ぼっちが仮想世界にログインしてみた(尚ログアウトはできない模様) (クズの小説)
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ここが、はじまり

 この日をどれだけ待ち望んだことか。

『ソードアート・オンライン』の正式サービス開始日。この日が楽しみすぎて勉強も何も手につかなかった。

普段からプレイしてるFPSゲームも最近覚えてハマってる麻雀もこれに魅了されてしまった俺には

物足りなく感じてしまう。

 

 

 とっくに準備は終わらせている。トイレも済ませた。食事は...まぁ腹がへってないから問題はないだろう。

あとはソードアート・オンラインをプレイするためのハード、『ナーヴギア』を頭にセットしてとある言葉を口にするだけだ。

 

 

「...あぁもうダメだ我慢できねぇ!」

 

 

 眼鏡を外してベットにダイブしナーヴギアを頭にかぶり目を閉じる。

 

 

「よし!...リンクスタート!」

 

 

 思考が加速し、意識が溶けていく。

普通に生きていれば味わうことのない感覚に身をゆだねていく。

 

 

 

 

 

 

≪Welcome to Sword Art Online!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アバターの設定を完了し青い光に視界が包まれた数秒後...

 

 

 

 

 

 目に飛び込んで来たのは中世の街並みと笑いながら歩く人の群れ。

その瞬間俺はついにソードアート・オンラインの世界に来たのだ、と実感した。

 

 

 

「(...すごい、としか言えない。この感動を表現する言葉が見つからない!ここはまさに第二の現実だ!)」

 

 

 

 おそらく今の俺の顔は例えるなら『ソシャゲで推しの新衣装が出て、引けないだろうなーと思いながらガチャを回したらまさかの単発で来てしまった』ときのうれしさを三倍したような顔だろう。

例えが果てしなく長いな。

 

 

 これだから小学校からの付き合いの女友達に「君って話長いよねー」などと言われるんだ。

これ関係ないな。

 

 

 

「(とりあえず最初は武器屋に行き自分に合う武器を選ぶのがいいとネットで見たし、まずは武器屋だな。)」

 

 

 

そう決断し、歩みを進めようとすると前のほうから

 

 

 

「その迷いない走り、お前さんβテスターだろ!」

 

 

「そ、そうだけど何か用かな?」

 

 

「もしβテスターなら、ちょっとレクチャーを頼みたくてな!」

 

 

「あぁー、うん、いいよ。じゃあまずは武器屋にいこっか」

 

 

 

 という会話が聞こえてきた。

 

 

 

「(そうか、確かにβテスターに教えてもらえればよかったな。けどまぁ、俺にそんなことを頼めるコミュ力はないし、思いついたところで無駄だな。とりあえず武器屋に行くことは間違ってないようだし、さっさと行くか。)」

 

 

 

 ここまでスムーズに誰かに話しかけることを切り捨てれる自分に少し悲しくなったが、本当のことなので仕方がない。

 

 

 

 そして、説明が遅れたが何を隠そうこの俺、ぼっちなのである!

 

 

 

 といっても人としゃべれないわけではないし、一応家族以外にも会話ができる相手はいる。

ならなぜ、俺はぼっちだ、と明かしたのか。別に最近の陽キャに多い「オレ陰キャでぼっちだからよー!話かけてくんなよなー!」みたいなことでは断じてない。

 

 

 

 なら、一人が好きとか、孤独は人を強くする、とかそういうのでもない。

 

 

 

 答えは一つ。メリットが多いからである。

 

 

 

 おそらくこれだけだと「んだよ、お前もどこぞのラノベ主人公みたいな感じじゃねえか!かっこつけてんじゃねえよ、このネット弁慶イキリオタクアバターの見た目長髪のイケメン!」などと言われそうなので、

実際どんなメリット、デメリットがあるのかを説明しようと思う。

 

 

 

 まずメリットだが、第一に人間関係を気にする必要がない、ということがあげられる。

友人や恋人などの関係を維持するためには、金、時間、気遣いなどのものが必要になってくる。

遊びの誘いを一度でも断ればそのまま自分がハブられるリスクが発生するし、陰でいつもいっしょにいる

メンバーが自分の悪口を言っているのを聞いてしまった日には、気まずさで胃に穴が開くこと待ったなしだ。

 

 

 

 第二に、と続けていきたいところだが正直面倒臭くなってきたのでまとめると、

 

 

 

 ぼっちは楽なのである。

 

 

 

 お小遣いは全部自分の趣味に使えるし、休日は好きなだけゲームができるし、たとえ学校で「二人組を作ってー」や、「隣の人と相談してー」などのことがあってもぼっちはコミュ障なわけではないし、その数分を乗り切るぐらいなら致命傷三歩手前ぐらいで済む。

 

 

 

 これだけ言っても「お前はイキリクール気取り一匹ワンちゃんだ!」とのたまう方々は、

学生時代女子に話しかけて後悔しなかったことがあったかを思い出してほしい。

 

 

 

 と、そんなことを考えてる間に武器屋らしき場所に到着したので武器をどれにするか、と考えてると

隣から

 

