千葉家の境界人 (帷 銀)
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第一話

誤字訂正、ありがとうございます。(8/5)


突然に、家から追放されたあの日。

幼いながらも、この世の理不尽を呪ったあの日。

ただ一つの事柄においてだけで自身の価値を決め付けられた忌々しき日。

 

私はその日を忘れることはしないだろう。

追い出された怒りからか。

理不尽からの悲しみからか。

差別による苦しみからか。

 

いいや、そのどれでも無い。たしかに、私は怒った、私は悲しんだ、私は苦しんだ。

だが、それでも、いや、あの日があったからこそ。

私は彼女と出会えたのだから。

 

道端で項垂れていた私を心配してくれて、世話をしてくれた彼女に。初めて、救ってくれた彼女に私は絶対の忠誠を誓った。

こんな役立たずと呼ばれた私に手を差し伸べてくれたから。

どんなにこのことが些細と言われても私の中ではこれはかけがえのない救いだったのだから。

 

だから、どんなに苦境であってもどんなに危機に瀕していても、私は彼女を守るとこの日誓ったのだ。

 

________________________________________

 

2095年四月。

『国立魔法大学付属第一高等学校』と銘打たれた正門の前で一組の男女がお互いに向き合って立っていた。

 

「ねえ、アンタ、どこまでついて来る気よ」

男女の片方、綺麗な赤髪をした美少女がもう一人の方にジトっと目を向けて言った。彼女は緑を基調とした第一高校の制服を着用しており、彼女の制服にあるエンブレムに八枚花弁がないことから二科生であるとうかがえる。

 

「もちろん、ここまでですが。それで迎えはどうしましょうか」

そして、もう一人。美男子と言われれば美男子であるがそこまで女性が熱狂するような整った容姿ではない、という曖昧な容姿をしている男子生徒。彼も制服を着ているが、彼の着ているものは第一高校のものとは言えない。

 

「いらないわよ、そんなもの。何?アンタが迎えにくるわけなの?」

 

「そのつもりですが」

 

「いや、私がいつこの校門を出るかわかるわけないでしょ」

 

「そこはもちろん、直感で」

コイツ馬鹿じゃねえの、と赤髪の美少女、千葉エリカは心の中で目の前の少年を罵倒する。だが、決して口に出すことはしない。なぜならば、少年の勘は異様にあたるからである。そのことを最も近くで見ていた彼女だから彼の言葉は否定しない。

 

「それでは、私はこの辺で。朝礼が近づいてきているためすぐに高校の方へと向かいます」

少年、名を雨野(あまの)典嗣(のりつぐ)()()()で時刻を確認してエリカに告げる。

 

「というか、アンタの通う学校ってここから意外と離れていなかった?」

 

「ええ、まあ。ですが、瞬時に着くことのできる距離ですので問題はないです」

 

「ああ、そう。もういいわ、行ってらっしゃい」

エリカは典嗣の異常性を今一度思い出した。

 

「それでは、失礼します」

典嗣はエリカに、約30°曲げて敬礼するとすぐにその場から消え去った。そのまるで魔法みたいな現象にエリカはやはりただ呆れるしかなかった。

 

 

彼が消えてから十数秒、場所は変わって雨野典嗣の着用していた制服を着た人たちが校舎の方へ歩みを進めていた。ここは俗に言う普通科高校である。

そんな中、校門の前にいきなり先ほどまではいなかった人物が現れる。

その突然なことに周りの生徒も驚いて立ち止まって突如現れた生徒、典嗣の方をじっと見る。

校門の前にたどり着いた典嗣も自身が多くの人たちに見られていると気づきながらもどう言う理由で視線を向けているのかは分からず無言のまま校舎へ向かって行った。

 

高校一年の教室にたどり着き、スクリーンに映っている座席表から自身の名前を探し出し、その席へと座る。

苗字が雨野なためやはり出席番号は一番で、席は右前の最前列であった。

 

「ようっ、今日もお姫様の護衛か?」

ひと段落落ち着いたころに、生徒の一人が典嗣の前に立つ。

 

「まあ、そうだな。お嬢様を一高まで送ってきた」

話しかけてきた生徒、立花蓮太郎に返答する。

 

「あー、いつもと同じくらい過保護で安心したよ」

蓮太郎は頬をすこしかいて、そうどこか複雑な感情して言った。

立花蓮太郎は小学生からの友人である。彼も昔何度か千葉家の道場には通っていてある程度、彼やその周りの事情は知っている。

 

「ま、今年もよろしくな」

 

「ああ、こちらこそ」

そう言って、二人は握手をした。

 

 

 



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第二話

オリ主の名前はランダムで決めました。


「ん?」

放課後となった学校の教室で。端末に送られてきた内容に典嗣はすこし声を上げてしまう。

 

「どうした典嗣、何か面白いニュースでもあったか?」

そんな彼の様子を蓮太郎は不思議に思い、画面を覗こうとする。

が、それよりも先に典嗣は画面を消して、端末をポケットに入れた。

 

「いや、お嬢様から今日の迎えはいらない、と連絡が来てな。親しくなった同級生と共に喫茶店に行くみたいだ」

 

「へー、もしかしたらその同級生ってのは男かも知れないぜ。そこのところどうよ、典嗣」

蓮太郎は意地汚なそうな顔をして言う。

 

「それは喜ばしいことだな。お嬢様にはあまりそういった浮ついた話を聞かなかったからそのような人物が現れたことを私はうれしく思うぞ」

 

「そ、そうか」

 

「あー、ただお嬢様と共に人生を歩むのであればやはりお嬢様を守れるほど強くないと私としては認めたくはないな」

 

「…ちなみに、どれくらい」

 

「もちろん、私を倒せるくらいには強くないといけないな」

 

「えぇぇ、無理じゃん、それ。お前そんなの一握りくらいしかいねえぞ。一度自分の力がどれくらいなのか試せ」

 

「試せと言われても、私はまだ未熟だからすぐに負けるに決まっているであろう。それに、私にはお嬢様たちのような魔法は使えないのだからな」

 

「あー、ごめんな」

 

「いや、いいんだ。魔法が使えないのは仕方のないことなんだ。だが、だからといって私が努力をあきらめる理由にはならない。こんな出来損ないの私をお嬢様は助けてくれたのだ。そんな優しいお嬢様に私の全てをかけてでも恩を返すのは当然であろう?」

 

「本当にお前の心意気には感心するぜ。で、それで一つ疑問なんだがお前のその手に持っている刀ってさ、模造刀だよな」

 

「これか?これはもちろん真剣だが」

ほら、と言って典嗣は刀身を見せる。

 

