イモムシ☆コレクション 女の子の夢の箱に転生できると聞いてたのに転生したらイモムシだったんですけど! (木村直輝)
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第1話「転生したらイモムシだった」

 当小説を読んで下さった方より、非常に不快だったとの批判を頂いております。
 ※2018年10月29日追加


 そこは、寒々しい空間であった。

「うっ、うぅん……」

 若い男は小さくうなり、意識を取り戻した。

 白い床なのだろうか。白い大地なのだろうか。熱の感じられない無機質な下の上で、男は体を起こす。

「やっと起きた。おはよう。お目覚めはいかが?」

 不意に声が聞こえた。若い女性のような声。どこかで聞いたことのあるような声が、男の鼓膜を優しく揺すった。

 男は(もや)がかかったような頭を押さえて、声のした方を見る。

 熱のこもっていないスポットライトを当てられているかのような柔らかい光の中に、二人はいた。数メートル先は闇のその空間で、若い女性がこちらを向いて口元を緩ませている。

「突然だけど、あなたは死んでしまったの。ここは死後の世界。冥界の玄関。そんなところかしら。生前のことは、覚えてる?」

 落ち着いた色の、それでいて細やかな刺繍が所狭しと施された布で目隠しした、厳かな雰囲気の女性はそう言った。

 覚えている。自分が誰なのか、どんな人生を過ごしてきたか、つい先刻死が迫ってきたことも。しかし――、

「うっ、うぅ……。思い出せない。いや、覚えてるんだ。記憶はあるんだ。生前の記憶は……。でも、死んだ時の記憶がない。死んだのはなんでかな。わかってるけど……」

 酷く靄が立ち込める頭を押さえて、男は言った。

 男の曇った表情とは対照的に、女性は微笑んで優しく言う。

「そう。よかった。記憶がしっかりしてるのならそれでいいのよ。あなたはとても酷い不幸に見舞われて死んでしまったの」

「……酷い、不幸?」

「ええ。運命に見放されたような、運命から逸脱してしまったような、そんな酷い不幸。そう、あれは神様の手違いなのよ。だから私はね、あなたにチャンスをあげるの。可哀想なあなたに、チャンスをあげるわ」

「チャンス……。それってもしかして……」

 神様の手違いによる不幸な死。その後で貰えるチャンスと言われて、男の頭に浮かんだワード。それは、『異世界転生』。

「ええ。異世界に転生させてあげるわ。不幸なあなたが今度こそ運命の導きに従って幸せになれるように、前世の記憶とチート能力をあげるから安心して」

 ――やっぱりそうだ。それって完全になろうで人気のアレじゃないですかやだー、とかなんとか男は思った。

 となれば、一つ男には気がかりなことがあった。

「それで、その……。異世界ってどんな世界なんですか?」

 男は生前、常々思っていた。何もいいことが無いと。コミュ症だからぼっちだし彼女もいないし金も権力も才能もないし、何もいいことがないと。

 だから、例えチート能力を貰えたとしても大変な境遇に転生などしたくはなかった。貧乏貴族とかモンスターに転生してそこから成り上がるとか、そういう物語的面白さはいらなかった。

 努力も苦労もいらない人生を過ごしたかった。最初からすべてを持って生まれたかった。

 そんな男に女性は優しく微笑んで言う。

「一言で言うと、女の子の夢の箱よ」

「女の子の夢の箱?!」

「ええ。女の子の夢の箱」

「それって、ハーレムとかそういうことですか?!」

「……」

 急に女性の口元から笑みが消えた。男に沈黙が重くのしかかる。

「あ、いや。冗談ですよ、ハハ……。ハーレムがいいとかそういうんじゃなくて、女の子の夢の箱とか言うから……」

 女性的にハーレム願望のある男とかまずかったのかなと慌ててフォローをすると、女性はまたもとの優しい微笑みを取り戻した。男は安堵する。

「さて、名残惜しいですがそろそろ転生しましょうか。今度こそ、あなたが運命に従い幸せになれますように」

 女性がそう言った瞬間、男の足元に突然穴が現れた。

「えっ?! ちょっ! うわあぁぁあぁあぁぁあぁ~!」

 男は穴を落ちていく。真っ暗闇を落ちていく。どれほど時間が経っただろうか。

 いつしか意識も闇の中――。

 

    ☆

 

 ピロリロリン。

 ――ゲーム的な電子音が聞こえる。

 ヒューゥーゥーゥー、ポンッ!

 ――ソシャゲ的な効果音が聞こえる。

 キラリラリン。

 全身の感覚を手に入れる。

(ほし)5! ヤバレア!」

 誰かの声がする。

「おー、★5だ!」

「ヤバレアだ!」

 目の感覚を手にいれると、目の前にイモムシがいた。

 右にイモムシ、左にイモムシ、可愛らしくデフォルメされた二匹のイモムシが、こちらを見てにこにこしている。

「誕生おめでとう。君はヤバレア、レア度最高のヒトイモムシだ」

「……」

「何が何だかわからないという顔だね。説明しよう。――と、その前に自己紹介が先かな。私はイモムシ界随一の知識人。人じゃなくてイモムシなのでは、などというセンスレスなツッコミはやめたまえよ君? 下駄箱に下駄を入れるのかい? 筆箱に筆を入れるのかい? 言葉というのはそういうものさ。おっと話がそれたね。ともかくだ。私は物知りで有名なシリイモムシ。みんなからはハカセと呼ばれている。よろしく」

「よ、よろしく……」

「僕はナミイモムシのナミィ。レア度は★3、ノーマル、並みのイモムシだよ。よろしくね」

「よろしく……」

 状況についていけずよろしくと返すだけの機械と化した転生者に、ハカセは最初の説明を施す。

「まずは君のプロフィールからだね。君はたった今、期間限定レアイモムシ降臨で誕生したレア度★5の新規実装イモムシ、ヒトイモムシだ。人のような手足を持っていることからヒトイモムシの名で呼ばれているそうだ」

 言われてみれば、自分の身体もデフォルメされたイモムシでありながらなぜか人間そっくりの手足が生えていた。はっきり言って気持ちが悪い。

「まずは名前が必要だよね? どんな名前がいいかなぁ……。ハカセ? どうする?」

「そうだな。レア度が高いから神、人のような外見から人、この二文字を合わせて神人(しんじん)というのはどうだろうか?」

「わー、それしかないよ! 神人君! 改めてよろしくね」

 ――神に人でシンジンってキラキラネームだなおい! しかも新人だしな俺、って上手くねーよ! ――という言葉を飲みこんでよろしくを言う機械に徹する神人に、ハカセが言った。

「さて、君の名前も決まったところでこの世界の説明を始めようか。この世界には我々イモムシをはじめとした虫を捕食する虫食生物(ちゅうしょくせいぶつ)と呼ばれるモンスターたちが蔓延っている。我々はモンスターのいない世界を目指し姫様の(もと)で戦う戦士なのだ」

 ――イモムシ? 虫食生物? モンスターと戦う?

