それでも、俺は───。 (新郷遊佐海)
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Mission 00 始動 プロローグ
久しぶりに力いれて書きました。
※尚作者はいつも通り深夜テンションで書いております。
俺ガイル-完-第四話のガハマちゃん………見てて辛かったよぉ( TДT)
修学旅行から帰ってきて数日が過ぎた。
あの
季節は秋。
二年生は既に修学旅行気分も抜けて間近に控えた期末テストに向け、勉学に集中している。そんな中俺はというと、学校の図書室でひっそりと
うん、大事。休憩ちょー大事。
こんな調子で本を探していたら背高い本棚の向かい側で集団が話しているのに気がついた。
放課後に勉強会でも開いているんだろうと聞き流しながらその場から離れようとしたが、聞こえてきた内容に思わず脚が止まった。
「ヒキタニって男が戸部の告白を邪魔した」と。
この日を境にこの話と噂が出回り、更には俺が文化祭で相模を攻めた話もぶり返してきた。当然のように、俺へのヘイトは集まるわけだか、そこら先は酷いものだ。ある時はカッターで教科書やノートをズタボロにされ、またある時は下駄箱に生ゴミを入れられた事もあった。
ここら辺までは小学生の時に経験しているからまだ良い。
それに人の噂も七十五日というし、無視しておけば次第に事は収まって…………なんて旨い話がある訳もなく。俺の悪評は二週間も経たない内に何重にも尾ひれが付いてしまった結果。
「オラッ!」
「ッ……」
腰の入ったボディーブローを受けて体勢を崩して地面に倒れ込んでしまった。
軽く現状を説明すると、同級生であろう名前も知らない三人組(眼鏡男、チャラ男、筋肉ダルマ)に体育館裏に呼び出され、暴行を受けている。
「お前さ、あんま調子に乗んなよヒキタニ」
「そうそう。戸部の告白邪魔したり、文実だった相模を攻めたりよお」
「テメーは教室の端で大人しくしてればいいんだ、よッ!」
「ぐッ!」
チャラ男が倒れてた俺の腹目掛けて蹴りを入れてきた。今の一撃で内蔵が悲鳴を上げて、息を吸うのも辛い。
「ていうか、こんなクソザコ陰キャに時間使ってるの勿体ねーし。もう帰ろうぜ」
「了解~。あ、じゃあさ。この後ス◯バ寄ってかね?」
「それは別にいいけど、コイツどうする?」
筋肉ダルマは横たわる俺を指差して他二人に聞いた。
「ほっとけ、どうせ残りの学校生活死んだようなもんだろ」
眼鏡男がそう言い残して歩き出すと他二人もそれに続いて去っていった。彼奴らの姿が見えなくなるのを確認した後俺はゆっくりと体を起こす。
「ぐっ……。起きるのも一苦労だな」
腹の痛みに耐えながら愚痴を溢し、壁に沿って立ち上がって静かに空を仰いだ。
〈──すまない〉
〈──あ?〉
〈──君は、そういうやり方しか知らないんだと分かっていたのに……すまない〉
〈──……謝るんじゃねーよ〉
こんなときに限って修学旅行での葉山との会話を思い出しちまった。はぁ……あのやり方が一番よかった。グループも壊れてない。誰も傷つかない。それでいいじゃ──。
〈──あなたのやり方、嫌いだわ。うまく説明出来なくて、もどかしいのだけれど、あなたのそのやり方、とても嫌い〉
ッ……どうした、雪ノ下。いつもならキリッとした目で罵倒してくるだろーが。
〈──人の気持ち、考えてよ……! 何でいろんなことわかるのに、それがわからないの……?! そーゆーの、やだよ〉
由比ヶ浜……、もういいんだ。声だって震えてるぞ。無理に声をかけなくていい。
あの時から何度も重複する二人の言葉を強引に押さえつけ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
息を吐いて目を開けて前を向くと、雪ノ下と由比ヶ浜が此方を見つめて佇んでいた。分かってる、そこにいる二人は幻影だと。
自分が追い込まれて脳が勝手に見せてるだけなんだと。
だけど、例えそれが幻影でも。
「違う、違うんだ」
だから、だから──。
言い訳していくように一歩、また一歩と後ろへ下がっていき、やがて怖くなって逃げ出した。
そこから先はあまり覚えていないが何度か電車を乗り継いで来たのだろう。
辿り着いた場所は海沿いにある切り立った崖の上。風に乗ってやってくる仄かな塩の香りが鼻腔を擽る。水平線に沈む夕日をじっと眺めていると、下の方から強い風が吹き上げてきた。
「……」
視線を下ろした先には削れた岩場と荒れる白波が見えた。
一歩踏み出せば死ぬ。なんて考えて見ていると、
転がり落ちるように、何度も、何度も崖にぶつかる。骨は砕かれ岩肌が制服を破って肉を切り裂き、最後は水飛沫を立てながら白波の中に落ちた。その衝撃で肺の中の空気は全て吐き出され、海水が流れ込んでくる。苦しくて踠こうとしても体が動かない。
次第に意識が遠退き、視界も霞みぼやけてもう終わりだと思った瞬間、たった一つの走馬灯が見えた。
“日の満ちる
その光景を見て脈打つように指先が動いた。腕が挙がり、離れていく水面に向かって力の限り手を伸ばした。届くはずもないのに必死に伸ばして、思ってしまった。
死にたくないと。
その思いが体中を駆け巡った時、“歌”が聞こえた。
だけど、それ以上に感じたのは……
感情の波が体を弄び呑み込んでいく。
最後に瞳が映したものは、
西暦2065年 6月
「────ッ!!誰……私を呼ぶのは」
静かな波打ち際で、海風に吹かれながら輝く星を眺めていたのは紫髪の美女 “美雲・ギンヌメール” 。彼女は何か異変に気が付くとある方向を見続け、唇に指を添わせた。
「……星の音」
その囁きは押し寄せる波の音に消され、彼女は視線の先に何かあると信じ、歩き出した。
「これは……」
美雲のいた場所から少し外れた市街地付近の浜辺。そこには美雲が険しい顔をするほどの光景が広がっていた。
全身に深傷を負い、傷口から大量の血液を流す青年“比企谷八幡”が仰向けで倒れていた。彼の周囲は流れた血によって赤く染め上げられ今もそれは広がり続けていた。
美雲は八幡の元まで駆け寄って膝を着くと首元に指を当て、脈を計った。弱々しくも僅かに脈打ち生きている。
それだけでも知れた美雲は携帯していた通信デバイスを急いで取り出し、通信を送った。
通信が繋がって端末のホログラムディスプレイが起動すると赤髪の女性 “カナメ・バッカニア” が投影された。
『どうしたの美雲? 緊急通信を受けて出たけど……』
「要救助者を発見。意識不明の重体。救護班の手配をお願い」
『──ッ! 了解、すぐに送るわ』
「座標はもう送ってある。それを救護班に回して」
『助かる』
早急に会話を終わらせた美雲は通信を切って端末を仕舞うと、スカートの裾を引き千切って止血処置を施していく。処置が終わって一息吐いた美雲は再度八幡の顔を覗き込むように近付けた。
「……貴方を見てると何故、こんなにも胸が痛いの?」
美雲の指は八幡の頬を添って胸元まで辿り着くとその手を自身の胸に当てた。
胸に走るその痛みが一体何なのか。
それは夜空に輝く星にも、彼女自身にも解らない。
瞼に光が差し込み目を開けると、並んで前を歩く雪ノ下と由比ヶ浜がいた。回りの景色を見ても至って変わりない道。
でも俺、確か海に飛び降りてそれで……。
「ヒッキー聞いてる? これからゆきのんと猫カフェ行くんだけど、一緒にどう?」
「ん?あ、あぁ猫か……。折角だし行ってみるか」
「ホント!? じゃあ、皆で一緒に行こう!!」
「仕方ないわね。猫に免じて貴方の同行を許可するわ」
「もぉ~、ゆきのんまたそんなこと言って~」
我が物顔でそう言ってきた雪ノ下は静かに歩き出し、その後を由比ヶ浜は追いかけるように歩き出した。久し振りに見た光景に自然と笑みを溢した俺も後を追いかけようと、一歩踏み出した瞬間。
カチリと全身が動かなくなる。咄嗟の事で雪ノ下たちに助けを求めようとするが、喉の奥で押し止められて肺の中の空気が次第に抜けていく。
〈──ヒッキー! 早く早く~!〉
〈──何をグズグズしているの。比企谷くん〉
振り返って手を振る由比ヶ浜と呆れた顔で此方を見る雪ノ下。二人との距離が離れていく。
頼む、行かないでくれ由比ヶ浜、雪ノ下!
「待っ、──ッ!!」
声が出たと思ったら、全身が引き裂かれそうなほどの激痛が襲いかかり声にならない悲鳴をあげた。
なんだよコレ……痛すぎる。
「……元気なのはいいけど、傷口が開くわよ」
激痛に悶えていると綺麗な声が聞こえてきた。
無理やり横目で見ると、窓の隅に紫髪の女性が腕を組みながら寄りかかって此方を見ていた。
「あ、あの。あなたは……」
「名前を聞くときは、まず自分から名乗るんじゃない?」
「え? あ、ひきぎゃ……比企谷、八幡でしゅ」
おい誰だ噛んだヤツ、コミュ症も大概にしろよ。
「ヒキガヤ? 変わった名前……。私は美雲。戦術音楽ユニットワルキューレの“美雲・ギンヌメール”よ。覚えておきなさい」
「あ、はい。それとその、“比企谷”は名字で、“八幡”が名前なんです」
「そう。ならハチマンと呼ぶわ」
「は、はい」
おっふ……。名前呼びですかそうですか。
「それでハチマン。これ押して良いかしら?」キラキラ
ギンヌメールさんはそう言って手に持っている呼び出しボタンを見せてきた。というか何でそんなに目キラキラしてるんだ。ボタンあったら押したくなる症候群なの?
「……お願い、します」
お願いされたギンヌメールさんは颯爽と呼び出しボタンを押した。
一分も経たない内に白衣を着た医者と付き添いの看護師が病室に入って来て、俺の体をゆっくり起こすと、軽い検査と質問をしてとっとと出ていってしまった。
それと検査中に医者に聞いたことだが浜辺で瀕死になっている所を此処にいるギンヌメールさんが助けてくれ、四日間眠り続けていたそうだ。
それにしてもまた病院か、小町になんて謝ろう……。
「あの、ギンヌメールさん。家族に連絡したいんですけど」
「……少し待ってちょうだい。カナメに聞いてみる」
ギンヌメールさんはそう言うと右手の親指を口元に近づけた。って、え?
「カナメ、彼が起きた。家族に連絡したいそうよ。…………そう、なら伝えておく」
どういう事だッテばよ。爪に向かって話しかけてる様にしか見えないんだが、A〇pleもうそこまで進んだの…?
「ハチマン。今カナメ…私の仲間から伝言で、此方に向かってるから少し待ってほしいそうよ」
「あ、はい。それはいんですけど。ギンヌメールさん、今どうやって話してたんですか」
「……」
え、無視?ボッチは視線に敏感なだけで無視には体勢がないんですよ。分かっててやってる?
「あ、あの「美雲」…………はい?」
「美雲と呼びなさい。メンバーからはそう呼ばれてる。敬語も不要よ」
そう言われてもな…。まともに話した事ある女子なんて由比ヶ浜と雪ノ下以外いないんだぞ? そりゃ緊張だってするだろ。さては貴様、陰キャ特攻持ちだな?
俺は負けんぞ!エリートボッチの俺に不覚はないッ!
「えっと……美雲さん」
ハイ駄目でした。
この人の気迫に負けました。ちくしょーめ!!