「やめろやめろ。えっ、マジで。いや、まあ、いいんだっけ?」

昔は刀を持ち歩いていなかったため、蓮太郎は不思議がっていたのだ。

 

「知らん、そんなこと。何か悪いことがあるのならば、武装一体型CADだとでも言っておけばいい。それでも無理ならば千葉の名を使う」

 

「えぇぇ、お前一応従者だろ。いいのか、そんなに簡単に使って」

 

「問題ない。何か問題があれば、この刀で当主殿を脅せばいいだけのこと」

 

「いやダメじゃん、それ。使用人が歯向かったらダメだろ」

 

「もう何度か脅しているから今更だ、そんなこと。それに私が仕えているのはお嬢様一人だけだ」

 

「えっ、嘘だろ。お前そんなヤバイこと何度もやっているのか。お前やっぱり馬鹿だろ」

 

「なんだ、斬られるか?」

 

「やめろやめろやめてください、本当にお願いします」

典嗣が刀に手をかけるとすぐに蓮太郎は降参の意を示した。

 

「で、主人に見捨てられた哀れな従者くんはどうするんだ。俺らも甘いものでも食べに行くか」

 

「いや、俺は千葉家に戻って道場で稽古でもすることにする」

 

「えー、なんでだよ。そこら辺の女子高生でもナンパして一緒に食べに行こうぜ」

 

「そんなことがお嬢様の耳に入れば私の信用は地に落ちるんだが。というか、一度も成功したことないではないか、ナンパ」

 

「いや、今回こそ成功するかもしれないだろ」

 

「それでもだ。私は帰るぞ」

 

「分かったよ。じゃあ、また今度ナンパしに行くか」

 

「絶対に行くわけないだろう。ではな」

蓮太郎の言葉を待たずして、典嗣は消えた。

 

「おう、ってやっぱり速いよな、アイツ」

そんな独り言を受け取る人物はいなかった。

 

 

 

場所は変わって千葉家。

日課の途中で典嗣がすこし水分補給をしていると、とある集団が近づいてくる。そしてその集団の一番前には千葉寿和がいた。いや、集団というよりも千葉寿和の後ろを他が急いでついてきているだけであった。

 

「突然、すまない。すこし話がしたい」

寿和はそう話を切り出した。

 

「すみません、もう少し待っていただけませんか。今は日課の練習の途中でして」

雨野典嗣と千葉寿和の間に何か因縁があるのかといわれると別にないのだが、典嗣の主人であるエリカが大層嫌っているため、だからといって仲が良いとも言えない間柄である。

 

「おいっ、寿和さんを待たせるつもりか?」

取り巻きの一人が食ってかかるも寿和に止められてしまう。止められた方も寿和に止められるとは思わなかったようでなんとも言えない表情であった。

 

そんな彼らの様子を見て典嗣もあまり騒ぎを立てたくはないため、寿和の話を先に聞くことにした。

どうやら、二人きりで話したかったようで後ろに控えていた道場生を解散させていた。

 

そして、個室を借りてお互いに向き合って正座をする。

 

「最近この辺り、いや一高辺りできな臭い情報が入ってね。ブランシュとエガリテと呼ばれる組織についてだが……」

典嗣は一高周辺、つまりはエリカの身の回りで起こることと認識すると先ほどよりも真剣に寿和の話を聞き始めた。

 

 

 

翌日。

今日も今日とて朝からエリカを見送った典嗣は通常通り授業を受けて昼食に差し掛かった時にいきなり立ち上がって外の方を見ていた。

 

「どうした典嗣、何かあったか?」

後ろの席に座る蓮太郎が机に肘を立てて聞く。

 

「いや、一瞬お嬢様の怒りを感じ取ってな」

 

「えぇぇ、やっぱりお前のお姫様センサーこえーわ」

というか気持ち悪いと蓮太郎はぼそっと呟いた。

 

そして、放課後も。

典嗣は昼休みと同じく急に立ち上がってやはり昼と同じ方向を向く。その方向の延長上には確かに一高がある。

 

「また、お姫様センサー?」

 

「ああ、だが今回はまだ続いている。今日は一高に寄ることにする、お前も来るか?」

 

「いや、行くわけないじゃん。というか、お前部外者なんだから絶対に校内入るなよ」

 

「ふっ、そんなこと、分かっているに決まっている」

馬鹿にするなと言いたげな表情をする典嗣にしでかしそうだから忠告しているんだよ、と内心蓮太郎は思っていた。

 

「それでは、行ってくる」

そう言って典嗣は教室から出て行った。もちろん、真剣を携えて。その姿を見た蓮太郎は異様に不安に思えてきた。

 

 

 

一高の校門で司波達也率いる二科生と森崎駿率いる一科生が揉めていた。

どちらが司波深雪と帰るかといったくだらない内容のもめごとは中々にヒートアップしていた。

エリカもやはり一科生の言い分が気に入らず少々イライラしていたものの、端末に送られてきた内容に冷や汗を流す。

 

エリカの従者の友人から送られてきたそれの内容は、従者が一高に向かっているとのこと。つまりは、もしこの場を典嗣に見られればここで殺傷事件が起きてしまうかもしれないということである。もちろん、被害者は森崎ら一科生である。

エリカに敵対した者はどんな存在であろうと斬り捨ててきた従者、それが雨野典嗣である。こんなどちらで帰るかといった小さなことでもめたとしてもそれはエリカに歯向かった者たちと認識し、重傷は免れないであろう。真剣でスパッとである。

 

「司波くん、ちょっとここを離れていいかな」

隣に立っていた司波達也に話しかける。

 

「いいが、どうかしたのか?」

 

「ちょっと面倒ごとを一つ潰しておきたくて」

 

「面倒ごと?」

と言った瞬間、達也は後方から突如ものすごい殺気を出す者の気配がする。

そこには、一人の青年がこちらを見ていた。手には何やら、刀を持っている。

 

「アイツか?」

 

「そう、アイツ。知り合い」

そう言って、エリカはそこから離脱しようと校門の方へ歩みを進める。

 

「おいっ、そこのお前。まだ話は終わったないぞ!」

一科生の一人がエリカが移動していることに気づいたのか、そのことを指摘する。ここで外に出ることは悪手であると考えてエリカは達也や西城レオンハルトの元へと戻っていく。どうにか、典嗣が乗り込んでこないことだけをエリカは祈っていた。

 

 

 

大声で行われる彼ら一科生と二科生のもめごとを典嗣は聞いて怒っていた。もちろん、人名が出ても誰が誰なのかわからない。だが、エリカたち二科生を馬鹿にする者たちがいることに彼は我慢ならなかった。彼に魔法の格式の重要性はわからない。だが、それでも自身の主人を馬鹿にされたのだ。今にも突撃しに行きそうな様子である。

