人類最強の男 (焼肉定食)
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プロローグ

「クローバー!!メルドの兄ちゃんが来やがったぞ。」

「ん?メルドの兄貴が?」

 

俺は寝ぼけながらに起きる。俺はクローバー。名前はない。

というのも俺は元々スラムで生まれである。母親の顔すらみたことがないがメルドの兄貴に拾われて育てられた。

兄貴は王宮直属の騎士。俺は職業は異なり俺は冒険者として暮らしており五年前に独立している。

ランクは一応最高ランクのゴールドであり、町人にも一年前に倒したレッドドラゴンにあやかって「ドラゴンスレイヤー」と呼ばれ、戦争の功績より英雄として扱われてもいる。

なお俺の家には元スラムの人間が住み着いていて、俺が冒険者として稼いでいる金額で養っている現状であるが冒険者として既に数人俺みたいに独立している奴もいて、スラムの星と呼ばれている。

なお、基本的に治安が良くなったこともあり、王国が支援していることもあるのだが、既に何人かの女性は王宮の待女に呼ばれたりしている。基本的に王国からの評価は高い。

 

客間に向かうと既にメルドの兄貴が座っている。

 

「あら。メルドの兄貴どうかしたか?」

「おう。久しぶりだなクローバー。まぁ座れ。冒険者のお前として依頼があるんだよ」

 

メルドの兄貴ってことは騎士団からの依頼か。

俺の天職は魔法戦士といい、メルドの兄貴とギルドの支部長、パーティー仲間しかしらないことだが魔力操作を持っており、魔法を纏いながら剣術や体術で戦うのが基本である。

 

「ん。依頼って何だ?」

「近頃、魔人族との戦争が活発化しているのは知っているだろ?」

「まぁな。俺も何度か戦場にでているしな。」

 

実際、英雄と呼ばれるほどの強さを持つ俺にはこういう依頼は多い。

するとメルドの兄貴が気まずそうにしている。

 

「……お前にとっては嫌かもしれないが教会が神託を受けて勇者召喚を行なった。」

「……」

「だからお前にも勇者たちの指導役を頼みたい。」

 

それはまさかの依頼だった。王国にとってその依頼はかなりのリスクを伴う。

何故なら俺たちのパーティーは唯一この国で教会と対立している。即ち異端者と呼ばれる人種であるのだ。

しかし、教会は手が出せない訳があり、特例として俺たちのパーティーは王国の立ち入りを許されている。これはかなり異例なことであるのだ。

 

「それは王宮からの依頼か?」

「そうじゃなければ依頼なんかしてないだろ?」

「そりゃそうか。……リアは王宮に入れるのか?」

 

リア。俺のパーティーでの斥候役及び暗殺者としている女性の兎人族の女性だ。

ギルドでの評価も高く美貌もいい。

元々違法の奴隷売人の元の商品の一人だったが俺のパーティーで功績をあげたことにより奴隷ではなくなり、たった一人の少女として同じパーティー仲間で盾役のブロムと結婚している。

 

「あぁ。当然だ。リリアーナ姫の推薦だからな。」

「リリィが?」

「……クローバー。お前姫様のこと。」

「リリィがいいって言っているんだから別にいいだろ?つーか俺礼儀作法なんて詳しくないしな。」

 

実際俺は文字が未だに書けない。読むことはできるが、教育なんてものは基本的に受けていないのだ。元々7歳の時に拾われ三年間騎士団で修行、その後に独立したのである。

 

「全くお前は。」

「つーか勇者召喚って意味あるのか?平和なとこからやってきたガキだったら全く戦争の役に立たないどころか迷惑なんだけど。」

「……お前は少しは遠慮を覚えろ。」

「へいへい。まぁ依頼は召喚された勇者たちの訓練ってことでいいんだな。まぁ俺個人になるけどな。リアが妊娠したから。」

「ほう。リアが?……めでたいな。」

「あぁ。つまりラックスはしばらく休暇ってわけだ。」

 

本当にめでたいんだが。孤児院を経営している身としてはかなり辛いことであるのだ。

所謂金銭的な事情だ。俺の懐がかなり少なくなるのだ。

 

「まぁその分金銭的な余裕がなかったからな。ちょうどいい機会だしな。それに俺の討伐とかされたら面倒でありゃしないし。」

「それはないだろ?さすがに冒険者ギルドが相手になったら騎士団でも抑えることはできん。」

 

あっそ。それならいいけど。

 

「それじゃあ。明日から頼むぞ。」

「……は?明日?」

「あぁ。今日勇者の召喚されたのは知らないのか?」

「……知る訳ないだろ?俺昨日まで魔物の駆除でウルから帰ってきたばっかりだったから酔いつぶれてさっきまで死んでたわ。」

「……酒はほどほどにしろよ。お前まだ17だろ?」

「たまにはめを外すくらいいいだろうよ。つーか樽4杯程度しか飲んでないからな。」

 

するとメルドの兄貴が頭を抱える。まるでこりゃダメだって言うみたいに呆れていた。



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ただ一人の錬成師

「クローバーさん。お久しぶりです」

「おっ。セン。久しぶりだな」

「王宮にいらっしゃるなんて。すいません。握手してもらっていいですか?」

 

と言いながら俺は久しぶりの王宮内で人に囲まれながら歩いていく。

つーかさっきから進めない。

元々王宮でも結構呼ばれながら俺は教会と対立していると言う訳あって教皇から煙たがれている

しかし俺は元々騎士団に鍛えられたこともあり、最初は団長候補にも名乗りを上げていたが元々自由に憧れていたため冒険者に変更した。

教会に縛られるなんてもっぱらごめんである

 

「はいはい。当分の間は依頼がなければこっちにいるからな。つーかメルドの兄貴どこにいるんだ?」

「はい。私が案内させてもらいます」

「…ありゃ?ヘリーナじゃん。珍しい」

 

俺は女性としては高めの身長をしたヘリーナを見つける。一応リリィと呼んでいるこの国の姫である女性の待女である

 

「相変わらずですね。あなたは」

「礼儀作法は苦手なんだよ」

「相変わらずメルド団長に似ましたねあなたは」

 

明らかにため息を吐くヘリーナ。俺のこの性格は王宮の人曰くメルドの兄貴に似ているとのことだ。

 

「とりあえず行きましょう。ちょうど講座が始まったばかりですから」

「ヘリーナのおかげで助かったよ。2時間以上入り口付近で囲まれたら進めないつーの」

「……あなたですね。ちょっと変装をしてきてください。竜の鱗でできた剣を持ってきたらさすがに目立ちますよ」

「自分の剣を手放す剣士がいるかよ。」

 

そんな話をしながら俺は講義室へと向かう。正直期待半分不安半分ってところだろう。

そうしながら歩いていくとメルドの兄貴の嬉しそうな歓声が聞こえてくる。どうやら兄貴にとってはお眼鏡にかなう人間が現れたらしい。

 

「うっす。兄貴いつものように囲まれてたら遅れた。」

「……クローバーか。はぁ。何時間くらい捕まっていたんだ?」

「2時間ってとこだ。つーか迎えに来てくれても良かったんじゃねーか。」

「無茶言うな。」

「あの、メルドさん。その人は?」

 

するといかにも爽やかそうな人間が兄貴に告げる。

 

「あぁ。彼はクローバーという。この世界で最強と呼ばれる冒険者パーティーでリーダーをやっている。クローバーのパーティーは大迷宮の一つである【グリューエン大火山】の大迷宮を攻略した実績を持っている」

「大迷宮ですか?」

「あぁ。詳しい話は後からの座学で教えるが神代魔法である空間魔法の取得者だ。」

「ラックズ代表のクローバーだ。ランクはゴールド。一応メルド団長の弟分で冒険者の依頼がないときに限り指導に当たることになる。」

 

軽く挨拶する。つーか体細い奴ばっかりだな。

 

「まぁステータスについてはメルドの兄貴に聞いてくれ。俺は伝手が広いことと実践訓練くらいしか役に立たないしな」

「たく。言っとくがちゃんと指導してくれないと困るぞ」

「それくらいわかっているから。さすがに教皇の野郎がクソ野郎でも依頼を引き受けたからには引き受けるさ」

「……口が悪いがこいつは悪い奴じゃないことを忘れないでくれ。これでも孤児院を経営していて人望もあるんだ」

 

不安そうになるが実際戦力になりそうな人が全くいないな。

恐らく戦争の意味さえ知らないガキが多すぎる

そして兄貴がとある少年のステータスプレートを見た途端「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートを少年に返した

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

「へ?生産職がでたのか?」

 

俺は少し驚く。メルドの兄貴は気づいてないが俺にとっては朗報である。

それも錬成師。これは俺にとってどうしても教会に取られたくない人材だ。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

するととある少年が実にウザイ感じで錬成師の少年に絡みつく

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

はぁ。どこの世界にもこう言う輩はいるんだな。

俺は小さくため息を吐く。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

そしてステータスプレートを奪おうとしたところで

 

「いい加減にしろ」

 

その一言を殺気を錬成師に絡んでいるガキどもに向ける。魔力を威圧をかけるとひぃ。と南雲と呼ばれた少年から一歩下がる。

俺はスタスタと歩きそのステータスプレートを見る

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

 

本当に平均並のステータスだなっとしばらくそれを見る。そして俺はその南雲ハジメという少年にステータスを渡す

 

「……錬成師か。まぁ確かに戦闘職よりは人気がない職業だな。この世界には何万人の錬成師がいる。……だけどな。その戦闘職をサポートするのが職人職と呼ばれる戦闘職には欠かせない職業の人地だ。……ステータスが低い?戦闘職じゃない?それでもいいじゃねーか。仲間をバカにするクソ野郎に比べたら全然マシだ」

「ちょ、ちょっとその言い方はないんじゃ?」

「事実だろ。戦争だって仲間との連携が大切なんだ。チームの輪を乱す奴に俺の後ろを任せるわけにはいかないんだよ」

 

爽やかな顔の人がいじめっ子を庇おうとするが殺気と正論で黙らせる。

俺は少年を見る。恐らく強がりであることはわかっている。一人だけ戦闘職ではないんだ。

だから戦争の役に立たないと思われているのだろうが

 

「兄貴。この少年。俺に預けてもらっていいか?」

「……は?」

「えっ?」

 

するとざわざわと騒ぎ出す。

 

「本気か?」

「いや。弱者を甚振る奴らの指導なんて真っ平御免だから。そいつらの面倒を見るくらいならステータスの低い奴引き取った方がいいさ。まぁ強くはなれないだろうけど生き残るための知恵とその伝手を授けるなら俺が適任だろ?」

 

すると兄貴が少し考える

 

「……そうだな。分かった。俺が許可しよう。」

「団長!?」

「確かに俺も思うことがある。でもできれば教会の言うことだけは聞いてくれると助かるんだが。」

「この少年が俺みたいに異端者扱いになることは望んでいないしな。まぁ俺のことは諦めてくれ。……俺が教会の味方をするなんて天地がひっくり返ってもありえないことだから」

 

その一言に兄貴はただずっと俺を見ている。騎士団の元仲間だった奴らも辛そうに、旧友のことを思い出しているのだろう

 

『ごめん……なさい。……あなたが……好きって言ってくれたのに……こんなことになってしまって』

『あなたが……しんだら……ダメよ。……あなたが……幸せになる……ことが私の……願いだから……』

『好きよ……愛しているわ……だから最後の……お願い。……私の家族を……私たちの家族を……私以外に大切な人ができたなら……』

 

最後の遺言。ずっと自分のことなんて気にしないでずっと自分の家族の、俺たちのことを守り続けた唯一の愛した女性の言葉を思い出す。



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差別との戦い

感想ありがとうございます。
とある事情によりこの作品は基本的に返信を返さないようにします。
同時進行している作品に要望とか書かれたりして返信が大変なことになったの経験があるので


「悪いな。王宮とか便利なところじゃなくて俺のところに引き取ってしまって。」

「い、いえ。」

 

と俺は勇者パーティーの一員南雲ハジメと買い物を行なっていた。

そういえばこうやって教えるのは孤児院の孤児くらいか。

一応錬成師の知り合い数人に話しかけて少し教育依頼を出していてそれを許可してもらっている。

ついでにこの世界の常識を書かれた本など気に入ったものは全て購入している。

なお、明日の朝から午後までは錬成師の知り合いが少年の指導にあたるらしい

 

「あっ!ついでに俺も17だから固い口調は要らないからな。」

「えっ?同い年なんですか?」

「あぁ。まぁ王宮の人たちみたいに教育を受けてないからし戦闘しかしてこないからこんな風になるんだよ。まぁ座学は王宮で学んでくれ。俺も気は進まないけど勇者パーティーみたいな奴に教えないといけないから。」

「嫌なんですか?」

「嫌だろ。さすがに友達をバカにするような奴らは。」

 

俺はぶっきらぼうに呟く。

すると苦笑する少年。結構大人しげながら顔に出るタイプなのか

 

「クローバーさんはなんで僕を引き取ろうとしたんですか?」

「ん?」

「いえ、最初錬成師って聞いた瞬間少し嬉しそうな気がしていたので。」

「……へぇ〜お前目もいいのか。まぁ単純だよ。こっちの暮らしってアーティファクトや魔道具だよりだからな。俺の孤児院に獣人族が何人かいるんだよ。樹海に返すまで時間がかかるけどそれでもその間不自由がないように、魔力がなくても使えるような道具について知らないかって思ってな。」

「獣人族?」

「あぁ。基本的に多いのは兎人族や森人族。ほとんど性的な奴隷っていえばいいか?……そいつらを引き取っているんだよ。奴隷から解放するために」

 

するとハジメが驚いたように俺を見る。

まぁ意外か。

 

「えっと。まず獣人族。普通だったら亜人族と呼ばれる説明からした方がいいか?この世界のほとんどが獣人族は弱者として扱われているんだ。理由は単純で魔力のない種族だからであり基本的に俺たちの孤児院ではないところでは奴隷として扱われているんだよ。戦争奴隷に売女目的のクソ野郎。教会の野郎どもが全てを規制してやがる。……魔力がないからって差別をするなんてさすがにひどいだろ?」

「……あの、もしかして教会と対立しているって。」

「あぁ。俺は獣人族が悪いとは思わないからな。差別なんてしないし。俺のパーティーに兎人族と森人族がいるしな。それに直接魔力を操れる人間。俺みたいな奴だって積極的に引き取っているんだよ。」

 

魔法には詠唱を必要としない。魔力を操れる人も基本的に魔物と呼ばれている。

 

「魔力を操れる人間ですか?」

「結構多いんだぞ。しかもほとんどが魔法系の技能で圧倒的な力を持つからな。だから魔物と扱われるんだよ。……どの種族からもな。」

 

俺は小さく苦笑してしまう。

 

「だから俺のところは基本的にそんな人たちが多いんだよ。まぁ冒険者ギルドに斡旋したり、王宮の使用人になったり、仕事の斡旋をしたりしている。俺は空間魔法を持っているからな。獣人族を樹海に返したりもしているんだよ。樹海は獣人族や森人族以外は入れないからな。そうするしかないんだよ」

 

英雄と言われている独立するまではただのガキだった。そんなことは未だ俺もわかっている。

そんな中するとあっ!!とトテトテと少女が歩いてくる

 

