少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか (さすらいの旅人)
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少年エルフ、オラリオへ舞い戻る

活動報告で書いた通り、第三弾の作品を投稿しました。

あらすじに書いてある通り、オリ主のクラスはエトワールです。

今回は以前書いた作品を改編した内容ですが、どうぞ!!


「ただいま戻りました~」

 

「おお、リヴァン。今日も無事に戻ってきたか」

 

「ミアハ様は心配しすぎ……それで、収穫は?」

 

 ホームへ戻ると、主神ミアハ様と団長のナァーザさんが俺を快く出迎えた。ミアハ様は笑みを見せながら俺の帰宅を喜ぶも、ナァーザさんはすぐに報酬を渡すよう催促してくる。

 

「そんなに焦らなくても、今渡しますよ」

 

 対照的な反応だと思いながらも、俺は背負ってるバックパックをドサッと下ろしてナァーザに渡した。その中にはお金――ヴァリスやドロップアイテムが入ってるのを知ってるナァーザさんは、すぐに確認しようとする。

 

 中身を見て満足したのか、ナァーザさんが笑みを浮かべながら言ってくる。

 

「大収穫。これだけあればポーションも多めに作れる。じゃあ、早速……」

 

「すまないな、リヴァン。お前一人にダンジョン探索を押し付けてしまって」

 

 ナァーザさんが奥の部屋へ行った後、申し訳なさそうに言うミアハ様に、俺は何でもないように言い返す。

 

「気にしないで下さい。俺に出来るのはこれくらいなんで」

 

「単身でダンジョンへ行く度に、数万ヴァリス以上稼いでるそなたが言う台詞ではないぞ」

 

「本当でしたら、中層へ行けばもっと稼げるんですが……」

 

「リヴァンは一月前に冒険者になったばかりであろう。いくらお前が並みの冒険者より腕が立つとは言っても、流石にそれはまだ許可は出来ぬ」

 

「残念です」

 

 窘めるミアハ様からのお言葉に、俺は諦めるように嘆息する。

 

「それにしても、アークスと言うのは、こうも毎回荒稼ぎする一団であるのか? お前のような年端も行かぬ子供でもアークスになれるとは、恐ろしいものだな」

 

「まさか。アークスの目的はあくまで惑星の調査であり、モンスターの討伐やクエストはある意味副業みたいなものです」

 

「……その副業のお陰で私達は助かっているから、何とも言えんな」

 

 複雑そうに言うミアハ様に俺は思わず苦笑する。

 

 もう気付いてるだろうが、俺――リヴァンはオラクルに所属するアークスの一員だ。因みに種族はニューマン……じゃなくてエルフだ。

 

 だがそれとは別に、アークスになる前までの俺は、嘗てウィーシェの森に暮らしていたエルフだった。どう言う理由かは今も分からないが、俺はひょんな事から異世界――オラクル船団へと飛ばされていた。

 

 突然の事に、右も左も分からなかった俺を、とあるニューマンが俺を保護してくれた。その人曰く『君のような存在を、ルーサーに知られたら面倒な事になる』らしい。その結果、俺は孤児のニューマンとなって、保護してくれたニューマンが後見人となって引き取られる事になった。俺の外見がニューマンと一緒だから、その方が好都合だと言われたので。

 

 しかし、ニューマンとエルフの外見が一緒でも、風習や考え方が全く違っていた。だから後見人のニューマンと衝突や反発などしたが、オラクル船団で教育された事で認識を改め、エルフについての風習は全く気にしないでいる。今思えば『エルフ』と言う種族は自尊心が高過ぎる故に、他種族との交流を積極的に行わなかったのがよく分かる。

 

 と、少し脱線しかけたが、後見人のお陰でオラクル船団に馴染んだ俺が次に行った事は、アークスとしての戦闘教育だった。いくら異世界からやってきたエルフでも、自分の身を守る術は持って欲しいとの理由で。言われるがままに様々な学習と戦闘教育を受けた結果、俺は晴れてアークスとなった。そして多くの実戦経験を得て、今は後継クラス――エトワールとなっている。

 

 そんな中、アークスのクエストを終えてオラクル船団へ帰還中に異常事態が発生し、未知の惑星……ではなく、自分が生まれ育った世界へ戻って来た。けれどそこは嘗て自分が生まれ育ったウィーシェの森ではなく、幼少時から聞かされたオラリオと言う迷宮都市だった。しかも探索船がなく、着の身着のままで。

 

 生まれ育った森じゃないとはいえ、元の世界に戻れた事に俺は戸惑いつつも情報収集を行った。しかし情報収集は出来ても、この都市のお金を持ってない為、俺は路頭に迷う事となった。そんな中、目の前にいるミアハ様が身も知らぬ私を拾ってくれたから、恩返しをしようと今は冒険者活動している。

 

 けれど、最初は快く冒険者になろうとは思わなかった。どうやら冒険者になる為には神の恩恵(ファルナ)を得なければいけないようで、それと引き換えに神の眷属にならなければいけないようだ。それは即ち、俺はミアハ様の眷族にならなければいけないのだと。

 

 この世界の住人とは言え、現在アークスに所属してる俺が眷族になる訳にはいかないが、今の状況ではどうにもならないので、敢えてミアハ様の眷族となった。

 

 因みに俺は『Lv.1』だが、それでもアークスの力が使える。その理由としてはスキルと言うものがあるお陰らしい。ミアハ様曰く、他の神々に知られたら絶対面倒な事になる超が付くほどのレアスキルらしい。なのでレアスキルの他に、俺が異世界へ行った事は決して誰にも口外してはならないとキツく言われた。俺としても口外する気は微塵もないので、当然了解済みだ。

 

 ミアハ様の眷族となってから、俺はダンジョン探索やモンスター討伐、更には採取などのクエストをやっている。俺がお金を稼いでいる事もあって、今までまともに借金を返済する事が出来てなかった破産寸前の【ミアハ・ファミリア】は救われる形となったそうだ。

 

 聞いた話によると、【ミアハ・ファミリア】は数年前までは中堅クラスだったみたいで、ある事件によって莫大な借金を負って没落したらしい。その理由は……ここで言うべき内容じゃないから、今は割愛させてもらう。

 

 まぁとにかく、俺がミアハ様の【ファミリア】に所属する事によって、借金は少しずつ返済出来てるようだ。事情はどうあれ、俺を拾ってくれたミアハ様に恩返し出来るなら、これ位はお安い御用だからな。

 

「ああ、そう言えば今日も彼女が来てたぞ。今日も無茶をしていないか、とな」

 

「またですか」

 

 思い出したように言うミアハ様の台詞に俺はゲンナリと嘆息する。心配そうな顔をするあの人の顔を思い出しながら。

 

 誰の事だと思うだろうが、その人は俺の従姉だ。森に住んでいた頃は俺を実の弟みたいに接していたが、俺が行方不明になった事で大泣きしたそうだ。

 

 そして年月が経ち、俺がオラリオで冒険者として活動をしようとダンジョンに入ろうとする直前、【ロキ・ファミリア】の冒険者――レフィーヤ・ウィリディスこと、レフィ姉さんと再会した。俺の事を憶えていたのか、レフィ姉さんは人目も憚らず号泣しながら、そのまま俺に抱き付いてきた。俺も俺でレフィ姉さんに会えたのは内心嬉しかったよ。

 

 感動の再会と言う事で、ダンジョン探索は急遽取り止めとなり、店の個室でレフィ姉さんに俺が森で突然行方不明になった後の事を説明した。流石に異世界に行ってアークスになったとは言えないので、当たり障りのない説明をした。森を出た際に事故が起きて、見知らぬ場所で彷徨ってた所を、とあるエルフに保護してもらっていたと。

 

 本当だったら、嘘偽りなく話したかった。だけどレフィ姉さんは【ロキ・ファミリア】と言う都市最大派閥のファミリアに所属しているから、ミアハ様の約束もあって誤魔化す事にした。聞いた話によると、レフィ姉さんが所属してる主神は凄く厄介な神物だそうだ。万が一にレフィ姉さんが喋ってしまったら、その主神は根掘り葉掘り聞き出そうとするだろうとも言っていた。

 

 流石にそれは勘弁して欲しいと思った俺は、申し訳なく思いつつも隠す事にした。いつか話せる日が訪れるといいなと思いながら。

 

 その後、俺が新米冒険者である事を知ったレフィ姉さんは、自分と一緒に行こうと誘ってきた。『ここは冒険者の先輩として、私が見てあげます』と言う理由で。

 

 俺としてもそれは好都合だったので了承し、ここで自分の実力を見せるいい機会だと思って披露したんだが――

 

『ちょ、ちょっと待って、リヴァン! ぼ、冒険者になったばかりなのに、どうして上層のモンスターを簡単に倒せてるの!? というか、その武器どこから出したの!? 詳しく説明しなさい!』

 

 雑魚モンスターを瞬殺した不味かったのか、レフィ姉さんが信じられないと言わんばかりに詰問された。取り敢えずは、後見人のエルフに鍛えて貰ったからと言ってやり過ごしたが。

 

 それからと言うものの、レフィ姉さんは何度も何度も俺と一緒にダンジョンへ行く事となった。身内でも他所の【ファミリア】の俺と一緒にいて問題無いのかと訊いてみたが、当の本人が『自分の事は気にしないでいい』だそうだ。

 

 しかし、【ロキ・ファミリア】の遠征が近いのか、ここ最近は俺一人で探索している。それでもレフィ姉さんから『いくらモンスターが弱くても、決して中層には行かないように』と言うお言葉を貰っている。ミアハ様と同じ事を言ってたので思わず苦笑した。

 

「そう嫌な顔をするでない。お前を心配して来たのだからな」

 

「分かってはいますが……」

 

 あの人はまだ昔の事を引き摺ってるのか、姉として弟を見守る義務みたいな感じが強い。

 

 まぁ、今まで行方不明だった従弟の俺と急な再会をしたから、それは当然と割り切るしかないか。

 

 さてと、少し早いけど夕飯の支度をするか。本拠地(ホーム)に戻って来る際に少し高めの弁当を買ってきたから、今日はちょっとした贅沢な夕飯だ。

 

「そうだリヴァン、忘れるところであった」

 

 リビングへ行って夕飯の支度をしてる最中、一緒に手伝ってるミアハ様が思い出したように言ってきた。

 

「何をですか?」

 

「最近、私の神友ヘスティアが初めて眷族(こども)――ベルと言うヒューマンの少年を迎えたそうだ。歳はお前と同じ十四だ」

 

「へぇ」

 

 ミアハ様と同じ神であるヘスティア様の事は知っていた。その女神は現在ジャガ丸くん販売のバイトをしてるとか。色々と突っ込みどころはあるが、敢えて触れないでおく。

 

 やっと出来た眷族が俺と同じ少年、ねぇ。そいつと仲良く出来るかな?

 

「問題無い。ベルは礼儀正しく、誰とでも仲良くなれる少年だ」

 

「さり気無く人の考えを読まないで下さいよ、ミアハ様」

 

「ははは。それはすまなかったな」

 

 俺の突っ込みにミアハ様は笑いながら謝ってきた。

 

「それでだ、ベルはお前と同じくオラリオに来たばかりの新参者でな。リヴァン、もしお前が良ければ、今度ベルと一緒にダンジョンへ行ってもらえぬか?」

 

「ええ、良いですよ」

 

 種族は違っても、同い年の男と友達になるのは全然問題無い。寧ろ、最近口煩くなっているレフィ姉さんより遥かに良い。

 

 ベルって奴と会うのが楽しみになってきたと思いながら、俺はミアハ様、そして後から来たナァーザさんと一緒に夕飯を食べ始めた。 




次回は何とかエトワールの戦闘話に持って行くつもりです。


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少年エルフ、ベルと一緒にダンジョン探索する

 数日後に【ヘスティア・ファミリア】の冒険者――ベル・クラネルと出会った。白髪に赤目と、華奢な体格で兎をイメージするも優しい少年だったから、おかげですっかりと仲良くなってダンジョン探索している。お互いに名前で呼ぶほどだ。

 

 最初は俺をエルフだと分かったのか、ベルがかなり気を遣うような対応をするも、今は全く気にせず友好的に接している。森にいた頃の俺だったら、他種族の相手を見た途端に物凄く警戒していただろう。けれど、異世界のオラクル船団で俺を引き取ってくれた後見人のお陰で、エルフの風習は殆ど捨て去ってる。それでも一応記憶には留めてはいるが。

 

 まぁ、それはどうでもいい事だ。ダンジョン探索をしながらベルの事を色々と聞いてみたが、どうやら祖父が亡くなったのを切欠にオラリオで冒険者になろうと田舎から出たらしい。皆から憧れる英雄になりたい他、綺麗な女性達に囲まれたハーレムを求めてると言う邪なものも含めて。

 

 いかにも純情な少年が持つ夢だと思いながらも、俺はベルに頑張れと言いながらも、内心複雑な気持ちだった。ハーレムとか云々はどうでもいいとして、俺が気になったのはベルの英雄願望だった。

 

 俺も森で住んでいた幼少期の頃は、ベルと同じく英雄に強い憧れと幻想を抱いていた。しかし、オラクル船団で育った今は考えを改め、そこまで良いものじゃないと若干否定的になっている。

 

 そう考えるようになったのは、オラクル船団で引き取ってくれた後見人が教えてくれたからだ。その後見人が、アークスの六芒均衡で三英雄の一人――カスラなので。

 

『三英雄と聞こえは良いかもしれませんが、所詮私やクラリスクレイス、そしてあのレギアスですら、影の権力者の傀儡だったんですよ』

 

 そうカスラが自虐的に教えてくれた。アークスを裏で操っていた権力者――ルーサーが死んだ後、一切包み隠さずに全てを語ってくれた。最初は信じられなかったけど、カスラが真剣に言ってたのだから事実だと受け止めている。

 

 けれど、だからと言って英雄全てを否定してはいないし、ベルが英雄に憧れを抱いている事に否定する気もない。自身の考えを他人に押し付け、夢を壊すような事をしたくないので。

 

 さて、ベルとの出会いや自分の過去話は一旦ここまでにしよう。 

 

 零細【ファミリア】同士の俺とベルがコンビを組んで一週間以上経ち、現在もダンジョン上層を探索している。

 

 ベルと一緒に複数のコボルドを倒し終えた数分後――

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「ほぁあああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「おかしいな。このモンスターは中層にいる筈じゃ……」

 

 理由は分からないが牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』に追いかけられている。

 

 悲鳴を上げながら必死に逃げるベル、冷静に考えながら逃げる俺。

 

 確かミノタウロスは中層にいるモンスターの筈。それが何でこんな上層にいるんだ?

 

 まぁ考えるのは後にしよう。一先ずミノタウロスを倒さなければいけない。

 

 しかし、ベルが完全に錯乱状態に陥っている為、守りながら戦うのは少しばかり無理だ。

 

 何故なら――

 

「ベル、あのミノタウロスは俺が何とかするから――」

 

「今は走るんだリヴァ~~~~~ン!!」

 

 ベルが俺の腕を掴んだまま、一緒に走らされているので戦える状態じゃなかったから。

 

 自分と同じ新米冒険者だから、あのミノタウロスに勝てないどころか殺されると思って、逃走に専念させようとしてるんだろう。

 

 その気遣いは非常に嬉しいけど、エトワールクラスの俺でも充分にやれる。加えて代償はあれど、エトワールスキル――ダメージバランサーやエトワールウィル、他にも防御系メインの特殊能力も備わっているから、そう簡単に死にはしない。

 

「あっ、しまった!」

 

 ベルが俺の腕を掴んだまま、曲がった先は行き止まりだった。

 

『ヴモォオオオオオッ!』

 

 こちらが足を止めた瞬間、追いかけているミノタウロスが叫んできた。

 

「ひぃっ!」

 

「来るか……」

 

 逃げ場が無いと恐怖で顔を歪めるベルと、得物の一つである短杖(ウォンド)を展開しながら構える俺。

 

 ここはフォトンの束を前方に激しく放つ短杖(ウォンド)エトワール用フォトンアーツ――ルミナスフレアで迎撃するか。

 

 そう考えた俺は、突進してくるミノタウロスにフォトンアーツを放とうとするも――

 

『ヴゥムゥンッ!!』

 

「……え?」

 

 突如、誰かが此方へ駆け付けた事によりミノタウロスは背後からの攻撃を受け、一瞬でバラバラと斬り裂かれた。

 

 余りにも予想外な出来事に俺が呆然としたまま、ベルと一緒に返り血を浴びる破目になってしまう。その血は当然、斬り裂かれたミノタウロスだ。

 

「あの……お二人とも、大丈夫、ですか?」

 

 全身がドス黒い血でベットリ付いている中、見知らぬ女性が声を掛けてきた。その人がモンスターを倒した張本人なので。

 

 その声に視線を向けると、俺は思わず凝視する。

 

 凄く綺麗な人だった。金眼金髪で、女神と見紛うような美しい女性だ。

 

 久々に再会したレフィ姉さんも綺麗になって美少女の部類に入るけど、目の前にいる女性はそれ以上の美少女だと思ってしまう。

 

(ああ、この人が噂の……レフィ姉さんが言ってた【剣姫】か)

 

 レフィ姉さんと再会し、ダンジョン探索をしている時にあの人が自慢気に語っていたのを思い出した。

 

『いい、リヴァン。この際だからよ~く覚えといてね。私が所属している【ロキ・ファミリア】には第一級冒険者、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんがいるの。その人は強くて優しくて美しくて、そして完璧! その人を見たらリヴァンでも――』

 

 とまあ、まるで惚気るような長い語りだった。もう途中からどうでも良くなって殆ど聞き流したが。

 

 あのレフィ姉さんがそこまで心酔する人が、今こうして目の前にいるが………本当にそうなのかと少し疑問を抱いている。

 

 何故かは分からないが、自分が思ってるような完璧な人じゃないような気がする。あくまで俺の勘だけど。

 

「え、あ、ああ。俺はともかく、相方が……」

 

 向こうが声を掛けたので、俺は何でもないように振舞いながらベルを見る。

 

 その直後――

 

「だぁあああああああああああああああっ!」

 

「………は?」

 

 何を血迷ったのか、ベルがいきなり逃げ出してしまった。しかも相方の俺を置き去りにして。

 

 余りにも予想外過ぎる行動に、俺は思わず呆然としてしまう。【剣姫】も俺と似たようにポカンとしたまま、ベルが去った後を見ている。

 

 すると、彼女の仲間と思われる獣人の男が笑いながら此方へやって来た。

 

 その人は逃げたベルの事を笑いながら言った後――

 

「くはははは! テメエもアイツと同じトマト野郎かよ!」

 

 今度は俺の姿を見ながら再び笑い始めた。

 

 言われてみれば、返り血を浴びてる俺は酷い状態だ。目の前の獣人の男が笑うのは無理ないかもしれない。

 

 けれど、いつまでも笑われるのは流石に嫌だったので、この状態をどうにかしようと俺は短杖(ウォンド)から長杖(ロッド)――ストームシェードを取り出した。

 

 この武器は本来エトワールクラスで使う武器ではないが、あるテクニックが搭載されているので所持している。見た目はパラソルだが、一応長杖(ロッド)の武器だ。

 

「「!」」

 

 武器を切り替えた事に、獣人の男だけでなく【剣姫】も急に驚愕の表情となった。

 

 しかし俺は気にせず、ストームシェードに備わってるテクニックを発動させようとする。

 

「アンティ」

 

 フォトンの浄化効果で状態異常を治療するテクニック――アンティを口にした。その直後には柔らかく淡い光が俺を包み込むと、全身に浴びた返り血が綺麗さっぱりと消えていく。

 

 エトワールクラスはテクニック使用不可だけど、テクニックを備わってる武器を装備すれば限定で使用する事が出来る。他にもテクニック搭載武器を持ってるが、ここで言う事じゃないので今は割愛させてもらう。

 

「う、嘘だろ……」

 

「返り血が、一瞬で消えた……」

 

 獣人の男と【剣姫】が信じられないと言わんばかりの表情だった。

 

 何をそこまで驚いているのかは分からないが、一先ずは返り血が無くなったので気にしないでおくとしよう。今は早くベルを追いかけないと。

 

 そう思った俺はストームシェードを電子アイテムボックスに収納する。

 

「ではお二方、俺はこれで失礼します。それと【剣姫】さん、助けて頂いてありがとうございました」

 

 二人に挨拶をした後、俺は返り血を浴びたまま逃走したベルが行った道へ走って行く。

 

 地面に血の跡が付着していたので、それを見ながら辿っていると地上どころか、ギルド本部まで続いていた。まさか返り血を浴びたまま都市を走り回るとはな。さぞかし周囲から笑い者の的となっただろう。

 

 そしてそこでやっとベルと合流した後、俺は少しばかり文句を言わせてもらった。俺を見捨てるとは良い度胸してるじゃないかと、少しばかり威圧感を醸し出しながら。

 

「ご、ごめんリヴァン! 本当にすまなかった!」

 

「ベル君……」

 

 凄い勢いで謝ってくるベルに、近くにいたギルド職員――エイナ・チュールさんが呆れ顔となるのは当然だった。因みに彼女はベルの担当アドバイザーである。

 

 俺が逃げた理由を尋ねてみたら、どうやら【剣姫】に一目惚れしたようだ。声を掛けられた瞬間、頭が真っ白になって逃げだしてしまったんだと。

 

 それを聞いて少し呆れ気味に苦笑していると――

 

「ちょっとリヴァンく~ん、私への報告はどうしたの~?」

 

 俺の担当アドバイザー――ミィシャ・フロットさんが不満気な顔をしながら言ってきた。

 

 あの人もベルと同様に最初はエルフの俺に気を遣った接し方をしていた。しかし、俺がエルフの風習を気にする事なく話した事で、今はもうすっかりと仲良くなっている。

 

「あ、すいません。今行きます」

 

「もう、ミィシャったら。リヴァン君が来た途端にやる気出すんだから」

 

 俺が彼女がいる受付へ向かってると、エイナさんが何故か呆れるように言ってたが余り気にしないでおいた。




戦闘シーンを書くと言いましたが、書けませんでした。すいません。

次回は豊穣の女主人でのやり取りです。


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少年エルフ、豊穣の女主人でキレる

今回は珍しく長めに書きました。

それではどうぞ!


「ほう、ベルが【剣姫】に一目惚れしたのか」

 

「その子がそうするのは自由だけど、はっきり言って無理だね……。相手は他派閥で、ましてや【ロキ・ファミリア】の幹部だし」

 

 ギルドで報告した後、ベルと別れた俺は本拠地(ホーム)に戻り、ミアハ様とナァーザさんに事のあらましを話した。

 

 ミアハ様はベルの恋を応援するも、ナァーザさんは無理だときっぱり言い放つ。

 

「まぁ、確かにナァーザさんの言う通りですね」

 

 正直言って、俺もナァーザさんと同じ考えだった。

 

 ベルの恋路にとやかく言うつもりはないが、それが成就する確率は限りなくゼロに近い。零細【ファミリア】の新米冒険者(ベル)が、大手【ファミリア】の大物冒険者(アイズ・ヴァレンシュタイン)となんて普通に考えてあり得ない。

 

 そう考えると、俺も無理だろうな。俺の初恋の人であるレフィ姉さんも【ロキ・ファミリア】に所属して、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】と言う二つ名を持った将来有望な魔導士と噂されている。

 

 レフィ姉さん本人から聞いた話だと、同【ファミリア】でオラリオ最強の魔導士――リヴェリア・リヨス・アールヴ様に直接指導されているとか。俺はうろ覚えだが、その方は王族出身のハイエルフで、多くの同胞(エルフ)達から尊敬以上に崇拝されている。

 

 エルフの俺も当然尊敬すべきなんだろうが、オラクル船団で何年も過ごした事もあって、レフィ姉さん達みたいな考えは持てない。万が一会う事になっても、それ相応の態度を示さなければいけないだろうが。

 

 って、俺の初恋やエルフについては如何でもいい。今はベルの今後についてだ。

 

 知っての通り、俺とベルは(一応)【剣姫】に助けてもらった。なのにベルだけは礼を言わずに逃走と言う恩知らずな行動を取ってしまったので、けじめを付けさせなければならない。

 

 とは言え、彼女に会いに行くとしても【ロキ・ファミリア】は簡単に取次いでくれないだろう。俺とベルは零細【ファミリア】の冒険者だから、理由があっても『【剣姫】に会いたいだけのこじつけを付けた新米冒険者』と片付けられるのがオチだ。

 

 俺がレフィ姉さんに頼んで仲介してもらえば会わせてくれるかもしれないが、あの人がいると何か面倒な事になりそうなので却下だ。この前は惚気と言えるほど【剣姫】について熱く語ってたから、恋してるんじゃないかと思うほど慕ってる感じだ。そんなレフィ姉さんにベルが失礼な事を仕出かしたと分かった途端、ああだこうだと説教するのが容易に想像出来る。

 

 なのでここは、彼女と再び出会う機会が訪れるのを願うしかない。その確率は凄く低いが、少なくともオラリオにいる以上、どこかで会えるチャンスは必ずある筈だ。

 

 ミアハ様達にベルの事を一通り話した後、ナァーザさんが別の話題に切り替えようとする。

 

「ところでリヴァン。稼ぎはどうだったの?」

 

「えっと、今日はちょっとしたトラブルが起きたので……」

 

 そう言いながら持っているバックパックを渡すも、稼ぎが少ない事が分かったのか、ナァーザさんは顔を顰める。

 

「あの子と組んでから、稼ぎが凄く少なくなってる……」

 

「そりゃまぁ、稼ぎはベルと半分に分け合ってるんで」

 

「……リヴァンの実力を考えれば、分け前は8:2で貴方が多く得られる筈……。なのにどうして半々なの……?」

 

「いくら何でも、それは流石に不公平でしょう」

 

 ジロリと睨むナァーザさんに俺は臆することなく言い返す。

 

 今日稼いだ額は約一万ヴァリスであり、それをベルと半分ずつ分け合って五千ヴァリスだ。

 

 まぁアイツも毎回――

 

『こんなに受け取れないよ! 僕は半分以下で良いから!』

 

 ――と言ってた。しかし、俺としてはそんな事をする気はない。オラリオで初めて出来た同性の友達で、公平にしたかったので。

 

 因みにレフィ姉さんと一緒に探索した時の稼ぎは、自分の物となっていた。ただ黙って見ていただけの自分が受け取る訳にはいかない、と言う理由で。

 

「リヴァン、あの子には悪いけど、今後は暫く一人でダンジョンに行って」

 

「ちょっとちょっと、いきなり何言ってるんですか」

 

「そうだぞ、ナァーザ。稼ぎが少なくなったからと言って、それはいくら何でも横暴であろう」

 

 いきなりの団長命令に、俺が眉を顰めながら文句を言うと、ミアハ様も同調して苦言を呈した。

 

 ベルと楽しくダンジョン探索しているのに、それを止めろと言われたら文句の一つも出したくなる。

 

 すると、ナァーザさんは先ずミアハ様に向かって言い放つ。

 

「ミアハ様、ここ最近ポーションを無料で配ってる数が多くなってますね」

 

「う……」

 

 思いっきり心当たりがあるのか、ミアハ様は途端に何も言い返さなくなった。

 

 と言うかミアハ様、ナァーザさんからポーションの無料配布は止めて欲しいと言ってもまだやってたんだ。

 

 まぁ、この方は困ってる人を見過ごす事が出来ない善良な神様だから、それはある意味仕方ないかもしれない。ミアハ様のお陰で助かった人がいるのは事実だし。

 

「し、しかし、それらのポーションは全て私の範囲内で作った物の筈だ。我が【ファミリア】の財政に影響は無い筈だが……?」

 

 確かにその通りだった。俺が稼いだ何割かはミアハ様のお小遣い(ポケットマネー)となっている。ミアハ様が購入した材料はそのお小遣い(ポケットマネー)で済ませているから、店には何の問題も無い筈だ。

 

 ナァーザさんもそれを了承している筈なのに、何故今になってソレを咎めているんだろうか。

 

「最近、材料費も高くなってきてます。それに加えて、リヴァンが稼ぎ頭になってる事を知ったディアンケヒトの爺が、返済金の増額もしてきました」

 

「何だと? 材料費はともかく、返済金の増額など初耳だぞ」

 

 うん、俺もミアハ様と同じく増額については初耳だ。

 

「この前リヴァンとミアハ様が出払ってる時に、あの陰険女がやって来て、そう伝えてきましたので」

 

 陰険女って……恐らく【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッドさんの事を指しているんだろう。まだ一度しか会ってないけど、ナァーザさんが言うような人じゃないと思うんだけどなぁ。それをこの場で言ったら、確実に面倒な事になるので口にしないが。

 

 こちらが何を言っても、【ミアハ・ファミリア】が現在火の車と言う事で、結局はナァーザさんの言う通りにするしかなかった。俺は暫くソロでダンジョン探索、ミアハ様はお小遣い(ポケットマネー)減額と言う事で。

 

 だけどその代わり、怪物祭(モンスター・フィリア)が終わるまではベルと一緒に行動させてもらう約束を取り付けた。それを聞いたナァーザさんは了承してくれたので、俺は明日に備えて早めに寝る事にした。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 俺が事情を説明すると、こちらの事情を察してくれたベルが、『それじゃあ仕方ないね』と笑いながら許してくれた。

 

 なので俺がソロ活動するまでは、出来る限りのサポートをしようとダンジョン探索に励んだ。

 

 それが終わった後、また明日と別れるつもりだったが、突然ベルから食事の誘いをされた。自分とパーティを組んでくれたお礼をしたいと。

 

 気にせず割り勘で払うと言うも、頑なに拒否して自分に奢らせて欲しいと言われたので、その熱意に負けた俺は相伴に預かる事とした。

 

 ベルと一旦別れた後、ミアハ様とナァーザさんに夕飯はいらない事を話した。ミアハ様は『うむ、楽しんでくるといい』と笑顔で言い、ナァーザさんは『……行ってらっしゃい』と稼いだ額を確認しながら少し素っ気ない感じで見送られた。

 

 相変わらず対照的な反応だと思いながらも、本拠地(ホーム)を後にした俺は合流場所の広場へと向かう。

 

 

 

「なぁベル、本当に奢りで良いのか? 俺は割り勘で良いんだぞ?」

 

「大丈夫だよ。リヴァンのお陰で懐に余裕があるからさ」

 

 ベルと合流した後、俺はこれから行く予定の店へと案内される。

 

 案内先は『豊穣の女主人』と言う店だ。ベルがダンジョン探索前の今朝頃、その店にいるシルと言う女性店員から来て欲しいと勧誘されたそうだ。

 

 一瞬、相手を上手く煽てて客引きする悪い店なんじゃないかと不安をよぎった。俺がそう危惧しながら確認してみたが、ベルはそんな店じゃないと否定する。

 

 安心してくれと言われるも、俺にはいまいち信じられなかった。ベルと組んで分かった事なんだが、コイツは凄く優し過ぎる上に、かなりのお人好しだ。騙されている事に気付いていないじゃないかと思うほどの。

 

 もしも悪い店だと判明した際は、俺が力付くでも帰るようにする決意だけはしておこう。

 

 そう思っていると、いつの間にか『豊穣の女主人』と看板が掛けられている建物に辿り着く。

 

 出入り口の扉は開いたままで、店内が見える状態だった。

 

 見るからに繁盛して良そうな感じだ。料理やお酒を振舞う女将さんらしきドワーフの女性に、猫人(キャットピープル)同胞(エルフ)などのウェイトレス達がてんてこ舞いに動き回っている。

 

「ベル、何か緊張してるように見えるけど大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫、大丈夫だよ!」

 

 声が上擦っている事に気付きながらも、取り敢えずベルと一緒に店に入ろうとする。

 

 すると、ヒューマンのウェイトレスが此方にやって来る。

 

 彼女がベルを誘った薄鈍色の髪をしたウェイトレス――シル・フローヴァさんのようだ。見た目から分かる通りヒューマンで、他のウェイトレスと同様に可愛い女の子だ。

 

「ところでベルさん、そちらの方は?」

 

「あ、紹介しますね。この人はリヴァン・ウィリディス。僕と同じ冒険者です。【ファミリア】は違いますが、一緒にダンジョン探索しているんです」

 

「どうも。見ての通り俺はエルフですが、どうか気兼ねなく話しかけて下さい」

 

 風習を気にしてないようにアピールすると、ウェイトレス――シルさんは満面の笑みを見せる。

 

「分かりました。ではリヴァンさんと呼ばせて頂きますね。それにしても、『ウィリディス』って確か【ロキ・ファミリア】にもいたような気が……」

 

「ああ、それは『レフィーヤ・ウィリディス』の事ですね。その人は俺の従姉です」

 

「ええっ! リヴァン、【ロキ・ファミリア】に従姉がいたの!?」

 

 ベルが全く予想外と言わんばかりに驚いた様子を見せる。

 

「あれ? 言ってなかったか?」

 

「言っていないよ!」

 

 確認するように問うも、ベルが即座に言い返した。

 

 ……言われてみれば教えてなかったな。

 

 すると、ベルが騒いだことに周囲の客やウェイトレス達が一斉にこちらを見ている。

 

「取り敢えず、お席に移動しましょうか」

 

 少し居た堪れない気分になってると、シルさんが此方の心情を察してくれたように席を案内してくれた。

 

 その気遣いに感謝しながら、俺とベルはカウンター席へと座る。

 

 

『ニャ!? シルが人間(ヒューマン)とエルフの少年を連れてるニャ! どっちもミャー好みの美少年ニャ! おのれシル、ミャーを差し置いて逆ハーレムとは良い度胸してるニャ……!』

 

 

 黒髪の猫人(キャットピープル)が俺達を見て何やら不穏な事を言ってるような気がするが……一先ずは無視させてもらおう。

 

 その後、まだ頼んでいない筈なのに、いきなり料理が運び出された。

 

「アンタ達がシルのお客さんかい? ははっ、冒険者のくせにどっちも可愛い顔してるねぇ!」

 

 ほっといてくれ。

 

 俺とベルは口に出さずとも、同じ事を思った。

 

 カウンターから乗り出して料理を運んで来たドワーフの女将さんは、こちらの様子を気にする事なく新たな料理を出してくる。

 

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」

 

「!?」

 

「はあ!?」

 

 告げられた言葉に度肝を抜かれるベルと俺。

 

 俺達は思わず背後を振り返ると、シルが舌を出しながらえへへと笑いながら誤魔化している。

 

 犯人はコイツだと確信した。

 

「ちょっとシルさん、僕はいつから大食漢になったんですか!? 僕、絶対大食いなんてしませんからね!?」

 

「ああっ、朝ご飯を食べられなかったせいで力が出ない……」

 

「汚いですよ!?」

 

 ああ、成程。大体読めてきた。

 

 シルさんはベルを必ず店に来るように、自身が食べる予定の朝ご飯を差し出したな。そして見事に釣ったベルからお金を使わせようと、女将さんにある事無い事を言い触らしたんだ。

 

 良い性格してるな、この人。さっきまで気遣ってくれた感謝の念が一気に消え失せたよ。

 

 とは言え、今更店から出る訳にもいかない。女将さんが料理を運んだ時点で、俺達はもう引き返す事が出来ないので。

 

 取り敢えず、ここは今後の為の社会勉強という事として学んでおくか。

 

 だがしか~し、俺としてはここで簡単に引き下がる訳にはいかない。少しばかりシルさんには警告をしておこう。

 

「シルさん、ちょっといいですか?」

 

「はい?」

 

 来てくれとジェスチャーをする俺に、シルは何の疑いもなく近付いてくる。

 

「今回は初対面と言う事で見逃しますが、もしまたベルを騙すような行為をしたその時には………どうなるか分かってますよね?」

 

「…………………は、はい」

 

 殺気を放った睨みで警告した。勿論ベルには見えないようにしている。

 

 本気だと言う事を理解してくれたようで、シルさんは俺に笑みを浮かべながらも大量の汗を掻きながらも返事をした。

 

 俺がちょっと恐いのか、彼女はベルに会釈した後、そのまま何処かへと行ってしまう。

 

「? ねぇリヴァン、シルさんどうしたのかな? 急に汗を掻いて行っちゃったけど……」

 

「さぁ? 急に暑くなったんじゃないのか?」 

 

 シルさんの行動に疑問を抱くベルだが、俺は適当な事を言って誤魔化した。

 

 一先ず食事を始めようと、俺とベルは目の前にある料理に手を付けようとする。

 

 料理を食べながら値段を確認してみたら、どれも他の店と比べて何倍以上も高かった。それでも凄く美味しいから文句は言えないが。

 

 やっぱり割り勘にするかと確認して訊いてみるも、当のベルは大丈夫だと冷や汗を掻きながらも丁寧に断ってくる。まぁ、もし足りなかった場合は俺が出しておくとしよう。

 

 

「ニャ~。御予約のお客様、ご来店ニャ~」

 

 

 食事を楽しんでいる中、茶髪の猫人(キャットピープル)が出入り口の前で叫んだ。

 

 俺とベルが思わず視線を向けると、見知らぬ集団が店に入ってくる。

 

(あ、レフィ姉さんだ。他には……)

 

 集団の中に見覚えのある人がいた。レフィ姉さんだけでなく、昨日ダンジョンで遭遇した【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインと狼人(ウェアウルフ)の男性もいる。

 

 あの集団は都市最大派閥【ロキ・ファミリア】か。武器は持ってないけど、それでも聞いていた通りの貫録がある。エトワールクラスの俺が、あの【ファミリア】相手に果たしてどこまで戦えるかな? 負けるのは目に見えてるが。

 

 有名【ファミリア】の登場に、先程まで騒いでいた客達が急に静かになり、今度はザワつき始めようとする。

 

 そんな中、ベルが何故か石のように固まっていた。顔を赤らめた状態で【剣姫】を見ながら。

 

「ベル~、大丈夫か~?」

 

 俺が手を振ってみるも、当のベルは未だに何の反応も示さない。

 

 そんな中、【ロキ・ファミリア】は宴会を始めようと、主神らしき方が乾杯の音頭を取った。

 

 あ、そうだ。この店で【剣姫】と偶然会えたんだから、今此処で昨日の件について話すチャンスじゃないか。

 

「おいベル、今の内に声を掛けてみよう」

 

「ええっ! な、何で!?」

 

「何でって……お前、昨日の事をもう忘れたのか? 【剣姫】に助けてもらったお礼を言わないと」

 

 やっと正気に戻ったベルだが、俺の提案をすぐに受け入れようとしなかった。まだ心の準備がと言って頑なに拒否してくる。

 

 普段はモンスター相手に勇猛果敢に挑んでいるのに、こう言う事に関しては凄く臆病なんだな。まぁ、その気持ちは分からなくもないが。

 

「ほら、いっそ玉砕覚悟で行くぞ」

 

「それって失敗前提だよね!? ってかリヴァン、エルフってこうも強引なの!?」

 

 俺がベルの腕を引っ張って何とか行こうとするが、必死の抵抗をするベルに四苦八苦する。

 

 たかが礼を言いに行くだけなのに、コイツはどんだけ恥ずかしがり屋なんだよ。ってか、エルフとか何も関係ないからな。

 

 すると、向こうから狼人(ウェアウルフ)の男性が大声を出した。

 

 

「よっしゃあ! アイズ、そろそろ例のあの話、皆に披露してやろうぜ!?」

 

 

 何やら気になる台詞だったので、俺は思わずベルの腕を引っ張る手を止めて視線を移した。

 

「アレだって。帰る途中で何匹か逃したミノタウロス。最後の一匹にお前が5階層で始末したろ? そんでホラ、その時にいたトマト野郎二人の。如何にも駆け出しのヒョロくせえ冒険者(ガキ)共が、逃げたミノタウロスに追い詰められてよぉ!」

 

 ……おい、それって間違いなく俺とベルの事じゃないか。ってか、その話を此処で言う事じゃないと思うんだが。

 

 顔を顰める俺とは別に、ベルが顔を俯かせた。しかも身体を震わせているから、昨日の事を思い出しているんだろう。

 

「その内の一人が、何か叫びながら逃げて行っちまってよぉ! 情けねぇったらねぇぜ!」

 

 狼人(ウェアウルフ)の男性が一通り話を終えると、周囲はまるで俺たちを笑うように声をあげていた。【剣姫】は笑ってはいないどころか、どんどん無表情になっている。

 

 ………何なんだ、アイツ等は。人の失敗話を酒の肴にして笑うなんて……アレが都市最大派閥の連中がやる事か? しかもレフィ姉さんも一緒になって笑ってるし。

 

「ああいうヤツ等がいるから俺達の品位が下がるっていうのかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「いい加減その五月蠅い口を閉じろ、ベート。そもそも十七階層でミノタウロスを逃がしたのは、我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年たちに謝罪する事はあれ、酒の肴にする権利はない。恥を知れ」

 

 俺が段々不機嫌になっていく中、集団の中で【剣姫】と同じく笑っていないエルフの女性が窘めた。彼女の言葉に笑っていた一同がビクッと震えて縮こまっている。

 

 あのエルフの女性は他と違って良識があるようだ。それに気のせいか、あの人……と言うよりあの方は他のエルフと違う気がするな。

 

 しかし、狼人(ウェアウルフ)の男性は意に介さないどころか更に反論しようとする。

 

「おーおー、流石はエルフ様。誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツ等を擁護して、何になるってんだ? ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

 ……あの下品な狼人(ウェアウルフ)を今すぐにぶっ飛ばしてやろうか。俺だけじゃなく、友達のベルをあそこまでこき下ろす事に殺意が湧いてくる。

 

 しかし、今は必死に耐えているベルを――

 

「雑魚共じゃ釣り合わねぇんだよ、アイズ・ヴァレンシュタインにはな!」

 

 落ち着かせようとしたが、その言葉が引き金になったようにベルが店から飛び出してしまった。

 

「ベルさん!?」

 

 店から出て行ったベルをシルさんが声をあげながら追いかけた。【剣姫】も気付いたのか、シルさんの後を追いかけようとする。

 

 本当なら俺も行くべきなんだろうが、やっておかなければならない事がある。

 

「すいません、女将さん。食事代は俺の方で立て替えておきますので。それと迷惑料も出します」

 

「止めておきな。いくら坊主でも相手が悪過ぎるよ」

 

 俺が狼人(ウェアウルフ)相手に荒事をやろうと思ったのか、女将さんは止めるように言ってくる。

 

 確かに『Lv.1』の俺が高レベル冒険者相手に挑むのは自殺行為も同然だ。

 

「別に、暴力で解決しようだなんて思ってません。向こうが言う雑魚なりのやり方で筋を通すだけですので。万が一に荒事になった場合、女将さん達に迷惑が掛からないよう外でやりますので」

 

「………はぁっ。あたしは暫く目を瞑っておくから、それまでに済ませとくんだよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺の言い分に少しばかり納得したのか、料金を受け取った女将さんは奥へと引っ込んだ。

 

 さて、許可を貰った事だし、早速行きますか。

 

 そう決めた俺は席を立って――

 

「【ロキ・ファミリア】は随分と好き勝手言ってくれるもんだ。そこの犬っころみたいに、自分より弱い相手を平然と貶す下郎な集団だったとは」

 

「ああん!?」

 

 早速挑発を仕掛ける事にした。

 

 それに反応したのは犬っころと罵倒された狼人(ウェアウルフ)が振り向いた後、【ロキ・ファミリア】と思われる集団も一斉に振り向く。

 

「え? リ、リヴァン!?」

 

 レフィ姉さんが振り向いて俺を見た瞬間、驚愕の表情を露わにする。俺がこの店にいるとは予想してなかったんだろう。

 

 だけど、今はそんな事どうでもいい。

 

「このクソガキぃ! 誰が犬だごらぁ!」

 

 酒が入ってる所為なのか、狼人(ウェアウルフ)は俺の事を憶えてないようだ。

 

 まぁそれを抜きにしても、この男は雑魚の俺なんか気にも留めてないだろうが。

 

「! 君、昨日の……!」

 

 店に戻って来た【剣姫】は憶えていたのか、俺を見て思い出すように言ってきた。

 

「キャンキャン五月蠅い。下品な犬っころの分際で」

 

「テメェ!」

 

 二度も犬呼ばわりされた事で頭に来たのか、狼人(ウェアウルフ)は完全に怒りを露わにする。

 

 獣人にとって、動物呼ばわりされるのは最大の侮辱だ。特に狼人(ウェアウルフ)は犬扱いされる事を誰よりも嫌う。俺はそれを分かった上で挑発している。

 

「ブッ殺す!」

 

「止すんじゃベート!」

 

 俺に襲い掛かろうとする狼人(ウェアウルフ)だが、咄嗟にドワーフの男性が彼を羽交い絞めして止める。

 

「クソがッ! 放しやがれジジイ!」

 

「少しは頭を冷やさぬか! ここで喧嘩などしおったら、ここの店主が黙ってない事を分かっておる筈じゃ!」

 

 ドワーフの男性は女将さんの事をよく知ってるのか、必死に狼人(ウェアウルフ)を宥めようとしていた。

 

 もし止めなくても、俺は甘んじて攻撃を受けるつもりでいた。エトワールスキルのダメージバランサーと、密かに武器を展開していた防御系の特殊能力を発動してるから、殆どのダメージを軽減(カット)出来るので。

 

「おうおう。ベートを挑発するだけでなく、【ロキ・ファミリア(うちら)】にまで喧嘩売るとは自分、随分ええ度胸しとるやないか」

 

 すると、妙な喋り方をした人が笑みを浮かべながら俺の方へ近づいてくる。

 

 この人は……いや、違う。雰囲気から察して神だな。って事は、この神物が【ロキ・ファミリア】の主神ロキと見るべきか。

 

 にしてもこの神の喋り方、惑星ウォパルにいる原住民とそっくりだな。以前に会ったカブラカンも、神ロキみたいな喋り方をしていた。

 

 まぁそれは良いとして。この神は人懐こそうな笑みを浮かべるも、少しばかり怒気が感じられる。自分だけでなく、自身の眷族を侮辱された事も怒っているんだろう。

 

「これは失礼しました、神ロキ。其方が大変不愉快な会話をしてましたので、思わず口汚く言い返してしまいました」

 

「なんやて?」

 

 俺の台詞に神ロキは途端に不可解な表情になる。

 

「それはどういう事や? うちらが自分を不愉快にさせたっちゅうのは」

 

「先程まで面白可笑しく話していたではありませんか。そこの犬っころが言ってたトマト野郎だの、ミノタウロスだのと」

 

「? それと自分に一体何の関係が……っ! ま、まさか自分、もしかして……」

 

 どうやら神ロキは気付いたようだ。俺の言いたい事を。

 

 ま、分かっててもハッキリと言わせてもらうが。

 

「ええ、お察しの通りです。昨日にダンジョン5階層で出現したミノタウロスから逃げ、そのトマト野郎二人は俺達の事ですよ。ついさっきその一人は、耐え切れずに逃げてしまいましたが」

 

「ま、マジかぁ!?」

 

『!』

 

 吃驚する神ロキだけでなく、【ロキ・ファミリア】の冒険者達も一斉に驚く。その直後に物凄く気まずい雰囲気になり、レフィ姉さんだけは俺を見ながら顔を青褪めている。

 

 しかし俺は気にすることなく、緑髪のエルフの女性の方へと視線を向ける。

 

「何でも、そちらの不手際で17階層にいたミノタウロスを逃がしてしまったそうですね。その所為で、本来上層にいない筈のミノタウロスが出現した。可笑しいじゃないですか。本来であれば、貴方達【ロキ・ファミリア】の失態でしょう。なのに反省しないどころか、それを欠片も気にせず酒の肴にするなんてあり得ません」

 

『………………』

 

「もごもご……!」

 

 返す言葉も無いのか、【ロキ・ファミリア】一同はずっと黙っている。これで何か言い返したら、完全な恥知らずとなってしまう事を分かっているからな。

 

 因みに狼人(ウェアウルフ)が口を開こうとするも、ドワーフの男性が喋らせないように黙らせている。

 

「……あ、あ~、すまんかったなぁ、坊主。自分らの事を笑い者扱いにしてしもうて……」

 

「俺に指摘され、事の重大性に今更気付いて謝ったところで、そう簡単に許すと思いますか? 俺が新人冒険者だからって、バカにしないで下さい」

 

「う……」

 

 神ロキも分かっているのか、俺の言い分に口ごもってしまう。

 

 まぁ俺としては代表が謝ってくれればそれで構わなかった。しかし、今回ばかりは事情が違う。

 

 相手が都市最大派閥の【ロキ・ファミリア】だからって簡単に許してしまうと、何事も無かったかのように揉み消されてしまう恐れがある。

 

 組織が巨大過ぎる程、面子と言うものを重点的に見てしまう。それを払拭する為の根回しをするのがお決まりだと、後見人のカスラが言ってたし。

 

 とは言え、零細【ファミリア】の俺が【ロキ・ファミリア】に多大な要求をする訳にもいかない。もしそうしたら、この先色々と面倒な事になってしまう。

 

 さて、どうするかと頭の中で必死に考えている最中――

 

「待ってリヴァン!」

 

 すると、さっきまで黙っていたレフィ姉さんが席から立ち上がって俺に近付いてくる。

 

 その直後、彼女は俺に向かって思いっきり頭を下げる。

 

「何のつもりですか、レフィ姉さん」

 

『姉さん!?』

 

 俺がレフィ姉さんと身内だと知って【ロキ・ファミリア】が驚いているが無視だ。

 

「し、知らなかったとは言え、リヴァン達を笑い者にして本当にごめんなさい! 非常に図々しいお願いなのは分かってるけど、どうかここは私に免じて許してくれませんか!?」

 

「…………」

 

 これは思いがけない事態だ。まさかレフィ姉さんがこんな事をするとは……。

 

 しかし、これは却って好都合だった。俺が身内を理由に許せば、【ロキ・ファミリア】はレフィ姉さんに多大な感謝をするだろう。まぁその代わり、俺がまた何か言い出した時に向こうはまた彼女に助けを求めるかもしれないが。

 

 身内のレフィ姉さんを出汁にして悪いが、ここで手を打たせてもらおう。

 

「………良いでしょう。俺としてもレフィ姉さんや【ロキ・ファミリア】とは事を荒立てたくありませんから、ここまでにしておきます。運が良かったですね、神ロキ。後でレフィ姉さんにお礼を言っておいてください」

 

「お、おう、せやな……」

 

 頬を引き攣らせながらも何とか笑顔を作っている神ロキ。

 

 どうせこの神の事だから――

 

『このガキ、随分上から目線やないか……!』

 

 ――とでも思ってるに違いない。

 

 ま、人を笑い者にしたんだから、これ位は甘んじて欲しい。

 

 内心そう思いながら、今度は狼人(ウェアウルフ)の方へ視線を向ける。

 

狼人(ウェアウルフ)、レフィ姉さんをどう言う風に見てるか知らないが、これからはずっと感謝する事だ。そっちの面子を潰そうとしてた雑魚の俺が、レフィ姉さんによって救われたんだからな」

 

「テメェ……!」

 

 未だドワーフの男性に羽交い絞めされながらも、俺に殺気をぶつけながら睨む狼人(ウェアウルフ)

 

「それじゃあレフィ姉さん、俺はこれで」

 

「ちょっと良いかな?」

 

 用件を済んだ俺はレフィ姉さんに別れを告げて店を去ろうとするが、誰かが俺に声を掛けてきた。

 

 振り向くと、その先には俺より背の小さい金髪の男性がいた。背丈からして小人族(パルゥム)だろう。

 

「どなたですか?」

 

「ちょ、リヴァン! この人は私達の団長で――」

 

「構わないよ、レフィーヤ」

 

 俺が無礼な態度である事にレフィ姉さんが咎めようとするも、小人族(パルゥム)の男性は気にしてないと言った。

 

「では自己紹介をしよう。僕の名はフィン・ディムナで、【ロキ・ファミリア】の団長を務めさせてもらっている」

 

 へぇ。この人があの有名なフィン・ディムナさんか。

 

「……貴方が噂の【勇者(ブレイバー)】でしたか。これは失礼しました。俺はオラリオに来たばかりの新参者でして」

 

「その新参者の君が、僕達【ロキ・ファミリア】を相手に一歩も引かないどころか、論破した事が凄いんだけどね」

 

「で、俺に何か御用ですか?」

 

 相手が誰なのかを分かった俺は、すぐに用件を聞き出す。俺としては、さっさと店を出たいので。

 

「今回の事は、本当に申し訳なかった。もし君が良ければ後日、僕達の本拠地(ホーム)へ来て頂き、償いをしたいと思っているんだが……どうかな?」

 

「償い、ですか?」

 

 どういうつもりだ? レフィ姉さんからの謝罪で済ませた筈なのに、何故この団長さんは改めて償いをするつもりでいる?

 

 やっと矛を収めたこの展開に、団長が改めて償いをしたいって……何か理由があると見ていいだろうな。カスラも、『組織を纏める責任者が何か提案するのには必ず裏がある』と教えられた事があるので。

 

 なので此処は、無理に入り込もうとはせずに引いておいた方がいいな。

 

「折角のお誘いですが、遠慮しておきます。俺としては、レフィ姉さんの謝罪だけで充分なので」

 

「……そうか、分かった。すまなかったね、急に引き止めるような事をして」

 

「お気になさらず。それじゃ俺はこれにて失礼します」

 

 団長さんにペコリと頭を下げた後、俺は漸く店を出ようとする。

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ~~~。まさかこの店にベートが話題にしとった冒険者(こども)がおったとはなぁ……。ほんまに感謝するで、レフィーヤ」

 

「い、いえ。私はただ、従姉として謝っただけですので……」

 

「あとベート! 自分もレフィーヤに礼を言っておくんやで!」

 

「ざけんな! 何で俺がそんなノロマなんかに――」

 

「ティオナとティオネ、この恩知らずを縛っとけい!」

 

「「オッケー!」」

 

「おわっ! な、何しやがるバカゾネス共!!」

 

 

 

「やれやれ、ワシもやっとベートから解放されたわい。それにしてもフィン、さっきはどう言うつもりだったんじゃ?」

 

「どう、とは?」

 

「あのエルフの小僧に改めて償いをしようとした事じゃ。レフィーヤのお陰で穏便に済ませたと言うのに、何故あんな蒸し返すような事をしたのじゃ?」

 

「……ちょっと気になる事があってね。と言っても、これはあくまで僕の勘だけど」

 

「珍しいな。お前があの少年をそこまで気に掛けるとは」

 

「それを言うならリヴェリアも同じじゃないかな? あのエルフの少年はハイエルフの君を見て、何の興味も示さなかった事に」

 

「……確かにそうだな。以前レフィーヤから、行方不明だった従弟がオラリオで再会したと聞いてはいた。私も一度会ってみたいと思っていた矢先、今回の件で悪印象を抱かれてしまったが」

 

「そこだ。僕の知る限り、もし彼が普通のエルフであれば理由はどうあれ、リヴェリアを見た途端に恭しい態度を見せる筈だ。なのにあの少年は、そんな素振りを微塵も見せなかった」

 

「言われてみれば確かにのう。ワシもこれまで数多くのエルフを見てきたが、あのような態度を取ったのは誰一人おらんかった。あの小僧を除いてな」

 

「……たったそれだけの理由で、お前が気になるとは思えないな。他にも何かあるんだろう?」

 

「ああ。昨日にアイズから報告があったんだけど、彼と思わしきエルフの少年が、奇妙な武器を出した後に見知らぬ魔法も使ったと聞いてね」

 

「それは一体どんな魔法なんだ?」

 

「何でもエルフの少年が、魔法名を告げた瞬間、浴びた筈の返り血を一瞬で消して元の状態に戻したそうだ。しかも血の臭いまでも消えていたと」

 

「返り血や臭いも消す魔法じゃと? リヴェリア、お主は何か知っておるか?」

 

「………いいや、聞いた事もない。寧ろ私も初めて知った。もしそんな便利な魔法があれば、私はもうとっくに使っている」

 

「ンー……魔導士のリヴェリアすら知らない魔法ときたか。これは益々興味深い。特に体臭を気にしてる女性冒険者からすれば、ダンジョン探索に必須とも言える魔法だからね」

 

「まさかフィン、あのエルフの少年を本拠地(ホーム)に招いて償いをしたいと言ったのは……」

 

「ご明察。勿論ちゃんと償いはするつもりでいたよ。ついでにレフィーヤを通じて、あわよくば魔法について聞いてみようと思っていたのさ。彼がそれに気付いたかどうかは分からないが、こちらの誘いに乗らず振られてしまったけどね」

 

「さり気無く魔法についての情報まで得ようとするとは、相変わらず食えぬ奴じゃのう」

 

「まぁ、向こうが今回の件で警戒している以上、もうこちらから手を出す訳にはいかないね。暫くは様子見だ。後でレフィーヤに、彼のフルネームと所属してる【ファミリア】も確認しておかないと」

 

「ふむ………未知の魔法、か」




ダラダラした長話ですが、読んで頂きありがとうございます。

あと、感想お待ちしています。


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少年エルフ、美の女神と遭遇する

今回は原作にはないオリジナル話です。

どうぞ!


「はぁっ……やってしまった」

 

 酒場を出た俺は魔石街灯を照らした夜道を歩きながら、先程まで沸々と煮え滾っていた怒りが徐々に冷め始めた。同時に自分はとんでもない事をやらかしてしまったと、物凄く後悔しながら。

 

 いくら言動に問題があったとは言え、都市最大派閥【ロキ・ファミリア】相手に喧嘩を売った挙句、公衆の面前で恥を掻かせた。後々になって、どのような報復をされるのか分かったものじゃない。

 

 向こうがその気になれば、零細の【ミアハ・ファミリア】を潰すなんて一捻りだ。例えば、神ロキが権力を使って俺達をオラリオから追放させるとか、冒険者を使って本拠地(ホーム)へ闇討ちをして潰す等々。本当にやるかどうかは分からないが、【ロキ・ファミリア】にはそれだけの力があると言う事だ。

 

 俺だけならまだしも、一切無関係なミアハ様とナァーザさんまで巻き込ませる訳にはいかない。その時は、俺がアークスの力を最大限に使って二人を絶対に守るが。

 

 それはそうと、今もずっとベルを探しているが一向に見付からなかった。アイツが行ったと思われる場所を探しても人影すら見当たらない。近くにいた人に尋ねてみても、そんな少年は見てないと返答される始末で完全に手詰まりだ。

 

「まさかベルの奴……」

 

 街中を探しても一向に見付からないから、もしかするとダンジョンに行ったのではないかと俺は一瞬考えた。

 

 あの狼人(ウェアウルフ)に面白可笑しく散々罵られ、更には雑魚と言われる始末。

 

 もしも俺がベルの立場で考えるとしたら……ダンジョンに行ってるかもしれない。あのクソ狼を見返す為に強くなろうと。

 

 いや、それはあくまで俺がやるとしたらの場合だ。ベルは負けず嫌いな俺と違って自殺行為な真似をする筈ない……とは言い切れないな。

 

 万が一の可能性もあるかもしれないので、取り敢えずダンジョンに行ってみよう。出来れば俺の取り越し苦労であって欲しいんだが。

 

 そう思いながらダンジョンがある摩天楼施設へ向かっている最中、ふと気になる事があって移動している足を急遽止めた。

 

 ……妙だな。人が全然いない。

 

 俺がいるのは道幅がある裏通りで、辺りを見回しても今は俺しかいないから、閑散としている。

 

 さっきまで移動してる最中に何人か歩いている人はいたが、それが急にばったりと途絶えていた。加えて、周囲にいる筈の人の気配すらも完全になくなっている。

 

 余りにも違和感があり過ぎる裏通りに俺が疑問を抱いていると、突如誰かが歩いている靴音が聞こえた。

 

 前方から聞こえてくる靴音に俺が振り向くと、少し先にある曲がり角から誰かが現れる。

 

「こんばんわ。折角綺麗な月夜なのに、眺めないなんて勿体ないわよ」

 

 現れたのは女性……いや、女神だった。しかもただの女神じゃない。見ただけで魅了されるような美しい女神がいた。

 

 俺が今まで見た女神も当然美しい容姿をしているが、目の前にいる存在は全く違う。まるで存在その物が美の象徴とも呼べる女神だ。

 

 かなり露出が目立つ服装でも、全く下品には見えない。あの女神の気品さ故と言うべきだろう。

 

「……失礼ですが、どなたですか? 俺は貴女の様なお美しい女神様とお会いした事がないのですが」

 

 けれど、俺にはそんな事は如何でもいい。

 

 一刻も早くベルを探したい気持ちを抑えながらも、確認しながらも尋ねた。

 

 すると、向こうは俺の問いが予想外だったのか、とても意外そうな表情をしている。

 

「あら、私の事は知らないの? ごめんなさい。てっきり知ってると思って、普通に声を掛けてみたのだけど」

 

 まるで自分の事を知ってて当然みたいな口振りだ。

 

 この女神がそんな風に振舞うって事は……もしかして、かなり大物の神物なのか?

 

「それじゃあ貴方の為に自己紹介をしておくわね。私はフレイヤ。よろしくね」

 

 ……フレイヤ、だと?

 

 フレイヤって確か……【ロキ・ファミリア】と並ぶ都市最高派閥【フレイヤ・ファミリア】の主神じゃないか!

 

 そんな大物の主神が、何でこんな所にいるんだ? 訳が分からないぞ。

 

「……これは大変失礼しました。まさかこのような所で、美の女神フレイヤ様とお会い出来るとは光栄の極みです」

 

 相手が相手だったので、一先ずは相応の態度を示そうと、謝罪しながら挨拶をしておいた。

 

 だが――

 

「あらあら、私の前で嘘を吐くなんていけない子ね」

 

 この女神には俺の考えは筒抜けだった。

 

 そう言えばこの世界にいる神って、下界へ降りる時に能力の大半が制限されて一般人同然になっても、下界の人間(こども)が嘘を吐いてるのを見破る事が出来るんだった。

 

 不味いな、すっかり忘れてた。俺の所の主神ミアハ様とはいつも普通に話してるから、嘘を見抜ける事を完全に失念していた。

 

 神フレイヤの機嫌を損ねてしまったと思ったが、向こうはとてもそんな感じがしない。

 

「でも、これはこれで更に意外だわ。私に会う人間()は必ず嬉しそうになるのに」

 

 その台詞だけを聞けば、どれだけ己惚れてるんだと思うだろう。

 

 だけど、この女神相手にはそう思わざるを得ない。神フレイヤに出会えれば嬉しくなるのは当然と思える程の美しさなので。

 

「そろそろ、御用件をお伺いしても宜しいですか? かの有名な女神様が、態々こんな裏通りに来てまで、俺と世間話をしに来たのではないでしょう?」

 

「う~ん……そうね。じゃあ本題に移るわ」

 

 何か気になる節がありそうな感じだが、神フレイヤは俺に用件を告げようとする。

 

「貴方にお願いがあるの。今後あの子から手を引いてくれないかしら?」

 

「………は?」

 

 神フレイヤがいきなり訳の分からない事を言った為、俺は思わず首を傾げた。

 

 あの子から手を引けだと? 一体誰の事を言ってるんだ、この女神は?

 

「またしても大変失礼ですが、どう言う意味でしょうか? それに貴女様の仰る『あの子』とは?」

 

 俺が質問した瞬間、どこからか殺気を感じた。

 

 余りにも突然だった為に武器を構えそうになるも、神フレイヤはこちらの心情を気にせずに答えようとする。

 

「貴方がダンジョンで一緒に行動している子の事よ」

 

「ダンジョンで一緒に行動……?」

 

 思わず鸚鵡返しをするも、俺が思い当たる人物と言えば……オラリオで初めて出来た友達――ベル・クラネルの事だった。

 

 それが分かった瞬間、疑問を抱いた。何故、神フレイヤがベルの事を知っているんだ? ってか、何でこの女神は俺にベルから手を引けと言うんだ?

 

「その顔を見ると分かったようね」

 

「……ええ、確かに分かりました。しかし、それと同時に分かりませんね。どうしてベルと無関係な筈の貴方様がそのような事を仰るのです? ひょっとしてお知り合いですか?」

 

「いいえ、私が一方的に知ってるだけよ」

 

 ………神フレイヤの言ってる事が矛盾だらけで全然分からなかった。

 

 ベル本人とは顔見知りですらないと言うのに、それを何でこの女神はあんな事を言ったんだ? 本当に訳が分からん。

 

「神フレイヤ、申し訳ありませんが理由を教えてくれませんか? 俺には貴方様の崇高な御考えが、どうしても理解出来ませんので」

 

 一先ず丁寧に理由を尋ねようとすると――

 

「それを貴方が知る必要は無いわ。だからもう今後はあの子に会わないでね。分かったかしら?」

 

「えっ……」

 

 神フレイヤは答えないどころか、命令口調で言ってきた。更には彼女の目の色が変わり、それを見た俺は動けなくなってしまう。

 

 何だ、これは? 俺は何を考えて……ああ、そうか。俺はフレイヤ様の言う通り、今後ベルには近づかないように……って!

 

「ふざけるな!」

 

「っ!!」

 

 すぐに意識を取り戻した俺が振り払うと、神フレイヤは驚愕を露わにする。

 

「はぁっ、はぁっ……あ、危なかった……!」

 

「嘘……。私の『魅了』を、自力で振り払ったの?」

 

 息切れしている俺に、神フレイヤは聞いてないように独り言を呟いた。

 

 いま『魅了』って言ったよな? ……まさかこの女神、俺を『魅了』しようとしたのか!?

 

 以前にカスラから聞いた事がある。オラクルには宇宙を脅かす存在――ダーカーには『ダークファルス』と言う指揮官がいて、その中にはダークファルス【若人(アプレンティス)】がいたと。

 

 既に存在してないが、ユクリータさんじゃない前【若人(アプレンティス)】は、他者を意のままに操る『魅了』の能力を持っていた。そして魅了されたアークスは前【若人(アプレンティス)】の操り人形となって、アークスの同士討ちをさせたり人質にしたりと、かなり卑劣な手段を使っていたらしい。

 

 神フレイヤはダークファルスじゃないが、『魅了』と言う能力を持っている。だからついさっき、俺を『魅了』させて強制的にベルから引き離そうとした。

 

 危なかった。どうして俺が女神の『魅了』を自力で振り払われたのかは分からないが、もし引き込まれたら最後、俺は神フレイヤの操り人形となっていただろう。そして二度と友達のベルに会わなくなると言う最悪な展開となって。

 

「はぁっ、はぁっ……この……やってくれるじゃないか、クソ女神が!」

 

 俺を『魅了』した元凶が神フレイヤだと分かった瞬間、途端に口汚く罵った。

 

 しかし、今の俺には『魅了』を振り払った理由なんか如何でもよかった。ふざけた真似をしてくれた女神に対する怒りで頭がいっぱいだったので。

 

 下界の人間が神相手に手を出すのは本来重罪だが、操り人形にしようとする相手には落とし前を付けさせなければ俺の気が済まん!

 

「今日は本当に驚く事ばかりね。まさか貴方みたいなエルフの男の子が、『魅了』を弾くなんて思いもしなかったわ」

 

 俺が怒っているのにもかかわらず、あのクソ女神は余裕の表情だった。

 

 あのふざけた態度を今すぐに改めさせてやる!

 

 神フレイヤの態度に激昂した俺は自身の得物――エールスターライトを展開し、両剣(ダブルセイバー)形態にする。

 

「あらあら、物騒な物を出したわね。それにしても綺麗な武器じゃない。思わず欲しくなっちゃいそうだわ」

 

「ほざけ!」

 

 人の武器を見て欲しがろうとする神フレイヤに、つくづく自分勝手な女神だと改めて認識した。

 

 それにしても、あの女神は俺が武器を展開してるというのに、未だに涼しい顔をしている。

 

 ああまで余裕な態度を取る理由としては――

 

「ぐっ!」

 

 突如、何処からか殺気を感じた俺が咄嗟に武器を構えた瞬間、凄まじい衝撃が俺に襲い掛かった。

 

 幸い武器で防いだから俺自身にダメージは無く、衝撃によって吹っ飛ばされてもいない。因みに後者に関しては、静止した状態の時に打ち上げや吹き飛ばしを防ぐエトワールスキル――スタンディングマッシブが発動してくれたので。

 

 そして俺に衝撃を与えた元凶は目の前にいる。黒い衣装を纏った見知らぬ猫人(キャットピープル)の男が、俺の両剣(ダブルセイバー)長槍(ちょうそう)で鍔迫り合いをしているから。

 

「ゲスが。女神に刃を向けるのは重罪だぞ」

 

「何が重罪だ。そっちから先に仕掛けたんだろうが」

 

 好き勝手にほざく猫人(キャットピープル)の言い分に、俺は即座に言い返した。

 

「見たところ、アンタはあの女神の眷族だな。だったら状況は分かってる筈だ。俺は危うくあの女神に『魅了』されそうになったんだぞ」

 

「フレイヤ様のお言葉は絶対だ。あのまま素直に言う事を聞いてれば良かったものを。そんな事も分からねぇクソガキはさっさとくたばって死ね」

 

「…………………」

 

 あの自分勝手な女神だけじゃなく、眷族も眷族で好き勝手にほざきやがる……!

 

 ついさっき会った【ロキ・ファミリア】には笑い者扱いされ、そして今度は【フレイヤ・ファミリア】から勝手な命令を下される始末。

 

 噂に聞いた都市最高派閥は、どいつもこいつも自分勝手な連中ばかりだ。嫌になってくる。強ければ何をしても許されるとでも思っているのか?

 

 ……もう頭に来た。ミアハ様には大変申し訳ないが、我慢の限界だ。後先の事なんか知るか!

 

「良いだろう。あのクソ女神の前に、先ずは貴様からぶっ飛ばしてやる」

 

「言葉に気を付けろ。テメエみたいなクソガキ風情が――ッ!」

 

 猫人(キャットピープル)が何か言ってる最中、俺は気にすることなく両剣(ダブルセイバー)から変えようと、連結していた柄を分離させた。

 

 分離した剣は飛翔剣(デュアルブレード)となり、長槍と鍔迫り合いをしてない片方の剣を振るう。

 

 それを見た猫人(キャットピープル)は驚愕しながらも、俺が振るった剣を躱そうと咄嗟に後退する。

 

「ちっ、外したか」

 

「テメエ……」

 

 当たらなかった事に舌打ちをする俺に、忌々しそうに呟く猫人(キャットピープル)

 

「あらあら、あの剣は分ける事も出来るのね」

 

 まるで他人事のように見て言う神フレイヤは、一先ず無視させてもらう。今は目の前の猫人(キャットピープル)を倒す事が先決だ。

 

「来いよ、クソ猫。俺に喧嘩を売った事を後悔させてやる」

 

「……たかが『Lv.1』のクソガキが、いい気になってんじゃねぇぞ……!」

 

 あっそ。そうやって精々油断してるんだな。

 

 確かに俺はこの世界で冒険者になったばかりの『Lv.1』だが、アークスとしての実戦経験は積んでいる。そう簡単にはやられたりしない。

 

 そのついでに、鉄壁の防御スキルと回復支援スキルを持ったエトワールクラスの力を披露しよう。貴様の攻撃が大して効いてないって事も教えてやる!

 

 そう決意して武器を構えると、向こうもやる気満々みたいで長槍を水平にして構えた。

 

「うふふ、あの子がアレン相手にどれだけ戦えるのか楽しみになってきたわ」

 

 完全に観戦状態となってる神フレイヤに気にする事無く、俺と猫人(キャットピープル)は突撃し――

 

「そこまでだ」

 

「「!」」

 

 突如、第三者の声が割って入って来た。それにより俺達は咄嗟に足を止める。

 

 すぐに止めた奴の方へと振り向くと、そこには見慣れない筋骨隆々の男性猪人(ボアズ)がいた。

 

「あら、オッタルじゃない。どうしたの?」

 

 神フレイヤは男性猪人(ボアズ)を知っているようで名前で呼んでいた。

 

 オッタルって……まさか、【フレイヤ・ファミリア】の首領――【猛者(おうじゃ)】オッタルか!

 

 男性猪人(ボアズ)が【猛者(おうじゃ)】である事を知った俺が驚いている中、向こうは気にせず会話を続けようとする。

 

「そろそろお戻りを。一般人(やじうま)が気付いて、此方に来ようとしています」

 

「……そう、残念だわ。折角面白いものが見れると思ったのに」

 

 報告を聞いた神フレイヤは心底残念そうに嘆息した後、猫人(キャットピープル)に向かって言う。

 

「アレン、戻りなさい」

 

「フレイヤ様! あんなガキを殺すだけでしたら一瞬で――」

 

 猫人(キャットピープル)――アレンが申し立てるも、神フレイヤは許そうとしなかった。

 

「戻りなさいと言った筈よ、アレン?」

 

「…………承知しました」

 

 まるで聞き分けの無い子供を窘めるような言い方をする神フレイヤに、アレンは悔しそうな顔をしながらも従った。

 

 あの口の悪い猫人(キャットピープル)でも、主神の前では形無しのようだ。

 

「ごめんね、悪いけど時間になっちゃったから帰らせてもらうわ」

 

「……待てコラ」

 

 勝手に終わらそうとするクソ女神の言い分に、俺は待ったを掛けた。

 

「そっちから仕掛けておいて、都合が悪くなったら帰るって……どんだけ自分勝手なんだよ、アンタは」

 

「あら、不服かしら?」

 

「当たり前だ」

 

 俺に勝手な命令を下して『魅了』し、高みの見物を決め込もうとする行動が、何もかも気に入らない。

 

 いくら美の女神でも、これは余りにも自分勝手過ぎる。ここまで人を虚仮にしておいて、黙って見過ごす奴は絶対にいない筈だ。

 

「何の詫びもなく勝手に帰ろうとするなんて、それは余りにも道理に反しているんじゃないのか?」

 

 すると、神フレイヤが思いも寄らない事を言おうとする。

 

「……確かに貴方の言うとおりね。その怒りは尤もだわ。だから……ごめんなさい、私が悪かったわ」

 

「なっ……」

 

「「フレイヤ様!」」

 

 いきなり神フレイヤが軽く頭を下げた事に俺が戸惑うだけでなく、【猛者(おうじゃ)】とアレンも目を見開いていた。

 

 ……何なんだ、あの女神は。さっきまで自分勝手に振舞っておきながら、それを急に謝ってくるって。

 

「どういうつもりだ? 都市最高派閥の主神様が、いきなり謝るなんて」

 

「貴方にはそうするだけの価値があるのよ」

 

「価値だと? どういう事だ?」

 

「うふふ、それはいずれ分かるわ」

 

 何かこの女神に気に入られたような感じがする。俺の思い過ごしで会って欲しいんだが。

 

 そう思ってると、神フレイヤは二人を連れて、どこかへ去ろうとする。

 

「それじゃあね、リヴァン。また会いましょう」

 

 俺に笑みを浮かべながら別れを告げて姿を消した。

 

 さっきまでの出来事が、まるで何事も無かったかのように静かになる。その数秒後には一般人の気配がして、話し声が段々聞こえてくる。

 

「……あの女神、一体何を考えているんだ……?」

 

 神フレイヤの行動に疑問を抱く俺は呟くも、それは誰も聞いておらず虚空となって消えていった。

 

 あとその他に、俺はあの女神に名前を名乗った記憶がないし、何で急に親しげに名前で呼んでくるんだ?

 

 

 

 

 

「フレイヤ様、本当に放っておいて宜しいのですか? アレは本来、始末する予定だった筈では……」

 

「気が変わったのよ。私の『魅了』を自力で弾いた時点から、リヴァンもあの子と同様、私の眷族(もの)になる資格が充分にあると分かったわ。だからそれを見極める為、暫くは様子見をしようと思ったの」

 

「……………………」

 

「アレンは不満なのかしら?」

 

「……恐れながら申し上げます。あのガキはフレイヤ様に楯突き、貴女様の慈悲によって生かされただけでなく、剰えあろう事か頭を下げさせました。これは到底許される事ではありません」

 

「いいのよ。私が頭を下げるだけで、穏便に済むなら安いものだわ」

 

「ですがフレイヤ様、もし【ロキ・ファミリア】の耳に入りでもしたら、少々面倒な事になるのでは?」

 

「その点は心配ないわ、オッタル。向こうも向こうで少々不味い事になっているのだから」

 

「と、仰いますと?」

 

「ついさっき小耳に挟んだのだけれど、どうやらロキの眷族(こども)達が遠征中に不手際を起こしたらしいの。それをリヴァンが表沙汰にした事で、恥を掻かされたみたいよ」

 

「では万が一、向こうがこちらの事を追究したとしても……」

 

「そう言う事よ。でも、あのロキの事だから、色々と根回しをするでしょうね」

 

「しかし、【ロキ・ファミリア】を黙らせる口実はあっても、あのガキがフレイヤ様を貶めるような事をすれば……」

 

「大丈夫よ、アレン。リヴァンはそんなおバカな子じゃないわ」

 

「何故、そう言いきれるのですか?」

 

女神(おんな)の勘ってところかしら。特に私の勘はよく当たるのよ」

 

「……そうですか」

 

「まぁ他にもあるのだけれど……」

 

「他にも?」

 

「ああ、ごめんなさい。今のは聞き流して。私の独り言だから。アレンだけじゃなくオッタルもよ。良いわね?」

 

「「かしこまりました」」

 

(………直接リヴァンに会って気付いたけど、妙な魂だったのよね。私ですら分からない何かが、リヴァンの魂を包み込んでいた。一体アレは何なのかしら? まぁリヴァンがあの子と同様、私の物になったその時は是非とも調べさせてもらうわ)




 お気付きの方はいるでしょうが、リヴァンの武器は外見を変化させた武器迷彩です。中身はちゃんとした武器を使っていますので。


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少年エルフ、自重する

 突然の【フレイヤ・ファミリア】遭遇だったが、俺はベルを探しに行こうとダンジョンへ向かった。

 

 1~6階層を探した結果、当たって欲しくない予想が的中した。6階層へ行ってやっと見つけたベルが、一人でモンスターを只管倒し続けていたから。

 

 本当ならすぐに駆け付けて加勢したかったが――

 

 

「やるんだ、やるんだ、やるんだぁぁぁ~~!! あの人に追い付く為にっっ!!」

 

 

「……………」

 

 ベルの叫びを聞いて、足を止めてしまった。

 

 あれは一人の男が決意した叫びだ。そんな時に俺が行ってしまったら、ベルの決意を踏み躙る事になってしまう。故に行けなかった。

 

 嘗て俺もベルと同じ経験をした事がある。故にアイツの気持ちは痛いほど分かる。

 

 アークスになって初の実戦をする為に数名の同期と一緒に惑星ナベリウスへ探索した際、自分だけ大した戦果を上げれずに帰還した事があった。

 

 他の同期から役立たずだのお荷物だのと、挙句の果てにはアークスを辞めろと罵倒され、それを事実と受け止めていた俺は何も言い返せなかった始末。同期達を見返す為に強くなろうと、今やってるベルみたいに只管戦い続けた。後になってカスラから怒られてしまったけど。

 

 そしてある程度の実力を身に付けて再び同期達に会おうとしたが、それはもう叶わなかった。理由は簡単。同期達が探索中に命を落としたからだ。

 

 俺より強い筈の同期達が死んだと聞いて、最初は信じられずに目を疑った。詳しく聞いたところ、同期達は他のアークス達より成果を出し続けて少々天狗になってしまい、難易度の高いクエストを受けた結果、帰らぬ人となってしまったようだ。

 

 その事をカスラに話すと――

 

『失敗や挫折を経験しない人間ほど脆いものです。こう言うのは不謹慎ですが、私は彼等に感謝しなければなりませんね。彼等が罵倒した事によって、今の貴方は私が予測した以上に強くなったのですから』

 

 同期達に憐れみと感謝の言葉を投げていた。一緒に話を聞いていたクーナさんも――

 

『大変に気の毒ですが、同情は一切しません。任務を甘く見ていた彼等の油断が命取りとなったのですから』

 

 ――と、大変厳しい言葉を送られた。

 

 まぁそれはそうと、ベルが【ロキ・ファミリア】の狼人(ウェアウルフ)に罵倒されて、この先どうなるかだ。今は強くなろうとモンスターを狩り続けているが、サポートする俺がいないままやってると力尽きてしまう。

 

 しかし、このまま何もしない訳にもいかないので――

 

(強くなれ、ベル。これが今俺に出来る、唯一のサポートだ)

 

 以前にギルドから貰った支給品の短刀を放り投げた。

 

 冒険者登録をした時に購入した物で、今は全然使っていない。自身の武器と比較する為に使ってみたのだが、余りにも威力が低すぎて使い物にならなかった。それ故にお蔵入りとなっている。

 

 今の俺に短刀は全く不要だが、現在モンスターと全力で戦っているベルには必要だ。今のアイツも同様の短刀を使っているので、使うのに何の問題もない。

 

 

「? これって……よし!」

 

 

 突然、自分の近くに短刀が落ちていた事に気付くベルは戸惑いの様子を見せたが、好機と捉えてすぐに拾った。

 

 二振りの短刀を持ったベルが、さっきと違って攻撃の回数が増えている。それによってモンスター達は次々と倒されていく。

 

(ベル、頑張れよ……)

 

 すべき事を終えた俺はベルにエールを送りながらダンジョンから出ようとする。

 

 来た道を戻っている最中、周囲の壁からビキビキと罅が入り始めた。その数秒後には、無数のモンスターが出現する。

 

「邪魔だ」 

 

『―――――!!』

 

 俺が慌てる事無くエールスターライトの短杖(ウォンド)形態で舞うように攻撃すると、襲い掛かって来たモンスター達は簡単に斬り裂かれ、音にならない断末魔を打ち上げた。魔石も同時に斬ってしまった為、モンスター達の総身が灰へと果てる。

 

 それじゃあ、ベルがダンジョンから戻る際、帰還中に襲われないようある程度は片付けておくとするか。

 

 

 

 

 

「……ねぇリヴァン、一体何考えてるの? ……エルフなのにバカなの? アホなの? 何で大物【ファミリア】に喧嘩売ったの? ……そこをもっと詳しく教えてくれない?」

 

「で、ですから……!」

 

「これナァーザ、リヴァンを怖がらせるでない」

 

 本拠地(ホーム)へ戻った俺は、ミアハ様とナァーザさんに事情を説明した。酒場で【ロキ・ファミリア】とやらかし、更には裏通りで【フレイヤ・ファミリア】と遭遇した事を。流石にベルの事は伏せたが。

 

 都市最大派閥の名前が二つも出た事に、ミアハ様は無事でよかったと凄く安堵していたが、ナァーザさんが『もうダメ、【ミアハ・ファミリア】が無くなっちゃう……』と言いながら倒れた。

 

 ナァーザさんの反応は物凄く分かる。俺が超有名【ファミリア】相手に喧嘩を売った事に加え、更には謝罪までさせた。うちみたいな零細【ファミリア】の冒険者が決して許される事ではない。

 

 その後には虚ろ目となり、暗い雰囲気を漂わせながら詰め寄ってくるナァーザさんが物凄く怖かった。まるで幽鬼みたいな恐怖の存在となっていたので。

 

 結果として、俺は謹慎処分を下される事となった。有名な二つの都市最大派閥に喧嘩を売ったのだから、暫く本拠地(ホーム)で身を隠した方がいいと言う理由で。

 

 因みに謹慎となっているから、ベルとのダンジョン探索も当然無い。翌日以降にはナァーザさんが直接【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)へと行って、事情を説明してくれるそうだ。

 

 

 

 

 

 

「あ~、久々のお出掛けだぁ~」

 

 謹慎して数日後。本拠地(ホーム)から出た俺は街を歩いていた。

 

 今日は年に一度開催される怪物祭(モンスターフィリア)があるので楽しむ予定となっている。因みにミアハ様とナァーザさんは怪物祭(モンスター・フィリア)に興味がないようで、本拠地(ホーム)に残るようだ。

 

 俺が出掛ける事にナァーザさんが最初に難色を示すも、ミアハ様の説得もあって何とか許可してくれた。その代わり、『絶対に目立つ行動はしないように』と、キツく念を押されているが。

 

 本当だったらベルと一緒に行こうと思っていたが、【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ行っても誰もいなかった。恐らく主神と一緒に怪物祭(モンスターフィリア)へ遊びに行ったと思い、一人で祭りを楽しむ事にした。

 

(何か久しぶりに見た気がする……)

 

 メインストリートを歩いている中、まるで懐かしむような感じになっていた。この数日、ずっと本拠地(ホーム)で謹慎してたので。

 

 周囲を見渡しながら先へ進んでいると、前にベルと食事した酒場――『豊穣の女主人』を見付けた。それを見た俺はこの前の嫌な事を思い出すが、すぐに頭を振り払って忘れる事にする。

 

 そのままスタスタと酒場を通り過ごした瞬間――

 

「あっ! この前、白髪頭と一緒にいた山吹頭ニャ!」

 

 白髪頭と言う単語に思わず反応して、俺は思わず足を止める。

 

 声のした方へ振り向くと、『豊穣の女主人』の店先で、猫人(キャットピープル)の少女が、俺に向かって指をさしていた。

 

 ……シルさんと同じ制服を着てるって事は、あの酒場のウェイトレスだな。ついでに、山吹頭とは確実に俺の事を言っているのであろう。俺の髪は山吹色なので。

 

 取り敢えず、失礼な呼び名で言うウェイトレスは無視させてもらう。この前会った、アレンと言う猫人(キャットピープル)の所為で不快な気分にさせられたので。

 

「ちょっ! 山吹頭、無視するんじゃないニャ!」

 

 こっちに来いと言ってくる猫人(キャットピープル)のウェイトレスに、俺は苛立ちを抑えながらも一先ず駆け寄る事にした。

 

「何かご用ですか、茶髪猫さん」

 

「ニャ!? 誰が茶髪猫ニャ! 失礼な奴だニャ!」

 

 人に山吹頭と呼んでおいて、自分はダメなのかよ。猫人(キャットピープル)って自分勝手な種族なのか?