「呼び捨てで結構よ」
「いや無理だから。女子を名前で呼ぶだけでも俺にはハードルが高いのに、その上呼び捨てとか心臓抉れちゃうからこれで勘弁してくださいお願いします」
「あら、それが貴方の素? 良いじゃない、結構好きよ」
「……そうかよ」
そんな簡単に好きとか言わないでください。俺じゃなかったら勘違いしちまうぞ。そうやって男は「こいつ、俺の事好きなんじゃね?」とか言って勘違いした挙げ句、女子に告白してフラれ、次の日には笑い者にされるんだ。ソースは俺。
「どうしたのハチマン、目が腐ってるわ」
「ほっとけ、目はデフォだ」
「そう…………貴方も大変ね。友人はいるの?」
「おい、ストレートに友人いるとか聞くな。こんな見た目でも友人と呼べる奴は何人かいる」
「あら、意外ね」
全く失礼なやつだな。いるに決まってるだろ?それは勿論、大天使トツカエル様だよ。守りたいあの笑顔。(使命感)
材木座?そんな奴知らん、森に帰しとけ。
「フフッ、貴方は表情が分かりやすいわね。見ていてとても退屈しないわ」
「……そっすか」
「ほら、今度は照れちゃって」
そう言いながらニヤリと笑う美雲さんに青筋を立てるのは仕方ないことだと思う、うん。
け、決して笑ってる顔が綺麗だとか、そんなチョロインみたいな考えしてないんだからね!
「……はあ。その辺にしなさい、美雲」
美雲さんとは違う声が聞こえ、顔を動かすと、病室の出入り口付近に頭を抱えた赤髪の女性が立っていた。
「来たわね、カナメ」
「私だけじゃないわよ」
そう言ってカナメという女性が扉の脇に退くと、今度は茶髪で髭を顎まで伸ばした男性が現れた。
「どうも美雲さん。そっちの坊主は初めましてだな」
「あ、はい。初めまして……」
突然現れた二人は俺のベッドの側に寄って来た。
「改めて、民間軍事企業ケイオス・ラグナ支部所属、Δ小隊隊長“アラド・メルダース”だ。アラドと呼んでくれ」
「そして私が戦術音楽ユニットワルキューレリーダー、“カナメ・バッカニア”よ。カナメと呼んで」
「あ、はい。えっと、比企谷八幡です。比企谷が名字で、八幡が名前です」
俺が二人に習おうと自己紹介すると不思議そうに此方を見て言った。
「あら、珍しいわね。名字と名前が反対なんて、どこの出身なの?」
「えっと日本の千葉出身ですけど……」
「ニホン? チバ? 聞いたことない
「いや、聞いたことありませんね。美雲さんは?」
「私も知らないわ」
三人は首を横に振って知らないと答えた。いくら外国人でも、日本ぐらいは知っているはずだ。でもバッカニアさん、さっき惑星って言ってたよな……。
いや、いやいやいや。そんな典型的な二次創作じゃあるまいし。何かの冗談だよな。でもそんなふざけたことするような人たちに見えないし、もしかしたら本当に。
「あの、アラドさん。此処は一体何処なんですか?」
「何処って、此処は惑星ラグナ、バレッタシティにある病院だが、それがどうかしたのか?」
「──」
アラドさんの話を聞いて俺は目を見開いて絶句した。しかしそんなの現実的に考えてあり得るわけがないんだ。
「どうしたの、ヒキガヤくん。そんなに目を大きくしてそれに何だか顔色も悪くなってきてるし、今日のところはお
「あっいえ、大丈夫です。何でも───」
「ねえ」
誤魔化そうとしたら、いきなり両頬を捕まれて、ぐいっと美雲さんの顔の方に向けられた。目線の先にいる美雲さんの目は何かを見透すような鋭い目になっていた。
「貴方、何か隠してるわね?」
「ッ!!」
瞬間、その言葉を聞いて体が跳ねてしまった。
酷い緊張感に見舞われ冷や汗が止まらない。
「………今しがた貴方の名前を調べても、経歴は疎か、戸籍、それに属する系譜も存在しなかった。加えてその慌て様にあの大怪我。不確定要素が多すぎてスパイかどうか断定するに至らないけど、正直に話してほしいの、貴方は何者?」
カナメさんの言葉に周りを見渡す。アラドさんも真剣にこちらを見てくる。俺は三人の真剣な眼差しに当てられ正直に話すことにした。
「えっと、その、今から言うこと信じられないかもしれないですけど、聞いてくれませんか」
俺の雰囲気の変わり様に気づいてくれたのかアラドさんは腕を組むのを止めて聞く姿勢をとった。
「ああ、話してくれ。それにどうしてお前が浜辺で瀕死の状態で倒れてたのかをな」
「はい…。色々聞かないと分からない事がありますけど、まず言えることは。どうやら俺はこの世界の人間ではないみたいです。───」
それから先は包み隠さず、全てを話した。
奉仕部に入ったあの日の事。
奉仕部として解決してきた数々の依頼。
文化祭で相模が起こした問題の後始末。
それから部長の雪ノ下と部員の由比ヶ浜の事。
葉山たちの噛み合わない無理難題な依頼。
修学旅行で行った俺の嘘告白、数日後から毎日のように受けた俺へのイジメ。最終的に崖から身を投げ出して自殺してどういうわけかこの世界に来てしまった事を。
「───、これが全てです」
「「「…………」」」
俺の話が終わると三人は口を開けて唖然としていた。
「…経歴がないもの頷けます。時空を越えるのも、過去に一例だけバジュラと共に消えたSMS隊員がいると記録だけ残っています。しかし、俄には信じがたい話です」
カナメさんの言葉も最もだ。そんなこと言われて、はいそうですか。と言える方が可笑しい。
「しかし、ハチマンが嘘を言っているようにも思えん」
「私も同感よ」
しかしアラドさんとそう言いながら腕を組み直し、美雲さんもアラドさんの意見に賛成する。
それから幾つか議論を重ねる三人を見て、俺は仕方ない事だと何処か諦めているとアラドさんがこちらを向いてきた。
「だがハチマン。一言だけ言える事がある」
「え?」
詰め寄ってきたアラドさんは睨みを利かせる。その声色は明らかに怒りを表していた。
「命を粗末にするな」
「──!」
非常に短く、とても重い言葉。そしてアラドさんは真っ直ぐに手を伸ばして頭を撫でてきた。
「お前の話を聞いて、辛い思いをしてきたのは分かった。けどな、誰かを救うためにお前が犠牲になる必要も、何処にもないんだ。それにお前の事を心配してくれる仲間はちゃんといるだろ?」
「そ、そんなのいるわけ……」
「いるじゃねーか、大切って思える二人が。それに、お前が求めた答えも、もう分かってるんだろ?」
「────ッ!!」
アラドさんの言葉に
「おれ、は……」ポロポロ
溢れ出す感情が雫となって頬を伝う。駄目だと分かっていても、どうしても流れ落ちていく。暗く、寒い、閉ざされた部屋にいつの日にかやって来た暖かい一筋の光が差し込んだような感覚だった。
「俺、俺は……」ポロポロ
その光の正体が何なのかは分からなかった。
分からないことが、とても怖かった。
怖くて無意識に由比ヶ浜の優しさに、雪ノ下の言葉に、甘えていたんだ。そんなの俺が求めていたものじゃない。
そんな物、絶対にあるわけない。そんなものに手が届かない事ぐらい分かってる、だけどッ。
「俺は、“本物”がほしい……!!」ポロポロ
進み出した足を止めることはしたくないんだ。
それから俺は、暫く泣き続けた。
泣き続けて数十分。漸く落ち着いた俺は羞恥心に刈られ毛布で顔を隠しております……ハイ。
「いやあ、結構ぶちまけたな」
「そうね。それに盛大に泣いたわ」
「ふふ、案外子供っぽいが所があるのね、ヒキガヤくん」
んんがぁああーー!! 恥ずかしいィイ! 恥ずかしいィイよぉおおーーー! バカじゃねーのバカじゃねー!? バーカバーカ!! もうやだ、土に還りたい……。
「こ、殺してくれぇ」
「ダ、ダメよ」
なら笑いこらえながら拒否しないでもらえますかね美雲さん。他二人も苦笑いしないで美雲さんを注意して。八幡的にポイント低いよ…全く。
「さて、そろそろ面会時間も終わりそうだし、最後にお前に聞いておきたい話がある」
手を叩いて話を切り出したアラドさんが尋ねてきた。
「帰り方は分かるか?」
「分かってたらこんな事一々言わないでしょ」
「ハハッ違いねーな。が、そこでた」
先程まで和らいだ空気が一気に針積めた空気に変わった。その変わりように思わず生唾を飲み込んだ。
「
「アラド隊長、それはあまりにも…!」
「分かってます。ですがこれは俺が必要だと判断して言っているんです」
カナメさんはすぐ異議を唱えようとするが、それすらもアラドさんは押しきるともう一度俺に顔を向けた。
「いいか、ハチマン。ケイオスは星間企業複合体。様々な部門があり、軍事部門にあたる俺たちΔ小隊の任務は、ワルキューレの護衛と支援。それに伴い直接戦闘も起こる。生き残れる可能性は保証しない」
「死ぬかもしれない、ですか」
「ああ、そうだ」
死。黒くてドロついた何かに包まれる感覚。
そう考えただけで手が震えた。
「何も無理に火種に突っ込む必要はない。ハチマンの事情を話すことになるが、艦長に……俺の上司に頼めば戸籍や住所は用意してくれるだろう。どうするハチマン、これは
アラドさんの問いかけに胸が跳ねた。
お前が決めること。
その言葉を聞いて俺は覚悟を決めた。間違ってるかもしれない。それでもお前らに会えるなら。由比ヶ浜、雪ノ下、小町。少しだけ、前に踏み出してみることにする。
「………もし、戻れる可能性が一つでもあるなら、怖くても、また会いたい。会って伝えたいことがあるんです。だから俺を、俺をΔ小隊に入れてください」
俺が覚悟を決めて入隊を志願するとアラドさんは喜び、カナメさんは呆れていた。
そんな二人を余所に無言で立ち去る美雲さんが見えた。彼女は去り際に俺を見て軽く手を振ると病室から出ていった。クールビューティーというか、ミステリアスというか、色々と分からない人だ。
面会も時間を向かえ、八幡の病室を後にしたアラドとカナメは、マクロス・エリシオン艦長“アーネスト・ジョンソン”に八幡の事情を話し、監視という名目で戸籍とΔ小隊への仮入隊を頼み込んだ。アーネストは考え込むものの快く了承し、八幡の仮入隊が決まった。
彼らは今、その帰りである。
「いやあ、我ながら無茶なことを言った」
「本当ですよ、全く……。民間人をケイオスに、それもΔ小隊に入れるなんて。それに、彼に肝心な
それを聞いてアラドは立ち止まって夜空に見上げた。カナメも少し遅れて立ち止まり、振り返って彼を見る。
「………まだ言うべきじゃないと判断しただけですよ」
「時空を越えて異世界からきた青年……。この事は、本部に報告しないでおきましょう」
「そうですね。今は、余計ないざこざは起こしたくありませんから」
互いの言葉に苦笑するアラドたちは再び街明かりで照らされた道を歩き出した。
ご清聴ありがとうございました。
久しぶりに長文書いたせいで一人称の地の文とか酷いことになってないと良いな。確認はしてるけど自分では気づかないところがあるので誤字報告とかよろしくお願いしますね(丸投げ)。
次回 Mission 01 思い出 ダイアリー①
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Mission 01 思い出 ダイアリー①
どうぞお楽しみください。
西暦2065年
6月26日 晴れ
あれから二週間が経過して明日退院することが決定した。
退院のことをアラドさんに連絡したら夕方ごろにやって来て、肩にかけていた大きめのボストンバッグを俺に渡してきた。
中身を覗くと、普段着とその着替え、ケイオスの制服、洗面用具といった大量の生活必需品と戸籍情報入りのデジタル端末が入っていた。
夢見る少年の気持ちのようにケイオスの制服を見て胸を踊らせていると、アラドさんからこの日記を受け取った。