「全然、女の子の夢の箱ちゃうやん! てか俺イモムシだし! どういうこと! これも神様の手違い?! 神様手違い多過ぎィ!」

 神人はもう、我慢できなかった。大きな声で叫んだ。その絶叫は、周囲の森にこだまする。

「だっ、大丈夫? 神人君。そうだよね。嫌だよね。生まれて来るなりこんな世界何て……」

「だが、悲観するのはまだ早い。我々は姫様の加護の(もと)にいる。君はまだ生まれたてのLv.1だ。しかし、Lv.10になれば変態が出来る。その変態の儀では姫から直々に寵愛(ちょうあい)を賜ることが出来るのだ」

「姫様?」

「ああ。姫様はそれはそれは美しく可愛らしい人間の女性だという」

「人間?」

「ああ。君のようなヒトイモムシではなく、正真正銘の人間だ」

「寵愛を賜る、って言ったよな? それってどういう?」

「言葉の通りだ。あんなことやこんなこと、姫様が全てを使って愛してくださる」

「ふ、ふーん……。で、Lv.10ってどうやったらなれるの?」

「モンスターと戦って経験値を稼ぐのだ。最初はまず、このはじまりの森なんかからスタートするな。おっと、噂をすればだ」

「へ?」

 ハカセの視線の先を振り返ると、そこには一匹のカエルがいた。

「ゲコッ。ゲコッ。ゲコォ!」

「うわぁ! カエルだよう。気持ち悪いし恐いよう。僕、爬虫類とかダメなんだ……」

「カエルは爬虫類ではなく両生類だが、今はそんな話をしている場合ではないな。さっそくバトル開始だ! 神人! まずは普通に攻撃だ。やってみたまえ!」

「えっ、攻撃? ……こ、こうか? うあっ!」

 神人はカエルに向かって走っていくと、思い切りカエルをぶん殴った。

「ゲコォ~!」

 カエルは神人が殴る時に発したうあっには劣るものの情けない声を上げ吹っ飛んだかと思うと、地面の上でひっくり返ったまま動かなくなった。

「うわ~。流石★5、一撃だね」

「ああ、流石★5だ。真似できないな」

「そ、そう。まあ、俺★5だし。当然って言うか……。やっちゃいました? 俺?」

 神人は気取ってそう言うと、空を見上げて隠しきれないニヤニヤを垂れ流した。

 モンスターに転生なんてごめんだと思っていたが、これは意外と悪くないかもしれないと、早くも神人は心変わりし始める。

「だが、安心するのはまだ早い。前を見てくれ。次が来るぞ」

 見れば森の奥から、さらに三匹のカエルがやって来た。

「ゲコッ、ゲコッ」

「ゲコォ~」

「……ゲッコォ」

 三者三様に鳴くカエル。しかし姿は画一的。

「うわぁ~、三匹も……。助けて、神人君」

「ま、まかせろナミィ。この神人君が、あんなゲコ(こう)なんざ一瞬でぶっとばしてやらぁ!」

 得意げに拳を構えた神人を、ハカセが穏やかに制止した。

「待ちたまえ神人。姿形は同じだが、ヤツラは先ほどのカエルよりも少しレベルが高いぞ」

「なっ、マジかよ。じゃあどうすりゃいいんだよ」

「スキルだ。手本を見せよう」

 そう言うとハカセはカエルの群れに飛び込んでいき、一言叫んだ。

「プリプリ!」

 その瞬間、もともとプリプリしていたハカセの体がよりプリプリと変容し、カエルたちの舌パンチをプリンプリンと受け流した。

「私はシリイモムシ。プリップリのお尻のような見た目からその名がついたイモムシだ。スキル“プリプリ”は自身の防御力を上げた上に打撃をしばし無効にする」

「シリってそっち?!」

「ああ。だが、打撃無効は一瞬だ。分かり易く言うと一ターン。いくら防御が上がったとはいえ★3の私の体力はそろそろ限界だ。神人。次は君の番だ」

「俺の番? んなこと言ったって、スキルなんてどうやって……」

「うわぁ! こっちにもカエルが、うわっ! 痛い!」

 見ればナミィまでもがカエルに舌パンチを食らっている。

「さっきやって見せただろ? スキル名を叫ぶだけだ。君のスキルは叡智のひらめき。叫べばおのずと発動する!」

「叡智のひらめき……、了解! おい、カエル共! 叡智のひらめき!」

 その瞬間、神人はひらめいた。あのカエルたちは舌を拳のように突き出して攻撃している。ならば――。

「こうしてやる!」

 神人はカエルの群れに走っていくと、舌パンチをかいくぐってその舌を掴み取り、五本指の手を器用に使って舌どうしを片結びで結んでしまった。

「スキル“叡智のひらめき”。それはランダムで様々な効果を発揮するスキル。今回は敵全体を行動不能にしたな……。流石は★5、強力なスキルだ」

「すごい、神人君! それは思いつかなかったよ!」

「ハハ。まあ、思いついても出来ないだろうけどな。この人の手があってこそよ」

 神人がそう言って得意そうに腕を叩いたその時、急に森が振動した。

「えっ? おっ、俺?」

「じっ、地震?!」

「いや、この揺れは……」

 その揺れは、カエルが起こした地響きだった。

「ゲェーコォ~!」

 見ればイモムシの数倍はありそうな巨体のカエルが、木々をかきわけのっしのっしと歩いて来る。巨大なカエルは歩くたびに森を揺らし、大地を震わせ、のそのそと近づいてくる。

「あれは大ガエル。この森のボスだぁアッ!」

「うわ~!」

「なっ?! うぶっ!」

 その攻撃は突然だった。巨大なカエルは勢いよく出した舌で大地を薙ぎ払い、神人たちはたちまち吹っ飛ばされてしまった。

「うっ……、いてて」

 神人は起き上がり、辺りを見回す。少し離れたところで、ナミィもハカセもぐったりと倒れていた。

「おい! ナミィ! ハカセ! 大丈夫か!」

 神人が呼びかけるが、二匹の返事はない。

「ハカセ!」

 ナミィより手前に倒れていたハカセのもとに辿り着くと、神人はその手でハカセの体を揺さぶった。

「ぅぅ……。私たちの体力はもう0だ……。戦えない……」

「何言ってるんだよ、ハカセ! あんなデカいカエル、どうすんだよ!」

「こ……、これを……」

 そう言ってハカセは、どこから取り出したのか、その短い手で虹色の石をこちらに渡してきた。神人は勢いよくそれを受け取ると、揺れに耐えながらハカセに()く。

「これは……、これはなんなんだハカセ?」

「石……、虹玉だ……。たくさん集めるとそれでガチャが引ける……、が……、他にもいくつか用途がある……。例えば、こんな大ピンチにそれを砕けば……」

 そこまで言うと、ハカセはそれっきり何も言わなくなってしまった。

「ハカセェ!!! ガチャって言った! 今、降臨じゃなくて思いっきりガチャって言ったぁ! けども、そんなことはどうでもいい。今は!」

 神人は地響きの中、今にも倒れそうな体で拳を握ると――。

「うおおおおお!」

 受け取った虹玉を思い切りたたき割った。

 パリンっ!

 その瞬間。

「うわっ!」

 虹玉から発せられた綺麗な光が神人たちを包み込んだかと思うと、先ほどまでの体の重さは嘘のように消え、全身に力がみなぎった。

「こうして味方を復活させ、全員の体力を全回復させてくれるのさ」

「ハカセ?!」

 見ればハカセもナミィも起き上がり、こちらを見てにこにこしている。

「それだけじゃない。神人、何だか不思議な力がみなぎっていないか?」

「えっ? いや、全然……」

 ハカセに言われて考えてみるが、神人は特に何も思い当たらない。

「フッ、★5。天才というヤツはそういうものなのかもな……。あの石が満タンにしてくれるのは体力だけじゃない。必殺技を使うためのエネルギーもフルチャージしてくれるのさ」

「必殺……技……」

 神人の胸が高鳴る。

「ああ、君の必殺技は――」

「……了解! おい、デカガエル!」

「ゲェーコォー?」

 神人の声に、大地を揺るがしながら巨大なカエルが振り返る。その顔を見上げて神人は力強く言った。

「やってやるぜ。……我、叡智を持ちし猿にして、生きとし生けるものの頂点に立つ者。イモムシにして、イモムシに非ず。超変態芋虫人間(メタモルフォーゼ・ホモサピエンス)!!」