「あっ!!クローバーさん」

「おっ!クララ。って危ねぇ。飛びついてくるなよ。」

 

すると耳の尖った少女。いわゆる森人簇の少女である。

 

「えっと?その人は?」

「ん?南雲ハジメ。勇者召喚があったらしいだろ?その一員なんだけど天職錬成師だったし獣人族と森人簇の差別もなさそうだから連れてきたんだよ。ハジメ。こちらは森人族で俺たちのパーティーで天職が魔道士のクララ。」

「魔道士?でも。」

「……言ったろ俺は教会や人間、も嫌がっている魔力操作ができる人間を引き取っているって。。」

 

するとハジメはその意味を察したらしい。少し申し訳なさそうにクララに謝罪している。

クララは一瞬驚いたものの首を振ってハジメを許している。

即ち俺の住むところは魔力操作や獣人族がいるところ

そういう嫌われ者の集落であると

 

「えっとここだよ。」

「ここですかってでか!!」

 

まぁ王宮と同じくらいとは言わないが明らかに教会よりも大きな建物にさらに外に遊具で子供たちが遊んでいる。

リリィが来た時も驚いていたがそれほどこの孤児院が大きい組織になっていたんだ

まぁ孤児院だけではないのが家のでかさを表しているんだ

 

「基本的に俺の家がギルドハウスになっているんだよ。だから基本的に俺の団員は全員そこで暮らしているし、何人かの冒険者は俺のところで寝泊まりしている。」

「……」

 

すると顔がすごくキラキラしている。俺は少し苦笑しながら男の子だなって思ってしまった

 

「…冒険者の話もっとしてやろうか?」

「いいんですか?」

「あぁ。ついでだしいいよ。この世界になれないうちはギルド、自由への翼が君の教師になる。……そうだクララお前座学もできただろ?この世界の常識も教会とは違うことも話しておいてくれないか?今の社会の情勢についてもな」

 

そうしながらも俺は南雲ハジメを案内し始める。

獣人族や森人族に憧れがあったのか分からないが積極的に話していたので差別がないとわかると俺はわけがわからない奴が入らないでよかったと小さく微笑むのだった。



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勇者の評価

「んで。結局俺に頼ってきたっと。」

「あぁ。戦争の前線で戦い続けてきたお前なら何かアドバイスを送れるっと思ってな。」

 

王宮の訓練所で俺はメルドの兄貴からのお願いを聞いていた。

なおハジメも王宮に呼ばれているので後から待ち合わせることになった

 

「まぁ。いいけど戦闘訓練は……確かまだなんだっけ?」

「あぁ。だがあまり期待しない方がいいだろう。どうやら彼らたちがいたのは。」

「争いのない世界だろ?ハジメに聞いたさ。この世界とは違って争いは少なくカガク?ってものが発達している世界らしい。……ハジメたちがいた国では武器を持ったら罰則、さらに戦争行為は憲法っていう法律よりも束縛が強いルールに絞られ、宗教も多重国家として色々あるんだってさ。人種差別もないし魔法もないらしい。」

「カガク?」

「物事がどうやったら起こるかという自然現象の証明ってことだと思う。所謂こっち側で魔導具を作ることや料理の保存方や大量生産も行えるんだって。本当にハジメが教会に取られないでよかったよ。これで王国が大きく賑わうぞ!!」

 

するとキョトンとするメルドの兄貴。そして笑って俺の方を見る。

 

「そんなにハジメのことが気に入ったのか?」

「おう。あいつ獣人族や森人族にも態度を変えないし、あとはメンタルが明らかに優れている。恐らくよほどのことがない限りは動揺はしないな。」

「メンタルがか?」

「あぁ。それとかなりの頭脳派だ。それもとても優しい。視野もいいし完全に軍師や司令官としてなら、王宮でもそうそういないだろう。」

 

兄貴がほめすぎだろと小さく苦笑しているのだが事実だ。

明らかに戦略をしっかり叩き込めは一人前の軍師にもなるし、開発者としても成功できるだけの才能を持っている

 

「まぁ大人しいけどそれでも明らかにいい奴だよ。教会に絶対に渡したくないほどに才能はある。それに覚えもいいからな。自分がステータスじゃ敵わないことを知ってすぐさま知識に変更した。頭の回転が早くとても楽しみな人材だよ。」

 

錬成師の親父も紹介し今後は生き残ることを重点としたものになる。

恐らく戦略やサポートを中心的に覚えさせようと思う

 

「……そうか。できればもう一人くらい逸材が生まれてくれれば嬉しいんだがな。お前は見る目がいいからな。ギルドメンバーのほとんどシルバーランクやゴールドランクのお前らなら。」

「う〜ん。見てないから分からないけど才能があれどステータスがそれに見合ってない奴だっているし。天職があれど才能がない人間もいるからな。まぁ一人二人いれば合格点だろ」

 

といい練兵場の見学室に入る。すると既に勇者たちが剣や槍を振っている

しばらく全員を数人を見ていると問題点が何箇所かあることがあるのだが。

 

「いやそれほど悪くねぇな。」

 

素直に感心してしまう。だけどしばらくしてから問題点もいくらか見えてくる

 

「ほぉ。」

「あの爽やかな坊ちゃんは変な形が身についているな。さっきから真上と横から振っているだろ。剣を振る速さは確かに早いが斜めからの攻撃に恐らく対応できない。……髪を結んでいる女性は反対に非の打ち所がないな上と横からの振りは早いし一応斜め上と下にも対応できている。技術面から言ったら恐らく人一倍抜けているだろう」

「……本当に鑑定持ちじゃないんだよな?」

「こういうのは経験と振りでしょ。実際対人でしか分からないことだってあるからな。」

 

見る目については自信がある。これは鑑定とは違う自分の固有技能が関係していることだけどもそれでも見ただけでわかることと分からないことがある。

 

「……とりあえずパーティーを組ませようか。前衛、遊撃、後衛がいて回復役と支援役は全体と組ませる。だから回復役と支援は基本的に魔法騎士団の方に回した方がいいだろう。前衛は俺とメルドの兄貴。そして騎士団で応対した方が良さそうだな。あの少女は基本的に基礎ができているし体術も習わせた方がいいだろう。実力じゃ明らかに少女が中心人物になる。」

「勇者じゃなくてか?」

「ありゃダメだ。リーダーにしたら絶対にパーティーが崩壊する。剣術については変な癖を直せばいいだろう。でも勇者はただの子供なんだよ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。実力とカリスマがあるから余計にタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプ。だから一つの戦士としてなら優秀だけどリーダーとしての実力はハジメに劣っている。それに火力がある以上軍師は任せない方がいい。俺が指示をしないのは火力があるからだ、だからリアに一任しているんだよ。」

 

俺はバカだが戦略面では優秀の方だと思っている。実際戦争時では指示は俺が取ることが多い。

 

「……言い方は悪いが的は得ているな。それならあの少女はクローバーが指導すればどうだ?」

「ん?俺がか?」

「あぁ、……多分これも運命だからな。お前じゃなければならない気がするんだ」

 

どういうことだと思っていると集合と兄貴が声を出し集合をかける

 

「よし。それじゃあ今からパーティーについて説明する。基本的にはクローバーから説明した方がいいだろうな。」

「メルドさんじゃないんですか?」

「戦争の指揮は主にクローバーが握っているからな。騎士団は戦争よりも防衛任務が多いんだ。」

 

すると苦い顔をする勇者。どうやら苦手意識を持たれているらしい

 

「それじゃあ簡単なパーティーについて教えるか。基本的に戦争では前衛、後衛、そして遊撃の3つに分けられる。まずは前衛、基本的に攻撃手や盾役だな。一応ここにはステータスが筋力依存の人が振り当てられる。そして後衛は魔法や弓、支援役が基本だ。そして最後に、遊撃。これはちょっと説明がし辛いのだけど、基本には俊敏が高い人が割り当てられる。主に偵察要員や戦況を変化させるための職業になっている」

 

俺はそういうと一区切りをつける。

 

「まぁとりあえず見てもらった方がいいか。スイミー。レイン、センリ、マヤ、アカシア。」

「はいは〜い。」

「…ふぁ〜。」

「……」

「もう。相変わらず人使い悪いんだから。」

「本当〜今度奢ってよ。」

 

と五人の女性冒険者が歩いてくる。俺たちのギルドに入っているセイレーンというパーティーの集団だ。

 

「セイレーンと呼ばれる俺のギルドの一つのパーティーだ。ランクはシルバー。スイミーは天職が守護者。基本的に両手盾の防御特化型。んでレインは斧戦士そしてセンリは回復術師でマヤが魔術師、そしてパーティーリーダーのアカシアはシーフという弓と短剣で戦う職業になっている。この場合スイミーとレインが前衛、センリとマヤが後衛、アカシアが遊撃だな。遊撃手と呼ばれる人が基本的に指示を出すようにしている」

「遊撃手ですか?」

「あぁ。前衛は指示を出すのは結構愚策なんだよ。前衛で絶対に避けないといけないのは後衛に敵を抜けさせることなんだ。だから常に前を向かないといけないの」

「絶対にさけないといけないってどういうことですか?」

「後衛の役職は基本的には魔法の威力を上げたりするのが目的の装備だから防御力があまりないのよ。」

「防御力?なんだそれ?」

 

俺がそういうと首を傾げる

 

「あれ?ハジメくんが言っていたわよ。身につけている装備がどれだけ私たちの被害をなくしてくれるってことらしいわ。」

「へぇ〜。なるほどな。まぁ防具の耐久力ってことか。」

「……ハジメの話面白い」

「そうね〜ハジメくん可愛いし、面白いから」

「ほらほら仕事だぞ。まぁしばらくの間はセイレーンにも付き合ってもらう」

 

俺が手を叩くとは〜いという。一瞬何か寒気がしたがほっといて大丈夫だろうか。

 

「とりあえずこれらを参考にしてパーティーを組んでくれ。できたら報告して俺とメルドの兄貴が相手になるからな。後ハジメは一旦俺の家に戻ってクララと合流してくれ。俺の剣を作った錬成師に話をつけてあるから。それとハジメには後からいうが軍師としての勉強も受けてもらう予定だからな」

「えっ?」

「どうやら教会のアホタレはお前をどうしても前線に向かわせたいらしいんだよ。軍師の才能もあるからな。俺の補佐についてもらおうって思っていたんだが?」

「えっ?ちょっとクローバー?それ本気か?」

 

するとメルドの兄貴は俺の方を見る

 

「ん?悪いか?」

「い、いや。お前の補佐って……ミリア以来だろ?」

「……」

 

そういえばそうか。初めての戦争で指揮を取った時以来になるのか

 

「大丈夫。才能もあることは兄貴には伝えてあるだろ?」

「うむ。確かにそうだが。」

「だからいいの。はい。この話はこれでおしまい。」

 

強制的に話を終わらせる。すると兄貴も少し触れられたくないってことが分かったのだろう

少しざわめきを残しながら



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記憶に居座る者

「…あの!!」

「ん?」

「私もクローバーさんの家にいってもいいですか?」

 

俺はキョトンとしてしまう。何がそして少しだけそういうことかと少し苦笑いをしてしまう

もしかしてだけどハジメに好意的な勇者なのかと技能で悟ってしまう

 

「もしかしてハジメと話したいのか?」

「は、はい。」

「……別に俺はいいが、えっと?えっとごめん。名前言ってくれないか?俺まだ名前覚えきれてないんだよ」

「白崎香織です」

「んじゃ香織だな。俺のところは一応孤児院だし。それに教会もよく思わないんだよ。獣人族や森人族がいるからな。だから正直危険性が増すんだけど」

「えっ?獣人族?」

 

するとさっき髪を結んでいた女の子がこちらを向くと

 

「……えっ?」

 

髪を括った黒髮の女性。その女性をしばらく見てしまう。

ミリア……いや。違うか。

遠目だったから気づかなかったが全く昔殺されたミリアと顔が瓜二つの女性がそこには立っていた。

身長ととある部分がミリアよりも大きいので違うので違うって分かったのだが……

 

「……あの、どうしました?」

 

すると女性が覗き込んでくる。それを俺は首を振り答える

 

「えっ?あぁ悪い。ちょっと昔の仲間の奴と瓜二つだったからな。んでなんだ?」

「えっと。私も行きたいのだけど。ダメかしら?」

「……別にいいが。さすがに二人以上は無理だ。晩飯の用意してないからな。」

 

これ以上はパンクする。というよりも獣人族に興味があるのか?

 

「あの、そういえば獣人族と教会って何かあるんですか?」

「……ん?知らないのか?教会は一切魔力を持っていないから差別しているんだよ。」

 

とハジメと同じような質問に答える俺。すると二人は少し驚きを隠せないでいた

 

「そんな」

「まぁこの世界では俺の方が変なんだよ。俺はまぁもう慣れみたいなもんだし。帝国は奴隷とか普通に売っているしな」

「帝国ですか?」

「強さこそが正義の国だな。戦争の参加率も一番多いんじゃないか?まぁ結構荒くれ者が多いし犯罪も多いな」

 

俺はそういうと女性二人は少しだけ嫌な顔をする。やっぱりそんな顔をするのかと少し笑ってしまう。

 

「あの。どうしたんですか?」

「いや昨日のハジメと全く同じ顔をしてたからな。ちょっと面白くて。えっと?悪い。まだ全員名前覚えられていないから」

「八重樫雫です。」

「ん。雫だな。まぁそれならちゃんと先生さんに伝えてくれ。まぁ歓迎会みたいなものはひらけないけどな。」

 

すると二人が先生さんに報告しに行ったんだろう。少し生徒とは違い別の方に歩いていく

 

『私の夢?……そうね。みんなが幸せに暮らせることかしら』

「……バカ。最初にいなくなってどうするんだよ。」

 

小さく呟く。記憶の中では会えるのに2度と会えないもどかしさに少しだけ気分が沈む。

俺は一度天を見上げる。俺は胸につけてある一つの指輪を握った

 

 

 

「うっす。帰ったぞ。」

「「「「お帰り!!」」」」

「っと。ただいま。」

「……えっと。これは?」

 

俺の家で俺に抱きついてくるちびっ子達に俺は苦笑してしまう

 

「ん?俺の家族だけど。」

「いや、いすぎでしょ。なん人くらいいるのよ。」

「…ん〜150人くらいかな?教会から亜人族って呼ばれる人は。人族を含めたら300人くらいは寝泊まりしてる、」

「えっ?」

「う〜ん。一応いうなら反教会組織的な役割だな。基本的に人種差別をしないって点では小さなことだとってこらシグルト!!飛び乗ってくるな!!」

 

狐耳の少年に俺は小さく苦笑してしまう

 

「元々樹海しか獣人がいないんだけどさ、一応奴隷や樹海の外に捨てられたりしている奴ばっかりだけどな。での樹海に帰りたくないってやつばっかりでな」

「お兄ちゃん優しすぎるもん。それにリリィお姉ちゃんがおいしいものくれたり、クララお姉ちゃんがお勉強を教えてくれたりするんだよ。お兄ちゃんも休みだったら遊んでくれるし。怒ったら怖いけど」

