大海原には鬼が棲む (目玉焼きは醤油派)
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ワノ国 出国編
三種の神鬼


目標はイラストが貰えるようになる


 ジジイに今日もぶちのめされた。

 あいつやっぱり人間じゃねェ。普通の人間は体を炎に変えたりできねェーよ。つい最近まで海賊やってたから普通だ、だなんて言うがこんな妖術(・・)使うのが海なのかよ。

 なんだか知らねェが、ジジイが変な果物持ってきたが不気味だから要らねェったら無理矢理食わされた。

 

「何すんだジジイ! ……うぇ! 不味っ」

「馬鹿野郎!? 吐くな! 飲み込めド阿呆めっ!」

 

 そう言って顎を動かすように直接手を使ってくるが、どうにか逃げようとする。

 

「さっさと飲み込め! このド阿呆が!!」

 

 穏便にしようとしていたのかは知らないが、ジジイは堪忍袋が切れて顔面を思いっきり殴り果実はその衝撃で喉を通った。

 

 

「……ふっ! ……ふざけんなジジイ! こんな摩訶不思議なもん食わせてどういうつもりだ!?」

「テメェがいつまで経っても弱ぇからだ阿呆め。雑魚流桜を周囲に撒き散らしよって。そのくらいでのぼせ上がってるんじゃねぇぞ」

 

「あ!? 別にのぼせてねぇだろが!?」

「そんなチンケな流桜で、オレの技を引き継げるとでも思ってんのか!?」

 

「あんな物騒なもん誰が継ぐか!? しかも火を扱える奴の特権みたいなもんじゃねェかあんなもん! 出来るわけねェだろが!?」

「今までは……だ! オレのメラメラの実ほど特化してはねぇが、テメェの鬼も──」

 

「なに訳わかんねェこと言ってんだド阿呆めが! 俺はジジイの老後に関わってるほど暇じゃあねェんだよ! じゃあな!」

 

「ま! まて焔丸!」

 

 焔丸と呼ばれた少年はジジイの手を払って約束の場所にへといく。

 遊び盛りな5歳児がジジイから修行と言われて摩訶不思議なものを教わるよりも、友達との遊びをしたいのが焔丸である。

 生まれてからずっと流桜という、けったいなもののせいでまるで見えない鎧(・・・・・)でもきているかのようになってしまっていた。

 

 生まれながら、というのは出産の時からということで。

 焔丸は母親の腹を突き破って生まれたという異様な経歴を持つ異端児。誰も寄り添はず、寄り添えず。そんな中に現れたのがジジイである。

 

 経歴も素性も全て謎だが、火の妖術を使うということと九里が故郷であるということと元海賊。その情報以外は知りえない。

 

「ったく、なにが『加具土命』だよ。んな事より待ち合わせに遅れちまう」

 

 全力で走る焔丸の体は、何故か異様なまでに軽かった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

「む、遅いでは無いか(ホムラ)

「悪いな、ジジイが変なことしてきてよ。まだ味が残ってんだ?」

 

「何事もないのなら良いが、では今日は何をする?」

「……そだなー……の助(ノスケ)、なんかいい案あるか!」

 

「丸投げ!? ……ま、まぁ良い。そうでござるな、素振りというのはどうでござるか」

「そりゃつまんねーよ」

 

「聞いておいてか!?」

 

 聞いておいて却下する。

 これはある意味恒例とも言えるが、毎度乗って来てくれるところがノスケのいい所でもある。

 焔丸とノスケは同い年で数少ない友達である。

 

「そりゃジジイとあんだけ殺しあえばウンザリするってもんだろ? それにお前の家族から殺るのは禁止だって言われてるからな」

「母上は関係ないであろう! 拙者がこの国を背負って立つならば、武力は必要であろう?」

 

「そう言ってもな、お前のカーチャン怖ぇし、そんでもってお前の妹も面倒臭ェ」

「妹に関しては済まぬとしか言えぬ……」

 

「いや、いいよ。アレの暴走癖は流石に慣れた」

「…………済まぬ」

 

 焔丸とノスケの言っているノスケの妹とは、天真爛漫という言葉が良く似合う女の子である。最近言葉を話せるようになってノスケについて来ようとするが、体力がないため外で遊ぶ2人についていけず家の中で遊ぶように提案するが2人は拒否。

 いつもは焔丸の肩にガッチリとしがみついて遊ぶのだが、今日はいないことに安堵する。あれをされたあと、かなり肩がこるからだ。

 

「今日は巻いてきたのか?」

「うむ、今はお菊が世話をしているはずでざる」

 

「お菊って……あー、乳化魔悪(にゅうかまあ)って奴だろ?」

「にゅうかまあ? 外来の言葉か?」

 

「なんかジジイが言ってた。外の世界では珍しくないらしいぞ」

「ふむ、にゅうかまあ……なるもの、中々響きが良いではないか。帰ったらお菊に知らせよう」

 

 ノスケは自分の父親が海へと出ている為に外の世界のことを信じている。この国は鎖国国家であるということで、世界はここだけしかないと勘違いするのもいるがノスケはそうではない。世界は広いと知っている。

 

「ノスケは確か海に出たことあるんだろ?」

「拙者が乳のみ子の頃の話でござる、記憶は殆どない」

 

「まぁ今のワノ国を見たらな……確かに俺も出ていきたくなるよ」

「何!? 焔丸は拙者の家臣になるのではなかったのか!?」

 

「いやならねェよ」

「なぬ!?」

 

「別に上や下じゃなくていいだろ? 手前がやべェ時は俺が助ける、だから俺がやべェ時は手前が助けろ」

「──なッ!? ……ま、まぁ良いでござる」

 

「俺たちャ、五分の兄弟分だ。だから俺は家臣にはならねェよ。酒は不味いから飲まねェけど」

「味を楽しむものではないと思うぞ」

 

 会話中ノスケが焔丸をジト目でみていた気もするが、焔丸は気付いているのか気づいていないのか……。

 それを加味しても2人の友情は固い。それがよくわかる会話である。

 

 

 

 

 

「兄上〜〜〜!!!!」

 

 

 二人の背後から聞きなれた声がする。

 まだ3歳児になったばかりのノスケの妹。

 そして2人は顔を見合わせて嫌な顔をする。なぜならいつも決まって合流する時は。

 

「──ブハッ!?」

 

 後ろから飛び蹴りをされるからだ。

 今回標的になったのはノスケ。いつもは半々の確率だが、焔丸が流桜を制御できるようになってからは、やや焔丸の方が多い。

 

「危ないでござろう日和(・・)

「私は危なくないですよ! あ! 焔! 遊びましょう!」

 

「近いし、うるせェよ」

 

 登場してから近距離で大声を出す少女、日和に対して焔丸は嫌な顔を隠そうとしない。ノスケは城の家来を上手く巻いてきたが、日和はそうはいかずに何人かノスケの父親の家臣がひょっこりと姿を見せている。

 全員が非常に強く、侍や忍び更には獣人までいる。

 そして、その中で一番後々面倒になるのが二人の母親である。

 

 ことある事にガミガミと言ってくるので焔丸は毛嫌いしている。そして少し奇妙な縁が関係していることも理解してる

 

「んで? 何すんの?」

「ふふ、そういう結局折れてくれるところ私は好きですよ」

 

 笑いながら日和はそういうが、隠れている気になっている家臣からの殺気がすごいことになっており、ノスケも「はっ!」と気づいている。

 天然なのか計算なのか、後者ならとんでもない悪女になりそうであり。前者ならそれはそれで悪い女になりそうだ。

 

 

「そうですね───じゃあ!」

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 結局日和が遊び疲れて寝てしまい、ノスケが日和を背負って帰っていった。治安が悪いからか家臣は影で待機していたが、日和が寝てしまってからは表に出てきてノスケと一緒に帰って行った。

 

 焔丸はと言うとやることも無いので家に帰ることにした。

 家に着く直前にとてつもない熱気と殺気を感じ取る。

 

 

「『居合手刀 壱ノ型”火月"』」

 

 ジジイから独特な攻撃を出された。

 目に見えないほどのソニックブーム。そしてそれを作り出すほどの速さである炎熱。

 

 焔丸は指で印を結び制限している流桜を前方に解放して、見えない壁を作り出してジジイの攻撃を相殺する。

 

「──!」

 

 いつものように相殺しようと思ったが、思った以上に流桜が出てしまいジジイの攻撃を相殺したままジジイへの攻撃まで可能とした。

 

「食べた初日から効果アリかよ……とんだバケモンだ」

「おいジジイ何すんだ!? 今日はいつもの比じゃねぇぞ」

 

「テメェ、体に異変を感じねェのか?」

「あ!? ンなもんいつも……」

 

「体が軽ィ、力が溢れる。そんな感覚がねェのかって聞いてるんだよ」

「……まぁ、確かに変な感覚だ。漲るような、そんな感じはする」

 

「ああだろうな、そしてその原因はテメェの食った悪魔の実だ。それも動物系の幻獣種、悪魔の実でも更に希少なもんだ。銘は『ヒトヒトの実 モデル《鬼》』それがテメェの食った悪魔の実の力だ」

「悪魔だァ? 悪魔か鬼か妖怪か痴愚博じゃねェか!」

 

「そこはどうでもいいんだよ! 要はテメェが強くなったかそうじゃないかだ。溢れる力を解放しろ、そうすればテメェはもう一段階上に行ける。来るべき約束の日に向けて、テメェは力をつけなきゃいけねぇんだよ」

 

「来るべき約束の日だ?」

 

「そうだ。俺らの時代が終わり、次にロジャーが引き継いだ。そしてアイツが海賊の世界にするのは間違いねぇ、その時世界は動き出す。テメェはこんなチンケな国に居ていい男じゃねぇんだよ。世界と戦う時、末裔であるお前が必ず……」

 

「は! めんどくせェ話は終わったかよ。俺がどの道を進もうが俺の勝手だジジイに決められる筋合いはねェよ。俺は俺のやりたいように生きる!」

 

 印を結んで流桜による衝撃波がジジイを襲う。

 

(なんつぅか、いつもより力が……これがあの不気味な実の力なのか?)

