鬼滅の忍 (黒い野良猫)
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新たな物語
第一話 始まり


 時は令和。車や電車が走り、飛行機が飛び交う中、俺は危機的状況に陥っていた。

 

「はぁ、はぁ……何で、何でだよ……!」

 

 俺はある人物から逃げていた。いや、人物と言うには語弊がある。化け物と言ったほうがいいだろう。

 

「逃ゲルナァ……喰ッテヤル」

「何なんだよあの化け物! 見た事ねぇよ!」

 

 目が何個もあり、角が生えており、牙もある。涎を垂らして追ってきている。

 俺は必死に逃げた。だが体力の限界がきてしまい、小石に躓き転んでしまう。

 目の前には化け物。俺は察してしまった。

 

 ──俺、ここで死ぬんだな……

 

 そう思った時、頭の中に今までの景色が広がる。走馬灯だ。

 

 ──父さん、母さん、ごめん。先に逝く俺を許してくれ……

 

 そして俺の視界は真っ暗になり、首から下の感覚が無くなった。

 早島(はやじま)佐助(さすけ)。十七の若さにして、この世を去った瞬間であった。

 

「──ください。起きて下さい」

 

 その時、女性の声が聞こえた。俺は目を開けると、一面真っ白の空間にいた。

 

「目が覚めましたか」

「ここは……」

「ここは死後の世界。早島佐助さん。あなたは死んでしまいました」

 

 目の前には神秘のベールに包まれている女性がいた。

 

「私は女神。あなたにお願いがあり、この場所に呼びました」

「お願い……?」

「その前に、あなたを食べたあの生物についてお話ししなければなりません。こちらにお座り下さい」

 

 突如椅子が現れ、俺はそこに座る。女神様も俺と向き合う形で座った。

 

「まずあなたを食べた生物。あれは鬼と呼ばれるものです」

「鬼?」

「はい。今は昔、鬼という生物が存在しました。鬼は人を喰う事で、生を得ていたのです」

 

 真っ白だった空間に、映像が流れる。その映像は、色んな鬼が人を喰っている所だった。あまりにも衝撃的な映像に、俺は思わず目を瞑る。

 

「そんな鬼を倒すべく、政府非公認の組織が立ち上がります。名前は鬼殺隊。その名の通り、鬼を退治する組織です」

「童話でいう、桃太郎みたいな感じか……」

「はい。鬼殺隊は鬼の親玉である鬼舞辻無惨を殺すべく、奮闘しました。そして無惨を倒すことが出来たのです。──本来なら」

「本来なら?」

「ある人物によって、歴史が上書きされたのです。そして、鬼舞辻無惨が死んだという過去が、鬼殺隊が滅んだという過去になってしまった」

「そして、存在しないはずの鬼が、この時代にやってきた」

 

 俺の言葉に、女神様は頷く。

 

「で、俺にお願いというのは──」

「お察しの通りです。今から明治時代に行っていただき、鬼殺隊に入って鬼を滅ぼして欲しいのです。歴史を変えた元凶は歴史を変えた際に力を使いすぎ、消滅しました」

「何で俺が?」

「あなたには特別な力が宿っています。その力を、今こそ解き放つのです」

「特別な力だと?」

「はい」

 

 そして女神様は頭を下げてきた。

 

「お願いします。鬼を、鬼舞辻無惨を倒して下さい。このままでは鬼が増殖し、人々は滅んでしまいます」

 

 俺は悩んだ。俺がやれば、この時代に鬼がいたという事実は無くなるだろう。そうすれば、この時代の俺が死ぬという事実がなくなる。だが、俺にメリットはあるのだろうか。下手したら、死ぬ可能性だってある。そこまでして俺が未来を変える必要があるのだろうか。

 その時、両親の顔が浮かんだ。

 

 ──いや、違うだろ。メリット、デメリットでやるんじゃない。俺がやらなきゃ、大切な人が死ぬ。なら、答えは一つしかないだろ! 

 

「頭を上げて下さい、女神様」

 

 その言葉で頭を上げる女神様。

 

「俺に隠されている力で未来の人達を救えるなら、俺はやります」

「ありがとうございます……!」

 

 俺は転生する為、魔法陣の中に入る。

 

「今から行くのは明治時代。まだ英語が広まっていないので、くれぐれも外来語を使わないように」

「はい」

「あなたは孤児という設定で、五歳の姿で転生させます」

「あ、この姿じゃないのね」

「あなたの力を発揮させるには、この方法しかありません。では、行きますよ」

 

 魔法陣が光だし、俺の体も光る。

 

「あなたの第二の人生に、良きご武運がございますように。行ってらっしゃい」

「行ってきます……!」

 

 こうして俺は、明治時代に飛ばされた。

 俺がいなくなった空間で、女神様は一人呟く。

 

「お願いしますよ。あの子に力を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──うちはサスケ。



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第二話 鱗滝左近次

「ここは……」

 

 俺は目を覚ますと、辺りは真っ白な雪景色が広がっていた。もちろん雪も降っており、寒い。服はボロボロに破けており、寒さが全く凌げない。

 

 ──身体小さいし、お腹も空いた。このままだと凍え死ぬぞまじで……

 

 俺は蹲り、何とか寒さを和らげようとする。すると、奥から誰かがやってきた。

 その人は天狗のお面をしており、じっとこちらを見つめている。俺もその人を見つめていた。

 

「お前さん、名は」

「早島、佐助……」

 

 力のない声で答える。

 

「家族はどうした。住処は?」

 

 俺は首を横に振る。するとその人は俺に背中を向け、屈んだ。

 

「乗れ。一先ず儂の小屋に行こう」

「いいの……?」

「早くしろ。さもないとお前さんも死ぬぞ」

 

 確かに、ここで見捨てられたら俺の人生はデッドエンド。折角未来を救いに来たのに、そうなっては元も子もない。

 俺は言葉に甘え、その人の背中に乗る。

 

「軽いな。どれ程食べてない?」

「分からない……」

「そうか……」

 

 それ以降は何も聞いてこなかった。山道を登り続け、一つの小屋についた。

 

「ここが儂の家だ。名乗ってなかったな。儂は鱗滝左近次だ。育手をやっている」

「育手?」

「話は後だ。まずは中に入ろう。お腹も空いているだろう」

 

 すると俺の腹が可愛くなる。俺は顔を真っ赤にし、頷いた。

 小屋に入ると囲炉裏が目の前にあり、とても暖かかった。

 

「そこに座れ。食事を用意しよう」

 

 俺は言われた通り、囲炉裏の前に座る。とても暖かい。

 鱗滝さんが囲炉裏の真ん中に鍋を置き、野菜や肉を入れる。煮込まれたところでお椀にすくい、俺に渡してきた。

 

「ほれ、食え」

 

 俺はそれを受け取る。

 

「いただきます」

 

 俺はゆっくりとお椀を口に持っていき、汁を飲む。

 

「美味しい……」

「そうだろ」

 

 俺が呟くと、顔はお面で見えないが声は嬉しそうだった。

 そこから俺は箸を止めることなく食べ続けた。その時、鱗滝さんが声をかけてきた。

 

「佐助よ。一つ聞きたい。何故、あのような場所にいた」

 

 俺はお椀を置き、箸を置いて話し始めた。この時代の俺の過去の記憶は、女神様に植え付けられた。

 

「僕のお父さんとお母さんは、見たこともない化け物に食べられました。お父さんとお母さんは僕を庇って、食べられたんです。僕は怖くなって、逃げました。逃げて逃げて、気がついたらあそこにいたんです」

「そうか。すまんな、辛いことを思い出させてしまって」

 

 喋り方が子供っぽいのは、俺が未来からきたことを悟られない為だ。

 

「お前の両親を喰った化け物。あれは恐らく鬼だ」

「鬼?」

「あぁ。鬼は夜に活動し、人を食って生を得ている」

 

 女神様と言っていることが同じだった。

 

「……鬼が憎いか?」

「……憎い。大好きなお父さんとお母さんを食べた鬼が憎い」

「そうか。佐助よ。一つだけ、その鬼を殺す方法がある」

「なに?」

「鬼殺隊に入ることだ。鬼殺隊はその名の通り、鬼を殺す組織。そこに入れば、お前の両親を喰った鬼を殺す事が出来るぞ」

「……その鬼殺隊って、すぐに入れるの?」

「いや、すぐには無理だ。鬼殺隊に入るには、最終選別に行き、七日間生き残らなければならない」

「最終選別……」

「だが、今のお前では無理だ。そこで育手の登場だ」

「育手って、鱗滝さんの事?」

「そうだ。儂は最終選別に行かせる剣士を育てておる。佐助よ、剣士にならんか?」

 

 ここに来る前から、答えは決まってる。

 

「なるよ……僕、剣士になる!」

「いい返事だ。では明日から修行だ。今日はいっぱい喰って寝ろ」

「はい!」

 

 こうして俺は、鱗滝さん──じいちゃんの下で修行する事になった。



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第三話 修行

「では、これから修行を始める」

 

 次の日。俺は早朝に起こされ、外に出る。

 

「佐助、お前は今幾つだ?」

「僕は五歳だよ」

「五歳か。ちと厳しいかもしれんが、それでもいいか?」

 

 俺は頷く。

 するとじいちゃんは付いて来いと言い、俺は後を付いていく。急な斜面を登り、登っていくにつれ霧が濃くなってきた。

 そして暫く歩き続けると、最も霧が濃い所で足を止めた。

 

「じいちゃん、ここは?」

「ここは狭霧山の頂上だ。今からお前には、この山を下ってもらう」

「下る? それだけで良いの?」

「あぁ。ただし、下る途中に様々な罠がある。その罠を潜り抜け、夕暮れまでに麓の小屋まで帰って来い。それが修行だ」

「わかった」

「厳しいと思ったら、この鴉に言え。儂が迎えにいく」

 

 そう言って頭の上に鴉が飛ぶ。

 

「検討を祈る」

 

 そう言ってじいちゃんは姿を消した。

 俺は屈伸や伸脚など準備体操をして身体を解した。

 

「……よし、行くか」

 

 俺は大きく深呼吸して走り出した。すると早速罠に引っかかる。

 

「いてて……落とし穴かよ。じいちゃん、容赦ないな……」

 

 俺は落とし穴から上がり、再び走り出す。するとまた罠に引っ掛かった。

 

「今度は何だよっ!?」

 

 突然後頭部に衝撃がきて、前に倒れてしまった。

 

 ──丸太!? 俺を殺すきか!? 

 

『ちと厳しいかもしれんが、それでも良いか?』

「全然ちとじゃねぇ!!」

 

 俺は文句を言いながらも走り、罠に引っ掛かっては走りを繰り返した。

 気付けば俺の身体はボロボロ。服も破け、所々血も出ている。

 でも、それでも諦めなかった。未来を救う為。ここで折れてはいけないと奮起した。

 そして日も暮れてきて、夕焼けが眩しい時だった。

 

「やっぱり、厳しかったかのう」

「帰ってきたよ、じいちゃん……」

「佐助!?」

 

 フラフラの状態で帰ってきた俺を抱きしめてくれたじいちゃん。

 

「よくやった……よく頑張った……」

「へへっ……凄いだろ、僕……」

「あぁ。凄い……凄いぞ!」

 

 抱きしめられたまま、俺は気を失った。じいちゃんの元に辿り着いて、安心したんだろう。俺は二日間眠っていた。

 俺は一ヶ月、山の頂上から麓まで降りてくる修行を続けた。日に日にタイムは縮まり、早く帰ってきては筋トレをして体力と筋力をつけていった。

 さらに一ヶ月。今度は剣術を教えてもらった。素振りから始まり、対人戦や藁を切ったりした。

 

「今日は呼吸法を教える」

 

 ある日、じいちゃんがそう言ってきた。

 

「じいちゃん、僕今呼吸してるけど」

「確かにそうだが、違う。今儂達がしている呼吸は、生きる為に一定の酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出す呼吸だ。けど、今から教える呼吸法は違う。この呼吸法は鬼を倒す為に使うものだ。剣術を使えるようになった今のお前なら、出来るだろう」

 

 俺は座禅を組まされ、じいちゃんから呼吸について教わる。そこから俺は呼吸法の修行に入った。

 

 ──おかしい。おかしいぞ……

 

 呼吸法の修行に入って半年。俺は疑問に思っていた。

 

 ──何で、呼吸が身につかない? 

 

 俺はじいちゃんに言われた通りに呼吸法を身につけようとした。最初は始めたばかりだから、すぐに身につかないだろうと思っていた。だが、半年経っても全く身につかない。身につく気配が感じられないのだ。

 

「じいちゃん。これって……」

「……佐助。お前は恐らく、呼吸を身につけられない体質みたいだ」

「才能がないって事?」

「厳しく言えばそうだな。呼吸法を身につけられなければ、鬼の頸は切れない」

「そんな……じゃあ僕は……」

 

 じいちゃんは俺の肩に手を置く。

 

「佐助、ここまでよく頑張った。でも、剣士になるのは諦めなさい。呼吸が使えないお前が行けば、死ぬだけだ」

 

 ──嘘だろ……? 剣士になるのを諦めろ? 俺は何のために修行してきたんだよ……俺には隠された力があるんじゃないのかよ……! 

 

「……僕、もう寝るよ」

 

 そう言って俺は寝室に行く。布団に入っては、頭まで被り泣いた。

 深夜。俺は何故か目を覚まし、居間に行く。すると玄関に人影のような物が立っていた。

 

「じいちゃん……?」

「……付いて来い」

 

 声からするに男だろう。そう言われ、俺は何故か付いて行った。本能がそうしているようだ。

 暫く歩き、少し開けた場所に出た。すると先ほどの男は立ち止まり、俺の方を向いた。

 

「今から修行するぞ」

「……は?」



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第四話 謎の男

「今から修行するぞ」

「……は?」

 

 突然そんな事を言ってきた。

 男は左目を前髪で隠し、黒いマントをしている。

 

「修行って一体何すんの? そもそも、あなたは誰?」

「子供の喋り方をしなくてもいい。俺はお前を知っている。そうだな、俺の名前はサスケとだけ名乗っておこう」

「俺を知ってるって……まさかアンタも令和から? それに名前も俺と一緒……」

「そんな事より、早く始めるぞ」

 

 男──サスケさんが言うと、俺は俯く。昼間の事を思いだした。

 

「やったって無駄だよ。俺は呼吸法が使えない。剣士になれない。俺には特別な力があるって言ってたのにだ……!」

 

 俺が言うと、サスケさんはため息をついた。

 

「お前が呼吸法を身に付けられないのは当たり前だ。何故なら、お前の身体には血液とは別に、他の物が流れているからな」

「血液とは他の物……?」

 

 俺の言葉に、サスケさんが頷く。

 

「お前の体内に流れている物。それはチャクラだ」

「チャクラ?」

「チャクラは人間の身体を構成する膨大な数の細胞一つ一つから取り出す身体エネルギーと、修行や経験によって蓄積する精神エネルギーの事だ。お前の言う特別な力は、そのチャクラの事だ」

「そのチャクラって、どんなことに使えるの?」

 

 そう言うとサスケさんは外れにある大きな岩の前に立った。

 そしてサスケさんの右手から雷みたいなものが流れる。そして岩に向かってその雷をぶつけると、岩は粉々になった。

 

「す、すげぇ……」

「今のは【千鳥】という術だ」

「術?」

「あぁ。チャクラを上手くコントロールすれば、このように忍術を発動することが出来る。忍術だけではない」

 

 すると今度は滝壺の方まで歩いていく。このままいくと濡れてしまうと思ったが、サスケさんは水の上を歩いていた。

 

「このようにチャクラを足に纏えば、水の上だって歩ける。これを見てみろ」

 

 サスケさんは一つの木を指さす。その木には足跡があり、ひびも入っていた。

 

「この跡はお前が頂上から麓に下りる時に付いた跡だ。お前は気付かない間にチャクラを使っていた」

 

 ──そう言えば、気が付いたら木の上走ってたりとかしてたな。その時もチャクラを使ってたのか。

 

「この二ヶ月でお前の精神エネルギーはかなり蓄積された。これから暫くの間、チャクラをコントロールする修行をするぞ」

「はい……!」

 

 こうして俺とサスケさんによるチャクラの修行が始まった。

 昼はじいちゃんの下で剣術と筋トレ、夜はサスケさんとチャクラのコントロールをした。

 

「じいちゃんお代わり!」

「お、おう……」

 

 中々のハードスケジュールのせいか、とてもお腹が空く。俺の箸は止まる気配がなかった。

 

「佐助。お前さんは──」

「じいちゃん。俺、剣士になる事諦めてないよ。確かに呼吸は使えない。でも、呼吸が使えなくても戦えるって事を証明したい。だから、俺はやる……!」

「……そうか。頑張れよ」

「あぁ!」

 

 そして夜になり、俺はまたサスケさんの下に行く。

 

 ☆☆★☆☆

 

 佐助が呼吸を使えないと分かってから一ヶ月。鱗滝は困惑していた。呼吸が使えないと分かり、無駄死にさせたくないと佐助に剣士の道を諦めさせた。けど、次の日になったら顔が別人のようになっていた。一人称も、いつの間にか僕から俺へと変わっていた。朝になると、何故か濡れている着物が干してあった。佐助の心に何か変化があったのだろうか。

 夜。佐助がこっそりと抜け出すことを知っていた鱗滝は、そっと後を追って行った。

 鱗滝が追った先には、木を登っている佐助の姿と、佐助に指導しているサスケの姿が広がっていた。

 

 ──どういうことだ? 何故佐助は木を()()()登っているのだ……? と言うか、あの男は誰だ!? 

 

「割と見つかるのが早かったな」

「なにっ!?」

 

 すると鱗滝の背後にいつの間にか移動したサスケの姿があった。

 

「貴様っ! 何者だ!」

「安心しろ。敵ではない」

「それをどう信じろと……!」

「早島佐助。アイツが何故呼吸法が身につかないか、教えてやろう。それはアイツの中に別の力が宿っているからだ」

「別の力だと?」

「俺はその力を引き出す手助けをしている。いわば、修行だな」

「それは、今佐助が木を歩いている事に関係があるのか?」

「あぁ。佐助!」

 

 するとサスケは佐助を呼び出す。

 

「あれ、じいちゃん!? どうしてここに!?」

「どうもこうも、お前が夜勝手に抜け出すからだろう! 心配して見に来てみれば、木を歩きよって!」

「ごめんごめん。でも、これで俺は強くなれるんだ。だから、見ててくれよ」

「佐助。この一ヶ月の成果をじいさんに見せてやれ」

「おう!」

 

 すると佐助は滝壺の方に行き、足を踏み出す。

 

「危ないぞ佐助!」

「よく見てろ」

 

 鱗滝は、佐助が沈むと思っていた。だが、佐助は水の上に()()()()()

 

「まさか、毎回濡れてある着物が干してある理由は──」

「これを習得する為さ。最初は上手くいかなくて何回も溺れたけど、今はこうして立てる」

「呼吸が使えなくても、何れは忍術が使える様になる。そうすれば、鬼の頸を切る事なんて容易いだろう」

「忍術……もしかして貴様は忍者か?」

「あぁ。俺は忍だ。そして佐助にも、忍の血が流れている。それが、アイツの力だ」

「そうか……」

 

 鱗滝は悩んだ。このまま自分の下にいても、佐助は強くならないんじゃないかと。それなら、この男に任せても良いのではないかと

 

「……お前さんに頼みがある」

「何だ?」

「……佐助を、宜しく頼む」

「……どういうことだ?」

「このまま儂の下にいても、佐助は強くならん。お前さんの下にいさせた方が、佐助は強くなる。だから、佐助を頼む」

 

 鱗滝はサスケに頭を下げる。するとサスケはゆっくりと口を開いた。

 

「……三年だ」

「何……?」

「三年こいつを預かる。それ以降はあんたの下で修行させる。それでいいな」

「何故儂の下で──」

「だって俺、じいちゃんの弟子だから!」

 

 佐助は笑顔でそう言った。

 

「じいちゃんに拾ってもらわなかったら、今頃俺は死んでた。じいちゃんには感謝してんだ。そんなじいちゃんの下を離れるなんて、出来ないよ」

「佐助……」

 

 鱗滝は佐助を抱き締める。

 

「強くなって……帰って来い……!」

 

 その声は震えていた。恐らく、泣いているのだろう。

 佐助も強く抱きしめる。

 こうして佐助は三年間、サスケの下で修行することになった。



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第五話 真菰

「ねぇねぇ鱗滝さん」

「ん? どうした?」

「この袴誰の? 鱗滝さんのじゃないよね?」

 

 少女が取り出したのは、三年前、鱗滝が拾った子供の袴だった。

 

「……その袴はな、お前の兄弟子の物だよ」

「へぇ! 私以外に弟子いたんだ! その人は今どこにいるの?」

「アイツは今、修行に出ておる。強くなるために」

「鱗滝さんの弟子じゃないの? 何でここで修行しないの?」

「アイツは呼吸が使えない。でも、それとは他に別の力を持っている。その力を引き出せる奴の下にいるんだよ」

 

 少女は玄関に座り、足をパタパタさせながら袴を空に掲げ眺める。

 

「会ってみたいなぁ、兄弟子に」

「なぁに、時期に会えるさ」

 

 ☆☆★☆☆

 

「ハァ……ハァ……」

「修行はここまでだ。よく耐えたな」

 

 あれから三年。俺はサスケさんの下、チャクラを上手く使える様に修行した。もちろんチャクラだけではない。体術の基本となる組手や手裏剣術も教えてもらった。

 

「今日は狭霧山に帰る約束だろう。早くじいさんにお前の成長した姿を見せてやれ」

「おっす……」

 

 八歳となった俺は体格が変わった。昔より体力と筋肉がついた。これも成長した証だろう。

 

「まだお前に教えたいことはあるが、それは向こうでも出来る。早く帰るぞ」

 

 俺は埃を払い、立ち上がる。今来ている服は、サスケさんが幼少期に来ていた服だ。背中にうちわのマークがある。

 

「その服はお前にやる。忍術を覚えたお前が着物を着ると、術に耐えきれなくて着物が破れたり燃える可能性があるからな」

「ありがとう。大切にするよ」

 

 こうして俺とサスケさんは狭霧山に帰る。

 

「じゃあ俺はここで別れる。また会おう」

 

 そう言ってサスケさんは姿を消した。俺は狭霧山の麓まで歩いていく。まだ数ヶ月しか過ごしていないが、見慣れた小屋を見つけた。

 だが、小屋の目の前には見慣れない少女とじいちゃんがいた。

 

 ──じいちゃん、遂に人を攫ったか……? 

