イトデンワ (カゴメ)
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イトデンワ

本作品は『東方Project』の二次創作SSです。

原作崩壊・オリジナル設定などが多く含まれます。

それらが苦手な方は閲覧にご注意ください。

 * * * * *

本作品はさとりの日(3月10日)の企画用小説です。


怖いですか?

他人(ヒト)の感情(オモイ)がわからないこと。

他人(ヒト)に考え(オモイ)が伝わらないこと。

 

もうし、もし。

私の真意(オモイ)届きましたか?

私の気持ち(オモイ)伝わりましたか?

 

怖くないですか?

他人(ヒト)の悪意(オモイ)がわかること。

他人(ヒト)に欲望(オモイ)が伝わること。

 

もうし、もし。

あなたの言葉(オモイ)届きましたよ?

あなたの心情(オモイ)と正しいですか?

 

細い細い連絡経路。

混線断線は頻繁多発。

 

もうし、もし。

私たちの間に『イト』は通っていますか?

問いかけさえも連絡不通。

 

もうし、もし。

私たちの間の『いと』はつながってますか?

同時に問いかけ、ノイズに変わる。

 

拙い拙い連絡手段。

正常伝達は稀有散発。

 

いつになったら、正しく伝わるんだろう。

いつになっても、正しく伝わらないんだろう。

 

 * * * * * *

 

『イ ト デ ン ワ』

 

 * * * * * *

 

大人たちを見ていて『ああ、こうはなりたくない』、そう思っていた。

 

地底の世界。

 

ならず者の世界。

 

地上で生きられなかった、はみ出し者たちの小さな集団のくせに、こんな狭い世界でも争うことをやめようとしない。

 

自分の強さを示し、他人の上に立とうとする顕示欲。

 

他人の弱さを指し、他人を下に置こうとする支配欲。

 

力ばかり、強さばかりで上下関係を作ろうとする醜い姿。

 

けれど、それ以上に醜いのは心の在り様。

 

強さを示すのは、他人に上に立たれるのが怖いから。

 

弱さを指すのは、他人に支配されるのが怖いから。

 

自分の中の恐怖を打ち消すために、他人に押し付けるその在り方。

 

彼らの心の中は、強者も弱者も変わりはしない。

 

どちらも『恐怖』に支配されている。

 

だが、誰も怖いとは口にしない。

 

なんでみんなそんなに強がっているのだろうか。

 

誰も口にはすることはないが、『伝わってくる』その心にいつも疑問を抱いてる。

 

争うことを怖がっているのに。

 

争うことをやめることはできない。

 

なんて不毛な行為なんだろう。

 

争うことをやめてしまえば。

 

誰も怖がる必要なんてないのに。

 

 

「にぃさん?」

 

「お兄ちゃん?」

 

 

呼びかけに自分の手を握っている妹達に目を向ける。

 

まだ幼い二人の妹は、どちらも悲しそうな、心を痛めたような顔をしていた。

 

自分の中に二人の想いが伝わってくる。

 

『悲しまないで』と。

 

自分の悲しみが伝わってしまい、妹たちに悲しい思いをさせてしまった。

 

兄失格だな。と感じながら、何もできずに歯がゆく思う。

 

覚(サトリ)妖怪である私たちの間に隠しことはできない。

 

全員が全員の考えを共有しているような関係。

 

私の感じたことは二人も感じ、二人の想いは私にも伝わる。

 

「ごめんな。悲しい思いさせちゃったな」

 

二人を抱き寄せ、『大丈夫だよ。ありがとう』と語りかける。

 

そうすると二人も『大丈夫?』『大丈夫なの?』『大丈夫なんだね』と思いが返ってくる。

 

体をすりよせ、思いを同じにする。

 

相手に痛みを伝えられるから、私たち兄妹は仲がいいのだと思う。

 

相手の痛みを知れるから、私たち兄妹は仲がいいのだと思う。

 

みんながこんな風にできれば、きっと争うこともなくなるのに・・・・・・。

 

