 

「紹介遅れました。自分は早乙女崇秀です。今日からよろしくお願いします。」

俺はそう挨拶をした。

「うむ。では早速、風紀委員の説明から入る。」

そう言って崇秀は風紀委員についての説明を受け、次に巡回の説明も受ける。

「風紀委員は、学内でのCADの携行を学校から許可されている。ただし、不正使用は即刻処罰対象だ。」

そう言われ俺は預けていた自分のCADを渡され、身に付ける。

「なかなか見ないCADね。」

崇秀は真由美にそう言われた。摩利の方も不思議そうな顔をしていた。まあそれもそうだ。ブレスレット型などが主流の今、俺は首につけるチョーカー形態のCADだ。多分日本どころか、世界的にも稀な型だと思う。

『まあ色々あって、こんな特殊な形態になったんです。でもこれが一番安定します。」

だがこれは触れられると色々まずいと崇秀は話を逸らした。

「それで、巡回はどうするんですか?」

俺はそう聞いたが、不思議そうにしていた摩利も少し返事が遅れた。

「ああ、今からここからこのルートで一周回る。」

そう言ったその時だった。摩利の端末に『校門近くで生徒同士のトラブル」との連絡が入った。摩利は真由美と崇秀に

「真由美、向かうぞ。早乙女も急だが一緒に来てもらう。」

そう言って三人は校門の方は向かった。

 




思って以上に早く書き終えてしまいました。
今、これを書くにあたって原作を読み返していますが、ついつい原作の方を読み進めてしまいます笑


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入学編 Ⅱ

続きです。今回は長くなってしまいました。
ですが、原作とあまり流れは変わってないです...


 三人が向かい、近くで様子を確認しようとした時、崇秀は思わず驚いてしまった。それは、その生徒たちの殆どと面識があるからだ。そして崇秀は思わず、

「達也...?」

と小さな声で呟いていた。そして、生徒たちのトラブルはどうやら治ったような気がしたがそんなことを思ったのは束の間、崇秀のクラスメイトである女子生徒一人が汎用型のCADデバイスを走らせ、達也たちのクラスメイトに向けて攻撃性の魔法を放とうとしていた。

だが、これにはさすがに見ておくわけにはいかなかった。真由美はサイオンの塊を女子生徒のCADに向けて放ち、女子生徒のサイオンはその塊と共に分散し、反動で後ろによろめいたが、もう一人の崇秀のクラスメイトの女子生徒がその女子生徒を腕で支えた。

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法の使用は、校則違反以前に犯罪行為ですよ!」 真由美はそう言い、生徒たちは真由美の方へ振り向き、次に摩利と崇秀の方と見る。

「1ーAと1ーEの生徒だな。詳しい話を聞かせてもらうから、そこにいるものたちは全員ついて来い。」

そう言って起動式も既に展開していた。これはこれ以上反抗しないようにとの威圧だ。

崇秀も一応CADの電源を入れていたが、おそらく使うことはないだろうと思っていた。

そうしていると、奥から一人の男子生徒が歩いてきた。達也だった。

 

その後達也は自分の分析能力で事情を説明し、今回はなんとか不問と言うことで終わった。崇秀は最後に達也に微笑みかけ、二人の後についていった。

 

その後は何事もなく巡回は終わり、風紀委員本部に戻って来た。

「まあ以上が風紀委員の活動だ。基本は二人程度で巡回し、一日一日交代で回していく。だが、もうすぐ部活動の新歓がある。ここでは毎年トラブルが多いため、巡回を強化することになるから君にも参加してもらうだろう。」

 

「了解しました。」

 

崇秀はそう言い、今日の活動は終わった。

 

 その後、三人で帰ることになり、話はさっきの事件のことになった。

 

「ほう、早乙女は司波とは知り合いなのか。」

 

「ええまあ、入学前からの友人です。彼は実技は苦手ですが、分析が得意なのは事実です。」

 

「そうなのか...」摩利は何か考えながらそう言って、この話は終わり、次は崇秀の話になった。

「そういえば、タカくんのそのCADは特化型?それに耳の後ろに付けているのは...?」

そう聞かれたので崇秀は

「汎用型のCADです。俺は系統魔法全般が得意なので、汎用型でないと対応できないのでね。耳の後ろに繋がっているのは俺の脳とリンクするためと言った方が良いでしょうか。詳しくは言えませんが、知り合いの魔工技師が開発した試作品のテスターとして使わせてもらってます。」

俺はそう言ったが、これにはいくつか嘘がある。まず、汎用型と言うのが大きな間違いだ。実際はベクトル操作に特化した特化型であり、ベクトル操作の応用で自己加速術式などのさまざまな系統魔法に近いものを使うため、汎用型と答えた。それに試作品でもなんでもない。既に開発されているものだ。完全思考型としては試作段階ではあるが、これは崇秀には既に実用レベルのものになっていた。

ちなみに知り合いの魔工技師とは実は達也のことだ。このことは前々から知らされており、一ヶ月に一回程、見てもらっている。どうやら国防軍の開発部が忙しくなったため、その役割は達也に回ったのだ。達也も思考型のCADには興味があるようだったので、あっさりと引き受けてくれた。達也曰く、「点検だけだし、これくらいなら負担にはならない」と言っている。

三人で校内を出た途中、崇秀は達也たちが寄り道しているとのことだったので、そっちの方に合流することにし、学校から少し歩いたとこで二人とは別れた。

 

 やがて崇秀は達也たちのいるとかへ合流した。だが、そのメンバーには少し驚かされた。達也たち1Eのメンバーと、深雪、それと同じ1Aの光井ほのかと北山雫がいたからだ。あの時達也が弁解してくれたおかげで処罰は免れたから、その事に感謝しているのだろうと思っていた。

まあ同時に

(昼休みのあの態度はどうしたものか)

とも思っていたが、そんな事は気にしないようにしていた。

 

 その後崇秀は達也のクラスメイトであるレオやほのか、雫に挨拶をし、さっきの事件の詳細も聞いた。そし崇秀も、自分が風紀委員になったことも話し、その日はみんな帰った。

 

 次の日崇秀は、何故か昼休みに生徒会室に来るよう言われていた。崇秀以外にも、達也と深雪が呼ばれており、深雪が呼ばれる訳はなんとなく分かっていたが、二人は何故かははっきり分からなかった。

生徒会室に入ると、真由美に摩利、それと入学式の時にみた鈴音とあずさが挨拶し終え、毎年恒例の新入生総代の生徒会入りにより、深雪は生徒会の一員となった。(最初は自分よりも兄を推薦していたが、生徒会は一科生だけとの理由で却下された)

次に風紀委員の生徒会枠が一人余っている話になり、これには達也が推薦される事になった。達也は

「魔法をうまく行使できない二科生の自分が入るには相応しくない。」と反対していたが、魔法を使わなくても、昨日見せた魔法式を分析する能力で、的確な処罰を下さるという理由で押し切られていた。崇秀は達也の風紀委員入りには反対はしなかったので、その様子をずっと横で眺めていた。だが自分が呼ばれた理由は分からないままだったが、

(食堂で食事をするよりかは)

と特に不満はなかった。

 

達也の風紀委員入りは曖昧なまま終わってしまったので、続きは放課後にする事になっていた。深雪の生徒会の仕事の説明もあったので、風紀委員本部に行く前に生徒会室へ向かった。そこには昼休みのメンバーと男子生徒がいた。その男子生徒は、入学式の日に真由美の隣にいた服部副会長だった。

服部は、深雪と俺には挨拶したが、達也には挨拶しなかった。どうやら二科生は気に食わないようだった。そして、達也の風紀委員入りにも反対。それに対してはさすがに深雪も納得いかなかったようなので、言い合いになったところを、最終的に達也が服部で模擬戦をする事になり、演習場へ向かった。魔法を使った喧嘩は時には危険を招くものなので、こういった場所で正式に対決するのだ。

ルールは互いの肉体の接触は禁止とし、怪我を負わせない程度の魔法で相手を戦闘不能にするというルールだ。ルールの範囲を超えた魔法を使用した場合は、審判の摩利が止めに入る。

 

崇秀は試合が始まる前に真由美にどちらが勝てるか聞かれた。

崇秀は

「はっきりとは答えられません。確かに服部先輩は校内でも相当な実力派です。ですが、複数相手でも個人でも対人戦闘というのは、魔法の展開の速さだけで決まるようなものでもないですよ。」

とそうはっきりとは答えなかった。

 

そうしているうちに試合が始まった。服部はすぐに起動式を組み立て、魔法の発動体勢に入ったが不発に終わる。そして服部はサイオンの波動を背後から受け、倒れる。

 

「勝者、司波達也。」

 

試合は一瞬で終わった。崇秀と深雪以外は驚きを隠せていなかった。その後、達也や深雪が何をしたのかを説明をし、起き上がった服部は深雪に謝罪だけし、演習所を去った。

「タカくんが言っていたことってそういうことだったのね。」

真由美はさっきのことを見てそう思ったのだろう。俺は小さく頷いた。

 

そうして摩利、崇秀、達也の三人で風紀委員本部に向かった。達也は、もう今更引き下がれないと思って風紀委員に入ることにしたそうだ。

中に入ると前と同じように散らかっている部屋だ。どうやら達也にはこの光景には耐えがたいものがあるらしく、片付けをすることになった。

 

しばらくすると、巡回を終えた風紀委員の男子生徒が戻ってきた。

「委員長、本日の巡回終了しました!逮捕者、ありません!」

威勢のいい声が部屋中に響く。

「....もしかしてこの部屋、姐さんが片付けたんですか?」

 

「姐さんって言うな!何度言ったらわかる!」

そう言いながら丸めたノートで叩く。

「そんなに叩かないでくださいよ... ところで、その二人は、新入りですかい?」

 

「ああ、その通りだ。一年A組の早乙女崇秀と、一年E組の司波達也だ。早乙女は教職員枠、司波は生徒会枠で入ることになっている。」

 

「へぇ、一人は紋無しですかい。」

紋というのは、一科生のブレザーについてる花弁の刺繍のことだ。それをつけていない達也の方を先輩は見る。

「辰巳先輩、今の発言は、禁止用語に当たりますよ。ここは二科生が正しいかと。」

もう一人の男子生徒がそう言った。

「お前たち、そんなことを言っていると足下をすくわれるぞ。ここだけの話、さっきあの服部がすくわれたとこだ。」

摩利がそういうと二人は表情を変える。

「...そいつが、あの服部に勝ったと」

「ああ、正式な試合でな。」

 

「なんと、入学以来負け知らずの服部が...」

 

「そいつは心強い。」

 

「逸材ですね、委員長。」

 

「ああ、それに隣にいる早乙女も入試の実技試験では学年一位の実力だ。」

 

「それはまたとんでもないやつだな。今年の新入りは、心配いらなさそうだな。」

 

「意外だろ?」

と摩利は一年の二人に聞いた。

「?」

といった表情を二人はする。

 

「いや、ここの生徒の多くはブルームだ、ウィードだの言った肩書きで優越感に浸り、劣等感に溺れるものばかりだ。私もそれにうんざりしていてな...さっきの試合は正直痛感だったよ。

 それに、真由美や十文字もあたしがこんな性格だって知っているからな。だから生徒会枠と部活連枠は、比較的そういう意識が少ない生徒がいる。0というわけではないが、実力で評価できるヤツらだ。

 だが、教職員枠まではそういった訳には行かないことがほとんどなんだが、今年は君のようにそういったのを気にしない生徒で良かったよ。だからここは、君たちには居心地の良い場所になると思うぞ。」

 

「三ーCの辰巳鋼太郎だ。腕の立つヤツは大歓迎だ。よろしくな。」

「ニーDの沢木碧だ。君たちを歓迎するよ。」

そう言って互いに握手を交わす。

この先輩二人とは上手くやっていけそうだと、一年の二人は思った。

 

 

 次の日、一高にもこの期間がやってきた。部活動の新入生勧誘だ。一高でも普通科の高校と同じような面ももちろんあり、この新歓もその一つだと言える。

ただ、その部活動は魔法科高校ならではの魔法を使った部活動も多くある。メジャーな競技は一高から九校の間で対抗戦も行われる。そのため、学校側も甘くみているところがあり、新入部員獲得戦は激しくなる。

「...という訳で、この時期はトラブルが多発するんだよ。」

ここは昼の生徒会室。崇秀は、食堂で食事を取ることを避けるため、今日もここに来ている。鈴音とあずさは昨日ここに呼んだからで、普段は教室で食事を取っているそうだ。達也も深雪も、一緒に食事を取るのはここが落ち着くからか、生徒会室に来ている。そして、崇秀たちは新歓についての話を聞いている。