 

 いつもならボコボコにされて終わるだけのジジイに互角以上に戦えている。そんな自分の力が誇らしいからか焔丸の口角が少し上がる。

 

「やっと引っ張り出しやがったな」

「あ? 何の──」

 

 ジジイのその言葉になんの事だと返そうとすると、自身の体に異変が起こっていることに気づく。

 体の高鳴りや血が沸き立つようなモノの正体として、己が額に角が生えている。

 

 それは正しく鬼の如し。

 体も一部が赤黒く染まっており、元の体よりも体に馴染み暑さを感じる。

 

 

「ンだこりャ」

 

 焔丸からは見えないが、片目も鬼の眼となっており通常とは違う。

 何もかも違う、だがしかし此方の姿の方が本当の姿だと思えるほどによく馴染む。

 

 再び印を結ぼうとした時。

 異変は起こった。

 

 

 何気なく流桜による衝撃波を飛ばそうと思った時だ。

 いつものようにしていたつもり。だがしかし、思った通りにはならなかった。

 

 

(炎だァ?)

 

 衝撃波を出そうとしたが、そこに現れたのは焔。

 それも通常の炎とは違い、浮世絵にでも書かれたかのような焔。ジジイの炎と比べて違和感があるが、それ以上に強さを感じ。そしてそれも当たり前のように使える。

 頭の中で本能的に理解しているのだ。

 

 炎のコントロールを間近出みていた手前、炎への理解は早かった。

 

 炎を矢のように補足して推進力を加える。

 それに適した力をかけ方を手の印を使って行う。

 

「これでも喰らえジジイ【方天戟】!」

「やっと炎に辿り着いたか……だが負けてやるつもりはないぞ童! 【居合手刀 弐ノ型 "月光”】」

 

 高速で撃ち放った攻撃をジジイは両手を使って相殺する。

 いつもとは比べ物にならないくらいの炎をあちらも纏っており、今まで手加減していたことを思い知らされる。

 

「手前ェ! ジジイ! 本気出せや」

「せめて同じステージに上がってからモノ言えや小僧がァ」

 

 

 その日ワノ国で大妖術が行われたと【花の都】を中心に出回り。その噂はオロチにまで届いたという。

 そしてらその騒動の主犯が誰かを直ぐに見抜いた光月トキは次にあった時焔丸に誇りある家系故に面倒事を起こすなと釘を刺すことに決めた。




オニオニの実と迷いましたがヒトヒトの実にしました。
理由は原型が焔《ビト》から来てるのでヒトヒトの方がいいかと。

ノスケは誰なのかー!(すっとぼけ)


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同じ船の子孫

 光月おでんが帰ってきた。

 ノスケと日和とは会えない日々が続いたが、逆にもう一人と会う機会が増えた。

 それはジジイの昔の馴染みである海賊の娘だとか。

 

「おい、たまには話したらどうだ?」

「……」

「っチ、あー氷菓でも食うか?」

「……」

 

 

「ったくなんか話せよめんどくせェ」

 

 懐から氷菓を取り出して噛み付く焔丸。

 ジジイの付き添いで毎度ここに来るものの、デカいヒゲ男のことを焔丸は嫌っており早々に立ち去ってここに来る。

 たまにしか話さないが、一応声が出ないとか言う訳では無い。

 

 来る度に傷が増えてたり、もしくは生気を失っていたりと面倒臭い奴。それが焔丸の感想だ。

 

「……僕だって強くなりたいさ。君のように」

「あァ?」

 

「でも僕には力なんてない。クソオヤジに叩きのめされ手錠でここから逃げることも出来ない」

「知るかよ、自分で何とかしろ」

 

「何とも出来ないから困っているんじゃないか……はぁ」

「……あーそうかよ」

 

 そんなヤマトの言葉を聞きながら、無関心とばかりに氷菓を食べる焔丸。その氷菓は所々溶けており、見たところ焔丸も嫌な顔をしている。

 氷菓は冷え冷えで食うもんだろうが、だなんて考えながら。

 

「お前のつまんねェ話はどうでもいいけどよ。他になんか話しねェのか?」

「僕は今ふっただろ! 求めるなら今ので乗れよ!!」

「……あー、だりィ話は嫌いなんだよ。ほか」

「巫山戯んな!!」

 

「元気じゃねェかよ」

 

 少し笑うが、再び氷菓が溶けていることを再認識して気分が下がる。

 周りを見回してヤマトに問うた。

 

「ここらに氷菓ねェか?」

「ない!!」

 

「そんなカッカすんなよ、えーとなんだっけ? 手錠がカイドウを叩きのめしたんだっけ?」

「僕の話全く聞いてなかったろ!!」

 

 はーあ、と欠伸をしながらドロドロに溶けた氷菓をペロリと食べる。

 ボリボリと氷を砕く音が聞こえるが、殆ど溶けてたことが気に入らなかったのか表情は優れない。

 

「まーいいや。なんか辛気臭いし、じゃ俺帰るわ。ジジイには先帰ったって言っててくれ」

「なんでだよ!?」

 

「ったく、辛気臭くなくなったら次はもうちょい居てやるよ」

 

 焔丸は部屋の端に置いていた(まとい)を手に取って能力を使う。いつも焔丸が使っている移動方法だ。

 頭にはヤマトと同じような角が一本生える。

 その角が出た瞬間に纏の先に浮世絵で描いたような炎がボウっと灯る。その纏に足を置いて焔丸は空を飛んだ。

 

 最初に見た時ヤマトは有り得ない妖術だと顎を外しかけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ときに焔丸よ、手前ェ炎の事をどれだけ知ってんだ?」

「あァ? 炎? ンなもんジジイや俺の使ってる熱い奴だろ? それ以外に何があんだよ? ボケたのか?」

 

「口の減らん糞ガキが。良いか、炎とは魂の根源だ。神と崇める島もあったくらいに、炎と神は同じと言える。故に火の神。どうだ分かるか?」

「分かんねェよタコ、もっと分かりやすく説明しやがれ」

 

 街でジジイがみたらし団子を食べながら焔丸へと問う。

 炎とは何か……と。

 それに焔丸は当然の認識を返すが、ジジイはそんな問答をしたかった訳ではなく炎とはと語り出す。

 しかし焔丸には届かなかった。

 

「神も仏も居やしない、なのに何故人は神を崇めるのか。焔丸、手前ェは考えたことがあるか?」

「…………ねェ」

 

「だろうな俺もそうだった」

「ジジイ結局なにが言いてェんだ?」

 

「さぁな……なんだかアイツを見てるとそんな話をしたくなっちまった」

 

 ジジイの先にいるのは裸踊りをしている【光月おでん】この国の将軍になるはずだった男。少し前まで海に出ていたノスケと日和の親父。

 そんな男が裸踊りをして金を媚びている。

 

 オロチによって詰められた政策でワノ国は壊滅寸前。

 藁にもすがる思いでおでんに賭けたが、結果はこのザマ。

 

「アイツが最後の(ともしび)だったんだろうな。なんて様だ、白ひげん所に居た時の威勢が欠片も残ってねェ」

「ンだよ知り合いだったのか?」

 

「直接はねェ、だが白ひげとは昔な……」

「その白ひげだか白髪だか知らねェけどよ。昔のおでんはどんなんだったんだよ」

 

 焔丸がそういうとジジイは遠いものを見るように視線を空に向かわせた。何から語ろうか、そんなことを考えているのが見て取れる。

 色んなものを思い出しているのだろうか、次に口を開くまで随分と時間がかかる。

 

「……ジジイ?」

「悪いな少し昔に浸って……。そうだな、おでんは正に鬼のような男だったらしい。これと決まれば一直線、その暴走は俺の耳にまで入ってきた」

「そりャ随分と違ェな、今はそんなもんを欠片も感じねェ」

 

「何があったか知らんが……子供ができたからか……それとも船を降りたからか……なまくらになっちまったんだろうよ。だせェぜ全く。あんな男が白ひげんとこの隊長をやってたと思うだけで殺したくなる」

「そいつぁ許さねェぞ。おでんなんてどうでもいいが『の助』と『日和』を泣かすってんなら容赦しねェぞクソッタレ」

 

「やんねェよ。俺の技は強者と戦う為に作った、だからお前も強者以外にあの技は使うな」

 

