戦姫絶唱シンフォギアZERO~戦姫と超人~ (剣舘脇)
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序章
#1 超人との出逢い


ウルトラマンZ視聴→ウルトラマンZ面白いな→ウルトラマン熱再発→クロスオーバー作品執筆したくなった→せや、シンフォギアとクロスオーバーさせたれ

という浅はかな思いで執筆したものとなります。
タグにあるとおり、何でも許せる方推奨の小説となりますので、予めご注意くださいませ。



 地球から300万光年も離れた先にあるM78星雲。6900万もある恒星の一つ、光の国。そこで暮らしているのは我々人間に光の巨人と呼ばれる存在、ウルトラマン。彼等は、彼等にとっても第二の故郷とされている地球の危機を幾度となく救ってきた。

 光の国で若いとされているウルトラマンの中でも最強と謳われる程の高い戦闘力を誇る、ウルトラマンゼロ。ウルトラセブンを父に持つ彼は、自分を師匠と呼ぶ新人宇宙警備隊の一人『ウルトラマンZ』と共に、光の国を襲撃し光の国の科学者『ウルトラマンヒカリ』が開発した新たなアイテム、『ウルトラゼットライザー』と『ウルトラメダル』を飲み込み逃走した凶暴宇宙鮫『ゲネガーグ』を追跡していた。

 

 Zと共にゲネガーグを追い詰めた時、ゲネガーグは自身の命の危機を悟ったのか、飲み込んだ小惑星と共に四次元怪獣『ブルトン』を吐き出す。ゲネガーグに吐き出されたブルトンはすぐに四次元空間を展開し、ゼロをその空間へと放逐。放逐される寸前にゼロはZに自身が所持していたゼットライザーと三枚のウルトラメダルを託して四次元空間へと姿を消した。四次元空間はたとえ歴戦のウルトラマンの力でさえも及ばない場所である。

 ウルトラマンノアから授けられた『ウルティメイトイージス』でもそこからの脱出が不可能と察したゼロは最終手段である『シャイニングウルトラマンゼロ』となり、時間逆行能力を駆使して四次元空間から強引に脱出する。

 しかし、四次元空間に長く居すぎた上に時間逆行能力を行使した影響もあり、エネルギー残量を示す胸のカラータイマーは赤く点滅。このままでは地球に辿り着いたとしても活動時間が限られてしまう為、消耗したエネルギーの回復を待つ事に。

 そうして、活動に必要な最低限のエネルギーを回復したゼロは地球へと向かう。そこで出会う一人の少女との出会いが彼とその少女の運命を変える事になるとは知らずに。

 

 

 ◇

 

 

 ───ツヴァイウィングのライブ会場にて、突如大量に発生した認定災害『ノイズ』。その理由は秘密裏に行われていた実験にあった。

 一度起動してしまえば常人でも扱えるとされている"完全聖遺物ネフシュタンの鎧"の起動実験。それの起動に必要なものであるフォニックゲインを集める為だ。

 ツヴァイウィングの二人「天羽奏」と「風鳴翼」、そして会場に集まった人達によって着々と集まりつつあったのだが、大量のフォニックゲインに惹かれるかのようにノイズが出現。会場は阿鼻叫喚の地獄と化し、それに伴って実験は強制終了。事態を収めるべく、ツヴァイウィングの二人はシンフォギアを纏い、ノイズに対抗していく。

 

 ───同時刻、謎の巨人が此方へ向かっている事はまだ誰も知らない。

 

 しばらく戦いを続け、大量発生していたノイズも数を減らしてきた頃。奏の動きが突如として鈍り始める。

 

「─────くっ、時限式だとここまでかよ…ッ!」

 

 正規装者である翼とは違い、彼女はシンフォギアの元となっている【聖遺物】との適合率は低い。本来なら適合率が低ければ装者となり得る筈は無いのだが、彼女は過剰な訓練及びとある薬品を過剰投与する事によって、時限式ではあるものの装者になれる程の適合率を得ていた。

 その薬品とは、LiNKER(リンカー)と呼ばれるギア制御薬。適合率が低い者に投与させる事によって人為的に聖遺物との適合率を上げ、後天的な適合者とする薬品。しかし、あくまでも薬品の為効力及び持続時間が存在する。彼女の動きが鈍ったのはLiNKERの効力が切れた為である。

 それでも尚、彼女は手にした撃槍()を振るい続ける。しかし、不幸というのは突如として襲いかかるものだ。ノイズに振るった槍の穂先が砕け、後方へ飛ぶ。それだけならまだいい。だが、穂先の飛んで行った先には()()()()()()()()()()

 

「─────えっ?」

 

「しまっ…ッ!」

 

 気づいた時には遅い。砕けた勢いのまま、穂先の一部は少女の胸に吸い込まれるかのように突き刺さる。少女の胸からは鮮血が迸り、事態は一刻を争う状況となってしまう。

 ノイズ討伐に時間を掛けていては少女の命が危うい。かと言って少女の事を放っておける訳もない。少女の元に駆け寄り、今にも命の手綱を手放してしまいそうな少女に向けて必死に声をかける。

 

「頼む、生きるのを……諦めるな…ッ!」

 

 少女の身体を揺さぶりながらその一言をかけた時、手放しそうだった命の手綱を掴み取り、わずかながら目を開けた少女。それに安堵した彼女は少女を瓦礫を背もたれにして寄りかからせる。

 手にしていた穂先の砕けた撃槍を地面に突き刺し、ノイズの方へ向き直る。大小様々なノイズが群れを成して此方へと寄ってくる。こうなれば、もはや手段は一つしか無い。覚悟を決め、最終手段を取る事にした。

 

 相方が何かをする。それも、命を懸ける何かを。それを感じ取った翼は脇目も振らずに何かを訴えながら、涙目になりながら走る。しかし、時すでに遅かった。

 奏は、今までの戦いの中で歌ってきた歌とは違う歌を口ずさみ始める。【絶唱】。シンフォギア装者が持つ最後の切り札であり諸刃の剣でもあるもの。絶大な破壊力を誇る傍ら、使用者には多大なる負荷がかかる。

 正規装者ならともかく、彼女はLiNKERによって擬似的な装者となっている存在。更に言えばその効力も失われている中での絶唱。文字通り、命を懸けた最期の攻撃といえる。一度紡がれた絶唱を止める手段は無く、翼の訴えも虚しく最後まで絶唱は歌い切られた。天高く槍を掲げた直後、彼女を中心に赤い光がノイズを襲い、次々と消滅させていく。

 

 ───その光景を、相方だけでなく地球へと降り立った謎の巨人も目の当たりにしている事に気づく者は誰一人として気づかなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……おいおい、一体何がどうなってんだ? ゼットの奴はいねぇし、奴もいねぇ…って、ん? アレは──」

 

 やっとの事で地球に降り立った俺は、今の状況が掴めずにいた。俺より先にゲネガーグを追って地球へと向かった筈であるゼットの姿が見えず、更に言えば怪獣でもない謎の敵と戦う二人の少女の姿が見える。

 状況が飲み込めずに困惑していると何処からか歌声が聞こえ、その直後に赤い光が謎の敵を次々と消滅させていくという、普通なら考えられない光景を目の当たりにした。そして、歌を歌っていた少女は今、青髪の少女に抱きかかえられている。

 

(……彼奴、だよな。さっきの歌声。もしかして死にかけてんのか…?)

 

 二人の近くには胸から鮮血が流れ落ちている少女も居るのだが、先程の光景を作り出したとされる少女の方が先に命の灯火が消えかかっていた。

 このままでは遅かれ早かれ死ぬだろう。"あの時"みたいに地球人と一体化すれば傷は癒えてあの少女は助かるかもしれない。そう思った俺はゼットを探す前にその少女の元へ向かった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 もうすぐ、アタシはこの世を去る。LiNKERも切れた上での絶唱。命が消えるのは明白だ。おそらくこれも、最期に見ている夢、なんだろう。

 翼が泣きじゃくりながらアタシに死なないで、と呼びかけている。その言葉すらもう、アタシには届いていない。もう、何もかもが終わりなんだと悟り、諦めるように目を閉じる。

 

『──そこのアンタ、俺の声が聞こえてるか?』

 

 目を閉じた瞬間何者かが、アタシに呼びかけていた。不思議だな、と思った。翼の声は聞こえていないのに、謎の声だけは頭に直接響いているのか、とやけにハッキリと聞こえている。

 閉じていた目を開け、上を向く。すると、そこにはプロテクターを付けて青いマントを羽織り、赤と青のツートンカラーで全身に銀のラインが走っている巨人がアタシを見下ろすように佇んでいた。ノイズでもない謎の存在に思わず驚きの表情を浮かべてしまう。

 

『─────よし。俺の方を向いたって事は…俺の声は聞こえてるな?』

 

 巨人の声に思わず頷いてしまったが、この巨人は一体誰なのだろう。最期に見ている夢だとしたらあまりにもリアルすぎる。困惑を隠せずにいると、その巨人は聞こえてる事を前提に話を続ける。

 

『アンタに残された時間も殆どねぇし、まどろっこしい話は抜きにして単刀直入に言う。アンタは……"まだ"生きたいか?』

 

 そんなのは当然だ、と頷く。やり残している事が多い上に翼を一人、残していける訳がない。まだやりたい事も沢山ある。そんなアタシの意志が伝わったのか、巨人は理解した、と言わんばかりに頷いた。

 

『……分かった。俺がアンタを助けてやるよ』

 

 その一言と共に、謎の巨人の姿は光り輝き、アタシは夢から覚めるように視界が開けていくような感覚を覚えた。眼前が光に包まれ、視界を奪われる。そのまま、アタシは光に導かれるように気を失った。

 それからどのくらい経ったのだろうか。強い光に当てられ、奪われていた視界が、失われていた筈の身体の感覚が徐々に復活していく。完全に目を開けた時、見慣れない天井がそこにあった。

 

「……ここは…? 一体、何が、どうなっているんだ…? 確か、あの時アタシは…」

 

 状況がイマイチ理解出来ずにだるく重い上半身だけを起こせば、アタシの右手を握ったまま寝息を立てている翼の姿がそこにあった。それから周りを見渡してここが病室だと分かるまでに時間はかからない。

 確かにアタシはあの時絶唱を歌い、命を落とした筈だった。しかし、最期に見た夢の中で出会ったあの巨人の一言は鮮明に思い出せる。

 

『俺がアンタを助けてやるよ』

 

 やはりアレは夢だったのか、と左手で若干痛む頭を抑えた時。左腕に見慣れないブレスレットを付けている事に気づく。夢の中で出会ったあの巨人が付けていたものと同じものだ。少なくとも、あの巨人に出会う前までこんなものを付けていた記憶は無い。しかし、不思議と外そうと思えなかった。

 それもそのはず、疑問点が多すぎるのもあり、あの巨人の事も何も知らない。その為、やる事が無いと判断したアタシはひとまず、右手を掴んだまま寝息を立てている翼が目を覚ますのを待つ事にした。

 

 

 ◇

 

 

 無事に一体化を果たし、あの時死にかけていた少女の命は救えた。咄嗟の事とはいえ、地球人の女と命を共有する羽目になるとは思ってもいない。少なくともこの事は親父には秘密にしておこうと思った。

 

「……しっかし、改めて思ったんだが…何処も彼処もボロボロじゃねぇか、こいつの身体。よくこんな状態であの変な装備を纏って変な奴らと戦えたな…」

 

 命の共有をした際に、少女の身体の詳細情報も知る事となった。一言で言えば悲惨と表した方がいいだろう。何故ここまでボロボロになりながら、あの敵と戦っていたのだろうか。

 少女の身体についてはひとまず置いておき、今はこの少女が目を覚ますまで待つ事にした俺は、一体化した事も相まって回復しきっていないエネルギーを回復させる事に専念する事にした。

 

(……ま、これも何かの運命って奴だろ。ゼットの奴が今何処に居るのか探さなきゃならねぇが…まずはこいつの事を知らなきゃな)

 

 そう考えながら、俺は一旦意識をシャットアウトする。予想以上に消耗が激しかったらしく、しばらく起きる事が出来ない程だった。

 

 

 ◇

 

 

 画して、本来絶唱によって命を落としていた筈の少女「天羽奏」を救ったウルトラマンゼロ。ここから始まるのは、誰も予想出来ない物語だ。

 奏とゼロ、二人の波乱万丈で前途多難な物語の一ページが今、紡がれ始める。




好評でしたら短編から連載に切り替えたいと思っております。

奏とゼロを組ませた理由は、完全に私個人の趣味です。
最初はZと組ませようと思いましたけど、「宇宙拳法、秘伝の神技!」とか言う奏がどうしても想像出来なくて挫折した結果です、はい。

それでは、お読みいただきありがとうございました。


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#2 ゼロと名乗る巨人

(思いのほか反響良くて驚いてる作者)
三話辺りから連載に切り替えた方がいいのかねぇ…ここまでとは思ってなかった()

あ、私がメインで執筆している小説の方もよろしくお願いいたしますね(隙あらば宣伝)


 ──一体、何が起きたのだろうか。あの時、奏は確かに絶唱を歌い、ノイズを吹き飛ばした後、私の腕の中で息絶えようとしていた。その時の事は今でも忘れられる筈も無い。

 だが、奇跡でも起きたのだろうか。灰になりかけていた奏の身体に黄金の光が宿ったと思えば傷やその他諸々はまるで最初から無かったように消えていて、弱々しかったものの、息も吹き返していた。

 後から事態回収に来た二課の方々に連れられて奏ともう一人……奏がその身を懸けて守り通した少女を病院へと送り届けた後の事。私はあの黄金の光について考えを巡らせていた。正直言うと分からない事だらけではある。けれど、考えずにはいられない。

 

(あの時の光、一体なんだったの…? 奏を助けてくれたのは確かだったけど…あの傷を容易く治すなんて、普通じゃない……)

 

 病院の一室にて、奏は目を覚ます事無く未だ眠り続けている。担当医が言うには目立った外傷は無く、時間がかかるものの、直に目を覚ますだろう、との事。

 とはいえ重症には変わらない為、面会時間が設けられていた。しかし、とっくに面会時間は過ぎているのだが、どうしても奏の傍を離れたくない為、緒川さんに無理を言った私は病室の外に設置してある椅子に腰掛けていた。そうして、気づけばそのまま夢の世界へと旅立って行く。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ─時は、ゼロと一体化した奏が目覚める前日に遡る─

 

 

 ふと目覚めたら、何も無い暗闇に一人で佇んでいた。周りを見渡してもあるのは闇だけであり、死に際に夢の中に出てきたあの巨人の姿は見えない。

 助けてやる、とあの巨人は夢の中でアタシに告げていた。その後がどうなったのかは分からない。だけど、今の状況を考えるとあの巨人自体が幻だった可能性が高い。つまり、アタシは助かる事なくこの世を去ったのだろうか。

 

「─────なんだよ、あの巨人。アタシを助けてやるなんて言ったのに、嘘っぱちじゃないか…」

 

 思わずそう愚痴る。そうでもしなければやりきれなかった。一人残された闇の中で、アタシは声の限り叫ぶ。すると…

 

『おい、何一人で叫んでんだよ。なんか気に食わねぇ事でもあったか?』

 

 夢で聞いた、あの声が聞こえてきた。声が聞こえてきた方向を向けば夢で出会ったあの巨人が腕を組んで佇んでいた。しかし、何処か違和感を感じる。最初に見た時はアタシより遥かに大きかった巨人だが、今目の前に居る巨人はアタシと殆ど変わらない身長にまで縮んでいる。でも、今はそんなの関係ない。

 

「アンタは…ッ!」

 

 やるせない怒りのままに拳を固く握りしめ、殴りかかろうとした。だけど、巨人はアタシが無事な事を確認するや否や、安堵の表情を浮かべているように見える。とはいえ、アタシと違って巨人の表情を読み取る事は出来ない。だけど、アタシには何故かそう見えていた。

 そんな巨人を見たアタシは先程まで抱いていた怒りの感情が一気に失せていくのを感じ、固く握りしめていた拳の力を抜き、戦闘態勢を解く。それを見た巨人は頷き、話し始めた。

 

『まぁ、俺に言いたい事が沢山あんのはよく分かるけどさ。まずは今置かれている状況を理解するのが先だと俺は思うぜ?』

 

「あっ…そ、そう、だな。悪い、急に殴りかかろうとして…」

 

『んな事は慣れてるから構わねぇし、細けぇ事は気にすんな。んじゃ、今のアンタの状況を一から話す。何か気になる事があればその都度質問してくれよ』

 

 そうして、謎の巨人……"ウルトラマンゼロ"はアタシと自分が置かれている状況について語り始めた。まず、死の淵に居たアタシを救う為に命の共有…簡単に言えば一体化したという事。

 それによって、絶唱による多大なるバックファイア等の傷をゼロが癒してくれたとの事。つまり、今のアタシは特に目立った外傷など無く、意識が奥底に沈んで眠り続けている状態。悪く言えば一時の植物状態といったところだろうか。

 しかし、ただ眠りについている()()ならば直ぐに起きられる筈じゃないのか、と疑問に思ったアタシはその事をゼロに告げる。

 

『まぁ、普通はそうなんだけどな。他にもやるべき点が見つかってよ、今はそっちに力を集中させてる都合上現実のアンタが目覚めるまでもう少しかかる。悪いな』

 

「やるべき、事…?」

 

『嗚呼。あの時アンタを救う為に一体化したって言ったろ? そん時知ったんだよ。アンタの身体、特に内側…常人なら精神が崩壊してもおかしくねぇくらいにボロボロだと言う事がな。よくもまぁ……そんな状態であの変な装備を纏って変な奴らと戦えたもんだ。正直言って驚いてるぜ』

 

「─────ッ!」

 

 確かにゼロの言う通りだ。アタシは翼とは違って正規の装者じゃない。だけど、アタシから家族を奪ったノイズに復讐する。その一心で血反吐を吐こうとも己を過剰なまでに鍛え上げ、了子さんが開発した聖遺物との適合率を上げる薬品、LiNKER(リンカー)の過剰投与によって時限式ではあるもののシンフォギア装者として今まで戦ってきた。

 当然、そんな事を続けていればおのずと身体は崩壊に向かっていく。そんなのはやると決めたその時から既に分かりきっていた事だ。だが、第三者の目線で自らの身体の事を告げられる事になろうとは思ってもいなかった。改めて自分の身体に起きている現実を突きつけられたアタシは萎縮してしまう。

 

『つー訳だ、命の共有をしてるとはいえアンタに死なれたら俺も困るし、何よりアンタが居なければ悲しむ奴らが居るって事もそん時知れたからな。今も尚俺の力でそれを治してるって訳だ』

 

「───えっ? 今、なんて言ったんだよ。ゼロ」

 

『だから俺の力でアンタの身体を治してる最中って事だよ。安心しろ、身体は治すが戦う力は奪わねぇ。俺がアンタの力の代わりになるからよ』

 

「……え、えっと…それはつまり、どういう事なんだ?」

 

 理解が追いつかず、疑問符を浮かべる他ないアタシに、ゼロはやれやれといった感じで話を続ける。流石に記憶まで覗く事はしなかったが、アタシの身体が崩壊している原因は理解出来たらしい。だから今はその原因を取っ払っているとの事。

 そこまで言われてやっと理解出来た。つまり、アタシの身体が崩壊し続けている一番の原因であるLiNKER(リンカー)。それを全て消し去り、代わりにゼロの力で聖遺物との適合率を引き上げ、翼と同じくシンフォギアの正規装者にしてくれる、という事だろうか。

 都合がいいと言えばそれまでだが、果たしてそんな事まで可能なのか、と一瞬疑問に思ったりもした。だが、ゼロの言葉に嘘など一つも絡んで無い事はここまでの対話の中で理解出来ている。でも、ただ一つだけ疑問に思う点があった。

 

「……なぁ、なんでアタシにそこまでしてくれるんだよ。ゼロ。あの時も、今もそうだ。それだけは…教えてくれるか?」

 

 ゼロがアタシにここまでやってくれているという事だ。ゼロとはあの時邂逅したっきりで、お互いをよく知らない。関係で言えば赤の他人同然なのだ。

 それを聞いたゼロは頬を掻き、何処か気まずそうにしているように見える。少し経った後、アタシに理由を話してくれた。

 

『……一目見ただけだが、どうにも放っておけなかったんだよ。自分の手で救える命を見逃したくねぇって思ったら自然とアンタを助けてた。それだけだ』

 

「そう、なのか。ありがとな、ゼロ」

 

『御礼はいい、俺のお節介でやった事だからな。それよりも、随分と時間をかけちまったが修復はそろそろ終わる。早ければ明日辺りにでも目覚めると思うぜ』

 

 そう告げるゼロの身体は薄らと透け始める。そして、それはアタシも同じだった。意識が浮上し始めた、という事だろうか。

 それよりもゼロが消えかかっている事が心配でならなかったが、ゼロは大丈夫だ、と言わんばかりにサムズアップする。

 

『安心しろ、俺はいつだってアンタの傍に居る。呼べば直ぐに応えるからよ、次は目覚めた時にでもゆっくり話そうぜ?』

 

 それを最後に、ゼロの姿は暗闇の空間から消えた。その後を追うようにアタシの身体も直に空間から消える筈だ。

 

「…あっ、そう言えばアタシの名前…ゼロに教えてなかったな。まぁいいや、また直ぐに話せるらしいし…」

 

 その一言を最後に、アタシもゼロと同じように暗闇の空間から消えた───。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 奏が眠りから覚めないまま、一週間が過ぎようとしている。壁に掛けられた時計を見れば、時刻は既に夜の九時を回っている。一日二日ならまだ耐えられたが、流石に一週間ともなればもしかしたら奏はこのまま眠り続けたままなのでは、という考えが頭を過ぎってしまう。

 

(大丈夫、奏はきっと目覚める…その事を私が信用しなくて誰が信用するというんだ…ッ!)

 

 負の考えを落とすように頭を振り、確固たる意思を持ち続けて信じるように奏の手を握っていた私だが、いつの間にかそのまま眠ってしまっていた。そうして、日は登って次の日。日光に照らされ、自然と目覚めた私が顔を上げると…

 

「……おはよう、翼」

 

「えっ…? もしかして、奏? 奏なの!?」

 

「全く……アタシ以外に誰が居るんだよ。翼?」

 

 既に起きていたのか、私を見て優しい笑みを浮かべていた奏。奏が目覚めた事に感極まった私は夢ではない事を確かめた後、そのまま抱きしめた。

 後に巡回に来た看護師が奏が目覚めた事を知り、慌てて担当医の検査が入る。その検査は直ぐに終わり、日が高く登った頃には退院出来る事となった。

 

「な、なぁ…翼。こんな事聞くのもどうかと思ったんだけど……アタシは、一体どれだけ眠ってたんだ?」

 

「……え、と。一週間くらい…かな」

 

「…え? いっ、一週間なのかッ?! そんなに眠ってたのか、アタシは…」

 

 病院に運ばれてから今日までの日にちの為、間違いではない。一週間も寝ていた事に驚きを隠せていなかった奏だったけれど、反応から見ればそんな事を感じさせない程、元気に溢れていた。

 

(……やっぱり、あの時の光が原因なのかも…? でも、調べるにしても情報が無いし……って、アレ? 奏…前からあんなの付けてたっけ?)

 

 その事に疑問を持ち、またも考え込む私だったが、奏の左腕に見慣れないブレスレットが付いている事に気がついた。その事を聞いてみると露骨に答えようとしない。何度聞いても首を横に振るだけだった。

 今は聞かれたくない事なのだろうか、と割り切る事にする。今は奏が元気になってくれただけでも喜ばしい事なのだから。

 

 

 ◇

 

 

「……ったく、慣れねぇ事はするもんじゃねぇな。流石の俺でも骨が折れたぜ」

 

 一体化した少女の内にて俺は一人、疲れを吐き出すように呟く。少女の命、ボロボロだった身体を治す為に温存していた自身のエネルギーすらも使っていた為だ。

 枯渇寸前まで利用していた為か、疲れがどっと押し寄せている。流石にこれまでも共有していたら少女の身体が持たないと判断した為、俺が感じる疲れ等は反映させていない。

 

(奏、カナデ…ね。いい名前じゃねぇか。今後とも宜しく頼むぜ、カナデ)

 

 一体化の際に五感は共有していたのか、少女の名前が俺にも聞こえてきた。少女の名を反芻して覚え、次に話す時には驚かそうと考えながら、今はゆっくり休む事にする。

 

 

 ◇

 

 

 ──そして、あの最低最悪の事件から二年後。奏とゼロは、かつて奏が命を懸けて一人の少女と望まぬ形で再会する事になる。




(仮にZも出すとなれば、誰と組ませようかな…?)
というか、短編が短編じゃなくなってる件。メイン小説より書きやすいってどゆことだよ…_:( _ ́ཫ`):_

それはさておき、お読みいただきありがとうございました。


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#3 疑問と秘密

ゼロ師匠の影響力半端ねえ……
(既にUA1000越えに驚いている作者の図)

なので、コレを機に本小説を短編から連載に切り替えようと思います。思いつきでざざっと書いた小説ですが、まさかここまで見てくださるとは思ってなかったので…
今後とも本小説をよろしくお願いいたしますm(*_ _)m


 奏の様子がおかしい事に気付いたのは、一週間というブランクを乗り越えて前線に復帰した時が最初。普段掛けてるところを見た事が無い伊達メガネを掛けたままシンフォギアを纏って戦いに望んだり、時にはまるで人格そのものが変わったような素振りを見せたりもした。

 それに、普段の奏なら絶対言わない筈の台詞をノイズに向けて言ったり、戦い方がまるっきり別人のようになったりと誰の目から見てもおかしいと感じる程に。

 

(……考えられる原因としたら…やっぱり、あの時奏の身体に宿った光が原因だと思うんだよね…。直ぐに言い直していたけど明らかに一人称が違ってたし、『私に勝とうなんざ、二万年早いぜッ!』なんて、今まで一度も言わなかった筈だし…)

 

 それともう一つ、気になる事がある。一人なのに時々誰かと話しているような場面を目撃したと緒川さんや叔父様、二課に所属している職員の方々も口々にそう言っていたのだ。

 多分というか十中八九、この事を本人に聞いても上手くはぐらかされるだけだと思う。その証拠に奏が肌身離さず身に付けているあのブレスレットの事も上手くはぐらかされて依然として聞けずじまい。そして、一番の変化と言えば…

 

 ───LiNKER(リンカー)を使わなくなったにも関わらず、正規装者の私と同じように時限式ではなく無制限で戦えているという事。

 

 適合率がある日突然適正値以上までに跳ね上がった、なんて話は今まで聞いた事の無い事例。櫻井女史も奏に起きた変化に少なからず驚きを隠せていないらしく、事ある毎にメディカルチェックを要請する程。

 その結果を見る度に何かをぶつぶつ呟きながら頭を抱えている櫻井女史の姿を見ない日は無い。やはり、これだけは本人から聞かなければ分からない事なのだろう。しかし、私に対しても頑なに話そうとしてくれないのは一体何故なのだろうか。

 

「……ううん、考えても仕方ない。明日こそ、明日こそ。奏に一体なにが起きているのか、本人から絶対に聞かなきゃ…」

 

 そう呟き、今日の仕事を終えて帰路につく。明日こそちゃんと話してくれるだろうか、と希望を持ちながら。

 

 

 ◇

 

 

 ノイズ討伐も終わり、寮へと帰ってきた。一段落する前に夕飯等諸々の支度を終わらせ、今日の疲れを癒す。戦いを繰り返す中で、ゼロの力の凄さを再認識させられた。LiNKERを使わなくても翼と同じくらいに長く戦えるようになり、今までのように時間を気にしなくてもよくなった。

 

 だけど、アタシには一つだけ頭を悩ます問題がある。それは…

 

『今日は急に身体借りて悪かったな、カナデ』

 

「今日は、じゃない。今日()だろ、ゼロ。翼にも二課の皆にもゼロの事はまだ秘密にしてるんだからさ、あんまり目立つような事をしないでほしいんだよ。アタシの身体を使うのは別に構わないけどさ…」

 

『だから悪かったって言ってるだろ? ノイズ…だったか。カナデの目線で彼奴らを見てたら無性に戦いたくなっちまってよ。俺が戦ってきた怪獣達とはまた違うからな、彼奴ら』

 

 ハッハッハ、とまるで他人事のように笑うゼロ。アタシが問題視してる事とは、今日の戦いのようにゼロがアタシの身体の主導権を突然に、半ば強引に奪って代わりに戦う事。本人曰く、ウルトラ戦士の血が騒ぐらしいんだけど、急に身体の主導権を奪われる此方としてはいい迷惑だ。

 これまでの対話の中でも語っていたけど、ゼロは過去にもそういう事をしていたらしい。一体何人の人達がゼロと共に戦い、そして振り回されてきたのかは知る由もないけれど、これだけは言える。その人達も少なからず苦労してきたんだろうなと。

 そんな風に寝る前まで話していた時、突然ゼロの口数が減った事に気づく。疑問に思ったアタシは質問してみる事に。

 

「……ん、ゼロ。急に口数減ったけど…どうしたんだ?」

 

『嗚呼、悪い。ちょっと考え事をな……なぁ、カナデ。ノイズ討伐から帰る度にメディカルチェックを受けてるだろ?』

 

「え、あ、確かにそうだけど…それがどうかしたのか? 了子さんはアタシの身体を気遣ってるからやってる事だし、ゼロが特別気にする事じゃない筈だと思うけど…」

 

『あー、うん。それに関してなんだが、明らかに回数が異常過ぎる。ああいうのはよほどの事がねぇ限りは頻繁にやるもんじゃねぇ。俺としては、それ自体に何か裏があるんじゃねぇのかって思ってるんだよ』

 

 ゼロはそう語るが、アタシは流石に考えすぎだ、と思った。了子さんに限ってそんな事は無いと思う。だけど、ゼロはどうも引っかかっているらしい。

 ひとまず情報が少ない故にこれ以上考えを巡らせるのは無駄と察したのか、今日は先にゼロが眠りについた。本人にも聞こえないくらいに小さい声でお疲れ様、と呟き、アタシも寝床へと入る。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ─月光だけが隙間から入る暗い部屋─

 

 自分以外誰も居ない部屋にて、私はあるデータをしらみつぶしに見ていた。

 

 天羽奏。ツヴァイウィングのライブの裏で実行へ移していたネフシュタンの鎧の起動実験の最中、突如大量発生したノイズに対して絶唱を歌い切り、死の淵に立たされていた()()()()シンフォギア装者。

 

 誰の目から見ても彼女が生き延びる可能性は皆無に等しい。そう思っていたのだが、なんの奇跡が起きたのか突如黄金の光が彼女の身体に宿り、絶唱によるバックファイアを含めたあらゆる傷がほぼ完璧に癒え、息も吹き返した。誰がどう見ても明らかに異常過ぎる光景だ。

 それで終わりではなく、LiNKERによって人為的に底上げしていた適合率が、今はそれを使用しなくとももう一人の装者である風鳴翼と同等かそれ以上に跳ね上がっている。つまり、今の彼女は何者かの力によって後天的装者ではなくなっており、その上元々高い戦闘能力が格段に上がっているという事に他ならない。

 

(……一体、あの時彼女の身になにが起きたというんだ…?)

 

 彼女がノイズ討伐から帰ってくる度にメディカルチェックを要請していたのは、その『何か』を探る為だ。二課に残されていたとある観測データによれば、彼女が絶唱を歌った同時刻に近辺にデータに存在しない"何か"を観測した、と記されている。

 その二つを合わせて彼女に起きた変化の正体を探ろうとしているが、依然として有力な情報は見つからない。とはいえここで諦めるとなれば彼女と死の淵から彼女を救った"何か"が私の計画を進めるうえで最も邪魔な存在に成りうる可能性が非常に高い。

 私がかねてより計画しているものは何としてでも達成させる、その為には彼女を救った謎の光の正体を探る必要があり、もし可能であればそれを無力化させたい。

 

「……正直言って骨が折れそうだが、これも計画を実行に移す為に必要な事だと思えばいい…」

 

 そう呟き、私は再び彼女に関するデータの羅列に視線を落とす。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 翌日、いつものように起きた私は奏に電話をかける。少しして通話が繋がる音が通信端末から聞こえ、すぐに寝ぼけている奏の声が聞こえてくる。今日のスケジュールを話しながら、本題に移ってみる事に。

 

「ねぇ、奏。ちょっと聞きたい事があるんだけど…大丈夫?」

 

「んー…まぁ、大丈夫だけどさ。こんな朝早くから聞きたい事ってどうかしたのか、翼?」

 

「うん、実はあの時の事なんだけど───」

 

 真っ先に聞きたかったのは、あの時の黄金の光と奏が肌身離さず身に付けている不思議なブレスレットの事。寝ぼけている今なら簡単に話してくれるだろう、と思った。正直言ってずるいとは思う。でも、その二つだけはどうしても知りたかった。

 そうすると、通信端末の向こう側から何かが転げ落ちる大きな音と痛がる声が聞こえてくる。もしかして、奏がベッドから落ちたのだろうか。

 

「だ、大丈夫なの奏!? 凄い音したけど…怪我は無い?」

 

「あー、うん。大丈夫だ翼…」

 

 あはは、と通信端末越しに笑う奏。心配させないでよね、と一言告げた後、スケジュールの話に戻る。さっき質問した事は後からもう一度聞けばいい。少なくとも、それを聞くタイミングは今ではないのは確かだった。

 後で奏に何かお詫びでもしようと考え、時間を確認した後にまたね、と通信端末の通話を切る。端末をしまった後、私は先程の事について何かが引っかかっていた。奏は黄金の光とブレスレットについて何か重要な秘密を知っているけれど、それを話せない理由でもあるのだろうか、と。

 

「……やっぱり、凄く気になる…」

 

 そう呟きながら、身支度を終えた私は奏の事を心配しながらもリディアンへと向かった。

 

 

 ◇

 

 

 まさか朝早くからあの事について、それも翼から進んで切り出されるとは思っていなかった為、慌てた結果ベッドから転げ落ちてしまった。幸い怪我はしていないが脛などは強かにぶつけてしまい、ぶつけた箇所を中心に鈍い痛みが広がっている。

 

「……やっぱり翼には話すべき、なのかなぁ」

 

 涙目のまま身支度をしながら、そう呟く。しかし、翼にどうやって話せばいいだろうか。色々考えたが一人で悩んでても納得のいく答えが出ない為、ゼロに頼る事に。

 

「……ゼロ。起きてるか?」

 

『ん? 嗚呼。カナデがベッドから転げ落ちる前からな。んで? 一体どうしたよ?』

 

 翼にゼロの事を話してもいいか、という事をゼロに話すと、ゼロは反対するどころか『別にいいぜ?』という答えを返してきた。予想とは違う思わぬ答えが返ってきた為、少しの間呆けてしまう。

 

「えっ……ゼロの事を話しても大丈夫、なのか?」

 

『まぁな。ツバサはカナデが最も信頼を寄せてる奴だろ? だったら無理に止める理由もねぇし、理解者は多けりゃそれでいい』

 

「そ、そうなのか……?」

 

 ウルトラマンには秘密が色々あるから他の人には話しちゃ駄目だと勝手に思っていたが、ゼロの反応を見る限りは意外にもあっさりしているんだな、と感心したアタシは次に翼から聞かれた時には必ず答えようと決心する。そうこうしている内に仕事の時間が近くなった為、慌てて飛び出した。

 

(でも、翼は信じてくれるのかな…? 翼を疑う訳じゃないけど、すんなりといかない気がするんだよな…)

 

 そんな事を考えながら、アタシも今日の仕事へ向かう。ゼロに関しては後で考えて翼に話そうと思いながら。




連載に切り替える辺り、一応流れの中でゼットの出演を予定してます。OTONAやNINJA、その他の方々との絡みが描けてないので次回はそちら、ですかね。自分でハードル上げてどうすんだ、より一層頑張らねば……_:( _ ́ཫ`):_

それでは、また次回(・ω・)ノシ


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#4 奏とゼロ

物凄く読まれてて嬉しい反面プレッシャーがもの凄い…後、色々バタバタしてて更新遅れて申し訳ない…(カタカタカタカタ)

まぁ、それはさておいて。前回のあとがき通り二課のOTONA達と奏(ゼロ)の絡みの回となります。


 特異災害対策機動部二課。認定災害『ノイズ』と日々戦う政府機関。そこの司令官を務めているのは風鳴弦十郎。彼にはどうしても気になる点が一つあった。

 

 二課所属のシンフォギア装者であり、自分を旦那と呼び慕う『天羽奏』の事である。二年前のあの日、下手すれば命を落としていたかもしれない状況から奇跡の生還を果たし、今も尚翼と共に前線に立ち続けている彼女だが、変化に気付いたのは退院して翌日の事だ。

 久しぶりに手合わせしたいと本人から申し出があり、此方としても日々の業務に追われて疲れてはいたが折角という事もあり、快く快諾した。しかし、一週間というブランクは予想より大きく、体力も以前より落ちているらしい。それは本人も自覚している為、お互いに軽く動くだけに留める…つもりだった。

 

 自分は驚きを隠せないでいた。とてもじゃないが退院して一日しか経っていない上に体力が落ちているとは思えない程の動きを見せたのだ。最初こそその動きに圧倒はされたものの、なんとか対応は出来た。しかし、病み上がりと言っていい状態の彼女がここまで動けるのだろうか。

 

(やはり、翼の言う通り奏に何かが起きていると見ていいか。そう言えば……左腕に見慣れないブレスレットを付けていたな。翼が退院祝いに渡したものなのだろうか?)

 

 そう思い、後で翼に聞いてみると、あのブレスレットは渡していないどころか気づけば既に身につけていたという。まるで最初からそこにあったように。なんとも不可思議である。本人も露骨にその話題に振られないようにしているのが垣間見えた為、それ以上聞けなかったが。

 そんな出来事から一週間経った今、新たに分かった事もある。時々性格が変わったような口振りや素振りを見せ、以前より更に戦闘力も上がっていると報告が来ている。更にそれだけで終わる訳もなく、聖遺物との適合率も翼と同じかそれ以上に跳ね上がっているというのだ。

 

「異常と言えば異常だが……一体、何が起きているというんだ…? 流石にコレばかりは本人に聞かなければならないか」

 

 そう呟き、再びモニターとの睨み合いをしつつ二人が戻ってくるのを待つ事にした。

 

 

 ◇

 

 

 あの日から疑問だった、奏に起きた変化。今日のノイズ討伐が終わった後、本人から聞ける事に。一体どういった心境の変化なのだろうか、と思った。今までは何かと話そうとしてくれなかった事なのだ。

 それはさておいて、折角話してくれるのだから大人しく聞く事にした。何か疑問があったらその都度聞いていいらしい。

 

「えーと……まずは紹介しなきゃ駄目か」

 

「…紹介? 奏、それは一体どういう事なの?」

 

「まぁ待てって、あの状況からアタシを救ってくれた恩人だから。悪い奴じゃないし、翼もそいつの事気になってただろ?」

 

「う、うん。そうだけど……もしかして近くに居るの?」

 

「まぁね。少し待ってて、すぐ呼ぶからさ」

 

 呼ぶとはどういう事なのだろう、と考えていた時、誰かと話し始めたと思えば奏の雰囲気がガラリと変わり、瞳の色も金色に変化する。その雰囲気は、あの時からずっと感じていた雰囲気だった。

 

「───アンタがツバサか。初めまして、だな。俺はゼロ、ウルトラマンゼロだ」

 

「……貴方は…? えと、ウルトラマン?」

 

「あー……薄々分かってはいたがまずはそこからだよな。まぁ、時間は有限だし長々と説明するのもあれだ。端折って説明するからよ、疑問があれば聞いてくれ。俺が分かる範囲で答えるからさ」

 

 そう言うと、ウルトラマンゼロと名乗った人物(?)は奏の姿を借りたまま、己の存在を含めて話し始める。M78星雲や宇宙警備隊等初めての情報が続々と頭に入ってくる為、オーバーフローを起こしそうだった。

 それでもなんとか耐えた私はゼロに質問をする。一番知りたかったのは、何故地球に来たのかという事。本人の話によれば何かを追って地球に来たらしい。

 

「ゼットの奴が先に来てた筈なんだが、俺が来た時には奴の姿は見かけなくてよ。周りを見回していたら歌声が聞こえてきたんだ。んで、聞こえてきた方向を向けば今にも死にそうなカナデとツバサを見つけてな」

 

「……あの時、ですか。それで、ゼロは奏と一体化する形で奏を死の淵から助けてくれた。そういう事ですね?」

 

「そういう事だ。今まで説明出来なくて悪いとは思ってる。それに関してはタイミングが無かったって事で許してくれよ」

 

「え、あ、まぁ……大丈夫です。貴方は奏の恩人ですから」

 

 次に聞きたかった事は、奏の左腕に付いているブレスレット。それに関してはすぐに答えが返ってきた。『ウルティメイトブレスレット』というブレスレットはゼロが普段から身につけているものらしい。元は『ウルティメイトイージス』というものが変形したものなのだが、流石に奏がイージスを身につけるのは不可能との事。

 本来、ウルトラマンは地球では"三分"というとても短い時間のみ活動出来るのだが、ゼロはウルティメイトブレスレットの恩恵でその活動時間を克服しているらしい。私は奏と違ってゼロの本来の姿を見た訳ではないが、その一言を聞いただけでもゼロとそのブレスレットの凄さが分かったような気がした。

 

「……色々教えてくださり、奏の命も救ってくれた事、本当に感謝しています。ウルトラマンゼロ」

 

「今更そう畏まらなくていいんだがな…。カナデの言う通り真面目な奴って事か。ま、俺もまだやる事あるし、いつでも協力するからよ。今後ともよろしく頼むぜ、ツバサ」

 

 いつまでも俺が主導権握ってちゃカナデに悪いからそろそろ交代する、とゼロは奏に主導権を返す。瞳の色も元に戻り、いつもの奏が戻ってきた事を確認した私は、まずは大事な事を今までひたすら隠してきた事に対して問い詰めた。

 急に問い詰められて若干涙目になる奏だったけれど、それだけで私が今の今まで募らせていた想いが晴れる訳もなく。二課に戻るまで小一時間どころではない問い詰めをした私だった。

 

 ……余談だけど、涙目の奏を見ていたのは私だけではなく。私が奏を問い詰めていた事はバッチリモニターされており、二課の皆も見ていたという事を知った奏は再び顔を真っ赤にし、物凄い勢いで此方を向いてジト目で睨まれた気がしたけど気のせいという事にしておいた。

 向けられる視線に負けて奏の方を向いたら逆に私が問い詰められるという事をなんとなく察した、というのもある。

 

 

 ◇

 

 

 ノイズ討伐から帰って来てすぐに奏を呼び止め、奏に何が起きているのかを詳しく聞いてみる事に。モニターしていた為ある程度は知っているが、やはり改めて本人から聞いた方がいいと考えた為だ。

 すると、そう来るのは分かっていたと言わんばかりに雰囲気をガラリと変え、瞳の色を金色に変えた奏が我々に話し始めた。多重人格という訳ではないらしく、今話しているのはウルトラマンゼロと名乗る巨人。聞けば、あの時奏を救った張本人のようだ。

 何故今まで隠してきて、その事を頑なに話さなかったのかという問いに対しては、"カナデの奴がウルトラマンに関する事は話さない方がいいと勘違いしていただけ"という事。彼…ウルトラマンゼロが言うには、"俺達ウルトラマンに関する事は、禁忌以外であれば秘密を守れる奴に話しても大丈夫"との事。

 その後も色々と質問をし、用は終わった事を確認したゼロは再び奏に主導権を返す。さっきまでの雰囲気とは打って変わっていつもの奏であり、瞳の色も元の色に戻っていた。

 

「……こんな大事な事を黙っていたとはな…」

 

「悪い、旦那。今まで黙ってて…。勘違いもしていたのもあったんだけど…なんとなく、言い出せなくてさ」

 

「いや、話してくれてありがとうと言いたいところだ。つまり、あの時俺と手合わせしていたのは奏……ではなくゼロだったという事か」

 

「そういう事になる…な。それだけじゃなくて、今のアタシには色々変化が起きてるだろ? それも全部ゼロのおかげなんだよ」

 

「……ふむ、なるほどな。では、彼は…ウルトラマンゼロは今後とも我々に協力してくれる。そういう事でいいだろうか?」

 

 そう問いかけると、奏は力強く頷く。ゼロが言う通り、彼が奏の力となっているのは本当のようだ。今の状態がいつまで続くのかは分からないが、我々としても助かる点はあるだろう。

 彼女と一体化しているウルトラマンゼロ。いつの日か本来の姿を見せてくれるのだろうか。奏の身体を借りているとはいえ、戦闘力が優れている事は今までのデータで分かってはいる。それについては圧倒的、と言わざるを得ない。

 しかし、彼とウルトラマンについてはシンフォギアと同じく最重要機密という事も分かった。コレに関しては我々だけが知りうる秘密という事にし、外部に漏らす事のないように気をつけなければならないだろう。

 

(………しかし、ゼロが話していた『ゼット』。彼が探しているという事はもう一人居るという事になるのか。もう一人の、ウルトラマンが…)

 

 その事も視野に入れつつ、まずは新たに加わった仲間を歓迎する事にした。

 

 

 ◇

 

 

 彼等はまだ知らない。ゼロが探している『ゼット』。彼と予想外の出会いを果たすという事に。それはまだ、先の話である。




私事ですが。FGO五周年おめでとうございます。
記念鯖四人も引いちゃったとリア友に言ったらめちゃくちゃ呪詛を吐かれた私です…(・・;

後付け設定になりますが、ゼロさんが主導権を握っている時は瞳の色が金色に変わる、という事にしました。その方が今どちらになってるのかわかりやすい…のかな。多分。

後、没案としてツヴァイウィングの二人をルーブにする事も考えてました()私に文才無くて諦めざるを得なかったですけど…

次回こそ、原作主人公との邂逅が書ければ……いいかなぁ…。それでは(・ω・)ノシ


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一章 超人と終焉の名を持つ巫女
#5 三人目の装者


やっと本編行ける…
一応、ゼットと共に戦う人物は決めています。いずれ登場させますのでお楽しみに( 'ω')ノ

それではどうぞ


 ───あの日から、二年。一週間というブランクが空いたが見事に復帰を果たした天羽奏と彼女の相方である風鳴翼のボーカルユニット『ツヴァイウィング』の活動再開が報道され、それを記念した新曲を収録したCDの発売日でもある今日。

 二人のファンである少女、立花響もまた、CDを買うべく放課後を迎えたと同時にショップへと走る。朝方に彼女の幼なじみにしてかけがえのない親友である『小日向未来』が話していた事を忘れるくらいに必死だった。

 

 そうして、やっとの事で辿り着いたCDショップ周辺。そこで目にしたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを見た響は朝方の会話を思い出す。

 しかし、直後に出現したノイズから逃げ遅れた少女の泣き声を聞いた響はその少女と共に逃げる。その行動が響の運命を大きく変える事になろうとは、この時の響はまだ気づいていない。

 

 

 ◇

 

 

 ───目の前で起きた事が、未だに理解出来ない。突如現れたノイズから少女と共に逃げ、辿り着いた先では待ってましたとばかりに群れを成すノイズ。後ろには自分達の退路を断つかのように小型のノイズが群がっていた。

 なんとかして少女だけでも逃がさないと、と思ったその時。ノイズを目の当たりにして恐怖を感じ取ったのか既に涙目の少女が口にした一言に息を飲む。

 

「………………お姉ちゃん、私達…死んじゃうの?」

 

「───ッ!」

 

 『死』。ノイズに触れられた人に等しく訪れる底知れない恐怖。それを自分より年下の子が知ってしまった。咄嗟に私が守るから大丈夫、と答えたが、『死』という単語は今の自分の頭の中を支配するのに十分だった。

 身体は恐怖で震え、焦り、冷や汗が頬を伝う。尚も恐怖で震える少女を宥めるべく目線を合わせ、大丈夫と告げた時。ふと、とある人から言われた一言を思い出す。

 

「─────生きるのを、諦めるな…」

 

「お姉ちゃん…?」

 

「大丈夫、だからッ! だから……生きるのを諦めないでッ!」

 

 ───その一言が、響自身も気づいていなかった内なる力を解放するトリガーとなった。突如心に浮かんだ()を口ずさめば、全身から黄金の光が迸る。それが収まると今度は身体の内から何かが食い破ってくる痛みに襲われる。痛みに耐えるように四つん這いになった響だが、その痛みの正体は響の背中から突き出ていた。

 その身体の何処にそんなものが眠っていたのか、と言わんばかりに突き出ていたのは機械のような何か。それは響の身体に繰り返し出入り、その度に響の姿は変化していく。そうして、最後の機械のようなものが入った時、響は制服姿から白い鎧を纏った姿となって少女の前に立っていた。

 

「……え? えぇぇッ!? これ…一体な、何がどうなって───」

 

 後ろでは自分の姿を見て興奮する少女。何が起きたのか分からずに困惑していた響だが、ノイズはそんなのはお構い無しに二人へと突撃していく。このままじゃ自分も少女も死んでしまう。思わず拳を突き出してしまった事に後悔するより先に、驚愕の出来事が起きた。

 自分の拳を受けたノイズはその身を炭素の塊に変えて消失していたのだ。一体何がどうなって、と考えるより先にこれならやれる、と踏んだ響は気合いを入れ直し、初戦闘故の困惑とぎこちなさでノイズに挑んでいく。

 

 同時刻。ガングニールの反応を検知した二課、そこの司令官である風鳴弦十郎は同じ二課所属の装者二人に出撃命令を出し、現場へと向かわせていた。

 その際、自分と同じガングニールの反応を見た奏の様子が少し気になったが、今は後回しにしておく事にする。

 

 

 ◇

 

 

 ガングニール。それは、アタシだけが持つシンフォギアの元となっている聖遺物。聖遺物は現在では製造不可能な異端技術(ブラックアート)の結晶であり、二つとしてないものとされている。だから同じもの、同じ波形がもう一つなんて事は普通有り得ない。だからこそ、この目で確認したかった。ガングニールの装者として。

 翼の駆るバイクに乗り、現場へと向かう中その事を考えていた時、ゼロから声がかかる。

 

『……いつもと様子がおかしいと思ったらアレか。カナデと同じシンフォギアの反応があったからか。通りで焦ってるように見えた訳だぜ』

 

「うん。アタシと同じシンフォギア、それについては一つだけ、確固たる確信があるんだ」

 

『……確信? カナデにはそいつになんか心当たりでもあるのか?』

 