「だから授業に支障をきたすことをあってね...そのため今日から1週間の期間を設けてるの。」

と真由美が補足する。

「この期間はそれぞれの部が勧誘のテントを貼るからな。そのためお祭り騒ぎになる。

それに、どこが元かは分からない入試成績の上位者リストや、競技実績のある新入生は取り合いになる。

無論、ちゃんとルールはあるし、ルール違反した部活動には罰則があるが、陰では殴り合いや、魔法の撃ち合いも少なくない。」

「CADの携行は、禁止なのでは?」と達也が質問する。

それには摩利が答え、

「新入生向けのデモンストレーション用に許可が出るんだよ。審査はあるが、事実上フリーパスだ。

そのため、この時期は無法地帯化してしまう。」

 

「学校側も、九校戦の実績のためか、多少のことは黙認しているところがあってね...」

と真由美が続く。

「てな訳で、風紀委員は今日からフル回転だ。」

 

「いい人材が見つかって良かったね、摩利。」

もはやこういうやり取りは日常茶飯事だ。

「でも、ターゲットの多くは一科生ですよね?二科生の俺ではあまり役には立たないと思いますが。」と達也が言う。

「そんなことは気にしなくて良い。崇秀も一年だからって遠慮する必要はないぞ。」

崇秀はいつの間にか名前呼びになっていた事には触れず、頷いた。

「放課後は巡回だ。授業が終わり次第、本部に来てくれ。」

 

 授業が終わり、崇秀は本部に向かう。達也も既に来ており、中に入って席に着く。

二人は、下座の端でお互い顔を合わせるように座った。

「全員揃ったな?」

摩利が立ち上がり、

「そのまま聞いてくれ、今年もまたあの馬鹿騒ぎの一週間がやって来た,。この中には去年、騒いでいたものも入れば、騒ぎを大きくしたものもある。だが、今年は処分者を少なくするよう気を引き締めて取り組んでほしい。くれぐれも、風紀委員が騒ぐような真似はしないように。」

 

「それと、今年は卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう、立て。」

そう言われ二人は立ち上がる。

「一年A組の早乙女崇秀と、一年E組の司波達也だ。早速、パトロールに加わってもらう。」

すると、二年の一人が

「役に立つんですか?」

と聞く。そう言うと摩利は

「ああ、心配するな。二人とも使えるヤツだ。

司波の実力はこの目で見ているし、早乙女も相当な技量の持ち主だ。」

そう答えると、二年の生徒も半ば納得したような様子を見せる。

「ではこれより最終打ち合わせをする。巡回は前回までの打ち合わせ通りだ。質問はないな?」

質問するものは特にいなかった。

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。

早乙女と司波は私から説明する。それ以外のものは出勤!」

 

そういって、それぞれ外へ出る。崇秀と達也はここに残り、摩利から説明を受けた。会えると達也が

「CADはここの備品を使っても良いですか?」と聞く。

「構わないが、ここにあるのは旧式だぞ。」

 

「そうですが、ここにあるのはエキスパート仕様のもので、なかなかの高級品ですよ。」

 

「そうなのか。埃を被っていたものだし、構わんよ。」

 

「では、このCADをニ機借ります。」

 

「ニ機か。君は本当に面白いヤツだな。」

摩利はそう言い、達也はCADを借りて、崇秀と本部を出る。

「じゃあ、行きますか。」

崇秀はそう言い、二人はそれぞれ向かった。

 

 




入学編は後半分程度で終わるかもしれないです。
本音を言うと、はやく九校戦編が書きたいです...


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入学編 Ⅲ

入学編最後です。
優等生のストーリーも絡んでます。


 そうして、崇秀はパトロールに向かった。首につけているチョーカー型のCADは、やはり珍しいのか少し注目を集めてしまう。それに、入試の成績が出回っているせいか、風紀委員として歩いていても声をかけられる事が多い。だが、崇秀は部活に入る気は無いので、全て断っていた。

 

 崇秀の活動は昨日は特に何事もなく終わった。だが、達也の方は、剣道部と剣術部の争いを収めたらしく、早速活躍しているそうだった。だが、何もなった事が決して悪いわけではない。むしろ、平和に終わった方が良い。

そして、二日目の今日もパトロールに出ていると、突然

「乱闘だー!」

との騒ぎが聞こえた。近くに行くと、どうやらが先に止めに入ろうとしていた。

だが、止めに入った瞬間、背後から達也に向けて魔法が放たれた。

(あれは...空気弾![エア・ブリット])

あれほどなら達也も避けれただろうが、崇秀は空気弾の止めに入った。

まずは左足を踏み込み、その一歩で発生するベクトルを達也の背後にまでつくように操作する。次に領域干渉でその空気弾を防いだ。

 すると空気弾を放った生徒は逃げ、喧嘩を起こした生徒や、その周りにいた生徒は舌打ちや、納得いかないような顔をした。

(こいつら、もしかしてグルで達也を...)

そう思い崇秀は達也に、

「俺は空気弾を放った生徒を追う。達也はこの場を頼む。」

崇秀はすぐにその生徒を追った。

今度は移動魔法と慣性中和魔法の併用による高速走行の魔法...に見せかけたベクトル操作の応用による魔法で、追いかけた。

わざわざ面倒なことをしたのは、あまり騒ぎにならないようにするためだ。

やがて追いつき、その生徒の前に立ちはだかった。

「魔法の不適正使用により、あなたには同行してもらいます。」

崇秀はそう言ったが、まだ抵抗するつもりか、CADを走らせていたが、それよりも速く振動の魔法を発動し、相手の動きを止めた。

崇秀はそのまま取り押さえ、

「こちら講堂付近、逮捕者一名。身動きは取れないように押えていますので、助っ人をお願いします。」

そう連絡し、すぐに助っ人がきた。

 

 

 そして崇秀は部活連本部に報告のため来ていた。

「...以上が今回の経緯になります。」

崇秀は真由美と摩利、それに部活連会頭の十文字に報告を終える。

「達也くんがね...もしかして昨日のことかしら。」

真由美はそう答える。

「予想はしていたが、早速こんな事が起きてしまうとはな...」

摩利もこれには少し悩まされているようだ。

「そうだな...これは関わっていた人物全員が懲罰対象になる。司波も呼んで話すとするか。」

摩利はそういった。それにこれは部活動関連ではなく、個人的なものによるものなので、克人は聞いているだけだった。

 

 後日、この件については関わっていた生徒は反省しているようで、達也もそこまで気にしていないようだったためか、軽い罰で終わった。

 

 こうして崇秀も務めを果たし、新歓の期間が終わった。そして昼休み、いつものように生徒会室で食事を取っていると、達也が先日、同じ二科生である剣道部の壬生紗耶香という人物とカフェで座っていたという話になった。言葉責めにしたなどといった噂が流れていたため、深雪がとても不機嫌になってはいたが、先日の事件の礼と非魔法系のクラブで連携して学校側に考え伝えるために、協力して欲しいとのことだった。

だが、達也がそれを伝えて何をするか聞いたところ答えられなかったので、そのところは終わったという。

 また、風紀委員の活動が点数稼ぎなどとも言われそれについては、思い込みが激しいとのことになった。壬生紗耶香が何者かに誘導されているのではないのか...そして、その何者かというのに反魔法国際政治団体「ブランシュ」の名前が達也の口から出た。

この名前が出たことには驚いていたが、どうやら、真由美や摩利もその事は知っていたらしく、ブランシュの傘下である「エガリテ」の侵略を学校は受けていることが分かった。それが分かったのは、生徒の中に赤と青で縁取られたリストバンドをつけている者がいるからだ。そのリストバンドをつけている生徒はエガリテの信者であると真由美は言った。

これには崇秀も思い当たることがあり、剣道部の主将である司甲も着けていた写真を見た。

そして、今日のところはその話で終わった。

 

次の日、いつものように帰っていると、たまたま深雪を外で見かけた。

「深雪」

そう呼ぶと深雪は振り返り

「あら、崇秀くん。お帰りですか?」

そう聞かれたので

「ああ、俺は帰るとこだが、深雪は荷物を持ってないがどうしたんだ?それに達也もいないようだが。」

「実は、生徒会の用事でここに買い出しに...お兄様は、学校でお待ちになってるわ。」

「そうなのか、途中までなら一緒に行くが。深雪一人だと人目を集めるだろうし。」

「お気遣いありがとうございます。なら、お言葉に甘えて。」

そう言って、深雪の目的地まで送ることにした。

 

 店まで向かっている途中、崇秀たちはある生徒を見かけた。

「あれは...光井たちじゃないのか?」

「何か変に胸騒ぎがするけど、大丈夫かしら?」

そう話していると、ほのかたちはある方向に走り出した。ほのかたちは何かを追っているようだった。崇秀たちも念のためCADを準備し、

 

崇秀たちも追ってみると、ほのかたちは地面に倒れ込み、何人かの集団に囲まれていた。どうやらキャスト・ジャミングを使われたようだった。

「深雪、ここは俺がやる。」

崇秀がそう言った時、一人がナイフをほのかたちに振りかざしたので、崇秀はすぐに空気の流れを自身の手に集めて空気弾を作り、それをナイフを持っている手にめがけて放った。

崇秀の優れた演算能力により、見事命中。衝撃によりナイフは場に落ち、族たちはすぐにキャスト・ジャミングを崇秀たちに放った。

だが、崇秀たちにはそんなものは効かなかった。崇秀はキャスト・ジャミングの波動を受ける前に反射し、深雪は事象干渉が強いためだ。

「馬鹿な、アンティナイトは高純度の特注品だぞ。この影響下で魔法なんか...」

「雑魚(非魔法師)が使うキャスト・ジャミングなんて、俺や深雪には通用しない。」

 

そして崇秀は移動魔法を族に放ち、族たちは壁に当てられた衝撃で倒れた。

族たちを捕らえ、ほのかたちも特に問題なく起き上がることができていたため、大事にはならなかった。

「深雪...来てくれたんだね。それに、早乙女くんも助けてくれてありがとう。」

「私からも言わせて、ありがとう深雪、早乙女くん。」

「本当にありがとう!あ、二人とも始めまして。」

とほのか、雫、それに明智英美という女子生徒が礼を言ってくれた。

「いや、無事で何よりだ。それより深雪、こいつらはどうする。」

と捕らえた族のことについて尋ねた。わざわざ深雪と名指しで呼んだのは、あの件に関するかもしれないからだ。

「そうね...監視システムでいずれは発見されるから...」

「警察に通報した方が良いんじゃない?」

とほのかは言う。だが深雪は

「ちょっと大事にはしたくない事情があるんだけど...でも被害者であるみんなが訴えたいなら止めはしないわ。」

と言う。雫が

「防犯カメラには撮られてないし、問題ない。」

と答える。

「そう、ありがとう。」と深雪は答える。

 そうしてほのかたち三人は帰った、三人はさっきの崇秀や深雪のことについて話していた。

「さっきの二人すごかったね。まるでキャスト・ジャミングが効いてないなんて。」

「深雪は事象干渉力が桁違いなんだと思うけど、早乙女くんのは一体なんなんだろう...」

「領域干渉の干渉力がキャスト・ジャミングを上回ったんだと思う。でもあんな短時間で...」

といった疑問のままで終わってしまった。

 

そして残った二人は例のことについて絡んでいると思い、深雪は

「後の事は私に任せてくれないかしら?」

と言ったので崇秀は

「そうか。まあ俺はあまりこの件には手を突っ込むのも面倒だし、何か手があるなら任せる。それに、予定より時間がかかってしまったから今日はもう帰るよ。」

と言って、そのまま帰っていった。

 

 

数日後、突如放課後に学校で校内放送が流れた。

「全校生徒の皆さん!僕たちは学内差別撤廃を目指す有志同盟です!」

そう言った放送が流れ始めた。崇秀は風紀委員の招集により、不法占拠されてる放送室の前に来た。

放送室に強引に乗り込み、占拠していた生徒たちを取り押さえたが、真由美が生徒会と、有志同盟と名乗る生徒たちとの交渉に応じる日にちを決めたいとのことで、その場は収まった。

 

 そうして、討論会当日の日、崇秀は風紀委員の仕事で出入り口付近の監視していた。講堂には全校生徒の半数が来ており、一科生と二科生がそれぞれ五分五分といったとこだった。その中には同名のメンバーも混ざっていた。そして、放送室の時にいた壬生紗耶香を始めとしたメンバーはここにはいなかった。

討論会はもはや真由美の演説会となっていた。真由美は一科生と二科生の差別をなくすよう訴え、討論会は終わったその時だ。

 

 突如、轟音が講堂の窓を震わせた。崇秀は出入り口付近から来た数人の闖入者を取り押さえた。そして、達也たちが実技棟に向かうようだったので、崇秀ももうすぐ収まるであろう講堂は先輩方に任せ、ついていくことにした。