 

 全ての猫人(キャットピープル)に喧嘩を売るような事を考えながらも、プンスカと憤慨してるウェイトレスは更に捲し立てる。

 

「山吹頭、よく覚えておくニャ! ミャーにはアーニャと言う名前があるニャ! 今度またミャーの事を茶髪猫なんて呼んだら成敗するニャ!」

 

「……はいはい、気を付けますよ。茶髪猫さん」

 

「ニャ~~~~!? また言ったニャ~~~!!」

 

 再び茶髪猫と言った直後、猫人(キャットピープル)ウェイトレス――アーニャは毛並みを逆立てる。

 

「ミャーの警告を無視するとは良い度胸してるじゃニャいか、山吹頭! ミャーを怒らせた事を後悔させて――」

 

「止めなさい、アーニャ」

 

「ふギャ!」

 

 俺に襲い掛かろうとするアーニャに、いきなり現れたエルフのウェイトレスが阻止しようと、彼女の頭にチョップを当てた。

 

 猫人(キャットピープル)に続いて、今度は同胞(エルフ)か。

 

「~~~~! リュー、いきなり何するニャ!?」

 

 痛みに悶えていたアーニャは、攻撃をしたエルフのウェイトレス――リューと言う女性に抗議した。

 

「貴女こそ何をやろうとしていたのですか?」

 

「この失礼な山吹頭が、ミャーを茶髪猫と呼んでくるから成敗するんだニャ!」

 

「そうですか。ですがアーニャ、先程から彼の事を『山吹頭』と失礼な事を言ってるのですが」

 

「ニャ?」

 

 リューさんが指摘した事により、アーニャはさっきまでの怒りが急に収まった。

 

 数秒後、う~んと何かを思い出すような仕草をしながら首を傾げてる。

 

「え~っと、ミャーも失礼な事を言ってたかニャ?」

 

「……同胞のウェイトレスさん、この人はもしかしてアレですか?」

 

「はい、それもかなり」

 

 おバカと言う単語を敢えて使わず、自身の頭を指で突っつきながら問うと、それが伝わったリューさんはコクンと頷く。

 

「ニャー! なにエルフ同士しか分からない会話をしてるニャ!? ミャーにも教えるニャ!」

 

 別にエルフとか関係ないんだが……まぁ、いちいち言う事じゃないから気にしないでおこう。

 

 リューさんも俺と同じ考えなのか、何も言わずに嘆息している。

 

 因みにこの後、リューさんは俺に『リュー・リオン』と自己紹介してくれた。呼び方は自由にしていいと言われたので、取り敢えずリューさんと呼ぶ事にする。

 

「ところでアーニャさん。話を戻しますが、俺に一体何の用ですか?」

 

「ニャ? ………あ~、すっかり忘れてたニャ」

 

 俺が用件を問うと本当に忘れていたのか、アーニャは思い出したような顔をした。

 

 用件を忘れていた上に、俺に失礼な呼び名をしてた事も忘れてるって……この人、本当に大丈夫なのか?

 

 内心、本当にウェイトレスとしてやっているのかと不安に思ってる中、アーニャは用件を話そうとする。

 

「おミャー、白髪頭に話してなかったのかニャ? 一昨日に白髪頭が店にやってきて、おミャーが払った筈の金を払おうとしてたニャ」

 

「え?」

 

 ベルの奴、俺が料理代を払った事を聞いてないのか?

 

 …………って、よくよく考えてみたら教えてなかった。あの後には色々な事があった上に、本拠地(ホーム)で謹慎してたから、ベルが知らないのは当然だ。

 

 あちゃ~、これは完全に俺のミスだ。無駄足を踏ませてしまったベルには、後で謝っておかないと。

 

 俺の表情を見てベルに話してない事が分かったのか、アーニャは少し小馬鹿にしたように笑い始める。

 

「ニャハハ。おミャーも案外おっちょこちょいなんだニャ。まるで財布を忘れたシルみたいニャ。ま、今頃は白髪頭が財布を届けている筈だから大丈夫の筈ニャけど」

 

「シル?」

 

 その名前は確か、俺達を案内してくれた人間(ヒューマン)のウェイトレスだったな。

 

 あのウェイトレスがおっちょこちょいとは凄く意外だ。ベルにお金をたくさん使わせようと、女将さんに有ること無いこと言って嵌めようとしてたのに。

 

 と言うか今、何か気になる内容を言ったな。

 

「ベルが財布を届けてるってどういう事ですか?」

 

「ついさっき白髪頭が来たから、店番サボって祭り見に行ったシルに、忘れて行った財布を届けて欲しいと頼んだニャ」

 

 店番サボって祭りを見に行ったって………色々と突っ込みどころのある人なんだな、シルさんは。

 

 すると、途中から話を聞いていたリューさんが割って入ろうとする。

 

「アーニャ。先程クラネルさんに言った通り、シルは休暇を出して祭りへ行ったのです」

 

「どっちにしても同じニャ! 今は怪物祭(モンスターフィリア)で忙しいのに、休暇を出すなんてあり得ないニャ!」

 

 成程、さぼりではなく休暇だったのか。俺には如何でもいい事だが。

 

 あ、そうだ。ついでだから、アーニャに訊いてみるか。この前、神フレイヤと一緒にいて攻撃してきた、アレンって猫人(キャットピープル)について。【猛者(おうじゃ)】オッタルは知ってるんだが、アレンについての情報は全くなかったので。

 

「アーニャさん、俺からも聞きたい事があるんですが」

 

「何ニャ?」

 

「アレンという猫人(キャットピープル)について知ってますか?」

 

「!」

 

 俺が質問をした瞬間、さっきまで能天気そうな表情をしていたアーニャは途端に驚愕を露わにした。リューさんも少し意外そうな顔をしている。

 

 ……何なんだ、この反応は? もしかして俺、訊いちゃいけない事を訊いてしまったのか?

 

「……………………」

 

「どうしたんですか、アーニャさん?」

 

 いきなり無口になったアーニャに俺が問うも――

 

「……さ、さぁニャ~。ミャーはそんな男の名前ニャんて知らないニャ~」

 

 目を泳がしながらしらばっくれた。

 

 明らかに知っていますと言う反応だな。それに俺はアレンを『男』だなんて言ってもいないのに、自分から喋っちゃってるし。

 

 しかし、アーニャの様子からして、余り教えたくないようだ。雰囲気が丸分かりなので。

 

「そうですか。変な質問をしてすいませんでした」

 

「ま、全くニャ! さぁ~て、ミャーはこれからお掃除ニャ~」

 

 しどろもどろになりながらも、仕事を始めようと店の中へと引っ込んでしまった。

 

 今この場には俺とリューさんしかいない。

 

「因みに、一体どんな関係なんですか?」

 

「私としてはそれ以前に、何故ウィリディスさんが【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】の事を訊いてくるのかが疑問なのですが」

 

 俺がアーニャとアレンが関係者だと見抜いた事を分かっているリューさんが、不審に思いながら疑問をぶつけてきた。

 

 【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】、ねぇ。あの口の悪いクソ猫にしては、随分と御大層な二つ名だ。って、俺も口が悪くなってた。反省しないと。

 

「まぁ、ちょっと訳ありとだけ言っておきます」

 

 数日前にアレンと戦う事態に発展しそうになった、なんて流石に言えやしない。

 

 適当に誤魔化しながらリューさんと一通り話を終えた後、俺は怪物祭(モンスター・フィリア)の目玉である闘技場へ向かう事にした。




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少年エルフ、トラブルに遭遇する

「ん~、ベルが見当たらないなぁ……」

 

 リューさんと話し終えた後、闘技場へ向かいながらベルを探すも中々見付からなかった。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)が開催されてる事で、闘技場へ向かう道の周囲には屋台や出店などがある為、住民や冒険者と思われる人がたくさんいる。こんな大勢がいる中、特定の人物を探すのは流石に無理と言わざるを得ない。

 

 つい先ほど屋台で売られているジャガ丸くんを二つ購入し、食べ歩きながらゆっくりと歩き回っている。因みにジャガ丸くんには色々な味があったが、ソース味と塩味を選んだ。小豆クリーム味と言う甘そうなやつもあったけど、惣菜として食べたかったから敢えて選ばなかった。既に一つ目のソース味を食べ終えて、今は塩味を堪能している。

 

「う~ん……塩味も良いけど、やっぱりソース味がいいかな」

 

 買ったジャガ丸くん二つ目を食べながら味を比較している中、ふと誰かにぶつかりそうだったので俺が咄嗟に避けようと――

 

「おや、貴方は……」

 

「ん? ああ、これはこれは」

 

 したが、銀髪の女性が俺を見た途端に声を掛けてきた。反応した俺が振り返ると、以前【ミアハ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ来た、【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド・テアサナーレさんだ。互いに相手が知り合いだったので、俺とアミッドさんは揃って足を止めている。

 

 ナァーザさんは『優等生の皮を被った根暗聖女』と言っていたが、初めて会った時にはとてもそんな風には見えなかった。俺がそう疑問を投げても、表面上に騙されてはいけないと言った後、思いっきり彼女を貶すような説明をされたが。

 

「どうも。お会いするのは二度目ですね、テアサナーレさん。あの時はウチの団長と口喧嘩してましたが」

 

「………すみませんが、それは忘れて下さい」

 

 俺が以前に来た時の事を言うと、アミッドさんは恥ずかしそうに少し顔を赤らめながら言い返した。

 

 前に彼女が一人だけで本拠地(ホーム)へ来て借金の返済を催促した際、ナァーザさんが彼女の神経を逆撫でするような事ばかり言っていた。アミッドさんも我慢の限界が訪れたかのように、ナァーザさんと取っ組み合いに発展する始末だ。その時はミアハ様が仲介に入って何とか止めてくれたが。

 

「ゴホンッ……。ところで、ウィリディスさん。【ミアハ・ファミリア】に入ったばかりの貴方に訊くのは少々気が引けるのですが、次の返済までは大丈夫でしょうか?」

 

 話題を変えたかったのか、アミッドさんは表情を切り替えながら訊いてくる。

 

 普通ならそう言う事は俺じゃなくてナァーザさんかミアハさんのどちらかが答えるべき質問だ。けれどこの人は俺がダンジョンでお金を稼いでいる事を知っている。だから、俺に返済出来るかを確認しているのだ。

 

「ええ、まあ。期日までには何とか……」

 

「そうですか。それを聞いて安心しました」

 

 ベルとダンジョン探索をして以降に稼ぎが少なり、更にそれを半分ずつにしてる事でナァーザさんの機嫌が悪くなっている。今まで数万ヴァリス稼いでいたのに、それがいきなり半分以下となったからな。あの人がそうなるのは無理もない。

 

 しかし、明日以降は暫く俺一人でダンジョンに行く事になる予定だから、いつものように稼げば大丈夫だ。まぁその分、今までの分を取り戻す為に、いつも以上に頑張らないといけないが。

 

 俺の返答を聞いて多少安堵したのか、アミッドさんはこう言ってくる。

 

「ウィリディスさん。私が言うのもなんですが、あまり無理はなさらないで下さい。貴方に何かがあれば、ミアハ様やナァーザだけでなく、貴方の従姉であるレフィーヤさんも悲しみますから」

 

「大丈夫ですよ。俺はこう見えて、それなりに鍛えて……あれ?」

 

 オラクル船団でアークスの訓練を受け、そしてエトワールクラスとなってる俺はそれなりの実戦経験を積んでいる。上層のモンスター程度相手にやられたりしない。けれど、油断し過ぎてると死んでしまう可能性がある。攻撃は緩めても警戒だけは怠るなと、カスラやクーナさんに教えられているので。

 

 そう思ってる中、アミッドさんの台詞に違和感があった。

 

「ちょっと待って下さい、アミッドさん。何で俺があの人の従弟だって、貴女が知ってるんですか?」

 

「この前、遠征から戻った【ロキ・ファミリア】がウチの治療院へいらした際、レフィーヤさんからお聞きました。お二人のファミリーネームが一緒だったので、少しばかり気になりまして」

 

「ああ、そう言う事ですか」

 

 確かにアミッドさんからすれば気になるだろうな。俺とあの人のファミリーネームは同じだから。

 

 レフィ姉さんも聞かれたから答えたんだろうが、あまり知り合いには言わないで欲しい。零細の【ミアハ・ファミリア】にいる俺が、レフィ姉さんのいる【ロキ・ファミリア】という大物派閥と比較されて、周りから何を言われるか分かったもんじゃない。

 

「しかし、レフィーヤさんの従弟であるならば、貴方も【ロキ・ファミリア】に入団してもおかしくないと思うのですが」

 

「あの人と再会したのは、俺が【ミアハ・ファミリア】に入団した後なんです。諸事情があって詳しく言えませんが、小さい頃に事故で生き別れとなってまして……」

 

「……そうでしたか。無粋な事を訊いてしまい、大変失礼しました」

 

 事情を察してくれたアミッドさんは、すぐに頭を下げて謝罪した。

 

 気にしてないと言って頭を上げるように促した後、俺は話題を変えようとある事を質問しようとする。

 

 どうやら彼女は休日で怪物祭(モンスターフィリア)へ来たようだ。けれど本人曰く、『やる事がない為、どこかに怪我人がいないか歩き回っている』らしい。

 

 この人の事は余り知らないが、凄く真面目な人だと言うのはよく分かった。同時に、ナァーザさんが思ってるような人ではないと言う事も。

 

 そう思いながらも、俺は白髪の少年――ベルを見かけなかったのかを確認しようと――

 

 

「モ、モンスターだぁぁぁぁあああああああ!」

 

 

 突如、先程まで賑やかだった周囲の話し声が、喧騒を突き破る叫び声によって一気に変わった。

 

 それを聞いた俺とアミッドさんだけでなく、周囲の人達も声がした方へと視線を向ける。

 

 その先には住民達が必死な顔をしながら、我先にと逃げ出そうとしている。それもその筈、巨人型のモンスターが此方へと向かっているから。

 

「あれは『トロール』……!」

 

 モンスターを見てアミッドさんが驚愕する。

 

 確かトロールはダンジョン20階層以降に現れるモンスターだったな。俺はまだ上層までしか探索してないから、中層以降はまだ先の予定だ。

 

 それはそうと、何故この街中でモンスターが出現したんだ? もしかしてアレは、今回の怪物祭(モンスターフィリア)で使う予定のモンスターなんだろうか。

 

 ミアハ様やナァーザさんから、怪物祭(モンスターフィリア)はモンスターを調教(テイム)するとは聞いた。そう考えると、あの見るからに凶暴そうなトロールもその内の一つだとしたら、一体どうやって調教(テイム)するのか少しばかり気になる。

 

 まぁ、今はそんな事どうでもいい。一先ずあのモンスターを如何にかしないとな。この周囲にいる人達に冒険者は何人かいるが、自分では勝てない相手だと見たのか、一般人と同じく逃走している。

 

 ちょっとは挑む姿勢くらい見せて欲しいなぁと少々呆れながらも、俺はエールスターライトを両剣(ダブルセイバー)形態として展開する。

 

「! お待ちなさい、ウィリディスさん! どこへ行くおつもりですか!?」

 

「どこへって……あのモンスターを倒そうと思ってますが、ダメなんですか?」

 

 何当たり前な事を訊いているんだと内心呆れながら言う俺に、アミッドさんは俺の腕を掴んで阻止してきた。

 

「当たり前です! まだ新人冒険者の貴方では勝てるモンスターではありません!」

 

「そうは言っても、ここは冒険者の誰かが止めないと危ないですよ。俺より先輩らしき、他の冒険者達も逃げていますし」

 

「うっ……で、ですが……!」

 

 俺の台詞に言い返せなかったのか、口籠ってしまうアミッドさん。

 

 一般人や冒険者が逃げ惑っている中、トロールは周囲の事を気にせず只管進んでいる。そして、俺とアミッドさんとの距離も近くなってきた。

 

「ウィ、ウィリディスさん! ここは私が時間を稼ぎますから、貴方は早く逃げて下さい!」

 

「いやいや、いくら貴女でも素手で挑むのは無茶だと思いますが……」

 

 俺の前に出て、逃げろと言ってくるアミッドさんの台詞に呆れた声を出した。

 

 聞いた話だとアミッドさんは『Lv.2』で、後方支援の治療師(ヒーラー)らしい。いくらこの人が俺よりレベルが上でも、まともな攻撃手段を持ち合わせてない状態でモンスターに挑むのは無謀だ。

 

 それに、俺としても彼女を置いて逃げる気なんか毛頭無い。もしも【ディアンケヒト・ファミリア】にいる主神に知られたら、きっと何かしらの報復措置をやってくるかもしれないので。

 

「取り敢えず俺に任せておいてください、テアサナーレさん」

 

「なっ! ちょ、ウィリディスさん!」

 

 再び前に出て、引き留めようとするアミッドさんを振り切った俺は進んでいるトロールの元へと向かう。

 

 すると、俺が向かってくると分かったのか、向こうは進んでいる足を止める。

 

 遠くからでも分かってはいたが、間近で見るとやっぱりデカいなぁ。

 

『ガァァァァアアアアアア!!』

 

 俺が冷静に観察してると、自分をジロジロと見られる事で不快そうに叫ぶトロール。その直後、片方の大きな腕を俺目掛けて振り下ろそうとする。

 

 相手の攻撃に慌てず素早く回避しようと跳躍し、簡単に跳び越えた俺は反撃に移ろうと、トロールの頭目掛けて、(かかと)落としと同時に目の前に両剣(ダブルセイバー)を叩きつける。

 

『ゴッ!』

 

 攻撃を喰らったトロールは激痛によって顔を歪ませるも、俺は気にせずフォトンで作られた巨大剣を形成して蹴り放つ。

 

 巨大剣が命中した瞬間、さっきまであった筈の上半身が粉砕される。核である魔石を失った為か、残った身体は灰となっていった。

 

「よっと……ま、こんなもんか」

 

 空中で巨大剣を蹴り放って宙返りしている俺は、体勢を整えながら地面に着地した。トロールが灰となって絶命したと確認した俺はまずまずの結果だと判断する。

 

 因みにさっき使ったのは、踵落としと同時に放った攻撃の後、大きなフォトン刃を目標に蹴り放つ両剣(ダブルセイバー)エトワール用フォトンアーツ――セレスティアルコライド。エトワール用両剣(ダブルセイバー)で、単発火力の高いフォトンアーツだ。

 

 見ての通り、トロールの身体を簡単に吹き飛ばす威力で、止めを刺す時に有効でもある。本来だったら他のフォトンアーツと一緒に合わせて使うものだが、街中である為にすぐに倒そうと初手で決めた。

 

 下層モンスターでも意外と大した事無かったなと思いながら、アミッドさんのいる所へと戻る。

 

「どうです、テアサナーレさん。俺も充分にやれるって分かったでしょう?」

 

「………………………」

 

 俺が少し自慢気に言うも、アミッドさんは聞いてないのか、口を開けたまま呆然となっていた。

 

「テアサナーレさん? お~い、聞こえてますか~?」

 

 両剣(ダブルセイバー)を持ってない片手で、彼女の顔の前で手を振ると、漸く意識が取り戻したようにハッとする。

 

「ウィ、ウィリディスさん、い、い、今のは、一体……? 先程、巨大な剣を……」

 

「ん~……敢えて言うなら、俺が魔力で作った剣、みたいなものです」

 

 この世界ではフォトンという概念がない。だから敢えて魔力で通す事にした。まぁ誤魔化しても、さっきの剣は俺が作った事に変わりないので。

 

 アミッドさんはまだ頭の処理が追い付いてないのか、未だ片言に近い状態だ。

 

 あ、そう言えばベルは大丈夫かな? 脱走したモンスターに襲われてなければいいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって闘技場にある天頂部分の柱。その上に立っている金髪の少女が街の周囲を俯瞰していた。

 

「……嘘。トロールを一瞬で倒した」

 

 金髪の少女――アイズ・ヴァレンシュタインが目を見開きながら、信じられないように呟く。

 

 彼女が此処にいるのには理由がある。

 

 ついさっき、ギルドから闘技場にいた一部のモンスターが脱走したので手を貸して欲しいと懇願された。断る理由がないとアイズは頷き、同行していた主神のロキも承諾している。

 

 ロキからの指示により、『高所から敵の位置を掌握してから、早急に狙い撃て』と指示により、闘技場の柱の上に立って周囲を見渡していた。

 

 アイズが肉眼でモンスターを補足している最中、あるものが視界に入った瞬間に止めた。彼女の見ている先には巨人のモンスター――『トロール』の他に、あの時の少年がいた。数日前、宴の時にベートが面白可笑しく謗った事を抗議したエルフの少年が。

 

 エルフの少年が酒場からいなくなった後、アイズは数日の間、非常に申し訳ない気持ちになって落ち込んでいた。今は一通り落ち着いて、もし会ったらあの時の事を謝ろうと決めている。エルフの少年の他に、人間(ヒューマン)の少年にもちゃんと謝ろうと。

 

 人間(ヒューマン)の少年は未だに名前は分からないが、エルフの少年は既に判明していた。彼はレフィーヤの従弟で『リヴァン・ウィリディス』。並びに【ミアハ・ファミリア】に所属していると。

 

 名前と所属先のファミリアが分かったから、近い内に彼の本拠地(ホーム)に訪れて謝ろうと思っていた。レフィーヤも従姉として、もう一度謝りたいと言ったので、断る理由がないアイズは当然承諾している。

 

 そんな予定を立てていた際、予想外と言わんばかりに再びリヴァンを見付けた。あろう事か、一人で『トロール』に挑もうとしている所を。

 

 レフィーヤからの話で、リヴァンは冒険者になったばかりの『Lv.1』だと聞かされた。不思議な武器を使ってモンスターを一撃で倒していた、と含めながら。興味深いと思ったアイズは、機会があれば見せて貰おうとも考えていたのは内緒だ。

 

 しかし、いくら腕が立つと言っても、『Lv.1』のリヴァンがトロールに挑むのは無謀だった。ダンジョン20階層より下層から生まれるモンスター相手に、『Lv.1』の冒険者が一人で挑むのは自殺行為も同然だと。

 

 すぐに助けようと、即座に風魔法を展開してリル・ラファーガを使おうとしたが、すぐに止めてしまった。何故なら、リヴァンがトロールの攻撃を回避して跳躍しただけでなく、反撃をして簡単に倒してしまったから。

 

 それらを見ていたアイズは、未だに自分の目が信じられなかった。リヴァンがトロールを簡単に倒したのが余りにも予想外だったので。

 

 普通に考えて、それは絶対にあり得ない。当時『Lv.1』の自分(アイズ)でも、一人でトロールを倒す事が出来なかった。

 

 なのに、リヴァンはやった。『Lv.1』でありながらも、いとも簡単に倒した。その為に――

 

(知りたい。『Lv.1』でありながらも、どうやってあれだけの力を得たのかを……!)

 

 アイズは知りたい欲求に駆られ、今すぐに問い質したい気持ちでいっぱいだった。

 

 けれど、それはすぐに収まる。ロキからの指示を思い出したアイズは、一先ず後回しにしようと脱走したモンスターを仕留める事に頭を切り替える。

 

(あのリヴァンって子、一体何者なの?)

 

 アイズはモンスターを倒しながらも、トロールを簡単に倒したリヴァンについて考えているのであった。




一先ず怪物祭はこれで終わりです。


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幕間

久しぶりの更新ですが、今回は殆ど説明同然の内容です。


 怪物祭(モンスター・フィリア)にて起きた騒動は漸く鎮静化した。

 

 【ガネーシャ・ファミリア】とギルドの他、他組織の迅速な対処によって被害を最小限に留めたらしい。後になって知ったが、ベルは神ヘスティアと共にシルバーバックに襲われて一番の被害を受けたそうだ。

 

 今回の騒動を巻き起こした犯人は未だに不明で、何の手掛かりも掴めていないそうだ。その結果、犯人の動機が一切不明のまま、迷宮入り同然となって収束された。

 

 因みに俺はトロールを倒した後、処理が追い付いてないアミッドさんを安全な場所へ連れて行く為に、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院へと向かった。けれど、彼女は怪我人を放っておけないと、騒動で怪我をした住民や冒険者達の治療をする為にUターンする事となった。

 

 治療を終えた後、万が一の為に俺が護衛として治療院へ連れて行くも、そこにいた神ディアンケヒトから因縁をつけられた。俺が【ミアハ・ファミリア】の眷族と言う事もあるから、アミッドさんを助けたと言う恩を理由に借金をチャラにさせようと言う下らない事を考えていたそうだ。ナァーザさんだったらやりそうだと内心思うも、一先ずは違うと言ってさっさと退散した。

 

 『青の薬舗』に戻った俺は、一連の騒動について報告をした。ミアハ様は『リヴァンに怪我がなくて良かった』と安堵してくれたが、問題はナァーザさんだった。特にアミッドさん関連で、『あんな根暗聖女を助けなくても良かったのに……』とか『ディアンケヒトの爺に恩を着せれば借金チャラに出来たのに……』とネチネチ言われる始末。尤も、彼女の発言に聞き捨てならなかったミアハ様によって窘められてしまう事になったが。

 

 色々と大変な日だった翌日以降、俺はナァーザさんの約束通り、ダンジョンの単独(ソロ)活動をする事になる。ベルとコンビを組んで稼ぎが少なくなっており、それを補う為にたくさんお金を稼がないといけないので。

 

 ダンジョン上層のモンスターは自分にとって何の脅威にもならない。エトワールクラスになってる俺の防御力は鉄壁並みの事もあって、攻撃を受けても掠り傷程度のダメージにしかならなく、武器の通常攻撃で簡単に倒している。もし毒などの状態異常になった場合、ストームシェードに搭載されているアンティで治療すれば良いだけだ。

 

 もっと効率の良い稼ぎを実行しようと、食糧庫(パントリー)へ向かった。そこは腹を空かせたモンスター達にとっての栄養源である場所で、俺にとっては絶好の狩場だった。

 

 食糧庫(パントリー)は本来、他の冒険者達からすれば基本的に目的がない限り立ち寄ろうとしない他、少しでも間違えればダンジョン中からやってくるモンスターの物量に押し潰される危険がある。故に冒険者が此処を戦場に選ぶ事は滅多にいない。

 

 それを考えれば一人で行く俺は無謀だと思われるだろうが、上層のモンスター程度で遅れを取ったりしない。大量のダーカー種に襲われた地獄に比べれば可愛いものだ。

 

 

 

 

「さて、来たのは良いんだが……」

 

 ダンジョン7階層にある食糧庫(パントリー)に入り、巨大な緑水晶の柱に辿り着いた。石英(クオーツ)の樹木となっている柱から、透明な液体が染み出ており、根元には滴り落ちた液によって大きな泉が作られている。

 

 その液体を求めるように多くのモンスターが樹木に張り付き、泉で喉を潤しているのもいた。

 

 だが――

 

『ギギギギギギッ!』

 

『キュー!』

 

『――――!』

 

 冒険者の俺が隠れる事無く堂々と入り込んだ事に気付いたのか、『キラーアント』や『ニードル・ラビット』、『パープル・モス』が一斉に俺を包囲してきた。特にキラーアントは仲間を呼び出したのか、モンスターの中で一番多い。

 

 モンスター達からすれば、食事の邪魔をしてきた冒険者(おろかもの)としか見てないだろう。

 

 端から見たら絶体絶命の状況だが、俺は慌てる事無くエールスターライトの短杖(ウォンド)形態を展開し、空いている片手を真っ直ぐ伸ばす。

 

『ギギギギッ!!』

 

 俺が攻撃を仕掛けると思ったみたいで、大量のキラーアントが一斉に動き出した。

 

 数で圧し潰すつもりなのか、一部が跳躍して襲い掛かろうとしている。

 

 キラーアントの前進と跳躍による突進攻撃で俺を覆いつくそうとするも――

 

「残念だったな」

 

『ギッ!?』

 

 数歩手前で動きが止まる事となった。

 

 俺が片手を前に出した瞬間、自身の周囲に球状のプロテクトバリアを張ったので攻撃を防いだのだ。今は周囲全体に大量のキラーアントがバリアに張り付いている。

 

 これは当然エトワールクラスの防御スキルで、敵の攻撃を防いでくれる。凄く便利な物であるが、ずっと展開しているとギアが消費するので、無くなった途端にバリアは消えてしまう。

 

 しかし、ギアを消費している際に俺の周囲を張っているバリアはどんどん大きくなっていく。その直後――

 

「プロテクトリリース」

 

『―――!?』

 

 俺がプロテクトバリアを解放した瞬間、吹き荒れるような球状の衝撃波が放たれた。

 

 張り付いていたキラーアントだけでなく、周囲にいるのも含めて全て吹き飛ばされている。

 

 衝撃波を直撃したモンスターは当然絶命しており、残りは突然の展開に困惑している様子だ。

 

「それじゃあ本格的に始めようか。言っておくが、一匹たりとも逃がさないからな」

 

 俺の台詞にモンスター達は漸く理解したようだ。自分達が狩る側ではなく、狩られる側だと言う事を。

 

 しかし、そんな心情を如何でもいいと思っている俺は、作業同然の戦闘を開始する。

 

 因みにモンスターの中に、ブルー・パピリオと言うモンスターも含まれていた。尤も、それは他と違って戦う力がないからか、俺がモンスターを蹂躙しているのを見て逃げ出そうとしている。

 

 確かアレは滅多に見ない『希少種(レアモンスター)』らしく、ドロップアイテム――『ブルー・パピリオの(はね)』も価値が高いとナァーザさんが言っていた。もし遭遇したら必ず倒して、ドロップアイテムも入手して欲しいと。

 

 折角なので倒す事にしようと、俺は逃げようとする群れのブルー・パピリオを追いかける事にした。そして運良くドロップアイテムも回収して、合計八枚の翅も手に入れる事に成功する。

 

 食糧庫(パントリー)にいるモンスターをずっと狩り続けた事により、電子アイテムパックに収納している魔石の数が相当溜まったので、また今度にしようと帰還する事にした。

 

 翌日には8階層の食糧庫(パントリー)、翌々日には9階層の食糧庫(パントリー)と、上層の食糧庫(パントリー)に行ってはモンスターを大量に狩り続ける日々を送った事により、合計十万ヴァリス以上稼ぐことが出来た。上層モンスターの魔石やドロップアイテムに大した価値が無くても、塵も積もれば山となる。それを知ったナァーザさんは物凄くホクホク顔なったのは言うまでもない。

 

 ナァーザさんは俺がブルー・パピリオの翅を入手したのを知って、後日にモンスターの『卵』も採取しようと都市を出る事となった。それで新薬――『二属性回復薬(デュアル・ポーション)』を作る事に成功し、【ディアンケヒト・ファミリア】の借金支払い分に届く事となる。

 

 それとは別に、問題が発生した。アドバイザーのミィシャさんに報告をした際、俺が食糧庫(パントリー)で荒稼ぎした事を知った直後、一人で行くのはもうダメだと滅茶苦茶怒られた。『Lv.1』の自分が単独(ソロ)で行くのは余りにも危険過ぎると。その結果、俺は上層の食糧庫(パントリー)に一人で行く事を禁止される破目となり、通常のダンジョン探索をする事となってしまう。

 

 借金返済の為とはいえ、作業同然になっているダンジョン上層の単独(ソロ)探索にいい加減飽きて、そろそろ中層に行こうかと思った際、久しぶりに再会したベルから面白い話を聞く事になった。




面白くない内容だと思われますが、どうかご容赦ください。

感想お待ちしています。


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少年エルフ、ベルと再会する

今回は凄く短い内容です。


「へぇ、凄いじゃないか。おめでとう」

 

「ありがとう、リヴァン」

 

 久しぶりに会ったベルの話を聞いて俺は祝福した。

 

 何日か前、ベルは『Lv.2』にランクアップしたそうだ。しかも到達期間が約一ヵ月半で。

 

 ミアハ様やナァーザさんの話では、レベルの上昇には相応の【経験値(エクセリア)】を獲得の他、『偉業』を成し遂げなければならない。『Lv.1』の冒険者がランクアップする際、数年掛かるのが常識となっている。因みにナァーザさんが『Lv.2』になるのには六年掛かったらしい。

 

 だと言うのに、ベルはそんな常識を物の見事に壊すような偉業を達成してランクアップした。はっきり言って異常としか言いようがない。後でミアハ様達に確認する必要がある。

 

 何でもダンジョン9階層でミノタウロスと遭遇し、これを撃破した事で『Lv.2』に至ったらしい。

 

 それを聞いて俺は疑問に思った。何故中層にしかいない筈のモンスターが、またしても上層に現れたのかと。

 

 以前にあった宴の時、【ロキ・ファミリア】が17階層でミノタウロスを逃がした不手際を起こしたの事を急に思い出したが、それは無いかと判断する。何しろあれは一ヵ月前の出来事だ。既に【ロキ・ファミリア】が対処済みだと、ギルドのミィシャさんが言っていた。

 

 となれば、何か別の要因でミノタウロスが上層に出現した事になるが……当事者じゃない俺が彼是(あれこれ)と考えたところで分かりはしない。それはもう隅っこに置いておくとする。

 

 『Lv.2』のランクアップの際、神々から二つ名も与えられる事になっている。昨日にあった神会(デナトゥス)で、ベルの二つ名は【リトル・ルーキー】になった。俺としては無難であるが、当の本人が少しばかりお気に召さないようだ。ベル曰く、【漆黒の堕天使(ダークエンジェル)】みたいな強そうな二つ名を期待していたらしい。

 

 少々痛々しい二つ名に、俺は思わずある人物を思い出した。オラクル船団にいた頃、他のアークスとは違う独特な感性を持ったファントムクラスの提唱者――キョクヤ氏の事を。もしベルがその人と出会ったら、意外と馬が合うんじゃないかと思う。主に二つ名関連で。

 

 まぁそんな事は良いとして、ベルはランクアップの他に仲間も出来たようだ。しかも二人も。

 

 一人目は【ソーマ・ファミリア】に所属しているリリルカ・アーデと言うサポーターだが、諸事情で死亡扱いにしているらしい。

 

 ベルや他の冒険者から武器や報酬を盗むと言う盗賊行為を行っていたが、今は改心して裏切らないと誓っているそうだ。今後はベル専属のサポーターになると。

 

 聞いてて思わず騙されているんじゃないかと確認するも、ベルの主神――ヘスティア様の前で言い切ったんだと。神の前で嘘を吐く事は出来ないのを知っているので、今のところ問題無さそうだと判断した。と言っても、ベルの友達である俺としては、一度直接会って本当に信用出来るか確認しなければいけないが。

 

 次に二人目は【ヘファイストス・ファミリア】の眷族――ヴェルフ・クロッゾと言う()()()。ついさっき会ったばかりで、直接契約を結んだらしい。

 

 因みに直接契約とは、()()()が特定冒険者の武器や防具を作成して格安で譲る、と言う一種の助け合いだ。そうする事で特別な威力を発揮するらしい。尤も、俺は()()()の誰かと契約を結ぶ必要は今のところないが。

 

 あとヴェルフ・クロッゾは事情として、発展アビリティ『鍛冶』を獲得したい為、ベルのパーティに加わる予定となっている。

 

 ベルの話を一通り聞いた俺は、ある事を尋ねようとする。

 

「なぁベル、次にダンジョン探索するのはいつだ?」

 

「え? 明日だけど……。もしかして、リヴァンも参加するの?」

 

「ああ。ウチの【ファミリア】も漸く一段落したからな。ナァーザさんからも許可は貰ってある」

 

「ホントに!? リヴァンがいてくれると凄く心強いよ!」

 

 俺のダンジョン探索参加にベルは凄く喜んでくれた。嬉しい事をしてくれる。

 

 リリルカ・アーデとヴェルフ・クロッゾには明日、ベルを通して紹介する予定となった。久しぶりのパーティ探索に、俺としては非常に楽しみだ。まぁその分、分け前は四等分になるので報酬は格段に低くなるが。

 

 それにしても……ヴェルフのファミリーネーム――『クロッゾ』と言う名はどこかで聞いた事があるような気がするんだよなぁ。主に悪い意味として。オラクル船団での生活が長かった所為で、こっちの世界についての記憶が所々抜けている。まぁ、もし重要な事であればその内思い出すだろう。

 

 しかし明日に彼と出会って俺は思い出す。エルフにとって『クロッゾ』は蛇蝎の如く嫌悪している存在である事を。




原作の二巻、三巻の内容はリヴァンと余り接点がない為、思いっきりすっ飛ばしてます。

次回はリリとヴェルフの出会いとなります。


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少年エルフ、パーティ探索をする

前回の話が凄く短かったので、今回はいつも以上に長めに書きました。

それではどうぞ!


 翌日。

 

 ダンジョン上層の単独(ソロ)探索に飽きて、久々に楽しいパーティ探索が出来るかと思いきや――

 

「言い過ぎでしょ、リリ!? ヴェルフさんは悪いことしようとしてるわけじゃないし……厄介事なんて、誤解だよ!? それにリヴァンは【ファミリア】の事情があって今まで参加出来なかっただけだから!」

 

「――どこが誤解ですか! 『鍛冶アビリティを獲得するまでの間だけ』なんてっ、リリ達は都合よく利用されているだけです。ベル様の友人であるエルフのお方は良いとしても、この誰とも知らない()()()の方は、完璧に臨時のパーティ要員じゃないですか!?」

 

 11階層へ着いて、ここまで不機嫌だったサポーター――リリルカ・アーデが爆発するようにベルを非難していた。

 

 ベルはベルで、リリルカ・アーデの凄まじい指摘の弾幕に蜂の巣状態にされ、全く言い返す事が出来ない様子。その剣幕に仰け反りかえる始末だ。

 

 非難対象にされてないと言っても、とても気まずい空気だな。逆にヴェルフ・クロッゾは非難の的になっているにも拘らず、怒った様子を見せる事無くベル達を見ている。

 

 因みにベルは以前と違って、防具を身に纏っていた。ライトアーマーと言う軽装だが、身に付けているそれぞれの箇所に赤い線が入っている。

 

「どうしてリリに相談もなしに、勝手にパーティの編入を決めたんですか、ベル様!」

 

「だ、ダメだった……?」

 

「駄目ではありませんがっ、こういうことはリリに通してもらわないと困ります! ヘスティア様にもベル様の事を頼まれているのですから!」

 

 何と言うか……リリルカ・アーデはサポーターじゃなく、ベルの世話役(マネージャー)みたいな感じがするな。

 

 それにあの怒りようからして、どうも理由がヴェルフ・クロッゾ云々じゃないような気がする。

 

 まるでベルの世話をしたがっている乙女みたいに……もしかして彼女、ベルの事が――。

 

「何だ、そんなに俺達が邪魔か、チビスケ?」

 

 すると、今までベル達のやり取りを傍観していたヴェルフ・クロッゾが口を挟んだ。

 

 彼に「チビ」と言われた事に、リリルカ・アーデの瞳は一層尖らせる。

 

「チビではありません! リリにはリリルカ・アーデと言う名前があります!」

 

「そうか。じゃあよろしくな、リリスケ」

 

「……もういいですっ、構うだけ無駄ですね!」

 

 腰を折って笑いかけながら小馬鹿な態度を取るヴェルフ・クロッゾに、リリルカ・アーデは諦めるようにそっぽを向いた。

 

 大丈夫か、このパーティ? 今更だけど、やっぱ参加せず単独(ソロ)探索すれば良かったって段々後悔してきたな。

 

「あ~、アーデさん、でしたか? すみません。貴女の心情を考えず、勝手に参加してしまって」

 

「いえいえ。ベル様の御友人である貴方様は全く別ですので、どうかお気になさらず。あとリリの事は『リリルカ』と呼んでください。あと敬語は不要です」

 

「おいリリスケ、俺の時とは態度が全く違わねぇか?」

 

 俺相手には友好的な笑みを見せるリリルカ・アーデ。

 

 このやり取りに少しばかり納得が行かなかったのか、ヴェルフ・クロッゾが突っ込むも、彼女は完全に無視している。

 

「……えーと。今更だけど紹介するよ? 先ずこの人は知っての通り、僕の友人でリヴァン・ウィリディス。【ミアハ・ファミリア】の冒険者だよ」

 

 ベルがリリルカ・アーデ(今後はリリルカ)に俺の本名(フルネーム)を教えた。今更だと思うが、朝方、集合場所に向かった時から、彼女の機嫌が悪かった為に話をするどころじゃなかったのだ。

 

「え? ウィリディス?」

 

 俺のファミリーネームに聞き覚えがあったのか、リリルカはジッと俺を凝視した。

 

「ウィリディスってまさか、【ロキ・ファミリア】の【千の妖精(サウザンド・エルフ)】――レフィーヤ・ウィリディスと同じではありませんか!?」

 

「へぇ、やっぱり姉さんはそれなりに有名なんだな」

 

「姉さん!? やはり貴方はあの方の弟なのですか?」

 

「正確には従弟(いとこ)だよ」

 

 ファミリーネームが同じだから、幼少の頃は姉弟同然の生活をしていた。

 

 レフィ姉さんは今でも俺を実の弟のように接しているが、以前あった宴の出来事があってか、このところ全然音沙汰が無くて会っていない。

 

 既に終わった話となっているが、あの人の事だから未だ後ろめたい気持ちが残って、俺と会うのを躊躇っているんだろう。俺自身は全く気にしていない。あるとすれば、原因を作った狼人(ウェアウルフ)の方だ。

 

「先に言っておくけど、俺はレフィ姉さんみたいな強力な魔法を撃てる魔導士じゃないから、あんまり期待しないでくれ。それに俺は未だに『Lv.1』のままだからな」

 

「はぁ、そうですか……」

 

 俺の台詞を聞いて少し残念そうに言うリリルカ。

 

 まぁ、戦闘で充分に戦えるところを見せて認識を改めさせるつもりだ。 

 

 ベルが俺に対して何か言いたげだったが、今度はヴェルフ・クロッゾの紹介をしようとする。

 

「次にこの人は、ヴェルフ・クロッゾさん。【ヘファイストス・ファミリア】の()()()なんだ」

 

「クロッゾっ?」

 

 ヴェルフ・クロッゾの名を耳にした瞬間、リリルカは弾かれるように彼の方へと視線を向けた。

 

 予想外の反応に、俺は少し驚くように彼女の反応を見ている。

 

「呪われた魔剣鍛冶師の家名? あの凋落した鍛冶貴族の?」

 

 魔剣鍛冶師? 鍛冶貴族? なんかどこかで聞いた事があるような気が……。

 

 俺が何か思い出しそうにしている中、ベルは半ば面食らいながらヴェルフ・クロッゾの方を見ていた。

 

 その途端に彼は一転して罰が悪そうな表情となり、口の形をへの字にしている。

 

「あ、あの……『クロッゾ』って?」

 

「何も知らないんですか、ベル様……?」

 

 ベルの問いにリリルカが何とも言えない顔をしていた。

 

 少々呆れるように嘆息する中、彼女は『クロッゾ』について説明しようとするも――

 

「ああ、どこかで聞いた事があるかと思えば、嘗てラキア王国で繁栄を極めた名門鍛冶一族か。世代を通して数千、数万の魔剣をラキアに献上し、多くの勝利を貢献したあの魔剣鍛冶師『クロッゾ』」

 

「「え?」」

 

 俺の台詞が予想外だったのか、ベルとリリルカが揃って俺の方を見ていた。

 

 幼少時代に村の長老から聞かされたの内容を朧気ながらも思い出す。

 

 ウィーシェの森に住まうエルフは他種族と積極的に交流しているが、中には『クロッゾ』に対する嫌悪感を持っているのが稀にいた。俺とレフィ姉さんはそんな嫌悪感は一切無い。あくまで歴史上の出来事として知っただけだ。

 

「だけど、ある日を境に王家からの信用を失ってしまい、今は完全に没落したと聞いていたが……まさかアンタが、その一族だったとはな」

 

「……やっぱ知ってたか。って事は、お前も俺を恨んでいるエルフの一人か?」

 

「え、恨んでいるって……?」

 

 俺とヴェルフ・クロッゾのやり取りに、ベルが思わず口にするも気に留めなかった。

 

「いや、全く。心底如何でもいい。当事者でもないのに昔の事を引き摺って、未だ目の敵にして被害者面しているバカな同胞(エルフ)達に呆れているぐらいだ」

 

「そ、そうか……」

 

 本心で言ってると分かったのか、毒気が抜けたような表情をするヴェルフ・クロッゾ。

 

 幼少時代の俺だったら何かしらの事を思っていたかもしれない。けど、オラクル船団で後見人となってくれたカスラに色々な教育を施された事により、もう心底如何でもよくなった。

 

 今の俺に恨みがあるとすれば、クーナさんを都合の良い玩具みたく利用した虚空機関(ヴォイド)の総長――ルーサーとか、人の人生を大きく狂わせた全宇宙の敵――ダーカーぐらいだ。尤も、ルーサーは既に死亡しているので会う機会は永遠に訪れないが。

 

 オラクル船団に長く居た事により、考え方は殆ど向こう寄りになっている。だからこの世界に起きた過去の話を持ち出されても、今更何とも思わない。それだけオラクル船団の生活が充実していたと言う証拠と言う事になるな。

 

 その後は何の問題無く自己紹介を済ませた。呼び方に関しても、互いに名前(以降はヴェルフ)で呼ぶ事になっている。

 

「ベル様、リヴァン様って他のエルフと違って少し変わってません?」

 

「そうかな? 僕は親しみがあって良いエルフだと思うよ」

 

 何気に失礼な事を問うリリルカに、ベルが擁護するように言い返した。

 

「おい、それはどう言う意味――ん?」

 

 リリルカを問い詰めようとする寸前、俺達の耳にビキリ、と言う音が響く。

 

 音の正体なんてもう分かっている。普段ダンジョン探索をしている冒険者からすれば、既に聞き慣れているやつだ。

 

 そしてダンジョンから、モンスターが産まれる。

 

「う、わっ……!」

 

「……でけえな」

 

「『オーク』、ですね」

 

「それに加えて『インプ』に『ハード・アーマード』、か」

 

 それぞれ思った反応する俺達の視線の先で、ダンジョンの壁が罅割れて破れる。

 

 既に11階層に来ている俺からすれば、もう見慣れた光景だった。オークの産まれるところなんて何度も見ている。

 

 しかし、壁の罅割れる音はまだ続く。周囲から同じ音がいくつも鳴り響き、四方八方、ルームの壁から一斉にモンスター達が突き破って来た。

 

 聞くところによると10階層以降から、同エリア上での瞬間的なモンスター大量発生がよく確認されているそうだ。この現象を『怪物の宴(モンスター・パーティ)』と言う。並みの下級冒険者からすれば最悪の展開である。

 

 しかし、既に上層の食糧庫(パントリー)を全て回った俺からすれば、大した数じゃなかった。あそこへ行ったら、今いる数の倍を軽く超えている。

 

 俺一人だけでも問題無く対処出来るが、今回はベル達のパーティに参加しているので控えめにやるつもりでいる。

 

 メインウェポンじゃない銃剣(ガンスラッシュ)でやろうかと考えたが、万が一の事を考えて短杖(ウォンド)にした。見た目はいつも通りエールスターライトだが、中身の武器はいつもと違う。今はランクが一つ下の短杖(ウォンド)――『ハクセンジョウVer2』だ。

 

 普段使ってるのと比べて攻撃力はかなり低いが、上層のモンスター程度にはこれでも充分やれる。加えて、『ハクセンジョウVer2』にはあるテクニックが施されているので、いざと言う時の事を考えて使う事にした。

 

「数は多いですが、そこまで悲観する事はないでしょう。ここは広いですし、いざとなれば10階層に引き返せます」

 

 落ち着いた様子でバックパックを担ぎ直しているリリルカ。

 

 サポーターとは言え、中々肝が据わっているな。それだけ経験を積んでいる、と言う事か。

 

 リリルカの言葉に、モンスターの出現に緊張していたベルは緊張を少し和らいでいる様子だ。

 

「それで、役割はどうする?」

 

「なら、オークは俺に任せろ」

 

「えっ、いいんですか?」

 

 俺の問いにヴェルフが自分から申し出た事で、ベルは驚くように問う。

 

「寧ろ大歓迎だろ? 動きはトロイし、的はでかい。俺の腕でも楽勝に当てられる」

 

 確かに彼の言う通りだった。

 

 オークはパワーがあっても、スピードに関しては余りにも遅い。大刀を装備しているヴェルフでも充分に避けられる。

 

 それにあそこまで言い切ったって事は、恐らく『Lv.1』の上位にしていると見ていいだろう。

 

「ベル様はお一人で好きなように動いて下さい。このお二方はリリが微力ながら援護をしましょう。正直に言えば、時折こちらも気にかけてくれると助かりますが」

 

「お? 何だ、リヴァンはともかく、俺の事が気に食わないんじゃなかったのか、リリスケ?」

 

「嫌っているに決まっています。ただリリはベル様のお邪魔になりたくないだけです」

 

 リリルカはヴェルフに向かって満面に微笑んでいた。

 

「折角の提案に水を差すようで悪いが、俺はベルの援護に回らせてもらう。リリルカは彼の援護をメインでやってくれ」

 

「え? ですが、それではベル様が……」

 

「大丈夫だよ、リリ。僕としても、リヴァンがいてくれると心強いから」

 

「むぅ……分かりました」

 

 抗議しようとするリリルカだが、問題無いと言い切るベルに押し黙った。

 

 それでも納得出来ないと言わんばかりの表情をしている。本当であればベルの援護をしたいと思っているに違いない。

 

 彼女の心情に敢えて気付かないフリをしながら、俺はベルに告げようとする。

 

「ベル、援護に回ると言ったが、可能な限りお前一人で戦ってくれ。俺としては、『Lv.2』にランクアップしたお前がどれだけ強くなったのかを見てみたい」

 

「分かった。僕としても、リヴァンの援護がなくても戦えるところを見せたいと思ってたから」

 

「へぇ」

 

 初めてベルが俺と二人で探索した時、ゴブリンやコボルドの群れを倒すのに相当梃子摺っていたと言うのに、今はこんな頼もしい台詞が来るとはな。少し見ない間に随分と頼もしくなったもんだ。

 

 だったら見せて貰おうか。ベルの戦いをじっくりと。

 

「そろそろ行こうぜ。インプあたりが群れ出す前にな」

 

「言われるまでもありません。ベル様? リヴァン様がいるとは言え、わかっているとは思いますが……」

 

「うん、大丈夫。油断だけはしない」

 

「結構だ。それじゃ行け、ベル」

 

 それぞれの武器を携えて準備を整える。

 

 俺の台詞にベルはその場で一度屈伸し、そして一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「凄いじゃないか。以前と違って別人みたいな強さだったぞ。しかもまさか、いつの間に魔法まで覚えていたとはな」

 

「いや、僕も自分自身の強さに戸惑っていると言うか……」

 

 大群だったモンスターとの戦闘を終えた俺達は今、小休止を取っている。

 

 ベルが戦闘開始した数秒後、インプの首を刎ねたと思いきや、すぐに他のインプやオークを一撃で斬り伏せていた。あたかも稲妻のように敵の間を縫っていくように。

 

 余りの速さに目が点になってしまう程だった。そんな俺の状態に気にすることなく、ベルは斬撃だけでなく、今までやらなかった鋭い回し蹴りも繰り出していた。それをモロに直撃したインプは、とんでもない速度で彼方に吹き飛び、何度か地面を擦過し、そのまま草原の上でぐったりと力を失って絶命した。

 

 鉄鼠(アルマジロ)型のモンスター、『ハード・アーマード』相手でも苦も無く倒していた。上層で最硬の防御力を誇ると言うのに、その甲羅ごと胴体をバッサリと両断。更にもう一体の方は【ファイアボルト】と言う炎雷の攻撃魔法を放ち、体を丸めて突進したハード・アーマードに直撃して炸裂後、身体全体を丸焦げ状態にさせて倒す。

 

 これが本当にベルなのかと疑いたくなるほどの強さだった。援護役の俺は、もう完全に出る幕無しでやる事が無い状態だったよ。

 

 とは言え、俺は本当に何もしていなかった訳じゃない。ヴェルフが三体のシルバーバックに囲まれていたから、そこを俺が急遽援護に回る事にした。俺が不意を突くように一体目を通常攻撃で瞬殺した直後、チャンスと見たヴェルフが大刀の上段で二体目を撃破。三体目は俺が倒そうかと思ってたが、いつの間にか駆け付けたベルがあっと言う間に倒していた。

 

「確かにベルの強さと速さには驚かされたが、俺からすればリヴァンの方も充分に凄いと思うぜ」

 

 すると、一緒に休憩しているヴェルフがそう言ってきた。

 

 因みにリリルカは魔石の回収作業にせっせと務めている。主に戦っていたのはベルとヴェルフなので、俺も手伝おうとしたんだが断られた。こればっかりはサポーターである自分の仕事だからと。

 

「不意を突いたとはいえ、大して力まずシルバーバックの身体を紙みたいに斬り伏せたじゃねぇか。リヴァンの持っている剣は、相当な業物だろ?」

 

「……まぁ、それなりにな」

 

 短杖(ウォンド)形態となっているエールスターライトの見た目は片手剣だが、他にも両剣(ダブルセイバー)飛翔剣(デュアルブレード)の形態もある。中身の武器じたいは外見と全く違うが。

 

 もしも武器迷彩を解除すれば、ハクセンジョウVer2の本当の形状が見れる。独特の装飾が目立つ巨大な斧状と思わせる短杖(ウォンド)が。絶対に驚くベル達の顔が容易に想像出来る。

 

 リリルカを除く男三人でパーティについて話している中、何組かのパーティがちらほらと見える。

 

 この11階層にあるルームは階層間を繋ぐ位置関係の為に人通りは多い。俺が単独(ソロ)探索していた時によく見かけた。

 

 他のパーティの存在に気付いたリリルカは、さっきと打って変わるように俊敏な動きで俺達が倒したモンスターを一か所に纏めている。自分達の取り分なのだから横取りは許さない、みたいな感じだ。

 

 彼女が作業を終えたら昼飯にしようとベルが提案したので、俺とヴェルフは反対する事無く同意する。

 

(それにしても……あのパーティは本当に俺以上の実力者なんだろうか……)

 

 ここで一つ如何でもいい事を考えてしまう。他のパーティを見て、いつも思っている事なんだが、この世界にいる冒険者達の強さの基準がいまいち分からない。以前敵として戦った冒険者は、【フレイヤ・ファミリア】の猫人(キャットピープル)――アレン・フローメルだけだ。尤も、本格的に戦う前に終わってしまったから、アイツの強さは全く分からないが。

 

 俺がアークスで活動してた頃は、実戦経験豊富なクーナさんやアイカさんに比べれば多少戦闘力は劣る。けど、エトワールクラスになった事で、二人の足手纏いにならない程の力を身に付けた。

 

 だけど、それはあくまでオラクル側に限っての話だ。この世界の冒険者の強さは果たして、今の俺でも充分に通用するだろうか。『Lv.1』の下級冒険者は問題無く倒せるとしても、『Lv.2』以上となれば話は別となる。

 

 仮にもしベルと敵対して戦う事になったとしても、間違いなく勝てる自信はある。いくら『Lv.2』にランクアップして相当強くなったと言っても、まだまだ遠く及ばない。俺がメインウェポンのどれかを使って本気を出せば、ベルは間違いなく一撃で倒れるだろう。仮にベルの攻撃を受けても、エトワールスキルの他、ステルス化している防具一式や特殊能力、武器の潜在能力やS級を含めた防御系の特殊能力で殆ど緩和されるので。

 

 しかし、それはあくまでベルの強さや戦闘スタイルを理解しての事だ。他の冒険者達の戦い方までは分からない。故に未だ強さの基準が理解出来ない。

 

 モンスターの相手だけじゃなく、他の冒険者と手合わせする機会があれば良いんだが。

 

(いずれレフィ姉さんに会って、手合わせしてもらうよう頼んでみるか。あの人は『Lv.3』の筈だから、『Lv.1』の俺以上に強いのは確かだ。あわよくば【剣姫】と手合わせ出来れば良いんだが)

 

 確かミィシャさんから聞いた際、【ロキ・ファミリア】は遠征に行ってるんだったな。俺達がいるダンジョンの更に下――深層域の59階層に向かってるって。

 

 今は遠征の真っ最中だから、レフィ姉さん達が戻ってくるにしても暫く掛かるだろう。

 

 すると、深く考え込んでいる最中、突然鐘の音らしきものが聞こえた。思わず振り向くと、音の発生元はベルの右手だ。今は白い光が収束している。

 

 それには当然俺だけでなく、ヴェルフや当の本人であるベルも気付いている。

 

「おいベル、それは一体何だ?」

 

「いや、僕もヴェルフと同じく、何が何だか分からなくて……」

 

 俺の問いにベルはフルフルと首を横に振りながら答える。

 

 何か状態異常になっているのではないかと思い、短杖(ウォンド)から長杖(ロッド)――ストームシェードに持ち替えようとする。その武器には状態異常を治療するアンティが搭載されているので。

 

 その直前――

 

『『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』』

 

 耳を聾するほどの、凄まじい猛り声が轟いた。

 

「「「っ!?」」」

 

 俺達は揃って顔を振り上げる。だが俺達だけじゃない。このルームにいる冒険者達全員が驚愕の眼差しを差し向けた。

 

 その先には長い尻尾に鋭利な爪、無数の牙。体長は四(メドル)以上ある小竜が、四足で地を這っている。

 

「『インファント・ドラゴン』……!?」

 

「しかも二体……!?」

 

 名前も知らない冒険者二人の声が響く。

 

 確かあの子竜モンスター――『インファント・ドラゴン』は11、12階層に出現する絶対数の少ない希少種(レアモンスター)だったな。一体だけでも滅多にお目に掛かれないと言うのに、まさか二体現れるとは。

 

 上層は『迷宮の孤王(モンスターレックス)』と呼ばれる存在はいないが、あのモンスターが事実上の階層主となっている。

 

『『―――――――ッッッ!!』』

 

 インファント・ドラゴン二体が揃って動き、近くにいた同胞(エルフ)とドワーフの冒険者をその長い尾で殴り飛ばした。その瞬間、周囲一帯から上がる悲鳴が重なり合った。

 

 二体出現するのが完全に予想外なのか、多くの冒険者達は一斉に撤退しようとする。一体だけなら全員で挑んでいただろうが。

 

「リリスケェッ、逃げろっ!?」

 

 遥か先に、魔石を回収しようとルームの奥にいたリリルカに一体の子竜が突き進んでいる事にヴェルフが叫ぶ。

 

 しかし、彼女は動けないのか立ち尽くしているだけだ。確実に轢き殺されると思った俺が短杖(ウォンド)のエトワール用フォトンアーツ――ルミナスフレアで仕留めようとする。

 

 だが――

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 ベルが叫んだ瞬間に終わった。

 

 視界を埋め尽くす光輝が弾け伴い、巨獣の咆哮のような激音が鳴り響いたかと思いきや、緋色の炎雷が一体のインファント・ドラゴンに直撃した。

 

『……ガッ、ァ』

 

 餌食となった一体のインファント・ドラゴンは、掠れた声を残し倒れ伏した。

 

 しかし、まだ完全に終わっていない。何故なら――

 

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 二体目のインファント・ドラゴンがまだ残っているから。

 

 仲間を殺したのがベルだと分かったのか、別の小竜が此方へ狙いを定めて突進しようとする。

 

 ヴェルフは不意を突かれたように、リリルカと同じく立ち尽くしており、ベルはさっきの魔法による反動で動けないようだ。

 

 動けない二人とは別に、既に予測していた俺は左手を前に出して短杖(ウォンド)の武器アクション――チャージプロテクトを展開していた。勿論、自分だけ防御する意味で張ったんじゃない。

 

 全てのギアを使い切った俺はバリアを展開中のまま突進しながら跳躍し――

 

「プロテクトリリース!!」

 

 バリアを解除したと同時に、球状の強力な衝撃波を六発叩き込んだ。

 

 突進してくるインファント・ドラゴンはそれに全て直撃し、身体がバラバラになって吹き飛んだ。言うまでもなく絶命している。

 

 ハクセンジョウVer2で使ったから威力はメインと違って低い筈だが、やはり上層モンスターでも充分にやれるようだ。いや、それでも寧ろオーバーキルか。

 

「ふぅっ、危なかったぁ。二人とも、大丈夫か……って、どうした? 揃って呆けた顔になってるぞ」

 

「「………………」」

 

 俺が地面に着地して安否を確認するも、ベルとヴェルフは揃って口を大きく開けたまま呆然としていた。

 

 二人だけでなく、ここにいる冒険者達も一斉に俺へ視線を向けて動きを止めている。

 

「い、い、今の魔法は一体何なのですかリヴァン様ぁぁぁあああああああ!!??」

 

 すると、奥にいる筈のリリルカの叫び声が聞こえた。

 

 いや、さっきのアレは魔法じゃなくてエトワールスキルの一つで、そこまで驚くほどの代物じゃないんだが……。




アークスのリヴァンからすれば普通に決め技を使った程度です。

しかしオラリオの冒険者からすれば、凄まじい威力がある超短文詠唱の魔法でしょうね。

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少年エルフ、中層へ進出する

今回は殆ど説明文です。


 二体のインファント・ドラゴンを撃破したのは良いんだが、ちょっとしたプチ騒動が起きた。理由は勿論、リリルカを筆頭に、ベルとヴェルフが一斉に詰問されたから。俺が使ったプロテクトリリースの事について。

 

 他の冒険者達の視線を感じながらも、俺は教えられないと宥める。三人も他所の【ファミリア】についての詮索は厳禁だと思い出したようで、一先ずはと言った感じで引き下がってくれた。

 

 久々のパーティ探索だったこともあって、時間があっと言う間に過ぎてしまい、地上へ帰還して別れる事になる。

 

 問題はその後だった。パーティでダンジョン探索すると、報酬は分配される事になる。四人で行ったから、当然四等分だ。とは言え、俺は今回大した戦闘をせず、殆ど見学状態だった。

 

 戦闘の殆どをベル達が行っていた為、俺の報酬はインファント・ドラゴンの大型魔石+その他だけだ。まぁ小竜の魔石はそれなりにあるので充分な稼ぎだが、俺が食糧庫(パントリー)で荒稼ぎしたのと比べれば少な過ぎる。

 

 ナァーザさんがそれを知った瞬間、口をへの字にしてジト~ッと睨んできたのは言うまでもない。また小言を言われるかと思ったが、【ミアハ・ファミリア】の財政がある程度余裕が出来た事で、大して咎められたりはしなかった。その代わり、『今度はなるべく多めに稼ぐように』と釘を刺されたが。

 

 翌日、再びパーティ探索すると思ったが予想外な事態となった。リリルカが世話になっているノームの店主さんが倒れたから、急遽看病する事になったから不参加だと。

 

 彼女が不参加なので俺とベルとヴェルフの男三人で探索する事になるのだが、ここで更に予想外の事態が発生する。ヴェルフがダンジョン探索を取り止めて、ベルの装備を新調すると言い出した。

 

 ベルはダンジョン探索する気満々だった俺に気を遣おうと遠慮する。けど、そこを俺が『今後の事もあるから、装備の新調も大事だから気にするな』と言った。その結果、ダンジョン探索が中止となった俺は、急遽臨時の休日を過ごす事にした。

 

 すぐに本拠地(ホーム)へ戻ったら、ナァーザさんからソロ探索しろと言われるのが目に見えてるので、オラリオの地理を把握する為の散策をした。お陰でアークス用の小型携帯端末には、簡易型だがオラリオ用の地図が出来上がった。尤も、オラリオ全体までは流石に記録していないが。その後に本拠地(ホーム)へ戻ってダンジョン探索しなかった事情を説明すると、予想通りナァーザさんの小言が始まろうとするも、ミアハ様が空かさずフォローして何とか事無きを得た。

 

 

 

 

 

 

 何だかんだとやって一週間が経ち、再びパーティ探索をする俺はベル一行と共にダンジョン12階層へ来た。

 

 今回はいつもと違い、『中層』に進出している。ベルが『Lv.2』にランクアップした他、リリルカとヴェルフ、そして俺も同行すると知ったギルド職員が渋々ながらも許可してくれたそうだ。

 

 その際、中層には必須装備と言える精霊の護符――『サラマンダー・ウール』が必要になる。炎を吐く犬型モンスター――ヘルハウンドがいる為に、その攻撃を防ぐ為に必須の装備となっている。『カテドラルスーツ』を身に纏っている状態で、外套のように『サラマンダー・ウール』を装備するのは些かシュールだが。

 

 ベル達に合わせようと敢えて装備したが、実際俺には余り必要のない物だった。ステルス性にして誰にも見えない状態だが、今の俺はキチンと防具も装備している。炎耐性などの攻撃にも当然備わっているし、結構万能な代物だ。

 

 ニューマンと同じくエルフの俺は非常に撃たれ弱い事もあって、防御と耐久が他のと比べて比較的に高い『アウェイクシリーズ』を利用している。エトワールクラスになった際、カスラが前衛で戦うには必要な物だと言って用意してくれた。

 

 『アウェイクシリーズ』の各防具にはそれぞれ打撃、射撃、法撃の耐性が備わり、各属性(炎、氷、雷、風、光、闇)の耐性もある。加えて体力や体内フォトン、攻撃、射撃、法撃の各種ステータス上昇も備わっている。

 

 加えて防具には武器と同じく特殊能力も付属する事が出来て、アストラル・ソール、ウィンクルム、スタミナⅣ、エレガント・スタミナ、アビリティⅢ、オールレジストⅢなどでステータスや各耐性を更に上昇している。当然、三つの各防具にそれぞれ全ての特殊能力が付属されているから、俺の防御力と耐久力はかなりある。特殊能力はカスラが調整してお金が相当掛かったみたいだが、当の本人は気にせず使うようにと言われた。

 

 エトワールの防御スキルの他、防具によって補強されている結果、俺はそこら辺の撃たれ弱いエルフと違って思いっきり前衛で戦えるようになっている。尤も、それに過信して後先考えずに突っ走ってしまえば意味は無いが。

 

 ともあれ、『サラマンダー・ウール』を装備した事で、俺の炎に対する耐性が更に高くなったのは事実だ。恐らく対してダメージを受ける事は殆ど無いだろう。因みにコレはベルが四人分用意してくれて、割引券で差し引いてもゼロが五つ並んだくらいだそうだ。勿論ベルが払ったお金はしっかり返す予定でいる。

 

 さて、現在中層のダンジョン13階層にいる。初めて遭遇するヘルハウンドに緊張するも、ベル達は問題無く撃退していた。ヴェルフと一緒に前衛を務めている俺は、前と同じくエールスターライトの短杖(ウォンド)形態(中身はハクセンジョウVer2)で迎撃している。

 

 初めての中層だから、用心してメインウェポンで行こうと考えていたが、ランクが一つ下の武器でも充分に倒している。寧ろ、本気を出さなくても簡単に撃退できる位だ。とは言え、ベル達と一緒に行動している以上は気を抜く訳にはいかない。

 

 途中でベルにそっくりな『アルミラージ』が出現した事によって、ベルを除く俺達はちょっとしたギャグ的なやり取りをしていた。まぁ、その後に群れが来て一気にシリアスな展開となった戦闘になったが。

 

 しかし、改めて中層が上層と一味違う事を認識する事になる。モンスターの質と量が非常に厄介だと言う事を。

 

「くっ、ふざけろ! 息つく暇もねぇ!」

 

「無駄口叩く暇もないです!」

 

「これが、中層……!」

 

 ついさっきまで余裕そうに振舞っていたヴェルフだが、汗を滴らて大刀を振り回していた。そこを後方のリリルカが頻りに矢を放ちながら、襲い掛かろうとするモンスターの群れを牽制している。

 

 ベルもベルで段々と意気が上がり始めていた。俺達の中で唯一の『Lv.2』だから、自分が頑張らねばと奮戦している。

 

「余り無理はするなよ、ベル。俺もいるんだからさ。ほい、レスタ」

 

『ッ!?』

 

 無茶をしないように声を掛けながらも、一先ず三人の体力を元に戻そうと、体力を回復させるテクニック――レスタを使った。その瞬間、俺達は光に包まれていく。

 

 突然の光にベル達だけでなく、モンスター達も戸惑いの表情を見せていた。しかし――

 

「あ、あれ? 急に体が軽くなった……」

 

「嘘だろ? いきなり万全な状態に戻ったぞ」

 

「リ、リヴァン様、今の魔法は一体……?」

 

 光が消えて、完全回復したベル達は自身の身体を不思議そうに見ていた。リリルカからの問いに、俺はすぐに答えようとする。

 

「体力を回復させる治癒魔法みたいなものだ」

 

「治癒魔法!? 貴方様はそのような魔法まで使えるのですか!?」

 

「一応な」

 

 完全に予想外だと言わんばかりに驚いているリリルカに、俺は特に気にすることなく武器を構えている。

 

 使えるとは言っても、あくまで武器に搭載されている魔法(テクニック)を使う事が出来るだけだ。

 

 エトワールクラスはテクニックを扱う事は出来ない。けれど、既にテクニックを習得していれば、武器に搭載しているテクニックを使う事が出来る。ベル達からすれば、俺が治癒魔法を使ったようにしか見えない。

 

 ハクセンジョウVer2はレスタが搭載されているから、ベル達が負傷した際にいつでも使えるようセットしておいた。まさか中層へ来て早々、もうお披露目するとは思わなかったが。

 

 因みに俺もレスタの回復対象になっているが、ベル達と違って傷を完全に治す事は出来ない。原因はエトワールスキル――ダメージバランサーだ。

 

 そのスキルは、自分が受けるダメージを大幅に軽減してくれる。だが代償として、回復アイテム等の他、エトワールのクラススキル以外からの回復効果が殆ど減少する。だから、レスタで回復しても雀の涙程度だ。

 

 回復テクニックが搭載している武器を持っても意味は無いが、パーティなどの他者を回復させるには必要だ。特に今みたいな前衛者を回復させるには。

 

「ほら、とにかく今はこのモンスター共を片付けないと」

 

 俺の声にハッとしたベル達はすぐにモンスターへ意識を向ける。

 

 しかし、俺が回復させたところで振り出しに戻ったようなものだ。ここのモンスター達を倒したところで、再び新手が来るから結局繰り返しになってしまう。

 

 ここら辺のモンスターを倒した後、一旦上層へ引き返した方が良いな。俺はまだ戦えるから問題無いが、ベル達の精神(こころ)や武器の事を考慮しないといけない。体力は俺の方で回復しても、ひっきりなしに襲い掛かるモンスター達の所為で精神的に追い詰められるだろう。加えて武器を消耗して使えなくなってしまえば、完全なお荷物となってしまう。

 

「ん?」

 

 アルミラージの群れを倒しながら考慮している中、ふと視界にある光景を捉えた。俺だけでなく、ベルも同様に。

 

 五人、じゃなくて六人組のパーティだ。他所の【ファミリア】冒険者である事には間違いないが、段々此方へと近づいてきている。

 

 冒険者は基本、ダンジョンにおいて各パーティに必要以上の接近はしない。先へ進む道を目指しているのなら話は別だが、あのパーティはどうも様子がおかしい。まるで、俺達を目標にしてきている感じだ。

 

(どう言うつもりだ?)

 

 負傷者もいると思われる冒険者の一行は、態々俺達の近くを通っていった。

 

 すると、髪を結わえた黒髪の少女が此方を見る。まるで、非常に申し訳なさそうに涙を零しそうな目をしていた。

 

「――!? いけません、押し付けられました!」

 

「何?」

 

 押し付けられた、だと?

 

 俺が不可解そうにリリルカを見ると、彼女は慌ただしく答えた。

 

怪物進呈(パス・パレード)です! リリ達は囮にされました! すぐにモンスターがやって来ます!」

 

 その直後、モンスターの群れがどっとルームに姿を現わした。

 

 現在交戦している倍ほどのアルミラージに加え、多数のヘルハウンド。今にもこちらへ向かおうとしている。

 

(……なるほど。あの連中は確実に逃げ切ろうと俺達に押し付けたって訳か)

 

 俺が察しながら後ろを振り返るも、冒険者達は既に通路の奥へ消えていた。

 

 色々と文句を言いたいが、今はそんな暇はない。あんな大群が来てはベル達が参ってしまう。

 

「お前達、そこから一切動くな!」

 

『え?』

 

 急遽俺が前に出て――

 

「消えろザコ共! ルミナスフレア!」 

 

『――――――ッ!?』

 

 フォトンの束を前方に激しく放つ短杖(ウォンド)エトワール用フォトンアーツ――ルミナスフレアで一掃する事にした。

 

 武器を振りかぶった直後、前方にビーム上の細長い光が水平に照射され、それに命中したアルミラージとヘルハウンドは次々と悲鳴を上げながら絶命していく。同時に方向転換しながらも、残りのモンスターも一掃する。

 

「あらよっと!」

 

 さっきまでいた筈だった大量のモンスター達はルミナスフレアによって倒されたが、まだアルミラージが数匹残っていた。が、すぐに俺が動いてあっと言う間に瞬殺する。

 

 俺が本格的に動いて一分もしない内に、ルームにいるモンスターは一通り片付いた。

 

「ふぅ、取り敢えずこんなところか。悪かったな、いきなり命令口調で言って」

 

『…………………』

 

 俺の台詞に呆然としているベル達。

 

「リ、リヴァンが強いのは知ってたけど、アルミラージとヘルハウンドの群れをあんな簡単に倒すって……」

 

「インファント・ドラゴンを倒したから只者じゃないのは分かってましたが……」

 

「お、お前……本当に『Lv.1』なのか?」

 

 思った事をそれぞれ口にする三人。

 

 何か俺の事を化け物染みたように見ている感じはするが、まぁ敢えて気にしないでおこう。

 

「そんな事より、早く移動しないか? と言うより、ここはいっそ退却した方が良いと思うんだが」

 

 さっきのモンスターの群れを倒したと言っても、遠くから無数の叫びらしきものが聞こえた。恐らくヘルハウンドだろう。

 

 冒険者達と遭遇した穴から聞こえるから、まだ新手が来ると見て間違いない。

 

「! そ、そうでした! 新手が来る前に、一旦退却しましょう! 右手の通路へ!」

 

「う、うん!」

 

「くそっ! アイツ等、覚えてやがれ……!」

 

 リリルカも俺に賛同して退却の指示を出しながら移動した。

 

 頷くベルや、先程の冒険者に対して悪態を吐くヴェルフは指示通りに動こうとする。

 

 俺も急いで三人の後を追っていると、向こうが一足早くて再びモンスターの群れが此方へ向かって来ようとする。またしてもアルミラージとヘルハウンドの群れだ。

 

(これは不味いな……)

 

 退却中にベル達を守りながら戦うのは、正直言って俺でも厳しい。

 

 それに恐らく、退却している先からもモンスターが出現すると思う。俺だけならまだしも、ベル達では流石にきついだろう。モンスターの出現頻度が格段と高くなってる中層へ来て、精神的に参っている部分が見受けられるので。過去にダーカーの群れに襲われてトラウマになりかけた事がある俺としても、その気持ちはよく分かる。

 

 ならここはいっその事、俺が殿を務めた方が良いな。幸い、今進んでいる通路は一本道だ。モンスターに襲われたとしても前方からなので、ベル達でも充分に対処出来る筈だ。

 

「ベル、このままリリルカ達と一緒に先へ行ってくれ。俺はあのモンスター共を片付けてからお前達と合流する」

 

「え?」

 

 俺の提案にベルは一瞬呆けた顔になるも、すぐに首を横に振る。

 

「ダ、ダメだよ! リヴァンを置いて行くなんて僕には出来ない!」

 

「そんな事を言ってる場合じゃないだろ。このまま逃げていたら後方のアレ等に追いつかれてしまうどころか、前方に潜んでいると思われるモンスター達に襲われて挟み撃ちになる。それを防ぐ為に俺が殿を務めるんだ」

 

「でも、だからって……!」

 

「さっき俺が一瞬で倒したのを見ただろ? 大丈夫、すぐに戻るから」

 

 置いて行きたくないと躊躇っているベルを宥めながらも、俺は気にせず前方のリリルカとヴェルフに声を掛ける。

 

「二人も聞いてたろ!? 俺が殿を務めるから、ベルを頼むぞ!」

 

「……分かりました。頼みます、リヴァン様!」

 

「ちぃっ! おいリヴァン、合流しなかったら承知しねぇからな!」

 

 二人は状況を理解しているみたいで、俺が殿を務める事に反対せずに了承してくれた。ヴェルフだけは、仲間(おれ)を置いて逃げる事に自己嫌悪の舌打ちをするも、暗にちゃんと戻って来いと言い返してきた。

 

 俺が走る足を止めると、それを見たベルも止まりかけそうになるも、ヴェルフが咄嗟に腕を掴んだ。

 

「止まるんじゃねぇ、ベル!」

 

「っ! ………リヴァン! 必ず、必ず戻ってきてよ!」

 

 ベルの叫びに答えるように、俺は軽く手を上げて横に振る。

 

「……行ったか。さて――」

 

 俺が後ろを振り向くと、そこには先程の倍以上と思われるアルミラージとヘルハウンドがいた。

 

『ウゥゥ……!』

 

『キュィ……!』

 

 立ち止まっている俺を完全に狙いを定めているモンスター達。

 

 武器を構えるアルミラージに、口から炎を吐こうとするヘルハウンド。いつでも動ける状態だ。

 

 一人で挑むには余りにも自殺行為だと思われるだろう。しかし、俺からすれば大して恐くない。

 

 とは言え、数が多い上に距離も若干近い。今は時間が惜しいで早く倒そうと、エールスターライトの短杖(ウォンド)形態から飛翔剣(デュアルブレード)形態に切り替えた。端からだと、二つに重ね合わせている剣を分離し、二刀にして持ち構えているようにしか見えないだろう。

 

 勿論、武器はちゃんと変更されており、中身も全然違う。今はメインウェポンとして使っている『ディムDブレード』だ。コレには威力一割以上を上昇だけでなく、ダメージを一割軽減させる潜在能力があるので、俺としては大変気に入っている。更にはS級特殊能力も三つ入れる事が出来る優れ物だ。撃たれ弱いエルフの俺は防御系の特殊能力を付けている。

 

「ここから先は一匹たりとも通さん。そして後悔するが良い。俺と戦ったのが運の尽きだったとな!」

 

『!』

 

 ベル達を守る為、俺はダーカーと戦う勢いで一匹残らず倒そうと殲滅に取り掛かろうとする。

 

 この後からは言うまでもなく、俺の飛翔剣(デュアルブレード)で通常攻撃、そしてフォトンアーツで全て倒していく。

 

 だが、その間に退却中のベル達にアクシデントが起きる事を、モンスター殲滅中の俺は気付く事は出来なかった。




ここからオリ主はベル達と別行動になります。


余談として、『アウェイクシリーズ』の防具性能と特殊能力の合計


『アウェイクシリーズ』の防具性能の合計

打撃防御+1068 射撃防御+1068 法撃防御+1068

HP+360 PP+18

打撃力+105 射撃力+105 法撃力+105 

打撃耐性+9% 射撃耐性+9% 法撃耐性+9% 

炎耐性+15 氷耐性+15 雷耐性+15 風耐性+15 光耐性+15 闇耐性+15


特殊能力の合計

アストラル・ソール、ウィンクルム、スタミナⅣ、エレガント・スタミナ、アビリティⅢ、オールレジストⅢ

HP+495 PP+27 

打撃力+210 射撃力+210 法撃力+210 

技量+150 

打撃防御+150 射撃防御+150 法撃防御+150 

打撃耐性+9% 射撃耐性+9% 法撃耐性+9%

炎耐性+9 氷耐性+9 雷耐性+9 風耐性+9 光耐性+9 闇耐性+9



防具性能と特殊能力の合計


打撃防御+1218 射撃防御+1218 法撃防御+1218

HP+885 PP+45 

打撃力+315 射撃力+315 法撃力+315 

技量+150 

打撃耐性+18% 射撃耐性+18% 法撃耐性+18% 

炎耐性+24 氷耐性+24 雷耐性+24 風耐性+24 光耐性+24 闇耐性+24


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少年エルフ、17階層へ辿り着く

「終わりだっ!」

 

「キュ………っ……」

 

 逃げようとする一匹のアルミラージに止めを刺す為の斬撃を振ると、ソレの身体が縦に真っ二つとなって絶命した。

 

 地面にはモンスターの死骸や魔石だらけで転がっている。ベル達の追撃をさせないよう殿を務めた俺が、アルミラージとヘルハウンドの大群を全て片付けたからだ。

 

 さっさと終わらせる為に本気を出そうとメインウェポンである飛翔剣(デュアルブレード)――ディムDブレードを使った。やはりと言うべきか、中層のモンスター程度では必要無かったと改めて認識する。バウンサークラスで使っていた『ユニオンDブレード』でも問題無くやれる。ランク一つ下の武器だが、それでもお釣りが出るほど簡単に倒せてしまう。

 

 っと、今はそんな事はどうでもいい。モンスターを倒したから、直ぐにベル達と合流しなければ。本当なら魔石を全て回収したいところだが、そんな暇は無いので死骸以外の魔石を大急ぎで収納していると――

 

 

『キィァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!』

 

 

 俺が守っていた奥の道から、モンスターと思われる甲高い叫び声が聞こえた。その直後、岩が崩落するような音も含めて。

 

「ベルッ!!」

 

 嫌な予感がした俺は魔石回収を中断し、即座にベル達の元へと全速力で向かった。

 

 しかし、ダンジョンは俺の焦りを見逃さなかったのか、突如進んでいる地面に罅が入り始めて崩落しようとする。

 

「――ッッ!?」

 

 いきなりの事に目を見開く俺だが、それでも回避する為に跳躍して何とか事無きを得る。

 

 だが、着地した瞬間に再び地面に罅が入って――

 

「う、嘘だろぉぉぉぉーーーーーーッッ!?」

 

 結局そのまま下部階層へと繋がる縦穴へ――ぶっちゃけ落とし穴――に嵌ってしまって落下していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 場所は【ミアハ・ファミリア】の本拠地(ホーム)――『青の薬舗』。

 

 ポーション等の回復アイテムを販売している店員であり、団長のナァーザはいつになく不機嫌な表情となっている。

 

「ミアハ様、やっぱり何かあったんじゃ……」

 

「うむ」

 

 声を掛ける彼女にミアハは頷く。いつもなら薬の調合をしているのだが、今回は違う。深刻な表情となりながらも、誰かが帰って来るように待っている。

 

 それもその筈。ダンジョン探索しているリヴァンが帰って来ないから。しかも昨日から未だに。

 

 これまで、彼がいつも余裕な顔をしながら帰還するのが【ミアハ・ファミリア】の日常となっていた。例え何かトラブルが起きたとしても、無事に戻ってきて申し訳なさそうに理由を話している。

 

 しかし、一日経っても未だに戻って来ないのは余りにもおかしい。『Lv.1』でありながらも、他の冒険者達とは桁外れな強さを持っているあのリヴァンが。

 

 思い当たる節があるとすれば、昨日のダンジョン探索はリヴァン一人でなく、ベルや他の【ファミリア】の眷族二名と一緒に向かった。所謂、パーティ探索だ。

 

 普通に考えるなら、ダンジョン探索をする際にパーティを組んで挑戦するのが当たり前である。しかし、リヴァンは違う。他の下級冒険者と違って、一人でも充分にやれるし多く稼いでいるから、ナァーザはリヴァンに単独(ソロ)で行かせている。尤も、現時点ではダンジョン上層限定だが。

 

 しかし、今回のパーティ一行は中層へ挑戦している。上層と違ってモンスターの強さや出現頻度は格段に違うが、それでもリヴァンが梃子摺る事はないと思っていた。

 

 以前、セオロの密林で『卵』を採取した際に大型モンスター――ブラッドザウルスの群れに臆する事無く、一人で全て片付けていた。と言っても、採取している『卵』はブラッドザウルスが産んだ物なので、ある程度の数は残していたが。

 

 一人で大型モンスターの群れを簡単に倒すリヴァンの実力を考えれば、中層のモンスターに後れを取る事はないと踏んでいた。例えトラブルが起きても、モンスターの群れを簡単に殲滅するだろうと。

 

 にも拘らず、どんなトラブルが起きても対処する筈のリヴァンが未だに戻ってこない。そう考えると、ベルや他の仲間達の身に何か遭ったから戻れないんじゃないかと、ミアハとナァーザは推測する。

 

「一度、ヘスティアの本拠地(ところ)へ行ってみよう」

 

 ミアハの提案にナァーザは反対する事無くコクリと頷いた。

 

 リヴァンが戻ってこないとなれば、一緒に探索しているヘスティアの眷族――ベル・クラネルも帰還していない事になる。そう考えれば、ヘスティアも今頃は自分達と同じく不安に思っている筈だ。

 

 二人が出掛ける為に支度を始めようとする瞬間、店の出入り口にある扉が開いた。

 

 突然の事にミアハとナァーザが振り返ると、息を切らしているヘスティアが佇んでいる。

 

「ミアハ、リヴァン君は戻っているかい!?」

 

 二人の予想が見事に的中したのか、リヴァン達の身に何かが起きたと確信した。

 

 そして戻ってこない理由が判明する。【タケミカヅチ・ファミリア】が『怪物進呈(パス・パレード)』を仕掛けたのだと、その主神タケミカヅチから聞く事になる。

 

 その後、リヴァン達の捜索を思案している最中、とある胡散臭い主神が突然参上して手助けする事となった。外部の助っ人も連れて。

 

 

 

 

 

 

「………くそっ、ベル達が全然見付からない……!」

 

 縦穴に落下して下部階層に招待される事になったが、何とか立て直そうとベル達がいる13階層へと戻る事が出来た。所持しているアークス用の小型携帯端末を使わなければ、完全に迷っていたところだ。

 

 しかし、ベル達がいたと思われる場所に戻っても、そこには誰もいなかった。ベル達の持ち物だと思われる空の容器や破損したアイテムが転がっていただけだ。そして縦穴に落下したと思われる痕跡もあった。

 

 状況から考えて、モンスターの群れから退却している際に落とし穴に嵌ってしまったと思われる。初めて中層へ来たばかりのベル達が、周囲を気にしながら逃げる余裕なんて無いだろう。もしもソレに嵌らず退却しているなら、どうにか合流出来ている筈だ。

 

 念の為に周囲を探してみたが、ベル達の痕跡は一切見当たらなかった。あったのは縦穴付近だけの痕跡しかない。

 

 やはり俺と同じく穴に落ちたと思った俺は、後を追いかけようと決意する。本当なら自分だけでも一度地上に帰還し、この事をミアハ様やベルの主神――ヘスティア様に報告すべきだろう。しかし、今の俺にそんな事を考える余裕なんてなかった。この世界で初めて出来た人間(ヒューマン)友達(ベル)を見捨てると言う選択など、俺には到底出来ないので。

 

 自ら穴に飛び込み、さっきと違って落下時間を経て着地し、ベル達が進んだと思われる足跡を頼りに進み始めた。途中でモンスターと遭遇した事で、痕跡は途切れてしまう事になったが。

 

 広大なダンジョンを小型端末機にルートを記録しながら捜索するが、一向に見付からなかった。もうかれこれ二十時間以上経っている。

 

 惑星探索での長期遠征に慣れている俺は大丈夫だとしても、未知の中層に留まり続けているベル達には相当キツいだろう。精神的にもかなり参っている筈だ。

 

 捜索中に再びベル達の痕跡と思われるモノを運良く見つけた。またしても、縦穴に降りたと思われる痕跡が。今度はリリルカが使っているボウガンの矢と、それに刺さっている布らしき襤褸(ぼろ)切れに文字が書かれていた。共通語(コイネー)で『18階層へ』と言う短文が。

 