 その瞬間、神人の体が光に包まれ巨大化しその形を変えてゆく。そして、体を包む光が消えた時、そこにあったのは紛れもない人の姿であった。

 裸の巨人が森に立つ。イモムシよりも、カエルよりも、木々たちよりも遥かに大きい、一人の人がそこにいる。

「一瞬だ。デカガエル」

 神人の拳が大地に落ちる。隕石のようなその一撃は、巨大なカエルを消し飛ばす。

「ハッ。もうデカくなかったな。俺にとっちゃあ、ただのカエルだ……」

 神人は鼻で笑うと背を向けた。塵になったカエルに向けて。

 神人がもとのイモムシに戻ると、ナミィとハカセが這いよって来た。

「神人君すごいよ! あんなに大きくなるなんて! すごいよ! すごいよ! すごすぎるよ!!!」

「流石だな、神人。まさか君の必殺技があれほどとは……。最早、この世界に君に敵うものはいないだろう」

「いやいや、褒め過ぎだって。俺は★5ですし。まあ、当然……」

 はじまりの森でイモムシたちが奏でる神人を褒め称える言葉は、いつまでも鳴りやまなかった。

 

    ☆

 

 こうして、神人の異世界転生生活が始まった。

 初めはどうなることかと思った神人であったが、イモムシとしての新生活。

 中々、楽しそうである。




20181027_誤字修正「ひっくり返る」
20200214_前書きの加筆修正


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第2話「周回してたらピンチになった」

 しゅうかいの洞窟。

 そこは、この世界で冒険を始めたばかりのイモムシたちが実践経験を積むために何度も周回することで有名な洞窟であった。

「はー、楽勝っすね」

「すごいよ、神人君! カクイドリもイケドリモアリも通常攻撃で瞬殺だね!」

「ああ。ここは初心者の修練の場とはいえ、気を抜けばすぐに死が待っている。ここで命を落とす者も多いと聞くが、こうも順調に先に進めるとはな。流石★5と言ったところか……」

「まあ、そっすねー」

 早くも神人は飽き始めていた。

 最初のうちは★5★5とちやほやされて気持ちがよかったが、あまりにも言われ過ぎるとそれにも段々慣れてしまい、むしろその言い方にいささか腹が立つくらいになってしまったのだ。

「これも天才の苦悩かなぁ……」

「ん? 何か言ったか、神人」

「いえ、何でもないですよ。それはそうとハカセ。今俺、何レべ?」

「三レべだな。まだまだ変態への道のりは長いぞ」

「マジかー。ずっと雑魚狩りもそれはそれでつまんないよなぁ~」

 チート能力で俺TUEEにも飽きてきたとなると、次はハーレム。はこの世界では絶望的なようだが、Lv.10になれば美少女と会えるらしい。ならば次はそれだ。

 しかも、変態の儀であんなことやこんなことをして貰えるというし、これは期待が高まる。

「ちなみに、変態の儀ってどんなことするんですか? 俺、恐いなぁ……」

「神人君でも恐いものなんてあるんだね。でも、安心して。変態の儀はお姫様からご褒美として至上の快楽を与えて貰える最高に気持ちい儀式だから。世界一の美少女であるお姫様と一つになって至福の愛を賜るんだ。具体的には」

「やめたまえよ、ナミィ。そう言った話はこんなところでする話ではない」

 突然、ハカセがナミィの言葉を遮った。その顔はイモムシだというのに赤くなっている。

「ハカセ、ムッツリだから」

「えっ。ハカセ、ムッツリなんすか」

「ちっ、違う! そんなことは! あっ、イケドリモアリの大群が! プリプリ! さあ、私がナミィの盾になるから君は早く行きたまえ!」

 見ると前方からアリの大群がわらわらとやってきていた。

「うわぁ! あんなのに噛まれたらひとたまりもないよ!」

「じゃあ、いっちょやってきますか」

 ――ハカセがムッツリとかぶっちゃけどうでもいいし――と心の中で続けると、神人はもう何度目になるのかアリの群れに突っ込んでいった。

 ボコボコボコボコボコボコボコボコ!

 瞬く間にアリの山が出来上がっていく。単純な攻撃の連続で雑魚エネミーが瞬く間に倒されていく様に細かな戦闘描写など必要であろうか。

 ボコボコボコボコボコボコボコボコ!

 あっという間にアリの群れは全滅し、神人は僅かな経験値を得た。

「神人君、ありがとう。神人君にかかればイケドリモアリなんて瞬殺だね」

「そーだな。それでハカセ、俺は今何レべ?」

「三レべだ。先ほどと変わってはいないよ」

「マジかよー。地獄ー」

「神人君なら地獄でも大丈夫そうだけどね。獄卒も閻魔大王も一撃で倒しちゃえるよ」

「いや、このレベル上げ地獄はマジでどうにもならないけどな……」

 その時だった。前方の岩陰から赤い尻尾がチラリと見えた気がした。

「むっ。アレはキタキタキタキツネの尾?! 君たち、追うぞ!」

「キタキタキタキツネ?」

 急ぎ這うハカセの後を歩きながら神人は聞く。

「ああ。キタキタキタキタキツネは滅多に出現しない上にすばしっこくすぐに逃げてしまうが、倒すとものすごい経験値が得られるレアモンスターだ」

「ハカセ! なぜそれを先に言わない!」

 そう言うなり神人は人の足で走り出した。急いでも這うことしかできないイモムシとは比べ物にならない速さで岩陰に迫り小道をのぞく。

 するとそこには、洞窟を駆ける一匹の赤いキツネの姿があった

「いた! 待て!」

「?! !!!」

 赤いキツネは神人の声に振り返ったかと思うと、飛び上がって驚き瞬く間に逃げ出した。

 赤いキツネは確かに速く、這って進むイモムシでは到底追いつけない速度だったが、人の足を持つ神人ならば苦も無く追いつけそうな速さだった。

 しかし――。

「くっ。ちょっと待ってくれ神人!」

「ぼっ、僕たち追いつけないよ……。こんなところに置いてかれたら死んじゃうよぉ~」

 かなり後ろでナミィとハカセが神人を呼び止める。

「チッ。マジかよ……」

 神人はそう言うと、全速力で二匹のもとまで走っていき、その腕に二人を抱えて走り出した。

「わっ! うわっ! すごいすごい! 速い速いよ、神人君!」

「こっ、これはすごいな……。速いだけでなく目線の高さがいつもとは段違いだ」

 興奮する二匹を無視し、神人は赤いキツネを追いかける。一度引き返したせいで、だいぶ距離が出来てしまった。

 ――このお荷物が。うるせぇ! ちょっと黙ってろ! ――。神人は心の中でそう毒づきながら、力いっぱいキツネの尻尾を追いかける。

 赤いキツネはひょいひょいと、右に左に跳ねては曲がり、上がって下がってちょこまか逃げる。神人は二匹を抱え、その姿を見失わずに追いかけるのに精一杯だった。

「はぁっ、はあっ、はぁ、はぁ……」

 ポタリと汗が地面に落ちる。落ちた頃にはもうすでに、そこに神人の姿はない。遥かその先を走っている。

「大丈夫? 神人君? 僕たちお荷物だよね……」

「すまないな。面倒をかけてしまって……」

 神人は二匹の言葉にギクリとし、なんだか胸をえぐられたような気持になった。

「……いや、平気平気。……はっ、なんせ俺。……はぁ、★5っすから! まだまだ加速するぜぇっ! はっ。うおおおお!」

「わぁあぁあぁあぁ~! すぅご~ぉい!」

「流石だな。神人は……」

 いつぶりだろうか。神人は考える。全速力で走るのはいつぶりだろうかと。

 転生したのだから、いつぶりも何もないだろう。初めてだ。それでも、前世から考えていつぶりだろうかと神人は思ったのだ。

 前世で、こんなに全力を出したことが、思えばあっただろうか。幼い頃はいざ知らず、ある程度の年齢になってから、こんなに本気になったことはあっただろうか。

 コミュ症だから、お金がないから、才能がないから、何て数々の言い訳をして、それじゃあそもそも本気で頑張ってみたことがあったのだろうかと。

「はぁっ、はぁっ、はあっ、はぁっ、ハハ……」

 いいや、そんなことはもうどうでもよかった。

 神人は今この瞬間が、楽しかった。とても気持ちがよかった。身体に風を感じる。汗が首筋なのかなんなのかよくわからないところを伝い流れ落ちる。力いっぱい体を動かす。その感覚が、神人はとても気持ちよかった。