 

 

「なぁー、キリト。武器って何選べばいいんだ?」

 

 

「そうだなあ、自分のプレイスタイルにあったものがいいかなぁ。アタッカーなら片手直剣や曲刀、短剣とか、タンクなら...両手斧とか?」

 

 

「ほーん、刀とかってのはねぇのか?」

 

 

「あー、現時点ではないけど、たぶん先の層に行けばあるかな。敵側にもカタナつかうやつとか

出てくるし。」

 

 

 

 などの会話が聞こえてきた。...これは盗み聞きなどではないからね、勘違いしないでね。

だが、有益な情報はゲットできた。俺はタンクなんて柄ではない、というかソロでタンクとかネタでしか

ないので、アタッカー一択なのだが。まぁ、片手直剣でいいかな。

 

 

 

 無事に武器を購入後、次はどうしようか、と周りを少し見渡してみると先程の有益な情報提供者の二人が

フィールドに向かっていくのが見えた。

 

 

 

「(もうあの二人、というか黒髪のβテスターについていったほうがいいのではなかろうか。)」

 

 

 

 この行動をもしかしたらストーカーと捕らえて通報する過激派がいるかもしれないが、

これはあくまでウィンウィンの関係なのである。俺は次に行くところが分かってハッピー、

あの人たちは困ってるプレイヤーを助けられてハッピー、お互いに得しかないのだ。

 

 

 

「(それにしてもフィールドに来たはいいけど、リアリティがすごいな。風が気持ちいい。)」

 

 

 

 情報提供者の人たちはどうやらイノシシのようなモンスター相手に戦闘練習しているようだ。

赤髪でひげ面のおっさんはどうやら苦戦しているようだが...、持ってる武器構えてしばらくすると

武器が光り、モンスターにむかって先程とは比べものにならない速度で突撃し、モンスターをポリゴンに

変えた。

 

 

 

「(あれがソードスキルか。...ふむ、なんとなくだが、こうか...)」

 

 

 

 近くにいたモンスター...、どうやらフレンジーボアという名前らしいモンスターにソードスキルを放つ。

 

 

 

「(なるほど。ソードスキルは強力だが使ったあとは硬直があるのか...覚えとこう。)」

 

 

 

 そのあと何体かのフレンジーボアをポリゴンに変えたあと、右手を振ってメニューを開く。

 

 

 

「(むっ、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の支度をはじめなきゃいけないし、ログアウト、ログアウト...

が、ない?)」

 

 

 

 念のためメニューを一通り見てみるがログアウトらしきボタンはどこにもない。

 

 

 

「(...まてまて、そんなことあるか?正式サービス開始日にログアウトができない、だなんてこれからのゲーム運営に関わってくるレベルだぞ。)」

 

 

 

 仕方なく、少し先で俺と同様に困惑している情報提供者の二人に話しかけようと足を動かした瞬間に

 

 

 

—―—―—―鐘の音が、響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決意と関係

 鐘の音が響くと同時に自分の体を青い光が包み、気づけばはじまりの街の広場にいた。

周りをみると自分以外にも、話しかけようとした情報提供者の二人、他にも...おそらく現在ソードアート・オンラインをプレイしている全員がこの広場に集められているのか。

 

 

 

 いったい何が起こるのか、と戦々恐々としているとだんだんとあたりから文句や不満がこぼれ始めているようだ。

これはそろそろまずいぞ、と思ったとき、

 

 

 

—―—―—―—広場の中心に赤いローブが舞い降りた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パニック状態と言っていいだろう。広場には怒号や悲鳴が響きつづけている。

あの赤ローブ...、いや、茅場昌彦が言うには、このソードアート・オンラインにログアウトボタンがないのは本来の仕様であること。

脱出するためにはこの鋼鉄の城(アインクラッド)を百層まで攻略する必要があること。

そして...この世界でHP(ヒットポイント)がゼロになるということはすなわち、現実での死と同義であるということ。

 

 

 

 実感が湧かないとか、信じられないとか言ってる場合じゃないってのは一早く理解した。ふと、近くで動く気配に気づきそちらに視線を向けると情報提供者...赤髪のおっさんと、黒髪の...女の子?さっきまでは高身長のイケメンだったはずだが...、その二人が広場とは反対の方向に

走っていくので、その後をバレないようについていく。

 

 

 

「あいつの言葉は多分、全部本当だと思う。知ってると思うけどMMORPGでは効率のいい狩場や、リソースの奪い合いが起こるの。そして、このはじまりの街の周辺のフィールドはすぐ狩りつくされて、枯渇しちゃうと思う。

だから、今すぐにでも次の村にむかってそこを拠点にしたほうがいい。私は次の村までの安全なルートを知ってるからレベル一のままでもたどり着ける。」

 

 

「でも...でもよ。前に行ったろ。おれは仲間(ダチ)といっしょに徹夜で並んでソフト買ったんだ。そいつらもさっきの広場にいるはずだ。そいつらを置いては...いけねぇ。」

 

 

「...そっ...か。」

 

 