しかし、典嗣は突撃しない。いや、できなかった。

彼らがもめているのは校門に囲まれた中で行われている。つまりは、校内である。部外者である典嗣はその中に入ることはできない。もし入れば、それは第一高校と正面衝突で戦わなければならない。

だから、典嗣には待つことしかできなたかった。

 

 

 

もめごとは生徒会長や風紀委員長のはたらきにより何とかその場は沈静化された。

そして、森崎らがどこかへ行き、残った二科生やその他は共に帰ることになった。

 

「ちょっと待ってて」

エリカは達也たちにあやまりを入れて、典嗣の元へ走って向かう。

 

「お疲れ様です、お嬢様。それでどうしましょう、斬りますか?」

 

「いや、斬らないから。もう大丈夫だから、ね?」

 

「しかし…。わかりました、ですがもう顔は覚えましたので、いつでも斬り伏せます」

 

「いや、だから斬らないから。はい、それじゃあもう帰って帰って。護衛はいらないから」

 

「ですが…」

 

「主人命令です。帰りなさい」

 

「了解しました」

典嗣はとぼとぼと歩いて帰って行った。いつも瞬時に消えるためその後ろ姿は新鮮である。

 

「ごめん、もういいよ。帰ろっか」

エリカは達也たちの元へとすぐに戻る。

 

「エリカちゃん、さっきの人は?」

おっとりとした少女、柴田美月は不思議そうに言う。

 

「あー、えっと、一応私の従者になるのかな」

エリカは曖昧に答える。

 

「へー、エリカちゃんに従者がいたんだ」

 

「いてもおかしくはないだろう、千葉家は百家本流の一つに数えられるからな、違うか?」

達也が補足して言う。

 

「ううん、あってる」

 

「どんな人なの?」

 

「えー、なんだろう。一言で表すとやっぱり馬鹿、かな」

エリカのその発言は彼らに疑問を残していった。

 



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第三話

誤字修正、ありがとうございます。(8/31)


エリカは現在一高の第二体育館、通称『闘技場』で先ほどから行われている戦闘を観察していた。

 

一高の部活における新入生勧誘期間なのだから、それぞれの部がどのような事柄を日々部活でしているのか、そのプレゼンテーションのために例えば剣道部や剣術部で「殺陣」を行うのは必然に値する。

しかし、彼女やその他の生徒たちがいま見ているのは全くもって違うものであった。簡単に言うならば、風紀委員の仕事風景であった。

 

原因は至極単純である、部員の魔法の不適正利用であった。

しかし、その内容に不満があったのか他の部員たちが罪刑を決定した風紀委員に襲いかかり乱闘になり、また風紀委員が二科生であったことから一科生たちが自身より下の人間に勝手に罪を言い渡されることを良しと思わなかったからだろう。

そして、現在の乱闘に至る。

 

彼が二科生であるという点や他対一ということなどからも誰もが風紀委員が部員たちに敗北する予想していたが、今の様子ではむしろ二科生の方が剣術部員を圧倒していた。

 

何らかで相手の魔法を封じながら魔法を使わずに体術で相手を戦闘不能にさせる。一科生を打ち負かす二科生の戦法をエリカはそのように感じていた。

二科生の、達也の戦闘を眺めながらそのようなことを考えているとどうやら達也に歯向かう者たちは全員地面に倒れていた。そんな光景から戦闘が終わったことを確認すると、エリカはゆっくりと達也の方へ近づいていった。

 

 

 

 

「それで桐原って二年生、達也相手に殺傷ランクBの魔法を使ってきたんだろ?よく怪我しなかったな」

放課後。達也にその妹の深雪、そしてエリカや美月にレオたちは達也の委員会業務のあと、どこかの喫茶店でお茶をしていた。

そしてそこで行われる会話の中、レオは話を戻す。

風紀委員にしかも二科生に殺傷ランクBの魔法で襲ったという話は学校中で知られているようだ。

 

「ああ、『高周波ブレード』はランクの通り殺傷性があるが有効範囲の狭い魔法でもあるからな。当たらなければどうとでも対策できるものだ。それによく斬れる刀と対処は変わらないさ」

 

「それって真剣の対処は簡単って言っているように感じますが…」

 

「大丈夫よ、美月。お兄様なら心配いらないわ」

美月やレオの不安を深雪はあっさりと否定する。

 

「すごい自身だな」

 

「ええ、お兄様に勝てる存在なんてこの世にいないもの」

すこしも躊躇せずに言う深雪にエリカたちも苦笑する。

 

「ですが、『高周波ブレード』は超音波を発信するのでしょう?」

 

「耳栓をしないと酔っちまうって言うしな」

 

「ああ、それは」

「単にお兄様の体術が優れているだけではないの」

達也が答えるよりも先に深雪が話し出す。

 

「あれって、魔法を無効化していたのでしょ?」

そして、そんな深雪よりも先に先ほどまであまり話出さなかったエリカが言う。

 

「あら、エリカ気付いていたのね」

 

「あー、まあ、ウチにもそういう奴が一人いてね。けど、ウチの奴のやり方とは違ったみたいだから達也のアレはなんだったの?」

 

「あれは、キャストジャミングという無系統魔法の一種だ」

 

「うん?キャストジャミングって確か何か特殊な石が必要じゃなかったっけ?確か…」

 

「アンティナイトですよ。ですが、あれは高価なものだと思うのですけど」

 

「いや、俺は持っていないし、それにアンティナイトは軍事物資だから値段以前に一民間人が手に入れられるものじゃない」

 

「え、ですが…」

美月がその矛盾の疑問を達也に伝えようとするが、達也もどう説明すればいいのかすこし考えるそぶりをした。

 

「あー、この話はオフレコで頼みたいのだが、俺が正確には使ったのはキャストジャミングの理論を応用した特定魔法のジャミングなんだよ」

 

「そんな魔法、ありましたっけ?」

 

「いや、俺は聞いたことがねえな」

 

「それって、新しい魔法を理論的に編み出したってこと?」

 

「偶然発見したという方が正しいけどな」

 

「それでも、新しい魔法を見つけたってことはすごいじゃないですかっ!」

美月は目を輝かせてそう言った。

 

「まあな。それで、どのような魔法かというとだな、まず二つのCAD同時使用するとそこから出るサイオン波が干渉しあってほとんどの場合、魔法が発動しないことは知っているよな?」

 

「ああ、経験したことあるからわかるぜ」

 

「うわっ、身の程知らず〜」

 

「なんだとっ!」

 

「アンタにそんな高等テクがあるはずないじゃない」

 

「あ゛っ‼︎」

 