 ゼロの疑問にある、と答える。確信は二年前のあの時が元になっていた。時間切れによって維持が出来なくなったガングニールの穂先の一部が砕け、アタシが守ろうとしていた少女の胸に突き刺さった。その事は今でも鮮明に覚えている。もしかしたらそれが原因なのかもしれないのだ。

 ゼロと話している中、翼が声をかけてきた為一旦ゼロとの会話を止める。最後にゼロはいつも通りアタシが危なくなったら交代するとだけ告げて一旦引っ込んだ。

 

「奏、ゼロと何を話していたの?」

 

「……ん、嗚呼。ちょっと込み入った事だよ。それで翼、あとどれくらいで着く?」

 

「そう。現場が近いからそんなにかからないけど、飛ばすからしっかり掴まってて、奏」

 

「ん、了解」

 

 夜も更け、灯りも少なく、誰も走っていない暗い公道を猛スピードで駆ける、二人を乗せた一台のバイク。その先に居るのは、現状が分からず困惑する中、ノイズと戦う一人の少女。

 ツヴァイウィングの二人と一人の少女が邂逅する時、運命は動き出す。勿論、その事はまだ誰も知る由もない。

 

 

 ◇

 

 

 ───流石に、疲れが見えてくる。何処かで見たような気がする鎧を纏い、少女を守りながらノイズと戦う中、片膝をつきそうになった。

 しかし、今戦えるのは己のみ。ここで動きを止めたら少女の命は無い。疲れが溜まり、重くなる足や手を気合いで無理矢理動かし、ノイズを倒しながら逃げ続けていた時。

 

「──Croitzal ronzell Gungnir zizzl──」

 

「──Imyuteus amenohabakiri tron──」

 

 透き通るような、それでいて心に染み渡る綺麗な歌声が辺りに響き渡る。歌に一瞬だけ気を取られて足を止めた時と同時に自分の目の前に二人の女性が降り立った。

 一人は刀を携えた青髪の女性、もう一人は撃槍を構え、左腕に不思議な形状をしたブレスレットを付けた赤髪の女性。二人には見覚えがあった。見間違える筈もない、何故ならばその二人こそ───。

 

「ツヴァイウィングの、お二人が何故……?」

 

 今や知らない人など居ない程の知名度を誇る人気ボーカルユニット『ツヴァイウィング』の二人だったからだ。ノイズによって戦場と化したこの場に降り立った二人は自分と酷似している鎧を身に纏っている。

 青髪の女性、『風鳴翼』は此方を向くと一瞬だけ驚いた表情を浮かべる。しかし、すぐに表情を戻して前を向く。何故二人がこの場に居るのかが気になり、聞こうとしたが……。

 

「……貴女に聞きたいことは山ほどある。けれど今はここでその少女を守ってなさい。貴女に出来るのはそれだけだから」

 

 そう冷たく言い放たれ、萎縮してしまう。確かにその通りだった為、何も言い返せずにはい、とだけ答えるのが精一杯だった。

 その後すぐに赤髪の女性、『天羽奏』に脇腹を小突かれて変な声が一瞬だけ聞こえたけれど、聞こえていない事にしておいた。後で何を言われるのか分からない。

 

「……うん、翼さんの言う通り、私がやれる事をやらなきゃ…」

 

 折れかけていた心を立て直し、再度気合いを入れ直す。今やれる事は少女を守る事。二人が捌ききれないノイズから自分と少女を守る為、拳を振るう。

 そんな中、目を疑う出来事が起きた。奏が手をノイズに向ければ、まるで何かに遮られるようにノイズが動きを抑制されたのだ。それを合図に翼がノイズを切り裂き、炭素へと帰す。一瞬だけ見えた奏の瞳が黄金に輝いていたのは、見間違いじゃない。

 だが、そんな事に気を取られている状況ではない為、気になる事は一旦頭の片隅に追いやる事にした。今の状況が一段落した後に聞けばいい。そんなこんなで、二人の助力もあってノイズは全て殲滅された。

 

 

 

 ◇

 

 

 自衛隊と二課の職員達による事後処理が行われている中、シンフォギアを解除して元の姿に戻った私は奏に…否、奏と共にいるゼロに聞きたいことがあった。先程、何かしらの力によってノイズの動きを抑制した事についてだ。

 

「ゼロ。貴方に聞きたいことが…」

 

「ん、嗚呼。ツバサが気になってるのはさっきの事だろ? ウルトラ念力、簡単に言えば超能力って奴だ。危ねぇと思ったから咄嗟にやったが…。カナデの奴怒ってるだろうな」

 

 超能力。ウルトラ念力と呼ばれるそれは、ウルトラマンなら修行を積めば誰もが出来るようになるという。本人曰く奏に危険が迫った為、主導権を奪って咄嗟にやったらしい。それもあってかゼロは奏が怒ってる事に気づいていた。それもそうだ、そんな事をされたら誰だって怒る。

 少しして主導権が奏に移ったのか、瞳の色が元に戻る。奏は急に主導権を取られた事に驚き、ゼロの言う通りご立腹だった。そんな奏を宥めていた時、シンフォギアを解除した少女が私達の元に走りよって来る。

 

「…あの、危ない所をありがとうございました。これで二回目です、お二人に助けられたの」

 

「……二回目? 奏、それってもしかして…?」

 

 少女が『二回目』と口にした事に疑問を持った私は奏に聞いてみると、奏はやっぱりか、と言わんばかりに頷いていた。この少女が何故、装いは違えども奏と同じガングニールを纏っていたのか。それについても既に見当がついているらしい。

 それはともかく、シンフォギアを纏って戦っていた少女には特異災害対策機動部二課本部に連れていく事に。当初の目的である奏と同じガングニールの反応源が今私達の目の前に居る少女なのは間違いなく、このまま大人しく帰す訳にはいかなかった。

 

「あ、では私はこの辺で……」

 

「……待ちなさい」

 

「え、あ……はい。翼さん、なんでしょうか…?」

 

 私達に頭を下げてこの場から立ち去ろうとする少女を引き止め、何処から取り出したのか奏が手錠を持って少女に近寄る。

 

「あ、あの…奏、さん? そ、それは一体なんでしょうか……?」

 

「……ごめんな。こればかりはアタシも不本意なんだけどさ、このまま帰す訳にはいかないんだ」

 

 そう言いながら、手錠を片手にジリジリと近寄る奏。少女は手錠と奏を交互に見ながら後退りしていたが少しして奏に捕まり、両手に手錠を付けられる。

 その事に驚きを隠せず、パニックに陥る少女。そんな事はお構い無しに私と奏は緒川さんの駆る車に少女を乗せ、二課本部へと戻る。

 

 

 ◇

 

 

 訳も分からず手錠を付けられて車に乗せられ、重々しい空気の中、私は呪われてるのかなと思った。翼さんは黙りこくったままで、奏さんは一人で誰かと話しているように見える。

 何処に向かっているのかも分からず、帰りが遅くなるのは確実であり、未来が心配しているだろうなと考えながら、重々しい空気が晴れるのを待つしかなかった。

 

 少しして車は止まり、続々と降りる。私も遅れて降りて、目的地であろう建物を見た時だ。その建物を見た私は驚きを隠せない。何故ならそこは───。

 

「リディアン…?」

 

 私と翼さんの通う学校だったからだ。




ゼロさんの強化形態、ストロングとルナ以外にも出したいけどウルトラギャラクシーファイトで語られていた通り、一人ではビヨンドにはなれないっていってたし、多分ゼット本編ではジードの時に使ってたあのライザーは所持してないと思うし、どうしようかなぁ…。ゼットライザーは四次元空間に放逐される前にメダルと共にゼットに託してるし…

まぁ、公式設定曰くウルティメイトゼロより強いとされているビヨンド以前にストロングやルナを出した途端に無印諸々一連の決着が一瞬で付きそうだけど。


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#6 背負うべき罪

色々書きたくなってもう一つ新規増やすというね…
という訳で現在進行形で進めております、もう一つの新規小説の方もよろしくお願いいたします<(_ _)>

それからもう一つ。遅れて申し訳ない(スライディングドゲザッ)


 リディアン音楽院。音楽の授業に力を入れており、そこに通う学生は女性のみという、言うまでもなく女子校である。

 時刻は夜、先のノイズ襲撃から少し経った頃。二つ目のガングニールの反応源であり、実質三人目の装者となる少女『立花響』を連れてリディアンへと戻ってきた二課の面々。そんな中、ただ一人だけ。天羽奏だけは内に居るもう一人、ウルトラマンゼロと念話にて会話をしていた。一人言だと思われたくない為である。

 

『……なぁ、カナデ。ツバサの奴がさっきから機嫌悪いように見えるんだが…気の所為じゃあ、ねぇよな?』

 

「あー……それはアタシもだからさ、あんまり気にしない方がいいかもしれないよ、ゼロ」

 

『まぁ…そうすっか。んで、ツバサがイライラしている原因はやっぱりアイツなのか?』

 

「多分、というか絶対そうだな。翼、形は違えどもアタシと同じガングニールを纏っていたのが何よりも許せないんだと思うんだよ」

 

『……そうか…』

 

 奏とゼロは翼の傍で小さく震えている少女の方を見て頷いている。まるで大型の動物に睨まれて動けない小動物みたいだった。

 そんなこんなで皆を乗せたエレベーターはすぐに止まり、長い通路を歩いた先にある扉の前に立ち止まる。緒川さんが先導して扉を開け、少女に入るよう促す。

 恐る恐る少女が中に踏み入れると、歓迎の言葉とクラッカーの破裂音。「この先はお巫山戯無しだから」と翼から事前に告げられていた少女にとっては疑問符を浮かべる他無く、困惑していた。

 

(そりゃあ、その反応するよな…)

 

 そんな事を思いながら上を見上げると、『熱烈歓迎! 立花響様!』と大きく書かれた横断幕が下がっているのが見える。少女、響の名をいつの間に知ったのだろうか、と此方も疑問符を浮かべていた。

 そうこうしている内に謎の少女こと立花響の歓迎会が開かれ、自己紹介を終えた後は響のメディカルチェックが了子の手によって行われる。その理由は一つ。響が何故シンフォギアを、ガングニールを纏っていたのか、何か身体に異常が無いかを明らかにする為だ。

 結果が出るのを待っている間、アタシは翼の元に歩み寄る。依然として現実を受け止めきれていない翼は、その手を固く握りしめている。表情は暗く、今にも涙を流しそうでもあった。

 

「……翼」

 

「……奏…」

 

 声をかけたのはいいものの、その次の言葉が出てこない。一つでも間違えた先に待ち受けているのが何か、それが分からない。

 

 ───だから、思い浮かんだ言葉を一つだけ。翼に伝える事にした。

 

「……翼が気に悩む事じゃない。アレは、響が纏っていたガングニールは、アタシの背負うべき罪なんだからさ」

 

「でも…ッ!」

 

 翼がその先に何を言うのか分かったアタシは、人差し指を翼の口に添えて遮る。突然そんな事をされた翼は頬を赤らめて固まってしまったが、そんなのはお構い無しにアタシは言葉を紡いだ。

 

「翼が言いたい事は分かってる。あの時アタシが救った命が目の前に居て、しかもアタシ達と同じ(シンフォギア)を得てしまった。それに加え、響の行動力は目を見張るけど、裏を返せば身を滅ぼしかねない危険なもの。だからといって響を止める事は無理だ。だったら、アタシ達がするべき事は一つじゃないか?」

 

「……立花を、護る?」

 

「そう。シンフォギアを纏って戦いに身を投じている先駆者として、装者として。なによりも響の先輩としてさ」

 

 そう言うと、急に身体の主導権がゼロに移る。いつもなら怒っていた所だったが、今回は怒らないでおいた。ゼロも翼に言いたい事があったのだろう。

 

「俺もカナデと同意見だぜ、ツバサ。なぁに、いざとなれば今日ノイズにやったようにウルトラ念力で強引にでも後方に飛ばすからよ」

 

「……ゼロ。それは構わないですが、その時はちゃんと手加減をしてくださいね」

 

「へっ、言われなくても分かってるって。カナデが身を挺して護った命を無下に出来る訳ねぇだろ? 俺からしたらカナデは勿論ツバサもヒビキも、二課の奴等やこの世界に生きる者全員、この手が届く限りは護らなきゃならねぇと思ってるしな」

 

 それだけを言い、ニッと笑うゼロ。その後、ゼロは再びアタシの中へと戻っていった。本当にそれだけを翼に言いたかっただけらしい。

 ゼロが戻ったのと同時に電動スライド式の扉が開き、メディカルチェックを受けていた響が顔を出す。辺りを見渡してアタシ達を見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。まるで妹みたいな存在だ。

 

「あ、あの……翼さん、奏さん。私、戦いますッ! 戦いに関してはまるっきりのど素人ですが…一生懸命頑張りますッ! なので…よろしくお願いします!」

 

 そう言い、アタシ達に手を差し出しながら頭を下げる響。アタシはすぐに手を取ったが、翼は悩んだ挙句そっぽを向いてしまった。流石にまだ早かったのかな、と心の中で呟く。

 その後、了子さんによる聖遺物の講座が開かれた。しかし、響は今日初めてシンフォギアを纏って戦ったのもあってか何処か疲弊しているように見える。それに気づいたアタシは了子さんに伝え、後日。メディカルチェックの結果と共に話す事となった。

 

「響君、少しいいだろうか?」

 

「あ、はい。なんでしょうか…?」

 

 翼と共に二課から寮へと戻ろうとしていた響に弦十郎の旦那は声をかけて引き止める。何かあるのだろうか、と響は足を止め、弦十郎の方へと向き直った。

 

「今日の出来事、特に君の力については他言無用でお願いしたい」

 

「えっ……それって、どういう事…ですか?」

 

「シンフォギアの存在はあまりにも大きすぎる…。知ってしまった人達を危険に晒す可能性が非常に高いんだ」

 

「それって……」

 

「身近な例を上げるならば……人質にされる危険性、だろうか。身内や親しい者程、そういったものにされる可能性が高い」

 

 人質。その言葉を聞いた時、響の頭の中に一人の少女の姿が思い浮かんだ。自分の親友にして帰るべき場所でもある少女。仮にこの事を誰かに聞かれでもしたら真っ先に狙われてしまうのは彼女だ、と思った響。

 それを思うと、自分が手にした力がどれほど大きく、危険を孕んでいるものなのか、という事が痛い程よく分かる。さっきとは打って変わって表情が暗くなってしまった響に、弦十郎の旦那は言葉を続ける。

 

「……俺達が護りたいのは機密ではなく、人の命だ。強制は出来ないが…その事をよく、考えてほしい」

 

「………………はい、分かりました…」

 

 目を伏せて頷いた響を翼に任せた後、弦十郎の旦那は此方に振り向いた。おそらくゼロに用事があるのだろう、と考えたアタシはゼロに交代する。

 

「今はゼロ君、で大丈夫だろうか?」

 

「嗚呼、今は俺だぜ。それで、今日は何の用事だ? 旦那」

 

「うむ。前に君が話していた、もう一人のウルトラマンの事についてなのだが……」

 

「嗚呼、あの三分の一人前……ゼットの事か。もしかして、そいつについてなんか分かった事でもあるのか?!」

 

「まぁまぁ、一旦落ち着いてくれ。実はだな…」

 

 旦那が『ゼット』について分かった事を話す。それを聞いていたゼロは最後に「マジかよ…。なんでその時気づかなかったんだ…?」と呟いていた。一体、何を知ったのだろうか。身体の主導権を握ったまま二課を後にするゼロに、何を聞いたのかを質問してみる。

 

『なぁ、ゼロってば。弦十郎の旦那から一体何を聞かされたんだよ?』

 

「……立花の、ガングニールの反応があった付近に、微量ながら謎のエネルギー反応が観測されていたみたいでな。それが俺…いや、ウルトラ族のエネルギーに凄く似ていたらしいんだ」

 

『ウルトラ族に…?』

 

「嗚呼。もしかしたらあの場にゼットの奴が居たかもしれねぇ。…ったく、俺の弟子を名乗るんならこっそり見てねぇでさっさと姿を見せろってんだ」

 

 多少苛立ちを覚えているゼロ。これは随分前に聞かされていたのだが、ゼットはゼロと同じくウルトラマンの一人であり、自称ゼロの弟子を名乗る宇宙警備隊の新人。ゼロ曰く『三分の一人前』であるゼットはゼロより先に『ゲネガーグ』とかいう怪獣を追って、アタシ達が住む地球へとやって来ていた筈……らしい。

 しかし、ゼロが地球にやって来た時にはゲネガーグは疎かゼットの姿すら見えず、辺りを見回していたら絶唱を歌い切って死にかけていたアタシを見つけてそのまま……という訳だ。

 ゼロはウルティメイトブレスレットの恩恵がある為例外だが、ゼットを含めてウルトラマン達は地球で活動出来る時間は僅か()()だけ。それ以上の時間を地球で活動したいならゼロがアタシにしてみせたように"地球人と一体化"している筈だ、とゼロは語る。

 

『じゃあ、もしかしたらそのゼットとかいうウルトラマンは誰かと一体化した状態であの場に居た…という事なのか?』

 

「さっき旦那が教えてくれた事と照らし合わせるとそうなる」

 

『なぁ、ゼロ。あの場にはアタシと翼、響と響が守ってた女の子以外には誰も居なかったように見えたんだけど…』

 

「それはそうなんだが、旦那が俺達に嘘を言う訳がねぇ。それは付き合いが長いカナデが一番よく分かってるだろ?」

 

『……それもそうだ…』

 

 一瞬だけでも旦那を疑ってしまった。その事を恥じる前に心の中で謝罪をした後、今日はもう遅い為帰路についた。

 

 

 ◇

 

 

「あの、お師匠さんに一声かけなくても…というより、会わなくても良かったんですか?」

 

『今はまだその時ではない、と判断しました。何、ゼロ師匠が無事だと分かっただけでもオレは一安心でございますよ』

 

「そ、そうですか…それなら、いいんですけど……」

 

 事情を知る者ならまだしも、傍から見ると一人言を言いながら歩いているように見える奏。その後ろ姿を遠くから見て、虚空に顔を向けて話していた人物が居た。生憎と今日は月が完璧に出ておらず、時々見える月光がその人物を照らす事はあっても完全に照らす事は無かった。

 

 ───だが、その人物は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その表情は誰に、何による表情なのか。奏を遠くから見ていた人物は腕時計で時間を確かめた後、慌てて踵を返して走っていった。その人物の腰には、Z()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が提げられている。

 誰から見てもお年頃の人物が身に付けるものとしてはあまり似つかわしくないものなのだが、道行く人達は()()()()()()()()()()()()()()()()()。摩訶不思議な事もあるものだ。

 

 何事もなく無事に辿り着き、息を整えた後に部屋へと入る。その時、僅かに覗かせた月光がその人物の服の一部を照らした。それは、何処かの学校の制服。この街で学校と言えば、彼処しかない。

 画して、誰かと会話していた謎の人物。その人物と奏達が出会うのは、もはや目と鼻の先である。




一文しか書いてないけど、Z語思いの外ムズいんだけど……()

それはさておき、最後に登場した人物は一体誰でしょうね…(勘のいい方はこの時点で御察しかと思いますが)

次こそ早めにお届け致します…
では、お読みいただきありがとうございました(・ω・)ノシ


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#7 ご唱和ください、我の名を!

今更気づいた。タイトルが滅茶苦茶シンプル過ぎる。まぁ、分かりやすくてええけども。

というより、初変身シーンを書いたのが本来の主役であるゼロ師匠ではなくゼットくんというね…この小説のタイトルなんだったっけ(オイ)

あ、今更ですが今回登場するキャラは崩壊しますのでそこだけ注意です(遅い)


 その巨人と出会った切っ掛けは、響がCDショップへと走っていった後の事だった。響の事だから朝方話していた事を忘れているだろうな、と考えながら先に寮へと戻ろうとした時。目の前に一匹(?)のノイズが現れた。

 あまりにも突然の事の為、少しの間呆けてしまう。私とノイズの距離は僅か一メートルほど。急いで踵を返して走ったとしても、数分くらいで追いつかれてしまう。どうしたらいいのか、と迷っていた時間がノイズの接近を許してしまう。

 

「ぁっ…」

 

 ノイズの手らしき部位が私の眼前に迫る。もう避けられない距離であり、このまま触れられて死んじゃうのかなと半ば諦めて、最後に大切な親友に別れを告げて目を閉じた。

 その時だ、奇跡が起きたのは。ノイズに触れられ、身体が炭素に変わっていくと同時に急速に薄れゆく意識の中、薄らと開けた視界で最期に見たのは銀色をベースに各箇所に青が入ったメカメカしい体つきの私とそんなに変わらない身長の謎多き人物(?)。

 来てくれたのは嬉しいけど少し遅いかな、と最期に思った私は意識を手放して深い闇へと沈んでいった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『……起きなさい、人の子よ』

 

 一体どのくらい、気を失っていたのだろうか。謎の声に起こされた私は周りを見渡す。周りは完全なる闇であり、仮にここが死後の世界だと言われても納得出来る程の暗さ。しかし、よく見ると白煙や赤、黄、水色の光の球がふよふよと浮いている。

 それはともかく私を起こしたであろう謎の声が聞こえてきた方向を向くと、最期に見たシルエットそのままの巨人が私を見下ろしていた。ノイズでもない謎の存在に思わず驚きの表情を浮かべてしまう。

 

「え、と……あ、あの…貴方、は?」

 

『私はウルトラマンゼット。申し訳ないが貴女は死んだ』

 

「……えっ…? 死ん、だ…?」

 

 謎の巨人に起こされたかと思えば次に待ち受けていたのは謎の巨人によるオブラートに包む事すらしないドストレートの死亡宣告。その言葉は私の胸に深々と突き刺さった。だけど、それだけで終わりではないらしい。

 

『ついでにどうやら、私もウルトラやばいみたい』

 

「え、と……貴方も、なんですか?」

 

 不思議に思って巨人をよく見ると、巨人の胸にある『Z』の文字が刻まれたランプのようなものが赤く点滅を繰り返している事が分かった。つまり、今の状況を整理すると私は既に死んでいて、私を見下ろしている巨人もまた、生命の危機に瀕しているという事らしい。

 そこまで見た私は、改めて本当に自分が死んだという事を理解した。理解したくなくても理解してしまった。でも、私はまだ生きていたかった。大切な親友がいつでも帰ってきて、いつも傍で笑いあえる『居場所』でいたかった。『死』という現実を受け止め切れずに涙を流すしかなかった私を見ていた巨人は、ある一つの提案を私にする。

 

『貴女が死んだのは私の助けが間に合わなかった結果なのでございます。そこで、私から貴女に一つ、提案がございます。聞いていただけるでありますか?』

 

「……提案、ですか?」

 

『嗚呼、私と貴女で手を組まないか? このままでは私も貴女もウルトラやばい。私も貴女の力が必要なのでございます。どうかお頼み申し上げますッ!』

 

「は、はぁ…」

 

 意味はなんとなく通じている。だけど、どこかおかしく感じてしまい、言葉に詰まって返答に困ってしまった。そんな私を見かねたのか、巨人が首を傾げている事に気づく。

 

『……あの、言葉通じてる?』

 

「え、あっ……はい。貴方の言う事はなんとなく分かるんですが、ちょっとだけ、言葉遣いがおかしいかなって思って…」

 

『えぇっ、マジ? 参りましたなぁ…地球の言葉はウルトラ難しいぜ……』

 

 巨人の顔は私と同じではない為変化していない。その為表情がどうなってるかは分からない。でも、言動からして困っている事だけは分かった。だったら、やる事は一つしかない。

 

「あの、一つだけお聞きしたいのですが…。私と貴方が手を組めば、今猛威を奮っているノイズを…皆を助けられるんでしょうか?」

 

『のっ、ノイズ……? なるほど、あの敵はノイズと…。嗚呼、守れる!』

 

 今さっき知ったばかりであろう敵の名を反芻した後、淀みのない真っ直ぐな答えを返す巨人。それに安心した私は勿論、覚悟を決めた。

 

「……分かりました。巨人さん、私に手を貸してください…私に力を、皆を護れる力を貸して下さいッ!!」

 

 大きな声で、ハッキリと。力を求めた。すると、それに応えるように巨人の身体が輝きだし、一つに集約すると見慣れないアイテムの形となって私の手に落ちる。

 グリップ付近にZの文字が刻印された、小型の手斧のようなアイテム。その名を、【ウルトラゼットライザー】。ウルトラマンゼットに先輩ウルトラマン達の力を与える事が出来る、光の国の科学者『ウルトラマンヒカリ』が作成した新たなアイテムである。

 突如現れた不思議なアイテムをまじまじと見ていると、姿を消した筈の巨人から声がかかる。

 

『さぁ、そのウルトラゼットライザーのトリガーを押します』

 

「と、トリガー? こ、こう…ですか?」

 

 困惑しながらもウルトラゼットライザーと呼ばれたアイテムを左手に持ち替え、グリップ付近にあるトリガーを押す。すると、ウルトラゼットライザーの先端部分が光り、同時に眩い光の軌跡が私の周囲を飛び交い、最後にZの軌道を描いた後に正面に光のゲートを形作った。

 

「……す、凄い…」

 

『その中に入れ』

 

「あ、はいっ!」

 

 若干命令口調が気になったが、立ち止まっては何も始まらない。恐る恐るゲートを潜れば、そこはまるでSF映画とかでよく見るサイバー空間と酷似している。それと同時に、私自身が描かれたカードが音もなく現れた。

 

「……あの、なんでしょうかコレ…」

 

 右手に持ってまじまじと見るが、カードのデザインは良くも悪くも言えない。絶妙にセンスが悪いとしか言えないそのカードを見つめていると、再び声をかけられた。

 

『その【ウルトラアクセスカード】をゼットライザーにセットだ』

 

「え、と……こう、かな。多分」

 

 ゼットライザーを良く見れば、中央に丁度今手にしているカードが入るようなスリットを見つけた。迷う事なくそこに入れてみる。

 

《ミク! アクセスグランテッド!》

 

 急に名前を呼ばれたかと思えば何処から飛来してきたのか、水色の光の球がスカートのベルトに直撃し、光が収まるとそこにはZの文字が刻まれた青いホルダーらしきものに変化。気になって蓋を開けてみると、見知らぬ巨人の横顔が描かれた三枚のメダルがそこに入っていた。

 

「メダル?」

 

『ゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠の【ウルトラメダル】だ。スリットにセットしちゃいなさい! 師匠達の力が使える筈だ』

 

「お、お師匠さんが沢山居らっしゃるんですね…」

 

 一体この巨人には何人の師匠が居るのだろうか、と頬を引き攣らせながらも、ゼットライザーのブレード部分にある三つのスリットに、先程名を呼ばれた順番で入れてみる。

 

『おぉっ! ウルトラ勘がいいな! じゃあ次はメダルをスキャンだ!』

 

 教える事なく順番通りにメダルを入れた事に喜びの声を上げる巨人(声)。だけど、私は気になっていた。それは勿論時間である。一刻を争う事態の筈なのにこんなゆっくりやってて大丈夫なのだろうか。

 

「あ、あのッ! こんなに長々とやってて大丈夫なんでしょうか…? こんなことしてる間に今頃は皆…」

 

『安心しろ。ここの空間は時空が歪んでるから、ここでの一分は外での一秒だ』

 

「そっ、そうなんですね……」

 

 時間に関しては気にしなくて大丈夫らしい。ホッと一息つき、スライド出来るようになっているブレード部分を動かし、メダルをゼットライザーに読み込ませていく。

 

《ゼロ・セブン・レオ!》

 

 三枚目のメダルを読み込ませ、完了の合図が流れると同時に先程と同様にいくつもの水色の光が飛び交って軌跡を描き、私の背後にあの巨人として現れた。

 

『よし、そして俺の名を呼べッ!』

 

「名前……えと、う、ウルトラマン……?」

 

『ウルトラマンゼット!!』

 

「ウルトラマンゼット…?」

 

 オウム返しのように巨人の名を言うと、違う違うと言わんばかりに首を振られる。一体何が違うというのか。

 

『いやいや、もっと気合い入れて言うんだよッ!』

 

「気合い…?」

 

『そうッ! いいか? ウルトラ気合い入れていくぞッ!!』

 

 すると、ウルトラマンゼットは仁王立ちからの両腕を左右に大きく広げて叫んだ。

 

ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼェェェット!!

 

「(もっ…もうどうにでもなれッ!)う……ウルトラマンゼェェェット!!

 

 どうにでもなれの精神で恥や外聞、その他何もかもを全て空の彼方へと投げ捨ててゼットライザーを掲げて声高らかに叫ぶ。これでいい筈…と思ったのだが。

 

「………………あの。ゼット…さん? 何も起きないんですが………」

 

 ゼットライザーは何一つ反応せず、ただただ待機音が流れるだけだった。何も起きないという事は急に現実へ引き戻された気分にもなる。それと同時に先程恥も何もかも捨てて叫んだ事が急に恥ずかしくなってきた。今すぐにでも穴に入りたい気分になってきた時、ゼットが小声で囁いてくる。

 

トリガー! トリガー最後に押すのッ!

 

「トリガー…? あっ、これですか?」

 

そうそれッ!

 

 こういう事は最初に教えておいてほしい、と心の中で何度も毒づいた後。改めてゼットライザーを天高く掲げてトリガーを押す。すると、不思議な事が起きた。

 ウルトラメダルに描かれた三人の巨人『ウルトラマンゼロ』、『ウルトラセブン』、『ウルトラマンレオ』がそれぞれ青、銀、赤の光を描きながら飛び、私に集約した後、そこから姿を変えたウルトラマンゼットが飛び出した!

 

《ウルトラマンゼット! アルファエッジ!》

 

「デュワッチ!!」

 

 そうして、今やノイズが蔓延る場所となってしまった地に一人の巨人(今は何処にでも居る一般男性と同じ背丈だが)が降り立つ。下半身は赤、上半身は青。身体の大部分をメカニカルな装甲が覆い、額には緑のランプ。頭のトサカに当たる部位は三つに増え、鋭い目付き。

 ノイズに触れられ、命を落としかけたある少女を救い、少女に力を貸し、偉大なる師匠達の力をその身に宿した巨人。その名をウルトラマンゼット・アルファエッジ。ゼット‪α‬はゆっくりと立ち上がると、此方に気づいて群がるノイズを見据えて空手のような構えを取る。

 その構えが幕開けを意味したのか、群がるノイズの内一匹が此方に向かって突撃してきた。それを軽くいなし、振り向き様に額のランプから緑色の光線を放つ。

 

『ゼスティウムメーザーッ!!』

 

 本来、ノイズには『位相差障壁』のせいで通常攻撃及び現代兵器による攻撃が一切効かない。しかし、ゼット‪α‬が放った光線は位相差障壁を突き破り、ノイズの身体をも容易く貫き、その身を炭素へと変えていく。

 その後もゼット‪α‬は次々とノイズを確実に倒していく。ある時は左右のトサカに当たる部位─スラッガー─を投擲し、またある時は投擲した部位をヌンチャクのように操り、一撃の元、ノイズを葬る。

 

「す、凄い…。これが、ゼットさんの力…」

 

『これが師匠達が得意とする宇宙拳法・秘伝の神業かぁッ! ウルトラ強ぇぇぇッ!!』

 

 師匠達の力と技を受け継いだゼット‪α‬は特に苦戦する事もなく、ノイズを仕留めていく。そうして、最後に残ったのはボスらしき存在感を放つ大型のノイズ。そいつ以外のノイズは既に殲滅済みであり、これで最後と言わんばかりにゼット‪α‬は必殺技の体勢に移行する。

 まずは両拳を胸の前で合わせ、各部のプロテクターの隙間から光を放出。次いで上下に合わせた後に左腕を左上に、右腕を右下に伸ばして巨大なZの文字を光で描き、そして左腕を前に、右腕を後方に伸ばしてから十字に組み、必殺光線を放った。

 

『ゼスティウム光線ッ!!』

 

 放たれた蒼雷のような光線は大型のノイズの腹に当たる部位に命中。火花を散らしながらそのまま数メートル先まで引き摺らせ、ピークに達するや否やノイズは炎に包まれ、炭素へ変わる前に何故か爆散した。

 それを見届けたゼット‪α‬は一息つき、上を見上げて空へ飛び上がる。Zの軌跡を空中へ残して。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ゼットさんの変身が解かれた私は、まず自分が死んでいないのかを確かめる。心臓は一定のリズムを刻んでおり、しっかりと生きている事を確認した後、疲れからか膝から崩れ落ちた。

 

「……良かったぁ…ちゃんと生きてるんだ、私…」

 

 ノイズによって奪われる筈だった命はウルトラマンゼットと名乗る巨人の力をお借りして失われずに済んだ。それどころか、あのノイズを容易く倒す心強い力を手に出来たのだ。

 今までは逃げる事しか出来なかったが、これならば皆を護れる。人助けを趣味とする親友と同じ事が出来る。でも、まずは親友の行方を探さなきゃ、と思い至り、寮へ続く道から百八十度回転し、駆け出した。

 走り続けて少しした後、とある工場の一角に辿り着いた私が目にしたのは異様な光景だった。見た事も無い装備を纏ったツヴァイウィングの二人と親友の三人が各々ノイズを倒していたのだ。バレないように影に隠れて見ていた時、突然頭の中に声が響く。

 

『───ゼロ師匠ッ!?』

 

 声の主は私を助けてくれたウルトラマンゼットさんだった。いきなり何事、と思って意識を身体の内へと集中させる。そうした方が此方の声も聞こえやすくなるのかな、と無意識に思った為だ。

 

「あの、ゼットさん。急に声を荒らげてどうしたんですか…?」

 

『すまない、ミク。あの赤髪の女性の左腕をよく見るのです』

 

「……左腕?」

 

 名乗っても無いのに私の名前を呼んだ事にも驚きを隠せなかったが、とりあえず言われるがままにもう一度三人が戦っている現場を見ていたら、赤髪の女性…ツヴァイウィングの片翼である『天羽奏』の左腕に見慣れないブレスレットが付いている事に気がついた。一体あれがどうしたのだろうか、と考えていたらゼットさんから答えが語られる。

 

『あのブレスレットは紛れもない、ゼロ師匠が身につけていた物で間違いないでございますよ』

 

「そ、そうなんですか……?」

 

 なんて会話をしている内に、華麗に舞う二人の戦姫によってノイズは殲滅されていた。此処に居てはバレてしまう、と踏んだ私は後からやって来た人達にバレないように急いでその場から離れ、帰路についた。

 時刻を確認すると、既に夜更けを過ぎている。響が首を長くして待っているんだろうな、と考えながらリディアンの近くを通りかかった時。赤髪の女性、天羽奏本人がリディアンの校門から出てくるのを見かけた。慌てて物陰に隠れてしまったが、どうやら様子がおかしい。

 遠くから見ている為、流石に何を話しているのかまでは分からなかったが、見た限りでは一人二役で自分自身と話しているような、そんな印象を受ける。

 

(もしかして、ゼットさんが言っていた『ゼロ師匠』と話しているのかな…?)

 

 そうという確証はない。それに、師匠が居るなら声をかけなくていいのかとゼットさんに問いかけると独特な日本語で「今はまだ会う時ではないが、無事と分かっただけでも安心している」との事だった。とりあえず、響も心配しているだろうし今日はこのまま帰った方がいいと考えた私は足早に寮へと戻る。

 部屋に入ると、響が私に抱きついてきた。相当心配していたらしく、涙で顔がぐちゃぐちゃだった。

 

「未来〜……何処行ってたの? 私、心配してたんだよ…。ノイズに襲われちゃったんじゃないのかって…」

 

「……心配かけてごめんね、響。私はほら、無事だから。だから、泣き止んでくれたら嬉しいな…」

 

「うん……うん……ッ!」

 

 なんとか泣き止んでくれた響だったけど、そのまま離れようとしない為、今日はそのまま一緒に眠る事にした。でも、一度死んだという事実は忘れる事が出来ないだろう。

 

「……おやすみ、響」

 

 それだけを呟き、隣で安心しきった表情で眠る親友を守るように私も眠りについた。




……いや長ぇわ!変身シーン書くだけでどんだけ文字数持っていくんだゼットくん。長いわ!長過ぎるわ!書いててビックリしたわ!(荒ぶる作者の図)

という訳で御察しの通り、ゼットくんの憑依先は393でした。まぁ、前回の最後の流れで分かった方も居るかと思いますが。んでもってやっぱZ語ムズい。

393とゼットくんを組ませた理由は、単に393に「ウルトラマンゼェェェット!!」って叫ばせたかっただけですしおすし(オイコラ)


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#8 響の初陣

ゼットくんの仕業なんだろうけど、6000文字超えなんて早々書けねぇぞ…一万字を平気で書いてる作者様が凄いです…(主に私の文才云々のせいでそう思うだけですが)
という事で、再び奏視点からのスタートです。


 後日。二課に呼ばれたアタシ達と響。理由は当然、響のメディカルチェックの結果。了子さんが出したのは響のX線写真であり、心臓付近をよく見て欲しい、との事で皆して注目して見ると、その付近には本来なら有り得ないものが存在している。

 響の心臓付近には普通の人には無い複数の破片が存在していた。調査の結果、アタシのガングニールと同じものという事が判明。それについてはアタシは既に確信があった為にそんなに驚かなかったが、翼はやはり信用出来ないといった感じだった。

 

『……やっぱツバサは信じられないって表情(かお)をしてるな』

 

「そう、だね…。でも、仕方ないよ。響のガングニールはアタシが背負うべき罪だって事は既に伝えてあるんだ。後は時間が解決してくれる筈だからさ」

 

『でもよ、カナデ。そんな簡単に上手く行くか? 俺が見ても、とてもじゃねぇがそうは見えねぇぞ?』

 

「だとしても、だ。片翼であるアタシが翼の事を信じなくてどうするんだって話だよ、ゼロ」

 

『…まぁ、それもそうか。二人の事を疑った訳じゃねぇんだ。さっきのは失言だったな、悪い』

 

「ん、大丈夫」

 

 二年前のあの日が来なければ、響は高校生生活を満喫出来ていた筈だ。それだけじゃなく、挙句の果てには響をアタシ達と同じノイズと戦う運命へと巻き込んでしまった。戦いとは無縁の生活を送っていた筈なのにその運命を大きく変えてしまったのは紛れもなく二年前の、アタシのせいなのは間違いない。

 最初はその事を謝った。戦いに巻き込んでごめん、と。でも響はへいき、へっちゃらといった様子で笑顔を見せてくれた。その笑顔を見たアタシは更に後悔の念に駆られる。だが、あの時誓ったのだ。最期まで背負うべき罪を背負ったまま、ノイズと戦うと。当初の理由だった復讐の為ではなく。

 そんなこんなで響が何故シンフォギアを纏えた理由が分かったという事で、次は聖遺物に関することの講義が始まる。その中で、響がある質問をした。

 

「あの、了子さん。少し疑問に思った点があったんですが…大丈夫でしょうか?」

 

「えぇ、何かしら?」

 

「その、聖遺物? とは関係ない事で申し訳ないんですが…。先日、奏さんが戦ってた際に不思議な出来事を目の当たりにしたんです。奏さんが手をかざしただけでノイズが動きを止められたような、そんな感じでした。それも聖遺物に関係するものなのでしょうか…?」

 

 その質問のせいで翼以外の皆の視線がアタシに向けられる。そう言えばその事について説明してなかったな、と思った反面、どうやって説明したらいいか分からなくなった。

 あの時、ゼロは咄嗟に身体の主導権を奪ってウルトラ念力を使ってノイズの動きを止め、その隙に翼が倒すという即席ながら完璧な連携をやってのけた。ウルトラ念力に関してはゼロに直談判した翼しか知らない事であり、当然他の皆は知らない。

 

「……奏?」

 

 翼がしどろもどろになっているアタシを見て首を傾げている。話すべきかそうでないべきか悩んでいると、ゼロから声がかかる。

 

『この際だ、旦那達にも話しておこうぜ? 俺としては不確定要素がある以上あんまり手の内を明かしたくねぇが…。ウルトラ念力だったら超能力とあんまり変わらねぇからな』

 

「……うん、それもそうだ。じゃあ、ゼロ。後の説明は任せたよ」

 

『嗚呼、任せな』

 

 という事で、ゼロに交代して後を任せる事に。二課の皆はアタシの内にゼロが居る事を知っている為今更驚きはしなかったけど、響は何が起きたのか分からずに困惑していた。

 それもそうだ、大ファンのアイドルが目の前に居て、その上ノイズと戦う戦姫という事だけでも驚きの出来事なのに更にその内の一人が『多重人格』と知ったら困惑しない方がおかしい。まぁ、厳密に言うと多重人格ではないのだが、先程とはまるで違う雰囲気を纏っているのだからそう思われても仕方ない。

 

「え、と……奏さん、ですよね?」

 

「嗚呼いや、厳密には違うんだが……困惑するのは仕方ねぇよな。俺の事は今から話すからさ、なんか疑問があれば聞いてくれよ」

 

「え、あっ、はい」

 

 ここからは『奏』ではなく『俺』がヒビキに説明をする。ツバサ、二課と続いてもはや三度目となる俺達ウルトラマンの説明はもう手馴れたものだ。

 しかし、今日はヒビキが何故シンフォギアを纏えたのか、聖遺物とは何かという説明を受けた上での俺を含めたウルトラマン達に関する説明になる。所々端折って話したが、ただでさえ難しい話の上に規模の大きい話を叩き込まれては流石にオーバーヒートしてもおかしくはない。

 

「……ゼロ、一旦そこまでにしておいた方が…」

 

「……え? あ、やべっ…」

 

 現にツバサに止められてヒビキの方を見るまでその事に気づかなかった。流石にキャパオーバー、といった感じで頭から湯気を出しているヒビキを見た俺は内心焦ったが、なんとか復活してくれた事に俺とツバサ、二人して安堵する。

 

「…大丈夫か、ヒビキ」

 

「は、はい……なんとか…」

 

 もう少し気づくのが遅かったら、と思うと末恐ろしくなる。とりあえず、カナデと俺の関係を知っておいてもらった上で何か知りたい事があるか聞いてみる事に。

 ウルトラ念力に関しては超能力みたいなもの、と伝えておき、他に無いか聞くと色々と出てきた。俺とカナデはいつ何処で出会ったのか、何故俺は本来の姿を見せないのか等色々だ。

 

「えと、つまり…ゼロさんは二年前のあの日に奏さんと出会って、奏さんを救う為に一体化をしたという事ですか…?」

 

「そうだ。息も絶え絶えで今にも、って感じでな。一刻を争う様子だったし、救える命を見捨てられるか、って思った時には行動に移してたって訳だ」

 

「な、なるほど。ウルトラマンって凄いんですね…。では、ゼロさんの本来の姿を見たのは奏さんのみ、という事ですか?」

 

「まぁ、そうだな。なぁに、いずれ見せる時が来るかもしれねぇぜ? その時は無敵のゼロ様の戦いぶりを見せてやるさ」

 

「は、はぁ……ありがとうございます…?」

 

 なんだか飽きられているような様子。そういえば前にもこんな事があったな、と頭の片隅で考えていた。それはさておき本来の姿になれる時はそう遠くはない筈なのだ。一体化した影響か、カナデにはウルティメイトブレスレットが現出しているがそれだけじゃ(ゼロ)には変身出来ない。

 かつての親父もそうしてきたように、変身にはウルトラゼロアイなるものが必須。あの日から二年以上経っているが、未だにカナデの前に現れていないのが妙に引っかかっている。これは独自の特訓が必要だな、と考えていた時。

 

 ───空気が読めないのか、本部内にノイズ出現を報せるサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 

 先程までのほのぼのとしたムードから一転、緊迫した空気に変わる二課本部。二課所属のオペレーター、藤尭朔也と友里あおいの二人がノイズ出現位置を特定し、モニターへと映し出す。今回は二課本部がある"私立リディアン音楽院"からそう遠くはない場所。

 幸いにも一課が住人の避難を徹底してくれたおかげで住人の被害は無いようだが、ノイズに対抗出来るのはシンフォギア装者の三人のみ。とはいえヒビキは昨日装者になりたてのヒヨっ子だ。俺とツバサに続くようにヒビキも出ようとするが、旦那が引き止める。

 

「待つんだ響君…! 君は、まだ………」

 

「私の力が誰かの助けになるんですよねッ!? 奏さんや翼さんと同じように戦える力が私にはあるんですよねッ!? だったら、行きます! 行かせてくださいッ!」

 

「しかし…ッ!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる旦那に、俺は声をかける。

 

「───旦那。ヒビキの事は俺とカナデ、ツバサに任せてくれるか?」

 

「奏…いや、今はゼロ君か? しかしだな……」

 

 旦那が首を縦に振らないのも、少し前まで一般人だったヒビキを『戦えるから』といった理由で現場に行かせたくない、危険に晒す真似をしたくない気持ちだというのは痛いほどよく分かる。俺やカナデ、ツバサだってそうだ。

 しかし、言葉で引き止めて『はいそうですか』とあっさり引き下がる訳が無いのが"立花響"という少女の在り方なのは昨日分かっている。或る意味『狂気』と同等の在り方だからこそ、俺とツバサ、カナデの三人で守らなきゃならないと思った。

 

「旦那や皆の気持ちはよく分かる。だからこそ、俺たちに任せてほしいんだ。彼奴は…ヒビキは俺たちが何がなんでも守るって約束するからよ」

 

「……叔父さま。私も、同じ気持ちです。殆どゼロが代弁してくれたようなものですが…」

 

 俺とツバサがそう告げた所でやむ無し、と考えたのか旦那はやっとの事で頷いた。

 

「……すまない、三人とも。響君の事、任せたぞ」

 

 その言葉に改めて頷き、俺はカナデと交代した後、ヒビキを連れて二人で現場へと向かう。後に残された弦十郎と了子の二人は響の事が心配でならなかった。

 

「響ちゃんの事が心配?」

 

「嗚呼。あの子は奏君と翼とは違い、先日まで一般人だった筈だ。それなのに、力を手にした今は二人より先に現場へと向かおうとしている。『困っている誰かを救う』。ただその一心で、だ。果たして、それは『普通』と言えるのか…」

 

 "普通"であれば、最悪の場合命を落とす危険性が高い場所に赴く時は必ず一回は足を止め、躊躇う。しかし、響は違った。足を止める事も、躊躇う事もせず。ただ前へ進む。例えそれが日常から非日常へと進む道だとしても。そんな事を()()()()()()()()()()彼女が平気でやっているのだ。おかしいと思わない方がおかしいだろう。

 

「つまり、あの子も私達と『同じ』という事ね……」

 

 現場に到着してすぐの道路に現れたノイズ。それを見据えるのは奏、翼、響の三人。両翼の二人は何度も戦場に出ている為戦場に立つのは慣れているが、響は先日を除けば今回が初めての戦場。

 ただでさえ緊張しているのに、傍らにはあの憧れの二人が並んでいる。その事実が更に緊張を加速させていた。そんな響を見かねた奏は響の背中を軽く叩く。突然の事でびっくりした響。

 

「緊張しなくても大丈夫だ、響。アタシ達がちゃんとサポートするからさ、思いのままに戦っていいんだよ」

 

「……えぇ。私達に任せて」

 

「あ、はい! ありがとうございますッ!」

 

 響が本調子に戻った事を確認した二人は各々聖詠を紡ぎ、シンフォギアをその身に纏う。一瞬遅れて響もまた同じように聖詠を紡ぎ、シンフォギアを身に纏った。

 ノイズ蔓延る戦地に三人の戦姫が降り立ち、各々構える。翼が先陣を切る形で、戦闘は始まった。




ゼロアイのついでにウルトラアイについて調べてたんですが、扱い雑過ぎじゃないですかね。セブンさんの重要アイテムの筈なのに敵に盗まれるわ机に置き忘れるわ、終いにゃそれ無しで変身て…(´・ω・`)


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#9 確かめたい事

なんやかんやで続いてる事に驚きです…
一重に本小説を読んで下さっている、感想を残していってくださる皆様のおかげでございます。改めて感謝を。

それと、やっぱり遅くなって申し訳ないです(ドゲザッ)
今回からゼット要素の一つを出そうと思って四苦八苦してたのが原因です()


 眼前にはノイズの群れ。翼が先陣を切ってノイズの群れに突っ込み、後に続くようにアタシと響もノイズへと立ち向かう。

 とはいえ、昨日を除けば響は今回が初めての出撃。慣れない構えで立ち向かう様は見ていて少し危なかっしい。翼に前線を任せ、アタシはゼロと交代しながら響のサポートに回る。その際、ゼロが気になる事を呟いてきた。

 

『カナデ、戦ってる所悪いが左腕のブレスレットを叩いてもらってもいいか?』

 

「……ブレスレット? コレの事か?」

 

『そうだ。少し、確かめたい事があってよ』

 

 ゼロの言うブレスレットは、絶唱のダメージから一週間経った後に目覚めた時に左腕に付いていたもの。別名を『ウルティメイトブレスレット』。

 アタシはゼロが確かめたい事をゼロに確認させるべく、戦いの合間に叩いてみる事に。だが、何回か叩いても何の反応もなかった。

 

「…ゼロ、この行動に何の意味があったんだ?」

 

『……おかしい…。ストロングコロナもルナミラクルも、どっちも反応がねぇな…』

 

「なぁ、それって一体なんなんだよ。ゼロ」

 

『ん? 嗚呼、カナデにはまだ話してなかったか。かつて俺と一緒に死闘を共にしたダイナとコスモス。二人の力がそのブレスレットに宿ってるんだよ。もしかしたら、って思ったんだが…』

 

 ゼロが確かめたい事とは、ブレスレットに宿る二人のウルトラマンの力がちゃんと使えるかどうかだった。仮に成功していたらアタシの身体かギアに二人のウルトラマンの力が宿った筈との事。

 流石にそこまで上手い話はなく、ウルティメイトブレスレットは何の反応も示さなかった。おそらく何らかの要因があるとゼロはそう捉えているらしく、それに関してはゼロに任せる事に。

 そうこうしている内にノイズの数は減り、最初こそおっかなびっくりな響の戦いぶりもマシになってきた所で最後のシメとして翼の大技『天ノ逆鱗』が炸裂し、現場は再び静寂を迎える。

 

「お疲れ様。翼、響」

 

「「奏(さん)もお疲れ様(でしたッ)」」

 

 後は自衛隊と二課の職員達の仕事の為、シンフォギアを解除して元の姿に戻ったアタシ達は一足先に二課へと帰還し、その後は旦那達からの伝達事項も特に無い為お開きとなり、その日は終わりを告げる。

 寮へと戻ってきたアタシは、先の戦闘の際に起きた出来事について依然として悩み続けているゼロに疑問をぶつけた。

 