 その文を読んだ俺は何故上に戻らず態々下へ降りているのかと疑問を抱いたが、その後に分かった。もしかしたらベル達は18階層へ向かおうとしているんじゃないかと。

 

 ギルドで講習を受けた際、ダンジョン18階層はモンスターが産まれない安全階層(セーフティポイント)だとミィシャさんが言っていた。『下層』の進出を目指す冒険者がそこを拠点とした『リヴィラの街』もあると含めて。

 

 ベルやヴェルフだったら考えたりしないだろう。恐らくサポーターのリリルカだと俺は推測する。彼女は俺たちパーティの頭脳的存在であるから、生き延びる方法として18階層へ避難すると言う考えに至ったかもしれない。

 

 本当に18階層へ向かったと言う確証は一切無い。だが、唯一の手掛かりがこれだけしかないので、今の俺は疑う事無く更に下へ降りる事にした。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 移動中、ミノタウロスの群れが俺を見た途端に威嚇らしき咆哮をしてきたが――

 

「喧しい!」

 

『!』

 

 即座に黙らせようと、流れるフォトン帯を纏って連撃を放つ短杖(ウォンド)エトワール用フォトンアーツ――プリズムサーキュラーを放った。

 

 薙ぎ払う仕草をした直後、衝撃波となった光の渦が飛んでミノタウロスの群れに向かっていく。それに当たった瞬間、モンスター達はあっと言う間に吹っ飛んで絶命する。

 

「ったく、会う度に鬱陶しい……!」

 

 ベル達を捜索している最中、ミノタウロスとは何度も遭遇した。アイツ等、敵を見て早々に必ず叫ぶんだよな。喧しい事この上ない。

 

 因みに他のモンスターにも襲われたが、言うまでもなく全て撃退している。それによって大量の魔石やドロップアイテムが電子アイテムボックスに収まっている。捜索中に不謹慎だが、ギルドで換金すれば相当な額になるだろう。

 

 ミノタウロスの魔石を回収後、再び縦穴を見付けた。18階層へ行くには正規ルートで行くべきだが、生憎と地理を把握してない俺はコレを利用するしかなかった。もしかすれば同じく縦穴を使っているベル達と運良く会えるかもしれないと淡い考えを抱きながら。

 

 そして穴に飛び込み、今度も上手く着地に成功して更に下の階層へと到着する。

 

 今度はさっきと違って、モンスターが現れる気配が無かった。出て来ないなら越した事はないが、それでも不気味に思う。

 

「ここは……」

 

 急にモンスターが出現しなくなった事に疑問を抱きながら先へ進んでいると、長大な大広間に辿り着いた。

 

 今までは形状が出鱈目だった中層の広間(ルーム)と違い、綺麗に整った直方体となっている。俺の立つ大円形の入り口から広間の奥まで約二〇〇(メドル)と言ったところか。奥行きだけなら、上層にある食糧庫(パントリー)より大きいのは確かだ。

 

 大広間にある壁は誰かが磨き抜かれたのかと思う程、表面は凹凸一つない。まるで一種の芸術と思わせるほどの壁面とも言える。

 

 これを見て、俺は分かってしまった。ここは17階層で、あの場所であると。

 

「此処は『嘆きの大璧』、か……」

 

 この場所についてはギルドの講習で知った。

 

 生きて帰って来た冒険者達が名付けた17階層最後の障壁(かべ)。そしてこの場所には、特定のモンスター一体しか生まない、間の主の巨大璧だと。

 

 未だに出現しない所を見ると、まだ時期じゃないのだろう。そう考えた俺は奥の道へ進む。

 

「リ……リ、ヴァン……? リヴァン……!」

 

 突如、後ろから聞き覚えのある声がした。俺がすぐに振り向くと――

 

「ベル!」

 

 二十時間以上前に逸れたベルを漸く見つけた事に俺は歓喜した。

 

 だが、余り喜ばしくない状況だった。ベルは疲弊してボロボロだ。更にリリルカとヴェルフは気を失っているのか、ベルによって抱えられている。

 

 あんな状態で良くここまで来れたものだと内心驚きながらも、俺はすぐに駆け付ける。

 

「大丈夫か!? リリルカとヴェルフは!?」

 

「だ、大丈夫……。気を失ってるだけ、だから……」

 

 俺と合流した事にベルは安堵したのか、気を失いそうになるも俺に状況を簡単に話した。

 

「リ、リヴァン、早く二人に、治癒魔法を……」

 

「安心しろ。お前にもちゃんと――」

 

 三人にレスタをかけようと、俺はすぐにハクセンジョウVer2を展開しようとする。

 

 だが、俺達を嘲笑うかのように、どこからかバキリッと音がした。

 

「「―――」」

 

 音がした方へ俺とベルは振り向いた。

 

 その先には、巨大な亀裂が、大壁の上から下にかけて雷のように走っていた。

 

「……!」

 

「今すぐ走れ!」

 

 武器を展開するのを急遽止めて叫んでヴェルフを担ぎ、リリルカを抱えているベルと一緒に走り出した。

 

 俺とベルが必死になって走っている間、壁が罅割れる音は続いている。バキッ、バキッ、と響きが大きくなり、次第にそれは声音へと変わって、大広間全体を震わした。

 

 やはり向こうが出てくるのが早いようだ。………仕方ない、やるしかないか。

 

「ベル、悪いが彼を頼む。お前は先に行け」

 

「え?」

 

 気絶しているヴェルフを渡そうとするも、ベルは走りながらも表情を歪ませる。

 

 察したんだろう。自分達を逃がす為に、俺がアレを引き付ける事を。

 

「い、嫌だよ。また、リヴァンを置いて行くなんて、僕には……!」

 

「いいから行くんだ! 大丈夫、すぐに後を追うから!」

 

 そう言いながら俺はベルに無理矢理渡した。

 

 直後、亀裂が入った壁が爆発して、岩の塊が崩れ落ちていく。

 

 そして背後からはズンッと、巨大な何かが大地に降り立った着地音がした。

 

 アレが噂に聞いた17階層の階層主で迷宮の孤王(モンスターレックス)――『ゴライアス』か。

 

 灰褐色の体皮で、太い首、太い肩、太い腕、太い脚、そしてごわごわした黒い髪。さながら巨人みたいなモンスターだ。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

 

 巨人の叫びに大広間全体が響いた。ミノタウロスとは比べ物にならない咆哮が。

 

「行け! 今度もちゃんと合流するから!」

 

「ッ! う、うう、ううううあああああああああああああああああああああっ!!」

 

 ゴライアスに対する恐怖が勝ったのか、ベルはヴェルフを抱えて奥の洞窟へと駆け出す。

 

 ………………よし、行ったか。

 

 ベルが18階層へ続く洞窟へ飛び込んだのを確認した俺は安堵し、脚を止めて振り返る。

 

 振り向いた先には、此方に狙いを定めていたゴライアスの巨大な手が目前に――。




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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】と再会する

今回はフライング+連続投稿です。


「ふぅっ、思いのほか梃子摺ったな……」

 

 17階層の階層主――『ゴライアス』との戦闘を終えた俺は、18階層へ続く狭い連絡口を進んでいる。

 

 戦闘前にゴライアスの巨大な手が目前に迫ったが、既に飛翔剣(デュアルブレード)――ディムDブレードを展開していた俺は咄嗟に武器アクション『パリィ』で防いだ。

 

 パリィは常時使用出来るジャストガードで、成功すれば敵の攻撃を防ぐだけでなく、カウンターとしてフォトン(エッジ)を飛ばす。そのカウンターに命中したゴライアスは手に痛みが走った事で引っ込めた。

 

 直後、俺は怯んだゴライアスの隙を突こうと、巨大亀形ダーカー――ゼッシュレイダと戦う要領で攻略しようとした。

 

 まず初めに大地を縫うようにしている巨大な足を痛めつけようと、接近しながらフォトンアーツを仕掛けた。連撃と共に巨大な衝撃波を幾重にも放ち、追撃でフォトンの刃を展開して敵を貫く飛翔剣(デュアルブレード)エトワール用フォトンアーツ――ライトウェーブを。

 

 貫通性能を持った四発の衝撃波と追撃の(エッジ)により、対象の右足は斬り刻まれる。余りの激痛だったのか、咄嗟に右足を上げて左足のみで立っているゴライアスに、空かさず攻撃を仕掛けた。

 

 左足に狙いを定めて目標を両手の刃で突き刺して切り裂いた後、追撃でフォトンの刃を放つ飛翔剣(デュアルブレード)エトワール用フォトンアーツ――ディストーションピアスを放った。流れとしては踏み込んで二連突いて、一瞬溜めて開き斬った後、大き目なフォトンの(エッジ)で挟み斬りの四段攻撃だ。

 

 斬り刻まれた右足と違って、バッサリと足首を切断された事により、ゴライアスは激痛による悲鳴を上げながら仰向けに倒れた。

 

 悶えて苦しむゴライアスに俺はこれを好機として、エトワール用の飛翔剣(デュアルブレード)専用スキル――フルコネクトを発動。

 

 戦闘で溜めたギアを全て消費させ、二つの剣として使っていた飛翔剣(デュアルブレード)を、フォトン(エッジ)と共に接続し、両手持ち用の大剣を形成する。

 

 辛うじてゴライアスが頭を上げた瞬間、力強く斬り上げた俺を見た後、放たれた鋭利な衝撃波によって二つに分かれた。もっと分かりやすく言えば、ゴライアスの身体が左右に真っ二つだ。

 

 激痛を通り越したのか、ゴライアスは意識を失うように頭を下ろして即座に灰となって絶命する。左右真っ二つとなった大きな魔石を残して。勿論ソレは回収済みである。

 

 以上が、ゴライアスとの戦闘経緯である。初見の所為もあって、倒すのに時間を喰ってしまった。

 

 本当なら相手の戦い方を分析しながら倒したかったが、一刻も早くベルと合流する為に短期決戦をやろうと、敵に攻撃させないように本気でやらざるを得なかった。次回は必ず分析しようと決意して。

 

 それはそうと、連絡口を降り続けていると、少し先に明かりらしき日の光らしきものが見えた。

 

 ダンジョンなのにどうしてと疑問を抱く俺だが、この先にベル達がいる事は確かなので、今は気にせず出口と思しき穴へ飛び込む。

 

「此処が18階層、か……」

 

 着地に成功した俺は周囲を見渡しながら呟く。

 

 今いる18階層は、もしかして地上ではないかと錯覚している。

 

 後ろにダンジョンの壁はあっても、地面には数え切れない無数の草が生え、周囲にはいくつもの木々が並んでいる。まるで地上の草原や森林みたいだ。

 

 更に見上げると、光の大元が分かった。俺の瞳には、天井が光り輝く水晶で埋め尽くされていたから。あの夥しい量の水晶から発光してる事で、快晴と思われる青空が形作られていたんだろう。

 

「……成程。これが『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と呼ばれている所以か」

 

 加えて、安全階層(セーフティポイント)である事も理解した。水晶と大自然に満たされた地下世界を見れば、誰だって安全な所だと思ってしまう。

 

 俺がよく好んで探索に訪れた惑星ナベリウスとよく似ている。エルフである俺としては、自然に囲まれると心が落ち着くので。

 

 って、今はそんな事どうでもいい。俺が遅れてやって来たと言っても、疲弊しているベルの事を考えれば、この辺りで気絶している筈なんだが……どこにもいなかった。しかもリリルカとヴェルフも一緒に。

 

 三人がいない可能性はいくつかある。

 

 ベルが気絶せず、リリルカとヴェルフをどこか安全な場所へ運んでいる。もしくは、別の者が気絶しているベル達を何処かへ運んだ。

 

 他にもあるが、この状況で考えるとしたら、恐らく後者だろう。確証はないが、視界の先にはいくつかテントを建てられてる野営地らしき拠点がある。あそこにいる誰かがベル達を連れて行ったかもしれない。

 

 例えあそこにベル達がいなくても、何かしらの情報がある筈だ。とは言え、アレは明らかに【ファミリア】の冒険者達と思われる拠点だから、俺の質問に答えてくれるかどうか怪しい。同業者と言っても、冒険者は基本的に他所の【ファミリア】に対して深く干渉しない事になってるからな。

 

 せめて友好的な【ファミリア】である事を願いつつ、俺は野営地に向かう事にする。

 

 

 

 

「失礼。少しお伺いしたい事があります」

 

「何でしょうか?」

 

 野営地の入り口にいる見張りらしき同胞(エルフ)の少女に話しかけると、向こうは警戒しながら訪ねてくる。

 

「いかに同胞と言えど、ここは【ロキ・ファミリア】の野営地です。他所の【ファミリア】である貴方に答える内容は限らせてもらいます」

 

「【ロキ・ファミリア】?」

 

 同胞からの思わぬ台詞に、俺は思わず鸚鵡返しをした。

 

 まさか、俺が以前に宴で一悶着を起こした都市最大派閥がこんな所にいたとは。

 

 そう言えば確か【ロキ・ファミリア】は遠征中だったな。となると、遠征に出発した日数から考えて、この階層にいるって事は現在帰還中か。なのに此処で野営地にしてるのには、何かしらの理由があるんだろう。

 

 となると、ここには俺がよく知っているあの人がいる筈だ。

 

「ならば話は早い。そちらにレフィーヤ・ウィリディスはいらっしゃいますか?」

 

「レフィーヤ? ……失礼ですが、彼女とは知り合いですか?」

 

「知り合いも何も、俺は彼女の従弟です。確認して頂ければ、すぐに分かります。リヴァン・ウィリディスが来たと伝えて頂ければ」

 

 訝る同胞の少女からの問いに、俺は嫌な顔をする事なく答える。

 

「……分かりました。ではすぐに呼んできますので、此処で少々お待ち下さい」

 

 待つように言われた俺は頷くと、彼女はすぐに野営地の中へと進んでいく。

 

 レフィ姉さんがいるなら、ベル達の事を粗方聞ける筈だ。取り敢えずは向こうが来るまで待てば自ずと――

 

 

「あ~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

 

 

 野営地の奥から、突然叫び声が聞こえた。

 

 な、何だ? 今のってもしや……レフィ姉さんか? あの人らしくない絶叫だったな。

 

 本当ならすぐに確認したかったが、待つように言われた俺は留まるしかなかった。

 

 その後、何故か少々涙目となってるレフィ姉さんが此方へ来て、俺を見た途端に物凄く驚いた顔となる。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、リヴァン・ウィリディス。まさか、ここで君と再会するとは思わなかったよ」

 

「どうも。あの時の宴以来ですね。今回は、彼等を救って頂き誠にありがとうございます」

 

 レフィ姉さんと再会して事情を説明した後、ベル達が此処にいると分かった。すぐに会わせて欲しいと許可を願うと、野営地に招かれて一つの天幕に案内された。

 

 彼女の言う通り、静かな寝息を立てて安静にしているベルとリリルカとヴェルフを見付けた事に、俺は非常に安堵した。けれど、それとは別に、天幕の中には三人――特にベル――の看病をしていた【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインもいた。俺の姿を見た彼女は非常に驚いた顔をしていたのは分からないが。

 

 因みに三人の傷は【ロキ・ファミリア】によって治療されていた。アイズ・ヴァレンシュタインが助けた以上は見捨てる事は出来ない他、同業者を見捨てる訳にはいかないと処置を施してくれたようだ。そのついでとして、俺も治療される事になったが、丁重に辞退させてもらった。俺自身は大した傷を負っていないし、回復アイテムも所持しているので。

 

 その後、レフィ姉さんより団長のフィン・ディムナから話があると言われたので、【ロキ・ファミリア】首脳陣の天幕にいると言う訳である。

 

 今はベル達を救出してくれた感謝の礼をする為に、深く頭を下げている。

 

「そう畏まらないで、どうか楽にしてくれ。冒険者とは言え、こんな時くらいは助け合わないとね」

 

 彼はそう言って、肩を少し上げる素振りをする。

 

「それに、アイズの知人である彼を見殺しにしたら、僕は彼女や君に恨まれてしまうからね。それ以外にも、僕としては以前にあった宴の件での償いをしたいと思っていたところだしね」

 

「あの件でしたら、もうレフィ姉さんの謝罪で充分だと申した筈ですが?」

 

「君はそうかもしれないけど、もう一人の方――ベル・クラネルは別だ。彼には正式な謝罪を一切してないからね」

 

「まぁ、確かに……」

 

 確かにアレはあくまで俺一人で済ませた。しかし、ベルについては一切何もしていない。だからフィン・ディムナは、ベルの救出には謝罪の意味も含まれていると言う事か。

 

 色々と考えているなぁと思いながらも、敢えて口には出さなかった。

 

「君達の事情は概ね理解しているつもりだけど、一応説明してもらえるかい? 僕らの現状も話しておくから、情報交換といこう」

 

 …………成程、そう言う事か。本当に食えない人だ。

 

 本来ならダンジョン探索に関する詳細な情報は、基本的に他所の【ファミリア】には教えない事になっている。下手に教えれば向こうに主導権を握られてしまう恐れがあるので。

 

 しかし、残念ながら今の俺に断る権利はなかった。偶然とはいえ、【ロキ・ファミリア】にはベル達を救出してくれた恩義がある為、それに見合う代償を支払わなければいけない。

 

 もしこの場で教えないと断ってしまえば、後々に必ず面倒な事になる。特にあの狡猾そうな神ロキに何を言われるか分かったもんじゃない。

 

 とは言え、向こうの思惑通りに洗いざらい話すのは癪なので、少しばかりの抵抗をさせてもらうとしよう。

 

「そうしたいのは山々ですが、生憎と現パーティのリーダーはベル・クラネルになっています。いくら救ってくれた恩があるとは言え、リーダーである彼の許可がない状態で、情報交換をするのは道理に反しますので」

 

「…分かった。では後ほど、彼に訊くとしよう」

 

 俺の抵抗にフィン・ディムナはほんの少しばかり間があったが、すぐに笑顔でそう答えた。

 

 まぁ、ベルの事だから全部話すだろう。アイツは超が付く程のお人好しだから、内容を一切包み隠さずに全て話す筈だ。

 

 何も考えずに全て話すのは楽だが、俺は一時カスラに育てられたので、相手の心情を予測して色々と考えるようになった。(アイドル側の)クーナさん曰く、『考え方まで陰険メガネと似なくていいのに』と言われた事がある。

 

「その代わりだけど、ベル・クラネルから情報交換しない限り、こちらも教える訳にはいかない。かと言って、追い出す気は無いから安心してくれ。君達を客人としてもてなそう。周囲と揉め事を起こさなければ、彼等がいるあのテントを好きに使って貰って構わない。団員達にも僕の口から伝えておくよ」

 

「お心遣いに感謝します。こちらとしては大変願っても無い事なので」

 

 取り敢えずはベル達の身の安全は確定か。俺としても好都合だから、何の文句も無く従う事にする。

 

「がははっ、フィン相手にここまで言い切るとは本当に度胸のある小僧じゃ! ここまで面白いエルフは久々に見たわい!」

 

「ガレス、それは私の事を言っているんじゃないだろうな?」

 

 大笑いするドワーフのガレス・ランドロックに、同胞……ではなく王族(ハイエルフ)のリヴェリア・リヨス・アールヴ様が睨むように問う。

 

 そう言えば、確かあのお方はレフィ姉さんの師だったな。本当ならすぐにでも挨拶すべきなんだが、やる事があり過ぎた為に後回し……と言うより忘れていた。他のエルフからすれば考えられないどころか、かなり不敬だと言われるだろうが。

 

 一先ずは挨拶をしようと、俺は彼女に向かって膝を折り、頭を垂れる。

 

「この度は御挨拶が遅れてしまって誠に申し訳ありませんでした、リヴェリア・リヨス・アールヴ様。本来であれば、宴の時に名乗らなければならなかった無礼をお許し下さい。存じているかとお思いですが、私はレフィーヤ・ウィリディスの従弟、リヴァン・ウィリディスです。以後お見知りおきを」

 

「ああ、お前の事はレフィーヤから一通り聞いている。以前の宴については、本当にすまなかった。だがそれとは別に、私が王族(ハイエルフ)だからと言って、そのように畏まる必要は無い。出来れば私の事は、一人の冒険者として接して欲しい。なんなら、『リヴェリア』と呼んでも良いぞ」

 

 ……ん? 何かレフィ姉さんから聞いた話とは違うな。リヴェリア様は王族(ハイエルフ)で大変高貴な御方だから、礼節には物凄く厳しいから決して粗相無く振舞うようにって言われたが……。

 

 幼少時の俺だったら、何の疑いも無く受け入れていた。恐らく、リヴェリア様が何を言っても高貴なお方と接し続けていただろう。

 

 だけど、オラクル船団でカスラから教育された今の俺は、凄く堅苦しかった。

 

『私が三英雄だからと言って、そんな仰々しく畏まる必要なんか一切ありません。出来れば普通に話して頂けませんか?』

 

 と、カスラからそう言われた事があった。

 

 なので俺は、リヴェリア様に言われた通りの事を実行しようと立ち上がる。

 

「そうですか。では今後、貴女を『リヴェリア』と呼ばせて頂きます。よろしければ友好の証として、握手でもどうでしょうか?」

 

「なっ……」

 

『ッ!』

 

 俺がリヴェリア様(以降はリヴェリア)を呼び捨てにしながら手を差し伸べた瞬間、彼女だけでなく他の二人も驚愕の表情となった。

 

 そして――

 

「……くっ、ふふ、はははっ」

 

 リヴェリアは心底可笑しそうに肩を揺らした。

 

「? 俺は何か笑うような事を言いましたか?」

 

「ああ、すまない。まさか本当に呼び捨てにされるだけでなく、握手まで求められるとは思いもしなかったのでな」

 

「……御不快でしたら、今まで通りの接し方になさいますが」

 

「いいや、そんな必要など一切無い」

 

 そう言いながらリヴェリアは差し伸べてる私の手を取って、少々強く握りしめてくる。

 

「今後もそのままでいてくれ。あと、私もお前の事を『リヴァン』と呼ばせてもらう。構わないか?」

 

「勿論ですよ、リヴェリア」

 

 頷きながら再び呼び捨てで言う俺に、彼女はとても気分が良さそうな表情となった。

 

「……これは驚いたね。まさか王族(ハイエルフ)のリヴェリア相手に、あんな態度を取るエルフがいたとはね」

 

「リヴェリア本人も随分と嬉しそうな顔をしとるのう。うちの所におるエルフ達が大騒ぎにならなければ良いのじゃが」



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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】の世話になる

「んー……やはり彼は中々頭が回るようだね。こちらの誘導に乗せられることなく、安静中のベル・クラネルを盾にして情報交換を断るとは……」

 

 リヴァンが去った後、フィンはそう呟く。

 

 遠回しにベル達を救った恩を理由に詳細な情報を聞き出そうとしたが、尤もな理由で拒否したリヴァンの手腕に少し関心する程だった。

 

 尤も、後で目覚めたベル本人から情報を聞けばそれまでだった。だからフィンは特に気にせず、向こうの条件を受け入れる事にした。もしかしたらリヴァンはそれを分かっていながらも敢えて、あんな回りくどい事をしたのかもしれないと予測する。

 

「だとしても本当に良かったのか、フィン? こちらの物資は、他所の冒険者を受け入れるほどの余裕は余り無いと言うのに……」

 

 二人のやり取りに口を出さなかったガレスがフィンに尋ねる。

 

「まぁ、四人くらいなら大丈夫だよ。知っての通り、リヴァン・ウィリディスはレフィーヤの身内だから、無下に断る訳にもいかない。ただでさえ宴の時で【ロキ・ファミリア(ぼくたち)】に対する悪印象を抱かれているから、これ以上は流石に不味い」

 

 知っての通り、【ロキ・ファミリア】は迷宮都市(オラリオ)を代表する都市最高派閥で、オラリオに住まう者達から色々な意味で注目されている。

 

 前回の遠征後の宴では、リヴァンが酒場にいる客達の前で失態を暴露した。それを払拭する為にリヴァンの従姉――レフィーヤが咄嗟に謝罪して何とか事無きを得て今に至る。

 

 今度はダンジョンで再会し、物資を理由にリヴァン達を追い出せば本格的に不味い。万が一にそれが地上に知れ渡れば、【ロキ・ファミリア】を敵視しているところから恰好の的となるだろう。

 

 都市最高派閥の代表として背負っているフィンとしても、それは何としても避けたかった。仮にリヴァンが泥を塗るような行為を侵そうとすれば、荒事ではないが相応の手段で対処する事になっている。

 

 他にも理由があった。今回救出した仲間の内には同族(パルゥム)も含まれている。同業者とは言え、小人族(パルゥム)の復興を野望にしているフィンとしては見過ごす訳にいかない。加えて彼の個人的な事も含まれているが、それを某アマゾネスが知れば色々と不味いが。

 

「まぁそうじゃのう。それにしても、あのリヴァン・ウィリディスと言う小僧、本当にレフィーヤの従弟なのかと疑う程に肝が据わっておったわい」

 

「全くだ。我が弟子(レフィーヤ)が普段あのように振舞ってくれたら……」

 

 ガレスの言い分にリヴェリアが頷きながら、レフィーヤに対して苦言を呈する。

 

 弟子としては申し分ないのだが、いざ本番と言う時に躓いているのが今まで何度もあった。

 

 リヴァンについては二回会っただけなので詳しくは知らない。しかし、宴の時では自分達にハッキリと言い切り、つい先程まで第一級冒険者(フィンたち)と対面しても臆する事無く接する度胸は充分評価に値する。

 

 加えて、王族妖精(ハイエルフ)である自分(リヴェリア)に対して一人の冒険者として接してくれた事もあり、リヴァンを非常に好感が持てる同胞(エルフ)と見ている。

 

「惜しいな。もしリヴァンが【ロキ・ファミリア】に入団してくれたら、私としても非常に助かるのだが」

 

「お主がそこまで自身の同胞を気に入るとはのう。アイナが知れば驚きそうじゃ」

 

「君を敬っている他のエルフ達が知れば、面倒な事になるのは確実だね」

 

 同胞(エルフ)と肩を並べて話す事が出来て喜ぶリヴェリアに、ガレスとフィンは思わず苦笑する。それだけ気に入ったと言う証拠であろう。

 

 しかし、それとは別に気になる事があった。

 

「リヴェリア。話は変わるが、確かリヴァン・ウィリディスは『Lv.1』だったよね?」

 

「ああ。レフィーヤから聞いた話では、約二月(ふたつき)程前に冒険者になったばかりらしい」

 

「……それでも中層へ進出して18階層へ到達した、か。妙だね」

 

「何が妙なのじゃ?」

 

 考え込む仕草をするフィンに、ガレスが訝りながら問う。

 

「彼だけ一番違和感があり過ぎるんだよ。ベル・クラネル達はボロボロの姿になって此処まで来たと言うのに、リヴァン・ウィリディスだけは殆ど無傷だった。中層に初めて来たにしても、『Lv.1』である筈の彼があんな状態で此処へ来ること自体おかしいんだ」

 

「「!」」

 

 言われてみればとハッとするリヴェリアとガレス。

 

 本当なら今すぐリヴァンを問い詰めたいフィンだったが、客人に対してそんな無礼な事は出来ない。故に今は見送る事にした。

 

 今までは宴の件があって様子見だったが、地上に戻ったら改めて調べてみようとフィンは密かに考え始める。

 

 

 

 

 

 

 急遽【ロキ・ファミリア】の野営地にいて、俺――リヴァンはベル達が安静にしている天幕にいた。

 

 団長のフィン・ディムナからは客人としてもてなすと言われたが、流石に彼等の野営地内を歩き回る訳にはいかない。それ故に余程の事が起きない限り、天幕で過ごす事にしている。

 

 因みにベル達の傷は既に【ロキ・ファミリア】のリヴェリアや治療師(ヒーラー)のお陰で治療済みだ。聞いた話だと、特に酷いのはヴェルフだった。片足の骨が砕けていたみたいだが、今はもうすっかり元通りになっている。

 

 本当なら俺がレスタを使って回復させたかったが、既に向こうが治療したからその必要はない。あとは三人が目覚めるのを待つだけだった。

 

 治療が済んでも目覚める気配が一向に無かったから、疲れ気味になっている俺も少し一眠りしようと思っていたんだが――

 

「あのぅ、【剣姫】さん。幹部の貴女が此処に居て良いんですか?」

 

「…気にしないで。あと、私の事はアイズでいい」

 

「そうですか」

 

 何故か【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン(以降はアイズ)がずっといるので、とても寝るに寝れなかった。因みに俺も自己紹介を済ませたので、向こうも俺の事をリヴァンと呼ぶ事となった。

 

 お互いの自己紹介後には、ミノタウロスの件について改めて謝罪してきた。宴の時とは違い、彼女は当事者の一人であったから是非とも謝りたかったと。因みにベルにはもう既に済ませているそうだ。狼人(ウェアウルフ)――ベート・ローガも当事者だが、あのプライドの高そうな奴が自ら謝罪するとは到底思えないから諦める事にしている。

 

 他にも何か聞きたそうな顔をしていたが、俺がさり気なく此処から出るよう遠回しに促すも、アイズには此方の意思が伝わらずにずっと居続けている。分かりやすく言ったつもりなんだが、どうやら通じないようだ。

 

 それに加えて、彼女はずっとベルの近くに座って看病している。どうしてそこまでベルが気になるのかは分からないが、何かしらの経緯で知り合ったんだろう。

 

 アイズが梃子でも動かないと分かった俺は寝るのを諦めて、急遽腹ごしらえをする事にした。

 

 電子アイテムボックスに収めているタッパーとボトルを出現させた事に、アイズはベルを看病しながらもジッと俺を見ている。

 

 彼女の視線に気にせず、ソレの蓋を開けた俺は携帯食――ジャガ丸くんを取り出す。ベル達を捜索中に小休止の時に何度か食べていたが、今はもう残り数個しかなかった。

 

「! それ、ジャガ丸くん……」

 

「ん?」

 

 俺がジャガ丸くんソース味を食べていると、何故かアイズは目を見開いていた。しかもジャガ丸くんを凝視している。

 

 見事に言い当てたな。もしかして彼女、コレが好きなんだろうか。

 

「よく分かりましたね。貴女もジャガ丸くんを食べるんですか?」

 

 俺からの問いに彼女はコクコクと首を縦に振った。

 

 口には出さなくても、凄く大好きだと言うのがよく分かる。

 

「リヴァンが食べているソレは何味?」

 

「ソース味です」

 

「……小豆クリーム味は食べないの?」

 

「アレは個人的に美味しくなかったので食べません」

 

 試しに食べてみたが、先にソースや塩で慣れてしまった為に美味しく感じなかった。やはるジャガ丸くんはお菓子感覚で食べるモノじゃなく、総菜として食べるのが良いと改めて分かった。

 

 だが、この直後に俺は後悔する。彼女の前で美味しくないと言ってしまった事を。

 

「そんな事はない。小豆クリーム味は美味しい……!」

 

「え?」

 

 すると、少し距離があった筈なのに、いつの間にかアイズが俺の近くにいた。しかも顔を物凄く近づけて。

 

「リヴァン、君には小豆クリーム味を深く理解する必要がある。小豆とクリームが合わさる事で、ジャガ丸くんの美味しさを更に引き立てて――」

 

 …………ええ~? アイズってこんなに饒舌な女性だったの?

 

 俺の知る限りだと、寡黙で冷静沈着な女性剣士と言う評判の筈なのに……。目の前の彼女はそんな雰囲気を微塵も見せないどころか、ジャガ丸くんについてクドクドと語り始めようとしている。

 

 自身の好みを否定されたから語ろうとしているんだろうが、何もそこまで熱くなる事じゃないと思うんだが。

 

 あと、お願いだから顔を近づけたまま語るのは止めて欲しいんですけど。こんな所をレフィ姉さんに見られでもしたら――

 

「リヴァン、朝ご飯を持ってきたから食べ――え?」

 

「あ……」

 

「レフィーヤ?」

 

 何と最悪な事に、レフィ姉さんが朝食を用意して天幕に入って来た。

 

 俺とアイズが顔を近づけ合ってる事に、あの人の動きが止まっている。そして――

 

「な、な、な……! ア、アイズさんと何をしてるのリヴァ~~~~~~~ンッッ!!!」

 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶのであった。

 

「ちょ、レフィ姉さん、落ち着いて……!」

 

 ベル達が眠ってるのに、そんな大声で叫んだらダメだって!

 

「またお前か、レフィーヤ!! 静かにしろと言った筈だぞ!!」

 

「す、すいませんっ!?」

 

 叫びを聞きつけたリヴェリアが速攻で雷を落としていた。

 

 と言うか、『また』って……。もしやレフィ姉さん、俺が野営地に入る前に聞こえたあの叫びで一度注意されたんじゃ……?

 

 俺の疑問を余所に、天幕に入ろうとしていたあの人は、リヴェリアに強制連行されてしまった。

 

「う、うう……」

 

「!」

 

 すると、先程まで安らかに寝息を立てていたベルが突然苦しそうな声を出した。それを聞きとったアイズは即座に俺から離れて、再びベルの近くに座って看病を始めようとする。ジャガ丸くんについて語ろうとする彼女でも優先順位はあるようだ。

 

 内心助かったと思った俺は、ジャガ丸くんを早く食べた後、もう彼女の事は気にせず眠る事にした。勿論、上着や靴を脱いでいる。

 

「すいませんが仮眠を取るので、それまでの間はベルを頼みます」

 

「…うん、分かった。お休みなさい」

 

 タッパーとボトルを電子アイテムボックスに収め、既に用意されている簡素な寝床で横になろうとする俺は彼女に背を向けた。

 

 俺に気を遣ってか、アイズは無言となっている。内心感謝しつつも、いきなり眠気が襲ってきた事でそのまま目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 久々に長時間の捜索や戦闘続きの事もあって、自分の身体が思っていた以上に疲弊していたみたいで、何と数時間以上の仮眠を取る事となった。

 

 目覚めた際、リリルカとヴェルフは相変わらず眠っているままだが、安静中だった筈のベルがいなかった。少し時間が経って知ったのだが、どうやら俺が仮眠中の時に目覚め、看病していたアイズによってフィン・ディムナの元へ連れて行ったそうだ。俺が拒んだ情報交換をさせる為に。

 

 天幕へ戻ったベルから物凄い勢いで詰問されたのは言うまでもない。『ちょっとリヴァン、いつの間に僕がパーティのリーダーになっていたの!?』ってな。寝ているリリルカとヴェルフに申し訳がなかったので、一先ず場所を変えようと天幕から出る事にした。

 

 野営地の隅っこに移動した際、ゴライアスとの戦闘前に別れた後の事を説明した。ゴライアスを倒した件を話すと面倒な事になりそうなので、敢えて切り抜けたと誤魔化し、18階層で【ロキ・ファミリア】の野営地に訪れた時の内容を説明。俺が独断で咄嗟にベルをパーティのリーダーにした事は少し納得いかない表情をしていたが。

 

 アイズがずっと看病をしていた事も教えると、その直後にベルの顔が面白いくらいに顔を真っ赤にしていた。『俺がいない間に随分と仲良くなったじゃないか』と揶揄うと、ベルは必死に言い訳をしようともするが、しどろもどろとなる始末。笑いを堪えるのが大変だった。

 

 それと、ベル経由で【ロキ・ファミリア】側の情報を知る事が出来た。どうやら向こうは、『遠征』の帰りにトラブルが発生したようだ。帰路の途中で、モンスターの群れに強襲されて、下位の団員の多くが『毒』に侵されたらしい。しかも自分一人では、動く事も困難な程であると。

 

 回復アイテムの手持品(ストック)が尽きかけている都合上、毒に苦しんでいる者達を全員解毒させるのが無理なので、この18階層で足止めとなっているらしい。

 

 そして悪質な『毒』を治療する専用アイテムが地上にあるようで、それを調達しに行っている人を戻って来るのを待っている状態であると。

 

 毒で動けない、か。【ロキ・ファミリア】のリヴェリアや治療師(ヒーラー)でも完全に解毒出来ない程とは、相当厄介な毒なんだろう。アンティで治るかどうか一度試してみたいな。

 

「ところで話は変わるんだがベル、近くで話してるとやっぱり臭うな」

 

「そりゃまぁ、ずっとダンジョンにいたから」

 

 向こうがベル達を治療している際に一通りの消臭をしてくれているみたいだが、完全に消えていないみたいだ。ダンジョンの中では全く気にしなかったが、自然に溢れた18階層にいると鼻が反応してしまう。

 

 因みに俺はこの野営地に来る前にアンティを使って消臭済みだ。ベルがいない間、リリルカとヴェルフにも密かに済ませている。それと余り言いたくないが、この野営地にいる【ロキ・ファミリア】の方々もそれなりに臭う。男性だけでなく女性もだ。

 

 ここは【ロキ・ファミリア】の野営地なので、多くの団員達の前でアンティを使う訳にはいかない。だから後ほど天幕へ戻った際にやるとしよう。勿論、ベルにもそう言ってある。

 

 あ、レフィ姉さんが涙目になってトコトコと歩いているな。恐らくだけど、リヴェリアにキツイ説教でもされたってところか。

 

 天幕内で騒いだのは問題だったから自業自得だけど、ここは従弟として慰めにいこう。

 

 しかし、その行動をした事に俺は後悔した。何故なら――

 

「リヴァン、本当にアイズさんと何もなかったのよね?」

 

「だから何度も言ってるでしょう。ジャガ丸くんの話題でああなったって」

 

 いきなり俺とアイズの関係について問い詰められたので。




感想お待ちしています。


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少年エルフ、ダンジョンで神と遭遇する

珍しく長めに書きました。


 問い詰められたレフィ姉さんと一通りの話を終えた後、俺は再び天幕へ戻った。

 

 約束通り、ベルにアンティを使って消臭後、未だに眠っているリリルカとヴェルフの看病をしている。俺がヴェルフで、ベルはリリルカを。

 

 天井の水晶の光が薄れて『夜』の時間帯となった際、二人は漸く目覚めた。

 

 ベルが一通りの状況を説明すると、足手纏いになっていたと謝罪するリリルカとヴェルフ。しかし、ベルが即座に否定した事で二人は苦笑する。

 

 話題を変えようと、俺が二人の怪我の痛みがないかを確認するも、揃って問題無いと返答してきた。改めてレスタで回復させる必要がなさそうだ。

 

 リリルカは中層で俺がレスタを使ったのを思い出したのか、それについて質問してきたが、急遽アイズが現れて食事の知らせをしてきた。

 

 アイズが来た事で、リリルカとヴェルフは驚きの表情を露わにして固まっていた。いきなり【剣姫】の名で知られた第一級冒険者が現れたら、そうなるのは無理もない。

 

 一先ずはパーティ内での会話はここまでとなり、俺達は天幕を出て彼女の後に付いて行き、すぐに野営地の中心へと到着する。

 

 ヴェルフが着いた途端に何やら嫌そうな顔をしていた。俺がさり気なく聞いてみると、どうやら【ロキ・ファミリア】だけでなく【ヘファイストス・ファミリア】もいるらしい。ヴェルフ曰く除け者扱いされているから、呻き声の一つも出したくなるだろう。

 

 アイズから人気のない場所を勧められたので、俺達はそれぞれ腰を下ろそうとする。

 

 ベルは右隣りにアイズが、左隣にはリリルカと女性二人に挟まれている。ヴェルフはリリルカの右隣りで、その更に隣に俺……と言う座り順だ。

 

 看病していた時から気になっていたが、本当にアイズはベルの事が気になるんだな。ベルが腰を下ろしたのを見て、直ぐ隣に座っているのが何よりの証拠だ。まぁそれによって、レフィ姉さんがベルを目の敵みたく睨んでいる。

 

 すると、団長のフィン・ディムナが立ち上がって俺達を紹介しようとする。

 

「彼等は仲間(おたがい)のために身命をなげうち、この18階層まで辿り着いた勇気ある冒険者だ。仲良くしろとまで言うつもりはないが、同じ冒険者として、敬意をもって接してくれ」

 

 上手いものだ。ああやって冒険者の自尊心に訴えるような言い方をすれば、向こうの団員は俺達との揉め事は避けるだろう。カスラも似たような事をしているのを何度も見た事がある。

 

 それより、ここの食事が果物(フルーツ)がメインのようだ。どれも糖分が高くて物凄く甘い。特に綿を蜂蜜に侵したかのような雲菓子(ハニークラウド)は、一口食べた途端に濃厚な甘い果汁が口に広がっている。俺は甘い物は食べれるから大丈夫だが、問題はベルだ。前に甘い物が苦手だと言ってたから、こんな激甘な雲菓子(ハニークラウド)を食べれば……思った通り、吐きそうな顔をしていた。

 

 ベルと違って【ロキ・ファミリア】の女性団員達は、雲菓子(ハニークラウド)を齧ってはとろけるような顔で頬に手を当てていた。女性は甘い物が好きだと言われているが、限度があると俺は思う。こんな甘過ぎる果物ばかり食べていたら、体重が増えてお腹に贅肉も――

 

『!』

 

 ――やばっ。何故か分からないが、果物を食べてる女性団員達が一斉に俺を睨んできてる。一先ずこれ以上余計な事を考えるのは止めておこう。

 

 素知らぬ顔をしながら果物を食べると、向こうは何事も無かったかのように食事を再開する。

 

 俺のやり取りとは別に、隣は色々と騒いでいた。いつのまにかベルの周囲にはアイズとリリルカだけでなく、アマゾネスと思われる褐色の女性二人も混ざっていた。見た感じ姉妹で、まるで尋問するように話しかけている。胸が薄い方の女性がベルの事を『アルゴノゥトくん』と呼んでいる理由は分からないが。端から見ればベルが女性にモテモテの光景だ。

 

「ベ、ベル、リヴァン! どっちでもいいから助けてくれ!」

 

「何じゃヴェル吉、せっかく心配して来てやったと言うのに」

 

 更に隣のヴェルフは、【ヘファイストス・ファミリア】の()()()らしき女性に絡まれていた。凄く嫌そうな顔をしているヴェルフとは対照的に、酒が入っている()()()の女性は愉快そうな笑みで肩を組んでいる。

 

 ベルは女性四人に絡まれて無理だ。なので動けるのは俺だが……放置しておくことにした。騒がしいので場所を移動しようと俺は、飲み物が入っているコップだけを持って立ち上がる。

 

 ヴェルフから『この薄情エルフ~!』と言われたが、今の俺には何にも聞こえなかった。

 

 俺が移動して着いた所は………レフィ姉さんの隣だ。彼女は気付いていないのか、ジッとベルを見ている、と言うより睨み続けている。

 

「随分とお怒りのようですね、レフィ姉さん」

 

「! リ、リヴァン……」

 

 レフィ姉さんは声を掛けるとまるで今気付いたように反応して振り向いた途端、気まずそうな表情となっている。

 

 許可を求めないまま隣に座るも、彼女は特に気にすることなく受け入れている様子だった。俺が従弟だからと言う事であって、これが見知らぬ男だったら対応は全く違っているだろう。

 

「もしかして、ベルと何か遭ったのですか?」

 

「べ、別にそんなんじゃ……」

 

「ならば、何故ベルを目の敵にしているのです? そうするのには理由があるはず」

 

「そ、それは……」

 

 何でもないと言おうとするレフィ姉さんだが、何かしらの理由でベルを嫌っている節を見抜いてた俺は再度問う。

 

 普段の彼女であれば、種族構わずどんな相手でも友好的に接している。にもかかわらず、何故かベルに対して矢鱈と刺々しい雰囲気を醸し出していた。

 

 俺が考えられる理由としては、ベルの近くにアイズがいるかもしれない。レフィ姉さんのアイズに対して、尊敬を通り越して崇拝している。以前には惚気みたいな長話を聞かされたから、どれだけ好きなのかを胸焼けするほど分かっていた。現にベルがアイズと至近距離で話しかけられている事で、目がどんどん鋭くなってきている。

 

「先に言っておきますが、ベルは俺の仲間で友達です。いくらレフィ姉さんだからと言っても、彼に害する行動を取れば黙ってはいませんので」

 

「ううっ……」

 

 何故ベルを嫌っているのかは知らないが、こうやって釘を刺しておけば大丈夫だろう。

 

 すると、レフィ姉さんはベルを見るのを止めて俺に視線を移して問おうとする。

 

「ね、ねぇリヴァン。さっきティオナさんとティオネさん……あそこにいるアマゾネスの二人から聞いたんだけど、あのベル・クラネル……さんが、一人で『ミノタウロス』と戦ったのは本当なの?」

 

「勿論と言いたいところですが、生憎俺はギルドの情報やベルの口から聞いただけに過ぎません。ですが、それでベルが『Lv.2』にランクアップして、この中層に来れたのが何よりの証だと思いますが?」

 

「それは、そうだけど……」

 

 従弟の俺が実際に見てない事でレフィ姉さんは完全に納得出来ない様子だ。もしベルがミノタウロスと戦うところを見ていれば考えは改まるかもしれないが。

 

 しかし、それとは別に気になる事がある。

 

「寧ろ、上層でまたしてもミノタウロスが出現した事が気になりますね。俺はてっきり、以前に【ロキ・ファミリア(そちら)】が中層で討ち漏らしたミノタウロスの生き残りかと思いましたよ」

 

「! そ、そんな訳――」

 

「それについては私の方から弁明させてもらおうか」

 

 すると、こちらの会話に【ロキ・ファミリア】副団長のリヴェリアが割って入るように言ってきた。

 

 彼女がそのまま俺の隣に座る事に、レフィ姉さんや他の団員の同胞(エルフ)達も驚いた顔をして見ている。

 

「もう一月以上経ったが、【ロキ・ファミリア(わたしたち)】が責任を持って既に対処している。ギルドにも報告済みだ。お前の事だから、それもちゃんと確認したと私は思うが?」

 

「……失礼しました。レフィ姉さんが俺の友達を疑うように問われたので、つい……」

 

 リヴェリアの言う通り、俺はもう既にギルドで確認していた。だからベルが戦ったミノタウロスは【ロキ・ファミリア】の討ち漏らしでない事はもう分かっている。

 

「意地の悪い奴だ。我々の不手際で無い事を分かっていて言うとは。あとレフィーヤ、ベル・クラネルが一人でミノタウロスを倒したのは間違いない。そこは目撃者である私が証言する。フィンもその一人だ。そうでなければ彼はここにいないし、逆にアイズは助けようとしたら拒まれていたぞ」

 

「ほ、本当に一人で……」

 

 リヴェリアやフィン・ディムナが目撃者と言ったことで、レフィ姉さんは漸く疑惑の念が晴れたようだ。と言っても、未だベルに対する刺々しい雰囲気は無くならないが。

 

 まぁそれより、何でこの人は俺の隣に座ったんだろうか。お陰で未だに他の同胞(エルフ)達に凝視されているんだけど。

 

「あのぅ、証言したのでしたら元の席に戻ってはどうでしょうか?」

 

「何だ? 私が隣にいると嫌なのか?」

 

「いえいえ。いくら同じ冒険者とは言え、王族(ハイエルフ)の貴女が、下賤なエルフの身である俺と一緒にいるのは、色々と体裁が悪いと思いまして」

 

「そんな気遣いは一切不要だ。前にも言っただろう? 私を王族(ハイエルフ)として敬う必要は一切ないとな」

 

「………はぁっ、分かりました。ここは貴女に従いましょう、リヴェリア(・・・・・)

 

『んなっ……!?』

 

 俺がリヴェリアを呼び捨てで言った瞬間、この場にいるエルフ達が一斉に驚きの声を発し、あんぐりと口を大きく開けた。勿論、それはレフィ姉さんも含まれている。

 

「そうだ。良かったら後で、ベルがミノタウロスと戦った内容を聞かせてくれませんか? ベル本人に聞いても、必死に戦ってたから細かく憶えていないと言われてしまって……」

 

「……ふっ。良いだろう。だが、私が見たのは途中からなので、冒頭の部分は分からないぞ。それでも構わないか?」

 

 俺のお願いにリヴェリアは一瞬呆けた顔をするも、すぐに笑顔で了承してくれた。

 

「ええ、構いません。見た内容を教えてくれるだけで――」

 

「ちょちょ、ちょっと待ちなさいリヴァン!!」

 

 すると、さっきまで固まっていたレフィ姉さんが急に俺の両肩を掴んで詰め寄って来た。

 

 この光景に他の団員達だけでなく、ベル達も一斉にこちらを凝視している。

 

「どうしました、レフィ姉さん? そんな慌てた顔をして」

 

「ああ貴方、なな、何でそんな馴れ馴れしい態度を取ってるの!? そ、それに今、リヴェリア様を、よ、呼び捨てにするだけでなく、お願いをするなんて厚かましい事を……!」

 

 どうやら俺のリヴェリアに対する態度がお気に召さなかったようだ。他の同胞(エルフ)達からも非難に満ちた目で睨んでいる。

 

「いや、御本人から『自分を一人の冒険者として接するように』と言われたので、俺はそれに合わせようと……」

 

「その通りだ、レフィーヤ。私が許可したのだから、リヴァンに一切の非は無いぞ」

 

 俺の発言にリヴェリアが擁護するも、レフィ姉さんは未だに焦った顔をしている。

 

「だ、だとしてもリヴァン、いくら許可されたからと言っても、そこは丁重にお断りするのが普通で……!」

 

「そんな事をしたらリヴェリアの気を悪くするだけじゃないですか」

 

「また呼び捨て!?」

 

 俺が再び呼び捨てで言った事にレフィ姉さんは再び仰天した。

 

「……はぁっ、全く」

 

 大袈裟に驚いているレフィ姉さんに呆れているのか、リヴェリアは瞑目しながら手を頭に当てて嘆息した。因みにフィン・ディムナは苦笑し、ガレス・ランドロックは我関せず状態だ。

 

 それとは別に、彼女だけでなく他の同胞(エルフ)達(主に女性)も聞き捨てならないように立ち上がって一斉に詰め寄ろうとするも――

 

 

「こぉらぁベル君! ボクが心配で捜しに来たと言うのに、なに他の女の子とイチャコラしているんだぁ!?」

 

「ええ!? か、神様!?」

 

 

 突然、どこかで聞き覚えのある声が叫んだ。しかも名指しで。呼ばれたベルは驚きの声をあげている。

 

 それを聞いた俺が振り向くと、その先にはベルの主神――ヘスティア様がいた。他にも男神や眼鏡をかけた女性冒険者、見覚えのある女性エルフ。そして……残り三人の冒険者もいた。最後の方は、13階層で俺達に怪物進呈(パス・パレード)を仕掛けた冒険者達だ。まさか此処で再会する事になるとはな。

 

 ベルがヘスティアに問い詰められて戸惑っている中、リリルカとヴェルフは三人を見た途端に剣呑な雰囲気を醸し出している。

 

 この状況に食事が中断となったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 結論から言わせてもらうと、俺達に怪物進呈(パス・パレード)を仕掛けた冒険者達――【タケミカヅチ・ファミリア】には貸し一つと言う事で済ませた。

 

 勿論、最初はそんな雰囲気で終わらなかった。

 

 土下座をする少女――(ミコト)と、立ったままでも深く頭を下げるもう一人の少女――千草(チグサ)はまだ良い。問題は冒険者の巨漢――桜花(オウカ)の態度だった。

 

 彼は自分一人で泥を被ろうと、『自分が出した指示であり、今でも間違っていたと思っていない』と言い切った。

 

 それを聞いたヴェルフが怒気を発しながら桜花を睨み、一触即発の雰囲気となるのは当然の流れだ。

 

 しかし、そこを運良く神ヘルメスとアスフィと言う女性ヒューマンが割って入って来た事で一変した。神ヘルメスが仲介者のように丸く収めたから。

 

 リリルカには【タケミカヅチ・ファミリア】に憎しみや怒りをぶつけず、ここは大きな借りにしておこうと提案した事で承諾。桜花達が自らの意思へ助けに来たという風に言った事で、ヴェルフは納得せずとも割り切る事となった。

 

 ベルは二人と違って怒る事はせず、事情が事情と言う事もあって許していた。優しいのは良い事なんだが、端から見れば甘い考えと言われるだろう。因みにヘスティア様は敢えて何も口出しせず、ただ俺達を見守っているだけだ。

 

 そして俺はリリルカとヴェルフほど怒ってはいないが、ベルみたく簡単に許容する事は出来ない。敢えてこう言わせてもらった。

 

「中層に挑戦するのはそちらの勝手ですが、もう少し上層で腕を磨くべきでしたね」

 

『!』

 

 笑顔で言い放った俺の言葉がかなり効いたのか、三人は何も言い返さないでいる。

 

「おいおいリヴァン君。せっかく俺が平和的に終わらせようとしているのに、それはないじゃないかい?」

 

「事実を言ったまでです」

 

 神ヘルメスが苦言を呈するも、俺は何の悪びれも無く言い返した。

 

 俺が吐いた毒はまだまだ優しい部類に入る。

 

 もしカスラだったら、ああだこうだと反論出来ない程の指摘をしてネチネチと相手を責めるだろう。

 

 それと六芒均衡のマリアさんであれば……もっと凄い事になっていると思う。あの人の台詞で言うとするなら――

 

『半端な覚悟で己の身の丈に合わない事をするんじゃないよ、アホンダラ共。無様な姿を晒して逃げる未熟者は、一度基礎からやり直すんだね』

 

 と、容赦のない毒を吐いていたと思う。あくまで俺の勝手な想像だが。

 

 神ヘルメスはこの空気を変えたかったのか、別の話題に変えようとする。

 

「ああ、そうそう。ちょっと確認したい事がある。階層主(ゴライアス)を倒したのはベル君達かい?」

 

「「「?」」」

 

「っ……」

 

 突然の質問にベルは勿論、リリルカとヴェルフは不可解な表情をした。『一体何の話だ?』みたいな感じで。

 

 それを倒した俺だけは違う反応をするも、一先ず敢えて何も言わないでいる。

 

「えっと、ヘルメス様、僕達はゴライアスを倒してはいませんが」

 

「リリは気絶してベル様に運ばれていましたし……」

 

「俺もリリスケと同様です」

 

「本当かい? 俺達が17階層にある『嘆きの大璧』を通ろうとした時、階層主(ゴライアス)と戦闘したと思わしき痕跡と、大量の灰があったんだけどね」

 

 俺を除くベル達の返答に首を傾げる神ヘルメスに、ヘスティア様が呆れたように言い放つ。 

 

「だから言っただろう、ヘルメス。ベル君達じゃないって。やっぱりロキの眷族(こども)達が倒したんじゃないか」

 

「………ああ、ゴメンゴメン。やっぱり俺の勘違いだったよ」

 

 アハハハと笑って流す神ヘルメス。

 

「さて、俺の確認は終わったから、次は今後の予定について話し合おう!」

 

 まるで杞憂だったみたいに神ヘルメスが笑いかける。だけど、さり気なく俺に視線を向けていた。

 

 その後にアスフィが前に出て今後の話を始めようとする。

 

 階層主(ゴライアス)が倒されているとは言え、ベル達の傷は完全に癒えていない状態だから、【ロキ・ファミリア】が移動を再開するのに合わせて二日後に出発する事となった。

 

 その際に神ヘルメスが一日は暇があると言って、明日一杯は18階層を観光しようと提案。特に反対する理由もない俺達は何事も無く受け入れる。この安全階層(セーフティポイント)にある『街』――『リヴィラの街』へ行く事となった。

 

「リヴァン君、ちょっと俺に付き合ってもらえるかな?」

 

 天幕を出て皆と別れた際、まるで狙っていたかのように神ヘルメスが俺に声を掛けてきた。

 

 

 

 

 

「それで、俺に何か御用ですか?」

 

「そう警戒しないでくれ。別に取って食おうって訳じゃないんだからさ」

 

 天幕から少し離れた場所に、俺と神ヘルメスしかいない。

 

 一応、野営地の周辺を見張っている【ロキ・ファミリア】の団員が数名いる。だが向こうは此方の事に気にはしていない。神に関わると碌な事がないと思ってるのか、我関せず状態だ。

 

「まぁ、こんな時間だから単刀直入に聞こう。リヴァン君、階層主(ゴライアス)を倒したのは君だろう?」

 

 本当に単刀直入に聞いてきたな。こうまでして何の疑いもない様子で訊いてくるって事は、もう殆ど確信の域に入っているんだろう。

 

「………何故改めて俺にまたそんな事を聞くんです? 先程ベル達が言っていたじゃありませんか。ゴライアスは倒していないって。貴方は神なんですから、下界にいる人間の嘘を見抜ける筈でしょう?」

 

「そうだね、確かにベル君や他の二人は一切嘘を吐いていなかった。そこは断言しよう。だけど、君の返答はまだ聞いていないんだよね」

 

 ベル達の返答を聞けば納得するかと誰もが納得するかと思っていたが、実はそうでもなかったようだ。どうやらこの神はそう簡単に行かないと見ていいだろう。

 

「【ロキ・ファミリア】の誰かが倒したとヘスティア様が仰って、貴方もそれで納得したんじゃないんですか?」

 

「ああ、アレね。あの場は敢えて流したけど、【ロキ・ファミリア】は倒していないってキチンと確認済みだよ。向こうも向こうで、今頃誰が階層主(ゴライアス)を倒したのかを密かに調べているだろうね」

 

 ………やっぱり確認済みだったか。誠実なミアハ様と違って、このヘルメスと言う神は本当に食えない相手だ。

 

 もう誤魔化す手段はないので、ここは白状するしかない。が、もう少し粘ってみるとしよう。

 

「向こうが関与してないからと言って、何故そこで俺に結び付くんですか? それに俺は『Lv.1』です。普通に考えて、下級冒険者が階層主(ゴライアス)を倒すのは絶対無理だと誰だって考えるでしょうに」

 

「へぇ、君は思った以上に中々頭が回るようだ。敢えて冒険者としての常識を踏まえさせ、そこで暗に自分はやっていないように持って行こうとするとは見事だ。確かにそうすれば嘘をすり抜ける事が出来るね」

 

 だけど、と言って神ヘルメスは言葉を続ける。

 

「悪いが俺にそんな子供騙しは通用しない。まだしらばっくれるなら、この場で言い逃れ出来ない状況に追いやっても良いんだよ?」

 

「………ではせめて、理由を教えてもらえませんか? いきなり確信を突いたように問われても、こちらとしては返答に困りますので」

 

「勿論だとも」

 

 もう殆ど諦め状態だったが、最後の悪足掻きとして理由を尋ねる事にした。俺が階層主(ゴライアス)を倒したと理由を。

 

 それを聞いた神ヘルメスは笑みを浮かべながらも、俺に説明しようとする。

 

 どうやらフィン・ディムナから、気を失っているリリルカとヴェルフを抱えたベルを逃がす為に、俺が階層主(ゴライアス)を惹きつける為に殿を務めた事を聞いたそうだ。向こうはベルと情報交換した際に聞いた内容を、そのまま話したんだろう。

 

 向こうは階層主(ゴライアス)を倒していない上に、ベル達が階層主(ゴライアス)から逃げたと知った神ヘルメスは疑問を抱いた。主に階層主(ゴライアス)を惹きつけた俺に対して。そこで確認をしようとベル達に尋ねるも、肝心の俺から返答が無かった事に疑惑が更に深まり、此処で俺を問い詰める事にしたそうだ。

 

 どうやら神ヘルメスに疑われた時点で、俺は詰んでいたようだ。と言うか、そんな僅かな手掛かりだけで、俺が階層主(ゴライアス)を倒したと言う結論に至るとは普通に考えられないんだがな。

 

 本当なら証拠を出せと言いたいが、生憎と神の前では嘘を吐けない。もし嘘を吐いた瞬間、俺がやったと簡単にバレてしまうので。

 

 完全に言い逃れが出来ない事を悟った俺は、不承不承ながら喋る事にした。それを聞いた神ヘルメスは驚愕な表情となる。

 

「こいつは驚いた。まさか本当に君一人で階層主(ゴライアス)を倒すとは。『Lv.1』なのに凄いね。因みにどうやって倒したんだい?」

 

「そこまで答える気はありません」

 

「え~? 良いじゃないか、もうここまで言ったんだからさ。全部教えてくれよ、ね?」

 

 俺が白状した事に、神ヘルメスは根掘り葉掘り聞き出そうとする姿勢となった。

 

 ミアハ様から下界に降臨した神は娯楽を求める余り、大変傍迷惑化していると聞いた。悪く言えばキチガイとも言える。この神は間違いなくその迷惑な部類に入るだろう。

 

 ここで教えないと頑なに拒んでも、この神の事だから絶対に諦めないだろう。なので俺は、一つの手段を使う事にした。

 

「ところで、神ヘルメス。俺の記憶が正しければ、神がダンジョンに潜るのは禁止事項だった筈では?」

 

「! な、何の事かな~?」

 

 俺の問いを聞いた途端に神ヘルメスが白を切った。急に立場が逆転した感じだ。

 

 神がダンジョンに潜るのは禁止されている事は、ギルドの講習で学んだ。もし実行すれば対象となる【ファミリア】は相当手痛い事になる。例えば都市最高派閥の【ロキ・ファミリア】であれば、多くの資産を失う事になるだろう。

 

「これがギルドに知られたら、罰則(ペナルティ)を下されるんでしょう? 俺は【ヘルメス・ファミリア(そちら)】について詳しく知りませんが、派閥の規模が大きいほど罰則(ペナルティ)は重いそうですね。後ほど、俺がギルドに報告すればどんな罰則(ペナルティ)になるのかが明らかに――」

 

「分かった分かった。もうこれ以上は聞かない事にするよ」

 

 余程都合が悪いのか、神ヘルメスは両手を上げて降参のポーズを取った。

 

 さっきまで人に根掘り葉掘り聞き出そうとしていたと言うのに、自分や【ファミリア】の身に危険に晒されると分かった途端に身を引くか。呆れてものが言えないな。

 

 翌日の朝に、神ヘルメスの眷族であるアスフィと言う女性に今回のやり取りの事を教えた。勿論、禁止事項の事についても触れている。そして弱みを握られてしまったと分かった彼女は、自身の主神に思いっきり不満をぶちまけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~時間は少し遡る~

 

 

「フィン、神ヘルメスの話を聞いてどう思う?」

 

「んー……今のところは何とも言えないね。三人が戻って来るまでは」

 

 ベル・クラネル一行の捜索隊が18階層に訪れた後、その代表であるヘルメスがアスフィを連れて天幕で一通りの話をしていた。

 

 その終わり際に、突然ヘルメスが奇妙な事を言いだした。『そちらが階層主(ゴライアス)を倒してくれたお陰で、17階層を簡単に通る事が出来たから感謝する』と。

 

 当然、【ロキ・ファミリア】は倒していないどころか、誰にもそんな指示を出していない。階層主(ゴライアス)が出現済みである事は、リヴァンを除いたベル一行を運んだアイズから聞いている。だが、その後に倒すように指示などしていないから、ヘルメスから聞くまでは寝耳に水だった。

 

 ヘルメス達が去った後、フィンは密かにガレスとティオネとラウルの他、この場にいない複数の団員達も連れて行くよう命じた。17階層の『嘆きの大璧』に向かって確認するようにと。万が一に階層主(ゴライアス)と遭遇しても、問題無く撃退出来るメンバーなので。

 

 因みに天幕にいるのはフィン、リヴェリア、ティオナ、そしてアイズの四人である。

 

「でもさぁ、フィン。ヘルメス様の言ってる事は確かなんでしょ? ゴライアスが倒されていたって。もしかしたらリヴィラの冒険者達が倒したんじゃないの?」

 

「それはないね。もしそうであったら、ボールス達が野営地(ここ)を通るのを誰かが目撃する筈だ」

 

「あ、そっか」

 

 ティオナの予想に、フィンは首を横に振りながら否定した。それを聞いた彼女もすぐに納得する。

 

 【ロキ・ファミリア】の野営地は、17階層の連絡口から近い所に設置されている。その為、もしも『リヴィラの街』にいる冒険者達が階層主(ゴライアス)を討伐するのなら、間違いなく【ロキ・ファミリア】の誰かと遭遇している。

 

 それに加えて、『リヴィラの街』の頭領(トップ)であるボールスが【ロキ・ファミリア】を無視するとは思えなかった。強欲な男ではあるが、危険(リスク)を考慮して必ず【ロキ・ファミリア(じぶんたち)】にも声を掛けるだろう。『どうせ地上に戻るなら倒すのを手伝え』か、『そっちでさっさと倒してくれ』と言ってくる筈だ。

 

 だからフィンは階層主(ゴライアス)を倒したのはリヴィラ側ではないと判断する。

 

「となれば、別の誰かが倒した事になるが……」

 

「……ベル達の誰かが倒したのかな? もしかしてリヴァン、とか」

 

「それはないだろう」

 

 アイズが恐る恐る言うも、今度はリヴェリアが否定した。

 

 リヴェリアの頭の中では、ベル・クラネル一行の四人を即座に除外済みだ。理由も当然ある。

 

 ランクアップしたとは言えベルは『Lv.2』であり、残りのメンバー三人は全員『Lv.1』。『Lv.4』クラスの階層主(ゴライアス)を相手に戦って倒すのは絶対無理だった。常識的に考えても。

 

 他にもベルから情報交換した時に、階層主(ゴライアス)から逃げたと本人の口から聞いた。あの素直そうな少年が嘘を言うとは到底思えないとリヴェリアは確信している。

 

 だが――

 

「いや、アイズの言う通りかもしれないね」

 

 フィンだけはソレに頷いていた。

 

「何を言っているんだ、フィン。お前も一緒にベル・クラネルから話を聞いたではないか」

 

「うん、確かに聞いたよ。だけど、リヴァン・ウィリディスについての情報は殆ど何もなかった。ベル・クラネルたち三人を逃がす為に殿を務めていた、だけとしか」

 

「……その後にリヴァンが運良く逃げ切れて、野営地(ここ)へ訪れたのではないのか?」

 

「だとしても、『Lv.1』の彼が階層主(ゴライアス)相手に殆ど無傷で逃げ切れるとは到底思えないね。何かしらの怪我をしておかしくない筈なんだが……とは言え、リヴェリアの推測も捨てきれない」

 

 情報が余りにも少な過ぎる為、フィンはリヴァンがやったと断定出来なかった。

 

 普通に考えて『Lv.1』の冒険者が一人で、階層主相手に挑むのは自殺行為も同然だ。そんな事をするのは大変馬鹿げており、愚かとしか言いようがない。第一級冒険者ならまだしも、下級冒険者では絶対に無理だと。

 

 リヴァン本人に聞けば分かるかもしれないのだが、以前の宴で後ろめたい事をした件がある為に出来なかった。もし好奇心目当てで聞いてしまえば、リヴァンの【ロキ・ファミリア】に対する印象を更に悪くなってしまうだろう。彼はレフィーヤの身内であるから猶更に不味いので。

 

 いっそレフィーヤに頼んでみようかとフィンが考えていると、アイズが途端に声を掛ける。

 

「あの、フィン。リヴァンについて、一つ気になる事が……」

 

「何かあるのかい?」

 

「実は――」

 

 アイズは以前にあったイベント――怪物祭(モンスター・フィリア)について話そうとする。脱走したモンスターを討伐中に見た内容を。

 

 屋根の上からだったが、リヴァンがティオナの大双刃(ウルガ)と似たような武器を使って、20階層に生息するトロールを苦も無く倒したのをアイズは見ていた。あの時は非常に気になって彼に会おうと考えていたが、別件で色々遭った為に後回しとなってしまって聞けず仕舞いとなったが。

 

「アイズ、彼が倒したモンスターはトロールで間違いないかい?」

 

「…うん」

 

「んー……トロールと階層主(ゴライアス)ではレベル差があると言え、少なくとも『Lv.1』で倒せるモンスターじゃないのは確かだね」

 

「リヴァンがトロールを……俄かに信じられないな」

 

 アイズの目撃した内容が真実とは言っても、フィンとリヴェリアからすれば驚愕するものだった。

 

 トロールはダンジョン下層に生息するモンスターなので、『Lv.1』が倒すのには無理だ。しかし、リヴァンが簡単に倒したとなれば、階層主(ゴライアス)を倒したと言う線が浮上する。

 

 だが、フィンの言った通り、トロールとゴライアスでは差があり過ぎる。トロールを倒したからと言っても、それで階層主(ゴライアス)を倒す確証には至らない。

 

「っていうか、あのリヴァンって子がアタシと似た武器を使ったって本当なの!? それらしい武器持ってなかったよ!?」

 

「見間違いじゃないと思うんだけど……」

 

 ティオナとしては、自身の武器が似ている事が一番気になるようだ。

 

 遠目でも、しっかりと武器も見ていたアイズは大双刃(ウルガ)と似た形状の武器だったと言い返す。

 

 予想外の情報を聞いた事にフィンは戸惑うも、一先ずは保留にする事となった。

 

 その後に17階層から戻ってきたガレスがフィン達に報告した。戦闘の痕跡だけでなく、階層主(ゴライアス)の死骸と思わしき大量の灰もあったと。

 

 報告を聞いたフィンは情報を集めようと、明日に『リヴィラの街』へ行く予定となっているアイズ達にとある指令を命じるのであった。




ついでにこれを書いておこうと内容を付け足した結果、一万文字以上となりました。

感想お待ちしております。


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少年エルフ、リヴィラの街へ行く

今回は前話と比べると短いです。


 18階層の『夜』が終わり、『朝』が来た。

 

 朝食後に俺達は、神ヘルメスが提案した『街』へ観光しに行こうと【ロキ・ファミリア】の野営地から離れた。

 

 驚く事にベルがいつの間にかアイズと約束をしていたみたいで、彼女も同伴する事となっている。ヘスティア様とリリルカが物凄く面白くなさそうな顔をしていたが。アイズの他にも暇だからと言う理由でアマゾネスの姉妹、ティオナさんとティオネさんも同行している。因みにレフィ姉さんは、毒を受けた団員達の看病がある為に参加出来なかったようだ。

 

 何故か分からないが、アマゾネスの妹であるティオナさんが何故か俺の近くにいる。彼女だけでなく、アイズやティオネさんも時折俺に視線を向けている始末。何かまるで探りを入れているような感じがする。 

 

 探りと言えば、昨夜に神ヘルメスが気になる事を言っていた。『【ロキ・ファミリア】が階層主(ゴライアス)を誰が倒したのか密かに調べている』と。

 

 俺が階層主(ゴライアス)を倒した事に向こうは特定していないと思う。けど、もしかすれば俺がやったかもしれないと疑惑の目で見ている、と言ったところだろう。現に昨日まで大して気にしなかったアマゾネス姉妹が俺を気にかけている上に、ベルと一緒に歩いているアイズもチラチラと俺に視線を向けている。

 

 三人の行動を見て何となく分かった。大方、フィン・ディムナ辺りが『密かに俺の監視や情報収集をするように』と指示されたんだろう。あんまり言いたくないが、フィン・ディムナは人選を誤ったと思う。だってこの三人、あからさまに俺の事を調べていますって丸分かりなので。

 

 もし神ヘルメスが教えてくれなかったら、『一体何をしてるんだ?』と言う程度の疑問しか浮かばなかったと思う。まぁ、向こうの思惑が何となく分かった以上、敢えて何も知らないように振舞っておくか。

 

 大自然の風景を見ながら移動して『リヴィラの街』に到着すると、木の柱と旗で作られたアーチ門が俺達を出迎えた。『ようこそ同業者、リヴィラの街へ!』と共通語(コイネー)で書かれた文も含めて。

 

 ベルは最初喜んだ顔をしていたが、ティオネさんから空かさず忠告をしてくれた。ああいう歓迎の仕方で冒険者の印象を良くして、財布の紐を懐を緩めようという手段であると。

 

 冒険者の補給地点と呼ばれる場所と言われているが、アイズ達は余り好きではないように見える。何故なのかと疑問を抱くも、それは後になって分かった。

 

 因みにリリルカがアスフィさんと話している時に面白い内容が聞けた。この街にある沢山の水晶(クリスタル)は地上で全て換金できると。

 

 リリルカは目をキランと光らせて水晶を山ほど採取しようとベルに言うも、ここにある水晶は大きい上に持ち帰るのは不可能だった。普段背負っている彼女の大きなバックパックはダンジョンで破棄したので、新しい物を購入しなければならない。なので小さな水晶を僅かに持ち帰ることしか出来ないのであった。

 

 彼女は無理でも俺なら問題無い。水晶が多少大きくても、俺の電子アイテムボックスに収納可能だった。恐らくは魔石と同じく『素材』としてカテゴリーされるから、最大99個まで収納出来る筈だ。なるべく形の良い大きめな物を選ぶとしよう。それを地上で売れば、【ミアハ・ファミリア】の財政も潤う事になって、暫くナァーザさんからの小言は控えめになるだろう。

 

 俺が色々と計算している中、神ヘルメスが自由行動を勧めてきた。確かに大人数だったので、俺を含めた全員は当然賛成だ。

 

 但し、一人だけで行動するのは禁止だった。リヴィラの街へ来た事の無い俺達は向こうから見れば、絶好のカモと見られてしまうようだ。

 

 別行動するならベルと一緒に行こうと思いきや、ヘスティア様が連れて進んで行ってしまった為に叶わなかった。あの二人だけでは心配だと思ったのか、アイズの他に神ヘルメスとアスフィさんも付いて行く事となった。

 

 

 

 

「た、高ぇ! この砥石だけで一万三千ヴァリス!?」

 

「こんなボロいバックパックが二万ヴァリスだなんて……法外もいいところです!」

 

 ベル以外のメンバーと別行動する事になった俺は色々な店を見て分かった。どこの店で売られている商品が、通常価格の何倍もの値段で販売されていると。

 

 同行しているティオネさん達の話によると、ダンジョンでは物資が簡単に確保出来ないから、高い値段でも売れてしまうらしい。安全階層(セーフティポイント)とは言っても、ここで物資を補給出来るのは大変ありがたいのは理解してるから、値段が高いのも頷ける。

 

 とは言え、相手の足元を見るような商売は個人的に余り頂けなかった。明らかに粗悪品と思われるアイテムが、地上で売られている製品の何倍以上の値段で販売するなんて、完全にぼったくりだ。

 

 安っぽい砥石や、ボロボロのバックパックを購入しようとするヴェルフとリリルカが叫びたくなるのは無理もない。そんな二人に、売っている側は『嫌なら別に買わなくていい』と完全に上から目線である。

 

 アイズ達が此処を利用したくないと言うのがよく分かった。だから【ロキ・ファミリア】は態々野営地(キャンプ)を設置し、無駄な消費を抑えようとしているのだと。

 

 取り敢えずこの街で地上の価値観を持って買物をすれば、痛い目に遭う事だけは間違いない。もし俺が此処へ来る際は、本当にどうしようも無い時に使う事にしよう。

 

 あと他にも、この街で魔石やドロップアイテムを換金する事は出来るらしい。しかし、ここでは地上の半額以下の金額で買い取られるから、冒険者達は泣き寝入りする事となる。限界以上の魔石やドロップアイテムを所持しても邪魔になるから、更に下へ目指そうとする冒険者としては、仕方なく此処で売らざるを得ないそうだ。

 

 店側の冒険者からすれば、労せず手に入れた買取り品なので、単純な差額以上の利益を得ている。

 

「こんな問題だらけの街をギルドはよく放置しているな。ここにいる連中を取り締まってもおかしくないんだけど……」

 

「無理よ」

 

 俺の呟きに、近くにいたティオネさんが言い返してきた。

 

「ギルドは地上での対応で精一杯だから手が出せないのよ。ここを纏めている頭領(トップ)はそれを分かっているから、やりたい放題してるってわけ」

 

「……さぞかし性根が腐っているんでしょうね、その頭領(トップ)は」

 

 この街のトップに対する毒を吐くと、ティオネさんだけでなくティオナさんも同感だと言わんばかりにうんうんと頷いていた。

 

 そんな中、法外だと叫んでいたリリルカは結局バックパックを購入する事となった。サポーターの彼女としては、どうしてもそれが必要だったので諦めて買う事にしたそうだ。

 

「ところでお聞きしたいんですが、水晶(クリスタル)を採取しても問題無い上に、人目の無い場所ってありますか?」

 

「え? あるにはあるけど……でもあそこは殆どおっきい水晶だけだよ。小さいのは他の冒険者達が採取して拾えるものなんか殆どないし」

 

 俺の問いにティオナさんが答えてくれた。

 

「全くもう、これだから冒険者は嫌なんです……! がめついったらありゃしません!」

 

「水晶を採取しようと考えていたリリスケが言う台詞じゃないな」

 

 それを聞いたリリルカは非常に残念そうな表情となっている。がめつい冒険者達に悪態を吐いているところを、ヴェルフが突っ込んでいたが華麗に無視していた。

 

「大丈夫です。自分で作ればいいだけですし」

 

「作る?」

 

「取り敢えず案内してくれませんか?」

 

 俺の発言にティオナさんは首を傾げるが、一先ず指定先の場所へ案内してもらうように頼んだ。

 

 

 

 

「おいおい、嘘だろ……」

 

「あの大きな水晶が、まるで解体されているみたいに……」

 

「さ~て、回収回収っと」

 

 水晶が大量にある場所へ案内された俺は、一際光沢のある特定の水晶に狙いを定め、エールスターライトの短杖(ウォンド)形態を展開した。

 

 突然武器を出現した事にティオナさん達は驚くも、気にせずに対象を攻撃を開始する。

 

 硬そうに見える大きな水晶だが、柔らかい物のように簡単に斬り裂いていく。先程まであった巨大な水晶は斬られた事でボトボトと地面に落ちて、今はもう完全に無くなっていた。そして俺が立っている地面の周囲は、大量の水晶の塊がゴロゴロと転がっている。

 

 その光景を見ていたヴェルフとリリルカは唖然としており、アマゾネス姉妹も似たような反応をしている。

 

「な、何なんだアイツは……!」

 

「あの水晶を、まるで豆腐を切っているみたいでした……!」

 

「す、すごい……」

 

 一緒に見学していた桜花、命、千草も信じられないように見ていた。

 

 向こうの反応を気にしてない俺は、一つ目の水晶に触れた直後に消えた事に、リリルカ達が反応する。

 

「リ、リヴァン様、水晶が消えてしまいましたが?」

 

「大丈夫。ちゃんと収納済みだから」

 

「しゅ、収納?」

 

 鸚鵡返しをする俺にリリルカにしか聞こえないよう、小声で教える。

 

 流石にアークス専用の電子アイテムボックスに収納しているとは言えないから、周囲には見えない自分専用の大量収納マジックアイテムを使っていると誤魔化した。言っておくが、別に完全な嘘ではない。

 

「何ですか、その超便利過ぎるアイテムは!? そんな物があるなら最初からリリに教えて下さい! と言うよりソレをリリに下さい! リヴァン様が用意してくれれば、あんな無駄に高いバックパックを買わずに済んだと言うのに!」

 

「だから俺だけにしか使えないって言っただろう」

 

 文句を言ってくるリリルカだが、俺は気にせず回収作業を続けた。

 

 詫びとして転がっている水晶を好きなだけ取っていいと言うと、彼女はブツクサと文句を言いながらも拾い始めてボロいバックパックに収納する。ヴェルフが言ってたけど、本当にがめついな。

 

 さっきまであった大量の水晶の塊は俺とリリルカが回収した事により、もう完全に無くなった。しかし、俺の電子アイテムボックスはまだ余裕があるので、もう一つの大きな水晶を解体する事にした。二度目の解体ショーに、ヴェルフ達が再び唖然となったのは言うまでもない。

 

 リリルカはさっきので充分に拾いきったみたいで必要はないようだ。見学していたヴェルフ達にも欲しかったら拾って良いと言うも、持っても邪魔なので遠慮すると断られた。

 

 二体目を解体し、再び地面に転がる大量の水晶の塊を回収後、電子アイテムボックスはもう入らなくなってしまった。後は地上に持ち帰って換金するとしよう。

 

 この場所を案内してくれた【ロキ・ファミリア】の二人に礼を言うも――

 

「凄い凄い! 何かアイズみたいにスパスパ斬ってたね!」

 

「は、はぁ……。第一級冒険者の貴女にそこまで言われるとは光栄です」

 

 ティオナさんから物凄く称賛された。今は俺に近付いて満面の笑みを見せている。

 

「リヴァン君、だったよね? 良かったらさ、アタシと手合わせしてみない?」

 

「………はい?」

 

 何故か分からないが、第一級冒険者の『Lv.5』ティオナ・ヒリュテさんから突然の手合わせを誘われた。

 

 リリルカやヴェルフだけでなく、桜花達も当然吃驚した表情だ。

 

「ちょっとバカティオナ! アンタ何勝手な事を言ってんの!?」

 

「この子があの硬いクリスタルを簡単に斬ってるから、凄く強そうな気がしたんだよねー。だから確かめようと手合わせをしようと思って」

 

「そんなバカバカしい理由で手合わせするんじゃないわよ! 大体この子は『Lv.1』じゃない! 『Lv.5』のアンタがやったら弱い者苛めも同然でしょうが!」

 

 アマゾネス姉妹の言い争いはまだまだ続く様子。

 

 確かにティオネさんの言う通り、『Lv.1()』が『Lv.5(ティオナさん)』と戦ったら百パーセント負けるだろう。冒険者としての常識を考えれば。

 

 しかし、アークスとしての俺はそう簡単に負けたりはしない。エトワールスキルや、アークス製の武装を身に纏っている俺でも勝てる可能性は充分にある。

 

 本当なら喜んでティオナさんとの手合わせをしたいと個人的に思っている。だが、俺が階層主(ゴライアス)を倒したかもしれないと【ロキ・ファミリア】が調査しているから、もし彼女と戦ったら向こうは確実に俺を疑うだろう。

 

 今はバレたら色々と面倒な事になるので――

 

「ティオナさん、折角手合わせを誘って貰って申し訳ないのですが、やはり遠慮しておきます。ティオネさんの言う通り、『Lv.1』の俺では貴女の相手にはなりませんので」

 

「ほら、この子がそう言ってるんだから諦めなさい!」

 

「ちぇ~」

 

 俺が丁重にお断りをすると、ティオネさんが賛同するように言った事に、ティオナさんは漸く諦めてくれた。見守っていたリリルカ達も事無きを得たと安堵した表情となっている。

 

 けれど、この時の俺は全く予想していなかった。地上へ帰還し、彼女と手合わせする機会が訪れる事を。




大量の水晶を地上に持ち帰って換金しようとするリヴァンでした。

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少年エルフ、リヴェリアと談笑する(+エルフから睨まれる)

今回は幕間的な内容です。


 別行動を終えベル達と合流した後、神ヘルメスの奢りとして昼食を頂く事となった。

 

 18階層名物『ダンジョンサンド』と言うパン料理なのだが、この階層にある果物を惜しみなく使った甘い物だった。当然、あの激甘な雲菓子(ハニークラウド)も使われている。思わずベルの方へ視線を向けると、予想通り誰にも気付かれないようにこっそりと逃げていた。甘い物が苦手なベルにとっては、拷問も同然だから食べたくない気持ちは理解してるので、俺は敢えて気付かない振りをして見過ごした。少ししてからベルがいなくなった事に気付いたみたいで、アイズやヘスティア様もいつの間にか後を追うようにいなくなったのは言うまでもない。

 

 リヴィラの街で観光を終えた俺達が野営地に戻ると、丁度良く『昼』の時間が訪れた。

 

 天井に咲く白水晶と青水晶の光の強さが増してる事により、『朝』と違って階層内の明るさがガラリと変わっている。その瞬間、北の遠方からモンスターの遠吠えが鳴り響いていた。この18階層では当たり前の出来事らしい。

 

 そんな中、ティオナさんが水浴びをしに行こうと提案していた。体を洗いたい事もあってか、殆どの女性陣が行く事となり、男性陣は当然居残り組となる。因みにレフィ姉さんは何故か分からないが、生ける彫像みたいな状態だったが、彼女達に付いて行った。

 

 ベル達と一旦別れた俺はフィン・ディムナ達に戻って来た事を報告しに行った。『そこまでしなくてもいいのに』と三人から苦笑されたが、世話になっている以上は最低限の事をしなければならないと言い返す。

 

 そして今は――

 

「ほほう、ベルはそんな勇敢に戦っていたんですか」

 

「ああ。あの戦いは第一級冒険者(わたしたち)にとって、少々眩しかった」

 

 王族(ハイエルフ)のリヴェリアと仲良く談笑していた。

 

 昨日の夕食時にヘスティア様が来る前、ベルがミノタウロスと戦った内容を聞かせてもらうよう約束していた。リヴェリアも当然了承済みだ。

 

 勿論、忙しいなら後日でも構わないと確認は取っている。『解毒薬を調達している団員が戻って来るまで、何もやる事はないから付き合おう』と言われたので、野営地で和気藹々と談笑している。

 

 自身を王族(ハイエルフ)としてでなく、一人の冒険者として接する事が嬉しいのか、リヴェリアはとても気分が良さそうに語ってくれた。俺が時折疑うように茶化すも、『私が嘘を吐いていると思っているのか?』と睨まれたので、『冗談ですよ、リヴェリア』と言い返す。

 

「あの同胞の少年、先程からリヴェリア様に度重なる不敬な態度を……!」

 

「しかも呼び捨てにするなんて……!」

 

 そんな俺達の会話に、水浴びに行っていない女性エルフ数名が此方を睨んでいた。リヴェリアが此処に居る事もあって残っているんだろう。

 

 俺が馴れ馴れしい態度を取っている他、リヴェリアを呼び捨てにしている事に我慢ならないと既に猛抗議された。特に一番怒っていたのはアリシアさんと言う同胞(エルフ)の女性だ。その後にリヴェリアから睨まれて一喝された事により、今はああして少し離れた所から睨むだけに留まっている。

 

 どうでもいいけど、アリシアさんの声って何だかウチの団長(ナァーザさん)と似ている気がする。具体的に言うと、ナァーザさんより声が少し高めな感じだ。

 

「はぁっ、全く……。レフィーヤだけでなく、アリシア達にも困ったものだ」

 

「まぁそれだけ、貴女を尊敬しているって証拠ですよ」

 

「私としては、あれほど過剰に尊敬されると逆に困るのだがな」

 

 心底困っていると嘆息するリヴェリアに、俺は思わず苦笑してしまった。

 

 もし俺がオラクル船団に飛ばされると言う事態が起きなければ、レフィ姉さんやアリシアさん達と同様にリヴェリアを崇拝していただろう。

 

「因みに俺みたく普通に話せる同胞(エルフ)は他にいますか?」

 

「いるにはいるが、生憎とその者はオラリオにいない。今は偶に手紙でやり取りするだけだ」

 

「そうですか……」 

 

 その人とは一度会ってみたかったが、それは叶わないようだ。

 

 すると、リヴェリアがふと思い出したような表情となって俺に尋ねようとする。

 

「ところで、リヴァンに聞きたかった事がある」

 

「何でしょう?」

 

「以前にアイズから報告があってな。何でも、お前が全身に浴びたミノタウロスの返り血を一瞬で消す魔法を使っていたそうだが」

 

「………ああ」

 

 他所の【ファミリア】に見せた記憶があったか思い出していると、確かにアイズに見せた事があった。

 

 あの時は嫌な臭いや返り血を早く消したかったから、アイズやベート・ローガの目の前で長杖(ロッド)――ビーチシェードを出して、アンティを使ったんだった。

 

 我ながら迂闊な事をしてしまったと後悔した。しかも相手は【ロキ・ファミリア】だから、下手に情報を公開すると色々面倒な事になってしまう。

 

 今は毒などの異常状態を治す事は知らないみたいなので、此処は一先ず消臭用の魔法として誤魔化すか。

 

「アレは一応治療系統に属する魔法なのですが、単に返り血や体臭などを消すだけなんですよ。冒険者からしたら役立たずな魔法でして……」

 

「いや、そんな事は無い。女性からすれば非常に羨ましい魔法だ。特に女性冒険者ほど喉から手が出るほど欲しがる筈だ。ダンジョン探索を行う際、常に臭いで悩まされるからな。因みに私もその一人だ」

 

 確かに。ダンジョン探索すればモンスター臭などの嫌な臭いが身体に染みついてしまうから、大抵の女性は嫌がるだろうな。俺としても嫌だから、臭いが気になる時はアンティを使って消している。

 

 アンティは本来毒などの異常状態を治すテクニックだが、対象者を健康状態にさせる便利なものでもある為に日常でも重宝する。それに故に俺はテクニック搭載武器のビーチシェードを所持して、いつでも使える状態だ。

 

「もし良ければ、一度その魔法を私に見せてくれないか?」

 

「喜んで披露しましょう。……と言いたいところですが、生憎と俺は【ミアハ・ファミリア】の眷族です。いくら【ロキ・ファミリア(あなたがた)】に一宿一飯の御恩があるとは言え、流石に無理ですね。その代わりと言っては何ですが、現在我が【ミアハ・ファミリア】は新商品の回復アイテムを――」

 

「貴方と言う人はぁ!」

 

 リヴェリアからのお願いを丁重に断りながら別の提案をしていると、途端にこちらの様子を伺っているアリシアさんが我慢出来ないと言わんばかりに割って入って来た。

 

 その声に思わず振り向くと、彼女だけでなく、他の女性エルフも殺気立ったような目をして睨んでいる。

 

「先程から黙って聞いていれば、王族(ハイエルフ)であるリヴェリア様に対する度重なる無礼な態度を取るだけでは飽き足らず、頼みまで無下にするとは何事ですかぁ!?」

 

 おお怖っ。流石はリヴェリアを尊敬している同胞(エルフ)だけあって、凄まじい怒りを感じる。アリシアさん以外の女性エルフ達も含めて。

 

「アリシア、私とリヴァンの会話に口出しをするなと言った筈だぞ」

 

「申し訳ありません、リヴェリア様。お叱りは後ほど甘んじてお受けいたします。ですが、もうこれ以上黙って見過ごす事は到底――」

 

 お咎め覚悟の上で抗議しに来たアリシアさんに、先程まで気分良く会話をしていたリヴェリアの機嫌が一気に悪くなっていく中、野営地全体が突然騒がしくなってきた。

 

 

『白髪野郎がアイズさんの水浴びを覗いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

『あ・の・クソガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイィッ!!』

 

 

 叫びの内容を聞いた俺は思わず固まってしまった。

 

 ……え? 何? 白髪野郎って……もしかしてベルの事か?