 

 少女は俺を見つけると、じいちゃんに俺の方を指さす。

 

「じいちゃん!」

「佐助!」

 

 じいちゃんは俺を見つけると、駆け寄って抱きしめてくれた。

 

「よく……よく帰って来た……!」

「帰ってくるに決まってるじゃん。ここ、俺の家でもあるんだから」

「そうだな。佐助、デカくなったな」

 

 そう言って頭を撫でるじいちゃん。まだじいちゃんと数ヶ月しか過ごしてないが、凄い嬉しい。

 

「俺もう八歳だぞ。デカくなるに決まってるさ」

「生意気言いやがってこのぉ!」

 

 そう言って撫でる手を強くする。すると俺と少女の目が合った。

 

「じいちゃん。この子は?」

「こいつもお前と同じ孤児だ。儂が見つけ、保護した」

「そっか」

「鱗滝さん。この人が兄弟子?」

「そうだ。佐助。この子はお前の妹弟子になる」

「俺は早島佐助。五歳の時にじいちゃんに拾われた」

「私は真菰! 宜しくねお兄ちゃん!」

「お、お兄ちゃん!?」

「だって私の兄弟子なんでしょ? それに私の方が年下だし。ならお兄ちゃんじゃん!」

 

 真菰は笑顔でそう言ってくる。俺は一人っ子だったため、お兄ちゃんと呼ばれるのは何だかムズムズする。だが、嫌ではない。

 

「それで佐助よ。お前はどれ程強くなった?」

「付いてきて」

 

 俺はそう言ってじいちゃんと真菰を滝壺のある所まで連れてくる。

 

「見ててよ」

 

 俺は滝壺に向け、印を結んだ。

 

「【火遁・豪火球の術】」

 

 口から放たれる火力は大きかった。一面を火の塊が覆い隠す。

 

「おぉ……」

「鱗滝さん。今のは?」

「今のは忍術。俺は呼吸が使えない代わりに、忍術を習得した」

 

 真菰は初めて見た光景に、はしゃいでいた。

 

「凄い凄い! 真菰も出来る?」

「いや、真菰は出来ないよ。これは俺とサスケさんしか出来ない」

「サスケさん?」

「俺に忍術を教えてくれた人だよ」

「え~ズル~い」

 

 真菰は自分は出来ないと知ると、頬を膨らませ顔をしかめる。

 

「真菰。俺と真菰はじいちゃんの弟子だ。でも、俺は呼吸法を身に付けられなかった。だから、真菰は俺の身に付けられなかった呼吸法を身に付けてくれ。そして一緒に、鬼を倒そう」

 

 そう言って俺は真菰の頭を撫でる。真菰は目を細め、気持ちよさそうにした。

 

「任せてよ! お兄ちゃん!」

「よし。早速修行だ!」

「おー!」

 

 こうして俺に出来た新たな妹弟子、真菰と一緒に修行に励むのだった。



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第六話 真菰の修行

 俺がじいちゃんの下に帰って来て一週間。今日は自分の修行をお休みして真菰の修行を見ようと思う。

 朝。いつもはじいちゃんが作っていた朝ご飯は、真菰が作っている。真菰の朝食はとても健康的だ。豆腐のお味噌汁に焼き魚。まさに和食。

 朝ご飯を食べ終えると顔を洗い、歯を磨く。こうして、俺達の一日が始まる。

 

「さてと、真菰。今日は俺がお前の修行を見る訳だけど、頂上から下りてくる修行はもうやったか?」

「うん。鱗滝さんの所に来てすぐにやったよ。あの罠凄いよね! 私死んじゃうかと思った!」

 

 ──真菰にも容赦ないとは……じいちゃん少しは手加減してやれよ……

 

「なら、体力の方は問題なさそうだな。因みに自己新記録は?」

「半日で下りた時かな~。お兄ちゃんは?」

「俺は三時間で下りた」

「三時間!? お兄ちゃん早くない!?」

 

 まだ俺がサスケさんと出会う前、チャクラという存在を知らなかったときに出したタイムだ。知らないうちに身体強化をしていたらしい。それが恐らく、あの時木に付いていた足跡なのだろう。

 

「まぁ、俺と真菰じゃまず性別が違うからな。そこら辺の差が出てもおかしくない。で、今日の修行なんだが……」

 

 正直、俺が教えられるとしたら体術しかない。呼吸法はじいちゃんに任せるとして、俺の剣術はサスケさんに教えて貰って独特だし、体術しかないのだ。

 

「真菰。体術って知っているか?」

「体術? 何それ」

「体術っていうのは、素手や短い武器を使って攻撃、防御をする術の事だ。柔術とも言う」

「殴り合いみたいな感じ?」

「ま、まぁ平たく言えばそうだな」

 

 真菰の例えに、俺は苦笑いした。

 

「だが、殴り合いと違って、体術には防御がある。殴って来た拳を掴んだり、払ったり。まぁ、実際に見てもらった方が早いな」

 

 そう言って俺は十字の印を結ぶ。サスケさんに禁術と言われたこの術。だが、覚えておいて損は無いと言われ、覚えた。

 

「【影分身の術】」

 

 そう言って俺の横からポンっ! と煙が出る。そこにはもう一人の俺の姿があった。

 

「ええ!? お兄ちゃんが二人ぃ!? 鱗滝さーん!」

 

 俺が影分身すると、真菰は走って小屋に入ってしまった。流石にいきなりは驚くか……

 

「な、何だいきなり……!? 佐助! お前二人になっとるぞ!」

「俺の術だよ。通称【影分身の術】。俺と全く同じ実体を作る事が出来る」

「ほぉ……奇妙な術だのぉ」

「まぁ、サスケさんにあまり使うなって言われてるからね。一体が限界だよ」

「で、何でお前を一体出したんだ?」

 

 じいちゃんが本題に戻ってくれた。

 

「実は真菰に体術を教えようと思ってね」

「なるほど体術か。それは良いな」

「でも、鬼を斬る時に体術なんて使わなくない? 何で体術なの?」

 

 真菰のいう事は最もだ。鬼狩りは日輪刀という刀で鬼の頸を斬る。そこに体術は関係ないと言えばそうとも言えない。

 

「確かに、鬼を斬る時は刀だ。でも鬼との闘いの最中に刀が手から離れたら? 丸腰になった俺達は攻撃をただ喰らうしかない。だが、体術を覚えていれば、相手を怯ませることが出来る。その隙に刀を取りに行くっていう使い方も出来る訳だ」

「へぇ~そんな事出来るんだ」

「だから俺はこの三年間、体術も修行してきた。だから、妹弟子である真菰に体術を教えるよ」

「お願いします! 先生!」

 

 真菰は敬礼してくる。その姿がとても可愛い。

 そして俺は分身との組手で手本を見せた。まずは組手の流れを見せる。そして次は見やすい様に、ゆっくり。次は実践。影分身を相手に、本体の俺は真菰の傍で教える。

 まず一週間は型を覚えさせた。次の一週間は少し力を入れて流れを覚えさせる。更に一週間で本体の俺と組手をすることが出来た。

 

 ──真菰は呑み込みが早いな……もの凄い速さで成長している。これは俺もうかうかしてられないぞ……! 

 

 最初は身体が痣だらけになっていたが、今は痣どころか、躱すのも上手くて攻撃がまともに当たらない。そしてついに、真菰は俺の顔に蹴りを入れることに成功した。

 

「ハァ……ハァ……や、やった! お兄ちゃんに攻撃出来たよ!」

「良い蹴りだったぞ、真菰」

「へへっ……」

 

 そう言って真菰は倒れるが、俺がギリギリのところで抱えた。真菰は寝てしまったようだ。

 

「一本取られたな、佐助」

「真菰の成長速度が速い。この状態で全集中・常中を覚えたら、本気の俺でも勝てるかどうか」

「嬉しいか? 妹弟子の成長を感じられて」

「……嬉しいね。でも、その分嫌になる。いずれ真菰も最終戦別に行かなくてはいけない。そこで真菰が死ぬかもしれないって考えると……」

 

 するとじいちゃんは俺の頭を撫でる。

 

「信じてやるんだ。自分の妹弟子を。それが兄弟子のやるべきことだろう」

「……そうだな」

 

 俺は真菰の頬をそっと撫でる。すると心なしか、笑っている様に見えた。

 

 ──守らないとな。新しい家族を。その為にも、もっともっと強くならなきゃ。

 

 俺は真菰を部屋に寝かせ、サスケさんから渡された忍術が書かれている巻物を読むのだった。



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第七話 新たな弟弟子

 あれから二年が経った。俺は十歳になり、真菰は九歳となった。

 この二年で真菰は全集中・常中を覚え、また水の呼吸も覚えた。全集中・常中を覚えた事により、組手のレベルがどんどん上がっていた。今は木刀を使って剣術を交えた組手をやっている。

 横から来る俺の剣を、真菰はしゃがんで躱し、その隙に俺の足元に払い蹴りをする。だが俺も負けてない。その払い蹴りを飛んで躱し、真菰の背後に前宙で回り、振り向くと同時に剣を振る。真菰もそれを読んでいたのか、木刀を盾にして防ぐ。だが、力負けしてしまい、吹き飛ばされてしまった。

 

「よし。今日はここまでだな」

「いててて……お兄ちゃん、もっと手加減してよ!」

「バカ野郎。手加減したら俺の為にならねぇし、お前の為にもならないだろうが」

「そうだけどさ!」

「帰ったぞ」

 

 すると出かけていたじいちゃんが帰って来た。子供を二人連れて。

 

「お帰りじいちゃん。この二人は?」

「孤児だ。帰る時に見つけて、拾ってきた」

「なんかじいちゃんって、孤児拾うこと多いな……」

 

 俺含めて四人の孤児を拾ったじいちゃん。孤児を引き寄せる何かがあるのだろうか。

 俺は二人の前に立ち、自己紹介をする。

 

「俺は早島佐助。十歳だ。宜しくな」

「私は真菰。九歳だよ。宜しくね」

 

 真菰が手を出して握手を求めるも、二人はしようとしない。そっぽを向き、こちらを見ようともしない。

 

 ──相当闇を抱えているな。まぁ理由は、鬼に家族を喰われたのが妥当だろう。

 

「鱗滝さん。俺達を鍛えてくれ」

 

 すると、口元に大きな傷がある少年が言った。

 

「俺は鬼が許せない。家族を喰った鬼が。だから強くなる。強くなって、俺の家族を喰った鬼をこの手で殺す……!」

 

 少年は拳を強く握る。そこからかなりの怒りの感情が読み取れる。

 

「……お前は?」

 

 じいちゃんは先程の少年の隣の少年に聞く。

 

「俺も鬼が憎い。姉を喰った鬼が。だから、この手で殺す」

「分かった。お前達に修行を付けよう。だがその前に、この二人に自己紹介しろ。二人はお前達の兄弟子、姉弟子となるのだぞ」

 

 じいちゃんがそう言うと、目をこちらに向けないが、自己紹介をしてきた。

 

「錆兎。九歳」

「冨岡義勇。九歳」

「宜しくな。錆兎、義勇」

「私と同い年なんだね! 宜しく!」

 

 こうして新たな弟弟子、錆兎と義勇がやって来た。

 それからは大変だった。錆兎は話しかけても返事もしないし、義勇は話しかければ返事はしてくれるが、義勇から話しかけることは無かった。

 だが、錆兎と義勇が二人で話している姿は何度か見ている。二人は心を許し合っているのだろう。

 そんなある日の事だった。

 

「いい天気だねぇ」

「全くだ。所で真菰?」

「ん? どうしたの?」

「君は何で俺の上に座ってるの?」

 

 俺は巻物を読んでいる所に、真菰が胡坐をかいている俺の上に座ってきた。そのせいで巻物が読めない。

 

「なんかこうしたくて。お兄ちゃんポカポカするね。あったかい」

 

 そう言って俺に寄り掛かってくる。別に良いが、中身は二十歳を超えてるわけで色々とやばい。それに良い匂いがする。

 

「おい、お前」

 

 そんな時、珍しく錆兎が声を掛けてきた。

 

「俺と闘え」

 

 そう言って俺に木刀を投げてきた。

 

「ちょっと錆兎! 歳は近くても、仮にも兄弟子なんだよ! 口の利き方があるでしょ!」

「仮にもって何だよ真菰……」

「俺はお前が気に食わない。だから、俺と闘え」

 

 錆兎の目は本気だった。俺はじいちゃんを見る。じいちゃんは頷くだけだった。

 

 ──恐らく、じいちゃんが焚きつけたな。

 

「良いだろう。ただし、俺は木刀(これ)を使わない」

 

 真菰をどかし、立ち上がる。

 

「馬鹿にしてんのか……?」

「するものか。俺はいたって本気だぜ」

 

 俺達は外に出て、互いに向き合う。じいちゃんと真菰、義勇は俺達を見ていた。

 

「さて錆兎。やる前に一つ問う」

「なんだ」

「お前、何故そんなに焦っている」

 

 その言葉を聞くと、錆兎は目を見開いた。

 

「俺が気付かないとでも思ったか? お前は焦っている。義勇が少しずつ力を付けていくなか、自分は果たして成長しているのだろうか、と。そしてそれは次第に焦りから苛立ちへと変わって行った」

「──さい……」

「苛立ちの矛先は俺。じいちゃんの弟子のくせに、のほほんと暮らしている俺が憎くてしょうがない。そうだろ?」

「うるさい!!」

 

 そう言って錆兎は俺に向かって走って来た。そして木刀を振り下ろしてくる。

 

「遅ぇよ」

 

 俺は背後に回り、背中を蹴飛ばす。錆兎は走って来た勢いと、俺に蹴られた衝撃で前に吹き飛ぶ。

 錆兎はすぐに立ちあがり、俺に向かってくる。

 

 ──攻撃が単調すぎる。こんなの避ける必要もない。

 

 俺は避けずに、そのまま回し蹴りをして錆兎を吹き飛ばす。

 

「俺がじいちゃんに拾われたのは五歳の時だ。そこから五年間、汗水垂らしてやってきてんだよこっちは。来て数ヶ月のお前とは、比べ物にならないくらいな」

 

 俺は錆兎に近付き、立ち上がろうとする錆兎の肩に手を乗せる。

 

「良いか錆兎。焦っていたって、得られるものは何もない。逆に自分の首を絞めるだけだ」

 

 俺は立ち上がり、見下ろして言った。

 

「もっと周りを見ろ。鬼に家族を殺されて辛いのは、お前と義勇だけじゃない。俺と真菰もそうだ。だから俺達は力をつけるんだ。鬼に勝つために」

 

 錆兎は俺を見上げる。

 

「焦って鬼殺隊になろうとしても、最終選別で死ぬだけだ。なら時間をかけてでも、確実に鬼を倒せる力を付けていくしかないだろ」

 

 すると再び錆兎は俯く。すると、地面が濡れていた。

 

「俺達も力を貸してやる。だから、お前も強くなれ、錆兎!」

「うっ……ぐっ……。ありがとう。そしてごめん。()()()

 

 俺はフッと笑い、錆兎の頭を撫でる。

 すると義勇が俺の下にやって来た。

 

「俺にも……力を貸してくれるか……?」

 

 その言葉に俺は笑い、言った。

 

「当たり前だろ? 俺はお前らの兄弟子なんだぜ?」

「……ありがとう、()()()

「良かったね、錆兎。義勇」

「あぁ。姉さんもよろしく頼む」

「私達は同い年だから、普通に名前で良いよ~」

「……ありがとう、真菰」

「うん! どういたしまして!」

 

 こうして鱗滝ファミリーの絆は深まった。

 その様子を、遠くから見ている人影が一つある事を知らずに。

 

「──そろそろだな。はじめるか」




感想や評価を頂けると、作者は泣いて大喜びします。


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第八話 新たな力

今回は少々残酷な描写が描かれております。
閲覧する際は注意してください。


 錆兎との出来事があって数日。俺は真菰だけでなく錆兎と義勇の修行も見ることになった。真菰もたまには二人の修行を見てくれている。

 錆兎と義勇には、俺が呼吸を使えない事。その代わりに忍術が使える事を話してある。

 そんな中、俺は一つ気になる事があった。

 

 ──何だろう。最近目に違和感を感じるんだよな……というか、全員の動きが良く見えるって言うか……

 

 視力が良くなった訳ではない。三人の動きが分かるように見えるのだ。

 

 ──筋肉の動きから、次どのように攻撃してくるかが見える……何だこの感覚……

 

「佐助」

「どうしたじいちゃん」

「すまんが、儂の代わりに買い物を頼まれてくれないか?」

「あ、私も行きたい!」

「いや、今回は佐助に頼みたい。行ってくれるか?」

「別にいいよ」

 

 そう言ってじいちゃんから買い物リストを渡される。

 俺はかごを背負って、買い物に出かけた。

 

「……これで良かったのか?」

「あぁ。すまない」

 

 俺が行く時、じいちゃんともう一人いることに気付かなかった。

 じいちゃんに言われた通り買い物を済ませ、小屋に帰ろうとした帰り道。

 

「すっかり遅くなったな……」

 

 辺りは既に真っ暗だった。

 

「ニャー」

「お、野良猫か。可愛いな」

 

 俺は近寄ってくる猫に頭を撫でようとする。だが、猫は逃げてしまった。

 

「まぁ野良だもんな。しょうがない。さて、帰るか」

 

 俺は再び足を進めた。

 小屋に近付いていくにつれ、何だか嫌な予感がした。何故なら、血の匂いがしたからだ。

 

 ──何で血の匂いがするんだ……? 

 

 俺は急いで小屋に帰る。

 

「嘘……だろ……」

 

 その光景は絶望だった。

 

「じいちゃん……」

 

 腕がちぎれて血だらけで横たわってるじいちゃん。

 

「真菰……」

 

 上半身だけの真菰。

 

「錆兎……義勇……」

 

 首が変な方向に曲がっている錆兎に、首が転がっている義勇。

 

「何で……何でこんな事に……」

「ン? マダ人間ガイタノカ?」

 

 そんな声が後ろからした。俺はゆっくりと振り返る。

 そこには、未来で俺を喰った鬼がいた。しかも、じいちゃんの腕を食べて。

 

「お前が──」

「ン?」

「お前が、やったのか……?」

 

 辞めろ。聞きたくない。

 

「俺ガ喰ッタ。ソレガドウシタ?」

 

 その瞬間、俺の中の何かが切れた。

 俺は刀を手に取り、すぐさま鬼の間合いに入った。

 俺は鬼の頸を斬ろうとする。だが鬼の手によって防がれてしまった。すかさず体術で、鬼を怯ませる。そして距離を取り、鬼を睨みつける。

 

「お前は、俺を喰うだけじゃなく……じいちゃんや真菰、錆兎に義勇を喰った……大事な家族を!!」

 

 足にチャクラを溜め、一気に解き放つ。鬼の懐に入る事が出来た。

 その瞬間。鬼の動きがスローに見えた。

 

 ──右から攻撃が来る……なら! 