 

実技棟付近に付くと、レオが交戦しており、深雪がレオと戦っていたテロリストを弾き飛ばした。エリカも駆けつけると、達也はある推測をする。

「テロリストの目的は事務室ではないとしたら... 」

「図書館よ」

近くから別の人の声が聞こえる。カウンセラーの小野先生だ。

「彼らの狙いは図書館のデータ。そこに壬生さんもいるわ。」

そう言ったので崇秀たちは図書館の方へ向かった。

 

 図書館の前に来ると、三年生の生徒がテロリストと交戦していた。CADなしで相手にしているのはさすがと言うところか。

そうして崇秀もすぐに止めに入る。攻撃性の魔法は使わず、体術による戦闘スタイルでテロリストを相手にしていた。レオも硬化魔法を使い、加わる。

「崇秀、レオ、ここは任せたぞ。」

「ああ」

「おうよ」

そう返事し達也たちは図書館へ向かった。

 

テロリストはなんとか抑え、達也たちが向かった図書館のデータも壬生の身柄も無事で終わり、壬生はエリカと交戦した時に怪我を負ったため、保健室に運んでいた。

向かっている途中、レオに

「移動魔法だけで、よくもあんなに相手にできたな。」と聞かれたので

「まあな。真の優れた魔法師って言うのは、魔法力以外も完璧でなくてはならないんだ。」

と少しかっこつけたような台詞を述べた。

保健室に来てしばらくすると、真由美、摩利、克人も来た。首謀者であろう司甲が今は話せる状態ではないため、壬生に事情を聞くことになったのだ。

 壬生の方から背後組織がブランシュであることがわかり、達也はブランシュの拠点に乗り込もうとしていた。深雪、エリカ、レオ、そして克人が協力しようとしていた。崇秀は摩利に

「お前は行かないのか?」と聞かれたが

「もう面倒事には巻き込まれたくないので。それに、俺は行っても行かなくても結果は変わりませんよ。」

と言い、遠慮した。

 

 そして、達也たちとそこに加わった桐原先輩の活躍により、ブランシュの拠点は制圧され、事件は幕を閉じた。




次回からは九校戦編です。崇秀には大活躍してもらうつもりです。


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九校戦編
九校戦編 Ⅰ


九校戦編です!
夏休みの課題に追われて、投稿がいつもより少し空いてしまいました。
8月中はこんな感じになるかもしれないです。すみません。


 『全国魔法科高校親善魔法競技大会』 通称『九校戦』

 全国に九つ存在する魔法科高校に在校する生徒たちで魔法競技によって競い合う大きなイベントだ。

 そこでは毎年熱烈なバトルが繰り広げられ、多くの観客もいる。そこには、政府関係者、魔法関係者だけでなく、一般の企業や海外からのスカウトなどもあり、魔法科高校生にとっての晴れ舞台となる。

 今年ももうすぐその幕が上がる。

 

 一学期期末試験が終え、校内では、九校戦に向けた準備へと向かっていた。崇秀ももちろん選手として出ることになっていた。

ある日の昼休み、いつものように生徒会室で昼食をとっていたが、真由美はどうやら悩んでいるようだった。

「選手の方は十文字くんにも協力してもらってなんとか決まったんだけど...エンジニアがね...」

真由美はどうやらそのことについて悩んでいるようだった。選手の人選は部活連ではなく、生徒会が主体となって行う。

「まだ決まってないのか?」

と摩利は尋ねる。

「ええ、うちは魔法師志望が多いから、三年生は特に魔法工学関係は人材不足なのよ... 二年生はあーちゃんや五十里くんとかいるけれど、それでも足りないわ。」

と頭を悩ませていた。

「ねえ、リンちゃん。やっぱりエンジニアやってくれない?」と聞いたが、

「ダメです。私の腕では中条さんたちの足を引っ張るだけです。」と鈴音は断った。

達也が席を立ったとき、

「だったら、司波くんがいいんじゃ無いでしょうか?深雪さんのCADも司波くんが調整しているそうですし、一度見せてもらった時の技量も一流に劣らないほどの仕上がりでしたし。」

とあずさがいった

「盲点だったわ...!」

と真由美は嬉しそうに言い、真由美の視線は達也に向けられた。

「一年生がエンジニアのスタッフに加わった前例は?」

と達也は尋ねるが

「何事も最初は初めてよ。」

「前例は覆すためにある。」

と真由美と摩利に反論されてしまった。

「CADの調整には、ユーザーとの信頼関係が必要です。一年の、それに二科生の俺では色々と良く無いと思いますが...」

と言ったが、

「私は九校戦でもお兄様にCADを調整していただきたいのですが...ダメですか?」

と深雪の一言により達也は凍りつく。

「そうよね、やっぱり信頼できるエンジニアがいると心強いはよね!」

と真由美が追い討ちをかける。

「はい。お兄様がチームに加わっていただければ、私だけでなく、光井さんや北山さんも安心して試合に臨めると思います。」と言ったので、

「俺も、達也に調整を任したいな。」

と崇秀も勢いに乗った。またもや達也は引き下がれない状況にあった。

 

放課後、達也の技能もメンバーに認められ、無事にチームに加わった。

 

夜、崇秀は兵舎に戻ってきたとき、風間少佐に呼ばれた。

荷物を置き、風間少佐のとこへ向かう。

「少佐、今日はどう言ったご用件ですか?」

「特尉、君はどうやら九校戦に出場するようだな。それに大黒特尉もエンジニアとして参加すると聞いている。」

「...はい」

(情報が早いな...)と心の中で思っていた。

「会場は富士演習場南東エリア。これは例年と変わらないのだが...気を付けろ、崇秀。」

崇秀は名前で呼ばれたということは、ただ事ではないと察した。

「該当エリアに不穏な動きがある。不正な侵入者の痕跡も発見された」

「あそこは、軍の演習場ですよね?そこにですか?」

「実に嘆かわしいことだ。また、国際犯罪シンジケートの構成員らしき東アジア人の姿も近隣で何度も目撃されている。去年まではなかったことだ。時期的に九校戦が狙いだろうと思われる。」

「それと、知り合いの話ではおそらく香港系の犯罪シンジケート『無頭竜』の下部構成員ではないかとのことだ。情報が入り次第、また連絡する。」

「分かりました」

「それと、練習の方も頑張ってくれ。ま、あのことはできるだけバレない程度でな。」

「ありがとうございます。もちろん、その件は心得ております。」

「そうか」

「では、これで失礼します」

そう言って崇秀は部屋に戻った。あのことと言うのはおそらくベクトル操作のことだろう。

 

発足式も終え、崇秀や深雪たちは、エンジニア兼作戦の指揮をとる達也と共に放課後に九校戦に向けた練習をしていた。だが達也の担当する選手は、崇秀以外は全員一年の女子だった。他の男子の選手は達也の枠を女子に譲ったためだ。

そのため崇秀は女子の選手に圧倒され、達也とあまり練習できなかったが、崇秀の出場するクラウド・ボールの作戦はすでに完成に近かった。

 

 そうして月日が経ち、八月一日。

九校戦へ出発する日になった。一高は例年試合の前々日に宿舎入りをする。

真由美が家の事情で遅れたため、予定より一時間半遅くなったが、一行は出発した。選手は一つのバスに、技術スタッフ(エンジニア)は作業者となっている。

服装は自由だが、一年生は殆どが制服だった。だが崇秀は、上のブレザーは脱ぎ、ネクタイを外した状態で寝ていた。

 

そうして無事に到着した。途中、車が突っ込んでくる事故があったが、克人と深雪、それに達也の活躍により大事にはならなかった。

 

今日の夜の懇親会まで、崇秀はまた部屋で寝ていた。ルームメイトである一年の男子とは仲が悪いわけではないが、あまり話さないため部屋では一人だ。

 

 懇親会の会場に着くと、やはり多くの生徒がいた。生徒の種類も様々で、三百人強と言ったところだろうか。

だけど、崇秀は達也と二人で会場の隅にいた。深雪やほのかに雫、それに従業員のアルバイトをしているエリカと、達也の同じクラスである幹比古と話したが、深雪たちは1Aの方へ、エリカや幹比古は仕事にもどっていった。

達也に、

「崇秀は、クラスのとこへ行かなくて大丈夫なのか?」と聞かれたが、

「俺はモノリスのような団体競技に出るわけじゃないし、暑苦しいとこは嫌いだ。それに現代でこの姿はなかなか目立つしな。」

と返した。

そして、来賓である九島烈の挨拶も終えた。登場したときに、一瞬こちらの方を見たので、二人は目礼をした。

(あれが老師と呼ばれる九島烈....現役時代は世界最強の魔法師と呼ばれた一人か。)

と考えながら話を聞いていた。

 

 

 試合開始前日の昨日で最終調整を終え、九校戦は開幕した。

初日は本戦の『スピード・シューティング』全試合と『バトル・ボード』の予選までだ。

崇秀達は女子の試合を観戦していた。スピードシューティングには真由美が、バトルボードには摩利が出場する。特に真由美のスピードシューティングは『エルフィン・スナイパー』の異名を持つ(本人はこの呼び名を嫌う)ほどの実力だ。そのためファンも多い。本人にとって最後の年も見事優勝した。

摩利の滑りもなかなかのもので、決勝を明日に控えて終わった。

女子は好調だったが、男子があまりだったらしい。服部がバトルボードでなんとか決勝に進んだくらいだそうだ。だが、一高は幸先の良いスタートを切れたみたいだ。

 

そして二日目、崇秀は一人で女子クラウドボールの試合を観に来ていた。達也は真由美のCADの調整の手伝い、深雪たちはアイス・ピラーズ・ブレイクの試合の観戦へと行った。

崇秀が一人でここに来ているのは、クラウドボールは自分の出る競技だからだ。それに、女子の試合なのは真由美がクラウドボールで使う魔法、「ダブル・バウンド』は崇秀も使うからだ。

ダブルバウンドとは日本語で言うと『運動ベクトルの倍速反転』となる。対象の物体の速さを二倍にし、ベクトルの向きを逆にする、いわばベクトル反転術式の応用の一つだ。

 

そして、真由美はクラウドボールも優勝で終わった。

だが、男子のクラウドボールは不調で終わった。

 

三日目、この日はバトルボードの準決勝から決勝までとピラーズブレイクの決勝までが行われる。

だが、バトルボードで思わぬアクシデントが起こってしまった。

それは摩利の出る試合で、七高の選手がオーバースピードにより、摩利の方へと突っ込んだ。摩利はその選手のボードに移動魔法、自分が選手を受け止めたときに飛ばされないよう加重系・慣性中和魔法を使ったが、バランスを崩し、両選手場外へと飛ばされてしまった。摩利は全治一週間の怪我を負い、バトルボードともう一つ出る予定だったミラージ・バットは棄権した。ミラージ・バットには、深雪が代役として出ることになった。

 

 そして、摩利がバランスを崩したのは水面を不自然な流れにする妨害が何者かによって行われたことが後に達也たちが調べて分かった。

後に出場する選手たちはこの何者かにも警戒しながら戦わなければならない状況に陥った。

 

 

 




今回は崇秀の出番はあまりありませんでした...
次からは頑張ってもらいます。(笑)


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九校戦編 Ⅱ

続きです!