「……まぁそんな感じだ。一応家事は基本的に獣人達で回しているな。人間族達は資金集めかな?まぁ例外もあるけど」

 

と俺はそう答え近くの森人族のスヤにハジメを呼んでくるように伝える

 

「慕われているんですね」

「まぁな。俺たちのパーティーにも獣人達と森人族がいるし。まぁ俺自身元々スラム生まれってこともあるからな。元々教育も受けてこなかったからな。教会の影響を受けていなかったっていうのもあるんだけど」

「もしかしてスラム出身者もここに?」

「あぁ。結構多いぞ?今日会ったセイレーン全員も元々はスラムっていうよりも……まぁぼんやり伝えると花売りの捨て子だよ。」

「……花屋さん?」

「……そういうことね。」

 

雫はどういう意味か分かったらしい。花売りの意味を

 

「……正直この獣人にも花売りの子供は多いんだよ。正直貴族になるとそういう悪事も普通に見逃すことが多いし、俺もあまり手を出せない。証拠がなければこの孤児院もすぐに潰されるだろうしな」

 

まぁそうなれば俺は徹底抗戦で絶対に王国は潰すけど。

教会が手が出せないのは二年前に大規模な戦争になったことも原因になっており、それほど集められると思っていなかったのか30万近くの軍勢で一度戦争に勃発したことがあったのだが、冒険者ギルドが俺たちのところにつき、こっちも30万近くの軍勢になった。こちらの被害は重傷者3000人にだったことになったが教会の連合軍はおよそおよそ10万近くがなくなり負傷者を含むと15万。それが第一次ギルド教会戦争と呼ばれ体裁的にギルドが敗北したことになったのだが、ギルド側の方が有利な講和条件になったことはいうまでもないことだった。さらに恐ろしいのはこの戦争に俺たちラックズは参加していないこともあるのだ。

色々思い出しているとぐったりとしたがやりきったようなハジメがいた。

 

「お帰り。クローバー。えっと、ってえっ白崎さんと八重樫さん?」

「あぁ。ただいま。ハジメ用があるのは香織の方だったよな?一応料理を作るように連絡してあるから。それと今日この後昨日話せなかったことを話そうと思っていたところだけど。」

「えっと連絡ですか?」

「あぁ。天職に連絡員っていう念話技能を持った奴がいるんだよ。」

 

と俺は軽く説明するとするとぱりんと音が聞こえる。勇者よりも爽やかで俺とは違いイケメンと呼べる俺たちの唯一と呼べる一般人の盾役はは少しだけキョロキョロとしながら雫を見つめる

 

「えっ?ミリア?」

「……似ているけどちげーよ。ただいま。アレックス」

 

俺はやっぱりそう思うかと苦笑してしまう。

やっぱりこの孤児院を、いや俺たちのリーダーだったミリアは未だに全員の記憶に残っているんだなと小さく息を吐いた。



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ミリアとメア

お盆中は全員用事あるので投稿できません。すいません


「それじゃあ少しこの世界の事情について話すぞ。」

 

あれから夕飯をいただき結局夕飯を説明の時間に費やしたのだが、少し悪いと雫に謝ってからそのままそこで話す

 

「この世界の事情ですか?」

「あぁ。一応ここじゃ教会は届かないからな。まぁ王宮で一応昔はメルドの兄貴の補佐をしていた経験があるんだよ。まぁ軍師やこの世界に来ているからには記憶に入れておいた方がいいだろ?まぁ最初は簡単な座学かな?まずはこの王都。一応教会が国教と呼ばれる」

 

と俺はこの世界についての説明を始める。一応教会から魔人の定義や街の名前など様々なことを伝えた

 

「んまぁこんなもんだ。ここまでは教会と聞いた話とそう違いはないか?」

「はい。」

「え、えぇ。」

「そうか、んじゃ少し進めるぞ。まぁ最近戦争が争いが多発しているっていうことだけど少しだけ違って今は小さな停滞期に入っているんだ」

「停滞期ですか?」

「あぁ今お互いに軽い接触が多いだけなんだよ。争いが多発しているんだったら俺がまず戦場にいないのは変だと思わないか?」

 

するとそういえばと小さく頷く

 

「お互い戦力を貯めている状態なんだよ。だから戦力を解放させる時期が必ず来るんだ。それに劣勢とは言っても俺が基本的に出ればすぐに優勢に変化するからな。」

「?」

「空間魔法のことだよ。神代魔法って言われているうちの一つで教会の保護対象になっている魔法の一つなんだけど」

「まぁ俺は反対に異端者扱いだけどな。未だに火山で迷宮攻略したのは俺たちのパーティー。それも適正があるのは俺だけだったからな。空間魔法は所謂空間移動ができる魔法だけど使用方法は様々で座標と魔力があればこの世界であれば基本的にどこにでもワープできるな。」

「……どこにもですが?」

「一応帰してやりたいのは山々だけど。その、地球っていうところがどこにあるのかさっぱりなんだよ。それに消費魔力がかなり高い。俺って魔力に限っては全ステータスが一万を超えているから多分場所さえわかれば送ってやれるんだけど。」

「「「えっ?」」」

 

すると全員の声が上がる。そういえば言ってなかったか

 

「魔力操作を持っている人間は比較的にステータスが化け物と呼ばれるくらいに高くなりやすいんだ。俺たちのパーティーもその一例だ。まぁ教会が冒険者ギルドに勝てない一つにそれが当たる。俺たちのギルドは差別がないぶん魔力操作を持った人間が集まりやすい。正確に難儀があるやつは基本的に追い出しているがな。俺たちのパーティーはその典型的だろう。アレックスは耐性、魔耐が身体強化を含めたら2万オーバーだしクララも魔力7千オーバーの全属性適正だぞ?」

 

正直化け物が多いのだ。すると疑問に思っている雫が手を上げる

 

「あの、それならなぜ戦争が不利になっているんですか?」

「それなら単純に俺たちが基本的に前線にでてないからだよ。戦争の指示は結構大変で俺が基本的に本陣にいることになる。クララは森人族だから戦争にでれない。アレックスは貴族だから基本的に戦争にでないんだよ。跡取りでもあるしな。だから今すぐ俺に変わる総大将が必要だったんだけど……正直今の勇者には任せられないな。最低部隊長になればいいと思っていたんだけど……部隊長でも正直ダメだ」

 

俺は小さくため息を吐く。

 

「……えっと、どういうことでしょうか?」

「いや、完全に教会に流されているだろ。俺は魔人族が悪いってなんて元々思っていないんだよ。つーか教会は一向に魔人族が何をしたのか話そうとしない。ただ神託のせいで流されているだけ。簡単に流される奴に作戦を任せたら怒りや感情で簡単に打ち取られたり仲間が死ぬ可能性が高くなる。戦士たちの命を預かっている以上あの勇者には預けられない」

 

そう。仲間たちの命を預かっているのだ。だからこそ絶対に殺させるような真似をさせないであろう。

 

「勇者の友達なんだろ。それならちゃんと言っとけ。…自分の理想ばかり追い求めているといつかは自分の大事な奴をなくすってな。」

「……随分わかったような口調ですね。」

 

雫が少し怒ったようにしているが、それでも事実だ。

友達がバカにされるのは誰よりも嫌なのは俺自身が分かっている

でも言っておかなければいけなかった

……事実というよりも自分が体験したことなんだから

 

「わかったつーか……昔の俺そのままなんだよ。今の勇者は。自分に力を持っている分本当に大事なことを見落としていたからな。……俺もバカだったせいで婚約者を亡くしているしな。」

「…えっ?」

 

雫が声を上げる。いや声に出さなかっただけで香織もハジメも俺の方を見る

 

「ほら。ミリアってみんなが言っていただろ?そいつだよ。雫とそっくりな。天職は治療術師でさっきのアレックスと俺との三人パーティーだったんだよ。俺たちとは違ってチートもないただの治療術師だったけど俺たちが調子乗っていた時の俺たちのパーティーのリーダーだった。」

 

いつも叱られていた覚えがある。でもかっこいい姿を見せようとつい難易度の高い依頼を受けていた。そしてそれを成功させたことにより余計に注目を浴びることになったのだ

 

「まぁ俺たちはずっと教会からの嫌がらせを受けていたんだよ。獣人族や森人族をずっと庇っていたからな。それに俺たちの娘と呼べる子供もいたんだアレックスがいない隙をついて、孤児院が襲撃を受けたんだよ。それが兎人族のメアっていうんだ。…まぁ二人とも俺を置いて先に逝っちまったけどな。」

「へ?」

「騎士団が二つあるのは三人は知っているか?一つはメルドの兄貴がいる王国の騎士団。そしてもう一つは聖教騎士団と呼ばれる教会の騎士団だ。聖教騎士団に隙をつかれてギルドハウスが奇襲を受けたんだよ。死者はミリアが逃げなくてずっと回復魔法を魔力が切れるまで打っていたって推測されているな。何故ならば死者は2名。ミリアとメアだけだった。」

「っ!」

「たくさんの家族を残してくれたことと、最期にミリアとは話せたこと。それが唯一の救いだった。メアとは話す暇もなく心臓が止まってしまったからな」

 

そうそれが唯一の救いだったのだ。最後の言葉を聞けたから俺は復讐に走らなかった。

血だらけで痛いの一言も言わずただ優しく俺を抱きしめずっと最後の時を、最後に初めて俺を頼ったのだ。

 

「それが教会と対立している理由ですか?」

「いや。ハジメには言ったけど俺は獣人族や森人族、あと魔人族と共存したいんだよ。争いは絶対になくなるわけではないけど、人種差別ってことだけで2度と大事な家族を失いたくないからな。それにあいつは家族を守ってって言ったんだ。だから教会よりも俺はこいつらを守りたいんだよ。あいつらのぶんまで生きて、みんなの人生を見届けたい。……せめてあいつの最後の願いは俺の人生を全部かけても叶えてやりたいんだよ。……結婚式もあげてやれなかった大馬鹿やろうだけどな」

 

元々バカで理想を追い求めようとして、冒険者で結構無茶をやったって覚えがある。

そうでもしないとミリアに置いていかれるようだと思って色々無茶をした。

そして納得して冒険者になって二年目、ちょうど襲撃を受ける二ヶ月前に花畑で告白した時の返答が

『いつもクローバーは危なっかしいからずっと一緒にいてあげるわ』

少ししょうがないなぁと呆れながらも今まででも見たことがない嬉しそうな笑顔で受け取ってくれたことも覚えている

ミリアとメア一緒にいた時期も今となっては思いがけない大切な宝物だ。

俺にとって今の俺はこの二人がいたからいきていられるほどに

するとストンと何かが顔を溢れる。

だめだ。この話になると涙が止まらなくなる。

 

「……クローバーさん?」

「あぁ。悪い。ちょっと涙腺弱くなっててな。んまぁ何が言いたいのかというと命に勝るものはないってこと。大切な人、好きな人、守りたい人なんでもいい。戦争に出るからには生きて戻ること。人の命の価値は誰にだって平等だ。一度死んだらそれはそこまでただの討ち死でしかない。だから生きるためにはどんなことでも使え。卑怯なこと、汚いこと、たまには逃げることや嘘だってつけ。俺たちのことはどうでもいい。ただ生きることだけ考えろ」

 

俺がそう締めくくる。思えば話していることは無茶苦茶だ。最初はトータスの情勢について話していたはずだったんだけどな

 

「えっと話戻そうか。どこまで話したっけ?」

 

と言いながら少し涙を拭く。

この後何を話したのか覚えてないが、三人がかなり深刻そうになっていたらしい

そして今後、毎日のように俺の家に香織と雫が訪れるようになる



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過保護の理由

「お邪魔します」

「お邪魔します。クローバーさんはって、いるわね」

「ん?って雫と香織か。ハジメは……そういや図書館寄ってから帰るって行っていたか?」

 

あれから10日が経ち俺は遠征の準備をしていたところ二人がいつも通りに、いや最近ではギルドハウスにすみこむようになっている

 

「えっと?何しているの?」

「いや、明日から3日間少し火山の方に行ってマグマ溜まりを取り除く作業があるんだよ。所謂迷宮攻略者だからできる仕事ってわけ。だから少しばかり遠征にでるからその準備」

「へぇ〜でもマグマ溜まりをどう捨てるんですか?」

「空間魔法でマグマを少し海に流せばいい。それだけで噴火の危険性は格段に落ちるからな」

 

と何気ない会話だがそれが異常であるので苦笑しているのがよくわかる

 

「そういえば何かあったのか?俺は三日間離れることになるんだが。もしかして訓練か?」

「はい。オルクスの大迷宮について何か知っていることはありますか?」

 

おや、ちょうどいい時期に実践に出るんだな。

俺はまぁ必要なことだし説明にでるかと笑う

 

「オルクスの大迷宮か。まぁここから一番近いとされている大迷宮だな。元々は緑の大坑道があった場所でいい鉱石が取れるからな。だから上層は人気なんだよ。んで中層からは基本的に俺たちしか今の所はたどり着いてないな。俺たちは基本的に潜っていないけど。」

「潜っていないんですか?」

「いないな。俺たちくらいになるとオルクスの大迷宮よりも高難易度クエストを受けた方が稼ぎになるし、さらに魔物の素材も手にはいるからな。それに俺たちがいるのは暗殺者であって盗賊じゃないからトラップが避けられないんだよ」

「トラップ?罠とは違うんですか?」

「罠とトラップの違いはわかるか?説明するとほとんどの物が罠は目に見える物、トラップは魔力を軸とした妨害道具のことだ。基本的に何かに連動して発動することが多い。多いのは鉱石を取ろうとしたら発動する魔法陣とかな」

 

とオルクス大迷宮で知っている知識をひたすらに話していく俺。二人はただずっと聞いてメモをとっていく。

オルクス大迷宮は20層まで潜るらしいので昔の知識でいいならと新人の時に潜った魔物の情報など

今はほとんど三人の専属教師となっている。三人はこっちに来てから常識などをこっちと教会の知識で比べていて正しい情報を見極めているようだ。

 

「ってところだな。まぁ二十層くらいなら基本的には大丈夫だろうけどな」

「すいません。クローバー。この後剣見てもらっていいかしら?」

「いいけど。雫の構えでも全然戦えるぞ?それに、お前うちの教え子に勝ち越しているんだろ?」

「クローバーの剣はとても綺麗だから手本になるわよ。それに同世代で私よりも強いのはあなただけだから」

 

雫の言葉に少しだけ苦笑してしまう。雫は誰よりも別格に近い

俺の剣は形がほとんどないがどの方向から振っても変わらないことから見ていて飽きないらしい。

剣の指導はしたことがあるのだが、雫の剣はある程度完成された剣なのでいじる場合は注意が必要になるのだが

 

「というよりも本当に俺の剣でいいのか?俺の剣はアーティファクトじゃないけど」

「はい。こちらの方が振りやすいですし。」

 

と俺の剣は少し特殊で片方の辺でしか切れない。所謂ハジメ達曰く日本刀と呼ばれる細味の両手剣に似ている剣らしい。

透明に近い透き通った剣は弱いアーティファクトより強いものも存在することもあるくらいの切れ味だ。元々俺自身が速度型で魔法を使って強化しているので切れ味に特化している剣は雫に私渡している。