「……なぁ、ゼロ。いつまで悩んでるんだ?」

 

『…嗚呼、悪い。ウルティメイトブレスレットが破損した事はあったが、今回のような事態は初めてでな。分からねぇ事が多いんだよ』

 

 少しだけ分かった事と言えば、何らかの力でウルティメイトブレスレットそのものの力が封じられているとの事。その事については了子さんに聞いたらどうだ、と提案したが、ゼロは珍しく了承しなかった。

 何か引っかかる事でもあるのだろうか、と思ったアタシはそれ以上聞く事を止めて別の話題をふる。ゼロがこの地球に来た理由はもう一つあるのでは、という事だ。

 

「ゼロ。考えてる所悪いんだけど、地球に来た理由ってさ、ゼットの他にもう一つくらいあるんじゃないのか?」

 

『流石と言った方がいいか、鋭いな。つっても、どっから話すべきか…そうだな、カナデは"デビルスプリンター"、って聞いた事あるか?』

 

「……ごめん、ゼロ。そんなのは初めて聞いたよ」

 

『まぁ、なんとなく分かってた事だけどな…。そいつについては今から説明する』

 

 デビルスプリンターとは、ゼロの因縁深い怨敵であり、かつてゼロと共闘したウルトラマンの一人『ウルトラマンジード』が自らの手で決着をつけた『ウルトラマンベリアル』の置き土産。それについての詳細は不明だが、怪獣の凶暴化を引き起こす作用がある事は分かっているようだ。

 現時点ではアタシ達の住む地球には怪獣の出現情報は無いが、ベリアルが暴れ回った証拠でもあるデビルスプリンターは全宇宙に散らばっているらしく、アタシ達が住む地球にもそのデビルスプリンターが存在している可能性が高いという事。ゼロが言う事が本当であればゆくゆくはノイズだけではなく凶暴化した怪獣も相手にしなくてはならない事態が起こりうる可能性もある、との事だ。

 

「……怪獣、か。そいつらにはシンフォギアは通用するの?」

 

『どうだかなぁ…。まずシンフォギアっつー前例がねぇし、通用するかどうかも分かんねぇが、万が一怪獣が出た時は俺に任せろ。アイツらを止めるのも、ウルトラマンの役目だからな』

 

「分かった。けど、この事って旦那達には伝えた方が良かったりするのか…?」

 

『いや、この事は旦那達にはまだ伝えねぇ方がいい。不確かな情報を伝えて皆を混乱させるのも悪いし、何よりデビルスプリンターを悪用する奴が居ないとも限らないしな』

 

「……そっか」

 

 なんとなく聞いてみた、ゼロがやって来たもう一つの理由。もしかしたらゼロの自称弟子を名乗るゼットもそういった理由で地球に来た可能性があるかもしれない、とアタシは考えていた。

 でも、ゼットと一体化している人物が誰なのか。それが未だに分からない。身近に居る可能性も考慮した方がいいかな、と思いながら色々とやる事を済ませたアタシはそのまま眠りにつく事に。

 

 

 ◇

 

 

 響の帰りを待っていた私は、ゼットさんが作り出した光るゲートをくぐり抜けた先にあるインナースペースにて対話をしていた。くぐり抜けた時に何故か私服姿から制服姿に変わっていた事に驚きを隠せずにいたが。

 それはさておき、わざわざゲートを用意していたという事は何か話したい事があるのだろう。斯く言う私もゼットさんについて色々と知りたい事が多い。

 

『えと、コヒナタ・ミク…だったっけ』

 

「あ、はい。というか、何故私の名前をご存知なのでしょうか…? この前もそうでしたが、名乗った覚えが無いんですが…」

 

『ゼットライザーを通じて知った、といった方が理解するのが早いと思いまへん?』

 

「な、なるほど…」

 

 ゼットさんから受け取ったゼットライザーというアイテム。お師匠さんの力が宿るメダルを装填し、認識させる事によってゼットさんへの変身を可能とするそれは、私が常に持っているだけで意思疎通等を可能とするらしい。それはそれとして、依然としてゼットさんの日本語がおかしい事に多少なりとも違和感を感じるが、既に慣れ始めている自分が居る事に驚いている。

 

『ミクを呼んだのは私と貴女、二人が持つ情報をこの場で共有しようと思い至った次第でございます』

 

「そう、ですね。私もゼットさんの事、詳しく知りたいですから」

 

 そこから、互いに色々と情報共有をする。ゼットさん含めてウルトラマンという存在の事やゼットさんがこの地球に来た理由、あのメダルについて等色々。それらが分かったら今度は私が知りうる情報をゼットさんに教える。とはいえ、私が知っているのはノイズと呼ばれる特異災害の事くらいだ。

 それと、ゼットさんが言うには最初の変身の際に使用したメダル、別名『ウルトラメダル』はこの宇宙を救う希望でもあるのだが、ゼットさんが怪獣?を倒した際に私達が住むこの地球の各地に散らばってしまったらしい。今手元にあるのはゼットさんのお師匠さんの力が宿る三枚のみ。一体何枚あるのか定かではないが、話の内容からしてかなりの枚数が散らばってしまったとみていい。

 

「……つまり、このメダルの他にも集めた方がいいという事ですか?」

 

『その通りでございます。ウルトラメダルはこの宇宙にとって希望だ、その反面、悪しき者に悪用される危険性もございますので早急な回収をお頼み申し上げたい。無論、私も手伝うでございますよ』

 

「…分かりました。気が遠くなりそうですが……出来る限り、頑張ります……」

 

『誠にありがたく思いますよ、ミク。次に、私からも質問がございますが…大丈夫か?』

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 真っ先に聞かれたのはノイズの持つ能力についてだ。ノイズには位相差障壁と呼ばれる、物理法則に則ったものによる攻撃を無力化及び微々たる効果に留めるものが備わっている。それ故に一般人は逃げる事しか出来ない。然し、ゼットさんの攻撃は位相差障壁をものともせず、意図も容易く貫通した。

 それについては驚きを隠せないと同時に謎が深まる。分からない事だらけだが、ウルトラマンには私達地球人とは違う、謎の力を持っていると解釈した方がいい。

 

『なるほど、位相差障壁……怪獣とはまた違って厄介な代物と解釈した方がよかですか?』

 

「え、あ……はい。ゼットさんの仰る怪獣がどういうのかまだ分からないですが、おそらくは…」

 

『ふむ…この事はゼロ師匠もご存知なのか……?』

 

「あの、ゼットさん。ゼロ師匠、って誰なのでしょうか? ゼットさんのお師匠さんという事は分かるのですが…」

 

『おっ、ミクもゼロ師匠の事が気になるのでございますか!?』

 

 ゼロ師匠の名を出した途端にゼットさんがイキイキし始め、その勢いに押された私は思わず頷く。すると、ゼットさんによるゼロ師匠の語りが始まった。

 片言ながらも何処か演説風にゼロ師匠のいい所や凄い所が一字一句全て語られる。時間が気になったが、最初にゼットさんが言っていた事を思い出して一息ついた。いくら空間が捻じ曲がっていて時間の流れがおかしいとはいえ、時間を気にするくらいに長い事語られていたのだ。

 やっとの事で語り終わったのか、一息ついたゼットさん。最初こそ必死に聞いてはいたものの、途中からキャパオーバーしてしまった私は半ば諦めの表情でゼットさんを見ていた気がする。

 とにかく今日はこの辺りで、という事になり、初めての対話は終わった。念の為時間を確認したが、最初にあのゲートをくぐり抜けた時からそんなに経っていない。その事に安堵した私は、引き続き響の帰りを待つ事に。

 

(それにしても、今日だけで色々知れたなぁ。まだ響には話せないけど、いつか話せる時が来ればいいかな…)

 

 そんな事を考えながら、大切な親友の帰りを待つ。それから少しした時、扉が開いて響が入ってくるのが見えた。まずはおかえり、と一言だけ伝えて迎える事に。

 

 

 ◇

 

 

 ──某所。

 

 橙色に輝く水晶のようなものを手に、良からぬ事を企む者が一人。それを使って何をするのかは、まだ分からない。




ストロングとルナ、それらがガングニールか奏さんに宿ったら普通にチートだと思う。…まぁ、ゼロさんの弱体化は作品中でよくある事だし仕方ないよね(震え声)
ゼロさんの力はその二つ含めて展開の中で徐々に復活させるつもりですので御安心ください…()


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#10 デビルスプリンター

評価バーが赤くなってる…だと……!? 一マスだけだけど、付くとは思ってなかった反面、マジで嬉しいです。今後とも皆様が楽しんで読めるような小説を書けるよう努力しますので、よろしくお願いいたします。


 ───某所。

 

 背中に白文字で『怪研』と書かれた緑色の防護服姿に首からガスマスクをかけた青年は、橙色に輝く水晶のようなものを片手にとある場所を訪れていた。

 青年の周りには誰も居ないが、その青年はゼットと一体化している少女、小日向未来と全く同じ『ウルトラゼットライザー』を懐から取り出し、左手に構えてトリガーを押す。すると、青年の前方に縦に光が走り、自動ドアのように左右にゲートが開く。青年は躊躇う事なくその中へ入ると、光のゲートはまるで最初からそこに無かったかのように消えていた。

 

 ───その一部始終を見ていた人物が居た事に気づく様子も無い。

 

 青年が入った先にあるのは、ゼットの作り出すインナースペースとは違って薄暗い緑色の光で照らされている異空間。そこにあるのは何かを入れる事が出来て、手動で回すハンドルがついた謎の装置のみ。彼は手にしている橙色の水晶のようなものをその装置に入れ、ハンドルを回す。

 金属が擦れ合う音のみが異空間内に響き渡り、少ししてその機械から怪獣の横顔が描かれ、周りを黒く縁取られた小さなコインのようなものがチャリン、と小銭が落ちた時のような音を出して出てくる。それを手に取った青年は特に感情を表に出す事なく、再びゼットライザーを構えてトリガーを押す。

 

……検証実験を開始する

 

 痰が絡んだような震えた声でそれだけを呟くと、異空間内に出来たもう一つの光のゲートをくぐり抜ける。そうして異空間内には再び、静寂が訪れた。

 

 

 ◇

 

 

 見知らぬ男が近くに居る。偵察に向かわせていた少女からその報告を聞いた私はその男が誰なのかを探るべく、行動を開始した。

 報告によれば此処からそう遠くない場所に()()()居るらしく、見つける事は容易い。現に今、それらしき人物を見つけた所だ。

 

(……確かに、ここら辺では見ない格好だな…)

 

 背中に白文字で「怪研」と書かれた緑色の防護服に身を包んだ青年らしき人物は、特に警戒する素振りも見せずに懐から青色の刃がついた小型の機械のようなものを取り出す。そして、左手に持ち替えると機械についているボタンを押した。

 すると、目の前で不可思議な出来事が起きる。青年の前方に白い光が走れば、それがまるでゲートのようなものを形作る。そうして、青年はそのゲートをくぐり抜けてその場から姿を消す。

 見失う訳にもいかず、慌てて後を追いかけたが、青年がくぐり抜けた光のゲートはまるで最初からそこに無かったかのように消えていた。取り逃した、と舌打ちをしてその場を去ろうとした時。

 

「……む。コレは…」

 

 足に何かが当たる感触があり、屈んでそれを拾ってみる。よく見ると名札のようなものであり、先程ゲートをくぐり抜けた青年のものだという事も分かった。

 青年の謎に迫る唯一の手がかりである為、それを無造作に懐に閉まった私は、光のゲートがあったであろう場所を暫し見つめた後にその場を後にする。

 

(地球防衛軍日本支部・怪獣研究センター生化学研究部。長いから怪研でいいとして……少なくとも、そんな施設は今まで聞いた事が無い。向こうが意図的に隠している、と見ていいか…)

 

 根城としている古城へと戻ってきた私は、先程拾った名札を懐から出す。青年が落としたと思われる名札には聞いた事もない施設の名と青年の名前が記載されていた。

 

「鏑木慎也…。此奴はクリスに追わせる事にするか。奴が持っていた謎の機械、アレを我が物とすれば兼ねてから計画していた私の悲願も達成しやすくなるだろう…」

 

 そう呟いた後、クリスを呼び寄せた私は「鏑木慎也」という男を探し出して此処へ連れて来いと伝える。連れて来る際には手段は問わない、と付け足して。

 鏑木慎也という男が何者か。あの機械はなんなのか。一体、何が目的なのか。全てはその男を捕まえれば分かる事だ。

 

 

 ◇

 

 

 場所は変わり、二課本部内にあるシュミレーション室。そこでは、奏と翼、響の三人が特訓を重ねていた。事の発端はこうである。ゼロが気になっている事、ゼロアイ。それが未だに奏の手元に無い事が気になっていた。それ故に独自に鍛える、と言い出し、巻き込む形で二人も奏とゼロの特訓に付き合っている。

 以前、ゼロは伊賀栗令人というサラリーマンと一体化した際には既に手元にあったのだが、今回は何処か違っていた。奏と一体化した時はゼロアイの代わりにウルティメイトブレスレットが現出しており、それも何らかの力で封印されている事が分かっている。

 それに伴ってゼロは本調子ではないにしても、デビルスプリンターが存在している可能性があるという事は怪獣が出現する可能性があるという事にもなり、流石にそれまでも三人に任せる訳にいかないという思いに至った結果、現在に至る。

 

「……よし、一旦ここまでにしておこうか」

 

 奏の身体を借りて二人と特訓していたゼロはそう呟き、奏に主導権を返して一旦引っ込む。それに伴って三人ともシンフォギアを解除して元の姿に戻り、各々休憩に入る。

 この特訓は奏の特訓と銘打ってはいるが、戦いに不慣れな響の特訓も兼ねており、一石二鳥……とまではいかないものの、響に経験を積ませるには最適だった。その効果はすぐに現れ、ぎこちない戦い方だったのが幾分マシになる程である。まだまだ荒削りではあるが。

 

「……ゼロ、ちょっとハード過ぎたんじゃないか?」

 

『俺の師匠達に比べればそうでもねぇ気がするが……ちょっと飛ばしすぎたか?』

 

「アタシから見ても飛ばしすぎにしか見えなかったよ。というかゼロの師匠って、そんなに厳しいのか…?」

 

『…まぁな……。つーか、師匠達の修行なんて厳しいなんてもんじゃねぇよ。師匠達との修行中、俺はいつも死を覚悟していたさ…』

 

 あのゼロが死を覚悟したくらいの修行とは、と一瞬だけ考えたが止めておく。それがどれだけ厳しいものか、というのは今回のゼロ主導の特訓の内容でよく分かった。

 それと、特訓の最中に一瞬だけ光が見えた、とゼロに伝えれば、そろそろか、とだけ呟く。特訓前に言っていた"アレ"の事なのだろう。あくまでも一瞬だけの為、今後とも続けるつもりらしい。

 

「……やはり、奏の身体を借りているとはいえ…ゼロは強い」

 

「まぁ、自分で自分の事を"無敵のゼロ様"って言うくらいだしなぁ…」

 

「流石に手加減してくれてた、って感じはしてましたけど、私なんて終始圧倒されてましたよ…」

 

 三人が各々ゼロの強さについて感想を述べながら休憩していた時、旦那から呼び出しがかかった。話し方からしてかなりの急ぎである事は確か。

 取り敢えず二人を連れて旦那の元に行くと、青いジャケットにジーパンという、大学生が着ているような服装の見慣れない青年が旦那の隣に立っていた。

 

『……ん? 彼奴は…』

 

「ゼロ、知ってるのか?」

 

 ゼロはその青年に見覚えがあるらしい。誰なのか聞こうとしたら旦那から紹介が入った。

 

「皆に紹介しよう、朝倉リク君だ」

 

「初めまして、朝倉リクです」

 

 好青年、といった雰囲気の青年『朝倉リク』。その名前を聞いた時、前にゼロがデビルスプリンターについて話してくれた時についでに話していた事を思い出す。

 ベリアルとの決着をつけたウルトラマンジード。もしかしたら彼がそうなのか、とゼロに問いかけるとその通りだという答えが返ってきた。それはいいとしてもそれよりも先ずは、何故彼が此処に居るのかが今一番気になっている。

 

「旦那、何故彼が此処に居るんだ?」

 

「いや何、彼とは偶然出会っただけなんだが、探し人をしていると聞いてな。俺達なら力になれると思って此処に招待したという事だ」

 

 チラリ、とリクの方を向くと"そうそう"と言わんばかりに頷くのが見える。リクの探し人とは一体誰なのか、と考えた時。リクの目線が此方に向いている事に気がついた。

 

「……ん? アタシに何か用か?」

 

「は、はい。えと…」

 

「アタシは天羽奏、奏でいいよ。よろしくな、リク」

 

 にこ、と笑顔を見せてリクに手を差し出す。終始戸惑っていたリクだったが、差し出された手を取って握手を交わす。その後、翼と響、二課の面々もリクに自己紹介と握手を行い、本題に入る……前に何故かリクに連れられて二人っきりになっているのだが、敢えてそこは気にしない事にしておいた。

 

「……ねぇ。何か、旦那達には聞かれたくない事でもあるの?」

 

「ま、まぁ…。そんな、感じです」

 

 旦那達に聞かれたくない事とはなんだろうか、と思っていたアタシは無意識に左腕を後ろに隠す。その事に疑問を抱かれたか、リクが質問をしてきた。

 

「あの、その左腕に付けてるのは…もしかして」

 

 流石にバレるか、と思ったアタシは直ぐにゼロと交代して後を任せる事に。

 

「……その通りだ。久しぶりだな? リク」

 

「…? えと、初対面…の筈では……?」

 

「おいおい、俺を忘れたのかよ。リク? 俺だよ、ウルトラマンゼロだ」

 

 左腕のブレスレットを見せつつ、いつものピースポーズを見せてそう言うとやっと分かったのか、リクは再会出来た事に物凄く喜んでいる反面、何で女の子に?みたいな表情を浮かべていた。それに関しては長くなる為簡潔に伝える。

 

「へぇ……そういう事があったんだ、ゼロ」

 

「まぁな。そういうお前は変わってなくて安心したけどよ」

 

「まぁ、あの時と比べたら僕も成長してるんだけどね」

 

「……だな」

 

 といった感じで昔の話ばかりに花を咲かせてはリクの本題に入る事が出来なくなる為、一旦そこで打ち切った俺はリクに本題に入るよう促す。

 リクが此処に来た目的。探し人というのは建前であり、やはりデビルスプリンター絡みだと言う事が分かった。他の宇宙に散らばったデビルスプリンターはギンガやビクトリー等新世代の先輩達(ニュージェネレーションヒーローズ)に任せて此方にやって来たらしい。

 ジードことリクが二課に来てくれた事には感謝している。後は三分の一人前のゼットを見つけるだけだが、あの日を境に俺を除くウルトラ族のエネルギーは観測されていない。一体何処に居るのかすら分からない状態だ。

 

「それはそうと、ゼロ。デビルスプリンターの件は…」

 

「──リク。お前は既にアレの正体を知っていると思うし、お前自身も分かっちゃいると思うが、旦那達には黙っておいた方がいい。この地球にデビルスプリンターは存在してるかどうか怪しいしな。それに、この地球には『ノイズ』っていう厄介極まりない敵が居るし、不確定要素で混乱させる訳にはいかねぇよ」

 

「分かった。けど……ノイズ? 雑音のノイズじゃなくて、この地球でのノイズは敵なんだ?」

 

「そうだ。俺もそいつらとは戦ってるから説明出来るが、詳しくは旦那に聞いておいた方がいい。二課に身を置く以上、嫌でも目にするからよ」

 

「なるほど…。じゃあ、後で弦十郎さんに聞いておくよ」

 

 長話になってしまった為一旦ここで打ち切り、旦那達が待つ司令室に戻る。二人っきりで一体何を話していたのかずずいと聞かれたが、うやむやに誤魔化しておいた。翼と響からは何かあったのでは?といった疑いの目を向けられたが。

 それに関しては後でカナデに謝っておくとして、リクも俺達二課に協力してくれる事となった。リク自身の正体はまだ秘密だが、いずれ知る事だろう。

 

(……つっても、なんとなく嫌な予感はしてるんだよな)

 

 その予感が的中してしまう事になるとは、この時の俺もカナデも、二課の面々も想像していない。その嫌な予感がなんなのか。それが分かるのはまだ先の事だ。




( ´-`).。oO(鏑木出したらジードも出さなきゃアカンでしょ)

という浅はかな気持ちでリク君出しました。口調合ってるかびみょいですし、例のメダルの為だけに呼んだ感じが半端ないですけども。

次くらいには、ネフシュタンの少女と本来のゼロを出せると……いいなぁ(願望)


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#11 ネフシュタンとの邂逅

ガバだらけで稚拙な私の小説が一日だけとはいえ、まさかランキングに載るとは思ってなかった(震え声)

それはさておき、やっと本来のゼロさん出せる機会出来たよ…長かった…というか、流石に引っ張りすぎたかもしれん…(主役は遅れてやって来る、ってな!)

それはさておき、どうぞ(・ω・)ノ


 ウルトラマンジード、またの名を朝倉リク。ベリアルの息子という一生付いて回る肩書きを背負いながら、人々を守る為に戦いを続けるウルトラマンの一人。

 人探しという建前、本命はデビルスプリンター絡みで二課へとやって来た彼は同じく二課所属の装者、風鳴翼と立花響、ゼロと一体となっている天羽奏の三人とすぐに親しくなり、それと同時に司令を務める風鳴弦十郎、デキる女こと櫻井了子、二課のオペレーター、藤尭朔也と友里あおい、その他の職員とも打ち解けていた。

 

 彼が来てから更に月日は流れ、丁度一ヶ月が過ぎたのだが、その間にもノイズは発生し続けていた。勿論、発生したノイズは装者の三人で片付けてはいるものの、明らかに出現頻度がおかしい。

 通常、一般人が日常生活の中で通り魔に遭遇する確率は約1700万分の一とされており、これは宝くじで一等が当たる確率とほぼ同じ。更に言えば、日常生活を送っている一般人と出現したノイズが遭遇する確率はそれよりも更に低いのだ。

 それにも関わらず、今日で一ヶ月が経とうとしている今までのノイズの出現頻度はまさしく異常ともいえるだろう。それこそ、誰かが裏で手を引いていない限りは。

 

「……ふむ…これには、何らかの『作為』があると見ていいでしょうね」

 

「というと…つまり、何者かが意図的にノイズを出現させている…という事か?」

 

「……えぇ。そんなおぞましい事、考えたくはないけれどね」

 

 二課のメンバーを集め、ミーティングを開いた本人でもある櫻井了子はノイズの出現位置を示すモニターを見ながら呟く。それに対して人類の敵であるノイズ、それを何者かが出現させているのでは、と仮説を付け足す弦十郎。

 それに響は浮かんできたとある疑問に対して苦悶する事となるが、今はその時ではないと頭を振って周りの声に耳を傾ける。

 

「ここ一ヶ月のノイズの発生の中心は我々の真上、《私立リディアン音楽院》です。つまり───」

 

「それってつまり、《サクリストD》……『デュランダル』を誰かが狙ってノイズを仕向けている、という証拠になるな…」

 

「「『……デュランダル?』」」

 

 自分の台詞を取られた、と翼はむすくれるがそんなのはお構い無し、といった奏から聞き慣れない単語が出てきた為、首を傾げる者が二人…否。三人である。その内の二人は言うまでもなく響とリク。そしてもう一人は奏の内に居るゼロだ。

 

『……なぁ、カナデ。デュランダルってなんだ? 俺は今までカナデと共に戦ってきたけどよ、そんなの初めて聞いたぜ?』

 

「嗚呼、そういえばゼロはデュランダルの事、初めて聞くよな。それについては今から説明があるから、聞けば分かるよ」

 

 ゼロの問いにそう返した奏は、リクと響、ゼロの疑問を解消するように二人のオペレーター…友里あおいと藤尭朔也に説明を任せる。

 

「この二課の司令室より更に下層……『アビス』と呼ばれる最深部に厳重保管されていて、日本政府の管理下にて私達が研究している()()()()()()()()()()。それがサクリストD、デュランダルよ」

 

「翼さんの天羽々斬や奏さんと響ちゃんのガングニールのように、聖遺物の欠片は力を発揮する為にその都度装者の歌を必要とするけど、ほぼ完全状態の聖遺物は一度起動してしまえば常時100%の力を発揮し続ける。そしてそれは、僕らのように装者ではない一般人でさえも扱えるであろうという研究結果が出ているんだ」

 

 更に言えば、それを提唱したのが今自分達の目の前に居る櫻井了子その人である。その理論は『櫻井理論』と呼ばれ、装者の三人が纏っているシンフォギアに活かされている。しかし、一度起動してしまえば一般人でも扱えるとされている完全聖遺物には一つだけ大きな問題があった。

 

「だけど、完全聖遺物の起動にはそれ相応のフォニックゲインが必要なのよね」

 

 完全聖遺物はシンフォギアに組み込まれている聖遺物の欠片より強大な力を秘めている代わり、起動には大量のフォニックゲインが必要となる。

 二年前のツヴァイウィングのライブの裏でも、ネフシュタンの鎧と呼ばれる完全聖遺物の起動実験が行われていた。しかし、実験途中にノイズが大量発生し、実験どころの話ではなくなった上にその混乱の影響か、ネフシュタンは跡形もなく消失してしまったのだ。

 

「「……えっと、それってつまり…どういう事、なんでしょうか?」」

 

 そこまでの説明を聞いていた響とリクの二人だったが、流石に難しすぎたのか疑問符を浮かべている。響の方は了子達に任せるとして、カナデに理由を説明して一旦代わってもらった俺はリクに耳打ちして分かりやすいように教える。

 

「リク、お前の場合はジードをそれぞれに当てはめた方が分かりやすいだろ?」

 

「えっ……ゼロ、それってどういう…あ、そういう事か。ライザーが『デュランダル』で、カプセルを『歌の力』に例えれば、って事だね」

 

「そういうことだ。それに、今の説明からしてその完全聖遺物とやらが強大な力を秘めているのは明白だろ。下手したら俺達ウルトラマンの力と同等かもしれねぇような大それたもん、盗られる訳にはいかねぇよな」

 

「……うん、そうだね。ゼロ。なんとしても、僕達で護らなきゃだ」

 

 リクが頷いたと同時に響の方もなんとか理解出来たらしく、隣でなるほど、と声を上げていた。二人が理解出来た所で話は先に進む。

 今の奏と翼の歌なら或いは、とか今回の件に米国が一枚噛んでいるのでは、とか本部に数万件ものハッキングを仕掛けていた形跡があるだとか色々話されていたが、ここで奏と翼のマネージャーを務めている緒川が弦十郎へ声をかける。

 

「風鳴司令、お話の途中すみません」

 

「ん? ……嗚呼、もうそんな時間か。すっかり話しこんでしまったな」

 

 緒川に声をかけられた弦十郎は時計を見やり、頬を二、三回掻きながら呟く。つづいて緒川は奏と翼の二人に目線を向けた。それが何を意味するのかは、すぐに分かる。

 

「翼さん、奏さん。今晩はアルバムの打ち合わせが入っています」

 

「あ、もうそんな時間だったか…。それなら仕方ない、早く行かなきゃな。翼」

 

「えぇ、分かったわ、奏。では、お先に失礼します」

 

 既にエレベーターへと歩き出している緒川を背景に、奏と翼は弦十郎達に頭を下げて司令室を後にする。三人…否、四人が欠けてはこれ以上話は続けられない、という事で今回のミーティングは終わりを告げた。

 その間、響とリクの二人は何をしているのかと言うと、奏と翼のボーカルユニット『ツヴァイウィング』の曲を聴いていた。ある時、響がリクに勧めた所、思いの外ハマってしまったのだ。そんな二人を背景に弦十郎と了子の二人は藤尭と友里を交え、デュランダルについて話を続けていた。

 

 

 ◇

 

 

 ───同刻、とある場所にて。

 

「っんのやろ、こちとらてめぇをやっと見つけたんだからよッ! ちょこまかと逃げんじゃねぇッ!!」

 

「───ッ!」

 

 「鏑木慎也」は一心不乱に逃げていた。それも自分より小柄な少女から。しかし、その少女は何かが違う。とてもじゃないがその少女には似つかわしくない、純白を基調とし、各箇所に鋭い棘が目立つ鎧をその身に纏っている。鏑木は知る由もないが、この少女が身に纏っているものこそ二年前のあの日に消失した筈の完全聖遺物。その名を『ネフシュタンの鎧』である。

 それはさておき、何故鏑木がネフシュタンの少女に追われているのか。それは少女に言い渡されていた指示にある。少女はフィーネに『鏑木慎也』という男を連れて来い、連れて来る際には手段は問わないと言われている。その通りに探していた所、丁度実験を終えて根城としている異空間から出てきた鏑木を見つけて今に至るという事だ。

 

っち……厄日か、今日は

 

 少女から逃げながら毒づき、鏑木は懐からゼットライザーを取り出す。いつでも異空間に繋がる光のゲートを作り出す為だ。しかし、タイミングを誤ればこの少女もゲートに入り込んでしまう。異空間を根城としている以上、それだけはなんとしても避けねばならない。

 考えを巡らせている内に、己を捕えようと少女の熾烈な攻撃が後ろから飛び交ってくる。それを紙一重で躱しながら逃げ続けているが、流石に体力の限界がやって来た。思考は『鏑木慎也』とは違えども身体は『鏑木慎也』本人の為、当然体力の限界は存在し、その攻撃を一回でも喰らえば今後の実験に大きく影響してくる。その為、トリガーを押すタイミングが重要だった。

 何らかの方法で少女を撒くか気を逸らした後にゲートを開き、その中に飛び込めば此方の勝ち、出来なかったら少女の勝ちである。なんとも単純明快でいい。

 

 ……尤も、追いかけられている本人からしてみれば、こんな命懸けの駆け引きはこれっきりにしてほしいと思っているのだが。

 

「ったくよ、お前…逃げ足だけは早ぇんだな。とはいえ、もう逃がさねぇ。逃げ場はねぇし、もう観念して大人しくあたしについてこい。そしたら命だけは保証してやるよ」

 

 気がつけば崖際に追い込まれており、一歩も下がれない状況に陥っていた。とはいえ一瞬でも気を逸らせばゼットライザーのトリガーを押してゲートへと入れる為、まだ負けが決まった訳ではない。

 

ハハハッ、おかしな事を言う。俺がお前如きに捕まると思ったか?

 

「何…?」

 

 嘲笑した後に少女を挑発し、意識を此方に向かせた所で近くにあった小石を投げ、気を逸らした瞬間にゼットライザーのトリガーを押してゲートを作成、すぐさま飛び込んでゲートを閉じる。小石に気を逸らされた少女が振り返れば、そこに居た筈の捕縛対象が居ない事に気づき、歯噛みをする事となった。

 いつもの暗い緑色の光が照らす異空間に戻ってきた、鏑木を乗っ取っている宇宙生命体セレブロ。彼はとある小瓶を手にしていた。中身は炭の塊だが、ただの炭の塊ではない。

 

これで邪魔者は居ない……検証を開始する

 

 セレブロが持ち帰ってきていたもの。それは、ノイズの残骸の一部だった。とはいえ、既に炭素の塊となっている為にそこから何かを得られる訳ではないのだが、彼はノイズを初めて見た時に「実験に使えそうだ」と思ったのだ。

 もし仮にノイズの一部が彼の集めているデビルスプリンターのように形を保ったままであれば、彼は躊躇う事なく装置に入れていた所だろう。こればかりはノイズの特性に感謝すべきだろうか。

 そんな事は関係なし、と言わんばかりに鏑木元いセレブロは検証及び実験を再開すべく行動に移した。

 

 

 ◇

 

 

 そして、時は進んで翌日の放課後。ノイズが出現したという二課の緊急連絡が入り、装者の三人と響のサポート役として朝倉リクも同行し、現場へと向かう。本来であれば戦えない()()()()リクも同行させるのは、弦十郎にとって悪手だった。

 しかし、『いつも僕だけ安全な場所に居られない。ジーっとしてても、ドーにもならないんですッ!』というリクの熱い想いを弦十郎は受け止め、今回同行させたという事である。

 尤も、リクの正体はすぐに二課の面々に明らかになってしまうのだが。それはさておき、翼と奏より先に地下鉄の入口に辿り着いた響とリク。しかし、響の表情はどこか暗く、いつもの笑顔を浮かべていなかった。そんな響が気になったリクは声をかける。

 

「……響、どうかしたの?」

 

「…………へっ? あ…うん。少し、考え事してただけだから大丈夫だよ。リク君」

 

 いつもと違って作り笑いを浮かべる響が気になり、少し踏み込んだ事を聞いてみようと思ったリクだが、自分と違って年頃の女の子だから色々悩み事があるのだろうと解釈し、それ以上問う事はせず。不意に聞こえてきた特徴がある足音に集中する。

 特徴的な足音はノイズが此方に登ってくる合図であり、それを聞いたリクは響に「来るよ」とだけ告げ、二又の鉤爪のような武器『ジードクロー』を取り出して身構える。対して、いつまでも落ち込んでられないと頬を叩いて気合いを入れた響はシンフォギアを纏う為の歌を紡ぐ。

 

「司令から念は押されてるから大丈夫だと思うけど、僕からももう一度言っておく。無理はダメだからね、響」

 

「……うん、大丈夫」

 

 そうして、戦いが幕を開ける。最初の頃と比べれば、ゼロや司令との特訓によって幾分かマシになっている響の戦い方だが、それでもまだ隙が大きいのは確か。然し、シンフォギアを纏った彼女の一撃はノイズに効果抜群であり、彼女に殴られ、蹴られるノイズはその数を炭素の塊へと変え、数を減らしていく。

 対するリクも響に任せっきりで何もしない、という訳ではなく。ジードクローを使用してノイズに対抗していた。ジードクローに引き裂かれたノイズもまた、その身を炭素の塊へと変えていく。

 そうこうしている内に、響とリクに司令から通信が入る。小型ノイズの群れの中に一際大きい反応があるが、もうすぐで奏と翼がそちらに合流する為、それまで耐えて欲しい。但し無茶はするな。との事だった。

 

「えーと、司令の言う一際大きい奴…って、まさしくアレだよね……」

 

 リクの目線の先に居たのは、身体にブドウの房のような物体を身につけていたノイズ。他の個体とは違ってよく目立つそれは、誰が見ても嫌な予感を漂わせている。

 

「響、彼奴からなんか嫌な予感がする。離れてて」

 

「う、うん。分かった」

 

 二人がそのノイズを前にして身構えた瞬間。ブドウの房のような物体を付けたノイズが全身を震わせ、ノイズからいくつか離れた房が此方に飛んできた。そうして、リクの嫌な予感が見事に的中し、それは突如爆発を引き起こす。

 

「くっ…ッ! クローカッティングッ!

 

 天井近くで爆発した影響で崩れゆく天井から自分と響を守るべく、リクは咄嗟にジードクローのトリガーを一回引いてボタンを押し、刃先から赤黒いカッター光線を繰り出す。

 それにより自分と響に瓦礫が襲いかかる事は無かったが、響の心配をするリクを他所目にブドウ型ノイズは小型ノイズの群れを率いて一定の距離をとっている。このままあのノイズが地上に出たら地下鉄以上の被害が出てしまう。そう思ったリクは響に声をかけるが……。

 

「響、行こう。彼奴を追わなきゃ……って、響…? どうし───」

 

 リクの呼びかけに反応を示さず、下を向いたままでいる事に違和感を覚えたリクは声をかけるのを辞める。そして次の瞬間、異変が起きた。

 響は「見たかった…ッ! 未来と一緒に、流れ星が見たかった…ッ!!」と声の限り叫んだ後、先程とは比べ物にならないくらいの力をもってして地面を蹴り砕き、小型ノイズの群れに突撃し、圧倒的な力で蹂躙を始めた。その光景にリクは何処か既視感を覚えるも、響を止めるべく走り出す。

 

「あんた達が、誰かの約束を侵し、嘘の無い世界を、争いの無い世界を…………なんでもない日常をぉぉぉッ!」

 

 怒りのままにノイズを蹂躙し、暴れ狂う様はまさしく鬼神。変身した自分ならともかく、今の自分では響を止める手立てはないと判断したリクはただひたすらに響を追う。それを隔てるかのように小型ノイズが進路を塞ぐが、先程同様『クローカッティング』で強引に道を開き、響の後を追いかける。

 そうこうしている内にブドウ型ノイズは遂に自らの身体から房のような物体を離し、爆発させて天井へ穴を開けてしまう。このままでは不味い、と歯噛みしたその時だ。

 

「「はああああッ!!」」

 

 穴の上から二人分の声がした瞬間、ブドウ型ノイズが開けた穴から大量の槍と巨大な剣が飛来してその身体を貫く。響とリクが追いかけていたノイズは外に出る事叶わず、二人に追いついた二人の戦姫によって討伐された。

 敵が居なくなった影響なのか、正気に戻った響はリクと共に穴から出てくる。先程まで正気を失っていた響は、奏と翼に合わせる顔が無く、俯いたままだった。

 

(……私、リク君にもだけどツヴァイウィングのお二人にも合わせる顔が無いよ…)

 

 これまで二人と共に戦ってきた響だったが、先程の事が原因で自信を失ってしまった。俯く響を心配する奏と翼、リクの三人だったが、事態は急変する。

 

「─────へぇ? これはまた、随分な大所帯じゃねえか?」

 

 突如として響き渡る、聞き慣れない声。声の主を探すべく警戒を緩めず辺りを見回す三人。少しして、その声の主と思われる少女が、月明かりの元から歩み寄ってきた。

 そして、奏と翼の二人は息をのむ。少女が纏っているものがなんなのか、すぐに分かってしまったからである。そしてそれは、二課でモニターしている弦十郎達も同様だった。

 

「まさか…………」

 

「それは…………」

 

「「なんで、なんで『ネフシュタンの鎧』が……ッ!!」」

 

 何故ならば。その少女が纏っている白い鎧こそ、二年前のライブの惨劇の最中に消失したとされていた筈の完全聖遺物だったからだ。

 それが今、自分達の目の前にある。それも凡そ考えうる最悪の形で。ネフシュタンの鎧を纏う少女から放たれる威圧感は、少女が只者ではない事を証明するに事足りるだろう。

 

『カナデ、彼奴と戦うのは骨が折れると思うが、ぶっつけ本番だ。やるしかねぇ。ぶっちゃけ一か八かだが…いけるか?』

 

「…嗚呼、勿論だよ。ゼロ。奴との戦いの中でアレを手にするんだよな? 絶対、手にしてみせるよ…必ずね」

 

 この場に居る皆が各々の反応を示す中、ウルトラマンゼロだけは違った。圧倒的、ともいえる威圧感に屈する事無く、奏とコンタクトを交わしていた。

 画して、完全聖遺物を身に纏う少女とツヴァイウィングの二人の譲れない戦いが幕を開けようとしていた。




何気に藤尭さんと友里さん初登場だったり…(´・ω・`)

というか、こっちの鏑木さん随分とアグレッシブだなぁ。本編だとそんな感じじゃなかった筈、多分。って思ってたら15話でハルキと激しい銃撃戦繰り広げてたわ。Z本編の方がやたらとアグレッシブだったわ。

後、リク君が人間の姿でも技放てるのは各地の宇宙を渡り歩いたり、特訓の成果だと思ってくだしあ……


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#12 若き最強戦士と運命を変えた者

やっと、やっとゼロさん出陣!長かった…
いやもう、ほんっっっとお待たせしました…(´・ω・`)

今回もちょっと長いしれません。何故かは、まぁ……見れば分かりますよ。


「─────へぇ…? その反応から察するに、あんた達、この鎧の出自を知ってんだ?」

 

「……嗚呼。その鎧の事、アタシ達はよぉぉぉく知っているさ。なぁ…翼」

 

「えぇ、その通りよ…。二年前の不始末で奪われたもの…私の、いえ…私達の不手際で失われた多くの命。それを一時だって忘れられるものかッ!」

 

 二人が構える槍と刀のアームドギア、それを握る手に力が込められる。ネフシュタンの鎧は『アビス』にて厳重管理の元保管されているデュランダルと同じ、完全聖遺物の一つ。そして、二年前のあの日に消失、行方不明となっていたものだ。

 あの惨劇によって、多くの罪なき人々の命が奪われた。その後、惨劇を生き延びた生還者達がメディアの憶測によるバッシングを受けた事も後になって知った。その罪は今も尚、自分達の肩に重くのしかかっている。

 その罪を背負いながらも、今までこうしてノイズと戦ってきた。例え、自分達の存在が政府によって隠蔽されようとも。今を生きる人々に理解が届かなくても。

 

「……一つ問おう。貴様の目的はなんだ。まさかそれを私達に返しに来ました、という生温い話ではないのだろう?」

 

 先程とは違い、既に防人と化した翼がネフシュタンの少女へと問いを投げかける。

 

「───はッ、流石に分かるか。そうだ、あたしの目的はこいつをあんた達に返す事じゃねぇ。そいつだよ」

 

 ネフシュタンの少女は嘲笑を浮かべた後、とある人物に答えだと言わんばかりに指を指し示す。ネフシュタンの少女が指を向けた先には……

 

「……え、私?」

 

 朝倉リクに支えられ、守られる形で立っていた立花響が居た。響本人は何故自分なの?といった様子で疑問符を浮かべている。

 ネフシュタンの少女の意図が読めたのか、リクはジードライザー……ではなく。皆にバレないように懐に隠し持っていた、鏑木や未来が所持しているものと同じ『ウルトラゼットライザー』のグリップ部分を握りしめる。

 

「……何故立花を……響を狙っている?」

 

「さぁな? あたしが言える事はそいつを連れてこいって事くらいだ。それ以上は聞かされてねぇからわからねぇよ。()()()()()()()取り逃しちまったからよ…今のあたしは物凄く機嫌悪ぃんだ。だからよ……お前は大人しく、捕まってくれるよなぁ?」

 

 何処かイラついた様子で刃の鞭を地面に叩きつける少女。途端、今まで放っている威圧感が増した。それに伴い、翼と奏も各々が持つ得物を構え直す。

 緊迫した空気の中、誰が動いてもそれが開戦の合図となろう。だが、その均衡を破った者が一人。言わずもがな、響である。響はリクの背後から飛び出し、三人の間に割って入った。

 

「つ、翼さんも奏さんも待ってくださいッ! 相手は私達と同じ人間なんですよッ!? 同じ人間なら話し合えば─────」

 

「「戦場で何を馬鹿な事をッ!!」」

 

「───ッ!?」

 

 三人が戦う所を見たくない、その一心で割って入った響は何故か声を揃えたネフシュタンの少女と翼に怒鳴られ、その身体を強ばらせる。

 その隙にリクは響を抱えて後ろへと下がり、安全な場所へと避難させた。その際、一瞬の内に奏と交代したゼロと対話を済ませている。

 

『───リク、そいつの事は任せた。俺達が戦ってる最中に何かあれば…分かってるな』

 

『───うん。勿論だよ、ゼロ』

 

 響を降ろし、再び身構えるリク。対する三人の方はといえば、響がその場から居なくなった事により、再び緊迫した空気へと戻る。

 

「……ハモったな」

 

「……ハモったわね」

 

 先程の一言が被った事により一瞬だけ気が緩んだものの、表情はすぐに戦闘時のものへと切り替わる。そうして、奏の足が地面を蹴り砕いた事によってそれが合図となり、三人の戦闘が開始された。

 ネフシュタンの少女は刃の鞭を振るい、二人に襲い来る。鞭の挙動は生き物と見間違えるくらいに不規則であり、紙一重で躱すも二撃目、三撃目が迫る。

 しかし、二撃目、三撃目と襲い来る鞭は奏と翼の完璧なコンビネーションにより被弾を最小限に抑える事が出来たが、二人のコンビネーションを断ち切るかのようにネフシュタンの少女の蹴りが飛び、翼を守るようにして代わりに蹴り飛ばされた奏は顔を顰め、数メートル先まで飛ばされた。

 

「─────奏ッ!?」

 

 翼が心配する声を上げる。二、三回とまるでボールのように弾み、近くの木の幹に背中から叩きつけられる奏。受け身も取れずに弾んだのが災いし、途中で口の中を噛み切ったらしく口内に鉄の味が広がっている。

 ネフシュタンの少女の一撃は非常に重く、一回蹴られただけにも関わらず、全身が鈍い痛みに襲われた。そしてそれは、感覚を共有しているゼロも同じように感じている。

 

『なん、だよコレ…!? こんな痛み、今まで感じた事ねぇぞ…!』

 

「……はは、流石は完全聖遺物、といった所かな…。ゼロ、アタシと感覚を共有するのは不味い。それくらい、戦士の端くれなら分かるだろ…?」

 

『……嗚呼、そうみたい、だな。でもよ、俺だけ無事でいる訳にゃあ…いかねぇだろ。彼奴を止めるまで、俺はカナデと、皆と共に戦う。いつだって、そうして来たからな』

 

「……そう、だね。だからこそ、アタシは何度だって立ち上がれるんだ…ッ!」

 

 口の中に溜まった血反吐を吐き出し、口を拭う。ダメージは残ったまま。足もフラフラなのは変わらないが、ここで膝をつく訳にも、響を連れていかれる訳にもいかない。震える足に鞭を打ち付けて再び地を蹴り、ネフシュタンの少女に肉薄する。

 ツヴァイウィングとネフシュタンの少女の戦いは熾烈を極める。そんな光景をただ見ている事しか出来なかった響は、リクの後ろでその拳を固く握りしめる事しか出来なかった。奏と翼、ネフシュタンの少女は互いに相手を倒そうと一瞬の油断が命取りとなる攻防を繰り広げている。それに対して、先程と同様な不満を抱いていた。

 

 ───同じ人間ならば、話し合えば分かり合えるのではないのか。ノイズや動物とは違って自分達は話せるのだから、こんな事しなくてもいいのではないのか、と。

 

「───あんた達はこいつらの相手でもしてなッ!」

 

 そんな事を考えていた響だったが、奏と翼の二人を鞭で投げ飛ばしたネフシュタンの少女が響とリクを視界に捉え、何かを取り出した。それは、杖のような不思議な形状をしたもの。それが光を放つと、そこからノイズが現れて響とリクを取り囲む。

 目の前で起きた出来事。それは戦場に立つ五人にだけでなく、その様子をモニターしていた二課内にすら衝撃をもたらす。ノイズが現れただけではない。あの杖によって操られているような、そんな感じだったからだ。

 

「ノイズが……操られて、いるのか……?」

 

「そんな、どうして……ッ!?」

 

「それがこの『ソロモンの杖』の力なんだよッ! 雑魚は雑魚らしく、そいつらと戯れてなッ!!」

 

 そう叫ぶネフシュタンの少女だが、すぐに体勢を立て直した奏と翼に接近を許す。

 

「「戦いの途中で余所見とは……よっぽど自信があるんだなッ!!」」

 

「当たり前だろ? このあたしがあんた達に負ける訳がねぇからなぁッ!!」

 

 再度ネフシュタンの少女は奏と翼との戦いに戻る。その反面、ノイズに取り囲まれた響とリク。このままじゃやられる。そう思った響は気合いを入れ、ノイズの殲滅にかかった。

 対してリクはというとジードクローだけではなく、『ウルトラゼットライザー』のブレード部分を展開し、武器形態にした二刀流でノイズを倒しにかかる。とはいえ、数は多い。そこに……

 

「───おっと。そいつらを倒すのに一生懸命な所悪いが、後がつかえてるんでな」

 

 更に追い討ちをかけるように、少女は再びソロモンの杖からノイズを出現させる。出現したノイズの風貌は、ダチョウと酷似していた。

 

「くっ、ただでさえキツいってのに…ッ! ……って、あぁッ!?」

 

「響ッ!?」

 

 リクの奮闘を他所に、ダチョウ型ノイズの嘴から粘性の液体が飛び、響をその場に拘束させる。響はなんとかしようともがくが、その液体は粘性が非常に高いのか、全く動けないでいる。

 響を助けようとリクが駆け寄り、ジードクローとウルトラゼットライザーの二刀流で粘性の液体を取っ払おうとするが、粘性が高いせいで刃に絡みついてなかなか切れない。その光景を眺めていたネフシュタンの少女だが、再びツヴァイウィングの猛攻が少女を襲う。

 

「(このままじゃ、響も二人も、あの女の子も……そうか、だったらッ!)ジーっとしてても、ドーにもならねぇッ!!」

 

 このままじゃ危ない。その時何かを閃いたのか、リクはウルトラゼットライザーの展開していたブレード部分を戻し、トリガーを押す。すると、リクの目の前に光のゲートが出現。リクは躊躇う事無くその中へと飛び込んだ。それにまず驚いたのは、近くに居た響だ。

 

「え、えっ……!? ちょ、ちょっとッ! 私を残して何処行っちゃうのリク君ッ!?」

 

 粘性の液体に拘束され、その場から動けないでいる響の悲痛な叫びも虚しく、リクが飛び込んだ光のゲートは閉じ、その場から消える。

 

 

 ◇

 

 

 ウルトラゼットライザーが作り出したインナースペースへと入った僕は、自分が描かれている一枚のカードを手に取り、それをウルトラゼットライザーのスリットへと差し込む。

 

《リク! アクセスグランテッド!》

 

 ウルトラゼットライザーが認識した事を確認し、続いて腰に取り付けてあるホルダーから三枚のメダルを取り出す。ギンガ、エックス、オーブのメダルだ。

 

「ライブ! ユナイト! アップ! ウルトラマンギンガ、ウルトラマンエックス、ウルトラマンオーブ!」

 

 そう叫んだ後、ウルトラゼットライザーのブレード部分にあるスリットにメダルを入れていき、ブレード部分を動かし、ゼットライザーに認識させていく。

 

《ギンガ! エックス! オーブ!》

 

 三枚を認識し、待機音が流れる事を確認した僕はゼットライザーを天高く掲げた後に胸元に持ってきて、口上を叫んだ後にトリガーを押す。

 

「集うぜ、綺羅星ッ!!」

 

『ショゥラァ!』『イーッスァッ!』『スェァッ!』

 

ジィィィィィィィドッ!!

 

 ギンガ、エックス、オーブの三人がそれぞれ光の軌跡を描きながら飛び交い、続いて初代ウルトラマンとウルトラマンベリアルの二人が僕の背後に出現し、重なる。

 これまで幾度となく変身してきた、ジード。それの素体ともいえるその姿に三人の先輩ウルトラマンの力が集約し、集約した光の中から一人の巨人が飛び出した!