渡してきた理由を聞いたら、「此処での日々をこれに書いておけば、元いた世界に帰った時思い出にできるだろ?」と言われた。
折角の厚意を無駄にすることはしたくないので書ける範囲で書いていこうと思う。
ーーー
6月27日 晴天
退院当日。
貰った普段着に着替えて、アラドさんと共に病院の外を出ると俺の常識なんて軽く越えてくるような光景を見て驚愕した。
約30年前に入植してきた地球人が先住民と共に高度な技術で発展させた港湾都市“バレッタシティ”。
陸地との連絡路や港などを設置して沖合で停泊している都市型移民船“アイランド・ジャックポット”。
ロープウェイで繋がれた丘上で静かに佇んでいるマクロス級戦艦“マクロス・エリシオン”。
全高は830mあり、平時は人型の姿で駐留しているが宇宙空間へ進出する際には要塞艦への変形を行う。更に両腕は個別の宇宙空母として分離・単独行動ができる。
左腕部は俺がお世話になるΔ小隊の母艦でありワルキューレと共同作戦を遂行する空母艦“アイテール”。
右腕部は別隊のα、β、γ小隊の母艦でマクロス・エリシオンの主砲へ変形する空母艦“ヘーメラー”。
以上の事がアラドさんにバレッタシティの案内されながら話してくれた事で他にも各地の名所や老舗を紹介してくれた。
アラドさんに案内されている内に日も暮れてきたので最後に海岸沿いに碇泊する飲食店船に案内してくれた。
名前は“
一階を飲食店として経営しており、多くのケイオス職員が利用している。それと二階はΔ小隊男子寮となっている。アラドさんの奢りで夕食を摂ることになり、メニューを見ながら料理を決めていると半魚人の男性が話しかけてきた。
名前は“チャック・マスタング”
階級は少尉
Δ小隊隊員で、コールサインはΔ3。
浅黒い肌に縮れた髪を一つに纏めたラグナ人の男性。
その最大の特徴として、首のエラ、肘にひれ、指の間の水掻きが目立つ。初めて見た異種族人に戸惑いつつも日本語で挨拶を交わせることができて安心した。チャックは料理が得意で、自身の店である
また、お兄ちゃんという共通点で意気投合して呼び捨てで言い合うような仲になれた。
ーーー
6月 28日 晴れ
今日は“
歓迎会も終わりに差し掛かろうとした時アラドさんから俺の訓練教官を紹介してくれた。
名前は“メッサー・イーレフェルト”さん。
階級は少尉。
Δ小隊隊員で、コールサインはΔ2。
整った顔に鋭い目付きのモヒカンの男性だ。口調はややキツイが穏やかな人らしい。だが怒らせるとかなり怖いと聞いた(アラドさん情報)。
明日から本格的な訓練を開始するとアラドさんから言い渡された。死ぬなよとも言われた。
…………大丈夫、だよな。
ーーー
6月 29日 晴天
地獄を見た。
早朝にメッサー教官に叩き起こされてラグナ支部の敷地にあるグラウンドへ連れて行かれた。
到着してすぐ“
一時間以上かけて漸くトラックを一周したんだけど。
どうしてこんな事をしたのか理由を聞いたら、「アラド隊長から、お前を
正論過ぎて言葉もでないが、取り敢えず明日の俺よ。
……どうか生きててくれ。
ーーー
7月4日 晴天
今日モ、イッパイ、走ッテキマシタ。
ーーー
7月9日 晴れ
ここ一週間の記憶がないのが不思議だか、何時ものようにEXギアを着てグラウンドへ赴いたら先客がいた。ピンク髪のツインテールがトレードマークのゆるふわ系少女。
彼女は俺の姿を見ると元気に駆け寄ってきて自己紹介してくれた。
名前は“マキナ・中島”。
カナメさんや美雲さんと同じワルキューレメンバーでもあり、兼任でメカニックも担当している。
どうやら彼女の家系は代々メカニックで、特に曾祖叔父は
数ある全てのVFの基礎となる機体“VF-1”。
その試作機として造られた“VF-0”という機体の整備をしていたというのだ。イマイチ凄さが伝わらないが、歴史に名を残すような偉人に負けず劣らず、彼女の腕前は他の整備スタッフから見ても目を見張るものらしい。
それとその、本来言ってはいけないことだが、敢えて言わせてくれ。
…………デカイ(直球)。
何処とは言わないが、アレで16歳なんだよ?
凄いを通り越して恐怖すら感じる。尚本人から年の近い異性はあまりいないので気軽に名前で呼んでほしいと頼まれてしまった。ホント
お兄ちゃんちょっと頭痛くなってきたよ。
それと彼女はどうやらお気に入りのメカや知人に愛称を付けて可愛がる一風変わった趣味を持っており、俺はマキナから“ハチハチ”と呼ばれることになった。
…………しかし何故だろう。
マキナが異様に暖かい目で見てきていたな。
ーーー
7月11日 晴れ
最近やけに人に会う回数が増えた気がする。
勤務終了時間まで訓練をやった後、特別にアーネスト艦長直伝の柔道の稽古をつけてもらうことになった。稽古中に小柄で左の髪を結ってアシンメトリーにした緑髪の少女が道場の隅で座って此方をじっと見ているのに気がつくと、アーネスト艦長が気を利かせて紹介してくれた。
名前は“レイナ・プラウナー”。
ワルキューレメンバーであり、凄腕ハッカーとしての一面も持ち、電子技術者としてVFの機体調整や情報収集・解析などチームを支えているそうだ。
口数が少なく、あまり感情を表に出さない寡黙な性格みたいな感じだが、昼休憩の時に気になって買っておいた“クラゲチップス(塩)”を物欲しそうな目で見てくるもんだから、小休憩の時間に全部あげてみると、なんとも幸せそうな顔で食べるなど可愛らしい一面を見せてくれた。
それから二時間に渡る稽古も終わって、かいた汗を流しにシャワールームへ向かおうとしたら、プラウナーが袖を掴んで何か言いたげな顔でチラチラと顔を伺ってきた。
普段見せなさそうな顔を初対面の俺が見てしまったから罵倒でもされるのか? と思って待っていたら、「さっきはありがと………美味しかった」と言って彼女は道場から出ていってしまった。
フッ、レイナ・プラウナー。
全く中々良い
久し振りに萌えちまったぜ(強者の笑み)。
ーーー
7月13日 曇り
予定通り二週間で其なりの体力が付いたことにより、次は飛行座学を教えてもらうことになった。
昼過ぎにメッサー教官に指定された講義室に行くよう指示を受けて向かうことにした。講義室に到着して扉を開け、中に入ると其処には、これでもかと机の上に置かれた大量の教材があった。
気になって一つ手に取って中を覗いてみると
手を離してもらえると頭を抱えて悶えている俺に、「敵を前にして逃げるなど、貴様はそれでもΔ小隊の候補生か」とキツイ一言を貰い、みっちりシバかれました。今でもあの顔と痛みが頭を過ってくる。
オーバーテクノロジー、大スキ……。
ーーー
8月3日 晴れ
メッサー教官が三週間付きっきりで教えてくれた甲斐もあり、飛行座学と歴史の殆どが身に付いてきた。
体力も最初の時より三倍近く付いてきて、ランニングも毎朝欠かさずやってる。本当毎日が絶好調、と思ってたのも束の間。
体調を崩した。
医者に診てもらったら、オーバーワークによる過労だと診断された。体調管理は一番気を使ってたのに仕事のやり過ぎで体を壊すとは、社畜の鏡だな俺。
アラドさんにその事を伝えたら、今日を含めた3日間のお休みを貰った。最初は遠慮したが「休むのも仕事の内だ」と言われ追い返された。ホワイト企業万歳。
久しぶりに、何も考えず寝るとしよう。
ーーー
8月4日 晴れ
寝床で怠惰に休んでいたら、アラドさんとメッサー教官が見舞いに来てくれた。
アラドさんは「その後の体調はどうだ」とか「ワルキューレの面々も心配してたぞ」だったりと親戚の叔父さんみたく接してくれて少しだけ心がホワホワした。
メッサー教官は「お前はよく頑張っている」とだけ言って帰ってしまったが、教官からそんなこと言われて嬉しくない訳がない。泣きそうになったのはここだけの話だ。
それとアラドさんから見舞い品としてラグナ特産のバレッタクラゲのスルメを貰った。
食べてみると案外美味しかった。また食べてみたい。
ーーー
8月5日 晴天
外に出てランニングしていたら美雲さんと出くわした。
どうやら本人曰く、レッスン中に脱け出して町へ繰り出したとの事だ。美雲さんはそう言って去ったので俺もランニングに戻ろうとした時、流石にそれは不味くないか? と気付いてカナメさんに連絡をしておいた。
その数十分後に青筋を立てたカナメさんに、引き摺られる美雲さんを見かけた。
ーーー
8月6日 晴れ
三日ぶりの訓練に体がついていけるか不安だったが何とかやることができた。そしてメッサー教官に今から一週間後にフライトテストを行うことを教えられた。
諦めず、自分のベストを尽くそう。
ーーー
8月8日 晴天
定時になったので寮に戻ろうとしたらチャックに呼び止められ、買い出しをお願いされた。最初は面倒くさかったがチャックの慌て様を見て、他に外せない用事が入ったのだろうと仕方なく承諾した。
メモに書いてあった食材を買い揃え、楽喰娘娘へ向かうと明かりは消えており、周囲を警戒しながら中に入った瞬間。
クラッカーと大人数からのお祝いの声。
部屋の明かりが点くと、目の前には様々なフルーツで彩られたホールケーキがあった。そう、今日は俺の誕生日だ。
だが毎日が忙しかったのと元の世界では小町以外に祝われたことがなかったので、すっかり忘れていた。それを伝えると皆に呆れられた。解せぬ。
取り敢えず火を吹き消して18歳になった。
でもまあ……。大人数に祝われるのも、悪くはなかった。
ーーー
8月12 日 晴天
一週間シミュレーションルームで缶詰してた甲斐もあり、フライトテストは難なく合格した。しかしこれで気を緩めてはいけない。
最終試験内容、ドッグファイト。
対戦相手、メッサー・イーレフェルト。
これからのカリキュラムは最終試験に合わせてVF-1EXを使った飛行訓練が多くなる。
大丈夫、怖がるな。胸を張れ。
ーーー
8月16日 曇り
飛行訓練を終えてロッカールームで着替えていたらアラドさんから呼び出しを受けた。急いで向かったら新しいΔ小隊メンバーを紹介された。
名前は“ミラージュ・ファリーナ・ジーナス”。
階級は少尉。
コールサインはΔ4。
アラドさんが新統合軍からスカウトしてきた女性パイロット。祖父母共に凄腕パイロットと聞いた時は凄いの一言に尽きたが、ミラージュは素直で女の子らしい趣味を持ち合わせている反面、絵に書いたような真っ直ぐ堅物っぷりだった。それを隣で聞いてたアラドさんも苦笑しても否定しなかった。
因みに名字で呼ばれるのは好きじゃないと本人から言われて呼び捨てで呼ぶことになった(慣れって怖いよね)。
それと今後Δ小隊は、アラドさん、メッサー教官、チャック、ミラージュの四人体制でやっていくそうだ。まあ、当然の結果だろう。元一般人よりも元軍人の方がなにかと動きやすい。俺が隊長でもそうする。
ーーー
8月25日 曇り
最終試験まで残り4日。
今日はいつも以上にコンディションが良くシミュレーションルームで籠ってしまった。
整備スタッフのハリーさんとガイさんに心配されたので大丈夫だと伝えておいた。
前みたいなドジはもう踏まない。
ーーー
8月26日 雨
最終試験まで残り3日。
今日は雨だったので、ひたすらシミュレーションルームに籠って練習していた。一度は経験しておこうと思って難易度を最大まで上げてやってみたら10秒と待たずに撃墜された。
何だよアレ、速すぎるだろ。照準合わせて撃っても当たらないし動きが奇怪的すぎて全く先が読めない。それで気付いたら後ろにいて被弾させられるんだぞ?