 

 ベルがアイズの水浴びを覗いたって……嘘!? アイツ何やってんだ!?

 

 男女問わずに騒ぎだす【ロキ・ファミリア】冒険者達の叫びに、俺だけでなくリヴェリアやアリシアさん達も戸惑いの表情となっている。

 

「おいおいリヴェリア、何なのだこれは……一体何が起こっているのだ?」

 

「そんなの私が聞きたいぐらいだ……」

 

 すると、さっきまで出掛けていたと思われる女性がリヴェリアに聞いていた。確か彼女は昨日ヴェルフに絡んでいた女性()()()だったな。

 

 そんな中、物凄い形相となって殺気立っている団員達が武器を持って動き出そうとする。

 

 あの連中が万が一に本気でベルを殺す気で襲い掛かるなら、俺が全力を持って阻止するとしよう。

 

 それと、何でこんな事態になったのかを確認しようと、一旦リヴェリア達と別れて事情を知っている人に聞きに行く事にした。




 普通のエルフでしたらリヴェリアを崇拝しますが、この作品のオリ主リヴァンはオラクル船団で暮らした事で考え方や価値眼が大きく変わっています。

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少年エルフ、友達と従姉を助ける

今回はソード・オラトリア側の話です。


 ベルがアイズの水浴びを覗いた真相が判明した。騒動の原因は神ヘルメスの仕業のようだ。

 

 それを聞いた俺は「やっぱりそう言う事だったか」と口にしながら内心安堵した。同時に俺の友達を唆した、あの胡散臭い男神に対する殺意を沸々と沸き上がらせながら。

 

 悪く言うつもりではないが、ベルは女性に嫌われてまで覗きを行おうとする度胸なんか無い。というより、そんな事をしようだなんて考えもしないほど純情で真っ直ぐな奴だ。なので俺は、ベルが覗きをしたのは何か理由がある筈だと既に分かっていた。

 

 覗きの元凶である神ヘルメスは、自身の眷族であるアスフィさんによって手酷い制裁を喰らう破目となったのは言うまでもない。とても主神とは思えない程に容赦無い攻撃を繰り出していた。激昂していたヘスティア様や、端から見ていた【ロキ・ファミリア】の団員達も震え上がる程だ。因みに俺は自業自得だと見ていたが。

 

 ベルの方だが、『夜』の時間に切り替わる寸前に野営地へ戻って来た。覗き後に一目散へと大森林に逃走した事で迷子になっていたところを、ヘスティア様達と一緒に同行していたもう一人の冒険者が案内してくれたそうだ。見覚えがあるのだが、その人はまたしても姿を晦まして確認出来なかった。戻って来たベルに聞いてみるも、「本人の希望で自分の事は伏せて欲しい」だそうだ。

 

 結局分からず仕舞いになるも、神ヘルメスが成敗され、ベルも無事に戻って来たので自己完結する事にした。

 

 覗き騒動が漸く収まり、夕飯の時間となった俺は野営地の中央に集まるも――

 

「ヘスティア様、ベル様はどうしたんですか?」

 

「え? 覗いた女の子たちに謝りに行くって言ってたけど……まだやってるのかなぁ」

 

 先に来ていたリリルカとヘスティア様の会話を聞いて思わず足を止めた。

 

 近くにいたヴェルフにも聞いてみると、まだ此処に来ていないとの返答だ。

 

 おかしいな。夕飯の時間になったら来るようにと言われた筈なのに……ヘスティア様の言う通り、まだ覗いた女性陣の謝罪をしているのか?

 

 疑問を抱きながらも、取り敢えずは指定の場所へ座ってヘスティア様達と一緒に食事を始めようとする。

 

 ある程度の時間は経ったが、それでもベルが此処へ来る事はなかった。これにはヘスティア様だけでなく、リリルカやヴェルフもおかしいと疑問を抱き始めている。

 

 すると、【ロキ・ファミリア】の方でも何か起きたと気付いた。よく見ると、レフィ姉さんの姿が見当たらない。あの人は余程の事情が無い限り、時間前には必ずいる筈だ。

 

 そう言えば、此処へ来る前にアイズやティオナさんから聞かれたな。「レフィーヤを見てないか?」って。

 

 俺は見てないと即座に答えたが、今考えるとその時点からいなくなったと言う事になる。もしかすればベルも一緒に。

 

 ヘスティア様達にベルを探してきますと言って俺は席を外し、一先ず天幕の方へと向かった。

 

「さてと……」

 

 天幕に入って早々、周囲に誰もいないのを確認した俺は小型端末機を取り出した。それを起動すると立体映像が出現し、表示しているボタンを押して野営地全体図を映した。

 

 野営地の所々に丸い点があった。その多くは中央に集中して、無数の丸い点だらけとなっている。それもその筈。この点は【ロキ・ファミリア】の団員達の他、ヘスティア様や神ヘルメス達がいると言う生命反応を示す物である。

 

 どれも同じ色をした点だらけで誰が誰だかは一切分からない。分かるのは誰かがいる位置と人数だけ。だが、今回のパーティ探索の際に情報登録をしておいた。ベルとリリルカ、そしてヴェルフには他と違って特定の色を示す為の設定をしてある。なので、中央にいるリリルカとヴェルフを除いて、ベルが野営地のどこにいるかを端末機で探そうとする。

 

「………ん?」

 

 野営地全体の立体映像を見回しても見付からなかった。特定の点が表示しているのは天幕にいる俺と、中央にいるリリルカとヴェルフの三人だけだ。それ以外は【ロキ・ファミリア】の団員達の点しか見当たらない。

 

 特定の反応が俺たち三人しかいないって事は、ベルが現在野営地(ここ)にいないと言う事になる。

 

 どういう事だ? 女性陣の謝罪をするだけで野営地から離れる理由が全く分からない。そうしなければならない非常事態でも起きたのか?

 

 それにレフィ姉さんもいないし………まさかとは思うが、二人揃って野営地から離れているんじゃないだろうな。

 

 どちらにしても、ベルが野営地にいない以上はその周囲を探さなければならない。幸い、ベルは情報登録済みなので、遠く離れても位置を特定する事が出来る。

 

 今度は野営地内ではなく、18階層全体を映すように設定し直した。未だ全て把握しきってない為、かなり大雑把な表示となっている。しかし、情報登録設定をしている誰かを探すには問題無い。

 

 立体映像が切り替わって探すと……漸く見付けた。この野営地からかなり離れた場所で、特定の点を示しているのが一つある。

 

 現在ベルがいる位置は、よりにもよって大森林の方だった。一度あそこで迷子になっていたと言うのに、何でまた同じ事をしているのかが理解出来ない。

 

 何か理由があるにしても、本人に聞かなければ分からないので、一先ず野営地から出て捜索する事にした。

 

 本来なら世話になっている【ロキ・ファミリア】に前以て捜索許可を貰わなければならないのだが……お咎め覚悟の上、俺一人で動く事にした。

 

 理由は勿論ある。色々と不味い事になるからだ。

 

 もしも端末機でベルが此処にいるなんて馬鹿正直に話して、向こうが素直に信じるとは到底思えない。それでもと言って探した結果、本当に見付かって的中したとなれば、フィン・ディムナは間違いなく俺を問い詰めてくるだろう。何かしらの理由を付けて、俺が扱う端末機を根掘り葉掘り聞き出そうと。

 

 今はただでさえ【ロキ・ファミリア】に世話になって主導権を握られている状態なのに、ここで端末機と言う(向こうにとって)未知の存在(アイテム)を知られては非常に不味い。これはオラクル船団――異世界の技術で作られた物だから、絶対に見逃さないだろう。あくまで俺の想像だが、『手助けした礼として端末機を寄越せ。そして使い方を教えろ』、なんて言われる可能性が無きにしも非ずなので。

 

 取り敢えずはこう言うシナリオにしよう。

 

『ベルが野営地を探しても見付からなかった。もしかしたらまた森に彷徨っているんじゃないかと心配になったから、居ても立ってもいられず無断で野営地から離れて探し出した』

 

 色々と疑われる内容だが、それでも端末機について触れられる事は一切無い。俺が勝手に探して、運良く見つける事が出来たと向こうが勝手に判断すると思うので。

 

 

 

 

 

 

「くそっ! 一体何がどうなっている!?」

 

 野営地からコッソリと抜け出し、端末機の反応を頼りに探している中、突然ベルの反応が途絶えた。いきなりの事に焦った俺は、すぐに急行しようと全速力で向かっている。

 

 何の知識も無ければ確実に迷子となる広大な大森林だが、端末機を使っている事でそんな心配は一切無かった。戻る道順も一通り記録してあるので問題無いので。

 

 つい先程まで、何とか特定の丸い点(ベル)+レフィ姉さんと思われる丸い点と合流出来そうだと安堵していたのだが、向こうが急遽別方向へと進み始めた。それどころか自分の位置と向こうの距離が離れていき、内心何をやっているんだと呆れている最中、突然反応が途絶えてしまった。

 

 何の問題無く表示していた点が急に途絶えた理由はいくつかある。

 

 一つ目……ベル達がこの18階層から別の階層へ行ったかもしれない。体内フォトンが強いアークスならばどんなに遠くても捜索出来るが、それが殆ど無い第三者の場合だと別なので物凄く限られる。対象者に発信機でも付ける事が出来れば問題無いが、生憎とベルにそんな物を付けさせていない。

 

 二つ目……18階層にいても探知出来ない場所にいるかもしれない。例えるとしたら、探知妨害するほどの密閉した場所にいる。もしくは……巨大生物の体内にいるかのどちらかだ。いくら高性能な端末機でも限度と言うものがある。

 

 今の状況から考えて、恐らく二つ目の可能性が高いだろう。流石に巨大生物に食われた等と言う馬鹿げた展開にはなっていないと思うが。

 

「まさかとは思うが、落とし穴に嵌って抜け出せなくなった……なんてオチじゃないよな?」

 

 ここは安全階層(セーフティポイント)と言えどダンジョンだ。落とし穴がある可能性は充分にある。

 

 何にしても、ベルとレフィ姉さんがいなくなった場所に行かなければ分からない。一刻も早く向かおうと決意していると――

 

『ゴァァァァァァア!!!』

 

「邪魔だ!」

 

 モンスターと遭遇するも、エールスターライトの短杖(ウォンド)形態――ディムウォンドを振るっただけで簡単に絶命した。

 

 中層のモンスターと戦って、本気を出して倒すまでの相手じゃないと言うのが分かった。それどころかハクセンジョウVer2でも充分過ぎるほどだ。

 

 しかし、今は手を抜いている暇なんかないので、メインウェポンを使ってさっさと片付ける事にしている。

 

「うわっ! な、何だぁ!?」

 

 途絶えた場所まで後もう少しの寸前、前方から光の本流が突然現れた。

 

 予想外の不意打ちだった為、走っていた俺は足を止め、襲い掛かって来た光から目を守ろうと咄嗟に腕で覆う。

 

 戸惑う俺を余所に、光はそのまま天井水晶の一角に炸裂して、大きな爆音を奏でている。それによって森にいるモンスターがギャアギャアと叫んで木霊している。

 

 これ程の大きな光は恐らく俺だけじゃなく、野営地にいる【ロキ・ファミリア】や『リヴィラの街』にいる住人達も気付いている筈だ。

 

 加えて、あの光が起きた場所はベル達が途絶えた場所と一致している。もしかしたら、あの二人が何かやったかもしれない。

 

 そう思っていると、光の奔流が漸く収まった。走っている暇は無いと思った俺は、ミノタウロスを倒した際に使ったプリズムサーキュラーを発動させた。

 

 フォトンアーツは敵を倒す一種の技だが、中には移動用として使える物もある。今使っているプリズムサーキュラーはフォトンの帯を纏ったまま突進する事が出来て、走行以上のスピードを出せる。その分、体内フォトンの消費も激しいので長く使えないが。

 

 途中で再びモンスターと会うも、まるで車に轢かれたように激突して吹っ飛ばした。モンスターにとっては災難な事故だろうが、今の俺にとってはどうでもいい。

 

「見つけた……っ、あれは……!」

 

 そして漸く辿り着くと、途絶えた場所ではベルを抱えているレフィ姉さんの姿が見えて安堵するも、余り喜ばしくない光景だった。

 

『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 大きな蛇なのか花なのか分からない不気味なモンスターが何体もいる。その内の一体が吠声を上げながら二人に襲い掛かろうとしていた。

 

 そして――

 

『ガッッ!?』

 

「――え?」

 

 俺が速攻で介入した瞬間、放たれたプリズムサーキュラーの光の渦が一体に命中して薙ぎ飛ばした事で、他のモンスターも巻き込んで横転する事になった。

 

 余りにも予想外の光景だったのか、ベルとレフィ姉さんから呆けた声が聞こえる。 

 

「急いで来てみれば……何なんだ、あの不気味なモンスターは」

 

 フォトン帯が消えて地面に着地しながら思った事を口にする俺だが、それでも武器の構えは解いていない。

 

「リ、リヴァン……?」

 

「どうして、貴方が此処に……?」

 

 ベルとレフィ姉さんは駆け付けたのが俺だと分かった途端、揃って驚いた顔をしていた。

 

 思わず二人を見るとボロボロだった。レフィ姉さんは何故か上着が殆ど無くなって乳房が丸見えで、ベルは力を使い果たしたかのようにぐったりして彼女に寄りかかっている。

 

 何でそんな状況になったのかを問い質したいが、一先ずは目の前のモンスターをどうにかしなければならなかった。

 

「取り敢えずレフィ姉さんはベルと一緒にいて下さい。アレは俺が片付けます」

 

「む、無理よ……! あの食人花の群れを、『Lv.1』のリヴァンが勝てる訳が……!」

 

「まぁ見てて下さい」

 

 引き留めようとするレフィ姉さんに、俺は気にせず草地を蹴る勢いでモンスター――食人花に向かって突進する。

 

 向こうも俺にやられた怒りをぶつけたいのか、一体が凄い勢いで突進しながら口を大きく開けていた。

 

 食人花と激突する寸前、俺は咄嗟に上空へと高く跳んで回避する。その直後、フォトン帯を収束させて目標に放つ短杖(ウォンド)エトワール用フォトンアーツ――グリッターストライプを放った。

 

 俺の後ろへと進む食人花だったが、フォトン帯を直撃して爆発した事で頭を失った。それによって一体目の絶命を確認する。

 

「……え? いま、何が……起きて……」

 

 食人花を倒した事が予想外だったのか、レフィ姉さんが現実逃避するような声が聞こえた。

 

 それでも俺は気にせずに残りを倒そうと戦闘に意識を向ける。

 

『―――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 同族が倒された事に激高したのか、全ての食人花が雄叫びをあげながら一斉に襲い掛かろうとした。

 

 てっきりさっきの噛み付き攻撃をしようと大口を開いての突進かと思ったが、今度はさっきと違って俺を包囲し、蔦と思わしき触手を出してきた。

 

 数えるが馬鹿らしく思える程の無数にある触手全てが、俺に狙いを定めて貫こうとしている。大方、串刺しにして殺そうとするのだろう。

 

「「リヴァン!」」

 

 絶体絶命の状況だと悟った感じで、レフィ姉さんとベルが悲痛な叫びをあげた。

 

 しかし、それとは対照的に俺は慌てる様子を見せる事無く、左手を前に出してプロテクトバリアを張った。

 

『!?』

 

 襲い掛かって来た触手はそれによって全て弾かれた事に、食人花達は戸惑いの様子を見せた。

 

 咄嗟にバリアを張って防ぐことが出来た上に、ジャストガードと判定されてウォンドギアがある程度溜まった事を確認する。

 

 しかも食人花全てが俺に狙いを定めて包囲をしているので、アレを放つには丁度良かった。

 

 思わず笑みを浮かべた俺は、バリアを展開したまま勢いよく跳躍して――

 

「プロテクトリリース!」

 

 解除したと同時に、球状の強力な衝撃波を放った。

 

 俺を包囲していた食人花達の群れは、躱す暇もなく六発全ての攻撃を受ける事になる。

 

『―――――――――――ァァッ!?』

 

 衝撃波を直撃した食人花は身体だけでなく、花弁や触手を全て吹き飛ばした。頭の部分に魔石でもあったのか、それも失った直後にモンスターの肉体が灰と化した。

 

 インファント・ドラゴンにやった時と違って、今回はメインウェポン――ディムウォンドを使っての発動だ。ハクセンジョウVerと違って攻撃力はかなり高く、全力で放てば大抵の雑魚モンスターはバラバラとなる。

 

「……少しやり過ぎたか」

 

 そう口にしながらも、周囲に残りのモンスターがいない事を確認した俺は、構えを解いて武器を収めた。そしてそのまま、レフィ姉さん達の方へと歩を進める。

 

「……リ、リヴァン……。貴方が、あんなに強かったなんて……い、一体どういう事なの……?」

 

「そんな事より治療を――」

 

 今見た事が全然信じられないような表情をしているレフィ姉さんに、一先ず治療を優先するよう言ってる最中、俺はある事に気付いた。

 

 さっきはモンスターがいた為に気にしなかったが、改めて見た俺は少々気まずそうなに顔を横に向けて咳払いをする。

 

「ゴホンッ! ……先ずはその格好をどうにかしましょうか。と言うかもう、完全に丸見えですよ」

 

「え?」

 

 服が無くなっている所為で乳房が丸見えになっている事を伝えるも、レフィ姉さんは指摘された事に呆然とするも――

 

「―――――――――!!!」

 

 自分がどんな状態になっているのかを漸く理解したのか、一気に顔が熟れたトマトみたいに真っ赤となった。

 

「み、見ないでリヴァン! それとベル・クラネルは離れて下さい! ついでに服を返しなさーい!!」

 

「うげっ!!」

 

「ちょっとレフィ姉さん、それはいくらなんでも酷過ぎます」

 

 レフィ姉さんは叫びながらも、肩を密着させているベルを勢いよく突き放した。

 

 余りにも酷い仕打ちをする従姉に、俺は呆れながらも突っ込みを入れた後、自身の上着を脱いで彼女に着せようとする。

 

「これは、一体……?」

 

 すると、急いで駆けつけてきたと思われる同胞の女性が、俺たちの前に姿を現わした。

 

「あ、貴女は……?」

 

「え? リューさん……」

 

 レフィ姉さんとは別に、ベルは知り合いだったのか名前で呼んでいた。

 

 リューって確か……『豊穣の女主人』にいたウェイトレスだったような……。




原作ではリューが食人花を倒しましたが、ここではオリ主が倒す事になりました。

リュー好きな人には申し訳ありません。

感想お待ちしています。


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少年エルフ、アイズと約束をする

 暴走気味のレフィ姉さんに自身の上着を着せた後、俺はすぐ治療に取り掛かった。

 

 座らせるベルの容態を見て、打撲や裂傷の他、まるで火傷したように皮膚が焼け爛れているのを確認する。

 

 先ずは火傷状態から治そうと、短杖(ウォンド)から長杖(ロッド)――ビーチシェードを取り出す事にした。既に見ているベルは別として、レフィ姉さんと同胞の女性――リューさんが驚いたような表情となっている。

 

「アンティ」

 

「ええ!?」

 

「この光は……!?」

 

 治療用のテクニックを発動すると、対象はベルだけでなく、範囲内にいる俺達にも柔らかな光が包まれた。自分達も含まれたことで予想外だったのか、女性エルフ二人は困惑した様子を見せる。

 

 皮膚が元通りに戻った事を確認した俺は次の行動に移る。長杖(ロッド)から短杖(ウォンド)――ハクセンジョウVer2を展開させ、それに搭載している回復用テクニックを発動させた。

 

「レスタ」

 

「「!?」」

 

 さっきとは違う光に包まれ、ベルが追っていた打撲や裂傷がどんどん消えていき、そして完全回復した。同時に傷を負っていたと思われるレフィ姉さんや、全く無傷のリューさんも含めて。 

 

「よし。これでもう大丈夫。もう動いてもいいぞ」

 

「す、凄い……。傷が全部無くなってる」

 

 信じられないように自分の身体を確認するベル。

 

 因みに傷は治せても、ベルの履いている(ブーツ)やレフィ姉さんが着ていた服までは元に戻す事は出来ない。あの人には後ほど野営地に戻った際、替えの服を着てもらう予定だ。

 

「リ、リヴァン、攻撃魔法だけじゃなく、二つの回復魔法も使えるの……!?」

 

「まぁ一応、ですが」

 

 レフィ姉さんからの問いに少々奥歯に詰まったかのような返答をした。

 

 俺自身が使えるのではなく、武器に搭載されている魔法(テクニック)を発動させただけに過ぎない。しかし、それをバカ正直に言う訳には行かないので、敢えて誤魔化す事にした。

 

 いくら相手が従姉でも、【ロキ・ファミリア】に所属している以上は明かすのは無理だ。もし教えてフィン・ディムナやリヴェリアに知られでもしたら、絶対面倒な事になるのが目に見えてるので。

 

 俺の返答を聞いて再び驚いたのか、レフィ姉さんは突然石のように固まっている。

 

「しかしウィリディスさん。同胞の彼女はクラネルさんと同じく傷を負っているから良いとして、何故無傷である私も治療したのですか?」

 

「ああ、あの魔法は自分の一定範囲内にいる人も対象となって回復するんです」

 

「っ! ま、まさか……貴方が使う回復魔法は、一度で複数の者達を治す事が出来ると……?」

 

「その通りです」

 

 察しが良いリューさんの問いに俺がアッサリ答えると、彼女は信じられないように目を見開く。

 

 既にアンティとレスタを見られてしまった以上、こればかりは流石に誤魔化す事は出来ないので教える事にした。

 

 さて、それはもう良いとして。固まる二人を放置する事にした俺はベルに尋ねようとする。

 

「ところでベル、何で夕飯前に野営地から抜けてこんな所にいたんだ? 夜の森は危険だって知っている筈だろ」

 

「そ、それは――」

 

「まっ、待ってリヴァン!」

 

 問い詰めようとする俺にベルが戸惑う中、突如レフィ姉さんが慌てて前に乗り出してきた。

 

 

 

 

 

 

 あの後、事の経緯を全て話してくれた。

 

 どうやら原因を作ったのはレフィ姉さんらしい。(アイズの裸を)覗いた事が許せなかった怒りにより、制裁しようとするベルを散々追い回して野営地から離れたのだと。聞いている俺は複雑な気持ちだった。ベルに対する申し訳無さの他、従姉の暴走した理由に呆れたので。

 

 その結果、二人が夜の大森林を迷う破目になってしまい、何とか野営地に戻ろうとした際、異常事態が起きたそうだ。何でも【ロキ・ファミリア】が敵対している組織の残党を見付けたので、ベルと一緒に尾行をしたようだ。その途中、敵側が前以て仕掛けられていた落とし穴の(トラップ)に引っかかってしまい、未知の新種モンスターと交戦。ベルの助太刀もあって何とか撃退し、どうにか落とし穴から脱出。しかし運悪く敵対組織の残党が駆け付けて、新種のモンスターで始末されようとしたところを、俺が来た事によって状況が一変したと言う流れだった。

 

 一連の話を聞き終えた際、俺と同じく光の奔流を目撃したアイズやアマゾネス姉妹、そしてリヴェリアも馳せ参じた。と言っても殆ど事後処理も同然だったが。彼女達が来た事で、リューさんがいつの間にか去ったのに気付くも、ベル曰く色々と訳ありらしかったので触れないでおいた。

 

 三人が来て早々、リヴェリアより指摘が入った。主に俺に対して。自分達に何も知らせず二人を探しに行くとは何事だという小言を。その時は心配だったので居ても立ってもいられなかったと謝る事にした。

 

 その後は今回の現場を【ロキ・ファミリア】が調査する事になり、部外者である俺とベルはレフィ姉さんと共に、アイズを護衛として野営地に戻った。

 

 レフィ姉さんには俺が新種モンスターを倒した事や、回復魔法を使った件を口外しないで欲しいと頼んだ。【ロキ・ファミリア】として報告しなければならないと拒否されたらそれまでだが、友達(ベル)に迷惑を掛けた事に加えて、従弟(おれ)の頼みを無下に出来ないと言う理由で承諾してもらえた。

 

 

 

 

 一夜を明かした翌日。野営地は慌ただしい様子となっている。

 

 今日、【ロキ・ファミリア】は18階層を発つ。昨夜の騒動とは別に、地上からの解毒剤が届いた事により、部隊の進行が可能となったみたいだ。それ故に今は撤収準備の音が頻りに鳴り響いている。

 

 因みに解毒剤を運んでいたのが――

 

「何でクソエルフが18階層(ここ)にいやがるんだ!?」

 

「相変わらず品が無い喋り方だな、狼人(ウェアウルフ)

 

 何と目の前にいる狼人(ウェアウルフ)――ベート・ローガだった。野営地で様子を伺うように佇んでいる俺を見て早々に絡まれている。

 

「そちらの団長から聞いてないのか? 俺やベル達は諸事情があって滞在しているって」

 

「やっぱり兎野郎もいるのかよ!?」

 

 コイツの言う兎野郎とはベルの事を指しているんだろう。俺やベルが此処へ来た事が相当信じられないようだ。

 

 しかし、現にこうして来ているのだから、今更否定した所で何の意味も無い。

 

「って事は、あの話も本当なのか!? 兎野郎がアイズの水浴びを覗いたってやつは……!」

 

「誰から聞いたのかは知らないが、それは本当だ」

 

「――――――っ!!! 何……だと!?」

 

 俺が答えた瞬間、ベート・ローガが衝撃を受けたような表情となった。

 

「あ、あの野郎……俺でも出来ねえことを易々と……だと!?」

 

 わなわなと身体を震わせながら戦慄している狼人(ウェアウルフ)に、俺は段々煩わしくなってきた。

 

「その件はもう終わった話だ。アイズも許しているし――」

 

「ちょっと待て! 何でテメエがいつの間にアイズを呼び捨てにしてやがる!?」

 

 俺がアイズの名前を言った事に反応したベート・ローガが更に問い詰めようとしてきた。

 

 何なんだ、この狼人(ウェアウルフ)は? 妙にアイズの事を意識しているような……あ、もしかして。

 

 少しからかいを込めて言い返そうと思ったが、見るに見かねたと思われるティオナさんが割って入って来た。

 

「さっきからうるさいなー。リヴァン君が困ってんじゃーん。ほら行くよー」

 

「おいこらっ、放せバカゾネス!? 俺はあのクソエルフに訊きたい事が――」

 

 ギャンギャン騒いでいるベート・ローガを、ティオナさんが強制的に連れて行こうとした。凄まじい力なのか、襟首を掴まれている狼人(ウェアウルフ)はジタバタと暴れるだけだ。

 

 すると次に、ティオネさんが此方に来て謝ろうとする。

 

「ごめんなさい。うちのバカ狼が迷惑かけたわね」

 

「いえいえ、こちらこそ助かりました。ところで、あの狼人(ウェアウルフ)はアイズの事が……ですか?」

 

「ええ。貴方が考えている通りよ」

 

 肝心な内容を言わずに問うも、ティオネさんは分かっているように頷いた。

 

 思った通りか。あの狼人(ウェアウルフ)が矢鱈とアイズを意識しているからもしやと思っていたが、本当に大当たりだったとは。

 

 ベート・ローガを連れてくるのが目的だったのか、俺の問いに答えたティオネさんが「それじゃあね」と別れを告げて団員達がいる方へと向かっていった。

 

 そう言えばアイズの話題で思い出したが、【ロキ・ファミリア】は部隊を二つに分けて移動するって言ってたな。迷路や道幅の関係で、遠征に参加している大人数の団員達が17階層以上の層域をいっぺんに進むのは窮屈で困難だから、帰還の際には部隊が二つに分けられると。

 

 さっき会っていた三人やアイズは、前行するパーティに編入されていた。

 

 そして俺やベル達は、後続の部隊に同行させてもらう事で地上へ帰還する手筈だ。因みに後続の中にはリヴェリアが含まれている。帰還中に気安く話しかける事は出来ないので、せめて出発前の挨拶をしておくか。

 

「リヴァン」

 

「ん?」

 

 そう思って移動しようとするも、誰かが俺に声をかけてきた。振り返ると、何と前行部隊に組み込まれているアイズだった。既に武装を纏っている完全装備の状態だ。

 

「どうしました、アイズ。確か貴女は前行のパーティの筈では?」

 

「うん……でもその前に聞きたい事があって」

 

「聞きたい事?」

 

 俺が思わず鸚鵡返しをすると、彼女はコクリと頷く。

 

 まさかフィン・ディムナがまた俺に探りを入れようと……いや、それはないか。

 

 余り確信持って言えないが、アイズの様子から見て純粋に何かを聞きたがっている感じだ。裏があるとは思えない。

 

「17階層にいた階層主(ゴライアス)を誰かが倒したって聞いたけど……ひょっとしてリヴァンがやったの?」

 

「……………………」

 

 彼女から予想外の質問をされた事に、俺は思わず無言となってしまった。

 

 フィン・ディムナならまだしも、まさかアイズが遠回しな言い方を一切しないで直球で聞いてくるとは……。いや、そこが彼女らしいと言うべきか。

 

 此処に滞在して話をする機会があったのでいくつか分かった。第一級冒険者の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは、かなりの天然な性格であると。ベルとの会話でも、ズレた返答をしているのを目撃した事がある。最初は狙ってやっているのかと疑っていたが、そんな素振りが微塵も感じられなかったので、アレは素なんだと改めて認識した。

 

 だからアイズは裏表とか一切関係無く、ただ純粋に知りたいだけなんだろう。俺が本当に階層主(ゴライアス)を倒したのかどうかを。

 

「突っ込みどころが満載なんですが、何で俺が倒したと思ったんですか? そんな質問をするって事は、何か理由がある筈です」

 

「……怪物祭(モンスター・フィリア)の時に君がトロールを倒したから、もしかしたらと思って……」

 

 俺がトロールを倒した? …………ああ、あの事件か。

 

 確かあの時、闘技場で使う筈だったモンスターが脱走して大騒ぎになっていた。その時に偶然鉢合わせたアミッドさんを守ろうと、俺が前に出て両剣(ダブルセイバー)のフォトンアーツを使って瞬殺したんだったな。

 

 それをまさかアイズが目撃していたとは……凄い偶然だな。あの場に彼女らしき人影は一切見当たらなかったが、恐らく遠くから見ていたんだろう。

 

 まぁ、そんな事よりもだ。下層域に出現するモンスターを倒したのを目撃したアイズはこう思ったんだろう。『Lv.1』である俺が、倒せない筈のモンスターを倒してしまったから、もしかすれば17階層にいる階層主(ゴライアス)も倒したのではないかと。

 

 向こうがあり得ない事象を見てしまった以上、簡単に誤魔化す事は出来ないだろう。さて、どうしようか。

 

 此処は一先ず――

 

「知りたければ後日に【ミアハ・ファミリア】の本拠地(ホーム)――『青の薬舗』で新商品のポーションを買ってくれるのでしたら、お答えしましょう。但し、貴女一人で来て下さいね。レフィ姉さんや他のお仲間を連れて来た瞬間、この話は無かった事にしますので」

 

「……分かった」

 

 敢えて教えずに俺がいる本拠地へ来るように言うと、彼女は一瞬考えるも何の疑いもせずに頷いた。

 

 これがフィン・ディムナだったらなら教える気は無いかと諦めるが、アイズの事だから絶対に来るだろう。地上に帰還したら、ミアハ様やナァーザさんに事情を説明しておかないとな。

 

「ア、アイズさん!」

 

 そう思っていると、誰かがアイズに声を掛けた。

 

 声が聞こえた方へ視線を向けた先には、少し焦ったような顔をしたベルがいる。

 

 どうやら彼女に用があるようだ。ならば俺はリヴェリアに挨拶しに行くとしよう。

 

「それではアイズ、また会いましょう」

 

「うん、また」

 

 コクリと頷いたアイズを見た俺は離れて、ベルの方へと向かう。

 

「リ、リヴァン……アイズさんと一体何を話していたの?」

 

「ちょっとした店の宣伝だ。ウチの本拠地(ホーム)に新商品の回復アイテムを是非とも買ってくれってお願いすれば、ナァーザさんも喜ぶと思ってな」

 

 別に嘘は言っていない。新商品を買ってくれと言ったのは確かなので。

 

 浮ついた話じゃないと分かったのか、ベルは何だかホッとしたような表情になっている。

 

 安堵しているのは何となく察しているが、一先ず気付いていないように振舞いながら、この場を後にした。




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少年エルフ、再びベルを捜す

「ではリヴェリア、また後で」

 

「ああ。準備が出来たら私に言ってくれ」

 

 リヴェリアに同行の挨拶ついでに(女性エルフ達からの睨み付きで)軽い世間話を済ませ、ベル達がいる天幕へと戻った。

 

 俺はもう既に帰還の準備は済ませているから、後は向こう待ちだ。恐らく今頃ヴェルフが武器の整備をしている筈だろう。

 

 因みに神ヘルメスとアスフィさんは、まだ18階層を観光するから残るらしい。それと、リューさんは一人で帰ると言っていた。なので、ヘスティア様を含めた俺たち四人パーティ+桜花たち三人は同行する【ロキ・ファミリア】と一緒に帰還する予定になっている。

 

 まだ時間に余裕があるので、誰かの手伝いをするかと思いながら戻ると、リリルカが何やら慌ただしい様子だった。

 

 俺を見つけた途端にリリルカが即座に駆け寄ってきて問おうとする。

 

「リヴァン様、ベル様とヘスティア様を見ませんでしたか!?」

 

「ベルとヘスティア様? いや、見ていないけど……」

 

 何やら深刻そうな空気になっているな。もしかして二人の身に何か遭ったのか?

 

 今度は俺が尋ねてみると、リリルカは簡潔に話す。

 

 理由は未だに分からないが、ベルとヘスティア様が誰にも言わないで忽然といなくなったようだ。今はヴェルフの他に、桜花や命も一緒に野営地付近の森を探し回っていると。

 

 昨日と全く同じパターンだな。唯一違う点があるなら、今回はレフィ姉さんではなくヘスティア様か。

 

 しかも【ロキ・ファミリア】はあと少しすれば帰還する準備を終える。もしこのまま二人が見付からなければ置いて行かれるのは確実だ。

 

 俺達はあくまで彼等の後に付いて行くだけなので、部隊には正式に組み込まれていない。だから此方が待ってくれと言ったところで聞いてもらえず、時間になれば向こうは18階層を出発するだろう。

 

 今回ばかりは本当に困ったものだ。『もし何かあれば前以て誰かに言え』と念を押したと言うのに……!

 

 とは言え、ヘスティア様はともかく、ベルが急にいなくなったのは必ず理由がある。俺達に言う暇が無いほどの事態が。そう考えれば事件に巻き込まれた可能性が大有りだ。もしかすればヘスティア様も関わっているかもしれない。

 

 リリルカから一通りの話を聞き終えると、捜しに行っていた三人が戻って来た。しかし、残念ながらベル達は見付からなかったようだ。

 

「不味いぞ、このまま見付からないようじゃ【ロキ・ファミリア】の部隊に置いていかれる」

 

「もう、時間が殆どありません」

 

 桜花と命の台詞に、俺は思わず野営地側の方へと視線を向けた。

 

 見ると【ロキ・ファミリア】の準備は完了間近の様子だ。桜花の言う通り、ベル達が見付からなければ本当に置いていかれるだろう。

 

 状況を考えると、彼等と同行するのはもう諦めるしかないだろう。俺がリヴェリアに頼んだところで、絶対に待ってはくれない筈だ。彼女は【ファミリア】を束ねる副団長なので、俺達の個人的事情なんか気にしていられない。

 

「なぁリヴァン、【ロキ・ファミリア】に何とか留まるように掛け合って貰える事は出来ないか? お前、あのリヴェリアって副団長のハイエルフと仲良さげだったし」

 

「無理だ。それにそんな厚かましいお願いをしたら、俺が他の同胞(エルフ)達から刺される」

 

 彼女と親しげに話している俺は【ロキ・ファミリア】の同胞(エルフ)達から睨まれている身なので、これ以上の事をすれば絶対に黙っていないだろう。

 

 打つ手なしと言った感じでヴェルフは嘆息するしかなかった。

 

「もうこうなったらベル達の捜索に専念するしかないな。リヴェリアには俺の方から言っておこう」

 

「お、おい待て! 俺達だけで帰還するのは余りにも危険だぞ!」

 

 桜花が進言するも――

 

「帰る方法は他にもあります。それに俺は、どこかの誰かさんと違って見捨てる行為はしたくないんで」

 

「!」

 

 俺からの痛烈な皮肉に何も言えなくなっていた。

 

「リ、リヴァン殿! 今はそのような事を言っている場合では……!」

 

「失礼。確かに命さんの言う通り、今のは失言でしたね」

 

 桜花に代わって命が抗議してきたので、俺はすぐに謝罪した。

 

 土下座した命や、この場にいない千草なら、あんな皮肉は言わない。しかし桜花は何の悪びれも無く『自分の判断は間違っていない』と正面切って言い放ったから、思わず毒を吐いてしまった。

 

「リヴァンって、意外と結構根に持つ奴なんだな」

 

「……まぁ、リリとしては分からなくもないですね」

 

 俺の意外な一面を見たように言っているヴェルフとリリルカだが、一先ず気にしないでおく事にした。

 

 そんな事よりも、今はベル達を一刻も早く捜さないといけない。

 

「ところで、リリルカ達はどれ位の範囲で探していたんだ?」

 

「この野営地付近の森までです。流石に奥まで行くとモンスターに遭遇してしまいますので」

 

「だが俺達が探した限り、二人は何処にもいなかった。恐らくは森の奥まで行ったんじゃないかと思う」

 

 俺と問いにリリルカとヴェルフが答えた。

 

 野営地や周辺の森にはいない、か。だったらまたアレ(・・)を使って探すしかなさそうだ。

 

「なら今度は俺がベルを探すから、一旦場所を変えよう。付いてきてくれ」

 

『?』

 

 帰還準備中とは言え、【ロキ・ファミリア】の目があるから避けたかった。

 

 リリルカ達は不可解な表情をしながらも、取り敢えずと言った感じで移動する俺の後に付いてくる。

 

 野営地から少し離れた森に入り、この周囲に【ロキ・ファミリア】がいない事を確認し、懐から端末機を取り出す。

 

「リヴァン様、それは一体何なのですか?」

 

「……まぁちょっとした、秘密アイテムだ」

 

 この世界は機械が知れ渡ってないから、彼女達に一から説明しても理解出来ないので、敢えて誤魔化す事にした。

 

 そして端末機を起動した直後、前回と同じくディスプレイから立体映像が出現する。

 

「おわっ! な、何だこりゃ!?」

 

「も、もしやこれは、マジックアイテムなのですか!?」

 

 突然の事で仰天しながら叫ぶヴェルフと命。勿論、リリルカと桜花も似たような反応をしている。

 

 しかし、俺は気にせずに映像を確認する。

 

 確かに野営地や周辺にベルを示す点はいないようだ。ヴェルフの言う通り、此処からもっと遠くにいると見ていいだろう。

 

「ちょ、リ、リヴァン様、何が起きたのですか!? よく見ると、地図みたいな感じが……」

 

「地図みたいじゃなくて、今見ているのは地図その物だ。そして今(せわ)しなく動いている丸い点が【ロキ・ファミリア】の団員達だ。それと――」

 

 リリルカの問いに答えるよう、一先ず立体映像の見方について簡単に説明する。四人は一応聞いていても、驚くばかりだった。

 

 本当なら異世界の技術を見せるべきではないが、ベルとヘスティア様の捜索に加わってる仲間と言う事で披露する事にした。勿論、後で誰にも言ってならないよう口止めをする予定だ。

 

 そして説明を終え、表示している立体映像には対象が見付からないので、今度は18階層全体に切り替えた。前回と同じく大雑把な表示だが、特定の色を示しているベルを探すには問題無い。

 

「なぁリヴァン、もしかしてこの点がベルか?」

 

 ヴェルフが立体映像を指しながら俺に問う。その方へ向けると……確かにベルの反応を示す丸い点だった。

 

「間違いない、ベルはこの辺りにいる。やっぱり野営地から結構離れているな……って、何で命さんがそんなに落ち込んでいるんですか?」

 

「い、いえ、どうか自分のことはお気になさらず……」

 

 対象(ベル)を発見出来たのに、命が何故か落ち込んでいた。両手両足を地面に付けて暗い雰囲気を漂わせている様子だ。

 

 一先ず言われた通り気にしないで対象の位置を確認すると、中央の巨大樹の真東にある一本水晶がある所に向かっているな。しかも迷った様子を見せる事無く進んでいる。何だかまるでその場所を知っているような移動だった。

 

 ベルは俺達と同じく初めて18階層に来たばかりだから、この階層の地理はまだ把握していない。なのに、この移動は余りにもおかしい。地図でも持っていない限り、こんな迷わずに進むのは無理な筈だ。

 

 しかし、疑問や理由はどうあれ、ベルの位置が分かった事に変わりない。 

 

「あの、ベル様の位置は分かりましたが、ヘスティア様は分からないのですか?」

 

「残念だが、あの方まで特定は出来ない。そもそも登録してないし」

 

 リリルカの問いに俺は無理だと答えた。

 

 ベルの位置が特定出来たのは情報登録しているからだ。それをしていないヘスティア様を見付ける事は出来ない。というより、神がダンジョンに潜るのは禁止事項になっているから、登録するなんて微塵も考えなかった。

 

 とにかく、今はベルを追う事が先決である事に変わりはない。途中で行方不明中のヘスティア様も見付かるかもしれないので。

 

 モンスターが潜んでいる森の奥へ進むから、武装をする必要があった。その為、一旦野営地に戻る必要がある。

 

「み、みんなー!」

 

 すると、誰かが俺達に向かって大声で呼んでいた。思わず立体映像を解除して振り向くと、駆け寄って来たのは千草だった。

 

 桜花と命が色々質問していると、彼女は俺達を回復薬(ポーション)が散乱した場所へ案内する。

 

「これは、ヘスティア様がナァーザ殿から受け取っていたポーションですね……」

 

「あ、あとね、さっき、クラネルさんがすごい慌てながら森の外へ行っちゃって……」

 

「……リヴァン様。ベル様があの場所にいると言う事は、やはり事件に巻き込まれたと考えた方がよさそうですね」

 

「そのようだな」

 

 命と千草の会話を聞いたリリルカが確信持って言ったので、俺もそれに頷いた。

 

「だとすると、モンスターが何かやらかしたとは考えにくいな。仮にそうだとしたら、ベルがあんな所まで行くとは思えないし。やっぱり人の仕業か?」

 

「その可能性は高いな。人となれば、どこかの冒険者がヘスティア様を誘拐した事になるが」

 

「自分達や【ロキ・ファミリア】にも気付かれずに、ですか?」

 

 ヴェルフと俺が推測をして、命が疑問を抱くように会話を交わす。

 

 そんな中、手掛かりがないかと散乱した回復薬(ポーション)を物色しているリリルカの手が止まっていた。

 

「これは……」

 

「どうした、リリルカ? その香水(・・)に何かあるのか?」




次回はリヴァン無双をする予定です。


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少年エルフ、上級冒険者達を圧倒する

今年最後の投稿です。

それではどうぞ!


 決行前、リヴェリアに遠回しに時間を遅らせる事は出来ないかと尋ねてみたが、やはり無理だった。なので急な野暮用があるので18階層に残ると言い残した後、リリルカ達に説明する。予想していたみたいで、彼女達も諦めるように嘆息し、ベルとヘスティア様の捜索に専念するようだ。

 

 そして準備を終えた俺達は森の中央の真東にある一本水晶へと向かった。その途中、リリルカがヘスティアを捜すと言って別行動を取って別れている。俺も同行しようかと言うも、ヴェルフ達と一緒にベルの援護に向かうように言われてしまったが。

 

 俺が使う端末機にヘスティア様の居場所は分からないが、リリルカは捜す方法があるそうだ。何でもあの方がリヴィラの街で購入したらしく、その匂いを辿ればいる筈だと。

 

 何故買ったのか聞いてみると、ヘスティア様がいつの間にか買っていたらしい。恐らく身体に染みついた嫌な臭いを消すついで、ベルにアピールする為だとリリルカが推測する。

 

 まぁ兎に角、あの方が香水を付けていれば発見出来るようだ。なので俺達はヘスティア様の捜索を、一先ずリリルカに任せる事にした。

 

 そして俺とヴェルフ、【タケミカヅチ・ファミリア】の三人は目的の場所へ到達間近になるも、端末機に表示させている立体映像には冒険者らしき無数の反応があった。

 

「ここから数百(メドル)先に多くの冒険者がいます」

 

「やっぱりいやがったか!」

 

 探知した俺の発言に、それぞれが各自武器を手にしようとする。 

 

 因みにヴェルフはこの前のダンジョン探索で大刀を失っていたが、リヴィラの街で中古品の大刀を購入している。ぼったくり同然の値段だったそうだが、武器が無ければ話にならないと言って仕方なく買ったそうだ。

 

 背中に白布が巻かれている武器らしき物もあるが、それはヘスティア様達が用意してくれた物だった。しかし、当の本人は使う気が無いのか、大刀のみで戦おうとしている。

 

 桜花と千草が装備しながら【ロキ・ファミリア】に置いていかれた事を会話するも、俺とヴェルフは気にせずに前方にいるであろう冒険者達に意識を向ける。

 

「どうする、リヴァン? 上級冒険者(あいつら)相手じゃ俺は魔法を封じることくらいしかできないぞ」

 

「充分だ。俺一人である程度の数を片付けるから、ヴェルフ達は残りを倒してくれ」

 

「は? お前、何を言って……」

 

 ヴェルフの言葉に頷いた俺は、盛り上がった巨大な根の前で跳躍し、そのままプリズムサーキュラーを発動させた。 

 

「ぶぎゃっ!」

 

「何ぼぐぁ!?」

 

「【リトル・ルーキー】の連れだ! どうしてここがぁっ!?」

 

 背後からの強襲に冒険者達は振り向きざま得物で反撃しようとするも、フォトンの帯を纏ったまま高速突進する俺と激突してそのままどこかへ吹っ飛ぶ。臆する事無く進んでいく俺はそのまま突っ込んでいく。

 

「な、何だあのエルフのガキは!? すげぇ速さでこっちに向かってごぁっ!」

 

「あのガキを止めぶげっ!」

 

 粗暴な声を上げ、多くの冒険者達は俺を止めようとするも、勢いと速さに負けて次々と轢かれていく。

 

 相手が上級冒険者と知ったから、一切加減をせずに本気でやっているんだが……余りの弱さに拍子抜けだった。

 

 プリズムサーキュラーは移動用として使える他、そのまま敵にダメージを与える事が出来る大変便利なフォトンアーツだ。速度もかなりあって激突した時の威力もそこそこあるも、上級冒険者相手に動きを止めさせる程度だと思っていた。

 

 しかし、フォトンの帯と激突して動きを封じるどころか、そのまま吹っ飛んで痛みに悶えている状態に陥っていた。これが本当に自分より実力が格上の冒険者なのかと、思わず疑問を抱いてしまう。

 

「おい、魔法を使え!」

 

「さっさと詠唱して奴を止めろ!」

 

 多くの上級冒険者達を轢きながら片付けていると、自分より少し遠くにいる連中の叫び声が聞こえた。

 

 振り向くと、魔導士らしき冒険者が杖を構えて魔法を撃つ仕草をしている。それに気付いた俺はフォトンの帯を解除して、そのまますぐに光の渦を飛ばすように武器を薙ぎ払う。

 

「ごあぁッ!?」

 

「うぎゃぁ!」

 

 凄まじい勢いで直進する光の渦は魔導士だけでなく、他の冒険者達にも命中し吹っ飛んでいった。

 

「嘘だろ!?」

 

「詠唱しないで魔法を撃ちやがった!」

 

「どうなってやがる! あれが本当に『Lv.1』なのかよ!?」

 

「こんなの聞いてねぇぞ!」

 

 瞬く間に倒されていく光景に、残りの上級冒険者達が慄いていた。

 

 連中の台詞の中に気になる事を言っていたな。確か『【リトル・ルーキー】の連れ』や『こんなの聞いてねぇぞ』とか。

 

 俺が倒した多くの上級冒険者は全員初対面だった。当然それはヴェルフ達も同様の筈だ。

 

 だと言うのに、向こうはこちらの事を前以て知っているような感じだ。そう考えると、俺達の事を知っている誰かが教えたと推測する。

 

 【ロキ・ファミリア】は考えにくい。神であるヘスティア様を誘拐したなんて不届きな事をして地上に知れ渡ってしまえば、【ロキ・ファミリア】の評判に大きな傷が付いてしまう。それどころかオラリオに住まう市民からの信用もガタ落ちだ。団長のフィン・ディムナが、そんな愚かな真似をするとは思えないので除外とする。

 

 俺、リリルカ、ヴェルフも当然除外だ。該当する容疑者としては……【タケミカヅチ・ファミリア】にリューさん、そして【ヘルメス・ファミリア】だ。

 

 桜花や命、そして千草がベル達の事を連中に話したとは思えない。現に今、俺達と同じくベルとヘスティア様の捜索に手伝って貰っている。リューさんはベルに対して親しげな感じがする上に、正義感が強そうな彼女がそんな陰湿な事をやるとは思えない。

 

 そう考えると一番濃厚なのは【ヘルメス・ファミリア】だな。特にあの胡散臭そうな男神が。

 

 確か神ヘルメスは、眷族のアスフィさんと一緒に18階層を観光するからと残ると言っていた。いつの間にか野営地にいなくなっていたのを考えれば、情報を渡したのが奴だと考えられる。

 

 この件が片付いたら、あの男神に後ほど問い質すとしよう。今は目の前の上級冒険者達をどうにかしないと。

 

「そんな程度の実力なんですか? 下級冒険者(おれ)の攻撃で簡単に倒されるなんて、上級冒険者の割には大した事無いですね」

 

『あぁ!?』

 

 皮肉たっぷりの挑発をすると、上級冒険者達は物の見事に乗っかって激高した。

 

「このクソガキがぁ!」

 

「妙な魔法を使って調子に乗ってんじゃねぇ!」

 

「ぶっ殺す!」

 

「魔法さえ使わせなけりゃこっちのもんって事を教えてやる!」

 

 プリズムサーキュラーから逃れた残りの上級冒険者達が、一斉に襲い掛かろうとする。

 

 俺が魔法(フォトンアーツ)以外でも充分に戦えるって事を教えてやるか。エトワールクラスが支援や防御特化した前衛型だという事を。

 

 エールスターライト短杖(ウォンド)形態――ディムウォンドを構えていると、武器を持った桜花と命が割って入って来た。

 

「リヴァン・ウィリディス、一人で勝手に始めるな!」

 

「自分達もいる事を忘れないで頂きたい!」

 

 そう言って二人は襲い掛かってくる上級冒険者数名の攻撃を己の得物で受け止める。

 

「そ、そうだった! このガキ以外の仲間もいたんだ!」

 

 向こうが思い出したように言うと、他の連中も警戒するように一旦動きを止めていた。

 

 そんな中、ヴェルフが俺に話しかけようとする。

 

「ったく。何なんだよ、お前は。いきなり詠唱無しで魔法を使ったかと思えば、半分以上倒しやがって。俺達の出る幕ねぇじゃねぇか」

 

「悪いな。見せ場を奪うような事をしてしまって」

 

「ああ、全くだ。今の俺達はパーティなんだ。今度は一緒に戦おうぜ」

 

「そうしよう。ならヴェルフは敵の魔導士を頼む。魔法を封じる手段があるなら、是非ともやってくれ」

 

「おう、任せとけ!」

 

 桜花と命が戦っている中、俺はヴェルフと一緒に残りの上級冒険者達と戦う事となった。

 

 その寸前、俺達の目の前に風が吹いた。

 

「森が騒がしいと思っていたら……こういうことでしたか」

 

「お前……!」

 

「リューさん……」

 

 ケープを纏った覆面の冒険者――リューさんが突然現れた事に、ヴェルフと俺は驚きの表情となった。

 

 彼女が此処に現れるのは予想外だったが、嬉しい誤算だ。

 

 そう思った俺はリューさんに簡単な説明をすると、リューさんは助太刀をすると言ってくれた。

 

 さっきまで大量にいた上級冒険者達だったが、あっと言う間に蹂躙される事となる。

 

 因みに戦闘中、ヴェルフが敵の攻撃を躱した際に刀帯が切れてしまい、背負っていた白布の塊を落としてしまった。遥か下の森に続く斜面へ転がってしまい、すぐに回収するのが無理だった。

 

 大事な物なら取りに行けと言ったが、当の持ち主が眉間を苦渋に歪めながらも大丈夫だと言って、俺達と一緒に先へ進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと、ヘスティア様のお陰で事件は収束する事となった。

 

 俺達がベルが誰かと戦っている場所へ向かいながら敵を倒し続けている最中、リリルカによって助けられたヘスティア様が現れた。

 

 戦うのを止めろと言うも、上級冒険者達は下らない意地を張って続行しようとするが、それはすぐに一変する。

 

 ヘスティア様が神威を発動させた事により、血気盛んだった奴等は戦意を無くすように逃げ出してしまい、首謀者と思わしき壮年の上級冒険者も退散した。

 

 その後に、神としての威厳を見せていたヘスティア様が一変して、すぐベルに抱き付いて高等回復薬(ハイ・ポーション)を顔に浴びせかけた。【ミアハ・ファミリア】製の回復アイテムを使っているから、俺がレスタを使って治癒する必要は無さそうだ。

 

(これは……)

 

 主神(ヘスティア様)眷族(ベル)による感動的な場面を見せている中、俺はある物を見付けた。壮年の上級冒険者が使っていたと思われる奇妙な兜が。ベルと戦っている最中に外れてしまったんだろう。見た感じ耐久性に優れた防具じゃなさそうだから、恐らく魔道具(マジックアイテム)かもしれない。どんな効果があるのかは知らないが、『Lv.2』のベルをあそこまで痛めつける程の有用な物と見ていいだろう。取り敢えずコレは俺の方で回収して、後でベルにどんな効果だったかを聞いてみるとしよう。

 

 そう思っていると、突然足場が揺れた。と言うより、階層全体が揺らめいている。

 

 【タケミカヅチ・ファミリア】の三人が足元を見下ろしながら狼狽え、リューさんから『嫌な揺れだ』と不吉な言葉を口にしている始末。

 

 直後、先程まで頭上からそそいでいた光が消え始め、周囲が一瞬で薄暗くなった。

 

 思わず空を見上げると、太陽の役割を果たしている中央の白水晶の中で、巨大な何かが蠢いていた。

 

 まるで何かが出たがっているかのような感じで白水晶に罅が入り、そして突き破って出て来た。俺が17階層で倒した巨人のモンスター『ゴライアス』と思わしき存在が。

 

(一難去ってまた一難、か。この状況からして、倒すしかなさそうだな)

 

 ベル達がモンスターの出現に困惑している中、冷静に考えている俺はエトワールクラスの武器やスキルを最大限に使って倒すしかないと結論に達する。




感想お待ちしています。


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幕間

明けましておめでとうございます。

凄く短いですが、内容が内容だったので区切る事にしました。

今回はフライング投稿です。


(あのゴライアス、俺が17階層で倒したのと違うな……)

 

 ゴライアスの外見に俺は違和感を感じた。

 

 17階層で見たのは灰褐色の皮膚で黒髪だったが、目の前のアレは黒い皮膚で白髪だ。見ただけで色違いのモンスターである事は分かる。

 

 しかし、そんな事はどうでもいい。俺にとって一番気になる事は、アレの強さだった。

 

 黒いゴライアスは17階層(うえ)と違って動きが機敏なだけでなく、力も強い。ロックベアやゼッシュレイダのようは機敏さは無くとも、厄介な相手である事に変わりない。

 

 これはどうやら一筋縄で勝てる相手じゃなさそうだ。不謹慎なのは重々承知しているんだが、久しぶりに本気で戦える相手だと気持ちが高揚していた。戦闘狂と呼ばれる六芒均衡のマリアさん程じゃなくても、久しぶりに強い相手と戦えるのは嬉しく思う。

 

 俺がアークスの任務中に元の世界へ戻り、オラリオで冒険者となって二ヵ月程となるが、全力で戦える相手が全然いなくて退屈な日々を送っていた。上層のモンスターは通常攻撃やフォトンアーツ一発だけで簡単に倒せて作業同然だった。それでもミアハ様達に迷惑を掛けないよう、『Lv.1』の振る舞いをするよう上層に留まり続けていた。

 

 その途中、ベルと友達となり、更には他の仲間と一緒にパーティ探索をして中層に進出し、俺は退屈な日々から段々抜け出せそうになっている。そして今は、未知の強敵と遭遇している状況だ。

 

 俺一人だけでは、こんな展開にはならないだろう。そうでなければ、今頃ずっと上層でモンスターを狩り続けているだけの作業を続けている筈だ。そう考えると、俺は友達になってくれたベルに感謝しなければならない。

 

 だからその恩義に報いる為、ここから先は全力で戦わせてもらう。ミアハ様の言いつけを破ってしまうが、この状況では黒いゴライアスを倒さない限り、生きて戻る事は出来ない。そして、ベルやリリルカ達を死なせたくはない。例え俺の力を気味悪がって嫌われたとしてもな。

 

(まぁ、友達(ベル)に嫌われたら暫くヘコむ事になるだろうが……)

 

 出来れば初めて出来た異種族の友達に嫌われないで欲しいなぁと願い――

 

「――ァン、リヴァン!」

 

「ん?」

 

 すると、誰かが俺を呼んでるのが聞こえた。呼んだのはベルで、俺の近くにいる。

 

「行こう!」

 

「……ああ、分かった」

 

 何を言っているのかと思われるだろうが、俺は既に分かってる。黒いゴライアスが落ちた付近にいる冒険者達を助けようとしている事を。

 

 考え事をしながらも、話はちゃんと聞いていた。あの黒いゴライアスは神であるヘスティア様を抹殺する為に送られた刺客であり、奴の周囲にはベルを好き勝手に甚振っていた連中もいるが、助けに行こうと行動する事を全て。

 

 普通なら助ける必要は無いと言うべきだが、パーティのリーダーであるベルの決断に、ヘスティア様達は異を唱えずに笑みを浮かべて頷いていた。全員が了承している意味だ。勿論、俺もその一人である。因みにリューさんは既に森から飛び出して、この場にはいない。

 

 さて、本来であれば全員が悲鳴と爆音が起こる階層中央地帯へ向かう為の森を抜けなければならないが――

 

「ベル、悪いが俺だけ先に近道させてもらうよ」

 

「近道って……え?」

 

 軽く跳躍した直後にプリズムサーキュラーを発動させ、フォトンの帯を纏ったまま、落下する事無く黒いゴライアスの所へと向かっていく。

 

「リ、リ……リヴァンが空を飛んでる~~~~~!!」

 

『えぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!!??』

 

 ベルの叫びに他の面々が吃驚するように叫ぶも、取り敢えず気にしないでおく事にした。




今年もよろしくお願いします。


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少年エルフ、黒いゴライアスに苦戦する

(さて、どうやるか……)

 

 プリズムサーキュラーで移動しながら、黒いゴライアスを倒す戦い方を考えていた。

 

 見るからに17階層で倒したアレと違うのは既に分かっている。普通ならここは一度敵の動きを観察する為として、遠距離攻撃をメインで戦うべきだ。

 

 だが、今そんな事を悠長にしている暇なんか無い。既に暴れ始めているゴライアスは下を見ながら太腕を大きく振るっていた。先程まで俺達が戦った上級冒険者達を殴り飛ばしている。まるで紙屑のように吹き飛んでいた。

 

 首謀者と思われる壮年の上級冒険者もおり、今はもう他者の事なんか気にせず一心不乱に距離を取って逃げていた。さっきまでベルを追い込んでいた時とは大違いだ。

 

 相手が相手だから、そうならざるを得ないのは無理もない。あのゴライアスは明らかに17階層のとは強さが違う。

 

 ベルを陥れた連中を助けようとする気はこれっぽっちも無い。だが、当の本人が助けようとしているので、見捨てるわけにもいかなかった。

 

 なので一足先に到着した俺は、ゴライアスが口を開いて何かをする瞬間にフォトンの帯を解き、即座に光の渦をアレの顔面飛ばす事にした。

 

『ゴアッ!?』

 

「……え?」

 

 光の渦が命中した事で、ゴライアスがよろけた。同時に口腔から吐き出されるモノが不発となった事に、下にいる上級冒険者が唖然となって動きを止めた。

 

『――――――――アァッ!!』

 

 攻撃したのが俺だと分かったのか、向こうは俺の方へと狙いを定めて再び口を開けた。

 

 しかし俺はそんな事を気にせず、宙に浮いている状態を維持したまま、一足早く新たなフォトンアーツを撃つ仕草をする。

 

「甘い!」

 

『~~~~~~~!?』

 

 ビーム上の細長い光が照射するフォトンアーツ――ルミナスフレアを、ゴライアスの口を狙って放った。

 

 吐き出そうとしていた物を、光の異物によって無理矢理押し込めるようにされている為に悶え苦しむ表情となっている。負けじと押し返そうとするも、こちらの攻撃によってダメージを受けてる事で吐き出すのは無理だった。

 

 ゴライアスはそれを諦めようとしたのか、ビームを放っている俺を捕まえようと片手を伸ばそうとする。当然、そうする事を予想していた俺は、ルミナスフレアを撃ちながらも距離を取っている。

 

「はい、もう一丁!」

 

 ビームを撃ち終えた俺は、再びルミナスフレアを撃ち放つ。しかも、未だに浮遊状態のままだ。

 

 エトワールクラスは他のクラスと違い、フォトンアーツを撃った後は浮遊状態を維持出来る。だから再度撃つ寸前の間は地面に落下する事無く、新たなフォトンアーツを撃ち続ける事が出来る。

 

『~~~~~~!!』

 

「何っ!? ぐっ!」

 

 ルミナスフレアを受けて怯んでいる筈のゴライアスだったが、やぶれかぶれと言った感じで俺に接近して太腕を真横に振るってきた。

 

 俺は距離を取りながらも下がるも向こうが速く、開いた大きな手に命中し、そのまま勢いよく吹っ飛ばされてしまった。

 

「がはっ!」

 

「ウィリディスッ!?」

 

 物凄い勢いで地面に激突して血を吐く俺に、既に駆け付けたリューさんが俺を見て叫んだ。

 

「くっ! 一旦彼を――」

 

 彼女は倒れている俺を見て別の場所へ連れて行こうとするも――

 

「~~~~!? いてて、あ~~……久々に強烈な一撃を貰っちまった~……!」

 

「はぁ!?」

 

 すぐにムクリと立ち上がって、片手で頭を支えながらフラフラする俺を見て驚愕していた。

 

 さっきの一撃は本当に滅茶苦茶効いた。もし俺がエトワールの防御系スキルの他、ステルス化してる防具や、武器に搭載している特殊能力が無ければ間違いなく死んでいたと確信する。

 

 エルフと言う種族は只でさえ打たれ弱いから、防御を中心としたクラスや武装をしてないと、接近戦なんてやっていられない。ゴライアスやゼッシュレイダと戦った時に、何度死にそうな目に遭った事か。

 

「ウィ、ウィリディスさん、貴方……重症の筈では……?」

 

「大丈夫です。俺、そこら辺のエルフよりは少し頑丈なので……」

 

「……頑丈と済ませるのはどうかと思うのですが」

 

 何やらリューさんから呆れたような言葉が返って来た。

 

 大丈夫な理由は勿論ある。エトワールスキル――ダメージバランサーや武装の特殊能力により、本来受ける筈のダメージの8割以上は抑えられた。それ故に俺はまだまだ戦える。

 

 それに加えて、久々に受けたダメージで俺の心は少しばかり粗ぶっていた。歯応えのある獲物を見て特に。

 

「やってくれたな、あのデカブツ……! 本気でぶちのめしてやる!」

 

「! 武器が……!」

 

 荒々しい口調で言いながら、エールスターライト短杖(ウォンド)形態から別に切り替えようと、重なっている剣を分離して飛翔剣(デュアルブレード)形態――ディムDブレードへと切り替えた。

 

 それを見たリューさんが驚いた表情になりながらも、俺は気にせず武器の切り替えを終える。

 

 エトワール短杖(ウォンド)は遠距離攻撃メインの武器で、他の武器と比べて動作が緩慢で接近戦に持ち込まれたら若干弱い。対して飛翔剣(デュアルブレード)形態は短杖(ウォンド)より動作が速い上に、ゴライアスのようなデカいモンスター相手には丁度良い。両剣(ダブルセイバー)形態も充分にやれるが、アレ相手には飛翔剣(デュアルブレード)が好都合だ。

 

「リューさん、突出した俺が言うのも何ですが、手伝ってくれませんか? アレ相手には俺一人では流石に無理なので」

 

「……それはこちらの台詞です。元より、私もアレと戦う為に来たのですから」

 

 そう言いながらリューさんは所持している木刀を手にして構えようとする。

 

「にしてもアレ、結構防御力があるな。上にいた階層主(やつ)とは大違いだ」

 

「ッ! ウィリディスさん、まさか……!」

 

 俺の独り言に、凄い反応をしながら振り向くリューさん。

 

「やはり貴方だったんですか、17階層の階層主(ゴライアス)を倒したのは……!」

 

「……それよりも、今は敵に集中しましょう」

 

 つい比較して口に出してしまったか。まぁ、この人にバレても大丈夫だろう。周囲に言い触らすとは思えないし。

 

 そして俺とリューさんが突撃し、それぞれ黒いゴライアスに攻撃を始める。

 

 後になってベル達だけでなく、リヴィラの街から多くの冒険者達が駆け付けてきた。大半はアレに向かって突撃してるが、その他はゴライアスの雄叫びに呼応するように現れたモンスター達を倒している。

 

 俺を含めた18階層にいる冒険者総出で、巨人モンスターの討伐戦が本格的に開始される事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クソっ、本当に色んな意味でバケモノだな……!」

 

 完全な乱戦状態に陥るも、俺を含めた多くの冒険者達が総攻撃を仕掛けてそれなりの時間が経つも、ゴライアスは倒れる気配を見せようとしなかった。それでも動きは鈍らせているが。

 

 俺はライトウェーブによる遠距離用のフォトンアーツを連発し、敵の両手足を斬り刻んでも、全く怯む様子を見せなかった。激痛による悲鳴をあげても、それを無視したような攻撃をする始末。

 

 ゴライアスには手足だけでなく、口から衝撃波を放つ遠距離攻撃も使っていた。最初に俺が一人で戦った時はソレを撃たせないよう阻止したが、乱戦になった事で周囲にいる冒険者達に向けて撃っていた。威力は当然相当なもので、地面に大き目なクレーターが出来上がったり、岩や水晶を簡単に破壊していた。人の身でまともに喰らったら終わりだろう。

 

 因みに一番ダメージを与えていたのは主に俺だった。特にライトウェーブを何度も使っていた俺にリューさんや、いつの間に参加したアスフィさんが何故か信じられない程に驚愕していたが。

 

 他にもベルが駆け付けてゴライアスと戦って少々危険な一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)をするも、ダメージを与えてはいた。それでも俺やリューさん達と同じく、決定打に欠けてはいたが。

 

 そんな中、後方に控えていた魔導士達が詠唱を完了させ、怒涛のような一斉射撃を放った。前衛組が離れた際、ゴライアスは他属性の攻撃魔法を全て浴びた事により、やっとの事で片膝を地についたどころか、顔面部分を始めとした体皮は抉れて赤い血肉を晒した。

 

 誰もがチャンスだと冒険者達が一斉に前へ出て畳みかけるも、そこから大きな変化が起きた。誰もが予想しなかった展開だ。

 

 何とゴライアスが体を治そうと、魔法によって抉られた顔面は瞬く間に自己再生を行った。これには多くの冒険者達は呆然と立ち尽くしてしまう程だった。

 

 まるで此方の隙を突くように、ゴライアスは前衛達だけでなく、魔導士達も含め、巨大な両腕を頭上高く振り上げた。

 

 瞬間、握り締められた二つの大きな拳が足元へ振り下ろす。大草原が割れて凄まじい爆発、地割れ、そして衝撃波を発生させ、まるで破壊の津波と呼ぶべきものだった。

 

 誰もが前衛達が吹き飛ばされている中、俺とリューさんは咄嗟にベルを連れて退避に成功し、今に至る。

 

 至近距離から衝撃波を浴びた前衛達は言うまでもなく、後衛の多くも倒れ込んでいる。起き上がろうとしている者達もいるが、それは数えるほどしかいなかった。

 

 今の光景は死屍累々だけでなく、裂け目のあちこちから煙を上げる大草原も加わってる事により、地獄絵図と呼ぶに相応しいほど凄惨さだ。

 

 それを作り出したゴライアスは次に、再び信じられない事をしている。アレの身体から立ち昇る光の粒――燃えた魔力の残滓で、自己治癒力増幅に用いていたのだ。

 

 自己再生に加え、魔力を利用しての治癒力増幅。普通のモンスターには出来ない芸当をやってのけている事に、俺は思わず戦慄した。自身のいた世界にいるエネミーに、あそこまで出来るのは滅多にいないと。

 

 ここまで厄介な敵は、この世界に来て初めてだと改めて実感する。俺が戦った17階層の階層主(ゴライアス)が段々可愛く思えてくるほどに。

 

『――――アァッ!』

 

 すると、ゴライアスの攻撃は再開される。今度は動くものすべてに衝撃波――『咆哮(ハウル)』を放ち、再起不能を免れた冒険者達に追い打ちをかけていた。その攻撃に彼等は、弾かれたり飛ばされたりと、虫の息と化している。

 

 だがそれだけでなく、アレは顔を頭上に向けて雄叫びを上げ、階層中の全てモンスターを大草原へと押し寄せようとする。

 

 辛うじて生き残っている冒険者達は、もはやゴライアスを気にしている余裕はなく、眼前の敵に手一杯となっていた。

 

 他の連中が無理なら、俺がやるしかない。あの時は全力で戦うとは言ったが、どうやら心の奥底ではアレを侮っていたと俺は認識する。その慢心があった為、こんな無様な結果となっている。

 

 なら今度は冒険者としてでなく、一人のアークスとしてゴライアス(エネミー)を撃破する。アレをアークスの仇敵――ダーカーのように思えば、もう一切の油断なんかしない。それに周囲の目なんか、もうクソ喰らえだ。

 

「リ、リヴァン……」

 

「ベル、お前は下がっ――」

 

 前へ進もうとする俺にベルが声を掛けてきたので、下がるように言ってる最中リューさんが割って入って来た。

 

「クラネルさん、此処に残りなさい。周囲と協力して、モンスター達を。ウィリディスさんもです」

 

「リュ、リューさんは!?」

 

「アンドロメダと共に、ゴライアスを押さえます」

 

 リューさんの台詞にベルが目を見張り、俺はすぐに待ったを掛けようとする。

 

「いくらなんでも、それは無理じゃないですか? 貴女たち二人だけで、アレを押さえるのは流石に」

 

「例えそうでも、あのモンスターを止めておかなければ、このまま蹂躙されます。それに、貴方が使っているその魔剣も限界の筈です」

 

「は?」

 

 魔剣って……一体何の話だ? 俺が使う飛翔剣(デュアルブレード)は魔剣じゃなく、アークス製の武器なんだが。

 

 確か魔剣はナァーザさんから、何回か使えば壊れる消耗品と聞いた。なので俺はそんな物は一切……ああ、そう言う事か。彼女は恐らく、俺がライトウェーブを使ったのを見て飛翔剣(デュアルブレード)を魔剣と勘違いしたんだろう。

 

 そう考えていると、リューさんはいつの間にか駆け出して、ゴライアスの元へと向かっていった。

 

 本当だったら俺が行きたいところだけど、先に行かれてしまった以上ベルを置いていくわけにはいかない。

 

「一応訊いておくが、どうする? 俺達はリューさんに言われた通り、モンスター達を倒しているか?」

 

「………………」

 

 俺の質問にベルは答えようとしない。それどころか、全く聞いていない感じだった。

 

 思わず振り向いてみると、答えなかった理由が分かった。何故なら自分の右手を見て何かをやろうとしているから。

 

「……リヴァン、頼みがある」

 

「何を?」

 

「どうか僕に、力を貸して欲しい……!」

 

 心から頼んでいる事に、俺は思わず驚愕した。こんな事を言われたのは初めてだ。

 

 初めて二人でダンジョン探索をしてから今まで、コイツは自分から俺を頼った事はなかった。

 

 俺が不味いと思った時に助太刀をした事はあったが、自分から『助けて欲しい!』とか『一緒に戦ってくれ!』と言う懇願をしなかった。戦う時は必ず自分一人で戦っている。

 

 ベルは俺と組んでモンスターと戦っている時、どこか遠慮している所が多々あった。恐らく、自分では力の差があるから俺の足手纏いになっていると。口には出していなかったが、ベルの行動や態度を見て俺は何となく察していた。

 

 だと言うのに、今初めて俺に力を貸して欲しいと頼ってきた。俺は思わず笑みを浮かべてしまう。この世界で初めて出来た友達に頼られた事に、俺は自身の胸の内が熱くなってくる……!

 

「いいぞ。で、俺は何をすればいい? 体力回復か? 魔力回復か? それとも補助魔法での能力強化か?」

 

「出来れば……え? リヴァン、能力強化も出来るの?」

 

「ああ、支援に関しては一通りな」

 

 ハクセンジョウVer2でレスタの体力回復、ミアハ様より貰った回復薬や俺のとっておきのスキルで魔力(ついでに体力)回復、ビーチシェードでアンティの治療回復。あと今まで使ってなかったが、導具(タリス)――イクルシオクルテに搭載されているシフタ(+潜在能力でデバンド)での能力強化も出来る。

 

 あっさりと答えた俺にベルは頬を引き攣っているが、一先ずはと言った感じで要望を出そうとする。

 

「じゃ、じゃあ能力強化で……」

 

「分かった」

 

 要望に応えようと、俺は飛翔剣(デュアルブレード)から導具(タリス)――イクルシオクルテに切り替えた。

 

 導具(タリス)は本来エトワールクラスで扱える武器じゃないが、所持しているコレはハクセンジョウVer2やビーチシェードど同様に全クラス装備可能だ。当然、搭載されているテクニックも含めて。

 

「シフタ!」

 

 搭載テクニックの名称を口にした直後、赤と青の光が展開された。レスタとデバンドが同時発動だ。

 

 イクルシオクルテの潜在能力――異彩共闘は、シフタ発動時にデバンド効果を得る事が出来る。ついでにシフタのフォトン消費量を半分まで軽減するのも含めて。この世界の魔導士からすれば絶対に驚くだろう。

 

 そしてその補助テクニックによって、俺とベルの攻撃力と防御力は上がっている。今なら中層のモンスターを簡単に倒せるはずだ。

 

「す、凄い! 力が沸き上がってくる……!」

 

「さぁ、お前の望み通り強化はした。時間制限はあるが、それは暫くもつ。この後はどうするつもりだ?」

 

 強化された事に驚くベルだが、俺は次の指示を催促した。

 

アレ(・・)を使うから、リヴァンはその間、襲い掛かってくるモンスター達を倒して欲しい」

 

「アレって……ああ、成程」

 

 俺は疑問を抱くも、これ以上訊く必要は無かった。ベルの右手から白い光粒を収束させているのを見たので。

 

 その光には見覚えがある。以前、11階層で『インファント・ドラゴン』を倒した時に使ったやつだ。ベル曰く、畜力(チャージ)系のスキルだと言っていた。

 

 そのスキルを最大出力までチャージして、ゴライアスを倒そうとしているんだろう。

 

「分かった。その代わり、ここまで俺に頼んだ以上、ちゃんと仕留めてくれよ?」

 

「うん!」

 

 丁度こちらを狙おうとする無数のモンスターがやってきたので、俺は即座に導具(タリス)からエールスターライト短杖(ウォンド)形態――ディムウォンドを展開する。

 

 ゴライアスと違って、中層のモンスター程度は俺の敵じゃないので軽く一掃出来るから全然問題無い。

 

 ベルがチャージを開始したのを見て、俺も襲い掛かってくる敵の殲滅に取り掛かろうとする。




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少年エルフ、幻獣を召喚する

久々の更新なので短いです。


「ベル、まだなのか!?」

 

「もう少し……!」

 

 ベルがチャージを開始し、小刻みに鳴る(チャイム)と共に二分以上経った。その間に俺は襲い掛かってくるモンスターを一匹も通さずに殲滅している。この僅かな時間の間、既に三十ほど倒しているが、あともう少しで四十匹となる予定だ。

 

 最大出力で放つ為に溜めているのは分かっているが、ゴライアスと戦っているリューさんたち冒険者側が段々不味い状況に陥っている為、思わず急かすように声を荒げてしまう。

 

 俺を爪で八つ裂きにしようとするバグベアーを難なく躱し、ルミナスフレアで反撃した。近接戦になっている為、ビーム状ではなく塊として素早く放ち、それがバグベアーに命中した瞬間に爆発。吹っ飛ばされた敵は言うまでもなく絶命している。

 

 ルミナスフレアは本来、距離を取ってからビーム状として放つフォトンアーツとなっている。しかしエトワールクラスには『フォーカス』と言う、フォトンアーツの性質が大きく変わるスキルがある。ファントムクラスにあるシフトフォトンアーツと似たモノだ。

 

 エトワールクラスが使うフォトンアーツの攻撃範囲は広いが、フォーカスを発動させる事で逆に狭くなってしまう。だがその代わりとして、威力が通常より高くなっている。

 

 バグベアーに使ったフォーカス用のルミナスフレアは、ビームが凝縮された塊となって発射され相当な威力となっていた。射程は非常に短くなったが、近接戦として当てれば素早く仕留める事が出来る。

 

 倒して丁度四十匹となった直後――

 

「溜まった……!」

 

 後ろからチャージ完了の報告が入った。

 

 思わず振り向くと、ベルの右手は発光状態となっている。白光の粒子が収束されているから、ありったけの魔力が凝縮されていると見ていいだろう。前にあれでインファント・ドラゴンを一撃で葬っている。

 

 防衛から反撃に転じようと、俺はゴライアスへ向かう為の道を作ろうと動き出した。

 

「行け、ベル! このまま真っ直ぐ進め!」

 

「分かった!」

 

 残ったモンスターを通常のルミナスフレアで全て一掃した後、この先へ進むよう叫んだ。

 

 俺の言葉に頷いたベルは、ゴライアスの元へ向かう為に疾走していく。

 

 それを見て自分も後に続こうとするも、後方から再び大量のモンスターが出現する。

 

 これからベルがゴライアスを倒しに行くから、間近で見ようと思っていたと言うのに……。空気の読めない連中だな!