 

《ウルトラマンジード! ギャラクシーライジング!》

 

「ハアッ!!」

 

 リクが光のゲートに飛び込んですぐ。ノイズに触れられようとしていた響の前に、光と共に一人の巨人が降り立つ。濃紺を基調とした肉体に複雑な形状の模様をした鎧を身に纏う、水色のつり目の巨人。

 朝倉リクより少し大きくなった背丈となって響の前に現れた巨人は、まず眼前のノイズを左右の腕を振り下ろしてXの文字を描くように連続で切り裂く『レッキングリッパー』を放ち、殲滅。続いて響の身体にまとわりついている粘性の液体を腕に生えた刃の一振りで切り裂き、自由にさせた。

 

『響、遅れてごめん。大丈夫だった?』

 

「え、あ、はい。ありがとうございます…。けど、貴方は一体……?」

 

『無事ならいいんだ。君は下がって、後は僕に任せてほしい』

 

「えっ……その声、まさか…リク君なのッ!?」

 

 やっと自由に動けるようになった響がその巨人の正体に気づいたと同時刻。リクが消えた瞬間、突如現れた巨人の正体が分からず、二課では大騒ぎだった。

 

「藤尭ッ、奴の正体は一体なんなんだッ!?」

 

「わ、分かりませんッ!」

 

「でも……我々の敵ではないようですよ、司令」

 

「何…?」

 

 友里の一言に不思議に思った弦十郎、了子、藤尭が再びモニターに集中する。モニターに写し出されているのは、突如現れた謎の存在がノイズを殲滅し、響を助けていたシーンだった。

 仮にあれが我々の敵であれば、こんな事はしないだろう。それを裏付ける決定的な瞬間でもある。そしてそれは、現場にて死闘を繰り広げている三人も目撃していた。

 

 

 ◇

 

 

 光と共に突如現れ、ノイズを殲滅し、響を助けた巨人。その光景を目撃したネフシュタンの少女とツヴァイウィングの二人。ネフシュタンの少女と翼は驚きで目を見開いているが、奏だけは違った。ウルトラマンゼロ、彼から既に教えられていた為だ。

 ノイズの集団から響を守るように立ちはだかるその巨人こそ、()()()()()()()()()()。その名をウルトラマンジード。朝倉リクが変身するもう一つの姿である。

 

「……ゼロ、あれはまさか…」

 

『嗚呼、そのまさかだぜ? カナデ。あれがリクのもう一つの姿。ウルトラマンジードだ』

 

「あれが……ウルトラマンジード…」

 

 つり目の巨人、ジードはネフシュタンの少女が呼び出したノイズを殲滅すべく、ノイズに立ち向かっていく。それに気づいたネフシュタンの少女がソロモンの杖を使って増援を呼び出すも、ジードの前では無力だった。

 

「アレは、一体なんなの……?」

 

「───翼ッ! 彼奴はアタシ達の味方だッ! 響の事は彼奴に任せて大丈夫ッ!!」

 

「───っ、分かったッ!」

 

 ジードの出現により呆けていた翼だったが、奏の一言で意識をネフシュタンの少女へと向け直す。シンフォギアとも完全聖遺物ともまるで違う、圧倒的ともいえる強大な力を前にしたネフシュタンの少女は苛立ちを隠せずにいる。

 ネフシュタンの少女は怒りのままに鞭を振るって高出力のエネルギー弾を投擲する技『NIRVANA GEDON』を二人に向けて放つも、それは奏と翼の合体技『双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-』で防がれるどころか、逆にそれによる手痛い反撃を喰らう。

 しかし、流石は完全聖遺物であるネフシュタンの鎧。手痛い反撃を喰らったにも関わらず、その傷は治ろうとしていた。装着者である少女に途方もない痛みを与えながら。

 

『おいおい、冗談にも程があるだろ……傷口が修復してやがる……ッ!』

 

「なるほどね。それがネフシュタンの鎧の力って訳か……!」

 

 最早此方も向こうも満身創痍、といった感じである。しかし、ネフシュタンの少女はまだまだやれるといった様子だった。

 だが、長時間戦い続けた反動か、翼は既に限界を迎えている。流石にこれ以上無理はさせられない。少女が呼び出したノイズを全て殲滅し終わったジードが変身を解き、此方に駆け寄ってきたのを確認出来た為、翼を下がらせるように伝える。

 

「───奏…?」

 

「───後はアタシに…いや、()()()()に任せな、翼。リク、アタシの相棒を…翼を。頼んだよ」

 

「……奏さん…? …分かりました。響と翼さんは僕に任せてください。……負けないでよ、ウルトラマンゼロ」

 

 リクの一言に頷き、リクに抱き抱えられる形で響と共に戦線を離脱したリクと翼、響の三人を見送る。後に残されたのはネフシュタンの少女と奏…否。奏とウルトラマンゼロのみだ。

 ネフシュタンの少女は奏一人だけになった事がどうにも気に入らないらしく、先程よりも更に苛立ちを募らせている。

 

「─────なんだ? 二人がかりでも苦戦してたってのに、今度はあんた一人であたしを相手にしようってか? はっ、随分と舐められたものだッ!」

 

「『おいおい、誰が一人だと言ったんだよ? お前は気づいちゃいねぇようだが、俺達は一人じゃねぇんだよ。最初からな』」

 

「何…ッ?」

 

 ゼロと同じ口調で、ゼロと同じ声でネフシュタンの少女と相対する奏の右手には、赤、青、銀の三色のカラーリングが施され、額部分に緑色のビームランプと思われるパーツがあるサングラス型のアイテムが握られていた。

 それは、長時間にも及ぶネフシュタンの少女との戦いを経てやっと手にした光。光の国の若き最強戦士をこの地に降り立たせる為のアイテムだ。

 

「……行くよ、ゼロ」

 

『嗚呼、後は俺に任せな。カナデ』

 

 奏はシンフォギアを纏ったままサングラス型のアイテム『ウルトラゼロアイ』を両目に当て、上部にあるボタンを押す。

 その途端、変化が訪れた。上から順に奏の全身が光に包まれ、そしてすぐに見えなくなる。あまりの眩しさにネフシュタンの少女は目を腕で覆い隠して目を守る。

 少しして光は収まり、やっとの事で目を開けた少女。一体何が起きたのか確認すべく、前方を見やるが…。そこに立っていたのは奏ではなかった。

 

「───ようやくだ。待たせたなぁッ!!」

 

 赤と青のツートンカラーに、銀のラインが走る肉体。肩から胸にかけて装着された銀色のプロテクターに青いマントを羽織り、プロテクターの中心で輝く水色のランプ。頭部には二対の宇宙ブーメラン『ゼロスラッガー』を備えた、鋭い目付きの巨人。

 変身者である奏とほぼ同じ身長となって登場した巨人こそ、二年前の惨劇にて奏を救った張本人。ウルトラマンゼロが今、降り立った。

 

「さぁ、ネフシュタンとやらだったか。俺との第二ラウンドと行こうぜ? まだまだいけるよな?」

 

 ウルトラゼロランス……ではなく奏のアームドギアである槍をその手に構えたウルトラマンゼロはネフシュタンの少女を挑発する。

 言われなくても、といった様子で怒りを顕にして鞭を地面へと叩きつけるネフシュタンの少女を前にしても尚、余裕がある素振りを見せるゼロ。今ここに、完全聖遺物を纏う少女と光の国の若き最強戦士であるウルトラマンゼロの第二ラウンドが幕を開ける。




妙に筆が進んで調子に乗ってたらかけ、た…( ゚ཫ ゚)ゴフッ
11話という長い時を経てやっと出陣です、ゼロ師匠。しかもちゃっかり奏さんのアームドギア借りてるという…

という訳で、次回はゼロ師匠の初戦闘シーンからお届けします。次回もお楽しみに、それでは(・ω・)ノシ


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#13 少女の想い

やっぱ文才無いとキツい。鍛えなきゃなぁ…


 ネフシュタンの少女と相対する、ウルトラマンゼロ。ネフシュタンの少女が振るう刃の鞭が襲い来るが、それを余裕をもって躱して二、三回バク転した後に地を蹴り砕き、一気に肉薄。槍による一撃を喰らわせ、怯んだ隙に先程の仕返しだと言わんばかりの炎を纏わせた回し蹴りを放つ。

 流石にそれは避けられたものの、追撃として額のビームランプから緑色の光線『エメリウムスラッシュ』を威力を大幅に弱めて放った。それは少女の顔を守るように展開されているバイザーに命中し、バイザーの大部分が砕ける。それにより少女の顔が一部顕になり、それを見た俺は一瞬だけ手を止める。

 

(……こいつ、カナデやツバサより年端もいかねぇガキじゃねぇか。こんな奴がネフシュタンとかいう鎧を身に纏ってんのか!?)

 

 ()()ツヴァイウィングの猛攻すら凌ぐ、完全聖遺物を纏った少女。鎧とバイザーのせいで歳が分からなかったが、少女の顔を見てやっと分かった。

 おそらく少女は響とあまり変わらないか響より一個上の歳。そんな少女が到底似つかわしくない鎧を纏い、誰かの指示によって動いている。 少女にこんな事をさせる奴は相当な外道と見ていいだろう。

 

「─────はっ、戦闘中に考え事とは……余裕かましてんじゃねぇッ!」

 

 少女について考えを巡らせていたが、少女は先程と同じように鞭を振るって高出力のエネルギー弾を投擲する技『NIRVANA GEDON』を俺に向けて放っていた。

 即座に思考を断ち切って咄嗟にゼロマントで防御に回るが、防御が一瞬間に合わずにエネルギー弾は左腕に命中。()()()()()()大した痛みではないのだが、今回は何処か事情が違う。

 

(つっ……この痛み、さっきと同じだ。痛みが通常時より増してやがる…)

 

 以前、ウルティメイトブレスレットそのものが奏の協力によって何らかの力で封じられている事を知り、とある仮説を立てていた。無論、聖遺物に関してだ。

 聖遺物に関しては了子による講座を聞いていたが、あくまでも聖遺物全般の講座であり、個別の聖遺物に関する事を聞いた訳ではない。その為、あくまでも己の立てた仮説に過ぎないのだが、その仮説もあながち間違いでは無さそうだ。そんな俺を心配した奏が声を掛ける。

 

『ゼロ、身体の方は大丈夫なのか…?』

 

「ん、嗚呼。このくらい平気だぜ? だが、ちょっとばかし厄介な事があってな…」

 

『厄介って…一体何があったんだよ、ゼロ』

 

 ネフシュタンの少女の事と自身で立てた仮説の事を話し、後で聖遺物の事について聞かせてほしいと頼み込む。聖遺物についてはすぐに了承を得られた為それでよしとするが、問題はネフシュタンの少女の方だ。

 ネフシュタンの鎧の力は先程の奏と翼の合体技によって手痛い反撃を喰らったにも関わらず、その傷が癒えていく程に強いものだという事を目の当たりにした。しかし、その後が問題といっていい。

 傷が治っていく時、小さく呻く声が少女の方から聞こえてきたのだ。おそらくは、あの鎧は装着者の傷を治す手前、傷を埋めるように装着者を蝕む性質を持っていると断言していい。つまり、これ以上傷を付けると少女自体の命も危ういという事に他ならない。

 

「……これ以上は不味い。だが、なぁ…」

 

 俺が持つ必殺技は一部を除いて全てがまさに必殺の威力を有する。一応手加減して放つ事も可能だが、今の少女には先程放った『エメリウムスラッシュ』以外だと致命傷を与えかねない。

 とはいえ、ネフシュタンの少女は依然として止まる気配が無い上に此方も余力があるとは言えない。かといって排除といった物騒な手段を取る気にもなれないのも確か。響が寄り添おうとしていた少女を、その命を。俺が奪う訳にはいかない。仮にそんな事をしたら『ウルトラマン』の名を穢す事になる。

 

 ───だからこそ、力の差を見せつける必要があった。

 

 手にしていた槍を地に突き刺し、ウルトラ念力で頭部に装着されている宇宙ブーメラン『ゼロスラッガー』を操り、少女に向けて投擲。対する少女はそれを迎え撃つように刃の鞭を振るうも、ゼロスラッガーは光のエネルギーを蓄積しており、単体で強大な切断力を生む。

 少女の振るう鞭はゼロスラッガーによって切断され、鎧の一部を砕き、少女の顔のすぐ横を通過する。その際に頬を少し切ったのか、少女の頬に出来た傷口からは鮮血が流れ落ちていた。

 

「……ネフシュタン、とかいったか。今は退け。これ以上は戦っても無意味だろ」

 

 戻ってきたゼロスラッガーを手に、その切先を向けて冷徹に、一切の感情を入れずにそう告げる。これで少女がどう動くか確かめたかった。これ以上の交戦は無意味と察し、撤退するならそれでよしとしたかったのだ。だが───

 

「ふざ……っけんな! テメェみたいなやつがいるから、力を持つ奴らがいるから!! 世界から争いがなくならねぇんだよッ!!」

 

 ───少女が選んだのは、撤退では無かった。

 

「テメェらが力を振るって、周りも何も見ずに戦うせいだ!! だから、だからあたしが!! 力を持ってるやつを、全部ぶっ潰さなきゃいけないんだよ!!」

 

 砕けたバイザーの奥に隠れていた少女の顔。その表情は今にも泣き出しそうであり、それでも、力を持つ存在に向けて糾弾する。

 理屈や理性すら凌ぐ激情に駆られた少女は心の内に秘めた想いを怒りという感情に乗せて吐き出し、俺にぶつけていく。

 

(───嗚呼、そういう事か)

 

 それを聞いた俺は、納得した。ネフシュタンの鎧を纏っている少女は心の底から『平和』を願っているのだと。『世界』という少女にとっては大きすぎるものに絶望し、それでも『希望』という、人なら誰でも抱き、曖昧なものを諦めきれなかったのだと。

 あまりにも純粋で優しい心を持つ少女の心を誰かが利用し、その心を歪めた結果、ここまで捻じくれてしまったのだろう。少女はその果てにネフシュタンの鎧という、手に余り過ぎる力を手にしてしまったと考えていい。

 少女の心象を理解し、毒気が抜け落ちた俺はゼロスラッガーの切先を降ろし、頭部に戻す。それを見ても尚、少女が一度吐き出した想いと怒りは収まる事を知らない。怒りのままに斬られた鞭を振るい、先程同様のエネルギー弾を放つ。それを前にした俺は…

 

「───それでもな、戦わなければならないんだよ。()()()()()()としてな」

 

 地に突き刺していた槍を抜き放ち、エネルギー弾を一刀両断する。二つに分かたれたエネルギー弾は左右に飛び、地面に着弾した。着弾時の轟音が辺りに轟く。

 少女にとってはさっきのは渾身の一発だったのだろう。それが防がれた、という事実を受け入れられずにその場から動けなくなっている少女に向けて、俺はそう告げた。

 少女の言う事は間違いではない。ネフシュタンの鎧に限らず、大きな力の暗い側面からは目を背ける訳にはいかない。そんな事は決して許されない事だ。生まれた時からウルトラマンとして、強大な力を持って存在する俺だからこそ、ネフシュタンの鎧という力を手にしなければならなかった少女の想いを分からなくちゃいけない。

 プロテクターの中心に輝くカラータイマーが赤く点滅し始め、時間が迫っている事を音と共に知らせるが、せめて少女にはこの事を伝えねばならなかった。

 

「なん、でだよ…ッ!」

 

 エネルギー弾は効かないと判断し、我武者羅に鞭を振るう少女。それをいなし、避け、弾き、少しずつ少女に歩み寄る。そして、少女の目の前に来た俺は片膝をつき、目線を合わせた上で告げた。

 

「……決まってんだろ。力は奪う為にあるもんじゃねぇ、()()()()()()。俺には、守るべきものがある。だから、この力を振るうんだ」

 

 力強く、ではなく。感情のままに叫ぶ訳でもなく。ただ静かに、厳かに。いつもの強気な声ではない、なんとも俺らしくない声で。

 この身に宿るはかつての戦友から受け継いだ、前に進む太陽(コロナ)の力と守り抜く(ルナ)の力。この心に宿るは未だ色褪せぬ想い。それ等に誓って今までやってきた。

 ───だから。その力と想いを裏切るような真似は出来ない。もし、仮にそんな事をしたら。俺は親父にも、隊長にも、そして、今まで共闘してきた仲間やウルトラの父や母、キングを含めたウルトラ族に顔向けが出来なくなる。

 

「……んだよ、それ…。意味分かんねぇ……」

 

 だが、俺の想いを込めた一言は少女には伝わらなかったようだ。だが、少女の表情には変化があった。怒りと悲しみで一杯だった表情は今、困惑に満ちているように見える。

 俺を()ではない何かを見るような瞳で見つめる少女。しかし、ネフシュタンの鎧による肉体への侵食が進み過ぎている事を再確認した俺は少女を救う為、最終手段に出る事にした。

 

 ───輝きのゼロ。

 

 カラータイマーを中心に変化し、金と銀のツートンカラーとなった肉体、点滅を繰り返すカラータイマーは五角形のシャイニングエナジーコアに変わり、ウルティメイトブレスレットは一体化。

 神々しい光を放つその姿こそ、俺が持つ潜在能力を解放した姿。その名をシャイニングウルトラマンゼロ。その姿となった俺は時間操作能力(シャイニングスタードライヴ)を少女に向けて使う。

 四次元空間を強引に脱出する時とは違い、人間一人に対して使うという、おそらくは初めての試み。昔と違って今でこそこの力を少しずつ使いこなせているとはいえ、身体にかかる負担は相当なもの。その上、変身者である奏にも影響が及ばないようにしなければならない。

 

 正直言うとキツいなんてものじゃない。だが、ここでやらねばこの少女の命が危うい。自分には少女を救う力がある。だから実行へと移した。

 

「……悪い、カナデ。少し休むわ…」

 

 少女の傷が、聖遺物の侵食が元に戻っていくのを確認した俺はその一言を最後に、意識は闇へと沈んでいった。

 

 

 ◇

 

 

 気づけば、ゼロではなくアタシがその場に立っていた。ネフシュタンの少女は目の前に居らず、翼から聞いた話では、ネフシュタンの少女は撤退していったらしい。

 一体何があったのか、アタシの代わりにネフシュタンの少女と相対していた筈のゼロに問いかけてみても返事は返ってこない。アタシの内に居る事は確かなのに、当の本人は何も言わずに沈黙を保ち続けている。

 

(……一体何があって、どうしたんだよ。ゼロ…)

 

 二課の面々がネフシュタンの少女の行方を探す中、アタシは未だに反応を示さないゼロの事が気がかりで仕方なかった。他でもない、ゼロの相棒としてだ。




力で強引に、とも考えたんですけど、それは流石にゼロさんらしくないですし、ネフシュタンの少女改めクリスちゃんとの和解は原作通りが一番かなって。

次こそ、ゼット達の出番書ければ……いいかな…
という訳でお読みいただきありがとうございました(・ω・)ノシ


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#14 激闘の後、その裏側

やっとまとまった…ツラヒ
他の作者様が羨ましいと思う今日この頃…()

後、もひとつ思いついて勢いで書いた新規小説の方もよろしくお願いいたしますね(´・ω・`)

少しだけ加筆修正しました。ガバがあって申し訳ございません…


 ───あの後、あたしはネフシュタンの鎧を纏ったまま、フィーネの元に帰ってきた。世間の人気者である彼奴(天羽奏)が謎のサングラスを目に当てたかと思えば赤と青のツートンカラーに銀のラインが入った肉体に銀のプロテクターを付け、蒼いマントを羽織った謎の存在へと姿を変えた。

 それだけじゃない。融合症例の傍に居た名も知らぬ男が突如姿を消したかと思えば、濃紺を基調とした肉体に複雑な形状の模様の鎧を纏ったつり目が目立つ謎の存在へと姿を変えていたのだ。

 

「───くそっ…一体なんなんだよ、彼奴ら…ッ!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、壁に拳を叩きつけてヒビを入れた後、あたしはネフシュタンの鎧を纏った姿から元の姿へと戻る。不思議と、ネフシュタンの鎧の侵食はまるで最初から無かったかのように自分の身体に侵食していなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、そんな曖昧な説明になるが、それじゃないと到底不可能な出来事だ。それだけじゃない。あの謎の存在達は明らかにあたしより強かった。

 

「あんなの、フィーネからも聞いてねぇ…なんなんだよ…彼奴ら……」

 

 融合症例ですら苦戦していたノイズの大群を一つの技のみで一掃した、濃紺を基調とした肉体に複雑な形状の模様の鎧を纏ったつり目が目立つ謎の存在。

 自分と互角かそれ以上の戦闘力しかないと思っていたら、明らかに手加減されていた事を知った、赤と青のツートンカラーに銀のラインが入った肉体の上半身に銀のプロテクターを付け、蒼いマントを羽織った謎の存在。

 完全聖遺物(ネフシュタン)を纏っていても勝てない相手だと悟ったのはこれが初めてだろう。融合症例を連れて帰る事も、鏑木とかいう男を連れて帰る事も出来ずにおめおめと逃げ帰ってきた形となったあたしにフィーネは明らかに苛立ちを隠しきれていなかったようで、帰ってきて早々に装置へと拘束され、電流を流される罰を喰らった。

 電流が身体中を駆け巡る中、薄らとしか開けられない視界で見たフィーネは表向きでは苛立っていたものの、いつも引っかかっていた謎がやっと解けたような表情を浮かべていたように見えた気がした。

 

「……なぁ、フィーネ。何処か機嫌が良いように見えるけど、何かあったのか?」

 

「えぇ。永らく燻り続けていた謎が後一歩で解けそうなの。それ()()に関してはクリス、貴女が彼女達と戦ってくれていたおかげかしら」

 

「…………そうなのか。こんなあたしでもフィーネの役に、立てたんだな」

 

 やっとのことで罰から解放されたあたしは息を整えた後にフィーネにそう問う。フィーネの考えている事はあたしには難しい事ばかりだからそれ以上聞かないでおいたが、何処か見当はついていた。あたしが目撃した謎の存在二人。彼奴らがフィーネを悩ましていた原因で間違いないと。

 奴らとはいずれもう一度戦う事にはなるのだろうと考え、未だに痺れる身体を引き摺りながら、今日は食事を取ってすぐ眠りにつく事にした。あの忌々しい存在が脳裏に焼き付いて離れないが、それは一旦忘れる事にする。

 

 

 ◇

 

 

 ───ネフシュタンの鎧を纏う少女との戦いから一夜が明け、あれからずっと一言も発さずに沈黙を保ち続けていたウルトラマンゼロは今日の昼を過ぎた辺りにやっとアタシに声をかけた。

 最初に聞きたかったのは、何故あの時黙り込んだままだったのかという事。すると、ゼロは少しの沈黙の後にネフシュタンの少女との戦いの中で分かった事を一字一句間違える事なく話し始める。

 

『……彼奴は、完全聖遺物を纏っているとはいえ一人の人間には変わらない。彼奴も、俺が守るべき存在って分かった時には手加減しなきゃならなかった。それに、彼奴の心を動かす事が出来るのは俺じゃねぇ、ヒビキだと俺は思う』

 

「……え、アタシでも翼でもなく、響なの? ゼロ、それはなんでだ?」

 

『彼奴の心を動かすには彼奴と同じ人間……それも、人の痛みを自分の痛みと捉えて受け止め、その上で彼奴に寄り添う人間じゃねぇと、彼奴の歪まされた心は元に戻らねぇと思った。そうすると、今の二課のメンバーの中ではヒビキが適任だろうな』

 

「……そう、なのか…」

 

 ゼロにそう言われ、昨夜の出来事を思い出す。あの時、アタシと翼はネフシュタンの少女と刃を交えようとした時、響はネフシュタンの少女とアタシ達の戦いを止めようとしていた。

 ネフシュタンの鎧は、アタシ達の落ち度が原因で盗られたもの。それを纏った少女が目の前に現れたのだからアタシも翼も思考や判断がそれ一色になるのも仕方ないとは思う。

 しかし、それでも響は少女に寄り添おうとして、あの場で四苦八苦していたのだろう。言葉を介さない動物とは違い、アタシも翼も、あのネフシュタンの少女も言葉を話せる人間だから。

 

『……それに、俺がこの時間まで一言も話せなかったのはあの時俺が時間を弄った反動だからよ』

 

「─────えっ? それ……ど、どういう事だよッ! ゼロの力については色々聞いていたけど、アタシ、そこまでは聞いてないぞッ!?」

 

『まぁ待てって。それについては今から話すからさ』

 

 先程のシリアスな話から一転し、とんでもない一言がゼロの口から語られる。あの時、ネフシュタンの少女との一戦にて鎧の性質が少女の命を蝕んでいる事に気づいたゼロは、ウルティメイトブレスレットが使えなくてもなれる唯一の姿『シャイニングウルトラマンゼロ』に変身したようだ。

 その姿となったゼロは時間操作能力を駆使する事が可能で、その力を以てネフシュタンの少女の時間を弄り、侵食を食い止めただけでなく侵食が進む前の状態にまで戻した。だが、その力はゼロ自身に相当な負荷をかける為に多用は出来ないらしい。

 だが、自分が救える命を見捨てる事をせず、アタシにもその負担がかからないように配慮しながら時間操作を行い、少女の侵食を元に戻した後は糸が切れるように意識が闇に沈んでいったらしい。あの時、気づけばアタシ一人でぽつんと立っていた事に首を傾げていたが、それで納得がいった。

 

「……嗚呼、なるほどね。だからあの時ゼロは返事しなかったのか」

 

『そういうこった。まぁ……カナデ達に余計な心配かけた事は、悪いと思ってるよ』

 

「そりゃあ……その力って時間そのものに干渉してるんだろ? 仕方ないよ。旦那達には後でアタシから説明しておくからさ」

 

 しれっととんでもない事をやり遂げているゼロに感心しつつ、ゼロがある疑問をアタシに聞いてきた。ウルティメイトブレスレットそのものの力が封じられている件に関してだ。ウルティメイトブレスレットが使えない一番の原因は聖遺物が関連しているんじゃないか、と。その際に聖遺物について、特にアタシと響が纏うシンフォギアの元となっている聖遺物『ガングニール』について詳しく教えてほしいと頼まれていた事を思い出した。

 了子さんの受け売りにはなるが、ゼロに説明すべくガングニールについて話し始める。ガングニールは、一度投げれば必ず標的を貫き、自動的に所有者の元へ戻るとされる、北欧神話の主神オーディンが振るう神槍。その穂先の欠片を元に作成されたのがアタシと響の纏うシンフォギア。

 そこまで話すと、ゼロは自然と考え込むような声を上げていた。まだ何か気になる点があるのか、と疑問を投げかけてみる。

 

『嗚呼。ガングニールが北欧神話の神の武器だって事は分かったんだが、シンフォギアの元になるくらいの力を秘めた聖遺物だ。流石にそれだけじゃねぇだろ?』

 

「……鋭いな、ゼロ。でも、それ以上の事はまだ謎なんだよ。聖遺物は異端技術(ブラックアート)の結晶だからまだまだ研究は進められていて、少しずつ分かってきている事もあるけど未解明の部分もまだ多いんだーって、前に了子さんがボヤくように呟いていたし」

 

『……なるほどな。ガングニールを含めた聖遺物に秘められた力諸々に関しては今後の研究結果に期待、って事か』

 

「そうなる。それで、どうなんだ? ゼロが気になってた事は全部伝えたと思うし、ゼロの疑問は解決したのかが気になるんだけど……」

 

『……嗚呼、大丈夫だ。ブレスレット(コイツ)が使えない理由を俺なりにいくら考えても何も分からねぇし、四苦八苦してたが、カナデのおかげでようやく合点がいったような気がするぜ』

 

 合点がいったとはどういう事だろうか、と聞く前にゼロは語り始める。ゼロが身につけているウルティメイトブレスレットは、ウルトラマンノアから授けられたバラージの盾、後のウルティメイトイージスが変形したブレスレット。つまり、ウルティメイトブレスレットはノアの力の一端という事となる。

 ウルトラマンノアは『神』として崇められていてもおかしくない存在である為、ノアの力がガングニールに秘められた、まだ解明されていない謎の力によって無力化されている状況下にあるウルティメイトブレスレットはある種の奇跡が起きない限りは使えないとみていい、とゼロは語った。

 

「……そうなのか。なんか、ごめんな…」

 

 それを聞いていたアタシは少なくとも責任を感じた。つまり、ゼロはアタシの命を助けたばかりに本来の力を発揮出来ないという事に他ならないからだ。そう思ったら自然と謝罪の一言が口から漏れた。

 

『……ん? 急に謝るなんてどうしたよ? 前も言ったかもしれねぇが、こういうのはよくある事だし別に気にしちゃいねぇから謝らなくても大丈夫だぜ? カナデ』

 

「そう、か? ゼロが言うならそうするけど。……なぁ、あの時からずっと思ってた事なんだけどさ、優しいんだな。ゼロって」

 

『………………………ん、まぁな』

 

 微妙な間の後に、生まれた時から超人としての力を有していた俺には人の心なんて分かりやしないんだがな、とゼロが呟いた気がしたが、その一言は気のせいだと思う事にする。

 それはそれとして、長らく話し込んでいたせいか休憩時間はそろそろ終わりを迎えようとしていた。一旦仕事に集中すべく、仕事の意識へと切り替えたアタシは午後の仕事に向かう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ───時は遡り、ネフシュタンの少女と二課所属の装者達が死闘を繰り広げていた頃の事。ウルトラマンゼットと一体化している小日向未来は、大切な親友である響がいつまで経っても帰ってこない事に疑問を抱いていた。

 思えば、ツヴァイウィングの新曲が収録されたCDが発売された日から今まで、響の様子は何処かおかしかった。いつもなら放課後は私と一緒に帰っていた筈なのに、時々慌てた様子で先に帰っててと言い残して何処かへと行ってしまう事が多々あった。

 CDの発売日に響と別れ、一人で寮へと帰ろうとした時に不幸にもノイズに遭遇し、私は一度死んだ。しかし、幸か不幸かウルトラマンゼットと名乗る謎の巨人と一体化する事で炭化していく身体と失われる筈だった命を繋ぎ止め、それからは普通に日常を謳歌出来ている。

 だが、私が一度死んだ事やウルトラマンゼットの事は響に話していない。響を無駄に心配させる事はしたくなかった為である。

 

『……ミク。そんなに考え込んでどうかしたでございますか?』

 

「……えっ? あ、いえ。ちょっと、響の事が心配なだけですから。大丈夫ですよ、ゼットさん。心配してくれてありがとうございます」

 

『心配するのは当然でございますよ。それはそれとして、ヒビキ、というとあの少女でございますか。いつもミクと一緒に居る笑顔が絶えない元気な少女の……』

 

「はい、そうです。今日も帰りが遅くなるという事で、私だけ先に帰ってきてこうして待っているんですが……流石に遅すぎるなーって…」

 

 深く考え事をしていた為か、ゼットさんが心配して声をかけてきた。こういう時に誰か居てくれる事に少なからず感謝をし、ゼットさんとたわいない会話をしながら外と部屋を繋ぐ扉が勢いよく開けられるのを待ち続けた。

 しかし、響は上手く隠しているように思えるが、私は既に知っていた。響が見た事も無い鎧姿に変身し、認定災害のノイズと戦っていた事を。ツヴァイウィングの二人も響と似たような鎧を身に纏い、各々武器を手にしてノイズと戦っていた事を。

 

(あの事を聞いてもいいんだろうけど、どうせ響の事だから私を心配させまいと誤魔化すのが目に見えてるし……)

 

 そんな事を考えながら腰に取り付けられているメダルホルダーから三枚のメダルを手にする。これが各地に散らばっている事を改めて考えてしまい、人知れずため息が出てしまった。

 それから少し経って扉が勢いよく開けられ、外の空気と共に響が帰ってきた。まずは遅くなった事を叱る。それから夕ご飯にして、お風呂に入ってさっぱりした後はベッドに入るだけだったのだが……。

 

「あれ? 響、こんなの持ってたっけ…?」

 

 先にベッドに入った響のスリッパの足元に赤く縁取られた硬貨のようなものが二枚、転がっていた。気になって拾ってみると、私が持っているメダルと同じものだと分かった。

 私が持っているメダルに描かれている、ゼットさんのお師匠さんにあたる三人の巨人の横顔とは違い、シンプルなデザインの巨人の横顔と何処か機械的な印象を受ける巨人の横顔が描かれていた。取り敢えず後で響に聞いた後にゼットさんに聞いてみようと思った私は、響の隣に入り込んだ。その後すぐに眠気に襲われ、夢の世界へと旅立っていく。

 

 その時の私はまだ知らない。近い内に、再びゼットさんに変身して戦う事になる事を。ツヴァイウィングの二人と響の三人と戦ったネフシュタンの少女に思わぬ形で遭遇する事を。そして、ゼットさんのお師匠さんと先輩に出会う事になる事を。




遅くなって申し訳ない(ドゲザッ)
次こそ、早く投稿致しますので…(´・ω・`)

それでは、お読みいただきありがとうございました。
また次回(・ω・)ノシ


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#15 デュランダル護送作戦

近々もう一つ増やしてみようかな…なんて思ってたり


 ネフシュタンの鎧を纏った少女との死闘から数日が過ぎた。皆の傷は大小様々だったが全員回復し、その間、アタシ達装者とウルトラマンジードである朝倉リクは各々特訓を重ねていた。

 響は本格的に弦十郎の旦那に弟子入りし、旦那と一緒に映画を見ながら、旦那のよく観る映画の登場人物の戦い方を参考に自己研鑽を続けている。ウルトラマンとして各地の宇宙を飛び回り、日々戦いを続けていたリクも同様に旦那に修行をつけてもらっているようだ。

 対するアタシと翼もネフシュタンの少女と善戦はしたものの結果的には手も足も出ずに負けた事を悔しく思い、その思いを胸にツヴァイウィングとしての仕事をこなす傍ら、ゼロに無茶を承知で頼み込み、ゼロがそれに応えてアタシ達の為にと用意してくれた特別な修行を毎日こなしている。

 

 ───そして今日。旦那とゼロが会話を交わし、そろそろ対人戦もこなした方がいいだろうという話になった。アタシは同じガングニールの装者である響と、翼はリクとそれぞれ模擬戦を行う事となる。

 アタシはともかく、翼はリクと模擬戦。翼は最初、生身の人間同然であるリクに剣先を向ける事に躊躇っていたが、翼に本気を出してもらいたいという事でリクはジードへ変身する。人間の姿である朝倉リクではなく超人(ウルトラマン)としての朝倉リクならば、容姿を気にせずに戦える筈だとリクなりに考えた結果だった。

 

「それが、ウルトラマンジード。朝倉のもう一つの姿、か。……だが、本当にいいのか? 朝倉」

 

「はい。僕もゼロと同じウルトラマンですから身体の方は丈夫ですし、模擬戦なのでちゃんと手加減はします。なので、遠慮せずに来てください。翼さん」

 

「いや、しかし……だが、朝倉がそこまで言うのなら…」

 

 それでも尚躊躇っていた翼だったが、リクの一言で覚悟を決めたのか、聖詠を紡ぎ、シンフォギアを纏う。それを見たリク元いジードも、何処に収納していたのかウルトラゼットライザーを取り出して構える。

 天羽々斬を纏う翼とウルトラマンジードへと変身したリク。両者が得物を構えた瞬間にシュミレーションルームの空気が一変して緊迫したものとなり、一切の他言無用となる。

 最初に均衡を破ったのは翼だった。地を蹴り、一気に肉薄し、手にした刀を上段から振り下ろす。対するジードはゼットライザーの刃部分でそれを受け止め、自由になっている左腕から伸びている金色の刃から斬撃を繰り出す。

 不意打ちに近いそれを喰らい、一旦体制を立て直す為にジードの持つゼットライザーを足場に高く跳躍した翼は刀を巨大化させて放つ『蒼ノ一閃』を放った。巨大な刀が眼前に迫る中、ジードは避ける事なく受け止める。翼の押し込む力とジードの受け止める力が拮抗する。

 

「───はぁッ!!」

 

「───ッ!」

 

 だが、流石はウルトラマンゼロが奏の無茶振りに応えて用意したツヴァイウィング専用の特別な修行を、弱音を上げる事なく黙々とこなしていた翼。変身前の朝倉リクと同等の身長の背丈とはいえゼロと同じウルトラ戦士であるウルトラマンジードが相手であっても全く力負けする事なく戦えている。

 リクが手加減しているというのも相まっているのかもしれないが、翼の放った渾身の『蒼ノ一閃』はジードに怯ませる程の手傷を負わせた。それにより、ジードの体制が崩れる事となる。

 

「好機ッ!」

 

 相手の体制が崩れた所を見て勢いよく着地した翼は再び地を蹴り、勢いそのままに逆立ち。同時に横回転し、それと同時に脚部のブレードが展開。翼自身が刃の独楽となり襲いかかる『逆羅刹』。それをジードに向けて放つ。

 蒼ノ一閃により手傷を負わされ、多少体制を崩されたジード。だが、ベリアルの息子という一生付いて回る肩書きを背負うウルトラ戦士である彼もまた、諦める事はしない。例えそれが模擬戦であろうとも。

 

「───ギャラクシーカッティングッ!!

 

 双方の腕から伸びる金色の刃を更に鋭く、長く伸ばす。本来であればその刃で連続で相手を切り裂くのだが、今回は違った。ジードクローを使用して繰り出す技の一つ『コークスクリュージャミング』を応用し、回転して襲いかかる翼に対抗すべく、ジードも回転する。翼が蒼の刃の独楽とすれば、ジードは金色の刃の独楽。間もなくして双方がぶつかり、火花を散らす。

 時間にして約二分。既に回転は弱まり、鍔迫り合いにもつれ込んだ双方は一旦鍔迫り合いを止めて互いに後方へと飛び下がり、各々体制を整える。翼は最初の斬撃以外目立った傷は見受けられないが、ジードは違った。先程まで水色に輝いていた胸にあるカラータイマーが赤く明滅を繰り返すようになっていたのだ。

 

 ウルトラマンが地球上で活動出来る時間は僅か三分。だが、三分とはいえエコな戦い方を心掛ければ活動時間は伸びる反面、立て続けに大打撃を受けたりマン兄さんでいうスペシウム光線のような大技を連発したり、精神が乱れたりすれば縮むのだ。

 今回は蒼ノ一閃と逆羅刹という翼の持つ大技に真正面から立ち向かい、大打撃を受けた為に活動時間が削られたと見ていいだろう。赤く明滅を繰り返しながら音が鳴るカラータイマーを見てリクは呟いた。

 

「……そろそろ時間ですね」

 

「そう、なのか?」

 

「はい。この姿でいられるのも時間制限がありますから。ありがとうございました、翼さん」

 

 そう言うとジードの身体は淡い光となって大気中に霧散し、リクの姿へと戻る。本来巨大化して戦う所を背丈を縮ませ、力を制限した上での模擬戦だった為か、相当消耗していたらしくリクは片膝を付きそうになった。しかし、すんでのところで誰かに支えられる。先程まで戦っていた翼だ。

 翼に自分を支えてくれた事を感謝をしたリクは、そのまま入れ違いでシュミレーションルームへと入ってきた奏と響にお疲れ様の一言をかけられて退出し、二人の模擬戦を観戦する事となった。

 そして、お次は奏と響の模擬戦である。

 

「……よっし。二人があんなに熱い戦いを見せてくれたんだ、こっちもやるよ。準備はいいかい、響」

 

「は、はいッ! 奏さん、よろしくお願いしますッ!」

 

 向かい合うように立つ二人。既に気合い十分、といった様子の響は聖句を紡ぎ、シンフォギアを纏う。対する奏も気合いを入れ、同様に聖句を紡いでシンフォギアを纏った。

 奏や翼とは違ってまだアームドギアを出せない響だが、弦十郎の元で修行を積んだ成果を奏や他の皆に示すべく、構える。対する奏もまた、翼と共に修行を積んだ成果を見せるべく自身のアームドギアであるガングニールの槍を構えた。

 

「───行くよッ!」

 

 響が身構えるのを見た奏は地を蹴り、一気に距離を詰める。そのまま槍を突き出すと見せかけて槍を地に突き立て高く跳躍し、上空からウルトラマンゼロが放つ蹴り並に鋭い蹴りを放つ。

 それを読んでいたのか、ボクサーが相手の猛攻を防ぐ為にやる腕のガードで防いだ響。そしてすぐにガードを解き、得意のパンチで反撃を試みる響だったが、そこはシンフォギア装者としての経験の差だろうか。咄嗟の判断で奏は槍を盾代わりにし、響の拳を防いだ。

 それを皮切りに、一進一退の攻防が繰り広げられる。響の猛攻で響が優勢になると思えば、逆に奏が手数の多さで優勢となったりと一瞬の内に目まぐるしく攻防が変わっていく。先程の翼とジードの攻防よりも激しい一騎打ちに、シュミレーションルームの外で見ていた二課の面々は驚きを隠せずにいた。

 

『(……カナデに喰らいつける程に強くなりやがったか、ヒビキ。おそらくヒビキ自身も気づかない、身体の奥底に眠っていた類まれなる才能が旦那の修行によって開花したって感じか。流石の俺も、これには圧巻の一言だぜ)』

 

 そしてそれは奏の内に居るウルトラマンゼロも同様に、響の成長ぶりに驚きを隠せない様子だった。当初は手にした力の大きさに戸惑いを隠せず、誰の目から見ても危なっかしくおぼつかない戦いぶりだったのが、今では一端の戦士のそれに近い戦いぶりである。

 更に言えば、響の成長は今も尚止まる事なく続いているという事だろうか。勿論、奏もゼロの修行によって前より成長はしている。だが、それ以上に響の成長は早かった。

 

「……まさかここまで、とはな」

 

 弦十郎が感嘆の一言を呟くと同時に、そろそろ息が上がってきたのか、響と奏は共に肩で息をし始める。あれだけの猛攻を互いにしていたのだ、無理もないだろう。

 今日はここまでという事となり、互いにシンフォギアを解除し、元の姿に戻る。決着はつかなかったが、コレはお互いの修行の成果を見せる模擬戦。皆に修行の成果は十分に見せられただろう。

 二人がシュミレーションルームから出てくるのを見計らい、あおいは用意していたスポーツドリンクを二人に手渡す。翼とリクも、スポーツドリンクを口にしていた。乾いた喉を潤して一息ついた奏は響に対し、感嘆の一言を呟く。

 

「数日の間にここまで腕を上げるとはね…。うかうかしてたらあっという間に追い抜かれるかもしれないし、アタシも負けてられないな」

 

「いえいえ、私なんてまだまだですよ。師匠のお陰……というのもありますが、奏さんや翼さんとは違って私はまだアームドギアを出せていませんし…」

 

 あはは、と苦笑いを浮かべる響。そんな二人の会話を聞いていた弦十郎は二人とリク、翼の四人を賞賛する声をかけた。

 少ししてスポーツドリンクを飲み終わった響だが、いつも目にする二課のメンバーが()()()()()()事に気づき、弦十郎に質問をする。

 

「あの、師匠。了子さんはどこへ行ったんでしょうか? 先程から、というか翼さん達が模擬戦をする前から姿が見えないんですが……」

 

「……ん? 嗚呼、了子なら政府のお偉いさんに呼び出されてな。本部の安全性、および防衛システムについての説明義務を果たしに行っている。時間的にもうすぐ戻る頃だと思うんだが…」

 

 …と、弦十郎が了子の行先を響に伝えた時である。

 

「し、司令ッ! 緊急通信ですッ!」

 

 二課のオペレーターの一人、藤尭朔也が弦十郎の言葉を遮るように声を荒らげた。何事、と思った弦十郎は藤尭に通信の内容を報告するように告げる。それを聞いた弦十郎を含めた二課のメンバーは驚きの表情を浮かべる事となった。

 朔也から報告された内容とは、了子が会う予定だった人物である広木防衛大臣が何者かに殺害されたというものだった。この事を了子自身も知っているのか、と弦十郎は了子に連絡を取ろうにも何故か繋がらない。一体何処で何をしているのか、と皆が思っていた矢先。

 

「た~いへん長らくお待たせしました~。なに? そんなに寂しくさせちゃった?」

 

 今の二課を包む重い空気には到底似つかわしくないお気楽な声を出しながら、了子が二課へと帰ってきた。弦十郎が了子に通信に出なかった理由を問いただすと、通信機が壊れていただけだという。

 ひとまず了子は広木大臣のように事件に巻き込まれた訳ではない事に一同は肩を撫で下ろすも、事態は一刻を争う事には変わりない。

 私立リディアン音楽院、その地下に存在する二課を狙っているかのように頻発するノイズの出現報告。それを重く見た日本政府はそれを二課の地下《アビス》に保管している完全聖遺物《デュランダル》を強奪する目的の下で行われていると決定。

 二課本部の地下にデュランダルがある、と敵側にバレている為、これ以上デュランダルをアビスに保管する事は出来ないという事で、日本政府は二課にとある命令を下した。

 

「永田町最深部の特別電算室。通称『記憶の遺跡』と呼ばれているそこを二課の地下、アビスに代わる新たな保管場所としてデュランダルをそこへ運搬する。というのが、今回我々に与えられた任務だ」

 

 政府が下したのは完全聖遺物の運搬任務。だが、そんな危険を侵してまで移動させる必要があるのか、とゼロとリクは思った。デュランダルの所在が敵側に割れているのであれば、デュランダルを敢えて動かそうとせずに二課の地下に安置させておいた方が遥かに安全なのは変わりない。

 二課は日本政府にも秘密にしている存在であるウルトラマン、朝倉リクと奏と一体化しているウルトラマンゼロを含め、迎撃する戦力は十二分にある。例え此処を襲撃されても大丈夫なのでは、とゼロは思いもしたが、二課の上にあるのはリディアン音楽院。敵側は何としてもデュランダルを奪おうとする為に手段は選ばない筈。自分達ならともかく無関係の人達まで巻き込む訳にはいかなかったのだろう。

 その考えに至ったゼロは弦十郎を見やるが、弦十郎の顔がいつもより力が無いように見えた。

 

「という訳で、デュランダルの移送日時は明朝五時。詳細は今から配る資料に記載されているから、開始までに目を通しておいてね」

 

「いいか、作戦決行にあたり、あまり時間は残されていない。各自持ち場へついて準備を進めるようにッ!」

 

 了解ッ! という皆の息の合った一言と共に各自が準備を進める中、響達は手渡された資料に目を通しながら、予定時刻まで束の間の休息を取る事となる。

 そして作戦決行当日、決行時間十分前。二課では作戦の最終確認を含めたミーティングが行われていた。

 

 今回の任務はデュランダルを強奪しようとしている相手を攪乱する為、デュランダルを乗せた護送車と、それを護る護衛車を四台用意し、記憶の遺跡に一直線に向かうというもの。

 これには永田町へ向かう必要があるため、永田町に繋がる橋を使うが、橋には既に広木防衛大臣殺害の犯人を検挙するという名目の上で検問を配備している。つまり、一般人に被害を及ぼすことなく運搬任務を遂行出来るという事だ。

 

「これぞ、私考案の運搬作戦。名付けて……『天下の往来独り占め作戦』よッ!」

 

「……了子のネーミングセンス云々はよしとして、今回の作戦に当たり、道中デュランダルを奪うべくネフシュタンの少女やノイズによる妨害が予想される。その際はウルトラマンであるリク君と装者である響君達に足止めをお願いしたい」

 

 力を持たない常人(例外もいるが)には太刀打ち出来ない力を有する相手には、此方も似たような力を有する者をぶつければいい。それを受け持つのが装者の三人とリクを含めた四人だ。

 とはいえ、リクがウルトラマンに変身出来る時間は限られている。一応、リクはそのままの姿でもノイズと戦えるという事は二課のメンバーには周知の事実ではあるが、念の為という事でリクは弦十郎と共にヘリに乗り込み、異変を感知次第、上空からリクを出撃させる事となった。

 その他のメンバーの配置に関しては響は了子の駆る護送車に乗り、奏と翼の二人はバイクにて護衛車と共に護送車の護衛。残るメンバーは二課に待機し、現場に異常が無いかを確認する事となった。

 

 最終確認として何か質問が無いか確認し、司令室に居る皆から了承の声を聞いた弦十郎は頷いて右拳を天井に向けて高らかに突き上げる。

 

「さぁ、ミッション開始だッ!」

 

 弦十郎の一言により、『天下の往来独り占め作戦』が決行される事となった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 大切な親友の帰りがいつもにも増して遅い。その事に不安を覚えた未来はなんとなく嫌な予感を感じ取り、手早く着替えた後にまだ日が登っておらず、薄暗い外へと飛び出した。

 

『……ん? 珍しいですな、ミク。こんな朝早くからどうしたでございますか?』

 

 そんな未来の行動を不思議がったウルトラマンゼットはウルトラゼットライザー越しに未来に声をかける。

 

「ゼットさん……? いえ、なんとなく嫌な予感がしたんです。気の所為ならいいんですけど、響になにか起きるんじゃないのかなって…」

 

『なるほど。嵐の前の静けさ……という奴でございますね?』

 

「おそらく、そうだと思います」

 

『なら、向かうしかないでございますな』

 

「はい! 行きますよ、ゼットさん!」

 

 ゼットの一言に頷いた未来はゼットライザーとメダルホルダーがちゃんと手元にある事を確認した後、響が居るであろう方向へと駆け出した。

 

 ゼットがゼロとジードに再会する時は、近い。




次回辺りにギルバリス出そうかな?出せたらの話になるけども(´・ω・`)

後、ツヴァイウィングのお二人が行っていたゼロ直伝の修行はジープに追いかけられるようなあまりにも危険すぎる修行ではないので御安心ください()

それでは、又次回(・ω・)ノシ


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#16 作戦開始

評価が少し上がってる…嬉しい反面、余計に頑張らないとな……(´・ω・`)


 二課の本部を出発地点に、明朝五時にデュランダル護送任務は開始した。護送車と四台の護衛車、奏と翼の乗るバイクに弦十郎と朝倉リクが乗る上空のヘリ。

 永田町へ繋がる橋に差し掛かった頃まで、ノイズのノの字も見かけない。このまま上手く行けばいいのに、と思った響だったが、その甘い考えを捨てて警戒を怠らずに視線を動かす。

 

(まだ見かけない、か。だけど、ノイズはいつ出てきてもおかしくない。準備しておかなくちゃ…)

 

 ノイズに対抗出来るのが、自分を含めたシンフォギア装者とウルトラマンジードこと朝倉リク、奏と一体化しているウルトラマンゼロだけだ。そう思うと自然と気合いが入る。

 襲撃してくると思われるネフシュタンの少女を含め、そういった奴等からデュランダルを守るのが今回課せられた使命。故に一番重要な護送車に乗った響はいつ出てきてもいいように聖詠を紡ぐ準備をしていた。

 

「緊張、しているかしら?」

 

「え、あ、はい…」

 

 そんな響を心配したのか、了子は運転しながら響に声をかける。その時だ、通信機から弦十郎とリクの声が同時に聞こえてきたのは。

 

『了子(さん)ッ! ノイズの出現を確認した(しました)ッ!』

 

「…ッ! 早速来たわね…! そんなにデュランダル(コレ)がお望みという事かしら…ッ!」

 

 弦十郎達の報告の直後。護送車と護衛車の進路を塞ぐようにノイズが出現した。しかし、ノイズ達は上空から降り注ぐ光線によって瞬く間に蹴散らされていく。

 一体何事、と響が考える前に護送車の隣に何かが降り立った。最初に視界に入るのは水色のつり目。紛れもない、ウルトラマンジードに変身した朝倉リクである。

 

「り、リク君! 来てくれたんだッ!」

 

「お待たせ、響。了子さん、道は僕が切り拓きます! その隙に先へ行ってくださいッ!」

 

 そう言うとジードは力を溜めて咆哮を上げ、胸の前で円を描き、左足と共に両腕を後ろに下げて背後に不死鳥のようなオーラを形成。腕を横に広げたところから構えた右腕の肘に左の拳をあて、腕を横に広げたときに背後のオーラを収束させた光線を放つ。

 

『レッキングフェニックスッ!!』

 

 ジードが放った光線は進路上に出現したノイズの群れを横に薙ぎ払っていき、道を塞いでいたノイズを纏めて倒して護送車の道を強引に拓く。だが、その穴を塞ぐかのように援軍がやって来ていた。

 

『今だ了子くんッ! ジードが拓いてくれた道を突っ走るんだッ!!』

 

「言われなくてもそうするわよッ! 響ちゃん、危ないからしっかり掴まっててッ!」

 

「え、あ、は、はいッ!!」

 

 援軍のノイズとジードが交戦し、車一台通れる道を死守する。その道を了子の荒々しい運転で駆け抜ける護送車と、奏と翼の乗るバイクが突っ切って行く。その後を追いかけようとジードが取り逃したノイズ達が護送車に向かっていくが、それは遥か後方から飛んできた緑色の光線で蹴散らされていった。

 

(───え? 待てよ…今のは、エメリウム光線なのか……? でも、ゼロは奏さんと共に居るから翼さんと一緒に護送車を護衛しに向かっていった筈だし…だとすると、一体誰が?)