「覚えねェし使わねェよ」

 

 ジジイが使う七つの型。それを統合した居合手刀。

 それを何度も受けたからか、それとも共鳴したのか。

 使ったことなど一度もないが、焔丸にはできるという自信がある。だがしかし、それを使うかは別の話。

 

 ただのプライドの話だ。

 使わずに勝ちたい。ただそれだけの話だ。

 

「ち、鬱憤が溜まった、帰ったら火遊びだ」

「その言い方やめねェか? ごっこみたいになっちまうだろ」

「俺からすりゃ、お前との火消しはごっこだよ」

 

 その言葉がトリガーとなり、今にも始まりそうだったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 印を結び焔丸は集中する。

 自身に流れる鬼の力、火の力、そして流桜。

 全てを別々(・・)に動かす。

 その姿は正に加具土命。背中のすぐ側では火で作られた光背があり、より神々しいものとなる。

 

 集中力を高めて、まずは火と鬼の力を合わせようとする。

 別々の力を螺旋のように絡ませて一つの力へとするように。

 印を結ぶ力が強まる。

 

 光背から力が強まるのを感じるが、目を開けずに集中する。

 

「フン─ッ!」

 

 印を変えて制御しやすい手の型を作り鬼と火の力を混ぜ合わせる。

 

「ム!」

 

 直感的にできたことを感じ取り、その力を矢のような楕円に操作してジジイに撃ち込むように何も無い海へと飛ばす。

 

「【方天戟】ッ!!」

 

 物凄い勢いで飛んで行った方天戟を見ながら、操作権を渡していないと操作しようと試みるが動かすことは出来ない。

 

 なるべく遠くへと狙ったその攻撃は海の水面に当たり、ものすごい勢いで海は蒸発する。

 

「威力は中々……だが作るまでに時間がかかり過ぎだ。一発撃つのに10分近くかけやがって、まるで使えねェな」

 

 後ろからジジイにそう言われて言い返すことが出来ない。

 何せ自分も同じことを思っていたのだから言い返すことなど出来なかった。

 

「変な意地を張るのは止めろ。お前は俺の技が一番向いてる」

「意地は張ってなんぼだろうが、今に見てろド阿呆が! ガキの意地舐めんじゃねェ!」

 

「……チッ、そうかよ。でもその背中のやつはいんのか? 炎の制御に邪魔じゃねェのか?」

「いや、これは要る。有ると無いじゃ炎の感度がまるで違う。訳は分かんねェが、こいつがねェとしっくりこねェのさ」

 

「全く、お前も阿呆だねェ」

 

 意地を張る。

 その行為に意味を成さないと思う人間は多い。だが、意地を張るという行為を好む人間も極わずかだが存在する。

 焔丸はその極わずかなド阿呆ということなのだろう。

 

「そういえば【おでん】の公開処刑が決まったらしいな」

「ああ、燃え滓と思ってたが。アレはまだ燃え尽きちゃいなかったんだな。カイドウへの反逆……面白い爪痕を残した」

 

 ワノ国では知らぬ者は居ないだろう。

 おでんとその家臣達がカイドウへと挑み、そして敗れた。

 近いうちに『釜茹での刑』が行われる。

 

 町内はバカ殿が大バカをやらかした。

 などと言われているが、真相はどうなのだろうか……。本当のことを知っているのはおでんとその家臣達だけ。今更反乱などして何になるのか。

 

「こうなればワノ国には俺は居られない。これが最後の火遊びだ」

「……そうかよ」

 

 カイドウとおでん。

 この衝突によってジジイはこの国にいることが出来ない。

 それが何故なのか? だとか理由を聞こうとは思わない。ただこれが最後と聞かされて拳に力が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負は突然始まった。

 いつだってそうだ、開始の合図があったことなんて一度もない。

 

「居合手刀 壱ノ型”火月"」

 

 ジジイから熱波が放たれる。

 何度もうちあったことのある、様子見の一撃ではなく。

 それは命を狩りとろうとする、マジモンの攻撃。焔丸は一つの角と、右手を鬼化させて鬼の能力に流桜を乗せて防御する。

 

 焔丸は火との合わせ技が苦手ではあるが、生まれながらにして使えた流桜と初めからこうあったと思えるほどの鬼の力は本能的に相性が良かった。故に火ほど合わせ技に時間はかからない。

 それも10分近くかかる火とは違い、正に一瞬。

 

 流桜で衝撃波を生み、相殺した直後に焔丸はジジイへと突撃する。

 全ての操作、即ち火、鬼、流桜を同時に行うことは焔丸にはまだ出来ない。何より難関なのが火である。

 

 だから焔丸は最初から出すことにした。

 

「【光背陽炎】ッ!!」

 

 背中から光背が現れて、既に火を携えておく。

 流桜も込められてはいないが、ジジイの摩訶不思議な体に攻撃できるだけの力は常時出すことの出来る節約技だ。

 

「ッ! ガキがッ! 居合手刀 参ノ型"曙”」

 

 ジジイの強烈な振り上げにより、空気が無理やり押し上げられる感覚が来る。避けることはできない、故に迎え撃つしか方法はない。

 半端な力しか使えずに、完璧な状態じゃない。

 

 

「だからどうした!!」

 

 完璧では無い。

 万全ではない。

 

 それがなんになる。

 

 今現在使える全てを使えばいい。

 使えるのは鬼の片腕と制限のある流桜、そしてジジイとは比べるのも烏滸がましい火。

 

 全てが足りない。

 だが、それでも立ち向かう以外に選択肢は有り得ない。

 

 光背が焔丸の右腕に纏わりつく。

 同時に鬼の腕が更に濃い赤黒に染まり、目に見えぬ鎧のはずの流桜が可視化できるほどに透明な物を纏う。

 

 全ての力が右腕に注ぎ込まれる。

 

 ジジイの居合手刀を打ち倒す為に。

 

 

「喰らえジジイッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【鬼打(オニウチ)】ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 繰り出されるは拳ではなく掌底。

 握らなかったのは本能故に、印を結ぶ焔丸にとって拳は不都合なことが多い。故の掌底。

 

 全てを纏った右腕の攻撃で、今まで1度も退けることの出来なかった近距離での技の相殺。いや、むしろ勝ったと言える程の成果。

 

 焔丸の掌底はジジイの”曙"を破り、無防備なジジイの懐に潜り込んで貯めていた光背を指先に一点集中させる。

 

 

「死んでも恨むなよジジイ! これが俺の全力だァ!!!」

 

 掌底から最速で印を組み直す。

 人差し指と中指を立てて、他は握る。ベーシックな印だが、それ故に手に馴染む。

 

 それを印ごと差し込むのではなく、ジジイに押し込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【紅月】」

 

 

 

 

 

 爆発音のような、火が消えた音のような。

 なんの音なのかは不明だが、ワノ国の者はその音を聞いた。

 それはおでんがカイドウに刃向かった故に怒りを買ったからか、それとも逆に光月家の呪いか……巷で騒がれたのは後の話。

 

 そしてその全てはデマであり。

 その音はたった一人のド阿呆によって奏でられた鎮魂歌。

 

 

 

 

 焔丸は理解していた。

 ジジイが既に棺桶に片足どころか殆ど入っていることに。

 

 戦に生きた男の最後が衰弱では締りが悪い。

 

 

 

 

 焔丸はジジイを殺す。

 その為だけに自分の力を磨きジジイの技を使わなかった。

 

 既に居合手刀を物にして尚、それの使用を拒んだのは。

 最後まで師弟ではなく、闘いとして殺してやりたかったから。

 

 

「いい火消しだった」

「……ああ」

 

「火は魂の輝きだ、こんな最後も悪くねェ」

「……」

 

「気に病むな、この世に加具土命は二人も要らねェ」

「……分かってる」

 

 

 

「ロックスが解散して随分と時間が経った。白ひげやビックマムやシキ、アイツらは順調にのし上がって、カイドウも成り上がりやがった。アイツも予想通りに行って笑ってるだろうよ」

「……そうか」

 

「俺ァ、ゴットバレーで死に損なった。アイツの右腕だった俺がだ……そんな俺の最後が弱ってたとはいえクソガキに殺されて終わりかよ…………ったく、死に損なうモンじゃねェな! アイツに笑われちまう」

「そんなことねェさ」

 

「あ?」

 

「俺に殺されたんだ、胸張って地獄へ行けや」

 

 傲慢、そうみてとれる態度にジジイは大爆笑した。

 本当に気が狂ったのではないかという程の笑い。

 

 腹にドでけぇ穴を空けながら、ジジイは笑う。

 

「そうだな! そりゃ悪くねェ!」

「だろ?」

 

 

「随分と丸くなっちまったもんだ俺も。だが悪くねェ。

最後だ焔丸、ワノ国を壊せ。おでんのやろうとしてることは必要な事だ。どっちが悪かだなんてつまんねェ話はしねェが、カイドウを討たねェと世界は変わらない。お前が為せ──! ロックスでもロジャーでもねェ! 手前ェが世界をひっくり返せ!!」

 

「…………おう」

 

「手前ェの火消しを俺ァ、地獄から眺めてるぜ」

「……おう」

 

 ジジイは最後まで笑っていた。

 体が灰になっていき、風に流されても笑っている。

 