「エリカちゃんやレオくんも、落ち着いて」

いきなり口喧嘩が勃発し、それを美月が宥める。

一通り落ち着くと達也はまた話し出した。

 

「それで、だ。一方のCADで妨害しようとする魔法式を展開し、もう一方のCADでそれとは逆の現象を引き起こす式を展開してそれらの起動式を複写増幅することによりサイオン信号波を無系統魔法として放つ。それによって同種類の魔法をある程度妨害することができるんだ」

達也が話し終えてもその強烈な魔法の凄さに三人は驚かざるをえなかった。

 

「マジかよ、そりゃすげえな。だが、なんでオフレコなんだ?特許をとれば儲かりそうなんだがな」

 

「一つはこの魔法がまだ未完成なものだということ。それ以上にアンティナイトを使わずに魔法を妨害できる仕組み自体に問題がある」

 

「問題?どこにあるんだ」

 

「馬鹿ね、あるじゃない大きな問題が。お手軽に魔法無効化の技術が広まったりしたら社会の基盤が揺らぎかねないじゃない」

 

「アンティナイトは産出量が少ないからこそ現実的な脅威とはあまりなっていない。これの対抗魔法が完成するまでは公表しないつもりだ」

 

「へえ、達也さんはそこまで考えていたんですね」

 

「まあ、一応な。それよりも俺はエリカの話の方が気になるな」

 

「え、私の話?」

 

「ほら、魔法を無効化できる知り合いがいるとさっき言っていたからな。それに、深雪が答えを言う前にエリカが答えを言ったということは俺の戦う光景を見て答えを得たということだ。つまりは、その人物は俺のようなスタイルで戦うとみた。だから、どんな人物か知りたくてね」

 

「えっとね、けど達也くんとは違って基本剣を使うのよ」

いきなり話題をふられたエリカは少々戸惑いながらも話す。

 

「それに、一度会ったこともあると思うし」

 

「会ったことがある?ということは…」

 

「そう。あの校門前にいたアイツよ」

 

「アイツも俺のように魔法を無効化して戦うのか?例えば、『術式解体(グラムデモリッション)』のような魔法を無効化する魔法を用いたりして」

 

「あー、このこともオフレコでお願いしたいのだけれど」

そう言ってエリカは体を前のめりになる。それに続いて、他の人たちもより近くで話し出す。

 

「アイツの体自体が魔法というかそういう改変された事象をすべて無効化して元に戻してしまうの」

エリカは苦々しげにそう言った。

 

 



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第四話

誤字修正、ありがとうございます。(8/31)


「まあ残念ながら改変された事象をもとに戻すとか色々アイツが説明してくれたのだけれど、中途半端にしか聞いてなかったからあまりよく覚えてないの。まあ簡単に言えばアイツには魔法が効かないということよ」

その事実に誰もが一瞬黙ってしまう。

 

「それってさっきの達也さんの話と同じくらいすごいことじゃないですか」

 

「一応、聞いておくがその君の従者は…」

 

「もちろん、魔法師側の存在よ、って言いたいところなんだけど」

 

「まさかっ」

 

「ううん、一般人側でもなくてね。あのー、なんていうか、その私側なのよ」

エリカはすこし照れながら答えた。

 

「私側と魔法師側は違うのですか?」

 

「私側というか私にしか従わないのよ、アイツ。昔に私がアイツのことを助けてあげたことがあるんだけど、その恩を一生にかけて返すとか言い出してね」

エリカは力なく笑って見せた。

 

「例えばの話なんだが、エリカのいや、千葉家の当主からの指示ならどうなんだ?」

 

「その内容を私が命令したら行うけど、それ以外は無視ね。アイツ、この前ウチの父親、まあつまりは千葉家の当主に刀を向けていたからね」

 

「中々に危険なことをしでかしているな」

 

「根はいい奴なはずなのよ。誰にでも優しいし、相手のことを思って行動できるし。けど、それ以上に忠誠心が高すぎるせいで色々と台無しになっているのよね」

 

「へえ、面白い奴だな」

 

「え、今の話を聞いて面白いの?」

達也はエリカの話を聞いてどこか自身と同じものを感じたようで彼の目には関心の色があった。

 

「それなら、今度ソイツも連れてどこかに食べに行こうぜ」

 

「それはいい案だな、レオ」

 

「行くのなら達也さんの委員会業務が休みの日にしませんか?」

 

「確か、この日とあの日が…」

着々と決められていく事の中心となる人物は自室で三角関数に手こずるばかりであった。

 

 

____________________________________________________________

 

 

「さて、お嬢様はどちらに、っと。なんだ、あの不思議な集団は」

典嗣はすこし高い建物の屋上から下を覗き込んで、その不思議な学生たちを興味げに見ていた。

もちろん、彼はその集団を観にこの一高付近を見ているのではない。彼の主人からは迎えに来なくて良い、と言われているものの従者が主の身を心配するのは当たり前なことなのでエリカを遠くから見て護衛していた。完全にストーカーのそれである。

しかし、一高近くで観察しているとエリカにばれてしまう恐れがあるため、彼は遠く離れた場所から一高付近を見て気づかれないようにしていた。

剣の練習をするか、主人を観察するか。それが彼の放課後の過ごし方である。

 

そんないつもの行動の矢先に典嗣は先ほどの不思議な集団を見つけた。不思議な三人組である彼女らが物陰に隠れながら移動していることから典嗣は誰かを尾行している、と予測づける。

 

「だが、アレは雑すぎるだろう」

だが、思わずそう呟いてしまうほど、彼女らのそれはいささか雑な尾行であった。標的となっているだろう男性との距離は近いし、それにあまりにも彼女らの話し声が大きい。もう尾行ではなくただのストーカーではないか。それが常日頃主人を陰から護衛(ストーカー)している従者の感想であった。

 

そんな彼女らを観察していると尾行対象の男性が路地裏へと入っていき、それを追うように続いて三人組も入って行った。

尾行が既にバレている予想した典嗣はもう少しだけ彼らに近づくことにした。

尾行対象の男性がどういう人物で、どのような理由で三人組の女子が尾行しているのかなどといったことは一切典嗣は知らない。それにエンブレムからおそらく一科生と思われる女子たちがどれだけの実力を有しているのかも彼はエリカほどの力はあるだろうと考えているがほとんど知らない。

だが、もしもの場合ということも考え典嗣は近くで観察することにした。

もちろん、少しの間護衛をはずすことを心の中でエリカに謝罪しながら彼は進んだ。

 

 

 

 