 こうして四日目、今日から四日間は本戦は一旦休みになり、一年生のみの新人戦が始まる。

新人戦は本戦のポイントの半分だが、新人戦次第では、三高に逆転を許してしまう可能性があるので、気を抜くことはできない。

新人戦初日はスピードシューティング全試合とバトルボードの予選が行われる。

これには達也も大忙しだった。スピードシューティングには雫が、バトルボードではほのかなどが出る。その選手たちのCADの調整のためだ。

そして、達也の腕前を披露するのはこれが始めてとなる。真由美たちも注目していた。

結果は見事なものだった。女子スピードシューティングの1位から3位までを一高で独占し、女子バトルボードも二人が準決勝戦へと駒を進めた。

女子スピードシューティングの3人は達也が調整を担当し、バトルボードに出たほのかのCADの調整も手伝った。

逆に達也の調整を嫌った男子の方はあまり望ましいものではなかった。森崎がスピードシューティングで準優勝、バトルボードの方は一人が準決勝戦の進出だった。

 

そして新人戦二日目、この日はいよいよクラウドボールの全試合とピラーズブレイクの予選が行われた。

 

崇秀は予選と決勝戦で作戦を変更することにしている。

達也は深雪たちが出るピラーズブレイクの予選の方に行っているため、予選はサブのあずさにCADの調整をしてもらっていた。作戦と調整はほとんど終えているので、どちらかと言うと、最終確認という感じだった。

崇秀が予選で使うのはチョーカー型CAD。移動魔法、加速魔法に特化し、予選はラケットを使用して戦うことにしている。だが競技用のため、いつもの演算能力は長時間使えないが、九校戦ではベクトル操作を使うことはないため、必要なかった。

「確認の方はこれで終わりました。司波くんの調整が完璧なので、あまりすることはありませんでしたが...いかがですが?」

 

「特に問題ないですよ。ありがとうございます。」

 

「ですが、会長と違ってラケットなんですね。一体どのように戦うのでしょう?」

 

「それは、始まってから分かりますよ。」

 

「そうですか...頑張ってください。」

 

「ええ、いってきます。あーちゃん」

と崇秀は最後は少しふざけてみた。あずさは驚いて変な声が出ていたようだが、そのままコートへと向かった。

 

クラウドボールというのは、直径6センチの低反発ボールをラケットや魔法を使って相手側のコートに直接落とした回数を競い合う試合である。1セット3分で行われ、透明な壁で覆われたコート内に20秒ごとに出てくるボールを追いかけ、最終的には9個のボールを追うことになる。男子はこれを5セットマッチで行う。

 

 そうして試合が始まった。だが、その光景は観戦している人が驚くほどの光景だった。

崇秀は自分のコート中に加速・移動系統の魔法を張り、そこへ踏み込むたびに自身が高速で移動し、自陣に来たボールをまた加速、移動系統の魔法を使って跳ね返す。ボールも崇秀も異常なほどのスピードで駆け巡っていた。

これに対応できるのは、崇秀が日頃から鍛錬に励んでいたことと、元々の一時的な筋肉強化の能力によるものだった。

それに崇秀が小さな魔法式でそこまで動けるのは、達也の調整のおかげでもあった。

また、崇秀はもののあらゆるベクトルの方向をなんとなくではあるが、CADを使わなくても知覚で感じ取れるようになっていた。そのため相手のボールの動きも完璧に跳ね返していた。

 

そうして予選は難なく終了。決勝への進出も決まった。

少し時間ができたので、控室に戻ると、真由美たちがいた。

「すごいわね、タカくん!あんなスピードは初めてみたわ。」

「ああ、あそこまで動くとは驚いたな。」

「会長に委員長、ありがとうございます。少し疲れますがね...」

「そうよね。少しゆっくりしていってね。」

と言われた。休みながら、モニターに写る女子ピラーズブレイクの試合を観ていた。ちょうど深雪の試合だった。

結果は深雪の圧勝。自分の氷を一つも割られずに勝っていた。

使った魔法はインフェルノ。威力は絶大なものだった。

「深雪もやってるみたいだし、俺も勝たないとな。」

そう言って試合会場へと再び向かった。

 

決勝は達也がこっちに来ていた。

「作戦は前話した通りだ。優勝は間違いないと思うぞ。」

「ああ、行ってくる。」

そう言ってコートへと向かった。

 

 そして、決勝戦が始まった。崇秀は今回、ラケットではなく拳銃形態の特化型CADを持ってきた。

 試合は圧勝。使った魔法は真由美と同じ『ダブル・バウンド』

お得意のベクトル反転(本当は操作だが)による魔法だった。

「タカくん、まさかダブルバウンドも使えるなんてね...」

控え室では真由美がそんなことを呟いていた。

こうして見事、崇秀はクラウドボールを優勝した。

 

この日は深雪たち女子のピラーズブレイクも順調なまま終わった。

 

夕食は各学校の選手やエンジニア全員で集まって食べるのだが、この日は明暗がはっきりと分かれていた。

暗いのは一年男子の方、明るいのは一年女子の方となっていたが、その女子の中に達也が一人紛れ込んでいた。達也はCADの調整の成果か、女子たちに囲まれて色んな質問をされていた。

「ふふ、あっちは賑やかね。」

「まあ、無理もないですよ。でも、達也が徐々に認められていってなんか嬉しいです。」

崇秀は一年男子たちのとこではなく、真由美とゆっくり話していた。

女子たちの光景を観ていた一年男子は早々と出て行った。

 

だが、崇秀はこの日とある人物とクラウドボールの控え室近くで会っていた。

一人は達也と同じくらいの身長の、もう一人は少し小柄な男子生徒だった。

「第三高校一年、一条将輝だ」

「同じく、第三高校一年の吉祥寺真紅郎です」

二人とも少し挑発したような、そんな態度だった。

「第一高校の早乙女崇秀です。それで、第三高校がなんのようで俺に?」

そう聞いた。

「先程のクラウドボールは見事でした。」

「それはどうも」

「それで、僕たちは明後日のモノリスコードに出場します。君は出場しないんですか?」

「俺は対人でやり合うのは苦手だ。モノリスなんか興味はない。」

「そうですか。それは残念ですね。是非君とは戦ってみたかったんですが。まあ、勝つのは僕たちですが。」

と吉祥寺は少し煽り気味だった。

「ああ、時間取らせてそれを言いに来ただけか。勝手にやってろ。」

崇秀は呆れたせいで、久しぶりに口調が荒くなってしまった。

「時間を取らせて悪かったな。」

と一条は言った。

「そう思うなら最初から話しかけないでもらいたいな。」

崇秀はそう言って一高の控え室へと向かった。

 

 新人戦三日目、ほのかはバトルボールを優勝し、ピラーズブレイクは雫が敗れ、深雪の優勝となった。

 

 新人戦四日目、午前のミラージバットの予選は達也が担当しているほのかとスバルが予選突破した。

 だが、午後に事件は起きた。モノリスコード予選、市街地フィールドで第一高校の生徒が加重系統の魔法の一つ、『破城槌』を試合開始前のビルにいる状態で使われたのだ。

 破城槌は屋内にいる状態で使うと、殺傷能力Aランクに格上げされる。だが、四高のエンジニアは起動式を組み込んでいないと言っていた。

 

それを知り、崇秀は達也と二人で話していた。

「いよいよ、絡んで来たな。」

「ああ。」

「狙いは、やっぱり一高なのか。」

「だろうな。渡辺先輩のと言い、これと言い。」

「これからどうするんだ?」

「糸口が掴めたら良いんだがな。破城槌を組み込んだ可能性があるとすれば、おそらく運営委員が検査を出した時の可能性が高い。」

「ならば、運営委員に工作員が紛れ込んでいるってことか?」

「その可能性があるな。」

といった会話をしていた。

 

ミラージバット決勝、これは達也の成果もあって、ほのかとスバルのワンツーフィニッシュで終わった。

その後すぐに崇秀と達也はミーティングルームへと呼ばれた。

入るとそこには

真由美、克人、摩利、服部、あずさ、鈴音といった一高の幹部の生徒たち、他にも桐原や五十里などもいた。

「達也くん、今日はご苦労様です。崇秀くんも昨日はよく頑張ってくれました。」

真由美がそう言い、二人は軽く礼をするそして達也が

「選手たちの頑張りのおかげです。」

と形式的な流れで答える。

「もちろん、選手たちが頑張ってくれたおかげです。でもここにいるメンバー全員が達也くんの実力を認めています。現段階で2位以上を保てたのは達也くんのおかげだと思っています。」

「ありがとうございます。」

「それで、新人戦の準優勝は確定。三高がモノリスコードで準優勝以上なら一高は準優勝。三位以下なら当校の優勝です。で、ここまで来たら、私たちも勝ちにいこうと思っているの。」

「三高のモノリスコードには一条くんと吉祥寺くんが出てるのは知ってる?その子たちがトーナメントを取りこぼす可能性は低いです。だからこのまま棄権すると、新人戦優勝は不可能でしょう。」

「だから、崇秀くんと達也くんに森崎くんたちの代わりをやってもらえないかしら?」

崇秀も達也も途中から状況は察せていた。それに、崇秀くんと呼んだことで、いつもより真剣なのも伝わった。

 

「質問が二つあります。」

崇秀はそう言った。

「ええ、何かしら?」

 

「予選の残り二試合は明日に延長なんですよね?」

 

「そうです。スケジュールを変更してもらいました。」

 

「そうですか。で、なんで俺と達也なんですか?」

 

「それは...私が良いと思ったからだけど、ダメかな?」

 

「俺は構いませんが、達也はエンジニアですよ。俺以外にも代わりの選手は他にもいるのにどうしてより達也が。」

 

「そうですね。崇秀の言った通り、代役がいるのに俺を選ぶと一部から反感を買ってしまうかもしれませんが。」

 

「二人とも甘えるな。」

そう言ったのはずっと黙っていた克人だった。

 

「お前らは一年の二百人の中から選ばれたメンバーだ。そのチームのリーダーがお前らを選んだのだからそれに従うべきだ。リーダーにおかしなことがあったらここにいる俺たちが判断を下す。反対することは誰であろうと許されないのだ。」

 

「てめぇ...」

崇秀はあまりにも納得いかなくて先輩である克人達にブチ切れそうになった時、

「崇秀、待て。今はもう俺たちがやるしかないんだ。」

と達也に止められて正気に戻った。

 

「達也が言うなら...俺もやるよ。」

 

そう言った時周りは安堵の様子を見せた。

「それで、後一人は誰が」

 

「お前達で決めろ。説得なら俺達が立ち会う。」

 

「俺は他の選手のことを知らないので、人選は達也に任せます。」

 

「そうですね...なら後一人は選手でない人から選んでも大丈夫でしょうか?」

と達也が言った時、真由美が驚いたが

「問題ない。今回は特例に特例を重ねるからな。」

と克人が言った。

「ならば、一年E組の吉田を」

と達也が言った時、

「おい、司波!」

と服部が反対しようとしたが、摩利が止めに入った。

「達也くん、その人選の理由を聞いても良いか?」

 

「ええ、もちろんです。最大の理由は俺は男子の選手の試合をほとんど見ていないと言うことです。唯一見ていたのもここにいる崇秀の試合くらいです。なので、一から作戦を練ったり、CADの調整には間に合わないからです。」

「ほう。吉田のことなら分かると?」

「ええ、ただ同じクラスってだけではなく、よく知っています。」

「それは一理ある。相手のことをよく知らないとチームプレーはできないからな。それで、最大でない理由は?」

と摩利はもう一度尋ねる。

「実力ですよ。」

達也はそう答えた。

 

そうして、幹比古にも交渉し、新人戦のモノリスコードは達也、崇秀、幹比古で出場することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は崇秀にも頑張ってもらいました。
次はいよいよモノリスコードです。


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九校戦編 Ⅲ

お久しぶりです。
前の投稿と間が空いてしまい、申し訳ないです。

今回は九校戦最終回です。


 新人戦最終日、第一高校は新チームでモノリスコードに出場することになった。CADの調整は全て達也が担当し、前日に作戦も練った。

ポジションは達也が前線、幹比古は古式魔法特有の隠密性や威力を生かしてフォワードとディフェンスの両方を、崇秀は主に加重系統の魔法で相手の動きを止め、モノリスを守るディフェンスにつくことになった。

 

 そうして一回戦、第八高校との試合はそれぞれ役割を果たし、敵全員を戦闘不能にして勝利した。

 

 二回戦目は市街地ステージ、達也の喚起魔法と幹比古の精霊魔法でモノリスの位置を把握し、達也が敵のディフェンスと交戦中に感覚共有している幹比古がモノリスのコードを入力し、試合は終わった。崇秀は敵の一人を戦闘不能な状態にした。

 

 そうして準決勝の第九高校との試合の前に三高の試合を見ていた。

三高は一条だけが動き、後の二人はモノリス付近で待機していた。だが、一条は領域干渉により敵の魔法を無効化し、進む。後の二人はなにもせずに待機し、一条単独で決勝へと進んだ。

 

 一高の準決勝は渓谷ステージ、ここは幹比古の独壇場となった。幹比古は霧を扱い、敵の視界は悪くし、味方の視界は良くなるように調整していた。そうして一戦も交えずに一高は決勝へと進んだ。

 

 こうして次はいよいよ決勝戦、第一高校 対 第三高校の試合がもうすぐ始まるとこだった。ステージは草原ステージ、一条たち三高のチームは優勝したも同然と思っていた。

 崇秀たち一高は作戦を考えていた。将輝の相手は達也が一人ですることになり、他の二人は幹比古と崇秀で戦うようにしていた。

また、吉祥寺の使う『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』の対策として、幹比古は魔法陣を組み込まれたグローブをつけることになった。

 

それと、崇秀と達也の二人だけでも話をした。決勝での崇秀のCADはベクトル操作術式だけを組み込んだ特化型のチョーカー状のCADに調整した。

「これはいつものやつとは違って、演算能力の補助機能は付いていない。反射膜を全身にまとったりと言った派手な真似は不可能だろう。」

 

「そんなことはしねぇよ。まあバレない程度にやるさ。」

そういって崇秀は達也からCADを受け取った。

 

 そうして決勝戦は始まった。合図と同時に砲撃が行われた。

達也と将輝が拳銃型のCADで互いに攻撃し合う。観客はその様子に注目していた。将輝の放つ空気弾に達也は術式解体で対応する。その光景は驚くべきものだった。

その間に吉祥寺がこちらに詰めてくる。これには崇秀は対応せずに、幹比古だけで交戦していた。

幹比古は古式魔法の『幻術』などを使い、吉祥寺とやり合っていた。グローブの補助機能により、いつも以上の力を出していた。『地鳴り』

『地割れ』なんかも使い、吉祥寺を追い詰めようとしていた時だ。

 幹比古の前に空気弾が放たれる。将輝によるものだった。幹比古はそれで体勢を崩し、その隙に吉祥寺がCADを走らせる。加重系統の魔法を放たれ、そこに増幅魔法も加えられる。幹比古は動けない状態になった。

 だが、将輝がこちらに応戦した時、達也は間合いを詰めていた。達也は将輝へと近づく。将輝はそれに油断し、十六発ほどの空気弾を達也に向けて放とうとしていた。

(しまった、これだとルール違反だ...)