一応白龍の剣は予備も含め5つはあるので一つくらいはあげてもいいだろう。

 

「……んじゃあ当分の間はハジメの分の飯だけでいいってことか」

「えっ?」

「ん?おかしいこと言ったか?非戦闘職のハジメは、王都滞在するのが普通だろ」

「……えっと。その……」

 

雫も香織も困ったように俺を見る

その反応だけで分かってしまう。

……ハジメも大迷宮についていくことが決定したのだ。

 

「何考えてやがるんだ。騎士団も教会も」

「あの、やっぱり怒ってますか?」

「怒っているより呆れているよ。いくら勇者たちがステータスが強いからってまだ王宮騎士団より弱いのに20層は確かにギリギリのラインだろう。でも、ハジメは違う。あいつにとったら1層すら危ない。……つーか止めなかったお前らもお前らだけど」

 

実際技能も、ステータスも1層を超えられたら奇跡的な問題だ。

そんな奴を迷宮に連れて行くのは愚策としか

 

「……でも、私たちが守れば」

「そんな考え捨てろ。何が起きるかが分からないのが迷宮なんだ。人ってもんは簡単に死んでしまうんだよ。……それにあいつは付き合いはお前らより短いけど分かるんだよ。あいつは本当に大切な時、怖いと思っても絶対に引かない。弱音を決して吐かない。だからこそ不安になるんだよ。……あいつは何かあった時絶対に逃げない。真っ先に自分が危険を犯すってな」

「そうだね。そういうところは本当に無茶をする子だと思っているよ。」

 

するとアレックスが俺たちに近づいてくる

 

「どうした?アレックス」

「いや。明日から団長火山にいくだろうから久しぶりに剣を打ち合おうって思ってね。僕も剣が鈍るといけなかったんだけど。お邪魔だったかい?」

「いや。全然、……アレックス。今の勇者達に現状とステータスを含めて、犠牲者はでると思うか?」

 

アレックスにも暇な時間を使い王宮に顔を出してもらっている。勇者達には結構人気が高く飴の役割をになってもらっているのだが

 

「まさかクローバー。出ないと思っているのかい?」

 

自分の意見はきっぱりというタイプだ。

 

「いや。出るよな。兄貴がついているとはいえ、トラップ対策が低すぎる。大迷宮は一種の魔物だからな」

「魔物?」

「そう魔物だよ。ちゃんと学習し、そして新しいトラップを仕掛ける。大迷宮の構造が変わるとか火山攻略に二ヶ月かかったけど、結局火山のトラップは常に変化していた。……よく三人で攻略できたのか、未だに謎だけどね」

 

大迷宮は未だに分からないことも多い。だからこそ非戦闘職が絶対に入らないようにと釘を刺していたのだが

 

「……まぁこっちでも少しばかり対策を取るか。さすがにクララは俺の方に同行してもらわないといけないから」

「対策ですか?」

「あぁ。連絡用のアーティファクトを持っているんだよ。だからいつでも連絡できるようにできるんだけど……でもこれって射程距離っていうのがあって百km程度の遠距離の相手しか連絡できないんだよ。元々俺が持っているのは火山の噴火を抑えるために領主と連絡を持つためだけど……一応三人分用意しようか。……本当はギルド員しか持たせないようになっているんだけどな。一応この印を持っていたらこのギルドが後ろにいるって証になる」

 

と俺がつけている小さな腕輪を引き出しから取り出す

 

「……悪い。本当ならやめさせたいが、訓練内容には俺は口出しできない。…無事を祈るしかないけど……せめてないよりかはましだと思うし迷宮内でも会話ができるから……でも迷宮内は俺たちは行ったことがないから転移もできないし」

「……ふふ。ありがとうございます。でも、いいんですか?ギルドの証明書になるって結構高価なものじゃ」

「友達の命に比べたら安いものだろ。……それに祈ることしかできないのが悔しいところだけど」

「クローバー結構過保護だね〜。実際一番甘いのってクローバーじゃないかい?」

 

アレックスが笑うと俺は少し苦い顔をしてしまう。

自覚はある。でも、どうしても過保護になってしまうのだ。

 

「……大丈夫。君の弟子たちだよ。簡単に死ぬわけがないわけじゃないか」

「……でも。」

「本当に変わらないね。……二人とも、死なないでね。ハジメくんも二人も僕たちにとってはもう家族みたいなものだから。僕とクローバーはもう家族を失うのは……耐えられそうにないから」

 

とアレックスが少し苦笑いをしているが二人は気づいたらしい

過保護になる理由も、このギルドにとって死がどういう意味を持っているのも

二人の顔が引き締まる。だから少しこの時ばかりは大丈夫かなっと少し油断してしまったんだ。

後悔することになる。ハジメを、戦場に出してしまったことに。



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犯人探し

みんなが雫のシーンを書く時だけ生き生きしていると言われ地味にショックを受けてしまいました。



「っ!」

「えっ?ハジメくんが?」

 

俺は大火山のマグマ溜まりと取り除いた後、久しぶりの休暇で子供達のお土産を探している時急な連絡がアレックスから届いた。

元より嫌な予感はしていた。そしてギルドの証である腕輪からの連絡を受けた時、……急な悲報に目が真っ暗になった

ハジメが仲間を庇って死んだと答えるまでに

 

「クローバー。しっかりして」

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。わ、悪い」

 

俺が店主とクララに支えられ。なんとか堪えるがそれどころじゃなかった

ハジメが死んだと雫から連絡があったと。

 

「それで他に損害は?」

『今の所死者はハジメくんだけ。詳しい状況を知らないけど……メルド団長か雫に詳しいことは聞いた方がいいかもね。確か香織は』

「そっか。……とりあえずホルアドに向かう。悪い帰り寄り道することになるけど」

『大丈夫だよ。クローバーも辛いはずだけど…」

「……一応確認のために腕輪確認して欲しいんだけど。奈落に落ちたってことはどれだけの深さかわからないけど一応死んだのであれば腕輪が戻ってきているはずだ」

 

魔法陣を二つ書いている魔道具は普通なら壊れるはずだが固有技能である破壊耐性を持ったライトと言われる付加術師のおかげで俺たちはアーティファクトではないが魔道具が破壊されることはほぼないのだ。

ギルドの証と呼ばれる腕輪は、空間魔法と通話を使えるようになっている優れもので連絡用のアーティファクトとそこまで変わらないのだ

腕に魔力がある限り生存を知らせるための道具で基本的に3時間経った場合

そして数分後通話からは驚きの結果が帰ってきた

 

『クローバーないよ!!』

「……は?」

『ハジメくんが持っているギルドの証がまだ戻ってきてないんだよ!!』

「それって」

 

クララが目を輝かせ俺も頷く。

ハジメは生きていることはほぼ確定的である

 

「とりあえずホルアドに向かう。一応ハジメと連絡が取れるか確認してみるから」

『うん。ちょっと待って、雫と繋げるよ。そっちで話してくれた方が二人も嬉しいだろうから』

「えっと。私は?」

「……子供達を頼んでいいか?少し兄貴とも話がしたいから」

「えぇ。当然ですよ。クローバーさん……あの、もし落ち着いたら……」

「はいはい。いつものところな。俺のおごりでいいから」

「はい!!」

 

嬉しそうに笑うクララ。いつものところとは俺がよく行く居酒屋である。獣人族などにも優しいところでお酒も良いものが揃っているのでいけつけのところだ。

 

「お気をつけて」

「あぁ。行ってくる」

 

と俺は空間魔法を使いいつもの転移部屋へと送ると俺はすぐさま転移魔法でホルアドへと向かう。

一応昔俺が使っていた騎士団での部屋を今もずっと貸切にしていてくれている

とりあえず起動すると対象の相手がいないか探し求める。

 

「……ダメだ。よく考えたら通話ができればかけてくるはずだよな」

 

通話は通じないことに少しため息を吐く

魔法陣を使った通話機能は通じない

となればやっぱり今の現状を話すしかないか。

 

「雫いるか?」

 

俺は魔力の量によって通話相手を変えられる俺は電話をかける。

 

『えっ?クローバーさん?』

「少し緊急事態だから少し早めに戻ってきたんだが……もしかして既に王都に帰っているのか?」

『はい。えっと今。『ってクローバー?お前』』

「メルドの兄貴話は後だ。……被害者となんでハジメが奈落に落ちたのか、その理由を聞きたいんだが……」

『……ホルアドにいるのか?』

「あぁ。連絡用の魔道具を雫に持たせていたからな。簡単な事情は既にアレックスから聞いている」

 

すると通話の魔道具が少しだけ沈黙する

 

『すまない。お前が反対していたにも関わらずハジメを……』

『どういうことですか?』

『クローバーは夜中王宮まで来てハジメの大迷宮を連れていくことに反対し続けていたんだ。元より教会はハジメも戦争に参加させるつもりだったからな』

『えっ?当たり前ですよね?僕たちはトータスの人たちを救うために』

 

俺は一度通信を切りすぐに本部につなぐ

御託はいい。

 

「クララ。雫の場所を出せ。飛ぶから」

『どうしようもないね。ここまで酷いと本当に勇者なのか疑問だよ』

 

アレックスの毒舌が炸裂する

 

『位置は王都方向に18km向かった地点です』

「あいよ」

『クローバー。もしかして火山に行く前の夜中、メルド団長にあっていたのかい?』

 

するとアレックスが少しだけため息を吐いたようにする

本当に呆れたように、そしてしょうがないなぁって感じをしたアレックスが予想できた

 

「悪いか?」

『僕たちの団長なんだからあんまり贔屓してほしくないんだけどね〜。とりあえず公布を出すことにしたから。ギルドに連絡して南雲ハジメが来たら連絡するようにしてもらうよ』

「相変わらず仕事が早いな」

『……僕たちにとってギルド員は家族だ。それに僕たちが探さなくてもクローバーは探すんだろう?』

「…そうだけど」

『私たちはあなたに救われたのよ。こういうときに恩を返したいのよ』

 

すると少し大人っぽい女性の声が聞こえる。それは古参メンバーの一人で、ずっと悩み続けてきた女性だった

 

「珍しいな。リア。体調は」

『良いわよ。私も安定期に入ったから。後は私が引き継ぐわ。クローバーはあの子たちのところに連れていってあげてそれと……家族を痛めつけた奴に制裁を加えてくれると嬉しいわ』

「……あぁ」

 

ハジメの人望が分かる優しく、そして心が強かった

だからこそ願う。ただ生きていて欲しいと

俺たちのことなんて忘れていても、心が変わっていてもいい

家族の生存を。そして本当の家族と会えることを祈るのだ

 

そして俺は空間魔法で飛ぶとそこには大量の馬車が走っており静かなことから恐らく誰もが信じたくないのだろう知り合いが死んだということに雰囲気は最悪に近い

 

「雫。どこの馬車に乗っているんだ?」

『えっ?……一番前の馬車ですけど…』

「了解。」

 

と軽く身体強化を乗せ瞬時に、馬車よりも早く走り始める、空間の境界を狭くすることによってさらに時短することも忘れずに、

そして数十秒程度で一番前の馬車に乗り込むと

 

「……えっ?」

 

最初に見えたのは香織が伏せているところだった。とっさに手首を手に触れると脈はある。すなわち生きているという状況に俺は一つ息を吐く

 

「事情を説明してくれるよな?オルクスの大迷宮に入ってから、それとその詳細を」

「あぁ。俺が説明する」

 

ギルドの依頼というより定期的な国からの依頼を受けていたとはいえこれはかなり酷い結果になるのだろう。

そして最初から最後まで、いや聞いてはいないところまで答えてくれた

20層まで比較的いい雰囲気で攻略できていたこと

20層でトラップにあい、雫や香織が気づいたのだがそれに関わらずトラップを発動させたこと

ベヒモスとトラウムソルジャーに挟みうちにされたこと

混乱状態の仲間を守るためにハジメがただ一人立ち向かったこと

逃亡の際生徒の魔法の流れ弾がハジメに向かいなんとか直撃を避けたもの、ベヒモスに捕まり奈落に落ちたこと。

そしてハジメの死亡したと思い込んだ香織が恐慌状態になり兄貴が気絶させたこと

 

全てを聴き終わった俺は小さくため息を吐く

 

「犠牲者は絶対に出ると兄貴には俺はいったよな?戦場の雰囲気がなっていないでヘラヘラした態度……迷宮に出すのは早すぎるんじゃないかって?狭いところで大技を使い簡単に血が上って壁は崩落。……正直ステータスが高いから油断していたんじゃねーのか?」

「……あぁ」

「正直なところ話を聞く限り事故なのか故意なのか微妙なところだろう。全く、これで本当にハジメが死んでいたら大変なことだったぞ?」

「……えっ?」

 

今この馬車に乗っているのは雫と気絶香織、メルドの兄貴だけで勇者とその相方は話が進まないからと追い出されたらしい。

雫がやっぱり勇者パーティーの軸であるのは間違いないと苦笑しざるを得ないのだった。

 

「ハジメが落下死した可能性はほとんど消滅している。雫もつけているだろうけど、元々それ俺たちが開発した魔道具なんだよ。死亡したら俺たちのギルドハウスに強制的に送られるようになっている。そして昨日から現在に移るまでギルドの証が返却された形跡はないことはアレックスに確認済みだ」

「……つまり。」

「あぁ。ハジメは今のところは生きている。一応身分証明書にもなるって三人には話したはずだしよほどのことがない限り壊れることはない」

 

すると少しだけホッとしたらしい。雫に笑みがこぼれる

だけど大切なのはこれからだ。これは事故なのか故意的にやったのか判断する必要がある

 

「とりあえず聞きたいことがいくつかあるんだが?」

「あぁ」

「とりあえずハジメに打たれた魔法の種類を教えてくれない?」

「恐らく火の初級魔法の火球だろう。火の球体が見えたからな」

 

……早速臭いな。というよりもこれとある質問をしたら確定だろう

 

「次に魔法を打つ位置だ。比較的高いところで打ったのか?それともハジメと同じ位置で打ったのか?」

「いや、少し高台のところだ。坊主に射程が……」

 

と言ったきりメルドの兄貴は固まる。言葉を告げたくないように、そしてそれを認識したくはないように

 

「……そうだ。坊主に射程が入らないはずなんだ。特に初級の魔法はよほどのことがない限りは……打ち誤まることはないはずだ」

「…えっ?ちょっと待ってください。それって」

 

俺も兄貴も結論は出たらしい。……そしてそれを信じたくないのか雫は首を振る

 

「一応確認だ。ハジメに向かっていた火球は……軌道が変化したか?」

 

それは最終通告。そして二人は恐ろしいように震えている

 

「……っ!」

「あ、あぁ。軌道がわずかに下に……いや坊主に向かっていった」

「……兄貴。これは歴とした事件だ。事故に見せかけてハジメを狙った暗殺だよ」

 

その一言で馬車の中には静寂が生まれる。

 

「そんな」

「……お前ならどう判断する。」

「奴隷いや最低であっても死罪だろう。さすがに悪質性がすぎる。恐らく初級の魔法を選んだのは適正魔法が見抜かれないようにするためだろう。だから基本的に火を優先的に使っている勇者たちは省いてもいい。勇者パーティーとはいえどさすがに仲間殺しの罪は……お互いに見過ごせないだろうけど……」