「うわー、すごいよ! すごい! どんどん近づいてる! 神人君! すごいよ!」

「……風になった気分だ。これは、心地がいいな」

「ハッ。お前ら、楽しそうだな」

 神人は少し苦しそうに言う。

「えっ……、ごめん」

「すまない。つい……」

 神人の言葉に、二匹は声をしぼませる。

「いや。俺もだよ」

「えっ?」

「俺も、楽しいんだよ。お前らとこうして走るのが!」

 そう言って神人が笑うと、二匹の顔もぱぁっと輝いた。

 そして、遂に――。

「追い詰めたぜ。キタキタキタキツネ!」

「っ! !!!」

 神人たちは広間のように岩壁が開けた場所に赤いキツネを追い詰めることに成功した。

「はぁっ、はぁっ……。しかしどうすっかな。ここ広いし、下手に襲いかかっても逃げられちゃうよな」

「神人君ならまたすぐ追いつけるよ!」

「あのなぁ……。さすがにもう、ごめんだぜ」

 怯える赤いキツネに注意を払いながら、神人はナミィの言葉に苦笑する。

「そうだな。何とかして確実に捕まえたいところだが……」

「よし。ならアレを使うか」

「アレ?」

「ああ、スキルだよ! おい、キタキタキタキツネ! 覚悟しろよ。叡智のひらめき!」

 神人はそう叫んだ瞬間、視界の隅に意識を引かれた。そしてひらめく。名案が。

「近づいて襲ったら逃げられかねないなら、遠くから攻撃すりゃあいい。これしかないぜ!」

 そう言って走り出した神人の行く手には、大きな岩が置かれており、その周りには岩を取り囲むようにちょうど手頃な石が落ちていた。神人はそのうちの一つをひょいと拾い上げると、赤いキツネに向かって真っ直ぐ投げつけた。

「!」

 石は見事、赤いキツネに命中し、キツネはその場に倒れ込む。

「すごい! 石を投げて離れた敵を倒すだなんて! 僕らには真似できないよ!」

「ふむ。今回は敵に大ダメージとしばらくの麻痺状態付与か。やはり神人のスキルは強力だな……」

「へへん。さぁてと、いっちょとどめを刺しますか」

 そう言って神人が歩き出したその時だった。神人の鼓膜をなにかが揺すった。

「ん? 何か言ったか?」

 振り返った神人に、ナミィとハカセは揃って首を振る。

「憎イ。憎イ。怨メシイ」

「え?」

「なっ、なんだこの声?!」

 その声は神人たちの心を揺さぶるように洞窟内に響き渡り、三匹の心を酷く不安にさせる。

「憎イ、憎イ、憎イ、憎イ、憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ怨メシイィ゙イ゙ィ゙イ゙ィ゙」

 洞窟全体を揺るがすような声が響き渡ると、その声の主は突然そこに姿を現した。

 神人のすぐ背後。そこにぐるりと並べられた石の中央。大きな岩のその上に、高い高い洞窟の天井まで届くほどの巨大なイモムシが現れたのだった。

「うわぁ?!」

「うわー! 怖いよぉ! 何あれ、気持ち悪い」

 そのイモムシは宙に浮いており、その身体は半透明で透けており、ボロボロに朽ちた死骸のような姿をしていた。その頭にはマントのように垂れ下がる布を被っており、目は空洞、イモムシが何匹も結合した手のようなものを胸の前に一対浮かべた、その風貌まるで西洋のゴーストである。

「ナゼダ! ナゼダ! ナゼダ! ナゼダァ! レア度ノーマルノ凡イモムシ風情ガァ! ナゼダ! ナゼダ! ナゼオレハ、オレハ、ワタシハ、ボクハ、キミハ、オラハ、オマエハ、ワレラハ、ナゼダァ! レアナノニィ゙! ナゼ! ナゼ! ナゼ! ナゼェ゙ェ゙ェ゙! 憎イィ……。怨メイシイィ゙ィ゙ィ゙……。怨メシイィ゙イ゙ィ゙イ゙ィ゙!!!!!」

 結合したイモムシの死骸が、勢いよく神人を襲う。

「っ!」

 神人は突然、何か不思議な力に跳ね飛ばされたかのように吹っ飛びナミィたちの前で体を強く打ちつけた。

「いてて……」

「大丈夫?! 神人君!」

「あ、ああ……。なんとか……。それよりも、アイツはいったいなんだんだ?」

 神人の問いに、ハカセが答える。

「聞いたことがある。このしゅうかい洞窟には、★4のレアイモムシたちの怨霊が巣くっていると……」

「レアイモムシの怨霊?」

「ああ。レアでありながら慢心や準備不足、不運などで命を落としたイモムシたちの無念や怨念の集合体だ。ヤツらは生きている全てのイモムシ、特に自分よりレア度で劣る★3のノーマルイモムシを強く怨んでいると言う。出会ったら最期、と言われている。この洞窟のもう一種のレアエネミーにしてキタキタキツネとは真逆のレアエネミー。災厄であり最悪のチート級裏ボス」

 ハカセはアオムシの如く青い顔でそう言った。

「で、でも。神人君なら大丈夫だよね……。神人君は最強だし……」

「いや。レアイモムシの怨霊に物理は効かない。物理しか攻撃手段の無い神人、もとい我々では成す術がない……」

「そんな……」

「うっ、嘘だろハカセ? 何かないのかよ」

 神人の言葉に、ハカセは無い首を振って答えた。

「無いな。唯一可能性があるとすれば神人のスキル“叡智のひらめき”だが」

 そう言葉を残して、ハカセは数メートル離れた地面まで吹き飛んだ。

「ハカセ!」

 神人たちがそう叫び終わるのが早いか否か、神人もナミィもそれぞれ数メートル空中を飛ばされ硬い地面に体を打ちつけた。

「いてて……。叡智のひらめき! 叡智のひらめき! ……くそっ!」

 スキル名を叫ぶ神人だったが、今までとは打って変わって何もひらめかいない。

 それもそのはず、スキルは連続で使用できないのである。一度スキルを使うと、一定時間経過するか一連の戦闘が終わるまでスキルは使用できない。

「ハカセ! ナミィ!」

 神人は大きな声で二匹を呼びながら安否を確認するが、ハカセが微かに動くのみで返事はない。

「★3ガ! 雑魚ガ! オ荷物ガ! 死ネ! 死ネ! 死ネ! 死ネェ゙! ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー」

 風邪をひきヒューヒューする息の音のような笑い声をあげ、怨霊は三匹を嘲笑う。

「俺ガ、俺ガ、私ガ、俺達ガ死ヌノナラバ、オ前達ハ死デアルベキ! 死デアルベキ! 死デアルベキィ゙ィ゙ィ゙!」

 次の瞬間、またもや神人は宙を飛び地面に体を打ちつけられる。

「いてぇ……。くそぉ……。こんなのありかよ……」

 地面に倒れたまま、神人は弱々しく呟いた。



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第3話「周回してたらそれに気づいた」

「いてぇ……。くそぉ……。こんなのありかよ……」

 レアイモムシの怨霊に吹き飛ばされた神人は、地面に倒れたまま弱々しく呟く。

 ――せっかくチート能力手に入れて転生してよぉ。美少女とのエッチまで約束されてるのによぉ。こんなところで死ぬなんて、そんなのアリかよ……。

「レアナノニ……。レアナノニ……。ナンデ……。ナンデ……」

 悪寒が走るような不気味な声が、神人の心に沁みるように響く。

「ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー。ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー。ソウダ! ソウダ! 死ヌベキ! 死ヌベキ! ★3ハゴミィ……。死ネ死ネ死ネ死ネィ゙!」

