双頭の境界線 (帽子好き)
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第一話

龍崎隼人はいつも通りの日常をし、そしてベッドに入り、眠った筈だった。

 

なんだ、ここは。

 

眠った瞬間に意識が覚醒し、視界が変わる。

明晰夢なんだろうか?

そう思うが夢というには少しばかり、リアルに近すぎた。

 

体を動かそうとするが動かず、視界も動かすことも出来ない。

視界に映るは汚い天井、鼻からくる匂いは酷い血の匂い、耳に聞こえるは何者かの話声、あとは台か何かに寝かされてるのと口が塞がれてるのと手足がロープか何かで固定されてるくらいだ。

ろくでもない場所というのは理解出来た。

 

『あなたは誰?』

声が聞こえる。

耳から聞こえるものではなく自分の奥底からの声、言うならば念話というべきか。

 

『ここはどこなんだ!?』

心の中でそう強く念じるとその奥底に居る存在に対してそう伝えることが出来たと感じた。

 

『わかんない、アリスは連れてこられただけだから

でも奴らはホームって呼んでる』

 

『そうか、ごめん、……俺の名前は龍崎隼人』

 

『りゅーさきはやと?初めて聞く名前ね

私の名前はアリス・ルグラン、アリスって呼んで』

 

『アリスよろしくな

それで体が動かないんだがどうすればいい?』

 

『?、動くよ』

その言葉ともに視界が動く。

その視線の先には近くにテーブルが遠くにはよくわからない装置と白衣を着た2人の人間が喋ってるのが見えた。

どうやら俺はアリスの肉体に憑依?しているらしい。

この状況でいやに冷静なのは少し気になるが今はそれもありがたい。

 

『アレが奴らか』

 

『そうだよ』

そう確認してると話が終わったのか、こちらに片方の白衣の人間、少しやつれたように見える白人?が近づいてくるのが見える。

 

「検体526番、暴走の兆候は無しと」

そうぶつぶつ言うと書類に何か記入している。

未知の言語を使ってるようだが不思議とその内容は理解できた。

 

「憑依実験は暫定の成功として次にブラッドの投与実験を行う」

ブラッド?なんだそれは?

白衣の人間が書類をテーブルに置くとその手には注射針が握られていた。

 

注射で刺され、薬液が注入されるのと同時に凄まじい鈍痛と熱が体を襲う。

 

『痛い、痛いよ』

 

『あが、くそっ……あい……つら』

 

アリスがもがこうとするが動けない。

 

「検体526番暴走の兆候……いや苦痛にもがいてるだけか

魔獣化反応は無しジョーン、麻酔薬を持ってきてくれ」

 

「ハイス主任、了解しました」

 

「よーしやっとここまで来たんだ、あともう一頑張りするぞ」

ハイスとかいう白衣の人間に鼻に何かを嗅がされると自分の意識が落ちた。

 

 

 

「はぁはぁはぁ夢か?」

意識が覚醒し視界が開ける。

そこはいつもと変わらない自分の部屋だった。

 

「くそっ酷い夢見た」

 

『ここはどこ?』

心の奥底から声を感じた。

 

『アリスなのか?』

 

『そーだよ?』

さっきのは夢ではないということなんだろうか。

とりあえず心を落ち着かせるためにも飲み物を飲もう。

 

『甘いし冷たーい』

 

『それならよかった』

冷蔵庫に入れておいたオレンジジュースを飲む、どうやら味覚も共有しているようであり、さっきの体験も踏まえると全ての感覚が共有してるようだ。

 

「うん、なんだ?」

手足を見ると、何かに縛られてたような少し鬱血しているのが目に入る。

寝る前には特にそういうことをした心辺りはない。

つまり、あちらで受けたことも多少こちらでもリンクされてると考えるべきだ。

とはいえこのことをアリスに攻めるのはお門違いだろう。

 

『大丈夫?』

 

『大丈夫だ、問題ない』

 