 

と俺は少し雫が震えている。仲間に殺人犯がいると分かったらそりゃ怖いはずだ

俺は軽く雫の頭を撫でる。

 

「……悪い。怖がらせたか?」

「えっ?その。」

「……悪い。……でもこれ以上は恐らく香織にも関係が恐らくあることだ。雫には聞いておいて欲しい。正直本来である場合……処罰した方がいいのだが……できれば今回は隠しておきたい。恐らく、香織が壊れる。俺が思うに、犯行理由の最大の原因は香織がらみの恋愛関係だろうから」

「…っ!それは本当か?」

「香織がハジメを想ってたのは確かだろう。だからこそその人物はハジメが邪魔だった。俺の予想が正しければ……」

 

と俺は一息入れ

 

「トラップに引っかかった、所謂無断に鉱石を取ろうとしたのは、檜山で間違いないか?」

 

と俺は断言する。唯一この条件に当てはまる人材。それはそいつしかいないのだ。

ハジメに恨みや嫉妬をもち犯行動機があり、尚且つ火属性を使える人物は

 

「……あぁ。」

「本当に檜山くんが……南雲くんを殺そうとしたの?」

「あぁ。俺は詳しくは分からないけど、大体の推理はあっているはずだ。というより確定だ。直感に引っかかった」

 

固有技能直感。魔力を引き換えに自分が考えついていることが正しいのか間違っているのかが分かる技能だ。

これで俺はその情報が正しいのかを見極めることができるために幾度もなく危険な旅を乗り越えていた

 

「でも隠しておきたいと」

「あぁ、……さすがに香織が心配なんだよ。恐らく教会はあまり厳しい処分を言い渡さないと思う。……一応こんなんでも勇者としてこの世界に呼ばれたからな。それどころかハジメのことは教会からしたら無能って呼ばれているんだろ?そんな奴が死んだところで、教会側は軽い処分をいいわたすだけだ」

「……もし、それが本当なら。……香織は…怒るどころじゃ」

「恐らくな。復讐に走ってもおかしくはない」

「……恐らくクローバーの言っていることは間違ってはないだろう……公表もしない可能性も高い。勇者が人を、仲間を殺したとなると国民に不安を覚える可能性が高いな」

 

だからこそ。黙っていた方がいい。

香織が壊れず、ハジメと合わせるために

 

「兄貴。元々俺のギルドハウスに住んでいることもあるからな。適当に理由をつけて雫と香織を正式に俺のところを宿にできないか?香織も。クラスメイトから少し離れさせたいのもあるのだが、できればハジメを死んだことにしておきたいんだ。」

「……ハジメをか?」

「あぁ。正直俺たちのギルドのメンバーの南雲ハジメにした方が風当たりはいいだろう。少し工作も始める。俺たちは当分の間いなくなったギルド員の捜索に全力を尽くす。迷宮にずっと居続けるなんて不可能だ。だから可能性としたら、奈落から生き残ったハジメを探す方が効率がいい。あとあとになるが強くなったハジメを探すしか今の所手がないんだ。すでに冒険者ギルドに腕輪をつけたハジメという少年を探しているって発破をかけた。……それを教会に邪魔されたくない」

 

即ち、本気でハジメを探すための時間が欲しいということだ。

 

「……雫はどうしたい?俺らばかり話を進めているが……」

「私ですか?」

「あぁ。香織にも一応話すつもりだ。ハジメが生きていることは。ただ人格が変わっている可能性が高い。ハジメだって殺されかけた経験があるはずだからな。……覚悟はしておいた方がいい。昔のハジメと全く変わっているだろうからな」

「それでも探すのか?」

「当たり前でしょ。俺たちは決して家族を見捨てない。うざがられようがこの証をつけたやつは見捨てない。それが俺たちの流儀だ」

 

それが俺たちの唯一の掟。家族は何があっても見捨てないのだ。

たとえ恨まれようが、常識に囚われないでいようが変わらないのだ。

 

「……その、香織が起きてからでも構いませんか?それと……」

「一応部屋はそのままにおくから、いつでも頼ってきていいからな。しばらく王都に滞在するし、ギルドハウスにいるようにするから」

「えぇ。本当に何から何まで……」

 

と雫はごめんなさいとでも言おうとしたのか少し申し訳なさそうにしているがその態度に少し呆れてしまう

俺は軽く雫の頭を叩くと

 

「お前な、こう言う時はありがとうだろ?」

 

正直に言ってみる。こう言う時にお礼じゃなくて謝罪を入れるのが雫の悪い癖だ

 

「謝まるなとは言わない。でもな頼るときはちゃんと頼れ。なんでも謝罪で解決しようとするな。お前の悪い癖だぞ。人を頼らず自分で解決しようとするところ。俺から見たらハジメや香織よりお前が今の状況が一番危ないんだよ。怖い気持ちを押し殺しているのが目に見えているのに、甘えられない、言葉にできない。お前は自分自身を殺しすぎだ。…そういった意味ではお前が一番危ないんだよ」

「それも、ミリアさんと同じだからですか?」

 

雫は触れられたくなかったことなのか少し強い様子で俺に言ってくる。メルドの兄貴がおいと言っているが俺は首を横にふる

 

「いや。そこらへんはミリアと違う。あいつは結構毒を吐くタイプだったからな。俺のアレックスも何度怒られたか……兄貴もかなり怒られたよな」

「……えっ?あぁ」

「雫、お前頼られるのが当たり前って思っているから少し言っておくけど……頼られるって結構嬉しいもんなんだぞ?」

 

すると雫は考えたこともなかったのだろう。少しキョトンとしている

 

「俺もアレックスも困った時はすぐにお互いを助けあっているだろ?それに孤児院の子供達だってそうだ。自分が苦手なことは誰かを頼るし反対に誰かに頼られることもある。俺の孤児院は広いからな。色々な人が集まってくる。俺だって掃除や料理は少し苦手だぞ。字は書けないから手紙一つも書けやしない。報告書や計算もできないしな」

 

俺にはできないことが多すぎる。戦闘バカで女心も分からない、思ったことをすぐ伝えてしまうダメ人間だ。でも慕ってくれているやつだっているのだ。バカだった俺を好きって言ってくれた女性も。幸せだったと言ってくれた人もいる

 

「字は書けない。計算もできないけどそれでも軍略や作戦を立てれるだけの力は持っているって自分では思っているんだよ。俺は極端すぎるかもしれないけど……それでも誰かに頼られるっていうのは信頼されているってことなんだ。……雫はそう思わないか?」

「……」

「俺じゃなくてもいい。勇者でも、香織でも。先生でも兄貴でもいい。誰でもいいから頼ることを覚えろ…そしてありがとうってお礼をいえばいいんだ。時に甘えて、時に甘えられて。自分を殺すんじゃなくて自分を見せる、受け入れてくれる仲間がいるんじゃないのか?俺みたいな口が悪くて女心も分からない戦闘しかできないバカすら孤児院や町人に慕われているんだぞ。頼りになって、可愛くて何よりも根が優しい雫が受け入れられないはずがないじゃないか」

 

そういうと少し笑ってしまう。雫もハジメも、香織も俺たちが拒否することはない。

どんなことがあろうと仲間なんだ。

受け入れてみせる。どんなに醜く、汚くても。決して仲間であることには変わらないのだから

 

「まぁ、おせっかいなバカからの言葉だと思っておけばいい。でも、こう言う時は謝罪じゃなくてお礼を言われた方が俺たちにとっては嬉しいってことは覚えておいた方がいいぞ。人間って単純な生き物だからな」

 

と馬車に揺られながらのんびりガタンゴトンと揺られる

もうそろそろ、帰ろうかと思った時雫に手を握られる

 

「ん?」

「あの、もう少しいてもらっていいですか?」

「……ん。別にいいけど、勇者たちは……」

「俺が説得しておこう。それと、……お前その癖直した方がいいぞ」

 

俺がきょとんとしてしまう。メルドの兄貴がこいつはといい外に出て行く

結局王都に着くまでの間無言でありながら香織を心配そうに看病をしていた雫の三人の旅になるのであった



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反逆者たちの決断

王都に戻ってから三日が経った。

あれからやはりと言うべきであるが、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが〝無能〟のハジメと知ると安堵の吐息を漏らしたのだった。

国王やイシュタルですら同じだった。強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

怒りを覚えていたが、未だにギルドの証が戻ってはきていないということがハジメが生きていることの証明になり、ずっと堪え続けていると言う現状だ

そんな中で俺はギルドハウスでのんびりしている。

というのも今日の会合では、とある人と約束をしているからである

 

「クローバーさん。フードの女性の人が来てますよ。」

「ん。了解。俺の部屋に通して」

 

とどうやらちょうど来客を出迎える

 

「クローバーお兄様。お久しぶりです」

 

と一人のフード姿の、手にはギルドの証がついた少女はにっこりと笑う

この女子はハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒ。まぁいわゆるお姫様である

 

「久しぶり、リリィ。まぁ適当に座ってくれ」

「はい!!」

 

と嬉しそうなリリィに俺も久しぶりに笑顔が溢れる。

 

「そういえば、今日はみなさんは?」

「希望者は樹海に戻す日なんだよ。ついでにアレックスとリアが里帰りしているな」

 

唯一樹海で俺たちのパーティーだけは樹海の侵入を許可されているのである。

なのでリリィと通じて交易関係を結んでいることもあり、リリィと王妃様はギルド側であり俺の後ろをサポートしてくれているのだ。

 

「……あぁ。そういえば最近雫はここに住んでいますよね?香織もそうですが」

「ん?まぁ元々はハジメがいたから住み始めたんだよ。次第に雫は剣術と戦略について学ぶのが目的になっていったけどな」

「ふふ。相変わらずお兄様の周りには女性が多いですね」

「偶然だろ……って忘れていた。香織の具合はどうだ?雫は最近ずっと寝泊まりを香織の部屋でいるらしくて。腕輪で連絡は取れるんだが……そこまで余裕がなさそうだったからな」

 

するとリリィは少し困ったようにする。

 

「未だに香織は目覚めないままです。ハジメさんはどうですか?」

「リリィには伝えてあるけど未だ生存している可能性は高い。……地上であればどこにいるのかわかるんだけどさすがに地下の座標は分からないからな。どうしようもない状況だ」

 

俺は小さく息を吐く。するとお茶とお菓子を持ったメイドがこっちにやってくる

当然付き合いの長いヘリーナである

 

「お茶です。」

「ん。ありがとうなヘリーナ。そういえば、速達が来た。およそ一ヶ月後帝国が勇者たちに会いに来る可能性が高いことがわかった」

「帝国がですが?」

「元々俺に会いに来るついでだろうな。恐らく婚約だろうな。あのおっさん俺に帝国継がせたかがっているし」

「強さこそ正義の国ですからね。でも、避けることはできるんでしょうか?」

「決闘すればいいだけの話だろ?帝国のルールに従ってやればいい」

「……そういうところがあなたが皇帝陛下に好かれているからだと思いますが……」

 

と小さくため息を吐く。そうだよなぁ。あのおっさん結構マゾ願望あるからなぁ

自分が断られるのが結構好きでさらに負けてリベンジするのはもっと好きだからな

 

「結婚は考えないのでしょうか?」

「ん?」

「いえ。クローバーどのは今だに結婚なされていませんですよね?元々孤児院経営もあと少しで国の援助が出るはずですが……結婚の予定は」

「ないっていうよりもする気がないかな。俺は元々孤児院でスラム出身だからな世継ぎも気にせずにいいだろうし、アレックスなんかリアと結婚したからな。……正直結婚ってよりも身分差別をなくすってことくらいしか興味ないし。恐らく死ぬまでは俺は独身だと思う。……未だにミリアを比べてしまう癖があるからな。女性にも失礼だし。俺も本気で好きな女性と結婚したいって思うし」

 

俺は自分でもメンドくさいって思ってしまう。だれか好きな人を考えようと恋バナや婚約話は全てミリアを思い出してしまうのだ

 

「……ガサツに見えて一途ですね」

「悪いか?」

「でも、ミリア殿の願いには……」

 

とそういえばこの二人には最後の遺言について話したんだっけと小さく苦笑してしまう

 

「仕方ねぇだろ?ミリア以上の女がいるかって聞かれたらいないとしか言いようがないな」

「……雫はどうですか?」

 

そうぶっきらぼうにいうとリリィが思いついたようにいう

恐らくリリィも初めて会った時は驚いただろうからな。答えておくのがいいだろう

 

「雫?……雫か?……恋人になるのは考えづらいな。元よりあいつの好みって王子様とか自分を守ってくれる人に憧れている感じが……するんだよ」

「そういうところはミリア姉様と同じですね」

「同じだよなぁ。ただ少し雫は優しすぎるんだよなぁ。厳しいこといいながら少し身内に甘いところがあるからな、……それにあいつらって地球に戻るだろ?そういった意味でも雫にとっては俺とはないだろうな。それに俺はあと少しであいつらとは敵同士になると思うしな」

 

すると不思議そうに俺を見る少しだけ思ったことを言ってみる

 

「つーか結婚かぁ。お前もそろそろ決まる年齢なんじゃねーの?」

「私ですか?」

「王族の一人娘なんだろ?帝国のクソ息子と婚約とかあるんじゃねーのか?」

「……」

「……やっぱり話が出てたんだな」

「はい。帝国と、王国の友好の証にと。……恐らく今度の会合では裏でそのような話もあると思われます」

 

ヘリーナが露骨に嫌な顔をしているのは分かる。

リリィは俺の妹と呼べるくらいに仲がいい。だから幸せになってほしいんだが……

 

「…俺もリリィもまともな結婚ができるのはちょっと厳しいだろうな」

「そうですね。」

 

と俺とリリィはため息を吐く。その後とある連絡が来るまで、俺たちは愚痴をずっと言い合っていたのだった。

 

 

 

「……そっか。良かったな」

『えぇ。本当にありがとうございます』

 

ギルドの証から聞こえてくる声。雫が香織が目覚めたと連絡があったのだ

一応医者などは俺の伝手を使い、勇者の育成をしているということは誰もが驚いていたのだが

 

『クローバーさん?南雲くんが生きているって』

「あぁ、教会にはいうなよ……ギルドが動いているのとこの後ハジメのことを考えたらハジメには自由に生きてもらいたいからな」

『そっか、……良かった』

 

少し後悔だろうか。少し嬉しそうな声でありながら暗い声が上がる

 

『そういえば、生きている限りは地上の方が会える可能性が高いって前に言っていたけど……あれってどう言う意味なの?」

「ん?単純な話だよ。生きるためには強くならざるを得ないんだ。一ヶ月くらいならば下層に行けば会える可能性はあるけど、さすがにそれ以上になると攻略か、自力で上に上がるしかなくなるんだよ」

 

と俺が答えると無言になる二人

よく分からないってことだろうな

 

「所謂食糧の関係だよ。食料が迷宮内にはないんだよ」

『あっ!』

「俺たちが行った大迷宮は50層くらいだけど……恐らくもっとあるだろうからな。200か300層くらいが妥当かな?試練と思われしものもないし……どちらにしろ食料と呼ばれるものがないっていうのは絶望的なんだよ」