 最後に残ったのは人の形を保っておらず、大量の灰が地面に落ちている。

 

 焔丸はその大量に落ちている灰を元に戻した右腕で掴みとる。

 

 別に悲しいだなんて思ってはいない。

 元からこうなることは分かっていたし、もう少し先には必ずこうなってた。戦人の最後が老衰では締まらない。それを加味して焔丸はこの決断をした。

 

 

 灰を握りしめる。

 

 

 別に悲しいわけじゃない。

 ただ、常に傍らにいた灯火が一つ消えた。

 

 その温かさを感じようと灰を手に取るが冷たい。

 

 

 そうだ、別に悲しいわけじゃない。

 目頭を熱くさせるものなんてないし、頬を伝う涙など……。

 

 

「クソッ……煙が目に染みやがる」

 

 焔丸はこの日、育て親を手にかけた。




氷菓はアイスのことです。
イメージはガリガリ君


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未来を見据えて

 釜茹での刑。

 それは光月おでんを初めとした家臣達の公開処刑である。

 一度は壊れかけた信頼を妻である光月トキが持ち直させたが、帰ってきたバカ殿を見て希望が崩れた。

 なのに今になってカイドウへ挑み、結局負けた。

 

 多くの者が知る末路はそれだろう。

 どんな感情があって、そこにどんな想いがあって、どんな経緯があって。

 

 そしてそんなものは全てどうでもいいもの。

 おでんがカイドウに負けた。

 その結果だけがこのワノ国に巡る。

 

 

「おい、ヤマト何泣いてんだ」

「……泣いてなんかない。僕は! 光月おでんの勇姿を目に焼き付けているだけだ」

 

「いや泣いてるから」

 

 公開処刑とは見世物にすることが目的の非人道的な行い。

 ヤマトはまたしてもカイドウの目を盗んで外に出て焔丸と会っている。後にボコボコにされるとしても、それを実行する胆力。

 バカ息子と呼ばれるだけのことはある。

 そんなバカ息子が見るは光月おでんの勇姿と吠えた。

 誰もが知るバカ殿、その最期を一目見ようと寄った阿呆がここには集う。

 

 しかし忍びの一言からバカ殿を見る目が変わった。

 そんなもの眉唾だと吐き捨てる者も確かにいる、しかしそれを断言出来ないのもまた事実。

 

「……これがジジイの言ってたことか」

「何か言ったかい?」

 

「いや、なんでもねェよ」

 

 火の煌めきは魂の輝き。

 風前の灯火だとしても、おでんのその火は民衆を魅了する。

 その一人の男の背中に憧れる。

 

 そのバカが焔丸の隣にもいる。

 いまおでんは多数の人間に、夢と希望を見せている。

 

 その決意も統率も、何もかもが遅かったとしても。

 それでもと男は吠える。

 

「こんな炎もあるんだな」

「ああ、この意志は誰かが継がないといけない」

 

「お前にゃ無理だよ」

「なんだと!?」

 

 心做しか、ヤマトの垢がぬけたような気さえする。

 どこか絶望して喪失感さえ出ていた、詰まらない人間がおでんの勇姿を見た途端にこの変わりようだ。

 その魂は死んでも死なない。

 誰かがその意志を引き継ぐ限り。

 

「な! あのクソオヤジ!」

 

 耐えきったおでんに向かってオロチは射撃命令を出した。

 おでんの上にいた家臣達はおでんの言う通りに逃げ出し、まともに動けないおでんがただ一人そこに残る。

 あれはもうじき死ぬ、それが分かっててもなお殺さねばオロチは気が晴れない。

 

 

 

 

『一献の、酒のお伽になればよし、煮えてなんぼのォ〜』

 

 

 

 おでんはそれを最期に撃たれた。

 額を確実に撃ち抜かれて極熱の湯に体を沈める。常人では耐えれずに直ぐに死ぬこんなものに一時間も持ったが限界はきた。

 叶うはずがない。

 

 誰もがそう思った。

 

 意味の無いことだと、無駄死にだと。

 

 

 

 だがどうだ? 

 あの男の勇姿を見て、犬死だったなどと誰が言える。

 民を守りて背中で語る。それがおでんという男。

 

 素晴らしき生き様だったとジジイに伝えてやりたい、そう思えるほどに焔丸の中でこの出来事はとてつもないものだった。

 

 

 

 

「「「「「「「おでんに候」」」」」」」

 

 このワノ国で、最も民を魅了した男が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいヤマト、手前ェはどうする?」

「僕? ……僕はヤマトじゃない、僕は光月おでん(・・・・・)だ。光月おでんの僕としては開国する」

 

「…………手前ェ、頭おかしいんじゃねェか?」

「誰がなんと言おうと僕は光月おでんの意志を引き継ぐ。これは僕が今決めたことだ、クソオヤジをぶちのめして、ワノ国を開国する」

 

「そうかよ……じゃあなヤマト」

「だから僕はヤマトじゃ……どこか行くのかい?」

 

「ああ、おでんが死んだ。つまり俺のダチがピンチだ。だが今すぐ俺がどうにかして勝てるだなんて付け上がってもいねェ。俺には飛行能力がある、アイツらを連れて逃げるかどうかだな。俺はワノ国を出る」

 

「そうか……寂しくなるね」

「なんだ? 付いてくるか?」

 

「無理だよ、僕には手錠がある。これがある限り僕はワノ国から出ることなんて出来ない」

「そうだな…………なら暫しの別れだ。死ぬんじゃねェぞ、ヤマト」

 

「誰にものを言っているんだ焔丸、僕は光月おでんだよ」

「だから言ったんだよ、今死んだんだろ」

「それは笑えないから止めてくれ」

 

 相棒を呼ぶように纏に火を灯らせて此方へと引き寄せる。

 その纏を掴み、いつでも飛べるようにする。

 

 

「じゃあな親友、開国の為、カイドウを討つ為、俺は力を付けて必ずここへ戻ってくる。それまでお前も力を蓄えとけ」

「……ああ! 任せてくれ! 必ず僕がおでんしてみせる!」

 

 なんだよそれ。だなんて笑いながら焔丸とヤマトは拳を合わせる。

 コツっと小さな8歳の子供の拳がぶつかる。

 

 それを最後に焔丸は亡きおでんの家族の元へと飛んで行った。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「未来へ!?」

 

 おでんの家臣、錦えもんがトキに聞き返す。

 そして衝撃の告白、トキが大昔の人間であること。そして、そのトキには時間を超えることの出来る妖術があるということ。

 

「モモの助様だけ? 何故日和様は!?」

「もしもの為です、光月の血を絶やすことは出来ないのです」

 

 その時、城へ何かが勢いよく衝突する。

 既に燃え尽きそうな城はその衝撃で、所々が崩れ落ち。今にも崩壊寸前と言えるだろう。

 

「間に合ったか……?」

「焔丸! 貴方どうしてここに!?」

 

 トキが焔丸を見て驚愕する。

 この子は巻き込んではいけないと思っていた一人なのに、なのになぜ来てしまったのか。

 そう思うもどうすることも出来ない。

 

「……っと、ノスケに日和無事か?」

「うむ!」

「……!」

 

 ノスケはしっかりと返事し、しかし日和はおでんが死んだとショックを受けているのか泣いている。しかしそれでも頷いてはくれた。

 

「胸を張れお前ら、お前らの父ちゃんは最後まで立派だった。誇れ、それが手向けだ。……さてと、本題に入ろうかババア」

 

「……貴方、どこまで知ってるの?」

「あんたのことだけだ、それ以外は何も知らねェ」

 

「……そうね……。もう他人事じゃないのよね」

「そうだな、元々他人じゃねェけどな」

 

 

 

 

「何時に飛ばすんだ?」

「二十年後よ、あの人からの遺言で20年後に世界がひっくり返る。そう言ってたわ」

 

「20年……分かった、それまでに俺は強くなって。それで強い仲間を集める。んで日和、お前はどうする? 俺と一緒に来るか?」

 

『──!』

 

 

 周りに電気が走った。

 そうだ、その手があったと。

 

 1人まではこのワノ国から焔丸の力を使って逃げられるのだ。

 ならば一番か弱い日和が──。

 

「お断りします」

「へぇ、どうしてだ?」

 

 日和は焔丸の提案を突っぱねる。

 その提案は乗るべきだ、しかしそれをしない。そこにはどんな意味があるのだろう。

 

「私は一人だけ守られる訳にはいきません。私も来るべき日までにワノ国で成すべき事を成します!」

 

「ったく、どいつもこいつも風変わりしやがって。それもこれもおでんのせいかねェ。最後の最後でとんでもねェ男じゃねェか」

 

 守られるだけの子供ではない。

 その眼からは強い意志が感じられ、決意は固いように見える。

 

 

「ババアは……聞くまでもねェな」

「ええ、私の死に場所はおでんさんと同じです」

 

「はは! とんでもねェババアだこりゃ」

 

 焔丸は珍しく大笑いしながらそういう。

 見渡してまずはノスケと拳を合わせる。

 

「じゃあまたなノスケ、手前ェは一瞬だろうが俺はその間も先に行くぜ」

「うむ! 楽しみにしてるでござる!」

 