アリスが心配してるが問題無いと言っておく。

とりあえず問題はここからどうするかだ。

アリスの肉体とリンクしているのならあそこから抜け出すことを考えないといけない。

 

そう考えていると視界が増えた。

 

「なっ!?」

混乱しそうになるがそれをなんとか抑える。

もう片方の視界は牢屋のようでとても臭く、吐きそうになり、また様々な獣のうめき声のような何かがとても気持ち悪い。

吐きそうになった途端匂いと音は消え視界だけになる。

どうやら不要な感覚の共有をカット出来るらしい。

 

『不思議な感覚だな』

 

『うん』

アリスは牢屋の中を見回してるようで、どうやらここは個室らしい。

 

『初めて来た部屋だ』

 

『そうか、とりあえず混乱するし寝る

そうすればそっちだけになるはずだ』

急ぎつつも父と母と妹を起こさないように、コップを流しに置き寝室に戻る。

そうしてベッドに入るとすぐに意識が落ちた。

 

そしてすぐに意識は浮上する。

 

そこは監獄と言えるとこだった。

さっきは2つの視界で混乱していたせいかあんまり確認出来なかったがそこは酷い有り様だった。

とりあえず視界と触覚だけだがそれでもおぞましい。

聴覚を共有すると、そこはさらに酷くなり、おぞましい動物園と言ったところだろう。

 

向かい側の牢屋は何人かの人間が入れられていた。

おぞましいうめき声をあげながら歯を剥き出しにして獣のようであった。

暗がりだからかあまりよくわからないが一人は腕のようなナニかを咥えているが見なかったことにしたい。

 

『なんだアレは』

 

『わかんない、奴らに何かされたのかも』

何をすればああなるのだ。

まるで人の器に獣を入れたようなおぞましさがあった。

 

『くそっ抜け出さないとな』

 

『どうすればいいの?』

 

『とりあえず牢屋の中を見回してくれ』

 

視界が動いていく。

向かい側に電灯のような物がありこちらの部屋も十分とは言え無いがそれでも光は届いていた

まず扉の部分は鉄格子できっちり塞がれており、なかなかにキツそうだ。

鍵は普通の鍵のようだが少なくとも素人が開けるのは無理だろう。

窓は無く、今が何時かはわからなかった。

一角にある桶は恐らくトイレだろう。

壁の材質はレンガのようで非常に硬く、床もよくわからないが硬いので石か何かだろう。

 

『食事はどうしてる?』

 

『奴らに変なことをされる前にパンと水を貰ったあとそれっきり』

 

辺りを見回したが道具のような物は何も無く、食事もろくに取れず、目線も低いし小さい手は肉体も少女のそれだろう。

手錠や足枷をかけられていなかったのは不幸中の幸いだ。

となると今は体を休めることしか出来ない。

 

『今のところはどうしようもないか』

 

『うん……』

 

打つ手なしか、そう思ってときにそれは起こった。

 

ドゴン

 

爆発音が響く。

 

『なんだ!?』

 

『なに!?』

 

何が起きたのかわからないがそれでも動くことは出来ない。

 

 

ドゴン

 

2度目の爆発音が響く。

 

「くそっアドテンと国家の犬共め」

それから少しして白衣の人間、ハイスがそう言いながらこちらの牢に近づいてきた。

その手には鞄を大事そうに持っていた。

 

「同志達の元にせめて526をつれてかねば」

鍵束を取り出してこちらの牢を開けようとする。

だがその瞬間ハイスが鉄格子に叩きつけられた。

 

それはライオンの体に蠍の尻尾を持ち、人面の化け物だった。

こちらの方を見るがすぐさま興味を無くすとそのまま立ち去っていった。

 

ハイスが叩きつけられた鉄格子は歪んでおり、なんとか出られそうな感じになっていた。

 

逃げだせそうだ。

 

『抜け出したらとりあえずそいつの鞄を開けてみよう、何か役にたつものがあるかもしれない

あと鍵束ももらっておこう』

 

『わかった』

 