 

 ……と、そんな個人的な事情は後回しだ。コイツ等を放置していたら、確実にベルの障害となってしまう。さっさと片付けて、後から合流する事にしよう。

 

「ちっ。次から次へと……!」

 

 思っていた以上に数が多く、倒し終えたと思いきやまたしても現れる始末。

 

 通常攻撃とフォトンアーツを交互に使いながらモンスターを片付けていると、後方から凄まじい轟音がした。

 

 丁度倒したのでゴライアスがいる方角へ視線を向ける。先程まで猛威を振舞っていたゴライアスの頭部が殆ど失っていた。その為に巨人はたったまま硬直している。

 

 恐るべきはベルの魔法だ。何人の魔導士達が一斉射撃の魔法で鉄壁並みの体皮にダメージを与えたと言うのに、それを一人だけであんな容易く突破した破壊力とは恐れ入る。余りの光景に周囲も静まり返るほどだ。

 

 間近で見れなかったのは非常に残念だが、取り敢えずこれで漸く終了だ。いくら自己再生出来るゴライアスでも、頭を失ってしまえば活動を続けられるのは不可能なので。

 

 そう思った直後、死んだゴライアスに異変が起こった。

 

「おいおい、嘘だろ……!」

 

 俺の視界にはとんでもない光景が映っていた。悍ましい勢いで失われた巨人の顔が修復されていくと言う光景が。

 

 元来、生物は頭を失えば生きていられない。だと言うのに、ゴライアスはその常識を覆すように、失った頭を再生している。尋常ではない生命力だ。

 

 俺が17階層で戦ったゴライアスは、あそこまでの事はしてない。身体を左右に真っ二つした後に倒れて、そのまま絶命した。

 

 分かってはいたが、あの黒い巨人は本当に通常のモンスターと違うって改めて認識した。

 

「っ! 不味い!」

 

 頭部を再生をしているゴライアスが下を見て睨んでいた。見ているその先は、自身の顔を破壊されたベルだ。巨人の目から明確な殺意を抱いているのが分かる。

 

「逃げろっ、ベル!」

 

「ベルッ、逃げなさい!!」

 

 俺と同じく、どこからかリューさんが叫んだ。しかしそれらは虚しく、ゴライアスから『咆哮(ハウル)』が放たれた。

 

 回避行動が遅れたベルは、奴の口から放たれた魔力塊が地面に着弾した瞬間に傷付き、そして吹き飛ばされる。

 

 足が地面から離れてるベルに、ゴライアスは追撃をしようと、片方の極腕が大気を食いちぎって繰り出そうとしていた。

 

 最早それは回避不可能で、誰もが見ただけで一撃必殺と思われる。防御特化スキルを持ったエトワールクラスの俺なら生きているが、そうでないベルが受ければ即死だ。

 

 今更全速力で駆け付けても無駄だと分かっていながらも、俺は巨人の攻撃を阻止しようと――次の瞬間、予想外の人物が現れた。大盾を持ちながら飛び出す巨漢の冒険者――桜花がベルとゴライアスの間に割り込みながら。

 

 ベルを守るように桜花が大盾を前に出して防御態勢となる……が、ゴライアスはまるで気にしないように腕を振るう。

 

 まるで虫を払うかのような薙ぎ払いだった。ゴライアスの指が頑丈である筈の大盾を簡単にめり込ませるどころか、ひしゃげさせている。

 

 そしてそのまま、ベルと桜花は殴り飛ばされて宙を舞う事となった。

 

「ベル……」

 

 友達が殴り飛ばされた光景を見た俺は呆然と呟いた後―― 

 

「この……図体と叫ぶしか能の無いクソったれがぁぁ~~~ッ!!」

 

 頭の中にある何かがプツンとキレて、口汚く罵りながら巨大な魔法陣(サークル)――フォトンブラストを展開させた。

 

「出てこい、ユリウス!」

 

 そう言った瞬間、俺の背後から女神の幻獣(ユリウス)が出現する。

 

 これはマグと呼ばれる、アークスをサポートする機械生命体が持つ支援機能の一つ。エサを与える事で攻撃支援、防御支援、回復支援が決まる。俺がマグに与えたエサは攻撃用のエサを与えた事で技量寄りの攻撃支援型となっている。

 

 俺が幻獣を召喚させた事に、冒険者達だけでなく敵のゴライアスからも一斉に視線が集まった。俺や人間の倍以上ある大きな存在に誰もが驚くだろう。

 

「奴をぶちのめせ! ユリウス・プロイ!」

 

『!』

 

 叫びを聞いたユリウスは突如消える――が、すぐに出現した。ゴライアスの目の前に。

 

 突然の事に巨人が戸惑う様子を見せるも、向こうは気にしないように、六本ある大きな腕を使って顔面を殴り始めた。

 

 ゴライアスも応戦しようと両腕を振るったり『咆哮(ハウル)』を放つが、ユリウスには一切当たらない。それによって一方的に攻撃を受け続ける事となっている。

 

 正確に言えば、ゴライアスの攻撃はユリウスの身体に当たっても素通りされているのが正しい。

 

 あの幻獣は元々小さな機械生命体(マグ)がフォトンを使って形作ったモノなので、実体があるように見えても本当は無い。核であるマグを見付けて壊さない限り、ずっと存在し続ける。正体が判明しない限り、アレは絶対に倒される事はない。

 

 ここまで良いこと尽くめに思われるだろうが、幻獣が出現していられる時間はそんなに長くもたない。攻撃を終えた瞬間に速攻でいなくなる仕組みとなっている。今のところはゴライアスを殴り続けているが、もう少ししたら消えてしまう予定だ。

 

『~~~~~~~!!』

 

「……よし、今の内に」

 

 ユリウスが若干涙目となってるゴライアスをボコボコにしているのを見て、熱くなっていた俺の頭が急速に冷えていく。その隙に、怪我をしているベルの元へ向かおうとする。

 

 

 

 

 

 

「……おいおい、なんだよアレは」

 

 リヴァンが素早く移動している中、幻獣とモンスターの攻防と言う光景に、遠くで見ているヘルメスが呟いた。

 

「あんな魔法、神の俺ですら知らないぞ……!」

 

 同時にゾクゾクしていた。永く生きている自分すら知らないリヴァンが使った魔法を見て。

 

 今のヘルメスは【リトル・ルーキー】ベルと同様、リヴァンに対する興味が一層湧き始めている。尤も、ゴライアスを倒したと聞いた時から既にそうなっていたが。

 

「確か彼は【ロキ・ファミリア】にいる【千の妖精(サウザンド・エルフ)】の従弟だったな。彼女は知っているんだろうか、あんな未知の魔法を……!」

 

 レフィーヤが『Lv.3』でありながらも規格外な魔導士である事をヘルメスは知っている。だが、『Lv.1』であるリヴァンが使った魔法は違う意味での規格外だった。

 

 しかし――

 

「こんな気分になったのは久しぶりだ! ああ、リヴァン君。まだ他にもあるなら見せてくれ、君の力を……!」

 

 ベルの勇姿を見届ける目的から、リヴァンが使う未知の力を見たい欲求に駆られているヘルメスだった。




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少年エルフ、復活の条件を提示する

今回も短いです。


 ゴライアスに殴り飛ばされたベルの元へ向かったが、そこには誰もいない。けどリューさんが駆け付けて、素早く抱き上げて戦域外へ運んだのをチラッと見えたので、俺は彼女が向かったであろう場所へと向かった。

 

 辿り着いたのは階層の南部、中央樹と補給拠点である丘の丁度中間の草原。倒れているのはベルの他に、命と千草によって運ばれた桜花もいた。どちらも一目見るだけでも重傷だと言うのが分かる。

 

 俺より先に来たヘスティア様とバックパックを背負ったリリルカは手持ちの回復アイテムが尽きてるみたいで、苦渋の色を浮かべていた。それはリューだけでなく、桜花を運んだ千草と命も同様に。

 

「思った通り、酷い状態のようですね」

 

「リヴァン君!」

 

 駆け付けた俺がベル達の容態を見てそう言うと、反応したヘスティアが即座に振り向いた。その直後、リリルカは俺に駆け寄ってくる。

 

「リヴァン様、リリ達は回復アイテムが尽きてます! すいませんがすぐに回復魔法を!」

 

 リリルカが言う回復魔法とは、恐らく回復用の光属性テクニック――レスタの事を言ってるんだろう。彼女は俺がそれを使って回復したのを知ってるから、真っ先に駆け寄ってきたのだ。

 

「分かってる。けどその前に容態を教えてくれ。念の為に訊きたいんだが、骨折とかしているか?」

 

「手足の骨が恐らくそうなってるでしょう」

 

 俺がどうにか落ち着かせるように問うと、代わりにリューさんが答えてくれた。

 

 やっぱりな。如何に大盾で守られたとは言え、あれ程の強烈な打撃と衝撃を直撃すれば、骨が折れるのは確実だ。レスタを使う前に聞いておいて正解だった。

 

「そうか。じゃあ使わない方が良いな」

 

「何故ですか!? ベル様が死にそうなんですよ!」

 

「今ここで回復魔法を使えば確かに傷は治るかもしれないが、骨折している骨が変な方向に繋がる恐れがある」

 

 アークスの俺なら体内フォトンによって元の身体に戻そうとカバーしてくれる。しかし、そう言った補助が一切無いベルを回復させれば、俺が言った状態に陥ってしまう。それは却って悪化させるどころか、ベルの今後の冒険者人生に大きく影響する。

 

 この世界の高等回復薬(ハイ・ポーション)、もしくはエリクサーならどうにかしてくれるだろうが、生憎と俺は持ってない。あればもうとっくに使っている。

 

 俺の説明が不服だったのか、リリルカは睨みながら激昂する。

 

「じゃあどうするんですか!? ベル様が死なないのでしたら――!」

 

「落ち着け、リリルカ。俺はあくまで回復魔法を使った場合の事を言っただけだ。他にもある。ベルを速攻で全快させる方法が」

 

「え?」

 

 急に声を抑えるリリルカを余所に、俺は電子アイテムボックス――周囲からは懐から出す仕草をしている――からアイテムを取り出した。復活アイテム――スケープドールを。

 

 このアイテムは自立起動の自己復活用アイテムで、所持者が戦闘不能になった際に一度だけ身代わりになってくれる。それが起動すれば身体のあらゆる箇所を瞬時に治し、体力も完全回復する。勿論、骨折した骨も元通りにしてくれるから、体内フォトンがなくても大丈夫だ。このアイテムには治療用のフォトンが傷付いた身体を作用してくれるので。

 

 誰もが凝視してる中、俺は倒れているベルに近寄る。そして膝を折って、すぐにスケープドールを彼の胸元の上に置いた瞬間に変化が起きた。

 

 そのアイテムが光を発しながらも、ベルの身体を柔らかく包み込んだ。それによって傷跡や打撲痕が瞬く間に消えていき、苦悶の表情から段々と穏やかになっていく。スケープドールは役目を終えたかのように発していた光が消えていくと同時に、ビキビキと罅が入って使い物にならなくなった。因みにその罅はベルが骨折したと思われる箇所だ。

 

 それを見ながら骨に異常がないか確認するが、予想通り元の状態だった。まだ目覚めてはいないが、一先ずベルの治療はこれで完了だ。

 

 因みに俺が使ったアイテムを不思議そうに見てたヘスティア様達だが、誰もそれを口にしていない。

 

「完全回復を確認した。後は起き上がるのを待つだけだ」

 

「ベル君!」

 

「ベル様!」

 

 俺が診断結果を告げると、ヘスティア様とリリルカがすぐにベルの元へと駆け寄った。リューさんも安堵の表情を見せている。

 

 さて、ベルの治療を終えたから――

 

「あ、あのっ!」

 

「ん?」

 

 すると、誰かが俺に声を掛けてきた。振り向いた先には倒れている桜花を見ている千草が、頭を下げながら俺にこう言ってきた。

 

「お、お願いです! その回復アイテムがまだあるのでしたら、どうか、どうか桜花にも……!」

 

「リヴァン殿! 申し訳ありませんが、自分達は既に回復薬(ポーション)が尽きています! なのでどうか、先程のアイテムで桜花殿をお助け願えませんか!?」

 

 千草の他に、命も一緒になってお願いしてきた。しかも以前見せた土下座をして。

 

「…………」

 

 二人からの懇願に俺は無言となって、倒れている桜花を見る。

 

 ベルをゴライアスの攻撃から守ってくれた彼にも救いの手を差し伸べるべきだろう。けど、俺はすぐに動こうとはしなかった。

 

 千草や命だったら即座に助けるが、桜花に関しては違った。『自分の判断は間違っていない』と中層で怪物進呈(パス・パレード)をした件がどうしても頭に浮かんでしまう。

 

 ここで見捨てると言う選択をしてしまえば、俺は一生【タケミカヅチ・ファミリア】から恨まれる事になる。聞いた話ではミアハ様と神タケミカヅチは交友の間柄だから、場合によっては溝が生じるかもしれない。俺個人だけならまだしも、無関係なミアハ様達を巻き込む訳にはいかないか。

 

 とは言え、いくら人命救助でも容易に手を差し伸べる訳にはいかない。ここは少しばかり条件を付けさせてもらう。

 

 そう考えた俺は立ち上がり、俺は桜花達の方へと近づいていく。

 

「今の内に本音を言っておきましょう。謝罪してきた貴女達とは別に、俺達の前で『判断は間違ってない』と言い切ったこの男を助けたくないです」

 

「「!」」

 

「ちょっとリヴァン君、今此処でそんな事を言ってる場合じゃ――」

 

 本音を聞いた千草と命はビクッと身体を震わせると、神ヘスティアが咎めるように言ってきた。

 

 しかし俺は気にせずこう言い放った。

 

「ベルを守ってくれたからチャラにします。ですが俺の貴重なアイテムで治療するのを差し引いても、こちらとしては割に合いません。なので此処は【タケミカヅチ・ファミリア】に貸し一つと言う事にしておきます。文句はありませんよね?」

 

「「………………」」

 

 桜花を助ける条件を提示すると、二人はすぐに答えれなかった。すぐに決めれないと言った方が正しいだろう。貸しと聞けば猶更に。

 

 個人だけならまだしも、【タケミカヅチ・ファミリア』の貸しとなれば大事となってしまう。団長の桜花や神タケミカヅチに何の相談もなく、千草と命だけで即決出来ない案件だ。

 

 だけど、俺は敢えて【ファミリア】としての貸しを提示した。彼女達にとって団長の桜花と言う存在は大きいから、ここで彼を失えば【タケミカヅチ・ファミリア】最大の損失となると分かっていたので。

 

 この世界の【ファミリア】は、他所から弱みを易々と見せてはいけない決まりとなってる。そうなってしまえば、それにつけ込んで相手の言いなりになってしまう恐れがある。例えるなら【ミアハ・ファミリア】が【ディアンケヒト・ファミリア】に多額の借金がある為、神ディアンケヒトが調子に乗った要求をする事が時々あるので。

 

 零細ファミリアほど大きな貸しを作ってしまうと、言いなりになってしまう恐れがある。故に千草と命はそれを危惧しているから即決出来ないと言う訳だ。

 

 そう言った事情を知っているから、リリルカやリューさんは先程から一切口出しをしていない。

 

 けど――

 

「リヴァン君! 今はそんな話をしてる場合じゃない、早く桜花君を治療しないと死んでしまう!」

 

 ヘスティア様はその空気をぶち壊すように叫んだ。

 

 そして、こうも言った。貸しを作るなら自分たち【ヘスティア・ファミリア】も一緒にして欲しいと。彼女曰く、神の自分がこの18階層まで来れたのは【タケミカヅチ・ファミリア】の三人が護衛してくれたから、その恩を此処で返したいそうだ。

 

 まさかここでヘスティア様が出張って来るとは思いもしなかった。桜花に恩返しをする為に、何の躊躇いもなく貸しを作ろうとするとは。

 

 本当なら千草と命だけの貸しで済まそうと思ったんだが、ヘスティア様まで加わってきた以上、貸しは相殺する事となった。

 

 彼にはベルと違って別の復活アイテム――ハーフドールを使った。スケープドールとは違って体力が半分の状態で復活するが、それ以外の怪我は全て治る。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!』

 

 

 そんな中、幻獣のユリウスが役目を終えて姿を消した事により、ずっとボコボコにされていたゴライアス息を吹き返すように叫んだ。




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少年エルフ、再びゴライアスと戦う

 やっぱりユリウスでも倒しきれなかったか。それでもダメージをかなり与えてくれたが、ゴライアスには再生能力があったので振り出し状態となっている。

 

 しかし、再生しても怒りまでは消えなかったようだ。その証拠に凄まじい咆哮をあげており、今まで以上に暴れ出し始めていた。それだけ幻獣にぶちのめされて相当頭に来たんだろう。

 

 それはそうと、アスフィさんや他の冒険者達もそろそろ不味い。さっきまでユリウスの登場によって呆然と見ていたが、消えた後に再び応戦するも、殆どが瀕死状態に等しく劣勢となっている。

 

 ベルや桜花の治療も終えた以上、此処に留まっていられないから再び参戦するとしよう。ゴライアスを余計に怒らせた原因を作ってしまったので、相応の責任を取らなければならない。

 

「ヘスティア様、時間を稼ぎますので、ベルを起こしといて下さい」 

 

「ちょ、リヴァン君!?」

 

「待ちなさい、ウィリディスさん!」

 

 言うべき事を言った俺は急いで戦場へ向かった。後からリューさんも引き止めるように追ってくるが、俺は振り切るように短杖(ウォンド)を展開しながらプリズムサーキュラーを発動させる。

 

 前方から別のモンスターが道を阻むが、フォトンの帯を纏って高速移動してる俺に轢かれて吹っ飛んでいった。雑魚モンスターに用はないから邪魔するな。

 

「貴方は……!」

 

 数分もしない内にゴライアスの元へ辿り着くと、現在はアスフィさん一人で相手取っていた。

 

 戸惑う様子を見せる彼女に俺は気にせず、プリズムサーキュラーの帯を解除して衝撃波を巨人の足に向けて放つ。

 

『!』

 

 突然の痛みにゴライアスは下にいる俺の方へと視線を向ける。直後に『咆哮(ハウル)』を放たれるが、口を開けるのを見ていた俺は咄嗟に片手を前に出してバリア――チャージプロテクトを展開していた。

 

 それによって巨人が放った魔力塊に命中してもバリアに守られている俺は、ダメージを一切負うこと無く無傷のままだ。俺は無事でも地面は抉れていたが。

 

「バカな! ゴライアスの『咆哮(ハウル)』を受けても無傷なんて……!」

 

 今まで他の冒険者達が直撃して重傷だった筈の攻撃を、俺には全く効いてない光景を見たアスフィさんが信じられないように驚愕していた。

 

 けど、そんな事を気にしてない俺はバリアを展開したまま再度前進する。

 

『オオオオォォォォッ!』

 

「っ!」

 

 巨人も俺が全く無傷のまま前進する事が信じられないように、立ち止まったまま何度も『咆哮(ハウル)』を放ってきた。が、全てバリアによって防がれている。

 

 とはいえ、流石に連続攻撃を受け続けてる俺も少しばかり眉を顰める。防いでるとは言え、襲い掛かってくる衝撃が凄まじく、下手に気を抜いてしまえば吹っ飛ばされてしまいそうだった。

 

 それでも如何にか耐えきった結果、ゴライアスの片足に近付く事が出来た。直後――

 

「プロテクトリリース!」

 

『~~~~~~~~!!』

 

 バリアを解除したと同時に、球状の強力な衝撃波を放った。

 

 俺が放った攻撃により、ゴライアスの片足は六発全ての攻撃を受けて、ズタズタに等しい状態へとなっていく。

 

 余りの激痛だったようで、怯んだゴライアスは思わず片足を上げてフラフラとなっていた。

 

 攻撃が止んだのを見た俺は好機と見なし、即座にエールスターライトの短杖(ウォンド)形態から両剣(ダブルセイバー)形態に切り替える。二つに重ね合わせている剣を分離した後、柄同士を連結させたと言う感じで。

 

 両剣(ダブルセイバー)――ディムDセイバーにした俺は狙いを定める。直後にフォトンの剣を流星の如く降らせる両剣(ダブルセイバー)エトワール用フォトンアーツ――シューティングスターを発動させた。

 

『オアァァァァァ!』

 

 横薙ぎの動作をした瞬間、大き目な四本のフォトンの剣が出現し、そのまま軸にしているゴライアスの片足に思いっきり突き刺さった。

 

 軸足から襲い掛かる激痛にゴライアスは悲鳴をあげ、体勢が維持出来なくなったみたいで尻餅を付く。完全に倒れないよう、咄嗟に地面を両手で付いて上半身を支えている。

 

 倒れるゴライアスの被害を免れようと、既に避難し回り込んでいた俺は更なる攻撃を仕掛けようとする。

 

『ゴァァアアアアアッ!』

 

 移動している俺が攻撃を仕掛けようとしているのを見たゴライアスは、させんと言わんばかりに左手を上げて振り下ろそうとする。

 

 小さいモノを叩き落とそうとする巨人の攻撃は、他の冒険者から見れば死の一撃だろう。もし直撃すれば最後、あのでかい手で虫みたいに潰されてしまうかもしれない。

 

「不味い! あんな攻撃を受けたら……!」

 

「ウィリディスッ、すぐに逃げなさい!」

 

 俺が臆せず前進するのを見たアスフィさんとリューさんが叫んでいた。

 

 しかし、二人の声を無視している俺は武器アクション――ディフレクトを発動させる。

 

 降り注ぐゴライアスの手が当たる瞬間、紙一重に躱した俺は素早く動いた。ディフレクトのカウンター攻撃――クイックテイクが発動したので、一瞬でゴライアスの左手首へ急接近し速攻で斬り裂いた。

 

 クイックテイクは通常攻撃の倍以上のダメージを与える。その為、切り裂かれた硬そうな巨人の手首が半分を切断。

 

 そのまま攻撃を続けようと、以前に地上でトロールを仕留めた時に使った、大きなフォトン刃を目標に蹴り放つ両剣(ダブルセイバー)エトワール用フォトンアーツ――セレスティアルコライドを発動。フォトン刃が命中した瞬間、ゴライアスの左手首が抉れて完全に切断する事が出来た。

 

 これは本来最初に踵落としをやるが、エトワール用の両剣(ダブルセイバー)はフォトンアーツの前半部分をスキップする事が可能だ。

 

 因みにさっき使ったシューティングスターも本来は飛び上がって大きく薙ぎ払う動作をしなければならない接近技だが、それをスキップした事でフォトンの剣だけと言う遠距離攻撃技となる。少々扱い辛いのが難点だが、それを使いこなせば臨機応変に対応出来る。

 

『~~~~~~~!!』

 

 左手を切断された事でけたたましい悲鳴を上げるゴライアス。だが、ほんの僅かだった。

 

 ベルが魔法で頭を吹き飛ばしても自己再生していた。今も見る見る内に失った左手が元に戻っていく。

 

 セレスティアルコライドを使った反動で宙返りしていた俺が着地した後に見上げると、ゴライアスは完全に俺を見ていた。それどころか、足に刺さっていたフォトンの剣を片手で勢いよく抜いてすぐに立ち上がろうとしている。

 

「ちっ。また振り出しに戻ったか……」

 

 やはり一部分を切断、もしくは吹っ飛ばしたところで瞬時に再生されてしまう。

 

 通常のゴライアスとは違うのは既に分かっているが、何事も無かったかのように戻っていく自己再生は本当に鬱陶しい。

 

 倒すとするなら……自己再生が追い付かないほどの大ダメージを与えるか、力の源であろう魔石を砕くかのどちらかをやらなければ無理だ。

 

 効率を考えるとするなら、魔石を砕いた方が手っ取り早い。しかし、肝心の魔石がどこにあるのかが分からなかった。普通に考えれば、アレは人型だから心臓がある胸の辺りにあるかもしれない。けど、ゴライアスはモンスターなので人間と構造が違う。どこにあるかなんて分からない。

 

 こうなればもう自棄だ。俺のエトワールクラス全ての力を使って必ず倒してやる。幸いにも、体力と体内フォトンを全回復させるアクティブスキル――オーバードライブが既に二回使える状態になるまで溜まっている。俺とゴライアスのどちらかが力尽きるかの根競べだ。

 

 すぐに襲い掛かって来るであろうゴライアスに、両剣(ダブルセイバー)から飛翔剣(デュアルブレード)――ディムDブレードに切り替えている際に突如異変が起きた。この18階層全体に大きな鐘の音が鳴り響いていた。

 

『!』

 

 鐘の音にゴライアスも反応していた。直後、発生源と思わしき方へ振り向いている。

 

 俺も一緒にその方向へ向けると、そこには大剣を持ち構えているベルがいた。

 

「まさか……」

 

 目覚めていた事に安堵する俺だが、それとは全く別の事を考えていた。

 

 ベルは今畜力(チャージ)系のスキルを使っている。けど、明らかに限界解除(リミット・オフ)とも思える畜力(チャージ)だ。鐘の音も以前より大きく響いているから、最早大鐘楼(グランドベル)並みだ。

 

 そう考えると、もしも最大限までに溜まれば、とんでもない威力になるだろう。ゴライアスの身体を吹き飛ばせるかもしれない。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 大鐘楼(グランドベル)の音を聞いていたゴライアスが動き出した。先程まで傷を負わせていた俺を見なくなったどころか、ベルの方へと向かい始めている。

 

 恐らく本能的に察したんだろう。ベルのやっている事は自分にとって非常に危険だと。それは即ち、ゴライアスはベルを非常に厄介な『敵』と認めた事だ。

 

 ならば俺のやる事はもう決まった。畜力(チャージ)を止めないよう、移動するゴライアスをベルの元には行かせない。

 

 俺の決意とは他所に、先程から止まっていたリューさんやアスフィさんも漸く動き出した。

 

 

 

 

 

 

 ~ベルがチャージする前~

 

 

 

「……リオン。つかぬ事を聞きたいのですが、貴方達エルフはあのような詠唱無しの魔法も使えるのですか?」

 

「寧ろ私が知りたいぐらいですよ、アンドロメダ」

 

 リヴァンが一人でゴライアス相手に奮戦しているのを見ていたアスフィとリューは、未だ信じられないように見ていた。

 

 振り下ろす巨人の手が当たるかと思いきや、彼は咄嗟に躱したどころかカウンターを仕掛けていた。加えて、魔力で形作られたと思われる剣を何の詠唱も無しに出現させ、それをゴライアスに当ててダメージを与えている。

 

 そんな中、突如大鐘楼(グランドベル)の音が鳴り響くのを二人は聞いた。リヴァンだけでなく、敵であるゴライアスも一緒に振り向いている。その先にはいつの間にか目覚めたベルがいた。そして、彼から大鐘楼(グランドベル)が聞こえた。

 

 音の正体が分かったゴライアスはベルの元へ向かったのを見た事に、リューは確信する。奴は間違いなくベルを『敵』と認めた。同時に途轍もない一撃に襲われるから止めようとしているのだと。

 

「私達も行きましょう。死守します。彼の元には行かせない。何より、ウィリディスさんだけ戦わせる訳にはいきません!」

 

「ちょっ、リオン……!」

 

 そう言ってリューは疾走した。ゴライアスの進行を阻止する為に。




相変わらずダラダラ感が出ています。

次回で何とか倒せるようにしたいです。

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少年エルフ、ベルの手助けをする

「行かせるか!」

 

 動きを止めようと、スキップ版のシューティングスターを放った。大きなフォトンの剣四本が走るゴライアスの足に突き刺さった事で動きが止まる。が、まるでもう気にしてられないように無理矢理足を上げて引き抜こうとしている。

 

 ならばもっと刺してやると再度放とうとする中、突如俺の横から誰かが疾風の如く通り去った。その正体はリューさんで、丁度フォトンの剣を引っこ抜いたゴライアスへ臆する事無く突っ込んで奇襲を仕掛けようと、遠慮なく膝を狙った。

 

 突然の衝撃により、巨体を支える短足はバランスを崩してしまい、ゴライアスはまたしても倒れた。

 

「凄っ……!」

 

 リューさんの行動に思わず度肝を抜かれてしまった。

 

 自分よりレベルが上とは言え、あの細腕にどれだけの力が込められているのかと思わず疑問視してしまう。

 

 俺がそう思ってると、両手両足を地につくゴライアスに、リューさんだけでなくアスフィさんも加わって襲い掛かっていた。

 

『グッ――オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 顔、手、肩、腿、背。あらゆる部位をでたらめに高速で乱打するリューさんの木刀とアスフィさんの短剣に、ゴライアスは怒り狂ったようだ。(ベル)よりも、周囲にいる俺達を先に始末しようと、『咆哮(ハウル)』と両腕を躍起になって繰り出している。

 

 理性を失って暴風と化している巨人に、リューさんは突如詠唱を始めた。

 

「【――今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々】」

 

 おいおい、凄い事してるぞあの人。

 

 ゴライアスに攻撃を続行しながらも詠唱を奏でている。これには一緒に戦ってるアスフィさんも驚くように見ていた。

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度聖火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

 詠唱と戦闘を両立させているリューさんに、俺はひたすら感服していた。

 

 この世界の魔法はアークスが使うテクニックと違い、発動させる為に多大な集中力と正確な詠唱を求められる。高威力かつ詠唱文が長くなれば長くなるほど高度な制御が強いられる為、魔導士は足を止めて詠唱のみに専念せざるを得ない。

 

 そんな常識を覆すかの如く彼女は階層主を相手に、攻撃、移動、回避、詠唱、四つの行動を高速で同時展開している。下手をすれば魔力暴発(イグニス・ファトゥス)が起きてもおかしくないのに、途轍もない集中力だ。

 

 物凄く失礼だが、レフィ姉さんでは絶対無理だろう。あの人は『Lv.3』でも俺が知る限り後衛の魔導士だ。とてもじゃないが、前衛に出て戦う事は出来ない。益してや階層主相手では。

 

 さて、そんな事は如何でもいいとしてだ。問題は俺がどうするかを考えなければならない。

 

 見ての通り、今はリューさんとアスフィさんが奮戦している。本当は俺も加わるべきなんだろうが、あの二人によって充分足止めは出来ている。

 

 なのでここは………一先ず二人に任せて、ベルがいる所へ向かうとしよう。

 

 これは決して敵前逃亡じゃない。俺も俺でやる事があるからだ。

 

「リューさん、アスフィさん、すみませんがそのまま足止めをお願いします!!」

 

「え? ちょっ、リヴァン・ウィリディス! 何故こんな土壇場で……!」

 

 叫びながら持ち場を離れる俺に、聞いていたアスフィさんがまるで裏切られたような声をあげていた。

 

 因みにリューさんも聞こえていたみたいで、高速戦闘に集中している為にチラッと俺を見るに留まっている。

 

 

 

 

 移動している際に凄い事が起きていた。

 

 リューさんが詠唱している最中、アスフィさんが魔装脚(ジェットブーツ)みたいなものを使って飛翔してた。俺は一瞬目を奪われそうになるも、一先ず後回しにしようとベルの元へと向かう。

 

「リヴァンッ……!」

 

「今は俺に気にせずチャージに集中しろ!」

 

 辿り着いた俺はベルの姿を改めて確認する。

 

 身体は無傷の状態だった。スケープドールによって完全回復している証拠だ。流石に防具や服はボロボロになっているが。

 

 遠くから見えていたが、ベルが手にしている大剣は変わった形をしていた。けど、そこら辺の武器と違ってかなりの業物だと言うのが分かる。

 

 ともかく、万全な状態で力を溜めているのは分かった。一先ず俺のやるべき事をやるとしよう。

 

 両剣(ダブルセイバー)から導具(タリス)――イクルシオクルテに切り替える。俺がこの武器にしたのは――

 

「シフタ!」

 

 ベルの能力を上昇(ブースト)させる為だ。

 

 限界を超えたチャージをしているから、放てば相当な威力になると俺は確信している。だからベルには何が何でもゴライアスを仕留めて欲しいので、補助テクニックを掛けさせてもらった。勝率を上げる為、ベルの攻撃力を上げる為に。ついでに防御力も上がっているが気にしないでおく。

 

「っ! ありがとう、リヴァン!」

 

 力が沸き上がった事にベルは礼を言ってすぐ、再びチャージに集中しようと瞑目する。

 

 それを見た俺は後ろを振り向く。その先には詠唱が完了したリューさんが高威力の魔法を放っていた。

 

 緑風を纏った無数の大光玉によって被弾しているゴライアスだが、損傷と治癒を繰り返しながらも強引に突破しようとする。それによって正面にいたリューさんとアスフィさんが逃げ遅れていた。

 

 二人が窮地に立たされると思いきや――

 

 

「【フツノミタマ】!!」

 

 

 何処からか魔法名を告げる叫びが聞こえた。

 

 その瞬間、ゴライアスの直上より一振りの光剣が出現し、そのまま直下する。

 

 同時に、地からも魔法円らしき複数の同心円も出現。ゴライアスの周囲に、重力の檻と思わしきものが発生した。それによってゴライアスは動けないでいた。

 

 魔法を放ったのは、俺から少し離れた場所にいる命だ。右腕を前に突き出して左手で掴んで踏ん張った表情をしている。

 

 あんなとっておきがあったのは驚いたが、恐らく破られるだろう。その証拠に地面に縫い付けられたゴライアスが、ゆっくりと身を持ち上げて重力の檻から出ようとしている。

 

 そして数秒後、予想通りゴライアスは結界の壁に両手を突き入れ、強引にこじ開けて檻を破った。気のせいか、不愉快な笑みを浮かべている。

 

 

「お前らァ! 死にたくなかったらどけぇええええええええええ!!」

 

 

 すると、誰かが周囲に怒鳴り散らすように叫んだ。

 

「ヴェルフッ……何だあの剣は?」

 

 聞き覚えのある声に思わず振り向くと、ヴェルフがゴライアスに向かって突っ走っていた。

 

 それとは別に、俺は彼が持っている長剣に目を奪われた。戦闘の時に使っていた中古品の大刀じゃなく、飾り気が一切無い柄と剣身だけの長剣だったから。だがそれとは裏腹に、その剣身はまるで炎を凝縮したかのように猛々しく美しい。

 

 直後、ヴェルフは長剣を両手で翳し――

 

 

()(づき)ぃいいいい!!!!!」

 

 

 長剣の銘を叫びながら、大上段で一気に振り下ろした瞬間、巨大な炎流が迸って一直線にゴライアスを呑み込んだ。

 

『――――――――――――――アァァァァッ!?』

 

 まるで地獄の業火とも呼ぶべき一撃に、流石のゴライアスも動きを止めて悲鳴をあげていた。

 

 ヴェルフが放ったのは恐らく魔剣だ。しかも名高い『クロッゾの魔剣』。今はもううろ覚えだが、嘗て妖精(エルフ)の森を燃やし尽くしたと里で教わった。それがまさかこの目で見る事になるとは……。

 

 最初は同胞達がクロッゾ一族に対する恨み辛みをぶちまけようと大袈裟に言っただけではないかと思ったが、それは事実だったと認識を改めた。尤も、そうしたところでヴェルフに対する恨みなんて微塵も湧いたりなんかしない。

 

 けど、あんな凄い魔剣を何故今まで使わなかったのかと文句を言いたい。いくら消耗品だからって、あれほどの威力ならダンジョン中層で遭難する破目にならなかった筈なのに。彼にも色々と理由はあるんだろうが、せめて非常手段ぐらいは考えて欲しい。使える筈の手段を使わずに死んでしまったら元も子もないので。後で言っておこう。

 

 さてそれはそうと……ベルのチャージはまだ完了しないようだ。恐らくあと少しで完了するだろう。

 

 対してゴライアスはヴェルフの魔剣で未だに動きを止めて悶え苦しんでいるが、包まれている紅蓮の炎が消えた瞬間、再び動き出す筈だ。

 

 となれば、もう少し時間が欲しいな。ゴライアスの動きをもう暫く止める為の時間が。

 

 …………ベルの能力上昇を終わらせたから、ここは俺もやるか。折角命やヴェルフが最大の切り札を披露したのだから、俺もやらないと割に合わない。

 

「ベル! 止めはお前に譲るから、絶対に決めろよ!」

 

 決意した俺は再び動こうと、チャージしているベルにそう言った後、悶え苦しんでいるゴライアスの元へと移動する。導具(タリス)からエールスターライト用の飛翔剣(デュアルブレード)――ディムDブレードに切り替えながら。

 

 全速力で向かっている中、途中で俯いているヴェルフとすれ違った。その際、彼が手にしていた魔剣は既になかった。恐らく回数制限を超えて砕け散ったんだろう。

 

 だが俺は敢えて気にせずに、そのまま未だ燃え盛るゴライアスの近くまで辿り着き、そのまま力強くジャンプする。

 

「ウィリディスさん!?」

 

「一体何を……って、彼の持っている剣が変わって……!」

 

 ジャンプする俺を見たリューさんとアスフィさんだが、俺が持っている飛翔剣(デュアルブレード)に変化が起きた事に気付いた。

 

 エトワール用の飛翔剣(デュアルブレード)専用スキル――フルコネクトを発動により、フォトン(エッジ)と共に接続し、両手持ち用の大剣を形成していく。滞空状態のままで。

 

 俺の行動にリューさん達だけでなく、この場にいる冒険者達も信じられないように凝視していた。空に浮いた状態のまま、武器が変形するなんて初めて見るんだろう。

 

『!』

 

 ゴライアスもそれに気付いたのか、此方に視線を移して目が合った。

 

「フルコネクトォォォォォォォォ!!」

 

 ヴェルフに倣ってスキル名を告げ、力強く斬り上げた後、放たれた鋭利な衝撃波が巨人に襲い掛かろうとする。

 

 衝撃波は命中し、そのまま通り過ぎていく。直後、ゴライアスの身体に斜線が入り、ズズズッと、上半身が徐々に落ちていく。

 

『ギッ……!』

 

 だが、それでもゴライアスはまだ生きていた。しかも上半身が落ちないよう手で支えようとしている。

 

 落下しながら、本当にしぶとい奴だと思っている中――

 

 

「あああああああああああああああッ!!」

 

 

 下から叫び声がしながら誰かが通り過ぎた。確認せずとも分かっている。ベルだ。

 

 チャージが完了したベルは爆走しながら、大剣を右肩へと振り上げ、そして振り下ろした。

 

 その瞬間、純白の極光が視界を埋め尽くそうとしたので、地面に着地した俺は咄嗟に目を腕で覆った。

 

 視界が遮られながらも、凄まじい轟音が18階層全体に響いている。その所為で聴覚がおかしくなる寸前だ。

 

 そして音が止み、視界も回復したので目を開けてみると、そこには上半身と魔石を完全に失った巨人の身体が立っていた。残った下半身は核となる魔石が無くなった為、灰になって霧散していく。ドロップアイテムと思われる硬皮を残して。

 

『――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 ゴライアスが倒されたと分かった瞬間、大歓声が巻き起こった。

 

 冒険者達の誰もが喜び、枯れてもおかしくないほど叫び続けている。

 

「ふぅっ、やっと終わったか……」

 

 モンスターの気配が無くなった事を確認した俺は安堵の息を吐き、力を使い果たしているベルの元へと向かっていった。

 

 

 

 

「ねぇリヴァン、あの時はチラッとしか見えなかったけど、あの凄くカッコいい一撃は何だったの!?」

 

「あ、いや、アレはな……」

 

 その後、俺が今まで使ったフォトンアーツやスキルについて問われた。特にベルはフルコネクトの一撃が物凄く気になっていたのか、疲弊していながらもキラキラとした目で訊いてくる。

 

 リリルカ達からも追究されたが、一先ずは黙秘と言う事で何とか凌ごうとする。




漸くゴライアス戦が終わりました。

次回はOVA版の温泉話を出すか、そのまま戦争遊戯(ウォーゲーム)編に移るか悩んでいます。

取り敢えず、感想お待ちしています。


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少年エルフ、温泉を楽しむ

今回は1期OVA版であった温泉話です。

最初に言っておきますが、これと言って何の変哲もない短い話です。


 ベルが黒いゴライアスを倒した事により、18階層にいる冒険者達から絶賛を博されて一躍のヒーローとなった。だがそれも束の間で、各々が後始末を始める。あの巨人によって色々な被害を被った事で、現在リヴィラは大忙しだ。

 

 そんな中、俺達は一通りの準備を済ませて地上へ帰還する事となった。しかもかなりの大所帯だ。

 

 俺、ベル、ヴェルフ、リリルカ。【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花、命、千草。【ヘルメス・ファミリア】のアスフィさん。訳ありのリューさん。最後にヘスティア様に神ヘルメスを含め、計11名で帰還する事となる。

 

 他所の【ファミリア】ならまだしも、二柱の神も連れて一緒に帰還するのは前代未聞かもしれない。もし地上にいるギルドに知られたら大目玉は確実だろう。

 

 因みに壮年の冒険者が起こした事件を俺独自に調べるつもりだったが、後回しにせざるを得なかった。何故なら容疑者である神ヘルメスは何食わぬ顔でずっとベル達の傍にいたからだ。下手に問い詰めれば水を差してしまうどころか、色々な意味で溝が出来てしまうかもしれないと一旦諦める事にした。

 

 地上に戻ったら絶対に問い詰めてやると決意して帰還中、予想外の出来事が起きていた。

 

「はぁぁ~。リヴァン、温泉って凄く気持ちいいんだねぇ~」

 

「そうだな……ふぅっ」

 

 現在、俺達は温泉に浸かっていた。勿論ここにはベルや俺だけじゃなく、ヴェルフや(リューさんを除く)女性陣達も入っている。全員水着に着替えて。因みに俺はベルと色違いの海パンとシャツを纏っている。

 

 何でこうなっているのかと言うと少し長くなるが、事の発端となったのはヘスティア様がこの未開拓領域である温泉を見付けたからだ。

 

 襲い掛かってくるモンスターの群れをベルが奮戦してリリルカ達が褒めている際、剥れたヘスティア様が蹴とばした小石が壁に当たった瞬間に新たな道が開いた。

 

 先達の冒険者であるリューさんやアスフィさんすらも知らないようで、誰もが警戒している中、【タケミカヅチ・ファミリア】の命が急に何かを嗅ぎ取ったかのように奥へ進んだ。いきなりの行動に全員が追った結果、温泉を発見する事となった。

 

 ベルに覗きを促した主犯の神ヘルメスがいた事もあってか、ヘスティア様を筆頭に女性陣が最初は諦めの空気だった。温泉好きの命が涙を流す中、リューさんが水着を着れば問題無いと提案し、温泉に入る事となる。その際、水着は神ヘルメスがいつの間にか全員分用意していた。何故アスフィさんの外套(マント)の中に入っていたのかが凄く気になったが。

 

 水着の着替えにヘスティア様の方で些細なトラブルが起きたが、その後に少しおかしな事があった。命が温泉に入る為の作法を教えてくれたが、余りにもバカらし……もとい奇抜だった。桜花と千草曰く、どうやら温泉好きな彼女独自の風習らしい。ついでに極東出身者の二人も一緒に聞いてて凄く恥ずかしかったみたいだ。

 

 とまあ、そう言う経緯があって未だ地上へ帰還せず此処にいると言う訳である。

 

「そう言えば桜花さん、今更ですけど傷の具合はどうですか?」

 

「問題無い。お前が使ってくれた回復アイテムのお陰で、今もこうして元気なままで生きている」

 

 ヴェルフと桜花が少し剣呑な会話をしてたのが耳に入ったので、俺が割って入るように尋ねると、彼は少し申し訳なさそうな表情となった。

 

 瀕死だったところを俺がハーフドールを使い、体力以外は完全に治っている。一応戦える状態だが、千草が大事を取るようにきつく言われている為、帰還中は一切戦闘に参加していない。桜花は若干不服そうだったが、結局は彼女に従っていた。何と言うかこの二人、仲間以上の関係のように見える。

 

 余談だが、復活させる為に作った貸しはヘスティア様が加わった事で相殺されてるが、後で知った桜花が俺にこう言った。『悪いがコレは俺個人の借りにしてくれ。いくら相殺されたからと言っても、助けられた俺自身が許せない』と。なので【タケミカヅチ・ファミリア】団長の桜花に貸し一つと言う事になった。もし何かしらの事があれば、桜花に命令して動いてもらう事でチャラにする予定だ。

 

 その後、ベルと桜花がこの場から離れた。ベルはヘスティア様に、桜花は千草に呼び出されたから。

 

「ちくしょう。ベルはともかく、何であの大男まで……!」

 

「まぁまぁ」

 

 悔し涙を流すヴェルフに俺は宥めた。

 

 話題を変えたかったのか、涙を引っ込めた彼は俺に尋ねようとする。

 

「なぁリヴァン、18階層で使ったアレ(・・)は本当に魔剣じゃないのか?」

 

「だから違うって言ってるだろう」

 

 ヴェルフが言ってるアレとは、俺が黒いゴライアスに使ったフルコネクトを指している。飛翔剣(デュアルブレード)とフォトン(エッジ)が接続されて大剣となり、巨大な衝撃波を放った事で強力な魔剣と勘違いしている。

 

 一応ベルと同じ、スキルと魔法を発動させたモノだと言っておいた。それでもヴェルフは信じられない表情をしているから、今もこうして訊いてきている。

 

「っと、そうだ。此処にある水晶(クリスタル)は18階層のと少し違うから採っておくか。悪いけど話はまた今度だ、ヴェルフ」

 

「あ、おいコラ!」

 

 このままだと再び詰問されそうな気がした俺は適当な言い訳をしながら、この場から離れようとする。

 

 

 

 

「ふむ、やっぱり色が違うな」

 

 温泉を一通り楽しんだ俺は一足先に服と防具を身に纏い、未開拓領域の探索をしていた。現在は皆から少し離れた奥の方へ向かっており、周囲に生えている水晶を採取している。

 

 18階層の水晶(クリスタル)は透明でキラキラと輝いているが、此処にあるのは青い光沢を放って綺麗だ。さしずめ青水晶(ブルークリスタル)と言ったところか。

 

 こっちもこっちで売れるかもしれないと思った俺は、可能な限り採取しようとする。幸い、電子アイテムボックスにはまだ余裕があるし、18階層の水晶(クリスタル)とは別の扱いとなっているから、大量に収納する事が出来る。

 

 モンスターの魔石やドロップアイテム、二種類の水晶(クリスタル)が電子アイテムボックスにかなり入ってるから、地上で売れば相当な額になるだろう。そうなれば【ミアハ・ファミリア】の財政も潤うし、ナァーザさんも大喜びする筈だ。

 

 ………とまあ、それは別に良いとしてだ。この未開拓領域が本当に安全な場所であるのか、俺は少しばかり疑問を抱いている。

 

 リューさんとアスフィさんが周囲を調べてモンスターの気配は無いとは言ってたが、ダンジョンである以上、必ずしも絶対とは言い切れない。18階層の安全階層(セーフティポイント)みたいにモンスターが出現しなくても、別の階層を通じてどこかに潜んでいる可能性が充分にある。

 

 出来れば俺の取り越し苦労であって欲しいと思いながら青水晶(ブルークリスタル)の採取をしてると、それが的中したように異変が起こった。

 

「何だ? 温泉の色が……」

 

 エメラルドグリーンみたいに透き通っていた筈の温泉の湯が、突如朱色に染まり始めた。

 

 いきなりの展開に戸惑う俺を余所に、湯は未だに染まり続けている。この様子だと、向こうにいるベル達の方も気付いている筈だ。

 

 一先ず皆の様子を確認する為、俺は急いで戻る事にした。

 

「皆さん! 温泉が――っておい……!」

 

 戻って早々凄い光景が俺の両目に映っていた。水着を着ていた筈の女性陣が何故か無くなって殆ど素っ裸だ。神ヘルメスはロープで縛られている。

 

 ついでに男のヴェルフと桜花は未だ気付いてないのか、水着が無くなって完全に全裸だ。ヴェルフが何やら岩で彫刻してるが一先ず無視させてもらう。

 

『きゃぁぁぁぁああ~~~!!』

 

「ウィリディスさんは後ろを向いて下さい」

 

 俺の登場に素っ裸となってる女性陣が一斉に悲鳴をあげ、俺と同じく服を着ているリューさんが後ろを向くよう言ってきた。

 

「で? これは一体どういう状況なんですか?」

 

 彼女の言う通りにして後ろを向いて説明を求めた。

 

 素っ裸の女性陣達が大慌てで着替えてる中、リューさんが簡潔に説明してくれる。

 

 どうやら温泉が朱色に染まった直後、彼女達が着ていた水着が一斉に溶かされたようだ。それを見た神ヘルメスに、アスフィさんが速攻でロープを使って縛り上げた後に俺が来たんだと。

 

 水着が無くなったのは温泉が原因だったか。成程ねぇ。もし俺もずっと温泉に入っていたら、彼女達みたいに素っ裸になっていたと言う事か。一足先に上がって良かったな。

 

「取り敢えず状況は分かりました。ところで、ベルとヘスティア様は?」

 

「!」

 

 この場にいない二人の事について訊くと、リューさんはまるで今気付いたかのようにハッとした。

 

 

 

 

 

 

 先ず結果から言うと、ベルとヘスティア様は辛うじて無事だった。ヘスティア様の水着が溶けて素っ裸寸前により、アスフィさんが応急処置として自身のマントで身体を隠させた。

 

 ヴェルフと桜花、神ヘルメスを置いて駆け付けた俺達が辿り着いた際、初めからいたと思われる魚型モンスターが泳いでいた。

 

 ベルとヘスティア様に襲い掛かる複数のモンスターを、俺とリューさんが速攻で片付けて何とか事無きを得ている。

 

 しかしその直後、この領域の主と思われる巨大な魚型モンスターが出現。そこを俺とベルで片付けた。

 

 モンスターの頭部にある複数の触角が襲い掛かるところを、俺は飛翔剣(デュアルブレード)のフォトンアーツで全て斬り伏せた。その間にベルが急接近し、例のチャージスキル+魔法(ファイアボルト)で倒す事に成功。ゴライアス戦と違って呆気ない勝利だった。

 

「ありがとう、リヴァン。お陰で簡単に倒せたよ」

 

「どういたしまして。それはそうとベル、隠した方が良いぞ。彼女達の目もあるし」

 

「え?」

 

 女性陣が一斉に顔を赤らめながらも見ていたので、さり気なく忠告して指す俺にベルはゆっくりとその方へと視線を向けた。既に溶けて殆ど無くなりかけている海パンを。

 

 非常にどうでもいいが、リリルカは興奮してて鼻血を出していた。それとリューさんは両目を手で隠してても、さりげなく指を広げてジッと見ている。

 

「――っ!? う、うわぁあああああああああああっ!!」

 

 下半身が丸出し寸前になってる事を漸く気付いたベルは、物凄く慌てながらシャツで必死に隠そうとしていた。

 

「$)’%#!?」

 

「おぉーーーーー!」

 

 ベルのアレが露出した事にリリルカとヘスティア様は興奮していた。特にリリルカは興奮のあまり、幸せそうな顔をしながらも倒れている。

 

「リ、リヴァンお願い! そのコート貸して!」

 

「え~……」

 

 顔を赤らめながらお願いしてくるベルに俺は少しばかり嫌な顔をした。

 

 女性のレフィ姉さんならまだしも、下半身丸出し状態の男にコートを貸すのは流石に抵抗感がある。

 

 とは言え、流石に友達のベルをこれ以上辱めるのは忍びないので、取り敢えず一時的に貸す事にした。

 

 後からになって、この未開拓領域にある温泉全ては魚型モンスターが張った罠だと判明した。アスフィさん曰く、『これまで此処を見付けた冒険者はあのモンスターの餌食となった為に発見されなかったかもしれない』と。

 

 ヘスティア様が見つけた予想外の出来事でトラブルが発生したが、俺達はここから一切寄り道せず、再び地上に向けて帰還を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁヴェルフ、あの岩の壁画はどう言う意図で作ったんだ? 神ヘファイストスがブル――!」

 

「リヴァン! ちょっと向こうで話し合いをするぞ!」

 

 神ヘファイストスにブルマを履かせた壁画について尋ねようとしてる最中、ヴェルフがいきなり大声を上げながら俺をベル達から少し離れた所へ連れて行かれた。




感想お待ちしています。

次回は戦争遊戯(ウォーゲーム)編をやると言いましたが変更します。

前の活動報告で書いたダンメモシリーズのストーリーを出します。


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ダンメモ編 少年エルフ、アイドルを目指す従姉を目撃する

今回はダンメモの短編話です。

18階層の黒いゴライアス戦から数日経った、と言う流れになっています。

それではどうぞ!


 突然だが、信じられない事が起きていた。

 

 目の前に――

 

「きゅるるん☆」

 

「「………………」」

 

 俺の従姉であるレフィ姉さんが肌を露出させ、おかしなポーズをしていた。

 

 余りにも奇抜な行動を取っている為、俺だけでなくベルも一緒に呆然状態に陥っている。

 

 何故こんな事になってるのかと言うと、時間を少し前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「リヴァンと二人だけで行くのは久しぶりだね」

 

「そうだな。初めて組んだ時を思い出すよ」

 

 ダンジョン10階層。俺はベルと一緒に探索をしていた。

 

 本当はリリルカとヴェルフもいる筈なんだが、急遽用事が入ってしまった為に不参加となった。リリルカは下宿先で世話になってる店主のお世話で、ヴェルフは最近出来た顧客からの急な鍛冶依頼によって。

 

 四人パーティでの探索が当たり前となっているのでダンジョン探索は中止……ではなく二人だけで行く事にした。

 

 本音を言わせてもらうと、今はのびのびとした探索をしている。リリルカとヴェルフには申し訳ないけど、別にいなくても大して問題無いと思っていた。寧ろ却って好都合な展開だ。

 

 俺はあの二人にベルほどの信頼感はないどころか、今のところお荷物程度としか見ていない。ベルの前で決して言うつもりは無いし、勿論二人にも言ったりしない。

 

 こんな風に考えてしまうのは、俺が異世界のオラクル船団でアークスとしての経験を積んだからだ。冒険者とアークスの視点が全く異なってると分かっても、ついつい比較してしまう。これは俺の悪い癖なので自重するとしよう。

 

「ん? 今度はオーク、か」

 

「僕がやるから下がってて」

 

「了解」

 

 突如オークが数体現れたので武器を構えるも、前に出たベルが一人でやると言ったので下がる事にした。

 

 既に『Lv.2』となり、ダンジョン中層での戦闘を経験したベルからすれば全く問題無い。と言っても、万が一の事が起きた場合に俺が即座に動けるよう待機はしてる。

 

「あ~らら、もう終わってるし……」

 

 が、それは杞憂に終わった。ベルが突進して早々一体目を一撃で倒し、別のオークにナイフで素早く斬りつけた。鈍重なオークは既にやられた事に気付かないまま絶命し、そのまま倒れていく。

 

 開始して一分も経たない内に戦闘が終了だ。何もしてなかった俺は魔石回収しないと。

 

「あ、リヴァン。それ位は僕一人でも……!」

 

「いいからいいから。お前は少し休んでろって」

 

 そう言ったが、結局ベルも魔石回収をする。

 

 サポーターのリリルカだったら有無を言わさず絶対に休ませるだろう。そう思ってると、二人の女性冒険者が聞こえて何故か俺達の方へと近づいてきた。

 

「リ、リヴァン……!?」

 

「ん?」

 

 聞き覚えのある声だったので振り向いたら……何とレフィ姉さんがいた。しかもいつもと違う格好で、矢鱈と肌を露出している。以前に会った【ロキ・ファミリア】のアマゾネス――ティオネさんと同じ衣装だ。

 

 エルフは貞操観念が強い種族で、基本的に肌を晒す事はしない。俺はオラクル船団での教育を受けた事で、そう言った抵抗感は殆どない。この世界のエルフから見れば異端と見られるだろう。

 

 しかし、レフィ姉さんは俺と違い、この世界で育った純粋なエルフだ。だからアマゾネスみたいに肌を露出する事はしない……筈なんだが、一体どういう事なんだ?

 

「…………」

 

「「………………」」

 

 凄く気まずそうに無言となるレフィ姉さんに対し、彼女の姿に思わず呆然となって無言になる俺とベル。

 

 けど、そんな雰囲気は数秒後に消える事となる。

 

「なっ……なんでリヴァンだけでなく、貴方もここにいるんですかっ!?」

 

「いや、なんでって言われても……」

 

「ここ、ダンジョンですし……」

 

 レフィ姉さんは従弟の俺には恥ずかしそうな表情をしてたが、ベルに対しては凄く攻撃的に睨みながらも質問してきた。

 

 思った事をそのまま言うも、向こうは最悪と言わんばかりに勝手に騒ぎ始める。

 

「示し合わせたみたいに、こんなときばっかり! 二人揃って私を笑いに来たんですねっ! そうなんでしょう!? 特にベル・クラネル!」

 

「ちょちょ……レフィーヤさんっ!?」

 

「はぁっ、またか……」

 

 標的をベルだけに食ってかかるレフィ姉さんの姿勢に、俺は呆れながら嘆息する。

 

 相変わらずだなぁ、この人は。前に注意した筈なんだけど、それを忘れてると思うほど感情的だった。ベルがアイズと仲が良いからと言う理由で、何もそこまでムキにならなくても良いのに。普段の優しいレフィ姉さんは何処へ行ったのやら。

 

「この人でなし! いえ、(ウサ)でなしっっ! うぅ……私を辱めて何が楽しいんですかぁ~! もうやだぁ~! この、変態、変態、へんたーい!!」

 

(ウサ)でなしってなんなんですか!? というか何で泣くんですか!?」

 

 色々と突っ込み満載な所が多過ぎる所為か、ベルは困惑気味になっていた。

 

 それと(ウサ)でなしって……。確かに見た目は兎を連想するが、何もそこまで言わなくても良いんじゃないかと……。

 

 すると、俺達の後ろから別の女性冒険者が俺達に声を掛けてくる。

 

「もぉ~、違うよ、レフィーヤ」

 

「てぃ、ティオナさん……?」

 

 声を掛けてきたのは【ロキ・ファミリア】の幹部でアマゾネスのティオナ・ヒリュテさんだった。

 

 彼女の登場により、さっきまでベルを罵りながら泣き叫んでいたレフィ姉さんが一旦落ち着いている。

 

「ロキのメモによると、罵ったりするのは、『特殊なふぁん』への『ご褒美』なんだって。アルゴノゥト君達は『特殊』じゃないよね?」

 

 特殊って………まさかとは思うが、罵られて喜ぶ被虐嗜好(マゾヒスト)――通称『ドM』の事じゃないだろうな? だとしたら断じて違うと否定する。

 

 けどティオナさんの言い方から察して、恐らく知らないんじゃないかと思う。その中に『ファン』と言う単語が入っていたが、明らかに意味を知らずそのまま読んだかのように見えた。メモを書いた神ロキは知ってるだろうが。

 

「え? えっと……。たぶん、そうだと思いますけど……?」

 

「生憎と俺もそちらが仰る『特殊なファン』ではありませんので」

 

 全く分からないベルは曖昧に答え、意味を知ってる俺は違うとキッパリ答えた。

 

「ほら、やっぱり! アルゴノゥト君達には、たぶん、こっちがいいって!」

 

「はい……? って、なんですか、これっ!?」

 

 反応が異なる俺達の返答に、ティオナさんは何の疑いもなく確信していた。

 

 これが思慮深いフィン・ディムナであったら確実に訝るだろうが、目の前のアマゾネスさんは全く気にしないようだ。

 

 そんな中、ティオナさんはメモらしき物を渡している。それを読んだレフィ姉さんは信じられないように目を見開いていた。

 

「ほらほら~、ちゃんと『まねーじゃあ』の言うこと聞いて『ぷろもぉしょん』しないとっ。ねっ、二人とも! もちろんレフィーヤの『ふぁん』になってくれるよねっ!」

 

 ………何か段々分かってきた気がする。まだ確証はないけど、もしかしたら彼女達は芸能活動してるかもしれない。レフィ姉さんはアイドル役で、ティオナさんがマネージャーとして。

 

 オラクル船団にいた頃、俺はカスラの指示で(アイドル側)クーナさんのマネージャー役をやらされた。主にやってたのはスケジュール管理のサポート業務だ。

 

 クーナさんとしては最初必要ないと断っていたが、俺だと分かった途端に了承した。本当の自分を知っているなら問題無い、と言う理由で。

 

 初めてマネージャー業務をやった時は物凄く大変だった。あれよこれよと知らない事だらけで、頭の中がショート寸前にまで陥った。アークスだけでなく、未知で未経験のマネージャー業務もやらされてカスラに殺意を抱きながらも、二つの役割をこなして今に至る。尤も、今は元の世界に戻って、向こうの仕事は一切手付かず状態だが。

 

「ふぁ、ふぁん……? えーと……僕にできることでしたら……」

 

「……まぁ、レフィ姉さんの従弟として……応援するのは(やぶさ)かではありませんが……」

 

 ベルと俺は取り敢えずと言った感じで協力すると返答した。それを聞いたティオナさんがレフィ姉さんに向かってこう言った。

 

「よ~っし! 話はついたよ、レフィーヤ! どーーーーんっと、いってみよーーっ!」

 

「む、無理っ――」

 

「無理って言うの禁止ー」

 

 断ろうとするレフィ姉さんだったが、ティオナさんから空かさずダメ出しをされて退路が断たれてしまった。

 

 もう逃げ場が無いと悟ったのか、彼女から諦念の雰囲気を醸し出していく。

 

「………………」

 

(リ、リヴァン。あの人の目が死んでる……)

 

(相当やりたくないのが伝わるなぁ)

 

 無言になるレフィ姉さんを見たベルが小声で話しかけたので、俺は答えながらも一体どんな事をやらされるのかと見守っていた。

 

 すると、彼女は俺達を見てこう言った。

 

「リヴァン、わたし、あなたを信じてるから……」

 

「は、はぁ……」

 

「……ベル・クラネル、わたしは、あなたのこと、嫌いです……でも、信じます……」

 

「レ、レフィーヤさんっ?」

 

「今から見るものは、忘れてください……絶対に忘れてください……信じて、ますから……」

 

 何だかまるで自ら死地へと赴くような言い方だ。

 

 どうでもいいけどレフィ姉さん、やっぱり貴女はベルの事が嫌いなんですね。

 

「レフィーヤさんっ、レフィーヤさぁんっ!? なんか遺言みたいになってますよ!?」

 

「――っっ!! いきます!!」

 

 叫ぶベルを余所に、レフィ姉さんは意を決するように始めた。

 

 そして、急に笑顔となり――

 

「きゅるるん☆ ダンジョン☆あいどる、レフィーヤちゃんですっ☆ 私たちの新ゆにっと、エルフ・リンクス☆ 待望のふぁーすと・しんぐる『ウィーシェの森でさようなら』☆ よい子のみんな、よろしくねっ☆」

 

 いきなりレフィ姉さんが絶対に言わない事を叫んだ。

 

 きゅるるん? ダンジョンアイドル? 新ユニット、エルフ・リンクス? ファースト・シングル?

 

 ……もしかしてレフィ姉さん、向こうにいるアイドル歌姫のクーナさんみたいな事をやらされてるのか?

 

 いや、その、何と言うか………敢えてアドバイスを送らせてもらうと、アイドルって実は凄く険しい道ですよ。クーナさんの場合は諸事情でアイドルやらされてますけど。

 

「きゅるるん☆」

 

「「………………」」

 

 レフィ姉さんが締めるように言い終えると、俺とベルは口を開けながら呆然となっていた。

 

 そんな俺達の反応とは別に、一緒に見ていたティオナさんが満面の笑顔となっている。

 

「うんっ! よかったよ、レフィーヤ! 完璧だねっ! これで従弟君とアルゴノゥト君も……」

 

「もぉ、やだあああぁぁぁぁっっ!」

 

 耐え切れなくなったのか、レフィ姉さんは真っ赤な顔をしたまま、涙を流してダンジョンの奥へと走り去っていった。

 

「レ、レフィーヤさぁーーんっ!?」

 

 

「うええええええええええええええんっ!!」

 

 

 ベルが叫ぶも、レフィ姉さんは全く聞いてないように泣き叫んでいた。

 

「じゃーね、二人ともっ! ふぁーすと・しんぐる、よろしくねぇ!」

 

 しかし、そんな彼女の反応を全く気にしてないのか、ティオナさんは俺達に別れの言葉を告げて後を追うように颯爽といなくなった。

 

「……えっと、リヴァン。ふぁーすと……って、なに?」

 

「ファースト・シングル。早い話、『初めて披露する歌』ってことだ」

 

 質問をしてくるベルに俺は意味を分かりやすく教えた。

 

 まさか、オラクル船団で得た知識が此処で役立つとは完全に予想外だった。この世界では全く無縁だと思っていたんだが……神ロキ、ではなく天界にいた神々は知ってるようだ。

 

 レフィ姉さんは気の毒に。あの様子からして、意味も分からないまま主神が強制的にやるよう命じられたんだろう。もう災難だったとしか言いようがない。

 

 都市最大派閥の主神と呼ばれてるロキも、色々と傍迷惑なお方かもしれない。ミアハ様とはえらい違いだ。

 

「ねぇ、この後どうする?」

 

「……帰ろう。レフィ姉さん達の所為で、急にどっと疲れが出た」

 

「そ、そうだね……」

 

 本当は中層手前まで行く予定だったが、予想外の出来事が起きてしまった為、急遽帰還する事にした。

 

 レフィ姉さん、色々と大変だけど頑張ってくれ。別のファミリアである従弟の俺にはそれしか言えない。

 

 もし俺が【ロキ・ファミリア】に所属していたら、それなりのサポートは出来たんだけどなぁ。




次回もダンメモ編を更新予定です。

感想お待ちしています。


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ダンメモ編 少年エルフ、従姉と一緒にダンジョンで王族妖精と商売敵に出会う①

今回もダンメモ編です。


「そう言えば、この前のアレは一体――」

 

「お願いだから聞かないで!」

 

 レフィ姉さんのアイドル活動を目撃して数日後。俺はいつも通りダンジョン探索をしていた。

 

 今回は単独(ソロ)で中層へ行くつもりだったが、偶然にもレフィ姉さんと鉢合わせてしまい上層に留まっている。

 

 もし言ったら、『一人で中層に行くのは危険過ぎる!』と言われるのが目に見えてた。なので今回は中層を諦めざるを得なかったから、上層で鍛錬をしてると誤魔化した。

 

 因みにレフィ姉さんは誤魔化した俺と違い、上層で基礎訓練をしている。この前の遠征で色々と思うところがあったみたいで、一度基本に戻って見つめ直そうと言ってたので。

 

 お互い上層にいると言う事もあって、久しぶりの従姉弟コンビで探索となった。

 

 その途中でさり気なくアイドル活動について聞くも、本人は思い出したくないと言わんばかりに拒否されて今に至る。

 

「じゃあ質問を変えましょう。そもそも何であんな事をする破目になったんですか? 俺の予想では、そちらの主神から強制的に指示されたと見てますが」

 

「うぅ……更に加えて、他の神様からも言われたの」

 

「あぁ~、それはまた……」

 

 予想は当たっていたみたいだが、どうやら神ロキ以外の主神も噛んでいたみたいだ。大変気の毒としか言いようがない。

 

 拒否しても強制的にやらせるって……この世界の神々は本当御構い無しだな。俺の主神がミアハ様で良かったとつくづく思う。

 

「レフィ姉さん、もし神ロキが嫌になったら……俺がいる派閥(ファミリア)改宗(コンバージョン)しますか? ウチは零細だけど、ミアハ様はとてもいい御方だから」

 

「……ありがとう。考えておく」

 

 断り文句を言ってるけど、少しばかり間があった。案外、本当にやろうと思っていたかもしれない。

 

 そんなこんなで上層にいるモンスターを倒して進んでいる中、予想外の人物と出会う。

 

「リ、リヴェリア様!?」

 

「レフィーヤか? こんな上層で訓練をしていたのか?」

 

「あれ、テアサナーレさん?」

 

「お久しぶりです、ウィリディスさん」

 

 出会ったのは【ロキ・ファミリア】の王族妖精(ハイエルフ)――リヴェリアと、その隣に【ディアンケヒト・ファミリア】のヒューマン――アミッドさんがいた。

 

 上層で出会う事の無い大物二人に、レフィ姉さんと俺は驚きの表情になっている。

 

「リヴァンは18階層以来だな。元気そうで何よりだ」

 

「その節はお世話になりました、リヴェリア」

 

 リヴェリアが此方へ視線を向けたので、俺は以前の事を思い出しながら礼を言って頭を下げた。

 

「ちょ、ちょっとリヴァン! リヴェリア様を呼び捨てにするのは――!」

 

「レフィーヤ、私は構わないと前から言ってる筈だ」

 

「これは驚きました。まさかウィリディスさんが、ハイエルフのリヴェリア様をそう呼ぶとは意外です」

 

 慌てながらも窘めようとするレフィ姉さんをリヴェリアが窘めてると、一緒にいるアミッドさんも少し目を見開いて言った。

 

 エルフの諸事情を知ってるアミッドさんからすれば、ハイエルフを呼び捨てにした俺は完全に予想外だろう。

 

「そ、それで、リヴェリア様達は、どうしてこんな所に……?」

 

 レフィ姉さんは話題を変えようと、二人が何故この上層にいるのかを尋ねた。それに合わせようと、リヴェリアが答えようとする。

 

「ああ、アミッドの護衛だ。これから20階層まで向かう」

 

 え? リヴェリアがアミッドさんの護衛? それはちょっと不味いんじゃ……。

 

「ご、護衛って……リヴェリア様だけでですか!?」

 

 俺が意外そうに思ってると、レフィ姉さんが信じられないように目を見開いていた。

 

「ええ、リヴェリア様は、それで問題無いと……」

 

「問題大有りじゃないですか!? 魔導士と治療師(ヒーラー)だけでダンジョンなんて!?」

 

 うん。それは俺も思ってた。

 

 後衛の魔導士が後衛の治療師(ヒーラー)を護衛してダンジョン探索するのは、色々と問題があり過ぎる。

 

 いくらリヴェリアが『Lv.6』だからと言っても、実力を一切発揮出来ない前衛をやるのは無謀もいいところだ。魔導士は魔法を使ってこそなので。

 

 この世界の魔導士は、魔法を発動させる際に詠唱が必要だ。かなりの集中力が必要で足を止めざるを得ない。聞いた話によると、リヴェリアの魔法は強力である為に詠唱も長いから、前衛なんてやれば一切使えないも同然だ。

 

 対して、アークス側の法撃に特化した攻撃テクニックをメインに使う遠距離戦闘向きのクラス――フォースであれば辛うじてセーフだ。そのクラスで使う魔法(テクニック)は詠唱を必要とせず、僅かな溜め(チャージ)で発動する事ができる。リヴェリアみたいな強力な魔法でなくても、四十以上のテクニックをすぐに発動する便利な点は、フォースが優れていると言えるだろう。

 

 まぁそれはともかく、レフィ姉さんの言う通り、リヴェリアだけでアミッドさんを護衛するのは確かに問題だ。

 

「20階層までだ。どうにでもなる」

 

 しかし、リヴェリアは大して問題無いように言い返した。

 

 深層を経験してる彼女であれば、確かにその階層までなら問題無いだろう。

 

 けれど――

 

「いいえっ! お二人に何かあったら、遠征中の皆さんに合わせる顔がありませんっ! 何より、世界中の同胞達にも! なので私も……付いて行きます!」

 

 ハイエルフのリヴェリアを崇拝してるレフィ姉さんからすれば絶対に見過ごせないどころか、同行すると言い出した。

 

「「…………」」

 

 同行すると聞いたリヴェリアとアミッドさんは揃って無言になるどころか、物凄い微妙な顔をしていた。

 

 けど、レフィ姉さんはそれに気付かず俺を見てこう言ってくる。

 

「リヴァン、急で悪いけど貴方は地上に戻っ……? どうしたの?」

 

「あのですねぇ、レフィ姉さん……」

 

 今日はここまでだから帰るよう促してくるレフィ姉さんだが、呆れている俺は指摘させてもらった。

 

「魔導士と治療師(ヒーラー)のパーティに、魔導士のレフィ姉さんが加わっても、何の解決にもなりません」

 

「リヴァンの言う通りだ、レフィーヤ」

 

「ええ、状況は全く変わらないかと……」

 

「あ………」

 

 指摘をされて漸く気付いたレフィ姉さんは、凄く気まずそうな表情となった。

 

 なので――

 

「よろしければご一緒しますが、どうでしょうか? 俺はレフィ姉さんと違って、前衛向きですし」

 

 俺も行く事にした。

 

「だ、ダメよリヴァン! まだ20階層に行った事もないリヴァンじゃ危険過ぎる!」

 

「中層のモンスターなら【Lv.2】になった俺でも問題無く戦えますし、レフィ姉さんが魔法でサポートしてくれれば大丈夫ですよ」

 

 以前の出来事があって、俺は【Lv.2】になった。冒険者になって僅か三ヶ月未満でランクアップした事で、今も他の冒険者から注目されている。

 

 因みに俺は一ケ月半でランクアップしたベルに続き、第二位の『世界最速妖精(レコードホルダー)』となっていた。そして第三位が一年でランクアップした【ロキ・ファミリア】のアイズだ。

 

 ベルも異常だけど、どうやら俺もギルドや他所の冒険者達からすれば異常みたいだ。その事もあって、俺のランクアップを知ったレフィ姉さんが本拠地(ホーム)へ来た時の顔は今でも憶えている。

 

「た、確かにそうかもしれないけど……」

 

「でしょう? それに俺としても、19階層以降にある『大樹の迷宮』がどんな所か見てみたいと思ってまして」

 

「ほう。そう言う理由で私達を出しにして、自ら同行を願い出るとはな」

 

 話を聞いたリヴェリアが、少しばかり含み笑いをしながら言ってきた。

 

「お気に障りましたか?」

 

「いいや、お前がそこまで考えていた事に少々驚いてな。前衛が出来ると自負するなら、是非とも見せて貰おうではないか」

 

 許可するリヴェリアに、レフィ姉さんが驚きの声をあげた。

 

「ちょ、リヴェリア様!? それは流石に――!」

 

 俺の同行を反対だと言ってくるレフィ姉さんだったが、構わないと言うリヴェリアに説得されるのであった。

 

 二人が話してる間、俺は再びアミッドさんに話しかける。

 

「と言う訳でテアサナーレさん。短い間ですが、どうぞよろしく」

 

「こちらこそ。それと今回は冒険者依頼(クエスト)なので報酬も――」

 

「あ、出来れば来月分の借金で相殺しておいて下さい。ウチの団長が貴女から報酬を受け取ったと知れば、色々と面倒ですので」

 

「そうですね。では配当する報酬は来月分に充てておきます」

 

 ナァーザさんの事をよ~くご存知であるアミッドさんは、借金の一部をチャラにしてくれる約束をしてくれた。




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ダンメモ編 少年エルフ、従姉と一緒にダンジョンで王族妖精と商売敵に出会う②

 リヴェリアとアミッドさんのパーティに俺とレフィ姉さんの従姉弟コンビが加わり、急造の四人パーティとなった。

 

 魔導士二人と治療師(ヒーラー)の後衛三人に、(エトワールクラスと言う名の)魔法剣士の中衛も兼ねた前衛一人。言うまでもなく前衛は俺で、後衛三人を守らないといけない立場だ。

 

 と言っても、今進んでいる上層はそこまで気を張る必要はない。此処のモンスターに襲われたとしても、リヴェリア達の脅威にはならないどころか、魔法を使わずとも手にしてる武器だけで一掃出来る。

 

「あれがリヴァンの戦い方か……」

 

 俺が前方から出現するモンスターの群れをエールスターライトの短杖(ウォンド)――ハクセンジョウVer2での通常攻撃のみで蹴散らすのを見たリヴェリアが、とても興味深そうに観察していた。

 

 思った通り、やっぱり彼女は俺の戦いを見ようとする為に、冒険者依頼(クエスト)の同行を許可したようだ。今も見逃さないようジッと凝視している。

 

 普通に考えれば、『Lv.2』になったばかりの俺を、20階層までの同行を許可してくれる訳がない。そうでなくても、この前辿り着いた18階層までが精々だ。

 

 敢えて許可した理由は、今回の冒険者依頼(クエスト)を機に探ろうとしているんだろう。先日に17階層で階層主(ゴライアス)を倒したのが俺であるかを確かめる為に。

 

 けれど、こんな上層では無理だ。俺は今も大して本気を出さずにモンスターを倒し続けているので。

 

「……レフィーヤ、交代だ」

 

「え? わ、私ですか!?」

 

「ああ。お前も加わったのだから、少しばかり私が鍛えてやろうと思う。リヴァンにだけ任せるのは忍びないからな」

 

「は、はい、分かりました……」

 

 後方にいるリヴェリアとレフィ姉さんの会話を聞いて、俺は思った通りだと確信した。この上層では探るのは無理だと判断したから、リヴェリアは弟子のレフィ姉さんの修行に回したんだろう。

 

 そう思っている中、俺は残ったモンスターを通常攻撃で仕留める。

 

「リヴァン、すまないが交代だ。弟子のレフィーヤもいるから、この機会に鍛えさせてくれ」

 

「え? 別に構いませんが……」

 

 さっきの会話を聞いてないように振舞う俺は、言われた通り交代した。

 

 リヴェリアとレフィ姉さんが前に出た為、当然俺はアミッドさんの護衛に回る事となる。

 

「普通に考えて、魔導士が前衛に出るのはおかしいんですが……」

 

「リヴェリア様は『Lv.6』で、レフィーヤさんは『Lv.3』なので問題ないかと」

 

「まぁ、そうなんでしょうけど……」

 

 レフィ姉さんがモンスターと戦闘をしてる際、リヴェリアが色々と指摘をしていた。本当に冒険者依頼(クエスト)中で鍛えようとするとは恐れ入る。実戦に勝る修行は無いと見れば良いか。

 

「レフィーヤ、次のモンスターが近づいているぞ。周囲の警戒を怠るな。前衛のリヴァンがいるからといって気を抜くなよ。彼と同じく気を張っておかなければ、生き残れないくらいに思っておけ」

 

「は、はいぃぃっ!」

 

 リヴェリアの厳しい御指導の中、レフィ姉さんは前衛を務めながらもモンスターを倒し続けていった。

 

 

 

 

 上層から中層へと変わったので、俺が交代すると言ったんだが、思っていたよりモンスターの出現が少ない為、もう暫く続く事となる。

 

「う~ん……」

 

「どうしました、リヴァンさん?」

 

 俺が考え事をしていると、隣にいるアミッドさんが俺に声を掛けてきた。

 

 今まで俺に対する呼び方は『ウィリディスさん』だったが、従姉のレフィ姉さんがいて紛らわしい為、名前で呼ぶ事となった。俺も俺で『テアサナーレさん』と呼んでたが、今はもう『アミッドさん』になっている。

 

「いや、なんかモンスターの数が少ないような気がしまして……」

 

 初めて中層へ来た時、モンスターの出現頻度が上層と違って尋常じゃなかった。あれでベル達が精神的に追い詰められていたのはよく憶えてる。

 

 だと言うのに、今は1~2匹程度しか出現していない。その為に今もレフィ姉さんがリヴェリアの指導と言う名の実戦修行をさせられている。それでも万が一、大量に出現した場合は俺が即座に交代する事になってるが。

 

『グオオォォォッ!』

 

「あっ……!?」

 

 すると、複数のヘルハウンドが現れた。突然の強襲にレフィ姉さんは反応が遅れている。

 

 不味いと思った俺は対処しようとするも―― 

 

 

「『ディオ・テュルソス』!」

 

 

 どこからか魔法名が聞こえた瞬間、出現した黄金の雷がヘルハウンドに命中した。言うまでもなくモンスターは魔法で絶命している。

 

 俺が声が聞こえた方へ振り向くと、見慣れない黒髪の女性エルフがレフィ姉さんの元へと駆け寄っていた。

 

「レフィーヤ! 無事か!?」

 

「フィルヴィス、さん……?」

 

 どうやらレフィ姉さんのお知り合いのようだ。

 

「中層とはいえ気を抜き過ぎだ。あれでは命が幾つあっても……」

 

「いや、今のは私の注意不足のせいもあった。礼を言うぞ、フィルヴィス・シャリア」

 

 レフィ姉さんに指摘をしている女性エルフ――フィルヴィスさんに、リヴェリアが代わりに対応した。

 

「……!? リヴェリア様……!?」

 

 フィルヴィスさんがハイエルフのリヴェリアを見た途端、驚愕の表情となった。

 

 すると、彼女はレフィ姉さんに詰め寄って問い質そうとする。

 

「どういうことだ、レフィーヤ!? なぜリヴェリア様が、こんな少人数で、このような所に……!? それに、そこの同胞は何故、リヴェリア様を守ろうとしないのだ!?」

 

 あ、さり気なく俺の事について訊いてきた。エルフの彼女からすれば、リヴェリアを守ろうとする姿勢を一切見せない俺の行動は異常だろう。

 

「えっと……実は冒険者依頼(クエスト)で、このパーティで20階層まで……。あと彼は前に話した私の従弟でして……」

 

「なっ……! それがどう言う事か分かっているのか!? リヴェリア様は王族(ハイエルフ)だぞ! こんなパーティの編成以前に、お前の従弟がやってる事は明らかにエルフとして大問題だろう!」

 

 やっぱり俺が王族(リヴェリア)を守ろうとしなかったが問題のようだ。

 

「えっと、それは……」

 

「ああ、すまないが彼については咎めないで欲しい。私が手を出さないよう指示したのでな」

 

 俺が理由を言おうとするも、リヴェリアが急遽フォローしてくれたお陰で何とか収まる事となる。

 

「あの……そちらは中衛職の魔法剣士とお見受けしました。もし、よろしければ、このパーティにご参加願えませんか? 報酬からの配分も正当に行いますので」 

 

 アミッドさんがフィルヴィスさんも加わってくれるようお願いをした。

 

 エルフの彼女としては、王族(ハイエルフ)のリヴェリアと一緒なら喜んで同行すると――

 

「なっ……ふ、不可能だ! リヴェリア様のお付きなど恐れ多いこと、私などが……!」

 

 踏んでいたのだが、予想外にも拒否されてしまった。

 

 変だな。彼女は俺と違って王族(ハイエルフ)を崇拝してるから、必ず良い返事をすると思っていたんだが……。

 

「無理を言うな、アミッド。我々のパーティの都合で引っ張り回すべきではない。この人員でも、20階層なら充分だ。前衛のリヴァンがいるから猶更な」

 

「さり気なく俺を当てにしていますね、リヴェリア(・・・・・)

 

「!!」

 

 俺がリヴェリアの名前を言った途端、フィルヴィスさんが驚愕しながら俺に詰め寄って来た。

 

「お、お前、確かレフィーヤの従弟だったな! 何故リヴェリア様を呼び捨てに……!」

 

「あ~、その……ご本人からそう呼ぶよう言われましたので」

 

「出鱈目を言うな! そんな不敬極まりない行為が許されるわけがないであろう!」

 

 おいおい、出鱈目じゃないぞ。と言うより、貴女のその発言がリヴェリアに対する不敬だと俺は思うんですけど。

 

「フィ、フィルヴィスさん、落ち着いて下さい!」

 

「落ち着けるかぁ! レフィーヤ、一体何なんだコイツは! 本当にお前の従弟なのか!?」

 

 あ~、やっぱり【ロキ・ファミリア】以外のエルフもこんな感じみたいだ。

 

 改めて思うと、俺は異世界のオラクル船団で得た知識と経験によって、通常のエルフとは違う考えを持った異端児となってしまったようだ。特に王族(ハイエルフ)に関しての見方が。

 

 けど、別の視点から見れる俺からすれば、フィルヴィスさん達の王族(ハイエルフ)に対する接し方が過剰過ぎると思う。それが却ってリヴェリアを困らせている事に気付いていないから。

 

王族(ハイエルフ)と言うのは、本当に色々と大変ですね……」

 

「はぁっ……。私としては、他の同胞(エルフ)達もリヴァンみたいに接してくれれば非常に気が楽なんだが……」




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ダンメモ編 少年エルフ、従姉と一緒にダンジョンで王族妖精と商売敵に出会う③

今回は少々長めです。


 リヴェリアのお陰でフィルヴィスさんから漸く解放された。俺が何を言っても出鱈目だと否定してたのに、リヴェリア本人からの口から言わせないと信じるって……自分で言うのも何だけど、エルフは本当に面倒だ。

 

 結局のところ彼女も同行する事になって、20階層に向けての進行を開始した。そしてここからは本来の役割をやろうと、俺は前衛をやろうと皆から1(メドル)先にいて短杖(ウォンド)を手にしている。

 

「レフィーヤ……フィルヴィス・シャリアは一体どういった人物なんだ?」

 

「あはは……少し、照れ屋さん……かもです……」

 

「照れ屋……か。だが『少し』というのは、少々……」

 

 リヴェリアとレフィ姉さんが会話をしている最中、俺は後ろを振り向く。

 

 聞き耳を立てていたと言うのもあるが、それ以外にもある。

 

 

『グオオォォォッ!』

 

 

 後方からモンスターの気配がしたからだ。

 

 強襲されたところで慌てる必要はない。何故なら――

 

「『ディオ・テュルソス』!」

 

 フィルヴィスさんが速攻で撃退してくれるので。俺は勿論、リヴェリア達も心強いと思っている。

 

 それとは別の問題があった。フィルヴィスさんのいる位置がだ。

 

 少し前に彼女が中衛の魔法剣士だとアミッドさんが言ってた。

 

 本来であれば前衛の俺、中衛のフィルヴィスさん、そして後衛のリヴェリア達三人と言う構図になっている筈だ。

 

 けれど、実際は違う。彼女が請け負う筈の中衛とは別の位置にいる。

 

「レフィーヤ……ああまでしてくれるなら、やはり通常の中衛に迎え入れて――」

 

 

「申し訳ありません! 汚れた私には、この位置でもリヴェリア様に近すぎるほど! 此処よりお守り致しますので、どうかいないものとしてお扱いください! それとリヴァン・ウィリディス! 前衛でリヴェリア様をお守りしているのだから、掠り傷一つでも付けたら承知しないからな!」

 

 

 リヴェリアが提案していると、彼女より遥か後方にいるフィルヴィスさんは聞こえていたのか、前衛の俺にも届くほど大きな声で言った。

 

「何を言っているんだ、あいつは……」

 

「あんな警告をするなら、中衛をやればいいのに……」

 

 意味不明と言わんばかりに、困惑した表情を見せるリヴェリア。

 

 一緒に聞いていた俺も、あの人の言ってる事に呆れるばかりだ。余りにもポンコツ過ぎる発言だったので。本来の位置でやってくれれば問題無いんだが。

 

「魔法剣士が15(メドル)離れた最後衛とは……意味が分からん……」

 

「レフィ姉さん。一体何なんですか、あの人? 訳が分からないんですが……」

 

「て、照れ屋さん、なので……あはは……」

 

 後衛のリヴェリアと前衛の俺から発言に、レフィ姉さんは誤魔化すように苦笑していた。

 

「エルフの方々の王族(ハイエルフ)に対する態度……つい先ほど彼女とリヴァンさんのやり取りを見て既に分かりましたが、本当に聞きしに勝る……ですね」

 

 パーティの中で唯一ヒューマンであるアミッドさんは無表情でありながらも、フィルヴィスさんの行動に少々呆れ気味な様子だ。

 

「まったく、迷惑な話だ……」

 

「リヴェリア……様、下賤なエルフの私は暫く貴女様を高貴なお方と接して――」

 

「そんな気遣いはいらん。お前は普段のまま接してくれ。当然、敬称も必要無い」

 

 俺もそこら辺のエルフと同様に控えめな態度でいようと言うが、リヴェリアよりバッサリと斬り捨てるように却下されてしまった。

 

 因みに俺が呼び捨てにしようとした瞬間、遠く離れている筈のフィルヴィスさんからギロリと睨んできたので思わず敬称を付けてしまった。敬称は必要無いと言われても、それを許さないのがいるから少しばかり対応に困る。

 

 取り敢えずは仕事に専念しようと、前衛の俺は余程の事が起きない限り、リヴェリアに声を掛けないでおこう。下手に話しかけたら、最後衛にいるお方が絶対に突っかかって来るので。

 

 

 

 

 

 

 無駄口をしないまま、難なく18階層へと辿り着いた。

 

「レフィ姉さん、確か次の階層からは『大樹の迷宮』で良いんですよね?」

 

「ええ。リヴァンは初めて行く階層だから、決して油断しないでね」

 

 一旦確認をする為に後衛にいるレフィ姉さんに近付いて訊くと、その通りだと頷いた。

 

 俺たち従姉弟の会話とは別に、リヴェリアはアミッドと話をしている。

 

「20階層で苔を確認できたら、火魔法くらいは私が使おう……ここまで、ほぼ何もしていないからな」

 

「承知いたしました。そのときはお願いいたし……」

 

 

「貴様ぁーーっ! リヴェリア様を顎で使うというのかっ!」

 

 

 二人が会話をしている際、相変わらず離れているフィルヴィスさんが聞き捨てならないと言わんばかりに激高した。

 

 ただお願いをしただけなのに、何故顎で使うと言う解釈になるのかが俺には全く分からない。リヴェリアはあくまで魔導士としての役割を果たそうとしているだけなのに。

 

 

「身分の程を弁えるがいい! 貴様や私のような下賤の身でリヴェリア様に指図など……!」

 

 

「もう、フィルヴィスさーん! 落ち着いてくださーい!」

 

 激昂してるフィルヴィスさんを宥めようと、レフィ姉さんがそう言った。それに反応した彼女はハッとして顔を赤らめている。

 

 

「うっ……す、すまない、レフィーヤ。つい我を忘れてしまった……」

 

 

「我を忘れて、器用にこの距離感は守るんですね……。同じエルフとして尊敬の念を抱きますよ。レフィ姉さんもそう思いません?」

 

「う、うん。わ、私も、あんなフィルヴィスさん、初めて見る……」

 

 若干呆れを含ませながらも、彼女を尊敬する俺とレフィ姉さん。リヴェリアの方は完全に呆れているが。

 

 そんな中、俺達に近付こうとする一人の冒険者が声を掛けようとしてくる。エルフの男性冒険者が。

 

「おお……あ、貴女様は……!」

 

「ん?」

 

 エルフの男性冒険者は明らかにリヴェリアを見ていた。それに気付いた彼女が振り向くも――

 

 

「何者だーー!?」

 

 

 俺達から離れている筈のフィルヴィスさんが叫んだ。

 

 端から見ると、あの人は明らかに無関係の筈なんだが……俺達と同行している自覚は一応あるんだな。

 

「15(メドル)も離れて……本当に器用に会話に参加されますね」

 

「ははは……」

 

 完全に呆れているアミッドさんに、レフィ姉さんはただ苦笑するしかなかった。当然、俺とリヴェリアも同様に呆れている。

 

 俺達の反応を余所に、男性冒険者は気にすることなく再び声を掛けてきた。

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴ様とお見受け致します。見たところ、パーティ編成でお困りの御様子……」

 

「いや、別に困っているほどではないが……」

 

 確かにリヴェリアの言う通り、そこまで困ってはいない。

 

 魔法剣士で『Lv.3』のフィルヴィスさんは、20階層までいける実力者だ。困っているとすれば、離れすぎていると言う点だが。

 

 もう一つの不安要素は、『大樹の迷宮』未経験者である前衛の俺だ。エトワールクラスの俺でも問題無く戦えるが、初めて経験する階層だから、現時点で大丈夫とは言えない。

 

 

「まず何者だ、貴様は! 名を名乗れ、不敬だぞ! ……どこかで見た覚えは、ある気もするが……」

 

 

「えっと……どちら様でしたっけ……? 私も、かすかにお会いしたような記憶はあるんですけど……」

 

 15(メドル)離れてるフィルヴィスさんと、俺の隣にいるレフィ姉さんは知っているようだが、余り印象が無かった人物のようだ。

 

「おぉぉぉい!? 以前、一緒に戦っただろう!? ほら、24階層の食糧庫(パントリー)で! 闇派閥(イヴィルス)と!」

 

 ぞんざいな扱いをされた為、男性エルフはショックを受けながらも、二人に思い出させようとしていた。

 

 24階層の食糧庫(パントリー)? 闇派閥(イヴィルス)? 食糧庫(パントリー)はともかく、闇派閥(イヴィルス)って初めて聞いたな。

 

 流石にこんな空気で尋ねるのは不味いから、地上に戻った後で聞いてみるとしよう。答えてくれるかは分からないが。

 

 男性エルフが口にした単語に、フィルヴィスさんとレフィ姉さんは――

 

 

「……いた、ような気がする」

 

 

「はい……いたような、気も……」

 

「ちょっとレフィ姉さん、それはあんまりじゃ……」

 

 未だにうろ覚えだった。

 

 ちゃんと記憶するレフィ姉さんですらこうなってるって事は、この人は本当に印象が薄かったんだろう。

 

「【ヘルメス・ファミリア】にいたろ!? セインだ! セイン・イール!」

 

 けど、男性エルフはめげずに再度思い出させようとした。

 

 どうやらあの胡散臭い男神の眷族のようだ。男性エルフ――セインさんに恨みはないんだが、神ヘルメスの名前が出た途端に怪しいと思ってしまう。

 

 それとは別に、彼の熱意にレフィ姉さんは何とか記憶の底から引っ張り出そうとするも――

 

「…………すみません」

 

「すまない、私も見識不足のようだ」

 

 結局は無理みたいだった。それどころかリヴェリアですらも知らないようだ。

 

「リ、リヴェリア様まで……!?」

 

 王族(ハイエルフ)のリヴェリアも知らないと言われたのが止めとなったのか、セインさんはとうとう両膝と両手を地面に付けてKO状態となった。

 

 憐れな。これは流石に同情せざるを得ない。それなりに名を馳せた冒険者かもしれないが、崇拝してる王族(ハイエルフ)にも記憶されてないのは相当ショックだろう。

 

 

 

「な、なるほど……それで20階層まで、このパーティで……」

 

 セインさんがショックを受けて数分後、どうにか話を聞ける状態になってくれた。

 

「やっと、少し立ち直ってくれたみたいですね……」

 

「すまない……悪気はなかったんだが……」

 

 レフィ姉さんとフィルヴィスさんは忘れていた罪悪感があったのか、気を遣うように言っていた。

 

 因みにさっきまで15(メドル)離れていたフィルヴィスさんだが、セインさんの姿を見て此方に近付いていた。と言っても、叫ばずに聞こえる距離までだが。

 

「はっはっはー……気にしちゃいないぜ……! オレはヘルメス様の眷族なんだからな……!」

 

 精神的ダメージを負いながらも、笑みを見せるセインさん。

 

「まあ……なんだ。付いてきてくれると言うなら、ありがたい話ではある……。それにここから先は、前衛を務めてるリヴァンも少しばかり荷が重いからな」

 

「ははは……」

 

 リヴェリアも先程言った事に思うところがあったみたいで、彼の同行を許可していた。

 

 俺としても、セインさんは是非とも一緒に来て欲しい。この人もリヴェリアを崇拝してるエルフけど、同性がいるのといないのでは違う。

 

 凄い今更な話だが、このパーティは女性中心で男が俺だけだった。なので同性のセインさんがいれば気が楽だ。

 

「お任せ下さい! ヘルメス様も、リヴェリア様のためとならば、20階層へ無断で向かうのも許して下さる筈……! それに……」

 

 フィルヴィスさんと違って、セインさんはすぐに同行の了承をした。

 

 すると、何故か俺の方を見てくる。

 

「何て言うか君、リヴェリア様と親しげな気がするのは俺の思い過ごしかな?」

 

「いや~、気のせいですよ~。下賤な身である俺が尊敬するリヴェリア様と親しいなんてあり得ませんから~」

 

「…………」

 

 突如セインさんが嫉妬を含んだ目で見てくるので、素直に答えるのは不味いと思った俺は適当に誤魔化す事にした。

 

 俺の態度にリヴェリアは何か言いたげな表情だったが、フィルヴィスさんの件もあって敢えて言わないでいる。

 

 レフィ姉さんは俺の嘘に気付いていながらも、咄嗟に話題を変えようとする。

 

「あ、そういえば【ヘルメス・ファミリア】の公式最高到達階層って、19階層って見た気が……」

 

 それって本当ならセインさんも俺と同じく20階層は初めてとなる。にも拘らず24階層に行ってたって事は……ギルドには偽の報告をしたと言う事となる。

 

 どうやらあの主神と同様、【ヘルメス・ファミリア】の眷族側も色々と秘密があるようだ。ギルドが知れば速攻で(ペナルティ)を下すだろう。多額の罰金を支払わせる為に。

 

「前衛から中衛をお任せできるのであれば、その辺りは見なかったことにしても……」

 

「恩に着ます、【戦場の聖女(デア・セイント)】」

 

 しかし、アミッドさんは協力してくれる代わりに見過ごそうとしていた。

 

 俺としてもギルドに報告するつもりは微塵も無いので、そこは向こう任せにさせてもらう。

 

「さあ行きましょう、リヴェリア様! このセインの身、貴女様のものと思って存分にお使い下さい!」

 

 心置きなく行けると分かったセインさんは、物凄く張り切って自らリヴェリアの私兵になろうとしていた。

 

「無論だ、リヴェリア様の手は決して汚させはしない……!」

 

「わ、私もがんばりますから……!」

 

「あ、ああ……すまんな、お前たち」

 

 彼に同調してフィルヴィスさんとレフィ姉さんも意気込む事に、リヴェリアが少し引き気味だった。

 

 何だかなぁ……。さっきまでは同行してくれれば心強いと思ってたけど、段々俺が必要無いんじゃないかと言う空気になってきた。

 

「なにか、もう……私達が必要なのか分からないくらい、強力なパーティになってしまいましたね……」

 

「そうですねぇ。俺もそろそろ帰ろうかなぁって思い始めてきました」

 

「よしてくれ……アミッドやリヴァンがいなくなってしまっては、私がいたたまれなくなる……主に精神的にな。それとリヴァン、さり気なく帰ろうとするな」

 

 逃がさないと言わんばかりに、リヴェリアが俺に警告をしてきた。

 

「しかしまぁエルフの俺が言うのもなんですけど、あの人達って王族(ハイエルフ)を尊敬してるどころか、『神聖視』してるんじゃないですか?」

 

「言わないでくれ。私もそう思ってしまいそうだ」

 

「人徳……と考えてはどうでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりおかしいな」

 

「何がおかしいの?」

 

 セインさんが前衛として加わった事により、19階層に進んでから俺は控えとなった。後衛にいるリヴェリア達がモンスターに強襲された時の護衛役として。

 

 その道中、ずっと前から疑問を抱いてる俺が呟くと、それを聞いたレフィ姉さんが訪ねてきた。

 

「モンスターとの遭遇です。此処まで進んでいるのに余りにも少な過ぎるんですよ」

 

 中層に突入してから異常なほどモンスターと遭遇していない。違和感があり過ぎて逆に不気味と思ってしまう。

 

「いいことではないのですか?」

 

「それはそうなんですが……何か腑に落ちないんですよね」

 

 聞いていたアミッドさんからの問いに、拭いきれない俺は眉を顰めたままだ。

 

「いや、リヴァンの疑問は尤もだ。中層のモンスター出現頻度から考えても解せないほどに、遭遇率が低い」

 

 どうやらリヴェリアも俺と同じ事を考えてたみたいだ。

 

 しかし――

 

「リヴェリア様の人徳です!」

 

「魔物も王族(ハイエルフ)の麗しさに恐れをなしてるのでしょう」

 

「高貴な血は下賤なモンスターを寄せ付けないのです!」

 

 レフィ姉さん、セインさん、そしてフィルヴィスさんは全く見当違いな事を言っていた。

 

 リヴェリアのお陰でモンスターと遭遇しないって……そんな訳あるか。ご都合主義にも程がある。

 

 普段から見境なく襲い掛かるモンスターが、王族(ハイエルフ)だけ襲わないんだったら、この世界にいる多くの王族(ハイエルフ)達が魔除け代わりに使われるだろう。

 

「…………」

 

 三人の返答を聞いたリヴェリアは、如何にも居心地が悪そうに無言となっていた。

 

「前々から思ってたんですが、他所の派閥(ファミリア)にいるエルフからも、こんな感じなんですか?」

 

「ああ。分不相応の、過剰な好意とは、こういったものだ……。好意なだけに、無下にも出来ないと言うのが厄介なんだが」

 

「成程。そのお考えが人徳となり、更に人を惹きつけてしまうと。これは俺も考えを改めた方が良さそうですね」

 

「止してくれ。やっとまともに話せるリヴァンまで過剰な好意をぶつけられたら、私はオラリオまで逃げ出すことになってしまう。頼むからお前だけは普段のままでいてくれ」

 

 本気で普通に接して欲しいと言ってくるリヴェリアに、俺は少しばかり困った。少なくともレフィ姉さん達の前では。

 

「いや~、そうしたいのは山々なんですが、他の同胞達から恨まれてしまうんですよね。特にアリシアさんから」

 

「安心しろ。その時は私が黙らせるさ。それに人間関係など、こんな軽口を叩き合うのが丁度いいものさ。堅苦しいのなど、金輪際ごめんだ」

 

 同胞でも一人の冒険者として接して欲しいと言う、リヴェリアの心からの願いのように聞こえた。

 

「リヴェリア様、感動しちゃいました……!」

 

「私でよろしければ、いつでも談笑の御相手に……!」

 

「私も汚れていなければ、側でお守り出来たと言うのに……!」

 

 話を聞いていたレフィ姉さん達エルフの三人は感動しながらも、リヴェリアに対する好感度が益々上がったようだ。寧ろこれは悪化させてしまったような気もする。

 

「……………」

 

「人徳……ですね……」

 

 本心を言った筈が却って失言だったと気付くリヴェリアに、何とも言えない表情をするアミッドさんが苦し紛れのフォローをしていた。

 

 すると、先程までの平穏な時間が急に変わったように、突如大量のモンスターが出現した。叫び声をあげながら、此方に接近している。

 

「っ!? ……【怪物の宴(モンスター・パーティ)】か!」

 

「おお、凄い数だ……」

 

 モンスターが大量発生する現象――【怪物の宴(モンスター・パーティ)】は10階層以降から経験してるが、あれ程の数は初めて見た。更には見た事の無いモンスターまでいる。

 

 あれ程の数だとセインさんやフィルヴィスさんも厳しいだろう。なので此処は俺も前に出て戦う必要がある。

 

 誰もが警戒している中、リヴェリアは途端に不敵の笑みを浮かべる。

 

「フッ……憂さ晴らしには丁度いい……【間もなく、焔は放たれる】――」

 

 あ、どうやらリヴェリアが魔法を使ってモンスターを殲滅するようだ。

 

 レフィ姉さんから話を聞いた。【九魔姫(ナイン・ヘル)】と呼ばれるリヴェリアの魔法は凄まじい威力だと。

 

 初めて見る王族(ハイエルフ)の魔法に少しワクワクしながらも、詠唱を妨げられないよう彼女の盾に――なろうと思いきや、状況が変わった。

 

 こちらに来る大量のモンスターが、突然現れた冒険者によって瞬く間に殲滅していく。

 

 ん? ちょっと待て、あの人はまさか……!