 拳を合わせたと思うと、ノスケとその家臣達は姿を消した。

 これがトキの能力であるトキトキの力。

 

「んじゃあな日和、二十年後だババアに似て美人になれよ」

「はい! もっと美人になってます! 三味線も練習します!」

 

 頭を撫でて日和と別れる。

 最後に飛び蹴りされると思ったが、なくて少し安堵する。

 

「焔!」

「あ?」

 

 

「お元気で!」

 

 

「……おう」

 

 

 後に、ワノ国随一の花魁として小紫という女が国中を魅了する。

 そしてそれは、また別の話…………。

 

 

 

 

 河童が日和を連れていき、城内にはトキと焔丸だけとなる。

 念の為にと、もう一度だけトキを連れて逃がそうと思ったが、どうやら意志は固いようだ。

 

(こいつァ、テコでも動かねェな)

 

 はぁ、と一呼吸置いて纏に座る。

 長旅になりそうなので立たずに……。

 纏に跨るのはずいぶんと不格好故にしたくはなかったが、これも致し方なし。

 

「じゃあなババア、会えてよかった」

「…………ええ、さよなら」

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 燃ゆる城内を抜け、海へと飛び立つ。

 カイドウの力はどれだけ強大なのか焔丸は理解している。

 やつ本体も勿論のこと、部下も超一流。

 順調にいけば世代を代表する大海賊に名を連ねるだろう。

 

 

 ならばそこが狙い目だ。

 

 強者には比例して敵が増える。

 その意志を束ね、上手く誘導し力を使う。

 

 その目星をつけること、更には自身の力をつけることも並行して行わなければならない。

 

 

「……チッ、20年で足りんのかよ」

 

 やることが多すぎる。

 カイドウを討ちたいと思うワノ国の侍と忍び、やつを邪魔に思う海賊。

 恨みを持つものに復讐したいもの……。

 

 だが何より……。

 

 

「まずは手前ェが強くならなきゃいけねェな」

 

 

 

 

 

 目指す島などありはしない。

 ただやることのみがそこにある。

 

 

 流浪の旅が始まる。

 




日和連れてくか悩んだけど、色々と狂いそうだから辞めた。


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己が研鑽の糧とならん

 海を3日ほど飛ぶが何もない。

 焔丸の体力やら空腹やらが限界を迎えそうになる、今なら島さえ見つければ海に火で作った弾丸を発射して魚を取るのにと考えるが……それすらもできない。

 

 ならば生で食えばと思うだろうが、そこいらの一般常識をワノ国で知っている。

 

 

「…………見つけたァ」

 

 腹が減りすぎて少しおかしくなってしまっている焔丸の眼前に見えたのは船。恐らく海賊旗を掲げていることから海賊船と言えるだろう。

 

 相手が海賊。

 そんなものは焔丸に関係ない。

 

 あちらも焔丸に気づいていたのか目が合った気がするが、これを加味して焔丸はその海賊船におりた。

 

 ワノ国から数日で行ける距離なので、そこまで離れた場所では無いのだろう。

 

「……開口一番に悪ィが、飯を恵んではくれねェか?」

 

 周りを見渡し、何故か焔丸がここに落ちてくることを承知していたという顔の面々がいる。

 

 数人は武器を握っており、こちらに向けてくるが。

 子供であるということと、腹を空かせていて敵意がないというとこを読み取り武器を下げる。

 

「お、おい大丈夫か?」

 

 海賊船に乗っている海賊たちも突然重症の子供が降りてきたことに困惑しており、飯を恵む。

 

 

「これでも食えるか?」

「ああ! 恩に着る」

 

 

 目の前に出された恐らく海賊たちの全員分の昼食を片っ端から食い漁る。いい食いっぷりにコックのような格好をしている男は気持ちよさそうに見ている。海賊とはいえコック、子供が自分の料理を美味そうに食うのは見てて面白いのだろう。

 

 ワノ国を出てからの空腹と、ワノ国での食料不足気味だった体に全力で流し込む。食ったことも無い味に焔丸は本当に満足しながら食べている。

 

 

「……うめぇ」

「そうかい! そりゃ良かった」

 

 一心不乱に飯を食う姿を見て海賊たちも唖然とする。

 中には「それ、俺の昼飯……」と何とも悲しそうな声で言う海賊も居たとか……。

 

 

「それにしてもお前ェさん、なんで空なんてとんでたんだ?」

「……ゴクッ! ……ふぅ。なんでって言われてもな、武者修行ってとこだな」

「武者修行中に腹減って死にそうとは! やっぱガキだなお前ェ!」

 

「うるせェ」

 

 飯を貰って良くしてもらったのにこの言いよう。

 焔丸にとってこれは許容の範囲らしい。

 海賊達も不満そうにしているものはいなく、ガキが意地張っているようにしかみえないだろう。

 

「武者修行っても、何してんだ? ここは新世界、ガキ一人でできることなんて殆どないだろ? もしかして賞金首狩りで生計立ててるって──」

 

「賞金首ってなんだ?」

「ねぇよな、だと思った。てかなんでって武者修行なんてしてんだ?」

「……まぁいいか、俺はある男を倒すために修行をしてる」

 

「海賊……ねぇ、まさかとは思うがそれは新世界の海賊か?」

「その新世界ってのはなんだ?」

 

「…………マジかよ、お前何にも知らねェんだな」

 

 まさか焔丸がここがグランドラインの後半の海、新世界であることも知らないとは思っていなかった海賊達。

 これは随分な環境で育ったか、それとも相当情報を制限されていたかの二択になる。

 見たところ、裕福そうな家の出って訳じゃ無さそうだから……。

 

「お前ェも大変だな」

「? ……おう?」

 

 大変な子供は、自分が不幸だなんて思ってもいない。

 その何気ない焔丸の言動に海賊は少し同情する。

 

「強くなりてェってんなら海軍なんてどうだ?」

「海軍? なんだそれ?」

 

「海軍も知らねェのか!?」

「……ァ? おお、聞いたことねェな」

 

「カモメがトレードマークのデケェ船に乗ってる連中だよ。一度くらい見たことあんだろ?」

「………………いや、ねェな」

 

「どんなとこで育ったんだよ……」

 

「てか海賊になれとかは言わねェんだな」

「馬鹿言え、いくら空が飛べるなんて変な能力持ってても、テメェみたいな弱っちそうなガキを誘うかよ、それにお前を乗っけちまったら敵船とやるより食料が切れて死人が出るわ」

 

「……なるほど。そのカイグン? ってのはどこに行けば入れんだ?」

「俺も詳しくは知らねェが、訓練学校みたいのがあるんじゃねぇか?」

 

「……カイグン……ねぇ。悪くねェな」

 

 ここくらい美味い飯が食えて、それでいて鍛えることも出来る。

 実際にはそういう訳では無いのだが、そう焔丸は解釈してしまった。

 

 

「成程な……ありがとう海賊、おかげで目的が出来た。それとごっそさん」

 

「おう、そういや自己紹介がまだだったな。俺ァ【サッチ】ある海賊団のしがないコックだよ」

「ある?」

 

「馬鹿言え、今から海軍に入るってやつに自分がどの海賊だなんて言うわけねぇだろ?」

 

「海軍……」

「海のお巡りさんってとこだ」

 

「あー、なるほど……ヒョウ五郎みてェなもんか。じゃあいつか俺はサッチ等をしょっぴくってことか」

「物騒なこと言うなよ」

 

 

「冗談だ、飯の恩がある。この借りはデケェ」

 

「はは! そうかい! 昼飯抜きにしたかいがあるってんもだぜ」

 

 ほんとうに1食だけ(といっても莫大な量だが)食べてから焔丸は船を去った。最後まで名は名乗らずに……。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、またもや遭難気味になりつつも腹の貯蓄のおかげで何とか持つことができた。

 そこから歳が8から10になるまで流浪兼武者修行兼海軍探索をした。

 随分と纏に乗って移動する生活を続け過ぎたのと、島の移動が暇だったから火の使い方は格段に向上した。

 今まで行えなかった2個以上の同時着火と操作。

 

 これで無意識でも纏に乗りながら戦えるようになった。

 赤い大陸のような場所を抜けてから襲ってくる海賊が増えたが、逆に弱くなった気がする。あれからサッチ以外とは気のいい海賊とは出会えずにいた。

 

 そして着いた島がこれまた摩訶不思議な島で、シャボン玉が地面から出てくるような島。

 

「……さて、海軍はいるかねェ」

 

 かれこれ2年近く探していた海軍と会えるのか……そう期待に胸を膨らませながら、今日も摩訶不思議な島へと上陸する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【鬼打】」

 

 今日何度目になるか分からない海賊の意識を刈りとる。

 掌底が海賊の体の奥深くに刺さり、衝撃波という流桜だけが貫通する。

 のされた海賊の山が既にできており、もしこの全てが賞金首なら億万長者になれるのではないだろうか……。

 といっても賞金首の受け渡し方を知らない焔丸には関係のないことなのだが。

 

「やけに多いな……」

 

 もしやここは海賊の島なのでは……。

 そう思えるほどにエンカウント率が高い。

 それもそのはず、焔丸は新世界からこちらにやってきた。

 