牢を抜け出したらハイスの鞄をさぐる。

中には注射器と何かの薬液が3本、それと書類が入ってた。

恐らく何かの研究成果なんだろうが今の状況だと役にたたない物だった。

 

 

『役にたつものは無しか、逃げるぞ

あと出来るだけ牢獄の中は見ないほうがいい』

 

『うん』

 

鍵束を手にしたアリスは駆け出していく。

そのスピードは異様に早いスピードでアリス自身その速さに戸惑ってるようだった。

 

『あの薬のせいか』

 

『たぶん』

 

問題はマップも無しにこの牢獄を抜け出すということだ。

 

『さっきあいつが言ってたアドテンってなんなんだ』

 

『アドテンって言うのは依頼を出せばやってくるお手伝いをしてくれる何でも屋のことだよ』

なるほど?少なくとも味方の可能性は高そうだ。

どうやらあの牢屋から入り口は近かったようで体感だが結構早い時間に牢獄の入り口にたどり着いた。

その大きな扉は物理的に破られておりナニか恐らく、あの人面の化け物が通っていったんだろう。

その隣にある受付と思わしき場所は文字通り粉砕されていた。

 

そのまま怪物の跡を追うのも怖いが戻っても仕方ないので向かっていく。

そこは緩やかなスロープになっており上の開け放たれた扉の方から光が漏れていた。

 

扉をくぐるとそこからはまさしく別世界と言った感じだった。

 

いきなり中世ファンタジーからSFに変わったとしか言い様がなかった。

 

かなり広い廊下いや通路に出る。

電子制御のものと思われる、隔壁があったが恐らく隔離するためのものであったようだがそれを使う暇も無く、怪物は通っていったようだった。

 

付近にはロボットと思わしき残骸や息絶えた人間の遺体があった。

 

『酷い惨状だな』

 

『さっきの化け物がやったのかな?』

 

『おそろくそうだろうな』

恐る恐る移動していく。

抜け出した俺達に気づかれていないとは思うがそれでも見つかれば不味い。

爆発音が止まったのが少し気がかりだが気にするほど時間がないのだ。

 

自動扉の残骸であろうそれはただのスクラップになっていた。

 

そこを警戒しつつアリスは覗く。

 

ババババババ

 

グシャ

 

カキン

 

銃の音や何かが潰れる音が聞こえる。

 

そこはまさしく戦場と言ったところだろう。

すぐ近くに先ほどの人面の怪物の死体があった。

 

「おらぁ」

鎧を纏った青年が大剣を振りまわす。

 

「うふふ、これでどう」

銃で奴らを撃ち抜く女性が居た。

 

「はー、百烈撃」

籠手を着けた男性が吹き飛ばす

 

その他色とりどりなバラエティ豊かな集団が奴ら側と思われる部隊を倒していた。

 

『もう一踏ん張りだ、アリス』

 

『うん』

 

『身を屈めて、まずはあそこに行くんだ』

 

『わかった』

ゲームとかでやっていたがカバーリングは大事だ、出来るだけ流れ弾を受けないように視界の中では身を隠せそうな遮蔽物に移動していく。

怪物が暴れまわったおかげか色んなものがぐちゃぐちゃになってるお陰で比較的遮蔽物は扉の近くに豊富にあったこととアドテン?側が押していることもあって乱戦になっているということだろう。

 

這ったり屈んだりしながら移動していく、気分はさながらステルスゲームの主人公だろう。

そうして少しずつ移動していくがどうしても遮蔽物が無いところに出てしまった。

 

だが問題無い。

 

『そのまま真っ直ぐ全速力』

 

そう指示を出すとアリスはアドテン?側の陣地であろうそこに全速力で向かっていく。

 

「こちらレイ、救助者発見しました!!