 

 俺は鬼の左腕を切断した。攻撃を止めることはせず、次は鬼の胴体を斬った。

 足がなくなり動けなくなった鬼は俺に向かって命乞いする。だが、俺は耳を傾けなかった。

 

「死ね」

 

 そして俺は鬼の頸を斬った。頸を斬られた鬼は灰となり、消滅した。

 俺は小屋に入る。だが、何も変わらない。死んだじいちゃんたちが転がっているだけだ。

 

「頼む……夢なら覚めてくれ……」

「なら、今覚まさせてやる」

「えっ……」

 

 後ろからサスケさんの声がする。俺は振り向いた瞬間、サスケさんが言った。

 

「解」

 

 すると視界がグニャリと曲がる。俺はそのまま気を失ってしまった。

 

「──ちゃん! お兄ちゃん!」

 

 声がする。俺を呼んでいる声。真菰だろうか。

 俺はゆっくりと目を開ける。そこには、俺の顔を除いている真菰の姿があった。

 

「まこ、も……?」

「やっと起きたお兄ちゃん。大丈夫? うわっ! 目が凄いことになってる!」

「何で……真菰は鬼に喰われたはずじゃ……」

「何言ってるのお兄ちゃん。私は食べられてないよ?」

「だって、じいちゃんや錆兎、義勇も……」

 

 俺は起き上がって辺りを見回す。小屋の中にいて、そこには死んだはずのじいちゃん、錆兎、義勇もいた。

 

 ──そっか。俺も死んだのか……

 

「何寝ぼけた事を言っている」

 

 すると奥の方にサスケさんの声がした。だが、サスケさんの姿は無く、いるのは猫だった。

 

「あれ、あの時の野良猫……」

 

 すると野良猫が急にポンっ! と音と煙を立てた。するとそこにはサスケさんの姿が。

 

「サスケさんが……猫……?」

「凄い凄~い!!」

「一体何がどうなっているんだ……」

 

 真菰ははしゃぎ、錆兎は何が何だかわからず頭を抱えていた。

 

「【変化の術】。お前にも教えただろう」

「でも、何で……」

「少しばかり、お前に幻術を掛けさせて貰った。その幻術は、大切な家族の死」

 

 あの時の光景が浮かんだ。

 

「何でそんな事を……!」

「そろそろ頃合いだと思っていたからな」

「頃合い……?」

「見てみろ」

 

 俺は鏡を渡され、見る。すると俺の目に変化が出ていた。瞳孔以外の部分は赤くなっており、瞳孔の周りに黒い勾玉模様が両目に一つずつ浮かんでいた。

 

「何だ、これ……」

「写輪眼だ」

「写輪眼?」

「ここ最近、目に違和感を感じなかったか?」

「言われてみれば……」

「それは写輪眼の開眼の前兆だった。でも、写輪眼の開眼には条件がある」

「条件?」

「それは、憎しみや悲しみだ」

「憎しみや悲しみ……」

 

 するとサスケさんは写輪眼について語ってくれた。本来写輪眼はサスケさんの一族しか開眼しない事。俺にはその一族の血が強く受け継がれている事。写輪眼は憎しみの感情が増大するほど瞳力も飛躍的に高まっていくという事。

 

「ちょっと待ってよ! って事はお兄ちゃんは常に憎しみの感情を持ってないといけないって事?」

 

 真菰がサスケさんに聞く。

 

「写輪眼を本来の形にするには、そうするしかないだろう。でも、憎しみの感情だけで強くなるかと言われれば、そうではない。佐助。お前は何のために強くなる?」

「何のため。それは──」

 

 それは、大切な人を、未来を守るため。

 

「その気持ちがあれば、お前の写輪眼は強くなる。憎しみに囚われずにな」

 

 その言葉を言ったサスケさんの表情は、少し暗かった。

 

「今日はもう遅い。明日は朝から俺と修行するぞ。写輪眼について、そして、新たな術を教える」

「え~私も行きたい~」

「真菰、我が儘を言うな。これは兄さんにしか出来ないことだ。兄さん。明日は気にせずに行ってきてくれ」

「ありがとう錆兎」

 

 こうして俺は新たな力、写輪眼を手に入れた。




感想や評価を頂けると、作者は泣いて大喜びします。


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第九話 最終選別

年代の都合により、主人公が飛ばされた時代を大正から明治に変更しました。

☆9:Izumi san 様

評価ありがとうございます!


 俺が写輪眼を開眼してから数ヶ月。遂にこの時が来た。

 

「……行くんだな。最終選別に」

「……あぁ」

 

 俺は身支度をしながら答える。サスケさんから貰った服に、じいちゃんから借りた日輪刀に紐を通し肩にかける。

 

「よし! じゃあ、行ってくる」

「佐助。お前にこれを」

 

 そう言って渡されたのは狐のお面だった。

 

「これは厄除の面だ。こいつがお前を守ってくれるだろう」

「ありがとうじいちゃん」

 

 俺は面を受け取り、横にずらして頭に装着する。

 

「真菰、錆兎、義勇。俺がいなくてもちゃんと修行しておくんだぞ」

「絶対に帰ってきてね! お兄ちゃん!」

「負けるなよ、兄さん」

「待ってる」

 

 そういう三人の頭を撫でて、改めて四人に言った。

 

「行ってきます」

「「「「行ってらっしゃい!!」」」」

 

 四人に見送られ、俺は最終選別の会場となる藤襲山へ向かった。

 俺が藤襲山に着くと、二十人程の人がいた。

 すると、二人の童子が話を始める。話の内容は、この山の中にいる鬼から七日間生き残れと言うことだ。

 そして遂に始まりの合図が放たれた。その瞬間、二十人もの人たちは走って中に入って行く。

 みんなが地面を駆ける中、俺は木々を飛んでいた。

 

 ──この選別の本当の目的。それは自分の力で生き残る事だろう。沢山の鬼を倒しても、死んでしまっては意味がない。だから別に無理に鬼と戦わなくても良い訳だが……

 

 すると下の方で早速鬼とやり合っている人を見つけた。その人は恐怖に怯えているのか、全く身体が動けていない。このままでは喰われて死んでしまうだろう。

 

 ──ここで死なれたら、後味が悪いな。

 

 俺はそう思い、鬼に向かって素早く下りる。そして一瞬で頸を斬った。

 

「ひ、ヒィイイイイイイ……」

「おいアンタ。そんなんで物怖じしてたら、無駄死にするだけだ。山を下りて諦めるか、死に物狂いでやるか、どっちかにしろ」

「き、君は怖くないのかい……? 見た所まだ幼い様だけど……」

「年齢は関係ないだろ。それに、俺は家族を鬼に殺されてる。その鬼を殺すために、俺は鬼殺隊になるんだ。こんな所で物怖じしてられるか」

「……強いね、君は」

「強くなるんだよ。これからもな」

 

 そう言って俺はその場から離れた。

 

「き、消えた……?」

 

 こうして俺の最終選別が本格的に始まった。

 最終選別が始まって四日経ったある日の事だった。

 

 ──何かパッとしないな。どの鬼も手ごたえが無い……色々試したかったんだけどな……

 

 そんな時だった。

 

「な、何で異形の鬼がいるんだよぉ!!」

 

 ──異形の鬼? 

 

「おい餓鬼! 逃げろ! この先は危険だぞ!」

 

 そう言って俺の横を通り過ぎる。俺は耳も傾けず、目の前から来る異形の鬼とやらに興味があった。

 すると向こうからやって来たのは、沢山の手があり、その手で頸を守っている鬼がやって来た。

 

「……おい、餓鬼。その面を付けているという事は、鱗滝の餓鬼だな?」

「……じいちゃんを知っているのか?」

 

 この会話だけで感じ取った。この鬼、ただの鬼ではない。

 

「俺は鱗滝の餓鬼を十人程喰ってきた。お前で十一人目だ」

「させるかよ。俺は死なない」

 

 俺は刀に手をやり、戦闘態勢に入る。

 そして、サスケさんとのやり取りを思いだした。

 

 ☆☆★☆☆

 

「良いか佐助。写輪眼が出来ることは主に三つ」

「三つ?」

「相手の術をコピーする。相手の動きを見切る。そして幻術だ」

「コピーって、そもそも忍術使えるの俺とサスケさんだけじゃん。あまり意味なくない?」

「その通りだ。だからお前には、相手の動きを見切る洞察眼と幻術を教える。と言っても、洞察眼に関しては慣れだ」

「幻術ってさ、鬼にも効くの?」

「俺は一度試してきた。幻術は鬼にも効くみたいだな。それに忍術も効くらしい。頸を斬らなくても消滅した」

「なるほどな」

 

 ☆☆★☆☆

 

 恐らく、この鬼はただでは殺れないだろう。だから、使うしかない。

 俺は目にチャクラを送り、写輪眼を発動した。

 

「餓鬼ぃ……何だその眼は……」

「俺しか使えない(もの)さ。何処からでも来いよ」

 

 その言葉が挑発になったのか、手鬼は俺の下に走ってくる。俺は写輪眼で手鬼の攻撃を見切った。

 俺は手鬼の股の下をすべる様に躱し、背後に回った。そして頸を斬ろうとした。

 

 ──か、硬い……! 

 

 だが思ったより硬く、刀が頸まで届かなかった。

 俺は一度距離を取り、体勢を整える。すると無数の手が俺に向かってきた。俺は写輪眼で見切り、腕を斬ってく。

 

「何故、何故攻撃が見切られる!!」

「この眼のお陰だよ」

「その忌々しい眼……潰してやるぅ!!」

 

 また無数の手がやって来た。俺は写輪眼で見切って躱そうとするが、動けなかった。

 

「なに!?」

 

 いつの間にか地面から生えてきた手に、足を掴まれていたのだ。このままでは攻撃を喰らってしまう。

 

 ──くそっ! 一か八かだ! 

 

 俺はわざと無数に来る手を避けずに、攻撃を受けた。

 

「ガハハハッ! さっきまでの威勢はどうした……ん?」

 

 だが、そこには既に俺はいなかった。

【変わり身の術】。攻撃を受けそうになったときに、丸太などに身代わりをしてもらう術だ。

 俺は手鬼の背後に再び回る。今度は印を結んだ。

 

「【火遁・豪火球の術】」

 

 火の塊が手鬼の背後を襲い、木に激突する。

 

 ──今だ! 

 

 俺は手裏剣を投げるが、手鬼には当たらなかった。

 

「どうした? 当たらないではないか」

「わざと当ててないんだよ」

「何……?」

 

 手鬼は動こうとするも、動けなかった。それもその筈。俺は手裏剣にワイヤーを付け、手鬼に巻き付くように手裏剣を投げたのだ。

 ワイヤーの端は俺が咥えている。新たな忍術を試す時だ。俺は印を結んだ。

 

「【火遁・龍火の術】」

 

 龍の形をした火がワイヤーを伝って、手鬼を燃やしていく。

 

「グアアアアアアア!!」

 

 俺はまた別の印を結ぶ。この術は、今の俺には使用回数が限られた術だ。

 右手に雷を纏い、手鬼の下に駆け寄る。

 

「【千鳥】!」

 

 俺は新たに覚えた忍術【千鳥】で手鬼の頸を刎ねた。すると手鬼は灰となり、消滅した。

 

 ──忍術が効くって、本当だったんだ……

 

 俺はその場に倒れた。

 

「ハァ……ハァ……チャクラを使いすぎた……」

 

 ──今日の空って、こんなに綺麗だったんだな……

 

 俺は夜空に浮かぶ小さな星たちの光を見て、そう思うのだった。




感想や評価を頂けると、作者は泣いて大喜びします。

また、アンケートの大正こそこそ噂話を、年代の関係により明治こそこそ噂話に変更します。


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第十話 ただいま

☆9:コクマ 様
☆8:スタンドN 様
☆5:ぽるてる 様
☆1:フロスト 様

評価ありがとうございます!


 藤襲山に入って七日目。遂にこの時が来た。

 

「うおぉぉら!」

 

 俺は鬼の頸を斬り、消滅させる。

 

「終わったか……」

 

 俺は日輪刀を鞘に収め、藤襲山を下って行く。

 藤襲山の入り口に着くと、そこには童子を除いて二人しかいなかった。始まりは二十人程いたのに、今となっては俺含め三人しか残らなかった。

 

「あ、君も生き残ったんだね。あの時はありがとう!」

 

 そう言って声を掛けてきたのは、初日に俺に助けられた剣士だった。どうやら、生き残ったらしい。

 

「あなたも生き残ったようで、良かったです」

「幼い君が頑張ってるんだ。負けてられないよ」

 

 その表情に、恐怖は無かった。

 

「俺は矢場。宜しく」

「早島佐助です。宜しくお願いします」

「敬語はよしてくれ。同期なんだ。一緒に頑張ろう」

 

 矢場の言葉に甘えて、俺は敬語をやめた。すると、童子が話し始めた。

 

「おめでとうございます。あなた方三名は無事、最終選別に合格しました。これより、隊服を支給させていただきます。身体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」

「階級は十段階御座います。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸となり、皆様は一番下の癸となります」

「そして皆様には鎹鴉を付けさせていただきます。この鎹鴉は主に、連絡用としてお使いください」

 

 ──未来で言うスマホみたいなものか。

 

 そう言って俺達の肩に鴉が乗る。

 

「よろしくな」

「カァー!」

 

 俺は鴉の顎らへんを撫でる。鴉は気持ちよさそうに鳴いた。

 

「これから皆様に、刀を作る玉鋼を選んでいただきます。鬼を滅殺し、己の身を護る刀の鋼は御自身で選ぶのです」

 

 そう言われ、俺は玉鋼を取った。すると急に玉鋼が光り出す。

 

「な、何だぁ!?」

 

 あまりにも眩しかったため、俺達は目を瞑る。光が治まり、俺達はゆっくり目を開ける。すると持っていた筈の玉鋼が既に刀に変わっていた。

 

「あ、あれ……?」

 

 しかもその日輪刀はじいちゃんから借りた奴とは違い、(つば)のない大刀の形をしていた。

 

「佐助、お前一体どうなってんだよ!」

「いや、俺も分かんない……」

 

 矢場はもの凄く驚き、俺も驚きを隠せなかった。

 そんなこんなで、俺の最終選別は幕を閉じた。俺と矢場は別れ、俺は狭霧山へと向かう。

 その道中、俺はサスケさんに会った。

 

「最終選別、合格したようだな。所で、その剣はどうした」

 

 サスケさんは俺の大刀を見る。俺は事情を説明した。するとサスケさんは言った。

 

「それは草薙剣。俺が十代の時に使っていた刀だ。この剣は【千鳥】を通電させることが出来る。そうすることによって、技の幅も広がるだろう」

「サスケさんが使ってた剣か。でも何で急に……」

「……さぁな。足止めして悪かった。早く帰ってやれ」

「ありがとうサスケさん」

 

 そう言って俺はサスケさんの横を通って、じいちゃんの小屋に急ぐのだった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 佐助が去った後。サスケは一人考えていた。

 

 ──写輪眼を開眼した時、俺はうちはの血を引き継いでいると言ったが、うちはの血ではなく、俺の血を受け継いでいる可能性が高い。そうなれば万華鏡写輪眼も、俺と同じかもしくは……いや、アイツが闇に染まる事はほぼないとは思うが……まさか日輪刀が草薙剣になるなんてな。それに服もボロボロになってる。鬼殺隊入隊祝いに、アイツの隊服を蛇時代に来ていた服にさせるか。

 

 そう考えるとサスケはその場を後にした。

 

 ☆☆★☆☆

 

「そうか、今回は三人か……」

 

 ある屋敷で一人、呟く人物が一人。

 

「呼吸ではなく不思議な術を? それに目が赤くなった……鬼の可能性は無きにしもあらずだね……」

 

 すると、近くにいた鴉が羽ばたいてどこかへ飛んでく。

 

「それに玉鋼がいきなり刀に……早島佐助、十歳。異例の若さで鬼殺隊入りか。嬉しい話だけど、少し君の事は監視させて貰うよ」

 

 ☆☆★☆☆

 

 狭霧山の麓に近付いて来た時、声が聞こえた。どうやら錆兎と義勇が稽古をしていたのだろう。その近くで、真菰が座っていた。

 

「お兄ちゃん、早く帰ってこないかなぁ……」

「真菰、そればっかりだな」

「兄さんは強い。簡単に鬼に負ける訳がないだろう」

「そうだけどさぁ」

 

 なんか真菰が可愛いんだが。いや、元から可愛いのは知っていたけど、この七日で更に可愛さが増したか? 

 すると真菰がこっちを見る。俺に気が付いたのか、目を見開いて嬉しそうな表情でこちらに走って来た。

 

「おにいちゃーん!」

 

 そう言って飛び込んできた所を、俺は受け止める。

 

「お帰り! お兄ちゃん!」

「ただいま真菰。ちゃんと稽古してたか?」

「もちろん!」

「お帰り、兄さん」

「お帰り」

「ただいま、錆兎、義勇。じいちゃんは?」

「ここにおる」

 

 背後からじいちゃんの声が聞こえた。そして振り向く前に、抱き締められた。

 

「よく、帰って来た……」

「あぁ……ただいま」

 

 こうして俺は、鬼殺隊に無事、入隊できた。

 これから先、どのような出来事が待ってるのか。俺はまだ知らない。

 

 ──守ってやる。じいちゃん、真菰、錆兎、義勇。俺の大事な家族だ。絶対に死なせるもんか。待ってろ。鬼舞辻無惨……! 

 

 新たな物語~完~



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鬼殺隊の物語
第十一話 鬼殺隊・早島佐助


☆10:綾翔 様
☆9:シルスキー 様
☆7:GIN3869 様

評価ありがとうございます!


 最終選別を終えて数日。俺の元に隊服が届いた。

 届いたのだが……

 

「……サスケさん。本当にこれが隊服なんですか?」

「お前は忍術を使う。普通の隊服じゃ耐えきれないと思い、俺が用意した」

「……確かに背中に『滅』の文字はありますけど……」

 

 サスケさんに鬼殺隊入隊祝いとして、隊服を届けて貰った。いや、貰ったの方が正しいだろう。

 

「これ、胸元丸見えじゃないですか……」

「カッコいいよお兄ちゃん!」

「流石だ兄さん」

 

 真菰は目を輝かせ、錆兎は憧れの目で見ている。義勇は錆兎の言葉に頷いていた。

 

「まぁ動きやすいから良いけどな」

 

 そう言って腰に巻いてある縄に草薙剣を通して腰に付けた。

 

「まさか十歳で鬼殺隊に入るとは、お館様も黙ってはいられないだろうなぁ」

「お館様?」

「お前達鬼殺隊の当主だよ」

 

 ──鬼殺隊の当主ねぇ。確かに、今回の最終選別の事はそのお館様に情報が行き渡ってもおかしくない。ただ、俺の情報がどう伝わってるかだな。

 

 俺は外に出て辺りを見渡す。すると一匹の鴉がこちらを見つめていた。

 

 ──呼吸が使えず、忍術を使う俺を監視と来たか。ま、予想はしてたけどな。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「……いや、何でもない」

 

 そう言って中に入ろうとした時だった。

 

「佐助。指令ダ」

 

 俺の鴉が言う。俺の鴉は比較的おとなしい。付き人に似るのだろうか? 

 

「南東ノ街ニ向カエ。ソコデ子供達ガ多数行方不明ニナッテル」

「了解」

 

 俺は鴉を肩に乗せ、じいちゃん達に指令に行く事を伝えた。

 

「気を付けてな」

「早く帰ってきてね!」

「帰ってきたら稽古だからな」

「待ってる」

「おう。じゃあ行ってきます」

 

 そう言って俺は出発した。

 鴉の案内により、俺は半日足らずで目的の街に着いた。

 

 ──さてと、早速聞き込みと行きましょうか。

 

 俺はまず、近くの大人に声を掛けた。

 

「すみません」

「あ? 何だ餓鬼?」

 

 ──が、餓鬼か……まぁまだ十歳だもんな……

 

「最近ここらで怪しい人影とか、噂を聞いてませんか?」

「怪しい人影? さぁ見たことないけど。でも、近頃子供がいなくなるって事が多いみたいだな」

「なるほど……」

「丁度お前ぐらいの子供がいなくなるらしいぜ。お前も気を付けな」

 

 そう言ってその人は離れていった。

 

 ──俺ぐらいの歳の子を狙ってる……なら、この指令は俺にもってこいって感じだな。

 

 近くの団子やで一服する。すると、何やら話し声が聞こえた。

 

「おい。聞いたかよ。昨日は佐々木さんちの子供がいなくなったらしいぜ」

「怖いねぇ。しかも女の子でしょ?」

「って言うか、女の子が次々いなくなるって話だろ? 怖くてうちの子は外も出せねぇよ」

 

 ──十代くらいの女の子がいなくなるケースが多いのか。なら、あれを試してみるか。

 

「おばちゃん、ご馳走様」

「毎度ありぃ」

 

 俺は人の気の少ない所に行き、周りに人がいないのを確認する。

 

「よし。変化の術」

 

 印を結び、俺は真菰に変化した。こうすれば、犯人は俺を狙うと見込んだのだ。

 

 ──あとは、その時を待つだけだな。

 

 そして辺りが真っ暗になった時、俺は街を散策する。噂が出回っているのか、人の気配が全くない。

 そんな時だった。俺の後を誰かが付けていた。

 

 ──さて、この作戦が吉と出るか凶と出るか。

 

 俺は走り出し、曲がり角を曲がる。すると俺を付けていた奴も走り出し、曲がり角を曲がって来た。

 けど、そこに俺はいない。俺は曲がった後すぐ近くの家の屋根に乗り、身を潜めていた。辺りが暗いため、俺は写輪眼を使ってそいつを見る。見た目は人間、だが……

 

 ──間違いない。鬼だ。

 

 俺は写輪眼でそいつの正体を見破った。写輪眼で鬼を見た時、その鬼から赤いオーラが出ているのが分かる。普通の人は青いオーラだ。

 俺はすぐに頸を斬ろうとしたが、話を聞くために屋根から降りて鬼の背後に回った。

 

「お兄さん。私の事を探しているの?」

 

 俺は鬼に声を掛ける。すると鬼はいきなり声がしたことに驚いたのか、ビクッとしてからこちらを見た。

 

「……君。こんな夜遅くに何やってるの? お兄さんがお家に返してあげるよ」

「なるほどな。そう言って数々の女の子供を攫ってきたのか」

「……なに?」

「お前が鬼って事は知ってんだよ。人間のフリしやがって」

「……貴様、何者だ」

「鬼狩りだよ。君が嫌いな」

 

 するとその鬼は唸り声をあげて豹変した。すると身体から一体、また一体と分裂した。

 

「おいおい……お前分裂すんのかよ」

「喰ってやる……貴様を喰ってやるぅううううう!!」

「威勢がいいこって。さて、俺もやりますか」

 

 俺は変化の術を解いて、一気に鬼に向かって走って行った。

 

「貴様! 姿を変えていたな!?」

「だから何だよ。俺は呼吸は使えないが、忍術は使えんだ。それくらい普通だろ」

「黙れぇええええ!!」

 

 更に分裂して、鬼は十体になった。

 

「おいおい多すぎだろ。一人で相手すんの? これ」

 

 俺は草薙剣を抜き、一体の頸を斬った。だが、そいつを斬った感覚は無かった。

 

 ──なるほど。分身の術みたいな感じか。なら、本体をやった方が良さそうだな。

 

 俺は一旦距離を置き、写輪眼を発動する。九体の鬼の中で、一体だけオーラを纏った鬼を見つけた。

 

「貴様……何だその赤い眼は?」

「お前は知らなくても良い事だよ。それより、お前が攫った子供たち、どうした?」

「そんなものもういねぇよ。全部腹の中だ! 美味かったなぁ……」

 

 そう言って涎を垂らす鬼。

 

 ──もういい。こいつに用はない。

 

 八体の鬼分身が、俺に襲い掛かる。俺はあっという間に全員斬った。あまりの速さに、鬼は何も出来ずにいた。

 

「……何か言いたいことは?」

「ど、どうか命だけは……!」

「無理」

 

 そう言って俺は鬼の頸を斬った。頸を斬られた鬼はそのまま灰になり、消滅した。

 

「次ハ南西ノ小サナ里ダ。ソコデハ次々ニ人ガ喰ワレテイルラシイ」

「了解だ」

 

 俺はそのまま南西方面に向かった。




明治こそこそ噂話!