 * * * * * *

 

そんな風に地底の世界のことを思っていた兄。

 

そんな兄を私はすごいと思っていた。

 

誰もが争っていた旧地獄。

 

その中でだれも考えないような平和な世界を求めていた兄。

 

その理想を実現したくて。

 

力になりたくて。

 

みんなに思いを共有しようと頑張った。

 

『あの人はあなたをこう思っていますよ?』

 

『あの人はこんなことを考えていますよ?』

 

旧地獄を歩き回り、出会う人、出会う人に読んだ心を伝えていった。

 

それで兄の目指す世界ができると信じていたから。

 

けれど、行き着いたのは・・・・・・ただ皆に嫌われるという結末だった。

 

なぜそうなったのか。

 

それはただ私が幼かったとしか言えない。

 

他の人の考えていることを、勝手に他人に伝えて『どうなる』か?

 

予想できなかった自分が悪い。

 

他の人の考えていることを、なぜ兄は伝えないのか?

 

理由まで考えなかった自分が悪い。

 

想いを伝えていった人たちは皆、いやな顔をして去って行った。

 

想いを伝えられた人たちは皆、憎しみを帯びた視線をぶつけ、近づこうとしなくなった。

 

いつしか、私たち兄妹に近づこうとする人はいなくなった。

 

覚妖怪である私たち兄妹には普通のことでも、他の人は自分の考えが伝わるのは普通ではない。

 

そんな簡単なことを学ぶのに、私は時間をかけすぎた。

 

隠しておきたい感情を、考えを、気持ちを、欲望を知られてしまって普通にいられるほど、人は強くなかった。

 

私の行動で旧地獄の争いがなくなることはなかった。

 

人々は他人を疑い、友人を疑い、家族までも疑いはじめた。

 

そんな旧地獄を見て、兄は悲しい目をしていた。

 

『悲しい』『辛い』と心から叫んでいた。

 

きっと私のせいで兄の理想は実現できなくなった。

 

『ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい』

 

口に出して、兄に謝りたかったのに、嗚咽が漏れ、言葉にならなかった。

 

『ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい』

 

何度も何度も、心の中で謝った。

 

その度に兄は『大丈夫だよ』と言ったが、いつも心は絶望に染まっていた。

 

きっと、兄は私のことが嫌いになったのだ。

 

当然だ。

 

こんな愚かなことをした妹を好きでい続けてくれるはずなんてなかった。

 

『ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい』

 

兄が許してくれなくても、私にできることは謝ることだけだった。

 

けれど、そんな私の行為も兄には不快になったのだろう。

 

兄は、私に何も言わず旧地獄から去っていた。

 

自分の名前を・・・・・・家を継ぐ称号である『さとり』という名を捨てた。

 

そして、すぐ後にその名前が私の名前になった。

 

兄の名だったはずのそれを私が背負った。

 

すごくすごく、その名前が重く感じた。

 

それが自分の罪の重さだと思った。

 

けれど、罪の重さにさいなまれ続ける時間はなかった。

 

兄はもういない。

 

妹のこいしにはもう私しかいないのだから、しっかりしないと。

 

そう思っていたのに・・・・・・。

 

妹は人々の嫌悪に耐えられず、心を閉ざしてしまった。

 

嫌われることを嫌い、自分を殺してしまった。

 

『私のせいだ』

 

こいしの心を私は読めなくなり、どこにいるのかも不確かになり・・・・・・私は一人になった。

 

私の名前の重さが一段と増した。

 

 

 * * * * * *

 

 

私はその重さに負けてしまったのだろう。

 

こいしがそんな状態になってしまっても、私はこいしを支え続けないといけなかったのに、私はペットに逃げてしまった。

 

兄のこと、妹のこと、他の人のこと。すべてを忘れさせてくれる動物たちが私の支えとなった。

 

動物たちは私を好いてくれる。

 

その好意に逃げてしまった。

 

何もかもを投げ出した私は兄に合わせる顔がないと思っていた。

 