行って!!」

近くに居た盾を構えた女性こちらを発見するとそう声をあげカバーに入ってくれた。

盾から銃弾を弾く音が聞こえる。

ありがたい。

 

爆破された壁を抜け、外に出ると多種多様な車が待ち構えていた。

 

そこで勢い余って転んでしまうがそこは仕方ない。

 

「もう大丈夫だ」

そう男性に抱きしめられると緊張が切れたのか意識が薄くなってくる。

 

そのまま二人の意識は落ちるのであった。

 

 

 



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第二話

朝起きる。

そこには一つの視界だけだった。

 

『おはよう、お兄さん』

 

『アリス、おはよう

……お兄さん?』

 

『ダメ?』

 

『問題ない』

このやり取りが昨晩のことが夢でないことを自覚させる。

まだ視界が一つしかないということはアリスの肉体は寝ているのであろう。

足の方が痣になっており、恐らくそこは最後に擦りむいたところだろう。

 

「隼人兄朝だぞー

って隼人兄が休みの日に朝から起きてるなんて珍しい」

扉を勢いよく、開けて妹の恵が入ってくる。

 

「おはよう、恵

たまたまだよ、たまたま」

 

『龍崎恵、うちの妹』

 

『妹、いいなー』

 

『そうか?、うるさいだけだぞ』

 

「隼人兄、ボーッと突っ立ってどうしたの?」

 

「ちょっと考えことしてただけだ、着替えるから出てけ」

思考で会話していたことを誤魔化し恵をはかば無理やりに追い出す。

やっぱり慣れが必要そうだな。

パジャマ姿からTシャツとズボンに着替える。

手と足の鬱血したのは少し残ってるが夏場に長袖は目立つので仕方なくだ。

そうこうしているうちにもう一つの視界が開かれた。

そこは病室だった

アリスはそこをキョロキョロ見回してるようだ。

 

「患者の方が目を覚ましました」

看護師の方がそれを見たようで医師を呼んでこようとするのが目にはいった。

とりあえず朝食に行かないとまた恵が呼んでくるからリビングに向かわないといけない。

 

「隼人、おはよう

朝ごはん出来てるわよ、冷めないうちに早く食べなさい」

母さんが朝食を作って待っていてくれた。

今日の献立は味噌汁とご飯とスクランブルエッグとサラダ、ウインナーだ。

 

「親父は?」

 

「まだ寝ているわよ」

 

「いただきます」

とりあえずお腹も空いてるし飯を掻きこむ。

アリスの方も白衣を着た医師っぽい人が来ていた。

アリスが白衣を着た人物を見たときに体が動く、怖がっているようだった。

 

「来ないで」

 

『アリス、落ち着いて』

 

『でも……』

 

『大丈夫、大丈夫』

 

アリスをなだめある程度落ち着かせる。

医師の方はというと慌てて立ち去り、替わりに看護師の方が来てくれた。

 

「あなたの名前わかる?」

 

「アリス・ルグラン」

 

「アリスちゃんって言うんだ、さっきは怖がらせてごめんね、

もう怖いことは起こらないからお姉さんとお話しよっか」

 

看護師さんの方とはなんとか怯えずに話ていくことが出来るようだ。

 

 

「隼人兄、またボーッとしてる」

 

「!?あっすまん」

恵の声でまた動いてないことに気づき、急いでご飯を食べていく。

アリス側も看護師さんとの話でさらに落ち着けたようだ。

とりあえずこの視界や感覚に早急に慣れなければ、不味いと思った。

 

「ごちそうさま」

朝食はちゃんと完食し、自室に戻る。

とはいえ横になったりせず、少しでも馴れる為にテレビを見ながらだ。

 

『アリス大丈夫か?』

 

『うん』

 

看護師さんとの話によると検査を受けたあと何も問題がなければそのまま帰れるらしい。

看護師さんはかなり言葉を濁していたがアリスは救助された中でもかなりマシな部類だということがわかった。

ちなみに現在地は皇都ベルリスにある、グリーズ記念病院というところらしい。

とりあえず食事として出された病院食と思われるパンとスープを食べ終わると看護師さんの付き添いで検査室に向かう。

 

『皇都ってことは大きいのか』

 

『私も2回ほどしか行ったこと無いけどとても大きい街だよ

 