『でも、生きているんですよね?』

「生きているんだよなぁ。……運良く食料となるものを見つけたか……それとも……」

 

あまり考えたくはない。俺も幾度か食べたことがあるが、……相性が悪ければ死が訪れる

 

『どうしたのよ……』

「ん?いや。それにそっちの世界の?科学だっけ?それが発達しているんだろ?オルクスの大迷宮は鉱石が豊富だしハジメなら食糧さえなんとかすれば生き残れる思っているんだよ。技術だったら雫が一番欲しかったけど……戦争を率いる俺の感想としてはハジメが一番の鍵を握ると思っていたんだ。いや正直ハジメ一人でよかった」

『南雲くんが』

「あいつ自分の恐ろしさに気づいていないんだよ。一回探りを入れてみたけど。特に銃って奴が一番理不尽だ。なんだよ。詠唱も適正もいらず最低でも30m先の敵をほぼノータイムで殺せる武器って。それにそれが一番弱いっていうんだったら……他の武器はどんなに恐ろしいんだよ。それもそれをあいつは作れるって言ったんだ。錬成と素材が集まればってな……そんなんあれば女子供でさえ数百人殺せる兵士に変わる」

 

その一言で二人もその重要さがわかったのだろう。

 

「……俺たちの世界は魔法に頼りすぎている。だからこそどうしてもそっちの世界の知識が欲しかったんだ」

『それって錬成師ってことを聞いた時に反応した理由ですか?』

「あぁ。……だから教会にだけは絶対に渡されたくなかったんだ……恐らく魔人族戦が終わったあとは直ぐに俺たちに教会は攻め込んでくるだろうからな」

 

そう。その次のことも考えなければならなかった。いや、戦争とかどうでもよかったんだ

俺たちは家族を守るためだけが行動原理なのだから

 

『それって南雲くんを一人の兵器として利用しようと思っていたってことですか?』

「最初はそうだったかな?というよりも俺は勇者の姿を最初見て……正直技術だけ奪って後は放置しておけばいいって思っていたんだよ。だから檜山のあの態度を見てな。……まぁでもギルドハウスに向かう途中にハジメの性格を分かった途端、ハジメは守る対象になったなったんだけどな。あいつは最初から全てを分かっていた。戦争も、自分に対する教会の理不尽も、教会が異常であることもな」

『……』

「複雑だとは思うがこっちが教会と戦争していることを忘れないでほしい。これは俺たちにとって至って当たり前なんだよ」

 

戦争をしているとはいえ家族を守るために勇者という存在は邪魔なのだ。

だから俺はなんとも言わなかった。ただ愚かなことをしていたにも関わらず

 

『それを私たちに話して良かったんですか?』

「というよりも今話さないといけないだろ?お前らは俺たちを善意の集団だと思いすぎているんだよ。だからこそ、全ての真実を話すことが先決だった。……この先は別々に歩いていかないといけないからな」

『どういうことですか?』

「俺たちが異端者集団ってことを忘れているんじゃないかって思ってな。……言っとくが俺たちがやっていることはこの世界では悪だ。教会のことは信じていない。簡単に内戦は起こす。獣人や森人族は保護する……所謂神に反抗していると言っても過言ではない」

 

それはどう言う意味なのか。二人は分からないだろうと思って俺は口を開ける

 

「これ以上俺たちに関わっていたらお前らは地球に帰れる可能性はかなり低くなるんだよ」

『……』

「帰還が神が左右しているならなおさらだ。俺たちは異端者、数十日くらいの交流ならまだしも神に叛逆している反逆者だ」

 

そうだからこそ、このタイミングなのだ。

帰還を目的とするのなら、これ以上は危ないとのアレックスとの判断だ

 

「俺はリリィとは交流があるからな。リリィを通じてハジメの発見を連絡することだってできる。今までは勇者の育成を目標にしていたが今回ばかりはハジメの捜索に移らないといけない……実際俺はもう指導係じゃなくなったからな」

 

そう勇者たちの育成を全て放棄する形になったのだ。まぁ勇者の情報を手にいれるって目的は既に完遂したので別にいいのだが

 

「まぁ、今回の件の責任を取るってことになったのもあるんだけどな」

『責任ですか?』

「あぁ。まぁ聞けば分かると思う。戦争中はあっちもなにもしてこないと思うけどな」

『あの、南雲くんについては嘘をついているわけじゃないんですよね?』

「なんでそんな嘘をつかないといけないといけないんだよ。俺たちのギルドの証は王国や帝国の冒険者にも知られていることだからな」

 

ギルドの証は結構広く知られている。それを開発した俺たちの付加術師は元々はかなり有名な付加術師であったからだ

 

「と言うわけだ。まぁ既に香織と雫の腕輪は外れるようにしてあるからな。腕輪はリリィに預けとけ。あいつは俺の家によくくるからな」

『……ちょ、ちょっと待ってください』

『んじゃ。またな』

 

と俺は腕輪の通話を切る

俺はギルドハウスに腰を下ろすとちょうど通話がくる。ギルドと共同で使っているアーティファクトでこっちは距離の制限がない

それを開くと聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

『お疲れ様。悪役本当に似合うね』

「うっせぇ。……まぁこれでいいのか?」

『さぁね。まぁ僕たちもあの三人は嫌いじゃなかった、いやむしろ好きだったかな。だからこそ僕たちは手放すべきだった。僕たちの家族の揉め事に友達を巻き込むわけにはいかない』

 

話さないんじゃなくて、話さないといけないか。死なないように、友達といれるように

 

「久しぶりにやけ酒になりそうだな」

「……そうだね。一番劣悪なものから開けていこうよ。……嫌なことは酒で忘れるのが……一番」

 

すると珍しくアレックスから啜り声が聞こえてくる

何年振り、いや、本当にミリアがなくなって以来だろう

 

『あれ?どうしてかな?……あんだけミリアが死んだ時に一生流せるだけの涙は出したはずなのに』

「バカ。泣き虫アレックスが今まで泣いてこなかったことが奇跡なんだろう?強くなったからだって罪悪感や哀愁はちゃんと感じるんだよ。……ちゃんと泣いとけ」

『うん。それじゃあ……ちょっと一室借りてくる一杯やろうよ』

「そうだな。たまには二人で飲むか」

 

と俺も立ち上がり酒専用の倉庫に向かう。

……どれだけ、いやなことがあっても変わらない

俺たちは、悪人で異端者なのだから



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夢と、四人の少女

『……うっどれだけ飲んだのよ!!』

 

緩やかな日常の思い出が蘇ってくる

 

『悪い。おっさんがギルドハウスでどんどん酒を飲ませてきたからな。つい飲みすぎた』

『あ〜もう。臭いから、とりあえずお風呂に入って。……メアが匂いで起きちゃうでしょ?』

『そんなに酒臭いか?』

『どうせ安酒でしょ?あなた断らないから……あぁもう。毒耐性持っているからって酔わないわけじゃないんだから!!』

『悪い悪い。それとこれお土産』

 

明らかに怒っているミリア。恐らくあの時は誕生日を二人で祝いたかったのだろう。だけど、帝国のおっさんが急な仕事に入れられて、どうしても帝城に行かないといけなかった

あの当時はどうしても素直にプレゼント一つ渡せなかったよな?

金銭的にもお小遣いだった俺はどれだけ節約をしていたんだよなぁ

一人でできるクエストも受けたりして、必死にお金を集めたんだったよな

 

『…せっかくの誕生日だったのに……一体なんなのよ。』

 

とプレゼントの封を不満そうに見るミリアに俺は急いで風呂場に向かう。

この時期は孤児院なんて経営するどころか帝国を拠点にしていたからだ

そして少し封を開ける音が聞こえてきた

 

『……えっ?これって?ちょっとクローバー!!』

 

慌てたような声を聞こえてくる。

そりゃそうだ。前に買い物で見た時にミリアが見ていたグランツ鉱石のイヤリングが入っていたのだからそうやって風呂場に突撃してきた時は本当に驚いたことだ。いつもはしっかりしているくせにして時々ポカをやらかす

正直あの時ほど帝国のおっさんを恨んだ覚えがない。せっかくいい飯屋も予約していたのもあってかなり酒を飲みまくった。

まぁ、おっさんも恋敵でさらにデートの誘いを断られたこともあるそうだが、ついやけ酒してしまったんだよなぁ。

……未だにしょうがないって思えないくらいに子供だったんだろう

結局後日談としてその飯屋には家族三人で後日行ったのだが……メアが途中寝てしまって、結果的に二人でのんびりデートできたのが懐かしい

そう。これは夢だ。夢なのだ

 

「あぁもう。なんで起きないのよ……お酒臭いし……」

 

とミリアの声が聞こえてくる……雫も似た声を出しているのだが昨日追い出したはずだから……どうせ夢だろう

 

「……し、雫ちゃん?どうしたの?って何この部屋!!」

「香織。クローバーが起きないのよ!!あぁ、もう。光輝を説得してもらおうと思ったのに…」

「す、すごい。お酒の量だね。これ本当に飲んだのかな?」

「……う、うん。でもクララさんが言っていたけどやけ酒する時のクローバーさんって物凄く起きるのが遅いって。」

「やけ酒ってレベルじゃないでしょ!!これ普通は致死量よ!!」

 

と声が聞こえてくる。……なんか聞き覚えがない声もきこえているんだけど……

俺は目を開けるとすると少しボケーと周辺を見る。体は重く。頭が痛い

典型的な二日酔いだだろうと思いながら首を傾げていると

四人の少女がいた。

雫、香織、そして同じく勇者パーティーだった鈴と恵里と呼ばれていた少女4人組

今日の訓練はということは忘れ俺はとりあえず気になることを聞くことにした

 

「あら?起きたかしら?」

「なんでお前らここにいるの?つーか門番は?」

「私が見せたら普通に通してくれたわよ?」

「……追い出しとけって伝えたはずなんだけどなぁ」

 

と俺は小さくため息を吐く

どうせクララが許可したんだろうなぁっと思うと少しだけ気が病んだ

 

「ってそういうことより、大丈夫なの?これだけの量を飲んで?」

「あ〜俺たちスラムの奴らは基本的に毒耐性か悪食という技能持っているんだよ。俺は悪食の方だな。毒でもなんでも無害で食べたり飲んだりできるから、人体的には大丈夫だ」

「…悪食?」

「道ぼたに落ちている腐ったものなど食っていたら自然と覚える技能だ。それさえあったら飯に苦労することは減るからな。」

「……そ、それよりもなんで泣いているんですか?」

「ミリアさんの夢でも見たんでしょ?ミリアさんのことを思い出すたびクローバーは涙腺が緩くなるのよ」

 

雫正解。つーかなんかやけにイライラしているような気がする

 

「雫怒ってるか?」

「えぇ。怒っているわよ……と言いたいところだけど確かここ大浴場あったわよね?とりあえず酒臭いからお風呂に入ってきなさい」

「……こういうところがミリアと似ているんだよなぁ」

「何か言ったかしら?」

「別に…」

「こ、怖いよシズシズ」

 

やけにご機嫌斜めな様子。

そ風呂上りに食堂に集まると未だに外していないギルドの証に何を言うのか察してしまう

俺はクララに飯を出すのを少し待ってくれと言ってから

軽く威圧をかけると全員がぎょっとする

 

「一応聞く。俺たちは反逆者だ。……神に対する組織、昨日も聞いたが雫と香織の決断は本当にそれでいいのか?」

「……私は南雲くんに会えるのなら。それにメルドさんから聞いたの……南雲くんを殺した犯人もそれをクローバーさんが伏せようとした理由も」

「……は?」

「えっ?」

 

兄貴何しているんだよ。と内心驚きつつ。雫も初耳だったらしい。キョトンと香織を見ていた

 

「ちょ、ちょっと。かおりん。どういうこと?」

「そ、そうだよ。だって南雲くんは?」

「ううん。違うの。……あれはれっきとした殺人未遂。ううん。元々は私のせいで南雲くんは殺されかけたの」

「……そこまで話したのか。兄貴」

「ううん。本当はリリィにこの腕輪を返そうと思ったんだけど……その時にメルドさんが報告していたの……檜山くんが南雲くんを殺そうとした犯人だって」

 

そういやあの二人気配感知持ってなかったな。

俺も持ってないけど、直感で少し引っかかるところがあった場合に反応するからな

 

「そういえば二人とも、どういうこと?南雲くんは……奈落に落ちて」

「あ〜。そこは伏せておいてくれ。未だに二人のことは知らないからな。ギルドの機密機構ってことになっているから。まぁとあることから、ハジメは未だに生きている……それが俺たちは教会にバレずに探しているんだよ」

「…えっ?それって本当なんですか?」

「あぁ。断言してやる。ハジメは生きている」

 

すると少しホッとしている二人、いや鈴は安心したようだったが恵里は何か動揺か?一瞬真顔になったな

 

「…でも、それならなんでクラスに報告しないですか?」

「……檜山が何をやらかすか分からないんだよ。犯人が嫉妬という心情が起点になっているならば……今度は雫やその周囲が危険になってくる。恐らく次にやる行為は、勇者と香織の前で土下座で謝るっていうのが普通だ。トラップに引っかかって仲間を一人殺したと見られてもおかしくはないしな。あの頭のおかしい勇者なら絶対に利用されるだろう。檜山案外頭が回るらしいしな。今は最低限に被害を抑えること。一応そっちの先生にはハジメが生きていることを伝えてある。絶対にクラスに伝えないようにしてあるけどな。そうしないと精神的に戦えないという生徒をこれ以上戦場に送り出すことはできない。さらに死の恐怖を植え付けることができたからな。被害者は当分はでないはずだ。これが教会にバレるとなると被害が膨大になりやすいんだ」

 

ここからは完全に頭脳戦だ。操られていることを諭されないように暗躍しないといけない

 

「まぁ香織にバレた以上檜山は俺視線だったら殺した方がマシなんだけど……でも先生が生徒の死に敏感になっているからなぁ。それに余計に香織が壊れるきっかけになるかもしれないからやめた」

「……色々考えているんですね?」

「考えないと俺たちみたいな弱者はすぐに死ぬからな。考えながら生き延びるっていうのは……とても難しいんだよ」

 

と俺は小さく苦笑する

恐らく生きるってことが当たり前のあっちの世界の人間と、神に反抗していつ襲撃を受けてもいい俺たちのギルドは

 

「まぁ、香織は納得だけど雫はなんでだよ?言っとくけど俺たちと交流するってことは……地球に帰れる可能性が」

「そんなこと知っているわよ。でも、私は香織に強くなりたいって言われたわ。今度は守れるようにって……それに私も、悔しいのよ。……南雲くんが臆病だけど、心が強いのは分かっていた。確かに地球に戻ることが私たちの最終目標だわ。でも、それまでに……香織たちの誰かがなくなったら意味がないでしょ?」

 

確かにそうだ。

神に頼みを求めるより自分たちがまず生きる選択をした

 

「……それに、私個人でいえばいつかはこの世界に戻りたいって思っているのよ」

「えっ?」

「クローバーが言ってたわよね?獣人族たちや魔人族も共存できる世界って。……個人的に少し見てみたいかなって。だから少しお手伝いできればって思っているんだけど……」

 

俺は少しだけあっけにとられる。

 