「Go‼︎」

そのかけ声とともに北山雫と光井ほのか、そして明智英美は謎の集団から逃げようとしていた。

彼女たちは先ほどまで一高の剣道部の主将である三年の司甲が同級生である司波達也を狙っていることを突き止めるため尾行していたのだが、その最中に司が呼んだのだろうこの謎の集団の罠にとらわれてしまった。

 

「待てっ、逃すな‼︎」

 

「ただの女子高生ってなめないでよねっ」

その言葉とともにエイミィはすぐ後ろで自分を捕まえようとしていた人物に魔法で撃退する。

 

「エイミィ、魔法って」

 

「自衛的先制攻撃ってやつだよ!ほら、ほのかも」

 

「うん、わかった」

他の不審者たちに魔法で光を発光させ彼らの目をつぶす。

 

「くっ、光で目が見えないっ!」

 

「よしっ、行こう」

雫のその言葉に彼女らは比較的人のいる通りへと逃げ込もうとする。

 

「くっ、化け物が。これでもくらえ!」

不審者の一人が指輪で何かを発動させる。

 

「きゃっ、なに、これ」

逃げようとしていた3人だが、その指輪から発せられる波長に頭を抱えて、いや耳を塞いで次々と膝をついていく。

 

「ふふっ、苦しいか。司様からお借りしたアンティナイトによるキャスト・ジャミングがあるかぎり、貴様らは魔法を使うことが一切できない」

不審者のリーダー格らしき人物が不適に笑ってそう言った。また、司様と言ったことからやはり司甲はこのことに関係しているのだと彼女たち三人は考えていた。

 

「ふむ、まだ元気そうだ。もっと効果を強めてやろう」

そのアンティナイトの効果に彼女たちひさきほどまでの余裕さはなく、ただ苦しみの表情を浮かべて蹲っていた。

 

「手筈どおり、始末するか」

 

「そうだ。我々の計画に邪魔をする者には消えてもらうだけだ」

リーダー格はそう言って懐から一本のナイフを取り出す。

 

「この世界に、魔法使いは必要ないっ」

男は振り上げていたナイフをうずくまる少女たちへ振り下ろそうとする。

 

 

「それは、困りものだ。お嬢様が生きてはいけないではないか」

その瞬間、男の持っていたナイフは何かの衝撃で男の後ろに飛ばされていく。そして、いきなりの衝撃によって手を痛めたのか、もう片方の手でナイフを持っていた手を庇う。

ナイフを飛ばしたのは、典嗣であった。もちろん、彼女たちが優勢だったころはただ見物していただけだったが、明らかに不利になっている、危機に瀕していそうだったので彼女たちを謎の集団から守りにきただけである。

 

「い、いきなり何を。お前はいったい誰なのだっ」

 

「誰と言われても、私には雨野典嗣としか返すことができないが」

 

「くっ、それならこれでどうだ!」

魔法師を救ったことから同じく典嗣も魔法師と思われたのだろう、アンティナイトのキャスト・ジャミングを発動させる。だが、典嗣は魔法師ではない。一般人である。

 

「いや、そんなもの効くわけないだろう。私は魔法師でも何でもないのに」

 

「魔法師ではない、だと。では、どうしてそいつらを庇おうとする。お前は魔法師が憎くないのか、怖くないのか?」

 

「別にどうとでも。ただ、お嬢様に敵対するものは斬り捨てるのみだ。だから、お前らみたいな後の未来でお嬢様と敵対するであろうものたちは今のうちに潰しておかなければならない、だから」

典嗣は瞬時に仮面集団に近づき持っていた刀を鞘のついた状態で相手に斬り込み一人一人気絶させて行く。

 

「さっさと、くたばれ」

そう言い終わる前に最後の一人が吹っ飛んでいった。

 

「それで、お前たちは無事か」

典嗣は蹲っていた少女たちに問いかける。

 

「うん、あなたのおかげで平気」

 

「そうか、ならばさっさとここから立ち去れ」

 

「…貴方って千葉家の人、だよね」

雫が典嗣に唐突に問いかける。

 

「なんで知っているのか疑問だが、そうだ。それ何か?」

 

「あの時の千葉エリカの従者の人と一緒か、確認しただけ」

 

「あの時?ああ、あの校門のところのことか。そうだ、私は千葉エリカお嬢様の従者だ」

 

「その、今回のことはありがとう」

 

「気にすることはない、ただこういうことはあまりやらないほうがいい。せめて大人ともにやることだな。それと、あの尾行はお粗末すぎる、もうすこし精進したほうがいい」

 

「分かった、それでさっきのことでお礼がしたいのだけれど」

 

「お礼?そんなものいるわけないだろう。さっさと、この場から離れろ」

 

「むっ。それでは私の気が済まないの」

 

「だが、そう言われてもな。……そうだ、おいお前らひとつ約束しろ」

 

「約束?」

典嗣のその言葉に女子三人は不思議そうな顔をする。

 

「そうだ、絶対にお嬢様を裏切ってはいけない。これが約束だ」

 

「お嬢様ってえっと、千葉エリカさんのこと?。いや、まあ別にいいけど」

 

「他二人もそれでいいか?」

 

「えっ?ええ、いいですけど」

 

「……うん、それでいい」

 

「ならば、さっさと立ち去れ。この者たちは俺が処理しておく」

典嗣が促すと三人は立ち上がって大通りの方へ向かっていく。

 

「ねえ」

 

「なんだ、今度は?」

雫に話しかけられ典嗣は振り向く。

 

「……」

 

「なんだ?」

 

「…いや、なんでもない」

雫はそれだけを言うと先に歩いているほのかたちへ駆け寄った。

 

 

 

 

「どうしたの雫、なにかすごく考えているけど」

司甲を追っていた少女探偵団のメンツは本来の下校時の帰り道に戻っていた。

 

「あの、雨野って人、どこかで見覚えがあったから。だけど、どこで見たのか思い出せなくて」

 

「へー、雫のお父さんのパーティーに参加していたのかな?」

 

「そう、なのかな。今度、聞いてみるよ」

 



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第五話

誤字修正、ありがとうございます。(8/31)

お気に入り件数 1000件突破していました、ありがとうございます。(同日)


(つかさ)(きのえ)、旧姓鴨野(かもの)甲。両親祖父母いずれも魔法的な因子は持っていないんだが、実は陰陽道の大家「加茂氏」の傍系にあたる家系で彼の持つ霊視放射光過敏症は先祖返りだろうと僕は考えているよ」

すっかり日の落ちた時間帯。九重寺の縁側にて達也と深雪が寺の主人である九重八雲の話を聞いていた。

 

「……俺が司甲の調査を依頼することが分かっていたのですか?」

 