佐助が来ている服は、サスケが蛇の頃に来ていた服だぞ!
唯一違う点は、うちはのマークが滅の文字になっただけかな。


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第十二話 血鬼術

☆9:キムソン 様、sakura3953 様
☆7:神崎刹那 様

評価ありがとうございます!


 鴉の指示通り、南西の小さな里に向かった俺。

 その日のうちに着いたため、俺はすぐに里に入り辺りを警戒する。

 

 ──今の所敵の気配は無し。このまま捜索を続けるか。

 

 その時、誰かが俺に声を掛けてきた。

 

「もしかして、鬼狩り様ですか?」

 

 声のする方を見ると、白髭の長いお爺さんがいた。

 

「俺は確かに鬼狩りですけど……あなたは?」

「私はこの里の長をしている者です」

「里長でしたか。丁度良かった。少しお話を聞いても?」

「はい。こちらに」

 

 そう言って俺は里長に付いて行った。里長の家に着くと、中には里長の奥様らしき人と、その子供がいた。

 

「それでは里長。近頃里の人達が行方不明になったというお話はありますか?」

「……はい。二日ほど前の事です。近くの山に遊びに行った五人の子供達が帰って来なくなったことが始まりでした。翌日、子供達を捜索しようと三人の大人が向かったのですが、その三人のうち、二人は帰ってきませんでした。そこから、あの山には近づかない様に言いました」

「なるほど。つまりその山に鬼がいるかもしれない、という事ですね」

「はい」

「その帰って来た一人にお話を聞いても?」

「分かりました」

 

 そう言って里長と俺は一人で帰ったという人物の家に向かった。

 

長信(おさのぶ)。私だ」

 

 そう言って開けてくれたのは、顔がやつれており隈も凄かった長信さんだった。

 

「この人は鬼狩り様だ。話が聞きたいと言っている」

「こんな餓鬼に何が出来るんだよ……言った所で何も変わらない……」

「あなたが俺の事をどう思おうが勝手だが、情報をくれないと、鬼だった場合退治しようにも出来ない。だから、あの日見た事を教えてくれ」

「……昨日の昼、行方不明になった子供達を探そうと山に入った」

 

 そう言って長信さんはその時の出来事を鮮明に話してくれた。長信さん達は山奥に入ると、腕のようなものが見えたらしい。子供が寝ているのかと思って見てみると、そこには子供の姿が無く、腕だけだったそうだ。それを見て長信さん達は鬼が出たと急いで逃げるが、残りの二人がいつの間にかいなくなっていたらしい。怖くなった長信さんは急いで山を下りたそうだ。

 

「なるほど。腕以外に見たものは?」

「いや、腕だけだ。それにその腕触ったら、まだ温かかったらしいんだ。だから、子供達の腕だと思って……」

 

 ──という事は、鬼はその腕だけを残してあとは全部喰ったって事か? けど、何で腕を残して……ん? 温かかった()()()……? 

 

「長信さんは、その腕に触りましたか?」

「いや、触ってない。他の二人は触ったけど……」

「……そういうことか。長信さん。その腕に触らなくて正解でした。触ってたら今頃、ここにいないかもしれませんね」

 

 俺がそう言うと、長信さんは震えてしまった。

 俺はその山に向かうと言い、長信さんの家を後にした。

 

 ──長信さん達が見た腕は恐らく、鬼が用意した罠だ。その腕に触ると連れ去られる呪いか何かを仕掛けたんだろう。けど一つ疑問に思うのが、昼間向かったのにいなくなったって事だ。鬼は日の光が嫌いなはず。なのに何故、二人は消えたのか。答えは一つ。

 

 俺は振り向き、地面に向かって刀を振った。すると地面から腕が生えており、その腕を斬った。

 

「地面の中にいれば、日の光を浴びなくても済む。そうだろ?」

「よく分かったな。俺の存在が」

「バレバレだよ。そんな殺気立てながら背後にいられたら、嫌でも気付くわ」

 

 そう言うと地面から鬼が出てきた。鬼に足は無い。いや、地面とくっついていると言った方が良いだろう。口は裂けており、舌はもの凄く長い。まるで蛇だ。

 

「お前が仕掛けた腕。あれはお前が喰った子供の腕だな。その腕にある仕掛けをした。触れたものを地面に引きずりこむ。そうだな?」

「餓鬼の癖して頭が回るな」

「生憎、俺は中身が大人なんでね」

「お前の言う通り、餓鬼の腕にある血鬼術を施した」

「血鬼術?」

「俺達が持つ力の事さ。人を沢山喰った鬼に発現する、素晴らしい力さ」

「なるほど。お前は血鬼術が発現するほど、人間を喰ったんだな」

「その通りさ。美味いよなぁ人間は」

 

 ホント、鬼は俺をイラつかせる。罪のない人間を喰って、その人の命を奪う。それが腹立たしくて仕方ない。

 

「お前も喰ってやるよ」

「喰えるもんなら、喰ってみな」

 

 俺は構え、鬼の出方を窺った。

 

「血鬼術・引力」

 

 すると俺の身体が浮き、鬼に引き寄せられた。

 

「くっ!」

 

 俺は引き寄せられた力を利用して、鬼の頸を斬ろうとした。

 だが鬼は地面に潜り、躱されてしまった。

 

「ハハハハハ。次は何処から来るかなぁ?」

 

 俺は写輪眼を発動して辺りを見渡す。だが、鬼の気配は無い。

 

「完全に気配を断ってるのか……」

「よそ見してたら食べられるよぉ?」

 

 ──くそ……どうすれば良い。写輪眼でも見破れない。地面にいると頸を斬る事も出来ない……どうすれば引きずり出すことが出来る……

 

 俺は考えた。その時、サスケさんの言葉を思いだす。

 

『この刀は千鳥を通電させることが出来る』

 

 ──そうか! ならやってみる価値はある。

 

 俺は地面に刀を刺し、千鳥の印を結んだ。右手に千鳥を発動し、その状態で柄を握った。

 すると千鳥は柄を伝って良き、刃まで流れる。

 

「千鳥流し!」

 

 地面に流れた千鳥で、鬼が麻痺して出てくる。

 

「土は雷を通す。お前はまともに動けない」

「お前も、血鬼術使いか……?」

「鬼じゃない俺に血鬼術が使える訳ないだろ」

 

 そう言って俺は鬼の頸を斬った。

 辺りを捜索すると、大きな木があった。そこを調べると中が空洞になっており、そこには鬼が住んでいたような形跡があった。そしてそこには、喰われて腐敗した人間が二人いた。恐らく、長信さんと一緒にいた人達だろう。

 

「間に合わなくて、すみませんでした……」

 

 俺は合掌し、死体を埋め山を下りた。

 里長と長信さんに会うと、お礼を言われた。これでこの里に被害が出ることは無いだろう。

 それから俺は様々な所に行き、鬼退治をした。最初は餓鬼だと馬鹿にされるが、実力を知られると手の平を返す様に態度が変わる。早く大人になりたいものだ。

 そして十二歳になった俺は、階級が戊になった。




明治こそこそ噂話!

佐助のチャクラの性質は、雷らしいぞ!
サスケと一緒だな!


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第十三話 お館様

お気に入りが100件を超えました!
ありがとうございます!


 十二歳になり、階級も戊になったある日の事。俺は鴉によってある場所に来ていた。

 

「君が佐助だね?」

「はい」

「私は産屋敷耀哉。皆からはお館様と呼ばれているよ」

 

 そう。お館様の屋敷に来ているのだ。

 

「それでお館様。私に何の様でしょうか?」

「堅苦しい話は無しにしよう。普段通りの喋り方で良いよ。ここには君と私しかいない」

「じゃあお言葉に甘えて。それで、お館様は俺に何の様で? まぁ、あらかた予想は付いていますけど」

「その予想と言うのは?」

「異例の若さで鬼殺隊に入った俺を、実際に見て見極める。といった所かな」

「何故、そう思うんだい?」

「俺に鴉ずっと付けさせてただろ。俺の鴉じゃなく、アンタの」

「驚いた。観察眼も良いんだね」

 

 お館様は素直に驚いていた。

 

「君の言っている事は正しいよ。十歳という若さで鬼殺隊に入り、呼吸を使わず奇妙な術を使う。そして窮め付けは君の眼だ。普段は黒い眼なのに、何故か戦闘になると赤くなる。だから私はこの二年、君を監視していた。だが君は怪しい行動を見せず、鬼を狩り、暇なときは弟子達の稽古をつけていた。それにあの鱗滝に育てて貰ったとは。それを見ては、君を認めざるを得ない。ここ二年のご無礼を、許して欲しい」

 

 そう言ってお館様は頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。別に怒ってない。大体、俺はこうなる事を予想していた。それに、いつかは話したいと思っていたからな」

「そうか。そう言ってくれると助かるよ。それで、話したいこととは?」

 

 俺は深呼吸して、全てを話すことにした。

 

「まず、俺はこの時代の人間じゃない。俺はこの時代より百年以上の未来から来た」

「未来人、という事かな?」

「そう言う認識で構わない」

「どうして未来から?」

「俺の時代に、鬼が現れた。俺は鬼に喰われ、その時代で死んだ」

「鬼がその未来にもいるのか」

「いや、本来なら鬼は存在しない。鬼殺隊が、鬼舞辻無惨を倒したからだ」

「では何故鬼が……」

「何者かが歴史を変えたんだ。鬼舞辻無惨を倒したという歴史が、鬼殺隊が滅んだという歴史にな」

「なるほど。それで未来にも鬼が……」

「俺はその歴史を元に戻すべく、この時代に来た。俺には特別な力があるからな」

「それが、あの奇妙な術かい?」

「あれは忍術。忍が使う術で、血鬼術とは違う」

「呼吸を使わない理由は、君には忍術を使う力があるから、という認識で間違いないかい?」

「使わないと言うより、使えないんだ。呼吸が」

「そうだったのか……それでは、あの赤い眼も忍術かなんかかい?」

 

 そう言われ、俺は写輪眼を発動して実際に見せた。この二年、俺の写輪眼は勾玉模様が三つ巴となった。

 

「この眼は写輪眼。攻撃を見切ったり、幻術をかける事が出来る」

 

 説明し、俺は写輪眼を解く。

 

「なるほど。君が鬼殺隊に入ってくれて、とても心強いよ」

「俺はまだ餓鬼だけどな」

「それでもだ。そんな君に、一つ指令を出したい」

 

 そう言うと、外からかなりデカい男が入って来た。何故か数珠を持っている。

 

「お呼びでしょうか、お館様」

「彼は悲鳴嶼行冥。柱の一人だよ」

 

 柱。じいちゃんから聞いた事がある。鬼殺隊の中でも強さを誇る存在。それが柱。まさかそんな人に会えるなんて。

 

「行冥。彼は佐助。今回の指令に付き添ってもらいたい」

「お館様。いくらお館様の申し出であっても、理解できませぬ。何故この様な子供に」

「行冥、彼は十歳で鬼殺隊に入っていて実力もある。君の力になってくれるはずだよ」

「なんと十歳で……! 承知しました。佐助とやら、宜しく頼む」

 

 こうして俺は岩柱・悲鳴嶼行冥の付き添いが決まった。




明治こそこそ噂話!

佐助と行冥、階級は行冥が上だけど、鬼殺歴は佐助の方が一年上らしいよ!
そして行冥は十八で鬼殺隊に入り、一年で柱に入ったんだって! 凄いね!


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第十四話 蝶の姉妹

☆9:Ex10 様、マーボー神父 様、タクミスター 様 ロビンソンロビンソン 様

評価ありがとうございます!


 お館様に言われ、ツーマンセルを組むことになった俺と岩柱の悲鳴嶼さん。移動中は特に会話なく、ただ目的地に向かっていた。

 だが、流石に痺れを切らした俺は、悲鳴嶼さんに話しかける。

 

「それにしても凄いですね。鬼殺隊に入って一年で柱になるなんて」

「君も凄い。十歳で鬼殺隊に入るなんて」

「俺にはやるべきことがあるんです。その為にも、進まなければならない」

「……復讐か?」

「まぁ、そんなとこです」

「あぁ。可哀想に……」

 

 そんな会話をして、目的地へと向かった。

 

 ☆☆★☆☆

 

「やめて……来ないで……」

 

 ある屋敷にて、何者かに狙われてる人物が二人。

 

「お父さん、お母さん……」

 

 妹と思われる人物は涙を流していた。目の前で父と母が喰われたのだ。

 

「安心しろ。お前達ももうすぐ連れてってやる」

「なぁ早く喰っちまおうぜ。腹減って仕方ねぇんだ」

「まぁそう焦るなよ。俺達三人でゆっくり食べようぜ」

 

 そう。鬼だ。鬼が三体現れたのだ。

 

「姉さん……」

「大丈夫よしのぶ。私が守るわ」

「かぁ~素晴らしいね姉妹愛! 二人仲良く、逝かせてあげるよ!」

 

 ──あぁ。私もここで終わりなのね。せめてしのぶだけでも……

 

 諦めかけて目を瞑った、その時だった。

 

「ぐはぁっ!」

 

 少女を食べようとした鬼が吹き飛ばされたのだ。少女達はうっすらと目を開ける。

 

「悲鳴嶼さん。今回の目的地はここで良いのか?」

「あぁ。ここで間違いない様だ。だが、間に合わなかった……」

 

 二人の目の前には、二人の剣士がいた。

 一人はとても大柄で、もう一人は少女と大して年齢が変わらなかった。

 

「二人共、早く逃げろ。これから見たくない物見ることになるぞ」

「佐助よ。彼女達を連れて行け」

「……分かりました。こっちにこい」

 

 佐助は二人を立たせ、巻き込まれない様にその場から離れた。

 

「あなた達は鬼狩り様ですか?」

 

 姉と思われる少女が佐助に話しかける。

 

「その通りだ。因みにあの人は柱。鬼殺隊の上の存在だ」

「因みに、あなたは?」

「俺は二年前に鬼殺隊に入った。歳は十二」

 

 ──十二歳!? 私より一つ上……それより、十歳で鬼殺隊に入ったの……? 

 

 そんな会話をして、屋敷より離れた所から、別の鬼が数体やって来た。恐らく血を嗅いできたのだろう。

 

 ──悲鳴嶼さんが言ってた事は、こういう意味だったんだな。

 

 彼女達だけを逃がさなかった理由。それは別の鬼が来ると踏んでいたのだ。

 

「人間だぁ! 人間を喰わせろぉ!!」

「うるさいよ」

 

 一瞬だった。前にいた鬼の頸がいつの間にか斬れていたのだ。それを見た他の鬼達が恐怖で震えあがる。

 

「お、鬼狩りだぁ!」

「逃げろ! 殺されるぞ!」

「逃がすわけないだろ」

 

 佐助は右手に雷を纏わせると、それを一体の鬼に向けた。

 すると雷は鬼に向かって一直線に伸び、貫くとそこを中心に雷の槍が広がって行った。

 

「千鳥鋭槍」

 

 すると雷の槍は鬼を次々と貫いていく。すると鬼は頸を斬られていないにも関わらず、灰になって消滅した。

 そして気付いたら、辺りに鬼はいなくなっていた。

 

 ☆☆★☆☆

 

 俺は新たに来た鬼を退治した。千鳥に形態変化を加えた千鳥鋭槍も使い、楽に倒せた。この二年でチャクラ量も増え、千鳥だけは印を結ばなくても繰り出せるようになった。

 

「取り敢えず鬼はいないな。大丈夫か、お前達」

 

 俺は写輪眼で辺りを見渡し、鬼がいないことを確認する。

 

「あの、助けて下さり、ありがとうございます」

 

 背の高い少女が頭を下げてきた。

 

「気にするな。鬼狩りはそれが仕事だ。だが、お前達の両親を救うことが出来なかった。すまない」

 

 今度は俺が頭を下げる。大切な家族を救うことが出来なかった。

 

「頭を上げてください。気にしてないと言えば嘘になります。ですが、私達は救われました。それだけで充分です」

「そうか。そう言ってくれるだけでありがたい」

 

 そういう少女の表情は、少し曇っていた。隣にいた妹と思われる少女は今にも泣きそうだった。

 

「佐助。そちらは終わったか」

 

 すると悲鳴嶼さんがこちらにやって来た。悲鳴嶼さんの方も終わったのだろう。

 

「こっちは終わりました。悲鳴嶼さんもお疲れ様です」

「うむ。それで、彼女達はどうする」

 

 悲鳴嶼さんは彼女達を見る。彼女達の両親はいなくなってしまった。二人だけで生きて行くには、厳しいだろう。

 

「……俺の所で預かります」

「良いのか?」

「はい。二人の両親は亡くなってしまった。罪滅ぼしとはいきませんが、二人の安全は確保したい」

「佐助がそう言うなら、良いだろう。彼女達を送って行きなさい」

「ありがとうございます」

 

 そう言って俺は悲鳴嶼さんと別れ、二人──胡蝶カナエと胡蝶しのぶを連れて狭霧山に連れて行った。

 

「あの、鬼狩り様……」

「その鬼狩り様って言うのは止めてくれ。俺は早島佐助だ」

「佐助様──」

「様は止めてくれ。俺達は歳が近いんだし、普通でいいよ」

 

 狭霧山に向かう途中、俺とカナエは話していた。しのぶは鬼に襲われた恐怖から解放され安心したのか、今は俺の背中でぐっすり寝ている。

 

「じゃあ佐助君。今から行く場所は、私達以外にもいるの?」

「あぁ。じいちゃんは面倒見の良い人でな。家族を鬼に喰われて孤児となった子を拾っては育てている。俺も拾われた身だしな」

「そうなんだ……邪魔にならないかな」

「ならねぇよ。みんな立場は同じなんだ。だからそう気を張るな」

「う、うん……」

 

 そして小屋が見えてきた。俺はしのぶを起こすと、目をこすって背中から起きた。

 

「ただいま」

 

 俺がそう言うと、じいちゃんが出てきた。

 

「お帰り。彼女達が?」

「あぁ。手紙で言った二人だ」

 

 俺はここに連れてくる前、予め鴉に手紙を渡し、じいちゃんに教えていた。

 

「儂は鱗滝左近次だ。胡蝶カナエとしのぶだな。話は聞いている。入れ」

「は、はい」

「姉さん……」

「大丈夫よしのぶ。私達は今日から此処でお世話になるの。鱗滝さん、宜しくお願いします」

「固くならんで良い。今日から儂らは家族のようなものだ。楽にしろ」

「ありがとうございます」

 

 カナエとしのぶはじいちゃんに頭を下げた。

 そこで俺はある事に気付く。

 

「あれ、真菰達は?」

 

 真菰達がいなかったのだ。

 

「真菰、錆兎、義勇なら最終選別に行った」

「え? 俺何も聞かされてないんだけど?」

「お前は指令中だったろ。それに、お前を驚かせたいと言っていたぞ」

「因みにその真菰さん達はおいくつですか?」

 

 カナエが聞いて来た。

 

「え、十一だけど」

「わ、私と同い年……」

 

 その事を知って、カナエは何か思うことがあるようだ。だが、今は何も聞かないことにした。

 こうして鱗滝ファミリーにカナエとしのぶが加わった。




明治こそこそ噂話!

佐助は此処数ヶ月、狭霧山に帰ってなくて、真菰が暴れていたそうだぞ!
錆兎と義勇は、それを止めるのに呼吸を使ったとか……


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第十五話 おかえり

☆9:担々麵 様、貴将 様
☆6:ニュン 様

評価ありがとうございます!