 

達也はこれに術式解体で対応するも、間に合わない。残りの二発を直接受けた。達也は大きな怪我を負ったと誰もが思ったその時だった。

達也はすぐに立ち上がり、将輝の耳元で指を鳴らす。耳を塞ぎたくなるほどの音が全体に響く。その瞬間、将輝は地面に倒れた。

 

崇秀は

(あれが、自己修復術式...)

崇秀は驚きながらもやり切ったんだと思い、前へ出る。

達也の攻撃で吉祥寺も止めていたため、幹比古はもう加重系統の魔法を受けてはいないが、戦える状態ではなかった。

「幹比古、後は俺がやる。お前の魔法は中々のものだった。」

そう言って幹比古よりも前へ向かう。

崇秀は吉祥寺の元へとだんだん近づく。それに対して吉祥寺は魔法を放つ。使ったのは不可視の弾丸だ。

「不可視の弾丸。対象のエイドスに直接圧力を加える魔法。だから情報

強化では防げない。

じゃあどうすれば良いか。圧力を加える作用点を視認させなければ良いだけだ。だからこんなふうに簡単に防げてしまうんだけどなぁ!」

崇秀はそう言って、足を地面に踏み込む。すると崇秀の前に自分と同じ高さの土の壁が出来上がる。

吉祥寺はこれに対して驚き、硬直してしまう。

「吉祥寺と言ったなぁ... 前に俺のことを煽っていたようだが今はどうだぁ?切り札が簡単に破られてしまった今の気持ちはよォ!?次はこっちの番だからちゃんと対応してくれよなァ!?」

崇秀は狂気に満ちていた。自分より下と思っていた奴に簡単に破られてしまった吉祥寺の姿を見て、おもしろがっていた。

崇秀はもう一度地面に足を踏み込む。その瞬間、地割れが発生し、それは吉祥寺の元へと向かう。地割れの威力もスピードも幹比古のとは全然違っていた。

吉祥寺はこれをなんとか避けようとする。だが、崇秀が起こして地割れはただのハッタリだ。砂埃で吉祥寺の視界が悪くなっている中、崇秀は吉祥寺のとこへと瞬時に向かう。吉祥寺のもとへと向かう途中、右手に空気弾を作りながら。

 

吉祥寺の前には崇秀が狂気に満ちた姿で現れる。崇秀は右手にある空気弾を吉祥寺の胸へと放つ。

それは見事に命中し、吉祥寺は衝撃で飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

 

「この野郎!」

三高の最後の選手が崇秀に向かって土砂の津波を発生させる。

崇秀の元に土砂が襲い掛かったと誰もが思ったが土砂が去った後、崇秀がいた場所には誰もいなかった。

「おせーよ」

崇秀は三高の選手の後ろにおり、崇秀が地面に手をつけ、魔法を発動させると三高の選手のあたりの地面が上に上がり、その選手は弾き飛ばされ地面に倒れ込んだ。

 

そして、三高の選手全員は戦闘不能な状態になり、一高の優勝が決まった瞬間、会場では拍手や歓声の音で響き渡った。 

 

控室に戻ると、真由美がよってきた。

「お疲れ様。さっきの試合は見事だったわ。でもタカくん、戦闘になると人が変わったみたいになるのね。」

 

「あれは、あの雑魚が前に煽ってきたので、相手しているうちに興奮してただけですよ。まあ、これが俺の本性なのかもしれませんね。」

崇秀はそう答えた。

 

だが、この試合が終わったと同時に、裏ではある事が進んでいた。

 

八月十一日、新人戦が終わり、今日は本戦のミラージバット全試合とモノリスコードの予選が行われる。

だが、ミラージバットで事件は起きた。試合中、一高の小早川先輩のCADが突然起動しなくなり、着地に失敗したのだ。審判が減速魔法でなんとか受け止めたので、大きな怪我にはならなかったが、先輩にはトラウマを植え付けることになっただろう。

「あいつらか...また動き始めたんだな。」

崇秀はそう思っていた。

事故の原因はすぐに分かった。運営委員がCADの検査の時に細工をしていた事を、達也に知らされた。

「運営委員にも工作員が... にしても、達也の前で、深雪の持ち物に細工をするとは、おもしろいな。」

崇秀は笑いながらそう言った。

 

ミラージバットの予選が終わり、崇秀の通信機にメッセージが来ていた。

(ジェネレーターか。)

そう言って観客席から立ち上がり、書かれていた位置に向かう。

無表情の男とすれ違った瞬間、その男は崇秀に襲い掛かかった。

だがその瞬間その男は会場の外へと飛ばされる。

男が意識を取り戻した時、既に地面へと落ちているところだった。

なんとか着地した時、その男の前に襲い掛かったはずの男がゆっくりと着地する。

「何もんだお前...まあ答える必要はないけどなぁ」

崇秀は男の元へと歩み寄る。男は崇秀にもう一度襲いかかるが、またもや殴りを入れようとしたときに吹き飛ばされる。

崇秀は男の方へと飛び、男に一発殴り込んだ。高校生の威力とは思えないほどのパンチを喰らった男は気絶した。

そして、藤林から渡されていた針を使い、完全に気絶させた。

「こちら早乙女。西側のジェネレーターは確保いたしました。」

 

「了解した。ご苦労だったな特尉。」

崇秀は、後から駆けつけた軍の関係者にこの場は任せることにした。

 

 一方、風間はこの日、九島閣下と話をしていた。話題は崇秀のことになっていた。

「早乙女崇秀。第八の研究の実験体がまさか国防軍にいるとはねぇ...」

 

「あんなことをされてしまうと、十師族のことはあまりよく思わないのも必然ですよ。ですがそれは、こちらとしてもここにいてくれるとありがたいですが。」

 

「ほう。十師族を嫌うところは君に似ているな。」

 

「それは誤解だと前にも申し上げましたが... にしても彼の能力は偉大ですよ。魔法だけでなく、彼の演算能力はここで最大限に活用できますしね。攻撃だけでなく、防衛でも十文字家に劣らないものになると思いますよ。」

 

「なるほど...」

 

といった会話をしていた。

 

 

 そうして九校戦最終日、十文字、服部、桐原の三人による一高のチームがモノリスコードを優勝し、総合優勝も一高が獲得し、終わった。

 

 試合の緊張から解放された選手やエンジニア、それに関係者が集まる後夜祭の会場に崇秀も来ていた。だが、相変わらず彼の周りには人はいなかった。遠くからチラチラと見られることはあったが、崇秀が反射の効果を使っているように周りと一定の距離ができていた。

 

そうしていると、とある人物が崇秀の元へとやってきた。

「あら?タカくんは誰かと踊ったりしないの?」

 

「見て貰えば分かる通り、俺の周りには誰も来ませんよ。」

 

「そう...なら、お姉さんと良かったら踊らない?」

 

「...」

崇秀は驚きのあまり、言葉が出なかったが

「俺でよろしければ...喜んで。」

 

そう言って崇秀は手を差し出し、真由美の手を取った。

 

真由美の独特なステップに翻弄された崇秀は、試合後のように疲れ切っていた。

そして真由美の被害(?)を受けたものがもう一人、崇秀と同じように疲れていた。

「七草先輩、あれは俺らにはきついもんだ。」

崇秀は苦笑いのような表情を浮かべながら言った。

「ああ、あのステップはなかなかのものだ。」

達也も疲れ切ったようすだった。

 

「早乙女」

 

崇秀の元に克人がやってきた。

「疲れているようだな。」

 

「ええ、試合とはまた違った疲れがたまりますね。会頭は慣れていらしゃるようですが。」

 

「まあな。」

 

しかし本題はここからだった。

「早乙女、少し付き合え。」

と少し強引に呼びかけた。

 

 会場の外の庭で軽く話すことになり、

「もうすぐ祝賀会が始まりますが、よろしいのですか?」

 

「心配ない。すぐに済む話だ。」

これを聞き、崇秀は大した事ではないと思っていたが、

「早乙女、お前は相当な実力を隠しているな。」

唐突にそう聞かれ、思わず警戒してしまった。

「なぜそのようなことを?」

 

「そうだな、もし何かとんでもない能力を隠しているならば、それが魔法師界の脅威になるかもしれないと思ってな。」

 

「俺は、会頭のファランクスのように、これといったものはないですよ。」

 

「そうか... 」

 

「だが、お前のサイオン保有量は相当なものだ。その遺伝子、十師族になって活用すべきだと思うが。」

 

「ありがたいお言葉ですが、俺は十師族には興味ないんで。むしろ、嫌いなくらいです。」

 

「そうなのか。お前が過去にそう思うようになった何かがあったのだろうが、そこまでは問わないことにしよう。」

 

「そうしてくださると、助かります。」

 

「話はこれだけだ。この後も楽しめよ。」

そういって克人は行ってしまった。

「十師族ね...俺はあいつともいずれやり合うのか。」

崇秀は少し明るい表情でそう呟き、会場へと戻っていった。

 

こうして、九校戦は幕を閉じた。

 

 

 

 




少し締まらない感じで終わってしまいましたが、九校戦はこれで終わりになります。
次は横浜騒乱編になります。

そういえばもうすぐ原作の方が終わってしまいますね。楽しみすぎて収納ボックスとタペストリーの方も予約してしまいました...(笑)


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横浜騒乱編
横浜騒乱編 Ⅰ


横浜騒乱編です。
今回は戦闘シーンなどはないです。


 九校戦や夏休みが終わり、魔法科高校も二学期のシーズンになっていた。

校内では様々な変化があり、新生徒会の発足などが大きな変化だろう。それに二学期は魔法協会主催の論文コンペという大きなイベントがある。

崇秀は魔法工学は苦手なので、論文コンペには興味はないが、一高の代表チームの一人が、体調不良で出場ができないため代わりに達也が出ることになったそうだ。

だが、崇秀も論文コンペには無縁というわけではなかった。新学期から崇秀は風紀委員の副委員長になり、論文コンペのデータの保護のため、校内の巡回を今まで以上に行なっていた。委員長の千代田花音からもなかなか良い印象を受けていた。

 仕事熱心なため、最近は達也たちと一緒に帰ったりする事が少なくなり、当番の日は放課後の巡回も行い、当番でない時は寄り道をせずに、まっすぐ兵舎に帰って休息をとるという生活が続いていた。

 ある日、いつものように兵舎に帰った直後、達也から電話があった。

「達也か。なんだか声を聞くのも久しぶりだな。」

 

「それもそうだな。崇秀も最近は風紀委員の方が忙しそうだな。」

 

「まあ達也の方と比べたら、そうでもないがな。それで、そっちのほうはどうなんだ?」

 

「俺はあくまでも手伝いのようなものだからな。今のところは問題ないさ。」

 

「流石ってとこだな。それで、わざわざ電話を掛けてきたってことは、何か急ぎの用か?」

 

「ああ、俺もコンペが近くになるにつれて、ますます崇秀と会う時間が少なくなってくると思うからな。ちょっと話しておきたい事がある。」

 

「実は今日の帰り、五十里先輩たちと高校の近くの店に行った時に、跡をつけられていたんだ」

 

「!? 外部の人間か?」

 

「いや、いや制服を着ていたから同じ一高の生徒だ。大体誰かは予想がつくが、確証がないからなんとも言えん。」

 

「なるほど。そいつを風紀委員の俺が捕まえろと?」

 

「まあそういう事だ。あまり派手な真似はしなくていい。だが、早く取り押さえておかないと、後々そいつが後悔することになるだろう。」

 

「というと?」

 

「背後関係だ。詳しい事は藤林少尉に任せることになるがな。」

 

「なるほどな。」

崇秀はこれ以上のことは聞かなくても理解ができたようだ。

 