「いや。君の依頼とは関係なく、彼のことは知っていたよ。僕は坊主だけど、同時にいやそれ以前に、忍だからね。縁が結ばれた場所で問題になりそうな曰くを持つ人物のことは一通り調べておくことにしているんだよ」

 

「それは、俺たちのことも、ですか」

 

「調べようとしたんだけど無理だったよ、お手上げさ。君たちに関する情報操作は完璧だったさ、流石っと言うべきだろうね」

 

「それで、司先輩とブランシュの関係については?」

深雪がいきなり話を変える。

 

「うん。甲くんの母親の再婚相手の連れ子、つまりは甲くんの義理のお兄さんがブランシュの日本支部のリーダーを務めている。その司一(つかさはじめ)という男は表向きだけの代表だけじゃなくて非合法活動をはじめとする裏の仕事も仕切っている本物のリーダーだ。甲くんが第一高校に入学したのは司一の意思が働いているんだろう。明日の討論会はー

ー荒れるだろうね」

八雲は意地悪そうにそう言った。

 

「あー、それともう一人。達也くんたちと今後関わってきそうな人物として一人君と相性の微妙な相手がいてね。これも話そうと思っていたんだ」

 

「相性の微妙な相手?それは……エリカの、千葉エリカの従者の」

 

「そう、千葉エリカの従者、基本的に千葉家に所属する人間、雨野典嗣。彼は理屈は僕もわからないけど何せ魔法を無効化する体質を持っている。強力な魔法の有無こそが現在のヒエラルキーを保っているこの現代社会においてそのカーストとして重要視される魔法を尽くを凌駕してしまう無効化の力だ。僕の知り得た情報では君の所の後ろ盾と千葉家がこの世界の力バランスのツートップに立っていると思わされる。それくらいの力だ、彼の無効化は」

 

「それで、彼がどうしたのですか」

 

「アドバイスといってもあれだけれど。雨野典嗣とは、いや千葉エリカや彼女の気に入った人物とは仲良くしていた方がいい。君が彼と一対一で戦って勝てるとしても彼を味方に置いておくことでメリットが格段に増えると思うよ」

 

「師匠は、雨野の戦っている様子とかは見たことがあるのですか」

 

「もちろん見たことはある、のだけれども本当によく見ていないと僕でも目が追いつけなくなるときがあるんだ」

アハハー、と八雲は頬をかきながら照れる。

 

「せ、先生の目さえも追いつかなくさせるってどれほどの速さで」

 

「正直僕も目を疑ったよ。魔法の使えない彼がこれほどの速さを出せるとは思わないしね。ほんと、あれを見て人体の神秘に再度感動してしまったさ」

 

「まあそういうことだ。魔法適性の無い彼はそれ以上に異常な強さを有していた。だけどね、達也くん深雪ちゃん。僕は彼を見てねどうも不思議でしか無いんだ。彼には魔法を無効化する異能がある。彼には恐るべき身体能力が備わっている。だが、それ以上に僕は彼が普通の人間にしか見えないんだ。普通の人間として、一般人としてでしか見ることができないんだ」

八雲のその言葉に二人はただ疑問を覚えるだけだった。

 

____________________________________________________________

 

「蓮太郎、知っているか?」

全ての授業が終了し、終礼を待っている間。典嗣は蓮太郎に話しかけた。

 

「なんだ、お前から話題を振るとか珍しいな」

 

「まあ、な。それよりも今日、一高で一科生と二科生の待遇についての公開討論会が行われるみたいなのだ」

 

「いや俺別に魔法科の生徒じゃないし」

 

「何を馬鹿なことを言っているんだ。それなら私もそうだろう。だが、二科生にはお嬢様がいらっしゃるんだ。聞くところによると一科生は二科生を差別して酷い目に合わせているらしい。それを改善するべく今日の放課後に討論会を行うみたいなんだ」

 

「あー、出たよ。すぐお姫様のことになったらポンコツになるな、コイツ。日頃のテストの成績は嫌みか」

典嗣の学校の成績は毎度トップ10入りしている。もちろん、エリカに恥をかかせないために。

 

「で、その、待遇についての討論会がどうかしたのか」

 

「もちろん、二科生側が勝利することを祈って今から私と一緒に手を前で組んで祈りを捧げるに決まっている」

 

「嫌だよっ、ここでするの。だってみんなこっち見ているんだぜ。こんな中で祈りを捧げていたら頭おかしい人間にしか見えねえだろっ!」

そう言って蓮太郎は周りのせいと助けを求めようと見渡すも全員が全員目を逸らしていた。

 

「だいたいさ、なんで俺は何も知らない事情について祈りを捧げなきゃいけないんだよ。それにさー」

 

「んっ⁉︎これは、すまん蓮太郎、なにやら色々話しているようだが、すこし席を外す。担任には適当な理由をつけておいてくれ、もちろん千葉の名も使えよ」

典嗣はその言葉を言い捨てると窓を開けてそこから飛び降りて行った。

 

「……ふざっけんなぁっ!せめて話を最後まで聞けよっ!」

蓮太郎の渾身の叫びも典嗣には届かない。

 

 

 

「なんだ、この状況は」

典嗣は一高に来ていた。彼は直感でエリカに何か危険なことがあると察知して一高に来たのだった。今回は当然校内に無断で入ってきた。一高ではテロリストと思しき人物たちと一高の制服を着た生徒が敵対して戦っていた。

 

「さて、私も生徒に加勢しようと思うが斬り捨てていいのか?」

そのような疑問を典嗣は考える。だが。

 

「パンツァー!」

その大声のする方を向くと茶髪の生徒がテロリストを拳で吹っ飛ばしていくのが見える。

 

「これは、また峰打ちだな」

典嗣はそう言葉にして決断すると瞬時にテロリストと間合いを詰めて刀をふるって相手をなぎ倒していく。

 

「お、お前は、いったい誰だ」

だが一高の制服を着ていない典嗣は近くにいた生徒たちからCADを向けられる。

 

「私は、百家の一つ千葉家から派遣された援軍だ、安心していい」

 

「百家の…それは頼もしいな。すまないがたのむ」

 

「了解した」

やはり千葉家の名は扱いやすい、と改めて典嗣は感心した。

 

そして、数分もしないうちに全てのテロリストたちは倒された。

すると典嗣の端末に電話がかかってきた。誰からきたのかさえ確認せずに通話ボタンを開始させる。

 

 

「こちら、雨野典嗣です。了解しました、あとで場所は確認します。それと、別にすべて切り捨ててしまっても構わないんでしょう。えっ、リーダーは生かしておけ?無理ですし嫌ですよ、そんなの」

典嗣は無理やり通話を終了させる。そして、送られてきた位置情報を確認するとそちらの方向へ走っていった。

 