 心を抉るような怨念の声が、神人の思いと重なり弾ける。

「……違う。違う!」

 神人は呟き、急に叫ぶと立ち上がった。

「違う! コイツらは確かに弱い! 力も弱いしスキルも弱いし移動も遅いし、はっきりいってお荷物だと思う時もある! でも! ……でも、違う! コイツらは……。コイツらは俺の仲間だ! 俺の仲間を馬鹿にすんな!」

 そう叫ぶと神人は走り出した。

 吹っ飛ばされて、地面に体を打ちつけられても、痛くとも神人はまた立ち上がった。

 前世では言い訳ばかりでろくに頑張ることもしなかった。その内に死んでしまった。でも、今度はそんな風に死にたくない。

 きっかけはチート能力だった。最初から与えられた才能だった。でも、それも結局通用しない相手が現れて、それでも思った。

 神人は思った。頑張ろうと。

「うおおおおおおおお!」

 神人は頑張った。頑張って走った。

 死にたくなかった。何より、足掻かずに死にたくなかった。

 しかし、我武者羅な努力は時として無謀となり、結実に及ぶことなく朽ち果てて無に返る。

「うああ!」

 何度目か吹き飛んで地に落ちて這い起きて、神人は思い出す。遥か昔、幼い記憶――。

「ふっ」

 神人の口元が緩む。

「あったな、そういえば。俺にも頑張ったこと」

 ――くだらないことだったけど。

 神人は真っ直ぐに立つと、思い出の言葉を口にした。

「じゅげむじゅげむ」

 それは、神人が前世で小学生の頃だった。

「ごこうのすりきれ。えっと、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ」

 国語の授業で少しだけ触れた『寿限無』という話に出てきた長い名前を、幼かった前世の神人は頑張って覚えた。

「うんらいまつ……。……あっ、ふうらいまつ!」

 別に覚えたところで成績が上がるわけではなかったし、そもそもあの頃は成績なんて全く気にしていなかったが。

 それでも覚えた。覚えたくて覚えた。それで、褒められたり感心されたことがとても嬉しかった。

「くうねるところにすむところ」

 怨霊に物理攻撃が効かないのなら、有り難い言葉ならひょっとしたら効くんじゃないか。前世で御経でも覚えておけばよかったと思った時、ふと思い出したのだ。

 『寿限無(じゅげむ)』という小噺(こばなし)を。確かその中に出て来た名前は、有り難い言葉を羅列したものだったなぁと。

 叡智のひらめきと言えるかどうか、当てずっぽうの思いつきで、ダメもとで我武者羅で、命がけで無謀で。

「……えっと」

 しかし、ここにきて記憶が陰る。

「あれ……。なんだっけ……」

 急にその先が思い出せなくなった。

 何しろ覚えたのはもうずいぶん前のことである。むしろここまで言えたことが意外だったほどだ。

「ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー。笑止! 笑止ィ゙!」

 急に怨霊が笑い出した。

 今まで大人しくなっていたところを見ると、案外効いているのかもしれなかった。

「ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー。ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー。ソンナモノカ! ソンナモノカァ゙! ヒュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ュ゙ー」

「くそっ。なんだっけ……。くそっ、くそっ……」

 神人は焦る。焦るがしかし、思い出せない。むしろ、焦れば焦るほど甘い記憶は霞んで見えなくなっていく。

 そんな時だった。神人の隣で、聞き慣れた声が、記憶の隅に見失ってしまった大切な言葉を再生した。

「やぶらこうじのぶらこうじ」

 驚いて振り返るとそこに、大切な仲間の姿があった。

「ハカセ!」

「フフツ。考えたな、神人。物理が効かないなら有り難い言葉で、ということか……。妙案だ。確かに効いているようだぞ」

「なんで……。ハカセ、大丈夫なのか?! てか、『寿限無』知ってんのかよ?!」

 驚いて質問を重ねる神人に、ハカセは笑って答える。

「質問は一つずつしてくれたまえ。といってもそんな猶予はないな。ナミィは無理だったようだが、私はスキルによる物理無効は意味をなさなかったものの防御力も上がっていたためにギリギリ耐えられた。私を誰だと思っている。イモムシ界随一の物知り博士、シリイモムシのハカセだぞ?」

「ハカセ!」

 喜ぶ神人を現実に引き戻すように、不穏な声がこだまする。

「★3ガァ゙! ★3ガァ゙! 憎イ。憎イ。怨メシイ。ィ゙、ィ゙、ィ゙、……死ネェ゙!!!」

「さあ、あまり話している有余はなさそうだ。続けよう」

「ああ」

 神人とハカセは怨霊を睨み、声を合わせて続きを言う。

「ぱいぽぱいぽのしゅーりんがん、しゅーりんがんのぐーりんだい、ぐーりんだいの……」

 そこに来て、再びのピンチが二人を襲った。

「ぐーりんだいの……。なんだっけ、ハカセ?」

「すまない。私も思い出せない……。ぐーりんだいの……。ぐーりんだいの……」

 必死に続きを思い出そうとする二人の身体を、怨霊の声が激しく揺すった。

「苦シイ、苦シイ、痛イ、ナンデ? 嫌ダ! 嫌ダ! 嫌ダ! 嫌ダ! オ前ガ、★3ダァ゙!!!!!」

 その手が伸びていくその先で、死んだように横たわっていたナミィが突然動き出す。

「ナミィ?!」

「うわー! こっち来たぁ~! 来ないでよ~」

 こちらへ向かってうねうねと這って来るナミィを見て、ハカセがはっと思い出す。

「そうか! ナミイモムシのスキルは“しんだふり”! 結構な間、具体的には三ターンから五ターンの間麻痺状態になる代わりに敵から攻撃対象に選ばれなくなり、全体攻撃も高確率で回避できるスキルだった」

「ナミィのスキル、強くない?!」

「いや、延命したところでだからな。私もすっかり忘れていたよ……」

「ああ、そういう……。てか、話してないで助けてやるか」

 そう言って走りだそうとした神人の前で、ナミィは涙目になって必死に這いまわる。

「来ないでぇ~! 来ないでぇ~! うわっ、うわっ! おたんこなすー! でべそー! ぽんぽこぴー! 来るなぁ~!」

「っ?!」

 突然、二人の間に衝撃が走る。

「でかしたぞナミィ!」

「よくやった!」

「えっ?」

 ナミィは二匹の言葉に困惑し立ち止まる。そこへ、怨霊の魔の手が襲いかかる。

「うわぁ~! ……あれ?」

「間一髪、助かったな」

 ナミィが目を開けると、そこは神人の腕の中だった。

「神人君……、ありがとう!」

「いいってことよ!」

 こうして、怨霊を前に三匹は揃う。迫りくる手を意にも介さず、神人とハカセが声を揃える。

「さて、ぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけ!」

 二匹の声がこだまする。

 怨霊は苦しそうにうめき身をよじる。

「さあ、死んだふりだったんなら聞いてたよな? ナミィ」

「え、まあ……。うん……」

「何で照れるんだ? ナミィ」

「私も聞いていたからな。流石に照れたが、なんと言おうか。嬉しかったぞ、礼を言う」

「え? ……」

 ――俺の仲間を馬鹿にすんな!

 自分の発言を思い出し、神人は思わず顔が熱くなった。

「ちっ、ちげーよ! そっちじゃなくて! 聞いてたろ、ナミィ。寿限無だよ寿限無」

「うっ、うん……。でも僕、そんな一回じゃ覚えられないよ……」

 申し訳なさそうな顔をするナミィに、二匹は微笑んだ。

「心配は無いさ。我々は覚えている」

「一人で言う必要はねぇよ。俺達、仲間だろ」

「二匹とも……」

 三匹のイモムシは巨大な怨霊を見据え、先ほどまでとは違う希望に満ちた眼差しを放つ。

「せーの!