「なら、この事はよろしく頼む。」

 

「ああ。何か情報が入ったら、報告する。」

そう言って崇秀は電話を切った。

 

 二日後、達也たち一高のチームは野外での実験を行なっていた。多くの生徒がここに来ており、その様子を見に来ていた。そして、もちろんセキュリティ面の方にも考慮しており、チームメンバーに付き添う人や、風化委員も巡回に当たっていた。

そうして、その人混みの中にどうやらハッキングツールのようなものを使用している生徒がいた。過去にエガリテについていた壬生が発見し、桐原と追いかけようとしていたが、それを見ていた崇秀が二人を止めた。

「壬生先輩、桐原先輩!」

崇秀は二人をすぐに呼び止めた。

「先輩方はここで待機していてください。」

 

「でも...」

 

「分かってます。でも、あの装置はまあまあな代物です。あれ以外にもきっと相手はなんらかの抵抗手段を隠し持っているでしょう。ここはCADを携行している風紀委員にお任せを。」

そう言って崇秀は二人を止め、妨害工作をする相手を追った。

 

人気のいないところまで追い込むと、相手も諦めたのか、止まったようだ。

 

「風紀委員だ。お前が今手に持っているそれで達也に何をした?」

そう言われたと同時にその生徒は手に持っているものを自分の背に隠した。

 

「隠しても無駄だ。お前のそれは無線式のパスワードブレーカーだな?」

その生徒は険しい表情を見せる。

「俺は1ーAの早乙女崇秀だ。お前の名は?」

 

「1ーGの平川千秋です。」

崇秀はこの名を聞いたとき、思い出した。

(平川...あぁあのエンジニアの...達也が言っていたのはそういうことか。)

 

「わかった。では警告しておこう。抵抗するのをやめて、今すぐその装置をこっちに渡せ。それと、お前と繋がっている組織ともさっさと縁を切れ。」

 

「私は別に縁を切るつもりはありません。何かが欲しくて手を組んでいるわけではないんですから。だから、これもあなたには渡さない。」

 

「そうか...手荒な真似はした食わなかったが、そっちがその気なら力ずくで行くしかネェな!?」

 

そう言って崇秀が一歩出た時、目の前に閃光が広がった。

(こんなモン隠し持っているとはな)

周りの光を反射し、元の視界に戻った時、今度はダーツの矢のようなものが崇秀の前の地面に刺さった。そうして煙が辺りに広がる。

(この感じは...神経ガスか)

崇秀は自分を周りの空気の流れを変え、ガスが流れてこないようにした。

ガスのせいで崇秀は千秋の様子をよく確認できなかったが、千秋が「フっ」と声を出していたのは聞こえていた。

「そんな小細工ごときで、俺に通用すると思ってるのカァ!」

崇秀がそう声をあげ、ガスが崇秀の横や後方へと散っていった。

 

「お前にはどうやらたくさん聞かなければならない事があるなぁ?」

崇秀がそう言った時、平川はとっさにもう一発矢を放ったが、その矢は崇秀の方へ向かった瞬間、方向が180°変わり平川の後ろへと飛んで行った。

次の瞬間、崇秀は前方へと大きく踏み出し、矢を放つ装置がついている左腕を掴み、右手に持っているパスワードブレーカーを取り上げた。左腕の装置も取り外し、手錠を掛けて、身動きを取れないようにした。

「こちら早乙女。中庭の近くの歩道で実験の妨害工作をする女子生徒を取り押さえたので、至急応援に来てくれると助かります。」

通信機で巡回している他の風紀委員に伝え、念のため保健室の方へと連れていった。

 

 保健室には崇秀と平川、それに千代田と五十里も来ていた。

「一昨日は大丈夫だった?」

千代田がそう切り出すと平川は慌てて俯いた。

(一昨日ね...)

「お前は何も欲しいものがないと言っていたが、それはどういうことだ。なのに何故こんな真似をした。」

 

「私はデータが欲しいわけではないんです。ただ、作動プログラムを書き換えて、あいつの困った顔が見る事ができるなら...」

 

「嫌がらせであんなことを?成り行き次第では退学になっていたかもしれないのよ。」

 

「それでも構いません。あいつに一泡吹かせる事ができるなら!あいつばかりいい目を見るなんて...」

 

「お前は三年の平川小春の妹だな。それで姉が体調を崩したのを達也のせいだと思っている。そうだな?」

 

「だってそうじゃないですか。あの事故は姉さんでも見抜けなかったのに、そうせず小早川先輩を見殺しにして。それで姉さんは責任を感じて...」

 

「お前は色々勘違いしているな。これは達也だけの責任ではない。」

 

「そうだね。早乙女君の言う通りこれは見抜けなかった僕も含めて技術スタッフ全員の責任だよ。」

技術スタッフとして責任を感じていた五十里も続いた。

 

「笑わせないでください。」

平川が嘲笑うように言ったとき、五十里の許嫁である千代田が立ち上がったが、五十里がそれをなんとか抑えた。

「だって姉さんでも見抜けなかったのに、五十里先輩にできるわけないじゃないですが。でもそれをあいつは見抜いていた。でも自分のこと、妹のことでないだけでそれを見過ごした...」

 

「ああ、そうだな。」

崇秀もまた苦笑しているようだった。

「あいつは自分や妹のことにしか動かない。いや、そうすることしかできないんだ。俺は達也とは校内じゃ深雪の次くらいに関わりがあると思っているが、あいつは妹以外の人間には興味すら示さない。お前がたとえ邪魔しようがあいつはお前のことを嘲笑ったりなんてしない。それどころかお前に情けをかけることすらもない。」

崇秀の表情は真剣だった。それは崇秀も過去に似た境遇あっていたからだ。

続きを話そうとしていたが、平川は何かボソボソと独り言を言い始め、状態は悪化したようだった。

「はい、今日はここまで。」

ここで、ここまでずっと黙って様子を見ていた安宿先生が止めに入った。

「この子はしばらく、魔法大学の方の病院に入院させます。こちらのことは私に任せて、仕事に戻りなさい。日も近いんでしょ?」

安宿先生がそう言い、3人は保健室を後にした。

 

 崇秀に五十里、千代田と珍しい組み合わせで歩いていると、崇秀は五十里から

「あの言葉には続きがあったようだけど、何を言おうとしたんだい?」

と尋ねられた。崇秀も隠すようなことはせず、

「平川は学期期末で魔法工学の科目で学年2位の成績を残しています。1位はもちろん達也で満点でしたが、あいつは92点と十分高得点を取っていたんですよ。こんな真似しなくても、実力だけでも見返せる見込みはあるって言おうとはしていました。」

 

「早乙女君は見た目によらず、優しい人だね。」

 

「そんなことないですよ。実力で見返せるなんて口だけで、実際に達也を上回るなんて、気の毒ですが無理な話だと思いますよ。」

 

崇秀はそう言って先に仕事へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば崇秀の性格は九校戦をきっかけにだんだん原作の一方通行に似せていこうかなと思ってます。

あ、魔法科の原作は無事に読み終えました。ネタバレになるので内容には触れないでおきますが、続編も楽しみしてます...!


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横浜騒乱編 Ⅱ

Ⅱになります。今回も戦闘シーンは少なめです。


 先日の出来事以来、崇秀の周りでは特に不審な動きはなく、論文コンペの日もだんだん近くなってきていた。

だけど、校内ではもう1人平川と同じであろう組織から援助を受けていた生徒がいた。同じ風紀委員である3年の関本という生徒だった。

達也がロボ研に入った際に睡眠ガスを部屋に充満させ、達也が眠った隙にハッキングツールで妨害するといった手口だったが、あらかじめ感づいていた達也と、風紀委員長である千代田の活躍によりそれは未遂に終わった。

「風紀委員の関本先輩が.... それで、関本先輩の身柄は?」

 

「今は東京の留置所だそうよ。今日渡辺先輩が様子を見に行くと言っていたけど。」

 

「あー同じ学年で風紀委員でしたもんね。それにしても何故こんなことを...」

 

「その原因は、明日あたりには分かるはず。何も無ければね。」

 

「なるほど、だから渡辺先輩が。」

千代田はコクリと頷き、

「さあ、仕事に戻るよ、日も近いんだから。」

 

この日は校内では何もなく終わった。

 

 夜、崇秀は達也と通話をしていた。

呂剛虎(ルゥガンフゥ)か...」

 

「ああ、関本先輩を処分するために来たのだろう。」

 

「にしても、大亜連合の奴らが本格的に動き出したか。」

 

「狙いは明後日の論文コンペだろう。」

 

「その時は俺達も参戦する事になるのか?」

 

「状況にもよるだろうな。何も無ければ良いのだが。」

 

「ま、来たら来たでその時だ。論文コンペ、頑張れよ。」

 

そうして通話は終わった。

 

10月29日、全国高校生魔法学論文コンペティション当日、会場の横浜国際会議場には全国の魔法科高校生や、魔法関係者などが来ていた。

だが、会場こそ違和感はないものの、その会場がある横浜の様子は何か妙な感じがした。街中には外国人が多く行き来している感じで、颯爽とした雰囲気のような気配も感じる。

会場の警備はプロの魔法師以外にも魔法科高校生で構成した九校共同

会場警備隊がある。総隊長は一高の十文字が務めており、その中には一条将暉などの姿もあった。

崇秀は誘われはしたものの、参加はしなかった。元々こういったことには積極的ではない性格だが、それ以外にも万が一の事を考えて、といった理由もあった。

 

プレゼンが始まる前に、崇秀は藤林少尉と会っていた。

「なんであんたがここにいるんだ?」

 

「なんでって達也くんの応援に決まってるじゃない。それと、目上の人には敬語を使いなさい。」

 

「最近めんどくさいと思うようになってな。仕事とプライベートで区別するようにしただけだ。それで俺が今話してるのは藤林響子だ、藤林使用とでは無い。」

 

「はぁ... ま、それならまだ良いか。早乙女君は警備隊とかには参加しないの?」

 

「校内の風紀を乱さないように頑張った。それで十分だ。」

 

「君らしいわね。では、そろそろ用事があるからここで。次顔合わせる時は、敬語の時だから。」

 

「そんな縁起もないことを...」

 

そうして、本番の方は順番に始まった。一高のプレゼンも無事に終え、次は三高の出番となったその時だった。

 

 

会場に突然爆発音のような音が響く。その瞬間、会場の入り口から何人かの武器を持った工作員が会場や観客席を囲んだ。

「抵抗はやめて、CADを今すぐその場に置け!」

 

1人が大声でそう言うと、生徒たちは皆CADを自分の元に置いた。

だが、もちろんそれに従わないものもいた。

達也が会場前方の方へと出る。武器を持った2人の工作員と向かい合った。それを見た崇秀は

「後ろは俺が相手をする。」

とだけ達也に伝え、崇秀は一蹴りしただけで会場の広報へと飛んだ。

「なんだお前は、無駄な抵抗はやめろと言っている!」

 

「黙ってろ、お前みたいな雑魚の言うことなんて従うかよ。」

 

「なんだと!?」

その瞬間工作員は崇秀に銃弾を放つ。

だが、その銃弾は放った工作員の肩を貫通した。対魔法使用の高速弾だったが、崇秀には関係のない事だった。工作員は痛みで肩を抑えようと、小銃を手から放し、傷口を押さえる。

そしてもう1人が武器をナイフに変えて崇秀の方へと突っ込んで行く。

崇秀の間合いに入り、ナイフを振りかざした時、その工作員はナイフを持っていた方の手首を押さえた。

「なんなんだこれは!?」

 

「お前が俺にやろうとしていたことを、お前にやっただけだが?」

崇秀が仕留めたと同時に、達也の方も取り押さえ、その様子を見ていた警備隊の生徒も他の工作員を取り押さえた。

崇秀は達也の元へと行く、彼の周りにはいつものメンバーが集まっていた。

「はぁ、この後はどうしようか。」

 

「逃げ出すにしても、正面入口の敵を片付けないとな。」

達也がそう言った時、周りにいたエリカとレオが嬉しそうな様子だったが、触れなかった。

「待ってろ、なんて言わないよね?」

とエリカが嬉しそうに問いかけた。

「別行動されるよりはマシか。」

そう言った時、エリカたちだけでなく、周りにいたメンバー全員が嬉しそうな、安心したような感じの表情だった。

そうして、崇秀たちは出入り口の方へと向かう時だった。

 

「待って...ちょっと待って司波達也!」

呼び止めたのは三高の吉祥寺真紅郎だった。

「なんだ、吉祥寺真紅郎」

 

『今のは『分子ディバイダー』じゃないのか?あれは確かUSNA軍の...」と何か言おうとしていた時、吉祥寺の後方で「バーン!!」と壁が破壊される音がした。それは崇秀が起こした小さな空気弾による衝撃で壊れたものだった。