 

 突然飛んできた緑色の光線についてそんな事を考えるジードだったが、その謎は直ぐに解ける。程なくしてジードの隣に自分とほぼ同じ背丈の何者かが降り立ったのだ。下半身は赤、上半身は青。身体の大部分をメカニカルな装甲が覆い、額には緑のランプ。頭のトサカは三つで鋭い目付きの巨人。

 ───そう。ジードの隣に降り立った存在とは、ゼロより先に地球へやって来ていたウルトラマンゼット・アルファエッジだった。ゼットを見たジードは驚きを隠せずにいる。まさかこんな所で出会うとは思っていなかったからだ。

 

「───ゼ、ゼットッ!? どっ…どうして此処に居るの!?」

 

「え、その声……ジード先輩じゃないですかぁッ! ジード先輩こそ何故此処に居るんですかッ!? というか、いつ頃地球に来たんですか!? あ、もしかして師匠もお傍に居たりしますかッ!?」

 

「ちょ、ちょっとゼット!? 今は質問出来るようなそんな状況じゃあ……ない筈なんだけどなぁ…」

 

 そんなジードの反応はそっちのけでゼットは質問を立て続けに叩きつける。対するジードはというと、半ば呆れた様子で頬を掻いていた。いつも自分と話す時とは違って流暢に日本語を話すゼットを不思議に思った、ゼットと共に居る少女『小日向未来』はゼットに問いかける。

 

『あ、あの。ゼットさん。その巨人さん?は一体誰なんでしょうか……?』

 

「嗚呼、ミクは知らなかったでございますね。この御方はなぁ、ゼロ師匠の弟子でウルトラすごいオレの兄弟子! 兄弟子はなぁ、あのベリアルをぶっ倒して、M78星雲にその名を轟かせた超有名な───」

 

『え、と。あの、その辺りでもう大丈夫ですゼットさんッ! と、とにかく! ジードさん?はゼットさんの兄弟子で凄い御方なのはわかりましたから!』

 

「む、そうでございますか…」

 

 以前のゼロ師匠並に力説しようとしたゼットの言葉を慌てて遮った未来は改めてゼットの兄弟子ことジードを見やる。鋭いつり目に濃紺を基調とした肉体の上半身に複雑な形状の模様をした鎧を纏った姿。

 ジードを初めて見た人はその風貌から彼を悪役と言うだろう。だが、そう言われても仕方ないといった容姿をしているのがジードだ。しかし、ゼットが兄弟子と慕っている為優しい御方だと未来は察した。対するジードはゼットが誰と一体化しているのかが気になるようだが、そんな事を考える暇はなかった。

 

「……ッ! ゼット、構えて! 早くッ!」

 

「─────押忍ッ!」

 

 敵が襲来してきた事をいち早く感知したジードがゼットに知らせたと同時に敵の援軍と思わしきノイズの大軍が押し寄せてきていたのだ。ノイズはジードとゼットの二人を見つけると、ジリジリと距離を詰めていく。

 

「ゼット、聞きたい事は山ほどあるけど今は目の前の事に集中しよう! 協力して彼奴らを倒すぞッ!」

 

押忍ッ! くぅ〜ッ! 兄弟子との共闘……ウルトラ燃えてきたぁッ! ウルトラやってやるぜェッ!!」

 

 兄弟子と肩を並べて戦える事に喜びを噛み締めながら、宇宙拳法の構えを取るゼットと独特の構えを取るジード。それを合図にノイズの群れが大挙して襲いかかった。画して、二人のウルトラマン対ノイズの総力戦が開始される。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ゼットとジードがデュランダル護送車の元へノイズを行かせないようにしている頃。既にシンフォギアを纏っていた奏と翼が護送車より先行してノイズを倒し、車の進路を確保していた。

 進む途中で橋が破壊され、打ち上げられた瓦礫の雨を紙一重で潜り抜けていくと、前方に大量のノイズが見えた。しかし、異様に数が少ない。

 

「……なぁ、翼。気の所為だったらいいんだけど…なんか、ノイズの数が少なくないか?」

 

「そのようね。攻撃の手数と今目の前に居るノイズの数が合わないような……」

 

 翼が不思議に思った事を呟くと、二人の会話を聞いていたゼロは奏に自分の考えを伝える。

 

『おそらくは俺達に見えないように姿を消しているノイズが居るんだろ。数が合わないのと絶え間なく瓦礫が飛んでくるのはその為だと考えていい。迎撃するなら十分に気をつけろよ、カナデ』

 

「───嗚呼、分かってるッ! 翼、ノイズはアタシに任せてッ! 舵取りは任せたよッ!」

 

「勿論、任せてッ!」

 

 二人とゼロがそんな会話を交わす中も、車一台軽々と潰せそうな大きな瓦礫を荒々しい運転で躱していく護送車と護衛車、そして奏と翼が乗るバイク。

 奏がふと護送車の周りを見ると、最初は四台あった護衛車が今では一台か二台くらいしか走っていない。おそらくはあの瓦礫を避けきれずに潰されてしまったか、道を踏み外して橋の下へと落下してしまったかのどちらかだろう。

 運転手の命の無事を祈りつつ、先を急ぐ。橋の上に居るノイズは奏が大技で倒し、翼の運転で護送車を先導する中、弦十郎からの通信が入った。ノイズが攻撃を繰り返しているルートが分かったらしい。ノイズは下水道を通して此方に不可視の攻撃をしていたようだ。

 

『……なるほどな。そこまで計算してるとは、ノイズを操ってる奴は相当頭が切れる奴と見ていいだろうよ』

 

「旦那、なんとかならないかッ!?」

 

『そう言うと思って回避ルートをそちらのナビと奏君の通信機に転送した。確認したらその通りに向かってほしい!』

 

 弦十郎の言う通り、回避ルートが奏の通信機へと送られてきた。回避ルートの先にある目的地を見た奏は眉を顰める。

 目的地に設定されていたのは工場地帯だった。それこそ、一歩間違えでもしたら大惨事になりかねない場所を弦十郎は目的地に設定していたのだ。顔を顰めるのも致し方ないだろう。

 

「奏、叔父さまから送られてきた回避ルートの目的地はどうなの?」

 

「……少し、というか、かなりヤバい場所だ。でも、旦那が示してくれた目的地だし、行くしかないよ。翼、ルートは戦いながら知らせるからその通りに舵取りしてくれッ!」

 

「─────分かったッ!」

 

 時を同じくして了子もまた弦十郎が示したルートの目的地を見て眉を顰め、弦十郎に問いかけていた。

 

「弦十郎君、このルートはちょっとヤバいんじゃない? この先にある工場で万が一爆発でも起きたら、デュランダルは……」

 

『そんなのは百も承知ッ! ノイズが護送車を狙い撃ちにしているのは完全聖遺物のデュランダルを損壊させる事が無いように攻撃するよう、制御されている筈だ。敵の狙いがデュランダルの確保であるなら此方から敢えて危険な地域に滑り込み、敵の攻め手を封じるって算段よッ!』

 

「…………弦十郎君。もう一つ聞きたいのだけれど、勝算はあるのかしら?」

 

『ふっ……思いつきを数字で語れるものかよッ!』

 

 司令官にあるまじき言葉を通信越しに言う弦十郎。()()()()呆れてものが言えないだろう。だが、長い間『風鳴弦十郎』という男と関わってきた了子はそれでこそ彼だと思い、自然と笑みを零す。

 

「了解……弦十郎君を信じてあげるわッ!」

 

 橋を渡り終えるや否や、先行してノイズを倒して進路確保をしていた翼達のバイクをナビとして、了子はアクセルを強く踏み込んで一気に加速させ、一直線に工場地帯へと入っていく。

 工場地帯に入って直ぐに奏はゼロに辺りにノイズを含めて誰も居ないか探らせ、響も周囲にノイズが居ないかを集中して探す。少しして探り終わったのかゼロは終わった事を知らせ、奏はゼロに結果を聞く。

 

「ゼロ、どうだった? アタシ達以外に何か居たか?」

 

『いや、先程まで居たノイズは此処には居ねぇようだな。それに、人の気配はカナデとツバサ、ヒビキに了子以外は居ねぇな…』

 

「……なるほどね」

 

『しかし、だ。デュランダルを狙っている連中なのに此処には誰も配置させてねぇ。こういう場所は奇襲に最適な筈だ。なのに……何故だ? 何かを狙ってやがるのか……?』

 

 ゼロが敵が居ない事に疑問を抱いてその疑問を呟く反面、ノイズが追いかけて来てない事に喜びの声を上げる響。だが、そんな淡い期待は直ぐに打ち砕かれた。

 

「─────そうはさせるかよッ!」

 

 何処からともなくネフシュタンの少女と思われる声が響き渡る。次の瞬間、了子は響にしっかり掴まっている事を伝えた後に勢いよくハンドルを切った。

 ハンドルを切ったのがあまりにも急だったせいか、護送車は横転する。しかし、咄嗟の判断が幸をそうした。先程まで護送車が居た位置にネフシュタンの鎧の主武装である刃の鞭が叩きつけられ、地面に小さなクレーターを作り上げていたのだ。

 

「響ッ! 了子さんッ!」

 

 横転した車に奏と翼はバイクから降りて駆け寄る。少しして了子の助けを借りて響が出てきたが、背後から気配を感じて二人は振り返る。そこには、ネフシュタンの鎧を纏った少女が立っていた。

 

「……ネフシュタン。久しぶり、と言えばいいか」

 

 ネフシュタンを前に防人となった翼がアームドギアの切っ先を向け、言葉を紡ぐ。対するネフシュタンの少女はツヴァイウィングの二人を見ると明らかに機嫌を悪くし、苛立ちを示すように刃の鞭を地面に叩きつけた。

 

「チッ、まーたてめぇらかよ? 前回あたしに負けたってのに懲りねぇ奴等だな、ホント」

 

「お生憎様だな、ネフシュタン。こう見えてしつこさは負けてないんだよ。今度こそ、その鎧を返してもらうからな」

 

 ネフシュタンの少女と奏が相対する中、翼は響の方に振り返り、声をかける。

 

「立花、ネフシュタンは私達に任せてデュランダルを。早くッ!」

 

「は、はいッ!」

 

 その一言を告げた翼は奏と共に地を蹴り砕き、ネフシュタンの少女に向かっていく。翼からデュランダルを任された響は了子からデュランダルの入ったケースを受け取る。だが、流石は完全聖遺物。その重さはとてもじゃないがうら若き乙女が一人で持てる重量ではなかった。

 それでもなんとか一人で運ぼうとするが、なかなか上手く運べない。

 

「り、了子さん…………これ、すっごく重いです…ッ!」

 

 弱音を吐きながらもなんとかして運ぼうとする、そんな響を見ていた了子は、ここまでデュランダルを運んできた人物とは思えない一言を響に言う。

 

「だったら、いっそここにそれを置いて、私達は逃げましょう?」

 

「そんなの駄目ですッ!」

 

 その一言に響は即答する。その直後、了子は響に前を向くように告げた。響は言われるがままに前を向くと、少女が召喚したであろうノイズが紐状に変化して襲いかかろうとしていた。

 響は慌てて聖詠を紡ぎ、ガングニールを纏おうとするがここまで距離が近いと纏う前にノイズに触れられる。奏と翼はネフシュタンの少女と死闘を続けており、朝倉リクもノイズに手こずっているのか、まだこちらに向かってきていない。

 

「…………しょうがないわね」

 

 迫るノイズ、聖詠を紡ぐ事が間に合わずに身構える響。しかし、いつまで経っても自分の身体に変化が訪れない為、怖くて開けなかった目を恐る恐る開き、視界を広げる。すると……

 

「え、了子……さん?」

 

 広げた右手から紫色の波動を出して、今まさに自分達を炭化させようとしてきていたノイズを消滅させている了子が見えた。

 了子には戦える力が無い筈だった。だが、今の了子はどうだ。シンフォギアを纏っている訳でも、ましてやウルトラマンでもない了子が謎の力を使い、ノイズを消滅させていたのだ。その事について考えを巡らせようとした響だが、その考えは一旦切り捨てる。

 

「響ちゃん。貴女は貴女のやりたい事を、やりたいようにやりなさいッ!」

 

「─────はいッ!!」

 

 その一言に頷いた響は聖詠を紡ぎ、シンフォギアを纏う。了子が相手していたノイズの前に立ちはだかり、構える。

 胸に浮かぶ歌を口ずさみながら走り出し、まずは正面のノイズを殴り飛ばす。そのままの勢いで更に前に突っ込んでいった。

 

「師匠とゼロさんの修行に励み、翼さんからデュランダルを任されたんだ……。絶対に、護ってみせるッ!」

 

 戦っている最中に、響はとある違和感に気づいた。ノイズを蹴り飛ばした後に右足を地面に付けた時の違和感だ。まるでつま先立ちをしているような違和感に、それがヒールが原因だと分かった響はというと……

 

(─────ヒールが邪魔だッ!)

 

 震脚を二回繰り返す事でノイズの群れを一掃すると同時に両足のヒールを破壊する。それによって踵まで地に足を付けられるようになり、動きやすくなった響は更に機動力を増してノイズを倒していく。

 響の動きが前と全く違う事に驚いたネフシュタンの少女は一瞬だけ隙を見せる。そこを奏と翼の二人に突かれ、遠くへと吹き飛ばされた。

 

「───戦いの最中に余所見とは、余程余裕があるようだな。それとも……前とは動きが違う立花が気になりでもしたか?」

 

「響を前と同じにしない方がいい。彼奴は、今も成長を続けているんだよ。勿論、今もね。まぁ、当然アタシ達もだけどさッ!」

 

 劣勢から一転、攻勢へと打って出た二人と、修行の成果を発揮する響。デュランダルを巡る戦いは二課側の有利だと思われたのだが、ノイズの群れが着々と倒されていく中、了子の耳に聞き慣れない異音が届いた。

 聞こえてきた方向を向けば、そこにあるのはデュランダルが入っているケース。だが、ケースのランプが点滅している。デュランダルに異変が起きている事を視覚的に示していた。

 

「デュランダルの封印がッ!?」

 

 ケースをこじ開けるように飛び出し、重力を無視するように空中で制止したのは、石色の巨大な剣。今、この場に居る全ての者の視線を奪ったその剣こそ、二課の地下に安置されていた完全聖遺物、デュランダル。

 しかし、ここで謎が一つ浮かび上がる。完全聖遺物の起動には大量のフォニックゲインが必要。幾ら装者達が歌い、戦っているこの場にフォニックゲインが集まっているとはいえ、起動に必要なフォニックゲインには達していない筈だった。

 

「まさか……響ちゃんのフォニックゲインに反応して覚醒したとでもいうの…ッ!?」

 

 了子は驚く。複数人ではなく()()()()()()フォニックゲインに反応を示し、覚醒したデュランダルに。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ───奏と翼がネフシュタンの少女と、響がネフシュタンの少女が召喚したノイズとそれぞれ戦いを始めた頃。

 

『レッキングフェニックスッ!!』

 

『ゼスティウム光線ッ!!』

 

 時間が迫っている事を示す、赤く点滅するカラータイマーを他所目にそれぞれ必殺光線を放ち、自分達の進路を塞ぐノイズを倒し終えたジードとゼット。

 改めて周りを確認し、ノイズがもう居ない事を確認したジードとゼットは肩を撫で下ろして構えを解く。

 

「……もう、居ないみたいだね」

 

 ジードと共闘出来て相当嬉しかったのか、誰の目から見ても喜びを隠せていないゼット。それを見たジードは変身を解いて元の姿に戻った後、ゼットに質問をしようと改めて振り返った。

 

「ゼット、さっき聞けなかった質問なんだけど───」

 

「……ぁっ」

 

「……………えっ?」

 

 リクが振り返った先に居たのは自分を兄弟子と呼ぶウルトラマンゼット……ではなく、後頭部に白い大きなリボンを付けた黒髪ショートに制服姿の少女がそこに立っていた。

 リクは状況が飲み込めずに固まる。対する少女もまた、固まってしまっていた。お互いにお互いの秘密を知ってしまったからだと思われる。

 

「あの、もしかして……君が、ゼットと?」

 

 やっとの事で声を絞り出したリクは少女にそう問いかける。少しの間が開いた後、少女は一回だけ頷いた。ゼットと共に居る人物を勝手に男だと思っていたリクは頭を抱える。少女も同じように頭を抱えていた。

 動揺を隠せず、その場から動けない未来。どう対応したらいいか分からずに困惑気味のリク。少し経ち、まずは自己紹介という事となった。尤も、そんな事をしている場合ではないのだが。

 

「……え、と。僕はリク、朝倉リク。君は?」

 

「え、あっ……わ、私は小日向、未来です…」

 

「未来ちゃん、か。どうしてゼットと一緒に?」

 

 リクの率直な質問に少し躊躇いを見せる未来。少しして心を決めたのか、やっと口を開いた。

 

「それは……話すと長くなりますが…」

 

「大丈夫。歩きながらでも聞くから」

 

「……分かりました。ですが、今から話す事は内緒にしてください。私の親友にもまだ話していない事なので…」

 

 未来の提示した条件にリクは頷き、ノイズの残骸がそこら中に散らばる橋を未来とリクは歩く。その間、リクは未来が何故ゼットと共にいるのか、その理由を聞いていた。

 今から暫く前、ツヴァイウィングの活動再開に伴い、新曲収録の豪華初回限定版CDの発売日。その日が未来の運命を大きく変えた。ノイズの出現、炭素に変えられていく身体、そしてゼットとの出会い。

 初めて出会ったゼットと未来は共にピンチだった。そこでゼットは未来と手を組む事を提案し、未来がそれを承諾。二人は一体化し、共に歩む事となった。

 

「……なるほどね…。話してくれてありがとう、未来ちゃん」

 

 未来からゼットと共に居る事を決めるまでの経緯を聞いたリクは未来にお礼を言う。その間ずっと歩いていたのだが、嫌な予感を感じ取ったリクは一旦足を止める。急に足を止めるリクに未来は疑問に思い、問いかけた。

 

「あの、リク…さん?」

 

「……ごめん、少し…嫌な予感がする」

 

「嫌な予感…ですか?」

 

 首を傾げる未来。その時、微かに地面が揺れた気がした。その揺れに嫌な予感を感じたリクは通信機を取り出して誰かと通信しており、その言動は少し焦りが見えているように見えた。

 通信が終わるのを待ち、未来が話しかけようとした時だ。それよりも先にリクは未来の方へ振り返り、先程感じた嫌な予感について話す。

 

「未来ちゃん、さっき感じた嫌な予感だけど…この先何が起きているのか分からないんだ。出会ったばかりだけど君を危険に晒したくない。今ならまだ間に合う。僕が帰り道まで送って行けるけど……」

 

「……いえ、行きます。私だけ安全な場所で親友の帰りを待つのはもう、嫌なんです。だから……行きます。いえ、行かせてください。リクさん」

 

「そう、か。なら、コレを渡しておくよ」

 

 未来の決意を聞いたリクは、あるものを未来に渡す。それは、周りを赤く縁取られ、頭から角が生えてトサカのような部位が目立つ巨人の横顔が描かれた小さな硬貨だった。急に手渡されたものに未来は首を傾げ、リクに質問をする。

 

「……これは?」

 

「ゼットと共にいる未来ちゃんが持つべきもの、と言えばいいかな。君達の新しい力になってくれる筈だよ」

 

 リクから手渡されたもの。それはウルトラ六兄弟の一人『ウルトラマンタロウ』のメダルだった。未来はリクから受け取ったそのメダルを無くさないようにメダルホルダーへと仕舞う。

 

「───未来ちゃん、君は僕が守る。だから、あまり僕の傍を離れないようにね」

 

「は、はいッ!」

 

 そうして、リクと未来は護送車が走っていった先、工場地帯へと走っていく。三人目のウルトラマン、ゼットがゼロと再会した先に待つのは、果たして。




一話限りでいいから翼さん主役に添えてウルトラマンに仕立てあげたいと思ってしまった。まぁ、仮に書くとしたら短編かな…

次回こそ、ギルバリス出せたらいいな…(´・ω・`)
それでは、また次回(・ω・)ノシ


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#17 ギルバリス

二回出し損ねたし今度こそギルバリス出さなきゃ(使命感)というかあちこち手出して更新滞らせてるのなんとかせねば…(グヌヌ)

赤いアイツの出番は……あるかもしれない。多分。
なかったら次回以降に持ち越しです、はい。


 奏でもなく、翼でもなく。ましてやネフシュタンの少女でもなく。響のフォニックゲインに反応し、ケースをこじ開けて皆の前に現れた完全聖遺物デュランダル。それを見たネフシュタンの少女は奏と翼を押し退け、我先にと跳び上がる。

 少女の目的はただ一つ、フィーネに認めてもらう事。その為にデュランダルを手にしたかった。そうすれば、自分が独りになる事はもう二度とないと思ったのだ。

 

「───そいつは貰ったッ!」

 

「しま…ッ! 響、デュランダルは頼んだッ!」

 

 奏が響に向けて叫ぶより前に響は跳び上がり、僅かに遅れたが、ネフシュタンの少女がデュランダルの柄に触れる前にデュランダルの柄を握った。いや、()()()()()()()()()

 

「─────ちぃッ! (此奴、あたしより遅かったのに……ッ!)」

 

「や、やりましたッ! 奏さん、翼さ───」

 

 響が二人にデュランダルを確保した事を伝えようとした時だ。ドクン、とまるで心臓の鼓動のようにデュランダルから響へと伝わる何か。それは、凄まじい力の奔流。手にした者の意思すら漆黒に塗りつぶさんとする獰猛な破壊衝動。

 まるで津波のように押し寄せるそれを阻める程の精神力は当然の事ながら今の響は持ち合わせておらず、その結果は当然……

 

「ああああああああッ!!」

 

 ─────『暴走』だ。天高く掲げられたデュランダルからは空を貫かんとする黄金の光柱が立ち上り、それから発せられるは圧倒的なまでの力の奔流。

 デュランダルを手にしている響の身体はシンフォギアごと真っ黒に染まり、瞳だけは真っ赤に染まっていた。その風貌は、一言で表すならば『獣』。立ち塞がる者全てを滅ぼさんとする獰猛な獣である。

 今の響を見たネフシュタンの少女の心を埋め尽くしたのは、『圧倒的な恐怖』。今すぐにこの場から逃げ出したい、その一心で足に力を込めたその時だ。

 

「ぐぅううう……ッ!」

 

「ひ……ッ!」

 

 響の真っ赤な瞳が、少女を捉えた。人ではなく、『獲物』として。理性を塗り潰され、獣のように叫び声を上げながら響は目の前の敵を討ち滅ぼさんとデュランダルを振り下ろす。少女は恐怖で身体が凍りついたかのように動かず、その場から動けていない。

 誰の目から見てももう駄目だ、と思ったその時。少女を寸での所で助けた人物が居た。

 

「……ふぅ…間一髪、ってとこか?」

 

「……どうやら、そのようね。ネフシュタンの少女…は気を失ってるけど無事だから安心して、奏」

 

「そうか、そりゃよかった…」

 

 ツヴァイウィングの二人である。奏はゼロのサポートを受けて一瞬だけ超人的な瞬発力を発揮し、一瞬の判断でネフシュタンの少女を抱えて後方に下がっていたのだ。翼もまた、奏が下がるのを見て瞬時に響を抱えて下がる。その後、響が振り下ろしたデュランダルを中心に大爆発を引き起こした。

 爆発の中心地となった響と二人を含めたデュランダル護送に関わっていた二課の面々は既に工場地帯から離脱しており、特に目立った怪我もなく全員無事であった。

 

『ったく……突拍子も無く動いたから嫌な予感を感じてたけどよ。カナデ、俺の力にも限界があるって事を知っておいて欲しいんだがな?』

 

「あはは…咄嗟にやった事だから、何も言えないし耳が痛いよ、ゼロ」

 

「全く……笑い事じゃないわよ、奏。一歩間違ったらどうなってたか分かったもんじゃないのに。……まぁ、私も人の事言えないけど」

 

「まぁまぁ…アタシも翼も、それに響も。三人とも特に怪我も無くあの子を助けられたんだ。そこは良かっただろ?」

 

「……まぁ、ね」

 

『確かにな』

 

 既にシンフォギアを解除し、元の姿へと戻った二人とゼロが話していた矢先、ネフシュタンの少女は恐怖から我に返った。まずは自分の身が無事な事に疑問を持ち、続いて二人に大きな声で質問をする。

 何故自分を助けた、自分とあんた達は敵同士だったろ、助ける理由なんかなかった筈だ、と。少女からそう問われた二人は声を揃えてこう答えた。

 

 ───救える命を見捨てる訳にはいかなかった。ただそれだけだと。

 

「───訳わかんねぇ……」

 

 それを聞いた少女はぼそりと呟いた後、ますます訳が分からないといった表情を浮かべ、その場から逃げていく。後に残されたのは響を心配する奏と同じく響を心配する翼、デュランダルを手放して暴走から解放され、今は了子の傍で泥のように眠りこけている響と破壊された工場地帯を見やる了子のみだった。

 後にリクも合流し、工場地帯だった場所を事態の収拾にやって来た一課と二課のメンバーと共に片付けに入る。不幸中の幸いと言うべきか、工場地帯は既に人が出払っており、先の爆発による死者は居なかった。仮に一人でも居たら、と考えると末恐ろしくなる。

 リクと共に来ていた未来は"とりあえず姿を見せる訳にもいかないので、今は隠れていますね"とリクに伝え、人目の寄らない場所から響を見ていた。

 

(……これが、デュランダルの秘められた力。流石は完全聖遺物。あまりにも、強大過ぎるわね)

 

 そんな中、眠り続けている響の隣で了子はさっきまで工場地帯だった場所を眺めながらデュランダルの危険性を再確認し、心の中で作戦は中止ね、と呟く。

 了子の想像通り、後にデュランダル移送計画は中止となってデュランダルは再びアビスに保管される事となる。それだけならまだ良かったのだが、不幸は更に襲いかかる。

 皆が工場の残骸を片付けている最中、突如地面が揺れだし、皆が手を止めてその揺れに耐える。やがて揺れが収まると、工場地帯の近くに見た事もない巨大生物が出現していたのだ。出現した巨大生物は見境なく暴れ始める。それを見たリクは歯噛みをし、気になった奏はリクに問いかけた。

 

「リク、彼奴が何か知ってるのか?」

 

「……はい。奴はギルバリス。僕が、この地球に来た本当の理由でもあります」

 

「……ギルバリス…リクが来た本当の理由が、彼奴か」

 

 黒、金、紫を基調とした全身に無数の砲門を備えた重装甲、重武装の非常に禍々しい魔獣のような姿をとるギルバリス。その正体は巨大な超高性能の人工頭脳であり、これまでも幾つもの惑星を自らの目的の為に滅ぼしてきた奴であり、歴戦のウルトラマン達が集う宇宙警備隊ですら手を焼いているらしい。

 聞けば、リクがこの地球に来る前にもギルバリスとは交戦しているらしく、その際に今使っているライザーとは違ってずっと使っていたライザーを壊され、変身が出来なくなったようだ。

 ライザーが使えないリクは実質戦闘不能とみなしたギルバリスは戦線離脱し、行方を晦ました。このまま野放しにしておけない、とリクは奴の行方を追い、奴より先にアタシ達の住む地球へと訪れていたという事だった。

 

「とにかく、奴をこのままにしておけません。奏さん、お疲れの所すみませんが、奴を倒す為に協力をお願いしてもいいですか?」

 

「えっ、それはどういう……って、なるほど。此処はゼロの出番という事か」

 

「はい。僕とゼロでなんとか奴を食い止めます。少ししたら()()()()()()()()()()も来ますので、そこで一気に攻勢に出る作戦です」

 

「ん、分かった。って……さ、三人目のウルトラマン? ま、まぁいいか。そうと分かればゼロ、早速行くよッ!」

 

『嗚呼ッ!』

 

 奏はゼロアイを目に当て、リクはゼットライザーのトリガーを押し、それぞれウルトラマンへ変身する。翼は弦十郎へ連絡し、デュランダルを回収した後了子と響、二課と一課の面々と共に戦場と化した工場地帯を後にする。その様子を見ていた未来は誰も居なくなった工場地帯に顔を出し、周りに誰も居ない事を確かめた後にゼットライザーを取り出してトリガーを押す。そうして目の前に出来たゲートに飛び込んだ。

 

「ゼットさん、私達も行きますよッ!」

 

『おおッ! ミク、やる気十分でございますなぁッ!』

 

 いつになくやる気に満ち溢れている未来に喜びの声を上げるゼットを余所目に、未来はゲートの先にある空間に入った時に手にしていたアクセスカードをゼットライザーのスリットにセットする。

 

《ミク! アクセスグランテッド!》

 

 続いてメダルホルダーからゼットの師匠達のメダルを取り出して正面を向く。

 

う……宇宙拳法! 秘伝の神業ッ!! ゼロ師匠さん、セブン師匠さん、レオ師匠さんッ!」

 

 恥ずかしさを堪えながら声を出し、ゼロ、セブン、レオのメダルをゼットライザーのブレード部分にあるスリットへとセットしていき、三枚のメダルをセットした後、ブレード部分を動かしてゼットライザーに一枚ずつ認識させていく。

 

《ゼロ・セブン・レオ!》

 

 三枚のメダルがゼットライザーに認識され、完了の合図が流れると同時にいくつもの水色の光が飛び交って軌跡を描き、未来の背後に本来の姿のゼットさんとなって現れた。そしていつもの口上を口にする。

 

ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼェェェット!!

 

ふぅ……よしッ! ウルトラマン……ゼェェェット!!

 

 気合いを入れ直し、恥ずかしさなど空の彼方へ捨ておいた未来はゼットライザーを天高く掲げてトリガーを押す。すると、ウルトラメダルに描かれた三人の巨人『ウルトラマンゼロ』、『ウルトラセブン』、『ウルトラマンレオ』がそれぞれ青、銀、赤の光を描きながら飛び、未来に集約した後、そこから姿を変えたウルトラマンゼットが飛び出した!

 

《ウルトラマンゼット! アルファエッジ!》

 

「デュワッチ!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ゼットが現れる少し前、復活したギルバリスと対峙するゼロとジードは先手必勝、と言わんばかりに多段攻撃を仕掛ける。しかし、流石は超高性能の人工頭脳。常人には到底不可能な予測を駆使してゼロとジードの攻撃を巨体に似つかわしくない機敏な動きで避け続け、全身に備え付けられた砲門によるカウンターを二人のウルトラマンに浴びせていく。

 

「ちぃッ! 前ん時もそうだったが流石は人工頭脳って事か…!」

 

「駄目だ、あの時と同じで攻撃が当たらない…ッ!」

 

 ギルバリスに手傷一つ負わせる事が出来ず、逆に此方がダメージを受ける。このままではジリ貧なのは確実だった。それを心配した奏はゼロへとある提案をする。

 

『……なぁ、ゼロ。要は彼奴の予測を上回れればいいんだろ?』

 

「あ、嗚呼。そりゃあ……そうだが。その言い分だとなんかいい案でもあんのか? カナデ」

 

『うん。正直上手くいくか分かんないけどさ、ゼロの力はアタシのシンフォギアの元になってるだろ? だったら、一か八かやってみる価値はあると思うんだ』

 

「……まさかとは思うが…。いや、四の五の言ってる場合じゃねぇな。よし、乗ったぜ! その提案ッ!!」

 

 奏の提案。それは、奏がいつも身に纏っているシンフォギア『ガングニール』をゼロが纏うというものだった。本来適合者のみが纏えるシンフォギアをウルトラマンであるゼロが纏う。どこからどう見ても荒業には変わりない。だが、やってみる価値はあった。

 

「ジード、一瞬でいい。奴の気を引いてくれ。俺はちょっと試したい事があるからよ」

 

「─────分かった。任せて、ゼロ!」

 

 ジードにギルバリスの気を引く事を頼み、ゼロは一旦下がる。そうして、ゼロ自身が奏のシンフォギアの起動聖詠を紡ぐ。

 

「えーと……? 確か、こんな歌詞……だったよな? Croitzal ronzell Gungnir zizzl─────」

 

 そして、不思議な事が起こった。聖詠を紡いだと同時にゼロの右腕に奏の髪色である赤を基調とした片翼のブレスレットが出現したのだ。それを見たゼロは驚くが、これこそ奴を出し抜く逆転の一手だと判断し、躊躇う事なくそれを叩く。

 すると、ブレスレットはウルティメイトブレスレットのように展開してゼロの各部にシンフォギアを思わせるパーツが装着されていき、ゼロマントは再構成されて深紅のストールに、頭部のゼロスラッガーは橙色に染まり、右手には奏が使っているアームドギアと同じ槍が握られていた。

 

「こ、こいつは……ッ!」

 

『───いけたか、ゼロッ!?』

 

「嗚呼、正直言って無事じゃねぇが…なんとかな。そうだな、こいつに名を付けるなら……」

 

『……って、そんな悠長な事してる場合じゃないだろッ!?』

 

「ったく……言われなくても分かってるってのッ! いくぞッ!!」

 

 新しく纏った名も無き装備に悠長に名付けようとするゼロだったが、奏に叱責されてジードの元へと駆けつける。しかし、ガングニールに秘められた謎の力。ブレスレット経由だとそこまで強くはなかったのだが、今の姿ではゼロ自身に直に伝わるらしく、ブレスレットの恩恵無しに長時間纏っているのは危険だと判断したゼロは周りの被害も考慮して短期決戦に持ち込む事をジードに伝える。

 ジードは新たな姿となったゼロに驚きを隠せずにいたが、ゼロから伝えられた作戦を元にゼットライザーを取り出し、短期決戦へと持ち込む決意を固める。そうして、二人のウルトラ戦士が若干ではあるものの攻勢に出た時だ。

 

「ジード先輩、お待たせしましたッ!」

 

 アルファエッジのゼットがゼットスラッガーを連結したアルファチェインブレードで奇襲を仕掛けつつ参戦したのだ。ギルバリスはそれすらも予測済みだったのか、至極あっさりと避けたが。

 それはともかくこれで、三人のウルトラマンがここに揃った事になる。ゼロ、ジード、そしてゼット。三人が揃っても尚、ギルバリスは余裕そうに身構えていた。

 

「……ふぅ。時間どおり、かな。来てくれると信じてたよ、ゼット」

 

「おまっ……ゼットか?! てめぇ今まで何処に行ってやがった!?」

 

「お久しぶりです、ゼロ師匠ッ!! ……って、師匠がウルトラかっけぇ御姿になってるぅぅぅぅぅッ!? い、一体なんですかそれ!? 俺、ウルトラ気になるんですがッ!?」

 

「ったく、相変わらずというかなんつーかなぁ……今はそれどころじゃねぇだろ! 詳しく話すのは後だ後! 今はとにかく彼奴を倒すぞ、ジード、ゼット!」

 

「お、押忍ッ!!

 

「─────分かったッ!」

 

 ゼロに叱責され、ギルバリスに向かい合って宇宙拳法の構えを取るゼット。ゼットライザーを構え直し、いつもの独特な構えを取るジード。そして、ウルティメイトブレスレットを叩いてウルトラゼロランスを左手に持って二槍を構えるゼロ。

 まずはゼットとジードが息の合ったコンビネーションでギルバリスに多段攻撃を仕掛ける。ギルバリスの予測を上回るには予想外の攻撃をする必要があった。

 

「流石にコレはいくらてめぇでも予想外だろうよッ!!」

 

 ギルバリスが二人の相手に気を取られている間にゼロは両手に持った槍を投擲し、奏が使う技の一つ『STARDUST∞FOTON』を模倣した技を繰り出す。それに気づいたギルバリスはゼットとジードを砲撃によって怯ませ、避けようとするも広範囲をカバーしている大技を全て避けられる筈もなく、幾つかは命中して怯む。

 そこを狙い、ジードは巨大な光輪を発生させた後に四つに分割して放つ『プラズマ光輪』を、ゼットはゼスティウムメーザーをギルバリスに放つ。それに対してギルバリスは備え付けられた砲門から砲撃を放って迎え撃つ。ゼスティウムメーザーの方は防がれたものの、プラズマ光輪の方は四つに分割したのが功を奏したようで、二つは落とされたが残り二つが命中する。

 

「よし、いけるッ!」

 

「おっしゃあッ! このまま行きますかぁッ!!」

 

「嗚呼、二人共油断すんじゃねぇぞッ!!」

 

 そこからは賭けで攻勢に出た。しかし三人の動きは最初こそゼロの新技によって奇襲をかけたのもあって手傷は負わせられたものの段々と読まれつつあり、イマイチ決定打が与えられずにいる。

 このままだと此方が不利な状況に逆戻りである。何か手は無いか、と奏が再び思考を巡らせた時。突如として通信が繋がった。通信先は勿論、一足先に二課本部へ戻っていた了子だ。

 

『奏ちゃん、今大丈夫ッ!?』

 

「了子さん?! こんな時に一体どうしたんだよ?」

 

『リクくんが言うにはそいつは超高性能の人工頭脳らしいじゃない? だったら、こっちにも打つ手があるって思ったのよ♪』

 

「何か対抗策でもあるのか!? と、とにかく了子さん! 任せてもいいか? このままじゃ色々不味いんだ……ッ!」

 

『えぇ、この私に任せておきなさいなッ!!』

 

 そう言って了子からの通信は途切れる。了子が思いついた打つ手とは一体なんなのか、そこが気になったが今は任せるしかない。すると、ギルバリスの動きが突然止まる。何が起きたのかとゼロもジードもゼットも、奏も気になった。

 

「ギルバリスの動きが止まった…? い、一体何が起きてるんだ?」

 

「さぁな。分かんねぇが、二課の奴等が俺たちの為にやってくれた事には間違いねぇッ! 奴が動きを止めてるこの隙に倒すぞッ!!」

 

「押忍ッ!」

 

 ギルバリスが急に動きを止めた所を三人のウルトラマンが一気に攻める。さっきと打って変わってギルバリスは特に反撃をせず、まるで何かに必死な点が見受けられた。その事に疑問を抱いた弦十郎は了子に何をしたのか聞いてみる事に。

 

「了子くん、奴に一体何をしたんだ?」

 

「ふふふ……弦十郎くん、ミレニアム懸賞問題って知ってるかしら?」

 

「「「「「……ミレニアム懸賞問題?」」」」」

 

 初めて聞く単語に弦十郎を含めた二課の面々は単語を復唱した後に揃って首を傾げる。それを見た了子は仕方ない、と肩を落としてミレニアム懸賞問題について説明を始めた。

 ミレニアム懸賞問題とはアメリカのクレイ数学研究所が2000年に発表した全7問からなる数学問題であり、発表から現在に至るまでに()()1()()()()解かれていない超がつく超難問の名称である。しかも懸賞問題の為、解答が合っていれば破格の賞金を貰えるらしいのだが、今は関係ない事だ。

 了子が行った事とは、その超難問揃いのミレニアム懸賞問題のデータを奏とリクが持っている通信機を介してギルバリスの人工頭脳へ直接送信したのだ。人工頭脳…つまりAIであるギルバリスは突如送られてきた超難問を解こうと躍起になり、動きを止めたという訳である。

 

「な、なるほど……」

 

「あ、そうそう。ミレニアム懸賞問題のデータ、試しに見てみる? まぁ、流石の私もコレはお手上げな問題なのよね」

 

「……ふむ、折角だ。気になる事だし、見てみる事にしようか。翼もどうだ?」

 

「えっ? あ…はい。ちょっと、興味があります」

 

 ギルバリスを圧倒する三人のウルトラマン達の活躍を他所に、興味本位でミレニアム懸賞問題を見てみた弦十郎と翼はすぐにオーバーフローを起こしてその場から離脱する事になる。

 そんな風に盛り上がりを見せる二課。その反面、ウルトラマン達とギルバリスの戦いの地と化した元工場地帯。了子の機転によってギルバリスの動きが鈍り、そこをゼロとジード、ゼットの三人は追撃の手を緩めない。

 しかし、流石に限界が来たのか、三人の胸に輝くカラータイマーが赤く点滅を始めていた。時間が無い事を知らせている。そんな中、既に満身創痍といった様子のギルバリスは三人のウルトラマンの中でジードに質問を迫る。

 

『……理解不能。この地球(ほし)を守る価値などどこにある? この地球に住む知的生命体は地球を蝕む毒でありこの地球を滅ぼす悪だ。それを何故守る?』

 

「─────そんなの、最初から決まってる。例えどんな理由があったとしても惑星とその惑星に住む住人達の命までも奪っていい理由にはならないッ!! だから僕は……僕達は戦う! 皆を……守る為にッ!!」

 

『優秀な人工頭脳の癖に学習能力が無い』

 

「けっ、所詮心を持たねぇ人工頭脳のてめぇにゃジードの…いや、俺たちの考えなんぞ到底分かんねぇだろうよッ! いくぞ二人共ッ!!」

 

「はいッ! 行きましょう、ゼロ師匠ッ!! ジード先輩ッ!!」

 

「って、なーにお前が仕切ってんだよ。まぁいい、てめぇは銀河の果てまで吹っ飛ばしてやるぜッ!!」

 

 ギルバリスは最後の力を振り絞り、両腕を砲塔の集合アーム「バリスブラチア」に回転変形させて、全砲門から一斉射撃を行う必殺技「バリスダルフィティー」を放つ準備を整える。対するジード、ゼット、ゼロの三人もそれぞれ必殺光線の体勢に入った。そして……

 

『レッキングフェニックスッ!!』

 

『ゼスティウム光線ッ!!』

 

『ワイドゼロショットォッ!!』

 

 三人のウルトラマンの必殺光線とギルバリスの必殺技が真正面から衝突した。ギルバリスの必殺技も強い事には変わりないのだが、三人のウルトラマンの必殺光線が徐々に押していき、そしてついに、ギルバリスを爆散させた。だが、身体が爆散した事で自由となった中枢部を担うコアが逃走を図る。

 

「っんのやろ…! そう易々と逃がす訳ねぇだろがッ!!」

 

 逃走するコアにいち早く気がついたゼロはウルトラゼロランスを全力で投擲し、コアを貫かんとする。しかし、コアはそれをバリアを出して防いだ。

 だが、この一瞬の隙が命取りとなるとは、人工頭脳でありながらこの時のギルバリスは理解していなかった。歴戦のウルトラマンにはその一瞬の隙ですら有効打を与えられる決定的瞬間となる。

 

「─────今だ! ジード、ゼットッ!」

 

「ギャラクシーカッティングッ!!」

 

「アルファバーン…キックッ!!」

 

 ゼロが虚空へ叫ぶ。それを合図に、既に空中へ飛び上がっていたジードが斬撃を、ゼットが蹴撃をギルバリスのコアへ浴びせる。

 二人の強力な技をまともに喰らったギルバリスのコアは跡形もなく爆散し、辺りはようやく静けさを取り戻す。それは戦いが終わった事を示していた。

 

「ったく、ようやくか……」

 

「お疲れ様。ゼロ、ゼット」

 

「はいッ! 師匠、先輩、お疲れ様でしたッ!!」

 

 ギルバリスを倒した三人のウルトラマンは上空を向くと、両足で踏み込んで地を蹴り、空へと飛び上がった。

 

 

 

 

 ギルバリスとの決戦を制し、元の姿へ戻ったリクと奏。そして、ゼットの変身が解かれたもう一人。リクはゼットと一体化している人物が誰か既に知っている為特に驚かなかったが、これが初めての邂逅となる奏は驚きを隠せていなかった。

 

「あ、あの……初めまして。小日向未来です、よろしくお願いします」

 

「未来ちゃん、ね。アタシは……って、多分知ってるだろうけど、改めて自己紹介するよ。ツヴァイウィングの片翼、天羽奏だ。こちらこそよろしくなッ」

 

「は、はい! よ、よろしくお願いします。奏さんッ」

 

 奏と未来は互いに手を取り、握手を交わす。響もそうだが、未来もツヴァイウィングのファンであり、憧れの存在と会話出来ただけでなく握手も出来た事に喜びを隠せていない様子なのだがその反面、響に後ろめたい事が増えたなと心の中で思っている。

 その後。改めて事後収集にやって来た一課と二課の面々。ギルバリスが暴れ、ウルトラマン達が戦った跡地を片付けている間に、奏とリクは未来を連れて色々話しながら二課へと帰還していった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ──ギルバリスとウルトラマン達が戦った工場跡地──

 

 背中に白文字で『怪研』と書かれた緑色の防護服姿に首からガスマスクをかけた青年が姿を現す。そう、ノイズの残骸を使って今まで検証していて、一段落したのかやっと外へ出た、鏑木慎也を乗っ取っている宇宙生命体セレブロである。

 彼が何故この場所に来たのか。それにはある理由があった。彼は工場跡地を探索し一課と二課が回収しきれなかったギルバリスの残骸を探していた。

 

「──! カレカレータ……」

 

 探す事数分。やっとギルバリスの残骸を回収出来た事が嬉しかったのか、どことなく喜びを感じているように見えるセレブロはゼットライザーを取り出してトリガーを押し、作られたゲートをくぐり抜けてその場から姿を消す。

 

 それを目撃していた人物が居た事にも気づかずに。

 

 

 

 

 

 後日。了子の想像通り、日本政府によってデュランダル移送計画は危険と判断され、デュランダルは再びアビスへと保管される事となった。

 それと同時に三人目のウルトラマン、ゼットと一体化している人物、小日向未来の紹介と二課所属の報告があり、既に事情を知っている二課の面々は驚かなかったが、翌日になってその事を知った響は驚きの声を上げた。響は未来を連れて物凄い勢いで二課を後にし、誰も居ない場所にて未来に質問をする。

 

「……未来、ごめん。皆は知ってるみたいだけど私は初めて知ったからまだ信じられないの。未来の口で最初から説明してくれる?」

 

「う、うん……分かった」

 

 鬼気迫る勢いで迫る響に多少の恐怖を覚えた未来はゼットとの出会いを響に伝える。最初は信じられない、といった様子で考えこんでいた響だったが、他でもない自分の陽だまりであり親友である未来の言葉である。

 心にもやもやしたわだかまりは残るが、親友の事を信じられないほど落ちぶれていないのもある。追追知れればいいという事にし、ひとまず納得する事に。

 

「ど、どうかな。納得、してくれたかな…?」

 

「……うん。まだちょっと納得いかない事あるけど、未来だもん。嘘なんてついてないって事、分かるよ」

 

 いつものように満面の笑みを浮かべる響を見た未来は安堵し、響を連れて二課へと戻る。二人が戻ってきた事に弦十郎を含めた二課の面々は肩を撫で下ろした。

 それから、二課が何故未来に協力を要請したかについて弦十郎の口から語られる。未来はウルトラマンという存在と一体化している。その事について今の所はバレていないが、このご時世だ。何処から情報が漏れて危険に晒されるか分からない。身の上の安全保証という表向きの名目の元、協力を願ったという事である。

 

「という訳だ。分かってくれただろうか? 響くん」

 

「あ、はい。確かに師匠達が居る二課でしたら安全ですもんねッ! 私だけじゃなくて未来の事まで……ありがとうございます、師匠」

 

「何、我々にはこれくらいの事しか出来ないからな。今後もよろしく頼むぞッ!」

 

 未来を含めた二課所属の装者とリクは声を揃えて返事をする。だが、この時の皆は知らなかった。背後に迫る新たな脅威の存在に。その事を知るのは、まだ先の事である。




……前に一万字以上書けへんとか言ってた自分を殴りたい。書けるやん…

という訳で、お待たせしました。
次回はあの子視点から書こうかなと。もうお分かりかと思いますが…

それからもう一つ、今回出たゼロ師匠のオリジナル形態。まだ名前が決まってないので次回以降出す時に決めておきたいと思ってます。それでは、お読み下さりありがとうございました(・ω・)ノシ


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#18 決戦後の休日

前に消しちゃったBLAZBLUE×フォギアのクロスオーバー、もう一度書き直して上げようかな…?