「...んな顔すんじゃねぇよ!おめぇにレクチャーしてもらったんだし、そう簡単には死なねぇよ!だからお前も安心して行ってこい!」

 

 

「クライン...、うん、わかった。私、行くよ。」

 

 

「おう!気ぃつけろよ!」

 

 

 

 そう言って野武士面のおっさんは広場のほうに戻っていった。...このタイミングだな。

 

 

 

「なぁ、あんた。」

 

 

「っ!?」

 

 

 

 声をかけると黒髪はとても驚いた様子でこちらに振り向く。まぁ、確かにいきなり後ろから声をかけられたら驚くわな。俺ならそのまま失神して失禁するかもしれない。...さすがにそれはないか。ないな。ないよな。でも一応これからは背後に気を付けていくとしよう。

 

 

 

「な、なにか用ですか?」

 

 

「...頼みがある。」

 

 

 

 そういうと黒髪は警戒を目に宿しながら

 

 

 

「内容は?」

 

 

 

 と聞いてきたので、俺は意を決して...

 

 

 

 

 

「お願いします!この層だけ俺にご指導ご鞭撻のほどよろしく出来ないでしょうか!!」

 

 

 

—―—―—―—―土下座を決めた

 

 

 

 

 その後に黒髪がこぼした、「え?」という声がやけによく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、いいよ。」

 

 

「本当か。すまない、ありがとう、助かる、略してすまりす。」

 

 

「なんで略したの!?」

 

 

「...女子はなんでもかんでも略すのが最近のブームだと聞いたのだが。」

 

 

「それはデマだってことを教えるのが最初のレクチャーだね。」

 

 

 

 どうにか頼みを聞いてもらえてよかった。さっきの会話を聞いてたときも思ったがこの黒髪の女の子...なんか女子を女の子って呼ぶとそれだけで変態感が増すのは気のせいだろうか...、ではなく、この黒髪はかなりのお人好しのようだ。

なんせ初対面の異性の頼みをさらりと了承してしまうほどだ。これが俺みたいなスーパーウルトラドヘタレ思春期系ぼっちだったからよかったものを。もし俺が女の子大好き万年発情期キモキモネチョネチョおじさんだったらどうするんだ。

この小説は中高生男子の性癖を歪めて犯罪者予備軍を育てたいわけじゃないんだぞ。

 

 

 

「とりあえず、今から次の村に行くから。...そういえば名前聞いてなかったね。私はキリト、君は?」

 

 

「...あぁ、名前はケイ。趣味はゲーム、読書、アイドルプロデュース。特技は...家事全般。」

 

 

「...名前だけでよかったよ?」

 

 

「すまない。名前を聞かれるとつい趣味と特技もいっしょに言ってしまうんだ。」

 

 

「一体どうして!?」

 

 

「...中学校で自己紹介の時に名前しか言わなかったら周りから「空気読めよ...」と言われたから、反省してイメトレを重ねた結果だな。」

 

 

「そ、そっか...。って、そんなことより早く行くよ!ちゃんと付いてきてね!」

 

 

「...そんなこと...、俺の過去がそんなこと...。」

 

 

「ごめんね!早くいくよ!」

 

 

「すぐ謝れるのは美徳だな。急ぐぞ。」

 

 

「(オッケーしたの間違いだったかな...)」

 

 

 

 そんなやりとりの後、俺と情報ていk...キリトは次の村に向かうため、フィールドに駆け出した。

前を走るキリトがオオカミのようなモンスターを鮮やかに仕留める...いやすごいな!武器は俺と同じみたいだし純粋なプレイヤースキルか。

もしやこいつ主人公か?(名推理)

 

 

 

「ねぇ、ケイ。私は生きるよ。生き抜いてみせる。絶対に。」

 

 

 

 キリトが走りながら喋る。...返答は必要なのだろうか。でもこれで返事をせずにいた場合に無視されたとか思われてしまったらこれからの会話に支障をきたしそうなので、足を動かしながら頭も回す。

 

 

 

「...俺も生きるぞ。そのために土下座までしたんだ。」

 

 

 

 そう、なぜ俺が見知らぬ女子に土下座までして同行を頼み込んだのか、と言えば、理由はこれだ。

俺のような初心者(ニュービー)がこのデスゲームで生き残るためにはこの世界のいろはを教えてくれる師匠が必要不可欠だと考えたからである。

自分の生死がかかってるのならば、恥やプライドを捨てるぐらいのことは余裕でやって見せよう。

 

 

 

「そっか...。ふふ、そうだね。」

 

 

 

 なにワロとんねん。「ふふ」なんて笑い方して許されるのは美少女だけ...、いやこの人黒髪ロングの美少女だったわ。許す。

 

 

 

「これから、頑張って生きようね。」

 

 

 

 ...なんだろう。なんか変なフラグが立ってしまった気がする。死亡フラグとかじゃなく、なんというか、こう...俺のSAN値をけずるたぐいのフラグ。

いや、気のせいだろう。キリトに頼んだのはこの層だけでのレクチャーだ。次の層への道が開ければその瞬間霧散するような関係なのだから、気にする必要などないのだ(フラグ強化)。