そう思っていたのに・・・・・・。

 

「ぬはははははは。愚妹よ~、帰ってきたぞ~」

 

突然、兄は帰ってきた。

 

過去のことは何も覚えていないかのような笑みで。

 

何もなかったかのように飄々とした態度で。

 

かつてのように・・・・・・私を抱きしめた。

 

その行動に、泣きそうになるが、泣くことはできない。

 

『だめだ、駄目だ、ダメだ・・・・・・私は許されてはいけない』

 

それが自分のしてしまったことの大きさだと。

 

兄の夢をつぶしてしまった報いだと。

 

自分の救いを否定する。

 

けれど、頭の端では思っていた。

 

兄は許してくれると。

 

私のこの考えをさとって、許しの言葉をかけてくれると。

 

だけれど、兄はその言葉をかけてくれなかった。

 

やはり、私のしたことは許されないことだと思ったが・・・・・・それは違った。

 

 

「どうか・・・・・・したのか・・・・・・?」

 

心の底から、『何も言わない』私を心配して声をかける。

 

その行動は覚妖怪ではありえない・・・・・・普通の人間の行動そのものだった。

 

「にぃさん・・・・・・『それ』どうしたんですか?」

 

兄の胸元に私と同じようにあるはずのサードアイ。

 

覚妖怪の特徴のはずのもの。

 

けれど、そのサードアイは私のものとも、心を閉ざしたこいしのものとも違うものへと成り果てていた。

 

まるで瞳と白目の部分が反転したかのような色彩。

 

異常な物体。

 

「ああ、『これ』か・・・・・・」

 

兄は自分のサードアイを掴むと照れたように言った。

 

「外の世界でうっかり『逆転』されちゃったわ」

 

ぬはははは。と軽快に笑う兄。

 

兄は覚妖怪としての能力を失っていた。

 

 * * * * * *

 

 

兄は私を嫌って出て行ったわけではなかった。

 

むしろ逆・・・・・・私のために出て行ったのだ。

 

妹のした不始末は自分のせいだと皆に語り。

 

自分に責任があると訴え。

 

自分が罰を受けるからと頼み込み。

 

家を、旧地獄を、幻想郷を離れ、去って行った。

 

兄は詳しいことを語ろうとしなかったが、兄が私を見るたび、辺りを見回すたび、隠そうとしていた出来事が流れ込む。

 

かつて、兄が何を思い、何を考えていたのか。

 

どれだけ私たち妹のことを想っていたのか。

 

詳細に、次々に流れ込む。

 

出ていく前に私たちに何も言わなかったのは、その時の出来事を私に知られたくなかったから。

 

私たちに少しでも責任を感じさせないための兄の配慮だった。

 

『ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい。私は・・・・・・兄のことを信じていられませんでした』

 

あんなに信頼していたはずの兄を、私が信用していなかったことを、今日私は知った。

 

覚妖怪で兄の心をいつも読んでいたはずで、いつも考えていることはわかっていたはずなのに。

 

私は兄のことを何もわかっていなかった。

 

「外の世界で、何をしてきたんですか?」

 

「そうさなぁ・・・・・・ずっと、外の世界を回ってたんだ」

 

兄が外の世界での出来事を語る。

 

何を見たのか。

 

どんな人に会ったのか。

 

どんなことがあったのか。

 

楽しそうに、懐かしそうに。

 

どんな素晴らしい風景があったのか。

 

どんなすごい人間がいたのか。

 

どんないい出来事があったのか。

 

口にする言葉はすべて楽しい思い出ばかり。

 

まるで、外に出て行ってよかったかのような語りぶり。

 

けれど、口にする言葉の裏では、別のことを考えていた。

 

どんな場所に行っても、故郷のことを想い。

 

どんな人に会っても、私たちのことを思い出し。

 

どんな出来事があっても、私たちとの思い出につながる。

 

兄の旅は、孤独な旅だった。

 