それと、此方の更新手間取って申し訳ない(´・ω・`)


 ──デュランダル強奪に失敗した日の夜──

 

 絶対絶命の所を助けられ、何故助けたというあたしの質問に『救える命を見捨てる訳にはいかなかった』と答えた彼奴らの言葉が忘れられず、困惑したままあの場から逃げ帰ってきた。

 自分とフィーネが根城としている郊外の屋敷。世間の人気者二人に助けられた事と、融合症例の奴があっという間に完全聖遺物の起動とその力を振るった事に並々ならぬ怒りと悔しさを抱いていたあたしは、感情のままに欄干に拳を叩きつける。

 

(彼奴ら、一体何を考えてるのか分かんねぇ…ッ! 前はこの鎧を取り返そうと攻撃してきたのに、今度は自らの命を顧みずにあたしを助けやがった…何故だ……?)

 

 欄干は頑丈な造りの筈なのだが、拳を叩きつけた箇所には少しだけヒビが入っていた。それなりの反動が拳を伝わり、痛みに顔を顰めたが、そんなのはお構い無しにもう一度拳を叩きつける。

 

(それに、あたしでさえ半年かかった完全聖遺物の起動を…あいつはあっという間に成し遂げやがった上にその力を無理矢理ぶっぱなしやがったッ! 化け物めッ!!)

 

 二度、三度と拳を叩きつけ、傷が出来た箇所から血が流れ出た所で拳を叩きつけるのを止め、気分を落ち着かせる事に専念する。

 感情が昂りすぎたせいか、落ち着くまでには多少時間がかかった。そして、やっと落ち着いたかと思えば何者かの気配を感じて振り返る。

 

「…………チッ。気配を消して登場とは、随分と趣味が悪いな。フィーネ」

 

 あたしの皮肉混じりの一言にもフィーネは何も反応せずに佇んでいるばかり。変装でもしているのか、サングラスをかけているフィーネにあたしはソロモンの杖を押し付けるように返す。そこでやっとフィーネは反応を示した。

 

「あら。貴女にとってコレは必要なんじゃない? ソロモンの杖、本当に私に返してもいいのかしら?」

 

「…………嗚呼。あたしにはこんなもん不要だ。もう要らねぇ。そんなもん無くたってあんたの言う事くらいなんとかしてやる」

 

 ソロモンの杖を見るとあの時の戦いがフラッシュバックする。脳裏に焼き付いて二度と忘れる事の出来ない忌々しい記憶だ。世間の人気者二人と融合症例、謎の青年。完全聖遺物を纏っている自分の方が有利だと、あの時はそう思っていた。

 だが、蓋を開けてみればそれは違った。謎の存在に変身する謎の青年と、赤髪の彼奴。完全聖遺物を一瞬に起動させ、その力を強引に振るった融合症例にこの前までは段違いのスピードと攻撃力を以て追い込んできた青髪の奴。ネフシュタンを纏っていても尚、奴等には力の差を見せつけられた。

 だから、ソロモンの杖は手放す。今度こそ、自分の力だけで彼奴らを倒す。そうしなければ、二度も失敗しているあたしの居場所なんざすぐに無くなってしまう。今の居場所であるフィーネに捨てられる事だけは何としても回避したい。

 

「奴等よりもあたしの方が優秀だって事を証明する。それにはそいつが邪魔だって思っただけだ。あたしだけの力であたし以外に力を持つ奴等を潰す。それがあたしの目的だからよ」

 

「それはいいのだけれど、先の怪獣を容易く倒したあの三人の巨人の事はどうするのかしら? 自分の方が優秀だって言うなら、そいつらを倒してこそだと思うわよ」

 

「…けっ、あたしが言ってるのは特機部二(とっきぶつ)の装者達だ。あんな規格外の力を持つ人外の奴等は端から眼中に無ぇよ」

 

「……そう。まぁ、貴女の好きにしなさいな」

 

 そう言ってフィーネは屋敷へと歩を進める。あたしもフィーネの後を追い、屋敷へと歩を進めようとした時。誰かの視線を感じて振り返る。だが、そこには誰も居ない。気になったが誰も居ない為、気の所為という事にして一旦気にしない事にした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 新たに未来をメンバーへ加えた二課は、先のデュランダル護送作戦、突如現れたギルバリスとウルトラマン達の戦いを経た翌日を迎えていた。社会人や学生が楽しみにしている休日である。

 各々が自由に過ごす中でただ一人、響は先日の一件を思い出しながら弦十郎の元でただひたすらに特訓を積んでいた。拳が当たる音とサンドバッグを揺らす音だけが部屋の中にこだまする。

 

(暴走するデュランダルの力。手にした途端になにもかも全部を壊したくなる、とてつもない破壊衝動……)

 

 護送作戦にて覚醒したデュランダルを手にした響は暴走し、自身を隅から隅まで染め上げるドス黒い破壊衝動のままにデュランダルを振るい、工場地帯を破壊した。

 当然、暴走していた時の記憶は無い。気づいたら本部へ帰って来ており、先日何があったのかは弦十郎からモニターにて見せてもらっている。

 それと、コレは後に聞いた事だが、幸いにも工場で働いていた人は既に帰宅した後であり、死傷者は一人として居ない。それでも工場を破壊したのは紛れもなく自分自身であり、自分がまだ未熟故に招いた事を酷く後悔していた。

 

「(……破壊衝動にかられてデュランダルを振り抜いたのは私だけど、問題はそこじゃない。あんな力を人に……それもあの子に、躊躇う事なく振り抜いた事だ。私が、ツヴァイウィングのお二人とは違っていつまでも弱いばっかりに…ッ!) はぁぁぁッ!!」

 

 今の自分の想いが詰まった拳がサンドバッグを揺らす。その隣では同じく弦十郎に弟子入りした朝倉リクが響と同じように拳をサンドバッグへ叩き込んでいる。先の戦いにて何か思い当たる節でもあるのだろうか、今日はいつもにも増して気合いが入っている。

 

「ハァァァァッ!!」

 

 最後に気合いを入れた声と共に渾身の一撃をサンドバッグに叩き込み、かなり大きくサンドバッグを揺らす。それを見ていた弦十郎は「そこまでッ!」と告げ、リクのサンドバッグ打ちの終了を告げた。

 負けじと響も渾身の一撃を叩き込み、サンドバッグをさっきよりも大きく揺らす。弦十郎はリクの時と同様にサンドバッグ打ちの終了を告げる。

 

「サンドバッグ打ちはここまでだ。御苦労だったな、二人共」

 

「お、押忍ッ! でも、僕はまだまだ、いけます…ッ! 続きを…お願いします……ッ!」

 

「はぁ……はぁ……師匠ッ! 私もつ、続きをお願いしますッ!」

 

 響は『自分が強くなる為には、もっと多くの鍛錬を積まなければならない』、リクは『自分はまだまだ強くなる必要がある』、その思いで休憩も挟まずに次の特訓を要求する響とリクだったが、弦十郎は首を横に振って拒否した。

 師匠に止められては仕方ない、と一旦休憩を取る二人。それと同時にスポーツドリンクを持って未来がやって来た。未来は二人にドリンクを手渡し、響の隣へと座り込む。未来と響が和気あいあいと話す中、弦十郎は迷いがあるように見えるリクにとある問いを問いかける。

 

「リク君、今日はやけに張り切ってるじゃないか。一体どうしたんだ?」

 

「……僕はウルトラマンとしてまだまだ未熟です。だからこそ、皆を守れるようにもっと強くならなきゃならないんです。そう思ったら、つい…」

 

「ふむ、なるほどな。しかし、ただ我武者羅にやればいいってものじゃないぞ? 大いに迷い、悩む事だ。迷いこそが己を育て、強く大きく育てる為の糧となるッ!」

 

「な、なるほど……? そうと決まれば早速頑張って悩んでみます、師匠ッ!」

 

 弦十郎の一言に迷いが晴れたリクは満面の笑みを浮かべ、それに頷いた弦十郎は響を呼び、ある言葉を贈った。『相手と対峙した際、振るうべき正しい拳というものは、己と向き合い、対話した結果導かれるものだという』と。

 それに疑問符を浮かべる響に弦十郎は分かりやすく、先程リクに言った言葉と同じ事を伝える。それでも分かりづらかったようだが、それでこそ響だと思った弦十郎は笑みを浮かべていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ───響達が修行している時間と同時刻───

 

 多忙な毎日を過ごしている反動か今日は何も無い完全オフの日だった為、用事も無く二課本部へ訪れていた奏と翼。ちなみに、今現在二課本部では先日回収したギルバリスの残骸の解析を急ピッチで進めている所である。

 二課本部に訪れたのはいいものの、折角羽を目いっぱい伸ばせる貴重な休日にギアを纏って特訓する気にもなれずにいると翼からとある想いを打ち明けられた。

 

「……奏、ちょっといい?」

 

「ん? 大丈夫だけど……急にどうしたんだ、翼?」

 

「昨日、怪獣との戦いがあったじゃない…? 奏はゼロと一体化しているし、未来ちゃんもゼットと一体化している。朝倉は元からウルトラマンだから三人共怪獣と戦えた。でも、私はウルトラマンではないから奏達と一緒に戦えない。三人が戦ってる所を見てるだけしか出来ないのが凄く悔しくて……」

 

「……嗚呼、そういう事か…」

 

 翼の想いはごもっともだが、アタシも怪獣とやらにはアレが初めての遭遇だ。しかし、アタシにはアタシ自身の命を繋ぎ止めてくれた存在、ウルトラマンゼロが居る。ネフシュタンの少女との死闘で手にした光、ウルトラゼロアイでゼロに変身し、怪獣とも渡り合えるようにはなった。

 だが、翼はアタシや未来、リクとは違う。ずっとアタシの傍でアタシと共に戦ってきた翼だからこそ、今回の件は凄く堪えたのだろう。現に今、滅多に見せない涙目を見せそうになっている。

 

(……ゼロ、これについてだけどさ、ゼロの力でどうにか出来たりするか?)

 

『そうだな……ウルティメイトブレスレットが使えりゃなんとかなったかもしれねぇが…』

 

(今の状態じゃあ難しい、か…)

 

『嗚呼。悪ぃな、カナデ。でも、新たに手にしたこの力なら案外いけるかもしれねぇぜ?』

 

(ん? それってどういう……嗚呼、コレの事?)

 

『そうそう』

 

 ゼロが言う新たな力。それは、今のアタシの右腕に装着されているアタシの髪色でもある赤を基調とした片翼のブレスレットの事だ。

 あの時、無茶振りに乗ってくれたゼロに授けられた新しい力。名称は未だ決めていないらしいが、このブレスレットにはガングニールとゼロの力が込められている。これならば上手くいくのでは、という事らしい。取り敢えず言われたようにやってみる事に。

 

「……翼、ちょっとこっちに来てくれるか?」

 

「えっ? あ、うん」

 

 翼を近くに呼び寄せ、隣に座らせる。次に手を取り、優しく握る。何がなんだか、といった表情を浮かべている翼を他所目に、後をゼロに任せる。

 ゼロに任せた途端、優しい光がブレスレットから翼に流れ込んでいくのを視認出来た。突然流れ込んでくる光に戸惑い、普段見せないような表情を見せる翼に此方も戸惑うも、少しして光は収まる。

 

「……ねぇ、一体……何をしたの? 奏…」

 

「あー……うん、それについては後でゼロに聞いてくれると助かる。アタシも何がなんだか分かんなくてさ」

 

「そ、そう…」

 

「で、だ。なんか変化でもあったか?」

 

 先程の光の影響か、頬を赤らめている翼は疑問符を浮かべていたが、特に変化はないと言う。これは後でゼロが問い詰められる事になるな、と他人事でいた。

 その後、修行を終えて二課へ戻ってきた響達を加えて街へ繰り出す事となった。久々に羽を伸ばせる、という事もあってアタシも翼も喜びを隠せないでいる。途中でノイズが出たら仕事だと割り切って戦えばいい、そんな心持ちでいた。

 

(……ゼロは翼に一体何をしたんだろうな…)

 

 そんな事を思いながら、久々の休日を楽しんだ。しかし、またすぐに戦いの日々へと戻る事になる。ノイズだけではなく、ネフシュタンの少女との再戦や新たに出現した怪獣とも。

 先日の戦いがきっかけで、アタシ達を取り巻く運命という大きな歯車が要因という小さな歯車と共に回り始めた事を知るのはまだ先の話だ。




余談ですが、前回ギルバリスの残骸を手にしたセレブロさんの本格的な活動はちょくちょく挟みます。怪獣メダルを集めさせないとダメですしね(メメタァ)

それではお読みいただきありがとうございました(・ω・)ノシ


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#19 謎の石器

やっと構想練れたので……
すっかり遅くなって申し訳ないm(_ _)m

今回、赤いアイツに似たゼットくんの登場回となります。


 ───各々過ごした休日が終わり、社会人や学生にとって憂鬱になる平日がやって来る。その翌日の夜、装者達と朝倉リク、ゼットと一体化している小日向未来の五人が二課に招集された。なんでも例の残骸の解析中に不思議なものが見つかったからだそうだ。

 

 自我を喪った響が振り下ろしたデュランダルを中心とした爆発が起き、廃墟と化した工場地帯に突如出現し、ゼット達三人のウルトラマンに撃破されたギルバリスの残骸を解析していた所、その中から奇妙なものが見つかった。それは何処となく槍っぽい形状をした謎の石器。それについて更に解析を進めた所、シンフォギアに組み込まれている聖遺物の欠片や二課の地下に安置されている完全聖遺物とは全く違う別物だという事が発覚する。

 何らかの影響で元の姿を喪っていると仮定し、この石器と適合する誰かが手にすれば本来の姿を現すのでは、と結論を出した櫻井了子は早速弦十郎や緒川を含めた二課の職員達に手にしてもらう事に。しかし、皆が手に持っても謎の石器は一向に反応を示さない。

 その様子を見ていた奏と翼と響、朝倉リクと小日向未来の五人の内、奏と一体化しているウルトラマンゼロ、未来と一体化しているウルトラマンゼット、そして朝倉リクの三人はその石器から“何か”を感じ取った。ゼロは奏に頼んで主導権を譲ってもらった後にリクと未来を連れて誰も居ない廊下へ出る。

 

「ゼロ、急について来いって……一体どうしたの?」

 

「奏さ───いえ、ゼロさん。急にどうしたんですか?」

 

 急について来てくれ、と言われてついてきたリクと未来は疑問符を浮かべている。

 

「いや何、さっきの石器を見た時に何か()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。リク、ゼット。お前らもアレを見た時に何かを感じたろ?」

 

 ゼロにそう言われ、リクは一瞬考え込んだ後にそういえば何かを感じたなと告げる。未来は何がなんだか分からずに疑問符を浮かべていたが、未来の内で謎の石器を見ていたゼットは未来に『私もゼロ師匠や兄弟子と同じようにあの石器から何かを感じたでございますよ』と伝え、未来はゼロにそう伝える。

 二人から同じ答えが返ってきたゼロは「やっぱりな」と一言言った後、謎の石器についての予想を二人に告げた。

 

「あくまでも俺の予想にすぎねぇが、おそらくあの石器は奴と戦っていたウルトラマンが使っていた武器が石化したものだと俺は思う」

 

「えーと…それってつまり、僕達の他に奴と一戦交えていたウルトラマンが居る……って事?」

 

「嗚呼、そうだ。恐らくはリク……いや、ジード。お前より先に奴と戦っていたウルトラマンだ。多分だが、戦っていた最中に隙を突かれ、奴に得物を取られたと見ていいだろうな」

 

 そう言うゼロの記憶の片隅では宇宙警備隊一のブレスレット使いであり、自身を打ち負かす程の槍の名手でもあるウルトラマンジャック、かつて自身の親父……ウルトラセブンと共に十年の修行をつけたウルトラマンオーブ、クレナイ ガイの二人が脳裏を過ぎる。

 ジードこと朝倉リクの頭の片隅にも、かつて自身に力を貸してくれたウルトラ六兄弟の一人であるウルトラマンジャックとゼロと共に共闘したウルトラマンオーブの事がリクの脳裏を過ぎる。

 ゼットもまた、ウルトラマンジャックからウルトラランスを借りて彼の指導の元、稽古を受けていた時があったなと考えていた。そんな中、ゼロの話を聞いていた未来は抱いた一つの疑問をゼロに問う。

 

「という事は……ゼロさん。私達の誰かがあの石器に触れたら、石器は本来の姿を取り戻す…という事でしょうか? もしそうだとしたら私達の戦力増加に繋がると思いますが……」

 

「いいや、そう上手くは行かねぇと思う。あの武器は何らかの要因が重なりに重なってあんな風になってる筈だ。同じウルトラマンの力だからそれに共鳴して本来の姿を取り戻す、なんて上手い話はねぇと思うぜ?」

 

「そ、そうなんですね……」

 

「ま、ウルトラマンが扱ってた強力な武器だとしてもあの状態じゃあ流石に悪用は出来ねぇ筈だ。仮に黒幕の手に渡ったとしても大丈夫だろ。奴等に俺達ウルトラマンと同じ存在が居るとは思えないからな」

 

 ウルトラマンは地球と人類を守る為に遥か彼方、300万光年離れた『光の国』からやって来た存在だ。彼等は例外を除いて基本的に人類や地球の敵に回る事は無い。故にまだ記憶に新しい、完全聖遺物デュランダルを狙って襲って来たあのネフシュタンの少女及びその裏に居ると思われる黒幕の手にウルトラマンの力が宿る石器が渡ったとしても大丈夫、との事だ。

 そんな感じで三人だけで話していた所、三人が居ない事に気づいて手分けして探していた翼と響の二人が三人を見つけて駆け寄る。最後にゼロは「この話は俺達だけの秘密な」とリクと未来の二人に告げて奏に主導権を返す。

 

「奏、次は奏達三人の番だって」

 

「ん? それってどういう……嗚呼、例のアレか。了子さんが言ってた、謎の石器に適合する奴が居るのかどうかーって奴だろ?」

 

「そうそう。私と立花は先にやったから、後は奏と朝倉、小日向の三人だけだよ。ほら、櫻井女史も首を長くして待ってるから早く行かないと」

 

「ちょっ!? お、押すなって翼ぁ……ッ!」

 

 そう言いながら奏の背中をぐいぐい押して早く行く事を促す翼。翼に押される形で先行していく奏の後ろ姿を見ていた響と未来、リクの三人はそれぞれ笑みを浮かべ、後をついていった。

 しかし、この時はまだ誰も気づいていなかった。その石器が発見された事が原因で、とある怪獣が目覚めてしまった事を。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ─────某所。

 

 何かに呼応するかのように地中から一匹の怪獣が姿を現す。ペンギンに似た風貌ながらペンギンには遠く似ておらず、額には角が生えており、目は常に半開きで腕部には翼がある。更に驚くべき事に、その怪獣の周囲は瞬く間に凍りついていく。

 怪獣自体が相当冷たいのか、はたまた怪獣がそういった能力を有しているのかは不明だが、怪獣が歩みを進める度に怪獣が通った周囲はどんどん凍りつく。その怪獣はとある場所を目指し、翼をはためかせて飛行を始める。空気中の水分が一挙に凍りつくのも気にとめず、その怪獣はただ一直線に目的地を目指して飛ぶ。

 

 謎の石器の実験は終わり、静けさが戻ってきた二課に怪獣出現による緊急警報が鳴り響く。二課のオペレーター二人が出現位置を即座に割り出し、モニターに映し出す。ペンギンに似た風貌ながらあまりにもペンギンに似ていない、翼を持った怪獣がモニターに映し出される。

 更に、怪獣の進路方向は明らかに此処リディアン音楽院、ひいては二課本部に直行している事がオペレーター二人による進路予測によって判明。此度はノイズではない為、弦十郎によるウルトラマン達の出撃指令が降りた。

 

「───行きましょう。奏さん、未来ちゃん!」

 

 リクの一言に頷いた奏と未来は地上に繋がる二課のエレベーターに乗ろうとしたその前に響が未来を引き止める。その表情はいつもの笑顔ではなく、暗い表情だった。それに疑問を抱いた未来は疑問符を浮かべる。

 

「……響?」

 

「……ごめん。未来がウルトラマンと一体化してるとはいえ、未来を戦いに…危険な目に合わせたくない。でも…未来が行かなきゃ駄目、なんだよね」

 

「うん、ごめんね響。心配しないで、ちゃんと無事に帰ってくるから。私には帰る場所もあるし、頼れる先輩達が居るんだもん。でも……心配してくれてありがとう。響がいるから、私も頑張れるんだ」

 

 響を優しく抱きしめ、そう告げた未来。今にも泣きそうだった響は安心したのかいつもの笑顔に戻り、頑張って、と一言応援の言葉を未来に告げる。それに頷いた未来は奏とリクの二人と共にエレベーターに乗り、地上へと上がっていった。

 地上に出た奏と未来、リクの三人はそれぞれ変身に必要なアイテムを取り出す。奏はゼロアイを目に当ててトリガーを押し、未来とリクの二人はゼットライザーを起動させて正面に出来た光のゲートに飛び込む。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 最早見慣れたサイバー空間に入った私は音もなく目の前に現れたカードを手に取り、ゼットライザーの真ん中にあるスリットへ差し込む。

 

《ミク! アクセスグランテッド!》

 

 自身を認識したのを確認し、待機音が流れる中、腰に取り付けてあるメダルホルダーを開け、三枚のメダルを取り出す。ゼットさんの師匠である三人のメダルではなく、前に手に入れた三枚のメダルだ。

 そう言えばこのメダルについて聞いてなかったな、と思った私は突然目の前に現れた私と同じくらいの背丈のゼットさんに聞いてみる事に。

 

『ミク、どうかしたでございますか?』

 

「あ、ゼットさん。そういえば、聞くのを忘れていたんですが……この方々についてゼットさんはご存知ですか?」

 

『こ、これは……ッ!? マン兄さん、エース兄さん、タロウ兄さんのウルトラメダル……! ウ、ウルトラ六兄弟のウルトラメダルではございませんかッ!?』

 

「ウルトラ六兄弟、ですか?」

 

 オウム返しのように復唱すると、力強く頷いたゼットさんは“ウルトラ六兄弟”について語り始める。ウルトラ六兄弟とはかつて地球を救ったM78星雲・光の国出身のウルトラマン達に与えられる栄誉ある称号を指す。

 その称号を与えられた六人のウルトラマン達を総称して“ウルトラ六兄弟”と呼ぶらしい。当然、ゼットさんが所属している宇宙警備隊にもその六人は所属しており、数々の猛者が集うとされている宇宙警備隊の中でも最強の六人とされている。

 つまり、今私が手にしている三枚のメダルはウルトラ六兄弟の内の三人のメダルという事になる。歓喜に打ち震えるゼットさんは早速そのメダルを使う事を私に伝えてきた。

 

『ミク! 頼もしい兄さん達の真っ赤に燃える勇気の力、今こそお借りする時でございますよッ!』

 

「─────はいッ!」

 

 ゼットさんの一言に頷いた私は正面を向き、恥じらい等を最初からかなぐり捨てて声高らかに叫び、ゼットライザーのブレード部分にある三つのスリットに入れていく。

 

───真っ赤に燃える、勇気の力ッ!! マン兄さんッ! エース兄さんッ! タロウ兄さんッ!」

 

 三枚のメダルが入った事を確認した私は続いてブレード部分を動かし、ゼットライザーにメダルを読み込ませていく。

 

《ウルトラマン! エース! タロウ!》

 

 三枚のメダルを読み込ませ、完了の合図がゼットライザーから流れると同時ににいくつもの水色の光が飛び交って軌跡を描き、私の背後にゼットさんとして現れた。そして、ゼットさんはいつもの仁王立ちからの両手を広げ、あの台詞を声高らかに叫ぶ。

 

ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼェェェット!!

 

ウルトラマン……ゼェェェット!!

 

 ゼットさんと同じく声高らかに叫び、ゼットライザーを高く掲げてトリガーを押す。すると、ウルトラメダルに描かれた三人の巨人『ウルトラマン』、『ウルトラマンエース』、『ウルトラマンタロウ』がそれぞれ赤、銀、赤の光を描きながら飛び交い、私に集約した後、そこから姿を変えたウルトラマンゼットが飛び出した!

 

《ウルトラマンゼット! ベータスマッシュ!》

 

 

 ◇◇◇

 

 

 先にゼロとジードが空中に現れ、それぞれキックの体制を取ったと同時に二人の背後から姿を大きく変えたゼットが空中で身体を捻り、ドロップキックの体制を取りながら現れた。

 

 

ウルトラマァァァァァン!! ゼェェェェェット!! ベェェェタァァァスマァァァァァッシュゥゥゥゥゥッ!!

 

 

 何処ぞのプロレスラーよろしく今までとは打って変わって野太い声を上げながら、ゼットが先行する形で三人のウルトラマンが怪獣に強烈なキックを浴びせる。立て続けに猛攻を喰らった怪獣は後方に大きく吹き飛び、地響きを立てながら地面に倒れ伏す。キックを喰らわせた三人のウルトラマンも同様に地響きを立てながら危なげなく地面に着地する。

 先にドロップキックを喰らわせたゼットの姿は宇宙拳法を得意とする師匠達の力を宿したゼット‪α‬ではない。目の周りを赤いマスクで覆い、耳に当たる部位は尖った形状の独特なものとなり、赤いボディラインが入った筋肉質の身体に、胸にはウルトラマンタロウのプロテクターと似た意匠が特徴的な覆面レスラーのような姿となっていた。

 偉大で頼もしい兄さん達の真っ赤に燃える勇気の力をその身に宿した、如何にもパワータイプな見た目のゼット。その名を、ウルトラマンゼット・ベータスマッシュ。ゼットβはゼロとジードと共に並び立つと正面に『Z』の文字を空中に描いた後、プロレスラーのような独特な構えを取る。

 

「……ん? え"っ? なんか……随分と見た目変わったな、お前…」

 

 ゼットの新しい姿を思わず二度見したゼロはそう言い、それに賛同するかのようにジードも二度見した後、頷いていた。いざ突撃、という所でそんな感想を聞いたゼットはまるでお笑い芸人のように前のめりにずっこけそうになる。

 

「ちょっ…師匠ッ!? 一体なんなんすかッ!?」

 

「嗚呼いや、悪い。んな事してる場合じゃねぇのは分かってたんだけどよ……思わず二度見しちまったし、気づいたらなんか言ってたわ。すまん」

 

「……僕も二度見した。ごめんね、ゼット」

 

「え? し、師匠だけでなくジード先輩までっすかぁぁぁッ!? ウ、ウルトラショック……」

 

 先程までの気合いの入れようは何処へやら、がっくりと肩を落としたゼットにそれを励ますゼロとジード。まるで漫才のような光景を見ていたペンギンのようでペンギンじゃない怪獣『冷凍怪獣ペギラ』は高らかに咆哮を上げる。

 怪獣がしびれを切らしてやる気を満ち溢れさせた為、無理矢理にでも気合いを入れ直したゼットを見た二人もやっと戦闘モード時の思考に切り替える。

 

「さぁて、俺達の拠点を破壊しようとする不届き者には……お灸を据えてやらねぇとなぁッ!!」

 

「─────うん! 行くよ、ゼット!」

 

「押忍ッ!!」

 

 画して、突如出現した怪獣から二課を守る防衛ミッションが始まった。だが、この時既に二課にある謎の石器は何かに呼応するように淡い光を放っている。その事には、まだ誰も気づいていなかった。




いやぁ……やっと出せたよベータスマッシュ…
というかなんやかんやしてたら今週ゼットの最終回だし、ネット流行語大賞にウルトラマン関連沢山あるし、ギャラファイも凄いし、新作は胸熱だしでもう供給過多になりつつあります…(´・ω・`)

取り敢えず、次回はペギラとの戦いからですね。
今回もお読み下さりありがとうございました。また次回(・ω・)ノシ


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#20 冷凍怪獣ペギラ

私事ですが、ゼット・ベータスマッシュの登場時の台詞に誰もツッコミ入れてなくてえぇ…ってなってました。個人的に結構こだわったんだけどなぁ…()


 突如リディアン音楽院を襲撃する形で現れた『冷凍怪獣ペギラ』。それを撃退、リディアンを防衛する為に現れるゼット・ジード・ゼロの三人のウルトラマン。

 ペギラの出現理由は依然として不明のままだが、リディアンを襲撃する理由が其方側にあるのだと仮定。とにかくこのままではリディアンどころか奴の周囲一帯が凍結してしまう。故に早急な殲滅が求められた。

 

「っしゃあッ! 行くぞお前らッ!!」

 

 ゼロの掛け声にジードとゼットは頷き、ゼットが先陣を切る形で三人のウルトラマンがペギラに向かって突撃していく。対するペギラもまた、やられる訳にはいかないといった様子でウルトラマン達を迎え撃つ。

 ペギラの持つ冷凍能力に四苦八苦するウルトラマン達に、自身の能力をフルに活かして優位に立つペギラ。その様子をモニターしている二課も、片時も目が離せない状況にある。

 

(……ん? この様子じゃあ時間もねぇのは確かだ。さっさとケリつけねぇと不味い事になるな…)

 

 ふと、ゼロが周りを見回す。そこに広がるのはペギラの能力によって凍りついていく街並みだ。おそらく奴を倒せば溶けていくのだろうが、街の被害も考えれば時間も無いのは確か。

 急激な気温の変化に耐えながらもペギラに的確に一撃一撃を叩き込んでいくウルトラマン達。少しずつだが、彼等が優位に立ちつつある。自分が不利になりつつあるのを直感的に感じたペギラは翼をはためかせ、上空に飛び上がった。

 

「───待てッ!」

 

「ジード先輩、俺も行きますッ!」

 

 それにいち早く気づいたジードもまた飛び上がり、それに続いてゼットも飛び上がる。二人のウルトラマンがペギラと空中戦を行う形になったが、ペギラは二人がかりの攻撃も悉くいなす。それに躍起になったのか、ゼットが先走って攻撃を仕掛ける。そこを突き、ペギラは冷凍光線を放った。

 

「しまっ─────!」

 

「ゼット!?」

 

「ったく……世話のかかる奴だなッ!」

 

 ジードとゼロの目線の先で、冷凍光線を受けたゼットの身体は瞬く間に凍りつく。凍って動けなくなったゼットを助けるべく、ゼロはゼロスラッガーを手にゼットの元に向かう。ジードも又、ゼットライザーを手にゼットの元に向かっていく。

 だが、ペギラはそれこそが目的だった。三人のウルトラマンが一箇所に固まった今こそ、ペギラは急接近して渾身の一撃を三人に放つ。

 

「なっ!?」

 

「此奴…ッ! 最初からこれが狙いかッ!」

 

 完全に不意を突かれた為、三人のウルトラマンは地上へと叩き込まれる。その衝撃で凍りついていたゼットは自由に動けるようになったが、再びペギラが優位に立つ事となった。

 

『ゼロ、大丈夫なのかッ!?』

 

「嗚呼、こんなのどうってこたぁねぇよカナデ…!」

 

『ゼットさん……!』

 

「いつつ……ゆ、油断はしましたが大丈夫でございますよミク…!」

 

 変身者が居る空間、インナースペースにて奏と未来がそれぞれのウルトラマンを心配する声が上がる。ゼロとゼットはそれぞれ大丈夫、と奏と未来に声をかけ、立ち上がる。そして、ゼットが再びペギラに突撃しようとした時だ。

 

「……ん? うぉっ!?」

 

 ゼットとペギラの間に突如として光が現れ、それはゼットの手に収まる。光はある形状となってその姿を現した。それは、特徴的な穂先が目立つ槍だ。その槍を見たペギラは度肝を抜かれたかのように目を見開いている。

 

『あれ? ゼットさん、それはもしかして……?』

 

「……多分、あの石器でございますな。初めて持ったものでございますけれど、コイツの使い方は分かる! 分かっちゃいますッ!」

 

 未来がゼットに問いかけ、ゼットは未来に対してそう言い、ウルトラマンの力が宿る新たな武器である“ゼットランスアロー”を構える。それを手にした所をペギラや他の二人だけでなく、二課も目撃していた。

 それもその筈、ゼットが手にした武器は二課にて解析途中だった謎の石器が突如変化、巨大化したもの。誰が触れても真の姿を現さなかったあの石器が今、ゼットの手元にある。

 

「了子さん、アレってもしかして……」

 

「……えぇ。にわかには信じ難いけれど、皆に試して貰っていたあの石器が私の目の前で消えて、彼の手元にあるという事は紛れもなく事実ね」

 

 石器の謎を解明すべく解析を続けていた了子の目の前で光と共に消え、ゼットの武器として姿を現したゼットランスアロー。ペギラの反応からして、ペギラの狙いはゼットが手にしている槍が関わっていると了子は二課の皆にそう伝える。

 それはさておき、ゼットランスアローを手にしたゼットと共に並び立つゼロとジード。ペギラはゼットランスアローの存在が何処か気に食わないらしく、ゼットにばかり攻撃を仕掛けていく。

 

「ゼットばかり攻撃してるみたいだけどッ!」

 

「俺達の事を忘れんじゃねぇぞッ!!」

 

 ゼットがジャックの指導の下身に付けた華麗な槍さばきでペギラの攻撃を受け流してカウンターをかます中、がら空きとなった背中をゼロとジードが猛追撃する。自分の攻撃を受け流されて攻撃され、あまつさえ背中からも攻撃されるといった板挟みという状況で三人の攻撃を受けるペギラ。

 一対三という状況で尚も諦める素振りを見せなかったペギラだったが流石にこの猛攻撃には耐えられず、最終的には三人のウルトラマンの息を合わせた一撃を喰らって遥か後方へと吹き飛んだ。それと同時に、三人のウルトラマンの胸に輝くカラータイマーが赤く点滅を始める。活動限界時間が来ようとしているのだ。

 

「───時間がねぇ、とっとと決めるぞッ!」

 

「分かった、行こう! ゼロ!」

 

「押忍ッ!」

 

 それに気づいたゼロがゼットとジードに声をかけ、三人はそれぞれの必殺技の体制に入る。ゼロはゼロスラッガーを胸に輝くカラータイマーの両端に貼り付け、カラータイマーから放出されるエネルギーを溜め始める。

 ゼットはゼットランスアローのレバーを一回引っ張る。すると、ゼットランスアローの穂先が炎を纏い始める。そのまま炎で『Z』の斬撃を描く。

 ジードはインナースペースにてリクがゼットライザーのブレード部分を元に戻し、トリガーを長押し。待機音が流れる中、再びメダルを読み込ませていって完了の合図と共に再度トリガーを押す。そして、三人の必殺技を放つ準備が整う。そして……。

 

『ゼロツインシュートォッ!!』

 

『ゼットランスファイヤーッ!!』

 

『ギャラクシーバーストッ!!』

 

 ゼロがカラータイマーのエネルギーを溜めて放つ光線を、ゼットが『Z』の斬撃を、ジードは手にしたゼットライザーから赤黒い稲妻を纏った光の斬撃をペギラに向けて放った。

 まず、ゼットの放ったゼットランスファイヤーがペギラを襲う。燃え盛る炎に苦しんでいる所をギャラクシーバーストが追撃、そして最後にゼロツインシュートがペギラを爆散させる。ペギラが爆散した事により、凍りついていた辺り一帯が溶けていく。それを見た三人のウルトラマンは肩を下ろした。

 その後、三人のウルトラマンは上空へと飛び上がる。それから少しして、変身を解除した三人がリディアンの校門付近までやって来ていた。

 

「……なんとか、リディアンと街は守れたみたいだね」

 

「そうですね。でも、彼奴の目的は一体何だったんだ…? ゼットがあの槍を手にしてからは執拗にゼットだけを攻撃してたし……」

 

「もしかして、あの槍に何か因縁めいたものがあったんでしょうか……?」

 

「んー……どうなんだろ? ま、今考えても分からないし、どの道あの石器を解析してた了子さんなら何かに勘づいてる筈だよ」

 

「それもそうですね……」

 

 奏、未来、リクの三人はペギラとゼットランスアローの事について考えを巡らせるが、結局は了子任せとなった。二課に戻って来た三人を弦十郎を含めた二課のメンバーは出迎る。

 だが、時刻は既に深夜を指している。三人を労う祝賀会やペギラに関する考察云々は後日という事になり、此度は此処で解散となった。未来は響と、奏は翼と共に帰る中、一人残ったリクは考え事をしていた。それは勿論、前に戦ったギルバリスや今回のペギラの件だ。

 

(……ギルバリスといい彼奴といい、やっぱりアレが関係しているのか? 父さんが残していった、デビルスプリンターに…)

 

 朝倉リクの父親、ウルトラマンベリアルが残していった怪獣を暴走させる作用があるデビルスプリンター。聞けばノイズは昔から出現していたが、ギルバリスやペギラのような怪獣が突如出現したという情報は何一つ無かったという。

 それを聞けば前回や此度の怪獣の出現にデビルスプリンターが大いに関係しているのは確か。だからといってその存在を……デビルスプリンターの事を今ここで話してもいいのかも怪しい。そんな事を考えていた時、弦十郎に声をかけられる。

 

「……リク君? そんなに悩んでどうしたんだ?」

 

「え、あ……いえ、個人的な悩みです。でも、心配してくれてありがとうございます。師匠」

 

「何、志を共にする者を心配するのは上に立つ者として当然だ。それはそれとして……リク君。何か話せない悩みでもあるのなら、同じ男性の俺や藤尭、緒川でもいい。気兼ねなく頼ってくれ」

 

「えぇ、そうします。それでは、お先に失礼しますね」

 

 弦十郎に一礼し、二課を後にするリク。今度こそ、二課に残されたのは弦十郎と櫻井了子、オペレーターの二人だけとなった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ───ペギラの爆心地。

 

 怪獣とウルトラマン達の激戦地となった街の補修工事の為、夜勤の自衛隊によって封鎖が行われる。そこから少し離れた場所にあったのはペギラだったもの。そこに何者かがやって来た。

 見た目は人間に近い。だが、何処か機械的な仕草が残る何者かはペギラだったものを誰にも気づかれないよう密かに持ち去っていく。そして、()()姿()()()()()。その時点で人間ではないのだが、深夜というのも相まってそれを見た者は誰一人として居ない。

 それが向かった先は寂れた場所にある人が住んでいたであろう建物。躊躇うことなく侵入し、内部を突き進んでいく。そして、その先に板居たのは緑色の防護服姿の男。鏑木慎也の身体を乗っ取っているセレブロである。

 

……御苦労

 

 それだけを告げると、セレブロは彼等からペギラだったものを受け取る。その直後、セレブロにそれを渡した機械的な人間は正体を現した。凹凸が無い白い顔に赤い一つ目が目立つ、上半身にのみ白い鎧を付けた人型の何か。バリスレイダーと呼ばれるアンドロイド兵である。

 本来、彼等が送り込まれるのはギルバリスがギャラクトロンを送り込み、街を駆逐した後に残っている生命体を殲滅する為。しかし、ギルバリスは()()()ウルトラマンに撃破されている為、もう居ない。では何故、ギルバリスが居ないのに彼等が居るのか。それは、先の戦いにて撃破されたギルバリスの破片を密かに回収していたセレブロが原因である。

 セレブロは回収していたギルバリスの破片を元にバリスレイダーを呼び出せる拳銃のようなものを作成していたのだ。それにより、自ら出向かなくてもバリスレイダーに任せる事が可能となり、自分が外に出なければ自分を付け狙う鎧の少女に見つかる心配が無いと踏んだ為である。

 

これで材料は揃った……実験を再開する

 

 用済みとなったバリスレイダーを消したセレブロは懐からゼットライザーを取り出してトリガーを押す。目の前に出来、自動ドアのように開く光のゲートに入り、再びその姿を晦ます。

 二課が彼の存在を認知しない間にも、セレブロは着々と自身の戦力を揃えている。次に狙われるのは、果たして誰なのか。




姉妹作の方もよろしくお願いいたしますね(´・ω・`)

それでは、また次回(・ω・)ノシ


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#21 再三の邂逅

最初は10話超えたらええかなって思って書き続けてたらなんだかんだで20話超えてるなぁ…

それと少し変更点を。今まで#番号だったサブタイに題名を追加と一部加筆修正をしてます。これでおそらくは見やすくなった筈かと…


 突如リディアン、及び二課を襲撃してきたペギラの討伐から幾日か過ぎたある日の昼下がり。二課に設置されているシュミレーションルームにて一人、黙々と鍛錬を積んでいる響の姿があった。彼女の悩みは一つ、いつまで経っても己の手に現出しないアームドギアだ。

 シンフォギアにはアームドギアと呼ばれる武器がある。奏の纏うガングニールだったらハンドプロテクターを再構成した撃槍、翼の纏う天羽々斬だったら鎧の各所に仕込まれている刀、といった具合にシンフォギアの主武装に当たるのがアームドギア。元となる聖遺物の形態や装者の心象によって形作られる他、装者の使用方法などに応じての形態変化も可能な万能武器でもある。

 ツヴァイウィングよりかは経験が幾分か浅いとはいえ、響もシンフォギアを纏う装者の一人。故にアームドギアも出せる筈なのだが、何が原因しているのか響の手にアームドギアが現出する事は今の今まで一度も無かった。

 

「…はぁ……なんでお二人のようにアームドギアが出ないんだろう……」

 

 ツヴァイウィングの二人に追いつこう、その為にまずはアームドギアを現出させようと始めた鍛錬だったが、一旦休憩を入れようとシンフォギアを解除し、元の姿へ戻った響。シュミレーションルームを出ると、響を心配して未来とリクの二人がシュミレーションルームの外で待っていた。

 二人は響に内緒で二課に来ていた為、二人が待っている事を知らなかった響は大いに驚く。それと同時に自主鍛錬を見られていたのかな、と恥ずかしさが響を襲う。そんな響に、未来は予め用意していたスポーツドリンクを手渡す。

 

「はい、響。あんまり根詰めすぎないようにね?」

 

「あ、ありがとう未来…」

 

 未来からスポーツドリンクを受け取った響は早速それを飲み干す。あっという間に飲み干し、響はやっと一息ついた。それを見ていたリクは響と未来に椅子に座る事を促し、三人は近くの椅子に座る。

 生憎、奏と翼の二人は仕事の為、二課のシュミレーションルームの近くに居るのは三人だけになる。一息ついたとはいえ若干の焦りが目に見えている響が気になったのか、リクは響に問いかける。

 

「……響、もしかして焦ってる?」

 

「───えっ…?」

 

「いや、その、なんて言うか……なんとなく、そう見えたんだ。とてもじゃないけど、気の所為には見えなくて」

 

 リクの一言に未来も同意するように頷いていた為、二人には分かっちゃったか、と響は苦笑いを浮かべた後に焦ってる理由を二人に打ち明けた。装者としての経験はまだまだだけど、二人の足を引っ張らないように二人に追いつきたい。その為に自主鍛錬をしていたと。

 貪欲に強さを追い求める響の姿勢に、リクは自然とかつての自分の面影を響に重ね合わせていた。その上でリクは響に問う。そうまでして二人と共に、ノイズと『戦う理由』を。

 

「……多分、僕が聞く事じゃないかもしれないけれど、響にとって戦う理由って一体何かな?」

 

「私が戦う、理由……?」

 

「そう。僕には『この手が届く限り皆を護りたい』っていう理由があるから、この力を……ウルトラマンとしての力を駆使してノイズと、怪獣と戦ってる。もしかしたら響にもそういう理由があるんじゃないのか、って思ってさ」

 

 リクにそう問われ、響は改めて『自身の戦う理由』について考え直す。それと同時に、二年前のあの日の出来事が思い起こされる。あのライブの悲劇の事は今でも鮮明に覚えており、自分を助けてくれた恩人である奏の存在があったからこそ、今もこうして存命している。

 無論、それだけじゃない。奏に命を救われた響には奏の力の一端が宿っている。だからこそ、不慮の事故とはいえ自分の身に宿ったその力に応えられるように、少しでも早く二人に追いつきたいのだ。

 

「……私には皆に誇れるような特技とかは無いけど、だったら、せめて自分が出来る事で皆の役に立てればいいかな……って。その切っ掛けは、やっぱりあの時の事件だと思うんだ」

 

「あの事件…って、二年前のライブの?」

 

「うん。あの事件で大勢の人が亡くなったけど、奏さんのお陰で生き延びた私は今もこうして未来や皆の傍に居て、毎日笑ったり美味しいご飯を食べている。だからせめて、皆の役に立ちたい。明日も笑ったり、ご飯を食べたりしたい」

 

 あの日、奏に救われた自分だからそうしたい。ツヴァイウィングの二人と同じ『護る為の力(シンフォギア)』を手にした自分だからこそ、あの時の自分と同じ状況に陥ってる人達を救いたい。既に非日常に足を踏み入れた自分だからこそ、『生きている』という一般人なら誰しもが普通と思っている事がどれだけ素晴らしいのか、幸せな事なのかが分かる。

 

「私、なんでもないただの日常を護りたい。奏さんや翼さんと同じ力を手にしたのは、皆からそんな日常をノイズに奪わせないように手にした力だと思うんだ。皆が笑ったり泣いたりするなんでもない日常だけど、皆にとって日常が大切なものなのは分かってる。だから……私はこの手で皆の日常を護りたいッ!」

 

 笑顔で自分の思いを打ち明けた響を見ていた未来とリクはお互いに目を合わせた後ににこ、と笑顔を見せる。響が自分達に打ち明けた思いこそ、響が思う『戦う理由』だと思ったリクだった。

 

「なんでもないただの日常を護りたい……か」

 

「うん、響らしいポジティブな理由だね」

 

 リクと未来、共にウルトラマンへ変身する者同士、響の戦う理由に対して納得が行ったらしい。だが、思いの丈を二人に打ち明けた響の表情は再び暗くなる。それに疑問を浮かべた未来は響に問いかけた。

 

「……響? どうしたの…?」

 

「でも…あの時、私の心は暗闇に塗りつぶされた……」

 

 響が表情を暗くした理由は、まだ記憶に新しいデュランダル護送作戦の最中の出来事を思い出したからだ。自身のフォニックゲインに反応して覚醒したデュランダルを手にした響はデュランダルから伝わってくるドス黒い破壊衝動のままにそれを振り下ろした。ネフシュタンの少女に向けて。

 その時の記憶が響に無いにしても、記録として残っている。実際、その時の記録は弦十郎から見せてもらっているのだ。それを見た時の響は全身を恐怖が支配したのを覚えている。その時味わった恐怖の全てはアームドギアを上手く使いこなせなかった自分の責任として記憶の片隅に深く刻み込まれている。

 あの事を思い出してしまった響が恐怖でカタカタと震え始めたのを見た未来は響を優しく抱き寄せ、響が落ち着くまで優しい声をかけ続けた。

 

「……大丈夫。大丈夫だよ、響」

 

 そんな二人の微笑ましい光景を眺めていたリクは何処か気まずくなり、空気を読んで二人っきりにしようと二人の傍から離れ、地上に繋がるエレベーターに乗って地上へと出た時。懐に仕舞っていた通信機のアラームが鳴り響く。

 緊急事態発生を報せるアラームが鳴り響く通信機を懐から取り出し、通話を繋げる。通話の相手は弦十郎からだった。声色からしてかなり焦っているように見える。

 

「弦十郎さん!? 一体どうしたんですか?」

 

『たった今、ネフシュタンの鎧を纏った少女が現れた。市街地からそう遠くはない森林に居るが、少女が市街地に向かうのも時間の問題だ……直ぐに向かってくれッ!』

 

「わ、分かりました! ですが……この事は奏さんと翼さんには伝えてありますかッ!?」

 

『いや、二人にはこれから伝えるつもりだ。すまないがリク君、響君と共に先に現場へ向かってくれるだろうか? 未来君は安全の為、二課に残るように伝えてほしい…!』

 

「─────了解ですッ!」

 

 弦十郎との通話を終えたリクは、通信を受けてすぐさまやって来た響と未来の二人に事情を説明し、響と共に現場となった森林へと向かう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ─────リクと響の二人が現場となった森林へと到着した時を同じくして、白銀の鎧を身に纏う少女が『ソロモンの杖』を使い、辺りにノイズを召喚していた。ネフシュタンの少女は此方に向かってくる二人、響とリクを視界に捉えると明らかに苛立ちを際立たせる。

 

「……来たか。特機部二」

 

 既にシンフォギアを身に纏っている響と、ゼットライザーの代わりにジードクローを手にしているリク。二人はネフシュタンの少女と周囲に居るノイズの群れを交互に見た後、リクはノイズを。響はネフシュタンの少女へと二手に分かれて戦いを始める。

 

「君は、何をしているのか分かっているのか…ッ!?」

 

「───うるせぇッ! 力を持つ奴はあたしが全員ぶっ潰すッ! 融合症例も、てめぇもだッ!!」

 

「……駄目だ、頭に血が登ってる…! 気をつけて、響ッ!」

 

 少女が召喚し、蔓延るノイズを倒しながらリクが少女に大きな声で問いかけるも、少女は聞く耳を持たない。それどころか少女の怒りを買ったらしく、響との戦闘がより一層激しさを増した。

 少女の振るう鞭が響を襲うが、リクが咄嗟に放ったクローカッティングで防がれる。その隙に、響がネフシュタンの少女の元に一気に肉薄してネフシュタンの少女の身体をしっかりと掴む。

 その事に驚いたネフシュタンの少女だが、自分を捕まえて離さまいとする響の身体に鞭を打ち続ける。ネフシュタンの少女が鞭を振るい、響の身体に打ち付けられる度、響から苦悶の声が漏れる。

 

「どんくせぇ融合症例が…! さっさと離しやがれッ!」

 

「どんくさいでも、融合症例なんて名前でもないッ! 私は立花響15歳ッ! 誕生日は9月の13日で血液型はO型ッ! 身長はこの間の測定では157cmッ! 体重は…………もう少し仲良くなったら教えてあげるッ!」

 

 自分の身体に傷が付き続けるこの状況下で、響はネフシュタンの少女に自分の自己紹介を始めていた。突如始まった自己紹介にネフシュタンの少女は勿論、粗方ノイズを倒し終えたリクも呆気にとられた。いくら言葉を話せる人同士だからと言って、敵同士には変わりない筈なのだ。

 響の歩み寄りたいという気持ちが、今の自己紹介に含まれているのだろう。一瞬呆気にとられた少女だが、止めていた手を再び動かして鞭を振るう。そんな中でも、響は自己紹介を辞めなかった。

 

「趣味は人助けで好きなものはご飯&ご飯ッ! あと…………彼氏いない歴は年齢と同じッ!」

 

「な、なにをとち狂ってやがるんだお前…………攻撃を喰らいすぎて気でも触れたのか……?」

 

「違うッ! 私達はノイズと違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたいッ!」

 

 困惑を隠せないネフシュタンの少女も、響と同じ人間。こうして言葉を交わせるならば一旦攻撃を止めて話し合いたい。その一心で言葉を投げかけた響だが、ネフシュタンの少女は聞く耳を持たなかった。

 少女は同時に二本の鞭を振るうが、これ以上は駄目だと判断してネフシュタンの少女から一旦離れた響はそれを素早い身のこなしで躱していく。

 

(あたしの攻撃を凌いでやがるッ! こいつ、一体なにが変わったッ!?)