 新世界で生き残るには四皇の傘下に入るか、刺激しないように生き延びるかの二択。

 新世界に入ってもいないようなルーキー達がいきがれるのはこの島、シャボンディ諸島か魚人島までだ。

 

 表向きは海軍本部が近いから表立って暴れる者は少ないが、やはりそこは海賊ということなのだろう。

 

 

「おい、この海賊共をやったのは貴様か?」

 

 近くに転がってる海賊から金を巻き上げて飯屋に行こうとしている焔丸に待ったをかけた人物がいた。

 そこには海賊とは思えないほどの気品さを兼ね備え、白くて大きな羽織をしているメガネをかけた男性。

 

「……さァな」

 

 流石にここで絡まれるのは嫌なので、目の前の海賊が賞金首かもしれないが換金の仕方がわからないためいつものように放置。

 それどころかメガネの男にやろうとさえ思う。

 

「惚けるな……貴様も海賊か?」

「俺が? ねェよ」

 

「生意気なガキか……ならそこの賞金首は海軍が拘束して良いか?」

「ああ、俺はそんなの知ら…………おい、今なんつった?」

 

 あまりの予想外の言葉に焔丸は聞き返す。

 サラッと言われたが、数年間も待ちに待った瞬間は突然やってくる。

 

「? 海軍が拘束しても良いかと聞いたが」

 

 

「やっと見つけた……! ……悪ィなメガネ、やっぱり拒否させてもらうぜ」

「…ふ、やはり金には目が眩んだか」

 

「いいや違うさ、俺は大金は持たねェ主義だ。その日生きていける金さえあればそれでいい、欲しいもんがあった時は別だがな……。まぁンなことはどうでもいいんだよ、賞金首を海軍にやる。だが交換条件だ、俺を海軍に入れろ

 

 余りに不遜、そして傲慢。

 メガネの男、センゴクはこの島に来るのは海賊だけでなく生意気なのかと溜め息が零れる。

 こんな少年に正義の何が出来る。

 多少腕っ節があるのは、そこに転がっている賞金首『防壁のシルダー』8800万ベリーを見ればあるのかもしれない。だが腕っ節だけでは海軍に異物を紛れ込ませることになる。

 

 それは海軍大将である『仏のセンゴク』が許さない。

 

「……なぜ海軍に入りたがる?」

 

 品定めするような目で焔丸を見るセンゴク。

 目の前にいるのは生意気なガキだが、センゴクはそんなものを1度取り払って一人の市民として問う。

 

 何故海軍に入るのか……と。

 

 

 すると返ってきた答えは何を聞いているのだ。

 とでも言わんばかりの当たり前の返答が返ってくる。

 

 

(強くなる、仲間を集める、コネを作る……最初から俺の目的は変わらねェ。カイドウを討つ為、その為に)

 

 

 

「俺がそうするべきだと思ったからだ」

 

 限りなく真っ直ぐを見据えたその目はセンゴクを射抜く。

 そこに正義の志がないことも、そういう事を考えて色々と加味する。

 ここで断って海賊に行く未来もあるだろう。

 間違いなく億超になる少年を見据えて……。

 

 

「……分かった、私が許可しよう。紹介状を書いておいてやる、お前名前は?」

 

「焔丸だ」

 

「そうか、ホムラマル。着いてこい、一度本部に戻る」

 

 長い流浪生活が終わり、海軍として生活することが決まった。

 焔丸の念願の海軍入隊が叶う。

 手に持つ纏を握る力が強くなっているのは気の所為では無いのだろう。

 

 

「……あァ、やっとだ」

 

 やっと雑魚狩りではなく、本当の意味での特訓を積むことが出来る。

 




実は海軍ルートだったっていう。
さて、それでは誰を部下にしようか…

1人は確定してるんだよね、ワノ国で激アツ展開は既にできてる!(多分)


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海軍 訓練編
配属先について


キャストリア爆死で再起不能だった俺氏
反動にて小説を書く


 海軍本部と呼ばれた場所は意外と近くにあった。

 シャボン玉が出てくる島から少し離れた場所で、数時間しか経っていない。

 

 メガネの男について行くと、どうやらこの男多くの部下から慕われているのか、それとも位の高い役職に就いているのか兵士のほとんどが敬礼をして見送っている。

 それにメガネの男は「ご苦労」と一言だけ言うだけ。もしかしないでも大物に拾われたのではないだろうか……。

 

 すると先程とは違い、肩にメガネと同じ羽織をかけている爺さんがメガネに話しかけた。

 

「おいセンゴク! なんじゃいガキなんぞ連れて、隠し子か?」

「黙れガープ。お前に付き合ってる暇などない!」

 

「ガッハッハッ! おい坊主! このおっさんはおっかないだろ?」

「……何こいつ、昼から酒飲んでんのかァ?」

「こいつはシラフでこれだ、付き合うだけ無駄だ」

 

 大将 大将と呼ばれていたのでそういう名前なのかと思っていたが、どうやらこのメガネ『センゴク』というらしい、そしてこの酒でも飲んでるのかと思うほど陽気な爺さんは『ガープ』。

 

「にしてもお前さん、その歳にしては強くねぇか? 僅かだが覇気(・・)が漏れてる。こいつはとんでもねぇ拾い物をしたなセンゴク」

「そうだな貴重な戦力には違いない……」

 

 どこか深みのある声でセンゴクはそういう。

 貴重な戦力。だがセンゴクは現時点で焔丸に正義の志がないことを悟っており、今から植え付ければいいと思っている。

 

「天然の覇気使いか……産まれた時からか、それとも何かを拍子に目覚めたのか」

 

「おいガープ? って合ってるか? ……その覇気ってのは何なんだ?」

「知らずにこれとは末恐ろしいのぉ、お前出身は?」

 

 覇気という言葉を知らない。

 そのため聞き返せば逆に質問された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワノ国だ」

 

「「───ッ!!!」」

 

 

 あまりに予想外の場所からの入隊希望。

 あの鎖国国家から何故海軍に……。

 2人の中で思考が駆け巡る。

 

「お前さん、侍なのか?」

 

 先に口を開いたのはガープ。

 ワノ国の最大勢力といえば侍である、その実力は計り知れぬもので一説にはワノ国の総力を上げれば四皇に食い下がることもできるのだとか……。そんな戦闘一族の島から来た。

 

 だが、それはありえない事だ。

 なぜならワノ国は出国も入国も固く禁じられている。そんな船を見つけてしまえば沈められるに違いない。

 

「違ェ」

「なるほどのぉ、侍でもなく子供だから出国が許可されたのか?」

「違ェ、侍じゃなくてもワノ国で出国は御法度だ。俺は騒動に紛れて出国しただけだ」

 

「そんなことができるものなのか?」

 

 ガープの問いに焔丸は指を空に向けた。

 ガープとセンゴクがつられて上を見るが、そこにはいつもと同じく青空が広がっているだけ。

 

「空」

 

 その単語に2人の謎は深まる。

 空がどうしたのか……と。

 

「飛んできた。これで」

 

 

 

「「……は?」」

 

 

 

 

 

 それから説明足らずだったのを理解して自分が妖術使いだということを明かし、ワノ国以外で妖術使いの事を能力者ということを知る。

 

 

「なるほどのぉ、飛行系の能力者か。これまた珍しい」

「羽根とか生えてる訳じゃねェよ、火ィ出せるだけだ」

 

「もしやお前さん、メラメラの実を食った訳じゃいやせんか?」

 

 メラメラの実、その名前に心当たりのあった焔丸は否定する。

 自分の実がジジイの言う通りでなくとも、メラメラの実はジジイのものだった故にそれではないと確信がある。

 

「いや、それはねェな」

「……そうか、悪かったなセンゴク、邪魔して」

 

「今更だ、さっさと行けガープ」

 

 何故だかメラメラの実の話をした瞬間、2人の空気が変わった気がした。焔丸はそれが気の所為ではないことは感覚的に理解したが、深追いすることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ホムラマル、先ずはこれだ」

 

 ガープと別れ、センゴクから軽く書類を渡されて記入し終えたところに、センゴクはモップとバケツを手渡ししてきた。

 

「これは?」

「見てわからんのか、掃除だ。どんな海兵も初めは雑用からだ」

 

「海軍って、海賊をボコす場所じゃなかったのか?」

「誰だそんなデマを教えこんだやつは、海軍とはこの荒れた海の抑止力であり海賊の様なことはしない」

 

 そう聞くとワノ国の裏の顔を仕切ってたヒョウ五郎とはまた違った扱いなのだろうか。認識を改める。

 

 

「先ずはトイレ掃除からやってこい、それまでに何処の船に配属するか決めておく」

 

「いきなり船なのか? 訓練学校みたいなのがあると思ってたンだが」

「お前がそこで何を学ぶというんだ」

 

「船の動かし方とか、色々あるだろ」

 

「…………そんなもの船に乗れば嫌でも覚える、あそこは元より力を磨く場所だ。お前の実力は少なくとも大佐クラスはある」

 

「大佐……?」

 

 その焔丸の言葉にセンゴクは頭を抱える。

 本当に海軍について何も知らないのかということに……。

 

「海軍将校と呼ばれて……いや、分からんな。そこらも追々教えていく。先ずはさっさと掃除してこい」

 