 

 

 

 けど、そう言ったキリトの声が少し楽しそうに聞こえたのは、気のせいではない...と思う。

 

 

 



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明日と睡眠

 

 

 

 キリトの後ろを必死で走りつづけ、ようやく次の村...ホルンカについた。途中途中で戦闘も起きたが序盤のフィールドということと、βテスターであり、なおかつ主人公属性持ちのキリトがいるということもあり余裕で突破できた。

 

 

 

「ふぅ...、ようやく着いたか。このあとはどうするんだ?」

 

 

「えーっと、このあとはアニールブレードっていう一層だと最強の片手剣を取りに行くんだけど...今日は宿取って、明日からにしよっか。」

 

 

「...すまん。まさかリアルでの体力がこの世界に反映されるとは思わなくてな。」

 

 

「そんなことはないからね?身体能力とかは全部ステータスで決まるからね?」

 

 

「さすがにそのくらいは知ってるぞ?」

 

 

「じゃあなんで言ったの!?」

 

 

「それより、宿を取るんだろう。どこがいいんだ?」

 

 

「はぁ...、付いてきて。」

 

 

 

 なぜかキリトは疲れている様子。村に着いたときは普通だったのだが、もしかしたら強がっていたのかもしれないな。わかるわかる、俺も人前で転んだときとかめっちゃ痛いの我慢して早急にその場を離脱するし。

一番ひどかったのはあれだな、学校の体育の授業中にリレーをやっていたんだが、他チームと接戦の状態でバトンが回ってきて「よっしゃ、全員抜かしてやるぜ」とか内心思ってたら、走り出す最初の一歩目で転んでしまった時だな。

何が一番辛かったかって、全身を突き刺す視線だ。先生やクラスの優しい女子とかは、心配そうに俺の血が出てる膝を見てるのだが、運動ができるやつ、クラスの陽キャは蔑みの視線に加えて、こちらにギリギリ聞こえる声量で「あいつ使えねー」だの、「死ねやクソ陰キャ」だの

これでもか!というほど俺の心にダメージを与えていくのだ。

 

 

 

 いかん、思い出したら目からナイアガラの滝が...。

 

 

 

「なんでいきなり泣いてるの!?も、もしかしてそんなに疲れてた?いったんどっかで休む?」

 

 

「いや...、ちょっと昔を思い出していただけだ。気にするな。」

 

 

「(っ!ケイもこんなことになってやっぱり辛いんだ。それなら...)」

 

 

 

 なんかすっごい優しい目で見られてるんだが、これなんかキリト変な方向に勘違いしてない?

あれだよ?昔思い出すって言っても実際に思い出していたのは黒歴史だからね?涙を流したのも悲しいからじゃなくて、あの頃の惨めな気持ちを思い出しただけだからね?

 

 

 

「着いたよ。ここを拠点にしようと思ってるんだけど...」

 

 

「...? そうか、入らないのか?」

 

 

「あー、それでね?ここの宿って一部屋100コルなんだけど、少し大きめの、二人ぐらいならいっしょに泊まれる部屋だと170コルなの。」

 

 

「...それがどうしたんだ?」

 

 

「...その170コルの部屋に泊まらない?」

 

 

「...誰が?」

 

 

「わたしと、ケイが。」

 

 

 ふむ...。顔を赤面させながら話すキリトがかわいいということしか理解できなかったが、つまりは...

 

 

 

「...同棲?」

 

 

「ちち、違うよ!?わたしはただやっぱりお金は節約できるとこは節約したほうがいいな、と思っただけで!決して、さっきふと見せたケイのさびしそうな顔が心に来たとか、ちょっとかわいかったな、とかそんなことは全然思ってないからね!」

 

 

 

 ...なんか、あんまり掘り下げたらこちらにもダメージが来そうなことを言ってる気がする。けどまぁ、後半はともかく前半には一理ある。たった30コルとはいえ、節約できるならしたほうがいいのは確かにそうだ。

だがしかし...

 

 

 

「...なぁキリト。このゲームはそんなにお金に気をつかわなきゃいけないのか?」

 

 

「...うん。」

 

 

「目がスイミーだぞ。」

 

 

「目が泳いでるじゃダメだったの?」

 

 

「なるほど。キリトは目が泳いでいたのか...。目が泳ぐ主な心理状態のひとつがうそをついてるときなんだが...、なぁ、キリト?」

 

 

「...だって!さっきのケイの顔が忘れられないんだもん!」

 

 

「言っとくがさっきは自分の黒歴史を思い出してただけだからな?断じて、さびしそうな顔とかしてないからな。」

 

 

「強がらなくてもいいんだよ!ケイは黙ってわたしに付いてくればいいの!」

 

 

「自分の立場を利用してくるなよ...。第一、若い男女が同じ部屋で泊まるとか、ダメだろ。一般的に考えて。」

 

 

「なにその大和撫子視点...。女子なの?」

 

 

「女子はお前だ。...ともかく、部屋は別でいいだろ。さっきのお前の反応で金に困ることはそうそうないってのはわかったしな。」

 