 

「高貴な御方……お見苦しい所をお見せしてしまいました……」

 

 残り一匹のモンスターを倒した後、女性エルフ――リューさんが俺達の前に姿を現した。

 

 何であの人が此処に? 俺の記憶が正しければ、今日はお店が忙しいってベルから聞いたんだが。

 

「……お前か? 我々の先を進み、モンスターを減らし続けていたのは……?」

 

「とんでもありません。私はただ目の前のモンスターを屠っていただけ。貴女様との道程が重なっていたのは、ただの偶然でしょう」

 

 いや、絶対に偶然じゃない。さっきのモンスター出現後に、まるで狙っていたように現れたとしか思えない。

 

 俺の疑問は漸く解消した。中層でモンスターとの遭遇が大してなかったのは、リューさんが殆ど倒していたのだと。

 

「因みに、この階層のモンスターは、今のでほぼ最後です。いずれに向かわれるにせよ、ごゆるりとお進み下さい。では、御免――」

 

 言うべき事を全て言ったリューさんは、すぐに俺達の前からいなくなった。

 

「前衛どころか、最前衛に、あんな冒険者がいらしたんですね」

 

「まったく……モンスターと遭遇しないわけだ……」

 

 大してモンスターと遭遇しなかった理由が分かったアミッドさんとリヴェリアは、去って行ったリューさんを複雑そうに見ていた。

 

 俺も肩透かしを食らった気分で、物凄く複雑な気持ちになっている。『大樹の迷宮』にいるモンスターと戦う機会を失ってしまったので。

 

 その後からも俺の出番は全くなかった。リューさんが一人で大量のモンスターを殲滅したのを見たレフィ姉さん達が、物凄く気合を入れて襲い掛かってくる少ないモンスターを倒し続けたので。

 

 同時に本来の目的であった苔の駆除もされた事で、冒険者依頼(クエスト)が終了となった。

 

「何と言うか……これほど不完全燃焼な冒険者依頼(クエスト)は初めてですね……」

 

「全くだ。リヴァン、もし良かったら今度は私と二人で行かないか?」

 

「良いですよ。と言っても、そんな機会があればの話ですが……」

 

 

 

 

「私がぁぁぁぁぁ! セイイイイイイイイイイインッ!」

 

 どうでもいいですけどセインさん、さっきから喧しいのでもう少し静かにして下さい。段々鬱陶しくなってきましたので。




次回はダンメモの冒険譚を更新します。


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少年エルフ、アイズと再会する

 本当でしたらダンメモを更新する予定でしたが、別作品で掲載予定となったので、急遽原作の戦争遊戯(ウォーゲーム)編を出す事にしました。


「ふぁぁ……」

 

 階層主(ゴライアス)を倒し、地上に帰還してから三日。俺――リヴァンは本拠地(ホーム)『青の薬舗』でまったりとしている。

 

 いつもならナァーザさんが『元気ならダンジョンで稼いできて』とお決まりの台詞が来るが、今回は暫く静養してていいと言われた。先日あった『中層』脱出の件で気遣ってくれているので。

 

 他にもある。中層で倒したモンスターの魔石やドロップアイテム、更に18階層で得た大量の水晶(クリスタル)、途中で偶然見つけた温泉の未開拓領域に生えてた青水晶(ブルークリスタル)を全て換金し、合計で数百万ヴァリスとなった。それを知ったナァーザさんが『リヴァン、よくやった……!』と尻尾を振りながら物凄く喜んだのは言うまでもない。

 

 特に一番高かったのは、17階層で倒した階層主(ゴライアス)の魔石だった。左右に真っ二つとなって価値が下がったと思ったが、それでも百万ヴァリス以上で売れた。流石は階層主と言うか、そこら辺にいるモンスターの魔石とは大違いみたいだ。

 

 ただ、俺が一人でその魔石を見た担当アドバイザーのミィシャさんに疑問を抱かれた。嘘を吐くのは忍びなかったので、彼女にだけ真実を話した。それと同時に、俺が『Lv.2』にランクアップした事も含めて。

 

 余りにもぶっ飛んだ内容で信じられなかったのか、ミィシャさんは放心状態になり、数秒経ってすぐに絶叫しながら仰天した。偶々近くで聞いていたベルの担当アドバイザーのエイナさんも一緒に。

 

 その後に二人は俺に謝った後、個別用応接室に案内された。ランクアップはベルの件もあって辛うじて受け入れるも、一番の問題は俺一人で階層主(ゴライアス)討伐が全く信じられなかったようだ。『Lv.1』の俺が、『Lv.4』クラスの階層主(ゴライアス)を倒すのは絶対無理だと。

 

 異世界(アークス)の力を使って倒したなどと流石に言えないので――

 

『信じる信じないのはそちらの自由です。けど、俺一人で階層主(ゴライアス)を倒したのは嘘じゃありません。嘘なら今頃は遠征から戻った【ロキ・ファミリア】、もしくはリヴィラの街にいる冒険者達が持ってきている筈ですよ。それでも疑惑が晴れないなら、そちらの主神に事情を説明して真偽確認させますか?』

 

 嘘は一切言ってないと分からせる為にギルドの主神――ウラノス様に確認して貰うよう促した。ギルド職員の二人にそこまでの権限がないのか、取り敢えずと言った感じで漸く信じてくれた。どうやら神に嘘を確認しろと言ってきた俺の言葉が効いたようだ。相手の嘘を見抜ける神の名を堂々と持ち出した事で。

 

 因みに俺がランクアップした事は、後日公開される予定となっている。同時に階層主(ゴライアス)単独討伐も含めて。今はまだ公開されてないが、恐らく【ロキ・ファミリア】辺りが過敏に反応するだろう。ついでに神ヘルメスは、黙っていた事を自分から公開した事で少々悔しがっているかもしれないが。

 

 その【ロキ・ファミリア】に関しては他にもあった。18階層でアイズと別れる前にした個人的な約束を。

 

 俺が階層主(ゴライアス)を倒したかどうか直球で質問してきた彼女に、知りたかったら一人で【青の薬舗】へ来て新商品のポーションを買えと言った。けど、三日経ってもアイズは未だに来ていない。彼女の性格を考えると、俺達がダンジョンから帰還したのを知れば早々に訪れると思っていた。けれど全く音沙汰無いから、恐らくはもう忘れて――

 

「リヴァン、何故か分からないけど【ロキ・ファミリア】の【剣姫】が来たよ。貴方に用があるみたい」

 

 ――いたと思っていたが、実はそうでもなかったみたいだ。

 

 店番をしてるナァーザさんにそう呼ばれた俺は、来客の対応をしようと足を運ぶ。彼女の言う通り、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがいた。俺の約束をちゃんと守っているみたいで、手にはついさっき買ったばかりの『二属性回復薬(デュアル・ポーション)』を手にしている。

 

 

 

 

 

 

 

「数日振りですね、アイズ。俺はてっきりもっと早く来るかと思っていたんですが」

 

「ごめん。帰還した後、急な用事が入って行けなかった」

 

「そうでしたか。ならば敢えて訊かないでおきます」

 

 ナァーザさんの仕事の邪魔をしないよう、俺はアイズを連れて店の外へと出た。今は少し離れた所におり、周囲に人は全くいない。本当に一人で来たかの確認も込めて外に出たが、どうやら本当に一人で来たみたいだ。

 

 急な用事とは恐らく【ロキ・ファミリア】内の事だろうと思い、そこまで詳しく訊こうとはしない。他所の【ファミリア】にいる俺が首を突っ込んでいいものじゃないし、アイズがそんな簡単に教えてくれるとは思ってもいないので。

 

「約束は守った。だから今度はリヴァンが約束を守る番」

 

「分かってますって」

 

 俺としては、ここまで律儀に果たそうとする彼女に驚いていた。もしあのフィン・ディムナだったら、何かしら理由を付けて情報収集するだろう。

 

「そちらの推測通り、17階層の階層主(ゴライアス)は俺一人だけで倒しましたよ」

 

「!」

 

 知りたかった答えをあっさり教えると、アイズは信じられないと言わんばかりに目を見開いた。

 

 ここで倒してないと嘘を吐いたらどんな反応をするか、それはそれで見てみたかったが、取り敢えず本当の事を教えている。

 

「……リヴァンが倒したって言う証拠はある? たとえば魔石とか」

 

「残念ですが、もうそれはギルドで換金しました」

 

 本当だったらアイズが来るまで保管しておくつもりだったが、ナァーザさんが早く売るよう催促されてしまった。一応もう少し待って欲しいと懇願したが、『魔石はさっさと売る』と団長命令で強制売却となってしまった。

 

 あの人に階層主(ゴライアス)の魔石を見せたのが俺のミスだ。もう今後は不用意に見せたりしない。確かに借金返済は大事だけど、俺が個人的に必要な物まで売り払ってしまっては色々と困る。今もこうしてアイズに階層主(ゴライアス)を倒した証拠(魔石)を見せれないので。

 

「明確な証拠が無いから、俺の言った事が本当かどうか判断が付かないでしょう?」

 

「………………」

 

 俺の問いに、アイズは無言のままコクンと頷く。

 

 そりゃそうだ。いくら本当だとしても、そう簡単に信じる事なんか出来ない。俺が逆の立場だったら絶対にそうしてる。

 

「だから貴女にだけ先に教えます。階層主(ゴライアス)を倒したからか分かりませんが、俺はもう『Lv.2』にランクアップしました。何日か経ったら、ギルドに公開される予定でしょう」

 

「!!」

 

 もう一つの情報を教えると、アイズは再び目を見開いた。

 

 これも明確な証拠が無いけど、今回はギルドと言う信用が出来るものがある。あそこで虚偽の申告をすれば(ペナルティ)が問答無用で下す権限があり、【ミアハ・ファミリア】のような零細派閥は簡単に潰されてしまう。

 

 だからギルドが真実だと情報公開すれば、周囲は納得するだろう。尤も、他の【ファミリア】や冒険者達はそう簡単に受け入れるとは思えないが。

 

「ベルだけじゃなく、リヴァンもランクアップって……どうやったら、そんなに早くなれるの?」

 

「いや、どうやったらと言われても……」

 

「………リヴァン、一度私と戦って」

 

「はい?」

 

 何を血迷ったのか、アイズはいきなり俺と戦えと言ってきた。いきなりの事に俺は目が点になっている。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。何でそんな結論になったのか教えてもらえませんか?」

 

「君と戦えば何か分かるかもしれないと思って」

 

「そ、そんな理由で、ですか……」

 

 いくら何でもそれは暴論と言うべきか、非論理的と言うべきか……無茶苦茶過ぎる答えだ。

 

 もしかしてアイズって結構単純だったりする? いや、もしくは脳筋? 

 

 まぁどっちにしても、俺のアイズに対する印象がガラリと変化する事に変わりないが。

 

 前にも言ったが、アイズは世間で寡黙で冷静沈着な女性剣士となってる。ジャガ丸くん好きに加え、実は天然(おバカ)だと知ったら、世間の評価は凄く変わるかもしれない。

 

 ついでに、レフィ姉さんが話していた(惚気同然の)アイズ像は俺の中で綺麗さっぱり消えてる。特に『理知的で完璧な女性』と言った部分が。どうやらあの人はアイズを崇拝する余り、少しばかり目が曇っているようだ。

 

 ………とは言え、まさか向こうからそう言ってくれたのは、俺としても大変好都合だった。

 

 天然(おバカ)部分は別として、【剣姫】と呼ばれてるアイズは『Lv.6』の第一級冒険者で【ロキ・ファミリア】の幹部。普通に考えて、こんな簡単に手合わせ出来る相手じゃない。

 

 第一級冒険者と言えば、【フレイヤ・ファミリア】にいる猫人(キャットピープル)――アレン・フローメルとも手合わせした。尤も、本格的な戦いに入る前に【猛者(おうじゃ)】に止められて出来なかったが。

 

 だから、こんな貴重な展開は願ってもない。オラクル船団に渡り、エトワールクラスとなった俺が第一級冒険者にどこまで通用するか確かめたかった。

 

 因みに18階層で戦った上級冒険者達は全然強くなかったから、不完全燃焼も同然だった。余りの弱さに拍子抜けしてしまう程に。

 

 本当ならアイズとすぐに戦いたいところだが……生憎とそれはすぐに叶わない。

 

「えっと、非常に嬉しいお誘いですが、出来ればまたの機会にしてもらえませんか? もし戦えば、今日の夜に思いっきり支障をきたしてしまいますので」

 

「何か予定が入ってるの?」

 

「はい。今夜はベル達と宴会をする予定でして。良かったらアイズも【ロキ・ファミリア】の代表として参加しますか?」

 

 さり気無くアイズに俺達の宴会に来てもらうよう頼んでみた。

 

 もし来てくれたら、絶対にベルが喜ぶどころか仰天してひっくり返るだろうなぁと思いながら。




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少年エルフ、宴会で面倒事に遭遇する

「ええ! ア、アイズさんを誘おうとしてたぁ!?」

 

「ああ。結局は無理だったけど」

 

 乾杯の音頭をした後、ベルに午前中の事を話した。アイズと聞いた途端にベルは仰天したが、結局は来れなかったと知って物凄く複雑そうな表情となる。

 

 話は変わるが、俺が今いるのは南のメインストリートから折れた、路地裏の一角にある酒場にいる。

 

 ここは真っ赤な蜂の看板を飾る酒場『焰蜂亭(ひばちてい)』で、繁華街の裏道に佇んでいるお店だ。聞いた話だとヴェルフ行きつけの酒場で、一部の冒険者や()()()には人気があるそうだ。蜂蜜酒と言う店の名物があるから、連日通う常連客も多いらしい。

 

 俺とベルが以前に行った『豊饒の女主人』より店内は少々狭苦しいが、お洒落なあの店と比べて小汚い内装でも、これぞ冒険者の酒場という雰囲気がある。

 

「ってか、俺としては何でお前が【剣姫】と会ったのかが気になるんだが」

 

「そ、そうだよ! リヴァン、一体どういう事なの!?」

 

 ヴェルフの台詞を聞いてベルが気付いたように問い詰めようとして来た。

 

 あ、そう言えばベルってアイズの事が好きだったんだ。意中の相手が俺と二人で話してた事が気になるのはそりゃ当然か。

 

 取り敢えずベルの不安を払拭させておかないと。

 

「18階層にいた時、彼女に新商品のポーションを宣伝したって前に言ったろ? どうやらソレが気になって買おうとウチの店へ来たんだよ」

 

「……あ、ああ、なるほど。そういうことか……」

 

 理由を話すと、ベルは以前俺が話した内容を思い出しながら安堵した。分かりやすい反応だ。

 

 本当は俺が一人で階層主(ゴライアス)を倒したのを確認しようと会いに来たんだが、別に嘘は吐いていない。訊きだす為に新商品の『二属性回復薬(デュアル・ポーション)』を買ってくれと言ったのは確かなので。

 

 ベルと一緒に聞いていたヴェルフとリリルカも納得の表情をしている。

 

 その直後――

 

「ですがリヴァン様、今後そう言う事はしないで下さいね。予定外の方が参加してしまったら、調整するのが大変ですので」

 

「いや、費用なら俺が出そうと思ってて」

 

「それでも、です。い・い・で・す・ね?」

 

「………はぁっ、分かったよ」

 

 笑顔でありながらも威圧感を放ってくるリリルカに俺は一先ず従う事にした。

 

 今更だけど、彼女は本当にベルの事が好きなんだと改めて知った。

 

 それを言えば、ヘスティア様も含まれるか。あの方はベルを大事な眷族ではなく、一人の異性として大好きみたいな振る舞いをしてる。この前の帰還中に、ずっとベルに引っ付いてたから一目瞭然だった。尤も、アプローチされてたベルは全く気付いていなかったが。

 

 話を聞いていたベルは不可思議そうに見ているが、一先ずはと言った感じでヴェルフの方を見る。

 

「そ、それはそうと、【ランクアップ】おめでとう、ヴェルフ!」

 

「これで晴れて上級鍛冶師(ハイ・スミス)、ですね」

 

「ヴェルフ、おめでとう」

 

「ああ……ありがとうな。つっても、【ランクアップ】ならリヴァンもだろ?」

 

 俺達からの言葉に、はにかんだ仕草をするヴェルフ。本人は抑えているみたいだが、口もとから笑みがこぼれ落ちてる。凄く喜んでいると言う証拠だ。

 

 ヴェルフも俺と同様に『Lv.2』に【ランクアップ】した。同時に『鍛冶』の発展アビリティも習得もしてるようだ。

 

 その後にヴェルフは態々俺達に一報を報せに来たから、祝賀会を開こうと決まったのだ。俺がランクアップした事も併せようと。

 

 因みに俺のランクアップについては、ダンジョンに帰還した翌日に話してある。その時のベル達は当然ビックリしていたのは言うまでもない。

 

 だから今回は念願の上級鍛冶師(ハイ・スミス)の仲間入りを果たしたヴェルフと、『Lv.2』にランクアップした俺のお祝いである。

 

「まぁまぁ、俺はあくまでおまけだから」

 

「何がおまけだ。何年も掛かったより俺より凄ぇじゃねぇか。ベルといいリヴァンといい、今年の冒険者は一体何なんだよ……」

 

「言われてみればそうですねぇ。一ヵ月半のベル様に対し、リヴァン様は三ヵ月未満で『Lv.2』に【ランクアップ】。普通に考えておかしいです」

 

 ヴェルフの言葉にリリルカも同感だと言わんばかりに頷いていた。そう言われた俺とベルは苦笑するだけだ。

 

 だって仕方ないだろ。本当にランクアップしたんだからさ。疑いたくなる気持ちは分かるけど、別に嘘なんか吐いていない。

 

 俺がそうなった原因はヴェルフと同じく、先日の中層での強行軍や18階層の度重なる戦闘によるものだと思ってるのか、深く訊こうとしていない。もしここで俺が階層主(ゴライアス)を一人で倒したからランクアップしたと言えば、周囲の客に迷惑を掛けるほどの絶叫を響かせると思うから敢えて黙っておく。

 

 若干不貞腐れ気味となってるヴェルフをどうにか宥めながらも、俺はある事を訊こうとする。

 

「なぁヴェルフ、確かベルから聞いた話だと『鍛冶』のアビリティを手に入れる為にパーティに入ったんだよな。となると、もうこれでパーティ解消なのか?」

 

「「!」」

 

 俺が質問をすると、ベルとリリルカは思い出したようにハッとした。途端に揃ってどんどんと寂しそうな表情になっていく。

 

 ベルはともかくとして、リリルカも彼を仲間だと認めているようだ。素直じゃないと言うか何と言うか。

 

 二人の表情を見たヴェルフは手で後頭部を搔いている。何だかまるで弟の面倒を見る長兄のように、照れを隠すように苦笑していた。

 

「そんな捨てられた兎みたいな顔するな」

 

 そこは『兎』じゃなくて『子犬』だろ、と思った俺だが敢えて何も突っ込まなかった。

 

「お前達は恩人だ。用が済んで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ。これからも一緒だ」

 

 それを聞いたベルとリリルカは一安心したかのように破顔する。

 

「ってことだ、リヴァン。これからもよろしくな」

 

「ああ、これからも頼らせてもらうよ」

 

 兄貴分としては認めるけど、ベルの相棒としての立場は譲らないがなと内心付け加えておく。

 

 その後からは運ばれた料理を楽しみながら話を弾ませた。

 

 特に18階層で戦ったゴライアスの件が一番の話題となった。何故17階層を無視して出現したのか、事件の後始末とか色々と。

 

 俺達が遭遇したあの事件に関して、ギルドが真っ先に箝口令を敷いた為、都市や冒険者の間で目立った混乱は起きていない。加えて当事者達に絶対口外するなと徹底されている。もしやったら罰則(ペナルティ)も厭わない感じだった。

 

 罰則(ペナルティ)と言えば、ベルの【ヘスティア・ファミリア】とアスフィさんの【ヘルメス・ファミリア】が対象となった。主神の二柱はギルドに強制召喚され、雷が落ちたようだ。

 

 そして下された罰則(ペナルティ)の内容は罰金で、【ファミリア】の資産の半分を失う事になった。

 

 あんまり言いたくないが、ベルの方はまだマシな方だった。【ヘスティア・ファミリア】は未だに零細だから、例え大金でもそれ程ダメージはない。

 

 対して【ヘルメス・ファミリア】は規模が大きい派閥なので、半分の資産を失ったのは相当響いている筈だ。恐らく神ヘルメスは団員のアスフィさん達から総スカンを喰らってるかもしれない。

 

 本当だったら、神ヘルメスにベルが戦った壮年の上級冒険者の件について問い質そうと思ってたが、さっき言った罰則(ペナルティ)の件により、またしても聞けず仕舞いとなった。ついでに奇妙な兜の魔道具(マジック・アイテム)も含めて。

 

 一応ベルに聞いてみたが、どうやら姿が見えなかった事で最初は一方的にやられていたらしい。不審に思いながらも、俺が本拠地(ホーム)に置かれてる鏡の前で頭に被った瞬間、本当に姿が消えていた。一瞬、クーナさんが使ってる創世器『透刃マイ』みたいな透明(ステルス)機能みたいだと錯覚してしまう程に。

 

 これは色々と使えそうだと思った俺は、制作したと思われる【ヘルメス・ファミリア】に黙っておくことにした。言ったら絶対に有無を言わさず強制的に取られてしまいそうな気がするので。

 

「ベル様、次のランクアップはまだですか?」

 

「うん。18階層から戻って、能力値(アビリティ)はだいぶ上がったけどね」

 

「勘弁してくれ。やっとお前に追い付いたのに、すぐに『Lv.3』になられたら堪らないぜ。だよな、リヴァン?」

 

 苦笑しながら俺に援護を求めようとしてくるヴェルフ。

 

「そうだなぁ。でも、ヴェルフとしては却って好都合じゃないか? ベルの名が上がるほど、専属鍛冶師であるヴェルフも同僚に自慢出来るだろうし」

 

「まぁ確かにそうかもしんないが、それはそれで更に緊張感が高まりそうだ」

 

 俺が持ち上げるように言うと、満更でもなさそうに言い返してきた。

 

「――な~にが『Lv.3』だよ! 世界最速兎(レコードホルダー)だか何だか知らないけど、インチキもほどほどにした方がいいぜ!」

 

 すると、誰かが俺達に向かって大声で叫んだ。

 

 振り向くと、叫んだのは幼い少年のような小人族(パルゥム)と思わしき冒険者で、テーブルに座っている俺達に少し近付いていた。

 

 身に纏ってる服に、金の弓矢に輝く太陽を刻んだエンブレムがあった。それと同じ服と徽章が、彼の後ろのテーブル席に座っている数名の冒険者達もいる。けど、向こうは止めようとせず、ただ面白そうに眺めているだけだ。

 

「逃げ足だけは速い『兎』が、モンスターから逃げまくってランクアップ! 今度は『Lv.3』も近いだぁ! オイラだったら恥ずかしくて本拠地(ホーム)から出られねぇよ!」

 

 聞くだけで挑発してる内容だった。しかも周囲の客にも聞こえるように叫んでる。明らかにベルを怒らせようとしてるのが丸分かりだ。

 

 俺の友達を侮辱するとは随分いい度胸してるじゃないか。このクソったれな冒険者には――

 

「よせ、リヴァン」

 

「ベル様も、無視して下さい」

 

 動こうとする俺にヴェルフが止めて、リリルカはベルを嗜めるように注意した。

 

 二人が止めた理由は分かる。他派閥との揉め事を避けようとしているからだ。

 

 俺とベルは以前、『豊饒の女主人』で宴会をしていた【ロキ・ファミリア】のベート・ローガに侮辱された事がある。もしヴェルフとリリルカがいなかったら、俺は今頃あの時と同じ二の舞になっていただろう。

 

 こちらが何も言い返そうとしないのを見た小人族(パルゥム)の冒険者は、更に拍車をかけようとする。

 

「見ろよ! 仲間は他派閥の寄せ集めだ! 売れないヘボ()()()に、ちっこいガキのサポーター、おまけに『兎』と同じくランクアップしたインチキ妖精(エルフ)! ま、インチキルーキーにはお似合いってとこかぁ!?」

 

『はははははは!』

 

 小人族(パルゥム)の冒険者の仲間と思わしき連中が、一人を除いて大笑いをしていた。

 

 随分と好き勝手言ってくれる。こっちが手を出したらダメとは言え、こうまで言われて黙ってるほど俺は大人じゃないんだが。

 

 酒が入ってるかどうかは分からないが、本当に良い度胸してる。あのクソチビの口を黙らせる為に、エトワールウォンドの『プロテクトリリース』で吹っ飛ばしてやりたい。もしくはエトワールデュアルブレードの『フルコネクト』で真っ二つとか。

 

 どっちもやったら即死確実だろう。けど、今の俺はそれをやりたいのを我慢してるって証拠だ。だからこれ以上、俺を怒らせないで欲しいんだが。

 

「まぁそれも仕方ないか。腰抜け兎の【ファミリア】は弱小も弱小、最下層だ! な~んたって威厳も尊厳もまるでない! あるのは胸だけの落ちこぼれ女神が率いてるんだからなぁ!」

 

「!!」

 

「待て、ベル」

 

 ベルが激昂して立ち上がろうとする寸前、俺が即座に肩を掴んで押し留めた。

 

「リヴァン、どうして……!」

 

「ここは俺に任せろ」

 

 抗議しようとするベルに、俺は宥めさせようとした。

 

 その行動を見ていた小人族(パルゥム)の冒険者は調子に乗ろうとする。

 

「なっ、何だよ! 言い返す度胸もねぇのか!? やっぱりインチキ――」

 

「貴様はいい加減に黙れ」

 

「――は?」

 

 俺の台詞を聞いた小人族(パルゥム)の冒険者が動きを止めた。同時に彼と同じ仲間も含めて。

 

「言いたい事を言ったなら、さっさと俺達の目の前から失せろ。小人族(パルゥム)の恥さらしが」

 

「! て、てめえ! 誰が恥さらしだ! ヘボ集団のインチキ妖精(エルフ)如きに言われる筋合いはねぇ!」

 

「ならば訊くが、貴様だけでヘボ集団の俺達に勝てるのか?」

 

「あ、当たり前だ! オイラ達がお前等如きに――」

 

「何を勘違いしている。俺は貴様だけ(・・)で勝てるのかと訊いたんだぞ」

 

「――へ?」

 

 質問の意味を正すと、小人族(パルゥム)の冒険者は急に素っ頓狂な声を出した。

 

「散々好き放題言ってくれたんだ。あそこまで言うからには、貴様だけでも俺達に勝てる自信があるんだろう? 仲間の力を一切借りないで」

 

「え? え? え?」

 

「そちらにいらっしゃるお仲間さんが全く止めようとしないのを見ると、全然問題無いと判断してるのか、ただずっと静観してる始末。それだけこの小人族(パルゥム)に絶対の信頼があると言う事だ」

 

『!』

 

 突然の事だったのか、小人族(パルゥム)の冒険者の仲間達が反応した。

 

 俺がこんな事を言ってるのには当然理由がある。

 

 ここで俺達が小人族(パルゥム)の冒険者を伸してしまえば最後、奴の後ろにいる仲間達が必ず動こうとするだろう。仲間を傷付けた報いと言う適当な理由を付けて。

 

 だからそれをさせないよう、事前に動きを封じる芝居をする事にした。あのクソチビがヘボ集団の俺達を簡単に倒せる大物に仕立て上げる際、周囲にいる客達を見届け役にさせようと。

 

「え? リヴァン、一体何を……?」

 

「……そう言うことですか」

 

「なるほどな。リヴァンは中々上手い事を考えるじゃねぇか」

 

 ベルは俺のやってる事にまだ気付いていないが、リリルカとヴェルフは漸く気付いたようだ。特にヴェルフは段々と交戦的な笑みを浮かべている。

 

「という訳で、宴会を楽しんでいらっしゃるお客様方! 誠に申し訳ありませんが、この勇敢な小人族(パルゥム)さんが仲間の力を借りず! たった一人で! 俺達に挑発と言う名の決闘状を叩きつけてきました。これに応えなければ俺達は本当にヘボ集団となってしまいますから、それを払拭する為に、どうかここは見守って頂けませんか?」

 

「ちょ、何を勝手に――!」

 

 立ち上がった俺が客達に聞こえるよう大々的な演説をして、小人族(パルゥム)の冒険者が止めようとするが――

 

 

「おう! やれやれ!」

 

小人族(パルゥム)の意地ってやつを見せ付けてやんな!」

 

「あんだけ言っといて逃げんのは無しだぞ!」

 

「兄ちゃんたちも頑張れよ! ここで負けたらヘボ集団って呼ぶからな!」

 

 

 客達はすっかりその気になったようで、俺達にエールを送っていた。

 

 奴の仲間達は非常に不味い展開だと分かったのか、段々と焦り出した表情となっている。

 

 さて、これで連中の動きを封じる事に成功した。もしここで助け出そうと動いてしまえば、見届け役となってる客達の非難が待ち受けている。

 

 加えて此処は酒場だ。後になって、酒場にいた客達が周囲に吹聴する事で世間に知られてしまう。それどころか【ファミリア】の評判も落ちる事態になる可能性だって充分ある。

 

「ま、待て! お、オイラは決闘だなんて一言も……!」

 

「という訳で早速、勝負と行きましょうか。ヴェルフ」

 

「おう!」

 

 小人族(パルゥム)の冒険者を無視するように話を進め、意を汲んでいるヴェルフも俺に応えようと立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと二人とも……!」

 

「はいはい、大将のベル様はリリと一緒に見守りましょうね~」

 

 止めようとするベルに、リリルカがやんわりと宥めていた。ナイスフォローだ、リリルカ。

 

 その二人を気にせず俺とヴェルフは、ゆっくりと小人族(パルゥム)の冒険者へと近づいていく。

 

「先ずは貴様が罵ったインチキ妖精(エルフ)の俺と、売れないヘボ()()()のヴェルフが相手だ。貴様からすれば俺達は単なる前座かもしれないが」

 

「まぁそれなりにやらせてもらうぜ。そんじゃはじめっか、大物小人族(パルゥム)さんよぉ!」

 

「あ、あ……ヒュ、ヒュアキントス……!」

 

 素手で構える俺に、指の骨をポキポキ慣らすヴェルフ。口に出さなくても俺達は頷き合い、どう料理しようかと既に考えている。

 

 小人族(パルゥム)の冒険者は仲間に助けを求めようと団員の名を呼んでいるが、生憎それは無駄だった。呼ばれた団員は無言のまま動こうとしない。まるで耐えるように。

 

 もう俺がコイツを【ファミリア】を抜きにした私闘と言う流れにした為、ここで名を挙げてしまえば奴が所属してる【ファミリア】の名に泥を塗る行為となってしまう。その主神も含めて。

 

「ま、待ってくれ! オイラは――」

 

「「おらぁ!」」

 

「ぶびっ!?」

 

 俺とヴェルフによる渾身のストレートにより、潰れた悲鳴を上げた小人族(パルゥム)の冒険者は、そのまま吹っ飛んだ。

 

 壁に激突した彼は床に落ちて鼻血を流し、白目を剥いて、ぴくぴくと痙攣しながら気絶していた。言うまでもなく俺とヴェルフの圧勝だ。

 

 その結果、小人族(パルゥム)の冒険者は相手の力量も分からない、『大口小人族(パルゥム)』と言う不名誉なレッテルを貼られる事となった。

 

 客達からの歓声を受けてる中、目的を達成した俺達は勘定を済ませて店から退散する。向こうの連中がこの後に何もしないとは限らないので。

 

 それに――

 

「……あのクソエルフ、随分と口が回るみてぇだな」

 

 後になって気付いたが、何故かこの酒場に【ロキ・ファミリア】のベート・ローガがいたから、さっさと店を出たかった。

 

 

 

 

 

 

「くそっ! あのエルフ、余計な事をしなければ……!」

 

「どうして助けてくれなかったんだよぉ、ヒュアキントス。話が違うぞ。オイラ、もう完全に恥さらしじゃないか……!」

 

「すまなかった、ルアン。あの場で私達が動けば、アポロン様の名に傷が付いてしまうのでな」

 

「でもこれからどうすんだよ、団長?」

 

「……不本意だが、取り敢えずはアポロン様に報告だ」




リヴァンがいる事で、原作と違う展開にしました。

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少年エルフ、神の宴に参加する

 『焰蜂亭(ひばちてい)』で仕立て上げた決闘から、暫く経った後。

 

 俺はベルとリリルカ、ヴェルフと一緒に【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)、教会の隠し部屋にいた。

 

「ふ~ん、なるほどね、私闘かー」

 

 間延びした声を出すヘスティア様。その反応にベルが申し訳なさそうな表情になっていた。

 

 俺達は今、酒場であった一件をヘスティア様に報告していた。

 

 最初は不安そうな顔になってたが、ベルが無傷である事が分かった為に安堵しながら聞いている。因みに酒場の主人(マスター)には、騒ぎを起こした謝罪も兼ねて、勘定の他に俺の方から迷惑料も支払っておいた。向こうは受け取りながら『もうあんな事はしないでくれ』と警告もされている。

 

「しかしまぁ、リヴァン君は機転が利くねー。挑発されても咄嗟に私闘に持ってこうとするなんて」

 

「向こうが明らかに、ベルの感情を逆撫でするような挑発ばかりしてたので」

 

「でもリヴァン、何もあそこまでしなくても……!」

 

 感心するヘスティア様とは別に、ベルは俺の行動を咎めるように抗議してきた。優しいコイツからすれば、俺の行動は些かやり過ぎに見えたんだろう。

 

「でなきゃベルがやってたろ? 『僕の神様を侮辱したその言葉を取り消せ!』って」

 

「うっ! そ、それは……」

 

 図星だったのか、ベルは恥ずかしそうに顔を赤らめた。それを見たヘスティア様は感動している。

 

「ベル君、ボクの事をそこまで想ってくれて……」

 

「ベル様はあくまで侮辱した事を怒っただけ(・・)ですからね、ヘスティア様!」

 

「何だとー!」

 

 怒っただけと強調して言うリリルカに、ヘスティア様はムキになって彼女と睨み合い、そのまま言い争いに発展した。

 

 この二人はお互いにベルの事が好きだから、謂わば恋敵みたいな関係と言ったところか。

 

 取り敢えず言い争いをしてるリリルカとヘスティア様を男の俺達が宥め、次の話に移ろうとする。

 

「しかし、相手方が次にどう出るかが気になりますね。俺が何とか私闘の展開にさせたとは言え、向こうの【ファミリア】が一体どんな報復をしてくるのやら」

 

「え? あれって【ファミリア】とか一切関係のない私闘じゃないの?」

 

 俺の懸念に反応したベルが疑問を口にする。そこを冷静に戻ったリリルカが説明した。

 

「確かにリヴァン様のおかげでそうなりましたが、正直言ってアレは単なるその場しのぎに過ぎません。どの道、リリ達は冒険者の自尊心(プライド)を傷付けた事に変わりはありませんから」

 

「で、それを知った【ファミリア】の主神が絶対に何かしてくるのは確実だ。ヘスティア様ならお分かりかと思いますが」

 

「うーん、確かになぁ」

 

 リリルカと俺の意見に、ヘスティア様も同調する。

 

 もしも彼女が大事なベルを誰かが傷つける事になれば、真っ先に怒って抗議しに行くだろう。眷族を大事にする主神なら猶更だ。

 

「面倒な事にならないよう、主神同士で話をつけておくか。あと、ミアハにはリヴァン君から伝えておいてくれ。一応、君が私闘をやった張本人だからね」

 

「勿論そのつもりです。報告後にナァーザさんからネチネチと小言をいわれるかもしれませんが」

 

「あの、すいません、神様。リヴァンも……」

 

 いきなり謝ってくるベルに俺とヘスティア様は問題無いと笑う。

 

 その後、ヘスティア様はリリルカにこう尋ねた。

 

「相手の【ファミリア】はどこか分かるかい?」

 

「太陽のエンブレムでしたから、リリの記憶が確かなら――【アポロン・ファミリア】です」

 

「何だって!?」

 

 俺達に仕掛けてきた相手の【ファミリア】が判明した途端、何故かヘスティア様は驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

「ふむ、今回は【アポロン・ファミリア】との諍いか。前と似たような状況だな」

 

「……やっぱり宴会に行かせるべきじゃなかった。ねぇリヴァン、どうして宴会をやると必ず面倒事を起こすの? 私、言ったよね? 絶対にやるなって。それなのに何でそんな事になったの? ねぇ、教えてくれない?」

 

 祝賀会で起きた事を俺が一通り報告すると、それぞれの反応を見せるミアハ様とナァーザさん。

 

 ミアハ様は怒ってはいないが、ナァーザさんは前回の件があって物凄いジト目となっていた。ネチネチの小言も一緒に。

 

「言っておきますが、先に仕掛けたのは向こうです」

 

「だとしても、穏便に済ませる方法はあった筈だよね?」

 

「では逆に問いますよ、ナァーザさん。もし他所の冒険者がミアハ様に『威厳も尊厳もない。あるのは顔だけの落ちぶれた男神』と言われたらどうします?」

 

「ぶち殺す。地獄の底から後悔させる……!」

 

 小人族(パルゥム)の冒険者が言った内容を少々変えて言うと、ナァーザさんが思った通りの返答をした。どんよりとした殺意も加えて。

 

「これこれナァーザ、女子がそのような言葉をいうでない。それに私が落ちぶれているのは事実なのだからな」

 

「ミアハ様は優し過ぎます。そんなだから、他の連中に舐められるんです」

 

主神(わたし)を馬鹿にされたからといって、そなたが腹を立てる必要は無い。子が息災である事が嬉しいのだ」

 

「ミアハ様……」

 

 う~ん、なんか急に甘ったるい空気になったような気が。

 

 ナァーザさんはミアハ様の事を異性として好きなのは既に知っている。逆にミアハ様はナァーザさんの想いに全く気付いていない。

 

 何と言うか、これはぶっちゃけベルとヘスティア様の逆バージョンみたいなものだ。男性側のベルとミアハ様が鈍感であると共通しているが。

 

「はいはい、イチャ付くのは俺がいない時にやって下さいね」

 

「! そんな事してない……!」

 

「そうだぞ、リヴァン。私達はそのような関係でない。寧ろ彼女に失礼……待てナァーザ、何故睨んでおるのだ?」

 

「どうして貴方は、いつもそう言って……!」

 

 茶化された事でナァーザさんが顔を赤らめながら俺を睨むが、ミアハ様の台詞を聞いて標的を変更した。

 

 やれやれ。どうやら今度はイチャイチャから夫婦喧嘩になりそうだ。

 

 取り敢えず報告は終えたから一旦本拠地(ホーム)から出よう。此処にいたら、ナァーザさんの小言が再開されるのがオチだ。

 

「さ~てと、今日は久しぶりに散策でもするか」

 

 そう言いながら俺は街へ向かおうとする。

 

 ベル達は既に万全でいつでもダンジョンには行けるが、二日後に探索する予定だ。

 

 先日にあった18階層の戦闘で、俺を除くベル達の装備品が殆ど失っていた。そこをヴェルフが武具を新調すると息巻いており、今も工房で張り切りながら制作しているだろう。

 

 ヴェルフがさり気なく俺の武具も作ると言ってくれたが、そこは丁重に断っている。俺自身の装備は未だに破損してないし、態々新しい物を用意してもらう必要は無い。

 

 俺が扱っているオラクル製の武具は、この世界と違ってフォトンエネルギーで自然に修復してくれる。と言っても、全壊してしまえば流石に無理だが、今までの戦闘で俺自身大した被害を被ってないから、武具も至って問題無い。武器や防具のメンテをしたが、どれも異常がないのは確認済みだ。

 

(あ、そう言えばアイズと戦う約束があった……)

 

 昨日は予定があるからまた今度と言ったが、ほったらかしにする訳にはいかない。

 

 けど、だからと言って俺が【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)に行ったら面倒な事になる。アイズと約束があると言っても、向こうは簡単に信じてくれそうにないし。

 

 レフィ姉さんに頼めば何とかしてくれるかもしれないが、それはそれで凄く面倒だ。俺がアイズと手合わせすると聞いた瞬間、即行で問い詰めてくるのが目に見えてる。

 

 だから……アイズが再び本拠地(ホーム)へ来てくれることを祈ろう。もしそうなったら、向こうの本拠地(ホーム)に話を通してくれと頼めば良い。

 

 そう結論した俺は、オラリオの散策を行う事にした。

 

 しかし、散策を終えて本拠地(ホーム)に戻って来た際、予想外な出来事が起きた。【アポロン・ファミリア】が主催する『神の宴』の招待状が送られたと。

 

 

 

 

 

 

 宴当日。

 

 【ミアハ・ファミリア】はヘスティア様が用意してもらった服や馬車で、会場施設へ向かった。

 

 俺とミアハ様は燕尾服で、ナァーザさんは(右腕の義手を隠す長袖付きの)赤いドレスを纏っている。

 

 最初は自分達で用意すると断ったんだが、ヘスティア様が遠慮しなくていいと言うからお言葉に甘える事にした。

 

「本当にすまんな、ヘスティア、ベル。私たち三人の為に服も馬車も、何もかも手配してもらって」

 

「な~に、ナァーザ君達のためさ。偶には贅沢も必要だよ。特にリヴァン君には、色々と助けてもらったお礼もあるからね」

 

「ありがとうございます、ヘスティア様」

 

「あはは。改めて言われると、なんか照れますね」

 

 蒼海色(マリンブルー)のドレスを身に纏ったヘスティア様に、俺たち【ミアハ・ファミリア】は感謝するばかりだった。

 

 彼女の後ろにいるベルは俺とミアハ様と同じく燕尾服を身に纏ってるが、どうも服に着られてる印象がある。初めて着る服だから仕方ないだろう。

 

 そう考えると俺も該当するが、オラクル船団にいた頃はカスラから一通りの教養を受けて、宴関連にも参加した経験がある。尤も、主に相手先の御機嫌取りで全然楽しくなかったが。

 

 まぁそれは良いとしてだ。今回【アポロン・ファミリア】が開催する『神の宴』は、眷族一名もしくは二名引き連れて良いと、神と子を織り交ぜた異例のパーティらしい。

 

 余り詳しくないが、本来の『神の宴』は眷族の参加は認められてない。けれど、主催側が条件を出せば問題無さそうだ。俺からすれば理解出来ない行動だ。理解しようとも思わない。

 

 そう思いながら【ヘスティア・ファミリア】と一緒に絢爛豪華な会場へ入ると、既に多くの主神や眷族達が集まっていた。眷族達の方は同胞(エルフ)にドワーフ、獣人やアマゾネス、主に亜人(デミ・ヒューマン)が多くいた。俺もその一人だけど。

 

 俺達の入場に気付いた神ヘファイストスに神タケミカヅチ、そして神ヘルメスが近づいてくる。

 

 自身の知り合いにヘスティア様とミアハ様は笑みを浮かべながら声を掛けるも、神ヘルメスだけは余り歓迎の雰囲気はなかった。勝手に絡んできてると言えば正しい。

 

 三柱の神々も当然眷族を連れているが、神ヘファイストスだけはこの場にいない。今回は一人だけ連れて来てるみたいだが、今は辺りを散策してるらしい。

 

 神タケミカヅチも一人だけで、以前の件で色々な意味で世話になった(ミコト)だった。本当だったら団長の桜花も連れてくるみたいだったが、千草が桜花と急な予定があるからと言って遠慮したそうだ。

 

 ついでに神ヘルメスも同様に一人のみで、やっぱりと言うべきかアスフィさんだ。何かもう完全に神ヘルメスの付き人みたいに思える。

 

 そんな中、お決まりのパターンみたく神ヘルメスがまるでナンパするように、女性眷族の衣装を褒め称えている。命に可愛いと言いながら手を取って、その指に唇を落とす行為をした瞬間、神タケミカヅチとアスフィさんによる強烈な制裁を受けて吹っ飛んでいた。自業自得なので、同情なんか一切しない。

 

 

『――諸君、今日はよく足を運んでくれた!』

 

 

 すると、高らかな声が響き渡った。

 

 それに反応した全ての参加者たちが目が向かう先、大広間の奥に、人柱の男神が姿を現している。

 

 外見は容姿端麗な男神で、頭の上には緑葉を備える月桂樹の冠がある。

 

『今日は私の一存で趣向を変えてみたが、気に入ってもらえただろうか? 日々可愛がっている子供達を着飾り、こうして宴に連れ出すと言うのもまた一興だろう!』

 

 主催者らしく盛装する神アポロンの声はよく通っていたが、俺は気にせず別の方へ視線を向けている。

 

 男神の左右には男女の団員が控えており、その中には以前に『焰蜂亭(ひばちてい)』で見た男がいた。

 

 あの男が神アポロンの隣にいるのは、間違いなく【アポロン・ファミリア】の眷族だ。もしくは団長かもしれない。

 

 そう考えると、前の祝賀会でやらかしたアレは間違いなく何かしらの目的があったと見て間違いないだろう。同時に、この『神の宴』で何か仕掛けてくる筈だと。

 

『多くの同族、そして子供達の顔を見れて喜ばしい限りだ。今宵は、新しき出会いに恵まれる、そんな気さえする』

 

 ん? 神アポロンが此方に視線を向けたような気が……。

 

 思わず振り返すと、向こうは気にしてないように見向きもせずに挨拶を続けていた。

 

 ……俺の気のせいだと思いたいが、これは何かあると思って警戒した方が良さそうだ。出来れば俺の取り越し苦労であって欲しいが。

 

 

 

 

「どうしたのだ、リヴァン? 余り楽しそうではないみたいだが」

 

「……やっぱり神アポロンが気になるの?」

 

「ええ、まぁ……。どうも酒場の件が気になって」

 

 神アポロンが挨拶を終えた後、沢山の参加者が宴を楽しみ始めた事で大広間が騒がしくなっていた。

 

 皆から少し離れている俺は、ジュース入りのグラスを持ったまま佇んでいる。ベルもベルで同じ考えなのか、ヘスティア様の近くにいながらも、何度か神アポロンをチラチラと見ていた。

 

 そんな俺にミアハ様とナァーザさんが声を掛けたので、俺は思ったままの返答をした。

 

「つかぬ事を聞きますが、お二人は神アポロンについて何かご存知ですか?」

 

「知らない。あそこの団長――ヒュアキントス・クリオが『Lv.3』で、【太陽の光寵童(ボエプス・アポロ)】って言う二つ名で呼ばれているぐらいしか」

 

「ふむ。私もアポロンと大して関わりはないが、聞いた話によると――執念深い(・・・・)そうだ」

 

「? それは一体どう言う――」

 

 ミアハ様が妙に気になる単語を言ったので、どう言う意味なのか尋ねようとした直後。

 

 突然周囲がざわっ、と広間の入り口から起こった大きなどよめきによって、俺の声は遮られてしまった。

 

 気になって視線を飛ばすと、騒ぎの原因がすぐに理解した。

 

 衆目を根こそぎ集めているのは、以前に遭遇した猪人(ボアズ)――【猛者(おうじゃ)】オッタルと猫人(キャットピープル)――【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】のアレン・フローメル。そしてその二人を従えてる銀髪のクソ女神――フレイヤだ。

 

 あの出来事から既に二ヵ月以上経ってるが、勝手な理由で俺を『魅了』したフレイヤと、勝手な理由で殺そうとしたアレンを思い出しただけで(はらわた)が煮えくり返ってくる。尤も、フレイヤが俺に頭を下げて謝罪した為、今更それについて追及できなくなってるが。

 

 美の女神だからか、各派閥の団員達は口を開いてフレイヤに見入っている様子だ。しかも性別関係無く、まるで魂が抜けたかのように立ち尽くす人もいる。

 

 近くにいるナァーザさんも、いかんいかん、と首を振って明後日の方向へ視線を向けている。ベル達の方を見てみると、命は赤くなって呻いており、アスフィさんは初めから視線を明後日の方向に飛ばしている。ベルに至ってはヘスティア様が危険だと叫んで、フレイヤを見せないように遮られていた。

 

 どうやら俺みたいに異能(フォトン)を持ってないと、あの女神の『魅了』を抵抗(レジスト)出来ないようだ。それだけ美の女神が凄いって事か。

 

 すると、フレイヤは突然動きを止めたどころか、俺の方へと見つめ……そのまま微笑んだ。

 

 コツ、コツ、と靴を鳴らして歩み出していく。あの女神がいく先には多くの人がいるが、まるで見えない壁があるかのように人混みが散っていき、どんどん道が開けていく。獣人二人の従者を引き連れる女神は、間もなく俺達の前で足を止めた。

 

「来ていたのね、ミアハ。お元気かしら?」

 

「うむ。今宵もそなたは美しいな」

 

 フレイヤの挨拶にミアハ様が普通に褒めた直後、ナァーザさんが目を尖らせながら背中を抓っていた。「うっ!?」と悲鳴が飛ぶミアハ様に、俺は内心気の毒にと留めている。

 

 向こうは気にしてないのか、挨拶を終えると今度は俺の方を向いて笑みを深めた。

 

「久しぶりね、リヴァン。あの時会って以来だけど、元気そうで何よりだわ」

 

「……その節はどうも」

 

 挨拶してくるフレイヤに素っ気なく返す俺。それが気に入らないのか、オッタルとアレンが顔を顰めていた。オッタルはほんの少しだが、アレンは凄く分かりやすい程に怒りを露わにしている。

 

 俺とフレイヤのやり取りを見た神々や団員達が驚くように見ている。特にフレイヤ相手に素っ気ない返事をした俺に。

 

「聞いたわ。『Lv.2』にランクアップしたみたいね。私からご褒美をあげようと思っているのだけど」

 

「遠慮しとく。そう言うのは俺みたいな余所者じゃなく、自分の眷族だけにしてくれ」

 

「連れないわね……まぁいいわ。今回は(・・・)ここまでしておきましょう」

 

 今回は、か。また俺に絡んできそうな発言だ。

 

 用が済んだフレイヤは次にベルの方へと視線を向けて、そこへ向かおうと足を運ぶ。従者の二人も一緒に。

 

 けど、まだ俺の用は済んでいない。

 

「アレン・フローメル」

 

「その口で俺の名を気安く呼ぶんじゃねぇ、クソガキ」

 

 突然の名指しに従者の一人であるアレンが足を止め、振り向きながら俺を睨んできた。移動していたフレイヤとオッタルも気になったのか、同時に足を止めている。

 

「そんなクソガキからのアドバイスだ。アンタは今後宴に参加しない方が良い。そうやって誰彼構わず睨んでいたら、神フレイヤの品性を疑われる」

 

「どうやら今此処で俺に殺されたいようだな。鬱陶しい羽虫風情がいい気に――」

 

「アレン、止めなさい。私との約束を忘れたとは言わせないわよ?」

 

「…………………」

 

 今にも襲い掛かりそうに殺気を醸し出すアレンだったが、フレイヤの言葉で押し留まった。

 

 何の約束をしたのかは知らないが、直後に無表情のままオッタルの隣に立って無言となり、そのままフレイヤの後を追っていく。その後にはフレイヤがヘスティア様とベルの絡みがあっても終始無言だった。

 

 久しぶりに会っても、あの男は相変わらずのようだ。口の悪さはベート・ローガに匹敵している。もしもアレンとベート・ローガが鉢合わせたら、即行で罵り合戦をしそうだ。

 

 すると、突如ナァーザさんが険しい顔をしながら問い詰めてくる。

 

「何やってるの、リヴァン……! 相手は【フレイヤ・ファミリア】なのに、死にたいの……!?」

 

「すいません。以前の件があって、どうも口が勝手に動いてしまいました」

 

「だからってあんな喧嘩を売る行為は――」

 

「これこれ、ナァーザ。そうやってリヴァンを責めるのは良くないぞ」

 

「ミアハ様はリヴァンに甘すぎです。もう少し主神らしく諫めてくれればこんな事には……!」

 

 宥めようとするミアハ様だったが火に油みたいで、ナァーザさんは説教するように詰め寄る。

 

 ナァーザさんには悪いけど、俺としては絶対に譲れないところはある。いくら零細【ファミリア】だからって、俺はきっちりとケジメを付けないと気が済まないので。まぁどうしようもなくなった時は、責任を取る為に【ミアハ・ファミリア】を脱退する事を考えている。

 

「驚いたな。まさか神フレイヤだけでなく、【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】を相手にあそこまで言い切るとは」

 

「ん?」

 

 聞き覚えのある声に俺が振り向くと――

 

「18階層以来だな、リヴァン」

 

「これはこれは、まさか貴女も参加していたとは驚きです」

 

 深緑のドレスを身に纏った【ロキ・ファミリア】の副団長――リヴェリア・リヨス・アールヴが俺の前に姿を現していた。

 

 因みにベル達の方では、神ロキとアイズもいる。今はヘスティア様と神ロキの言い争いをしている最中だが。




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少年エルフ、色々と敵視される

 リヴェリアの登場に、多くの視線が集まっていた。まるでさっきのフレイヤみたいに、彼女の姿に見惚れている者もいる。

 

 その中で一番凄いのが同胞(エルフ)達だ。他所の【ファミリア】でも、崇拝している王族(ハイエルフ)が目の前にいる事で舞い上がっている。しかも主神以上に敬っている様子だ。

 

 けどそれとは対照的に、俺に対する視線が物凄くキツかった。リヴェリアが俺に話しかけた瞬間に。

 

 理由は既に分かっている。『何故リヴェリア様が、あんな小僧などに!?』と嫉妬してるから。その中には殺意を抱いている同胞(エルフ)もいるだろう。

 

 因みにナァーザさんはミアハ様を連れて既に避難していた。王族(ハイエルフ)のリヴェリアがいるだけで、他のエルフが凄く面倒な事になると知ってるみたいで、『どうぞごゆっくり』と言って逃げたんだ。

 

 俺が何かやった時はああだこうだと指摘するのに、いざ自分が面倒事に巻き込まれそうだと分かった途端に逃げるんだから。本当にあの人はいい性格している。

 

「流石は王族(ハイエルフ)。見目麗しいのは当然の事、その美しいドレスを身に纏って更に貴女の美しさを引き立てていますね」

 

「悪いがそう言った世辞はもう聞き飽きた。出来れば普通に話してくれ」

 

 俺が思ったままの事を言うと、リヴェリアが速攻で切り捨てるように言い放った。

 

 宴に参加してる同胞(エルフ)達の目があったので、取り敢えず王族(ハイエルフ)を敬う姿勢を取ってみたが、どうやらお気に召さなかったようだ。それどころか本当にうんざりしてるような表情をしてる。

 

 本当なら下賤な身である俺がこんな事をしてはいけないんだが……向こうに合わせますか。

 

「これは失礼。ですが王族(ハイエルフ)の貴女がこう言った場に参加すると、俺みたいな事を言うのは当然ですよ。それが嫌なら宴に参加しなければ良かったと思うんですが」

 

「勿論参加する気など無かったさ。だが、あそこにいる主神(ロキ)に参加するよう命じられてしまってな」

 

「なるほど」

 

 参加の理由を知った俺が振り向いた先に、男性用の正装をした朱髪の女神――神ロキがヘスティア様と未だに言い争いをしていた。

 

 それとは別に、神ロキの後ろには金髪金眼の少女――アイズもいる。ダンジョンで見る戦闘衣(バトル・クロス)ではなく、リヴェリアと同じく美しいドレスを身に纏っていた。それによってヘスティア様の後ろにいるベルが見惚れているのが一目で分かる。

 

 俺から見て、今のアイズはまるで絵本の中から飛び出したお姫様みたいだ。ベルがああなるのは凄く分かり、寧ろ当然だと思ってしまう。

 

 すると、ベルと目が合ったアイズは途端に頬を赤らめ、また軽く俯いて、小さく、もじもじと身体を揺らした。そのまま神ロキの体に陰に隠れようとする。

 

「うわぁ……あんな可愛らしいところはレアですねぇ。レフィ姉さんが見たら喜びそうです」 

 

「お前としては、レフィーヤのドレス姿を見たかったのではないのか?」

 

「……まぁ、否定はしません」

 

 数年振りに会ったレフィ姉さんが一段と可愛くなったから、アイズみたいなドレスを着たらさぞかし綺麗だろうなと思っていた。

 

 けど今のあの人は憧憬(アイズ)に夢中になってる事もあって、異性への恋が芽生えるのは暫く先になると思う。

 

 それに加えて、例え恋仲になろうとしても無理だ。俺は【ミアハ・ファミリア】で、レフィ姉さんは【ロキ・ファミリア】。聞いた話だと、他所の【ファミリア】で結婚するのは認められていないそうだ。余計な諍いを起こさない為として。

 

 神ロキとヘスティア様が醜い眷族自慢が勃発し、それを聞いて恥ずかしくなったベルとアイズがお互いの主神を引き剥がそうとている。

 

「あそこにいたら、確実にロキの眷族自慢に付き合わされるところでしたね」

 

「全く、ああいう事は止めてもらいたいものだ。見てるこっちまで恥ずかしくなる」

 

「リヴェリア、自分いつの間にそこにおんねん! そこのエルフの少年と話し終えたんなら、もう行くで!」

 

 呆れながら見ている中、リヴェリアがいなかった事に漸く気付いたロキが此方に向かって叫んできた。

 

 因みにアイズは俺がいる事に気付いて、少し驚いたように見ている。

 

「やれやれ。すまないがリヴァン、また後ほどな」

 

 主神の呼び出しに逆らえないのか、彼女は嘆息しながらも俺に一旦別れを告げ、神ロキとアイズのもとへ向かった。

 

 三人が集まった途端、次第に人集りが出来ていく。特に多くの同胞(エルフ)達が真っ先にリヴェリアに声を掛けている。

 

 崇拝する王族(ハイエルフ)に自分の顔をよく覚えてもらおうとしてるのか、ずっと褒め称える内容ばかりだった。聞こえてくる俺としては呆れているが、向こうからすれば真剣なんだろう。

 

 同胞(エルフ)達を無下に扱う事は出来ないようで、リヴェリアは一人一人と丁寧に対応している。きっと内心ではうんざりしてると思う。

 

 また後ほどと言ってたから、恐らくまた俺に話しかけてくるだろうと思った俺は、取り敢えずミアハ様達のいる所は向かおうとした。

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、俺はナァーザさんと一緒にミアハ様に連れられ、知神だと言う神々の挨拶回りをしていた。流石はミアハ様のお知り合いと言うべきか、人の好さそうな女神や男神ばかりだ。

 

 知神と言えば、【ディアンケヒト・ファミリア】は今回来てないようだ。アミッドさんが来たらナァーザさんが即座に絡んで言い争いになるだろうから、それは却って好都合だった。

 

 パーティーが始まって二時間以上経ち、少し疲れた俺はミアハ様達から離れて小休止することにした。

 

「ちっ、余計なのがいるな」

 

 バルコニーにいるベルを見た俺は足を運んで声を掛けようと思ったが、誰かと話しているのを見た途端に止めた。相手が神ヘルメスだったから。

 

 あの胡散臭い男神はミアハ様と違って簡単に気を許せる事が出来ない相手だ。俺と違ってベルはそんな気は全くないようで、何の警戒感もなく話し続けている。

 

 様子を見る限りだと暫く掛かりそうだと思った俺は、ベルと話すのは諦めようと、バルコニーへ向かうのを止めようとする。

 

 そんな中、突然どこからともなく流麗な音楽が流れだし、広間の中央では舞踏が始まろうとする。ついでにまたしてもヘスティア様と神ロキが口喧嘩をしてる姿を見かけるも、敢えて気にしないようにした。

 

 リヴェリアも流石に付き合いきれないと思ってか、アイズを連れてどこかへ行こうとするが、またしても同胞(エルフ)達に捕まっていた。一人だけとなってしまったアイズは居た堪れないのか、リヴェリアから離れ、バルコニーの出入り口近くで佇んでいる。

 

 仲間外れになったみたいと言うか何と言うか……アレはもう完全一人ぼっちになってるな。【剣姫】と呼ばれるアイズは誰しも声を掛けたがっているだろうが、聞いた話だと神ロキが凄く大切にしてる事もあって、下手に手を出せば八つ裂きにされるそうだ。

 

 疚しい事が無ければ問題無いだろうと思った俺は、アイズの気の毒そうな姿を見て話しかける事にした。

 

「やぁ、アイズ」

 

「リヴァン……」

 

 近付いた俺にアイズが振り向いた。相手が知り合いの俺と言う事もあってか、少しばかり安堵したような感じがする。

 

 それから少しの間、俺は彼女の話し相手になった。この前会った件についてとか色々と。

 

 

 

「ベル君、リヴァン君が【剣姫】と話してるよ」

 

「え? ……ええ!? な、何でリヴァンがアイズさんと……!?」

 

 

 バルコニーから話し声が聞こえたが、取り敢えず気にしないでおくとしよう。

 

「よく似合ってますよ、そのドレス」

 

「……正直に言うと、初めて着たからからよく分からない」

 

「アイズはこう言ったパーティーとか参加した事がないんですか?」

 

 俺が問うと彼女はコクリと頷く。

 

 こう言うのは大変失礼だが、確かにアイズにパーティーは合わないと思う。

 

 『豊饒の女主人』とかでの酒場で宴会を楽しむなら問題無い。しかし、こんな豪華な施設で上品な方々と談笑と言う名の腹芸は無理だ。自ら積極的に喋る事をしないアイズからすれば拷問に等しいだろう。

 

 神ロキからすれば、大事な眷族である彼女と一緒に楽しもうと思って連れて来たんだろうが、完全に人選ミスだ。普通に考えれば、連れて来るなら団長のフィン・ディムナが適任だ。あの方はアイズと違って腹芸がしっかりと出来ると思うので。

 

「じゃあ、広間の中央でやってるダンスとかも?」

 

「……やったことない」

 

 おおう。これは致命的だ。

 

 俺がオラクル船団で初めてパーティに出席する際、カスラから一通りの知識を教えられたのに。それをまさか予習無しでぶっつけ本番でやらせるって……神ロキも惨い事をする。

 

 と言うかリヴェリアは教えなかったんだろうか。それとも急な話だったから、教える暇が無かったと言うオチなのかどうかは分からないけど。

 

「良ければ、俺がダンスを教えましょうか? この前、ウチの新商品を買ってくれたお礼として」

 

「え?」

 

 俺が紳士の振る舞いの如く手を差し出すと、アイズはキョトンとしていた。

 

 

「おいおいベル君、早く決断しないとリヴァン君が【剣姫】とダンスしちゃうよ!」

 

「む、無理! 絶対に無理ですけど……でも、でも……!」

 

 

 何やら神ヘルメスとベルから焦りの声が聞こえてくる。

 

 どうやらベルがアイズと踊りたがってるようだ。そこを神ヘルメスが背中を押してるが、優柔不断のベルは行けず仕舞いとなってると言ったところか。

 

 少しばかり情けない友達の為に手を貸そうと、俺はこう言いだした。

 

「アイズ、どうやら貴女と踊りたい相手が向こうにいるようですよ」

 

「え………ベル?」

 

「!」

 

 俺がバルコニーの方へ指し、その方へと視線を向けたアイズは対象と目が合った。直後にベルは石みたいに固まってる。

 

「折角の機会ですし、ベルと踊ってみたらどうですか? いい思い出になると思いますよ。それじゃ俺はこれで」

 

「あ、リヴァン……」

 

 言うべき事を言った俺は、何故か引き留めようとしてくるアイズに気にせず彼女と別れた。

 

 少し離れた所から見守ってると、ベルは神ヘルメスの他、ダンスの誘い方をするミアハ様とナァーザさんの助力もあって、漸く決断して彼女とダンスをする事となった。

 

「う~ん、良いね~。どっちも初々しくて応援したくなっちゃうなぁ~」

 

「何を言っているんだ、お前は」

 

 初めてダンスをするベルとアイズの姿に俺が父親視点で見てると、誰かが呆れたように声を掛けてきた。振り向くとリヴェリアだった。

 

「おや、貴女は同胞(エルフ)達と談笑中の筈では?」

 

「つい先ほど終えたばかりだ。ところで、アイズがあの少年と踊っているのはリヴァンの差し金か?」

 

「人聞きが悪いですね。俺はただ彼女と踊りたがってるベルの事を教えただけですよ」

 

 俺がやったのはそれだけだ。そこを神ヘルメス達が乗っかるようにやったから、決して俺だけじゃない。

 

「もしかして不味かったですか? アイズが別の【ファミリア】とダンスさせるのは」

 

「今も神ヘスティアと言い争ってるロキなら文句を言うかもしれないが、私としては問題無い。というより、よくやってくれたと褒めたいぐらいだ」

 

「理由は?」

 

「アイズがあんな楽しそうに振舞う姿を見るのは久しぶりでな。実に微笑ましい光景だ」

 

 リヴェリアの言う理由がまるで母親みたいに聞こえる。結局は俺と同じじゃないか。

 

 違いがあるとすれば、彼女は俺より遥かに年上――

 

「リヴァン、何か失礼な事を考えていないか?」

 

「いえ、何も」

 

 途端にリヴェリアが睨むように見てきたので、俺は即座に否定しながら考えるのを止める事にした。

 

 鋭いな、この人。もしかして魔導士の他に、超能力者(エスパー)のスキルもあったりして。

 

 ……とまぁ、そんな冗談はどうでも良いとして。俺が余計な事を考えてしまった為にリヴェリアの機嫌が悪くなってしまった。ここはどうにかしないと不味い。さっきから此方を見ている同胞(エルフ)達の目もあるので。

 

「何故か分かりませんが貴女の御機嫌を損ねてしまいましたので、もし宜しければ私と踊って頂けますか?」

 

「む?」

 

 突如俺が手を差し伸べ、恭しく頭を垂れると意外そうな表情をするリヴェリア。

 

 普通なら断られると思うが――

 

「良かろう。私をしっかりとリードしてくれ、同胞の少年よ」

 

「お任せを」

 

 リヴェリアは笑みを浮かべて手を重ねた。

 

 

「リ、リヴェリア様が殿方と踊るなんて……!」

 

「おい誰だあの同胞は……って、よく見たらリヴェリア様が声を掛けた者じゃないか!」

 

「おのれぇ、何故リヴェリア様はあんな礼儀知らずの同胞と……! 私の時は速攻で断られたのに!」

 

 

 その光景を見ていた(主に男性陣の)同胞(エルフ)達は信じられないように見ており、俺に対する嫉妬と殺意の視線を送っていた。

 

 握り合った俺達はそのままダンスホールへ歩んだ後、ダンスを開始する。

 

 言うまでもなく、ダンスもそれなりに出来る。練習相手は主にクーナさんで、最初は色々とダメ出しされまくったのは今でもよく憶えてる。

 

「どうですか、リヴェリア?」

 

「驚いたな。お前がここまで出来るとは思ってなかったぞ」

 

「それは光栄です」

 

 踊りながらも採点を求めるが、返答を聞いただけで俺は充分に満足する。

 

 右、左、右、左、とお互いに動きを合わせて踊る俺とリヴェリア。揃ったステップを踏んでいる俺達に周囲はおおっ、と感嘆の声をあげていた。

 

『――うおおおおおおおおおおおおおおおっ!? アイズたーんっ、ドチビんとこの子と何やっとるんやー!? リヴェリアもリヴェリアで、何でミアハんとこの子と踊っとるんやー!?』

 

『止めるんだベルくーんっ! おのれヴァレン何某ぃぃぃぃ!?』

 

 奥から放たれた絶叫に俺とリヴェリアはダンスしながら振り向いた。視界にはアスフィさんによって捕獲されたヘスティア様と神ロキが怒髪天となっている。

 

「あの、リヴェリア……」

 

「何も言うな。ついでに見なかった事にして欲しい」

 

「あ、はい……」

 

 王族(ハイエルフ)の有無を言わさぬ御勅命に俺は従う事にした。俺としても逆らう理由は一切無い。

 

『……オッタル、ここにミノタウロスの群れを連れて来れないかしら?』

 

『不可能です、フレイヤ様……』

 

『じゃあアレン、ゴライアスを連れて来て』

 

『フレイヤ様、それも無理です……』

 

 何か【フレイヤ・ファミリア】側から物騒な話が聞こえたが、そこは聞かなかった事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 ダンスを終えた俺とリヴェリアは、ダンスホールから離れた。

 

 その後に怒気を纏ったヘスティア様と神ロキが神ヘルメスの背後に立ち、即行で身体を掴んで広間の隅へと連れて行かれた。ぎゃあああああああああああっという神ヘルメスの叫び声が聞こえたが、俺は何も聞かなかった事にする。

 

 数分経ち、処刑を終えた二柱の女神は揃って自身の大事な眷族に迫り、逆らうのを許さないと言わんばかりにダンスをしようと命令している。言うまでもないがヘスティア様はベルに、神ロキはアイズにだ。

 

 これには見ていられないと思ったリヴェリアは、神ロキの暴走を止めようとするが――

 

「――諸君、宴は楽しんでいるかな?」

 

 突如、主催者の神アポロンが登場した事で動きを止めた。

 

 少し忘れかけていた警戒すべき対象が動き出した事に、俺は思い出しながらもジッと見た。

 

 周囲が神アポロンと従者達に注目しており、向こうはベルとヘスティア様の前で止まって正対する形となる。

 

 それといつの間にか舞踏の演奏は止まっており、神アポロンの声が思いのほか響いていた。

 

「遅くなったが……ヘスティア。先日は私の眷族が世話になった」

 

「……世話と言ってるけど、向こうの自業自得じゃないかな?」

 

 二柱の話を聞いて俺はすぐに分かった。間違いなく先日にあった酒場の件だと言う事に。

 

 しかし、ヘスティア様の皮肉に神アポロンは動じる様子を見せない。

 

「そうだな。それは認めよう。だが……いくら私闘とはいえ、徹底的に痛めつけて(・・・・・・・・・)重傷を負わされた(・・・・・・・・)のは頂けないな。その分の代償をもらい受けたい」

 

「………は?」

 

 寝耳に水と言わんばかりに頓狂な声をあげるヘスティア様。

 

 徹底的に痛めつけて重傷を負わされた? どういう事だ? 俺とヴェルフはストレート二発で伸したが、それ以上はやってない。

 

「一体何の話だ!? 聞いた話では君の子が一人でベル君達に挑んで、軽く伸されただけじゃないか! 重傷なんか負わせてないぞ!」

 

「だが私の愛しいルアンは、あの日、目を背けたくなるような姿で帰って来た。コレを見てもまだ信じられないのかい!?」

 

 そう言って神アポロンがいつの間にか連れて来た、全身を包帯でグルグル巻きのミイラとなってる小人族(パルゥム)の冒険者を見せようとする。

 

「痛えぇ、痛えよぉ~」

 

 呻く奴を見てこう思った。アレは一体何の茶番なのかと。

 

 呆れてみている俺を余所に、ベルとヘスティアは信じられないように見ていた。

 

「リ、リヴァン君、どういう事なんだい!?」

 

 すると、ヘスティア様が助けを求めるよう俺に向かって叫んだ。

 

 全員が一斉に此方へ視線を向けてくるも、神アポロンは気にせず茶番を続けようとする。

 

「そう、彼こそがルアンと直接戦った一人! ヘスティアの子が彼にルアンを徹底的に痛めつけるよう指示を出して実行した!」

 

「はぁ?」

 

 ベルには何もさせずただ見守らせただけで、主に俺がやった筈なんだが。それを何故あたかもベルが主犯みたいな流れにしてるんだ、この男神は?