検査しつつもそう会話する。

身長、体重とかの測定はともかく、魔力は流石異世界というべきか。

ちなみに魔力は血圧測定器みたいな機械だったがメーターが振り切れてしまった。

その後その上のランクの魔力測定器を看護師さんが持ってきて、無事計り直せたが普通の人間に比べると非常に高いらしい。

とはいえ比較データが無いのとあくまで珍しいだけなため何とも言えないみたいだ。

レントゲンに準じたものもあるようで、それも行ったが特に異常がなかったとのことだ。

ちなみに鏡もあったのでアリスの容姿も見えたのだが銀髪の可愛らしい少女と言ったところだ。

見立てだと歳はギリギリ二桁行くか行かないだろう。

 

『お兄さんのことは話さない方がいいのかな?』

 

『まあ話しても信じられないだろうし話さなくてもいいと思う』

 

『わかった』

 

いきなり別世界の人間と脳内で会話できたり、視界を共有されると言ったら流石に狂人扱いされるだろう。

なお検査が終わったらお風呂とのことだが視界は閉じないと行けないだろう、色々不味い。

 

「アリスちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ」

 

『お兄さんどうしたの?』

 

『後生だから気にしないでくれ』

 

『?』

 

どうやら何個かの感覚は残さないと不味いようで

なんとか視界と触覚は塞いだが匂いと音は塞ぐことが出来なかった。

ヤバい色々とヤバい。

あと思ったけどトイレの時やお風呂はお互いに塞いでおくのを提案しよう、というかそうしないと不味い、とても。

 

『お兄さん本当に大丈夫?』

 

『大丈夫大丈夫問題ないだから気にしないでお願いだから』

 

無垢な気遣いがとてもつらかった。

 

というわけで検査等が終わったがそれでもあと2~3日は病院に居て欲しいとのことだった。

とはいえずっと病院の中ではなく、皇都の方に出かけても大丈夫らしい。

無論付き添いは必要だが。

 

「おー、思ってたより元気そうじゃない」

検査が終わり病室の中で窓を覗いてると扉が開き、渋い中年男性がそう喋ると若い女性とともに入ってきた。

 

『アリス知り合いか?』

 

『知らない人』

 

「おっと、驚かせてしまった

初めまして護衛として来た、アドテンのシルバー級のジーク・クロイグだ」

 

「はぁジークさん、幼い子怖がらせてどうするんですか

アドテンゴールド級のレイ・シールです

よろしくね、アリスちゃん」

 

アリスが少し身構えてるとそう名乗った彼らは手帳を見せる。

その仕草はなかなかにかっこよかった。

彼らがアドテンらしい、少なくとも怪しい人間にはあまり見えないし、シールさんの声は聞いたことがある。

恐らく逃げるときにカバーしてくれた方だろう。

 

『今のところは信用出来そうだ

流石に堂々と入ってきてるし問題ないと思う』

 

『お兄さんがそういうのなら』

 

アリスが警戒を解くと彼らも安心したようだ。

 

「ふう、警戒を解いてくれて助かるよ

君を故郷に送り届けるまで護衛するのがおじさん達の仕事だ」

 

「あなた達が守ってくれるということ?」

 

「そうです、安心してねアリスちゃん」

そう胸をはるシールさんのことを見るに相当自身があるんだろう。

クロイグさんの方はなんというかとらえどころが無いというか、なんというか怪しい訳ではないが昼行灯という表現がぴったり嵌まるだろう。

 

「じゃっおじさんは外で待機させてもらうから

レイちゃんあとは任せたよ」

そう言うとクロイグさんは病室の外に出る。

 

「ジークさん……はぁ」

どうやらシールさんはなかなかに苦労人らしい。

 

それはそれとしてこっちの今日の昼食はうどんだ、夏に冷たいうどんはいいね。

 

『こっちには無い食べ物だ、いいなー』

 

『そっちには無いのか、そっちの食文化も気になるな』

 

そう言えば空腹に飯食ってる感触はなかなかにつらそうだな。

 

「とりあえずお昼だしお昼ごはんにしようか、アリスちゃん何食べたい?」

 