じゅげむ、じゅげむ、ごこうのすりきれ。

かいじゃりすいぎょの、すいぎょうまつ、うんらいまつ、ふうらいまつ。

くうねるところにすむところ。やぶらこうじのぶらこうじ。

ぱいぽ、ぱいぽ、ぱいぽのしゅーりんがん。しゅーりんがんのぐーりんだい。

ぐーりんだいのぽんぽこぴー! のぽんぽこなーの、ちょうきゅうめいの……。

ちょうすけ!」

 息の合った“寿限無”の暗唱。

「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙……。ナゼダ? ナゼダ? ナゼ痛イ? 苦シイ? ナゼ? ナゼ★4レアノ俺ガァ゙。オイラガァ゙。私ガァ゙。俺達ガァ゙……」

 それは怨霊に確かな大ダメージを与えた。

「さて、最後は必殺技で決めてやる!」

 不敵に笑う神人に、ナミィが言う。

「でも、こんなところで大きくなったら洞窟がくずれちゃうよ。そしたら僕とハカセは生き埋めだよぉ……」

「あっ、確かに……」

「だが、そろそろスキルは使えるはずだ。スキルでとどめというのも乙なものじゃないか?」

「ナイス、ハカセ! おい、レアイモムシの怨霊! お前が俺に、俺達に負けたわけ。教えてやろうか?」

「ナニィ゙?」

「それは俺が……、★5だからだ!」

「……」

「とでも言うと思ったか? ちげぇよ、ばーか! 俺達の絆が、レア度を超えたんだよ!」

「神人君!」

「ふっ、臭いことを……」

 神人の言葉に喜ぶ二匹とは裏腹に、怨霊は怒り憤り憎悪を叫ぶ。

「ソンナ……、ソンナ……。ソンナコトッ!」

「そんなこと納得できない、か? じゃあ、最後は★5の力で倒してやるよ。いいかげん、成仏しやがれ! 叡智のひらめき!」

 そしてひらめいた神人は、二匹の仲間を脇に(かか)える。

「えっ?」

「なにっ?」

「ハハ。やっぱり最後のシメは、必殺技だ! しっかり捕まってろよ! お前ら!」

 神人はひらめいたのだ。洞窟が崩れるのなら、仲間を抱えればいい。人の手があるのだから。手で攻撃が出来ないなら、そのままでいい。洞窟が崩れるのだから。

「――我、叡智を持ちし猿にして、生きとし生けるものの頂点に立つ者。イモムシにして、イモムシに非ず。超変態芋虫人間(メタモルフォーゼ・ホモサピエンス)!!」

 あっという間に巨大化した神人は、その腕から手に変え大事な仲間をしっかり優しく掴んだまま、巨大な人にその身を変えた。

 ガラガラと音を立て崩れる洞窟は、その足元で大きな、神人にとっては小さな土石の山を築いた。

「死んだ奴は埋まってろ! ソイツがお前のための墓だ! 来世はなろうの主人公にでもなれるといいな……」

 ほのかにオレンジ色へと染まりつつある青い空のその下で、多くのイモムシを死へと(いざな)った口承の怨霊は土に埋もれ、その怪談は終わりを迎えた。

 

    ☆

 

 欠けた月が穏やかに光を灯す空の下。

「神人君! すごいやすごいや! あんなお化けまで倒しちゃうだなんて! すごいよすごいよ!」

 レアイモムシの怨霊を倒し、土砂の山となったしゅうかいの洞窟を後にした神人達は、街へと続く森の中で焚火を囲んでいた。

「ハハ、何回言うんだよナミィ。でもさ、俺一人じゃアイツは倒せなかったよ。ありがとう。お前らのお蔭だ。ナミィ、ハカセ」

「そんなことないってば……。でも、僕、弱いからさ……。そんなこと言われると、照れるなぁ……」

「そう言う言葉は何度言われても恥ずかしいものだな……。それはそうと、神人。君は今何レべだと思う?」

 ハカセに問われて神人は思い出す。

「ああ、そういうえばそうだった。いやー、あんな強敵倒したからなぁ。一〇レべになってて欲しいところだけど……、そう上手くいかないよな? 何レべ?」

「フフ。神人はキタキタキタキタキタキタキツネを覚えているかな?」

「ああ! そういえば! すっかり忘れてた……。あの騒ぎで結局とどめ刺せずじまいだったよなぁ……。怨霊のヤロウ……」

「フフ。それがな、キタキタキツネとの戦闘からの流れでレアイモムシの怨霊と戦闘になったからかな。あの洞窟の崩壊に巻き込まれて倒れたであろうキタキタキタキツネを倒した分の経験値、いや。もしかするとあの洞窟にいたモンスター全てを倒した分の経験値が入ったのかな?」

 ハカセの話を聞いていた神人は、その先が待ちきれなくなり言葉をこぼす。

「それって……。もしかして?」

「神人君。今の君のレベルは一〇レベだ」

「……いやったぁ!」

 喜びの雄叫びを口に立ち上がる神人を見上げ、ハカセもナミィも拍手の出来ない小さな手で心からの拍手を送り微笑んだ。

「神人君。おめでとう!」

「ああ! ナミィ! ありがとう! よっしゃー!」

「フフ。今日はゆっくり休んで、明日。姫の待つお城へと向かおう。ここからならお城はすぐだ。明日の昼には変態の儀を受けられるだろう」

「それで城下町に向かってたのか! 流石、ハカセ! 先に言ってくれよまったく!」

「いつ言おうかと思ってな。せっかくだから、ベストなタイミングで言いたかったのさ」

「ったく、ハカセは。このこのぉ~。ムッツリなんだから~」

 神人につつかれてハカセは顔を赤らめる。

「なっ、それは今関係ないだろ! 第一私はムッツリでは……」

「ううん。ハカセはムッツリだよ。なんてったって」

「おい、コラ! ナミィ!」

「何だナミィ。教えろ教えろ」

 きらきら光る星の下、イモムシたちのささやかな宴、三匹の楽しそうな笑い声は、いつまでもいつまでも鳴りやまなかった。




20181027_脱字修正「成仏しやがれ!」
20200804_振り仮名加筆「誘う」


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第4話「変態してもイモムシだった」

 赤い絨毯。厳かな壁。そして大きな木の扉。

 広いお城の一角で、神人はしばしの別れを惜しんでいた。

「その姿もこれで見納めだと思うと少し寂しいな……」

「でも、神人君なら変態してもきっとすごいイモムシだよ!」

 二匹の顔を目に焼きつけるように見てから、神人は言った。

「ハハ、じゃあな二匹とも。また後で」

「ああ、また変態の儀でな」

「楽しみにしてるね~」

 その言葉を最後に、神人は大きな木の扉の先へと案内された。

 ――昨晩の激闘から一夜明け、早起きした神人達は、今日の昼前に城下町へと辿り着いた。

 ハカセの言う通り、観光を後回しにしてまずは城を目指した一行は、到着するなり豪華な料理でもてなされた。そして、しばらく食後の余韻を楽しんでから、いよいよ神人は変態することになった。

 話によれば変態の儀で変態するわけではなく、変態を終えてからそのお祝いに、姫との変態の儀を執り行うのだという。

「……」

 急に緊張してきた神人は、絢爛豪華な一室で促されるままに王座のような椅子に腰かけた。

 神人は前世で童貞だった。彼女はできたことがなかったし、そういうお店にも行ったことはなかった。正真正銘の童貞だったのだ。

「……」

 変態のことなど上の空で、目に焼き付けた仲間の顔も今は頭の端に置き、変態の儀について思いを巡らせる神人。

 そこには期待に胸躍らせ股間を熱くする一人の変態がいるのみであった。

「……えっ、ああ。はい」

 神人は言われるがままに目をつむる。いよいよ、神人は変態する。しかし、頭の中はとっくに変態だった。

 全身の感覚が徐々に弱くなっていく。手足の感覚から次第に体の感覚がなくなっていき、そして神人の意識はいつしかまどろみの闇の深淵へ。

 

    ☆

 

 ピロリロリン。

 ――ゲーム的な電子音が聞こえる。

 ヒュオォーォーォーォーォーォーッ、ポンッ!