 

 

 

「あっ、ちょっと待って」

先ほどまでブランシュに乗り込むことで闘争心に燃えていたエリカがいきなり慌て出して誰かに連絡を取り始める。

 

「どうしたんだ、エリカ」

 

「アイツのことを、忘れていたのよ」

 

「アイツ?あー、雨野のことか」

達也はエリカの苦労話を何度か聞かされているからこそすこし同情してしまう。

 

「雨野?とは、いったい誰のことなんだ」

だが、そのことについて知らない十文字と桐原は達也に聞く。

 

「千葉さんの従者の名前です」

 

 

「ねえっ、アンタ今どこにいるの?えっ、支部の目の前⁉︎ちょっ、ちょっと何もするんじゃないわよ。えー、嘘でしょ」

エリカはガックリと肩を落とす。

 

「雨野はなんて言っていたんだ?」

 

「もう支部の敷地のフェンスを乗り越えて、なんかたくさん人がいる場所の一つ前の部屋にいるみたい」

 

「なんだそりゃ。で、ソイツはどうするつもりなんだ」

 

「一応、アタシが待機命令を出したから自分からは動かないつもりみたい」

 

「それはまたシュールだな、敵が目の前にいるのに一人でその前の部屋に居座っているのは」

 

「あ、また通知来た。敵が痺れを切らして何か攻撃してきたって書いてる。早くきて欲しそうね」

 

「むっ、もっと速くか」

エリカの話している内容を聞いた十文字は典嗣の気持ちに答えてアクセルをさらに踏み込む。

 

「えっ、ちょっと待って。待ってください。こんなにスピードを出して大丈夫なのかよ」

うまく舗装されていない道を時速100キロの車が駆け上がる。

 

「問題ない、まあ俺のドライビングセンスを信じろ」

その言葉に何故か乗車していた全員が顔を青くする。

2分後、車から降車してきた彼らの顔はとても今からテロリストたちを倒しに行くような表情をしていなかった。

 



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第六話

めっさ遅れました。すみません。ちなみに中間考査を数日後に控えた今日いきなり書きたくなって書きました。ただの馬鹿です。
これにて『入学編』おわりです。

一応、投稿するので『連載』に戻そうと思います。三ヶ月たって更新されなければまた未完に戻します。



「くそっ、何だこいつ。速くて当たらねえ」

一人の男が手を動かしながらも声を荒げる。だが、その思いには誰も答えようとはしない。それは彼の発言を無視しようだとかそんな村八分のような理由があってではない。ただ単純に聞こえていないのだ。

室内は自分たちの発する銃撃によってコミュニケーションが取れないくらいに五月蝿い場所と化していた。

己らの願いのために彼らは銃を手に取って戦っているはずなのに開戦してから少し経つと彼らの内にははそんな理想を求めるための高揚感はなかった。占めていたのは自分たちの不甲斐なさだけだ。

魔法師を打倒するために入ったこの組合は今、魔法師でもない少年相手に逃げ回られている。

武器も手にした、仲間も手に入れた。それなのにこの惨状である。

彼らはそれでも銃の引き金を引き、何とかして件の少年を撃ち落とそうする。

 

そんな彼らの相手をしているのは雨野典嗣。

彼もまた心の中で己の主人に対して申し訳なさがあった。

彼は主人のために先に向かってテロリスト達の本拠地を暴いたのだが、大勢の人間がいる大部屋の前で待っていたのだが後から合流してきた他のテロリストたちに扉前で待機されていることを知られて銃撃戦となり、その銃声を聞きつけたとびらの向こうのテロリスト共も加わり場はより過激さを増した。

 

「なぜここにお前がいる、雨野典嗣。君はこの件には関係ないはずだ。いやむしろ喜ばしいことではないのか。君の主人である千葉エリカは第一高校の二科生だ。彼女はあの高校で屈辱的な思いをしているはずさ。それならば私たちブランシュが目指す魔法による社会差別を撤廃するという理想に一致するものがあるだろう」

おそらく首領である人物が銃撃を止めさせると雨野に問う。

 

「確かに私は貴方たちと同じ側に着くべきなのかもしれない。二科生という汚辱を与えられたお嬢様や魔法師となり得ない運命にある私はおそらく君たちと手をとって共に戦うという選択肢もある」

 

「だが、お嬢様が。ご友人方と楽しくなされていたあの方が魔法師としての威厳を守る方へとついた。だから私も其方側へとつく。なに、それだけのことさ」

 

「っ、君は。本当にそれでいいのか。君はどっちつけずだ」

 

「これでいい。私の運命はお嬢様に出会ったときには既に決まっている」

 

「……そうか。なら私たちの理想のために死に晒せ」

リーダー格とおもわれる男、はじめは銃撃開始の合図をしようとするが、

 

彼らの持つ銃が一斉に真っ二つに切れた。何の前触れもなく何の太刀筋も見えずに、そのあまりにも綺麗な断面にブランシュの人たちの背筋が凍る。一瞬で、強みが消えた。

雨野を見る。刀に手をかけた彼は居合の構えで静かにその場に立っていた。

 

「ちっ、やっぱり効かねえか。おいっ、お前らいますぐ予備を持ってこい!」

司一は側にいた数人に大声で指図する。そしてゆっくりと典嗣と目を合わせた。

 

「やっぱり甘いな、雨野典嗣」

 

「甘いのはそっちの方だ。いいのかこんなところで日本支部のリーダーが悠長としていて。もうすぐ第一高校からの援軍が来るぞ」

 

「はっ、お前と対峙した時から逃げることは頭の中にはないさ」

司一が構える。それに続いてブランシュの者たちもそれぞれに構え始めた。

 

「おいおい、徒手でくるのか。こちらは刀を所持しているのに?」

 

「どうせお前は斬れやしないさ」

司一が突貫する。右殴り、左殴り、アッパー、蹴り技も加えて相手にダメージを与えようとする。だがどれも受け止められたり避けられたりと明らかに不利であった。

他の者たちも彼と同様なんとかして当てようとする。

渾身のストレートを叩き込もうとするが避けられその腕を捕まえられて仲間の打撃のガードにされたり、典嗣の動きを止めようとして体全体を使って腰に巻きつくが膝蹴りを受けすぐにダウンする。

一人一人と脱落していき残るは典嗣と司だけだった。だが司も体力が残っていないのかフラフラと千鳥足のような状態だった。だがそんな状態も長くは続かずすぐに床に仰向けで倒れていった。

 

「あーくそ、日頃動いていないから体が思うように動かない」

 

「何故そんな体たらくで戦おうとしたのだ、貴方は」

 

「……さあなんでだろうな。私にも検討がつかないね」

 