 

「むぅ...手ごわい。」

 

 

「...とりあえず、今日はさっさと休まないか?いろいろ疲れたんだが。」

 

 

「そうだね。じゃあ明日はこの宿の一階に集合でいい?揃ったら出発みたいな感じ。」

 

 

「それで大丈夫だ。じゃ、解散だな。おやすみ。」

 

 

 

 実は、この村についた時点でもう夕方ぐらいだったのだ。それなのに、宿の前であんなくだらない言い争いをしていたおかげで外はすっかり暗くなっている。

部屋に入り、ベットに寝転がると速攻で眠気がやってきた。

 

 

 

「(今日はいろいろありすぎたからな。アイテムの整理とかやらなきゃ、なんだが...、ダメだ、瞼が重い...。)」

 

 

 

 次目を開けたら全部夢でした、みたいなことになってたらいいなー、なんてことを思いながら俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【キリトside】

 

 

 

 ケイは速攻で部屋に入って行ってしまった。あとちょっとぐらい話してくれても...とは思ったが、わたしも疲労が限界なのに変わりはないので、一通りアイテムの整理を行ってからベットに入る。

 

 

 

「(...なんか、わたし、変だ。ケイに会ってから。)」

 

 

「(普段なら、男の人にいっしょの部屋に泊まろう、なんて絶対に言わないのに。いっしょの部屋に泊まろう、なんて...っ!)」

 

 

 

 今思えばなんてことを口走っていたのだろう。顔が熱い。ケイは断ってくれたが、もし断られなかったら、今頃は、同じ部屋で...。

 

 

 

「(ケ、ケイが断ってくれてよかった!やっぱり勢いでしゃべるのはよくないね、うん、ほんとに...。)」

 

 

 

 でもなんで、あんなことを言ってしまったのだろう。あんな言葉、もし誰かに聞かれでもしたら、絶対に勘違いされちゃうのに。まるで、わたしが、ケイのこと...。

 

 

 

「(い、いやいや!それはないよ!だって、まだ会って一日もたってないのに...。それに、好きになる要素がないもん!そうだよ、別にケイってかっこよくはないし、あっ、顔が悪いとかの意味じゃなくて、むしろ顔はかっこいい...じゃなくて、整ってるとは思うけど。言葉のチョイスは変だし、まず初対面が土下座だし。ないない、わたしが、そんな、ケイのことを...なんて。)」

 

 

「...でも、あの時の顔、かわいかったな。」

 

 

 

 ...はっ!わたしはいまなにを...。

 

 

 

「...だめだめ、早く寝よ。」

 

 

 

 これ以上起きてると明日、ケイの顔が見れない気がして、わたしは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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花付きと旗持ち

 

 

 

 仮想世界での睡眠とはどういう原理なのだろうか。そんな考えても意味がないことを考えてた。目を開いて入ってきた情報はいつも通りの自分の部屋...、ではなく、簡素な部屋。パソコンもスマホもない代わりに右手を振ればメニューが出てくる世界。

昨日は考える暇も気力もなかったが、これから、本当にこの世界で生きていくことなどできるのだろうか。キリトにはあぁ言ったが、正直自信なんてもんは全くない。死にたくないってのは本当だけど、それならはじまりの街にずっと引きこもっておけばよかったのだ。

それなのに、なぜ俺はこんなとこにきてしまったのだろう。キリトは主人公だ。そんな奴に迷惑をかけながらここまで付いてきてしまったのはいったい何故だ?

 

 

 

「(...自問自答して自分の納得のいく答えが出たことなんてないし、考えるだけ無駄か。後悔も反省も今することじゃない。今すべきなのは...)」

 

 

「ねぇ、今何時だと思ってるの?ケイ?ねぇ?」

 

 

「...お昼の12時です。」

 

 

 

 目の前の修羅を鎮めることだ...。ここでゲームオーバーになることはないと信じたい。

...いやまて、そうだ、俺は知っているではないか!怒れる女子の静め方を。思い出すんだ。小学校のころ、後ろにいた女子に気づかずぶつかってしまったときに近くにいた別の女子が「なんでぶつかってんのよ!可哀想じゃん!」と言ってきたときを。

確かにぶつかった俺が悪いよ?でもね、ちゃんとぶつかったあとすぐに謝ったんだよ。ぶつかっちゃった女子も小声でだけど「...大丈夫。」って言ってたんだよ。それで平和的に終わったはずなのになんで状況を悪化させてくんだよ。

絶対俺のこと責めたかっただけだろあの女子。しかもその後ずっと「謝りなさいよ!」って言ってくるのがイラつきを加速させるんだよ。もう謝ったんやが?なんならお前がそう言ってくるからその後二、三回また謝ったんやが?