 ――ソシャゲ的な効果音が聞こえる。

 キラリラリン。

 全身の感覚を手に入れる。

「変態★大成功! プリンスイモムシ!!」

 ジャジャーン、という音と共に神人は目を開けた。

 頭の下辺りをよじり自分の体を見ると、人の手足は無くなっていた。前世の記憶がある中で、人の手足が無くなるのは少し不便だなと神人は思った。

「神人君! おはよう! すごいよ! プリンスだよ! 王子様だよ! やっぱり神人君はすごいや!」

「お目覚めはいかがかね? 神人。知っているかい? プリンスイモムシはレア度★6、レア度の概念を越えた化け物だぞ? すごいじゃないか、神人」

 王座の上で身をよじって振り向くと、そこには笑顔のナミィとハカセがいた。

「ナミィ! ハカセ! そうか★6か……。手足が無いのは残念だけど、まあ、その内慣れるだろう。ヘヘ、やっぱり俺すげーのか……」

 ニヤニヤ笑う神人の前方で、ファサーとカーテンの開く音がした。

 正面を向き直ると、そこにはウエディングドレス風の召し物に身を包んだ女性の姿があった。レースの下には(あで)やかな肩や(つや)やかな太腿が透けて見え、清楚でありながらとてもエッチだった。

「お姫様だ!」

「姫様……」

 ナミィとハカセの声に続き、どこからか拍手と歓声がビージーエムの様に辺りを賑やかさせる。

「よくここまで来てくれましたね」

 姫はそういうと、レースの下に透けて見える口元で微笑んで見せた。

「……」

 その声に神人は聞き覚えがあった。そう、それはこの世界に来る前、神人に死を告げ転生を約束した女神の声と同じだったのだ。

「あの……、どこかで会ったことあります?」

 神人は彼女に、女神様ですよねとは()かなかった。何故なら、神人は女神と最初に出会った時にも思ったからだ。どこかで聞いたことのある声だと。

「嬉しい。覚えててくれてたんですか? 私のこと……」

 お姫様の心から嬉しそうな声が、神人の頭に靄をかける。どこかで聞いたことのある声、生前にも聞いたことのあるはずの声。でも、思い出せない声。

「大丈夫ですか? まだ体が変わったばかりですもんね。どこか痛むんですか?」

「あっ、いやっ、大丈夫。大丈夫です」

「ふふ、ならよかった。それじゃあ――」

 言葉を止めた姫は、その左手を口元にあてがい恥じらうように言う。

「――誓いの、キスを……。いいですか?」

「あっ。はっ、はい!」

 神人はつい今し方の疑問も靄も忘れて、姫を見つめて背筋をピンと伸ばす。

 そんな神人に、姫はゆっくりと歩みよってきた。

 神人の鼻をいい匂いがくすぐる。生前味わったことのない、女の子の匂い。

 ベールの下に透けて見える口元が、肩が、脚が――。今、神人の目の前で艶やかに煌めいている。

「嫌では……ないですか?」

「へ?」

 突然、姫は弱々しく言った。

「私とあなたは結ばれる運命にある……。でも、あなたはそれが嫌じゃないですか?」

 不安そうに言う姫に、神人は言い切った。

「嫌じゃないです」

「……嬉しい。それじゃあ、するよ」

 姫は神人の鼓膜を優しく声でくすぐると、顔を隠すベールに手をかけた。

 ゆっくりと近づいてくる女性の顔に、鼻腔に満ちる女性の香りに、神人の股間が熱く滾った。神人の心臓がバクバクと高鳴った。

「好きだよ、▇█▆██▆君」

 その言葉に、神人の高鳴りは頂点に達した。

 ――▇█▆██▆、それは神人の前世での名前。

 姫の口から熱っぽく溢れたその名前に、本来ならば抱くはずであった疑問。どうしてその名前を知っているのかという問いよりも、慣れ親しんだ名前で呼ばれたことが加速させた興奮に、神人は理性を見失った。

 そして、ついにベールがまくられる。その下にあった顔に、神人の頭にあった靄は全て消え去った。神人は思い出した。

「お前は――」

 彼女は、神人を殺した女だった。

 恋人などいたことのなかった前世の神人に、初めて恋心を告白した女性がこの女だった。二人は運命で約束された恋人同士であると言って、女は執拗につきまとってきた。

 そして、そしてあの日。この女は神人の家に侵入していた。神人が帰宅して電気をつけると、目の前でこの女が微笑んでいた。包丁を手にして、意味の分からないことを言いながら、女はにじり寄ってきた。

 ――俺はこの女に殺された。

「ひっ!」

 ふと自分の身体を見る。それは、イモムシの身体ではなかった。紛れもない人間の身体だった。慣れ親しんだ、前世の自分の身体だった。ただし、一点を除いて。

 神人の人の身体には、四肢が無かった。神人は手も足も腕も脚も無かった。その姿はまるでイモムシのようだった。

「おい、ナミィ! ハカセ!」

 神人は首を回し、頼みの綱の仲間を振り返る。

「っ……」

 そこには二人の男がいた。虚ろな目をしてどこか遠くを見つめた男が二人、四肢の無いイモムシのような身体で、ブツブツと何かつぶやいていた。

「っ……、っ……、なんだよこれ……」

「あれ? 魔法が解けちゃった? いつも私の顔を見るとみんなそうなの」

 振り返れば女がこちらを見て微笑んでいる。

「何だよ……。何だよこれ!」

「言ったでしょ。ここは、女の子の夢の箱。コスメで可愛く飾られた女の子の夢の箱。お化粧はもうとれちゃったけど、ここからはすっぴんの時間だね……」

 女ははにかんで微笑むと、神人の顔をのぞきこんだ。

「好きだよ。ねぇ、好き。好き好き好き好き好き好き好き好き。大好き。とーっても好き」

「……俺は、俺はお前なんか好きじゃない!」

 怒鳴る神人に、女は微笑む。

「ふふ、照れちゃって。すっぴんだもん。私の方が恥ずかしんだよ? でも、さっき言ってくれたよね? 嫌じゃないって。嬉しかった……。前世のあなたは私を選んでくれなかったけど、やっぱり私たちは結ばれる運命だったんだね。やり直しをしたら、ちゃんとあなたは私を選んでくれた。私はあなたが好き。あなたは私が好き。うふふっ」

「違う……、違う……」

 涙を目に浮かべて首を振る神人に、女は微笑みを向ける。

「違わないよ。さあ、二人の愛の儀式を続けよう。手足が無くて心配なのかな? 大丈夫。ずーっと私が面倒を見てあげるから。私がお世話してあげるから。心配しないで」

「やめろ……。やめてくれ……」

 神人の悲痛な声が部屋に舞い散る。

「ふふっ。照れないで。気持ちよくしてあげるから。いいよ。私が気持ちよくしてあげるから。一緒に気持ちよくなろう。一つになろう。愛しあおう。ずっと待ってたんだ。ずっと、ずっと……。うふふ、嬉しい……。愛してるよ。愛してるよ。ねぇ、愛してる」