 

「それを目撃した証人も多くいる。言い逃れは出来ない」

 

 パチンと指を弾くと、ベル達を取り囲む円から複数の男達が歩み出てくる。神や冒険者だ。

 

 連中は揃いも揃って、神アポロンの言葉を肯定するどころか、低劣な笑みを浮かべていた。

 

 どうやらこれは完全に嵌められたようだ。いや、ある意味意趣返しみたいなものだろう。俺が周囲にいた客を利用して私闘の展開にしたように、向こうも偽りの証人を作ってベルを主犯にしようと。

 

「冗談じゃない! こんな茶番に付き合ってられるか! 行くぞ、ベル君!」

 

「ほぉ~? どうやっても罪を認めないつもりか、ヘスティア」

 

 初めから嵌めるつもりで仕組んだろうに、よくもまぁあんな事を抜け抜けと言えるもんだ。

 

 醜悪に歪んだ笑みを浮かべる神アポロンは、口角を吊り上げた。

 

「ならば仕方がない。【アポロン・ファミリア】は、君に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む!」

 

 それを聞いたベルとヘスティア様だけでなく、俺も目を見開いた。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)。謂わば神の代理戦争。ファミリアの間でルールを定めて行われる、派閥同士の決闘。神会(デナトゥス)で事前に手続きや勝負形式、勝利後の要求などの取り決めを行い、戦争遊戯(ウォーゲーム)に敗北した神は勝利した神の要求を絶対に応えなければならない決まりとなってる総力戦。

 

 ギルドの講習で学んだ知識を思い出した俺は、神アポロンの目的が分かった。この男神は戦争遊戯(ウォーゲーム)をする為に仕組んだのだと。

 

 だが、理由が分からない。【ヘスティア・ファミリア】に戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛ける最大の理由が。

 

 ベルやヘスティア様に大変失礼だが、【アポロン・ファミリア】が零細の【ヘスティア・ファミリア】に挑んでもメリットなんか一切無い。雀の涙みたいな資金と、古びた教会の本拠地(ホーム)だけだ。

 

 娯楽好きの神々が面白そうに囃し立ててる中、俺は神アポロンが仕掛ける理由を必死に考えていた。

 

「我々が勝ったら……君の眷族、ベル・クラネルをもらう」

 

 すると、向こうが勝利した時の要求を告げた。

 

「最初からそれが狙いかっ……!」

 

「駄目じゃないかぁ、ヘスティア~? こんな可愛い子を独り占めしちゃあ~」

 

 神アポロンの悍ましい笑みに俺は鳥肌がたった。

 

 どうやらあの変態男神はベルを我が物にしたいようだ。気持ち悪いったらありゃしない。

 

 …………まぁそれはそうと。理由はどうあれ、向こうが『戦争遊戯(ウォーゲーム)』と言う明確な敵対行為をしてきた。もうこれは誰も止める事は出来ない空気になっている。もう周囲にいる神々が賛成の空気を作っているから、誰が言っても耳を貸してくれないだろう。

 

 加えて、ヘスティア様の数少ない味方であるミアハ様と神タケミカヅチ、そして神ヘファイストスや神ヘルメスも助けようとする動きを全く見せない。というより、手が出せないと言った方が正しいか。この空気の前では。

 

 この瞬間、【ヘスティア・ファミリア】は孤立無援だと悟った。

 

「それでヘスティア、答えは?」

 

「受ける義理なんか――」

 

「ここは取り敢えず受けておきましょう、ヘスティア様」

 

「はぁっ!?」

 

 返答を求める神アポロンにヘスティア様が突っぱねようとしてる最中、突然割って入って来た俺に驚きの声をあげた。

 

 誰もが驚愕の視線を送っているが、俺は気にせずベルとヘスティア様に近付いている。

 

「な、何を言ってるんだいリヴァン君!? 君はボクの【ファミリア】の団員がベル君しかいないのを知ってるだろう!?」

 

「勿論分かってます。ですが神アポロンはそれを承知の上で用意周到に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を仕掛けたんです。そんなお方が、ヘスティア様が拒否したところで簡単に諦めると思いますか?」

 

「ッ!」

 

 俺の言葉を聞いたヘスティア様は何かを思い出したような表情となった。対して神アポロンは俺の指摘を聞いても微動だにせず、ただ嫌らしい笑みを浮かべているだけだ。

 

「……念の為に訊くけどアポロン、此処でボクが断った後はどうするつもりなんだい?」

 

「何を言ってるのか分からないなぁ~。そうなれば私は、君が考えを改めるまで気長に待つだけさ」

 

「………そうだった。君がそう言う性格だったのをすっかり忘れてたよ」

 

 しらばっくれた台詞を吐く神アポロンに、ヘスティア様は忌々しそうに口を歪める。

 

 この方がこうなるって事は、相当嫌な性格をしているんだろう。やっぱり引き留めて正解だったな。

 

 拒否しても無駄だと分かったヘスティア様は、次に俺の方へと視線を向けてくる。

 

「でもリヴァン君、引き留めてくれたのはありがたいけど、どの道ボク達が不利である事に変わりはないんだよ。君の事だから、何か考えがあって言ったんだよね?」

 

「勿論です」

 

「リヴァン、一体どんな考えなんだい?」

 

 そうでなかったら、ヘスティア様を引き留めたりはしない。

 

 ベルも俺に何か期待するような目で見ている。

 

「俺が【ヘスティア・ファミリア】の助っ人要因になってベルを勝利させます。ただそれだけです」

 

「「へ?」」

 

 俺が考えを簡潔に述べると、二人は揃って目が点になる。

 

 そして――

 

『……………ぷっ………くくくくく………はははははははははは! あははははははははははははは!!!!』

 

 一部を除くこの場にいる者達が俺を嘲るように見ながら大笑いをしたのであった。

 

 今の内に好きなだけ笑って、後で後悔するといいさ。エトワールクラスがどれだけ恐ろしい力を持っているかじっくり教えてやる。




原作と違う流れにしました。

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少年エルフ、友達(ベル)を助ける

今回は短いです。


 会場全体が大爆笑の渦になった後、同様に笑っていた神アポロンは特例として俺の参加を認めてくれた。

 

 本来なら【ヘスティア・ファミリア】じゃない他所の俺は参加出来ないが、自分を心底笑わせてくれたお礼だそうだ。寧ろ、やれるものならやってみろと言う余裕の表れだった。

 

 確かに普通に考えれば、俺一人加わったところで、かなりの団員達がいる【アポロン・ファミリア】の勝利は揺るぎはしない。総力戦となる戦争遊戯(ウォーゲーム)はそんなに甘いものじゃないのは【ファミリア】にいる誰もが知っている。

 

 神アポロンも当然それを分かっているから、俺の参加は友達のベルを助けようとする無意味な行動としか見てないだろう。

 

 それどころか――

 

『リヴァン・ウィリディス。参加すると言うなら、我々が勝ったら君も私の【ファミリア】に入ってもらう。私の前であんな事を言ったのだから、当然それくらいの覚悟はあるんだろう?』

 

 まるで飛んで火に入る夏の虫みたいに思ってたみたいに、嫌らしい笑みを浮かべながら軍門に下れと言い放った。

 

 あの笑みに内心辟易しながらも、それで構わないと言った。その瞬間、『君も一緒に可愛がってあげよう』と一段と気持ち悪い笑みで言われた事で、余計負けるわけにはいかないと改めて決意した。

 

 俺としても、負けたら見捨てるという無責任な事をするつもりは毛頭ない。一度関わったら最後まで付き合うつもりでいる。と言っても万が一に負けてしまった場合、犯罪者覚悟でベルとヘスティア様をオラリオから逃がす予定だ。あの変態に好き放題されるくらいなら、アークスの力をフル活用して御法度である神殺しも辞さない。

 

 とまあ、そんなIFの事はどうでもいいとして、今は目の前の事を考えなければならなかった。

 

 今回俺がやった事は、ミアハ様達に相談一切無しの完全な独断行動だ。只でさえ俺は色々と騒ぎを起こしてるから、これ以上(ナァーザさんに)迷惑が掛からないよう、俺はベル達と行動すると決めた。

 

 一応、神アポロンにも二人は一切関係無いと言ってある。向こうは【ミアハ・ファミリア】に余り警戒してないようで、俺の退団儀式まで一切手を出さないと誓ってくれた。

 

 これには流石のミアハ様も口を挟もうとしていたが、どうにか留まるよう俺の方で説得した。ナァーザさんの援護もあって、仕方ないという感じで何とか収まっている。

 

 因みにナァーザさんが俺の説得に手を貸してくれた理由は至って簡単だ。最近勝手な事ばかりしてる俺への罰として、団長命令で『戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わるまで本拠地(ホーム)に帰ってこないで』と下されたのである。

 

 俺からすれば願ってもない事だったので、何一つ文句を言うこと無く受け入れた。逆にベルとヘスティア様が凄く申し訳なさそうに見ていたが、そこは気にしないようにと俺の方で言ってある。

 

 そして、『神の宴』から一夜が明けた。

 

 

 

 

 

「リヴァン、僕達としては嬉しいんだけど、本当に良いのかい? 君は違う【ファミリア】なのに」

 

「気にすんなって。あの場で行動しなければ、逆に俺が後悔してたからな」

 

 場所は【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)である教会の隠し部屋。ナァーザさんから罰を下された俺はここで泊まる事となった。

 

「でもリヴァン君、勝算はあるのかい? 君が強いのはこの前の18階層で分かってはいるけど……ベル君が調べた際に【アポロン・ファミリア】は、かなりの人数で冒険者の質も高い。あそこで戦った上級冒険者達より強い筈だよ」

 

 ヘスティア様が不安そうに、18階層で戦った上級冒険者と【アポロン・ファミリア】を比較していた。

 

 と言うかベル、いつの間にか調べていたんだな。多分だが、酒場の件があってギルド辺りで調べたんだろう。

 

「まぁそこはご安心ください。俺が全力でベルを援護しますから」

 

「う~ん、そう言われてもねぇ~……」

 

 俺がダンジョンで活躍したのは知ってても、相手はモンスターじゃなくて冒険者。本能で襲い掛かるモンスターと違い、様々な手段を用いて戦おうとする冒険者では勝手が違う。ヘスティア様が不安がるのは当然だろう。

 

 まぁ俺としても、アークスの力を最大限に使って絶対に勝てるとは言えない。【ヘスティア・ファミリア】や【ミアハ・ファミリア】と違って、【アポロン・ファミリア】は遥かに格上の相手だ。下手をすれば負ける可能性だってある。

 

 それに加え、俺は最近腕が鈍りがちだった。この前の黒いゴライアス戦の時は全力で戦ったが、思った以上に戦えなかった。

 

 理由としては、ダンジョン上層や中層のモンスターが簡単に倒せてしまうほど弱い相手だったので、歯応えのある相手と全く戦えてない。オラクル船団にいた時は、ダーカーという強敵と戦う日々を送ってたから大して困ってなかった。修行が必要な時はクーナさんやアイカさんに頼んで貰った事もある。

 

 けど、このオラリオで自分より格上の人と修行出来る相手がいない。作業同然のダンジョン探索を続けて腕が鈍っていくばかりだ。これは本格的にどうにかしないと不味い。

 

 自分が知ってる格上と言えば、【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】だ。余りに有名過ぎる【ファミリア】だから論外だ。

 

 前者は別として、後者の方は何とかお願い出来るかもしれない。あそこの団長や幹部達は俺やベルにそれなりの興味を抱いてるから、もしかすれば多少のお願いは通るかもしれない。尤も、それに見合う代償を用意しなければ、向こうは絶対に首を縦に振ってくれるとは思えないが。

 

 すると、ベルは何か思い出したようにこう言った。

 

「あっ……リリとヴェルフに戦争遊戯(ウォーゲーム)の事を言ってなかった」

 

 忘れてたと言うベルだったが、俺は大して問題無いと思う。

 

 あの会場に神ヘファイストスがいたから、戻った後に教えていると思う。リリルカも恐らく今日になって、戦争遊戯(ウォーゲーム)の事を知る事になるだろう。

 

 恐らく後数時間経てば、向こうから血相を変えてこの本拠地(ホーム)に来る――

 

「大変だベル、ヘスティア様! リリスケが【ソーマ・ファミリア】の連中に連れて行かれた!」

 

『!』

 

 かと思いきや、ヴェルフからの予想外の報告に俺達は目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

「リ、リヴァンがベル・クラネルの【ファミリア】の助っ人として、【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加!? それは一体どういう事ですか、リヴェリア様!?」

 

 場所は変わって【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)

 

 団員達が集まる応接室に、リヴェリアが昨夜の『神の宴』について話していた。

 

 それを聞いたレフィーヤ・ウィリディスが仰天し、立ち振る舞いを無視して詰め寄っている。

 

 因みに先程までリヴェリアがリヴァンにダンスの誘いをされて踊った事を教えた瞬間、聞いていたエルフ達は憤慨していた。特にアリシア達が『なんて不敬な!』と怒りを露わにする程に。尤も、そこはリヴェリアの方でフォローして何とか事無きを得ている。

 

「落ち着け、レフィーヤ。全く、リヴァンの従姉ならもう少し冷静になれ」

 

「しかし、あの小僧は一体何を考えておるんじゃ? いくら『Lv.2』にランクアップしたとは言え、一人加わったところで『アポロン・ファミリア』相手に勝てるとは到底思えんのじゃが」

 

 ソファーの上に座りながらレフィーヤを宥めるリヴェリアに、隣にいるドワーフのガレスが不可思議そうに言った。

 

 端から見れば、リヴァンの行動は血迷ったとしか思えない行動だ。彼もそれくらいの事は分かっている筈だが、何故そんな事をしたのかが全く理解出来ない。

 

「見捨てたくなかったからじゃないの? あの子、アルゴノゥト君と凄く仲が良い友達みたいだし」

 

「いくらそうでも、戦争遊戯(ウォーゲーム)となれば話は別よ」

 

 当てずっぽうに言うティオナに対し、彼女の姉であるティオネが指摘するように言い返す。

 

 仲が良いと言っても、【ファミリア】同士の戦いになれば関わろうとはしない。それは却って己の主神や団員達に迷惑を被ってしまうから、基本的に関わらない事になっている。

 

 けど、リヴァンは無視するように介入した。完全に周囲の事を全く考えてない迷惑行動となるから、誰に何を言われても文句が言えなくなってしまう。

 

「んなクソエルフなんかほっとけ。自分から言い出したんだろ?」

 

 全くどうでも良さそうに言い放つベート。

 

 以前の酒場の件で口が回る奴と思っていた彼だったが、今回の件を聞いて完全に呆れ果てている。たかが『Lv.2』にランクアップしたお調子者のザコと認定していた。

 

「んー……あの彼が、何の勝算もなく大胆な発言をしたとは到底思えないね」

 

 一通りの話を聞いていたフィンはこれまでの出来事を思い出そうとする。

 

 前々回の遠征後で『豊饒の女主人』でベートが暴言を吐いた後、リヴァンが【ロキ・ファミリア(じぶんたち)】に向かって堂々と抗議した事。前回の遠征中に18階層で遭遇した際、自分と対面時に情報交換を上手く躱した事。

 

 まともに話したのはまだ二回だけだが、それでもフィンはリヴァンを頭の回転が早いエルフと見ている。だから今回あった『神の宴』で起こした行動は、何か考えがあって動いたんじゃないかと思っている。

 

 自分が助っ人要因になって【ヘスティア・ファミリア】を勝たせる、と言うリヴァンの考えをリヴェリアから聞いたが、きっとそれだけではないとフィンは思っている。何か他にも勝つ為の策を考えているんじゃないかと。

 

「わ、私、リヴァンに会って考えを改めるように説得をして――」

 

「駄目だよ、レフィーヤ」

 

 団員に早まった行動をさせないと、考えに没頭していたフィンは即座に切り替えて阻止した。

 

「君が心配する気持ちは分かる。だけど今の彼はヘスティア派に加わっているから、手を貸すような真似はしないでくれ」

 

「ち、違います! 私はただ、戦争遊戯(ウォーゲーム)から手を引くように説得するだけで……!」

 

「彼は自らの意思で参加したんだ。君がそうしたところで撤回するとは思えない。それにこれはあくまで他派閥の問題だ。僕達が介入できるものじゃない」

 

「う……」

 

 釘を刺されたレフィーヤは押し黙ってしまう。

 

 フィンの言う通り、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】がやるから、【ロキ・ファミリア】が介入する理由は一切無い。そこを従姉だからとレフィーヤが首を突っ込んでしまえば、色々と面倒事が起きてしまう。

 

「それとアイズも同様だよ。君も間違って介入しないようにと、この場にいないロキから既に厳命されているからね」

 

「うん……わかった」

 

 まるで行動はお見通しと言うように釘を刺すフィンに、アイズは小さく頷くしかなかった。

 

 アイズとしてはベルとリヴァンの手助けをしたいのが本音だ。既にもう知らない仲ではない上に、彼女としては二人が神アポロンに連れて行かれるのを考えるだけで嫌な気持ちになってしまう。あの気持ち悪い笑みを見て猶更に。

 

 因みにロキはフィンの言う通り、現在は本拠地(ホーム)にいない。戦争遊戯(ウォーゲーム)についての情報収集を始めているので。

 

 すると、偶然に開いている応接室の窓から騒がしい声が聞こえた。主に相手を罵る叫び声が。

 

 フィン達は気になって声がした方へ視線を向けていると、一人の団員が応接室に入って来た。

 

「だ、団長! 【リトル・ルーキー】とレフィーヤの従弟が来てるっす!」

 

「何だって?」

 

 団員――ラウルからの報告にフィンだけでなく、この場にいるアイズ達も同様に目を見開いていた。




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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ行く

 ヴェルフからの情報にベルとヘスティア様だけでなく、一緒に聞いていた俺も全く予想外だった。何故リリルカが【ソーマ・ファミリア】に連れていかれたのかと。

 

 聞いた話によると、二人は今日に昨夜の宴で戦争遊戯(ウォーゲーム)を知り、大慌てで廃教会へ向かおうとしていた際、【ソーマ・ファミリア】の一団と遭遇したそうだ。

 

 そこで団長と思わしき男が前に出てリリルカに戻って来いと強要され、嫌だと言った瞬間にヴェルフや【ヘスティア・ファミリア】に総攻撃を仕掛けると言う最悪な宣告をして。

 

 最初は何故そんなバカげた事をするのかと思った。いくら【ヘスティア・ファミリア】が零細とは言え、何の理由も無しに襲い掛かったらギルドからの罰則(ペナルティ)が下される事ぐらいは分かっている筈である。

 

 けれど、【ソーマ・ファミリア】には総攻撃を仕掛ける理由があるようだ。死んだと思っていた筈のリリルカが、実は【リトル・ルーキー】のベルを筆頭に誑かした連中に(かどわ)かされていたから、然るべき報復を受けて貰うと言う正当な理由が。

 

 リリルカは何もかも察したように諦観の表情となり、団長の男に向かって条件を言った。主神のもとに帰る際、ベル達に一切手を出すなと。その懇願に向こうは『戻ってくるなら構わない』とあっさり了承したそうだ。

 

 一緒にいたヴェルフは最初抵抗しようとするが、リリルカが必死になって手を出さないよう懇願されただけでなく、武装してる【ソーマ・ファミリア】の圧倒的な人数を前に諦めざるを得なかった。無力な自分を恨みつつも、ベル達がいる本拠地(ホーム)へ来て報告しに今に至る。

 

 俺と一緒に聞いていたベルは当然激昂し、動き出そうとした。

 

 けど、俺は腕を掴んで阻止する。

 

「待てベル、何処へ行くつもりだ? 今は戦争遊戯(ウォーゲーム)が控えているのに」

 

「リリを助けに行くに決まってるだろう!」

 

「彼女がやった事を無駄にする気か? もしもそうしたら最後、【ソーマ・ファミリア】が本格的に動くぞ」

 

 奴等からすれば格好の的になるだろう。諸悪の根源扱いしているベルが行けば、正当な理由で迎撃出来るから、ギルドからの罰則(ペナルティ)は回避される。それどころか逆に【ヘスティア・ファミリア】を訴えて、団員(リリルカ)を誑かした代償を支払わせる行為をするかもしれない。

 

 しかし俺には分からなかった。ベル達が【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)が控えてる中、何故【ソーマ・ファミリア】が今になってリリルカを取り返そうと動き出したのかが。

 

 そもそも向こうの団員達から用済みとされて死亡扱いになっていると聞いた。だと言うのに、一体何処で生存情報を知ったんだろうか。

 

 すると、ヴェルフが思い出したような表情になって俺達にこう言った。

 

「そういや、あそこの団長が『アポロン派から依頼を受けた』とか言ってたような……」

 

「何だって! アポロンの奴、そこまでしてベル君を奪うつもりだったのか……!」

 

 ヴェルフからの更なる情報にヘスティア様が驚愕した。

 

 どうやら奴等が動いたのは【アポロン・ファミリア】が絡んでいたようだ。もしかすれば、変態男神(アポロン)が事前に協力の依頼をしたのかもしれない。どこかで入手したリリルカの生存情報と報酬を出すから、自分達に協力しろと言った感じで。

 

 あの変態男神(アポロン)が用意周到に戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛けたんだから、それ位の事はやりかねない。俺の推測が正解であるかどうかは分からないが。

 

 今のところは【アポロン・ファミリア】の思惑通りに動いているって事か。ついでに【ソーマ・ファミリア】も。

 

 ベル奪取の為にここまでやる神アポロンの嫌らしい笑みを想像しただけで段々と殺意が湧いてくる。神殺しをしたいと思うほどに。

 

 俺の考えはどうでも良いとして、問題はベルだ。リリルカを助けに行きたいと、さっきから暴れている。

 

「放してリヴァン! 早くリリを助けに行かないと……!」

 

「だから落ち着けって! 彼女は戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わってからでも助けに行けば――」

 

「リリは僕の大事な仲間なんだ! 後回しになんか出来ないよ!」

 

「!」

 

 それを聞いた俺は何も言い返せなくなってしまう。

 

 考えてみればそうだった。例え一時的でもベルは仲間を見捨てる行為なんか絶対にしない。そう言うところが良いから俺はベルの手助けをしている。

 

 俺だってもしも友達のベルが誰かに誘拐されたなんて知ったら、止めようとする周囲を振り切って真っ先に助けに行こうとするだろう。

 

 そんな中、ヘスティア様は意を決したように言う。

 

「待つんだベル君、君はリヴァン君と一緒にやるべき事をやってくれ。サポーター君はボクが必ず助ける!」

 

 相手が己の主神だからか、ベルはやっと思い止まってくれた。

 

 その後に彼女はベルにいつもの武器(ナイフ)を置いていくよう言い、ヴェルフにリリルカ救出に協力を申し出た。反対する理由が一切ないヴェルフはやる気満々だ。

 

 とは言え、流石に人数が少な過ぎるから【ミアハ・ファミリア】の他、【タケミカヅチ・ファミリア】の団長――桜花にも応援を要請するよう言っておいた。

 

 これにはヘスティア様とヴェルフが、何故今回の件と無関係な桜花に頼むのかと聞かれた。『彼は俺に個人的な借りがあるから、これで相殺(チャラ)にしようと思いまして』と返答し、聞いた二人は何となく察しながらも俺に感謝し、行動に移ろうとする。

 

 二人が動き出し、俺もベルを連れてある場所へ行こうとする。従姉がいる都市北端にある塔へ向かって。

 

 

 

 

 

 

「リヴァン、本気であの人達に頼むの?」

 

「勿論だ。俺やベルが知ってる強い【ファミリア】と言えば、あそこしかないからな」

 

 俺とベルが移動してる最中、都市中は既に大騒ぎとなっていた。理由は戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されるからだ。

 

 恐らく昨日の宴に参加した神々が吹聴したんだろう。加えて冒険者達や市民もその勢いに火が点き、今はもう多くの者達に知れ渡っているに違いない。

 

 娯楽を求める神々のやる事に呆れながらも、俺はベルの記憶を頼りに従姉が属する本拠地(ホーム)を目指す。

 

 少し道に迷いながらも、漸く【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)――『黄昏の館』に辿り着いた。

 

「止まれ、貴様ら!」

 

「一体何の用だ!?」

 

「フィン・ディムナさんにお話がありますので、お取次ぎ願えませんか?」

 

 門番と思われる男女二名が俺達を警戒する中、俺は面会を頼んだ。

 

 こちらの頼みに対し、男性の団員は気付いたように眉を顰めた。

 

「お前達、リヴァン・ウィリディスと【リトル・ルーキー】……? いくら片方がレフィーヤの身内とは言え、他所の人間が団長と会おうなど、どう言う了見だ!?」

 

 俺達の特徴から見抜いたのか、門番は他派閥である俺とベルに激昂する。生憎と俺にはそんなの知った事ではない。

 

 一先ずフィン・ディムナと話がしたいと何度も言うが、全く聞き入れてくれなかった。それどころか騒ぎを聞きつけ、本拠地(ホーム)にいた団員達が段々と正門前に集まって来た。

 

 ざっと見ただけで二十人ぐらいで、その集団は俺達の目の前で半円を作った。門番があらましを伝えると、剣呑の雰囲気が形成されていく。

 

 その直後に向こうは俺達を罵り始めた。厚顔無恥、恥晒しめ、よくもそんな身勝手をと。

 

 特にエルフの団員達は俺に対する辺りが凄く厳しい。俺がリヴェリアに馴れ馴れしい態度を取ってる上に呼び捨てにしてるから、ここぞとばかりに非難している。

 

 こうなってるのは恐らく、【ヘスティア・ファミリア】が戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加するのを知って、俺達がフィンに力を借りる為の交渉をしに来たと捉えたんだろう。交渉するのは間違ってはいないが、奴等が思ってるような事じゃない。

 

 彼等の剣幕にベルが本気で怯えており、身体が後退しかけている。それを見た俺は肩の上に手を置いて、大丈夫だと言って安心させる。

 

「はぁっ……そちらが俺達に対して、どう言う風に見てるのかがよく分かったよ。以前の失態を全く顧みてないクソったれな【ファミリア】だって事がな」

 

『なっ!』

 

「いいっ!」

 

 俺からの罵倒返しに団員達は絶句し、聞いていたベルもギョッとしていた。

 

 こういった理由は勿論ある。【ロキ・ファミリア】は前々回の遠征で、ミノタウロスを上層に逃がした失態を起こした。それで俺とベルは被害を受けたが、ベート・ローガはあろう事か宴会で酒の肴にしていた。

 

 既にレフィ姉さんの謝罪で許しているが、この連中はソレについての後ろめたさが全くなかった。というより顧みていない。あの件はもう終わった事だと言われたら、それまでとなってしまうが。

 

「き、貴様! 我々【ロキ・ファミリア】に対する侮辱は許さんぞ!」

 

「こちらの話を一切聞かず、好き勝手に口汚く非難するアンタ等に言われたくない。お互い様だ」

 

「リ、リヴァン、これ以上は不味いって……!」

 

 ベルが俺を止めようとするが無視していた。ここで退くわけにはいかない。

 

「お前達のような弱小【ファミリア】風情が、我々を敵に回したらどうなるのか分かっているんだろうな!?」

 

「挙句には脅迫行為をする、か。リヴェリアが知ればどうなる事やら」

 

「貴様、またしてもリヴェリア様を呼び捨てに!」

 

「それ以上の不敬は許さんぞ!」

 

 俺の台詞にリヴェリアを崇拝してる団員の同胞(エルフ)達が怒りと同時に殺気立っていた。これで本気で襲い掛かってくれば、非常に好都合な展開だ。

 

 王族(ハイエルフ)のリヴェリアに対する不敬を働いたという理由で同胞(エルフ)が、矯正と言う名の暴行をしようと動いたら、俺は一切無抵抗のまま被るつもりでいる。

 

 そんな光景を館にいる彼女が知ったらどうなるだろうか。絶対に許さない筈だ。一人の冒険者として接してくれる数少ない同胞(エルフ)を、リヴェリアは何かしらの事をしてくれる。

 

 と言っても、これはちょっとした賭けでもある。本当にリヴェリアが動いてくれるかどうか分からないので。

 

「不敬なのは貴方達じゃないんですか? 近くにいながらも、対等に接して欲しいリヴェリアの気持ちを全く理解してないんですから」

 

「ちょ、リヴァン!」

 

 この瞬間、同胞(エルフ)達の堪忍袋の緒が切れた。何故なら表情が完全に怒り狂っているから。

 

「もう許さん!」

 

「下賤な貴様如きがリヴェリア様の何が分かる!?」

 

「レフィーヤの従弟だからある程度見逃していたが、我慢ならん! この場で成敗してくれる!」

 

「お、おい、よせお前等!」

 

 簡単に乗ってくれる同胞(エルフ)達に対し、俺は本当に単純な奴等だと思った。

 

 他の団員達は止めようとするも、全く聞く耳持たずだった。

 

「あわわわわ……!」

 

 同胞(エルフ)達の殺気にベルは完全に逃げ腰となっている。それでも逃げないのは俺が近くにいるからだ。

 

 そして俺に襲い掛かろうとするエルフ達は――

 

「お前達、何をやろうとしている!?」

 

 突然響き渡った声に誰もが止まった。

 

 それには同胞(エルフ)だけでなく他の団員達も静まっている。

 

 館から出たのは、【ロキ・ファミリア】の副団長――リヴェリアだった。昨日見たドレス姿でなく、ダンジョンで見たローブを身に纏っている。

 

 さて、これでやっと話の出来る人物が出てきてくれた。ここからが本番だ。

 

 【ロキ・ファミリア】の方々――特に同胞(エルフ)達――には感謝しないといけないな。俺の思惑通りに動いてくれたんだから。




ちょっと無理な流れかと思いますが、どうかご容赦を。

感想お待ちしてます。


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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】と交渉する

原作とは違う流れです。


 リヴェリアの登場により、俺とベルは漸く館の中へ案内される事となった。

 

 俺達を招く事に団員達は反対するが、リヴェリアから一喝されて委縮する。直後、「お前達には後で話がある」と低い声で言われて顔面真っ青になったのは言うまでもない。

 

 案内された応接間には、【ロキ・ファミリア】の首領フィン・ディムナ、主要幹部のガレス・ランドロック、幹部のヒリュテ姉妹にアイズ・ヴァレンシュタインやベート・ローガ、そして従姉のレフィ姉さんがいた。

 

 都市最大派閥の主要メンバーが勢揃いしてる事により、ベルは気圧されそうになるも、隣にいる俺が「虚勢でもいいから怯えるな」と言っておいた。それによって何とか【ヘスティア・ファミリア】の代表として振舞おうとしている。

 

 そして――

 

「全く、何なんですかあの連中は!? 用件を言っても聞き入れないどころか、厚顔無恥だの恥晒しだのと好き勝手に罵った挙句、危うく暴行されるところでしたよ! あれが【ロキ・ファミリア】の流儀なんですか!? いくら都市最大派閥だからって、俺達が弱小【ファミリア】という理由であんな品性に欠けた行為をやるのは冒険者以前に、人として大問題ですよ!」

 

 ソファーに座って早々、俺は先程の団員達についての行動を問題視するように捲し立てた。

 

 零細の【ミアハ・ファミリア】が、大物派閥である【ロキ・ファミリア】にそんな事をするのは非常に恐れ多い行為だ。下手をすれば手痛い竹箆(しっぺ)返しを喰らう事になるだろう。

 

「返す言葉もない。【ロキ・ファミリア】の団長として、心から謝罪する」

 

「あの大馬鹿者達には、後で私達が厳しく言い含めておく」

 

「本当に、本当にすまなかった」

 

 団長のフィン・ディムナと副団長のリヴェリアが頭を下げ、ガレス・ランドロックも同様に謝罪の言葉を述べていた。

 

 オラリオを代表する都市最大派閥の一つである三巨頭が、揃って謝罪をするのは極めて異例の事態だ。他の【ファミリア】が知れば驚愕するだろう。

 

 しかし、向こうの団員達が来客として来た俺とベルに不誠実な対応をしたどころか、挙句の果てには暴行まで行おうとした。普通に考えれば無礼極まりないどころか、自分達の評判を落とす下劣な行為だ。

 

 こんな事が世間に知られれば格好の的になり、信頼されているギルドからも非難の声が上がるだろう。都市最大派閥と言うビッグネームが付いた【ロキ・ファミリア】なら猶更に。

 

 フィン・ディムナ達は当然そうなる事になれば非常に不味いと分かっているから、炎上させないよう穏便に解決する緊急措置として自ら頭を下げている。それは組織を束ねる長として当然の行動だ。世間に向けた謝罪より、当事者内で早々に解決させた方が被害は最小限に収まるから。

 

 俺としては、ここまで好都合な展開になるとは思いもしなかった。最初はフィン・ディムナに会い、アイズ・ヴァレンシュタインや他の幹部に修行相手をさせる為の貸し出し要求をする為として、俺に関する情報をカードとして切ろうと考えていた。内容としては、俺が一人でゴライアスを倒した方法や、リヴェリアが気になってた魔法(テクニック)についての仔細だ。

 

 しかし、もうそんな心配は無い。【ロキ・ファミリア】側が自ら失態を演じてしまったから、此方が要求すれば簡単に受け入れるだろう。尤も、余り調子に乗った要求をすれば逆に此方が危うくなってしまうが。

 

 ついでに言っておくと、俺が感情的になって捲し立てているのは、有利に進める為の演技をしてるだけに過ぎない。相手側が完全に非があって強く出れないと分かった際、ここぞと言う時に強く訴えれば何も言い返せなくなるとカスラから教わったので。クーナさん曰く『陰険なやり方』だそうだが。

 

 それは別として、三巨頭の謝罪を見ていた幹部のアイズ達は色々な表情をしていた。

 

 ティオネさんは「あのバカ共、団長に頭を下げさせやがって……!」と怒りの表情で全身をプルプルと震わせ、それを見たティオナさんが何とか宥めようとしている。アイズとレフィ姉さんは非常に申し訳なさそうな表情で俺達を見ている。ついでにベート・ローガは何を考えてるのかは分からないが、そっぽを向きながら舌打ちをしていた。

 

 因みに俺の隣に座ってるベルだが、相手が有名な【ロキ・ファミリア】だからか、三巨頭からの謝罪に困惑する一方だ。多分だが、『自分は謝られる事はしてないのに』と思っているんだろう。

 

「………ふぅっ。本当でしたらあの連中の行動をギルドに報告したいところですが、【ロキ・ファミリア】を代表する方々が自ら謝罪してくれましたので止めておきましょう。それにリヴェリアが俺に謝罪したと他の同胞(エルフ)達に知られたら、色々と面倒な事になるでしょうし」

 

「こちらとしては非常にありがたい。感謝する、リヴァン・ウィリディス」

 

「お詫びにはならんが、こちらとしては可能な限り君達の要求に応えるとしよう。と言っても、度が過ぎる要求をされても困るが」

 

 リヴェリアからの台詞を聞いて、『その言葉を待っていた』と内心笑みを浮かべた。

 

 それを何とか出さないよう表情を抑えながらも、俺は念の為に確認しようとする。

 

「俺達のような弱小【ファミリア】相手にそんな事を言っても良いんですか、リヴェリア? 下手をすれば足元を見られるかもしれませんよ?」

 

「少なくともお前が従姉(レフィーヤ)と争う真似はしないと思ってるが」

 

「……………………」

 

 指摘された俺は何も言い返せなかった。これは即ち肯定の意味でもある。

 

 やっぱり見抜かれていたか。レフィ姉さんが突然名指しに戸惑っているも、俺は敢えて気にしないようにした。

 

「因みにベル・クラネルはどう思ってるんだい?」

 

「え!? ぼ、僕は別にそんな事は……!」

 

 フィン・ディムナに突然声を掛けられたベルは戸惑いながらも、やらないと首を横に振っている。

 

 ベルに多大な要求をさせない為の釘を刺されてしまったか……本当に目の前の団長さんは油断出来ないな。

 

 二人に言質を取られてしまった以上、俺とベルは【ロキ・ファミリア】に多大な要求が出来なくなってしまった。向こうからすれば、俺達はまだまだ交渉が下手な青い小僧達だと思ってるだろう。同時に被害も何とか抑える事が出来たのは不幸中の幸いだと。

 

 まぁ、ハッキリ言ってそんな事は非常に如何でもいいし、フィン・ディムナ達が思ってるような要求をする気なんか微塵も無い。俺としては、カードを切る必要がなく向こうに要求出来る立場を得れば、それだけで充分過ぎるほどに満足している。

 

 一先ずと言った感じで、俺は話題を変えようと、こちらの要求内容に移る事にした。

 

「念の為に伺いますが、ディムナさんは既に戦争遊戯(ウォーゲーム)についてご存知ですよね?」

 

「ああ。君達が此処へ来る前、リヴェリアから一通り聞かせてもらったよ」

 

「そうですか、ならば話は早い。フィン・ディムナさん。戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる前日まで、そちらの幹部数名を貸してもらえませんか? 勿論これは俺とベルからの要求です」

 

「へぇ」

 

『!』

 

 要求内容を聞いてフィン・ディムナは笑みを浮かべたままだが、控えているアイズ達幹部勢は目を見開いていた。

 

「此方の幹部をご所望とは、それはそれで多大な要求だね。出来れば理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「勿論です」

 

 理由を求められた俺は簡潔に説明する。

 

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】のベル+助っ人の俺が戦う相手は、百名以上の団員がいる【アポロン・ファミリア】と相手をする事になっている。どちらが勝つかなんて聞くまでもないだろう。

 

 数を覆す為の策……とまでいかないが、ベルと俺は複数相手の対人戦――上級冒険者との戦闘経験が不足している。それを補う為として、【ロキ・ファミリア】の幹部に修行相手になってもらおうと考えた。自分達より遥かに格上の第一級冒険者なら、【アポロン・ファミリア】の下級・上級冒険者の数十人分以上の戦闘経験を得られるので。

 

 しかし、いくら第一級冒険者から戦闘経験を積んだとしても、それで確実に勝てるとは思ってない。はっきり言って苦肉の策どころか、無謀な考えでもある。他の【ファミリア】から見れば馬鹿げていると笑われるだろう。

 

 それでも何もせず負けるわけにはいかないから、無理であってもやらないわけにはいかない。俺達はもう既に今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で圧倒的不利である事を分かっている上に、後にも引けない状況になっている。負けてしまえば俺達は変態男神(アポロン)に、身体を好き放題に犯されると言う最悪な未来が待っているので。

 

 因みに俺が神アポロンに好き放題されると話した際、【ロキ・ファミリア】一同は揃って眉を顰めていた。それどころか若干身震いしているのもいる。あとレフィ姉さんは虚ろな目になりかけていたが、敢えて気にしないでおいた。一体どこまで想像したのやら。

 

「――という訳で、そちらの幹部に俺達の修行相手として求めているんです。これでご納得いただけましたか?」

 

「ん~……まぁ、君達が絶対に負けたくない気持ちはよく伝わった。特に負ければ色々な意味で終わってしまう事が、ね」

 

 苦笑と同時に冷や汗を流すフィン・ディムナは、俺達の熱意を理解してくれたようだ。と言っても、あくまでそれだけだが。 

 

 さて、一応言うだけ言ってみたが、彼は一体どんな返答をするだろうか。いくら同情してるからと言っても、【ロキ・ファミリア】の団長としての立場となれば話は別だ。

 

 こちらが要求できる立場でも、俺達の個人的な理由で幹部を貸してくれと言ってすぐに通らないだろう。場合によっては無理だと返答されかねない。

 

「ねーフィンー、修行ぐらいなら別に良いんじゃないの~? と言うかあたし、アルゴノゥト君とリヴァン君がアポロン様に好き放題されるなんて嫌だよ」

 

「わ、私もです! ベル・クラネルはどうでもいいですが、私の従弟がアポロン様となんて……もう考えるだけで悍ましいです!」

 

「そう言われてもねぇ……」

 

 一緒に聞いていたティオナさんとレフィ姉さんが手を貸すよう進言してきた。アイズさんも同様なのか、二人の言い分にコクリと頷いている。

 

 どうでもいいんだが、あの人は相変わらずベルに対する当たりが悪い。いくらアイズと仲が良いからって、何もそこまで毛嫌いする事はないと思うんだが。

 

 フィン・ディムナが言い返そうとするも――

 

「良いのではないか、フィン。先程の謝罪の件も考えれば、然して問題無かろう」

 

「ガレスの言う通りだ。昨日の宴で直接見た私としても、正直言って神アポロンのやり方は非常に不快だった。折角訪ねて来た同胞からのお願いに、それくらいの事は手を差し伸べても構わないだろう」

 

「君達まで……」

 

 ガレス・ランドロックやリヴェリアから予想外の援護が来た事で段々不利になってきた。

 

 身内から進言された事により、フィン・ディムナは観念したように嘆息する。

 

「分かった、君達の要求を呑もう。ここで下手に断ってしまえば、僕が悪者扱いされてしまいそうだからね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 許可してくれた事でベルは大変喜んで礼を言いながら頭を下げた。一応こちらの要求だから、ベルが頭を下げる必要はないんだが……まぁ良いか。

 

 フィン・ディムナも似たような事を思っている筈だが、そこは敢えて指摘する事はせず俺に問おうとする。

 

「それで、君が指名したい幹部は一体誰なんだい?」

 

「先ずはアイズ・ヴァレンシュタイン。主にベルの修行相手としてお願いしたい」

 

「ええ!? リ、リヴァン、何でよりにもよってベル・クラネルにアイズさんを……!」

 

 一人目を要求した事に、思った通りと言うべきかレフィ姉さんが抗議してきた。

 

 けど、フィン・ディムナは気にせずアイズに確認しようとする。

 

「アイズ、ご指名のようだがどうする?」

 

「うん、いいよ……私も、そうしたいと思ってたから」

 

「アイズさんまで!?」

 

 まるでこの世の終わりかのように嘆くレフィ姉さん。

 

 取り敢えず一人目はOKだ。

 

「じゃあ次は誰かな?」

 

「二人目は――」

 

「はいはーい! あたしやるよ~!」

 

 俺が名前を上げようとする直前、突然ティオナさんが挙手しながら立候補してきた。

 

 突然の事に俺達は思わず彼女の方へ視線を向ける。

 

「ちょっと、何勝手に言ってるのよ!?」

 

 そこで待ったを掛けるティオネさんだが、ティオナさんは頬を膨らませる。

 

「え~? 幹部って言うから、あたしもその内の一人だからいいじゃ~ん」

 

「ティオナ、これは向こうの要求に応える為の指名だ。君が勝手に決めれる事じゃない」

 

「問題ありませんよ。ティオナさんに声を掛けるつもりでしたから。俺の修行相手として」

 

 フィン・ディムナは窘めようとするが、俺としては最初から彼女を指名するつもりだった。それを聞いたティオナさんが満面の笑みを浮かべる。

 

「やった~! よろしくね、リヴァン君。前から君と手合わせしてみたかったんだよね~!」

 

「こちらこそお手柔らかにお願いします」

 

「指名する相手は以上かな? 僕はてっきりリヴェリアか、レフィーヤを指名すると思っていたが」

 

 お手合わせをするティオナさんに挨拶をしてると、フィン・ディムナが確認するように訊いてきた。

 

 リヴェリア達も取り敢えず問題無さそうだと思っている様子だ。レフィ姉さんやベート・ローガは納得していないが。

 

「レフィ姉さんは『Lv.3』の後衛向き魔導士ですから無理です。リヴェリアは……万が一に傷を付けてしまえば最後、オラリオ中の同胞(エルフ)達を敵に回してしまう事になりますから猶更無理です」

 

「うん、どちらも尤もな理由だね」

 

 俺が理由を言うとレフィ姉さんとリヴェリアは少し残念そうな表情となった。と言うかリヴェリア、貴女は俺の修行相手になりたかったのか?

 

 まぁそれは気にしないでおこう。俺の思い過ごしかもしれない。

 

「ではアイズとティオナ、二人の修行相手を――」

 

「待って下さい。俺の方でもう一人を希望します。まぁその相手が嫌だと言えばそれまでですが」

 

「え?」

 

 俺の台詞が予想外だったのか、ベルや【ロキ・ファミリア】一同が揃って意外そうに見る。

 

 そして――

 

「ベート・ローガ。アンタも俺の修行相手に加わってくれ」

 

「あぁ?」

 

 今まで会話に全く参加しなかった狼人(ウェアウルフ)――ベート・ローガが訝しげな表情となった。




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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】の幹部と手合わせする

今回はレフィーヤの心情がメインです。


 俺がもう一人の相手――ベート・ローガを指名した事に誰もが驚いていた。

 

 『Lv.2』の上級冒険者(俺とベル)が、【ロキ・ファミリア】に所属する『Lv.6』の第一級冒険者二人を修行相手にする事自体あり得ない。一人だけでも過度でもあるのに、それを更に俺が二人目の第一級冒険者を修行相手として指名したのは極めて異例だろう。

 

 当然これにはフィン・ディムナ達が止めるよう言ってきた。向こうは要求を断れる立場でないから、遠回しな言い方で説得するも、何があっても自己責任で済ませると俺の方で言った事で何とか収まっている。

 

 因みにレフィ姉さんだけは最後まで反対していたが、

 

『今の俺は他派閥の一人として【ロキ・ファミリア】に要求しているんです。ご理解頂けましたか?』

 

 他人行儀な態度で突き放す俺の発言に何も言えなくなった。

 

 本当だったらレフィ姉さんにそんな言い方はしたくなかったが、戦争遊戯(ウォーゲーム)を控えている身だった。それが終われば後ほど謝罪するつもりだ。

 

 向こうも俺の決意が固いと分かり、フィン・ディムナはベートに頼むよう言ってきた。

 

 だが――

 

『誰がやるか。テメェみてぇな調子に乗ったザコに付き合うほど、俺は暇じゃねぇんだ』

 

 と言ってすぐに応接間から出て行ってしまった。

 

 先程の謝罪した件を全く無視するような対応にフィン・ディムナ達は俺に謝罪しようとするが、その必要はありませんと言っておいた。

 

 あの狼人(ウェアウルフ)が俺の要求をすんなり受けてくれると思ってないし、最初からダメ元で言っただけに過ぎない。

 

 他の第一級冒険者を指名すれば良いと思われるだろうが、指名した理由は一応ある。自分が調べた限りベート・ローガは【ロキ・ファミリア】最速と呼ばれている男だから、都市最速の称号を有している【フレイヤ・ファミリア】の副団長――アレン・フローメルと戦う機会があるかもしれないと考え、どれほど速いのかを事前に知っておきたかった。結局は叶わず仕舞いとなってしまったが。

 

 あとベルとアイズの修行については、【ロキ・ファミリア】の目が届かない場所でやって欲しいと頼んだ。本拠地(ホーム)前で散々罵倒された件があるので、もし修行中に別の誰かが余計な茶々を入れられたら非常に困る。だから二人の修行中に一切口出しをしないでという訳だ。

 

 これには流石にフィン・ディムナも難色を示したが、俺が理由を明かした事で折れる事となった。それでも誰か一人だけでも(監視と言う名の)見守りが必要だと言われたので、そこはティオネさんが付く事となった。因みにベルとアイズが二人っきりで修行と知ったレフィ姉さんが見守ると立候補していたが、どう考えても嫉妬に狂って妨害するのが目に見えてたから、即座に却下したのは言うまでもない。

 

 俺に関しては【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)内でやる事となっている。本当ならベルと同じ理由で離れたかったが、二人揃って目の届かない場所に行かれるのは色々と困ると言われてしまった為、俺が残る事となった。それを聞いたベルはやはり自分も残ると言い出したが、戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝つ為にアイズの修行に専念しろと言ってどうにか阻止した。

 

 ベルを別の場所へ行かせるのは他にもあった。知っての通りベルはかなりのお人好しだから、そこにつけ込むように【ロキ・ファミリア】が巧みな話術で俺達に関する情報を収集するかもしれないと危惧し、敢えて遠ざけさせた。恐らくフィン・ディムナはそれに気付いている筈だ。口にしなかったのは、謝罪の件もあるから敢えて見逃したと思う。そうでなかったら、ベルを遠ざけさせる事に最後まで反対していた筈なので。

 

 という訳で、俺とベルはそれぞれ違うところで修行を始める事となった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、始めよっか!」

 

「どうぞお手柔らかに」

 

 場所は変わって『黄昏の館』にある広場。訓練場としても兼ねている為、リヴァンは此処でティオナと相手をする事となった。

 

 互いに得物を用意する二人。二つの剣の柄が繋がった超重量の大型武器――大双刃(ウルガ)を構えるティオナに対し、片手用の剣――エールスターライトを持ち構えるリヴァン。見るからに近接戦をやろうとしている。

 

 主要幹部のガレスに次いで『力』に特化したアマゾネス(ティオナ)、魔力を主に使用するエルフ(リヴァン)。この二人が近接戦をやって、どっちが勝つかと問われたら誰もがこう答えるだろう。リヴァンのやろうとしてる事は余りにも無謀であると。

 

「あの子、本気でティオナ相手に挑むつもりなの?」

 

「みたいっすね」

 

 信じられないように見ている女性猫人(キャットピープル)のアナキティ・オータムと、男性人間(ヒューマン)のラウル・ノールドは思った事を口にしていた。

 

 この広場にはリヴァンとティオナ以外の者達もいる。言うまでもなく【ロキ・ファミリア】の団員達だ。

 

 応接間で話を終えた後、本拠地(ホーム)内であっと言う間に広まり、誰もが気になって広間へ来ていた。

 

 最初はベル・クラネルがいない事に疑問を抱いたが、アイズとティオネと一緒にどこかへ行ってしまったと聞いて表情を歪めていた。何故幹部――特にアイズ――を連れているのかと最初は憤っていたが、本拠地(ホーム)前で一悶着起こした事が原因だと知った途端、誰一人文句を言えなくなってしまった。

 

 彼等は知っている。本拠地(ホーム)前で騒ぎを起こした団員達が、【ロキ・ファミリア】の三巨頭から直々にキツイ説教を今も受けている最中である事を。広場へ来る途中、我等が副団長リヴェリアの怒号が響いたのを耳にしたので。特に彼女を崇拝してる同胞(エルフ)達は、この世の終わりのような顔をしているだろう。

 

 それは別として、これから始まる修行を見守る団員達の中に、物凄く心配そうに見ている一人のエルフがいた。

 

「リヴァン……」

 

 そのエルフはリヴァン・ウィリディスの従姉であるレフィーヤ・ウィリディス。

 

 ベルが別の場所でアイズと修行すると聞いて若干暴走気味だったが、大事な従弟であるリヴァンがティオナと修行すると改めて聞いて一気に冷静に戻った。それどころか青褪めている。

 

 彼女はリヴァンが前衛でも充分に戦える事を知っている。しかし、それはダンジョン上層のモンスターを相手にしていただけ。彼が目の前に対峙してる相手はそんなのと比べ物にならないほど強い、遥か格上の第一級冒険者。力の差は歴然としている。

 

 以前に18階層で見せた魔法を使って戦うなら、ティオナに相応の傷を負わせる事が出来るかもしれない。しかしレフィーヤの見解では、それを使わないと何となく分かった。食人花に使っていたあの魔法はどれも強力で殺傷力が高いものだから、下手をすればティオナを殺してしまうかもしれないと。

 

 それ以外を挙げれば、攻撃魔法以外に使った二つの治癒魔法がある。既に三種類以上の魔法を使っておかしいが、そこは敢えて気にしないでおく事にした。本当なら何故かと問い質したいのだが、彼が【ミアハ・ファミリア】という他派閥にいる為に詳細を聞く事が出来ない。

 

 本当なら彼女は立場上【ロキ・ファミリア】として団長のフィン、もしくは副団長並びに師匠であるリヴェリアに報告しなければならない。どちらも知れば速攻で食いつく内容だろう。特に魔法に関しての探求心が強いリヴェリアなら知りたがる筈だ。しかし、従弟から口外しないよう約束をされたので、レフィーヤは今もそれを律儀に守っている。

 

 もしリヴァンが修行中に危険な状態となれば、例え何を言われても絶対に止めようとレフィーヤは決意する。いくら戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝ちたいからと言っても、命に係わる事になれば流石に従姉として黙って見過ごす訳には行かないので。

 

 そう決意をしている最中、武器を構えていたティオナが突然リヴァンに話しかけた。

 

「ねぇ、アイズから聞いたんだけど、君ってあたしと似たような武器を持ってるって本当?」

 

「貴女と似た武器? ………………ああ、これの事ですか」

 

 何の事かと不可解に思うリヴァンだったが、ティオナの武器を見て途端に構えを解いた。

 

 すると、二つに重ね合わせている片手剣を分離させる。その光景にティオナだけでなく、レフィーヤも含めた団員達も目を見開く。

 

 特にレフィーヤは信じられないように見ていた。今まで持っていた片手剣を、ああ言う風にした分離してはいない筈だと思いながら。

 

 そんな疑問を余所に、リヴァンは分離させた二つの片手剣の柄同士を連結させた事で、ティオナと同じ両剣(ダブルセイバー)の形状と化した。

 

「おお~、なんか凄いねその武器! あっと言う間にあたしと同じ大双刃(ウルガ)になっちゃった! その武器でこの前の怪物祭(モンスター・フィリア)で脱走したトロールを倒したんだね!?」

 

「っ………はぁっ。そんな事より、始めてもいいですか?」

 

 自分と似た武器になった事で目を輝かせるティオナが予想外の質問をした事で、リヴァンは一瞬眉を顰めた。だが、数秒後には諦めるように嘆息し、すぐ話題を戻そうとする。

 

 先程の質問は当然レフィーヤ達も聞こえていた。それによってザワザワと少し騒ぎ立てている。

 

(え? え? リヴァンが……あの武器でトロールを、倒した?)

 

 全くの初耳であるレフィーヤは呆けている。

 

 彼女の記憶が正しければ、怪物祭(モンスター・フィリア)があったのは約二ヵ月程前。その当時のリヴァンは『Lv.1』の筈。

 

 だと言うのに、ダンジョン20階層以降に出現するトロールをリヴァンが倒したと言うのは寝耳に水だった。一体それはどう言う事なのだと問い詰めたい衝動に駆られている。

 

 当の本人は全く否定せず、早く戦おうと催促してる事から、それは本当の事なんだとレフィーヤは何となく察している。

 

 だが――

 

(ねぇリヴァン、一体どういうことなの? 何でそんな大事なことを相談しなかったの? まさかそれ以外にも従姉(わたし)に隠してる事はないよね?)

 

 既に頭の中が混乱(パニック)になりかけていた。

 

 昔は自分に懐いていた筈の従弟がオラリオで再会した際、非常に大人っぽくなった。いつの間にか自分の身長を追い越した上に凛々しい表情となっている。

 

 そんな自慢の従弟が、まるで急に遠い存在のように見え始めている。再会するまでに一体何があったのかと思い詰めるほどに。

 

「いいよ~。どんと来~い!」

 

「では……行きます!」

 

 レフィーヤの心情とは別に、漸くリヴァンの修行が開始となった。武器を構えながら突進していくリヴァンに対し、ティオナは待ち構えている。

 

 そして数分後、この場にいる団員達は信じられないと言わんばかりに驚愕する。『Lv.2』である筈のリヴァンが、何故か『Lv.6』のティオナとまともに戦えているどころか、互角に近い手合わせをしている事に。遠くから眺めている某狼人(ウェアウルフ)も同様に。




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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】の幹部と手合わせする②

(強い、流石は第一級冒険者……!)

 

 修行と言う名の手合わせを初めてそれなりの時間が経ち、リヴァンは第一級冒険者の戦いを肌で感じ認識した。黒いゴライアスを除くダンジョン上層・中層のモンスター、リヴィラで戦った上級冒険者とは一味も二味も違うと。

 

 これまで戦ってきた相手は大して本気も出さないまま倒し、殆ど作業同然で全く緊張感のない戦いばかりであった為、リヴァンの心は冷め気味となっていた。

 

 嘗てオラクル船団にいた頃、強敵のダーカー達相手に常に緊張感を持った戦いを強いられた。下手に気を抜いてしまえば、あっと言う間に殺されてしまう地獄の環境を何度も味わっている。後見人のカスラや先輩のクーナ、アイカがいても危険が身に纏う状態の中、リヴァンは必死に戦い続けた。

 

 だが、ひょんな事から元の世界に戻った事で一変した。世界の中心と呼ばれる迷宮都市オラリオで路頭に迷ってる中、ミアハと言う神に拾われ、借金塗れの生活をしてる彼に恩返しをしようと【ミアハ・ファミリア】に入団し、ダンジョン探索をしてお金を稼ぐ生活を送っている。

 

 ギルドの担当アドバイザーからダンジョンのモンスターは凄く危険と言われたから、ダーカーみたいな相手だと思って緊張感を持ちながら警戒して、いざ全力で戦うと一気に拍子抜けとなった。余りの弱さに全力を出した自分が馬鹿らしくなってしまう程に。

 

 上層モンスターじゃ全然相手にならないので中層以降に行こうと思っていた。けれど『Lv.1』という理由でダメ出しをされてしまった為、【ミアハ・ファミリア】の為に上層で必死に稼ぐ事となってる。その反面、弱過ぎる相手と戦い続けて今までの緊張感が段々と薄れて心が冷めていく。

 

 ベルと出会い知り合った事で、退屈な日々から突如一転する。それが今は戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝利の為として、【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者が修行相手になってくれている。

 

 大した緊張感を持たないまま冷静に作業をこなすように相手を殆ど一撃で倒していたが、目の前にいるティオナは全く違う。それどころか、こちらの攻撃を簡単に防がれて逆に反撃され吹っ飛ばされた。広間にある壁に激突したのを見たティオナは焦り、レフィーヤは安否を確認しようとすぐに駆け付けていた。

 

 受けるダメージを大幅に軽減するスキル――ダメージバランサーによって殆ど軽傷とは言え、やっとまともに戦える相手と出会えたと歓喜した。今までそんな事を考えなかったが、ずっと弱い相手と戦い続けて心が冷めていた為、第一級冒険者(ティオナ)という強敵によって再燃し始めてる。

 

(上等だ!)

 

「リ、リヴァン……?」

 

 駆け付けて声を掛けてくるレフィーヤに、リヴァンは全く聞こえてないように立ち上がり、再びティオナと対峙する。

 

「ごめんリヴァン君、大丈夫? さっきは思わずちょっと本気で攻撃しちゃって……」

 

 凄く申し訳なさそうに謝ってくるティオナ。

 

 だが――

 

「心配ご無用です。それとティオナさん、俺からも言っておきます。全力で防御した方が良いですよ」

 

「え?」

 

 突如リヴァンが意味不明な事を言った事に思わず首を傾げた。

 

 隙だらけとなってるティオナにリヴァンは武器を持ったまま突進し、そのまま跳躍する。流れるかのようにティオナの頭目掛けて、(かかと)落としと同時に目の前に両剣(ダブルセイバー)を叩きつけようとする。もしアイズがいたら、以前の怪物祭(モンスター・フィリア)でトロールを倒した時に使った技だと思い出すだろう。

 

「っ! ぐぅっ!」

 

 けど、トロールと違ってティオナは咄嗟に手にしてる大双刃(ウルガ)を盾代わりにして攻撃を防いだ。

 

(お、重い……! これが『Lv.2』って嘘でしょ!?)

 

 リヴァンの踵落としと武器を防いだが、衝撃と威力が強くて仰け反ってしまいそうだった。それでも何とか踏ん張ろうと両足に力を入れてると、地面に少しばかり罅が入る。

 

 けれど、攻撃はまだ終わらなかった。突然ティオナの目の前に巨大な剣が出現し、それを見たリヴァンが力強く蹴り放った。

 

「おわっ!」

 

『…………………』

 

 蹴り放った巨大な剣がティオナに命中し、凄まじい勢いで吹っ飛んでいき、そのまま広間にある建物の壁ごと突き破っていく。

 

 誰もが予想しなかった展開と光景に、見物している団員達が自身の目を疑っていた。何故、『Lv.6』ティオナさんが吹っ飛んだのか。何故、『Lv.2』であるレフィーヤの従弟にあれほどの力があるのか。

 

(何だあのガキ、今何しやがった!?)

 

 遠くから見ていたベートは信じられないように動きを止め、目を見開いていた。

 

 先程までの互角な打ち合いを見て、非常に気に食わないが口だけのエルフじゃないと考えを多少改めている。リヴァンが軽く吹っ飛ばされたのを見て、所詮はここまでかと思って去ろうとしたが、直後に状況が一変した。

 

 ベートは普段からティオナと仲が悪くて互いに憎まれ口を叩いているが、それでも一応強者の一人として認めている。だから『Lv.2』のリヴァン相手に、決して無様な姿を見せる事はないだろうと思っていた。

 

 だと言うのに、それがものの見事に覆った。リヴァンがティオナに攻撃したかと思えば、魔力らしき巨大な剣が形成されて、それを蹴り飛ばして彼女を凄い勢いで吹っ飛ばした。しかも壁ごと突き破って。

 

 誰もが無言になっている中、リヴァンは周囲の空気を気にせず、穴が出来た壁に向かってこう言った。

 

「早く出てきたらどうですか? 貴女があれくらいの攻撃でやられたとは思えないんですが」

 

 そう言ってるリヴァンだが、実は内心結構焦っていた。

 

 今回はあくまで修行と言う名の手合わせだから、先程放ったフォトンアーツ――セレスティアルコライドは非殺傷用にしようと加減していた。

 

 本来だったら形成して弾丸の如く蹴り放ったフォトン刃は、対象の身体ごと貫いて吹っ飛ばすが、そこをリヴァンが調節して威力を弱めたのだ。流石に衝撃までは調節出来なかったが。

 

 壁ごと突き破って吹っ飛んだティオナが未だに出てこないから、もしかしたら当たり所が悪くて気絶してしまったんじゃないかと危惧した。折角修行相手として頼んだのに、こんな簡単に終わってしまったら色々と申し訳ない気持ちになってしまう。

 

 早く起き上がり姿を現してくれと切に願ってると――

 

「あ~、ビックリした~!!」

 

 突き破った壁の中から漸くティオナが、笑顔のまま出てきた事にリヴァンはホッと安堵する。

 

 彼女が無事である事にレフィーヤと団員達も同様に安堵してる中、ティオナの様子が少しばかり変であることに気付き始めた。

 

「いや~、あたし油断しちゃってたよ。まさか吹っ飛ばされるなんてガレスと初めて戦った時かな?」

 

「それはそれは……」

 

「でも、年下の男の子に吹っ飛ばされたのは生まれて初めてなんだよね~」

 

 ティオナの言ってる事は冗談でも何でもない。本当に事実を述べている。

 

 今まで自分より年下で異性の冒険者に吹っ飛ばされた経験は一切無い。更に自分よりレベルが低い事も含めて。

 

 普通に考えれば、第一級冒険者の『Lv.6』が格下である『Lv.2』相手に吹っ飛ばされたとなれば恥だと憤慨するだろう。これがベートだったら間違いなくそう言ってる筈だ。

 

 けれど、ティオナの場合は違う。それどころか心底楽しそうに笑っている。ここまで自分を高揚(ワクワク)する相手は久しぶりであると。

 

「リヴァン君、先に謝っておくね。あたし、最初君の事を甘く見ていた」

 

「でしょうね」

 

 聞いたリヴァンは特に気を悪くしないどころか、それは至極当然だと思っていた。もし自分が逆の立場だったら、相手は格下だからという理由で手加減しようと考えている。

 

 そう思ってると、彼女は大双刃(ウルガ)をぶん回し始めようとする。

 

「悪いけど、こっからは本気でやらせてもらうよ。いいよね?」

 

『!』

 

「ええ、勿論です。そのつもりでさっきの技を放ったんですから」

 

『!?』

 

 団員達がティオナの本気発言にギョッとしており、それに応えようと構えて頷くリヴァンに更に驚いた。

 

 第一級冒険者が本気でやれば、ただで済むはずがないと誰もが分かっている。下手をすればリヴァンは死んでしまうだろう。

 

「だ、駄目ですティオナさん! 本気でやっちゃったらリヴァンが死んじゃいますから!」

 

 当然、リヴァンの従姉であるレフィーヤが黙って見過ごす筈がなかった。すぐに撤回させようとティオナに近付いて説得しようとする。

 

「ごめんレフィーヤ、今のあたしすっごく興奮(ワクワク)してて、もう止まらないんだ。悪いけど今は邪魔しないで……!」

 

「!」

 

 ティオナから発する闘気に当てられたのか、レフィーヤは近付く足を止めてしまう。

 

 それは他の団員達にも言える事で、無言になりながらもゴクリと唾を呑み込んでいる者もいる。

 

 対してリヴァンは、格上との相手は久しぶりだなぁ~と思いながらも両剣(ダブルセイバー)を持ち構えていた。

 

「ならここからは第二幕と行きましょうか」

 

「うん。それじゃ……行っくよおおおおおおおおおっ!」

 

「来いっ!」

 

 大双刃(ウルガ)を回転させながら、彼女は無遠慮でリヴァンに連続で叩きつけようとする。その攻撃は上層や中層のモンスターを簡単に屠れるであろう。

 

 しかし、その連続攻撃をリヴァンは受け止め、躱し、そして受け流そうと防御していた。

 

 互いが同じ形状の武器でありながらも、両者の戦い方は全く異なっている。一人は力強く振るった攻撃、一人は冷静に攻撃を受け止めて防御と反撃。それはさながら静と動の戦いだろう。

 

 『Lv.6』のティオナと『Lv.2』のリヴァン。実力差があり過ぎる手合わせの筈が、今は全く互角な戦いを繰り広げており、誰もが唖然としていた。

 

「さっきの大きな音は一体……っ!?」

 

 途中、壁を突き破った音が気になったガレスが駆け付けるも、本気で戦っているティオナがリヴァンと互角に戦ってる事に目を見開いていた。

 

 非常にどうでも良い事だが、手合わせを始めて一日目だ。これが暫く続くという事を、この場にいる誰もがすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

「? 今、なんか大きい音がしたような……」

 

 場所は変わって都市の市壁の上。

 

 以前にアイズがベルと修行した場所であり、ここでやる事となっていた。

 

 案内されて早々に修行を開始してる二人を余所に、見守っているティオネの耳から音が入った。自身の聴力に間違いが無ければ、音の発生源は『黄昏の館』からだ。因みにアイズとベルは修行に集中している所為か、音など一切気にした様子は一切見受けられない。

 

 念の為に確認しようとティオネは本拠地(ホーム)へ視線を向けるも、煙などが無いから気のせいだと判断する。

 

 再び二人の修行を見守ろうとするが、彼女はある事が気になっていた。ベルが武器として手にしている見慣れない二つのダガーがどうしても目に入ってしまう。

 

 その武器はリヴァンが前以てベルに渡していた物。彼曰く「ヴェルフに悪いが、修行の時はこの武器を使え」との事だ。

 

 ベルは戸惑いながらもカッコいいと受け取った瞬間、突然刃の部分から青白い光が発した。それを見たリヴァンは「成程な」と納得した後、修行が終わるまで使うようにと言われたから、ベルは疑問に思いながらも今も手放さずに使っている。

 

 修行する場所について早々、渡された武器を早速披露したベルに対し、アイズとティオネは食い入るように見ていた。二人が知る限り、ベルにあんな武器は持ってなかった筈だと。

 

(どういうこと? いつものベルじゃないような気が……)

 

 アイズが修行を始め、その最中にある疑問を抱き始めていた。自分の知る限り、ベルはここまで強くなかった筈だと。

 

 加えて、異常に打たれ強くなった事も疑問点として浮かんでいる。少し強めに攻撃して倒れたかと思いきや、まるで痛みが無くなったようにケロッとして立ち上がっている。

 

(なんかあんまり痛い感じがしない。もしかしてアイズさん、かなり手加減してくれてるのかな?)

 

 これにはアイズやティオネだけでなく、ベル本人も何故と疑問を抱いていた。

 

 以前の修行でアイズに攻撃を受けた時は結構効いて、当たり所が悪ければすぐに立ち上がる事は出来なかった。しかし、リヴァンから渡された武器で戦うと、ダメージが軽減されてるどころか、痛みがあっと言う間に引いて回復している。

 

 それぞれが不可解に思いながら、修行は続く。

 

 因みにベルが持っている武器は双小剣(ツインダガー)――ジュティスシーカ。嘗てリヴァンがクーナに指南役をされた際、ファイタークラスをやっていた時に使っていた武器の一つだ。

 

 既にエトワールクラスとなった今のリヴァンでは、全く使えない武器として電子アイテムパックに死蔵していた。元の世界でクラス変更出来ない以上、永遠に使うことはないと思っていた際、リヴァンは考えた。自分が使えないなら誰かに使わせてみようと。

 

 当然、不用意にアークス製の武器を他人に貸してはいけない規則がある。しかし、元の世界でオラクル船団の規則なんか通用しない。それに縛られて死蔵したまま、廃棄処分なんてしたら武器が余りにも不憫過ぎる。

 

 かと言って、いくらリヴァンでもそんな簡単に自身の武器を貸したりしない。自分が一番信頼の出来る相手が出来ない限り貸さないと決めている。

 

 そんな時に友達のベルがいた。信頼出来る彼なら大丈夫と思い、ベルの武器と少々似ている双小剣(ツインダガー)を貸す事にした。

 

 最初は持つ事が出来るかと不安を抱いたが、それはすぐに解消された。刃から青白い光を発しているのは、それ即ち使用出来るという証明だったので。恐らくS級を含めた特殊能力、潜在能力も発動するだろうと思いながら。

 

 リヴァンはアークスじゃないベルが何故使えるのかと考えてしまうも、今は戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝たなければいけないから、取り敢えず後回しにした。




ベルのアークス武器使用についてご都合主義過ぎるかもしれませんがご容赦下さい。

因みにジュティスシーカに付随されてるS特殊能力ですが、

S1:葉ノ緑閃(被ダメージを8%軽減し怯まなくなるバリアが20秒間隔で発生・消滅
       注:ゲームと違ってオーラは見えません)

S2:時流活与2(一定時間ごとにHPを75%回復する)

となっています。

プレイヤー視点から見れば大して価値の無い物ですが、オラリオ側からすればとんでもない能力となります。


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少年エルフ、【ロキ・ファミリア】の幹部と手合わせする③

 鍛錬を始めて五日後。『黄昏の館』にある訓練場は今も激しい剣舞の音が鳴り響いていた。

 

 凄まじく威力のある重い連撃にそれを真っ向からぶつかる虹の斬撃。夕焼けに見下ろされながら両者お互い似た形状の武器が幾度もぶつかり合い、山吹髪と黒髪が風になびく。

 

 エルフの少年が両剣(ダブルセイバー)――エールスターライト(ディムDセイバー)を回転させながら振るい、アマゾネスの少女は超重量武器――大双刃(ウルガ)を盾代わりにするも力押しの反撃を繰り出そうとする。

 

 激しい鍛錬が訓練場で繰り広げてる事に、【ロキ・ファミリア】の団員達はただひたすら戦慄するばかりだった。特に少年と同じ山吹色の髪をしたエルフの少女は今も信じられないように見ている一方だ。

 

「あははははは! こんなに楽しいのは本当に久しぶりだよ!」

 

「それは何よりです」

 

 時間も時間という事もあって、今は小休止をしようと武器を下ろしていた。リヴァンとティオナはお互い汗まみれな上に、肌と服も傷だらけだった。

 

 リヴァンは鈍った体と勘を取り戻そうと徹底的に強者のティオナと打ち合い続けた。食事と睡眠と休息を除き、ずっと訓練場にいて過酷で濃密な時間を費やしている。その結果、今のリヴァンはオラクル船団にいた頃の状態へと戻った。

 

 対してティオナはリヴァンと手合わせを非常に楽しんでいた。今はもう目の前にいる彼を『Lv.2』とは見ていないどころか、第一級冒険者(じぶん)達に匹敵する強敵と認識している。自分と似た武器を使い、全く互角の戦いが出来る事にずっと興奮(ワクワク)しっぱなしで、リヴァンとの戦いに没頭している状態だった。もっと戦いたい、もっと続けたい。ティオナのアマゾネスとしての本能が叫んでいる。

 

「早く続きしようよ~!」

 

「悪いが今日はここまでだ」

 

 休憩終わりとティオナが再度続きを催促しようとするが、突如誰かが割って入って来た。

 

 二人が振り返る先には【ロキ・ファミリア】副団長のリヴェリアがいる。彼女はリヴァンとティオナの間に入って手合わせを中断させようとする。

 

「ちょっとリヴェリアー! まだ夕ご飯の時間じゃないでしょー!?」

 

 中断させるリヴェリアにティオナが抗議した。

 

 食事の時間が近づいて来たら、団員の誰かが止めに入るのが既に日課となっている。しかし、今回は副団長のリヴェリアがやったから、リヴァンだけでなく見物してる団員達も信じられないように見ている。

 

「今日はリヴァンに少しばかり話があって、応接間に連れてくるようフィンに頼まれたんだ」

 

(俺に話って……)

 

 聞いたリヴァンは思わず目を細める。この五日間、今まで呼び出しされなかったから訝るのは当然だ。

 

 因みに二人の手合わせを見たフィンやリヴェリア、そしてガレスも最初は信じられないように驚愕していた。ガレスに次ぐ『力』に特化したアマゾネスのティオナ相手に、あそこまでぶつかりあえるエルフがいるのかと目を疑った程だ。

 

「ええ~!? あたし今日まだ満足してないんだけどー!」

 

「あれだけやっておいて満足してないのか……」

 

 ティオナの言い分にリヴェリアは嘆息しながら呆れていた。普通に考えれば半日近くも手合わせをすれば充分過ぎるのだが。

 

「まぁまぁティオナさん、続きはまた明日にしましょう。俺としても、今日は早く切り上げたいと思ってましたので」

 

「だそうだ、ティオナ」

 

「ぶ~」

 

 リヴァンが終わりと言った事に、ティオナは不満気に剥れながらも諦めた。要望したのは元々彼である為に逆らうことは出来ないので。

 

 リヴェリアは一旦汗を流してから応接間に来るようにと言って訓練場を出た。リヴァンとしても身体を洗いたいと思っていたところなので、彼女の指示に文句を言うこと無く風呂場へ向かおうとする。

 

 ティオナと手合わせする目的で『黄昏の館』に留まってるから、リヴァンは最初訓練場で寝泊まりをする予定だった。しかし、そこを団長のフィンが五日前に団員達が仕出かした詫びをしたいという事で、食事と寝泊まり用の部屋を提供してくれた。此処にいないベルの方は、フィンがティオネに食料や道具の調達をするよう指示してる。愛する団長からの指示にティオネは、何一つ文句言うこと無く実行してるのは言うまでもないだろう。

 

(しかし、五日とは言えもうすっかり慣れちゃったな……)

 

 他所【ファミリア】の本拠地(ホーム)にある施設を使う事に最初は遠慮しがちのリヴァンだったが、五日もいる事で既に慣れていた。尤も、本拠地(ホーム)で世話になってるとは言え、リヴァンが自由に出入りを許可されてるのは訓練場と用意された部屋、そして食堂と風呂とトイレだけだが。因みに食事の際、従姉のレフィーヤは勿論のこと、ティオナや更にリヴェリアも同席している事もあった。

 

 後々に面倒な事にならなければ良いと思いながらも、リヴァンは風呂に入って汗を流し始める。その後、汚れた服はアンティでコッソリと清潔な状態に戻していた。

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「いや、僕達もついさっき来たところだから」

 

 身形を整えた俺は応接間へ行くと、待っていたであろうフィン・ディムナと神ロキがいた。自分達以外にも団員が何人かいて気になるように見ているが、俺は気にせず二人が座ってる別の椅子に腰掛ける。

 

 因みに神ロキは五日前にいなかったが、戻って来た時は酷くご立腹だった。最初は犬猿の仲であるヘスティア様の眷族に協力するのは断固反対していたが、自身の団員達がヘマをやらかしたのを聞いて何も言い返せなくなり、今はもう完全に静観状態である。

 

「それで、話があるとリヴェリアから聞きましたが」

 

 此処にいる団員達が見れば、都市最高派閥の団長に無礼だと思われるだろう。遅くなった謝罪もせず、早々に用件を尋ねているから。

 

 しかし、向こうは全く気にせず俺に合わせようと話し出そうとした。

 

「君やベル・クラネルが鍛錬をしてる間、情報を集めていたロキから色々と聞いてね。どうやら戦争遊戯(ウォーゲーム)は今から四日後に行う予定らしい」

 

「四日後、ですか……」

 

「せや。ギルドと相談した結果、オラリオから離れた場所でやる事になったで。そこへ移動する時間を考えれば……自分らが鍛錬出来るのは、あと二日くらいや」

 

 神ロキが戦争遊戯(ウォーゲーム)についての仔細を語ろうとする。

 

 神会(デナトゥス)で【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】が戦争遊戯(ウォーゲーム)をする内容はくじ引きの結果、『攻城戦』となったらしい。当然、それは【ヘスティア・ファミリア】側が圧倒的に不利な戦いだ。

 

 くじを引いた張本人である神ヘルメスが、助っ人の俺一人だけでは不平等(アンフェア)だから更に助っ人を加えるべきだと提案した。しかし神アポロンは即座に、『既に他派閥の子を助っ人として参加してるから認められない。これ以上は神の代理戦争の名に傷を付ける』と突っぱねた。

 

 断じて一切譲歩しないと要求を受け入れない姿勢を見せる神アポロンだったが、そこで思わぬ事態が起きた。何と美の女神フレイヤが口を挟んで上手く丸め込ませ、新たな助っ人参加を認めさせたらしい。と言っても、神アポロンが認めた新たな助っ人は一人までで、都市外の【ファミリア】に限るというセコイ条件だが。流石のフレイヤもそれ以上は口出し出来ず、そこまでとなった。

 

 あの女神がどうしてそんな事を言ったのかを訊いてみるも、神ロキは「知らんわ」の一言だけだ。それを聞いた俺は、答えてくれる気はないみたいだなと内心思った。ただでさえ俺とベルが鍛錬で世話になってるのに、そこまで肩入れするつもりはないと言う神ロキなりの反抗だと推察しながら。

 

 神ロキから神会(デナトゥス)であった話を終えると、今度はフィン・ディムナが語り出そうとする。

 

「ウチの団員が聞いた話によると、【ヘスティア・ファミリア】の団員が増えたと、ギルドの掲示板で公開されている。ソーマ、タケミカヅチ、ヘファイストス……以上三つの派閥から一人ずつ移籍したようだ」

 

 俺は思わず驚くも話を最後まで聞きながら、上手く行ったんだと内心安堵する。聞いているだろうベルは俺と違って喜んでいるに違いない。

 

 ヘスティア様がリリルカを助け出し、ヴェルフ達が協力してくれた。その協力者の中にミアハ様とナァーザさん、そして【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花達もいる筈だ。

 

 しかし、少々解せない事がある。移籍した内の一人――【タケミカヅチ・ファミリア】の命さんが何故加わったのかが。あの人は桜花と違って何の貸し借りは無い筈なのに、態々【ヘスティア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)する必要は無いんだが。まぁこれは後で彼女に聞けば分かる事だ。

 

 結果はどうあれ、向こうが成功した以上、俺も相応の結果を示さないといけない。ティオナさんには悪いが、夕食が済んだら訓練を再開するとしよう。と言っても俺一人だけでの訓練だが。

 

 話を一通り終えたので、俺は断りを入れてから夕食を頂く為に食堂へと向かった。

 

「おい」

 

「ん?」

 

 食堂へ向かう途中、誰かが声を掛けてきた。反応した俺が振り向くと、そこには手合わせを断られたベート・ローガがいる。

 

 相変わらず不機嫌そうな顔をしてるなぁと思いながらも、取り敢えず話しかける事にした。

 

「俺に何か用か? 悪いけどこれから食事なんで、出来れば手短にしてくれ」

 

 ティオナさんと違ってタメ口で言い返すも、向こうは気にも留めずに答えようとする。

 

「雑魚の分際で、あのバカゾネス相手によくまぁ食らいついてるじゃねぇか。そろそろ力の差ってのを理解して、尻尾巻いて逃げた方がいいんじゃねぇのか?」

 

「余計なお世話だ。手合わせを断ったアンタはもう無関係だから、俺の事なんか気にせず放っておいてくれ。ついでに言うと、雑魚の俺はあと二日経てば此処からいなくなるから、それまではもう暫く我慢してくれ」

 

 安い挑発だと分かりながらも、俺は笑顔のまま皮肉を込めて言い返した。

 

 平然と相手を見下す相手にはまともに相手する気はないが、ベート・ローガに下手な対応をすると面倒になるから、キッパリと言い返した方が良い。【フレイヤ・ファミリア】にいるアレン・フローメルにも言える事だが。

 

「まだ二日もいやがるのかよ。ウゼェったらありゃしねぇ」

 

「あっそ。用件がそれだけなら俺は行かせてもらう。その後にすぐ一人鍛錬をするつもりなんで」

 

「…………………」

 

 言うべき事を言った俺はスタスタと移動する。ベート・ローガは何か考えてそうな表情をしていたが、敢えて気にしない事にした。

 

 食堂に入った途端、【ロキ・ファミリア】の団員達の何人かが俺に気付いて視線を向けるも、俺は気にせず用意済みの夕飯セットを持ち運び、隅っこで食べ始める。

 

 長風呂でもしてるのか、ティオナさんは未だ食堂に来てない。けど、レフィ姉さんがいつもの如く来て一緒に食事を取ろうとする。その際、戦争遊戯(ウォーゲーム)から手を引くよう遠回しな説得をするのがお決まりのパターンだ。言うまでもなく却下しているが、ここまで同じ事を何度もされるといい加減鬱陶しくなってくる。従弟(おれ)の為を思って言ってるのは分かるが、やると決めた以上は退かないと言い返して諦めさせている。

 

 そして食事を終え、部屋で一休みした後、再び訓練場へと向かう。

 

 オラクル船団にいた頃、強敵の誰かを想像(イメージ)して戦うと言うイメージトレーニングをした事がある。教えてもらったクーナさん曰く、相手の戦い方や癖をよく見なければ出来ない芸当だ。

 

 クーナさんやアイカさん、もしくはカスラにしようかと考えるも、ここはいっそ六芒均衡のマリアさんを想像(イメージ)しながら戦ってみようと思う。あの人の鬼教官振りは今でも恐ろしいと思ってる他、自分では絶対勝てない相手だと身体が染みついてるので。

 

 そう思いながら訓練場に着くと、中央に佇んでいる獣人がいた。食事前に声を掛けてきたベート・ローガが。

 

 俺が来た事に気付いたのか、向こうはすぐに振り向いてこっちを見てくる。

 

「何しに来やがった、クソエルフ。バカゾネスとの訓練は終わったんじゃねぇのか?」

 

「もう少し身体を動かそうと一人訓練をしに来ただけだ。そう言うアンタこそ何で此処にいる?」

 

「テメェには関係ねぇ事だ」

 

 そう言ってベート・ローガは再びそっぽを向いて佇んだままとなる。

 

 奴の事は気にせずイメージトレーニングしても良いんだが、何もせず此処にいられては集中できない。何か追い払う理由は出来ないかと考えるが……即座に却下して、ある事を提案しようとした。

 

「おいベート・ローガ。何のつもりで此処に来たかは知らないけど、やる事がないなら俺の相手をしてくれないか?」

 

「誰がやるか。雑魚の相手をするほど暇じゃねぇ」

 

「そうか。ならば……こうやっても問題無いよな?」

 

「あぁ?」

 

 俺が両剣(ダブルセイバー)を展開し、いつでも襲い掛かろうとする態勢となった事に、振り向いたベート・ローガは警戒し始める。

 

「一体何の真似だ。まさかとは思うが、この俺に挑む気か?」

 

「アンタがそこで突っ立ってると訓練の邪魔なんでね。力付くで追い出そうと考えたまでだ」

 

「……はっ。あのバカゾネスと戦えるからって、少しばかり調子に乗ってるみたいだな」

 

 気分を害したように、ベート・ローガは途轍もなく不快な表情になり、殺気立ちながら俺を睨んでくる。

 

「予定変更だ。クソエルフには二度と俺にそんな口を叩けねぇよう、今此処で半殺しにしてやる」

 

「上等。出来るものならやってみな、下品な犬っころ」

 

 そう言いながら俺は両剣(ダブルセイバー)形態から飛翔剣(デュアルブレード)形態に変えようと、一対となっていた剣の柄を分離して構える。

 

 全く違う戦闘スタイルになった事で、ベート・ローガは途端に訝った表情となる。

 

「バカゾネスと戦った時とは違う型だな。最近の雑魚は戦い方をコロコロ変えるのが流行ってんのか?」

 

「臨機応変と言ってくれ。単純な考え方しか出来ないアンタには一生理解出来ないだろうが」

 

 売り言葉に買い言葉となってる事に、俺達は相手を罵りあっていた。リヴェリアが見れば完全に呆れているだろう。

 

 それが引き金となり、俺とベート・ローガは動いて攻撃を繰り出そうとする。

 

「はぁっ!」

 

「おらぁ!」

 

 斬撃の俺に対し、硬そうな金属のブーツで蹴撃するベート・ローガ。互いの得物がぶつかり合った事で激突音が響く。

 

 ティオナさん程ではないが、この男の蹴りは相当な威力だ。それとは別にスピードがある。パワー重視のティオナさんとは別に、ベート・ローガはスピード重視。流石最速と呼ばれるだけある。

 

 まだまだ本気では無いにしろ、コイツとの戦闘も充分いい経験となるだろう。

 

「甘ぇんだよ!」

 

「!」

 

 攻撃を防いだのも束の間、ベート・ローガは即座にもう片方の脚で蹴撃しようとしている。

 

 俺がもう片方の剣で防御しようとするが、向こうの方が速く防ぐことが出来なかった。

 

 しかし――

 

「ぐぅっ!」

 

 ベート・ローガから苦痛の声が出た。

 

 そうなった理由は勿論ある。奴の蹴撃が俺の顔に当たる直前、飛翔剣(デュアルブレード)用の武器アクション『パリィ』でジャストガードしたからだ。同時にカウンターとしてフォトン(エッジ)を飛ばしたので、それが脚に当たった事で奴は苦痛の声を上げていた。

 

 予想外の防御と反撃を喰らったベート・ローガは一旦離れようと、俺から距離を取って動きを止めて警戒する。

 

「テメェ、今何しやがった!?」

 

「逆に問うが、俺が素直に答えると思ってるのか?」

 

「…………チッ」

 

 俺の台詞を聞いて舌打ちをしながら訊くのを止めるベート・ローガ。

 

「マジでムカつく野郎だ。先ずはそのすかしたツラを蹴り飛ばしてやる……!」

 

「ご自由に。やれるものなら」

 

 完全に手加減なしでやるつもりなのか、奴はさっきまでと違って本気でやろうとしている。

 

 だが、それは俺からすれば非常に好都合な展開だった。スピード重視の相手と戦うのは俺にとって非常にいい経験となる。

 

 急遽始まった俺VSベート・ローガの戦闘により、訓練場は再び激突音が鳴り響く事となった。

 

「な、何でベートさんがリヴァン君と戦ってるんすか!?」

 

「これは一体……!?」

 

 一足早く来た人間(ヒューマン)の男性団員と、猫人(キャットピープル)の女性団員が信じられないように驚愕していた。続々と他の団員達が集まる中、俺とベート・ローガは気にせず戦いを続けている。

 

「ああ~~~! 何でベートがリヴァン君と戦ってるの~!?」

 

 当然、食事前まで手合わせしていたティオナさんもいて物凄く騒いでいた。

 

 彼女も混ざろうと急いで自身の得物を持って参加しようとするが――

 

「お前達、こんな時間まで何をやってる!」

 

 リヴェリアが現れて強制中断される事となり、ベート・ローガとの戦いは明日に持ち越しとなってしまった。




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幕間

今回は凄く短いので幕間にしました。


 残った二日も鍛錬に費やすも、色々と凄く面倒な事になった。ベート・ローガも急遽加わったから。

 

 これには当然ティオナさんが『邪魔しないで!』と抗議するも、あの狼は『うるせぇ、俺はあのクソエルフに喧嘩売られたんだ!』と言い返してくる始末。二人の口論に俺は勿論の事、レフィ姉さんや団員達も揃って唖然となったのは言うまでもない。

 

 結局のところ、リヴェリアが間に入って仲裁したお陰でどうにか収まってくれた。見ていた俺はまるで母親みたいだと思ったのは内緒だ。口にしたら彼女からギロリと睨まれるのが容易に想像出来たので。

 

 俺も一応、昨日の続きをしたいと言う理由で午前中はベート・ローガと相手をする事にした。文句を言ってくるティオナさんに申し訳ないが、午後から相手をしてもらおうと言って。

 

 レフィ姉さんの隣でものすっごく不満そうに見てくる彼女を余所に、俺は即座に本気で激突する。向こうも昨夜の事もあってか、俺と同じく本気のスピードを出していた。

 

 二振りとなってる飛翔剣(デュアルブレード)を振るいながらパリィで防ぐ『Lv.2』の俺に対し、金属製のブーツを纏った素早く重い蹴撃を仕掛ける『Lv.6』のベート・ローガ。普通に考えればありえないが、互角に近い戦いをした。

 

 因みに戦闘スタイルを変えてる事に、レフィ姉さん達はそれに全く気付いていなかった。ティオナさんだけでなく、ベート・ローガとも()りあえる俺が相当信じられなかったんだろう。

 

「クソがっ! さっきから当たる寸前に妙な(もの)で防ぎやがって!」

 

「当たりたくないから防いでるんだよ! 俺はマゾじゃないんでね!」

 

 パリィで攻撃を防がれてる事に悪態を吐くベート・ローガに対し、思った事をそのまま言う俺。

 

 いくらエトワールクラスが防御に優れていると言っても、あの蹴りを顔に当たったら絶対に軽傷では済まされない。余りに酷かったらアクティブスキル――『オーバードライブ』を使って瞬時に全回復すればいいが。

 

 体力や体内フォトンを全回復させるだけでなく、体内フォトンを一定時間上昇(ブースト)させてフォトンアーツの使用回数を増やす事が出来る凄く便利なスキルだ。更にはパーティメンバー全員にも同様の効果を得られる。この世界に合わせるなら、体力と精神力(マインド)を同時に全回復出来ると言えばいい。まだベル達に試した事はないが、恐らく問題無く回復出来るだろう。

 