「今はお喋りしてる暇なんかねえーんだよ。とっとと失せろ。」

崇秀がそれだけ言い、周りのメンバーで再び出入り口の方へと向かった。

 

 出入り口にいた敵は崇秀が前に出なくても達也や深雪、幹比古、エリカだけで抑えることができた。

 

「出る幕が無かったぜ...」

とレオが悔しそうに呟く。

「ほのか、美月大丈夫か?」

と達也が声をかける。先ほどの戦闘では敵の動揺を誘うために少々刺激の強いやり方で戦ったため、それを見た二人の顔色は良くなかったようだ。

「いえ、大丈夫です...」

と2人は答える。

「それで、これからどうするんだ?」

とレオが達也に尋ねる。

「情報が欲しい。予想外に大規模なようだから、行き当たりばったりでは泥沼にはまり込むかもしれない」

 

「なら、VIP会議室を使ったら?」

達也が考え込んでいるところに雫が提案した。

「VIP会議室?」

 

「うん、あそこは閣僚級に政治家などの会合に使われる部屋だから、大抵の情報にアクセスできるはず。」

 

「そんな部屋が?」

 

「一般には開放されてない会議室だから」

 

「暗証番号なんかも知ってる」

 

「分かった、そこに案内してくれ。」

 

達也がそういうと、皆VIP会議室の方へと行くことにした時、崇秀の液晶端末にはメールが来ていた。

「すまないが俺はちょっと戻る。すぐにそっちに行くから先に行っててくれ。」

 

「何かあったの?」

とエリカが少し不思議そうな顔をして尋ねる。

「ただの忘れもんだ。エリカの考えてるようなことはしねーよ。」

とちょっとだけ笑いながら答えた。

 

 崇秀以外がVIP会議室へと向かったところで崇秀は会場の外へと出ていった。

外ではゲリラたちと交戦している魔法師が多くいた。

「はぁ...こんな雑魚に手間取ってんのか」

CADを起動させ、その場でコンクリートでできた地面に踏み込み、その破片をゲリラに向かって蹴り付ける。

小さくても尖った破片に集中しているベクトル量により、銃弾のような威力を持つ破片はゲリラたちの腕を貫通していく。

何人かと相手しているところにゲリラたちに電撃が放たれる。

 

「この魔法は... 来たのですね。藤林少尉」

ゲリラたちに放たれたのは、電撃を放つ魔法である、被雷針だった。

 

「少し遅れました。さ、行きますよ特尉。」

 

2人はもう一度、会議場の方へと戻って行った。

 

「今日の任務ってのは?」

 

「残っている一高の生徒を含めた逃げ遅れた民間人の保護と、その後に敵部隊の殲滅を単独で行ってもらいます。」

 

「いきなり単独ですか。」

 

「特尉の使う魔法は、周りに人がいない方が最大限に力を発揮できますから。データも欲しいとのことですよ。」

 

「なるほど... そういえば、風間少佐は?」

 

「実は、大黒特尉にも今回の任務には参加してもらうことになりました。ムーバルスーツの件なども含め、説明しにいっているところです。今丁度少佐の元へと向かっているところよ。」

 

「周りには他の生徒もいるのに、大丈夫なんですか?」

 

「国防軍の特例で、皆さんには守秘義務に乗っ取ってもらうのでそこのところは大丈夫ですよ。」

 

「そんなのあったんですね。わざわざ俺が外に出た意味は....」

 

「まあ、そこは気にしないで。」

 

そう話しているうちに皆のいる場所に着く。

中で風間が一通り話終えたタイミングで藤林がトントンとノックし、

「失礼します。」

と言って中に入る。崇秀もその後に続いた。

「響子さん!?それにタカくん...!?」

 

「お久しぶりですね、真由美さん」

 

「お久しぶりです、響子さん。それでその、タカ...早乙女くんは...?」

 

「彼も、同じ独立魔装大隊の所属です。階級は大黒特尉同様、特尉として国防軍に所属してます。この件ももちろん守秘義務に乗っ取ってもらいます。」

 

藤林は真由美だけでなく、この部屋にいる一高生全員にそう伝えた。

 

「それと避難にあたって、皆さんの護衛は私の部隊と早乙女特尉が付きます。」

 

崇秀は特に何も言わず、一礼した。この部屋にいる一高生はやはり少しついて行けていないような様子だった。

 

 

 

 




いよいよ来訪者編のアニメの放送が開始されましたね。
来訪者はアニメーションで見て見たいシーンが沢山あったり、リーナの可愛らしさなんかも見れて毎週楽しみにしながら過ごしてます。
原作の方では新シリーズが始まり、これにも目が離せないですね。


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横浜騒乱編 Ⅲ

Ⅲです。横浜騒乱編は結構かかりそうです。


 そうして、16:00ごろ、か崇秀、達也以外の一高生や他の一般市民と共に地下シェルターへの避難をすることになった。

 達也はムーバルスーツの確認・着用のために駐屯地へと向かったが、崇秀は残っている一高生や一般市民の集団の先頭付近に藤林の部隊と共に歩いていた。

だが、その集団にいた、崇秀の素性の一部を知ったら一高生のほとんどは、"崇秀が独立魔装大隊の一員である"ことに頭が追いついていない様子だった。それには、崇秀が今までこれといって変わったことをしていないからだった。

達也は二科生でありながら、風紀委員として活躍し、九校戦では術式解体(グラム・デモリッション)や魔法なしの状態での高い身体能力を披露してきた。また、魔法工学の面でも実力を披露していることから、学校での崇秀と比べるとまだ納得できると言っても良かった。

 

崇秀は学校ではこれといって目立ったことはしていない。実技試験の成績は学年1位ではあるが、特に得意な魔法もなく、魔法の発動が速いと

いう点以外はこれといって何もしていない。九校戦でも成績は残したものの、変わった魔法を使ったりなどはしていなかった。

 だが、皆が崇秀の本当の実力を知るのはそう遅くもなかった。

シェルターへ向かっている集団たちの前に直立戦車2台が向かってくる。

「俺が行く」

CADに手をかけようしていた真由美や深雪を止めるように言い、少し前は出た。

崇秀はCADを起動し、足を地面に力強く踏み込む。

直後、片方の直立戦車が宙へと上がる。

そして、重力に従うように地面の方へと落ちていくが、落ちたのは地面ではなく、もう片方の直立戦車の上へと落ちていった。

こうして、直立戦車は2台とも衝撃により起き上がることはできずに、足止めされた。

「今のは一体...」

 

「あれだけのものを、しかも動いてるものを一瞬で持ち上げるなんて...」

 

「しかも、それがもう一つの動いている戦車に当たるなんてな...」

 

様子を見ていた一高生が続くように発言していく。

「藤林少尉、どうすれば...」

 

「実は、今回の件でやむを得ない場合はは説明しても構わないとのことです。守秘義務には従ってもらいますが。」

 

「そうですか。まあ、どうせ隠しても今回の一件で国内外問わず変に探りを入れる野郎がこれから出てきそうですし。見られてしまったものはもうどうしようもないです。」

 

 そうして、崇秀と関わりのあった一高生の集団の近くに移動し、再びシェルターへ向かいながら話すことにした。

「これから話すことも、今回だけ特別ってわけだ。これも守秘義務の内に入るからそこはよろしく。」

「俺がさっき使った魔法はベクトル反転術式の上位互換、ベクトル操作

術式。能力は名前の通り、"触れたもののベクトルの向きを自在に操作できる" というものになる。運動量、電気量、熱量、なんかのこの世のありとあらゆるベクトルに干渉する。今のは足を踏み込んだ時に発生した時の運動量を操作したわけだ。」

 

「ベクトルの操作なんて、そんなに一瞬で行えるものじゃないのに...」

真由美が驚いた様子でつぶやいた。

「ええ、先輩の言う通り、普通の魔法師が使えるようなものじゃあない。ベクトル反転術式が使えるのは反転という180度向きを変えるという1通りだけ。後は魔法演算領域で処理すれば魔法式が出来上がる。だが、ベクトル操作術式は起動式の規模がまず桁違いだ。1通りだけじゃない、360通り、いやコンマ単位だと無数にある。そこで俺はこのCADを使ってる。」

と言ってチョーカー型のCADを外し、手に持った。

「実は俺の先天的な能力で人間離れした演算処理を脳で行うことができるというものがある。

この能力を使ってCADと脳を直接繋ぐことで、起動式構築時にエイドスから操作するベクトルの変数の情報を読み取り瞬時に追加し、脳で方向なんかの具体的な起動式を何度も再構築することでベクトル反転と同じような、いや、その他の変数もこの段階で追加し、それを含め再構築するため、起動式の規模はとても小規模なものになる。

後はこの小規模の起動式を無意識下である魔法演算領域へ送り込むことで、ベクトル操作の魔法式が出来上がる。結果、魔法の発動にはそこまで時間がかからない。」

この時、崇秀は自分が研究所でできた調整体の魔法師であることを隠すために魔法演算領域が仮想魔法演算領域であることは伝えなかった。

 

「私たちみたいな普通の魔法師が使うとどうなるの?」

とエリカが崇秀に聞いた。

「予想ではあるが、これは魔法演算領域で行う処理を起動式構築時に行うわけだ。普通の魔法師がこの術式を使うとなると、魔法演算領域で処理することになる。ただのベクトル反転術式でもそれなりには負荷がかかるってのに、それの何千、何万倍の量を処理するとなると、せいぜい1、2回使うのが限界だろう。」

 

「それって魔法なんかにも使えるのか?」

と今度はレオが尋ねる。

「規模なんかにもよるが、その魔法にベクトルが働いていればできないことはない。本来魔法式が書き換えることをできるのはエイドスだけ、魔法式で魔法式を書き換えることはない。それで、その魔法の魔法式を魔法式として見るのではなく、1つのエイドスとして、起動式を構築する。そうすれば魔法式をエイドスと無意識領域で誤認識し、魔法式に干渉することができるってわけだ。」

これを聞いた一高生は驚きと少しの恐怖を覚えた。

ほとんどの魔法の発動工程には「移動」の工程が含まれるため、ベクトルが発生する。もし、崇秀と対立しなければならない時に一切の魔法が効かず、それが自分の方へと返ってくるからだ。

「だけど欠点もある。操作できるのはベクトルの向きだけであって、大きさや速さを変えることはできない。俺や七草先輩が九校戦で使った

ダブル・バウンドのようにベクトルの操作をしながらそこに加速魔法を加えるとなると魔法演算領域に一気に負荷がかかる。だが、ベクトルを一点に集中させたりすることで、結果的にパワーもスピードも出るし必要ないと言った方が良いか。」

 

崇秀がそうこう話していると、地下シェルターへ入るための地上からの入り口に着いた。だが、その光景は話を中断するほどの状況に陥っていた。

ゲリラの仕業により、入り口はもちろんシェルターの通路の一部が塞がれ、今にも崩壊しそうなほどになっていた。

崇秀はシェルターの通路を塞いでいる大きなアスファルトに触れて、確認する。

「これは下手に動かさない方が良いだろうな。逆に崩壊して悪化するかもしれん。中の生徒は無事か、誰か分かるか?」

 

「会長たちは無事だよ。」

幹比古が、呪符を顔の前で構えながら答えた。

この時、地上にいる一高生は中の生徒の安否を確認でき、安堵した様子と、自分たちはどうしようかという困惑に陥った。

「この状況だと地下シェルターは無理だな。これからどうしますか?」

崇秀は先輩である真由美や摩利たちに尋ねる。

「私の会社からヘリを呼ぶわ。逃げ遅れた人を乗せて、空から避難しましょう。」

「私も父に連絡します。」

真由美に続き、雫もヘリを呼ぶと言った。

「なら来るまではここで待機しておこう。」

 

「いえ、それには及びませんよ。」

向こうから男性二人がこちらに来た。一人は防弾チョッキに刀のような武器を2丁ほど持ち、もう一人も防弾チョッキを着用していた。

「警部さん」

 

「和兄貴!?」

藤林に続き、エリカがそう言った。

「軍の仕事は外敵の排除、市民の安全を守るのは我々警察の仕事です。藤林さんは...藤林少尉は本隊と合流に向かってください。」

 

「了解しました。ですが、万が一のためにこちらの早乙女特尉だけはここに残していきます。千葉警部、よろしくお願いしますね。

 

お互い敬礼し、藤林とその部隊は本隊への合流に向かった。

 

「イイ女だな」

と寿和が少しニヤつきながら呟く。

「あ、無理無理。和兄貴の手に負える人じゃないから」

エリカがそう茶化すと寿和は「はあ...」とため息を漏らす。

「そんな態度で良いのかエリカ?」

 

「何よ?」

 