 カナエとしのぶが家にきて二日が経った。カナエとしのぶはじいちゃんの家事の手伝いをしている。

 すると、玄関が勢いよく空いた。

 

「ただいま~!」

「鱗滝さん、ただいま戻りました」

 

 真菰達が帰って来たのだ。三人は所々汚れているが、大した怪我は見当たらなかった。三人はじいちゃんから貰ったであろうお面を頭に付けている。

 

「おかえり。良く帰って来た」

 

 じいちゃんは三人を抱き締める。

 

「帰りを待っていたのは、儂だけじゃないぞ」

 

 そう言ってじいちゃんは真菰達から離れる。

 

「おかえり、三人共」

「お兄ちゃん!」

 

 真菰は俺を見るやすぐに飛び込んで来た。俺はそれを受け止める。

 

「帰ってたんだね、お兄ちゃん」

「あぁ。ちょっとこっちに用事があってな。錆兎と義勇もおかえり」

「ただいま、兄さん」

「兄さんもおかえり」

「おう、ただいま」

「ん~久しぶりのお兄ちゃんの匂い~」

 

 そう言って俺の匂いを嗅ぐ真菰。知らない間に真菰が変態にジョブチェンジしてしまったようだ。

 

「真菰、離れろ。兄さんが困ってる」

「また止めないといけないのか……」

「苦労掛けるな、二人共……」

 

 錆兎と義勇は大きく溜め息をついた。

 

「真菰、取り敢えず離れてくれ。お前達に大事な話があるんだ」

「大事な話?」

「あぁ。帰ってきて早々悪いが、そこに座ってくれ」

 

 三人は俺と対面する形で座った。カナエとしのぶを呼び、俺の横に座らせる。

 

「俺達に新しい家族ができた」

「胡蝶カナエです。宜しくお願いします」

「妹の胡蝶しのぶです。宜しくお願いします」

 

 二人は頭を下げて挨拶をする。

 

「二人は俺の任務先で知り合った。両親を鬼に喰われ、この二人が狙われていた所に俺達が助けたって感じだ。行く当てもなくなった二人を、ここに住ますことにした」

「そっか。辛い目にあったんだね……」

「はい。もし佐助君が来なかったらと考えるだけで、震えが止まりません。本当に、佐助君には感謝しています」

「そういう訳だから、三人共よろしく頼む。聞くところによれば、カナエはお前達と同い年だそうだ」

「私は真菰。私も親を鬼に喰われちゃって、住む所が無かったんだ。そこで鱗滝さんが拾ってくれたの。宜しくね、カナエちゃん、しのぶちゃん」

「俺は錆兎だ。ここに来たのは真菰と同じ理由だ。宜しく頼む」

「冨岡義勇だ。俺も拾われた身だ。宜しく頼む」

 

 この日初めて、家族が全員揃った。カナエとしのぶは同じ女子と言うのもあってか真菰とすぐ仲良くなった。

 

 ──最初はどうなるかと思ったが、この様子なら大丈夫そうだな……

 

「それでね! その時お兄ちゃんがね!」

「あらあら~」

「そんな事が……」

 

 ──……余計なことを吹き込んでないか心配だ。

 

 別の心配事が出来た瞬間だった。

 

「兄さん。これで俺も鬼殺隊に入れた。漸く兄さんと肩を並べて戦える」

「そうか。いつかお前達と一緒に任務をする日が来ることを楽しみにしてるよ」

 

 弟弟子でもあり、鬼殺隊の後輩ともなる三人の姿は、とても頼もしく見えた。

 数日後、三人の隊服と日輪刀が届く。日輪刀を握ると、三人共青く光る。水の呼吸が適している証拠だ。

 そして俺達は任務へと出る。四人全員バラバラになるが、必ず生きてここに帰ってくる。そう約束して。

 だが一年後。悲劇は起きた──。




明治こそこそ噂話!

佐助が最終選別の時に付けていた面は、今でも大事に持っているそうだぞ!

次回
「血を撒く者」


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第十六話 血を撒く者

訂正:前回の次回予告の題名を変えました。

☆10:norihashi 様
☆9:ニャルラト 様
☆1:ハルマゲ丼 様

評価ありがとうございます!


「まさか、私達が一緒に指令を受けるなんてね〜」

 

 移動中、真菰が行ってきた。今回の任務は俺と真菰と錆兎と義勇の四人で受けた。

 始まりは数刻前に遡る。お館様──もとい耀哉に呼ばれ産屋敷家に呼ばれた俺達四人。因みに名前呼びの理由は耀哉がそうしろと言ってきた。上司と部下という関係より友人の関係を築きたいと言ってきたのだ。二人きりだけならという条件で、俺は了承した。

 

「君達は鬼がどの様に生まれるか知っているかな?」

「鬼舞辻無惨が人間に血を分け与えてる、ですよね?」

 

 耀哉の質問に錆兎が答える。

 

「その通りだよ錆兎。鬼舞辻の血を与えられた人間は凶暴な鬼に成り下がってしまう。だがここ最近、鬼の出現が頻繁でね。鬼舞辻が無闇やたらに血を与えているとは思えないんだ」

「鬼舞辻とは他の存在が血を与えてる可能性がある。そう言いたいんだな?」

「佐助の言う通りだ。そこで君達にお願いしたい。その血を撒いている脅威の根源を調査して欲しい」

「まってくれ。そういう内容は基本的に柱がやる様なやつだろ。俺は別に良いとして、三人は剣士になったばかりだぞ。荷が重すぎる」

「柱も既に動いている。それに、鱗滝や君が育てた剣士なら大丈夫だと、私は判断した」

「何を根拠に──」

「ここ最近の三人の仕事ぶりを見てさ。三人は優秀だ。他に何かあるかい?」

「──分かったよ」

 

 これ以上何を言っても無駄だと判断した俺は諦め、立ち上がった。

 

「佐助」

 

 立ち去ろうとした時、耀哉に呼ばれた。

 

「最悪戦闘になる可能性がある。その時は佐助、君が守るんだ」

「……分かってるよ」

 

 そう言って、今度こそその場を去った。

 

「それにしても、お館様ってとても優しい方だったね〜」

「貫禄があった。流石鬼殺隊を纏めているだけのことはある」

 

 真菰と義勇はそんな事を言う。

 

「着いたぞ」

 

 そんな話をしていると、目的の場所に着いた。

 場所は御成山。最近ここで鬼が頻繁に出現していると他の隊員から報告を受けたそうだ。

 

「行くぞお前達。気を引き締めろ」

 

 俺の言葉に、三人は頷く。俺達は御成山に足を踏み入れた。

 辺りは静寂が広がる。聞こえるのは俺達の足音と風で揺れる葉っぱの音だけだった。

 俺は写輪眼で辺りを見渡し、鬼がいないか確認する。だが、鬼どころか他の隊員の姿もない。

 

 ──おかしい。あまりにも静かすぎる。しかも、嫌な静けさだ。嵐の前の静けさとはまさにこの事か……

 

「新しい人形、見ぃつけた」

 

 突然その様な声が響き渡る。俺は驚きが隠せなかった。

 

「参ったね。囲まれてるよ、俺ら……」

 

 写輪眼で改めて見渡す。すると先程まで何もなかったが今は何十もの赤いオーラが俺達を囲んでいた。

 すると一体の鬼が襲ってきた。

 

「くそっ!」

 

 俺は直ぐ様刀を抜き、頸を斬る。それが合図になったのか、他の鬼達も襲ってきた。

 

「行くぞお前ら!」

 

 俺がそう声をかけると、全員鬼に向かって行った。

 

「水の呼吸・壱ノ型、水面斬り!」

「水の呼吸・参ノ型、流流舞い」

「全集中、水の呼吸・拾壱ノ型、凪」

 

 三人はどんどん鬼の頸を斬っていく。俺も負けずにどんどん斬っていくが、数が中々減らない。

 そんな時、見知った顔を見つけた。

 

「矢場!?」

 

 同期の矢場だった。だが、こちらの声は届かない。何故なら──

 

「グアァアアア!」

 

 彼は既に、鬼になっていたのだ。

 

 ──まさか矢場も鬼になってるなんてな……鬼になった以上、情けは無用。同期の俺が、葬ってやる……! 

 

 俺は矢場に向かって行く。そして俺は矢場の頸を斬った。

 斬る瞬間、矢場が言っていた。

 

「あり、がとう……」

 

 その瞬間、怒りと悲しみが湧いた。数少ない同期を鬼にした元凶に怒りが、同期を自分の手で、そして死んでいった悲しみが。二つの感情が一気に俺を鼓舞する。

 

「いやいやいやいや、よくやるねぇ君達」

 

 すると俺達四人の前に、上半身裸の鬼が現れた。

 

「私の人形達をよくもここまで……」

 

 その言葉で、すべて分かった。こいつが血を撒いて鬼にしている元凶だと。

 

「私はあの方の血を人間に与え、鬼を増やす役割を担っているのです。それなのにあなた達は、私の人形を斬ってしまうなんて……そんな事されては、私は十二鬼月になれないじゃないですかぁ」

 

 するとその鬼の背後から針の様な物が数本出てきた。

 

「でも、あなた達を鬼にすれば、関係ないですねぇ。申し遅れました。私の名前は針鬼。あなた達の上司になる鬼ですよぉ」

「誰がなるかよ。お前達、奴の背中から出ている針には気をつけろ。あれに刺されれば、恐らく鬼の血を流される。そうすれば、鬼になる事間違いなしだ」

「針に気をつけながら、頸を斬る……骨が折れるね」

「今まで斬ってきた鬼とは全く違うことが分かった」

「それにまだ他の鬼もいる。そちらも相手にするとなると……」

 

 三人は額に汗を垂らす。やはり、まだ三人には早かった。あそこで断っておけばよかった。

 

「お前ら、危険だと思ったらすぐに山を降りろ」

「えっ……」

「お前達を守りながらこの数を相手にするのは、流石の俺でもキツい。だから、逃げてくれ」

 

 そう言って俺は構える。すると、俺の前に三人が出てきた。

 

「私達は逃げないよ、お兄ちゃん」

「兄さん。俺達はいつまでも守ってもらえる存在じゃない」

「少しは俺達を信じてくれ」

「お前ら……」

 

 ──成長したな、お前ら……

 

 俺は三人の横に立つ。

 

「……生きて、必ず帰るぞ!」

「「「おう!」」」

 

 こうして針鬼との戦いが始まった。




明治こそこそ噂話!

ココ最近、耀哉は佐助を呼び出しては普通にお茶するらしいぞ!

次回
「針鬼」


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第十七話 針鬼

 先に攻撃を仕掛けたのは針鬼だった。背中から出ている無数の針をこちらに放ってきた。俺は写輪眼で針を見切り、触れない様に刀で斬り落とす。

 

「影分身の術!」

 

 俺はすぐさま影分身を三体だし、真菰達の前を立たせた。

 

「針は俺が防ぐ。お前達は隙を見て奴の頸を斬れ!」

 

 するとまた針が飛んできた。だが、今度は針だけでなく鬼達も迫ってきたのだ。

 

 ──燃やすしかない……! 

 

「火遁・豪火球の術!」

 

 四体の俺は火遁で飛んできた針と狭いくる鬼を燃やす。

 

「奇妙な術を使うねぇ。君は何者だい?」

「俺は忍だよ。呼吸が使えないな」

「それにその眼……とても力を感じるよぉ。君みたいな子が鬼になってくれたら、あの方もお喜びになるだろうなぁ。ねぇ、鬼にならない?」

「だからならないって言ってんだろ。しつこいぞ」

「そうか、なら……殺すしかないねぇ!」

 

 すると針鬼は針を他の鬼にさした。すると鬼達は先程より凶暴化する。筋力、敏捷、全てが上がっていた。

 

「真菰、義勇、錆兎! お前達は鬼を相手しろ! 俺は針鬼をやる!」

 

 刹那、俺の視界から三人が消えた。いや、俺がいなくなったと言った方が良いだろう。気が付けば俺は針鬼に殴り飛ばされていた。

 

 ──あいつ自体も化け物かよ……! 

 

 俺は受け身をとって体勢を整える。油断していた。かなり遠くに飛ばされてしまった。だが、向こうにはまだ影分身がいる。何とかしてくれるだろう。俺は急いでみんなのいる所に戻った。

 

 ──正直、上手く行く自信がない。だが、やらないよりかはマシだ! 

 

 本体が飛ばされ、残った影分身の俺は眼にチャクラを集中させる。

 

 ──頼む、掛かってくれ……! 

 

 俺は針鬼の間合いにはいり、針鬼の眼を見る。すると針鬼は動かなくなった。

 

「ハァ……ハァ……幻術、成功……」

 

 俺は針鬼に幻術をかけた。上手くいく自信はなかったが、決まってくれて一安心だ。

 

「今のうちに頸を斬ろう」

 

 そう言って頸を斬ろうとした時だった。

 針鬼が動き出し、幻術を破って俺を殴ってきた。影分身だった俺は消える。残りの影分身も頸を斬ろうとするが、攻撃を受けて消えてしまう。

 本体の俺は影分身が消えたことを感知した。

 

 ──幻術が破られた!? いや、俺の幻術が甘かったんだ……! 早く行かないと! 

 

 俺は足にチャクラを為、一気に解き放つ。

 

 ☆☆★☆☆

 

 佐助がいなくなった現場に緊張が走る。

 

 ──兄さんがいなくなった……! 兄さんでも厳しい相手なのか……! 

 

 錆兎は針鬼と間合いをとる。真菰と義勇は凶暴化した鬼を斬っている。つまり、ここにいるのは錆兎と針鬼のみ。

 

「君にも聞こう。鬼にならない?」

「なるわけないだろ。俺は鬼を恨んでる。大切な家族を殺した鬼をなぁ!」

「残念だ。君も殺そう

 

 そう言って爪を尖らせ錆兎を刺そうとする。

 

「くっ!」

 

 錆兎はギリギリ躱して難を逃れる。

 

「全集中、水の呼吸・漆ノ型、雫波紋突き!」

 

 錆兎は針鬼を牽制し、距離をとる。

 

「錆兎!」

 

 すると真菰達がきた。

 

「大丈夫か?」

「あぁ。なんとかな。お前達は?」

「一応ここにいる鬼は全員斬った筈だよ」

 

 そう言っている真菰と義勇は肩で息をしていた。

 

「本当に君達は凄いなぁ! 凶暴化した人形達を倒すなんて! 殺すのが勿体無いくらいだよ」

「あとはコイツだけか」

「だが残念。私はあの人形達とは違う。君達はここで死ぬんだ」

「死なない。俺達は約束した。生きて帰ると」

「でも、一人いなくなったじゃん」

「勝手に俺を、殺すんじゃねぇ……!」

 

 その時、佐助の声が響いて聞こえた。

 

「千鳥刀!」

 

 千鳥を纏った刀を振り下ろす佐助。そして、針鬼の腕が斬れた瞬間でもあった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 全速力で走った俺はようやくみんなの元に戻ってきた。千鳥刀で針鬼の腕を斬った俺は、そのまま頸を斬ろうとする。

 

「舐めるなぁ!」

 

 だが、そう簡単に斬らせてくれない。針鬼はもう片方の腕で俺の刀を受け止めた。だが、千鳥を纏っている今の刀は斬れ味が半端じゃない。受け止めた腕も簡単に斬ってしまった。

 だが、鬼の腕はすぐ生えてくる。俺は一旦距離を置く。

 

「兄さん、無事でよかった」

「そう簡単に死んでたまるか。お前達も無事でよかった」

 

 俺は三人が取り敢えず無事だった事に安心した。

 

「お前達、一気に行くぞ!」

「調子に乗るなぁ!!」

 

 針鬼は身体中から針を出して飛ばしてきた。俺は即座に影分身をだし、写輪眼で見切り、針を斬り落とした。

 すると針鬼は先ほどの攻撃でかなり力を使ってしまったのか、動きが鈍くなった。

 

「今だ! 行け!」

「「「全集中、水の呼吸・捌ノ型、滝壺!」」」

 

 三人の滝壺が針鬼に襲いかかる。完全に怯んだ針鬼にとどめを刺す。

 

「あの世で鬼になった事、後悔しな」

 

 そう言って俺は針鬼の頸を斬った。

 

「ハァ……ハァ……勝ったの……?」

 

 肩で息をする真菰。そんな真菰に、俺は言った。

 

「あぁ。俺達の勝利だ」

 

 その言葉を聞いて、抱き付いてくる真菰。俺はそれを受け止める。

 辛い戦いだった。だが、ここで得られた経験はデカいだろう。

 

「義勇、お前の凪、凄かったぞ」

「ありがとう兄さん」

 

 義勇の凪は、義勇自身が生み出した技だ。

 

「錆兎も、良くやってくれた」

「兄さんもお疲れ様」

 

 俺達は互いに労い、終わった事に安堵する。

 

「君達、何終わったつもりでいるのかなぁ?」

 

 その時、頸を斬られた筈の針鬼が喋りだした。

 

「お前、意外としぶといな」

「私は確かに頸を斬られた。私は時期に死ぬだろう。だが、君達の負けだ」

「何を言って──」

 

 その時だった。

 

「グハッ」

 

 いきなり吐血した人物が一人。

 

「さび……と……?」




次回
「鬼になった錆兎」


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第十八話 鬼になった錆兎

最後の内容を少し変えました。
そのため、本日投稿した十九話を消させて頂きました。
ご了承ください。


「さび……と……?」

 

 吐血する錆兎。俺と真菰、義勇は目を見開いた。

 

「私がただでやられるわけないだろぉ。頸を斬られる前に仕掛けたあの針。あそこに一本だけ追尾出来る針を仕掛けた。本当は赤眼のお前をやるつもりだったが、まぁ良いだろう」

 

 俺は錆兎の首元を見た。そこには針が一本刺さっていた。俺はすぐさま抜き取る。

 

「無駄さぁ。もう彼には鬼の……あの方の血が入っている。鬼になるのも時間の問題……」

 

 そう言って針鬼は灰となって消滅した。

 

「錆兎……おい錆兎! しっかりしろ!」

「グハッ……兄、さん……」

「喋るな! 今藤の家に──!」

「もう、いい……早く……俺の、頸を……」

「斬れる訳ないだろ! お前は大事な弟だ! 一緒に帰るって約束しただろ!」

 

 倒れる錆兎を抱える俺。すると錆兎の身体が少しずつ鬼化していく。角が生え、目が赤くなり、牙が生える。

 

「早く……俺が完全に鬼に、なる、前に……」

 

 その言葉で錆兎の意識がなくなった。次の瞬間、充血させた目を見開き、俺を攻撃してきた。俺は瞬時に躱し、錆兎と距離を取る。

 

「グゥウウウウウ」

 

 唸り声をあげる錆兎。いや、これはもう錆兎ではない。鬼だ。

 

「そんな……錆兎……」

 

 目に涙を浮かべる真菰。

 

「目を覚ませ! 錆兎!」

 

 声を掛ける義勇。だが、錆兎は返事をしない。

 伸びた爪で俺達を攻撃する錆兎。俺はそれを躱す。

 

 ──ダメだ。完全に鬼になってしまってる。斬るしかないのか? 俺は錆兎を……

 

「グァアアアア!」

 

 すると錆兎は俺の肩を掴み、頸を噛もうとしてくる。俺は頭を押さえそれを阻止する。

 その時、錆兎の声が聞こえた。

 

「兄、さん……俺を殺せ……」

「な、何を言って……」

 

 まだ錆兎は自我を失ってなかった。錆兎も必死に鬼の血に抵抗していた。片目だけ普通の錆兎に戻っている。

 

「俺はもう、ダメだ……このままだと、完全に鬼になる……その前に──」

「錆兎……」

「最初は色々突っかかったよな……けど、兄さんにボコボコにされて……」

 

 すると錆兎が昔の話を始める。

 

「それから兄さんに稽古をつけて貰って、俺は隊士になれた……」

「やめろよ錆兎……」

「漸く、兄さんと肩を並べる事が出来る……そう思ったのになぁ……」

 

 俺の目から涙が溢れて止まらない。

 

「けどな、兄さん……これだけは言える」

 

 錆兎の目からも涙が溢れていた。

 

「俺は兄さんの弟になれて、本当に良かった……」

 

 俺は今まで錆兎と過ごしてきた事を思いだす。

 最初は確かに印象は悪かった。話しかけても無視するし、話しかけてきたと思ったら、いきなり闘えと言ってくるし。

 俺に負けても、何度でも挑んで来た。諦めない心。それが錆兎の強みだった。

 俺が久々に狭霧山に帰ったら、錆兎は隊士になって帰って来た。その時の姿はとても立派だと思った。

 そして今回、俺達が一緒に任務を受けた。最初は燿哉にああ言ったが、本心では嬉しかった。

 針鬼との闘いでも頑張ってくれた。俺が場を離れていた時でも、必死に食らいつこうとしていた。

 そんな錆兎が、鬼になった。悔しい。守れなかった事が凄く悔しい。

 

「兄さん、最期のお願い……いいか?」

「……何だ?」

「兄さんの手で、俺を、斬ってくれ。それが俺の……最期のお願いだ……」

 

 俺はこいつ等の兄だ。弟がそう言ってるんだ。俺は、腹を決めるしかない。

 

「……分かった」

「お兄ちゃん!」

「真菰。これが錆兎の……弟の最期の願いなんだ……叶えてやろう……」

 

 俺は錆兎と離れ、俺は刀を握る。

 錆兎は未だ抗っている中、その場で正座した。

 

「義勇……俺の手足を縛ってくれ」

「……やらなきゃ、ダメなのか……?」

「頼む」

 

 義勇の目からも涙が出ている。涙を流しながら、義勇は縄で錆兎の手足を縛った。

 

「……錆兎。二人に何か言うことはあるか?」

 

 頸を斬る前、俺は錆兎に聞く。

 

「そうだな……真菰」

「グスッ……何?」

「あまり兄さんを困らせるなよ。愛想つかされても知らないからな……」

「うん……気を付けるね」

「義勇」

「何だ……」

「あの時、お前と会えて、本当に良かった。お前は俺の親友だ」

「ああ……! お前は俺の友だ!」

「兄さん。鱗滝さんに伝えてくれ。俺を拾ってくれて、育ててくれてありがとう、と」

「わかった。伝えよう」

「胡蝶姉妹には、鱗滝さんをよろしく、と」

「……ああ!」

「じゃあ、頼む」

 

 俺は剣を振り上げ、錆兎の頸を狙う。

 

「兄さん、ありがとう……」

 

 その瞬間、錆兎の頸は宙を舞い地面に落ちた。そして灰となった錆兎は、隊服だけを残し、この世を去った。

 

 ☆☆★☆☆

 

「う、うわぁあああああああ!!」

 

 佐助はその場に崩れる。そして泣き叫ぶ。真菰、義勇も涙を流す。

 大切な家族を失った。自分の手で殺した。守れなかった。

 

 ──すまん錆兎……! 俺が弱いばかりに……

 

 錆兎を斬る時の錆兎の表情が脳裏に焼き付く。笑顔だった。自分が今から死ぬにも関わらず、笑顔だった。

 

 ──無駄にはしない……! 錆兎の死を……! 