妖怪であるからこそ、人とのつながりを持てず、持たず、持とうとせず、ずっと一人で世界を巡っていた。

 

その心を読んでしまった自分がどんな表情をしていたのか。

 

兄は私の顔を見ると、あきらめたかのように笑った。

 

「ぬはははははは。やっぱり隠し事はできないなぁ・・・・・・つらい旅だったよ。帰ってこれて良かった」

 

しみじみという兄の言葉。

 

初めて、兄の心と一致した言葉を聞いた気がした。

 

万感こもったその言葉に、涙が出た。

 

「ごめんなさい・・・・・・」

 

あの時から、ずっと言えなかった謝罪の言葉を初めて口にできた。

 

たった一言だけ。けれど、この一言を口にするのに、どれだけ長い時間がかかったのか。

 

「いいんだよ。別に悪いことばかりじゃなかったしな」

 

私のことを許す兄の言葉。

 

ずっと、求めていた。けれど、求めていなかった言葉を聞いて、背負っていたものが、すっと肩から降りた。

 

「にぃさん・・・・・・ありがとう」

 

二人とも心を読めていたあの頃、その時でさえ感じなかった『心のつながり』をいま、感じた。

 

心を読めるからって、仲良くなれるわけではない。

 

心を読めないからって、仲良くできないわけではない。

 

では必要なことは何かといわれれば、まだうまく言葉にはできない。

 

だけど、兄が理想としていた世界は、こういう世界だったのだろう。

 

私は時間をかけすぎた。

 

簡単なはずだった兄の心を知ることに。

 

こんなに時間がかかるとは思ってもいなかった。

 

 * * * * * *

 

「じゃぁな。『さとり』、行ってくるよ」

 

かつて自分の名前だった私の名前を呼んで、兄は出立の準備を整えた。

 

「行ってしまうんですね・・・・・・」

 

兄は帰ってきたが、それはずっとのものではなく。

 

地上世界とつながった旧地獄の噂を耳にして、現状を心配しての一時的な帰郷だった。

 

「ああ、外の世界でやらないといけないこともあるしな」

 

最近、兄は交渉人をしているらしい。

 

心を読めていたころのノウハウ。

 

そして、とある天邪鬼のせいで『逆転』され、『心を読まれる』程度の能力となった今のアドバンテージを使い。

 

相手に気持ちをすべて伝えることを役に立てている。

 

兄は夢をあきらめていなかった。

 

それは一つずつは小さな事かもしれない。

 

けれど、その小さな争いを一つずつ解決することで、理想を追い続けていた。

 

世界から争いはなくならないかもしれない。

 

けれど、解決できないわけではない。

 

兄は自分自身でそれを証明し続けていた。

 

 

 

『けがをしないでください。病気にならないでください。危ないことをしないでください・・・・・・行かないでください』

 

いろいろと言いたいことはあったが、それをすべて口にはできない。

 

「行ってらっしゃい。にぃさん」

 

だから代わりにその一言だけを口にした。

 




自分の作品を読んでいただき、ありがとうございます。

筆者のカゴメです。

普段は別の場所で東方Project関係の二次創作で活動していますが、新しくハーメルンさんを使わせていただきました。


とある東方関連での企画で『さとりの日』にSSを描くことになりましたが、

自分、さとりんについて書いたのは今回が初めてで新鮮でした。

作中に会話文がほとんどなく、ほぼ会話以外で進行しているのに気が付いたのは書き終った後でした。

気が付いたときにはとても焦りましたが、物静かなイメージ(心を読むため会話しない)のさとりさんには、あってるのかな? と思い、そのまま投稿しました。

もっとオリキャラ(男)とイチャイチャさせたかったのですが・・・・・・まだまだ修行が足りないということですね。

精進します。

今回の投稿がハーメルンさんの場所での初投稿になり、操作もまだまだ分からないことだらけです。

少しずつ覚えて行って使いこなせるようになりたいと思っています。

また何か書くことがありましたら、よろしくお願いいたします。


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