どうしろって言うんだよ。
えっと、確か機体の名前は……YF-19E、だったか?
ガイさんたちにその事を伝えたら「あのバケモノに一度だけ勝てたのはただ一人、メッサーだけだ」と言われた。そしてそれは今後の目標をあの機体に一発叩き込むと決めた瞬間でもあった。
ーーー
8月27日 晴天
最終試験まで残り2日。
飛行訓練では、対戦相手がメッサー教官なのでアラドさんに見てもらうことになった。YF-19Eのような奇怪的な動きを見せてくれた。とても参考になった。
昼過ぎにミラージュも加わって、三人で飛行訓練に勤しんだ。だが途中から味方だった筈のミラージュが敵に変わり二対一の理不尽な闘いが始まって粉微塵に叩きのめされた。
ハチマン、泣きそう……。
ーーー
8月28日 晴天
最終試験前日。
事務作業を一通り終わらせて食堂に向かっていると通路でミラージュとチャックに出会うと応援してくれた。すれ違う職員にも応援され、何だか擽ったく感じていたらメッサー教官とバッタリ会った。
メッサー教官はじっと此方を睨んで通り過ぎていった。
明らかに獲物を潰す目。一瞬の殺気に体を震わせたがここで怯んではいけないと両頬を叩いて自分に活を入れ直して午後からやるアラドさんとの飛行訓練を励んだ。
この二ヶ月近く血反吐を吐く思いを何度もしてきた。
辛いこと全部飲み込んで力をつけてきた。後はそれを全部メッサー教官にぶつけるだけだ。
♪それ俺裏話♪
実は八幡が恥ずかしそうにマキナのお胸様を見てるとき、マキナはその視線に気づいていながらも面白がって許していた。
次回 Mission 02 激烈 ドッグファイト
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Mission 02 激烈 ドッグファイト
諸事情で執筆する暇がなかったのと上手く内容を纏めるのに時間が掛かってしまい遅れました。
見直している暇もなく矛盾している点があるかもしれませんがご了承ください!!
最終試験当日。
パイロットスーツを着てロッカールームで待機しながら頭にタオルを被せて精神統一していた。
『ヒキガヤ候補生、ハンガーへ移動してください』
放送の指示を聞いて椅子から立ち上がり一呼吸挟んでからロッカールームを出ていく。
「…………」
狭い通路を歩いて一枚の扉の前に立つと扉が開いていく。
最後まで開ききった扉を通ってハンガーを進んで行くと視線の先には青のVF-1EXとガイさんたちがいた。
「来たか。ハチマン」
「ガイさん、機体のチューンアップありがとうございます」
「良いってことよ。お前がこの二ヶ月、血反吐を吐くような思いして頑張ってたのはよく知ってる。胸張ってけよ」
「俺たち整備スタッフも応援してるっすよ。そうだよなお前らー!」
ハリーさんが後ろを向いて大声を上げると陰に隠れていた他の整備スタッフたちが出てきた。
「そうだぜあんちゃん、頑張れよ!」
「俺たちができるのはここまでだッ!」
「次はお前さんの番だよッ!」
「応援してるぞ、ルーキー!」
まさか俺が応援される日が来るなんて、ほんの少し前の俺なら考えられない光景だ。
ああ^~ポンポン痛くなってきた~。
「行ってこい、ハチマン」
「…うすッ」
ガイさんたちの声援に背を押されながらVF-1EXへ搭乗した。
アビオニクスを操作してシステムを起動したのを確認したあとキャノピーを閉じていく。ヘルメットを被ると自動的にバイザーが降りて酸素が供給される。何回か深呼吸して肺を馴らしておくとヘルメットのインカムからオペレーターの声が聞こえてきた。
『ハチマン候補生。今回のオペレーターを務める“ミズキ”です。貴機のコールサインを“Δ5”と認証。チェック』
「………チェックOK。こちらΔ5。両翼、尾翼、エンジン共に問題なし。脱出システム、ARシステム。正常起動を確認」
『了解。Δ5、発進カタパルトに移動します』
ミズキオペレーターの指示と共に機体全体が上に押し出されるのを感じた。上を見上げれば、開き始めたのハッチから雲一つない空と燦々と降り注ぐ陽光が覗いていた。すると突然、操縦悍を握る右手とスロットルレバーを握る左手が震え出した。この期に及んで怖じ気づいたのか…。
あ、ヤバイ、足も震えだしてきた。
『…ハチマン』
別回線から聞こえてきた透き通るような声。それと同時にキャノピーのARモニターが作動して美雲さんが映し出された。
『負けたら、許さないわよ』
それだけ言って美雲さんが映るARモニターは閉じた。ホンっト、勝手な人だ。こっちの事情なんて考えてもいない。初めてあった時もだ。八幡的にポイント低いぞ、全く。
けど、まあ…。いい活をもらった。
気付けば手足の震えは止まり、アイテールの発進カタパルトまで上がりきった。右を向けば隣のカタパルトにメッサー教官が乗る黒のVF-1EXがいる。教官は此方を見ることもなく、ただ前を見続けていた。
機体後方に“
『発進準備完了。発艦を許可します、こ武運を』
「了解。………デルタ5、発進ッ!」
スロットルレバーを前に傾けてアフターバーナーの推力を上げるとカタパルトが起動して機体を力強く引いた。体が後ろへ引かれながらも進むに連れて操縦桿を手前に傾け、機体のピッチ角を上げていくとアイテールから空高く飛び上がった。
「Δ2、Δ5、発進しました」
「気流、天候共に問題なし。両機順調にポイント
「宜しい。引き続き報告を頼む」
「「了解!」」
マクロス・エリシオン指令室では艦長であるアーネストと各オペレーターが連携を取り指示を送っていた。その中でアラドとチャックはモニターに映し出される二機のVF-1EXに視線を向けた。
「隊長。ハチマンの奴、合格しますよね」
「…難しいだろうな」
「で、でも。メッサーもあんなに熱心に教えてましたし!」
「アイツが手心加えるような質に見えるか?」
その問いかけにチャックは言い返す事も出来ず苦い顔をするがアラドは気にせず続けて言った。
「それにな…。俺たちΔ小隊は、ワルキューレを守ることが仕事。それは常に死と隣り合わせだ。それを理解してながらもアイツは進んでこの道を選んだ。信じてやれ。アイツの意志を、覚悟を」
「……はい」
アラドの話を聞いてチャックは返事をするも、その顔は未だに不安を拭えずにいた。それを横目で見ていたアラドはため息を吐いた。
「各機、配置に着きました」
ミズキの報告を聞き、意識をそちらに向けたアラドは通信を手に取って説明を始めた。
「これより試験の説明する。制限時間は十分。一発でもメッサーに当たればハチマンの勝ちだ。そして
『『了解』』
通信機越しに聞こえた二人の声と共にモニターに映る二機のVF-1EXは各々左右に旋回して距離を離していった。
『距離5000……4000……』
距離を空けてもう一度旋回するとミズキオペレーターのカウントが始まった。
『3000……2000……』
バイザーの右下から【0/100】とARモニターが表示された。見据える先に黒のVF-1EXがいて、操縦悍を握る力が強くなる。
『1000……スタートッ!』
合図と同時に機体同士が擦れ違い、勝負の火蓋が切って落とされた。開幕早々インメルマンターン*1で切り返してメッサー教官の後ろへ付いた。
バイザーに表示されたターゲットスコープが
『この程度の攻撃で撃ち落とせると思われていたのなら、随分見くびられたものだな。上がガラ空きだ』
「ッ!!」
通信越しに聴こえてきた教官の声と共に上空からペイント弾が降ってきて右翼に被弾した。いつの間にか上空から急降下してきた教官の機体の後を急いで追う。
黒のVF-1EXは距離を開こう速度を上げるが、此方も逃がすものかとスロットルレバーを前に傾けて速度を上げる。パイロットスーツを越えて直に伝わってくるGを耐えながら操縦桿を操作していく。
「ッ!!」
『……この速度に着いて来れることは、素直に称賛しよう』
「ありがとう、ございますッ。教官ッ!」
蛇行飛行を繰り返していたメッサー教官の機体に狙いを定めて引き金を弾くが機体を大きく剃らされ、避けられてしまう。
『だがそれは少しと満たない付け焼き刃だ。戦場に出ても3秒と持たず死ぬだろう』
「そんなこと、自分が一番、理解してますッ!」
狙いを定めて追撃を試みるがやはり一筋縄ではいかなく避けられてしまう。
『ならば見せてみろ、今のお前に何ができるのか』
「こ…のッ!」
追い続けてるあまり失速している事に漸く気付いて機体を加速させるとメッサー教官はコブラ*2で背後に回り込まれると機内からロックオンアラートが鳴り響いてきた。
「まだ、だッ!」
『甘い!』
何度避けようとも百発百中で当ててくる。しかも両翼、エンジン、胴体と的確に射抜いてくる。意識が飛びそうなほど長く続いていく攻防戦はじわじわと俺の体力と精神を焦りへと変えていった。
「こん、ど、こそッ!!」
それでもメッサー教官の猛攻は止まることを知らない。いつの間にか背後に廻られて右にバレルロール*3して弾を回避しようとするが被弾してしまった。
(クソッ……なにか、何か策を練らないと)
バイザーの右下を確認するともう既に【22/100】と数を重ねていた。このとき俺の中で出てきた妙な焦りが心を乱していった。
ハチマンくんとメッサーくんのドッグファイトが行われている頃、
「4、1、2、3!4、1、2、3!4、1、2、3!」
リズムと合わせながら私たちはステップを刻み、一心になって体に覚え込ませている。ただ一人、美雲を除いて。
「…………」
他の三人が真剣にレッスン中に他のことを考えて練習に支障が出てしまっては元も個もないので私は一息吐いて脚を止めた。
「ここら辺で10分休憩をとりましょう」
私の声掛けにマキナとレイナは脚を止めると流した汗をタオルで拭い取りながら同じ部屋に設置してある休憩所に移動して寛ぎ出した。一方で美雲は長時間踊って汗をかいているにも関わらず、息切れの一つも見せない。しかしその顔は浮かない表情をしているがなにを考えているかは見当がつく。
「そんなに彼が気になるの?」
「!!」
「はいはぁ~い!私はハチハチのドッグファイト見たいでーす!」
私の問いかけに明らかに反応する美雲。それに覆い被さるようにマキナが休憩所の手摺から身を乗り出しながら手を高々と挙げてきた。