 

 以前戦った時、デュランダル護送時よりも更に成長の片鱗を見せる響。それに対して驚きと警戒心を強めるネフシュタンの少女に対し、響は自らの思いの丈をネフシュタンの少女に向けて叫んだ。

 

「話し合おうよッ! 私達は戦っちゃいけないんだッ! だって、言葉が通じていれば人間は─────」

 

 だが、響の思いはネフシュタンの少女に伝わらなかった。人は分かり合えない、その事を幼い頃に体験してしまった少女は、響の言う事が全て薄っぺらいものだとしか思えず、それを心の底から信じている響をどうしようもなく許せない存在として捉えていた。

 

「気に入らねぇ……! 気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇッ!! 何も知らねぇてめぇが分かったような事を言うんじゃねぇッ!! フィーネにはてめぇを引き摺っても連れてこいって言われてるが……もう知った事かッ!!」

 

 鞭の先端にエネルギー弾を作り出した二本の鞭を響に向けて振るうべく、固く握り締めて大きく振り上げる。

 

「てめぇの全てをここで踏み躙ってやる……ッ!!」

 

 響に向けて投擲されたエネルギー弾。それを見た響は身構える。だが、それは響に着弾する事は無かった。着弾と同時に巻き起こった土煙が晴れると、そこに立っていた何者かが響を護るように金色の刃を振り下ろしていたからだ。その何者かは勿論……。

 

《ウルトラマンジード! ギャラクシーライジング!》

 

 ジードに変身を遂げた朝倉リクその人だからだ。ジードの腕に生えている金色の刃、ギャラクシーカッティングを響を襲わんとするエネルギー弾に向けて振るい、すんでのところで響を護ったのだ。突如現れたリクより少し大きい身長で現れたつり目の巨人に、ネフシュタンの少女は大きく歯噛みをする。

 

「……ふぅ。間一髪、だったか」

 

「リク、君……」

 

 響に並び立つジードを憎悪の目で睨むネフシュタンの少女は再び鞭を振るう。

 

「───持ってけダブルだッ!!」

 

 ネフシュタンの少女が溜めていたエネルギー弾は二発ある。もう一方を二人に向けて投擲するも、変身した事によって感覚が鋭くなったジードの金色の刃が即座に斬り裂く。

 

「……確かに、君の気持ちも分かる」

 

「───あ? 急に何言ってんだてめぇ…?」

 

 攻撃を防いだ後、急にネフシュタンの少女に理解を示したジードに、ネフシュタンの少女は苛立ちを隠せずにいる。ジードこと朝倉リクも、ネフシュタンの少女とは違えども辛い人生を送っている。光の国唯一の大罪人、ウルトラマンベリアルの息子である彼もまた、大変な思いをしながら地球や他の惑星を護ってきたからだ。

 

「……だけど、響の言う通り、こうして話せるのなら、一度だけでもいい。声に耳を傾けるべきじゃないかな? 今は無理でも構わないから、少しずつ───」

 

「───この……偽善者がッ! 結局はてめぇもそこにいる融合症例と何も変わらねぇッ!」

 

「……ッ!?」

 

 リクの思いの丈すらも言葉で一蹴したネフシュタンの少女。これ以上の対話をしようとしても向こうが拒絶している為無理だ、と判断したリクは響に耳打ちをする。

 

(響、ごめん。僕も響と同じようにあの子に寄り添おうとしたんだけど……駄目だった)

 

 リクの耳打ちに頷いた響は小声でありがとう、リク君と告げた後、改めて正面を向いて身構える。リクもまた、独特のファイティングポーズをとる。

 今頃は弦十郎からの通信を受け取ったツヴァイウィングの二人も此方に向かって来てくれている筈だが、せめて二人が来る前にネフシュタンの少女を説得出来れば、二人とネフシュタンの少女が争う理由が無くなる。そう思ったリクはまず、ネフシュタンの少女の動きを止めるべく走り出した。




出来た…。次こそ、早く更新しますね…(´・ω・`)

それでは、お読み下さりありがとうございました(・ω・)ノシ


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#22 喪われた筈の聖遺物

エース兄さん直伝スペースZのエモさをいち早く発見した人、マジで天才でしょ……(pixiv百科事典でその項目見つけて心底驚いた作者の図)


 ───旦那からの緊急の通信が入ったのは、丁度午前の仕事を終えて休憩していた頃だ。休憩中にあの時ゼロが翼に受け渡したあの力について説明を任せていた時、突如としてアタシと翼の持つ通信端末が鳴り響く。

 説明は一旦後、という事でゼロがアタシの代わりに通信端末を、翼も通信端末を手に通信を繋げる。声の主は旦那からで、旦那の声色からして焦っているのが明白だった。内容はネフシュタンの少女が現れた事、響とリクの二人が先に現場へと向かった事の二つ。ゼットと共に居る未来は念の為二課に待機させているらしい。

 通信を終えてすぐに即座に緒川さんに確認を取ったところ、休憩時間はまだあるが、まだ仕事は控えているとの事。だったら、やる事は一つだ。ゼロに主導権を返してもらったアタシは緒川さんに頼み込み、早急に現場へと向かう事に。

 

「……立花と朝倉、無事でいて欲しいけれど…」

 

「なぁに、あの二人なら大丈夫だよ、翼。アタシの妹分とゼロと同じウルトラマンの一人だ、ネフシュタンが相手だろうと負ける筈はないさ」

 

「そ、そうよね…!」

 

 緒川さんの駆る車の車内にて二人を心配する翼を励ましていたが、実を言えばアタシだって二人の事が心配なのは変わらない。それに、二課で待っている未来も同じ気持ちだろう。

 二人の安否が気になる未来をこれ以上心配させる訳にはいかない、と逸る気持ちを抑えていたのだが、その中でただ一人、ゼロだけは何か考え事をしているような感じだった。気になったアタシは何を考えているのかを聞いてみる事に。

 

「……ゼロ、さっきからずっと考えてるけど、どうしたんだ?」

 

『ん? 嗚呼、ちょっと……嫌な予感がしてな』

 

「ゼロの嫌な予感ってやけに当たるから、聞く側からしたら本っ当に怖いんだよな…」

 

 なんてぼやきながら、一体何を感じ取ったのかを聞く事にしてみる。内容としては朧気だが、ネフシュタンの少女の後ろに居る何者かの存在が()()()のだという。それが一体誰なのかまでは分からなかったらしいが、その姿が視えた時にはとてつもなく嫌な予感を感じ取った、との事だ。

 それは最早予知能力に近いものであり、またもやしれっと凄い事をやってのけていたゼロだった。一体何回驚かされるのか、と疑問に思ったが、アタシとゼロが何を話していたのか気になったらしく、翼が疑問符を浮かべている。それに気づいたアタシはゼロが視たものを簡潔に話す。

 

「……そう。ゼロが視たもの、それを視た時に嫌な予感を感じ取ったものが、ネフシュタンの少女の後ろに居たのね?」

 

「ゼロ曰く、そうらしい。流石にそいつが何者かまでは見えなかったみたいだけど、ゼロが嫌な予感を感じ取ったと言うくらいだ。心したほうがいいかもな」

 

「……うん、分かった」

 

 そんな事を話しながら、現場へと急ぐ車の車内にて、アタシと翼、ゼロは響とリクの二人が無事な事を願っていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 奏と翼の二人が現場へと急ぐ中、ネフシュタンの少女と交戦を続けている響とジードへ変身を遂げているリク。しかし、ジードの胸に輝くカラータイマーは既に赤く点滅を始めている。

 響を護りつつ、少女が召喚したと思われるノイズを片っ端から倒していたからだ。そんな中、リクはネフシュタンの少女に握られているであろう聖遺物、ソロモンの杖と呼ばれる聖遺物が()()()()()()()()()()()()事に気づく。

 

(もしかして……今居るノイズは少女が召喚したものじゃないのか!? だったら、一体誰がソロモンの杖を使ってノイズを使役しているんだ……?)

 

 そんな考えを巡らせながら、ノイズを蹴散らしていくジード。だが、ここで遂に限界が訪れる。地に片膝をついたジードの身体は光の粒子となって霧散していき、ジードが立っていた場所には変身によって体力を消耗したリクが片膝をついていた。

 それに気づいた響はネフシュタンの少女との交戦を一旦止め、リクの前に立つ。それを見た少女は苛立ちを吐き捨てるかのようにエネルギー弾を作り出した鞭を振り上げ、響に向けて放った。

 

「───ッ! (避けるのは容易いけど、私が避けたらリク君が……どうしたら……リク君をこの手で護れる…!?)」

 

 考えながら、少女の放ったエネルギー弾からリクを護るべく身構える響。その時、疲労困憊といった様子からなんとかして立ち上がったリクが響にある事を告げる。

 

「……響。自分を、信じるんだ……!」

 

「自分を、信じる……」

 

 自分を信じる。その言葉を反芻した響は自分の胸に、心にあるものを強くイメージし、右手に今まで以上の力を籠め始める。すると、響の右手に眩い輝きが宿り始めた。それを見た少女は響がシンフォギアの武装、アームドギアを手にしようとしている事に気づく。

 だが、響の手にアームドギアが握られる事はなく、右手に集まっていた光は無情にも弾け散り、突然の衝撃に響は尻餅をついてしまう。その一瞬でエネルギー弾は響の眼前に迫り、着弾した……かに思った。

 

「……って、あれ? 痛く、ない…?」

 

 身体に痛みが走っていない事に気づいた響は、恐る恐る目を開けた。土煙が晴れ、驚愕で目を見開くネフシュタンの少女の視線の先に居たのは、変身の際に手にしたままのゼットライザーを使って技を繰り出したリクの姿。

 ウルトラマンへの変身が解けたにも関わらず、響を護るべく咄嗟にギャラクシーバーストを放ち、エネルギー弾を真正面から防いでいたのだ。驚く響にリクは次が来る事を報せる。

 それに頷いた響が前を向けば、エネルギー弾を防がれた事に苛立ち、前に飛び出していたネフシュタンの少女が視界に入る。先程やってみせた事を反芻した響は考え、どうやったらいいかという答えを出す。

 

(翼さんや奏さんのようにギアのエネルギーの固定が出来ない……けど、ギアを出す為のエネルギーはあるんだ…ッ! お二人のようにアームドギアが形成出来ないなら─────そのままエネルギーをぶつければいいッ!)

 

 眼前に迫ってくるネフシュタンの少女が振るう鞭を左手で受け止める。驚愕で目を見開く少女を他所目に、受け止めた鞭を力の限り引っ張って少女を自分の()()()に引き寄せる。

 

「最速で、最短で、真っ直ぐに……胸の響きを、この思いを伝える為にッ! おりゃああああッ!!」

 

「何─────がっ!?」

 

 地面を踏み抜き、渾身の力を込めた正拳突きを少女の腹部に放つ。強引に引き寄せられ、無防備となった少女に与えられるのはアームドギアを形成出来る程のエネルギーと響自身の力を乗せた一撃。

 響の渾身の一撃をまともに喰らった少女は大きく吹き飛び、受け身も取れずに地面に倒れ伏せるが、腹部を押さえながらふらつく足でなんとか立とうとするネフシュタンの少女。

 

「……貴女がどんなに私の思いを否定しようとも、私はそれを信じ続ける!」

 

「こ、の……! どんくせぇ融合症例が……!」

 

 なんとかして立ち上がったネフシュタンの少女は、ネフシュタンの自己修復能力の影響で鋭い痛みが身体に走る事も厭わず、憎悪を込めた睨みを響に向ける。

 それでも尚、響は真っ直ぐに、少女を見ている。自分を追撃することもなくただひたすらに真っ直ぐに見る響の目が、少女は気に食わなかった。少女は憎悪を込めた一言を響に向けて言う。

 

「お前、馬鹿にしてるのか? そうなんだろッ!? このあたしを……雪音クリスを……ッ!!」

 

「……そっか。クリスちゃんっていうんだ?」

 

「なっ……!?」

 

 やっと名前を言ってくれた、と言わんばかりに笑みを浮かべる響に、ネフシュタンの少女元いクリスは一瞬だけ、呆気に取られる。自分と響、それぞれがそれぞれの思いを胸に戦場に立っている事も忘れてしまう程に眩しい笑みを浮かべ、同じく自身の名を知ったであろう青年も響と同じように笑みを浮かべている。

 そんな二人を見ていたクリスだが、戦場に立っているのに笑みを浮かべている響とリクの二人が気に食わなく思うだけで自身の心に苛立ちを募らせていくばかりだった。

 

「ねぇ、クリスちゃん……こんな戦い、もうやめようよッ! ノイズと違って、私達は言葉を交わす事が出来るし、ちゃんと話をすればきっとわかり合えるはずだよ……! だって私達、同じ人間だよッ!?」

 

「…………くせぇんだよ」

 

「え……クリス、ちゃん?」

 

「お前、くせぇんだよッ! 嘘くせぇ……青くせぇッ!! お前なんかにあたしの何が分かるッ! 二度とその笑みを浮かべられねぇよう、今ここで完膚なきまでにぶっ潰すッ!!」

 

 歩み寄ろうとしていた響を押し退けるように、怒りを爆発させたクリスはそのままの勢いで両の手に持った二本の鞭を響に向けて振るう。突然攻撃された響は驚くも、リクとの連携で鞭を捌く。

 このまま攻撃を続けて響を倒したかったクリスだが、突如として一際鋭い痛みが襲い来る。その痛みはネフシュタンの自己修復能力による激痛によるものだった。クリスは予想以上の速度でネフシュタンの鎧が修復、自身の身体を蝕んでいるを間接的に知る。

 

「(チィ……ッ! だったら……奥の手を使うまでだッ!)ぶっ飛べよ……アーマーパージだッ!!」

 

 奥の手を使う事を決めたクリスは自身の身を守るものであり、自身の身体を蝕んでいる要因でもある完全聖遺物、ネフシュタンの鎧の各パーツを周囲に放出する形で脱ぎ捨てる。

 

「えっ!?」

 

「不味い……! 響ッ!」

 

 突如飛んでくる鎧のパーツから響を護るべく、その身を挺して盾となるリク。アーマーパージによって発生した土煙の中、クリスは何かを紡ぐ。それに強い嫌悪感を抱きながら。

 

「────―Killter Ichival tron」

 

 響を護るべくその身を挺して盾となったリクの耳に、自身の身がリクに護られている響の耳にその()()が届く頃には土煙は晴れ、土煙が晴れた先に立っているのはネフシュタンの鎧を纏っていた時のクリスではなく、()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 飛んでくる鎧のパーツから響を護るべく自ら盾となったリクのすぐ下では、隙間から顔を覗かせた響がクリスの姿を見て驚く。それが気になったリクは身体に残ったダメージを厭わず、クリスの方を向いた。そして、響がクリスを見て驚いている理由を即座に察する。

 

「─────歌わせたな。あたしに歌を、歌わせたなッ!!」

 

 響達が身に纏う鎧と酷似した赤い鎧をその身に纏ったクリスはネフシュタンの鎧を纏っている時よりも更なる苛立ちを見せ、両の手に握られたクロスボウを響達に向ける。

 

「冥土の土産に教えてやる……あたしはな、この世で一番、歌が大っ嫌いなんだよッ!!」

 

 そう叫び、クリスはクロスボウのトリガーを躊躇うことなく引き、クロスボウに番えていた十本の矢を響達にむけて放った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その頃、緒川の駆る車に乗り、リク達がネフシュタンの少女と交戦している現場へと向かっている奏と翼。そんな中、またもや通信端末が鳴り響く。慌てて通信を繋げると、声の主は弦十郎だった。しかし、先の通信よりもさらに焦っている様子だ。一体何が起きているのか、奏と翼はそれぞれ弦十郎へ問いかける。すると、驚くべき答えが二人に返ってきた。

 

「イチイバル、だって……!?」

 

「司令、それは本当なんですかッ!?」

 

 二人の問いに弦十郎はそうだ、と告げる。イチイバルはガングニールやネフシュタンの鎧と共に戦時中にドイツからもたらされた聖遺物の一つ。しかし、十年前に紛失もしくは失踪したとされていた聖遺物でもあった。

 北欧神話に登場する、狩猟と決闘の神ウルが使用したとされている弓、イチイバル。それが今、姿を見せた。弦十郎が二人に伝えた状況からしてイチイバルの装者は響とリクの二人と戦っていると見ていい。

 

『……カナデ。こりゃあ、ちとやべぇんじゃねぇか?』

 

「嗚呼、ゼロの言う通りだ…。緒川さん、急いでくれ…ッ!」

 

「えぇ、分かっていますよ…! お二人とも、しっかり掴まっててくださいね……!」

 

 安全運転且つ公道で出せる速度ギリギリのスピードを以て、奏と翼の乗る車は現場へと急行していく。だが、そこで待ち受けている、ゼロが嫌な予感を感じ取ったとされる此度の黒幕と邂逅する事になるのはこの時の二人と響達、弦十郎を含む二課のメンバーはまだ知らなかった。




やっとイチイバルを纏ったクリスちゃん出せた…ε-(´∀`;)

それはさておき、次回はクリスちゃんとあの方の登場ですかね…。まぁ、もうお分かりかもしれませんが()
それではお読み下さりありがとうございました(・ω・)ノシ


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#23 終わりの名を持つ者

やっとこさあの方を本格的に出せたような気がしないでもない……()


 ネフシュタンの鎧をパージし、イチイバルをその身に纏ったクリス。両の手に持つクロスボウ型のアームドギアからそれぞれ五本、計十本の矢を響とリクに向けて放つ。自らを盾として自分を護ってくれただけでなく、既に疲労困憊といった様子のリクを護るべく響は単身、矢を弾き落としていく。

 本心ではこれ以上クリスと戦いたくない。そう思っているのだが、当の本人は自分を目の敵のように睨みながら攻撃の手を緩める事無くアームドギアから矢を放ち続けている。

 

「クリスちゃん、お願いッ! 私はもう、クリスちゃんと戦いたくないの……ッ!」

 

 自分の想いを吐き出し、クリスの放つ矢を捌きながらリクを護り続ける響。だが、クロスボウの引き金を一度引いたクリスの方は止まる事を知らない。

 

「んな甘っちょろい考えであたしに勝てると思うんじゃねぇッ! 見せてやる……これがイチイバルの力だッ!」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、クリスは全てを破壊し尽くすといった確固たる意思を感じさせる歌を紡ぎながら、手にしたクロスボウ型のアームドギアをガトリング砲に変形、そこから無数の弾を撃ち出す技『BILLION MAIDEN』を放つ。

 響はリクを護りながらクリスの攻撃を防ぐが、防戦一方であるこの状況が続けばいずれは此方がやられてしまう。このままでは自分だけではなく、リクまでも危機に陥ってしまうのは明白だった。

 

(このままじゃ、私もリク君も……私は、私は一体どうしたらいいの……?)

 

 響がそんな事を考えていると、響の強い想いが奇跡を起こす。響の目の前に周りを赤く縁取られ、青い身体を持つ巨人の横顔と見た事もない文字が描かれた小さな硬貨のようなものが音もなく現れる。

 

「……えっ? 何、コレ…?」

 

 突如現れた硬貨のようなものに気を取られ、呆気に取られる響。それは響に力を与えると言わんばかりに優しい光を放ちながら響の胸にある傷の中にするりと入り込む。その途端、響の纏うギアにある変化が起き始めた。響を中心として周囲を優しい光が照らし始める。光に視界を奪われないようにリクは即座に腕で目を隠し、クリスは一旦攻撃を中断して目を隠す。

 やがて、周囲を照らしていた光が収まると、響のギアは大きく変わっていた。四肢に装着された白いパワージャッキと両耳に装着されているヘッドホンは銀に、ギアインナーの黄色は青と銀の二色に。胸の中心にウルトラマン達と同じカラータイマーが輝く、慈愛の勇者と呼ばれる青き巨人、ウルトラマンコスモスと酷使した新たなギアとなり、文字通り生まれ変わった。

 響の前に姿を現し、響のギアを変化させた硬貨のようなもの。それは、ウルトラマンの力が宿るウルトラメダルと呼ばれるもの。以前、未来と一体化する前のゼットが()()()ゲネガーグを倒した際に各地に散らばっていたのだが、その内の一枚が響の強い想いに応えて自ら姿を現したのだ。

 

「響……? その姿は、一体…?」

 

(……なんだよ一体。一体…彼奴に何が起きたッ!?)

 

 響のギアが変化した事に驚きを見せるクリス。それはリクも同様だった。ウルトラメダルに宿るウルトラマンの力によるギアの変化はメダルの開発者であるウルトラマンヒカリは勿論、誰もが予想していない事であり、当の本人である響も困惑を隠せていない。

 アームドギアを形成しないどころか、ウルトラマンの力をその身に纏うギアに宿した響を見たクリスは小さく化け物が、と呟いた後に攻撃の手を緩めず、更に強くする。ギアの変化に戸惑う響だが……

 

「な、何コレ……? 一体、何が起きたの…?」

 

「響ッ! それなら、その姿なら! さっきの要領で力を使える筈だッ!」

 

「─────えっ、あ、分かったッ! やってみる!」

 

 後ろから聞こえるリクの一言に振り向いて頷き、アームドギアを形成しようと頑張っていた時と同じように全身にコスモスの力を行き渡らせる。そして、力を解放して一気に加速。物凄いスピードで疾走し、クリスの攻撃を紙一重で躱していく。コスモスが得意とする戦法である素早い動きと高速移動だ。

 先程とは別次元と言っていい程の比べ物にならないスピードを以て自分の攻撃を躱していく響に翻弄されるクリスだが、それがどうしたと言わんばかりに腰部アーマーを展開。そこから小型のミサイルが顔を出した。

 

「チィ…ッ! ちょこまかと鬱陶しいんだよッ!」

 

 追尾式の小型ミサイルを撃ち出す技『CUT IN CUT OUT』を響に向けて放つクリス。そのミサイルは追尾式というのもあり、コスモスの力で高速移動し、攻撃を躱していた響にも命中してしまい、突然襲い来る衝撃に響は足を止めてしまう。

 更に衝撃の余波により、奇しくも満身創痍のリクの所まで下がってしまう響。そこを狙ったかのように、小型ミサイルが一斉に襲い掛かってきた。クリスの腰部アーマーから小型ミサイルを発射する技『MEGA DETH PARTY』である。それに気付いたリクが再びギャラクシーバーストを放とうとした瞬間……。

 

「─────そこまでだッ!!」

 

 突如上空から落ちてきた巨大な物体がリクと響を護る盾となり、間一髪で響とリクはそれを避ける。巨大な物体はよく見れば剣であり、柄に当たる部位の上には翼が仁王立ちしている。

 リクと響の前に降り立ち、巨大な剣を元の大きさに戻した翼は巨大な剣を見て「盾か?」と呟いたクリスに向けて「剣だッ!」と返した後、斬りかかっていく。

 

「リク、響、無事なのかッ!?」

 

「「奏さんッ!」」

 

 翼とクリスが刃を交える中、自分達を呼ぶ声に振り向けば、奏が此方に向かって走ってきていた。ウルトラメダルによって大きな変化を遂げた響のギアを見た奏はゼロと共に驚いていたが。

 それはさておき、駆けつけた二人が響達の元に到着した事によって、状況は二課側の有利に傾きつつあった。クリスとの鍔迫り合いを制した翼の元に響達が駆け寄る。翼も奏と同じように響のギアを見て驚いた表情を浮かべたが、すぐに防人としての翼に切り替わる。

 

「……立花、朝倉。私達が来るまでの間、よく持ちこたえてくれた」

 

 翼の言葉に笑顔を浮かべた響は一旦リクを連れて下がり、もはや何度目か分からないツヴァイウィングとクリスの対面となる。クリスはまたお前たちか、といった表情を浮かべた後にアームドギアを構え直す。対する奏と翼もまた、その手に持ったアームドギアを構え直した。

 

「丁度いい……! お前らを見るのも正直飽きてきたところだ…二人纏めてここでぶっ潰すッ!」

 

「やれるもんなら……やってみなッ! 行くぞ翼ッ!」

 

 クリスが撃ち出した弾丸を二人は掻い潜るように躱し、一気に肉薄して反撃の一手をおみまいする。クリスはそれを躱しながら後退し、何度も弾丸を撃ち出すが、二人には当たらなかった。

 

「なんで……なんで当たらねぇんだよッ!」

 

「知れた事ッ! 震える指で撃とうとも私達を捉える事能わずッ!」

 

 その後もクリスは二人の動きを予測した上での弾丸を放つが、二人はその全てを防いだり弾いたりする。自分の攻撃が通用しない、と焦りを見せたクリスは弾幕を厚くするが、それすらも二人には通用しなかった。

 そうして、動揺と焦りによって攻撃を続けるクリスに出来た一瞬の隙を逃さず、奏は自らのアームドギアに翼を乗せて前方へ撃ち出す。多大なる推進力を得た翼はクリスとの距離を一気に詰め、上段から剣を振り上げた。それを躱そうとしたクリスだが、動揺も相まって無茶な体勢から躱したせいでバランスを崩す。

 

「しまっ─────ッ!?」

 

「……チェックメイトだ」

 

「く……ッ!」

 

 尻もちをつき、体制を立て直そうとしたクリスの首元に翼の剣先が向けられる。後から奏と、リクを緒川の元に送り届けた響が翼とクリスの元にやってきた。立とうにも首元に剣先を向けられているせいで立てない。王手である。

 

「立花。後は……任せていいだろうか。今の貴女の力なら、任せられる気がするから」

 

「は、はいッ!」

 

 クリスに剣先を向けたまま、翼は響の方を向いて後を任せる事を伝える。それに頷いた響はある技の体制に入った。

 

(え、と……多分…こう、かな? こんなの初めてやるけど……なんとなく、そんな気がする)

 

 両手を上空に向けて優しい光を集め、右手に溜めた後に前方にゆっくりと撃ち出す技。コスモスが得意とする光線技、フルムーンレクトである。

 コスモスの代名詞とも言えるフルムーンレクトは、ウルトラマン達が得意とする光線技の中でも珍しい殺傷能力が無い光線。殺傷能力と引き換えに受けた相手の感情を静めて大人しくさせる、興奮を抑制する力を秘めた光線技なのだ。

 

(なんだ……? 融合症例が放ったあの光線を受けたら、さっきまで募っていた怒りが収まっていきやがる……一体、あいつはあたしに何を……?)

 

 コスモスの力を宿した響が放つフルムーンレクトを受けたクリスは、自身が先程まで抱いていた強い怒りや憎しみなどが薄れ、収まっていく事に困惑を隠せないでいる。光線を放ち終えた響は元のギアの姿に戻り、落ち着きを取り戻したクリスに語りかける。

 

「何度も言ったかもしれないけど、私達は戦うべきじゃないって事、分かってくれたかな……? クリスちゃんには色々聞きたい事があるんだ。私達と一緒に、来てくれる?」

 

 そう言い、笑顔を浮かべた響はクリスに手を差し伸べる。何がなんだか分からなくなったクリスはおもむろに響の手を取ろうとしたのか、自らも差し伸べる。

 しかし、クリスの手が響の手に触れようとしたその時。突如として現れたノイズが皆を取り囲むように現れ、それに気付いた奏と翼、響の三人は各々身構える。

 

「こ、此奴ら……ッ!? さっきまで一匹も居なかったのにッ!」

 

「─────命じた事すら出来ないなんて、貴女はどこまで私を失望させれば気が済むのかしら?」

 

 ノイズが現れただけでなく、上空から聞き慣れない、それでいて誰のものでもない女性らしき声が聞こえてくる。この場に居る全員が上を向くと、そこには金髪が目立つ一人の女性が宙に浮いていた。しかも、その女性の手にはノイズを使役出来る完全聖遺物、ソロモンの杖がしっかりと握られている。

 

「フィーネ……ッ!? い、一体どういう事だよこれは…ッ!」

 

(フィーネ? フィーネ、か。もしかして此奴が、俺が感じ取ったとてつもなく嫌な予感の正体なのか…?)

 

 クリスにフィーネと呼ばれた金髪の女性は奏や翼、響には目もくれず、失望の眼差しをクリスに向けている。一方、奏と共にフィーネと呼ばれた女性を見ていたゼロは、自分が感じ取った嫌な予感の正体なのかを考えていた。

 

「あの男を連れてこいって命じた事も失敗、そこの小娘を連れてこいって命じた事も失敗どころか潰そうと試みて、挙句には其方側に丸め込まれようとしているじゃない。失望しない方が無理よ」

 

「なんで……なんで彼奴やこいつにばっかり拘るんだよッ!? フィーネのいうそいつらが居なくたって戦争の火種くらいあたし一人でも消せるッ!! そうすれば、あんたの言う通りに人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろッ!?」

 

(ん? 呪い? この世界に生きる人達には何かの呪いでもかけられてんのか…?)

 

 クリスはフィーネに向けて、どこか哀しさと嫉妬を感じられる声で声の限り叫ぶ。()()という、日常生活ではおそらく出る事はないであろう、聞き慣れない単語と共に。それを聞いたゼロは考えを巡らせる。

 一方で呪いという単語が気になった響がクリスに問いかけようとした時、フィーネは大きくため息をつき、クリスにとっては絶望とも言える一言を告げる。

 

「それに、丁度いい機会ね? クリス、もう貴女には用は無いわ。何処へなりとも行きなさい」

 

「な、なんだよ、それ……ッ!? お、おい! 何処行くんだよフィーネッ! フィーネェェェェェッ!!」

 

 自らの名を叫ぶクリスを無視し、フィーネはソロモンの杖を握っていない方の手を上げる。すると、クリスがイチイバルを纏う為に脱ぎ捨てたネフシュタンの鎧が光の粒子となってフィーネの手に集まっていき、やがて消えてしまう。

 コレで目的は果たした、と言わんばかりにフィーネはソロモンの杖でノイズを呼び出し、奏達の周りを更に取り囲む。そうして、今度こそフィーネは奏達の前から姿を消した。クリスはフィーネが自分を見限った事が信じられず、精神が乱れ、身に纏っていたシンフォギアが解除されて私服姿に戻ってしまう。

 

「クリスちゃん……ッ!」

 

「響ッ! その子を連れて緒川さんの元に! この場はアタシと翼がなんとかするッ!」

 

「わ、分かりましたッ!」

 

 その場に倒れ伏してしまったクリスを連れてこの場から離れる響。残された奏と翼は息を合わせて共に歌い、ノイズが蔓延る戦場と化した森林を駆ける。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ───それから少し経ち、フィーネの持つソロモンの杖によって呼び出されたノイズを倒し終えた奏と翼はシンフォギアを解除し、足早に緒川の元に戻ってきた。変身によって体力を消耗していたリクは少し休んだお陰でなんとか立てるようにまで体力を回復していた。

 二人が無事に戻って来た事に安堵する緒川。今回の件で色々と考える事が出来てしまったのだが、取り敢えず今は奏と翼を午後の仕事に連れていく事が先決という事となり、響とリクの二人は弦十郎が迎えに来るとの事。

 一方でクリスはというと、弦十郎が到着する前に気が付き、響が引き止めるもそれを振り切り、姿を眩ませてしまった。その事に酷く落ち込む響だったが、リクに「クリスとは、また会える筈だよ」と言われてそうだよね、と元気を取り戻す。

 

(また、会えるよね? クリスちゃん……)

 

 その想いを胸に、クリスとの再会を願う響だった。それから更に時間は経ち、弦十郎が運転する車に揺られ、やっとの事で二課に戻って来た響とリク。二人を出迎えたのは藤尭と友里、未来の三人だ。

 それから少し遅れて二課にやって来た了子も二人が無事に帰って来た事に安堵を覚えるも、響に起きた変化について詳しく検査をする事になり、響は有無を言わさずにメディカルルームへと引き摺られていく。

 

「だ、大丈夫かな響……」

 

「響なら大丈夫ですよ。お疲れ様でした、リクさん」

 

「……あっ、えーと、ありがとう未来ちゃん。後で響にも言ってあげてね」

 

「ふふっ、勿論ですよ」

 

 響が了子に引き摺られていく形でメディカルルームへと姿を消した後、一人二課で待機していた未来はリクに労いの言葉をかける。

 後に仕事を終えた奏と翼、緒川の三人も二課に戻って来た。これで全員揃った事となる。弦十郎は皆が揃った事を確認した後、今回現れたイチイバルの装者とその装者に『フィーネ』と呼ばれた人物について会議を開く事とにした。




今回出した響のウルトラギア(仮名)、名前どうしよう…?勿論、響以外にも出す予定ではいますが( 'ω' =͟͟͞͞

それでは、お読み下さりありがとうございました(・ω・)ノシ


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#24 思惑

リアルが忙しくて執筆の時間が取れない…
お待たせしました…!


 ネフシュタンの少女元いイチイバルの装者『雪音クリス』と、クリスを利用していると思われる、クリスに『フィーネ』と呼ばれた金髪の女性、フィーネはクリスを用済みと称してクリスがイチイバルを纏う際にパージしたネフシュタンの鎧を回収し、クリスの元から去る。

 今までの一連の騒動はフィーネが引き起こしたものと仮定し、皆を二課に蒐集した弦十郎は急遽対策会議を開くが、会議の前にクリスとの戦いにて響のギアが変化した事例を受けた了子の主導の元、響のメディカルチェックの結果を先に皆と共有する事となった。

 

「─────響ちゃんのメディカルチェックの結果が出たわ。検査の結果だけれど、響ちゃんに外傷はあるものの、深刻なものは無いわね」

 

 そう言いながら、了子は皆の前に響のメディカルチェックの結果を見せる。確かに、先の死闘にて響はダメージを負い続けていたにも関わらず、大事には至っていない事が結果を見れば分かる。ただ一つ、気になる点を除いて。

 

「検査を進めて分かった事がもう一つ。響ちゃんの心臓にある奏ちゃんのガングニールの破片、あれが前よりも響ちゃんの体組織と融合しているみたいなの。それが、絶唱にも匹敵する攻撃力を引き出すエネルギーと大ダメージを負ってもすぐに全快する回復力を生み出してるようね」

 

「聖遺物との融合……ですか……?」

 

 聖遺物の欠片をペンダントにして首に下げている奏や翼とは違い、響は心臓に刺さった聖遺物の欠片を用いて聖詠を紡ぎ、シンフォギアを纏っている。彼女がクリスに『融合症例』と呼ばれている由縁でもある。

 人と聖遺物の融合。その単語が出た事によって了子以外の皆は各々違った反応をとる。奏は目を伏せ、翼は目を細める。響は何がなんだか、といった様子で疑問符を浮かべているように見える反面、未来とリクは響を心配しているような素振りを見せた。

 だが、この中で聖遺物に一番詳しいのは紛れもなく櫻井了子その人である。その人が軽々しく話題に出したのだから今回分かった事例は大事ではないのだろう、と各々判断した。

 それもそのはず、装者達の状態をを確認し、彼女達が出撃させるか否かの判断を弦十郎に伝えるのは了子の仕事だ。仮に問題が起こるようであれば、彼女はこの情報を簡単に口にしたりはしない筈なのだ。故に皆は響の身に起きている事はほんの些細な事だという認識に一旦留め、続いて響のギアに起きた変化についての話に移る。

 

「それに、私が気になるのはそれだけじゃないの。響ちゃんが新しく纏ったあのギアについて、響ちゃん本人から聞かせてもらいたいわ。変化してもガングニールのフォニックゲインは検出されていたから、何か別のギアに乗り換えたって訳でも無さそうだけど……」

 

「あっ、そういえばあの時……何か、見た事のない巨人?の横顔が描かれている硬貨のようなものが胸の傷に入っていったような…?」

 

 そう言い、響はあの時の事を思い出そうとした時。自分の胸ポケットに何か丸いものが入っている事に気づく。不思議に思い、取り出して皆に見せた。

 周りが赤く縁取られ、青と銀の二色の肉体を持つ巨人の横顔と見た事が無い文字が描かれている硬貨のようなもの。それを了子や弦十郎達は不思議なものを見るような様子でいたが、リクと未来の内に居るゼット、奏の内に居るゼロの三人はそれが何なのかすぐに理解する。

 

『カナデ。少しの間でいい、身体借りてもいいか?』

 

「……え? ま、まぁいいけど…」

 

『サンキュ。すぐに終わるからよ』

 

 奏から身体の主導権を譲ってもらったゼロは、響が手にしている硬貨のようなものについて弦十郎達に説明を始める。響が持っているものはウルトラメダル。端的に言えばウルトラマンの力が宿るもの。それ一つでも強大な力を有する代物であり、ゼット曰く宇宙を救う希望。

 今回響の目の前に現れたのは『慈愛の勇者』と呼ばれ、かつてゼロともう一人、ウルトラマンダイナと共に肩を並べて共闘した青き巨人『ウルトラマンコスモス』の力が宿るウルトラメダルである。

 

「……という訳だ。コスモスの力が宿るメダルが自ら姿を現したのは響、お前の気持ちに反応したからだと思うぜ。響とコスモス、両者の力が合わさった結果、あのギアに変化したんだろ。安直なネーミングになるが……さしずめ、コスモスギアっていった所か」

 

「そうなんですね……私に力を貸してくれてありがとうございます、コスモスさん」

 

 響は自分に力を貸してくれたコスモスのメダルに感謝の言葉を述べ、一旦胸ポケットに仕舞い込んだ。ゼロの説明によって響のギアが変化した要因が分かったところで、今度はそのメダルについての説明を求められる。それについてはゼロが引き続き説明を担当した。

 ウルトラメダルは頻発するデビルスプリンター事件及び怪獣に対抗すべくゼットライザーと共にヒカリの手によって作成されたものなのだが、宇宙鮫『ゲネガーグ』が突如光の国を襲撃し、強奪。それを追ってゼロとゼット、後からギルバリスを追う形でジードこと朝倉リクの三人は奏達の住むこの地球にやって来た、という事を今この場で皆に伝える。

 

「なるほど……その、デビルスプリンター? っていうものが私達の地球に存在する可能性がある、という事ね?」

 

「そうだ。前に俺達が戦ったギルバリスは過去に俺とジード、オーブの三人で力を合わせて倒した敵なんだが、其奴が復活したのもデビルスプリンター絡みだと俺は睨んでいる」

 

「そうなると……ゼロ君。今後もデビルスプリンター絡みの怪獣が出現する、という事になるのだろうか?」

 

「嗚呼、その見解で間違いねぇよ。旦那。厄介な事にデビルスプリンターは次元を超えて数多の宇宙の各地に散らばっていやがる。そいつを対処するのも俺達ウルトラマンの仕事だが、問題は凶暴化した怪獣よりもデビルスプリンターの方でな……」

 

「……そう、だね」

 

 ゼロだけではなく、リクも目を伏せた事に疑問を抱いた翼が了子の代わりに問いかける。翼に問いかけられたリクは伏せていた目を開け、翼と目線を合わせてから問いに答える。

 

「デビルスプリンターは……僕の父親、ウルトラマンベリアルの細胞の一部、です…」

 

「ベリアルが朝倉の父親だと…? すまない朝倉。デビルスプリンターもそうだが、その、ベリアルについてもう少し詳しく話してくれないだろうか。無論、無理にとは言わないが……」

 

「いえ、大丈夫です。どのみちデビルスプリンター絡みであれば、遅かれ早かれ僕の素性を皆さんに話すべきだと思っていましたから」

 

 リクは皆に自身の父親が何者なのかを話し始める。そして、自身が父親の、ウルトラマンベリアルの因子を用いて造られたウルトラマンのクローンだという事も。

 過去に共闘した事も相まってリクの事情を既に知っているゼロは兎も角、それを初めて聞いた二課の面々は驚きの声を上げる。それもそのはず、リクはゼロやゼットとは違ってウルトラマンではなく地球人として育てられた。リクの実年齢はおそらく二十歳かそこら、といった所だろう。

 それはさておいて、とリクはデビルスプリンターについての説明を続ける。撃破された怪獣の破片にも少数ながらもベリアル因子が宿っている為、悪意を持つ人の手に渡らないように細心の注意を払いつつ出来る限り回収して欲しいという旨も伝えながら。

 

「……という訳なんです。二課や一課の方々がデビルスプリンターを回収してくれている事には感謝していますが、絶対に悪用しないよう、約束してくれますか?」

 

「勿論だ、リク君。この件は一課の方に極秘に伝えておこう。貴重な情報、感謝する」

 

「いえ、ありがとうございます。師匠」

 

 響のギアの変化の要因であるウルトラメダル、それに関わるデビルスプリンターというベリアルの置き土産について話し終わった所で本題である喪われた筈の聖遺物、イチイバルの装者『雪音クリス』とクリスを裏で操っていたと思われる黒幕『フィーネ』についての議題に移る。

 今回が初の邂逅となるフィーネ。彼女に向けて、クリスは気になる事を言っていた。人々にかけられたとされる呪いについてだ。あの時クリスがフィーネに言ったのは、『戦争の火種を一つ残らず消せば人々にかけられた呪いは解け、バラバラになった世界は再び一つになる』というのが引っかかる。

 呪いについて何か知っているか、と弦十郎は皆に問うが、皆は揃って首を横に振る。結局、クリスの言っていた人々にかけられたとされる呪いについては何も分からずじまいで終わってしまう。

 だが、それはフィーネの正体を探る上でキーワードに成りうるだろうと弦十郎は告げ、ひとまずクリスの捜索及びフィーネに関しては弦十郎主導の元、二課に任せる事となり、今日はこのまま解散となった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 二課を後にしたアタシと翼。その帰り道、あの時ゼロが言っていた『とてつもなく嫌な予感』の正体がフィーネなのかどうかを聞いていた。

 

「……それで、ゼロ。あの時言ってたとてつもなく嫌な予感の正体は……フィーネって奴で合ってたか?」

 

『……まぁ、当たりに近い。確かに奴からは嫌な予感を感じたぜ。それもかなりヤバい奴をな。それに、どういう経路かは分かんねぇが彼奴がソロモンの杖を持っていたのは確かだ。ひとまず彼奴をどうにかしねぇと、ノイズの被害は増える一方だろうよ』

 

「そう、なのか……」

 

 当たりに近い、という所に少し引っかかりを覚えたが、ひとまずはフィーネをなんとかしない限りはノイズの被害は増える一方だとゼロは言う。

 フィーネが持つ完全聖遺物『ソロモンの杖』。それがノイズを呼び出し、使役出来るというのはネフシュタンの少女元いクリスが証明済みなのだ。おそらく今後もフィーネはソロモンの杖を使ってノイズを使役し、街を襲う算段を付けているとゼロは睨んでいた。

 そこまで話したところで、話題はゼロが翼に分け与えた力についての話へと移る。これについてはゼロに説明を任せる。その為、アタシは一旦ゼロに交代した。

 ゼロがウルティメイトブレスレットの代わりに手にしたガングニールの力が宿るブレスレットを経由して渡した力。今のところは変化が無いように見えるのだが…。

 

「ゼロ、話は変わるのだが……あの時渡してくれた力についての説明をお願いしてもいいだろうか?」

 

「ん? 嗚呼、確か……まだ途中だったか。ま、そろそろ夕飯時だし、九時を過ぎねぇ内に飯にしようぜ? 二人共腹減ってるだろうし、説明なら飯時でも出来るからな」

 

 ゼロがそう言うと、奏と翼、双方のお腹がぐぅ、と鳴る。それに気付いた二人はそれぞれ恥ずかしくなったのか、顔を赤くして顔を背ける。それにやっぱりな、と告げたゼロは一旦引っ込む。その後、時間を確かめた後に奏は翼を連れて近場のファミレスへと向かう事にした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……やはり厄介な存在だ。ウルトラマン共は…」

 

 郊外の屋敷にて私は一人、そう呟く。いつまで経っても目的の一つを達成しないクリスを見限った私は、とある解析データを見ていた。ウルトラマン達に関するデータである。

 二課に所属しているウルトラマンは三人。絶唱を歌い切り、風前の灯だった天羽奏を救ったウルトラマンゼロ。そのゼロを師匠と呼び、融合症例の傍に居る小日向未来と共に居るウルトラマンゼット。別の宇宙から時空を超え、ギルバリスを追って此方にやって来たウルトラマンジードこと朝倉リク。その中でも私はウルトラマンゼロに関するデータを見ていた。

 自分自身を“無敵のゼロ様”と称する彼の戦闘能力は圧倒的と言わざるを得ない。更に、ギルバリスとの死闘にてシンフォギアと酷似した新しい力を手にした。元々の戦闘力を加味しても、ウルトラマンゼロが私の計画を進める上で最も邪魔な存在だと断言出来る。

 

「問題は奴をどう排除するか、だが……」

 

 ウルトラマンに共通する弱点として、地球上では三分間しか活動出来ないというのがある。ゼットやジードは三分だったが、その中でもゼロだけはたった()()という短さだった。

 おそらくはゼロと一体化している天羽奏の纏うシンフォギア、それの元となっている聖遺物が原因だと思われるが、その真意は不明。しかし、活動時間が一分短いというのは此方側としては十分すぎるアドバンテージだと見て取れる。

 

(……狙うとしたらそこしかない、か。ゼロの存在が装者と他のウルトラマン共に良い影響を及ぼすのは間違いない)

 

 それに加え、有力な情報も手に入れる事が出来た。ウルトラマン達の力が宿るウルトラメダルというものが各地に散らばっているという事。ウルトラマンの力はこの眼で見せてもらった為、それが如何に強大なものなのかは理解している。

 それ一つでも強大な力を手にする事が可能だというなら、奴等より先に回収するしか手はない。そうと決まれば早速行動に移すしかない、と考えた私はクリスに追わせていた例の男、鏑木慎也を自らの手で探す事を決めた。




書けた…遅くなってすみません(´・ω・`)
次回はおそらくクリスちゃん目線から…ですかね。それではお読み下さりありがとうございました(・ω・)ノシ


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#25 闇の風来坊

私事ですが。figma翼さんと響の両方買いました()
シンフォギアのフィギュアの新シリーズが出る前に、と思いまして…というか前から欲しかったんですよね。とはいえ結構痛い出費でしたが()

それはさておき、遅くなりました。今回、あの方が出ます。どうぞ(っ´∀`)っ


 フィーネが、あたしを見限った。原因は言うまでもなく融合症例の確保と鏑木とかいう男を捕まえる事が出来なかったからだ。

 融合症例……立花響と名乗ったそいつと、鏑木とかいう男の二人にフィーネが何故あそこまで固執しているのかあたしには分からない。けれど、そいつらを捕まえる事が出来なかったのは事実。その結果がコレだ。

 本当の意味で行き場を喪った自分が行く所といっても、もう彼処しかない、と向かった先はフィーネが根城としている郊外の屋敷。そこに辿り着いた時、扉越しに話し声が聞こえてくる。

 

「───仕事が杜撰(ずさん)過ぎると言っているのよ。足がつけばこちらの身動きが取れなくなるわ」

 

(……あ? 今話してんのはフィーネ、だよな? 一体誰と話してやがる…?)

 

 扉越しにフィーネと思われる声の主が誰と話しているのか聞いていると、あたしに聞かれている事も知らずに話は続けられる。

 

「そうなれば必然的に私は身動きが取れなくなる、それすらも貴方達の目的かしら?」

 

『神ならざる者が全てに干渉るうなど不可能。それはお前自身が一番分かっているのではないか?』

 

 途切れ途切れ話を聞いていたが、融合症例の放った興奮抑制光線『フルムーンレクト』の効力が切れたのだろう、自分の内からマグマのように煮えたぎっている怒りがふつふつと込み上げ、あたしの思考をそれ一色に染め上げるように沸いてきた。その衝動のままに、あたしは扉を蹴破る。

 

「フィーネ……! あたしが用済みって言ったよな、それはなんでだッ!! もう、要らねぇって事かよッ!? あたしを拾ってくれたアンタまで、あたしを道具のように扱うのかよ!」

 

 一度火が灯った怒りは止まる事を知らず、後からどんどん言いたい事が出てくる。その全てを、フィーネに向けて畳み掛けるようにぶつけていく。

 

「もう訳わかんねぇ……頭の中ぐちゃぐちゃだ……何が正しくて何が間違ってるのか分かんねぇんだよ!」

 

 怒りのままに叫び散らかすあたしを冷ややかな目で見ていたフィーネは受話器を置き、誰かとの通話を切る。そうして、振り向き様にソロモンの杖を起動させ、あたしの目の前にノイズを召喚した。

 

「……どうして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしらね? まぁ……そろそろ潮時かしら」

 

「なん、だと……?」

 

「そうね。貴方のやり方じゃ、争いを無くす事なんて出来やしないわ。せいぜい一つ潰して、新たな火種を二つにばら撒く事くらいかしら?」

 

 それを聞いたあたしは、今にも泣きそうな声で訴えかける。痛みもギアもアンタがくれたものじゃないか、アンタが教えてくれた、痛みこそが人を繋げるものじゃないのか……と。

 だが、その言葉すらもフィーネには届いていなかった。それどころか、()()()()()()()()()()()()()をするかのような言葉を投げかける。

 

「私の与えたシンフォギアを纏いながらも、毛ほどの役に立たないなんて……そろそろ幕を引きましょうか」

 

 そう呟き、フィーネはソロモンの杖で呼び出したノイズをあたしに向けて仕向ける。咄嗟に起動聖詠を紡ごうとしたが、時すでに遅し。ノイズの魔の手が眼前に迫っているのを見たあたしは死を覚悟した。

 シンフォギアを纏っていない自分は身体能力が高いだけの一般人と何ら変わらない。故にノイズに触れられたら炭化してしまう。死という単語が頭を過ぎり、身体が強ばり、思わず目を閉じてしまう。だが、そこで奇跡は起きた。

 

『─────悪いな。そいつに死なれたらこっちも色々困るんでね。これ以上傍観してられねぇし、ここからは俺も介入させてもらうぜ?』

 

 聞き慣れない男性の声と共にあたしが蹴破った扉のすぐ横の壁がまるでバターのように斬られ、そこから飛び出した何者かの手によってノイズが倒される。いつまで経ってもノイズの魔の手が来ない事に疑問を覚えたあたしは恐る恐る目を開けて、自分を護ってくれたであろう人物の背中を見た。

 それを一言で表すならば、人外。全身が禍々しい棘に覆われているそいつは手にしている刀らしき武装でノイズを斬り伏せたと思われる。

 

「あ、アンタは一体なんなんだよ……ッ!?」

 

『悪いが質問に答えてる暇はねぇ。今はここから無事に逃げる事だけを考えておけ。いいな』

 

「お、おう……分かった……」

 

 そいつを見たあたしは思わず、そんな疑問を口にする。それに気付いた謎の人物はあたしの方に振り返る。改めてそいつを真正面から見たあたしは、何処かで見た事のあるような既視感を覚えた。

 そいつは禍々しい仮面のようなものを付けており、同じく禍々しい棘が目立つ鎧のような何かを身に纏っていた。極めつけに、そいつの胸に妖しく輝くのは、紫色に光る三日月型のような何か。あたしの疑問にすぐ答えたそいつは、フィーネに向けていた刀を一旦納刀する。

 

「……貴様、一体何者だ」

 

『あー……お前は確か、フィーネっつったか? 俺には名乗る名なんぞ持ち合わせてねぇが、敢えて名乗るんなら……俺は()()()()()、って奴だ。つまり、お前の敵って認識で構わねぇぜ』

 

「ほう? なら、そこの小娘を助ける為にわざわざ現れた風来坊とやらは……小娘共々死ぬがいい」

 

『───ハッ、悪いがそいつは……無理な相談だ』

 

 自身を闇の風来坊と自称したそいつはフィーネを挑発するような真似をしながら淡々と語る。それに苛つきを見せたフィーネは更にノイズを召喚、トゲトゲの奴を襲うよう仕向ける。

 それを見たトゲトゲの奴は至極冷静に納刀した刀の柄をしっかりと握り、力を込め始める。すると、全身から禍々しいオーラを放出し始めた。一体何をする気なのか、と思った時。その謎は直ぐにとける。

 

『蛇心剣─────新月斬波(しんげつざんば)ァ!!