 

「真菰、義勇」

 

 佐助は立ち上がり、二人の方を向く。

 

「強くなろう。錆兎の死を無駄にしない為にも……」

「兄さん……」

「ここで立ち止まってられない。俺達は前に進むんだ」

 

 そう言う佐助のその眼は、六芒星となっていた。




次回
「前に進む者」


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第十九話 前に進む者

評価をしてくださった皆様、本当にありがとうございます!


 狭霧山に帰ってきた佐助達。その手には錆兎の遺品があった。

 

「ただいま」

 

 玄関に立つ三人。鱗滝はその様子を見て、察した。

 

「……おかえり」

「おかえりなさい……あれ? 錆兎君は?」

「その事について、話がある」

 

 そう言って全員座る。静まる空気に、佐助は重々しく口を開いた。

 

「……錆兎が死んだ」

 

 そういうとカナエとしのぶは目を見開き驚く。

 

「正しくいうと、俺が殺した」

「な、何で……」

「錆兎が鬼になったからだ」

「錆兎さんが、鬼に……?」

 

 佐助はその時の状況を詳しく話した。敵の血鬼術により鬼の血を流された事。錆兎が佐助に頸を斬るようお願いした事。錆兎の遺言。全て話した。話している最中、真菰は耐えきれず涙を流し、それにつられカナエとしのぶも涙を流す。

 

「錆兎は最期に、なんて言ってた?」

「……ありがとうって、そう言ってた」

「そうか……」

「じいちゃん。俺、もっと強くなる。もうこんな思いはしたくない。錆兎の死は、無駄にしない……!」

 

 そう言って佐助は小屋を出る。残った者はまだ涙を流している。

 そんな中、義勇が口を開いた。

 

「俺は目の前で二度、大切な人を失った。目の前で錆兎が死んだ時、心が折れかけた。だが、兄さんは違った。一番辛いのは兄さんのはずなのに、その兄さんが前を向いて、次に進もうとしている。なら俺達も前に進まないといけない。錆兎の親友として、錆兎の意思は俺が受け継ぐ。そして俺も強くなって、いずれは兄さんと肩を並べる」

 

 そう言って義勇は立ち上がり、小屋を後にした。

 

「強いね、二人は」

 

 真菰が口を開く。

 

「私は二人みたいに強くないからさ。今も泣きたくなる。でも、お兄ちゃんに置いていかれるのはやだなぁ……」

 

 そう言って真菰も立ち上がる。

 

「鱗滝さん。私達は止まらないよ。辛い事があっても、突き進む。それが錆兎の死から学んだ事だから」

 

 真菰も鍛錬に行くのか、小屋を出て行った。

 残されたのはカナエとしのぶと鱗滝。

 

「みんな凄いですね」

「これ以上失いたくない。そういった思いがあるから鍛える。だから強くなる。それは心が強くないとできない」

「心が強くないと……」

「三人はもっと強くなるさ。儂はそう思う」

 

 そう言って鱗滝は立ち上がり、食事の準備をする。

 カナエは一人考えていた。自分はこのままで良いのか。何もしないまま、過ごしていて良いのか。そう思った。

 

「姉さん」

「しのぶ?」

「私、鬼殺隊に入る」

 

 しのぶの口からそう言ってきた。

 

「もうこれ以上、他の人に私達と同じ思いをして欲しくない。その人達を守るために、私は鬼殺隊に入る」

「しのぶ……」

「私も進まないといけない。そう思ったの」

 

 ──しのぶは強い。家族の死を受け止め、前に進もうとしている。でも、私はどうだろう。私もしのぶと気持ちは同じ。ならどうすれば良い。答えは一つしかない。

 

「……私も鬼殺隊に入るわ」

「姉さん?」

「お父さんとお母さんを失って、錆兎君も失った。これ以上失いたくない。だから、私も鬼殺隊に入る」

「別に姉さんがやらなくても、私が──」

「いい? しのぶ。私がやりたいって思ったの。これは私の気持ち」

 

 カナエはしのぶの目を見据える。真剣な表情にしのぶは感じたのか、これ以上何もいうことはなかった。

 

「鱗滝さん」

「……儂の鍛錬は厳しいぞ」

「承知の上です。私達を鍛えてください」

「……わかった。お前達に鍛錬をつけよう」

 

 こうしてカナエとしのぶは剣士になるため、鱗滝の下、修行を始めた。

 その頃──。

 

「兄さん」

「どうした義勇」

「俺を鍛えてくれ」

 

 義勇が佐助に言う。いきなりの出来事で佐助は固まってしまった。

 

「ま、待て。何でいきなり……」

「私も良いかな?」

「真菰!?」

「兄さんが強くなるなら、俺も強くなる。今回の任務、俺達は兄さんに守られすぎた。だから俺は強くなる。兄さんに守ってもらうのではなく、兄さんと肩を並べて戦えるために」

「義勇……」

「私も義勇と同じ気持ちだよ。これ以上、家族を失いたくない。だから強くなる」

「真菰……」

「兄さんだけに、重荷は背負わせない」

「私達も一緒に背負うよ」

「お前ら……」

 

 二人の言葉に、佐助は涙を流した。

 

「ごめんな、こんなだらしない兄で……」

「お兄ちゃんはだらしなくないよ。お兄ちゃんは、私達の憧れなんだ。あの時から──」

 

 それは佐助がまだ鬼殺隊に入る前。真菰、錆兎、義勇の三人で修行を見てもらった時。佐助は三人を相手にしても、負けるどころか傷一つ付いていなかった。佐助みたいに強くなりたい。佐助は三人の憧れの存在になった。

 

「そして私の好きな人でもあるの。だからかっこいいお兄ちゃんを、間近で見させてよ」

「……え?」

 

 真菰の発言に、佐助は固まってしまった。いきなりの事で、脳が処理に追いついていない様だ。義勇も驚いている。

 

「今、何て……」

「だから、かっこいいお兄ちゃんを──」

「違う、その前」

「お兄ちゃんが好きな人ってところ?」

「そ、それそれ! あれだよな、お兄ちゃんとして──」

「もちろん、異性としてだよ///」

 

 顔を赤くして言う真菰。その表情に、俺も顔が熱くなるのがわかる。

 

 ──な、何ちゅうタイミングで言うんだよ///こっちまで顔が赤くなるわ! 

 

「さっ! 早く稽古しよ!」

 

 そう言って先を歩く真菰。義勇も佐助を通り過ぎ、佐助の前を歩いて行った。

 

 ──錆兎。俺達は強くなる。だから、見ててくれ。

 

『見てるよ、兄さん』

 

 ふと、その様な声が聞こえた気がした。

 鱗滝ファミリーはそれぞれの目標に向かって、前に進んで行った。




次回
「忍の里」


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第二十話 忍の里

前回の次回予告のタイトルを変更しました。


 あれから数ヶ月が経った。カナエとしのぶは剣士になるため鱗滝に鍛錬を付けて貰っている。佐助達は時間が空けば稽古をしている。

 そんなある日、佐助達は合同の任務に出ていた。どうやら一つの小さな里が火事で全焼したという。佐助達はその現場を調査するという指令が来ていた。

 

「これは酷いな……」

 

 見た目は酷い有様だった。そこに里があっただろう場所は焼け焦げていて、所々人の遺体が目に入る。

 

「これは人の仕業? それとも……」

「これが人の仕業とは思えない。見ろ、コレ」

 

 佐助は地面に指さし、真菰達に見せる。そこには人間とは思えない足跡があった。

 

「この足跡が人の物とは到底思えない。という事は──」

「十中八九、鬼……」

 

 真菰の言葉に頷く佐助。

 

「兄さん」

「どうした義勇」

「ちょっと来てくれ」

 

 佐助は義勇に連れられて、里の入り口まで来た。

 

「ここ、明らかにおかしくないか」

「あぁ。確かにな」

 

 二人が見ているのは里の入り口の地面。里の方は焼け焦げているのに、里の外には焼けた跡が一つもないのだ。

 

 ──考えられるとしたら、この里を襲ったのは二体以上。一体はここを燃やした鬼。そしてもう一体は、里人を閉じ込める様に村全体を囲った鬼……ただ、一つ疑問がある。何故、里全体を焼くように襲ったのか……今までの鬼なら、そんな事はしなかった。一体何のために……

 

 そう思いながら佐助は調査を続ける。

 

「お兄ちゃん!」

 

 すると真菰が何かを見つけたのか、佐助の所にやって来た。

 

「これ、お兄ちゃんのと同じ奴だよね?」

 

 真菰が渡してきたのは、ボロボロになっていた一枚の手裏剣だった。

 

「これ、どうした?」

「落ちてたんだ。他にもクナイ? って奴が落ちてたよ」

 

 ──手裏剣やクナイが落ちているって事は……ここは忍の里だったのか? 

 

「な、何だこれは……」

 

 すると奥から三人忍者らしき服を着た人達がやって来た。

 

「これは君達がやったのか?」

 

 一人の男性が、佐助達に聞く。

 

「俺達はここの調査に来たものです。鬼殺隊の早島佐助と言います」

「同じく、真菰です」

「冨岡義勇です」

「鬼殺隊? 君達みたいな若いのが……」

「所で、あなたは?」

「あぁ。すまない。私は忍の里の長、宇随忍次郎だ。後ろの二人は私の妻だ」

 

 ──妻って……一夫多妻制かよ……

 

「所で、どうしてここに?」

「実はこの里は私達忍の里と交友関係にあったのだ。久々に顔を出しに来たんだが、この有様だ」

 

 宇随は辺りを見渡し、悲しい表情を浮かべる。

 

「恐らく、これをやったのは鬼かと思われます」

「何だと……?」

「しかも二体以上。ここは集中的にやられたんでしょう」

「そんな……何故……」

「それは分かりません。でも、理由もなしにここまでするとは思えない。何かしらの目的がある筈……」

「もしかしたら、忍の里も……」

「危険かもしれませんね。今すぐ厳重警戒した方が良いでしょう。そして俺達鬼殺隊もそちらに行きます。近くの里は、そこしかありませんから」

「ありがとう。すぐ帰るぞ」

 

 そう言って佐助達は、宇随が治める忍の里に行った。忍の里に行くと、宇随はすぐさま他の忍者を呼んだ。

 

「今から厳重警戒報を発令する。お前達は里の外を隈なく監視しろ。怪しい動きがあったら、すぐ知らせろ」

「御意!」

「里の者は外に絶対に出すな。良いな!」

 

 そう言って散らばる忍者。すると鐘の音が響き渡り、里の人達は一斉に家の中に入る。先程まで賑やかだった大通りが、一気に静かになった。

 

「さて、私の屋敷に案内しよう」

「ありがとうございます」

 

 案内される佐助達。屋敷に到着すると、九人の子供達がいた。

 

「親父。どうしたんだそいつら」

「この人達は鬼狩りだ。訳あって、家に来てもらった」

「俺は宇随天元だ。宜しくな」

 

 天元は佐助達に言う。佐助達も、自己紹介をした。

 

「それにしても佐助殿。君は今いくつだい?」

「十三になります。真菰と義勇は十二です」

「十三か……いつから鬼狩りに?」

「十の時になります」

「そっか……君だけ服が違うのは、何か関係あるのかい?」

「まぁ、こっちの方が動きやすいって言うのと、俺は忍術を使うんでそれに耐えきれる服を──」

「忍術だって!?」

 

 その時、宇随は声を上げる。かなり驚いたようだ。

 

「君は、忍なのかい?」

「忍術が使えるから忍かって聞かれたら、答えははいです。ただ、皆さんがどのような人物を忍と捉えているか分かりませんから、答えは分かりません、が正解ですね」

「そうか……因みに、どんな忍術を? やっぱり隠れ身の術とか、変装の術とかかい?」

「確かにそれも出来ますが……そうですね、例えば──」

 

 そう言って佐助は印を結び、姿を真菰に変えた。変化の術だ。

 

「このように姿を変える、変化の術」

「ま、真菰殿が二人……」

「どうなってんだ……」

 

 天元も目を見開き、驚く。

 

「そして実体を増やす、影分身の術」

 

 次は真菰がもう一人増えた。今この場に、真菰が三人いる。

 

「という風にできます。他にもありますが、そうするとこの屋敷が壊れる可能性があるので、やめておきます」

 

 そう言って影分身と変化を解く佐助。

 その後、天元と組手をすることになったが、佐助の勝利。天元は悔しそうだった。

 その日の夜。佐助は見回りに行くと言い、外に出ていた。真菰と義勇も一緒だ。天元達は寝ている。

 

「見つけたよ……例の子」

「作戦、開始だ」

 

 災いが今、忍の里に振りかかろうとしている。




次回
「下弦の鬼」


報告
明日より、投稿頻度が愕然と下がります。申し訳御座いません。


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第二十一話 下弦の鬼

 静寂に見舞われる忍の里を見回る佐助達。高台には忍の里の人が外側を観察している。

 

「それにしても、本当に静かだね」

「宇髄さんが厳重警戒報を発令したからな。何が起こるかわからない。その恐怖で身を潜めてるんだろ」

 

 すると十字路に出た。

 

「俺は真っ直ぐ行く。真菰は右、義勇は左に行ってくれ」

「うん」

「わかった」

「何かあったらすぐ知らせるんだぞ」

 

 そう言って三人は別れた。

 

「例の子、一人になったよ」

「よし、行くか」

 

 そう言って里の中に入る謎の二人。そこには高台で見張りをしていた人の血であろうものが広がっていた。

 真菰達と離れて数刻。佐助は高台の近くまで来ていたが、嫌な予感がした。

 

 ──何で血の匂いがするんだ……? 

 

 すると佐助の上から何かが滴り落ちてきて、佐助の額に当たる。佐助はそれを拭い、見る。それを見た瞬間、佐助は高台まで一気に飛んだ。

 

「まじかよ……」

 

 そこには鬼に喰われたであろう人の残骸が広がっていた。

 

 ──いつの間に……もしかしたら……! 

 

 その時、背後から気配を感じた為、佐助はその場を離れる。すると高台が壊れた。

 

「避けられたか……」

 

 佐助は体勢を整え、相手を見る。そこには二体の鬼がいた。

 

「お前らは……」

 

 その二体の鬼の左目には「下弐」と「下伍」と書かれていた。

 

「俺は下弦の弐、炎の使い手、琰火(えんか)

「下弦の伍、砂の使い手、砂魄(さはく)

 

 琰火は手から火を、砂魄は砂を出す。

 

「なるほど……昨日、(からくり)の里を襲ったのはお前達か」

 

 機の里とは、昨日襲われた里の名前だ。

 

「砂の壁で里を囲み、里を燃やす。だろ?」

「凄いね。その通りだよ」

「なぜ里を襲った」

「お前を誘き寄せる為だよ」

「何?」

「あの方からお前を殺し、その眼を取る様に言われてね。お前が何処にいるか聞きに行ったんだが、誰も知らないときた。だから燃やした。次はこの里を狙おうと思った時、お前が来た」

「つまり俺はまんまと罠に嵌ったって事か……」

 

 ──この事を真菰達に伝えないと……

 

「悪いが、残りの二人は君に構っている暇はないよ」

「何だと……?」

「何故なら、僕の分身が戦ってるからね」

 

 そう言って砂魄は砂の分身を出す。その時、遠くの方から爆発音が聞こえた。そこは義勇と真菰が行った場所だった。

 

「どうやら始まったみたいだね」

「助けに行かなくて良いのかい?」

「……助けに行くさ。ただし、俺じゃない。行くのは……俺の分身だ」

 

 そう言って佐助は影分身を三体出す。一体は義勇、一体は真菰、もう一体は宇髄の所に行った。

 

「お前達はここで俺が倒す」

 

 佐助が剣を抜き、構える。そして写輪眼を発動した。

 

「そう、その眼だよ。あの方はその眼を欲している。奪わせてもらうよ!」

 

 琰火から攻撃を仕掛けてきた。手から作り上げた火の玉を二つ投げる。佐助はそれを斬った。するとその瞬間、二つの火の玉が爆発した。佐助はそれをギリギリ後ろに躱す。

 

 ──あの火の玉、起爆機能も付いてんのかよ……無闇に斬らない方が良いな。

 

 琰火は再び火の玉を三つ投げる。佐助は今度は斬らず、躱した。すると通り過ぎた火の玉は佐助に狙ってるかの如く、戻ってきた。

 

「追尾機能まで付いてんのかよっ!」

 

 それでも佐助は躱し続ける。だがその時、足が動かなくなった。足元を見ると、砂が佐助の足を掴んでいたのだ。佐助は砂魄を見る。後ろで地面に手を置いていた。

 

「僕は砂を自由に操る事ができる。君を捕まえるこのなんて、造作も無いよ」

 

 佐助は苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。すると先程の火の玉が佐助に迫って来た。

 佐助は右手に千鳥を纏う。そして火の玉に向かって千鳥鋭槍を決める。すると爆発せずに、火の玉は消滅する。

 

「何!?」

「写輪眼でその玉の起爆源を見切った。そこを雷で麻痺させ、起爆出来なくした」

「なる程……ますますお前の眼が欲しくなったよ」

「そう簡単にやるかよ。千鳥流し!」

 

 佐助は剣を地面に刺し、そこから千鳥を流した。すると砂魄に効いたのか、手を離してしまい佐助を捕らえていた砂が消滅した。

 すると佐助は一目散に砂魄の所に行き、頸を斬った。だが、その砂魄は灰ではなく砂になって消えた。

 

 ──砂分身か……

 

「僕はここだよ」

 

 そう言って琰火の横に地面から現れた。

 

「厄介だな……」

「次は僕の番だよ。血鬼術・砂針砲」

 

 すると佐助の周りに無数の砂の針が覆う。そして佐助を襲う。

 佐助は写輪眼で砂針を斬っていくが、斬りきれなかった砂針が佐助に傷をつける。

 

「グッ……」

「まだまだいくよ。砂牢壁」

 

 今度は佐助を覆う様に壁ができる。そして蓋をされ、佐助は外が見えなくなった。

 

「この状態なら逃げられないよね。じゃあ、死んで」

 

 牢の中で砂針砲を展開させ、佐助を串刺しにする。

 

「意外と呆気なかったね」

「最後をお前に取られたのは気にくわねぇが、まあ良いだろう。牢を開けろ」

 

 砂魄は牢を開ける。その瞬間、雷の針が二人を襲った。

 

「千鳥千本!」

 

 琰火は何とか躱したが、反応出来なかった砂魄は串刺しになった。

 

「な、何で……」

 

 砂魄は佐助を見ると、佐助の眼が先程と違う事に気付いた。写輪眼だった佐助の眼が六芒星になっていた。そして右眼から血が流れていた。

 

「何だ……その眼は……」

「万華鏡写輪眼。これで何とか難を逃れた」

「一体何が……」

「天照。全てを焼き尽くす黒炎だ」

 

 佐助は牢の中で、暗くて見えない状態から火遁を使い明るくし、迫り来る砂針砲を天照で燃やしたのだ。

 

「そんな事が……」

「千鳥千本を受けたお前はもう動けない。お前からやる」

「それはどうかな?」

 

 そう言った砂魄の声は後ろから聞こえた。

 

「それは僕の分身だよ。君は僕を倒す事はできない」

「……なる程。そういう事か」

 

 佐助は砂魄を見て、一つ気付いた。

 

「ここに本体はいない」

「何故そう思うのかな?」

「お前の眼だ。俺を最初に襲ったときは目に下伍と書かれていた。だがお前は何も書かれていない。つまり、分身だ」

「その通りだよ。ここに本体はいない。本体は今頃、君の仲間を殺している頃かな?」

「そこに俺の分身がいる事を忘れるな。分身が解けてないという事は、まだやられてない証拠だ。それに、あまり彼奴らを舐めるなよ?」

「何……?」

「私達は簡単にはやられない」

「やられるつもりもない」

「ド派手に登場だぜ」

 

 すると砂魄の背後から真菰と義勇と天元が来た。

 

「ごめん、彼奴ら結構強い……」

 

 そう言って琰火の隣に現れたのは本体の砂魄だった。その瞬間、分身の砂魄が消える。

 