 女の顔がゆっくりと近づいてくる。その匂いが鼻腔に満ちる。神人の目からは涙がこぼれる。

「やめろ。やめてくれ。頼むから。何でもするから。やめてくれ。やめてくれ。やめて」

 神人の唇にぶにゅぶにゅとしたものが押しつけられる。それはまるでイモムシのようで、神人の唇にねっとりと絡みつきにゅるにゅると這いまわる。

「んん! んんん!」

 さらに口の中に一匹のイモムシが入ってくる。イモムシはゆっくりと口内を這いまわり、神人の舌に絡みつき次第に激しく這いまわる。

「んんんんん……。んんんんん……」

 神人の口を犯した三匹のイモムシは不意にその口から身を離した。

「はぁっ……、はぁっ……」

 神人は全身を襲う嫌悪感から逃れるように首を振る。

「そっか。そうだよね? 恥ずかしいよね、他の人の前じゃ。ごめんね、気づかなくって……」

 女の声が神人を現実に引き戻す。

 神人の後ろにはナミィとハカセ、四肢の無い二人の男、女のコレクションのなれの果てがぶつぶつと何かを呟き続けている。

 宝石のようにキラキラとしたコレクションが並ぶ女の子の夢の箱で、女は新しいたからものに手を伸ばした。

「さあ、いきましょう」

 神人の身体に女の腕が回される。ぎゅっと抱き寄せられ、柔らかい二つのふくらみが神人の胸に押しつけられる。

「……いやだ。いやだ」

「うふふ。照れ屋さんなんだから。でも、そんなところも好き。ずーっと一緒だよ。さぁ、まずは一つになろう。気持ちよくしてあげるからね。何度も、何度も、何度も気持ちよくしてあげるからね。私の全部を使って、たくさんしてあげる」

「いやだ。やめてくれ……」

「うふふ。うふふふふ」

「やめてくれ。頼むから。頼むから!」

 女は泣き叫ぶ神人を胸に抱き、イモムシたちがブツブツと歌う部屋を後にする。

「うふふふふ。うふふふふふふ。好き。好きだよ。▇█▆██▆。愛してる」

 赤絨毯の上を歩く、王子様を抱いたお姫様。

「さあ、ここで。一つになろう。うふふ。ふふふふふ。だーいすき、▇█▆██▆」

 バタンと閉まる大きな扉。広く寂しい城内に、神人の悲鳴がこだまする。

 

 ――ここは、女の子の夢の箱。

 メルヘンチックな箱庭世界、女の子の夢の箱。




二〇一八年 八月一七日
二〇一八年 八月二三日  公開
二〇一八年 八月二三日  最終加筆修正

20181027_誤字修正「泣き叫ぶ」
20200804_誤字修正「キラキラとした」


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あとがき

 不快な気持ちにしてしまっておりましたら、申し訳ございません。 

 

 神人が手遅れになってから気づいたことに、貴方が手遅れになる前に気づけたのなら。それがこの物語のせめてもの救いなのかもしれません。

 貴方の人生が幸せなものでありますように。

 

 

 

 きっかけは、誕生日でした。

 私の二四歳の誕生日は次の日がお休みでしたので、ふと、記念に一晩で何か一本書けたらなと思い立ったのです。

 ちょうど、長編ばかり思いつく中で無理やり短編を書いて完成させることを繰り返し、十三話ほどの丁度いい物語が簡単に出るようになったところでしたので、せっかくだから短編を書きたいと思ったのです。

 兼ねてから、所謂「なろうの流行りもの」で一本書きたいと思っておりました。「郷に入っては郷に従え」の精神と言いますか、道場破りをするならその競技で破りたいとでも言いますか……。

 それで書き出した『魔法剣士アモレア』(異世界転移)も『夢の転生生活』(異世界転生)も長編だったために積んでしまっていたので、これを機に短編を書こうと決めました。

 その後、今の流行りを確認するために検索を繰り返し「またオレ何かやっちゃいました?」や「キンキンキン…」を見つけ(笑)。眠る頃には内容が決まりました。

 しかし、連日の寝不足と仕事の疲れから眠気は強く、これでは納得のいく文章は書けないと眠ることを決意。私の身体は年齢ほど若くないのです。

 

 結局、翌日も完成させることは出来ず、三話で連載する予定が四話になり、誕生日から書き終えるまでに一週刊近くかかってしまいましたが……。

 やっと神人の人生に日の目を浴びせることが出来て私はとてもうれしいです。

 私の今の技量でどれほど彼の、彼らの人生を分かり易く面白く読み易く、その上で何より正確に皆様へ届けることが出来たか不安でいっぱいですが……。

 純粋な感想から的を射た厳しいご意見まで、感想をお待ちしております。感想を頂けると、非常にうれしく有り難いです。

 

 ちなみに、ご存じの方はお気づきかと思われますが、この物語は江戸川乱歩さんの『芋虫』の影響を受けていると思われます。

 直接的にそこからインスパイアされたものではないのですが、内容からは大きな影響を受けたことがうかがえます。

 魅力的な作品であると共に、すぐに読める短編ですので、ご興味のある方は是非お読み下さい。ネットであらすじを読むより、是非とも全文を読んだ上であの結末に辿り着いて頂きたく思います。

 僭越ながら「現代版芋虫」もとい「なろう版芋虫」や「木村直輝版芋虫」などと言われたら、などと大それたことを妄想をしてしまいます……。

 

 それでは、改めまして――。

 私を生み育ててくれた両親、とその助けとなったアコムとクレカ(笑)。

 今まで私と関わって下さった全ての方。

 そして何より、読んで下さった貴方様。

 ――ありがとうございます。

 

 貴方の人生が幸せなものでありますように。




【ツイートの記録】

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 小説家になろう用に人気の異世界転生もののストーリーを考えてていいの思いついた!

 主人公が転生した世界、そこは灼熱の世界。
 主人公は現代知識をフル活用。解決策を思いつく。
「打ち水って知ってるか(ドヤッ)」
 ――スキル:打ち水(SSS)、発動!
 ジュオアァ……。
「やばたにえん!」
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2018年8月9日
https://twitter.com/naoki88888888/status/1027231977550700544
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 誕生日を記念して何か1夜で1本書けないかなと思って、小説家になろうで異世界転生もの1本書いとくかと考えて、んで1夜で書き終わらなかった話を今書いてるけどどうだろう、この題名。

『イモムシ☆コレクション女の子の夢の箱に転生できると聞いて転生したのにイモムシに転生してるんですけど?!』
――――――――――――――――――――
2018年8月9日
https://twitter.com/naoki88888888/status/1027531638832476160
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『イモムシ☆コレクション 女の子の夢の箱に転生できると聞いてたのに転生したらイモムシだったんですけど!』木村直輝

神様の手違いで死んだ?
女の子の夢の箱に転生? ※チート能力付
目覚めたらイモムシの世界…←イマココ
――えっ? 神様、手違い多過ぎィ?!

https://ncode.syosetu.com/n6790ey/
 公開中!
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2018年8月23日
《link:https://twitter.com/naoki88888888/status/1032494191018795008》https://twitter.com/naoki88888888/status/1032494191018795008《/link》
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【面白かった参考文献】

・『超マンガ速報』http://chomanga.org/‐「【炎上】なろう作家さん、Amazonレビュー☆1にブチギレる・・・・・(画像あり) 超マンガ速報」http://chomanga.org/archives/58746.html(2018.8.8)
 →参考文献ではないけどこれも→「【定期】なろう作家「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」(画像あり)」http://chomanga.org/archives/63154.html(2018.8.17)
・『超マンガ速報』http://chomanga.org/‐「【画像】何故なろうの主人公がムカつくのか理由が判明wwwwwwwww」http://chomanga.org/archives/58549.html(2018.8.8)
・『アニはつ -アニメ発信場-』http://anihatsu.com/「【画像】なろう「キマイラアントだとっ!?幻獣級のハイランクモンスターだ!」←これwwwww」http://anihatsu.com/archives/71988690.html(2018.8.8)


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