「アレは使わないのか、あの魔法は」

 

「何だ?馬鹿にしているのか。お前にアレが効かないってことはとっくの昔に知っているさ。あんなもので勝てるのだったら私は君と相対したら速攻で使っていたよ」

 

「だが……いや、なんでもない」

 

「なあ雨野典嗣。一つだけもう一度だけ聞きたい。人と魔法師が敵対した時に君はどちらへつくのだい。人であって魔法師でなく、魔法使いであって純粋な人でない君の意見が知りたい」

 

「さっきも言っただろう。私はお嬢様の側へとつく」

 

「……そうか。じゃあ純粋な人としてのアドバイスだ。君は自分の意志を持った方がいい。お嬢様が、だとかお嬢様のためなら、だとかそんな他を考えることよりもまず君自身の意見を持った方がいい。そうでなければ君の主人が道を外したときに君は彼女を救うことができない」

 

「ご忠告感謝する」

扉の開く音がする。この場で動けるのは典嗣だけだ。だが彼は扉からは程遠い。

ということは。ドアを開けたのは別人である。つまりは入ってきたのは第一高校のメンツだった。

 

 

____________________________________________

 

 

「雨野!今回ばかりは許せないぞ。お前がエリカ嬢のことが大切なのはよく知っている。だが、流石に第一高校に不法侵入しあまつさえ『千葉』の名を使ったんだ。許しておけるはずがない」

 

ここは千葉家にある部屋の一つ。そこでは千葉家の弟子の一人が典嗣に説教していた。

 

「まあ落ち着け」

 

「ですが御当主」

 

「第一高校からも援軍の感謝が来ている。何も問題はない」

 

「お前は黙っとけ雨野。お前が原因で今話しているんだ。だから――」

 

瀬崎(せざき)。もういい」

瀬崎は当主である千葉丈一郎(じょういちろう)になにか物申そうとするが悔しくそうな顔をしながらそれっきり口を開かなかった。

 

「典嗣。今回はテロリストが第一高校に入ってきたことで起きた事件だ。君も一緒に入ってしまえば同じテロリストと括られていたかもしれない。だからあまり軽率なことはしないでくれ」

典嗣はこくりと頷いた。

 

「だが、お前のおかげで反魔法国際政治団体である『ブランシュ』を壊滅させることができた。それについては感謝する」

雨野はその後第一高校に属する十文字克人にその場を任せるとエリカの下へと向かった。それはもう彼女に怒られた。本人は良かれと思ってやったのだが勝手な行動をしたのだ、怒られて当然だ。

 

「だから、今回のことは不問にする」

丈一郎はゆっくりと立ちあがる。

 

「これからもエリカのことを頼む」

そう言うと丈一郎は部屋から出て行った。それに続いて瀬崎と呼ばれた男も丈一郎の後をついていく。

 

 

 

________________________________________________

 

 

「なぁ知ってるか?一高にテロリストが侵入したんだってよ」

 

「知ってる知ってる。というかあり得ないほど煙上がってたじゃん」

 

「銃声の音もしてたし。本当に怖かったわ」

 

「やっぱりアレ、テロリストだったんだ」

 

「私のお兄ちゃん。一高近くのカフェでバイトしているんだけどやばかったらしいよ?」

 

「そう考えると魔法師って良さそうな職業だけど同時に危険と隣り合わせだってことがよくよくわかったわ。なりたい気持ちもあるけど、やっぱりなりたくねぇー!」

 

普通科高校では昨日起きた第一高校の事件で話題が持ちきりだった。物騒な世の中であることは昔から変わらないがやはり近所の高校にテロリストが攻め込んだのは珍しいらしい。皆が思い思いに意見を述べていく。

 

「で、どうだったの?その渦中に自ら飛び込んだ雨野さん」

後ろから典嗣の肩に手を置きながら蓮太郎は典嗣の前にアップで顔を出した。

 

「お前にさん付けで呼ばれるのはどこかむず痒いからやめてくれ。別にどうもなかった。単純にテロリストと第一高校の生徒たちが戦っていただけだ」

 

「いやほら、可愛い子とかいなかったの?」

 

「何処に?テロリストに?」

 

「まさか。一高にだよ」

 

「見ているわけがないだろう。馬鹿なのかお前は」

 

「いやけど一人くらいは目に写らなかったの?」

 

「そんなことを言われてもな……あっ」

数人ほど、第一高校の生徒と出会ったことがあるのを思い出す。

 

「何、いた?」

 

「まあ、可愛いと思う女子なら数人いたぞ」

 

「エリカ嬢なんて言うなよ」

 

「あの方とは別に、だ。お前も求めていないだろう、そんな推薦」

 

「まあね。なんだ、真っ先にエリカ嬢って言うと思ったんだけど違ったか」

 

「確かにお嬢様は美しいがそれ以前に恩義があるから彼女をそんな外見だけの基準で評価したりしない」

 

「どう、今の生活は楽しい?」

突然蓮太郎はそんなことを聞く。

 

「どうした、いきなり」

 

「いやエリカ嬢と離れ離れになって悲しいかなって」

 

「お嬢様の護衛時間はだいぶ減ったがそれでも今の生活に不満なんて一切ない。普通に楽しい毎日を送れているさ」

 

「そう。ならよかったよ」

教卓側の扉が開き、担任が欠伸をしながら入ってくる。早寝早起きが得意だと言ったあのキッチリと何でもできる担任が少しクマのできた目をしながら教室に入ってきた。徹夜したのだろう、珍しいこともあるものだ、と典嗣は思う。

 

「はぁ〜い。朝礼始めまーす」

そんな気の抜けた声にクラスメイトたちはクスクスと笑う。こんな疲れている担任は初めてだとそれぞれが口々に言っていく。

 

「あー、あと雨野くん。昼休みに職員室来てね、昨日のことで少し話があるの」

朝礼はつつがなく終わるはずだった。が、担任が雨野を呼び出した。明るい声で言うものの彼女のその笑顔は何故か怖いと典嗣は思った。

一限目は数学だ。

そう思っても笑顔が拭えなかった。




『司一が殴り合いを習得した』
私、司一が異様に好きなんですよ。誰かアイツ主役の話書いてくれねえかな。

あと、蓮太郎がただの女好きのキャラに見えてきた。違うんだ、事情があるんだ…。あれ、事情、あったっけ?

というわけで原作なら次は『九校戦編』なんですが……、必要ですか?
というかこの主人公では関わらせることができないです。
まず魔法大学附属高校のどれにも所属してないし、それにエリカだってちょろっとしか出番ないし(ウェイターくらい。観戦は出番に入らない)。
まあ書くんですけども。


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