 無理やり持たされてトイレ掃除を強要させられる。

 強くなる為にここに入ったはずだったのだが、やはり最初から力を与えてはくれないのかと落胆するが焔丸の興味は意外な所へと消化された。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

「センゴク、便所が座れるようになってたんだが……ありゃ外界のは全部そうなのか?」

 

「トイレ一つで好奇心を擽られるとは……お前、それでもワノ国の男か」

「ワノ国関係ねェだろうが、にしても外界は知らねェことがいっぱいだ。服一つとっても奇抜な格好してやがる、まるで俺が浮いてるみてェじゃねェか」

 

 文化の違いに触れて、多少なりとも困惑がある焔丸。

 和服では無い人達、ボットン便所でない便所。挙げればキリがない……。

 

 そこに物音一つ立てずに入ってくる男が一人。

 最初は暗殺者や忍びかと警戒したが、海軍本部という本拠地でそんなことをできる人物がいないと悟ると警戒を解く。

 

 

「センゴクさん、この前の仕事なんですが……取り込み中でしたか」

「いや問題ない。いい機会だ紹介しておこう、私の部下のロシナンテだ」

 

「よろしくな坊主」

 

 目の前に現れたのは金髪の男。

 ロシナンテだった。

 

「何だこの幸薄そうなのは」

「なんでわかった!?」

 

「雰囲気」

 

 一目見た瞬間にロシナンテのドジ属性を見破る焔丸。

 そんなもの一目で分かるわけなんてないのだが、散々妹に蹴り倒されるモモの助を見ていたからか、同種のものを感じとった。

 

「それでこっちが雑用を終えたばかりの新兵ホムラマルだ、一応悪魔の実を食べた能力者らしい。見たところ強さもこの歳なら申し分ない」

「期待の新人ってとこですか?」

 

「知らん」

 

 ロシナンテが茶化すようにセンゴクへと言うが、己の正義を掲げていないような暴力装置が期待の新人とは言い難い。

 

「雑用って、あのトイレ掃除で終わりかよ」

「どこかのバカのせいで今の海は大いに荒れている、戦える人材を眠らせておけるほど今の海軍に余裕はない」

 

「誰だ?」

「冗談じゃないんだよな……」

 

 ワノ国という鎖国国家故に海賊王の遺言を知らない焔丸。

 そのことについてロシナンテは「マジかよ……」と漏らす。もし、仮にだワノ国という外界の情報を遮断されない場所でロジャーの最後の言葉に焔丸が感化されていれば……。

 

 センゴクはそんなことを考えて途中で打ち切る。

 考えるだけで悩みの種が増えそうだ……。

 

 確定では無いのだが、纏という特殊な武器を使いそれを乗り物にして空を飛ぶ。

 

 そんな数奇なことをする人物は焔丸を除き一人しかいない。

 それの再来と考えると…………。

 

 

「まぁいいや興味ねェ、それで船だっけ? 俺はどこに入れられるんだ?」

「……そういえばまだだったな、呼んでおいたからもうすぐに来るだろう」

 

 何となく察しのついたロシナンテはもの音を立てずに逃げようとする。

 あのおっかない人に会えば、長い説教を食らわされると思ったからだ。そして焔丸は何となくロシナンテの首根っこを掴んで逃げないようにする。

 

「バカ! 離せ!」

「……」

 

 掴んだ理由がなんだか面白そうという曖昧な理由だが、その直感は的中することになる。

 

 

「遅れて済まない、部下の教育で手間取ってな」

「いや緊急で呼んだ私が悪い」

 

「なるほど、ロシナンテを再教育……という訳では無さそうだな、こいつか?」

「ああ、一応能力者らしい、動物系の炎を使えるそうだ」

 

「珍しいな属性持ちか」

「ああ、動物系故に悪魔の実に依存する戦いになると思うが、そこも鍛えてやってくれ。私も元帥の後任として手がつけられん、かと言ってガープのバカに任せる訳にはいかん、お鶴ちゃんのとこも肩身が狭いだろう」

 

「なるほど、俺しか余ってないか」

 

 なんとも悲しいことに消去法で選ばれた。

 しかしそれを差し引いても、教育にかんしてこの男は海軍でもトップと言えるだろう。

 

「自己紹介がまだだったな、俺の名はゼファー。センゴクと同じく海軍大将をやっている」

 

 大将と呼ばれる三人の海軍が誇る最大戦力。

 その2人が目の前にいることに焔丸は臆することなくこう言いきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪ィ、今日名前出てきすぎて覚えきれねェわ」

 

 




まだピックアップ期間は始まったばかりじゃないか!
希望を捨てるな同士よ!(白目


ーー
ロシナンテはセンゴクの懐刀みたいな位置で海軍は誰も知らない存在かもと思いましたが、ゼファーの全海軍兵士を育てた男という肩書きがあるので、ごく少数の海兵はロシナンテのことを知っている。という設定にします。しかしロシナンテと話したことがあるのはセンゴクやゼファーのみにします。
お鶴やガープやコングは話したことは無いが、センゴクには懐刀がいる。くらいの認識で


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黒腕と恐れられた男

 あれから少したったあとに制服を手渡された。

 どうしても和服は外界では目立つということと、身だしなみから統一感を作ることで組織の連帯感をより強固になどとゼファーが言っていたので「じゃあ、なんでお前スーツなの?」と素朴な疑問を問いかけたら殴られた。

 

 極薄ではあるが流桜による防御膜を展開していたのに、それを突き破られて殴られた。

 そのジジイ以来の衝撃に驚きながら、鼻から垂れ流れる血を親指で拭って正面に立つ男を凝視する。

 

 どうやら海軍に入ったのは正解と言えるだろう。

 

 

「えーと、ゼフィーその腕を黒くするやつどうするんだ?」

 

 しっかりと制服を着て……。となるはずだったが、あまりに若すぎる入隊で制服のサイズがあっておらずに、ダボダボのポロシャツを裾結びしズボンは5回ほど裾を捲る事になり、足先が非常に厚い。

 そんな制服に着させられている新兵を見てゼファーは苦笑をこぼすかと思ったが、大将である自身の名前を間違えるという失態を見逃すことなく。

 

「ゼファーだ、お前の使っている覇気の硬化だ」

「……ガープの時から思ってたんだがよ、その覇気ってのは何なんだ? 流桜じゃねェのか?」

 

「ワノ国ではそう呼ぶのか? 少なくとも海軍では覇気と呼んでいる。今お前が使っている覇気を武装色、他にも感知に長けた力を見聞色、そして世の中に一握りしかいないが、それを手にすることが王としての資質を他にしらしめる覇王色」

「なるほどな、なら俺ァ武装色は出来てるってことになんのかい?」

 

「ああ、それも武装色の中でも更に高度な衝撃波を常に放出している。はっきり言って天才の領域だ」

 

 そう言われてもピンと来ない焔丸。

 なぜなら産まれた時から出来ており、習得よりも制御の訓練を物心着いた時からジジイに教わっていたのである意味煩わしいものと捉えている。

 焔丸にとって流桜はできて当然とも呼べるものなのだ。

 

 別に大した自慢にもならない。

 このせいで実母の腹を突き破ったという経歴に比べれば……。

 

「ゼファー先生!」

 

 焔丸がゼファーと話していると、同じくらいの背丈の少女がゼファーに駆け寄った。青色の髪をしており、何かしら同種の気配を感じる。

 

「アインか……どうした?」

「いえ……用というわけではないのですが……稽古をつけて貰おうかと」

 

「おいゼハァー、そいつなんかヤバい感じがするぞ」

「ゼファーだ……同じ能力者故に感じるものがあるのか?」

 

 同じ能力者。

 それだけでは説としては成り立たないだろう。なぜなら既にワノ国で数人、そしてついさっきにセンゴクという能力者にあっているのに、アインにだけ何かとてつもなくヤバい気配を感じる。

 

「おいバイン、おまえ能力は?」

「アインよ! 私は超人系のモドモドの実を食べた能力者、触れた対象を数年戻す能力よ。詳しくは解明されてないから分からないけど」

 

「分かんねェもんなのか? 自分の妖術が」

 

 焔丸は何も考えることなく疑問を口に出す。

 自分の場合は体を鬼に変えることと火を出すことの2つを本能的に感じ取れたのだが……。

 

「ようは限界の問題だな。例えばお前の……確か鬼だったか? その姿に人のまま変わるのか、それとも大きさすら変わるのか。はたまた1部分だけの変化は可能なのか? 巨大化は……などの精密な測定なのだが、如何せんモドモドの実は珍しく、そして強力だ。もし能力の重複が可能だった場合、歳が0やマイナスまで行った場合、対象にどんな影響を及ぼすのか。それこそ対象を胎児にまで戻すのか、それとも存在そのものを無くすのか。はたまた自分に換算されるのかの研究が進まない限り難しいといえるだろうな。死刑囚はインペルダウンから呼び出せるのだが、最悪の場合を考えた時、アインにもう少し年齢を上げておきたい」

 

「……なるほどな、全然分かんねェわ」

 

 ガクッと項垂れるアイン。

 わざわざ自分の敬愛する先生が長話をしてまで自分のことを教えてくれたのに、清々しい顔で言い切ったこの相手に呆れる。

 