「そうね。私も少し気になってたから見てみましょうか」
デバイスを操作してレッスンルームのAR機能を起動させた。部屋全体がスクリーンになって映し出されたのはハチマンくんがメッサーくんに追われている光景だった。
『───!!』
『もう終わりか』
『ハァ、ハァア、まだ終わって………ぐッ!!』
『………』
メッサーくんの猛攻に押され、逃げ惑いながらも反撃の糸口を探すハチマンくん。しかしそうはさせないと言わんばかりに、メッサーくんはその退路を絶ってじわじわと彼を追い詰めていく。
「ありゃりゃ、これは手酷くメサメサに扱われてますなあ」
「メッサー、容赦なし」
「当たり前でしょ。生半可な気持ちで戦場に出れば無駄に命を落とすだけ。私たちだって何度も経験した事でしょ?」
“ヴァールシンドローム”。
ある日、精神に変調をきたし暴徒と化す。人々はいつ何処で起こるとも知れない惨劇に怯えることとなるがその驚異に立ち向かう者たちも現れた。それが戦術音楽ユニット“ワルキューレ”。私たちの持つ歌声がヴァールを鎮静していくがその分危険な目にも見舞われてきた。そんな昔を思い出してか、乾いた笑みを溢すマキナとレイナ。
美雲は私たち三人を放って一心にハチマンくんの乗るVF-1EXを見続けていた。
「はあ……仕方ないわね」
美雲は自身のルベライト色の瞳をギラリと輝かせながら奥歯ををそっと噛み締める。デバイスを操作して天井に設置されているステレオから音楽を流し始める。
《 僕らの戦場 》
♪~たとえば 途切れた空が見えたなら
震える 僕の声が聞こえるのなら~♪
美雲は歌いながら膝をつくと徐にハチマンくんが乗る青のVF-1EXに手を伸ばした。
制限時間が三分を切った。
八幡は何度攻撃してもヒラリと避けられ背後に廻られて反撃をくらってしまう。八幡はバイザーの右下を見るともう【95/100】となっている。体力の限界を向かえていた八幡はすっかり息が上がり視界もぶれていた。
「ハア、ハァ……」
『これで終わりだ、ハチマン候補生!』
通信機越しに聞こえるメッサーの声と共に放たれたペイント弾が後方から迫り来る。避けなきゃいけないのに八幡の腕は限界を向かえ動かない。八幡は静かに瞳を閉じ苦渋の表情を浮かべた。
♪~バラバラに砕けるほど 舞い上がれ
引き裂かれた 記憶の
誰しもが諦めて諦めかけたその時、八幡の耳に微かに歌が聞こえた。
♪~あの日 語り合ったこと いつも笑い合えたこと
よみがえる日まで 立ち上がるだけ~♪
八幡は瞳を力強く開き、AIサポートを切って操縦桿を強く握り手前に傾ける。
「…ッぐぉおおあ"あ"あ"あ"!!」
八幡の雄叫びと共にコブラを応用したマニューバで迫ってきたペイント弾を全て避けた。
♪~壊して もっと もっと 僕を感じて
そこに そこに 君はいますか~♪
『なにッ』
「まだ、勝負は着いてません!!」
再び背後を取った八幡はターゲットスコープにメッサーを捉えると引き金を弾いた。それでもメッサーは負けじと弾を器用に避けて八幡の後方に移動する。
♪~戦場に咲く 命よ
燃えろ 燃えろ~♪
『いい加減観念しろ、ハチマン候補生』
「(まだだ。もう少し、あと少しッ)」
メッサーは少しずつ八幡との距離を詰めていきターゲットスコープでロックオンする。
♪~殺して いっそ いっそ 朽ち果てるなら
滾れ 滾れ 破滅の果てに~♪
「(今だッ!!!)」
ロックオンアラートの音が鳴り響くと八幡は先程と同じようにコブラを応用したマニューバで弾を避けようとする。
『二度も同じ手は食らわな…───ッ!?』
同じようにメッサーは機体を減速させるが、八幡は既に変則マニューバを繰り広げながらバトロイドへ機体を変形させメッサー教官の機体頭上にガンポッドを構えていた。
♪~奇跡を呼び覚ませ
閉ざされた空へ~♪
「もらったーーーーー!!!!」
八幡の雄叫びはガンポッドの銃口から無数の弾と共に放たれ、メッサー教官の機体全体を青く染め上げていった。
そうして制限時間を向かえ、試験終了。
八幡の機体の被弾数も【95/100】で止まっており、八幡の勝利が確定した。
「やった!ハチマンがやりましたよ隊長!!」
「ああ、よく頑張ったなハチマン」
管制室では歓喜の声に包まれ、チャックは大声を上げて喜び、アラドも八幡の勝利を喜んだ。
「ガイさん!見ましたか今の!」
「ああ!よくやったゾ坊主!!」
「ルーキーがメッサーの野郎から一本取ったぞ!!」
「流石期待の新人!見せてくれるじゃねーか!」
このドックファイトを見ていたガイたち整備スタッフは歓喜の声を上げてハンガーで賑わっていた。
「か、った………」
八幡は勝ち取った勝利を余韻に浸りながらコックピットから天を見上げるのだった。
「ええーーそれでは、メッサーに見事勝利&Δ小隊に正式入隊したハチマンを祝して、乾杯!」
『カンパーーーイ!!』
チャックは飲み物の入ったグラスを持ち上げて乾杯の音頭を皮切りに沢山のケイオス職員がグラスを持ち上げながら唱和した。ドッグファイトを終えてΔ小隊への正式入隊の手続きも済ませた俺は現在、楽喰娘娘で開かれている祝勝会の主役としてに参加しています。
「か、乾杯…」
どうしてもやりたいとチャックが駄々を捏ねてアラド隊長に頼み込み、仕方なく了承されたそうだ。
参加メンバーの一部を抜粋して紹介すると、Δ小隊メンバー、美雲さんを除いたワルキューレメンバー、ガイさんとハリーさんを含めた整備スタッフの皆、各ブリッジオペレーターの皆、アーネスト艦長が参加している。
運ばれてくる珍しい料理に舌鼓を打ちながら他の隊員たちと談笑した。この世界ではお酒は18歳になってから飲めるそうで、アラドさんからお酒を薦められ、一口だけバナナ酒を飲まさせて貰った。口当たりが良くてとても飲み易かった。
人との交流に積極的に関わろうとしなかった俺が、こうして仲間と呼べる人たちと飲んでいるのを小町が見たら感動するだろうな。
そう感傷に浸っているうちに時間は流れていき、祝勝会はお開きになった。
祝勝会が終了した後、場の空気の酔いを醒まそうと近場の砂浜まで赴き浜辺を歩いていると、ふと目に光が指して何かと思って海の方を見ると星空の光が海に反射していた。
空を見上げれば満天の星空が輝き、俺は魅了されながら姿勢を崩してその場に座わった。時間を忘れるほどいつまでも見ることが出来た。
「ふぅう……」
「お疲れみたいね」
「ひゃい!」
星空を眺め寛いでいると突然後ろから話しかけられ変な声が出てしまった。振り向くとそこには私服姿の美雲さんがいた。普段見ない私服姿に驚いてしまったが、気をしっかり持たねば。
「き、来てたんすか、美雲しゃん」
はい、緊張しすぎて噛みました……。
「ええ、少し星を眺めたくてね…。それと、正式入隊おめでとう」
「お、おう」
あらやだ、美雲さんが素直に祝ってくれるなんて。やっぱり美雲さんはいい人なんじゃ───。
「これでまた貴方を弄れるわ」
………ああ、知ってた、知ってましたとも。絶対に裏があるって分かってましたよ、俺は。
「フフッ…冗談よ」
「……さいですか」
美雲さんのイタズラめいた笑みを見て気恥ずかしさで顔を反らしてしまった。何か話題を変えようと考えていると出発前のコックピットでの出来事を思い出した。
「その、えっと、出発前のコックピットのあれ、ありがとう。おかげで気持ちが楽になった」
「そう、なら良かった」
美雲さんは星を眺めながら返事を返すと静かに微笑んだそれがどうしようもなく綺麗で儚い顔をしていた。
「人は何故、私は何故、歌を歌うのかしらね。その答えが分からないの。ねえ、貴方はどう思う?」
「え?───」
不意に聞かれた事は摩訶不思議で単純な質問。俺はその質問を静かに揺れ動く波を眺めながら答えた。
「そりゃお前、“好き”だからじゃねーの?俺は、人前で歌うとか絶対に嫌だけど、一人カラオケとか好きだし」
「からおけ?それは何かしら?」
え、カラオケをご存知でない?
意外だ。てっきり週に二回はカラオケに行ってるとばっかり思ってた。というか
「カラオケはですね。一つの部屋を借りて自分の好きな曲を選んでからマイクに向かって歌う事ができるお店の事です」
ふふん、流石が俺。完璧な説明だ。
中学のときに一人カラオケ極めすぎて店員さんに「またコイツ一人で来たよ」って顔されるほど覚えられた甲斐があるってもんだぜ。
アレッ?可笑しいなぁ目から変な汁が出てきたぞ?
「好き………好きって何?」
「え?…えーと、何かに夢中になれるほど心が惹きつけられる事だったり、とか?」
「……そう、ハチマンは好きの意味を知っているのね」
美雲さんは囁きながら抱えた膝に頬に置いてこちらを見てきた。それは決してバカにしている表情ではないのに何かが心の奥に引っ掛かった。
「なあ、今の質問──」
「もう寝るわ。おやすみなさい、ハチマン」
「あ、ちょ」
質問の意味を聞こうとするがそれを遮って美雲さんは町の方へと消えて行ってしまった。
「何だったんだ、今の……」
「あ!いた!」
楽喰娘娘のある方角の浜辺からザックが大声を上げてこちらに向かってきた。
「ハチマンにぃちゃん、チャックにぃちゃんが探してたよ~!」
「わかった、すぐ戻る。でも一人で来るのは危ないから次からは誰かと一緒に来ような。それと今は夜だからあまり大声を上げるなよ。約束だぞ?」
「うん!わかった!し~」コゴエ
ザックと俺は互いに人差し指を唇に当てながら約束を交わした。もし弟がいたらこんな風に面倒を見ていたのだろうかとザックに腕を引かれながら考えた。
小町、お兄ちゃんこの世界で何とかやっていけるみたいだから頑張るけど、お前も俺がそっちに戻るまで頑張れよ。
♪それ俺裏話♪
実は、メッサーは八幡が最初の時点でパイロットを辞めるとばかり思っていた。しかし予想を遥かに越える精神力で訓練を乗り越えた八幡をそこそこ見直していた。
次回 Mission 03 憤慨 ブルーティアーズ
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Mission 03 憤慨 ブルーティアーズ
明けましておめでとうございます!