「笑わないのかよ。夢のまた夢のような笑い話だぞ」

「笑わないわよ……私がこの世界に来てからあなたたちには本当に救われたんです。必死に生きている道を模索している中でこの世界でまだ多くは見れてないんですけど……ここの子供達やアレックスたちが本当の家族のように思えてきて……」

「うん。みんな。いい笑顔だもんね。それも嘘じゃなくて本心から笑っているような気がする」

 

香織が少し納得したようにしている。俺が言っていることは本当に夢物語だ。

だけど本気で叶えようとしているバカがこのギルドに集まっている

 

「……だからあなたの夢を叶えるために、あなたの隣を歩きたい。それが私の入団理由です」

「……」

 

少し一瞬だけどきっとしてしまった

それはどこか少しどこか大人びて、そして魅力的に見える

 

「……はぁ、たく。前の部屋そのまま開けてあるからそこ使え。それと……雫は隣に歩きたいって言っているから戦闘職希望か?」

「えぇ…当然」

「なら俺のパーティーに入れるか。アレックスとはしばらくは別行動になるし、つーかもうまとめて面倒みるか」

「……えっ?」

「香織はどうせハジメが来たらそっちと合同行動することになるだろ?ロラで適当にパーティー組もうとしていたからちょうどいい機会だろうな。そこの二人は……勇者パーティーだから知っているけどなんでこっちに来たんだ?」

「鈴は二人がいるから……。それに南雲くんについて二人が話していたから気になって。」

「私は鈴がいるから……」

 

と少しだけため息を吐く

また面倒なことを持って来やがったな

 

「まぁいい。とりあえずお前らの部屋も用意しておく。鈴と恵里は相部屋な」

「う、うん」

「それと雫は夜間と朝に剣を見てやる。お前いつも5時には起きているだろ?」

「いいの?」

「別に。結構危険な仕事をやらせるつもりだからな。言っとくけど甘やかすことはしないしビシビシいくからな。ちゃんとしっかり覚えておけよ」

 

するとはいっと大きな声で返事をする女性陣に俺は小さく苦笑する

内心。頼もしい仲間が増えるのを喜ぶ反面

……たった一人の闇を俺はどうやって取り除くかだけを考えていた




今回の話を見たら分かるようにヒロイン雫は確定ですね。完全にデレてますし
ついでにあとがきに設定集を作ろうと思います
まず1回目
ミリアとは
これは毒舌な天職が治療師の雫だと思ってくれて構いません
好きなものが家族とクローバーです

初期のパーティー
アレックスとクローバーとミリアの3人です。なおこの後にリアでリアの加入時にはミリアはなくなっていますが、リアはミリアとかなり重要な関係になっています。なおこの3人で大迷宮の攻略をしました。そして最後にクララが加入しました

クローバーの飲酒について

クローバーは食べたり飲んだりしても毒によって死ぬことはありません。だけどもお酒の場合元々弱いこともあり樽4杯くらいを飲むとほろ酔い状態になれます。


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闇の中で

「……ってことだから、次は王都の大結界の居場所を探って来てくれないかな?」

「……分かった」

 

と夜中が深まったころ俺は気配隠蔽を使いずっと闇の中でとある女子を追跡していた

 

「兄貴やっぱり引っかかった。一人は大結界のアーティファクトの方に向かった。まだ殺さないでくれよ。使い道はあるんだから。こっちは俺が処理する」

『……悪い。助かった。これがもし本当なら』

「内部から崩れ落ちることになっただろうな王都は。全く、どこにもずる賢い奴はいるようだな」

 

俺は小さく息を吐くとすると別れて行動しかけている二人の姿がいた

 

「んじゃ。健闘を祈る」

『そっちも、……処罰はそっちで頼んだぞ?』

 

と連絡は切れ小さくため息を吐く

まぁ未遂であるがあっち側は恐らく死刑は確定だろう。

死人に口なし。

それがこの世界の常だ

俺は久しぶりに剣を抜きその裏切り者の一人である恵里の首元に触れさせる

もちろんろくな抵抗があったら殺せるように

 

「動くなよ。さっきの会話は録音済みだ」

「……っ!!」

「メガネを外してまでクラスの裏切り者である檜山に、それも俺が話した初日から動くとは感心するよ。普通なら油断している人も多いだろうしな。警戒力もいいみたいだしな……ただ香織を見張るために俺のところに近づいたのが失敗だったな。俺が嘘を見抜く技能があるのは王都でも有名な話だ。情報収集が足りてないんだよ」

 

と既に詰みということが分かったのだろう。恵里は悔しそうに俺を睨む

王都以外でも俺に嘘はつけない。直感は計略を見抜けるということで俺が一役冒険者や軍人として名をあげたのはこの固有技能があったからにすぎない

 

「どうするの?僕を殺すの?」

「いや。殺人未遂だったからな。死刑にはしないつもりだ。まぁ俺がいないと行動できなくするくらいだな。見張りはつけてさせてもらう。俺には奇襲も通用しない。よかったな。降霊術を未だ魔物にしか使ってなくて。これで殺人の容疑があれば即処刑だったぞ。まぁ、お前の親友は気づいていたらしいけどな」

「えっ?」

「俺が外に出る時に鈴がお前のところに行くのか聞いてきたんだよ。肯定したら殺さないようにって土下座までして懇願してきたんだよ。なんでもするっていいながらな」

 

数分前俺が雫の特訓をしたあとに恵里を追うようにと兎人族の少女に伝えずっと見張ってもらっていたのだ。そしてその位置を伝えてもらい俺は向かおうとした時に鈴とあったのだ。ちょうど恵里を探していたのだろう。何かと不安を覚えたかった

 

「本当はお前が何か企んでいることを知っていた。でも嘘だと思いたかったんだってさ。でも確信に変わったのはギルドの加入の原因とハジメが生きていたと分かった恵里の反応で気づいたらしい。だから勇気を出そうとして聞き出そうとしたら既に部屋はもぬけの殻で、必死に探そうとしたら、俺が剣持っている時点で察したらしい。思いっきり泣きついてきやがった」

 

なお、そのせいで服が一つ濡れて使い物にならなくなったのは別にいいのだが

 

「てかお前の犯行理由はなんだよ。夜は長いんだ。あいつらが居たら話づらいだろうからここで吐いてもらうぞ」

 

すると観念したのか恵里は小さな声で話出した

曰く恵里の父親は5歳のころに恵里の不注意でなくなったのだと聞いた。

話を聞く限り恵里の母親は父親に依存していたのだろう。だからこそ、その牙が恵里に剥くことになった。

人前では控えたが家では暴力や暴言、憎悪をずっと向けていたのだ

ただ、母親のことを時々庇うような発言をしていることから、本心では母親のことを信じていたんだろう

だからこそ新しい父親がくるとなったときに、その思いは裏切られるようになったのだろう

……そして結果その父親が典型的なクズっぷりを見せることになっても

僕という一人称もショートカットもそのころの名残らしい

ただ小さいころの恵里の次の父親はいやらしい視線を向けることになったのだから

そして案の内その事件が起こった男が恵里に欲望の牙を剥いたのだ。恵里の母が夜の仕事に出ていないときのことだった。

恵里の悲鳴を聞きつけたご近所の人が警察に通報したおかげで、恵里の貞操が散らされることはなかった。

恵里自身、いつかこんな日が来るのではないかと思っていたらしいので、窓を開けて悲鳴が届きやすいように備えていたことが良かった

期待していた母親がこれで目が覚めるとも思っていたりした

でも

 

「向けられたのはただの憎悪だったよ。」

 

と恵里がかなり悲しそうに言ったことは忘れられない。

母親にとってはクズさを理解するきっかけではなく、恵里が自分の男をまた奪ったという認識だったのだろう

父を裏切った母、自分を痛めつける母、自分が襲われたことよりも男といられないことに悲しむ母……この時、恵里は本当は分かっていて今まで目を逸らしていたことを直視するはめになった。

これが母親の本性だと。

そのショックは測りしれないもので小さい恵里は耐え切れなかった。だから少し離れた川で自ら命を絶とうとするほど

飛び降り自殺を計画し、そして今に飛び降りようとしていようとしたところで勇者に見つかってしまったというべきだろうか?

しつこく事情を尋ねる光輝に、恵里はかなり省略した説明をした。その時に恵里曰くとてもカッコいい姿で

――もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる

と言ってしまったのだ。

言ってしまったのだ。壊れた少女の心に、自分は誰にとっても無価値なのだと理解した直後に、〝守る〟と。

別にそれがちゃんと行動に伴っていた場合それは文句はない。

その日、どうにか自殺を思い止まり、母親に追い出されるように学校へ行かされた恵里は、クラスの女子達が次々と明るく自分に話しかけてくるという状況に驚愕し、しかもそれが、光輝の一言でなされたということを知ったことにより、光輝を依存するきっかけになったのだろう

その後じどうそうだんじょ?とかいう職員の恵里の母親の素行から虐待を疑い、幾度か調査に訪れるということがあったのだという。しかし、光輝から引き離されることを嫌がった恵里は、全力で〝母親大好きな女の子〟を演じた。職員達の前では、満面の笑みで母親に抱きつき、仲の良い母娘を演じた。それがどれだけ母親が怖いことなのか想像にできる。実際それが母親を潰すのであれば一番いい方法だったのだろう

 その後思った通り母親は潰れたのだ、母親をそれとなく脅して、家に生活費だけは入れるように仕向け、光輝の傍にいられるよう環境を整えて……自分は王子様に選ばれた特別なのだと確信して……

 だが、恵里は勘違いしていた。光輝にとって恵里は、正義のヒーローが助けるべき一人に過ぎなかった。クラスメイトに一言声を掛けて、孤立している恵里と仲良くしてもらえば、それで光輝の救済は終わったのだ。

どうせその恵里のその話かけたクラスメイトも、光輝が話しかけたからそうしていることも頭のいい恵里は少し気づいているんだろう

 

「……これが僕の人生だよ。結局光輝くんを手に入れることも失敗するし……本当に……なんで……」

 

と泣き出してしまう恵里。多少なり同情してしまう過去。恐らく俺と匹敵をする。いや俺がミリアと会っていなかったら、ミリアの遺言を聞いてなければ俺もこうなっていたのかと思ってしまう

ただ

 

「お前、バカか?」

 

真っ先に出てきたのが罵倒の声だった。その一言に恵里は睨むが俺の次の一言で恵里は固ってしまう

 

「なんで母親みたいに一人の男に依存しているんだよ。お前も同じことをやっていたら今度はまたお前みたいな子供ができるぞ?」

「……えっ?」

「だってそう思わないか?お前さっき手に入れるって言っていたんだぞ?別にお互いに好き同士なら別にいいさ。でもさ、お前がやろうとしたことは大体予想つくけど、でもそれって依存するだけ依存して、自分の要求を満たしていた。お前の母親と似ていないか?」

 

そう依存しているのだ。光輝だけに気を取られて、本当に大事なものが見えていない

そこで恵里も自分のやろうとしていたことを振り返っているんだろう。そこで大きな動揺を見せる

 

「孤児院をやっていると少し最初の父親については正直理解できるためことがあるな。お前の父親はお前をかばったんじゃない。お前を守ろうとしたんだろ?」

「僕を守る?」

「そうだろ。……つーかミリアと全く同じだよ。……そうやって自分の大事な人を守って死んでいったのは。」

「そういえばミリアって」

「俺の婚約者だった。俺とミリアと……兎人族のリアって娘もいたんだよ。まぁ知っている人も多いし俺も少し話そうか」

 

と俺も最初の3人に話した通りのミリアとリアについて話していく。

すると恵里はただじっと俺の話を聞いていた。

 

「まぁここからはほんの数人しか話してないんだけどな。ミリアの遺言が。最後に頼んだことが、家族を守ることと、俺の幸せだったんだ」

「クローバーさんの?」

「あぁ。そう言ったよ。俺が死んだらダメって……理不尽だよな。……愛していた人に先立たれて。自分は死なせてくれないって」

 

だらしなかった俺がここまで慕われるようになったのは確実にミリアだ。

すると恵里もどこか思うことがあるのかずっと黙っている

 

「だからお前の父親はお前をかばったんじゃない。お前の幸せと大事な娘を守ろうとした勇敢な人だよ。ただその大事な娘を残して逝った時点で、間違っているのだけどな」

 

そう死んだら同じなのだ。誰かを守るために死んだら元も子もない

 

「それにお前って本当にあの勇者のことが好きなのか?話を聞いている限り、どこか依存しやすいから勇者のことを好きになっているって思い込んでいる気がするんだが。お前の話を聞く限り勇者の本質にも気づいているんだろ?」

 

そう。妄想癖はすごいが元々は頭が回るタイプなのだ。だから気づいていない訳がない。

勇者も恵里とは違う意味で妄想癖が激しい自己中心的な人間であることも

 

「……本当に嫌なところをついてくるね」

「純粋に境遇が似ているっていうのもあるんだけど。ただ誰かを好きって思うより甘えられる人だから好きって言っているのかなって思っていたんだよ。ただ居場所が欲しいだけなんじゃないか?」

「……」

「つーか俺から見たら恵里は一つの居場所を作っていたように思えたんだけどな。恐らく帰ったら根掘り葉堀り聞かれるぞ?」

「……鈴のこと?」

 

すぐに出てくるあたり自覚はしているんだろう

でも。鈴の助命がなくても基本的に生かしておくつもりだったが、処分はだいぶ軽くなったことには違いがないのだ

 

「あぁ。普通泣いてまで友達の安否を心配してくれる友達はそうそういないだろ?というよりも俺も技能がなければ正直気づいてなかっただろうしな。警戒はしていただろうけど」

「そっか。……鈴には話してみるよ。僕の過去も全部」

「……それがいい。それと……これお前らにはトラウマかもしれないけどお前にやるよ」

 

俺は空間魔法でとある箱を呼び出す。そしてその箱を恵里に渡す

 

「これって?」

「ミリアの形見だよ。……俺が初めてあげた誕生日プレゼント。あいつ俺と一緒にいるとき以外はつけてなかったからな。ちゃんと今でも綺麗に使えるはずだ」

「えっ?」

「俺はアクセサリーとか全くわからないからな。……今までひっそり生きてきたからおしゃれとかも拒んできたんだろ?元々雫にあげようかと思ったけど恵里の方が似合いそうだったからな。要らなかったら雫にあげるか売ってくれ」

「ちょ、ちょっと待ってこれってクランツ鉱石?」

「かなり高かったからなそれ。……俺はそういう鉱石の価値はわからないけど……女子ならこういうのに詳しいだろ。俺が持っていても仕方ないからな……」

 

実際8桁以上するかなり高級品である。恐らく、家を買った以外では一番高い買い物だ

 

「帰るぞ。鈴も心配しているだろうし、明日からは早いからな。それと」

 

俺は軽く恵里の頭を軽く叩く

恐らく誰も肯定はしてやれない恵里の行為。

 

「お疲れさん。よく頑張ったな」

 

でもせめて一人くらい励ましを言葉をかけてやってもいいだろう

今までどんな苦痛だったのか俺には理解できない

でも、壊れていても生きていたこと

そして修復の一歩担う言葉になるだろう

そうして後はギルドハウスに向かっていく

振り向きはしなかったがもはや見ないでも大丈夫なような気がしていた



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忘れられた勇者

あの、恵里人気すぎませんかね?
まぁ恵里もヒロイン確定なんですけど……ついでにクララは違います。クララにとってクローバーはお兄ちゃんなので


「ってところだな。とりあえず風呂入ってさっぱりしてこい」

「はぁはぁ。ありがとうございました」

 

と今は軽く雫と手合わせをしていた。

朝早くから訓練を行うことは別にいいのだが……なんか忘れているような気がするんだよなぁ?