「つか難儀な妖術……じゃなかった、能力だな。能力に振り回されてるみてェだ」

「ハハ! 言い得て妙だな、アインそういう事だ。悪魔の実の能力への依存はしてはいかんぞ」

 

「分かってます!」

 

 恐らく耳にタコができるほどに聞かされているのだろう。

 能力者は能力を振り回されてはいけないと。あくまで自分が使っている側なのだと。

 

「そういえばホムラマル、おまえ歳は?」

「俺ァ多分10だ」

 

「ほう! アイン良かったな初めての同期じゃないか」

 

 海軍の募集はもう少し歳を重ねてからされるものなのだが、悪魔の実を食べてしまった場合は異なる。

 名目上は保護という形になるが、最低限他人を傷つけないよう制御を教えて貰い、なし崩しに海軍入隊というのが少し黒い部分と言えるが。本人たちは気にしてはいない。

 

「あァ? こいつも10歳なのか? …………なら俺ァ11だ」

「なんでよ!?」

 

 どんな理屈だと叫んでしまう。

 いい意味でも悪い意味でも自由な男なのだろうということは、ここ数分で分かるが長くいると疲れると思ってしまう。

 

「残念だがセンゴクが書類を既に提出しているはずだから歳は変えられないぞ」

 

 そんな提出されていなければ変更出来るとでもいいたげなゼファーの言葉にアインは動揺を隠せない。あの堅物のゼファー先生が冗談混じりなことを言うということに。

 実の所、同期達と会ったことによって気分が高揚しているのも理由の一つだろう。

 

「……ならしゃーねェか、おいペチャン構えろ」

「だからアイン……って! どこ見てその擬音にした!?」

 

「うるせェよ」

 

 そんな傍から見れば微笑ましい光景を見ながらゼファーは思った通りにことが進んで笑う。

 見て分かる戦闘狂が同期を見つけて挑まないはずがない。自分たちの世代も同じようなものだったと遠い目をしながら思う。

 

「相手してやれアイン、いくら能力者と言っても相手は素人だ。海軍で数年戦ってきたお前の厚みはちょっとやそっとでは破れない」

「……分かりましたゼファー先生!」

 

 そう沸き立たせたがゼファーは何となく勝敗は見えていた。

 確率で言うなら9割9部焔丸であろうと。確かに両者とも悪魔の実を食べた能力者であるが、アインは使用が上手く出来ずに使いこなせてはいない。しかし焔丸は2年間空を飛びながら生活していたとセンゴクから聞いている。詰まるところそれはある程度までは悪魔の実を制御できていることになる。更に言えば動物系。アインに焔丸を倒し得る切り札のような物はなく身のこなしはそこそこだが、攻撃……腕力を上げれば年相応の女の力しか出せない。

 

 アインは二本のナイフを構えるが、焔丸はそれを見て手を刀の形にする所謂手刀と呼ばれる形を作り相対する。

 

 そしてその不真面目さにアインは焔丸に罵声を浴びせた。

 

「舐めてるの!?」

 

 

「──大マジだ」

 

 途端に焔丸からの威圧が尋常ではないものへと変わる。

 それに本能的に察するアインと、驚愕の色を見せるゼファー。

 

 アインは自分にその威圧を向けられているということでまだ分かる。

 だが、ゼファーにとってこの程度の威圧などグランドラインで腐るほど見てきた程度のものだ。

 よくて新世界に入る前、それか入ったすぐあと程度の威圧しか感じない。なのに…………だ。

 

 この既視感は────。

 知っている。

 ロジャーよりも前の最低最悪の海賊団の副船長。

 

 その気配と唯ならない程に似通っている。

 

 

 

 

 

 先手を取ったのはアインだった。

 ナイフで斬りかかり、いつでも銃も抜けるようにしている二段構え。ここで銃を使うのはとも思ったが、今の威圧で出せる全てを出しても大丈夫な相手だと思ったのだろう。何せタフさが売りな動物系の能力者、銃弾1発や2発では死ぬことは無い。

 

 眼前まで迫ったナイフを焔丸は避けるでもなく受け止める動作をする訳でもなく焔丸はただ見ていた。

 

「──このっ!」

 

 アインはそれに苛立ちを隠そうともせずに斬り掛かる。

 急所では無いものの、それなりに手傷を負わせられる二の腕を狙い柔らかい身体を潜り込ませる。

 

 その動作を焔丸は視認して印を結んだ。

 

 焔丸の漏れ出す流桜が見違える程に噴出させてオーラの放出が可視化されるほどに溢れ出す。

 

 

「え?」

 

 そんなものアインには分からない。

 アインの目の前で起きたことと言うのは振り下ろしたナイフが突然虚空で止まったということ。そして見えない壁のようなものに弾かれたということ。

 

 焔丸は両手の流桜を体外ではなく、体内に取り込みアインに触れられるように調節して手首を掴む。

 

 アインはそれに応戦しようとするが、性差の出やすい年齢でアインに勝てるところではなく壁際へと投げられてしまった。

 

 何故床に叩きつけなかったと聞かれれば、流石に気が引けたのであろう。

 

 

 その事に少しばかりゼファーは溜息を零すが、紳士的じゃないかとやや呆れながら言う。あの既視感の正体とは似ても似つかない優しい子供であることに安堵をしている。

 

 

 

 そして投げられたアインはと言うと、空中で体勢を立て直して壁にぶつかる前に足でブレーキをかけて止まる。

 そして手に持っているナイフを焔丸の方へと投げつけて、腰にある銃を二丁取り出しすぐさま発砲する。

 

 非力な自分のナイフ攻撃ではなく、強力な火薬の力を使った攻撃ならと……。

 

 しかし火薬とは火を使うもの。

 火に属するものならば、焔丸に操れない道理はない。

 

 

 

 焔丸の悪魔の実の真髄はタフネスでもなければ身体強化でもない。

 真の力は自由に火を作り出せる発火と周囲の火を自由に操れる2つを兼ね揃えた【煉合】。

 

 焔丸はナイフを流桜で受け止めてから迫る銃弾の火を操作してその場に固定する。

 

 銃弾が空中に止まっているという摩訶不思議な体験を初めてしたアインは一瞬ほうけてしまい足を止めてしまった。

 

 そこに焔丸は銃弾そのものを操作して打ち返す。

 

 

「……何よそれ……」

 

 反則では無いか。

 そんな消え入りそうな声がアインから漏れた。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「随分と叩きのめしたなホムラマル、アインが凹んでるぞ」

「知るかよ」

 

 接近では触れることさえ出来ない、攻撃はことごとく防がれ、最後には利用されて帰ってくる。

 そんな無理難題にもアインは取り組んだが、先に心が折れた。

 

 

 

 

 ああ、私じゃこの人には勝てない……。

 

 と、アインの自尊心は折られてしまった。

 戦いが始まるまでは、自分が胸を貸そうと思っていたのにだ。何せアインは同世代というのを海軍では見たことがない。そしてそんな幼少期から海軍の最高戦力とも呼ばれる大将に稽古を少しだがつけて貰い、自分は少なくとも同世代ならば最強という自負がアインにはあったのだ。

 

 だがどうだろう。

 手も足も出ずに不真面目そうな同世代に負けてしまった。

 

 自分のこれまでの訓練とはなんだったのか……。

 そう思えてしまうほどに情けない気持ちになった。

 何より自分に良くしてもらっているゼファーに顔向けができない。

 

「落ち込むなアイン、お前も努力しているがアイツも何もしてないという訳では無いということだ。海は広い、早めに気付けた事は良かった事だ」

「…………」

 

 ならばアイツは私以上に努力しているということなのだろうか? 

 それはないと即座に否定する。あんな不真面目な人が努力を続けられるわけが無い。

 

「ねぇ、アナタいつから訓練してるの?」

「訓練なんだそれ?」

 

 声を荒らげ無かったのが唯一の救いだった。

 どうせ手を挙げても腕を捕まえられて転がされるのがオチだと深く刻まれたから……。

 

「強くなるために鍛えたり……そういうのよ」

「あー……ンなことかよ、そんなの一日に少しだけだよ」

 

「へぇ? ちょっとだけでもして──」

「一日の中で少しだけ、武から離れる」

 

 何も無く言ってみせたが、それが本当なら自分では足元にも及ばない。そして嘘だと断ずることは先程ので出来なくなった。

 一日に数時間から半日くらいしか費やしていない自分とは違い、焔丸はまさに武に生きるという。

 

「……はは」

 

 変な笑声が出てしまった。

 

(そうか…………それは勝てないな……)

 

 

 これまで常に自分が一番になろうとしていたアインは、初めて自分よりも上の存在というものを認識することになった。

 そして恐らく、この出会いは何か予感めいたものを感じさせられた……。

 

 




モドモドの実ってはっきり言ってドチートだと思う。
年齢以上になったら問答無用で消滅とか半端ないし、老兵を全盛期に戻すとか控えめに言ってチート。

ハンターハンターなら「神の不在証明」と合わせたら王にワンタッチで勝てるというブッ壊れ。
正直Zで一番チートしてた


【注意】(オリ設定)
映画の設定とは違い、アインの入隊時期が異様に早いです。


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