今回は八幡がいなくなった俺ガイルsideの世界をお送りします!鬱展開を完璧に描写できてるか分かりませんが頑張って読んでください(丸投げ)。
それとメッサーの階級を“中尉”から“少尉”に変えました。
最近、
学校から帰ってくるといつも腐ってるような目が、本当に死にそうな目で何処と無く生気がなくなっている気がした。
理由を聞き出そうとするが「お前には関係ない」の一点張りで教えてくれない。
そして
これと言って怪しいものはなく諦めて自分の部屋に戻ろうとした時、押入れの中を調べていないことに気付いた。押入れの中には中学生の頃のお兄ちゃんが書いた
中には大量に積まれたラノベや通販でポチったのであろう暗黒剣が立て掛けてあり、物を掻き分けて探していると隠すように置いてある一つのゴミ袋が見つけた。
また
「な、なに……これ」
そこにあった物は入念に切り刻まれた教科書やノート、ボロボロの靴。あまりにも衝撃的過ぎて状況が掴めないままでいると部屋の扉が開いた。
「はぁ……月曜までに新しいノート、買っとかねー……と」
「お、お兄、ちゃん」
戻ってきたお兄ちゃんは私を見て明らかに動揺していた。
数秒、たったそれだけの時間しかない筈なのに、全身に緊張感が走る。するとお兄ちゃんはゆったりと近付いてきて私からゴミ袋を取り返すと部屋の隅に置いた。
「お兄ちゃん。アレって一体──」
「…何でもない」
「へ?」
「ホントに何でもないんだ。小町が気にすることじゃない」
「ッ!」
そう言って笑顔で頭を撫でてくるお兄ちゃんはもう一度ゴミ袋を持って部屋を出ていった。
その日以降。互いに気まずくなり、すれ違う日々を過ごした。何度も声を掛けようとするがあの日の出来事を思い出して伸ばした手を止めてしまう。だけど、少しでもお兄ちゃんが自分から話してくれるのを信じて待ち続けた。
そして、お兄ちゃんが行方を眩ました。
帰ってこないお兄ちゃんに、もう数え切れないほど電話をかけても繋がることはない。
時計の秒針がなる度に嫌な汗が出てきて呼吸をするのも辛くなってくる。徐々に体が震えてきて、手からスマホが滑り落ちていく。
そのタイミングとほぼ同時にリビングの扉が開かれた。
「ただいま~、って小町。アンタこんな時間までなにして、ッ……何があったの?」
「お、おかあ、さん」
お母さんを姿を見た途端、体の力から抜けその場に座り込んでしまった。それを見てお母さんは荷物を頬り投げて私を抱き締めた。
「お兄ちゃんが、帰ってこないの。もう何回も電話してるのに、全然繋がらなくて……それで、それで───」
不安が募っていく中、お母さんの腕の中で上手く言葉にしながら、あの時起きた出来事を話した。
話し終わるとお母さんは私を抱きしめてゆっくりと頭を撫でてくれた。
「小町、アンタはもう寝なさい。後は私とお父さんでやるから」
「で、でも……」
「いいから、早く寝な」
優しくも強調されたお母さんの言葉を聞いて自分の部屋に戻った。それでも収まらない気持ちを落ち着かせるために窓を開けると、冷たい風が髪をそっと揺らした。
部屋へ戻る小町をリビングから見送った人物。
それは八幡と小町の母である“
彼女はズボンのポケットからスマホを取り出して一本電話を繋げると旭は腰に手を当てて話しかける。相手は彼女の夫であり、八幡と小町の父“
「アナタ、今大丈夫?」
『あのな、
「八幡がいなくなった」
『──ッ!!説明してくれ』
電話に出始めた気の抜けた声とは裏腹に声色が低く変わった佐助。それを余所に旭は小町から聞いた事をそのまま話すと佐助は呆れたようにため息を吐いた。
『………ったく、あのバカ息子は』
「何でも溜め込む癖は、アナタにそっくりよね」
『俺は良いんだよ。旭が相談相手になってくれるし…、それより俺の方は上司に掛け合って警察に協力を仰いでみる』
「了解。私の方でも情報を集めてみるわ」
『あぁ、頼む』
電話を切った旭はスマホをしまってリビングを出ていこうとするとドアノブに手を掛けたところで八幡がいつもだらけているソファーを眺めた。
「八幡……どうか、無事でいて」
そう言って旭はリビングを出ていく。
暗く無音のリビングでソファーだけがそっと月明かりに照らされた。
比企谷くんは私たち二人を避けて奉仕部に来ていない。
それ処か由比ヶ浜からは数日前から彼は学校に来ていないと聞いている。
なんとも言えないぎこちなさが残るまま定期テスト当日を向かえた
折り返しまで差し掛かったその時、校内放送が掛かった。
『テスト中、失礼します。2年F組由比ヶ浜結衣さん、2年J組雪ノ下雪乃さん。大至急、生徒指導室に来てください。繰り返します───』
突然呼ばれた
聞こえてきた声は平塚先生だったが、何やら慌てた様子で私たちを呼んでいたけど、この組み合わせは間違いなく奉仕部の事。
そう考えていると、竹林での出来事が頭を過る。一瞬の出来事で首を振って我に帰った私は自然と早足になって歩いていると目的地である生徒指導室前に辿り着いた。
扉をノックして中に入ると、そこには椅子に座って待機している由比ヶ浜さんと窓の外を覗く平塚先生がいた。
「あ、やっはろー、ゆきのん」
「来たか、雪ノ下………」
「おはよう、由比ヶ浜さん。それと平塚先生、テスト中に呼び出すなんて何かあったんですか?」
平塚先生は振り返ると悲痛の表情を浮かべるが首を振って私を見た。
「………詳しい事情は後で話す。とにかく今は私の指示に従って着いて──」
「ひ、平塚先生!」
男性教師が慌てた様子で生徒指導室に入ってきた。
「どうしたんですか」
「マスコミが校門前に群がっています!急がないと裏門にも集まってしまいますよッ!!」
「ッ思ってたより早いな………報告ありがとうございます。雪ノ下、由比ヶ浜、聞いていたな、速やかに裏門に移動する」
「え、ちょ、行こうゆきのん!」
早足で去る平塚先生を見て由比ヶ浜さんは急いで席を立って追いかける、それに続くように私も後を追いかけた。
そしてやって来た場所は裏門。
普段使われない場所で滅多に人なんて通りかからない場所だが、裏門前に一台のタクシーが止まっていた。
「二人とも、このタクシーに乗れ。金は私が払っておいた、行き先も伝えてあるから後は乗るだけだ」
「で、でも何処に行くんですか」
「行けば分かる……」
「しかし、それだけでは納得が───」
坦々と説明していく平塚先生に、私は反論しようとしたが肩を強く掴まれ、それは阻まれた。
「いいから、頼むッ」
「───!」
平塚先生は歯を食い縛りながら涙を堪えていた。
私を掴むその手は震えており、弱々しくある先生を見て驚いているその時だった。
「おい!いたぞ!」
「総武高校の教員の方でしょうか!」
「今回の件に関して、何か一言お願いしますッ!」
カメラやマイク、ボイスレコーダーを持った記者たちが此方に向かって声を上げながら走ってきた。
平塚先生はそれを見てすぐに手を離して記者たちの方を警戒する。
「雪ノ下、行ってくれ」
「……分かりました、行きましょう。由比ヶ浜さん」
「う、うん」
私たちは平塚先生に言われるがままタクシーに乗り込み、決して後ろを振り向かないようにする。
「どうか君たちは、折れないでくれ」
不意に聞こえた平塚先生の言葉に顔を向けると同時にタクシーの扉は閉まり、目的地に向けて発進した。
ゆきのんと
「ねえ、ゆきのん」
「……なにかしら」
「平塚先生がさっき言ってたこと聞いた?」
「……ええ」
「あれってつまりさ、ヒッキーが最近休んでるのと関係あるんだよね」
「……そうね」
素っ気ない返事をするゆきのんに、もう少し反応してくれてもいいんじゃないかと声を掛けようとしたが、窓ガラスに写る彼女の表情を見て私は思い止まった。
不安の拭えない表情、、我慢するも僅かに震える唇と手。
そのどれもが浅はかだった自分の考えを一瞬で消し去っていく。自分は何をやっていたのだろう、最も空気を読め、それしか取り柄がないのだから、と言い聞かせて次第に募っていく胸のざわめきを残しながら私は視線を窓の外に移した。
タクシーがしばらく道のりを進んでいくと港町的な景色に変わっていき、辿り着いた場所は警察署だった。運転手さんは警察署の入口前のロータリーに停めるとドアを開き、後ろを振り向いて話しかけてきた。
「到着しました。平塚様より、帰りの金銭を頂いておりますので此方でお待ちしております」
「分かりました、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
運転手さんにお礼を言ってタクシーを降り、警察署の中に入っていく。
受付付近で立ち止まっていた私たちに一人の男の人が近寄って話し掛けてきた。
「雪ノ下さんと由比ヶ浜さんでしょうか」
「ええ、そうです」
「はい…」
「平塚さんより伺っております。お待ちしておりました、警部補の“
柳さんの後を追って暫く歩いていると人気がなく少し暗い廊下に入った。
すると柳さんは立ち止まって私たちの方へ振り返った。
「案内はここまでです。この道を進めば小町さんがいます。本来この先は親族関係者以外立ち入り禁止ですが、小町さん本人が呼んでほしいとの事でしたのでお呼びさせていただきました。……それでは」
淡々と説明していた柳さんは敬礼をして来た道を戻っていった。彼の言う通りに先に進んでいくとそこには、生気が抜けきり天井を仰ぎながら長椅子に座る小町ちゃんがいた。
「あぁ……、雪乃さん……結衣さん………」
私たちの姿に気がついた小町ちゃんは声を漏らしながら顔を此方に向けた。
その顔は酷く窶れていて目の下には隈があり、髪もボサボサになっている。彼女がそこまで変わってしまうほどの何かがヒッキーの身に起きたのだとすぐに分かった。
「こ、小町さん。彼は、比企谷くんは何処にいるの?」
「………お兄ちゃんなら、彼処にいますよ」
小町ちゃんが顔を向けた先にあるのは“霊安室”と書かれた部屋だった。
「う、嘘、だよね。小町ちゃん」
「………」
「お願い、嘘だと言ってッ」
「………来てください」
無表情の小町ちゃんに言われるがまま後を付いていく。
そこには白い布で覆われた台があり、台の上が妙に膨らんでいた。
小町ちゃんは台の前に立ち止まると布に手を掛けて慎重に退ける。徐々に姿を見せたのは肘の部分から肉が千切れ、沢山の傷口を縫合した
「────」
「ゥウ、ごめん、なさい…!」
私は事切れたように膝から崩れ落ち、ゆきのんは手で口を抑えて霊安室を飛び出していった。
耳の奥で心臓の鼓動が強く、より強く波打っていくのを感じながら呼吸が荒くなっていく。小町ちゃんはその手に握る布を強く握りしめながら口を開いた。
「一昨日、この近くの浜辺で打ち上げられてるところを散歩していた住人が発見したそうです。………体の方は今、柳さんたちが懸命に探してくれてます」
そう話す小町ちゃんは布をもう一度台に被せて振り返ると、一歩、また一歩と進んで私の前に立つと両膝を着いてそっと手を握ってきた。
「結衣さん………教えてください……」
小町ちゃんは握った手を額に当てると声を震わせながら涙を流した。
「最後お兄ちゃんと会ったとき、お兄ちゃんは、笑ってましたか?」
「────ッ!!ぁ、ぅあ…ッ」
手に滴り落ちて伝わる小町ちゃんの涙の温かさに、頭の中がグチャグチャになって“何か”が一つ、また一つと罅割れていく。
翌日。
懸命な捜索の末、ヒッキーの体を発見する事は叶わず、これ以上の捜査は極めて困難と判断した警察は彼の部屋の押入れから見つかった私物を調べ上げ、イジメによる自殺と推定した後、捜索を打ち切った。
今回の件で学校側は集会を開いてヒッキーの死を全校生徒へ知らせた。
彼を知り、彼に助けられた人たちはその死を悲しんだ。
そして数時間後に記者会見を開いた学校側は、マスコミに対して遺族に対する謝罪とイジメの原因の追究を表明し、学校長とその関係者たちは深く頭を下げた。
ヒッキーの葬儀は親族だけで行う予定だったが、特別に私とゆきのんも参加させてもらえることになり、ひっそりと執り行われた。
ヒッキーの葬儀を終えて三週間が経った。
心にできた傷は時間が過ぎても癒してくれず、私はどうしようもない喪失感を抱き続けながら今日を過ごしている。
「ゆきのん」
「……なにかしら」
「今日も人来ないね」
「そうね、依頼がないのは良いことだわ」
「うん、そうだね」
今隣で笑い掛けてくれるゆきのんも、時々ヒッキーのいた場所を見て苦しそうな顔をしていることが多い。その光景を横目に見ながら胸の奥がキュっと絞まっていく感覚を視線をスマホに移して誤魔化す。
「………」
「………」
静かな教室に時計の秒針が音を鳴らして時間を刻んでく。
────コンコン。部室の扉の向こう側から鳴り響いたノック音に、ゆきのんは手を止めて扉の方へ声を掛けた。
「どうぞ」
「失礼するぞ、雪ノ下。依頼人を連れてきた」
「失礼します」
入ってきたのは平塚先生と茶髪の女の子。
私たちは椅子を整え座り直すと、彼女もまた私たちと向かい合う形で椅子に座った。
いつもなら「後は宜しく頼む」と言って退室する平塚先生は、壁際の方に腕を組みながら凭れ掛かっていた。
それを横目で見ていた私を放ってゆきのんたちは挨拶を交わし始める。
「一年の“一色いろは”です」
「私は雪ノ下雪乃よ。歓迎するわ、一色さん」
「はい、よろしくお願いします。雪ノ下先輩」
「………」
「由比ヶ浜さん、貴女の番よ」
「あ、由比ヶ浜結衣です!よろしくね、いろはちゃん!」
「は、はい。よろしくお願いします、由比ヶ浜先輩」
私がいきなり名前呼びしたせいか、いろはちゃんは少し戸惑いを見せた。それと壁際に凭れながら異様な空気間を放ってる平塚先生を他所にゆきのんは話を進めた。