 

「……う〜ん」

「どうしたの?」

「ありゃ?鈴か。おはよう」

「おはよう〜。鈴は二人の訓練を見ていただけだよ?」

「……」

 

と言っているが、技能で鈴が嘘をついていること。それ以外に何か理由があるのを悟ってしまう。

 

「お前恵里から聞いてないのか?」

「えっ?」

「俺は嘘を判別する技能がある。だから俺に嘘は通用しないんだよ。たとえどんな嘘でもな」

 

俺の言葉を聞いて鈴は明らかに動揺している。

いや。でもおかしい。嘘をつくってことは別に悪くはない。

すると直感でとある可能性を考えつく。

いや、技能が発動したことを考えると………こいつもまた厄介な女子だな。

 

「まぁ察しはつく。昨日の恵里のことだろ?」

「…うん。……本当にありがとうございました。恵里のことを命だけは取らないでくれて」

「いや、別に。元々殺す気はさらさらなかったしな。まぁ大分軽くはなったけど」

 

頭を下げる鈴に気にするな、と俺は手をひらひらとふる。

すると鈴は少しだけ不思議そうな顔をする。

 

「殺す気はなかったんですか?」

「あぁ。なかった。というよりも正直俺の師匠送りにしようって思っていたからな」

「クローバーさんの師匠ですか?」

「あぁ。今は衣服屋だけど元々は俺よりも強いゴールドの冒険者だった。駆け出しのとき俺たちは全員お世話になっていたからなぁ」

 

今度顔見せにいこうと思っていたから、ちょうどいい時期だったけど。

 

「まぁ鈴がいたから大丈夫って思ったんだよ。元々あいつが一歩引いていたことは王宮の訓練で見えていた。その中で違和感に気づけた鈴は恵里にとっても今後救いになるだろうしな」

「えっと、クローバーさんは恵里の過去を」

「聞いたよ。……まぁ結局光輝に依存していただけなんだ。好きって感情ではない。ただ居場所を求めている少女。……本当なら誰かに相談するべきだったんだろうな。まぁ俺は軽く手を出しただけ。後は恵里次第だろう」

 

俺は軽くきっかけを作っただけだ。どうなるのかは後は恵里と周囲の環境次第。

 

「それでもありがとうございます。鈴は何もできなかったから……」

「まぁ仕方ないだろ?例え友人であれどお互いの闇に触れるには勇気がいる。俺みたいな他人が触れる方が被害は少ない。だから話しやすかったんだよ」

 

だからこそ鈴は悪くないと言っても恐らく効かない。

 

「恵里が今後立ち直れるかどうかは結局は近くにいる人次第だ。……依存させないようにもしなければならないから大変なのはこれからだぞ?」

「…うん!!」

 

だからこそ今後のことに話を逸らすことが最善だろう。

……でも薄々気づいている。

というよりも……明らかに重症な気がする。

恐らく恵里よりも厄介で処置を間違えたら大変なことになると俺の中での経験が物を語る

……本当に厄介だな。

今後教えていくであろう生徒に、俺は少し頭を抱えるしかなかった。

 

 

 

「クララ?何か今日これ以外仕事あったか?」

「いえ。ないはずですが」

「……だよな?何か忘れているような気がするんだけど……」

 

俺は少しだけ疑問に思ってしまう。

というのも今日は少し北の山脈に赴き薬草をとってくるクエストだった。

なおただの山脈ではなく奥に行けば行くほど魔物が強いとされる場所で、5つ山を越えなければならないほど奥の薬草をとってくるため、道中で処理する魔物の素材を含めたら数千万という大金が入る。

しかし100人以上の孤児院を経営しているのでこれだけでは足りず、さらに薬など買えばもっと費用がかさむので月に二回大規模なクエストを受けることにしているのだ。

それをきっちり換金を終えた後、

 

「だから雫、香織、戻ってくるんだ!!」

 

どこか聞き覚えのある声に俺とクララはきょとんとしてしまう。

それはどこか、聞き覚えのある声。確かあれは。

 

「あぁ。勇者か。そういえばすっかり忘れてたな」

「あの、その前にあれってギルドハウスの方ですよね?教会の妨害の方は……」

「まぁ大丈夫だろ。教会が来ているならブザーが鳴るはずだしな。恐らく何人かできているんだろ?」

 

俺は小さく息を息を吐く。幼馴染の様子を見に来たって様子ではないっぽいしこりゃ争いになるな。

 

「クララ。戦闘準備。まぁ必要ないと思うけどな」

「当然です。クローバーが負けるわけないですしね。誰が相手でも私たちのお兄ちゃんですから」

 

と俺たちはのんきに歩いている。

そして近くと数人の塊が見える。見覚えのある数人がそこで話していた。

恐らく勇者と、なぜか申し訳なさそうにしている、龍太郎だっけ?それと檜山抜きの檜山パーティーだ。

 

「ほう、今日は客人が多いことだな」

 

俺が現れると恵里が小さく微笑む。

どうやらつけることにしたらしく耳にはイヤリングがつけられており、さらにメガネも黒フチのではなく、薄い緑色のフチの伊達眼鏡に変わっていた。

 

「おかえり。クローバー」

「おう。ただいま。恵里……それで買い物は?金額的に足りたか?」

「あれで足りなかったらさすがに困るわよ。それとこのギルドの証、便利すぎないかしら?」

「まぁな。そういうものだから慣れてくれとしか言いようがない」

 

少し足りないかと思っていたが十分に足りていたらしい。俺は少しホッとしていると勇者がこっちを睨む。

 

「……クローバーお前。雫や香織たち、そして子供達を解放しろ」

「……はぁ?」

 

俺は小さく疑問を覚え、昨日の朝のことを思い出す。

 

「雫、香織。お前ら勇者に説得しなかったのか?」

「…天之河くん?なんで私のことなのに天之河くんに言わないといけないの?」

「……?」

 

あれ?……なんか嫌な予感が。

というより香織がかなり怖い顔になっているんだが……

雫は頭を抱えて俺の方に近づき、耳元で小声で話し始める。

 

「実はね。香織が檜山くんが南雲くんを殺そうとしたことを知ったのが原因だと思うのだけど、私たちが出る時の朝食時間にクラスメイト全員で集まったのよ。その時に」

「檜山くんが光輝の目の前での土下座で許しを得ようとしていたの」

 

雫が話していた途中、恵里がムッとした顔で彼女を強引に引き離し続きを話すと、今度は雫の顔が少し変化する。

俺の腕を遠慮がちに持っているのだが離す気がないのかそのままだ。

 

「あら恵里。今私が説明しているのだけど……」

「雫こそ、今は天之河くんの面倒を見といた方がいいんじゃないの?」

「……ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて」

「なんで喧嘩を始めるんだよ。それと両方放せ……」

 

と少し呆れたような顔をしてしまう俺。

しかも香織が止めようとするなんて意外すぎるんだけど。

まぁ大体分かる。

 

「……こうなるから話したくなかったんだよ」

 

俺は小さく頭を抱える。チラリと鈴を見ると少し笑っていたが、同時に少し引きつっているのがわかった。

…雫と恵里はこっちが原因だな。

と考えていると足元にギュッと抱きしめられる。そこには古参の一人でもある少女、センジュが抱きついていた。

 

「……お兄ちゃん。私たちお兄ちゃんたちと別れないと行けないの?」

 

怯えているのか少し涙目になっている。

本当あのバカどうしてやろうかと内心思いながら処刑方法を考える前にセンジュの手を放させると俺はセンジュと目線が合うように屈む。

 

「それを決めるのはお前らだろ?俺と一緒に居たければ、このギルドハウスに住めばいい。俺たちは家族って最初にいっただろ?家族の意見は尊重するし、もし夢があるなら叶えるために応援する。センジュはどうしたいんだ?」

「……お兄ちゃんたちと居たい」

「それならここに居ればいい。……まぁさすがにずっとと答えられたら少し考えるけどお前らはまだ子供だ。しっかりと大人になるまでは面倒はきっちりと見るつもりだ」

 

俺がそういうとパァーッと明るい顔をしてギュッと抱きついてくる。それを抱きあげる。

 

「お前らもそうだ。勇者の元に行きたければいけばいい。最終的に決めるのはお前らだ。俺からは何も言わないしそれでお前らが幸せになれるならいい。ただ俺たちがお前らを見捨てるって選択肢はない。……命をかけてでもお前らを守る。それが家族ってもんだからな」

 

俺の言葉に全員は頷く。何度も聞かせて来た言葉だけど言われたら安心するってことで隙を見て俺に言わせてくる。

一度捨てられた人が多いなかで俺は何度も同じ言葉を聞かせてきた。

俺だってそうだったんだから。

 

「香織たちは……って聞く必要はないか」

「うん。助けたい人がいるから」

「えぇ。……やりたいことも一杯あるもの」

 

誰もが離れようとしない。少しだけ感動してしまうが俺はぐっとこらえ勇者に振り向く。

 

「これが答えみたいだが?」

 

俺がそういうと、ありえないという様子で笑顔が引き攣る光輝。視線を合わせてもらえないどころか、子供たちが怖がっている、もしくは敵意の視線を向けられている。

そして、そのショックは怒りへと転化されたのであろう。俺を睨みながら聖剣を引き抜いた。

 

「クローバー!俺と決闘しろ!俺が勝ったら、二度とみんなには近寄らないでもらう!そして、そこの子供達も全員解放してもらう!」

「……はぁ。……雫、センジュ持っておいてくれないか?」

「えっ?」

「……」

 

センジュは何をするのか、今俺がどういう状況なのか理解したらしい。

顔が青ざめ、少し勇者に同情するような視線を向けている。

そして雫がセンジュを受け取ると俺は少し腕を回し。

 

「……ちょっと許せそうにねぇや」

 

俺は一瞬のうちにかけると勇者に回し蹴りを食らわす。がはっと呻き声が漏れたが俺は気にせずに俺は勇者を頭を掴む。

それを地面に叩きつけるとさらにそれを蹴飛ばす。意識や命を取らないくらいの加減は分かるので俺はギリギリの威力でぶん殴っていく。

 

「いい加減にしろや。何うちの家族を物扱いしているんだよ。…そのご都合主義の塊みたいなのやめたら?なんでも思い通りになるって思うなよ?何子供達を解放しろ?雫や香織を解放しろ?は?ふざけてんのか?雫も香織も俺たちは地球への帰還を目的だと思っていたからな。一回は切り離した。かなり辛いことも言ったさ。無理やり切ってこっちだって辛い思いで縁を切ろうとしたんだぞ?」

 

俺は思い出す。俺たちは異常者だ。教会と敵対し、家族とその仲間たちのために戦う。それが俺たちだ。

だから羨ましいのだ。嫉妬しとても地球という星が羨ましいと思う

 

「俺たちはこの世界では悪だ。教会に抗い自分の正義を押し通そうとしているクソ野郎だ。……でもな。誇りを持って言える。俺はこの道で間違ってないってな。だからこそ俺たちは抗い、団結し、一つの共存という道につこうとしている。でもなお前らにはその意志がないんだよ。地球への帰還かもしくはこの世界を救うことか一つに絞れや!!お前らの先生を見習えばすぐに分かるだろ!!あの先生は誰よりも帰還の方法に力を加えているんだよ!!なんであんないい先生に教えてもらっていてそんな簡単なことがわかんねぇんだよ!!」

 

俺は一息つく。前に少し話したことがあるけどあの先生は先生として立派だ。多少現実が見えてなくて夢想家であるが、それでも強い意志を持っている

 

「いい加減現実を見ろや。今回はお前らが虐めていたハジメだからお前らにとってはよかったかもしれないが……今度は身近な誰かが死ぬぞ?」

 

俺は小さくため息を吐く。

 

「香織、あの勇者治療してやれ」

「えっ?でも……」

「友達なんだろ?そう簡単に見限ってやるんじゃねーよ。雫も一旦戻れ。死なないように痛い目にあってもらっただけだからな。一回ちゃんと勇者と話して、それでも意志が変わらないのであればこっちにこい。」

「……えぇ。分かったわ」

「二人もだ。お前らはちゃんと先生に伝えてこい。恵里も鈴も未だ先生には伝えてないだろうしな」

「えっと」

「う、うん。でも光輝くん大丈夫なの?」

「意識はあるはずだし骨が何本か折れているくらいだから大丈夫。回復魔法で治る」

 

少し雫がホッとしたのが見れて軽く頭を叩いてやる。

すると雫が俺をじっと見つめる。誰のために手加減したのか知られてしまったが別にいいだろう。

俺はただその様子を見る。

 

「お前らもなんか文句があるんなら相手になるけど?……言っとくが今度は容赦はしない……これ以上家族に矛を向けるようなら……本当に殺すぞ?」

 

それは最終通達であり、これ以上は……2度と手加減はしないということだ。

威圧を含んだ言葉に数人が尻餅をつく。

 

「んじゃ、クララ帰るぞ。お前らも部屋戻れ!!今日の夕飯は怖がらせた分もあるから豪勢に焼肉にするぞ!!」

「えっ!本当!?」

「本当だクララ」

「はい。準備しておきます!!」

 

もうクララはヨダレを垂らしている。同時に歓声をあげる子供達。

この笑顔を守るためならば。

……昔はミリアの夢だったけど本当に俺の夢になったな。

俺は少しだけ微笑む。

願わくば子供たちが自分の意思で未来へとたどり着けることを。

そう思わざるを得なかった




設定集 ステータス
クローバー 17歳  レベル不明
天職魔法戦士

筋力 5012 (+51021)

体力 3102 (+51021)

耐性 4012  (+51021)

敏捷 3030 (+51021)

魔力 50190

魔耐 50129

技能 剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]][+威力向上][+無拍子][+瞑想][+精神統一][+受け流し][+剣の極] ・格闘術[+浸透破壊]〔+受け流し〕〔+威力向上〕・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅸ][+集中強化]・付加魔法適正[+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+纏]・限界突破[+覇潰]・気配遮断・悪食 ・豪炎 直感・空間魔法〔境界操作)・破壊耐性・変温耐性

ステータスから見て分かるとうり正真正銘の化けもの。恐らくハジメ最盛期とやったとしても完全にクローバーが勝利するだろう。
身体強化型のシアの強化版であり、幼少期からスラムで戦闘ばっかりしていたこともあり、ステータスが異常。文字はかけないが頭は悪くはない
過保護で子供や雫たちのことを何かと心配している
なお、アレックスがいるからという理由でモテないと思い込んでいるのだが、持ち前の優しさと、完璧ではなく、少しだけダメ人間であるところに女性たちの人気(特に異世界組)からは人気が高く、とある理由で鈍感ではないのだがあえて鈍感な振りをしているのは今のところパーティーメンバーにはバレバレである


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