「天元も来てたのか」

「親父が行ってこいって煩くてよ。それに、俺も忍の端くれで、ここは俺の里だ。俺もやらなきゃダメだろ」

「里の方は?」

「里の人達が力合わせて消火活動してるよ」

「そうか」

 

 俺達は四人並び、二人の鬼を見る。

 

「良いか、真菰、義勇。こいつらは今までと違う。だから──」

「わかってるよ、お兄ちゃん。気は抜かない。そして──」

「生きて帰る、だろ?」

 

 二人の言葉にフッと笑う。

 

「天元も、覚悟は良いな」

「おう。派手にやってやるぜ」

「行くぞ、お前ら!」

 

 こうして、下弦の鬼との決戦が、再び幕を開ける。




次回
「決着」


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第二十二話 決着

「行くぞ、お前ら!」

 

 そう言って駆け出す佐助達。天元は二体の鬼にクナイをなげ、牽制する。その瞬間に真菰と義勇が横から攻撃を仕掛ける。

 

「水の呼吸、壱の型・水面斬り!」

「水の呼吸、弍の型・水車」

「甘いよ!」

 

 砂魄が砂の壁を四方に作り、三人の攻撃を防いだ。

 

「血鬼術・火堪雨(ひだまりのあめ)

 

 すると空から火が飛び交い、それが雨の様に降ってくる。

 

「躱せ!」

 

 佐助が叫ぶ。四人は火の雨を躱すが、躱しきれなかった真菰と義勇の羽織りが点火する。羽織りをすぐ脱ぎ、隊服だけになる二人。隊服は燃えにくい性質で出来ているため、問題はない。

 すると真菰と義勇が砂の壁に向かって走っていく。上はガラ空きのため、そこを狙ったのだろう。だが──

 

「待て二人とも! それは罠だ!」

「血鬼術・砂爆壁」

 

 先程まで二体を守っていた壁が爆発した。

 

「真菰! 義勇!」

 

 そこに二人の姿はなかった。何故なら──

 

「ったく、ド派手に突っ込みやがって。危ない所だったぞ」

 

 天元が二人を抱えて佐助の隣にきた。爆発寸前に二人を助けたのだ。

 

「天元、ありがとな」

「礼はいらねぇよ。それよりどうする。このままじゃ埒が明かないぞ」

 

 すると砂魄が砂分身を十体以上出した。

 

「……分身はお前達に任せる。俺は彼奴らをやる」

「策はあんのか?」

「自信はないが、やってみる価値はある。頼めるか?」

「任せてよ」

「やってみせる」

「ド派手に決めてやるよ」

 

 佐助は巻物を取り出すと、大きな手裏剣を口寄せした。

 

「頼むぞ!」

「「「おう!」」」

 

 そう言って真菰と義勇、天元は分身に向かって走っていく。

 佐助は口寄せした手裏剣を投げる。

 

「馬鹿の一つ覚えか。そんなもの防げるのも忘れて──」

 

 すると手裏剣は佐助に姿を変えた。

 

「千鳥刀!」

「くっ!」

 

 砂魄はすぐさま砂の盾を作り、攻撃を防ぐ。

 

「甘いなぁ!」

 

 背後から琰火が伸びた爪を佐助の心臓目掛けて突き刺す。だが佐助はポンッと音を出して消えた。

 

「何っ!?」

「上だよ琰火!」

「千鳥千本!」

 

 空中で佐助は千鳥千本を二体に向けて放つ。だが、それも砂の壁で防がれてしまう。

 

 ──砂の壁が厄介だ……ならそれを斬るのみ! 

 

 すると佐助は左手に雷の剣を作る。

 

「千鳥光剣!」

 

 千鳥刀より殺傷能力の強い千鳥光剣。すると砂の壁を壊し、砂魄の右腕を斬る。そして着地したと同時に時計回りに回転し、右手に持っている剣で砂魄の頸を斬る。

 

「そん……な……」

 

 砂魄の頸が落ち、身体が灰化する。すると砂分身達が崩れ落ちた。そして完全に砂魄は灰となった。

 

「後はお前だけだ、琰火」

「やるなぁ。だが、俺はそう簡単にやられないぞ!」

 

 そう言うと琰火の身体に異変が起きた。身体全体が赤くなり、巨大化したのだ。先程よりも筋肉が膨張し、血管も浮き出ている。まさに鬼だ。

 

「なる程。それで機の里を燃やし尽くしたのか」

 

 佐助は足元をみて言う。その足は、今朝見た足跡と一致していた。

 

「お兄ちゃん!」

「何だこれは……」

「オイオイ……いくら何でもド派手過ぎねぇか?」

 

 真菰達が佐助と合流する。

 

「こいつはさっきとは違う。あの針鬼が可愛く思える程だ」

「そんなにヤバいの……?」

 

 真菰が少し震える。目の前の光景に恐怖が襲ったのだろう。

 

「これは俺一人じゃ無理だ。力を貸してくれるか?」

「もちろん!」

「任せろ」

「こいつよりド派手に決めてやるぜ!」

「俺を、舐めるなぁ!」

 

 すると琰火の口から豪火球ほどの火を噴いた。佐助も豪火球の術で応戦する。威力は互角。その隙に真菰と義勇が足元に忍び込む。天元はそれを悟られないため、目元に手裏剣を投げる。琰火はそれを防ごうと、手で薙ぎ払う。

 

「「水の呼吸、壱の型・水面斬り!」」

 

 二人は足元を崩そうと足首に決める。だが──

 

「硬いっ!」

「ク──ッ!」

 

 思った以上の硬さに二人は足を斬れなかった。そして琰火は足元にいる二人を蹴り払う。二人は蹴り飛ばされるも、何とか刀で防ぎ体勢を整える。

 

「結構硬いよ。義勇、凪でどうにかならない?」

「あの硬さはきつい。刃がこぼれるだろう」

「どうすんだ?」

「……」

 

 佐助は考える。あの硬さを乗り切るにはどうすれば良いのか。

 

「……お前達で隙を作れるか?」

「隙?」

「あぁ。隙が出来たとき、俺が決める。何とか作ってくれ」

「わかった」

 

 そう言うと三人は佐助の前に出る。そして天元が手裏剣を目元に投げる。それが合図となり、三人は走り出した。

 

「クソガァアア!!」

 

 琰火は火の玉を次々と投げる。真菰達はそれを何とか躱し、琰火の頭上をとる。

 琰火はそれを好機と思ったのか、上に火の玉を投げようとする。

 

「馬鹿め!」

「俺を忘れるんじゃねぇ」

 

 すると天元が飛びつき、クナイで琰火の目元を斬った。すると火の玉が消滅し、頭上がガラ空きになった。

 

「「水の呼吸、捌の型・滝壺!」」

 

 胴体を斬り付けた二人。すると琰火に隙が出来た。

 

「今だよ! お兄ちゃん!」

「やれ! 兄さん!」

「ド派手に決めてやれ!」

「お前に、消えない炎を教えてやる」

 

 佐助は右目から血を流す。そして右目を開いて、琰火を見た。

 

「──天照!」

 

 すると黒炎が琰火を包み込む。

 

「グアァアアア!!」

 

 そして佐助は右手で千鳥光剣を作り、琰火の頸を斬った。頸はボトリと落ち、灰と化した。

 

「ハァ……ハァ……グ──ッ!」

 

 佐助は右目を手で押さえる。激痛が走ったようだ。

 

「お兄ちゃん!」

「大丈夫か兄さん!」

 

 真菰と義勇が駆け寄る。

 

「あぁ。俺は大丈夫だ……」

「でも、目から血が──!」

「天照を使ったからだ。問題ない」

 

 佐助は落ちた頸の元にいく。

 

「何で、そんなに強い……」

 

 消えそうな声で、琰火は喋る。

 

「俺には守るものがある。その為なら、俺はもっと強くなる。それだけだ」

「そう、か……」

 

 そう言って完全に灰になった琰火。こうして、佐助達と下弦の鬼との戦いは、佐助達の勝利で幕を閉じた。

 次の日。佐助達は里の入り口に来ていた。

 

「佐助殿、真菰殿、冨岡殿、本当にありがとう。君達のお陰でこの里は守られた」

「天元の力もありましたから」

「そうか……我々ももっと精進せねば。無くなりかけている忍者の歴史を、私が復活させる」

「そうですか……」

 

 この時、佐助は異変を感じたが、あえて何も言わなかった。

 

「佐助、ありがとな」

「天元の方こそ。頑張れよ」

「あぁ。次会うときは俺がド派手に勝ってやる」

 

 二人は堅い握手を交わし、別れを惜しんだ。

 

「じゃあ、帰るか」

 

 一先ずの脅威は去った。これから佐助達にどんな未来が待っているのか、まだ知る由もない。

 

 ☆☆★☆☆

 

「そうか、佐助が下弦の鬼を……これはなってもらうしかないね」

 

 鬼殺隊の物語〜完〜




次回、新章突入
「束の間のひととき」


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柱の物語〜序の章〜
第二十三話 束の間のひととき


 下弦の鬼を二体倒した佐助達。無事に狭霧山に帰ってきた三人は久々の休息を得ていた。

 

「こうやってゆっくりするの、久しぶりだね」

「今まで任務尽くしだったからな」

「たまには休むことも必要だ」

 

 三人は川の字になって横になっていた。真菰は佐助を抱き枕の様にしている事を除いて。

 

 ──まさか佐助達が下弦の鬼を倒すとは……成長したな。

 

 そんな三人の姿を見て、鱗滝は感慨に浸っていた。

 

 ──それにあの十二鬼月を倒したんだ。佐助が柱になるのもそう遠くないかもしれん。

 

「そういえばじいちゃん。カナエとしのぶは?」

「二人なら外で剣を振っている。二人は見所がある。剣士になるのも時間の問題だ」

「そうか。なら、少し手伝ってやろうかな」

 

 佐助は真菰を退かし、立ち上がる。真菰は膨れっ面で佐助を見ている。義勇はいつの間にか眠ってしまった。

 佐助が外に出るとカナエとしのぶが素振りをしていた。

 

「頑張ってるな」

「佐助君」

 

 カナエは佐助に気付くと素振りをやめ、手で汗を拭う。佐助は手拭いをカナエに渡し、汗を拭かせる。

 

「しのぶも凄いな。どれくらい振ってるんだ?」

「ざっと千回くらいです」

「せ、千回……」

 

 まさかの回数に、佐助はたじろいでしまった。

 

「二人とも、対人戦はやったか?」

「何回かやってるわ。でも、なんかしっくりこなくて……」

 

 カナエが困った表情で言う。

 

「因みに、誰と対人戦を?」

「もちろん、しのぶとよ。相手がしのぶしかいないもの。鱗滝さんには呼吸を教えてもらってるから……」

 

 ──なるほど。今二人に必要なのは十分な指導者か……

 

「そうだ佐助君。私達に剣術を教えてよ!」

「姉さん! 佐助さんは疲れてるんだからあまり迷惑を──」

「別に良いぞ」

「本当に!?」

「でも、良いんですか? 佐助さん。疲れているのに……」

「大丈夫だよ。折角ゆっくりできるんだ。お前達にも構ってやらないとな」

「べ、別に構って欲しいわけじゃ! ///」

 

 しのぶは顔を赤くしてそっぽを向く。佐助はそんなしのぶの頭を撫でる。

 

「だけど、俺の剣術は少し独特だ。だから剣術をやる前に、体術を覚えてもらう」

「体術?」

「何で体術なんて。鬼を斬るのは日輪刀なのに……」

 

 ──真菰も同じ質問してたな……

 

 デジャブを感じた佐助は苦笑いをする。

 

「それはね、戦略の幅を広げる為だよ!」

 

 そう言って出てきたのは真菰だ。

 

「戦略の幅……?」

「もし鬼と接近戦になったとき、刀が手元から離れたらどうする?」

「それは急いで取りに行って──」

「取りに行く前に攻撃されたら?」

 

 しのぶの答えを遮る真菰。気付いたら、真菰が説明を始めていた。

 

「無防備になるよね? そこでお兄ちゃん!」

「説明するなら最後までしろよ……そこで使うのは体術だ。殴りや蹴りを入れるだけで、相手の牽制になる。そこで刀を拾いに行けば良い」

 

 佐助は真菰に目を配る。真菰は意図を理解したのか、木刀を持って佐助に詰め寄る。佐助はその木刀を弾き、真菰に攻撃を仕掛ける。真菰はガラ空きの懐に押し蹴りを入れると、その反動でバク宙して木刀の所に着地し、取る。

 

「こんな感じかな」

「真菰や義勇、死んだ錆兎にも体術を教えた。だからお前達にも教える。その次に剣術だな」

「私も教えるから、頑張ろうね!」

 

 こうして、カナエとしのぶは佐助と真菰に修行をつけてもらった。

 次の日の朝。俺は鴉に起こされた。

 

「佐助。オ館様ガオ呼ビダ」

「耀哉が?」

 

 ──またお茶でも飲むのか? 

 

 そう思った佐助は新しい隊服を来て、産屋敷邸に向かう。

 

「おはよう、佐助」

「早朝から呼び出してどうしたんだよ」

「君に話があってね。急遽来てもらった。まぁ座りたまえ」

 

 耀哉に言われ、座る佐助。

 

「で、どうした」

「まず、この間の任務お疲れ様。全焼した里を視察するどころか、下弦の鬼と戦うことになるとはね」

「俺でもびっくりだよ。しかも二体」

「それを倒す。君はだいぶ強くなったね」

「これからも強くなる。で、本題は何だ?」

 

 佐助が言うと、耀哉がフッと笑う。

 

「単刀直入に言おう。佐助、柱にならないか?」

「俺が柱に?」

「あぁ。君は柱になる権利を得たんだ」

「柱になる権利? いつ」

「下弦の鬼を倒した時さ。柱になる条件は知っているかい?」

「確か、鬼を五十体以上倒す。かつ階級が甲、だろ?」

「そうだね。その他に十二鬼月を倒す事。これが条件だ」

「つまり下弦の鬼を二体倒したから俺に柱になれ、と?」

 

 佐助の言葉に頷く。

 

「俺はまだ十三だぞ。いくら何でも──」

「柱になるのに、年齢は関係ない。実力があれば良いんだ。それに柱になれば継子をつける事ができる」

「継子?」

「柱が直々に育てる隊士のことだよ。柱と共に行動する為、任務に同行することもある」

「任務に同行か……」

「それに柱には屋敷が与えられる。鍛錬場や寝室、食事をする所だってある」

「それは俺の今いる小屋が小さいと言いたいのか?」

「そうは言ってないよ。でも、正直言って窮屈だろう? 男三人に女三人は」

 

 そう言われて、佐助は何も言い返せなかった。

 

「お金も問題はない。柱は給料がたくさん出る」

「別に俺は金に困ってないぞ……」

「真面目な話、今後も十二鬼月と戦う。佐助、君の力が必要だ。私の友人として、隊士として、力を貸して欲しい。未来の剣士(こども)達を守る為にも」

 

 真剣な表情に、佐助は断る事が出来なかった。

 

「……そこまで言われたら断れないな……分かった。柱になる」

「ありがとう佐助。今日から君は、(しのび)柱だ」

 

 こうして新たな柱、忍柱が誕生した。

 

「カアァアアア! 新タナ柱誕生! 新タナ柱誕生! 忍柱ァ! 名前ワ早島佐助ェ!」

 

 そして鬼殺隊に、早島佐助の名が広まった。

 

「一週間は休暇を与える。ゆっくり休んでね」

「ありがとう」

 

 柱になった佐助に、どのような物語が待ち受けているのか。それは、神のみぞ知る。




明治こそこそ噂話
佐助の新しい隊服は、うちはサスケが暁に入った時から忍界大戦に使っていた忍服だって! 

次回
「忍柱・早島佐助」


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第二十四話 忍柱・早島佐助

 耀哉から柱になるよう言われた佐助はそれを了承し、忍柱となった。

 

「ただいま〜」

「お帰りなさい!」

 

 帰ってきた佐助を、真菰達全員が迎えた。

 

「柱になったんだね! お兄ちゃん」

「流石兄さんだ」

「佐助君凄いわ〜」

「おめでとう、佐助兄さん」

「喜んで良いのかわかんないけどな。とりあえずありがとう」

「まさかこんなに早く柱になるとは……お前は儂の自慢の子だ」

「じいちゃん……」

 

 そう言って鱗滝は佐助の頭を撫でる。

 

「で、柱になったと言うことは……」

「あぁ。屋敷を貰えた」

「そうか……寂しくなるな」

「何? 何の話?」

「佐助は今日でここを出ていく。柱になったからな」

「え!? お兄ちゃん出ていくの!? やだよ! ここにいてよ!」

 

 佐助が出ていく事を知った真菰が佐助を引き止めようと抱きしめる。

 

「ごめんな真菰。俺は柱になった。だからここを出て行かなきゃいけないんだ」

「そんな……やだよ……」

 

 佐助はそんな真菰を見兼ねたのか、真菰をそっと抱きしめる。

 

「真菰。俺は別に死ぬ訳じゃない。会えない訳でもない。いつでも会えるし、俺もたまに帰ってくる。だから、お前と義勇で俺の帰ってくる場所を守ってくれ。俺からのお願いだ」

「本当に? 帰ってくる?」

 

 不安げな目で佐助を見る。その目には涙が浮かんでいた。

 

「当たり前だろ? ここは俺が育ってきた家なんだ。帰ってくるさ」

 

 ──佐助のやつ、継子の事黙っておくつもりだな……

 

 鱗滝はそんな事を思っていた。

 佐助は真菰を離したあと、荷物をまとめて旅立つ準備をした。

 

「真菰、義勇。じいちゃんをよろしくな」

「兄さんも、元気で」

「お兄ちゃん、約束守ってね」

「もちろん。カナエ、しのぶ。次会うときは、お前達が鬼殺隊に入ったときだな。頑張れよ」

「佐助君も無理しないでね」

「佐助兄さん、身体には気をつけてくださいね」

「あぁ」

 

 佐助は鱗滝と向き合う。

 

「じいちゃん。今まで育ててくれて、ありがとう」

「いつでも、帰ってこい」

「それじゃ、行ってきます」

 

 そう言って、佐助は鱗滝の小屋を後にした。

 

「は〜、お兄ちゃん行っちゃったなぁ……」

「真菰、修行するぞ」

「今日はやる気でな〜い……」

 

 そう言って義勇の誘いを断る真菰。

 

「真菰。今まで兄さんがここを離れる事は何回もあっただろ。何で今回は──」

「その時はお兄ちゃんがここに帰ってくるって分かってるから。でも、今度は違う。いつ帰ってくるか分からないんだよ?」

「だから兄さんが言っていただろ。帰ってくるから守ってくれって」

「そうだけどさぁ……」

 

 鱗滝はこのやりとりを見ていた。

 

 ──やはり、ここは言うべきか……ここまで落ち込んでいる真菰は久方ぶりだ……

 

 鱗滝は佐助が黙っていた継子の件を、二人に言う事を決めた。

 

「真菰、義勇」

「どうしたの? 鱗滝さん」

「お前達が佐助の帰りを待つ必要がない方法が一つだけある」

「本当!? 教えて!」

「佐助の継子になれば良い」

「継子?」

「継子は柱が直々に育てる隊士の事だ。将来の柱に見込みがある奴や、柱が認めた奴にしかなれない。そして継子は柱の任務に付いて行く事もできる」

「兄さんは、どうしてそれを黙っていたんだ……」

「理由は恐らく二つ。一つは彼奴の言った通り、ここを守って欲しい事。もう一つは、柱の任務に付いて行く事だろう。柱の任務は普通の任務とは違う。十二鬼月──それも上弦と戦う可能性だってある。お前達の性格上、必ず付いて行くだろう。佐助はそれが嫌なんじゃないか?」

「どうして……」

「二度と、失いたくないから……」

 

 真菰の言葉に、義勇が答える。

 

「佐助は、口ではお前達を信じていると言っているが、やはり錆兎を目の前で失った事がでかいのだろう。心の奥では、また失ってしまうのではないかと恐怖で怯えている。それにまだ十三だ。柱になったとはいえ心はまだ幼い。そう簡単には割り切れないのだろう」

 

 真菰と義勇は考える。今まで一緒に行動して自分達を救ってくれたのは、佐助だった。錆兎の頸を斬ったのも佐助だった。下弦の鬼を倒したのも、佐助だった。自分達は、佐助におんぶに抱っこ状態だと気づいた。

 けど、それでも、佐助の隣に立ちたい。佐助が背負っているものを一緒に背負いたい。その気持ちの方が強かった。

 

「真菰ちゃん。冨岡くん」

 

 するとカナエが二人に声をかける。

 

「ここは私としのぶに任せて、佐助君に付いていって」

「カナエちゃん……」

「佐助兄さんは一人だと絶対無茶しますから。二人が止めてください」

「しのぶちゃん……」

 

 真菰と義勇は互いを見る。そして決心したのか、隊服に着替え、新しい羽織りを身につけた。

 

「鱗滝さん。行ってくるね」

「あぁ。佐助を頼む」

「では、行ってくる」

「行ってきます!」

 

 真菰と義勇は、育ててくれた鱗滝に感謝し、自分が育った場所を旅立った。

 一方その頃──。

 

「ここが俺の屋敷か……でかいな」

 

 屋敷についた佐助は、あまりの大きさに驚いた。

 

「鍛錬場に、調理場、寝室……まじで充実してんな」

 

 室内を散策し、各部屋を確認する。

 

「ここを俺一人で使うのか……彼奴ら連れてきた方が良かったか……?」

「そう思うなら、最初から連れてきてよ!」

 