「それで貴女の依頼とは何かしら?」
「えっと、今度の生徒会選挙の事と………比企谷先輩の事についてです」
暖かく迎え入れた筈の教室の空気が一瞬で凍り付いた。
隣にいるゆきのんはいろはちゃんの話を聞いた途端、怒りを露にしながら冷たく言い放った。
「………冷やかしできたのなら、いますぐ帰って。そしてもう二度と此処には来ないでちょうだい。目障りよ」
「ちょ、ちょっとゆきのん言い過ぎだよ!それにまだ話の途中だし!」
「………それでもよ」
必死に抗議する私に、反抗するゆきのん。
緊張感溢れ、睨み合う時間が過ぎようとしていたが、それは壁に凭れ掛かる平塚先生によって阻止された。
「雪ノ下、由比ヶ浜。少し落ち着け」
「ですが先生!」
「雪ノ下、怒るお前の気持ちは痛いほど分かる。だか最後まで一色の話を聞いてやれ」
納得のいかないゆきのんは平塚先生のお願い通り、目を閉じて一息挟むといろはちゃんの方に向いてもう一度聞く姿勢をとった。
「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。一色さん、どうぞ続けてちょうだい」
「はい…。あの日。集会が開かれた数週間前、比企谷先輩が他の先輩方から暴力を受けていたのを偶然見掛けたんです」
「「!!」」
「これが、その時のです」
いろはちゃんは制服のポケットからスマホを取り出して画面をタップすると机の上に置いて一本の動画を私たちに見せた。
『テメーは教室の端で大人しくしてればいいんだ、よッ!』
『ぐッ!』
『ていうか、こんなクソザコ陰キャに時間使ってるの勿体ねーし。もう帰ろうぜ』
『了解~。あ、じゃあさ。この後ス◯バ寄ってかね?』
『それは別にいいけど、コイツどうする?』
『ほっとけ、どうせ残りの学校生活死んだようなもんだろ』
映像が少し荒いけど寄って見るとヒッキーの口元に血が付いていた。いろはちゃんはそこで動画を止めると私たちの方に向く。
「何故、今になって、この映像を私たちに見せたの………匿名で教師に送れば、出所も特定されず、今この時でものうのうと過ごしてるこの屑どもを捕まえられたはずよ。何故、そうしなかったの」
静かに怒声吐くゆきのんは制服のスカートの裾を強く握りしめる。
「雪ノ下、彼女だって……」
「勿論分かってます。でもこの気持ちを一体、何処にぶつければいいんですか」
「───」
顔を上げたゆきのんの頬に涙が伝っていく。
平塚先生はそれ以上何も言うことはなく顔を背けた。
「………比企谷先輩の噂は一年生の間でもそれなりに広まってます。内容はどれも、人の告白を邪魔するような最低人間だったり、文化祭のときプレッシャーに押し潰されそうな女子生徒を攻め立てたといった感じです。だけど」
ヒッキーの噂は私も知っていた。一色さんは浮かない顔で机に置かれたスマホの画面をもう一度タップして動画の続きを流す。
『ぐっ、起きるのも一苦労だな』
ヒッキーは脇腹を抑えながら愚痴を溢し、壁に沿って立ち上がると空を仰いで言った。
『これで良かったんだよ。雪ノ下、由比ヶ浜……』
そこで動画は終わり、いろはちゃんは携帯をしまった。
「この後比企谷先輩は怯えた様子で走り去っていきました。………もし本当に噂通りの人なら
「……随分と彼の事を知ったような口振りね」
「そりゃあ、分かりますよ。私も似たような感じですから」
いろはちゃんは苦笑いしながらと視線を落とす。そしてもう一度私たちを見ると胸を張ってケラケラと笑いながら言った。
「私、こう見えて女友達がいないんです。それで仕方なく男子に愛想振り撒いてたら、それをよく思わない女子が私が風で学校を休んでた隙をついて勝手に生徒会長候補に挙げちゃったんですよぉ~」
「貴女のそれは自業自得なのではないの?」
「えぇ~♡そんなこと言わないでくださいよ~、雪ノ下セーンパイ♡」
「ッチ……あざとい、鬱陶しい、出直してこい」
甘々な声を出して馴れ馴れしくするいろはちゃんに、一気に口調が悪くなったゆきのんは容赦ない口撃を繰り出す。
「あ、あはは……」
一方で二人のやり取りに置いていかれた私は、空笑いしながら胃を押さえた。オナカイタイナァ……。
「まあ、起きたことは仕方ないので甘んじて受けますが、これを利用することにしました。ぶっちゃけて言いますとこれを生徒会選挙で暴露します」
さっきのふざけた態度とは打って変わって真剣な眼差しで私たちに伝えると、ゆきのんは空かさず反論した。
「あなたがやる必要はないわ」
「勿論分かってます。でもやらなきゃいけないんです」
「……だけど」
「由比ヶ浜先輩。私だってこのまま平塚先生にこれを提出して知らぬ存ぜぬで終わりたいですよ。でも私は、自己満足だの偽善だの、お門違いと罵詈雑言を浴びせられても、言わなきゃいけないんです。それが、見て見ぬふりをしてあの時手を伸ばさなかった………私の
「───!」
“責任”。
いろはちゃんのその言葉が静かに頭の中で反響する。
沢山のものに押し潰されようとも自己犠牲を貫き通そうとするいろはちゃんの姿がヒッキーの面影と重なった。
その時、私の胸の中で何かが動き出した。
「だったら、尚更それは!」
「いいえ、引きません!これは私の問題です!」
「お前たち、少し落ち着け!」
いろはちゃんやゆきのんの話し合いは激化して平塚先生が割って入っても歯止めが効かずにいた。
「ゆきのん、いろはちゃん。待って」
自分でも驚くほど冷たい声を出した私は、二人の話し合いを止めて彼女たちの視線を此方に向かせる。
これが間違っていても構わない。あの日、ヒッキーが守ろうとしてくれた私たちの関係は安い言葉一つで壊れるようなものじゃない。
だから、ヒッキー。
「それ、私がやる」
どうか私を見ていてください。
「ただいまより、生徒会選挙を開始します。礼」
司会の合図を皮切りに次々と生徒たちが頭を下げて用意されたパイプ椅子に腰掛けて行く。
いろはが奉仕部に訪れてから一週間の時が流れ、体育館で今まさに生徒会選挙が始まろうとしていた。
「それでは始めに、生徒会長立候補。1年C組 一色いろはさん、お願いします」
「はい!」
司会に呼ばれ、
「うぅ……」
「由比ヶ浜さん、本当に大丈夫?」
「あ、あはは……かなりキツイ。お腹痛くなってきた」
それを側で見ていた雪乃は結衣の背中を擦りながら心配そうに声を掛ける。
「心配しておいてアレだけど、弱気になっては駄目よ。相手は人を手にかけても平然を装える塵芥なんだから」
「ち、ちり……なにそれ?」
「……ごめんなさい、難しく言いすぎたわね」
「ちょ…馬鹿にしすぎだし、それくらい分かるし!ほらあれでしょ、人間失格の人!」
「由比ヶ浜さん、それは太宰治よ。塵芥と関係ないわ」
「あ、あれ?」
「………一色さんの演説でも見ましょうか」
「そ、そうだね……!その方がいいよ!」
なんとも言えない空気間に当てられた二人は逃げるようにいろはの演説に目を向けた。それから時間は着々と進み、いよいよ結衣の出番が来る。
「続きまして、同じく生徒会長立候補。2年F組 由比ヶ浜結衣さん。お願いします」
「は、はい!」
緊張しきった声色に結衣は弛んでいた背筋を真っ直ぐ伸ばし返事をする。
「行ってきます、ゆきのん」
「ええ、頑張って」
挨拶を交わした後、結衣は袖から出て一礼するとマイクが設置された演台の前に立つ。全校生徒と教師たちが結衣に注目する中で、結衣は瞳を閉じて深く息を吸った。
「……」
一分間。
静寂が場を満たしきったその時間は、生徒たちの不安を煽り、次々と周囲がざわめき出す。その瞬間を見逃さない結衣は口を開いた。
「……生徒会長に立候補した、由比ヶ浜結衣です」
不意に始まる演説に生徒たちは静まり返った。
掴みは成功、と結衣はひっそりと握り拳を作り、雪乃と共に練り上げてきた原稿を坦々と読み上げていった。
どれも在り来たりな夢と目標。それでも普段の彼女から感じられないほど、丁寧で落ち着いた口調は自ず人を引き付けていった。
原稿も終盤に差し掛かり、結衣は遂に実行に移す。
「それから……私がここに立って最も言いたかったのは……2年F組、比企谷八幡くんについてです」
その一言で生徒たちは勿論、教員たちですら動揺を隠せずにはいられなかった。
結衣は目配せで静に指示を送り、プロジェクターを起動させると上手の壁に貼り付けられているスクリーンに映像が映し出された。それはあの日、いろはが奉仕部に持ち込んだイジメの動画だった。
「え、ウソ……」
「ね、ねえ。あれってこの前の集会で言ってた、ヒキタニじゃない?」
「ああ、それにあの三人組、E組の清水*1にF組の龍門寺*2、B組の近藤*3じゃないか……」
「おいマジかよ、彼奴らそんなことする奴だったのか」
「嫌だ、怖い」
前のスクリーンの光景に周囲の生徒たちは動揺と唖然、恐怖を感じて彼ら三人組から距離をとった。当人たちは周囲の状況に焦りを隠せないまま声を上げて抵抗した。
「ふ、ふざけんな!こんな映像デタラメだ!」
「そ、そうだ!映像なんていくらでも捏造できる!龍門寺も何か言えって!」
「……あ……が、………だ…」
「え?」
「龍門寺?」
「アイツが悪いんだよッ!あのクソ陰キャがッ!ゴミはゴミらしく死んでればいいんだよ!」
「お、お前何言って」
激しく怒鳴り立て容疑を認める龍門寺に対して二人は明らかな動揺を見せる。
「いつも本見ながらニヤニヤして気持ち悪い上に他人の事情に首突っ込んで問題しか起こさねえような奴はな。はっきり言ってゴミ、邪魔でしかねーんだよ。だから俺が“粛清”してやった!もう二度と学校に来れないよう徹底的に、彼奴を痛め付けてやった!寧ろ感謝してほしいくらいだねえ!!アハハハ、アハハハハハ!!!」
目を見開いて笑う龍門寺は追い詰められた影響で半狂乱に陥っていた。そんな彼に周囲の生徒は恐怖で騒ぎだし、彼との距離を開けていく。
「黙って」
しかし結衣のその一言で場は静まり返り、生徒たちは彼女の声色に体を強張らせる。結衣は演台の前の階段をゆっくりと降壇していく。
「確かにヒッキーは、一人でいることが多かった。時々何言ってるか分からない時だってある。本を読んでる時も、ニヤニヤしてて正直気持ち悪いと思ったこともある。でも、彼は何時だって自分を犠牲にしてでも他人を助けちゃう大バカ者で、本当に、本当に凄い人なんだ。だから───」
一歩、また一歩と力強く床を踏みしめて、龍門寺に近づいていく。
「───私が信じて憧れた彼を、侮辱しないで」
一粒の涙を勇気に変えて、彼女は今、龍門寺の前に立ち塞がった。その姿に覚悟に動揺を見せた龍門寺は結衣の眼差しに怒りを覚える。
「ぐぅッ!!ベラベラと、うるせぇんだよ!このアマッ!」
「────ッ!」
龍門寺が腕を上げ、結衣を殴り掛かろうする。結衣は逃げもせず堂々と胸を張り、龍門寺を向ける目を強めたその瞬間。
「カハッ!」
風を切り、何かが龍門寺を殴り飛ばした。
一瞬の出来事でうまく状況が飲み込めない生徒たちは彼が殴り飛ばされた方へ向く。
「イデ、イデデデッ!」
「私の大切な
そこにいたのは、誰もが知る黒髪と白衣を靡かせて龍門寺を取り押さえていた静の姿があった。
拘束され身動きがとれない彼は、暴れる事はせずただ悔しそうに歯を食い縛っている。嫌でも理解してしまったのだ、自分がもう完全に詰みだと言うことを。
「くそッ………クソが──────ッ!!!!」
龍門寺の悔恨の叫びが体育館に響き渡る。
その惨めで嘆かわしい姿を見た清水と近藤は力なく膝を着いた。後にやって来た警察に三人の身柄は確保され、波乱を呼んだ生徒会選挙はこうして幕を閉じた。
「……終わったわね」
「うん」
生徒会選挙を終えたその日。
「じゃあ、私こっちだから」
「あ、うん。バイバイ」
「ええ、また明日」
挨拶を交わしてゆきのんを見送っていると彼女は足を止めてこちらを振り返った。
「ん?ゆきのん?」
「ッ………由比ヶ浜さん。貴女の真っ正面から立ち向かえるその覚悟、とても格好良かったわ」
「ッ!!!////え……えへへ、ありがとうゆきのん!」
恥ずかしくも嬉しい気持ちが勝ってしまい変な笑い声が出てしまったが、ゆきのんも恥ずかしいのか頬を赤く染めていた。
「そ、それじゃあまた明日////」
「うん、また明日!!」
そうして笑顔で見送ってゆきのんと別れた後、私は家に帰るのではなく電車を乗り継いで近くの海浜にやって来た。
吐く息が白くなり始める秋の終わり頃。
一人歩く浜辺には人は居らず、ちょっとした貸切状態で少しウキウキするが、それと同時に寂しくも思える。
水平線に浮かぶ夕日は景色をオレンジ色に染め上げながら沈んでいく。
そんな夕日を眺めていると私は徐に靴下とローファーを脱いで海へ入ると、穏やかに押し寄せる冷たい波と足趾の間を通る砂の感触に心地良さを感じながら足を動かす。
「綺麗……」
沈む夕日に導かれるように歩いていると体の3分の1が海に浸かっていることに気づいて足を止めた。
もしこのまま進めば私も、ヒッキーと同じ場所に。なんてくだらない妄想に首を振って目を伏せる。
彼に見ていてほしいと願って、前に進んだはずなのに、こうやって後ろを向いては彼との思い出に、手を伸ばしてしまう。
「えへへ、頑張ったよヒッ───」
この迷いを誤魔化せると信じて今日もまた“嘘”を吐いて笑顔を作ろうとした。でもそれは、“日の満ちる
「───あれ? なんで、……うぅ…ぐすッ…ヒグッ」
突然出てきたソレは何度拭っても、溢れ落ちていく。
その青い雫は夕日色の海に波紋を描きながら、彼との思い出に溶けていってしまう。
「ヒッキー………」
甘いのも
欲しかったものを全部失って、漸く気付いた。
溢れ出てくるこの
「─────────ッ!!!」
♪それ俺裏話♪
この世界線では、いろはと結衣は初対面だゾ!