それなのに耳が聞こえないのか、同じことを永遠と繰り返すし。お前が庇った気になってる女子の顔見てみろよ。可哀想だろうが。

 

 

 

「——―聞いてる?ケイ。」

 

 

「...最近のマイブームは飲み物飲むとき氷を入れたコップに入れることだ。」

 

 

「そんな話はしてないよ!?確かにわたしもサイダー飲むときはそうするけどね!」

 

 

「そんなことより今日はアニールブレードとやらをゲットしに行くんだろう。早く行かないか?」

 

 

「一体誰のせいでこうなってると思ってるのかな...!?」

 

 

「ごめんなさい。」

 

 

 

 キリトの顔がそろそろ般若と化しそうだったので真面目に謝る。美少女でも怒ったら怖いんやな...。

 

 

 

「もう...。今からアニールブレードを手に入れるためのクエスト行くから、ちゃんと聞いててよ?」

 

 

「了解。...どんな内容のクエストなんだ?」

 

 

 

 今まで散々ふざけていたが、この世界...ソードアート・オンラインはデスゲームと化してしまったのだ。慢心などもってのほか。死にたくないならレベル上げやいい装備を手に入れるより先に情報を得なければ。

 

 

 

「(いきなり真面目な顔しないでよ...もう。)えーっと...設定としては村人の娘が病気にかかっちゃてて、それを治すためにリトルペネントってモンスターがドロップする『リトルペネントの胚珠』を取ってくる...ていう感じかな。」

 

 

「ふむ...、それで、そのリトルペネントの胚珠とやらはどんくらいのドロップ率なんだ?ポコポコ落ちるわけじゃないんだろう?」

 

 

「(ポコポコって言った、かわいい。)うん、それが...胚珠をドロップする花付きのリトルペネントがいるんだけど、それのポップ率がかなり低いんだよね...。1%ぐらい。」

 

 

「...けっこうな長期戦になりそうだな...。花付き、と言ったが他にも種類があるのか?」

 

 

「うん。ほかには実付きのリトルペネントがいるんだけど、そいつの実を割っちゃうと周りのリトルペネントがたくさん集まってくるから、絶対に割っちゃだめだからね。もし割っちゃたらすぐに撤退ね。」

 

 

「それは怖いな...。やっぱりクエスト行くの明日からにしないか?」

 

 

「だめだよ。明日もそう言って逃げるつもりでしょ。」

 

 

「...もしかしてソードアート・オンラインには読心術なんてスキルもあるのか?」

 

 

「そんなスキルなくてもさすがにそのくらいわかるよ。...それに、安心してほしいんだけど、実付きのリトルペネントが現れること自体確立低いし、出たとしてもわざと割りでもしないかぎりそうそう割れないよ。」

 

 

「(...もしかして今フラグ立った?)」

 

 

 

 俺はキリトのことを主人公と評したが、どうやらフラグ建築能力も主人公級のようだ。俺も武器のメンテやアイテムの購入・整理は済ませてあるが、それで死ぬ可能性がゼロになるわけでもない。

要は...

 

 

 

「(運次第か...、帰りたい。)」

 

 

 

 そんな儚い願いは通じるはずもなく、前を歩くキリトに黙ってついていく俺であった(まる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ちょっと聞きたいんだけど...、ケイってこういうMMORPGとかって普段からやってたりするの?」

 

 

「いや、基本的にはやらないな。」

 

 

「そうなの?...じゃあ、スイッチとか、そういう用語とかは知らない?」

 

 

「そこらへんはこのゲームを買うにあたり予習したから大丈夫だ。」

 

 

「あ、そうなんだ。けっこう真面目なんだね、意外。」

 

 

「意外とはなんだ、それにそういった用語を知らずにこういうタイプのゲームをやるやつなんているのか?」

 

 

「えぇー?まぁ、いるにはいるんじゃない?よっぽどの初心者さんとかでさ。」

 

 

「ははっ、いるとしたらそいつはよっぽどの世間知らずだな。花付きのリトルペネントよりもレアじゃないか?」

 

 

「それは言いすぎじゃない?まぁ、確かに珍しいとは思うけどね。ふふふっ。」

 

 

「「あははははっ」」

 

 

 

 主人公の周りにいるやつも大抵フラグたてたりするよね、って話。






 キリトちゃんの幼馴染になっていっしょに登校したいだけの人生だった...。


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希望と絶望

 

 

 キリトと談笑しながらも歩みを進め、クエストを受注し、目的の森へ向かう。

 

 

 

「ふう...。」

 

 

「...どうした?」

 

 

「え?なにが?」

 

 

「緊張してるような感じがしたんだ。違うならすまん。」

 

 

「あー、そうかな。うん、多分そうなんだと思う。」

 

 

「...装備のメンテは万全だし、アイテムの補充も完璧。体調だって悪いわけじゃないんだから、しっかり周りをみて行動すれば死ぬ可能性はかなり低くなる。あまり緊張しすぎると、とんでもないミスを犯すぞ。」

 

 

「...ありがと。わかってるんだけどね。やっぱりちょっとだけ怖いんだ。」

 

 

「まぁ、死ぬかもっていう恐怖に勝てるやつなんていないだろ。俺も怖い、できることならフレンジーボアをずっと倒し続けていたい。」

 

 

「本当?全然そうは見えないよ?」

 

 