「麺類食べたい!!」

 

待ってましたと言わんばかりにアリスがそう言った。

どうやら空腹にうどんの味と食感は結構こらえたらしい。

 

その後食堂でスープスパゲッティーらしき食い物のカウンターパンチの飯テロはつらかった。

腹は満腹でも飯テロは飯テロなんだと思ったのであった。



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第三話

『すごいな』

 

『大通りのウクス通りはもっとすごいよ』

検査の終わった午後、気分転換でのおでかけということで普通にエレベーターで一階に移動し病院を出るとそこは異世界だった。

空を浮かぶ船が駐車場と思わしき場所に止まってたり、空の上に存在していたりと、あと不思議な筒型の機械があったり、

これだけでもファンタジーとSFが混ざった世界というのが感想だ。

病院では受付ロボットや清掃ロボットも見たし、こちらの世界はずっと進んでいるのだろう。

 

「アリスちゃんどこか行きたいところはある?」

 

「ウクス通りに行きたい」

 

「わかりました、ジークさんお願いします」

 

「はいはい、おじさんの車はちょっと狭いけど我慢してね」

 

行き先を言うとシールさんを先頭に駐車場の片隅にある、古ぼけたまるっこいフォルムな車に向かう。

そして車に入ると生ぬるい風が顔に吹き付ける、暑いせいか車が暑くなってるんだろう。

 

「ちょっと待っててね、クーラーつけるから」

そうクロイグさんが言うと冷たい風が吹く。

車内はこちらの世界の車とあまり変わらないが運転席の方は違うところも多いようだ。

 

「よしっと」

エンジンの音がかかると車はゆっくり車道を進んでいく、信号機に似た機械もあるようで普通のドライブだった。

窓からはさっきの筒型の機械に乗って空中を浮かんでる人間や荷運びするロボット、自転車らしきものをこいでる少年達等色々なものが見えた。

5分くらい経つと車が止まる。

着いたようだ。

 

「じゃあおじさんは駐車場に止めてくるからレイちゃんとアリスちゃんは少し待っててね」

 

「はーい」

 

そう言うと車から出て、駐車場の外で待つ。

その駐車場もこちらの世界とあまり変わらない、変わってるところは 筒型の機械を停めるところがあるくらいだ。

おそらく空を飛ぶ船は別のところで停めるんだろう。

しかし暑いなこちらの世界でも夏なんだろうか。

シールさんと駐車場の入り口近くで少し待ってるとクロイグさんが戻ってくるのと同時に歩きだす。

 

そうして一分ほど歩いてると大きな通りに出る。

 

『想像以上だ』

 

『ここがベルチェ帝国が誇る皇都ベルリスの一番の大通り、ウクス通りよ』

そこはおびただしい人通りと活気に包まれていた。

屋台や道の真ん中でパフォーマンスをする人間が居る。

道の両脇は大きな建物が道に沿うように建っていて、おそらくお店だろう。

 

「いやー、いつもいつもすごいね、ウクス通りは

病院の都合上、そこまで居れないけどお金はある程度あるから楽しんできな」

 

「はーい、とりあえず飲み物が欲しいな」

そう言うクロイグさんにアリスはおねだりする、実際この暑さは飲み物が欲しくなるだろう。

 

「はいはい、わかったよ」

アリスの横にシールさん、後ろはクロイグさんの隊列で進んでいく。

 

「シードル3つちょうだい」

 

「はいよ」

屋台で飲み物、缶にストローが刺さったようなものをクロイグさんが三本買うとそのうちの一本をアリスに渡す。

 

うん、美味しい。

リンゴっぽい酸味と甘さそして炭酸がいい感じだ。

 

飲み終わった缶を清掃ロボットに捨てると、

その次はシールさんの提案で服屋さんに行くことになった。

一応今着ている服はとりあえずサイズの合うものをアドテンの支部で持ってきただけらしく、急いで持ってきた都合上一組分しかなかったらしい。

大きな建物に入るとそこはデパートのような感じになっていて様々なお店があり、そのうちの衣服のお店で買うようだ。

 