そして由比ヶ浜が生徒会選挙で演説ができたのも全部裏で手を打っていた平塚先生のおかげだ!
次回 Mission04 思い出 ダイアリー②
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Mission 04 思い出 ダイヤリー②
以前より格段に文章量は少ないですが、何とか書き上がったので投稿しました。
それと遅ればせながら誤字報告ありがとうございます!
西暦2065年
8月31日 澄んだ蒼穹がより綺麗に見えた晴天
1人で居られる場所はないかチャックに聞いたら、ラグナ支部の屋上に案内された。
チャックに礼を言って暫くそこに居座っていたが、中々居心地も良くて嗅ぎ馴れた潮の香りが仄かに混ざったそよ風を感じながら“マッカン擬き”*1を飲み、時間を忘れて悠々自適に過ごすことが出来た。
あぁ、これが本物のマッカンだったら至福の一時を過ごすことがて来たのにな………。
この惑星には練乳が輸入されていないために、自分で作らなくてはいけない。試行錯誤しながら練乳を作り、それを砂糖入りのコーヒーに混ぜてマッカン擬きの完成。しかし当然ながらあの究極の味を再現することは到底叶わない。このれコ○・コー○レシピ教えてくださいお願いします(血涙)。
よし。明日は非番だから、町に行って材料の買い足しに行こう。うん、そうしよう。
ーーー
9月1日 朝露の中で小さく光る粒は眩しかった晴れ
買い足しが終わったその帰り道。今の時代には珍しいと言われる紙媒体の本を置いた書店を見つけた。
気になって中に入ると、意外にも内装が綺麗で埃一つ落ちてなく、良く手入れされていた。店主も気前が良くて幾つか小説を紹介してくれて、あらすじだけ読んでもかなり面白かったので、ついつい購入してしまった。
今日は残りのマッカン擬きを飲みながら
挨拶を交わして何処に行くのかマキナに聞けば、「これから三人でショッピングに行くんだぁ!」と生き生きと話すもんだから俺の中のニュータイプが
マキナに抱き寄せられて「私と初めて会った時もそうだけど、あんまり胸ばっかり見ちゃダメだよ。おんにゃの子は視線に敏感なんだから♪」と耳元で囁く彼女の声に冷や汗が流れた。
スゲーなおんにゃの子、ボッチの俺を凌駕する観察眼を持ってるなんt………噓ですマジすんませんでした。
こうして俺はマキナから O☆NE☆GA☆I されて彼女たちの警護をすることになった。だがメッサー教官の
街中でマキナとレイナが顔バレした途端、
更には、これまたオサレな店でランチしているところに複数人パパラッチが突撃してきてミラージュと共にこれを撃退し、取り押さえたパパラッチを警察に届けてゲーセンに行って休憩がてら、取った景品の荷物持ちにされる。というマキナたちに振り回される1日を過ごしてきたんだが………、
チ"カ"レ"タ"、オ"ソ"ト"コ"ワ"ィ"。
と以前の俺なら答えていただろう。いや、今も言うか…。
休憩ついでにクレーンゲームの景品を眺めていた時の事。
既にこの時、疲労困憊してた俺の前にミラージュが一台のクレーンゲームに張り付いていた。中学生の頃に培った神テクでその台の景品であるウミネコ*2のぬいぐるみを取って渡すと、お礼を言いながら慎重に受け取ったぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめるミラージュの姿を見て驚いた。
何時ものような堅物で真っ直ぐな姿勢は何処にもなく、ただ好きなものを好きと言えるミラージュ・ファリーナ・ジーナス自身が持つ“本物”だと物語っていた。
それがどうにも、今の俺には遠く感じてしまう。
ーーー
9月4日 曇りだと思ったけどやっぱり晴れ
ミラージュとチャックの2人を誘って始めた模擬戦の最中に不思議な事が起きた。
勝ち抜き制でいこうと話し合ったはずなのに、いつの間にかチャックとミラージュに追われて2対1の状況で戦う羽目になっていた。粘りに粘って何とか耐えていたが、ミラージュに隙を突かれてしまいあと数メートルでペイント弾が迫ってきたその瞬間。意識が遠退き、視界が暗転してオペレーターから名前を呼ばれて気が付くと、2人は撃墜されていたのだ。
訓練後に2人から状況を聞くとメッサー教官との模擬戦で見せた変則飛行に翻弄され、敢え無く撃墜されたのだとか。
勿論そんな記憶もなく、2人にその時の記憶が抜け落ちていることを伝えると何故か引かれた。解せぬ。
ーーー
9月6日 外は晴れだけど室内は吹雪
いつもの面子*3に無理やり食堂へ連れて行かれた。
俺は基本孤高のボッチなので、家族以外の誰かと食卓を囲む事に馴れていない。誕生日会で沢山の人に祝われるのは確かに悪くないとは言ったが、今までのスタイルを変えることは出来ない。なのでさっさとサンドイッチを食って持ち場に戻ろうと立ち上がった。
そして事件は起きた。去り際にレイナが俺の服の袖をそっと摘まんで、「待って、
その場の空気が凍りつき、当然近くにいたチャックやミラージュ、整備スタッフたちは動揺やざわめきといった反応を見せた。マキナに至っては「わ、わた、私の………私のレイレイがハチハチに取られたぁ"あ"あ"───!」とこの世の終わりみたいな様で叫ぶもんだから余計人の視線を集めた。
一方、周りの反応と自分の行いに気づいて慌てて誤解を解こうとするレイナを見て、俺は何故か1人で歓喜していた。
久々に聞いた『兄』という単語。レイナに兄と呼ぶよう言ったわけでもないのに、間違えて呼ばれただけなのに、これ程歓喜したのはいつ以来だろう。もしかしたら最終試験に受かったときよりも喜んでいたかもしれない(尊死)。
このあとすぐ、レイナの言い間違いであったと誤解は解けて大事にはならなかったものの、誤解が解けるまでの間はミラージュの説教をレイナと一緒に受けた。
あれ? 俺、悪くなくない?
ーーー
9月8日 曇りのち雨だった
今朝方から胸に違和感を感じる。
負担を掛けすぎた覚えはないが、以前のように知らず知らずの内に疲れが溜まっているのかもしれない。この際に少し溜まってた有給を消費して休むのもいいだろうな。
うん、そうしようそうするべきだよな。
べ、べつに本格的にマッカン作りに専念しようとか (そんな不純な理由は考えて) ないです。
ホントダヨ? ハチマンウソツカナイ。
ーーー
9月10日 曇りと言ったな、あれは嘘だ(快晴です)
一昨日から不定期に訪れる胸の違和感に苛立って夜風に当ろうと街道を歩いていると遠くの方の浜辺で美雲さんが見えた。
こんな夜更けに出歩くのは流石に見過ごせないと柄にもなく駆け出して後を追った。何とか追いつき、乱れた息を整えて波打ち際に裸足を浸す美雲さんを呼び止めようと手を伸ばすが、自然とその手を止まった。
紫紺色の髪が海風に揺れ動いて色取り取りに煌めく星空と清漣の音を背景に悠然と佇むその姿は、
聞き惚れた。あの時、あの瞬間に俺が感じてたこの気持ちを表現するならこれだろう。
歌い終えた彼女は俺の方に振り返って無言で手を差し出してきた。俺は考え無しにその手を取ってしまったのだ。
その結果。思い切り手を引かれて情けない声を上げながら海へ投げ出された。
浅瀬で体を起こして口に入った海水と砂を吐き出しながら美雲と名前を呼んで文句を言おうとしたら、唇を人差し指で押し止められて「やっと呼び捨てで呼んでくれたわね。でも女神の歌を断りもなく聴いた罰よ」と言葉を残して何処かへ去っていった。その立ち去り際に見せた表情は、歌っていた姿とは違って何処か子どものように見えた。
こうして悲惨で刺激的な夜の一時を過ごしている中で、胸の違和感は消えていた。
ーーー
9月12日 絶好の快晴なのに、心は曇り
ここ数日続いていた胸の違和感が収まったと一安心したと思ったら今度は体に異変が起きた。
最初は操縦桿が手に馴染まないだけだったが、訓練中に胸の辺りが熱くなって思う通り操縦できなくなり、仕舞いには宙域訓練でアステロイドに接触することがあった。
今回の訓練で起きたことは俺の操縦ミスという無理くりの誤魔化しで何とかなったが、その後でアラドさんだけには違和感と異変について話しておいた。
その時アラドさんが浮かない顔をしていたのは気になったが、今日はもう遅いし疲れた。
それに明日はメッサー教官直々の訓練があるからこの辺にしておこう。下手に寝坊して訓練に遅刻すると地獄を見る事になる。
いや比喩じゃないからなコレ。
♪それ俺裏話♪
Δ小隊メンバーから八幡の事を「ハチマン」仮名で呼ぶが、ワルキューレメンバーはそれぞれで愛称があるッ!
ワルキューレside
レイナ → ハチ(又は兄さん)
マキナ → ハチハチ
カナメ → ハチマンくん
美雲 → ハチマン
フレイア → ハチさん
次回 Mission 05 共鳴 エクスペリエンス
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