「お前が緊張しすぎなだけだろ。死ぬかも、なんて思うより生きて帰るんだ、って思うほうが楽だぞ。」

 

 

「...ごめん。わたし、ケイみたいにはなれないよ。そんな強くなんて、なれない。」

 

 

「...緊張で目まで曇り始めたのか?俺よりキリトのほうが断然強いだろ。」

 

 

「...ケイは、こういったゲームは初心者で、初めて知ることばっかなはずなのに、そんなことを言えちゃう。わたしはβテストに参加して、いろんな知識を持ってるはずなのに、こんなに怖がってる。こんなわたしが強いはずないよ。」

 

 

「...勘違いしてるみたいだから言っとくが、俺は自分ひとりだったら今もはじまりの街で引きこもってたよ。キリトを見つけられて、同行を許可してくれてなかったらって思うとゾッとする。」

 

 

「...?」

 

 

「...要は、俺がこうやって強がりを続けられてるのも、全部お前のおかげなんだ。そんなお前がこうして恐怖に震えているのをみたら、なおさら、俺は冷静でいなくちゃって思う。」

 

 

「ケイ...。」

 

 

「...こういった言葉を言うのはこれから先、絶対ないだろうが.......、お互い一人じゃないんだ。なにかトラブルがあったとしても俺かお前のどっちかがきっとなんとかするんだから、適度に全力で行こうぜ。」

 

 

「あぁ、そっか、ひとりじゃ、ないんだ...。ふふっ、きっとなんとかする、なんて、無責任だなぁ。しかも、俺が、じゃなくて俺かお前が、って微妙にかっこついてないし。」

 

 

「俺はできないことは言わないんだよ...、で、どうだ、ちょっとは緊張もほぐれたか?」

 

 

「うん、もう大丈夫。行こっか。」

 

 

「...ほぐれすぎじゃないか?いや、いいんだが。」

 

 

「ねぇ、ケイ?」

 

 

「ん?なんだよ。」

 

 

「頑張って、生きようね。」

 

 

「...当たり前だろ。」

 

 

 

 はぁ、緊張した。女子に励ましの言葉をかける日が来るなんて思ってもみなかったし。ちゃんと伝わったか不安だが、キリトの様子を見る限り、恐らく大丈夫だと思う。

 

 

 それにしても、まさかキリトが不安を抱えていたとは。こう言っちゃなんだが、割と本気でキリトは将来英雄確定ルートの主人公だと思ってたのでかなり意外だった。

不安も緊張も主人公補正で力に変えていくタイプの主人公。なぜか、そんな風に思い込んでしまっていた。不安も緊張も何もかもを自分ひとりで解決できる人間なんて物語の中にしかいない。

 

 

 それは当然のことで、俺はきっと普通よりもそれを理解していたはずなのに。

 

 

 ...後悔や反省は後にしろ。これから戦闘が始まるのに余計なことを考えてる暇はない。

 

 

 

「...ケイ、こっち来て。」

 

 

「なんだ?ってあれは...。」

 

 

 

 キリトに呼ばれてそちらに視線を向ければ、そこにいたのは...口から植物の根が生えたような気持ち悪いモンスター。

 

 

 

「もしかしなくても、あれがリトルペネントか。」

 

 

「そう。それで頭のてっぺんをみて?」

 

 

 

 言われるがまま頭と思わしき場所をみると、葉っぱがぴょこんと生えていた。

 

 

「あれは普通のリトルペネント、わたしたちの目的はあそこに花が生えてるやつ、そして一番気をつけなきゃいけないのが...。」

 

 

「実付き...、あたまに実がついてるやつだな?」

 

 

「...それで、言い忘れてたんだけど、花付きのポップ率を上げる方法があって、それがあの普通のリトルペネントを倒すことなの。だから...。」

 

 

「それ、先に言ってくれよな...。」

 

 

「ご、ごめんね?さっきまで別のこと考えてたから...、その...。」

 

 

「あぁ、わかってる。責めたわけじゃない。それより、さっさとやろうぜ。このままだと日が暮れるぞ。」

 

 

「そうだね、じゃあお互いから離れないようにしてね。...いくよ!」

 

 

 

 そう言うとキリトは目の前にいたリトルペネントに突進し斬撃を食らわせる。俺もキリトの邪魔にならない程度の距離にいるリトルペネントを切りつける。

リトルペネントの触手による攻撃を横に体を傾けよけてから前進し、がら空きになってる胴体に剣を振るう。そうするとリトルペネントはその気色悪い図体をポリゴンに変えた。

 

 

 

「(これで倒せるなら、囲まれでもしないかぎり大丈夫そうだな。)」

 

 

 

 剣を握り直して、次のリトルペネントに突撃する。そうして順調に五体目のリトルペネントを倒していると、少し先に森の中では見慣れない赤色が視界に入った気がしてそっちの方向に近づいてみると、

そこには頭に赤い花を咲かしたリトルペネントがいた。

 

 

 

「(あれが花付きか...。さっそく倒したいところではあるが、花付きのまわりにもリトルペネントがいるな。...これはキリトを呼んできて一緒に戦ってもらったほうがいいな。)」