 けど、俺は此処に来て一度も使ってない。理由は簡単。『ロキ・ファミリア』にこれ以上の情報を公開させたくないから。

 

 既に両剣(ダブルセイバー)飛翔剣(デュアルブレード)についての情報を向こうに知られているので、エトワールクラスの切り札同然のスキルである『オーバードライブ』を知られたら非常に困る。頭が切れるフィン・ディムナなら恐らく、俺を非常に厄介過ぎる相手と見るだろう。俺が前衛で戦える上に、尚且つ前線で戦ってる者達を瞬時に全回復するスキルや回復や上昇(ブースト)魔法を持ってるなんて知れば、真っ先に倒したい相手だと考える筈だ。

 

 まぁ俺も俺で、ティオナさんとベート・ローガに関する情報は得ている。主に戦闘スタイルに関して。全てを知った訳ではないが、敵対して戦う事になれば、それ相応に戦う事が出来る。情報の有無で戦況が左右されるから、【ロキ・ファミリア】幹部の情報は非常に有難い。尤も、俺も向こうに自身の戦闘スタイルの情報を与えてしまってる為、ある意味等価交換みたいになってしまっているが。まぁ俺の場合、同時にちょっとした弱味を握る事が出来たから、向こうからすれば大損だろう。

 

 そう考えながらも、残りの二日間は今までと違うも、俺にとっては非常に有意義なものとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

「――と、リヴァン・ウィリディスはそう考えているだろうね」

 

 執務室にて、会議をしているフィンはリヴェリア達にそう説明していた。

 

 リヴァンの推察した通り、相手をしていた幹部二人(ティオナとベート)の情報を得らえてしまった事をフィンは見抜いている。同時に【ロキ・ファミリア(こちら)】の弱みを握られている事に歯噛みしていた。

 

 その弱味とは、リヴァンとベルが手合わせ前に団員達がやらかした失態の件だった。既にフィン達が謝罪して何とか事無きを得たと言っても、万が一に団員達が時間が経って忘れ気味になった際、どこかで前回みたいな失態をまたやらかしたら再発する恐れがある。そうなったら最後、リヴァンは一切の謝罪を受け付けずに【ロキ・ファミリア】を訴えるだろう。

 

 団員達がちゃんと徹底すればいい話なのだが、知っての通り【ロキ・ファミリア】は都市最大派閥であり、そこに入団するのは大変な名誉に等しい。そう思った団員が増長し、他所の【ファミリア】に無礼な振る舞いを行う可能性がある。そしてそれが万が一リヴァンにやってしまえば、もう後がない状態となってしまう。故にフィンは少しばかり懸念している。

 

「確かにあり得る話だろうが、いくらリヴァンでもそこまではしないんじゃないか?」

 

 フィンの考えを聞いた副団長のリヴェリアが指摘した。

 

 リヴァンは従姉のレフィーヤに対して恋心を抱いているのをリヴェリアは気付いている。彼女が【ロキ・ファミリア】にいる限り、そこまでの事はしないだろうと思っていた。

 

「随分とあの小僧を信用しているではないか」

 

「まぁ、リヴェリアが積極的に話しかけておったからなぁ。もしかしてリヴェリア、あのエルフの子を若いツバメに――」

 

「どうやらロキは氷漬けにされたいようだな」

 

「堪忍やぁ! ウチ調子こいてましたぁ! すんません!」

 

 本気で魔力を迸らせているリヴェリアを見たロキが土下座する勢いで頭を下げて謝った。それを見たフィンとガレスは何も言わず苦笑するだけだ。

 

 リヴァンの事でからかうのは命懸けになりそうだが、それは絶対にやらないようにしようと二人は改めて認識する。

 

 取り敢えず話を変えようと、フィンは再度口を開こうとする。

 

「それにしても、彼は本当に『Lv.2』なのかと疑いたくなってしまうね」

 

「一応ウチのほうで確認してみたが、あれは間違いなく『Lv.2』や」

 

 この期間中、ロキはリヴァンにさり気なく話しかけてレベルの確認をしていた。(じぶん)に嘘は吐けられないからと分かった上での問いを掛けるも、一切の嘘が無かったから本当に『Lv.2』だと確信している。

 

 『Lv.2』が『Lv.6』と真っ向に戦えるなんて、普通に考えればあり得ない。だが、リヴァンはそれを覆すように実行していた。もう明らかに異常な光景だと【ロキ・ファミリア】は困惑する日々を送っていた。

 

「確かにあれほど戦えるエルフは初めて見たわい。見ていたワシも思わず混ざりたくなったからのう」

 

 ティオナやベートを相手にあそこまで戦ったエルフに、ガレスは昂りそうになるも我慢していた。

 

「あの小僧が【ロキ・ファミリア】に入団しようとしてたら大歓迎だったのではないか?」

 

「否定はしない。だけどその分大きな秘密があるだろうね」

 

「せやな」

 

 フィンとロキは大体察していた。リヴァンがあそこまで戦えるのには、何かしらの理由がある筈だと。同時にそれを知っているであろう彼の主神であるミアハは、ギルドに一切公表しないでいる事も含めて。

 

「まぁ取り敢えず、リヴァン・ウィリディスが今度の戦争遊戯(ウォーゲーム)でベル・クラネルに多大な貢献をするのは間違いないだろうね」

 

「案外、あの小僧が【ヘスティア・ファミリア】を勝利へ導くやもしれんな」

 

 ガレスの予測にフィン達は誰も否定しなかった。ティオナとベート相手にあそこまで戦ったリヴァンが、【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)で勝つのではないかと考えていたから。




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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる 前日

 戦争遊戯(ウォーゲーム)開催、二日前。

 

 ティオナさん達との修行を終え、フィン・ディムナやリヴェリア達に世話になったと頭を下げて【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)を後にし、久しぶりに会ったミアハ様から【ステイタス】更新を済ませた。そして一通りの話を聞いた後、都市を発つ為に隊商(キャラバン)がいる場所へ向かう。戦争遊戯(ウォーゲーム)の部隊となる『古城跡地』へ向かうのは、話をつけてある隊商(キャラバン)の馬車に乗って案内してもらう事になっているので。

 

 因みにヴェルフ達は既に行ってて、今まで修行をしていた俺とベルは現地で合流する予定だ。

 

 そして隊商(キャラバン)がいる馬車に辿り着いた俺は、御者と門番に通行許可証を見せた後、それを確認した向こうは馬車の一つに案内される。本来都市を出るのにギルドの煩雑な手続きを通さなければならないが、戦争遊戯(ウォーゲーム)参加者と認める署名が入った許可証を貰えれば例外として認められる。それは当然ミアハ様より渡されたから、何の問題無くオラリオから出れるのは言うまでもない。

 

 馬車に案内される際、ベルが来てないかを尋ねるも、まだ来てないと御者からの返答に俺は内心少しばかり焦った。もしかしてギリギリまでアイズとの手合わせをしてるんじゃないかと不安に思いながら。

 

 だが、それは杞憂に終わった。あともう少しで出発しようとするところ、ベルがギリギリのところで駆け付けて、俺のいる馬車へと来た。

 

「ったく、冷や冷やした。これで遅れたら本気でシャレにならなかったぞ」

 

「ご、ごめんリヴァン」

 

 一週間振りに再開して早々に小言を口にする俺にベルがすぐに謝った。

 

 それから次に修行の成果を訊くと、重畳とも言える返答が返って来たので安心する。それを聞きながら、預けていた双小剣(ツインダガー)を返してもらった。

 

 ベルが修行中の際、双小剣(ツインダガー)――ジュティスシーカを使って一度も壊れなかったと不思議に思っていたそうだ。それはベルだけでなく、相手をしていたアイズや監視役のティオネさんも同様に。

 

 何故かいつもより受けるダメージが小さかったり、更にはいつの間にか回復していたらしい。そんな不可思議な現象が起きていた事によって、アイズが全力に近い攻撃を何度も繰り出していたとベルが教えてくれた。

 

 それを聞いていた俺は、武器の特殊能力等が発動出来た事に疑問を抱きつつも安堵した。その後にはヘスティア様や、現地にいるヴェルフ達には黙っておくようにと念押しをしながら。

 

 話を聞いていた乗客達が、俺とベルが戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加すると分かった途端に声を掛け、応援の他にお近づきのしるしとして多くの甘味を渡された。甘いものが苦手なベルにとっては大変キツいが、彼等の優しさを無下にしないようにと礼を言いながら受け取っていた。

 

 そして馬車が移動している最中、『豊饒の女主人』のウェイトレス――シルさんが走りながら、ベルに首飾り(アミュレット)を渡していた。足を止めて『お弁当を作って待ってる』と恥ずかしそうに叫んだ事にベルは破顔した後、大事そうに首飾り(アミュレット)を首にかけた。

 

「負けられない理由が増えたな」

 

「――うん。リヴァン、絶対に勝って、帰ってこよう」

 

「おう」

 

 改めて決意をしたベルに、俺もそれに応えようと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 移動時間を丸一日使ってアグリスの町へ到着し、そこにいる臨時支部のギルド職員の案内によって指定の宿へと案内された。

 

 俺とベルが宿の一室に入ると、既に到着済みの一団がいる。【ヘスティア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)したヴェルフ・クロッゾ、ヤマト・命さん。そして俺とは別の助っ人要員である『豊饒の女主人』のウェイトレス――リュー・リオンさん。同じく改修(コンバージョン)したリリルカ・アーデの姿はないが、そこは訳ありという事で割愛させてもらう。

 

「遅かったな」

 

「ごめん」

 

「悪い」

 

 ヴェルフからの台詞にベルと俺は早々に謝罪した。事情を知ってるとは言え、俺達が戦争遊戯(ウォーゲーム)のメインである筈なのに、ギリギリで来たのだからヴェルフの言い分は充分に分かっているので。

 

「お二人とも、もう準備はいいのですか?」

 

「はい。神様にも【ステイタス】を見てもらいました」

 

「同じく」

 

 リューさんが若干心配そうに問うも問題無いと答えた。

 

 俺の方で修行内容を明かそうと思ったが、今此処で言うべきじゃないから終わった後にしようと簡潔する。もし言ったら絶対に仰天するのが簡単に想像出来るから。

 

 そう思ってると、返答を聞いたヴェルフはベルにある物を渡そうとする。

 

「じゃあベル、ほら、約束していた短刀(ナイフ)だ。一代目より切れ味は抜群だ、保証する」

 

「ありがとう」

 

 短刀(ナイフ)を受け取ったベルは大事そうに受け取った。

 

 アレはどう見てもジュティスシーカと比べて非常に頼りない。本当なら引き続き貸そうと考えていたが、そんな事をすれば専属鍛冶師(ヴェルフ)契約者(ベル)の関係を壊してしまう恐れがある。故に敢えて何も口出しはしない。

 

「ヴェルフ殿……例の物は?」

 

「用意してある。ただ、やっぱり時間がなかった、悪いが二振りだけだ」

 

 命さんが言う例の物とは、ヴェルフが常日頃から嫌っている魔剣。にも拘らず彼は作った。

 

「一応訊くがヴェルフ、覚悟を決めたと思っていいのか?」

 

 俺からの問いに彼は眉を少しばかり顰めた。

 

 以前の黒いゴライアス戦の後、俺は苦言を呈した。『最初から魔剣を用意してれば、ダンジョン中層で遭難する破目にならなかった』と。

 

 これには当然ヴェルフが激昂しかけるも、足を引っ張っていた自覚はあったみたいで、結局何も言い返さずに顔を俯かせていた。流石に言い過ぎたと思って謝ったが。

 

「ああ。……意地と仲間を(はかり)にかけるのは、もう止めた」

 

「ふーん」

 

 もしかしたら俺以外にも指摘されていたかもしれない。明らかに誰かが苦言を呈した台詞だったので。と言っても、そこは当人同士の深刻そうな問題に思えたので、俺はそれ以上何も言わずに頷くだけにした。

 

 話はもう終わりと言わんばかりに、ヴェルフは用意した魔剣をリューさんに渡していた。

 

「おい、預けとくぞ。さっき言ったが急造だ、威力も強度も保証できない。使いどころを間違えるな」

 

「分かりました」

 

 受け取ったリューさんはコクリと頷いた。戦闘経験豊富な彼女なら問題無いと思ってるからこそ、ヴェルフは信頼して預けたのだ。

 

「本当だったら、リヴァン用にも造ろうと思ってたんだが、どうにも時間がなくてな」

 

「気にするな。俺は俺で自前の武器があるから大丈夫だ」

 

「……前から思ってたんだが、お前の武器は一体何なんだ? 片手剣かと思いきや双剣で、更には柄に連結された二振りの剣になったりって……どういう構造してんだよ」

 

 鍛冶師として気になるのか、ヴェルフは俺の武器について訊いてきた。それにはベル達も気になってる様子だ。

 

「まぁ……そこは色々とだけ言っておく」

 

 流石に異世界で作られた武器とは言えなかったで、俺は適当に誤魔化しておいた。エールスターライトは武器迷彩だが、向こうの世界で作られた武器に変わりない。

 

 俺の武器に関する追究を何とか逸らし、俺を含めたベル達は明日の戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝とうと意気込む。

 

 神ロキから聞いた【アポロン・ファミリア】との戦闘形式(カテゴリー)は攻城戦。勝利条件は、敵大将の撃破。

 

 明らかに【ヘスティア・ファミリア】側に圧倒的不利な戦いだが、それでも誰一人悲嘆してない。寧ろ『絶対勝つ!』とやる気満々だ。

 

「ああ、そうそうリューさん。最初は貴女が魔剣を使って敵を大量に引きつける手筈ですけど、その後は俺が片付けますので下がって下さい」

 

「ウィリディスさんだけ、ですか?」

 

「ええ」

 

 理由は勿論ある。神の宴で人を散々嘲笑したバカ共に、エトワールクラスの恐ろしさをじっくり教えてやろうと考えているので。




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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる 開始寸前

 待ちに待った戦争遊戯(ウォーゲーム)当日。オラリオは盛大な賑わいを見せていた。

 

 大イベントによって、朝早くから『豊饒の女主人』を含めたすべての酒場が店を開き、街の至る所で多くの出店が路上に展開している。

 

 オラリオから遥かに離れた場所で戦争遊戯(ウォーゲーム)をやるのに、何故こうも大騒ぎになるのかは当然理由がある。『神の力(アルカナム)』――『神の鏡』という千里眼の能力を有し、離れた場所で一部始終を見通す事が出来る為、都市に住まう者達は観戦を楽しむ事が出来るのだ。

 

 都市中が熱気と興奮に包まれている中、【ロキ・ファミリア】一同はバベルで観戦してる主神(ロキ)を除いて、自身の本拠地(ホーム)で観戦していた。団員達の中には外出してるのもいるが、本拠地(ホーム)にいなければならない理由は一切ないので好きにさせている。

 

「アイズ、そろそろ始まるよー!」

 

 団長のフィンや主要メンバーの幹部勢は一室に集まっており、出現した『鏡』を見て観戦している。

 

 窓越しから外を眺めていたアイズにティオナが声を掛けてきたので、すぐに振り返って映し出されてる『鏡』を見ながら幹部達の方へ近寄った。

 

「リヴァン……」

 

 リヴェリアの隣に座っているレフィーヤは相も変わらず心配そうに見つめていた。戦争遊戯(ウォーゲーム)の開催が迫る度、やっぱり引き留めればよかったんじゃないかと心配と不安で胸がいっぱいになっている。

 

 リヴァンの強さは先日の修行で理解している。しかし、『Lv.6』のティオナやベート相手に互角の戦いを繰り広げたのは今でも信じられなかった。これまで何度も問い詰めたが、他所の【ファミリア】だからという理由で教えられなかった。それとは別にやっぱり止めようと説得をするも、当の従弟は全く聞く耳持たず状態。挙句の果てには、『あんまりしつこいと金輪際、縁を切りますよ?』と脅すように言われてしまった為に引き下がらざるを得なかった。

 

 彼女がそうまでして止めようとする理由は、ベル・クラネルが原因であった。と言っても、それはレフィーヤが一方的にベルを敵対視しているだけに過ぎない。自身が憧憬するアイズと仲が良いという個人的な嫉妬で。

 

 もしもベル以外の為に頑張ろうとするなら、執拗に止めようとはしなかった。だが相手がベルの事となると、どうしても引き留めてでも説得してしまう。

 

 嘗てウィーシェの森でいた頃、レフィーヤはリヴァンを実の弟のように仲良く接していた。そんな中、その弟が突然行方不明となって数年後にオラリオで再会し、いつの間にか自分より大人っぽくなっている。それでも自分を姉さんと呼んでくれる事で、レフィーヤは姉として、冒険者の先達として接している。

 

 そんな大事な従弟が、いつの間にかベルの為に頑張ろうとしている。リヴェリアから戦争遊戯(ウォーゲーム)の件を知るまで寝耳に水だった。ベル・クラネルが友達だからって、どうして従姉の自分を頼ってくれないのかと疎外感を抱いてしまう。まるでもう自分は必要無いんじゃないかと。

 

 段々と自己嫌悪しているレフィーヤに、ティオナが元気よく声を掛けようとする。

 

「大丈夫だよ、レフィーヤ! 従弟のリヴァン君を信じなって! あの子、すっごく強いんだからさ!」

 

「ティオナさん……」

 

 まるで自分の考えを読んでいたかのような台詞だったが、レフィーヤはそれでも心が少し軽くなった。彼女の言う通り、ここまで来た以上は従弟を信じるしかないと考えを改め見守ろうとする。

 

(漸く覚悟を決めたか)

 

 隣にいるリヴェリアは内心安堵した。師である自分が声を掛けるべきなのだが、そうしたところで空元気に振舞うだけだと思い敢えて何も言わなかった。しかし、ティオナがフォローしてくれたお陰でちゃんと向き合おうとしてるから、取り敢えず一安心した。

 

 すると、ある事を思い出したティオナは突然膨れっ面になる。

 

「そう言えばロキってば、結局本拠地(ホーム)に戻ってこなかったなー。アタシ、【ステイタス】更新したかったのにー」

 

「そんなの戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わってからにしなさいよ」

 

「だってあの子、すっごく強かったから、もしかしたら上がってるかもって思ったんだよ~」

 

「……団長、ティオナの言ってる事は本当なんですか? リヴァン・ウィリディスがティオナやベートと互角に戦っていたのは」

 

 監視役としてベルの修行をティオネはリヴァンの修行内容を知らなかった。本拠地(ホーム)から戻った際にティオナから聞いたのだが、いまいち信じる事が出来ない状態だ。勿論他の団員からも聞いたが、直接見ていない為にやはり無理だった。

 

「ああ、本当だよ。あれには僕も本当に驚かされたよ」

 

「そう、ですか……」

 

 愛する団長の言う事なら間違いないと結論するティオネだが、珍しくも歯切れが悪かった。

 

(今度会ったら絶対手合わせする……!)

 

 因みにアイズも聞いており、ティオネと違ってあっさりと信じていた。前々からリヴァンが只者じゃないと知っていた事もあって、一層興味を抱いている。戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わったら手合わせしようと決意するほどに。

 

「けど、僕としてはそちらの修行が気になるね。確か彼は見慣れない武器を使って、不可思議な事が起きていたそうだね」

 

「あ、はい。ベル・クラネルに訊いても、リヴァン・ウィリディスから借りただけとしか……」

 

 ティオネは情報収集をしようと、アイズとの修行中の合間にベルが使用していた武器について調べるも全く得る事が出来なかった。『Lv.6』のアイズが繰り出す攻撃を受けても異常に打たれ強くなってる他、回復薬(ポーション)を一切使わずに回復してると言う不可思議な現象が起きて全く分からず仕舞いとなっている。

 

 当然、これはアイズも疑問視していた。以前内緒で訓練した時とは全くの別人ではないかと錯覚するほどの強さになっていたので、思わず何度も本気でやろうとするほどだ。

 

 加えて修行期間中に一度も破損せずに最後まで使っていた。不壊属性(デュランダル)の武器なのかと思ったが、結局は不明のまま終わっている。

 

 唯一分かったのは、ベルが使っていた武器はリヴァンの所有物であるだけ。それ以上は全く分からない。

 

 しかし、フィンからすれば充分な収穫だった。リヴァンが明らかに普通の冒険者とは違うという状況証拠を得られたので。

 

 そもそも彼がティオナやベートと戦える時点でおかしいだけでなく、ベルに貸した武器は明らかに普通じゃない。

 

(まぁ何にせよ、暫くは様子見だね)

 

 かと言って、フィンはたったそれだけでリヴァンを問い質す気は一切ない。今の【ロキ・ファミリア】は弱味を握られてる状態なので、下手に藪蛇を突いてしまえば手痛い竹箆返しを受けてしまう恐れがあるから、一先ずほとぼりが冷めるまで静観するつもりでいる。

 

「ベート、お主はどう見る?」

 

 それとは他所に、ガレスは後ろで壁に寄りかかりながら佇んでいるベートへ顔を向ける。ティオナより短い期間とは言え、ベートもリヴァンと修行相手になっていたから多少気になっていた。

 

「知るか」

 

 たったの一言でベートは話をぶった切る。

 

 ガレスはそこまで期待してなかったのか、一言を聞いた後に若干呆れながらも再び『鏡』の方へと視線を移した。

 

(あのクソエルフ、一応は俺とあそこまで戦ったんだ。これでもし無様に負けたらブッ殺してやる……!)

 

 ティオナの邪魔があって満足に手合わせ出来なかったが、それでもリヴァンの事をただの雑魚と見る事は無くなっていた。それと同時に、非常に厄介な相手だと思っている。

 

 攻撃をしても魔力剣みたいな物で何度も防がれるだけでなく、あの細腕とは裏腹に重い攻撃をする他、自身と同じ蹴撃も仕掛けている。ベート本人は決して認めないが、戦闘スタイルが少しばかり自分と似ていた。剣を振るいながらも脚も使って攻撃するから、一瞬パクリではないかと思うほどに。

 

『それでは戦争遊戯(ウォーゲーム)――開幕です!』

 

 ベートが何れ落とし前を付けると思っていると、『鏡』から実況役の声がした後、大鐘の音と共に戦いの膜は開いた。




今回は【ロキ・ファミリア】側の心情話メインです。

感想お待ちしています。


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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる 開始

「始まりましたね」

 

「ええ、行きましょう」

 

 遠方から、銅鑼らしき音が聞こえた。即ち、戦争遊戯(ウォーゲーム)開始の合図だ。

 

 響き渡る開始音に俺とリューさんは昨夜の打ち合わせ通り、先鋒として移動を開始した。荒野の中央を静かに歩み、北側の城砦正面へと向かっている。

 

 因みに俺の格好はいつも通りである『カテドラルスーツ』を身に纏い、対してリューさんは奇抜な格好だった。フード付きのケープを身に付け、その上から更にマントを羽織って全身を隠している。俺はともかく、明らかにリューさんの方が凄く怪しい人物と思われるだろう。

 

 そんなどうでもいい事を考えながら、数分もしない内に目的地へ辿り着く。そして予想通りと言うべきか、北側の城壁には見張りと思わしき弓使い(アーチャー)がこちらを発見し、少々狼狽えた様子を見せていた。

 

 距離が約100(メドル)ぐらいまで接近した直後、リューさんが動き始めた。

 

「ウィリディスさん、手筈通り下がってください」

 

「了解」

 

 リューさんが両腕を広げ、弾みでマントが宙を舞いながら、彼女の細い両手が握り締めている紅と紫に染まった二振りの『魔剣』を露わにした。

 

 それを見た俺は隣に歩いている彼女から離れようと後退し距離を取ると、二振りの無骨な長剣が同時に振り下ろされる。

 

 直後、城壁の上にいた者達の目の前で凄まじい砲撃が炸裂した。

 

(ヴェルフの奴。急造とは言ってたけど、ゴライアス戦(あのとき)に見せた魔剣に匹敵してるじゃないか……!)

 

 立て続けにリューさんが二振りの魔剣を振るう事により、紅の剣から巨大な炎塊が吐き出され、紫の剣から大蛇の如き紫電が迸っている。どちらも強力な一撃で、もうあっと言う間に分厚い城壁を貫通し弾け飛んでいた。

 

 流石は『クロッゾの魔剣』。そこら辺の魔剣とは大違いで、魔導士が放つ魔法以上の威力だ。改めて、昔のラキア王国が重宝する筈だと認識する。あれこそ攻城戦に相応しい、最強の攻城武器。

 

 そう思ってると、向こうが慌てたように城壁から矢の雨を放ち始めた。

 

 俺達は走りながら難なく回避。その際にリューさんがお返しと言わんばかりに『魔剣』を振ると、紫の稲妻が城壁にいる魔導士や弓使い(アーチャー)を呑み込んで轟音、更には火炎の砲弾が城壁の一部を爆砕。

 

(よし、ここで俺もやるか)

 

 分厚い筈の北側城壁が穴だらけとなったのを確認した俺は、リューさんに待ったを掛けた。

 

「リューさん、今度は俺がやります。あと宜しければ、『魔剣』の片方を貸して下さい。出来れば炎が出る方を」

 

「それは構いませんが、どうするつもりなんですか?」

 

 紅の『魔剣』を渡しながら問うリューさんに、俺はそれを左手で受け取り、すぐに右手から短杖(ウォンド)――エールスターライト(ディムウォンド)を展開する。端から見ると飛翔剣(デュアルブレード)みたいに思われる。

 

「中に入って暴れます」

 

「なっ! それは危険だっ! いくら腕が立つと言っても、貴方一人では――」

 

「心配ご無用です。一週間ぶっ続けで『Lv.6』のティオナさんやベート・ローガとの手合わせに比べれば、中にいる連中なんて可愛いもんです」

 

「――は?」

 

 俺が予想外な事を言ったのか、リューさんは途端に目が点になった。

 

 説明したいところだが、生憎とそんな暇は無い。彼女には悪いけど無視させてもらう。

 

 二つの武器を手にしてる俺は次の行動に移ろうと、プリズムサーキュラーを発動させた。フォトンの帯を纏い、城壁の上部に向かって高速飛行を開始する。

 

 

 

 

 

 

「嘘ぉぉぉぉ! リヴァン君が飛んでる~~~~~~!?」

 

 ティオナが信じられないように叫ぶも、【ロキ・ファミリア】は全く気にしてないように驚愕を露わにしていた。

 

 『鏡』に映っているリヴァンは高速飛行をしながら侵入する事に、敵の【アポロン・ファミリア】側も困惑している。迎撃しようと矢の雨を放たれるが、リヴァンの周囲を覆っている結界らしき物が阻まれて一切当たらない。

 

 見事に城の中へ入った後、結界を解いた直後に右手の片手剣を薙ぎ払った瞬間に光の渦が放たれた。その渦は固まっている【アポロン・ファミリア】団員の数名に直撃し、勢いよく吹っ飛ばされていく。

 

 しかし、それだけでは終わらず、今度は左手にある紅の魔剣を振るい、巨大な火炎の砲弾が放たれる。さっきの渦と違い、砲弾が地面に直撃した瞬間に炸裂する。

 

 落下しながらも、固まってる敵に向かって魔剣を連続で振り続けるリヴァン。それによりどんどん敵の被害が大きくなっていく。

 

『これで邪魔者は片付いたな』

 

 漸く地面に着地したリヴァンが周囲を見渡し、上手く言ったと言わんばかりの表情をしながら言った。それもその筈。リヴァンが中に侵入後、北側城壁にいる魔導士や弓使い(アーチャー)の殆ど狙って倒していたので。

 

 すると、持っている紅の魔剣が木っ端微塵に砕け散ってしまう。回数制限を失い、魔剣としての役目を終えた証拠だ。

 

 それも束の間で、中にいる多くの【アポロン・ファミリア】団員達が現れ、すぐにリヴァンを囲んだ。

 

 魔剣を使ったのが先日に主神アポロンに向かって堂々と宣言したエルフの少年だと分かった途端、団員のエルフ――リッソスは激怒した。

 

『貴様ぁ!? 同胞(エルフ)でありながらよりにもよってあの忌々しき魔剣を手にする等、恥を知れ!! 同胞の里が焼かれた事を知らないのか!』

 

 激昂するリッソスの台詞は、オラリオで見ている多くのエルフ達も同様の反応を示していた。理由は勿論ある。

 

 嘗てエルフの森は『クロッゾの魔剣』で灰燼に帰した歴史があった。それによりエルフ達は今でも憎んでいる。故にリヴァンが行った事は多くのエルフ達を敵に回しているも同然の行為なのだ。

 

 しかし――

 

『んなもん知るか。バカバカしい。こっちから言わせれば、そんな過去(むかし)の事を未だに引き摺って、被害者ぶってるエルフ(おまえ)達の方が異常だよ』

 

『なっ!?』

 

 リヴァンは全く意に返してないどころか、逆に異常だと言い返してきた。

 

 当然、その台詞はリッソスだけでなく、オラリオにいるエルフ達も聞いている。言うまでもなく大半が激昂しており、憎悪を抱き始める。

 

 因みにこれを聞いていたレフィーヤが慌てふためきながら顔を青褪め、対してリヴェリアは大して気にした様子は見受けられない。後者のほうは寧ろどうでも良いどころか、リヴァンの使った飛行魔法が物凄く気になっている。

 

『それにさぁ、こっちは圧倒的に不利な状況なのに、そんな物に囚われて手段を封じるバカがどこにいる。これはアンタ以外にもオラリオで観ているエルフ達にも言える事だが、【ファミリア】の存続が掛かった大勝負で負けた際に「忌々しい過去が理由で使える筈の魔剣を使わないでやられてしまいました」と言って、それを他の仲間が簡単に許してくれると思うか?』

 

 そう言った直後、リヴァンは右手に持っている片手剣を分離させると、二振りの剣となった。右手と左手に持ち構えた直後、片方の剣を振るう。

 

 すると、剣から魔力と思われる巨大な衝撃波が放たれ、そのまま複数の団員に命中し吹っ飛んでいく。

 

『き、貴様! まだ魔剣を持っていたのか!? 同胞(エルフ)の面汚しめ!』

 

『そうやって一生過去に囚われて溺死しろ。ふんっ!』

 

『がぁっ!』

 

 連続で二振りの剣を交互に衝撃波を放ちながら、最後の同時に振って交差させた衝撃波と追撃の(エッジ)はリッソスに命中し撃破した。

 

 補足だが、リヴァンはエールスターライトの短杖(ウォンド)形態から飛翔剣(デュアルブレード)(ディムDブレード)形態に変形させた直後、フォトンアーツのライトウェーブを放っている。同時に非殺傷用としている為、鋭利である筈の衝撃波と(エッジ)は相手を斬り刻まずに吹っ飛ばされている。それでも当たった瞬間に強烈な衝撃が襲うから、当たった者は激痛に苛まれて悶える事となるが。

 

 アークス用の武器やフォトンアーツについて一切知らないオラリオ側の者達からすれば、リヴァンの武器は『魔剣』と勘違いし戦慄している。

 

『来ないのか? だったらこっちから攻めさせてもらうぞ!』

 

 リッソスがあっと言う間に倒された事に団員達が驚愕する中、リヴァンは飛翔剣(デュアルブレード)形態のまま襲い掛かろうとする。

 

 素早い斬撃と重い蹴撃の他、フォトンアーツによって【アポロン・ファミリア】団員達が次々と簡単に撃破されていく展開に、『鏡』を通して見ているオラリオの住民達は口をあんぐりと開けたまま呆然としていた。これは当然、バベルにいる神アポロンも含めた神々も同様に。




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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる 観戦者の反応

久しぶりに更新しましたが、今回は短いです。


『これはすごーい!? 【ヘスティア・ファミリア】の助っ人として参戦した【ミアハ・ファミリア】が、まさかの蹂躙だぁー!!』

 

 オラリオの住民達が呆然としてる中、実況役である褐色肌の青年――イブリ・アチャーも同じ気持ちであったが、それ以上に興奮する様に叫んでいた。

 

 それが引き金になったかのように、瞬時に驚愕と興奮が混ぜ合って爆発した。

 

 宙に浮かぶ『鏡』では今も大勢の上級冒険者を相手に蹂躙の如く活躍をするエルフの少年――リヴァンが映っている。大通りに出ている観衆の女性達は、端整な顔立ちをしてる美少年に応援の声を送っていた。

 

『それにしてもガネーシャ様、彼が使っている凄まじい「魔剣」は一体何だったんでしょう!?』

 

『あれは――ガネーシャか!?』

 

「解説する気が無いなら帰ってくれませんかねぇガネーシャ様ァ!!」

 

 ギルド前の実況と解説のボルテージも絶好調に達し、拡声された声がオラリオに響き渡る。

 

 そんな中、『鏡』に映っているリヴァンが一通り片付けるも、援軍として駆け付けた多くの上級冒険者達が襲い掛かろうとしていた。ざっと見ただけで三十人近くいる。

 

 いくら実力があるとは言え、先程まで全力に近い蹂躙をしていた彼でも体力がもたないだろう。加えて、先程まで使っていた魔剣もそろそろ限界が来て砕け散ると、観衆たちは予想していた。

 

 リヴァンは援軍として来る【アポロン・ファミリア】の上級冒険者達を目にしても、全く動じた様子を見せていない。それどころか、少々呆れたかのように嘆息していた。すると、両手で持っている二振りの剣を重ね合わせ、再び元の片手剣へと戻っていく。その直後、半透明な魔力と思わしき球体に覆われたと思いきや、そのまま凄まじい勢いで突撃。それに激突した上級冒険者達は、まるで戦車に轢かれたかのように次々と吹っ飛ばされていく。

 

『えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????』

 

『な、何と言うことだぁぁぁぁ!? 先程までの戦いから一変し、今度は暴走する戦車みたいに轢いているぞー!』

 

 観衆達が大絶叫を上げており、実況役も負けじと拡声器で叫んでいた。

 

 上級冒険者達を蹂躙するリヴァンの戦いに、観衆の中にいる一部の冒険者達はふと思い出す。あの速度で敵を吹っ飛ばしていく光景は、まるで【フレイヤ・ファミリア】にいる【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】――アレン・フローメルみたいであると。

 

 

 

 

 

「ほう。まさかアレンみたいな戦い方をする同胞がいたとは」

 

 場所は変わって【フレイヤ・ファミリア】の本拠地(ホーム)――『戦いの野(フォールクヴァング)』。此処でも『鏡』が設置されており、フレイヤの眷族達は戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦していた。

 

 彼等は自分達より弱者である【ファミリア】同士の諍いに全く興味は無いのだが、主神(フレイヤ)が今も夢中になっている気に入らない奴(ベル・クラネル)がいる。状況によって命令が下される可能性がある為、殆どが仕方ないと言った感じで『鏡』を見ている。

 

 始まって早々、フレイヤがベル以外にも気にかけているエルフの少年(リヴァン・ウィリディス)の戦いに、【フレイヤ・ファミリア】の幹部――ヘディン・セルランドが感嘆の声を出していた。エルフである彼としては、同胞のリヴァンが多くの上級冒険者を一掃する光景に大変興味を引いているようだ。

 

 因みにリヴァンが魔剣を忌避するエルフ達の考えを否定した際、ヘディンは他の同胞達と違って憎悪を抱いていないどころか、全く同感だと頷いていた。加えて【ヘスティア・ファミリア】側が大変不利な状況であるから、忌まわしい過去を理由に魔剣を使わないなど愚の骨頂だと考えているから。

 

「……ク、クククッ、(ちり)(あくた)の蹂躙……あの剣に備わる闇の魔力が……」

 

「無理に喋ろうとするな、ヘグニ」

 

 一緒に観戦しているもう一人のエルフ――ヘグニ・ラグナールが妙に拗れた発言をしようとするも、そこをヘディンが呆れるように止めた。

 

 白妖精(ホワイトエルフ)のヘディンと黒妖精(ダークエルフ)のヘグニは共に行動しており、白黒の騎士と呼ばれ、オラリオの冒険者達からは【フレイヤ・ファミリア】最凶の魔法剣士と知られている。

 

「おい、あのクソガキと一緒にすんじゃねぇ」

 

 心底気に入らない台詞が耳に入ったかのように、アレンが不愉快そうな表情で言い放った。

 

「それに反応するのは自覚しているんじゃないのか?」

 

「おい止せ、ドヴァリン」

 

「どこかの家畜より、あのエルフの方が戦車に見えるな」

 

「何でお前も乗っかろうとする、ベーリング」

 

「戦車の二つ名を返上した方が良いんじゃないのか、ド淫乱猫」

 

「止せって言ってるだろ、グレールッ」

 

 アレンを挑発する【フレイヤ・ファミリア】の幹部――【炎金の四戦士(ブリンガル)】ことガリバー兄妹。

 

 弟達――ドヴァリン、ベーリング、グレール――の発言に突っ込みを入れる長男(アルフリッグ)だが全然言う事を聞かない。これはある意味、彼等の日常みたいなモノである。

 

(成程、フレイヤ様が興味を抱かれる訳だ)

 

 幹部達の会話を余所に【フレイヤ・ファミリア】の団長――オッタルは観戦に集中していた。

 

 彼は以前、ほんの僅かだったがアレンと()り合ってるところを目にしており、並みの冒険者ではない事も見抜いている。

 

 あの時のリヴァンは当時『Lv.1』であり、『Lv.6』であるアレンとは本来勝負にならず一瞬で倒される筈だった。だがその前に、フレイヤの魅了で傀儡となる筈でもあった。

 

 だと言うのにそれ等を覆していたから、オッタルはリヴァンに少なからず興味を抱く事となった。ベル・クラネルと似たように。

 

 真相は定かでないが、ベルとリヴァンが【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ行き、戦争遊戯(ウォーゲーム)に備えての特訓をしていたとの噂が耳に入った。それを聞いた時のフレイヤは大層不機嫌そうな表情になっていて、傍に居たオッタルは宥めるのに少しばかり苦労したみたいだが。

 

 だが、ソレとは別に気になる事があった。

 

(あれは本当に『Lv.2』なのか? 俺にはあの妖精が『Lv.5』や『Lv.6』に匹敵してるようにしか思えん)

 

 今繰り広げている光景は同格の上級冒険者同士の戦いの筈だが、まるで格下を相手にしてるようだとオッタルはそう感じていた。

 

 実際、それは正しかった。何しろリヴァンは戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる前、【ロキ・ファミリア】にいる『Lv.6』のティオナやベートに相手をしてもらい、激しい鍛錬を繰り広げていた。もしオッタルが目撃していれば、リヴァンに対する興味が更に高まり、独断で手合わせをしていただろう。

 

(少しばかり、調べてみる必要があるな) 

 

 聞いた情報によると、リヴァン・ウィリディスは【ロキ・ファミリア】にいる団員の身内であり、【九魔姫(ナイン・ヘル)】の弟子である『Lv.3』の後衛魔導士――レフィーヤ・ウィリディスの従弟。戦闘スタイルは真逆である他、同じ身内でありながらも何故こうも違うのかと少しばかり疑問を抱いてしまう。

 

 もっと詳細な情報が欲しいオッタルは密かに決意した。この戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わった後、リヴァンや【ミアハ・ファミリア】について調べてみようと。




今回は【フレイヤ・ファミリア】側の視点を書きました。


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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる 奇襲を仕掛ける

久しぶりの更新です。


 【アポロン・ファミリア】の眷族達を、移動手段として使ってるプリズムサーキュラーで(殺してはいないが)轢き殺すように薙ぎ倒しながら縦横無尽に駆け巡っている。数えてはいないが、恐らくは五十人以上はやられている筈。魔剣を使ってると勘違いしてるとは言え、『Lv.2』の俺一人にここまでやられたとなれば、連中はオラリオに戻ったら笑い者扱いされるだろう。

 

「お二人とも、此処は任せました!」

 

「なっ!?」

 

「ちょ、リヴァン殿!」

 

 移動中にリューさんと命さんを見かけたので、俺が倒し損ねた連中を任せる事にした。そう言う打ち合わせはしてないが、あの二人も俺と同じく城の中に侵入して暴れ回る役割を与えられてるから、そこは然して問題はない。戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わった後に何か言われそうになるが、今は気にしないでおくとする。

 

 大声で引き留めようとする二人の声を無視する俺は、北城壁から西城壁へと向かっている。そこにある出入り口の門は既に開かれており、ベルとヴェルフが丁度入ろうとしていた。【アポロン・ファミリア】の小人族(パルゥム)団員――ルアンによって。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦しているオラリオの市民達からしたら、ルアンは此方に寝返ったと思ってるだろう。けれど、真実は違う。アイツの正体は『変身魔法』を使ったリリルカ・アーデなのだ。

 

 最初は凄く驚いた。他派閥の俺がそれを知るのは本来御法度だが、【ヘスティア・ファミリア】の為に協力しているという理由で知る事が出来た。リリルカから『他言無用でお願いしますね』と念を押されたが、吹聴する気など一切無い俺は勿論了承してる。

 

 因みに本物のルアンだが、聞いた話によると街外れの倉庫に閉じ込められてるらしい。今もミアハ様に見張られながら、この戦争遊戯(ウォーゲーム)を見ているとか。

 

 俺としては、アイツが今後どうなろうと心底如何でも良い。命令されたとは言え、宴会を楽しんでいた俺やベル達を怒らせようと好き勝手にほざいていたクソったれ小人族(パルゥム)に同情の余地など皆無だから。

 

「手筈通りに開けたようだな」

 

 プリズムサーキュラーを一旦解除して声を掛けると、三人は一斉に此方へ視線を向けてきた。

 

「おいリヴァン、遠くから見てたが一人で城の中に入るなんて随分無茶をしたな」

 

「そうだよ! あんな事するなんて聞いてないよ!」

 

「まぁ、リリとしては大変嬉しい誤算でしたが」

 

 本当なら俺とリューさんが魔剣で城壁に穴を開けてから敵の大半を場外に引きつけ、残った相手の更に半数を命さんが本丸から遠ざけて束縛する予定だった。

 

 それを全く違う事を仕出かした俺に、ヴェルフとベルは苦言を呈しているのだ。ルアンに変装中のリリルカは二人と違って、想像以上に敵を倒してくれたことに感謝しているようだが。

 

「悪かった。だけど、それは後にしよう」

 

 文句を言いたい二人をどうにか抑えた俺は、リリルカからある事を聞こうとする。

 

敵大将(ヒュアキントス)がいるのはあの塔か?」

 

「ああ。だけどあそこは塔の三階から伸びる長い空中(わたり)廊下を通らないといけない」

 

 ルアンの口調で語るリリルカはそう答えた。

 

 余り詳しく知らないが、この古城跡地は王国軍によって後付けで王城のような白い塔を建てられたらしい。外からは入る為の入り口はなく、綺麗な外見とは裏腹に結構硬いとか。

 

「となれば、そこには魔導士を含めた敵もいるか?」

 

 再度問う俺にリリルカはすぐに頷く。

 

「となれば、俺の出番だな。よし! いつまでもこんな所で話してないで、早く行こ――」

 

「待て、ヴェルフ」

 

 脚を動かそうとするヴェルフに俺が待ったを掛けた事で、彼だけでなくベルとリリルカが疑問を抱く。

 

「敵がいるのを分かっていながら突っ込むのは愚の骨頂だから、背後から仕掛けるとしよう」

 

「はぁ? 背後からって……」

 

空中(わたり)廊下を通らないといけないって、さっきリリが……」

 

 意味が分からないと言うヴェルフとベルだが――

 

「とにかく俺に任せろ。ほら二人とも、俺の肩に手を置きな」

 

「リヴァン様、一体何を……」

 

 リリルカも二人と同じく全く不可解な表情になってるのを一切気にせず、俺は気にせず指示を出すのであった。

 

 

 

 

 

 

他派閥(よそ)のエルフ一人に半分以上がやられて、ルアンが手引きして他の敵も入り込まれたって、一体どういう事なの!」

 

 玉座の塔内にある空中(わたり)廊下で待機しているダフネは、戦況を知った途端に声を荒げた。

 

 伝令に来た人物に問い質すも、報告してる本人ですら有り得ないように言ってる為、余計彼女の吊り目を見開く事になっている。

 

 ダフネが言ってるエルフとは、【ミアハ・ファミリア】のリヴァン・ウィリディスを指している。最初は【ヘスティア・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)を成立させる為に出しゃばり、会場にいる者達を大爆笑させた道化師(おろかもの)としか見ていなかった。

 

 しかし、その道化師(おろかもの)が【アポロン・ファミリア】の眷族達を半分以上倒した為、ダフネだけでなく、彼女と一緒にいる魔導士や|弓使いの迎撃隊も動揺を隠せないでいる。まるで話が違うと言わんばかりに。

 

小隊長(リッソス)達は?」

 

「や、やられたようだ。まだ動ける兵がいても、あのエルフ以外にも足止めしてる敵がいるみたいで」

 

 リューと命も奮戦してる事で、砦の中にいる眷族達は完全に浮足立っている。リヴァンの頑張りによって、中々思うように戦えていないのが現状だった。

 

 完全にやられたとダフネは呪った。戦う前から高みの見物を決め込んだ大将(ヒュアキントス)だけでなく、先日『Lv.2』になった妖精の実力を甘く見過ぎていた自分の愚かさを。

 

「ったく……。とにかく、この空中(わたり)廊下を渡らせないわ」

 

 いつまでも現実逃避する訳にはいかない為、ダフネは指揮官としてやるべき事をやろうと指示を出そうとする。

 

「魔導士は詠唱を準備、弓使い(アーチャー)は前に出なさい。奴等がここへ来たら、ウチの合図で斉射よ!」

 

 大将(ヒュアキントス)を倒す為には、必ず空中(わたり)廊下を通る必要がある。それしか方法がないとダフネは分かっているから迎撃の準備に移ったのだ。

 

 彼女の指示に魔導士と弓使い(アーチャー)は配置に付き、いつでも迎撃出来る状態になっている。

 

 待ち構えてから時間が結構経つも、敵は一向に来る気配を見せていなかった。伝令からの報告が正しければ、【ヘスティア・ファミリア】の敵大将(ベル・クラネル)助っ人(リヴァン・ウィリディス)は必ず此処へ通るはず。

 

「………ちょっと、敵の姿は!?」

 

「ま、まだ見えない!」

 

 ダフネが確認するも、仲間からの報告を聞いて更に疑問を抱いてしまう。

 

 状況から考えて、【ヘスティア・ファミリア】側は破竹の勢いで攻め続けている。だからもうそろそろ大将(ヒュアキントス)の玉座へ向かおうとしてもおかしくない。

 

 だと言うのに、一向に姿を見せないのは明らかにおかしい。ルアンが裏切っているのであれば、この空中(わたり)廊下を通る為の道順も聞いている筈だから、迷っているなど絶対にあり得ないのだ。

 

「ダ、ダフネ、一体これはどう言う事なんだ?」

 

「そんなのウチが知りたい位よ!」

 

 仲間の一人も疑問を抱いて思わず訊いてみるも、ダフネも全く同じ心境である為に全く分からない。

 

 空中(わたり)廊下で待機してる者達が、まさか本当に道に迷っているんじゃないかと少々気が抜けてしまいそうになるも――すぐに異変が起きた。

 

 自分達が守護している背後の塔から、突如大きな爆発が起きた。

 

「え? な、何で……!」

 

 未だに敵は来ていないにも関わらず、まるでそれを許してしまったかのように襲撃された事で、指揮官のダフネは混乱していた。

 

 塔の最上階が爆発によって火や煙が立ち上ってる中、突如何かが飛び出し、人影と思わしき者が落下しようとする。

 

「! すぐに迎撃しろ!」

 

 人影を見たダフネはすぐに敵と判断して、魔導士と弓使い(アーチャー)に指示を出した。

 

「【燃えつきろ、外法(げほう)(わざ)】」

 

 空から聞こえる超短文詠唱。

 

 それを口にした人影――ヴェルフが落下しながらも右腕を突き出していた。

 

 瞬く間に彼の手から放たれた陽炎が音もなく、そのままダフネ達のもとに到達する。

 

 それは魔導士達のもとに吸い込まれ、次の瞬間、彼等が持っている魔道具(ぶき)が突如暴発した。

 

「なっ!?」

 

 ダフネの目の前で咲き乱れる爆発の華の正体は、魔導士達の魔力暴発(イグニス・ファトゥス)によるものだ。

 

 ヴェルフの対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)【ウィル・オ・ウィスプ】。魔法を封じさせる魔法であり、魔導士にとっては一番の天敵と言っていいだろう。

 

 それを使った事により、迎撃隊として組み込まれた魔導士達の魔法が暴発してしまい、弓使い(アーチャー)も左右に吹き飛ばされて被害が大きくなっている。唯一ダフネだけ咄嗟に身を屈めて衝撃に耐えたが、現状無事なのは彼女だけしかいない。

 

「どうやら無事なのはアンタだけみたいだな」

 

 予想外な奇襲を受けた迎撃隊とは別に、落下しているヴェルフは見事に着地していた。

 

 してやったりと言わんばかりに気持ちのいい笑みを浮かべているヴェルフに対し、ダフネは大変苦々しい表情となりながら睨んでいる。

 

「お前、一体どこから……!?」

 

 素直に教えてくれる訳が無いと分かっていながらも、ダフネは思わずそう叫んだ。

 

「知りたけりゃ武器(これ)でやろうぜ。冒険者だったら、なっ?」

 

 暗に俺に勝てたら教えてやると、担いでいた大刀を床に突き立てながらヴェルフは言った。

 

(全く、本当リヴァンには恐れ入るぜ。まさかあんな方法で(・・・・・・)俺達を運んだ(・・・・・・)だけでなく、妙な形をした魔剣(・・・・・・・・)で見たことねぇ魔法を使うなんてな)

 

 不敵に笑うヴェルフだが、先程まで実行していたリヴァンの奇襲方法に内心驚いているのであった。

 

 そして肝心のリヴァンは現在玉座におり、ベルとヒュアキントスの戦いを見守っている。




原作では正面から空中廊下を渡っているベルとヴェルフですが、リヴァンがある方法を使い、ダフネ達に気付かれる事なく奇襲を仕掛けました。

ヒントは二つです。

①リヴァンがエトワールクラス。

②とあるアークス武器に搭載してるテクニックを使いました。

答えは次回の更新になります。

感想お待ちしています。


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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる ただ待ち構えるのはNG

 時間は少し遡る。

 

 

 

「リヴァン、ほ、本当に落ちないよね!?」

 

「やったらタダじゃおかねぇからな!」

 

「しないから、そんな強く掴まらないでくれ」

 

 ベルとヴェルフがそれぞれ片手で自分の肩に掴んだ直後、プリズムサーキュラーを発動させた俺は空中移動していた。

 

 初体験だったのか、二人は足が地面から離れた直後に狼狽し、絶対に落ちたくないと少々震えながらも両手で俺の肩を力強く掴んでいる。エトワールクラスのスキルが無ければ痛がっていたかもしれないが、その痛みを全く感じない俺は二人に軽く指摘するだけで済ませていた。因みに地上に残したリリルカは俺達の空中移動を見て少々呆然となりかけていたが、すぐにハッとして別方向へ向かっている。

 

 あと少しで体内フォトンが無くなりそうになるも、目的の場所に着いたので、俺は空中移動をしていたフォトンの帯を一旦解除する。

 

 足が地面に着いた事で安心したのか、ベルとヴェルフは少しばかり安堵の息を漏らすも、すぐに自分達がいる場所を認識する。

 

「リ、リヴァン、此処って……」

 

「おいおい、何で俺達は反対側(・・・)の砦にいるんだよ」

 

 本来であれば白い塔へ向かう為に必要な空中(わたり)廊下がある砦に向かわなければいけないが、俺は全く別方向の砦の屋上へ移動した。白い塔は見えるが、空中(わたり)廊下が無い為に行き止まりとなっている。

 

「言っただろ? 正面からじゃなく、背後から仕掛けようって」

 

「そうか。さっきの空中移動で一気に玉座へ行けば……!」

 

「でもそれだったら、態々こんな所で止まる必要はねぇだろ」

 

 意図を見抜いたように言うベルだったが、ヴェルフの台詞を聞いた途端にまた不可解な表情となっていく。

 

「リヴァンの事だから、何か理由がある筈だ。まさか此処から奇襲でも仕掛けるつもりか?」

 

「正解だ、ヴェルフ」

 

 自分の当てずっぽうが正解だった事にヴェルフは面食らったかのように少々驚いたような表情になった。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

「で、でもリヴァン、この距離からだと僕の魔法(ファイアボルト)じゃ、流石にちょっとばかり難しいんだけど」

 

 確かにベルの言う通り、今いる砦の屋上から白い塔の玉座までの距離がある。黒いゴライアスの時に使ったチャージスキルなら問題無く届くかもしれないが、今からやれば少々時間が掛かるだけでなく、渡り廊下で待機してる魔導士に気付かれてしまう。

 

「いや、俺がやる。此処からでも充分に届く魔法があるからな」 

 

「リヴァンの魔法……も、もしかして、18階層で見せてくれた一撃を使うの!?」

 

 俺が黒いゴライアス戦で披露したフルコネクトを思い出したのか、途端にキラキラと凄く期待が籠った目で見てくるベル。

 

 確かにアレを使えば、最上階にある玉座ごと白い塔を斜めに斬り裂いて、敵大将のヒュアキントスごと落とす事は可能だ。だけど、やるつもりは毛頭無い。

 

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)が【ヘスティア・ファミリア】の存続が掛かった戦いだ。俺はあくまで一人の助っ人要因に過ぎないから、大将のベルを差し置いて勝利したところで意味が無い。

 

 助っ人の俺がやる事は、ベルを万全かつ無傷のままヒュアキントスへ向かわせる為であり、障害となるモノを叩き潰すのが一番の目的としている。

 

 あの白い塔の最上階に飛翔剣(デュアルブレード)短杖(ウォンド)両剣(ダブルセイバー)の武器アクションやフォトンアーツを使わない。ちょっと特殊な武器を使って攻撃用のテクニックを使う予定だ。

 

「ご期待に沿えなくて申し訳ないが、今回は全く違う方法でやらせてもらう」

 

「そう、なんだ……って、何ソレ!?」

 

 俺の返答にベルは途端にガッカリしたように気落ちするも、俺が武器を切り替えた事で一気に興味を引いた。

 

「おいリヴァン、見た事の無い形状だが、それは武器なのか?」

 

「まぁ、ちょっとした特殊な魔剣だと思ってくれ」

 

 エールスターライトの短杖(ウォンド)形態(ディムウォンド)から銃剣(ガンスラッシュ)――リグジエンザーに変えた事で、二人は凄く凝視している。

 

 ドラゴンの頭部を機械的に模して結構強そうな見た目をしてるけど、実を言うと俺がメインで使ってるディムシリーズより性能が低い旧式武器の一つ。それでも俺が結構世話になった武器だから、今も電子アイテムパックの中に入れている。俺がメインで使ってる銃剣(ガンスラッシュ)は勿論あるが、そこは割愛させてもらう。

 

 リグジエンザーには、あるテクニックが搭載されている。今まで使った回復や補助じゃない攻撃用の炎属性テクニック『イル・フォイエ』で、白い塔の最上階に奇襲を仕掛けると言う寸法だ。

 

 普通なら空中(わたり)廊下を通って玉座に向かうのがセオリーだが、生憎俺はそんな馬鹿正直な行動はしない。策士のカスラも『敵が何もしないで待ち構えてるなら、その隙を突く奇襲が最も効果的です』と言っていた。

 

 それをやろうと、俺は右手に持っているリグジエンザーを空に向かって掲げながら、イル・フォイエを放つ準備に移る。

 

「な、何だ? 塔の最上階から魔法陣が……!」

 

「リ、リヴァン、一体どんな魔法を使う気なの!?」

 

 狙いを定めてチャージしてる最中、ヴェルフとベルは困惑した様子を見せていた。

 

 だが俺は気にせず、目標に向けて巨大な炎の塊を落として大きな爆発を引き起こす上級の炎属性テクニック――イル・フォイエを発動させようとトリガーを引いた。

 

 数秒後、巨大な炎の塊が塔の最上階にある玉座の間へと直撃した途端に大爆発が起きた。

 

「す、凄い……!」

 

「お前、マジで一体何なんだよ……!」

 

 こうなる事を想像しなかったのか、ベルとヴェルフは目の前の光景に驚愕するばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「すっごぉぉい! リヴァン君、あんな魔法も使えるんだ!」

 

「……………」

 

 遠く離れた【ロキ・ファミリア】本拠地(ホーム)では、ティオナが今まで以上に瞳を輝かせていた。

 

 彼女だけでなく、アイズも無言のまま釘付けになっている。今の戦争遊戯(ウォーゲーム)は、リヴァンの快進撃で進行されている為に。

 

(リヴァン、あんな凄い魔法をいつの間に……!)

 

 レフィーヤは従弟(リヴァン)が相当な実力者である事は多少知っていたが、自身が使う【ヒュゼレイド・ファラーリカ】にも劣らない魔法を使ったのは完全に予想外な為に混乱していた。

 

 18階層で食人花を倒す時に使った攻撃魔法、負傷した自分やベルを治療する為に使った回復魔法、そのどれもが普通の魔導士とは違うとレフィーヤはとっくに気付いている。本当なら従姉として根掘り葉掘り問い質したいのだが、生憎彼は他派閥である【ミアハ・ファミリア】の眷族なので無理だった。

 

 剣などの武器で近接戦闘をこなし、回復魔法での後方支援も出来て、更には攻撃魔法による遠距離攻撃も可能ときた。後方魔導士である自分とは全く異なる戦闘スタイルを披露されてる事で、レフィーヤはこの上なくショックを受けている。ただでさえ数日前に修行目的でティオナやベートと互角にやり合う程の実力を見せていたから、それが余計に口惜しくて堪らない。自分と従弟の実力が余りにも違い過ぎる為に。

 

「確かに凄いですけど……何もこんなまどろっこしいやり方じゃなくても、あのままリヴァンって子が一気に敵大将の元へ強襲すれば良かったんじゃないんですか?」

 

 一緒に観ているティオネが疑問を呈する。

 

「アマゾネスらしいのぉ、その考え方……」

 

「ンー、まぁ確かに彼なら出来るかもしれないね。『Lv.6』のティオナやベートに匹敵する実力を持っていれば猶更に」

 

「だがリヴァンは敢えてやらなかった。そうしないのは理由があるのだろう」

 

 ティオネの疑問にガレス、フィン、リヴェリアは思ったままの返答をした。

 

 もしもリヴァンが『Lv.3』の団長(ヒュアキントス)と戦う際、全力でやれば勝利すると断言出来る。パワー重視の『Lv.6(ティオナ)』、スピード重視の『Lv.6(ベート)』を相手に一切怯まず対応したのだから、どちらも劣っているヒュアキントスでは一切勝ち目が無い。彼が二人を上回る技量の他、奥の手である魔法があれば話は別となるが。

 

 都市最大派閥の首脳陣が冷静に分析している中――

 

「あのクソエルフの事だ」

 

 ベートが突然口を開いた。

 

「どうせ兎野郎に花を持たせようと、あの変態野郎とは万全の状態でケリをつけさせるって魂胆(はら)だろ」

 

 全く興味無さそうに『鏡』を見ている狼人(ウェアウルフ)の青年だが、エルフの少年を眺めながらそう言った。

 

「下らねぇことに知恵を働かすからな、あいつは」

 

 今更ながらもリヴァンの(てのひら)で踊らされていたとベートは気付いた。ティオナだけでなく、何故か自分も修行相手に指名してきた時点から。

 

 明確に拒否したのにも関わらず、あのエルフは相手してくれると確信を持っていたのか、煽るかのような発言をしていた。そして自分が偶々(・・)訓練場へ足を運んで佇んでいる時、絶妙なタイミングでやって来た。そして向こうから喧嘩を吹っ掛けられたので、やむなく応戦した結果、二日も相手をする事になってしまった。ティオナが騒いでいたが、そこは完全スルーしている。

 

 それで自分は利用された事に漸く気付いた直後、ベートは怒りに震えていた。『あのクソガキッ……!!』と口惜しげに悪態を吐きながら。

 

 今もリヴァンの顔を一発ぶん殴りたい気持ちなのだが、もう既に断念している。未だに納得してないが、リヴァンは自分と手合わせによる経験を得た事で結果を示しているのだ。自分より遥かに格下の雑魚共を圧倒している為に。

 

 だがしかし――

 

(クソエルフ、もしこれで無様に負けたらブッ殺すからな!)

 

 リヴァンが自分を利用しておいて敗北した時には、制裁を下そうと心に決めているのであった。




終わらせようと書いてますが、どうも長引いてしまいます。

感想お待ちしています。


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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)で暴れる 決着

やっと決着となります。


「ヘ、ヘスティア! ミアハは何処にいる!?」

 

 オラリオ中が驚愕の絶叫を響かせている中、バベルの塔の広間で観戦してるアポロンがヘスティアに問い詰めていた。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる前から勝利が確定してるように余裕な態度を見せていたが、【アポロン・ファミリア】の眷族達が次々と簡単に倒される光景を目にする事で段々と焦り始めていた。そしてリヴァンが白い塔に向けて魔法による奇襲をした直後、もう完全に余裕を失っている。

 

 リヴァンの実力は明らかに『Lv.2』でないと結論に至ったのか、アポロンはこの場にいないミアハに問い詰めようと、ヘスティアから居場所を聞き出そうとしていた。

 

「生憎僕は知らないよ」

 

「惚けるな! ミアハの神友(しんゆう)である君が知らない筈がないだろう!」

 

 アポロンがそう捲し立てるも、ヘスティアは本当に知らないのだ。正しくは正確な居場所を知らないと言った方が正しい。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる四日前、ヘスティアはリリルカと一緒に【アポロン・ファミリア】のルアンを捕らえた後、それが終わるまで閉じ込めておくよう【ミアハ・ファミリア】に頼んだ。街外れの倉庫に閉じ込めてミアハが見張っているのは知っているが、具体的な位置までは掴めていない。オラリオは大変広い為、街外れの倉庫と言ってもヘスティアは全く分からないのだ。例え知っていたとしても、大変下らない理由でベルを狙っていたアポロンに教える気など毛頭無いが。

 

「ミアハがリヴァン・ウィリディスに【神の力(アルカナム)】を使った疑いがある! 今すぐ彼を連れて来るんだ!」

 

「はぁ?」

 

 ヘスティアからすれば、アポロンの言い分は支離滅裂なモノだった。

 

「何を言うかと思えば、そんなわけないじゃないか。仮にリヴァン君の実力が【神の力(アルカナム)】に施されたモノなら、ミアハはもうとっくに送還されてる筈だよ?」

 

「ぐっ……」

 

 全知全能である神が下界へ降臨する際、【神の力(アルカナム)】を殆ど制限されてしまう。それによって普通の人間と大して変わらなくなるも、それで漸く下界の生活を許される。

 

 その条件を無視して【神の力(アルカナム)】を無理に発動してしまえば、ヘスティアが言った通り下界にいられなくなる。能力向上は完全にルール違反だから、もしミアハが実行してれば確実に天界へ送還されてしまい、リヴァンは【神の恩恵(ファルナ)】を失って一般人となっている筈。

 

 だけど、ミアハが違反行為をして天界送還された情報が無い他、リヴァンは今も戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加して【アポロン・ファミリア】の眷族達を圧倒していた。故に【神の力(アルカナム)】を使ったと言うアポロンの発言は的外れどころか、単なる見苦しい言い訳に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

「何だ、何なんだお前はっ!?」

 

「はぁっ!」

 

 白い塔の最上階にイル・フォイエを撃った後、俺はちょっとした準備(・・・・・・・・)を済ませ、武器を短杖(ウォンド)に切り替えた直後にプリズムサーキュラーを使ってベルとヴェルフを運んだ。

 

 辿り着くと玉座の間だったと思われる周囲一帯は瓦礫の山と化して、敵大将であるヒュアキントスはボロボロな姿だった。尤も、あくまで服装だけで、身体的なダメージはそこまで見当たらない。

 

 【アポロン・ファミリア】の眷族達はヒュアキントスと違い、瓦礫に埋もれて意識を失っている。それを見た俺は少々やり過ぎたかと思うも、今は戦争遊戯(ウォーゲーム)中なので、敢えて気にしない事にした。

 

 相手側が完全に浮足立ってる中、俺はベルとヴェルフを指定の位置へ下ろしていた。ベルはヒュアキントスの元へ、ヴェルフは空中(わたり)廊下へ。

 

 本当なら俺も空中(わたり)廊下で待機してる敵を倒そうかと思ったが、ヴェルフが俺一人で充分だと言ったので任せることにした。現に彼は敵の魔法を暴発させた魔法を使った事で、指揮官以外倒してしまったから。

 

 そして現在、俺はベルとヒュアキントスの戦いを見守っている。余計な邪魔が入らないよう、周囲を警戒しながら。

 

 大将同士の一騎打ちを繰り広げている中、状況が変わろうとする。ベルの手にしてる武器――二振りの(べに)()(いろ)の短刀――が、ヒュアキントスが手にする波状型の長剣を両断した。

 

「そんな! 私は、『Lv.3』だぞ!?」

 

 ベルに武器を両断された事が信じられないのか、ヒュアキントスは現実逃避するような台詞を口にしていた。

 

 一週間もぶっ続けで『Lv.6(アイズ)』と特訓していれば、ベルからしたら『Lv.3』なんて高が知れてるだろう。俺も彼女と同じ『Lv.6』のティオナさんやベート・ローガと特訓した所為か、ヒュアキントスが大したことないように見えてしまう。

 

 俺が一昨日にミアハ様から【ステイタス】した際、あの二人と特訓した事もあって能力値(アビリティ)が急上昇していた。恐らくベルも俺と同じ事象になっていると見るべきだ。そうでなければ、今戦っているヒュアキントスを圧倒するような戦いを見せない筈。

 

(でもそうなればティオナさんやベート・ローガも……いや、流石に無理か)

 

 俺と特訓(あいて)した事であの二人も能力値(アビリティ)が上がったんじゃないかと考えたが、それは無理だと結論した。既に『Lv.6』に至ってる二人が、『Lv.2』の俺と相手したところで急激に上昇する訳がないと思いながら。

 

 そんな中、ベルに押されていたヒュアキントスが突如、全力の跳躍で矢のように後方へ下がっていた。

 

「――【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」

 

 ヒュアキントスが詠唱らしき言葉を紡いでいた。

 

「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」

 

 どうやらヒュアキントスは起死回生を図ろうと、自身の切り札である魔法を使うようだ。

 

 しかし――

 

「【ファイアボルト】!」

 

 ベルはそれを阻止しようと、すぐに武器を鞘に戻し、左手を突き出しながら速攻魔法(ファイアボルト)を発動させた。

 

 炎雷(えんらい)が轟くだけでなく、凄まじい爆炎が巻き起こる。

 

 黒いゴライアス戦の時に見せてくれたチャージスキルを使わずとも、今のベルが放つ魔法は相当な威力だった。もし完全にチャージした状態で放てば、ヒュアキントスは確実に死んでいるだろう。

 

 だがそれとは別に、威力が高い理由は他にもあった。この最上階へ来る寸前、俺はベルとヴェルフに能力強化をしようと、導具(タリス)――イクルシオクルテに搭載されてるテクニックのシフタ(+潜在能力によるデバンド)を使ったのだ。それで二人の攻撃力と魔力、そして防御力はそれなりに上がっている。

 

「ぐっ……【――(きた)れ、西方の風】……!!」

 

 ベルから放たれたファイアボルトの威力にヒュアキントスの身体は仰け反り、全身がボロボロになりながらも必死に耐え抜いていた。

 

 同時に『魔力』制御の手綱を離さず、歯を食い縛りながら詠唱を続行していた。

 

「やぁー!?」

 

 ベルが再び速攻魔法の連射を押し切ろうとするも、いきなり瓦礫の中から這い出た長髪の女性が体当たりを仕掛けて阻止しようとする。

 

 この場にいるのがベルだけなら確実に阻害されてるだろうが――

 

「邪魔はさせませんよ」

 

「きゃっ!?」

 

 戦いを見守っている俺が割って入り込むように、プリズムサーキュラーを使って女性の体をはね飛ばした。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 ヒュアキントスの方に集中しているベルが再び速攻魔法を撃ち出した。

 

 さっきと違って今度は連射で放たれた事により――

 

「う、ぐっ………がはっ……!」

 

 先程まで必死に耐え抜いてた筈のヒュアキントスは限界だったのか、魔法名を言う前に意識が途切れ、そのまま倒れてしまう。

 

 うつ伏せとなっている敵大将は、立ち上がる事はなかった。

 

 遠くから観ているオラリオの観戦者達は、【アポロン・ファミリア】が敗北したと言う決定的瞬間を目にした事で、今頃大騒ぎになっているだろう。




リヴァンがいる事でベルはヒュアキントスの魔法を受ける事無く勝利しました。

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少年エルフ、戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わって一段落する

 敵大将であるヒュアキントスが倒れた事で、戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】(+俺とリューさん)の勝利と言う事で幕を閉じた。

 

 オラリオに戻って来てから知ったが、敗者となった【アポロン・ファミリア】はヘスティア様の要求通りに解散となったそうだ。主神である神アポロンは眷族達との別れと退団の儀式を済ませた後、オラリオを追放されたとか。あの変態は色々な意味で危ないから、ヘスティア様の判断は正しいと断言出来る。

 

 因みに要求の中には賠償金も含まれており、【ミアハ・ファミリア】側も当然含まれている。いくらベルを助ける為だからと言って、流石に無償(タダ)働きする気は無い。貰える物は貰っておこうと、ヘスティア様には勝利した際の賠償金(ほうしゅう)を頂きたいと言っておいた。

 

 だが、その金額は俺一人が持つには多過ぎた為、半分ほど【ミアハ・ファミリア】の資金にしておいた。ナァーザさんから『自分やミアハ様に対する迷惑料も支払ってもらいたい』と言われたけど――

 

「酒場でやってた賭けで大勝ちしたんですから、それでチャラにして下さい」

 

 俺がそう言った事で、向こうはもう何も言い返せなくなった。

 

 それについて触れなければ、ナァーザさんは素知らぬ顔で迷惑料を頂くつもりだったんだろう。我が【ミアハ・ファミリア】の団長さんは本当に良い性格してる。

 

 まぁとにかく、戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わった事で漸く一段落ついた。俺も漸く本拠地(ホーム)へ戻る事を許可されている。

 

 言い忘れてたが、【アポロン・ファミリア】が使っていた巨大な屋敷は、今後【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)として利用する事になった。そして残った廃教会はヘスティア様を名義人として今後も管理すると言って、それを聞いたあるお願いをした。自分も利用出来る許可が欲しいと。

 

 俺が廃教会を利用したい理由は一応ある。今回起きた戦争遊戯(ウォーゲーム)みたく、俺が勝手な行動をして【ミアハ・ファミリア】に迷惑が掛からないよう、もしもの時の仮拠点として使いたい。他には大して人目が付かないから、鍛錬をするには最適な場所でもある為に。

 

 最初は俺の提案を聞いて訝るヘスティア様だったけど、俺がベル達の為に戦ってくれた事もあって、喜んで許可してくれた。利用する条件としては、偶にでも良いから掃除して欲しいとの事だ。大して苦でもないから、俺は喜んで受け入れている。

 

 とは言え、そんな異常事態がすぐに起きる訳でもないから、暫くは平穏な時間を――

 

「リヴァン、私と手合わせして」

 

「出来れば先ず理由を言って欲しいんですが」

 

 のんびり過ごせるかと思いきや、オラリオに戻った翌日以降、またしても予想外な客が来た。戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる前、ベルに特訓の相手をしてもらったアイズ・ヴァレンシュタインが。

 

 理由を求める俺に、彼女は語ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 時間は遡る。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わり、【ヘスティア・ファミリア】一行が古城跡地から一日をかけて都市へ帰還するも、【ロキ・ファミリア】の本拠地である『黄昏の館』にある大食堂が少々騒々しい。

 

「ティオネ、アイズ!」

 

 騒ぎの元凶はアマゾネスのティオナ・ヒリュテ。都市最大派閥の幹部を務める一人で、先日『Lv.6』にランクアップした第一級冒険者。天真爛漫な性格をしてる事で周囲を明るくさせているムードメーカーなのだが、今回ばかりは流石に騒がしくて、食事をしてる団員達は若干迷惑そうにしている。

 

「さっきからうるさいわね」

 

「どうしたの?」

 

 彼女の姉であるティオネは煩わしそうにしながらも、アイズは大して気にせず訊ねていた。

 

 因みにレフィーヤは従弟のリヴァンがオラリオから帰還した件もあって、今も【ミアハ・ファミリア】の本拠地(ホーム)にいる。勿論、ロキやリヴェリアの許可を貰った上で。

 

 二人が振り向いた事により、ティオナは笑顔のまま手に持ってる用紙を見せる。

 

「見て見て、コレ!」

 

「【ステイタス】の用紙(かみ)じゃない。アンタ、また更新したの?」

 

 能力値(アビリティ)が記載されてる用紙だと分かったティオネは、意外そうにティオナを見ていた。

 

 この前のダンジョン遠征に加え、港街(メレン)で起きたとある事件から大して日が経ってないのにも拘わらず、【ステイタス】更新をするなんて妹らしくない行動なのだ。

 

 ランクアップしたばかりだけでなく、『Lv.6』になれば能力値(アビリティ)の上昇率はかなり低い。深層域の攻略、もしくは自分に匹敵する強敵と戦って乗り越えなければならない程に。

 

 それは当然ティオナも充分理解してる筈なのに、何故こうも自分達に用紙を見せようとするのかが全く分からないティオネだった。

 

 本人が見ろと言ってきたから、取り敢えずは見ようと、アイズと同じく目を向ける。

 

「ッ!?」

 

「はぁ!?」

 

 眼を見開くアイズ、思わず大声を出してしまうティオネ。

 

 ティオナが見せてる用紙に、二人は揃って驚いていた。魔力を除いた能力値(アビリティ)の熟練度が、上昇値トータル300オーバーしていたから。

 

「えへへ~、凄いでしょ? ロキも見た時にはビックリしたんだよね~」 

 

 ティオネ達の反応を見たティオナは、【ステイタス】更新を頼んだロキの反応を思い出していた。

 

 いきなり更新して欲しいと頼まれた事にロキは珍しげに見ながらも更新した結果、とんでもない数値を叩き出した事に仰天していた程だ。ティオナの急上昇が余りにも予想外だった事もあって、今も執務室でフィン達と話し合っている。

 

「ちょっ、アンタ……! 一体どうやってそこまで上げたの!?」

 

「心当たりがあるとすれば、リヴァン君の特訓かな。って言うか、それしか考えられないよ」

 

 ティオネからの追求に、あっけらかんと教えるティオナ。

 

「リヴァンって、レフィーヤの従弟よね? でもあの子、【リトル・ルーキー】と同じく『Lv.2』の筈じゃ……」

 

 ティオネの言う通り、リヴァン・ウィリディスはベルと同じ『Lv.2』になったばかりの上級冒険者。だからこの前やった特訓程度で、ティオナの能力値(アビリティ)が急上昇するなど、普通に考えればあり得ない。

 

 本拠地(ホーム)の訓練場で、リヴァンがティオナと互角な戦いを繰り広げていたのを知っているが、直接見てない為に信じられないのだ。彼女はその時、アイズの付き添いでベルの特訓を見ていたから。

 

「でもあの子、本当に(すっご)く強かったよ。しかもエルフなのに打たれ強くて、あたしの攻撃を受けてもビクともしなかったんだから」

 

 数日前にやった特訓を思い出しながら、ティオナはリヴァンの実力を裏付けるように言っていた。

 

 聞き耳を立てている団員達も最初は信じられないようにザワついていたが、彼等はその時の特訓を直接見ている。それ故にティオナの発言を否定する事が出来ない。

 

 そんなアマゾネス姉妹の会話とは別に、今もティオナの能力値(アビリティ)が記載されてる用紙をジッと凝視する者がいる。

 

(私もティオナと同じく更新してみたけど、こんなに上がらなかった……!)

 

 アイズはベルの特訓に付き合った後、確認の意味も含めてロキに【ステイタス】更新をしたが、大して上昇しなかった。

 

 しかし、ティオナは自分と全く違う結果を示している。アイズが気になるのは至極当然だった。

 

 それどころかベルとは違う意味で、リヴァンに対する興味が更に湧くどころか、手合わせしたいという欲求も強まっている。

 

「これでまだ続けてたら、あたしもしかしたらアイズを追い越してたかもね!」

 

「そんな都合のいい展開にならないわよ」

 

「だから明日、またリヴァン君にあって特訓を――」

 

「ダメに決まってるでしょ!」

 

 いきなりおバカな事を言い出したティオナに、ティオネがすぐに却下した。

 

 他派閥との特訓は本来やってはいけない。それは相手に情報を与えてしまう行為であり、下手をすれば派閥の機密を盗まれる可能性もある。

 

 ベルとリヴァンの特訓相手をするなど極めて異例だが、アレは深い事情があった為にやらざるを得なかった。団長のフィンが許可を出さない限り、他派閥との特訓など以ての外である。

 

「いいじゃん別に~! もう知らない仲じゃないんだからさー!」

 

「団長が許す訳がないって言ってんのよ!」

 

 ギャーギャーと騒ぐアマゾネス姉妹に、他の団員達はまたかと言うような表情で聞き流し始めていた。

 

 しかし――

 

(絶対にリヴァンと会って手合わせする……!)

 

 アイズはティオネの注意を無視するように、フィン達に内緒でリヴァンに会いに行こうと決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

「――って、ティオナが言ってたから」

 

「…………アイズ、そんな話を他派閥の俺に話してどうするんですか……」

 

 ティオナさんの能力値(アビリティ)が急上昇した事を話してくれたアイズに、俺は内心呆れるしかなかった。

 

 しかしそれとは別に、まさか本当にそうなっていたとは予想外だった。冒険者でなく、アークスの俺として戦った事で能力値(アビリティ)が上昇したのだろうか。【神の恩恵(ファルナ)】と言う仕組みは、フォトンと違って基準がよく分からない。

 

「一先ず横に置いとくとして……。で、本当に能力値(アビリティ)が上がるのかを確認しようと、俺と手合わせしたいと思って良いんですか?」

 

 ジェスチャーをした後に俺が確認の意味を込めて問うと、アイズは迷いなく頷いた。

 

 既に分かってはいるがこの人、本当に自分より年上とは思えない。加えて俺の気のせいなのか分からないが、彼女の近くに幼いアイズが何かを主張してるような気がする。

 

 フィン・ディムナは全く知らないだろう。いくら知り合いになったとは言え、都市最大派閥の団長が簡単に許可を出す訳がない。恐らく彼女の独断で此処へ来たはずだ。

 

「別に俺は構わないんですけど……今やるのは流石にちょっと」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)を終えてオラリオへ帰還した直後、今まで蓄積していた疲労が急に襲い掛かってきた所為で、今は休養中の身である。

 

 休める時に休まないと身体がもたないから、今日は本拠地(ホーム)でゆっくり過ごそうと決めていたところ、アイズと言う予想外な客が来て予定が狂ってしまった。

 

「いつだったら良い?」

 

「そうですねぇ……」

 

 ベルや【ヘスティア・ファミリア】は引っ越しの準備やその他で忙しくなる為、それが終えるまでの間は俺一人でダンジョン探索する事になる。

 

 本当なら明日からアイズと手合わせしても良いけど、戦争遊戯(ウォーゲーム)の関係で俺も注目されてる身である為、ほとぼりが冷めるまでやらない方が良いだろう。

 

「では数日後にまた此処――」

 

「リヴァン! 今夜は祝勝会をやる予定、なん、だけど……」

 

 俺がアイズに予定を話してる最中、いきなり第三者の声がした。

 

 それも凄く聞き覚えのある声だった為に振り向くと、俺の相棒で友達のベルだ。

 

「あ、ベル」

 

 アイズもベルの声に反応して振り向いた。

 

「え? え? え? な、何で、アイズさんが、リヴァンと……?」

 

「ベル、落ち着け。お前は何か盛大な勘違いをしている。だからゆっくり話し合おう」

 

 俺はアイズを差し置いて、混乱してるベルを優先するのであった。




取り敢えず【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)編は、これで終了となります。

次回以降からは何を更新するかは考え中です。

ダンメモ編のストーリー、クノッソス編、イシュタル編など色々迷っています。


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ダンメモ編 少年エルフ、王族妖精と精霊郷へ向かう①

コッソリ更新しました。

今回はダンメモの冒険譚 「妖精輪舞曲」です。


 【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わって数日経ち、俺――リヴァンはソロでダンジョン探索をしていた。

 

 いつもならベルと一緒に探索してるけど、【ヘスティア・ファミリア】が今も引越し準備をしていて探索出来ない。関わっていた俺も手伝おうかと言ったけど、ヘスティア様から丁重に断られてしまった。『戦争遊戯(ウォーゲーム)で色々助けられたから充分だよ』と。

 

 向こうの主神にああ言われてしまっては引き下がるしかなかったので、レフィ姉さんに会おうとするも、こっちも空振りだった。以前会ったフィルヴィスと言う女性エルフと一緒に探索してるとか。

 

 友達(ベル)従姉(レフィ姉さん)を探索に誘えない以上、ソロで探索するのは仕方が無いと言えよう。他にもアイズやティオナさんなら一緒に同行してくれるかもしれないけど、流石に第一級冒険者と同行するのは気が引けるので声は掛けていない。因みにリヴェリアも同様に。

 

 今日の探索では中層まで進んだ。携帯端末でダンジョン内部の地図を登録してあるから、一人で18階層へ行くのは容易い。だけどそれを団長のナァーザさんが知ったら理不尽な命令を出されるかもしれないので、敢えてやらずに13階層で留まる事にした。

 

 上層と違って中層のモンスターの出現頻度は高かったが、あくまでそれだけだ。数は多くても簡単に倒せる為、単なる俺の経験値と魔石を与えてくれるだけの獲物(カモ)に過ぎなかった。

 

 大量に倒し続けた事もあって、電子アイテムパックには多くの魔石やドロップアイテムを得られた。それらを一気に売れば多くのヴァリスを稼ぐ事が出来るから、ナァーザさんも流石に文句は言わないだろう。

 

 

 

 

「さて、ミィシャさんは……」

 

 ダンジョンから帰還した俺は、担当アドバイザーのミィシャさんに報告しようとギルド本部に辿り着いた。

 

 いつもいる筈の受付には彼女がおらず、目の前にはベルの担当アドバイザーのエイナさんがいる。同時に【ロキ・ファミリア】のリヴェリアもいて、何やら二人で話している様子だ。

 

 

「問題、大有りだ!」

 

 

 直後、エイナさんとリヴェリアの会話に第三者が抗議するように割り込んできた。

 

 二人に割って入ってきたのは、でっぷりと太った体格の男性エルフだった。

 

 聞いた話によると、アレがギルドの最高権力者であるギルド長を務める男――ロイマン・マルディール。かなりの傲岸不遜で、ミィシャさんも含めた多くのギルド職員も反感や苦手意識を持っているとか。加えてギルドの主神ウラノスからギルド長に任命されてる事もあって非常に有能で、職員達は余り強く出れないらしい。

 

 もし此処がオラクル船団だったら、あのギルド長は間違いなくクビを宣告されるだろう。如何に有能な人物であっても、平然と人を見下していたら大問題だ。もしもクーナさんがいたら、色々と証拠を掴んでから言い逃れが出来ない状況を作るだろう。

 

「この時期の『精霊郷』には、高貴なエルフ達が集まると聞く! そのような場所に、王族(ハイエルフ)とはいえ、お前が一人で訪れるなど!」

 

「それがどうした? お前に何か迷惑が掛かるのか?」

 

 リヴェリアは友好的に接していたエイナさんと違って、ギルド長相手では如何にも事務的な感じに変わった。ここまで差があると言う事は、彼女も余り好いてない同胞だと言うのがよく分かる。

 

「オラリオの礼節を疑われるであろう! 王族(ハイエルフ)が遠出するのに、都市は従者を雇う金も無いのかと!」

 

「そ、そんなこと思われるでしょうか……? 話が飛躍してるような……」

 

「黙れ! これだから物を知らない者は困る! 少しは対面と言う物を弁えろ!」

 

(ああ、成程)

 

 エイナさんの発言にギルド長は嘆くように言い返した。

 

 一応だが、俺はあの男の言いたい事を一通り理解している。

 

 王族(ハイエルフ)のリヴェリアはエルフの中でVIPな存在。そんな彼女をオラリオが何もせずに見送ったなどと周囲、と言うよりエルフ達が知ったら間違いなく問題視するだろう。そしてその矛先がオラリオの最高権力者に向け、そして糾弾するだろう。恐らくギルド長はそれを一番恐れている筈。

 

「ふむ、そうだな。では私が、お前の同行者を見繕ってやろう」

 

「なに……?」

 

「ああ、名案ではないか! 私の眼鏡に叶う者ならば恥を晒す必要もない」

 

 ギルド長は如何にも自分が王族(ハイエルフ)の為にやっているとアピールしていた。確かにそう言った事をすれば、エルフ達から反感を買われたりしないだろう。

 

 俺が呆れるように見ている中、話はもう既にリヴェリアに同行者を付ける事が決定になっている。

 

 しかし、予想外な事態が起きてしまう。受付嬢のエイナさんがお出かけ用と思わしき衣装を身に纏って、リヴェリアのお供をすると言い出した。

 

 それを見たギルド長がエイナさんの言動に呆れるだけでなく、挙句の果てには、リヴェリアに提案を飲まなければ彼女の首を切ると脅す始末だった。これが元六芒均衡のマリアさんだったら、得物の長槍(パルチザン)を全力で投げて「おっと手が滑った」と言いながら逆に脅してるかもしれない。

 

 結局のところ、人質を取られてしまったリヴェリアは吞むしかなかった。それを聞いたギルド長はしてやったりと高らかに笑いながら、冒険者依頼(クエスト)の準備に取り掛かろうと去って行く。

 

 ああやって権力を盾にする男は、いずれ何かしらの事態が起きた際、その報いを受ける事になるだろう。

 

 涙を浮かべているエイナさんにリヴェリアが宥めている中、俺は内心気の毒に思いながらも、敢えて何も知らないように振舞いながら声を掛けようとする。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「ん? お前は……」

 

「あ、リヴァン君」

 

 俺が声を掛けるとリヴェリアとエイナさんが振り向いた。

 

 すると、リヴェリアが何か思いついたような表情になる。

 

「丁度良い時に来てくれた。リヴァン、急ですまないが私の供をしてくれないか?」

 

「は?」

 

 いきなりの事に俺は戸惑うしかなかった。

 

 一体誰が予想出来るだろうか。リヴェリアが『精霊郷』と言う地へ向かう際、俺を供として連れて行くなど。




ちょっと無理がある内容かもしれませんが、此方ではリヴェリアとリヴァンの二人だけで精霊郷へ行く事になります。

感想お待ちしています。


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