 すると、聞こえるはずのない声が聞こえた。

 

「真菰……?」

「言っただろう。俺達は兄さんの隣に立つと」

「義勇……どうしてここに……」

「継子になりにきたからだよ!」

「継子!? お前達には話してない……じいちゃんか」

 

 佐助はすぐに犯人がわかった。

 

「全てを知った上で、ここに来たんだな」

 

 その言葉に、二人は頷く。

 

「……わかった。ここまできたら、もう言葉は要らないな。お前達を継子にしよう」

「ありがとうお兄ちゃん!」

「これから家事、洗濯は俺達でやる。今までもやってきたから大丈夫だと思うが、ここはかなり広いからな。掃除が大変だぞ」

「任せてよ!」

「それくらい、造作もない」

 

 二人の意気込みに、佐助はフッと笑う。

 

「俺は一週間休暇を得た。お前達が任務に入るまで、稽古するか」

「ヤッタァ!」

「ありがとう、兄さん」

 

 こうして、新たな柱、早島佐助は二人の継子、真菰、冨岡義勇と共に新たな生活が始まった。




次回
「カナエの実力、しのぶの苦悩」


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第二十五話 カナエの実力、しのぶの苦悩

 佐助が柱になって一年。あれから大きな任務はなく、真菰と義勇に稽古をつけていた。

 

「佐助君」

 

 そんな時、佐助を呼ぶ一つの声が聞こえた。

 

「カナエ。久しぶりだな」

 

 胡蝶カナエが屋敷にきた。

 

「ここに来たってことは……」

「えぇ。私も鬼殺隊に入ったわ。だから佐助君の継子になりにきたの」

「良いだろう。ただし、タダでは入れない。お前の実力を見せてくれ」

「分かったわ」

 

 そう言って鍛錬場に入る佐助とカナエ。二人の闘いを見ようと、真菰と義勇も中に入る。

 佐助は木刀をカナエに渡し、内容を説明する。

 

「お前は呼吸を使っても良いぞ。俺は剣術と体術しか使わん」

 

 すると両者構える。暫く静寂に包まれ、先に仕掛けてきたのはカナエだった。

 カナエはかなりの速さで佐助の懐に入る。だが、佐助はそれを読んでいたのか佐助は近付いてきたカナエの背後に回り込んだ。そしてそのまま背中を押し蹴ろうとしたが、カナエは咄嗟にバク宙で躱し、佐助の肩に座り、脚で首を絞める。

 すると佐助はそのまま背中から倒れる。それに危機を感じたカナエは咄嗟に脚を離す。脚を緩めた瞬間、佐助はカナエの足を掴み、動けなくする。そして自分が倒れる瞬間に佐助は足を浮かせバク宙し、カナエだけに衝撃を与えた。

 

「体術が上手になったな」

「アイタタタ……もう少し加減してよ」

「馬鹿野郎。これは試験だぞ。お前が継子に相応しいかのな」

 

 背中を摩りながら立ち上がるカナエ。

 

「やっぱり佐助君には体術は敵わないわね。なら、呼吸を使わせてもらうわ」

 

 そう言って大きく呼吸するカナエ。そして、呼吸を繰り出す。

 

「花の呼吸、壱の型──」

「花の呼吸だと!?」

 

 聞いた事ない呼吸に、佐助は驚く。

 

「──乱れ桜」

 

 するとカナエの木刀が、桜が散るように舞い、その桜が襲ってくるように物凄く早い突きをしてくる。

 

「く──っ!」

 

 佐助はあまりの速さに避ける事ができず、木刀で防いだ。だがその瞬間、佐助の敗北が決まった。

 

「まさか、写輪眼を発動させるとはな……俺の負けだ」

 

 佐助の両目が赤くなっていた。佐助は乱れ桜がきた瞬間、咄嗟に写輪眼を発動してしまったのだ。

 

「と言うことは……」

「あぁ。胡蝶カナエ。今日から早島佐助の継子として、よろしく頼む」

「こちらこそ。よろしくね、佐助君」

 

 先程まで闘いを見ていた真菰と義勇も駆け寄る。

 

「おめでとうカナエちゃん!」

「流石だ胡蝶。あの兄さんに勝つなんて」

「真菰ちゃんも冨岡君もありがとう。これからよろしくね」

 

 継子同士で会話が弾む中、佐助は一つ気になった事があった。

 

「それにしてもカナエ。花の呼吸ってなんだ?」

「花の呼吸はね、水の呼吸を練習しているときに急にできた呼吸なの。花のように舞う呼吸、だから花の呼吸よ」

「なるほど、水の呼吸の派生か……独自に生み出すなんて凄いじゃないか」

「ありがとう」

「それで、しのぶは? 一緒に受けたんじゃないのか?」

「そうだ。しのぶについて佐助君に相談があるの」

「しのぶについて?」

 

 佐助達は鍛錬場を出て、客室に移動する。

 

「それで、相談ってのは?」

「実はね、しのぶは鬼が斬れないの」

「どういうことだ?」

 

 カナエは最終選別で起きた事を事細かに話した。

 カナエとしのぶは最終選別にいき、共に行動していた。あるとき、一体の鬼が出てきて、しのぶは鬼を斬ろうとした。だが、頸が斬れなかったのだ。すぐにカナエが援護に回り、その鬼の頸を斬った。最初は偶然だと思った。だが、結局しのぶは頸が斬れなかった。

 

「そういうことか……」

「何とか隊士にはなれたのだけれど、このままだと佐助君に合わす顔がないって言って、塞ぎ込んじゃって……」

「しのぶは呼吸を使えていたのか?」

「一応、花の呼吸の壱の型は使えるわ」

 

 ──しのぶも花の呼吸か……

 

「一度会ってみるか。しのぶに」

「ありがとう佐助君」

 

 そう言って立ち上がり、佐助はかつて育った小屋に帰る。

 

「佐助、久しいな」

「久しぶり、じいちゃん。しのぶは?」

「中だ」

「ありがとう」

 

 そう言って中に入る佐助。すると、蹲っているしのぶの姿があった。

 

「しのぶ」

「佐助兄さん……」

「ちょっと話さないか?」

 

 そう言って外の椅子に座る佐助としのぶ。しのぶの表情は、明らかに落ち込んでいる。

 

「……カナエから聞いたよ。鬼の頸、斬れなかったんだってな」

「私はあの時痛感しました。私には、鬼の頸を斬る程の力はないと」

「力が無い……か」

「力を込めても、鬼の頸は斬れませんでした。最終選別では、姉さんに頼ってばかり……兄さん、私どうすれば……」

 

 しのぶの目には涙が溜まっていた。

 

「……俺が任務でボロボロで帰ってきた時、手当をしてくれたのはしのぶだった」

「え……?」

「真菰も、義勇も、怪我をすれば面倒を見てくれるのはいつもしのぶだ」

「何を言って……」

「隊士になっても、進む道は色々ある。お前は俺達を治療できるほど、医学に特化している。だから、医学をさらに勉強してみればどうだ? その中に、もしかしたら鬼の頸を斬る以外の方法で鬼を倒せる手段があるかもしれない」

「医学を……」

「いずれは俺達だけじゃない。他の隊士も面倒みるかもしれないが、そこで得られるものは大きいだろう。どうする? それともこのままぐずぐずしてるか?」

 

 するとしのぶは涙を拭き、立ち上がる。

 

「私、やってみます。医学を学び、頸を斬る以外で鬼を倒す方法を探してみます!」

「そうか。じゃあ、一緒に頑張ろうぜ」

「一緒に……?」

「俺の屋敷に来い。あそこなら、色々揃えられるからな。それに、みんな待ってる」

「……はい!」

 

 こうしてしのぶは医学を勉強し、鬼を藤の花の毒で倒す新たな呼吸──蟲の呼吸──を覚えた。

 そして更に一年後、佐助が十五になった年に大きな事件があった。




次回
「消えていく隊士」


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第二十六話 消えていく隊士

「隊士からの連絡が次々と途絶えている?」

 

 ある日。佐助は耀哉に呼ばれ産屋敷邸に向かい、耀哉からそう言われた。

 

「あぁ。隊士達は鬼の目撃情報が多いと言われる山に行ってもらっているが、そこに向かった隊士達の連絡が来なくなってるんだ」

「だからこれは柱である俺の出番だと」

「その通りだ。佐助、行ってくれるかい?」

「了解だ。彼奴らも連れて行って良いんだろ?」

「勿論だ」

 

 そう言って佐助は産屋敷邸を後にした。そしてすぐに屋敷に帰り、継子である真菰達に状況を説明する。

 

「と言うわけで、お前達にもついてきてもらう。しのぶは主に負傷した隊士の治療を頼む」

「わかりました」

「それにしても、久々の任務だね。お兄ちゃん、鈍ってない?」

「バカ言うな。今までお前達の稽古をしてきたのは誰だと思っている」

「そうだぞ真菰。兄さんが鈍っているわけないだろ」

「そういう冨岡君は、大丈夫かしら?」

「問題ない。それこそ、胡蝶達の方こそ大丈夫か? 姉は何度か任務に行っているが、妹の方は経験がまだ浅いだろ」

「お構いなく冨岡さん。佐助兄さんのお役に立てるよう頑張りますから」

「じゃあ行くぞ」

 

 ある程度会話し、佐助達は出発した。

 山の名前は鬼灯山。そこに向かう隊士達の連絡が次々途絶えている。

 佐助達は進んでいくと途中で大きな鳥居があり、その先はどんどん霧が濃くなっていく。

 鳥居の前に来ると、佐助は足を止めた。

 

「どうしたの? お兄ちゃん」

 

 佐助は鳥居をまじまじと見る。

 

「兄さん?」

「この鳥居、幻術が掛けられているな」

 

 佐助は写輪眼を発動して鳥居を見ていた。

 

「恐らく、ここを通った奴に幻術を掛けて、眠らせた所を襲う算段だろう。連絡の取れなくなった隊士達はここを通って、見事に幻術に掛かった訳だ」

「じゃあ、別の道から行けばいいのね?」

「そうとは限らない。この幻術、鳥居から囲うように掛けられている。つまり──」

「何処から入っても幻術に掛かってしまう……という事ね」

 

 しのぶの言葉に佐助は頷く。

 

「じゃあどうするの?」

「簡単な話だ。その発生源を壊せば良い」

 

 そう言って佐助は鳥居の上に上り、鳥居の上真ん中に飾られている神額を壊した。すると鳥居から囲うように掛けられていた幻術は消え、霧も晴れた。

 

「よし。これで大丈夫だろう」

 

 佐助は下りると、その鳥居を潜って行った。真菰達も、後を追うように潜る。

 山の中に入って行った佐助達は行方不明になった隊士達の捜索をしていた。

 

「今日、俺達以外にこの山に入った隊士は?」

「報告によると、俺達より先に五人入ったそうだ」

「それは夜明け前か? 後か?」

「夜明け後だと思うが……」

 

 ──待てよ……今はまだ昼時だ。もしあの鳥居を通って幻術に掛かったなら、鬼は活動出来ないからその場に残っているはずだ。だが、そこにはいなかった。もしかして、眠らせる幻術ではなく、自我を奪う幻術だったのか? 

 

 そう思う佐助達の目の前に、一人の隊士がいた。

 

「あ! 漸く見つけた!」

 

 そう言って真菰が隊士に近付こうとした時、その隊士が襲ってきた。

 

「きゃっ!」

「真菰!」

 

 義勇は真菰を引き寄せ、隊士と距離をおく。だが、隊士は襲うのをやめない。

 佐助はすぐさま隊士と真菰達の間に入り、隊士の攻撃を防ぐ。

 

 ──こいつ、幻術に掛けられてる……? 

 

 佐助は隊士の眼が虚ろだという事に気が付いた。

 すると佐助は背後に回り、隊士を気絶させる。

 

「この人は一体……」

「こいつは幻術に掛けられていた。だから俺達を襲ったんだろう」

 

 そう言って佐助はその隊士の肩に手を置き、試しに幻術を解く。

 

 ──……ん? 

 

「んん……ここは……」

 

 すると隊士は目を覚ました。

 

「大丈夫か?」

「あ、あなたは忍柱様! どうしてここに……」

「隊士達の連絡が次々と途絶えたと聞いて、やって来た。それで、今までの記憶はあるか?」

「鳥居を潜った所までは覚えています。ですが、それ以降の記憶は曖昧で……」

「そうか……ありがとう」

 

 そう言って隊士を下山させ、他の隊士を探す。

 

「このままでは埒が明かない。三つに分かれるぞ」

 

 佐助は影分身を二体だし、真菰としのぶ、カナエと義勇で組み合わせ、そこに影分身を一体ずつ付かせる。

 

「真菰達は西、義勇達は東、俺はこのまま北に進む。もうすぐ日が沈む。そうなれば鬼との戦闘になるのは免れないだろう。あまり無理はするな。散!」

 

 そう言って三つに分かれた佐助達。一つでも多くの命を救う為、佐助達は山の中を駆け巡る。

 そして佐助達は今日山に入ったであろう隊士を全員見つけ、下山させた。

 

 ──この幻術、本当に鬼が仕掛けたものなのか……? 鬼が仕掛けた幻術なら、鬼を倒さないと解けないはずだ。だが、俺が解くことが出来た……

 

「もしかしてこの山には、鬼や鬼殺隊以外の誰かがいるのか……? 」

 

 佐助はそう呟き、真菰達と合流するため先を急いだ。

 その様子を遠くから見ていた、一つの影。

 

「──流石は早島佐助。俺と殺るのは、せいぜいあいつ等を倒してからだ。瞳力を使いすぎた時を狙い、君のその眼を頂くよ」

 

 その影の眼は赤く、三枚刃の手裏剣型に光っていた。




次回
「下弦の鬼、集結」


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第二十七話 下弦の鬼、集結

 真菰達と合流するため、山の中を走る佐助。辺りは暗くなっており、視界も悪い。頼りになるのは、月明かりくらいだ。

 そんな時、佐助の足が止まる。

 

「誰だ、そこにいるのは」

 

 佐助は背後から気配を感じ、話しかける。すると木の後ろから三つの影が現れた。

 

「流石ですねぇ。私達の気配を感じ取るなんて」

「柱という名は、伊達ではない」

「食べがいがある、という事だね」

 

 そこに現れたのは、眼に「下参」「下肆」「下陸」と書かれていた。つまり、下弦の鬼だ。

 

「下弦の鬼が勢揃いとはな……下弦の壱が居ないみたいだが?」

「あぁ。下弦の壱は今欠番なんだ。いたんだけど、あの方の逆鱗に触れたみたいでね。降ろされたんだ」

 

 下弦の陸が答える。

 佐助は刀を手にかけ、戦闘態勢に入る。

 

 ──アイツ等の所にこいつ等が待ち伏せしてなくて良かった。だが、三人か……今影分身を展開しているから、もう使えない。一対三……これは厳しいぞ。

 

 佐助は冷静に分析し、三体を見る。

 

「最初から、全力で行く!」

 

 そう言って佐助は写輪眼を発動し、鬼達に向かって行った。

 

「まぁそう慌てないで下さい」

「──っ!」

 

 佐助は鬼に向かって行った筈が、いつの間にか足を止めていた。いや、動けなくなったと言った方が正しい。

 

 ──動けない……これは……

 

「私の血鬼術・時定(ときさだめ)です」

 

 下弦の参が答える。

 

「私は対象の時を止める事が出来るのです。これであなたの動きを止めました」

 

 そう言って手に持っている懐中時計を見せた。

 

「申し遅れました。私は下弦の参、時女(ときめ)と申します。以後、お見知りおきを。そして──」

 

 そう言って時女は佐助の刀を取り、言った。

 

「さようなら」

 

 ──天照! 

 

 時女が心臓を刺そうとした瞬間、佐助は天照で時女の懐中時計を燃やす。すると懐中時計は割れ、佐助は身動きが取れるようになった。

 佐助はすぐさま時女から刀を取り返し、時女の頸を斬る。

 

「これで残り二体──」

「と、思ってません?」

 

 佐助の背後には先程斬った筈の時女がいた。

 

「私を斬ろうとしても無駄ですよ」

 

 すると時女の背後から残りの下弦の鬼が出てきた。佐助は二体の攻撃を躱し、距離をとる。

 

「やはりその眼……あなたが欲しい……」

「時女。早く始末しよう。こいつの眼をあいつに渡さなければならない」

 

 ──あいつ? 鬼舞辻のことか……? 

 

「それは僕も同意見。こいつの眼、ちょっと厄介だからね。天照、だっけ?」

「──っ!? なぜ術の名を──っ!」

「彼が教えれくれたんだ。君の眼には注意ってね」

(ふう)。お喋りはそこまでだ」

 

 下弦の陸こと風が口を閉じる。

 

「一つ答えろ。お前達のいうあいつとは、鬼舞辻無惨の事か?」

「冥土の土産に教えてやる。確かにあの方も眼を欲しているが、もう一人、お前の眼を欲している奴がいる」

「それは鬼か? 人間か?」

「もう答えないぜ。これから死んでいく人にはな!」

 

 そう言って下弦の肆は砂の針を佐助に向けて放つ。

 

 ──これは、下弦の伍の──っ! 

 

 佐助は何とか躱し、体勢を整える。

 

「お前が倒した下弦の伍、砂魄。あれは俺の弟だ」

「兄弟で十二鬼月かよ……」

「俺の名は砂鉄丸。弟とは違い、砂鉄を扱う鬼だ」

 

 下弦の肆、砂鉄丸がそう言う。

 

「俺から放たれる砂の弾は、弾丸よりも痛いぜ」

 

 そう言って指鉄砲の形を作り、佐助に向けた。

 

「血鬼術・砂鉄弾」

 

 指から放たれた砂鉄の弾は、佐助に向かって一直線。あまりの速さに佐助は躱しきれず、弾が掠ってしまう。

 

「ぐ──っ!」

「まだだよ」

 

 すると背後から風の声が聞こえ、振り返ると手に螺旋状に回転している球のようなものを佐助にぶつける。佐助はそれを喰らうと回転しながら飛ばされる。そして木に衝突すると、砂が佐助と木を縛る。佐助は身動きが取れなくなった。

 

 ──強い……それにあの下弦の陸が使ったやつ、あれは恐らく螺旋丸だ。何でチャクラも持っていない鬼が螺旋丸なんて……

 

「凄いでしょ? 僕の術。あの人に教わったんだ。僕は風を使う鬼。手の平に風を乱回転させ、球体を作る。螺旋丸って言ってたかな?」

 

 ──今ので全部分かった。こいつ等には背後にもう一人いる。そいつは恐らく……忍。

 

「身動きも取れなくなった所で、眼を奪うか。天照を使っても無駄だぜ。俺の砂が全部盾になる」

 

 ──くそっ! このままだと本当にまずい! 何か手は……

 

 砂鉄丸の手が佐助の眼に掛かろうとした、その時だった。

 

「花の呼吸、壱の型・乱れ桜」

「水の呼吸、漆の型・雫波紋突き」

 

 佐助の背後からカナエと義勇の声が聞え、花と水が鬼に襲い掛かる。

 

「お兄ちゃん!」

「佐助兄さん!」

 

 遅れて真菰としのぶも来て、佐助を縛る砂を断ち切った。

 

「お前ら……」

「何とか間に合った。大丈夫か、兄さん」

「佐助君、あまり無理しないでください。影分身が急に消えたので、ビックリしました」

 

 真菰達が佐助と合流しようとした時、影分身がいきなり消えた。そしてその事を不思議に思った四人は急いで鴉に佐助の居場所を捜索させ、ここに来たと言う。

 

「この鬼達は……」

「下弦の鬼だ。全員な」

「下弦が三体も……」

 

 真菰の質問に佐助が答えると、しのぶが冷や汗を流して刀を構える。

 

「安心しろ。俺がいる」

「さっきまで絶体絶命だった人が何言っているんですか!」

「別に抜け出す方法はあった。それに俺は柱だ。そう簡単に負けない」

 

 そう言って万華鏡写輪眼を発動する佐助。

 

「すぐ終わらせる」

 

 そう言った瞬間、佐助は砂鉄丸の後ろを取り、頸を斬ろうとする。だが砂鉄丸は咄嗟に首元に砂の壁を作り、刃を止めた。

 

 ──千鳥刀! 

 

 佐助は剣に千鳥を流し、砂の壁を斬ろうとする。だが硬くて刃を通せない。すると風が螺旋丸を作り、佐助の所に向かってきた。

 

 ──天照! 

 

 佐助は眼だけを風に向け、天照を発動。避け切れなかった風は天照を喰らい、その場で燃える。

 

「風!」

 

 佐助は砂鉄丸の背中を押し蹴り、体勢を崩させた後、佐助はその勢いで跳躍し、豪火球の術を砂鉄丸に喰らわす。そして怯んだ隙をつき、頸を斬った。

 

「残るはお前だけだ」

「何で……さっきと強さが全然違う……」

 

 時女はあまりの恐怖に震え、動けなくなる。

 

「質問に答えろ。お前達に俺の情報を教えたのは誰だ」

「そ、それは……」

 

 その瞬間、時女の頸が跳ねた。佐助がやった訳ではない。勿論、真菰達も。

 

「ダメじゃないか。喋ろうとしちゃ」

 

 跳ねられた頸の背後に、一人の男がいた。

 

「お前は……」

「やぁ佐助。元気そうだね」

 

 そいつは、佐助の最終選別にいた、最後の一人だった。




次回
「兄」


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