「今日はお前に良いものを持ってきたんだぞ」

と寿和が背中に持っていたものを自分の前に持ってきたとき、エリカに強引に取られてしまった。

「フンッ」

とエリカは少し照れながら手に取ったものを見つめる。

寿和が持ってきたのは大蛇丸と雷丸、千葉家が開発した武装型CADデバイスだった。

 

「警部さん、これからどうしますか。」

崇秀がタイミングを見計らったとこで寿和に尋ねる。

「そうですね...ここは敵からも狙われるでしょうし、市民の命を守るためにも食い止めないといけないですね。」

寿和からして崇秀は年下ではあるが、仕事ということで敬語で返す。

「この発着スペースに来る前に足止めをするのが一番ですね。二手に分かれて地上からの敵は食い止めるしか...」

 

「それなら私たちに任せてよ」

 

「崇秀君は万が一のためにここに残っておくのが良いと思う。あれくらいなら私たちが相手するわ。」

エリカは自信満々でそう言い、他のみんなも少しやる気があるようだった。

「そうか。なら5、5で二手に分かれて迎え撃つことにするか。みんな、無理はしないように。ヘリが到着次第、みんなも拾うようにしよう。」

そう言い、ヘリの手配をしている真由美と雫にアイコンタクトを取り、承諾を得る。

 

「よし、そうと決まれば早速位置につくとするか。だが、あれは「対立戦車」用で作られてる。油断は禁物ってのだけは言っておこう。」

 

崇秀が最後にそう言い、それぞれ所定の位置につくことになった。

 

 

 




今回はほとんどベクトル操作の詳細だけで終わってしまいました。無理矢理感ありますがそこは温かい目で見てください...(笑)


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横浜騒乱編 Ⅳ

 こうして、地上に残った一高生と逃げ遅れた市民の救出ようのヘリの発着スペースを守る作戦が決行された。

深雪たち一年生五人のグループと二年生組の四人近接に優れている3年の摩利とエリカの兄である寿和の六人のグループとの二つのグループで対立戦車の足止めをすることになった。

家からヘリを呼んでいる真由美と雫、それに光学系統の魔法を得意とするほのか、情報伝達を行う鈴音は発着スペースへと残ることになった。

 

崇秀はまず、逃げている最中に怪我を負った市民の応急処置へと当たった。

怪我や何らかの痛みを負っている市民の手首に一人ずつ触れていく。

手首の脈から一人一人の血液の流れなど体中を流れるあらゆるベクトルを感知する。外からではわからない内側の怪我なんかはそれで確認し、軽い怪我は止血を施し、骨折などの重傷は最近取得した治癒魔法で処置した。

「瓦礫かなんかで足の指をぶつけて骨にヒビが入っている。とりあえず、治癒魔法で仮止めするんで、安全な場所へ出たら病院で診てもらうように。」

ベクトルで正確な位置を感知し、すぐに治癒魔法で処置を施す。

「タカ君、治癒魔法も使えるのね。」

一通り処置を終えたところで、真由美が声をかけてきた。

「ええ、ベクトル操作は汎用性が高いですから。痛みつけるためでなく、救うためにも使えたらなと。でも、CADを介さず使っているので少し不安定で、効果もそこまでなんですけどね。まあ軍にはもっと優れた治癒魔法を使う魔法師もいますから使うことはあんまりないですし、俺はまだ骨のヒビを一時的に治すのが限界です。」

 

「ふーん。なら将来は医師志望...?」

 

「どうでしょうか。俺には俺の責務があります。例え誰であろうと俺の邪魔をする者は痛みつけることも、場合によっては殺すことがこれからもあるでしょう。全てが終わったら、医師になるのも悪くないですね。」

崇秀が少しだけ険しそうな表情をしたが、すぐに元の様子に戻る。

「では俺はそこの高いビルの屋上から周辺を見渡します。何かあったらこれで連絡します。そちらも何か異常があったら呼んでください。」

と小型の通信機を真由美に渡し、駅付近にある一番高いビルの屋上へと飛ぶように足で一蹴りした。

 

「みんな思ってた以上にやってるなぁ...何も起こらなければ救出は成功しそうできるか。」

ビルの屋上から双眼鏡で確認しながら独り言を呟く。

 周辺を見渡していると、

「お、ようやくヘリもき始めたか。」

すぐに通信機器を取り出し、

「救出用であろうヘリが一機、こちらに来てます。乗り込む準備をお願いします。」

 

「北山さんの家のものね。すぐに誘導するわ。」

 

真由美や雫が中心となり、脱出の準備に取り掛かっていった。

 

ヘリが地上にいる発着スペース付近の人たちからも見えるような位置に来た時、空に異変が起きた。

 

いち早く気づいた崇秀はすぐに真由美に連絡する。

「まずいことに、空から化成体と思われる大量の虫みたいなのがヘリの方へと向かってます。今から対処はしますが、雫にも協力してもらおうと思うので、少し変わっていただけますか。」

 

「ええ、分かったわ。」

真由美が雫に通信機器を渡す。

「崇秀君?」

 

「雫か。あれの対処に少し手伝って欲しいんだが。」

 

「分かった。私は何をすれば?」

 

「化成体がこの付近に来た瞬間、空中で風を使って大きめの旋風を発生させる。もちろんヘリは影響を受けないようにはする。それで、竜巻で巻き込んだ後に、雫のフォノンメーザーをそこに撃ち込む。横浜は風は吹いてはいるが、海風だからな。水分が多少混じっている。フォノンメーザーで発生する高熱を水分を取り除くほどの温度にする代わりに、広範囲に渡るようにする。そうして、余計な水分を除き、残った物質を擦り合わせ、その時に発生する摩擦熱を使い、火災旋風のようなものを作り出す。そして、化成体を焼き尽くす。って感じだ。」

 

「ま、要は俺に向かってフォノンメーザーを撃ち込む。それだけだ。旋風の中からは連絡できない、だからある程度化成体が巻き込まれた瞬間

に撃ってくれ。」.

 

「うん、分かった。」

 

「なるべく、合わせやすいところには行く。よろしく頼む。」

そういって崇秀はヘリより少し離れた上空に浮くようなかたちでいるようにした。

そして、横浜中の風が風を崇秀を中心にし、その周りをぐるぐると回るように吹き荒れている。

同時に、空中を飛んでいる化成体もブラックホールに吸い込まれるように崇秀の元へと流れる。

(そろそろ来るか)

駅周辺の空を埋め尽くすようにあった化成体が崇秀が発生させた旋風に巻き込まれたところで、そこに一直線の白い光線が撃ち込まれる。

一直線で向かった光線も竜巻の中心へ行くと屈折し、風の流れに従うように流れていく。

化成体で真っ黒だった旋風がやがて、炎の不完全燃焼により真っ赤になっていく。焼きつくされていく化成体はやがて、ここから消滅していった。

 

この光景には、敵も味方関係なく横浜やその周囲にいた全員が見ていただろう。日がだんだん落ちていく夕方の横浜をさらに赤く染めてようだった。

周囲の酸素を使いきった炎も消えていく。全て消えたところで集められた風は上空へと流れていった。

何もなかったかのように空が元に戻ると崇秀も発着スペースへと着地した。

「とりあえず、これでここからの脱出は無事にできるだろう。」

 

「あんなこともできるのね...」

 

「自分で言うのもあれですが、なんでもありですよ。それより、七草先輩の家のヘリも来たみたいですよ。」

上を見ると、2台のヘリが大きな音を出しながら空中に留まっていた。

 

「全員無事にヘリに乗れたのを確認するまでは、ここにいます。終わったら敵部隊の殲滅にあたります。」

 

「そう...なら誘導の方をお願いしますね。」

 

「ええ」

 

こうして、崇秀は市民の誘導にあたり発着スペースにいた一高生や市民は全員乗り込むことができた。

崇秀はビルの屋上からヘリが行くのを眺めていた。

途中、真由美がヘリの窓から舌を出して意地悪そうに笑いかけてきた。

崇秀は何も言わず、ただ微笑を浮かべながらその様子を見ていた。

 

直後、下でヘリの方にロケットランチャーを構えている工作員を見つける。発射準備ができ、いざ後は撃つだけとなったその時、白い影が前に現れ工作員は顔面に強い衝撃をくらった。

ギリギリの所で食い止めた崇秀はその後も周囲を見渡す。

不審な動きをしている者はいなかったが、さっきま地上の部隊の侵攻を食い止めていた寿和が何かを探しながらこちらの方へ来ていた。

(さっきのやつで俺に探りか何かしようとしているな...ここはさっさと引くか)

崇秀は近づいてくる人影に気づかないフリをして、侵攻されている場所へと向かっていった。

惜しくも話しかけることができなかった寿和は

「早乙女...数字落ち(ナンバーズ)でもないのに、一体何者なんだ...」

と疑問に思ったが、今は仕事に戻ることにした。

 

 崇秀は海沿い付近にいる敵部隊の殲滅へと向かっていった。

魔法協会付近は克人、中華街付近は将輝などの十師族の一員が指揮を取っていると聞いたため、そのあたりからは少し離れた方向の殲滅へと当たったいた。

 

装甲車両3台に直立戦車が7台ほどと30人ほどの武装した工作員と小部隊の一つや二つは相手にできるほどの部隊の前に崇秀が一人で立ち塞ぐ。

直立戦車4台が一斉に重機関銃を崇秀に向かって連射するが、崇秀はその弾幕から傷一つつけられることなく現れる。

直後に1台の対立戦車がチェンソーで崇秀に襲いかかろうとする。

だが、崇秀の目の前へと突っ込んだ途端、ガタンと音を立てて停止する。

対立戦車の胴体の部分には大きな凹みができ、中に入っていた工作員も潰され、中で血を撒き散らし、元の姿が分からないくらいにまでなった。

だが、今度は2台の対立戦車から小型ミサイルと手榴弾が放たれるが、これももちろん崇秀には無意味な攻撃だった。

今度は崇秀が1台の対立戦車へと向かって行く。力が一点に集中した拳を一発入れるだけで、戦車は動けないほどにまで凹む。

もう1台には動けない対立戦車の部品をそのまま打ち込む。銃弾よりもずっと強い威力の鉄のかけらは胴体の部分を見事に貫通し、そのまま倒れてしまった。

間もなくして、残りの4台が崇秀を囲い込み、もう一度一斉に機関銃を撃つが、崇秀には1つも当たらなかった。

それどころか、傷を受けたのは機関銃を撃っていた4台の対立戦車の方だった。銃弾の全てを跳ね返され、いくつかの場所に何発も撃ち込まれ、何箇所かにポツポツと穴ができていた。

7台すべての対立戦車が動くことのできないガラクタになり、崇秀は後方にいた部隊を見つめる。

対魔法師用ライフルを持った工作員が崇秀へと銃口を向ける。

「うっ、撃てぇ!!!」

と誰が叫び、その合図と同時に崇秀へ銃弾を連発するが、煙から姿を見せたのは何もなかったかのように立っている崇秀だった。

「つまんねぇよ...つまんなぁ...」

最後に装甲車両の砲台から弾が放たれるが、その弾は崇秀の方にではなく、発射された砲台の銃口へと向かっていった。

そのせいで車両は中から爆発し、その周囲の工作員も巻き込んでいった。

残っていた部隊の一人の魔法師が呟く

「あれは...日本で開発されていると噂されていたあの個体じゃないのか...」

何か思い出したかのようにそう呟くと、すぐに「撤退だ!!!」叫び部隊は後を引いた。

 

 

 偽装揚陸艦にいた侵攻軍の司令部は悲壮な空気に包まれていた。

「別働隊が全滅...それに沿岸付近の部隊も撤退...一体何が!?」

 

「報告から推測致しますに、別働隊の方は飛行魔法を使った空挺部隊により全滅」

 

「....」

 

「それと未確認の情報ではありますが」

 

「何だ?」

 

「別働隊の交信の中に摩醯首羅(マヘーシュヴァラ)の声が」

 

「摩醯首羅だと!?」

 

「別働隊には三年前の戦闘に参加した者もいました」

 

「...」

 

「それと、これも未確認の情報なのですが」

 

「次から次へと何だ!?」

 

「沿岸付近の部隊の相手をしたのはたった一人の高校生...白い髪に白い肌、あらゆる銃弾や爆弾を用いても全て彼の近くで無効化、それどころかその攻撃そのものを反射、自身の移動速度も魔法師ですら不可能なレベルというほどのスピード、もしかしてとのことですが、前々から日本の魔法研究所で開発されていると噂されていた個体、一方通行(アクセラレータ)との情報が、部隊にいた魔法師の一人が言っております。」

 

(タチ)の悪い戯言を───」




 火災旋風はとあセラのを参考にしました。
いつの間にかにかアニメ2期の方がもうすぐ終わってしまう...


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