『似合う?』

 

『似合ってる』

 

試着室の鏡の前でポーズをとる姿を見るが可愛い。

黒を基調としたエプロンドレス風の衣服を着た姿はなかなかに似合っていた。

店員さんが言うにはデザインと耐久性を両立させてるらしく頑丈とのことだ。

そうして衣服を選んでいたらシールさんの手によって着せ替え人形になってしまった。

 

「アリスちゃんかわいいなー」

シールさんが衣装を手に持ちながら、そう言う。

暴走しているようだった。

実際アリスが可愛いのはよくわかる。

 

『助けて』

 

『流石に辞めてって言えば止まってくれるだろうけど言いづらいか

クロイグさんが居づらそうだし止めてくれるのを信じよう』

シールさんはアリスが本気で辞めてと言えば止まってくれるだろうけどなかなか言いだしづらいらしい。

となるとクロイグさんが止めてくれるのに祈るのみだ。

 

「あーレイちゃん、アリスちゃんが困ってるからそれはそこら辺で終わりにしな」

アリスの助けの視線を見たクロイグさんがシールさんを止める。

最終的にはエプロンドレスに似た服にアリスは決めたようだ。

その服とシールさんがプレゼントととのことで買ってくれた服を手に店を出る。

 

着せ替え人形になっていたせいか、日が沈みつつあった。

人通りも店に入る前と比べると少なくなっていた。

 

「うーん、もうそろそろ帰んないと不味いね」

そう言ってクロイグさん達と病院に戻る。

帰り道も何事も無く、帰ることが出来た。

 

病院に戻って何をするかと言えば特に何もない。

暇だったがクロイグさんがゲーム持ってきたので遊ぶ。

将棋っぽい駒事に動き方が決まってるソレをやってるがなかなかに難しい。

アリスと一緒に考えてはいるのだがクロイグさんに遊ばれてる感がすごかった。

そうして遊んで居ると恵に晩御飯で呼ばれていたのに反応が遅れたせいで怒られてしまった。

 

そんな感じで今日一日過ごしたがやはり異世界というのはすごい、それが感想だ。

そうしてアリスの視界が眠りに落ちようとしたときにそれは起きた。

 

「やあアリスちゃん」

不意に扉を開けられクロイグさんが日中のように入ってくる。

クロイグさんはシールさんと病室前で待機の筈だ。

なにかがおかしい。

 

「そう警戒しないでくれると嬉しいね、アリスちゃんともう一人の誰かさん?」

クロイグさんのその発言にアリスの動きが止まる。

 

『!?』

 

「どうしてわかったの?」

その言葉は驚愕と焦りを含んでいた。

不味い、ペースを握られた。

 

「おじさんの勘ってことにしてくれるとありがたいね、で、ここから先はただの独り言ということにしてくれると助かるね」

 

「まず、君たちの安全は概ね問題ない、イオタグラ……君たちを捕らえた組織の支部は壊滅されたし

アドテンの公式記録では君たちはたまたま助かったことになっている、

とはいえ君たちのことを知って興味を持ってしまう人間はどこから出てくるかもしれない」

 

『つまり「自分達を狙う組織が出てくるかもしれないってこと?」なのか?』

アリスと声が重なる。

 

「そういうこと、まあそういう奴らが出てくる可能性は低いんだけどね

ただそれでも巻き込まれたり、狙われたりするかもしれない

で、もし興味があるならアリスちゃんの故郷にあるアドテン支部を訪ねるといい、護身術位は教えてあげることが出来るよ」

そう言うとクロイグさんは出ていった。

 

『アリス……』

 

『お兄さん、これから忙しくなりそうね』

 

『アリスは理不尽に思わないのか?』

 

『そうね、でも、そのおかげでお兄さんに会えたわ、

これから頑張ろうお兄さん』

 

『そうだな、頑張ろう』

そう感じたアリスの思いは、姿は見えないがとても輝いているように見えた。

 

 



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