 

 トゲトゲの奴は全身から放出していた禍々しいオーラを刀の刀身に集約、三日月型の斬撃としてフィーネが召喚したノイズとその先に居るフィーネに向けて放った。

 トゲトゲの奴が放った斬撃はノイズを炭へと変えていき、その勢い衰えぬままフィーネに着弾した……かに思えたが、フィーネにトゲトゲの奴が放った斬撃は届いていない。斬撃が届く前に展開していた障壁によってそれを防いでいたのだ。

 斬撃が届いたにも関わらず、無傷なフィーネを見たトゲトゲの奴は不敵な笑みを浮かべているように思えた。

 

『ま、薄々分かってはいたが……そう簡単に親玉の首を取れたら面白くねぇよな』

 

「中々の力だ……貴様が私の味方でない事が非常に惜しいくらいにな」

 

『─────そうかよッ!』

 

 吐き捨てるように叫び、そのまま、トゲトゲの奴はフィーネに向けて走り出して攻撃を仕掛ける。だが、フィーネは完全に無防備という訳ではなかった。かつてあたしが振るった事のある()()()をトゲトゲの奴に向けて振るっていたのだ。

 刃の鞭はネフシュタンの鎧に付随している武装の一つ。それをフィーネが振るっているという事は、フィーネがネフシュタンの鎧を纏っているという事に他ならない。気になってすぐさまフィーネの方を見れば、フィーネは黄金に輝く鎧を身に纏っていた。

 自分が纏っていた時よりも細部こそ違うものの、フィーネが纏っている鎧こそ、かつて自分自身が纏っていた完全聖遺物、青銅の蛇の名を冠する『ネフシュタンの鎧』だという事が分かる。トゲトゲの奴が振るう刀、またの名を『蛇心剣』で蛇のように襲い来る刃の鞭を余裕そうに防いでいたトゲトゲの奴は、ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネを見て面白そうに声を出していた。

 

『ほう……? それがお前の本領、本気の姿って訳か。なるほど……面白いじゃねぇか』

 

「私もこの鎧も永遠に不滅……未来は永遠に続いていくのよ。それに、『カ・ディンギル』は既に完成しているも同然……クリス。もう貴女の力に固執する理由はないわ」

 

『……あ? カ・ディンギル、だと? なんだそいつは?』

 

「カ・ディンギル……? そいつは……」

 

 あたしとトゲトゲの奴が揃ってフィーネが洩らした()()()()()()()という単語に疑問符を浮かべていると、黄金の鎧を纏ったフィーネはソロモンの杖をあたし達に向け、再びノイズを召喚する。ノイズの数は先程より段違いに多く、本気で此方を殺しにかかっているのが目に見えていた。

 

「私とした事が、話が過ぎたようね。貴方達は知りすぎてしまったわ……だから、ここでさよならしましょうか」

 

『……嗚呼、俺も出来ればお前とは二度と会いたくねぇなぁッ!!』

 

 トゲトゲの奴が再び声を荒らげ、地面に向けて先程の斬撃を放つ。斬撃の着弾による余波でフィーネが召喚したノイズの大部分が倒され、土煙が舞い上がる。その間にトゲトゲの奴はあたしを抱えて外へと転がり出た。

 舞い上がる土煙のせいで薄らとしか見えなかったが、その最中で見たフィーネの嘲笑うような顔を見て、とうとう、自分は見捨てられたのだと悟る。その後もノイズによる追撃は止む事を知らず、絶望で動く事すら出来ないあたしは聖詠を紡ぐ事すらも出来ず、トゲトゲの奴に抱えられたままでいた。

 

(ちくしょう……ちくしょう……ッ!)

 

 トゲトゲの奴が刀を振るい、此方に迫り来るノイズを倒しつつフィーネの屋敷から離れていく。外はいつの間にか雨が降っていたが、そいつに抱えられたままのあたしは悔しさで声を噛み殺し、そのまま気を失った……。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 顔に当たる部位に液晶ディスプレイのようなものが付いた、よく分からない生き物達を倒し終えた後。フィーネとかいう奴に命を取られそうになっていた銀髪の小娘を連れて近場の公園らしき場所までやって来た俺は、周囲を見回して危険が無い事を確認した後、小脇に抱えたままの小娘を椅子に座らせて魔人態から人間態へと変身する。魔人態のままでいると悪い意味で目立つから、というのもある。

 ひとまず小娘を座らせた後、どっ、と押し寄せる疲れを感じ、一息つきたくなった俺も小娘の隣に座る。その間、俺は今回出くわした敵……フィーネについて考えを巡らせていた。

 

(……奴が言っていたカ・ディンギルが完成しているっていうのが妙に引っかかるな…? カ・ディンギルがどういうもんなのかは分からねぇが、口封じにそこの小娘諸共俺を殺そうとしてきた奴だ。カ・ディンギルが相当ヤバい代物なのは間違いねぇな)

 

 銀髪の小娘、クリスを変な生き物の手によって葬ろうとしていたそいつが口にしたカ・ディンギルという単語。見るからに親玉と見て取れるそいつがうっかりなのかどうかの真偽は不明だが俺達に向けて口にしたのだから、奴にとって重要なキーワードと見ていい。

 問題はコレをどうやって俺が知っている人物に教えるかだ。かつてウルトラマンオーブ、ガイと共に共闘した事のあるウルトラマンの二人、ゼロとジードの奴等がこの地球に居るとは考えにくい。

 かと言ってガイの奴に伝えるといっても彼奴は宇宙を渡り歩く風来坊。今頃デビルスプリンター絡みの事件か別の事件絡みでこことは違う別の宇宙に行っている頃合いだろう。この地球に居るとは思えない。どう見ても手詰まりである。

 

「……さぁて、柄にもなく彼奴みたいに風来坊を名乗っちまった訳だが……此奴を放っておく訳には、いかねぇよな」

 

 フィーネが呼び出したと思われる変な生き物による追撃は止んだが、奴がそれだけで見逃すとは思えない。何せ俺達はフィーネの切り札であろう何かを示す単語を知ってしまったからだ。

 故に俺達の息の根を止めない限り、奴はあの変な生き物を俺達にけしかけ続けるだろう。幸いにも蛇心剣は変な生き物に通用するみたいだが。

 それに、出来る事なら小娘を知っている奴に預けた方がいいだろう。果たして、そんな都合よく居るのかどうかの話になってくる。

 

(……ま、ひとまずは此奴が風邪引かねぇようにするか)

 

 無我夢中であの屋敷を飛び出した為、色々考えて頭が冷え、冷静になった今頃になって雨が降っている事に気づく。小娘の命を救ったのはいいが、雨に打たれて風邪でも引かれたら後になって困るのは確実だ。

 ひとまず小娘を背中に背負い、その上に自分の上着を掛けて少しでも暖かくした所で公園らしき場所を後にする。なるべく雨に当たらないようにしながら暫く歩いていた時、向かい側から歩いてくる二人の少女を見かけた。一人は黒髪に大きなリボンの目立つ少女、もう一人はやたらと元気な印象を受けるクリーム色に近い茶髪の少女。

 

(……いっその事、此奴らに小娘を任せるか…? いや、素性も知らねぇ奴が声を掛けたら有無を言わさず怪しまれるのがオチか…)

 

 アレコレ色々葛藤したが、結局は小娘を預けるのがいいという結果に至る。一旦声を掛け、呼び止めた後で小娘を二人に託す算段を取る事にした。

 雨に打たれて全身びしょ濡れのまま、俺は二人の少女に声を掛ける。俺に声を掛けられた二人の少女は反応するや否や、共に俺を警戒する素振りを見せた。当然の反応だ、知らない人に声を掛けられたら誰だって警戒する。

 

「急に呼び止めて悪いな。お前らが俺を警戒するのも分かるが、呼び止めたのはお前らに頼みがあるからだ」

 

「頼み……? ってなんですか?」

 

「コイツをお前らに任せてもいいか。何者かに襲われたのか、公園でびしょ濡れになって行き倒れになってた所を見かけてな」

 

 嘘と真実を織り交ぜながらそう言い、背中に背負っていた小娘を二人の目の前に下ろす。小娘を見た黒髪の少女は疑問符を浮かべていたが、茶髪の少女の方は小娘を知っているかのような反応を見せた。黒髪の少女は兎も角、茶髪の少女の方は小娘を知っていると見ていい。

 

「く……クリスちゃんッ!?」

 

「えと……響。その子の事、知ってるの?」

 

「う、うん。でも、一体なんで……? 確か、あの時……」

 

 兎に角、茶髪の少女が俺が運んで来た小娘の知り合いなら任せてもいいだろう。考え込む茶髪の少女を他所目に、俺は黒髪の少女の方に向き直って小娘を任せる事を伝えた。

 小娘…クリスを急に託された黒髪の少女は慌てていたが、少しして分かりました、と俺に告げる。それを聞いた俺は一回、頷いた。

 クリスを二人に任せた俺は後ろを向いて闇に向けて歩き出したが、その直後、茶髪の少女が俺を引き止める。そのまま去るのもアリかもしれなかったが、何を思ったのか、一旦俺は茶髪の少女の方へ向き直った。

 

「……何か、用か?」

 

「あ、あの! クリスちゃんを助けてくれてありがとうございますッ!」

 

「……嗚呼、その事か。俺は行き倒れてたそいつを拾っただけだ、礼を言われる筋合いは無いさ」

 

「それで、貴方は一体……誰、なんでしょうか?」

 

「ん、俺か? 俺は……」

 

 首を傾げる茶髪の少女に対して、俺は本当の名を名乗ろうか一瞬迷った。だが、今はその時じゃないと判断する。

 

「─────ただの風来坊だ。じゃあな、二人共」

 

 それだけを告げて、俺は再び雨が振り続ける闇へと振り返る。あの二人のように光の中で生きる者達より、俺には闇が似合う。

 それに、また一つ気になる点が出来た。黒髪の少女の腰、スカートのベルトに取り付けてあるZの文字が刻まれたホルダーのようなもの。あんなものは初めて見たが、何故か目を離せなかったのだ。

 

(……アレはもしや…いや、まさかな?)

 

 そんな事を考えながら、雨に打たれ続けてずしり、と重くなった上着を片手に俺は闇の中を歩き続けた。次に日の目を見るのは何時になるだろうな、と頭の片隅で思いながら。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「奏のガングニールとゼロの力の一部が、私に……?」

 

 そう問う私に、奏の身体を借りているゼロは頷く。ゼロ曰く、あの時ウルトラマンであるゼロ自身の力とガングニールの力の一部を貸し与えたのだという。

 それには驚く暇すらない。それ以前からゼロは私達を含めた皆に対して出来ない事は無いと言わんばかりの力を幾度となく見せてきたのだ。そんな事を考えていると、ゼロがもう一つ気になる事を口にする。

 

「だが、この事は旦那達には秘密にしてほしい」

 

「……秘密に? ゼロ、それは一体…何故?」

 

「ツバサ、お前に渡した俺達二人の力は今後の戦いにおいて最大の切り札に成りうるもんだからだよ。二課の職員達は信用出来る奴が多いが……何処から情報が漏れて敵の耳に入るか分かんねぇし、念の為だ」

 

「この力が、切り札に……」

 

 確かに、ゼロの力が強大なものというのは既に知っている。それに加えて奏のガングニールの力の一部も加わっているのだ、文字通り切り札と言っても差し支えないだろう。

 とはいえ、その力は無闇矢鱈に使えない力。仮に使うとしたら、その時は最悪の事態を想定しておけと釘を刺される。それに頷き、一度笑みを浮かべたゼロは一旦引っ込んだ。瞳の色が金から朱色に戻り、元の奏に戻る。

 

「……翼、疑問は解決したか?」

 

「え、えぇ。奏、後でゼロに教えてくれてありがとう、って伝えておいてくれる?」

 

「ん、了解」

 

 長々と話していたせいか、時刻は九時を回っていた。会計を済ませ、私と奏はファミレスを後にする。外に出ると珍しく雨が降っていた為、二人して持参していた傘を差して歩きながら寮に着くまで色々話していたのだが、奏が一瞬だけ足を止めて振り返る。

 

「……どうしたの、奏?」

 

「嗚呼、ごめん翼。なんとなく……何かが、通り過ぎてった気がしてさ。でも、多分気の所為だ」

 

「そ、そうなの……?」

 

 疑問符を浮かべる私に対してそうそう、と答えた奏。気の所為ならいいか、と私は奏を連れて改めて歩き出した。奏がその時感じた何者かの気配がすぐ近くにある事を知らずに。

 私達が知る由もないその裏では此度の黒幕の他にもう一人、名も知らぬ何者かの暗躍もあったという事も、今の私達は知らない。




あー、うん。登場させないと言いつつ登場させた本人が言うのもなんですが、此方のジャグジャグさん本編よりヒーローしてますやん…

……まぁ、Z本編でも大方こんな感じだったからあながち間違いじゃない、筈?(オイ)
それはさておき、お読み下さりありがとうございました。また次回(・ω・)ノシ


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#26 再会

勢いで始めたウマ娘が楽しすぎる(オイ←)
それはさておき、今回はクリス目線からですね。どうぞ


 ───あれからどれだけの間、気絶していたのだろうか。ふと、目を覚ましたあたしの視界に最初に入ったのは見知った天井ではなく、見知らぬ天井だった。何がなんだか分からず、鈍く痛む頭を押さえながら上半身だけを起こす。

 一体自分に何が起きたのかを少し考えただけなのに、あの時の出来事が明確に思い起こされる。自分を拾ってくれたフィーネに捨てられた事、絶体絶命の所を突然現れたトゲトゲの奴に助けられた事、最後にフィーネが言っていた『カ・ディンギル』という言葉。

 

(……そうか。あたしは、トゲトゲの奴と共にフィーネの元から逃げたんだったな…)

 

 少し考えただけで鮮明に蘇ってきた記憶は、『必要ない』とフィーネに捨てられた事を決定づける証拠にもなった。そこまで考えた所で、あのトゲトゲの奴が近くに居ない事を知る。

 自身を『闇の風来坊』と名乗った其奴は、おそらく自分を誰かに預けて姿を晦ましたのだろう。奴に知り合いが居るとは考えにくいが、今この場に居ない事を加味すれば、そう捉えるのが妥当だ。

 あたしの恩人でもある其奴の事が気になったが、それはそれとして一体此処が何処なのか、と再度確認しようとした時、誰かがこの部屋に入ってきた。後頭部に大きな白いリボンを付けた黒髪の少女。その少女は此方を見るなり優しい笑みを浮かべる。

 

「よかった、目が覚めたんだ」

 

「お前は……?」

 

 疑問を問うよりも先に自分の服がいつもの赤いドレスじゃない事に気づいた。聞けば、今自分の前に居る少女が着替えさせたようだ。

 此方が気絶している事をいい事に、そんな事を勝手にやるな、と声を荒らげて立ち上がった時、何故か妙に下半身の風通りが良い事に気づく。気になって見てみれば、()()()()()体操着だったのだ。

 

「な……な……ッ!?」

 

「びしょ濡れだったから着替えさせたんだけど……さ、流石に替えの下着までは持ってなかったから……」

 

 言葉を失い、羞恥心に駆られ、慌てて布団にくるまる。一気に気まずくなった雰囲気の中、更なる人物の介入があった。一人は中年の女性、もう一人は言うまでもなく融合症例……立花響だ。響は何かが入った籠のようなものを手に、女性の後を着いてきていた。

 

「どう? お友達の具合は」

 

「今、目が覚めた所です。ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」

 

「気にしないでいいんだよ。あ、お洋服、洗濯しておいたから」

 

「私、洗濯物干してくるから、未来はクリスちゃんの傍に居てあげてねー」

 

「うん、分かった」

 

 黒髪の少女がそう言い、続いて響の方もお礼を言う。響が抱えていたのは洗濯籠であり、二人がおばちゃんと呼んだ女性があたしの服を洗濯していたようだ。

 トントン拍子に話が進み、響が洗濯籠を手に、女性と共にあたしの服を干しに行ってしまい、再度あたしと黒髪の少女だけが残される。かといって立ち上がる訳にもいかず、布団にくるまったまま、あたしは黒髪の少女に疑問を投げかける。

 

「…おい。一体何処なんだよ此処は?」

 

「私と響の行きつけのお好み焼き屋さん、そこで働いてるおばちゃんの家だよ。此処には私達以外誰も来ないし、安心して?」

 

「……ふん、そうかよ」

 

 そこで一旦言葉を区切り、窓の外を見やる。そこでは、ベランダであたしの服を干している響の姿があった。笑顔を浮かべながら服を干している様を見ていると、そういえば此奴はいつも笑顔を浮かべてるな、と思う。

 やがて全部干し終わったのか、響が戻ってきた。だが、先程抱えていた洗濯籠とは違い、桶とタオルを持っている。それで一体何をする気なのか。

 

「……で、それで何をする気なんだよ。お前は」

 

「え? クリスちゃんの体、拭いてあげようかなーって。はい、未来」

 

 響が未来にタオルを渡す。フィーネの時とは違う恐怖を覚えたあたしは脱兎のごとく逃げたが、すぐに捕まってしまい、有無を言わさずに二人にされるがままとなってしまった。

 それからしばらく経ち、本来はそんなに経っていないにも関わらず、やけに長く感じた時間が過ぎた。二人に身体のあちこちを拭かれ、目を覚ました時よりかは身体に残る不快感が消えた頃。あの時から何も食べてないのが災いし、ぐぅ、と腹の虫が鳴る。

 それは響と未来も同様であり、あたしと響と未来の三人はお好み焼きをご馳走になった。それから更に時間は経ち、満腹になったのか満面の笑みを浮かべていた響を他所目に、いつもの赤いドレス姿に着替えたあたしに黒髪の少女は疑問をふっかける。

 

「そう言えば、名前聞いてなかったね」

 

「……ああ? そこで幸せそうに食べてた奴が言ってたろ。あたしはクリス、雪音クリスだ」

 

「私は、小日向未来。ねぇ、クリス。もう一つ聞いていい?」

 

「……なんだよ、聞きたい事って。予め言っとくが、変な質問には答えねぇからな」

 

 未来と名乗った其奴がもう一つ聞きたい事とはなんだろうか、と身構えていたが、変な質問ではなかった。あたしを此奴ら二人に預けた人物、風来坊と名乗った奴についてだ。

 あたしを此奴ら二人に預けて去っていった奴はあのトゲトゲの奴ではなく、何処か妖しい雰囲気のある男性だったらしいが、あたしは其奴の事は何一つ知らない。だが、其奴もあのトゲトゲの奴と同じく『風来坊』と名乗ったらしい。

 もしかして其奴とトゲトゲの奴は何か関係性があるのかもしれないが、本人が居ない今、そんな事は知る由もない。そんな事を考えていたら、未来からもう一つだけ、と質問が飛んできた。

 

「クリスには、友達居ないの?」

 

「……居ない。地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、今の今までずっと一人で生きてきたからな。友達なんざ作る余裕なんてない」

 

「そんな…」

 

 未来の悲しそうな表情を見て何を思ったのか、あたしは過去の記憶を思い出しながらふつふつと話し始める。たった一人、自分を理解してくれていると思っていた人でさえも、自分を使い捨ての道具ように扱っていた事、誰も彼も自分をマトモに相手してくれなかった事、大人なんてクズばかりだという事を。

 何故こんな事を出会ったばかりの此奴に話したのかは分からない。でも、自分にとってそれが全てだった過去の記憶は、言葉として次々とあたしの口から出ていった。それは、目の前であたしの話を聞いている未来と、いつの間にか未来の隣で聞いていた響の耳に入る。響の表情はさっきまで笑顔だったのがいつの間にか神妙な顔つきとなっていた。

 

「……チッ、長々と話しちまったな。話はもういいだろ、あたしにはこれ以上関わるな」

 

 二人の表情が気に食わない、と悪態をつき、立ち上がる。もう此処には用はない、と言わんばかりに立ち去ろうとした時。未来と響、二人に引き止められる。関わるなと言ったばかりなのにこれ以上何を言うつもりなのか、とあたしは苛立ちを覚えながら二人の方に振り返った。

 

「あ? まだなんかあるのかよ」

 

「……うん。もしもクリスが良いなら…私は、クリスの友達になりたい。駄目、かな?」

 

「あ、私も私も! 私もクリスちゃんと友達になりたいッ!」

 

 未来はいつの間にかあたしの手を取り、そう告げてくる。響も同様だった。二人の温もりを手を通して感じるが、あたしはその手を払い、部屋を出ようとするその前に、何を思ったのか立ち止まり、口を開く。

 

「あたしは……お前たちに酷い事をしたんだぞ…」

 

「えっ?」

 

 その意味が理解出来ていないのか、首を傾げる未来。次の瞬間、ノイズ出現を報せる警報が辺りにけたたましく鳴り響く。初めて聞く警報に戸惑い、あたしは未来にこれは何かを聞いていた。

 

「……おい、コレは何の騒ぎだよ」

 

「何って……ノイズが現れたんだよ。クリス、もしかして警戒警報の事、知らないの?」

 

「───ッ!?」

 

 ノイズが現れると警報が鳴る。フィーネに捨てられるまでずっとフィーネと行動を共にしていた自分は、そんな事を知る由もない。

 それと同時に、自分がやってきた事の罪の深さがどれほど大きいのかを再確認する事となる。その場から動けずにいると、我先にと響が飛び出していく。

 

「……ッ」

 

「あっ、待ってよクリス…!?」

 

 あの時言っていた事が本当であれば、響は自らの危険を顧みずに人助けに向かっていった筈だ。そう思った時には、未来をその場に置いて響を追いかける形で外に飛び出していた。

 その間、あたしは自分自身を責めていた。自分は平和を願っていただけで、こんな事をしたかった訳ではない、それなのに何をやらかしていたのか、と。無我夢中で走り続けていると、気づけば人気の無い場所に辿り着いていた。スタミナの事を考えずに走った為、酷く息が乱れている。

 

「あたしの、所為で……関係ない奴等まで……あたしは、こんな事をしたかった訳じゃないのに…!! いつだってアタシのやる事は、いつもいつもいつも……!! ……うわあ…ぁぁあ……!!」

 

「クリスちゃん……」

 

 息を整える事を忘れ、膝をつき、残酷なまでに青い空を見上げて泣いて蹲る。それを見ている事しか出来なかった響だが、それと同時にノイズが近づいている事に気づいた。自分とは違ってシンフォギアを纏っていないあたしを護る、と言わんばかりに響は襲い来るノイズを倒すべく身構える。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ノイズ出現の警報を受け、仕事の最中である奏さんと翼さんに負担を掛けないよう、真っ先に現場に急行した僕はその場に蹲るクリスとクリスを護るように盾となってノイズを倒している響を見つける。

 響と違ってクリスがギアを纏っていない事に疑問を抱いたが、このままでは響もクリスも危ない。そう思った僕はすぐさまゼットライザーを取り出してトリガーを押し、光のゲートを潜り抜けてジードへ変身を遂げる。

 

《ウルトラマンジード! ギャラクシーライジング!》

 

「───フッ!」

 

 ジードへ変身を遂げた僕は一息に地を蹴り、響の隣に降り立つ。腕に生えている黄金の刃でクリスに迫り来るノイズを次々と屠る。

 

「響、無事ッ!?」

 

「リク君! 私は大丈夫だけど、クリスちゃんが……」

 

「───分かってる。此処のノイズは僕に任せて響はクリスをッ!」

 

「───うん、分かったッ!」

 

 響がクリスを抱えてその場を離れていく事を確認し、次々現れるノイズを相手取る。しかし、ノイズが今までより統率が取れているように見える。それに疑問を抱きながらも、響とクリスの元にノイズが行かないように戦い続ける。だが、ノイズの数は未だ増えつつあり、これ以上は僕一人でどうにか出来ると思えない量になりつつあった。

 

(それでも、二人の元には行かせない! 絶対にここで食い止めるッ!!)

 

 しかし、ここで僕が折れたら倒しきれていないノイズは響達の元に行ってしまう。闘志を再び滾らせて燃やし、立ち上がる。そうして、黄金の刃を振るい続け、ノイズを屠っていた時。横を突っ切るように何処かで見た事のあるような斬撃が飛んでくる。

 突如飛んできた三日月型の斬撃はノイズを次々と屠っていく。それに気を取られ、何処から飛んできたのか周りを見ながら考えたが、ひとまずはそんな事を考える余裕は無いと判断し、戦いに集中するべくノイズに立ち向かう。遠くで僕を見ている何者かに気づかないまま。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 所変わって響とクリスが逃げた先。二人が逃げた先にもノイズが現れ、ギアを纏っていないクリスを護るように響は戦い続ける。だが、他のノイズの注意を引くべく、クリスは決心した表情で立ち上がる。

 

「───ノイズ共ッ! あたしは此処だ……だから、あたしと関係ない奴を襲うんじゃねぇッ!!」

 

「く、クリスちゃんッ!? 一体何を……ッ!?」

 

 突然声を荒らげたクリスに響が驚く。声に気づいたノイズがクリスに向けて殺到する中、クリスは聖詠を紡ごうと試みるが……。

 

「Killter Ichiva───げほっ、ごほっ……!?」

 

「クリスちゃん……ッ!」

 

 まだ息が整いきっていない状態で聖詠を紡ごうとしたのが災いし、聖詠を紡ぐ前に噎せてしまう。その間に、飛行型のノイズが上空から奇襲してくる。

 槍のように尖り、クリスに襲い来るノイズ。ノイズ討伐を中断し、クリスの元に駆け寄ろうとする響。しかし、後一歩、間に合わない。せめてもの抗いでクリスが身を護ろうと構えた時。

 

「───ふんッ!」

 

『ジュワッ!』

 

 何者かの声が轟き、次の瞬間、アスファルトの地面が迫り上がる。それが大きな盾となってクリスを護る。そして、アスファルトは砕け散って散弾と化す。

 散弾と化したアスファルトがノイズに浴びせられ、その嵐を突き抜けるように赤い肉体を持つ何者かが飛び出し、ノイズを撃ち落として各個撃破していく。それをやった者達の正体は───。

 

「あ……師匠ッ! それに、未来……じゃなかった、ゼットさん!」

 

 風鳴弦十郎とベータスマッシュとなったウルトラマンゼットだ。アスファルトを砕いたのは弦十郎の震脚とベータスマッシュが得意とする、真っ赤に燃える勇気の力をお借りした剛力。

 双方が砕き、迫り上がったアスファルトを砕いたのは弦十郎とベータスマッシュの拳打。宇宙の彼方からからやって来た超人であるゼットはともかく、明らかに人間離れした力を以てクリスを護った弦十郎に驚きを隠せないクリス。

 

「ゼット! この場は……任せたッ!!」

 

 弦十郎の一言に振り向いたゼットは「押忍ッ!」の意を込めた頷きをし、ノイズと戦っている響の元に向かっていく。それを見届けた弦十郎が上を向くと、ノイズが此方に向けて再び襲い来るのを視野に捉える。

 弦十郎はもう一度震脚でアスファルトを砕き、迫り来るノイズをアスファルトの盾で防ぐ。そして、クリスを抱えてその場から離脱。安全な場所である、とある建物の屋上まで避難してきた。

 

「……おい、なんであたしを助けたんだよ」

 

 弦十郎とゼットの手によって絶対絶命の所を助けられたクリスは、自分を助けた張本人である弦にそう問いかける。自分は二課にとって敵、助ける理由など無い筈なのだ。だが、弦十郎が答えを返す前に、二人を追ってきた飛行型のノイズが襲い来る。それを目にしたクリスは今後こそ、聖詠を紡いだ。

 

「Killter Ichaival tron─────」

 

 イチイバルをその身に纏ったクリス。自身のアームドギアであるクロスボウから絶え間なく矢を放ち、蜂の巣に仕立て上げる。

 自分達を追ってきたノイズを倒し終えたクリスは、弦十郎には何も言わずに屋上から飛び降り、地表に降り立つ。歌を紡ぎながらアームドギアをガトリングガンに変形、弾丸を乱射する『BILLION MAIDEN』を放った。弾丸の嵐は自身に群がるノイズを次々と屠っていく。

 

「まだまだこれからだ……覚悟しやがれ、このクズ共がッ!」

 

 力の限り叫び、襲い来るノイズを屠るべくアームドギアの引き金を引き続けて戦場を駆けていく。その光景を、ある人物が目にしている事に気づかずに。

 その時のクリスは、自分に注がれている視線に気づく様子も無いが、それよりも重要な事がクリスの近くで起きていた。あの時、響のギアを変えた要因がクリスのギアに呼応するかのように姿を見せたのだ。

 当然の事ながら、ノイズを屠る事に集中しているクリスにそれは見えていない。この後自分に何か変化が訪れる事を知らずに、クリスは自身に群がるノイズを次々と蹴散らしていく。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……なんだ、この地球に居たのかよ。ジード」

 

 小娘を二人の少女に預けた後、フィーネとやらの出方を伺っていた俺は、突如鳴り響いた警報が気になり、それに伴って我先にと逃げていく一般人達の光景を目にする。その人波に巻き込まれないように、且つ、人波の向かう先とは逆の方向へと歩を進める。

 そうして辿り着いた先には、何処かで見た事のあるつり目の巨人が居た。あの時とは違い、今の背丈は凡そ俺と同じくらいの其奴は妙な鎧を身に纏ってあの変な生き物共と戦い続ける少女の元に降り立ち、少女の代わりに変な生き物共を相手取っていた。

 しかし、若干の焦りが垣間見える。おそらくは先程逃がした妙な鎧を纏った少女とその少女が抱えていった小娘……クリスの元に行かせないようにしているのだろう。折角見つけた知り合いをこんな所で殺らせる訳にもいかない、と思った俺は刀の柄を握り、全身から禍々しいオーラを出す。

 

「ん? こっちの姿では初か? まぁ、どっちでもいいか……蛇心剣─────新月斬波ァ!!

 

 オーラを刀に集約、三日月型の斬撃として前方に撃ち出す。三日月型の斬撃はジードのすぐ横を突っ切り、変な生き物共を纏っていく。

 それを見届けた後、俺は抜き放った刀を納刀し、ジードの戦いぶりを眺めていた。俺が放った斬撃のおかげもあり、ジードの戦闘も幾分か楽になったのだろう。残ったヤツを全て片付け終えたらしい。

 

(……さてと、こっちの用事は済んだ。今度はあっちだな)

 

 ジードにあの事を伝えるのも考えたが、あの妙な鎧を纏った少女と小娘の事も気になる。俺は一旦その場を離れ、少女が向かっていった先へと向かった。




しばらくこっちメインで更新するかもです。
それはそれとしてウマ娘の育成が楽しすぎる…カルデアに戻れない()

それでは、お読み下さりありがとうございました。また次回(・ω・)ノシ


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#27 紅蓮に燃ゆる銃爪

そろそろ怪獣出さなきゃな…(謎の使命感)
次辺りにでも出す予定でいます。

それと、此方含めて色々更新滞っていて申し訳ないです。理由は活動報告にて…


 あたしを滅ぼさんと襲い来るノイズ達。そいつらの狙いがあたしなのは分かっていた。だからこそ、あたし自身で蹴散らなきゃならない。償いきれない過ちを犯した自分が出来る事は、これくらいしかないのだ。

 とはいえ、ノイズの数が多すぎる。アームドギアをクロスボウからガトリングガンに変形させ、ひっきりなしに襲い来るノイズ達に全弾を撃ち尽くす勢いで弾丸をお見舞いしていく。そうして、粗方屠った後。更に追い討ちと言わんばかりのノイズがやって来る。

 

「チッ…! 数だけは立派だな……ッ!!」

 

 悪態をつきながら腰部アーマーを展開し、小型ミサイルを新手のノイズ達に向けて放ち、屠りながら走り抜ける。それでも尚、次から次へと出現するノイズは此方に向けて襲い来る。

 それでもあたしは諦めず、攻撃の手を緩めない。その時、前方から来るノイズ達に一瞬だけ気を取られたのが致命的な隙を生む。ノイズは前方だけではなく、背後からもやって来ていたのだ。

 

「しまっ─────」

 

 それに気づいた時にはもう遅く、ノイズの攻撃が眼前に迫っていた。一瞬の判断の遅さが命取りになった……筈だった。ノイズの攻撃を受ける直前、何か丸く小さい光が音もなく現れ、あたしの胸元に入り込む。その途端、突如巻き起こった炎に全身が包まれ、炎に触れたノイズが炭素へと変わっていく。

 自らを包み込む炎を見たあたしは幼少期の記憶が呼び起こされ、それを思い出す前に急いで焔を消そうとしたが、その炎がどういう訳か()()()()事に気付く。それと同時に、今自分が身に纏っているシンフォギア『イチイバル』に変化が起き始めていた。それには、何処かで見たような既視感を覚える。

 

(これ……もしかして融合症例の時と同じ事があたしにも起きようとしてんのか…!?)

 

 融合症例こと立花響も、かつてネフシュタンの鎧を纏った自分と戦っていた時に突如として優しい光に包まれ、その身に纏うギアが大きく変化していた。それと同じ事が自分にも起きようとしている。

 ヘッドギアはまるで炎のように燃え上がる造形に、身に纏っている鎧も同じように炎の造形が施されて更に紅く、胸元にはまるで太陽のように紅く輝くコアが出現。手にしている二丁のアームドギアにも炎の造形が施されて一丁の銃となり、大型化。

 新しいギアとして生まれ変わったその姿を見たあたしは一体何が起きたのか分からずにいたが、身体の奥底から炎のように湧き上がる力を感じていた。それに加え、心の底から嫌っていた歌もこの姿になった影響なのかは分からないが、今は自分を鼓舞する歌として聴こえてくる。

 

「何がなんだかわかんねぇけど……上等だ。この力…遠慮なく使ってやるッ!」

 

 叫び、歌を紡ぎ、炎を纏った弾丸をノイズに向けて放つ。先程より高威力となった弾丸は着弾時に大爆発を引き起こし、広範囲に渡ってノイズを一網打尽にする。先程とは段違いとなった威力に驚きながらも、炎を纏いながらクリスは戦場を翔けていく。

 クリスに力を貸し、イチイバルを変化させたのは、ウルトラマンゼロが別宇宙・アナザースペースで出会い、絆を繋いで結成した『新たな宇宙警備隊』ことウルティメイトフォースゼロ、通称『UFZ』のメンバーの一人であるグレンファイヤーの力が宿るウルトラメダルだ。

 彼の象徴ともいえる炎をクリスはバリアとして、時には攻撃に利用している。炎はノイズに有効であり、逆にバリアとして利用すれば遠距離攻撃タイプにありがちな近距離戦が不得意という弱点を補いつつ戦える。つまり、今のクリスは遠近何方にも隙が無いという事だ。

 

「ちょせぇッ!」

 

 大型化したアームドギアを分割して二丁のクロスボウに戻し、先程同様炎を纏わせた矢を放つ。近距離に迫ってくるノイズが居れば即座に炎をバリアとし、自身を守りながら的確にノイズを屠っていく。

 そうして、クリスがグレンファイヤーの力を使いながら群がるノイズを屠っていた時。突如として遠くから甲高い悲鳴が聞こえてきた。それに気づいたのか、方向転換をしていくノイズを目の当たりにする。

 

「……あ? 彼奴ら、一体何処に向かってんだ?」

 

 先程までひっきりなしに此方を襲いかかっていたノイズすらも聞こえてきた悲鳴につられるように飛んでいく。悲鳴とノイズの行動に何処と無く嫌な予感を感じたあたしは、自然と悲鳴が聞こえてきた方向へと走り出していた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 突如飛んできた三日月型の斬撃。それによって大幅に数を減らしたノイズを倒し終えた後の事。時間によって変身が解けた後、斬撃について考えを巡らせていたら突如として悲鳴が聞こえてきた為、一旦考えを打ち切り、僕は急いで悲鳴が聞こえてきた方向へ走り出した。

 声が聞こえてきた方向に向けて走り続けると、そこにはまだ建設途中の建物があった。迷うこと無くそこに入り、誰か居ないか声を上げる。すると、後ろの方から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「え、と。僕を呼んでいるのは一体誰なんだ…?」

 

 振り向こうとした時と同じくして、誰かの存在を右肩付近に感じた。その正体はすぐに分かる事になる。

 

「……よぉ、久しぶりだな。ジード。俺との感動の再会って奴か?」

 

「───ッ! その声……もしかして、ジャグラーなのか…?」

 

「嗚呼。その通りだが、此処ではジャグラーじゃなくて蛇倉って名乗ってんだ。何処から誰が聞いてるか分かんねぇし念には念だ、他の奴にバレないように俺の事はそう呼べ。いいな」

 

 この地球に来る前に演じた、ギャラクトロン及びギルバリスとの死闘の際、令人さんに紹介した後に令人さんにやってみせたあの仕草と似たような仕草で僕の背後から現れた人物。ウルトラマンオーブ、ウルトラマンゼロと共に共闘した宇宙人、ジャグラスジャグラーだ。しかし、僕が名前で呼ぶと蛇倉と呼ぶように言われた為、一旦そう呼ぶ事に。

 

「それで、ジャ…じゃなかった、蛇倉さんは何故此処に居るんですか?」

 

「なぁに、俺はちょっとした野暮用って奴で此処に居るんだよ。んで、ジード。お前こそ、こんな人気の無ぇ所で何してんだ?」

 

 蛇倉の言う『野暮用』が気になったが、とりあえず今はその事を置いておき、ここまでやって来た経緯を話す。風来坊としてこの地球にやって来た事と、クリスと共に避難していった響と突如飛んできた三日月型の斬撃が気になりつつもノイズを倒し終えた後、悲鳴が聞こえてきた為ここまで来た事を。

 三日月型の斬撃、そして風来坊という単語を耳にした蛇倉はそれに反応するかのように僅かに肩を震わせたように見えたが、ほんの一瞬しか見えなかった為、気の所為だという事にしておく。僕からここまで来た経緯を聞いた蛇倉は何処か納得したような素振りを見せていた。

 それはそれとして先程聞こえてきた悲鳴は一体何なのかと再び考えを巡らせようとした時、視界に何かが入ってきた。吸盤のようなものが付いた触手だ。その先に何があるのか視界を動かすと、ビルの上にタコと似たようなノイズが陣取っているのが見える。

 

「あれは……ノイズ? いや、タコ…なのか…?」

 

 今までとは違う姿をとるノイズに多少なりとも驚きを隠せなかったが、このままでは被害が拡大するだけだと思い、懐からゼットライザーではなくジードクローを取り出しそうとした。その時、視界の下に誰かが居る事に気づく。ジードクローを取り出す前に目を凝らしてよく見ると、シンフォギアを解除している響とゼットライザーを片手に持ったままの未来が居る事に気付いた。

 しかし、二人の様子は何処と無くおかしい。響は未来の手によって口を塞がれており、未来の方は人差し指を口に当てている。何故そういう事をしているのかと気になったが、ビルの上にタコのようなノイズが居る事と何か関係があるのだろうか、と考えを巡らせ、一つの答えに辿り着いた。

 

(未来ちゃんが響の口を押さえてて、人差し指を自分の口に当てている……そこから分かる事と言えば、一つしかない。おそらくあのタコのようなノイズは、音に敏感なんだ。だから二人は無闇に音を出さないようにしてる…という事か)

 

 未来も自分と同じようにゼットライザーでウルトラマンに変身出来るとはいえ、ライザーのトリガーを押す時はどうやったとしても音は鳴る。仮に攻撃が届く前に開いた光のゲートを潜れば自分は助かるかもしれないが、それは裏を返せば近くに居る人……この場合は響が危険に晒される。

 二人の行動によってタコ型ノイズが音に反応する事が分かった以上、此方も無闇に動けない。手出しが出来ない、と歯噛みをしながらもう一度響と未来が居る場所へ目を向けると、二人の目線からしてもう一人、逃げ遅れた人が居るのが伺える。更に言えば、響と未来は携帯のメモ機能らしきもので会話をしていた。それならば音は出ないが、目の前の問題が解決した訳ではない。

 

(二人は大丈夫だとして、問題は奴をどうするかだけど……)

 

 二人が音を出さないように頑張っている所に水を差すような真似をして、二人ともう一人に危険が及ぶのは確か。かといってそのままにしておけないのも事実だ。

 クローカッティングかギャラクシーバーストで奴をビルの上から強引に引き剥がす、という事も出来なくはないが、音が出る以上下に居る響達に被害が及ぶ可能性がある以上おいそれと出来ない。アレコレ考えている時、不意に後ろから声をかけられた。声の主は言うまでもなく蛇倉である。

 

「何一人で色々考え込んでるんだよ、ジード。要するに、あのタコみたいな奴をどうにかすればいいだけだろ?」

 

「えっ? あ……はい。それはそうなんですが……もしかして、手伝ってくれるんですか? 蛇倉さん」

 

「ん? 嗚呼。多分お前は彼奴に触れても大丈夫なんだろうが、下に居る奴等を死なせる訳にはいかねぇからな」

 

 何処か含みのある言い方が気になり、何故こうもあっさりと協力してくれるのかを問いかける。すると、蛇倉からは『俺が正義に目覚めたって言ったら、お前は信じるか?』といった答えが返ってきた。

 その答えがどういう意味なのか気になる所ではある。しかし、彼は以前僕を含めたウルトラマン達と共闘した事もあるし、少なくとも蛇倉もといジャグラーは僕の敵では無い事は知っている。故にそれ以上問いただす事はせずに協力してくれるように頼み込んだ。

 蛇倉と一時の共闘関係を結んだと同時に、下で女性のうめき声らしき声が聞こえてくる。それに気づいたノイズが行動を開始した。向かう先は言うまでもない。

 

(────くっ…! 迷ってる暇は無いか……ッ!)

 

 それを見た僕は懐からジードクローを取り出し、後ろに居る蛇倉にアイコンタクトを取る。それに頷いた蛇倉と共に、僕はその場から飛び降りた。

 地面に着地するや否や、苦しそうにしている女性とその女性に寄り添う響が見える。だが、未来の姿が見えない。こんな時に一体何処へ行ってしまったのか、と急いで辺りを見回した時、衝撃の光景を視界に捉えてしまう。

 未来がタコ型ノイズの方へと走り出していたのだ。いくらゼットと一体化し、ゼットと共に居るとはいえ変身していない未来は生身の人間。ノイズに触れられたらその先にあるのは『死』のみだ。

 

「ッ……蛇倉さん! その人と響を頼みます!」

 

 後ろに居る蛇倉に倒れている女性と傍に居る響を任せ、ジグザグに走る事でノイズの攻撃を掻い潜りながら外へ飛び出していく未来を追いかけるべく、ジードクローを構えて全速力で走る。

 道中自分の進路を塞ぐように群がるノイズ達をジードクローで引き裂きながら、未来と未来を追いかけているタコ型ノイズの後を追う。しかし、一向に距離を詰める事が出来ない。そう思った僕はジードクローを仕舞い、新たにゼットライザーを取り出してトリガーを押し、二度目となるジードへ変身を遂げる。

 僕がジードへ変身を遂げた直後、視界に入るのは未来を狙って襲い来るノイズの触手。触手に向けてレッキングフェニックスを放つ事も考えたが、溜めが長い。それだと溜め終わる前に未来が危険に晒される。だったらコレしかない、と僕は両腕に生えている黄金の刃を更に長く伸ばす。

 

「─────レッキングリッパーッ!!」

 

 稲妻を纏わせた斬撃を連続で繰り出し、未来に迫りつつあった触手を斬り飛ばす。その間に未来は更に奥へと走っていったが、触手を斬り飛ばされても尚、タコ型ノイズは執拗に未来を追いかけようとしている。

 それを見た僕は一息に飛び上がり、タコ型ノイズ目掛けて飛び蹴りを放つ。強力な蹴撃をまともに喰らったタコ型ノイズは即座に炭化した……が、安心は出来ない。急いで未来を追いかけようとした時だ。

 遠くから蒼雷のような光線が放たれ、近くにもう一体居たと思われるタコ型ノイズが遥か彼方に飛ばされていく光景を目の当たりにする。蒼雷のような光線を放てる者と言えば一人しか居ない。

 

「……うん。無理に心配しなくてもよかったみたいだね。ゼット」

 

 ゼロを師匠と、自身を兄弟子と慕うウルトラマンゼット。おそらくは未来の危機を感じ取った彼が強引に身体の主導権を奪い、変身でもしたのだろう。その後、特に目立った怪我もなく未来が此方にやって来るのを確認した僕はまず軽く怒り、二度目の変身を解く。

 一日に二度も変身した影響か、多大なる疲労感を覚えていたがそれはひとまず置いておき、未来が無事な事に安堵した僕は未来を連れて蛇倉の元に戻って来ていた。蛇倉に介抱されていたであろう女性は今、遅れてやって来た二課の職員に事情聴取及び何らかの書類を書かされている。

 

(それにしても……)

 

 何処か気になって仕方ない僕は蛇倉の方を見やる。すると、蛇倉は此方の視線に気付いて歩み寄ってきた。相変わらず不敵な笑みを浮かべている。

 

「よっ。万が一っていう事もあるし、一応心配はしてたが……無事のようだな。ジード」

 

「え、あ、はい。響ちゃんの大切な人も守れましたし」

 

「……そうか」

 

 何か思い詰めた様子を見せる蛇倉は、僕を連れて誰も居ない路地裏へと連れて来た。僕以外の誰かに聞かれたくない話でもあるのだろうか、と疑問符を浮かべる僕を他所目に、蛇倉はとある情報を話し始める。

 

「前に小娘を助けた事があんだよ。その時……確か、フィーネ? つったか。其奴が俺達に対して零した単語が気になってな」

 

「ふ、フィーネ……だって……ッ!?」

 

「ん? なんだ、その様子だと既にフィーネとやらは知ってるようだな? それなら話が早い。今から俺が言う事、お前が一番信頼を寄せてる奴に話しておけ。いいな」

 

 それに躊躇う事なく頷いた僕を見やった蛇倉は、フィーネが口にしたとされる単語を僕に話した。内容としては至ってシンプルであり、『フィーネの切り札と思われるカ・ディンギルは既に完成しつつある』、『それに伴い、クリスは既に用済み』、『蛇倉とクリスはフィーネを除けばそれを知る唯一の証言人故、口封じの為にフィーネに命を狙われている』との事だ。

 蛇倉もといジャグラーは大丈夫だとして、問題はクリスの方だ。ノイズに襲われていたあの時、ギアを纏う事が出来ずにいたクリスを響が守ろうとしていた場面を目撃したが、ノイズの狙いは響じゃなくてクリスを狙っていたように見えた。

 

「カ・ディンギル……それが、フィーネの切り札。しかし、それは既に完成しつつある……」

 

「嗚呼、その通りだ。奴は今後も俺やあの小娘の命を狙い、あの変な生き物をけしかけるだろう。俺は平気だが、あの小娘が無事でいられるとは限らねぇ。もし見つけたら、ジード。お前が彼奴を守ってやれよ」

 

「え、あ、はい。分かりました。貴重な情報、ありがとうございます。蛇倉さん」

 

 お礼を言い、頭を下げる僕を見ていた蛇倉は頭を上げるよう僕に告げる。言われるがままに下げていた頭を上げると、蛇倉は踵を返して僕とは逆の方向に歩いていく。それに気づいた僕は慌てて呼び止めようとしたが、彼には彼なりの理由があるのだろうという考えに至り、呼び止めるのを止めた。

 

(どんな状況かまでは聞けなかったけど、フィーネに辿り着く重要なキーワードだ。弦十郎さん達に伝えなきゃ…!)

 

 その思いを胸に、僕は響達の元へ急いだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 あたしが現場と思われる場所に辿り着いた時には、全て終わっていた後だった。おそらくはあの融合症例と、胸にZの文字が刻まれたランプのようなものがある、プロレスラーのような肉体を持つ人型の何かがやったのだろう。

 こうなればもう出番は無いと、既にシンフォギアを解除していたあたしはゆく宛ても無くただ歩きたい方向へと歩き出していた。その時、近くの建物の影から見知らぬ男性が現れるのを目にする。

 

(……ん? 彼奴は、一体誰だ…?)

 

 何処となく知っているような、そんなオーラを感じ取れる男性。其奴が気になったあたしは、なんとなく其奴の後を追う事にした。

 その際、右手に何か硬貨のような物の感触がある事に気づく。男性を追う最中だが、それが気になってしまったあたしは一旦足を止め、握りしめていた右手を開く。握られていたであろう硬貨のような物には見た事のない人物と文字が描かれていた。

 燃え盛る炎を模した頭部、赤い肉体の中心に紅く輝くコアのようなものがある人物。少なくとも、こんなものは見た事がない。何故これを握っていたのか分からず、疑問符を浮かべる事しか出来なかった。

 

「……まぁいい、それよりも今は彼奴が先だ」

 

 そう呟いた後に硬貨のようなものを乱雑に仕舞い込み、あたしはまた歩き出す。その先に何が待ち受けているのかを知らないまま。




やっと書ききった…(´・ω・`)
ひとまずはここまでですね。次回はいつになるか分からないですが、気長に待っていただけると嬉しいです。それでは(・ω・)ノシ


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