 

 

 

 そう思いキリトが戦っていた方向に駆け出す。

 

 

 

「(キリトの方も花付きを見つけていたらこれで終わりでいいんだが...。ポップ率は低いみたいなことを言ってた気がするし、こんなに早く見つけれたのは運がよかったな。)」

 

 

 

 キリトと俺の距離は剣を振るう音が聞こえるぐらいの距離を保っていたのでそう時間もかからずキリトを視界に入れることができた。

 

 

 

「おい、キリト...」

 

 

 

 声をかけようとした瞬間、耳に入ってきたのは、何かが破裂するような音と、キリトの驚いたような声と、聞き覚えのない男の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪キリトside≫

 

 

 

 森に入り、リトルペネントを狩り続ける。さっきまであれほど感じていた死の恐怖は今はどこにもない。

 

 

 その代わりにわたしの心にあるのは、嬉しさと、安心。

さっきまで持っていた感情とは正反対のもの。まさか、誰かの言葉でこんなにも心が満たされるとは思わなかった。初めて感じる高揚感の名前はまだわからないけど、きっとこれから先もケイといっしょにいればわかるのだろうと、確信めいた予感がある。

 

 

 

「...これで、12体目!」

 

 

 

 周りにいたリトルペネントを一通り狩りつくして、一息つく。

 

 

 

「(連続で戦ったのに、まだまだ動けそう...!)」

 

 

 

 普通、負けたら死んでしまう戦いを12回も連続して行ったのだから、精神、身体共にかなりの疲労を感じててもおかしくないはずなのに。疲れるどころか心も体もわたしの背中を押すような、そんな感覚。

 

 

 HP(ヒットポイント)を確認すると、9割以上残っている。

 

 

 

「(よし!はやく次のリトルペネントを探そう)」

 

 

 

 そう思い、なんとなしに左上にある自分の名前の下の『Kei』の文字を見る。その文字の隣のHPがしっかり八割以上を保ってるのを確認してから、思考を切り替え、足を踏み出そうとしたとき...。

 

 

 

「あの、すいません。少しいいですか?」

 

 

 

 いきなり後ろから声をかけられ、肩がビクリとはねる。

 

 

 

「...はい、どうかしましたか?」

 

 

「いきなりすみません。『森の秘薬』クエをやってるんですよね?できたら僕もいっしょにやらせてもらってもいいですか?」

 

 

「え、えーっと...。」

 

 

 

 どうしよう。ケイも近くにいると思うし、伝えておくべきかな。でも、人数が増えれば効率も良くなるし、別にいいかな。なるべく早めに終わらせたいし、このデスゲームじゃ協力してかないとだもんね。

 

 

 

「いいですよ。じゃあ、実付きにだけ気をつけて...、」

 

 

「あ、それでちょっと伝えたいことがありまして...、さっきあっちで花付きのやつがいるのを見たんですよ。」

 

 

「ほんとですか!?」

 

 

「はい。でも、取り巻きもいて、それを倒すのを手伝って欲しいんです。もちろん、ドロップした胚珠などは差し上げます。」

 

 

「わかりました!それじゃあ、はやく行きましょう!...っとそういえば名前知りませんでした。わたしはキリトです。あなたは?」

 

 

「僕は『コぺル』です。よろしくお願いします。キリトさん。」

 

 

 

 そのままコぺルについていくとさっきまでいた場所から数分程度の近場に花付きのリトルペネントがいるのが見えた。しかも二体!だけど、確かに取り巻きもいて、その中には実付きのリトルペネントもいる。

実付きは危険だけど、こんなチャンスめったにない。二人がかりなら実を割らずに全滅させることもできるだろう。

 

 

 

「キリトさん、僕が実付きを倒すので、花付きをお願いできますか。」

 

 

「わかりました。」

 

 

 

 その場から一気に駆け出し、花付きに攻撃を加える。花付き以外にも普通のリトルペネントがわたしに攻撃してくるけど、飛んできた触手を全部切り落としてまず花付きを仕留める。

その後、近くに残った普通のリトルペネントも倒す。

 

 

 

「(コペルの方は大丈夫かな?)」

 

 

 

 ちらりとコペルの方を見ると、実付きのリトルペネントと対峙しているコペル。コペルは目の前から放たれた触手をギリギリでかわすと、剣を振りかぶり...

 

 

 

 実にめがけて、振り下ろした。

 

 

 

「...え?」

 

 

「悪いね、キリトさん。」

 

 

 

 そう言い残しコペルは少し離れた木陰に身を隠した。どうやら隠蔽スキルをつかったらしい。

 

 

 目の前では頭部の実から気体を勢いよく噴出させてるリトルペネント。索敵スキルを使用せずともわかる数のリトルペネントが押し寄せてきている。隠蔽スキルを使用していたコペルだけど、リトルペネントに隠蔽スキルは通用しない。

コペルが消えた木陰から断末魔と、その数秒後出てきたポリゴンをみて、わたしはようやく、死の恐怖(目の前の現実)を思い出した。

 

 

 

 



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